3: ◆wOrB4QIvCI[sage]
2017/11/20(月) 14:41:07.16 ID:qVjd7KIq0
◇――――◇
棺に入れられた姉は、即死だった、と聞きます。
理由は単純なもの。交通事故でした。大型トラックのブレーキが故障していたらしいのです。ここ日本における年間の交通事故死というものは約4000件、1億三千万分の4000……それに姉さんは当たってしまったらしい。なんで、なんで、姉さんが。
ぐちゃぐちゃになってしまった姉さんの死体を見ることは出来ず、顔を拝むことも出来ず、私は最後のお別れも、出来ませんでした。
火葬場に立ち込める鈍色の煙が姉さんだったのかと思うと、誘われて入った喫茶店でまた会おうと言った姉の笑顔が、私の中でどんどんと色を濃くしていきます。
やがてどろどろに溶けていく姉さんとの思い出をなんとか固めようと、そのまま残そうとしても最後は塵のようになってしまうのでしょうか? あんなに好きだった人でさえ、そうなってしまうのでしょうか?
もう会えないという実感もないまま、葬儀からお通夜まで済ませた後のことでした。悲しみというのは、落ち着いてからやってくるものなのですね。
海未「……」
ああ、セミの鳴き声がうるさい。
海未「……姉さん、どうしていってしまったのですか」
海未「どう、して」
涙は、出ませんでした。
海未「おぇ……ふぅ、ふぅ……」
海未「また……」
代わりの吐き気が断続的に襲ってくるのです。姉のことを思うと、もう会えないと思うと。
小さい頃から私の相談に乗ってくれて、きさくに笑うあの人はもういない。
海未「――大好き、でした」
蝉が鳴き続ける夏の始まりで、私は一つの終わりを体感したのでした。
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