過去ログ - 鷺沢文香「燃える彼女がくれるもの」
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1: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:11:10.03 ID:xxHx5Jku0

「熱い」と、感じた。今は冬なのに。

目の前の少女はとにかく大きな声で、自己紹介……であろう言葉を続けている。

どこかの本に書いてあったのだが、人間が「極めてうるさい」と感じる音は、確か80dbかららしい。
その情報が、また、自分の今、抱いている感想が正しいのなら、この少女の口から襲い掛かる音はそれ以上のものということになる。
……確かその本の注釈欄には「※80db以上:地下鉄の車内、騒々しい工場内」などという、およそ人間の体から発せられるモノとは遠い例が載っていたはずなのだが。



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2: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:11:55.34 ID:xxHx5Jku0

「よろしくお願いします!!!」

一際大きな結びの言葉を発した少女は、その小さな体を、見事に90度に曲げてお辞儀をしている。今にも"ピシッ"という音が聞こえてきそうだ。
どうやら自己紹介は終了したらしい。
以下略



3: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:13:02.55 ID:xxHx5Jku0

少しばかりの時間が過ぎ、茜が顔を上げる。
自分は今、目の前の少女にどんな目を向けているだろうか。懐疑? 恐怖? それとも驚き?
別段、怒りの感情が込み上げているわけではない。ただ少し、長い時間を物言わぬ古書との対話に費やしてきた自分にとっては、少しだけ、刺激が強かった。それだけだ。

以下略



4: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:14:01.26 ID:xxHx5Jku0

「……」

茜がこちらを見つめている。恐らく、こちらの自己紹介をまだ待っているのだろう

以下略



5: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:15:01.84 ID:xxHx5Jku0

自分はアイドル事務所に籍を置いている。
というと回りくどい言い方になってしまうのだが、いかんせん"アイドルです"と自己を紹介するには経験も実力も足りていないのだから仕方がない。

この事務所に所属してはや数ヶ月。100人近くを数える先輩アイドルたちは、どこを見ても眩しくて、一番の新人である自分は恐縮しきりの毎日であった。
以下略



6: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:17:01.27 ID:xxHx5Jku0

そんな彼女とは、翌日も顔を合わせることになった。

昨日の会話は、自分が部屋で本を読んでいる時に、プロデューサーが茜を連れてきたことによって始まった。
しかし、この日は逆だ。自分が朝、事務所の部屋に入ると、ソファの上に、なんとも落ちつかなそうな表情の茜が座っていた。
以下略



7: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:17:55.20 ID:xxHx5Jku0

「えっと、アイドルのことは良くわからないのですが、鷺沢さんは、デビューとか、そういうのはまだなんですかっ?」

茜が尋ねる。
そういえば、自分がまだ新米であることすら話していなかった。
以下略



8: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:18:37.11 ID:xxHx5Jku0

しかし、昨日今日と、全ての会話において茜から話を振ってもらっている気がする。流石に話題提供の一つでもするべきか。
そう感じた結果、適当な話題を振ることにした。

「茜さんは、昨日、あの後は何をされていたのですか?」
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9: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:19:26.52 ID:xxHx5Jku0
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ある日の午後、レッスン後にいつものように事務所で読書をしていると、ふいに声が掛かった。

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10: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:20:04.91 ID:xxHx5Jku0

「まあいいわ。あの娘、昨日から本格的にダンスレッスンが始まったらしいんだけど」

「はい」

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11: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:20:45.23 ID:xxHx5Jku0

「しかも、それだけじゃないの」

「え?」

以下略



12: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:21:19.57 ID:xxHx5Jku0

多少の不安を抱えたまま迎えたダンスレッスン。
レッスン室に行くと、既に茜はウォーミングアップを開始していた。

「! 鷺沢さん! よろしくお願いします!!!」
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13: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:21:53.99 ID:xxHx5Jku0

彼女のステップはとにかく速く、豪快で、そのセンスを感じずにはいられないものだった。
トレーナーさんも、時折"走ってますよ"という声はかけるが、おおむね満足気だ。

そこから、簡単な手の振りや、様々なステップを組み合わせたレッスンが始まった。
以下略



14: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:22:44.47 ID:xxHx5Jku0

そうして茜のステップを眺めていると、すぐに休憩の終わる時間が来てしまった。
重い体に鞭打って立ち上がろうとするが、思いの外疲れていたようだ。

「……っ!」
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15: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:23:44.36 ID:xxHx5Jku0

レッスンを終え、着替えを済まし、さて帰ろうかと考えていると、茜が目の前にいた。

"お疲れ様でした"と声をかけようとしたその刹那。

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16: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:24:37.00 ID:xxHx5Jku0

一瞬の驚き、しかし、すぐに真意に気がついた。茜は、疲れている自分を気遣っているのだ。

「……お気持ちは有難いのですが、茜さんの家とは方向が違いますし」

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17: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:25:40.76 ID:xxHx5Jku0
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それから何日か経過したある日。

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18: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:26:21.59 ID:xxHx5Jku0

そういえば、茜にボーカルレッスンの光景を見せるのは初めてだ。聞くと、まだレッスン自体をやっていないという。
なるほど、詳しくはわからないが、ボーカルや表現力は一旦見ずにダンスを鍛え上げて、バックダンサーなどのポジションからデビューを狙っていくのかもしれない。

自信がある。とは口が裂けても言えないが、ダンスに比べれば、いくらかは見苦しくないものだとは思っている。
以下略



19: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:26:58.65 ID:xxHx5Jku0

レッスンはそのまま、滞りなく終了した。

普段なら部屋に戻り読書をするところだが、時計を見ると、恐らくまだ茜はダンスレッスンをしている時間だった。
自身の練習時間を割いてまでこちらのレッスンを見学してくれたのだ、挨拶の1つくらいはするのが妥当だろう。
以下略



20: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:27:33.79 ID:xxHx5Jku0

ふいに聞こえた自分の名前に、全身がビクッと硬直する。
思わずドアノブから手を引き、耳を澄ませてしまう。

「私には絶対あんな雰囲気は出せません……! 感動しました!!」
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21: ◆i/Ay6sgovU[saga]
2017/01/12(木) 21:28:27.77 ID:xxHx5Jku0
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少し、時間は巻き戻る。

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