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麦野「・・・浜面が入院?」 - 製作速報VIP(クリエイター) 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/07(日) 18:52:20.64 ID:QSqt3Dk0


このスレは、禁書目録「アイテム」中心のSSです。

今まではVIPで投下していたのですが、こちらに移住させていただきました。

しかし、需要がないようならば、放置していただいて構いません。


投下する場合は、最初から投下した方が良いのか、

VIPの続きからの方が良いのか、少し悩んでいるところなので、

今まで目を通していただいた方を含め、興味のある方は要望をお願いします。
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 19:19:42.42 ID:4TWlQUIo
VIPでやったスレのURL貼ってから
続きを書けばいい

人によって考え方違うから異論は認める
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/07(日) 20:01:23.54 ID:85EVMqco
続きからでお願いします!
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 20:15:04.54 ID:1nOagbwo
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
個人的には>>2に賛成です
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 20:23:19.97 ID:YwSJ.gSO
個人的には新規の人の事を考えると
始めからの方がいい気がします
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/07(日) 20:48:32.70 ID:vyU2gbEo
1スレ目http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267023013/
2スレ目http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267622271/
3スレ目http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267878399/
待ってたぞ
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 20:56:42.85 ID:6LBWx8Mo
デュフwwwwwwww
待ってたwwwwwwwwwwww
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 20:59:55.95 ID:MD/6TYDO
>>6
●持ってない俺見れなくて涙目www
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 21:01:44.04 ID:4TWlQUIo
>>8
↓で変換すればいい

2ch DAT落ちスレ ミラー変換機 ver.4
ttp://www.geocities.jp/mirrorhenkan/
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 21:07:49.15 ID:WmCht6A0
VIPに誘導スレ立てないの?
あと待ってたぜ!
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 21:12:40.17 ID:MD/6TYDO
>>9
d
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 21:15:22.25 ID:1nOagbwo
せっかくなんで見れるとこ貼っとこう
1スレ目 http://mimizun.com/log/2ch/news4vip/1267023013/
2スレ目 http://mimizun.com/log/2ch/news4vip/1267622271/
3スレ目 http://mimizun.com/log/2ch/news4vip/1267878399/
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/07(日) 21:20:27.84 ID:vyU2gbEo
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org708260.zip.html
3つとも固めておいた
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 21:20:50.91 ID:GvKmB9I0
キタ――(゚∀゚)――!!
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 21:39:10.00 ID:ssLFtA2o
キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/07(日) 21:41:36.63 ID:QSqt3Dk0

>>12-13
手間をおかけしました、ありがとうございます。

>>10
誘導スレは、そのうち姫神SSスレを立てる予定なので、その時にでも。


見てくれそうな方が居るので、少しホッとしました。

では一応、VIPの続きから投下します。

ちなみにココって何秒規制でしょうか、猿とかあります?

17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/07(日) 21:43:54.12 ID:vyU2gbEo
規制も猿もない
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 21:45:17.36 ID:ssLFtA2o
その上落ちにくいからゴリゴリ書いちゃってくだしあ
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/07(日) 21:45:33.20 ID:QSqt3Dk0
>>17
どうも。


―――――


「・・・これ・・、いや、これ。 ・・これ?」


ここは1階の1番端にある果物売り場、色とりどりの果物が並べてあり、どれも新鮮そのものだ。

その中で、イチゴが数多く並べてあった。

雛壇(のような壇)に置かれており、合計30パックほど並べられている。

そこで、一心不乱にイチゴを選別している大人気ない少女が居た、滝壺理后である。

ケーキの上に飾るためのイチゴを選ぶだけなのだが、彼女はなぜか命懸けだった。

せっかく浜面へのケーキを作るのなら、完璧にしたい、ケーキの味の引き立て役であるイチゴでさえも。

麦野からイチゴへの執着を見込まれて任せられた、絶対に失敗は許されない任務だ、彼女にとっては。


「・・・3パックくらいって言われたけど、難しいな・・、選ぶの。」


それぞれの大きさはどうか、一個一個に傷はないか、値段はどうか、

生産者の名前は書いてあるか、そして、何より食欲をそそるかどうか。

いつもは半開きのような、眠そうな目を、全開まで開いて見定める。

30パック以上もある中から、3パックだけを厳選するのは、少し手間のかかる作業だった。
20 :saga :2010/03/07(日) 21:48:20.56 ID:QSqt3Dk0


「プレゼント〜♪ プレゼント〜♪」

「・・・これ、いや、これもなかなか。」

「あの人へ〜の♪ プレゼント〜♪ ってミサカはミサカは気分上々に鼻歌交じりで、果物売り場にやってきたの!」

「・・・・誰?」


全神経をイチゴ選びに集中させていたため、すぐ隣に人が居ることに気づかなかった。

隣というか、視線を向けたの右横下、茶髪にいわゆるアホ毛を生やし、愛らしい水色のワンピースを身に纏った女の子。


「あれ、貴方・・。」

「あー! 昨日の健康ランドに居た沈利お姉ちゃんと一緒に居たぼんやり顔したお姉ちゃん!

 ってミサカはミサカは二度目ましてのご挨拶をしてみる!」


ペコリ、とお辞儀をするアホ毛の子。

首から下げられた子供らしいカエルの財布が激しく揺れる。

ぼんやり顔した、というのは微妙に引っかかったが、大したことでもないので、気にしないことにする。
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/07(日) 21:49:27.10 ID:vyU2gbEo
ただ時々重くなるのと15日付近に落ちるのはご愛嬌wwww
殺 すとかは[ピーーー]になるのがメ欄にsagaと入れれば変換されない
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 21:49:35.21 ID:QSqt3Dk0


「どうしたの、迷子?」

「む〜、ミサカは迷子なんかじゃないよ! 自分からあの人から離れて、とある作戦を実行に移したばかりなの!

 ってミサカはミサカは計画をちょっぴりバラしちゃう!」

「・・・・。」


自分から離れたにしても何にしても、結局、この子は迷子なんじゃないだろうか、と首を傾げる滝壺。

年はだいたい10歳くらいだろうか、それくらいなら1人で買い物に来てもおかしくはなかったが、

彼女が言うには、一応は一緒に来た人が居るらしい。

でも、この目の前の女の子は、今は一人である。

それに迷子というのは、親を探して泣き叫んでしまうパターンと、自分が迷子になったことさえ気づかないパターンもある。

このデパートは5階建てで1つの階層だけでも、かなりの広さであるため、一度迷うとかなり厄介だ。
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 21:51:28.15 ID:QSqt3Dk0


「貴方、お名前は?」

「だーかーら! ミサカは迷子なんかじゃないの!ってミサカはミサカはほっぺたを膨らませるー!」

「・・別に迷子と決め付けたからって名前を聞いたわけじゃないよ。

 二回も会ったんだから、名前くらいは聞いておこうかなって思っただけ。」

「うー・・、ミサカはラストオーダーって言うんだよ、ってミサカはミサカは敵対心をチラリと見せつつも、自己紹介してみるー!」

「私は滝壺理后、よろしくね。」


ラストオーダー、という日本人としては余りにも奇抜すぎる名前だが、滝壺も気にせず自己紹介する。

麦野がその名前を聞いたときは、彼女は不思議に思っていたが、滝壺は特にツッコまなかった。

彼女らしいといえば彼女らしい。


「じゃぁ、とりあえず迷子センターに・・。」

「だ、だから違うって! ミサカはあの人へのプレゼントを買いに来たんだよ!

 ってミサカはミサカはもうヤケになって作戦の全貌をバラしちゃうっ!」

「あの人への・・、プレゼント?」
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 21:52:49.89 ID:QSqt3Dk0


自分に通じるものがあったのか、ぴくりと反応する滝壺。

それもそのはず、彼女も浜面に送るケーキの一部であるイチゴを選んでいたのだから。

「そうだよー! 黄泉川からお小遣いをもらったから、いつもお世話になってるあの人に、

 コーヒーとフルーツのプレゼントをしようと思うのー! ってミサカはミサカは大暴露!」

「・・そうだったんだ、迷子って疑ってごめんね。」

「別に気にしてないよ!ってミサカはミサカは証拠に笑顔を振りまいてみるー!」


キャッキャと年相応にはしゃぐ打ち止め。

今の会話のどこに、打ち止めが迷子ではないという説明があったのかは、イマイチ分からなかったが。


「その、プレゼントを贈る相手は大切な人なの?」

「うん! あの人の前だと、恥ずかしくて言えないけどねっ、

 でもあの人は私にとってすっごく大切な人で、すっごくミサカは感謝してるの!

 ってミサカはミサカは、もしあの人に聞かれたら嫌だから、段々声を小さくしてみる・・。」
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 21:54:17.33 ID:QSqt3Dk0


顔を少しだけ赤らめる打ち止め。

この年で大切な人が居ると言えるのは、すごいことだな、と滝壺は思った。

さらには、その人に対する感謝の意思さえ持っている。

そこらの小学生だと、余程大人びている子でも、そんなことを思いはしても、口に出すことはできないはずだ。


「実はね、私も大事な人へのプレゼント選びの真っ最中なんだ。」

「えー! そうなの!? 理后お姉ちゃんの大事な人ってー? ってミサカはミサカは失礼ながらも、踏み込んだ質問!」

「大事っていうか、一緒に居てホッとするっていうか、ね・・。

 はまづらは、私や私の仲間のためなら、いつでも力になってくれる人なんだ。」

「はまづら、っていうの? 理后お姉ちゃんの大事な人、ってミサカはミサカは確認の為に聞き返してみるー!」

「・・!」
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 21:56:45.64 ID:QSqt3Dk0


つい口を滑らせて名前を言ってしまった、自分の大事な人。

ハッとして両手で口を塞ぐ滝壺。

もちろん、浜面だけでなく、絹旗もフレンダも麦野も、彼女にとっては大切な仲間だ。

それでも、なぜ彼が自分の中で優先されているのか、という決定的な理由は、まだ彼女は分かってはいない。

いずれ、それは彼女の心の中で纏まっていくことではあるが。


「今言ったこと、内緒だよ? 誰にも言ってないことなんだから。」

「うん! 理后お姉ちゃんの大切な人だもん、ってミサカはミサカはお口にチャックしてみる!」


ジーッと、口にチャックをするような動作をみせる打ち止め。

大人びた発言もする一方で、こういう子供相応のこともする。

健康ランドに居たときも思ったことではあるが、この少女はすごく可愛らしい、妹に欲しいくらいだ。


「それで、どうしてここに来たんだっけ・・?」

「んー、だからねー、」
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 21:58:19.98 ID:QSqt3Dk0


彼女の話によると、今日の朝、保護者からお小遣いを1000円もらったらしく、

いつも一緒に居る、自分を可愛がってくれる人にプレゼントをするため、ここに来たらしい。

しかし、このデパートの場所が分からなかったらしく、結局、そのプレゼントを贈る相手と一緒に来たものの、

プレゼントはその人に内緒であげたかったため、全力疾走で逃亡し、急いでフルーツを買いに来た、ということらしい。

彼女が重そうに抱える買い物カゴの中に、もう一つのプレゼントであるコーヒーがたくさん入っていた。

逃げながらも、コーヒーを適当に何本も掻っ攫って来たらしい。


「そういうわけで、ミサカは果物を買いに来たんだけど、あの人の好きな果物、知らないんだよね・・、

 ってミサカはミサカは自分の計画性のなさに、頭を悩ませてみるー。」

「たぶん、コーヒーをそんなに買っちゃったら、果物を買えないと思うよ?」

「え!? コーヒーって1本いくらくらいするの!? ってミサカはミサカは冷や汗一筋!」

「たぶん、120円くらいするんじゃないかな・・。」


打ち止めの買い物カゴの中には、大目に見ても10本は入っている。

彼女がもらったお小遣いは1000円。

これでは果物どころか、カゴの中のコーヒーすらすべて買うことはできないだろう。
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:00:29.43 ID:QSqt3Dk0


「ど、どうしよう・・、とりあえず、コーヒーを何本か戻して・・、」

「・・そんなことしたら、贈る相手に見つかっちゃうかもよ?」

「え、ええ・・、で、でも・・、」

「・・・・・、これ、貸してあげる。」


滝壺は少し考えたあと、ポケットに入っていた財布から1000円札を1枚取り出し、打ち止めの手に握らせた。

打ち止めは、ポカーンと鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。


「・・・え、え! で、でも、悪いよ! ほとんど初対面なのに、お金なんて・・、

 ってミサカはミサカは申し訳なさから、突き返してみる・・。」


渡された1000円札をくしゃくしゃにしながらも、滝壺の胸に突き返した。

一応、彼女もそういう礼儀はわきまえているらしい。

それに対し、首を振り、もう一度、打ち止めの手に、今度はしっかりと握らせる。

打ち止めは相変わらず、焦ったままだ。
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:02:45.34 ID:QSqt3Dk0


「あ、あの・・、」

「それ、貸してあげるだけだからね・・、また、私と会って、返してくれれば良いから。」

「・・・で、でも、お姉ちゃんの、」

「んっ。」


滝壺は、自分の手の平を打ち止めの口に静かに当てた。

彼女は、もう一度打ち止めと会うための口実を作っただけ。

もちろん、彼女が自分にそれを返してくれるかどうかも分からない。

彼女は打ち止めの家を知らないし、打ち止めも滝壺の家は知らない。

それでも、また会えたら良いなという些細な願望を込めただけ。

またこの愛らしい少女と会えるなら、1000円くらいは使っても良い。

願わくば、この少女の思いがその人に届くように。

つまり、この少女のことを滝壺は気に入ってしまったのである。

単純に、容姿が可愛らしかったからかもしれない。

自分の姿が、この少女に重なって見えたからかもしれない。

でも、これはただの気まぐれなどではない、それだけは確かだった。
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:04:22.81 ID:QSqt3Dk0


「それ以上、何か言うのなら、それは没収だよ。 貴方の大切な人に作戦がバレちゃうかもね。」

「・・・・、ありがとう、ってミサカはミサカは心から理后お姉ちゃんに感謝してみる・・。」


これ以上抵抗するのも逆に失礼と思ったのだろうか、打ち止めは素直に滝壺に感謝した。

それを見て、満足そうに微笑んだ滝壺。

別にそれは偽善とか、優越感とか、そういう打算的なものからの微笑みではない。

打ち止めも、滝壺も、ただ純粋に心優しい少女、それだけである。

彼女たちに想われる人は、かなり幸せだろう。


「私も果物選び、手伝ってあげる。」

「えっ、別に、そこまでしてもらわなくてもっ・・、」

「果物選びには定評があるんだ、任せて・・!」

「じゃあ! ミサカも理后お姉ちゃんの果物選び、手伝ってあげる!

 ってミサカはミサカは少しでも良いから恩返し!」


すっかり人助けモードに入ってしまった滝壺、彼女にしては珍しく意気込んでいる。

彼女もイチゴを選ばなければいけないのだが、それは後回しらしい。

楽しそうに喋りながら、少女二人は想い人のために。



31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 22:05:23.39 ID:1nOagbwo
滝壷ええ子や〜
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:06:42.51 ID:QSqt3Dk0

―――――


「あァー、あのクソガキ・・、ほンとに手間がかかりやがるッ・・!」


愚痴を吐きつつ、入り口にポツンと立ったままの白髪に赤眼の少年、一方通行。

買い物カゴを持ちながら、庶民的なデパートの入り口に立っているその姿はいささか滑稽だ。


「入った途端に走り出しやがってェッ・・。デパートに行きたいっていうから、

こちとら杖ついてわざわざ一緒に来てやったって言うのによォ・・。」


一方通行と打ち止めは二人仲良くデパートに来たものの、入り口に立った瞬間に、

打ち止めは、スッタカターと行き先も告げずに何処かへ消えてしまったらしい。

このデパートは5階まであるため、彼女は1階の食品売り場だけでなく、

下手をすれば、上の階に行ってしまっている可能性もある。

自在に動かせない身体に鞭をうって探すには、かなり骨が折れる。

限りあるチョーカーの充電を使ってまで、探し出すのも馬鹿らしい、彼はそう考えていた。

携帯電話を取り出し、打ち止めに電話しようとする。

しかし、彼女が携帯電話を持っていなかったことを思い出し、すぐに止めた。
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:07:51.24 ID:QSqt3Dk0


「あァー・・クソ、こういうときのためにも携帯電話ッつーもンを持たせるべきだったな・・。」


ハァー、と大きな溜め息をつく一方通行。

学園都市第一位の超能力者をここまで悩ませるのだから、大した少女である。


「とりあえず、近場から探してみるかァ・・・・、ン?」


近場から探そうと、一歩踏み出したとき、彼の視界に、見覚えのある女性。

茶髪のロングヘアに、薄いクリーム色のコートのような服を着ている。


「・・おィ。」

「・・・・。」

「・・おィ、お前だよ、女。」

「・・何よ?」


ギン、とかなりの目つきの悪さで振り返った少女、一瞬別人に思えたが、どうやら思ったとおりだ。

昨日、一方通行に自分から話しかけてきた麦野という名前の少女。

他人を忌み嫌う一方通行が、なぜ自分から彼女に話しかけたのかは、彼自身も分からなかった。

ただ、何の気なしに、自然に声をかけてしまったのだ。
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:09:42.73 ID:QSqt3Dk0


「・・あー、昨日の。」

「・・あ、あァ、あンまり、顔つきが違うンで別人かと思ったぜ・・。」


健康ランドのときのこの少女は、もっと柔らかな表情に、育ちの良さそうな振る舞いをしていたような気がしたが。

ふと見ると、彼女の持つ買い物カゴにはたくさんのチューハイが入っている。

これは、ある意味、彼女に幻想を抱いていた男性から見れば、幻滅の光景だろう。

一方通行は、麦野に対して特別な好意を抱いていたわけではないので、大きなショックは受けなかったが、

印象の良かった異性が酒を馬鹿買いしていたら、それはそれで嫌な気持ちになるというものである。


「おい、女の酒飲みはあンまり感心しねェぞ・・?」

「ち、違うわよ! 何人かで集まって楽しむだけだっつーの!」


一方通行の記憶では、この少女は自分に対して敬語を使っていたはずだったが、動揺のあまり、口調が崩れてしまっている。

そっちの方が接しやすいので、特に咎めはしなかったが。


「あァ、決まってそういうよな、上っ面は清楚キャラ気取ってる酒飲みの女ってのはよ。」

「だーかーらー、違うって言ってんでしょうがー!」


確かに麦野の言うことは本当なのだが、今、証明することはできないので、仕方なく引き下がった。
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:11:39.57 ID:QSqt3Dk0


「つーか、お前、未成年じゃないのかよ?」

「え? 私は20歳よ、こう見えても。」

「あァ、だろうな、納得した。」

「・・どういう意味?」

「なンでも。」


サラリと言ったが、麦野はまだ未成年である。

そう言ってみて、一方通行がどういう反応をするのか見たかったのだが、

予想通りの発言だったため、少し頭にキていた。

絹旗たちにしろ、この目の前の少年にしろ、どうして自分を年増と言うのか。

彼らは麦野のことを大人びて見える、と言っただけで、老けて見えると言っているわけではないのだが、

彼女がそういう風に捉えてしまっているので、どうしようもないことである。


「っていうか、こんなところに昼間からどうしたわけ、スノープリンスは。」

「ぐッ・・!? その呼び方はやめろッつッてンだろうォが・・・。」

「別に貶してるわけじゃないのよ、ロリコンプリンス。」

「てめェ・・。」


反撃するように一方通行をイジり始める麦野に対し、これが本性か・・! と歯軋りする。

やはり、女というものは見た目や少し話しただけでは分からない、そう痛感した一方通行だった。
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:13:03.90 ID:QSqt3Dk0


「あら、今日はあの子は一緒じゃないの?」

「あァ、アイツならここに入った途端に走ってどっか行っちまったよ、ッたく、世話のかかるクソガキだ。」

「馬鹿ねー、ああいう子からは一瞬も目を離しちゃダメなのよ。」

「・・・・・チッ。」


人の苦労も知らないで、この女はヌケヌケと文句を垂れ流しやがって・・、と心の中で呟く。

まぁ、保護者の立場である自分に過失があるのは否めないので、黙っておいたが。


「どうせなら、一緒に探してあげようか?」

「あァ? 別にそンな手ェ借りる必要もねェよ、ッつーか探す必要もねェッての。」

「どうして?」

「あのクソガキが俺を置いてどっか行ッちまうのは、いつものことなンだよ。」

「ふーん・・、誘拐とかあったらどうするのよ?」

「あ、あァ?」


学生だらけの学園都市とはいえ、少なからずならず者は居るし、強盗や破壊行為などもあり、誘拐も言うまでもない。

打ち止めは、そういう犯罪者から見れば、丁度いい的だ。

学園都市の裏側を知る麦野だからこその忠告である。
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/07(日) 22:13:07.22 ID:vyU2gbEo
一方さんは口じゃ勝てないだろうなwwww
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:17:37.65 ID:QSqt3Dk0


「ふン、そうなりゃそいつをブチ殺すまでだ・・。」

「ブチ殺すって・・、事件になったら色々と面倒でしょ、ホラ、さっさと探すわよ。」

「なッ・・、俺一人で十分だっつンだよ、てめェはすっこンでろ。」

「杖なんかついてる奴がウロチョロする迷子を効率良く探せるわけないでしょ・・ってアンタ、杖なんかついてたっけ?」


昨日健康ランドで会ったときは、杖などついてなかったような気がした。

さすが麦野というべきか、なかなか鋭い指摘である。


「あ・・、あァ、まぁ別に、気にする必要はねェよ。」

「ふーん、まぁ、良いわ、私の方がアンタより手際良く探せるんだから、口出しは無用よ。」

「あァ、そうかよ・・。」


これは断るよりも、一緒に探し回ってもらったほうが面倒じゃなくて済む。

そう判断したのか、仕方なく折れる一方通行、どうも彼は女性に振り回される傾向にあるようだ。

そのとき、ノリの良い着信音が麦野のポケットから鳴り響く。

麦野お気に入りのロックバンドのデビュー曲、マイナーながら心に響くものがある。

バイブが気になるので、とりあえず、携帯を開き、通話。
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:19:50.89 ID:QSqt3Dk0


「む、麦野ですか?」

「あら、絹旗、どうしたの?」


向こうに出たのは絹旗だった。

彼女には今夜のパーティーのお菓子や食べ物を頼んだはずで、別に麦野に特別聞くようなことはないはずだったが。


「あのですね・・、超面倒なことになりまして・・。」

「ちょっと待った、アンタ今何処に居るの?」


通話の向こう側から、歩行者信号の音楽と思われるものが流れてきた。

明らかにデパートの中ではない、彼女は外に居るようだ。


「えーとですね・・。」


絹旗が説明するには、昨日の健康ランドに居た銀髪腹ペコシスターと鉢合わせ、口喧嘩をする内に、

商品だったお菓子の袋を誤って破ってしまい、あろうことかそのまま逃走してしまったという。

一番心配なく送り出した兵士が、銃弾を持って行き忘れたと言って、

基地にも戻れず、戦場から即座に逃げ出したような間抜けぶりである。

受話器の向こうに聞こえるように、露骨に呆れた溜め息を吐く麦野。
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:20:25.75 ID:QSqt3Dk0


「・・で、私は何をすれば良いわけ?」

「とりあえず、お菓子とおつまみ類をお願いできますか・・?」

「分かった。とりあえず、アンタは戻らなくて良いわよ、そのままそこで待ってなさい。」

「す、すみません、私としたことが・・。」


ピッと通話を切る麦野。

あの子供はまともにお使いもできないのか、と麦野は呆れて物も言えないよう。

というか、そこで待ってなさい、といったものの、彼女は何処まで逃亡したのだろうか。


「あのさー・・、」

「言わなくて良い、俺にも聞こえてたからな。

 お前は買いに行けよ、あのクソガキは一人で探すからよ。」

「あら、優先順位がおかしいわよ、私もあの子を探すに決まってるでしょ。」

「あァ?」

「あのねー、お菓子とかどうでも良いもの買うより、あの子を探す方が先。」


アンタ、馬鹿ァ? と顔を覗き込むように言い放つ麦野。

かなり鼻につく言い方だったが、自分が強気に出られる状況ではないので、大人しく従う一方通行。


「・・悪ィな、礼はコーヒーで良いか?」

「全てはあの子を見つけてからよ。」


傍から見れば、一緒に作る料理の材料でも買いに来たカップルに見えなくもない二人は、

トラブルメーカーのアホ毛少女を探すために、歩き始めた。
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:21:51.94 ID:QSqt3Dk0

―――――



案外、あっさり見つけてしまえた。

その探し人の少女は果物売り場に居た、しかも、自分の連れと一緒に。


「あ、むぎの。」

「沈利お姉ちゃん! ってあぁ!? ってミサカはミサカはあの人に見つかっちゃって慌てふためくっ!」

「随分と簡単に見つかったわねぇ。」

「ッたく・・、後でお尻ペンペンだな、こりゃァ。」


驚愕の表情を浮かべたまま、絶句する麦野。

その視線に気づいた一方通行は慌てて否定した。


「アンタ、やっぱりそういう・・。」

「ぐッ!? いや、違う! 別にそンな趣味があるとかじゃねェぞ!?」

「早いところ、彼女をウチに保護した方が良いかしら、手遅れになるまえに。」

「て、手遅れだとッ・・!?」


そんなやましいことをする気持ちはどうたらこうたらと弁解の言葉が聞こえたが、面倒なので無視。

とりあえず、クルリと振り返り、目の前にまだ幼さの残る少女に話しかける。
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:24:27.60 ID:QSqt3Dk0


「良かった、探してたのよ? いきなり何処か行っちゃった、ってあの白いのから聞いたから。」


あの白いの、とは未だに身振り手振りで自分のロリコン疑惑を否定しているロリコン王子。

そういう風になるから、余計アレなんだって・・、とゲンナリする麦野。


「ごめんなさい、沈利お姉ちゃんにも迷惑かけちゃったんだ・・、ってミサカはミサカは深い謝意を持ってお辞儀する・・。」

「別に気にしなくて良いわよ・・、それより何買おうとしてるの?」


見れば分かるのだが、子供に対する接し方をわきまえている麦野は、社交辞令的に聞いてみる。

子供というのは、大人に色々なことを説明するのが好きなのだ。


「えーとね、メロン! すごく美味しいって理后お姉ちゃんが!

ってミサカはミサカは満足げに沈利お姉ちゃんに見せてみる!」


「へぇ〜、でっかいメロンねぇ・・。」


打ち止めが両手で抱えていたのは、かなり大きなメロンだった。

いくらくらいするのだろうか、高級そうだ。

1000円や2000円で買えないようにも見えた。
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:26:37.56 ID:QSqt3Dk0


「(こんな小さな子でさえ買い物ができるっていうのに・・うちのチビっ子は・・。)」


先ほど電話してきた、お使いも満足にできない少女の顔が浮かぶ。

やはり、あれはしばらく子供扱いしてやろう、と決意した今日この頃である。


「アンタもずいぶん懐かれたみたいね、滝壺。」

「子供、好きだから・・。」


ふふっ、と滝壺は笑みを浮かべる。

母性まで持ち合わせているのか、この天然少女は、と再び対抗心を燃やす麦野。

あとで「お母さんのような女性」は好きかどうか、浜面に聞いておくべきだろう。


「・・おィ! 聞いてンのか、てめェ!」

「あー? まだ言ってたのアンタ。」


声を荒げる一方通行に対し、カラッとした表情を向ける麦野。

この男は、麦野が聞いてないにも関わらず、まだベラベラと意味のない弁解をしていたのだろうか。

このロリコンは性根から色々と叩きなおした方が良いんじゃないだろうか、と不安になる。
44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:28:33.33 ID:QSqt3Dk0


「だいたいねー、普段からそんな女の子連れて歩いてるんだから、ロリコンって思われても仕方ないと思うわよ?」

「・・ロリコンってなーに? ってミサカはミサカは物知りそうな理后お姉ちゃんに聞いてみるー!」

「ロリコンっていうのは、ロリータ・コンプレックスの略で、」

「止めろォォォォォォォォォォッ!!!!」


がァァァァァッ!と頭を掻き毟る一方通行、かなり苦笑いものの光景である。

こりゃ面白い玩具見つけたわ、と小悪魔な笑みを浮かべる麦野。

とんでもない悪女に目をつけられてしまったものである。

平静を保とうと、ぐしゃぐしゃにした髪の毛を元に戻した一方通行は、再び口を開く。


「いや、兄弟みたいに見られる可能性だってあるだろォが・・!」

「本当にそう思うなら、重度のシスコンね。 近場の女の子をさも自分の本当の妹に仕立て上げるんじゃ。」

「・・シスコンってなーに? ってミサカはミサカは物知りそうな理后お姉ちゃんに聞いてみるー!」

「シスコンっていうのは、シスター・コンプレックスの略で、」

「グがァァァァァァァァァァッ!!!!」


即座に否定された上に、さらに文句を上乗せされ、

発狂したように頭を掻き毟る一方通行、ここまで来ると笑えない光景である。

麦野は、健康ランドのときもこの少年は変人っぽいと思ったが、今は別の意味で変人であることが分かった。

普段は抜き身の刀のような雰囲気を発している割に、少し突っつくだけで簡単に崩れる。

こういうのをギャップ萌えというのだろうか。
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:30:24.63 ID:QSqt3Dk0


「ま、冗談はさておいて。」

「・・おら、てめェ、さっさとコーヒー買って帰ンぞ、・・っていうかなンだ、そのメロンは!?」


今頃気づいたのか、打ち止めが抱えている大きなメロンにいちゃもんをつける一方通行。

そんなものを買うつもりなのか、と彼の苛立ちがピークに達しようとしていた。


「こンのクソガキはッ・・いつもいつも、」

「待って。」


今にも打ち止めの尻を叩きそうな勢いだった一方通行を、二人の間に挟まれるように立って、止める滝壺。

ウチの教育方法に口を出すな、と言わんばかりの目つきを見せる一方通行。


「この子は貴方のために、メロンを買おうとしてるみたいだよ。」

「り、理后お姉ちゃん! ってミサカはミサカは計画をっ、」

「もうバレちゃったから仕方ないよ。」
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:32:06.75 ID:QSqt3Dk0


何の話をしているのか分からない麦野と一方通行は揃って首を傾げた。

滝壺は、再び彼の方へ向くと、話を続ける。


「この子はね、貴方のために、大事なお小遣いを使って、

メロンと貴方の大好きなコーヒーをプレゼントしようとしたの。」

「あ・・あァ?」


打ち止めの足元に置いてあった買い物カゴを見ると、たくさんのコーヒーが入っていた。

最近、一方通行がハマっている黒と金のパッケージのブラックコーヒー。

打ち止めは最近の彼のコーヒーの好みまで覚えていたらしい。


「貴方に秘密でプレゼントしたかったんだって。

だからここに来るなり、貴方から逃げて、急いで買おうとしてたみたい。」

「・・・・チッ、そういうことかよ。」


虫の居所が悪いのか、頭をポリポリとかく一方通行。

打ち止めはせっかくの贈り物作戦が失敗してしまい、滝壺の後ろに隠れるようにして、彼の顔を見つめていた。
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 22:33:28.72 ID:ssLFtA2o
打止可愛いよ打止
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:33:32.44 ID:QSqt3Dk0


「ッたく、このクソ生意気なガキが・・。」

「あら、この子もアンタのことが好きみたいだし、良かったじゃない。」

「・・あァ、そうかよ。」

「私は同意の上なら何しても良いと思うわよ、年齢差なんて関係ないわよね。」

「って、何の話をしてンだ、何の話をッ!?」


キッと麦野を睨みつける一方通行。

それに慣れてしまった麦野はどこ吹く風、という表情だ。


「別にそンな気遣いは要らねェよ・・、お前の小遣いなンだから、お前が好きなように使ったら良いだろ。」

「で、でも!ってミサカはミサカは・・、」


何か言いたそうな目で訴えかける打ち止め。

その目を見たら負けるため、目を逸らす一方通行。
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:34:32.97 ID:QSqt3Dk0


「分かってないよ、貴方は。」

「・・・あァ?」


再び、滝壺が口を挟んでくる。

怪訝そうな目で滝壺に視線を送る。


「この子がお小遣いを好きなように使った結果、貴方へのプレゼントっていう選択肢を選んだ。

 そういうことだと思うよ、私は。」

「・・・・。」


黙りこくる一方通行。

自分が言いたいことを言ってくれたからか、パァ!と明るい表情になる打ち止め。

それを見た滝壺は、少しだけ口元を緩めた。


「・・・この子が貴方に贈り物をしたい、そう言ってるみたいだし、素直に受け取れば良いと思うよ。

 この年で自分がお世話になってる人に、お金を出してまでプレゼントするなんて、

そうそうできることじゃないと思うな・・、少なくとも、私は。」
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:36:43.13 ID:QSqt3Dk0


滝壺の言うことに、一切間違いはなかった。

打ち止めの気持ちを完璧に代弁した、優しさに満ち溢れた言葉。

いつもは脱力している彼女も、このときばかりは芯の通った言葉を発していた。

これに対して、反論するのは野暮な話だ。


「・・・わかったよ、今回だけだからな、クソガキ。」

「うん!! ってミサカはミサカは貴方に溢れんばかりののスマイルを送ってみるー!」


後光が差すような笑顔を向けられ、少したじろぐ一方通行。

女性だけでなく、恐らく子供にも弱いのだろう、その表情はまんざらでもないようだ。

そのことがすぐ横に居た麦野からもはっきりと分かった。


「相思相愛か・・、良いわねよねぇ、初々しいわ。」

「がッ・・!? だ、誰のこと言ってやがンだッ!?」


べっつに〜♪ と口笛を一吹きする麦野。

ただ、今彼女が言ったことは本心である。

自分が想う人が自分のことを想ってくれる、たったそれだけのことが彼女には羨ましかった。

麦野の想い人は、彼女に対してある程度の好意は持っていてくれても、それ以上のことを思ってくれることはない。

平行線を辿ったまま、その気持ちは昇華することはないのだ、少なくとも、麦野はそう思っていた。

だからこそ、年齢差は違えど、目の前の二人が好き合っているのは、少し自分の心に突き刺さるものがあったのだろう。
51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:40:21.37 ID:QSqt3Dk0


「きっと大きくなったら美人になるわよ、この子。 大事にしてあげなさい。」

「チッ・・余計なお世話だ。」

「よーし、一件落着、お会計にダッシュだ! ってミサカはミサカはクラウチングスタート!」

「お、おい、こら待てェッ!!」


話が終わると同時に、一目散にレジへと向かってしまった打ち止め。

杖をつきながら、それを慌てて追う一方通行。

しかし、いきなり立ち止まると、クルリと麦野たちに振り向いた。

黙ったままだったが、少し間を置いたあと、

その透明感さえも感じられる白い顔に、カッターで切り込みを入れられたような線のような口が開いた。


「・・・色々と世話ンなったな。」


麦野と滝壺、二人の顔を見て、感謝の言葉を述べる一方通行。

それは、打ち止めを探してくれたこと、そして、彼らの距離をほんの少し縮ませてくれたこと。

ふふ、と苦笑する麦野、それにつられて滝壺も目を細めた。
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:41:25.80 ID:QSqt3Dk0


「・・別に良いわよ、ただし、あの子を泣かせるようなマネしたら、アタシたちが許さないから。」

「ん。」


麦野がビシッと一方通行に人差し指を向けた。

滝壺も同じようなアクションをしている。


「・・ふン、おっかねぇ女どもだな。」


そう言った一方通行の表情が、一瞬だけ、ほんの少しだけ、緩んだように見えた。

少年らしい、年相応の快活さが垣間見える、柔和な笑み。


「あら、そういう顔もできるんじゃない。」

「あ゛・・!?」

「普段からそういう表情で彼女に接してあげなさい、そうすればあの子はもっとアンタのこと好いてくれるわよ。」

「・・・てめェは俺の母親かっつーの。」

「ぐたぐだ言ってないでさっさと追う! また迷子になるわよ、あの子!」

「あァ〜、やかましい女だ。」


彼らしい悪態をつきながら、既に姿が見えなくなってしまっている打ち止めを追い始める一方通行。

その背中は、心なしか、少しだけ優しさに満ちているように見えた。


彼らの生活が幸せなままでありますように、麦野は柄にもなく、そんなことを思ったりしていた。
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/07(日) 22:41:51.43 ID:vyU2gbEo
この麦のんはスーパー化しないよね?
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/07(日) 22:45:25.19 ID:QSqt3Dk0

今回はここまでです、さすがにここだと順調に投下できますね。

ちなみに、スレタイのくせに浜面超空気ですよね。という方、もう少しお待ちください。


>>53
このシリーズではスーパー化する予定はないです。

ただ、次のシリーズでは何とも言えない、とだけ言っておきます。
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 22:48:54.34 ID:ygR5nEAO

       ミ\ 俺の>>1乙に常識は通用しねぇ  /彡
       ミ  \                    /  彡
        ミ  \                /  彡
         ミ   \             /   彡
          ミ   \          /   彡
           ミ    _______     彡
            \  i´ ̄ ̄ ̄`ii  i  /
ミ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\|      [_!!   |/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄彡
 ミ              |========|{   |              彡
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/ ̄ ̄ |        ||   | ̄ ̄\ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          /   /|     [_!!   !.\   \
        /   /  |        ||  !  \    \
       /    /  !________jj__j    \    \
     /    /                  \.    \
     彡   /                       \   ミ
      彡/                        \ ミ
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/07(日) 22:50:08.42 ID:vyU2gbEo
次のシリーズって別の話ってことだよね?
ここからスーパー化はみたくねぇ…
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/07(日) 22:53:47.40 ID:vyU2gbEo
忘れてた乙
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/07(日) 22:54:11.83 ID:m8g/4cDO
>>54
…ゴクリ
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 22:55:41.60 ID:1nOagbwo
乙おつ〜
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 23:09:04.32 ID:4TWlQUIo

浜面居なくても別にいいなww
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/07(日) 23:24:49.39 ID:ssLFtA2o
乙乙
スーパー化無しとは一つ懸念が解消されて良かった
一通さんとガチバトルになったらとハラハラしてた
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/08(月) 19:37:40.66 ID:OumEA.2P
移動してたのか wwktk
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/08(月) 21:50:08.83 ID:jeetFi6o
そろそろ来るかな? 全裸待機
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/08(月) 22:05:05.73 ID:tXGthEEo
wwkwwktktk
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/08(月) 22:20:25.67 ID:qtXMbx20


おばんです。

申し訳ないのですが、今回は箸休め回です。

では、投下します。

66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/08(月) 22:21:43.51 ID:qtXMbx20

☆おまけ・その1



「とうまーっ! とうまーっ!」

「あー、やっと戻ってきやがったか、インデックスの奴・・。」


ようやくお菓子売り場から戻ってきたインデックス。

しかし、少し彼女の様子がおかしいことに上条は気づいた。

意気揚々とお菓子を探しに行った食べ放題チャンピオンの彼女が、

お菓子を1つも持っていない上に、かなり慌てた表情をしている、何があったのか。


「あれ、どうしたんだ・・、お菓子買うんじゃなかったのか?」

「そ、それがっ・・!」


ほんの少しだけ目を潤ませたまま、説明しようとするインデックスの後ろから、

中年の女性店員が息を荒げながら、追ってきていた。

状況が状況なだけに、長年の勘からして、嫌な予感しかしない。
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/08(月) 22:23:36.23 ID:qtXMbx20


「・・あのー、ちょっとよろしいでしょうか、この子のお知り合いですよね?」

「は、はい、俺・・ですか?」


息を整えながら、上条に話しかける店員。

予防線を張るように、曖昧な返答をする上条、それはほぼ意味のない抵抗だったが。

問題の原因と思われるインデックスは観念したかのように、口を閉じたままだった。

消せない記憶として残った、昨日の健康ランドの悪夢が上条の脳裏に再び浮き上がってきていた。


「・・あのですね。ついさっき、その子が勝手にお菓子の袋を開けちゃったみたいで・・。」

「・・な、なぅァァッ!!?? インデックス、またお前そんなハタ迷惑なことをッ!!」


まさか、お菓子の袋を破ってまで食べようとしないとは思ったが、それすらもぶっちぎりで裏切られてしまった。

上条は人目を憚らず、インデックスの頭に勢い良く、しつけと称してチョップを浴びせる。

今回ばかりは罪の意識があるのか、甘んじて直撃を受けるインデックス。
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/08(月) 22:25:46.91 ID:qtXMbx20


ギャーギャーと口喧嘩を始めてしまう上条とインデックス。

この二人が食べ物絡みの言い合いを始めてしまうと、キリがない。

そのため、店員が申し訳なさそうに、上条に声をかけた。


「とりあえず、奥のほうまで来てもらえますか、事情を聞く必要があるので・・。」

「・・・ふ、不幸なんだよ。」

「それは俺の台詞だ・・・。」



ちなみに、もう一人の加害者である絹旗最愛は、インデックスを犠牲に、見事に逃げ切っていた。



69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/08(月) 22:28:06.70 ID:qtXMbx20

☆おまけ・その2



「たっだいまー!ってミサカはミサカはご機嫌にアイムホーム!」

「・・疲れた。」


ズンズン進んでいく打ち止めと、肉体的にも精神的に疲れきってしまった一方通行、靴を脱ぐのも億劫らしい。

一方通行は、自分への贈り物である巨大メロンといつもの大量のコーヒーを持っていた。

それを持ちながら、杖をつきつつ、デパートからの長距離を歩いてきたのだから、今の彼は満身創痍である。


「おかえりなさい。」

「おかえりじゃんー。」


返ってきた声は二つ、いずれも女性のようだ。

一人は、一方通行・打ち止めと同じく、この家に居候している、どこか品のある二十代後半の女性、芳川桔梗。

もう一人は、自宅にも関わらず、緑色のジャージを部屋着として着用している二十代半ばの女性、黄泉川愛穂。

ちなみに、打ち止めのお小遣いを渡してあげたのは、この黄泉川である。

一方通行から見れば、活発な少女から、知的な大人の女性、面倒見の良い明るい女性、

と全方位外交を可能としているハーレム王国である。

しかし、ロリコン疑惑のある彼の場合は、それすらも打ち止めに一方通行(いっぽうつうこう)だが(疑惑)。
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/08(月) 22:30:14.92 ID:qtXMbx20


「おィ、黄泉川。オマエ、今日学校でやることあったンじゃなかったかよ?」

「あー、ダルいから止めたじゃん。 体育教師はそれほど事務的な仕事はないじゃんよー。」

「・・嘘つけ、職務怠慢だろォが。」


文句を言いながら、食卓テーブルの椅子にドカッとメロンとコーヒーの入った袋を投げ置く一方通行。

座って雑談していたらしい二人は、興味津々でそれを覗き込んだ。

最初に、芳川が眉をひそめ、一方通行を見やる。


「また、君はこんなにコーヒー買ってきて・・、重度のカフェイン中毒なのかしら。」

「ブラックなンだから健康にさして問題はねェよ。文句を言われる筋合いもねェ、今更。」

「おッ!? これ、メロンじゃん! 久しぶりじゃんー、こんなデッカいメロンー。」


凛とした澄んだ声で咎めるも、まるで相手にしない一方通行、このやり取りは日常風景である。

芳川が教育上よろしくない彼の行動を咎め、黄泉川が殴るなり怒鳴るなりで叱り付ける。

おまけに、抵抗しようにも、能力発動の権限は打ち止め自身が握っているときた。

ただでさえ、性格の歪んでいる彼がいずれの女性にも心が揺れ動かないのも無理はない。

言い合う二人を差し置いて、子供のようにメロンを抱きかかえてはしゃぐ黄泉川。

彼女に備わりついている二つのものも、メロン級だったが。
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/08(月) 22:33:28.25 ID:qtXMbx20


「それねー、黄泉川からもらったお小遣いで、ミサカが買ったんだよ!

 ってミサカはミサカはドーン!と胸を張る!」

「あら、打ち止めがコレを買ってきてくれたの?」

「う゛〜、自分のお小遣いを使ってまで・・、よくできた子じゃん〜。」


知り合ったばかりの滝壺理后が一緒に選んでくれた大きいメロン。

興味深そうにメロンの手触りを楽しむ芳川に、打ち止めの優しさにホロリとくる黄泉川。

彼女が子供を持つようになるのはいつの話になるのだろうか。

そして、本日何度目かは分からないが、満足そうに微笑む打ち止め。


「おい、そのメロン、俺のモンじゃなかったのか・・?」

「えー、二人がこんなに喜んでくれてるんだから、みんなで食べた方が美味しいよ?

 ってミサカはミサカはコロッと心変わりしてみるー。」

「・・・あァ、そうですか。」


こちらも、本日何度目かは分からないが、機嫌の悪そうに舌打ちする一方通行。

打ち止めに対して少しでも感謝の意を持った彼は、なんとなく損した気分だった。

ちなみに、このメロンは打ち止めの持っていたお金では賄いきれなかったため、結局、一方通行も自腹を切っている。

よく考えなくても、滝壺の1000円をプラスしても、買うのが無理なことは明白だった。
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/08(月) 22:35:38.24 ID:qtXMbx20


「よーし、じゃ、お姉さんがメロンを叩き割ってやるじゃん!」

「叩き割られたら食べるところがなくなっちゃうから、私が切るわね。」


ひ、ひどいじゃん・・。と涙目になる黄泉川を無視して、彼女から包丁を奪い取る芳川。

元々、なんとなく近寄りがたい雰囲気を醸し出しているため、妙に包丁が似合う。

包丁を振り上げようとするが、ピタッと止めて、左手で一方通行を手招きする。


「一方通行、ズレると危ないから抑えておいて。」

「何で俺なンだよ、黄泉川がやりゃ良いだろォが、怪力なンだからよ。」

「ほら、さっさとスイッチ入れて。能力なら絶対ブレないでしょ。」

「・・・人遣いが荒ェ女。」

「誰が怪力じゃん?」


愚痴愚痴しながらも、チョーカーの電源を入れ、メロンを両手で抑える一方通行。

ちなみに、芳川が間違えて一方通行の腕を切ってしまった場合、芳川の腕が弾け飛ぶだろう。

ズッ、と切り込み、ガリガリ、と鈍い音を立てた後、ストン、と綺麗に縦に割れた。

すると、新鮮そのもので、食欲をそそる、水気のある中身が披露される。

間髪入れず、四つに切り分ける芳川、研究者だった割に、意外と器用な包丁捌きを見せていた。

そして、なぜかそれを物欲しそうに見つめる黄泉川は、若干拗ね気味である。
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/08(月) 22:38:32.37 ID:qtXMbx20


「お皿持ってきて、愛穂。」

「はいはいー、じゃん。」

「・・なァ、自分の分が一番大きいように切ってないか?」

「気のせいよ。」

「わーい! メロンだぁーッ!ってミサカはミサカはトン!チン!カーン!」

「おい、行儀悪ィから止めろ。」

「貴方がそれを言う?」

カンカン!とフォークで皿を叩く打ち止めを見て、やかましそうに顔を歪める一方通行。

彼が人に行儀だの何だのを言っているのが面白かったのか、思わずクスリとくる芳川。


「「「・・、それではみなさんご一緒にいただきまーす(じゃん)。」」」


「君もいただきますしなさい。」

「ざけんな。」

「あら嫌だ、まだ反抗期終わってないのかしら。」

「うっせェ。」


母親に対して反抗心剥き出しにする子供のように振舞う一方通行。

彼が素直に「いただきます」をしても、それはそれで気持ちが悪いが。

彼の無作法っぷりを見た打ち止めが、ムッと口を挟んだ。
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/08(月) 22:39:54.82 ID:qtXMbx20


「だめだよー、ちゃんといただきますしないと。食べ物に対する感謝でもあるんだからねっ、

 ってミサカはミサカは貴方に礼儀作法を叩き込むっ!」

「子供にまでそんなこと言われるなんて、学園都市第一位も堕ちたものよねぇ。」

「子供への悪影響じゃん、反面教師じゃん!」


女性3人にボッコボコにいちゃもんをつけられたため、心外だが、仕方なく手を合わせた。

目を閉じて、食物への感謝を込める。


「イタダキマス、・・・これで良いのか?」

「良くできましたって、ミサカはミサカは褒めてあげるっ!」

「やればできるじゃない。」

「これからもちゃんと続けるじゃんよー。」


かなりバカにされているようで、さらに機嫌を損ねる一方通行、まるで子ども扱いである。

しかし、3vs1ではどうにも分が悪かったため、黙ってメロンにかじりつく。


「あー、ダメダメ、私が世に伝わるシムケン食いって奴を教えてやるじゃん、こうやってー・・、」

「これ、悪い例だから、気にしないで食べなさい、行儀か悪いだけだから。」


がぶがぶがぶぐしゃーッ、とすごい勢いでメロンにかじりつく黄泉川。

それを見る前に、既に打ち止めは口元を濡れ濡れにさせてしまっていた。

その口で、一方通行に微笑みながら尋ねる。
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/08(月) 22:40:43.69 ID:qtXMbx20


「ねぇ、美味しい? ってミサカはミサカは貴方に感想を求めてみる!」

「あァ・・? まァまァってトコだな・・。」

「えー、もっと気の利いたことを言ってほしいかもー、ってミサカはミサカは不満たらたらー。」



それを気にせず、再びメロンにかじりつく一方通行。

別に質問に答えたくなかったわけではない、機嫌が悪いわけでもない、ましてやメロンが食べたかったわけでもない。

彼女の笑顔を見たとき、ふと緩んでしまった口元を隠すため、それを彼女には見られたくはなかった。


「おら、口、汚れてンぞ。」

「わぷっ!?」


手元にあった白布巾で、打ち止めの口元を優しく拭いてやる一方通行。

少し驚いたものの、笑顔のまま、それにあやかる打ち止め。

その微笑ましい光景を、目を細める黄泉川と芳川。

こんな何気ない生活が、いつまでも続けば良いと心から思った瞬間だった。



76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/08(月) 22:43:44.94 ID:qtXMbx20

今回は、短い上に、「アイテム」分なしという暴挙回でした。

次回からは本腰入れてラストスパートに入るので、目を通していただけると幸いです。

では、おやすみなさい。
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/08(月) 22:47:50.70 ID:seh9g/so
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/08(月) 22:48:19.23 ID:jeetFi6o
乙おつです!!
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/08(月) 22:49:55.32 ID:tXGthEEo
乙乙
いいなぁこのほのぼのした感じ
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/08(月) 23:04:55.26 ID:x.wtWtU0

おもしろかった
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/08(月) 23:15:02.58 ID:OumEA.2P
おつ!
とうとうラストスパートか
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/09(火) 11:03:24.25 ID:RqBuETso
乙 
83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/09(火) 15:09:58.98 ID:gJWXMwDO
おつめるへん
84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/09(火) 19:12:16.54 ID:qMr3WgMo
こういうのを読んだあとだと、原作が鬱展開過ぎて読めない
85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/09(火) 21:31:30.89 ID:Az52oDoo
そろそろ全裸待機
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 22:30:30.88 ID:6HzjlX20


おばんです。

今回から最終章ということで。

では、投下します。
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 22:31:24.72 ID:6HzjlX20

―――――


みなさん、ご機嫌よう、お久しぶりです、いかがお過ごしでしょうか、浜面仕上です。

少し前までは、スキルアウトのリーダーやら何やらをやっていましたが、解体と同時に、根無し草に。

今では、学園都市の暗部組織「アイテム」とやらの下部組織で、雑用をやらされる日陰過ごしの毎日です。

先日、ちょっとした喧嘩に巻き込まれ、足を痛めたせいで入院していましたが、本日、無事退院することができました。

さて、自分は「アイテム」が所有する隠れ家の一つに来ています。

「アイテム」の四人が、わざわざ自分のために退院祝いと称して、

パーティー的なものを企画してくれたようで、現在も楽しんでいるところなのですが。


「う〜ん・・・、はーまづらぁ。」

「zzz・・。」

「・・・結局、サバ缶が・・、すぴー・・。」

「・・も・・、これ以上、超食べられませ・・。」


この状況は・・、どうなってやがるんだっ・・?
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/09(火) 22:32:48.09 ID:z0EbHJEo
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/09(火) 22:33:45.29 ID:a5AHQvo0
超待ってた!
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 22:33:49.78 ID:6HzjlX20


大量の空き缶に、お菓子や食べ物の袋、残骸で散らかりまくった部屋に浜面仕上は居た。

人の住めるような環境ではない部屋に、唯一ある大きいシックな茶色のソファで一人寂しく、スルメをかじっている。

ゴミだらけの部屋を見渡すと、四人の少女がふしだらに寝っ転がっているのが目に入った。

真っ先に目に入ったのは、自分のすぐ横で、美しい脚線美を持ちながらも、それを投げ出して、

浜面の右半身に、その身を預けている茶髪ロングヘアの少女、麦野沈利。

少女と言うよりも、女性と言った方がいくらかしっくりくるかもしれない。

普段は大人びた雰囲気で、超能力の実力も学園都市内で上から四番目、そして、「アイテム」の中では最年長

ではあるが、今の彼女は、深夜まで続いた飲み会から帰ってきたOLのような、かなりだらしない状態にあった。

そして、足元に目を向けると、黒の、おかっぱに近い髪型をした、ピンク色のジャージを着ている少女、滝壺理后。

こちらも、ひどく酒に酔っているらしく、目を閉じて眠ったまま、ピクリとも動かない。

正直、普段からボーッとしていて、あまり今の状態と変わらないため、本当に寝ているかどうかも怪しいが。
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 22:36:30.83 ID:6HzjlX20


少し視線をズラすと、部屋の真ん中にある丸テーブルに突っ伏したまま、何やらいびきをかいている金髪の少女、フレンダ。

彼女の手元には、大量の空の缶詰が散乱しており、その中のいくつかを大事そうにかき集めたまま、寝ている。

その向かい側のカーペットの上に大の字で寝ている小柄な少女が、絹旗最愛。

こちら側に足を投げ出して寝ているので、薄桃色のふわふわセーターから覗く可愛らしい下着が丸見えである。

計算された角度を常に保っている絹旗も、眠りに落ちている間はさすがに無理らしい。


「(絹旗の奴・・、見えてんだっつーの・・。)」


無防備としか言いようのない、それでも、学園都市を裏側から突き動かしているという「アイテム」の四人。

酔い潰れた彼女たちのそれぞれに、毛布の一枚でも掛けてやりたいところだったが、

麦野がその身を自分にもたれかかったまま、爆睡しているので、動くに動けない状況にあった。

少し右横に視線を移すと、麦野の少々乱れたブラウスの中から、チラリと、たわわとしたものが見える。
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 22:38:58.54 ID:6HzjlX20


「(・・・・くっそ、この生殺しっぷりは、幸か不幸か分かったもんじゃねぇ・・。)」


普段は、麦野たちの異次元的能力に戦々恐々としているが、

こうもノーガードな姿を見せられると、盛りの男して、かなりムラムラきてしまうものがある。

他の三人も、まだ若いとはいえ、妙な色気を纏っていた。

手を出せば生命的な意味でアウト、出さなくても理性がパンクする的な意味でアウト。

苦悩する少年。


「(・・そもそも、どうしてこんなことになったんだったっけか?)」



それは遡ること、6時間ほど前のこと。



93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 22:41:17.51 ID:6HzjlX20

―――――


「やっと、退院かぁ・・。」


元入院患者・浜面仕上は、迎えに来た麦野(最も意外)が持ってきてくれた普段着に着替え終わり、

満足に立つことのできるようになった足をベッドから下ろすと、久しぶりに全身を使って背伸びをする。

病院服よりも、やはりいつもの茶のジャージが丁度良い、彼はそう実感した。

かなりの年季物で、随分とボロボロになっていたが、着慣れているジャージで思い出深く、

誰かにとやかく言われるまでは変えたくない、と何気ないポリシーを持っていた。

嫌々言っていた味の薄い病院食や病院独特の臭いや雰囲気も、今となっては名残惜しい。

しかし、彼にとっての一番の心残りは、彼の横に居る美人(必須事項)ナースだ。

その美人ナースはいつも自分に微笑みかけてくれる、もちろん今も。


「ちょっとアンタ、何で顔が緩んでんのよ。」

「おっ、おう!? 何でもねぇっ! ようやく退院できる喜びに打ちひしがれてただけだっ。」

「喜びに打ちひしがれるだけなら、鼻の下は伸びないと思うんだけど。」


何て洞察眼に優れた女なんだッ・・、と冷や汗一つの浜面。

恐らく、彼女と付き合う男性が浮気をすれば、半日でバレるだろう。
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 22:43:25.86 ID:6HzjlX20

そのやり取りを見ていた美人ナースがクスクスと笑っていた。

浜面と麦野は不思議そうに、にこやかに微笑む彼女を見やる。


「ああ、ごめんなさい。お二人があまりにも仲良さそうでしたから、

 ・・私みたいなのがこんなこと聞くのもアレなんですけど、付き合ってらっしゃるんですか?」

「!?」


今のやり取りのどこが、彼らがカップルに見える理由になっていたのかは分からなかったが、

思わず、過剰に反応してしまう麦野。

意識しすぎれば、しすぎるほどドツボにハマってしまうパターン。


「・・ああ、いやいや。そんなんじゃないっスよ。」

「あぐっ!?」


キッパリ、と否定する浜面の言葉が、鋭利な刃物のように麦野のセンチなハートに突き刺さった。

彼の発言に対して、とやかく言うことはできなかったが、彼を想っている彼女にとっては、かなり心が痛む言葉である。

言っている浜面も本心から言ってるのだろう、ヘラヘラと笑っていた。
95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 22:46:39.04 ID:6HzjlX20

「あら、そうだったの、ごめんなさいねっ。」

「・・いえいえ、個人的には貴方の方、がふッ!?」

「アンタはいつも一言多いのよ。」


浜面が余計なことを言うだろうと肘を構えていたが、

案の定、口説きにかかったので、肘鉄を喰らわせる麦野。

退院当日の病み上がりの男とはいえ、浜面なので容赦はしないようだ。

クスクスと微笑み続ける美人ナース。

この美人ナースの笑顔を拝めるのもこれで見納めかと思うと、かなり物寂しい感じだ。

そんな彼の心中を探ったのか、麦野がさらにチャチャを入れる。


「そんなにこのナースさんが良いなら、もう一度ココで入院必至の身体にしてやっても良いのよ、はーまづらぁ?」

「ばッ、馬鹿! お前のは冗談に聞こえねぇよっ!」


あまりにも彼女の発言が冷たい声色だったので、情けなくも慌てふためく浜面。

ちなみに、麦野は割と本気で言っていた。

彼が他の女性の色目に引っかかるのが、それほど嫌だという証拠である。
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 22:49:45.70 ID:6HzjlX20


「い、いや・・、俺なんかのためにわざわざ病院にまで足を運んでくれるなんて、何か悪かったしよ・・。」

「別に・・、ジャンケンで負けたから、私が嫌々来ただけよ。」

「ああ・・、そんなことだと思ったよ。」


何を期待していたわけでもなかったが、意味もなく肩を落とす浜面。

やがて、監獄のようだった病院から出て、久しぶりに青空の下に解放される。


ここで、麦野は2つの嘘をついていた。

1つ目は、ジャンケンで「負けた人」ではなく、「勝った人」がお迎え役だったこと。

ジャンケンで負けた人が。なんて彼に失礼な決定方法を、彼女を含めた「アイテム」がするわけがなかった。

もちろん、「負けた人」が迎えに行くことが失礼だ、などと口に出して言えるような彼女たちではなかったが。

2つ目は、彼女は嫌々ではなく、逆に、嬉々として迎えに来たこと。

お迎え役に抜擢されることにより、浜面と二人きりになれるチャンスを掴み取れる上、

面倒な浜面退院パーティーの最終準備が免除されるからである。

それに、絹旗やフレンダならともかく、要警戒人物である滝壺を、

浜面を二人きりにさせるくらいなら自分が行った方が良いに決まっている。

これらのことをもちろん、浜面に正直に言えるわけがなかった、言う必要もないが。

さっきのナースへの彼の発言からも察することができるように、

彼にとって、麦野はまだ、そういう存在ではないし、見てもいないのだ。

彼が、ただ単純に、麦野のことはタイプではないからか、

自分なんかが麦野のような女性にはつりあわないと謙遜していただけなのか。

どちらにせよ、浜面本人にそれを聞けるわけがなかった。

彼女の取るべき手段は、外堀を埋めていくように、彼の心を自分側に引き寄せるしかないのだ。
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/09(火) 22:51:57.59 ID:z0EbHJEo
むぎのんかわいい
せめてここのむぎのんは幸せになって欲しい・・・
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 22:53:40.75 ID:6HzjlX20

そんなこんなを考えていたので、いつの間にか麦野は、浜面より前を歩いているようだった。


「麦野。」

「・・何よ。」


唐突にかけられる声に、ほんの少しだけ肩を震わす麦野。

まさか、自分の考えていたことが口にでも出ていたのだろうか、と心の中ではビクつきながらも、

平静を保ってみせた麦野は、なんとか無愛想な返答を絞り出し、振り向いた。

できるだけ、自分の心が彼に垣間見られることのないように、平然とした表情を作りながら。

頭の中がてんやわんやの麦野とは対照的に、浜面が落ち着いた雰囲気で口を開いた。


「いや、今言うのもアレなんだけどよ、色々と悪かったな・・、入院中。

 たぶん、滝壺や絹旗たちと比べて、麦野が一番多くお見舞いに来てくれたと思うからさ。

 一番仕事量が多いはずのに、ちょくちょく顔出してくれてありがとな。」

「あ、うん・・・。」


どんな言葉が返ってくるのか分からず、全方位の完全防御で構えていたが、

まさか、このタイミングで彼の口から感謝の言葉が出てくるとは思いもしなかった。

そのせいで、気の利いた言葉を返すことは出来なかった自分が悔やまれる。
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 22:59:08.65 ID:6HzjlX20

ちなみに、彼女が一番多くお見舞いに行った、というのは事実である。

麦野自身は、ライバルである滝壺や絹旗が何回、彼のお見舞いに行ったのかは把握し切れていなかったが、

かなり病院に足を運んだという自覚はあった。

なぜ、そんなにもあしげなく通っていたのかというと、

もちろん、この浜面の入院という機会をみすみす逃すわけにはいかなかったからである。

入院患者の浜面にとっては、かなり不謹慎な話ではあるが、麦野にとっては棚からぼた餅だった。

普段は他の三人が居るため、満足がいくまで会話することはできなかったし、

できたとしても、三人を交えたクロストークになってしまうため、自分の言いたいことが言えないときもあった。

だからこそ、願ってもないアタックチャンスだったのである。


「・・ま、毎日のように私が行くことで、アンタの自然治癒に焦りをかけたのよっ」

「な、なんだそりゃ・・。」


頭で様々に考え抜いた結果、わけのわからないことを言ってしまう麦野。

学園都市第四位の超能力を演算する頭脳でも、色恋沙汰のベストな思案は不可能だったようで。

素直に、浜面のことが心配だったから、と言うことができれば、もちろん、それに越したことはないが、

それでも、そんな距離の近い、恋人のような存在にかけるような言葉を吐けるほど、彼との距離はまだ縮まっていない。

焦りは禁物、というのを何よりも彼女はわきまえていた、恋愛をする上でのベタな鉄則の一つ。

つまり、麦野が、彼を気遣った角のない言葉を言っても、浜面は不信がるだけなのだ、という結論である。
100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 23:04:02.75 ID:6HzjlX20

「ああ、あとさ、買ってきてくれたマフィンとかアップルパイも美味かったぞ。

 どっちかっていうと、そっちの方が俺の治癒力にエネルギーがいった感じだなっ。」

「・・あぁ、そう。」

「な、何でそこに急に元気なくすんだよ・・。」

「別に何でもないわよ。」


彼が気を利かせて言った言葉が、気に障ったわけじゃなかった。

彼が、自分が食べたお菓子は麦野が「店で買ってきたもの」と未だに思っていることが、麦野の気分を損ねた。

言うまでもなく、それらすべては麦野が空いた時間を使って、「手作りしたもの」である。

嘘のように聞こえるかもしれないが、彼女はなかなか言うタイミングが掴めず終いだった。

時には、わざわざ買ったお菓子作りの本を見ながら、時には、恥を忍んで同僚のフレンダに頼み、教えてもらいながら。

血の滲むようなとまではいかないが、彼女が一生懸命に想いを込めて作ったそれらは、

彼の口には届いたものの、心には届いていなかったようで。

彼女が自分で手作りだと言えば済む話だが、それができなかったから、彼女はやり場のない思いのままなのだ。

自分の気持ちが相手に伝わることがない、口に出すこともできない。

いつしか、いつになったら彼に恋人のような、最も近しい存在が言うような言葉をかけてあげられるのか、

彼女らしくなくも、深夜に一人で感傷に浸ったときもあった。

それのせいで、お菓子をヤケ食いしてしまったりもしていたのだ。(それを滝壺に見られたりもしていたが。)

考えても考えても、いくら考えても、正解が見つからなかった、そして、彼の退院の日を迎えてしまったのである。
101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/09(火) 23:05:37.46 ID:Y/3rFAcP
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 23:07:17.37 ID:6HzjlX20


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


退院する雑用を病院まで迎えに行くという私情で、下部組織が運転する車も用意することができず、

結局、歩いていつもの隠れ家に帰らなければいけなかったのだが、終始、無言になってしまう二人。

絹旗に、抜け駆けで寄り道せず、真っ直ぐ帰ってくるようにと釘を刺されているため、

気晴らしのために、どこか気の利いたお店に入ったりすることはできなかった。

足取りは自然と重くなっていき、どんどん隠れ家までの道のりが遠くなっていくように感じられるばかりだ。

麦野は緊張で浜面の表情を伺えず、浜面は麦野の表情を伺ってばかりだった。


「(私のせいよね・・、私のせいだ・・。あぁ、もうっ・・。)」

「(やっぱ、機嫌悪いよな、麦野・・。いつもより雰囲気が怖ぇ気がするし・・。)」


この静寂が、この時間が、早く過ぎ去ってくれるように、そう思うばかりだった、そう思うことしかできなかった。

彼女の心は完全に怯えたままで、言葉を吐くことは愚か、見つけることもできなかった。

自分が一番願っていた二人だけの時間が、今までで一番苦痛のひと時になる。

心を躍らせて彼を迎えに行ったはずが、自分の振る舞いのせいで、その楽しみのすべてが暗転してしまった。

日が沈んでいき、その暗闇は、彼女の心にも影を落とし始めていた。

日曜の夕方という部活帰りで遊びほうける学生が多い中、そんな喧騒は彼女の耳には程遠く、

カツンカツン、という麦野の不機嫌なハイヒールの音だけが、夕刻の学園都市に悲しく響いていた。

103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 23:10:09.67 ID:6HzjlX20

―――――


「結局さー、綺麗にしてもどうせまたすぐ散らかすってー。」

「そんなこと言ったって、麦野が掃除しようって言い出したんですから、超仕方ないでしょう。」

「隠れ家の掃除って、いつもはまづらがやってくれたもんね。」


こちらは、お馴染みの「アイテム」の隠れ家の一つである、灰色の寂れたマンションの一室。

麦野が浜面を迎えに行っている間に、滝壺、絹旗、フレンダの三人はせっせと部屋掃除に励んでいた。

部屋中に散らかったゴミやら食べ物の袋やら空の缶詰やら何やらをすべてゴミ袋に入れて、外に出しておく。

ズレまくったカーペットやソファの位置を元の場所に戻し、床の埃は全部掃除機で吸い取る。

普段から彼女たちには清潔を重んじる傾向が、ほぼないに等しかったため、

雑用係の浜面が入院してしまったせいで、この部屋は見るも無残な状態になっていた。


「それにしても麦野、無表情を保ってましたけど、超にっこにこで出て行きましたね。」

「結局、麦野って、ああ見えて喜怒哀楽制御できないタイプだよねー、最近知ったことだけど。」

「私もはまづら迎えに行きたかったな・・。」
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 23:15:13.86 ID:6HzjlX20


ちょっと出て行くだけにも関わらず、麦野は気合十分で部屋を出て行っていた。

鏡の前で何回も自分の姿を確認し、髪を幾度となくとかし、服装すらも気にかけているようだった。

最近、というかここ1ヶ月に限ってのことだったが、彼女の様子が明らかに以前とは変わっていた。

恐らく、浜面と二人きりの機会が増えたための、彼女の気持ちの変化が大きく影響しているのだろう。

今までは水面下に沈んでいた想いが、ここに来て表面化してきたらしい。


「麦野って浜面のこと、好きだったりするんでしょうか。」

「さぁねー、麦野の考えることって、ある意味滝壺さんより理解不能なところあるし。」


当然ながら、フレンダは麦野の想いには気づいている。

薄々感づいてはいたのだが、マフィン作りを教えて欲しい、と頼み込まれたときに確信した。

ちなみに、フレンダの狙いは麦野自身であり、彼女は麦野を手中に収めたいというレズビアンである。

それでも、それ以上に彼女の幸せは願わなくてはならない。

彼女は、同姓同士の恋愛は、いずれ、絶対に乗り越えられない壁にぶつかることが分かっているからだ。
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 23:19:13.14 ID:6HzjlX20


「ま、私は浜面のことなんてどうとも思ってませんけと・・。」

「へぇー。」

「何ですか、そのニヤニヤ顔は・・。」

「絹旗も結構浜面にベタベタなところあるから、ひょっとしてー、って思ったのよー。」


浜面にも言われたように、絹旗はその減らず口とは裏腹に、知り合いに依存するタイプである。

年齢が年齢のため、まだまだ誰かに依存したいものなのだろう。

それを素直にできないのは、環境と性格、あるいはその年でレベル4という優秀すぎる能力をもったせいかもしれない。


「別に・・、使い勝手の良い奴隷で・・・、良い兄貴みたいなものでしょうか。」

「・・結局、絹旗ってブラコン?」

「どうしてそういう結論に至ったのか、小一時間使って話してもらえますか?」

「絹旗もさー、素直に私らに甘えたら良いのに。」

「・・甘える、というのが私にはよく分かりませんし、別に今の私には超必要のないことです。」


プイッとそっぽを向き、ゴミ袋の開け口をきつく縛り始める絹旗。

その小さな背中を見て、フレンダは少し寂しく思った。
106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 23:20:29.66 ID:6HzjlX20

普通の環境の中で、普通の生活を送っていれば、普通の子供であったならば、

12,3歳という年齢である以上、勉強もそこそこに、男女問わず遊び倒す時期だ。

男の子であれば、はつらつとスポーツをしたり、女の子であれば、オシャレに気を遣う時期だ。

彼女はそういった時期を少しも体験していない、既に精神がほとんど大人になってしまっている。

いや、大人にならざるを得なかったのだろう。

フレンダ自身も、絹旗の過去に何があったのかは知らない、率直に聞くのも野暮な話だ。

「アイテム」の全員が、何かしらの闇を持っている。

麦野がレベル5にまで上り詰めた経緯、絹旗がその年齢でレベル4になった経緯、

滝壺が「体晶」という身体に想像以上の負担をかける物質を使わなければならない能力を持った経緯。

しかし、それらは暗黙の了解で、尋ねることは許されない。

暗部組織というのは、戦力の価値のみで繋がれる集まりだ、それ以上の個人的感情は必要とされていない。

それでも、今となっては、「アイテム」は戦力の価値だけの繋がりではない、フレンダはそう思っている。

だからこそ、お互いの胸中を吐露してほしいと思うのだ。
107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 23:22:31.73 ID:6HzjlX20


「結局、滝壺さんはどうなの、浜面のこと。」

「・・はまづらのこと?」

「うん。」

「好きだよ。」

「・・それは、どういう意味で?」

「意味なんてあるの?」


滝壺との、この手の会話は水掛け論になるばかりである。

歩くブラックボックスの彼女に恋愛沙汰のことを聞くのは意味がないわけで。

そんな滝壺が、眠たそうな目で、壁にかかっている時計を仰ぎ見る。

今は夕方の6時少し前、麦野と浜面がそろそろ帰ってくる頃だろう。


「さて、準備は超整いましたね。」

「結局、ケーキは隠しておいてよ、もったいぶりたいからね。」

「うん、ばっちりだよ。」


滝壺が、大きなケーキが冷蔵庫にしまってあるのを再確認する。

部屋も塵一つない、完璧に美しい、清潔感溢れる部屋だ。

普段、鼻をつまみそうになるほどの汚らしい部屋なだけあって、浜面は驚くことだろう。


「麦野、寄り道とかしてないよね・・。」

「さぁ、一応、しないようにと言っておきましたが、麦野が従うかどうかは分かりません。」

「・・まだかな。」


三人の少女は、プレゼントを待つような、そんな心持ちで、彼らを今か今かと待っている。
108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/09(火) 23:26:02.86 ID:6HzjlX20

今回はこんな所です。

最後の方がやや粗めになってしまいましたが、ご容赦ください。


約2週間ぶりに、やっと渦中の浜面が出てきました。

途中で、上条禁書やら通行止めやらに寄り道しすぎたせいです。

浜面を中心にしないと、色々と進まないんですが。


では、おやすみなさい。

109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/09(火) 23:31:30.73 ID:RqBuETso
GJー
110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/09(火) 23:37:50.76 ID:z0EbHJEo
乙乙
続き期待してる
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/10(水) 00:13:40.17 ID:gd1akZko
112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/10(水) 00:20:33.59 ID:/Cv5aaU0
やっぱりはまづら出てくるといいな
でもこれで最終章かぁー
もっと読みたい
113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/10(水) 00:21:16.28 ID:bihh9NYo
おつおつです
むぎのんかわえー
114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/10(水) 00:44:37.41 ID:YTtrw6DO
おつむぎのんー
115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/10(水) 01:35:06.81 ID:x/K2SKo0
おつんこー
116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/10(水) 04:26:00.47 ID:VHEfjKc0
新スレここだったか
やっと見つけたww

しかしもうすぐ終わりかぁー
寂しいなぁ…。
117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/10(水) 11:01:31.94 ID:930o/PMo
あ、そーだ
VIPの禁書SS各所にネタバレしまくってる馬鹿が沸いてるから20巻未読者は気をつけろ
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/10(水) 11:04:08.27 ID:ZAZZwFMP
それらしきurlを発見
>>117ありがとう。
119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/10(水) 23:25:38.74 ID:ZAZZwFMP
こぬか
120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/10(水) 23:57:43.74 ID:eQH2C6Y0
>>117
あれってマジなの?
あんなんじゃ意味不明だからどうでもいいが
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/11(木) 02:09:55.64 ID:SHOBGxE0
>>120
80%
     *      *
  *     +  うそです
     n ∧_∧ n
 + (ヨ(* ´∀`)E)
      Y     Y    *
だってさ
122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/11(木) 03:35:32.69 ID:mkHc.9w0
……たーのしみだねー、はまづらぁー
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/11(木) 22:30:43.84 ID:9effyhIo
今から読むけどフレンダは生きてるよね?
124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/11(木) 22:37:11.69 ID:HTR6HIMo
いきいきしてるよ
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:33:51.42 ID:.rSPNuI0

おばんです。

昨日は申し訳ありませんでした、何というか、


  |l、{   j} /,,ィ//|     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ     | あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
  |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |     < 『おれは禁書20巻を熟読していたと
  fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人.    |  思ったらいつのまにか日付が変わっていた』
 ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ   | 催眠術だとか超スピードだとか
  ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉.   | そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
   ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ. │ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
  /:::丶'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ \____________________

と、いうことです。

では、投下します。
126 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:36:11.24 ID:.rSPNuI0

あと、一昨日投下分の>>95>>96の間が抜けていました。

↓を脳内で割り込ませておいてください。




「・・じゃ、このバカが本当にお世話になりました。」

「ええ、できれば同じ形で出会わないように、喧嘩もほどほどにしてくださいね?」

「あ、はい・・、どうも。」


すっかり飼い慣らされたハムスターのように縮こまってしまった浜面と、それに首輪をつける麦野がお辞儀する。

別れの挨拶もそこそこに、長くお供した病室から出て、二人は仲良く並んで下へ続く階段に向かった。

そこで、病室から顔を出し、色々と楽しい男の子でしたよ。と要らない補足をする美人ナース。

後ろから見れば、なかなかお似合いの二人なんだけどな、とも呟いた、二人には聞こえないように。

一方、ナースの言葉を聞くや否や、キッと麦野は辛辣な視線を送り、それを受けた浜面は汗ダラダラに歩き続ける。

色々と、ってあの人に何したの? と言わんばかりの目つきである。


「そ、そういえばっ、何でまた麦野が迎えに来てくれたんだ・・?」

「・・何よその言い方、私より滝壺の方が良かったかしら、腑抜けの浜面クン。」


退院早々、最も厄介な女の子の機嫌を損ねてしまったな、と後悔する浜面は、何とか話題転換をはかった。

いずれにせよ、わざわざ迎えに来てくれた彼女の不機嫌にさせてしまっては、男として恥ずべきことだ。

彼女の表情を伺いつつ、慎重に言葉を選ぶ浜面。
127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:38:21.70 ID:.rSPNuI0

―――――



時刻は六時十五分過ぎ、家庭によっては既に夕食を食べ始めている頃だろうか。

麦野が浜面の迎えのために隠れ家を出てから、2時間ほどが経っている。

退院祝いの準備は完璧に終わっているため、何もすることのない三人を、密かに眠気が襲おうとしていた。

前日、テニスやら健康ランドで散々騒ぎ倒した後に、夜は浜面の退院祝い会議をするつもりが、

夜遅くまでお菓子パーティーをしてしまい、「アイテム」の全員が、睡眠時間が致命的に足りていないのである。

しかし、さすがに今日は寝落ちするわけにはいかなかった。

下手こいて三人とも寝てしまっては、麦野の独り舞台になってしまう。

そうなっては、麦野が浜面に何をするか分かったものではなかった。

(恋愛的には麦野は奥手なので、それほど危惧することではないかもしれないが)

とにかく、何としてもそれだけは阻止しなければならなかった(滝壺・絹旗視点)。


「ふわぁ・・。」


ソファに寝っ転がっている絹旗が天井を仰ぎ見たまま、力のない欠伸をしたとき、

三人が待ちわびていた、ガチャリとドアが開く音。

そして、玄関先でする、二人の人間の足音と、がさごそと靴を脱ぐ音。
128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:39:26.73 ID:.rSPNuI0


「・・ただいまー。」


お待ちかねだった浜面の声だけが、三人の居た場所にまで届いた。

その声を聞くや否や、何を争っているのか、互いを押しのけながらドタバタと玄関先まで走ってくる三人。

家に帰った瞬間、女の子三人がお出迎えしてくれるとは、何という楽園だろうか。


「おっかえりー、浜面ー、入院生活はエンジョイできたー?」

「超おかえりなさい!!」

「・・はまづら、おかえり。」


フレンダは皮肉たっぷりに、絹旗はわざとらしく不機嫌そうに、滝壺は心の底から待ちわびていたかのように。

真っ先に玄関に辿りついた絹旗に手を引かれ、玄関から部屋の奥にまで進むと、

彼が思っていたのとは違う、部屋の全貌が目の前に広がっていた。


「おう・・、ってな、何だッ!? 何でこんなに綺麗になっちまってるんだよっ!?」


彼が入院する前は、とても人が住めるような環境ではなかったはず。

自分が掃除をしても、誰一人手伝うことのなかった彼女たちが掃除したというのか、と目を丸くしている浜面。
129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:40:54.48 ID:.rSPNuI0


「何もしないで部屋が綺麗になるわけないじゃん。」

「ふふ、浜面が入院中、私たちはクリーンを心がけていたんですよ!」

「・・2時間前から頑張って掃除したんだよ、はまづらの退院祝いのために。」


胸を張る絹旗とフレンダに対し、あっさりと白状する滝壺。

ガクンッとコントのようにズッコケる見栄っ張り二人。


「そういうこちらに都合の悪いことは言わなくて良いんですよ、滝壺さん。」

「・・うん。」

「・・いや、でもよ、何か俺、感動したぜ・・、お前らがこんなに献身的に。」


自分のお見舞いに来てくれる。

一生掃除することがないだろうと思っていた彼女たちが掃除をする。

我が子の成長を目の当たりにした親のように涙腺を潤ます浜面。

恐らく、この涙の数だけ彼は苦労したのだろう、主に彼女たちのせいで。

とにかく、彼の中では、この科学技術最先端の学園都市でも、

空から槍が降ってくるのではないだろうか、という珍妙な出来事だったのだ。


「ほらほら、浜面の退院祝いということなんですから、さっさとそのソファに座りやがってください。」

「お、おう、っていうか俺の退院祝いなんてしてくれるのかっ!?」

「・・え、麦野から聞いてなかったんですか?」
130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:42:43.68 ID:.rSPNuI0


一応、浜面に退院祝い実施の旨を伝えるように、と麦野に言ったはずだった。

絹旗が不思議そうに麦野を見やるが、彼女の様子が明らかに迎えに行ったときとは違っていることに気付いた。

表情は普段とそれほど変わらないのだが、何やら元気がないように見える。

いつもの強気な口調も影を潜めており、何よりも、帰ってきてから一言も喋っていないのだ。


「麦野?」

「・・ん、あぁっ。 うん、何だっけ?」

「いえ、浜面に退院祝いのこと言ってなかったんですか?」

「・・ああ、ごめん、忘れてたわ。」


ハッとしたように、口を開く麦野、ぼんやりしているようで。

やはり、どうも様子がおかしい、この2時間の間に何かあったのだろうかと疑ってしまう。

彼女の異変に気付いたのか、フレンダが麦野の目の前でパタパターと両手を振っている。

ボスン、とソファに座った絹旗の元に、フレンダが近寄り、耳元で囁く。


「<麦野、何かあったのかな・・?>」

「<・・思いましたか。 やっぱり何かおかしいですよね、心ここにあらずって感じですね。>」


ボーッとしている麦野、いそいそと準備を始める滝壺と、それにひっつく浜面を他所に、小声で相談する二人。

浜面が何か要らないことを言ったのだろうと思ったが、それなら麦野は怒っているはずだ。

しかし、彼女は怒っているというより、快活さが失われているようだった。
131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:43:56.53 ID:.rSPNuI0


「<・・一応、パーティームードに巻き込んでみますか。>」

「<うーん・・。>」

「<とにかく、このままだと麦野が超情緒不安定で能力暴発とかしちゃったりするかもしれません。>」

「<結局、それだけは何としても避けたいもんだね・・。>」


冗談ではあるが、それに近い爆発は起きてしまいそうである。

静かな麦野は何かの前兆のようにしか思えない。

二人が囁き会議を終えた頃、特大ケーキが運ばれてきた。

その顔に微笑みを全開にした滝壺によって、部屋の真ん中にある丸テーブルの上に、ドン、と置かれる。


「・・どう?」

「・・ぅ、うおおぉぉっ、こりゃ傑作だなっ!!」


浜面を虜にしたのは、厚さはそれほどでもないが、幅がやたら広い円型ケーキだった。

目分量でだいたい、直径20cmくらいの大きさで、厚さは5cm程度といったところだ。

ケーキの上にはたくさんのイチゴが所狭しと飾られており、生クリームは、これでもかというくらいに塗られている。

市販の板チョコを砕いたかのような大雑把な飾りや、いつぞやの余り物のようなロウソクも立っていた。

女の子の作るケーキにしては、遊び心が足りない気もするが、

普段あまり料理をしない彼女たちにそれ以上を求めるのは酷な話だろう。

それでも、退院したばかりの浜面にとっては、十分すぎるほどの出来であることには違いない。

彼が思わず唸ってしまうのも、納得できる迫力だった。
132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:45:00.79 ID:.rSPNuI0


「傑作、じゃなくて超傑作ですね。」

「いやー、苦労したよこれ。結局、みんなで材料買いに行って、昼間っから速攻で作ったからねー。」

「だから、少し雑に見えちゃうかもしれないんだけど・・。」

「いや、そんなことねぇよ。っていうか、こんなケーキ食べるの自体、何年ぶりだろうなぁ・・。」

「このイチゴ、ぜんぶ私が乗せたんだよ?」

「くっ・・、イチゴを乗せただけでも滝壺の想いが俺の心にひしひしと伝わってくるようだぜッ・・。」


感動に浸る浜面を横に、麦野の調子はまだ上がっていないようで、

その様子に唯一気付いたフレンダが、心配そうに彼女を見やった。

蚊帳の外、というか自分から輪の中から外れているようにも見える。

このままだと、楽しいパーティーにはならないという悪い意味での確信が、フレンダにはあった。


「・・麦野、ちょっと来て。」

「・・な、なに?」


スッと立ち上がったフレンダは、麦野に一声かけると、彼女の腕を引っ張って、強引に立ち上がらせた。

もちろん、浜面や滝壺もそちらに目を向ける。
133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:48:14.89 ID:.rSPNuI0


「・・フレンダ、どうかしたの?」

「ああ、何か麦野、携帯を落としちゃったらしいんだ、ちょっと探してくるよ。」

「ち、ちょっと、フレンダ、何言って、?」

「そりゃ面倒だな、俺たちも手伝うって。」

「結局、目が節穴の浜面じゃ無理無理、私たちが戻るまで、三人はグータラしてれば良いよっ、

 私が電話して麦野の携帯鳴らしながら探すから、結局、どうせすぐ見つかるよ。

 途中までは持ってたって言ってるし、すぐ近くで落としたんだろうから。」

「お、おいっ!?」

「超分かりました、よろしく頼みますね、『麦野のこと』」

「うん、任せて。」


立ち上がろうとする浜面を力づくで押しのける絹旗、そして、フレンダと一瞬だけ視線を合わせる。

頷いたフレンダは、麦野の口を半ば強引に押さえ込み、引きずったまま、部屋から静かに出て行った。
134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:49:49.85 ID:.rSPNuI0


「まぁ、フレンダさんに任せておきますか・・。」

「全員で探した方が早いに決まってるのに・・フレンダの奴。」

「少なくとも、浜面じゃ、超どうにもならない問題ですよ。」

「な、どういう意味だよそれ。」

「そういう意味ですよ。」


すっかり準備係の滝壺がケーキを器用に切り分け、静かにそれぞれを用意した五つの紙皿に乗せる。

乗せられるや否や、浜面がフォークを差し込もうとする、そこで、滝壺が浜面の目の前に人差し指を突きつけた。


「・・・ケーキは全員が揃うまで、だよ。」




135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:52:03.06 ID:.rSPNuI0

―――――



「ちょ、ちょっと、フレンダ。何処行くつもりよ!

だいたい、私携帯なんか落としてないんだけどっ!」

「結局、ここまで来れば良いかな・・。」


階段を駆け上がり、フレンダが麦野を連れてきた場所は、マンションの最上階。

といっても、「アイテム」の隠れ家の一つだけ上の階、つまり、4階だ。

当然、普段は用もないので、彼女たちも4階に来るのは初めてだった。

ちなみに、4階には誰一人住人がおらず、足元の明かりも点いていないため、暗闇と静寂だけがそこを支配している。

当然、浜面たちからは、彼女たちの会話が聞かれることもない位置にあった。

フレンダが麦野をわざわざ引っ張り出して、こんなところにまで来る理由はそれだった。

向かい合う二人。

夜風が二人の長髪を静かになびかせる。
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:53:41.35 ID:.rSPNuI0


「で、結局、何があったのさ、麦野。」

「何の話よ。」

「・・浜面と喧嘩でもしたの?」

「別にそんなんじゃない。」

「そうだよね、浜面はいつもと変わんなかったもん、喧嘩してるならもっと不機嫌なはずだし。」

「そういうこと、早く戻るわよ。」

「っ・・。」


ぶっきらぼうな言葉を吐き、早々にその場から立ち去ろうとする麦野の腕を掴むと、強引に彼女を自分の方へ向かせる。

麦野があからさまな不快さを表情に出しているのが、暗がりでもよく分かった。


「だから何よ?」

「・・麦野さ、また自分の中に溜め込んでない?」

「・・何の話だかさっぱり。」

「とぼけないで、私には分かるから。」

「へぇ、アンタなんかに私の思ってることが分かるんだ、

 いつから念話能力(テレパス)の能力者になったわけ?」
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:55:51.85 ID:.rSPNuI0


はっ、と鼻で笑う麦野。

それでも、フレンダの目は麦野を見据えていた。

それが癇に障ったのか、視線を逸らす麦野。

苛立ちを隠せないのか、小さく舌打ちをする。

それでも、フレンダは続けた。


「・・そうだよ、私には分かる、麦野のことならね。」

「あっそう。」

「能力者としてじゃなくて、一人の女の子として、だけどね。」

「・・あのさ、それ以上不快な発言すんだったら、アンタでも容赦しないから。」


こんな小さなイザコザのときでさえ、麦野が発するその空気は、ピリピリとフレンダの喉を圧迫する。

それでも、唾を飲み込み、目を閉じ、少し思案したあと、再び麦野を真っ直ぐ見た、彼女の目を。

すると、彼女はすぐに視線を逸らす、先ほどと同じように、ごく自然に。

部屋に居たときとは違い、彼女には、怒りか、苛立ちか、不満かが前面に押し出されていた。

やはり、自分の中のもやもやを隠し通していたらしい、

しかし、今になって表面化したのだろう。
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:57:18.72 ID:.rSPNuI0


「・・いつまでもくよくよして、隠し続けてるから、進展しないんじゃないの?」

「あ・・?」


麦野の声が冷たさを帯びる。

それでも。

それでも、歯を食いしばり、両拳を強く握ったまま、肺の酸素をすべて使い切るように、腹の奥底から、


「結局、そうやってウジウジしてるから浜面が気にも留めてくんないんだよって言ってんのッッッ!!!!」


勢い任せで捨て身の一撃を放った、今まで一度も逆らったことがないであろう麦野に。

言った以上は、絶対に引かない、そう決心した。

麦野が黙っていられず、先に口を開こうとする。


「・・・・アンタ、」

「どうせまた、浜面に言いたいこと言えないで、自滅したんじゃないの?

 結局、いつもそうだよね、麦野はさ。

 そういえば、マフィンやアップルパイが手作りってことさえ言えてないんでしょ?

 麦野らしくないじゃん、そんなの。」

「・・それがどうかした?

 別に言っても言わなくても、無意味な話よ。」

「そういう考えだから、いつまで経っても距離は縮まらない・・。」

 浜面の入院中にアタックかけに行ったのは良いけどさ、何の進展もないみたいじゃん。」

「・・・・・。」
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/11(木) 23:59:08.04 ID:.rSPNuI0

「麦野が浜面のこと好きなのは分かってる、だからこそ私はもう見てられないんだよ・・。」

「・・、るさい。」

「どうして、好きな人の前で言いたいことが言えないか分かる?

 単純に恥ずかしさの問題もあるけどね、

 その言葉のせいで、相手に嫌われたらどうしようっていう気持ちがあるからなんだよ。」

「うるさい・・・・、」

「そういうのはね、思い過ごし。

 一つだけ言っておくけど、浜面は麦野のこと嫌ってなんかない、それだけは言えるよ。

 いい加減・・・・、少しは素直になったらどうなのさ。」

「・・・っるさいのよッッッッッッッ!!!!」


通路に反響し、階下にまで響くような、静かな夜の中での絶叫。

それでも、フレンダは引かない。
140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/12(金) 00:02:13.09 ID:Y9fr1LE0


「私は、浜面と麦野がいつも何話してるかなんか知らないけどね、さっきの二人の態度で確信した。

 結局、麦野が自分で不満を溜め込んで、勝手に苛々してるだけ・・・、違う?」


「だったら何よ・・、どうしろって言うのよ! 面と向かって好きって言えってッ!?

 アイツはね、私みたいなガサツで能力以外は何の取り得もない奴のことなんか好きにはならない・・、

 料理もできないし、気の利いた言葉もかけてやれない、見た目だけ取り繕って・・、

 まだ、私なんかよりも純粋で自然な滝壺の方が、アイツにとっては魅力的に映るはずなんだよ・・ッ」


力強さが抜け、だんだんと弱々しくなっていく声、肩を落とす麦野。

フレンダは唇を噛み締めた。


「この・・、ヘタレッ・・!」


「・・・・なに?」


「このドヘタレって言ったんだよ、麦野ッ・・、

 結局、私たちのリーダーはこんな腑抜けだったのかッてね・・!

 私はね、麦野の恋は成就してほしいって思ってる・・、滝壺さんよりもねッ!」


「・・・・・。」


フレンダの言葉が、麦野に強く突き刺さる。

口を閉じたのは何よりの証拠か。
141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/12(金) 00:09:10.31 ID:Y9fr1LE0


「私は、麦野みたいな強い女の子に憧れてた・・、それがどう?

 色恋一つに対して、足を踏み出せずに居るこのヘタレっぷりはッ・・!」


「・・私は自分の立場を十分に分かってる。

 だからまだ、今は積極的に行くときじゃないって・・・、

 触れたくても触れられない、その苦しみが・・。

 ・・・アンタなんかに、私の気持ちの何が分かるっていうのっ!?」


「結局、麦野の気持ちはともかく、誰かが好きって気持ちは十分に分かる。」


「・・・だから、アンタに何がっ、」


一呼吸。

刹那。

夜風が止む。




「・・私は麦野が好き。

 女であっても、・・大好きだよ。」




いまさらにも聞こえるかもしれない、その言葉。

今ばかりは、本当の意味を持つ。

混じり気のない、強い想いと共に。



142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/12(金) 00:12:46.88 ID:Y9fr1LE0

今回は以上です。

ちなみに、20巻は必読です。

特に終わりから15ページ目くらいが。

理由は言いませんが。

では、おやすみなさい。

143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/12(金) 00:32:18.02 ID:wouRPawo
乙おつ!おつおつ!
20巻は353ページからの流れが凄まじすぎですww
144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/12(金) 01:21:07.44 ID:CARMbLko
たーのしみだねー、はーまづらぁー
145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/12(金) 05:35:04.02 ID:ZTQ756gP
はいはいたったの2レスで全部無駄
146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/12(金) 08:16:14.31 ID:FDfbzEDO
何はともあれ乙
147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/12(金) 18:30:01.64 ID:DkZKjJEo
素晴らしいな
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/12(金) 23:42:01.97 ID:ZTQ756gP
今日はこぬか
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/13(土) 00:10:41.54 ID:DQkT2IQo
滝壺と春上は仲よさそうだな ゆっくり待つとするか
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/13(土) 00:26:04.12 ID:g7dN.ADO
また20巻読んでるのかしら
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/13(土) 01:38:13.99 ID:OZfrneMo
今日はなしかな
152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/13(土) 07:49:34.50 ID:ghDhr8I0
なしか
153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 22:22:27.66 ID:4ky72MI0


おばんです。

早速、投下します。
154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 22:24:37.09 ID:4ky72MI0


―――――



「結局、いまさらかもしんないけどさ・・、私は本気だから。」


フレンダの意志は、その目に光となって表れていた。

その真っ直ぐな瞳をかわすように、麦野は視線を横にずらす。

なんとなく、見ていられなかったからだ。

まだ明るさの残る夜の学園都市を視界に入れたまま、麦野は言葉を返す。


「・・・、どういう意味よ。」


「友達として好き、とかじゃない。

 ・・結局、恋愛対象として好きって言ってる。」


「・・そ、そうよね、アンタ。

そういう奴だもんね、別にいまさら驚きはしないわ。」


フレンダは同性愛者だ。

前々から、薄々そういう想いを麦野に抱いていたとはいえ、それに目覚めたのは割と最近のことである。

そのため、最近は彼女による過剰なアプローチが多かった。

だからこそ、いまさら告白などされても、それほど動揺することはない、はずだったが。

複雑に揺れ動く心持ちのまま、麦野が口を開く。
155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 22:25:58.85 ID:4ky72MI0


「で、それを今言って何になるわけ?」


「・・私は麦野が好き。

 でもね、麦野が浜面を好きっていうんなら、私は素直に引き下がるよ。

 そうすることが麦野の幸せならね、それを優先するけどさ。

 麦野が浜面に対してウジウジしたまま、その距離が縮まらないで、

 ゲームに飽きて、二度とそのゲームをやらなくなる子供みたいに、

 麦野が心変わりしたら、結局、私の決断は水の泡になる。」


「・・かなり失礼なこと言うようになったわね、アンタ。」


眉を潜める麦野。

お前はそのうちあの人のことを好きじゃなくなる、などと言われれば、誰だって不快な気持ちになるはずだ。

もちろん、それを否定しにかかるのが人間というもの。



「・・・私は心変わりなんてしない、自信を持って言えるわ。」


「そっか、それを聞いて安心した。

 ・・でも、結局、他のことも考えられるわけだよね。」


「他のこと?」


「・・・浜面を他の誰かに取られちゃうとか、ね。」


「ッ・・!」


「例えば、滝壺さん・・とか。」
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/13(土) 22:28:18.90 ID:3DB4xWEo
キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 22:28:20.33 ID:4ky72MI0


この少女は何を言っているのか。

この少女の口から出てくる言葉の一つ一つが自分を苛立たせる。

この少女は何がしたいのか、今すぐにでも能力で蜂の巣にしてやりたいくらいの衝動に駆られる。

両拳を強く握り、それをグッと堪える。

そのとき、自分の唇が震えているのが分かった、息が荒い。

心臓が鷲掴みにされているような苦しさ。

動揺しているはずがない、心ではそう思っていたが、身体はまるで正反対だった。


「さっき言ってたよね、麦野。

 浜面から見て、自分は滝壺さんよりも下に見られてるんだって。

 劣等感?

 でもね、それこそが麦野の悪い癖。」


「・・私は事実を述べただけ、違う?」


「強がるのは良いけどさ、後悔するよ、それ。」


フレンダの言葉は信じられないくらいに鋭く、そして、冷たかった。
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/13(土) 22:33:43.54 ID:OZfrneMo
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 22:37:51.45 ID:4ky72MI0

「さっきね、滝壺さんに浜面のことをどう思ってるか聞いたんだよね。」


「・・な、」


「『好きだよ。』って言ってたよ、即答だった。

 そして、そのあとに『意味なんてない。』とも言ってた。

 そのままの意味で、何の意味もなく好き、って解釈もあると思う。

 友達だから好き、っていう解釈もあると思う。

 でも、私はそうは思わない。

 たぶん、滝壺さんの中で、浜面が好きっていうことはもう当たり前のことになってる。

 だから、そんな言葉が少しの恥じらいもなく出てくるんだよね。」


立て続けに麦野を責めるフレンダ。

彼女の言葉は麦野の心を大きく揺さぶっていく。
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 22:40:22.04 ID:4ky72MI0


「いいの? このままだと、間違いなく、浜面は滝壺さんの手中に落ちるよ。

 浜面ってああ見えて、かなりウブなところあるもんね。

 結局、そういうタイプに対しては、積極的に攻めた方が勝ち。」


「・・・・・。」


「でも、攻める側が消極的になってると、逆に浜面は縮こまっちゃうね、

 自分が何かやったんじゃないか、機嫌を損ねるようなことしたんじゃないか、って。」


「・・、めて。」


「どうするの、麦野?

 結局、殻に引きこもったまま、自分の気持ちを押し殺したまま、今の距離感のまま、

 滝壺さんと浜面の距離が近づいていくのを、指を咥えて見ているのか、

 それとも、勇気出して、浜面に自分の想いを徐々に打ち明けていくの・・?」


「や、やめて・・。」


「私は麦野が幸せになってくれるなら、喜んで身を引く。

 でも、麦野が怖がって、縮こまったまま、来るべきチャンスを逃すようなら、その犠牲は無駄になる。」


「もう・・、やめてよッッッ!!!」


自分の耳を両手で塞いだまま、うずくまってしまう麦野。

その叫び声は、明らかな震えを帯びていた。
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 22:42:10.36 ID:4ky72MI0

それを足元に見据えたまま、フレンダはなお続ける。


「結局、私に出来ることは、麦野の尻を引っぱたいて、目を覚ましてあげること。

 失敗を恐れて、何もできないような子供みたいな麦野の背中を押してあげること。

 仲介しようって思ってるわけじゃない、

 麦野自身の力で、浜面と上手くいって欲しいんだよ・・、私は。」


言いながら、しゃがみ込み、耳を塞いだままの麦野の両手を取るフレンダ。

その手は、意外にも簡単にほどけた。

そして、そのまま強く、堅く握り締める。

それでも、麦野はフレンダと視線を合わせようとはしない。

構わず、再び口を開いた。


「麦野。」


「・・・・、ぇぐっ」


「・・浜面が麦野のこと嫌いなわけない、

 ましてや、他の人と比べて麦野を評価しようなんてことするわけない、

 結局、浜面がそうやって、身近な人をそんな風に見るような奴じゃないって知ってるでしょ?」
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 22:45:04.51 ID:4ky72MI0


「・・・でも、もぅわがんないっ」


「・・何が分からないの?」


「私は・・、ぅえ、いつも浜面には・・う゛ぅ・・、

 素直に言えないし・・、変に気ぃ遣うばっかだし・・ぐすっ、

 こんながんじがらめな、ぇぐっ、気持ちのままなんじゃ・・、

 私・・、浜面のことなんて・・、」


「っ!」


その瞬間、フレンダが掴んでいた両手を離すと、

フレンダは、その右手を思い切り、麦野の右頬に叩きつけた。

パァンッと言う鋭い音が静寂を切り裂く。


「・・ぁくっ!」


「今・・、何て言おうとしたっ!?」


唇を噛み締め、両手で包むように麦野の顔に触れる。

今叩いたばかりの右頬を右手で擦りながらも、フレンダは目を見開いたまま、続けた。
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 22:48:01.51 ID:4ky72MI0


「結局、そういうことを口に出すようなら終わりだからねっ・・、

 どうして、そんな諦めるようなこと言うのさっ・・、諦める要因なんて一つもないっ!

 全部、麦野の勝手な妄想なんだよ・・っ、それなのに、これからってときにそんなこと言って・・!」


「・・で、でも、」


「でもじゃないっ!」


麦野の顔を両手で強引に引き上げ、視線を合わせる。

彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

髪の毛もところどころがほつれているかのようにボロボロで。

彼女の弱さ、不安、恐怖がすべて表面化しているようだった。

そんな見たことのないような表情をする麦野を見て、フレンダは余計に強く心を打たれる。


「浜面は麦野のこと嫌いなんかじゃない、

 そんで、これからも嫌いになることはないよっ・・!

 だから、麦野は麦野らしく居てよ・・、それだけで十分なんだからっ・・!」
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 22:50:08.79 ID:4ky72MI0


「・・・・・ぇうっ、」


大粒の涙を流したまま、俯く麦野。

自分の言いたいことはすべて言った、これで麦野に火がついてくれれば良い。

フレンダにとって、この干渉は博打のようなものだった。

麦野にあっさりかわされても負け。

麦野が二度と立ち直れなくなってしまっても負け。

とにかく、麦野が自分の考え方を変えてくれれば、

浜面に対するスタンスを変えてくれれば、それだけで十分な成果になる。

麦野は依然として下を向いたまま、口を開いた。


「・・・、アイツってさ・・。」


「うん?」


「アイツって誰にでも優しいじゃない・・、

 アンタの言うとおり、アイツは相手を他人と比べて相対的に評価するような奴じゃないってことは分かってる。

 でも、アイツって誰にでも優しすぎるんだよ・・。

 そのためだったら、何でもする奴なのよ・・、だからこそ、難しいのよ・・。」
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 22:54:21.71 ID:4ky72MI0


「・・難しいって?」


「アイツは同量の好意をもって、平等に接する。

 それは良いことなんだけどさ・・、

 いくら何をしても、アイツの中では、その平等な好意が、一線を越えた好意になることはないんじゃないかって。」


「・・どうして? 浜面だって誰かを好きになることはあるでしょ?」


「ううん。

 例えば、アイツが誰かを好きになるとする、

 そうなると、今まで接してきた他の女の子とは明らかに隔絶されることになる、

 ・・いや、隔絶っていうのは言いすぎだけどさ。

 それでも、その子は特別な存在にはなるわけじゃない?

 そうなると、アイツはその他の女の子たちに申し訳ないように思うはずなのよ。

 だからこそ、アイツは平等のまま、みんなに接するはずなのよ。」


つまり、浜面と滝壺が好き合ったとする。

そうなると、浜面は今まで仲の良かった異性、麦野や絹旗、フレンダに対して、罪悪感が生まれる。

下手をすれば、ぎくしゃくして、今まで保っていた一定の距離感さえも崩れてしまう、ということ。

それが怖いから、浜面は女の子と付き合ったりしないのではないか、ということらしい。
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 22:56:45.43 ID:4ky72MI0


「い、いくらなんでも、それは考えすぎっしょ・・。

 結局、そんなのある意味、浜面の自意識過剰になっちゃうじゃん、

申し訳なく思うなんて、そんなの余計なお世話だし。」


「アンタは別にアイツのこと好きじゃないじゃない、一人の男としてさ。

 だから、そうやって考えられる。

 でもね、私はダメなんだよ・・、そんな風に接せられたら、私はもうアイツとは一緒には居られなくなるっ・・」


例え、浜面が誰かに一線を越えた好意を持ち始めたとして、付き合ったとする、

そうなったら、少なくとも麦野たちに変な気を遣うはずだ。


「それは浜面が、麦野の気持ちに気付いてたら、でしょ?

 アイツは麦野の気持ちになんか気付いてない、だから、そんな風に不自然な接し方になるとも思えないよ。」


「アイツが自然に接してくることが、私にとってどれだけの苦痛になるか・・ってことよ。」


「・・・・・そういうこと、か。」


よくある話だ。

フラれた相手に、翌日に何もなかったかのように、自然なまま話しかけられれば、少なからず辛くなる。

彼女は、それが嫌なのだろう。
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 23:00:03.11 ID:4ky72MI0


「でも、それはあくまでも浜面が他の人と付き合った、っていう前提の話でしょ。

 麦野が浜面と付き合えれば、そんなことないじゃない。」


「・・それでも同じことよ。」


「え?」


「私と浜面が付き合うとする、そうすれば浜面は滝壺に対しても、複雑な心持ちのまま接するわよ。」


「それはっ・・、浜面が滝壺さんの気持ちに気付いていたら、でしょ。

 とても、滝壺さんの想いに気付いているとは・・。」


「滝壺は私とは違う、私みたいに臆病じゃないし、むしろ積極的な方。

 それに、そもそもタイプが違うのよ。

 私みたいなタイプより、滝壺みたいなタイプが優しくしてくれた方が心は動くはずだし・・。」


言うまでもないが、麦野という少女と、滝壺という少女は、まるで正反対の性格、容姿をしている。

動と静、強と弱、麦野が激しく燃える炎なら、滝壺は静かに流れる水そのもの。

浜面がどちらのタイプが好きか、という問題はあるが、一般的には滝壺寄りになる、というのが彼女の考えだ。

それでも、浜面の鈍感さはかなりのものだ、滝壺の好意に気付いているかどうかも確証はない。
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 23:02:31.45 ID:4ky72MI0


「・・・本末転倒すぎるよ、そんなのっ・・!」


「だって・・、一度そう考えちゃったら、もう頭から離れなくなっちゃったのよ・・。」


フレンダは痛感した。

この少女は優しすぎる。

そんな他の女の子にまで、気を遣うような、そんな神経の擦り切れてしまうようなことを思っているなんて。

そんなことを考えたら、キリなんてなかった。

ならば、何のために浜面のことを好きになんかなったりしたのか。

他の女の子に気を遣うようなら、最初から好きにならなければ良い話だ。

その理由は簡単、そのときには既に遅かったのだ。

滝壺の想いに気付いたときには、自分はもう彼のことを好きになっていた。

何もかも手遅れだった。


「つまり、諦めるってこと・・なの?」


「・・・・わがん、ない゛っ」


「麦野っ・・。」


麦野も辛かった、だが、フレンダも同じくらいに心が絞めつけられていた。
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 23:04:41.93 ID:4ky72MI0

自分の大好きな少女が心の底から苦しんでいる。

協力していたつもりが、まったく解決にはなっていなかった。

彼女の気持ちは予想以上に壊れかかったていた。

今すぐにでも、ぐちゃぐちゃに泣き崩れている彼女を抱きしめてあげたかった。

いっそこのこと、自分が彼女を幸せにしてやりたかった。

でも、それは彼女の意志を完全に無視した、身勝手な行動。

一にも彼女の想い、二にも彼女の想い、何よりも優先されるのが麦野自身。

段々とフレンダ自身もどうしていいか分からなくなっていく。

手を差し伸べたつもりが、自分もその闇の中へ引きずりこまれていくような感覚だった。


そんな、どうにもならない状況で、救いの手は意外なところから現れる。

それは今の彼女が待ち望んでいたものか。

それとも、今は最も見たくなかったものか。



「・・・・ど、どうしたんだよ。」



まったく他のことは耳に入っていなかった。

だからこそ、気付けなかった。

気付いたとき、麦野が初めて自分で顔をあげる。



「・・・はま、づら・・?」



170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 23:08:34.70 ID:4ky72MI0


暗闇でもよく分かった、月夜に照らされた彼の姿。



現れたのは、麦野沈利の想い人。



ビクンと跳ねた心臓。



それは、最終楽章の始まりの合図。





171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/13(土) 23:10:02.67 ID:6gcw00Q0
どきどき
172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/13(土) 23:11:26.76 ID:4ky72MI0

以上です。

後先を考えてない構成にも関わらず、

今回も目を通していただきありがとうございます。

空いた時間を使って書き溜めていますが、

一昨昨日、昨日のように落ちる場合もありますが、待ってやってください…。

では、おやすみなさい。
173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/13(土) 23:12:53.67 ID:fJ9tWQAO
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/13(土) 23:13:13.27 ID:mWL6QhAo
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/13(土) 23:16:37.83 ID:UTZ8RzYo
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/13(土) 23:17:04.97 ID:6gcw00Q0

つづき楽しみに待ってる!
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/13(土) 23:20:59.87 ID:in0CJcSO
超乙
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/13(土) 23:26:15.95 ID:3DB4xWEo
乙乙
あああ続き気になるううう
179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/14(日) 00:27:15.46 ID:ZhCG0sDO
180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/14(日) 01:06:35.22 ID:eCkrYeYo
おつおつ
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/14(日) 07:38:33.57 ID:UL5i5eM0

いいところでぇぇぇ
182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/14(日) 23:30:12.86 ID:M3i9yW.0
続きが気になるww
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/15(月) 17:31:12.31 ID:y0/hJ2ko
今日も待ってる
184 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 22:56:33.84 ID:tUlT9.w0

おばんです。

すっかり二日に一回ペースが身に染み付きました、情けないことに。

では、投下します。
185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 22:59:51.49 ID:tUlT9.w0

―――――



「戻ってきませんね・・、二人とも。」


待ちくたびれたのか、カーペットにぐでーっと寝転がる絹旗。

いざパーティーだ、という矢先に二人が出て行ってしまったので、

完全に脱力してしまっているようだ。

道路や塀の上で似たような格好をしている猫をよく見るなぁ・・、と割とどうでもいいことを呟く浜面。

一方、横に居る滝壺も絹旗と同じように寝転がっている、

両手両足をピシッと伸ばしたまま、うつ伏せになっているという違いはあるが。


「ケーキが冷めちゃうね。」


「・・ケーキが、冷める?」


顔だけ上げて呟く滝壺に適当なツッコミを入れたあと、携帯の時計を拝見する。

二人が部屋を出て行ってから、十分ほどが経っていた。

状況確認のため、フレンダの携帯に電話してみたが、応答はない。

麦野の携帯にコールしたまま探している、というので無理もないが。

まだ六時半過ぎとはいえ、窓の外をカーテン越しに見ると、辺りはほとんど暗くなっているようだった。
186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/15(月) 23:01:20.16 ID:8//8B2DO
きたきた
187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:02:31.85 ID:tUlT9.w0


「やっぱり、俺も行けば良かったか・・、女二人で夜に出て行くのも危ない気がするしなぁ・・。」


「そうですね、不機嫌な麦野と鉢合った人が超危ない目に遭うでしょう、恐らく。」


「・・もきゅもきゅ。」


絹旗の代わりに麦野が買ってきたお菓子の山をおもむろに漁り、

ポッキーを取り出すと、それを一本咥える滝壺。

絹旗もそれにあやかって一本手に取ると、煙草を吸うように口元でクルクル弄ぶ。

ダメ人間の象徴のような少女二人を尻目に、

浜面は天井に目を向けながら、ソファに寝転がっていた。


「・・不機嫌かー、そうだよな・・アイツ、今日やっぱ様子がおかしいよな。」


「んー、気付いてたんですね、さすがの浜面も。」


「ああ、麦野の奴、病院出たくらいからおかしかったんだよ。」


「でしょうね、夕方にここを出て行ったときは、むしろ超機嫌良かったくらいですもん。」


ジャンケンで勝ち、浜面のお迎え権をゲットした麦野の小さなガッツポーズ姿を今でも覚えている。

しかし、先ほどは明らかに不機嫌というか落ち込んでいるというか。

恐らく、原因はこの男だろう、絹旗はそう推測していた。

彼はそういうことには絶対に気付かない鈍感さを持っている。

(今回に限っては、麦野の自爆なのだが。)
188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:03:30.55 ID:tUlT9.w0


「やっぱ、俺も探してくるわ。 そんな遠くには行ってないとは思うけどさ。」


「・・・え、いや、もう少し待ちません? たぶん、そろそろ戻ってきますよ。」


フレンダが麦野から色々と事情を聞いている頃だろう。

その中に、浜面を乱入させるわけにはいかないため、何とか引き止めようとする絹旗。

脱いでいた茶のジャージを着た浜面は、既に立ち上がって、玄関に向かっていた。


「あいつらが戻ってこないと、パーティーは始められないんだろ?

 ・・・四の五の言ってる時間がもったいないってなッ!!」


「・・ちょ、浜面っ!!」


ニカッと振り向いて笑った浜面は、靴を履き、いそいそと出て行ってしまった。

当然、絹旗はそれを止めようとするも、滝壺が彼女の服の袖を引っ張ってしまったため、

がくんと崩れ落ち、ドテッと尻餅をついてしまう。

すると、その絹旗を後ろから抱きしめるように滝壺が両腕を回し始めた。

いつもは物静かな滝壺のアグレッシヴなその行動に、思わずドキッとしてしまう。

滝壺の顔が、振り向いた絹旗の顔の寸前まで近づいていく。

お互いの吐息が鼻先にかかるところまで。
189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:04:16.77 ID:tUlT9.w0


たまらず、絹旗は声を絞り出す。



「た、滝壺さんっ・・!?」



そして、

ゆっくりと、滝壺が口を開いた。



「イチゴ・・。」


「・・・、待ちきれないんですか。」



コクン、と頷く。

今日も「アイテム」の腹ペコウサギは愛らしい。



190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/15(月) 23:05:37.93 ID:Q0puL.oo
投下北北
191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:05:39.19 ID:tUlT9.w0


―――――



「何があったんだよ・・、携帯探してるんじゃなかったのか?」


通路にへたり込んでいる麦野と、それを前にしてしどろもどろになっているフレンダ。

そんな光景を見れば、誰であっても頭の上に疑問符が浮かんでしまうだろう。


「結局、浜面こそなんでここに・・?」


ここは彼らの隠れ家の部屋がある三階の一つ上の階、

つまり、四階は普段は彼らが用もなく訪れない場所である。

携帯を探しに出た二人を追ってきたのだろうが、こんな場所にいち早く来るのは不自然だ。

状況が把握できず、複雑な面持ちのまま、浜面はうやむやに口を開く。


「いや、だって、上の階から、女の声が聞こえたからさ・・、

 この階に住んでる奴は居なかったはずだから、おかしいなって思ってよ、一応・・。」


「あぁ、そっか・・・。」


今までの会話が聞かれていたかもしれないと思うと、フレンダは耳が一気に熱くなった。

しかし、それ以上に爆発しそうになっているのは麦野だろう。

そのせいか、一度あげたはずの顔を再び俯かせていた。

そんな彼女の様子を見て、浜面が何も感じないわけがない。
192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:06:28.00 ID:tUlT9.w0


「麦野、もしかして・・泣いてるのか・・?」


「いや、こ、これはねっ・・!」


フレンダは必死に弁解しようとするが、こんなときに限って上手く退けられるような案が浮かばない。

麦野を隠すような位置に何気なく動くも、当たり前だが、誤魔化しきれなかった。

普段は見られないような、生真面目な表情をしたまま、二人に近づく浜面。

座り込んでいる麦野に引き寄せられるようにしゃがみ込むと、腕を回すように彼女の背中を支える。

浜面に触れられたというのに、麦野は無反応のままだった。


このとき、フレンダは最後の覚悟を決める。

自分にできることはすべてやった。

自分が彼女にかけたい言葉、かけるべき言葉はすべてかけた。

あとは、彼女自身がどう動くか。

自分の力ではもうどうにもならない。

自分では彼女は救えない、だから彼に任せるしかなかった。
193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:07:32.33 ID:tUlT9.w0


「大丈夫かよ・・、どうしたっていうんだっ?」


「あのさ、浜面。

 私、麦野の携帯探しに行かなきゃいけないから・・、麦野のこと、よろしくね。」


「お、おい、フレンダッ!?」


「頼んだよ。」


一言だけ残す。

それが精一杯の言葉だった。

麦野の手を握っていたその手を離し、彼女を浜面に任せるや否や、

彼の引き止める声も聞こえないかのように、フレンダは足早に階下へ消えていった。


「ちくしょうっ・・。」


ほんの少しの物寂しさと大きな悔しさが、彼女の背中から滲み出ていた。

それでも、大好きな麦野の幸せを願うだけ。

今日という日が、今という時間が、少しでも彼らの距離を埋めてくれることを祈るだけ。


いつの間にか、優しくも、しつこく纏わりつくような夜風が再び吹き始めていた。



194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:08:35.48 ID:tUlT9.w0


―――――



こんな姿は見られたくなかった。

自分が極限まで弱っている、こんな無様で腑抜けた姿を。

誰よりも、自分が想っている彼にだけは、絶対に見られたくなかった。

涙と汗でぐしゃぐしゃで、自分の顔がどうなっているかさえも分からない。

必死に自分の表情を悟られないように、

俯き、そっぽを向き、浜面とまともに向かい合おうとはしなかった。


「おい、麦野・・っ!」


「私は・・良いから、あっち行っててッ・・・・!!」


「何言ってんだよ、放っておけるわけねぇだろ・・。」


麦野の両肩を、自分の手で支えるように掴む浜面。

そのとき、初めて麦野の表情がはっきりと見えた。

それは、いつも彼が見ていた、一人の女の子でありながらも、

それを感じさせないような凛々しさを保ち続ける彼女ではなかった。

目元は泣きじゃくったせいか赤く腫れており、涙の跡がはっきりと残っている。

彼女の美しさを少しだけ補強していた化粧も少し崩れ、

異性も羨むような綺麗な長い髪もボサボサになっている。

そんなに酷くなってしまったなら、少しでも直そうとするのが普通だ。

しかし、今の彼女はそんなことを気にも留めず、ただただ泣き続けている。

少なくとも、これがいつもの麦野沈利でないことは、さすがの浜面にも理解できた。
195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/15(月) 23:10:12.14 ID:ACQYFM.o
わっふるわっふる
196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:10:27.04 ID:tUlT9.w0


「おい・・、本当に何があったんだ・・?」


「何でも・・ないっ・・。」


「嘘つけっ、何もないなら泣くわけないだろっ!?

 もしかして、フレンダに何かされたのか?」


「ちが、うっ・・!」


フレンダが一から説明してくれれば良かったのだが、

彼女は無責任にも、あっという間に消えてしまった。

今の麦野から事情を聞くのは不可能に近い。

何をすれば良いのかも分からず、脱力した彼女の身体を支えてやることしかできなかった。


「く、うぅ・・っ・・、アンタのせいだっ・・、全部、浜面が悪いんだからぁぁぁっ・・!!」


「え、・・ちょ、・・お、俺ぇぇぇッッ!?」


「うぇっ・・ひぅくっ・・・、ぇあああぁぁぁぁっ・・・!!」


散々泣いたように見えていたにもかかわらず、

まだ少女のようにわんわん泣き始める麦野。

これでもかというくらいの泣きっぷりに、さすがに動揺を隠せない浜面。

麦野の機嫌が悪いのは薄々感じつつも、

まさか彼女が泣くとは思わなかった、今更ではあるが。
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:12:00.48 ID:tUlT9.w0


「ぅぐっ・・、うぅっ・・!」


「む、麦野・・っ!」


今は何を言っても無駄なようだ。

とりあえず、恐る恐る、包むように彼女を支え続け、頭を優しく撫でてやる。

普通ならここで顎辺りに鉄拳が撃ち込まれるのだが、今回ばかりはそれがなかった。

いつもの強気な姿とは裏腹な、まったく様変わりした彼女の姿。

そのギャップに、思わず打ちのめされそうになる浜面。

普段は強気な女の子が弱っているのを見ると、何とも言えない気分になってしまうものだ。


「と、とりあえず、部屋に戻るか・・?」


「・・やだ。」


「何でそういうことだけきっぱり速攻で言うんだよ・・、っていうか戻らないつもりかよっ!?」


「何か・・、動きたくない・・。」


「わがまま言うなよ・・、俺だってここを動けないだろ・・?」


「・・やだ。」


少し落ち着いてきたのか、言葉をはっきり言うようにはなったが、

テコでも動かない様子を見せる麦野に、四苦八苦する浜面。

いつもの自由奔放な彼女にも手を焼いていたが、元気なく拗ねられてもかなり手がかかる。
198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:13:39.75 ID:tUlT9.w0


「良いわよ、アンタは何処へでも行っちゃえばいいのよ・・、

 私なんか置きざりにして・・、

 滝壺のとこでも絹旗のとこでも誰のとこへでも行けば良いじゃない・・。」


「な、何わけのわかんないこと言ってんだよ・・?」


「・・・・・。」


「だいたい、何で滝壺たちのことを引き合いに出してくるんだ・・、

 もしかして、アイツらと喧嘩でもしたのか?」


「私みたいな奴と一緒に居るより、アイツらと居た方が楽しいでしょ・・、アンタも。」


「・・あのよ、何か悩みでもあるなら、俺で良ければ相談に乗るぞ、麦野?」


「・・うっさい。」


話がなかなか噛み合わない。

彼女がまともに口を開くようになったは良いことだが、さらに面倒な状態に陥ってしまったのは困りごとだ。

自分の指を髪の毛にくるくる巻きつけながら、悪態をつくように話し続ける麦野。

いよいよ反抗期が始まった子供の世話をしているようで、普通の人なら居心地が悪くなってしまうだろう。

それでも、彼女を見捨てるわけにはいかなかった。

一見、半端な不良の見かけによらず、お人好しで世話焼きな浜面だからこそ。
199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:16:16.39 ID:tUlT9.w0


「そういや、病院出たときから変に静かだったけど・・、

 考え事でもしてたのかよ、全然話してくれなかったし・・。」


「・・別にそういうわけじゃない。」


「そうか・・、じゃあ、もしかして俺が何か悪いことした、のか?」


「・・え?」


「だって、それ以外考えられないからよ・・。」


「そ、そんなこと、ないっ・・、アンタは別に悪いことしてないからっ!」


「そう、なのか・・、っていうかさっきは全部俺が悪いみたいなこと言ってなかったか、お前・・?」


「いや、あれは・・言葉のあやっていうか・・、何ていうか・・。」


フレンダの言ったとおりだったのかもしれない。

浜面は被害妄想ならぬ加害妄想をしてしまっていたらしい。

麦野が殻に閉じこもってしまい、

理由も分からないままの浜面が勘違いして自分を責めてしまう、という図だ。
200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:19:33.85 ID:tUlT9.w0


「アンタは悪くない・・、私のせいだから・・。」


「・・・あのさ、俺で良かったら何でも相談に乗るぞ?

 人生経験、全然ないけど・・、そういうのって人に話すだけでも効果あるって言うしさ。」


「・・・じゃあ、聞いてくれる?」


「あぁ、いくらでも。」


「・・・・私さ、好きな奴が居るのよ。」


「・・む、麦野が・・、か?」


「どういう意味よそれ・・。」


「い、いや・・、麦野が恋愛の話するなんて、初めてだなって思ってよっ・・。」


完全に斜め上からの話題だったため、

思わず剥き出しの地雷を踏みつけそうになる浜面。

せっかく立ち直った麦野の機嫌をまた損ねるわけにはいかなかったので、何とか言い逃れる。

眉間によった皺を緩め、はぁ・・。と大きな溜め息をつく麦野。

恐らく、溜め息をつきたいのは浜面の方だろうが。
201 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:25:32.82 ID:tUlT9.w0


「で、どんな奴なんだよ、そいつは。」


「・・そいつはね、どうしようもなくバカで、何の取り柄もないような奴なんだけど、

 一緒に居るとホッとするっていうか・・、つーか、今でも何で好きなのかわからないのよね。」


「それ、本人に言ったらかなり傷つくと思うぞ。」


「大丈夫よ、そういうことを気にするような奴じゃないから。」


ふーん、そういうもんか、とあっさり受け流す浜面。

ここまで言っても浜面は麦野の想い人が誰かというのに勘づくことはないようで。

そもそも、学園都市の暗部で活動する彼女たちに、

表の世界に居るようなまともな恋愛対象の男が居るはずはない、と考えるのが普通なのだが。

それが何だか滑稽な状況で、半分辛いながら、半分くすぐられるような可笑しさがこみ上げて来る。
202 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:27:03.58 ID:tUlT9.w0


「でも、その相手には私のガサツさっていうか・・、そういう嫌な面も見られてるからさ、

 少しくらい優しくしただけじゃ、そいつ、私の方に振り向いてくれないのよね・・。」


「ガサツ・・、って誰が?」


「私のことに決まってるでしょ、二回も言わせないでよ・・、

 生活能力がまるでゼロの頭でっかちな私がガサツ以外の何だって言うわけ?」


自分の粗暴っぷりは、自分自身がよく分かっている、ということ。

そういうことはしてはいけない(特に彼の前では)と思っていても、気付いたら手を出しているのだ。

時にはちっぽけな怒りから、時には小さすぎる嫉妬から。

怒っている場合は、大抵は自分の想いが伝わっていないとき、

嫉妬している場合は、彼の目を対象の女の子から何とか逸らさせたいとき。

恥ずかしさや照れ隠しのために、思わずちょっかいを出してしまったこともあった。

それはきっと、彼の目から鬱陶しいように見られていることは明白、彼女はそう思っている。
203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:29:17.40 ID:tUlT9.w0


「俺はそうは思わないけどな。」


「・・そ、そんなフォローは要らないわよ。」


拗ねた子供をなだめる親のように目を細め、少しだけ口元を緩ませる浜面。


「その場しのぎの嘘でも、一応のフォローでも何でもないって・・。

 麦野がガサツなんて一度も思ったことねぇよ。

 身だしなみはちゃんとしてるし・・、

 まぁ、部屋の掃除とかは「アイテム」全員してないことだから別としてもよ、

 暗部の仕事だってそつなく完璧にこなしてるしさ。

 俺とお前が一緒に居た時間なんて、大して長くないけどよ、

 少なくとも俺の目から見たらそんないい加減な奴には見えない、かな。」


「・・・何ていうか、何だろ・・それ。」


長々と麦野を褒めちぎっていたので、どことなく視線を泳がす浜面。

人を褒めるというのが彼はイマイチ得意ではないらしい。

一方の麦野も褒められ慣れて居ないのか、返す言葉が見つからなかった。
204 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:30:13.74 ID:tUlT9.w0


「それに、俺が入院してたときに持ってきてくれたマフィンとかさ・・、

 あれ、全部、麦野の手作りだったんだって?」


「・・・・へっ!?」


「違うのか?」


「いや、確かに私が作ったけど・・、何でアンタがそれ知ってるの・・?」


「俺が退院する三日前くらいだったかな・・、

 フレンダが初めて見舞いに来てくれたんだけどさ、

 そのときにアイツが教えてくれたんだよ。」


「そ、そうなんだ・・。」


麦野はその時だけの小さな恥ずかしさから、お見舞いの品を自分の手作りだと言えずにいた。

それくらいのことも言うことができないほどの奥手っぷり。

それを見かねたのか、フレンダが浜面に勝手にカミングアウトしてしまっていたらしい。

ちなみに、麦野が浜面へのお菓子作りをする度に、フレンダは相談を持ちかけられていたので、

彼女は、麦野の手作りの品をすべて知っていたのだ。
205 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:32:21.60 ID:tUlT9.w0


「(さっきは、私に『手作りだって言うことすらできなかったんでしょ?』みたいなこと言ってたくせにっ・・。)」


それでも、一応の感謝はしておかなければならないだろう。

ただ、はっきりと分かるのは、彼女は常に麦野のことを第一に考えてくれていた、ということ。


「お菓子作ったりもできるし、俺みたいな雑用にもそんな気遣いしてくれるんだからさ、

 自分のことガサツなんて思うのは、止めた方が良いと思うぞ。」


「そう、かな・・。」


「そういう思い込みが激しいと、いつの間にか、本当にその通りの人間になっちまうときってあると思うんだよ。

 ・・俺もスキルアウトのとき、自分に信頼とか求心力とかがないんじゃないかって思い始めたら、

 あっという間に崩壊しちまったよ、俺自身も、スキルアウトもな。」


「アンタが・・?」


「ああ。 それで、畳み掛けられるようにスキルアウトの仲間に襲われて・・、

 そのとき、本当に俺にはそういう信頼とか絆とかってなかったんだな、って思ったんだけどさ、

 絹旗が言うんだよ、それは俺に対する期待の裏返しだったんじゃないか、って。」
206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:33:57.61 ID:tUlT9.w0


「どういうこと・・、それって?」


「アイツらは俺を信じてくれてた、こんなどうしようもない、アイツらと同じ無能力者で、

 駒場みたいなリーダー性もないし、周りの人間を惹きつけるようなカリスマ性もない。

 そんな俺をアイツらは信頼してくれてた。

 でも、今の俺はアイツらが忌み嫌う能力者の下で働いてて・・、

 それがアイツらにとっては許せなかったんじゃないか・・って。」


「だから、そいつらはアンタに裏切られたと思って、喧嘩なんか吹っかけてきた・・ってこと?」


「そういうこと・・だと思うんだよ。

 アイツら、確かにあのときそんなことを口走ってたみたいなんだよ。

 あのとき、ちゃんと俺の思いとか、俺が今やるべきことみたいなのをアイツらに説明できてれば、

 こんなことにはならなかったかもしれなかったのにさ・・。」


聞くところによると、その喧嘩で怪我をしたのは浜面だけではなく、

相手側の何人かも全員負傷していたらしい。

そんな事態に陥ってしまったのを、浜面は不甲斐なく思っている。

いつか、彼はその仲間たちに何かしらの話をしに行くのだろう。
207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:35:03.62 ID:tUlT9.w0


「話が逸れちまったな・・、何が言いたいかっていうとさ、

 自分のことをちゃんと見てやれないとそういうことに繋がったりするんだ。

 そのためには、誰かからの客観的な意見が必要なんだと思う。

 だから、俺は麦野に言いたいんだよ、

 お前はガサツでも粗暴でもない、ちゃんとした奴だってことをさ。」


「・・・・・。」


「・・・・・うあッ!?

 いや、別にお前に対して下心があるとかじゃなくてよ!

 俺が今思ったとおりのことを話したっていう・・か、ぐぅ、・・・げぅあぁぁぁッ!?」


本人的にはかなり小っ恥ずかしい台詞だったらしく、両手で頭を抱えながら赤面する浜面。

それを見て、このとき初めて麦野が笑みを浮かべていた。

浜面が顔をあげたときには、すぐに緩みを隠していたが。
208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:35:39.96 ID:tUlT9.w0


「何か・・、アンタに説教されちゃったみたいね。」


「あ、いや・・別にそんな偉そうなこと言ったつもりじゃねぇんだっ・・!

 俺みたいなことになってほしくないってだけでさ・・、麦野が。」


「ふぅん・・、心配してくれてるんだー?」


いつもの調子を取り戻しつつある彼女に対して、

口を一文字に結んだまま、のけぞる浜面。

心なしか顔が少し赤い。


「・・・そ、そうだよ、何か悪いかよ、

 俺みたいな下っ端がお前みたいな有能な奴の心配するなんて、余計なお世話だろうけどさ・・。」


「ばーか、それだってアンタの思い込みよ。」


「・・ん?」


「余計なお世話なんてこれっぽっちも思ってないわよ、・・ありがとね、浜面。」


素直に感謝の言葉を述べる麦野が意外だったのか、鼻の頭をかく浜面。

どうも彼と話していると、そのウブさ加減から、中学生の男の子と話しているように感じられた。

その初々しさすらも、数多い彼の魅力の一つなのかもしれない。

母性本能をくすぐる、というのだろうか。
209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:36:18.21 ID:tUlT9.w0


「まぁ・・、少しは自分のことも認めてやることにするわ、私。」


「ああ、ほどほどにな。」


再び、小さく微笑む麦野。

ようやくいつもの麦野に戻ってくれたことにホッと胸を撫で下ろす。


「それにしても、何か意外だったな・・。」


「何がよ?」


「いや、麦野がそういうこと俺に話してくれるなんて、今まで一度もなかったからさ。」


「・・そう?」


確かに、自分でも浜面とこんな真剣な話をするとは思わなかった。

その場の勢いで、ほぼ無意識言ってしまったのか。

何にしろ、この状況を作ってくれた偶然とフレンダには感謝しなければならないだろう。


「・・何か少しは麦野のことを知れたのかな、って思った。」


それを聞いて、ニヤリと口角を上げる麦野。

ゾクッとしつつも、どこか心地良いような寒気に襲われる。


「へぇ・・、じゃあ、私のすべてをアンタに教えてあげても良いのよ?」


な゛、うあぁッ!?とか言いながら、目を泳がせる浜面。

やはり、どうもこういう手法には弱いらしい。

自分のことを奥手、という割には意外とこういうちょっかいは頻繁に出しているので、

案外、自分は消極的すぎるというわけでもないのかもしれない、と麦野は自覚する。
210 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:36:48.80 ID:tUlT9.w0


「(・・でも、たまには悪ノリでも良いから、乗ってきてほしいのよね・・。)」


それでも、いくらちょっかいを出したところで、彼はその挑発に乗ることはなかった。

少なくとも麦野に対しては。

絹旗やフレンダに対しては、彼はちょくちょく反抗したりするものの、麦野にだけは抵抗することはなかった。

それも、彼との距離感のせいなのだろうか、こればかりは聞いてみないと分からないだろう。


「アンタってさ、どんなタイプが好みなの?」


「・・あぁ? 何だよいきなり。

 だいたい俺の好みなんか聞いてどうするんだよ、好きな奴が居るんだろ、他に。」


それはアンタよ、と言ってしまいたいところだったが、グッとその言葉を喉元で抑える。

これが素直に言えるのなら、どれだけ楽になれることだろう。

まだそれを言えるほど、彼と近づいたわけじゃない。
211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:37:38.84 ID:tUlT9.w0


「べ、別に参考よ、参考。

 たまたま、アンタとタイプが似てるのよ、そいつ。」


「・・それは俺が『どうしようもなくバカで、何の取り柄もないような奴』って言いたいのか。」


「あら、一字一句間違えずによく覚えてたわね、私が言ったこと。」


「いや、否定はしねぇけどよ・・、こればっかりは間違った思いこみじゃねぇ気がするし。」


「良いからさっさと教えなさい、早く言わないとこの階から突き落とすからっ。」


理不尽ッ!? と慌てふためく浜面。

本気で言ったわけじゃないのに、あたふたするから面白い。

少しだけ考えたあと、浜面はゆっくりと口を開いた。


「・・こんな俺でも認めてくれる・・、奴かな。」


「・・認める?」


「俺みたいな、どうしようもなくバカで、何の取り柄もないような無能力者でも、

 この学園都市のそういう有能な奴らと同じように、平等に俺のことを見てくれる、そんなタイプ。」


本心から言ったのだろう、視線は床に落としていながらも、

何かをしっかりと見つめているような、そんな目つきだった。
212 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:38:39.84 ID:tUlT9.w0


「きっと、滝壺とか絹旗とかも、俺のことは心の底じゃ平等に見てくれてないと思うんだ、

 いや、もちろん、アイツらのこと信じてないわけじゃないんだよッ・・!

 でもそう思ってないと、何か嫌なんだよ・・、裏切られたときが怖くてさ。

 だから、いつか現れるって信じてる、

 俺のことを、俺自身の価値を見定めてくれて、認めてくれる奴が。

 もしかしたら、もう現れてるのかもしれないけどさ・・。

 まぁ、強いて言えば、今言ったような女が・・、タイプって感じかな。」



結局、浜面も、麦野と同じように殻に閉じこもっていたのかもしれない。

人間が何よりも恐れているものは、自分に下される評価だ。

それだけで自分と他人に優劣が付けられ、区別され、差別される。

能力や科学技術が何よりも最優先される学園都市は、

優劣というものが顕著に浮き出てしまう、

そういった副作用のようなものが出てしまう場所なのだ。

だから、浜面のような壁にぶつかってしまった人間は、

やがて、スキルアウトにその身を落としてしまうのだろう。
213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:40:16.62 ID:tUlT9.w0


「・・・じゃあさ、」


「ん?」


人間に他人に認めてほしい、という欲望がある。

浜面は、それを包み隠さず、思いのたけをすべて曝け出してくれた。

もちろん、それに答えなければならないとか、思いを汲んでやりたいとか、

そういう安易な同情、ましてや義務感があったわけではない。

それでも、麦野の口は、ごく自然に動き、紡ぎだすように言葉が出てしまった。




「・・もし、私がそんなふうにアンタのことを見てる、って言ったら?」




再び吹き始めていた、弱々しくも、彼女たちを包むような夜風。

微かな夜の匂いを運んでくるそれは、二人の時間が止まると共に、再び・・、止んだ。




214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/15(月) 23:40:21.18 ID:HwXnTnkP
215 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/15(月) 23:44:16.46 ID:tUlT9.w0

今回は、以上です。

隔日ペースにもかかわらず、大した量を投下できずに申し訳ありません。


余談なのですが、つい先日に「アイテム」の可愛い絵ばかりを

描いているサイト(ブログ?)を見つけました。

どうやら韓国人の女の子?のサイトなので、何が書いてあるかは分からないのですが。

ただクオリティはなかなか高いので、pixiv辺りから探してみると良いかもしれません。

ここに晒すのもナンセンスだと思うので。


では、おやすみなさい。
216 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/15(月) 23:45:06.90 ID:w0jPBVso
217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/15(月) 23:45:57.28 ID:Stpub560
いいところでww
218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/15(月) 23:46:41.75 ID:HwXnTnkP
探してみよう
ありがとうそして乙!
219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/15(月) 23:51:03.46 ID:Q0puL.oo
           /: : : : : : : : : : : : : : :..ヽ: : : : : : : : : :\
          /: : : : : : : : : : : : : : : : : : :.l: : : : : : : : : : : :ヽ
       /: : /: ∧: : : : : : \: : : : : : |: : : : : : : : : :l: : : |
        /: : /: / ヘ、: : : : : : :\: : : : |: : : : : : : : : :|: : : |
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        |: : :l:.l  \   \ \:.:.:.:.:.:.ヽ:|: : : : :l: : : |: l: : : :|  お・つ・か・く・て・い・ね
        |: : :l:.| '^圷ミ     `>=::.十: : : :リ: : ::|/: : : 人
        }: : :l:.l 弋zリ    ´^「た卞 |: : : :./: : : |: : : /: : :\
       Y八ハ  ´     弋沙'´ |: : :./: : : : |:.:.: :}: : : l: :\
         /:.:l   〈           l: : /: : : : : |:.:.: :|: : : 八:..: :\
         }:圦            |: /: : : : : 八:.:. |: : /: : ヽ:..: ::ハ
         |: : :ヽ   _          |/: : : : : ∧:.:\l: /: : :..: :}: : ::|
         |: : :.:.:.\  `    .イ /: : : : : /: :.:\:.:.:.≧ト、: ノ: : : :|
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    /       /  ノ//      V::::::/       /    `ー V  `)}
.   /       /  ./  j        V:/       /         }  ノ
220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/16(火) 00:01:32.82 ID:lyPCl6DO
乙よ
221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/16(火) 00:55:53.20 ID:tVu1T0so
乙乙
切るタイミングよすぎ
次は明後日ってことか、待ち遠しすぎる
むぎのんかあいいよむぎのん
222 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/16(火) 04:14:11.57 ID:LJT.3iMo
ちょww 生殺しすぎないかこれwwwwww
でも超おつです
223 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/16(火) 08:10:40.66 ID:n/9FmDM0
ふっふっふーん乙
224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/16(火) 09:23:08.77 ID:ZVOUa5Uo
はーまづらーもーげろー
225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/19(金) 17:33:09.06 ID:FMzgvqco
復活キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!
226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/19(金) 18:35:21.94 ID:JHURiKE0
復活来た〜〜
227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/19(金) 20:30:33.54 ID:tJQGut.0
おお、見られるようになってる!!
228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/19(金) 21:33:58.00 ID:140YrXU0
復活きたあああ!!!!
正座して待ってます
229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/20(土) 01:08:19.74 ID:P0pR1Tc0
期待age
230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/20(土) 01:09:14.63 ID:P0pR1Tc0
sageてたっていうwww
231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/20(土) 04:28:34.49 ID:l0D9Id60
大・復・活 !!
232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/20(土) 09:00:44.04 ID:EGDXg3E0
  /: : : : : /: : : : : : :./: : /: : : /:;イ: : : : : : : : : : : :.!
  |: : : : :/: : : : : : :./: /: : :_:彡 '"/: :/: : : : : : :.|: : : !
  |: : : : :| : : : : : :/,斗-‐ "\  /: :.! : : : : : : :|: : : |
  |: : l: : |: : : : : : /,,ィ==ミ、  \ i!:/:|: |: : |: :.| : |: : : !
  |: : |i! :| : : : /:/.{ ハ;;;ヒ. ヾヽ  `|:|: |!: !: :.!: :i: :/ : : i
  |: /.|!: | : : : :/ \;ソ 〃   |'|:.|.{: i :.i: :.!:/: : :j
  |/: :|!: |: :/:./             |:| ヽ乂: :.!': : : :/
 ,从/:i| :|: |:/           ,ィ;r‐ォ .〉:|: :|: : : /
ヽ .// |:/|: !:!          ,イツ,/ィ:乂从: :./
::::.}  |' .|:.|:!            〉 ` /: : : : :/:./
:::::|  / .|;|:| ヽ  r "~>     ∧: : : ://::/
:::::|   /ハi:::::|ヽ、__  _  イ: : : :/,/ "  超復活超おめでとうございます
:::::|ヽ  -‐/::::::|  ヽ  |: /: : /: :./
::l::|ミ、__ ,ノ:::::::/ |  ! |/: : /"´
::l::ト  -‐!:::::/ /,  | | レ'
::l::|   i!:::/ 〃   |        r.、     /)
::l::|   /:://-   |         | .|     //./)
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::li /:::::i |― ‐ ' ~ イ      /   !  `'_ィ'____
:::レ'::::::::::! ゝ―‐ ~  |      |    ハ.   ,.―― '゛
r‐'::::::::::i!  |     |     人  /  { _`ニニニァ
:/::::::::::/   |     |    /   、     /
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:::::/     |     |/    /
233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/20(土) 18:04:54.47 ID:evYflgEo
ようやく鯖復活ktkr
続きが待ち遠しいぜ
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 22:25:19.09 ID:NiQvBbA0

おばんです。

22日まで復活はないと聞いていたので、

まさかもう復活してるとは思いませんでした。

では、投下します。
235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 22:26:33.99 ID:NiQvBbA0


―――――



「ただいまぁ・・。」


憔悴しきった様子のフレンダがようやく帰宅した。

総歩行距離は50メートルもなかったのだが。

何かの拍子に上の階の二人の会話が聞こえると困るので、しっかりとドアを閉めておく。

それにいち早く反応したのは、心配だったのか、玄関にずっと目を向けていた絹旗だった。


「・・おかえりなさいー、って一人ですか?」


「・・いや、私の携帯の電池が切れちゃったからさ、充電しに来たんだよ。」


とっさに考えたにしては、よくできた嘘をつく。

一応、自分の携帯を充電器に繋ぐと、はぁ・・。と深すぎる溜め息をつくフレンダ。

そんな彼女の様子を気にもせず、滝壺が話しかける。
236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 22:28:11.59 ID:NiQvBbA0


「・・はまづらには会った?

 フレンダたちを追いかけて、出て行っちゃったんだけど・・。」


「ああ・・、うん。」


絹旗と滝壺を見やると、休止状態に入っているかのようなグダりっぷりだった。

滝壺はケーキ作りのときに余ったイチゴをもぐもぐ食べている。

ケーキを食べるのは全員揃ってから、と浜面に言っていたにもかかわらず、

イチゴとはいえ、彼女がいち早くそれを破ってしまっているようだった。

その滝壺が、何かに気付いたのか、スッと身体を起こす。


「あれ、充電してる間もコールはできるよね。

 しなくて良いの・・? 麦野の携帯、まだ見つかってないんでしょ?」


なかなか目ざとい。

あー・・、と間延びした声をあげたあと、力なく歩を進め、

さっきまで浜面が座っていたソファにボスンッと倒れこむフレンダ。

足をジタバタさせ、クッションに顔をうずめたまま、呟き始める。
237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 22:29:22.47 ID:NiQvBbA0


「負けた・・。」


「・・何にです?」


「結局さ、性別の差って・・大きいよね。」


彼女はチャームポイント?でもある制帽をポイッとぞんざいに投げ捨てる。

ちょうど、寝転がっていた絹旗の頭の上にポトリと落ちる。


「どうしたんですか、フレンダもテンションダダ下がりじゃないですか・・、

 しっかりしてくださいよ。」


「・・二人が戻ってきたら、もう、すっごい飲むよ・・、私は、止められないよ・・。」


助力したはずのフレンダまで弱体化しているのが心配になったのか、

彼女の身体を優しく揺すってみる絹旗。

反応がないため、耳元で小さく囁く。


「<・・何があったのか、あとで話してくださいね?>」


「・・その前に、私を慰めて・・・・、ぎぬ゛はだぁぁ゛っ!!」


「う、うひゃぁっ!

 ちょ、ちょっと私の服に鼻水やらヨダレやらつけないでください! 超迷惑ですっ!」


「うわ゛ぇぁぁ・・、げっぎょぐ・・、

 絹旗も私のこと無下にするんだぁ・・・っ、うええ゛ぇぇっ!」
238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/20(土) 22:32:09.88 ID:NmJx25gP
まっていたぞけんしろう
239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 22:33:52.40 ID:NiQvBbA0


襲い掛かるように絹旗に倒れこむフレンダ。

パッ見た感じでは、なかなか微笑ましい光景だが、絹旗は必死に引き離そうとする。

絶叫しながら、相手のお腹の辺りに顔をうずめるように、絹旗を抱きしめる。

それを何とか引っぺがそうとする絹旗。


「ちょっ・・、いい加減にぃっ!?」


「なんだよおおお・・、私は今ボロクソなん・・・、ぅ、うえ・・?」


「・・よしよし。フレンダ、いい子いい子。」


「た、たきつぼざん゛っ・・?」


フレンダを絹旗から優しく剥がすと、彼女の頭を包み込むように抱きしめる滝壺。

その髪の毛を一本一本とかすように、頭を優しく撫でてやる。

滝壺の恋より麦野の恋を応援する、と心で決めているだけに、

その滝壺からの優しさは身に染みるようだった。


「うぐぅ・・、私・・、滝壺さんのお婿になるよぉっ・・!!」


「フレンダは優しい子。」


「う゛ぅああぁぁぁぁぁぁぁんっ・・・!!」



一番辛い思いをしたのは、誰よりも、この泣きじゃくる少女だったのかもしれない。


とある一つの恋の灯火が消えた瞬間だった。



240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 22:34:55.46 ID:NiQvBbA0


―――――



「そういう風に見てる・・って?」


「アンタがさっき言ってた通りよ、嘘みたいに聞こえたかしら?」


平然と言い放った割に、心の中で麦野はかなり動揺していた。

告白だとか抱擁だとかがまだ早いのは分かっている。

それでも、フレンダが身を呈して自分を説得してくれたことに報いたい。

彼と一緒に居られる限られた時間を有効に使いたい。

少しでも、彼との距離をつめたい、それだけだ。


「・・はは、そりゃ、そう見てくれてるんならありがたいけどよ、イマイチピンとこねぇや。」


「・・なんでよ。」


「だって、麦野は学園都市に7人しか居ないレベル5だぜ?

 そんな奴に俺みたいな無能力者云々言われても、あんまり実感沸かねぇんだよな・・。」
241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 22:37:05.91 ID:NiQvBbA0


彼女にとってはかなり勇気を振り絞った発言だったにもかかわらず、

その気持ちとは裏腹に、浜面はあっけらかんとしていた。

確かに、好きだの愛してるだのと言ったわけではないので、

大したダメージになっていないということは、無理もなかった。


「じゃぁ、どうすれば良いのよ・・。」


「どうすれば・・って何が?」


「・・いや、なんでもない。」


つい、ポロリと言葉が漏れてしまう。

いつもこうだ。

彼を目の前にすると、自分の言いたいことがあまり言えない。

本能と理性が攻めぎ合っているのか。


「いや、でも、ありがとな。

 口に出して言って貰えるだけでもありがたいよ、俺みたいな馬鹿にとっては。」


「・・どういたしまして。」


何を言えばいいかも分からず、馬鹿正直に形式通りの言葉を吐いてしまう。

今回も何事も進展せず終わってしまいそうな気がしていた。
242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 22:39:28.42 ID:NiQvBbA0


「・・何か、今日の麦野、ちょっといつもと違う感じだな。」


「どういう意味?」


「いや、何か・・素直っていうか・・、何だろ、よくわかんねぇや。」


「素直・・ねぇ。」


確かに彼の前でわんわん泣いてしまったのは、ある意味素直さが垣間見えたといえる。

彼に言いたいこともいつもよりは言えている気がする。

あくまでも、いつもより、という話だが。


「・・こういう方が浜面のタイプなのかしらん?」


「あ・・いや、タイプっていうか、

 まぁ、そうしてもらってた方が俺としては尻拭いが楽で良いな、って。」


「折るわよ。」


「・・すみません。」


何をだよ・・。という疑問が浮かんだが、それは心に留めておく。

話に一段落ついたため、そろそろ帰るか、と浜面が腰を上げた瞬間。

聞きなれない歌が麦野のポケット辺りから聞こえてきた。

麦野の携帯が鳴ってしまっている。
243 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 22:40:58.99 ID:NiQvBbA0


「(・・しまっ、)」


「・・おい、麦野?」


浜面に背を向けて、慌てて携帯の着信音を切り、電源も切る。

彼女が部屋を出た理由は、携帯を探すということだったはずだ。

もう既に携帯を持っていたのがバレてしまうのは、かなりまずかった。


「・・・おいおい、携帯見つかってたんなら、何でこんな所に居たんだよ?」


「あ・・いや、部屋の前に落ちてたのよ、それを拾って・・、」


「その後に、わざわざ四階まで来たっていうのか?

 それに、麦野が泣いてた理由と辻褄が合わねぇんだけど・・。」


「そ、それは・・。」


「・・そういえば、麦野が泣いてた理由も聞かせてもらってねぇな。」


「・・お、女の子にそういうこと聞く、普通?」


「教えてくれなきゃ、今度は俺がここから動きたくねぇな。」


しゃがんだまま、動く素振りを見せない浜面。

ガッチリした体格の彼は、通路を塞ぐように。

とりあえず何か良い嘘はないかと麦野は模索するも、なかなか浮かばない。
244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 22:41:54.78 ID:NiQvBbA0


「・・・別にからかいたいわけじゃねぇんだ。

 麦野が泣くなんて滅多なことじゃねぇし・・、ちょっと心配なだけだ。」


「ちょっとだけ・・?」


「・・かなり。」


こればかりは本心から言っているらしい。

それでも、浜面のことで悩んでいたなどとは口が裂けても言えるはずがなかった。


「あー・・えっとね。」


「もしかして、そんなに深刻なことだったのか・・?」


「え、まぁ・・、深刻っていうか・・。」


「ま、まさか・・、生理がこな、」


「・・な、なわけないでしょうがっっっ!!!!」


心無い発言を気にしたのか、浜面の首を絞めにかかる麦野。


「い、いや・・泣くほど深刻なことってそれくらいしか浮かばっ・・ぐおわっ!?」


不安定にしゃがんでいた浜面は、そのまま押されるがままに、後ろに倒れてしまう。

固いコンクリに背中を打ちつけ、うめく浜面。

浜面が麦野に押し倒されるような体勢に。
245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 22:44:13.38 ID:NiQvBbA0


「い・・てぇ・・、てめぇ麦野っ、何しやがるっ!!」


「ア、アンタが馬鹿なこと言うからでしょっ!

 男同士の猥談じゃないんだから、そういうことを軽々しく口にするんじゃないわよっ!」


「そ、そんなに必死になるってことは・・マジで、」


「・・があああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


ほぼ馬乗りになった状態で、ガバッと彼の両目を、自分の両手で覆い被せる麦野。

自分でも何をしているのかさっぱり分からない。

突然の行動にもかかわらず、なぜか浜面はそれほど抵抗せず、されるがままだった。


「・・・麦野、手をどかしてくれないか?」


「・・アンタを殺したくなるくらいの衝動に駆られてるわ。」


「ちょ・・、おい、冗談はよせってっ!?」


麦野のからかいは、ときどき本気なのか冗談なのか分からなくなる。

ジタバタし始めていた両腕を床にペタリと置き、大の字になる浜面。

彼女の表情は暗闇のせいでさっぱり読み取れない。

口からは唐突な文句ばかりが溢れ出してくる。
246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/20(土) 22:45:24.88 ID:NmJx25gP
wwktkしますよwwktk
247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 22:45:57.77 ID:NiQvBbA0


「・・・いつだってそう、こっちが何をしようとまるで効果なくてっ。

 これ以上何をしろって言うのよ・・、もう距離が埋まるはずなんてない・・っ!!」


「お、おい! 何言って・・、」


「ふざけてるとしか思えない・・っ、私がどれだけ・・、」


「・・・?」



喉に何かが詰まる。

異物が詰まったまま、取り除くことができないような感覚。

肺に空気が送られず、吐き出すこともできない。

言葉が出ない。

熱い。

これで何度目だろう。

口が開いても、肝心の声が出てこないのは。

代わりに出てくるのは、流しきったはずの涙だけ。

枯れることのない涙。
248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 22:47:41.51 ID:NiQvBbA0


「・・・・ぅ・・、んくっ・・!」


「・・・?」


何が起きているのかは分からない。

それでも、自分にできることは一つだけ。

優しく、できるだけ弱く支えてやること。

彼にできることはそれだけだ。

強く、壊すほどに抱きしめることはできない。

彼女の気持ちがどの方向に向いているのかが分からないから。

自分にだって、弱りきった相手を受け止める手段くらい分かっている。

だから、なるべく優しく、まるで揺りかごのように。

産まれたばかりの子供を受け入れるように、

仰向けのままの浜面に倒れこんできた麦野を、彼は優しく抱いてやる。

自分のわずかな心の動揺が悟られないように。
249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 23:00:45.53 ID:NiQvBbA0


「・・・ぅくっ、うん・・っ、えぐっ・・・!」


「・・麦野。」


目を閉じたままでも分かる。

いや、目を閉じなければ分からない。

聞こえてくるのは彼の鼓動。

感じるのは彼の吐息。

あれほど自分が触れたかった彼が、あれほど自分が欲していた彼が、

今はもう自分と重なっている。

それでも。

これほどまでに近くても、自分の想いは通じていない。

彼はあくまでも、手を差し伸べてくれただけ。

それは同情や救済の心からで、好意や愛情からではない。

それが分かっていても、涙は止まることはなかった。

自分のついたちっぽけな嘘が、大きな壁となって二人を分かつようにあった、心の壁が。
250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 23:03:02.81 ID:NiQvBbA0



「泣くほど、麦野に想われてるんだから、そいつは幸せモンだよ。」



これだけのことをしても、揺らぐことのない彼が、酷く憎らしく、少し羨ましくもあった。

それでも、彼女は決意する。



「(ぜったい・・、射止めてやるんだからっ・・・・!!)」



いつか彼が自分の気持ちに気付いてくれる日を夢見て。



明かりが一つずつ消えていく、その静かな夜が、

少しでも彼らの距離を縮めてくれたかどうかは、彼ら次第だ。



251 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 23:05:17.06 ID:NiQvBbA0

―――――



戻ってからの麦野の醜態といったら、目を伏せたくなるほどだった。

爆発したかのような酒の飲みっぷりと、

何に対するものなのかは分からないが、豪快な泣きっぷり。

同調するようにフレンダが火に油を注ぎ、滝壺もマイペースながら着実に荒らしていく。

唯一の良心である絹旗は、他の三人が酔いつぶれる一時間以上も前に爆睡を開始していた。

やがて、滝壺もソファに座る浜面の足元に崩れ落ち、眠りに落ちる。


「おい・・、麦野、その辺で止めとけって・・、明日以降に響くぞっ!?」


「はまづらぁ・・うるせぇんだよ・・、浜面の癖によぉ・・ッ!」


「浜面なんかねーぇ・・ひっく、缶詰に手を挟まれて死んじゃえば・・良いのよッ!

 そうすりゃ・・結局、っく、私のものなんだよぉぉっ、むぎのはぁぁっ!」


絶叫すると同時に、その場に倒れこむ麦野とフレンダ。

彼女たちが何に対して反抗しているのかは、さっぱり分からず終いの浜面。

自分に寄りかかるようにして眠りに入った麦野は、

糸の切れた操り人形のようにピクリとも動かない。

それでも、真っ赤に火照った顔と、大きく深い寝息が印象的だ。
252 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 23:06:37.36 ID:NiQvBbA0


「どいつもこいつも・・、まだまだ子供だよな・・。」


暗部組織といえども、彼女たちは全員が年頃の少女。

誰もが恋愛感情を抱いているはずだ。

麦野が誰かを想っているように。

いつかは彼女たちが幸せになるときは来る。

そのために、自分は彼女たちをサポートしていく。



「何か・・、愛着が沸いちまったんだよな・・。」




今更になって彼女たちから離れることはできなかった。

彼女たちに見捨てられるという可能性もあるが。

守るだなんて偉ぶったことは言わない。

あくまで、少しだけでも良いから、助けることができれば良い。



「そのためにも・・・、俺も一眠りだ。」



4人の少女の面倒を見る少年は、目を閉じることにする。

右腕に心地よく、温かい感触を受けながら。



・おわり・
253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/20(土) 23:09:15.11 ID:tGRW7kDO
1乙!
254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/20(土) 23:11:05.58 ID:NmJx25gP
うおおおおおおおおおおおおおお
乙!
もしかしてもう終わり?
255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/20(土) 23:12:05.26 ID:xKQIaGU0
おおおおおおおはまづらああああああ好きだあああああああ
>>1超乙です!!
256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/20(土) 23:18:52.16 ID:WYMKw.YP
                  |  | └┐ ┌-┘  | |    ヽ
                    | l  | |    l |     |
                   | | _,,,ニニ,,_   | |     l
                  〉-ァカ  |. ヽ ヽヾ``'、,,j    |
                   /l { | ト、\ヽゝ弋ド、ヽヽ\  j'  っ
            ⊂  { | .iト|r=ミ、 ヽトゞチラヌ\ i |∨
                 ヘ、レミ! トハ      トッj:}ヒj リ { !   ⊃
    ,___    _,. -'' ´⌒`}. ゞ-'     `ー"//λ !.i
   (__, `ヽ /        ヘ"" ’r-、 ""u//彡ハ.l !   こ、これは>>1乙じゃなくてホイミンちゃんの
     / / /   ○     `ト、  '  ,.イ./r=ミ、i.l l   足なんだから…。変な勘違いしないでよね!
    / /  {.    r-...__ ○ ヾ`,ア´.ラ,〃  } ! !.|
  / ∠,____,.ゝ.    i    ア    八三彡イ/  /} リ.l
  ゝ.,____,,,.->、._ ゝ、_ノ  (^くr' └i /  .//ノノ j
         Z,. -'' /`7'''┬(二` `ハ'´ヾム  /彡イ /
       /  ,. -''| {ヽ ヽ(二   ,  j   //丿.ノ
       `ー'   ヘ ヽヽ--'`j=-^ヽ、_ノ-ー'〈 

257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 23:19:01.18 ID:NiQvBbA0

以上です。


本当に長々とお付き合いいただきありがとうございました。

終盤は早足になってしまった感が拭えませんが、目を瞑ってやってください。


ちなみに、このシリーズは自分が飽きるまでやっていきたいので、

もったいぶるのもアレですし、残念ながら終わりません、とだけ。

とりあえず、今回までで一区切りにさせてください。


では、おやすみなさい。
258 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/20(土) 23:24:21.17 ID:WYMKw.YP
なん…だと…
wktkが終わらない
259 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/20(土) 23:35:35.56 ID:P0pR1Tc0
なるほどっ、次が来るまで保守し続ければ良いわけだなっ!
理解したっ!
260 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/20(土) 23:36:16.42 ID:P0pR1Tc0
せっかくだ、ageとこう
261 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/21(日) 00:31:57.10 ID:YmoahrE0

次回にwktk
262 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/21(日) 01:40:41.40 ID:vxp.O8Io
やったっまだ続く!
>>1
乙乙
続きwwkwwktktk
263 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/21(日) 01:46:33.01 ID:weMZYk20
麦のんしあわせになってくれぇぇえぇぇええええぇぇぇぇぇぇえ
264 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/21(日) 01:47:16.83 ID:weMZYk20
そして乙
265 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/21(日) 02:25:39.83 ID:CdBQ3ago
otu
266 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/21(日) 02:31:52.19 ID:mxITMwDO
乙と言わざるを得ない
267 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/21(日) 02:38:31.95 ID:vYNhmyA0
268 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/22(月) 02:14:21.45 ID:Bj1yqC20
ホント楽しませてもらったぜ!
ご苦労さん、そしてこれからもよろしく!!
269 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/22(月) 06:40:11.81 ID:rRbaWgM0
        ゴガギーン
             ドッカン
         m    ドッカン
  =====) ))         ☆
      ∧_∧ | |         /          / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     (   )| |_____    ∧_∧   <  おらっ!出てこい>>1
     「 ⌒ ̄ |   |    ||   (´Д` )    \___________
     |   /  ̄   |    |/    「    \
     |   | |    |    ||    ||   /\\
     |    | |    |    |  へ//|  |  | |
     |    | |    ロ|ロ   |/,へ \|  |  | |
     | ∧ | |    |    |/  \  / ( )
     | | | |〈    |    |     | |
     / / / / |  /  |    〈|     | |
    / /  / / |    |    ||      | |
   / / / / =-----=--------     | |
270 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/22(月) 16:03:21.04 ID:VWws4Xg0
age
271 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/22(月) 16:22:32.09 ID:ED2T2tM0
>>1乙なんだよ!
とても面白かったんだよ!
272 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 22:51:34.59 ID:XV/y4mo0

おばんです。

とりあえず、新シリーズ開始ということで。

さすがに前回ほど長くはならないと思いますが。

ちなみに、今回はプロローグのようなものなので、

前菜感覚で目を通してやってください。

では、投下します。
273 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 22:53:45.40 ID:XV/y4mo0


―――――



時刻は夜の十一時を回った頃。

墨汁を目一杯にこぼしたような暗闇が学園都市全土に深く染み込んでいた。

不気味なほどに空を覆い尽くしているどんよりとした雲は、今にも冷たい雨を降らせようとしている。

今の時間帯は、学生や教師、研究者といった表の世界の住人のほとんどは家に戻っており、

スキルアウトを始め、ならず者を中心とした裏の世界の住人が活動を始める頃だ。

それは、学園都市の裏側で活動している暗部組織の者たちも例外ではない。

その中の一つでもある、非公式組織「アイテム」の四人は、

『上』から下された任務を手早くこなし、人気のない、暗く、狭い夜道のド真ん中でたむろしていた。


「・・あーぁ、言うほど張り合いのある奴らじゃなかったわねぇ」


「麦野が待ちきれなくて手を出してしまったせいでしょう、

 計画が超破綻するんじゃないかと、超冷や冷やしましたよ」


「能力使うなら使うっていってよねー、麦野の能力は掠っただけで致命傷なんだからさー」


「お腹空いた・・」
274 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 22:56:47.81 ID:XV/y4mo0


麦野沈利、絹旗最愛、フレンダ、滝壺理后。

見た目だけだと信じられないかもしれないが、彼女たち四人が「アイテム」の主戦力である。

普通なら、少女四人が深夜近くに学園都市の寂れた区画を歩いていると、

スキルアウト辺りに襲撃されるのだろうが、彼女たちの場合はその心配はない。

襲撃されることはあれど、敗北することは絶対にないと言える。

文字通り、一蹴されるからだ。

いつしか、彼女たちには逆らうべきではないという暗黙の了解が、

彼女たちの活動範囲で言い伝えられるようになっていた。

一応は暗部組織であるため、目立った行動はあまり良いことではないのだが。

さて、そんな無敵な彼女たちがどうしてこんな夜道で座り込んでいるのかというのには、ある理由があった。



「浜面の奴・・、まだアシ取れないの?」


「まさか、現場に乗り付けたワゴンが爆破されるとは思いませんでしたよね」



自分の髪の毛を指先にクルクルと巻きつけ、不機嫌に言葉を吐く麦野。

それに賛同する絹旗は、それほど外気温は低くないとはいえ、

見慣れた薄桃色のセーター風で、少し寒そうな格好だ。
275 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:00:02.31 ID:XV/y4mo0


「っていうか、浜面が車内で待機してんじゃなかったんですか?」


「小便が我慢できなくて、ちょっと離れて用を足してた隙を突かれたんだってさ・・」


「・・ほんっと、超浜面って感じですよね」



爆破された車の代わりを確保するために、浜面が任務終わりの彼女たちの元を離れてから、

かれこれ15分ほどが経っている。

第七学区にある「アイテム」の隠れ家の一つに帰るには、今彼女たちが居る場所はあまりにも遠すぎた。

徒歩で帰るとなると、日付が変わってしまうだろう。

そのため、車を失った原因であり、「アイテム」の下部組織、

つまり、下っ端の雑用でもある浜面が、新しい帰宅手段を確保しなければならなかったのだ。



「それにしても遅いですね・・、何かトラブルにでも巻き込まれたんでしょうか」


「だったら、私らの誰かに連絡してるでしょ」


「・・結局、早く帰りたいよー」



立っているのが億劫になったのか、廃ビルに背を預けながら座り込んだフレンダが愚痴をこぼす。



「ころころー。」



それに向かい合うようにして、反対側の街灯の真下でしゃがみ込んでいるのは滝壺。

彼女は悲壮感が漂うフレンダとは違い、なぜか微笑みながら足元の小石を弄って遊んでいた。
276 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:02:07.23 ID:XV/y4mo0



「か弱い女の子四人を待たせるなんて、浜面は帰ったら折檻決定だわ」


「・・・ん」



ぐだぐだと愚痴を垂れ流す麦野たちを横目に小石弄りに没頭していた滝壺が、

何かを察知したように、ゆっくりと立ち上がった。

三人が一斉に、立ったまま辺りを見回す彼女を見やる。



「どうしたのよ、滝壺・・、アンタもトイレ?」


「・・ちがう」


「もしかして、さっきの奴らの残党でも?」


「ちがう」


「結局、いつもみたいに変な電波でも受信したんでしょ?」


「ちがう」



両耳に手をあてて、耳をすませるような素振りを見せる滝壺。

直立不動のまま、目を閉じる。
277 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:06:10.99 ID:XV/y4mo0


「・・何か聞こえる」



彼女の言葉に、三人も素直に耳をそばだててみる。

15分ほどこの場所に留まっているが、何の音も聞こえてこなかったはずだが。

しかし、夜が深まっていく学園都市の静寂は、その音を際立てる。



 ・・・ぐす、・・・ぅっ、すん・・・、っ・・



何かが擦れるような音、それを聞いた最初の印象だ。

よく聞いてみると、人のすすり泣くような声にも聞こえる。

それは、彼女たちの進行方向から聞こえていた。

ポツンポツンと設置されている街灯を頼りに目を細めて先を見据えても、誰の姿も見当たらない。

しかし、感覚を研ぎ澄ませてみると、確かに人の気配がする。
278 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:09:15.49 ID:XV/y4mo0


「・・誰か居るわね」


「私が行きます」



鋭く目を光らせ、右手を小さく掲げた麦野を制し、前に出る絹旗。

ここで麦野に派手に能力を使ってもらうと、かなり厄介だ。



「・・大丈夫、絹旗?」


「心配は超無用ですよ」



身構えるフレンダの心配を他所に、足を進める絹旗。

『窒素装甲』の自動防御機能に身を包んだ彼女であれば、

並大抵の奇襲攻撃には容易に耐えることができる。

その幼さの残る容姿も、初見の敵を油断させるためのアビリティだ。

そのため、絹旗は重要な偵察・奇襲の役割を担える。

麦野であれば、偵察だの奇襲だのといった単純な戦術をする必要もないのだが、

正体が分からない相手に対して不必要に暴れるのは、逆に足元をすくわれてしまう可能性もある。
279 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:12:42.81 ID:XV/y4mo0


「私もついていこっか?」


「いえ、殺気は感じられませんし」



ひらひらと麦野に手を振り、謎の音がした方向へ顔を向ける絹旗。

一般的な廃ビルが細い路地裏の道の両側に建っており、それが延々と続いている。

さらにその200メートルほど先からは街灯がなくなっており、暗闇が支配していた。

どの廃ビルの真下にも投棄された家具や工事途中と思われる鉄屑などが大量に散らばっている。

彼女たちに一番近い街灯の真下には、

何処かの店のものだろうか、寂れた長方形の大きな看板が立てかけてあった。

その看板の周囲にも、鉄骨や用済みのドラム缶などがぞんざいに置かれており、

こちらから見ようとしても、その看板の裏を見ることはできなかった。

慎重な足取りで看板に近づく。

先ほどまで聞こえていた音は途切れてしまっていたが、絹旗は確信した。

音源はここだ、立てかけられた看板の裏。

彼女たちが元居たところとは50メートルほど離れた場所だった。
 


「・・・さて」



『窒素装甲』の能力を使用し、自分の背丈の三倍はあるであろう、

その細長い看板の両端を持つと、手間なくそれをどけた。

看板の影に隠れていたそれは、真上の街灯の光を浴び、正体を現す。
280 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:15:21.12 ID:XV/y4mo0


「・・・ぐすっ、んぅ・・、うぇっ・・」


「・・・?」



看板を抱えたまま、目を丸くする絹旗。

そこには、うずくまるようにして地に伏せたまま、嗚咽を漏らす少女が居た。

先ほどまで聞こえていた音は、本当に人のすすり泣く声だったらしい。

自分よりも小さな女の子。

体格的には十歳くらいの子供だろうか。

おかっぱに近いショートカットの黒髪はボサボサで埃まみれ。

着ている服は、元は綺麗な白いワンピースのようだが、

所々が大きく破れており、その白い肌が垣間見えている。

さらに、その細い腕や足には無数の擦り傷や殴られたような痕を視認できた。



「・・・ぇ?」


「あ・・」



急に光があたり、驚いたように頭を上げたその少女の目が絹旗の視線と交差する。

そのとき、その少女の腕に鉄パイプと思われる細長い鉄棒が握られているのが分かった。
281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:17:27.31 ID:XV/y4mo0


完全に予想外であるこの状況を整理する前に、

とりあえず、抱えていた重い看板を足元に降ろそうとしたとき、



「ぅ・・、うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「ちょ、なっ・・・!?」



睡眠中のハムスターのように身を縮めていたその少女は、

耳をつんざくような絶叫とともに立ち上がると、持っていた鉄パイプを振り回してきた。

何の考えもなしに突っ込んでくる少女の勢いに圧倒され、思わず二歩、三歩と後ずさる絹旗。

当然、少女の小さな暴走は止まらない。



「何やってんのよ、あいつは・・!」



異変に気付いた麦野が真っ先に反応し、地を蹴った。

絶対に少女に攻撃を当てないように、精密な演算をし、標的を固定。

彼女の右手の周囲がまばゆく光ったと思うと、一本の鉄線のような、淡く白いレーザーが放たれる。

それは一直線に、絹旗を襲っていた少女の鉄パイプに直撃し、それを一瞬で溶解させた。

そのままだと、少女の腕が火傷では済まなくなるため、

絹旗はその少女の腕から溶け始めた鉄パイプを手放させる。

突然の現象に驚きの余り、一瞬だけ少女が動きを止めたその瞬間。

背後に素早く回り、両脇の下から自分の腕を回し、ガッチリと少女を捕縛する絹旗。
282 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/22(月) 23:19:04.38 ID:0yoQxKo0
きてたー
283 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:19:19.47 ID:XV/y4mo0


「ぅぁ・・、ぃゃ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「・・お、落ち着いてください、私たちは何もしませんからッ!」


「嘘・・、嘘だぁぁっ!! う、ぃゃ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっっっ!!」



泣き叫ぶ少女は絹旗の腕を振りほどこうと、手足を全力でバタつかせる。

しかし、しっかりと固定された絹旗の腕はまったく動かない。

何に恐怖しているのかは分からなかったが、少女の怯えは尋常ではなかった。

そのとき、ようやくフレンダと滝壺が追いついてきた。

フレンダが目をパチパチさせながら言う。



「ちょっとちょっと、どうしたのその子っ・・!?」


「分かりませんっ、その看板の裏でうずくまってて・・」



未だに抵抗を続ける少女を抱えたまま、顎で足元に置いた看板を指す絹旗。

その横には、麦野の能力で溶けてしまった鉄屑が落ちていた。

それを見て、左頬に手を当てたまま、小さく溜め息をつく麦野。
284 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:22:27.68 ID:XV/y4mo0


「てゆーか、アンタの能力ならこんな子供が振り回す鉄パイプくらい、
 
 まともに直撃してもビクともしないでしょ」


「それはそうですけど、こんな女の子がいきなり出てきたら超動揺しますって」


「結局、それよりも私はこの子に向かって能力使った麦野の方が信じられないけどねー」


「私がこの子に当てちゃうようなヘマするわけないでしょ」


「それよりも、この子・・どうします?」



彼女たちの会話を遮るように、未だ大声で叫び続ける少女。

やがて、立っているのに疲れてしまったのか、その場に崩れ落ちてしまう。

絹旗もそれに合わせて、ゆっくりと腰を降ろす。

それでも少女は叫ぶのを止める様子はなく、それを見た滝壺が一歩踏み出していた。

少女の両頬に両手を当て、視線を合わせるために膝を曲げる。

小さな子供と話をするときは、その子の目線の高さに合わせることが第一だ。

すると、あれだけ暴れていた少女が、その口を真一文字に閉じていた。
285 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:25:58.67 ID:XV/y4mo0


「大丈夫だよ、お姉ちゃんたちは何も痛いことはしない、

 ・・・あなたの名前はなんて言うの?」


「ぅえっ・・、な、名前・・、わたしの・・、名前?」



口ごもる少女。

その不自然な挙動を見下ろしていた麦野が、眉を潜めて呟いた。



「この子、もしかして・・、」


「・・・あ」



麦野が言いかけたとき、空を見上げていたフレンダが呆けた声をあげる。

それにつられるように真上を見ると、ポツポツと雨が降ってきていたのが分かった。

街灯に照らされた彼女たちの足元に、無数の濁った染みができていく。

昼頃から続いていた曇天が、いよいよ我慢できなくなったらしい。

傘の一つも持っていない彼女たちは、このままではズブ濡れになってしまう。
286 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:28:27.92 ID:XV/y4mo0


「うわー、やっぱり降ってきちゃったよー・・、浜面まーだー?」


「仕方ありませんね・・、手が放せないので電話をお願いできますか、麦野」


「・・えー、私?」


「じゃあ、フレンダ」


「・・はいはい」



少女を捕まえたままの絹旗と、それをなだめる滝壺。

手持ち無沙汰のフレンダはスカートのポケットから携帯を取り出すと、

手馴れた様子でボタンを押し、耳元に当てる。

もちろん、通話の相手は車を調達しに行っているはずの浜面だ。

2コールのあと、ブツッと電話を取った音が聞こえる。
287 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:30:42.55 ID:XV/y4mo0


『おう、フレンダか?』


「・・あー、浜面、今どこー?」


『・・悪い、ちょっと厄介事に巻き込まれちまってよ・・』


「・・厄介事? メンドいから自分で何とかしてよー?」


『いや、もう何とかなったから気にしなくてオッケーだ。

 ・・今そっちに向かってるからよ、

 あと、2,3分もしない内に着くから、さっき別れた場所で待っててくれないか?』


「分かった、急いでよねー。」



通話を切り、閉じた携帯を強引にポケットにねじ込む。

雨足はどんどん強くなるばかりだった。

雨宿りできるような区画もないため、着ている服が雨ざらしにされた案山子のように濡れていく。

ふと先ほどの少女に目を向けると、いつの間にか落ち着きを取り戻していたようだった。

滝壺のおかげだろう。
288 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:34:11.82 ID:XV/y4mo0


「・・落ち着いた?」


「うん・・、ごめんなさい、さっきの黒づくめの男の人たちの仲間だと思って・・」


「黒づくめの男・・?」



コクン、と頷く、名前も分からない少女。

体中の傷跡を見る限り、何らかのトラブルに巻き込まれていたのは確実だろう。

直視できないというほどではないが、その少女は傷だらけでかなり痛々しい姿をしていた。

隠れ家に戻った後、すぐに簡単な治療を施すべきだろう。



「もしかして、さっき私たちが片付けてきた奴らと関係あるのかしら?」


「・・そうですね、色々と事情を聞いてみる必要がありそうです」


「結局、こんな所でダラダラ話すことじゃないね」



そう言ったフレンダが指差す方向から、黒っぽいワゴンが近づいてきていた。

恐らく、車を確保してきた浜面だろう。

それを見た少女が、ビクッと肩を震わせた。
289 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:37:00.66 ID:XV/y4mo0


「あ、いや・・、あの車・・あの人たちが・・っ!」


「どうしたんですか・・?」


「いやだ・・やだやだ・・、あれには私をいじめた人たちが乗っててっ・・!」


「大丈夫、あれはお姉ちゃんたちの友達だから」



絹旗の手から逃れた少女を、近づいてくるワゴンが見えないように滝壺が優しく抱きしめる。

彼女たちの元に一直線に向かってきたそのワゴンは、少し手前で止まった。

ドアが開き、予想通りの茶色のジャージを着た明るい茶髪の少年が降りてくる。



「・・悪いっ! 雨も降ってきちまったし、急いで乗ってくれ!」


「おっそいのよ、浜面ぁっ! こっちはもうズブ濡れだっつーの!」


「そ、そんなに怒んないでくれ麦野、こっちも色々あったんだって・・!」
290 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:41:01.96 ID:XV/y4mo0


「お互いに積もる話もあるようですが、それは部屋に戻ってからにしましょうか」


「あん・・? あれ、滝壺、その女の子どうしたんだ?」



ふと目を向けると、見知らぬ少女が滝壺と手を繋いでいた。

その少女は、あからさまに怯えたような様子を見せている。

もちろん、その視線は浜面に向けられていた。

すると、絹旗が首を傾げる浜面を助手席から手を伸ばし、

無理やり運転席に引っ張りいれる。



「お、おいコラ、何すんだよっ!?」


「だから、積もる話は帰ってから。ですよ」



渋々シートベルトを付け、ハンドルを握る浜面。

六人全員が乗り終わり、四つのドアが閉まる音がする。

夜の暗闇を切り裂きながら、ワゴンは急発進した。

激しさを増す雨をその身に受けながら。



291 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/22(月) 23:41:31.85 ID:LNW2hAYo
新シリーズキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
292 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/22(月) 23:44:31.26 ID:XV/y4mo0

今回は以上です。


オリジナルキャラを出しましたが、

この女の子だけなので、勘弁してやってください。

今回だけだと少しシリアスチックですが、

全体を見るといつもと同じようなものです。


では、おやすみなさい。
293 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/22(月) 23:46:21.39 ID:LNW2hAYo
乙おつです!
ラブコメ風も良かったけどシリアス系もたのしみ!
294 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/22(月) 23:48:47.61 ID:PEo6fVQP
まさか今日更新されるとは思わなかった
早速過ぎて嬉しい限りだぜ
超楽しみにししてますよっほっほ〜い
本日も乙!
295 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/22(月) 23:57:56.38 ID:ZBp9bgAo
おっつー
296 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/23(火) 00:07:43.77 ID:c1M3KLM0
乙!
アイテム最高や!
297 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/23(火) 05:56:20.57 ID:kcqmJMDO
こっち復活してたんか
てゆーかこっちでやってたんか
298 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/23(火) 06:24:04.79 ID:jEU3DMc0
再会はぇぇwwww
やっしゃ!お楽しみはまだまだ続きそうだぜww
299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/23(火) 09:16:02.39 ID:TKhRqVw0
新シリーズきたんだよ!
超期待なんだよ!
300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/23(火) 20:30:37.77 ID:jgpqpKc0

301 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/24(水) 00:30:43.29 ID:pzXNNgI0
スレ主に聞きたいんだが、今回の話は時間軸的には前の話の後なの?
それから前の話は麦野が主役的立場だったけど、今回もそう?
302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/24(水) 01:22:48.73 ID:ynQm8gko
スレ・・・・主・・・?
303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/24(水) 01:58:46.52 ID:wBirpBEo
スレ主って言葉は随分前からあるぞ
少なくとも動画投稿サイトができる以前から使ってる奴はいた
304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/24(水) 02:34:27.91 ID:.5zRXpg0
どうでもいいじゃん

楽しく馴合おうぜ
305 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/24(水) 02:52:41.52 ID:X3Mi7/6o
キャラネタ板とかじゃ2002年くらいには既にスレ主って言葉は普通に使われてたぞ
306 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/24(水) 20:50:54.50 ID:OeFO14.o
http://livedoor.2.blogimg.jp/kyoichi562/imgs/4/5/4533c4b2.jpg

むぎのんかわいい
307 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 22:42:11.20 ID:mLYLNNQ0

おばんです。

今回から本腰入れて展開です。

>>301ですが、特に時間軸云々は決めていません。

後の話とした方が色々と都合が良いかもしれません。


では、投下します。


>>306、右上付近でラブラブしてる麦野とフレンダが切ない…
308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 22:42:55.74 ID:mLYLNNQ0


―――――



「ふぅ・・あがりましたよー、滝壺さん」



バスタオルを頭に被せたままの絹旗が、シャワー室から出てきた。

バスローブを巻いているとはいえ、ホカホカと湯気が出ている。

その若さ故の小ざっぱりとした雰囲気の彼女を、

既にシャワーを浴び終わり、化粧水だの乳液だのをつけながらの麦野が忌々しそうに見つめていた。



「わかった、・・・行こ?」


「うんっ・・」



滝壺に手を引かれ、絹旗と入れ替わるようにしてシャワー室へ入る少女。

結局、成り行きで少女を隠れ家まで連れてきてしまっていた。

その傷だらけの身体を雨に晒すわけにはいかず、やむを得ない判断である。

ソファに座る浜面の隣に、ボスンと尻を乗せる絹旗。

横に座った半裸同然の少女を視野に入れると、浜面は渋い顔をし始める。
309 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 22:45:52.75 ID:mLYLNNQ0


「いつも思うんだけどよ・・、女が服も着ないで部屋をウロウロするのは、

 青少年の教育上、あんまりよろしくねぇんだけど・・。」


「だからこうやってバスローブ巻いてるんじゃないですか。」



キュポン、といつの間にやら持ってきていた牛乳ビンの蓋を開け、吸い付く絹旗。

浜面は苦虫を噛み潰したような顔をし続けるも、まんざらでもないようだった。

確かに一枚巻いてはいたが、それはかえって男の良からぬ妄想を掻き立てる素材でしかないようだ。

血縁関係でもないのに、十二か十三そこらの年齢の少女に対して、

あーだこーだ言うのもどうなんだろうとつい考えてしまう。



「いや、そういう問題じゃなくてだな。」


「脱衣所がないんですから仕方ないでしょう。

 こんな一人暮らしを始めたばかりの学生みたいな超貧乏くさい部屋なんですから。」


「だったら、さっさと服を着てくれよ・・」


「だったら、チラチラこっちを見ないでください、超迷惑です」


「み、見てねぇよ、お前の未発達な身体なんてっ・・!」


「こ、これから成長するんですよ・・、悪い言い方でも発展途上と言ってほしいくらいですねっ・・!」



フン、とそっぽを向き、再び牛乳をがぶ飲みし始める。
310 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 22:50:01.26 ID:mLYLNNQ0


バスローブの隙間から垣間見える彼女のテカテカした肌の小尻や生足が、

浜面の脳髄に心地よい刺激を与える。

思わず鼻血が出ていないか確認してしまっていた。

それを横目でチラリと見た絹旗がさらに苦言を呈す。



「いい加減そのエロ目線を逸らさないと、グーで殴りますよ」


「・・分かった、やめる」


「やっぱり見てたんじゃないですか。超殴りますが、良いですね?」



ボゴォッと鈍い音が後頭部付近から聞こえた。

グオォッと悲痛な叫びをあげ、前につんのめる浜面少年。



「隣に座るのが悪いんだろうがっ・・、猥褻物陳列罪だ!」


「存在自体が超猥褻極まりない浜面にだけは言われたくありません、ねっ!」



さっきとまったく同じ箇所をピンポイント殴打する絹旗。

前後左右にのたうちまわる浜面の姿は、尻尾を掴まれた蜥蜴のようだった。



「たたでさえバカなんだから、それ以上バカにすんのはやめなさいよー?」



そのショートコントを聞いていた麦野が横槍を入れる。

ソファからはみ出ながらも患部をさする浜面をケラケラ笑っていた絹旗は、その視線を麦野へ向けた。

彼女は、丸テーブルに立てた化粧用の鏡とにらめっこしながら、肌を入念にチェックしている。
311 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 22:51:56.42 ID:mLYLNNQ0


「よくもまぁ、いつもいつも飽きずにお肌を労わってますねー」


「アンタも油断するとすぐ酷くなるわよ、若さが物を言うのは今のうちなんだから」


「はいはい、肝に銘じておきますよー」



この二人は五歳程度しか年齢差がないように見えるが、

美容に対する姿勢はその差以上にかけ離れているようだ。

女の子にとってお肌のケアというものは早いうちからはしておくべきものらしく、

若い頃は、何もしないでも綺麗な肌のままの女性も居るが、

年を取ってからそのツケが必ずまわってくるという。

そういうものから無縁な男の筆頭である浜面が、

頭の痛みが収まったのか、再びソファにもたれかかりながら口を出した。



「好きな男とかに見せるわけじゃねぇんだから、

 そんなに気にしなくても良いんじゃねぇのか?」


「アンタが居るじゃない」



口を開いたときには既に遅く、「あ」と思わず口を塞ぐ麦野。

今の発言は捉え方によっては告白である。

熟したリンゴのように顔を真っ赤にする麦野に対し、当の浜面は、
312 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 22:52:33.33 ID:mLYLNNQ0


「いや、好きな男、って言っただろうが」


「・・・・あ、ああ、そうよね、よく聞いてなかったわ」



ケロッとした表情の浜面。

その天性の鈍感さに救われた一方で、何の動揺も見せない彼に少しガックリくる麦野。

いまさらなことではないので、もう慣れっこだが。



「ま、女の子は誰に見せるわけでもなくとも、

 いつでもお肌を若いまま保っておきたいものなんですよ」


「ふーん・・、よくわかんねぇなぁ」


「超ガサツな浜面には一生分からないことでしょうけどね」


「お前だって特に気にしてないんじゃねぇのかよ」


「私は他の面では超繊細な女の子ですから」


「二秒でバレるような嘘をつくんじゃねぇ」



再びギャーギャーと騒ぎ立てる浜面と絹旗。

つくづく兄妹にしか見えない二人である。
313 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 22:56:23.04 ID:mLYLNNQ0


「良いから、絹旗はさっさと服着ちゃいなさい。

 時間が時間なんだから、湯冷めするわよ」



りょーかいでーす、と鼻歌混じりに立ち上がる絹旗。

足を踏み出したと思えば、踵を返し、キッと浜面へその視線を突き刺す。



「・・浜面、着替えを見られるのは超不愉快なので、

 部屋の隅に行って超体育座りしながら、壁と会話していてください」


「何でそこまでしなきゃいけないんだ・・」


「なんとなく似合ってるじゃないですか、そういうの」


「・・顔を伏せてりゃ良いんだろ、

 っていうかお前の残念な身体なんて誰も見やしないっての」



自意識過剰だろ、と吐き捨てる浜面に対し、歯軋りする絹旗。

起伏に乏しい身体をしているというのは、やはり拭えぬ自覚があるらしい。

仕方なく視線を逸らす浜面の目に、妙なオブジェ?が映った。
314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 22:59:32.69 ID:mLYLNNQ0


「さっきから気になってたんだけどよ、

 ・・なんでフレンダはそこの植木鉢に頭突っ込んでんだ?」



部屋の隅を見やると、大きな観葉植物の鉢からダラリとした少女の身体が生えていた。

浜面は先ほどからこの物体を視界の端に認識していたのだが、

ツッコミようもない状況のため、イマイチ反応できなかったのである。

その少女の頭は土の中に埋まっており、首から下はピクリとも動いていない。

植物妖怪に養分を吸い取られているようだった。

見る人が見れば、かなり奇抜な美術的造形物のようにも見えるかもしれない。



「ああ、アンタがトイレに行ってたときなんだけどね、

 シャワー中の私を襲撃しようと画策してたから、さっくり粛清しておいた」


「ざ、残酷な・・」


「思わず絵に描き起こしたくなる自信作よね、それ」


「息できるのか、あれ・・」



恐らく、その文字通りの植物人間が目を覚ますのは朝方だろう。

何というか、かなりシュールな光景である。

不快とも驚愕とも取れる複雑な表情をした浜面の横に、

その悲劇を気にも留めない様子で、大きめな黄色のTシャツを着た絹旗がひょっこり戻っていた。
315 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:01:25.44 ID:mLYLNNQ0


「・・おい、麦野は服を着ろ、と言ったはずだが」


「着てるじゃないですか、服」


「上だけな」



そこには、ズボンを履いていない絹旗の姿。

ダボダボの大きなTシャツでその下半身を少しだけ隠している状態だった。

足だけの露出とはいえ、かなり艶かしく過激である。

ウブな浜面には最も有効的な精神攻撃といえるだろう。

今回もどうやら、パンチラの角度は微調整されているらしく、ブツを拝めることはできない。



「安心してください、パンツは超履いてますから」


「・・お前は何だ、俺に何か個人的な恨みでもあるのか?」


「恨みというか不満なら多々あります」


「その不満は後でゆっくり聞いてやるから、さっさと下を履いて来やがれっ!!」


「ちぇー、もっと面白いリアクションが見れると思ったのにー」



口を尖らせながら、部屋着のズボンを履く絹旗。

ようやく露出ゼロの状態になったため、ホッと胸を撫で下ろす。

一方で、心の底から残念だ、という思いもしたが。
316 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:04:15.79 ID:mLYLNNQ0


「っていうかそのTシャツ、俺のじゃねぇかよ」


「いまさら気が付いたんですか?」


「そんなサイズの服は俺の以外にはないしな」


「どうですー、超似合うでしょう?」



へへー、と悪ガキのような笑みを浮かべ、舌を出す絹旗。

何のアピールなのか、シャツの端を両手で引っ張り伸ばす。

プリントされた可愛らしいキャラクターの顔が引き伸びて、不気味に歪んでいた。



「服が伸びるからやめろっての。

 ・・特に感想は生まれねぇから、早く自分のに着替えてきてください、お嬢さん」


「ちぇー、今日の浜面は超つれませんねー」



渋々、タンスを漁って自分の服を取り出し、ブーたれながら着替え始める。

自分の服を女の子に着こなされるというのは、かなりモヤモヤした気分になってしまうものだ。

ちなみに、脱いだ浜面のTシャツは、部屋の隅で冷たくなっているオブジェにかけてやった。

朝は冷えるだろうから、という彼女の淡い優しさである。
317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:05:36.83 ID:mLYLNNQ0


お肌のケアを終えたのか、背伸びをし、化粧品を手早く片付ける麦野。

何もすることがなくなり、浜面によっかかりながらソファでくつろぐ絹旗に一声かける。



「あんまり、そのバカを誘惑するんじゃないわよ、絹旗ー。

 バカだからアンタみたいな奴にも欲情するわよ、そのサルは」


「ええ、ほどほどにしておきますかね」


「・・バカだのサルだの、とことん俺を常人扱いしてくれないよな、お前らは」



今に始まったことでもない。

車の調達に遅れた罰として、未だにシャワーを浴びることのできない浜面。

彼のその悲惨さといったら、何処かの不幸少年と良い勝負かもしれない。
318 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:08:55.91 ID:mLYLNNQ0

「それにしても、そんな釘を刺すようなことを言うなんて、

 もしかして、嫉妬ですか、麦野?」


「な、ぁ・・!?

 だ、誰が嫉妬なんかするかっつーの・・、アンタも泥の味を堪能したいのかしら?」


「随分と饒舌になりますねー、ちょっと突っついただけなのに」


「べ、別に焦ってなんかないってのっ・・!」


「しっかし、最近の麦野の可愛らしさといったら他に類を見ませんねー」


「このマセガキがァッ・・!」


「はいはい、超耳年増なお嬢さん」



バン!と丸テーブルを叩き、ゆっくりと立ち上がる麦野に対して、

ちょうどいい暇潰しができそうだ、とニヤける絹旗。

ゴングが鳴ったわけでもないのに、同タイミングで二人が取っ組み合いの喧嘩を始める。

叩くわ殴るわ蹴るわ引っ掻くわ振り回すわの大乱闘。

せっかくといた髪の毛が見るも無残にボサボサになっていく麦野に、

その小さなシャツが引っ張られて伸びていく絹旗。



「比類なき麦野の可愛らしさ、って想像がつかねぇな・・」



その喧嘩の間接的な原因でもある浜面は、興味なさ気にポツリと呟く。

ピンクのバニーガールの姿をした麦野が頭にうっすら浮かんだが、

それは本当に一瞬のことで、あっという間に霧散していった。
319 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:10:27.53 ID:mLYLNNQ0


―――――



そんな近所迷惑な乱闘が起きている居間とは隔絶されたシャワースペース。

そこには、滝壺と未だ名も知れぬ少女が居た。

本来、その汚れた身体を真っ先に洗わなければならないのは、その傷だらけの少女なのだが、

雨で濡れた麦野や絹旗が我先にとシャワー室に突入したため、全体で三番目になっていた。



「かゆいとこない?」


「うん、ない・・」


わしゃわしゃと少女の髪の毛をシャンプーする滝壺。

ぎゅっと目を瞑ったまま、その身を委ねる少女。

「アイテム」の中で、誰よりもお姉さん的要素があるというか、

母性を持っているのは、他ならぬこの滝壺なのかもしれない。



「傷、しみるよね、大丈夫?」


「大丈夫、新しくできた傷ばかりだけじゃないから・・」



少女の身体の傷跡は今日つけられたばかりのものだけではなかった。

そのいくつもの擦り傷は、数日にわたってつけられたらしく、

ほとんどの傷口は既に塞がっているようだった。

治療をする必要がないという点では手間がはぶけて良かったのだが、

嫌でも目に入る痛々しい傷や痣は、滝壺の表情を悲しく歪ませる。
320 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:13:29.98 ID:mLYLNNQ0


「名前、分からないの?」


「うん・・、記憶、ないから・・」



帰宅途中に簡単な事情を聞いてみたところ、どうやらこの少女は記憶の一部を失っているらしい。

部分的な記憶喪失、と言ったところか。

恐らく、暴行を受けた際のショックか何かが原因だろう。

それでも、唯一の好材料は、出会ったときとは違い、

虚ろだった少女の目が少しだけ光を宿していることだった。

滝壺たちに心を開き始めている証拠なのだろう。



「大丈夫、お姉ちゃんたちが何とかするから、安心して」


「うん、お姉ちゃんたち、可愛いし、面白いし・・、すごく優しいから、好き・・」



出会ってから2時間も経っていないのだが、少女の性格はなんとなく掴めてきた。

年相応に純粋で素直で可愛らしい子供。

裏の世界に関わりを持たなければ、普通はこのように健康に育つはずなのだ。

学園都市というのは、表と裏で極端な格差が生まれている。

「アイテム」もその格差により生み出された膿と言えるのかもしれない。
321 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:15:35.80 ID:mLYLNNQ0


―――――



「おい、もうその辺にしとけって・・、もう1時になるぞ、近所迷惑だ」



ドタバタと殴り合っていった麦野と絹旗が、息を切らしながら浜面の方を向いた。

ちっぽけな言い合いが原因の割に、お互いの目は真っ赤に血走っていてかなり怖い。



「うっさいわね、浜面、アンタも観葉植物にしてやろうかっ!?」


「そろそろあの子がシャワー浴び終えて出てくる頃だぞ、

 せっかくスッキリしたのに、猛獣同士の争いなんか見たら、また怯えちまうだろ」


「・・・それもそうね」


「分かりました・・」



腑に落ちないという表情のままではあるが、あっさりと元居た位置に戻る両者。

結局、暴れ馬のストッパーをしなければならないのは浜面である。

というか、猛獣同士というワードは気にかからなかったのだろうか。


ガチャリとシャワー室のドアが開き、

件の少女とすっかりお姉さん役が板についた滝壺が出てきた。

二人ともバスローブを巻いたままで、新鮮そのものの状態である。

さすがに滝壺の裸身を見るのは負い目があるのか、慌てて視線を逸らす浜面。
322 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:17:10.41 ID:mLYLNNQ0


「はい、バンザイして」


「ばんざーい」



自分の子供にするかのように、チャッチャと少女に衣服を着させる滝壺。

二人のやり取りは、見ていてかなり微笑ましい光景である。

ちなみに、子供用の服はないため、一番サイズの近い絹旗のお古を着させてあげていた。

そのアットホームな彼女たちを見て、絹旗がポツリと呟く。



「・・なんかあの子、滝壺さんに似てますよね」


「あー、俺も思ったそれ、髪型とか雰囲気とかすごい似てるよな」



出会ったときはよく分からなかったが、こうして見ると、彼女はミニ滝壺だ。

髪の毛はおかっぱに近く、前髪は少しパッツン気味。

どちらかと言えば色白で、ぽてぽて歩く。

少し無口で大人しい雰囲気もまさにそれだ。

違う点は、目がぱっちりしているところくらいか。
323 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:18:32.73 ID:mLYLNNQ0


「将来に期待だなー」


「良からぬこと考えないでくださいね、浜面」


「・・あ゛?」


「どうせ行く行くは姉妹丼とか考えてるんでしょう?」


「お・・、お前、それはかなりアレな発言だと分かって言ってるのか・・」



ここ最近の女の子の偏った性への価値観や進歩っぷりに驚きを隠せない。

絹旗の場合はかなりガチで、麦野の場合は耳年増な部分があるが。

フレンダに関しては、同姓に対する恋愛感情という時点で既に常識がぶっ飛んでいる。



「ああ、あと、滝壺さんに似てるからって、あの子にまで嫉妬しないでくださいね、麦野」


「・・は、はぁっ!? 誰が誰に嫉妬を隠せないで、照れ隠しだの何だのってあ゛うっ!」


「かなり早口な上に超支離滅裂なこと言ってますよ」


「しかも舌噛んだな今」



確立されているはずの麦野のキャラクターが崩壊の兆しを見せている気がしてならない。

ツンツンキャラから癒し系にジョブチェンジするつもりだろうか。

寝る支度を終え、麦野と向かい合うように丸テーブルに座る滝壺と少女。

滝壺の左腕に自分の腕を絡めたままの少女が際限なく愛らしい。
324 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:19:46.06 ID:mLYLNNQ0


「何か滝壺にすごい懐いてるわよね、その子」


「麦野はいつも超仏頂面してるから子供が近づいてくれないんですよ」


「失礼なこというわね、アタシはいつでも微笑みを絶やさない・・わよ」


「はいはい。

まぁ、犬とか猫が自分に対して敵意を持っている人間が分かるようなものなんですよ、きっと」


「なっ・・、私はこれでも子供好きで通してるのにっ!」


「だったらもう少し私に優しく接してくれませんかね」


「アンタは例外だっつーの、っていうか子供扱いするなって口酸っぱく言ってる割に、

 こういうときだけ子供面するような計算高いガキが嫌いなだけなのよ、私は」


「なッ・・、このっ」


「はーい、そこで止めろ、その子が見てるからなー」



バチバチと火花を散らし、今にも第2ラウンドを始めそうになった選手二人を遮る浜面。

この二人がヒートアップすると、住居の一つや二つが軽く吹っ飛ぶ恐れがある。

そんな醜い争いを年端もいかない?女の子に見せるわけにはいかないのだ。

それこそ、教育上よろしくない。
325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:20:57.99 ID:mLYLNNQ0


「・・で、これからどうするワケ?

 私たちのお勤め上、その子を長くここに置くわけにはいかないわよ」


「超残念ですが、そればかりは麦野と同意見ですね・・」



同じように頭を抱える麦野と絹旗。

学園都市の暗部組織というのは、常に死と隣り合わせの危険な仕事。

少女の面倒をみるために大事な戦力を割いたり、ましてや戦場に連れて行くわけにもいかない。



「と、なると・・。」


「またこの子をあんな所に放置したりするっていうなら・・、私は同意できないよ」



二人の会話に鋭く切り込みを入れた滝壺は、いつもとは違う真剣な眼差しだった。

もちろん、そんな薄情なことをするはずがない。

とにかく安全で、裏の世界とはかけ離れた場所に保護したいのだ。

彼女の処遇をどうするか一同が悩んでいた最中、

今まで一言も喋らなかった(もとい、喋ることができなかった)金髪少女が声をあげた。
326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:22:49.97 ID:mLYLNNQ0


「第十三学区・・」


「「「え?」」」


「第十三学区だよ・・、あそこ、幼稚園とか小学校とかの初等教育系の学校が集まってるでしょ、

 あそこに置き去り(チャイルドエラー)を受け入れる児童養護施設があった気がするわ」


「・・ああ、聞いたことありますね、それ」



ズボッと植木鉢から頭を引き抜き、泥だらけの顔のまま、よたよたと輪の中に入るフレンダ。

とりあえず顔拭けよ、という浜面から、濡れタオルを受け取り、ゴシゴシ顔を拭く。



「うん、名前は何ていうか忘れちゃったけど」


「・・フレンダにしては良いアイデアね」



麦野が感心したような声を漏らした。

撫でて撫でてー、と近寄るフレンダに手元にあった空のサバ缶をぶつけながら。
327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:23:52.46 ID:mLYLNNQ0


「でも、そこに入れるための費用とか必要なんじゃないのか?」


「ああー、考えてませんでしたねぇ」


「この子のためなら、いくらでも削るよ、私」


「ま、多少かかるようでも私たちの財力なら何とかなるでしょ、

 ・・浜面、アンタみたいな貧乏メンと違ってね」



確かに「アイテム」の経済力は同年代の少女たちとは天と地ほどの差がある。

常盤台などのお嬢様学校の学生たちと比べてみても見劣りしないのではないだろうか。

ただ、下部組織である浜面には、目が点になるようなほどの金は支給されていないけれども。



「そうだな、とりあえず車走らせて明日にでも行ってみるか」


「そうね、私たちの方もいつ依頼が舞いこんでくるか分からないし」



善は超急げ、ですねと絹旗。

一方で滝壺は、浮かない表情のままだった。
328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:24:26.35 ID:mLYLNNQ0


「・・私たちの身分とか聞かれたらどうします?」


「適当にごまかせば何とかなるんじゃないか?」


「結局、麦野と浜面なら夫婦で通るんじゃない?

 経済的な理由で子供を養うことができなくてー、みたいな」


「何かそれ、色々と倫理的に問題があるので超却下です。

 あと、麦野、なぜ貴方は顔を赤らめているんですか」


「き、気にしなくて良いわ・・」



なぜか顔を伏せる麦野。

一方で、テキパキと目の前で事が進んでいくためか、

渦中の少女はポカーンとした表情を浮かべていた。

不安なのか、密着している滝壺に目を合わせようと見上げる。

それに気付いた滝壺は、口元だけを緩めた淡い笑みを浮かべた。



「大丈夫だよ、お姉ちゃんたちに任せて」


「うん・・」



その身を任せ、ゆっくりと抱きつく少女。

それを受け入れる滝壺は、どことなく儚げな面持ちに変わっていた。
329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/24(水) 23:29:10.31 ID:mLYLNNQ0

今回はここまでです。

本腰入れて展開していくと言った割に、まったく話が進みませんでした。


>>301ですが、これまでの流れで分かる通り、

今シリーズに限っては、特に誰かにスポットを当てる形ではありません。

その形式でいくと、前回のようにかなり長ったらしくなりますし。


ちなみに、今月中には終わらせたいというのが願望です。

では、おやすみなさい。
330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/24(水) 23:31:47.15 ID:0NAmxIIP
ゆっくりおやすみー
331 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 00:48:07.22 ID:KSjrncDO
むぎのんって、可愛かったんだな……まるでレモンちゃんだ
332 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 01:13:03.97 ID:FHgE63Q0
おつ
333 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 01:21:08.60 ID:dgMB96Io
乙おつです!
ほのぼのしてていいなー
それにしても麦のんそんなにお肌の手入れしてるのにあんなになっちゃうのか
不憫だ−
334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 01:21:33.81 ID:VJtxVTko
乙乙
335 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/25(木) 02:07:54.41 ID:SPyC8760
ちょっと待て…
前作から所々で描写されてて「いや…まさかな…」とは思ってたんだが、
一連ののSSの設定では、もしや浜面氏はアイテムの四人組と共同生活してるのか!?
美少女四名と一つ屋根の下で寝食を共にしているとおっしゃりやがるんですか!!?
336 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 04:39:27.96 ID:xwlH7OMo
絹旗の行動が浜面を意識してるようにしか見えないんですが!
原作でもこんな感じなんですか?教えてエロい人!
337 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 05:16:06.32 ID:U4T8P860
麦野よか絹旗のほうが好きだなあ
これ終わったらそっちも書いてほしい
まあこっちはこっちでオモシロイからいぃけど
338 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 09:11:26.57 ID:aFgOsEDO
今更だがフレ/ンダの扱われ方に泣いた
339 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:20:44.26 ID:VXNyzE.0

おばんです。

久しぶりの連続投下です。
340 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:21:42.26 ID:VXNyzE.0


―――――



「うが・・、ぐ、くるしっ・・・!」



燦然と輝く朝日がカーテンの隙間から差し込んでくる。

しかし、そのまばゆさからではなく、原因不明の息苦しさから浜面は目を覚ますことになった。

自分の身体がソファから滑り落ちており、さらにその腹の上には女性の生足が二本乗せられている。

これだけのスラリとした美脚が誰のものなのかは、顔を見なくてもすぐに分かった。



「げほげほっ・・、麦野、何て格好で寝てやがるんだ・・」


「くー・・・」



仰向けのまま、布団もかけずに両腕をおっ広げて寝ていた。

二人で一つの毛布にくるまっている滝壺と少女の大人しさと比較すると、その酷さが際立っている。

彼女の上半身に至っては丸テーブルの下に入り込んでいた。

どういう動きをしたらこんなトリッキーな寝相になるのだろうか。

その豪快な寝方と裏腹に、可愛らしい寝息を立てているのが何とも言えないが。
341 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:22:59.55 ID:8e76C9EP
来たなwktk
342 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 22:23:58.91 ID:dgMB96Io
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
343 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 22:24:09.61 ID:aIGCb1M0
wwktk
344 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:24:19.17 ID:VXNyzE.0


「・・・・・」



一方で、自分の身体がなぜソファから落ちているのかは考えるまでもなかった。

ソファの上に、これまた寝相の悪さを露呈したままの絹旗が居たからである。

どうやら、浜面は寝ている間に彼女にソファをぶん取られてしまったらしい。

ヨダレを垂らしたままの無防備な絹旗は、年相応の愛らしい表情。

良からぬことを考えつつも、ぶんぶん頭を振り、邪念を振り払う浜面。

いまさらながら、女の子四人(今日に至っては五人)と同棲してる時点で、

真の意味で、青少年の教育上よろしくないものがある。



「とりあえず、朝飯だけでも作るか・・」



寝惚けた夜型の頭から、朝型にスイッチを切り替える。

「アイテム」の朝飯作りの当番は余程のことがない限り、浜面一人だった。

ときどき、珍しく早く起きてきた滝壺が手伝ってくれるくらいだ。

それでも、寝惚けた彼女の包丁捌きは危険極まりないので、結局浜面が終始料理し続けることになるが。

と、いうか彼がご飯を作らないと、彼女たちは毎日でもファミレスに通い続けるだろう。

ファミレスに行かないにしても、自分たちで作るのが面倒なため、朝飯を抜くはずだ。

何にせよ彼女たちの健康が心配なので、仕方なく彼が骨を折っているのだ。

ちゃんとした環境で育っていれば、良いアットホーム・ダッドになっただろう。
345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:26:12.48 ID:VXNyzE.0


「っつーか、今何時だ・・?」



頭をポリポリ掻きながら、壁にかかった時計を見やる。

時間は七時半を少し過ぎたくらい。

深夜までグダグダやっていた割には、丁度良い時間に起床することができた。

ゆっくりと立ち上がり、窓際に進み、カーテンを少しだけ開け、

住居前にある通りを見下ろすと、登校中の学生たちがちらほら見えていた。

彼らの明るい声が聞こえてきそうだ。

しかし、そんな子供の声でも、朝の小鳥のさえずりでもない声が、背後から聞こえてくる。


「浜面ー・・」


「ん、起きたのか、絹旗」


「・・超ぶちころすー」


「あ゛!?」


寝惚けた絹旗がシャクトリムシのようにずるずると動き出していた。

予想外の奇襲に尻餅をついたまま、身動きがとれなくなりそうになる浜面。

目が半開きのまま、よそよそと覆いかぶさってくる。
346 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:27:59.55 ID:VXNyzE.0


「今日という今日はぁー・・超責任とって・・、もらいますー・・」


「こ、こんのバカ絹旗っ・・、まだ寝てやがんな・・!」



木に登る猿のように右足に絡み付いてくる絹旗。

勢いよくその右足を振るいあげ、纏わりついていた彼女を蹴り捨てた。

ボスンッという彼女が何かに着地した鈍い音と、

ぐぇぇっ!とかいうフレンダの悲鳴が聞こえたような気がしたが、

朝飯作りが何よりも優先されるので、聞こえなかったことにした。


どいつもこいつも、幸せそうに睡眠中。

今日も大変な一日になりそうだ。




347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:29:00.44 ID:VXNyzE.0


―――――



「おーい、起きろー、朝だぞー」



カンカンカン、と鍋の裏をお玉で叩く専業主夫・浜面。

そのやかましい音は、さすがに彼女たち全員の耳に届いたようだ。

それぞれが身体を左右にふらふら揺らしながら、うつらうつらと起き上がる。



「んぇー・・朝ですか・・?」


「き、絹旗・・重いっ・・、なんで私の上に乗ってる訳・・?」


「・・あれ、何でフレンダが?

 私、ソファの上で寝ていたはずなんですが」


「結局、良いから一秒でも早くそこをどいて・・ほしいんだけど・・っ」



ああ、すみません、と、のそのそとフレンダの上からどく絹旗。

浜面が絹旗をフレンダの上に着地させてからの約三十分の間、ずっと気付かなかったのだろうか。
348 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 22:30:51.16 ID:qBD2hCso
ワッフルワッフル
349 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:31:25.51 ID:VXNyzE.0


「んあー・・朝ぁ・・、って痛ぁっ!!」



ゴンッという何かにぶつかった音と共に、可愛い悲鳴をあげる麦野。

それもそのはず、彼女はテーブルの下に潜って寝ていたため、

そのまま何も知らずに起きれば、頭をぶつけるわけで。



「な、何で私こんなハムスターみたいな寝方してんのよ・・」


「(全員が全員、無意識に動いてたのか・・、重症だな、どいつもこいつも)」



いまさら始まったことではないので、特におかしなこととは思わないが。

夜中に外を出歩くような夢遊病患者じゃないだけ、まだマシといえる。

ちなみに、寝惚けた彼女たちに殺されたかけたことは何度もあった。

今日に限っていえば、集団で襲われたわけではなかったのでいつもよりは良い方だ。


簡単に作った多めのサラダが一皿と人数分の食パンが、丸テーブルの上に輪を作るように並べられる。

今日はいつもより一人多いので、六人分の食事だ。
350 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:34:32.11 ID:VXNyzE.0


かけていた空色のエプロンを脱ぎながら、絹旗を指差し、口を開く浜面。



「絹旗ー、ジャムとかマーガリンとか、いつもの瓶を棚から取ってくれー」


「・・と、届きません」



足先まで力を入れて背伸びをするも、天井付近に取り付けられた棚には手が届かないようだ。

と、いうか何故そういう設計にしたのだろう。



「・・フレンダ、頼む」


「えー、今、鯖缶探してるから手がはなせないー」


「・・・・」



あと一歩で棚に手が届かない絹旗を押しのけて、瓶をかき出す浜面。

もう少しで取れそうだったんですけど、という絹旗の言い訳を聞き流し、丸テーブルに運ぶ。

ジャム、マーガリン、チョコ、ブルーベリー、ハチミツと種類だけは豊富である。

テーブルの上にバラバラと置かれた瞬間に、怒涛の奪い合いが始まった。
351 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:36:00.26 ID:VXNyzE.0


「あ、ちょっと絹旗、ブルーベリー取んないでよ」


「すぐに渡すから待っててください」


「それもうスプーン一掬いくらいしかないじゃない、私が先よ」


「そこで麦野が優先される理由がさっぱり分からないんですが」



ことあるごとに衝突する麦野と絹旗も姉妹のように見える。

二人とも性格にかなりの難アリだが。

仕方ないので、潤滑油役の浜面が口を挟む。



「ほら、今日はジャムで良いだろ、麦野」


「えー、やだやだ、今日はブルーベリーの気分なんだけどー・・」


「はいはい」


「あ、ちょっと勝手に塗んないでよ、浜面っ!」


「往生際が悪いですよ、麦野。この世界は超弱肉強食です」



誇らしげに言い放ち、いち早くブルーベリーがべったり塗りたくられた食パンにかじりつく絹旗。
352 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:38:32.58 ID:VXNyzE.0


すぐにベトベトになった口元も気にせず、麦野に嫌らしい視線を向ける。

それを感じた麦野も、不機嫌ここに極まるという表情で舌打ちした。



「・・後で覚えておきなさいよ、クソガキ」


「忘れました」



ガミガミ言い争う二人を他所に、仲良く微笑みながら食事を取る滝壺と少女。

少女は既に滝壺色に染められているのか、今やすっかり安心の滝壺ブランドである。

一方で、フレンダはもはやデフォルト化しているように、鯖缶をマイペースに食べ漁っている。

悲しいかな、彼女は浜面が作ったサラダには見向きもしていないようだった。


麦野絹旗の醜い抗争と、滝壺フレンダの穏やかな雰囲気を見比べると、

同じテーブルにも関わらず、平和と戦場という二つの世界が広がっているという何とも不思議な光景である。
353 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:40:34.96 ID:VXNyzE.0

「このサラダ、おいしい」


「はまづらが作ったんだよ、これ」



心から美味しそうに野菜を口に運び、パリパリ食べる少女。

その柔和な表情を見ると、少しは男である浜面に対する警戒心もとけたと見ていいのだろうか。

それを見て、爽やか好青年のような笑みを浮かべる浜面。

こんな簡素なサラダでも満足そうに食べてくれるなら、冥利に尽きるというものだろう。



「良かった、ドレッシングもさっぱりしてて美味いだろ?」


「うん、あんまり野菜好きじゃないんだけど、これならいくらでも食べられるっ」



少女を挟むように座っている浜面と滝壺を見ると、新婚のような雰囲気さえ漂っているようだ。

少なくとも、ちょうど向かいに座っている麦野からはそう見えた。

彼女の嫉妬スカウターを通すと、どうやらその色が濃く浮き出るらしい。
354 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:42:32.09 ID:VXNyzE.0


「あー、超美味しかったです、ブルーベリーが超最高でした」


「いちいち鼻につくこと言うんじゃないっての・・」



ただでさえ、不機嫌になった上に、絹旗の皮肉がいつもの倍、麦野をイラつかせる。

さらに、それに追い討ちをかけるような出来事が起こった。



「あー、おい絹旗、こっち向け」


「?」



何かも分からず、何となく浜面の方へ顔を向ける絹旗。

すると、彼が手元のナプキンで彼女の口元を丁寧に拭いてあげていた。

それを見て、唇を震わせ始めた麦野、当然の反応かもしれない。
355 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:44:02.63 ID:VXNyzE.0


「な・・、えっ・・!?」


「ちょ、ちょっと・・、自分で拭けますよこのくらいっ・・!」


「お前のことだから、どうせ自分の服で口拭くだろ、洗う方の身にもなれっての」


「あぅー・・」


「うわ、っつーかお前、寝癖すごいぞ・・!

 まーた、頭をぐりぐりしながら寝てたな?」


「寝相ばっかりは直りませんよー」


「あ・・、あぁっ・・!?」



ぐしゃぐしゃと絹旗の髪の毛を掴み撫でる浜面。

何故か無抵抗に浜面の手振りを受け入れる絹旗に、

思わずフォークを落とし、両手をわなわなさせながら、言葉を詰まらせている麦野。

浜面の行動が下心なしの好意であるため、余計に羨ましく感じてしまう。

ここで、ピコーンと彼女の頭の豆電球が華々しく光った。

ガジガジとジャムべったりの食パンに、勢いよくかじりつく麦野。

女の子は、大好きな彼を振り向かせるためなら、何だってやる。

例え、それが自分のプライドを多少傷つけたとしても。
356 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:45:06.72 ID:VXNyzE.0


「浜面ー、私もベタベタなんだけどー」


「んー? ったく世話焼かせんなよなー、揃いも揃ってよー・・」



愚痴をこぼしながらも、わざわざ立ち上がり、間に居る絹旗を避けて麦野に近づく浜面。

訪れる至高の時。

浜面が、持っていたナプキンを彼女の口元に寄せようとした瞬間。



「あー・・むっ」


「・・んむっ!?」



麦野が目を閉じていたのを逆手に取り、彼女の右手に居たはずのフレンダがキスしていた。

口元のジャムを丁寧に舐めとるように器用に舌を使う。

麦野がそれに気付いたときには、時既に遅し。
357 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:46:11.88 ID:VXNyzE.0


「わーい、麦野のキスはジャムの味〜♪」


「・・・こ、こ、こンのアマぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」



感触の違いに気付いた麦野がすぐさまフレンダを突き飛ばし、

彼女に向かって手元のフォークを勢いよく投げつけた。

それはおでこにサクッと刺さり、フレンダは本望・・と言い残し、絶命。

涙目になりながら、息を荒げる麦野。



「フレンダ、いつからあんなにオープンになったんですかね・・」


「・・あの二人って本当に仲が良いよね」


「仲が良いように見えますかアレ」



ニコニコする滝壺につられて、少女も暢気に笑っていた。

彼女たちが幸せそうにしているなら、まぁそれで良いかと思う。
358 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 22:47:45.81 ID:qBD2hCso
やっぱりむぎのんこそ至高
可愛すぎる
359 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:48:19.37 ID:VXNyzE.0


「ち、ちくしょう・・、この千載一遇のチャンスをっ・・!」



目をギラギラさせたまま、フレンダに追い討ちをかけに行こうとする麦野。

しかし、浜面がその腕を取り、彼女を振り向かせる。



「・・ったく何やってんだよ、行儀悪ぃな・・、ほら」


「んぅっ・・!?」



何の動揺もないのか、ナプキンで麦野の口元を優しく拭いてやる浜面。

目をパチクリさせながらも、脱力したまま受け入れる麦野。
360 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:51:08.63 ID:VXNyzE.0


「麦野ー、聞こえてますかー、麦野ー?」


「・・・・」



自分から仕掛けた割に、ポカーンとしている麦野。

絹旗の声は筒抜けである。

子供のような発想ではあるが、彼女自身に爆発的な効果を生んだようだ。

今、彼女の頭の中は何が支配しているのだろうか。



「何で麦野の奴、機能停止してんだ?」


「まったく・・、浜面は超罪作りな男ですよね」


「・・ど、どういうことだよ」



麦野のじれったい乙女心に、彼が気付くのはいつになることか。



361 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:52:35.76 ID:VXNyzE.0


―――――



キーを回すと、けたたましいエンジン音が鳴る。

安全のためなので、一応シートベルトをしっかり付けておく。

カチッと音がするまでだ。

助手席に座るフレンダにも、ちゃんと付けさせる。

いつでも運転可能な浜面は、念のため、他の面子に声をかけておく。



「よっし、出るぞー、準備は良いかー?」


「はーい」


「いつでも良いよ」


「ぉっけー」



これから児童養護施設に預ける少女、それの保護者役の滝壺、そして、案内役のフレンダ。

滝壺は少女が一番懐いているために帯同、

児童養護施設の場所はインターネットで調べておきはしたものの、

実際にその場所を知っているフレンダは必須。

どうせだから全員で送ってあげよう、という意味で麦野と絹旗もついてきていた。

「アイテム」総出で送り出し、というわけである。
362 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:54:26.52 ID:VXNyzE.0


「んじゃ、ナビ頼むぜ、フレンダ」


「まっかせんしゃーい」



昨日、任務帰りに拝借してきたばかりのワゴンだったが、

同じものに乗ったことがあったので勝手は知っていた。

ドライブモードにレバーを傾け、アクセルを踏み込み、発進する。

ラックに入っていたCDを1枚取り出し、雰囲気作りのために音楽をかけてみる。

しかし、流れてきたのは洋楽だったので、浜面にはチンプンカンプンだった。

この車の持ち主は極度の洋楽マニアだったのだろう。

浜面が知らないような洋楽CDばかりが並べられていた。



「えーと、ここから何分くらいかかるんだ?」


「第十三学区だから、そんな苦痛なほどじゃないと思うよ、すぐ着くって」


「そっか。あと、アポは取ったんだよな?

 あちらさんには何時頃にそっちに着くように言ってあるんだ?」


「んーと、9時過ぎって言ってある」



前方の液晶に目を向けると、8時30分と表示されていた。

ごたごたの朝飯だった割に、スムーズに事は進んでいる。

フレンダの言う通りなら、相手に迷惑がかかるようなことはないだろう。

うっかり事故など起こさない限り。
363 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:56:22.09 ID:VXNyzE.0


「<結局、問題はあの子がすんなり施設に入ってくれるかどうか・・だけどね>」


「<まぁ、入ってもらうしかないだろ・・、

 名残惜しいけど、俺たちにあの子の世話をするのは到底無理な話だからな・・。>」



実は、少女はこれから何処に行くのかを理解していなかった。

もちろん、自分が施設に預けられるということも知らない。



「<結局、あの子が嫌がるようでも、滝壺さんに何とか説得してもらうしかないでしょ・・>」


「<うーん・・、まぁ、仕方ないな・・>」



一抹の不安が残るが、それしか彼らに選択肢がない以上、どうしようもないことである。

今生の別れということでもないので、何とか丸く収まってくれるのを願うのみだった。



364 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 22:59:21.98 ID:VXNyzE.0


―――――



児童養護施設「あすなろ園」、砕けて言えば、置き去り用の保育園だ。

親の居ない、あるいは親に捨てられた子供たちが行き着く先の一つ。

見た目は、学園都市の外にあるような一般的な保育園と一緒だ。

敷地はそれほどまでに広くはないが、それを感じさせないくらいに子供たちが伸び伸びと遊んでいる。

今日は太陽がはっきりと姿を現しており、風もなく、暖かい、最高の外遊び日和なのだろう。

そんな庭で遊んでいる子供たちが目に入るくらいまでの場所まで来ると、道路の脇に車寄せて止める。

駐停車禁止かどうかは、面倒なので考えなかった。



「さってと、敷地内にぞろぞろ入っていくのもあれだし、

 結局、私と滝壺さんだけで行ってくる訳よっ」


「・・何か超不安な面子ですね、それ」


「俺も同感だ・・」


「あ、そうそう。

 この中で一番不信感バリバリなのは浜面なんだから、顔も出しちゃダメだかんね。

 外で遊んでる子供たちが変質者と間違えてパニック起こしちゃうかもしんないし」


「そ、そこまで言われるとさすがに傷つくぜ・・」
365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:01:03.33 ID:VXNyzE.0


浜面の悲痛な言葉をヒラリとかわし、助手席から飛び降りるフレンダ。

後ろの席からも、滝壺と少女が降りる。

「あすなろ園」に行く途中で購入した真っ赤なスカートと花柄のワンピース、白フリルのついた赤い靴。

どこにでも居るような、普通の少女だ。

一応、今回は捨て子の少女をたまたまフレンダたちが見つけたという、

バカでも見抜けそうな嘘のシチュエーションで通してある。

しかし、それが一番自然な形であるし、あまり複雑な事情にすると、

こちらのことを詮索されてしまうのでかなり面倒なことになる。



「すみませーん、先ほど電話した者なんですが」


「あ、はいはい、お待ちしておりました、中へどうぞ」



外で子供たちと遊んでいた、三十代半ばか後半くらいの年齢の女性に話しかけた。

いかにも保母さんという雰囲気で、優しそうな女性だ、薄緑のエプロンがよく似合っている。

子供たちをもう一人の先生に預けたあと、その女性は三人に深々とお辞儀をした。

ニコやかに笑みを浮かべた女性は、案内役かつ今回の件の責任者らしい。

急な持ち掛けだったのに、意外と簡単に受け入れてくれるものなんだな、とフレンダは心の中で呟いた。

滝壺とフレンダと手を繋ぎながら、ぽてぽて歩いてく少女。

少女は未だにここがどういった場所か分かっていないのだろう、目をぱちくりさせている。
366 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:02:47.43 ID:VXNyzE.0


「ここ、どこ?」


「これから貴方が住むところだよ」


「私が・・住む?」


「・・うん」



施設の中に入ったあと、少し歩き、応接室と思しき部屋に招かれた。

同じ保育園の中とは思えないような、シックな雰囲気の漂う、居心地の良い部屋だ。



「一応、詳しい話だけお聞きしますので、そこへ座ってください」


「あ、はい」



少女を真ん中に挟んだ状態で、黒い横長のソファに腰を下ろす三人。

女性は、紅茶を出してくれた後、三人に向かい合うようにもう一つのソファに座った。
367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:04:17.58 ID:VXNyzE.0


十分ほどの時間をかけて、少女との出会いから記憶喪失の件まで、すべてを説明をし続けた。

フレンダがぶっ続けで喋り通し、女性は目を瞑りながら、時折何か考えるように頷く。

その間、少女は滝壺と手を握りながら、彼女たちのやり取りを静かに聞いていた。

昨晩の麦野たちの話はあまり聞いていなかったものの、

今回の話でようやく自分の置かれる立場がなんとなく理解できてきたようだった。

滝壺は、その手に入れる力が、段々と強くなっていくのを感じ、

それに呼応するように、少女から伝わる力も強くなっていくのが分かった。

説明が終わると、女性は真面目な表情を崩さず、口を開く。



「事情は分かりました・・、一応、仮入所ということで許可します。

 えーと・・、これらの書類に記入をお願いできますか?」



隣にあった棚から、数枚の紙を取り出し、机に並べる。
368 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:05:03.13 ID:VXNyzE.0


「・・分かりました、フレンダ、頼める?」


「ぉっけー」



予め持参しておいたペンを取り出し、スラスラと記入を始める。

記入事項も身分証明も、すべてが偽造だ。

ただ、少女のことを第一とする気持ちは本物である。

心苦しいが、何の障害もなく話をつけるには止むを得ないこと。

これが少女のため。

会ったばかりの少女にここまでする必要はないはずだが、

どうしてここまでお世話しようとしているのかは分からない。



「結局、お金の方とかは大丈夫なんですか・・?」


「ええ、その心配は要りませんよ、ここは学園都市からの支給で成り立っている施設です。

 そうでなければ、子供たちの居場所がなくなってしまいますからね・・」



外で元気に遊ぶ子供たちを、窓から見やる女性。

輝かんばかりの笑顔だが、彼ら全員が親のいない置き去りなのだ。

女性の話に納得し、結果的に余計な手間がはぶけて良かったと言える。
369 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:06:09.97 ID:VXNyzE.0


「えーと、今日から入所されますか?」


「あ・・、はい、そうですね」


「分かりました、じゃぁ、こっちへいらっしゃい、外のみんなに挨拶しなくちゃね」


「んっ・・」



女性に手を引かれ、立ち上がる少女。

しかし、滝壺と握り合っていたもう片方の手を離そうとはしなかった。

その些細な行動でさえ、滝壺の胸を強く締めつける。



「・・どうしたの、こっちへおいで」


「いや、お姉ちゃんたちと離れたくない・・」



ある意味、予想通りの展開だったかもしれない。

フレンダと滝壺がお互いの顔を見合わせ、心苦しそうな表情を浮かべる。

意を決したように、滝壺が少女に言葉をかけた。
370 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:07:30.54 ID:VXNyzE.0


「ダメだよ、お姉ちゃんたちはお仕事があるから、

 貴方とずっと一緒に居られないの・・、だから、ここでお別れ。

 お友達もいっぱい居るから、安心して」


「やだ、いやだよ・・・、お姉ちゃんたちと一緒が良いっ」


「・・どうしよう、フレンダ」


「う、うぇっ、私っ!?」



今にも泣き出してしまいそうな顔の少女。

こういったときの対応というのは滝壺に任せるべきなのだが、

状況が状況なだけに、彼女もかなり戸惑っているようだ。

それに、ここを抑えたとしても、根本的な解決にはならないだろう。

女性も、自分が関わるわけにはいかないと思っているのか、口を閉じたままだ。
371 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:10:06.77 ID:VXNyzE.0


「私も貴方と一緒に居たい、でも仕方ないの・・、時間が空いたら会いに来るから、ね?」


「・・・でも、それでもいやだよ・・いや・・、いや・・・」



少女がその顔に涙を見せたそのとき。

滝壺たちは、自分たちの周りに微かな風が吹き込んでくるのを感じた。

髪の毛が少し揺れる程度の、わずかな風。

しかし、ここは施設の中、どこの窓も開いていないし、

何より、今日は風など吹いていなかったはずだ。

なら、この風はどこから入り込んできたものか。



「なにかしら・・、この風・・」



「な・・、これってッ・・!?」


「フレンダっ!」



滝壺とフレンダの持ち前の勘が働いた。

その対象は。




「・・いや、いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

372 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:10:37.12 ID:VXNyzE.0


絶叫する少女の周囲に、顔をかばいたくなるほどの強い風が巻き起こっていた。

ゴォォォォッという唸りと共に、その暴風は施設内を駆け巡り、すべての窓をガタガタと震わせる。

応接室の掛け軸や肖像画を始めとした備品が、風に当てられ、次々と音を立て、落ちていき、

施設の通路に貼ってある子供たちの作品や絵が強風に煽られ、引きちぎられるように飛んでいった。



「まさか・・、この女の子・・!」


「能力者っ・・!」



フレンダと滝壺の頬を一筋の汗がつたう。

彼女が能力を使用しているのは、この状況からして明らかだ。

しかし、恐らく、彼女はその力を制御できていない。
373 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:11:40.33 ID:VXNyzE.0


「これだけの大風を起こすなんて・・!」


「滝壺さんっ・・、どうにかしないとっ・・!」



傍に居た女性は立ち続けることもできず、その場で膝をついてしまっていた。

二人もこの風に抵抗する術がなく、体勢を崩さないようにするのが精一杯だった。

フレンダの制帽も、既に何処かに吹き飛んでしまっていた。



「だめ・・、このままじゃ・・!!」



滝壺が呟いたときには、既にその風は暴風とも言えるレベルにまで発展し、施設中を荒らし回る。

それだけの轟音が響きながら、少女の悲痛な叫びだけは鮮明に聞こえていた。



374 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:13:24.58 ID:VXNyzE.0


―――――



施設内で異常事態が起こっている頃、施設外でも異変が起き始めていた。

先ほどまでは、ほぼ無風だったにもかかわらず、

施設を囲むように立っている木々が風で大きく揺れ始めていた。

また、施設の庭では、子供たちを遮るように小規模な砂埃が舞っている。

目に見えて、風が強くなっていることが分かった。



「なんだあ・・、随分と風が強くなってきやがったな・・?」


「木が超揺れてますね・・、遊んでる子たちは大丈夫でしょうか・・」


「すー・・」



こちらは、「アイテム」待機組。

ワゴンの窓から顔を出しながら、周囲の様子を気にかける浜面と絹旗。

麦野は待ちくたびれたのか、窓に頭をつけながら、すやすやと寝息をかいていた。

一言も喋らないでいたと思えば、どうやら眠いのを我慢して、ついてきていたらしい。
375 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:14:42.73 ID:VXNyzE.0


「何か、様子がおかしくありませんか・?」


「・・ん、そうか?」


「いきなり風が吹き始めたというか、何というか・・」


「学園都市のどっかの風力発電機が壊れたんじゃねぇの?」



「あすなろ園」だけでなく、周囲の建物や、施設の敷地外の木々も見やる絹旗。

周りは、まるで風の影響などほとんど受けていないかのような静寂っぷりだった。

当たり前のことながら、風はこんな街中で突然に生まれるものではない。

大体は、どこからか吹き込んでくるものだ。

それにもかかわらず、この「あすなろ園」だけが風の被害を受けているようだった。

こんな平野で上空から吹き込んできているのだろうか、そんな馬鹿な話があるものか。

再び「あすなろ園」に目をやると、

風が地面から上空に向かうような、上昇気流のような形で吹き荒んでいるのが分かった。

舞う砂埃の量も、数十秒前と比べても、段違いに多くなっている。

異変に気付いた子供たちがバラバラに逃げ惑い始めていた。
376 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:15:46.28 ID:VXNyzE.0


「・・・妙な胸騒ぎがしますね」


「確かに・・、ってうおぉぅッ!?」



そのとき、浜面の携帯がけたたましく鳴り響く。

ビクッとした後、急いで携帯を開く浜面。

画面に表示された名前は『滝壺 理后』。

変な声あげないでくださいよ、超キモいです、と後ろで聞こえたが、

気にせずに通話ボタンを押し、慌てて耳元に携帯を押し付ける。

絹旗も念の為に浜面の耳元へ顔を寄せた。



「もしもし、滝壺か、何かあったのか?」


『・・はま、づらっ!』


「おい、どうしたっ・・、っていうか何だよこの音っ!?」



つんざくような大きなノイズが入り込む。

まるで、暴風警報発令中なのに外で電話をしているような感じだ。

滝壺の声を満足に聞くことができない。
377 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:16:25.61 ID:VXNyzE.0


『あの子・・の・・くしゃで・・、この風・・っ、・・起こ・・!』


「おい、何があったんだ、ノイズが酷くて全然聞こえねぇっ!!」


『とに・く・・、今すぐ・・、』



ガシャン!という何かが落ちたような音とともに通話が切れる。

浜面は携帯の画面を見たまま、歯を食いしばった。

尋常じゃない事態、それは理解した。



「おいっ、絹旗!」


「聞こえてましたよ、緊急事態のようですね」


「・・くそっ、うだうだ喋ってる時間が勿体ねぇ、行くぞっ!」
378 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:17:50.69 ID:VXNyzE.0


勢い良くドアを開けて飛び降りると、一直線に暴風が渦巻く庭へ切り込む浜面。

無能力者が手ぶらのままで何をしに行くというのだろうか。

すると、施設内の方が酷い風だというのが分かったのか、

子供たちと数名の先生が彼とは逆方向に避難していく。

その群れをかき分けるように、進んでいく浜面。



「ちょ、車の鍵締めていってからにしてくださいよっ!!」



ちなみに、車のキーは浜面が持ったままだった。

絹旗は止まるよう叫んだが、車内には麦野が居るので何とかなるだろう(爆睡中だが)と思い、

止むを得なく彼を追いかけるため、一箇所集中の強風の中に慌てて飛び込んでいった。



379 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/25(木) 23:22:28.57 ID:VXNyzE.0

今回はここまでです。


>>335、その方がロマンがあるじゃない…

そして、>>336は黙って19巻を読めば良いと。

>>337に関しては、各々にスポットを当てた話の構想はあるのですが、少し先になると思われます。


では、おやすみなさい。
380 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/25(木) 23:23:36.62 ID:8e76C9EP
長く楽しめそうでなによりだ乙
381 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 23:24:40.39 ID:qBD2hCso
乙乙
むぎのんかあいいよむぎのん
382 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 23:26:15.82 ID:dgMB96Io
滝壺が少女にアレしたり、そのうち少女がアレされたりしそうな予感
ともあれ乙おつです!
383 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/25(木) 23:52:01.96 ID:bfMl/ko0
乙!
アイテムもかわいいけど一番の萌えキャラは浜面じゃね?
384 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/26(金) 00:01:48.67 ID:GpRnJYDO
クオリティを保ちつつ投下し続けるその姿勢に乙したい
385 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/26(金) 00:55:56.32 ID:nEdNFRc0
何気に気になったんだけど、まだ捨て子と確定してないっぽいから、
まずは施設より警察、もとい学園都市だから警備員じゃないのん?
386 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/26(金) 01:39:46.72 ID:pLA4HHA0
乙〜
387 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/26(金) 03:25:42.76 ID:vOnAqE20
おつ
>>379ぜひお願いします
388 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/26(金) 20:10:35.20 ID:5pY3Q32o

最近一番楽しみにしてるんだぜ
389 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/26(金) 20:47:13.17 ID:QH.DQnMP
原作作者に失礼だが、正直アニメレールガンの「なのなの」編よりも数倍楽しみだわ
応援してるぜ
390 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 22:38:13.21 ID:E16Dj720

おばんです。

今回でほぼ折り返し地点です。

もう少しだけお付き合いを。

では、投下します。
391 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 22:39:17.43 ID:E16Dj720


―――――



「ごめん・・、携帯飛んでっちゃった・・」


「えぇっ!? じゃ、私の携帯を・・って充電切れてるぅ!?」



風除けのため、廊下の曲がり角に隠れていたフレンダと滝壺。

しかし、少し顔を覗かせるだけで、強風が顔面にぶち当たってくる。

さらに、滝壺は携帯を落とし、その勢いで廊下の反対方向に強風で滑っていってしまった。

遠くにいってしまった携帯を拾おうとここを離れれば、

今の位置には戻れなくなってしまうだろう。

一方、施設の女性は彼女たちとは逆、

通路の行き止まりの部分に背を預けたまま、動けないでいた。

少女は、依然として女性と、フレンダ+滝壺の間に立っている。

能力を使用して、あちらこちらに少女が移動しないだけマシだが、状況は好転しない。

少女は未だに大声をあげながら、泣きじゃくったままだ。

それに呼応するように、吹き荒れる風は威力を失うどころか、どんどん強くなっていく。
392 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 22:41:06.21 ID:E16Dj720


「一応、はまづらには伝わったと思うんだけど・・」


「んなこといったって、あいつらが来てもどうにかなるような状況じゃないでしょ、これ・・!」



麦野の能力なら、ギリギリで止めることはできるかもしれない。

対象を殺す、あるいは負傷させるという手段を使って。

ただ、そんな選択肢は端から選べるわけがなかった。

精神的にボロボロの少女をこれ以上傷つけるようなことができるわけがない。

彼女が泣き止むのを待つしかないのだが、それでは被害が拡大するばかりだ。



「この原因は私たちだよね、あの子がこんなに悲しむなんて・・」


「・・あーだこーだ悔いるのは終わってからだよ、滝壺さん」



今、少女は救いを求めている。

だからこそ、誰かが手を差し伸べなければならない。

それは、自分たちの役目のはずだ。

一度解いた手を、もう一度繋ぎなおす。


若いうちに強力な能力が伴ってしまった子供にありがちな能力の暴走。

持たざる者の止めどない暴走は、その人間のすべてを破壊する恐れがある。
393 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/26(金) 22:41:29.77 ID:xfp4UVQ0
超待ってた!
394 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 22:42:16.61 ID:E16Dj720


「とにかく、はまづらたちが来るのを待とう、私たちじゃどうにもならないっ・・!」


「・・結局、それしかないって訳ね」



長期戦を覚悟したそのとき、施設の入り口の方から大きな声がした。



「滝壺ッ、フレンダッ、何処に居るんだっ!?」



浜面の声。

予想よりも早い到着だった。



「浜面、こっちこっち!!」


「フレンダ!!」



浜面の姿が見え、精一杯叫ぶフレンダ。

両手を使ってブンブン手招きする。

しかし、風の源が近いせいか、勢い良く走り寄ることができない。

時間をかけて、何とか二人と合流した。
395 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/26(金) 22:42:30.27 ID:MfAf1Wso
キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
396 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 22:44:50.76 ID:E16Dj720


「・・一体、何がどうなってやがんだよっ!?」


「あの子が能力者だったの・・、

 たぶん『風力使い(エアロシューター)』か何かだと思うんだけど・・」


「な、嘘だろっ、あの女の子が能力者・・!?

 いや、それはともかく、何でこんなことになっちまってんだよ・・!

 施設の中も外も、ものすごい荒れっぷりだぞ!?」


「私たちと別れるのが嫌で、あの子の感情が爆発したと同時に能力が暴走ってトコかな」



そう言いながら、親指の爪を噛むフレンダ。

爆発物系統を扱う彼女にとって、こういった状況の解決は困難だった。

滝壺の能力もこの場では意味を為さない。



「そういえば、麦野と絹旗は今ドコよ?」


「絹旗はそのうち来ると思う、麦野は・・、車の中で寝てる」


「はぁ!? こんなときに何してんのよ、ウチのリーダーは・・」



右手で頭を抑えるフレンダ。

この事態を解決するためには「アイテム」の中で一、二に頼れる彼女たちの協力は必須だ。
397 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 22:46:54.59 ID:E16Dj720


「まぁ、絹旗か連れてくるかもしんねぇけど・・、

 参ったなこりゃ、予想外すぎる・・」


「ここからじゃ、叫んでも声が聞こえないし、説得の仕様がないよ・・」



顔を半分だけ出して、少女の様子を見る。

彼女との距離は20メートルほどか。

先ほどと変わりなく、大号泣しながら、能力をフルに使用中の少女。

声が枯れてしまうんじゃないか、と心配になるくらいだ。



「あ、きぬはた。」


「絹旗、こっちだ!!」



浜面のルートを辿り、絹旗も追いついてきたようだ。

こちらに気付いたのか、顔を向け、走ってくる。

しかし、彼女の能力の自動防御機能を持ってしても、この暴風は厳しいらしい。

風自体は防げているため、目が開けられないだの髪の毛がボサボサになるなどの被害はないが、

風の影響すべてを緩和できていないのだろう、ノロノロと近づいてきた。
398 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 22:48:04.28 ID:E16Dj720


「まったく・・、この風だと私の能力をもってしても一苦労ですね」


「それより、麦野はどうしたんだ?」


「浜面が車の鍵を閉めていかないので、仕方なく番犬代わりに置いてきましたよ」


「ぐが・・っ、しまった・・!」


「・・それより、何があったんですか、外の子供たちは大パニックでしたよ」



一部始終を説明するフレンダ。

聞いていくうちに、徐々に眉を潜めていく絹旗。



「なるほど、状況はわかりました。

 とにかく、彼女の近くに行ければ何とかなりそうですか?」


「うん。

 ここからじゃ何もできないから、せめて近くまで行ければ・・!」


「ふむん・・、何か彼女との間を遮るような大きなものがあれば。

 そこらの机を持ってきても、風を受けきれないかもしれませんし・・。」


「浜面がこの場で『風力使い』の能力に目覚める、とかどうよ!」



バカ言わないでください、と、当の浜面よりも先に否定する絹旗。

辺りを見回すが、頼りになりそうなものは何もない。
399 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 22:51:04.02 ID:E16Dj720


「能力者だ何だと言われても、こういうときに何の役にも立たないことが腹ただしいばかりですねっ・・」



唇を噛み締める絹旗。。

そこで、浜面が何かを思い出したように、顔をあげた。



「・・そうだ、昇降口にあった下駄箱なんてどうだ?」


「げ、げたばこ・・?」


「あぁ、あれならそれなりの幅は取るだろうし、

 身体を風から守ることくらいはできるはずだと思うんだけど、どうだ?」



一般的に知られている下駄箱を思い浮かべる。

確かにあれなら、最低限の遮蔽物にはなりえそうだ。
400 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 22:51:45.50 ID:E16Dj720


「ま、まぁ、確かに思いつく限りのこの施設内にある大きな物といえば、それくらいしかないかもだけどさ」


「でも、それをどうやって運ぶなり、遮らせるなりするの・・?」


「そこは私の出番でしょう」



腕まくりをし、息を荒げる絹旗。

彼女の能力で窒素を介せば、どんなに重いものでも簡単に持ち上げることができる。

限界はあるだろうが、下駄箱の一つや二つなら、問題はないはずだ。



「それにしても、下駄箱なんて超間の抜けた武器ですね・・」


「ないよりマシだろ、取りに行くぞっ!」



背を向けて走ろうとする浜面の袖を引っ張り、ズダンと倒す絹旗。

後頭部から落ちた浜面は、ぬぉぉっと頭を抱え、ゴロゴロとのたうち回った。



「私だけで超十分です、浜面はここに居てください」


「・・ですよね」



401 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 22:53:49.61 ID:E16Dj720


―――――



「さて、運搬役の私と説得役の滝壺さんだけで行くので、二人はここで超待機していてください」


「ああ、そっちは大丈夫なのか?」


「そんなゾロゾロ行っても仕方ないでしょう、下駄箱を押し進めるのは私だけで十分です。

 廊下の床を超傷つけることになりますが、この際気にしてられません。

 あと、念のために、何かあったときはバックアップをお願いできますか?」


「分かった、任せとけ」



ニッと笑い、下駄箱に手をかける絹旗。

彼女が運んできた下駄箱は、何処にでもありそうな木製のものだ。

赤ペンキで満遍なく塗りたくられており、

人二人がやっと隠れることができる程度の面積。

総括すると、下駄箱の裏面を両手で押し進め、滝壺も一緒になって隠れたまま、

少女に近づき、そこから何とか説得するという何ともチープな作戦だ。

もちろん、少女が聞く耳を持ってくれるかどうかは分からない。

ただ、これが今の自分たちに出来る最善の救出策。
402 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 22:55:33.64 ID:E16Dj720


「せーのっ・・!」



力いっぱい下駄箱を押し、じわじわと少女との距離を詰めていく。

数分かけて、何とか少女の手前3メートルほどまで来たが、

それ以上はテコでも動かなくなってしまった。

やはり、少女の近くは風の威力が強すぎる。

これ以上は下駄箱すら破壊されてしまうんじゃないかというくらいだった。



「滝壺さんっ・・これ以上は・・!」


「わかった・・、ありがとう、きぬはた」



顔を少しだけ出し、少女を説得しようとする。

しかし、あまりにも風が強すぎるため、顔を出すことすらできなかった。

顔を出すことができなければ、少女にしっかりと声が届くことはないだろう。

相手に上手く伝わらない言葉は、互いの気持ちのすれ違いを生む。
403 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 22:57:31.87 ID:E16Dj720


「ここまで来てっ・・!」


「滝壺さん、無理はしないでくださいっ・・」



歯軋りする滝壺、心配そうに見つめる絹旗。

浜面やフレンダも同じ気持ちなのだろう、こちらをずっと見続けていた。

衰える兆しを見せない少女に対し、滝壺は無謀にも身を乗り出そうとする。



「お願い、聞いてっ・・!

 私たちは貴方を一人になんかしないっ、だから・・!!」


「・・ぅぁああぁぁぁぁわぁぁっ!!!!!!!!!」



バリィィンという甲高い音がして、複数の窓ガラスが割れた。

いくつもの風を収縮して打ち出された空気砲のようなものが炸裂したらしい。

それと共に、身を乗り出していた滝壺が一瞬で吹き飛ばされる。
404 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:09:33.93 ID:E16Dj720


「く、うぁぁっっ!!!」


「滝壺さんっ!」



絹旗が手を伸ばしたときには、既に滝壺は一直線に遥か後方へ。

バットから放たれた弾丸ライナーのように、彼女の身体は軽々と飛んでいった。



「滝壺っ!!」



それに反応したのは浜面。

飛び込むように通路に出ると、飛んできた滝壺を抱きしめるようにしっかりと受けとめる。

しかし、体勢を崩し、背中から通路に勢いよく叩きつけられてしまった。

ぐああッ!!という喘ぎと共に、鈍い衝撃音が響く。



「ちょっとっ、二人とも大丈夫!?」


「俺たちのことは良いから・・、あの子を追えっ!!」



少女は割れた窓から施設の外へ出たらしい。

そのせいか、施設内の風の威力はさっきよりは弱まっていた。

しかし、最悪の状況にノンストップで進んでいることは明白だ。

急いで曲がり角から走り出るフレンダ。

見ると、絹旗が既に割れた窓から外に出ようとしていた。
405 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:14:36.38 ID:E16Dj720


「あの子は私が追いますっ、フレンダは先生をっ!」


「え、ちょっと、絹旗っ!?」



ようやく、少女の風の被害から解放された女性がグッタリ座り込んでいた。

背中を壁に預けていたとはいえ、かなり近いところで彼女の放つ風を浴び続けていたのだ。

絹旗たちのような人間ならまだしも、一般人である彼女の、その疲労は底知れない。



「・・この施設の敷地の外へ出すわけにはっ!」



焦りに歯を食いしばる絹旗。

空を駆けていく少女は未だにその力を制御できないまま、低空飛行を続ける。

何が何だか分からず、半狂乱のまま。

施設から飛び出し、庭に出ると、敷地外に逃亡しようとする。
406 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:18:18.44 ID:E16Dj720


「ダメッ・・、待って・・・」



目の前から少女の姿はとうに消えている、それでも言葉を出さずには入られなかった。

当然、滝壺の悲痛な叫びは届かない。


一方で、絹旗は彼女を必死に追いかけるが、とても追いつけるとは思えなかった。

しかし。


そこに、一人の少女が立ちはだかった。



「ったく、せっかく良い気持ちで寝てたのに、この騒々しさは何なのかしら?」



「麦野っ!!」



麦野沈利だ。

彼女の力なら強攻策で少女を止められるかもしれなかった。

ただ、それは彼女を傷つけるという意味にもなるが。
407 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:19:36.76 ID:E16Dj720


「その子を止めてください、さっきの女の子ですっ!!」


「任せなさ・・、えっ、さっきの女の子!?」



頼れるリーダーの表情が、突然戸惑い、間の抜けた表情に変わる。

そんな中も、少女は麦野に向かって風を纏い、暴れながら突進してきていた。



「え、どっかのゴロツキが侵入したのかと思えば・・、あの子なのっ!?」


「ちょ、何とか止めてくださいよっ!!」


「む、無理に決まってるでしょ、私の能力じゃあの子を殺しちゃうわっ・・!」


「超使えねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!」

408 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:22:57.91 ID:E16Dj720


絹旗の大絶叫。

麦野は止むを得なく身体を張って、少女を止めようとする。

それで止まる保障などなかった、むしろ、このままでは麦野が大怪我を負うかもしれない。

少女のスピードはかなりのものだ。

麦野は両手を広げ、目を閉じ、歯を食いしばった。


そして、彼女の全身を駆け巡るような衝撃が・・、



しかし、聞こえたのは、ドサリと何かが倒れたような音。



「・・・え?」



麦野が恐る恐る目を開ける。

彼女のわずか2メートルほど手前に、少女が力なく倒れていた。

絹旗が何か叫びながら、慌てて走り寄ってくる。


少女の気絶と共に「あすなろ園」はいつもの静寂を取り戻していた。



409 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:25:40.53 ID:E16Dj720


―――――



意識を失った少女が運ばれたのは第七学区にある一般病院だった。

しかし、能力者であることが分かると、

強制的にそことは違う同学区内の特別病院に搬送されてしまう。

その病院では、のっぺりとしたカエル顔の医者が待っていた。

よく聞かされていないが、その容姿とは裏腹に?腕は確からしい。



少女の診察が終わり、浜面を含めた「アイテム」の五人は彼女の病室に居た。

少女は今もなお眠り続けているが、医者の話だと直に目を覚ますそうだ。

手早く診察を終えた医者は、病室を訪れると、浜面たちに軽く説明をし始める。



「とりあえず、今日一日、安静にしておけば大丈夫。
 
 能力の暴走による脳へのダメージも心配されたけど、まったく問題はないようだ」


「はぁ・・、どうも、ありがとうございました」



慣れない敬語で対応する浜面。

それを気にも留めず、医者は説明を続ける。
410 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:27:49.69 ID:E16Dj720


「不安定な感情の爆発から能力の暴走に繋がったようだね、

 念のため、能力を軽減する装置を首輪として彼女に付けておくよ。

 ・・詳しい事情は聞いていないが、彼女の周囲は随分と目まぐるしく動いていたのかな。

 まぁ、ある程度、彼女が落ち着けるような環境になったなら、外しに来なさい」



それだけ言うと、口元に優しい笑みを浮かべ、背を向けた。

彼に向けて、小さくお辞儀する浜面と滝壺、絹旗。

フレンダは俯いたままで、麦野は考え事でもしているように窓の外へ目を向けたままだった。

医者はゆったりと足を進め、病室のドアに手をかける。



「・・あ、一つ聞いても良いですか?」


「ん、何かね」



浜面が声をあげる。

引き止められても、嫌な顔一つせずに医者は振り返った。
411 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/26(金) 23:29:55.61 ID:5pY3Q32o
>「超使えねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!」

ワロタwwwwwwwwwwww
412 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:34:21.00 ID:E16Dj720


「この子が能力者なのは分かったけど、レベルはどのくらいなんですか?」


「・・能力者の診察だから、能力判定をしておいたけど、レベル3というところかな。

 でも、時と場合によってはレベル4相当の力を発揮するようだ。

 その年齢と照らし合わせても、まだ持つには早すぎる大能力だよ」


「そうか・・、どうも、迷惑をおかけました」


「迷惑なんかじゃないさ、患者を助けるのは僕の義務とかじゃない・・、生きる意味だからね」



それだけ呟くと、カエル顔の医者はゆっくりとした足取りで出て行った。

何となく頭を上げると、時計が十二時近くになっているのが見えた。



「まぁ、何の異常もなかったみたいだから・・まずは一安心だな」


「・・そうだね」



普通なら昼食の時間なのだが、少女の搬送から診察結果が出るまで、

忙しく動いていた彼女たちはそんな時間はなく、今もなお、昼食が喉を通るような気分でもなかった。
413 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:40:13.42 ID:E16Dj720


「そうだ、一つ言い忘れていたことがあるんだけど」


「うおっ、な、何すか?」



いきなりドアが開かれ、医者がそのカエル顔を覗かせた。



「置き去りのはずのその子が能力を使えるのはどうも引っかかって、

 許可なしにその子の頭を少し調べさせてもらったんだけどね?」


「良いのかよ、そんな勝手な・・」


「何か・・、あったんですか?」



滝壺が不安そうな声を漏らした。

カエル顔の医者は、初めてその顔を苦しそうに歪ませた。
414 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:42:49.78 ID:E16Dj720


「・・どうも能力開発を受けた後があるようだ」


「・・能力開発を?」



学園都市で学生に行われている能力開発。

その人間の『自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)』を元にし、その人物特有の能力を生み出す。

それを助長させるための、学園都市の科学技術を生かした、ある意味では壮大な人体実験だ。

この少女のように、置き去りの、学校に通っていないような子供が、

いきなりレベル3の能力を扱えるというのは不自然なことだった。



「一応、それだけは伝えておくよ」


「ああ・・、どうも」



今度こそ、医者は病室から離れていく。

全員の肩の力が目に見えて抜けていくのが分かった。
415 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:44:45.47 ID:E16Dj720


「ふぅ・・」



椅子に腰を下ろし、少女の寝顔を覗き込む滝壺。

こんな可愛らしい顔をした子がレベル3、4相当の能力を使っていたというのは今でも信じられなかった。

あれだけ泣き荒れていた少女、今は何事もなかったかのように寝息を立てている。

ただ、泣き腫らした痕がその頬に微かに残っており、心の奥がチクリと痛む。

窓際に立ったまま、外を眺めていた麦野が口を開いた。



「施設の方はどうなってるの、フレンダ」


「さすがに、今日は休みになったみたい。

 今は警備員(アンチスキル)が来てて、現場検証と修復作業中。

 夕方頃に、事情聴取のためにこっちにも来ると思う」


「・・アンチスキルか、あんまり顔を合わせたくないわね。」


「とりあえず、この件は能力の暴走による事故として処理されるみたいだから、

 こっちの素性の奥底まで探られるようなことはないと願いたいところだね」


「麦野はレベル5ですから、念のため、ここから離れていた方が良いかもしれませんね」



りょーかい、と片手をヒラヒラさせる麦野。

彼女の顔が警備員たちに割れてる、ということはないだろうが、

万が一知られた場合、レベル5が干渉していたこともバレ、色々と面倒なことになる。

ちなみに、今回の身分証明もすべて偽造で通すつもりだ、バレる危険性もあるが。
416 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:47:31.90 ID:E16Dj720


「私たち、悪いことしちゃったな・・」



滝壺がポツリと呟く。



「私たちは自分の事だけ考えて、厄介払いみたいに施設に預けようとした。

 その子も気持ちも考えずに・・、それがこんな結果になったということですかね」


「・・この事故は私たちに原因があると言っても過言じゃないわね」



絹旗と麦野も続く。

各々も、自分たちの責任を痛感しているようだ。

浜面も、神妙な面持ちのまま、ただ頷いていた。



「結局、この子があそこでバテて倒れなかったら、もっと悲惨なことになってたかもしれないね」



あの少女が敷地外に出ていたら。

学区内を飛び回り、空気砲や風刃を道行く人や建物に放っていたら。

考えただけで背筋が凍る。

結末によっては、彼女が送られた場所はここのように安全な病院とは限らなかったかもしれない。
417 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:49:11.35 ID:E16Dj720


「ま、不幸中の幸いでしたね。

 ・・しかし、あのとき、まさか麦野が超無策に立ってるだけとはびっくりしましたよ」


「し、仕方ないでしょ、この子を傷つけるわけにはいかなかったし・・」



麦野が腕を組んだまま、苦しげに反論した。

任務の際は冷酷な一面も見せる麦野だが、カタギに手を出すような下品な真似はしない。

あの状況では誰もが麦野のように行動しただろう。

それに、怯えてその場から逃げようとするよりは、幾分マシな行動だったのかもしれない。



「それでも、結局、私たちはその子を傷つけた、

 ある意味、殴られたり蹴られたりすることよりも苦しい傷つき方をした・・」



この子が置き去りだと認識していたのなら、当然理解していなければいけないこと。

誰かに捨てられる、という感覚だ。

この子がどういう経緯で親に捨てられたのは分からない。

そもそも、親は存在しているのだろうかとも考えてしまう。
418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:50:45.08 ID:E16Dj720


「ったく・・俺たちもバカだったよ、こういう子の気持ちってもんを、

 誰よりも分かってるはずだと思ってたのによ・・」


「・・そうですね」



学園都市の裏で生きている人間たちのほとんどは、精神的に自立している者ばかりだ。

自分から闇に足を踏み入れた者、止むを得なくその世界に住むことになった者。

どんな経緯にせよ、いずれはその闇に染まることになる。

しかし、この少女のように特異なケースもあるのだ。



「結局、ずっと反省会してても仕方ないし、これからどうするか決めないとね」


「いや、まぁ、そりゃそうだが、この子を施設に預けるっていう結論は変えられないだろ?」


「・・何かこう、穏便に済ませる方法はないのかしら」



ぐー・・



「・・・ん?」

419 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:53:09.99 ID:E16Dj720


「何ですか、今の間の抜けた音は」


「結局、浜面の方から聞こえた気がする」


「おい、浜面、正直に吐きなさい」


「すまん・・、俺の腹の音だ」



はあ・・、と大きな溜め息をつく四人。

面目ねぇ、という風に顔を伏せる浜面。



「まぁ、その子が目を覚まさなければ話は進みませんし、そろそろお昼ご飯にしましょうか」


「さんせーい・・、しまった、今日は缶詰持ってなかった・・!」


「・・確か、病院の近くにコンビニあったよね」


「よし、浜面、行けッ!」


「お、俺かっ!?」



と、言いつつも、反射的に椅子から立ち、財布の中身を確認する浜面。

浜面の「アイテム」加入からそれほど時間は経っていないのだが、

悲しいかな、飼い犬体質は彼の本能すらも侵食していたのか。
420 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:55:10.06 ID:E16Dj720


「私、シャケ弁とアイスココア」


「私は甘い系のパンとお茶を」


「私はサバ缶一式でっ!」


「私ははまづらが食べるのと同じのが良いな」


「・・な、じゃぁ、私もアンタと同じので良いわっ!」



怒涛の四連続コンボから、修正一人(麦野)。



「あと、この子が起きたとき、お腹がすいてると思うので、

何か食べやすいものをお願いできますか」


「分かったよ・・、すぐ買ってくるから少し待ってろよー」



反論の一つもせずに、財布をポケットに突っ込み、

わざとらしくけだるそうな表情を浮かべると、浜面はその騒がしい病室を後にする。

彼の姿は、いつまで経っても巣立とうとしない四羽の雛を養う親鳥のように見えた。


421 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/26(金) 23:57:03.20 ID:5pY3Q32o
超支援
422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/26(金) 23:58:08.42 ID:E16Dj720

今回は以上です。

ちょっと色々ありまして、途中で投下速度が遅くなったのをお詫びします。


>>385ですが、警備員に絡ませて黄泉川とかと絡ませるのも面白いかな、とか思ったんですが、

>>415にもある通り、仮にも暗部組織が警備員に助力を求めるのもアレかな、と思いまして。


では、おやすみなさい。
423 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/26(金) 23:59:33.98 ID:hC3lpQQo
おやすみー GJ
424 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/27(土) 00:01:26.45 ID:DzNcTf2o
乙乙
訂正するむぎのんかあいい
425 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/27(土) 00:02:35.54 ID:pTPj.uko
乙おつ!
てっきり滝壺が体晶つかってAIM拡散力場からの干渉で…って展開かと予想してたが見事に外れたww
それにしても浜面が甲斐甲斐しすぎるwwwwww
426 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/27(土) 00:03:40.21 ID:os6G8dwo
問題ない乙でした
427 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/27(土) 00:20:30.57 ID:n2r7qUDO


よくこんだけモチベーション続くな、感心する
428 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/27(土) 01:10:18.61 ID:apx4OOc0
乙!
超期待してます!
429 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/27(土) 01:27:57.47 ID:qfli.pgo
430 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/27(土) 02:33:41.46 ID:JLblosk0
おつ
431 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/27(土) 03:35:45.34 ID:qROqjGMo

むぎのん可愛い
432 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/27(土) 04:35:06.03 ID:REx1VHc0
>部屋の隅を見やると、大きな観葉植物の鉢からダラリとした少女の身体が生えていた。
>ぐぇぇっ!とかいうフレンダの悲鳴が聞こえたような気がしたが、
>それはおでこにサクッと刺さり、フレンダは本望・・と言い残し、絶命。

フレンダの扱いがwwwwww
麦のん相手に百合に目覚めた時点でネタキャラっぽかったが、今回はそれに余計に磨きがかかってるようなwwww
前回終盤の麦のんとのやり取りで折角見直したのにww
433 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/27(土) 05:04:53.55 ID:hK8Rfjco
麦のんに抱きつきたい
434 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/27(土) 20:56:56.28 ID:f8vJK.AO
むぎのん…
435 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/28(日) 01:02:59.42 ID:2D91qO2P
今宵は超寂しいです。
436 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/28(日) 20:19:53.80 ID:2D91qO2P
今宵も超寂しいです。
437 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 00:47:35.75 ID:8X/GO9o0
結局、>>1が来ないと寂しい訳よ
438 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 01:26:07.37 ID:Dy1Mz0Yo
大丈夫、わたしはそんな>>1を応援してる
439 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 01:46:48.14 ID:Zh5z6yYo
超支援です続きを超おねがいします
440 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 12:02:40.78 ID:K3YHPgAO
たーのしみだねぇ、いーちいくぅーん
441 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:24:16.64 ID:QOlXJAo0

おばんです。

2日も間が空いてしまいましたが、

それを取り返す分、今回はいつもより少し長めです。

では、投下します。


>>425、それだと麦野の出番がなくなってしまう…
442 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:25:09.33 ID:QOlXJAo0


―――――



特に異常は見当たらなかったため、少女は翌日に無事退院することができた。

既に全員がいつもの「アイテム」の隠れ家に戻ってきている。

もう日が暮れており、世間的には夕食の頃合いだ。



「見てみて絹旗っ、苦労してやっとゲットできた『イカスミ風味のサバ缶・初回限定版』!

 ネットサーフィンしまくって、見つけたんだよー、欲しいって言ってもあげないからねーっ!」


「要りませんよ、そんな超胡散臭い缶詰・・、っていうか初回限定って何なんですか・・」


「おーい、晩飯できたから、テーブルの上片付けろよー」


「「はーい」」



隠れ家に戻ってきたからか、堅苦しい雰囲気から解放された一同。

いつものお茶らけ調子(?)を取り戻したようだ。
443 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:26:34.01 ID:QOlXJAo0


そんな中、一人、浮かない顔をしているのは例の少女。

彼女の首には、カエル医者がつけたと思しき白い能力制限の首輪が付けられている。

彼女の能力をレベル1程度にまで、軽減するという便利機械だ。

医者の心遣いなのか、その見た目はアクセサリのようにも見える。

しかし、それがどうしても気になったらしく、病院に居たときはしきりにそれを触っていた。

隠れ家に戻った頃には、気にならなくなっていたようだが。

それが何だか聞かされていなかったようで、少女は疑問を口にする。



「これ、なぁに?」


「これはカエルのお医者さんがつけてくれたものだよ、

 また、あんな風に能力が爆発しちゃったら大変だからね」


「・・そうなんだ」



目を覚ましたときから、少女は深く沈んでいるようだった。

自分の起こしたことの重大さを自覚しているらしい。

今にも潤みそうな瞳の少女を、滝壺が気にかける。
444 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:27:37.38 ID:QOlXJAo0


「大丈夫だよ、誰も怒ってなんかない」


「でも、施設をメチャクチャにしちゃったし・・」


「気にしなくて良いんだよ、幸い誰も怪我もしてないから」



後から発覚したことだが、浜面が、吹き飛んだ滝壺を受け止めて床に落ちた際、右腕に軽い打撲を負っていた。

全治二、三日の軽傷らしいが、これは少女には伏せておいた方が良いだろう。



「これ以上、迷惑かけたくない・・、だから、あの施設に入ろうと、思う・・」


「うん、お姉ちゃんたちもそれが良いと思う、

 私たちも貴方と一緒に居たい、でも、それは難しいことだから・・」



皮肉にも、能力暴発事故が少女を後押ししてくれたようだ。

その決断はお互いの為になるはずで、止むを得ないこと。



「私、頑張るから・・、ともだちもたくさん作りたい・・」


「うん、応援してる・・」



ほんの少しだけ微笑む少女。

それを見た滝壺は、自分そっくりなその少女が自分を映す鏡のように思えた。

立ち直った少女を見てホッとしたのか、麦野が歩み寄る。
445 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:29:35.00 ID:QOlXJAo0


「明日にはもう行くんでしょ、最後だし、私たちに何かできることないかしら?」


「そんなっ、お姉ちゃんたちには十分お世話になったし・・」


「良いのよ、こういうときはね、遠慮しなくて良いんだから。

 特にあの茶髪のお兄ちゃんには無理難題を押し付けちゃって構わないわよ」


「おい麦野、何勝手なこと言ってんだお前」



うーん、と首を傾げる少女。

唐突に言われてもなかなか頭に浮かばないものだろう。

麦野はしゃがんだまま、少女を見つめている。

その彼女らしくない行動を見た浜面は原因不明の鳥肌に襲われていた。


ゆっくりと顔を上げる少女。



「・・決めた」


「うん、何でも良いわよ?」


「じゃあ・・、」



446 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 22:30:27.69 ID:KkA695Qo
見てるぜ
447 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 22:31:00.52 ID:fMBpPv6o
待ってました!
448 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:31:16.68 ID:QOlXJAo0


―――――



太陽が燦々と照った、絶好の洗濯日和。

こんな日に、子供は外で元気いっぱいに遊ぶべきだろう。


さて、そんな中「アイテム」は、意外すぎる場所に居た。



「今日は皆さんと一緒に遊んでくれるボランティアのお姉さんたちが来ています、

 とはいえ、失礼のないように、今日一日楽しみましょうね!」



はーい、という息の揃った快活な声。

お行儀良く体育座りをした子供たちの群れの前に立っているのは、「アイテム」+浜面。

浜面は苦い顔をしながら、隣でにこやかに微笑む麦野に耳打ちする。



「<おい、何でこんなことになってんだよ・・?>」


「<だってあの子が一度で良いから私たちと遊びたい、って言うから・・>」


「<いや、他の方法はなかったのかっ・・?>」


「<・・怖い顔してると、子供たちが超怯えますよ浜面>」
449 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:32:17.22 ID:QOlXJAo0


絹旗の忠告に、顔を無理やり綻ばせる浜面。

子供たちが一番警戒するのは、体格的にも雰囲気的にも彼だろう。

下手に泣かれてしまうと、厄介だ。

絹旗たちにも馬鹿にされるだろう。



「では、三時まで自由時間だから、元気よく思いっきり遊びましょうっ!」



わああああああ、と狂ったように五人に飛びつく子供たち、三十人くらいは居るだろうか。



「わー、お姉ちゃんちっちゃーい、何歳なのー?」


「んなっ・・、私はこれでも超ピチピチの・・、」


「絶対私より年下だよー、だって私よりおっぱいちっちゃいもんっ!」


「だあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

 っていうか、どこを触って!?」



あ゛ぁぁぁぁぁっ、と半狂乱の声をあげながら、子供の渦に巻き込まれる絹旗。

背丈は子供たちと変わらないためか、あっという間にその姿は見えなくなり、

雪崩に巻き込まれたかのように庭へ運ばれていった。
450 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:33:26.35 ID:QOlXJAo0


「わー、金髪だぁっ! ねぇねぇ、触って良いっ、ねぇっ!?」


「ふっふーん、私の自慢の脚線美と並ぶ、この素晴らしい髪に目をつけるなんてお目が高いねぇ、少年、

 でも結局、この髪の毛を味わうことができるのは、私がこの身を捧げた愛しの麦野だけ、」


「エイッ!」


「あーだだだだだだっ!! 引っ張るなっつーのっ!!」



絹旗と同様、神輿のようにかつがれていくフレンダ。

抜けるうぅぅぅぅぅっ、と悲痛な叫びをあげたまま、外へ流れ出ていく。



「理后お姉ちゃんと新しく入ったあの子って姉妹なの?」


「ううん、姉妹じゃないよ・・、でも、そんなに似てるかなあ・・」


「じゃあ、私が理后お姉ちゃんの妹になるーっ!」


「えー、じゃぁ、私もーっ!」


「ふふ、友達百人じゃなくて姉妹が百人できちゃいそう・・」



滝壺独特のほんわかオーラに当てられたのか、彼女の元に集まる子供たちも温厚な性格が多いらしい。

何人もの子供たちが滝壺に寄り添ったまま、幸せそうに笑っている。
451 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:34:07.83 ID:QOlXJAo0


「俺で良かったら、沈利お姉ちゃんの彼氏になるよっ!」


「いや、俺が沈利さんの夫になる!」


「待て、沈利は俺のっ!」



「(こ、このガキどもッ・・・・・・!!)」



麦野の周りには、男の子だけが群がっていた。

「アイテム」の中で彼女が一番美人だというのは、子供たちでも分かるらしい。

ぶつけようのない怒りと、ほんの少しの照れを表情に出さない代わりに、拳をブルブル震わせる。

ぴくぴく動くこめかみを抑えつつ、周囲を見回す。

フレンダと絹旗は既に庭に連行されており、滝壺は聖母のように周りの子供たちに絵本を読み聞かせしている。

そして、気になる彼女の想い人は何をしてるのかというと。
452 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:35:09.12 ID:QOlXJAo0


「お兄ちゃん、ちょっとガサツそうだけど、私の好みだなー」


「これ、金髪、茶髪? かなり派手な色だけど、カッコいいなあ・・」


「お願いっ、私をこの「あすなろ園」という牢獄から連れ出してどこまでも逃げてぇぇっ!」


「お、おい、お前ら、何言ってんだ・・、

 そして、そこのお前は愛の逃避行でもしたいのか、何歳だよ・・」


「えいっ!」


「ば、馬鹿野郎、飛びつくなっ!

 いててっ・・、右腕痛めてんだぞっ・・!」



そこには、複数の女の子に囲まれた上、集団で口説かれる浜面。

見た目は少し怖くても、人柄の良さを感じ取られているのだろうか。

その光景を見た麦野は、青筋を立てて、顔を歪ませる(無論、激怒的な意味で)。
453 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:36:23.92 ID:QOlXJAo0


「おいコラ、浜面ァッ!

 てめぇはいつからロリコンに成り下がりやがったんだァッ!?」


「うおおおっ、麦野、これは誤解なんだっ、断じて俺はそんな異常性欲者なんかじゃ、」


「問答無用よ、こんのバカづらァッ!!」



沈利お姉ちゃんを怒らせるなー、と拳を振り上げて襲い掛かる子供親衛隊。

彼らの後ろには、怒髪、天をつくといったような麦野が仁王立ちしている。

撫でるように身体を触ってくる女の子たちと、殺す気で飛び掛ってくる男の子たちに挟まれ、

幸せなのか不幸せなのか分からない浜面、久しぶりに死を覚悟したという。




454 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 22:36:55.22 ID:Vi5Ovg20
超待ってた
455 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:37:14.86 ID:QOlXJAo0


―――――



「はぁ、はぁ・・しかし、超威勢の良い子供たちですねっ・・」


「で、結局、こんな美人を捕まえて、何して遊ぼうって訳?」



そこそこ広い庭のド真ん中に集合した子供たちとフレンダ、絹旗。

フレンダは散々弄ばれた髪の毛がぐっしゃぐっしゃになっている。

絹旗も必死に子供の群れから抜け出したのか、ぜぇぜぇ息を荒げていた。



「サッカー!」


「さ、さっかあ・・!?」


「だって、欧米系の外国の人ってサッカー上手いんじゃないの?」



サッカー、説明不要の世界で最も有名なスポーツの一つだ。

少年たちは目をキラキラ輝かせて、フレンダを見つめていた。

恐らく、外国人と会うのは初めてなのだろう。

そんな羨望の眼差しを向けられれば、このお調子者は黙っていられるわけがなかった。
456 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:38:02.87 ID:QOlXJAo0


「あ・・あぁ、そうね、そうよっ!

 私が学園都市のメッシと呼ばれて早幾年・・、

 クリスティアーノ・・ロ、ロニャウドも、ロナウジ・・なんとかも私の前には赤子同然、

 ジダンに壊滅的被害を与えた(頭髪的な意味で)のもこの私ッ、

 そして、日本人の記憶に鮮明に残るドーハの悲劇の立役者としても有名なのはこのフレンダ様よっ!」



誰もが二秒で分かる嘘をベラベラ喋るフレンダ。

それを聞いた子供たちが一斉に口を開いた。



「す、すげええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


「やっぱ外国の人のフィジカルってのは格が違うんだなぁっ!!」


「あのっ、私、サインもらっても良いですかっ!?」


「感動した、俺、感動したよっ!!」



びっくりするほどお花畑。

勢いで言ったはいいが、フレンダはサッカーのルールについてはちんぷんかんぷんだった。

どれだけ頑張っても、周りの子供たちに鼻で笑われる程度の技術しか持っていないだろう。

仕事柄、運動神経にはかなり自信がある方だが、正直、蓋を開けてみなければ分からない。
457 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:39:16.82 ID:QOlXJAo0


「ドーハの悲劇の立役者になってどうするんですか・・」



呆れて物も言えない絹旗に、ススーッと近づき囁くフレンダ。



「<ねぇ、絹旗・・サッカーってどういうルール?>」


「<は、はぁっ? 知らないくせに何であんなこと言ったんですか、貴方は・・>」


「<いや・・だって、盛り上がるかなって思ってさ・・>」


「<一度、その言葉の軽さをどうにかした方が良いですよ、フレンダ・・>」



やいのやいのやっているうちに、絹旗とフレンダは別々のチームに分けられ、男女交えた5vs5のチームが完成した。

後には引けない、後世に語り継がれるゲームが、今、幕を開ける。



458 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:40:44.54 ID:QOlXJAo0


―――――



「い、いてぇ・・・」


「・・・・・」



ボロ雑巾になる寸前までボコボコにされた浜面は、麦野の平手打ちを受けた頬を擦りながら、

部屋のド真ん中に敷いてあるカーペットの上に正座していた。

その向かいには、同じく麦野が行儀良く正座している、浜面と向かい合うような位置で。

背筋はピンと伸び、手は膝の上に置いてあるが、口は落ち着かないようにもごもごしている。

二人の間には、小さなテーブルが置かれており、

その上にはお皿やお箸、食べ物を模した玩具があった。

つまり、彼らは何をしているかというと、



「パパっ、ママっ、ほら、これ私が作ったご飯だよっ!」


「お、おうっ、う、美味そうだなあ・・、ほら、麦野、お前も食べろよっ!」


「・・・あ、うぅっ」


「どうしたの、ママ・・、私の作ったご飯美味しくなさそう・・?」


「そ、そんなことない、わよ・・?」
459 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 22:41:58.16 ID:BVTPoGco
見てるよー 支援 
460 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:42:08.29 ID:QOlXJAo0


不安げな顔の少女を前に、全身をガチガチにしながら、唇を震わせる麦野。

そう、女の子なら子供の頃に一度はしたことがあるであろう、おままごとである。

状況は説明不要だろう。

浜面が父、麦野が母、そして、例の滝壺似の少女が娘役だ。



「おい、少しはノってやれよ・・」


「だ、だって、おままごとなんてやったことないしっ・・!」



おままごとをしようと言い出したのは、もちろん、少女である。

正直、麦野はノリ気じゃなかったのだが、浜面がやると言い出したので、勢いで参加してしまっていた。

そして、何やかんやで麦野と浜面は夫婦役になってしまったのである。


少女が紙のご飯を乗せたスプーンを麦野の口元に差し出す。
461 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:43:00.53 ID:QOlXJAo0


「はい、ママ、あーんして」


「あ、あーん・・って?」


「お口を開けて、ってことっ」


「ああ、なるほどね・・」


「ほら、早くっ」


「あーんするときは目閉じるんだぜー、麦野ー」


「あ、あーん・・、む、んぐっ!?」



パクッと、紙でできたお米を口に入れてしまった麦野。

それを見て、少女と浜面がギョッとする。



「ちょ、お姉ちゃん!?」


「お、おい麦野!」


「う、うぇっ・・、げっほけほけほっ・・!!」



当然、苦しそうに咳き込むことに。

あたふたしながらも、浜面は麦野の背中を叩いてやる。
462 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:43:49.10 ID:QOlXJAo0


「お前っ、本当に食べてどうすんだよっ!?」


「だ、だって、せっかく作ってくれた、っていうからっ・・けほっ!」


「び、びっくりしちゃったよー、お姉ちゃん、ヤギじゃないんだからっ・・」


あはは、と笑う少女。

呆れながらも、涙目の麦野の背中を擦ってやる浜面。

咳き込んでいるということは、一欠片や二欠片は飲み込んでしまったのだろう。



「はいっ、じゃあ、もう一回!

 これ、私が作ったサラダだよっ!」


「あ、うん・・」


「ほら、麦野、あーんだぞ、あーん」


「う、うっさい!」



と、言いつつも、あーんと口を開ける麦野。

口をパクパクと動かして、食べるジェスチャーをする。

何というか、ぎこちない。

新人俳優もびっくりの棒演技である。
463 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:44:33.14 ID:QOlXJAo0


「お、美味しいわねー」


「・・何なんだよ、その大根役者っぷりは」


「なんですって・・じゃぁ、アンタやってみなさいよー!!」


「お、俺ぇっ!?」


「じゃ、ママがパパに食べさせてあげてねっ」


「わ、私ぃっ!?」



同じような表情で、同じようなリアクションをする夫婦。

おままごとの順番待ちをしている女の子たちからは、上質なコントを見ているようだろう。

少女の提案を受け入れるべきか、拒むべきか考えているうちに、

少女はトマトの玩具を乗せたスプーンを無理やり、麦野の手に握らせる。



「はい、一度持った食べ物を降ろしちゃったら、お行儀悪いよねっ」


「・・・・」



ニッコニコの少女。

対照的に、顔が段々、強張っていく浜面と麦野。
464 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:45:40.02 ID:QOlXJAo0


「(何だ、この気まずい空気は・・)」


「(良い年して何やってんのかしら・・私)」



学園都市第四位の超能力者だとか、暗部組織のリーダーだとか、

そういう立場におけるプライドは、おままごとを始めた時点で捨て去った。

あとは自分との戦いである、かなり小規模な戦いだが。



「(何でこんな間抜けなことしてんだろうな・・、

 いや、これはきっと試練だ、最近堕落しきってた俺に対して神が科した試練っ・・!)」



「(くっ・・この程度で恥ずかしがってどうするの、やるしかないわっ・・!)」



意を決した二人。

バッと俯いていた顔を上げ、視線を合わせる。

そして、目を逸らす。



「(う、うおっ、麦野の奴、今俺と目を合わせやがったよな・・!?

 絶対、あれはアレだ・・、後でみっちり絞り上げてやるっていう怒りの目なんだ!

 ぶつけようのない怒りと何処からか湧き出てきたもどかしさに満ちた目っ・・!!」


「(な、何でアイツ、今こっち見たのよ・・あーんするときは目を閉じるもんじゃないのっ!?)」
465 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:46:46.06 ID:QOlXJAo0


周囲の子供たちは、かゆいところに手が届かないときのような顔をしていた。

心温まるハートフルストーリーなのか、見ててイライラする超C級ムービーなのか。


ゆっくりと腕を伸ばし、スプーンを最愛の彼の口元へ持っていく麦野。



「・・は、はい、あ・・あーん」


「お、おう・・、あーん」


「・・ど、どうかしら」


「う、美味い・・ぞ、麦野」



緊張の余り、麦野に負けず劣らずのダメ演技っぷりをする浜面。

それに突っ込む余裕がないほど、麦野の心臓はハイペースで動いていた。

そこで、少女はさらに注文をつける。



「あーもう、パパも分かってないなぁっ」


「え、何か悪いことしたか?」



自分に少女の矛先が向けられていたため、少し焦る浜面。

チッチッチと人差し指を振り、ビシィッと彼に突きつける。
466 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:48:08.16 ID:QOlXJAo0


「沈利お姉ちゃんは今、仕上お兄ちゃんの奥さんなんだからー、

 名前は『浜面沈利』なんだよー、麦野って呼ぶのは禁止っ!」


「なっ・・!」


「・・あ、ぁうっ!?」



素っ頓狂な声をあげる麦野、何がここまで彼女を緊張させているのだろうか。

少女に言いくるめられつつ、浜面は口を尖らせる。



「・・そ、そりゃそうだけどよ、じゃぁ、何て呼べば良いんだ?」


「よく考えてみなよー、パパがママのことを苗字で呼ぶのはおかしいでしょ?」


「・・あぁ、それもそうだな」


「はいっ、じゃあ名前で呼んであげて、ママのことっ!」


「なっ・・、」


「・・んですって?」



今までの大人しめな振る舞いと比べ、人格が変わったかのようにズバズバ物を言う少女。

しかも、彼女の言うことはすべて筋が通っている。
467 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 22:48:33.04 ID:KkA695Qo
俺もなんかムズムズするぜっ
468 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:50:23.46 ID:QOlXJAo0


知っての通り、麦野と浜面は「アイテム」内でも、お互いを名前で呼び合う仲ではない。

同姓の絹旗や滝壺とでさえ、麦野は苗字で呼び合っているくらいだ。

浜面に関しては言うまでもない。

普通の若者からしたら、名前で呼び合うことくらいはへっちゃらだろう。

しかし、この二人にとっては、飛び越えることが大変困難な高さのハードルなのだ。



「そ、そこまでリアリティを追求しなくても良いんじゃない、か・・?」


「まさか、パパ・・、ママの名前を忘れちゃったのっ・・!?」


「・・な、なっ!?」



アドリブの効く演技派子役の少女は既におままごとモードに入っていた。

できるだけ麦野の表情を見ないように、浜面は視線をテーブルに向ける。

ちなみに、彼女は先ほどからずっと唇を震わせっぱなしである。
469 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 22:50:47.08 ID:doPtiQAO
痒い…痒いよぉぉぉぉぉ!
470 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:52:17.25 ID:QOlXJAo0


「(いや・・、よく考えろ、麦野のことだからどうせ『私の名前忘れやがってぇぇっ!』とかいちゃもんつけて、

またビンタを放ちかねない・・となると、ここでの最もベターな選択肢はっ・・!)」


「(ば、バカ・・やめなさい、浜面・・、でも待って、やめさせる必要は・・だって、

 いやっ、っていうか何でこんなに顔が熱くなってっ・・!?)」



アドレナリン(?)なのか、出所不明の脳汁が沸騰しそうになる麦野。

そんな中、浜面の中で決断の小槌の音が鳴った、生唾を飲み込む。

できるだけ、麦野の神経を逆撫でしないように、礼儀正しく目と目を合わせた。



「し、沈利・・」


「・・・あ、はぃ」



一瞬の間、静寂。



「(あ、あれ・・どっちにしろ何か言われるんだろうなって思ったけど、

 何でこんなしおらしくなってんだコイツ、逆に何か不気味だ・・)」


「(い、今、浜面が沈利って言った・・、沈利って言ったっ!)」



疑心暗鬼になる浜面に、浜面の声で再生された自分の名前が頭の中でぐるぐる回る麦野。

彼女がお湯の入ったやかんなら、もうスイッチを切らなければ爆発するレベルである。

そんな両者の気持ちを知ってか知らずか、少女は追い討ちをかけにいく。
471 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 22:52:22.39 ID:Vi5Ovg20
むずがゆい…
472 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 22:53:21.22 ID:BVTPoGco
なんという 支援 
473 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:53:33.23 ID:QOlXJAo0


「はい、じゃあ、次はママの番!」


「・・へぁっ!?」


「な、にっ・・!」



向日葵のような笑顔を向ける少女。

その光り輝かんばかりの期待?を裏切るわけにはいかない。



「(っていうか、麦野の奴、俺の名前知ってんのか・・?)」


「(わ、私が名前で呼ぶっ・・、浜面の名前、し、仕上だよね・・)」


「ほらほら、早く早く〜♪」



この世で一番怖いものは、超能力者でも学園都市の暗部でもない、きっと無邪気な子供だ。

麦野は、自分の心が締め付けられるほど、それを痛感した。
474 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:55:40.90 ID:QOlXJAo0


「(・・だ、だめっ、恥ずかしくて言えるわけないってっ!!

 だからこんなおままごとなんて嫌だって言ったのにぃぃっ!!)」


がぁぁっ、と頭を抱えたくなる清純少女。

ちなみに、おままごとと言うほどのことはまだやっていない、序の口である。



「(頭が頭痛で痛いっ・・・)」



浜面仕上と刻まれた「地獄の門」の前で、「考える人」よりも苦悩しているであろう少女、麦野沈利。

見ている分には微笑ましいが、本人は能力暴発寸前まで追い詰められている危険な状況だ。



「(・・や、やばいっ、時間が経てば経つほど、私が苦悩している様が見透かされるっ、

 そうよっ、恥ずかしがる必要なんてないんだからっ・・、平静を保つのよ、沈利・・、素数を数えるなさいっ!)」



少女の提案から、今この瞬間までわずか五秒足らずである。

学園都市第四位の超能力を演算する聡明な頭も、この事態には対応し切れないのか。
475 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:57:36.68 ID:QOlXJAo0


「(まさか、マジで俺の名前知らないのかよ・・、「アイテム」に入るときに教えたはずだよな、

 ・・そうか、麦野の中じゃ俺なんて『HAMAZURA』とかいう名前の便利ロボットみたいな扱いなのか?)」



こちらもこちらで見当違いなことを考え始め、ネガティブの底なし沼に落ちていく。

ついでに言うと、同じようなすれ違いや勘違いは今まで幾度となくあった。

そして、その数だけ、浜面の気分は落ち込んで行き、麦野は不完全燃焼、欲求不満に陥っている。



「(だ、だめ・・もうタイムオーバーよっ、覚悟を決めるっ、腹もくくったわ!

 え、でもちょっと待って、ホントに「仕上」で合ってるのよね?」


「(・・そうか、人に名前を忘れられるっていうのはこんなにも寂しいもんなのか)」


「(な、名前を間違えるなんて、失礼どころじゃないっ・・万死に値するわっ、

 下手すれば嫌われるっ・・、ただでさえ、さっき、その場の勢いでビンタしちゃったし・・!)」


「そうだ・・、きっと麦野の中では名前どころか、俺という存在さえ消えてなくなっていくんだ・・、

 そういや、麦野から日頃の感謝の言葉とか聞いたことないしな、ははっ・・)」



二人はそれぞれの思うものを顔には出していないが、

頭と心の中はしっちゃかめっちゃかである。

まさに、冷たい戦争、水面下の攻防、白熱の心理戦。

どちらも、順調に自爆の一途を辿っているが。
476 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:59:11.96 ID:QOlXJAo0


「(も、もうだめっ、タイムオーバーぁぁぁっ!!)」


「(・・何だろう、痛ぇ、痛ぇよ・・、心が、痛い・・)」



黙りこくったままの二人を見て、堪忍袋の緒が切れたのか、

少女が手を振り上げてテーブルを叩こうとした瞬間。



「し、仕上・・?」


「お、おう・・!」



それを口にした瞬間、麦野の頭の中は白いペンキをこぼしたように真っ白に。



「(・・・ぃ、いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!)」



今、この瞬間におままごとという特定の条件下とはいえ、二人は名前を呼び合う仲に。

名前の後ろになぜか疑問符がついていたが。
477 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 22:59:56.25 ID:QOlXJAo0


「(く、くぅ・・くぁっ、あは、あははははははっ!

 言ってやった・・、言ってやったわっ! どうよ、浜面っ、私の渾身の一撃の味はッ!)」



まさに、幸せのキャパオーバー。

彼女の幸福貯金が派手な音をたてて流れ出ていく。

一生分を使い果たしてしまったんじゃないかと思うくらいの絶頂ぶりである。

しかし、



「・・麦野」


「・・え?」



天まで舞い上がったような気分の麦野とは対照的に、顔を伏せたままの浜面。

その様子は、麦野のテンションを太陽の中心部の熱さから絶対零度にまで墜落させた。



「(な、何か怒らせること言ったかしら・・、まさか、名前を呼んだだけで・・?

 そ、そんなっ、それだとこれからの私と浜面の将来に色々と支障が・・っ!)」



恐る恐る、口を開く。



「・・浜面?」



ぷるぷる身体を震わせたままの浜面の目が、カッと見開かれた。
478 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:00:48.47 ID:QOlXJAo0


「・・ありがとなっ!!!」


「・・あっ、んえっ!?」



ガシィッとその両手を浜面に、力いっぱい握られた。

斜め上すぎる、その余りに予想外の出来事に、麦野は思わず少しのけぞってしまう。



「な、どしたの・・?」


「いや、麦野が何か黙ったままだったから、俺の名前忘れられちまったのかと思ってよ・・!」


「・・な、そんなわけないでしょ、名前はもちろんっ、

年齢も血液型も誕生日も食べ物の好き嫌いも好きな女の子のタイプもアンタの性癖も、全部知ってるんだからねっ!」


「性癖はどうかと思うよ・・ママ」



性癖はもちろん、バニーさんのことである。


麦野と少女の前で、柄にもなくポロポロと涙を流す浜面。

いつしか入院していた浜面にお土産のマフィンを持っていったときも、彼はボロボロ泣いていた。

意外と涙もろい性格だったりするのだろうか、母性本能を微かにくすぐられる。
479 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:01:58.34 ID:QOlXJAo0


「(・・泣く浜面、ちょっと可愛い)」


「っぐ、えぐ・・っ」



浜面が不機嫌だったわけではないと知り、ホッと胸を撫で下ろす。

とりあえず、一件落着と思いきや。



「あーっ、ママがパパを泣かしたーっ!」


「・・な、なんで、そうなるのよっ!?」



家庭内暴力だー、DVだー、と喚き騒ぐ周囲の子供たち。

と、いうか、今の今までずっと子供たちは彼らのデコボココントを見ていたのか。



「ほら、パパを慰めて、パパのハートはセンチでメンタルなんだよっ!」


「な、慰める・・」



慰めの意味をほんの一瞬だけ捉え違えそうになったが、ゾクッと背筋が凍り、その思考は中断される。

敵意にも殺意にも似たその視線の主は誰なのか、それはすぐに分かった。
480 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:03:31.35 ID:QOlXJAo0


「よしよし、はまづら、良い子良い子」


「滝、壺っ・・?」



浜面に寄り添うように座ったのは、滝壺だった。

思い出してみれば、彼女は麦野たちと同じ部屋の隅で、絵本を読み聞かせしていた。

当然、麦野たちのおままごとがその視界に入っていてもおかしくはない。

そして、その会話が聞かれていても、だ。



「大丈夫だよ、はまづら、私ははまづらのこと、忘れたりなんかしないから」


「くぅ・・滝壺は優しいな・・」



優しく微笑みかけ、浜面の頭をこれまた優しく、壊れ物を扱うように撫でる滝壺。

やがて、その瞳を固まったままの麦野に向けた。

いつもと同じようなトロンとした瞳でありながら、何やら強い意志のこもった瞳を。



「滝壺っ・・!」


「・・勝負だよ」



ポツリと、滝壺が呟いた。

その言葉は近くに居た浜面や少女には聞こえず、麦野だけにはっきりと聞こえた。

やがて、二人の周囲を、冷気のような見えない何かが囲んでいく。


今、ここに、今までぶつかりそうでぶつからなかった二人の死闘が始まった。
481 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:04:54.67 ID:QOlXJAo0


―――――



「ゴォォォォォォォォォルッ!!!」



審判役の少年が、笛を高々に鳴らした。

その笛の音と同時に、前半の15分が終わる。

ゴールネットを揺らしたのは、欧米帰りのスーパースター・フレンダ。

振り上げていた右足をストン、と地につける。



「ぃよっしゃぁぁっ!! 見た、絹旗っ、見たっ!? 今のロングシュート!」


「はいはい、超すごいですね、球がまったく見えませんでしたよー」



興味なさげに賞賛の拍手を送る絹旗。

意外なことに、フレンダにはサッカーのセンスがあった。

身長はそれほどでもないが、そのスラリとした長い足のおかげだろうか。

外見と相まって、かなり画になっているのが悔しい。

相手が五つ六つ年下の子供たちとはいえ、獅子奮迅の大活躍だ。

今の時点で、ハットトリックも達成した。
482 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:05:57.94 ID:QOlXJAo0


「ほらほらー、最愛ちゃん、そんなちっこい身体してると、

 私のスーパーシュートで身体ごとゴールにぶち込まれちゃうわよー?」


「調子に乗るのもそこまでです、これを見るが良いでしょう」



ガコン、という音がしたと思えば、靴から何やら取り外す絹旗。

ドシン、という音とともにそれは落ちる。

両足に取り付けられていたそれは、どうやら重りのようだ。



「ま、まさか・・この前半の間、その重りをつけたまま、プレイしていたっていうのっ!?」


「相手が最高に超調子に乗っているところで、奈落の底に超叩き落す、超素晴らしいですよね、そういうの」


「く・・、何という熱血展開! 結局、キャプテ○ン翼も真っ青って訳よっ!」


「・・その○は何を隠したんですか」



メラメラと闘志を燃やし、バチバチと火花を散らす両者。

周りの子供たちは目に入っていないようである。

3−0のまま、勝負の後半に突入する。
483 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:06:46.37 ID:QOlXJAo0


―――――



「・・り、略奪だ、略奪愛だっ・・!」


「(滝壺・・、易々と浜面の頭をなでなでしてっ、羨ま・・、)」


「(・・・・)」



こちらでも二人の女の熱き戦いが展開していた。

少女がわなわなしながら呟いた言葉は、まさにこの状況をピンポイントに表現している。

今の今まで仲睦まじく(?)していた夫婦に割って入ってきた滝壺。

そして、あろうことか、浜面を優しく慰めている。



「だいじょうぶ、しあげ?」


「ああ、ちょっとホロリと来ただけだからよ・・」


「な、ぁがっぐぅっ!!」



自分があれだけ悩んで悩んで悩みぬいた末にやっとの思いで呼んだ彼の名前を、滝壺は何の躊躇いもなく口にした。

浜面に向けられたはずのその一言は、なぜか麦野の心にも鈍い音をたてて突き刺さる。
484 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:07:36.96 ID:QOlXJAo0


「・・私は何の迷いもなく名前を呼んであげられる、こんな風にはまづらを不安にさせたりしないよ」


「わ、私だって・・っ、」


「麦野みたいに、はまづらの名前を思い出すために考え込んだりしないもの」


「な、あぁっ!?」



知っての通り、麦野は浜面の名前を忘れていたわけではない。

名前を呼ぶことに対する羞恥心のせいで、呼べないでいただけだ。

しかし、その言葉は浜面を敏感に反応させる。



「そ、そうだったのか・・麦野、やっぱり俺の名前覚えてなかったのか・・?」


「ち、違うわよっ、私は言うか言うまいか悩んでただけで、別に忘れてたわけじゃ・・!」


「え・・、覚えてたなら何ですぐに呼んでくれなかったんだよ、麦野」


「そ、それはっ・・!」
485 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:08:33.22 ID:QOlXJAo0


滝壺の作戦は恐ろしく周到だった。

彼女の先制攻撃(麦野が浜面の名前を覚えていなかったという嘘をでっち上げること)は、浜面を傷つけることになる。

もちろん、麦野は彼を傷つけないために、その誤解を解くために守りに出る。

しかし、それこそが罠。

結果、墓穴を掘った形になってしまっていたのだ。



「そ、それは・・」


「・・・・」



いきなりの核心を突いた質問に、目に見えて慌てふためく。

滝壺が無言のまま、そんな彼女を見つめていた。

その無表情の裏は、どのような感情が渦巻いているのか。



「(アンタを意識しすぎて名前が呼べなかったなんて・・口が裂けても言えるわけないっつーのっっ!!!)」


「麦野・・?」



今の浜面の傷心っぷりは半端じゃないレベルだ。

ここの選択肢をミスすれば、自分から墓穴に入るどころか、

先ほどまでの浜面の、麦野への感謝やら好意やらのすべてが、一言で滝壺に向きかねない。

恥も外聞もなく本当の理由を曝け出すか、何とか代わりになり且つ浜面を傷つけない理由にするか。
486 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:09:28.86 ID:QOlXJAo0


「っ・・・」



そして、麦野が選んだのは、その場しのぎの長考。

ここは慎重に行くべきだという考えからの決断、しかし、



「麦野、さっきと同じ顔してるな・・」


「えっ・・」


「いや、別に俺の名前を忘れてても良いんだ、一応思い出してくれてたみたいだったし・・」


「ち、違・・」



ここでの考えすぎは、逆に浜面の不信感を煽るものとなってしまっていた。

結局、どちらに転んでも、良い印象を与えることはできないのだ。

滝壺の作戦は、麦野に大なり小なりダメージを与えることになる。

しかも、滝壺にはその火の粉が降りかかることはない。

何の理由があってか、滝壺は半開きのさらに目を細める。
487 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:10:15.71 ID:QOlXJAo0


「かわいそうな、はまづら・・」


「な・・、ち、違う、聞いて浜面っ!」


「良いさ・・、俺は何の取り柄もない無能力者、忘れられて当然だからよ・・」


「よしよし、泣かないで、はまづら」



麦野が正直に理由を言えないこと、それは彼女の性格的に予想通りのこと。

結果的に浜面のことを少し傷つけてしまってはいたが、それさえも利用してしまえば良い。

弱りきった彼を優しく介抱してやれば、相対的に滝壺の評価は上がっていく。

相手を貶めて、自分は美味しいところを持っていく、何から何まで完璧すぎる戦術だった。

そして、滝壺は止めの一言を言い放つ。
488 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:11:07.81 ID:QOlXJAo0


「・・奥さん失格だよ」


「な、なんですって・・!?」


「夫を泣かせる妻なんて、この家に居て良いはずないよね」


「な、何でアンタがそんなことっ・・!」


「よく見れば分かるんじゃないかな・・」


「うぐっ・・!」



目の前には自分の言葉で傷ついた浜面、それを慰める天使のような滝壺。

その二つの事柄だけで十分だった。

追いすがる麦野に、滝壺は畳み掛けるような連続攻撃を仕掛ける。



「で、でもっ・・!」


「よく見てって言ったはずだよ・・?」


「な、何よ・・」
489 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:12:07.13 ID:QOlXJAo0


おもむろに、滝壺は浜面を撫でている手とは違う、

もう一方の空いている手を蚊帳の外だった少女に手を回す。

黒髪で、前髪は程よくパッツンで、色白、ほんわかとした雰囲気を醸し出す、その少女に。




「・・この子、私似なの」



「な、うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」




それは、止めの一撃。

しかも、あの少女はずっと滝壺に懐いていた、反論の余地がない。

現実から目を背けたいがために、テーブルに前のめりになって倒れこむ麦野。

ゴングが頭の中で延々と響き渡っていた。


勝負あり。



490 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:13:11.34 ID:QOlXJAo0


―――――



「へぶッ・・・!?」


「あ、すみません、フレンダ」



その悲劇が起こったのは後半のロスタイムのことだった。

ギュルギュルギュルーッと音をたてたサッカーボールがフレンダの顔面で渦巻いている。

絹旗の殺傷能力抜群のシュートはゴールネットどころか、人間の一人や二人、突き破ってしまいそうな勢い。

それがあろうことか、一番親しいご友人のご尊顔へ。

スローモーションのように、ゆっくりと背中から倒れこむ被害者。



「うわあああ、メッシがぁぁっ!!」


「ロナウドッ・・、ちょ、っていうかかフレンダお姉ちゃんだいじょうぶっ!?」



阿鼻叫喚、少年少女の悲鳴。

ピクリとも動かないフレンダの横には、血がべったりとついたボールが転がっていた。

慌てず、騒がず、てくてくと歩み寄る加害者(罪状は過失傷害)。
491 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:14:01.67 ID:QOlXJAo0


「う、うわっ・・血、血がああっ!!」


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


「・・鼻血ですから、超安心してください」



口をパクパクさせながら、何かを訴えようとするフレンダ。

ショックのせいか、声が出ないようだ。

幸い、頬が赤く腫れているだけで、特に目立つ傷は見当たらない。

現場検証を行っていると、この騒ぎに気付いたのか、お馴染みとなった女の先生が駆け寄ってきた



「あらあら、大丈夫?」


「超問題ないです、たしか、施設の中に医務室がありましたよね、そこをお借りしてもよろしいですか?」



よっこらせ、とフレンダを担ぎ上げる絹旗。

力なく垂れ下がった彼女の手足は骨抜きになっているようだった。
492 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:15:07.28 ID:QOlXJAo0


「ええ、構わないけど・・でも、ホントに大丈夫?」


「ええ、ほら、こんなに超元気」



ほぼ死体の両足首を持ち、ジャイアントスイング。

物凄い勢いで回転するフレンダの顔は、ブレて笑っているように見えた、


かもしれない。



「それでは、失礼します」


「えぇ、場所は分かる?」


「はい、ご心配なく」



この退場劇は、後に「あすなろの悲劇」として語られることとなる。

雷のようなシュートを放ち、風のように去っていく。

彼女の烈火の如き活躍は、あすなろ園の子供たちに衝撃を与えたという。



「絹旗、私ね・・サッカー選手になったら、記録に残るより、記憶に残る選手になりたいんだ・・」


「・・・それ、どっかの野球選手の言葉じゃありませんでしたっけ」
493 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:15:46.85 ID:QOlXJAo0


手のかかる同僚を担いだまま、医務室に行くために、施設の入り口へ。

やれやれ、と溜め息を吐きながら、靴から来客用スリッパへ履き替える。

フレンダの分のスリッパは必要ないだろう。

医務室がどこにあるか思い出そうとしたそのとき、何やら奇妙な気配を感じた。



「ん・・?」



施設の入り口に立ったまま、絹旗は動かなくなる。

一瞬、人影が視界の隅で蠢いていたような。

突然、動きを止めた彼女に対し、様子を伺うフレンダ。



「ど、どしたの・・絹旗」


「今、誰か居たような・・」


「事務の先生じゃないの、中にも居るでしょ、何人か」


「何か今の人、髪の毛が青かったんですけど」


「今日び、青の髪の人なんてそんな居ないっしょ・・、ヴィジュアル系かっつーの」


「見間違いですかね・・ってちょっとっ、鼻血が私のセーターに!?」
494 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:16:13.39 ID:QOlXJAo0


そういえば鼻血の止血を忘れていた。

べったりと絹旗の背中から右脇腹付近にかけて真っ赤な血が染み込んでいる。



「ああん、私の初めてが絹旗に奪われたぁんっ!」


「こンの・・超レズ女っ!!」



ゴキンッ



「ウぅぅぅぅげええええぼおおおおおおおっ・・・!!!」



決まり手は、アルゼンチンバックブリーカー。

フレンダの意識はブラックアウト。

緊急性を伴う救急搬送に移行である。



495 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:17:09.37 ID:QOlXJAo0


―――――



「はい、あーん」


「ほら、あーん」


「お、おう・・・」



結局、一夫多妻制ということで落ち着いたおままごとチーム。

順番待ちをしていた子供たちも混じり、大家族どころの騒ぎではなくなっていた。

女の子が浜面に飛びつく度に、麦野が舌打ちし、滝壺が冷ややかな視線を送る。

そんな行動を起こす彼女たちの意図を汲み取れない浜面は、

それらを見て、わけもわからないままビクビクする。

その繰り返しばかり。

その度に滝壺似の少女は、明るい声をあげ、年相応に笑う。
496 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:18:26.97 ID:QOlXJAo0


「良かった」


「どうした、滝壺?」


「ううん、ここに来たら、よく笑うようになったなって思って・・」


「あの子か・・、そういや、そうだな」



初めてここに来たときは、笑うどころか、

ずっと不安げな面持ちで、挙句の果てに能力を暴走させてしまった。

入院中も、隠れ家に帰ったときも、その顔に露骨に笑みが浮かぶことはなかった。

しかし、今日、ここに来てからの少女は、ずっと笑顔が絶えないでいた。

心情の変化。

少女の首につけられた装置も、意外と早いうちに外すことができるかもしれない。



「今日はありがとう、私のわがままに付き合ってくれて。」


「大丈夫だよ、お姉ちゃんたちもすごく楽しいから」



もじもじとお礼を言う少女の頭に、滝壺はポンとその手を置いた。

えへへ、と恥ずかしそうに少女は微笑む。

一昨日に路地裏で会ったときと比べると、随分とその表情が生き生きとしているのが分かった。
497 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:19:26.85 ID:QOlXJAo0


「私、記憶がないけど・・、また今日から新しく楽しい思い出を作っていこうと思うの」


「・・記憶」



麦野たちは、この少女が記憶喪失だったことをすっかり忘れていた。

親に捨てられたのかもしれないと仮定すると、かえって記憶喪失になった方が良かったのかもしれない。

また、新しく思い出を作っていけば良い。

すべての物事を覆ってしまった雪には、また新しく足跡をつけていけば良い。

自分が生きた証拠を、その白紙に書き込んでいけば良いのだ。

過去を顧みず、先に目を向けることが、この少女にとってどれだけ勇気の要ることだったのか。



「そうね、しっかり私たちのことも覚えておくのよっ」


「うんっ!」



わしゃわしゃと少女の頭を撫でる麦野。

そのときの彼女は、超能力者としての顔でも、暗部組織の一員としての顔でもない、

人間らしい、そして、女の子らしい、無邪気な笑顔を浮かべていた。

願わくば、この少女に二度と不幸が訪れないように、末永く幸せで居られるように。

子を送り出す親の気持ち、とまでは言わないが、

その少女の愛らしい姿を見るたびに、そう思わないでいられなかった。
498 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:20:16.84 ID:QOlXJAo0


「・・ん、おトイレ行きたくなっちゃった」


「私がついていこうか?」


「うん、ありがとう」



少女の手を取り、ゆっくりと立ち上がる滝壺。

滝壺に引っ付く他の子供たちを引っぺがす浜面と麦野。

その人気っぷりに、滝壺は将来的に保母さんが向いているんじゃないだろうか、と強く思った浜面。



「ってか、トイレの場所分かるの、滝壺?」


「・・大丈夫、入り口に見取り図があったから」


「そっか、ごゆっくりねー」



ヒラヒラーと手を振る麦野。

滝壺と少女の姿が見えなくなった瞬間、ニィッと口角を上げる麦野。

これで邪魔者は消えた、浜面と二人きりのアバンチュール・タイムの到来だ。
499 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:21:19.27 ID:QOlXJAo0


「(ふ、隙を見せたわね、滝壺っ・・、この数分は私にとって大きいものになるわっ・・!)」



グッと握り拳を作る麦野。

しかし、その横から何やら雑音が聞こえてきた。



「ぐおおお・・・、すぴー・・」


「あー、お兄ちゃん寝てるー・・」


「え、えぇっ!?」



びっくりして浜面を見やると、彼は大の字になって大きないびきをかいて寝転んでいた。

麦野と滝壺のピリピリした空気から解放されて、気が緩んだからだろうか。

彼の周りの何人かの子供たちも、川の字に(人数的に『州』みたい)なって寝ていた。
500 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:22:08.89 ID:QOlXJAo0


「ちょ、ちょっと起きなさいよ、浜面っ!

 さっさと起きないと酷い目に合わせるわよっ!!」


「ぐがー・・・」


「『原子崩し』で蜂の巣にするわよー、こらっ、起きろ浜面ぁっ!」


「んごー・・・」


「浜面ぁぁぁぁっ・・・!」



暖かい陽だまりの中、幸せそうに眠る浜面の顔を見ていると、段々と起こす気もなくなっていった麦野でした。




501 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:22:54.10 ID:QOlXJAo0


―――――



「じゃ、私、ここで待ってるね」


「うん、おしっこだからすぐ戻るよ!」



おしっこ、という言葉に思わず苦笑してしまう。

無邪気というか、怖いもの知らずというか。

バタン、と閉まった女子トイレのドアに背中を預け、ふぅ・・と小さく息を吐く滝壺。



「(良かった・・本当に、あの子が元気になってくれて・・)」



それにしても、あのとき、滝壺たちが少女を見つけることがなかったら、あの少女はどうなっていたのだろうか。

あのまま、あそこで餓死していたかもしれない、

暴力を奮われた男たちに見つかって、再び暗闇に引きずりこまれていたかもしれない。

それを考えるだけでも、ゾッとする。
502 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:23:32.91 ID:QOlXJAo0


「(だめだめ・・、ありもしないことを考えちゃだめだよ、私っ・・!)」



フルフルと頭を横に振る滝壺。

少し乱れた髪をナデナデして直す。

ふと顔を上げると、正面の窓から日の光が差し込んでくるのが分かった。



「何事もなく終わって良かった・・」



彼女がポツリと呟いた瞬間。




「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」




鼓膜を酷く震わせる、女の子の叫び声。

ビクン、と心臓が跳ね上がる。
503 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:24:22.46 ID:QOlXJAo0


どこから聞こえた。

背後からだ。

女子トイレの中か。

誰が居る。

あの少女しか居ないはず。

何があった。

分からない。


浮かんだ疑問はこのドアを開ければ分かること。

慌てて振り返り、ドアノブを握った瞬間、全身からたくさんの汗が吹き出るのを感じた。

握った手からも、汗が滲み出る。

いらないことを考えている暇はない。

力強くノブを回し、勢いよく、ためらいなく、開け放つ。
504 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:26:09.63 ID:QOlXJAo0


「どうしたのっ!?」



「!」



真っ先に滝壺の目に入ったのは、黒服に身を包んだ長身の男。

青く染まっている短髪は、一般人とは違う異質さを漂わせていた。

切れ長の目は、真っ直ぐに滝壺を捉えている。

そして、その男に抱えられているのは、気を失っているのか、ぐったりした様子の少女。



「貴方は誰・・、何処から入ってきたの?

 いや、そんなことどうでも良い、その子を離してっ!」


「コレが叫ばなけりゃ、滞りなく任務が終了する予定だったんだがねぇ・・」



男が手に持っていたのは白い布のようなもの。

恐らく、何かの薬品が染み込んでいるのだろう。

それで、少女を眠らせた、と推測する。

男はその布を強引にポケットに突っ込み、大きな溜め息を吐いた。
505 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:28:56.53 ID:QOlXJAo0


「・・暴力は嫌いなんだけどねぇ」


「!」



青髪の男は少女を抱えたまま、床を蹴り、弾丸のように突っ込んでくる。

滝壺の能力は戦闘向きではない、それゆえに胸と胸を突き合わせた1vs1は圧倒的に不利。

能力者かどうかは不明だが、手の内が分からない上に、体格の良い男と対峙した以上、

何かしら相手の裏をかく秘策を考える必要がある。

しかし、気がついたときには、男は眼前にまで迫っていた。



「ほォらっ!」


「くっ・・!?」



男は、少女を抱えている左手ではなく、空いている右拳を滝壺の顔面目がけて放つ。

しかし、そんなことでは怯まない。

寸でのところでその拳をかわすと、床に落ちていたブラシを左手で拾い取る。
506 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:30:45.29 ID:QOlXJAo0


「へぇ、見かけに寄らず、良い動きをするねぇ」


「このっ!!」



目標も定めないまま、ブラシを思い切り振り回す。

男はそれをひょい、と避け、再び右の拳を繰り出す。

追撃を受け止めるため、滝壺はブラシを身体の前にかざす。



「失礼」


「ぅくっ!!」



その瞬間、握っていたはずのブラシが跳ね上がる。

拳をフェイントとし、男が左足でブラシを蹴り上げていた。

小さく悲鳴をあげ、思わず目を閉じてしまう滝壺。



「スペックが違いすぎるんだよねぇ、お嬢ちゃん」


「ぐ、ふぅっ・・!」



再び目を開いたとき、容赦ない痛みを腹部に感じた。

放たれた膝蹴りは、滝壺の腹にゆっくりと沈んでいく。

その強烈な一撃は、彼女の内臓の至る部分をじわじわと刺激していった。

激しい痛みとともに、胃液が逆流する。
507 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:32:13.92 ID:QOlXJAo0


「ぐ、がふぁッ・・!?」



嗚咽と共に、滝壺は膝から崩れ落ち、手足に力が入らず、うつ伏せに倒れこむ。

それでもなお、その瞳は光を失わず、青髪の男を見上げる。

しかし、その意志に逆らうように、意識は段々と遠のいていった。

生ゴミでも見るような目で地べたで足掻く少女を見やると、男は一言、吐き捨てる。



「残念だねぇ、ゲームオーバー♪」


「・・・っ、あ」



抉るような男の蹴りが、滝壺の腹部にめり込み、その勢いで彼女の身体は吹き飛ばされた。

入り口とは反対側の壁に、頭から激突する。

止めの衝撃が、滝壺の全身に電撃のようにほとばしった。



「うっ・・、ぁ・・・!」



少し手を伸ばせば、あの少女に触れることができる。

たったそれだけのことが叶わず、地に堕ちた少女の瞳から、反抗の光が消えた。



508 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/29(月) 23:37:16.27 ID:QOlXJAo0

今回は以上です、次回からラストスパート、かな?


蛇足ですが、

最近になって、「アイテム」絡みのSSが出てきているみたいで、喜ばしい限りです。


では、おやすみなさい。
509 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 23:38:48.23 ID:Vi5Ovg20
>>74

なのはとヴィヴィオ思い出した
おやすみ〜
510 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 23:43:50.87 ID:BVTPoGco
乙〜 おやすみ
これからどうなるんだ…
511 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 23:45:35.94 ID:Dy1Mz0Yo
超乙です!
512 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 23:48:42.24 ID:AMRd.9AP
短髪と書いてたが青ピばかり連想してしまうww
乙!
513 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/29(月) 23:57:54.91 ID:tggA8ADO


オラ、ワクワクしてきたぞっ
514 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/30(火) 00:16:08.62 ID:KMFqDbg0
乙ー!!
515 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/30(火) 00:30:58.87 ID:Q/2/r0Qo
ヤバイwktkが止まらなくて地球がヤバイ
516 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/30(火) 01:01:48.72 ID:/WrmaSMo
遅れたぜ、乙
次も待ってる
517 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/30(火) 04:26:16.75 ID:9Ww4N0U0
あ、青ピ・・・だと・・・
518 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/30(火) 12:55:06.95 ID:P56Vu.DO
むぎのおおおおおおおん!俺だああああああ!浜面と結婚してくれえええええええ!
519 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/03/30(火) 15:32:51.60 ID:DksGce.o
青ピはこないなことする子やないんやで!!
520 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/30(火) 15:59:49.34 ID:DkAxn2.P
いや、怪しいんだにゃー
521 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/03/30(火) 20:47:57.63 ID:2jJaFQDO
青ピ、ついに悪事に手を染めたか…情けなや青ピ……!
522 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/31(水) 00:02:21.77 ID:/EqKa02o
VIPで落ちてて完全にあきらめていたのに・・・・

制作速報覗いてよかったぁー!!!

とりあえず明日仕事から帰ったら読むよ。>>1頑張れ!
523 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/03/31(水) 19:47:59.11 ID:Mge.bIDO
まだかな
524 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/01(木) 04:06:05.63 ID:lS4Ot.DO
楽しみにしてるお!
525 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 04:07:25.85 ID:lS4Ot.DO
すまんさげてなかった
526 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/01(木) 17:02:36.84 ID:iBgs42Y0
青髪で長身・・・

やっぱアイつだな
527 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/01(木) 17:17:10.30 ID:VwmiyJs0
青ピてめぇ
528 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 17:17:25.67 ID:3pmEsEDO
今日も来なかったらハロワ行く
529 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 20:11:05.91 ID:9NKHipsP
短髪だからノー青ピ
530 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 22:26:11.71 ID:FtSOQG20

おばんです。


>>522
結局、VIPに誘導スレ立てませんでしたからねー。

ここで言うのもアレですけど、

プロパイダ?を変えてからずっと規制地獄にハマってるので、

VIPに進出することはもうほぼないと思います。

製作速報ありがとう。


では、投下です。
531 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 22:27:24.00 ID:2MhFrbco
きたあああああ!?
532 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 22:28:39.68 ID:FtSOQG20



染みひとつない青空の午後。

いきなり雲行きが怪しくなったと思えば、シャワーのように小雨が降り始めた。

あれだけ自己主張の激しかった太陽もすっかり雲の後ろに引きこもっている。

そのため、外で遊んでいた子供たちは一目散に施設の中へ避難してきたようだ。



「んっ・・・」



結局、麦野は滝壺たちの帰りを待ちきれず、寝てしまっていた。

遠くの子供たちの大きな足音が聞こえたのか、ぼんやりと滲んでいた麦野の脳内が揺さぶられる。

身体は気だるさを帯びており、寝返りをうつことすら億劫に感じてしまうほどだった。

仕方なく、その重たいまぶたを開けることにする。



「(やばっ、寝ちゃってた・・・・、んぅっ!?)」


「ぐー・・」



真っ先に目に飛び込んできたのは、浜面の寝顔。

幸か不幸か、まだ眠っているらしく、目を閉じたまま寝息をかいている。

彼女の頭の中にかかっていた眠気という名の白い霧は一瞬で吹き飛んでいた。
533 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 22:31:11.41 ID:42IiTYE0
きたああああああああああああああ
534 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 22:31:16.14 ID:FtSOQG20


「(びっくりした・・、ドキドキさせないでよ、ばかっ・・!)」


「くかー・・・」



壊れた目覚まし時計のように自分の心臓がやかましく音をたてているのが分かった。

胸にそっと手を触れると、その鼓動が生々しく伝わってくる。



「(つーか、何でこいつと二人並んで仲良くお昼寝なんかしちゃってんのかしら・・)」



すっかり目が覚めてしまったため、ゆっくりと身体を起こすと、背伸びをし、周りを見渡す。

さっきまで遊んでいた子供たちも、麦野と浜面を囲むように寝転んでいた。

どうやら、この中では彼女が一番に目を覚ましたらしい。

ほんの少し荒くなっていた息を、何とか周りに聞こえない程度に戻す。

大きく深呼吸をし、気分転換に窓の外を見てみる。



「雨・・か」



ポツリと呟いた。

不透明なフィルターを通したような、ぼやけた庭が目に入る。

窓越しでも、雨の降る音は静かに聞こえていた。
535 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 22:34:01.79 ID:FtSOQG20


「どのくらい寝てたのかしら・・誰か起こしてくれれば良かったのに」


「ん、おぅ、麦野・・」


「・・あ、おはよっ、浜面!」


「ぐー・・」


「・・・・え?」



名前を呼ばれたため、彼が起きたと思ったのだがどうやら寝言だったらしい。

少しだけ損した気分になる麦野。

二人の擦れ違いもこんなレベルにまでなったのか。

ちなみに、不意打ちだったので、名前を呼ばれただけなのにドキッとしてしまったことは秘密だ。



「(こ、この・・ド天然野郎ッ・・!)」


「すぴー・・・」


「(ちょっと待った・・、寝言で私の名前を呼んだってことは、

 今コイツが見てる夢に私が出てるってこと・・?)」



どんな夢を見てるのだろう、浜面の寝顔をチラリと拝見。

彼の身体に触れないように、床に手をつき、四つん這いになって覗き込む。

ヨダレを垂らしたまま、非常用出口の標識みたいな格好で寝ている浜面。
536 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 22:36:08.85 ID:FtSOQG20


「・・ぉーぃ」


「ぐぉー・・・」


「・・・はーまづらぁ」



ほんのり、優しい声色で呟いてみる。

もちろん、それに対する反応はない、変わりなく熟睡中だ。

今、自分がどんな顔をしているのかは、まったく分からない。

というか、想像もつかない。



「(絹旗は居ない、フレンダも居ない、そして、天敵である滝壺も居ない・・)」



周りの子供たちも起きる気配はない。

しかし、外の雨の加減を見る限り、外で遊んでいた子供たちはすぐこの部屋に戻ってくるだろう。

当然、絹旗やフレンダもだ。



「(やるなら、今よねっ・・)」



何を? という質問はなしだ。

是非、この状況から読み取ってほしい。
537 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 22:37:43.68 ID:FtSOQG20


「・・やっぱ無理」



ガクンと肩を落とす麦野、最近ヘタレ属性に拍車がかかってきている気がする。

そもそも、そんな積極的なアプローチがパッとできていれば元から苦労はしない。

恋する乙女の苦悩はこれからも続いていくだろう。

絶好のチャンスを逃し、彼の身体から渋々離れようとする。



「うぅん・・、麦野?」


「ひゃっ! お、起きたの・・?」



フェイントではなく、今度はちゃんと目を覚ましたらしい。

寝起きが悪いわけではないが、不機嫌な表情を浮かべる浜面。



「ひゃっ、って何だよ、気色悪い声出しやがって・・」


「・・何、私は気弱なのよ」


「気弱な女の子は、人の腹の上に座ったりしねぇよ・・」


「あれ?」



無意識の行動だったため、思わず声をあげてしまう。

麦野は足を組んだまま、仰向けの浜面の腹の上に腰を下ろしていた。

彼女の全体重が乗せられているため、苦しそうにもがく浜面。
538 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 22:38:23.07 ID:e9JOZ/.o
きてたあああああああああああああああああああああ
539 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 22:39:33.04 ID:FtSOQG20


「っていうか重いぞ、お前っ・・」


「し、失礼なっ・・」


「まぁ、お前はスタイル良いから、少しくらい体重あっても気にしないかもしれないけどよ・・」


「このっ・・、ぇ・・?」



マシンガン文句を撃とうとしていた口を反射的に閉じると、

不信感たっぷりの視線を浜面に送る。



「今、褒めてくれたの?」


「・・そのつもりだったんだが」



突然変なことを聞いてくる相手に押されたわけではないが、

取って付けたようなコメントの浜面。

あっそう、と麦野は明後日の方向を向いてしまう。

ぷく〜っと膨らませたほっぺたは照れ隠しだろうか。


「・・変な奴だな」


「アンタに言われたくないしぃ・・」



はいはい、そうですかと受け流す浜面。

下手に刺激して機嫌を損ねると厄介なのだ、目の前のお嬢さんは。

ポリポリと頭を掻きながら辺りを見回す浜面は、あることに気付く。
540 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 22:41:18.13 ID:HBN2r6DO
キタデーーーー!
相変わらずむず痒い展開がうまいな
541 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 22:42:01.05 ID:FtSOQG20


「ん・・、滝壺とあの子、どこ行った?」


「え、トイレじゃなかったっけ」


「それにしては遅すぎるだろ、三十分くらい経ってるぞ・・?」



携帯の時刻を確認しつつ、疑問を呈す浜面。

施設の中はそれほど迷うような構造でもないし、特に見るようなものもない。

そもそも、ここは言うほど大きな施設ではないのだ。

単純にここに戻ってこずに、他の場所で遊んでいるという可能性もあるが。



「大か小かは、もう火を見るより明らかだな・・」


「・・サイテーだよね、アンタ。いまさらだけどさ」


「冗談だって・・」


「ま、そのうち戻ってくるでしょ」


「・・そうだな」



ふと部屋の入り口を見ると、外で遊んでいた子供たちがゾロゾロと帰ってきたのが見えた。

数人の先生方も一緒になって戻ってくる。

恐らく、全員集合だろう、数えてみると全員で三十四人も子供が居た。

それだけの人数が居るのだから、「アイテム」全員が手を焼くわけだ。
542 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 22:45:20.73 ID:FtSOQG20

しかし、その中にお馴染みのピンクジャージの少女と、

それにひっついて回る女の子が見当たらない。

代わりに見慣れた薄桃色のふわふわセーターを着た少女が目に入った。

子供たちと背丈があまり変わらないためか、完全に群れに同化している絹旗最愛である。

浜面が大きく手をあげて彼女に話しかけに行った。

必死に群れをかき分けて出てくるチビっ子。



「なぁ、滝壺見なかったか?」


「え、知りませんけど・・、そっちと一緒じゃなかったんですか?」


「絹旗とも一緒じゃないなんて・・、ったく世話の焼ける奴なんだから」



そう言いながら、持っていた携帯を再び開き、ポチポチポタンを押し始める。

恐らく、滝壺に連絡を取るためだろう。

しかし、耳元に当てたわずか数秒後、麦野の顔が小さく歪む。



「通じない・・、電源切ってるのかしら」


「ちょっと先生たちに聞いてくるか」



スッと立ち上がり、輪になって談笑していた先生たちに話しかけに行く浜面。

身振り手振りをつけて説明しているようだが、相手側の表情は思わしくない。

どうやら手応えはなかったようだ、口を曲げながら足早に戻ってくる。
543 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 22:46:14.43 ID:iBgs42Y0
こんな所に次スレがあったとは
544 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 22:47:35.71 ID:FtSOQG20


「参ったな、先生たちも見てないってよ・・、この施設の中で迷子にでもなったのか?」


「仕方ないから探しに行きましょ、もうすぐ私たちのボランティアも終わる時間だし。

 全員揃ってないとスッキリ終われないしね」



時刻は五時、少し前。

麦野の言った通り、ボランティアの終了時刻は五時だ、かなりギリギリのライン。

一刻も早く、滝壺と少女を見つけなければならない。

滝壺以外にも存在を忘れ去られている人物が若干一名居るが。



「じゃあ、私はここに残りますね、滝壺さんたちが戻ってきたら連絡しますから。

 麦野と浜面は二人っきりで探しに行ってくださいね」


「ああ、分かった」


「う、うん」


「(こんな弱パンチみたいな攻撃にさえ、もじもじしてどうするんですか、麦野・・)」



強調された<二人っきり>という単語のせいか、どもる麦野。

それを見て、げんなりする絹旗。
545 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 22:50:23.86 ID:FtSOQG20


「じゃ、ちゃっちゃと探してくるわっ・・」


「おい、俺を置いていくなよ、お前も迷子になるぞ、麦野」



うっさい、早くしろ!と麦野はうっとおしい髪をかき上げる。

その彼女に慌ててついていく浜面。

それは麦野がリードして、浜面が一歩後ろでサポートするスタンスそのもの。

二人の背中を見ていると、なんだか不安になってくる絹旗だった。

そして、その背後からたくさんの魔の手が忍び寄る。



「ん、んきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」



ワラワラと群がる子供たち。

まだ遊び足りないのだろうか。



「あぅ、ぐぇっ! ちょ、ちょっと待ってください、私の身体は一つしかないんですからっ!」



一人ぼっちになってしまったため、子供たちから集中攻撃を喰らう絹旗。

たった一分程度でも、ズタボロにされるには十分の時間だった。

髪の毛はボサボサになり、自慢のセーターも容赦なく引っ張られたせいか袖が伸びてしまっている。

おまけに、サッカーをし終わったばかりだったので汗だくだ。

なぜ、周りの大人は止めてくれないのだろう、と絹旗は怨み顔で歯軋りする。
546 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 22:53:49.65 ID:FtSOQG20


「ねぇ、浜面兄ちゃんと麦野姉ちゃん、何処行ったのー?」


「あぁ、あの二人なら滝壺さんを探しに行きましたよ、

 まだトイレから戻ってきていないみたいで・・」


「・・滝壺姉ちゃん?」



ふと、絹旗の服をアクティブに引っ張っていた一人の少年の手が止まる。

何やら小首を傾げている、何か心当たりがあるのだろうか。



「・・もしかして、滝壺さんがどこに居るのか知ってるんですか?」


「いや、えーと・・滝壺姉ちゃんは知らないけど、

 あの女の子なら二十分前くらいに見たよ、施設の後ろの道路で」


「・・施設の後ろの道路?」



少年が言っているのは、施設の後方を通っている小さな道だ。

「アイテム」がワゴンを止めている道路は施設の正面側で、その道は反対側に位置している。

表の道路と比べて人通りが少なく、ひったくりがよく起きる場所としても有名である。
547 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 22:56:15.49 ID:FtSOQG20


「うん、僕が蹴ったサッカーボールが施設の後ろに飛んでっちゃって、取りに行ったときなんだけどね。

 そしたら、その道にに男の人に抱えられたあの子が居たんだ」


「・・男の人?」



絹旗の頬に一筋の汗。

もちろん、それは子供たちとしっちゃかめっちゃかに遊んでいたせいではない。

焦りだ。

徐々に引き締まっていく絹旗の表情。



「・・詳しく聞かせてください、その男の人はどんな風貌でしたか?」


「うーん、フード被ってたし、後ろ姿だったし・・、背丈は浜面兄ちゃんと同じだったから、

 てっきり、その男の人は浜面兄ちゃんだと思って、俺、すぐに庭に戻ったんだよ」


「・・そうですね、それは浜面ではあるはずがないんですよ、

 ずっとここで寝ていたらしいですし」


「そんでね、ワゴンに乗ってどっかに行っちゃったんだ」


「ワゴン・・?」



それは絹旗たちが乗ってきたワゴンと一緒の型だったため、少年は違和感を覚えなかったらしい。

とにかく、少年の証言ですべて理解した。

単純に滝壺と少女が迷子になっていただけだと思っていたため、予想とは違い、汗が一気に噴出す。

しかし、慌てている場合ではない、今やるべきことをやるしかないのだ。

絹旗はポケットから携帯を取り出し『麦野 沈利』をコールした。
548 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 23:00:55.86 ID:FtSOQG20


―――――



「・・おいっ、しっかりしろッ! 滝壺ッ!」



浜面の悲痛な叫びが響く。

彼の腕には傷だらけの滝壺が居た。

それを、麦野は腕を組んで静観している。

彼らが居るのは施設一階の女子トイレ。

最初に滝壺たちが行くと言っていた場所からあたったのだが、早くもビンゴだった。

そのドアを開けると、目に飛び込んできたのは、

壁に背中を預けたままでぐったりしている滝壺の姿。

床には折れたデッキブラシが落ちており、窓は全開になっている。

恐らく、犯人はその窓から逃走したのだろう。



「ごめ・・、はま、づらっ、あの子、守れなく・・て」


「バカ野郎っ、喋らなくて良い・・、とにかく医務室に!」



途切れ途切れの言葉を搾り出す滝壺を抱えたまま、浜面が立ち上がる。

そのとき、入り口に無表情で立っていた麦野のポケットから音楽が流れ出た。

着信だ。
549 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 23:01:51.45 ID:FtSOQG20


「絹旗?」


『麦野ですか、聞いてくださいっ、超大変なことに!』


「えぇ、分かってるわよ」


『え?』



興奮状態にある絹旗に、ぶっきらぼうに応答する麦野。

今の彼女の雰囲気はいつものものではない、絹旗は電話越しにそれを感じ取った。

その冷ややかな声色を保ち続けたまま、麦野は絹旗に現状を説明し、

絹旗も麦野に少年の話を一字一句同じままで伝えた。



「なるほどね、アンタの話と繋げた結果、全容は理解できたわ」


『あっちは車で移動しているようですね、追うとしても宛てはあるんですか?』


「おおよそ見当はついてるから、すぐに出るわよ。

 アンタは周りを適当にごまかして、ワゴンに集合ね」


『分かりました』



ブツッと切れた携帯をポケットに押し込む。
550 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 23:05:34.15 ID:FtSOQG20


麦野は、今回の件は一昨日に自分たちが壊滅させた組織の残党による犯行だと推測した。

少女を傷だらけにした黒ずくめの男たちというのも、恐らくその組織だと仮定する。

そんな非道な奴らの元に彼女は再び堕ちてしまったという事実。

そうなれば命の保障はできない、一分一秒も無駄にすることはできないのである。

ふぅ、と小さな溜め息を一つ吐き、滝壺を背負う浜面を見やった。



「とりあえず、滝壺を医務室に運んでくるよ」


「待った、滝壺も連れて行くわよ」


「・・なっ」



それだけ言い残すと、麦野は足早にトイレから出て行った。

滝壺を背負ったままの浜面がそれを追う。
551 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 23:06:48.45 ID:FtSOQG20


「ちょっと待てよっ、誰にやられたかは知らねぇけど、

 滝壺はかなり弱ってるっ、連れていくわけにはいかねぇだろ!?」


「念の為、よ、保険代わり。

 刺されたり焼かれたりしたわけじゃないんだから、そのくらいは問題ないでしょ」


「いや、そういう問題じゃっ・・」



と言いかけたころで、話を止めた。

正しく言えば、後ろから口が塞がれてしまっていたのだ。

滝壺の手によって。



「大丈夫だから、行こう、はまづら」


「で、でもよっ・・!」


「大丈夫」



耳元で囁かれた、強い意志のこもった言葉。

それは自分の身を呈してまで、あの子を助けたいという思いからだろう。

その気持ちを無碍にするわけにはいかなかった。
552 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 23:08:56.47 ID:FtSOQG20


「わかった・・」


「ありがとう、はまづら・・だいすき」


「「・・・なっ!?」」



強烈な不意打ちを喰らってノックダウンされそうになる浜面。

特に深い意味もなく、こんなことを言ってのける滝壺が恐ろしい。

そして、自分が言われたわけじゃないのに心に傷を追う麦野。



「バカップルがっ・・、さっさと行くわよ」


「うん」



滝壺の口元は緩んでいるが、目は笑っていない。

彼女の表情は見えないが、余裕がないことは浜面にも分かった。

不安定な息遣いと鼓動が伝わってくる。

それを分かっていてなお、グッと堪える。

今、やるべきことは手早くこの件を済ませ、彼女を休ませてやることだ。
553 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 23:11:43.71 ID:FtSOQG20


「それにしても、どうしてあの子がここに居るって分かったんだろうな・・」


「そんなの私が分かるわけないでしょ」



ぶつぶつ言いながら、女子トイレの前に「トイレ清掃中」の看板を立てる。

見られてはいけないものはないが、一応、だ。



「あっちに追跡や補足が得意な補助系の能力者が居たのか・・?」


「壊滅させる前に予め奴らの経歴だの能力だのを調べたデータと、

 一昨日にぶち殺したときにそれぞれ照合したけど、能力者は全員お陀仏してるはずよ」



ま、どいつもこいつも大した能力者じゃなかったけど、と付け加える。

なおさら、疑問は深まるばかりだ。
554 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 23:12:31.39 ID:xq3w0P6o
+   +
  ∧_∧  +
  (0゚・∀・) ワクワクテカテカ
  (0゚∪ ∪ +
  と__)__)   +
555 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 23:13:05.11 ID:FtSOQG20


「じゃあ、何で・・、」


「ない知恵絞って考える暇があるなら、黙って走んなさい」


「はいはい・・」



施設の通路を走り、入り口に到達すると、独特の雨の匂いが吹き込んできた。

雨だけでなく、風も吹いてきたらしい。

眼前に広がった庭はすっかり雨でびちゃびちゃになっていた。

雨足は強くなるばかりだが、それも気にせず、外へ飛び出る三人。

施設の敷地から出ると、道路脇に止めてあったワゴンへ駆け寄り、鍵を開け、ドアを開ける。



「っていうか、犯人の居場所は分かるのかよ?」


「心当たりが一箇所だけ、ね。

 そこが違うとなると、早くも打つ手がなくなるけど」


「大丈夫なのかよ・・」



滝壺を後部座席に優しく座らせると、運転席に急いで飛び乗る浜面。

回り込んだ麦野も続き、助手席へ。

キーをさし、エンジンをかけ、ワイパーを動かす。

思った以上に酷い雨だ、目的地につくまでの障害にならなければ良いのだが。
556 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 23:15:31.52 ID:FtSOQG20


「すみません、超遅れましたっ!」



強引にドアが開かれ、ズブ濡れの絹旗が乗り込んできた。

先生や子供たちに対する事情説明は何とかなったらしい。

名残惜しさから子供たちが飛びついてきたらしく、

彼女の服装はさらにボロボロになっていた。



「出発するぞ、ベルトつけろよ」


「超りょーかいです」



カチャリ、と律儀にシートベルトを締める音。

こんなときでも安全確保は必須。

運転者が法廷速度ガン無視のスピードでかっ飛ばす気満々なためだ。

全員の準備の完了を確認すると、サイドブレーキを外し、バーに左手を置く。

一瞬、洋楽ばかりのラックに手を伸ばそうとしたが、今回ばかりは音楽をかけている場合でもない。
557 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 23:19:40.91 ID:FtSOQG20


「さってと・・浜面、一昨日任務で行った工場の密集地へ向かいなさい」


「あそこか・・なるほどな」


「道は覚えてるわね」


「任せとけよ」



工場の密集地、少女と初めて出会った場所だ。

廃ビルや廃工場が多く、ならず者のスキルアウトたちが多く潜んでいる場所として有名な地域。

奴らがそこに居るという確証はなかったが、少しでも確率のある場所から当たる。

今回は任務とは関係ない私情であるため、『上』や下部組織の協力を煽げず、

人海戦術に物を言わせて捜索させることができないのが苦しいところだ。
558 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 23:21:50.37 ID:FtSOQG20


「準備は良いな?」


「つべこべ言わずにさっさと出なさい、

 一秒の遅れが命取りになるかもしれないんだからね」



ロケットスタートをかまそうとアクセルペダルに足を押そうとするも、寸前で止めてしまう。

バックミラーに見えた滝壺の体調が心配になったからだ。

目が合うと、彼女はにこやかに微笑む、その表情には若干の歪みが垣間見えた。

きっと彼女は無理をしている、それを押し殺してついてきているはずだ。

それでも、



「・・飛ばすぞっ、しっかりつかまってろよ!!」



一刻を争う事態、奥歯を噛みしめ、アクセルを限界まで踏み込む。

鈍く大きいエンジン音と共に勢い良く雨風を切り、一直線に少女の元へ向かう。

もう一度、あの子の笑顔を取り戻すために。



ここからが、反撃開始だ。



559 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/01(木) 23:24:09.70 ID:FtSOQG20

今回は以上です。


Q:3月中に終わらせるとか言ったのは誰ですか?

A:
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   \  丶       i.   |      /     ./       /
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     二          / ̄\           = 二
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 /    /    /       |    i,      丶     \ 


もう少しだけ続きます、お付き合いください。

たぶん、次は明日の夜にも更新できると思います。


では、おやすみなさい。
560 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 23:25:33.74 ID:ep/.gYMo
フレンダ…
561 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 23:27:08.13 ID:h2s7mMsP
有言実行しようとしてくれるのはいいが別に無理する必要はどこにも無いぞ?wwww
562 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 23:32:13.23 ID:e9JOZ/.o
超乙です!

フレンダはアルゼンチンバックブリーカーくらったまま放置かww
563 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 23:33:20.39 ID:IRVE2.AO
乙!
フレンダが空気すぎて泣いた
564 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 23:35:40.96 ID:3pmEsEDO


ギャグやらラブコメやらシリアスやら忙しすぎるww
565 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 23:37:12.64 ID:O/6/Eq.P
展開に起伏があって面白いれす^q^
566 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/01(木) 23:38:55.97 ID:VwmiyJs0
これはスーパー麦のんフラグ……!
567 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 23:52:11.20 ID:MHa2.Vk0
超乙でした!
568 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/01(木) 23:58:14.37 ID:y8gGIyc0
滝壺可愛いすぎやべええええええええええええええええええええええええええええええええ
乙乙
569 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 00:19:25.82 ID:ciOw7Ak0
乙ですー
570 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 00:40:25.18 ID:EgWz.Doo
乙乙
むぎのんが可愛すぎて待つのが辛い
571 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 01:17:16.25 ID:f48ACeoo
乙1

もうちょっとだけ続くんじゃはまだ2合目くらいの法則ですね!期待してます!
572 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 01:18:58.28 ID:UiCkZAgP
作者は投下したSSのまとめブログをつくるべき
速攻お気に入りに入れる
573 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 02:04:36.54 ID:sAI9fkDO
フレンダが施設の子供たちの性玩具になる同人誌まだー?
574 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 02:50:27.33 ID:OadNs6AO
このスレのおかげで麦野が大好きになりました
575 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 03:04:25.24 ID:ggva9G6o
このスレのおかげで百合に目覚めました
576 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 09:02:57.60 ID:BLZbgbYo
麦のんかわいい
乙なんだよ
577 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 22:42:43.95 ID:WalS4IQ0

おばんです。


今回からラストスパートに入ります。

序盤は禁書臭がまったくしないのですが、構成上ハブけませんでした。

辛抱してやってください・・。


では、投下します。
578 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 22:44:26.39 ID:WalS4IQ0


―――――



「アイテム」が施設を出た頃、とある人気のない廃工場で蠢く者たちが居た。

既にその使命を終えているのか、はたまた単純に廃棄されてしまったのか、

その工場の内観は、外観よりもずっとボロボロになっており、

廃墟マニアには趣さえ感じさせるほどの廃工場。

中はそこそこ広く、天井まではかなりの高さがあり、

埋め尽くすほど置かれていた機械のほとんどはただの鉄屑と化し、散らばっている。

ただ一つ、形を保っているのは黒い幕で覆われた、大きい物体。

大型車のようにも何やら派手な機械にも見えるそれは、工場の隅にひっそりと佇む。

それ以外は何も物らしい物がない工場のド真ん中に、二人の男が向かい合って座っている。

パイプが延々と迷路のように巡っている天井は

所々激しく損傷しており、雨風の侵入を許していた。

落ちてきた一滴の雫が少年の黒髪を濡らす。

雨音だけが静かに聞こえる廃工場に、カツンと小気味よい靴の音が響いた。

少年は椅子代わりにしていた鉄屑から面倒くさそうに立ち、

鬱陶しい水気を手で払うと、天井を見上げる。

さらに、周囲を見渡すと床のあちらこちらに水溜りができていた。


見た目十七、八歳くらいで黒服に身を包んだ少年。

綺麗な鼻筋とパッチリとした大きな目は、大衆向けアイドルのようだ。

綺麗に切り揃えられた短髪に、こめかみの辺りには剃りこみも入れてある。

大きく開かれた胸元からは、チラリと刺青のようなものが見えた。
579 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 22:45:21.22 ID:WalS4IQ0


「やれやれ、参ったな・・水漏れか?」


「水漏れも何も、天井はそこら中が穴だらけだっつーの」



黒髪の少年の向かい側に座っていたのは、ライオンの鬣のような金髪の男。

こちらは粗暴な印象が明らかで、足を組み、煙草を咥えながら喋っている。

日焼けした肌に、両耳には鬱陶しいほどの量のピアスがついており、それぞれが鈍く光っていた。

ふぅ、と煙と溜め息を吐き、金髪の男は斜め上の天井を指差す。



「ほら、あそこなんかサッカーボール一個分くらいの穴が空いてるしよ」


「・・一昨日の戦闘の余波だろ、仕方ないさ」



彼らはある人物の到着を待っている。

同時に、彼らに必要な『物資』の一つが届く頃。

事前に打ち立てた予定通りなら、もう着いても良い時間だった。

そのとき、黒髪少年の携帯の着信音が鳴り響き、ワンコールで止んだ。

到着の合図だ。
580 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 22:46:16.68 ID:WalS4IQ0


「やっと来たか・・」


「ふぅー・・、やれやれだっつーの」



黒髪と金髪とは違う、緑髪の少年が門のように大きい入り口の両開きのドアを開ける。

すっかり暗くなってしまった外を見ると、遠くから二つの光が近づいてくるのが分かった。

黒っぽいワゴン車がゆっくりと廃工場の中に入ってくる。

それは工場のド真ん中、黒髪と金髪のすぐ横に止まり、中から青髪の男を吐き出した。

恐らく、リーダー格であろう黒髪が近づく。



「予定より遅れたみたいだが、何かあったか?」


「いや、問題ないねぇ。コイツがなかなか一人になる機会がなくって、少々手間取ったくらいだねぇ」



そう言うと、青髪は後部座席から眠ったままの少女を引っ張り出した。

首根っこを掴み、汚い物でも触るかのような扱いをしながら。
581 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 22:47:30.71 ID:WalS4IQ0


「おいおい、それは大切な売り物だ、もう少し丁重に扱ってもらえるか?」


「あれだけその子を殴ってたお前がそういうことを言うと、わざとらしく聞こえるんだっつーの」


「・・そうか?」



後ろから煙草を噴かせながらの金髪の声が聞こえ、ニヤリと口元を歪める黒髪。

色っぽさがある一方で、それは一歩間違えれば狂気に堕ちているような笑みだった。

少女を抱くように持ち変えた青髪もまた、似たような笑みを浮かべ、口を開く。



「しかし、ラッキーだったな、あのまま逃がしたままだと思ってたけどねぇ」


「ああ、思わぬ副産物といったところかな。

 厄介な所に転がりこんだとは思ったが、何とか取り戻すことができた。

 ・・結果オーライといったところだ」



依然眠り込んだままの少女の頬に、撫でるように手を触れる黒髪。

何を思っているのだろうか、表情は変わらないままだ。
582 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 22:48:39.95 ID:WalS4IQ0


「おい、ドア閉めとけよ」


「・・・・」



金髪の男が寡黙な緑髪の少年に指図する。

緑髪は黙ったまま、一目見ただけでかなりの重量があると分かる鉄製の扉を閉めた。

それを確認すると、金髪は少女を青髪から受け取り、

工場の隅にあった大きな物体の前に置かれていた椅子に座らせる。

青髪から渡された鉄線を使い、少女を椅子にきつく縛り付けておく。

その痛みのせいか、少女はゆっくりとそのまぶたを開ける。



「んっ・・・、なに、これっ・・!」


「おはよう、いや・・、おかえりかな?」



自分の置かれた状況を把握できていない少女に声をかける黒髪。

その姿を見た少女の顔が、恐怖に歪む。
583 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 22:48:47.98 ID:pJBKo.k0
キテタ
頑張れ
584 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 22:50:23.07 ID:WalS4IQ0


「ぁっ・・・、な、んでっ・・!?」


「何でも何も、元の場所に戻ってきた、それだけだと思うけど」


「それより・・、お姉ちゃんたちはっ・・!?」


「殺したよ」



少女が身体をピクリと震わせた。

彼女は全身に何か得体の知れないものがジワジワと広がっていくのを感じた。

黒髪は薄ら笑いを浮かべたまま、その様子を観賞し続ける。



「見るも無残な形にね。

 それだけじゃない、あそこに居た子供たちも全員・・だ」


「そん、な・・」


「今頃、あの施設、いや第十三学区中が大騒ぎじゃないかな・・、

 あれだけの人が死んだとなっちゃ、警備員(アンチスキル)も黙っちゃいないかもね」



黒髪の言い放つ言葉の一つ一つが、少女の心を抉っていった。

恐怖、焦燥、悲哀、様々なマイナスの感情が頭を巡っていく。

顔がどんどん青くなっていき、歯をガチガチと震わせる少女を見れば、それは明らかだった。
585 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 22:50:29.05 ID:/CcEubsP
ぶちころしでいいなこれは
586 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 22:51:41.12 ID:WalS4IQ0


「・・う、そ」


「嘘だと思うかい、なら証拠の一つを見せてあげるとしようか」



そう言うと、指をちょいちょいと動かし青髪を呼ぶ。

不適に笑ったままの青髪は、懐から携帯電話を取り出し、何やら操作したあと、黒髪に投げ渡した。

受け取った携帯を開き、画面を少女の目の前にかざす。



「う、あぁ゛・・ッ!!」


「これで少しは信じてもらえたかな」



そこに映っていたのは、壁に背を預け、ぐったりと座り込んでいる滝壺の姿。

これだけでは死んでいるかどうかも分からないのだが、今の少女の心を揺さぶるには十分すぎる効果だった。
587 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 22:51:57.11 ID:BNIYlGQo
というかアイテム相手って知っててやってんのかねこいつら?
だとしたら相当馬鹿だなww
588 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 22:52:37.37 ID:WalS4IQ0


「お前が僕たちから逃げ出さなければ、こんなことにはならなかったんだけどね」


「・・う、うっ、ぐぅぅっ!」



ガチガチに縛られているため、手足を動かしても身動きが取れない。

突きつけられた現実から目を逸らせず、少女はただ唸ることしかできなかった。



「ゆる・・さないっ・・!」


「ん・・?」


「許さない・・、今ここで貴方たちをっ・・!」



予想とは違い、強い言葉を吐く少女を見て、興味深そうに顎に手を当てる青髪。

黒髪もまた、抵抗の兆しを見せる少女に惹かれ始めていた。

もちろん、それは恋愛感情やら何やらではない、単純な好奇心からだ。
589 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 22:53:37.04 ID:WalS4IQ0


「僕らを殺してみるかい、君の能力は今も制御できないままだろう」


「やってみないと・・、分からないっ・・!」



少女の目の色が変わる。

その瞬間、彼女の周りを空気が小さく渦を巻き始めた。

彼女の能力は『風力使い(エアロシューター)』。

空気を操作することができ、レベルが上がれば真空波や突風も起こすことが可能だ。

そして、彼女の能力レベルは「レベル3」、感情次第では「レベル4」相当にもなる。

彼女がいる寂れた廃工場など、吹き飛ばせるほどの力を持っている。

「大能力者」を目の前にしてなお、黒髪は余裕の表情を崩さない。



「・・準備は良いな」


「いつでもどうぞ」



青髪の言葉を聞いた黒髪がニヤリと笑う。

その余裕の笑みすらも遥か彼方に吹き飛ばしてやるとでも言いたげに、歯を食いしばる少女。
590 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 22:55:57.03 ID:WalS4IQ0


「ん、うぅあぁぁぁぁぁっ・・・・・・、っ・・・!!?」



しかし、その空気の渦はその形を保ったままだった。

息を荒げるだけ荒げ、自分の周りに何も起こっていないことに違和感を抱く少女。

その顔には、驚愕と疑問の感情がチラついていた。



「な・・んで・・?」


「・・ん、どういうことだ」



少女だけでなく、黒髪たちも眉を潜めていた。

彼女の能力は確かに発動している、だが、これではせいぜいレベル1程度だ。

ただ単に不発に終わっただけなのか。

しかし、本人にはその理由がすぐに思い当たったようだった。



「(そうだ・・、私の首にはっ・・!)」



病院でカエル顔の医者が周囲の安全と少女自身のために取り付けた能力を制御、制限する首輪。

これがついている以上、どれだけ力を込めても能力が強くなることはない。
591 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 22:58:13.43 ID:WalS4IQ0


「なるほど、これのおかげか・・、なかなか高そうな首輪だ」


「くっ・・」



拍子抜けした顔をしながら黒髪は少女の首輪をつつく。

既に彼女の能力の不発の原因を理解しているようだった。



「やれやれ、『これ』の試運転をしようかと思ったが、仕方ないな」


「使う機会が来ないことを祈るばかりだけどねぇ、俺は」


「・・それは避けられないことだと思うけどね、

 だからこそわざわざ有り金すべてを落として手に入れたんだから」



『これ』と呼ばれた大きな黒幕で覆われた物体に背を預け、溜め息をつく青髪。

視線の先には、退路を断たれ、唯一の希望だった能力も使えず、俯いたままの少女。



「強気な女は好みだぜぇ、将来は良い女になるな、このガキ」


「お前のストライクゾーンの広さには呆れるよ・・」



そういう意味で言ったわけじゃねぇよ・・と必死に弁解する金髪。
592 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 22:59:05.11 ID:WalS4IQ0

そんな金髪の胸を小突いたあと、少女の前に立ち、

目を細めたまま、黒髪は彼女を見下ろしていた。



「あ・・ぐぅっ!?」


「ま、二度と変な気は起こさないようにね」



その顔を掴むように少女の口元に手を強引に押し当て、脅しめいた言葉を吐く。

脅しではない、彼の目を見れば、真意は明らかだった。

それでもなお半笑いのままの表情が、不気味さを増加させる。

肉体的にも精神的にもがんじがらめにされ、風を操ることもできない少女は、文字通り籠の中の鳥と化していた。



593 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 23:02:32.87 ID:WalS4IQ0


―――――



一年に一度、降るか降らないかという豪雨が「アイテム」を乗せたワゴンの行く手を阻んでいたが、

事故上等のスタンスで突き進んでいったおかげか、予想より早く目的の地帯に入ることができた。

そこは、夏でも肌寒さを感じるような無機質的な空気が流れている。

どんよりとした黒い雲とその廃れた灰色の工場群は、互いの姿を映し合っているかのようだった。

不気味なことに、なぜか雨足は弱まり始めていた。

中身を流し終わって空っぽになった大きなバケツに、再び水を溜め込んでいるかのように。




「浜面、ここまでで良いわ」


「え、何言ってんだよ、奴らの本拠地に派手に突っ込むんじゃないのか?」



麦野が溜め息をつく前に、浜面のすぐ後ろの席から呆れたような溜め息が聞こえてくる。
594 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 23:03:40.37 ID:WalS4IQ0


「超浜面ですねー、タムロするのに使えそうな工場はいくつもあるのに、

 一つ一つに突っ込んでちゃ埒があかないでしょう」



バッタ並の脳みそしか持ってないんですかー、と後ろから浜面の両こめかみをツンツンする絹旗。

やかましそうにその手を払いのける浜面。

彼女の言っていることは正論である、このワゴンは唯一の移動手段だ。

何度も虱潰しに突っ込んでいたら、あっという間にボロボロになってしまう。



「それに、まだここに奴らが居る確証はないしね」


「それでも、ギリギリまで詰め寄った方が良くないか?」


「こんなので近寄ったらすぐにバレるっつーの、あとは徒歩で慎重に近づいた方が良いわ。

 それに犯人側に能力者はいないはずだから、能力にかまけたような戦い方じゃない。

 狙撃や遠隔操作の爆弾みたいなスタンダードな戦法を使われて、ワゴンごと爆破、ゲームオーバーよ」


「な、なるほど・・」



麦野の話を一通り聞き流すと、拳銃を取り出し、弾の数を確認する浜面。

そして、車のエンジンを止める。

しかし、キーを抜こうとする彼の右手を麦野が止めていた。
595 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 23:05:08.43 ID:WalS4IQ0


「おい、何すんだよ」


「アンタが行っても足手まといになるだけ。

 っていうかアンタには他にやることがあるから」


「やること・・?」



足手まといというのは否定できないため、悲しいがスルーしておく。

帰宅手段の車を見張る以外に、浜面がやることとは。



「アンタは今から施設に戻って、フレンダを連れてきなさい」



「「「あ・・」」」



数秒の沈黙の後、麦野以外の三人は息の揃った反応をしてくれた。

彼女の予想通り、フレンダの存在は忘れ去られていたらしい。

気の毒な子ね、と心中お察しする。
596 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:07:05.32 ID:BNIYlGQo
ひっでぇなこいつらwwwwww
597 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 23:07:38.67 ID:WalS4IQ0


「まぁ、私も途中で気付いたんだけど引き返すのも面倒だし、今言ったんだけどね」


「それはそれで酷くないか・・」


「っていうかフレンダの奴、まだ施設に居るのかしら、

 居なくなった私たちを探して歩き回ってたりしてるんじゃないの?」



あ゛―・・と申し訳なさそうな声をあげた絹旗が割って入ってきた。



「フレンダなら医務室で超おねんねしてますよ・・、

 当分、自力じゃ起きないと思います・・」


「なら心配はないか・・」


「ちょっと待て、まだ奴らがここに居るかどうかも分からないのに、

 車を持ってっちまって良いのかよ?」


「ああ、大丈夫よ。今回は私の勘が冴えてるから」



なぜそんな根拠のないことに胸を張れるのか、浜面には不思議で仕方ない。

麦野は見た目通り?に大雑把なところがある。

少女の命が懸かっているのではなかったのだろうか。

その心構えでも、今まで特に任務の失敗はなかったので一応信じてみるが。
598 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 23:08:41.59 ID:WalS4IQ0


「良いからさっさとあのサバ缶バカを連れてきなさい」


「はいはい、まぁ、一応貴重な戦力だしな、行ってきますかね・・」



エンジンをかけ、再びバーをドライブモードに切り替え、ペダルに足を置く。

いつの間にか、麦野と絹旗、滝壺もワゴンから降りていた。

心配性な浜面はもちろん一声かける、あの少女に。



「おい、滝壺、大丈夫なのか・・?」


「大丈夫だよ、はまづら。私はそんな心配性なはまづらを応援してる」


「いや、俺のことじゃなくて、滝壺のことだって・・」



彼女は自分の怪我の程度を教えてくれなかったが、

素人が見ても、あまり良いようには見えなかった。

足取りも少しだけふらついているようにも見える。

ほとんど外傷が見当たらないにも関わらず、それなりに弱っていることが余計に不安を煽る。
599 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 23:10:30.83 ID:WalS4IQ0


「なぁ・・やっぱ、滝壺は行く必要ないだろ」


「まーだそんなこと言ってるわけ?」



それに、麦野は今回の相手に能力者は居ないと言っていた。

「アイテム」の核である滝壺の能力は、能力者のAIM拡散力場を捕捉・追跡する能力。

つまり、滝壺の能力は無能力者相手には使い道がないはずだ。

これも、麦野の戦場における勘というものなのだろうか。



「何が起こるか分からないのよ、それに今回の相手は得体が知れない。

 壊滅させたはずの組織にまだ息があるってこと自体がおかしいの

 そして、そんな奴らにあの子は拉致されたってこと」



思えば、今までは何かを壊したり奪ったり、人を殺したりといったような、

害を与えるような、武力に物を言わせるような任務ばかりをこなしてきた。

だが、今回は違う、誰かを救う、誰かを守る戦い。

それだけに慎重さに重きを置かなければならないのだ。

少しの気の緩みも油断も許されない。

自分たちが無事でも、少女が無事でなければ、それは敗北と同義だ。
600 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 23:12:53.77 ID:WalS4IQ0


「でもよっ・・!」


「っ・・!」



バンッ! と運転席のドアを勢いよく横殴りする麦野。

その鋭い眼光は浜面を刺し殺すかのような力があった。

それは浜面に対する怒りではない、自分に対する憤りだ。

一昨日の自分たちの任務は完璧ではなかったということ。

組織のメンバー、主力から雑用まですべての人間を始末しておけば、

少女が拉致されるようなことはなかったはずだからだ。

麦野は今回の相手を皆殺しにするつもりで望んでいるのだろう。

自分たちの落ち度、それに対する怒りも含め、注げる力はすべて注いでおく。

獅子は兎を狩るにも全力を以てす、ということだ。



「とやかく言う権利はアンタにはないの、私がやるって言ったらやるの。」


「・・・・」



睨み合う浜面と麦野。

暗部組織のリーダーと、組織に入ったばかりの下部組織の無能力者。

普段の麦野であれば、浜面を無理やり言い包めることはあまりない。

だが、締める所は締めなければならないのだ。

やがて、ふぅ・・と大きな息を一つ吐き、浜面は三人を見やって口を開いた。
601 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 23:14:08.66 ID:WalS4IQ0


「・・分かったよ、その代わり全員が元気に戻ってくるようにな」



「・・は?」


「・・・ぷっ」



あっははは、と腹を抱えて爆笑する麦野、絹旗も笑いを堪えて切れないでいる。

久しぶりの真剣な空気があっという間に崩れてしまっていた。



「何よそれっ、アンタはお父さんかっつーのっ!」


「う、うっせーなっ、本心から言ったんだよ、悪いか!」



柄にもない台詞だったか、と鼻面をかく。

こういうところも含めて浜面は甘いのだと麦野は思う。

これだから何があっても、この少年のことを嫌いにはなれないのだ。


そんな中、滝壺が一歩踏み出て、運転席から顔を出したままの浜面を見上げる。
602 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 23:15:55.31 ID:WalS4IQ0


「ありがとう、はまづら、心配してくれて」


「・・あ、ああ。

 滝壺は麦野や絹旗と違って大人しくて華奢だからな、心配もするさ」



これが二人きりのときのやり取りだったら良い雰囲気になるのだろうが、

それを許さないのが、気の強い他の女性陣である。



「・・あ゛?」


「超失礼なことを口走りましたね、浜面。

 戦闘前の拳の動作確認ということで、超殴りますがよろしいしょうかよろしいですね超殴る」



一通り運転席側のドアをボコボコにしたあと、

気が済んだのか爽やかな笑顔を浮かべる絹旗。

超パンチの応酬を受け切り、窓から恐る恐る顔を出す浜面。
603 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 23:17:09.76 ID:WalS4IQ0


「どいつもこいつもこんなときにイチャつきやがって・・」



ポツリと苛立ちを口にする麦野。

絹旗の耳にもそれは聞こえていたが、後が怖いので敢えて突っ込むのは止めておいた。

麦野の機嫌が悪いままだと、犯人グループを一瞬で灰にするどころか、

この工場地帯そのもの、運が悪ければ自分たちも巻き込まれてしまうだろう。



「ま、滝壺さんは浜面と違ってしっかり者ですから、ヘマなんかしませんよ」


「なら良いけどな・・、何かあったら連絡しろよ」


「アンタがフレンダ連れてくる頃には、全部終わってるわよ」



小雨にぬれる髪の毛をかき上げる麦野。

どうやら、ようやく戦闘モードに入ってくれたらしい。

こっちには学園都市第四位の超能力者が居る、取り越し苦労だったか。

ほら、時間がもったいないからさっさと行け、と手で追い払う麦野。
604 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 23:18:15.21 ID:WalS4IQ0


「じゃ、健闘を祈るぜ」


「ついでに、今日の晩ご飯の材料でも買っておいてちょうだい」



コツン、と互いの拳を合わせる麦野と浜面。

彼女たちを守ろうなんて大それたことは思わない。

任務においては一歩下がったところからサポートしてやれば良い。

それは少し寂しいことではある。

しかし、自分にできることなどたかが知れている。


グルリとワゴンをターンさせたあと、再びアクセルを強く踏み込む。

バックミラーに映る彼女たちの背中が見えなくなるまで。





605 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:19:05.84 ID:CqW.2jgo
俺のアパートのドアも絹旗にボコボコにされたい
606 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 23:22:28.23 ID:WalS4IQ0


―――――



時刻は六時を過ぎている。

それでも、冬の夕刻と間違えるほどの暗闇に覆われていた。

見た感じは深夜とも間違えそうなほどの暗さ。

この重たく分厚い雨雲には少しの切れ目もなく、夕日が差し込んでくる気配もない。

少し弱まっていた雨も再び元気を取り戻し、休むことなく淡々と雨を降らせていた。

そんな雨を容赦なく受け続けるとある廃工場に、四人の男と一人の少女。



「おい、アチラさんは何だって?」


「とりあえず都合が良いのは八時過ぎらしいねぇ。

 一時間くらいここで暇潰したあと、さっさと向かうとするかねぇ」



そうか、と返事だけの黒髪はポキポキと首を鳴らし、欠伸をする。
607 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:26:22.19 ID:WalS4IQ0


「ん、そういやアイツはまだ来ないのかねぇ・・」


「ああ、いつもの遅刻癖だ、気にしなくて良い」


「そうかい、しっかし、雨が止まないねぇ・・」


「明日の朝まで降り続くそうだ、幸先悪いもんだよ」


「ったく、煙草も湿気ちまうっつーの」



談笑する男たちとは少しは離れた場所、工場の隅、

謎の大きな物体の前に少女は座らされていた。

先ほどよりも何重にも巻かれた鉄線は、少女の身体を強く拘束する。

助かりたいという願望はもう浮かばなくなっていた。

せめて、この首輪さえ取らせれば何とか脱出できるかもしれない。

しかし、あの男たちがそんなヘマを起こすわけがなかった。
608 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:28:36.29 ID:WalS4IQ0


「・・・・」



何の言葉も出てこなかった、思い浮かぶのは彼女たちとの時間だけ。

暗く寒い路地裏で餓死寸前だった自分に手を差し伸べてくれた、四人の少女と一人の少年。

彼らは常に少女のことを第一に考えて行動してくれていた。

初めて少女が触れることのできた温かさ。

それは、記憶喪失である彼女の白紙の心のほとんどを、幸福のという名の色で染めてくれた。



「・・・っく」



見ず知らずの自分に美味しい食事を食べさせてくれた、

自分の生活のためにわざわざ手続きまでして施設に入れてくれた、

能力を暴走させたときは命懸けで自分を止めようとしてくれた、

わざわざ時間を割いてまで自分と一緒に遊んでくれた、

何よりも、自分を家族のように扱ってくれた、それだけで少女は救われたのだ。
609 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:30:31.87 ID:WalS4IQ0


「・・・く、ぇぐぅっ」



自分がこれからどこに連れて行かれ、何をされるのかはわからない。

感謝しきれないほどの、十分すぎるほどのぬくもりは受けた。

その平和なひと時は、神様が与えてくれた限りある時間。

だから、もう時間切れなのかもしれない。



「もう一度っ・・!」



それでも。



「もう、一度だけで良いからっ・・!」



無数の大粒の涙が膝元に落ちていく。

自分の中に生まれてくる後悔と自責の念を押しのけ、止めどなく溢れ出てくるのは、
610 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:32:04.38 ID:WalS4IQ0


「お姉ちゃんたちに、会いたいよっ・・・・!!」




あの幸せの中に、あの温もりの中に戻りたいという、淡く儚い、小さな願いだった。




刹那、


一筋の光が少女の潤んだ瞳に映った。

黒髪たちが反応したときには、工場入り口とは反対側のドアの一部を焼いていた。


この光を彼は見たことがあった、幾度となく、嫌というほど。

一昨日、自分の組織の主力の能力者たちが

学園都市が派遣したと思われる侵入者たちと戦っていたときだ。

すべてを穿ち、溶解させ、破壊する、圧倒的な能力。

それは、何もできずに逃げ回っていた自分の理解の範疇を超えていた。

味方の能力者たちはまったく歯がたたず、その力を抵抗なく受け入れるのみ。

今は亡き組織のリーダーは、その唯一無二の能力をこう呼んでいた。
611 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:33:50.16 ID:WalS4IQ0




学園都市第四位の超能力『原子崩し(メルトダウナー)』と。




黒髪がピアスを触りながら、その重い腰を上げた瞬間、

ドパァァァァァァァァァァァァッ! という轟音と共に、大きな鉄製の両扉のドアが弾け飛ぶ。

見るも無残な扉の下半分は急速に溶解していき、泥の塊のようになっていた。



「そろそろ来るかと思ったが、随分と派手な登場だな・・」



近くに立っていた見張り役の緑髪の少年が、爆風に当てられ、小さな悲鳴と共に勢い良く空中に投げ出される。

それを狙い撃つように、一筋、二筋の光が宙を舞う緑髪に発射され、彼の右肩と左足を容赦なく貫いた。



「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!??」



激痛と高熱が身体中を駆け巡り、空中で踏ん張ることもできない緑髪が金切り声のような絶叫を工場内に響かせる。

そして、ヘドロを落としたような音と共に、無残にも地に落ちていった。


突然の襲撃、仲間が傷を負わされても黒髪は眉一つ動かさないでいた。

扉がなくなり、顔に吹き付けられる外からの激しい雨風を鬱陶しく思っているだけ。

その視線は、住まいのドアをいきなりぶち破るという礼儀知らずの侵入者に向けられる。
612 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:35:35.86 ID:jct6YaY0
あーあテッラ死んだ
613 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:36:14.33 ID:WalS4IQ0




「おっ邪魔するにゃーん♪」




それはあまりにも場違いなトーンの声。

彼女は程良く雨に濡れた、淀みない茶に染められたロングヘアをチラつかせ、

カツンと小気味よいヒールの音を響かせ、ゆっくりと工場内に入ってくる。

あっさりと姿を現した美しい侵入者は妖艶な笑みを浮かべていた。



「・・ごきげんよう、今日は生憎の天気ねぇ」


「換気してくれてありがとう、お嬢さん。

 そろそろこの汚い空気を入れ替えたいと思っていたところでね」


「どういたしまして、・・アンタの身体も風通しを良くしてあげよっか?」



聞き覚えのある、鋭く冷たい口調。

自分以外の仲間が皆殺しにされた一昨日の戦場がフラッシュバックする。

そのときも今と同じ場所に居た、この工場の中だ。

足元に転がっている緑髪に目もくれずに黒髪に目を向けたまま喋り続ける彼女を見て、

黒髪は自分の身体が小刻みに震えているのが分かった。

それは寒さや恐怖からではない。

彼は初めて武者震いというものを経験した。

かつてない興奮が彼の全身を支配していたのだ。
614 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:38:39.16 ID:WalS4IQ0


「へぇ、こいつが『原子崩し』か・・? 良い女じゃねぇか、なぁ?」


「俺はもう少し小さめの女の子が好みなんだけどねぇ・・」



金髪と青髪も、倒れた仲間が視野に入っていないかのような振る舞いをしている。

少なくとも、人並み以上の度胸はあるらしい。

麦野に言わせてみれば、どれも手間をかけるまでもない雑魚ばかりなのだろうが。



「・・お姉ちゃんっ!!」



麦野の耳に届いたのは、女の子の希望に満ちた声。

工場の隅を見ると、麦野の目的である少女が座っていた。

高速されているその姿を見て、ピクリと眉を動かす。

しかし、彼女の無事を確認できたので、少しだけ胸を撫で下ろす。
615 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:39:40.51 ID:WalS4IQ0


「・・ちょっと待ってなさい、すぐ助けてあげるから」


「うんっ!」



死んだと聞かされていたせいか、麦野の姿を見つけたときの喜びは大きかったのだろう。

悲しみのから流れていた涙は、いつの間にか、嬉しさからの涙に変わっていた。

生きてくれていたとか、自分を助けに来てくれたとかではない。

再び、麦野の顔を見れたことが何よりも嬉しかったのだ。


もう一度、麦野たちに会いたいという少女の切なる願いは叶った。

あとは彼女を閉じ込めている籠を打ち壊してやるだけだ。



「さて、と・・。」




最後の戦いの幕が上がる。

初めての、誰かを救うという戦いの幕が。



616 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/02(金) 23:41:34.48 ID:WalS4IQ0

今回は以上です。


オリキャラを出すのは抵抗があったんですが、

どう考えても避けられませんでした、勘弁してやってください。


では、おやすみなさい。
617 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:42:10.99 ID:UiCkZAgP
乙!おやすみ
618 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:44:02.77 ID:p/22C2E0
乙です
麦のん無双楽しみ!
619 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:47:32.78 ID:jct6YaY0
620 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:47:51.29 ID:qGil36DO
乙! アイテム組の暴れっぷりに期待! あと緑髪ドンマイ
621 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:47:58.20 ID:pJBKo.k0
超乙!
浜面が最終回の佐天さん以上に活躍することを期待してる!
622 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:55:42.98 ID:GQ4L4wDO
俺のフレンダが2回連続で出番なしな件
623 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/02(金) 23:58:49.64 ID:x3iaKEAO
乙乙
フレンダは間に合うのかwwww
624 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 00:00:12.72 ID:AXj1MuQo
乙!

>>623
わざわざ呼び寄せるあたりフレンダ活躍するんじゃね?
625 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 00:02:09.10 ID:mBQKmeE0


>>623
敵の切り札がキャパ(ryなら活躍確実
626 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 00:04:50.82 ID:qZ4f0cDO
>>1
オリキャラでオレも出して
麦のんと最愛たんにボコボコにされたい
627 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 00:31:33.32 ID:J3YVqsDO
>>624-625
それでも>>1なら、>>1なら何とかしてくれるっ…!
628 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 02:31:28.05 ID:K/ciDig0
乙乙
>>626
抜け駆けはゆるさん!
629 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 04:06:00.30 ID:x.9BqVY0
キャパシティダウン強すぎるよな
あれがありなら相手の能力を封じる能力者とか普通にいる気がする
630 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 08:05:21.87 ID:KvIWgQDO
>>629
つ幻想殺し
631 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 09:38:27.43 ID:p5junMco
まーキャパシティダウンにしても幻想御手にしても音で相手の聴覚から演算に影響与えられんなら
空気を操れる風の能力者は可能性あるのかも
632 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 10:26:32.80 ID:J3YVqsDO
>>631
理にかなってるけどね
能力者にだけ通じるってのは都合良いけど
633 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 11:09:35.87 ID:FJnqmsDO
裏稼業に従事してる能力者はキャパシティーダウン対策の耳栓を持っておくべきだとよく思う
634 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/03(土) 13:08:31.32 ID:6YQvgeg0
逆の波形の音をぶつければ消えるんじゃね
635 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 14:22:30.14 ID:XLCpqsDO
あれレベル5なら暴走覚悟で使えるとは思うが
636 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 14:24:00.04 ID:RFIRCQ6P
正直一方さんも回避できるよな
637 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 14:30:22.10 ID:lHu7/i.P
というかレールガンのせいでキャパシティーダウンの安売りされたよな
638 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 15:46:49.33 ID:OhcDZtAo
安売りっていうかキャパシティダウンはレールガンアニメにしか出てこないけどね
639 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 15:53:13.13 ID:C5l6WpU0
緑髪っていうのでアウレオルスが思い浮かんだ
640 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 16:27:33.44 ID:6YQvgeg0
>>638
似たような物なら木原くンが使ってたけどな
641 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/03(土) 17:57:21.65 ID:lHu7/i.P
そうだったか・・・俺の勘違いだな
あわきんの仲間が閉じ込められてるところに
それらしきものなかったっけ?
642 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/03(土) 19:43:12.39 ID:6YQvgeg0
それはAIMジャマー
643 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/04(日) 11:50:12.37 ID:79VizQDO
今日は来るかな
644 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/04(日) 13:17:34.80 ID:ijIWYNg0
今1スレから追いついた、昨日から寝ず。
起きる頃には続きがみrdm
645 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/04(日) 23:32:42.01 ID:45WYxv.0
  /: : : : : /: : : : : : :./: : /: : : /:;イ: : : : : : : : : : : :.!
  |: : : : :/: : : : : : :./: /: : :_:彡 '"/: :/: : : : : : :.|: : : !
  |: : : : :| : : : : : :/,斗-‐ "\  /: :.! : : : : : : :|: : : |
  |: : l: : |: : : : : : /,,ィ==ミ、  \ i!:/:|: |: : |: :.| : |: : : !
  |: : |i! :| : : : /:/.{ ハ;;;ヒ. ヾヽ  `|:|: |!: !: :.!: :i: :/ : : i
  |: /.|!: | : : : :/ \;ソ 〃   |'|:.|.{: i :.i: :.!:/: : :j
  |/: :|!: |: :/:./             |:| ヽ乂: :.!': : : :/     >>1超頑張ってください
 ,从/:i| :|: |:/           ,ィ;r‐ォ .〉:|: :|: : : /
ヽ .// |:/|: !:!          ,イツ,/ィ:乂从: :./
::::.}  |' .|:.|:!            〉 ` /: : : : :/:./
:::::|  / .|;|:| ヽ  r "~>     ∧: : : ://::/
:::::|   /ハi:::::|ヽ、__  _  イ: : : :/,/ " 
:::::|ヽ  -‐/::::::|  ヽ  |: /: : /: :./
::l::|ミ、__ ,ノ:::::::/ |  ! |/: : /"´
::l::ト  -‐!:::::/ /,  | | レ'
::l::|   i!:::/ 〃   |        r.、     /)
::l::|   /:://-   |         | .|     //./)
::l:i  /::::|!     ノ|         / '、,,_/.///
::li /:::::i |― ‐ ' ~ イ      /   !  `'_ィ'____
:::レ'::::::::::! ゝ―‐ ~  |      |    ハ.   ,.―― '゛
r‐'::::::::::i!  |     |     人  /  { _`ニニニァ
:/::::::::::/   |     |    /   、     /
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:::::/     |     |/    /
646 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:42:39.00 ID:jFhCU3Y0

おばんです。

また少し間が空きましたが、勘弁してやってください。

では、投下します。
647 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:43:21.45 ID:jFhCU3Y0


―――――



本性を表したかのように学園都市に降り注ぐ雨は強くなっていた。

夜の暗闇と相まって、前を進む車のバックライトがぼんやり赤く光り、それが延々と続いていた。

チカチカと煌めくライトは運転者たちの目を脅かす。

学生ばかりの学園都市で、なぜこんな渋滞に巻き込まれなければならないのか。

あとほんの少しで、目的の工場地帯に入ることができたはずなのに。

しかし、その一歩手前で車の渦に巻き込まれてしまっていた。

苛立ちがピークに達し、ハンドルに顎を乗せたままの浜面が舌打ちする。



「くっそ・・渋滞続きすぎだろ、こっちは急いでるっつーのによっ・・!」


「仕方ないよ、結局、この時間は教師や研究者の帰宅時間なんだから」



ちょこんと助手席に座っていたのは藍色の制帽を被った金髪碧眼の少女、フレンダ。

シートベルトがぐるぐるに絡まっていたため、少し苦しそうにしている。

なぜなら、泣き喚く彼女(詳細後述)を施設から引っ張り出し、強引にワゴンに乗せたためである。
648 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 22:43:36.79 ID:Gg.xgIoo
期待
649 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:44:43.89 ID:jFhCU3Y0


「結局、私が行く必要あんの?

 麦野も絹旗も滝壺も出てるんでしょ、どうせもう決着ついてるって」


「麦野の命令なんだから仕方ないだろ、お前の力が必要になるかもしれないんじゃないのか?」


「結局、どうせまた麦野の勘でしょ」


「・・よく分かったな」



無能力者であるフレンダは、自分と他の能力者である三人の実力との違いを分かっていた。

もちろん、心の底では能力者を見返してやりたいという気持ちはあるし、

能力者と互角に戦えるスペックではあるものの、ネガティブな思考に陥ることもある。

表面上は明るく振舞っていても、彼女だって思うところはあるのだ。



「万が一ってこともあるだろ、麦野だって難攻不落絶対無敵の化け物ってわけじゃないし」


「今の、麦野に言ったら蜂の巣にされると思うよ」


「化け物じゃないし、って言っただろ・・」


「ま、麦野は私の中では絶対の人だから、負ける姿なんて想像できないけどね」
650 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 22:44:47.57 ID:cAJ3LTY0
ktkr
651 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 22:44:49.13 ID:xpDf6qEP
きましたわー
652 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:45:18.53 ID:jFhCU3Y0


信頼と憧れ、二つの言葉が浜面の頭に浮かんでいた。

暗部組織という中で「信頼」という言葉は最も程遠い綺麗事なのかもしれない。

任務遂行のみに重きを置いている人間から見れば、鼻で笑われるようなものだろう。

でも、例外だってある。

「アイテム」に入ったばかりの浜面には麦野とフレンダの関係なんて分かりっこなかった。

彼女の麦野への思いがどれだけのものかということも、だ。



「もしもの話だけどよ、麦野が負けたらどうするんだ?」



正直、その姿は浜面でも想像できなかった。

何回か共に任務をこなしていたが、彼女一人が前線に出るだけで大体の敵は滅ぼされる。

柔な戦術や半端な小細工、並の能力は彼女の前では無意味。

敵の肉片も事件の証拠も残さず、下部組織の事後処理も楽だろう。

口元に手を当てたまま、考え込むフレンダ。
653 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:46:18.72 ID:jFhCU3Y0


「・・そうねぇ、麦野を負かした相手をブチコロした後、傷ついた麦野を優しく介抱してあげる、かな」



うん、それ良い、めっちゃ美味しいシチュじゃん! とか口走ってガッツポーズをする。

さっきまで負ける姿を想像できないだの、絶対の存在だのと言っていた割に、

あっさり麦野が負けるのを願っちゃったりする、恋する乙女フレンダ(ただし、対象は同姓)。



「ま、そんなこと有り得ないんだけどねー・・ふわぁ」



医務室ですやすや寝ていたところを浜面に叩き起こされたせいなのか、

ドア部分に肘を当てながら、暢気に欠伸をかます。

外はずっと雨が降ったままで、明るい彼女の気分も陰鬱になってしまうものだろう。
654 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:47:03.71 ID:jFhCU3Y0


「緊張感のねぇ奴だな、たまには真面目に・・、ふわぁ・・・」


「あー、浜面だって欠伸してんじゃんっ!」


「うっせぇ、お前のが感染ったんだよっ!」



浜面が怒鳴った瞬間、まぶゆい閃光が目の前に広がった。

真っ黒の夜空に横走りに白い稲妻が走り、

間髪入れずにピシャァァァァァァァン!という大きな雷音が轟く。



「んぅきゃわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」



豪快に頭を抱え、天にも届くような悲鳴を上げながら、全力で前のめりになるフレンダ。

ふるふると震えたまま、身体を起こそうとしない。



「・・びっくりさせんなよ」


「ぅえっほ、けほっ!」



きつきつのシートベルトがより胸と腹に食い込み、咳き込むフレンダ。

やがて、ゴロゴローッ・・とようやくやかましい空の怒りが鳴り終わる。

とうとう、雷まで鳴るほどの悪天候になってしまっていた。
655 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:47:39.01 ID:jFhCU3Y0


「・・フレンダ?」


「な、何よ」



躊躇って、一度、口を閉じる浜面。

少しだけ顔を向けていたフレンダの目には表情は、何かに怯える子供そのもので。

たまにはからかう側に回ってもいいよな、と考える。



「お前さ・・」


「言わないで」


「・・雷、怖いの?」



核心を突く質問を浴びせてみる。

というか彼女の行動を見れば、誰でも聞きたくなるだろう。
656 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:48:53.50 ID:jFhCU3Y0


「は、ははっ・・この神をも恐れぬフレンダ様が・・、

 け、結局、かみなり如きで泣くわけないじゃないっ・・!」


「え、お前泣いてたの?」


「ぁぐっ・・!? い、いや、泣いてなんかっ・・!!」



強がって胸を張る彼女の目にはうっすらと涙が。

さすがに浜面でもこの程度の薄っぺらい嘘を見破るだけのスキルはある。

ポケットにあったハンカチを差し出し、指摘した。



「だってお前、ほら、泣いてるぞ」


「ち、違うっ、この涙はさっきの欠伸のときに出た涙でっ!」



苦しい。



「・・嘘つけ、言い訳は見苦しいぞ」


「け、結局、浜面だってびっくりしてたじゃんっ!」


「いや、お前がいきなり大声あげるから、それに驚いたんだよ」



苦し紛れに矛先を浜面に向けてみたが、あっさりかわされてしまう。

必死の抵抗はかえって浜面の猜疑心を刺激するだけである。

やがて、浜面に自分の顔を見られないように窓に目を向けたまま、ポツリと呟いた。
657 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:49:28.90 ID:jFhCU3Y0


「・・・雷、怖いです」


「素直でよろしい。っていうかそういうのは女の子として可愛いと思うぞ」


「えっ、そう!?」



さっきまでの拗ねた子供みたいな表情が、パッと明るい表情に変わり、浜面に向けられる。

そのただでさえ青く澄んだ瞳がよりキラキラと希望に満ちていた。

喜怒哀楽の激しい奴だな・・、とつくづく思う。



「まぁ、さっきみたいに強がって弁解するのも捉えようによっちゃ可愛いかもだけどさ」


「マジで?」


「ああ、男から見ればイチコロだと思うぜ?」


「・・・・」


「・・どうしたんだよ」



明るくなったと思えば、いきなり暗くなる。

良い意味で(?)情緒不安定である。

雲の後ろに引っ込んだと思えば、ちゃっかり出てきたりする気まぐれな太陽か、この少女は。

今度は浜面に聞こえないように、ポツリと呟いた。
658 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:50:03.40 ID:jFhCU3Y0


「結局、<男>から見ればイチコロ・・じゃ、意味ない訳よ」


「ん、何か言ったか?」


「うっさい、ほら、前進んでるよ」


「うお、マジだっ」



それから、目的地の廃工場に着くまでに

雷が鳴る度、悲鳴、隠れる、強がる、泣くを繰り返すフレンダに対し、

いちいち反応しなければならず、気疲れしてしまいそうになる浜面。

コントみたいな掛け合いをしながらも、車列は順調に進んでいく。

あと少しで工場地帯に続く道に入れる、というところまで来ていた。

途中、脇道に逸れて細いくねくねした道から行くという選択肢もあったが、

そういう道を通ったことがなく、迷ってしまう可能性もあったため。

止むを得なく、渋滞に巻き込まれているのだ。
659 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 22:50:21.87 ID:GV4be3Q0
待ってました
660 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:51:08.62 ID:jFhCU3Y0


「あー・・もう、苛々するぜ・・」


「ダラしない男だよねー、浜面」


「うるせぇな、だったらお前の力で何とかしてみろよ、この渋滞」


「女の子にそんなことやらせるなんてっ・・!」


「意味がわからねぇ・・」


「ほらほら、鳴ってるよ」



ピリリリー、と着信音がする、浜面のポケットからだ。

一向に車は進みそうにないので通話しても問題ないだろう、道交法的にはアウトだが。

はいはーい、とダルそうに携帯を開けると『滝壺 理后』の表示。

任務終了のお知らせだろうか。

それならば、フレンダを叩き起こして引っ張り出して、これだけ急いだ意味は何だったのか。

どちらにしろ、彼女たちを迎えに行かなければならないので、進路も目的地も変わることはないが。
661 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:52:08.67 ID:jFhCU3Y0


「おーう、終わったのかー?」


『はまっ・・づら・・!』



その不自然に途切れ気味の彼女の声を聞いた瞬間、ビクンと心臓が不吉に跳ねる。

昨日のあの少女の能力暴発事故が頭をよぎった。

しかし、今回はそのときとは比べ物にならないくらいの焦りが生まれる。

それは、気持ちの悪い冷や汗となって身体から溢れ出てきていた。



「・・・おい?」


『ごめ・・、ちょっと・・、まず、』



そのとき、

パン!と乾いた大きな音が浜面の鼓膜に突き刺さった。

続けて、ガツン!と何かが落ちるような衝撃音。



『滝壺さんっ・・、ぁぐっ!』


『おいおい、どこに電話してるんだっつーの』



絹旗の声、立て続けに正体不明の男の声がした。
662 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:54:18.29 ID:jFhCU3Y0


一撃目の音は何度も聞いたことがあった。

発砲音だ。

思わず、携帯を耳元から離したくなる衝動に駆られる。

隣のフレンダが目を丸くして浜面を見つめていた。

一瞬、思考が停止し、頭の中が真っ白になるも、ハンドルにガン!と自らの頭をぶつけ、歯を食いしばる。



「・・・くっそぉぉっ!!」


「ちょっと・・何がっ、うきゃぁっ!?」



携帯をフレンダに投げたあと、ハンドルを一気に左に回す。

その強引な運転にフレンダが小さく悲鳴をあげた。

渋滞から逃げ出し、脇道へ逸れたワゴンは路地裏を全速力で走りぬける。
663 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:55:09.48 ID:jFhCU3Y0


「は、浜面っ!?」


「シートベルト、今のうちに直しとけっ!」



獣のように叫び続けた。

焦燥感で頭がパンクしないようにするためのガス抜きだ。


この胸騒ぎを止める最善の方法は、一刻も早く彼女たちの元へ行くこと。




「(間に合ってくれよっ・・!!)」





664 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:56:20.06 ID:jFhCU3Y0


―――――



「まったく、超大きな音がしたかと思えば、やっぱり麦野だったんですね」


「びっくりした・・心臓が止まっちゃうかと思ったよ」



一仕事するか、と麦野が一歩踏み出し、背伸びをしたときだった。

背後からの聞きなれた声に振り向くと、ビショ濡れの絹旗と滝壺が居た。

麦野が単独行動で突っ走ってしまったらしく、二人がようやく追いつくことができたらしい。

粉々の門の残骸を跨ぎ、絹旗が麦野の横に並んだ。



「ふむん・・敵は四人、いえ、三人ですか」



絹旗が工場内を見渡すと、敵を三人確認できた、全員が男だ。

麦野の15メートルほど前に、向かい合うように立つ黒髪の優男が一人と、

敵の所有物と思われるワゴンの近くに体格の良い金髪の男と長身の青髪の男。

麦野の足元に緑髪の少年が転がっていたが、見た感じではもう戦力にはならないだろう。

左奥隅には、ここまで足を運んでまで取り戻しに来た少女が捕らわれていた。

無事であれば良い、あとは取り返すだけなのだから。
665 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:57:47.93 ID:jFhCU3Y0


「黒、金、青・・で、緑と。戦隊物的には、あと赤だけですかね」



気だるそうに呟く絹旗から視線を黒髪に移し、

麦野は彼に向けて人差し指をチッチッチと振る。



「・・さてと、こちらの要求は一つ、そして、単純明快☆どんなバカでも分かること。

 あそこに座っている女の子を返してちょうだい、たったそれだけのお願いよ」


「ノー、と言ったら?」



間髪入れずに質問を返す黒髪。

それに対し、うーん。と腕を組み、わざとらしく考えこむ麦野。



「・・そうね、一人ひとりを丁寧に焼いて、溶かした鉄と混ぜ合わせて綺麗なオブジェを作ってあげる。

 そういう美術作品を創作するのは意外と得意なのよ、私」


「へぇ、奇抜な・・、失礼、それは画期的な作品だ。

 展覧会ではお客の注目度ナンバーワンの代表作になるだろうな」


「そう、その素晴らしい作品の材料になるのを誇りに思うことね」



要求を飲まなければ、本当にこの世で一番美しい死体にされてしまうだろう。

彼女の殺意に満ちた目を見れば、すぐに分かることだった。
666 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 22:58:49.47 ID:jFhCU3Y0


「自分たちの命を考えれば、選ぶまでもないと思うんだけど・・?」


「まいったな、選択肢はあってないようなものじゃないか」



黒髪たちは無能力者だ。

まともにやり合えば麦野どころか、一番小柄な絹旗にも軽く捻られてしまうだろう。

結果は火を見るより明らか、正面からぶつかればの話だが。



「一昨日の件で私たちの力は十二分に分かってもらえたと思うんだけど?」


「・・ああ、嫌ってほど身に染みたよ。

俺たちの組織は超能力者(レベル5)とやり合ったのは初めてだったからな、さすがに俺もヒビっちまった」


「それが分かっていて、また私たちを敵に回すなんて悲しいくらい愚かしい奴らね。

 それに一昨日と同じ場所に律儀に集合してるだなんて、警戒心がないにも程があるわよ」



ククッと笑いを漏らす黒髪。

強力な超能力者を前に余裕の振る舞いをするものは数少ないものの、

相手がレベル5と分かれば、少しくらい気を張るものだ。

だが、黒髪のゆとりのある振る舞いはハッタリにも見えない。

となると、何かしらの秘策を持っている可能性があった。
667 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:00:10.12 ID:jFhCU3Y0


「お前たちがここに来るのを想定していなかったわけがないだろう、

 むしろ、返り討ちにしてやりたいと思っているからな。

 だからこそ、アンタたちが俺たちを見つけやすいよう、敢えてここを衝突場所に設定したんだよ」



学園都市の上から四番目の女は、アハハ!と腹を抱えて笑い返す。



「淡白ね、もう少し面白いジョークを考えなさい」


「いや失礼。せっかく来ていただいたんだ、少しは楽しませてあげるべきかな、と。

 ・・俺たちは、アンタたちに感謝しているんだからね」


「感謝?」



最も今の状況から掛け離れている言葉を口走る黒髪にわずかな不気味さを感じ取る麦野。

彼女のみを見据えたままで、黒髪は話し続ける。



「俺たちは元々スキルアウトの出身でね。
 
 紆余曲折あって暗部組織の下部組織に入ったんだが、これがもう肩身の狭い生活でよ。

 抜けたかったんだが、そんなことをしちゃあ抹殺されちまう。

 そんなときにアンタたちが来て、上司を皆殺しにしちまった。

 そして、俺たちがこの組織の主導権を握ることができたわけ、だから、感謝してるってわけだ」
668 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:01:43.47 ID:jFhCU3Y0


「聞いてもいないのに長々とご説明ありがとう、

 そんな余裕綽々なアンタたちがどうしてこんな女の子を狙ってるのかしら?

 随分と痛めつけてくれたみたいだし、あんまり良い趣味とは思えないんだけど」



チラリと少女に目を向ける。

鉄線で椅子に拘束されていること以外、特に外傷は見当たらない。

しかし、初めて彼女と会ったときのことを思い浮かべる。

あのときの少女の身体は擦り傷や青痣のオンパレード。

とても、成長期の女の子に浴びせるものとは思えなかった。



「ああ、好き好んでこんな子供を追い回したりはしないさ。

 どうせだから教えておいてやるよ、ここまで来てくれたんだしな」



右手の親指を立て、そのまま後ろの少女を指差す。

一方、その胸の前で左手の親指と人差し指で小さな輪を作った。



「・・あれはな、金になんのさ」



腰に手を当てたまま、大きな溜め息をつく麦野。

それは単なる呆れからか、積み重なった苛立ちからか、静かなる怒りからか。
669 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:03:25.27 ID:jFhCU3Y0


「ま、そんなところだと思ったけど・・」



人身売買、学園都市で横行している数多くの犯罪のひとつだ。

名前の通り、拉致した人間などを高額で売り買いする闇商売。

人道的に、倫理的に考えて、最も批判されるべき重罪だろう。



「俺たちが組織の中心になったは良いものの、思ったより金が残っていなくてね。

 心は痛むが、人身売買は前の代からやってたし・・、一番手軽に多くの資金を稼ぐことができるからな」


「心が痛む、ねぇ」


「あの子に必要のない暴力を加えていたくせに、よくもまぁ、超抜けぬけと言えるもんですね」



絹旗も横槍を入れ始めていた。

あの黒髪の言葉の一つ一つが鼻につくのだろう、今にも殴りに行きたそうにうずうずしていた。

麦野はそんな彼女の前に手をかざしていた、今は耐えるとき。

なるべく情報を引き出しておく必要があるからだ。
670 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:04:24.96 ID:jFhCU3Y0


「ああいう首輪が付いてるってことはアンタたちももう知ってるんだろう、アレの危険性は。

レベル4相当の能力者だからな、力づくで抑えさせてもらったのさ、やむを得ない、」


「そこなのよ」



腕を組んだまま、話の腰を折る麦野。

彼女が昨日からずっと疑問に思っていたこと。

施設で起きた突風にも匹敵する暴風、その中心にあの少女が居たこと。



「あんな年端もいかない子供が大能力者(レベル4)だなんて、稀すぎる。

 とても自分で努力して上り詰めたようにも見えないし・・」


「当然、突っかかるところではあるな・・、そちらの思っている通りだよ。

 アレをレベル4にまで『改造』したのは他でもない、この俺たちさ」



易々と白状する黒髪に、麦野は眉を潜めた。

言葉で言うほど、レベル4になるのは簡単なことではない。

その裏でどれだけ無理な実験があったか。
671 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/05(月) 23:05:00.35 ID:lIBg36k0
来てた
672 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:05:13.20 ID:jFhCU3Y0


「まぁ、アンタたちと同じくらいの力を持つ暗部組織『メンバー』の

 協力あってのことなんだがな、奴らの科学力には頭が上がらない」


「『メンバー』・・?」



聞いたことがあるようなないようなワード。

暗部組織同士が手を組むなど、普通では考えられない話だが。

何が起こるか分からない学園都市の裏側だ、有り得ないことは有り得ない。

常識に捉われた行動は命取りになる、常に想定外の事態に対応する柔軟な思考が必要だ。


彼らが元々の組織の主導権を握ったといっても、あまりにも貧弱すぎるため、

恐らく、彼らの所属する暗部組織が解体されたことにより、『メンバー』とやらに吸収されたのだろうか。




「どこの誰が実行しようとアンタたちも共犯者、人間の風上にも置けない屑ね」


「おいおい、酷いな。そこまで貶される覚えはないが・・」


「ひどいのはそっちだよ、見ず知らずの女の子をそんなっ・・!」



さすがの滝壺も黒髪の話には口を挟まざるを得なかった。

少女のことを誰よりも想っていた彼女だからこその発言。
673 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:06:32.19 ID:jFhCU3Y0


「見ず知らずの女の子・・そうだな、その方がまだマシだったんだがな」


「・・・?」



発言の意図が読めず、苛立ちから麦野たちは目を細める。

そして、今日何度目だろうか、ククッと意味ありげな含み笑いを浮かべる黒髪。



「アレは俺の実の妹だ」


「なんですって・・?」


「・・パッチリとした大きな目がよく似てると思わないか?」



別に信じてもらわなくても構わないが、と黒髪は付け足す。

その言葉に絶句していたのは麦野たちだけではなかった。

少女もまた、出し方を忘れてしまったかのように声を失っている。

また一つ、少女の心が深く傷つけられた瞬間だった。

その様子から鑑みるに、記憶喪失によって黒髪と兄妹だったということを忘れてしまっていたのだろう。
674 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:06:48.24 ID:H4ELIVgo
ワッフルワッフルふぁうる
675 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:07:37.13 ID:jFhCU3Y0


「俺の実妹を可愛がってくれてありがとう、最後に良い思い出ができたようで何よりだ」


「人のすることじゃない・・」


「ふん、アンタたちも人を殺してきただろう、その数だけ血を浴びてきただろう。

 そんな奴らにそういう慈善的な発言をする権利はないと思うが?」


「・・でも、あの子には言う権利はあるだろうね」



厳しい口調を続けていた滝壺が隅で俯いている少女に視線を流す。

実の兄に人生をかき回された少女には、その兄を罵倒するなり何なりの権利はあるだろう。



「言わない方が良かったな、アイツはそのことを忘れていたのに・・」


「記憶喪失・・、レベル4シフト実験の代償ね」


「ご名答。脳に無理な影響を与えすぎてな、能力覚醒の副作用として記憶のほとんどを失っている。

 だからこの糞外道な兄貴のことも忘れていたはずだったんがな」



少女は自分の名前さえも分からないほどの重度の記憶喪失だった。

恐らく、記憶が戻ることはないだろう、永遠に失われてしまったのだ。
676 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:11:15.92 ID:jFhCU3Y0


「あのガキは何をさせてもダメだった。

 だからこそ、能力を与えてやったんだぞ、感謝されるべきだとは思わないか?」


「・・許せない」



珍しく感情を高ぶらせ、両拳を震わせる滝壺。

それを視野に入れながらも、麦野は冷静に言葉を吐いた。

こういうときだからこそ、頭を冷やすべきだということを心得ている。



「ふん、無能力者よりも能力者の方が良い値がつくってワケね」


「ん、ああ、その通りだよ。普通のガキを買うなんて、異常性欲者くらいだ。

 同じようなパターンだと『メンバー』がそのまま実験に利用したこともあったし、

 学園都市の正規の研究所に裏で売ったこともある。

 良い材料になるなら人権なんてどうでも良いと思ってるんだぜ、研究者の奴らは。

 俺たちはまだ可愛いモンだ、材料にされた子供なんて、どんな目に合わされることやら」



こういうことがある度に、学園都市の闇というものを肌で感じた。

表の世界では考えられないようなことを平然とやってのける。

悲しいことに今では慣れてしまったが、それでも気を緩めれば吐き気がするくらいだ。

あまりにも不快すぎる、ときどき自分たちの前に顔を出す惨たらしい事実は。
677 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:12:53.81 ID:jFhCU3Y0


「今回の売却先は学園都市のある研究所でね、

 大能力を持った若すぎる子供の仕組みやら脳波のバランスやらに興味があるらしい」


「・・そうね、アンタたちを潰した後にそこも潰しておこうかしら」


「できるのものならな」



後ろから噴きつける雨風の威力が強まっていく。

乱された髪を、手で深く束ね、大袈裟にかき上げる。



「もう良いわ、遺言代わりに少し話を聞いてやろうかと思ったけど、

 アンタの言うこと聞いてるとイライラするだけね」


「そろそろ良い時間ですしね、超速攻で終わらせてご飯でも食べに行きますか」


「その意見には俺たちも同意見だ」



パチン、と黒髪が指を鳴らす。

それを気にも留めず『原子崩し』を発動、黒髪に照準を合わせ、

光線を発射しようと、麦野が手をかざした瞬間だった。
678 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:14:03.83 ID:/cVSSO.0
メンバーってショチトルのとこか…
679 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:14:31.10 ID:jFhCU3Y0


耳を、脳を、身体中を突き刺すような甲高い音が工場内に響き渡った。

頭の中が酷くかき回される。

能力の演算どころか、何ひとつ物事を考えることができない。



「がっ・・ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」



あまりの激痛に、砕きそうになるほどの勢いで自分の頭を掴むが、それでも、痛みは収まることがなかった。

例えるなら、耳鳴りを数十倍大きくしたような音。

それは音というより、音波といった方が正しいのかもしれない。



「くっ、う゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」



横を見ると、絹旗と滝壺も同じ反応をしていた。

膝から崩れ落ち、頭を抱えながら、自分と同じように倒れこんでいく。

どうなっているのか。

事態を理解しようにも頭が働かない。
680 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:15:48.01 ID:jFhCU3Y0


「ぐっ・・・、な、にをしたっ・・!」


「『キャパシティダウン』・・、聞いたことは?」


「キャパ・・シティ、ダウンッ!?」



彼女が知らないわけがなかった。

音響兵器を使い、能力者の演算能力を阻害する装置。

ある女性研究者が開発し、スキルアウトたちに流したとは聞いていたが、

その開発者は拘束され、警備員たちによって装置は回収されたはずだった。

まさか、こんなところに残っているとは。


音源は不明だったが、恐らく、工場の隅にある謎の大きな物体が怪しいと踏む。

そのすぐ近くに居る少女が自分たちよりも苦しそうに絶叫していることが何よりの証拠か。



「スキルアウト同士のネットワークというか何というか・・、まだ残っていたってわけさ。

 組織の残っていた資金はほとんどこれに使っちまったようなモンでね、なかなか良い値段してるんだぜ?」



ま、聞いちゃいないか・・と呟き、うずくまる少女三人を満足そうに見やる黒髪。

そんな中で、ピンクのジャージを着た少女の不審な行動が目についた。
681 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:15:52.02 ID:29hjVqEo
浜面、バット持ってこいよww
682 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:17:48.14 ID:jFhCU3Y0


「はまっ・・づら・・!」



必死に携帯に呼びかける滝壺を確認すると、ふぅと小さな溜め息を吐く黒髪。

そのすぐ後ろでは、金髪の男が懐から拳銃を取り出していた。



「ごめ・・、ちょっと・・、まず、」



その銃口の先に居るのは。

パン!と響く容赦のない発砲音。



「滝壺さんっ・・、ぁぐっ!」


「おいおい、どこに電話してるんだっつーの」



銃弾は滝壺の顔のすぐ横を通り、代わりに彼女の身体を貫いたのは金髪男のつま先だった。

滝壺の手から、足元に携帯が落ちる。

その隣では、うつ伏せに倒れる絹旗の上に青髪がその腰を降ろしていた。
683 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:21:10.09 ID:jFhCU3Y0


「この、程度で・・・、私の能力を抑え、こめるつもり・・!?」


「ふん・・強がりはやめ・・、ぐッ!?」



倒れこんだ麦野ににじり寄った黒髪に、一筋の光線が放たれた。

照準が合っていなかったせいか、彼の頬を僅かに掠った程度だったが、

頭に直撃していたら、間違いなくあの世行きだっただろう。

殺意に満ちた彼女の目が、黒髪に向けられていた。

それを見て、嗜虐感をくすぐられる、心地良いほどに。




「なるほど、さすがレベル5だな。

 『キャパシティダウン』をもってしても、完全には抑えきることができるわけではない、とっ!」


「・・が、ふッ!?」



黒髪の容赦ない蹴りが麦野の腹を深く抉った。

頭に響き渡る痛みと下腹部に突き刺さる痛みが満身創痍の彼女を襲う。
684 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/05(月) 23:21:34.75 ID:lIBg36k0
青髪ゆるさん
685 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:24:09.23 ID:jFhCU3Y0


「たまには無能力者にコケにされる気分を味わったらどうだ。

 何を思う・・、惨めだろう、情けないだろう・・?」


「ぐぅっ・・!!」



ニタつきながら、麦野の前髪を右手で鷲掴み、上へ思い切り引き上げた。

ブチブチ、と髪の毛の抜ける音がする。



「能力至上主義の学園都市において能力は絶対だ。

 無能力者(俺たち)に対する能力者の優位性も揺らぐことはない。

 でもな、逆を言えば、能力さえ奪っちまえば脆いモンだ」


「・・がぁっ!?」



最近、気分が浮ついていたからだろう。

普段ならばこんな凡ミスはしなかった、するはずがなかった。

『上』から下された任務ではなかったからか。


何かを壊す、何かを奪う、誰かを殺す任務。

失敗したことはなかった、完璧にこなし続けた。


初めての誰かを救う任務、それも自分が大切にしていた少女を助けること。

心から自分が成功を望む任務を失敗することになるのか。
686 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:25:33.04 ID:jFhCU3Y0


「ちょうど良い、抵抗できないほどにボコボコにしたあと、アンタたちも売っちまうとしよう。

 レベル5なら良い値がつきそうだ・・、その二人はレベル4だったかな?」



絹旗と滝壺を見やる。

あれだけ黒髪たちが恐れていた大能力者も、いまや虫の息だ。



「ちょっと待ってほしいんだけどねぇ・・、この子は俺の好みだから俺が引き取りたいんだけどねぇ」


「・・お前は本当に小さい女の子が好きだな」



青髪は自分の下で呻いている絹旗を見やる。

変態的というか、新しい玩具を見つけたような無邪気な子供のような笑みを浮かべていた。

切れ長の目が、見えなくなるくらいにより細くなる。



「勿体無いな・・、暗部組織でなければ、超能力者じゃなければ、

 男にちやほやされるような生活を送れたろうになあ・・」


「余計、な・・・、お世話よっ・・!」



反抗の眼差しを向け続ける。

気に食わないといった風に、黒髪は唾を吐く。
687 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:26:50.54 ID:jFhCU3Y0


「可愛くねぇな」


「うぐぁッ!?」



サンドバックのように手で吊るした麦野に思い切り左拳をねじ込ませた。

口から何らかの液体を吐き出し、必死に呼吸を整えようとする。

それを見る度に、黒髪はたまらないという表情を浮かべていた。



「(しかし、とんでもないモンだな『キャパシティダウン』・・。

 俺たち無能力者には苦しみは分からないが、これほどまでに無効化できるとは・・)」



学園都市で七人しかいない超能力者が自分の手に堕ちた。

今でも信じられないほどだ、全身に鳥肌がたっている。


ちなみに、工場の隅にあった大きな物体は、もちろん「キャパシティダウン」。

ワゴンの後方に丸ごと音響機器が取り付けられており、移動も可能にしている。
688 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:27:56.72 ID:cAJ3LTY0
変態な青髪……
689 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:28:45.25 ID:jFhCU3Y0


「そろそろだな・・、良い暇つぶしになった。

 さて、取引先の研究所に向かうぞ、準備を始めろ。

 ちょうど良い手土産もできたしな・・」


「手土産の方が、価値があるのはどういうことだっつーの」



カハハッと高笑いする金髪の手にはひきずられる滝壺。

青髪に抱えられているのは呻いたままの絹旗、もはや抵抗の兆しすらなかった。

無抵抗になった超能力者を金髪に引き渡しておく。

一番の厄介者だった麦野沈利も、今や完全に無力化されていた。



「ふぅ・・」



準備を金髪と青髪に任せ、気分転換に工場の外へ踏み出る。

外は変わりなく、激しい豪雨のみが支配していた。

吹き付ける雨と風は、すべてを吹き飛ばさんとする勢いだ。



「うーん・・なかなか趣がある、最高だ。

いつもは鬱陶しい雨も一仕事終えたあとには、これほどまでに清々しく見えるモンなんだな・・」
690 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:31:14.43 ID:jFhCU3Y0


鼻腔に広がるのは、湿気を含んだ独特の雨の匂い。

胸を膨らませるほどの深呼吸をする。

そして、十分にそれを堪能し終わり、戻ろうと踵を返そうとした瞬間だった。

視界の隅で、妙な物がチラついた。



「・・何だ?」



二つの白い光。

薄暗い闇の中に突如現れたそれは、徐々に大きくなっていった。

やがて、黒髪自身を包み込むような光になり、それを発する物体はその輪郭を鮮明にさせていく。

細めた目で視認したときには、それはもう自分のすぐ目の前にまで迫っていた。

黒髪を食らわんとする勢いの、その光が。


顔をしかめ、雨で濡れた地を蹴り、反射的に横に跳ぶ。

咄嗟のことだったため、ドシャリと醜い音をたてコンクリートに倒れこむ黒髪。

その鼻先を掠めるように過ぎていったのは、一台の黒いワゴン車だった。

かなりの速度が出ていたそれは勢い良く工場内に侵入する。

パン、パンッ!と発砲音が数発したと思えば、全速力で走っていったワゴンが、

工場内で耳を塞ぎたくなるようなブレーキ音を響かせ、ド真ん中で停車する。
691 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:33:17.77 ID:jFhCU3Y0


「おいおい・・」



ビショビショになったズボンは気にせず、のんびりとした歩調で歩き、外から工場内を覗く。

豪快なタイヤ跡をつけた先ほどの黒いワゴンがド真ん中に止まっており、

その横には黒髪と同じくらいの年齢の、茶髪でガタいの良い少年が立っていた。

よく見ると、侵入者の手には一丁の拳銃が握られているのを確認できた。

彼の足元には両肩から血を流し、呻いている金髪が転がっている。

そのさらに横には、手足を投げ出すように仰向けに倒れた麦野沈利。

彼女を抱えていた金髪が倒れたため、その拍子に落とされたのだろう。



「あのバカが・・、油断したか」



黒髪は茶髪少年の一直線上に並ぶような場所に位置どった。

そのときには既に、少年の銃口が彼を捉えていたが。
692 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:35:01.34 ID:jFhCU3Y0


「動くなよ」


「やれやれ・・」



素直に両手を挙げる黒髪。

ちなみに、「キャパシティダウン」は未だ動きっ放しである。

能力者の頭には激痛がほとばしったままだ。

それでも、麦野はその少年にかける声を絞り出す。



「はま・・、づらっ・・!」


「・・よう」



彼は彼女たちをサポートする立場だ。

彼女たちの一歩後ろで、見守っていれば良い。

何の取り柄もない無能力者の彼が出しゃばる必要なんてない。

何故なら、彼女たちは誰かが守る必要がないくらいの絶対的な強さを持っているからだ。

他とは隔絶された、圧倒的な力。
693 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:35:50.27 ID:cAJ3LTY0
はまづらあああああああ
694 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:37:10.41 ID:jFhCU3Y0


だからこそ、想像できなかった。

麦野沈利が倒れているところなど。

絹旗最愛や滝壺理后が打ち負かされているところなど。

普段の彼女たちは、散々彼をコケにするような言葉ばかりかけてくる。

それは冗談めいたものがほとんどだ。

しかし、それが本気で彼の心に突き刺さることもある。

能力者と無能力者の、分厚い、越えることのできない絶対的な壁。

だから、いつしか信頼されていないのではないかと思ったこともあった。

暗部組織は実力主義、力のない者は蹴落とされる、彼はそういう世界に生きている。

スキルアウトからはみ出したときのように、いずれはまた外されるのだと思っていた。

でも、この麦野の言葉を聞いて、少しだけ安心したのかもしれない。




「遅い・・のよッ・・!」




こんな自分を少しでもアテにしてくれるのなら、

たまには彼女たちの前に出ても良いのではないか、と。




「悪ぃな・・。

浜面仕上、華麗に登場だ」



                      To be continued …
695 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/05(月) 23:40:35.86 ID:jFhCU3Y0

以上です。

今回は特に記述することはありません。

では、おやすみなさい。
696 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:41:25.26 ID:17VRjs.0
超乙!
やっぱり某バットの人とは違うな…かっこいいよ浜面
697 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:41:33.18 ID:lIBg36k0
698 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:41:43.58 ID:4ASzkWMo
乙華麗
699 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:42:38.20 ID:cAJ3LTY0
超乙!!
浜面登場まで続いて良かった!
700 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:43:00.48 ID:N1AWDMDO


あれ、誰か足りなくね…?
701 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/05(月) 23:45:30.29 ID:jObcSNw0
はまづらあああああああああああ
702 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:45:56.88 ID:jObcSNw0
あ、言い忘れてた>>1
703 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:46:34.48 ID:oUVWCh2o
フレンダはすでに分離して戦う準備してます
704 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:48:22.66 ID:zlYO8K6o
>>1
705 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/05(月) 23:49:27.25 ID:Qa5rIYAO
乙!!

むぎのんの姿を見て、フレンダはスーパーフレンダになるんですね
706 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/06(火) 00:22:39.99 ID:sP1uI1wo
怒り狂ったフレンダの爆弾でこいつら欠片一つ残さず消し飛ばされる悪寒
707 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/06(火) 00:57:23.99 ID:fzUEXYYo
乙乙
黒髪は十回は殺し直す必要がある
708 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/06(火) 01:56:56.59 ID:/hG/agDO
乙!
709 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/06(火) 03:16:20.85 ID:stQV7YAO

フレンダはシートベルトでフレ/ンダしたのかと
710 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/06(火) 10:33:46.75 ID:DxI1m7ko
フレンダの活躍期待乙なのですよ〜
711 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/06(火) 13:46:58.53 ID:6d1zPuo0
乙ー

でもこいつらなら最悪の場合自分で鼓膜破るくらいの覚悟はあるんじゃね…?
と考えたけど浜面とフレンダを信じてぎりぎりまで待ってたと脳内補完する
712 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/06(火) 20:07:31.33 ID:sF1FXsY0
今読みきった

アイテム大好き
713 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/06(火) 20:28:43.90 ID:xncVGYDO
地の文が多いから一気読みは疲れるかもな

だがそこが良い
714 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/06(火) 21:35:12.70 ID:rysNtpU0
ボカァ、アクセロさんとはっまっづっら!!は大好きです
715 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/06(火) 21:51:55.53 ID:D9UUaBg0
フレ ンダの活躍に期待
716 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/07(水) 00:13:58.93 ID:CLXrTXUo
今日は来なかったか
717 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/07(水) 12:08:55.61 ID:V1Dz.sDO
このスレ見てたら麦のんスキーなフレンダが好きになったから描いた
http://vippic.mine.nu/upm/data/1270609621.jpg
718 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/07(水) 12:34:46.90 ID:hsVY7IEo
>>717
719 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/07(水) 13:41:59.75 ID:H0kSnuQo
>>717
かわいい 
720 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/07(水) 14:45:44.68 ID:V1Dz.sDO
レスありがとう
あまりにかわいいから泣き顔麦のんも描いてしまった
http://vippic.mine.nu/upm/data/1270618626.jpg
721 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/07(水) 15:30:15.95 ID:XPi5GNc0
>>717
>>720
可愛すぎるwww
乙乙
722 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/07(水) 15:42:05.94 ID:hsVY7IEo
>>720可愛すぎるAA化できたらなぁ・・・
さぁ!早く格好いいはーまづらーを書く作業に戻るんだ
723 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/07(水) 16:00:19.89 ID:H0kSnuQo
>>720
麦のんかわいい 
724 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/07(水) 18:29:39.31 ID:4Ixi6/Yo
>>717
>>720
あなたが神上か
725 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/07(水) 21:41:07.12 ID:hR1mp7Io
>>717
>>720
かわいすぎる
726 :ひーまー [sage]:2010/04/07(水) 23:48:27.08 ID:8/d1f520
……ふぅ
727 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/07(水) 23:57:43.30 ID:V1Dz.sDO
レスありがとう
お肌の曲がり角に差し掛かってきた麦のんをからかって虫けらを見るような目で見つめられたい
http://vippic.mine.nu/upm/data/1270652151.jpg
728 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/07(水) 23:59:57.11 ID:hR1mp7Io
これ鉛筆で描いてるのか?上手いなー
729 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/08(木) 00:00:03.10 ID:0TyP/92o
oh…
730 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/08(木) 00:04:50.94 ID:bDKAa8Qo
woo...
731 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/08(木) 00:13:00.09 ID:WtjbfcDO
>>1マダー
732 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/08(木) 00:16:38.35 ID:APEpZ.A0
あら今日も休みか
絵の人は乙
733 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/08(木) 05:33:56.92 ID:6ussAuM0
>>717
                    ,.. ≦.:. :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::.:.:.:.:.:.:..:.:.:..ミ:...、
                   /.:.:.;.:.:..---.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.\        
                    /.:::/               i 、:\.:.:.:..ヽ
                    {:./                    \丶:.:.:∧       
                  ∨    / /   \   l| i \   ∨ヘ.丶:ヽ.:.∧   
                    /    /  / l:      ヽ ヽ ヽ       ∨iヽ.:::.:.:.} 
                 l│ /  イ ,イ.        \、ヽ    / | :l :|∨::/    
  ┏┓  ┏━━┓      | |   l_メ./            V   ∧ /  :|/               ┏┓┏┓┏┓ 
┏┛┗┓┃┏┓┃      | |   |.____         _⊥イ イ /   / ∨            ┃┃┃┃┃┃
┗┓┏┛┃┗┛┃┏━━| |   | 、i┘::::i     r┬┬‐┬ァ V  ,∧.    ,'━´━━━━━┓┃┃┃┃┃┃   
┏┛┗┓┃┏┓┃┃ /.イ レ !  ゝ- '      i,.┘:::::iノ / ,/〉│ :| {             ┃┃┃┃┃┃┃   
┗┓┏┛┗┛┃┃┗━( イ.人. 7/l/l/   、     `'ー‐ ' ∠≠r'ノ:jノ :| | ━ ━━━━━┛┗┛┗┛┗┛   
  ┃┃    ┏┛┃    { {/ ハλ    `i`ァー-- 、  /l/l/l ∧‐'.:|:::|  ハ ',              ┏┓┏┓┏┓ 
  ┗┛    ┗━┛.    ∨ ,..:: `、     レ'    ',     ,/| ::| :|:::| {   { ヽ             ┗┛┗┛┗┛
                  {  i...::}V´` = 、 '、    ノ  ,.イ∧'|:l.:/l:::|´{ 乂  '. }
                乂 {...::|ハ.{...、....:: `>-r  =ニi´、.,_`::: |:| { |:::l  ヽ ミ Vノ
734 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/09(金) 00:17:10.75 ID:PZB04dY0
>>1は今日も来ないか…
735 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/09(金) 01:07:58.24 ID:AQjHKwDO
待ってる
736 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/09(金) 01:37:20.42 ID:b3cdHW60
今日も・・・なんだね・・・
737 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/09(金) 01:45:05.65 ID:kXkogC60
何か俺が見てたスレどこもかしこも浜面×絹旗に…
ここだけは…ここだけは…
738 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/09(金) 01:57:18.02 ID:C.i2UAoo
とりあえずそのどこもかしこものスレを教えるんだ
739 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/09(金) 02:06:50.86 ID:VQ8Aq6AO
俺は絹面も好きだよ

でも一部の変態に愛されてる一方さんの様に、ここのむぎのんには幸せになってほしい
740 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/09(金) 02:07:59.30 ID:/SxWzk.o
麦野の事は任せたぜ……最強……
741 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/09(金) 23:02:48.02 ID:XPs5FsDO
まだかな
742 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/09(金) 23:55:49.69 ID:r6s7uGAo
ドッカン
          ドッカン
                  ☆ゴガギーン
        .______
.        |    |    |
     ∩∩  |     |    |  ∩∩
     | | | |  |    |    |  | | | |  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    (  ,,)  |     |    | (・x・ )<おらっ!出てこい、>>1!!
   /  つ━━"....ロ|ロ   . | l   |U \___________
 〜(  /   |    |    |⊂_ |〜
   し'∪  └──┴──┘  ∪
743 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/10(土) 00:29:19.39 ID:ZKjY1ADO
>>1
744 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/10(土) 09:22:21.18 ID:6D1Cf3wo
>>1は今書き溜めでもしてんの?
745 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/10(土) 18:02:13.93 ID:YiMPUIw0
きっと>>1は全キャラ分の書き溜めをしてるんだよ!!

そう信じて今日も待つ
746 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/10(土) 18:03:03.27 ID:YiMPUIw0
ごめん誤爆
747 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/10(土) 20:22:34.75 ID:Wa2UmlUP
どこの誤爆か大体想像付くが専ブラじゃないのに誤爆すんなよww
748 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/10(土) 21:35:26.69 ID:gpTEJ3Io
>>747
お前専ブラ使ってないの?
749 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/10(土) 21:38:27.30 ID:Wa2UmlUP
末尾0は専ブラじゃないんじゃなかったっけ?
俺は使ってるよ
750 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/10(土) 21:42:13.44 ID:DCccvUU0
俺も専ブラつかBB2Cだが末尾0
751 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/10(土) 21:44:27.63 ID:D9HsUpo0
ナカーマ
752 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/10(土) 22:30:04.77 ID:Kxgt7wk0

おばんです。


新年度に入ったせいで色々と忙しく、書き溜めも投下もままならない状況でした。

今回は書き溜めと投下がリアルタイム同時進行なので、

投下速度が遅くなると思いますが、勘弁してやってください。


>>717
あまりの可愛さに絶句、天使ですかこの子?

速攻で待ち受け設定にブチ込みました。
753 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/10(土) 22:31:48.68 ID:4dCUVv60
>>752
来たー!!!!11
754 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/10(土) 22:31:56.60 ID:Kxgt7wk0


―――――



野犬の遠吠えのように低く唸る夜空に、また一つ、大きな雷がほとばしる。

いつの間にか、雨は止んでいたものの、風は依然として強く吹き荒んでおり、

晒された草木は怯え、人々の住まいの光は怪しく揺れていた。

そんな住宅街とはかけ離れた、人気のない工場地帯。

一つの廃工場にポツンと灯りが寂しくついていた。

遠くからでも分かるくらいの明るい光。

その工場の中に黒い同形状のワゴンが三つ止められている。

一つは、対能力者として開発された装置『キャパシティダウン』を乗せたもの。

もう一つは、青髪の男が少女拉致のために乗ってきたもの。

そして、あとの一つは、この場に最も不釣合いな無能力者の少年が乗ってきたものだ。

そのワゴンに背を預けたまま、浜面は拳銃を黒髪に向け、口を開く。



「さてと、まずは『キャパシティダウン』とやらを止めてもらおうか」



不意打ちの先制攻撃が成功し、完全優位の浜面。

得体の知れない少年に対し、黒髪は異物を見るような目で様子を伺いにかかる。
755 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 22:38:17.64 ID:Kxgt7wk0


「・・お前は誰だ、能力者か?」


「んなこたぁ、どうでも良いんだよ、さっさと止めろって言ってんだよ」



チッと黒髪は小さく舌打ちする。

無用な話で時間稼ぎをしようとしたが、この男はひっかからないようだ。

見た目に反して、なかなか頭がキレるのだろうか。



「(さて・・、どうするか・・)」



彼は武器の一つも携えていない丸腰であり、拳銃に対抗する手段がなかった。

同じく拳銃を持っていた同僚の金髪は、浜面が突撃してきた際に、

両肩に二発もらっており、とても応戦できる状態ではない。



「アン、タ・・何で『キャパシティダウン』のことッ・・?」


「電話越しに聞いたんだ、雑音が酷くて詳しいことは聞こえなかったんだけどな」
756 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 22:45:42.04 ID:Kxgt7wk0


痛みのせいで頭を抑え続けている麦野にボソリと呟く。

浜面が顎で指した方向に、一つの携帯電話が落ちていた。

滝壺のものだ。

彼女が浜面に電話したとき、金髪によって会話は中断されてしまったが、

落ちた携帯はまだ通話中だったため、電話相手の浜面にこちらの様子が筒抜けだったらしい。

何にせよ、あの電話があったからこそ、浜面がこのタイミングで到着してくれたのだ。



「止めないっていうんだったら、アンタの頭に風穴が空くことになるが・・どうするよ?」


「やれやれ、それは勘弁してほしいね」


「だったら早く何とかしろっての、口より手を動かせよ」



動くなと言ったり動けと言ったり、無理な要求をする少年に対し、

心臓を握られていることとほぼ同義の行為をされているにも関わらず、冷静沈着な黒髪。

その呼吸は落ち着いている、自然そのものだ。

無表情のままの黒髪が、ふと口を開く。



「ところで、一つ言っておいていいか?」


「?」


757 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 22:54:48.28 ID:Kxgt7wk0


「君はもう少し、周りを見た方が良いと言われたことはないか?」


「あァ?」



黒髪の視線が、浜面の背後を見るように僅かに動いた。

その動きに浜面が反応したその瞬間、ドバン!と鉄板を潰したような音が背後から聞こえる。

何か重いもの、人が着地したような音。

振り返る余裕はない、浜面は水に飛び込むように前方へ跳躍した。

彼が居た場所に、真上から弾丸が一発撃ち込まれる。

あと一秒遅れていたら、銃弾により身体が頭から縦に割れていたというタイミング。



「惜しいねぇ」



浜面が乗ってきたワゴンの上に、拳銃を持った青髪が居た。

振り返りざまに拳銃を一発、二発と発射する。

その内の一発が青髪の持っていた拳銃に運よく当たり、それは勢い良く弾け飛ぶ。

拳銃一丁により、絶対的優位に立った浜面はもう一発お見舞いしようと引き金に手をかけるが、
758 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/10(土) 23:00:45.73 ID:ZKjY1ADO
き、来たぁぁあぁあぁぁあ!!!!!!
おばんですぅうぅぅうぅう
759 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:03:50.80 ID:Kxgt7wk0


「させねぇよ」


「ッ!?」



それを黒髪が許さなかった。

走りこんできた黒髪の鋭い右のハイキックが浜面の手に命中し、

彼の手に握られていた拳銃は、ポロリとその場に落ちる。

すかさず、黒髪の左の後ろ蹴りが浜面の身体を横から薙ぎに行く。

咄嗟に姿勢を低くして二撃目をギリギリで回避し、落ちた拳銃を拾い上げようとするも、



「ふっ!」



ワゴンの上から飛び降り、体勢を立て直した青髪がしゃがむ浜面の顔面を蹴り上げようと動いた。

あと少しで拳銃に手が届くというところだったが、

止むを得ず後方に飛んで、何とかそれをやり過ごすも、再び黒髪が横から迫る。
760 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/10(土) 23:06:01.95 ID:YiMPUIw0
ktkr
フレンダ何してんだ
761 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:15:05.02 ID:Kxgt7wk0


「くそっ・・!」



息をもつかせぬ連打をギリギリでかわし、防ぐのが精一杯だった。

速度のある二人の攻撃をかわしながら、攻撃に転じるのは難しい。

だからといって防いでばかりでは一向に事態は好転しない。

相手はただの喧嘩屋ではない、隙のない攻撃とコンビネーション。

拳銃を手放し、大した体術を持たない浜面である以上、長引けば結果は見えている。

だが、対抗する術がない。

そのとき、浜面の目が奥に黒光りするものを捉えた。



「そんなに頑張る必要もないだろうねぇ・・」


「しまっ・・!」



青髪の手には拳銃が握られていた。

恐らく、金髪の男が持っていたものを拾ったのだろう。

黒髪とやり合っているうちに、いつの間にか優劣は逆転していた。
762 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:18:59.44 ID:Kxgt7wk0


「見た感じ、無能力者だねぇ・・売っても大した金にはならないから、ここで死ぬと良いよぉ」


「く、そっ!?」



助かる可能性は限りなくゼロ。

銃口は自分の額を真っ直ぐに捉えていたからだ。

それを受け入れるかの如く、身体が硬直して動かない。

目が強張り、胃が締め付けられるようにキリキリと痛む。

そして、青髪がその引き金に指を置いた、



「な゛っ、あがああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」



余裕をチラつかせていたその顔は、苦痛に大きく歪む。

一筋の光線が青髪の右肩に容赦なく叩き込まれたからだ。

誰が放ったかなどは考えるまでもない。

小さくも、十分な致命傷となる赤黒い穴を開けられ、絶叫しながら後ろに倒れこむ青髪。

弾が発射されることのなかった拳銃は再度、床に落ちる。
763 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:20:35.95 ID:Kxgt7wk0


「麦野っ!」


「この女ッ・・、この状況でまだ・・!?」



予想外の攻撃。

黒髪が目を向けた先には、這いつくばりながらも手をかざしていた麦野が居た。

『キャパシティダウン』が効いたこの状況で、ずっと照準を合わせていたらしい。

イチかバチかの苦し紛れの攻撃が浜面の命を救った。



「や、れェェェェェェェェェェェっ!!!!」



叫ぶ麦野。

僅か数メートルの二人の差は一瞬で詰められる。

麦野に目を奪われていた黒髪の顔面に、浜面の強力すぎる一撃が牙を剥いた。

迷いなく振るわれたその拳は黒髪の鼻先を確実に捉える。



「ごぷっ、ぐうううううううううっ!!!!?」



「ら、あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」



生肉に指を突っ込むような不快な感触と共に、

骨が砕かれるような嫌な音を立て、浜面の拳は侵食していった。

特急列車にぶつかったかのような勢いで黒髪が吹っ飛び、

浜面の乗ってきたワゴンのドアに背中からぶち当たると、

重力に引きずられるように、ズルズルと力なく落ちていった。
764 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:23:58.19 ID:Kxgt7wk0


「・・ハァ、ハァ」



たった一分弱の攻防でありながら、

その中で研ぎ澄まされていた神経は今にも擦り切れそうだった。

いずれの敵も死んではいないものの、戦える状態ではないはずだ。

数の上では絶対的に不利な状況だったが、辛くも勝利した。

鮮血に染まったその右拳をポケットに隠したまま、

戦いの最中に落とした自分の拳銃を左手に、うつ伏せに倒れた麦野に歩み寄る。



「・・大丈夫か、麦野」


「さっ、さと・・、止めっ・・!」



ハッとしたように立ち上がる。

まずは『キャパシティダウン』を止めることが最優先だ。

麦野が指差した方向に、大きな黒いワゴン車が止めてあった。

あれが『キャパシティダウン』なのだろう。

装置の前に居る少女は、音波の衝撃が大きすぎたのだろう、気を失っているようだ。

大して動いていないにも関わらず、その身体は立つこともままならないような疲労感に満ちていた。

だからこそ、それに気付けなかったのかもしれない。
765 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:25:12.74 ID:Kxgt7wk0


気付いたときには遅かった。

それは完全に頭の外に追いやられていた第三者の襲撃という事実。

大きな音と共に、無慈悲な凶弾が浜面の左肩を通過していった。



「ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ・・!!!!」



工場内に響きわたる猛獣のような悲鳴。

麦野がその悲鳴を聞いて頭を上げたとき、既に彼は倒れていた。



「浜面・・?」



最後の希望が無残にも散った瞬間だった。

彼の一直線上にはライフルを持った短く刈り込んだ赤髪がチラリと見える。

浜面が侵入した方の入り口ではない、反対側の出口に居た男はボソリと呟いた。
766 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:26:06.85 ID:Kxgt7wk0


「あれ、心臓狙ったんだけどな」


「(新手、かっ・・・!?)」



敵はその目に見える数だけ、という油断。

命懸けのシーソーゲームは再び相手が優勢となった。

寝起きのようにも見える目をした赤髪の男はのんびりと口を開く。



「何やってんのよ・・、もう研究所に行く時間じゃなかったっけ・・?」



軽々とした口調で独り言を呟きながら、工場に踏み入る赤髪。

ライフルで自分の肩を叩きながら、周りを見渡し、歩を進める。

血が溢れ出る左肩を抑えながら呻く浜面の横を通り過ぎ、

工場の真ん中に止められていたワゴンの傍でのびている黒髪に話しかけた。



「おーい、生きてるかーい?」


「てめぇの遅刻癖はムカつくほどのタイミングで発動しやがるな・・」
767 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:28:42.28 ID:Kxgt7wk0


血だらけの口元を抑えながらも、しゃがんでいた赤髪の肩を支えにゆらりと立ち上がる黒髪。

口内に鉄の味が広がっていく。

それは敗北の味。

真っ赤に充血した目には憎しみの光が揺れる。

息を荒げながらも、狂気の笑みを浮かべ、それに近づいていく。



「ククッ・・、おい、さっきの威勢はどうしたよ」


「ぐっ・・がは・・!」



痛みに耐えながらも立ち上がろうとする浜面を、黒髪が勢い良く蹴りつけた。

防ぐ術もなく、跳ね返ったように倒され、ゴロゴロと転がる。



「クハハッ、悪いな、まだ仲間が居るって言ってなくてよ。

 ・・奥の手は最後まで取っておくものってこったなぁ」


「クソッ、がっふ・・・、タレがっ・・!」



反抗の眼差しを向けながらも、その動かない身体は容赦ない蹴りを受け続ける。

そのとき、赤髪が何かに気付いたように声をあげた。
768 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:30:55.24 ID:Kxgt7wk0


「ん、おい、コイツ・・浜面じゃないか?」


「・・あぁ、何処かで見たような顔だと思えば、駒場ンとこの奴かぁ?」



ヒャハハハ、と血を垂らした大口を開けて、高々に笑い出す黒髪。

彼らは浜面と同じスキルアウト出身の暗部組織。

当時、最も大きなスキルアウトの集まりの幹部だった浜面を知っていても不思議ではなかった。



「そうか、今はもうブッ壊れちまったあのゴミ溜めに居た一人か・・カハハッ!」


「ん、だとッ・・!?」


「はみ出し者のスキルアウトの癖にわらわら群れやがって、

 大勢で居なきゃ何もできない連中がゴミ以外の何だっていうんだよ?」



それは最大の侮辱だった。

自分が馬鹿にされるのは耐えられる、蔑視されることには慣れているから。

それでも、同じ釜の飯を食べた仲間たちのことを貶されることだけは絶対に許せなかった。



「てめぇも同じだろうがッ・・!」


「ふん、お前らのせいで俺たちみたいな派閥に属さないスキルアウトは肩身の狭い思いをしてきたもんだよ」



長い間、募っていた不満をブチ巻けるように蹴りつけ、踏みつける。

身体を捩らせながらも、逃げるわけにもいかず、逃げることもできず、呻き続ける浜面。
769 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:32:09.08 ID:Kxgt7wk0


「知ってるぜ、あの集まりが壊滅した理由も。

 お前がヘマしちまったんだよなぁ、浜面仕上ッ!」


「がはッ!?」


「無能力者でも有能な奴と無能な奴は居るもんだ。

 実力も人望もない奴の末路っていうのは惨めで目も当てられないねぇっ!」



心の底に封じていた想いが再び浮かび上がってくる。

自分に対する人望。

求心力。

思い出されるのは、先日、入院する原因となった元スキルアウトの同僚たちとの喧嘩。

あのときと同じだ。



「そうだ、どうして俺たちがお前たちとあのガキが一緒に居たことを知ってるか教えてやろうか?」


「・・?」


「お前が乗ってきたあのワゴン、一昨日に俺たちから奪ったものだろ?」
770 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:35:25.84 ID:Kxgt7wk0


それは少し遡り、一昨日のことだ。

「アイテム」の任務が無事終わったは良いものの、浜面の不注意で移動手段のワゴンが爆破され、使用不能になっていた。

そのため、近くにあった組織側のワゴンを奪い、帰宅手段を確保。

確かに浜面はフレンダとの通話の際、「厄介なことがあった」と言っていた。

そのときのいざこざのことだったらしい。



「・・あそこに倒れてる雑魚をふんじばって奪ったみたいだがな、

 あのとき、アイツはそのワゴンに発信機と盗聴器を車内につけていたのさ」



雑魚のくせに意外と良い仕事しやがるよ、と補足する。

黒髪が指差したのは、麦野に真っ先にやられ、うずくまったままの緑髪の少年。

浜面は車内に居た彼を打ち倒してワゴンを奪ったのだが、それが仇となったようだ。



「盗聴器のおかげであのガキがお前らの手に渡ったのを知ることができた。

 発信機で児童施設にガキを入れようとしてることも分かった」


「ぐッ・・!」


「要するに、この状況はお前のヘマが作り出しちまったようなもんなのさ。

 身の程を知れよな、この役立たずがァッ!」
771 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:37:03.36 ID:Kxgt7wk0


致命傷は与えぬよう、身体の節々を狙い、踏みつけていく。

肩を、膝を、手を、足先を、関節を。

その度に浜面は呻き、叫び、ただ嬲られるだけだった。

数分に渡り暴行を加え続けすっきりしたのか、スイッチが切れたかのように動きを止める。



「さってと、これ以上時間を潰すのは良くねぇな・・。

 おい、あのガキ連れてこいよ、面白ぇことをやってやる」


「ん、何をするつもりだよ?」


「良いから。連れてこいよ」



はいはい、と面倒くさそうにその場を離れる赤髪。

「キャパシティダウン」のすぐ前で気を失っている少女に歩み寄ると、

椅子に拘束されたままの彼女の頬をバチバチと叩き、目を覚まさせる。

目を覚ました瞬間に、未だ響き続ける音波のせいか、彼女は再び悲鳴をあげ始めた。

椅子ごと少女をひきずり、黒髪と倒れた浜面の元へ。
772 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:38:38.86 ID:Kxgt7wk0


「仕上・・、お兄ちゃんっ・・!」


「自分だって頭がシェイクされて辛いだろうに・・、

 それでも他人の心配をするなんて、我が妹ながら尊敬するよ」



今も彼女は「キャパシティダウン」の影響で激痛が走っているはずだ。

それでも、制止の声をあげ続ける。



「・・私のことはっ・・良いから・・ぅぐっ、

 お兄ちゃんたちを、放してっ!」


「ふん、まぁ黙って見てろって。

 どうせ殺すんなら、華々しく散らしてやろうと思ってよ」


「な、にっ・・!?」



赤髪の持っていたライフルを取り、浜面の額に銃口をコツンと当てた。

それを見た少女の顔が見る見るうちに青くなっていく。

本当の絶望が産声をあげようとするとき。

自分の口から流れる血をなめ、口角を上げて笑う黒髪。

それ以上ない、最上級の邪悪な笑みだった。
773 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:46:42.94 ID:Kxgt7wk0


「ほら、よく見ておけよ・・、お前が俺たちから逃げたせいで

 まったく関係のない人間が殺されちまうっていう最高に最低な場面をよぉっ!?」



構えられたライフル。

定められた照準。

当てられた銃口。

引き金に触れる指先。

一発で人の命を奪うそれは、冷酷に、

そして、確実に少女の心を粉々に打ち砕いていく。



「いや、っ・・、いやあ゛あ゛あああああああああああああああああああああああっ!!」



あと一歩で何もかもが失われるという瞬間だった。

ピリリリリリと鳴り響く、耳障りな音。



「何の音だ・・?」



眉を潜め、ライフルを下げる黒髪。

隣に居た赤髪も周囲を見渡す。

しかし、その音源はすぐに分かった。

目の前でうずくまっている浜面からだ。
774 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:48:07.94 ID:Kxgt7wk0


「ふん、人生最後のお電話らしいな」


「・・・」



歯を食いしばったままの浜面のポケットから携帯を強引に取り出し、黒髪が電話に出る。



『あー・・、あー・・、もしもーし、犯人グループの皆さんっ』



電話越しに響いた、素っ頓狂で軽やかな明るい声。

誰の声なのか分からない黒髪は目を剥きながら、再度周囲を見渡した。

左右の入り口にも、ワゴンの陰にも人の姿は見当たらない。

ぶつけようのない怒りと歯がゆいもどかしさからか、血の混じった唾を吐く。



『私の愛する麦のんを痛めつけてくれたみたいで、ありがとね。

 おかげで久しぶりに頭に血が上っちゃったよー、私』



その携帯から漏れる声は浜面にとっては聞きなれたものだった。

頭に浮かぶのは、金髪碧眼でお調子者の少女の姿。



「(麦野以外はどうでも良いのかよ・・)」



あと一秒足らずで三途の川にご到着だった浜面は心此処に在らずという気持ちだろう。
775 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:49:33.63 ID:Kxgt7wk0


「せっかくスマートに幕を引いてやろうってときに水を差しやがって・・、

 何処だ、何処にいやがるっ・・、姿を現しやがれぇっ!!」



所構わず発砲しまくる黒髪。

しかし、当然の如く、それは当たるわけがない。

そこに彼女はいないからだ。

赤髪も懐から拳銃を取り出し、構えておく。

姿なき敵は余裕たっぷりの口調で話し続ける。



『アンタたちに足りないのは、ズバリ「愛」だね。

 結局、私のこの溢れ出る止めどない麦野への愛は何者も阻むことはできないって訳なのさーっ!』



わけがわからない。

しかし、黒髪はあることに気付いた。

謎の少女の声と共に聞こえてくる、微かな雑音。

風の音だ。

外は変わらず、風が吹き続けている。

つまり、闇に潜む何者かは外に居るということ。
776 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/10(土) 23:51:21.71 ID:ZKjY1ADO
フレンダ…
777 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:51:52.38 ID:Kxgt7wk0


「おい、外だ、見て来い」



コクリと頷いた赤髪は足早に入り口へ。

黒髪も逆側の出口へ向かう。

しかし、両方とも人の姿はないため、再び、工場の真ん中に戻った。

黒髪の苛立ちがピークに達しようとしていたとき、少女の声が再び聞こえる。



『私を探すよりもやるべきことがあると思うけどなー』


「あぁ・・?」



相手の意図することが読めず、呆けた声を出す黒髪。

潜む者が居れば、隅々まで探し、引きずり出して息の根を止める。

何者であっても殺してしまうことが一番効率の良い、てっとり早い方法だ。

殺してしまえば怖くはないのだ。

そして、それができない者、それを躊躇う者は裏で生きる資格はない。



「おい、あれは何だ?」


「ん?」
778 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:53:37.99 ID:Kxgt7wk0


赤髪が指差したのは、今も発動し続けている『キャパシティダウン』装着のワゴン。

そこに、この状況には似合わない、ぬいぐるみが置いてあった。

『キャパシティダウン』の前に一つ、ぞんざいに落とされたようなぬいぐるみ。

今まではなかったもので、ましてや自分たちが置いたものではない。



「何だ、ありゃ・・?」



よく見ると白いテープのようなものがついており、

それを介して、ぬいぐるみは天井から吊るされるように置かれていた。

天井には所々に穴が開いており、テープは外と繋がっているようだ。

そこで目についたのは、そのテープは導火線のように火花を散らしており、

徐々にぬいぐるみへと近づいていっていること。



「(・・・・まさかッ!?)」



最初に謎の少女の声を聞いたときは、狙撃の可能性が頭に浮かんでいた。

だからこそ、動き回りつつ、狙撃者の位置を把握しようとした。

だが、狙いは黒髪たちではなかったのだ。
779 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:54:50.02 ID:Kxgt7wk0


「・・・くそっ!」



黒髪が駆け出した瞬間に、ドン!と鈍く大きな音と共にぬいぐるみは爆発、

ワゴン、つまり『キャパシティダウン』へ飛び火する。

爆音と爆炎と共に、ワゴンは大炎上、もちろん、『キャパシティダウン』も炎に包まれてしまった。

かなりの勢いで燃えているため、修復は不可能だろう。



「(まずいっ、『キャパシティダウン』がなくなるってことは・・!)」


『あれっていくらしたの、随分高かったみたいだけどさー?』



キャハハハハハ!と無邪気な声が電話越しに聞こえてくる。

しかし、黒髪の耳にはそんなものは届かなかった。

『キャパシティダウン』は計画の要、能力者と渡り合うための最強のカード。

しかし、自分の不注意でそれが失われ、計画の破綻を呼び込んでしまった。

ここで取るべき行動は一つ。
780 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:55:44.61 ID:Kxgt7wk0


「車を出せっ、逃げるぞ!」



黒髪が叫ぶ。

赤髪が、青髪が乗ってきたワゴンに飛び乗り、付けっぱなしだった車のキーを回そうとする。

しかし、ガクンと大きな衝撃が赤髪を運転席から勢い良く投げ出してしまった。



「な、なんだ・・?」



うつ伏せに倒れた赤髪が振り向くと、ワゴンが空中に浮いているのが見えた。

もちろん、そんなことが起こるはずがない。



「あー・・、参りましたね、まだ頭が超ガンガンします」



ワゴンの下から少女の声が聞こえる。

気を取り戻した絹旗がそのワゴンを持ち上げていた。

その横には滝壺も立っている。

小さな女の子が車を持ち上げるなど、常識では考えられない事象だが、

不可能を可能にする、それが能力者の存在。

軽々と持ち上げられたワゴンは、紙屑をポイ捨てするように放られ、

勢い良く壁に激突し、一瞬で事故車と化してしまった。
781 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/10(土) 23:58:26.96 ID:Kxgt7wk0


「くそがァっ・・!」



黒髪が背を向けると同時に赤髪のライフルが火を噴いた。

数発の弾丸が絹旗を襲ったが、それはすべて、意味のないものだった。

彼女の『窒素装甲』はその程度では傷つかない。



「超残念ですが、私を殺したいなら核でも持ってくるんですね」


「チィッ・・!」



赤髪と絹旗が拮抗している横で、少女に手をかける黒髪。

必死の形相でグルグル巻きにしていた鉄線を解き、脱力している少女を抱える。

既に彼から先ほどまでの余裕は失われていた。



「くっ、あうっ・・!?」


「このガキっ、大人しくしやがれ・・!」



腹部に拳をめり込ませられ、嗚咽と共に気を失ってしまう少女。

そのまま、一目散に逃亡を謀ろうとする。
782 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/11(日) 00:03:18.97 ID:asje6iY0
フレンダ……
783 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/11(日) 00:04:08.90 ID:nxI7BEU0


「させませ・・、」



絹旗がそれを捉え、行く手を阻もうとしたとき、自分の身体がふっ飛ばされるのが分かった。

赤髪の捨て身のタックルが命中し、その衝撃で吹っ飛んだのだ。



「ぐっ・・この!」



痛みはないが、大きな衝撃には耐えることが出来ない。

絹旗が転がっている間に黒髪は少女を抱えたまま、出口へ走った。



「!?」



そのとき、天井から有り得ないものが降って来る。

人だ。

綺麗に着地したそれは、長い金髪と藍色の制帽を被った、制服の少女。



「結局、ここまでやっておいて尻尾巻いて逃げ帰るのはどうかと思う訳よ」


「てめぇ、さっきの電話の奴か・・!」


「結局、奥の手は最後まで取っておくもの、だっけ?」



爆弾を設置して『キャパシティダウン』を爆破したのも彼女だろう、と踏んだ。

この一人の女の子のせいで計画のすべてが水の泡になってしまった。

その怒りをぶつけてやりたいところだったが、それどころではない。
784 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/11(日) 00:06:17.73 ID:nxI7BEU0


「悪いが、真面目に勝負するつもりは、ねぇよっ!!」


「な゛!?」



黒髪が懐から出した筒状の物体を床に叩きつけた瞬間、工場中に一気に白い煙が充満していった。

視界が真っ白に染まり、目の前に居たはずの黒髪の姿も見えなくなってしまう。

突然のことに、煙を思い切り吸い込んでしまう。



「ゲッホっ、え、煙幕って・・、ウェッホゲホッ、こんな古臭い手を使うなんてっ・・!?」


「じゃぁな、マヌケな能力者どもっ!」


「うげぶぅッ!?」



黒髪の膝蹴りを腹にまともに喰らい、ガクンと膝から崩れるフレンダ。

黒髪の走り去る足音は聞こえたが、目で捉えることができなかった。

白煙が目にしみて涙が出てきてしまい、その場にうずくまってしまう。

最後の最後で詰めを誤るとは。
785 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/11(日) 00:09:17.72 ID:ZVTSCIDO
フレンダ……
786 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/11(日) 00:22:38.65 ID:nxI7BEU0


「ぐぎゃああああああああああああああああっ!!!!!!」



目の前に広がる白煙から断末魔の叫びが聞こえる。

男の声だが、それは浜面の声ではなかった。

入り口と出口が開放されているせいか、思ったよりも早く煙が消えていく。



「ったく・・、最高に最低の気分だわ」



続けて聞こえてきたのは、聞きなれた女性の声。

お馴染みの、髪の毛をかき上げながら愚痴を吐く麦野の姿がそこにあった。

その足元には血だらけの赤髪の姿、これで犯人側は黒髪以外、全員ダウンだ。



「麦のおおおおおぉぉぉぉぉんっ!!!」


「うおっ、引っ付くなッ!!」



蹴られた痛みなど何処か遠くへ飛んでいってしまったらしいレズンダが、

両手を前に突き出しながら麦野にルパンダイブ。

その勢いを利用して、フレンダの両手を取り、くるりと一回転する麦野。

そのまま受け流して、彼女を後方に放り投げた。



「うあれあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



ズガーン!というふざけた擬音と共に顔から壁に激突する。

いつもの光景に呆れた声を漏らす絹旗。
787 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/11(日) 00:29:51.33 ID:nxI7BEU0


「コントしてる場合じゃないでしょう・・、

あの子も連れていかれてしまったようですが、どうします?」


「ええ、今から追うわよ」


「しかし、もう足がありませんよ?」



敵側の二台のワゴンはいずれも大破。

浜面が乗ってきたワゴンがあるが、残念ながら唯一運転できる浜面は負傷している。

とても運転できるような状態ではなかった。

相手は人一人を抱えているとはいえ、この広い工場地帯を探すのは酷だ。



「・・でも、このまま逃がすわけにはいかないわ」



もどかしさから、親指の爪を噛む麦野。

こうしている間にも、少女との距離は着々と広がっていくばかりだ。

今回の任務にギブアップはない、絶対に失敗するわけにはいかない。

人質として少女を拉致した以上、殺されることはないだろうが、

異常すぎる黒髪の元に彼女を置いておくわけにはいかなかった。

考えている暇はない、追いつけるかどうか分からなくとも、行くしかない。

麦野が走り出そうとしたそのとき、
788 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/11(日) 00:31:41.75 ID:nxI7BEU0


「大丈夫だよ」



一言。

声の主は滝壺だった。



「滝壺・・?」


「大丈夫」



滝壺のはっきりと開かれた瞳は、確実に何かを捉えていた。







789 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/11(日) 00:43:13.07 ID:nxI7BEU0

以上です。


恐らく、次回辺りから週@ペースになります。

理由は書き溜めの時間確保の問題で、モチベーション云々ではないので悪しからず。

それでも、できるだけ細々と続けさせてもらえれば幸いです。


ちなみに、このシリーズはラスト2,3回程度です。

結局、ぐだぐだ長くなってしまうのはもう癖みたいなものです。


では、おやすみなさい。
790 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/11(日) 00:44:38.00 ID:ZVTSCIDO

待ってる
791 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/11(日) 00:46:24.00 ID:SKEZPow0
792 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/11(日) 00:49:14.64 ID:T2a.erE0
超乙でした
793 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/11(日) 00:53:25.23 ID:bMCLmvIo
乙ー
794 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/11(日) 00:54:16.81 ID:N6vYa920

レズンダレズンダ
795 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/11(日) 01:02:33.65 ID:TiTfaIDO


黒子とフレンダを絡ませたら面白いことになるだろう…
796 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/11(日) 04:18:34.35 ID:95.J5F.o
乙乙
一週間か・・・
むぎのんへの愛で耐えつつ超待ってる
797 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/11(日) 04:37:41.64 ID:NUFtwjk0
圧倒的いちおつっ・・・・・・・・・・・・!
798 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/11(日) 05:06:37.48 ID:7PwycYko
799 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/11(日) 05:07:43.43 ID:4DumgY.o
800 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/12(月) 00:13:53.13 ID:xzRLiADO
麦のんのために頑張るレズンダちゃんかわいい
http://vippic.mine.nu/upm/data/1270998653.jpg

>>1待ってるぞ
801 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/12(月) 05:58:59.11 ID:E/ooFGoP
いつもの人かな
凄い上手いな
見ててほのぼのする
802 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/12(月) 13:04:18.46 ID:22ZcU2co
>>800
レズンダちゃん可愛い
おつ
803 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/12(月) 20:48:11.05 ID:xzRLiADO
なんか足りないと思ったら足を塗り忘れてたわ
レスありがとう
804 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/12(月) 23:54:16.17 ID:aZ8FnEDO
>>803のおかげで食い繋ぎできるぜ…

そろそろ月半ばかー
805 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/13(火) 02:04:45.48 ID:7nmdwcDO
>>800
フレンダかわえええ!!
GJ
806 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/15(木) 19:03:53.88 ID:z4gwnAIo
フッカツダー!!(゚∀゚ )三 三( ゚∀゚)フッカツダー!!
807 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/15(木) 19:18:30.62 ID:ehZ5CoDO
復活
808 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/15(木) 19:46:19.56 ID:KpDhUkDO
これで勝てる
809 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/15(木) 19:49:56.18 ID:bgvclQAO
滝壷最高やわ
810 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/17(土) 11:21:14.68 ID:GEtP9IDO
>>1はまだなのか
811 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/17(土) 21:17:51.60 ID:JF4kk3Io
わっふる
812 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/18(日) 13:07:44.96 ID:k2VY0XQ0
age
813 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:09:25.36 ID:ZJOrxuA0

おばんです。

一週間の早さに驚きを隠せない今日この頃。

それでは投下します。
814 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:11:00.51 ID:ZJOrxuA0

―――――



激しい戦闘があった廃工場地帯から少し離れた地下深く。

じめじめと肌に纏わりつくような湿気が漂う、薄暗い下水道に黒髪は居た。

そこは、いわば学園都市の地下世界といったところで人の気配は全くない。

大きな道路一本が通るくらいのスペースだが、大きな川のように、下水が通路の真ん中を流れている。

黒髪は必死に逃げていたが、追っ手の姿は見えなかった。

それでも、彼女たちが諦めたとは思えない、だからこそ、少しでも遠くに行かなければならない。



「ハァ、ハァ・・くそッ、くそが・・!」



壁に背を預けたまま、しゃがみ込んだ黒髪はダン!と床を殴りつける。

その横には人質であり、研究所との取引材料でもある少女が置かれていた。

未だに気を失ったまま、目を覚ましそうにない。



「何でだよ・・、どうして上手くいかないんだよッ・・!

 せっかく能力者にコキ使われる糞みてぇな生活が終わったっていうのにッ・・!」
815 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:12:38.85 ID:ZJOrxuA0


スキルアウト時代は駒場率いる最大勢力に劣るはみ出し者、

暗部組織時代は雑用として日陰者の生活、すべてが半端な役回りだった。

今は、対能力者専用兵器『キャパシティダウン』を失い、数少ない仲間たちも見捨ててきた。

そして、このまま、再び報われることのない闇に、また一人で堕ちなければならないのか。



「ハァ、ハァ・・、ふぅっ・・・!」



肩で息をしながらも、ゆっくりと天を仰ぐ。

上だけを、前だけを向く、決して後ろは向かない。

振り返っても、わざわざ戻らなければならないほどのものなど残ってはいない。

今は頭を冷やすことを第一とし、これからの予定を組み立てることが大事だ。



「(とにかく、コイツをさっさと研究所に売り払ってこれから生活できるだけの資金を手にする。

 その後は、ほとぼりが冷めるまで何処かに隠れていれば良い・・!)」



言葉で言うのは簡単だったが、やり切るのは容易ではない。

幸い、「アイテム」に取引先の場所はバレていないものの、

彼女たちの目をかいくぐって研究所に辿り付く事ができるかどうかは微妙なラインだ。

相手は非公式とはいえ、学園都市に裏から大きな影響を与える暗部組織。

それでも、選択肢は一つしかない。

勝負、いや、生死の分かれ目。
816 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:14:34.25 ID:ZJOrxuA0


「畜生ッ・・、やるしかないのか・・!」



あまり長い時間、同じ場所に留まっているわけにもいかない。

彼女たちが自分の正確な居場所を把握できないと分かっていても、

常に最悪の状況を頭の片隅に置いておかなければならない。

重い腰を上げ、少女を抱えようと手を取る。

そのときだった。



「・・みーつけたぁ」



下水道に男のように低い、艶かしい女の声。

それは腹を空かせた肉食獣が獲物を見つけたときの唸りと似ていた。

距離があるはずなのに、自分のすぐ後ろから声が聞こえてきたような感覚。



「・・はッ」



小さな亀裂から煙が噴出すように、唇から声が漏れる。

背後に居るのが誰なのか、すぐに分かったからだ。

しかし、自分の背中にのしかかるプレッシャーは工場で相対したときとは比べ物にならないほどのもの。

ゆっくりと息を吐きながら、慎重に振り返る。

しかし、そこには誰の姿もなかった。
817 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:16:56.35 ID:ZJOrxuA0


「・・は、ははっ!」



真っ暗な闇が渦巻いているだけ。

思わず笑いがこぼれてしまう、自分は何を怖がっているのか。

これだけ広く入り組んだ学園都市だ。

こんな短時間で見つかるはずがない。


何処からか吹き込んでくる生暖かい風が肌を撫で、硬直してしまった身体の緊張をほぐす。

さっきの声は追い詰められた自分の精神が生み出した幻聴だったのか。

暴れ続ける心臓を手で抑えながら、再び前を向こうと踵を返したとき。



「何処に行こうとしてるのかにゃーん?」



嘘だと思いたかった。

目を逸らすことのできない非情な現実が、背後から鼻歌交じりにやってくる。



「う、うぁ・・!」



暗がりから浮かび上がってきた一人の女は、わざとらしく、のんびりと歩を進めていく。

カツン、カツンと響き渡るヒールの音が、段々と大きくなっていく。

なぜ、今までその音が聞こえていなかったのか、不思議でならなかった。
818 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:19:21.79 ID:ZJOrxuA0


「・・能力者から能力を奪えば脆いもの。

 アンタたちもあのヘンテコ機械がなくなった途端に崩れちゃったねー」



目の前に現れたのは予想通り、麦野沈利だった。

学園都市第四位の超能力者(レベル5)、暗部組織「アイテム」のリーダー。



「は・・ははっ!」



極寒の地に身を置いているわけでもないのに、身体の震えが止まらない。

口からは意識していないにもかかわらず、笑いがこぼれていた。

目の前の女は人間ではない、恐怖そのものだ。

その恐怖は、先ほどとは形を変えているようだった。

自分の身を守ってくれるものが何もなくなったから、そう見えたのか。

それが一歩近づく度に、黒髪も一歩後ずさる。



「な、なんで・・ッ!?」


「『何で俺の居場所が分かったのか?』って言いたいのかしら、

 そうねぇ、アンタの腕一本と交換で教えてあげても良いよー?」



麦野がゆっくりと右手を構えた。

その一挙手一投足が黒髪の震えを加速させる。

肩が震え、膝が笑い、足が床から離れようとしない。

立っていることすらままならない状態で、気付いたときには尻餅をついてしまっていた。
819 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:21:50.03 ID:ZJOrxuA0


「『AIM追跡(AIMストーカー)』って分かるかしら?」


「『AIM追跡』・・!?」



暗部組織勤めだった割に、能力の種類などにそれほど詳しくはない黒髪は、

麦野が発したワードが何のことなのか、何を指しているのかは分からなかった。



「そう、対象の能力者のAIM拡散力場を補足、記憶することで、

 何処に居てもその能力者の位置を正確に把握することができる。

 その索敵範囲に限界はなく、それこそ対象が地球を飛び出しても位置が分かる、それが『AIM追跡』」



あのピンクジャージの子の能力よ、と付け足す。

レベル5の麦野に「アイテム」の核と言わしめる能力だ。



「あのぼんやりした女か・・!」



頭に浮かんだのはおかっぱ気味の黒髪少女。

工場に居たときの彼女は何の能力も使っていなかったことを思い出す。

あのときは、そんな反則的な能力を持っていたとは思いもしなかった。


一度聞いただけでは、その能力がどういう仕組みなのかは分からなかったが、

地球の裏側に居る相手の位置さえも分かる、というだけでその凄さは十分に理解できる。
820 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:23:48.64 ID:ZJOrxuA0


「ま、待てよ・・AIM拡散力場って奴は能力者が発する磁力みたいなもののはずだ。

 俺は能力者じゃないぞ、それで何で俺の居場所が分かったんだ・・!」



少しの沈黙の後、麦野は口を開いた。

黒髪の足元に視線をズラしながら。



「アンタが目先の利益に目が眩まなければ、居場所がバレるようなことはなかった、それだけよ」



彼女が何を言っているのか分からなかった。

しかし、彼女の視線の先を見ると、すぐにその言葉の意味を理解できた。



「まさか・・、このガキのAIM拡散力場をっ・・!?」


「ぴんぽーん♪」



足元に横たわっている少女、『風力使い(エアロシューター)』の能力者。

能力制限の首輪が付いているとはいえ、AIM拡散力場は発生しているはずだ。
821 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:25:39.35 ID:ZJOrxuA0


「アンタがあの子を抱えて逃げ出そうとしたとき、滝壺は迷わず『体晶』を使って、能力を使用した。

 AIM拡散力場の補足には少し時間がかかるんだけど、絹旗とフレンダの足止めのおかげで何とか完了したみたい。

 で、滝壺から携帯で連絡を受けながら、私が追跡してたってワケ。

 携帯だったから意思疎通が難しいし、かなり長引いたから、滝壺にはかなりの負担になったかもだけどね」



自分の携帯をチラリと見せ、ウインクする麦野。

黒髪が人質のために、研究所との取引のために、

少女を拉致するようなことがなければ、麦野に居場所がバレるようなことはなかっただろう。

元を辿れば、無理やりに少女の能力を覚醒させたことが、皮肉にも今の事態に繋がったといえるかもしれない。



「ゆ、・・して・れ・・」


「んー?」


「・・ゆ、許してくれ」



両手を地につけ、四つん這いに近い格好をする黒髪。

それを見た麦野はどういうわけか、にこやかに微笑んだ。
822 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:31:45.96 ID:ZJOrxuA0


「私たちの最終目標はその子を取り返すことだから、

 アンタが死のうが生きようがどうでもいい・・と言いたいところだけど、

 この子の安全を恒久的に保障することが大事なのよねぇ。

 アンタがまた拉致だの何だのをしないとは思えないし・・!」



麦野の柔和な表情は話すうちに厳しいものに変わっていった。

語気を強める麦野に対し、黒髪は頭を上げて、ただただ叫ぶ。



「も、もうしないッ、腐ってもこの子の兄貴なんだ・・、

 自分のやったことの愚かさもようやく分かったんだよ・・!」



不意に右足をあげ、ガツンと地に落とす麦野。

それは苛立ちの表れか。



「よくもまあそんな薄っぺらい言葉をつらつらと吐きやがること」


「・・図々しいことだっていうのは分かっている。

 でも、俺だって好きでこんなことをしてるわけじゃない・・!

 取引先の研究所からの命令なんだよッ、俺たちは手駒となって動くしかないんだ・・!」



眉間に皺を寄せたまま、目を細める麦野。

好きでこんなことをしているわけではない、というのは信じ難いが、

ある研究所からの命令、というのは事実だとしてもおかしくはない。
823 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:35:34.91 ID:ZJOrxuA0


「そうね、その研究所とやらを教えてくれたら、検討してあげても良いけど・・?」


「・・わ、分かった、教える、教えるから、殺さないでくれ!」



両手を挙げたまま立ち上がり、ゆっくりと後ろに下がる黒髪。

麦野は睨みをきかせながらゆっくりと前に進み、意識を失ったまま寝ている少女の頬に触れた。

白く、柔らかく、弾力のある肌が麦野の指をあっさりと受け入れる。



「(ぷにぷに・・、恨めしいわ)」



紆余曲折ありながら、ようやく少女に触れることができた。

何よりも彼女が無事であることにひとまず胸を撫で下ろす。

こちらの苦労も知らないで横になっている彼女は、可愛らしくも、少し憎らしくもあった。



「さて、と」



不意に麦野の指先辺りから白い光線が放たれ、一瞬でそれは黒髪の左肩を貫いた。

ジュッという何かが焼けたような音、自分の肩に穴が空くという感覚。
824 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:40:09.71 ID:ZJOrxuA0


「ッぐぎゃああああああああああああああああああああああッ!!!!!???」



黒髪がその日初めて見苦しい叫び声をあげた。

下水道内に響いた醜い絶叫は漂っていた重い空気をピリピリと震わせた。

麦野の不意打ちに、驚愕と苦痛に顔を大きく歪ませる黒髪は、大きな音を立てて背中から倒れこむ。



「い、ひゃは・・な、で・・、許してくれた・・じゃねぇのかよぉッ!!?」



肩口を抑えたまま、黒髪はぐしゃぐしゃと苦しそうに転がる。

その無様な男を見下ろし、麦野は美人画のような白い歯を見せ、不適に笑う。



「あっははははははははははははははっ!! 私を慈悲深い聖母様か何かと勘違いしてねぇか!?

 アンタたちと癒着してる研究所なんて、こっちのネットワークを駆使すればすぐに分かるんだっての!

 とりあえず、アンタにはこの下水の底に沈んでもらうけど、良いかしらーん?」


「う、ぐ、くそっがっ・・、ぐゃは・・!?」


「・・覚悟することね、この子が受けた苦しみのすべてをアンタの身体に刻んであげる」



来世もその苦しみを背負って生きていかなければならないくらいにね、と呟く。

先ほどまでのおふざけとは違う、冷たく、鋭いナイフのような口調だった。
825 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:42:07.88 ID:ZJOrxuA0


何よりも、この男を絶対に許すわけにはいかなかった。

右肩を、左足を、右足を、急所を外しながら光線を浴びせ続け、蜂の巣状態にし、

自分の身体から血が大量に抜け出ていく、自分の身体からゆっくりと体温が失われていく、

そんな身の毛もよだつようなおぞましい感覚に陥らせてやろうと思っていた。

後悔もさせないほど、何も考えられないほどの苦しみを味わわせてやろうと。

そんな麦野の殺戮を止めたのは、彼女の良心でも、黒髪の抵抗でもなかった。



「・・やめて、お姉ちゃん」



それは他でもない、あの少女だった。

意識を取り戻し、身体を起こしたと思えば、よたよたと歩き、麦野の右足にしがみつく。

麦野はそれを振り払おうとはせず、少女の頭に優しく右手を置いた。



「どうして止めるのよ、コイツはアンタを・・」


「嫌だよ・・」


「・・ここで息の根を止めなきゃいけない。

 これはアンタのこれからの安全にも繋がる、分かるでしょ・・?」


「そんなことどうでも良いっ・・」



少女の真っ直ぐな目は麦野の目を捉えていた。

麦野の目は明らかにいつもとは違い、非情な感情が蠢いている。

だが、少女がそれに怯むことはなかった。

彼女の瞳は、ある強い意志、確固とした想いが込められていたから。
826 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:44:01.21 ID:ZJOrxuA0


「お姉ちゃんが人を殺すところなんて、見たくない」


「っ・・!」


「お願いだからっ・・」


「・・・」



少女の切なる言葉を受け、麦野はゆっくりとかざしていた左手を下げる。

その手は、心なしか少しだけ震えているようにも見えた。

いつもの彼女の調子であれば、躊躇いなく黒髪を殺していただろう。

だが、さすがの麦野もこの少女の前で血肉を散らし、惨殺することはできなかった。



「・・は、ぎゃ・・かばっ・・・!」



肩に風穴を空けられた黒髪は、口から血を垂らしながら、芋虫のように地を這っていた。

焦点の合っていない目は、何を見つめているのだろうか。
827 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:51:08.17 ID:ZJOrxuA0


「あ、あぐっ・・、ぅあ゛が・・・・!」



生々しく赤黒い血の跡が地面に付着し、それがどんどん広がっていく。

やがて、ガクンと頭を地べたにつけ、動かなくなった。

どうやら、意識を失ったらしい。

蛆虫でも見るような目でそれを見た麦野は、ポツリと呟いた。



「二度はないわよ、こんな甘ったれなことは・・」



人を殺すことを躊躇してはならない。

暗部組織にとって、それは避けることのできない鉄則。

だが、今回だけは特例だ。
828 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:52:57.79 ID:ZJOrxuA0


「ありがとう、お姉ちゃん」


「お礼はいらないわよ。

 ・・約束したでしょ、すぐに助けてあげるって」



一転して、温かく笑いかける少女をその胸の中に受け止めると、

これでもかというくらいにわしゃわしゃとその髪の毛を撫でてやる。

くすぐったそうに微笑む少女の顔を見ると、身体のあちこちの痛みが蒸発していくようだった。



「(・・ふふ、たまにはこういう非生産的な見返りも良いかもね)」



少女を抱きしめたまま、ポケットから携帯を取り出し、下部組織に電話をかける。

任務外の急な事後処理のため、通話相手は慌てていたが、いつになく上機嫌な麦野に少し驚いていたという。



こうして、少女の笑顔を取り戻す、初めての誰かを救うという任務が無事終了した。






829 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:54:03.47 ID:ZJOrxuA0

―――――



「よく寝てますねぇ・・、この子」


「今日一日だけで随分神経使ってたみたいだからねー」



時刻は深夜一時過ぎ。

ここは第七学区の「アイテム」の隠れ家の一つ、もはやお馴染みの秘密の場所だ。

ソファの上に滝壺が座り、その膝の上に猫のように丸まった少女が眠り込んでいる。

すやすやと寝息を立てており、身体の緊張は緩まっているようだった。

そんな少女を見て、夜食のサバ缶を楽しそうにつつきながら、フレンダが口を開く。



「今回のこと、児童施設側には漏れてないよね?」


「ええ、心配ありません。今日は早退という扱いになっていますから。

 明日にでも戻れると思いますよ、この子」



熱々のコーヒーを息で冷ましながら、絹旗が呟く。

暴力沙汰から少女の拉致まで、何一つ施設側には伝えていなかった。

暗部組織と何かしらのしがらみがあると分かれば、

入所取り消しも免れないかもしれないからだ。

もちろん、少女にも今回のことは口止めしてある。
830 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:54:51.00 ID:ZJOrxuA0


「結局、すぐに行けるかどうかは気持ちの整理がついてから、かな?」


「まぁ、今日のところはゆっくり寝かせてあげましょうか」



少女の顔を覗き込むと、思わず顔が緩んでしまう三人。

年下の子供の世話をするというのは、彼女たちにとって良い経験になったかもしれない。

今までも、そして、これからもそんな機会はないだろうから。



「一応、アシは確保しておいてくださいね、浜面!」


「・・はまづら、今いないけどね」


「そうですね・・」



少女の頭を優しく撫でながら、滝壺が寂しそうに呟いた。

それもそのはず、部屋に居たのは、滝壺と少女、絹旗、フレンダだけ。

さて、彼女たちの保護者である浜面は何処に居るのかというと。






831 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:56:28.37 ID:ZJOrxuA0

―――――



あれだけの雷雨が嘘だったような、澄んだ、美しい夜空が広がっていた。

太陽は最後まで雲の後ろに引きこもったままだったが、それを詫びるように金色に輝く月が顔を出している。

綺麗な丸い輪郭のそれは、夜の静寂に包まれた学園都市を見下ろしていた。

静かに眠っている木々は柔らかな夜風に吹かれ、寝返りをうっているかのように雨粒を乗せた木の葉を揺らしている。


さて、夜の一時過ぎというと、当たり前ではあるが、すべての一般病院は閉まっている時刻。

しかし、ここだけは違うようだ。

能力者関係の患者が搬送される特別な病院。

深夜の急患でも、例のカエル顔の医者は嫌な顔一つせず、文句の一つも漏らさず、患者を助ける。



「・・・」



そんな病院の入り口に一人の少女が膝を抱えて、座りこんでいた。

病院入り口の命辛々の蛍光灯がチカチカと瞬き、彼女の美しい茶長髪を炙り出している。

豪雨の後の、身体に纏わりつくような微妙な湿気が鬱陶しかったが、

彼女の神経は別の事柄に集中していたため、あまり意味のないことだった。
832 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:57:19.68 ID:ZJOrxuA0


「!」



彼女がその気配に気付き、振り返ると同時に自動ドアが開いた。



「麦野・・?」



奥の暗がりからゆっくりと出てきたのは、普段とほとんど変わらない姿の浜面仕上だった。

違うところと言えば、いつもの茶色のジャージではなく、灰色のパーカーを着ているところくらいか。

入り口に座り込んでいた少女を見て、手術後即帰宅許可の出た浜面は目を丸くしていた。



「てっきり俺は一人寂しく帰るのかと思ったけど・・、待っててくれたのか」


「面倒だったんだけど・・、アンタ一人じゃ心配だからねー。

 怪我人には優しくしてあげるのが私の信条なのよ」



へいへい、と気だるそうな顔をする浜面。

歩き出した彼の横に、付録品のように麦野が並ぶ。

ちらほらと設置されている街灯の光を背にして歩く二人の影が伸びたり、縮んだりしている。

特に何を話すわけでもない二人を分かつように、夜風が静かに吹き始めていた。
833 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/18(日) 22:58:48.95 ID:sFmJLl20
ktkr
834 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 22:59:32.86 ID:ZJOrxuA0


「(かなり待たせたっぽいし・・、麦野、怒ってんのかな・・?)」



いつもは口を開く度に文句ばかりを言う麦野が、今は魂が抜けたかのように寡黙なため、浜面は少し不審がっていた。

一方の麦野がどういう心境なのかは、いまさら説明するまでもないだろう。



「「・・・・」」



先に口を開いたのは、浜面だった。



「そうだ・・この服持ってきてくれたの麦野だろ?

 こっちの服は血だらけだったから、夜の学園都市を歩くにはちょっと辛かったし、助かったよ」



こっち、というのは浜面が右脇に抱えている、いつもの茶色のジャージだ。

左肩を撃たれたときに着ていた物だったため、そのときの血で染まってしまっていた。

そのため、今は着慣れない灰色のフード付きパーカーを着ている。



「別に・・、下部組織の奴らのワゴンの中に放ってあったやつだし」


「それでも良いさ、ありがとよ」


「ん」



麦野に顔を向けながら、浜面は小さく口元を緩ませる。

それをなるべく視界に入れないように、夜空だけを見上げたまま、麦野は歩き続ける。
835 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/18(日) 22:59:35.13 ID:p07TrkAO
きてたああああああああああああむぎのおおおおおおおおおおん!!
836 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:01:24.62 ID:ZJOrxuA0


「(・・くそ、フレンダの奴・・なーにが浜面を一人で迎えに行け。だっつーの)」



〜〜〜

時は遡り、下部組織による事後処理完了後の廃工場



『じゃ、私たちは隠れ家に戻るからさ、麦野はさっき病院に運ばれた浜面を迎えに行くように!』


『え、アイツ、手術受けるんじゃないの・・?』


『うん、それで今日の内に戻ってくるだろうし』


『はぁ・・?

 いや、それを別にしても、何で私が一人で行かなきゃいけないのよ』


『滝壺さんは能力使用でかなり弱ってるし、あの女の子にとって保護者的存在だし、

 絹旗も疲れてるっぽいし、私は早くサバ缶食べたいし』


『ふ、ふざけないでよっ・・、何喋ったら良いのか分かんないし・・!』


『あっはー、麦野可愛いなー、やっぱ浜面のお嫁さんにしとくには勿体ないわー』
837 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:03:33.80 ID:ZJOrxuA0


『あっはー、麦野可愛いなー、やっぱ浜面のお嫁さんにしとくには勿体ないわー』


『・・これ以上わけわかんないこと言うなら、アンタの自慢の脚線美を細切れにしてやっても良いのよ?』


『あーん、怒った麦野もたまんないわぁ・・攻める麦野に、受ける私。

 今日のズリネタの妄想シチュエーションはこれで決定だわ・・♪』


『人の話を聞けっつーのっ!!』


『ごめんね麦野、結局、このワゴン、五人乗りなんだ、そら行け発進っ!』


『ちょ、ちょっと待ちなさっ・・!!』



凄い勢いでその場を離れるワゴン。

その手に残ったのはフレンダから手渡された、浜面の着替えの灰色のパーカーだけだった。



〜〜〜



「あー、もう、あの金髪を焼き尽くしてチリチリアフロにしてやりたいっ!」


「・・何言ってんだ、お前」



怨念渦巻く麦野の空気を察知してか、浜面がげんなりした表情をしている。

その視線に気付き、彼女は慌ててごまかそうとする。
838 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:06:15.28 ID:ZJOrxuA0


「あ゛ぇっ、今、私何か言ってたっ!?」


「アフロがどうとか・・、モロに口に出てたぞ」



ぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き、夜空を見上げたまま、カツカツと歩調を早める。

一刻も早く、この気まずい雰囲気から逃れたかったからだ。

そして、足元も見ずに夜の道を歩いていれば、何かにつまずくこともあるわけで。

通路のタイルの溝に麦野のヒールが変に入り込み、そのまま前のめりに。



「うきゃっ!?」


「麦野ッ!」



麦野の腕を掴もうとした浜面の手は空を掴んでしまう。

ドベチッとベタな音を響かせ、うつ伏せに倒れこむ麦野。

その姿はカエルが背中から車に轢かれたような感じだった。
839 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:06:55.80 ID:ZJOrxuA0


「・・・」


「おい、麦野?」


「・・痛い」


「ったく・・、ちゃんと前見て歩けよな」


「うぅ・・」



二人きりのときはなぜかヘタレる麦野の腕を取り、ゆっくりと彼女を立ち上がらせる浜面。

どうも、最近放っておけないというか、母性本能的な何かをくすぐられて仕方がなかった。

いつもツンツンした女の子が弱さを見せると、どうもむず痒いというか、変なもどかしさに襲われる。



「っ・・!」


「ん、どうかしたか?」



不自然にゆっくりな立ち上がり方、片足に全重心を置いたような立ち方。

どう見ても、右足を庇っている振る舞いだった。



「・・何でもない」


「足、挫いたのか」



暗がりで見にくかったが、右足首の辺りが少し赤く腫れているのが分かった。

それだけでなく、膝にも擦り傷らしきものが見える。
840 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:09:20.52 ID:ZJOrxuA0


「・・さっさと帰るわよ、あの子が待ってるんだしっ」


「おい待てって・・!」



浜面の手を強引に振り払い、再び歩き始める麦野。

ガクンガクンと不自然な動きをし、先ほどまでと比べて段違いに遅くなった歩行速度の彼女を見て、浜面は大きな溜め息をつく。



「やれやれ、そんなんじゃ着く頃には夜が明けちまうっての・・」


「んきゃっ!?」



麦野の目の前に回りこみ、背を向けたまま座り込むと、無理やりに麦野の足にその腕を絡ませ、

彼女の重心を自分の背中に預けさせるような体勢にし、おぶったままゆっくりと立ち上がる。

手際の良い浜面の気遣いに麦野はなすがままだった。
841 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:10:26.87 ID:ZJOrxuA0


「は、離せってのッ! アンタにおぶられるなんて屈辱ってレベルじゃ、!」


「耳元でギャーギャー騒ぐなって。俺だってまだ肩痛いんだからな・・?」


「う、うるさいッ!」


「はいはい、怪我人には優しくしてやるのが俺の信条なんだよ」


「むー・・」


「素直でよろしい」



観念した麦野は、腫れ物にでも触るかのようにゆっくりと浜面の首に手を回し、口を尖らせたまま、彼の右肩に顎を置く。

そのとき、今度は浜面が小さく悲鳴を上げた。



「う゛っ・・!?」


「何よ」


「い、いや・・なんでもねぇ」



浜面の耳がほんのり赤くなっているのに気付く。

彼をイジることに長けている麦野は、その理由をすぐに理解した。

見ると、豊満な彼女の胸が浜面の大きな背中に押し付けられている。

それはもうビーチボールのような弾力と十分な大きさ。
842 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/18(日) 23:11:04.87 ID:LW3KuKQP
wwktk
843 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:11:20.87 ID:ZJOrxuA0


「えっち」


「・・お、お前が押し付けてるのが悪いんだろッ!」


「このために私をおんぶしようなんて、いつからこんな露骨な奴に成り下がったのかしら」


「言わせておけばッ・・!」



いっそのこと、彼女の足を持っている手を放して落としてやろうかと思ったが、

彼女の腕はガッチリ浜面の首に回されていたので、逆に締められてしまうだろう。

ぶっちゃけた話、今の状況はかなり幸せすぎるため、抵抗すると見せかけて抵抗しない浜面。

彼も超健全な男子である。



「ま、今日のところは許してあげる。

 あのとき、アンタが来てくれたおかげで私たちは助かったようなものだから。」


「え、あぁ・・」



工場にワゴンで突っ込むなと任務前に言っておいたはずなのに、ド派手に突撃してきた浜面。

その身一つで颯爽と降り立った彼は、最高に憎らしいタイミングで彼女たちを救ってくれた。
844 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:12:18.08 ID:ZJOrxuA0


「何かお前がそうやって素直に言ってくれるの、珍しいな」


「何よ、嬉しくないの?」


「さぁな、ちょっと新鮮ではあるけど」


「(新鮮・・、ねぇ)」



浜面の首元に顔をうずめてみると、彼の匂いが鼻腔に届いた。

変に洒落た香水の匂いでも、男らしい汗の匂いでもない。

別段、良い匂いではないのだが、何となく心が落ち着くようだった。

ゆっくりと目を閉じ、彼を全身で堪能する。



「あの子がさ」


「ん?」


「私が黒髪に止めを刺そうとしたとき、あの女の子が私に言ったのよ。

 『お姉ちゃんが人を殺すところなんて、見たくない』ってさ」



今でも、あのときの少女の振る舞いは思い出すことができる。

いつものぼんやりとした瞳ではなく、強い光の宿ったそれは麦野の心に強く訴えかけてきた。
845 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:16:48.74 ID:ZJOrxuA0


「で、結局どうしたんだよ」


「止めたわよ、あんな目で見られちゃ流石の私も鬼にはなれないしね」


「だよな・・」


「いまさら人を殺すことを半端に止めるなんて、思いもしなかったけど」



あの少女の前では、強い存在でありたいという願望はあった。

彼女を助けるためならば、立ちはだかる障害はすべて薙ぎ払ってやろうと、

それが人であろうと容赦なく殺してやろうと思っていた。

しかし、強い存在であるのと、人殺しは大きく意が異なる。



「あの子の前ではね、せめて気の良いお姉さんを演じていたかったのよ」


「なるほどね・・」



麦野たちが何の躊躇いもなく人を殺している集団と知れば、彼女は深く失望するかもしれない。

だから、本当の自分たちの姿は彼女には隠していた。

それはきっと悪い嘘ではないんだと、麦野は思っている。

そう思っていなければやってられないからだ。

もちろん、彼女にその戦いの最中に飛び散った血を浴びせるようなことはしたくない。

だからこそ、少女の前ではあくまでも一般人として振舞っているのだ。
846 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/18(日) 23:17:13.42 ID:LW3KuKQP
何今日の麦野、いつにも増して可愛い
847 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:18:02.71 ID:ZJOrxuA0


「ま、色々あったけど、私たちはあの子を闇の底から掬ってあげて、スタートラインに立たせてあげただけだけ。

 あの子がステージの中央でスポットライトを浴びる主人公なら、私たちはあの子を引き立てるための裏方でしかないのよ」



良い人間を演じていたいという、らしくない自分の振る舞いに思わず目を細める麦野。

浜面も、彼女が自分の思いのたけを述べてくれるのが珍しいと思ったのか、口元に笑みを浮かべていた。



「子供は国の宝、将来の希望じゃん、ってこったな」


「いきなり顔に似合わないこといわないでよ、気持ち悪いわねー」


「ちっげーよ、俺の知り合いの警備員の言葉だっての」



っていうかアンタも子供でしょうが、と平手で浜面の頭を叩く麦野。

随分とワガママなお嬢様を背負ってしまったものだ、と心の中で呟く浜面。
848 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:19:17.25 ID:ZJOrxuA0


「お前は子供かどうか微妙だよな、見た目が」


「・・それ、どういう意味?」


「そういう意味だよ」


「・・ぐりぐり〜♪」


「いいい゛ててでててっ、冗談だっ冗談! お前はまだピッチピチの乙女だよ!!」


「『まだ』って言うなっ!」



浜面のこめかみを両サイドから拳でグリグリする麦野。

子供のようにはにかむ麦野に対し、それを防ぎようのない浜面は平謝りするしかなかった。

ただ、彼女が上機嫌なのは良いことだ。

やたらとツンツンする姉ができたようで少しほんわかしてしまったのも事実。



「ところで、麦野」


「何よ」



一呼吸置く。

それは躊躇っているようにも見えた。
849 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:20:34.93 ID:ZJOrxuA0


「・・あのさ、どうしても言いたいことがあるんだけどよ」


「ど、どうしても言いたいこと・・?」



浜面の突然の申し出に、麦野の身体がピクリと反応した。

おぶられているため、彼がどんな表情をしているのかが伺えない。

自分の心臓の鼓動が背中を通して伝わっているのではないか、と危惧する麦野。

一方の浜面は何の気なしに口を開く。



「お前、少し太ったか・・?」


「・・え?」



言わなくても良いことを口にする男、浜面仕上。

言わなくても良いこと、というより、言ってはいけないこと。

特に年頃の女の子に対しては。
850 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:22:43.05 ID:ZJOrxuA0


「いや、だって・・、何かちょっと重くなってるような・・」


「・・・」



麦野の心のモヤモヤは一瞬で霧散し、代わりにポッカリと大きな穴が空いたような感覚に。

そして、その呆然とした気持ちは苛立ちに変わり、滲み出ていく。

麦野の生怒りが果汁100%でお届けされる、マジで恋する五秒前。



「うがああああああああっ!!!!!」


「う、うおっ!? なんだよいきなりっ、近所迷惑だぞ!!」


「うっさい!アンタなんか消えてなくなっちゃえば良いのよぉーっ!!」


「ばか、暴れんな、い、いてぇっ、肩っ、肩、肩、肩!!」


「うるっさああああああああああいっ!!」



そのときの麦野の表情は、怒り狂った言葉とは裏腹にはち切れんばかりの笑顔だったとか。

女の絶叫と男の悲鳴が夜の学園都市を駆け抜けていった、そんな夜のことだった。






851 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/18(日) 23:28:21.26 ID:ZJOrxuA0

今回は以上です。

一週間以上も間隔が空いてしまいましたが、

変わりなく目を通していただいたようで感謝。


次回は完結話+おまけ、の予定です。

おまけでは、今シリーズはあまりスポットが当たらなかった彼女をピックアップ。


今週中に投下することができれば良いのですが・・。

では、おやすみなさい。
852 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/18(日) 23:29:23.38 ID:YU9tjBc0
乙! おやすみ
853 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/18(日) 23:37:34.56 ID:mUlRWWco
乙待ってるぞ
854 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/18(日) 23:37:44.13 ID:GHGjNKU0
超乙!
いよいよ最後か…
855 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/18(日) 23:38:53.77 ID:PZ9pzU6P
おつ
856 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/18(日) 23:45:02.08 ID:N0hZe2DO


麦のんは浜面の嫁
再確認した
857 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/18(日) 23:51:35.79 ID:TIsbxNc0
落つ
858 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/18(日) 23:54:42.81 ID:0ndF5ik0
超乙です

麦のん可愛いいいいい
浜面さんになら任せられる
859 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:53:46.57 ID:KsxnRBUo
乙乙
流石浜面、乙女に言っちゃいけないことを平然といってのける!
そこにシビれるッ!憧れるぅッ!

むぎのんかわいいよむぎのん
860 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 01:08:10.06 ID:bFx04F6o
861 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/19(月) 01:36:42.27 ID:qFNfOVA0
乙だにゃーん!

待った甲斐があったぜ!
>おまけでは、今シリーズはあまりスポットが当たらなかった彼女をピックアップ。
そして遂に来るか?レズンダちゃん…
862 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 03:02:37.69 ID:TGhF9ADO
むぎのんのおっぱい………



むぎのんのおっぱい!
863 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 07:27:16.05 ID:D2xnAMAO
乙ンダ

むぎのんかわいいよむぎのん
864 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 09:31:08.87 ID:..HRNd.0
乙旗最愛
865 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 09:49:34.89 ID:OstTFtYo


結局浜面は浜面でしかなかっただけですね
866 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/20(火) 21:57:25.13 ID:sl77RgDO
遅くなったが乙
麦のんがかわいすぎてどうにかなりそうだった
867 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 00:00:58.47 ID:qZrQ3Fk0

むぎのん可愛いなああああああ!!
868 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 11:11:57.06 ID:AnftOkDO
いまさらだが乙

まだ水曜か…
869 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/22(木) 13:35:17.02 ID:jvve9mw0
age
870 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/22(木) 17:55:04.31 ID:YhN0..AO
来てないのに上げんな
871 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:23:29.39 ID:u3.MPCA0

おばんです。

いつもより、時間が遅くなりました。

では、今回で完結です。
872 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:25:31.29 ID:u3.MPCA0

―――――



柔らかく、麗らかな日差しが学園都市を包む爽やかな朝。

前日の夕暮れまで降っていた激しい雷雨を忘れたかのような雲一つない青空は、

眠い目を擦る浜面にとっては少し刺激的だったかもしれない。

そんな光をフロントガラス越しに浴びながら、施設の前の道路に、また何処からか盗んできたワゴンを止めた。

浜面が降りたあと、中から出てきたのは「アイテム」+少女。

麦野たちが買ってあげたと思われる薄桃色のフリルのワンピースを着た少女は、

滝壺の足に妹のようにしがみついたまま、ゆっくりと車から降りていた。



「ふわあ、くっそ、睡眠時間が足りねぇ・・」



ワゴンの鍵を閉め、キーをポケットに突っ込むと同時に大きな欠伸をかます浜面。

前日に手術を受けたばかりにもかかわらず、その翌日には早くも雑用(運転手)に勤める。

労災は適用されるのだろうかと、わけのわからないことを考えてしまうほど、頭がボケていた。

そんなダルそうにする浜面を見た絹旗が怪訝そうな目を向ける。



「せっかくのあの子の仕切り直しの日なんですから、

 そういう超辛気臭い顔をするのはやめてもらえますかねー?」



たっぷり睡眠をとった絹旗のテカテカした顔と違い、浜面の目元には薄い隈ができていた。

彼の肩にも届かないくらいの身長の少女にジロリと目を向ける。
873 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:27:25.43 ID:u3.MPCA0


「あのな・・、こっちは肩撃たれて手術して、女一人をおぶって長距離歩いて、

 隠れ家に着いてようやく寝れると思ったら、部屋は無残にとっ散らかってるわ、

 お前らの寝相はダイナミックだわで、こちとら3時間も寝れてないんだからな・・」



言葉では語りつくせないほどの苦労があったらしい。

病み上がりだろうが、手術後だろうが、彼は永遠に「アイテム」のメイドなのだ。

彼の目の下の隈がすべてを物語っている。

そこで、溜め息をついた絹旗と浜面の耳に快活な声が聞こえてきた。



「最愛お姉ちゃん、早く早くっ!」


「えぇ、今行きますよー」



柄にもなく、スキップしながら滝壺たちのところへ向かう絹旗。



「おいコラ、人の話を聞け」



浜面の制止の声を振り切った彼女は一目散に少女の元へ。

親の心子知らずとは少し状況が違うが、なんとなくそんな言葉が頭の中に浮かんでいた。

睡眠時間ばっちりの四人の後ろ姿を見ていると、そんな苦労も少しだけ報われる気がする。


・・四人?


人差し指を立て、丁寧に一人ひとり数えていく。
874 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:28:15.00 ID:u3.MPCA0


「(滝壺、あの子、絹旗、フレンダ、居ないのは・・)」



その広げた片手を顔に当て、今週何度目になるだろうか、大きな溜め息をつく。

彼を微妙な筋肉痛地獄に陥れた少女の姿が見当たらなかったのだ。

ポケットからキーを取り出し、ワゴンの鍵を遠隔操作で解除する。

スライドドアを開けると、後部座席を存分に使って、浜面側に頭を向けたまま、寝転がっている麦野が居た。



「ん、にゃー・・」


「にゃー・・じゃねぇよ、ほら起きろ麦野」



ペシペシと緩みきった麦野の寝顔を軽く叩いてみる。

浅い眠りだったのか、閉じていた目をゆっくりと開けた。



「んぇ、ここ・・、どこよ・・?」


「寝惚けてるんじゃねぇよ・・他の奴らはもう行っちまってる、俺たちも早く行くぞ」



ダランと下がった麦野の左腕を引っ張って、強引に身体を起こさせる。

化粧もせず、服も着替えず、何の手入れもしないで施設に来てしまった、

ボサボサの髪の毛の彼女は某ホラー映画の幽霊のようだった。

施設に向かおうと浜面が背を向けると、麦野がぐわっと彼の背中に飛びつく。
875 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:29:25.74 ID:u3.MPCA0


「おぅわっ、何だよ、どうした?」


「んっ」



飛びついたと思えば、少し離れ、座席に座り込んだまま、両手を前に突き出す麦野。

まるで何かを受け入れようとしている、そんな姿勢になっていた。



「んっ!」


「な、何だよ・・」


「だっこ」


「・・は?」


「だっこ」


「(この女はまだ寝惚けてんのか・・ッ!?)」



浜面の全身を衝撃が走ったかと思えば、一方で背筋を何やら冷たいものが上ってくる。

恐る恐る後方を見やると、遠くで棒立ちになっている滝壺が睨みを効かせていた。

彼女の表情はイマイチよく分からないが、この見る者を射抜くような殺気からして、機嫌が良いとは言えない。

その場に居づらくなった浜面は、未だ夢の泉に片足を突っ込んだままの麦野を無理やり引っ張り出す。

さすがに年頃の女の子を、年頃の男が、だっこなどできない。

家でならともかく、こんな公共の場所で。
876 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:30:51.16 ID:u3.MPCA0


「んぇー・・浜面が私の言うこと聞かないー・・」



カツン、カツンとヒールが降り立つ音。

そんな彼女の右足首にはよれよれの湿布が貼ってある。

昨日、隠れ家に帰ってすぐ眠気に敗北した麦野にボコボコに蹴られながら浜面が貼ったものだが、

既に腫れはひいているようで、今はもう彼女は満足に歩けるようだ。

疲弊した浜面、眠りこけている麦野とは対照的に、眩しすぎる元気な直射日光が全身に余すところなく降り注ぐ。



「うあー・・溶けるぅ、砂になるー・・」


「(こんなに朝弱かったっけか、コイツ・・)」



酒を飲んだわけでもないのに千鳥足になってしまっている麦野。

不安定な足取りのため、何もない平坦なコンクリートの上でもつまずいてしまいそうだ。

昨日と同じ徹を踏まないよう、浜面は彼女を丁寧にエスコートする。

肩を抱くように腕を回し、声をかけながら、ゆっくりと歩く。
877 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:31:27.62 ID:u3.MPCA0


「ったく、幸先悪いな・・」


「んぇー・・」



ぐだぐだ文句を吐きながらも、何やかんやで浜面は彼女を心配してしまう。

粗暴な容姿とは裏腹に、温かく、世話焼きで、お人好しで、たまにドキッとするほど頼りになる。

そんな彼を知っているからこそ、いくらでも我が侭を言ってしまう「アイテム」。

ここまで任務以外で彼におんぶにだっこだと、むしろ、

彼に甘えることが、ある意味で彼女たちの義務のように見えてくる。

そんな、彼から一番恩恵を受けている(と思われる)麦野の口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。



「(計画通りっ・・・・!)」



浜面の優しさをその身に受けながら、二人だけの時間が少しでも長くなるように、できるだけゆっくりと歩いていく。

二度目の施設ボランティアへ、内心ルンルン気分の麦野のテンションは右肩上がりだ。





878 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/24(土) 23:34:04.19 ID:.SCVypE0
待ってたぜ
879 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:35:09.60 ID:u3.MPCA0

―――――



時は夕暮れ。

遠くのビルとビルの隙間からこちらを興味深そうに覗く夕日が、浜面の目に眩しく映る。

しかし、朝に浴びた身を削るような日差しと違い、身体の隅々まで洗われるような清々しさがあった。

何処からかカラスの鳴き声も聞こえ、すっかり子供の帰り時と言ったところ。

男であれば誰もが、外で元気に遊んでいた少年時代を懐かしく思ってしまう雰囲気だ。



「カラスが鳴いたら、かーえろ、ってかー・・」



ボランティアで、子供たちに振り回された疲れを少しでも癒すように背伸びをし、

一番低い鉄棒にひょいと腰を乗せると、陽気に鼻歌を歌い始める浜面。

足をブラブラさせながら、まだ外で遊んでいる子供たちに目を向けながら、機嫌良さそうに微笑む。

ふと横に目をやると、ブランコにぐったりと座り込んでいる麦野が居た。
880 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:36:48.71 ID:u3.MPCA0


「ず、随分とお疲れだな、麦野」


「・・・・」



浜面が声をかけてから数秒後に、ようやく麦野がゆっくりと顔を上げる。

生気がまったく感じられない表情だった。

虚ろな目に、半開きの口、撫で肩のように力の抜けた肩、その両手は股の間にダラリと下げている。

彼女の髪の毛は朝もかなり乱れていたが、今はそれをさらに上回り、目も当てられないほどの荒れっぷりだった。

魂が抜けているようで、その身体は学園都市で一番美しい抜け殻となっている。



「そうねぇ・・・」



浜面に顔を向け、一言だけ呟くと、何を見るわけでもなく再び視線を前方に移す。

いつもの麦野の凛々しさは完全に失われており、その姿は別人のようだった。

朝の寝惚け演技と違い、今回は本当に心身ともにボロボロになってしまっているらしい。

過労死寸前のOLはこんな感じだろう。
881 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:37:57.19 ID:u3.MPCA0


「(ひ、ひどい・・わずか一日でこんなにも人間は変わっちまうのか(悪い意味で)・・)」



その理由を浜面は知っている。

気遣ってもらいたい一心で、敢えてボロボロのまま、ボランティアに向かったは良いが、

その姿を子供たちに馬鹿にされ、外で遊べばぐるぐると振り回された麦野。

優しいお姉さんとして子供たちの中では通っていたため、彼らも遠慮なく甘えまくったらしい。

先生方の制止も振り切った子供たちに髪の毛を引っ張られ、強引におぶらされたりと、

何者も寄せ付けない強さを持っているはずの彼女が、文字通り、無邪気な子供たちに蹂躙されたのである。

終盤、ついに堪忍袋の緒が切れた麦野が能力を使って暴れようとしていたため、

浜面と絹旗が慌てて止めていた(ちなみに、彼女のぶつけようのない怒りはすべてフレンダが甘んじて受けていた)。

ちなみに、朝方以来の浜面と麦野のまともな会話である。



「ん、どうかしたか?」


「いや、別に・・」



浜面は、麦野が右足首を擦っているのを目にした。

昨日、痛めた箇所がまた少し気になり始めたらしい。

あれだけ子供たちに振り回されまくったのだから、無理もない話だが。
882 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:39:14.94 ID:u3.MPCA0


「おいおい、あれだけ気をつけとけって言っただろ」


「あの子たちが元気過ぎるのがいけないのよ・・」



小さく溜め息をついた後、鉄棒から降り、愚痴る麦野の元へ駆け寄る。

しゃがみ込み、なるべく響かせないように患部に手を触れた。

湿布の上からでは状態が良く分からないためか、顔をしかめる浜面。



「湿布、剥がすけど良いか?」


「うん」



すっかり冷たさがなくなっている湿布をゆっくりと剥がす。

朝に貼り替えたものなので、今はもう独特の匂いはしなかった。

少しベタついたままの患部を少し指で押してみる。
883 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:40:54.72 ID:u3.MPCA0


「っ・・!」


「悪いっ、痛かったか?」



浜面が心配げに声をかけるも、麦野はケロリとした顔をしていた。



「うっそだにゃーん」


「・・この野郎」



ペロリと舌を出す麦野に対し、ピキピキと青筋を立てる浜面。

すべてが可愛いから許されるというのは甘い。

そろそろ、彼もキレて良いのではないだろうか。



「心配して損したぜ・・、うりゃ!」


「ぁ痛あっ!!」


「うおっ!?」



騙したお返しとばかりに浜面が麦野の右足首を強く握る。

その瞬間に、麦野が勢いよく飛び跳ねた。

お互いに素っ頓狂な悲鳴をあげてしまう二人。
884 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:41:51.49 ID:u3.MPCA0


「お、おい・・そんなに強く握ってないぞ・・、」


「っー・・」



歯を食いしばりながら、右足首を抑える麦野。

どうやら、本当に痛めているらしい。

あたふたしながら、浜面が謝るも、大丈夫、と麦野は一言。

腫れはないものの、やはりまだ痛みが残っていたようだ。



「見ただけじゃわかんねぇけど、やっぱりまだ痛むみたいだな・・、何処かで挫いたりしたのか?」


「わかんない、いつ痛めたのかも覚えてないし・・疲労蓄積で痛み再発〜とかそんなノリかしら」



うーん、と唸ったまま、立ち上がる。

剥がした湿布はくしゃくしゃに丸めてポケットに突っ込んでおいた。

少し思案したあと、浜面が静かに口を開く。



「・・ちょっと施設の医務室で湿布もらってくるから、ここで待ってろよ」


「あ、いや、別にそこまでしなくても良いわよ、もう帰るんだし・・」


「良いから・・とやかく言わずに待ってろって」
885 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:42:55.33 ID:u3.MPCA0


ぶっきら棒にそれだけ言い放つと、麦野の声かけも無視して足早に施設の中へ消えていく浜面。

彼が背を向ける直前の流し目に、麦野が少しだけドキッとしてしまったのは秘密だ。

まだ少し痛む足首を擦りつつ、地面に視線を落としながら、ポツリと呟く。



「・・ったくおせっかいなんだから、あのバカ」



とは言いつつも、自然と口元が緩んでしまったのが悔しい。

手持ち無沙汰になってしまったため、仕方なく施設の庭を見ると、子供の数はまばらになっているのが分かった。

切なげな夕焼けも手伝ってか、一日の終わりが近づいているようで少し感傷的な気分になってしまう。

夕日を背に一人ブランコを揺らす美女、という名画のような情景になっている。

そのとき、麦野の視界の隅にチラリと見えた少女が、ちょこちょこと駆け寄ってくるのが見えた。

例の少女だ。



「お姉ちゃん、怪我したの・・?」



心配そうな表情をしたまま、麦野の前に立つ少女。

麦野は少しびっくりしたような顔をするも、すぐにいつもの笑みを浮かべた。

少女の前ではどんなに辛くても弱音は吐かない、という意志の表れだ。
886 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:43:52.53 ID:u3.MPCA0


「ん、心配してくれてありがとね・・でも大したことないから。

 っていうかどうして知ってるのかしら?」


「今擦れ違った仕上お兄ちゃんが言ってたの。

 一人になってる沈利お姉ちゃんの話し相手になってやってくれ、って・・」


「そう・・」



麦野の隣のブランコに少女は腰を下ろした。

好きな人の気遣いは、どんなに小さいものでも嬉しいのだ。

麦野のように感性豊かな少女であれば、なおさらである。

そんな恋する乙女を横目に、少女が話し始めた。



「別にお兄ちゃんに言われたから来たわけじゃないよ、

 個人的にお姉ちゃんとお話がしたかっただけだから・・」


「話?」



照れくさそうに俯く少女を見て、少し背中がむず痒くなる麦野。

子供は好きと言い張る彼女だが、いざ子供と二人きりになるとイマイチどう接していいのか分からなくなる。

面倒見の良い滝壺と違って。

自分と滝壺を比べると、いつも自分が負ける結果になるため、首をブンブン振って忘れようとした。
887 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:46:39.43 ID:u3.MPCA0


「うん、昨日、助けてくれたときのこと、まだお礼言ってなかったと思うから・・」


「昨日のこと・・?」



少女を抱えたまま、逃走した黒髪を単身で追い続け、助け出したこと。

学園都市の暗部で生きているからか、人身売買人に売り払われたり、何も知らないで研究者に育てられた『置き去り』が、

明らかに人体に悪影響のある無理な実験の材料にされて、悲惨な末路を辿った例を何度か見たことがある。

加害者側は麦野たちが完膚なきまでに葬り去るが、被害者側は大抵手遅れなパターンが多い。

その度に、上層部の情報伝達の遅さ、自分の非力さに腹が立っている。

何にせよ、もし、麦野が間に合わなかったら、今頃少女はどんな目に遭わされていたか。

今考えただけでも背筋がゾッとする。



「あのとき、『ありがとう』って言ってくれたじゃない、

 それにお礼なんていらないって言ったでしょ、私」


「うん・・でも、ちゃんと言いたかったから」



何と今の世に珍しい、礼儀正しい女の子だろうと思わず感心してしまう。

「アイテム」の他の三人にも見習って欲しいくらいの謙虚さである。


実は、自分が一番傍若無人の限りを尽くしているということに麦野は気付いていない。

(その害のほぼ9割を浜面が被っているというのも何とも言えない事実である)
888 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:47:49.52 ID:u3.MPCA0


「お礼を言うなら私よりも他の奴に言いなさい。

 誰か一人でも欠けていたら、助けることはできなかったんだからね」



全員が力を合わせた上での少女救出だったということをリーダーである麦野は強調する。

最後は大砲である麦野が一掃するものの、任務の成功は仲間の積み重ねがあってこそだ。

滝壺が対象を補足、フレンダが撹乱し、絹旗が退路を塞ぎ、弱らせ、麦野が仕留める。

それが「アイテム」の常套手段、基本戦術だ。

時には、昨日の浜面のような下部組織、伏兵の活躍もある。

今までもそうやって、いくつもの任務をこなしてきた、どんな困難な任務も。

こう考えてみると、彼女たちは運命共同体のようなものなのかもしれない。



「そっか・・・ねぇ、独り言呟いて良い、お姉ちゃん?」


「うん?」



声のトーンを落とした少女の表情には、チラリと陰りが見えていた。
889 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:49:37.66 ID:u3.MPCA0


「私、家族の記憶がなくて・・、唯一居たお兄ちゃんもあんなだったし・・」


「・・・」



その一言だけで、少女の暗さが感染したように、麦野も顔を俯かせる。

さすがの彼女も、少女の家族のことだけはフォローのしようがなかった。

そもそも、親が居たのかどうかも定かではないし、あの黒髪が言っていたこともあてにならない。

むしろ、最初から妹を苦しめ、売りつけるような兄など居ない方が良かったくらいだ。



「(あんまり考えてなかったけど、この子、私たちに境遇が似てるのよね・・)」



少女の横顔を見つめたまま、心の中で呟く。

家族がおらず、小さいままで学園都市の裏に放り込まれた上に、高レベルの能力者。

しかも、その事柄のすべてが少女の意思を無視した流れだ。

彼女はたまたま、光の当たる場所に戻ってくることができたものの、

永遠に学園都市の表に戻ることができないまま、闇に骨を埋める子供たちは五万といる。

それはもちろん、麦野たちも含まれていることだが。
890 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:50:43.01 ID:u3.MPCA0


「ここの友達は皆優しくて、面白くて、好き。

 でも、何だか未だに心にポッカリと穴が空いたまま、それを埋めることができないの・・」



少女の見た目は十歳、下手をすればそれ以下。

妙に大人びてはいるが、それは周囲の環境のせいでそうならざるを得なかったのだろう。

彼女は親の、家族の温もりを知らない。

知っていたとしても、その記憶は無理な能力の植え付けにより消えてなくなってしまった。

普通の子供ならば、親に甘えていたい時期のはず。

それを考えただけで、麦野は思わず言葉を漏らした。



「分かるわよ、その気持ち・・」


「え・・」


「ん、何でもない」



前を見ると、少し遠くで絹旗が泥だらけになりながら、少年たちとサッカーボールで遊んでいた。

彼女も、子供たちも、良い笑顔で走り回っている。

いつも大人、大人だと強がっている絹旗が、麦野が見たことのないような楽しそうな顔でボールを追っている。

本来、子供という生き物はああいう顔をしているべきなのだ。

隣に座っている少女のような、底のない、果てのない、悲しげな表情は似合わない。
891 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:52:49.14 ID:u3.MPCA0


「ここの友達がみんな、私と一緒で家族が居ない子供のは分かってる・・けど、

 ・・それでも、みんな一緒なんだとか変な仲間意識があるからとか、そういう理屈じゃこの気持ちが収まらない・・」



無機質的に話しながらも、徐々に自らの心を沈ませていく少女。

下を向いたままの彼女は一言だけ、付け加える。



「どうしたら、良いのかな、私・・」



その悲痛な、たった一言だけが心に突き刺さった。

麦野は思う、少女にこんな暗い顔をさせたままではいけない、

彼女を助けることができても、彼女の気持ちを変えてやらなければ何の意味もない、と。

それは分かっていたが、どうしても言葉が続かなかった。

レベル5の能力を演算する頭脳をもってしても、かける言葉が見つからない。

何か一言でも良いからと何気なき開いた口から、何も出てこないのだ。



「・・・・」



時間だけがゆっくりと過ぎていき、気まずい空気が膨らんでいく。

地面に目を向けると、夕日を背にして映った自分の影がゆっくりと、確実に伸びていく。

しかし、それを見ていても、当然ながら、何も思いつかない。

そのとき、不意に下を向いたままの麦野の視界に入ってきたものがあった。
892 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:54:12.01 ID:u3.MPCA0


「・・じゃ、今日から俺たちが家族ってのはどうだ?」



聞きなれた声。

ハッとしたように麦野が顔を上げると、すぐ目の前に湿布を持った浜面が立っていた。

ポカンと小さく口を開けたままの麦野、少女も似たような反応だった。

二人のリアクションが薄かったせいか、見る見るうちに顔を赤くさせた浜面は逃げるように横を向いて呟く。



「・・やっぱ、今のナシ、臭かった」



浜面は頭を掻きながら、麦野の元へ歩み寄った。

しゃがみ込み、彼女の足を優しく持ち上げると、手際よく患部に湿布を貼る。

その間も、恥じらいからなのか、ずっと口元をもごもごさせていた。



「家族・・」



水面に指先を軽く触れ、広がった波紋のように、ポツリと呟いた少女の言葉が麦野と浜面の耳に届いた。

不思議そうに少女を見やる浜面、麦野も同様にして視線を向ける。
893 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:55:40.58 ID:u3.MPCA0


「お兄ちゃんたちが、私の家族になってくれる・・?」



固まったままの少女が、ようやく二人に顔を向けた。

その表情は、ついさっきまでとは違い、少し朗らかになっている。

麦野がブランコから腰を上げるよりも早く、浜面が少女に歩み寄った。



「ああ、当たり前だろ、やっと素直で良い子が家族になってくれるんだ、こんなに嬉しいことはないぜ」


「・・ほんと?」



わしゃわしゃと少女の頭を撫でてやる浜面。

爆発しそうな嬉しさを抑えつつ、この日一番の笑顔を見せる少女。

傍から見ると、本当に仲の良い兄妹のようにも見える。

自分も何か言葉をかけようとしたが、何となく二人を見ていたかったのか、頬に手を当てながら、柔らかく微笑する麦野。



「『やっと』素直で良い子が・・ってどういう意味かなー、浜面?」


「あ、いや、ちょっと待ってくれ麦野、今のは言葉の綾って奴で・・!」



右足首の痛みも忘れ、麦野が勢い良く飛びかかる。

引っかかれ、ひっぱたかれ、ぶん殴られる浜面は芋虫のように縮こまってしまっていた。

浜面と麦野の喧嘩はもう日常茶飯事なので、少女もすっかり慣れており、二人のやり取りを見ながら、口に手を当てて笑っている。
894 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/24(土) 23:57:35.71 ID:u3.MPCA0


「ば、馬鹿麦野っ、ヒールはダメだ、ヒールは笑えねぇよぉぉぉぉぉっ!!??」


「問答無用だっつーの、このロリコン野郎ッ!!」



うぎゃああああああああ、と悲しげな断末魔の叫びが響き渡る「あすなろ園」の庭。

いち早く反応したのは、もちろん、それ(浜面の声、というよりも浜面の悲鳴)を聞き慣れている「アイテム」の面々。



「何をまた大人気ない大喧嘩してるんですか・・二人は」



まず、いち早く絹旗が何やら騒ぐ三人の元へ来ていた。

彼女の可愛らしい服が見るも無残に泥だらけになっていたが、彼女自身はすっきりしたような表情だ。

久しぶりに良い運動をしたらしく、キラリと光る汗が健康的である。

その後ろから、何やら叫びながらフレンダと滝壺も歩いてきていた。



「おーい、こっちも終わったよー!」


「何やってるの、はまづら?」



彼女たちは、一昨日、昨日と仮入所扱いだった少女を正式に施設に入れるための手続きを施設側と話し合っていたらしい。

二人の顔を見るからに、どうやら少女の入所が認められたようだ。

それを見た麦野は、浜面に向けていた鬼のような形相を、ホッとした表情に変えていた。

その拳は浜面に打ち続けたままだったが。
895 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/25(日) 00:00:41.32 ID:7K9dfvc0


「それにしても、本当に仕上お兄ちゃんと沈利お姉ちゃんは仲が良いよね」



ニコニコしながら、少女が言う。

拳を振り上げたまま、ピタリと動きを止める麦野。



「そ、そうかしら・・?」


「うん・・でも、仕上お兄ちゃんはフレンダお姉ちゃんと付き合ってるんでしょ?」



「「「・・・・・。」」」



和やかな夕暮れの庭に、殺伐とした雰囲気が舞い降りた。

なぜなら、少女を除く全員にとって初耳の珍情報だからである。



「ど、どういう・・ことですか?」



そう呟いた絹旗がダラダラと漫画のような汗を垂らす。

当事者と思われる浜面とフレンダも同様に汗だくになっており、

頭の上には無数の「?」マークが浮かんでいた、というか増え続けていた。



「はーまづらぁ・・、いつの間にフレンダに手を出してたのかにゃーん?」



ゴゴゴゴゴゴ、という擬音が彼女の背後で轟き、さらに燃え盛る業火が見えた。

二人は似たような振る舞いをしたまま、慌てて、弁解に走り始める。
896 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/25(日) 00:02:54.88 ID:7K9dfvc0


「そ、そんなわけねぇだろうがっ、嘘に決まってる!!」


「わ、私も浜面と同意見だってっ、結局、私がこんな奴と付き合う訳ないし、私は麦野一筋だよっ!?」



「この子がわざわざそんな嘘つくわけないでしょう・・、

 あー、もう面倒だから・・二人揃って私の前に首を差し出しなさい・・!」



今度は浜面とフレンダの悲鳴(後者は嬉しい悲鳴)が轟く。

少女は言葉を続けていたが、麦野たちの耳には届いていないようで。

話を最後まで聞こうとしないのは、日本人の悪い癖である。



「お昼に友達から聞いた話だったんだけど・・」


「あきらめよう、はまづらたちには聞こえてないみたい」



目をパチクリさせる少女の肩に優しく手を置く滝壺。

その手はなぜかふるふると震えていた。

ちなみに、この日の夜、フレンダが何者かによって全裸にされて、

隠れ家のトイレに頭から突っ込まれていたのは「アイテム」の中で都市伝説の一つとして語り継がれることになる。


そのとき、麦野の携帯がピリリリリー、と鳴った。

と、同時に暴れる彼女のポケットからポーンと飛び出たそれは絹旗の足元にポトリと落ちた。

やれやれ、と仕方なくそれを拾い、電話に出る「アイテム」内で唯一の常識人・絹旗。
897 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/25(日) 00:06:38.30 ID:7K9dfvc0


「ああ、はい・・はい、分かりました、急行します」



携帯を閉じ、土煙を上げながらドタバタ劇を繰り広げる三人に向かって、大声で叫ぶ。

下手に口を挟むと火花がこちらまで飛んできそうで少し躊躇ったが。



「麦野ー、『上』から依頼が入りましたよー!」


「ん、あら、そうなの?」



今度こそしっかりと機能停止した麦野の両腕には、

それぞれにぐったりとした浜面と何故か至福の笑みを浮かべているフレンダ。

一方で少女の顔が少しだけぎこちなくなっていた、別れの時間が唐突に訪れたためか。



「じゃ・・、元気でね」



ポン、と頭にその手を乗せた滝壺の胸に少女が勢い良く飛び込んだ。

世界で一番姉妹らしく見える二人は、今生の別れが訪れたかのようで。

涙が流すとまではいかないが、二人は目を閉じたまま、しっかりと、強く抱き合う。
898 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/25(日) 00:07:27.57 ID:7K9dfvc0


「今度、私の行きつけの健康ランドに連れて行きますね」


「次に会ったときは、私のオススメの鯖缶をフルセットにして送りつけてあげるんだからっ!」


「別に二度と会えなくなるわけじゃないんだから・・そんな大袈裟な」



口々に別れの言葉を告げる絹旗たち。

その度にうんうんと頷く少女はどこか寂しげだが、それを必死に表情の裏に隠しているようで。

それを見た麦野は少女の成長を目にしたようで、少しだけ目を細めた。



「・・じゃ、また会いに来るからな」


「うん・・」



浜面が少女の前にしゃがみ込み、視線を合わせた。

少女は少し頷いたあと、一つのお願いをする、何故か照れたような表情のまま。



「お兄ちゃん、目を瞑ってくれる・・?」


「ん、ああ・・?」



少女の意図が分からず、浜面は素直に目を閉じる。
899 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/25(日) 00:09:21.11 ID:7K9dfvc0


「あっ・・!」



麦野らしき声が一瞬だけ聞こえたと思えば、浜面はその頬に柔らかな何かを感じた。

その感触は何となく覚えがあるような、ないような。

それは、少女のファーストキスだった。



「お兄ちゃん、お姉ちゃんたちを守ってあげてね・・?」


「・・お、おう」



約束だよ、と口元に指を当てる少女。

子供が相手とはいえ、思わぬ不意打ちに浜面は呆然とただ一言、言葉を返すだけになってしまった。

そのやり取りを見ていた他四人はそれぞれにそれぞれの表情を浮かべていた。

ヒュー、と口笛を吹いたフレンダの横で、麦野が歯を食いしばっている。



「麦野、相手は子供なんですから・・ムキにならないでくださいね」


「わ、分かってる・・わよ」



絹旗の視野には麦野の両拳がふるふると震えているのが入っていた。

彼女もまた、少女と同じくぶつけようのない感情を押し殺しているようだ。
900 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/25(日) 00:11:00.18 ID:7K9dfvc0


「じゃ、元気でね・・」


「うん、お姉ちゃんたちも」



最後の挨拶は、意外にもさっぱりしたものだった。

なぜなら、また会えるから。

むしろ、しっかりと挨拶をしてしまうと二度と会えなくなってしまう気がした。

少女は一人、庭の真ん中で麦野たちに向かって手を振っている。

彼女が一人で笑っているというのは、独り立ちの証のようだった。

少女は麦野たちの背中が見えなくなるまで、その手を振り続ける、笑顔を浮かべたまま。

これから先、少女がその顔を曇らせることはない。



彼女には、強く、頼もしく、とびっきりに優しい家族ができたから。





901 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/25(日) 00:13:07.46 ID:7K9dfvc0


―――――



「あんなにあっさり風味のお別れで良かったんですか、滝壺さん」


「うん、あれ以上のことをしちゃうと泣いちゃうから、私・・」



移り行く窓の外の風景に目を走らせながら、滝壺が呟いた。

それもそうですね、と隣の絹旗は背中を座席に預ける。



「さってと、じゃ、さっさと戻るとしますか・・、元の場所に」



麦野が一人、呟いた。

元の場所というのは、学園都市の奥深く、混沌とした闇の中。

そこが、彼女たちが本来居るべき場所だからだ。



「次はいつ、あの子に会えるかな・・」


「十分、日の目は見ましたからね、そろそろ日陰に戻っても良い頃でしょう」


「結局、丁度良い骨休めになった訳よ」
902 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/25(日) 00:15:08.38 ID:7K9dfvc0


後部座席に仲良く並んで座る滝壺たちが口々に呟く。

任務を終えた彼女たちがこれほどまでに爽やかな顔をしているのも初めてかもしれない。

その理由は言うまでもないだろう。



「・・さてと、指定された時刻まで時間がない、飛ばすぜ、掴まってろよっ!」



威勢よく叫んだ浜面がアクセルペダルを強く踏みつけた。

けたたましいエンジン音と共に、ワゴンはどんどんスピードを上げていく。

ふと、麦野が窓を開け、遠くでその身体をゆっくりと沈ませていく夕焼けを目に入れる。

そして、心地よい風を受けながら、不適に笑った。



「・・次、あの子に会うまでに死んでなんかいられないんだからね」



自分を、他の四人を鼓舞するように、ポツリと呟く。

彼女たちが戦う理由が、また一つ、増えた日のことだった。





・おわり・

903 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 00:17:20.66 ID:Q12bWcQo
乙カレー
904 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 00:21:48.01 ID:B6jozuwo
面白かった!
905 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 00:22:21.89 ID:3eZxZcDO
うわあぁあぁぁああん
おつうううううううううう
906 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 00:22:34.78 ID:ZXLBrfYo
乙!
907 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 00:23:04.37 ID:mVYQ4xko
良い終わりかただな
乙です
908 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 00:23:04.38 ID:Q7QBWt.0
超乙でした!
このSSが始まったのが2月24日
ちょうど二ヶ月で完結か…
寂しい気もするが、長いことご苦労さんでした〜
909 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 00:24:21.83 ID:0UbVrhg0
超超超…良い足りないくらい乙!
このスレのアイテム+浜面は最高だな!
終わるのがとても寂しいな…
910 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/25(日) 00:38:19.44 ID:7K9dfvc0

とりあえず、二作目が終わりました。

またえらく長引きましたが、目を通していただいて感謝です。

余談、少女の名前をどうしようかと思ったのですが、敢えて伏せておいた方が良かったかな、と。


>>257にもあるように、まだ飽きが来てないので、

ゴールデンウィーク辺りに新しいのを始めようかと考えています。

ちなみに明日の同じ時間辺りには今日投下するはずだったオマケを。

では、おやすみなさい。
911 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 00:53:57.20 ID:y57VU2DO
乙すぎて乙るのが辛い…

新しいの、だと?
…胸熱だな
912 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 00:54:14.61 ID:JDg0gL.0
乙です

オマケにも期待

あとこのスレなくなりそうだし、次のシリーズから新しいスレたてた方がいいかもね
913 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 00:58:12.95 ID:HQZ8zKEo
乙スレは残した方がいいのか?
914 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 01:11:54.87 ID:AaGxAHko
俺の楽しみが一つ減ってしまった
乙!
915 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 01:35:17.93 ID:PKWpNzko
超乙乙
新作に期待してます
916 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 02:28:38.73 ID:2KhpV/Io
超乙です
最高でした。
917 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 02:50:05.19 ID:75p4SKYo
918 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 03:07:17.34 ID:G9eIJ2Qo


超乙

終わってしまったと思うとなんだか泣けてくるが、次回作があるということに救われるぜ
次も楽しませてもらいますぜ!!
919 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/25(日) 10:01:01.69 ID:VY/TLsAO
乙のん!
次回も期待してるぜ
920 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/25(日) 10:40:56.91 ID:0DewlUDO
乙! おまけに期待
921 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/25(日) 10:59:12.37 ID:xJMsNu.o
超乙です
922 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/25(日) 13:04:55.96 ID:cZeuNYDO

そしてありがとう

>>1次回作期待!
923 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/25(日) 13:23:45.74 ID:awVYalEo
>>1超乙!
次回作に期待大
924 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch :2010/04/25(日) 17:06:27.04 ID:VXoopI.0
乙だな
925 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch :2010/04/25(日) 19:15:06.39 ID:M6FVWew0
>>1

ゴールデンウィークに期待
926 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/25(日) 19:45:40.42 ID:nRkOs1Yo
乙でした。正直このSSがすごく楽しみで仕方なかった。
次回作も超期待してます!
927 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/25(日) 20:17:52.50 ID:54koqFAo
乙!
むぎのんカワユスなぁ・・・・
928 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch :2010/04/25(日) 21:22:44.81 ID:.o4e5KE0

次スレちゃんと見つけられるかな…
929 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 21:28:13.86 ID:Q7QBWt.0
>>928
大丈夫だと思うが
もしわからなくても禁書総合スレとかで聞けば、誰か知ってるだろwwww
930 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch :2010/04/25(日) 22:00:41.56 ID:JbTgL/o0
見る方としては、今までと同じタイトルで新スレ立ててくれると助かるな。
931 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:19:59.70 ID:7K9dfvc0

おばんです。

今回はおまけ、箸休め回ですね。


恐らく、終わったくらいに丁度良くスレも消費できていると思います。

では、投下します。
932 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 22:20:42.78 ID:Q7QBWt.0
wktk
933 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:21:56.29 ID:7K9dfvc0

☆おまけ




「らん、らんらら、らんらんらん♪」



燦々と輝く太陽は沈み、学園都市が徐々に漆黒に包まれ始めていたそんな頃、

暗部組織「アイテム」の構成員、フレンダはいつもの第七学区にある隠れ家に向かっていた。

その日は『上』からの任務依頼もなく、「アイテム」の全員の自由行動が許されていたため、

リーダーである麦野は起床した外出し、早々に行方知らずになり、

行きつけの映画館で懐かしのB級映画の数々をぶっ続けノーカット上映があるらしく、

絹旗は朝の八時には家を出ており、帰るのは夕飯時だという。

インドア派に見える滝壺は春風のようにふらりと居なくなり、

根無し草の浜面はスキルアウトの元同僚たちと遊びに行ってしまっている。

フレンダも一人で毎月恒例のサバ缶巡りショッピングを満喫していたのだが、

ある人物からの呼び出しにより、急遽、隠れ家に戻ることになっていた。



「ふん、ふん、ふーん♪」



道行く帰宅途中の学生たちはルンルン気分の妙ちくりんな外国人を不思議そうな目で見ていた。

そんなことは気にもせず、上機嫌に口ずさまれるポップな鼻歌に合わせて、足取りはどんどん軽くなっていく。

せっかくのオフの日に呼び出されたというのに、彼女のテンションはやけに高かった。

それがなぜなのかはすぐに分かること、サバ缶に熱中する彼女を呼び出せる人物など一人しか居ない。
934 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:23:52.43 ID:7K9dfvc0


「むぎのっ、ムギノっ、麦野からの呼び出し〜♪」



宇宙で一番愛する女性からの呼び出しに彼女が応じないワケがないのだ。

例え、目の前に何百年前の埋蔵金があろうとも、レベル5になれる特効薬があろうとも、

そのすぐ隣にセクシーポーズの麦野が居れば、迷わず、彼女はそれに飛びつくだろう。

麦野は彼女のすべてであり、いつしか、彼女が生きる意味にまで昇華していた。



「もうすぐだよー、麦野っー!」



両拳を天に突き上げながら、ご近所迷惑なレベルの声量で叫ぶフレンダ。

彼女が居た缶詰市場から「アイテム」の隠れ家まで、最低でも徒歩20分の距離があったのだが、

彼女のバレリーナみたいな大股なステップの前には10分程度の時間消費しか許されなかった。

学生で溢れかえる第七学区の中でも、珍しく人通りが少ない端の地域へ入ると、

やがて、灰色の煤けた小さなマンションが見える、その五階の一室が「アイテム」の隠れ家だ。



「着いったー!」



溢れ出る恋人への想いの前では、げんなりする五階までの階段など、何の障害にもならない。

少しだけ見栄を張った高いヒールをカン、カンと鳴らし、リズム良く駆け上がる。

同じマンションの人たちにはこれまた迷惑な騒音だが、今日ばかりは許してやってほしい。

彼女にとって、今日が特別な日になるかもしれないからだ。
935 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:25:24.89 ID:7K9dfvc0


「ふぅ・・」



麦野からの呼び出し電話からわずか10分少しという驚異的な時間で、待ち合わせの部屋の前に到着。

いつも何気なく開け閉めするドアが、なぜか自分を歓迎しているような錯覚に陥るほど、彼女のボルテージは最高潮。

ただ呼び出されたくらいで、何をそこまで興奮するのかと思う人も居るだろう。

しかし、そんな疑問は彼女の前では些細なことだ。



「(確か、部屋に入る前にピンポンして声をかけて、って麦野は言ってたよね・・)」



麦野がどうしてそんなことを言ったのか分からなかったが、それをフレンダが疑うことはない。

彼女のやることなすこと、すべてが正義(可愛いは正義の理論)、この世の理なのだ。

緩みきった顔のまま、右の人差し指をクルクル回し、ゆっくりと沈めるようにインターホンを押す。


ピンポーン



「・・はーい」



数秒後、中から聞こえてきたのは、何度聞いても飽きることはないであろう少女の声。

胸ときめかせ、気持ち弾ませる、恋するフレンダは元気良くそれに応える。
936 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:26:51.13 ID:7K9dfvc0


「麦野っ、来たよー、入って良いー?」



彼女の左手には鯖缶巡りの途中で手に入れた、激レアの鮭弁缶詰を入れたビニール袋。

普段は缶詰を煙たがる麦野でも、これをプレゼントすれば少しは見直してくれるだろう、と。

あわよくば、彼女も缶詰の虜にしてやりたい、同じ喜びを分かち合いたい、というフレンダの謀略だ。



「ええ、良いわよ、入って」


「ぉっけー♪」



ガチャリとドアノブを回し、足を踏み入れた。

一歩踏み出すたびに愛しの彼女に近づけると思うと、その足取りも自然と早くなる。

玄関には、自分のものより少しだけサイズの大きい、一対の赤いハイヒールが置かれていた。

ただの靴にもかかわらず、これほどまでに上品さを感じるのは何故だろう。



「(・・うん、結局、それはきっと履いている人が可愛いからだっ)」



それが誰のものなのかなど、朝飯前どころか、瞬きをするよりも簡単に分かる。

ブランド、サイズ、履き心地から匂いまで、フレンダの頭の中の麦野フォルダにインプットしてあるからだ。

お行儀良く置かれていた麦野のハイヒールの横に、自分の空色のヒールを並べる。

ちなみに、フレンダのヒールは、高さは違うが、麦野のヒールと色違いのお揃いだ。

任務のときには汚れてしまうため、絶対にそれを履いていくことはないが、

例え、任務のときに履いていたとして、どんな過酷な任務の最中でも彼女はそれを汚すことはないだろう。

自分にとっての大事な宝物、そして、他者に対するアドバンテージだからだ。
937 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch :2010/04/25(日) 22:28:06.50 ID:0nMEqJ.0
キター
938 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:28:11.40 ID:7K9dfvc0


「・・?」



麦野のヒールにピッタリとくっつくように自分のを置き、ふと彼女が視線を上げると、ある異変に気付く。

隠れ家には、大きさが天井付近から床まである窓ガラスがあるのだが、

それを覆うカーテンがすべて締め切られており、部屋がほぼ真っ暗なのだ。

部屋の中心付近には、唯一小さな明かりが灯っており、それが怪しく揺れているのが見える。

おまけに、普段は足の踏み場もないくらいのゴミが散らかっているのがこの部屋の日常風景なのだが、

今は塵一つなく、暗闇でも分かるほどピカピカの床が目の前に広がっていた。



「む、麦野ー・・、麦野が気に入ってくれそうな缶詰買ってきたんだけど・・?」



非常にゆっくりとした、忍者のような足取りで、恐る恐る部屋の中心へ向かう。

さっきまで生き生きとしていたフレンダのハートは、すっかり冷めてしまっていた。

そのとき、不意に声が聞こえたため、視線を向ける。
939 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:29:13.93 ID:7K9dfvc0


「おかえり、フレンダ」


「むぎ、の・・?」



探すまでもなく、フレンダの想い人は部屋のソファに足を組んで座っていた。

しかし、その姿を目に入れた瞬間、冷え切った彼女の心臓は息を吹き返したかのように鼓動を始め、

手に持っていた缶詰の袋は、その場に大きな音を立てて落ちる。

なぜなら、



「む、麦野・・どうしたの、その格好・・?」


「ん、どうかしら・・?」



フレンダが思わず驚嘆の声を漏らしたのも無理はなかった。

麦野の格好はほぼ全裸に近いと言っても過言ではなく、

そのスタイルの良い身体を、透明同然の、白く可愛らしい花柄のネグリジェで覆っており、

その奥には色気のある黒のブラジャーと同じく黒のパンティが丸見えになっていた。

部屋の真ん中のテーブルの上に置かれている蝋燭型のライトが、

メリハリのある彼女の身体に影を作り、美しさを際立たせている。

若い女の子に人気の雑誌で見るようなモデル体型、完璧なプロポーション。

自分よりも身長が高いせいもあるが、年齢差以上に彼女が大人びて見えた。
940 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:30:01.06 ID:7K9dfvc0


「え、な、なんで、麦野っ、どうして・・そんな、カッコ・・?」


「だって、フレンダが喜ぶと思ったから・・朝早くに出て買いに行ってたのよ、これ」



ゴクリ、とフレンダが喉を鳴らす。

そういえば、麦野は朝から何処に行くとも言わず、消えていた。

まさか、自分のために下着を買いに行っていたとは思いもしなかった。

これは夢か現か幻か。

スラリと長い手足、その手で包まれたらどれだけ癒されるのか、その足を絡まされたらどれだけ幸せになれるのか。

やましい考えが、脳裏をよぎっては消え、現れては霧散する。

彼女のスリーサイズを完璧に把握しているフレンダでも、その美貌を生で見ると、やはり、生唾を飲み込むほどだ。



「(抱きたい、麦野、私のため、下着、朝から、エロい、麦野、嗅ぎたい、麦野、ネグリジェ、触れたい、エロい、麦野・・)」



台風の暴風域のように、ぐるぐると言葉が頭の中を駆け巡っていく。

完全に回線不良を起こしたフレンダの頭はショート寸前で、

その影響からか足がフラついてしまい、その場に前のめりになってしまう。
941 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:31:07.83 ID:7K9dfvc0


「う、うにゃぁっ・・!」


「フレンダっ」



あと少しで床におでこを打ち付けてしまうというところで麦野が止めに入った。

その右腕でしっかりとフレンダの身体を支えてやり、左手を彼女の肩に回し、そのままゆっくりと自分の胸元に寄せてやる。



「ごめんね、フレンダ・・びっくりしたわよね」



いつもとは明らかに違う、麦野の優しい声がフレンダの鼓膜に緩やかに届く。

それは露骨な猫撫で声でも、演技の入ったものでもない、彼女の真の言葉。

少なくとも、既にほろ酔い状態のフレンダにはそう聞こえた。



「私ね、やっと気付いたのよ、貴方が私のことをどれだけ愛してくれていたのかを・・」


「麦野・・」



豊満なバストがフレンダの眼前に目一杯に広がる。

自分の持っているものとは何カップの差があるのだろう、とどうでも良いことを考えてしまう。

貪りつきたい気持ちを抑え、歯を食いしばったまま、視線を少し上にあげる。

麦野かと思ったら、天使だった・・、いや、逆だ。
942 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:33:47.88 ID:7K9dfvc0


「(ようやく・・私のこれまでの努力が報われようとしている訳ね・・)」



自分の人生のすべてを賭けて、麦野に尽くしてきたつもりだった。

彼女がお菓子作りを手伝って欲しいと頼んでくれば快諾し、

彼女が月夜の下で一人泣き崩れれば、必死に説得し、慰めた末に、彼女のためにその身を引いた。

カバみたいに鈍感な、麦野を悲しませる浜面を殺してやりたいくらいの衝動に駆られたこともあったが、

彼を恋い慕う麦野の手前、手を出そうとはしなかった。

何よりも自分の手で麦野の目に涙を浮かべさせるわけにはいかないからだ。

だが、ついにそんな血も滲むような彼女のご奉仕に麦野が振り向いてくれるときが訪れた。

レズビアン冥利に尽きるとはこのことか。



「麦野・・」



間の抜けたことに、さっきから麦野の名前しか呟いていないような気がした。

日頃、猛アタックをかけている割に、いざ、詰め寄られると縮こまってしまう。

フレンダも何だかんだ経験の浅い、純情な乙女なのだ。
943 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:34:36.20 ID:7K9dfvc0


「フレンダ、こっち・・」


「う、うあ・・?」



膝裏に右腕を差し入れられ、背中に左手を添えられ、その身体を再び胸元に引き寄せられる。

わけがわからないまま、お姫様だっこされてしまうフレンダ。

その拍子にフレンダのチャームポイントである頭の藍色の制帽がポトリと落ちてしまうが、気にしない。

麦野の表情はいつもと違う凛々しさを含んでおり、フレンダの中の乙女心がキュンと鳴る。

やがて、隠れ家に唯一ある大きな茶色のソファにゆっくりと下ろされた。



「む、麦野・・何するの?」



ソファに寝かされたフレンダは、小さく息を荒げながら、目の前に立つ麦野を見やる。

ベタな表現だが、ドキドキが止まらない、今の彼女はまさにその状態だった。

右手を自分の胸に宛がうと、自分の心臓が暴れまくっているのを再確認する。

ライトを背にした麦野の表情は分からなかったが、口が開き始めるのが見えた。
944 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:35:14.63 ID:7K9dfvc0


「愛の契り、かな」


「・・あ、あいの、ちぎりっ」



ボフンッ!と火山が噴火したように、フレンダの頭が爆発し、

その心は、何か大きな槍のようなもので穿たれたような感覚に陥る。

しかし、痛みは感じず、ただただ快感と緊張で満たされていたのが不思議で仕方なかった。



「そ、そんな・・ダメだよ、麦野、いきなりそんなっ・・!

 浜面たちが帰ってきちゃったらどうするのさ・・」



あくまで「アイテム」の自由行動は今日一日のはずだ。

今はまだ外はほんの少しだけ明るいが、夜になれば、間違いなく浜面たちが帰ってくる。

現在、七時ちょうど。

腹を空かせた彼らと鉢合わせになる可能性は限りなく100%に近い。

フレンダは、麦野が好きなことをオープンにしてはいるが、この痴態を見られるのはさすがに恥じらいがあった。

しかし、そんな無用な心配は一蹴される。
945 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/25(日) 22:35:46.29 ID:54koqFAo
何があった・・・・・・
続き期待
946 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:35:54.37 ID:7K9dfvc0


「安心して、そこはもう手を打ってあるわよ、私の方から電話で全員にお願いしておいたから・・、

 今日はここに帰ってこないように・・他の隠れ家で泊まって、って」


「あ、あぅっ・・!?」



さすが、自分が世界でただ一人崇拝する女性、麦野沈利、本当に抜かりがない。

最初は自分が麦野を襲ってやろうと画策していたが、いつの間にか彼女に主導権を握られていることに気付いた。

退路を塞がれ、外堀が埋められ、フレンダの余裕はじわじわと削がれていく。

麦野を愛する想いが強ければ強いほど、それは強力な棘となり、彼女の心と身体をきつく締め上げていった。

理性と本能がせめぎあう中でも、麦野の身体はフレンダに迫っていく。



「(や、やっ・・、うあぁっ・・!」」



その滑らかな足を絡められると、自分が日頃、声高々に発している自慢の脚線美も歯がたたない。

その胸を押し当てられると、しゃぶりつくことさえ、愚かなことなのではないかと思ってしまう。

その指で触れられると、自分の身体の隅々まで触れて欲しい、撫でてほしいという欲望が生まれる。

そして、その瞳が近づいてくると、まるで石になってしまったかのように身体が硬直してしまう。
947 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:36:55.17 ID:7K9dfvc0


「(や、やっ・・、うあぁっ・・!」」



その滑らかな足を絡められると、自分が日頃、声高々に発している自慢の脚線美も歯がたたない。

その胸を押し当てられると、しゃぶりつくことさえ、愚かなことなのではないかと思ってしまう。

その指で触れられると、自分の身体の隅々まで触れて欲しい、撫でてほしいという欲望が生まれる。

そして、その瞳が近づいてくると、まるで石になってしまったかのように身体が硬直してしまう。



「(も、もうダメぇっ・・!)」



火照った頬の温度が上がっていく、何も考えることができない。

フレンダの身体も思考も、完全に麦野に支配されていた。

自分の髪の毛が麦野の指に絡め取られるたび、全身に鳥肌がたっていく。

あらゆる箇所から汗が滲み出ていくのが分かる、緊張から喉がからからに渇いているのが分かる、

自分の目の奥から、不思議に熱いものが込み上げてくるのも分かる。

数十秒後、ようやく、フレンダがその口を開いた。



「・・・お願い、麦野っ」



わずか数センチの距離。

この距離を今まで埋められなかった。

しかし、今は違う。

麦野の首にその腕を回し、その身を彼女の身体に溶かしていくように抱きつく。
948 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:38:09.96 ID:7K9dfvc0


「・・うん?」



姉のような、母のような、恋人のような優しい声。

落ちたのは、一粒の涙。

もう、いい加減に甘えても良かったのかもしれない。




「私を、抱いてっ・・!」




すべての理性のたがを取り払ったフレンダは、愛する人と繋がりたい一心にその目を静かに閉じた。






949 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:39:33.63 ID:7K9dfvc0


―――――



次に目を開けたとき、映ったのは染み一つない真っ白な天井だった。

何度、瞬きをしても、目の前の光景が変わることがない。



「あれ?」



自分が寝かされているのは大きな茶色のソファではなく、白いフカフカのベッド。

真っ暗な部屋ではなく、見慣れない、微かな薬品の匂いが漂う白い部屋。

あれだけ静かだった外はうってかわって雨が降っており、おまけに夜ではなく、昼だ。

そして、何よりも自分のすぐ目の前に居たはずのネグリジェ姿の麦野がなかった。

これがどういう状況なのか、一言で簡潔に表すと、



「・・・ゆ、夢?」



グラリとベッドからずり落ち、フレンダの頭が床に激突した。

ジーンと身体全体に広がる衝撃は、彼女を現実に引き戻す。

下半身はベッドの上に残っている、尺取虫のような格好のまま、腕を組んで考え始める。
950 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:40:27.63 ID:7K9dfvc0


「・・結局、どうりで都合が良いと思った訳よ、麦野がほぼ全裸でお出迎えしてくれるなんて。

 それなんてエロゲ?って感じだったし・・、でも信じちゃうじゃない、だって、女の子だもん・・」



口を開くたびに愚痴が出てきて嫌になる。

落胆と絶望と後悔と悲哀と、とにかくネガティブな言葉ばかりが纏わりついてきた。

これほどまでに、現実であってほしかったと思った夢を見たのは初めてだ。



「よいしょ、えーと・・ここはドコ、私はフレンダ、好きな人は麦野、よしっ!」



ようやく沸騰していた頭が冷えてきた、のそりと立ち上がるフレンダ。

ここは児童擁護施設「あすなろ園」の医務室。

子供たちとのサッカー中にボールが顔面に直撃し、絹旗におぶられて医務室に運ばれる最中、

余計なことを言ったせいで彼女にプロレス技をかけられて、意識を失っていた、と記憶が一致。

分かりやすく説明すると、浜面たちが少女の拉致に気付いて、黒髪たちを追い始めたとき辺りのことである。



「まさか、麦野たち帰ってないよね・・、とりあえずここから出よう」



少し寝すぎたためか、時計を見ると大分時間が経ってしまっていた。

ズキズキ痛む脳天を抑えながら、枕元に置いてあった制帽を被せる。
951 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:41:18.73 ID:7K9dfvc0

そのとき、妙な、鉄の匂いが鼻腔に広がった。



「ああ、そういえば鼻血出してたんだっけ・・」



絹旗の強力なボレーシュートが顔面に当たってしまったのが、そもそもの始まりだったことを思い出す。

窓際の棚に置いてあったティッシュ箱から一枚取り、ちーんと鼻をかんだ。

微妙に血混じりの鼻水にげんなりするものの、所詮は鼻血、楽観視して、医務室から外へ出る。

念のため、拝借しておいたティッシュを二、三枚、ポケットに突っ込んでおく。

通路を歩いていても、窓から見える、外の豪雨の凄さがよく分かった。



「うへぇ・・すっごい雨だなぁ、麦野、びしょ濡れになってて、透けブラ〜・・なんてっ、うあ゛?」



透けブラの想像と夢で見た麦野の黒ブラが重なって、再び鼻血が垂れてくる。

あのたわわな胸にありつけるのはいつのことになるのだろう、と破廉恥なことを考えながら、また鼻をかむ。

子供たちが遊んでいる棟と、先生方の事務室などがある棟を繋ぐ外通路をてくてくと歩いていった。

ピシャピシャと雨粒が風とともに吹き込んでくるため、少し肌寒さを感じる。

制服スカートを履いていた彼女は、より敏感に寒さを感じてしまうだろう。
952 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:42:25.50 ID:7K9dfvc0

そんなとき、向かい側から女の先生が歩いてくるのが見えた。



「あら、貴方は・・」



三十代半ばくらいに見える例の先生は、口に手を当て、何やら驚いたような表情を浮かべていた。

それが何を示しているのか分からないフレンダは、首を傾げながらも問う。



「あ、どうも・・麦野たち、何処に居るか知ってます?」


「えっと、あの子たちなら、ちょっと前に施設から出て行ったわよ・・、

 理由はよく分からないけど、あの女の子に何かあったんじゃないかしら?」


「え・・?」


「あら、もしかして、知らなかったの?」



――――置いていかれた。

頭の中に浮かんだのは、その一文だった。



「あ、ああ・・そういえばさっきメールが来てたんでした、あははっ!」



おもむろに出した携帯を先生に見せたまま、明るく笑うフレンダ。

その頬に冷や汗を一筋垂らしながら。

もちろん、メールが来ていたというのは、咄嗟に考えた浅はかな嘘。
953 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:43:17.37 ID:7K9dfvc0


「そう・・一人で帰れるの、傘はある?」


「あ、はい、大丈夫です、お気になさらず・・」



慣れない敬語を使い、引きつった笑みのまま、先生と擦れ違い、足早に走り去っていく。

もちろん、傘なんて持っているはずがない。

とにかく、今は誰にも同情をかけてほしくなかった、それだけ。



「(・・何があったのかは分からないけど大丈夫、すぐに戻ってくるはず、だよね)」



急に激しく動いたからか、呼吸が酷く乱れる。

それは走ったからだけではないだろう。

辿り着いた昇降口に立ったまま、止むことのない雨を見続けていた。



「ここで待ってようかな・・」



一人で子供たちの居る場所へ戻るのも、物寂しい。

そんな彼女に追い討ちをかけるような、激しい雨の音が耳にやかましく響いてくる。

そのとき、後ろから小さな足音が聞こえてきた。
954 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:44:20.83 ID:7K9dfvc0


「あれ、金髪のお姉ちゃん、何やってんの・・?」


「・・ん?」



振り返ると、一緒にサッカーで遊んだ一人の女の子が立っていた。

綺麗に茶に染まったロングヘアの彼女は、少し麦野に似ている。

こんなところに一人で居るということはトイレにでも向かう途中だったのかもしれない。



「えっと・・麦野たちを待ってるんだ」


「沈利お姉ちゃんたちを・・、もしかして沈利お姉ちゃんたちが何処に行ったのか知らないの?」



少女がキョトンと不思議そうな顔をする。

どうやら何らかの事情を知っているらしい。

珍しくまともに働いたフレンダの洞察眼がそれを察した。



「・・え、麦野たちが何処に行ったのか知ってるの?」


「あー・・えっと、うん、知ってるって言えば知ってる、かな」



返ってきたのは曖昧な答え。

口ごもる少女に対し、フレンダは身を乗り出して追及する。
955 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:46:53.25 ID:7K9dfvc0


「詳しく教えて・・私、置いていかれちゃったみたいなんだよね」


「うん、あのね・・」



少女が話してくれたこと、彼女が一人、サッカーを抜け出してトイレに行ったときの話だ。

浜面、麦野が女子トイレから出てきて、何やら深刻な表情で話をしていた。

おまけに、ぐったりした滝壺が浜面に背負われていたらしい。

三人の話を影に隠れて聞いていたところ、浜面たちが連れてきた女の子が何者かによって、

白昼堂々、施設の中に居たにも関わらず拉致されてしまい、麦野たちが犯人を追おうとしていたという。

それを聞いたとき、フレンダは信じられなかったが、作り話にしては妙に手が込んでいる。

信じざるを得なかった、自分が戦力として数えられず、ここに置いていかれたという事実も。

少女に悟られぬよう、フレンダの表情は明るいままたったが、少しだけ肩を落としているのが伺える。



「そう・・なんだ」


「うん、何か言っちゃいけないことだと思ったから、先生たちにも言わなかったんだけど・・。

 やっぱり、言った方が良いのかな・・?」


「いや、言わないでおいて・・お願いだから」


「・・そっか、分かった、言わないでおくね」
956 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:47:35.05 ID:7K9dfvc0


物分かりの良い子供で助かる。

ここで下手に騒動を起こすと、順調にいっていた黒髪少女の入所に支障をきたす可能性があったからだ。

何としても、この事件はフレンダたちが自力で解決しなければならない。

ポン、と少女の頭に手を置き、一言感謝して、彼女と別れる。

これで正真正銘、フレンダは一人になってしまっていた。



「・・私だけ、のけもの一人ぽっちか」



気付けば、激しく地を打ち付ける雨の中に足を踏み出していた。

すべてを洗い流してくれるはずの天の恵みが、意地悪にも、彼女の想いだけは流してくれない。

一瞬でズブ濡れになってしまった彼女は、気付くと施設の門の前に立っていた。

通りを見ると、止めてあったはずの黒のワゴンもなかった。

人通りが多いはずの前の道は、この豪雨のせいか、誰一人の姿も見えない。

当然、麦野たちの姿も。
957 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:48:06.05 ID:7K9dfvc0


「どうして、私を置いていっちゃったのかな・・」



門の前に、力なく座り込む。

水溜りがあったことに気付かず、下着に水が染み込んでいってしまう。

雨は依然として強く、そして、痛めつけるように彼女の身体を打っていた。

その雨が、ただでさえズブ濡れの彼女に染み込み、服を重くさせていく。

重くなっていくのはそれだけではない、彼女自身の気持ちも深く沈ませていった。



「そうだよね・・結局、私って頼りにならないもんね・・」



自分と能力者に絶対的な差があるのは分かっていた。

それでも「アイテム」の力になってきたと自負している。

しかし、こんなにも唐突にハブにすることはないのでは・・と考えた。

それも、自分たちが大事にしていた女の子を助ける、という何よりも重要な任務で。
958 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:48:56.55 ID:7K9dfvc0


「麦野たちはきっと女の子を助け出してくる・・それは分かる。

 でも、その輪の中に私は居ない・・私なんかが居なくても、十分にやっていけるんだ、アイツらは」



ゆっくりと目を閉じる、何も見たくなかったから。

耳も塞ぐ、何も聞きたくなかったから。

足も閉じ、頭も下げ、とうとう塞ぎこんでしまう。



「・・ふぇ、へっくちっ!」



全身に寒気が走ったと思えば、豪快なくしゃみをしてしまった。

こんな雨の中に薄着で居れば、当然といえば当然だったかもしれない。

血混じりの鼻水が垂れてしまったため、医務室から取ってきたティッシュを取り出す。



「あ・・」



そのティッシュもこの豪雨のせいで、一瞬で濡れて使い物にならなくなってしまった。

ぐちゃぐちゃになってしまう、自分の顔も。

紙屑以下になったティッシュをポイと捨て、ずるずると鼻をすする。
959 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:49:54.54 ID:7K9dfvc0


「えへへ、このままじゃ風邪ひいちゃうかも・・麦野が看病してくれると嬉しいな」



自分だけケロリとした顔で隠れ家に戻ることができるだろうか。

いまさらながら、たまたま今回だけ外されただけかもしれない、そう思うようにした。

そう思うことしかできない。

雨に濡れたせいで自分が涙を流していることさえ、気付けなかった。



「結局、私も寂しがりな訳よ・・」



誰に言うわけでもなく、小さく呟く。

このまま、ここで一人寂しく死にたい、そんな愚かな考えが頭をよぎったとき、

遠くから激しいクラクションとともに、一台の車が近づいてくる音がした。

フレンダは面倒臭そうに頭をあげ、虚ろな目を音のした方へ向ける。

すると、彼女のすぐ目の前に激しい水しぶきと共に、見慣れた黒いワゴンが急停止した。

降りてきたのは、これまた見慣れた、少し生意気で、少し頼れる茶髪の少年。
960 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:50:41.38 ID:7K9dfvc0


「う、うおいっ、こんなとこで何やってんだよ、フレンダッ!?」



「は・・はま、はまづらあああああああああああっ!!!」



溜め込んでいた感情を爆発させるように、少年の胸に飛び込むフレンダ。

鼻水を垂らしっぱなしの顔をぐりぐりと、これでもかというくらいに強く押し付ける。

そんな彼女を、嫌な顔一つせずに抱きしめてやる浜面。



「ったく、どうしたんだよ、こんな雨の中で一人で座ってるなんて・・

 いや、それよりもだ、こっちも色々あってだな、かなりまずいことになってるんだよっ!」


「知っでる・・あの子が攫われぢゃったんでしょ゛・・!」



涙と鼻水と色んな液体で顔をぐちゃぐちゃにしたフレンダが言う。

浜面は目をパチクリさせながらも、持っていたハンカチで彼女の顔を拭ってやる。

ちなみに、このときのやり取りを遠くから子供に見られていたため、

二人が付き合っている、という聞く人が聞けば笑える誤解を生み出したらしい。
961 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:52:37.00 ID:7K9dfvc0


「どうして知ってんだ・・いや、この際そんなことはどうでも良いな、

 置いてっちまって悪かった、麦野が急いでお前を連れて来いって言うから急いで戻ってきたんだっ」


「麦野が・・?」



その言葉を聞いた瞬間、さっきまで自分の心を支配していたもやもやが吹き飛んだ気がした。

別に見捨てられていたわけじゃなかったのだ、ただ、忘れられていただけで。



「(いや・・それはそれで何かかなり傷つく・・・、でもっ!)」



ふるふると頭を振り、今までの弱気な自分にサヨナラしたフレンダは軽快にワゴンの助手席側に回る。

理由は分からないが、元気をなくしていたらしい彼女が元通りになったのを見て、浜面はホッと胸を撫で下ろした。



「ったく・・喜怒哀楽の激しい奴だな、相変わらず」



すっかり自分も雨ざらしになってしまった浜面は、溜め息一つ。

その顔はまんざらでもないような表情を浮かべている。

そんな彼とは対照的に、運転席側の窓を開け、顔を出すフレンダは笑顔で言い放つ。
962 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 22:57:10.88 ID:7K9dfvc0


「ほらほら、愚痴ってる暇があったら、

 さっさと発進させろ運転手っ、積もる話は女の子を助けてからだぞ!」



それを聞いて、浜面は口元にわずかに笑みを浮かべる。

可愛い妹を見るような、そんな眼差しだった。。



「はいはい・・、ちゃんとシートベルト締めとけよ」



少しでも仲間を疑った自分が恥ずかしかった。

でも、そんな愚かしい自分の弱さは見せたくない、浜面にも、無論、麦野にも。


「アイテム」のムードメーカーは、泣き腫らした顔を隠しもせず、

その澄んだ青い瞳を夜空の星のように煌かせながら、はつらつと声を出す。



――――すべては、愛する彼女のために






963 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/25(日) 23:03:46.37 ID:3eZxZcDO
フレンダ…
964 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [saga]:2010/04/25(日) 23:04:33.93 ID:7K9dfvc0

以上で、完全に二作目は終了となります。

微妙に前半百合注意の忠告をするのを忘れていました。


同じスレタイでないと分かりにくいと思うので、

次スレは『麦野「・・・浜面が入院?」Part2』とかそんなノリです。

このスレの残りは適当に「アイテム」雑談などで名残なく潰してやってください。


ちなみに、次回作は禁書SSとしてはベッタベタのテーマなので、少し新鮮味が欠けるかもしれませんが、

興味がおありでしたら、目を通していただけると幸いです。


あと、HTML化は依頼しておいた方が良いんですよね?

勝手にしておきますが・・。

では、おやすみなさい。
965 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/25(日) 23:07:04.86 ID:0UbVrhg0
超超超乙!!次回作も超期待してます!
このスレの浜面は麦のんの婿
966 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/25(日) 23:07:07.44 ID:VY/TLsAO
再び乙!

なんというレズンダ夢双
967 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/25(日) 23:14:22.03 ID:Q7QBWt.0
乙です!

超電磁砲の最新号のフラゲ画像見たけどやっぱり可愛いよむぎのん
968 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/25(日) 23:19:18.49 ID:y57VU2DO
乙!

今回絹旗が一番影薄かったな…ww
969 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/25(日) 23:40:30.26 ID:MUmvzdYo
乙!
二ヶ月楽しかったよ
970 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/26(月) 00:13:01.89 ID:yIDUWgDO

次スレでもかわいい麦のん待ってる
971 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/26(月) 00:22:06.39 ID:7HVJxcoo
972 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/26(月) 02:18:58.32 ID:at3yDIDO
乙! 絹旗派の俺だけどここのアイテムはみんな好き!
973 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/26(月) 02:52:45.22 ID:9IKnKLEo
乙!次回作も期待…してるぜ?

てかはいむらーのpixivの絵やべえええええええ
974 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch :2010/04/26(月) 03:42:02.08 ID:8ahJzQE0
ロリ麦のんがヤバイ
975 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/26(月) 05:36:32.51 ID:qeBuGkDO
お前ら、はいむらーのピクシブのアンケートもちろん麦のんにいれるよな?
976 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/26(月) 06:42:23.68 ID:yIDUWgDO
今麦のん&冷蔵庫に入れてきたよ
977 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/26(月) 06:58:32.00 ID:ungXLEDO
公式でああいう絵を書いてくれるのは嬉しいねー

てかアンケートはどこで取ってるんだ?
掲示板じゃないよな…
お気に入りだのマイピク設定しないとダメって奴か?
978 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/26(月) 07:51:15.96 ID:qeBuGkDO
評価(☆がある所)の下にあるぞ
979 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/26(月) 11:40:31.18 ID:woqmD/s0
おつ
980 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/26(月) 18:31:08.34 ID:XvEuQgwo
はいむらーのコス麦のん見てえ
けどWミサカに負けそうだな
981 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/26(月) 20:19:51.23 ID:ungXLEDO
>>978
thx

パソコンからできたよ
1位との差が詰まってきたね
982 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/26(月) 23:17:52.08 ID:MYDmQ2Q0
乙!
おもしろかった。次回作にも期待してるよ!
983 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/27(火) 02:37:35.39 ID:w93s1oAO
乙でした、最高です
984 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/27(火) 16:34:20.40 ID:ieFJV5w0
次はどのキャラの別コス希望?

垣根帝督&麦野沈利921回
御坂妹&ミサカワースト901回
神裂火織&オルソラ527回
レッサー&ベイロープ190回



接戦だな
985 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/27(火) 20:16:03.73 ID:W01t.tw0
何の繋がりもないけど麦野&ミサカワーストだったら迷わず票を入れれたのに…
986 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/27(火) 21:12:53.71 ID:V3YwdSk0
いや帝督見たいだろ
987 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/27(火) 21:18:02.00 ID:wCS4zIDO
麦のんにはOL、つまり、黒スーツを着てほしいね
988 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/27(火) 21:29:18.25 ID:u5NPGoAo
リクルートスーツ麦のんとか最高
989 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/27(火) 21:31:24.66 ID:g3crOh.o
黒ストメガネなら尚更
990 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/28(水) 23:34:34.39 ID:Uu3zh6DO
フクダーダが同人で描いてくれないかな麦野んを
991 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/28(水) 23:54:37.47 ID:KAPqOvM0
次はどのキャラの別コス希望?

垣根帝督&麦野沈利1927回
御坂妹&ミサカワースト1817回
神裂火織&オルソラ1001回
レッサー&ベイロープ363回



麦のんktkr
992 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 00:40:58.13 ID:z.HIRsMo
レッサーに投票した俺涙目
993 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 01:12:40.09 ID:MeQCATU0
>>964
この板そんなにチェックしてないんで出遅れたが乙!
面白かったよ。Part2も楽しみにしてるぜ
994 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 01:57:29.29 ID:ni1syoAO
ぜひ、ムギのん×駒場を
995 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 02:59:30.52 ID:01n38QDO
>>994
びっくりするくらい君得だな
996 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 04:54:37.70 ID:pu4aBgSO
ここにきて麦野&垣根がトップとは…
やっぱ大王効果かね
997 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 18:05:37.50 ID:zi0eF.DO
麦のんがかわいすぎて生きるのがつらい
998 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 18:46:47.92 ID:01n38QDO
麦のんに木っ端微塵に原子崩しされたい
999 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 18:50:30.73 ID:bEQLMg6o
次回作を楽しみにしております
スレは作者が立てるんだよな?
1000 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 19:00:29.89 ID:zi0eF.DO
1000なんだよ!
1001 :1001 :Over 1000 Thread
    ´⌒(⌒(⌒`⌒,⌒ヽ
   (()@(ヽノ(@)ノ(ノヽ)
   (o)ゝノ`ー'ゝーヽ-' /8)
   ゝー '_ W   (9)ノ(@)
   「 ̄ ・| 「 ̄ ̄|─-r ヽ
   `、_ノol・__ノ    ノ   【呪いのトンファーパーマン】
   ノ          /     このスレッドは1000を超えました。
   ヽ⌒ー⌒ー⌒ー ノ      このレスを見たら期限内に完成させないと死にます。
    `ー─┬─ l´-、      完成させても死にます。
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上条「風紀委員(ジャッジメント)だ!!」 @ 2010/04/29(木) 16:15:49.87 ID:LTM27nEo
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激安ブランド直営店─hermesm @ 2010/04/29(木) 14:11:23.51 ID:XdZmIts0
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キラ、佐原、断ちゃんの変態もノーマルも安らげる憩いの場  @ 2010/04/29(木) 12:55:12.25 ID:oRwcXd2o
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