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男「ヒーロー、か……」 - 製作速報VIP(クリエイター) 過去ログ倉庫

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1 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 12:18:34.24 ID:c1EVJPQ0
この話には、




>>1のド低脳かつ厨二病

・超遅筆、というかいつまでかかるの?

・だめだコイツ、早く何とかしないと


が含まれております
努力はしますので、生暖かい目でみてやってくだせぃ
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

2 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 12:24:09.56 ID:c1EVJPQ0
今日もいつも通り、PCの前でタバコをふかしながら呟き
遠い目をして、遠くも無い天井を見ながら今日の仕事はそろそろ
終わらせられそうだとか考えていた

男「俺も、憧れてたんだよなぁ……」

パソコンへ目を戻せば、紅い戦士がなにやらポーズを取っている
今の日本代表ヒーロー様だ

「おぉい、そろそろ時間だぞー」

先輩からの声に一言返事を返して、隣にある黒いマスクと
全身黒タイツと言われてもおかしくない服を片手に仕事場を飛び出した

男「さて、趣味の時間か……」
3 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 12:36:22.68 ID:c1EVJPQ0

憧れや夢は素晴らしいものであるらしい

それは希望であり、輝いていると言う

それなら

夢を叶えた人は希望そのものだが

夢を諦めた人、憧れを失った人は

いったい何になってしまうのだろう


第一章
4 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 12:41:30.95 ID:c1EVJPQ0
何時だったか、全世界に対して
悪の秘密結社みたいな奴から世界へ宣戦布告があった

その当時は実際、何百、何千人と言う人が殺され
連日のようにそのニュースが流れていた

敵も馬鹿みたいにでっかい宣戦布告をした割には
さすがは秘密結社、その基地の存在を突き止めることが出来なかったようで
国のお偉いさん方も困っていたらしい


そこに、一人のヒーローが突然現れた
出身地も身分も何も不明だったが、次々と人を助けてゆき制裁を加えてゆく

そんなヒーローに憧れない少年は少なかった
5 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 12:48:17.35 ID:c1EVJPQ0
今となっては、国が見つけられない組織が、なぜ個人で見つけられたやら
茶番やら、偽装やら言われているがそんなことはどうでもいい

少なくとも当時はそのヒーローに酔い、俺もヒーローになりたいと言っていた

そんなヒーローが、自分の命を犠牲にして悪の秘密結社を潰したという話を
聞いたときには、少なくとも子供達はヒーローになろうと思った
次から、みんなを守るのは俺だ、と

まぁ俺も、そんな子供の一人だったわけだが……
6 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 12:53:24.74 ID:c1EVJPQ0
で、明くる日
国が正義のヒーロー、とやらを募集しやがった

なんでも秘密結社はなくなったが、そこにいた『怪人』は
相変わらず生きており、それの対策のため、また前回のような
尊い犠牲を出さないように、ということだった

もちろん俺もこれに応募したが、
結果は第二次書類審査落ち
自身ではもう少し上にいけると思っていたが
予想外の評価に落ち込んでいた時、今の社長からこの会社に誘われた

「ねぇ君、悪の戦闘員にならない?」
と。
7 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 12:58:52.94 ID:c1EVJPQ0
そのまま、流されるままに俺はここにいる

「えー、今日の攻撃目標は都立第●図書館…」

ザワ……ザワ………
「まじかよwwwwあそこ人多過ぎwwwwww」
「今回の目標は建築物そのものじゃねえのかな……」

「ほ〜い、今日の許可リストだよ〜」
「おいおい、コイツ知ってるよ……」
「いやいや、あくまで許可、だからね?」

周辺の声を聞きながらマスクを着け、そのまま服も着替える
いつも通り簡易握力計を握って、100をこえるのを見てから周辺を見る

「作戦時間は今夜1900。質問は?」
「作戦中、アニメを見ていいですか?」
「無い様だな、行ってこい!!」

「「「「 イイイィィィー! 」」」」
今日もいつも通り、か
8 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 13:03:40.50 ID:c1EVJPQ0
社長「君は、少し頭が良さそうだから色々ぶっちゃけちゃうけど、いいかな?」

男「ええ、構いません」

会社に誘われてから、近くのファミレスへ連れて行かれ、
第一声がコレだった

社長「じゃあねぇ…… ヒーローでどれだけ国が儲かったか、知ってる?」

男「……知りませんが、想像でなら」

社長「いや、別にいいよ、答えなくてもね」

俺の答えを聞いて、ニコニコしながら目の前のおっさんがそう言い
続けていった

社長「いやぁ、普通の人にこんなこと言ったらぶっ飛ばされりゃうけどね」

男「そうなんですか……」

社長「色々話を飛ばすけど、これは新しいビジネスチャンスなんだよ
   でも、秘密結社は本当に潰れてしまったんだ」

男「は、はぁ……」

社長「しかし、敵がいないとヒーローは存在出来ない。わかるよね?」

男「はい……」
9 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 13:08:17.42 ID:c1EVJPQ0
社長「そこで、私たちは考えた結果、いないなら創ればいいってことになったんだ
   それも自分達の監視できる範囲でね」

男「それは、つまり……」

社長「うん、茶番だよ?」

そう言葉を発した口は、そのまま手で運ばれたコーヒーカップにつき
ズッと音を立てた
その音で自分にもコーヒーが出されていることに気付き、一杯啜る

社長「でも、命懸けのね。」

その間に、そう付け加えていた
10 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 13:14:46.41 ID:c1EVJPQ0
男「……?………?」

茶番に命懸け、という条件に訳のわからないという顔をしていたのだと思う
おっさんは続けた

社長「普通、このような集団は適当に戦い、適当に負けて、適当に辺りを壊して
   っと、適当にやっていれば言いと思うだろう?」

男「え、えぇ…… まぁ……」

社長「私達は本当に殺し、壊す」

ドクンッ
そう、自分の心音が大きく聞こえた気がした
と同時に、目の前の風景が、観えているが
視えていない、そう感じた

社長「裏で犯罪をしてきたと思われる人間から、なんの罪も無い市民、
   訳のわからん取引でうまれた建物から、誰かが一生を注いで建てた物……
   なんだって壊す」

おっさんは続けているが、余り聞えていなかったと思う

社長「その代わり、我々は……
   何時殺されても文句は言わない」

この日、本当に驚いた時は真っ暗になどなりはしないのだと知った
11 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 13:19:26.75 ID:c1EVJPQ0
男「………なんで……」

社長「うん?」

俺は、勇気と言うか…… 精一杯の『何か』を振り絞って
声を発していた

男「なんで…… 俺を選んだ…?」

そう聞くと、先程までおっさんから出ていた圧力のようなものが
ふと消えていた

社長「簡単だよ、なぜなら君が……
   優秀に見えたからだ」

それを聞いても、俺が黙っていると一癖ある笑みを浮かべていた

社長「ヒーローなんて楽な仕事だよ、自分を信じて、みんなを信じて、
   ただ全力でなりふり構わず進めばいいんだから。でも、今後の悪役は違う」

男「……?」

社長「まず、私達は俳優、道化であることを知られてはいけない、また私達が
   信じていいものはなんだ?会社かい?自分自身かい?違う、それだけだと
   本物の悪ってものになってしまうからね
   そうなったら、ヒーローも、私達も見逃しては置けない」

男「………」
12 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 13:23:36.70 ID:c1EVJPQ0
社長「だから、優秀な人が必要なんだ
   たとえ何があろうとも崩れない、『何か』を持ち、
   その上で、考える事が出来る人がね」

とここまで言ってからコーヒーを啜り始めた

社長「なにか質問はあるかい?」

男「……最後に一つだけ、いいか?」

俺は睨み付けるようにおっさんを見たが、
ニコニコしながらどうぞ、と答えてきた

男「今、『ヒーロー』って商売(もの)は、何人を助けているんだ…」

と聞くと、少し困ったような顔をした後に
笑ってこう返してきた

社長「う〜ん、この国一つは救えるくらいかな?」
13 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 13:28:13.17 ID:c1EVJPQ0
ふと、目を覚ました

『ピーッ…… 脱出路、E−3封鎖に成功』
『了解、F-1周辺は封鎖するな、むしろ近づくな、存在も許さん』
『おい見ろよwwww俺達が作った進入口から逃げた奴がいたぜwwwwww』
『咲たん、まっててね… すぐ帰るから』
『おい…… お前オタクってレベルじゃねえぞ、それ』

とにかく、今はしっかりしないとな……

男「……B-2に到着、人手が欲しい」
『了解っ!』

男「犠牲民、集合まで後5分を予定…… 頼む」

これから人の命を奪う、またはその行為に加担する
いつになっても慣れるものではないが
それらの感情を全て心の内に押し込めた

今から、俺は悪の戦闘員だ

 Aパート終
14 :ふかみどり [sage]:2010/02/09(火) 13:30:03.35 ID:c1EVJPQ0
ちょこちょこ書いてみましたよ
見てくれた方、もしいましたら有難う御座います

さて、書き溜めをしなければ……
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/02/09(火) 15:22:15.65 ID:OTPG8wso
乙 
でもなんでここで始めたんだ? VIPでやりゃいいのに
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/02/09(火) 19:27:32.25 ID:I9UpjMwo

中々面白そうじゃん
17 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 22:46:30.04 ID:kV9vhwI0
書き溜め全く出来てないけど書くよ〜
VIPだと完結する前に落ちてしまうんだよ〜、感想ありがと〜
18 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 22:51:55.73 ID:kV9vhwI0
さて、犠牲民集合前に準備は出来た……
後は来るのを待つだけだった

「は、早く逃げるぞっ! ほらっ、こっち!!」
「なんなのぉ…… いやぁ…」
「俺が…… 俺が先だ……!!」

多くの声が聞え始める
今回は少し人を集めすぎだ
今度、作戦部に文句を言わなきゃな

「ほらっ!出口が……っ!!」

さて、そろそろ頃合だな

男「イィーーー!!」

「うわあぁぁぁ!!」

少しの暗闇から飛び出し、彼らの見つけた出口とやらを
俺達が2,3人で封鎖すると、目の前の奴は
まるでこの世が終わったかのような顔をしていた
19 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 22:56:09.15 ID:kV9vhwI0
最後の仕上げをするために少しスキを見せつつ待つと

「こ、このやろおぉぉ!!」

一人の青年が横から、そこらに落ちていた棒状のものを持って
予想通りに俺へ振り下ろしてくる
止まってすら見えるソレを避け、腹部に一撃を喰らわす

男「イィーー!!」

ドゴォッ!
「おふっ……… あふっ………」

まるで金魚のように口を上下させている
まぁ、何も鍛えていない一般人ならそうなるだろう

「ゲフッ…… うぇ……おぅえぇっ!!……」

ビチャビチャッという音と一緒に汚物が吐き出されている
これでこの場を作ることに成功だ

顔を見なくても、辺りに絶望という物が目に見えそうなくらい
ひろがっていた
20 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 23:04:58.33 ID:kV9vhwI0
「くっくっくっ…… 哀れな奴らだ」

光差す出口から、足音を強調して誰かが入ってきた
それに対して俺達は声をそろえる

「「「「イイィィーー!!」」」」

「な、なんだ……」
「だれだよ……」
「もしかしてっ……か、怪人っ!?」

一呼吸おいて、何かのシルエットが全員の前に出てくると
突然ライトがつき それまで闇に紛れていた者を映し出すした

うねうねと蠢く表皮に、特徴的な目、気持ち悪く伸びた
大量の腕のようなものと足のようなもの
毛虫のようであり、芋虫のようであり、
複数の人を溶かし、まとめたような姿であり……
嫌悪感を抱かない者はいないだろう

先「我は…… ニードル-キャタピラス……」

虫を元とし、遺伝子改造変身を遂げた先輩
その場で彼を見た時、失禁する者もいた
21 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 23:10:28.48 ID:kV9vhwI0
「あ……あぁぁぁ………っ!!」
「ヒクッ、ヒィィィ……」
「ブクブクブクッ………」

皆、一様に怯えている
泡を吹いている者もいるようだ

先「……よくやった、戦闘員」

「「「「 イイイィィィー!! 」」」」

辺りに逆らうような者はおらず
ただただ、ここは『悪の秘密結社』の空間となっていた

「……あ…あのっ……」

そこに、一人の犠牲民が声を発した

先「……なんだ…」

「お、俺達は…これからどうなるんだ……」

そう、聞かれると先輩は、
おそらく人を見ていられなかったのだと思う
全員と言うより、テレビに映る俳優のように、何かに向かって語りかけていた

先「……我の姿は醜い、卑しい…だが、それは我が幼い証、
  我は求める、完全の肉体…… それには養分がいる」

と、語る間にベチャッと足音に聞えない音をたてて
リストに載っていた市民へと近付いていた
22 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 23:16:14.03 ID:kV9vhwI0
先「………」

「た、たす、たすっ……わああああぁぁああ!!」

悲鳴
事故でもない、人災でもない、作り物でもない…

得体の知れないものに、生命を脅かされた時に出る悲鳴
その声には様々な希望、切望も、絶望も織り込まれていた

どれほどその音を聞いていたのだろうか
いや、おそらくは数瞬の時しかなかったのだろうが

バスッという音と共に悲鳴が止み、驚くほど静かになった
見れば、先輩の身体から出た針がその市民を貫いていた


先「…………」

しばらく、先輩は黙って見ていたが
やがて、覚悟を決めたようにメキメキと音を立てて
その口を大きく開き

食事を始めた

周りのものは、もう叫ぶ気力もなくなったらしい
23 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 23:20:27.85 ID:kV9vhwI0
辺りには血の匂いが散乱し
ありとあらゆる液を飛び散っていた

その中、怪人キャタピラスが一人を食べ終わらせたので
次の、養分となる候補を探す

その時だった
俺達の耳に、一つの通信が響いた

ヒーローレンジャ-タイム
『H!R!T! 繰り返す、H!R!T!』

全員が、また別の緊張感に包まれると


ドオオォォォンッ!!!

と、脳がどこかへ飛びそうなくらい大きな音を立て
新しい穴が開けた先に

眩しい位の光を浴びる、紅いヒーローが立っていた
24 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 23:28:31.11 ID:kV9vhwI0
その場にいた全員が、状況を理解するのに
一呼吸おこうとした時だった

紅いヒーローは
俺を殴り飛ばし、隣のを地面に埋め込ませ
向こうの奴の肋骨を砕き、近くのを壁まで叩き飛ばし
まるで、俺達と入れ替わったかのように、市民の中心に立っていた

先ほどの空気が一掃され、市民の目に希望が灯る

俺は衝撃で壁まで飛ばされ、張り付きながら
先輩の言葉を聞いていた

先「……来たか ……紅きヒーローっ!!!」

ヒーローは、何も答えず
市民と、食事となった者の残りを見て
先輩に激しい敵意を向けていた

ヒーロー「俺は…… お前を許さないっ!!」

その一言が言い終わるや、ヒーローの姿は消え
先輩がいた場所に、閃光が走っていた
25 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 23:31:49.56 ID:kV9vhwI0
先輩が牙を振り回し、触覚を鞭のようにしならせて
牽制すると、ヒーローはそれを全て見切り

腹部に、胴体に、一撃を入れては避けを繰り返し
奇襲となる胴体から繰り出される針は
いとも簡単に防がれていた


堪らず先輩が口から溶解液をばら撒くと
おそらくそれの陰に隠れたのだろう、先輩の視界の外へ消え
横から強烈な拳を喰らわす

その衝撃で、先輩が逆の壁までふっ飛ばされ
その稼いだ時間の間に住民達を逃していた


そこで、俺達もそろそろだろうと、怪我の酷い者から
撤退をさせ始めた

俺の仕事は撤収ポイントを設定し、変身を解いて、
戦闘員が一般市民に会わないよう辺りを確認すること
そのためにその場を離れた
26 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 23:36:03.18 ID:kV9vhwI0
カチッ

「……撤収ポイント設定、G-2。繰り返す、撤収ポイント設定、G-2…」

『了解、通路D-4を通ってそちらに向かう』
『誰もいないだろうなぁ? ばっと会ってボキッ、なんて勘弁だぞ』
『クッ……… こんな時に…… おさまれっ俺の右腕……!!!』
『てめぇら黙ってろ』

今回も、いつも通り問題無さそうだった
周辺を確認して歩くが誰もいない
少なくとも、今から五分間はここに誰も近寄らないはずだ

「……ゲート承認、組織時間2054までとする」

数値を入力すると、会社と直結するワームが形成される
俺達に許された、この国が持つ最最先端技術、ワープ装置
それの出現を見届けると、俺は一般人として周辺を再び確認し後始末をするだけだ

全員を見送り、外を見ると
先輩が傷だらけで最後のセリフを発していた

「……ヒーロー ……このままで終わると思うなよ
 …我はまだ、完全体になっておらぬのだからなっ!」

よかった、今回は死なないか
そのことによるヒーロー人気低下の不安は残るが、それでも安心した

最後に、先輩が消えるところを見てから、俺自身も本社へ転送した
27 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 23:40:45.89 ID:kV9vhwI0
目を開けると、ロッカーの目の前だった
今回の服をしまい、仕事をする気分でも無いので私服に着替え
外に出ると、相変わらず騒がしかった

食堂に寄ると、いつもの宴会騒ぎが始まっていた
「よぉ、男! よくやった! 飲め!!」

と、戦闘員のオッサン先輩が俺に酒を勧める
いつも矛先となっていた奴はあいにく、肋骨を砕かれ
救急室に行った様だ
仕方なく一杯を手に取る

「おい、飲んでるかぁ?」という一言と同時に
頭が重くなる、いや頭に手を乗せられてるだけなんだが

「何いってるんですか、先輩」
と言い、後ろを振り返るとニードルキャタピラスこと
坊主の先輩が笑っていた
28 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 23:44:52.30 ID:kV9vhwI0
「おいおい、俺の生還祝いなんだぞ? さあ!!」

と言って、一応未成年の俺に
ビールジョッキ【大】を押し付けてくる

「だから、これを飲んでるじゃないですか」

と言って、りんごジュースを見せる

「テメェ、タバコはOKで酒はダメなのか?
 そして俺様は両手に酒を持っている!
 お前は俺に、このまま酒を持たせ続けるつもりか?」

先ほどの酒を別の奴に渡しておいたのが失敗だったか
こういう人だからな……

「おい、みんな! 乾杯とは、どう書くんだ!!」

「「「「「 杯を乾かすと書く!!!!! 」」」」」

「っしゃあ! よくいった!! お前らは俺の為に乾杯してくれるか!!!」

「「「「「 もちろんだぁ!!!! 」」」」」

ありえないくらい全員の声が揃っていた

「テメェも付き合え、いくぞぉ! かんぱああああぁぁぁぁいい!」

「「「「「かんぱあぁぁぁぁぁぁぁい!!!」」」」」

どうやら明日は二日酔いになりそうだ
29 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 23:48:49.48 ID:kV9vhwI0
酒も適度に、いや大量に入り、場の空気は物凄い事になっていた
俺も坊主の野郎、いや先輩に大量の酒を飲まされてフラフラだった

「やっぱり、チビは酒に弱いんだな…… よくわかった」

その坊主は隣の席で一升瓶を片手にツマミを集めていた

「……背丈は……関係ない…」

などとしていると、また新しい犠牲者が送り込まれてきた

「あのぉ、先輩にお酌をしろと言われてきましたが……」
「おお! 良く来た…… よし!お前も飲め!!」
「え、えぇぇぇ!!?」

もう遅い、俺の変わりに飲んでくれと交代し、別の椅子に座っていた
これで明日には全員しっかりと会社に来るんだからとんでもねぇ

会社といえば、まだ終わってない仕事があったな
そんな関係の無いことを考えていた
30 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 23:54:47.14 ID:kV9vhwI0
俺と相当飲んでいた筈の先輩だが、後輩と飲み始めても
まだ酔いつぶれる気配が無かった

「も、もぉのめませんよぉぉ……」
「なんだって? 俺の酒が飲めないのかぁ!?」
「そ、そうじゃなくてぇぇ……」

その時に、坊主先輩の元へ世話好きの後輩が向かっていたので、声をかけた

「どうしたんだ…?」
「いえ、先輩は大丈夫かなと思って……」
「そんなもの、誰だって見ればわかるだろう」

酔いつぶれかけている後輩の口に酒を注ぎ足す行為を延々とやっている
あの先輩は心配されるような人ではないだろう
31 :ふかみどり [sage]:2010/02/10(水) 23:58:31.03 ID:kV9vhwI0
「いえ…… その……」

「ん、どうしたんだよ」

少々歯切れが悪いので、少し急かすと、途切れ途切れと

「今回、先輩は…… その…… いろいろと… 大変だったと……」

その言葉と一緒に、そいつの周辺が少し冷たくなるのを感じた
なるほど、まだこういうことに慣れてないんだな
そういうお節介は苦痛でしかないのに……

「それこそ、見ればわかるだろうが
 あの人は大丈夫だよ」

と言っても、そいつは余り納得した顔をしなかった
だから替わりに、俺を医務室に連れて行かせた
気付くと酒が注がれている、この異質な空間から逃げるために
32 :ふかみどり [sage]:2010/02/11(木) 00:03:11.16 ID:iwIRLjk0

ぱっと目を開けると、そこは真っ白な、真っ白な天井だった
少なくとも俺の家ではない

そうか、俺の所属は悪の秘密組織
いつ改造手術に襲われてもおかしくない上に、
ここの主治医はショタコンらしい

入社当初、栄養剤と称してカプセルを幾つか渡されたが
飲んだものは全員、彼の毒牙に掛かっていると言うことだ

「そうか、俺もついに犯されるのか……」

「何馬鹿なこと言ってんだい」

パシッと頭を叩かれる
その痛み、といっても二日酔いの痛みに頭を押さえて気付く
腕枷も、何も付いていないな……

狐につままれた様な顔をしてたのだろう
ここの助手、女医者さんがあきれた顔をしていた

「あんた、酒盛りやってぶっ倒れて、ここで寝たんだろう?」

「……そうかも…」

「そうなんだよ、まぁ時間を見ろ」

と言われて腕時計をみると、出勤時間だった
取りあえずそのまま会社に行こうとすると
身だしなみを整えろと言われて洗面器を放り投げられた
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/02/11(木) 00:03:19.94 ID:8IpTJoDO
期待
34 :ふかみどり [sage]:2010/02/11(木) 00:06:55.84 ID:iwIRLjk0
ゴチャゴチャと女医者から言われ
ビシッと整えて、気づいたら遅刻していた

と言っても、やってしまったものは仕方ないので
そのまま仕事場まで行き、扉を開けて堂々と宣言する
それが、俺の遅刻した時のけじめのつけ方だった

だから、いつも通り階段を登り、歩いて行き
扉の前で一呼吸
その後堂々とドアを開ける

「男、一身上の都合で遅刻いたしました」

そこには社長がいた

「……少し遅いけど、おはよう」

今回は、目の前が真っ白になった
35 :ふかみどり [sage]:2010/02/11(木) 00:10:28.43 ID:iwIRLjk0
その後は社長のありがたいお言葉を沢山貰い

オッサン先輩は俺の仕事をエロ動画と一緒に送りつけ

後輩はそれを見て真っ赤な顔で見なかったフリを

周りの奴らは俺を笑いたいだけ笑う

その中で坊主先輩は一番大笑いしていた

俺は決してこの日を忘れないだろう……



その後、食事の時に坊主先輩が肉料理を抜いていた所を見た

俺に気付いた先輩は、最近体重が増えた、なんて言って笑っていた


1章、終
36 :ふかみどり [sage]:2010/02/11(木) 00:13:48.42 ID:iwIRLjk0
見てくれた方有難うッス <(_ _)>
さて、まだ2章前半までしかできてねぇぇぇぇ(´@盆@`)
書き溜めさせていただきます
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/02/11(木) 01:00:56.27 ID:F67axdAo
面白い!
良スレage
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/02/12(金) 06:07:45.43 ID:3PG3c6DO
こゆの好き
がんばって書いてほしい
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/02/12(金) 17:57:53.27 ID:mhJQ0EAO
続きが見たい
40 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 22:27:43.04 ID:q6p/3MQ0
少しですが続きを行きますね〜
41 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 22:29:58.83 ID:q6p/3MQ0
作り物になることを選んだ

それは、人類に多くの幸せを与えると言われた

だから、人類だった俺らはその道を選んだ

でも

それで人類を辞め

作り物になってしまった俺達に

幸せは欠片でも与えられるのだろうか



第二章
42 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 22:33:49.63 ID:q6p/3MQ0
仕事の確認を終え、一息ついて椅子に寄りかかる
気が滅入っている時は、空を見上げればいいと誰かが言ったが
今見える空はパネルが敷き詰められて、十字に線の入った白い天井だった

「……白い、なぁ」

言葉が口から漏れる
その音は確かに俺が発したものだが、自身が認識出来ておらず
何も考えず、何も感じずに放った言葉だと思われる

「そりゃ当たり前だろ?」

そんな状態だからか、何時の間にか視界に入っていた坊主先輩に
気付かなかったのだと思う

「……何時から居ました…」

そう聞くと、とても愉快な玩具を見つけた子供のように笑い

「さあな」

と答えていた
43 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 22:38:27.20 ID:q6p/3MQ0
その後、一緒に食堂で飯を取っていた

「・・・・・・つーことで! 今度の飲み会には絶対参加しろよなっ!!」

「飲み会って・・・・・・ いつもやってるじゃないですか・・・」

先輩は食事が終わった食器を俺の食器に重ねている
辺りの談笑と一緒にカチャカチャと耳障りな音が聞えてくる

「バカ、今度のは夜七時からだから、それに参加しろと言ってるんだ」

背後からの言葉を聞きながら、先輩の分まで皿を片してウーロン茶を持っていく

「・・・まぁ、その日なら別に構いませんよ」

「よしっ! これで男勢は揃った!!」

水を得た魚とはこういうのを言うのだろう
目が輝き、飛び跳ねるように歩き、からだの全体から喜びを表現しているみたいだ
44 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 22:43:40.20 ID:q6p/3MQ0
「しかしどれだけ飲む気なんですか、昨日飲んだ量覚えてますか?」

二つの定食で悩んでいる人を横目に食堂から出て
他の社員とぶつかりそうになるのを避けて仕事場へ向かう

「あぁ、安心しとけ。 その日はそんなに飲まないから」

「そんなにって、珍しいですね。 雨が降るんじゃないですか」

「雨は降らないだろうが、春は来るかもしれんな」

そう言って、さっきから携帯に向かい合っている先輩を見る
酒を飲まない? 春が来る? いったい何をするつもりなんだ?

「今は冬ですよ、何を言っているんですか」

「いや、俺たちの春が来るんだ…… いや! 春にするんだ!!」

そう言って胸の前にグッと拳を作ってあさっての方向を向いている
この人がこんなになる時は大抵ろくでもない時だ
45 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 22:48:15.67 ID:q6p/3MQ0
「意味の解らない事ばかり言って…… 犠牲者は誰なんですか?」

「そうだな、俺のダチとお前…… あとは第二整備課とだな」

「へぇ、第二整備課…… 第二整備課……」

その名前はよく聞くところだ
第一整備課は主に新しいスーツやらの製作、まぁ主にヒーローが使う新兵器の研究をしている

それに対して第二整備課は俺たち向けのところである
しかし、俺たちが強くなることに何のメリットもないので
仕事と言えば専ら治療やら怪人や戦闘員の体調管理 兼メンテナンスである
46 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 22:52:15.66 ID:q6p/3MQ0
「第二整備課って、殆ど女性でしたよね……」

つまりは研究と言うより、自分達が暴走しないように監視するところであり
その際、男性が見るよりも女性であった方が精神的にいいということらしい
そういうことで、戦闘員達の恋愛事となると大体こことだ

「ああそうだ、お前の人生初合コンだぞ! 喜べ!!」

「そうですね、場所は後で伝えてください自分は仕事あるので」

しかしそういうことは個人的に余り興味が無い
言葉だけ残して早歩きで自分の仕事場まで向かう
幸い周辺には社員の人はいないので多少急いでも迷惑は無い

「まあ待て、撒き餌」

しかし逃げる途中で首根っこを掴まれる
宙吊りにされるが誰も通りがかってくれないので助けが来ることは無い
会社なのになんで人がいないんだ

「役割で呼ばないでください」

「まぁ安心しとけ! お前のことをほっとくなんてことはしねぇからよ!」

「どうでもいいから今からほっといてください」
47 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 22:57:09.88 ID:q6p/3MQ0
詳しい話は後ほどと言うことで解放され、仕事場に戻る
近日中に仕上げ無ければならないものは無いのでゆっくりと仕事を進める

ん、メールが来たみたいだ
宛名は…… 坊主と、第二整備課か
噂をすればと言うが…… そういえばメンテナンスの時期か?

先輩からのメールをひとまず置いて、整備課のを開く

『    健康診断のお知らせ

  健康診断を下記の要領で実施致します。
  
        本日    
        ・
        ・
        ・
                     』

やはりメンテの連絡だったか
了解の返信を送ってメールをゴミ箱に送る
というか、本日だったらこんな面倒なものにして送らなくてもいいのに

さて、メール欄も空になったし
仕事に戻ろうか
何かを忘れている気がするが、気のせいだろう
48 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 23:03:15.60 ID:q6p/3MQ0
画面を見ることに疲れて目を逸らし、ついでに時間を確認する
17時の5分前ってところか
よし、今日の仕事はこれで終いだな

周辺の各種電源を落として、椅子に掛けていたスーツの上着を着なおす
最後の確認をした後で、俺と反対側のスペースまで歩く

「先輩、一緒にメンテへ行きませんか」

そう言って、簡単な板で区切られたスペースに顔を出す
綺麗に整えられた書類、整頓された机の上に、一枚の私物『写真立て』
その写真には一つの家族が写っている
その横で、椅子に座りながらもピンと伸ばした背筋、暖房でふわふわと動く髪

ここはおっさん先輩の仕事場だった

「本日は自分も行くのですが、確か先輩もでしたよね?」

そう聞くと、おっさん先輩は振り返ってきた

「あぁ、ここまで来てくれて有難う」

そういってスッと立ち上がる筋肉戦車…… いやおっさん先輩は
優しい笑顔で迎えてくれた
そのまま一連の動作であるように荷物を一瞬で詰めて
気付けば俺の隣に立っていた

「さ、行こうか」
「はい」

酒癖の悪さと、頭髪の問題さえ無ければ
自分の一番尊敬している先輩だ
49 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 23:07:40.90 ID:q6p/3MQ0
「合コン……か」

「はい、坊主先輩から誘われているので断るに断れなくて……」

社内の廊下を歩きながら、俺は先輩と話していた
ここに入社してから、大抵の相談事はおっさん先輩から助言を貰っている
今回も同じように、出来れば俺を参加させない方向で話を進めて欲しかった

「はは、彼は元気だからね」

「まったくですよ、アレに付き合わされてちゃコッチの身が持たないですよ」

ため息をつきながら、歩を進めてエレベーターの前に来る
自分の少し前にいた先輩は、顔をこちらに向けながらボタンを押し
話を聞いてくれていた

「でも、彼だって色々考えているんだよ」

「いや、あの頭には酒と女性のことしかはいってませんよ……」

「そうでもないよ、だって」
50 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 23:14:55.88 ID:q6p/3MQ0
その時に、チーンッという音が耳に響く
それでエレベーターが到着したと気付いて先輩と一緒に乗り込む

その間に先輩は階層ボタンのところでカードキーを通し
何かの番号…… まぁ自身の戦闘員番号だろう… を入力していた

「ところで、坊主先輩について何を言おうとしてたのですか?」

「え? 私はなにか言っていたかい?」

「あ…… いえ、自分の思い違いです」

少々気になったが、まぁどうでもいいことだったので気にしないことにした
51 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 23:20:09.25 ID:q6p/3MQ0
エレベーター独特の浮翌遊感を感じながら
少なくなってゆく階の値を視界の端にいれていた

その間も先輩と話をしていると、先ほどまでと違い
ヴゥーンッという独特の音が鳴り始める
どうやら地下に潜ったようだ

現在の階数を表す表示は何処も指しておらず
それは、普通の人には行くことが出来ないところへ向かっているのだと再確認させる

「しかし、何を考えているのでしょうか」

「ん、何がだい?」

「坊主先輩ですよ、自分たちはあまり人と交流を結ばない方がいいと思うのですけど…」

自分のその問いに、少し考えたようなそぶりを見せていた

「まぁ、君は賢いからな」

そういって、おっさん先輩は俺の頭にポンッと手を置いて
癖のある笑顔を向けていた
52 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 23:31:09.86 ID:q6p/3MQ0
エレベーターの扉が開くと、目の前が今までの無機質な通路から
少々にぎやかな場所になっていた ここが第二整備課だ

「それじゃ、私は向こうだから」

そう言うおっさん先輩と別れて
俺は少し奥の部屋に向かっていた

普通、戦闘員達は薬品やら機材、スーツとの組み合わせなどで
強靭な力を得ている、おっさん先輩もそうだ

それに対して、俺の身体はほぼ純粋な筋肉で作られていた
そのため俺の身体は殆どメンテナンスを必要とせず
どちらかと言うとデータ集めと
筋力を落とさないよう、また効率よく鍛えられる助言をもらうといったことが
このメンテナンスというものだった

だからか、俺のメンテ部屋は少々入り組んだところにあった
正直行くのが面倒であるし、たまに見かける人が怖すぎる

ケルベロスみたいなのを連れてたり、アッチの世界に飛んでる人もいるし
あ、そういえば合コンから逃げられるように頼むのを忘れてた……
53 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 23:36:12.65 ID:q6p/3MQ0
研究室の一角に到着する
その部屋の扉をノックするが返事が無い

「男、メンテに来ました」

中に入るが、部屋の辺り一面に大量の書類が積まれており
まるで俺の仕事場を見ているかのようだった
いや、俺のところと桁が違うが

誰もいないのかと思ったが、ふと前の椅子が向こうを向いていることに気付く
見れば、椅子に地面へは届かないくらいの足がにょきっと生えている

このままずっと立っているわけにも行かないので
その椅子のところまで歩いていく

「まったく、いるならいるって言ってくださいよ 先輩」

そういうと、俺の目の前で椅子は器用にくるっと回り
その正面が俺の目の前に来るところで止まった
54 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 23:41:08.13 ID:q6p/3MQ0
「べつにいいじゃないですか〜
 それともへんじをしないと男くんはさみしいですか?」

目の前で笑みを浮かべている少女、に見える女性が
第二整備課のまとめ役でもある ロリ先輩だ

「別段、まったく」

「まっ、男くんはわるいこになっちゃいましたか?
 むかしはもっとういういしくってかわいかったのに……
 せんぱいかなしいですよ、うぅぅ……」

「嘘泣きはやめてください」

背丈は俺よりも低く、体つきもその背丈どおりの成長具合
なのに何故か自分がここに来た時から既にこの役職についていた
謎の多い先輩だ

「もう…… きみはもっとはなすことをおぼえなきゃダメですよ」

「別に、今も話しているじゃ」

「かいわはコミュニケーションですっ こころのうけわたしですっ
 もっとそれをかんがえなさいっ!」

そう、いきりたって言ってくる
自分はメンテに来たはずなんだが、なぜ説教されているのだろうか

「まったく、それじゃメンテナンスですね〜」

そういってポンッと椅子から飛び降りて前を歩いていく
俺はそれに付いて行くだけだ
55 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 23:51:34.71 ID:q6p/3MQ0
ゴチャゴチャと機材が並ぶ部屋に到着する
俺にはその価値が解らないのだが、設備としては凄いらしい

「はいは〜い、そこのベッドでよこになっててね〜」

そういわれていつも通りのベッドまで向かいながら、少々怪しい液体を飲む
ロリ先輩は各種機材を取りながらメンテの準備をしている

「そういえば、男ちゃんごーこんにいくんですか?」

「ベフッ!!」

その怪しい液体を吹き出してしまう

「わっ! きたないですよ〜」

「……なんで知ってるんですか」

自分で汚した物の後始末をしながら聞く

「いやぁ、それにボクもさんかするんだよ」

………えっ?

参加、酸化、傘下、産科
一番最後のは犯罪だから無視して……

まてよ、昔の時代は12歳で結婚が当たり前だったらしいし
つまりは性の知識をそれまでに網羅しているのか、恐ろしいな古代日本
しかしそれをこの子に教えろと? くそ、何て難しい問題だ……
56 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 23:56:12.61 ID:q6p/3MQ0
「いや、どうしたの? うごきがとまっちゃってるけど」

「いや、幼子にどうやって性の知識を教えようかと」

ドムッ!!


………
あれなんだろう、父さんと母さんじゃないか
えっ、隣の人は祖父母? でもなんでみんな一緒にいるんだ?



「………ゲフッ、ゴホッ……ガハッ……!」

ふと夢の世界から帰って来れた
なんだろう、さっきまで居ちゃいけないところにいた気がする

「あらあら、どうしちゃいましたか?」

「い、いえ…… 憶えてません」

ただ、逆らってはいけないと俺の何かが全力で叫んでいた

「もう、ボクはあなたよりおねーさんなんですよ?」

「は、はい……」

「だから、あなたたちのためにちゃ〜んとおねーさんがついてってあげますからね」

「はい……」

色々と突っ込みたいことはあるが、もう何も考えないことにした
57 :ふかみどり [sage]:2010/02/12(金) 23:58:54.89 ID:q6p/3MQ0
「こんにちはっす!」

メンテを大人しく受けている途中、やけに明るい声が部屋に響く

「えーと…… あ、いたいた ロリ先輩ー」

「はいはーい、なんですか? バンダナくん」

バンダナと呼ばれた人はそのまま部屋に入ってきて
ロリ先輩と話をしている、まぁコッチとしては(先輩の)話し相手が出来た
お陰で随分楽になった、このままいてくれたらと思う

「そうか〜、それじゃちょっとさがしてくるから、まってて〜」

「はい、わかりました!」

そう言葉を残して、ロリ先輩は一人どこかへ行ってしまった
メンテも途中なんだが……

「…………」

「…………」

知らない同士が二人っきりって凄く気まずい、しかもこっちをずっと見ている
あまり、誰の印象にも残らないように過ごしてきた筈なのだが
58 :ふかみどり [sage]:2010/02/13(土) 00:01:04.07 ID:lgNIsk.0
口を開いたのは向こうからだった

「えーと、間違ってたら悪いんだけど…… 君、男くん?」

恐る恐るというのとは正反対の、物凄く軽い感じで聞いてくる

「え、まぁ、そうですけど」

「おぉ! 君かぁ! 若いなぁ…… 今いくつ!?」

怒涛の勢いで質問攻めが来た
俺、そんなに目立ってたのか?

「ええと、今17歳ですが…… ええと…」

そこまで言って言葉に詰っていると、察してくれたようだった

「あぁ、俺はバンダナ。 坊主先輩の友人って言えばいいかな?」

「なるほど、理解しました」

「しかし若いなぁ…! 17って、高校行ってないんだ! あぁ、でも
 悪い意味で言ったんじゃなくて、そういえば中学では何を(ry」

なんだろう、凄い人だ
気づいたら完全に向こうのペースで質問に答え続けていた
59 :ふかみどり [sage]:2010/02/13(土) 00:05:15.08 ID:lgNIsk.0
「おまたせしましたって、あらあら……」

しばらくしてから、ロリ先輩が戻ってきた
その間、俺は質問攻めを受け続けてたのだが……

「もうなかよしになったんですね♪」

何を言っている…… どこをどう見たんだ?

「はいは〜い、男くんはメンテ、バンダナくんはコレとごーこんのしりょうっ」

「おぉ! 流石ロリ先輩! ありがとうございますっ!」

そういって分厚い書類を受け取っていた
ん、合コン?

「あぁ、今度の合コンに参加する一人、自分なんでよろしくっ!」

「あ、宜しくお願いします」

ついさっき会った人が坊主先輩の犠牲者だとは
世間って狭いものだな、とか考えていた
60 :ふかみどり [sage]:2010/02/13(土) 00:06:57.49 ID:lgNIsk.0
書き溜めがなくなりましたよ……
申し訳ない<(__)> 頑張って書いてきます
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/02/13(土) 00:18:56.58 ID:4jjihhoo
読んでるよ〜
62 :ふかみどり [sage]:2010/02/14(日) 02:22:16.65 ID:ReZdwJo0
適当に話を続け、メンテを進めていると突然
もうこんな時間か!とバンダナの人が言い、慌て始めていた

「それじゃ先輩っ! 自分はこれで失礼しますっ!
 男も、またな!」

自分は横になり、体全体を固定されていたので顔を向けることは
出来なかったが、声だけで返事をした
その後の遠ざかっていく足音が良く聞こえていた

「ふふっ、いいことですね〜」

そう、ロリ先輩が言い出したのはしばらくしてからだった

「何がですか」

「男くんも、やればできるんだなってことですよ〜」

その言葉はとても嬉しそうで、本当に自分の心配をしていたのだと感じる
しかし大きなお世話だ

「ただ話しただけです、これくらい出来なきゃ社会人として失格ですよ」

「あれれ? そうですか?」

その言葉を聞き流し、まばたきをすると俺の風景にロリ先輩が割り込んでいた
真正面から見返すその瞳の淡い紅玉には俺の顔が
突然の出来事に驚いている間抜け面が写っていた

「きみは仕事はいちにんまえですけど、
 じぶんのことはぜっっったいに話さないじゃないですか?」

その一言になぜか、心臓がドキッと大きく音を上げた
それと同時に 写っている間抜け面が一層崩れていた
63 :ふかみどり [sage]:2010/02/14(日) 02:38:22.44 ID:ReZdwJo0
まずい、この目は見てはいけない物だ
なにかを知ってしまう、いや気付いてしまう
しかし、「ソレ」に気付いてしまったら俺はもう俺で無くなる

「どーして話してくれないんですか?
 わたしにも話してくれないんですか?」

「いや……」


やめてください、やめてくれ……


「あなたはいつからそうなったの?」

「えっ……」


考えさせないでくれ、触れないでくれ
だって俺は

『ピーンッ! ケイソク終了! ケイソク終了!』

機械質の音が鳴る
それと同時に体の自由を奪っていた機械が外れてゆく

「……はいっ! ごくろーさまでしたっ!」

眩しいくらいの笑顔と共に、終了を告げる先輩の声が響いた
顔を離して、横でビービーと煩い物から出てくる紙を取って何かを書き
他の書類と一緒に渡してくる

「……これは…?」

「ほんじつのけっかと、しりょうですよ〜
 さぼっちゃだめですからね〜?」

そう言った後にタオルを渡してくる
気付けば汗が噴き出ていた
64 :ふかみどり [sage]:2010/02/14(日) 02:46:24.89 ID:ReZdwJo0
書類だけはしっかりと握りながら、逃げるようにエレベーターに乗り込んでいた
その中で汗だくとなった身体をタオルで拭いていると、少々冷静になれた

ふと、着替えがロッカーに入っていたことを思い出して
行き先を家から仕事場へ替えて行く

そこに坊主頭が居やがった

「やっときたか、遅ぇぞー」

「いや、何でここにいるんですか」

「何でって、メール送っただろ、気付かなかったのか?」

メール…… そういえばそんなものがあったような無かったような……
まぁこの坊主に関連することはあまり重要じゃないと判断したのだろう

「よし、今日は遅れてきたお前のおごりだな!」

「いや、訳が解りません」

半ば呆れ気味に言っていた

「さて、お前が来たから後一人だな」

「もう一人、ですか」
65 :ふかみどり [sage]:2010/02/14(日) 02:50:57.25 ID:ReZdwJo0
しばらく待っていると、背後から聞いたことのある足音が聞こえてくる
これは多分……

「スンマセン先輩ッ! 遅れましたっ!」

やはり、聞いたと思ったらバンダナの人だった

「よし、許す!」

「ありがとうございますっ!!」

「ちょっと待ってください、理不尽を感じます」

なんだろうこの対応の差は
見てるだけで楽しくなってくる好青年と、チビでガキの根暗野郎の差か?

「こまけぇこと気にすんなっ! いくぞ!」

「行くって何処にですか?」

「何処って、決まってんじゃねぇか!」

物凄い迫力を纏いながら、言葉は続いていた

「酒屋で戦略を練るんだよっ! 資料は持ったか!? 付いてきやがれ!」



……おっさん先輩、俺はこの人の頭に酒と女以外の
 何が詰っているのか、やっぱりわかりません


Aパート 終
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/02/14(日) 03:00:57.08 ID:X.9dYDIo
こんな時間に来るとは思わなかったぜ
乙!
67 :ふかみどり [sage]:2010/02/15(月) 11:52:09.38 ID:CarZ1e.0

いつも通りの店に、いつも通りの面子で
いつも通りの酒とツマミを頼んでいた

「………」

いつも煩いくらい明るい坊主先輩は、まるでなにかにとり憑かれたかのようだった

「まぁ、お疲れ様です。 世の中に女性はまだ沢山いますから」

その言葉を聞いた瞬間、物凄い圧力が左から
いや坊主先輩から押し寄せてきた

「お疲れ…? 沢山いる……?
 っざけんなぁ! 疲れたくても疲れらんなかったんだよ!!
 俺の相手をしてくれる女はその沢山のうち何割だ!? ぁあ!?」


はい、察してください、失敗しました
作戦会議中、俺は一次会のみ参加してさっさと帰りたいと話していたら
「その方が好都合だ」と言って代わりの人を用意してくれ
戦略とやらはトントン拍子に進んで、戦場に向かうこととなった

しかし始まってみると、子供っぽい二人とか言われて
ロリ先輩とセットで俺が可愛がられてた

そのせいで、何故か話の中心の一人となってしまい
先輩方はアピールが出来なくなった…… らしい……
詳しい話は解らないが、とにかく俺のせいらしい

仕方ないので全力を尽くして、戦略を練っている時の
「理想の先輩」という本(著:坊主)を引用して
先輩方のポイントアップに努めていた俺は良くやったと思う……
68 :ふかみどり [sage]:2010/02/15(月) 11:57:10.32 ID:CarZ1e.0
時間も進み、お酒も程ほどに入ったところ
自分は計画通りに帰ったので、結果は知らなかったのだが
朝の雰囲気見れば誰だってわかっただろう……


「女はなんでこうなんだ…… 坊主だからってホモじゃねぇんだよ
 なんだよその差別はよぉ……」

しばらく帰って来れないか
財布を開き、少々余裕があることを確認してから
注文をいつも通りから美味しい物に変更する

「あ、バンダナ先輩はどうします?」

「……バンダナはオタクのシンボル… バンダナはオタクの……」

どうやらバンダナ先輩も心に大きな傷を負ってしまったようだ
酒も少々ランクを上げておこう

ちなみに、先輩方が溢していることは直接言われたのではなく
ロリ先輩からの男集評価によるものだった
なので、まだ致命傷にはなっていないが傷は大分深い

「まぁ先輩、今回は出会った方が悪かったってだけですよ」

坊主は自力で帰ってこれることを知っているが
バンダナ先輩は心配なので話しかけてみる
69 :ふかみどり [sage]:2010/02/15(月) 12:02:34.79 ID:CarZ1e.0
「男、今回はじゃなくて、今回も、だよ……」

この落ち込み様は想像以上だった
もしこのまま人込みの中に入っていったら
誰も気にせず、踏みつけて行きそうな雰囲気を纏っている

「だったら、今まで出会った人とは縁がなかったんですよ」

はいおまちっ! と大将が元気な声を店内に響かせて
目の前に酒を置いていったので、それを早速バンダナ先輩につぐ

「まずは飲んで、忘れましょう」

気付けば坊主は酒を自分でついで、畜生とか言いながら飲み始めている
これで復活してくれるから楽なものだ

「男、すまないねぇ、こんなに心配かけて……」

そう咳き込みながら病人の様な目をする先輩
実はタフなのかもしれないな……

「そういうことは言いっこないしですよ、バンダナ先輩」

そう多少ノリに乗りながら答えてみる

「……はぁぁぁ…… もういっそ、男が女の子だったらなぁ」

先輩は切実な願いを冗談めかせる為、そんな事を口走る
こういう時に「それなら今、ここで一緒に酒飲んでない」系の言葉は
致命傷になりかねないので、そっと心の底にしまっておいた
70 :ふかみどり [sage]:2010/02/15(月) 12:12:14.37 ID:CarZ1e.0
しばらくゆっくりと酒を飲み、話を聞いていた
こういう傷を治すには、なにより時間が必要だと思ったからだ

そしてどうしてこうなった


「もうこうなったら髪を染めて赤ボウズになってバスケを……
 いや待て、あいつも女にモテねぇよ!!!」

「もういいんだ…… こうなったらラケットを持ってミュージカルを始めるんだ……」

飲み始めて、少し酔いが回ってきたところだった
先ほどまで平和に飲んでいたはずだったのだが
気付いたらこんなことになっていた

「クソッ! 男ぉ! モテる坊主は誰か居ないか!?」

「俺なんかブーメランスネークとか言って
 でもやられるカマせ犬が丁度いいんだ……」

酒は魔翌力を持っているというが
それを扱う人間によって如何に恐ろしいものと成るかが良く解る
よし、彼らを尊敬の念を持って『魔法使い』と心で呼ぼう

「モテるかは知りませんが、尊敬できる坊主は先輩ですけどね
 バンダナ先輩も、そんな凶悪ヅラとは似ても似つきませんよ」

その言葉が効いたのか、坊主はなにか感慨深げにしており
バンダナ先輩は何かを考えているような顔になっていた
これでゆっくり酒も飲める
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/02/15(月) 16:47:50.03 ID:qZ5Lmyco
メ欄に「saga」って入れると
「魔翌力」じゃなくて、ちゃんと「魔力」って表示されるよ
sageたいなら「sage saga」でもおk
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/02/15(月) 18:15:18.62 ID:1yma5HE0
マジデスか!有難う御座います!!
なんで書いても無い誤字が出てくるのか困ってましたよ(-w-;
そして、読んでる皆さんも、有難う御座います<(_ _)>
73 :ふかみどり [sage saga]:2010/02/15(月) 18:20:18.14 ID:1yma5HE0
「男…… お前は良いやつだなぁ」

しばらく飲んでいると、そうしみじみと言い始めた
おそらく酔って変なことになっているだけなのだろうが

「いきなりどうしたんですか、バンダナ先輩」

俺は自身を良く考えたことはないが、今の仕事をしていることから
良いやつでないことは誰だってわかるだろう

「いや、思ったことを言っただけだ」

そう言った後は酒をグッと飲み干していた
それから、何かを言おうとしたのか口を開いたものの
その口にはツマミのトリ軟骨が入っていくだけだった

俺も何か言葉を返そうとしたが
何を返しても意味がないような気がして
先輩と同じように酒を飲んでいた

「なぁ、男……」

「なんですか?」

先輩の話を聞くために、返事をして先を促し
その間に空になっている杯に酒を注いでいた

「……俺は、お前の友人か?」

「はい? 何を言ってるんですか、当たり前ですよ」

「……そうか、いや変なことを聞いてスマン」

そういってまた酒を飲み始める先輩は
少しだけ笑っていたように見えた
74 :ふかみどり [sage saga]:2010/02/15(月) 18:25:38.15 ID:1yma5HE0

気付けばここ数日、戦略会議だとか言って
バンダナ先輩と一緒にいたと思う

仕事終わりに大抵飲んだり、話したりし
休みには服を買いに行ったりし、
何故か解らないが、まるで昔からの友人だと思えていた

「そういえば、そうなんだよな……」

「ん、なにか?」

自分の独り言が聞こえたらしく、声をかけられる

「バンダナ先輩と知り合って、まだ一週間もたってないんですよね」

「あぁ、そうなんだよなぁ」

そういってモツ煮込みをつついている先輩を見れば
どうやら暗い様子も無く、いつも…… といっても数日しか知らないが
その顔に戻っていた

「……つまり、尊敬されるということは、偉大ということで………」

ちなみに坊主先輩はまだ酒を飲みながら一人で傷心中

「まぁ、最初会った時は生意気なチビガキだと思ったけどなww」

「何を言ってるんですか、こっちは一世代前のDQNかと思いましたよ」

「おめっ、ひでぇ!」

「事実を述べてるだけですよ」
75 :ふかみどり [sage saga]:2010/02/15(月) 18:31:48.12 ID:1yma5HE0
「このチービッ! ショータッ!」

「ロリコンッ! アキバ系ー!」

「お、俺はオタクじゃねぇ!!!」

何時の間にか餓鬼の口喧嘩になっていた
バカだのアホだの騒ぎ、おそらく店にとって迷惑だったろう

そんなのがしばらく続いた

「も、もう、不毛なことはやめましょう…… お母さんといっしょって何の意味ですか?」

「そ、そうだな…… テメェ、ケロロ軍曹ってどういうことだ?」

「……まだ続けるつもりですか?」

「ほぅ、お前もまだやる気か」

今までの空気が一掃され、再びじりじりと身を焦がす戦いが始まる
これ以上、無駄弾を撃ったら店を追い出されるかもしれない
一撃必殺の言葉(ぶき)を探す

しかしそれは相手も同じようだ
今までのは前哨戦、ここで勝負が決まる……
最狂の一言を発する為に、一口分の息を飲み込む

「……つまり、俺様が世界ってことだぁ!!」

その一言で我に返る、バンダナ先輩も同じリアクションだった
あぁ、坊主先輩が帰ってきた
ただ、先輩として、人としてその慰め方は無いと思います
76 :ふかみどり [sage saga]:2010/02/15(月) 18:56:46.51 ID:1yma5HE0
結局、先輩が帰ってきたことで興も削がれ
このまま帰ることになった

「それでは失礼します」

「あぁ、じゃーな」

俺は一人別の道だから店の前で別れることとなる
だからか、俺は店前で先輩方を見送ってから帰ることにしていた

坊主先輩は、そのまま帰っていったが
何か話すことがあるのか、バンダナ先輩は動かなかった

「どうしたんですか?」

そう聞いてみるも、少し目線を上げて俺が顔を見えないようにしているだけだった
いったいどうしたというのだか

「なんです? まさか、先ほどの勝負を白黒つけようってことですか?」

そう言い、上に来ているシャツのボタンを外して戦闘態勢に入るが
「ちげーよっ」と口が動き、いつもの楽しげな顔をしてこっちを向いた

「なぁ、男。 お前さ、俺が友人だって言ったろ?」

「え? まぁ、いいましたよ? 当たり前じゃないですか」

「あれな、すげぇ嬉しかった、ありがとよ」

………ん?それを伝える為に?

「それだけですか?」

「あぁ、それだけだ。 じゃあな」

そう、言葉を残して本当に行ってしまった
意味が、訳が解らなかった
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/02/15(月) 20:57:53.00 ID:qZ5Lmyco
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/02/20(土) 01:58:16.47 ID:p.mz3IDO
書き溜め中かな
続き楽しみに待ってます
79 :ふかみどり [saga]:2010/02/22(月) 18:33:55.92 ID:CasC.Ho0
どうも、私事でなかなか来れなかった>>1です
書き溜めもそこそこだけど…… 頑張るッス
お待ちしていた方、もしいましたら申し訳なかったッス(><)
80 :ふかみどり [saga]:2010/02/22(月) 18:37:29.38 ID:CasC.Ho0
道を歩けばコンクリートの木々が並び
冷たい、排ガスの混ざった空気を肺に入れて
夜空には人工の光が瞬いている

風情も何もあったものではないが
居酒屋帰りにそんな物を望む方が可笑しいか

「バカじゃないか、俺……」

そういいながら、心に暖かさを感じていた
だからか、いつもと比べて変な感じだ
でも悪くない

「うん、悪くない」

今の気持ちを確かめるように、言葉を口にしていた

こんな気持ちになったのは何時以来だろうか

おそらくは、入社して間もない頃に感じたものだろう
今まで色んなことに慣れて、また今は何かしらで初心にかえっただけだ

と、そんな事を考えているうちに家が目の前まできていた
兎に角、明日も仕事はあるのだから
くだらないことばかり考えずに寝てしまおう
81 :ふかみどり [saga]:2010/02/22(月) 18:42:15.47 ID:CasC.Ho0
……朝…
ああ、今は朝だ

誰でもわかるそんな事を頭の中で反芻しながら
布団から出られずにいた

震えが止まらない
何でだ? 最近なにか体に毒のあることをしてしまったか?
思い当たることは…… 大量の酒くらいだが、こんな効能は無いはず

ならなぜ……?

ふと気付けば、朝は目覚ましとなっている携帯が震えていた
どうやらメールが届いたようだ
それを開けば、今回は少し違う相手から送られてきた物だった

俺の『趣味』を知らせるものだった
それを見て、何故か震えが止まっていった
82 :ふかみどり [saga]:2010/02/22(月) 18:46:11.27 ID:CasC.Ho0
ざわっ………
    ざわっ………

「……今回の目標は、○○ブリッジ……」

「お、来た来た! 慈善事業っ!」
「いや、違うだろ……」
「でも、橋壊したら、その分の代金要らなくね?」
「もう馬鹿がばれるから黙ってろよ……」
「……沈黙は金……? クスクス……」

なんでこんな早い時間から行動を起こすんだ?
確かにこういうことはなかった訳ではないが、眠いので勘弁して欲しい

「本日の許可リストはないよ〜、気をつけてね〜」

「だってさ、良かったじゃねぇか」
「力がみなぎる…… 溢れる……!!」
「はいはい、どうした?」
「お前達が許可リストを見せなければ、俺はこの橋を破壊し尽くすだけだぁ!」
「黙れ」

いや、余計なことは考えるな
俺がやることはいつも通り『悪の戦闘員』になることだけだ

今回、後始末等々はおっさん先輩がやることになっているし
随分楽な仕事になるはずだ

「そんじゃ頼むぜー、お前らっ!」

……聞いたことのある声を発し
聞き分けたことすらある足音をたてて
昨日見た姿がそこにいた

「……バンダナ…先輩…?」

「……よぉ! お前もヨロシクなっ!」
83 :ふかみどり [saga]:2010/02/22(月) 18:49:59.05 ID:CasC.Ho0
「作戦時間は0830、質問はあるか?」

いつも通りに一本芯があり、全員の耳に響くだろう声を聞き

「作戦のせいでプリ●ュアが見れません、どうしましょう」

いつも通り、くだらない質問が出てきて

「無いようだな、それで…… っと、どうした? 男」

いつも通り、作戦に出る…… 俺はそれを止めていた

「……ええ、と…… その、今回の怪人さんは、……?」

俺は二年前からここで戦闘員をやっている
しかし一度もバンダナさんを見たことは無かった
それは彼が科学者だからだと、俺は思っていたが……

「……バンダナ、男がお前に興味あるらしいぞ」

「えぇ! 俺ホモじゃないっすよ!?」

その言葉を聞いてみんなが笑う
俺も釣られて笑っていたが
その顔は笑えていたかが心配だった
84 :ふかみどり [saga]:2010/02/22(月) 18:53:31.85 ID:CasC.Ho0
少し落ち着いてから、全員に自身を紹介するようだ

「まぁ聞かれてるなら……
 二年前からちょっと訳あって離れてたけど
 今回復帰しましたバンダナっす!
 お前ら、よろしくっ!!」

ワーワー バンダナーッ オタクの☆ーッ

「オタっ、てめぇらーっ!!」

あぁそうだ、この人はこういう空気を作る
作ってしまう…… 今は真面目に話をしようとしても無理か

「さて、今度こそ質問は無いようだな……」

その声と同時に、作戦が始まる
全員が橋の下へ行くために行動を開始する
それでも、俺は動けなかった

「……あぁ〜、まぁ、後で話すから………」

バンダナ先輩は、そう言って先に進んでいった
最後に、なにかを言っていた様だったが
声が小さすぎて聞こえなかった
85 :ふかみどり [saga]:2010/02/22(月) 18:58:40.61 ID:CasC.Ho0


「……さて、まずはお前らから頼むぜ」

「「「イィーーー!!!」」」

その言葉を残して、全員が配置の場所へ向かう
偶然にも、俺の配置はバンダナ先輩の直ぐ横であった

「……驚いたか?」

そう、意地の悪い顔をして声をかけてきたのはしばらくたってからだ

「当たり前ですよ」

考えてみれば、バンダナ先輩がこの配置にしただろう
しばらくは話す時間が取れそうだ

「悪い悪い、話そうとはしてたんだぜ?」

「それなら話してくださいよ、まったく……」

「だから、悪いってンだろ〜?」

「うるさいですよ、このオタリーマン」

「ぁあ!? てめぇ今なんつった!?」

また少し、馬鹿な話が始まっていた
86 :ふかみどり [saga]:2010/02/22(月) 19:02:19.52 ID:CasC.Ho0
話によれば、先輩は前に怪我を負ってしまい
戦闘員として戦うことがついこの間まで出来なかったらしい

それが俺の入社した時期と重なっていたため、その後続として俺が当てられ
また育て役はおっさん先輩が買って出てくれたから
戦闘員として会うことが無かったのだと言うことだ

「まったく、変な偶然ですね」

「だよなぁ〜」

「それで、怪我は治ったんですか?」

「いや、まったく」

危うく転びそうになりながらも、体勢を立て直す
今いる所は橋の頂点…… ここから落ちたら病院一直線だ

「なんで治ってないんですか!?」
87 :ふかみどり [saga]:2010/02/22(月) 19:06:11.65 ID:CasC.Ho0
「これは治らないもんでさ、だから手術も受けたんだよ」

笑いながらも少し目の色が暗くなっている
なにかはぐらかされている様な気がする

『配置に着きました、お願いします』

「おぉ、わかった。 ……さて、無駄話もこんな所だな」

瞳の色は深く、重いものへとかわってゆく
先ほどまで笑みを浮かべていた顔も
まるでどこかから切って貼り付けたと思えるほど
辺りの雰囲気も変わり、肌がチリチリと焼ける錯覚すら感じた

「行くぞ」

その一言を置いて、右手が彼のバンダナへ向かい
そのたった一枚の布キレを掴み取ると
黒く光る、まるで真珠のような六つの塊

「……変んんん、身ッ!!」

それらが独立した、水晶へと変化し
まるでそれを穢すかのように、歪な線が入ってゆく
88 :ふかみどり [saga]:2010/02/22(月) 19:09:24.92 ID:CasC.Ho0
気付けば彼の背中からは針金の様に伸び
しかし鋼鉄にすら見える八本の棒が生えてゆき、
身体が黒く、また紫や黄を混ぜた色が重なり
その口が裂け、二つつの牙がそれを隠すかのように
覆いかぶさってゆく

ヴァイス-スパイダー

それがバンダナ先輩の、変身後の名前だった

「始めようじゃねぇか……!」

その声が先輩と、耳に付けている通信機とで響き
まるで俺の耳を蹂躙するかの様に鳴る

その時だった

白い閃光が奔り、床が膨んでいるような錯覚に陥る

俺はこれが何なのかを知っている
しかし理解する前に脳を揺さぶる轟音が響いた

下を見れば、車を通すための道が崩れ
今はただ通行者をせき止める壁となっていた

衝撃に恐怖したからか、ただ壁に止められたからか
橋を渡っていた人々は皆、車から降りていた
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/02/22(月) 19:26:21.04 ID:tsa4n2co
今回はこれで打ち止めかな?
乙です
90 :ふかみどり [saga]:2010/02/24(水) 17:33:01.69 ID:gpyxcKY0
まるで人形劇のようだ
それが、目の前の光景への感想だった

ここから見える豆粒のような人達は

ある者は怒りを見せて喚き散らし
ある者は恐怖を抱いて車に篭り
ある者は現状を受け止めきれずに呆けている

その視線を少し遠くへ向かわせると

前で何が起こったのかわからず
車から騒音を鳴らし、不思議に思って野次馬となり
誰かがそれを止めようとする

「……変わらないな」

その声は、俺ではなかった

「変わらない……ですか?」

「あぁ、二年前とまったく…… 変わらないな」

確かめるように、そう呟いていた
91 :ふかみどり [saga]:2010/02/24(水) 17:37:48.63 ID:gpyxcKY0
「オイッ! どうなってんだよ!」
「会社に遅刻しちまうよ……」
「ええと、Uターン出来るか?」

あの後、先輩を残して下に降りてきたものの、うざったいと思える騒音に囲まれていた
今回、俺たちは迷彩の使用を許可されているので騒がれる事は無い

そう思っていたが、これではあまり変わらないだろう

「ん、なんか見えなかったか?」

そんな、馬鹿なことを考えていたら見つかったか……
こうなったらバレるのも時間の問題だな

「戦闘員、男より。 一般人より視覚確認(小)有、一時迷彩を強化する。 応答を」

まだ上に居る先輩に確認を取るため、通信機へ言葉を送る

『……いや、全員迷彩を解け。 やるぞっ!』

「「「「了解っ!」」」」


その言葉を発すると同時に戦闘員達、全員が跳び
まるで何処かから転送でもされたかのように地へ着地した

「「「「イィーーッ!!!」」」」

その声を聞いた人々は、一瞬何が起こったかがわからないようだった
92 :ふかみどり [saga]:2010/02/24(水) 17:44:51.04 ID:gpyxcKY0
「「……う、うわああぁぁぁ!!」」

数秒、音の空白が生まれた後
場は騒音で埋め尽くされていた

その騒然とする中
空からひとつの物が、いや橋の頂上から
自身の糸を命綱として落ちてくる怪人が俺たちの中心へと着地する

「ォォォオオオオォォオオォオオォ!!!」

その直後、体から発されたとは思えない
化物の咆哮とでも思える声が辺りに響き渡る

この怪人らしくは無いが、先輩らしいものだった
このお陰で人も黙ったようだし

あとは犠牲民を集めて仕事を……

(本日の許可リストはないよ〜、気をつけてね〜)


待て、それはどういうことだ
リストが無い任務ならもっと隠密性を持ち
なおかつ人に被害を与える物

例えば毒ガスを撒く設備を整える、といった物のはずだ
今回の件なら、渋滞時に橋を壊そうとするでもいいだろう

でも、この流れは犠牲民が居ないと成り立たないはず……

「……今回の獲物は、大量だな…」

今更ながら、作戦を不審に思っている中でも先輩は続けていく
しかし、一般人を犠牲民にすることは出来ないだろうし、どうすれば……

「あぁ、俺も怪人が釣れると思ってなかった」

その声は
俺を凍りつかせていた
93 :ふかみどり [saga]:2010/02/24(水) 17:57:37.12 ID:gpyxcKY0
その姿は陽を浴びて、眩しく冴える紅に
自らの存在感も相成って
眼に見る事が出来ないくらいに輝いている

「……キサマ、なぜここにっ!?」

演技なのか、それとも本心からなのか判らない声を
先輩が発している

「この2、3ヶ月、周辺で行方不明が起こっているんだ
 まさかと思ったが、こうして出くわせるとはな」

その言葉を吐き切ると同時に、ヒーローは戦闘態勢をとっていた

「……そう、か…」

それを聞いてか、先輩は俺以外の誰にも聞こえない声で呟いた

この2,3ヶ月、病院で寝ていたはずの先輩は事件を起こせるはずが無い
それは、それが先輩の仕業ではないことを示している
なんだ、訳がわからな……


いや、そういうことか
全て仕組まれていたってことか

ただ今回、その仕組まれ役に俺たちも入っていた
ただそれだけのことか

「ゆけぃ! 戦闘員!!」

その言葉でハッとなる
気付けば他の連中はヒーローに突撃をしていた
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/02/24(水) 18:59:03.55 ID:AF6fsLAo
乙!
次回更新楽しみにしてます
95 :ふかみどり [sage saga]:2010/02/25(木) 20:33:51.87 ID:HRXzPJs0
考えていても埒があかないので、俺も他の戦闘員たちに混ざる
ヒーローを見れば、今まさに戦闘員第一波の餌食となるところだった
そうは見えても、実際餌食となるのは俺たちのほうだが

「「イィーッ!」」

戦闘員達が、掛け声と共に飛び掛ってゆく
しかし、彼らの手が届く範囲まで行ったかと思えば
まるでポップコーンがはじけるかのように

戦闘員達が殴り飛ばされていた

「うおぉぉぉっ!!」

声を上げながら、乱雑に腕をふるって
ずいぶんと楽にやってくれるものだ
まぁ、俺たちがヒーローを圧倒することなんて誰も望んでいないしな


やられた戦闘員には海へ落ちてゆく者もいたが
まぁ今回、戦闘不能になったら脱出する許可が与えられているので
着水する前に逃げ出せるし、問題ないだろう

と、そろそろ俺の番か
96 :ふかみどり [sage saga]:2010/02/25(木) 20:41:02.44 ID:HRXzPJs0
「イィーッ!」

その言葉と一緒に、「渾身」の右ストレートを揮う
彼が俺のことを目視していることを確認して、だ

「っ! フンッ!!」

俺の筋書き通りにこの一撃は回避され、一瞬だけ目が合う
 が、そのすぐ後には顔が背けられ、ヒーローが離れてゆく

彼は何をしているんだ? 俺を倒さずに残して……

そう思った瞬間、抉り取られるような痛みが腹部を襲う
あぁそうか、離れているのはヒーローじゃなくて、俺か
辺りの景色が物凄い速度で前に飛んで行っている様に見える

殴り飛ばされて、ただいま橋の上を飛んでいるって事か
離れてゆく景色の中に、ヒーローが他の戦闘員達と戦っているのが見えた

そういえばと、俺が飛ばされている方向を確認する
俺の行き先は海の上ではなく、橋を壊した時に出来たコンクリの壁へ、だった

これは、もう一衝撃を覚悟しなきゃな
そう思うと、まるでリンゴが潰れたような音が、頭に響いた
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/02/25(木) 20:44:27.27 ID:AH22Za6o
表現がエグイぜ・・・・
98 :ふかみどり [sage saga]:2010/02/25(木) 20:44:46.49 ID:HRXzPJs0
……
あれ、ここは……

まずは状況を整理しよう。 俺は何をしていた?

目の前のゴツゴツとした、白い物はなんだ?
胃からくる、全てを打ち撒けたいと思ってしまうこの衝動は?
体全体から来る、この激痛は?

『男、大丈夫か?』

おっさん先輩から、その一言が耳に入るなり全てを理解し始める
俺は殴り飛ばされたんだったな

「ハァ…ハァッ…… せ、戦闘不能… ハァッ… う、動けます」

声を発してみてから、予想外に自分は重傷なんだと気付く

『そうか、まずは迷彩を。 その後撤退してくれ』

「ハァ…… り、了解……」

命令どおりに、まずは迷彩のスイッチを入れる
辺りを見てみると、どうやら俺は壁の上まで飛ばされたようだ
辺りには人一人として確認できない

そういえばと思い、少し這って行くと
ヒーローとバンダナ先輩が対峙しているところが見えた
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/02/25(木) 21:26:36.44 ID:AH22Za6o
終わりかな?
乙です。
100 :ふかみどり [sage saga]:2010/02/25(木) 21:27:31.22 ID:HRXzPJs0
なにかを話しているみたいだが、ここからでは聞くことが出来るわけもなく
音の無い動きが繰り広げられ、しばらくしてから構えを取り始めた

そこまで見ていたが、そろそろ視界が霞み始め、口からは血の味がしていた
もしかしたら限界なのかもしれないな

心配ではあるが、そろそろ撤退しよう
結果は後で聞けばいい
そう思って帰還装置の電源を入れる

『……男、すまねぇけど…… 見ててくれないか?』

その時だった
バンダナ先輩、いや 怪人ヴァイス-スパイダーから通信が来たのは

なんだよ、俺は重傷なのかもしれないのに
アンタが戦うところを見てろって?

「……了解…」

そう言われたら見なきゃ駄目じゃないか
もしかしたら、最後の頼みになってしまうかもしれないのに

……いや、これは確実に『最後の頼み』になるだろう

考えてみれば、おそらく今回の任務はヒーローの人気取り
犠牲者も無く、怪人をやっつけて万々歳って筋書きのやつだ

つまり、最初っから先輩の命はここで終わってしまうことを意味していた

俺のほうは幸い、このスーツは怪我をしても大事が無いよう
防御力、とでも言うのだろうか?
そういったものとしては、現代最高準のものだ
もうしばらくは大丈夫だろう

「頑張って……ください…………」

それを聞いていたのか、少し笑ったような音が通信機から聞こえてきた

それと同時に、ヒーローと怪人の戦いが始まった
101 :ふかみどり [sage saga]:2010/02/25(木) 21:49:21.55 ID:HRXzPJs0
まるで地面が弾け飛んでいるようだ
ただヒーローが一足で踏み込んで飛び込み、怪人が逃げるために飛んだだけなのに
彼らの居たところはえぐれ、硬質な石が宙を舞っていた

「オレを捉えられるかっ!!」

怪人は密林にいる猿のように、橋を支える柱を次から次に渡り
牽制として口から大量の糸を吐き出し続け

ヒーローはそれを取り出した剣で防ぎつつも追いかけて行く

「ハッ! やってやるよ!!」

そのまま五分にも見える戦いだったが
徐々に怪人が車と壁に囲まれた隅へと追い詰められていく

「チッ!!」

「逃がさん!!」

先輩が飛ぼうとした方向に、熱線銃が放たれる
どうやら追い詰められたようだ

「グッ……!」

「さて、もう鬼ごっこは終わりだな」

そう言って、勝ち誇ったように歩みを続けるヒーロー
その間、怪人は無言だった
102 :ふかみどり [sage saga]:2010/02/25(木) 21:56:31.13 ID:HRXzPJs0
今日はここまでで失礼します
いつも見てくださっている皆様、見てくださってマジでうれしいですよ
本当ですよ、i can flyしますよ? ヒャッホーッ!!

……大変失礼しました<(_ _)>
こうやって書いてしまうと、雰囲気崩れてしまうような気がして
書いてませんが、ウザったらしいくらい皆さんにお礼言いたいですよ
本当に有難う御座います

でも、第二章長すぎてごめんなさい…… orz
103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/02/25(木) 22:40:23.45 ID:AH22Za6o
うおっ俺が書いて一分もせずに続き来てたww
改めて乙です!
104 :ふかみどり [saga]:2010/03/01(月) 22:07:59.92 ID:l2/wcIg0
「これで終わらせてやる」

剣を背負うように持ち、必殺の構えをとる
ヒーローはこの一撃でケリをつけるようだった

対する怪人は、背中に崖を背負っており絶体絶命だろう

『……あー… 聞こえるか?』

そんな時、その怪人から通信が入ってきた
俺はそれに返事をしようと喉を開く

「……っ…」

しかし声が出てこない、どうやら絶体絶命ってのは俺にも当てはまるみたいだ

『あぁ、聞いてくれてんのは解った。 返事はなしでいい』

仕方がないので、その言葉だけを聞き続けていた

『短い間だったが、今まで本当にありがとう
 俺みたいになるなよ』

その言葉が、先輩が残した最後の言葉だった

直後右手を振り上げて、飛び込んだ先輩だったが
ヒーローの振るう一撃が先輩の足だけを残し、すべてを削り取っていた

俺は、それをすべて見てから
意識を失った
105 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/01(月) 22:13:55.59 ID:l2/wcIg0
目を覚ますと、そこは真っ白な医務室だった

「三日ぶりのお目覚めはどうだい……?」

純白のベットとシーツに包まれ、聞きなれた声に横を見れば
ここに常駐している女医師
風情も何もあったものじゃない

「えーと、骨損傷に肉体も…… 精神は大丈夫なようだな
 頭はさわんなよ? 頭蓋骨にヒビいってるからな。 他には……」

冷静に次々と言われるが、聞いているだけで滅入ってくる
予想通りというか、重傷だな……

「〜〜っと足もだな…… そして最後に、おかえり」

言葉が耳に届くと一緒に、頭を撫でられる
少々恥ずかしいと思うが悪い気はしない

ただ、頭の激痛は耐えられそうもない

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

「ほれほれ、私を心配させた罰だ、愛の鞭とでも思え
 ……よし、神経も大丈夫そうだな」

そう言って検査という名の、愛の鞭を振るう彼女の顔は楽しそうに見えた
106 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/01(月) 22:20:22.60 ID:l2/wcIg0
「そ、それでは失礼します」

体中からの痛覚信号に耐え、無表情を装いながら医務室を出る
ここにいたら治るものも治らないだろ

「おぉ、大事にな」

そう笑顔で俺を送りだす
どうやら彼女のSっ気を満足させたようだ

「……はぁ…」

そんなことはどうでもいい
ともかく今からのことを考えなきゃ

「休みは取れるからいいけど、仕事は終わらせなきゃ……」

しかし、仕事はまだ残っているというのにこの怪我だ
とにかく上司に連絡を取って、誰かにかわってをしてもらわなくては

「オイ、なに今からカバみてぇな顔してんだよ」

背後からの声に振り向くと、坊主先輩がいた

「先輩……」

「よっ! 暇なんだろ? ついてこい」

そう有無を言わせずに先へと行ってしまう
仕方なく、俺は松葉杖をついて後を追いかけていた
107 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/01(月) 22:29:45.03 ID:l2/wcIg0
途中、何か話があるのかと思っていたが
坊主先輩はただ、黙々と歩いていた

「先輩、なんなんですか?」

途中、道を左に曲がり

「教えてくださいよ」

右に曲がり

「ずっと黙って、何か言ったらどうなんですか?」

ただ黙々と……

「……はぁ」

何を言っても聞いてくれる様ではない
もう無視して帰ってしまおうか

「で、ここを左に…… だな」

そう言って曲がり、俺の視界から左の壁の向こうへ消えてしまう
それを追いかけると、目的地に着いた様で俺を待っていた
108 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/01(月) 22:46:36.16 ID:l2/wcIg0
「遅ぇよ、さっさとこい」

「怪我人にかける言葉じゃないですよ」

杖をついて、今できる全力で進んでゆく

「俺は今、昼休みだから来てるだけなんだよ
 これで遅刻したらテメェのせいだからな」

「いやその理屈はおかしい」

「うるせぇ、さっさと行くぞ」

そう言って、カードキー使い
安置室というプレートが貼ってある部屋の扉を開く

それと同時に、プシュッという音をたてて扉が開き

「……やぁ…」

「あ、先輩。 おはようございます」

中からおっさん先輩が現われた

「おはよう、といっても昼だけどね」

「…………」

「……さて、それじゃ私は失礼するよ」

そのまま別段何もなく
俺たちと入れ違いに外へ出ていってしまった
109 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/01(月) 22:52:31.03 ID:l2/wcIg0
おっさん先輩がいたことから、変なところではないと思う
しかし坊主先輩が連れてきたところだからなぁ

「ここは何なんですか?」

天井からそそがれる、白い光
周辺を取り囲む青い箱のようなもの
整理されて通りやすく、きれいな通路

どうみても、ロッカールームにしか見えなかった

「何って、ロッカーだよ」

「ですよね、しかし馬鹿デカイなぁ……」

俺の仕事場一室、それが二つ分くらいか

「まぁ、いろんなモンが詰まってるからなぁ」

そう言って、迷いなく一つのロッカーの目の前に止まる

「いろんな物って、具体的になんですか」

そう聞くと、先輩はロッカーを開けながらそれに答えた

「まぁ、死んだ奴の私物が、な」

そのロッカーからは、少し錆びた臭いがした
110 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/01(月) 23:00:41.11 ID:l2/wcIg0
埃がかかり、ボロボロになった戦闘服
まだ新しい、一つのバンダナ

坊主先輩は、そこにタバコを一つ置いた

「まぁ、今は線香の代わりってことでとっとけ」

その顔は、少しさみしそうに見えた


……
……………

「さて、そろそろ戻るとするか」

そう言って伸びをする
それに合わせて背中から音が鳴る

「それでは……」

「あぁ、仕事終わったらコイツの墓にも行くぞ」

「……わかりました」

「あと、そうだ
 お前はもう少しここに居ろ」

「はい? 意味がわかりませんが」

「そのまんまの意味だよ、じゃあな」

そう言って坊主先輩は出て行ってしまう
俺は一人、この部屋に残されていた
111 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/01(月) 23:11:51.74 ID:l2/wcIg0
「……ここに居ろって…」

明るい光とは対照的に辺りの空気は冷たく、身体の体温が奪われるにつれ
ここは人が「居る」為に作られたところではないのだと思う

「俺、怪我人なんだけどなぁ」

思った事が、そのまま口に出ていた

「……まぁ、いいか」

そう言って、備え付けられている椅子に座る
どうせこの後、第二整備室に行く他に予定は無い

なら先輩の仕事が終わるまで暇ということだ
どこで暇を潰そうと変わらないだろう

「いつか、おれの物もここに来るのか……」

辺りを見ながら、そんなことを考えていた
その時、プシュッという音をたてて、扉の開く音がした
112 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/01(月) 23:17:26.29 ID:l2/wcIg0
室内には少し不定期であり、それでいてはっきりとしている
足音が響いていた

それは、俺の目の前まで来たところで鳴り止む

「こんにちは、男ちゃん」

「こんにちは、ロリ先輩」

彼女は、まるで子供の様に無垢な笑顔を俺に向けていた

「きみもおはかまいり、ですか?」

「まぁ、そうですね」

「ふふっ、やっぱり
 バンダナちゃんとは、いろいろとありましたからねぇ」

そういう少女の紅い瞳からは、真珠の様な雫が溜っていた

「そうですね」

そのせいで、気の利いたことも言えない
考えられない

そしてそのまま、沈黙が続くだけだった
113 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/01(月) 23:22:36.53 ID:l2/wcIg0
「……ねぇ、男ちゃん」

黙ってしまってからどれくらい経っただろうか
その空気を壊したのはロリ先輩だった

「はい」

「泣いても、いいんだよ」

「えっ?」

しばし、言葉を失うが
すぐに落ち着いて言葉を返す

「何を言っているんですか」

「男ちゃんはかなしくないの?」

そう言う少女の顔には、涙の跡が残っていた

「悲しくても、泣かない人だっていますよ」

そう言ってから吐いた息は、とても重たかった
114 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/01(月) 23:28:43.77 ID:l2/wcIg0
悲しくないわけがない
俺は、彼の親友だと言っても、彼自身が認めてくれると思う
そんな人を失って、平然としてるのは人じゃないだろう

「……そう、泣かない人だって、いるんですよ」

精一杯の力で、喉に突っかかりそうな言葉を吐き出す
今だって辛いと思っている

「男ちゃん……」

それなのに

「わたしたちは、すごくわるいひとだとおもう」

その少女は濁りも無く

「それでも…… それでも、泣いていいんだよ」

そう言葉を紡いでいた


「だから、何を言って……って、あれ……?」

その言葉を言い切る前に、違和感を感じる
目が熱い
頬が焼ける

「なん……で…?」

「……うん、それでいいんだよ」

先輩は、そう言って小さな身体で
俺の頭を抱きしめ、撫でてくれた
115 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/01(月) 23:34:07.66 ID:l2/wcIg0
「まてよ…… なんで……?」

今まで積み上げた壁が、崩れる

「なんで…… こん、な……」

俺を守ってた、理屈(かべ)が無くなる

「俺は、ナミダなんて流れないだろ?」
   涙は心を砕かれた証拠

「そんなもの、あるはずが無いんだろ?」
  それは在ってはいけない現象

「だって」
 だって

「みんな死ぬことは知ってたんだろ?

 それでもココに来たんだろ?

 その覚悟はあったんだろ……?」

「………」

「なん……で…?」

視界は滲み、頬の熱は止まない
涙は、言葉にできないモノを押し出すかのようにあふれてゆく
先輩は、そんな俺の頭を撫で続けていた
116 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/01(月) 23:42:53.43 ID:l2/wcIg0

「ねぇ、男ちゃん」

俺を呼ぶ声が聞こえる
でも、嗚咽が邪魔をして声が出ない

「きみはさ、すごくやさしくて、すごくあたまがよくて
 すごくつよいよ」

それでも、声は続いてゆく

「だからひとりだけでがんばっちゃった

 でもね、それはすごくさみしくて、すごくかなしいことだとおもうんだ
 みんないらないってことになっちゃうから」

その声は澄んでいて、心へ直に触れているようだ

「でも…… でも、俺……もう、失いたく……」

「うん、それはすっごくつらいことだよ
 でもね、それでもがんばらなきゃだめ」

「…なん……」

「だって、バンダナちゃんも
 きみが『見てる』ことでがんばれたんだよ?」

『……男、すまねぇけど…… 見ててくれないか?』
そう言って、戦いを始めた人の
         声が響いた気がした
117 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/02(火) 00:13:44.07 ID:HnWetFo0
「……俺…俺… いいん、ですか…」

確かめるように、聞いていた

「……うん…」

「誰かと…… 笑っても…」

「いいんだよ…」

「誰かと、ケンカしても…」

「あはは、よくないけど、いいんだよ」

「誰かと、一緒に居ても……」

「うん、いいんだよ…」
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/02(火) 00:19:24.25 ID:9.g8m2Uo
ここまで読んで初めてロリ先輩が名前呼ぶ以外で漢字使ってないことに気付いた
119 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/02(火) 00:20:42.17 ID:HnWetFo0

……
……………

「……あーっと………」

あれからしばらくの時間が経ち
やっと冷静になっていた

「俺…… なにやってんだか……」

「まぁまぁ、こーいうなやみごとをきくのも
 わたしたちのしごとですから」

あの後も結局、ほとんど言葉らしい言葉もも発せずに
俺は涙を流し続けてた

「あはは…… でも、有難う御座います」

でもそのお陰で、すっきりしたと思う

「いえいえ、どういたしまして♪」

そう言う表情に憂いはなく
こちらの気分も吹き飛ばされるくらいに明るかった

「でも、仕事とはいえ迷惑をかけてしまって申し訳ないです」

「そんな、ぜんぜんだいじょうぶですよ?
 それに……」

「それに?」

「これはしごとじゃなくて、わたしのしゅみですから」

「……あなたはどこのオバチャンですか…」
120 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/02(火) 00:27:02.02 ID:HnWetFo0
「さて、それでは失礼します」

「あれ? このあとようじがあるんですか?」

「はい、まずは第二整備班の所へ行って…」

「わたしもですねぇ」

「その後、バンダナ先輩の墓参りに」

「わたしもですねぇ」

「……一緒に行きませんか?」

これはそういうことだろう
ここで別れて、また会うなんてのは面倒だし

「おお〜、いいですよ〜♪
 それじゃいきましょ〜」

笑顔でそう言い、歩いてゆく先輩に
心の中でもう一度礼を言い

今後は、人という自身への枷と、力をつけようと決めて
先輩の横に並んでいた


二章 終
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/02(火) 00:28:19.73 ID:9.g8m2Uo
乙!
122 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/02(火) 00:39:48.85 ID:HnWetFo0
ここまで有難う御座います
見てくれる人が居ることは凄く助かります(´∀`)ホントダヨ
色々と酷いのは解ってます、俺の仕様ですのでorz
まぁ、こんなんですけど、程ほどに頑張ってますよ〜

ところで、個人的に2章長すぎと思うんですが
どうでしょうか…… 意見が欲しいです(´・ω・`)
宜しければご協力お願いします<(_ _)>
それでは
123 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/02(火) 00:58:58.27 ID:HnWetFo0
>>121 いつも見てくれて有難う御座います
ロリ先輩は極力漢字を使わないようにしてます
それでもわかりやすくと努力してるのですが…
実力不足と、今回喋り捲ってくれてるので無理でしたが……orz

実は名前以外でも、コッソリ漢字使ってますけどねw
124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/02(火) 01:00:51.46 ID:9.g8m2Uo
毎回楽しみに見てますよ
長さ等は数回に分けて投下されてるのであまり気になりませんかね
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/03(水) 16:03:52.52 ID:Op0w5IDO
こういう男臭いやつ好き。

見てるからがんばって!
126 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/07(日) 01:52:09.76 ID:ScCVEB20
ほんの少しですが投下していきます
>>125さんもありがとうです
127 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/07(日) 01:57:15.80 ID:ScCVEB20
見上げた視界は、まるでそれ以外の色を知らないかのように蒼く
俺の心を、その澄み切った色へと塗りつぶすかのようで

遮るものすらない空に在る太陽は
惜しみなくその光を分け隔て無く注ぎこみ、俺の肌に汗を流させている

しかもそんな中、俺は階段を登っているので
その汗の勢いも凄いものだ

ふと、一心不乱に登っていた俺の視界が
延々と続いていた段差から広い物へと変わる

どうやら階段を登りきったようで
それは俺に、歓喜と達成感を与えてくれた

男「はぁ〜…… やっと着いたか」

ここまでの疲労にため息をつきながら足を休め、辺りを見回すと
大量の石の柱が、規則正しく並んでいる

俺はそれらの横を抜けて行き、途中の石の前で立ち止まる
そして、片手に収まっていた花を供えてゆく

男「ただいま、母さん」

俺は、故郷へ墓参りに来ていた
128 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/07(日) 02:02:25.48 ID:ScCVEB20
人で在ることを捨てる

それは人の心を捨てればいい

人で在ることをやめる

それは人として生きなければいい

でも

人で在った時のものは

どうすればいいのだろうか


第3章
129 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/07(日) 02:06:29.19 ID:ScCVEB20
〜〜〜おととい〜〜〜

坊主「あぁ、それでお前は紅いヤツから骨折を貰ったわけだ……」

そう言う先輩の額には
マンガの様に解り易いほどの怒筋がついている

男「はい、そうです」

俺は、それにきっぱりと答えた

坊主「ほうほう…… それなのに、お前は会社に来たわけだ……」

更に皺が寄り、怒筋が増えていくことがわかる
先輩の持っているペンはさっきからメキメキと音を立てているし

男「はい、片手でもキーは打てますし
  メールも返せますから問題ないはずです、っと」

そう返して、早速やってきたメールに返信を、

坊主「大有りだこのボケがぁぁ!!!!!」

ベキィッ!という音と共に先輩が爆発する
130 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/07(日) 02:10:52.07 ID:ScCVEB20
坊主「腕へし折って会社に来るバカがどこにいんだよっ!!」

物凄い大声が耳に響き、耳鳴りがし始める

男「でも、まだ仕事は残ってますし」

坊主「ぁあ? その分なら周りで引き受けるっつってんだろ?」

物凄い上から威圧的に見下ろしてくる
もうこれはアレだ、チンピラ、いやヤクザだ、それかマフィアだ

男「いや、それも悪いので自分で引き受けた分は……」

そう言ったところで、俺の仕事場に
筋肉の塊が入ってきた。 いや、おっさん先輩が入ってきた

オッサン「男くん、君は他人に迷惑をかけたくないのかい?」

先輩は、少し困った顔でそう言う

男「えぇ、そうですけど……」

オッサン「そうか…… その気持ちは嬉しいんだけど……
   君が仕事をするほうが、皆に迷惑なんだよ」

男「………」
131 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/07(日) 02:14:56.19 ID:ScCVEB20
――― 医務室 ―――

男「ということで、治せませんか?」

女医者「無理だ、諦めろ」

俺の希望を一蹴して再びカルテを見始める
その姿はやはり彼女が医者なのだなと思わせる

男「だから、そこをどうにか出来ないかと……」

女医者「私は忙しいんだ、怪我人はお前一人ならいいが……
    診ている患者には、私の手が無いと命に関わる者も居る
    そいつの命の責任も背負うというなら構わんが」

拒否の意見を出しながら意地の悪い顔をしている
自分だって、勝手な願いだと解っているから
そう言われると何も言えない

女医者「まぁ、たった一つ。 方法があるぞ?」

男「それはどんな方法ですか?」

既に無理だと言っているのに方法がある?
なにやら嫌な予感はするが、多少のことなら目を瞑ろう

女医者「ここの主治医に頼め、彼なら喜んでやってくれるはずさ
    まぁ、傷がふさがる代わりに尻の穴が拡……」

男「すみません、失礼しました」

多少どころじゃないから、それは
132 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/07(日) 02:17:33.11 ID:ScCVEB20
ロリ「なるほど、それでここにきたんですか〜」

二人分の白いカップに紅茶パックとお湯を注ぎ
その片方を俺に渡してくれる

ロリ「おさとうはいかが?」

男「いえ、大丈夫です」

口に入れると紅茶の心地良い香りがひろがってゆく

怪我を治したいのに、医務室が駄目なら
ここ第二整備室ならと思ってきてみたのだが……

ロリ「ええと…… けつろんからいいます
   ざんねんですが、できません」

男「やっぱり、そうですか……」

まぁ、それは既に想像していたのだが
最後の手段と思っていた物がなくなって精神的に辛い
133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 03:03:18.31 ID:St0ej4Mo
134 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/07(日) 23:43:13.72 ID:ScCVEB20
ロリ「といいますか、もしそんなほーほうがあっても
   わたしはつかいませんよ」

男「えっ? なんでですか?」

 それを聞いて素直に驚く
会社としては一日でも早い復帰を望んでいるだろう

ロリ「あなたたちは、からだがしほんですから
   やすめるひなんて ケガしたときくらいなんですよ?」

 紅茶に一口つけて幸せそうな顔をしている彼女は
そのまま話を続けていった

ロリ「そして、やすみはひとをせいちょうさせてくれます
   といいますか、しなければいけません」

男「そうですか?」

ロリ「おとこのこには
   それくらいのきりょうがなければダメってことです」

 意地悪く笑ってそう話す
しかし、女医師さんがそうした時は艶かしさやら何やらがあったのに
先輩が笑っても「悪戯した女の子」にしか見えないのは何故だろう

ロリ「何 か 言 い ま し た か ?」

男「いいえ先輩、何も言っておりません」

これ以上は命に関わる、そんな気がして
俺は今の思考を奥深くにしまいこんだ
135 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/07(日) 23:50:21.00 ID:ScCVEB20
ロリ「まったく…… つまり
   きょうみのあることをしなさいってことです」

男「興味、ですか?」

ロリ「はい、あなたがさがして、みつけた
   きょうみのあることです」

男「う〜ん…… たとえばどんなのがありますか?」

ロリ「それをさがすのも、あなたがやるんですよ
   やりたいことはないんですか?」

 そう優しく言って、空のカップを回収して再びお湯を注ぎ
今度は俺の分の紅茶にも角砂糖を数個入れている
本人曰く、初回以外の紅茶は「かおりがすくないから」だそうだ
136 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/08(月) 00:00:39.61 ID:IjH4d4A0
 その間にも色々と考えていたが、戦闘員として毎日を送っていた俺のやりたい事
昔からヒーローになるために身体を鍛え続けてしか来なかった俺にそんなものが……

そこでふと思い出す

男「あっ……」

ロリ「お、なにかあったんですか?」

男「そういえば…… やりたい事ではないんですが……」

忙しくて忘れていたのだが

男「仕事を始めてから今まで
  親に顔を見せてませんでした」


 この日、時は止められると知りました


ロリ「………そうですか〜」

その後、なぜかその言葉だけを言い続ける先輩に医務室まで引きずられ
ロリ先輩と、女医師さんと、呼ばれたのだろうおっさん先輩の3人に怒られた

正直、少し泣いた
137 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/08(月) 00:05:40.33 ID:IjH4d4A0
 それから家に帰った後、先輩命令で荷物をまとめ

また長期休暇のために薬を用意してもらったりで一日

その後、ゴチャゴチャと準備をしてから

故郷へと向かう電車に揺られて

俺の故郷に到着した頃にはもう夜

仕方ないので一件しかない駅とは少し離れたホテルに泊まり

今朝早くからタクシーに乗って寺の前まで

残りは徒歩で到着、というところで現在に至るわけだ


 ちなみに外見がまともだったホテルは
ベッドが回転したり、風呂場に特殊な敷物と液体と椅子があったりと
予想どおりなホテルだった……

田舎のホテルってこんなんばっか……
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/08(月) 01:33:15.71 ID:lIVNMDQo
今もベッドが回転するところなんてあるのかww
139 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/08(月) 23:57:54.13 ID:IjH4d4A0
男「さて、始めるか」

 先ほど寺から借りたバケツと柄杓を使って、墓石に水を掛ける
それだけで黒いだけの石柱が、自らの存在を表すかのように輝き始め
水はまるで、零れ落ちてゆく透明な真珠のように流れてゆく

おそらく、こちらの住職が暇を見つけては
手入れをしてくれているのだろう
今まで放置していたにしてはとても綺麗だ

男「えぇと…… これならスポンジだな」

 手に持っていたタワシしまい、鞄から台所で見るようなスポンジを取り出し
バケツで水を含ませてから熱心に磨き始める

それに合わせて、水は色に茶を含んで澱み
対照的に墓石はより輝き始める

最後に墓石の頭から、少し多めに水を掛ければ
汚れを全て流してくれる

男「ふぅ…… 次は小道具を洗って……
  そうだ、周辺を掃いておこう」

 強い日差しの中、その作業に没頭していった
140 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/09(火) 00:05:02.04 ID:YT1ezRc0
………

男「よしっ、終わりかな」

 目の前には、まるで最近になって出来たばかりと思えるくらい
綺麗になった母の墓があった

男「今までの分って訳じゃないけど……
  まぁこれで許してくれるかな…… ックシュ」

 気付けば汗は既に乾ききり、体も冷えてきていた
頭上では太陽が姿を隠すことなく照らしていても
時折吹き付けてくる風が体温を奪ってゆく

男「このままじゃ風邪をひくな……
  じゃあ母さん、また明日でもくるから」

 バケツと柄杓を持ち、ゴミを片手に集めて
来た道と同じ道を歩いてゆく

 そういえば、今日は何をしようか、何処に泊まろうか
寺から借りた物を返し、預けておいた巨大なバッグを持ってそんな事を考えていた

「あれ…… アンタ…… 男ちゃん…かい?」

 今だから思うが、油断していたんだろう
こんなところに、しかも平日に来る人なんて居ないと

 登ってきた時とはまた違う汗をかいて
俺は出来る限り平静を保って言葉を発した

男「……こ、こんにちは…… 小母さん…」
141 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/09(火) 22:26:17.25 ID:YT1ezRc0
小母「いやぁ、しかし男ちゃんと会えるなんてねぇ
   私もお墓に行くのなんて月に一回くらいだから凄い偶然!
   もしかして、アンタの母親が天国から世話焼いてくれたのかもねぇ!ハハッ!」

 超特急の様な勢いで話しかけてくる女性
この方は、先ほどの墓で眠っている母の友人であり
近所に住んでいた一家の母の小母さんだ

とてもふくよかで、おおらかで、笑顔がある意味とても似合っている
近所のオバちゃんって感じの人だ

ちなみに現在、俺は彼女が運転している車に乗せてもらっている

男「それじゃ、俺が怪我したのも母さんのせいになっちゃいますよ」

小母「ハァ? 何言ってんだいアンタ、葬式以来で墓に顔出したかい?
   知り合いに会ったかい? いやそれどころか連絡は?
   そんなんじゃ母さんだってふて腐れちまうし、心配でおちおち成仏できないだろ?」

男「ははっ、そう言われちゃ、仕方ないって思っちゃうかな」

小母「まったく…… 何言ってんの、そんなこと気にしてどうすんのっ!
   アンタ男の子でしょっ! そういう時は仕事が大事だって言ってりゃいいのよ
   男から仕事奪ったら何が残るってんだい…… んでもって
   バチ当たんのが怖いっつって たま〜に顔見せりゃいいんだよっ!」

男「そういうものですかね」

小母「そういうもんなんだよっ!」

 やばい、今凄い嬉しいと思ってる
本当は墓参りだけを済まして何処かに行こうと思っていたのに
これだから帰郷はしたくなかったのに

自然とこぼれ出る笑顔が、どうしても とめられなかった
142 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/09(火) 22:31:56.94 ID:YT1ezRc0
小母「しかしねぇ、その怪我、大丈夫かい?」

男「えっ? あぁ、大丈夫…ではないですけど…… 全然気にしてないし」

小母「まったく、そんな怪我する仕事じゃなくて
   真面目に勉強して、りっっっぱな仕事をしてりゃいいのにねぇ」

男「まぁ、最初は嫌々だったけど…… 今は楽しいって思えるから」

小母「トビ職人だっけ? そんなんやってるより
   会社に入ってくれたほうが母さんも喜ぶんだろうけどねぇ……」

 一応、そういうことになっている。 まぁ少し考えてみれば
会社に筋肉質な奴らが集まってる部署なんてオカシイとしか言いようがないし
何より、定期的に会社員が怪我をするなんて有り得ない事だろう

その為、うちの部署は全員別の名刺や顔を持っている

 ただ、ボディビルダー選手権に出場したら優勝は間違いないだろう
頭のドーナツ化現象 現在進行中の、人の善さそうなおっさん先輩が
普通に通ってきてる事には、未だに納得がいってないのだが……

小母「まぁ〜、そっちのほうがアンタの母さんも心配して見てくれてるだろうし
   マザコンのあんたにゃちょうどいいかもねぇー」

男「誰がマザコンですかコラ」

小母「どーせその可愛らしい顔をつかって
   年上のお姉さんを手玉に取ってきたんだろう?
   ボク、なんだか身体が熱いんだ…… とか言ってさ」

男「ンナわけねぇから!! つうかなんでそんな具体的に言おうとしてるの!?」

小母「いやぁ…… お隣さん家の友ちゃんから
   子供がパソコンを持った……って、頻繁に相談を受けてねぇ……」

男「それ知りたくなかった! すげぇ聞きたくなかった!!」
143 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/09(火) 22:39:16.78 ID:YT1ezRc0
………

小母「さて、着いたよ」

 馬鹿な話をしていたらもう目的地に着いてしまったようで
話の勢いとは逆で、丁寧に停車してからエンジン音が止み
それと同時に俺の頭も落ち着いてゆく

 朝は草木の香りを伝えてくれた風が
今では砂や、ほこり臭さしか運んでくれやしない

男「懐かしいな……」

 目の前にある巨大な施設、学校
俺が小学生と中学生の、計9年間を過ごした場所だ

小母「どうだい? 二年ぶりに見る母校ってやつは」

男「うん…… なんか、いろんな気持ちがあって言葉が出ない」

小母「そりゃそうだろ、自分の半生以上を過ごした場所なんだからさ」

 ポンッと頭に手を乗せられる
いつもは煩わしいとかと考えてしまうが
今はそんなことが気にならなかった

男「でも、もう使われることはないんだね」

 校舎からは、人の気配が全くしなかった
この地域の少子化と、電車に少し揺られれば都内に行けるという状況から
ここの学校を使用すること自体が疑問視され、廃校となったそうだ

小母「まぁ、親としては少しでもマシな設備のところに移してやりたいって
   考えちまうのが多いからねぇ…… まったく、馬鹿な親ばかりだよ」
144 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/09(火) 22:43:32.41 ID:YT1ezRc0
男「小母さんだって、そっちのほうが嬉しいんじゃないの?」

小母「馬鹿言ってんじゃないよ、学校ってのは一番近いところで
   勉強出来る教室と遊べる校庭がありゃいいんだよ
   場所移したいっつうのは、自分の育児に無責任な母親だ」

男「でも、もっといい場所で勉強したほうがいいじゃないか」

小母「学校ってのは、勉強じゃなくて友達作るとこなんだよ
   勉強させたきゃ家でやらせりゃいいだろ?
   アンタだって、そうしてきたじゃないか」

男「そういえば、そうだったね」

 そう言ってから見た小母さんは、目を窄めてこの校舎を見ていた
おばさんもこの学校出身
やっぱり、懐かしいんだと思う
145 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/09(火) 22:50:39.43 ID:YT1ezRc0
………

小母「さて、そろそろ帰ろうかね」

 まるで熊の様に伸びをしている小母さんは
そう言って車のほうで待っている

男「そうだね、それじゃ今日は本当に有難う御座いました」

 感謝の辞だけ述べて、さっそく後部座席に詰まってる
俺のバックを引きずりだそうとする、そこで俺の手首がガッシリと掴まれた

小母「なーに素っ頓狂なこと言ってんだいっ!
   これからウチに来るんだろ?」

男「いや、帰郷も墓参りもしたから、もう帰ろうかと思ってるんだけど」

 駅までは遠いが、それくらいは仕方ない
我慢して歩けば今日中には家路につけるはずだ

小母「さあさあ、これ以上オバチャンに苦労かけさせないで乗った乗った!」

男「いや、だからね……」

小母「アンタ、マントをつけて遊んでたら
   木に引っ掛かって大泣きしたことがあったねぇ」

男「……それくらいみんな知ってるさ、だからなんだって」

小母「家に潜む悪の尖兵、ゴキブーリを倒しにいったヒーロー男、
   しかし彼は取り囲まれてしまい…… なんとその中心で腰を抜かしてオシッコを……」

男「すみません、調子に乗ってました、私を貴女様の家にお泊めくださいませ」

 我ながら綺麗な土下座が出来たと思う
俺のトラウマにおいて、この人が知らないことなんてないもんな……
146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/10(水) 01:42:11.26 ID:d17jygso
147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/15(月) 18:27:18.47 ID:7GOV8IAO
乙!! 再開楽しみにしてるず!!
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/20(土) 15:08:12.04 ID:5GxltYDO
追い付いた……再開激しく期待してます!
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/24(水) 20:15:13.40 ID:q1UW7IAO
しえんた
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 01:10:53.41 ID:3RnaHX20
追いついた
スゲー面白い
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 09:13:01.87 ID:8tbY.ewP
追いついた

女医に撫でられて痛がったとこと他の人の撫でてるとこは別か…
152 :ふかみどり [sage saga]:2010/03/28(日) 20:31:18.17 ID:sopEDdc0
申し訳ない、車の免許やら何やらやることがあってなかなか来れないですorz
再開は必ずするので、ふと、こんなんあったな〜って感じで
月1度とか見てくれたらうれしいです

>>151 女医は撫でるってより頭をウリウリーッとかしてたって感じで考えてもらえればッス
153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/28(日) 20:32:50.48 ID:JEGeqnMo
おk
154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/06(火) 20:12:45.00 ID:1IWwEpUo
明日手術だけど、続きが来たら麻酔から心地よく目覚められそうな気がするんです。
155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/06(火) 20:45:54.76 ID:lQxdlMDO
>>154
改造手術か!?
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/06(火) 21:11:38.57 ID:lQxdlMDO
書き忘れてた
手術成功祈っておくよん
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/06(火) 21:24:45.21 ID:pHi5J3Eo
>>154
脱皮手術じゃない・・・よな?
がんがれよ
158 :ふかみどり [sage saga]:2010/04/09(金) 18:55:04.50 ID:895nweY0
気づいたらなんてことに…… 無事見ててくれることを祈ってます
―――――――――――――――――――――――――――――――

 多少荒い運転で、少々広めの場所に車を止める。
その気になれば家の2,3件は建てられるだろうそこが、この家の駐車場、兼ねては家の庭だ

小母「ほら、さっさとおりたおりた」

 促され今度は荷物を持って降りる
まぁ家が建てられるといっても、こんな田舎ならそこらへんにも土地が余っているのだが

男「にしても、なぁ……」

 それにしても、俺の目の前にある建物は圧巻であった
この庭よりも確実に大きいだろう、木の匂いが薫りそうな古風の一階建て

男「相変わらずデカイなぁ」

 更に、この家の周りには倉庫と化している空き家があるのだからとんでもない

小母「さあーて、茶でも淹れてやるからこっちに来なっ!」

男「いや、その前に荷物を置いてきたいんだけど
  まだ使えそうな小屋はどれ?」

小母「あん? そんなモン後で適当に決めりゃいいんだから
   とにかくあがったあがった! 荷物なんてそこらへんほっぽっときゃいいから」

男「いや、適当だとダメだから。まだ寒いんだよ?」

 一応反論はしたが、俺の声など聞こえなかったのだろう
小母さんはズンズンと家の中に入っていってしまい
仕方がないので、俺も家へ入ることにした
159 :ふかみどり [sage saga]:2010/04/09(金) 19:03:12.20 ID:895nweY0
 俺は今、一つのことを体感していた
この世には魔物が作りだした道具があることを……

俺は解っていなかったんだ
自分だけは違う、誘惑に負けたりしないと……

まったくもって馬鹿な勘違い
その所為で、俺は今捕えられている。

冬場の炬燵
この破壊力は想定外だった。


もともと、来た時はさっさとお茶を飲んで
どっかの小屋を清掃して、引き籠ろうと思っていた。

しかし、小母さんがアルバムを持ってきたことで変わってしまった。

……いや、正確には「小母さんとアルバムを読んでる間、炬燵に入っていたことで」か、
ここから動きたくねぇ。

男「こたつって人を堕落させるなぁ……」

 この家の台所から声が小母さんの声が響いてくるが、
なにやらてきぱきと動いている姿は冬眠前に子供への餌を集める母熊の様だ。

小母「おーいっ! アンタ煎餅食べるかい?」

男「あ、頂きます」

小母「はいはい、よいしょっと」

ドサッ
160 :ふかみどり [sage saga]:2010/04/09(金) 19:08:11.63 ID:895nweY0
 目の前に並ぶ、は数枚の煎餅と山のように盛られた蜜柑。

やられたっ……!

 視界の端では、小母がニヤリと笑っている
計画通り、ってことか…… これは逃げられない……

小母「それじゃ、アタシぁ晩御飯の買い物でも行ってくるから」

 そう言って、俺を残してさっさと行ってしまった。
もう俺がここから逃げることはないと思ったのだろう。

男「……酸っぱいな、コレ」

全くその通りだ。
場合によっては家を抜けて行く事すら考えていたが、
今は炬燵から出る事すら考えられなかった。
161 :ふかみどり [sage saga]:2010/04/09(金) 19:15:26.04 ID:895nweY0
しばらく菓子と蜜柑をつっついて、空腹もまぎれ
こたつの中でまどろんでいると、奥から扉の開く音がした。

おそらく、小母さんが帰ってきたのだろうな、
今の堕落しきった俺なら、何のためらいもなく飯をねだれる。

まぁ、人としてどうかと思うが、今は細かいことなんて考えられないから。

男「おかえり、夕食は何かな? 小母さ……」

少女「………」

そんな俺の前には、まるで漫画みたいにカバンを落とした女の子。
この子は…

少女「おにぃちゃぁぁんっ!!」

 俺の思考がまとまる前に、まるで弾丸のように突撃してくる。
それを理解すると同時に、全身の力を抜いて、通常は鉄の様な体を出来る限り柔らかくする
どこに当たるんだ…… 心臓? 内臓? 出来れば鳩尾はやめてほしいが……

 そこまで考えてから、胃を直接 鈍器で殴りつけられる感覚を味わい
溶けるように、白い景色の世界に飛んで行った。
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/09(金) 19:22:43.45 ID:cPDVYvAo
おお、続きが
163 :ふかみどり [sage saga]:2010/04/09(金) 19:24:46.37 ID:895nweY0
少女「……ぇ、ぃつ帰ってきたの!? ねぇねぇ!」

 はっ…… 俺は何をしていた…? 意識を失っていたのか…
おそらく、その直接的な原因は激痛による脳の緊急停止活動だろう。

少女「今なにしてるの!? こっちに住むの!?」

男「そ、そうだったらいいんだけどね、妹ちゃん」

 いい一撃を貰い、意識がはっきりとした今の俺ならわかる。

この少女は小母さんの娘、次女の妹だ。
俺が小さいころにこの家で生まれ、ここの長女と俺が幼馴染であったことから、
何かと顔を合わせる機会が多く、いつの間にか妹の様に接してきた子だ。

ちなみにこの町では数少ない、俺の友人でもある。

妹「えっ!? どうしたの! 怪我してるよっ!?」

男「あぁ、これは…」

妹「横になってなきゃ駄目だよ! お布団敷くから待ってて!」

男「大丈夫だから。 気にしないでよ」

 この勢いはやっぱり、親子なんだなぁ……
164 :ふかみどり [sage saga]:2010/04/09(金) 19:37:26.59 ID:895nweY0
小母「はいよ〜、ただいまー!」

 どうやら、小母さんが帰ってきてくれたようだ
よかった…… 本当によかった……

小母「あら、ウチの娘も帰ってきてるねぇ」

 そう、帰ってきてます
だからこんな事になってるんです

小母「さーて、あの子も来てる事だし、美味いモン作ってやんなきゃね〜」

 それは嬉しいけど、まずは居間に来てください

小母「おーいっ! 今帰った………」

包帯男「おかえりなさい……」

小母「……ドチラ様だい?」

包帯男「手厚い看護を受けました、男です…」

小母「あんた、どーしてこんな事になってるんだい?」

包帯男「妹ちゃんの事を叱る事が出来ません。 お願い致します」

小母「あぁ、あんたらしいねぇ〜。 わかったよ」
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/09(金) 20:03:11.52 ID:k5F1x76P
おおー
パワフルな女性達だな
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/12(月) 20:46:29.13 ID:FZ.9UiQo
この後、幼なじみ長女が満を持して登場するんですね。
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/22(木) 19:17:06.99 ID:Rb4h.YY0
wktk
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/12(水) 15:11:06.07 ID:1GhWRn.o
書き手のレスがないまま1ヶ月が経過したので警告

続ける意思がなくなった場合は以下のスレでHTML化依頼をお願いします
■ HTML化依頼スレ Part1
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1190564438/

続ける意思がある場合は2週間に1度ぐらいでいいので生存報告をお願いします
なお、1週間書き手のレスがなかった場合、放置スレということでこちらでHTML化依頼を出させて頂きます
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/13(木) 20:55:04.20 ID:nL0jU0.o
>>168
おいちょっと待ていや待って下さいお願いします続きなら俺が書きますから
170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/13(木) 23:31:54.89 ID:dGZhmfoo
>>169
ちゃんと書いて生存報告してくれるならおk
171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/20(木) 19:19:12.61 ID:6t4/tX.o
もうすぐ1週間だけど>>169はいるのか?
釣り?
172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/21(金) 00:27:52.73 ID:bRxVSEDO
続きはまだか!!!
173 :ふわやまこう [sage]:2010/05/28(金) 22:20:42.98 ID:zeGyExI0
見ている方々、本っっっ当に申し訳ない!! <( )>、>>1です
身内の不幸が重なって、こちらに顔を出すことすら出来ないでおりました。
完結させるっ! と言ったその後に放置してしまい、誠に申し訳ないです……orz
書く気はありますので、続けさせて頂きたいのでお願いします。
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/29(土) 00:26:05.84 ID:DCfQtVMo
よかったよかった
頑張れー
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/29(土) 03:53:38.12 ID:lRqQDcgo
よかった!
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/30(日) 09:39:44.25 ID:1hjq1YDO
生きてた、よかった
177 :169 [sage]:2010/05/30(日) 15:46:57.90 ID:xdYFlxko
>>173
よかった。ホントに俺が書くハメになるかと思った
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/30(日) 17:41:04.29 ID:BIwWWADO
よかったよいやよくないけどさよかったよ
まってる
179 :ふかみどり [sage saga]:2010/05/31(月) 12:51:13.08 ID:QuBZW/60
妹「ごめんなさい…」

男「いや、気にしないでいいから」

 小母さんに頼んですぐ後に彼女は俺の目の前に来てくれた
謝って、反省してくれてるのは良いのだが、
さっきまで明るすぎるとさえ思えた顔が沈んでるのを見るのが辛い。

妹「でも、わたし…… 兄ちゃんのことまったく考えずに、勝手なことしちゃって…」

予想以上に落ち込んでるな… 昔の小母さんだったらここでフォローしてたのに
頼んでおいてなんだけど、少しやりすぎだよな。

男「うん、確かに包帯グルグル巻きはやりすぎだね」

つい出てしまった言葉だったが、しまったと思った頃には
沈んでた顔がさらに沈み、まるで太陽が雲に覆われているようだった。
これはどうにかしなきゃ……

男「まったく、こんな誰もやってくれないような綺麗な包帯巻いてくれたり、
  布団を頼んでもないのに、俺の為に奥から苦労して出してくれたり、
  別にいいって言ってるのに、勝手に凄く心配してくれたり…」

 俺がしゃべり始めてから、訳がわからないような顔をしている妹ちゃんに
折れていない方の手をのばして、頭を撫でながら話す。

男「凄く、嬉しかったよ。 そんなに心配してくれるとは思ってもなかったから
  ありがとう」

 それを聞いて、妹ちゃんはさっきまでの太陽みたいな笑顔を取り戻していた。

その裏で、物凄いニヤけ面した小母さんがいたが、気にしない事にした。
これも計画通りですか、小母さん……
180 :ふかみどり [sage saga]:2010/05/31(月) 12:53:10.63 ID:QuBZW/60
 しばらくの間、妹ちゃんが背中にのしかかったりして来たので
それに対抗して極限まで鍛え上げた、赤ちゃんに使えない高い高〜いで返していた
それを楽しんでいる彼女は器が大きいと思う……

そんな時に、また玄関の方から音が聞こえてきた

「ただいま」

 短く切られた声、優しいと言うよりも厳しそうでいて、ビシッとしたもの
それでいて、なんとなく幼い感じが抜けきってていない、そんな声だった。

「はぁ、疲れたぁ…… 母さんご飯は?」

 俺は、少し五月蠅い足音を響かせながら歩く彼女の、そんな少し声に似合わない内容の、
でも彼女らしいそれを聞いて心が暖まったような気がした。

小母「ハイハイ、もう少しだから茶でも飲んで待ってな」

「は〜い、って珍しいね。いつもはただ待ってろって……」

男「おかえり、久しぶりだね、女」

 二年ぶりの、幼馴染への言葉だった

女「……久しぶり、それじゃ」

それだけの言葉を残して彼女はそのまま階段をあがって行ってしまった。
181 :ふかみどり [sage saga]:2010/05/31(月) 12:54:50.51 ID:QuBZW/60
小母「あら、あの子どこに行ったんだい?」

 両手に鍋を持って来た小母さんは、器用にテーブルの上に並べながら聞いてきた
「両手で鍋一つ」ではなく「両手に鍋」でだ……

妹「えっと、おねぇちゃん二階に行っちゃったよ」

小母「ありゃ、いつもならそこで待ってんだけどねぇ…… こりゃやっぱり…」

 手は動かしながらも、なにやら意地の悪い顔をしている。
なにを考えてるんだかわからないが、良い感じはしないなぁ。

男「何考えてるんですか」

小母「あぁ、アンタ子供は何人くらいが良いと思ってんだい?」

男「話に脈絡なさ過ぎだよ…… それに、それ勘違いだよ。絶対にね」

小母「な〜に行ってんだい! あんたこそ、そんなに鈍いと呆れられちまうってんだよ」

男「鈍くもなんでもないよ。 あれはただ気まずかったから行っただけだよ」

小母「ほ〜? そういうんなら、なにか理由があるのかい?」

男「えっ? 聞いてないの?」

 理由はある。ただあんまりカッコのつくものじゃないし、
言う事でもないと思うが…… というか、彼女はみんなに言ってなかったんだ…

男「俺、向こう行く前に告白したんだよ」
182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/31(月) 13:47:28.82 ID:GjQ9uP60
再開してた…だと
続きはまだか?
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/31(月) 16:51:22.09 ID:1CZzGl6o
おおー再開ktkr
相変わらずいい所で切るな
184 :ふかみどり [sage saga]:2010/06/03(木) 15:19:42.97 ID:60luSp20
ガチャ バタンッ…

女「………」

 手に持っている鞄を机に投げ捨て、
体を拘束しているような制服を脱ぎ棄てて、ベッドに倒れこみ、
ただ口も開かず、かといって眠るわけでもなく横になっていた。

女「あいつ…… 帰ってきたんだ…」


そうしていてしばらくすると、ドンドンッという階段を上る音が聞こえ

バタンッ!

小母「さぁ! 聞かせてもらおうかねぇ!!」

女「………ハァ? 何言ってんの?」

彼女は、突然の出来事に驚きながらも、
    それを表情の裏側に隠して返答していた。

小母「アンタ、あの子の告白を断ったらしいじゃないか?」

女「うっ… そ、そんなことよりご飯出来たの?」

小母「アンタが話してくれりゃあすぐご飯作りに行くよ」

女「う”…… で、でも…」

小母「ありゃあ中学2年の頃だったかねぇ… お前は」

女「あぁああ! わかった! 話すから!!」
185 :ふかみどり [sage saga]:2010/06/03(木) 15:23:51.15 ID:60luSp20
〜〜〜〜〜 小学生の時 〜〜〜〜〜

女「男ぉ〜! 結婚しよ〜!」

男「今は体を鍛えてるから後で」

〜〜〜〜〜 中学生の時 〜〜〜〜〜

女「隣の友ちゃんがさぁ、付き合い始めたんだってさ」

男「凄いなぁ、俺にはそんな器量ないし、体鍛えてる時間減らすのもなぁ」

女「そ、そうだよね! あんたはそんな奴だからね! あは、あはは!」


 何時もこんな感じで、
こいつとはずっと『幼馴染』でいるんだろうと思ってた。
186 :ふかみどり [sage saga]:2010/06/03(木) 15:27:48.07 ID:60luSp20
〜〜〜〜〜 中学卒業時 〜〜〜〜〜

男「女、付き合ってくれ」

女「……えっ?」

 それは唐突なものだった。
今まで手の届かなかった物が突然、目の前に現われたような
空で輝いていた流れ星が、いきなり自分の元に落ちたかのようだった。

男「らしくないな、どうした?」

女「えっ! いや、ええと……」

しかも相手は絶対に恋愛事なんてないと思っていた奴
そんなことをやる時間があったら体を鍛えてる筋肉マニアからだった。
187 :ふかみどり [sage saga]:2010/06/03(木) 15:32:14.86 ID:60luSp20
女「え、ええと…… き、今日中に…?」

男「というか今、返事をしてもらいたい」

女「え、えええ!?」

 急な話で混乱しそうなのに、急かすとか……
彼に恋愛事を理解してほしいとは言わないが、
せめて相手の気持ちも考えてほしい。

女「わ、わかった… 少し落ち着く時間を…」

男「あぁ」

 相手も返事をしたので、ひとまず深呼吸。
それだけで、頭の隅々まですっきりしていく

女「はぁ…… 突然どうしたの?」

男「どうって、告白をしてるんだけど」

女「そうじゃなくて、あんたはそんな事するタチじゃないでしょ」

男「……そうか?」

女「そうでしょ、まったく……」

そう言って怒ったふりをすると、いつものように殆ど表情を変えずに
私と妹くらいにしかわからない、物凄く困った顔をしていた。
188 :ふかみどり [sage saga]:2010/06/03(木) 15:36:03.82 ID:60luSp20
男「いや… 俺だってそういう気持ちがあるし……」

女「何時も筋トレばっかりやってるあんたが?」

私も、悪気があったわけじゃなかった。
ただ言ってしまっただけだった、少なくとも最初は…

男「だ、だって俺も男だぞ?」

女「俺なんて言葉、身長私に負けてるのに…」

男「そ、それは関係ないだろ!!」

女「大体さ、ちょっと前に自分は甲斐性ないとか何か言ってなかったっけ?」

男「うっ…… ご、ごめん…」

女「まったく、それは謝る事じゃないでしょ? それに〜〜〜……」

………

……

189 :ふかみどり [sage saga]:2010/06/03(木) 15:38:46.19 ID:60luSp20
………

女「……ってこともあったしねぇ」

男「はい…… それで、女さん…」

女「ん? なに”さん”付けなんてして、どうしたの?」

男「はい…… その、御答えを僕に教えてほしいのですが…」

女「なに? もう一度言って?」

男「いえ、申し訳ありませんでした……」

女「だから、謝る事じゃないでしょ?」

男「いえ、けじめとして必要かと思いました…… それじゃ…」

女「えっ? あ、あぁ、また明日」

………
……


女「……あれ?」
190 :ふかみどり [sage saga]:2010/06/03(木) 15:44:12.96 ID:60luSp20
〜〜〜〜〜 今 〜〜〜〜〜

女「……って、いうことがあって…」

小母「………」

女「だ、黙らないでよ!」

小母「いやぁ、我が娘ながら…… ねぇ?」

女「わかってる、わかってるから!」

 母から言葉の追撃を振り切るように、頭を抱えて振り回す。
男はどうだか知らないけど、この後数日は本当にご飯が喉を通らなかった……

小母「だから男ちゃんも振られたって言ってたのかい……」

いつも五月蝿い母も、流石に何も言えないようだった。

女「でも、次の日にちゃんと答えればいいと思ってたのに……」

 その翌日には、一緒に行く予定だった高校を辞めて、家は既にもぬけの殻
置き手紙どころか連絡先も何も伝えずに出て行ってしまった後だった。

女「だ、だから男が悪いのよっ!」

小母「まぁ、あんたはそれで唯一の機会を逃したんだろうねぇ」

女「う、うるさいっ! お母さんはご飯つくっててよ!!」
191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/03(木) 23:28:18.41 ID:a0NkYcEo
高校辞めて戦闘員になったのか?
192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/25(金) 15:40:51.34 ID:So0ZSoDO
なんで3週間も書き込みないんだよ……
193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/05(月) 02:52:21.42 ID:9DbM3ioo
書き手のレスがないまま1ヶ月が経過したのでご案内

続ける意思がなくなった場合は以下のスレでHTML化依頼をお願いします
■ HTML化依頼スレ Part1
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1190564438/

続ける意思がある場合は2週間に1度ぐらいでいいので生存報告をよろしくお願いします
みんなで仲良く製作速報を使えるようになるべく放置スレを減らしましょう
109.94 KB   

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