過去ログ - 『聖タチバナ』野球しようよ『パワプロss』
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7: ◆ugYRSBAsKU[saga]
2016/04/23(土) 15:50:10.97 ID:0g6dBFTc0

     ■■■


「―――で、国見くん。これから先、どうするでやんす?」

 試合は中盤、現在五回裏。スコアは0−1。
 で、季節は春だというのに、何時も以上に暑苦しいそんな午前十一時。
 大体腰のあたりの高さをした柵に肘を乗っけて観戦していると、矢部はそんなことを訊ねてきた。
 質問の内容は至って曖昧で、どうするとだけ。
 しかし、それが今日の日程について訊いてきたわけではないことは分かっていた。
 それでもとぼけた調子で言った。

「近くに美味いかき氷を食える場所があるぞ」
「……この後の予定について訊いているわけじゃないでやんす」

 呆れたように矢部は声を漏らした。
 冗談、冗談と。
 そう取り繕うと、俺は言った。

「愛好会でも部でもいいから、とりあえず野球ができる環境を作ろうぜ」
「まあ、普通に考えたらそうでやんすね。でも部員とか、顧問とか大丈夫でやんすか?」
「そこら辺からかき集めるさ。顧問に関しては嬉しいことに、大仙先生がやってくれるそうだぞ」
「ええ!? そうでやんす?」
「ああ、この前頼んでみたらオッケーしてくれた」

 二日前の金曜日、部や愛好会の作り方をうちの担任に訊いていた時のこと。
 もし部や愛好会を設立する時に顧問に困っていたら、自分がなってやると言ってくれたのだ。
 じゃあと、その言葉に乗って顧問を頼んだのである。

「何時の間に、そんなことをしてたでやんす……」
「思い立ったらすぐ行動すべしってな。でないと、一生寝ちまう羽目になりそうだからな」
「寝るでやんすか?」
「なんでもないよ」

 誤魔化すようにそう言って、

「まあ、だから後は部員の確保だな。って言っても、これは今からなら簡単に集まりそうだけど……ただ」
「? どうしたでやんす?」

 不思議そうに矢部は首を傾げた。

「いや、うちの校長が野球を推奨してないって聞いただろ?」
「ああ、そういえばそんな話もあったでやんす」
「だから愛好会や部を作ろうにも、無理やり権力でぺっちゃんこってならなきゃいいんだけど」
「……なんだか不吉でやんすね」
「ま、いざとなったらこう懐に仕込んでておいて……」
「なるほど、賄賂でやんすか! ……でも何を渡すでやんす?」
「大仙教諭いわく、うちの校長はさゆりアナのファンらしいから……」
「む、じゃあさゆりアナのグラビア雑誌でやんすね!」

 うむ。物分りのいいことで。
 少しばかり感心すると。

「賄賂代は割り勘だからな」
「な! 国見くんが全負担じゃないでやんす!?」
「何を言うか、おどれは」

 矢部は驚いているが、こっちも少々驚き。
 感心を返せ、ばきゃやろう。
 ―――なんて思っていると、甲高い音が球場で響いた。
 バッターが空を見上げている。遅れてピッチャーが後ろを振り返った。
 キャッチャーはマスクを取って立ち上がる。その姿はどことなく力が抜けているように見える。
 勢いよく伸びる白球を求めて外野手は下がるが、ある時点で足取りを止めた。
 それからすぐだった。
 ゴンッ、と鈍い音がした。
 観客席からは雄叫びなような歓声と、小鳥のように高い喜声が聞こえてきた。
 一方で、悲痛が混ざった溜息や声も聞こえてきた。
 そして刻まれる数字。スコアは、0−3。
 球場で起きたのは、二点取得のツーランホームラン。
 パワフル高校と西強高校の試合は、現時点で西強高校が優勢のようだ。
 また、互いの高校の差はスコア以上に出ている。
 なにしろパワフル高校のヒット数はここまで一つ。
 しかし、西強高校は先程のホームランで十二としている。

「……やっぱり強いでやんすね、西強高校」
「そりゃ、強いさ。全国屈指の名門校で、今年の春の選抜は優勝。去年の夏も、ベスト4」

 そんな場所で一年坊がレギュラーを確約されるのだから、我が親友も恐ろしいものである。
 呆れたように笑みを浮かべると、

「? どうしたでやんす?」
「なんでもでないよ」

 誤魔化すように、そう呟いた。


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