10: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 22:03:22.83 ID:TASUOcfu0
ドームの中で息を潜めながら、私は会話を聞いていた。
「お時間は取らせませんよ、社長。頷いて契約書にサインさえしていただければ、すぐに解放して差し上げます」
「……お前、自分が何してんのか分かってんのか」
「えぇ、勿論。社長に死ぬ気で考えて頂くために、選択肢をご用意させて頂きました」
「強迫して締結された契約は民法96条で取り消せる。オマケに、アタシに対する暴力行為で刑法第222条も適用される。お前、もうビジネスどころじゃねーよ」
「そうですか? 社長はご自身の商品価値についてもう少し理解していらっしゃると思っていましたが」
「何のことだよ」
「《キズモノ》の商品では、価値が下がるでしょう?」
「……!!」
「うちも、社長には出来る限り綺麗でいて頂きたいのですが、他所と契約されるとこちらとしても立場がございませんので」
「お前んとこの事情なんてアタシが知るかよ!」
「ですから、今から死ぬ気でご理解頂こうと思っておりまして……そういうのが、お好きなのでしょう?」
「正気じゃねぇよ、お前……!!」
私は、ただドームの中で震えてたんだ。怖かった。怖くて怖くて、仕方無かった。何が起こってるのか見えないけど、声だけで分かるんだ。絶対に良くないことが起こってる。だから、怖くて。
走って誰か助けを呼ぶ? でも、見つかったら私も襲われるかもしれない。二対一なら勝てるかも……でも、怪我するかも知れないし、痛いのはイヤだし。そう考えると、ここでじっとしてるのが一番良い気がしてくる。誰かが通りかかって助けてくれるかも……でも、この公園は昼間でも人がほとんど来ないんだ。もし、誰も通りかからなかったら。そしたら、あの人はどうなってしまうんだ?
色んな考えがグルグル回るだけで、私は動けなかった。何を考えても失敗する未来しか見えなくて、動けなかったんだ。私にはどうしようもないんだ。どうすることも出来ないんだって、諦めかけてた。
その時、ふとドームの中に作った棚の上にあったあるものに気付いた。それを見た時、頭の中に、あの人の言葉が浮かんだんだ。
知識は武器。盛って、飾って、光らせる。
私は、棚の上のそれを手に取った。これがあれば、行けるかも知れない。後は、踏み出す勇気が欲しい。棚の上には、もう一つ、小さな箱があった。金属で出来た、小さな箱。私に勇気とパワーをくれる音を鳴らす、頼もしい箱が。
箱の中身は、私の持ってる中で一番凶悪なものに入れ替えた。いつもは絞ってあるつまみも、最大まで開放した。そして最後に、運命のボタンを押した。
そこから先のことは、朧気にしか覚えてないんだけど、ね。
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