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一方通行「……また仕事か」 - 製作速報VIP(クリエイター) 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/18(日) 23:53:34.34 ID:kVgBLUAO

昨日VIPに立ててたスレの立て直しです。
内容としては原作の15巻前後とお考え下さい。

続きからではなく、最初から投稿させて頂きます。
ちょくちょく昨日と文章が異なるのは、推敲前の書き溜めしか手元にないためですので、ご了承下さい。

それでは投下します。
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713353246/

木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1713351945/

いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713279251/

【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713277692/

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713183168/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/

エルヴィン「ボーナスを支給する!」 @ 2024/04/14(日) 11:41:07.59 ID:o/ZidldvO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713062467/

2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:00:48.03 ID:oCSCMMAO

「……ちっ、よォやく終わったか」


ガンッという衝撃の後、カラカラと乾いた金属音が辺りに響く。
徹夜してようやく『仕事』を終えた一方通行が、溜まりに溜まったストレスを少しでも発散するため、足元にあった弾切れのマシンガンを蹴り飛ばしたのだ。

そんな一方通行の視線の先には、人体の構造的に有り得ない方向へとねじ曲がった手首や膝を抑え、呻く人影がちらほら存在した。

3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:01:45.82 ID:oCSCMMAO

「……おい、終わったぞ。サッサと回収しやがれ」

右手で杖をついた状態で、一方通行は残った左手で器用に携帯を操り、電話をかけた相手にそう一方的に言い放つ。

電話の相手もそんな一方通行の態度に慣れているのか、特に慌てた様子もなく、了承だけすると電話を早々に切ってしまった。必要最低限の連絡しか行わない、といったところか。

一方通行は手にあった携帯をポケットに捻込むと、軽く息をついてボンヤリ空を眺めた。


(アイツは、大丈夫なンだろうなァ……?)
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:02:46.60 ID:oCSCMMAO

―――打ち止め(ラストオーダー)。

以前この学園都市で行われた絶対能力進化計画(レベル6シフト)のために生み出された量産型能力者(クローン)にして、世界に散らばる一万程の妹達(シスターズ)の上位に位置する存在。
そして、闇に身を置く一方通行が守るべき表側の人間である。

一方通行は彼女のような表に在る者達を守るために『グループ』に入ったのであり、とりわけ彼女を守るためならば、彼はこの世界全てのものをも敵に回すだろう。
それが彼の『悪』の形なのだ。

5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:03:39.18 ID:oCSCMMAO
現在、その打ち止めは警備員(アンチスキル)である黄泉川愛穂の家で平和に暮らしているはずだが、ふとした拍子に彼女のこと気になってしまう。


「……考え事か?」


「あン?」

声がする方を振り向くと、そこには今着いたばかりであろう回収車と共に現れた土御門元春の姿があった。


「……オマエには関係ねェだろうが」

吐き捨てるようにしてそう言うと、一方通行は車の方へと向かう。しかし、土御門の手がそれを遮るようにして彼の行く手を阻んだ。
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:04:20.91 ID:oCSCMMAO

「なンのつもりだ」

朝方で未だ暗い中、一方通行の特徴的な赤い眼がギロリと光ったように見えた。


「悪いが、追加の仕事だ」

しかし、それに臆することもなく、土御門はそう言って自分の携帯を一方通行へ放る。
渋々それを受け取り、内容を見た一方通行の顔色が見る見るうちに変わっていった。
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:05:12.13 ID:oCSCMMAO
「ふ、ふざけてンのか…!?ヤツらは!!」

震える左手で携帯を地面へ叩きつけ、汚れたそれを更に踏みつける。ギリギリと軋む音が、一方通行の歯から漏れた。


画面に表示されていた言葉は、こうだ。




『上条当麻とともに学園都市を防衛せよ』

8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/19(月) 00:11:16.62 ID:oCSCMMAO
上条当麻は相変わらず不幸だった。

朝から寝ぼけたシスターに頭をかじられ、朝飯を作っていたら飼い猫に具材の卵焼きを奪われ、挙げ句の果てには朝の忙しい時間にも関わらず、おかしな訪問販売の押しかけにあったのだ。


「うぅ……上条さんは朝から精神的にも経済的にもボロボロですよ」


結局最後の押しかけセールスではなんとか粘ったものの、どこに有能性があるのかも分からない、あからさまに安っぽいネックレスをほぼ強制的に買わされてしまった。

おかげで、今日の晩飯は一・二ランクダウンはしなくてはならない。
その事実にあのシスターは納得しないだろうが、今更どうも出来ないので仕方ないことである。


9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:13:13.48 ID:J7hbyJco
続き来るのか!
落ちてて残念だったので楽しみ
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:13:28.90 ID:oCSCMMAO
「じゃあインデックス、俺は学校行ってくるから大人しくしてろよー」

「なんかもの凄く失礼な扱いだけど分かったんだよ」



三毛猫を手の中に収めているシスター、インデックスは、ムスっとした表情で了承する。
とある事情から共に暮らすようになったインデックス。しかし彼女は、なんだかんだいいながらも結局は上条の言うことはちゃんと守るのだ(但し一部を除く)

11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:14:07.83 ID:oCSCMMAO
「あ、そうだ」

上条は何かを思い出したのか、おもむろにズボンの左ポケットに手を突っ込むと、中から明らかに安っぽいネックレスらしき物を取り出し、インデックスへと投げた。


「??何これ?」

訝し気に安物ネックレスを見つめるインデックスに、上条は笑いながら答える。
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:15:02.98 ID:oCSCMMAO

「朝無理やり買わされたネックレス。大切にしろよ?今日の晩飯代で買ったんだから」

「ちょ!?それはシャレになってないかも!!」

ギョッと目を見開いてインデックスは何やら喚いていたが、時間がない上条は、さっさとドアを閉めて寮を飛び出す。

帰ったら真っ先に噛みつかれるんだろうなと思い、上条は苦笑しながら朝の通学路を駆けて行った。

13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:16:19.70 ID:oCSCMMAO
「ふぅ、何とかセーフ!」


「かみやん、ここはお約束的に考えて遅刻しなくちゃいけないんだぜい?」

「うっせー!上条さんは朝からもうヘビーな不幸に見まわれたんです!だからもういいの!」

何がいいのかは分からないが、上条的にはこれ以上不幸な目にあってたまるか!ということらしい。土御門もやれやれといった様子で自分の席へと向かう。

14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:16:36.90 ID:xFbTIsAO
おお!これ面白いかった!支援します
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:16:50.99 ID:oCSCMMAO
「……あれ?」

が、その時。上条は土御門のやけに汚れの目立つ携帯のストラップに目が止まった。


「おい、土御門」

「んー?なんだいかみやん」

「やけに携帯ボロボロみたいだけど大丈夫なのか?」


上条は引っかき傷のようなもので傷付き、中の綿もはみ出しているストラップを指差しながら問う。
それを聞いて、土御門はあー、といった様子でグシャグシャと髪をかいた。どうやらあまり触れて欲しくなかった話題のようだ。
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:17:20.46 ID:oCSCMMAO


「今朝『野良猫』に襲われて、その時にボロボロにされたんだにゃー……」

そう言ってがっくりとうなだれる土御門に、こいつも朝から酷い目にあったんだな、といった共感とともに上条は心底同情した。


「こらぁ!そこの馬鹿二人!さっさと席につけ!」


最も、そんな二人の不幸を知らない吹寄の追いうちによって、更に二人は落ち込むはめになったのだが。
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:22:54.45 ID:oCSCMMAO
上条が吹寄によって制裁が加えられていたそのころ。

一方通行はあからさまに不機嫌そうな様子で、第七学区の繁華街を歩いていた。


「ちっ、あの野郎ふざけやがって!」


一方通行は声を荒げながら通りをズンズンと進んでいく。彼の怒りの原因は、『電話の声』からの理不尽なお達しにあった。

「よりにもよって、アイツと協同戦線だァ?奴らは何考えてンだクソッタレ!」

一方通行に今朝下った新たな指令。それは彼にとって極めて耐え難いものだった。

18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/19(月) 00:23:45.21 ID:e6wrzsAO
期待
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:24:03.12 ID:oCSCMMAO

一方通行は俗に言う『悪人』であり、対して上条当麻は根っからの『善人』である。


そして、悪人である一方通行に課せられた指令は、この学園都市の暗部からのもの。そんな汚れた屑の掃き溜めに、一方通行はあの善人を連れて行きたくなかった。

別に上条を気にしてのことではなく、単に表の人間を裏の世界に引きずり込みたくないというだけ。だが、一方通行にとって、理由などそれだけで十分だった。

20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:24:37.51 ID:oCSCMMAO

(アイツの手は絶対借りねェ)

これは一種の誓いであり、例え自分の命が危機に晒されようと、一方通行は上条の手を借りようとはしないだろう。
それが、一方通行にとっての『悪』の在り方なのだ。


そんな時だった。


21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:25:12.36 ID:oCSCMMAO
「ショッピングー♪ショッピングー♪って、ミサカはミサカははしゃいでみたり!」

「ほらほら、あんまり騒ぐのは良くないじゃんよー」

(……なッ!?)



“何故あの二人がここにいる?”




一方通行の脳内は真っ白になった。
そもそも、一方通行がこの場所に来た目的は、学園都市の防衛である。つまり、ここは今からでも火の海となる可能性のある危険な地帯(エリア)なのだ。

22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:25:53.98 ID:oCSCMMAO
(いくら何でもタイミングが良すぎるだろォが!!………いや、まさか!?)



刹那。


バチンッと何かが弾けたような音がした。


一方通行はベクトルを操作し、急いで音のした方へと向かう。

するとそこには、黒い煙を上げて、いまだに燃え盛る炎に包まれた自動車らしきものの姿があった。
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:32:58.70 ID:oCSCMMAO
(ちィッ!逃げられたか!)

一方通行は即座に辺りを見渡し、何もないと分かるや否やすぐにベクトルを操り大空へと舞う。
まだ遠くへは逃げていないであろう、自動車を炎上させた犯人を探すためだ。


(恐らく、これは今朝の話が絡ンでやがる)

一方通行の感がそう告げていた。

24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:33:27.03 ID:oCSCMMAO
「………アハッ、居やがッた!」


一方通行の居る地点からおよそ1キロ。そんなに離れてはいない所で、一般道路を走るにはあまりに異常なスピードで駆ける黒色の車が見えた。


「すぐにケリをつけてやるよォ!」

ズンと、目には見えない重圧が一方通行を覆う。そして、次の瞬間には、既に一方通行は黒い車のボンネットに降り立っていた。
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:34:03.24 ID:oCSCMMAO

「ひいっ!?」

情けない声をあげながら、黒色の車に乗った運転手は転がり落ちるようにして車の外へ飛び出す。

目の前にいる細身な学園都市第一位の超能力者(レベル5)と、猛スピードで走る車の外。


そこで車外を選んだということは、この運転手は少なくとも内部の人間であると推測出来る。
もし外部の人間ならば、例え学園都市第一位の超能力者という言葉を聞いてもピンと来ず、軟弱そうな外見に騙されて、今頃血達磨となってそこらに転がっているはずだ。
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:34:48.29 ID:oCSCMMAO
「この歳にもなって鬼ゴッコする趣味はないンだがなァ?」


しかし、それを許す学園都市第一位ではない。すぐに軌道を変えて、黒服の運転手を追撃する。
もちろん、運転手を失い暴走しかけていた車を抑えた上で。


「や、やめてくれ!」

運転手は入り乱れた路地裏をがむしゃらに走りながら、一方通行から逃れようとしていた。
だが、それもすぐに終わりを迎える。
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:35:27.76 ID:oCSCMMAO
「やっと鬼ゴッコも終わりかァ?」

男はでたらめに逃げていたつもりだったが、追いかける一方通行によって逃げ道を知らぬ間に誘導されていたのだ。今彼は、路地裏の突き当たりという最も絶望的な場所に立たされている。


「た、助けてくれ!命だけは……!」

そう懇願する男に、一方通行は唾でも吐きかけるかのように罵声を浴びせた。


「オイオイ、散々人様には迷惑かけておいて、今更命乞いですかァ?はッ、オマエみたいな屑野郎の命なンか助ける訳ねェだろうが」
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:36:13.50 ID:oCSCMMAO
「ま、待ってくれ!話が違う!!俺は騙されたんだよ!頼むから話を―――!」


ゴキリ、と鈍い音がした。


「生憎、オマエとお喋りする時間はないンだわ」

続いて、ドシャッと何かが崩れる音。

一方通行が、自身の能力を用いて男の首をへし折った音だった。

その時丁度、一方通行の携帯のバイブレーションが激しく揺れた。

29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:36:19.38 ID:CStX8kU0
あ、あれか…落ちててしょんぼりしたんだよ!
まさに良い所で落ちたからさぁ
期待せざるおえない
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:36:49.83 ID:oCSCMMAO
「………何だ?」

『おい一方通行!ヤバいことになった!』


電話の相手は土御門だった。しかし、その声にはいつもの余裕が感じられない。


「一体どうしたンだよ」
少しイライラした調子で、一方通行は尋ねる。
今朝まで学園都市を脅かすテロリストたちと交戦し、更に今し方まで犯人と思しき相手と追いかけっこまでしていた一方通行としては、体力的にも能力の使用制限時間的にも限界が近かった。
一刻も早く落ち着いた場所でゆっくりしたい、というのが本音だ。
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:40:31.25 ID:oCSCMMAO

『……いいか、落ち着いて聞けよ?』

「あァ?分かったから早く言いやがれってンだ」

それでも尚、もったいぶった言い方をする土御門に対し、一方通行は更にイライラを加速させた。しかし、これ以上土御門にあたるのもお門違いかと思い、一方通行はひとまず彼の言葉を待つことにした。

そして、彼は口を開く。


『……実はな、―――――』


「――――なっ!?」


それを聞いた瞬間、ジワリとした汗が一方通行の全身を襲った。

32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:41:04.15 ID:oCSCMMAO
―――助けてくれ!



あの男は、自分になんと言った?



―――待ってくれ!話が違う!



自分は何故、その時に違和感を感じなかった?



―――俺は騙されたんだ!



どうして、こんな簡単なことに気が付かなかった?






“ヤツらの目的が別にあるということに”

33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:41:45.53 ID:oCSCMMAO


「クソがァァァァぁぁぁァアッ!!!」


一方通行が吼える。絶望が、彼を襲っていた。




「待ってろよ――」

一方通行は、彼が守ると誓ったはずの少女の元へと向かう。
能力の使用限界のことなど、既に何処かに吹っ飛んでいた。

ただ彼は走る。


一人の少女のために。







「打ち止めァァァァ!!」
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:44:50.94 ID:oCSCMMAO


とりあえず1クール終了まで投下だぜwwwwwwwwwwクソ眠いwwwwwwwwww




製作はまったり投下できるらしいので、焦らずボチボチいきます。

次の投下は明日の朝の予定です。


それじゃあおやすみなんだよ!
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 00:51:15.11 ID:CStX8kU0
乙。おやすみー
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 01:28:25.41 ID:xFbTIsAO
乙!期待しております
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 01:59:24.99 ID:uo7H4gAO
お、こっちに来たのか!乙
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 07:33:11.29 ID:GaiRyT60
おつ
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/19(月) 09:23:09.06 ID:oCSCMMAO

投下再開します。




一方通行の追撃戦が起こる少し前。
上条はようやくホームルームを終えたところで、一息ついていた。

すると。



「あれ?土御門携帯鳴ってるぞ?」

突然鳴り響く携帯の着信メロディ。上条の記憶が正しければ、それは土御門の携帯のものだったはずだ。

40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 09:24:40.38 ID:oCSCMMAO
「ん?あぁ………」


言って、土御門は携帯を開く。そして、特に表情を変えることもなく、軽く上条に断りを入れて教室を出て行った。
これを見た上条はピンと何やら思い当たる。

『何かマズい事態が起きてるんじゃないか』、と。


「……ピンチな友人を放っておく程、上条さんは落ちぶれてませんよ」

上条はそう独り言のように呟くと、ゆっくりと席を離れ、教室を後にした。
もちろん、授業をサボるつもりで出ていく訳ではない。


大切な友人を、一人にしておくことが出来ないだけだ。

41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 09:28:37.98 ID:oCSCMMAO

あくまで気づかれないように、上条は気配を殺しながら土御門についていく。
上条が影からコッソリ覗くと、何処かに電話をしながら、何か焦っているような土御門がいた。
上条に気付いていないところを見ると、彼は相当追い詰められているようだ。

時々途切れ途切れに聞こえる単語を拾いながら、上条は状況を整理する。
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 09:32:06.65 ID:oCSCMMAO

そして、出た結論としては。


「誘拐………か?」


連れ去られた。

時間がない。

そう言った単語から上条が導き出した答えが、それだった。あくまで予想であり、確信はないのだが。

ツゥ、と一筋の汗が上条のこめかみを伝う。

43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 09:36:26.67 ID:oCSCMMAO
何故土御門のところにこのような連絡が来たのかは、やはり彼が学園都市のエージェントだからだろうと、上条は勝手に解釈した。
だが、その内容は一般人の上条としてはなかなか重たいものである。


44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 09:38:22.65 ID:oCSCMMAO

そんなことを考えていると。

土御門が携帯を切ってこちらへ向かってきた。恐らく方向からして靴箱へ向かうのだろう。


そこで動揺した上条が、慌ててその場を立ち去ろうとした、が。

「やべっ!?」

やはり不幸は常に上条に纏わりついているのか。彼は何故か自分で自分の足に引っかかり、盛大にすっ転んだ。


もちろん、こちらに来ていた土御門とも鉢合わせだ。

45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 09:45:52.96 ID:oCSCMMAO

「か、かみやん!?何でこんなとこに……!?」
「あ、あはは。いや、ちょっとトイレに……」


流石に苦し紛れの嘘だとバレたのか、ジトッとした視線が土御門から注がれる。

「……いくらなんでもそれはないぜい、かみやん」


言って、呆れた様子で土御門は溜め息を吐いた。
やはり、バレバレだったようだ。
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 09:52:06.90 ID:oCSCMMAO

しかし、こんな軽口を叩いている暇はないはずだ、と上条は胸の内を切り替える。
確か、状況は一刻も争うのではなかったのか。


「……かみやん、全部聞いたのか?」

急に、土御門の口調が変わり不審に思った上条だったが、とりあえず素直に応じることにした。

「あ、あぁ。大体はな…」

事細かに内容を把握した訳ではないが、大雑把な状況は掴んでいるつもりだ。上条は土御門に尋ねる。


「……誘拐か?」

「まぁ、状況的にはそんなところだにゃー…」
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 09:53:58.41 ID:oCSCMMAO

少し困惑した顔で、土御門は首の後ろに手を回す。
上条はそんな土御門を知って知らずか、あっさり言った。


「……俺も手伝うよ」

「は?」


見ると、土御門が口をポカンと開けて、間抜け面で立っている。
そんなに驚くようなことだったかと、上条はキョトンとした。
もしかしたら、上手く聞こえていなかったのかもしれないと思い、上条は再び土御門に伝える。
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 09:56:44.85 ID:oCSCMMAO

「だから、手伝うって」

「いや、それは分かった。だが……」


ストップ、と制止するようにして上条の前に手をかざす。どうやら内容は伝わっていたようだ。
が、どうも土御門の様子がいつもと違っておかしいと、上条は感じた。
いつもの土御門ならば、上条の右手の能力を利用ために、すぐに彼をこういった作戦に組み込むはずなのだが。
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 10:02:03.02 ID:oCSCMMAO

「何か、問題でもあるのか?」


上条が問う。土御門がこういったことで隠したがるのは、大抵が彼がヤバい状況である場合が多いのだが、何故か彼はそれを知られる拒む。

しかし、そういう時こそ、上条は協力したかった。

国や学園都市などといった大層なものを守るよりも、目の前の大切な誰かを守る時にこそその力を奮う。それが上条当麻という男なのである。
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 10:04:29.44 ID:oCSCMMAO
「……どのみち同じ結果が待ってる、か。

―――よし、かみやん。ちょっとついてきてくれ!」


何かを決心したように、土御門が意気込む。
そんな彼を見て嫌な予感しかしなかったのは、今までの経験上仕方のないことだと、上条は自分に無理やり言い聞かせ、その場を後にした。


51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 10:05:08.05 ID:oCSCMMAO
一旦休憩。

少ししたら再開します。
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 10:27:34.97 ID:oCSCMMAO

「畜生がァァっ!!」


一方通行は再び第7学区の繁華街へと戻って来た。
しかし、一方通行は戻るなり、すぐ側にあった商業ビルに拳を叩きつける。ジワリ、と小さな拳に血が滲んだ。
にもかかわらず、その行為で騒ぎが起こることはない。



それは何故か。

答えは簡単。既に辺りは瓦礫の山があちらこちらに出来た状態で、殺戮と恐怖の渦に呑まれているからである。
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 10:35:15.84 ID:oCSCMMAO

しかしながら、この騒ぎの原因は一方通行ではない。彼が来た時には既に、辺りパニックになっていたのだ。



「打ち止めァ、何処にいやがる!」

瓦礫の山と人垣を掻き分け、一方通行が進む。ちなみに、今彼は電極のスイッチは切ってある。

度続いて起きた諸々の事件により、電極のバッテリー残量は残り少ない。今の彼には、せいぜい10分程度戦える力しか残っていなかった。
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 10:38:15.35 ID:oCSCMMAO
「一方…通行……?」

ふと、何処からか声をかけられる。一方通行は、その声に聞き覚えがあった。


「黄泉川……!?」

声の主は、先ほどまで打ち止めと一緒にいた学園都市の女教師、黄泉川愛穂だった。
彼女は数少ない一方通行と打ち止めの知り合いであり、今は身寄りのない打ち止めの身元引受人ともなっている。

そんな黄泉川が、決して少なくはない瓦礫に押し潰されるようにして地面に倒れていた。
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 10:40:04.12 ID:oCSCMMAO
「チッ!」

一方通行は迷うことなく電極に手をやり、スイッチを入れる。そしてそのままベクトルを操作し、黄泉川の上にある瓦礫を人がいない場所へと移動させた。



「オィ、一体何があった!?」

依然としてグッタリとした黄泉川の襟首を遠慮なく掴み、一方通行はまくし立てるようにして問いただす。

黄泉川は少し苦しそうに顔を歪めながらも、ゆっくりと答えた。

56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 10:43:59.27 ID:oCSCMMAO

「悪い、一方通行……。打ち止めが、連れ去られた…。多分、第15学区にある、何処かの研究所、だ…」

「第15学区だと……!?」


とりあえずそこまで分かれば上等だ。ひとまず黄泉川をそこらの通行人に任せ、すぐさま一方通行は第15学区へと向かう。

あの、悪夢のような日々を過ごした因縁の場所へと。
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 10:46:22.34 ID:oCSCMMAO

今でこそ敵無しである一方通行も、最初から学園都市の第一位として君臨していた訳ではない。
他の学生たちと同じように能力開発を行い、それによって現在のような能力を得た。

しかしそれは、一方通行が望んでもいないにもかかわらず、あちらこちら弄くりに弄くり返された結果である。

そして、今一方通行が向かっている第15学区は、その能力開発が行われた場所なのだ。

58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 10:57:22.04 ID:oCSCMMAO

「もうここに来ることはないと思ってたンだがなァ……」

とある研究施設の前に来るなり、一方通行は軽く辺りを見渡す。その風景は、あの頃と何も変わっていなかった。



「早いとこあのガキを連れて帰らねェとな」

言って、一方通行は電極のスイッチを再びオフにする。
これで、活動は限界残り五分となった。
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:00:26.13 ID:oCSCMMAO

が、そのタイミングを見計らったかのようにして全身を黒づくめの、いかにも怪しいことをしていますと言わんばかりの者達が、ぞろぞろと研究施設の物影から現れる。

想像は出来ていたが、実際に起きると全く笑えない。嫌な想像だけはトコトン当たるな、と一方通行は胸中で舌打ちした。
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:01:09.86 ID:oCSCMMAO

「よォ。こンなにぞろぞろとご苦労だが、サッサと舞台から降りてくれねェか?」

再び電極のスイッチが入れられる。ここからは時間との勝負だ。


一方通行のスイッチが入れられるのも十分に確認せず、黒づくめ達は次々と彼に向かって銃弾を浴びせる。

その瞬間、一方通行は真横に飛んだ。これにより、黒づくめたちの作り出す銃弾の雨は、彼の軌道を消す煙幕へと成り下がった。

そのまま間髪入れずに、一方通行は黒づくめのいる一角へ滑り込むようにして距離を詰めていく。
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:06:02.18 ID:oCSCMMAO
黒づくめ達も接近戦用の体術は一通り学んではいるようだったが、一方通行の前でそれらは何の役にも立たない。

最初から銃は牽制で、接近戦に持ち込んで肉薄出来ると計算していたようだが、そのあては無情にも崩れ去った。
一方通行と相対する黒づくめの動きから、彼らが酷く動揺しているのが見て取るように分かる。



「地獄ツアー団体様ご案内、ってなァ!!」

突如、ガコンと何かが外れる音がした。ゆっくりと、ソレは黒づくめ達の前へ姿を現す。
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:19:27.93 ID:oCSCMMAO
「ひ、ひゃぁあっ!!?」


彼らの目の前に在るもの。

それは、10メートルもの長さのある大きなパイプだった。
パイプは学園都市製ということもあり、非常に軽くて丈夫だ。決して重量がある訳ではない。

しかし、一方通行にとってその事実はどうでもいいことである。


彼は『あらゆる物質のベクトルを操作する』ことが出来るのだから。

63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:20:40.30 ID:oCSCMMAO

「ちっと痛ェかもしンねェが、すぐに終わるからよォ!!」

一方通行は巨大なパイプを能力を用いて高々と振りかぶる。それと同時に、ゴォッ!と施設付近の大気が震える音がした。


「ヒャッハァッ!!」


一閃。
それによって、黒づくめ達の身体が一斉に宙に舞う。

その後は、もはやただの地獄だった。
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:22:54.09 ID:oCSCMMAO

捻り切るようにして手足をもがれる者もいれば、研究施設の壁に叩きつけられ原形も留めない程に血深泥になる者もいた。
一方通行の機嫌を少しでも損なえば一瞬にしてミンチになり、そうでなかったとしても身体のどこかしらが吹き飛んでいく。



一方通行は、その中心でただ嗤っていた。


その彼の顔に映し出されるのは、快楽とも悲しみとも苦しみとも受け取れる、複雑な表情だった。
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:24:09.60 ID:oCSCMMAO

「何とか片付いたか」


カチッと無機質な音だけが、一方通行の耳に届く。
残り時間はあと1分。
もう電極のバッテリーは、少しも無駄には出来ない。

一方通行は血の海と化した研究施設の外観に目を止めることもなく、ただ前だけを見て己の路を突き進む。

これは、出来る出来ないの問題ではない。出来なくてはいけないのだ。
でなければ、あの少女は研究者達の玩具にされてしまう。それだけは、絶対避けたかった。
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:25:33.76 ID:oCSCMMAO

(数は5〜6、か。……なンとか殺れるか?)

入り口の扉で身を隠しながら、内部を窺う。
外の騒ぎに気付いていないはずはないのだが、どうも恐怖のために頭が働かないらしい。どれもこれも、壊れたマリオネットのような狂った動きしかしていなかった。


(多分銃は持ってる筈なンだが。こンだけ狂ってりゃ問題ねェか)


左手に携える愛銃を触すりながら、一方通行は考える。弾薬も新品に替えた。何も問題はない。
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:33:26.37 ID:oCSCMMAO
だが。

「……っ!?」

突然、ズシリと体が重くなるような感覚に襲われた。慌てて電極のバッテリー残量を確認するが、何も問題はない。


何故だ。

ふらつく体を杖と壁で何とか保ちながら、一方通行は考える。その考えることさえも、今の彼には苦痛であった。

そこで至った結論は。


“ミサカネットワークに不具合が生じている”



そして、それが意味するのは。



“妹達上位個体――打ち止め(ラストオーダー)の危機”
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:35:28.57 ID:oCSCMMAO

「………っ!」


一方通行は歯噛みする。まさか、間に合わなかったとでもいうのか。やはり、悪党にハッピーエンドは有り得ないのか。

そう思った瞬間、一方通行は崩れるようにその場で膝をついた。

69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:36:27.46 ID:oCSCMMAO

「………何でだよ」



―――今日のご飯美味しかったね!ってミサカはミサカは満面の笑みを浮かべてみたり!



「……どうしてだよ」



―――いったぁい!ってミサカはミサカは突然チョップするアナタを睨んでみたり



「………誰か」



――――アナタと一緒に居れることがミサカの一番の幸せだよ、ってミサカはミサカは頬を赤らめてみる

70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:37:07.27 ID:oCSCMMAO
「あ゛あ゛あぁァァぁぁァアアっ!!!?」



どうしてどうしてどうして。


あの少女が一体何をした?

勝手にコッチの都合で作り出した挙げ句、更に玩具(モルモット)にするというのか。

何故そんなことが許される?いや、そんなこと許される筈がない。


例え神様がその行為を許したとしても、一方通行だけは決して許したりしない。
絶対、許しはしない。

それが、彼の誓い。

71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:38:48.21 ID:oCSCMMAO

「うあぁァアぁぁッ!!」



一方通行が再び立ち上がる。

いくら手足がガクガクと震えようが、例え残り時間が少なかろうが、彼は立ち上がる。

それは、つまらない自己保身のため何かではない。



ただ打ち止めを助けるためだけに、彼は立ち上がるのだ。
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 11:39:37.99 ID:oCSCMMAO
「うおォらァァアアッ!!!」


ガシャンと景気のいい音と共に、一方通行は研究者達の前に姿を現した。

今現在一方通行に不具合が出てる時点で、もう一刻の猶予もないのは明白だ。
だから、一方通行は何も考えずに飛び出した。考える力も、もはや今の彼には残ってはいない。

本能の赴くままに、今の一方通行は殺戮を行うだろう。
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 12:07:26.84 ID:oCSCMMAO
「ハ、」


グラグラと定まらない視界の中、一方通行はふらつきながら歩を進める。

中に居た研究員たちは恐怖で震えながらも、手に持つマシンガンやピストルで一人、二人と応戦していった。

そしてその中の一発が、とうとう一方通行の左肩を捉えた。


「が、はァッ!」

今の一方通行は、能力が使えない。よって、彼らが放つ銃弾を反射させることも出来なかった。
一方通行は受けた衝撃により、元来た道を逆戻りするようにして飛ばされる。

傷口からは、噴き出すように血が溢れていた。



「……ァ、ぐ」


それでも一方通行は再び立ち上がった。
例えよろめきながらでも、しっかり自分の足で立っている。

74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 12:11:07.31 ID:oCSCMMAO

「ひ、ヒィィイ!!?」

研究員達は困惑した。

確かに銃弾を浴びせた筈だ。なのに何故まだ立ち上がれるのだろうか、と。

もしかして、自分達はとんでもない化け物を相手にしているんじゃないか?


その結論に至った瞬間、研究員達は身の毛がよだつのを感じた。

一方通行が、目の前の化け物が、ひたすら怖かった。
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 12:12:07.47 ID:oCSCMMAO

しかし、もう少しで打ち止めからの演算補助機能が完全に停止する筈だ。

それまで彼の恐怖に耐えれば、自分たちの勝ち。

そう研究者たちは考えていた。


だが、その考えは甘かったことを、彼らはすぐに思い知らされることとなる。
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 12:13:52.01 ID:oCSCMMAO
「ギャアァァァぁぁっ!!?」



「うわぁぁぁぁあっ!!!!」



「ひぃぃぃっ!!」


飛び交う悲鳴や奇声。そこはまさに地獄絵図だった。


立っているだけで精一杯のように見えた一方通行が、殺戮の限りを尽くしている。
そして、そんな彼を支えている鍵は、おそらく彼の背中から生える漆黒の翼。

既に、彼は人類というカテゴリから逸脱した存在ではないかと思わされる光景だった。
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 12:14:43.19 ID:oCSCMMAO

「――――m―fg」


もはや人の言葉ではない言語を扱うそれは、まるで神か悪魔のようだ。

研究者たちはそう思いながら、真っ赤に染まる景色に消えていった。


78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 12:16:05.17 ID:oCSCMMAO
「あ、ヒャ」


ぴちゃん、と水が跳ねる音がした。

今この場で動くことが出来るのは一方通行だけ。
だからそれは、きっと彼が発した音なのだろう。


「ぎゃは」

また一つ、彼が歩を進める。と同時に、背中に生えていた翼が一気に霧散した。

瞬間、一方通行の膝がガクンと折れる。
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 12:18:03.34 ID:oCSCMMAO
「―――く、ハ」


一方通行の肺から空気が漏れる。
とうとう、彼は一面に広がる血の海へと倒れた。

彼を支えていた翼は、もうどこにも見えない。

彼はもうピクリとも動くことが出来ない。


それでも彼は。



「―――ラスト、オーダー」


ただ、守りたい者の名を呼び続けていた。


80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/19(月) 12:20:40.61 ID:oCSCMMAO
2クール終了wwwwwwwwwwまじwwwwwwww腹減ったwwwwwwwwww




とりあえずここまでがVIPに投下した分です。
続きは今日の夜にまた投下します。

それではひとまず失礼します。
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/19(月) 12:50:03.55 ID:FMjFrcDO
乙!
こっからだな!
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 17:45:24.17 ID:RstoNgDO
久々のダークヒーローしてる一方通行だ〜 
続き楽しみにしてるんだぜwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/19(月) 17:53:43.87 ID:TsxhsoAO
続きが読めるのか有難い
84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 20:06:14.42 ID:sFYvpEAO
乙!
がんばれ
85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 22:20:24.65 ID:oCSCMMAO
今から再開します、が。お風呂に入るので少し投下スピードが遅くなります。

それでは投下します。






「厳密にいうと、今回の事件は単なる誘拐じゃないんだにゃー」

「単なる誘拐じゃない……?」


その時上条当麻は、土御門に連れられて、いかにも怪しい黒塗りのワゴン車に乗せられていた。

内装も黒で固めてあり、お世辞にもオシャレとは言い難いものだ。

上条は未だ訝し気な視線を周囲に振りまきつつ、土御門の言葉に応えた。
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 22:25:36.16 ID:oCSCMMAO
「じゃあどんな事件なんだよ」

「……かみやんは、『打ち止め』って知ってるかにゃ?」

「………あぁ」


嫌な予感しかしなかった。




打ち止め(ラストオーダー)。

あの御坂美琴によく似た少女。
もし今回の事件に彼女が関わっているというのなら。今からどんなことになるのかなど、容易く予想がついた。


ならば。あとは、自分が思った通りに行動するだけだ。



「土御門。俺は何をすればいい?」

「それでこそかみやんだにゃー!じゃあ、早速詳しい話をするぜい!」


相変わらず現金なやつだな、と上条は呆れたように首を振る。
だがそれでも、不思議と嫌な気分などにはならなかった。

87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 22:27:34.41 ID:oCSCMMAO
「ここに打ち止めがいるのか」

車の向かった先はとある研究所。土御門の話によると、ここに打ち止めがいるとのことだ。

上条は土御門と共に車から降りると、辺りを窺う。研究所は、奇妙な静寂に包まれていた。



「……誰もいないのか?」

「んー、いくらなんでもこれは流石におかしいにゃー。ちょっと様子を見て来るぜい」

言って、土御門は中に入るべくズンズンと進んでいった。上条も慌ててその後を追う。


だが、入り口付近でピタリと土御門の歩みが止まった。
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/19(月) 22:40:36.05 ID:oCSCMMAO
「どうした、土御門」

上条が問う。


「……正直、想像以上だな」

いつものふざけた口調ではなく、珍しく真面目に土御門は応えた。

「……?何を言って、」

その時、上条は見てしまった。研究所の入り口付近に散乱する血にまみれた肉塊を。

そして、悟ってしまった。それが一体何なのかを。


「――う、ぐっ……!?」

瞬間、一気に込み上げる吐き気。それを何とかごまかしながら、上条はあくまで平静を装った。

89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:00:43.46 ID:oCSCMMAO
「これは……?」

「まぁ、大体想像は出来てはいたんだけどな」


言って、土御門は血がベッタリとこびりついた外壁をよそに、早速内部へと侵入する。辺りに充満した、血の持つ特有の鉄臭さが、上条の鼻孔を掠めた。



「……一方通行」


突然、土御門がポツリと呟き、ある一点を見据える。

その視線の先には、朱によって支配されたこの部屋の中で、唯一白を持ち合わせた学園都市最強の超能力者である少年がいた。


90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:01:38.39 ID:oCSCMMAO

「……なっ、あいつ――!?」


上条は、そこにいる白い少年に見覚えがあった。確か、以前実験の名の下に一万人殺しをやってのけた少年だ。

上条はとっさに身構えるが、少年の様子が何だかおかしいことに気付く。
先ほどから、少年は倒れこんだままピクリとも動かないのだ。



「……っ?」

「………ちっ、間に合わなかったのか!?」


拍子抜けする上条のそばを、土御門が駆けた。
行き先は、学園都市第一位の超能力者の所。

91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:02:45.81 ID:oCSCMMAO

「おい、しっかりしろ一方通行!」

土御門が一方通行を抱き上げるが、依然として彼は動かない。


「何なんだよ、一体……!?」


ここで何が起こったのかなんて、上条には全く分からなかった。

ただ、土御門から聞いていた打ち止めの危機と、倒れている一方通行。この二つには何か関連があるのではないかということだけは、なんとなく分かっていた。


92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:03:40.48 ID:oCSCMMAO



(誰だ……?)



どれほど気を失っていたのか。
未だぼんやりとした意識の中、誰かの声が聞こえてきたような気がして、一方通行はうっすらと瞼を開いた。



「―あく―――れ―たっ!――は―――丈――――か―!?」



目の前にいる誰かが、何かを叫んでいる。だが、今の一方通行にはそれを聞き取り、理解することすらも困難だった。

93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:06:50.74 ID:oCSCMMAO
(何を、言ってるんだ?)


所々でノイズが混じる。後少しで聞き取れそうなのに、と一方通行は歯噛みする思いだった。


それに、一方通行はこんなところで躓いている訳にはいかないのだ。
打ち止めが、彼を待っている。


「ラスト、オーダー……!」

一方通行は四肢に力を入れ、懸命になんとか立ち上がろうと試みるが、現実は残酷だった。


(力が、入らねえ…!)


こんなことをしてる場合ではないのに。
なんとしても立ち上がらなくてはならないのに。

力が、入らない。

94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:08:18.05 ID:oCSCMMAO

「ク…そ……!クソ…ォ……!!」


一方通行の一粒の雫が頬を伝い、滑り落ちた。

何一つ救えやしない自分が、どうしようもなく情けなくて。

一方通行はただ天井を仰ぎ見て、嗚咽を零す。




「何やってんだよ、お前」

そんな一方通行の前に、一人の男が現れた。

95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:16:00.23 ID:oCSCMMAO

「……なンだよ」


「何やってんだって、聞いてるんだ」

再び、男は問う。
不思議なことに、男の声はノイズが混じることなく、鮮明に聞き取れた。


「もう、俺には何も出来ねェンだ。もちろん、オマエにも」


一方通行はそう言うと、次第にハッキリしてきた視界に移るものから逃れようと、マトモに動かせない体で視線だけ逸らした。

96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:19:28.70 ID:oCSCMMAO

「そんなの、誰が決めたんだ」

「この俺が救えねェんだ。もう誰にも救えねェよ」


諦めとも言い訳とも受け取れる、一方通行の言葉。それに込められる思いをも察した彼は、一方通行にただ一言。




「俺が、救える」



そう、男――――上条当麻は言った。

97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:24:11.73 ID:oCSCMMAO

「誰がオマエなンかに頼むかよ」


一方通行は言った。

認めたくないのだ。打ち止めを救うのは自分であり、その役目は当然自分のものだと思っていたから。だから。


「オマエに、打ち止めが救えるもンか」

その役目を。自分の生きる意味を。

「打ち止めは、俺が助ける」

よりにもよって、こいつに渡すわけにはいかないのだ。


98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:26:52.32 ID:oCSCMMAO

「……ふざけるな」


そんな言葉が聞こえたかと思ったその時。一方通行の体に衝撃が走った。それが殴られたためなのだと気付くのに、少しのラグが生じた。


「……俺は誰が救うだとか、そんな“つまらない”ことはどうでもいいし、興味もない。だけどな」

上条は一方通行の胸倉を掴み、叫ぶ。

「今もアイツは苦しんでるんじゃないのか?助けてって、泣いているんじゃないのか?
お前だって、本当は分かってるんだろう?
一番大切なのは、“打ち止めを助ける”ってことだってことを!」


99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:30:16.39 ID:oCSCMMAO

「…………っ!」




分かっていた。
今の自分に打ち止めを救うことが出来ないことぐらい。それでも、一方通行は打ち止めの前では常に『善人(ヒーロー)』であり続けたかったのだ。
彼女を最初に救った者として、彼女のためだけの善人(ヒーロー)に。

それが、彼の誓いだったから。

100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:42:42.68 ID:xFbTIsAO
早く早くぅ〜
101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:43:34.59 ID:oCSCMMAO


しかし、どうやらここで選手交代らしい。
一方通行は、ロクに動けぬ体で上条に言い放つ。


「……おい、三下ァ」


そう。大切なのは『一方通行が救うこと』なのではなく、『打ち止めを救うこと』なのだから。


「……打ち止めを、頼む」


そのためなら、助けをも乞おう。

例え、それによって自分のプライドが引き裂かれたとしても。
一方通行は、打ち止めのためになら地獄へ底までも飛び込む男なのだから。




「当たり前だろ?」


一方通行の意志を、確かに受け継いだ本物の善人(ヒーロー)。彼は、屈託の無い表情でそう言って笑った。


102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/19(月) 23:46:39.95 ID:oCSCMMAO


書き溜め少ないので、とりあえず今日はここまでです。
明日は予定が多くて来れないので、次の投下は明後日ぐらいになると思います。


それではおやすみなさい。
103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/19(月) 23:55:25.20 ID:xFbTIsAO
乙!一方さんかっけぇよ!
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/20(火) 01:32:32.36 ID:PqktoYAO
男の友情は貸し借り関係ぐらいの方が格好良いってもんだぜぇ
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/20(火) 02:18:02.95 ID:ZJA2LKA0
ヒーローが本当ヒーローだった
これは仕方ない
106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/20(火) 10:06:31.90 ID:M6.GO7co
少しくどさが足りねェけど、これはこれでイイぜェ
107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/21(水) 08:08:39.85 ID:lQ6HK2AO

今日の投下は夜からにします。
遅くなってすみません。



てか見てる人少ねぇwwwwwwww
だが俺は完結までめげないぜwwwwwwww
108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/21(水) 08:12:30.68 ID:wAfyD2DO
感想を書き込むタイミングを逃したもののこうして続きを待ちわびて張りついてる奴も居るんだぜ…?
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 08:30:37.93 ID:.Hkot2Eo
まってる
110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 10:44:39.94 ID:syyspoAO
移転してたのか今から読む
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/21(水) 13:49:53.78 ID:pJ1HiJs0
まってるぜ
112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/21(水) 15:39:07.25 ID:x.OBNEAO
制作だから少ねーのはしょうがねーだろがww
ポツポツVIPでLiveして客引きして
制作でまったりの繰り返しでいーんだよ
シリアス少ねーから貴重なんだぜ。
原作はきっとこのノリなんだろーなって把握して原作買う気になったんだ
よろしく頼む
113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 16:22:52.91 ID:APa6VEAO
落ちてて続きが読めないってことが無くゆっくり読めるのは嬉しいな…

アニメを一通り見て原作買うか迷ってるから原作に近いキャラ設定のこのSSは非常に参考になるぜww
114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/21(水) 21:15:47.63 ID:lQ6HK2AO
意外に見てくれてる人がいてびっくりしたwwwwww励みになったわサンクスwwwwwwww
ちなみに原作は俺のよりも遥かに文章構成が上手いし、しっかり設定も練られてる。数百円出すだけの価値はあると俺は思うぜ。



では、あんま書き溜めなくて少ないですが、投下再開します。
115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 21:18:50.83 ID:lQ6HK2AO

「ここか……?」


一方通行を土御門に預けた後。
上条は一人研究所の奥の方に来ていた。


上条が今いるのは研究所の最深部の研究室。
暗く長い廊下を経て、ようやく開けた空間に出られたと安堵したその場所に、打ち止めはいた。


116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 21:22:48.64 ID:lQ6HK2AO

「打ち止め!?」


上条は走る。

打ち止めは眠らされているのか、規則正しい寝息を立てて診察台のようなものの上に横たえられていた。

そんな打ち止めの周りを上条がよく観察してみると、彼はあるおかしな点に気が付いた。


117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 21:28:35.00 ID:lQ6HK2AO

「なんだよこれ、何かの儀式をしているみたいな……―――っまさか!?」


上条は再び打ち止めを見た。見たところ、彼女に異常はない。
いや、“何もなさすぎる”

今ここに眠る打ち止めには、チューブや電子機器といった『科学的な物品』が一切取り付けられていないのだ。
ただ、彼女の周りにはチョークのようなもので描かれた魔法陣らしき図形と、燭台や宝石といったこの場にはそぐわないアンティークな代物たちが、意味ありげに置かれていた。


そしてこれらが示すものを、上条は知っている。


118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 21:31:31.64 ID:lQ6HK2AO

「まさか、魔術師が絡んでるっていうのか……!?」

上条は改めて打ち止めの周りに描かれているものを見た。今までの経験からして、上条はこれが魔術絡みであることは明白だ、と推測した。


(これはきっとなんかの魔術の術式だ。……でもこれって勝手に壊していいのか?)


119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 21:33:29.57 ID:lQ6HK2AO

以前、上条は大規模な術式が絡んだ事件に関わったことがある。
そしてその時の術式は、術式を成すものを一つでも動かすと、異なる術式が発動するというものだったのだ。
そういう訳もあって、魔術というものが未だに良く理解出来ていない上条としては、迂闊に手出しできない状況となってしまった。


120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 21:41:55.71 ID:lQ6HK2AO


「くそ、こんな時に土御門がいればな…」

上条は一人呟く。

あの土御門元春という男は、学園都市の能力者にして、イギリス清教『必要悪の協会(ネセサリウス)』の魔術師でもある。つまり、彼は魔術がどういったものであるかを、学園都市の能力者でありながら理解している数少ない人間の一人なのだ。
最も、その代償は決して軽くはないのだが。



「呼んだかにゃー?」

「おわぁぁぁっ!?」

突然、後ろから土御門の声がした。
見ると、先ほどまで一方通行のところに居たはずの土御門は、上条のすぐ真後ろに立っている。


121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 21:42:49.02 ID:lQ6HK2AO
中断すまない。ちょっと風呂行って来ます
122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 22:08:38.01 ID:MzbwHJA0
愛佳な
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 22:22:55.08 ID:lQ6HK2AO
予定外な洗濯をしてしまったぜ……。

では再開します。

124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 22:30:32.80 ID:lQ6HK2AO
「びっくりさせんな土御門!……ところで、もうアイツについてなくていいのか?」

上条は未だビクビクしながらも土御門に問う。

「アイツの『あれ』はただ単に不具合起こしてるだけだにゃー。迎えは来たし、あとは原因さえ取り除いてやれば問題ないぜい。

――…そんなことよりもかみやん、さっさとソレを壊せ」


土御門はそう言って、今し方まで上条が困惑していた術式を指差した。



「これって壊していいのか?」

「ああ、大丈夫だ。というより、早く壊さないと術式が発動しちまうぜい」

「早く言えって、そういうことは……」


相変わらず喰えない男だ、と上条は胸中で溜め息を吐く。
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 22:37:51.00 ID:lQ6HK2AO


上条は息を整えると、右手を何度も何度も握り直し、しっかりと拳を作った。

彼の見据える先は、打ち止めの周りに存在する術式。

これが打ち止めを、そして一方通行を苦しめた根源。


ならば。



「待ってろ、打ち止め。一方通行」


上条は右拳を高々と掲げる。彼の言うべきことは、もう決まっていた。



「今、そのふざけた幻想をぶっ潰す!」



126 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 22:39:50.65 ID:lQ6HK2AO

パキィン!


甲高い破壊音とともに、バラバラと術式を織りなす道具が壊れていく。それに伴い、床に描かれていた怪しげな紋様も綺麗さっぱりなくなっていた。


「よくやったかみやん!」

土御門が後ろで笑っている。
これで、ようやく終わったんだ。上条は息を大きく吐くと、その場にどっかりと腰を下ろした。

127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 22:44:14.75 ID:lQ6HK2AO


「土御門。帰りの車はいつ来る?」


打ち止めを助けるという大仕事を終え、安心しきった上条が何気なく聞く。すると、土御門は当然のようにこう答えた。


「んなもん、ある訳ないにゃー」



土御門曰わく。
上条がここへやって来たのは、今回はあくまでイレギュラー。当然、彼一人のための送りの車などある筈もない、と。

つまりは。



「ふ、不幸だぁぁぁあっ!!」


上条の口癖でもあるその言葉は、すっかり物静かになった研究施設全体に響き渡ることとなったのだった。

128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/21(水) 22:51:52.31 ID:lQ6HK2AO
3クール目終了!という訳で、ようやく起承転結の『転』の半分くらいまで来ました。グダグダなりつつはありますが、もうしばらくお付き合い頂けると幸いです。

ちなみに、これが終わっても多分スレにかなりの余裕があると思うので、短めの一方SSを暇を見つけてちまちま投下していきたいと思っております。
また、次の投下予定は金曜日です。

それでは長くなりましたが、失礼致します。
129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/22(木) 00:07:34.99 ID:f4yQHEA0
乙!まってるぞ!
130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/22(木) 03:22:36.12 ID:npCCMoAO
gdgdと言いつつ上条サイドだから描写に力入ってねー気がするのは俺だけかww
131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/22(木) 03:57:58.81 ID:S4xe6GA0
132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/22(木) 08:06:19.47 ID:pub6RUAO
>>130 何故バレたwwwwwwww

あ、学校行ってきます。
133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/22(木) 12:52:42.37 ID:npCCMoAO
>>132
分かンだよ同じ思考してンやつァよォ!!
SSの検索ワード「一方」一択だからなァww

口調がセロるの押さえきれねェしww
頑張れやァ学校ゥ!!
134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/23(金) 14:07:00.74 ID:bB1t66AO
こんにちは、>>1です。


今日の更新も夜からを予定してます。

ちなみに今は主に魔術サイドを書いてますが、あまりに中二すぎる適当なことを書くと後が怖いので魔術的記述は結構薄いと思います。宗教や神話にそんなに詳しくないので。期待してた方はすみません。
その代わり一方サイドは頑張りたいと思います。よろしくお願いします。
ではまた夜に。

135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 18:34:12.71 ID:2UAmxADO
たのしみだにゃー
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/23(金) 21:04:38.25 ID:bB1t66AO
お待たせしました。書き溜めもそんなにないので、さくさく投下していきます。

では再開します。
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:06:07.02 ID:bB1t66AO

「……や、やっと着いた。あぁ、不幸だー」


研究所にて打ち止めを助けた上条は、一人暗い夜道を歩いていた。
なんと彼は昼間までいた第15学区から徒歩で、この第7学区へと戻ってきたのだ。
バスや電車などを使って戻って来られたら良かったのだが、朝教室を飛び出してきた上条には生憎持ち合わせがなかったため、泣く泣く徒歩で帰宅せざるを得なかった。

138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:07:09.11 ID:bB1t66AO

上条は時計の針へ目をやると、気だるそうに溜め息を吐く。
もう、完全下校時刻はとっくに過ぎていた。


しかし、上条にとっての一番の問題はそこではない。


「マズい。非常にマズい」

上条は恐怖していた。
彼を脅かすものは、夜遊びする生徒を取り締まる警備員(アンチスキル)でも、夜の街に会する無能力者(スキルアウト)たちでもない。

もっと、極悪残忍な存在だ。
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:07:52.98 ID:bB1t66AO

「インデックスのこと忘れてた……」


そう。上条は事件のことを考えるあまり、彼女のことはすっかり頭の中から飛んでいっていた。

今日の晩御飯は、ただでさえいつもよりお粗末なものになる予定なのに、さらに帰宅まで遅れてしまったのだ。帰り着いた先に待つ彼女がどんな表情をしているのか、考えるだけでも恐ろしさで身震いしてしまう。

140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:08:42.97 ID:bB1t66AO


「うぅ、不幸だぁぁ…」

上条は今、寮の部屋の前に立っている。
このドアをくぐれば、おそらく禁書が待ち構えているに違いない。
上条は生唾を飲み込むと、意を決して扉を開く。

「い、インデックスさーん…」


扉をゆっくり開いていき覗くと、中は真っ暗だった。

「……あれ?」


確か禁書には、外に出るなと伝えていたはずだ。
もしかしたら、帰りの遅いこと怒って不貞寝してしまったのかもしれない。
そう思い、上条は静かに部屋の中へと入った。

141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:09:57.92 ID:bB1t66AO

「インデックス?」

もう一度呼びかけてみるが、返事はない。上条も流石に不安を感じた。


「インデックス、いないのか……?」

そう言って、上条は部屋の電気をつける。みると、部屋には誰もいなかった。


嫌な、予感がする。


「……少し探してみるか」


禁書がいないことに不安を隠せない上条は、そのまま部屋を後にすると、彼女を探すために再び夜の学園都市へと繰り出した。

142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:10:41.37 ID:bB1t66AO

「インデックスー!どこだー!」


上条は、第7学区のとある公園に来ていた。
ブランコや滑り台といった遊具が充実したそこは、昼間には多くの子供たちで賑わっている。
だが今は夜ということもあり、公園は不気味な静寂に包まれていた。


143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:11:40.54 ID:bB1t66AO

「インデックス……!?」

そこで、ようやく上条は禁書を見つけることが出来た。禁書は公園にあるブランコに、一人静かに座っていた。


「こら、インデックス!大人しくしてろって言っただろうが!」

言いながら、上条は禁書に詰め寄る。そして、彼女の手を取ろうとした、が。

握り返されることを期待したその手は、虚しく宙を舞った。

144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:12:52.88 ID:bB1t66AO

「……え?」

上条は禁書を見る。

禁書はそんな上条を気にする様子もなくゆっくり立ち上がると、先ほどまで座っていたブランコから離れ、こちらを見据えた。

そして、言う。




「……敵勢を補足。速やかに排除行動に移行します」


145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:13:32.55 ID:bB1t66AO


「……なっ!?」


上条は自分の耳を疑った。何かの間違いに違いないと、そう思った。
だが、今目の前に立ちふさがる禁書は、確実に彼女自身の唇を動かして、歌うように続けて言葉を紡ぐ。


「敵勢情報を解析します。
……確認。個体名『幻想殺し(イマジンブレイカー)』。危険度AAA。銃器使用の許可を申請します。
……受理。直ちに戦闘行動に入ります」


言い終わるや否や、禁書の両手に小型の銃が現れた。どうやら手の裾に隠し持っていたらしい。
続けて、ジャキンと金属が跳ねる音がする。

146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:14:46.46 ID:bB1t66AO

やばい。

そう思う前に、上条は無意識的にに右へと飛んだ。その瞬間、今まで上条がいた場所は見るも無惨に銃痕でズタズタになっていた。


「……くっ!」

それを見た上条は、慌てて近くの茂みへと飛び込む。
禁書の銃器と上条の幻想殺し。悔しいが、上条にとって銃器などによる物理攻撃は、相性として最悪なのだ。


147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:25:40.85 ID:bB1t66AO


上条の右手にある幻想殺しは、対象が異能の力によるものならば何であろうとも打ち消す能力を秘めている。
例えそれが神様の奇跡であっても、だ。

しかしその一方で、異能の力によるものではない銃器の類には、全く歯が立たなくなる。

つまり今のこの状況は、上条には絶体絶命という訳だった。
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:26:57.28 ID:bB1t66AO

「………っ!」

無我夢中で走る。

どうして禁書が自分に攻撃するのかなんて、分からない。だが、すぐに体勢を立て直さなくては、訳も分からないまま殺されるだけだ。

上条はそう思った。



「どうすればいいんだよ……!?くそっ!」

上条は舌打ちしながら、小声でボヤく。あまり大きな声を出すと、相手に見つかってしまう恐れがあるからだ。

なんとか姿勢を低めに保ちながら茂みに隠れる上条。そんな彼の後ろに一つの影が近づいて来た。
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:34:46.42 ID:bB1t66AO
「こんばんは、少年。ご機嫌はいかがかしら?」

突然、後ろから声をかけられた。上条が恐る恐る後ろを振り返って見ると、そこには煌びやかな衣服に身を包んだ女が立っている。

しかしながら、上条はどこかその女に見覚えがある気がしていた。


150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:35:40.76 ID:bB1t66AO

「覚えてないのかしら、少年。確か、あなたとは今朝あったばかりなのだけど」

「……あ、」



そうだ、思い出した。
上条は頭のとっかかりが取れるのを感じる。確か、この女は今朝訪問販売にやってきた女だったはずだ。
どうしてこんなとこに、と考えていると、女は馬鹿にしたような顔でクスクスと笑った。

151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:40:58.99 ID:bB1t66AO

「少年。もしかして、分かってないのかしら?これらは全て私が仕組んだことなのだけど」

「……なっ!?」


全て、仕組んだ。
つまり、今の禁書の異変は。打ち止めの誘拐は。


「おかしいとは思わなかったのかしら、少年。あんなネックレスを、男の子であるアナタに売りつけるこの私を」


「………まさか、」



一気に全身の毛が泡立ち、上条は自身の体が脈動するのを感じた。

152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:48:37.86 ID:bB1t66AO
「そう、あのネックレスは霊装なの。それも、この私の最高傑作」

自慢気に、魔術師は語る。

「術式の効果は対象の遠隔操作。まぁ、あくまでこの霊装はサブプラン。あなたがあの時“右手”で触れていたら霊装は壊れてたし、必ずしも霊装が禁書目録の手に渡るとも限らなかった。仮にそうだったら、別の方法をとっていたのだけど」


あぁ、そうだ。
確かに自分はあの時“左手”に渡されたネックレスを“左ポケット”に入れて“左手”で取り出し、そして禁書に渡したんだ。

153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 21:49:42.20 ID:bB1t66AO

「アナタが間抜けだったおかげで、手間が省けたわ」

魔術師はにっこり笑った。

「……っ!!てめぇぇえっ!」



全て、仕組まれたことだった。
そう理解し、更に逆上した上条は土を蹴る。そして一気に、魔術師との距離を詰めていった。

154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 22:00:54.51 ID:bB1t66AO

上条の武器は、基本的にいつも右手一本だ。つまりは、丸腰。

対して、敵である魔術師たちは何を持っているか分からない。

そんな不利な状況にもかかわらず、上条は突っ込んでいった。そんな彼の姿は、相手魔術師にとっては勇敢というよりは無謀に見えた。


155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 22:01:25.35 ID:bB1t66AO

「少年。アナタは馬鹿なのかしら。何も考えずに突っ込んでくるなんて」

言って、女魔術師は首に下げてあった十字架のペンダントを千切り、空へ放った。
瞬間、十字架は青白い光を放ち、その光は上条へと降り注ぐ。


「ぐっ!?」

とっさに上条は右手でそれを打ち消したが、宙に浮いた十字架はクルクルと回り、再び光を放つ。よくよく見てみると、それは青白い稲妻のようだった。


156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 22:02:13.72 ID:bB1t66AO

「オリンポス十二神が一人、ユピテルの加護を受けた十字霊装。私のお気に入りなのよ」

女魔術師は得意気な顔をして笑う。
そして続けて言った。

「死にゆくアナタに、一つ教えてあげようかしら。私たちの目的を」

「何だと……?」

打ち止めをさらった時点で、この事件が計画的なものであることは分かっていた。しかし、その目的はいまだ明らかでない。それを今、魔術師は語る。

157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 22:22:46.27 ID:bB1t66AO

「私たちの目的は、学園都市の制圧。そのための禁書目録であり、打ち止めなのよ」


上条は戸惑う。一体、彼女らをどう使って学園都市を制圧すると言うのか。そんな上条の疑問に答えるかのようにして、魔術師は再び口を開く。

「あなたは禁書目録がどれだけの可能性と危険性を秘めた存在なのか、分かっているのかしら?」

「知るかよ……っ!」


雷撃。
上条は右手一本でそれを防ぎつつ、魔術師の言葉を聞いた。

158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 22:23:30.38 ID:bB1t66AO

「禁書目録は、いわば過去の魔術師たちの作り出した英知の結晶。それを手に入れることで、私たちローマ正教は更なる発展を望める」

ここにきて、ようやくローマ正教所属だと名乗った魔術師は、そう言いながら右手にはめられた指輪を外し、上条へ投げつけた。

「……っ!?」

上条は寸でのとこでかわした――はずだった。
しかし、よけたと思ったその指輪には、見えない何かが存在していたらしい。
その証拠に、上条の右肩のシャツはぱっくりと裂け、裂けたシャツの下の肩はうっすらと血の滲んでいた。

159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 22:25:56.38 ID:bB1t66AO
すみません。
キリがいいとこで終わりたいので、少し書き溜めて、出来次第また戻ってきて投下していきたいと思います。
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/23(金) 22:51:37.43 ID:bB1t66AO
再開します。





「……っ、打ち止めは、打ち止めはどうする気だったんだ!」

痛む右肩に表情を歪めながら、上条は魔術師に尋ねた。魔術師の話が正しければ、打ち止めを連れ去ったのも彼女らローマ正教ということになる。
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 22:53:04.27 ID:bB1t66AO

「実はローマ正教の中でも私たちは学園都市で独自に動いているのだけど。その際に興味深い情報があったから、利用できるならそれを使ってみようと思った。そんなところかしら」

「――そんな、そんな下らない理由で打ち止めを巻き込んだのか……!?」


たったそれだけのことにどれほど打ち止めが、一方通行が苦しんだのか、この女魔術師には全く理解出来ていないのか。上条は降り注ぐ雷撃を防ぐことも忘れ、ただただ怒りを感じた。
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 22:54:04.82 ID:bB1t66AO

上条にとって、禁書や打ち止めにどれほどの魔術的・科学的価値があるのかなんてどうでもいい。重要なのは、目の前の人間が困ってるかどうかなのだ。


「ふざけるなぁぁあっ!!」

雷鳴が轟く中、再び上条は走りだす。その中の一つが上条のすぐ側を貫いたが、彼はそれに見向きもしなかった。
そして、ついに魔術師を捉える。


「終わりだ、魔術師!」

上条の右手が閃いた。

163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 22:55:35.53 ID:bB1t66AO


「……が、あぁぁぁあっ!?」


しかし、無様に地を這ったのは魔術師でなく、上条の方だった。
それもただ倒れるのではなく、まるで何かに引きずられるかのような衝撃によって地面を転がっていく。
その軌跡を、上条から溢れる真新しい紅が染めていた。

164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 22:58:02.43 ID:bB1t66AO
「インデックス…!」

上条はよろめきながら立ち上がる。いつの間にか、上条の後ろには純白のシスターが銃を構えて立っていた。

幸いに、上条の傷は致命傷には至らなかった。だが、それでも戦況が不利であるのには変わらない。銃弾を受けた上条の脇腹からは、確かに真っ赤な血が流れているのだ。
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 22:58:39.51 ID:bB1t66AO

激痛が走る脇腹を抑え、上条は考える。


目の前の魔術師に、後ろの修道女。

もはや、勝敗は明らかだった。



「さよなら、少年」

魔術師が言う。後ろでは銃を構える音。

上条は、固く目を瞑った。
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 23:02:50.64 ID:bB1t66AO

―――銃撃音。


だが肝心の銃弾は、いつまで経っても飛んでくる気配がない。一体どうしたのかと、上条はうっすら目を開く。
そして、目を開いた上条は驚愕した。

上条のすぐ真後ろにある影。彼はその影に見覚えがあった。
上条はゆっくりと振り返る。

するとそこには、かつて命をも賭した激戦を共に繰り広げた宿敵であり、名実ともに学園都市最強である超能力者――――一方通行の姿があった。

167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 23:08:01.66 ID:bB1t66AO
よし、とりあえず本日分は終了wwwwwwwwww


あとは起承転結の結に入っていきます。
ようやく出てきた一方さんの活躍にご期待下さい。

ちなみに、次の投下はまだ未定です。書きためが尽きた上に、ゴールデンウイークに大会があるので……。
もしかしたら書きため無しの直接投下になるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします。

それではまた。
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/23(金) 23:34:18.30 ID:Iij9mlko

一方△
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/24(土) 00:51:29.94 ID:bUBdlEAO
支援
170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/24(土) 15:35:19.74 ID:I7jDUwAO
どうも、>>1です。バイトが始まるまで少し時間があるので、出来た分だけ投下していきます。
171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/24(土) 15:36:47.86 ID:I7jDUwAO

「おいおい、何の騒ぎですかァ?こりゃ」


突如上条の前へと姿を現した一方通行。
彼は、ひとまず自身の前にかざしている右手の力をゆっくりと抜いた。その手からは、バラバラと複数の鉛弾が零れ落ちる。

「随分苦労してるみたいだな、三下ァ」

鼻で笑いながら、一方通行は上条を見た。
上条の方はというと、いまだに驚きを隠せないようだった。

172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/24(土) 15:37:53.92 ID:I7jDUwAO

「なんで、お前、」

「充電完了、ってなァ」
一方通行は楽しそうに言う。


「俺はな、借りは作らねェ主義なンだよ。これで借りを返していいよなァ、三下ァ?」


「……あぁ、そうだな」

上条は苦しそうにしながらも薄く笑い、そして立ち上がった。

紙一重での、形勢逆転だ。
もしも神様というものが存在するのなら、今ぐらいは感謝と祈りを捧げてもいい。

上条はそう思った。


173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/24(土) 15:40:54.35 ID:I7jDUwAO

「何をごちゃごちゃ言っているのかしら?そんな暇はあなた達にないのよ、能力者!」


魔術師は手を横一閃に薙ぐ。すると、今まで動きを止めていた禁書が再び銃を構えた。恐らく彼女の狙いは上条だろう。


だが、一瞬にして場は凍りついた。
禁書が銃を構えたその瞬間、一方通行が彼女のすぐ目の前へと移動し、銃の筒身をへし折ったのだ。

その速さ、時にしておよそ0.5秒。
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/24(土) 15:42:09.45 ID:I7jDUwAO

一方通行はニヤリと笑うと、上条に向けて言い放つ。

「三下ァ、オマエはこのガキを捕まえとけ。俺は、そこの女と遊ンでやるからよォ」

言って、一方通行はくるりと向き直り、女魔術師と対峙した。



科学と魔術。
この二つが交差するとき、再び物語は動き始める。
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/24(土) 15:45:14.77 ID:I7jDUwAO

「遊ぶですって?一体誰に言ってるのかしら!?」

一方通行に馬鹿にされて激昂した魔術師は、胸元から細長い金属棒を取り出すと、先ほどの十字架と同じようにそれを遥か高みへ放り、その名を告げる。

「出でよ、マルスの炎槍!」

すると、ただの金属棒であったそれは突如燃え上がって、みるみるうちに更に様態を変え、白炎の槍を作り出した。

176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/24(土) 15:47:36.39 ID:I7jDUwAO

「この槍の温度はおよそ数万度。迂闊に近付くだけで黒こげなのよ。これは、あなたが知ってるような炎じゃないのよ!」

魔術師は叫ぶと、上空で瞬く槍を一方通行へと放つ。
彼らより少し離れた位置にいる上条でも、その槍から伝わる緊張でチリチリと皮膚がヒリつくのを感じた。


だが、一方通行は笑っていた。


「お終いなのよ!」

槍が一方通行に衝突し、魔術師は狂喜する。
一方通行の周りにある地面すら、深く削り取られているのだ。あの馬鹿な超能力者は跡形すら残ってないだろう。魔術師はそう確信していた。

なのに。

177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/24(土) 15:48:10.12 ID:I7jDUwAO

「よォ。随分とご機嫌だが、何か良いことでもあったのかァ?」


手に少しの傷を負ってはいたものの、超能力者は依然として笑ってそこに立っていた。



「………うぁ、あ、」

ぺたんと、女魔術師は座り込む。
彼女には、目の前の存在がどうしても理解出来なかった。


178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/24(土) 15:52:59.74 ID:I7jDUwAO

「何かチィと違和感があるけどよォ。要するに、これは高プラズマ体なンだろうが」

槍を解析するために傷を負った右手から血が零れれ、それをペロリと舐めとって。

「まァ、それさえ分かっちまえば、後は簡単なンだわ」


飄々と、一方通行は言った。


「お前、一体何者なのよ!?」

魔術師は戸惑った。
当たり前だ。こんな奴がいるなんて、情報だけ聞いても眉唾にしか思わなかった。現実に存在するなんて、誰も思わなかった。


179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/24(土) 15:56:51.84 ID:I7jDUwAO

「俺かァ?」

一方通行は面倒臭そうに息を吐くと、収納してあった杖を取り出しながら、目の前の愚かな魔術師にその答えを教えてやる。


「この学園都市で第一位の超能力者、一方通行。
今後は相手を選んで喧嘩を売るンだな、クソッタレ」



180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/24(土) 16:01:37.38 ID:I7jDUwAO


とりあえず今日はここまでで。しばらく不定期になると思いますが、もう少しで終わると思うのでどうか最後までお付き合い下さい。




そして思ったより一方さんをカッコよく出来なかった俺を誰か殴ってくれ。頼む。

181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/24(土) 16:05:17.86 ID:I7jDUwAO
ていうか今見直してみるとかなり誤字あるな。ちょっと吊ってくるわ。

182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/24(土) 17:16:27.69 ID:a4v.m3Mo
いいね
現状を理解できずただただうろたえるばかりの愚かな女魔術師の胸に俺の金属棒をなすりつけたい
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/24(土) 19:40:40.20 ID:sFv5VA60
馬鹿最高にカッコいいだろ一方さん…
いやでも>>1的にはまだこれでも足りぬというのか

いいぞもっとやれ
184 :殴れねェからこんなもんでいいですかァ? [sage]:2010/04/26(月) 01:17:28.37 ID:hggYDoAO
>>180
一方「俺をカッコ良くできないとかどのクチが言ってンですかァ!?
三下なら三下らしく努力するこったなァ!」

上条「あ〜悪い、こいつ口悪いからさ、気にしないで「ああァ!?」くれよな。」

一方「何オマエら近づいてボソボソ喋ってんだァァ!!」

上条(ああもう苦労しますよ上条さんは…。)

禁書「書いて書いて書きまくれば良いと思うんだよ。お腹空いたら食べて食べて食べまくれば良いのと同じなんだよ」

上条(嫌ですよ上条さんは……)

打ち止め「無理して書かなくても、納得いかないならいくまで直していいんじゃないかなってミサカはミサカは提案してみたり!」
185 :管理人、Twitterを始める http://twitter.com/aramaki_vip2ch [sage]:2010/04/26(月) 01:44:36.39 ID:hggYDoAO
あ、ンがなってねェ……orz人の事言えねェな
186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/26(月) 23:00:20.07 ID:DAgvZ6AO
レスくれたヤツらありがとう。励みになったわ。


じゃ、とりあえず今日の分投下します。

187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/26(月) 23:03:55.91 ID:DAgvZ6AO


一方通行が女魔術師との戦闘を繰り広げていたころ。上条当麻は、魔術師の傀儡となり果ててしまった禁書目録と向かい合っていた。


「……攻撃手段消失。再指令を要求します。……失敗。速やかに自律行動パターンへ移行します」

そう言うと、ギギギッ、とまるでロボットが軋みながら動き出したかのごとく、禁書が再び動き始める。


188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/26(月) 23:07:22.52 ID:DAgvZ6AO

構える禁書に対し、上条もまたジリジリと構えを見せた。上条は今、制服の上着で脇腹の傷を塞いでいる。これで少しは動き回れるはずだ。


「絶対、助けてやるからな。インデックス」

上条は言う。しかし、彼は右手を握らない。それは、握る必要がないからだ。

上条の右手は禁書を傷付けるために振るうのではなく、彼女を絶望から救うために振るうのだから。
189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/26(月) 23:07:26.18 ID:itSjVhYo
キター!
190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/26(月) 23:08:15.66 ID:DAgvZ6AO

「うぉぉぉぉおっ!!」

上条が走った。

上条の目線の先には、件のネックレス。禁書は、上条から貰ったそのネックレスを、大切そうに首に下げていた。


(ちくしょう、俺のせいだ……!!)

上条は自分を責めた。
自分があの時右手で触れていたなら。禁書に渡さなければ。買わなければ。
もっと、違う道があったんじゃないかと。

191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/26(月) 23:09:16.16 ID:DAgvZ6AO

「だから」


禁書との距離は、あと約1メートル。上条は土を蹴り、ネックレス――霊装へと手を伸ばした。


「こんなとこで、止まってる場合じゃねぇよなぁ!」


上条の指先が僅かにネックレスに触れた。その瞬間、奇怪な衝突音共にその空間がブレる。そして、禁書が首に下げていたネックレスはバラバラに飛び散り、跡形もなくなっていた。

192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/26(月) 23:10:38.49 ID:DAgvZ6AO

ネックレスが破壊されると、禁書は静かに目を閉じ、吸い込まれるようにして地へ向かう。
その禁書を、上条は懐で優しく受け止めた。



こうして、長かった学園都市を揺るがした大事件は、今ようやく幕を閉じる。




193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/26(月) 23:14:38.22 ID:DAgvZ6AO
めっちゃ短いが、書き溜めがこれだけしかない+4クール目終了という訳で今日はここまでwwwwwwww
あとは少しの5クール目とエピローグ的な何かを書くぜwwwwwwwwww



更新はまたまた未定だが、恐らく明日か木曜日になる気がする。

それではまた。
194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/27(火) 01:02:24.97 ID:PebzwfQ0
乙! 待ってる
195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/27(火) 03:58:56.46 ID:P6EWQkAO
キレが良いから短くても良いぜェ
196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/28(水) 23:27:16.26 ID:8Lt3zUg0
木曜日かな。楽しみだ―
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/29(木) 13:56:30.75 ID:2xTF7oAO
どうもご無沙汰です。>>1です。


再開遅くなり申し訳ありません。出かけるまでの間だけですが、少し投下させて貰います。

198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 13:58:07.71 ID:2xTF7oAO

「ありがとうな、一方通行」


戦いが終わった後。
上条はそう言って、左手を差し出す。しかし、その手を握り返されることはなかったので、上条は苦笑しながらそれを引っ込めた。

「……俺は打ち止めが、オマエはそのガキが無事だった。俺達にとっては、それだけでいいンじゃねェか?」

一方通行はそう言うと足元を見る。そこには先ほどまで彼が戦っていた女魔術師が気絶して倒れていた。

199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 13:58:10.26 ID:cPXWLsAO
待ってた
200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 14:00:40.15 ID:2xTF7oAO

「……殺してないよな?」

「ハッ、俺を誰だと思ってやがる。こんな三下、[ピーーー]価値もねェ」

(誰だと分かってるから聞いてるんだけどな……)

上条は一人胸中で呟いたが、口にはしない。口にしたところで、自分が女魔術師の二の舞になるのは明白である。
とりあえず一方通行は女魔術師を殺していないと分かり、上条は安堵した。
いくら学園都市を脅かした張本人とはいっても、ここで彼女に死なれるのは諸事情により困るのだ。
201 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 14:03:48.68 ID:2xTF7oAO
そんな問答を繰り返していると、突如一方通行が上条へと背を向けた。


「帰るのか?一方通行」
「あァ。クソガキが病院で待ってるからよォ」


コツンと杖をつきながら一方通行は言った。

先ほどの戦い振りからして忘れてしまいそうになるが、研究所の一件で一方通行も左肩を負傷している。恐らくは、彼も病院へと戻らなくてはいけないのだろう。
そして、上条と禁書もまた、あのカエル顔の医者のいる病院へと向かわなくてはならない。

202 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 14:06:10.08 ID:tvc0QCI0
待ってた待ってた!
203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 14:14:55.28 ID:2xTF7oAO

「俺も土御門と連絡をとったらそっちに向かうよ」

「いや、アイツには俺がもう連絡しといた。オマエも早いとこ病院に行け。軽い傷じゃねェだろうが」

「へっ?……あ、あぁ」


まさかあの一方通行からこんな相手を気遣うような台詞が聞けるとは思っていなかった。あまりに突然の事で、上条は動揺を隠せずにいた。

それに、研究所にいった時から気になっていた、二人が知り合いだということ。一体どこで知り合ったかは知らないが、土御門もつくづくよく分からない奴だな、と上条は思う。

204 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 14:16:07.38 ID:2xTF7oAO
やべぇ急用入ったwwwwwwwwww
移動しながらなので少し投下スピード遅くなります。
205 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 14:22:04.90 ID:2xTF7oAO

「俺はもう行くけどよォ。オマエは自分の足で病院まで行け。俺もそこまで面倒見るつもりはねェからな」

「あぁ、分かってるよ。助けてくれてありがとうな」

そう言いながら、一方通行を見てふっと上条の顔が綻ぶ。
一方通行は照れているのか、後ろ姿から耳の端が少し赤くなっているのが見えた。

「またな、一方通行」

上条は手を振る。
しかし、真っ直ぐに自分の道を歩き出した一方通行が、後ろを振り返ることは決してなかった。


206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 14:30:52.98 ID:2xTF7oAO




「………全てはプラン通り、か。良かったじゃないかアレイスター」


窓も入り口もないビルの中。そこの一室―――学園都市理事長アレイスターのいる部屋。そこに、土御門はいた。

207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/29(木) 14:36:21.55 ID:k6fAUgA0
みてるよ
208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 14:41:30.68 ID:2xTF7oAO
「いや、こんなにも上手くいくとは私も考えていなかったよ。思っていたよりも凄いものだな、人というのは」

言って答えるのは、学園都市の理事長その人である、アレイスター。何かの液体で満たされたそこに存在する『ソレ』は、逆さになって液中に浮かんでいる。その様子は、男にも女にも、子供にも老人にも、聖者にも囚人にも見えた。
209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 14:57:32.31 ID:2xTF7oAO
「ま、こんなとこに引きこもってるアンタには分からないだろうがな」

挑発的に、土御門は言う。しかしアレイスターは、それに特に反応するわけでもなく、ただ微笑を浮かべているだけだ。


(相変わらず何考えているのか分からない奴だ)

土御門は眉をひそめながらそう思うと、すぐに踵を返してアレイスターの下から去っていく。そんな土御門の僅か後方には、このビルの『案内人』である結標淡希の姿があった。

210 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 15:01:06.79 ID:2xTF7oAO
彼女もまた土御門や一方通行と同じ暗部組織『グループ』の一員なのである。


「もう報告は終わり?」
結標が耳元で囁いた。土御門はそれに無言で頷くと、そのまま外へ向かうように彼女を促す。
結標はそれに了承すると、軍用ライトを器用に操り、座標移動(ムーブポイント)を行った。


211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 15:04:03.77 ID:2xTF7oAO

結標の能力である座標移動(ムーブポイント)は空間移動(テレポート)に酷似した能力で、その使い勝手と性能は抜群だが、いくらかの弱点も存在する。だが、その弱点がなくなったその時には、彼女の能力は超能力者(レベル5)にも匹敵するだろう。


212 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 15:11:13.05 ID:2xTF7oAO

とりあえずここまでで。書き溜め少なくてすみません。

次は多分連休明けになります……。
213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/29(木) 17:32:51.95 ID:pmvnkuQ0
お疲れ様〜
ゆっくりでも完結するなら最後まで付き合うZE☆
214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/29(木) 18:50:43.12 ID:cPXWLsAO
正史準拠の外伝といった感じ。緊張感が有ります。予定言っていただけて有難いです。
215 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 00:38:23.20 ID:/l6rIpM0
連休明けかあ。
了解です、待ってる!
216 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/01(土) 08:02:04.73 ID:DjoYN6AO
どうも>>1です。

遠征中のバスが意外と暇があるので、投稿します。


今日でラストまでいきます。たまに投稿が遅くなるのはトンネルのせいだと思って下さい。

それでは投下します。

217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:03:51.09 ID:DjoYN6AO


「……一方通行はどうなの?」

建物の外へ出て、病院へと向かう道中に、結標は土御門に問う。

結標は一方通行たちとは異なる案件に関わっていたため、今回の事件を詳しく理解してない。今彼女が知っているのは、先ほどの土御門の報告から盗み聞いた、一方通行が戦闘により負傷したために、現在病院にいるということだけだ。

218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:07:19.49 ID:DjoYN6AO

「あぁ、大丈夫だ。傷は大したことなかったからな。今頃、俺が送りつけたもう一つの事件も片付けて病院に戻っているだろう」

「随分と働かせるのね」

ケロリと言ってのける土御門に対し、結標は薄く笑いながらそう答える。結標は、一方通行の怪我が動けるレベルであるということに、少しホッとしていた。

219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:10:43.70 ID:DjoYN6AO
「とりあえず、早いところ一方通行の見舞いを済ませよう。結標、移動出来るか?」

「……私は止めておくわ。アナタだけでどうぞ?」

「……分かったよ」


土御門が苦い顔で了承する。それを見て結標は、軍用ライトをクルクル回し、遥か遠くに見える病院へと標準を合わせた。
220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:24:55.91 ID:DjoYN6AO

「あの病院でいいの?」
「あぁ、頼む」


そう言うと、彼は一瞬にして姿を消した。

結標の座標移動。これは単純な空間移動と異なり、対象に触れずとも遠くへ―――空間移動を遥かに上回る距離を、瞬間的に移動させることが出来るのだ。
221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:25:59.61 ID:DjoYN6AO
―――――――


「……ここか」


今土御門はとある病室の前にいた。
プレートは無記名。だが、ここに打ち止めと一方通行がいるらしい。

場所を聞いたら、二人とも明日には退院だと、あのカエル顔の医者はそんなことをいっていた。


222 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:29:11.58 ID:DjoYN6AO

数回のノック。


これに対し、返事はない。しかし、土御門はそんなことには構わず、そのままドアノブに手を伸ばした。


「一方通行」

「……オマエか」

中に入ると、ベッドには打ち止め、その傍らには一方通行が座っていた。
223 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:31:17.62 ID:DjoYN6AO
「アナタのお友達?ってミサカはミサカは聞いてみたり」

言いながら、打ち止めはベッドの端にちょこんと座って足をプラプラさせている。顔色は良く、体調の方もかなりよさそうだ。


224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:32:50.19 ID:DjoYN6AO

「ただの知り合いだ」


一方通行はふてくされたような様子で、サイドテーブルに片肘をついていた。そのテーブルの上には、なにやら奇妙なカエルの人形やぬいぐるみがばらばらと散乱している。恐らく一方通行が打ち止めのために買ってやったのだろうと考えると、少々微笑ましく思えた。
225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:35:12.58 ID:DjoYN6AO

「今までどこ行ってたンだ?」

「クソ息苦しいビルの中だ」


吐き出すように、土御門は答えた。
その答えに、一方通行はしかめっ面であった顔を、更にしかめる。


「……オイ、オマエまさか」

「お察しの通りだ。話が早くて助かる」

226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:36:45.86 ID:DjoYN6AO

一方通行は悟る。

全ては、アレイスターのプランに組み込まれていた。全て、利用されていた。そう、あの女魔術師のことさえも。


(あの奇妙なやつらも前からご存知だったって訳か。あの野郎、一体どこまで知ってやがる?)


一方通行は舌打ちする。
全てはアレイスターだけが知っている。それは自分一人が考えても到底及びつかない場所に存在するのだろうし、それを今更探ろうとも思わない。
自分など、ただアレイスターに踊らされるだけの駒に過ぎないのだ。

227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:38:06.34 ID:DjoYN6AO


ただ、アレイスターは打ち止めを巻き込んだ。

この事件の裏側をたった一人知っていながら。


それだけがこのイラつきの原因だろうと、一方通行は思う。

228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:47:14.65 ID:DjoYN6AO


「まぁ、幻想殺しと共闘できたのがお前にとって唯一の収穫じゃないか?」

「あァ?」


共闘。

あれは共闘と呼べるのだろうか?ただ、お互いがお互いの至らない部分の傷を舐め合ったにすぎないのではないか。

229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:50:07.82 ID:DjoYN6AO

ただ。


「……まァ、たまにはいいかもなァ」


例え自分を知る者に笑われたって構わない。
お前らしくないと罵られても怖くない。


それは微かでありながら、はっきりとした確かなもので。
本当に、本当に少しだけだが。




一方通行は、確かに微笑って(わらって)いた。
230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 08:50:55.30 ID:DjoYN6AO

それは決して憎悪や悪意に満ちたものではなく、はっきりとした生の感情を表している。


それが一体何を意味するのか。


今の彼に解る筈もなかったが。




―終―


231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/01(土) 09:06:41.53 ID:DjoYN6AO
なんか最後の方は時間がとれなくて途切れ途切れになりましたが、一応これで完結です。
ちなみに書こうと思った理由は、一方さんは一方さんなりのハッピーエンドを迎えて頂きたいと思ったからです。


このあとは

@この話の結標&海原サイドSS(誰得SS。地の文あり)

A一方&打ち止めのギャグSS(地の文無し。ミサカネットワークネタパクリ)

を考えてます。

読んで下さった方で、興味がある人はどちらがいいか書き込みしてくれると嬉しいです。



ではまた。
232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 09:34:07.37 ID:rJHBSoAO

@で
233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/05/01(土) 09:41:08.12 ID:/l6rIpM0
乙でしたー!一方さんも上条さんも土御門もカッコいいな
じゃあ俺はAで
ミサカネットネタ好きなんだよな
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 11:01:05.70 ID:RLlS1OI0
両方読みたいけど@がすげえ気になる!
235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 12:05:30.27 ID:7/OR1EAO
@だが、Aも読みたいな。両方書いてもらえたらって思うぜ
236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/01(土) 12:19:08.50 ID:gv9T3ADO

@かな
237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/01(土) 13:00:14.63 ID:MXuvC120
Aに決まってンだろォ?
ショタコンとストーカーは却下だァ
238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/02(日) 16:05:22.82 ID:0k7WDkDO
MNWネタは好きだが
あわきんが見たい気分

@でおねがいします
239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/02(日) 21:36:28.66 ID:Bsm0RkAO
どうも>>1です。


予想以上に@多くて吹いたwwwwwwww

とりあえず連休明けには投稿出来るように書き溜めてくるけど、あわきんの口調がいまいち掴めなてないのは許してほしい……


ではまた。

240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/05(水) 10:43:57.48 ID:6JGKmIDO
連休中に書いてくれてもいいんだぜ……!
241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/05(水) 13:01:12.24 ID:CiIxAwAO
どォも、>>1です。

ようやく遠征から帰ってきました、が。
思ったよりも海原やあわきんを動かすのが難しくてなかなか話が進みません……。

あと、まだまだ文章が中途半端で、これからの文章推敲やプロット練り直しにもしばらく時間がかかりそうです。

もしかしたら次の投下が週末になるかもしれませんが、気長に待って下さると嬉しいです。


以上、報告のみとなり申し訳ありません。

それではまた週末に。
242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/05(水) 13:14:30.57 ID:UR2B/.AO
(`・ω・´)ゞ了解ぜよ!
243 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/07(金) 23:25:17.19 ID:EoKUHAAO
お久しぶり、>>1です。なんだかそろそろ存在を忘れられそうな気がしてきたので、物語の冒頭だけでも書いていこうと思います。


ちなみに以下は注意書きみたいなものなので、本編を見る前に読んでおいて下さい。


244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/07(金) 23:26:54.73 ID:EoKUHAAO
※注意※
これから投下される話は、このスレの前SSである、一方「……また仕事か」の派生SSです。なので、先に前SSを読んでから閲覧下さい。
また、こちらは前作と異なり科学サイド中心の話となります(海原は例外ですが)
内容については、14〜15巻あたりと考えて下さい。流血・暴力シーンも多々あります。苦手な人は注意して下さい。

あと、自分は物理学関係に疎いために所々科学的に矛盾等があると思いますが、そこは生暖かい目で見守って下さると幸いです。



それでは、投下します。

245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/07(金) 23:29:49.63 ID:EoKUHAAO


「……これで終わりですかね」


とある高層ビル街に建ち並ぶ、高級ホテルの一室。そこに、海原光貴はいた。

そして今海原は、部屋中の棚や引き出しをひっくり返してある違法品を探し、処分している真っ最中である。



この学園都市のみならず、学園都市の外においても違法である品。

―――すなわち、麻薬を。


246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/07(金) 23:32:35.70 ID:EoKUHAAO
「大体3000万円分といったところでしょうか。よくこんなに溜め込んだものだ」

言って、海原はようやく見つけ出した最後の麻薬を袋に放り込む。


その刹那。

慌ただしい足音がしたと思うや否や、部屋の入り口の扉が跳ね飛ぶようにして勢いよく開いた。


「て、てめぇ!何をしている!?」

見ると、入り口で男が銃を構えながら、息を切らしていた。

247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/07(金) 23:37:22.84 ID:EoKUHAAO

(……もう戻って来たんですか)


運がない奴だ、と海原はそっと心の中で呟く。

そんな彼の手には黒曜石で磨かれたナイフ―――トラウィスカルパンテクウトリの槍が握られていた。

これは金星の力を借りてあらゆる物質をバラバラに分解することが出来るという一種の魔術的代物で、海原にとっての数少ない攻撃手段の一つだ。

ただし、その対象は一回につき一つだけと制限されており、なかなか使いどころが難しいのも事実なのだが。

248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/07(金) 23:40:07.90 ID:EoKUHAAO
もっとも、この海原は“海原光貴”の姿でこそあれど、真の“海原光貴”ではない。

彼の本当の名前はエツァリ。かつてアステカの魔術結社に所属していた魔術師である。
ちなみに本物の海原光貴は念動力(テレキネシス)を扱う大能力者(レベル4)だ。

つまりここにいる海原は、あくまでアステカの魔術師エツァリの仮の姿である。
だが海原に扮したこの男は、とある少女を守るためだけに自ら所属していた組織を抜け、今ここに海原光貴として存在しているのだ。
249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/07(金) 23:42:29.53 ID:EoKUHAAO

「何って、“掃除”ですよ。お客様」


「あぁ?何だ、てめぇホテルマンか?」


男は海原の言葉に信用しきってホッと撫で下ろすと、急に態度をガラりと変えて海原に怒鳴り散らした。

「今朝部屋の掃除はしなくていいと伝えていたはずだ!分かったらさっさと出ていけ!」

その言葉に、海原はクスリと笑った。

「えぇ、出て行きましょう。最後の“ゴミ”を片付けたら」

250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/07(金) 23:46:07.81 ID:EoKUHAAO

「最後のゴミ―――!?」


そう、男が何かを言い終わる前に。

突然、目の前の男の体が弾け飛び、四散した。


壁や天井は一面血に染まり、その中にいた海原にも、もちろんソレは降りかかる。
また、あちらこちらに貼り付けた臓器や皮膚も、ボトボトと次々地に落下していった。

そんな海原の手の中には、すっかり血に濡れてしまって鈍く光る黒曜石のナイフの姿。

251 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/07(金) 23:54:57.72 ID:EoKUHAAO

一面朱く染まった壁に、血でぬかるんだ床。そんな中を、海原は恐ろしいことに、先ほどまでと変わらない柔和な笑みを浮かべたままで歩いていた。
そして、その血の海に浮かぶ悪魔は言う。


「……最後のゴミ―――、始末完了です」



海原がゆっくりと踏み出した足の下で、ぐにゃりと臓物の一部が潰れる。

それでも、道化の仮面を被ったその悪魔が、その笑みを絶やすことは決してなかった。



252 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/07(金) 23:57:05.96 ID:EoKUHAAO



「ちょっと海原。いちいち派手に獲物(ターゲット)の臓物ぶちまけてんじゃないわよ。後処理が大変になるじゃない」

「すみません。ついいつもの癖で」

「ちゃんと拳銃は渡しておいたでしょうが。もうあんな密室であんたの武器は使わないで」

「はは……」


いつもの回収車の車内。そこに、結標淡希と海原光貴の姿はあった。


253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/07(金) 23:58:17.30 ID:EoKUHAAO

結標はあの後仕事を終えた海原を回収したのだが、真っ赤な血に染まった海原の姿を見て絶句し、身なりを整えさせて事情を聞いた今、こうして車内で説教をしているのだった。


「ところで本来の目的は達成出来たの?」

「えぇ、ここに」

言って、海原は小脇に抱えた麻袋を結標の前へ出した。
それには、先ほど海原がホテルの中で回収した麻薬が大量に詰め込まれている。
254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/08(土) 00:03:51.04 ID:7ri6hoAO

「予測通りの回収量ね。全く、どうやってこれだけ大量の麻薬を持ち込んだのかしら」

「まぁ、それを調べるのが我々の仕事ですが」


分かってるわよ、と間髪入れずに返事が返ってくる。
どうやらただの独り言のようなものだったらしい。海原は困ったような顔で首を竦めた。


「ところで、そちらの首尾はいかがでしたか?」
海原が問う。彼が聞いているのは、結標に頼んでいた麻薬取引ルート及び彼らの持つ別アジトの所在地といった、新たに入手したであろう情報の収集結果である。
255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/08(土) 00:08:54.46 ID:7ri6hoAO

「そんなに上手くはいかないわよ。連中も馬鹿じゃないもの」

結標は複雑そうな顔でうなだれている。どうやら、予想より情報収集は上手くいかなかったようだ。


「私が手に入れられた情報は一つ。奴らの新しいアジトの情報よ。とはいえ、そこも感づかれたらまた蜥蜴の尻尾切りみたいにして逃げられるんでしょうけど」

結標は肩を落としながら言った。

256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/08(土) 00:12:02.56 ID:7ri6hoAO


とりあえずここまでで。書きためが出来たらまた来ます。予定では明日か明後日、遅くとも月曜には来たいと思ってます。

……次回は科学サイドで大人気のあの人が多分出てきます。

それではまた。
257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/08(土) 00:13:08.53 ID:18iRL6Yo
木原くんか…
258 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/08(土) 00:17:54.02 ID:7ri6hoAO
>>257
まさかの木原クンwwwwwwwwww完全に盲点だったwwwwww


よし、次の一方さんSSで出すことにするわ

259 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/09(日) 14:49:21.02 ID:zedN0oAO

前回ラスト投稿し忘れてました。最悪です。吊りたい。こんにちは、>>1です。

とりあえず今のところ書けた分だけ投下していきます。

260 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 14:49:48.52 ID:zedN0oAO

「いえ、それだけ分かれば十分ですよ」

海原はしっかりと前を見据えて言う。

少しずつでも、出来るところからやっていく。考えて止まるのは、それからでいい。
彼はそうやってここまで来たのだから。

結標が調べた、奴らの残党がいると思われるアジト。海原たちを乗せた回収車は、緩やかにスピードを上げながら、件の場所へと向かっていった。

261 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 14:50:44.59 ID:zedN0oAO
今からが今回投下分……ということにして下さい。




――――

御坂美琴は、常盤台寮の食堂で優雅な朝食の時間を過ごしていた。

御坂の住んでいる常盤台寮の朝は、基本的に早い。何故ならば、寮生たちは皆、寮の決まりに従って行動しなくてはならないからだ。

そして、学園都市第3位の超電磁砲と言えども、それは例外ではない。


262 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 14:55:08.62 ID:zedN0oAO

「はぁー、食べた食べた。この後どうしようかなぁ……」


カチャリと上品にフォークを置いて、テーブルに肘をつきながら御坂は考え込む。
今日は土曜日。一部の学校では授業もあっているらしいが、一流のお嬢様学校である常盤台にそれは当てはまらない。
せっかくの休日なのだから、と御坂は考えるが、悲しいことに暇がある日に限って何故か何も思いつかなかったりする。

263 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 15:00:44.87 ID:zedN0oAO

「もういっそのこと、一日中うだうだして過ごそうかしら。あ、でも街に出たらアイツに会えるかも……」


御坂の言うアイツとは、この学園都市で完全なる『無能力者(レベル0)』の烙印を押された、とある少年のことである。
御坂は以前彼に助けて貰ったことがあり、それ以来何故か彼のことが気になって仕方がない。というか、彼のことばかり考えてしまう。

これは明らかに御坂がその少年に恋をしているためであるが、生憎御坂自身はいまだにそれに気付けずにいた。

264 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 15:01:14.09 ID:tTDeIYAO
キター!
265 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 15:04:46.44 ID:zedN0oAO

「あぁー、もう! 考えるのも面倒臭い!! 何か楽しいことは――」

うわー、と頭を抱えながら御坂がそう叫びかけた瞬間、背後から忍び寄る影が一つ。





「――お姉様ぁぁぁぁぁあっ!!!」

266 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 15:08:18.14 ID:zedN0oAO

衝撃。

突然降りかかる重みに耐えきれず、椅子に座っていた御坂は思わず前のテーブルへと派手に突っ伏した。


「く、黒子っ!?」

御坂に突然抱きついてきたのは、白井黒子。同じ常盤台中学校に通う御坂の後輩であり、ルームメイトでもある少女だ。

ちなみに、彼女は学園都市の治安を守る風紀委員(ジャッジメント)であるが、いかんせん彼女自身が学園都市の風紀を見出している気がしないでもない。

267 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 15:13:37.88 ID:zedN0oAO

「全く、お姉様ったら酷いですの! この黒子を置いて一人優雅に朝食をとるなんて」

「あんたが遅くまで寝てるのがいけないんでしょーが! それに、あんな気味の悪い寝言聞かされたら起こす気も失せるわよ!」

御坂の言う気味の悪い寝言というのはさておき、既に白井は御坂の背後から腰回りに手を伸ばして、抱え込むようにしてしっかりと御坂に抱きついている。

これだけで、彼女が一体どういう類の人間なのかが、ある程度理解出来るだろう。
268 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 15:17:04.89 ID:zedN0oAO


「まぁまぁお姉様、そんなつれないことをおっしゃらないで下さいまし。……あぁ、お姉様の髪からから良い香りがいたしますの。これだけで黒子は今日一日幸せになれますの」


すりすりと頬擦りするようにして、白井は更に御坂に絡みついた。そんな彼女の挙動は、見てるだけでもちょっとした恐怖を覚える。


269 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 15:23:04.36 ID:zedN0oAO

「黒子! あんたいい加減に―――っ!」


御坂がそう怒鳴り、白井に電撃を浴びせかけようとした瞬間。
白井の姿が一瞬にして消える。

次に白井の姿が見えたのは、御坂が電撃を放った数メートル後ろだ。


「お姉様、無駄ですの。黒子を本気で窘めるおつもりでしたら、お姉様ももう少し本気を出しませんと」

「黒子……!」

270 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 15:28:34.68 ID:zedN0oAO

空間移動(テレポート)。

『超能力』と聞いて思い浮かびやすい能力の一つであり、自身を移動させることの出来る能力者は全て大能力者(レベル4)に認定される。
だが、数ある超能力の中でも特に理論が高度かつ繊細な能力であるため、学園都市全体においてもその能力を有するものは稀有である。

271 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/09(日) 15:32:37.41 ID:zedN0oAO
そして、今御坂の目の前で得意気に仁王立ちする白井黒子は、その使い手である大能力者(レベル4)なのだ。


「……分かったわ。なら私も本気出させて貰うわよ……!」

御坂はポケットに手を入れると、その中から一枚のコインを取り出す。そのコイン自体には何の力もない。問題なのは、その先である。

272 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 15:35:59.51 ID:zedN0oAO

「なっ!? お、お姉様! それはマズいですのぉぉぉお!!」


白井の言葉など、血を頭に昇らせた今の御坂に届くはずもない。
ゆっくりとコインは宙を舞い、放物線を描く。

御坂は構えた。
彼女が今から放つのは、電気が織りなす磁波で超加速させ、光速発射される殺人兵器。そして、御坂自身の異名ともなった、彼女の切り札。



―――すなわち、超電磁砲(レールガン)。
273 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 15:37:05.62 ID:zedN0oAO

「みゃぁぁぁぁあっ!!?」


超電磁砲発射まであと僅か。白井は訳の分からない叫びを上げながら、顔面を蒼白にしている。

御坂の右手とコインが触れ合うかどうかのギリギリであった、その時。


274 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 15:43:50.74 ID:zedN0oAO

「……なーんてね。こんなところで使うわけないでしょ?」


今まさに超電磁砲が放たれんとしていた御坂の右手。その手のひらが突如開かれ、コインは彼女の手の中へストンと吸い込まれる。

未だに理解の追いつかない白井を余所に、御坂はニッコリ笑ってみせた。

つまり、今の一連の騒ぎは御坂を怒らせたらどうなるかという、一種のデモンストレーションだった訳であり。



「……質の悪い冗談ですの」

白井は一言そう言うと、息を深く吐いてその場に倒れこんだ。


275 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 15:49:26.65 ID:zedN0oAO

―――


窓の外は、雲一つない青空が広がっている。太陽は、既に南へと向かいつつあるといったところで。そんな窓の外の世界を、白井は食堂の一角にあるテーブルに座り、覇気のない瞳で眺めていた。


「……ごめんってば」

そんな白井に、御坂は謝り続けている。
先ほどの超電磁砲事件のことだ。

しかし、白井は謝る御坂には目もくれず、ただぼーっとした瞳で窓の外を見るばかりであった。

276 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 15:51:04.87 ID:zedN0oAO

(うう……。まさか黒子がここまで怒るなんて)

今、御坂は胸中どうしていいのか分からないという焦りでいっぱいだ。
それも当然、二人の喧嘩の原因となるのは大抵白井の方だからだ。
しかしながら、今回のことも元を正せば白井に原因があるということに、残念ながらこの学園都市第三位は気付いていない。


277 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/09(日) 15:59:03.73 ID:zedN0oAO

「……お姉様」

そんな時。
突然、虚ろだった白井が口を開いた。
それに御坂はびっくりして、ふぇっ!?などと言いながら飛び上がる。


しかし、次に見た白井の目は、爛々と輝いていた。

そして。


「セブンスミストへ行きましょう!!」



……沈黙。


今寮の食堂には、御坂と白井しかいない。

この時、白井のキラキラと輝き出した瞳とイキイキとした言葉がほぼ無人の食堂全体を、完全に支配していた、と言っても過言ではない。

御坂はそんなことを思いながら、先ほどの白井にも勝る大きな溜め息をついたのだった。

278 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/09(日) 16:03:44.31 ID:zedN0oAO
とりあえずここまでです。
次の投下は今晩か明日の朝を予定してます。


それではまた。
279 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/10(月) 01:53:30.30 ID:b1nWkkDO
一個一個短すぎて読むのが疲れる
280 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/10(月) 10:53:37.24 ID:YVrBvsAO
すみません>>1です。

今日投下予定でしたが、まだ書きためが少なく、投下が短くなるかもしれないのでもう少し溜まってから投下したいと思います。

投下予定は未定としますが、今週中には投下したいと思っています。

それではまた。

281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/10(月) 18:02:56.43 ID:NEYzZvAo
>>279
もしもしで書いてるからだろ
282 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/12(水) 22:10:24.60 ID:aYaQbEAO
こんばんは、>>1です。

もはや誰得なのか分からないSSとなりつつありますが、ぼちぼち投下して完結目指して頑張ろうと思います。


それでは、今日の分を投下します。
283 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/12(水) 22:11:06.67 ID:aYaQbEAO
――

「ルート9は迂回、そのままCを通過した後、ルート2へ」

海原はテキパキと指示を出す。
その横で、結標は自分の愛用する軍用ライトをくるくると弄っていた。



「――以上のルートを使って目的地点Xへ向かいます。Xに到着次第、貴女の出番ですから準備しておいて下さいね。――って、聞いてますか?」

海原に問われ、ようやく我に返ったようにして結標は面を上げる。手から滑り落ちた軍用ライトが、カラカラと乾いた音を立てて転がった。



「……どうしたのですか?」

海原は問う。
結標の手は震えていた。

284 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/12(水) 22:16:10.72 ID:aYaQbEAO

「――怖いのよ」

結標はポツリと呟く。

結標は以前、自分のミスによって仲間を失っている。その経験から、もしかしたら今回もそうなるのでは、という恐怖が彼女の中に蠢いているのだ。

そんな結標の胸中を察してか、海原は彼女穏やかに笑いかけながら、話し始める。


「――自分も怖いですよ」

え、と結標は噤んでいた口を少し開いて言葉を零した。

285 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/12(水) 22:21:02.38 ID:aYaQbEAO

「自分には、守りたい人がいる。その人が危険な目に遭うことを考えるだけでも、自分は怖いんです」

「でも、」

海原は続ける。


「自分は簡単には死にません、いや、[ピーーー]ません。彼女を守らなくてはいけませんので」

結標は俯いたまま、海原の言葉を聞いた。


「そして、貴女にも同じように目的はあるはずだ。自分達はこうしたそれぞれの目的のある中で結成されたチームですから。だから、」


海原は、笑みを崩さずに言う。


「貴女も“こんなこと”で止まってる場合じゃないでしょう?」


「……」


結標はぎゅっと汗ばんだ自身の手を握り締めた。
286 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/12(水) 22:26:52.63 ID:aYaQbEAO

海原の言葉は、自分を犠牲にしてでもお前は勝利を勝ち取れ、というようにも受け取れた。

ただの寄せ集めのチームのはずなのに。

助け合う義理なんてどこにもないのに。


『助けて』なんて言っても、誰も助けてくれやしないこの世界。
もしもそんな人間が存在するというのなら、その人はとんだお人好し(ばか)だ。


だからこそ、信頼という細く脆い目にも見えないようなか弱い糸が、未だに自分たちに存在することに結標は驚きを隠せなかった。


「……分かってる」

故に、結標はありがとうなんてあからさまな礼はしない。
そんなこと、彼らには必要ない。
287 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/12(水) 22:47:04.38 ID:aYaQbEAO

――

「そろそろかしら」

「……多分、次の角を曲がれば見えてくるはずです。そこからは10分もかかりません」


海原は手元にあるノートパソコンを操りながら、そう答えるとパソコンを閉じた。
いよいよ、突入の準備を始めるのだ。


「貴女の準備はよろしいのですか?」

「私はこれとこれがあれば十分よ」

言って、結標が指差したのは手元のライトと肩に貼り付けられた湿布のようなもの。両方とも、結標が安定して能力を使う上で重要な役割をしているものだ。

288 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/12(水) 22:56:39.12 ID:aYaQbEAO

「……では自分も準備を、」

そう言いかけた瞬間。


海原たちを乗せた回収車が、突然急ブレーキをかけた。


「……っ、何事ですか!?」

海原は前座席に座る運転手に問う。


「分かりません!何故か突然制御が――」

運転手がそう言い終わる前に。

突如、何かが前座席を貫き、爆発した。

それの放つ爆風が海原たちを襲い、彼らの身体は車外へと放り出される。

「うわぁぁぁっ!?」
「きゃぁぁぁっ!?」


二人はアスファルトへと勢いよく叩きつけられ、無様に地面を転がった。

肺からは空気が漏れ出し上手く呼吸出来ない。その上、体中はぶつかった衝撃でビリビリと痺れている。

そんな状態で、海原は依然粉塵が舞う中、ゆっくりと顔を上げた。


そして見えたのは。
289 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/12(水) 23:03:39.16 ID:aYaQbEAO


「……垣根、帝督」





学園都市第二位の超能力者(レベル5)にして、アレイスターの計画における第二候補(サブプラン)。

そして、海原たちが属するような暗部組織の一つである『スクール』のリーダーである。


「よぅ、クソ野郎共。テメェらを地獄の底に突き落としに来たぜ」


天使のような微笑みを携えた能力者は、死神のような台詞で海原達を出迎えた。


290 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/12(水) 23:23:37.73 ID:aYaQbEAO
――

「セブンスミスト♪セブンスミスト♪おっ姉様とセブンスミスト♪」

作詞作曲白井黒子、更には即興という、常盤台中学のお嬢様にしてはあまりにもお粗末な歌(らしきもの)を歌いながら、二人は人の賑わう真っ昼間の第七学区の大通りを歩いていく。


「黒子、もう少し落ち着きなさいよ」

御坂は半分諦めた様子で白井に言う。
しかし、白井のことを熟知している御坂のこと。そんな言葉で彼女が収まるとは到底思っていない。これは、いわゆる社交事例のようなものだ。
291 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/12(水) 23:26:45.04 ID:/2wH6wAO
読ンでるぜェ何だよ何だ何ですかァ盛り上がってきてンじゃないですかァ!?

そういや馴れ合いを拒絶すン仲で、それでも甘さを残してそうな奴だよなァ
292 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/12(水) 23:48:42.89 ID:aYaQbEAO

「お姉様、黒子は十分落ち着いてますの」

御坂の言葉に対し、白井はそんなことを言いながらも、くるくる回りながら浮かれ調子である。
はぁ、と再び御坂は溜め息を吐いた。正直、頭が痛い。

「あらあら、お姉様。どうなさいましたの? 元気出して下さいな」

すぐそばで頭を抱える御坂に気が付いていないのか、それともわざとなのか。白井は晴れやかな顔で何やら言っている。
誰のせいだ、と御坂は心の中で毒吐いた。

ふと空を見上げると、遠くの果てに見える太陽が眩しい。
あぁ、今日もいい天気だなー、などと御坂が呑気なことを考えていると。

293 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/12(水) 23:55:22.21 ID:aYaQbEAO

ドンッ!!


何かが爆発したような音が、どこか遠くから聞こえてきた。とっさに二人は身構え、音がした方向を探る。
しばらくあたりを見渡すと、通りから少し外れた場所で、どす黒い煙が上がっているのが見えた。


「黒子!」

「分かってますの!」


二人はチラリと顔を見合わせると、共に大きく頷いた。
白井は御坂の手を取ると、すぐに空間転移を行う。

向かう先は、件の爆発現場だ。
294 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/13(木) 00:01:11.34 ID:whkGWMAO
二人は点々と学園都市の空を翔る。
彼女たちが現場へ近づく途中にも、爆発はあちらこちらで規則的に起こっていた。


「一体どうなってるのよ!?」

「そんなの分かりませんの!」


そんなことを言いながら、パニックになる街中へとようやく辿り着いた二人は、辺りを見渡し絶句する。
ここは本当に学園都市だろうか、と思わせられる光景だった。


「……、酷い」


グチャグチャになって原形も留めていない車。

ただの瓦礫の山と化した建物群。

泣き叫ぶ子ども達。

295 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/13(木) 00:10:04.04 ID:whkGWMAO

ここは地獄だろうか、と御坂は思う。
そんな場所で、二人は見知った顔を見つけた。


「……黄泉川先生!?」
見知らぬ男に体を預け、血塗れになって横たわる女性。彼女は、白井が所属する風紀委員(ジャッジメント)と共に学園都市を守る組織、警備員(アンチスキル)の一員のはずだ。


「黄泉川先生!」

二人は駆け出し、黄泉川の元へ向かう。
見ると、どうやら彼女は気を失っているようだ。規則正しい呼吸――とまでは言えないまでも、彼女はきちんと自発的に呼吸をしていた。

296 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/13(木) 00:15:32.50 ID:whkGWMAO

「……良かった。気を失ってるだけみたい」

「しかし、この混乱では救急車の早急な到着は望めそうにありませんわね。
――あ、そうですの!私が怪我している方々を病院まで送って行きますの。ですから、お姉様はここでしばらく待ってて下さいまし!」


言って、白井は黄泉川の元へと歩み寄ると、その場にしゃがみ込んで横たわる彼女の肩に軽く手を当てる。

「あ、ちょっと黒子待ちなさ――!」

直前の御坂の制止も虚しく、瞬時に白井と黄泉川の姿は見えなくなった。無事に空間転移出来たようだ。

とりあえずこれで黄泉川は大丈夫だろうが、御坂は何だか途端に心細くなる。

297 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/13(木) 00:19:38.96 ID:whkGWMAO

しかし、ただ待つのも時間が勿体無いので、白井を待つ間、御坂はこの一連の事件について考えることにした。


(これはただの爆弾テロ?……でも、その割には学園都市の構造に熟知しすぎている計画だわ。爆発時間と場所があまりにも理想的過ぎていたもの。ということは、爆発させた犯人は内部の人間……?)

一つ考えてはそれ否定してと、こうして紆余曲折考えていく内に、御坂は一つの結論に至る。


(……もしかしたら、また能力者の暴走かしら)
298 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/13(木) 00:23:07.51 ID:whkGWMAO

以前御坂たちを巻き込んだ事件――幻想御手(レベルアッパー)事件。
これは、とある研究者の引き起こした能力者たちの暴走が原因だった。
少なくとも内部の人間が関わっているであろう今回の事件に、もしそれと通じるものがあるのなら。もしまた一人の悲しい“被害者”が引き起こした事件ならば。

御坂は、それを放ってはおけない。



(黒子には悪いけど、このまま見過ごすことも出来ないしね)


ここで御坂は、一つの決心をした。

だが、そのためにもまずは今の状況を把握しなくてはならない。御坂は全ての真実を知るため、瓦礫だらけの廃墟と化した学園都市を歩き始めた。


299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/13(木) 00:29:15.62 ID:whkGWMAO

キリがいいので、とりあえずここまでで。
次はちゃんとていとくん活躍させたい。敵としてだけど。


予定では、次の投下は多分週末あたりです。


では最後に。
今日このSSを見て下さった全ての方に感謝を述べて、今回の投下を終了とさせて頂きます。


それではまた。
300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/13(木) 00:46:05.71 ID:yUxFv2AO
乙!
301 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/14(金) 22:29:56.16 ID:U4axekgo
302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/16(日) 10:51:02.66 ID:SE07sIAO
お久しぶり、>>1です。


今回はいつもに増して書きためが少ないので、すぐに終わってしまうかもしれませんがどうかお付き合い下さい。

それでは投下します。
303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/16(日) 10:52:19.34 ID:SE07sIAO


――



「俺はテメェらに恨みはねぇ。けどな、テメェらは知ってはいけないことを知ってしまったみたいだ。だから、」

垣根は一呼吸置くと、今まで比較的柔和であったその表情を一変させて。

「消えてもらう」


それは、凍るように冷たく、無機質な言葉と表情。

海原は背筋がゾワリと粟立つのを感じた。

304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/16(日) 11:12:42.44 ID:SE07sIAO

「……くぅ!」

今までまるで時が止まっていたかのように固まっていた結標だが、そんな垣根を見て、ようやく崩れた体勢を整える。

そして、そのまま近くに転がっていた自分の愛用の軍用ライトを手に取ると、結標はその光を先ほどクラッシュした車へと向けた。


刹那。

クラッシュして横になっていた大型車が、一瞬にして垣根の頭上へと転移する。
結標の能力―――座標移動だ。


しかし、垣根はその不適な笑みを崩さない。

その理由を、結標は直ぐに理解した。

305 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/16(日) 11:50:36.02 ID:SE07sIAO

「……嘘、でしょ」



垣根の背後から突然現れたのは、六枚の翼。
それはまるで天使の羽のようで、すっかり悪人面である今の垣根には、お世話にも似合うと言い難いものだった。

だが、驚くべきなのはそこではない。
突如垣根の背から出現した翼は、結標が移動させた大型の車を、あっさりと跳ね除けたのだ。

とてもじゃないが、まともに戦って勝ち目のある相手では無い。



結標はそう判断すると、ちょうど近くにいたバケツ型の清掃機械(ロボ)を垣根にめがけてぶち込んだ。
衝撃で機械は爆発し、辺りには大量の白煙が立ち込める。

306 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/16(日) 11:57:16.87 ID:SE07sIAO

その後、すぐさま結標は海原の手を取ると、垣根の居ない方向へと一目散に駆け出した。



「逃げるわよ!」

「あ、えっ!?」

いきなり手を掴まれた海原は戸惑っていたが、彼もあの翼の餌食にはなりたくないらしい。直ぐに結標の後に続いて走り出した。


「……おいおい。逃げるつもりならちゃんと逃げろよ?加減誤って直ぐにぶち殺しちまうからよ」

後ろからは垣根が追ってくる。
先ほどの攻撃も、どうやら足止めにすらならなかったらしい。


307 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/16(日) 12:09:22.78 ID:SE07sIAO
こうして逃げる際、結標が自分自身を転移させられればそれが一番いいのだが、生憎と彼女は自身を転移させた後に、大きな隙が出来てしまう。そして、それを見逃してくれる超能力者(レベル5)ではないことを、結標は知っている。

だからと言って、このままいたちごっこだ、と結標は唇を噛んだ。


何か、何かきっかけが欲しい。

そう願ったその時。

結標の目の前にあるものが飛び込んできた。

308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/16(日) 12:21:13.27 ID:SE07sIAO

「そうか、工場なら……!」


結標はちょうど正面の方に工場跡を見つけると、そのまま中へと入っていく。

その後ろをチラリと見やると、海原、そして続いて垣根も中へと入ってきた。
結標はニヤリと笑う。


(チャンスは一度だけ。相手に悟られたら、そこで私たちはおしまい)

そうした絶体絶命の大ピンチでありながら、結標は今の状況が堪らなく愉快だった。

何故なら、あのすかした顔をした超能力者に一泡吹かせることが出来るかと想像するだけで、顔から自然と笑みがこぼれていくからだ。

309 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/16(日) 13:53:27.12 ID:SE07sIAO
結標は工場に入るや否や、すぐに身を隠せる場所を探し、そこへ隠れる。続く海原も、同様に身を隠した。


「はっ、こんなところに入って逃げ切れるとでも思ってんのか!」

垣根の声が後ろから聞こえてくる。
だが、結標はそこで慌てふためくようなことはしない。
結標は慎重にタイミングを見計らうと、近くに潜む海原に小さな声で耳打ちする。



パイプラインを破壊しろ、と。


その意味を少ししてから理解した海原は、ポケットにしまっていたトラウィスカルパンテクウトリの槍を取り出し、パイプラインに目掛けて工場内に僅かに存在している光を反射させた。


すると、ガコン!と景気のいい破壊音とともに、つながっていたパイプの一部がバラバラになる。
そこから、パイプライン内部に通っていた水蒸気が勢いよく吹き出した。
310 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/16(日) 14:38:46.77 ID:SE07sIAO


「くそ、猿が!浅知恵使いやがって!」

垣根がすぐに翼を使ってそれを吹き飛ばそうとするが、際限なく吹き荒れる水蒸気には全く効果が見られない。

加えて、水には重さがある。故に、粉塵のように容易に吹き飛ぶことはそうそうないだろう。


「それじゃあさよなら、超能力者(レベル5)」

垣根は依然暴言を吐きながら水蒸気と格闘していたが、それをいちいち確かめる暇など、結標には存在しない。
結標はすぐ側にいた海原の手を引くと、彼と共に水蒸気の広がる工場内からの脱出するため、淡く光の差す方へと向かった。
311 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/16(日) 14:48:10.03 ID:SE07sIAO
――

「――くそ、見失ったか」

ようやく霧のように垣根の周りを覆っていた水蒸気が消えていく。だが、もう既に海原たちの姿はない。


「ちっ、取り逃がしたか。だが時間は十分に稼いだはずだ。あとはテメェらで勝手にやっとけってこった」

吐き捨てるようにして、垣根は一人ごちる。
役目は果たした、ということらしい。


垣根はすっかり水浸しになった工場内から外へ出た。
工場から少し離れた場所に数多くの人々で賑わう表通りが見える。彼らはおそらくその人混みに紛れ込んで逃げたのだろう。
それでも、海原たちを見失ってからまだそんなに時間は立っていないため、今からでも彼らを追いかけることは出来た。


312 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/16(日) 14:49:02.44 ID:SE07sIAO

だが、垣根は今更そんなことをするつもりはないらしい。
特に慌てる様子もなく、垣根はかったるそうにゴキゴキと首の骨を鳴らしている。

「あー、なんか面白いことねぇかなぁ」

再び第7学区の表通りを歩く垣根が、ポツリと独り言を漏らす。
その時。ちょうど彼の言葉に応えるようにして、雑踏の中から一人の少女が垣根の視界に飛び込んできた。


(……あいつは確か)

少女の姿を捉えた垣根は、心底楽しそうに口角を歪める。
その表情は、さながら暇つぶしの玩具を見つけた子供のようだった。


313 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/16(日) 14:51:14.77 ID:SE07sIAO


投下間隔がバラバラになってしまいましたが、本日分は以上です。遅筆で申し訳ありません。


とりあえず次の投下は試験と重なるので週末予定です。

それではまた。
314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/16(日) 16:22:46.10 ID:6HzRz/I0
おつおつ
315 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/16(日) 17:54:25.53 ID:XDEVk2AO
良いヒキしてくれるな乙!
316 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/22(土) 23:38:14.81 ID:iS9NHEAO
お久しぶりです、>>1です。相変わらずの書きため量ですが、まったり投下していきます。

317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/22(土) 23:38:45.97 ID:iS9NHEAO
――

「結局走って行くんですか……」

「文句言うんじゃないわよ。別にあんただけ送ってもいいのよ?コンクリに埋まる可能性大だけどね」


「……流石にそれはご勘弁願いたいですね」



なんとか工場から脱出した二人は、足であった回収車を垣根に破壊されてしまったため、現在走って目的地へと向かっている。
いつ再び追って来るかも分からない垣根のことを考えると、あんまりのんびりもしてられないからだ。
そうして子供の喧嘩のようなやり取りをしながら走っていくうちに、海原たちは目的のビルへと辿り着いた。


318 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/22(土) 23:39:37.88 ID:iS9NHEAO

「確かこのビルでいいのよね?」

「えぇ、ここで間違いありません」


言って、海原は目の前に聳え立つビルを仰ぎ見た。
軽く30階は超えているであろうその建物に、海原たちの目的の場所は存在する。
海原はひとまず深呼吸をして心を落ち着けると、覚悟を決めて建物内へと入っていった。


319 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/22(土) 23:43:32.86 ID:iS9NHEAO

ビルの中に入った海原たちの最初の感想は『薄暗い』だった。

内装はそこそこ綺麗なのだが、上手く日の光が取り込めておらず、電気だけでなんとか明るさを保っているような状態だ。海原は辺りを見渡すと、目的のものを見つける。

――エレベーターだ。



海原がボタンを押すと、エレベーターのドアはすぐに開いた。海原たちはそれに乗り込んでいく。

続いて階層指定を行うと、エレベーターのドアが閉まり、海原たちを乗せた鉄の箱はゆっくり動き出した。


320 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/22(土) 23:44:38.29 ID:iS9NHEAO

――1、2とエレベーターの階層表示が、リズムよく次々と光を放つ数字を変え、移ろう。
海原は瞬く数字イルミネーションを、じっと見つめていた。

そうして、その数字の光が13階を示すと、ドアが再び開かれる。
目的の部屋は、この階に存在するのだ。


「……入ります」

目当ての部屋を前にして、海原は慎重にドアの様子を窺い、ノブに手をかけた。

「……っ!!」

して、そのままかけた手を素早く捻ると、後は一気にドアを開いて中へと突入する。
勇んで入った二人だったが、ドアを開いてその部屋の中見た瞬間、愕然とした。

321 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/22(土) 23:47:56.02 ID:iS9NHEAO


「……誰もいないわね」

そう。アジトであったはずのこの部屋には、既に誰一人として残ってはいなかったのだ。

海原たちは拍子抜けして、肺に張り詰めていた空気を一気に吐き出した。
そして、ゆったりと辺りを見渡し、探っていく。

しかし、部屋は見事に綺麗サッパリ何もない。部屋に残されていたのは、開きっ放しになったクローゼットや、慌てていたためなのか月の下半分だけ破られていたカレンダー、後は床に落ちている使いかけのメモ帳ぐらいだった。

322 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/22(土) 23:50:47.92 ID:iS9NHEAO
カレンダーは急いで取り去ろうとしたが、取れなかったのだろう、半分に傾いていたし、メモ帳はホテルに置いてあるような破り捨てるタイプのもの故に、さっと見た限りでは何も書かれてはいないように見える。

クローゼットには、当然何も入ってはいない。


確かに数時間前まで彼らはここに潜伏していたのだろう。だが、彼らは既に逃げ出していた。


結標はギリギリと下唇を噛み締める。


「……探しましょう。少しでも手掛かりを」


結標に言ったのか、自分に言ったのか。その真偽は分からなかったが、海原はそう言うと、散乱している部屋の捜索を始めた。


部屋に残されているのは、破られたカレンダーとメモ帳。
きっと、それらに確かな証拠が残されているに違いない。

そう信じて、結標もまた事件解決のために動き出した。



323 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/22(土) 23:58:41.20 ID:iS9NHEAO
―――

海原たちの戦闘が行われていた頃、御坂美琴は能力者の暴走と思われる騒ぎを止めるために全力で走っていた。

御坂は、とにかく新たな事件が起こるのを阻止しようと、当てのない犯人探しをするため手当たり次第に第7学区を奔走している。
だが、そんな中、新たな爆発が再び御坂の視界の先で起こった。

御坂は歯噛みしながら、急遽進路をそちらへ切り替える。

御坂の怒りは今、頂点まで達していた。


324 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/23(日) 00:11:00.36 ID:EYyeJgAO
「ふざけんじゃないわよ……!」

息を切らしながらも、御坂は細い裏路地への道を滑るようにして突き進む。そうして、ようやく爆発らしきものが起きた現場の工場へと着いた。


(……あれ?これってなんか今までと違う……?)

しかし、辿り着いた御坂を待っていたのは、強烈な違和感。
明らかに、毛色が違うという確信。


御坂は、恐る恐る工場の中を覗く。
見ると、工場の中は水浸しだった。


「……何よ、これ」

訳が分からないという困惑と何が起きたのかという恐怖が入り混じり、御坂は混乱する。
ここで、一体何があったのか。ここで、爆発は起きたのではなかったのか。

工場の惨状に呆気に取られ、立ち尽くす御坂。
そんな彼女の背後に、新たな影が姿を表した。

325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/23(日) 00:16:57.28 ID:EYyeJgAO


「よぅ、もしかしたらお前『超電磁砲』か?」


突然背後からかけられる声。その声に驚き、慌てて御坂が振り向くと、そこには一人の少年がいた。

少年は茶髪とピアス、更にはスーツと、まるでホストクラブにいるような格好をしている。

御坂が訝し気な視線を送っていると、少年は再び口を開いた。


「テメェは『超電磁砲』か?って聞いてんだけどよ。シカトしてんじゃねぇよ」

今度は、少しイライラした様子で少年は御坂に問いかける。
どうやら、だんまりを決め込むことは出来そうにないな、と御坂は思い、その重たい口をゆっくりと動かした。

326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/23(日) 00:19:36.47 ID:EYyeJgAO

「……だったらどうすんのよ」

御坂が答える。すると、少年の顔付きが明らかに変化していった。最初の不機嫌そうな表情から一変し、凄く嬉しそうな表情へと変わっていく。
そして、御坂にむかって言うのだ。


「そうかそうか!だったら、悪ぃが俺の暇つぶしに付き合ってくれねぇか?」



瞬間。

視覚では捉え切れない程の速さで、何かが御坂の頬を掠めた。


「……なっ!」


少し間が開いて、ようやく目の前の少年の行動を把握する。
だが御坂には、一体何が起きたのかまで理解することは出来なかった。

327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/23(日) 00:20:26.68 ID:EYyeJgAO

「ほんのご挨拶だよ、超電磁砲。いや、第三位って呼んだ方がいいか?」
「……あんた、一体」


突然の攻撃に固まる御坂。そんな御坂を嘲笑うかのようにして、少年は己の名を述べる。


「学園都市第2位『未元物質(ダークマター)』、垣根帝督。
――あらゆる常識を覆す俺の能力に、テメェの常識は通用しねぇよ」


少年の――垣根帝督の浮かべる不適な笑みは、災厄となって御坂の元へと降り注いでいた。




――
328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/23(日) 00:23:22.90 ID:EYyeJgAO
とりあえずここまでで。
中間テストがあるため、次来るのは結構遅くなるかもしれません。なるべく早く来たいとは思ってますが。。
申し訳ありません。


それではまた。
329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/23(日) 00:29:06.64 ID:DNFvE.AO
原作準拠な性格してる提督見るのは、知る限り初めてだ……
大変に乙。待ってるよ。
330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/23(日) 03:33:27.10 ID:tKyj6ZIo
SSの帝督は性格が原作準拠でも姿が冷蔵庫だったりするからなぁww
続き、楽しみに待ってるぜー
331 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/25(火) 15:02:10.69 ID:SPibVTk0
どこぞのガチでカッコいい冷蔵庫はすごかったな
332 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/26(水) 19:40:59.58 ID:FQ2WpcAO
>>331
kwsk
333 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/27(木) 01:31:38.95 ID:MKCPwqU0
>>332
忘れた。明日探してみるか
334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/27(木) 01:42:03.82 ID:d9AftzU0
ここか?

結標「私もそげぶされたいなぁ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1271938184/
335 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/27(木) 12:34:27.00 ID:fNloC2E0
おーこれだありがとう
336 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/27(木) 17:24:17.70 ID:uVrPuQAO
>>334>>335
ありがとー
337 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/28(金) 21:33:11.67 ID:u.aIvEAO
皆さん超お久しぶりです。
とりあえず出来てる分だけ投下していきます。
338 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/28(金) 21:34:28.13 ID:u.aIvEAO

―――

「……あった!」

荒れ放題だった部屋を片付けながら、物色していた結標が、突如大きな声をあげた。

「何か見つかったんですか?」

海原も同じように部屋の捜索をしていたが、結標の声に一旦手を止めて、彼女の元へと向かう。
海原が結標の手元を覗き込むと、彼女の手の中には、部屋に散乱していたあのメモ帳があった。


「……そのメモ帳は確か最初から部屋の床に落ちていたと思うんですが」

海原は呆れた様子で結標に言う。そんなメモ帳から、今更何が見つかったと言うのか。
海原がそんなことを考えていると、結標は海原の言葉に首を振って否定した。

339 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/28(金) 21:35:33.23 ID:u.aIvEAO


「違うわよ。メモ帳を見つけたんじゃなくて、手がかりを見つけたの」

「手がかりを?」

「えぇ」

結標は続けて、メモ帳の一番上端を指ですっと撫でる。
結標が示したそこには、僅かではあるがメモ翌用紙の千切り損ないが残されていた。


「で、ここをよくみて欲しいのよ」

言って、結標は指をそのまま下方へとスライドさせる。
海原が今結標が指を指している場所をよくみてみると、何やら違和感を感じた。


「……薄く、へこみがありますね」

ほんの僅かなへこみではあるが、確かに何かが書かれたような跡が見える。

「――第7学区〇〇倉庫区」

結標がポツリと言う。
海原はメモ翌用紙を凝視した。見ると、そこには結標の言葉と寸分違わない文字が綴られた跡がある。
340 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/28(金) 21:36:58.00 ID:u.aIvEAO
「……まさか」

「恐らくそこが取引場所よ」


結標はメモ翌用紙に残る筆跡を頼りに、自分の手帳へとその場所を書き取った。しかし、まだ海原たちには分からないことがある。


「時間――日付までは書いていないようですね」

海原は再びメモ翌用紙を見直して見た。が、やはり書いてあるのは場所だけのようだ。日程や時間までは流石に分からない。

「まだ諦めるのは早いと思うけど?」

落胆する海原が顔を上げると、その前で結標はいたずらっぽく笑っていた。
そんな彼女の手にあるのは、先ほどまで壁にかかっていた破りかけのカレンダー。


「まさか、また?」

「そのまさかよ。ヤツら、どうやら相当慌てて出ていったみたいね。こうも綺麗に手がかりを残していってくれたんだもの」

341 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/28(金) 21:37:45.07 ID:u.aIvEAO

二人は月の上半分だけ残っている破りかけのカレンダーに目を落とした。
一見、何の変哲もないカレンダー。しかし、カレンダーの下の方で、少しだけ赤のインクが顔を覗かせていた。


「これは……」

「赤のインクは恐らく目印。赤インクの上の日付が13日だから、印がついていた日付は20日ね」


20日。つまり“今日”だ。

「……時間がありませんね。もしかしたら、既に手遅れかもしれません」

「えぇ」


結標と海原は顔を見合わせて、大きく頷く。

342 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/28(金) 21:38:21.32 ID:u.aIvEAO

目的地である倉庫区までは、それほど離れてはいないが、今の海原たちには移動手段がない。
そのため、今から走って倉庫区まで行くとなるとかなりの時間を有することになる。

もはや一刻の猶予もなかった。


「行きましょう。必ず計画は阻止しなくては」


海原たちは部屋を飛び出すと、様々な思惑が交錯する学園都市へと再び駆け出していく。

部屋の隅に残った銀の腕時計だけが、寂しげに鈍い光を放っていた。


――

343 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/28(金) 21:41:20.79 ID:u.aIvEAO
とりあえず今はこんだけしかないです……。すみません。

次は増刊号並みの大ボリュームで「激戦!学園都市第二位vs第三位!」をお送りする予定です(仮)


それではまた。
344 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/29(土) 05:31:12.01 ID:n9mIuoAO
ゴジラvsキングギドラみたいだなww
乙!
345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/31(月) 21:01:19.55 ID:KSfTNYAO
どうも>>1です。
明後日のテストに向けて死亡フラグを立てに来ました。

それでは、前回予告分の内の前半を投下します。

346 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/31(月) 21:02:32.84 ID:KSfTNYAO

――



「……っ!……くぅ!」

「はっ、随分逃げ腰じゃねぇか第三位。もうちょっとこのダンスパーティーを楽しもうぜ?」

「馬鹿に……っ、しないでくれない…?」


減らず口を叩きながらも、連続的に放たれる垣根の攻撃に、御坂は避けるだけで精一杯だった。

垣根には、隙が全くないのだ。


(コイツ、かなり戦い慣れてる……!)

自慢ではないが、御坂もそれなりに戦いには自信はあった。その自信は、例の幻想御手事件の経験から来るものである。
あの時、御坂は学園都市を存在を揺るがす程の脅威と戦い、そして打ち勝ったのだから。
347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/31(月) 21:04:26.47 ID:KSfTNYAO

しかし、その自信も垣根の前ではなんの役にも立たなかった。学園都市の序列としてはもちろん、この闘いにおける格からして『垣根帝督』にはかなわない、と。そう、御坂の全身はビリビリと警報を打ち鳴らしているのだ。



「―――うぁぁぁあっ!?」

そんなことを考えていると。
一瞬の気の緩みか、御坂が紙一重でかわしていた垣根の攻撃が、とうとう彼女の左上腕を捉えた。
御坂の腕からは、大量の鮮血が溢れ出す。


「……は、……ぐっ…!」

御坂はなんとか歯を食いしばって痛みに耐えていた。そうでもしないと、意識がどこかに吹っ飛んでしまいそうだった。

348 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/31(月) 21:05:44.56 ID:KSfTNYAO

「――おいおい、あんまりシラケさせるなよ第三位」

だが、無慈悲にも、垣根の攻撃が止むことはない。肩、大腿、頬。あらゆる箇所に傷は増えていく。


それでも、御坂は諦めてはいなかった。一発逆転のチャンスをみはらっていた。その瞳を、瞬き一つせずに見開いて。



(……見えた!)

垣根の攻撃のリズム。そこに大きな穴があることに御坂は気付いた。垣根の攻撃は、先ほどから二、三回連続した攻撃のあとに溜めが生じている。
349 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/31(月) 21:10:46.69 ID:KSfTNYAO

(……一、二、三!)

御坂はタイミングを見計らい、合わせると一気に間合いを詰めて垣根の懐に潜り込む。

御坂はニヤリと笑う。垣根の顔からは、余裕の表情が消え、その瞳は驚愕のため見開かれていた。


「――――ぁぁああっ!」

決める。

御坂の思いのこもった超電磁砲が、垣根とほぼ零距離から放たれる。

一瞬にして、御坂の右手から迸る光が辺りを支配した。

350 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/31(月) 21:13:44.90 ID:KSfTNYAO

「――ちっとはやるじゃねぇか。第三位」


「―――な、」


光のカーテンが明けた時。そこに、依然垣根は存在していた。

垣根は、決して無傷ではない。しかし、御坂の一撃は致命傷には至っていなかった。

今垣根の背から生えている光の翼が、彼をとっさに超電磁砲から守ったのだ。おそらく能力に寄るものであろうその姿は、まるで神の加護を受ける天使そのものだった。


「こうでなくちゃ面白くねぇ。面白くねぇよ。なぁ、第三位?」

浅いとはいえ傷を受けたというのに垣根は嗤い、そしてゆるりと御坂に歩み寄る。

その瞬間、『世界』は弾けた。


351 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/31(月) 21:14:32.61 ID:KSfTNYAO


「――あぁぁぁあっ!!?」

圧倒的な物量を伴った衝撃が御坂を襲う。
目には見えない。なのに、『ソレ』は確かに御坂を今にも食い潰さんとしていた。


(……や、ばいっ!)

ギチギチと締めつけられて、上手く呼吸が出来ない。視界は不安定に明滅し、目の前に居るはずの垣根の姿もぼやけてよく見えない。


「無様だな、第三位」

しかし、垣根が自分を貶しているのだけは御坂にははっきり分かった。
故に、御坂は肺に残ってる空気を最大限に使って、叫ぶ。



「ふっざけんじゃないわよ!このメルヘンホスト崩れ!」



352 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/31(月) 21:17:18.34 ID:KSfTNYAO


―――空気が凍った、気がした。


「あ?テメェ今何言いやがった?」

先ほどまでと打って変わって、垣根の表情が一瞬にして冷めていく。まるで、垣根の周りだけ凍っていくかのような、そんな錯覚を受けた。



「あー、ムカついた。最っ高にムカついたぜ」


苛立たしそうに垣根がそう呟くと、一旦御坂の拘束を解き、彼女を工場壁へと投げ飛ばす。ようやく解放された御坂が咳き込んでいると、垣根の手のひらに再び『ソレ』は現れた。


「潰すぜ、テメェ」

言って、垣根は手のひらに乗った『ソレ』を御坂へ向けて放る。
御坂の全身がゾワリと粟立った。


353 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/31(月) 21:18:24.98 ID:KSfTNYAO

逃げろ、と。

五感の全てが御坂に伝える。しかし、恐怖からか御坂の足はピクリとも動かない。


(動け、動け、動け―――!)

そんな御坂の願いが届いたのか、ワンテンポ遅れてようやく足は動き出した。だが時は既に遅く、初めの一歩を踏み出そうとした右足は走ること叶わず、上体を捻ることへと転換される。
『ソレ』は、ギリギリで回避しようとしていた御坂の肩に僅かに掠めた。

たったそれだけの衝撃。
それにも関わらず御坂は工場の端から端へともんどりうって吹き飛ばされる。


(これが………第二位の、垣根帝督の『未元物質』の力――!)

354 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/31(月) 21:21:03.60 ID:ljamAgE0
美琴をとあるスレでかませにしちゃってゴメンナサイ。
355 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/31(月) 21:21:25.14 ID:KSfTNYAO

とりあえず今日の分は終了です。次は多分早くて週末になります。

あと前回あんだけ大袈裟に銘打ったのに、展開ショボくてすみませんでした。今度からあんな誇大妄想は止めようと思います。


それではまた。

356 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/31(月) 21:45:07.33 ID:8LRQPe2o
同じ噛ませでも某SSとは大違いだな
357 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/31(月) 22:18:24.74 ID:sl9A4QIo
ていとくんと美琴が戦えばていとくんが勝つってわかってるんだからかませとは言わなくない?
アックア、ナイトリーダーにに負けるねーちんみたいなのがかませ
358 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/01(火) 06:41:49.52 ID:njYxuu.o
こいつらは動かしやすいんだな
359 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/02(水) 21:32:32.42 ID:QmFbEAAO
こんばんは>>1です。思ったより執筆(現実逃避)時間あったので、少ないですが出来た分だけ投下します。

明日提出のレポート?もう間に合わないと思うので諦めました。


それでは再開します。

360 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/02(水) 21:33:36.94 ID:QmFbEAAO

(こんなバケモノに、適う訳ないじゃない……っ!)

グラグラと揺れる意識の中、御坂は地面を這う己の姿を嘲笑った。

学園都市第三位の『超電磁砲』などと世間ではもてはやされても、所詮はこの程度。
目の前のバケモノに、一矢報いてやることも出来やしない子供なのだと。

世界は、広い。
御坂は心底そう感じた。


「……でもね、」

御坂はガクガクと震える右拳で、しっかり上体を支えながら体を起こして立ち上がる。

左手から溢れる血は漫ろ流れ、地を喰んだ。

どれだけ辛かろうと。どれだけ苦しかろうと。


それでも、御坂には立ち上がらなくてはならない理由がある。


御坂を待っている者がいる。

御坂が守るべき者がいる。



だから。

「こんなとこでやられる訳にはいかないのよ……!」

361 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/02(水) 21:34:21.38 ID:QmFbEAAO

御坂はようやく冷静に働き出した脳内で思考する。

何故いつもは表に出て来ない学園都市第二位がこんなところにいるのか。少し考えて見れば簡単なことだった。

恐らくこの目の前で嗤っている男は、御坂が追いかけるものと決して無関係ではないのだ。


「……教えてもらうわよ。アンタが知ってること、全部っ!」


御坂は再び地を蹴った。

足を動かす度に全身が痛む。そう長くは保たないだろう。それ故、御坂はいずれ訪れるであろう一瞬(チャンス)に、持てる力の全てを尽くすと決めていた。

362 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/02(水) 21:35:58.55 ID:QmFbEAAO

「まだ動けるのか?その渋とさだけは認めてやってもいいけどよ」

再び垣根の片腕に『ソレ』は集中する。
御坂はぐっと足に力を込め、垣根の『ソレ』を見つめた。


(……来る!)


二、三とリズムを合わせ、御坂は華麗にステップをこなす。上手くタイミングを読めたのか、垣根の一撃は初撃とは異なり、御坂にかすりすらしなかった。

しかし、それが垣根には気に入らない。


「テメェ……!」


ブワッと、垣根の背から生えた未元物質の羽根が逆立つ。それは、まるで垣根の怒りを象徴するかのようで。


363 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/02(水) 21:37:51.00 ID:QmFbEAAO

すると突如、その羽根からチリチリと音がした。御坂が見やると、羽根の一枚一枚が小刻みに震えている。
嫌な予感がした。


(……っ、右!)

とっさに、御坂は右へ大きく飛んだ。考えて飛んだ訳ではない。ほぼ直感だ。

その瞬間、御坂の左側からチリチリと音が聞こえてくる。


見ると、無数の羽根が先ほどまで御坂のいた空間を裂いていた。


「……っ、!」

冗談じゃない、と御坂は胸中舌打ちする。

御坂は軌道を変え再び襲い来る羽根を見て、慌てて地中の砂鉄をかき集め、目の前に強固な盾を作り出した。

それで攻撃を防いだ。



はずなのに。



「………な、」


――――どうして、羽根が“そこ”にあるんだろう?

364 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/02(水) 21:39:04.75 ID:QmFbEAAO
「チェックメイトだ、第三位」


御坂の膝から力が一気に抜けた。カクンと膝は折れ、彼女は無惨にも地に臥す。
体は、もはやピクリとも動かなかった。


(……負けちゃった)

羽根がざっくり刺さった腹部からは血が止めどなく流れ、体は動かないのに、瞳からだけは涙が溢れ出す。
その涙は痛みからなのか、はたまた悔しさからなのかは分からなかったが。


「ま、ここまでってことか。いい暇つぶしにはなったぜ、第三位」

じゃあな、と。垣根が口にし、御坂に刃を向けようとしたその刹那。


垣根の足下に転がっていた筈の御坂の姿が消えた。まさに文字通り、一瞬で。そしてその理由を、垣根はすぐに理解する。
365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/02(水) 21:40:47.23 ID:QmFbEAAO


「……テメェ、“空間移動(テレポーター)”か」

「――風紀委員(ジャッジメント)ですの。残念ですけど、貴方の粗暴もここまでですわ」

「……く、ろこ」


御坂は視線だけを何とか声の主へと向ける。そこには、見慣れた自分の後輩の姿があり、彼女にしては珍しい凛とした表情で立っていた。


「どこに行ったかと思って随分探しましたのよ?お姉様。遠くの方で超電磁砲に似た光が見えたと思って来てみれば、案の定大当たりですの」


白井は珍しく怒ったような口振りだ。そんな白井に、御坂は弱々しく微笑って返した。

366 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/02(水) 21:42:52.12 ID:QmFbEAAO

とりあえずここまでですの!

というわけで、次もまたいつ来るか分かりませんが、よろしくお願いします。

それではまた。

367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/02(水) 22:02:02.08 ID:tO7UlqIo
乙!相変わらず面白い
368 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/06(日) 09:39:43.08 ID:dqaeuhwo


美琴は能力がハッキリしてるし万能で出番も多いから正攻法な手段で動かしやすい
ていとくんはその正反対で、ダークマターに常識はないから非合法wwな手段で自由に動かせる
369 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/06(日) 10:14:05.52 ID:bpyurkAO
>>368
まさにその通りですの!


じゃ、前回少し残ってた分を投下します。

続きはもう少し待ってて下さい……
370 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/06(日) 10:15:04.49 ID:bpyurkAO


「テメェ如きの能力で俺に適うなんて、まさか考えちゃいねぇよな?」

「まさか?生憎、貴方如きに使う能力なんて持ち合わせてはおりませんの」

「……は、言うじゃねぇか」


相変わらず挑発的に突っかかる垣根に、白井も負けじと高圧的に返す。

辺りは静寂に包まれた。



「……まぁいい」


この沈黙を先に破ったのは、垣根だった。

突然、垣根は何かを思い出したように辺りを見渡し、白井に言う。

371 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/06(日) 10:15:58.76 ID:bpyurkAO

「『約束』を取り付けてあるんだよ。そろそろ準備を―――って、クソ、腕時計忘れて来たか?」

「……何を仰ってますの?」

黒子の言葉が風に乗ってゆらゆら揺れた。

「あぁ、こっちの話だ。気にすんな。楽しい楽しい『取引』に行くだけだからよ」

「……逃がすと思います?」

「そんなに命を粗末にすんなよ、風紀委員」



二人の間にピリピリとした緊張が走り、御坂は彼らのそんな会話を、白井の足元でぼんやりとした意識の中聞いていた。


372 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/06(日) 10:17:56.95 ID:bpyurkAO


(……約束、取引)


垣根の裏で何かが動いている、と。御坂は確信した。
だが、御坂の意識はだんだんと暗闇に沈んでいく。

垣根と白井がまだ何か言い合っていたが、御坂には何を言っているのか、そもそも話をしているのかすらあやふやになっていた。



「―――美琴」

誰の言葉だったかは、分からない。

しかし、その言葉を最後に、御坂の意識は完全に消失した。



――【PM 3:06】


373 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/06(日) 10:19:37.42 ID:bpyurkAO

やべぇ思ったより少なすぎたwwww


そろそろ終盤に向かうとは思うので、気長によろしくお願いします。
374 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/06(日) 10:23:16.89 ID:dqaeuhwo
おつんつん
375 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/06(日) 22:35:23.58 ID:CTWe/sAO
sageときますね
376 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/11(金) 23:14:10.14 ID:LfwAWIAO
お久しぶり、>>1です。

久々の投下ですが、量は少ないですごめんなさい。

それでは始めます。
377 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/11(金) 23:15:29.66 ID:LfwAWIAO


―――

【PM4:56】

「だいぶ遅くなってしまったようですけど、大丈夫でしょうか?」

「仕方ないでしょ?ただ間に合うことを祈りなさい」


結標・海原の両名は、ようやく第七学区の倉庫区にたどり着いていた。
倉庫区は厚いトタンによって幾つかのブロックに区切られたような作りをしており、彼らは今、その倉庫区の中心ブロックの周囲にあたる場所にいる。


「……ここからだと中の様子が見えにくいわね」

ポツリと結標は言葉を零し、ちらりと海原を見やる。海原は嫌な気しかしなかった。

378 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/11(金) 23:16:46.32 ID:LfwAWIAO

「……見に行け、と?」

「大丈夫よ。ヤバそうだったらすぐに連れ戻してあげるわ」


「……分かりました」

海原は渋々了解すると、そそくさと壁と壁の間をすり抜けて中へと入る。
そして耳を澄ますと、奥から何やら声が聞こえてきた。


(当たりですね)

海原はニヤリと笑うと、すぐに手招きで結標を呼んだ。続いて、結標も中へと入り、物陰で様子を窺う。


「……奥に二人、か」

結標が言うと、海原もそれに同意するようにして頷いた。
379 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/11(金) 23:17:45.09 ID:LfwAWIAO


「どうします?押さえますか?」


海原が問うが、結標はそれを首を振って否定した。

「いや、しばらくは様子を見ましょう。まだ証拠を掴んでないもの」


見てみると、確かに奥にいる男たちはまだ何も出していない。このままではシラを切られるのが関の山だ。海原もそう思ったのか、大人しくその場で様子を見ることにした。
380 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/11(金) 23:18:32.53 ID:efJAUhAo
きたか
381 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/11(金) 23:19:47.55 ID:LfwAWIAO

――数分後。

二人の男達は、急にとある方向へと体を向き直して何やら話し始めた。
ここではよく聞こえない、と海原たちは男達の注意がそちらに向かっている間に、少し間を詰める。


「――物は仕入れたが、今回は失敗だったな。犬に嗅ぎつけられた」

そして聞こえた第一声は、かなり若い男の声だった。若い男の姿は物陰に隠れて未だ見えないが、その声を海原は何となく聞いたことがある気がした。

382 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/11(金) 23:20:39.81 ID:LfwAWIAO

若い男の次に、手前の男が言う。

「まじかよ。どうする?今回は止めとくか?」

「そうだな。ここは慎重になるべきだ。お互いのためにも」

続けて言う奥の男。


どうやら若い声の男はかなり男達に信用されているようだった。


(……しかし気になりますね。この声、確かどこかで――)

そんなことを考えていた、ちょうどその時。取引相手らしき男の姿は現れた。
そして、海原はそれを見て息を詰まらせる。


383 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/11(金) 23:21:43.69 ID:LfwAWIAO


(……な、)


そうだ。あの時点で気付くべきだったのだ。

件の部屋(アジト)に“彼が愛用している銀の腕時計”が落ちていた、あの時点で。





「垣根、帝督――」


巡り廻って、能力者達は倉庫区にて再び邂逅する。それはまるで、運命に吸い寄せられたかのような出来事のようだった。

【PM 5:23】

―――



384 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/11(金) 23:23:12.98 ID:LfwAWIAO
とりあえずここまでで。

明日からまた試合なので、更新が遅くなるかもしれませんがよろしくお願いします。

それではまた
385 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/11(金) 23:59:25.08 ID:kCO2YkAO
おっつう!
こういう潜入ものでドリフ的なドジを想像しちまう俺はやっぱギャグ体質なんだろうなww
>>1みたいにシリアス一辺倒は書ききれないぜ
386 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/12(土) 08:40:03.20 ID:oNnPL1c0
>>1
乙!
さて…、次はどうなるか……?
おそらく垣根vsエツァリ&あわきんか―――?
387 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/14(月) 19:35:41.99 ID:css5fAAO
どうも>>1です。今更ながら酉付けた方がいいかどうかで迷ってますが、どう何ですかね?


それでは投下します。
388 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 19:37:19.44 ID:css5fAAO

――


(……暗い)


御坂美琴は、真っ暗な空間にいた。

目の前には何も見えない。ただただ、闇が存在するだけの空間。

更に、御坂は自分の体が酷く重いことに気付く。

(……死んじゃったのかな)


ふと、御坂がそんなことを思ったその時。

突然、遠くの方から光が見え、近づいて来る。
そして、それは瞬く間に勢いを増して、やがて御坂の全身を飲み込んでいった。


【???】


389 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 19:38:11.81 ID:css5fAAO

――

【PM 5:11】

次に御坂が目を覚ますと、そこには見慣れた寮の天井があった。
御坂は指を軽く動かして、感覚を確かめる。確かに、今ベッドの上にあるこの体は自分のもののようだ。

「お姉様!」

続けて見えたのは、心配そうなに御坂を覗き込む白井の姿。白井には随分と心配をかけたらしく、彼女は今にも泣きそうな顔でベッドの端に寄りかかっていた。

「……くろこ、」

御坂は言うと、ゆっくりと体を起こしていく。体は酷く重かったが、幸いにも動けない程ではなかった。どうやら白井が適切な処置を施してくれたようだ。

390 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 19:40:02.78 ID:css5fAAO


「心配しましたのよ?お姉様。お願いですからもうこんなむちゃはおよしになって――」


白井が言いかけるが、御坂が白井の両腕を掴んでそれを遮り、彼女の腕を掴みながら問う。


「垣根は、垣根はどうなったの!?」

「お姉様が気を失った後、すぐに立ち去りましたの。何やら取引があるとかどうとか仰ってましたけど」


白井は落ち着いて返すと、御坂をゆっくりとベッドへ押し返した。
あまり暴れると、また御坂の傷口が開くかもしれないからだ。

391 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 19:42:35.61 ID:css5fAAO

「取引……」


白井に押し留められた御坂は、そのまま俯いて考え込む。確かに、垣根は取引だの約束だのと言っていた。


(約束、取引、学園都市第二位のレベル5――――)

御坂の頭の中で、次々とパズルのピースのように情報の欠片が集まってははめ込まれ、形作られていく。
そして、御坂は何かを思い出したかのように白井に言い放った。


「……黒子。初春さん呼べる?」


「……はい?」

「初春さんよ。ちょっと調べて欲しいことがあるの」

そう言って、御坂はベッドからゆっくり降り立つ。

彼女の中には、一つの確信があった。



【PM 5:21】
392 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 19:43:08.78 ID:css5fAAO

――

【PM 5:29】


「とりあえず今日の取引は中止だな。いつ犬が嗅ぎつけてやってくるかもわかんねぇ」

垣根はそう言って、つまらなそうに相手を見やる。


「す、すまない。うちの下の者の不手際で……」
二人のうち、背が高い方の男が平謝りするが、垣根はそれを興味なさげに流して、再び口を開いた。

「そんなつまんねぇ話はどうだっていいんだよ。とにかく、今日は外部への密輸は無しだ。足がつくかもしれないからな。こんなことで、俺の計画を遅らせるわけには行かねぇんだよ」

393 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 19:43:58.40 ID:css5fAAO


(……計画?)


海原は息を詰めながら、話を聞き続ける。どうやら、この取引を行うにあたり、垣根にはきちんとした目的があるようだ。

「例の作戦か?」

小柄な方の男が垣根に問う。それに対し、垣根は口元を歪めて笑いながら男達に言い放った。





「あぁ、第一候補(メインプラン)―――


……一方通行(アクセラレータ)暗殺計画だよ」


【PM 5:38】

――
394 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 19:46:26.05 ID:css5fAAO


――

【PM5:31】


「御坂さん、私は何をすれば良いんですか?」

言って、ちょこんとパソコンの前に座る少女が一人。
風紀委員(ジャッジメント)の初春飾利だ。彼女は白井と同い歳の風紀委員で、主にコンピューターハッキングなどの情報操作を得意としている。


「学園都市全部の監視カメラのデータを調べて欲しいの」

「ぜ、全部ですかぁ!?」

初春は声を張り上げて驚いた。それも当然、何よりも機密を重んじるこの学園都市では、監視がとても厳しい。故にその要となる監視カメラも、凄まじい量が存在するのだ。
395 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 19:47:50.09 ID:css5fAAO

「正しくは、全監視カメラが映す範囲。むしろ大事なのは範囲外の方よ」
「ふぇ?」

飴玉のように丸い目を更に丸くして、初春は呆けた顔をした。

「今日、ヤバい取引があるらしいわ。しかも、相手はあの垣根帝督……。監視カメラに映るなんて馬鹿なマネはしないはずよ」

「わ、分かりました」

御坂にそう言われ、スイッチが入ったように初春はパソコンのキーボードをリズミカルに叩く。続けて、美しい文字の羅列がデスクトップ全体を覆い、次々と監視カメラ画像が表示されていった。


「や、約114箇所……―――まだ多いです!」
初春は慌てて、御坂の方を振り返る。御坂は少し考えると、またすぐに口を開いた。

396 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 19:48:51.87 ID:css5fAAO

「黒子、私たちがいた工場の場所分かる?」

「え、えぇ。ここですわよね?」

急に話を振られ、白井は戸惑いながらも初春の隣に開かれた地図で、件の工場を指差す。
御坂はそれを見て頷いて続けた。


「そうね、それを中心として約10キロを索敵範囲にして。黒子の話だとそんなに遠くじゃないみたいだから。もちろん、監視視界も併せて」

御坂からの指示を受け、初春は慌ててパソコンに向き直って再びキーボードを叩く。そして、表れた該当箇所を読み上げた。

「……よ、43箇所!」

まだ多い、と御坂は心内ちで舌打つ。
御坂は更にもう一つ、初春に検索条件を追加した。
397 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 19:52:26.33 ID:css5fAAO

「初春さん、衛星探知はハッキング出来る?」

「衛星探知、ですか」

流石に衛星探知は骨が折れるのか。一旦キーボードを叩く手を止め困惑する初春に、御坂はその必要性、即ち理由を述べる。


「えぇ、あれだけ怪しいのよ?つまり衛星探知に引っかからない上、取引に適した場所。そこできっと間違いないわ」


御坂がキッパリそう言い切ると、初春は力強く頷いて、三度パソコンへと向かった。
するとしばらくして、初春が嬉しそうに声を上げた。


「………っ、ありました!第7学区の倉庫区!ここなら壁と壁がつくる死角がかなりあるので、衛星探知及び監視カメラにも引っかかりません!」

398 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 19:55:34.03 ID:css5fAAO


「……!!そこだわ!」


御坂は場所が分かるや否や、すぐに部屋を出ようとした、が。
案の定、白井がそれを阻んだ。


「お待ち下さいまし、お姉様!お姉様は今まともに動けるようなお体ではありませんのよ!?」

「……ごめん黒子」


阻む白井に、御坂は一言謝って側を抜けようとする。しかし、今の御坂に強行突破など出来るはずもなく。苦痛に顔を歪ませた御坂は、あっさり白井に捕まった。
そんな御坂を見て、白井は溜め息混じりに言う。


399 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 19:58:32.54 ID:css5fAAO

「……仕方ありませんわね。私も着いて行きますの」

「……黒子?」

「お姉様ったら、放っておいたら何するか分かりませんもの。どうせなら最初から一緒に行った方が、まだ安全ですの」


「……、ありがとう」



御坂は珍しく柔らかい笑みを浮かべながら、不器用な後輩の気遣いに感謝した。そして、御坂は白井と共に部屋を後にする。




「二人共、完全に私の存在忘れてますよね……」

ただ、突然呼ばれて突然突き放された初春飾利だけが、ぽつんと部屋の中でうなだれていたが。



【PM 5:48】

――
400 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/14(月) 20:03:01.44 ID:css5fAAO
とりあえずこんだけです。ようやく終わりが見えてきたー。

ちなみに今更ですが、今書いてるSSのタイトルは

海原「また仕事ですか……」

です。一応補足までに。その他質問等あれば、いつでも受け付けてます。

それではまた。
401 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 21:47:51.92 ID:UdNLlHQo
otuotu-
402 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/15(火) 21:27:47.76 ID:/sD/qQAO
つまんね
403 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/24(木) 16:08:27.34 ID:sXPh2EAO
お久しぶり>>1です。遅くなって申し訳ありません。
少しですが、投下していきます
404 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/24(木) 16:09:14.23 ID:sXPh2EAO

――

【PM5:42】


「……っ、」

何かが壁とぶつかったような音がした。
それが、動揺してずらした自分の足と垣根達に面した壁とが起こした音だと理解した海原は、顔面を蒼白にしてジリジリ後退る。


「馬鹿!何やってんのよ!」

海原の真後ろで待機していた結標は小声で耳打ちすると、すぐに後ろへ下がるように指示する。
しかし、何もかも既に遅かった。


「……どうやらもう嗅ぎつけて来やがったみたいだな」

垣根の注意が、明らかにこちらの方へむく。海原は、全身の汗がドッと吹き出るような気がした。
405 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/24(木) 16:10:31.49 ID:sXPh2EAO

(ヤバいヤバいヤバい―――!!)


海原の心臓の音が、次第にその高鳴りを増していく。
握る手掌からはジワジワと汗が流れ出た。


「まだ懲りてない悪い犬には、お仕置きが必要だな」

カツ、カツと無慈悲な靴音がだんだんと近づいて来る。
もう駄目だと、半ば諦めたその時。


「……ったく、何やってんのよ」

「結標さん……?」


今まで海原の後ろで隠れていた結標が、前へと歩み出た。

すなわち、垣根の目の前。

406 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/24(木) 16:15:39.68 ID:sXPh2EAO

「私がアイツを引きつけてる間にサッサと逃げなさい」

「な、にを……?」

無理だ、と海原は思った。それでも、結標は得意気な笑みを浮かべて海原に言う。


「大丈夫よ。頃合いを見計らって逃げるから」

だが、それが叶わないであろうことを海原は分かっていた。


確かに、結標は優れた空間移動能力者であるが、それは他人に限った話だ。
結標は自身の移動が出来ないという最大級の弱点(ウィークポイント)を抱えている。


「結標さん!?―――っ」

海原が叫ぶ。
しかし、その瞬間に海原の姿はその場から消失した。

そんな去り際に海原が見た結標淡希は、哀しげな瞳をたたえて“わらって”いた。


【PM 5:51】


407 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/24(木) 16:20:13.64 ID:sXPh2EAO

―――

【PM 5:53】


「……つ、着きましたのー」

「ありがと、黒子」



その頃、御坂美琴と白井黒子の両名は白井の空間移動を用いて、ほんの数分で倉庫区へとやって来ていた。

空間移動をハイペースに使った白井はゼェゼェと肩で息をしているが、御坂はそれに笑顔で答えてやる。
すると不思議なことに、白井の先ほどの疲労はどこへやら。もう、御坂の体に視線をギラつかせながらへばりつく程にピンピンしていた。もちろん、その後御坂から電撃を食らう羽目にはなったのだが。
408 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/24(木) 16:25:54.99 ID:sXPh2EAO

「……うぅ、ちょっとしたスキンシップですのに」

「アンタのスキンシップは異常な上に過剰なのよ!」

未だにべったりと引っ付く白井に電撃を浴びせながら、御坂は辺りをちらりと窺う。
すると御坂の視界の角に、とある人影がちらついた。


「……み、御坂さん!?」

「あ、アンタは……!!」

なんと、人影の正体は海原光貴だった。彼は随分と疲弊しているようで、額には汗が光ってみえる。
驚いた御坂はとっさに「海原」と口にしそうになったが、すぐにそれをもう一度口に閉まった。彼の手の中に、見覚えのある黒曜石のナイフの姿が見えたからだ。そして彼女は、それが示す意味を知っている。

409 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/24(木) 16:29:17.40 ID:sXPh2EAO

(……あの時の人か)

御坂は自身の記憶の糸を手繰り寄せ、記憶を思い返した。

御坂は以前起きた事件から、目の前にいる海原がアステカの魔術師エツァリであることを知っている。
もちろん、魔術師について詳しく知っている訳ではないし、そもそもそれが何を表すのかも定かではない。それでも彼が「海原光貴」でないことは理解していた。


「御坂さん……」

そう言って目を細める『海原』。
御坂には彼が戸惑っているように見えた。彼の姿は、まるで目の前に餌はあるお預けを食らっている犬のようだ。

頭を垂らし、彼はようやく重たい口を開く。

ただ一言。


「―――助けて下さい」

と。



【PM5:54】


410 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/24(木) 16:34:56.63 ID:sXPh2EAO
以上です。

ここからは更に遅筆となると思いますが、そろそろ終わると思いますのでどうぞよろしくお願いします。

それではまた。
411 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/24(木) 17:48:25.48 ID:UU0sZwAO
乙でした!

続き超楽しみに待ってます!
412 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/24(木) 21:10:24.06 ID:utnuUCso
エツァリお前が残れwwwwww
あわきん犠牲にするなwwww
413 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/25(金) 06:17:55.52 ID:BT7LBggo
あわきんは自分テレポ不可
おk?
414 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 03:20:15.70 ID:qdHHiYk0
エツァリが一回のテレポで一応逃げ切れた?みたいだし
エツァリを残してテレポすりゃあ逃げれたんじゃないだろうか

頑張れば5回ぐらいはテレポできるだろうし
吐いちゃうだろうけどね
415 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 05:28:51.18 ID:RAZ/9Tko
原作だと今では自分テレポ可能だったはず。
416 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 05:42:34.19 ID:c/PxK4g0
お前等そんなにエツァリが嫌いかwww
いいじゃねえか。エツァリが助かったって
417 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/26(土) 16:48:58.95 ID:fWMkGwAO
どうも>>1です。
少ししか書きためてませんが、投下させて下さい。

ちなみにこの話は最初にある通り、14〜15巻の間の設定ですので、あわきんは自身のテレポは不可という方向でよろしくお願いします。

では始めます。
418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 16:50:20.37 ID:fWMkGwAO
――

【PM5:56】


「う、げほっ……!」

「なんだもう終いか?威勢が良かった割には呆気なかったな」

一方その頃。
海原を逃がした結標は、その後なんとか抵抗してみるもそれも虚しく、痺れを切らした垣根の腕にその首を捉えられていた。

「俺はこう見えて優しいからな。最期に言い残すことがあるなら聞いてやるよ」


垣根はギリギリ結標が話せる程度に上手く首を捉えている。
残酷な男だ、と結標はぼんやり思った。

そう、この男は優しい訳ではない。今こうして生かしているのも、結標が泣きながら命乞いし、そんな彼女を笑いながら捻り[ピーーー]ことを期待して言っているのだ。


419 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 16:52:34.53 ID:fWMkGwAO
(海原は逃げ切れたかしら……?)

そんな状況でも、結標は海原のことを考えていた。

結標は真っ先に空間移動で海原を逃がした。逃がしたが、それはあくまで打算的な考えに基づくものだというのだから、つくづく自分は嫌な女だなと結標は毒吐いた。


(一方通行さえ来れば……!)

つまり、結標の考えはそういうことだ。
海原を逃がして助けを得る
――あわよくば、第二位に勝てる第一位(アクセラレータ)の助けを。


「……何を笑ってやがる?」

「アンタの愉快な死に様を想像して笑ってたのよ」

「! テメェ……!」


垣根の手に力が込められる。
結標の手がびくりと震えた。

420 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 16:55:19.61 ID:fWMkGwAO

(あーぁ、煽り過ぎちゃった)

結標にはほんの時間稼ぎのつもりだったのだが、少々言いすぎてしまったようだ。
このままでは本当に殺されるな、と結標はまるで他人事のように考えていた。


「……かっ、は……!」
垣根の締め付けが徐々に強さを増していく。

本当にヤバくなったら、吐いてでも自身を飛ばせばいい。そう軽く考えていた結標だが、実際、焦る頭では中々演算が出来ない。


(ま……ず…)

次第に結標の意識が混濁し始めた、その時。



「その人を放しなさい!」

凛とした少女の声が聞こえた。

421 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 16:56:30.35 ID:fWMkGwAO


その瞬間、垣根の手からほんの僅かに力が抜ける。その僅かな隙を、結標は逃さなかった。
結標は意を決して、自身を『座標移動』させる。同時にこみ上げてくる吐き気がとてつもなく不快であったが、今はそんなことを言ってはいられない。結標は顔を上げて、少女を見た。


「あ、」

少女を見るなり、結標は声を上げた。
結標は、少女を知っている。


少女の名は御坂美琴。
この学園都市において序列第三位の、最強の電撃使い(エレクトロマスター)。




――すなわち、『超電磁砲(レールガン)』



【PM6:01】


―――

422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 16:58:34.28 ID:fWMkGwAO
今日の分は以上です。

続きは、出来たら明日あたりに更新したいと思ってますが、もしかしたらまた一週間後くらいになるかもしれません。


それではまた。
423 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 17:00:42.01 ID:WPD9UUw0
一方さああああああああああああん
はやくきてくれえええええええええええええ
424 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/28(月) 00:05:24.62 ID:qn/VaoAO
>>1です。

急いで書き溜めたので、誤字脱字が多々あると思いますが、そこは脳内変換でよろしくお願いします。

それでは投下していきます。
425 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 00:05:55.86 ID:qn/VaoAO

―――

【同刻】


「誰かと思えば、負け犬の第三位か」


御坂の登場に対し、垣根は吐き捨てるようにしてそういうと、さして興味も無さ気に御坂を流し見た。

一方で、結標は未だに呆気にとられたような顔をして口をポカンと開けている。


(どういうこと……?)

てっきり一方通行が助けにくるかと思っただけに、結標の落胆は大きかった。
かの第三位とは言え、相手と比して劣るその力では、闘いにおいては決して勝てはしない。
一体、彼女は今からどうしようと言うのか。

426 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 00:06:49.41 ID:qn/VaoAO

「アンタか……。まぁ、相手にとって不足はないわね」

御坂はそう言って、バチバチと全身に放電させる。
その傍らでは、白井が自身の大腿部に装着していた投擲を引き抜いて構えていた。

「何故貴女がここにいるのかは存じませんけど……。お姉様が助けるといった以上、私はそれに従いますの」


結標のすぐ側には、海原もいた。

「すみません、遅くなりました」

「馬鹿、何で戻って来たのよ」

違う。本当は戻ってくるように“差し向けた”

暗部とは、基本的に他者を切り捨てる。
こうでもしなくては、生き残れないのだ。
427 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 00:08:24.47 ID:qn/VaoAO


(……一方通行とは連絡がつかなかったの?)

結標はこっそり海原に耳打った。

(えぇ。ですが、上が言うに、どうやら別の案件で忙しいので彼は使えないとのことです。つまり自分の火の粉は自分で払え、という訳ですよ)

(……最悪ね)


今回のことに深入りしたのは、早まったことだったかもしれない。

しかし、闘いは始まってしまった。もう止めることなど出来やしない。


少し離れたところでは、既に御坂と白井が垣根と対峙していた。


【PM6:13】

―――

428 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 00:10:15.32 ID:qn/VaoAO
――

【同刻】

(……さて、どうしよう?)


自分の力が通じない相手であるのは、先の戦いで理解している。
ならば、正攻法以外の手段しか活路は見いだせないだろう。
御坂はそう判断した。


「黒子」

「何でしょう、お姉様?」

「―――――ってことを、向こうの人達に伝えて来てくれない?準備が出来たら、作戦開始よ」

「分かりましたの!」


白井は空間移動で海原たちの方へと向かう。
御坂は、一人垣根と向かい合った。

「随分と余裕じゃねぇか」

「アンタもね。あんまり舐めてるとそろそろ痛い目に合うわよ」

429 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 00:12:19.68 ID:qn/VaoAO

互いが睨み合う。
その時、白井から準備完了の合図が見えた。

それを見た御坂は、すぐに作戦を開始させる。


「ああぁぁあっ!!」

作戦開始の狼煙である電撃が放たれた。それと同時に、全員が四散する。

「……?」

訝しそうに垣根は周囲を見回した。
今姿が見えるのは白井以外の三人。しかし、それを入れるにしても、やはり一番警戒すべきなのは超電磁砲だ。垣根はそう考えると、標準を御坂へと合わせる。



だが、それが間違いだった。


「……!?」

突然、垣根の周囲現れた鉄筋。それらはバラバラに見えるも、確実に垣根に狙いを定めて襲いかかる。
430 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 00:13:30.86 ID:qn/VaoAO


「油断大敵、ですのよ?」

遥か上空から降って来るのは白井の声。
垣根が声のした方を見上げると、白井は少し離れた場所に位置する、10mをゆうに超える鉄柱の上に立っていた。

垣根は舌打ちすると、すぐさま六枚の翼をもって上空へと向かう。


「……隙だらけね!」

上空へと舞った垣根に、更なる追撃が襲った。
結標の“座標移動”だ。
彼女の力で、倉庫区に安置されていた鉄筋たちが再び垣根へと牙を向く。
空にいた垣根は、それをとっさに翼で防ぎ、振り払う。


しかし、一瞬の隙を得た彼らの攻撃の手が休まることはない。
431 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 00:19:38.28 ID:qn/VaoAO


「結標さん!」

「了解!」

続いて、海原が結標の座標移動で垣根の元へと移動する。彼の手の中には、黒曜石のナイフ―――“トラウィスカルパンテクウトリの槍”が握られていた。


「はぁぁっ!」

海原は光を反射させ垣根へと向ける。
垣根はそれを今まで同様翼で防いだ。


(……なっ!?)

だが。

防いだはずの翼は海原の光を受け霧散する。
垣根は動揺した。常識が通用しないはずの“未元物質”に、通用した海原の攻撃。

垣根の“未元物質”は、原理・理屈が理解出来るもの、ひいては“自分だけの現実”であれば、いかなるものにも対処出来るはずなのだ。それに当てはまらない海原の攻撃はあまりに“危険”である。垣根は海原をそう判断した。


432 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 00:21:17.01 ID:qn/VaoAO

「おらぁ!」

ここで初めて、垣根は反撃へと転じた。垣根に残された翼は、左右一枚づつ。現在上空に放り出されて無防備な海原に向かって、垣根はその片翼を垂直に振り下ろした。


「……ぐっ!?」

メキメキと、骨が軋む嫌な音がする。垣根の翼は、確実に海原の胸部に叩きつけられていた。

勢いよく墜落する海原を、垣根はじっと見届ける。“未元物質”で創り出された翼をどういう理屈で消したかは分からないが、最後まで油断は出来ない。

そう思った矢先、海原がニヤリと笑った。


433 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 00:24:44.22 ID:qn/VaoAO


「……!?」

どういうことだ、と思う間もなく、垣根はその意味を理解することとなる。

海原を壁として隠れていたために、突如として垣根の目の前に降り立った少女と、その少女が放つコインによって。



「いっけえぇぇぇぇっ!!!」



―――超電磁砲。


四人の思いを乗せたコインが、御坂の手によって超電磁砲となって垣根へと放たれた。



その刹那。

何故だか垣根は、その光が美しいと。


ふと、そう思った。



【PM6:23】

―――

434 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/28(月) 00:28:48.49 ID:qn/VaoAO
以上です。

あとはエピローグという名の蛇足を付けていくよ!

というわけで、もうしばらくだけお付き合い下さい。


ちなみにこれが終わったら、今度は王道の通行止めのいちゃらぶ短編集をしようかと思ってます。ネタとかあったらどんどん書き込んでって下さい。参考にさせてもらいますので。


それではまた。
435 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 00:29:30.56 ID:WAd6juwo
乙!
436 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/01(木) 17:07:17.00 ID:VPTnDIAO
今日でようやく完結出来そうです。

とりあえず少ないですがエピローグになります。

それでは投下します。
437 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/01(木) 17:08:55.35 ID:VPTnDIAO

――

【PM7:53】


「――もしもし、土御門?

――えぇ、海原は無事病院に送り届けたわよ。

――えっ?いや、そんなに酷くはないみたい。一週間もあれば退院出来るって」


クルクルと携帯のストラップを人差し指で弄りながら、人気の少ない暗がりを歩く少女、結標淡希。
彼女は電話越しで金髪グラサンのシスコンこと土御門元春と、事後報告及び後処理依頼のために連絡を取っていた。


――あの後。

御坂たちと別れた結標は、そのまま海原を病院へと座標移動を駆使しながら連れて行った。
白井に連れて行って貰えれば良かったのだが、必要以上の接触は互いのためにも避けるべきだった。“表”と“裏”は決して交わってはならないのだ。


438 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/01(木) 17:09:37.99 ID:VPTnDIAO

「―――ハァ?今から戻れ?ちょっとこっちは疲れて――あぁ、ハイハイ。分かった分かった。行けばいいんでしょ、行けば」


そのまま結標は通話を切ると、携帯をポケットにしまい込む。
その顔は、明らかに不快を表していた。


「全く、休む暇もないわね」


結標は一人愚痴を零すと、再び歩き始める。
やがて、暗がりへと身を落とした彼女の姿は、次第に暗闇の中へ飲まれていった。



【PM7:58】

――


439 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/01(木) 17:11:11.46 ID:VPTnDIAO
――

【PM6:56】



「……ハァ。何か一気に疲れたわね」

言って、背伸びするのは御坂美琴。
御坂はあちらこちらに傷を負っているはずなのだが、彼女の素振りからはそれを感じとれない。むしろ、その言葉とは裏腹に、実に清々しそうな様子であった。


「そりゃそうですわよ。お姉様は四人がかりとは言え、あの第二位と戦って退けたんですのよ?とにかく、直ぐにでもお医者様に診て頂かなくては――」

側に控える白井がそんなことを言いながら御坂の方をチラリと見やる。御坂は、明らかに顔を強張らせていた。

440 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/01(木) 17:13:01.62 ID:VPTnDIAO


「べ、別にいいわよ!大した怪我じゃないし!」

「……そんなこと言って、あの殿方と会えるのを期待してません?」

「!! ……そ、そんなことないわよ!?アイツがいつも病院にいる訳じゃあるまいし!」

「……はぁ」


白井はツマラナそうに言葉を吐き出し、頷くと「とりあえず病院にいきますの」と言って歩きだす。御坂はアレ?と首を傾げた。


「黒子、空間移動(テレポート)は……?」

「もうとっくに限界きてますの」

ただそれだけ淡々と述べると、白井は再び黙々と歩き始める。


「ま、待ちなさいよ!」

コッチは怪我人なんだからー!と叫びながらも、御坂はひょこひょこと白井の後をついていく。


無数の星々が夜空を埋め尽くし、それらはまるで彼女たちを祝福するかのようにその姿を光照らしていた。



〜Fin〜
441 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/01(木) 17:17:32.23 ID:VPTnDIAO

とりあえずこれで終わりです!

しばらくは休憩も兼ねて通行止めほのぼの路線でいきたいと思います。
また書きためが溜まったら、一方さんSSを投下していきたいと思います。ネタなどありましたら、参考にしますので書き込みお願いします。


それではまた。
442 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/01(木) 19:41:10.86 ID:1kzKh1Q0
超乙です
443 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/01(木) 20:36:47.31 ID:x.cSt5so
ていとくん・・・
444 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/01(木) 23:25:54.85 ID:G659aUAO
ていとくんは犠牲になったのだ・・・というパターンですか?
445 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/01(木) 23:27:06.71 ID:7LsIqTIo
何故だか垣根は、その光が美しいと。
ふと、そう思った。


死ぬときまでメルヘン
446 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/04(日) 20:20:04.86 ID:9rkIj9.0
垣根からメルヘンを取ったらなにが残るんだ?
447 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/05(月) 20:20:37.44 ID:jWGbjts0
期待あげ
448 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/05(月) 20:28:49.10 ID:mRHq5YAO
>>446
・学園都市第二位の未元物質
・常識が通用しない男
・ラーメンツケメンボク[ピーーー]

こんなもんか
449 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/05(月) 22:55:44.10 ID:SyiexPw0
>>447
こいつ他スレにも湧いてる嵐だからスルー推奨
450 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/06(火) 21:52:33.05 ID:HOo4kHQ0
>>448
なんともつまらないキャラになるんだな
451 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/11(日) 11:19:19.66 ID:QaNjb.AO
超お久しぶりです。>>1です。
テスト週間に入ってしまったたためあまり更新出来ませんが、少しずつ投下していこうと思います。
次のお話は通行止めです。

が、投下の前に少し注意書きを。


※注意※
・この話は、もしも一方通行と打ち止めが上条さんと禁書みたいな出会い方をしていたら、っていう妄想SSです。
・原作のイメージを壊したくない人は見ない方がいいかもしれません。
・また、原作を持ってる人はどこがどこと対や対比になってるか探してみても面白いかもしれません。



それでは投下します。

452 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 11:21:11.18 ID:QaNjb.AO
―――もし、あの時あの人があの場に居たら。


―――もし、彼らが本来と異なる出逢い方をしていたら。

これは、そんな『if』によって織りなされた、決して表には見えない隠されたもう一つの物語




――とある物語の目視不可(インビシブル)――


453 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 11:22:43.94 ID:QaNjb.AO


「――あァ、クソ。めんどくせェな」


溜め息を混じらせながら、一方通行(アクセラレータ)と呼ばれる少年は自身の足元を見やった。

八人。

これは、無謀にも一方通行に挑んできた『能力者』たちの数である。

「……ッたく。たった一人相手に寄って集って、一体何が楽しいンですかァ?」

すっかり伸びている能力者達を足蹴にしながら、独り一方通行は呟く。


――――能力者。すなわち、能力を扱う者。


そう。ここは超能力が全てものをいう科学の街、学園都市。

『頭の開発』という危険極まりない行為を、平然と時間割り(カリキュラム)として組み込んでいる場所。その時間割りによって引き出された能力の強さは分類され、この街に住む二三〇万もの学生達は五つのカテゴリに分けられている。

無能力者(レベル0)、低能力者(レベル1)、異能力者(レベル2)、強能力者(レベル3)、大能力者(レベル4)、そして、―――超能力者(レベル5)



454 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 11:24:40.02 ID:QaNjb.AO

超能力者はこの学園都市でもたったの7人しか存在しない学生達にとって憧れの存在であり、三二万八五七一分の一の確率で生まれた正真正銘の天才である。

更に驚くべきことに、今ここで能力者達を一瞬にして蹴散らした少年こそ、この学園都市の頂点。学園都市序列第一位にして、学園都市が誇る最終兵器。



「―――っ、一方通行」

「……あン?」


一方通行が振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。灰色の短めのプリーツスカートに、半袖ブラウスとサマーセーターという格好の少女。歳は14、5といったところか。前髪の左側の一部は綺麗にピンで留めているが、残りの髪はこの夏の暑さによって浮かぶ汗によってペッタリと額に貼りついてしまっていた。


「……とうとう決まったらしいわね。私の量産型能力者――『妹達(シスターズ)』を使った、アンタの絶対能力者計画(レベル6シフト)」

455 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 11:26:28.35 ID:QaNjb.AO


「……おォ」

「お願い、断って。……そうじゃなきゃ、私はアンタを殺さなきゃいけなくなるのよ」

「……オマエに俺が殺せるンかよ、第三位」

「……そんな数字、関係ないわよ」

そう言って、一方通行の前に立ち塞がった少女の名は御坂美琴。
一方通行と同じく、学園都市最高位の超能力者(レベル5)である。

しかし、それでも少女の手は震えていた。
当たり前だ。同じ超能力者と言えど、一方通行と彼女の間には簡単には埋まらない、圧倒的な実力の壁が存在する。


「……まァ、俺の気が向いたらいつでも実験を中断してやンよォ」

言って、一方通行は御坂にあっちいけと言わんばかりに手の平をヒラヒラと振った。
こう言われれば、御坂の方も何も言えないらしい。彼女は不満げに眉を歪ませながらも、大人しく引き下がっていった。


「……信じてるから」

そうポツリと一言残して。


456 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 11:33:29.39 ID:QaNjb.AO

―――


そんな帰宅途中。

一方通行はおよそ自宅付近まで来た辺りで、目の前を奇妙な物体がもぞもぞと動いているのを見つけた。


(……なんだァ? ありゃ)

そんなことを考えながら一方通行が見ている間にも、『ソレ』はだんだんと彼の元へと近づいてくる。未だ疑問符を浮かべる一方通行にもお構いなしに、『ソレ』はゆっくりと正体を露わにしていった。


一方通行の結論として、『ソレ』はどうやら少女のようだ。


「……オイ、オマエ」

一方通行の問いかけに、ビクッと震える少女。
目元までスッポリ隠した毛布らしきもののせいで、上手く顔は見えない。だが、背丈から察するに10歳前後だろうか、と一方通行は勝手に推測する。


「……な、なぁに?」

少女は震える声で答えた。

いや、そもそも何のつもりで話しかけたんだったっけ。面倒事は苦手だったはずなんだが。
ふと、一方通行が我に返っていると、少女はぼそりと何かを口にした。


「……早く妹達(シスターズ)を止めなきゃいけないのに」

「……待て、ガキ。今オマエ『妹達(シスターズ)』って言わなかったか?」


なんで、こんな薄汚いガキが学園都市の最高機密を知っている?
どうやら、この怪人チビ毛布には聞くべきことが出来たようだ。


「……オイ、ガキ」

少女は再び体を震わせた。

「俺の家に来い」


少女に断る術など、当然無い。
457 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 11:35:12.84 ID:QaNjb.AO

――

「オマエ、名前は?」

「……打ち止め(ラストオーダー)」

「『打ち止め』って……。酷ェ偽名だなァ、オイ」

「なっ……!ち、違うもん!本当に打ち止めって言うんだもん!」

「いや、偽名にしたってもう少しマシなモン無かったのかよ」

「じゃあじゃあ、逆に聞くけど!アナタの名前はなんて言うの?」

「……一方通行だ」


「お互い様じゃん!ってミサカはミサカは大憤慨!」


「うるせェ!―――って、待て待て。『ミサカ』だとォ……?」


少女は、来週から予定している実験に用いる『妹達』について知っていた。そして、何よりもこの『ミサカ』と言う一人称。


「……オイ、クソガキ」


「……何なの、ってミサカはミサカはなんだが嫌な予感しかしないんだけど。ていうか、さり気なくガキからクソガキにレベルアップしてるし」


「ゴチャゴチャうるせェっての。

――それより、その毛布脱げ」


458 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 11:36:33.70 ID:QaNjb.AO


「……へっ?」


「そのボロい布っきれを剥がして、オマエの面を見せろって言ってンだよ」


「……いやいや!それはちょっと些か大胆というか恥じらいがあるというか「あー、うるせェうるせェ。とにかく引っ剥がすぞ」


「ひ、だっ、駄目ぇぇぇっ!!?ってミサカは―――っ!!?」




バサッ!



「………あァ?」



一方通行は固まった。思考停止ともいうか。何故ならば。





「ばかぁぁぁぁぁあっ!!!!!!」




そこには一糸纏わぬ、御坂美琴に瓜二つの幼い少女が立っていたのだから。



459 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/11(日) 11:38:14.18 ID:QaNjb.AO
とりあえずここまでで。


今のところ次回の更新は未定です。更新が無理な場合は生存報告いれていきます。

それではまた。
460 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 12:52:47.69 ID:XBjgQlY0

いい感じだな、面白い
461 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 21:03:50.64 ID:reGbXmU0

続き気になるー
462 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/12(月) 18:08:47.98 ID:uiC8yYAO
どうも>>1です。恒例のテスト前現実逃避に来ました。すみません。


それでは投下します。
463 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 18:10:46.42 ID:uiC8yYAO


「う、ううぅ……。ミサカもうお嫁にいけない……」


「チッ、いい加減機嫌直せよ……」


「一体誰のせいだと思ってんの!?って、ミサカはミサカは自覚の乏しいアナタに激怒してみる!」

その瞳を涙で潤ませながらも、少女は凛とした輝きでキッ! と一方通行を睨みつけた。

ちなみに、一方通行は今打ち止めにワイシャツを一枚貸し与えている。さすがにあの状態のまま話は聞けないと思ったからだ。
ダボダボのワイシャツに膝頭を突っ込んで体育座りをした打ち止めは、まるで引き取られた直後で居場所がないと隅っこで丸くなっている子犬のようだった。


464 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 18:13:54.94 ID:uiC8yYAO

「で、何でオマエは『妹達』を知っている?」

一方通行はここでようやく本題へと入ることが出来た。とは言っても、質問に答える当の本人は未だにふてくされているのだが。


「それを言うならアナタだってなんで『妹達』を知って―――って、まぁいいや。
……あのね、ミサカはお姉様(オリジナル)から生み出された二万人の『妹達』の上位個体なの」

「……ハァ?」

「あ、その顔は信じてないね?って、ミサカはミサカは唖然としてるアナタに問いかけてみたり」

「オイオイ、マジかよ……」


その顔立ちからして、彼女が『妹達』の一部であることは察しがついていた。しかし、目の前のガキがその上位個体です、ときたもんだ。

下位個体の間違いじゃねェの? などという失礼なことも考えつつ、一方通行は打ち止めと名乗る少女続けて語りかける。


465 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 18:15:59.31 ID:uiC8yYAO

「……とりあえず、信じらンねェわ。オマエが『妹達』の一人や二人召喚出来るってなら信じてやるけどよォ」

「……それは無理。今のミサカにはその権限はまだないから」


「……ハ、やっぱり嘘じゃねェか」

「ち、違うの! ミサカは培養器から出たばっかりだから、その……。『妹達』を従える機能がまだ搭載されてないというか……」

なんだそりゃ、意味ねェな。

「う、ううぅぅぅ〜っ!」

手をバタバタとさせて唸る打ち止め。そのたびに、彼女の頭の天辺から生えるアホ毛がミョンミョンと揺れた。

「まぁ、オマエアホ毛だけは一流だよな」

「それって、ミサカを馬鹿にしてるでしょ! してるよね! してるから! って、ミサカはミサカの三段活用!」

466 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 18:18:07.28 ID:uiC8yYAO

耳元でギャアギャアと喚く打ち止め。一方通行はしかめっ面をして頭を抑えた。

正直、うぜェ。

「で、オマエは一体何してたんだっつゥの」

未だにガンガンと揺れる頭を抑え、一方通行が問う。
打ち止めはキョトンとした様子で首を傾げた。

「……何って、逃げてたんだよ? って、ミサカはミサカは当然の返答をしてみたり」

「……ハ?」

一方通行は再び頭を抱えた。一体どうやったら目の前の少女の思考が読めるようになるのか、案外真剣に考えながら。


「ミサカ達はね、とある実験に参加しなくちゃいけないんだけど。ミサカはそんなことしたくないの。だけど、ミサカに『妹達』に指令を送る権限はないし。なら、実験を止めさせるためにはお偉さんと交渉する必要があるでしょ? って、ミサカはミサカは完璧すぎる自分の計画を自画自賛!」

「…………」

「でもね、ミサカ達を利用したい研究者さんはそれをされると困るでしょ? だから時々追ってがやってくるんだよ。まぁ、大体はこれで追っ払ってるんだけどね!」

そう言って、打ち止めは前髪に軽く触れてバチバチと放電させる。

467 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 18:23:14.55 ID:uiC8yYAO

なるほど、能力は第三位―――超電磁砲(レールガン)と同じ電撃使いか。しかし、その威力は超電磁砲に比べてかなり劣る。言うなれば、そう、欠陥電気(レディオノイズ)。


一方通行は再び少女に視線を移した。


「……? ミサカになんかついてる? って、ミサカはミサカは慌てて身だしなみを整えてみたりっ!」

急に一方通行に見つめられ、打ち止めは慌てて髪の毛や顔に触れては「?」マークを頭に浮かべている。


――少女は、今までもこうして一人で戦ってきたのか。

ぼんやり考える一方通行の脳内で、一人の少年と目の前の少女が被る。

信じていたはずの周りの人間が、敵となっていったあの頃の。
守るべきはずの人間を、間違って傷つけてしまっていたあの頃の。
ならばいっそ、自分から遠ざけるために彼らを傷つけてしまおうと考えたあの頃の。

脳内の少年は、そんな時代の自分だった。



「……クソガキ、」

一方通行が打ち止めに声をかけようと言葉を発したその瞬間。少女はおもむろに立ち上がり、そして、とびきりの笑顔で一方通行に言う。


468 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 18:24:44.13 ID:uiC8yYAO


「……もう行くね!ミサカは実験個体だから、現在の位置なんて研究者さんにはいつも把握されてるの。
だから、これ以上はここには居れないかなって、ミサカはミサカは少し残念がってみる」

「……ハ、思ってもいねェことを口にするんじゃねェよ」


違う。こんなことが言いたいんじゃない。


「……服、ありがとうね。なんとかして、返してみるから」


「……別に返さなくていい」


早く、早く言え。今ならまだ間に合うんだ。


「……じゃあ、」




「さよなら」



そう言ってドアを閉めた少女の寂しげな笑顔を、一方通行は一生忘れられないような。

そんな気がした。



――

469 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/12(月) 18:30:53.38 ID:uiC8yYAO
ぶふぃー、とりあえず今日はここまでです、とミサカは疲労感を露わにしながら伝えてみます。


一応連絡ですが、この話のプロットは既に完成してます。まぁ、文章にはおこしてないですが……。なので、途中放棄はまずないと思ってて下さい。

……つまり何が言いたいかと言いますと、長らく来ない期間があっても必ず戻って来ますのでご心配なく、ということです。今後は更新がかなり不定期になると思いますが、どうぞ最後までお付き合い下さいませ。

それではまた!
470 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 20:50:03.68 ID:J123V/Ao

待ってるよ
471 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/14(水) 14:52:12.56 ID:3Ry8.2AO
んちゃっす>>1です。

少し出来たので投下します。
472 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/14(水) 14:57:04.58 ID:3Ry8.2AO

――



昼間の喫茶店と言うのは、何処でもほとんど人気がない。


「いらっしゃいませー」

特に、学生がほとんどを占めるこの学園都市において、その特徴が顕著に現れる。つまり、昼間の運営というのは赤字確定なのだ。
しかし、そんな中でもこうしてきちんと運営する喫茶店は凄いな、と一方通行は素直に関心する。

彼は適当な席に座ると、店員にいつもと同じコーヒーを頼んで一息吐く。そして、少ないながらも確かに人の通る大通りを一人ぼんやりと眺めた。

473 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/14(水) 14:59:49.09 ID:3Ry8.2AO


一方通行の人間関係は、決して広くない。彼の人間関心のほとんどは、研究者たちで埋め尽くされている。いわゆる、「お友達」が存在しないのでだ。その理由には、一方通行を取り巻く特殊な環境にあった。


一方通行は学校へ行っていない。
学園都市で最も優秀な脳を持つ第一位にとって、学校へ行くという行為は必要ないからである。故に、平日の昼間から一人で喫茶店などにいるのことができるのだが。

「クソが……」

先ほどから、一方通行の頭の中に昨晩出会った少女の『さよなら』という言葉がこびりついてとれないでいた。
そんなに長い間関わったわけではない。だというのに、彼女の言葉は幾度となく一方通行の脳内を反芻しては、ぐるぐると回り続ける。


474 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/14(水) 15:09:06.55 ID:3Ry8.2AO


打ち止めは逃げているといっていたが、恐らくそれにはきちんとした理由がある。
もちろん、彼女の言っていた理由などではない。研究者たちは、打ち止めに実験を止めさせる云々が出来るとは、塵ほどにも思ってやいないだろう。研究者たちが一番困るのは、打ち止め自身の存在とその個体情報の外部への漏洩だ。


「あのガキ、今頃くたばってるンじゃねェだろうなァ……?」

そんなことを言いながら、らしくないなと一方通行は自嘲する。

彼には、少女が気になる理由も、少女を気にする理由もない。



――だけど、あの少女の笑顔は嫌いじゃなかった。


そう思いながら、一方通行はクシャリと伝票を握り締め、席を立つ。

家に帰れば、またひょっこり少女が現れるかもしれない。
「服を返しに来る」と。彼女は確かにそう言ったのだから。


そう考えると、何故か口元が綻んだ。会計を済ませ、一方通行は外へ向かって歩き出す。


何故自分が笑っているのか。
その理由は、少年にはまだ解らない。


――
475 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/14(水) 15:11:04.46 ID:3Ry8.2AO
短いですが今日はここまでです。

それではまた。
476 :ホットケーキ [sage]:2010/07/14(水) 18:31:44.01 ID:jkegU9o0
いいなぁ。
こういうの見たこと無かったから。文章も上手いし。
乙でした。
477 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/14(水) 18:32:38.60 ID:jkegU9o0
ぎゃあああああああああっ!!?
上の名前欄忘れて!
478 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/14(水) 20:36:47.38 ID:hPYYIog0
おまえか
479 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/15(木) 09:18:00.23 ID:xjBoUMI0
>>476
あなたも見に来てるのか
480 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/15(木) 09:36:30.21 ID:Xdkg.6AO
えっと、>>476は有名な方なのでしょうか?と新参臭を撒き散らしながら場の空気も読まずにミサカは皆さんに問いかけます
481 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/15(木) 09:37:19.51 ID:yyC.O2AO
ぼちぼち
482 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/15(木) 14:33:09.21 ID:jbSVEr60
普通
483 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/16(金) 01:31:16.87 ID:7nUS6DEo
>>480
電磁通行を完成させた御方

一方通行「あれから一年か....」美琴「早いもんね....」
484 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 15:59:08.80 ID:7UOj5rI0
おお あのお方ですか
ファンです
485 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/17(土) 09:32:26.12 ID:b83S3oAO

おはようございます>>1です。

今回は長さの都合上、ちょっと中途半端なところで終わります。すみません。


それでは投下します。

486 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/17(土) 09:36:21.98 ID:b83S3oAO

――


缶コーヒーと言えど、最近ではその種類も大変豊富だ。

「……今回は新作無かったな」

ガラガラと缶同士がぶつかる音が路上へと伝わり、反響する。
手に握られたビニール袋の中には、大量の缶コーヒー。


「ちっと買いすぎたかもなァ」

手をぶらぶらと振りながら、一方通行は独り呟きマンションの入り口に入り、続けてエレベーターに乗り込んだ。

ちなみに今は一方通行は能力――『ベクトル変換』は使っていない。
これはあらゆる現象・物質のベクトルを、体表面から変える能力である。
能力は常時使われており、これにより最低限必要な酸素などだけを透過し、有害な紫外線などは『反射』しているのだ。

故に、この能力を使えばコーヒーの重みなど皆無となる訳だが、あえて彼は使っていない。今は、この心地よい重さを味わっていたかったから。


487 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/17(土) 09:37:47.40 ID:b83S3oAO

「……あン?」


チンと軽快な音を立てて、エレベーターの扉が開いた。そして、そのまま部屋へと向かおうと廊下へ足を踏み出した、その時。


打ち止めが部屋の前で倒れていた。


「……何だァ、一体?」

とうとう行く場所も無く行き倒れたか、と至って真面目にそんなことを考えながら一方通行は少女に近づいた。

そうして少女の目の前までやって来て、彼はようやくその異常性、異変に気付く。


「……クソガキ?」

「………っ、ハァ、ハァ」


乱れる呼吸。ほんのり赤く染まった頬。そして、苦しげな呻き声を漏らす小さな唇。

誰がどうみても、これは異常だ。


「……クソが。手間かけさせやがってこのガキ」

言葉とは裏腹に、一方通行は打ち止めに歩み寄ると、彼女を優しく抱き起こす。
現在、可愛らしいワンピースに身を包んでいる打ち止め。彼女の側には紙袋が転がっており、その中には一方通行が彼女に貸したはずのワイシャツと、一枚のメモが入っていた。


メモには一言「ありがとうございました」と、少女らしい、歪で丸っこい字が書かれている。


一方通行は舌打ちする。全てが、これで繋がった。

488 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/17(土) 09:41:51.10 ID:b83S3oAO

彼女は、最初から一方通行の元に戻ろうなどと考えていなかった。

だから、ワイシャツを紙袋に入れて。

「ありがとうございました」という別れと感謝の気持ちを、そのちっぽけなメモに託して。

『一般人』だと考えた一方を巻き込むまいと思って、寂しさでいっぱいの気持ちを押し殺してまで、彼に「さよなら」と言った。


それが、彼女なりの答え。


「………ク、ハ。クソ笑えねェ冗談だなァ、オイ」

馬鹿が、と本音は心の中で呟く。



「――――!?」

刹那。

キーンとした甲高い機械音が、一方通行を襲った。


「……何だ、これ」

体の感覚がおかしい。手がカタカタと震える。続けて、全身の力が抜けていくような虚脱感が一方通行を襲った。
この音は危険だ、と判断した一方通行は、その機械音を即座に『反射』した――― が。



「……『反射』が、できねェだと……!?」


いつまで経っても消えない音。まさか、これは。
489 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/17(土) 09:46:27.45 ID:b83S3oAO


「――能力妨害(キャパシティダウン)だよ」


いつの間にいたのだろうか。
一方通行の背後には、一人の男が立っていた。男は全身をスーツで固め、その風貌は明らかに学園都市にはそぐわない。
手には何かのスイッチのようなものを持っており、恐らくアレがこの音を発する原因なのだろう、と一方通行は考えた。


「……誰だオマエ」

「その子の保護者、かな」

ふざけンな。そンな格好で迎えに来る保護者がどこにいる。

「そんなこと言われてもね。事実だから仕方ない」

男は笑って言ったが、その笑いが一方通行は気に食わなかった。男の顔は笑ってはいたが、目が笑っていなかった。


「舐めた真似しやがって、クソッたれ」

とうとう能力妨害の負荷に耐えきれず、一方通行の片手が地面につく。それでも、一方通行は目の前の男を睨み続けた。


「そんな怖い顔しないでくれよ、一方通行。

――しかし、世間とは狭いな。まさかこの子と接触したイレギュラーが君だったなんてね。おかげでこの子を捕まえるのに難儀したよ」

「……な、にを」

つまり、目の前の男は昨日打ち止めが言っていた追っ手なのか。
それなら、男が目の前の真っ白な少年を見て、一方通行だと判断出来た理由も頷ける。

490 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/17(土) 09:48:31.08 ID:b83S3oAO

「さて、この子を預からせて貰おうか一方通行」

「……生憎俺はひねくれ者だからよォ。そう言われると、逆に渡したくなくなるンだわ」


そう強がりは言っても、今の状況では一方通行に歩が悪いのは明白だ。

どうする? と考えた、と同時に。
何故自分がここまで目の前の少女に必死になっているのかと、一方通行は疑問を抱く。


一方通行は、今まで『実験』だと称して様々なモノやヒトを壊してきた。ヒトが傷付くことの痛みなら、誰よりも理解できていたはずなのに。

『目的』を求めるあまり、手段と目的がいつのまにか入れ替わってしまっていた愚かな自分。
そんな自分が、今更他人を救おうなんて、何と滑稽で都合の良い話なのだろうか、と。

一方通行は、自分で自分というものが分からなくなっていた。



ただ。


あの少女が泣きそうな顔を見たくなかった。

あの少女が苦しむ姿を見たくなかった。

―――少女には、いつまでも笑っていて欲しかった。



だから。

491 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/17(土) 09:55:04.35 ID:b83S3oAO

「悪いが、渡せねェな」


一方通行はここに決意する。


もう、彼が遥か昔に忘れてしまっていたこと。

『誰かを守る』ということ。


誰かが滑稽な話だと笑うのなら、いっそ自ら進んで道化師(ピエロ)となろう。


決して、大それた理由なんかじゃない。一人の少女に笑っていて欲しいという、たったそれだけの話。

492 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/17(土) 09:57:51.23 ID:b83S3oAO
中途半端なとこですみません。
あと、遅れましたがコメントありがとうございました!もうしばらくは不定期更新となりますが、これからも頑張って行こうと思います。


それではまた。
493 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/17(土) 09:58:23.42 ID:WFYdsvYo
乙!
キャパシティダウンの音って反射できねーもんなの?
494 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/17(土) 10:11:43.70 ID:b83S3oAO
>>493
補足説明させて頂きます。

一方さんに反射出来ないものなど(多分)ありません。ですが、ここでは先にキャパシティダウンを使われたことで上手く能力が使えず、結果反射出来なかった、とお考え下さい。分かりにくくてすみません……orz
495 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/17(土) 20:51:12.76 ID:GdZeWM20
晒しあげ
496 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/17(土) 21:51:51.32 ID:GdZeWM20
あげ
497 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 14:35:45.34 ID:Fc/tu/c0
>>1です。携帯がちょっと調子が良くないようなので今回はパソコンから投下していきます。
498 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 14:36:51.16 ID:Fc/tu/c0
「………渡せない?君にそんな選択肢は存在しない訳だが」

「……何、だと?」

「『ソレ』がまだ未完成だと言うのは、賢い君なら見れば分かるだろう?」


いつの間にかヒトからモノとなった少女。
男は全てを嘲り笑うかのように、言葉を続ける。

「つまり、『最終調整』が必要なんだ。なのに、何を思ったのか『ソレ』はいつの間にか培養器から逃げ出していてね。で、ようやく捕まえた訳だよ」

「……最終調整?」

「そう。でなければ、未完成の『ソレ』は死んでしまうって訳だ。――後は、分かるね?」


暗に、『お前じゃ何も出来ずに殺してしまうだけだから早く渡せ』と、言いたいのだろう。
男は見下すような目で一方通行を見る。
499 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 14:38:38.24 ID:Fc/tu/c0
「……はン、なるほどねェ」

いつもの一方通行なら、間違いなく少女を突き出している所だ。

しかし、違う。

一方通行は、もう誓ったのだ。再び少女の光を取り戻すと。
ここで少女を渡してしまえば、きっと少女は再び暗闇へと落ちてしまう。やりたくもない実験や研究を行う日々が続いてしまう。

だが、そんなことは今の一方通行には許せない。ここで少女を匿った所で何も変わらないかもしれない。それでも、幸せ(ハッピーエンド)になれる可能性があるのなら、確実な不幸(バッドエンド)よりもそちらに賭けてみたいと思った。
だから、今はこの手の中で眠る少女の事を考えれば良いのだ。

一方通行は、少女を抱く腕に力を込める。
500 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 14:40:05.52 ID:Fc/tu/c0
「……オマエに渡したところでどの道このガキが危ねェってのには変わりねェだろうが」

「つまり、渡してはくれないと?」

「俺は俺が好きなようにやらせてもらう。そンだけだ」


なるほど、と頷くように男は腕を組んだ。
瞬間、男の口角がつり上がる。


「――記憶が無くなるとしても?」

「……あァ?」

待て、どういうことだ。

「情報漏洩対策さ。規定の学習装置(テスタメント)・培養器・パスワード及びコマンド以外を用いて『ソレ』を弄ると自動的にシステムが作動するようになってる。記憶が無くなるだけならまだ救いはあるが、変に弄れば確実に『ソレ』はぶっ壊れるんだよ」

「………っ!」


絶望の壁は、ここでも立ち塞がった。
もう打つ手はないのか、と一方通行は思考する。
ありとあらゆる可能性が一方通行の脳内を瞬く間に巡った。そこで、ある一人の人物が彼の脳内に浮かぶ。


(……そうか、アイツなら)


ようやく光が見えた。

ならば後は簡単だ。光へ、出口へ向かって、真っ直ぐ走るだけなのだから。
501 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 14:43:20.15 ID:Fc/tu/c0
「随分と好き放題言ってるみたいだけどよォ」

一方通行は手の中の少女を壁へと持たれかけさせると、ゆっくりと立ち上がり。

「いつ俺がこの『ガキ』を『救う』なンて言ったよ?」

面を上げ、ニタリと笑って歯をギラつかせる。


「……何が言いたい?」

立ち上がる一方通行に違和感を感じながら、男は内心の焦りを悟られないようにあくまで冷静を装って答える。
だが、一方通行は依然ニタニタと笑いながら、次第に男へと近づいてきた。

「……この『ガキ』がどうなろうが、俺には関係ねェって言ってンだよ」

狂笑。

男は驚愕する。
なんと、動きを封じられていたはずの一方通行が周囲一帯の大気『ベクトル』を操っていた。
502 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 14:47:24.10 ID:Fc/tu/c0
「ど、どういうことだ!?」

男は、とっさに自分の手の中にある能力妨害と一方通行を見比べる。能力妨害にこれといった異常は見られない。それでも、一方通行は止まらない。


「一つ、教えてやるよ」

ガリ、とコンクリートの床を踏んで、一方通行は言う。

「あンだけお喋りする時間があったってのによォ。
まさかこの俺が“何もせずに”地面に這いつくばってたとか、本気で思ってたんじゃねェよな?」

「――ま、さか」



「ク、ギャハハハハハッ!! ご名答ォ! 能力妨害、解析完了ッてなァ!
さァて、正解者には――――」

「ひ、やめ―――」

「瓦礫の雨プレゼントォ!!」

壁が破壊され、それらは空気を介して一方通行の手中に収まる。そして、塊は一気に噴出して男の元へ、まさに『雨』のように降り注いだ。
503 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 14:50:02.32 ID:Fc/tu/c0
「ぐわぁぁぁっ!!」

瓦礫の弾丸を受けた男は、その衝撃で端まで勢いよく滑走する。そして、

「……な、ぁ!?」

ガコン、と壁までも破って外へと放り出された。男に残された道は一つ。

―――落下。


「ぎゃあぁぁぁ―――」

次第に小さくなる声。
一方通行の部屋は三階だ。運が良ければきっと助かるだろう、などと終わったことに対してはさほど興味も持たずに、一方通行は再び少女に相対する。

心なしか、少女の呼吸が少し浅くなってきている気がした。恐らく、少女に残された時間はそう長くない。

一方通行は『反射』を切ると、少女を担いでエレベーターへと向かう。

少女を救えるであろう、一方通行が知る中で唯一の人間が存在する場所へと向かうために。



――
504 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/18(日) 14:52:30.89 ID:Fc/tu/c0
とりあえずこのくらいにしときます。なんかストーリー進むの早いですね…。もう半分くらいきてしまったという。

それではまた。
505 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 22:14:53.64 ID:YYA3tt60

続き楽しみ 応援  (新人)
506 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/19(月) 19:35:18.23 ID:hazp.wAO
>>1です。結構書きためが出来たので、さくさく投下していきます。
507 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 19:36:00.71 ID:hazp.wAO
――

少女と出会って、一方通行は確かに何かが変わったのだろう。それは認める。しかし、それが何なのかを答える術を、一方通行はまだ持っていない。
だから尚更、彼はイラつくのかもしれない。

「……っハ、」

疾走。

一方通行はまるで滑るように、ゴツゴツしたアスファルトの上を走る。ただこの少年の場合は、走るというよりは滑るのままの方が正しい表現かもしれないが。
一方通行の背中にはぐったりとした打ち止めが眠っている。あまり激しい動きはできないが、それでも走らなくてはこの少女の命の灯はきっと消えてしまう。
一方通行は更に進むスピードを上げた。

「……っ! あれか!」

ようやく目当ての建物を見つけ、一方通行は一気に跳躍する。
三つの大きな培養施設の隣にチョコンとたたずむ小さな施設。あれが目的地、量産型能力者の研究を行っている研究所だ。
まだ一方通行はこの施設に訪れたことはなかったが、実験が一度始まれば、傍に見える巨大な培養施設で創られている『妹達』と戦わなくてはならないのかと考えると、ゾッとする気分だった。


508 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 19:36:44.09 ID:hazp.wAO

一方通行は研究所のドアの前に立った。
ドアにはなにやらスキャナのようなものが取り付けてあったが、またIDカードが発行されていない一方通行を通してくれる訳がない。彼はそれを無視すると、ドアに軽く手を触れて金属でできたドアを紙屑のように吹き飛ばした。

「……あら? 一方通行?」

中には、一人の女性がパソコンとにらめっこする形で座っていた。色褪せたジーンズに、同じく色のすっかりおちてくたくたになったTシャツを身につけておきながら、その上の白衣は新品なのか、糊が効いてパリパリしている。

芳川桔梗。
絶対能力者進化計画(レベル6シフト)に携わる研究者の一人である彼女は、今まさに実験に向けての最終調整を行っている真っ最中だった。
一方通行は、そんな彼女にお構いなしにずんずんと中に進んでいく。そして彼女の前に、背中におぶっていた打ち止めを降ろした。芳川は驚きのあまり目を丸くする。
509 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 19:37:49.83 ID:hazp.wAO
「一方通行。これは――」

途中まで言って、一方通行は芳川の言葉を遮り、命令する。

「芳川、今すぐ培養器を用意しろ。今すぐだ」

「ちょ、ちょっと待ちなさい。これはどういうことか説明してもらわないと、こちらとしても手の出しようがないわよ」

「チっ、時間がねェってのに……」

一方通行は全てを語った。打ち止めと出会ったこと。追ってらしき研究者に追われていたこと。専用の培養器でないと打ち止めが危ないこと。それらをなるべく簡潔に、すばやく語った。
話を聞いた芳川は一度考え込むと、首を振って頭を押さえた。

「悪いけれども……私では力にはなれそうにもないわね。まぁ、その研究者とやらに預けるのが一番無難で安全な策であるのは間違いないのだけど」

「なっ……」

「君だって脳の専門家って訳ではないでしょう?どちらにしても、君が大事にしたい記憶だってきっと失われるわ。どうせ危ないのだったら、少しでも危険の少ない方を選択するのが賢い人間ってものよ?」

「! オマエ……! それ本気で言ってンのか!?」


510 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 19:41:47.70 ID:hazp.wAO

一方通行は牙を剥き出すようにして芳川に掴みかかった。所詮、この女は『甘い』だけだったという訳か。
しかし、そんな一方通行を宥めるように、芳川は彼に笑いかける。

「……ふふ、まさか君がそんな反応するなんて思わなかったわ」

「……あァ?」

芳川の様子に、拍子抜けたように一方通行は手の力を緩めていく。


「そこまでの気持ちなら、話は別ってことよ。
―――いい? 残念だけれど、私にはその専用培養器とやらがどれなのかはわからないの。そもそも、打ち止めの調整に関しては担当外なのだしね。
――だから、君が探しなさい」

「……ハ?」

芳川は依然優しげに頬笑む。とりあえず、冗談でした、という話ではないようだ。


「ここの端末からだったら、ある程度のレベルの情報が覗けるわ。もちろん、ロックがかかって見れない情報もあるけど。そこで、君の能力を合わせれば――」

「……ふゥン、なるほどなァ」

一方通行はニヤリと笑う。どうやら覚悟を決めたようだ。

「じゃあ、始めるぜェ!」

パソコンの端末に触れ、一方通行は電子の海へと飛び込む。全ては、打ち止めを救うために。



――――
511 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 19:43:05.06 ID:hazp.wAO

――


「チッ、収穫ゼロかよ……」

一方通行はドッカリと机に腰を下ろすと、疲れ切った溜息を吐いた。

「その様子じゃ、状況は芳しくないわね」

「うるせェ、少し黙ってろ」

肩を竦めた芳川を余所に、再び一方通行はパソコンと向き合った。深呼吸をして、頭を真っ白にする。こうすることで、先入観にとらわれることなく情報を集められるのだ。
そんな一方通行を見て、芳川はコーヒーカップを片手に、何かを思い出したかのように一人ポツリと呟いた。

「……そういえば、どうして研究者は打ち止めを中途半端にしておいたのかしらね? 実験も近いってのに」

「確かに、色気が乏しい身体はしていたなァ」

「……そういう意味じゃなくてね。
聞いた話じゃ、打ち止めはほとんど“完成していた”はず。 じゃあ、彼らは一体打ち止めの何処を調整するっていうのかしらね?」

「……はァ?」

――打ち止めは完成していた?

一方通行の手がパタリと止まる。
その時点で、既に一方通行の知識との間で矛盾が生じていた。一方通行は、何か大きな勘違いをしている。

512 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 19:43:50.02 ID:hazp.wAO

「……どういうことか説明しやがれ。あのガキは何処をどうみても第三位よりチビに見えたぞ?」

一方通行は芳川の方へ向き直す。一方通行が聞いた『妹達』は、確か超電磁砲と全く同じ容姿になるように調整してあるというものだった。芳川はきょとんとした顔で一方通行を見返す。

「あら、もしかして聞いてなかったのかしら? 打ち止めは研究者たちでも扱えるように“あえて”中途半端に止めてあるのよ。研究者たちが打ち止めを使って『妹達』をいつでも掌握できるようにね」

「……っ、そういうことかよ!」


つまり、打ち止めが『妹達』を制御するのではなく、研究者たちが『打ち止め』を使って『妹達』を制御するのが、このシステムの真の在り方。『妹達』を制御する権限は、最初から研究者たちにしかなかった。『妹達』に元から実験を拒否する権利など、どこにもなかった。実験はいつでも開始できるようになっていたのだ。『妹達』の意思とは無関係に。
この事実が書庫(バンク)にも載っていなくて当然だった。これは彼らにとって当たり前、常識である知識だったのだから。

513 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 19:48:52.77 ID:hazp.wAO

「ようやくいろいろ見えてきやがったぜ、畜生」

一方通行はパソコンのディスプレイに触れると再び電子の海へと飛び込んでいく。今まで誤った道標に従って進んでいたのだ。これでは見つかるものも見つからない。
しかし、一方通行は正しい道標を手に入れた。これでようやく前に進んでいくことができるはずだ。

傍から見ている芳川にはよくわからないが、今一方通行の脳内では膨大な量の情報が処理されているのだろう。
彼は、下手したら外部の情報機器にも勝るだけの情報処理能力を持った男なのだから。


514 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 19:51:14.10 ID:hazp.wAO


「――っ、捕まえたァ!!」

数分後。
一方通行は狂喜の笑みを浮かべて叫ぶ。どうやらやっとお目当ての情報に辿り着いたらしい。

(hfshcnkjhudfjsdola:sp@fks.sk:apoifdk――――、なるほど暗号化してロックしてやがんのか。確かに能力者相手ならこういうレトロなロックが一番堪えるからなァ)

ククク、と含み笑いを噛み[ピーーー]。生憎と、こっちはただの能力者ではない。なにしろ、この学園都市で一番優秀な脳ミソを持っているのだ。

(――解除、っと。さァ、ゆっくりと中身を見せて貰おうじゃねェか!)

暗号をものの数秒で判読すると、一方通行はデータベースへとアクセスし、次々とデータをクラックしていった。無数の情報が流れゆく中、毛色の異なる情報をいくつかキャッチしていく。


(……オイマジかよ。これは予想以上にヤベェニオイがすンぞ)



『fuse-Kazakiri』と『system』、そして『ドラゴン』



手に入れた情報を見れば、一見実験には関係のなさそうな単語ばかりが流れてくる。しかし、逆に考えれば。


(むしろ、実験の方が“オマケ”なんじゃねェのか―――?)

515 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 19:52:37.65 ID:hazp.wAO

心臓が次第に高鳴っていくのを感じる。
もしかしなくても、一方通行は知ってはいけないことを知ってしまった。しかも、これらの情報は無数に分解されている状態で保存されていた。これを一方通行が組み立ててしまった訳なのだが。

「ク、カカカカカッ! なンだこれ、ヤベェ、最っ高にヤベェだろ――!」


一方通行は気付いてしまった。
絶対能力者計画とは、これらへと向かう単なる“足がかり”に過ぎないということを。

そして、その“先”を。


そうだ。しごく当然の、学園都市にいる者ならば誰でも知っていること。
学園都市が存在している、そもそもの理由は。





『人間を超えた身にて神様の答えに辿り着くこと』




516 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 19:54:21.83 ID:hazp.wAO


「アッハハハハ! どォしてこんな簡単な答えがわかんねェンだよ、ったくよォ!」

一方通行は戦慄する。
まさか、この街はこんな馬鹿げた計画(プラン)を本気で実行するつもりだというのか。そして、その中心に位置する、統括理事長『アレイスター』。もはや神に対する冒涜をも凌駕する彼の行いには、狂気に近いものを感じる。
この絶対能力者計画の真の理由も、今なら理解できた。つまり、『人の身で神に近づけぬ』というのなら、『人ならざる身にて近づこう』、という子供のような考えによって計画されたのだ。この悪魔のような実験は。

更に信じがたいことに、その先にはまだ道が“続いている”。『神様』へと続く道が。



「ハ、相変わらずの狂いっぷりだぜェ、この街はよォ」

「……一方通行?」

今まで沈黙を守ってきた芳川が重く口を開いた。おそらく、うまく事情を呑み込めていないのだろう。目を丸く開いて一方通行の言葉をじっと待っている。

517 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 19:56:09.29 ID:hazp.wAO
「……芳川ァ。オマエ、この学園都市が目指すものってのが何かってことぐらい知ってるよなァ?」

「え、えぇ」

「まぁ、言っちまえばこのガキと『それ』は繋がっちまってんだよ。そりゃもう、べったりと切っても切り離せないほどによォ」

「―――!」

つまり、やつらの手に渡れば最後、打ち止めは絶対ハッピーエンドは迎えられない。その先にあるのは、理不尽な絶望と苦悩。自分が歩いてきた道にあの少女を歩かせることなど、できるものか。打ち止めが利用されるだけされて、あとはゴミのように捨てられるのを黙って見てなどいられるものか。


「――芳川、このガキの人格データって持ってるよな?」

「! アナタまさか……!」

一方通行は芳川の答えも待たずに机の上を漁り始める。確かに芳川の手にも打ち止めの人格データは存在するが――。


518 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 19:57:23.06 ID:hazp.wAO

「このガキが苦しんでいる以上、こいつには何らかの『バグ』が生じてるはずなんだ。この一方通行を欺こうとした、身の程知らずのクソッたれが用意したバグがよォ」

薄く汗を光らせる打ち止めの額に、一方通行は手を置く。

「初めっからこのガキが完成してるっていうンなら、こっちは遠慮なくコイツをいじれンだよ」


すると、一瞬にして少女の額に浮かんでいた汗がひいていった。
一方通行は、一旦少女から手を放すと、続けて人格データの内容をパソコンを介して頭の中に叩きこんでいく。このひとつひとつの英数字の羅列が、この少女を形づくっているのだ。彼に失敗は許されない。


「よし、じゃあ始めンぞ……!」


少年の手が再び少女の額に触れた。ここから、彼の本当の仕事が始まる。



―――

519 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 20:08:32.13 ID:hazp.wAO
―――


(lo7qJplmbfgwuyq@ru:――、以上ルート3、2から5を削除。追加に4と6、セット。プログラム発動)

一方通行は能力の全ベクトルを少女へと向け、神経を集中させた。脳内に飛び込んできた文字の羅列を、彼は先ほどの文字列と照合し、余分な部分を削除、誤った部分を上書き、そして足りない部分を足していく。
次々と新たに埋め込まれる欠片(ピース)たち。こうしていくことで、少女と一方通行が過ごした記憶はどんどん消えていっているのだろう。

だが、それがどうした、と一方通行は思う。放っておけば、彼女は埋め込まれたバグによって『壊されて』しまう。あの笑顔で一方通行を出迎えてくれることは一生なくなってしまう。

「……全く、手のかかるガキだよオマエは」

めんどくさそうに言いながらも、その表情はどこか愉しげだった。
残り14379。後少しだ、と一方通行が意気込んだその時だった。

520 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 20:10:11.31 ID:hazp.wAO


「……邪魔をしないで貰おうか!」

あの、一方通行にやられたはずの男がそこに立っていた。折れているのか、男はずるずると片方の足引きずりながら中を進んでくる。


一方通行の顔面からは、大量の汗がドッと吹き出した。


(クソッ! 何だってこんなタイミングで……!)

手掌にジワジワと汗が滲み出してくる。今だけは、今だけは絶対邪魔される訳にはいかないのに。



521 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 20:11:00.11 ID:hazp.wAO


「『ソレ』はこれからの学園都市の発展に必要な大事な“駒”なんだよ! バグでイカレちまう前に早くこっちに返せ!」

「駒、駒ねェ……。そう言って、オマエらは一体幾つの命を潰してきたんだろうなァ?」

人のことは言えねェけどよ、と付け加えながら一方通行は語る。実験と言って、自分も既に幾つもの命を葬ってきた。今さら命は大切です、などと綺麗事を語る気はさらさらない。
しかし。

「……もうウンザリなんだよ! こういう奴らの悲痛の叫びを聞くのは! 苦痛に歪んだ顔を見るのはよォ!」

ただ、イライラした。遥か昔に忘れていた感情を、一方通行は打ち止めと出会って思い出していたから。
――打ち止めのデータ修正まで残り9754。いける、と一方通行は思った。


522 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 20:12:41.79 ID:hazp.wAO


「あ、ハハハハハ! お前のような殺戮機械(マーダーマシン)にも感情ってあったんだな? ひゃは、こりゃ傑作だ! 救った気になったところでソレのデータは吹っ飛ぶってのに! 芳川がなにやら手を貸したみたいだが、それも無駄だったな! 結局、テメェには誰も救えねぇんだよヒーロー気取りの偽善者がぁぁ!」

男の言葉に、一方通行はギリッと歯を噛んだ。そんなこと知ってる。それでも。


「だから、なンだっていうンだ」

――残り、7569。

「例えこいつの記憶が無くなってしまったとしてもよォ」

――残り、6798。

「また、新しい記憶を作ってやればいいじゃねェか。今までなンかより、ずっと幸せな記憶(ストーリー)を」

――残り、5972。

「たったそンだけのことだろうがァァァァ!!!」

一方通行は叫ぶ。力の限り。
彼の額には、うっすら汗が浮かんでいた。一体何年ぶりだろう。こんな汗を感じるのは。

523 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 20:13:44.40 ID:hazp.wAO

「あ、ひゃハハハハハ!!」

男は跪くと、狂ったような笑い声を上げた。その手には、鈍く光るワルサーPPK6A1。
元々小型銃として開発されたワルサーPPKをさらに改良した、研究者たちが愛用している小型で比較的扱いやすい拳銃である。フルオート可能な自動拳銃(オートマティック)であるのは、研究職のような素人でも簡単に扱えるためだろう。

「――駄目ッ! 逃げなさい一方通行!」

芳川は嫌な予感がして、とっさに一方通行の名を呼ぶ。
もはや自分の本来の目的すら見失った男。一方通行は、今ここをどけば、目の前の男は打ち止めにまで攻撃しかねないことが分かっていた。そして何より、作業を中断することは、今の打ち止めにとってほぼ死に直結することであると分かっていた。
だから、今ここで作業を止める訳にはいかないのだ。

524 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 20:36:41.39 ID:hazp.wAO

男が拳銃を構える。その眼は虚ろで、何処を向いてるのかも分からない。
――残り、1074。


「―――悪りィが、」

男の人指し指に力が込められていく。

――残り、425。

「“ここ”から先は一方通行、ってなァ!!」




――パァン!




乾いた銃声。

一方通行は目の前が真っ赤に染まっていくような気がした。身体がビクンと跳ねた気がした。芳川の叫び声と共に、再び銃声が聞こえたような気がした。
だが、それが現実のものなのかすら、彼にはもう判別不可能だった。

しかし、それでも彼は最後の欠片(ピース)を少女にはめ込むまで、決してその手を離さない。
絶対、離さない。




――残り、0。

その数字を確認して、彼はあの少女が助かったのだと理解した。安心した彼の手からは、次第に力が抜けていく。
そして、ようやくその手はゆっくりと少女の額から弧を描くようにして離れていった。





―――“最期”の一瞬、自分はちゃんと笑えていただろうか?

意識を明滅させながらも、少年はそんなことを考えていた。
だが、その有無を確かめる間もなく次第に、やがて、“完全”に。


少年の意識はこの世から『消失』した。

525 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 20:44:38.19 ID:hazp.wAO
以上ですの!

あとはエピローグ的な何かを書いていきますの!

残りはそんなに量はありませんが、もうしばらくだけお付き合い下さい。


あと、この話が終わった後どうしようか悩み中です。もしかしたら一旦このスレを落として別スレ立てるかも。もしくは同時進行するか…。まぁ、どちらにせよ見つけた時は仲良くしてやって下さい。

それではまた。


526 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 20:53:42.14 ID:DwLCmA60

エピローグ楽しみにしてます!
527 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/20(火) 09:05:20.23 ID:EsxSjcDO
乙ですの!
やっぱり一方さんは打ち止め絡みの時が一番かっこいいな
528 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/20(火) 18:05:10.62 ID:RSRi1Tg0
>>1です
長い間、スレを放置してしまい申し訳ありませんでした。
諸事情で時間に余裕がなくなってしまったため、続ける事が困難になってしまいました。
大変残念ですが、ここで打ち切りという形にさせて頂きます。
スレ見ていただいた方どうもありがとうございました。
529 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/20(火) 21:34:07.31 ID:9Jp64EAO
>>528
この荒らしどこにでも湧いてんだな

とりあえず死ね
530 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/20(火) 21:41:20.84 ID:gnqRLFE0
>>529
いちいち噛み付くなタコ
531 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/20(火) 21:47:43.98 ID:9Jp64EAO
>>530
すまん……
532 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 00:35:30.08 ID:Z79Zv.AO
最終投下(ラストオーダー)、はっじまるよー☆

って訳で、エピローグ投下しまっす。
533 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 00:41:28.38 ID:Z79Zv.AO

――――



―――おっじゃましまーす!ってミサカはミサカの先手必勝!

―――あ、こら待ちなさい!


病院の廊下を元気よく走っていく、一人の少女がいた。彼女は『一方通行』と書かれたプレートを見つけるや否や、ノックもせずに勢いよく扉を開く。


「一方通行!」


扉が跳ね飛ぶようにして開かれた。その入り口の向こうで仁王立ちしていたのは、なんともかわいらしいワンピースで身を包んだ打ち止め。

部屋の中には、ぼんやりと空を眺めている少年。彼は、少女の声でようやく来客がきたのだと気付いたようだ。顔を少女の方へと気だるげに向け、それを見て、彼女は話を続ける。

「ありがとうね一方通行!まさかアナタが実験関係者なんて思ってなかったなー、ってミサカはミサカは驚きを隠せなかったり!しかもミサカを助けてくれたのね、ってミサカはミサカはアナタに返しきれない恩を感じながら感謝感激してみる!」

それを聞き、きょとんとする少年を見て、打ち止めはあっと口を押さえると、顔を赤らめながらおずおず付け加えた。

534 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 00:42:34.53 ID:Z79Zv.AO


「あ、えっとね。ミサカ自身に記憶は確かにないんだけども。既に起動状態にあった『妹達』に創りだされていたミサカネットワークに『ログ』みたいなのが残ってて……。
――つまり、アナタとお話ししたことも、アナタがミサカを命懸けで助けてくれたことも、ミサカは知ってるの、ってミサカはミサカは補足説明!」

無い胸を張り、そう自信たっぷりにいう打ち止め。それに対して、少年は依然きょとんとした様子で少女を見ていた。
そして、ようやくその口をゆっくりと開いていく。









「……誰だ?オマエ」



535 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 00:46:25.61 ID:Z79Zv.AO

――――


「……っ、……やだ、冗談でもそんなこと言わないでよ、ってミサカはミサカはデリカシーの欠片も無いアナタに憤慨してみたり」

目の前に突きつけられた現実を信じたくなくって。強がってそう言ってみたが、既に打ち止めの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「つゥか、何なンですかァ? その変な喋り方はよォ。アニメのキャラかなンかの真似か?」

更なる追い打ち。打ち止めの心は、どんどんボロボロになっていく。

――事前に聞かされてはいた。あの時、男が放った凶弾は一方通行の脳を貫き、彼の脳細胞を完全に『破壊』してしまったのだと。助けられたのは彼の身体“だけ”だと。
同じ姿なのに、中身は違う人間。聞いてはいたのだが、実際にこうして面と向かってみると、こんなに辛いものだったなんて、少女は思ってもみなかったのだ。


「―――み、ミサカは…ミサカは、変なんかじゃ、」

抵抗。
しかし、それも虚しいだけだというのは分かっていた。打ち止めの頬に、とうとう大粒の涙が伝い落ち始める。

それでも、真っ白な少年には、それが何を意味するのか分からない。



536 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 00:48:10.11 ID:Z79Zv.AO


「オマエ、なンて名前?」


――『打ち止めとか酷ェ偽名だな』って言ったのは、アナタだったよ?


「打ち止め、か。悪りィ、全く記憶にねェわ。
あー、それと、何だ? その跳ねかえったアホ毛は」


――『オマエアホ毛だけは一流だな』って、一方通行は不器用に誉めてくれたよね?



「―――そンなこと、あったっけ?」



――――。

打ち止めの瞳からはどんどん涙が零れ、止まらない。
それでも、彼女は必死に目の前にいる、かつて『一方通行』と呼ばれた真っ白な少年に話しかける。
彼が、一つでも記憶を覚えていることを願って。彼の記憶が、一つでも蘇ることを願って。


でも。

一人でそれを語ることは、とても虚しかった。


537 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 00:55:17.55 ID:Z79Zv.AO

「………何で!? ミサカが助かってもアナタがそんなんじゃ、ミサカは助けられた意味が全然ないよ!! って、ミサカは、ミサカは――っ!」


涙でグシャグシャになった顔を隠そうともせずに、ただただ打ち止めは訴える。彼にとっては、少女と共に過ごした時間は人生のほんの一部に過ぎなかったかもしれない。だが、打ち止めにとっては、一方通行との思い出が記憶のほとんどを占めているのだ。






――その時だった。




「―――ぷっ」

「……へっ?」


何が起きたのか、分からなかった。今、彼は“笑った”のか?




「……ギャハハハハっ!! 何つゥ顔してンだよ、オマエ! 最っ高に愉快な顔になってンぜェ? オイ、自慢のアホ毛も垂れ下がってンぞォ?」

突然の笑い声。

余りのその豹変っぷりに、打ち止めは目の前で起きたその出来事をただ呆然と見つめるばかり。
見れば、真っ白な少年は『記憶喪失の少年』の顔から、学園都市最強の超能力者『一方通行』の顔へとすっかり戻っていた。

538 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 00:59:45.26 ID:Z79Zv.AO


「……アナタ、記憶は……?」


信じられないといった様子で、打ち止めがポツリと呟いた。その独り言のような台詞をも、彼は拾い上げて懇切丁寧に説明していく。

「はァ? オマエ、この俺を誰だと思ってやがるンですかァ? この学園都市で序列第一位の超能力者、一方通行だぜェ? あんなチャチなガラクタなんかで、俺の頭がぶっ壊されてたまるかよォ」

やれやれ、首を振りながら少年は答える。


「………じゃあ、その怪我は?」

「これは少しポカやらかしただけだァ。まっ、実際のところ記憶がぶっ飛んじまうほどの怪我じゃないンですゥ。ハイ、他に質問は?」


少女の身体が次第に小刻みに震えだした。


「………ミサカのこと、もしかして騙した?」


「だって、オマエすげェ深刻そうな顔するから面白くて」



………。

539 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 01:04:38.64 ID:Z79Zv.AO

少女の震えが止まる。どうやら、彼女の中で結論が決まったようだ。




「…………ば、」


「……ば?」







「ばかぁぁぁぁぁあっ!!!」


どっすーん! と一発。打ち止めの流れるようなパンチが、一方通行の腹部に吸い込まれるように綺麗に決まった。


「……ゴフゥっ!?待て、俺はまだ本調子じゃ、」


一方通行は慌てて制しをかけるが、その程度で少女は止まらない。


「問答無用!」

「グァァァァアア!!?」


続けてもう一撃。
しかし、苦痛に顔を歪ませる一方通行とは対照的に、少女の顔にはいつの間にか再び笑顔が戻っていた。



――
540 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 01:06:16.06 ID:Z79Zv.AO
――


「――本当に、これで良かったんだね?」


「あァ」


少年は答える。その声は、先ほどまでとは打って変わって落ち着いており、凛と透き通る声だった。

尚、打ち止めは既に芳川の紹介で決まった、新しい引き取り先に帰宅済みだ。今この場にいるのは、一方通行とその担当医であるカエル顔の医者だけである。
カエル顔の医者――『冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)』は、ベッド上で頬杖をつきながら、窓の外の世界を眺める少年を見て、困ったような顔をした。


「しかし、能力も使えなくなったっていうのに、よくまぁあんな一芝居打つ気になったね?」


「――…ン?」

少年は振り向くと、まるで他人事のような素振りで医者の顔を見た。





「―――記憶がある“振り”をするなんてね?」


541 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 01:14:56.04 ID:Z79Zv.AO


そう、一方通行―――いや、目の前に座るかつての超能力者には、この病院に入院する以前の記憶が一切無かった。先ほどの少女とのやり取りで言ったことも、全て偽り。ただの出任せだった。

そんなに簡単に“ハッピーエンド”を迎えられるほど、世界は優しくはない。


だと言うのに、何故少年はあんな嘘をついたのか。


「……だってよォ、何かイライラすんだよ。アイツが泣きそうな顔してると」


「『君』に彼女と過ごした記憶はないのに、かい?」


うーん、と真っ白な少年は首を捻る。どうやら、何故そう思うのかまでは自分でも良く分かってないらしい。しかし少年は、医者の方を向くと無邪気に笑って。


「まァ、あれだな」

先ほど見た少女の笑顔を思い出しながら。そして、かつての自分が見たであろう少女の笑顔を想像して。少年は言う。



「きっと、消しても消せないとこに、染みついちまってるンじゃあねェのかな?」







「―――心、ってやつによ」






―完―


542 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 01:19:15.27 ID:Z79Zv.AO

オワタ\(^o^)/

じゃなくて、

やっとこさ終わりました!

応援・支援して下さった皆様ありがとうございました!(といっても何人いるんでしょうね?(笑)
とりあえずしばらくはネタ出しを頑張って、落ち着いたらまた投下していきたいと思います。
予定では8月入ってからですね。


それではまた。
543 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 03:53:31.31 ID:PEj5MdEo
乙乙
少なくともここに一人はいるぜ
544 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 06:51:50.02 ID:Ans5Km2o
>>1
話は全部聞かせてもらった!8月が楽しみだ
545 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/21(水) 12:40:50.60 ID:5MfbpGc0
乙乙
ここにも一人いるぞ
八月が楽しみだなー
546 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/22(木) 22:04:12.00 ID:U/VFYwAO
遅くなったが乙!
見てる人は絶対いっぱいいるぜ!自信を持ってくれよ!!
547 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/23(金) 08:42:38.30 ID:.iZHXYDO
乙!
8月まで待機してんぜ!
548 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 19:09:27.61 ID:R97rd1w0
待機待機
549 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/03(火) 02:33:14.42 ID:dEcFHQAO
こんばんは、おはようございます>>1です。
そろそろ2週間経ちそうなので生存報告いれときますね。


ちなみに復活予定は『夏休みに入り次第』とさせて頂きます。今のところはまだ未定ですが。
まぁ……察して下さいww


結果によっては、最悪お盆明けになる恐れもありますが、どうぞよろしくお願いします。

それではまた。
550 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/03(火) 13:36:25.02 ID:k.I7IoAO
待ってるぜ
551 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 13:06:23.95 ID:zR/3NU.0
生きてるかぎり
俺はお前を待ってる
552 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 15:04:37.42 ID:egtW5DIo
待ってんよー
553 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/08(日) 11:33:55.77 ID:7toQ/UAO
おーし待ってるぜ
554 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/10(火) 11:54:57.28 ID:0Au8aWE0
松松
555 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/14(土) 08:39:36.44 ID:1AusS1k0
あげ
556 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 18:16:27.47 ID:VrmePEw0
待ち続けるー
557 :S県 [sage]:2010/08/14(土) 22:46:29.94 ID:nzmJ5kAO
続きはまだかね〜?書きため早く出しなさい\(^o^)/
558 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 22:51:17.92 ID:CBushIk0
待ってるぜ〜
559 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/16(月) 21:22:31.71 ID:pY8i5qc0
書き溜めは〜 さっさと出すのでありますよ〜
560 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/20(金) 09:53:01.92 ID:cJDLTMAO
遅くなって申し訳ありません>>1です。

今回はまだプロットが出来ていないので9月まで投下を見送ろうかと思いましたが、あまりにも期間が空いてしまったのでとりあえずさわりだけでも投下しておこうと思います。

それでは投下します。
561 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 09:55:25.67 ID:cJDLTMAO

――


ピピピと軽快な電子音が鳴り始めると共に、一方通行はゆるりと右手を上方へ持って行く。そしてその根源を止めるべく、伸ばした手を垂直に真っ直ぐ振り下ろした。それと同時に、鳴り止む目覚まし時計。
一方通行はそれを見て満足げに頷くと、再び夢の中へと戻るべく、もぞもぞと布団をかきあげて丸くなる。


そう、その日は彼にとっていつも通りの朝――


のはずだったのだが。









「一方通行! 遊びに行こう!」









一人の少女の一言で、彼の日常は儚くも崩れ去った。
562 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 09:57:07.96 ID:cJDLTMAO

「……何寝ぼけたこと言ってやがンだクソガキ」

未だにボーっとする頭を押さえながら、一方通行はぼやく。しかしながら、クソガキと罵られた少女は一瞬たじろぎながらも、決して諦めた素振りはしない。


「いいじゃない、最近遊んでくれないんだからって、ミサカはミサカは愚痴ってみたり!」

上布団の裾を引っぱりながら、少女は寝ぼけ眼で布団の中に丸くなる少年を何とかして引きずり出そうと画策する。
とりあえず思い切り布団を引っ張ってみると、思いの他、布団の中の少年はあっさりとベッドから床に転げ落ちた。


「―――痛っ!?」

まだ半分ほど夢見心地だったのだろう。頭から真っ逆さまに墜落した一方通行は、死んだカエルのように足をひくひくとさせる。ついで、少年は自身を得意気な顔で見下ろして来る少女を睨みつけた。



「―――打ち止めァ!?」


563 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 09:59:12.66 ID:cJDLTMAO


『打ち止め』と呼ばれた少女はべーっと舌を出しながら、依然一方通行を見下ろしていた。
しかし、少女の真下にひっくり返っていた一方通行は、そこでハッと何かに気付いたのか、慌てたようにして上体を起こす。


「……? 突然どうしたの?って、ミサカはミサカは首を傾げてみたり」

未だ解せぬといった様子で、打ち止めは小首を傾げた。 そんな少女と視線を合わせないように、一方通行はひたすら目線を泳がせる。



564 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 10:02:11.97 ID:cJDLTMAO


――――4年。


一方通行が打ち止めと出会ってから、早くも丸4年の月日が経った。

その間に打ち止めの身長は年相応にぐんぐん伸び、今ではかつての超電磁砲と同じくらいの背丈になった。故に、あんなに開いていた身長差は、今ではそれほどまで違和感を感じない程度には詰められている。
もちろん、一方通行の方も身長が全く伸びなかった訳ではない。きちんと伸びてはいたのだが、それ以上に打ち止めの成長は早かったのだ。

打ち止めは、今や立派に成長したのだ。もちろん、女性的な意味でも。






(――今日は水玉か。……バレたら殺されンな)


そんなことを考えながら、以前と変わらぬ屈託のない笑顔で笑いかけてくれる打ち止めに、一方通行は多大な罪悪感を抱き、胸中にて懺悔する。



すまない、打ち止め。この借りはいずれ返す、と。








――これは、運命の邂逅から四年経った、かつての学園都市第一位と、彼によって救われた少女が織りなすとある物語である。











とある青年の恋愛事情




565 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 10:03:21.87 ID:cJDLTMAO
以上です。ほんとさわりだけですみません……。もう少し書きためてからまた投下します。


それではまた。
566 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 10:17:54.54 ID:utclaQDO
キテタ――!!
お帰りお帰り待ってた乙!!
しかも通行止め未来編とか俺得!!
いつまででも待ってる!
567 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 13:35:00.52 ID:KSU9oQs0
来たぁぁあ―――――ッ!!
お帰り!!そして乙
待ってましたぁぁあ!
俺得な話ありがとう!
568 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 18:58:51.19 ID:eskjOHc0
キタ―――!!
お帰りなさぃぃいいい!!乙!
未来編とか得すぎるぜぇぇえ!
紳士スタイルで待ってるぅぅううう!!
569 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 23:33:25.53 ID:MXM6QtMo
>>566-568

なんかすげぇな
一瞬同じレスが3つ並んでんのかと思った
570 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 23:48:06.15 ID:pPREz6U0
通行止めってよく見るけど大体最初からある程度出来上がっていて
まともな恋愛のプロセスを書くようなSSはここでは見たことがない気がする
一方と美琴や妹達やアイテムと違って設定や心情変化を工夫することもないから
書いてもつまらないと思われてるんだろうな

それはそれで寂しいと思っていたのでつまりは俺得ってことです
571 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 23:51:25.60 ID:6d/1p0Qo
ヒント:クローン
572 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 21:00:23.86 ID:Ycxmc8I0
レベルアッパーの進化版だと思う
573 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/23(月) 13:48:48.88 ID:liMfA6DO
通行止めが恋愛感情になるまで、をシリアスに書いたらいくらでも難しくできると思うよ
574 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 23:31:23.12 ID:qPQNcoco
禁書の未来編を題材にしたSSってどんくらいあるんだろ?
575 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/28(土) 17:58:01.94 ID:35NkUUAO
お久しぶり>>1です。少しですが投下します。
576 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/28(土) 18:03:15.28 ID:35NkUUAO

――



「ふんふんふーん♪」


コトコトと具が煮え立つ味噌汁に、炊きたてのご飯。エプロンをつけてキッチンに立つ打ち止めはさながら新妻のような浮かれ調子で現在製作中の卵焼きを一欠片つまむ。



「……うん、美味しい!」


上出来な料理を前に、ルンルンと華麗にターンを決めつつ、打ち止めは次の作業、配膳へと移る。
そんな時、ようやく一方通行が欠伸を携えながらダイニングへとやってきた。



「……何だよ、今日は肉ねェのか」

目の前に並べられている朝食を一方通行は席につくなり頬杖をついて、さも興味なさげに眺める。
そんな彼の様子に、打ち止めはムッとした様子で付けていたエプロンを脱ぎつつ、同じテーブルの向かい側へと座った。


「昨日ハムエッグ作ってあげたでしょ? たまには和食も食べなさい!ってミサカはミサカはアナタの体を労って言ってみる!」


言って箸を乱暴に掴み、打ち止めは黙々と朝食を口へと放りこんでいく。一方通行は文句を垂れて舌打ちをしながらも、しぶしぶ朝食に手をつけ出した。

577 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/28(土) 18:11:27.74 ID:35NkUUAO



「……はいはい、すいませンでしたねェ。 ―――で、どこに行きたいンだ?」

「……ココ」


そう言いつつ、卵焼きの端をちょろりと出したまま、打ち止めは懐から何やらチラシのようなものを取り出した。どうやら、新装オープンしたクレープ屋のようだが。



「……まさか、ここに行くって言うンじゃないだろうな?」

「……駄目なの?」



呆れたようにため息を吐く一方通行。どうやらDNAレベルで同一のクローンでは、味覚思考までオリジナルに似るものらしい。
そんな彼の様子に、打ち止め不満げに頬を膨らませた。



「だって、最近は仕事で忙しそうだからなかなか一緒にお出かけ出来なかったし。アナタが甘いものが駄目なのは知ってるけど……って、ミサカはミサカは俯いて懇願してみる」


今にも泣き出しそうな顔をする打ち止めに、一方通行は更に深いため息を吐いた。このワガママ姫は、一度言い出したら頷くまで止まらないのだ。


578 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/28(土) 18:20:55.08 ID:35NkUUAO


「……仕方ねェな」

「本当!?」


髪をかきあげながら折れる一方通行に、パァっと瞳を煌めかせて打ち止めは勢いよく彼に迫る。
その勢いに圧倒されるかのように一方通行はのけぞったが、少女が幼い頃の癖で無防備なのは今に始まったことではないので諦めることにした。


「じゃ、行こう!」

食器もロクに片付ける間もなくグイグイと服の裾を引っ張る打ち止め。そんな彼女に、一方通行は本日数回目のため息を吐く。






「……まだ着替えてねェっつゥの」



579 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/28(土) 18:29:49.35 ID:35NkUUAO

――


「……まだー?」


玄関で足をパタパタさせながら、未だに出てくる気配の無い相方を呼ぶ打ち止め。ちなみに彼女は今、白基調の短め花柄ワンピースに、デニムのスカートとミュールという姿である。


打ち止めはオリジナルである御坂美琴と異なり、常盤台中学には通っていない。あそこは規則や寮に縛られてしまう上に、御坂美琴に関わったことのある人間たちに奇異な目で見られてしまう恐れがあるからだ。
従って、今彼女が通っている学校は柵川中学という極平凡な学校なのであり、彼女はオリジナルのように休日まで制服を身に付ける必要もないのである。




「あァ、クソ。うっせェからちっと黙ってろ」

打ち止めの急かす声に煽られ、一方通行はようやく二階から降りてきた。
そんな彼は、無地の黒いタンクトップにジーパンという、何とも面白みのない格好である。寧ろ、一体どこに時間をかけたのだろうかと打ち止めは不思議に思った。

580 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/28(土) 18:40:49.07 ID:35NkUUAO



「……まさかその長い髪のヘアセットに時間がかかりましたーって、言うんじゃないよね?」

「……悪ィかよ」



打ち止めはハァと吐息を漏らす。

今、一方通行の髪の長さはセミロング程までに伸びていた。早く切れ、とは言うのだが、如何せんベクトルが自由に操れていた頃の癖が抜けてないらしい。いつでも切れるだろ、などと言い続けた結果、彼の髪はぐんぐんと伸び続けていき、現在に至るという訳だ。



「ちょっとクレープ屋にいくだけじゃつまンねェだろうが。 ――どっか他の所にも連れて行ってやろうかと思って気合い入れて来たンだが……どうやらいらない世話だったみたいだなァ?」

「――え? あ、嘘! スッゴく格好いいよ! 流石だね一方通行!」

「……あからさますぎンだろ」


581 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/28(土) 18:50:48.39 ID:35NkUUAO


とりあえず、へらっと笑って誤魔化す打ち止め。
しかし、ブツブツ言いつつも靴を履く一方通行を見る限り、彼の扱いなら自分がこの世で一番長けているのではないかという自負が、彼女の中で確固たる事実として認識されつつあった。

その一方で、靴を履き終えた一方通行は車のキーを持って階段で下りていく。それを見て、打ち止めは慌てて親鳥の後をついてくる雛鳥のようにパタパタと走って追いかけた。


「車出すのに時間がかかるから、まだついて来なくていいっつゥの」

一方通行は眉をひそめて言うが、打ち止めは口を尖らせながらそれに答える。

「いいじゃない、一緒に下りたって」



確かに、一人で下りたところで寂しいのは目に見えている。それが分かっているからか、一方通行もそれ以上は何も言わなかった。

582 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/28(土) 18:59:15.70 ID:35NkUUAO


「じゃ、ちょっと待ってろよ」


「分かった、表側で待ってる!」


駐車場へ向かう一方通行を、打ち止めは笑顔で見送る。
ちなみに一方通行が車の免許を取ったのは一年前。それからというもの、打ち止めは様々な所へ連れて行ってもらっていた。

こうしてドライブに連れて行って貰えるのは彼の仕事が休みの間だけだが、それでも想い人と共に出かけられるのは幸せなことだと、打ち止めは思う。彼女は、決してそれ以上は望まない。分不相応な幸せを望めば、今確かに存在するささやかな幸せも逃げてしまうからだ。
どんなことでも、欲張りすぎは良くないのである。
583 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/28(土) 19:01:24.42 ID:35NkUUAO


そうこう考えるうちに、車を走らせた一方通行が打ち止めの前で停車する。意外にも一方通行の車は一般的な7人乗りの普通車だ。
一方通行を良く知る人物なら何故高級車じゃないんだと首を捻るところだろうが、生憎と彼に自身の豊かな財政をひけらかす趣味はないらしい。そんなところもまた、打ち止めが彼に惹かれるところなのだが、当の本人には全くその自覚がないのが彼女の恋の難点である。


「じゃあ、とりあえずクレープ屋に向かうか」

「うん!」


いそいそと車に乗り込む打ち止めがシートベルトを締めたことを確認すると、一方通行はゆっくりと車を発進させた。

ひとまず向かう先は、クレープ屋である。




584 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 00:56:04.84 ID:JNBT3QAO
すみません>>1です。最後締めるの忘れてました;

とりあえず次の投下は一週間後ぐらいにしたいと思います。

それではまた。
585 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 01:24:22.64 ID:B5iLRwAO
586 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 02:00:28.36 ID:Knh4/lE0
乙だぜ!

何だろ?この胸の奥から込み上げてくるものは……?
587 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 02:09:05.66 ID:q0TkmKMo
>>586
恋だな
588 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 20:19:09.01 ID:aI3/FvA0


一方さんの車で最初に浮かんだのが軽ワゴンだった……
589 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/30(月) 07:53:55.17 ID:47FRt6DO
乙!
確かに一方さんなら洒落た車より実用性で選びそうな気がする
あとこだわるセンスが凡人とは違う気がする
ファッションセンターしまむら的な意味で
590 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/30(月) 23:25:10.21 ID:BFa6i0Mo
上条さんはボロボロになった営業車くずれの軽だな
591 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/01(水) 18:55:41.34 ID:GbsaADA0
>>590
川に突っ込んだ不幸な古車を超安値で売られて、仕方ないが安くてよかったと喜んでたら持ち前の不幸体質で買った翌日に事故にあって使い物にならなくなったんですね、わかります
592 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/04(土) 20:33:30.76 ID:ELBtm6AO
1週間たちましたよ!
593 :ZAM [sage]:2010/09/05(日) 13:38:50.65 ID:UlRF5EAO
もやしにタンクトップとか誰特だよwww
594 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/07(火) 08:34:42.67 ID:YcMhnoDO
俺俺ノシ
俺得!
595 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/11(土) 00:52:21.11 ID:b6ANmMAO
遅くなりまして申し訳ありません。>>1です。

ちなみにタンクトップは、自分の服に無頓着な一方さんなら有りかと思って選択しました。設定上の季節は一応夏なので。


それでは、少しですが投下していきます。
596 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 00:54:06.73 ID:b6ANmMAO


「美味しー!」

「……まァ、悪くはねェな」


満面の笑みを浮かべてクレープを頬張る打ち止め。それ見て微笑みながら、同じくクレープを口にする一方通行。
しかし、二人がこのクレープを手に入れるにあたっては、様々な苦難が待ち構えていた。



まず二人がクレープ屋に着くなり、長い行列に並ぶはめとなった。
その間に一方通行はイライラして列の前に並んでいるお客さんを吹き飛ばそうとしたり、通りすがりの人からカップルと間違われて、それを必死で否定する一方通行に打ち止めがしょんぼりしたりと休まる暇も無かったが、そうした末に、ようやく件のクレープを手に入れることが出来たのだ。
そして、やっと落ち着いて公園のベンチに座ってクレープを賞味することとなり、現在に至るという訳である。

597 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 00:56:44.01 ID:b6ANmMAO

「やっぱりクレープはチョコバナナだよねぇー、ってミサカはミサカはほんのり幸せ吐息をついてみたり」


「ハ、頭ン中まで幸せなお花畑になってンぞ」


「うぅー! 何でまたそういう意地悪言うかなぁ、もう!」



言って、パクリともう一口。
打ち止めはクリームが付いてベトベトになった指先を舐めると、頬をハムスターみたいに膨らませて一方通行を睨みつけた。

だが、肝心の一方通行はというと、打ち止めの視線に対して特に気に止める様子も無く、自身のフルーツクレープを食べるのに夢中になっている。

それが微笑ましいようで腹立たしいような複雑な気持ちになった打ち止めは、睨んでいた視線を落とし、諦めたようにため息をついてうなだれた。

598 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 00:58:12.40 ID:b6ANmMAO


そもそも、打ち止めがはっきりと一方通行に恋愛感情を抱き出したのは、そんなに昔の話ではなくつい最近のことだ。

元々、一方通行には多くの危機から文字通り命懸けで救って貰ったのだから、当然と言えば当然の流れなのだが。彼にはそれだけではない、不思議な魅力がある、と打ち止めは思う。



例えば、いつも強がってる癖にほんの下らないことであっさり崩れてしまうところ。
身近なことからいうなら、打ち止めがちょっとした悪戯心から一方通行の愛用するインスタントコーヒーの瓶(彼は最近缶コーヒーだけでなく自身でこだわりコーヒーを作る試みをしている)の中に大量の砂糖を調合した事件。この時、いつも不機嫌そうな顔をした一方通行の顔は、それはもう酷い顔となった。
正直、あんな涙目になった一方通行の顔はもう見たくないな、とは思ったのだけども。

599 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 01:07:03.09 ID:b6ANmMAO


他にも、本当は優しい癖にそれを照れ隠ししてしまって、気持ちと行動が一致しない、素直じゃないところ。
以前打ち止めが体調を崩して寝込んだ時、一方通行は「うざってェから早く治せ」なんて悪態をつきながらも、ずっと彼女に付きっきりで看病してくれたことがあった。その晩、打ち止めが一方通行に感謝の気持ちを述べると、彼は顔を赤くしながら「寝ろっ!」とだけ叫んで部屋を飛び出してしまったが。
それが何とも素直じゃなくて母性本能をくすぐり、可愛いらしかった(男性に使う表現としては間違っているだろうが)と打ち止めは思う。


打ち止めがクレープをかじりながらその時の事を思い出して、へらっと笑うと、隣にいる一方通行に運悪く見られてしまった。彼はまるで奇怪な造形でも見たかのような顔で打ち止めを見ると、現実逃避するかの如く、すぐにまた自分のクレープをかじり始めた。

600 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 01:23:25.41 ID:b6ANmMAO


打ち止めはそんな自分に自己嫌悪する。

彼女の恋もまた、かつてとある不幸な少年の居候をしていたシスターと同じく、前途多難であった。




「オイ、食ったンなら行くぞ」

「あっ、うん」


自身の食べていたクレープが包まれていた包装紙を器用にくずかごへと投げ入れて、続けてベンチに掛けていた重い腰を起こして彼は打ち止めにそう言い放つと、車を止めていた方へと急ぎ足で向かう。打ち止めは、そんな彼の後ろをひょこひょことついて行った。

大きくなったとは言え、打ち止めはまだ中学生であり、女の子だ。もうすっかり大人になった一方通行の歩くスピードには到底及ばないのは分かりきってことであって。その上、彼は後ろを振り返るようなことは決してしないのだから。


そんな相変わらずな彼の挙動に呆れて半笑いしながらも、打ち止めは急いで彼の隣へと走り寄った。







アナタが歩む道を、私は共に歩いていきたい。

永久に―――。





一章終

601 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 01:28:40.75 ID:b6ANmMAO
とりあえず一章が終わりました。


これで打ち止め視点の片思い編は終了です。
次は一方通行視点で告白編へいこうと思います、が。グダグダになったらすみません。てか恋愛もの書くの初めてなんで既にグダグダ臭が……(笑)

とにかく頑張って書きためてきます。

それではまた。
602 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 10:13:28.17 ID:U.LJFUAo
再開乙

次もwwktkして待ってるよ
603 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 11:19:40.31 ID:/Xo70Yso
乙乙
604 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 13:38:40.61 ID:SGrA2oQ0
乙乙!
かわいいなー
605 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/13(月) 15:02:04.62 ID:kWBZAIDO

やっべ
可愛いなあ
606 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/20(月) 13:35:52.21 ID:KgAJ1wAO
遅くなってすみません、>>1です。

少しですが、投下していきます。
607 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/20(月) 13:38:19.11 ID:KgAJ1wAO
眠れる蛹もいつかは美しい蝶へ。

そう表現するのが、打ち止めの成長を表すのに最も適しているだろう。


以前は幼く好奇心旺盛だった打ち止めも、今では年相応に落ち着いており、むしろ一方通行の方が打ち止めに諌められることも少なくはない。また、一方通行の胸くらいまでしかなかった身長は、ついに彼の肩も追い越していた。
ついで、成長した身長に比例してすらりと伸びた四肢。年頃の少女らしい、整った顔立ち。
彼女が持つ雰囲気も、天真爛漫なそれから一転して、穏やかな大人の女性への一歩を踏み出していた。

ここまで言えばきっとお分り頂けただろうが、ここはあえて単刀直入に言おう。




打ち止めは、綺麗になった。

608 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/20(月) 13:40:14.45 ID:KgAJ1wAO


かつての面影を残しながらも(頭頂部のアホ毛がその典型だ)、時折ひどく大人っぽい表情を見せる打ち止め。彼女はオリジナルである超電磁砲が同じ14歳であった頃よりも、かなり落ち着いている。
そしてそんな打ち止めに一方通行は、未だかつて抱いたことのない思いを彼女に抱きつつあることに気が付いていた。




「――どうしたの? ぼーっとして」

「……いや、なンでもねェよ」

「ふーん……」


助手席からじとっとした疑いの眼差しをこちらに向ける打ち止めに、一方通行は思わず舌打ちした。

(あンまこっちみるなっての……。緊張するだろうがよォ)

だがそんな一方通行の心の声を打ち止めが聞き取れる訳もなく、一方通行が不機嫌になったと勘違いした打ち止めは、少し落ち込んだ様子で再び視線を正面に戻す。

あぁ、違う。そんな表情をさせるつもりはなかったのに。


609 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/20(月) 13:42:50.60 ID:KgAJ1wAO

毎回、例の如く一方通行は自らの気持ちを上手く表現出来ずにいた。その後に、決まって後悔することになるのだが。

今まで他人とロクな関わり方をしてこなかった自分だ。最近は少しマシになったとは言え、コミュニケーション能力不足から、まだまだ周囲から誤解を受けることも多い。


だからといって、一方通行はそれを言い訳にはしたくなかった。特に打ち止め相手には。 四年間(とはいえ途中別居していた時期もあるが)ずっと一緒に過ごして来たのだ。少しでも彼女には自分の気持ちを理解して貰えたら、と思う。しかし、理解して貰えたら貰えたで、そんなことに馴れない自分はどう答えたらいいか分からず、いつも彼女に罵詈暴言を吐いてしまう。


なんて悪循環だ、と一方通行は今更ながらため息をついた。
そこでふとスピードメーターに目をやると、メーターの針が明らかに異常な場所を指している。


「……やべェ」

慌ててスピードを落とす一方通行。その後、前方の車と軽くクラッシュしかけたが、それはまた別のお話。


610 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/20(月) 13:45:51.41 ID:KgAJ1wAO


「おいガキ、着いたぞ降りろ」

「ガキじゃないもん! って、ミサカは――っと、危ない危ない」


一方通行の憎まれ口に返してやろうとした打ち止めは、突如口を噤んで再度話し始めた。
今、彼女は変わろうとしているのだ。



打ち止めは幼い頃から「ミサカはミサカは―」と言う語尾をつけた話し方をしていた。しかし、年頃となって精神面も発達してきた打ち止めは、これが他の人の話し方と異なることに気がつき、それが恥ずかしいと思い始めたらしい。 故に、今必死でそれを直そうとしているという訳だ。


「別に今更無理して直さなくていいンじゃねェのか? 誰も気にしてねェよ」


一方通行はいつもそういうが、それでは彼女の気が済まないらしい。打ち止めは一方通行の言葉に、首を大きく横に振った。
それをみた一方通行は、根性だけは認めてやるよ、と薄く笑う。

611 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/20(月) 13:47:42.14 ID:KgAJ1wAO


「まぁ、とにかく降りろ。話はそれからだ」

「……はぁい」


ちょっぴり機嫌の悪い打ち止めをなんとか車から降ろすと、一方通行は鍵をかけてから目的地へと向かって歩き出す。



(一応ガキが喜びそうだと思って遊園地にしてみたンだが。そういや、ガキも成長してンだよなァ? ……子どもっぽいとか思われてねェだろうな?)
歩く道中にぶつぶつと呟きながら、一方通行は考える。しかし、これが彼の悪い癖だった。


「一方通行、ちょっと、早い、かも……!」


「……あ、」



突如聞こえて来た声で、我にかえった一方通行が後ろを振り返ると、そこには息を切らしながら必死に彼を追いかける少女の姿。
またやってしまったか、と一方通行は頭を抱えた。

612 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/20(月) 13:49:35.97 ID:KgAJ1wAO
とりあえずここまでで。次から不器用一方通行のエスコートによる本格的なデートに入ります。

それではまた。
613 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/20(月) 15:39:41.49 ID:Ewc3Kwgo
よし



よし!
614 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/20(月) 16:43:14.50 ID:iVYtpZk0
この板に唯一残る明確な通行止めだよなこれ
応援してる
615 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/20(月) 18:12:36.65 ID:6BTa46DO
やっほぉおい!
これはいいぞ待ってる!
616 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/21(火) 17:32:11.35 ID:SUhyY.AO
一方さんがセロリみたいなのばっかだったから、此処は一方さんが一方さんで安心してる
617 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/22(水) 02:07:29.76 ID:X5PWCLc0
ああいいな
可愛いな 可愛い…
618 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/22(水) 15:59:27.11 ID:lgCsy2AO
不器用さがたまらないな
619 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/23(木) 02:25:34.74 ID:q1AqygAO
どうも、あまりの雷の酷さに現実逃避しに来ました。>>1です。

たった今、恐怖に身を任せながら書いたのであんまり推敲はしてません。もし誤字脱字があれば、そこはご愛嬌、ということで勘弁してやって下さい。

それでは投下します。
620 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/23(木) 02:27:33.19 ID:q1AqygAO
先程も散々主張したが、一方通行はまともに人と接したことが一般人よりもかなり少ない。だからだろうか、彼は周りを気遣い、気を張って目を向けることが酷く苦手だった。


(分かってはいる。分かってはいるンだよォ、クソ!)

一方通行は舌打ちしながら、身近に落ちていた小石を蹴り飛ばす。幾度となく同じ過ちを犯す自分に、彼はいい加減に腹が立って来ていた。
そんな一方通行の様子を見て、再び打ち止めは不安そうに小首を傾げる。

あぁ、まただ。また彼女を不安にさせてしまった。


「……悪ィ、打ち止め。何でもねェから気にすンな」

「……うん」


言って、クシャリと頭を撫でてやれば、打ち止めは少し安堵した様子で一方通行を見上げた。
そんな彼女に、一方通行はとっさに顔を逸らす。


(……勘弁してくれ)


ため息をつきながら、一方通行は空を見上げる。自分は今日あと何回打ち止めに“落とされる”のだろうかと、かなり真剣に考えながら。


621 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/23(木) 02:29:15.08 ID:q1AqygAO


結果、打ち止めは素直に喜んでくれた。まぁ、元々肉体だけが急激に成長させられ、一般教養も僅かな時間で無理やり刷り込まれている仕様の『妹達(シスターズ)』。
精神年齢はさほど高くはないのだから、当然と言えば当然の話だった訳だが。



「ジェットコースター面白かった! ねぇ、また来ようね一方通行!」

「………おォ」


打ち止めは良くとも、一方通行が駄目でした、などという、全く笑えない結果となってしまった。


確かに、一方通行も遊園地は初めての経験だった。しかし、あれほどの実験の数々に耐えて来た自分が、まさか絶叫マシン程度にやられるなどと微塵も考えていなかったのだ。正直、ベクトルを操って宙に舞っている時の方がGはかかっているはずなのだが、そこは雰囲気に負けたという証拠なのだろうと、一方通行は力無く笑う。


622 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/23(木) 02:30:27.22 ID:q1AqygAO


現在、一方通行は気分が悪いながらも平静を装い、ふらふらしつつ打ち止めの後ろを歩くという何とも情けない構図になっていた。
更に、こんなところを知り合いに見られたら、と考えていた最中に運が良いのか悪いのか、例の幻想殺し(イマジンブレイカー)が超電磁砲(オリジナル)に追いかけられながら走りまわっている場面に遭遇。見事に今の情けない姿を晒してしまう羽目となり、一方通行は久々に心底消えたいと願った。



(……つゥか何でアイツラがここにいるんだよ。デートか、デートなンですかァこの野郎)


胸中で単なる八つ当たりとも取れる暴言を吐きながら、一方通行は辺りを見やる。とりあえず、今は落ち着いて座れる場所が欲しかった。


623 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/23(木) 02:32:54.28 ID:q1AqygAO



「……一方通行、大丈夫?」

「……あン?」


一方通行がぼんやりと早く座りたいなと願いつつ打ち止めを見れば、彼女はウルウルと瞳を潤ませながら彼を見つめていた。
一体なんなんだろうか、この萌えるシチュエーションは。


とりあえず、一方通行が落ち着いて素数を数えていると、打ち止めが突如グイと近くに寄った。その真剣な眼差しに、一方通行は釘付けになる。

目が、逸らせない。



「打ち、っ!」


あまりに突然な行為に、一方通行はバランスを崩して地面へと尻餅をついた。正直言ってカッコ悪いことこの上ないが、今はそうも言ってられない。
打ち止めが、一方通行に覆い被さるようにして彼を抱きしめてきたのだ。



「……ごめんなさい」


そして、いきなり涙を流しながら謝りだす少女。一方通行は思わずハッ?と間抜けな声を上げてしまった。

何故目の前の少女が謝っているのか、本気で理解出来なかったから。


624 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/23(木) 02:36:10.36 ID:q1AqygAO



「……一方通行は遊園地なんてガキ臭いとこ、本当は嫌だったんでしょ?なのに、私ってば一人ではしゃいで楽しんで。だから、」


何て、的外れな。一方通行はとてつもない勘違いをしている少女が全てを言い終える間も与えずに、彼女を抱きしめかえす。

実は、自分から彼女を抱きしめたのはこれが初めてだった。




「……一方、っ」


「……馬鹿。嫌だったら一緒に来るかっての。少しは考えてものを言え、馬鹿」


「……二回も馬鹿って言わなくてもいいじゃん」


「真実だから言ってンだよ。


……だからもう泣くなっての、打ち止め」



そう言って、一方通行は少女を愛おしそうに見つめる。
一方通行本人は良く分かっていないのだが、その頬はほんのり赤みが差し、まるで熟れた林檎のようだった。耳に至っては、真っ赤になりすぎて元の肌色が分からなくなっている。

そんな一方通行を、打ち止めは笑った。ここまでうろたえる一方通行を見れるのは、滅多になかったから。


625 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/23(木) 02:40:05.78 ID:q1AqygAO

雷も大分収まってきたので、今日はこの辺で。

今回はかなり勢いで書いてしまいました、が後悔はしてません。この後の展開をどうしようかなんてのも、全くもって考えておりません。
また、更新が度々不定期で申し訳ありませんが、気長に待って頂けると幸いです。


それではまた。
626 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/23(木) 03:48:39.81 ID:jF/ttbco
よくやった
627 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/24(金) 03:22:28.84 ID:8S1vqsAO
gj
628 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/24(金) 15:03:59.80 ID:sK5UxkAO
乙です!
629 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/25(土) 15:31:01.95 ID:YalcSwDO
心からgj。
素数数える一方さんに吹いたwww
630 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/25(土) 23:38:09.73 ID:ewGZCxM0
一方さん素数数えるのめちゃめちゃ速そうだなww
631 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/30(木) 00:01:19.04 ID:zMrU22AO
どうも>>1です。ちょっと短めですが投下していきます。
632 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 00:04:25.82 ID:zMrU22AO
その後、二人は何を思ったか、観覧車に乗った。
これが流れと言うやつなのだろうかと、一方通行は窓から見える壮大な外の景色に惚けながら考える。



「……景色、綺麗だね」
「……あァ」


ここで、お前の方が綺麗だ! なんてベタな台詞を吐くよりはマシだろうが、もう少し気の利いた返事は出来なかったのかと、一方通行は早くも後悔した。

一方通行は打ち止めを見る。
彼女は額に垂れた前髪をかきあげ、窓の景色を慈しむように見つめていた。


(…………、)

言葉が出ない、ということは本当にあるんだと一方通行は身を持って体験しつつ、彼は俯いてぎゅっと打ち止めには見えない位置で拳を強く握り締めた。


チャンスは、今しかない。

633 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 00:11:38.71 ID:zMrU22AO

「……なァ」

「ん? なぁに?」

「……あー。なんだ、その」


駄目だ、良い台詞が出て来ない。相手を罵倒する台詞ならいくらでも湧いて出てくるってのに。


「……うん?」

だが、こんなにもしどろもどろした一方通行に対して、打ち止めは素直に言葉を待つ。
待ってくれている。


(言え!今しかないンだ!)


「……あ、えっと」

「……うん」

「あの、だな」

「……」

「俺、は」


あと少し。心臓は早鐘を打ち、顔面は赤面し、手のひらは汗でぐっしょり濡れていた。


「お前、のことが」

「………」


あと一言。息を吸うと、ヒュウと喉が鳴った。上手く空気が吸えない。でも、言わなくては。


「―――すっ、




――好き、なんだ」

634 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 00:14:05.49 ID:zMrU22AO



やっと言えた、本当の気持ち。

声は震えて掠れて、おまけに小さいという最悪な告白だったが、初めて悪態をつかずに言えた本音。この告白に、打ち止めがどう思っているのかと、一方通行は未だ声を発しない少女の顔を見るためちらりと顔を上げると。

何と、少女は泣いていた。


「……え、」

何で泣いているのだろう。やっぱりこんな年上からの告白は嫌だったのだろうか?それとも、自分が告白など気持ち悪かったのだろうか?

一方通行の頭でぐるぐる渦巻き、膨らむ想像。彼が下唇を噛み、気を抜くと直ぐに緩みそうになる涙腺を必死に押さえていると、少女の口から予想外な言葉が発せられた。


「――嬉しい、嬉しいよ一方通行……!」

顔を上げた少女の頬には涙が伝い流れ落ちている。しかし、その涙は先ほどまでのものとは異なり、悲しみではなく喜びで流されているものであると直ぐに分かった。


打ち止めは、笑っていたのだ。

635 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 00:18:03.58 ID:zMrU22AO


キラキラと光る涙をこぼしながら、打ち止めは一方通行の片手を両手で包み込むようにして握る。それを見た一方通行がどぎまぎしていると、そのまま打ち止めはゆっくり彼の耳元に寄り、小さく囁いた。



「頂上に来たら……分かるよね?」

「……ンなっ!?」


慌てて一方通行が辺りを見渡す。今のところ観覧車はゆっくりと上昇していたが、後数分でこれが降下に変わることは容易に想像出来た。


(……マジか)


覚悟を決めろ、ということらしい。
打ち止めは、向かいで微笑みながらちょこんと座って時を待っている。
観覧車の方も、あと数十秒で頂上に辿り着くだろう。

刻一刻と迫る刻限。それに追いつめられた一方通行は、もはやヤケになっていた。
636 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 00:22:27.56 ID:zMrU22AO


(………クソっ!)


「……打ち止めァ!」

「……へっ?」


腹を括った一方通行が、がっしり打ち止めの肩を掴む。突然の出来事に、打ち止めは瞳をパチクリとさせていたが。

頂上に来たと思われた、その瞬間。彼女の鼻腔にフワリと漂った一方通行の香りと、柔らかな唇に触れた確かな感触。




それは。

とても、とても不器用なキスだった。


ものの数秒間の出来事だったが、今の一方通行にはこれが限界だったらしい。


(……うわァ、死にたい)

ついで、すぐさま彼に襲いかかる後悔の念と恥ずかしさ。
その後、観覧車を降りるまでずっと一方通行は頭を抱えて唸り、打ち止めは少し恥ずかしそうにしながら窓の景色を眺めていた。


637 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 00:29:37.45 ID:zMrU22AO

本日の投下は以上です。

ちなみに恥ずかしくて死にたいのは、一方さんよりも俺の方だと思います。

この後はお約束な感じで、ベッタベタな展開になります。途中で爆弾を投げたくなるかもしれませんが、皆さん頑張って耐えて下さい。

それではまた。

638 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 01:16:06.66 ID:9Tx9quEo
博多の塩もってきたのでご使用はご自由に

639 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 02:25:06.50 ID:c8U.IMMo
うおっしゃァァァァァ!

よくやった
640 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 04:03:30.73 ID:Bkb0wsAO
見てるこっちが恥ずかしい///
641 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 16:50:44.61 ID:eGfNNEDO
うおっしゃああああああ!!
ぎゃああニヤニヤして死ぬ事ってあるんだな!

乙!!
642 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 03:07:01.51 ID:gTYFRbI0
ひゃあああああかっわええええええ
観覧車でちゅー観覧車でちゅー!
爆弾とか代わりに俺が全部食らうから>>1は安心して書くといいよ!いいよ!
643 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/04(月) 08:36:01.06 ID:UPf8Vgc0
打ち止め=肉食系女子
完璧だな!
644 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/13(水) 18:49:44.64 ID:KjljW.DO
まだかなー
645 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/13(水) 22:21:34.84 ID:5LpKCoAO
遅くなりましてすみません>>1です。ようやく色々と一段落したので少しですが投下します。
ちなみに予告では甘くなると言いましたが、あんまり甘くなっていない気もします。まぁそこはスルーで。

それでは投下始めます。


646 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/13(水) 22:22:13.82 ID:5LpKCoAO


「えへへへ……」


「……」


口元を緩ませっぱなしでニヤつく少女に、その傍らで頭を抱えて唸る青年。
こんな男女二人が観覧車から降りてくれば、大概の人はその場から逃げ出したくなるだろう。つまるところ、彼らはそれほどまでに怪しかった。
ちなみに彼らの半径5メートル以内には虫すら寄り付いていない状態だ。



(嫌だ。もう死にてェ)


そんな中、頭を抱える方の青年、一方通行は現在完璧なる自己嫌悪に陥っていたりする。
それもそのはず、彼はつい先ほどベタな展開ランキングの上位ランカー『観覧車の天辺でキスをする』を終えたばかりなのだ。
対する少女はやけに上機嫌だったりするのだが、そこは若さというものが存在しているので比べてはいけない。ここで正常なのは、溜め息混じりにうなだれている一方通行の方なのだ。

647 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/13(水) 22:23:01.63 ID:5LpKCoAO
そんな一方通行を見て、何を思ったか。突如、打ち止めが一方通行の手を握り締めた。

しかも、所謂『カップル繋ぎ』で。




「……何の嫌がらせだ」

「えへへ、カップル記念ー」


それが追いうちとなるとも知らずに、打ち止めは100%全開スマイルだ。

特に彼女の場合、悪気があってやっている訳ではないため、余計に質が悪い。


「……」


一方通行は顔を上げる。すると、目の前には夕日に照らされて映し出された、茜色の空が一面に広がっていた。そんな夕焼け空を仰ぎ見て、一方通行は本日何回目かも分からぬ溜め息をついたのだった。




648 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/13(水) 22:26:56.84 ID:5LpKCoAO



――


「ねぇねぇ、一方通行。今日の晩ご飯何がいい?」


「あン? そンなのオマエの好きにすればいいじゃねェか」


「もー、それじゃ駄目なの! 好きな人にはその人が好きなもの作ってあげられて、初めて女の価値ってのは上がるんだから!って、ミサカはミサカはどや顔して女が何たるかを語ってみたり!」


「……オマエなぁ、何処でンな台詞覚えて来やがンだ?」


「―――、はっ! また口癖やっちゃったぁぁ!」


「っだァァァあ! オマエの口癖なんざどうでもいいンだよォッ! 誰も気にしてねェンだから!」


未だ口癖の呪縛から抜け出せずに落ち込む打ち止めはとりあえず置いとくとして、一方通行は打ち止めの情報ソースに疑問を抱く。
まさか、自分がいない間に昼ドラとか見てるんじゃないだろうな?



649 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/13(水) 22:33:49.84 ID:5LpKCoAO

「気にするよ!だって変じゃん!」


「だから変じゃねェっつてンだろうが! 俺が変じゃねェっつたら変じゃねェンだよ!」


「嘘! 一方通行は存在が変じゃない!」


「……は、そンなに早く死にたいならお望み通り、愉快で素敵なスプラッタにしてやンよォ!」


「キャァァアっ! ごめんなさい一方通行!」



そんなたわいもない会話をしている内に、いつの間にか家に着いていた。結局、晩ご飯は決まらず終いである。




「もう。とりあえず今日はチキンのみぞれ煮作るから」


「……じゃあ最初から聞くなっての「なんか言った?」「……イイエ、何も」


打ち止めにギロリと睨まれ、一方通行は肩を竦める。いつの間に自分達の立ち位置は逆になったのだろうか。


650 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/13(水) 22:37:49.35 ID:5LpKCoAO


「……肉、好きでしょ?」


「嫌いじゃねェな」


「やっぱり素直じゃないね」


「うるせェ」


しかし、そんなこんなで結局落ち着くのは、やはり長年共に暮らして来たからだろうと思う。

そうしたことを考えている内に、次は打ち止めが家の中に先に入って、玄関で仁王立ちしている。今度は一体どんな下らないことを思いついたのだろうか。



「ほら、一方通行」


そう言った打ち止めは、手を左右に広げて、いかにも胸に飛び込んで来いと言わんばかりである。


「……ンだよ、それ」


一方通行が最もなことを問えば。




「だって帰ってきたらおかえりのキスしたいでしょ?」



「ふっざけンなァァァア!!」




今日も一日平和でした。




第二部―完―

651 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/13(水) 22:48:11.91 ID:5LpKCoAO
以上、強制終了でwwwwwwグダグダすぎ吹いたwwwwwwwwwwもう文章が頭の中でまとまりません。吊ってきます。

さて、次回からは第三部、二人の日常編になります。内容は時事ネタ中心に更新する予定です。小ネタ集みたいな感じになると思って下さい。多分ただのイチャイチャです。終わりも見えてません。そもそもプロットが(ry


それではまた。
652 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/13(水) 22:49:31.52 ID:dJ.YiSgo
653 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/14(木) 00:38:24.10 ID:8/q1McDO
乙乙!通行止めかわいいぃぃぃ!!
甘www酸っwwwぱwwwいwwwww

なんでこいつらこんなに可愛いのん?ねぇなんで?
654 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/14(木) 03:04:40.49 ID:gpxl/jgo
いい通行止めだ

ワーストとかいうのもいた気がするが気のせいだな
655 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 12:24:26.62 ID:tPbLc6AO

どうも>>1です!
製作復活記念に季節ネタ投下していきますね。


ちなみに今回から話毎にサブタイトル付けていきますので、予めご了承を。

あと、自分は最新巻をまだ見ていないので良く分からないですが、展開がかなりヤバかったらしいので先に手を打っておきます。


「この話はパラレルワールドでの出来事です。よって、原作とは異なりみんな生きていますし、割と仲良く暮らしています」


今後は以上を踏まえて読んで頂けたら幸いです。
それでは、投下します。

656 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 12:27:59.05 ID:tPbLc6AO


『はっぴぃはろうぃん!』<前編>







――


「ふっふっふっ、一方通行! 今日が何の日か知らないとは言わせないんだから!ってミサカはミサカの先手必勝!」


十月の末日。
部屋に入るなり、打ち止めは開口一番にそう言うと、愛らしい小悪魔衣装で包んだ身を大きくそらせるように張って、高笑いを上げた。
それを見た一方通行は思わず口角がひくついたが、とりあえずは平静を装うことにする。


「……あァ? 急に何言い出しやがるンですかァこのガキは。大体、妙な格好しやがって。ヘソ見えてんぞ。その服丈合ってないんじゃねーの?」

一方通行が畳み掛けるようにして足早にそうまくし立てると、打ち止めはほっぺをリスのように膨らませて、不満気に眉をひそませた。


657 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 12:29:22.31 ID:tPbLc6AO


「ガキじゃないし、ヘソ出しはそういうファッションなの! ………って、そんなことはどうでもいいから! 一方通行、トリックオアトリート!」

言って、両手を広げて待つ打ち止め。しかし、対する一方通行は完全に「?」マークが頭の上に乗っかっている。

『トリックオアトリート』とは、一体どういうことなのだろうか?



「おいガキ。なンだその『トリックオアトリート』って」


「だからガキじゃないってあれほど! ……って、何? 一方通行ってばもしかしてハロウィン知らないの?」


「……知らねェな」


「うっそ!?」


打ち止めは身を乗り出して叫ぶ。どうやらこの『ハロウィン』とやらは、一般庶民にとってはかなり認知度が高いものらしい。一方通行は面倒くさそうに頭をかくと、溜め息を一つ吐いて少女を睨み付けた。

658 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 12:32:50.88 ID:tPbLc6AO


少女は一瞬びくりと震え怯んだが、彼女はそのまま臆することなく、人差し指をピンと立てて自慢気に解説を始める。


「ハロウィンってのはお祭りだよ! 『トリックオアトリート』って言われたら、その人は相手に何かお菓子を上げなくちゃいけないの!ってミサカはミサカは何も知らない哀れな一方通行に懇切丁寧に説明してみる」


「オイ、オマエそこに転がってるカボチャみたいになりたいのか?」


「ミサカの中身くり抜かれるの!?」


大袈裟に体を震わせた打ち止めを、一方通行は自分をからかった罰だと言わんばかりに鼻で笑った。
彼をからかうには、それなりの覚悟が必要なのである。単純に冗談ではすまないのだ。


「ともかく、だ。俺はオマエに何か菓子をやらなきゃいけねェンだな?」

「うん、そうだけど」


「……ちっと待ってろ」


そう言って、一方通行は玄関に向かって歩き出す。彼が目指すものは、既に決まっていた。



659 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 12:39:44.75 ID:tPbLc6AO


――


「で、何でアンタは私のところに来るのかしら?」


一方通行がやって来たのは、御坂美琴の部屋。
現役女子高生として青春を謳歌している彼女は、現在10階建てマンションに一人暮らし。
そんな彼女の部屋には、所狭しと並ぶお菓子の山。これがいわゆるハロウィン効果というものだろうか?


「別にいいじゃねェか。ほら、サッサと教えやがれ超電磁砲(オリジナル)」

「それが人にものを頼む態度な訳?」


あくまでも上から目線な一方通行を、美琴はジトっとした眼で睨み付けた。その手には戦利品の一つと思われるポッキーを、贅沢にも全ての指の間に挟んで同時食いなんてしている。
しかし、これをやると手がベタベタになるんだよな……。


そんなことを考えながら一方通行がぼんやりしていると、美琴はさも当然の如く右手を一方通行に差し出している。

まさか。

660 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 12:43:36.81 ID:tPbLc6AO


「ほら、お菓子。渡しなさいよ」


「馬鹿かオマエ!?その菓子がどンなの渡せばいいか分かンねェからオマエのところに来たンだろうが!」


「ちっ」


「舌打ちしてンじゃねェよ! いいから早く教えろって! オマエにもやるから!」


「あ、本当?」


そう言った途端に、コロリと態度が豹変する美琴。なんて現金な奴だ。


「んー、そうね。打ち止めって甘いものが好きそうだから無難にチョコか飴でいいんじゃない?」


「それはオマエが欲しいやつか?」


「まぁね。でも、打ち止めと私の嗜好は似てるはずだから、外れにはならないわよ。きっと」


「……なるほどな。分かった、買って来る」


確かに言われて見ればそうだった。ならば、そうするのが一番良いに違いない。
一方通行が早急に玄関へ向かうと、美琴はひらひらと手を振りながら見送ってくれた。


661 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 13:04:01.82 ID:tPbLc6AO



「あ、ちなみに私はたけ○この里とミル○ーね」


「馬鹿野郎。きの○の山を買うに決まってンだろ」

「打ち止めもきっとた○のこの里派よ」


「……この二つの派閥が相容れないのは、明○製菓の永遠の難題だな」


「下らないこと言ってないで、いいから早く買って来なさいよ」


「分かってるっての」



今度こそ一方通行は部屋を飛び出し、美琴に教えて貰った近所の安売りスーパーへと向かったのだった。



662 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 13:07:37.49 ID:tPbLc6AO


以上が前半です。31日までには後編投下したいと思います……。

それではまた。
663 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 15:07:19.33 ID:gi7XtEAO
ニヤニヤ
664 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 15:43:01.06 ID:OCT/eUAO
ニヨニヨ
665 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 19:40:53.09 ID:Fuy03UDO
ニヤニヤニヤニヤ
666 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/30(土) 01:40:10.99 ID:AtVy96AO


こんばんは。早速ですが後半投下していきます。





――




「……なンだァこりゃ。意味分かンねェし」


そう言って呆然と立ち尽くす一方通行の前には、膨大な数のお菓子たち。
そう。今、一方通行は所謂「お菓子コーナー」にいるわけだが。



「チョコ系だけで何種類あるんだよ……」


普段買い物などは全てコンビニで済ませてしまう一方通行にとって、スーパーのお菓子コーナーは未知の世界だ。ポッ○ーや板チョコなんかのメジャーな商品は見たことがあるが、チョコポテトなんてのは少なくともコンビニには置いていなかった訳で。



「とりあえずきの○の山とた○のこの里は確保して……後は適当でいいか」


言って、ガコガコと勢いよく商品を突っ込んでいく。考えても良く分からないのなら、初めから考えることなど無駄でしかないのだ。
数打ちゃ当たるだろ、と楽観的な主観のもと、カゴ一杯にチョコと飴玉を詰め込んだ一方通行がレジへ向かっていた、その時だった。




「あら、何してるの?」



「……結標」



よりにもよって最悪なやつに出くわした。


667 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 01:41:46.51 ID:AtVy96AO


「何買って……って、うわ」

「素でひいてンじゃねェよ」


ひょこひょことやってきた結標が、興味本位で一方通行のカゴの中を覗く。すると、彼女は覗いたと同時に声を上げて身をひいた。
一方通行はそんな結標を眉間にしわを寄せて睨みつける。


「だって、貴方が甘いものって……ねぇ?」


「俺が食うンじゃねェっつゥの!」


カゴを壁に叩きつけて、一方通行が怒鳴った。周りの視線が痛いほど突き刺さったが、一方通行はお構いなしだ。
次は結標が眉間にしわを寄せる番だった。


「ちょっと、落ち着きなさいっての」

「俺は落ち着いてる」


駄目だ。明らかに目がすわってる。
そう判断した結標は一つため息をつくと、一方通行に計算を済まさせて、店の外へと逃げるようにして走り出た。




668 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 01:43:33.60 ID:AtVy96AO


――


「……で、結局これは何なの?」

「ハロウィンだ。知らない訳じゃねェだろ」

「当たり前じゃない。馬鹿にしないで」


ぶっきらぼうにそう言われ、一方通行はぐっと怒りをこらえる。一方通行は先ほど知ったばかりで、わざとじゃないとは言え、何だか馬鹿にされた気分になったのだ。


「私が聞きたいのは、何で貴方がこんなに大量のお菓子を買う必要があるのかってところよ」

「……」


言えない。言いたくない、というのが正直な本音だった。

だって、言えば馬鹿にされるに決まってる。



「……言わねェ」

「……言えないんじゃなくて?」

「……うるせェな」

「ま、大体分かってるけどね………。――打ち止めでしょ?」

「……! な、なんで」

「貴方が動く時ってのは大概が彼女のことだもの」

「……っ」


悲しいかな、否定は出来なかった。


669 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 01:44:55.55 ID:AtVy96AO



「ははーん、なる程……。彼女のためのハロウィンのお菓子か……」

「あんまりジロジロみてンじゃねェよ、ショタコン」

「……後でその眼球綺麗にくり抜いて変わりに飴玉突っ込んであげるわ」

「そォかい。楽しみにしとくわ」


言って、一方通行は野良犬を追い払うようにして結標を向こうへ追いやった。しかし、去り際になってニヤニヤしながら歩いていくのが、余計に腹立たしさを際立てる。
一方通行は苛立ちながら舌打ちだけすると、さっさと打ち止めの待つ自宅へと向かった。


670 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 01:48:21.78 ID:AtVy96AO

――

「……ただいま」

「おかえりー!ってミサカはミサカは元気いっぱいに貴方をお出迎えっ!」

「そォか」

「ねぇねぇ一方通行。ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た「あァ、ちょうどいいところにアホ毛が「痛い痛い痛い!お願いだからそれは引っ張らないでぇぇぇ!」


一通り打ち止めを成敗し終えると、一方通行はふんと息つき、持っていたスーパーの袋からお菓子を投げて寄越す。
それを見て、打ち止めはヒリヒリ痛むアホ毛を抑えながら、ぽかんと一方通行を見上げた。


「……これって」

「……これが欲しかったンだろうが」

「……えへへ」


ニッと打ち止めが笑う。
そんな彼女の手に握られていたのはハート型のチョコ。


671 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 01:49:09.52 ID:AtVy96AO


「……なっ!」



みるみるうちに赤くなる一方通行の顔。多分、それは適当に入れておいた菓子の内の一つのはずなのだが、打ち止めはそれをピンポイントに見つけ、気に入ってしまったようだ。



「や、やっぱりそれ返せ! 打ち止め!」


「嫌に決まってんじゃん! これはもう私のだから!」


「返せっつってンだろおォォ!頼むから返せェェェ!」




その後、しばらく二人は仲良く追いかけっこしたとかなんとか。








「はっぴぃハロウィン!」

「全っ然ハッピーじゃねェ」



終わり

672 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 01:50:44.42 ID:AtVy96AO


以上です。


で、しばらくネタが浮かぶまで引きこもります。
楽しみにせず待ってて下さい。


それではまた。

673 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 06:05:01.40 ID:zJVSboAO
ニマニマ
674 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 11:01:15.61 ID:hzNUHAAO
かわえぇのぅwwww
675 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 11:54:38.36 ID:q7HXzkDO
乙でした!
可愛い可愛い可愛いよぅwwwww
待ってます!
676 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 06:33:53.68 ID:yzDj/cAO
まだか?
677 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 11:25:47.44 ID:qgNbIcAO
>>676クリスマスくらいじゃないか
678 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 09:24:28.34 ID:g7/lh.DO
そろそろですよね?わかります
679 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 09:16:55.64 ID:NqlG0C2IO
まだ来てなかったか
680 :lain. [sage]:2011/02/20(日) 10:25:12.54 ID:???
SS・やる夫系スレッドは、SS速報VIP【http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/】へ移転することになりました。
それに伴いこちらのスレッドをHTML化させて頂きます。
スレッドを立て直す際はSS速報VIPへお願いします。
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