過去ログ - 鷺沢文香の元いた古書堂の常連の話
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2:名無しNIPPER
2017/09/14(木) 01:03:22.13 ID:21UZx+iqO
文章を読むのが好きなわけではない、本という媒体が好きなだけだった。
その本が、古ぼけていれば古ぼけているほどよかった。前の持ち主の痕跡が見える程度に「使い込まれて」いれば尚よい。
?


3:名無しNIPPER
2017/09/14(木) 01:04:13.22 ID:21UZx+iqO
なんか変な?マーク付いてますね、申し訳無いんですが抜かして読んでください、ごめんなさい。


4:名無しNIPPER
2017/09/14(木) 01:04:53.34 ID:21UZx+iqO
ただ汚い本を探すのなら、チェーンの古本屋に行けば良い。ただそれじゃあダメなのだ。
そうやって好みの本を探すうちに、あの古書堂に辿り着いた。まさか同じ街にあるなんて、思ってもなかった。
「いらっしゃいませ」の一言もない店、なぜ潰れないのかもわからないような、そんな店に彼女は居たんだ。
?


5:名無しNIPPER
2017/09/14(木) 01:05:29.31 ID:21UZx+iqO
ホコリとインクと煤けた本の独特の匂いが漂っていた。壁のように積み上げられた本はバラバラのようで理路整然としていて。ズボラなどではなく「成る可くしてこうして置かれた」ことを表していた。
一つ一つの本がしっかりとしていて、店の雰囲気も素晴らしくて、何もかも理想的だった。
僕がこの店に通い始めたのは、言うまでもない。


6:名無しNIPPER
2017/09/14(木) 01:06:02.26 ID:21UZx+iqO
最初は、綺麗な人だな、としか思わなかった。
いらっしゃいませ、ありがとうございました、は勿論のこと、値段すら言わない、いや、正確には言ってはいるけど声が小さいのだ。店内が静まり返っているから聞こえはするけども、1mも離れれば殆ど聞こえないほどに。
店にまだ慣れないうちは、その愛想の無さに困惑したけれど、慣れればそれがこの場所じゃあ正しいことに気づく。それでも彼女の印象は「綺麗」で止まっていたけれど。


7:名無しNIPPER
2017/09/14(木) 01:06:29.41 ID:21UZx+iqO
認識が変わる日は突然訪れるものである。


8:名無しNIPPER
2017/09/14(木) 01:07:45.11 ID:21UZx+iqO
店にも慣れてきた、よく晴れた日、恐らくは換気の為にレジ横の窓が空いていた、彼女は、いつも通りに本を読んでいた。
不意に、風が吹いて、カーテンが靡いた。

たなびくカーテンの隙間から差し込む光が、全ての始まりのように思えた。
ふわりと流れる黒い髪が、割れそうな程に白い肌が、何もかもが輝いて見えて。誇張でもなんでもなく、素直に女神の存在を信じるほどに美しかった。


9:名無しNIPPER
2017/09/14(木) 01:08:30.34 ID:21UZx+iqO
その日から、彼女が本を読み終えるのを待つことにした。
この店の隅には、椅子と机があった。買った本、ないし買うか迷っている本を読むスペースだと勝手に解釈し、そこで本を読んで待つことにした。
何より、この位置ならば彼女が良く見えるのだ。気持ち悪いなんて言わないで欲しいが、僕は彼女に触れるなんておごましいと、本気で思っていたのだ。


10:名無しNIPPER
2017/09/14(木) 01:09:03.80 ID:21UZx+iqO
待つと言っても、精々2時間程度で彼女は1度顔を上げる、そのタイミングで会計を済ませて店を出る。
暇な学生身分がここで役立つとは思わなかった。稀に数時間待つことになるが。僕以外の客はまったく来ないので安心して待つことが出来た。
また、時間帯によってはお爺さんが店番をしているが、その時は本来の目的を果たせばいいだけなので問題は無かった。


11:名無しNIPPER
2017/09/14(木) 01:09:54.42 ID:21UZx+iqO
店の隅で本を読むのは、本当にいい時間だった。同じ空間で本を読んでいる、そう思うとそれだけでも、とても嬉しくなった
まったくの気のせいではあるのだろうけど、少しだけ近づけた気分になれたんだ。


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