久野かおり『LUNA』レイト80sシティ・ポップの名盤が復刻する意義とは? | Mikiki https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/26163 ヴェイパーウェイヴ以降の耳でなければ再発見できなかった音楽 by INDGMNK 久野かおりはシンガーだ。しかし元を辿れば出発点はサックス・プレイヤーである。音楽好きの両親のもとに生まれ、幼少時の3歳からクラシック・ピアノ、9歳からはサックスを習い始め、国立音楽大学に進学して以降もサックス演奏に勤しんだ。クラシック以外にもホテルのラウンジ等でピアノの弾き語りをしていたというから、映画音楽やジャズやポピュラーのスタンダード・ナンバーにも馴染みがある。そういった素地があるためか、彼女の音楽は総じて瀟洒で品のあるナンバーが多い。ジャジーなフュージョン・ポップ的要素があるのも上記のような理由だろう。そして彼女の曲で最も聴かれたのはデビュー曲“月の砂漠から”だろうから、リアルタイムのファンにはウェットなアダルト・ポップスというパブリック・イメージが定着しているはずだ。良質な音楽だが一聴地味、だからこそ彼女の音楽がなかなか再発見されなかったとも言えるだろう。
しかしながら、件の“Adam & Eve 1989”はデジタルな質感全開のアルバムを通して最もパワーのある楽曲で、アレンジャー、キーボード、そしてコーラスは佐藤準。シンセサイザー・プログラムは佐藤準と師弟関係である北城浩志。デジタルかつフェティッシュな音像はおそらくこの2人による仕事だろう。ちなみに北城浩志は椎名林檎の最初期の楽曲にも携わったり、近年でも映画「聲の形」や「リズの青い鳥」などにも参加したりしている。ソロ・パートでは今剛の泣きのギター・ソロも良いが、やはり久野かおりのサックス・ソロが光っている。そしてサビ部、〈AdamとEve 1989〜〉の執拗なリフレインは脳裏に強烈なインパクトを残す。