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ダンテ「学園都市か」【MISSION 04】 - 製作速報VIP(クリエイター) 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 02:08:22.68 ID:E1/q7Fco
「デビルメイクライ(+ベヨネッタ)」シリーズと「とある魔術の禁書目録」のクロスです。

○今までの大まかな流れ

本編 対魔帝編 

外伝 対アリウス&ロリルシア編

上条覚醒編

上条修業編

勃発・瓦解編←今ここ




○ダンテ「学園都市か」で検索すればまとめてくださったサイトが出てきます。

○過去スレ

http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267269712/
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267368924/

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1267417603/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1269069020/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1271690981/


○有志の方がうpして下さった過去ログ(dat)
ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/88288.zip
pass:dmc


※DMC勢はゲーム内の強さよりも設定上の強さを参考にしたため絶賛パワーインフレ中。
それに伴い禁書キャラの一部もハイパー状態です。

※妄想オリ設定が結構入ります。
ダンテ・バージル・ネロの生い立ちやキャラ達の力関係、世界観、幻想殺し等『能力』の正体など。

※禁書側の時間軸はイギリスクーデター直後、DMC側の時間軸は4から数年後です。
またその後の展開は双方の原作には沿わないものとなります。
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/14(月) 02:09:54.79 ID:WB2RCnc0


楽しみにしてるぞー
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 02:12:44.80 ID:ZPgC2i2o
スレ建て乙!
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 10:07:05.51 ID:.eajVcDO


トリッシュのDTはオリ設定?
それとも小説とかであんの
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/14(月) 15:12:15.23 ID:wrrMNeE0
2ではトリッシュ使えて魔人化できるけど超サイヤ人じみたオーラ纏うだけで姿は変わんなかったよな
トリッシュのエアレイドマジ最強
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 15:22:50.01 ID:JqMA3xw0
前スレ>>1000スタイリッシュだな
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 16:26:18.54 ID:QhAoJvU0
前スレの>>1000で鳥肌www
>>1乙!
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 22:15:10.47 ID:xHub2r.o
>>1
前スレ>>1000はSSSだな
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/14(月) 23:28:50.46 ID:E1/q7Fco
>>4
オリです。
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/14(月) 23:42:42.53 ID:5AaR5Ks0
>>1
前スレ>>1000も乙!

マブカプ3にダンテ出るらしいね
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/15(火) 01:47:57.16 ID:ZyTmnWI0
>>1および前スレ>>1000超乙
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/16(水) 23:56:32.35 ID:WDR.Kfco
―――

イタリア北部の遥か上空。


大気圏外を突き進む弾道弾ミサイル。

その中にステイルはいた。

本来なら核弾頭が搭載されているエリア。
その円筒形のガランとしている空間に、ステイルは後部のブースター側の壁に寄りかかって座っていた。

凄まじい加速で打ち出されるミサイルに人間が乗ることは到底不可能だか、
ステイルにとってはお構い無しだ。
温度が激しく変わろうが、気圧が急激に変化しよう関係ない。

ステイル「……」

暗闇の中、着弾するのをただ静かに待つ。

ブースターはもう既に止まり、今は慣性に従って飛行している。
大気圏に再突入するまでは振動一つ無い完全な静寂。


ステイル「……」


彼に下された命令は、神裂を確保して早急にヴァチカンから離脱すること。
だが、ステイル自身にとってそれ以上に重要な事がある。

戦争を防ぐ事だ。

五和からの報告によれば、神裂はイギリス清教の名を騙った襲撃者と交戦しているらしい。
宣戦布告を撤回し、この騒動はイギリス清教が起こしたものでは無いという事を証明する為に。
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 00:07:31.22 ID:qnFKtPUo
端から見ればそんなのはもう無駄な努力だろう。

だがステイルは神裂に賛成する。

彼もまた神裂と同じくあの少女を絶対に守らなければならない。
その為には何が何でも戦争を防がなければならない。

ステイル「……」

徐々にミサイル全体が揺れ始める。

大気圏に再突入し始めたのだろう。

ステイルは手をゆっくりと開く。
その上に小さな火がポッと現れ、暗い弾頭内を淡く照らした。


そして数秒後。

弾頭のカバーが大きく割れるように開く。

遥か下に広がるローマ市。

その中央の粉塵が立ち上っているヴァチカン。

弾道弾ミサイルの加速を受けたステイルは、大気摩擦で光の筋となってヴァチカンへ突き進む。

そして一瞬で到達する―――


―――はずだったが。


「やっと来たか!」


後方から、ありえない位置から聞こえてきた言葉。
切れのある、気の強そうな女の声。
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 00:11:11.58 ID:qnFKtPUo
ステイル「―――は?」

振り向くと。

彼をここまで運んできた弾頭の残骸の上に悠然と『立つ』、赤いボディスーツを纏った銀の短髪の女。


「YeeeeeeeeeaHA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ステイルが状況を理解する間は無かった。
次の瞬間赤と白の閃光が走り、振り向きざまの彼のわき腹を強烈な衝撃が襲う。



ステイル「がッ―――!!!!!!!!!」


鞭のようにしなやかでかつハンマーのように重い一撃を受け、ステイルの体は更に加速して落下した。

そしてその着弾地は真下、当初の目的地でもあったサンピエトロ広場の端。


隕石が落下してきたような凄まじい衝突。

だが広場は既に完全な廃墟と化しており、もう破壊する『物』など残っていなかった。


クレーターの上にクレーターを穿つだけ。

砕かれていた瓦礫を更に砕いただけ。


ステイルの落下で生じた現象はこれだけだった。


ステイル「ぐッ―――」

そのクレーターの中心でステイルはぎこちなく体を起こした。

電気のように全身を走る激痛。


ステイル「―――クッソ……」


ステイルは痛みに顔を歪ませながらも己の状況をすぐに察する。

待ち伏せされていたのだろう。
そして先手を打たれ迎撃されたのだ。
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 00:15:05.41 ID:qnFKtPUo
ステイル「ッッッツ…………なっ……?!」

悪態をつきながら顔を上げたステイルは周囲の惨状を見て驚愕する。

荘厳なサンピエトロ広場の姿は影も形も無く、
あるのは無数の巨大なクレーターが何重にも重なって穿たれてる広い広い瓦礫の荒野。


神裂が戦闘していると聞いておりそれなりの破壊は起きているだろうと思っていたが、
目の前の光景はその予想を遥かに超えていた。


ステイル「―――」

そして目が止まる。

荒野の中央に立っている、黒い奇妙なデザインのボディスーツを身に纏った長身の女。


その足元に力なく横たわっている―――。


ステイル「神……裂?」


―――胸に七天七刀が突き立てられている神裂。


ピクリとも動かない。


そして気配すら感じない。


力の欠片すらない。


それが意味する事とは。


ステイル「―――神裂ィイィィィィィィィィィィィィィィィイッッッ!!!!!!!」


―――
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 00:20:44.31 ID:qnFKtPUo
―――


聖ジョージ大聖堂の薄暗い一室。

淡い蝋燭の光が揺らいでいる、薄暗い質素な一室。


イギリス清教のトップ、最大主教ローラ=スチュアートは長い長い金髪を手櫛で優しく梳きながら、
この部屋の中央にある小さな木造りの椅子に座っていた。


ローラ「……ふむ」


『髪』の調整に手間取い、少々時間がかかってしまった。

この力を使うのは数百年ぶりなのだ。

先程思い切って少し『機能』させてみたところこれといった問題は無かったが、
『実戦』での大規模行使となると上手く動くという確証は無い。

そもそもこの『髪』はこういう用途に使うつもりで『残した』わけではないのだ。

全ての力を後々にあの『少女』の為に使う予定だったのだ。
その一度で全て使い切れるように一切の無駄なく調整した力だ。

今ここで大量に消費してしまい、いざという時に力が足らないなんて事になったら、
この『500年間』の苦労が全て水の泡となってしまう。


ローラ「……」


だが古き友でありそしてローラの頼みを聞き入れてくれた恩人、
エリザードの頼みならば断るわけにはいかない。

己とあの『少女』を匿ってもらうという事と引き換えにイギリスを守る為に尽力すると誓ったのだ。

それにそもそも今のローラにとっても、
本拠であるイギリスが戦力を失って潰れる事は避けたい。

そしてステイルと神裂、最悪でもどちらかを生かしておけばあの『少女』を守る助けにもなる。
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 00:23:15.07 ID:qnFKtPUo
ローラ「……そろそろ良きかしらね」

それに不謹慎だが少し楽しみでもある。

『己』の力を見たあの二人の偉大な『先輩』がどんな顔をするか。


『生き残り』が他にもいたことを知ってどんな顔をするか。


最も、『敵』としてではなく『仲間』として再会したかったが。


まあそれは今更考えても仕方が無い。


ローラはゆっくりと立ち上がった。

長く美しい金髪がふわりと大きく広がる。


ローラ「ふーッ……」


目を瞑り、深く息を吐く。


ここからヴァチカンまでの遠隔使用。

これ程の距離で使った事は今まで一度も無い。


恐らく、これ程の距離で使用した『同族』は過去に一人もいないだろう。


超遠距離下―――。




―――大陸を挟んでの『ウィケッドウィーブ』の使用など。



―――
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 00:25:46.32 ID:qnFKtPUo
―――


瓦礫の荒野と化したサンピエトロ広場に響くステイルの咆哮。

それは哀しげでもありながら凄まじい憤怒の篭っている雄叫び。

ステイルの瞳が赤く光り、全身から業火が凄まじい勢いで噴出す。


ステイル『オァアアアアアアアッ!!!!!!!!アアアアアアアア!!!!!!クソ!!!!!クソッ!!!!!』


体の奥底、魂から噴き上げてくるこの感情。
先程までの冷静な思考が一瞬で吹き飛んでしまった。


本来、ステイルは誰かの死で感情を爆発させることは無い。
あるとすればインデックスが死んだ時ぐらいだろう。
今まで多くの戦友を失ってきたが、その喪失感と哀しみ・怒りを表に出すことは一度も無かった。

二ヵ月半前に『死んだ』上条を前にしても抑えこんだのだ。

しかしこの時だけは違っていた。
抑えこめなかった。

これはステイル自身も意外だった。


神裂。


彼女はステイルにとって『特別』だった。

インデックスとステイルと神裂。

かつて三人一緒だった。


泣くも笑うも常に。


本当の意味での『友』だった。

そして『特別』な誓いを立てた『戦友』だった。

インデックスに向けて立てた『特別』な誓いを。

彼の生きる意味でもある『誓い』を。
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 00:28:34.39 ID:qnFKtPUo
ステイルは己はそんな『生温い』感情的な甘い部分を全て捨て去ったと思っていた。

だがそんな物は捨てきれるはずも無い。

彼の心は『人間』だ。


―――魂に埋め込まれたかけがえの無いあの日々の記憶は。


―――魂に埋め込まれた『絆』は消えるわけが無い。


ステイル『オオオオアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!!!!』


もう彼は隠そうとはしなかった。

湧き上がってくるその激情に身を任せ、全てを吐き出す。


『友』を想う魂の慟哭。


恐ろしくもあり哀しげでもある咆哮が広い広い瓦礫の荒野に響き渡った。


そして彼は悪魔化する。


炎が全身に纏わりつき衣となる。


噴出した業火が周囲を溶解させ、彼を中心として直径40m程の溶岩の海が出来上がっていた。


ステイル『オアアアアア―――』


その赤く光る瞳で神裂の傍に立っている女を鋭く睨み―――。


ステイル『―――貴様ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


―――炎の束を引きながら凄まじい速度で突進する。
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 00:34:47.69 ID:qnFKtPUo
ベヨネッタ「はぁん、随分ホットな坊やじゃないの」

ベヨネッタが片手を腰に当て、
ウットリとしたような目で150m先から真っ直ぐに突進してくるステイルを眺めながら呟いた。


ステイル『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』


ステイルは手先から長さ3mはあろう業火の刃、『炎剣』を出現させ一気に距離を詰めていく。

そしてベヨネッタとの距離が30mにまで詰まったその時だった。


ステイル『―――』


真上から目の前に突如降り立つ赤いボディスーツを纏った女。


ジャンヌ「待ちな―――」


足を振り上げながら彼の前に立ち塞がる。


ジャンヌ「―――私が相手だ」


そしてジャンヌの横に浮かび上がる直径1m程の魔法陣。

彼女が突進してくるステイルへ蹴りを放つと同時に、
その魔法陣から出現する銀色の繊維で形作られた巨大な『足』。


ジャンヌ「―――Siiiiiha!!!!!!!!!!!」


ウィケッドウィーブ。


ステイルのみぞおちに、銀髪で形成された巨大な足のかかとがめり込む。
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 00:38:42.18 ID:qnFKtPUo
ステイルは愚かにも槍衾に正面から突進してしまった『騎兵』だ。

みぞおちに放たれたジャンヌのウィケッドウィーブの凄まじい一撃。


ステイル『おご―――』


その衝撃と力の津波がステイルの全身に満遍なく伝わる。
纏っていた炎の衣が剥ぎ取られ、肋骨は粉砕され、彼の魂に深い亀裂を刻む。

あまりの破壊力に彼の意識が途切れかける。
そして彼の体は大きく弾かれ吹っ飛ばされた。

剥がれ落ちた炎の衣と血と肉片を撒き散らしながら。


ステイル『―――オアアアアアアア!!!!!!!』

だが何とか意識を保ちながら宙で身を捻り、
腕から生えている炎剣を地面に突き立ててブレーキをかけながら乱暴に着地した。

20m程吹っ飛ばされたが、こうして制動しなかったら広場の外に弾き出されていただろう。

ステイル『―――がァ……ク……ソッ…!!!!』

肩膝を地面につきながらも何とか堪える。

視点が定まらない。

粉砕された肋骨、弾け飛んだ胸の一部をすぐに再生させるも、
魂へ叩き込まれた莫大な『力』が彼の体を蝕む。


ステイル『―――ぐッ……』


ジャンヌ「……」

肩に拳銃をトントンと当てながら、ジャンヌはそんなステイルの顔を眺めていた。


ジャンヌ「(―――こいつもまだガキじゃねえか)」


ジャンヌ「おい、『イノケンティウス(魔女狩りの王)』なんだろ?」


ジャンヌ「さっさと来な。その名に相応しいかどうか試してやる」
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 00:49:39.12 ID:qnFKtPUo
ステイル『―――あぁ?』


『魔女狩りの王』という名を試すだと?

つまりそれは相手が『魔女』だとでも?

ふとそんな疑問がステイルの脳裏を過ぎったが、
そんなモノは蠢く憤怒と闘志によって瞬時に脇に追いやられた。


ステイル『黙れ―――黙れクソアマ―――殺す―――殺してやる―――』


ステイルが両手を大きく振りながら広げた。
長く伸びた炎剣が熱風を発生させ、足元の溶解しているオレンジの沼から飛沫を巻き上がらせる。


ステイル『死ねェエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』


そしてステイルは腰を落とし再び突進した。

その駆けるステイルの足が地面についた瞬間、
直径1m程の炎で出来たルーンの魔法陣が浮かび上がる。

次の瞬間ジャンヌの足元の地面が赤く光った。


ジャンヌ「ハッ―――」


ジャンヌは小さく笑いながら瞬時に真横に跳ねた。
その直後にジャンヌが一瞬前まで立っていた場所の地面から吹き上がる巨大な火柱。


更に再びジャンヌの足元が赤く光る。

先と同じように彼女がすぐに回避し、その直後に吹き上がる火柱。


ジャンヌの後を追い連続して空高く吹き上がる幾本もの火柱。

それはまるで炎の列柱回廊のような光景。
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 00:51:09.14 ID:dkRLKAEo
ステイル噛ませフラグたってるな
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 00:51:51.05 ID:qnFKtPUo
噴き上がる火柱をひらりひらりと軽くかわすジャンヌ。

そんなジャンヌへ向けて火柱を操作しながら一気に距離を詰めていくステイル。


地を這うかのような低い姿勢のままステイルは『列柱回廊』へ飛び込む。

ここは今や彼の『庭』だ。
吹き上がる火柱も、周囲を覆い尽くしている大量の業火も彼の手の中にある。

ステイルは至近距離での高速下の格闘戦に備え、両手の炎剣の長さを1m弱にまで凝縮する。
更に両足の炎で形作られた装具にも力が凝縮され太陽のように輝き出す。


そして激突。


ステイル『―――ハァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!』


ジャンヌ「Ya!!!Ha---Ha!!!!!!!」


双方が壮烈な攻撃を繰り出す。

ステイルは火柱で牽制しながら炎剣を交互に振りぬき、更に連続蹴りを立て続けに放つ。

その猛攻をジャンヌはいとも簡単にかわし、
四肢を鞭のように滑らかにかつ超高速で魔弾を大量に放ちながら振るう。

灼熱の大気が巻き上がり渦を形成する。
その渦に、新たに作られた渦が更に幾重にも重なり、超高温の爆風を周囲に撒き散らす。

互いの攻撃の衝撃波が激突しては重なり、溶解したオレンジの海から高温の飛沫が噴き上げられ一帯に降り注ぐ。


二人の怪物の激突点。


そこはさながら火山が立て続けに噴火するような光景だった。
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 00:54:05.02 ID:qnFKtPUo
ステイル『(ぐ―――!!!!!)』

なんとかジャンヌの猛攻を防ごうとするも、全く追いつかない。

鞭のようにしなやかで柔軟でありながら、破城槌のように重い蹴り。

受けるたびに体が軋み、意識が飛びそうになる。

更に重ねて魔弾が何発も立て続けにステイルの体に食い込み、肉を裂き骨を砕く。
体内で砕けた魔弾から凄まじい量の力が放出され、彼の魂を蝕む。

かわすどころの速度では無い。

受けてから気付く事しかできない。


ステイル『ガァアアアアアアアアアアアアアア!!!』


一方でステイルの攻撃はかすりもしない。

ジャンヌは全てスレスレのところでかわしてく。

余裕を持った表情のまま。


ステイルに否応も無く叩きつけられる現実。

この相手は己よりも遥かに強いという揺ぎ無い事実。


ステイル『(ぐッ……!!!)』


その事実は神裂が殺された時点で証明済みではないか。
神裂を殺したであろうあの黒いボディスーツを着ている女には傷一つ無く、
消耗している感じも無かったのだ。
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 00:55:36.16 ID:qnFKtPUo
そんな神裂を軽々と倒してしまう連中にステイルが勝てるだろうか。

否。

絶望的だ。

相手は二人。

そして片方だけを相手にしている段階でこのザマだ。

確実に歩みよって来る『己の死』という現実。


だが。

だがそれが何だと言うのだ?


今のステイルにとってそんな事など小さな問題、いや問題にすらならない。

彼の心を覆い尽くす憤怒は忍び寄ってくる『死神』など眼中に無い。


ステイル『オァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』


噴出す怒り。


神裂の死と。

インデックスへの危険を誘発させようとしている事への底無しの憤怒。


『許さない』

『殺してやる』


その破滅的な感情が彼の体を動かし続けた。

骨が砕け皮膚が裂け血が噴出そうと尚。
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 00:57:15.70 ID:qnFKtPUo
ステイル『シッ―――』

火柱の間、その向こうにいるジャンヌを一瞥し瞬時に『間合い』と『タイミング』を見極め、
彼女の足元に一際大きな火柱を発生させる。

当然、今まで通り彼女は軽く跳ね避けた。

その瞬間をステイルは見逃さなかった。

ステイル『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――!!!!!』

火柱の背後に隠れながらも一気に踏み込み、左手の炎剣をジャンヌの見事なくびれ目がけて振りぬく。
相手は回避行動を取った直後。

格好の『隙』だ。

その刃のタイミングは完璧だった。

だが完璧だからといって当たる訳では無い。


響く甲高い金属音。
振るわれた煉獄の業火の刃に走る強烈な衝撃。

そしてまるでベクトルが反転したかのように正確に、そして勢い良く弾かれる刃。

削れ飛んだ炎の刃の欠片が散弾の用に周囲に飛び散る。


ステイル『―――』

そしてその一連の現象の後でようやくステイルは目にした。

炎剣を『振るった』時点には、そっぽを向いてステイルの方など見ていなかったジャンヌが。
この僅か一瞬の間にステイルの方へ体を捻って向き、薄く笑いながら左手の銃口を向けていた。

ステイルにはその動作があまりにも速過ぎて全く捉えられなかったのだ。
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 01:01:45.03 ID:qnFKtPUo
ステイル『チッ―――!!!!!!!』

ステイルは弾かれた反動を利用して体を捻り、逆の右手の炎剣を振る。
更に振りつつそのまま体を回転させ、回し蹴りを放つ体勢へと移行する。

ジャンヌ『―――Huum』

だがジャンヌのとった回避行動はあまりにも予想外の物だった。

ジャンヌは身を仰け反らせ、振るわれた炎剣をかわす。
彼女の鼻先を業火の刃が猛烈な速度で突き抜けた。

それと同時に。

彼女は右足を軽く上げ―――。


―――振るわれたステイルの右手に絡ませた。

ステイルの前腕の中ほど辺りをジャンヌの太ももとふくらはぎがしっかりと挟む。


猛烈な速度と怪力で振るわれた右手は易々と彼女を『吊り』、運び上げた。

振りぬかれた右手の慣性に加え、ステイル自身が思いっきり身を捻って回転している。

ステイルの右手に足を絡ませ、
ポールダンスを横に倒したような体勢でぶら下がる彼女の体もその回転方向へ運ばれる。

当然の如く、その直後に放たれたステイルの回し蹴りは彼女の体と入れ違いに空を切り外れた。


ステイル『―――』


次の瞬間、ステイルの目に映ったのは右手に絡まる長い長い足と、
赤いボディスーツに包まれた女性の『下腹部と股』。

ジャンヌが己の右手の上に座っているような。


そのままジャンヌはステイルの右手をポール代わりにして軽々と身を捻り―――。


ジャンヌ「Ha!!!!!!!!!!!」


―――目を丸くしているステイルの顔面へ強烈な左足の膝蹴りを叩き込んだ。
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 01:14:35.70 ID:qnFKtPUo
めきりと湿った不気味な音がステイルの耳に『内側』から聞こえる。

凄まじい衝撃を受け大きく仰け反る上半身。
だがステイルの体が後方に吹っ飛ばされることは『許されなかった』。

右腕に絡みつくジャンヌの右足が彼を強引に繋ぎ止めていからだ。

その拘束の『おかげ』でステイルの左腕を襲う、肩口から千切れ飛んでしまいそうな激痛。


ステイル『ぐ……ガァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』


右手にぶら下がる異物を削ぎ落とそうと、ステイルは咆哮を上げながら左手の炎剣を振ろうとしたが。

次の瞬間、ジャンヌは右足の『拘束』を解き、先程膝蹴りを放った左足を勢い良く伸ばした。

そして再び浮かび上がる魔法陣。


ジャンヌ『HA!!!!!!!!!』


ジャンヌの左足の脛が。
そしてそれと連動する、至近距離に出現したウィケッドウィーブがステイルの胸に食い込む。


ステイル『ガッ―――ハッ―――』


再び叩き込まれた凄まじい攻撃。

成すすべも無くステイルの体は大きく後方へ吹っ飛ばされ、瓦礫に覆われた地面に叩きつけられた。
地面は衝撃で抉れ、そしてステイルが発している業火で瞬時に溶解し、
周囲を瞬時に溶解させ巨大なオレンジ色の沼を形成する。

衝撃波で巻き上げられた火の粉が一帯を吹き抜け、飛び散った溶岩の雫がオレンジ色の雨となって一体に降り注いだ。
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 01:19:41.62 ID:qnFKtPUo
ステイル『―――あが―――』


沼の中からぎこちなくもがきながら『岸』に這い上がるステイル。

意識は朦朧とし、虚ろな瞳は焦点が定まらない。

咳と共に大量の血が口から流れ出しす。
いや、口だけではなく体中から噴出していた。

その流れ出た血液が、体中に纏わりつく粘質性の灼熱の液体と混ざりジューっと音を立てて蒸発する。

這いずるように岸に上がった彼は四つんばいのままぼんやりと顔を上げた。


ステイル『―――』


その視線の先、直ぐ近くの10m程の場所。

薄めで微笑を浮かべている黒いボディスーツの女、その足元、黒い沼のような場所の上に転がっている神裂。
その傍でうずくまっている五和。

周囲は灼熱の嵐であり、一帯の地面が熱せられオレンジ色に光っているにもかかわらず、
その三人の周囲は外界から切り離されたように平穏だった。

溶岩の海に浮かぶ島、小さなオアシスのように。


ステイルが吹っ飛ばされた方向は、奇しく彼が何としても向かおうとしていた場所の方だった。


ステイル『―――神……裂』


ステイルは10m先の神裂の方へ震える右手を伸ばした。


彼女を呼び戻そうとしているかのように。

『友』を引き戻そうとしているかのように。


だがそれを嘲笑うかのように、七天七刀が刺さったままの神裂の体はステイルの見ている中ゆっくりと沼に沈んでいった。


ステイル『待……て―――』


そして神裂を飲み込んだ沼も跡形も無く消え、その場所は瓦礫が散らばる地面の姿に戻った。
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 01:28:29.84 ID:qnFKtPUo
神裂。


ステイル『アァ―――』


インデックス。

神裂。

その二人と共に過した過去の記憶が、今になって鮮明に蘇る。

そんなのに浸っている場合では無いのに。

だが彼はその温もりを拒まなかった。


もう遥か大昔のような感覚。

だが全く色褪せない思い出。


大切な、大切なあの日々の記憶。


今のステイルの全ての原型を形作ったあの温もり。

彼の全ての原動力だった。


ステイル『―――あああ』


その時、ステイルの上に一つの影が落ちた。

それは這い蹲っている彼の頭上に跳躍したジャンヌの影。

―――彼女は身を捻り回転させ、ステイルの後頭部へ足を叩き降ろす。


―――同時に放たれるウィケッドウィーブ。


ステイルの魂を粉砕するべく振り下ろされる―――。


―――最期の一撃。
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 01:42:56.38 ID:qnFKtPUo
だがそのウィケッドウィーブの一撃はステイルまで到達しなかった。


銀髪で形作られた巨大な足のかかとがステイルの後頭部に直撃する瞬間。


ジャンヌ「―――」


ステイルの周りの地面に浮かび上がる魔法陣。


ジャンヌ「(これは―――)」


ジャンヌは一目見てそれが何なのか即座に察知した。


エノク語の魔法陣だ。

彼女達魔女が使用する―――。


―――ウィケッドウィーブの陣。



そしてその魔法陣から吹き上がってくる大量の―――。



『金髪』。


その金色の束が瞬時にステイルとジャンヌの間に伸び、彼女のウィケッドウィーブを受け止めた。


金と銀の光の爆発。

金属同士が激突するような激音が轟き、大気が大きく震えた。
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 01:51:28.88 ID:qnFKtPUo
ジャンヌのウィケッドウィーブを受け止めた金色のカーテン。

その凄まじい衝撃を受けて大きく軋み、ワイヤーが弾け切れるような音を立てて金髪が何本も切断されるが、
カーテンは貫かれること無く耐え切った。

ジャンヌは空中で身を捻ると、ベヨネッタの横5m程の場所に着地した。

その降り立った彼女の顔。


ジャンヌ「―――」

目を丸くして、驚愕の表情を浮かべていた。


ベヨネッタ「うそ―――」

すぐ傍のベヨネッタも同じく驚きの色を隠せないでいた。

ステイルの周りの地面に浮かび上がっている魔法陣から伸びている大量の金髪。


二人の魔女は、目の前で突如起こったこの現象に心の底から驚いていたのである。



ジャンヌがステイルに放った『ウィケッドウィーブ』。

それが別の者の『ウィケッドウィーブ』で防がれたのだ。


ジャンヌのウィケッドウィーブを防ぎきるのも驚きだがそれよりも―――。


この状況が意味していることは―――。



―――三人目の魔女がいるという事だ。


―――生き残っていた者がいたのだ。


ベヨネッタとジャンヌ以外に。
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 02:08:16.21 ID:qnFKtPUo
ステイルは這い蹲ったまま呆然としていた。

ステイルの周囲の地面に浮き上がった複数の魔法陣から天に伸びている大量の『金髪』。

彼の盾となり守るかのように広がってる。

現に、たった今ステイルの命を刈り取ろうとした凄まじい攻撃から彼を守ったのだ。


宝石のような、この美しい金髪が。


ステイル『な―――……?』


何が起こったのか、状況が全く飲み込めない。


己を守ったこの金髪のカーテンは一体―――。


ステイル『―――これは』

ふととある既視感に気付く。


目の前の金髪のカーテン。


宝石のような美しい金髪。


見間違えるものか。


これ程までに美しい金髪を有する人物など二人といない。

間違いない。


この金髪は―――。
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 02:10:57.85 ID:qnFKtPUo
ベヨネッタ「驚いたわね。あれって確か………」

ベヨネッタが500年前の記憶を思い出しながらジャンヌに向かってボソボソと口を開いた。

あの金髪。
この力の匂い。

何となく覚えている。

ベヨネッタはとある理由もあってあまり接した事が無いが、
確かジャンヌは結構親しかったと言う風に記憶してある。


ベヨネッタ「確か主席書記官の……」


ジャンヌ「ああ」


ジャンヌが即答する。


ベヨネッタ「そうよね。あの子よね」



ジャンヌ「―――おい!生きてたのか!」


ジャンヌがその金髪の束に向かって声を張り上げた。

その声を受け金髪の束は大きくうねり、そして柱上に捻り合わさって『人』の形を形成した。


長い髪を垂らした、華奢な若い女性のようなシルエットを。
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/17(木) 02:15:20.76 ID:qnFKtPUo
ステイル『―――』

最早ステイルにとって間違いようが無い。

その形作られた姿。

ステイルの上司でありイギリス清教のトップである―――。



ジャンヌ「―――久しぶりだな!!」



ジャンヌ「―――ローラ!!!!!」




ローラ『お久しゅうございましけるの』


金髪で形成された人形から響く、インチキ古語。

ステイルにとって聞きなれた声だ。



ローラ『お二方様もお元気そうで何よりであるけるの』


そして『人形』はジャンヌとベヨネッタに向けて深々と頭を下げた。



ローラ『ジャンヌ様、セレッサ様』



―――
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 02:17:40.56 ID:qnFKtPUo
今日はここまでせす。
次は金曜か土曜の夜に。
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 02:23:08.65 ID:3kxeKoAO
スタイリッシュ乙!
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 02:38:00.17 ID:Vq3hoxAo
今だかつてローラが戦闘するSSは無かったと記憶するでありけるのよ乙
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 02:56:36.23 ID:zlZb64o0
乙です〜
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 11:27:21.21 ID:ZRZqmWEo
乙ー
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/18(金) 00:34:08.15 ID:LYLHigE0
ローラってアニメでチラッと出てきたあれか
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 00:35:27.19 ID:CVLh2eUo
原作じゃ黒幕的立場だぞ
44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 01:37:41.46 ID:9cj2LPIo
乙!!
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/18(金) 02:26:37.01 ID:46FhDPE0
魔女勢力の介入のさせ方が上手い。設定を壊さない処にぴたっと
入れて来たよね。凄いわ乙!!

(*´ω`)そしておヨネさんらぶ♪
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/18(金) 23:49:14.04 ID:.kQOFIgo
―――

学園都市。

常盤台中学 学生寮。


黒子「おっぉおおおおおおおおおおっっっっっっっ姉さまぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

待ち焦がれた飼い主に跳びかかる『犬』。


御坂「だぁあああらっしゃああああああああ!!!!!!!!!!」


それを電撃で迎撃する『飼い主』。

黒子「ふぎぃいいはぁぁあああ゛あ゛あ゛ん!!!!!!」

黒子は最高に幸せそうな笑みを浮かべたままベッドの上に吹っ飛ばされ、
久々に味わう痺れをかみ締めながら悶絶してのた打ち回った。

御坂「はぁ……相変わらずね…」

御坂は自分のベッドにポフリと軽く腰を降ろし、溜息混じりに呟いた。
呆れたような表情だが、内心は満更でもない。

むしろこうして今まで通り自分を慕ってくれて全身で喜びを表してくれるのはかなり嬉しい。
まあその感情を表に出す事はしないが。


御坂「ふふふ、ま、その様子じゃこっちも変わりないみたいだし、いつも通りで良かったわ」


黒子「そうですの!!!さあさあ!!!!いつも通りお戯れを!!!!この黒子に付き合ってくださいましぃぃぃぃい!!!!!!」

黒子が跳ね起き、再び御坂に跳びかかろうとするが。


御坂「落ち着けってーの」

御坂の前髪から再び電撃が放たれ。

黒子「んぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

あえなく撃墜された。
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 23:52:28.38 ID:z/nW4Ako
今日はこないと思ってたら・・・
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/18(金) 23:54:08.52 ID:.kQOFIgo
黒子「お、お姉さまは少し……よ、容赦無くなって…おりますの……」

御坂の足元に転がっている全身からほのかに煙を立てている黒子が潰れた声を放った。
その顔は相変わらず幸せそうな笑みが浮かんでいたが。


御坂「あっ……ご、ごめん!!大丈夫??!」


御坂が慌てて立ち上がり黒子の傍に屈んだ。

反射的に放った電撃が少し強すぎたようだ。

某事務所にいた間は周りが周りだし、
ろくに電気機器も無かった事もあって特に抑制もしてなかった。

それと同じ調子でついつい黒子にも無抑制の電撃を放ってしまったのだ。


御坂「ごめん……!私ってば……!」


黒子「ふ、ふふ……か、構いませんの……お姉さまがおられなかった間の分を纏めて頂いたと思えば……」


御坂の肩に支えられフラフラと黒子は立ち上がり、そして自分のベッドにドサリと腰を落とした。
黒子を心配そうに見ながら御坂も自分のベッドに腰を降ろした。


黒子「ふひ〜……」


深く息を吐きながら、黒子は御坂の顔を改めて見つめた。
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/18(金) 23:55:36.03 ID:.kQOFIgo
黒子「(……)」

心なしか出発前よりも御坂の目が据わっている気がする。

いつも通りの愛おしい『お姉さま』の顔なのだが、
その表情の下にある芯の部分が更に重く、そして強固になっているような。


黒子「(……お姉さま……ますます強くなられたのですね)」


御坂の精神的成長を感じ黒子は嬉しく思ったが、その一方でこの愛おしい『お姉さま』が更に『遠く』へ、
手の届かない高みへ行きつつあるのを感じ少し寂しくもなった。


『一般人』の黒子と『戦士』の御坂の『壁』。


黒子の住む『日常』と御坂がいる『非日常』の境界。


それが更に分厚く、そして濃くなっていくような。


黒子「(お姉さま……)」


彼女がどこか遠くへ、二度と手が届かない程遠くへ行ってしまうような。
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/18(金) 23:56:57.72 ID:.kQOFIgo
御坂「?ちょ、ちょっと!どうしたのよ黙っちゃって?」

神妙な顔で己をジッと見つめている黒子に御坂は少し戸惑いながら声をかけた。


黒子「い、いえ!!今までの分を取り戻そうとお姉さまの麗しゅうご尊顔を目に焼き付けておりましたの!」


ハッとした様に黒子は無理やり笑顔を浮かべ慌てて返答した。


御坂「ねえ……何かあったの?」


当然御坂にはその黒子の笑顔の下にある動揺などバレバレだ。


黒子「いえ!!何も!!!」


御坂「良いから喋ってみなさい。聞いてあげるから」


黒子「う……」

御坂「ほら、言ってみなさい。大丈夫だから」

御坂が優しく穏やかな表情で立ち上がり、黒子の前に屈み彼女の肩にそっと手をかけた。

あの時と同じ顔だ。
二ヵ月半前、圧倒的恐怖に打ちひしがれた黒子を優しく慰めてくれた顔と。


黒子「(ず、ずるいですのお姉さま……そのお顔は……)」


この顔を見てしまうと全てを曝け出して飛び込んでいきたくなってしまう。
当然御坂はそんな黒子の全てをそっと優しく抱きとめてくれるだろう。


黒子「……ん……む……」
51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/18(金) 23:58:20.89 ID:.kQOFIgo
黒子「お、お姉さま……」

黒子はゆっくりと静かに口を開き、
御坂の目を子犬のような瞳で真っ直ぐと見つめた。


御坂「うん、なぁに?」


黒子「お姉さま……」


黒子は言葉を紡ぐ。

それを言ったところで何かが変わるとは思えない。

この『強いお姉さま』の更に強固になった覚悟が揺らぐとは思えない。


黒子「……『どこ』にも……―――」


でも黒子は言わずにいられなかった。

この御坂の顔を見て、

その御坂の瞳で真っ直ぐ見つめられてしまっては。



黒子「―――行かないで下さいまし」
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:02:43.82 ID:mx74v6Qo
黒子「『どこ』にも……『どこ』にも……行かないで下さいまし……」

昂ぶった感情。黒子の瞳が潤んでいく。

黒子「黒子を……」


黒子「置いていかないで下さいましぃ……」


御坂「―――」

御坂は一瞬ハッとした表情を浮かべたものの、
すぐに戻すと黒子の首と頭に優しく両手を回しそっと胸元へ引き寄せ。


御坂「おいで、ほら」


黒子「ふぁぁぁあぁぁぁあ……」

胸の中で弱弱しく泣き声を上げる黒子の頭を優しく撫でた。

ゆっくりと。

ゆっくりと。


だがその御坂の顔。
顔を埋めている黒子からは見えない表情。

僅かに翳っていた。

哀しそうに。

そして静かに口を開く。

御坂「私は―――」


そうしたいし、出来る限りの努力はするが―――。


その『約束』は―――。


そう告げようとした瞬間、思わぬ妨害が突如割り込んできた。
けたたましく鳴る携帯の着信音が彼女の言葉を遮る。
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:04:46.03 ID:mx74v6Qo
黒子「―――」

黒子には聞きなれた、御坂にとっては少しなつかしい着信音。
机の上に置かれている黒子の携帯が鳴り始めたのだ。

黒子「……」

黒子にとって邪魔でありながらもある意味救いだった。
御坂の答えは聞きたかったが、どんな言葉が返ってくるかは『知っていた』からだ。

御坂「あ……」

黒子「……無粋な!!どこの輩ですの!!?この至福の一時を邪魔するとは!!!」

御坂の体臭を嗅ぐように鼻をスンスンと鳴らす黒子。

黒子は『いつも』の調子で、いつもの『ノリ』であえて自分からこの『空気』を壊す。
彼女は逃げたのだ。

突きつけられる現実から。

御坂「……じゃあさっさと離れなさいよ!!コラ!!!」

御坂もそのいつもの『ノリ』に合わせる。
わかっていながら。

グイッと押し出され御坂と離された黒子はブツブツと言いながら、
己の机の方へ行き鳴り響く携帯をやや乱暴に手に取った。


黒子「全く……一体―――」


その時。ボヤキながら携帯の着信表示を見た瞬間。


―――彼女の表情が凍った。
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:06:21.11 ID:mx74v6Qo
番号はジャッジメント第一七七支部の回線から。

それも非常事態用の。

この回線を使用することができるのは学園都市上層部の命が下った場合のみだ。

記憶に新しい前回の例は『某デパート』で起きた事件であり、
その前の『第23学区の事件』やあの二ヵ月半前の『大事件』の時も使用されたらしい。

つまり悪魔達に関る、もしくは学園都市そのものが危うい状況に陥った場合のみ使用されているのだ。


黒子「……」


嫌な予感がする。
いや、『予感』ではなくこれはもう『確信』だ。

黒子は恐る恐る通話ボタンを押し耳に当てた。


黒子「……白井ですの」


そして告げられる案件。


黒子「は……?」


黒子の表情がどんどん険しくなっていく。



内容は第七学区において高位能力者同士の大規模な戦闘が発生―――。

―――至急現地へ向かい市民の避難誘導をして一体を封鎖せよ との理事会命令が下ったとのことだった。
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:08:37.23 ID:mx74v6Qo
御坂「……ど、どうしたの?」

深刻な表情で話し込んでいる黒子を心配そうに見ながら恐る恐る声をかける御坂。

それに対し黒子はサっと手のひらを向け、待って下さいまし と声を出さずに口だけを動かした。

黒子「(……)」

電話向こうの同僚は『高位能力者同士の戦闘』と言っているが。


黒子「(―――いえ……それは……)」


黒子「(―――違いますの)」


今までの経験から見て、この回線を使うのならばそんな『生易しい事態』では無い。

数ヶ月前に街のど真ん中で第一位と第二位が激しい戦闘を繰り広げたらしいが、
その時でさえこの回線は使用されなかったのだ。


学園都市最強の能力者、230万の頂点二人が殺し合う『程度』では使うはずがない。


黒子「(『コレ』は―――」


もう確実だ。


黒子「(―――『また』ですの!!!!)」
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:09:26.56 ID:mx74v6Qo
黒子は一通り話し終え通話を切ると、キッと御坂の方を睨んだ。

黒子「お姉さま」


そして放たれる鋭い声。

御坂「え!?な、何?!」


黒子「何か、この黒子めに言っておられない事等ございませんか?」

黒子はジッと御坂に目を据えながら何かを確かめるような口調で言葉を続けた。

タイミングが良すぎるのだ。

この御坂達の帰還。
そして起こったこの事態。

関係性を疑わずにはいられない。


御坂「へ!?ちょ、ちょっと何よいきなり!!?」


突然の予想外の問い詰めに御坂は慌てふためきつつも、う〜んと何かないかと頭を悩ませた。


そして。


御坂「ああ―――!!!」
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:12:14.53 ID:mx74v6Qo
御坂「―――そうそう!!!これよこれ!!!!!」

御坂がバッと立ち上がり、飛び込むように自分の荷物の置いてある方へ向かい。

黒子「……!?」

長さ一メートル半程の長い棒状の包みを持ち上げ。


御坂「じゃぁああああああああああああん!!!!!!!!!」


包んでいた布を勢い良く剥ぎ取った。


姿を現したのは。


黒子「……………何ですのそれは?」


金属の箱と長めの太い棒を繋げたような黒い重そうな塊。
黒子の目には得体の知れないガラクタとして映った。


御坂「私の武器♪」


御坂「ダンテが作ってくれたの!!どう!!?」



御坂「―――『可愛い』でしょ!!!?ね?!ね!!?」



黒子「………はぃぃぃぃぃぃぃい?」
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:14:03.60 ID:mx74v6Qo
御坂「でね!!でね!!!」

黒子の冷めた視線をものともせず、
御坂は嬉しそうに脇に置かれているバッグに手を突っ込みジャラジャラと漁り。

御坂「これが弾!!!高かったのよ〜でもたくさん買っちゃった!!!」

長さ15cm近くはあろう、弾頭に奇妙な紋様が刻印されている巨大な銃弾を取り出した。



黒子は溜息をつき呆れながら、御坂に背を向けて己の机の方へ向いた。

御坂「あ、あれぃ?くーろこ〜?……って…」


黒子「お姉さま、わたくしは急いでおりますので……って」

黒子「ふふ、やっぱりお姉さまはお姉さまですの。変わってませんの」

黒子は小さく笑いながら机から小さな釘を取り出し、
太もものベルトに手早く差していく。


御坂「何?事件?」


黒子「まあそんなところですの」


御坂「……私も行こうか?」

御坂が脇に大砲を立ててその銃口をトントンと指で小さく叩いた。


黒子「いえいえ、それほど『大事』ではありませんの。お姉さまはここにいて下さいまし」


黒子はニコリと笑い、では と一拍おいた後にテレポートしてその場を離れていった。
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:15:53.98 ID:mx74v6Qo
御坂「……『大事』では無い……ね」

部屋に一人残った御坂は、ついさっきまで黒子が立っていた空間をぼんやりと眺めながら小さく呟いた。

御坂「全く……嘘が下手なんだからあの子は」

御坂はクルリと踵を返し、己の荷物の方に屈みバッグを漁り始めた。

御坂「……あった…と」

そして目当ての物を見つけた。
それはイヤホン型の通信機。
ミサカネットワークに接続する為の機器だ。

御坂は手早くそれを耳に取り付け起動する。

あれ程の情報網を持つ妹達なら何か嗅ぎ付けているだろうと踏んだのだ。


だが。

御坂「?」

いつもなら接続した途端すぐに大勢の声が飛び込んでくるはずなのだが、この時は違っていた。

妙なザラついたノイズだけ。

視覚で例えるならば、黒い砂嵐のような。
それは暗号化されているらしき『何か』の通信のようだ。

だがそれ以上の事はわからなかった。
解析しようにも、
元々この機器は御坂側から情報を引き抜けないように改造されている為それは不可能なのだ。

そして妹達の声は一つも聞こえてこない。


御坂「(……何よこれ……!?)」


何かただならぬ事態が起こっているような。

御坂の顔色が変わる。
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:19:50.35 ID:mx74v6Qo
御坂「ねぇ!!誰かいないの!?」

御坂側からはこのノイズをどうすることも出来ない為、彼女はとりあえず呼びかけてみた。

するとノイズの中から途切れ途切れで聞こえてくる。

『お…………姉さ……いら……来ま…………少々お待……』

妹達の一人のものであろう声。

御坂「ちょっと!!!何これ!!?何が起きてるの!!!?」

『上位……より許可……18990号並列演算ネ……ークから切断。臨時回線確立完了』


18990号『お姉様』


業務的な言葉の後、その一人の妹の声がはっきりと聞こえるようになった。
後ろでは相変わらず『黒い砂嵐』が猛威を振るっていたが。

御坂「ちょ……(演算?)」

18990号『全てを説明している暇はありません。手短にお願いします。ミサカもすぐに「戻らなくては」なりませんので』

御坂「こ、コレは何?!」


18990号『アクセラレータの演算補助を行っています』

御坂「補……助!!」

そういえば以前聞いたことがある。
二ヵ月半前の事件の後、病院で打ち止めから聞かされた。

脳の一部を失った一方通行の演算をミサカネットワークが代理で行っていると。

つまり、今一方通行がどこかで能力を行使しているのだ。


御坂「!!!!!!!」

御坂も当然知っている。
あの少年の手元にインデックスがいる事を。
ついさっきトリッシュと上条も、御坂をここに送った後にそちらに向かって行ったでは無いか。

何も無ければ今頃合流しているはずなのだ。


何も無ければ―――だが。
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:24:56.90 ID:mx74v6Qo
御坂「何が起こってるの?!!!」


18990号『…………意思確認。集計中。全個体賛成。上位個体から情報開示許可』



18990号『何者かに襲撃され、現在アクセラレータが全力で交戦中です』

御坂「!!!」

黒子もこの件で呼び出されたのだろう。
恐らく関係があるに違いない。


御坂「場所は!!!?」


18990号『第七学区です。詳細な位置は向かいながら誘導を』


御坂「お願い!!!」


御坂は手早く大砲に弾を装填し、残りの弾が入ってるバッグを乱暴に肩に掛け、
能力を使って一気に窓を突き破り外に飛び出した。

ガラスが割れる盛大な音で当然寮監にも気付かれるだろうが、
そんな事を心配している場合では無い。


御坂は道路に着地すると、そのまま能力を行使して夜の街を高速で駆けて行く。

ビルの上に跳躍し、屋上から屋上へ跳ね直線の最短距離で第七学区へ向かう。

御坂「―――」

その視線の先。

どうやら誘導の必要はほとんど無いかもしれない。


遥か遠くで立ち昇っている、
燃え盛る炎か何かで照らされている巨大な黒煙が御坂の目に入ったからだ。
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:27:22.78 ID:mx74v6Qo
恩人であり妹の保護者役でもある一方通行。

御坂の事を一番理解してくれているかけがえの無い後輩の黒子。

大事な想い人の『宝物』であるインデックス。


そして―――。


―――上条当麻。


今の御坂にとって絶対に失う訳にはいかない者達が恐らく勢ぞろいしている。


御坂「はぁ……!!!はぁ―――!!!」


今の自分に何ができるかわからない。
レベル5でありそしてこの強大な武器を手に入れたが、それでもそんな彼女より強い者達はゴロゴロいる。

最悪、自分はただの足手まといにしかならないかもしれない。

だが行くしかない。

こんな事態が起きていながら黙っていられるはずが無い。

彼女は行くしかないのだ。


その先で何が待っていようと。

結末がどうなろうと。


―――
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:28:55.91 ID:mx74v6Qo
―――


学園都市第七学区。

とあるビルの屋上。


バージルへ突進して行くトリッシュの両手に握られている拳銃。

魔人化によって彼女の体と半ば同化しているルーチェ&オンブラから、
金色の電撃で形作られた長さ1m程の刃が伸びる。


トリッシュ『―――Ha!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


そして一気に距離を詰め体を回転させるように左手、右手と続けて水平に振りぬいた。

左手はバージルの喉元、右手は腹部へと。

手加減無用の本気の刃を。


それと同時にバージルの体から青い光が溢れる。


そして周囲に放たれる凄まじい光の衝撃波。
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:30:55.12 ID:mx74v6Qo
空間が、人間界そのものがその巨大な『異物』で歪み軋む。


バージルは魔人化した。


彼がどれ程本気なのか。

それは誰の目にも明らかだった。


これは脅しでは無い。


ブラフではない。


彼は誰だろう。


例え上条だろうと。


例え弟の相棒だろうと。




そして今ここで向かってくるのがダンテであったとしても―――。




―――『障害』と見たのなら容赦なく刃を振るう。



―――彼にもそれをするに足る絶対の『理由』があるのだから。
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:36:23.25 ID:mx74v6Qo
バージルは向かってくるトリッシュへ閻魔刀の柄を上に向け縦方向に抜刀した。


トリッシュの金色の二連撃がバージルの青い刃にぶち当たり弾かれる。


余りにも凄まじい激突に一瞬音が消失した。

あぶれた剣圧の余波が屋上の上に何本もの鋭い筋を刻み、
二人を中心としてケーキカットしたかのようにパックリと寸断される。

破片一つ生じない、恐ろしい程に鋭利な切れ筋。


トリッシュ『―――』


弾かれ防がれた。

だがそんなのは予想済み。
簡単に傷を負わせられる相手ではない事は重々承知。

トリッシュは鷲のような鉤爪がある足を引き、即座にバージルの顔面目がけて振り抜―――。


―――こうとした時だった。


トリッシュ『―――ゴフッ』


蹴りを放とうと腰を捻った瞬間、胸部に走る激痛と共に口から血が噴出す。

ふと気付くと、己の胸元が縦一閃にパックリ割れていた。


トリッシュ『―――』


先のバージルの抜刀。

アレはトリッシュの攻撃を防ぐ為の物では無かったのだ。

バージルの『攻撃』にトリッシュの刃が巻き込まれ、結果として弾かれた『だけ』だったのだ。

初っ端、一合目から見せ付けられる実力の差―――。
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:39:19.07 ID:mx74v6Qo
だがトリッシュは怯まない。

トリッシュ『―――Haaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!』

激痛も吹き出す血も無視してそのまま蹴りを放つ。

金色の電撃を纏った、強烈かつ有に音速の数十倍もの速度を誇る蹴り。

だがそれ程の速度をもってしてもバージルには『遅かった』。

その蹴りが放たれバージルの顔面に向かう僅かな時間の間でさえ、
彼にとって上へ振り抜いた閻魔刀を返して叩き下ろすには充分すぎる程だった。


トリッシュ『―――』


閻魔刀がトリッシュに向けて縦一閃に振り下ろされる。

だがこのまま一刀両断されるほどトリッシュもヤワではない。
彼女は先程真上へ弾かれた両腕の刃を即座に引き戻し、頭上に斜めに掲げていなす体勢に持ち込む。

ただ、それだけでは防ぐのは不可能。
トリッシュの刃が振り下ろされた閻魔刀に耐えられるのは恐らく一瞬。

いなしきるよりも前に閻魔刀は彼女の刃をへし折るだろう。

それに蹴りを放っている最中な為、即座に跳躍して体を逸らすのも不可能。


そこで瞬時に判断した彼女が取った行動。

それは刃の下にあるルーチェ&オンブラの引き金を引くこと。

閻魔刀が金の刃に直撃する瞬間、刃の下の拳銃が火を噴いた。

トリッシュ『―――』


回避が間に合うかどうか。


放たれたルーチェ&オンブラの反動が彼女の体を斜め後方へと運ぶ。

同時に閻魔刀を斜めに受け流す刃の表面がみるみる削り取られていく。


そして遂に先端が切断され閻魔刀が縦一閃に振り下ろされた。
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:42:21.12 ID:mx74v6Qo
その青い刃は、斜め後方へ下がるトリッシュの僅か数センチの所を掠った。

幸いな事に直撃は免れたものの、彼女が纏っている金の光の衣が余波に巻き込まれゾリッと剥ぎ取られていく。
そして彼女の皮膚を覆っている金の羽もいくつかが毟り取られていく。

トリッシュ『くはッ―――』

魂の表面が削られていくのを感じ、顔を小さく歪ませながら後方に跳ぶトリッシュ。
先の胸の傷も叩き込まれたバージルの力のせいなのか塞がらない。

そんなトリッシュの目に腰を落として閻魔刀を低く構えているバージルが映る。

あの構えは―――。


トリッシュ『(―――あれは)』


トリッシュは次に何が来るか即座に察知し、翼を引き寄せて体の前に盾を作る。
更に己の力を集中させて金の電撃でその翼をコーティングする。

だが。


トリッシュ『―――』


その時トリッシュは気付いた。

バージルの目は己を見ていなかった事に。


彼の視線はトリッシュの斜め後方―――。


―――二人が戦っている隙に突破しようと地面を蹴った直後の上条。


トリッシュ『(―――マズイ)』
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:45:25.71 ID:mx74v6Qo
次の瞬間、トリッシュの目でさえおぼろげにしか見えない程の速度でバージルが刀を横一閃に振り抜く。

一切の躊躇いも手加減もなく。


同時に周囲の空間に走る青い光の筋。


魔人化したバージルから放たれる―――。


―――『次元斬り』。


上条程度では到底耐えられない、確実に『即死』する攻撃―――。

トリッシュは瞬時に防御体勢を解き翼を伸ばすと、
先程コーティングに使っていた電撃を一気に上条へ向けて放った。


上条『―――へ?―――ンゴォオァアア!!!!!!!!!』


トリッシュの電撃が跳躍したばかりの宙を舞う上条の体の側面にぶち当たる。
衝撃で上条の体が弾かれ、その直後に彼の体がさっきまであった空間を次元斬りの凶悪すぎる刃が切断した。

上条はそのまま弾き飛ばされビルの下に落ちていった。


上条が真っ二つになるのはなんとか回避できたが。


トリッシュ『―――』


彼女は察知した。


バージルが即座に閻魔刀を返し、もう一発次元斬りを放っていたのを。

トリッシュに向けて。

咄嗟に防御を解いて上条を救うのを優先したトリッシュにそれを防ぐ術は無かった。



彼女の腹部を切り裂く青い光の筋―――。
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/19(土) 00:46:54.79 ID:RrjyU0ko
あああ
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:52:13.96 ID:mx74v6Qo
街頭に照らされた第七学区の街並み。

至る所に備え付けられているスピーカーからであろう、避難を勧告する放送が方々から響いている。
そのおかげか辺りには人影は一つも無かった。

そんな無人の街に振ってくる上条。

上条『ッッツ……!!』

弾き飛ばされ良く知る痺れに顔を歪ませながらも、上条は空中で体勢を立て直し、
道路の中央に乱暴に着地した。

衝撃で上条の足がめり込み、アスファルトが砕け散る。

上条『ぐ……!!!』

一瞬何が起こったのかわからなかったが、この痛みから何となく状況を把握する。

トリッシュがバージルと激突し光が溢れた瞬間、上条は一気に突破しようと地面を蹴った。
その直後に目の前が青く光り、同時にトリッシュの電撃で弾き出されたのだ。

上条『クソ……!』

トリッシュが上条に電撃を放った理由も容易に想像がつく。
あの青い光はバージルの攻撃だったのだ。

トリッシュの助けが無かったら今頃―――。


その時だった。


上条『―――』


立ち上がり移動しようと顔を上げた瞬間目に入る―――。


いつのまにか正面10m程の場所に立っているバージルの姿。
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 00:55:37.12 ID:mx74v6Qo
上条『―――』


トリッシュは―――?


だが彼女がどうなったのだろうかと考えてる暇も、
彼女がいるであろう背後のビルを見上げている暇もあるわけが無い。

目の前に不気味に煌く抜き身の閻魔刀を持っているバージル。

二人の間のには何も無い。

圧倒的な殺意の障害は。


上条『(ク……ソ―――)』


ゾクリと全身の毛穴が開き、体が小さく震え始める。

怖くないわけが無い。

このまま戦えばどうなるかも知っている。

だが上条が選ぶ道はたった一つ。

どんなに大きな障害が立ち塞がろうと彼は逃げない。


上条はギリッと歯軋りし、小刻みに震える拳を握り固め―――。


上条『来やがれってんだよォオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』


咆哮を上げた。
それは恐怖で強張る己の体に喝を入れる雄叫び。

己を奮い立たせる声。

その雄叫びが響く中、バージルは上条の方へ向けて軽くタンッと地面を蹴った。

軽く。

それでいて上条の目には追えない程の速度で。
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 01:04:33.08 ID:mx74v6Qo
上条『―――』

反応すらできずに目を丸くしている上条の首に向かう青い刃。
凶悪すぎる程の破壊力をもった一撃。

慈悲も躊躇いも手加減も無い刃。


上条の評価に値する『覚悟』にバージルは手加減をしなかった。

それがバージルなりの最も礼儀正しい『覚悟』への接し方。


バージルがどういう者なのか。

彼の存在を、彼の考え方を、
そして彼は誰よりも厳格な生粋の戦士であるという事を明確に証明する一太刀。


上条の命を50人分刈り取ってもお釣りが来るレベルの。

彼を確実に殺す為の一閃―――。


上条『―――』


―――とその時だった。

刃が彼の喉を切り裂く直前。

上条の体が、真上から降りてきた金色の光の塊に踏み潰された。


上条『―――ごぁ』


強烈な衝撃を受けてうつ伏せに突っ伏し、アスファルトを砕いて地面にめり込む。

それとほぼ同時に頭上を切り裂いていくバージルの閻魔刀―――。


その刃が奏でた音は空を切ったものではなく―――。


―――固い何かが切断されるようなものだった。
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 01:07:41.35 ID:mx74v6Qo
一瞬の静寂。

上条『―――は?』

そして地面に突っ伏す上条の目の前に金色に輝く何かが二つほど。

ドサリと振ってきた。

続けて雨のように降り注いでくる赤い液体。


上条『―――』

落ちてきた物。

それは中ほどから切断されている翼と―――。


―――拳銃が同化している右手の肘から先。


それはトリッシュの―――。


上条『―――トリッシュ!!!アアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!』



上条は起き上がろうとするものの、
背中を押さえつけているであろうトリッシュによってビクともしない。

絶え間なく目の前に落ちてくる血液が地面に辺り、上条の顔に跳ねて来る。


上条は首を思いっきり捻り上を見上げた。

視野の端にギリギリ入るトリッシュの姿―――。
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 01:09:53.26 ID:mx74v6Qo
上条を真上から押さえつけ、身代わりとなって閻魔刀を受けたトリッシュ。

盾代わりにした翼の一枚、そしてその後ろにかざした右手は切断されていた。

そして大量の血が流れ出ている胴体。

先程のと今の二撃で刻まれた、胸から腹にかけての十字の深い切れ込み。


上条『あ……あぁあ……』


トリッシュ『―――落ち……ゴフッ…着きな……さい』


血を吐き出しながらもニコリと綻ぶ、仮面の下のトリッシュの口。


トリッシュ『ごめ……んなさいね。20秒は―――』


トリッシュ『―――無理……だったみたい』


血を吐きながらも優しく穏やかな笑み。
殺し合いの最中とは到底思えない表情。


まるで親しい友と談話しているような―――。
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 01:12:31.78 ID:mx74v6Qo
上条『―――トr』


上条が彼女の名前を呼ぼうとした瞬間。


トリッシュ『方向が……違うけど―――』


彼の背中に食い込むトリッシュの足先の鉤爪―――。


トリッシュ『―――頑張って ね』


そして彼女はニコリと一際明るい笑みを上条に向けたまま、
足を真後ろへ向けて大きく蹴り上げた。


爪に引っかかっていた上条の体が猛烈な勢いで遥か後方へ分投げられる。


明後日の方向へと。


とにかく上条をこの場から、バージルから遠ざける為に。



上条『―――ッシュ―――』
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/19(土) 01:14:52.08 ID:mx74v6Qo
宙を突き進む上条の目に映る、どんどん遠ざかっていくトリッシュ。
上条の方を一瞥もせずに残った左手を振り上げバージルへ突進していく彼女の後姿。

そのトリッシュへゆらりと向かうバージル。

そして激突し溢れる金と青の光。

二人の『戦士』の姿はその中に消えた。



上条『―――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛トリィィィィィィィィィッシュ!!!!!!!!!』


悲痛な声で恩人であり友である彼女の名を叫びながら。

遠ざかっていく光の嵐を見つめながら。

上条は明後日の方向へ吹っ飛ばされていった。

その上条の目に映る光の嵐はすぐに収まる。
彼の目に映る最後の光。


それはまるで目に見える『景色』そのものを垂直に一刀両断でもするかのような―――。


―――天高く伸びる青い光の筋。


そして。

金の光が途絶える。


残ったのは―――。


上条『―――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!!!!』


―――『青』のみ。


それだけだった。


―――
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/19(土) 01:15:32.45 ID:RrjyU0ko
うああああ!!!
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/19(土) 01:15:50.29 ID:mx74v6Qo
今日はここまでです。
次は月曜か火曜の夜中に。
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/19(土) 01:18:37.05 ID:/HZ1nqwo

またうまい引きだなぁ
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/19(土) 01:24:04.42 ID:RrjyU0ko
おつです!
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/19(土) 01:37:45.68 ID:vGnETXg0
(´;ω;`)トリ姐さぁぁぁぁぁん!!!???
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/19(土) 01:38:14.94 ID:Nid5fMYo
ダンテーーーーッ!!
83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/19(土) 01:50:45.25 ID:V7.9Lo.o
くうう、楽しみだぜ!
84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 01:16:16.31 ID:ECtX2Qwo
いかんハラハラが止まらないっす乙
85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 11:30:03.69 ID:uj1zU2DO
昨日DMC3のプレイ動画見終わったがダンテとバージル超かっけぇ……
これは禁書勢ボロ負けでも文句言えないわ
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/21(月) 01:08:01.55 ID:xeE6PXU0
ダンテェーィ!!
誰かダンテェーィを呼べーー!
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/21(月) 23:28:55.82 ID:6BUJK4co
―――

遡ること二分前。

上条とトリッシュの前にバージルが立ち塞がる直前。



一方通行が抱きかかえるインデックスの顔の上に浮かび上がった魔法陣。

そこから放たれる『竜王の殺息』。

僅か50cm先の一方通行の顔面へ。


一方『―――』


何よりも速く反応した一方通行の防衛本能が瞬時に黒い杭を引き寄せ、
その光の柱と彼の顔の間に展開した。

ほぼ同時だった。

滑り込むように割り込んできた黒い杭の先端にインデックスの『竜王の殺息』が衝突した。

凄まじい轟音を響かせながら、壁にぶち当たる放水の雫のように光の粒が周囲に飛び散る。
それに混じり、削り取られた一方通行の黒い杭の破片も飛び散る。

撒き散らされた白と黒の散弾が、二人の周囲の地面に降り注ぎクラスター爆弾のように一帯を耕していく。


一方『―――オオオオオオオオオオ!!!!!!!』


凄まじい圧力。

鎮圧用放水によって押し退けられていくように、一方通行の体が杭ごと徐々に仰け反っていく。
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 23:29:31.77 ID:RBFZYMAo
jackpot!
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/21(月) 23:30:41.73 ID:6BUJK4co
一方『(こいつァ……!!!!)』


この光の柱は莫大なエネルギーを持った小さな粒子の集合体のようだ。
しかもその粒子一つ一つが微妙に性質が違う。

粒子一つ一つ解析して反射するなんて到底不可能。
一方通行の頭脳を持ってしても演算が追いつかない。

それ以前に粒子の集合体という特性が無くとも、
単純に力の総量そのものに演算が追いつかないかもしれない。


そもそも例え反射できたとしても―――。


―――これ程の攻撃をインデックスに返すなど持っての他。



―――戦いの基本である攻撃元を潰すという戦法など取れる訳が無い。



一方通行の本能が咄嗟に取った、『力には力を』という選択は正しかった。

というかそれしか選択肢は無かったのだ。


こうして耐えるしか―――。
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 23:32:03.52 ID:RBFZYMAo
やっぱインデックスさんすごかったんやな
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/21(月) 23:34:04.17 ID:6BUJK4co
一方『クソ―――』


ここからどうすれば良いのか。

一方通行の頭には何も解決法は浮かんでこなかった。
彼の頭脳を持ってしても、この場を打開する妙策など見出せなかった。


一方『ぐ―――ォオオオアアアアア!!!!!!!』


この光の濁流の中、彼は懸命に耐えながらインデックスの服をただ握り締めていた。
彼にはそれしかできなかった。


何が何でも手放すものかと。


だがそんな一方通行の努力を嘲笑うかのように、
『竜王の殺息』は更に激しさを増しながら彼を引き剥がそうとする。

徐々に一方通行の体からインデックスが離れていき―――。


彼女の背に回していた左手が―――。


一方『―――』


―――勢い良く弾かれ離れる。
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/21(月) 23:38:49.59 ID:6BUJK4co
そして残った、インデックスの修道服の腰辺りを固く握り締めている右手―――。


修道服の柔らかい生地が破けてしまいそうな程に強く握り締めている拳。

爪が己の手の平に鋭く食い込んでいる拳。


固く握りこまれている白い布にジワリと血が滲む。


今、一方通行が己の全てをかけているその右手。


爪が剥げようと。


肉が抉れようと決して手放すまいと―――。



だがその『心』はインデックスを乗っ取っている『システム』にあっけなく『拒絶』される。


突如インデックスの顔の前に浮かび上がっている魔法陣が更に巨大化し。



インデックス『「神よ、我が身を守りたまへ。神よ、我が身を縛す穢れし手を滅したまへ」』




そして発せられる機械的な無感情の声。


次の瞬間、彼女の全身そのものが白く輝き―――。


―――彼女の全身から『竜王の殺息』が放たれた。
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 23:39:43.50 ID:qgfwYQMo
上条さーん! はやくきてくれーっ!
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/21(月) 23:41:39.20 ID:6BUJK4co
一方通行の顔だけを狙っていた点攻撃が、彼の全身を対象とした面攻撃に切り替わる。
同じ密度と破壊力を保ったまま。

一方通行の本能は瞬時に彼の全身を黒い杭で覆った。


インデックスを掴んでいる『右手』を省いて。


一方『―――待―――』


一方通行の右手の肘から先が『竜王の殺息』に晒され消失する。


彼とインデックスを繋ぎ止めていた最後の鎖が。



一方『―――ク―――ソ―――』



黒い杭に守られながらも一方通行は凄まじい勢いで吹っ飛ばされた。
極太の光の柱は彼を瓦礫の山へと叩き込み、更に深く深くへと押し込んでいく。


その時を待っていたかのように、離れた場所で佇んでいたフィアンマが動く。

彼の背中の巨大な腕が大きく揺らめき太陽のように輝き始め、
放出された光が柱上に集り天高く延びて200mはあろう巨大な光の『矛』を形成した。


そして。


フィアンマ「―――それなりに楽しかったよ」


その『矛』が一方通行が叩き込まれた瓦礫の山へ放たれる。


今度は一切の手加減無く。
95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/21(月) 23:47:36.80 ID:6BUJK4co
一瞬にして吹き飛ぶ瓦礫の山。

フィアンマの背中から生えている巨大な腕が邪魔だと言わんばかりに大きく揺れ、
その舞い上がる瓦礫とチリの雲を衝撃波で吹き飛ばした。


そして一気に晴れ渡った靄の間から姿を現す、
インデックスの『大砲』とフィアンマの『矛』の二重攻撃で形成された直径30m程の大穴。

深さは200m以上あるだろうか、地面に立っているフィアンマからは当然底が見えない。

だが。

フィアンマ「(……結構しぶといな。まだ生きてるか)」


フィアンマは大地に穿たれた大穴を見ながら頭の中で呟いた。


その穴の中からあの黒い杭が大気を振るわせる音が響いてくる。
あの少年は死んでいるどころか、
まだ力を使う分だけの体力も残っているようだ。


とはいえ、満身創痍で最早フィアンマにとって脅威でも何でもないのは確かだろうが。


フィアンマ「来い」


そのフィアンマの声に反応し、インデックスは修道服をなびかせながらふわりと浮き上がり、
滑るように宙を移動して彼の方へ向かった。
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/21(月) 23:50:33.37 ID:6BUJK4co
フィアンマ「なるほど」


フィアンマはそのインデックスと、
手に持っている遠隔制御霊装を交互に見ながら小さく一言。


フィアンマ「(……使えるな)」


『魔導図書館』としてだけではなく、戦力の一つとしても充分利用価値があるようだ。
少なくともかつての同僚テッラやヴェントよりも『兵』として使える。


フィアンマ「(……だが……)」


しかし『この程度』の為にわざわざこうして彼女を迎えに来たわけでは無い。


当初の計画では、インデックスを手元に置こうとは思っていなかったのだ。

彼が彼女を直に手に入れようと思ったのは、
遠隔制御霊装を調整している最中に偶然見つけたとあるモノ、

インデックスの奥深くに厳重に封印されて隠されていた『何か』に興味を惹かれたからだ。

それは魔導書や秘術の類では無く、もっと巨大な『怪物』だ。

どうしてこんな所に、どんな経緯でインデックスがこんなものを所有しているのかはわからないが、
眠っているその『怪物』の正体は大方予想がついている。


上手くその力を引き出して制御下に置くことができたら、
戦力の一つとしてどころか、切り札としもて利用できるかもしれないのだ。


そして今、その力の一部をついでに見てみたかったのだが。
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/21(月) 23:53:36.54 ID:6BUJK4co
インデックスの中にあるその『怪物』は、
周囲の術式の構造から見る限り『守る為の封印』で固められている。

『脅威』から『守る』為に厳重に仕舞い込む『封印』。
そのタイプの封印は、『破壊』されそうになった場合は更に強力な防衛行動を取る。

封印している『モノ』が強力な武器となる場合は、最後の手段として使う事もある。

フィアンマはそこを計算して、あえて強敵をぶつけて彼女の中に眠る『怪物』を起こそうとしたのだが。


フィアンマ「(やはりこの『程度』の相手では無理か)」


どうやら今の一方通行『程度』では起こせなかったらしい。
インデックスの中にあるシステムは既存の魔術で充分と判断したのだろう。

逆に言えば、
その『程度』では全く刺激にならない程に強大な『怪物』だという好ましい証拠でもあるが。


フィアンマ「(まあいい。他にも方法はある。後にし―――)」


その時だった。

一方通行に止めを刺しさっさと離脱しようと数歩進んだ瞬間。


フィアンマ「―――」


この学園都市を覆う
大気の質が豹変した。
今まで彼が体感したことも目にしたこも無い異質な、そして押し潰されそうな凄まじい密度の空気。

フィアンマは目を見開き、半ば反射的にその異質な力が放たれてくる方向に目を向けた。


そして彼の目に映る。
1km程離れたところだろうか。


とあるビルの屋上で瞬く二つの―――。


―――青と金の光。
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/21(月) 23:56:16.82 ID:6BUJK4co
フィアンマの顔からは、先までの余裕の篭った薄ら笑いが消えていた。

金の光、その発信元の者は恐らく大悪魔、それもかなり高位に位置する存在のようだ。
『今』のフィアンマでは到底敵わない領域の。

だがそれ以上に。


その金の者が対峙している『青』。


何もかもが規格外の『青』。


フィアンマにとって格上の存在である『金』ですら霞んでしまう程の正真正銘の『化物』だ。


フィアンマ「…………すごい……な」


その圧倒的な力を感じ、彼は半ば呆然としてポツリと呟いた。


その発信元が何者なのかは一目瞭然。

これ程の力を発するのはスパーダの一族ぐらいしかいない。


フィアンマ「……なるほど……確かにこれは―――」


アリウスからは聞いていたものの、そして彼自身も頭ではわかってはいたが、
やはり本物を直で体感すると違う。


フィアンマ「―――『格』が違うな」
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/21(月) 23:59:14.49 ID:6BUJK4co
フィアンマはその『神』クラスの者と、神の領域すら遥かに凌駕している『化物』が発する光を見つめていた。
『化物』の発する力で人間界が大きく歪んでいくのを感じながら。


フィアンマ「…………」

こんな近くでスパーダの一族が力を解放して高位の大悪魔と戦っているのか?

なぜだ?

己の行動と何か関係があるのだろうか?

フィアンマ「…………」

少しその場で思索に耽ったが、あの二体に関する情報が少なすぎて明確な答えが出てこない。
そしてフィアンマ自身側では思い当たる節が多すぎて整理ができない。

だがこれだけは言えるだろう。

あそこにいるスパーダの一族の一人は、フィアンマには敵意を向けていないようだ。

フィアンマにはスパーダの一族に狙われそうな理由が腐るほどあるが、
もしそれでこの場まで追って来たのならば即座に殺しに来ているはずだ。

今こうしてフィアンマが生きているという現実が、
あの『化物』が彼に対して現時点では殺意を向けていない証拠と成り得る。


この場に居合わせたのはただの偶然でフィアンマなど元々眼中に無いのか、
それ以前に彼の目的・彼の存在に気付いていないのか。


甚だ疑問であり、またこの『答え』を放置しておくには危険すぎる。


だがその答えを求めようとあんな化物同士の戦いの中へ飛び込んでいく程バカでは無い。
そんな自殺行為など誰がやるか。

答えを得るにはあまりにもリスクが大きすぎる。



フィアンマ「(……とにかく……今はさっさと離脱した方が良いな)」
100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:02:25.57 ID:1thAXrIo
フィアンマ「(さっさとあの小僧を殺して帰るか)」

ちらりと隣にいるインデックスに目をやり、彼は心の中で呟いた。
そう、目的の物も手に入れた今、こんな場所に長居している必要は無い。

殺し合っている『猛獣』の近くにいるのは危険すぎる。
何が起こるかわからない。

あのイレギュラー因子が突如こちらにも牙を剥くかも知れない。


フィアンマ「(全く……困ったものだな)」

初っ端からこうも不測の事態続きだとさすがのフィアンマでも先が思いやられてしまう。

ヴァチカンの争乱、そしてこの突然のスパーダの一族の出現―――。


フィアンマ「(―――待て―――)」

その時。

この僅か30分程度の間に立て続けに起こった『異常』な事態を、
頭の中で並べた瞬間だった。

彼の優れた頭脳がその違和感と妙な関連性を発見し。

そしてパズルのように組み上げていく。


フィアンマ「(―――)」


魔女のヴァチカン襲撃。

そこから誘発される戦争。

この場に現れたスパーダの一族。


そして以前から接触していたという―――。


―――魔女達とバージル。


フィアンマ「(まさか―――)」
101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:05:19.05 ID:1thAXrIo
ぞわりと全身を冷たい波が這い上がって来る。
彼はやっと気付いた。
いや、彼だからこそこれ程早くに気付けたのかもしれない。


己を見ている巨大な『目』に。

己の体に纏わりついてくる、操る為の『糸』に。


フィアンマ「この俺様が―――」


フィアンマ「―――誘導されているだと?」



―――とその時。


思索に夢中になっていた彼の背中へ向かって弾丸のように突き進む『影』。
驚愕の事実に行き当たり放心していたフィアンマは僅かに反応が遅れ。

その一瞬が命取りとなる。

フィアンマ「―――」

彼が背後に迫ってくる『影』に気付き振り向いた時には遅かった。

振り返ったフィアンマの目に映ったのは。


『黒い影』で形成された『右腕』を振りかざしている―――


―――血まみれの一方通行。



一方『―――オァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!』



その『黒い義手』の固く握られた『拳』が―――。



―――目を丸くしているフィアンマの顔面に叩き込まれた。


―――
102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:10:21.07 ID:1thAXrIo
―――


遡ること一分前。

学園都市。第七学区の端。


土御門、海原、結標そして麦野はとあるビルの屋上に立っていた。
遠くに見える、炎で照らされている巨大な黒煙。

彼らの周囲の地上は慌てて避難する市民達でごった返していた。
誘導しているアンチスキルやジャッジメントのものであろう大きな声が方々から響いてくる。


結標「はぁ……くは……!」

結標が息を荒げその場にへたりと座り込んだ。

土御門「大丈夫か?」

海原「……ここからは車を拾っていきましょうか?」


結標の座標移動で約800mおきにここまで飛んで来たのだ。
三体の荷物を連続で長距離飛ばし続けた為、彼女は既に疲れきっていた。

飛ばすのがガラクタならまだしも、
生きてる人間を『欠損』させずに最大飛距離ギリギリで飛ばし、
更に己も同行するとなればかなり集中しなければならないのだ。


麦野『なっっっさけねー。使えない「運転手」ね』


麦野がアラストルを肩に乗せ、挑発するように口を開いた。


土御門「お前は大丈夫かもしれねえがよ、俺らは壁に埋め込まれたら自力で出れねえんだよ」


麦野『どいつもこいつも……じゃあ私はここから自分で行くかr』


―――とその時。
103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:11:12.27 ID:1thAXrIo
地上の喧騒がピタリと止む。

不気味なほどの静寂。

大気が一瞬にして冷え重量を一気に増したような感覚。

そして皮膚を剥いで行くかのような程の強烈な悪寒。


四人とも数秒間硬直する。

顔が引きつり、全身の毛穴が開く。


土御門「―――おい―――これは」


土御門が恐る恐る口を開いた。


海原「―――は……い」


海原が脇のホルダーに入っている原典の『悲鳴』を感じながら返事をする。


結標「―――そんな―――うそ―――」


まるで世界の終わりを見ているかのような表情の結標。


三人はゆっくとその強烈な悪寒がやってくる方向に目を向けた。


その先では二つの光が瞬いていた。


『金』と―――。


―――『青』の。
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:13:37.15 ID:1thAXrIo
避難の最中であった市民達は皆硬直していた。
二ヶ月半前とは違い、放たれてくる凄まじい恐怖が彼らの上に直接降りかかってきていたのだ。

中には意識を失い倒れる者もいた。


大悪魔の放つ『恐怖』は慣れていない人間の理性を簡単に刈り取る。

それが大悪魔の中でも頂点クラス、
そしてそんな大悪魔達すら手も出せない怪物の二体が放つ、『魔人化』した『本気』の『恐怖』となれば、
最早一般人は呻き声を上げることすらままならない。


とあるビルの上にいる、二ヵ月半前の争乱を生き延びた歴戦の猛者三人でさえ硬直していた。

そして前に一度直に目にしていた海原と結標は恐怖と共に確信していた。

遠くに見えるあの青い光はバージルなのは間違いない と。

冗談交じりの『最悪』の例え話が現実となったのだ。



そんな中でただ一人。

この強烈なオーラに押し潰されずに、
身を思いっきり乗り出して飛ぶように屋上の端に行き、食い入るようにその遠くの青と金の光を見つめる者がいた。


麦野『あれ……あれは……』


麦野沈利。

彼女は恐怖に押し潰されてはいなかった。
確かにこの凄まじい恐怖は彼女の精神も強く圧迫していたが、それ以上に―――。



麦野『………………………………アイツ……なの?』


あの青い光の感じ―――。
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:15:55.35 ID:1thAXrIo
色は違う。

『アイツ』は『赤』だった。

そしてこんなにも『冷たく』も無かったが。


―――だがあまりにも感じが似ていた。


―――『匂い』が似ていた。


第23学区で彼女を『空』に運び上げたあの男と。


あの時とは違いはたくさんあるのに―――。


―――なぜか『同一』にのように思えてしまった。


麦野『…………』


ふと胸に感じる『熱』。

発信元は胸の内ポケットに入れているあの『バラ』。


それがこの充満する『大気』に反応し急に熱を発し始めたような―――。

そして皮膚に突き刺さり、己の『内』に侵入してくるような―――。


そのバラが放つ『主』の力に呼応して麦野の右手にあるアラストルも一気に輝きを増す―――。
106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:16:59.21 ID:1thAXrIo
麦野『―――』

何を迷うか。

あの男がいるとするならば。

もしくはあの男と関係ある『何か』があるのならば。

行くしかないではないか。

そしてこの胸のバラが発する『声』がその麦野の感情を更に後押しする。

『行け』 と。




麦野『行かなきゃ―――』




土御門ら三人が、突如至近距離に現れた異常な悪寒に気付きその方向へ目を向けた。


海原「―――は?」

土御門「お……い―――?」


その発信元は。


土御門「―――」


麦野。
107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:19:24.98 ID:1thAXrIo
次の瞬間、麦野は屋上の地面を蹴って青白い光の線となって一気に飛んでいった。


遠くで瞬く青と金の光の方向へ一直線に。


土御門「―――待ッ―――おいッ!!!!」

土御門は麦野の後を追うように屋上の端へ駆け、身を乗り出した。
だが既に青白い光の線は遥か遠くへ。


土御門「チッ……!!あれはバージルで間違いないんだな!!!」


海原「ええ!!あんな代物間違えようがありません!!」


土御門「クソ!!!」


土御門は焦る。
バージルの出現とその力の解放。

麦野の手にあった、今までとは比べ物にならない程の力を放出していたアラストル。


そして『赤く』光っていた―――。


―――麦野の胸元。


アラストルはダンテの魔具だ。
その兄であるバージルの力で何らかの影響があったのは間違いない。


土御門「(ヤバイぜよ―――!!!!)」


どんな影響があったのか、そして何が起こるのかはわからない。
というかわからなさ過ぎて余りにも危険なのだ。


もし麦野がバージルに向かって行き、彼女もろともアラストルが破壊されてしまったら。

もし麦野がアラストルに乗っ取られて破壊だけを撒き散らす怪物と化してしまったら。


アラストルを最大の切り札の一つとして考えていたこの反乱計画が大きく傾いてしまう。
108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:22:40.63 ID:1thAXrIo
土御門「クソッタレ……次から次へと……!」

海原「早く追いましょう!!」

土御門「当然だぜよ!!!」

二人の魔術師は恐怖に苛まれながらも、己を奮い立たせる。
今更ここで止まることなどできない。

それに土御門には麦野の他にもインデックスの件がある。
行くしかないのだ。


結標「……あ……あ」

一方、結標はその二人の傍らで小刻みに震えたまま動けなかった。
軍用ライトを固く握り締め屈んだまま縮こまっていた。

二度目の、そして魔人化してあの時よりも圧倒的な力を放つバージルの存在を前にして固まっていたのだ。


土御門「結標ィ!!!」


土御門がそんな彼女に対して怒ったように声を張り上げる。


結標「……っ……!!」

その声に意識が呼び戻されたかのように、ハッとして顔を上げる結標。


土御門「俺と海原を飛ばせ!!!」
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:24:13.85 ID:1thAXrIo
結標「え……で、でも……!!!」

今の結標の精神状態で遠距離間を飛ばすなど危険極まりない。
壁と同化したりしてしまう可能性も高いのだが。


土御門「いいから早くしろ!!!」

海原「構いませんから!!!」

そんな事も承知の上で二人は捲くし立てる。


結標「―――わ、わかったわよ!!!」


結標が半ばやけくそ気味で返事を返し、
ぎこちなくも震える手で軍用ライトをクルリと回し大きく息を吐く。

そして次の瞬間。


結標「シッ―――」


土御門と海原の視界が一瞬で切り替わる。
まるでテレビのチャンネルを替えたかのように。


土御門「―――おお」


海原「―――」


二人の五体は無事だった。
ちょうど道路の真ん中に飛ばされており、手も足も壁に埋め込まれてはいない。


その『代わり』二人の足は地面についていなかったが。

アスファルトの固い地面の上15m程の宙に二人の体があった。
110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:26:15.43 ID:1thAXrIo
土御門「チッ―――」

海原「!!!!」

二人は突然の落下に驚きながらも何とか着地する。

足がついた瞬間前に転がり慣れた身のこなしで衝撃を受け流した土御門とは違い、
そんな肉体派の技術が無い海原は足でまともに着地してしまい、モロに衝撃を受けてしまったが。

土御門「海原!!!」

転がる慣性を利用して流れるように立ち上がった土御門が、
足を抑えて苦痛の表情を浮かべている海原の下へ駆けて行く。

海原「だ、大丈夫です!」

海原は痛みに堪えながら手を挙げ、ぎこちなく立ち上がった。


海原「はは、どうせなら100mくらいの高さがあってくれた方が良かったんですが……」


苦笑いを浮かべながら皮肉を吐く。

地面に衝突するまでそれなりの時間があれば、原典の力を使って軟着陸も可能だったのだが、
さすがに15m程度ではその暇が無かった。


逆に土御門にとっては。

土御門「やめてくれ。それだと俺が死んじまうぜよ」

高さ100mの宙に放り出されるなんて『死の宣告』と同義だが。
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:30:00.60 ID:1thAXrIo
土御門と海原は周囲を見渡す。
第七学区の街並み。

街頭が照らしているその道路に人影はなかった。
ここら一帯の一般人の避難は完了しているらしい。

二ヵ月半前の件から避難誘導方法も色々と効率化されているのだろう。
かなり手際が良い。
一般市民の犠牲を嫌う土御門達にとっては好ましいことだ。

土御門「……」

今、ここで起こっている争乱の中心地は二つ。

襲撃者と交戦している一方通行、そして麦野が向かっていったバージルの方。

二つの方角ともビルに隠れている為、
空に上がってい巨大なる黒煙と夜空を照らしている青と金の光しか見えない。

土御門「……クソッ……」


海原「……こうしましょう。自分は彼女を追います。あなたは禁書目録の方に」

土御門「……お前……!!」


海原「大丈夫ですよ。自分には一応コレがありますし」

海原がにこりと笑みを浮かべながら己の脇を軽く叩く。

スーツの下、ホルダーに入っている『原典』を。


土御門「……」

確かに、己がバージルの方に向かったところで何かの役に立つとは思えない。
明らかに戦闘能力が低すぎる。

あの恐らく魔人化しているバージル相手では、
現場に近付いただけで命を落としてしまう事だって充分あり得る。
112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:31:45.42 ID:1thAXrIo
海原「あなたもあちらの方が気になるでしょう?」


土御門「……」

そうだ。
そもそもこの事態に首を突っ込もうとしたのもインデックスの件があるからだ。


土御門「……ああ。そうしよう」


海原「では―――」


海原はスーツの脇に手を突っ込み、帯状の物を一気に引き出した。

『原典』を。


姿を現した途端、不気味な悪寒とざわめきが周囲に充満する。
起動した原典の重圧を受け、海原のこめかみに血管が浮き上がる。


土御門「……それ使うのか?」


海原「こういう時に使わずしていつ使えと?」


海原「それに『生身』であの『化物』に近付こうとする程自分はバカではありませんよ?」


だが耐え難い精神汚染に苛まれているにも関らず、
海原は柔和な笑みを崩さずに土御門にいつもの調子で返事をした。


土御門「そうか。じゃあ頼んだぜよ」


海原「―――ではお先に」


そして彼に一瞥した次の瞬間、
原典の力を行使したのであろう、アスファルトを捲り上げて猛烈な速度で街の中を突き進んでいった。
113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/22(火) 00:34:43.00 ID:1thAXrIo
土御門は腰から拳銃を抜き出し、スライドを軽く引いて弾が装填されているか確認し。

土御門「……さて……俺も行くとするぜよ」

小さく呟き深く深呼吸をした。


とその時だった。


凄まじい地響きが伝わってきて大気が、そして大地が地震のように大きく震えた。
あの光の瞬く地から、垂直に天高く伸びる『青』の筋。
この夜空ごと割ってしまいそうな程の長さの光の柱。

土御門「―――なッ……!!?」

まるでこの『世界』そのものが切り裂かれたような光景。
いや、実際に人間界に巨大な筋を刻んでいるだろう。

あれは恐らく。

バージルの全てを破断する『最強』の刃が振り下ろされた『余波』の光だ。

だが土御門には目を見開いて呆然としているヒマなど無かった。

それとほぼ同時に、彼の上空を白く輝く流星ような何かが猛烈な速度で突っ切っていったからだ。
『喚き声』のような音を発しながら。

そして近場に落下し地響きが起こる。

その流星は土御門から100m程離れた場所、もう1本向こうの道路辺りに落下したようだった。


土御門「………………あれは……」


あの喚き声のような『音』。
どこかで聞いた事があるような、いや、聞きなれた『声』だった。
更に放っていた『白い光』。


最早間違えようが無い。


あの落下してきた『何か』は―――。


土御門「―――かみ……やん……?」


―――
114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/22(火) 00:36:07.04 ID:1thAXrIo
今日はここまでです。
次は水曜か木曜の夜中に。
115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/22(火) 00:49:00.95 ID:Ytjck8s0
116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/22(火) 00:58:04.17 ID:IJorgAMo
一方さん働き者じゃのう・・・
117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/22(火) 01:17:06.69 ID:Nbt1k2Yo
おっつ
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/22(火) 01:28:29.02 ID:qJnqaos0
乙!
119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/22(火) 01:45:33.22 ID:J78nPLIo
乙!
やっぱトリッシュさんはフィアンマをも一蹴できるのか
そりゃそうか
120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/22(火) 13:04:22.11 ID:kkLpPEM0
二人のヒーローやべぇwwwww
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/22(火) 23:11:23.66 ID:iQcqQKU0
ぎゃーーーーーー!一方さんの右腕がーーーーーーーーー(´;ω;`)
122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/23(水) 20:20:50.40 ID:BfvFSQSO
よし、ここはベオウルフのベオ条に対抗して、パンドラを加工して造った義手を付けてパンドラレータに…
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/23(水) 20:40:40.74 ID:6GcnTcDO
一方通行「やべェ…何回イッたかわかンねェな。ズボンの中がぐちゃぐちゃだ」
124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/23(水) 20:42:25.03 ID:vS2HAq6o
一方通行はサイバネティックアームを装備した!
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/23(水) 23:00:42.37 ID:/zBsKuI0
原作も法王級(笑)、伝説(笑)なインフレ状態だし、竜王の殺息なんてたいしたこと無かったんだと思ってましたすいません
126 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:20:54.24 ID:Y.Up4tQo
―――

ヴァチカン。

サンピエトロ広場。

ステイル『(……なっ……)』

傷まみれで最早立ちあがる力さえ残っていないステイルは、
地面にうつ伏せに這い蹲りながら深々と頭を下げるローラ型の人形を見つめていた。

ステイル『………!!』

礼をしている人形の目と目が合う。

ステイルに背を向けて礼をしている為、逆さまの顔がこちらを向いているのだ。


ステイル『ア、アークビショップ(最大主教)……?』



そのステイルの声に対し逆さまの人形の顔が少し哀しげに陰り。



ローラ『神裂の件』


ローラ『間に合わなかったか』


ローラ『すまぬ』


謝罪の言葉。


ステイル『…………ッ……』
127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:22:51.04 ID:Y.Up4tQo
ジャンヌ「形式張るな。今の私には位など無い」

ベヨネッタ「ふふ、そもそも私は昔から位すら無いわよ。『様』付けで呼ばれる『筋合い』は無いわ」

深々と頭を下げるローラ型の人形に対しジャンヌがそっけなく、
そしてベヨネッタは半笑いしながら言葉を飛ばした。


ローラ『そうはいかなき事。例え故郷が滅し「位」は消えようとも、そして無きとも―――』


『ローラ人形』を形作っていた金髪が風に吹かれたかのようにゆっくりとバラけ始め―――。


ローラ『―――お二方様はアンブラの「太陽」と「月」』


―――その中から姿を現す『本体』。


ゆったりとしたベージュの修道服を纏った、見た目18歳程の幼さと大人っぽさが混じっている美しい『少女』。

宝石のような長い金髪をふわりとなびかせながらローラ『本人』はゆっくりと顔を上げ―――。



ローラ「―――我等が「血」の永遠の「誇り」でありけるのです」


―――その碧眼で穏やかな笑みを浮かべながらジャンヌとベヨネッタを真っ直ぐと見据えた。


ジャンヌ「……本当にローラなんだな」

ジャンヌが目を見開き、ローラの全身を舐めるように眺めた。


ベヨネッタ「随分大きくなったわね〜『おてんばローラ』。『色んな』ところが」

ジャンヌ「……あれだけ『大喰らい』なら大きくもなる」


ローラ「んふふふ……」
128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:25:54.28 ID:Y.Up4tQo
ベヨネッタ「……ん?」

ジャンヌ「……」

その時。
鼻を小さく鳴らしながらまじまじと眺めていたベヨネッタとジャンヌは、ローラにある妙な違和感に気付いた。

この目の前のローラ。

500年前アンブラで若くして主席書記官を務めていた、
『完全記憶能力』を有していた『天才児』なのは間違いないようだが―――。


ベヨネッタ「(……おかしいわね)」

ジャンヌ「(……こいつ……)」


―――それでいてどことなく別人のような感覚。


確かに声や雰囲気そして受け答えや容姿を見る限り、
今話している『相手』が成長したローラであることは間違いない。

だが、その奥底の部分。


中身が空っぽなのだ。


同一人物の『精神』でありながら、『魂』が別人の物のような。



まるで模造品のような―――。


精巧なコピー品のような感覚だ。
129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:27:12.55 ID:Y.Up4tQo
ローラ「むふふふ……」


そんな二人の魔女の違和感を尻目にローラは小さくクスクスと笑っていた。

それはいつもの権謀策略を張り巡らせた権力者の含み笑いではなく、
あどけなさが残る『少女』の『無邪気』な笑い。


こんな事を思っているような状況では無いのは自覚しているが、
それでもイタズラが成功したようなこの高揚感は気持ちが良かった。

かつて雲の上の存在だった、そして憧れだった二人の驚きの顔を見れて最高の気分だ。


ローラ「(ふふふ!私とてやればできたるのよ!!)」


そして後ろにいる単細胞な部下、ステイル。

彼女の後姿を見て目を丸くしているだろう。




とある『違和感』に『ようやく』気付いて だ。




この何も『フィルター』の無いローラの姿を見て だ。
130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:30:45.19 ID:Y.Up4tQo
ステイル『―――』


ローラの予想通り、ステイルは彼女の後姿を見て固まっていた。


彼にすれば普段から見慣れている姿なのだが―――。


確かにこの年齢不詳の上司は美しい。
否定する者などいないだろう。

老略男女問わず100人に聞けば100人とも迷い無く美しいと答えるだろう。

一方でステイルはそんなローラの容姿が生理的に気に喰わなかった。


なぜなら―――。


―――インデックスに似ているからだ。


顔や雰囲気は姉妹と言っても差し支えない程に似ているのである。
違うのは髪色だけで、あと5年程もすればインデックスはこの今の最大主教と瓜二つになるかも と思わせる程に。


―――と、ここまでの話を聞けば、

人は「ではなぜ何かしらの関係を今まで疑わなかったのだ?」と思うだろう。


その理由は単純だ。


疑問を抱く事が『不可能』だったからだ。
131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:33:11.74 ID:Y.Up4tQo
ローラとインデックスの容姿の関係性。

それ事態を『意識』する事が無意識の内に妨げられていたのである。

彼女達の体にかけられていた、
人払い魔術のような『無意識の内に意識外へと出してしまう』術式に阻まれていたのだ。


それも悪魔化したステイルや天使化した神裂ですら気付かない程に厳重で強力な術式。

事実、その『変装』で500年もの長きに渡って宿敵であり天敵でもある、
天界最大最強勢力ジュベレウス派の目を退けてきたのだ。


大悪魔を何体も使役する者もいる魔女達、
その中でもエリートの『とある少女』が創り出した秘術を、
『生まれたばかり』の『即席』の大悪魔や大天使が破れるわけも無い。


とはいえ、さすがにスパーダの一族の目を騙すのは厳しかったが。

ネロが異様にローラを嫌っていたのもその術式からくる妙な違和感のせいだ。

もし彼が本腰入れてその『違和感』の答えを探していたら、
僅か数日で破られていただろう。


その件もあってローラは極力ネロと直接会うのを避けていたのだ。

ダンテやトリッシュと直接の面識が無かったのも今思えば幸運だっただろう。

スパーダの一族に知られての不利益は考えにくかったが、それでも大っぴらにする物では無い。
彼女はいつかやってくる『その時』までずっと隠し通すつもりだった。


親友であり恩人でもあるエリザード以外には絶対に漏らさないつもりだった。

そのつもりだったのだが。
132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:34:30.45 ID:Y.Up4tQo
だが急変してゆく世界の情勢は彼女にそれを許さなかった。


『鉄壁の囲い』の中に黙って潜んではいられない状況となったのだ。


彼女は遂に立ち上がり、500年振りに『真の姿』で『表舞台』に上がった。


どんなに巧妙に変装しようとも、隠すものを隠していなかったら意味が無い。
逆に更に違和感を高め注意を集めてしまう。


今、魔女としての力を行使しているローラは正にその状態だ。


当然、今現在その姿を見ている―――。


ローラ「(んふうふふ……ステイルステイルステイル!やいマッチ棒!!さぞかし驚きたろう!!)


―――後ろの部下はその『違和感』をしっかりと意識して、頭を悩ませているだろう。



ローラ「(ざまぁでありけるのよこのノータリンの単細胞不良坊主が!!)」
133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:37:30.65 ID:Y.Up4tQo
ステイル『(―――……な……ッ!!!)』

ローラの予想通りステイルはかなり困惑していた。


見慣れた後姿。
そこから急に呼び起こされてくる過去の記憶。


今までのローラの顔。


狡賢そうに薄ら笑いを浮かべた顔。
あっけらかんとした笑い顔。
ぶつぶつとぼやく不機嫌そうな顔。
いつかの、入浴中に乱入してきたステイルへ向けた慌てた恥ずかしそうな顔。


その全ての姿が―――。


ステイル『ど、どうなってる……!?』


―――インデックスと重なる。


彼は『初めて』疑問を抱き、思わず声に出してしまった。


この目の前の上司がなぜこんなにもインデックスと似ているのだ?


胡散臭い上司ローラ。
インデックスの記憶の件についてステイルをも欺き続けてきていた、彼にとってはある意味『敵』でもある女。

今まである種の敵意を抱いていた、信用なら無い上司。


そうだったのに。


ステイル『(……ふ、ふざけるな……なんでこの女に……こ、こんな……!!)』


突如沸いてきた、インデックスと重なるこの親近感と愛おしさ。
無意識の内に『心』が安らぐ一方で、それが彼の『頭』にとってはたまらなく不快でもあった。
134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:39:39.59 ID:Y.Up4tQo
ローラは少し振り返り、いたずらっぽい笑みを浮かべてステイルの方へ横顔を向けた。


ステイル『…………!!!!』

ローラ「んふふふ……たくさん聞きたし事がありけるだろう?後で教えたるわ。気が向きければな」

そして複雑な表情を浮かべているステイルへ向けて、茶化すような口調で言葉を放った。


とその時。



ベヨネッタ「……ぷふっ」



ベヨネッタが突然噴出した。
その横にいるジャンヌも何やら微妙な表情。



ローラ「これな……む?…何か?」


ローラが気付き、再び二人の同族の方へ向き小首を傾げた。


ジャンヌ「なあローラ」



ジャンヌ「何だいその喋り方は」
135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:42:10.06 ID:Y.Up4tQo
元がデタラメなインチキ古語、
更にそこに目上の者への敬語を強引に突っ込んでいる為、インチキ度がいつもよりも2割り増しだ。

いつも聞きなれているステイルでさえ、この場の2割り増しの馬鹿口調はかなり耳障りだった。


ベヨネッタ「ぷふふ……あ〜はぁ……アンタバカっぽいわよそれ」

堪えきれず小さく笑うベヨネッタ。


ジャンヌ「ローラ、気でも狂ったのか?」


ローラ「な……!!!500年も経ちたるのです!!!少々言葉遣いが変おうても……!!!」


ジャンヌ「昔も変な喋り方だったがますます悪化してるな」


ベヨネッタ「昔もこうだったの?」


ジャンヌ「語尾に手当たり次第に『だよ』とかつけてたな」


ベヨネッタ「へぇ……で、何で今はそ馬鹿口調?」


ローラ「ばッ……!!!こ、これは私の部下から教わっ……!!」


ジャンヌ「部下……」


ベヨネッタ「……」


『部下』という単語を聞いて二人の魔女の眉がピクリと動く。
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:45:56.00 ID:Y.Up4tQo
ローラ「……っと、そうそう、申し遅れたるの」

二人の表情に気付き小さくコホンと咳払いした後、ローラは神妙な面持ちで口を開く。


ローラ「私は今―――」


ローラ「―――イギリス清教が長、最大主教でありけるのです」


その言葉を聞いてベヨネッタとジャンヌの表情が変わった。

ベヨネッタは小首を掲げ鼻を鳴らしながら不敵な笑みを浮かべ、
ジャンヌの顔からは笑みが消える。


ジャンヌ「……つまりだ、そこの『死に底無い』も部下って事か?」

ジャンヌが右手の銃で、ローラの後ろに這い蹲っているステイルを指した。



ローラ「はい」


ベヨネッタ「ふふん……成る程ねぇ……」


ベヨネッタ「―――『魔女』が天界傘下、十字教イギリス清教の長、ねぇ」


ジャンヌ「……へぇ。その話―――」



ジャンヌ「―――良く聞かせてもらいたいな」
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:48:00.51 ID:Y.Up4tQo
やや穏やかだった空気が一瞬で張り詰める。
ジャンヌの目が冷たく鋭くなり、ベヨネッタは薄っすらと妖艶な笑み。


ジャンヌ「……その口で『アンブラの誇り』、か?」


ローラ「……」

ローラは真顔でジッと二人を見据えたまま押し黙っていた。
そして数秒後、静かに口を開いた。
まるで母親に悪事がバレ懺悔するような表情で。

ローラ「……これしか方法が……」


胸にそっと両手を当て、何かを確かめていくようにゆっくりと。


ローラ「……私は……お二方様のように強くはなきたるのです」


ローラ「……かの戦いで家が消え……故郷が滅し……」


ローラ「眷属は亡きものとなり……両親は討ち死にし……幼き『妹』は息途絶え……」


ジャンヌ「(妹……?)」


ローラ「……私は一人……」

ジャンヌ「―――待て」


黙って聞いていたジャンヌが小さく手を挙げ、ローラの言葉を突如遮った。


ローラ「……ふあ?」


ジャンヌ「お前に『妹』なんかいたのか?―――」


ジャンヌ「―――『姉』がいたのは覚えているが」
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:50:22.80 ID:Y.Up4tQo
ローラ「あ〜はぁ、ふふ、そうそう、そうでしたるわね」

ローラがケロリと今度は明るい笑顔。


ベヨネッタ「?」


ベヨネッタがキョトンとした表情を浮かべ、そうだったっけ? と言いたげにジャンヌの方を見た。

ジャンヌ「……ほら、近衛にいたメアリーだ」

ジャンヌが小首を傾けながら流し目でベヨネッタに補足する。



ベヨネッタ「あ〜あ、あの『青い髪』の。そういえばそっくり。瓜二つ―――」



ベヨネッタが左手に持った拳銃で肩を軽く叩きながら、おぼろげな記憶と照らし合わせた瞬間だった。




ベヨネッタ「―――ってちょーっと待ちなさい」


肩を叩いていた左手をピタリと止め一言。


ジャンヌ「どうしたセレッサ?」
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:51:50.21 ID:Y.Up4tQo
ベヨネッタ「おっっっかしいわね……」


ベヨネッタは険しい表情を浮かべ、左手の拳銃で今度はメガネの端をコンコンと叩き始めた。


ジャンヌにローラの『姉』について言われ、
その事で昔の記憶を掘り出してきたのだが。


そのようやく見つけた映像はローラの『証言』とはかなり食い違っていた。


いや、ローラがこうしてここに居ること『そのもの』が食い違っているのである。


なぜなら。


ベヨネッタ「ねえ、どういうこと?―――」



ベヨネッタは500年前に見ていたからだ―――。



ベヨネッタ「―――アンタがここにいるはず無いんだけど?」




―――幼きローラが死んでいるのを。
140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:56:12.42 ID:Y.Up4tQo
ローラ「……」

ローラは何も言わず、真顔のまま押し黙る。


ジャンヌ「あぁ?」

今度はジャンヌが不思議そうに小首を傾げた。


ベヨネッタ「私見たのよね。『あの日』に」


あの日とは、アンブラの魔女の本拠が天界の大軍勢に奇襲され、
滅ぶ事となった日のことだ。



ベヨネッタ「『メアリー』っていったっけ、あの子がさ」


ベヨネッタ「死んじゃった『おてんばローラ』を抱きかかえて泣いてたの」



見たのは一瞬だ。

だが忘れもしない。


壮絶な戦いの激震の中、崩れかかった回廊のところにいた『二人』。


胸に大きな穴が穿たれた、血まみれで動かなくなった妹『ローラ』を抱え、泣き崩れていた姉『メアリー』。


その日、似たような光景を腐るほど目にした為すぐにはその映像がでてこなかったが、
同族の死の『光景』は絶対に忘れはしない。


確かに見たのだ。


ベヨネッタ「本当におかしいわね」
141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/23(水) 23:58:03.75 ID:Y.Up4tQo
ベヨネッタ「……もう一つついでに聞くけど、アンタ『魂』は『どこ』にあるの?」

続けて先程から感じていた違和感についても問う。


ローラ「……申し訳なきですがその件に関しては―――」

それに対しローラが静かに、そして重く口を開いた。


ローラ「―――この場(ヴァチカン)では言えなき事」


そして右手を小さく上げ、『上』を人差し指で指す。


ローラ「『かの者』達に聞かれたれば不味き事でありけるので」


ジャンヌ「……」


かの者達とは天界の事だ。
ここは天界の力が最も強く影響しているヴァチカン。
上の連中にとってこの場の事など全て筒抜けだ。
(ちなみにこの事もあって天界を欺く企てを計画しているフィアンマはヴァチカンを離れた)

ベヨネッタ「……へぇ……」

この場で魔女の力を行使して己の正体を知られても尚、
隠さなければならない程の秘密があるのだろうか。

恐らく、イギリス清教のトップが『宿敵の魔女』であったという驚愕の事実はもう既に天界の者に知られているはず。

イギリス清教所属の魔術師達をけしかけ、反乱を起こさせてローラをその座から廃するかもしれない。

もしくはイギリスそのものを敵と認識して『テレズマ』の提供を途絶するかもしれない。
そうなればイギリス清教の魔術師や、イギリスの騎士達は天界魔術を行使できなくなる。


ジャンヌ「……」

そんな事がこれから起こりうる可能性が高いのに、
ローラは未だに『イギリス清教』から離れる気はないらしい。
142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/24(木) 00:00:47.72 ID:YUs2HW20
やべぇゾクゾクしてきた♪
143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/24(木) 00:01:52.35 ID:TzIbO5.o
ジャンヌ「何を考えてるか知らないが―――」


ジャンヌ「―――それでいいのか?ローラ」


ジャンヌは問う。そのまま天界の下にいるつもりかと。
身分がバレても尚、宿敵の懐に居座る気かと。

それは暗に宿敵の下から離れるように促してもいた。

最大主教という位を捨てこちらに。

唯一生き残った同族達の側に加わらないかと。


ローラは小さく微笑みながら目を瞑った。

理由がどうだろうと、天界に帰属するなど魔女達からすれば逆賊そのもの。
アンブラの掟に照らせば拷問の末の処刑が妥当。

情状酌量の余地無しだ。

それでいながらも、この目の前の大先輩は彼女に対し手を差し伸べてきてくれた。

そのあまりにも寛大な手に、一瞬ローラは身を委ねそうになってしまう。
全てを曝け出して、同族の下に加わりたいと。

この二人の英雄の胸の中へ飛び込みたいと。
だが彼女はその思いを押し込める。

奥深くへと。


ローラ「申し訳なきですが。例えお二方様の言霊だろうと……」

ローラはゆっくりと目を開き言葉を紡ぐ。


ローラ「それが『命令』であろうと……」



ローラ「私の心は変わる事は無きよ」



ローラ「成さねばならぬ『約束』と『使命』がありけるので」


変わらぬ覚悟の言葉を。
144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/24(木) 00:04:08.00 ID:TzIbO5.o
ジャンヌ「そうか……」

ローラの口から放たれた言葉。

それは彼女の信念の強さを表していた。

そして一方で。



ジャンヌとベヨネッタに対しての『宣戦布告』でもあった。



ローラ「では、昔話はこの辺りで」


ローラがふわりと両手を広げた。


その瞬間手先が輝き―――。



―――明るい『青』を基調とした装飾が施されたフリントロック式の拳銃が姿を現した。


銃身側面の装飾の隙間には小さく『Mary』とエノク語で刻印されている。


『Laura』では無く『Mary』と。


そして修道服の裾もふわりと浮き上がり、両足首のあたりに同じタイプの拳銃が姿を現した。



ローラ「そろそろ『本題』に」



ローラ「この場から即刻お退きになりたって下さい」
145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/24(木) 00:07:04.83 ID:TzIbO5.o
ジャンヌ「……そうかい」


ベヨネッタ「……」



張り詰める空気。


殺気を帯びた、三人の魔女達の鋭い視線が交差する。


ここでもしジャンヌとベヨネッタが退かなければその結果はどうなるかは一目瞭然。


唯一生き残った三人の『魔女達』による殺し合い。



いや、一人の『魔女』が一方的に『虐殺』される。



それはローラ自身もわかっていた。


例え己が500年前の全盛期の時と同じ力を有していたとしても、
目の前の二人の大先輩の足元にも及ばないと。

この二人がちょっと本気を出しただけでローラは瞬殺される。

そもそも互角レベルで戦える力があったのならばわざわざ十字教に紛れて隠れる必要も無い。



ローラのこの行動は一種の博打だ。


ローラはベヨネッタとジャンヌの同族に対する深い『優しさ』を知っている。
それに望みをかけたのだ。
146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/24(木) 00:09:22.71 ID:TzIbO5.o
ジャンヌ「良い度胸だな全く……」

ジャンヌが冷たく、かつ殺気だった鋭い表情のまま静かに口を開く。

そして。


ゆらりと右手を挙げ―――。



ジャンヌ「成長したな。ローラ」



―――銃口をローラに向けた。



ローラ「―――ッ」


ローラもそれを見て咄嗟に両手を挙げ、二丁の拳銃をジャンヌに向ける。
目を見開き、瞬き一つせずにジャンヌを見据えながら。

ローラは一戦交えることを覚悟する。

最悪、いやかなりの確率でこの戦いが己の『終わり』となるかもしれないということを認識しながら。


だがそんなローラの鬼気迫った顔を見つめていたジャンヌが突如。


ジャンヌ
「ふっ……ははは」


まるで何かに耐え切れなかったかのように軽く笑い始めた。
その隣でベヨネッタもニヤニヤとし始める。


ローラ「…………な?」
147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/24(木) 00:12:46.45 ID:TzIbO5.o
突然ブッツリと切れた一触即発・緊張の糸。

さっきまでとは正反対の雰囲気、軽い調子で笑う二人の魔女。


ローラは状況が良く掴めずにポカンとする。


ジャンヌ「はは、冗談だ」

ジャンヌが手首をひょいと捻り、銃口をローラから逸らす。


ジャンヌ「心配するな。今は気分が良い」


ジャンヌ「聞きたい事もあるが、この場はとりあえずお前の言を呑もう」



ジャンヌ「生きてたお前に免じて。な」



ローラ「……!!!はぁぁぁっ……(心臓に悪すぎでありけるのよ……)」

その言葉を聞いてローラの手が力が抜けたようにダラリと下がる。


ジャンヌ「その火炎坊主を連れてさっさと失せな」


ローラ「……はぁい……でありけるの」


ベヨネッタ「ああ、それとあの子」


ベヨネッタが、背後少し離れたところに呆然としてヘタリこんでいる五和の方を顎で指しながら。


ベヨネッタ「あの子は貰って行くから」



ローラ「…………む?」
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/24(木) 00:17:48.17 ID:TzIbO5.o
ベヨネッタ「連れてくの」

ベヨネッタが肩を小さく竦め、ローラの方を見ながらさも当然かのように言う。


ベヨネッタ「良い?」


ステイル『待……がぐばッ!!!』

這い蹲りながらも口を開けかけたステイルだが、
その頭に突如打ち下ろされたローラの足で言葉が途切れる。

彼女の足に括りつけられているフリントロック式拳銃の銃口が、
ヒールの踵のようにステイルの頭を押さえつけた。


ローラ「ええ、良きでありけるのよ。お好きに」


ローラは左足でステイルの頭をねじ踏みながら、にこやかに快諾した。

連れて行く理由などどうでも良い。

下手に拒否すればどうなるかわからないのだ。
すんなり退いてくれる以上、条件を飲む方が妥当だ。


二人の魔女を敵に回してまで五和を守るなど、ローラにとっては馬鹿馬鹿しい事なのだ。
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/24(木) 00:19:34.99 ID:TzIbO5.o
ジャンヌが数歩ふらりと歩き、左手をスッと前に出す。

するとどこからともなく黒い棒状の物がすっ飛んできてその手に平に納まった。


七天七刀の『鞘』だ。


ジャンヌ「持ちな」

ジャンヌがその鞘を五和の方へ放り投げた。


五和はその目の前に転がる鞘を目にした途端、
勢いよく手を伸ばして持ち上げ、ギュッと胸の中で抱きかかえて蹲った。

その横にベヨネッタが向かい立つ。


そして。


ベヨネッタ「バーイ」


ジャンヌ「またな」


ベヨネッタが手をヒラヒラと振りながら、ジャンヌは小首を傾げてローラへに一瞥した。


ジャンヌ「生きてろよ。『次』までは」



それに対しローラは深々と。


ここに登場した時と同じく礼をした。


そして数秒後に顔を上げた時には、三人の姿は跡形も無く消えていた。

風に吹かれたかのように。
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/24(木) 00:20:56.92 ID:TzIbO5.o
廃墟となり瓦礫の原と化したサンピエトロ広場。

その中央に立っているローラと。

彼女の背後に伏しているステイル。


ローラ「……さて」

ローラは長い金髪とゆったりとした修道服をなびかせてステイルの方へ振り向き。


ローラ「立ていデクの棒。さっさと帰りたるわよ」


ゲシゲシとステイルの頭を足で小突いた。
更に銃口をヒールの踵代わりにしてステイルの頭をグリグリとねじ踏む。

満身創痍のステイルは弱弱しくもバタバタともがく。



ローラ「全く情け無き。それでも我が『半身』の『護り手』たるのか?」


『半身』

『護り手』


そのワードを聞きステイルの動きがピタリと止まる。


ローラ「んん?死んd」


ステイル『ぐ……は!!!』


突如ステイルが両手を勢い良く地面に突き、ローラの足を退けてぎこちなくも立ち上がった。


ローラ「おお、生きたるか。良き良き」
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/24(木) 00:24:38.17 ID:TzIbO5.o
ステイル『ぐ……ふ……貴様には聞きたいことが……山ほどある』

ステイルがふらつきながらも鋭い目でローラを見据える。


ステイル『教えろ……全てを……』


敬語を使わずに吐き捨てていく。
ステイルにとって最早上司と部下の関係などどうでもいい。

インデックスとこのローラに纏わる疑問の答えをとにかく知りたかった。


ローラ「貴様呼ばわりか。ふふふ、良い度胸でありけるわね」


そんなステイルを小首を傾げて上目遣いで見上げ、
右手を伸ばし彼のコートの襟を指先でクルクルと弄び、狡賢そうに笑うローラ。


ステイル『……くッ……!!!!』

そんな仕草一つ一つがステイルの心を大きく揺さぶる。
インデックスに重なりドキリと。

更にステイルは知る由も無いが、今の力を解放しているローラは魔女特有の妖艶なオーラも纏っているのだ。
その男性の本能を強く刺激するフェロモンが更にステイルを『蝕む』。


ローラ「まあ後ほど、帰りてから『教えて』やりたっても良きよ」


ローラ「『アンブラ式』でタッッッップリとな。ステイル」


ローラがステイルの胸を軽くポンと叩き。



ローラ「だがその前にさっさと悪魔化を解かぬか。暑苦しゅうてたまらぬわ」


―――
152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/24(木) 00:25:22.29 ID:TzIbO5.o
今日はここまでです。
次は金曜か土曜の夜中に。
153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/24(木) 00:27:02.09 ID:cGknqiQo
ヒャッハー!
インデックスの正体が気になってますます眠れないぜ!
154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/24(木) 01:18:28.24 ID:l1iyxDAo
乙!
ふむ・・・完全記憶能力でまさかと思ったが・・・ふむ・・・
155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/24(木) 01:19:03.98 ID:YUs2HW20
ヽ(´ヮ`)ゝ乙でありけるの!!
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/24(木) 11:06:10.95 ID:QyrulgDO
誰かー!これをwikiかなんかにまとめてくれー!!
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/24(木) 17:07:59.55 ID:GQ7QJJk0
神裂はどうなったんだ……
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/25(金) 23:39:19.13 ID:dSSHn4so
―――

フォルトゥナ。

街の中央にある大歌劇場。

かつての争乱の火蓋が切られたこの場は今、逃げ延びた市民達の避難所となっていた。

今は周りには悪魔の姿は見えないものの、
歌劇場の周囲の広場は瓦礫の原と化しており、ここでも壮絶な攻防戦が繰り広げられたことを物語っていた。


その広場をキリエと子供達は騎士達に誘導されて歌劇場の方へと進んでいく。

広場はフードを被った軽装の騎士達が、
歌劇場そのものの周囲を甲冑に身を包んだ重装騎士が固めていた。


キリエ「……」


あの白銀の重装騎士の姿。

騎士達の中から選抜された最精鋭であり、
ゴートリングをも一撃で屠れる程の彼らの姿はこういう状況下ではかなり頼もしいが。


キリエにとってはあまり良い思い出が無い。


巨大なランスと畳んだ羽を模した大盾。

兜から前に突き出すように伸びる捻じれた二本の角。

数年前のフォルトゥナ争乱時に教団が使っていた人造悪魔の兵『ビアンコアンジェロ』と瓜二つなのだ。

それもそのはず、ビアンコアンジェロの『器』となった甲冑と、
この重装騎士が着ている甲冑は全くの同型だから当たり前の事なのだが。

この甲冑はそもそも対悪魔用の新式装備として配備される予定だったのだ。
159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/25(金) 23:47:17.23 ID:dSSHn4so
かつて教団がやった『悪魔に取り付かせる』というのは元々用途外だ。

教団の使い方が間違っていたのであって、
今のようにこうして全うな騎士が、魔界魔術で強化して装備するというのが元々の正しい運用方法だ。

しかしキリエもそれはわかっているのだが、この姿を見るたびにどうしても以前の記憶が蘇ってしまい、
胸が締め付けられるような感覚に陥ってしまう。


「こちらへ!さあ早く!」


構えていたランスを掲げて、キリエに向けて『甲冑』の中から聞こえてくるくぐもった声。

その声がキリエにとって救いだ。

『あの時とは違う』と思わせてくれる。

感情の無い『人造悪魔』ではなく、心を持った『人間』が入っていると。


キリエは軽く頭を下げながら、子供達を前に進ませて小走りで歌劇場の入り口へと向かっていく―――。


―――とその時だった。



―――突如背後から響いてくる怒号と凄まじい轟音。



そして目の前。


キリエの進行方向を塞ぐかのように上空から突如降り立ってきた―――。


―――三体のゴートリング。
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/25(金) 23:50:12.44 ID:dSSHn4so
キリエ「―――!!!!」


咄嗟に前にいた子供達の手や服を掴み、一気に引き寄せて屈むキリエ。

そんなキリエ達にヌッと手を伸ばすゴートリング。


筋骨隆々とした、丸太のように図太く赤黒い腕が彼女を鷲掴みにしようと迫ってくる。


その時。

キリエを掴もうとしたゴートリングの胸から勢い良く『生える』、白銀の『杭』。

それは重装騎士のランス。

凄まじい突きがゴートリングを背後から串刺しにしたのだ。


キリエ「!!!」


響くゴートリングの咆哮。

残りの二体が即座に振り向いて、突撃してきた重装騎士へ向けて腕を振り上げた瞬間。


更にもう二体の重装騎士が今度は左右両側から大盾を構えて突進してきた。

重装騎士の背中からは羽のような物が展開しており、そこからブースト噴射。

その爆発的な加速力で重装騎士の体が一瞬で音速にまで達する。


そしてそのまま両側から突撃してきた重装騎士の大盾が、
三体のゴートリングを纏めてサンドイッチのようにプレスし叩き潰す。


不気味な破砕音と吹き上がる血飛沫―――。
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/25(金) 23:50:26.24 ID:axO9LdE0
坊やのターンや!!!
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/25(金) 23:52:14.91 ID:dSSHn4so
人間のデビルハンター業界において、最強最大集団の座にあるフォルトゥナ騎士団。
例えその勢力は衰えようとも、その座は揺るがない。
重装騎士が複数人いれば、大悪魔をも打ち倒せる事ができる場合もある。

2000年に渡って、組織的に鍛え上げられ洗練されてきたその力は伊達では無いのだ。

三人の重装騎士が盾を退きながら下がると、
ゴートリング三体が『合体』した見るも無残な巨大な肉塊が姿を現した。
とてつもない力で押し潰されており、原型など当然留めていない。

「立って!!さあ!!!」

一人の重装騎士がキリエ達の方へ向き、歌劇場へ進むよう兜を傾けて促す。


キリエ「は、はい!!」

子供達を立ち上がらせ、背中を押して前に進ませ―――。


―――た時だった。



キリエ「―――え?」


グッとキリエの手首を後ろから掴む腕。

ふと振り返ると。

いつのまにか、目と鼻を覆う仮面のようなモノを被ったスーツを着た女が背後に立っており、白い手袋を嵌めた手でキリエの手首を掴んでいた。

まるで降って湧いたかのように現れ、キリエの腕が掴まれるまで誰一人気付かなかった。
キリエも、その傍にいる三人の重装騎士も、周囲にいる他の騎士達も誰一人。

突然の事にキリエを含めた皆が一瞬固まる。


そんな呆然としているキリエに対し、仮面の下に見える口がニコリと不気味に綻んだ。

そして次の瞬間。


キリエ「あッ……あぁあああ!!!!!!」


突如握られている手首に走る、焼かれるような激痛―――。
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:05:29.58 ID:Daptc22o
「―――オオォ!!!!!!!!」


キリエの傍らにいた一人の重装騎士が一気にランスをその女へ向けて突き出す。

音速を超える白銀の突きがキリエの直ぐ横を通り、
女の胸目がけて大気を裂きながら突き進む。

だが女は即座にキリエの手を離し、軽く身を仰け反って軽々とその突きをかわした。

そしてそのまま背後に跳躍し、ひらりと30m程離れた場所に降り立つ。


「チッ―――」


あの服装はどう見てもフォルトゥナのものでは無い。

そもそも今の突きを避ける時点で人間かどうかさえ怪しい。

少なくとも普通の人間ではない。
そして『味方』でもない。

三人の重装騎士は前に瞬時に進み出て、
キリエを守るように大盾を構えて壁を作った。


「キリエ殿!!!」


そして周囲にいた騎士達が一斉に駆け寄っていく。


キリエ「あッ……ッツ!!!!!」


キリエは手首を押さえ、苦悶の表情を浮かべながらその場に蹲っていた。
まるで火で炙られたかのような激痛。

キリエはその苦痛に堪えながらも、その場で即座に自己診断をする。
騎士団付きの修道女の長という身分上、医療については彼女はそれなりに秀でている。

服の袖は焼け焦がれてはいなかった。
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:06:55.68 ID:Daptc22o
悪魔的な力で肉だけ焼かれたか とも一瞬思ったが、
それならば即座に焼け爛れた皮膚と服が癒着して体液が染みてくるはずだ。

体液が染み出てこれない程、すなわち炭化してしまう程焼かれたワケでも無さそうだ。
手首が動く、つまり腱と筋肉が生きてる時点でそれはあり得ない。


物理的に大きな損傷を受けたわけでは無さそうだ。

キリエはそう判断して一気に袖口を捲くる。


すると手首には。


うっすらと赤い『アザ』だけ。


そう、それだけだった。

これ程の痛みに関らず。


キリエ「(………!!!)」


肉体ではなく『中』を直接蝕むような、魔術的な攻撃なのだろうか。

だが彼女が自己診断を続ける事はできなかった。


キリエ「(……あ……れ……?)」


突如視界がぼやける。
そして意識も薄れていく。

まるで睡眠薬でも投与されたかのように。


そしてキリエはその場に倒れこんだ。

彼女の体を揺すり、名前を呼ぶ騎士達の声が響く。

だが彼女には届かなかった。
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:10:29.43 ID:Daptc22o
倒れるキリエ。

それに動揺する騎士達。


だが三人の重装騎士は一切動じずに、盾とランスを構えて『女』をジッと見据えていた。

スーツを着た、仮面を被った女。

アリウスが放った最精鋭の人造悪魔『セクレタリー』だ。


セクレタリーが薄く笑いながらゆらりと両手を広げた。

その手のひらの真下の地面に直径30cm程の魔法陣が浮かび上がる。
そこから出現する二本の曲刀。

女はその曲刀の柄を逆手で握り、両手にそれぞれ納まった。


そして次の瞬間。

女の体から光が溢れ、一気に体の形が変わる。
背中から伸びる一対の大きな翼。

赤黒い羽毛のようなものが全身を多い、手足には鉤爪。
孔雀の羽飾りのようなものが襟首を覆っている。


これを一般人が見たら、本能的な恐怖で一瞬で硬直してしまうだろう。
だが今、周りにいるのはフォルトゥナ騎士。

その力を前にして恐怖していた者はいただろうが、硬直していた者は一人もいなかった。

一般人にとっては恐怖は枷となってしまうが、
戦士にとっての恐怖は更なる闘争心と力を引き出す劇薬だ。


周囲にいた軽装騎士達が一斉に動き、半数はキリエの周囲を固め、
残り半数はセクレタリーを囲むように展開する―――。


それと同時に三人の重装騎士は背中のブースターを展開し、

爆発的な加速をもって一気にランス突撃をかます―――。


―――
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:12:34.78 ID:Daptc22o
―――

フォルトゥナ郊外。

とある丘の上にある半ば崩れかけている古い塔。

その上にアリウスは立っていた。


アリウス「(……『マーキング』は完了したか)」

念話のようなものを介して送られてきた、セクレタリーからの報告を頭の中で確認する。
ターゲットへの『マーキング』は完了した。


これでひとまず失敗は『現時点』では有り得なくなった。

今すぐ兵を退き帰還してもとりあえず問題は無い。
今連れて行くか、後から『呼び寄せるか』の違いであり、後々の結果は同じだ。

『現時点』では だ。


『マーキング』が解析され壊されてしまったら話は別だ。


その点を考えると、やはり今ここで連れて行った方が確かだろう。
だがその一方でここには長居はしたくない。

ここにいればいるほど、死の危険性が高まる。

時間もかなり押している。
フォルトゥナ制圧も長引くどころか最早押し返され始めている。

ここから離脱する際は追跡を防ぐ為の作業、その為の時間が必要だ。

あまりギリギリまでここにいてその作業の時間が無くなってしまうと、
後々こちらの本拠の場所も特定される可能性があるのだ。
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:13:17.90 ID:Daptc22o
アリウス「(―――)」


―――とその時。


思索に耽っていたアリウスは妙な違和感を感じた。
それはコートに入れている水晶。

人造悪魔や、配下の兵達を操る際に使う霊装から。

何かが猛烈な速度でフォルトゥナへ接近してきている。

ネロでは無い。

あの男程ならこんな霊装を介しなくても存在がわかる。


アリウス「(これは―――)」



その『何者』か。


アリウスには覚えがあった。


いや、『知っている』。


その力の性質、体組織、脳の神経細胞のネットワーク構造まで全て『知っている』。


何もかもをだ。



アリウス「お前―――なのか?」



―――
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:16:10.81 ID:Daptc22o
―――


それは一瞬だった。

突撃した三人の重装騎士。
そのランスは空を切った。


そして同時に切り裂かれていく―――。


―――重装騎士の喉。


セクレタリーはとてつもない速度で、すれ違いざまに騎士達の喉下に刃を滑り込ませていく。

兜と胸当ての間、首を覆っているうろこ状の帷子が抉られる。

ゴポッと液体が溢れるような音と共に、その穿たれた隙間から吹き出す赤い液体。

そして轟音を響かせながら倒れこむ重装騎士。



重装騎士とセクレタリーの実力差は、総合的に見ればそれ程無い。

だがパワーと防御力特化の重装騎士にとっては、
この目の前のスピード特化タイプの戦い方をするセクレタリーはあまりにも相性が悪かった。

いくら防御力に特化してるとはいえ、
防御が弱い関節部や甲冑の隙間を圧倒的な速度でピンポイントで狙われたらどうしようもないのだ。

ネロのレッドクイーンの剣撃にもそれなりに耐えられる、この頑丈すぎる大盾もこんな相手には『使いよう』が無い。


その光景を見て、鬨の声を上げて突撃する周囲の軽装騎士達。
精鋭で構成される重装騎士すら見えなかったほどの攻撃。

一般の騎士達がどうこうできるわけが無かった。


次々と。


正確に喉だけ切り裂かれていく。
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:19:59.47 ID:Daptc22o
「―――!!!!おい!!キリエ殿を!!!」

キリエの傍にいた年長の騎士が横にいた若い騎士に、
気を失ったキリエを歌劇場の中に運ぶよう促す。

若い騎士はキリエを抱き上げ、歌劇場の方へ駆け出していった。
そして残った数人の騎士は正面を向き、剣を構えたその瞬間―――。


後方、先程若い騎士がかけていった咆哮から、「げあ」っとまるで獣の発したような短い奇妙な声。


その声に残った騎士達が振り向くと。


後方20m程の場所。

キリエを抱きかかえていた若い騎士の首が半分切断されていた。

血を噴き上げその場にどっと倒れこむ若い騎士。
力なく転げ落ちるキリエの体。



そしてその傍に立っている―――



―――二体のセクレタリー。




「……!!!!」

騎士達は絶望に打ちひしがれる。

今、目の前に一体。

そして後方に二体。


重装騎士を含む一部隊丸々を一瞬で壊滅させた化物が三体。
170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:23:53.05 ID:Daptc22o
「―――反吐が出る!!!最悪だぜチクショウが!!!!!」

一人の若い騎士が剣を構え、イクシードを噴かしながら悪態を付く。

「ああ!!まだクソ溜めの方がマシかもしれねえ!!!」

それにもう一人の若い騎士が同じような口調で言葉を返す。
こんな口調、数年前に教団が倒れるまで許されてなかったのだが、

あの争乱以来、ネロの元で再興した騎士団に新しく加わった若者達は、
粗野な口調、指輪などのアクセサリー、奇抜な私服、改造した戦闘服や剣等を装備するなどかなりネロに感化されていた。

表面上少々俗っぽくなったとはいえ、
代々受け継がれてきた騎士としての信念と誇りは一切揺らいでいないが。

それに、英雄でありフォルトゥナ人にとって現人神でもあるネロの真似をするという行為が、
このような絶体絶命の場においても若い騎士達に勇気を与え奮い立たせる。


「黙れ。『死ぬ時』ぐらい私語を慎め馬鹿者」


年長の騎士が若者達の戯言を制す。


先程首を切られた若い騎士の横に転がっているキリエ。

その彼女の体に、一体のセクレタリーがスッと手を伸ばした。

それを見て。


 ス ハ ゚ー ダ
「我等が主の御名の下に」

年長の騎士が祈りの言葉を発し一気に駆け出す。


 ネ  ロ
「我等が長の為に」


英雄であり長である現人神への忠誠の言葉を発し、それに続く若い騎士達。
騎士達は一斉にキリエに手を伸ばしたセクレタリーへ突撃する。

他の二体になど目もくれず。

それと同時にそのセクレタリーの横にいたもう一体が両手の曲刀をクルリと軽く回し、
身を屈めて突き進んでくる。
171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:27:36.90 ID:Daptc22o
―――とその時。


死を引き換えにしてキリエを守ろうとした騎士達の目の前の空間に走る、金色の筋。

続けて響く甲高い金属音。

「―――」

騎士達は一瞬、己が切断されたと思った。

だが切断されたのは彼らではなかった。



目を丸くしている騎士達の目の前に転げ落ちてきた―――



―――こちらに向かってきていたセクレタリーの『頭』。


騎士達は驚き慌てて止まる。


こちらに向けて突進してきた慣性のまま倒れこむ首無しのセクレタリーの体。



その倒れた体の背後から姿を現す―――。



低い身長に不釣合いな程に長い曲刀を両手に持った―――。



燃えるような赤い髪と褐色の肌をした―――。



―――幼い少女。



―――
172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:29:40.88 ID:Daptc22o
―――


アリウス「(―――『χ』―――か)」

アリウスは崩れかかった塔の上から、黒煙が吹き上がるフォルトゥナの街を食い入るように見つめていた。

ウィンザーの戦いの後、捕縛され処分されたと思っていたあの『傑作品』がなぜここに、そして敵として現れるのか。


アリウス「(小癪な真似を。出来損無いが―――)」


アリウスは顔に手を当て、魔界魔術で顔面の皮膚を変形させる。

古代ギリシャ風のフルフェイスマスクのように。


アリウスは現地に向かう気だった。
できるだけ己自身の痕跡を残さないように今回は直接手を下さないつもりだったが。



アリウス「(ガラクダめが。引導を渡してやる―――この手でな)」



生みの親に対する反逆にアリウスは憤怒していた。


―――そんな怒りも直ぐに冷めてしまうのだが―――。



アリウス「―――」


陣を構築してあの場に『飛ぼう』と思った瞬間。



ぞわりと全身の毛が逆立つような凄まじい悪寒がアリウスを襲う―――。
173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:35:14.74 ID:Daptc22o
アリウスはすぐに感じ取った。

その圧倒的すぎる殺意と恐ろしいまでの憤怒が―――。


―――己に向いていると。


『これ』を味わうのは二度目だ。

最早説明はいらないだろう。


次の瞬間。


西向こう、フォルトゥナ港の遥か沖に広がる水平線。


そこに突如ぶち上がる―――。



まるで水爆実験でもしたかのような―――。



―――『青』と『赤』の閃光が迸っている―――。



―――有に高さ2km以上はあろう巨大すぎる水柱。


アリウスの表情が凍る。

遂にやってきたのだ。



『破壊』の申し子が―――。



―――これ以上無い程の憤怒と殺意を抱えて。



―――
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:42:02.75 ID:Daptc22o
―――

眩い青い閃光。
音が消え、一瞬大きな衝撃が鎖骨辺りに走ったと思った直後に体の感触も消える。

トリッシュ『(……あ)』

そしてしばらくの後に閃光が収まり彼女の目に映る一人の怪物。

目の前の魔人化しているバージル。

振り下ろした閻魔刀を小さく振るい、体の横に引いている。


今だ聴覚や体の感触等はは戻ってこない。
トリッシュの五感で機能しているのは視覚だけのようだ。


トリッシュ『(やっぱり……強いわね)』


思えば、スパーダの一族とまともにやりあったのは初めてだ。

大悪魔の中でもトップクラスの実力と頭脳を誇るトリッシュ。
その力を魔帝に買われ魔帝軍の将にも上り詰めた。

その力は魔界において一国の主となり、諸王の一人として名を連ねていてもおかしくないレベルだ。
そんな物に興味が無かったトリッシュは国どころかまともな部下さえ持ったことが無かったが。

それ程の力を有している己でさえ、この目の前のスパーダの息子には手も足も出ない。


いや、魔人化状態のバージルを相手にして一撃で即死しなかっただけで御の字だろう。

通常時のバージルに一振りで瞬殺された大悪魔も数え切れない程いるのだ。

魔人化させて、さらにその本気の刃を数撃耐えたとなればかなり健闘した方だ。
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:44:12.70 ID:Daptc22o
トリッシュ『(ま、上々ね。……………?)』


―――と、ふと気付くと。


目の前のバージルは閻魔刀を鞘に納めていた。
そして続けて魔人化を解き人間の姿に戻った。


トリッシュ『(何してるのよ?私はまだ立ってるわよ?)』


と言おうとしたが、口が思うように開かない。
いや、体の感覚も無く、聴覚も無い為言葉を発せているかどうかすらわからない。


バージルはトリッシュを冷たい瞳でしばし見つめる。
その後、突如コートをなびかせて彼女に背を向け、どこかへと向かって歩き始めていった。


トリッシュ『(待……)』


トリッシュ『(……とにかく……チャンスね)』

そのバージルの無防備の背中を見て頭の中でほくそ笑む。

トリッシュ『(……一滴ぐらい血流させな……いと気がすま……ないわね)』


跳躍し、この残った左手の刃と魔弾を叩き込む。


―――そう考え体を動かそうとしたが。


トリッシュ『(―――あら……)』


突如揺れて高度が低くなる視界。

ガクンと。


『まるで』己の体が膝から崩れ落ちたかのような『映像』―――。
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/26(土) 00:44:41.42 ID:ux2j0Sk0
マティエさんロリルシア解き放ったのか……
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:46:21.71 ID:Daptc22o
トリッシュ『(ああ―――)』


『映像』が下を向く。


『真紅』の『水溜り』に膝をついている己の体。


トリッシュ『(―――そういうこと……ね)』


右の鎖骨から左のわき腹へ向けて斜めに走っている筋。
その筋からとめどなく溢れ出て、膝下の水溜りを拡大させていくこれまた『真紅』の液体。


トリッシュ『(…………綺麗……ね)』


その美しい『赤』の滝を、薄れ行く意識の中ぼんやりと眺めるトリッシュ。


―――『真紅』の。



―――美しい『赤』の。



―――これ以上無いくらいの完璧な『赤』を。
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/26(土) 00:51:47.71 ID:Daptc22o
トリッシュ『(ふふ、これじゃあまるで―――)』


そしてぐらりと揺れる視野。
重力に従い大きく前へ傾く彼女の体。
眼下に迫る瓦礫の地面。


トリッシュ『(―――ダンテ……ね……………………)』


そして地に力なく伏せた。
その瞬間、彼女の体から無数の金の羽がふわりと舞い上がった。


トリッシュ「(…………眠い…………わね…………)」


その姿は『生粋の悪魔』としてのモノではなく―――。


―――『人間』の姿。



トリッシュ「(…………お………やす…………み………なさ………い…………)」


彼女の深層心理がそうさせたのだ。



『ダンテの相棒』―――。



―――『トリッシュ』の姿に。



トリッシュ「(……………………ダ………………ン……………………)」



幻想的な羽の『舞』の中、横たわっている彼女の顔。


それは『本当』に眠っているかのように穏やかな表情だった。


―――
179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 00:52:36.29 ID:Daptc22o
今日はここまでです。
次は日曜か月曜の夜中に。
180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 01:00:25.44 ID:/g0SaHIo
ああトリッシュ…
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 01:02:51.52 ID:3421Jd.0
トリイイイイイイイイイイッシュ!!!!!!!!
182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/26(土) 01:05:41.05 ID:ux2j0Sk0
神裂、五和、インデックス、上条、一方、そしてトリッシュ……大丈夫かよ……
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 08:26:47.45 ID:y.wTsJo0
お疲れ様でした

バージルの容姿は今どうなってるのだろうか。4のダンテみたくナイスミドル?
184 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 09:11:09.52 ID:XgpuP2DO
その力を魔帝に買われ?
トリッシュって魔帝がダンテを呼び寄せる為に創ったんじゃなかったか?
185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 13:01:02.18 ID:Daptc22o
>>184
その通りです。
原作ではトリッシュが魔帝に創られた時期は1の直前です。
実際はダンテよりもかなり若く、4の時点でピチピチの10代です。

ですがこのSSでは、本編と世界観を練っていた時にその点をすっぽり失念していた為、
というかどこをどう間違ったのか、
『魔帝に創造された』のではなくダンテママの姿に『改造された』と思い込んでいた為です。

それで『普通の魔界生まれの2000歳以上の古参悪魔』 という設定にしてしまいました。

自分の完全なミスが元となった完璧オリです。
すみません。
186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 13:14:03.84 ID:iwHOO1w0
それでも面白いし、破綻してないから全然おk
187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 13:35:37.38 ID:klcfzJQo
SS書いてる人はDMCシリーズ全部プレイしてないのwwwwwwww
188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 17:30:52.39 ID:2JfTjUDO
>>187

うっせー[ピーーー]
189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 20:12:36.03 ID:2i0F7QDO
やってないとは言ってないような
190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 00:03:17.46 ID:040sCMko
そういやこのSS他の右席メンバーでてこないな
アックアさんとか公式で天使レベルの強さみたいだがこのSSの世界ではどれくらい強いんだろ?
191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 02:27:49.32 ID:o/n.AIo0
フィアンマより強いとは思えないからなあ…
192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/27(日) 03:02:49.47 ID:P9T78Dg0
トリ姐さんが・・・・
193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 00:25:57.31 ID:lVmTEXMo
―――

学園都市。
第七学区。

学区全域がほぼ封鎖され、中央部には人影はなかった。
街頭が無人の街を淡く照らす。

そのとある路上に立っている、スーツを着た精悍な顔立ちの一人の少年。

海原。

だがその姿は偽りの物。

その皮の下の素顔は。

原典を所持し、その凄まじい苦痛に絶えながらも着々と己の中へ取り込んでいき、
『魔神』へと少しずつ近付いていく若きアステカ魔術師、『エツァリ』。


彼は今、帯状の原典を引き出し道路の中央に仁王立ちしていた。

その視線の先。

600m程前方の場所。

連なるビルの陰に隠れている、麦野沈利が向かっていった『怪物の餌場』。

そこが彼の目的の場所でもあったのだが。

こんな所で立ち止まらずに進むべきなのだが。


彼は動かなかった。


脇のホルダーから引き出された帯状の原典の端を持ち、
目を大きく見開きながら前を見据えていた。
194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 00:33:20.55 ID:lVmTEXMo
視線の先、闇が覆い尽くしている道。
街頭があるにもかかわらず不自然なほどに見通しが利かない『闇』。

その奥から押し寄せてくる強烈な威圧感の塊。

ゆっくりと。
徐々に近付いてくる。

海原「……」

手にある原典の『叫び』が寄り一層強くなる。

この充満する凄まじい力によって強引に共鳴させられてしまっているのか、
それとも規格外の存在を前にして恐怖しているのか。

原典のその悲鳴のような叫びと思念が彼の精神の中に雪崩れ込んでくる。

海原「……」

だがその声が突如ピタリと止む。

苦痛の臨界点を越え、フッと意識を失ってしまったかのように。

その『理由』はわからないが、『原因』は考えなくてもわかる。

なぜなら。

海原「……」

遂に視界に捉えたからだ。

視線の先、40m程の場所。

闇の中、街頭が落とす灯火の中に姿を現した―――。


―――怪物を。


海原を真っ直ぐに見据え、ゆっくりと歩を進めてくる―――。


―――バージルを。
195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 00:35:56.76 ID:lVmTEXMo
海原は腕を振るいながら大きく広げた。
原典が大きく伸び、ふわりと海原の周囲に浮かび上がる。

彼はほとんど無心だった。

体が勝手に動いているような感覚だ。

バージルを見た原典の『防衛反応』に体が乗っ取られたのかもしれない。

彼は機械のように黙々と頭の中で術式を組み上げていく。

魔力を精製し、原典の力を組み込み、天界の力『テレズマ』を引き出す。


                            トラウィスカルパンテクトリ
海原「愚かにも太陽に挑み敗れし『明 け の 明 星』」


海原「己が矛で額を貫かれ、身を変じ―――」


海原「―――『光』は『霜』に」



海原「―――『矛』は『風』に」




       イ ツ ラ コ リ ウ キ
海原「『すべてを寒さにより曲げし者』」
196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/28(月) 00:36:24.00 ID:V1tgTkc0
きてた
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 00:43:06.85 ID:lVmTEXMo
詠唱が終わった直後。

海原の体を囲むように浮かんでいた原典が『透き通っていく』。

薄く、青白く。


『氷』のように。

そして突如、粉状に細かく砕け周囲に飛び散った。

その一拍後。


周囲の道路、路上に止めてある車、両脇のビル、その全てが一瞬にして凍結する。


超低温の『波』はバージルの元にも達し―――。


            ヨワリ・エエカトル
海原「―――『夜 の 風』」



次の瞬間。

凄まじい爆風が海原から放たれ、凍結した街を薙ぎ払い―――。



―――何もかもを砕いていく。



きらめくダイヤモンドダストの幻想的で美しい『舞』。


全てを凍らせ粉砕する破壊的な『刃と槌』。


その極端な二面性を持つ猛吹雪が、一帯を猛烈な勢いで吹き抜けて行く―――。


―――
198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 00:50:04.85 ID:lVmTEXMo
―――

学園都市第七学区。

その一画の空を突き進み、猛烈な速度で地上に落下してくる白銀の『彗星』。

上条当麻。

ビルを貫通、そのまま道路に激突し直径15m程の穴を穿ちようやく止まる。


上条『……がッ……あぁぁッ……!!』

瓦礫を払い、クレーターの中央でふらりと立ち上がり今しがた飛んで着た方向に目を向ける。

先程まで青い閃光が迸っていたあの場所。
今は既に光が収まっており、重く圧し掛かる闇が覆っていた。


上条の脳裏に焼きついている、穏やかなトリッシュの笑み。
血を吐き、右手と片翼を失っても尚苦痛の色など一片も見せなかった強い強い戦士。


上条『……あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!!!!』

上条は腹の底からの方向を上げ、左手を振り上げて地面に打ち下ろす。

何度も。

何度も。

このやり場の無い思いを吐き出す為に。
そして己を奮い立たせる為に。

ベオウルフを模った、白い光の篭手に包まれている彼の左拳が瓦礫を粉砕し、
アスファルトの道路を更に割り裂いていく。
199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 00:59:19.48 ID:lVmTEXMo
上条『ハァッ―――行くぞ!!!!何やってんだよクソッタレが!!!!』



上条『―――行くぞオラァアアアアアア!!!!!!』



そして顔を上げ自身へ向けて言霊を叩きつける。


彼女は哀しみ弔ってもらう為に上条の身代わりになったわけでは無い。
上条を彼自身の戦いの場に送り出す為に身代わりになったのだ。


こんなところで喪失感に打ちひしがれている場合ではないのだ。

モタモタしていれば―――。


―――確実に『追いつかれる』。



とその時。


上条『ハァ―――』


息を大きく吐き、道向こうへと視線を向けた彼の目に映る見慣れた姿。

金髪にサングラス。

大きくはだけた学ランから見えるアロハシャツ。
更にその下に見える屈強な胸。



上条『―――……土……御門?』
200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 01:09:46.41 ID:lVmTEXMo
土御門「久しぶりだにゃーかみやん。いや、今は『ベオやん』モードかにゃー?」


ニヤニヤとした緊張感の無い顔で、
ひらひらと手を振りながら上条の方に近づいてくる土御門。


上条『お前……何でこんなt』

土御門「ベオやんと同じ目的だぜよ」

土御門が上条の問いを先読みして答える。


上条『同じ………』


同じ目的。
この親友もまた上条と同じく、
インデックスと一方通行の下に行こうとしているのだ。


土御門「……大丈夫か?かなり顔色悪いぜよ?」

焦燥しきった上条の表情を見て、
土御門が一瞬にして纏っている空気を切り替え真剣な口調。


土御門「―――何があった?」


だが上条はその問いには答えず。


上条『……土御門。お前は早くここから離れろ』


上条『離れてくれ。頼む』
201 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 01:12:02.48 ID:lVmTEXMo
土御門「……」

上条の言葉。
彼がどう考えてその言葉を発したのか。

上条の思考回路は単純だ。
親友として彼を逐一見てきた土御門には手に取るようにわかる。


土御門「……まあそう言うだろうと思ってたぜよ。かみやん」

土御門は軽く頭を掻き、苦笑いしながら独り言のように呟いた。


土御門「(俺は役に立たねえってか……)」

彼も自覚している。
この第七学区にて戦っている、
もしくは戦おうとしている面子の中で自分だけがあまりにも『小さ』すぎる。

己自身でも場違いに感じてしまう程に。

まるで取っ組み合いの殺し合いをする、
ライオンやトラが詰め込まれている檻に踏み入ってしまった赤子のようだ。


上条『頼む!!!早く逃げてくれ!!!!』


上条が土御門の両肩を強く掴み、彼の顔を赤く光る瞳で真っ直ぐに見つめる。


土御門「……」

幻想殺しの右手と違い、莫大な悪魔の力が宿っている左手。
その悪魔の手に握られている部分が焼けるような感覚。

上条はかなり力を抑えて土御門を掴んでいるのだろう。

だがそれでさえ一介の生身の人間、土御門にとっては抗いようの無い程の力。


土御門「(痛いな……)」


その痛みが、この親友とのかけ離れた力の差をより鮮明に浮き彫りにさせる。

この『戦場』では己はただのムシケラだ と。
202 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 01:28:26.20 ID:lVmTEXMo
上条『時間がねえ!!!約束してくれ!!!』

土御門「…………」

上条が土御門の肩を強く揺さぶり詰め寄る。

彼は悪魔の感覚で『何か』を感じているのだろう。

『何か』が迫ってきていることを。

土御門「…………」

その時。

上条の背後から響いてくる轟音。
そして800m程離れたところで吹き上がる『白銀』の粉塵。

小さなガラスの粒子が大量に飛び散っているかのように無数のきらめきを帯びている。


上条『―――!!!!』


土御門「(……海原……か)」


海原が向かって行った方向だ。
彼が原典の支援を受けて大規模な魔術を行使したのだろう。

迫ってきている『何か』と出合って。



上条『―――なあ!!!土御門ォ!!!!』



土御門「―――はは、わかったにゃー」


土御門「化物は化物同士でやってくれ。パンピーはここで降りるぜよ」
203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 01:30:05.97 ID:lVmTEXMo
上条『よし!!!急げよ!!!』

その言葉を聞き上条は頷き、軽く土御門の肩を叩いた後、
一気に跳躍して街の中へ消えていった。

ビルの向こう、黒煙が立ち昇り地響きが伝わってくる方向へ。


土御門「ふーッ……」


土御門は小さく息を吐き。


土御門「すまんなかみやん、今のは―――」


届かぬ謝罪の言葉を発した。


土御門「―――『嘘』だぜよ」


サングラスを軽く下ろし、上条が駆けていった方向、
そしてその先にそそり立っている黒煙を上目遣いで睨み上げた。


土御門「その思いやりは嬉しいがよ、かみやん―――」


土御門「―――やれと言われたらそれと正反対の事をしたくなるのが『人間』の性分ってやつだぜよ!!」


そしてその方向へ駆けて行く。

一足で軽々と数十メートルを跳ねて行く上条とは違う、小さな小さな歩幅。

だがその踏みしめる覚悟の大きさは負けない。

確実に、そして迷い無く土御門は進んで行った。


怪物達の戦場へ向けて。


―――
204 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 01:35:27.98 ID:lVmTEXMo
―――


―――どれ程の時間がたっただろうか。


奇妙な浮遊感。

どこまでもどこまで落ちて行く様な。

そして『薄まって』いく体。

空気中に溶け込んでいく感覚。


自分が『世界』そのものと融合するような。


「(…………面白いわねコレ)」


初めての感覚に、彼女の強い『好奇心』が刺激される。


「(どうなってるのかしらコレ……)」


たった『一度』。

この気を逃すともう調べられないだろう。


「(…………たった一度?)」


そこでふと疑問が湧く。

なぜたった一度なのだ? と。
なぜ自分はそう『知っている』? と。

「(…………ああ、そういえばそうだったわね)」

しばらく考え込んで、己がどうしてこうなったかをようやく思い出す。
どうやら精神が薄れ、記憶そのものも徐々に消え始めてきているようだった。
205 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 01:37:06.25 ID:lVmTEXMo
「(これじゃあまた忘れるわね…………いや、『消えちゃう』わね)」

そう、これから自分は消えていくのだ。

大きく割れた『器』は治らずにそのまま朽ち果て、溢れ出た力と魂の残骸はその故郷の『源』へと還る。
彼女の場合は『魔界の深淵』に。

そこで溶け合い薄れて広がり、
そして魔界のどこかで新たに生まれてくる者の礎となり、力となる。

その後はまた闘争の―――………。


これからの事象をそうやって考えていたのだが。


「(あら…………)」


考えが続かない。
記憶が無くなっていく。

「(…………)」

長年かけて蓄積してきた知識が消えていく。


そして。


「(そういえば……私は誰?)」


名前すら『無く』なり。


「(私って何?)」


自己認識そのものが薄れていく―――。


「(…………)」


だが―――。
206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 01:41:15.94 ID:lVmTEXMo
「(…………あ)」


たった一つ。

たった一つだけ最期まで消えない記憶があった。


『赤』の記憶。


まるで大きな音を絶え間なく打ち鳴らしているような、

余りにも騒々しく『自己主張』が激しい『赤』。


その賑やかな『色』が―――。


「(本当にうるさいわね……)」


薄れ行くこの静かな『調和』を一気にぶち壊していく。


「(……これからお楽しみってところだったのに)」


最後の探求の山場を『お預け』にされ、不満を呟くがその一方で。



「(…………でも……良かったわ……)」



嬉しかった。


この『記憶』だけは消えて欲しくなかったからだ。
207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 01:43:46.11 ID:lVmTEXMo
『赤』の声が聞こえる。


「(―――ふふ、私がいないとつまんないって?)」


その声に言葉を返す。


「(そうね……私も―――)」





「(―――アナタがいないとつまんないかも)」





「(ええ、気が変わったわ)」


   コレ
「(『死』を調べるのはまた今度にするわ)」




―――そして意識を開き、『赤』に精神を委ねた瞬間。


『体』の感覚など既に消えていたのだが―――。


『掴まれる手首』など最早無かったはずなのだが。


―――突如『手首』が握られた。


―――その大きくて逞しい『手』に。
208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 01:47:22.86 ID:lVmTEXMo
その『手』は落ち行きつつあった『彼女』を乱暴に引き上げていく。

彼女を薄めていく『現象』そのものを強引に、力ずくで拒絶しながら。

それは余りにも馬鹿馬鹿しく、常識ハズレの『手』。


「(本当にアナタって人は―――)」


上へ上へと。


「(―――私がいないとどうしようもないのかしらね)」


このまどろみの世界の『水面』へと向かって彼女を引き上げていく。


そして。


彼女の意識は現実へと、器へと引き戻され『覚醒』する。


「(…………………………)」


戻る全身の感覚。
腕と胸の激痛。

ゴツゴツした地面の触感。


そしてこの感じなれた『感覚』。

そしてこの嗅ぎなれた『匂い』。


「(…………………本当に来た……の?)」


彼女は目をゆっくりと開く。

てっきり己が対話していた相手は、己自信の中にある『記憶』だと思っていたのだが。


彼『自身』、『本物』が実際に傍にいるような気がする。


この場に。
209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/28(月) 01:49:10.53 ID:lVmTEXMo
「…………………………ダン……テ?」


そして彼女は口を開いた。

今度ははっきりと聞こえる声を伴って。


傍にいるであろう人物に向けて。


だが。


彼女の目に映った人物は、その名の者とは別人だった。

倒れている彼女の傍らに立っていた者。

栗色のウェーブがかかった長い髪。スタイルの良い体。
だが左手と右目が無く、そこから青白い光を放っている女。


残った右手に輝くアラストルを握っている―――。


―――胸元が『赤く』光っている『若い女』。



『赤く』。



まるで―――。



―――ダンテのように。


―――
210 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 01:49:56.45 ID:lVmTEXMo
今日はここまでせす。
次は火曜か水曜の夜中に。
211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 01:50:57.31 ID:TUvcoI.o
イングランド乙
212 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/28(月) 01:55:31.51 ID:V1tgTkc0
おっつおっつ
213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/28(月) 02:32:05.88 ID:Q3lQFTc0
(´ω`)ゞ乙です!
214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/29(火) 01:28:20.61 ID:T3sqv8M0
おっつー


うおぉ、トリッシュ姐さん…?Σ( ´;ω;`)
215 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/29(火) 19:36:36.96 ID:QPXwIK6o
>>1はちゃんと投下期日守っているから好き
216 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/29(火) 20:02:09.39 ID:lDoAAcAO
書き溜めなしの投下予告なのに、ほぼ完全に予告通りの日時に来るからすげーよな。
デビルハンターとして生計を立ててるのにこの安定感は異常。
217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/29(火) 23:53:27.27 ID:A8wKXcgo
―――

聖ジョージ大聖堂。

薄暗い質素な一室。

誰もいない室内を、淡い蝋燭の光がゆらゆらと寂しそうに照らしている。


そんな静かな部屋の中を突如照らす金色の光。

部屋の中央に浮かび上がる魔法陣。

そこから大量の金髪が蠢きながら伸び、そして続けて姿を現す―――。


ボロボロで、今にも倒れそうな疲れ切っているステイルと。


ケロッとして、あどけなさが残る笑顔を浮かべているローラ。


ローラ『いーま帰りたるぞー』


ステイル「く……は……」

ステイルがふらつく足取りで進み、近くの小さな机に寄りかかる。


ローラ『ま〜ったく情け無きね。私よりも500年近く若き身でありける癖に』

ローラは長い金髪を纏め上げながら、
そんなステイルに向けて小馬鹿にするように声を飛ばした。
218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/29(火) 23:59:10.64 ID:A8wKXcgo
ステイル「……戯言はもういい。さっさと……話せ」

ローラ『ふふん、さてさて何かしら?さっぱり思い当たらぬわ』

ローラは小さく笑いながら金髪を纏め上げ、髪留めをつけようと
両手を頭の後ろに回す。

ステイル「と……ぼけるな……何だ『ソレ』は?」

ローラ『うん?「ソレ」とは―――』


ローラはふと手を止め。


ローラ『―――「コレ」のことでありけるか?』


頭の後ろに手を回した姿勢のまま突如大きく身を乗り出し、ステイルに思いっきり顔を近づけた。

覗き込むように。
鼻先同士が触れてしまいそうな程近くまで。


ステイル「―――!!!!!!!!」

ふわりと漂ってくる甘い香り。
そう、インデックスと同じ香り。

目の前のインデックスと重なる美しい魅力的な顔。

その下の透き通るような白い肌の首。

そして得体の知れない妖艶な空気。


何もかもが、インデックスに想いを寄せているステイルにとっては刺激が強すぎた。
219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:02:46.14 ID:47UpYJEo
ステイル「ふッ……!!!ふざけるな!!!!!」

ステイルは上半身を大きく引き、慌ててローラから目を逸らす。


ローラ『ふっふーん、所詮小童。まぁーだまだでありけるわねっ!』


得意げな笑みを浮かべながら身を起こし、クルクルとそのばで回る。

留めようと纏め上げていた髪も、腕を下ろしてしまったため再び広がりカーテンのようにふわりとなびく。


ローラ『―――どうだ?惚れたか?』


ステイル「だ、だま―――」


ローラ『―――いや、「私」にもう何年も前から惚れておったな。すまんすまん』


ステイル「ふざけた事を…………………………何?」


今、ローラは『私に』と言った。

普段なら 何を自惚れたことを と一蹴して済む戯言なのだが。


だが『今』はそれで済ます事ができなかった。
220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:07:52.41 ID:47UpYJEo
インデックスとローラ。
この得体の知れない関係性。

ステイル「……」

ローラは何を指して『私』と言ったのだろうか。

ステイルがインデックスにホの字なのはローラも知っている。


これもいつものくだらない冗談の一つなのか―――?


それとも―――。



何かの『真実』を踏まえて『私』と言ったのか―――?



ステイル「……インデッk―――」

ステイルがその疑問点を問いただそうとした時だった。


ローラ『―――む……ぐ……』


軽やかに跳ねていたローラの足元が突如ふらめき―――。



―――力が抜けたように彼女の体が崩れ落ちた。
221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:15:12.81 ID:47UpYJEo
ステイル「―――」

ステイルは無意識の内に咄嗟に身を乗り出し、
倒れこむ彼女の体を膝の上に抱きかかえるようして支えていた。

何も考えずに体が動いてしまったのだ。

まるでインデックスを守る時のように。


腕の中のこの女。

イギリス清教のトップ、ローラ=スチュアート。

頭ではそうわかっていても。
体が、そして心の奥底はインデックスと認識してしまっているのだ。


ステイル「―――!」


腕の中のローラは少し苦しそうな表情を浮かべていた。
こんな顔は今まで見た事が無かった。

困った顔も、焦っている顔も知ってる。

だが苦痛を出している表情など。


ステイル「―――おい!!!大丈夫か?!」
222 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:18:54.30 ID:47UpYJEo
ローラ『ふーっ……500年ぶりとならば……さすがに応えしものがありけるわね……』

ステイルの腕の中で、ローラは天井をぼんやりと仰ぎながら独り言のように口を開いた。

500年振りの力の大規模行使。
更に、とある理由で『核』が『この身』には無いため負担も倍増だ。

そして受け止めたジャンヌの一撃が何よりも効いた。

あの『英雄』にとっては何気ない一撃だったろうが。

それでもローラにとっては一発耐えるのが限界だった。

もう一撃叩き込まれていたらこの『髪』は、彼女のウィケッドウィーブは容易く貫かれていただろう。


ローラ『……』


ステイル「……おい?!」

ぼんやりとしていたローラの顔を、ステイルが少しぎこちなくも覗き込む。


ローラ『む、心配するな。転んだだけでありけるのよ。それよりも―――』


ローラ『―――いつまでそうしたるつもりだ?』


ローラは僅かに出してしまった表情の陰りを即座に引っ込め、
ジトっとした目つきでステイルを見上げた。
223 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:25:37.53 ID:47UpYJEo
ステイル「!!!!」

ステイルが慌てたように身を引く。

同時にローラがひょいと立ち上がり。


ローラ『お触りは許して無きよ。こーのスケベ童』


ちっちっちっと右手の人差し指を小さく振った。


ステイル「うっ……!!!!だ、黙れ!!!人が心配してやっt!!!」


その時だった。

壁際に置いてある、手鏡型の通信霊装が突如光り始めた。


ローラ『む……』


ローラがそちらの方を見もせずに、右手を伸ばした。

すると金髪の人房が伸び、手鏡に巻きつき持ち上げ、そのまま彼女の右手へと運んだ。


ローラ『どうしたる?』

ローラが手鏡を顔の前に運び、口を開いた。

ステイル「…………」

盗み聞き防止の為の術式が組み込まれているのか、
相手の声はステイルには聞こえなかった。


ローラはふむふむと小さく相槌を打つ。

そしてその表情が徐々に。


―――険しくなっていく。
224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:26:55.21 ID:47UpYJEo
ステイル「…………な……?」

その時、ステイルはとある事に気付いた。

ローラは今、彼に背を向けて大きめの手鏡と話し込んでいる。
ちょうどステイルから鏡面が見える。


その鏡に映りこんでいる景色。

この部屋の中小さな机に腰掛けているステイル。


それだけだった。


鏡に大きく映りこむはずのローラの姿が鏡面には無い。


ステイル「(……どうなってる?……お前は一体……何者なんだ?)」


そうやってしばし考え込んでいると。

話し終えたのか、ローラがポイっと手鏡を近くの椅子の上に放り投げ。



ローラ『―――ステイル』



彼の名を呼んだ。

静かに、それでいて重い威厳のある声で。
225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:28:46.50 ID:47UpYJEo
ローラ『―――話は後に。今はそれどころでは無きよ』


ローラの醸し出す空気の質が変わった。

おちゃらけた色は影を潜めている。


ステイル「―――何か問題でもありましたか?」


ステイルもその空気に合わせ、即座に『部下』の顔に戻る。


ローラ『うむ。任を申し渡す』


ローラがゆっくりとステイルの方へと振り向き。


ローラ『学園都市にて禁書目録を保護しろ』


ステイル「―――!!!!」


ローラ『襲撃者は神の右席、右方のフィアンマ』


ローラ『今は護衛のレベル5第一位と交戦中 とのことでありけるのよ』


ステイル「―――く、クソ!!!!」

ステイルは机から即座に腰を挙げ、扉へと向かおうとしたが。


ローラ『待てい。その醜態で行っても足手まといになりけるわ』


ステイル「な、何?!!」
226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:30:23.87 ID:47UpYJEo
彼はこの上司の言葉の矛盾に困惑する。
学園都市に行って守れと言って置きながら、お前は役に立たないとは。


ローラ『―――だから私がサポートしたるわ』


ローラがにやりと笑い、両手を広げる。
それに連動するかのように大量の金髪が波打ち―――。


ステイル「お、おおお?!!!」

ステイルの体に巻きついていく。


ローラ『それとこのまま向こうに送りたるわ』


ローラ『本当は私が直で行きたきなのだけれども―――』


ローラ『―――もう一回あんな無茶したれば次こそ確実に死にたるからな』


ステイル「ま、待て!!お、おい!!一体……!!」


ローラ『黙れ。さっさと「契り」を交わしたるぞ』



ステイル「ち、契り……?!!!」



ローラ『うむ。「使い魔」のな』


―――
227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:31:39.39 ID:47UpYJEo
―――

遡ること少し前。

深い縦穴。

その底に彼は突っ伏していた。
大きく捻じ曲がった複数の黒い杭を背中から伸ばしながら。

とてつもない衝撃を受けたせいか、意識が朦朧としている。
視野もぼんやりとして周囲があまりよく見えない。

その彼の精神状態に順じているかのように黒い杭もゆらゆらと不規則に揺れていた。

起き上がろうと左手を地面に突く。
そして右手を突こうとしたが。


『(…………あァ?)』


奇妙な感覚だ。

右手の平が地面を『すり抜け』、肘が突っかかる。
肘から先がまるで透けているような。

手の平や指先を動かしている感覚は『ある』のだが『触感』が全く無い。


『(あァ……そォだったな……)』


徐々に回復し、明瞭となってくる意識の中つい先程の光景を思い出す。

右肘から先が『消し飛んだ』ことを。

二ヵ月半前のように『切り落とされた』のでは無く、跡形も無くなったのだ。


『―――がァ!!!!』


そしてその事実を再認識した瞬間、思い出したかのように凄まじい激痛が押し寄せてきた。
228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:35:16.18 ID:47UpYJEo
『(くはッ……笑っちまうぜ…………―――)』

皮肉な事だ。

彼が決して手放すまいと伸ばした腕。


『(―――わかってる。わかってンよ)』


『現実』は嘲笑うかのようにその腕をもぎ取っていった。

身の程を知れとでも言うかのように、彼から右手を『永遠』に奪った。

闇を這いまわる薄汚い『悪党』にはおあつらえ向きの仕打ちだ。
この生身の代償が、己の罪深さを辛辣に再確認させてくる。

だが。


『(―――でもよォ)』

いつもなら彼は自虐的な思考で、悪党としてのある種の『諦め』の念を抱いていただろう。

しかし今は違った。


『(―――悪党だのなンだのってのは―――)』


そんな己のあり方を感じ考えている時では無い。


彼は上条から使命を託されている身。

今の彼は上条の『代行者』なのだ。

『ヒーロー』の代わりなのだ。


一方『(―――今はどォだっていいンだよクソが!!!!)』


―――今の一方通行は『上条』なのだ。
229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:38:34.96 ID:47UpYJEo
一方『オァアアア!!!!!』

能力を使って跳ね起き、『両拳』を固く握り締める。


生身の左拳と―――。


消えたはずの右拳を―――。


そう意識した瞬間。

右手の破断面から黒い影が噴出する。

噴き出していた血液が黒色に変わったように。


そしてその黒い影は捻り合わさり棒状となり―――。


―――前腕と手首、そして拳を形作る。


一方『…………あァ?』

背中の杭のように、黒い噴射物を『頭』で纏め上げたわけでは無い。
演算も制御も一切していない。

失われたはずの右手の感覚、そして指先の感触に意識を集中しただけだ。
心の中で己の右拳を握るイメージしただけだ。

それだけで。

その彼の『念』が。

その彼の心の中の『右腕』が。


その彼の『幻想』が。


陽光の元、地面に落ちる影のように。

『現実』という地面に『影』を落とし実体化したのだ。
230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:40:59.78 ID:47UpYJEo
一方『……どォなってやがる……?』

一方通行は小さく呟き、ぼんやりとその漆黒の右腕を眺めた。

試しに指先を動かす。

生身の時と変わらず、特に違和感も無く滑らかな動き。


黒い噴射物を杭状に押し固め制御するのでさえ、
脳細胞が大量に死んでしまう程の負荷がかかる。

この『義手』のように小さく高密度に、そ
して手の形を保ったまま複雑に動かすなど『演算』しきれない。


だが今、一切の演算無しで彼は義手を形作っていた。


『右手がある』と意識しているだけで。



一方『………』


不思議な感覚だ。


『演算』という『手』で操る『能力』と言う『道具』ではなく、
本当に『肉体』の『一部』になったような感覚。


生身の破断面の痛みも嘘のように引いている。


一方『―――なるほどなァ。面白ェ』
231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:44:06.60 ID:47UpYJEo
先程フィアンマに言われたことをふと思い出す。


「―――教えてやろう。お前は『境界』自体は越えてはいるが、己自身が気付いていない」


「―――目の前に扉があるのに、見ようともしていない」


「―――そのせいで未だに物質的な枷に縛られたままだ」


その言葉の意味が何となくわかるような気がする。

何となく『扉』の存在に気付いたような気がする。

『物質的な枷』から抜け出す方法を見つけたような気がする。


一方『おーォありがとなァ―――』


その漆黒の拳を固く握り締め、縦穴の口を見上げる。


一方『早速―――』


                               ゴ ミ ク ズ
一方『―――お礼参りさせてもらうぜ『お 師 匠』サマよォ!!!!!!』


そして一気に跳躍する。


地上へ向けて。
232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:46:09.86 ID:47UpYJEo
凄まじい勢いで縦穴を瞬時に上がって行く。
そして地上に出る瞬間、杭数本を穴の淵の壁面に差込み、

体の速度を保ったまま縦に90度、垂直から水平へと進路を変える。


一方『―――シッ』

そしてフィアンマとインデックスを視認し捕捉する。

距離は前方50m。

フィアンマは彼に背を向けていた。


その華奢な背中目がけて。
周囲のあらゆるベクトルを掻き集め、更に黒い杭で加速して一気に突き進む。


大気を切り裂き、その爆発的な衝撃波が周囲に拡散するよりも速く。
摩擦熱で発した光の帯を引きながら。


一方通行の放つ空気に気付いたのか、フィアンマが振り向く―――。


その横顔の頬に―――。



一方『―――オァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!』



―――彼は漆黒の右拳を叩き込んだ。
233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:48:07.85 ID:47UpYJEo
硬い金属がぶつかり合い、弾け飛ぶような激音。
その瞬間オレンジの光が溢れ周囲に一気に飛び散る。

そして髪をなびかせながら大きく上半身が仰け反るフィアンマ。

だが後方へは吹っ飛ばなかった―――。


―――彼の胴に固く巻きついた大量の黒い杭が繋ぎ止めたからだ。


凄まじい衝撃の慣性が強引に止められ、フィアンマの体がエビ反りになる。


一方『―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!!』


そのフィアンマへ向けて更に右拳を叩き込み、他の黒い杭も全てをぶち込んでいく。

凄まじいラッシュを受け、フィアンマの体が人形のように激しく波打つ。


一方『(―――もっとだ!!!!)』

フィアンマ、この男は強い。
この男の使う攻撃も防御も、一方通行の『モノ』より遥かに破壊力が高く頑丈だ。

今、こうして猛打を加えているもののこの男には傷一つつかない。

放つ攻撃全てが、硬い光の膜の様なモノにぶち当たり防がれている。
そしてその光の膜はビクともしない。

一見、無駄な努力のようにも見えるだろう。

だがフィアンマはこれほどの防御力があるにもかかわらず、できるだけ一方通行の攻撃を避けようとしていた。
そこから一方通行は先程とある推測を打ち出した。

この男の力には何かしらの限度があると。

『使用限界』があると。

つまり力の『スタミナ面』では一方通行が勝っているのだ。
例え攻撃力が並ばなくとも、立て続けにぶち込んで削っていけば必ず相手の力は底をつくはずなのだ。
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:49:57.84 ID:47UpYJEo
そのラッシュの中、フィアンマの背中が突如眩く輝き始める。

一方『(―――チッ)』

一方通行は即座に察知する。

またあの巨大な腕から発せられる、『光の塊』の攻撃をする気なのだ。

今ここで放たれたらマズイ。

先程と同等のとんでもない攻撃を受けたら、次はもう立ち上がれないかもしれない。

ここで押し切るしかないのだ。

このラッシュで潰しきるしか―――。


一方『(足らねェ―――もっと!!!!!もっとだ!!!!!)』


まだ足らない。
黒い杭は威力不足だ。
この高密度の右拳は杭を遥かに上回る破壊力をもっているものの、まだまだ足らない。


このままでは間に合わない。

このままではまた振り出し、いやこちらが本当に終わってしまう。


一方『―――足らねェンだよォォォォォォォアアアアアアアアアア!!!!!!!』


一方通行は左拳を握りながら大きく引いた。

その瞬間。


左肘辺りから手首にかけて―――。


―――皮膚を突き破り黒い影が噴出する。
235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:52:41.86 ID:47UpYJEo
頭で考えたわけではない。
演算して操作したわけでもない。

彼の力を欲する心が、魂の叫びがその『答え』を引き出した。

噴出する『影』は彼の左肘から先を『食い潰す』。

肉を裂き、骨を砕き、血を啜りながら。


そして捻り合わさり、蠢く影の固まりは彼の左腕に成り代わり―――。


―――もう一本の漆黒の『義手』を形作った。



今度は己の意志で『生身の左腕』を『捨てた』のだ。



更なる力と引き換えに。



一方『―――カァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』


握りこんだ黒い左拳を叩き込む。
二つの漆黒の拳を交互に放つ。

何度も。

何度も。

凄まじい速度で。

そして遂に。


フィアンマを守っていた光の膜に一筋。


ガラスに走るような―――。


―――細い亀裂。
236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 00:57:01.39 ID:47UpYJEo
フィアンマ「(なるほど……『知った』か……)」

フィアンマは目の前、彼に向かって拳を振り続ける少年の変わり様に気付いた。

フィアンマ「(ならば―――)」

ならばこそ。

大きな脅威になる前に『芽』を摘んでおく必要がある。

完全に『セフィロトの樹』、『魂の拘束』から抜け出す前に。


そして本物の『人間界の天使』に―――。


―――学園都市風に言えば『AIM拡散力場の怪物』に昇華する前に。



とはいえ。

フィアンマ「(―――さすがに強いな)」


彼は己を守ってる『加護』に走る亀裂を感じながら、頭の中で呟いた。

この場で『芽』を潰す必要があるのだが。
己の方はまだ『芽』さえ伸ばしていない『種』だ。
聖なる右の『使用限界』が迫ってきているのだ。


フィアンマ「(仕方ない。もう一度やらせるか)」


そこで彼は手に持っている遠隔制御霊装に意識を集中し―――。


―――更なる攻撃命令を送信した。
237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 01:00:35.23 ID:47UpYJEo
一方『―――』

猛打を放っている最中、突如後方に気配を感じる。

誰がいるかはわかっている。
そして何をしようとしているかも。


インデックスが再び動き出した。

大きく見開いた目で一方通行の背中を見据え、
ふわりと宙に浮きそして顔の前に迎撃用の魔法陣を構築する。


一方『(クソッ―――)』


背後の防御に力を裂く余裕は無い。
全てを目の前の男に叩き込まなければならないのだ。


だが防御しなければどうなるか―――。

またあの『光』の大砲が放たれたら―――。

そして無防備の背中にぶち込まれたら―――。


攻撃元がインデックスという以上『反射』という選択肢など存在しない。

今あるのは二つ。


背後の脅威を無視してこのまま全力のラッシュを続けるか。
それとも猛打の手を緩めて、身を守る為に一部を防御に回すか。

どちらをとるか。

だがそんな問いなど、今の一方通行にとっては愚問だ。
238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 01:01:34.47 ID:47UpYJEo
防御したところで、フィアンマに対する攻撃の手を緩めてしまえばどの道ご破算だ。
すかさずフィアンマは、彼に向けて再びあのオレンジの光の攻撃を放つだろう。

逆に先にフィアンマを押し切れば、インデックスの問題も解決する可能性も高い。
原理はわからないが、恐らくインデックスはこの目の前の男に操られている。

そう、この男さえ倒せば―――。


一方『オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!』


彼は無視した。

背後に感じる、今度は己の体ごと消し飛ばすかもしれない脅威を。

そして目の前の男に全ての意識と力を集中する。


間に合え―――。


いや、ぜってェに間に合わす―――と。


フィアンマの背中から放散される光が再び空に伸び、巨大な柱を形成する―――。

インデックスの顔の前に浮かぶ、魔法陣の中央に白い光が集り始める―――。

フィアンマの体を包む光の膜も、一方通行の猛打を浴びてその亀裂を拡大させていく―――。


一方『―――ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』


そしてより一層の力を篭めた、彼の『漆黒』の右拳が叩き込まれた瞬間。


凄まじい轟音と共に―――。


―――周囲に光が溢れた。
239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 01:03:00.81 ID:47UpYJEo
周囲を明るく照らす白い光―――。

そう、『白』。


一方通行の右拳は。

フィアンマの光の膜に止められていた。

膜には大きなヒビが入っているものの―――。


一方『―――』


―――未だに砕けてはいなかった。


一方『―――』


つまりこの光の発信元は―――。


―――後方のインデックス。


『間に合わなかった』のだ。


振り向かなくてもわかる。

今、この瞬間放たれたのだ と。


再び彼女からあの『光の柱』が。

無防備な一方通行の背中へ目がけて。


一方『クソが―――』
240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 01:07:34.17 ID:47UpYJEo
一方『―――』


目の前のフィアンマが薄っすらと笑みを浮かべた。

勝利を確信した笑みを。

一方通行の『死』を『保障』する笑みを。



一方『―――ッ』



―――とその時だった。


突如すぐ背後に感じる―――。



―――新たな第三者の気配。


凄まじいオーラを放つその人物。


だが一方通行は振り向かなかった。

振り向き確認する必要が無かったのだ。


気配を感じた瞬間、その人物が誰なのかがわかったからだ。
241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/06/30(水) 01:10:32.95 ID:47UpYJEo
間違えるはずも無い。二度も互いに拳を交えた。

一度は『最強』と『最弱』として。
一度は『人間』と『悪魔』として。

その第三者の姿を一方通行越しに見たであろう、フィアンマの顔から余裕の篭った笑みが消える。
それと入れ違いに今度は一方通行が笑う。

一方『おせェんだよ―――』

そして吐き捨てるように背後の男へ言葉を飛ばした。

本物の『ヒーロー』へ―――。



一方『―――上条当麻ァ!!!!!!!』



上条『悪い―――』


そのヒーローは放たれた光の柱と一方通行の間に『割り込み』、

彼に背中を合わせて正面に右手をかざし―――。



上条『―――道が混んでてなぁ!!!!!!』



―――受け止めた。

インデックスから放たれた『竜王の殺息』を。

遂に逆転劇が始まる。


―――『二人』の『ヒーロー』によって。


―――
242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/30(水) 01:11:27.14 ID:47UpYJEo
今日はここまでです。
次は木曜か金曜の夜中に。
243 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/30(水) 01:13:36.23 ID:Fsq7jE2o
上条さん・・・!
244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/30(水) 01:15:55.48 ID:IG3pVFY0
ベオ条さんktkr
てか本当に面白い。乙です!!
245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/30(水) 01:25:46.92 ID:2/d9WoDO
やべぇな
超乙だぜ>>1
サッカーといい一通といい
深夜にテンション上がるぜ…
246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/30(水) 02:08:26.33 ID:DGi3CGs0
鳥肌がやばい・・・・!
>>1超乙です!!
247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/30(水) 02:17:48.99 ID:oZQNvoAO
一通さんグリードっぽいなww
248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/30(水) 03:12:36.78 ID:k6PPZ9.0
(*´Д`)登場シーンがカッコイイベオ条さん久し振りww
249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/30(水) 09:50:31.06 ID:H5VZpkDO
禁書側がどんどん人間やめてくな
残ってるの御坂ぐらいじゃないか?
250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/30(水) 15:11:45.02 ID:MW1asek0
おっつー

一方さんの生身がどんどん減っていくwwwwww
251 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/06/30(水) 15:37:29.98 ID:G6OIvQk0
乙です!
最高の展開になってきたぁぁ!!
252 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/30(水) 21:39:34.77 ID:Fsq7jE2o
そろそろスフィンクスが心配になってくるな
253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/30(水) 22:38:29.35 ID:64RmZwDO
一方通行さまマジ黒天使
254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/01(木) 14:38:01.44 ID:wyJAeBQ0
>>252シャドウになってるんですねわかります><
255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/01(木) 23:24:00.51 ID:o2nn7Bg0
ピチャ……ピチャ……
256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/02(金) 01:16:04.11 ID:lzuXK6Mo
4レスだけ投下します。
257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 01:17:45.84 ID:lzuXK6Mo
―――

フォルトゥナ。
大歌劇場近くの広場。

騎士達は目を丸くしていた。

こっちに向かってきていたセクレタリー。
重装騎士ですら一蹴してしまう程の悪魔。

そんな化物の頭が突如転がり落ち、その背後にいつのまにか立っていた幼い少女。
燃えるような赤い髪と褐色の肌。


低身長には不釣合いな長い曲刀を両手に持っている『怪しい』子供。


騎士らの中では誰一人、今のこの状況を即座に、そして正確に把握した者はいなかっただろう。

だが、突如現れたこの少女が『普通』では無いというのは皆瞬時に理解した。

この少女が、自分達を殺そうとしていた悪魔の首を一瞬で刎ねた と。

そしてそれだけで『味方』と見るのは早計だとも。

悪魔は、獲物を我が物にする為なら仲間すらも迷い無く手にかける連中なのだ。


そう、つまり自分達、もしくはキリエ嬢を狙う更に強い『敵』が現れた と考える方が理にかなっている。


「(―――次から次へと)」


その場の指揮を執っていた年長の騎士は警戒して即座に身構える。
それを見て周囲の若い騎士達も剣を構える。


そんな彼らの方へ、少女はゆらりと目を向けた。

金色に光る冷たい眼差しを。

曲刀を逆手に握る右手を、目にもとまらぬ速さで腰に回しながら。
258 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 01:19:00.34 ID:lzuXK6Mo
そして少女は曲刀を持ちながらも、
指先で起用に何かを腰のベルトから引き抜いた。

それは小さなナイフ。

少女はそのまま振るように腕を挙げ―――。


―――身構えている騎士達の方へそのナイフを投擲した。


金色の光を放ち、凄まじい速度で放たれたナイフ。

最早一介の騎士には反応できない速度だった。



彼らが気付いた時には遅かった。

ナイフは既に到達していた。

だが。


―――騎士達には刺さらなかった。



ナイフは並ぶ彼らの間をそのまますり抜け―――。


騎士達の後方にいた、今彼らの背中に向かって突進した直後の―――。



―――セクレタリーの眉間に突き刺さった。
259 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 01:21:20.86 ID:lzuXK6Mo
騎士達がその響き渡る金属音に驚き、後方を振り向く。
少女の凄まじい投擲を受け、セクレタリーは大きく仰け反りその場に仰向けに倒れ込んでいた。

それれとほぼ同時に、
キリエを掴もうとしていた三体目のセクレタリーが曲刀を構えて少女に突進する。

そして瞬時に距離を詰め、少女の後頭部へその凶悪な刃を凄まじい速度で振り抜―――。


―――いたが。


曲刀は空を切る。

そして振りぬかれたと同時に―――。


―――逆にセクレタリーの腹部が横一線に切り裂かれた。


少女は即座に身を落とし、刃を回避しながら振り向きざまに己の曲刀を振るったのだ。

そのまま更に低く身を落としながら体を回し。

もう一方の手に持つ曲刀で今度はセクレタリーの両足を切断し―――。


そして最後にもう一回転し、回し蹴りをその胸に叩き込む。


全て一瞬の出来事。


セクレタリーは、咆哮も叫びもあげる暇無く遥か後方へと吹っ飛ばされていった。



「おぉ……なっ……!!!!」

その圧倒的な一瞬の光景を目の当たりにして、騎士達には更に絶望感が漂う。

先程まではこの身を挺してでもキリエ嬢を奪還しようとしていたが、最早どう足掻いても不可能だ。

この格が違う悪魔の矛先が自分達に向けられたら文字通り一瞬で終わる。

重装騎士が10人くらいはいなければ話にならないと。
いや、それだけでも恐らく時間稼ぎにしかならない。
260 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 01:22:58.69 ID:lzuXK6Mo
さっきまで表面上は何とか笑って軽口を叩いていた若い騎士らも、
今や恐怖と絶望を隠し切れずに歯を噛み締めてした。

そんな彼らの放つ負の念を感じたのか、再び少女が振り向き見据えた。

金に輝く瞳で。


騎士達は剣を固く握り締めながら改めて覚悟する。

圧倒的な力を前にして―――。


だが。


誰も予想していなかった事が起きた。

それは少女が取った行動。


ペコリと可愛らしく。

いかにも子供っぽく。

少女は騎士達へ頭を下げたのだ。


ルシア「る…………ルシアと申します…………ま……『護り手』……です』


ルシア「…………わ……我等の……っと…………あ…………お、お助けに参り…………ました」


そして少女がサッと頭をあげ、たどたどしく口を開いた。
かなりどもっているが、透き通った小鳥の美しいさえずりのような声であり、不快感は全く無い。

何かを言いかけたところで言葉が詰まってしまい、かなり省略したようだが。

そのせいなのか表情は少し気まずそうだった。


―――
261 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/02(金) 01:23:42.09 ID:lzuXK6Mo
かなり少なくてすみません。
次は明日の夜中に。
262 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/02(金) 01:35:04.58 ID:Po.OdeEo
デモンズは知らんがニンジャガを悟りすらクリアして無いのに結構やってるとか天才のギャグはこわいっすね
263 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/02(金) 01:35:13.12 ID:f4rNqCQo
おつー
264 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/02(金) 01:37:11.82 ID:Po.OdeEo
ごめん誤爆った
265 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/02(金) 02:10:29.51 ID:OU5gNwk0
乙です
ルシアかわええええ
そしてGJ
266 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/02(金) 20:05:07.34 ID:8sNZkkDO
マチエさんの教えた言葉たどたどしい

さて、未だ佳境には遠そうだな
267 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/02(金) 20:47:26.05 ID:2VEGkKM0
股間がヤバイ
ルシアでヤバイ
268 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:14:16.81 ID:lzuXK6Mo
―――

学園都市第七学区。

とある路上。

麦野はアラストルを固く握りながら、足元に横たわっている金髪の白人女を眺めていた。

大きな血溜り。

切り落とされた右腕。

胸から胴にかけての十字の傷。
更にその上に右鎖骨から左わき腹へかけての長い筋。

ただ赤いペンで直線を引いたように見えるほど細い。
それでいてかなり深く、そしてその切り口は不気味なほど滑らかだ。


麦野『(…………)』


一見すると、穏やかに眠っているようにも見える。
この一瞬の光景を『写真』のように切り取った場合はだが。


『動画』として見ると。


麦野『(……死んでる……な)』


切り落とされている右腕の破断面からも、
そして胴の深い傷口からももう既に一滴の血も流れ出ていなかった。

それどころか血が乾き、固まりかけている。

最早生きているはずは無い。


タダの死体だ。
269 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:16:29.84 ID:lzuXK6Mo
麦野『……』

『タダの死体』。

そう、今まで己の手で大量の死体を作り出してきた麦野にとってはその程度の『モノ』。

そのはずなのだが。


麦野『……っ……』

やけに痛む。

ちょうど内ポケットに入っているバラの辺り。

『赤く』光っている『胸』が。


麦野『(なんだっつーんだよこれは……)』


麦野は困惑する。
この奇妙な『感情』に。


麦野『(なんで……なんでこんなに―――)』


見ず知らずの赤の他人の死体なのに。

普段なら何も感じないはずなのに。



麦野『(―――苦しいんだよ……)』
270 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:19:27.61 ID:lzuXK6Mo
普段なら くだらない と一蹴していただろう。

だが今はなぜかどうしても抗えなかった。
彼女は心の震えに身を委ね、その声に耳を傾けた。

良くわからない。
この女とは会った事も無い。

それなのになんだかこの女の事を良く知っているような気がする。

それどころかかなり親しかったような気が。


そしてこの女が誰に殺されたかも知っているような―――。


その喪失感とやるせなさが麦野の心を締め付ける。


麦野『……』


この胸の『赤い』光。

内ポケットに入っているあのバラのだ。
あの男から受け取った真紅のバラから発せられている。

胸に突き刺ささり根をはり、
光を放出しながら何かを己の中に流し込んできているような。

いや、己と『融合』しているような。



―――とその時。
271 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:21:08.90 ID:lzuXK6Mo
麦野『―――』


胸の『赤い』光が強くなる。
それと同時に、この『感情』と響く『声』が更に強く大きくなる。

麦野の『中』が赤い光で満たされていき―――。


麦野『(―――……え?)』


―――溢れ出して噴き出す。

それと同時に、哀しげだった思念が急に熱く明るくなる。

賑やかに。

騒がしく。

麦野『(これ―――)』


放つ空気の質を豹変させた『赤』を感じ麦野はようやく気付く。

この感じ。


あの『男』と―――。


このバラを麦野に渡した『自由』―――と。


麦野『―――アイツ?』


全く同じだ。
272 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:22:13.05 ID:lzuXK6Mo
次の瞬間。


麦野『―――!!!』


足元の『死体』の胸がゆっくりと大きく上下した。

深呼吸しているかのように。


麦野『な…………!!!!』

有り得ない『事態』に驚き、麦野は反射的に一歩下がってしまった。

明らかに死んでいたはず。

腕を丸ごと切り落とされ、胴を大きくかっ捌れ、血が枯れていながらまだ生きているなど有り得ない。


だがそんな『常識』などものともせずに『死体』は小さく呼吸し、薄っすらと目を開け。



「…………………………ダン……テ?」


途切れそうなか細い声を発した。
273 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:24:37.09 ID:lzuXK6Mo
麦野『―――』

ダンテ。

その単語を聞き、麦野はなぜだが己の名を呼ばれたような感覚に陥った。

更に無意識の内に口が綻んでしまった。

なぜだが凄く嬉しくなったのだ。
この目の前の女が息を吹き返したことで。

これもまた、彼女に乗り移り融合している『思念』のせいなのだろうか。

そして。


麦野『―――トリッシュ』


彼女は目の前の蘇った、『見ず知らずの女』に向けて名を発した。

名前を呼ばれ、『反射的』に相手の名前も呼んだのだ。


会ったことは無い。

名も知らない。

『今まで』は。


だが会った事がある。

名も知っている。

それどころか長年一緒だった。


『今は』。


麦野『よう―――お目覚めね』


麦野はニヤリと笑いながらアラストルを肩に乗せて、飄々とした口調で言葉を飛ばす。

『あの男』のように。
274 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:28:49.45 ID:lzuXK6Mo
トリッシュ「…………」

トリッシュは仰向けのまま首だけを横に傾けて、
虚ろな瞳で傍らに立っている若い女を眺めた。

ダンテではない。

別人だ。

だがダンテがいる。

この女の『胸』に。


トリッシュ「(…………へぇ)」

この女はダンテの力が注ぎ込まれている『何か』を持っているのだろう。

どうやって手に入れたかは知らないが、ダンテが大きな力を使った際に持っていた『何か』を。

そしてダンテが紛失したアラストルも持っている。
彼から聞いた話によると、アラストルは封印され冬眠状態に陥ったらしい。

だがこの目の前の眩い光を放っているアラストル。
意識自体はまだのようだが、力の封印は解けかかっているようにも見える。

通常、このような状況はかなり危険だ。
統制を失った力はとんでもない暴走を引き起こし所有者を喰ってしまうはずだ。

だがそんな現象がこの目の前の女に起こる気配は一切無い。

力も安定している。


トリッシュ「…………」

恐らく、彼女をその脅威から守っているのはこの『赤い』光。

ダンテの力だ。


トリッシュ「…………アナタ、名前は……?」

トリッシュは穏やかな笑みを浮かべながら、か細い声で問う。

ダンテの『意志』が守っている女の名を。
275 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:31:00.11 ID:lzuXK6Mo
麦野『……麦野……沈利』

軽く口の端を綻ばせながら麦野はこの『体』の名を発した。


トリッシュ「そう……いい名ね……能力者?」


麦野『……レベル5第四位。原子崩し』

麦野は特に抵抗も無く、己の能力者としての身分も明かした。
この胸のバラのせいなのか、この金髪女の事を完全に信頼してもいい気がしているのだ。


トリッシュ「へぇ……(……メルトダウナー……?)」

トリッシュはその二つ名を聞いても、彼女がどんな能力を持っているのかはいまいちピンとこなかった。
だがアラストルに馴染んでいるあたり、電気系統かそれに近い能力なのは間違いないらしいが。

すなわちトリッシュにも近い系統だ。

そしてレベル5。

学園都市の能力者の頂点に君臨する七人。

どういった基準で序列が決められているかは知らないが、
レベル5は軍に匹敵すると言われている辺り、そして他に会ったことがある二人のレベル5の力も考えると、

この麦野という女も恐らくトップクラスの力を有している強者なのだろう。


トリッシュ「……」

そう考えると、色々と話が繋がる。

以前、第23学区の事件について 

「青い白いビーム撃つ、強くて綺麗なベイビーちゃんがヒュー」 とダンテが話してたのを覚えている。

この傍らの女は右目と左腕が無いものの、その残った容姿からでも大人びた美しさがわかる。

ダンテが『綺麗な』という表現を使うのにも当てはまるし、
左肩から伸びている光のアームや右目から迸っている閃光も、その色がダンテの証言と合致する。


トリッシュ「(なるほど…………この子ね)」
276 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/02(金) 23:34:43.08 ID:Qytl4G.0
最高すぐる
277 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:36:24.86 ID:lzuXK6Mo
トリッシュ「…………何……貰ったの?」

麦野『……は?』


トリッシュ「……会ったんでしょ?……ダンテに」


麦野はハッとしたように己の胸を見る。

この光を指して、トリッシュは『ダンテ』と言った。

この赤を指して。

麦野が己自身の名を呼ばれたような感覚に陥った言葉。


麦野『やっぱり……アイツなんだな……』


彼女はポツリと独り言のように呟いた。
この光、バラ、この奇妙な感覚の全てが繋がり、麦野は確信したのだ。

今、このバラを解して『あの男』が自分の中にいる と。


その名はダンテ。


そしてこの目の前の金髪女は、あの男にとって大事な人なのだ。

まさか捜し求めていたあの男がこんな近くにいたとは。

この『バラ』は『手がかり』ではない。

あの男自体の『欠片』のようなものだったのだ。

『本物』だったのだ。
278 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:42:12.69 ID:lzuXK6Mo
麦野『………………バラ……バラよ』

麦野は少し思索に耽った後、思い出したかのように先程のトリッシュの質問に答えた。

それを聞いてトリッシュは小さく笑った。


トリッシュ「ふふ……じゃあアレね……ノリノリで暴れながら……下品な事良い捲くってたでしょ……?』


麦野『うんそう、モロにね』

そして麦野もつられて小さく笑った。


トリッシュ「……いい歳してる癖にバラ咥えて何やってんのかしらね……」


麦野『全くね。いきなり現れてアレよ。もう何が何だかわからなくてさ。びっくりしたわよ』


トリッシュ「―――でも」



トリッシュ「………………最っっっっ高に…………クールよね」


小さく笑っていたトリッシュがぼんやりと天を仰ぎながらポツリと呟く。


麦野『……………………ええ―――』



麦野『―――初めて見た―――』



麦野『―――あんなに綺麗な「翼」』
279 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:46:07.84 ID:lzuXK6Mo
トリッシュ「翼……?」

麦野『……っ……聞き流して』

麦野は思わず口走ってしまったポエム風の例えに苦笑いする。


トリッシュ「あー……アナタ『も』貰ったのね」


麦野『……?』


トリッシュ「私も……貰ったわよ。十年以上前になるけど……」


トリッシュ「いえ…………『翼』で例えるなら……『引き上げてもらった』って言う方がいいかしら」


トリッシュがなつかしそうに、そしてどことなく嬉しそうに言葉を続ける。


トリッシュ「引き替えに切っても切れない…………妙な『腐れ縁』に取り憑かれちゃったけど」


トリッシュ「まあそれも悪くは無いし……というか居心地が良いから特に問題無いんだけど」


麦野は神妙な面持ちで黙って聞いていた。
トリッシュが美しい声で紡ぐ言葉を。


トリッシュ「……ってゴメン……なさいね。こんな昔話してる……ヒマじゃないわね」


そんな麦野の表情に気付き、
トリッシュが少し苦笑いしながら残った左手で何とか身を起こそうとした時。


麦野『私は……まだ「貰って」ない。『見せて』くれてんだけど……くれなかった……』


黙ってた麦野が小さく口を開いた。

少し哀しそうに。
280 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:49:38.61 ID:lzuXK6Mo
麦野『……』


トリッシュ「…………ふふ……言葉の誤ね。正確には『貰う』んじゃなくて―――」



トリッシュ「―――自分で『手に入れる』ものよ」


トリッシュ「あの人は……それに気付かせてくれるだけ」


トリッシュは己の事を思い出しながら言葉を紡いだ。


そう、あの時。


最終的に魔帝の支配から抜け出したのは。


トリッシュ自身の決断だった。


己の意志で魔帝へ反逆し、その縛から抜け出して『今』を手に入れたのだ。


トリッシュ「……見えたのならもう充分よ。後はアナタ自身が決めること」


麦野『……私自身が……?』



トリッシュ「……見たんでしょ?それなら何をするべきかは―――」



トリッシュ「―――もうわかってるでしょ?」
281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:53:24.07 ID:lzuXK6Mo
麦野『―――』

そう。

麦野は既に見出し、決めていたはずでは無いか。

自分が何をするべきか。

今更何を悩むことがあろう。


あの日ダンテが彼女を『空』高くへと、
何者の支配も手も伸びてこない『高み』へと一度運び上げてくれた。

彼女の中にこびり付き纏わり付く『闇』の全てを払いのけて。


そこから彼女は純真無垢な瞳で『明るい外』を『見た』のだ。

一切の『濁り』も『陰り』も無い瞳で。


『知って』しまったのだ。

こんな自分でも『外』に出れると。

とうの昔に諦め、存在すら忘れていた『出口』が手の届く場所にあったと。


そして気付いてしまった。

『アイテム』の仲間と過した日々が、彼女の近くにあった最後の光だったという事が。

あの『くだらない』事で笑っていた、『くだらない』時間が何よりも素晴らしいものであったという事が。


だから彼女は決めた。
だから土御門達が持ちかけてきた反乱作戦に乗った。

このクソッタレな世界から抜け出して『自由』を手に入れる為に。
心の底から、こうしてトリッシュのように穏やかに笑える世界への切符を手に入れる為に。


そして。


自分のせいで更なる闇の底へ引き摺り降ろしてしまった―――。



―――かつての『部下達』をクソッタレな世界から救い上げる為に。
282 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:55:48.23 ID:lzuXK6Mo
麦野はかつて、己の手でかけがえの無い一人を殺めてしまったのだ。

愚かな事に己にとってどれ程大事なものだったのか気付かずに。


だから残りの三人だけは―――。



憎まれ恐れ続けられても良い―――。


己が闇の底に取り残されても良い―――。



だから彼らだけは―――。



彼女がようやく取り戻した『情』と自分自身の『魂の声』。


そして『アイテム』の『リーダー』としての―――。


部下を守る『リーダー』としての―――。


―――『最初』で『最期』の『本物』の『プライド』。


絶対に彼らだけは渡さない。


絶対に何人にももう傷をつけさせない。


このクソ溜めから救い上げるまでは―――。


―――彼らの命も体もその全ては―――。



―――己の『物』だ と。
283 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/02(金) 23:58:57.53 ID:lzuXK6Mo
麦野『ええ―――そう……ね』

麦野は小さく、それでいて確かに頷いた。


トリッシュはそんな麦野の顔を見て満足そうに微笑んだ。


やはりダンテは この人間は救うべき と判断したのだ。

だからこうして手を差し伸べて、そして守っているのだ。


トリッシュは心の中でささやいた。

心配しないで進みなさい と。

ダンテが見ててくれるから と。 



トリッシュ「(………………さて……私もやるべき事があるのよね)」


柄も無く話し込んでしまった。

ダンテに関っていることもあって、
それとこの麦野の置かれている状況がどことなく昔の自分と重なっているような気がして、
彼女もつい夢中になってしまった。


だが今はこうゆっくりしている場合では無い。


トリッシュ「……」

トリッシュは表情を瞬時に切り替え、
左肘を立てながら周囲の状況に感覚を研ぎ澄ませた。
284 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/03(土) 00:02:30.57 ID:OvwUcx.o
まず最初に確認したのはバージルの気配。

ここらか半km程の所にいるようだ。
だが動いていない。

トリッシュ「……」

何者かと対峙しているのだろうか。
それにしてもゆっくり過ぎる。

トリッシュの感覚だと、猛スピードで移動している上条は現地に合流する寸前だ。
力を隠そうともせずにド派手に撒き散らしており、かなり目立っている。

それなのにバージルが移動する気配は無い。


トリッシュ「……」


そこから導き出される答え。

それは、バージルはあまり上条を脅威とは見ていない という事だ。
上条程度なら現地に合流しても差し支えないと考えているのだろう。

彼の目的を、本当の意味で『瓦解』させるに足る力を持っていたのはトリッシュだけだったという事だ。

上条に対して刃を向けたのもトリッシュと一緒にいたからであって、
脅威性は小さいもののついでに刈り取っておこうとでも考えたのだろう。

つまり 禁書目録を襲撃している者は一方通行と上条を同時に相手にしても勝てる、 

とバージルは考えているようだ。


トリッシュ「(……まずいわね……)」


いくつか腑に落ちない点があるものの、恐らく全体像はそんなところだろう。

この状況を何となく把握できたのは好ましいことだが、
浮き彫りになった情報はかなりマズイものだ。
285 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/03(土) 00:04:33.54 ID:OvwUcx.o
このままでは上条を送り出した意味が無い。

あのバージルがそう考えているのならば、それこそ『奇跡』でも起きない限り上条達に勝ち目は無いだろう。

ではどうするか。

唯一の解決法、それは現地に合流して加勢する事。

だが加勢するに足る力を持つ者が現地に近付こうとすると、
バージルが即座に嗅ぎつけて排除しに来るのは確実だ。

上条が突破できたのはトリッシュの捨て身の行動があってこそ。

改めて見ると、このバージルの『封鎖網』は鉄壁だった。


麦野『……?』

トリッシュ「(……)」

いきなり押し黙ったトリッシュに不思議そうな目を向ける麦野。
そんな視線を気にもせずにトリッシュはとにかく考える。

この封鎖網を突破する方法を。


トリッシュ「(……あ……)」


ふとその時、トリッシュはとある点に気付く。

そして隣に立っている麦野を見上げた。


麦野『…………え?』


トリッシュ「(―――そう、そういうことね)」
286 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/03(土) 00:09:58.92 ID:OvwUcx.o
バージルの今現在の行動理念と、彼が置かれている状況のとある点について。

まず一つ目。

今、アラストルを所持してこんなに力を放っている麦野がいるのにも関らず、
バージルがこちらに近付いてくる様子は無い。

彼女がこの封鎖網の近くで今一番力を有している者であるにもかかわらず。

それは恐らく、彼女が現地に向かう気配が無いのを感じ取っているからだろう。

無駄なものには一切の興味を示さないバージルらしい思考だろう。

封鎖網を監視するという目的が無ければ、力に誘われて寄って来る事もあるだろうが、
厳格な彼は、重要な仕事の最中にはそんな『遊び』などしないはずだ。

敵意を見せたりしなければ、もしくは現地に向かおうとしなければ完全に無視だ。


そして二つ目。

彼自身も現地には近付こうとはしない。
それは例の襲撃者と全く面識も関係も持っていないからだろう。

仲間としてこの場に現れているのなら、最初から襲撃者に同行しての傍にいるはずなのだ。
こんな回りくどい方法などする必要が無い。
現地で待機して、現れる障害を片っ端から切り捨てれば良いだけの話なのだ。

つまり、彼と襲撃者は仲間どころか敵対すらしている可能性がある。

その点を考慮すれば、彼のこの回りくどい行動も説明が付く。


バージルはできるだけ襲撃者を刺激しないようにしているのだ。


直接的に敵対して無くても、あんな行動が予測できない究極の『怪物』が近付いてきたら、
襲撃者は本来の目的を蜂起してトンズラしてしまう可能性も高い。


バージルはそんな事態になる事を避けようとしているのだ。


トリッシュ「(―――ふふ、そう、イケるわねコレ)」


そしてトリッシュはこの二つの点から、勝利の方法を導き出した。

それもかなり効果的な方法を。

そのバージルの圧倒的な強さが、逆にこちらにとって好都合になる方法を―――。
287 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/03(土) 00:13:50.09 ID:OvwUcx.o
それはあまりにも危険な方法なのだが。
もう『一度』生贄になる可能性が高いのだが。


トリッシュ「(これしかないわね)」


この方法が一番成功する可能性が高い。

かなりだ。

まあこの方法一つしか思いつかなかった為選択の余地は無いのだが。

思いついた方法。

それは素早く、全速力で現地に向かう事。

コソコソせずに殺気をみなぎらせド派手に特攻するのだ。
当然バージルはそれを察知してこちらに飛んでくるだろう。

それが狙いなのだ。


とにかく前へ進み、できるだけ現地に近付く。
そしてバージルを思いっきり引き付ける。

そうすれば。

バージルが避けたかった『事態』になるかもしれない。


逃げるかもしれない―――。


―――『怪物』の接近に気付いた襲撃者が。


いや、そうならなくとも襲撃者の心理状態に確実に何らかの影響を与える。
それが上条と一方通行にとってのチャンスになるだろう。

狙いがバージルに気付かれたとしても、彼にある選択肢はタダ一つだ。
こちらを追うしかない。

罠に気付き追跡をやめたところで、
現地に新たな戦力が加勢する事になりどの道彼の計画はオジャンになるのだ。
288 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/03(土) 00:15:51.66 ID:OvwUcx.o
トリッシュ「(―――完璧ね)」


トリッシュはほくそ笑む。

あのバージルの裏をかけるのだ。


―――最高ではないか。


トリッシュ「ふふ……」

笑いながら起き上がる。
勝利を確信して。


だが―――。



トリッシュ「…………あら………」


そう、一つだけ問題があったのに今気が付いた。


実際に体を動かそうとした今。


彼女は起き上がれなかった。

起き上がる体力すら無かった―――。



―――残っているのはこうして『思考』して喋る力のみ。



トリッシュ「………………参ったわね」
289 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/03(土) 00:18:37.14 ID:OvwUcx.o
トリッシュ「…………」

まあ改めて考えてみれば当然の事なのだが。

魔人化したバージルの攻撃を複数回喰らっておきながら、
こうして生きていること自体が奇跡だ。

真っ当に思考できるだけマシだ。


だがそれだとどうしようもない。

この状況を解決する方法が思いついても、肝心の己がこれじゃあどうしようもない。


トリッシュ「.......Shit」

柄にも無く思わずトリッシュは悪態をついてしまった。
己の不甲斐なさに。


とその時。


そんなトリッシュを黙って見ていた麦野が。



麦野『……何か……困ったことでもあんなら手伝ってもいいわよ』
290 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/03(土) 00:23:36.18 ID:OvwUcx.o
トリッシュ「―――」

麦野沈利。

レベル5で更にアラストルを所有しており、戦闘能力は申し分ない。

彼女なら充分囮になり得る。
彼女が動けば確実にバージルをおびき寄せることが出来る。

だが。


トリッシュ「(ダメよ―――ダメ)」


それはダメだ。
この『役』は死ぬ確率がかなり高い。

鬼のような勢いのバージルに一瞬で屠られてしまう可能性が高いのだ。


そんな役を―――。


―――ダンテが救うべきと認めた人間にやらせるなど。



トリッシュ「いいえ……生憎だけど助けはいらないわよ。アナタはここから離れなさい」


麦野『んなナリでよく言うわね。起き上がることすらできねえ癖に、な』


麦野が鼻で笑いながら、肩に乗せていたアラストルを振りながら降ろし、
そのままバトンのようにクルリと一回転させた。

トリッシュを小馬鹿にするように。
291 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/03(土) 00:26:06.73 ID:OvwUcx.o
トリッシュ「……」

そう、自分は立ち上がることすらできない。
こうして思考して喋ることしかできない。

今、この状況を解決できる可能性を持っているのは―――。


―――麦野しかいないのだ。


トリッシュ「……私が何しようとしてるかわかってんの??」


麦野『大体想像つくわよ。何となくは』



トリッシュ「死ぬわよ?」


麦野『……人の心配してる場合じゃねえだろ。さっさと具体的に話しな』


トリッシュ「…………優しいのねアナタ……でもs」


麦野『違うわよ』


麦野『アンタの友達にさ―――』



麦野『―――アイツにさ、大きな借りがあるの』



麦野『―――いつまでもそれじゃあ気が済まないだけ』



麦野『それだけよ。ソ・レ・ダ・ケ』
292 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/03(土) 00:27:00.69 ID:OvwUcx.o
トリッシュ「……」

ハッと軽く笑いながら、そっけなくそんな言葉を発した麦野。

その姿が彼女の胸の赤い光も合間って―――。


―――ダンテに一瞬重なる。


ダンテ特有の―――。

彼の頭上に輝いている、何よりも強い幸運の星。

その光が麦野をも照らしているような―――。



トリッシュ「(―――そういう事……ね……)」



それに何となく。


何となくだが―――。



トリッシュ「―――……………………わかったわ。任せるわよ」



―――どうにかなるような感じがした。


これは今までにも何度か味わった妙な勘だ。

この感覚がした時はいつもそのすぐ後に―――。



ダンテ『本人』が―――。



―――
293 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/03(土) 00:28:04.09 ID:OvwUcx.o
今日はここまでです。
次は日曜か月曜の夜中に。
294 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/03(土) 00:33:16.50 ID:MSWD/oM0
乙です。ヒーロー遅刻しすぎだろう。
295 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/03(土) 01:13:33.12 ID:5.xe.IAO
「Dull」
「Cool !」
「Bravo !」
「Absolute !」
「Stylish !」
296 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/03(土) 01:16:14.40 ID:OIYkSRw0
仲間を裏切った罪悪感に苛まれ、地獄の秩序を守ることを決意し自ら死神<ヘル=バンガード>になって参戦するフレンダさんはまだですか
297 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/03(土) 02:01:16.65 ID:Hatywh.0
(;゚Д゚) ヤベェよ麦のん可愛く見えて来た!?
298 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/03(土) 02:03:49.69 ID:L8amNsAO
何もヤバくなど無い。それが当たり前だろう…
299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/03(土) 02:12:57.90 ID:Hatywh.0
>>298
(-Д-) そうだった・・・真理に気付かないとは何と愚かだったのか
 ↑
でもこのSSだと1番はレディww 
300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/03(土) 09:40:17.74 ID:qZg4M0s0
>>296
バージルによって真っ二つどころか四散する姿しか見えない
301 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/04(日) 08:36:49.81 ID:Dm.Q3QDO
そういえばアニメ版のアグニ・ルドラの声はジャイアンとスネ夫だったな
ドラマCD聞いてクソ笑った記憶がある
302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/04(日) 11:40:09.94 ID:8C/xbo.0
おっつううう
トリ姐さんがカムバックして本当によかた
303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:02:15.92 ID:/GU/YuMo
―――

フォルトゥナ港。

年季の入った寂れた港。

古い桟橋は黒ずみ、フジツボが柱に大量に固着している。

同じく古い倉庫の壁や鉄骨。

錆び対策のメッキが施されているものの建てられてからもう数十年、
長年かけてゆっくりと蝕んできた潮は、建物の外観を赤く染め上げていた。

その倉庫。

フォルトゥナ港の中でも一段と古く、ここ最近になってはほとんど使用されていなかった。

だが今は違った。

薄暗い屋内には大勢の人がいた。
質素な服で身を包んだフォルトゥナ市民が、怯え身を縮めて。


倉庫の外からは金属の凄まじい激突音が絶え間なく響いてくる。
この世の生き物とは思えない程の不気味な咆哮と共に。

倉庫を守り奮闘する騎士達と、
その防衛網を突破しようと絶え間なく押し寄せてくる悪魔達の群れ。


大きな倉庫の中には200人以上の市民。

一方でその外を守るのは15人程度の騎士。

そして彼らを囲み殲滅しようとしている悪魔の数は有に数百、
いや、最早数える意味など無い。

どんなに倒しても、
数が減るどころか次から次へと沸き出して更に増えていくのだから。
304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:06:37.98 ID:/GU/YuMo
確かにフォルトゥナ市街全域を見れば、その情勢は騎士達の方へ傾きつつある。

多くの市民の避難場所がある市街地はそれに比例して騎士の数も多く、
主だった地区では既にほとんどの悪魔が掃討されていた。

だが郊外では状況は違っていた。

この港も。

もう中心部に向かったところで全体の状況は覆せないとでも判断したのか、
悪魔達はフォルトゥナの『弱点』へと群がってきているのだ。

多勢に無勢。

全滅し突破されるのは時間の問題だ。

だが騎士達はそれを知りながらもとにかく戦い続ける。

悪魔の体液と騎士本人の血が混ざり、その戦闘服を真っ赤に染め上げていた。

柄を握る拳から滴る赤い液体も、それが騎士の血なのか、
それとも刃を伝ってきた悪魔の血なのかは最早区別がつかなかった。

イクシードを噴かしながら無心で剣を振り続ける。
目の前に次から次へと迫ってくる悪魔達を片っ端から切り捨てていく。


そんな決死の奮闘を嘲笑うかのように数を増やしていく悪魔達。


そして激戦の中また一人、また一人と騎士が斃れて行く。
305 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:08:51.57 ID:/GU/YuMo
最早時間の問題だった。

騎士達の目は虚ろで、既に光は消えていた。

まるで死体が死に切れずに尚戦っているような光景。

しかし彼らの動きは止まることが無い。

意識が朦朧としている騎士達の体を今だに突き動かし、その心を支えている芯。

それは騎士としての誇りと使命。

そして現人神でありフォルトゥナの守護神である―――。



―――『ネロ』の存在。


騎士達は信じている。

あの御方が必ず来てくれると。

だが。


『救い』を求めているわけでは無い。


そして『助け』を求めているわけでも無い。
306 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:10:09.27 ID:/GU/YuMo
確かに戦闘能力はネロには遠く及ばない。

だがその信念の強さは同じだ。

心の気高さは同じだ。

同じ『フォルトゥナ騎士』なのだ。


恋人を愛し、家族を愛し、故郷を愛し、そして人間を愛する心はネロに負けないくらいだ。

騎士達はそれを自負している。

自分達は『強い』と。

そしてネロもそれを知っており、彼らを心の底から信頼している。


だからこそ『救い』は請わない。

救いを己から請うのは『弱者』のする事。



『強者』の彼らがネロに望む事は『救い』ではなく―――。



―――共に戦える『栄誉』だ。



同じ信念を持つ『戦士』としての。



そしてそんな彼らの願いが今。



叶う。
307 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:11:55.23 ID:/GU/YuMo
突如水平線遥か彼方にぶちあがる、
天を貫くほどに巨大な赤と青の閃光が迸っている水柱。

水中で核爆発でも起きたかのような光景。

その衝撃波が海面を撫でて白く広がり、上空の雲を円状に一気に押し退けていく。


突如起きた異様な光景に、悪魔も騎士も皆その動きを一瞬止める。

束の間の沈黙。

まるであの爆発で『音』も一瞬にして吹き飛ばされたかのような。


そして次の瞬間。

正に直後。

水柱のふもとで、炎のようなオレンジの閃光が瞬いたと思ったその時。

その光源からこの港まで、
まるで超音速戦闘機が海面スレスレで低空飛行をしてきたかのように水飛沫の『帯』。



そしてその飛来してきた『何か』は大量の爆炎を吐きながら―――。



―――騎士達と倉庫を囲んでいた悪魔の群れのど真ん中に着弾した。
308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:15:41.27 ID:/GU/YuMo
凄まじい轟音と共に、数十体の悪魔が一瞬にして木っ端微塵になる。

そして騎士達は見た。

そのバラバラになった悪魔達の破片が降り注ぐ向こうに。

大きく穿たれた地面の窪みの中央。


そこに立っている―――。



―――現人神を。



巨大な炎を噴き出しているレッドクイーンを地面に突き立てて。


硬く拳を握ったデビルブリンガーを現出させている―――。


圧倒的な憤怒を秘めた赤い瞳の―――。



全身から青い光を湯気のように発している―――。



―――ネロを。


周囲にいた悪魔達は皆一斉に後方に跳ね、ネロと距離を開ける。
それと同時に騎士達からは堰を切ったかのように怒号じみた図太い歓声。

傷だらけの体をものともせずに皆剣を掲げ咆哮を上げる。

その咆哮の中、
ネロはレッドクイーンのイクシードを噴かしながら悪魔達をその圧倒的な目で見渡す。

ゆっくりと。

その間もレッドクイーンからは、
ネロの中で煮えたぎっている『怒り』を体現しているような爆炎が噴き出し続け、
彼の足元の地面を溶かしていく。
309 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:18:59.88 ID:/GU/YuMo
そしてネロは口を開いた。
これまたゆっくりと。


ネロ「よお―――」


怒号ではない。


ネロ「『俺ん家』に来客の予定は無かったはずなんだがよ―――」


大声でもない。
冷めた声だ。


ネロ「―――お前らの『土産』に免じて『歓迎』してやる―――」


だが。


ネロ「『フォルトゥナ式』でよ―――」



その言葉に篭められている『空気』は余りにも熱すぎた。


ネロ「何用かの話も聞いてやる。ゆっくりたっぷりじっくり な」


ネロ「だがまあ、ここで立ち話するのアレだしな、とりあえずはだな―――」


聞く者をそのまま炙り殺してしまう―――。



ネロ「―――まずは死ねや」




―――業火のような言霊だった。



ネロ「―――話はそれからだクソ共」
310 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:23:43.09 ID:/GU/YuMo
そして地面から抜かれたレッドクイーン。

それと同時に、悪魔達は一斉にネロに向けて飛びかかった。

他の騎士達などには一切目もくれず。


この下等悪魔達を突き動かすのは正に『狂気』だ。


仇敵の血を前にした底無しの『憤怒』からくる殺戮欲。
そしてその力に対する圧倒的な『恐怖』からくる防衛反応。

この二つが組み合わさって『狂気』となり彼らの闘争心は爆発する。

こうして下等悪魔達は必然的にスパーダの血に群がるのだ。
敵わないと知りつつも、自ら死の中に飛び込んでいく。

催眠術にでもかかったかのように。


その小さな魂の『器』が『狂気』に『寄生』されて―――。


そんな悪魔達の群れに向けてネロはレッドクイーンを横一線、前方を大きく掃うように神速で振りぬく。

精鋭のフォルトゥナ騎士でさえ、いや、『主』以外誰一人扱えないと言われていた『暴れ馬』、レッドクイーン。
大量の魔を切り捨て、そして主の絶大な力を浴び今や意識を有し『魔具』と化している。


その凶悪な刃が、複数体の悪魔を纏めて薙ぎ払う。

更にネロの底無しの憤怒を帯びた爆炎が、
刃から辛うじて免れた周囲の悪魔達を一瞬で焼き払った。
311 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:26:45.75 ID:/GU/YuMo
凄まじい速度で立て続けに振るわれるレッドクイーン。
薙ぎ払われ引きちぎられ焼き払われていく悪魔達。

その衝撃波が地面を何重にも削り剥いでいく。

そんな地面から破片が舞い散る『前』にこれまたとんでもない速度で振り下ろされるデビルブリンガー。
拳と地面の間には叩き潰された悪魔。


ネロは猛烈な速度で悪魔の群れの中を進みながら、鬼神の如く壮烈な憤怒を解き放ちそして撒き散らす。

一切の容赦なく。

悪魔達の外殻を砕き、肉を裂き、骨を破断し、血を撒き散らせ、魂を叩き割る。

この港を覆い尽くさんばかり程もいた悪魔達の数が見る見る減っていく。
そしてそれに比例して周囲に撒き散らされ積みあがっていく大量の肉塊。


その光景。

この場面だけを切り取ってしまえば正に『虐殺』に見えてしまう。

それ程までに一方的な戦いだった。


正に鬼の形相のネロは猛烈な勢いで悪魔達を刈り取って行く。

その後に続き、騎士達が残った悪魔達を掃討し、息がある者には止めを刺していく。


そして。

ネロが現れてから30秒程度。
たったそれだけの時間でこの港に集っていた悪魔達は全滅した。

一匹も残さず。

一匹も逃げれずに。


皆殺しに。
312 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:30:01.74 ID:/GU/YuMo
あるものは沸騰して蒸発するように、
あるものは氷り砕け散るように、
あるものは石化して崩壊し砂と化すように。

それぞれの悪魔の特性に合わせて、周囲に散らばっている大量の肉塊は消滅していく。

そんな中、まずこの場での『一仕事』を終えたネロはレッドクイーンを地面に突き立てて、
遠くの黒煙が上がっているフォルトゥナ市街の方へと目を向けた。


ネロ「…………」

感覚を研ぎ澄ませ、より強い感知能力を持つ右手に意識を集中させて、
この立ち込めている『大気』の質と流れを『見る』。

溢れ充満している『魔』を嗅ぎ分け、解析していく。


ネロ「…………」


フォルトゥナ市街には今だ多数の悪魔がいるようだが、どうやら一番密度が高かったのはこの港だったらしい。
市街に残っている数は多いと言えば多いが、それ程でもない。

己がいなくとも、どのみち市街は仲間の騎士達の手によって完全に掌握できる。

だからと言って己が来たのは無駄でもない。
もう数分到着が遅れていたら、まずあの倉庫に避難していた200人の市民は皆殺しにされていた。

むしろもっと早く帰還できてたら。


ネロ「……クソ……」


ここまでの惨状にはならなかっただろう。
こうして右手で『声』を拾っているだけでわかる。

多くの者が哀れにも命を落としていったことが。


己の力を持ってすれば救えるはずだった命。

その同胞達の、兄弟達の、家族達の『声』をネロはしっかりと耳に焼き付ける。

絶対に忘れはしまいと。
313 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:33:29.46 ID:/GU/YuMo
ネロがここまで来た方法は、彼がかなり苦手とする悪魔式の移動術だ。

例のフォルトゥナ争乱の後に、トリッシュのを真似て一度だけ試したことがあが、
その時はとんでもないことになってしまった。

その時の移動先は目的地とは全く違う場所であった。

また、彼は『口』を大きく開けすぎ更に流し込む力の量もかなりオーバーしたこともあって、
一帯が綺麗に円状に『消滅』してしまったのだ。
人気の無い野原で使ったのが幸いだった。

そのこともあって彼は二度と使わないと決意した。

移動先が定まらないのはまだしも、周囲を無駄に破壊してしまうなどもってのほかだ。
更に学園都市の一件でより強大な力を持ってしまった彼は、この技の事など頭の中から消し去っていた。


ダンテもそうだが、ネロがこの術を苦手とするのは育ちのせいだ。
この移動術は、基本的に魔界で生まれた者は皆生まれながらにして即覚える。

力が確立する前にだ。

そんな技を、ダンテやネロのように規格外の力を有する者が成熟後に覚えようとするなどかなり厳しい。

練習すれば何とかなるだろうが、
その力の大きさが例え練習であってもとんでもない事を引き起こしてしまう可能性が高いのだ。

(ちなみにバージルは幼い頃ダンテと離れて直ぐに習得した。これはダンテが劣っているというわけではなく、
 ただ単に悪魔の力と技術知識に対する積極性の差だ)

そういうこともあってネロはこの技を封じていたのだが。

差し迫る状況はそれを許さなかった。

トリッシュに連絡しても繋がらない。

権限を利用して、イギリスから超音速機を持ち出し向かっても一時間はかかってしまう。
ステイルのように弾道ミサイルに乗り込んでも20分、更にミサイルの場合は準備にかなり時間がかかる。

だから彼は使わざるを得なかった。

移動先をフォルトゥナ沖の海面に定めて。

案の定、あふれ出した力が爆発的な破壊をもたらしたが、
何とかこうして目的地に到達することはできた。
314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:36:08.42 ID:/GU/YuMo
ネロ「………………状況は?」


しばしそうやって静かにフォルトゥナ市街を眺めていたネロが口を開いた。


「10分前に回線が切断され現時点の正確な状況は掴めませんが……」


そのネロの声に、いつの間にか彼の斜め後ろに立っていた騎士が応えた。
ネロと同じくらいの年齢の、この場の指揮を執っていた者だ。

重装騎士の篭手と脛当てを装着し、持っている剣も金の装飾が施された、
一般の物よりも一回り大きなモノだ。

鎖帷子や胸当て、兜等を装着しているヒマは恐らく無かったのだろう。
最低限の装備だけ付けて兵舎を飛び出したに違いない。


「その時点の情報によるとフォルトゥナ城と旧教団本部の防衛は成功」


「北部と南部は大規模な戦闘がありましたが掌握、東部と中央も直に制圧完了との事でした」


「そして西部は今の掃討で大方完了かと。現在回線の復旧を急いでおります」


ネロ「……市民の安全は?」


ネロは振り返らずに、遠くのフォルトゥナ市街を眺めながら問う。
一段と重い声色で。


「……7割は確実に」


ネロ「…………7割か」


7割。

つまり残り3割の安全は確保できていないという事だ。
315 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:39:41.97 ID:/GU/YuMo
ネロ「……あんたらはここを守っててくれ」

「了解」

ネロ「俺は街に向かう」

そしてネロはレッドクイーンを地面から引き抜き背負うと、
腰から巨大な拳銃『ブルーローズ』を右手で取り出す。

そんな彼に向かって。


「ネロ。聞いてくれ」


騎士は名を呼んだ。
その口調は敬語ではなくなり、親しき友に対するようなモノだ。


「最後の報告によると、キリエさんは歌劇場のあたりにいたそうだ」


そして告げる、彼の想い人の消息。
ネロはやっと騎士の方へ振り向いた。

その騎士。

ネロと同じくらいの、いや同い歳の同期だ。
以前の教団による争乱を生き延びた騎士の数少ない一人。

同じ教室で教育を受け、同じ修練上で技を高めあった者だ。

かつては、この騎士もはみ出し者のネロとはあまり関わりを持とうとはしていなかったが、
例の争乱以来ネロの事を認め、今は彼を支える友の一人だ。


ネロ「―――ああ、助かるぜ」


一瞬。

ほんの一瞬だけネロの顔が凄まじい形相に変わるも、
その影は即座に失せ彼フッと笑いながら左手でその騎士の肩を軽く叩いた。
316 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/05(月) 01:40:22.89 ID:FkP0RUAO
きてた!!
317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:41:56.45 ID:/GU/YuMo
「……それと……もう一つ良いか?」

騎士が少し言いにくそうにそんなネロへ向けて再び口を開く。

ネロ「……」

その様子を見て、ネロは彼が何を言おうとしているかを即座に察知する。

そして。


ネロ「ああ、わかった。『確認』してくる」


続く言葉を待たずに頷いた。

騎士も無言のまま頷く。

ネロは再び彼の肩をポンと叩くと、
クルリと踵を返しフォルトゥナ市街の方を向いた。

そして目を瞑り、もう一度感覚を研ぎ澄ます。

煮えたぎる凄まじい衝動を抑え、なんとか落ち着かせて冷静になりながら。



右手の『声』に耳を傾ける。


『絆』の『糸』が繋がっている先を探して。


キリエを。
318 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:45:00.01 ID:/GU/YuMo
ネロ「―――」

数秒後、ネロは目を見開き遠くのフォルトゥナの街の一点を真っ直ぐと見据えた。

ネロ「―――今行く」

そしてポツリと呟きながらブルーローズを天に掲げ―――。


―――引き金を引いた。


凄まじい炸裂音と共に、青い閃光を帯びた弾丸が天を貫く。

それは己の帰還を知らしめる狼煙。

今だ奮闘している騎士達と、怯え縮こまっている市民達へ向けての。


そして宣戦布告と死の宣告。

このフォルトゥナへ牙を向けた愚か者への。


撃ち出された閃光が合図となり、抑え込んでいたネロの憤怒が爆発する。
いや、彼は自ら爆発させた。

もう冷静に気を静めている必要は無い。

次にやるべき事は、この煮えたぎる熱で守るべきものを護り、
そして倒すべき者には死の鉄槌を叩き込む。


ネロ「オォオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」


天を仰ぐネロの咆哮がフォルトゥナ全域に響き渡る。

それはフォルトゥナの者にとっては希望の声。


そして悪魔達にとっては―――。



―――『死神』の声。


―――
319 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/05(月) 01:49:45.49 ID:/veKLFw0
ふおおおおおお!!!滾る!滾るぜネロ坊!!
320 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:51:41.70 ID:/GU/YuMo
―――

その遠くの港から放たれた青い閃光、
そしてその直後にあふれ出した凄まじい殺気をアリウスは見ていた。

アリウス「―――来たか」

やはり離脱するのが遅すぎた。

いや、スパーダの孫が来るのが予想以上に早かったと言った方が良いだろうか。


アリウス「……全く……ここで判断を誤るとは」

とはいえ、己の判断ミスが一番の原因なのは間違いない。
目標には既に『マーキング』という保険をかけるのが成功したのだ。

欲張らずにさっさと引き上げるべきだったかもしれない。

あのスパーダの孫はまずは即座に恋人の元へ向かい、
そしてその安全を確保した後、今度はこちらへと向かってくるだろう。

フォルトゥナ中の悪魔達を指揮するため、広範囲に渡って大規模な通信魔術を展開している。
それを探知されるのも時間の問題だ。


確実に捕捉される。


その魔術を解き痕跡を消すにも、もう時間が無い。
(まあ、マーキングを確認した時点で即座に帰還の作業に入っても間に合うかは微妙だったが)

彼が現れてしまったらもう遅い。

かといって痕跡の処理もせずにこの場を離れてしまうと、その痕跡を利用されて追尾されてしまう。

準備が整っていない内にこちらの本拠が襲撃されてしまったら全てが水の泡だ。


アリウス「(―――ふむ……どうするべきか)」


方法を考えなければいけない。

痕跡を残しつつも追尾させない方法を。
321 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:54:26.50 ID:/GU/YuMo
そんな難題に対しても、
アリウスの天才的な頭脳はこんな窮地の場でありながらも冷静に、
そして即座に答えを導き出した。

それもかなり確実な方法を。


アリウス「(……マーキングか……使えるな)」


一通り頭の中でシミュレーションし、確実性を再確認する。
そして彼はその為の作業に入る。

コートから直径5cmほどの小さな水晶を取り出す。
先程セクレタリーを呼んだ物とは別のだ。

そしてそれを握り、精神を集中して瞬時に手際良く作業を行う。

頭の中で複雑な術式を組み上げ、それを『ある者』の『魂』に遠隔で刻み込んでいく。


アリウス「(……こんなところだな……)」


最後にもう一度確認し、そして起動する。


即席の術式は問題なく稼動した。


アリウス「(さて……)」


そしてこの方法では、最後にもう一つやることがある。
それがアリウスにとって一番大変なのだが。


アリウス「(では会いにいくとするか)」
322 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/05(月) 01:57:57.13 ID:/GU/YuMo
ネロに直に会わなければいけないのだ。

最悪、姿を現した途端にあの怒り狂った『怪物』に一刀両断されるかもしれない。

叩き切られる前に『とある事』を説明しなければならない。


尤も、アリウスが死んだ場合はネロにも『それ相応』の『報復』を味わう事になるのだが。


―――『それ相応』の だ。


―――ネロにとっての最大の『痛み』を だ。



アリウス「さあ、どうする?―――」


そしてその事を聞いたスパーダの孫は。


アリウス「見物だな。俺を殺せるか?―――」



果たしてどんな決断をするか。



アリウス「―――若造」


全人類への脅威か―――。


それとも―――。


たった一人の人間への愛情か―――。



―――『どちら』を選ぶのか?



―――
323 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/05(月) 01:58:58.43 ID:/GU/YuMo
今日はここまでです。
次は火曜か水曜の夜中に。
324 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/05(月) 02:01:50.84 ID:/veKLFw0
乙乙

サリーちゃんパパめ・・・保険ってそれかよ
325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/05(月) 02:13:09.41 ID:FkP0RUAO


ネロ、武器少ないとか余裕がないとか言ってごめん
326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/05(月) 02:27:08.76 ID:ZqvTjsAO
やっぱデビルハンターの雑魚殲滅はこうじゃねえとな!
327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/05(月) 02:31:58.00 ID:sB4kTvE0
乙!!

このSS読み続けてたら今まで「やっぱり三番手」だと思ってたネロ坊にも
「風格」みたいなのがどんどん備わってくみたいで嬉しい♪
328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/05(月) 12:17:15.22 ID:wCRb4YDO
乙乙!熱い展開だ!
この土日に一から読み直してたんだが、
やっぱり面白いなぁ
329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/05(月) 18:34:39.63 ID:HOuXECUo
>>328
よう俺

最初のダンテの「JudgmentDeathNo!!!Yeah!!!」が懐かしかった
330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/05(月) 21:53:15.76 ID:fDYUySw0
ここまでで読んで一番好きな流れはやっぱり、
ネロ死亡(仮)で親父と叔父ブチギレ→ネロ覚醒→幻想殺し
→スパーダ一族3人での「「「Jackpot!!!!!!!」」」→兄貴の説得&救出
だなあ…何度読んでも良い

兄貴が最後にダンテとネロに何て言ったかが気になるが、
あえてはっきりと書かない方が自分でいろいろ考えられていいなww

禁書は全く読んだことないし、ベヨも詳しくは知らんけど今も十分楽しんでるからすごいと思う
331 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/05(月) 23:00:31.61 ID:3E9UYADO
>>324
サリーちゃんのパパの悪役としての株は結構上がったけどな
332 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/06(火) 03:29:31.64 ID:2xM1l4E0
>>329
懐かしいwwwwww
333 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:03:15.99 ID:cVCcspIo
―――

学園都市第七学区。


廃墟を照らすオレンジと白の光。
それに対抗する漆黒の闇。

そして。

この場に突如現れた三つ目の光源。


―――『白銀』の。


上条当麻。


彼は遂にここまでやって来た。

彼女を守る為に。

彼女を救う為に。

己を呼ぶ『絆』の声に応えて。

己の『魂』の叫びに従い。


そしてここからだ。
ここからが彼の本番だ。


上条『待ってろ。今そこから出してやるからな―――』


『竜王の殺息』を右手で押し留めながら、彼は穏やかな笑みを浮かべて囁き掛ける。


上条『―――インデックス』


虚ろな瞳をしている最愛の少女へと―――。
334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:06:51.43 ID:cVCcspIo
やっとこの場に到達し三人の姿を捉えた上条。

襲撃者であろう背中から巨大な腕を出現させている華奢男、
その男に向けて猛烈な攻撃を放ち続けている一方通行、

そして、そんな一方通行の後方にふわりと浮いているインデックス。


困惑した上条は一瞬足を止め、その状況を確認しようとしたが―――。


―――その作業は後回しにされた。


声が聞こえたのだ。

それは上条の中の単なる幻聴だったかもしれない。

だがはっきりと聞こえた。


あの少女の声が―――。


「とうま!!あくせられーたを―――!!!」 と。


その声を聞いた上条は即座に動いた。
どんな状況なのか というのを考えようとする前に。


彼女の声が何を伝えたかったのか、
これから何が起こりうるかがなぜか手に取るようにわかったのだ。


そして無心のまま一方通行の背後に飛び込み―――。



―――こうして右手で受け止めたのだ。



ほぼ同時にインデックスから放たれた光の柱を。
335 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:12:31.44 ID:cVCcspIo
上条『(―――)』

こうして右手で受け止める中、ようやく上条は状況を冷静に分析し始める。

インデックスから放たれ押し寄せてくる光の濁流。
細かな粒子の集合体であり、そしてその一つ一つの光の粒には莫大な力が篭められている。
つまり厳密に言うとこれは『一つの大砲』ではなく、無数の『小さな大砲』の集合体だ。

まるで『散弾形式のレールガン』がガトリング砲のように凄まじい速度で連射されているようだ。

右手の幻想殺しを押し当て打ち消そうとするも、その処理が間に合わない。

またそれぞれの粒子の性質が微妙に違う為、それが更に幻想殺しの処理を遅延させていく。


処理し切れなかった粒子が飛び散り周囲を舞う。
その光輝く美しい粒子。

良く見ると『羽』の形をしていた。

正に『天使の羽』という表現がピタリと当てはまる程に美しい。

だが。

その美しさとは裏腹に。


上条『ぐッ―――!!!』


篭められている性質は『破壊』。

右手の処理からあぶれ舞い散る羽が上条の顔や体中にぶち当たる。

まるで砲弾のように。

今のように悪魔の力を有していない、
生身の頃の体だったらとんでもないダメージを負っていただろう。


とんでもないダメージを だ。

それこそ頭に当たったら『記憶が消し飛んで』しまいそうな程の だ。
336 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:14:42.82 ID:cVCcspIo
その光の散弾の中、上条は右手越しにインデックスを見据える。

己が最も守りたい存在を。


姿形は確かにインデックスだった。

だが醸し出していた雰囲気は余りにも別人過ぎた。


大きく見開かれた無感情な瞳。
顔の前に浮かび上がっている魔法陣。

人形のように生気の無い無表情。


そんな彼女の姿が上条の胸を締め付ける。


インデックスの身に一体何があったのか。


最愛の少女のその姿が、彼の心の奥底の闇を強く刺激し一気に肥大化させる。
そして彼の喉元までこみ上げてくる。

地底の底から火山の噴火口へ爆発的に駆け上がっていくマグマのように。


それと同時に声がする。

『あの時』のように身を委ねてしまえ と。

『力』に全てを任せてしまえ と。


だが。


上条『うるせぇ―――』


彼は押し留めた。
その狂気の声を一瞬にして押さえつけ黙らせる―――。
337 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:19:41.83 ID:cVCcspIo
このインデックスの姿を見た上条当麻。

以前の彼なら一瞬にして暴走状態となってしまっただろう。

だが今の彼は違う。

デビルメイクライで過した数週間で、彼自身は大きく成長した。

力はもちろん何よりも逞しくなったのは『心』だ。


ある意味皮肉な事だろう。

悪魔の力を捨てる為の試練が、
また一方で彼を生粋の『悪魔の戦士』へと鍛え上げてしまったのだ。

急速に、そしてより濃く悪魔の力に馴染み融合していった彼の魂。


そしてその過程で叩き込まれ続けたダンテの力。


そのダンテの力から流れ込んでくる思念の影響も大きかったかもしれない。



―――ハートは猛烈に熱くその一方で頭は常にクールに。



―――己の力を完璧に統制しどんな時でも自我を冷静に保つ と。



元から熱く強い魂を持っていた上条当麻。

そこにもう一つ、今度は『常に冷静な思考』というエッセンスが加わったのだ。
338 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:22:38.04 ID:cVCcspIo
例え感情が爆発しようとも自我は絶対に揺るがない。
今の彼は最早、己の昂ぶりに全てを任せて闇雲に突き進む『わがままな子供』ではない。
己の『信念』を貫き通す『力』と『覚悟』、
そしてどんな時でも自分を見失うことが無い強靭な『心』と『頭』を持った一人の『戦士』。

決して己の力に溺れることの無い、それでいて確たる自信と誇りを持った一人の『武人』。


それが今の上条当麻だ。

(この上条の精神の成長がダンテ達の一つ目の目的でもあった。『暴走』の危険性を取り除く為のだ)

暴走状態となれば、爆発的な力を使うことが出来る。
『幻想殺し』の作用を周囲一帯に行使できるあの『竜の頭』のようなモノも出せるかもしれない。

もう一人の『自分』に任せてしまえば楽になる と。

そんな甘い蜜のような誘惑が上条を唆す。


だが。

上条は知っている。

脅威では無くなった人間を、命乞いをする人間を一切の躊躇いなく殺す手で。

殺戮が快楽となってしまう手で。
血を喜び味わう『化物』の手で。


上条『お前を守るのは―――』


そんな手で。

あんな『奴』の手で。



上条『―――「奴」じゃねえ』


誰かを守れるわけが無い と。



上条『―――俺だ』



―――インデックスを救えるわけが無い と。
339 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:24:38.99 ID:cVCcspIo
フィアンマ「―――」

その上条の背中を一方通行越しに見たフィアンマの表情が変わった。
一方通行の死を確信していた笑みが消える。

だが決して危機を感じたわけでは無い。
一方通行の死の確信そのものが消えたわけでもない。

そんな『小さな事』など横に追いやってしまう程の、
より大きな感情が彼の中からこみ上げて来たからだ。


それは歓喜。


上条の『姿』に対しての。


そして彼の顔には別の笑みが浮かぶ。


―――不気味な笑みが。


フィアンマの背中から伸びている巨大な腕が、
彼の昂ぶる感情に呼応し大きく揺れる。


そして不敵に笑いながら、フィアンマは瞬時に後方へ下がり距離を開けつつ、
先程から上空に精製していたオレンジの光の柱を一気に振り降ろす。


一方通行へ向けて。


彼とメインディッシュとの間に居座る、邪魔な『ゴミ』を一気に払い除けるかのように―――。
340 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:26:22.84 ID:cVCcspIo
一方『―――』

一方通行の瞳に映る、急速に迫ってくるオレンジの光の塊。

確かに上条が彼の背中を脅威から守った。
だが結局間に合わなかったのだ。

フィアンマを押し切れなかったのだ。

この男の光の防御膜を叩き割ることができなかった。

そして今の満身創痍の彼には最早、
フィアンマの攻撃を耐え切る余力など残っていない。


だが彼の顔には絶望の色など欠片も無かった。


むしろ―――。


―――嬉しそうに笑っていた。


そしてフィアンマの攻撃が迫ってきているにも関らず、一切の防御行動も起こさずに―――



一方『―――上条ォォォォォ!!!!!!!!!!!』



―――背後のヒーローの名を、倒れるように振り返りながら叫ぶ。
341 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:29:58.01 ID:cVCcspIo
竜王の殺息を右手で受け止めながら振り返る上条。

二人の視線が交差する。

それはほんの一瞬。

銃弾が止まって見える程の二人にとっても極僅かな時間。


だがたったそれだけの時間にも関らず―――。


―――二人はお互いの考えを把握する。


その直後に、事前に口裏合わせでもしていたかのように二人は一気に動きだす。


上条はそのままフィアンマの方へ振り返る。

一方通行はインデックスの方へ向けて体を進める。


そして上条は光の篭手を纏っている左手をフィアンマの方へ突き出し。

一方通行は両手の漆黒の義手と背中の全ての杭をインデックスの方に突き出す。

二人はすれ違うように立ち位置を入れ替えたのだ。


一方通行の『漆黒の義手』がインデックスから放たれてくる竜王の殺息を押し留め。



上条は用済みとなった右手を引きながら―――。


左手でフィアンマが振り降ろした光の塊を受け止める―――。
342 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:31:32.63 ID:cVCcspIo
上条『ぐ―――!!!!!!』

オレンジの柱の『刃』が、上条が掲げた左手の前腕に激突し食い込む。

その凄まじい力が、彼の光の篭手を大きく歪め表面を凄まじい勢いで剥ぎ取っていく。
この程度じゃ防ぎきれないのは一目瞭然だ。

このままでは彼の左手が捻り潰されてしまう。

だが彼にはもう1本の腕がある。


このような『実体』を持たない力に対する究極の切り札が。


―――右手の『幻想殺し』が。


彼は左手で受け止めたオレンジの柱に右手をかざす。


そして『幻想殺し』はその『力』を纏め上げている『方程式』を読み取り―――。


―――『相殺』と『書き換え』を同時に行い―――。



―――『消滅』させる。



彼が右手で触れた数秒後。


オレンジの光の柱に巨大な亀裂が走る。
343 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:33:29.68 ID:cVCcspIo
亀裂が広がり砕け散るオレンジの柱。

周囲に飛び散る光の破片。

フィアンマが放った圧倒的な攻撃は、
その攻撃を生み出した彼の『聖なる右』の対である『幻想殺し』によって『破壊』された。


だがこの二人の少年の動きはそれだけでは止まらなかった。


上条『―――アクセラレータァァァアア!!!!!』


今度は上条が、地面を軽く蹴り宙に浮きながら背後の少年の名を叫ぶ。

『竜王の殺息』の凄まじい光の嵐を両手で遮っていた一方通行を。


その叫びを聞き一方通行は『竜王の殺息』を突き飛ばすかのように両腕を一気に伸ばし、
同時に後方へ、つまり上条の方へと全力で跳ねる。



その一方通行の背中、
ちょうど黒い杭が生えている付け根の辺りに、軽くジャンプしていた上条は足を当て―――。



―――踏み台にして前方へ一気に跳躍する。
344 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:35:40.88 ID:cVCcspIo
猛烈な勢いで噴射されている『竜王の殺息』、
その上にベクトル操作と黒い噴射物の力が上乗せされ、
凄まじい勢いで上条の方へと射出された一方通行。

その彼の背中を足場として、更に上乗せされた上条の悪魔的な脚力。


そんな莫大な運動エネルギーを携えて、上条当麻は後方へ下がりつつあったフィアンマを追うように爆進する。


砕け落ちたオレンジの光の破片が舞う中を切り裂いていき。


フィアンマ「―――」


一瞬にして到達し。


上条の飛び膝蹴りがフィアンマの顔面に。


フィアンマの身を包み守っている光の膜に―――。


そこに走る亀裂の上に―――。



上条『―――オォ゛ォ゛ォ゛ラァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!!』



―――叩き込まれた。


解き放たれた憤怒の雄叫びと共に響く、金属同士が激しく衝突したかのような轟音。


そして続く―――。


―――ガラスが割れて飛び散るような破砕音。
345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:41:29.03 ID:cVCcspIo
オレンジの光の欠片を撒き散らせながら大きく仰け反るフィアンマ。

今だフィアンマの体を守っている光の衣は健在だったが、
確実にダメージは蓄積されていた。

特に一方通行のラッシュを浴び続けた部分はかなり薄くなっていた。

そこに上条と一方通行の力が組み合わされた『凶悪』な一撃が叩き込まれたのだ。


膜は大きく抉られ破片を撒き散らす。

残るは『半紙』のように薄く頼りない光の膜。


上条『シッ―――』


跳び膝蹴りを放った直後、
宙に浮いたままの上条は即座に左手を伸ばしフィアンマの光の衣を『掴む』。

そして思いっきり引き寄せ。


フィアンマの顔面へ―――。


最も光の衣が薄い箇所へと―――。


『右拳』を放つ。



その最後の壁をぶち抜き、その奥に控えている高飛車な顔を殴り飛ばすべく―――。


インデックスに手を出そうとしたクソッタレをぶっ飛ばすべく―――。
346 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:43:28.06 ID:cVCcspIo
だがその瞬間。

上条が拳を放つと同時に。

フィアンマの背中から伸びている巨大な腕が一気に前方へ、
上条の方へ瞬時に伸びそのまま二人の間に割り込む。

凄まじい量の力を放散しながら。

先程のオレンジの光の柱とは比べ物になら無いほどの力を。


上条『―――』


それに気付いた時はもう遅かった。
放たれた右拳は止まらない。

まあ、元々止める気などさらさら無いのだが。


上条はその一瞬で瞬時に判断する。

あのトカゲのような腕は少し透けており、
ホログラム映像のように揺らいでいる所を見ると恐らく『実体』は無い。


つまり―――。


―――右手が効く と。


上条『―――ッッッッんっらァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!』


そしてそのまま渾身の力をこめて叩き込む。


それならあの腕ごとぶっ壊しぶっ飛ばせばいい と。
347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:44:58.84 ID:cVCcspIo
そして激突する。

上条の右拳と巨大なトカゲのような腕が。

『聖なる右』の本体に『幻想殺し』が。


本来は『一つ』であったはずの『二本』の手が。


壮絶な轟音を響かせながらトカゲのような腕がガラスのように砕け散る―――。


上条『(―――……へ?)』


―――と思いきや。


普通にゴンっとぶつかっただけだった。

ただそれだけだった。

それだけ。


その後は何も変化が起こらない。

ガラスのように破砕させるどころか、小さな亀裂すら入る気配が無い。


上条『…………は?』


目を丸くする上条。


そしてそんな彼の顔を見ながら心底嬉しそうな笑みを浮かべる―――。



―――フィアンマ。
348 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:46:25.73 ID:cVCcspIo
触れた瞬間に感じるこの独特の感覚。
それは打ち消す際にいつも感じる妙な感覚だ。

今この瞬間もそれを感じた。
つまり『幻想殺し』は機能した。

だが。

上条『(―――効いてねぇ……?)』

このトカゲのような腕が砕け散る気配が無い。
『幻想殺し』が確実に機能したはずなのに、全く効果が表れない。

いや、一つだけ変化があった。

あの巨大な腕から放散されていた力はいつのまにか消え失せており、
オレンジの光も無くなっていた。

幻想殺しは、一応外側に溢れ出ていた力は消したのだろう。
外側のだけは だ。

まあその現象も、幻想殺しがしっかりと機能したにも関らず『腕自体』には何も影響を与えていないという、
有難くない事実を裏付けているに過ぎなかったが。

光輝いてはいないが、巨大な腕は今だ健在でありその中に渦巻く莫大な力も感じ取れるのだ。


フィアンマ「はっ―――」


フィアンマ「―――ははははははははは!!!!!!!!素晴らしいじゃないか!!!!!最高だ!!!!!」


そんな混乱している上条と対照的に、
突如笑い声を上げ何かに対して絶賛の言葉を発し始めたフィアンマ。


フィアンマ「まさか今ここで『見れる』とは!!!!!!今日は正に―――」

次の瞬間その巨大な腕が大きく振るわれ―――。



フィアンマ「―――ラッキーデイだ!!!!!!!!」


―――上条の体を弾き突き飛す。
349 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:47:46.87 ID:cVCcspIo
上条『―――くっそッ!!!!!』

宙を舞う上条は即座に体制を建て直し、瓦礫が覆う地面に着地しようとした瞬間―――。


フィアンマ「さあ、もっと見せてくれ―――」



上条『―――』



「―――とうま!!!後ろ!!!!!」


―――上条の脳内に再び彼女の声が響く。


それに反射的に従い、右手をかざしながら咄嗟に振り返る上条。


そしてその右手の平に―――。


後方の地上から放たれてきた白い光の柱がぶち当たる。

インデックスが放った竜王の殺息だ。



上条『―――おぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!』
350 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:49:59.25 ID:cVCcspIo
再び光の濁流に襲われる上条当麻。

不安定な体制、そして空中にいることもあって、
彼の体がその光に押され斜め上空へと一気にぶち上げられていく。


だが。


その光の噴射が突如ピタリと止まる―――。


いや、正確には途中で遮られた。


インデックスの前に飛び込んだ一方通行によって。


一方『―――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!』

インデックスの正面僅か2mの場所に立ち、両手の義手で竜王の殺息をせき止める一方通行。

彼はそのままの体制で背中の杭を一気に伸ばす。

光の噴射を受けて上空遥か高くへぶち上がりつつあった上条へ向けて。


フィアンマ「お前まだいたのか―――」


そんな一方通行を見てフィアンマはあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべ。


フィアンマ「―――邪魔だな。そろそろ消えてくれないか?」


手に持っている遠隔制御霊装で新たな命令をインデックスに。


―――先程のように、もう一度『竜王の殺息』を全面放射して一方通行を吹き飛ばせと。


―――とその時。


フィアンマ「…………ん?」
351 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:51:11.91 ID:cVCcspIo
彼は気付いた。

一方通行がこちらを見ながらニヤついていた事に。
竜王の殺息を懸命にせき止めながら。


その視線は良く見るとフィアンマではなく、
彼の少し後方へと向けられていた。


フィアンマ「―――」


そしてフィアンマも察知する。


後方に突如現れた気配を。

新たな第三者の気配を。


フィアンマの真後ろ5mの場所。

その地面に浮かび上がる金色の魔法陣。


そこから噴き上げるように大量に伸びる『金色の繊維』。

そしてその繊維の中に蠢く―――。



―――『炎獄』の業火。
352 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:52:32.66 ID:cVCcspIo
フィアンマ「―――」

振り返るフィアンマの目に映る、地面から吹き上がる灼熱の炎。


明らかに異質な―――。


―――悪魔の炎。


そしてその『地獄』の中から飛び出してきた―――。


―――黒い修道服とコートを纏った赤毛の『悪魔』。


凄まじい形相のステイル=マグヌス。


壮烈な怒りを放出している悪魔『イノケンティウス』。


憤怒の業火を放出しているステイルの両手には、同じく炎で形作られた刃。



ステイル『―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!』



それを振り向きざまのフィアンマへ向けて一気に叩き込む。


フィアンマ「全く……次から次へと―――」


だがそのステイルの炎の刃はフィアンマの肉体には到達しなかった。

巨大な腕が先の上条の時のように、再び間に割り込んできたからだ。


その鱗に覆われた腕にステイルの炎剣がぶち当たり弾かれた。
353 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:53:57.18 ID:cVCcspIo
一方『(―――あ?)』

その時。

ステイルとフィアンマの激突の瞬間を見た一方通行はある事に気付いた。


一方『(あの野郎……今―――)』



上条『(―――やっぱり な)』


上空にいた上条もそれと同時に、
いや一方通行よりもワンテンポ早くその点に気付いていた。


今のフィアンマからはオレンジの光が放出されていない。
彼の体から周囲に溢れていた力は、上条の幻想殺しが叩き込まれた瞬間に消えた。

そして今のステイルの攻撃は『腕』だけで防いだ。


つまり。


どうしてそうなったかは詳しくは分からないが、今現在のフィアンマには―――。


―――あの光の防護膜が無い。


―――フィアンマの身を守るモノはあの巨大な腕一つだけしかない可能性が高い。



上条は即座に左手を腰に回し、
ダンテから貰った拳銃を抜き出すと瞬時に銃口をフィアンマに向けた。


そして猛烈な速度で立て続けにトリガーを引く。


彼の力が篭められた白銀に輝く銃弾がフィアンマに向けて降り注ぐ―――。
354 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:55:15.33 ID:cVCcspIo
フィアンマ「―――」

上条から撃ち出された凶悪な『雨』に気付くフィアンマ。

再び振るわれたステイルの炎剣を背中の腕で大きく弾き、
今度はその腕で銃弾の雨を防いだ。

上条の方へは振り返らずステイルの方を向いたまま。

巨大な腕はまるで自動防御システムでもあるかのようにうねり、
降り注いでくる銃弾を次々と弾いてく。


そして一通り弾き終えようやくフィアンマは振り返り―――。


フィアンマ「―――気付いたか。だが俺様はその程度では―――」


―――上空にいる上条を見上げようとした瞬間だった。



上条『―――この「程度」でもか?』



フィアンマの瞳に映る、目の前で足を大きく引いている上条当麻。

上空にいたはずの上条当麻がなぜかすぐ背後にいた。


蹴りを放つ体制で。
355 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/07(水) 01:56:26.18 ID:cVCcspIo
上条の腰には一方通行の黒い杭が巻きついていた。

フィアンマは瞬時に思い出す。

先程一方通行は竜王の殺息を受け止めながら、一部の杭を上条へ向けて伸ばしていたことに。
あれは上条を瞬時に引き戻す為のモノだったのだ。


まあ、今更気付いたところで遅いのだが。


フィアンマ「―――」


正面からは上条の光り輝く足による凄まじい蹴り。

後方からは体制を立て直したステイルが再び振るう炎剣。


そしてフィアンマの『現在』の『防御策』はこの背中から伸びる『腕』1本。



フィアンマ「―――なるほど。さすがにk―――」



上条『―――オラァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!』



ステイル『―――ハァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!』



―――次の瞬間白銀の光と爆炎が溢れる。



―――凄まじい地響きと共に。


―――
356 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/07(水) 01:57:02.93 ID:cVCcspIo
今日はここまでです。
次は木曜か金曜の夜中に。
357 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/07(水) 01:58:49.77 ID:Vo6jdh.o
またいいところで寸止めか

358 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/07(水) 02:33:03.35 ID:iK4zwFIo
相変わらず毎回不完全燃焼な俺wwww
だがそれがいい乙
359 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/07(水) 02:33:07.44 ID:uy2g3Yk0
乙乙!
投下が安定してて嬉しいが、無理せず自分のペースで書いてくれ
いや、もちろんこのペースだと続きがすぐ読めて嬉しいんだけどさww
360 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/07(水) 02:52:03.36 ID:BHuLuBU0
ひょおおおおおwwwwwwwwこれは滾ってくるううううwwwwwwwwww
乙だ、ひたすらに乙だ
361 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/07(水) 19:06:23.23 ID:aBxZhXwo
わざと読まずにログだけとってたzE!密度ハンパねぇ!我慢できなくて読んだぜ!
くぉぉぉぉぉぉたまらぁぁぁん!!楽しみにしてる!
362 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/08(木) 23:44:18.44 ID:VbI6srso
―――


無人と言う点を省けば特におかしな所も無かった街並みが、
突如吹き荒れた超低温の凄まじい暴風によって一瞬で姿を変えた。

とある少年が行使した大規模魔術によって。


吹き抜けていく風。
宙を舞う無数の氷の結晶。

瞬時に凍結し、砕け散った周囲のビルや自動車。

その破砕された、凍りついた細かな粒子が周囲に降り積もり白銀の砂漠を形成する。

辺りは不気味な静寂に包まれている。

『砂漠』の粒子が擦れ流れる小さなのみが静かに響いていた。


そんな景色の中。


海原「……ぐっ……はぁっ……」


こめかみに血管を浮き立たせ、苦しそうに息を吐く少年。
周囲をこんな姿に変えてしまった張本人。
363 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/08(木) 23:46:26.70 ID:VbI6srso
海原「ッ……」

原典の力を大々的に使ったのは初めてだ。

太陽に敗れたトラウィスカルパンテクトリが姿を変えた、霜の神『イツラコリウキ』。

更に複数ある神話の一つにおいて『イツラコリウキ』は、
アステカの神々の中で最も大きな力を持つとされている『テスカトリポカ』と同一とされている。

そこを海原は『再現』したのだ。


『イツラコリウキ』の『冷』、
そして『テスカトリポカ』の忌み名の一つである『ヨワリ・エエカトル(夜の風)』を組み合わせた複合広域魔術だ。

その『神の冷気』は物質的には当然、魔術・霊的な力も篭められており生命の力そのものを、
魂からも『生の熱』を奪い取っていく。

最早一介の魔術師が使えるような魔術ではない。

アステカ魔術師の首長や部族長が使うようなレベルのモノだ。


だがそれ程の魔術でさえ―――。


これ程の破壊的な力でさえ―――。


海原「……だろうね……わかってるさ……」



―――あの『怪物』にとっては少し涼しいそよ風程度。


それだけのモノだった。

海原の視線の先、一帯に広がる白銀の氷原。

その中に悠然と。

先と全く変わらない姿勢で何事も無かったかのように立っている―――。



―――バージル。
364 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/08(木) 23:48:37.87 ID:VbI6srso
バージルは周囲の氷原をゆっくりと見回した後、再び海原にその鋭い視線を向けた。

海原「…………っつ……」

原典による強化があるにも関らず、その目を見た瞬間意識が途切れそうになる。
だが、それでいて目を離せない。

離す事が出来ない。

何と言うか、目を離してしまったらその瞬間に全てが終わってしまう気がするのだ。

まあ、目を離す離さない以前に。


海原「―――」


終わりは既に『目の前』にあったのだが。


ふと気付くと。


海原を取り囲むように、浅葱色の『剣』が大量に浮いていた。

切っ先を海原に真っ直ぐに向けて。

全方位一切の穴場無く。


いつ出現したのか全くわからなかった。

まあ、先に気付いていたところでどうにもならないのだが。

原典と繋がっているからわかる。
数本ならまだしも、こう数が多くちゃもうお手上げだと。


海原「―――ああ」


海原は瞬時に確信する。


今、己は『終わる』 と。

次の瞬間、己の肉体は串刺しとなりこの浅葱色の『剣』の中に埋もれてしまうだろう と。


そう思った瞬間だった。
365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/08(木) 23:50:12.61 ID:VbI6srso
海原「…………?」

よくよくバージルを見ると。
その視線は海原の方には向いていなかった。

海原から右へ10数メートル、氷の山となっているビルの辺りを見ているようだ。

恐る恐るバージルの視線を追う海原。


そして。


海原「―――!!!!!!!!!!!!!」


海原は見てしまった。


海原「―――な、な、な、なぜ!!!!!!!!!!!」


この『地獄』に踏み入ってしまった第三者の姿を。



海原「―――なぜこんな所に!!!!!!!!!!!!」



彼とバージルを見て硬直している少女の姿を。


彼の『想い人』の姿を。


黒塗りの巨大な、妙な金属の筒を手に持っている―――。



海原「―――御坂さん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



―――御坂美琴を。


―――
366 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/08(木) 23:52:29.29 ID:VbI6srso
―――

フォルトゥナ。
歌劇場近くの広場。


「(助けにだと?)」

突如予想外の行動と言葉を発した少女に対し、その場の指揮を執っていた年長の騎士は眉をしかめた。
少女は少し顔を俯き、緊張でもしているのかチラチラとこちらを見ては視線を逸らしてを繰り返している。

確かにあの仕草や雰囲気を見ると敵には見えない。
だが、高位な悪魔ほど巧妙な罠や策略を使う事もあるのだ。

―――と、そんな風に年長の騎士は考えていたが。

そんな彼の懸念など尻目に、周りの若い騎士達が突如馬鹿みたいな歓声を上げ始めた。
窮地に現れた『英雄』を歓迎し、そして生き永らえた喜びの声を。


そしてそんな彼らの喜びを更に後押しすることが。


「―――おい!!!!」


一人の若い騎士が、遠くの西の空を指差しながら叫ぶ。

フォルトゥナ港がある方角だ。

皆が一斉にそちらの方を振り向くと―――。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああ!!!!!!!!!!」


彼らから一段と大きな歓声が沸きあがった。
ある者は剣を高く掲げ、ある者は天を仰ぎ雄叫びを上げる。

彼らが見たもの。

それは天を貫く青い閃光。


その光は帰還の印。


守護神がフォルトゥナに帰って来たと言う希望の光。


ネロが帰って来たのだ。
367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/08(木) 23:54:10.29 ID:VbI6srso
ルシア「…………!!!……ネロさんが来るまで……わ、私が守りますので………」


ルシア「こ、この御方を早く安全な場所へ……」


突如巻き上がった歓声にたじろぎながらも、
少女は青い閃光を一瞥し、気を失っているキリエを指してこの場から移動するよう騎士達を促した。


その言葉を聞き、若い騎士達が一斉にキリエの元へ向かって駆け出す。

「お、おい!!!待っ……!(ネロ殿を知っているのか……!?)」

今だ警戒心を解いていない年長の騎士は、
駆け出した彼らの背へ向けて制止の命を飛ばしかけたが。


その時だった。


ルシア「―――早くして」


突如少女の表情が豹変する。

さっきまでの俯き加減だった子供らしい色は影を潜め。

凍るような無表情。


彼女は『ソレ』を察知したのだ。


―――広場の向こうに立っている―――。


―――赤いマントと純白のスーツを身に纏った―――。


―――古代ギリシャ風のフルフェイス兜を被った男。


そして同時に動き出し起き上がる―――。


―――先程切り倒したはずのセクレタリー達。
368 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/08(木) 23:55:17.15 ID:VbI6srso
眉間にナイフが突き刺さりながらも、何事も無かったかのように起き上がるセクレタリー。

続けて少女の近くに横たわっている二体も動き出す。

頭が無いにも関らずムクリと上半身を起こす一体―――。


切り落とされた足の再生を始めるもう一体―――。


突如再び動き出した『絶望』。
それを目の当たりにし、騎士達が一瞬凍るが―――。


ルシア「―――早く!!!!」


―――響き渡る少女の透き通った声がその空気を切り裂く。

その声に突き動かされるように、一人の騎士は即座にキリエを抱き上げ周囲を他の者達が固める。


「―――ッ……!!行くぞ!!」


状況を見て、年長の騎士は即座に決断し、キリエを囲む騎士達の方へ駆け出す。
警戒している場合では無い。

この少女が敵か味方かなのか以前に、今再び起き上がりつつある悪魔達は確実に『敵』なのだ。

そして更に異質な空気を放つ者がもう一人現れたのだ。

選択は一つ。

この少女を信じるしかないのだ。
369 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/08(木) 23:56:51.52 ID:VbI6srso
ルシアは両手の剣を軽く振るい、そのまま腕を大きく広げ、
起き上がる周囲の三体の『姉妹』の動きに感覚を研ぎ澄ませ、

そして正面からゆっくりと歩を進めてくるその男を見据えた。


顔は隠れているが、あの男が何者かは一目瞭然。


ルシア「……」



『父』だ。


己を創り生み出した『父親』だ。


その姿が曲刀の柄を握るルシアの手の力を更に強める。



アリウス「久しぶりだな。『χ』」



そして響く、高慢な声。



ルシア「…………」



アリウス「まさか生きていたとはな」


アリウス「だがまあ、お前には用は無い」
370 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/08(木) 23:59:19.12 ID:VbI6srso
そして同時に。

ルシアに一斉に跳びかかる復活したセクレタリー達―――。


ルシア「―――」


セクレタリー。

ルシアにとっては血を分けた姉妹といっても過言ではない。

いや、姉妹以上と言っても良い。
体を形作っている基本的な設計は同一。

人間で例えるとDNAがほぼ一致しているようなものだ。

だがそんな『繋がり』を認識しているのは自分だけ。
この姉妹達にはそんな『自己認識』など無い。

あの頃の自分のように、ただ指令のまま動く。

そう、『あの頃』の自分のように。

己がどんなに彼女達の境遇を哀れんでも。
己がどんなに彼女達との繋がりに胸を痛めようとも。


彼女達は何一つ感じない。


己は何者なのかという認識が無い。
己が置かれている状況についても何一つ疑問は抱かない。

疑問という概念すら存在しない。

魂も体もその全てが模造品。


そんな忌むべき存在の『人形』達。

そして、自分もかつてはその一体に過ぎなかった。


あの日までは―――。
371 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/09(金) 00:06:49.56 ID:F/gPbXco
ルシアは幸運だった。

彼女がこうして自我を持てたのは、
あのウィンザーにおける一連の様々な要因が組み合わさっての結果だ。


覇王の力の一部を引き出す中継点として機能したルシア。

その莫大な力が流れ込んで来る中、彼女は確実に負荷で蝕まれていった。

そしてそこで彼女は命を落としていたはずだった。

覇王の力の一部を引き出すというアリウスの実験の為に生まれ、その実験が終わると同時に彼女は死ぬ。
その亡骸はアリウスによって回収され、サンプルとして解体される。

それが彼女の決められた一生だった。



しかし運命は彼女に手を差し伸べた。


ウィンザー城に潜り込む為に一時機能停止した、彼女の魂に組み込まれていた制御術式。
そしてその際の上条、インデックス、五和との接触。


その時に彼女の真っ白なキャンパスのような魂に初めて一点の色が付いた。



生まれて初めての食事。

生まれて初めての口での会話。

そして生まれて初めて味わった―――。


―――優しさと思いやり。
372 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/09(金) 00:11:06.57 ID:F/gPbXco
そんな小さな、極僅かな温もり。

だがそれが彼女の内面を急速に変化させていった。


その後のバージルによるアリウスと彼女を繋ぐ『回線』の切断。

ネロによる溢れ出した覇王の力の排除。

それが彼女の魂と体の崩壊を未然に防ぐ結果となった。



彼女は解き放たれたのだ。


彼女は生きていくことを『許され』、生きていくことを『命令』されたのだ。


感情を『知り』、そして『持つ』ものとして。


更に運命は彼女に新たなモノを授けてくれた。



『友人』と『家族』―――。



―――そして『母親』を。
373 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/09(金) 00:15:28.84 ID:F/gPbXco
『母親』と過した期間はたった数週間。

しかもその間のほとんどは『護り手』そしての様々な教育と修練に費やされた。

だがそれだけでもルシアにとっては素晴らしき日々だった。

『生きている』という事を実感できた。


修練によって荒ぐ息。

その吸い込む大気の美味しさ。


窓辺から、母親と一緒に眺めた海に沈む夕日。

その燃えるような美しさ。


母が淹れてくれた茶の温かさ。


あの日々の何もかもが彼女にとって新鮮であった。

そして彼女は知った。


自分はこんなにも素晴らしい世界にいたという事を。
374 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/09(金) 00:17:23.95 ID:F/gPbXco
ある晩ルシアは寝床で布団に潜りながら、
傍らの小さな椅子に座る母にとある『昔話』を聞かせてもらった。


昔々、一人の悪魔が人間界を護る為に立ち上がった と。
母の先祖達も彼の横に立ち共に戦った と。


そして彼はそのまま人間界を見守り続け、
そしてその息子と孫が今も人間界を護っている と。

お前を生かし、ここに導いたのも彼の息子と孫だ と。

そしてそれは太古から定められていた運命だ と。


お前の存在には高潔な意味がある と。

こうして日々剣を磨き、修練を積むのはその為だ と。

近い内にやってくる『その時』の為だ と。


ルシアは聞く。


お母さん、その時って何が起こるの? 

私は何をすればいいの? と。


母マティエは答える。


それは誰かに聞くことでは無いよ。

お前が見て、知り、そして自分自身の心で判断して進むこと。

焦らずともいい。今は眠りなさい。


娘よ と。
375 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/09(金) 00:18:24.82 ID:F/gPbXco
マティエは何かをルシアに強要する事は決してなかった。

運命の子ではあったが、ルシアを強引にその道に歩ませようとはしなかった。

運命の子なら、
いつかその時に自分自身の意志で進み始めると確信していたからだ。


そしてある日。


遂に『その時』が来た。


ルシアは己自身の足で、己の道を歩み始めた。


彼女はとある朝、ポツリとマティエに告げたのだ。


私、フォルトゥナに行く と。

良くわからないけど……行かなきゃならないの と。


ルシア自身はその原因が何かわかっていなかった。
だがこれが母が言っていたことだと何となく感じていた。

そんなルシアにマティエは小さく頷くと一言。


行きなさい と。
376 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/09(金) 00:19:48.15 ID:F/gPbXco
そして今。

ルシアは己自身の意志でこの『表舞台』に立っている。

まだ『なぜ』己がここに導かれたのかはわからない。


だが『何で』戦うかの理由は自分自身で見つけた。

自分の心に気付いたのだ。


彼女は己が愛するモノの為に刃を振るう。


あの昔話の英雄が守ろうとした世界。


この素晴らしい世界。

母が愛するこの世界。

そこに住まう人間達。


この数週間の間に彼女はそれらに『恋』してしまっていた。


初めての恋を―――。


初恋を―――。



ルシア「(お母さん―――)」



ルシア「(―――私、戦う)」



迫り来るセクレタリー。

ルシアは即座に神速の刃を振るう。


躊躇いもせずに―――。
377 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/09(金) 00:21:38.13 ID:F/gPbXco
『自分』は幸運だっただけ。

『自分』はこの選ばれた『体』に運良く宿っていた『思念』。

何かが違ったら、このセクレタリーのどれかが今の己の位置に立っていたかもしれない。


唯一自由を手に入れた自分。

そして。

自由の身である己だけが姉妹達を解き放てる。


それが彼女が見出した、己自身がやるべき使命の一つ。


『人造悪魔』という忌まわしき存在の『大罪』は―――。


哀れな『姉妹』達を繋ぎ止める負の『鎖』は―――。



―――己が全て背負う と。


―――姉妹達にその罪を背負わせない と。


金色の筋が宙に無数に走り、セクレタリー達の体が一瞬で寸断される。

今度はバラバラに。
再生する余地すら残さずに。

二度と立ち上がれないように。

二度と『鎖』に操られて戦わせられないように。

この凄惨な戦いの渦から解放を と。


『救い』から、『運命』から見放された姉妹達には―――。


自分とは違い選ばれなかった姉妹達には―――。



―――せめて安らかな眠りを と。
378 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/09(金) 00:23:15.23 ID:F/gPbXco
そして即座にルシアは再びアリウスを見据え、先と同じ姿勢に戻る。

そんなルシアを眺めながら。

アリウス「……ほお……さすがだな」

アリウスは小さく呟き再確認する。
ルシアの完成度を。

セクレタリー複数体を魔人化せずに一瞬で葬るれるのも当然。
何せアリウスの生涯を賭けた研究の集大成なのだから。


アリウス「……さて、気分はどうだ?『姉妹』達を殺す気分は?」

アリウスは手を広げ、尊大な口調でルシアに言葉を飛ばす。
そのマスクの下にあるあからさまに見下している表情が滲み出ている声を。


ルシア「…………」

ルシアが返すのは沈黙。


アリウス「『親』に何か言う事は無いのか?久々の再会だろう?」


ルシア「…………」


アリウス「自由と引き換えに舌を無くしたか?『χ』」


ルシア「…………違う」



ルシア「あなたは私の親なんかじゃない」



ルシア「私は護り手『マティエ』の娘―――」



ルシア「―――『ルシア』」
379 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/09(金) 00:27:55.87 ID:F/gPbXco
アリウスは豪快に笑う。

そのルシアの言葉に対して腹の底から。


アリウス「滑稽だな!!己が何者かもう忘れたのか!?―――」



アリウス「―――どうするつもりだ?!俺に復讐でもするつもりか?!」


そんなアリウスとは対象的に、ルシアは冷たく静かな声で。


ルシア「違う」


ルシア「我が母の名の下―――」


ルシア「我らが友である『スパーダ』の名の下―――」



ここに宣誓する。



ルシア「―――忌まわしき『絶望の覇王』を復活せんとするあなたを―――」


己の『過去』に対して。


ルシア「―――人間界に災厄を巻かんとするあなたを―――」


そして『今』の己の心に従い。



ルシア「―――『排除』する」


戦う事を。
380 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/09(金) 00:29:55.48 ID:F/gPbXco
ルシアの体から光が溢れ出す。

そしてその光の中から姿を現す魔人化したルシア。


アリウス「くだらん。くだらぬ幻想だ―――」


そんなルシアをアリウスは小首を掲げ『見下し』ながら鼻で笑う。



アリウス「―――もしやお前は俺を殺せると思っているのか?」



ルシアは言葉を返さずに、
両手の曲刀をクルリと回しながら腰を低く落とし。



アリウス「―――この俺を。お前のその手で。『ガラクタ』が」



そして一気に地面を蹴り突進する。


アリウスの首を刎ねるべく―――。


だが。


アリウス「―――もう一度聞く―――」



アリウス「―――己が何者かを忘れたのか?」
381 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/09(金) 00:32:18.44 ID:F/gPbXco
幼い少女がやっと手に入れた信念と覚悟。


それはあっけなく叩き潰された。


彼女を縛る『過去』の『鎖』によって―――。


彼女の魂の中に今だに刻まれている『過去』。



その忌まわしき『遺物』が『生みの親』に対する『反逆』を察知し―――。



―――彼女を内側から破壊した。



突如ルシアの体から急に力が抜け。


次いで魔人化が解け―――。



ルシア「―――けはッ」



―――口から大量の鮮血が噴き出す。
382 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/09(金) 00:39:49.19 ID:F/gPbXco
彼女はそのまま転倒し、
地面に叩きつけられ粉塵を上げながら慣性に従ってアリウスの方へと転がっていた。

アリウスはそのルシアの小さな体を踏みつけるように止め、
そして見下ろしながら。


アリウス「忘れたのか?―――」


もう一度問い―――。


アリウス「―――己が何者かを」


―――決して逃れられない『答え』を示す。



アリウス「―――『χ』」



―――彼女の『存在』を現す『名』を。


アリウス「お前の刃が俺に届くことは決して無い」


アリウス「決してな」


突きつけられる『過去』。
決して逃れられない己の『存在』。

そしてそれを前にした―――。


ルシア「あぁぁあ!!!!!!!!ぁああああああああああああああ!!!!!!!!!」


―――己の無力さ。


咆哮が響く。


少女の悲痛な咆哮が。

―――
383 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/09(金) 00:40:29.85 ID:F/gPbXco
今日はここまでです。
次は土曜か日曜の夜中に。
384 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/09(金) 00:43:16.58 ID:.H9zzGco
おつ
385 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/09(金) 03:43:04.01 ID:0ZfxonI0
乙です!!(*´ω`)ゞ
386 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/09(金) 04:10:53.65 ID:T3VOHK6o
乙ー
さてどうなることやら・・・
387 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/09(金) 14:26:04.97 ID:qbI9rcAO
追いついたァ!!夢のコンビネーションが見れて眼福、半ば原作を先取りできてる感が得られて嬉しいね。
バトルの高翌揚感は原作以上だし

ラスボス相手のメラゾーマギガスラいて波動ピオリム入り乱れる感じが素晴らしい
388 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 01:15:04.86 ID:fYsL.Ow0
乙!
ルシアかわいいよルシア
世界に『恋』をしたって表現がものすごく好きだ
389 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 03:57:49.35 ID:gOBmE.DO
ぶっちゃけ大人のルシアがキモ……
390 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 12:10:41.29 ID:.GdFLQs0
>>389
マティエ「屋上」
391 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 17:37:35.64 ID:5gMQUYDO
DMC2でルシアは失敗作として棄てられてマティエに拾われてたんだよなぁ
392 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 19:33:53.44 ID:y72EFvMo
しょうじきガキのルシアが想像できん
393 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 21:38:02.17 ID:DFezLSQo
P3の美鶴さんの子供の時みたいな感じだろ
394 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:22:28.64 ID:8naS4AUo
―――

御坂は呆然としていた。

彼女に対し事あるごとにアプローチをしてきて、
その気が全く無いという事を匂わせても一切めげない海原。

ある意味『最高に幸せな思考』の持ち主であり、
そしてあまりにも人が良すぎて憎むに憎めない『ストーカー』。


そんな男が。


御坂「へ……?え……?!」


なぜあんな異様な殺気を身に纏って―――。



―――御坂にとってある意味『トラウマ』を植えつけたあの怪物と。



―――あのバージルと相対しているのか。


そもそもなぜ。



御坂「…………な、なんで……!?」



バージルがこんなところに。


そして。


御坂「………………ど、どうなってんのよ!!!!!!!?」


なんで明らかに海原と敵対しているのか。
395 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:27:24.64 ID:8naS4AUo
だがそんな大量の『なぜ』の答えを導き出しているヒマなどあるはずもなかった。


御坂「―――」


突如、彼女の手に持っている大砲がぼんやりと『赤く』光りだす。


『赤く』。


そしてそれと同時に。

海原の周囲に浮いていた半透明の浅黄色の剣、『幻影剣』の『全て』が。

クルリと方向転換し、その切っ先を御坂へと向ける。



海原「―――」


それを見た瞬間一気に理性が吹き飛んでいく海原。

なぜ御坂がこんなところに? とはもう考えていなかった。

今の海原の頭の中にある思念はただ一つ。

     ヒト
愛する女を―――。



海原「―――やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」



―――御坂を守る。
396 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:28:36.66 ID:8naS4AUo
御坂「(―――)」

その瞬間、御坂はふと気付く。

この『既視感』に。


そう。


『あの時』と同じ展開だ―――。


二ヵ月半前と―――。


打ち止めを守ろうとした一方通行。

そんな彼の腕を容赦無く切り落とし、胴を引き裂いたバージル。


御坂「(―――そん……な―――)」


『あの時』と『今』が重なる。
何もかもがあの時と同じだ。


ダンテから貰った武器を持つ御坂。

打ち止めを守ろうとした一方通行。

御坂を守ろうとしている海原。


二人の少年の姿が重なって見える。


そして―――。


―――同じ『結末』を迎えるのも―――。



御坂「(―――だめ―――)」
397 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:31:38.52 ID:8naS4AUo
響く海原の咆哮と同時に、彼の体を取り巻くように再び宙に浮き、
月明かりのような淡い光を放つ原典の帯。

その光からプクリと雫が湧き出してくる。

月明かりのような光を放つ球、いや、正に『小さな月』と言っても良い。

そんな球体が複数出現し。


海原の周囲に浮かぶ『幻影剣』のそれぞれに猛烈な勢いで射出された。

『剣』と『球』は激突し、凄まじい爆風と破砕音を轟かせながらガラスのように飛び散る。


だが『幻影剣』の全てを破壊できたわけでは無い。

撃墜できたのは半数だけだった。


海原は即座に跳躍し御坂前へ、『盾』となる位置へと着地した。

残った『幻影剣』の切っ先の延長線上に。



海原「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」



そして醸し出していた『予告』どおり。


射出される『幻影剣』―――。


御坂の前で仁王立ちし、雄叫びを上げる海原へ向けて。



御坂「―――やめてぇえええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」
398 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:32:28.32 ID:8naS4AUo
一気に叩き込まれていく『幻影剣』。

原典の加護がある海原にぶち当たり砕け散っていく。
同時に彼の『加護』も粉砕されていく。


そして二本の幻影剣が彼の肉へと深く食い込む。

一本は加護を貫通するも進路をそれて彼の脛に。

もう一本は右肩に。


海原「がぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


血が吹き上がる右肩を左手で握りこむように押え、身の毛がよだつ様な叫びを上げる海原。
貫通した幻影剣から流れ込んでくる力が彼の激痛を更に何倍にも増加させる。


物理的なだけでなく、『魂』を直接削り取っていく激痛を。

普通なら一瞬で気を失っている地獄のような苦痛。

だが海原は倒れない。

膝をつくどころかよろめきもしない。

目からは理性の色が消えていたが、闘争心の光はより一層強くなっていた。

その原動力は、背後にいる想い人を守る という思念のみ。

彼は呻き声を上げながら、震える左手で己の周囲に浮いている原典の端を握り締めた。
その瞬間、左腕そしてこめかみへと一気に血管が浮き上がる。


海原「―――ぎッッッはぁああああッ―――絶対……kjaai……mahhwe守る」


そして彼は更に原典と融合していく。

命と引き換えに最大最期の攻撃を放つ為に。
399 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:33:48.68 ID:8naS4AUo
御坂「―――」

そんな海原の背中。

もう完全に一致している。

あの時の一方通行の背中と。


もう確実だ。
このままいけばあの時と同じ結末となる。


御坂は思った。

どうにかしてこの『運命』を変えなければ と。

どうにかしてあの時とは別の『ルート』へと進まなければ と。


御坂「―――」


では、今己に何が出来る?


何が出来て、どうやって運命を変える?


そして御坂はたった一つだけ思いついた。

それは最も簡単で単純でありながら。
『あの時』とは決定的な違いを生み出す行為でありながら。


御坂「やめて―――おねがいだから―――」


何よりも勇気がいること。


御坂「―――戦わないで」


『闘争の放棄』。
400 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:39:31.98 ID:8naS4AUo
『闘争の放棄』。

だがそれは一方では全力の『闘争』でもある。


理性は恐怖に負け、恐怖は防衛本能を肥大させ、

その防衛本能は破滅的な闘争心を生み出し、

絶望的な闘争を自ら引き寄せ死へと己から歩み進む。


『あの時』一方通行は打ち止めを失う『恐怖』に負けた。
そして『死』に掛けた。

今、海原は御坂を失う『恐怖』に負けた。
そして『死』へと自ら進み始めた。

それは最早『闘争』ではない。

『理性を失った』その行為はただの『自殺行為』だ。


だが現在の御坂は。


御坂「―――だめぇええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


『恐怖』には負けなかった。

死へと導こうとする『闘争心』の甘露のような囁きには決して屈しなかった。

彼女は『闘争に勝ち』、『闘争の放棄』と言う選択を手に入れたのだ。


彼女は海原の背中へと一気に両手を伸ばす。


ダンテから授かった大砲を脇へ放り投げて。


それと同時に―――。


―――閻魔刀の柄へと手を静かに乗せる正面のバージル。
401 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:42:03.23 ID:8naS4AUo
海原「オ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!」

原典を固く握り締めた左腕を大きく引く。
大きくなびく原典の帯。
迸り溢れる月明かり色の光。

そして。

彼は命を代償とするアステカの究極の魔術を放―――。


―――とうとした時だった。


腰辺りがやさしくギュッと締め付けられ、それと同時に背中に当たる温もり。
『闘争心』の占有された彼の脳内を切り裂くように。

それでいながら優しく聞こえてきた穏やかな―――。


御坂「大丈夫だから―――」


―――御坂の声。


御坂「―――もう、戦わなくてもいいの」


それは正に『天使』の声だった。

海原「―――」

一方で、正面の『悪魔』から放たれてくる凄まじい殺気。

彼の僅かに残っていた思念が揺れ動く。


御坂の声か、闘争心の叫びか。

どちらの言葉を信じるか―――。


天使か悪魔か。

どちらのオーラを信じるか―――。
402 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:43:51.08 ID:8naS4AUo
そんな海原の一瞬の迷い、その間に運命は着実に『針』を進めた。

それは正に一瞬。
いつどうやってソレがここまで来たのか、二人ともおぼろげにさえ『見る』ことも出来なかった。

全く目で追えなかった。

さながら瞬間移動でもしてきたかのように。


御坂「―――」


海原「―――」


二人の目に映る。


不気味な光を放つ閻魔刀の刃。


その切っ先は―――。


海原の胸元から僅か数センチ。


そこで止まっていた。


バージルは閻魔刀を海原の胸へと突きつけていた。
そのまま押し込めば、海原に後ろから抱き着いている御坂もろとも串刺しにできる。


だが彼はそれ以上刃を進めようとはしてこなかった。

静かに、鋭く冷たい目で二人を見つめていた。


魂を直で見透かされてそうな瞳で。
403 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:45:55.75 ID:8naS4AUo
御坂「…………」

海原「…………」

硬直する二人。


そして数秒間の沈黙の後、
バージルが刃を突きつけたまま静かに口を開いた。


バージル「―――女」


御坂に向けて。



バージル「―――名乗れ」



御坂「…………………………………………御坂……美琴……です」



その凄まじい威圧感と、
この異常な緊張感で御坂は反射的に敬語を使って答えてしまった。
404 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:48:07.23 ID:8naS4AUo
バージル「―――そうか」

バージルはポツリと呟くと、パッと手際よく閻魔刀を鞘に納め、
踵を返してゆっくりと歩を進め氷原と化している街の中へ消えていった。


御坂「………………」


海原「………………」

二人はその後姿を呆然と見続けていた。
闇の中へ消えた後も。
海原が意識を失ってその場に倒れこむまで。


バージルが『現時点の障害』と定める『リスト』から、二人が外れたのは言うまでも無いが。

だが御坂は知る由も無い。

バージルに名を聞かれるという事、つまり彼に名を記憶されるというのがどれ程のことなのかを。
彼の記憶に刻まれるに足る条件はただ一つ。


『強者』として認められること。


そして御坂はここで一つの強さを見せた。


『弱さ』からではなく。

心の『強さ』から生み出された『闘争の放棄』という選択。

それもまた『強者』のあるべき姿の『一面』。
必要な時には全力で戦い、必要の無いに時には一切戦わない。

彼女はその心の『強さ』をこのバージルを相手にして示したのだ。


バージルは強さに関しては恐ろしいほどに公平な評価を下す。
種族は当然、戦闘力・精神力のジャンルを問わず全ての『強さ』に分け隔てなく。

そして今、バージルはそれ相応の『評価』を彼女にも下した。
一定のふさわしき『敬意』と共に。


貴様は『強い』 と。


―――
405 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:49:20.23 ID:8naS4AUo
―――

学園都市。
第七学区。


同じ一人の少女を愛する二人が放つ『魔』。

ぶつかり絡み合う『憤怒』。


迸る白銀の閃光。

吹き上がる爆炎。

轟く地響きと大気の震え―――。



粉塵と炎の中から姿を現す上条とステイル。

向かい合って立っている彼ら。

その間にいたはずのフィアンマの姿は消えていた。


ステイル『…………』

上条『…………』


二人はゆっくりと顔を上げとある一方へと目を向けた。


その視線の先。

50m程離れた場所に立っている―――。



―――フィアンマ。
406 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:53:39.12 ID:8naS4AUo
フィアンマの鮮やかな髪の毛先の一部が黒ずみ、
スーツも所々が黒く汚れている。


一方で、彼の背中から伸びている巨大な腕にはオレンジの光が戻っていた。
そして同じく彼の体を覆っているおぼろげな光の衣も。


そのフィアンマの横にふわりと移動するインデックス。


フィアンマ「はっ。『再起動』が間に合って良かったよ。今のはさすがに少し焦ってしまったな」


スーツに付いたチリを掃いながら、
半ば呆れたような溜息を混じらせながら小さく呟くフィアンマ。


高慢な口調は相変わらずだが、
その顔と瞳からは先程までのお遊び感覚の色は消えていた。


そして入れ違いに薄っすらと滲み出てくる。


フィアンマ「おかげで久々に頭にキタな」


本気の『怒り』の色。


フィアンマ「良くやったな。この俺様を怒らすとは」


フィアンマ「お前ら平民共にはわかないだろうがな、このスーツは結構値が張るんだ」
407 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:55:39.65 ID:8naS4AUo
ステイル『―――黙れ!!!!そこまで大事ならあの世まで持って行くがいい!!!!』

ステイルは文字通り口から『炎』を吐きながら、そんなフィアンマを凄まじい形相で睨んだ。
足元の地面は溶解し、一帯の大気が熱せられて陽炎となる。


あのフィアンマの姿、そしてその横に並んでいる無表情のインデックス。


ステイル『―――インデックスを!!!!!!!彼女を返して貰おう!!!!!!!!!!』


その光景がステイルの憤怒を更に煮えたぎらせる。
頭の中が今にも沸騰しそうだ。

いや、実際に彼の体内はとてつもない温度にまで上昇していた。
生身の人間なら沸騰どころか一瞬で蒸発している。


フィアンマ「返せだと?それは少しおかしいな。禁書目録の今の『主人』は俺様だ」


ステイル『ふ―――』


そんなフィアンマの言葉でステイルの怒りが遂に臨界点に達し。


ステイル『―――ッッッッざけんなァア゛ア゛ア゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!』


彼は再び両手を広げ炎剣を精製しフィアンマへと突進―――。


―――しようとしたが。


ステイル『―――』


突如右手首を鷲掴みにされ制止させられた。


上条『―――待て』


横にいた上条に。
408 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:57:12.91 ID:8naS4AUo
上条の左手が、まるで枷のようにガッチリとステイルの右手首を握っていた。

ステイル『―――何を!!!!!?離せ!!!!!!!!!』

上条『落ち着け』

ステイルとは対称的な冷めた声の上条当麻。
その冷たい目は真っ直ぐとフィアンマを見つめていた。


ステイル『―――んだとぉおおオオオオオオ?!!!!!!!』


そんな彼の声と姿がステイルの怒りに更に油を注ぐ。

落ち着いて考えればそんな事は有り得ないとすぐにわかるのだが、
憤怒に駆られ冷静を失っている今のステイルは上条に対しても反射的に怒りを抱いてしまった。


インデックスがあんな状態になっているにも関らず何だその態度は? と。


ステイル『―――よ、よくもそんな!!!!!!!!!!!!』


お前は何も思うことが無いのか? と。


ステイル『―――良いだろう!!!!それなら僕一人でm―――』


その時だった。

そんなステイルの怒号を遮るかのように、彼の顔面に叩き込まれる―――。


上条『―――うるせえ』


―――上条の右拳。
409 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 00:59:48.51 ID:8naS4AUo
ステイル『―――……っ……』

軽くよろめきながら後ずさるステイル。


上条『落ち着けって言ってんだろが』

そんな彼に向かって、
上条は相変わらずフィアンマへと目を向けたまま淡々とした声だけを飛ばした。

その上条の固く握り締めている右拳。
指の間から血が滴っていた。
右腕を覆う専用の篭手の隙間からも。


上条の右腕は魔界の金属生命体で作られた篭手で守られてはいるもの、
内部の腕本体の筋力や強度は人間と同等。

そんな腕で『悪魔の顔』を直接殴るという事は自殺行為であるようなものだ。
ましてやステイルのように大悪魔に匹敵する存在に対してなど。

悪魔にとっては蚊に刺されたようなものなのだが。


だが上条は思いっきりぶん殴った。

それを受け、ステイルは確かに強烈な衝撃を受けた。


強烈な衝撃を だ。


物質的なものではなく。


直接脳内へ響いてきたような。


魂を『直接』ぶん殴られたような―――。


上条の『魂の一撃』は、ステイルの頭の中を占有していた憤怒を一瞬で払いのけてしまった。
410 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 01:02:32.68 ID:8naS4AUo
上条『頭に血昇らしてどうすんだよ』


ステイル『…………』


冷静になってようやく上条の『内面の状況』に気付く。

一見冷めた無表情である上条。

だがよくよく見ると、こめかみや眉間の部分がピクリピクリと不規則に小さく痙攣しており、
鼻息も少し荒かった。


ステイル『…………』

そう、上条もまた凄まじい憤怒に駆られているのだ。
己と同じように、いや己以上に濃くて猛々しいかもしれない。

だが彼はそれに身を委ねることなく冷静な思考を保っているのだ。



上条『バラバラで戦ったところで誰も勝てねえ』



上条『アイツを助けるにはお前の力も必要なんだよ』



上条『一緒に戦う「力」がよ』
411 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 01:04:35.37 ID:8naS4AUo
ステイル『……』


ステイルはこんな上条を見て、己の不甲斐なさを実感した。
『憤怒』に甘え、『闘争心に負けて』しまった己に。


そのドス黒い感情に身を委ねてしまった結果、
ステイルはある意味『インデックスを救う』という目的を放棄しかけてしまったのだ。


彼女の安全よりも、己の怒りを『優先』してしまったのだ。


一方で上条は何よりもインデックスを救う事を考えていた。


『憤怒』をも押さえつけてしまうほどに強く だ。


湧き上がってくる『闘争心』の甘い囁きには決して屈せずに。


『己の怒り』など『二の次』にして。


とにかくインデックスの為に。



彼女を救う為の『理性』をしっかりと保っているのだ。
412 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 01:05:57.02 ID:8naS4AUo
ステイル『…………ああ、そうだな。すまん』

殴られた頬を軽くさすりながら深呼吸し、
精神を落ち着かせるステイル。


上条『アクセラレータ』


上条がフィアンマを見据えたまま、
いつの間にか横に立っていた一方通行の名を呼び。

上条『あの野郎は何もんだ?』


一方『……名前はフィアンマつーらしい。神の右席だかなンだかホザいてやがった』


上条『神の右席……』


その名を聞いて、上条の目が一層鋭くなる。

『神の右席』ならば強いのも当然。

その名を冠する者とは今まで三人程戦ったことがある。
三人とも、それぞれが皆異常な程の強さを誇っていた。

特にアックアなんかはサシで戦えば今の己でも勝てる気がしない。


そして今、その最後の一人が相手というわけだ。

恐らく神の右席の中でも最強であろう一人が。

つまり、世界最大勢力であるローマ正教の『最強』が。
413 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 01:07:55.17 ID:8naS4AUo
上条『(…………待て……魔術師……だと?)』

と、そこまで考えたところで上条は妙な事に気付いた。
このフィアンマの力は今まで戦ってきた神の右席の力とは何かが違う と。

一般の魔術師と比べれば異質すぎる力を使う神の右席でも、
その力の『根源』は一般の魔術師と同じ。

能力には能力特有の、

魔術には魔術特有の、

悪魔の力には悪魔特有の、

打ち消す際にはそれぞれの『感触』がある。


決して間違えることは無い。

そして今までの経験上、
フィアンマの力を打ち消す際の感触は魔術特有のモノになるはずなのだ。

しかし実際に先程の感触を思い返してみると。


上条『(どうなってんだ……?)』

確かに魔術特有の感触もしたが。

もう一つ。

それと一緒に。


上条『(……)』


『能力』の感触もしたのだ。

本来ならば有り得ない。
魔術と能力の二つの力を有するなど有り得ない。

ましてやその二つが『融合』しているなど―――。
414 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 01:10:12.83 ID:8naS4AUo
上条『(……)』

これはあのトカゲのような腕が実体を持っていないにも関らずに、
幻想殺しが効かなかった事にも必ず何らかの関係があるだろう。


上条『(……まあいい。それは後だ)』

と、思索に耽りかけてしまったが今はこうゆっくりしている場合では無い。

とにかく今はインデックスだ。


上条『……インデックスはあの野郎に操られてんだな?』


一方『そォらしい。あの野郎が持ってる妙な塊が光った途端、こっちに攻撃をしかけてきやがった』

ステイルと上条は、フィアンマの手にあるダイヤル式の南京錠のような金属の塊に視線を移す。


ステイル『(……首輪、自動書記を操作できる霊装か……もしくは魔具か)』

以前にも自動書記が起動した状態のインデックスを目の当たりにしたことがある。
今へと続く、上条との腐れ縁の始まりでもあったあの事件の時にだ。

まあ、今のインデックスはあの時以上のとんでもない戦闘能力を発揮しているようだが。
あの事件の時は全力になる前に上条の右手によって収束したのだろう。


今の状態が本当の自動書記の力というわけだ。


とはいえ。

自動書記はあの時に破壊されたはずではなかったのだろうか。


ステイル『(あの女……)』

胡散臭い上司ローラからもそう聞かされたのだが。

それは嘘だったというわけだ。

ステイル『(ふざけやがって……)』


どうやら帰ってから聞くべき事がもう一つ増えたようだ。
415 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 01:12:12.19 ID:8naS4AUo
ステイル『霊装なら君の右手で。魔具なら力ずくで解体する』


ステイル『もしくは「あの時」のように君が首輪と自動書記もう一度破壊する。こんなところだな』


上条『……………………………………?』


「あの時」。


上条はその単語を聞き、ゆっくりとステイルの方へ振り返り彼の顔を見つめた。
無言のまま。


ステイル『…………どうした?』


上条『……あの時って「俺」が最初にインデックスを助けた時の事か?』


ステイル『何を言ってるんだい?他にいつがある?』


上条『ああ、そうだったな。悪ぃ。「あの時」のようにだな。「あの時」の……な……』


上条はピクリと眉を動かした後、
独り言のように呟きながら再びフィアンマの方を見据えた。


独り言のように だ。

何かを自分に言い聞かせるように。


ステイル『…………』
416 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 01:16:15.78 ID:8naS4AUo
フィアンマ「…………ふむ」

そんな三人を遠くに見据えながら、
フィアンマは己の思索に合わせ一人相槌を打つ。

上条に続き現れたあの悪魔。

直にこうして会うのは初めてだが、
恐らくイギリス清教所属の禁書目録の守り手『ステイル=マグヌス』で間違いない。

二ヵ月半前に悪魔に転生した男だ。

一方通行と同じく、あの男も殺せるうちに殺しておいた方が良い。

いくら『小物』とはいえ大悪魔に匹敵する力はさすがに無視できない。

今後の事を考えるとそれなりに邪魔になる可能性が高いのだ。


フィアンマ「(それにしても少々厄介になりそうだ…………―――)」

確かに今、これ程の力を有する三人を相手にするのは面倒だ。
それも一人は無傷のままもう二人は確実に殺す というそれなりに難しい立ち回りを強いられそうだ。

しかし。


フィアンマ「(―――だがこれなら充分かもしれないな)」


この状況はある意味フィアンマにとって好都合にも成り得る。

三人の強者がいる事によってのとある利益。


それは先程までの一方通行『一人』では成し得なかった事。


そう、『例の力』を引き出し確認する事―――。


―――インデックスの中に眠る『例の力』を。
417 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 01:20:52.36 ID:8naS4AUo
そしてそんなフィアンマの読み通りに。

彼の横にいたインデックスが口を開く。


禁書「二体の新たな敵性因子を確認」


禁書「記憶を照合」


禁書「一体目。性質がベオウルフに酷似」


禁書「以前の記憶を照合。右腕に『幻想殺し』を確認。警告。脅威度第二級」


禁書「二体目。性質がイフリートに酷似」


禁書「負傷しており予想最大稼働率は40%。警告。脅威度第三級」



禁書「警告。警告。現状では迎撃不可―――」



その声と同時に、手に持つ遠隔制御霊装を介して、
インデックスの内部の状態が共にリアルタイムで送られてくる。


『現在』のインデックスの『状態』では『戦力不足』だという警告が。
418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 01:23:46.80 ID:8naS4AUo
そしてその『警告』はフィアンマにとって―――。



フィアンマ「―――ははっいいぞ」



―――『朗報』でもある。


今の今までは、このまま連れ帰って解析して引き出すつもりだったが、
その作業が無くなるのはかなり好ましい。

いくらフィアンマでも、インデックスの中にあるあの封印術式を破るのは
それなりの労力と時間が必要なのだ。


何せ魔女が作った術式。
核を構成しているのは『エノク語』。


最悪の場合、その防壁を敗れない可能性もあったのだ。


それを鑑みると、少々乱暴だろうが勝手に封印が解けて、
自ら例の『何か』の力が飛び出してくるのはかなり美味しい話なのだ。


ついでに後々に邪魔になるであろう、一方通行とステイルを処分できるとなれば一石二鳥、

いや、今現在の使用制限がある己の力を極力使わずして、
排除できるのだから一石三鳥だ。


引き出された例の力の情報を記録すれば、
そのデータを元にエノク語の核を解析することも簡単になる。


そう考えると一石四鳥でもあるのだ。
419 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 01:26:35.52 ID:8naS4AUo
一方『おォ、俺はゆっくりしてらンねェんだ』

一方通行が両手の義手で軽くパチンと手を叩きながら、首を傾け骨を鳴らす。
チョーカーのバッテリー残量はもう半分を切っている。

長引かれると今後の事に大きな影響を及ぼすかもしれない。

それにバッテリー以前に己自身の体力が危うい。


そして何よりも。

妹達に、そして打ち止めにこれ以上の負荷を与えるわけにはいかない。

この黒い噴射物を制御している状態で、更にこの妙な、『未知なる義手』も形成している。


義手についてのダメージは妙な事に、今のところ己には来ていないが、
その分ミサカネットワークに更なる負荷をかけている可能性もある。


一方『さっさとはじめンぜ』

そんな一方通行の声で上条とステイルも戦闘態勢へと。


ステイルは再び両手に炎剣を精製し、
上条は右手の篭手の状態を確かめ、
そして両手左手の光の装具に更に力を流し込む。


ステイル『それで作戦は?』


上条『俺の右手であの野郎の防護を打ち消す』


上条『それであの霊装か魔具を叩き壊す』


上条『それか……「あの時」と同じく自動書記……だっけか、それをぶっ壊す』


ステイル『いや、どう動けば良い?』
420 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 01:27:41.11 ID:8naS4AUo
上条『「さっき」と同じで頼む』

『さっき』と同じ。


一方『ハッ。まァた即効のアドリブかよ』


リアルタイムでそれぞれがそれぞれの動きを読み。


ステイル『全く君という男は。少し尊敬しかけたところでこれだ』


それぞれが己のやるべき事を見出し。


上条『何だよ。問題ねえだろ』


それぞれが全力でやり遂げる。


一方『まァな』


失敗すれば結果は最悪―――。


ステイル『まあ、確かに問題は無いな』


だが成功すれば効果は絶大―――。


上条『だろ?「俺ら」なら―――』




上条『―――できるさ』
421 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 01:29:50.23 ID:8naS4AUo
一方『おィマッチ棒。グダグダしてやがったらオマェもろとも吹っ飛ばすからなァ』



単純明快にして強者のみが使える究極の『作戦』。



ステイル『こっちの台詞だ。トロトロしてたら焼き殺してあげるよモヤシ君』



成功の鍵はお互いの絶大なる信頼。



そしてその信頼を裏付けるのは―――。



上条『―――行くぜ』



―――それぞれの『インデックスを救う』という覚悟と信念。



一方『おォ―――』


ステイル『ああ―――』



―――それだけで充分だ。
422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/11(日) 01:31:09.04 ID:8naS4AUo
地面を蹴り爆進する三人の高潔なる『戦士』。

その先にいる、不敵な笑みを浮かべているフィアンマ。


そして彼の横にいる―――。


禁書「―――繰り返します。現在の状態では迎撃不可」


禁書「最終警告。特例、第66章6節に従い―――」


禁書「―――戦闘統制システムの第12章7節から第18章45節までを―――」



禁書「―――『アンブラの鉄の処女』に移行します」



禁書「―――『ローラ』、起動確認」


禁書「―――『メアリー』、起動確認」



禁書「―――稼動率、35%。システム点検中。異常無し」



禁書「―――拘束具、第二錠から第五錠、及び第七錠を解放します」



禁書「―――開錠完了まで残り20秒」



―――『目覚めの時』へ向けてカウントダウンを始めたインデックス。



―――
423 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 01:31:19.61 ID:WFQ78uw0
現存する禁書側三大実力者、科学の一方通行、魔術のステイル・・・・・・そして、上条当麻。
うほあああああかっっけええええええええ
424 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 01:32:14.28 ID:8naS4AUo
今日派ここまでです。
次は月曜か火曜の夜中に。
425 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 01:36:01.33 ID:cwhIQdEo
ペンデックスの声が脳内再生されるゥゥゥゥ
426 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/11(日) 02:20:47.03 ID:mKrtORI0
いいねぇ、いいねぇ!
乙ですよ
427 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/11(日) 15:26:33.83 ID:Vte8S7.0
乙!!!!
428 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 17:15:18.39 ID:AwW3/9I0
なんかもうOVAとして出せるレベル
429 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 18:14:13.18 ID:j76aLEUo
いいねぇ!いいねぇ!最っ高だねぇ!
430 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/12(月) 23:55:27.51 ID:yZD9pKMo
―――

遡ること少し前。

学園都市第七学区。


麦野『……つまり、とにかく前に進めば良いのね?』


1km程離れた場所、凄まじい轟音が立て続けに響いてくる地点。
その上空には、得体の知れない棒状の巨大なオレンジの光の塊が浮いており、
周囲の地上を不気味に照らしていた。

夕日のように。


麦野『あそこに向かって』


その方角を見ながら、
麦野は傍らの地面に座っているトリッシュへ言葉を飛ばした。


トリッシュ「ええ。絶対に止まらないで」


地面に座り、街頭に力なく背を預けているトリッシュ。
その声はか細く、ちょっとした風でかき消されてしまいそうだ。


麦野『……追いつかれたら?』


今度は小首を傾げるように顔だけを下げ、トリッシュを見つめながら問う。

そんな彼女に対し、トリッシュは無言のまま小さく微笑んだ。


麦野『(……その時は覚悟しろ……っつーことか)』
431 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/12(月) 23:56:28.95 ID:yZD9pKMo
麦野『そんなに強いの?そいつは?』


トリッシュ「……さっきまでの私ならアナタを指一本で殺せたわよ」


トリッシュ「ふふ、それでも彼の手にかかったらこのザマ。一方的にね」


トリッシュは淡々としながらも、麦野にとってはかなり絶望的な事を言い放った。
まるで何気ない談話でもしているかのように。


麦野『……』

普通なら到底信じられない戯言に聞こえてしまうが、

このバラのせいか、さっきから続くこの妙な親近感が 
トリッシュの言葉は嘘ではない と麦野をなぜか確信させた。

そしてその一方で。


麦野『わかったわよ』


不思議とそれでも大丈夫な気がしたのだ。
なぜなのかはわからないが、全て上手くいく と。


トリッシュ「ふふ……」

彼女は知る由は無いが、トリッシュも先程からそれと同じ感覚を持っていたからこそ
こうして麦野を送り出すのを『許した』のだ。


あのボスが、最高の相棒が必ず守ってくれると感じたからこそ―――。
432 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/12(月) 23:59:17.61 ID:yZD9pKMo
トリッシュ「(とはいえ……このまま送り出すのは心もとないわね)」


トリッシュ「ん〜、ちょっとこっちに来なさい」

穏やかな笑みを浮かべたまま麦野を呼ぶトリッシュ。
さながら母親が優しく娘を招き寄せるかのように。


麦野『……』

麦野も素直に従い、トリッシュの傍に屈んだ。

そんな麦野にささやきかけるように。


トリッシュ「私も一緒に行ってあげる」


麦野『はッ……無理でしょーが。立てもしねえ癖に』


その言葉に麦野は少し呆れたように笑い、
自分の状況わかってんのか? とでも言いたげに眉を少し顰めた。


トリッシュ「ふふ、立てなくても『行ける』わよ」


クスリと小さく笑うトリッシュはさりげなく左手を伸ばし。
傍に屈んでいる麦野が持つ、アラストルの切っ先に軽く指先を当てる。

そして次の瞬間。


麦野『―――へ?』


耳鳴りのような音が突如響き、
次いでアラストルから目を覆いたくなる程の光が溢れた。
433 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/13(火) 00:01:46.30 ID:DlyNYwko
麦野『―――な!!!!』

驚き跳ね上がるように立ち上がる麦野。

この瞬間、麦野の『中』も『外』もそのどちらの『感覚』も一気に豹変した。


このアラストルを持った時から、
得体の知れない何かが自分の中に流れ込んできていた。

だが今、その『量』がさっきとは比べ物にならない程に爆発的に増えた。

そして同時に異常な程に鋭くなる、外界に対する『感覚』。


目で確認せずとも周囲の状況が手に取るようにわかる。
死角を含めた全方位、そしてかなりの遠距離まで。


ビルの配置、街頭の並び、周囲の空気の流れ、この一帯の周囲にいる者の気配、
その気配の『大きさ』等何もかもが把握できる。


更に時間の感じ方もおかしい。

一秒が一秒に感じるのは以前と同じだが、
それでいながら『一秒』を『一時間』のように、

いや意識を集中すればそれ以上に幾らでも引き伸ばして『見る』事ができるような。


これなら飛翔する銃弾の、表面に描かれた字をはっきりと読む事も余裕だろう。
434 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/13(火) 00:03:19.16 ID:DlyNYwko
麦野『な、なによこれ……!!!!!』


そして脳内に直接響いてくる―――。


トリッシュ「アラストルを、その子を『起こした』のよ―――」


トリッシュ「―――ついでに私の『頭』とリンクしたから」



―――トリッシュの声。


麦野『……!!!』

目の前に座っているトリッシュの声が耳に入った。

だがそれと同時に、同じ声が脳内からも直接響いてきたのだ。


トリッシュがイタズラが成功して喜んでいるような子供っぽい笑みを浮かべ、
未知の感覚に驚愕している麦野へ。


トリッシュ「驚かしちゃったわね。今アナタが『見てる』のは私の『目線』だから」


トリッシュはアラストルの封印を解き、
そのアラストルを中継点にして麦野と己の『一部』を重ね合わせたのだ。


つまり今の麦野はトリッシュの『感覚』と『目』で外の世界を『見て』いるのだ。


トリッシュ「『どうやって』とかを今考えるのはナシよ。素直に受け入れなさい。きっと役に立つから」
435 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/13(火) 00:05:48.11 ID:DlyNYwko
麦野『…………』

先程、トリッシュは己よりも遥かに強いという事を仄めかしていた。

特に疑うことも無かったが、
こうしてトリッシュの『感覚』を直に体感するとやはり再確認をせざるを得ない。


そりゃあ、こんな『感覚』を持ってる奴には勝てるわけも無いな と。


そして。


これ程の感覚を持つ者すら敵わない存在と、己は今から絶望的な『鬼ごっこ』を行うのだ とも。



―――と、そう考えていた時だった。



『全く……この俺が人間如きに眠らされるとはな……この俺が』



どこからともなく聞こえてきた『男』の声。
とてつもなくナルシスト風味の、いかにも己に酔っていますとでも主張しているかのような声色。

そしてその声の発信元は―――。



麦野『―――』


麦野が持つ、光り輝く『大剣』―――。



―――『アラストル』だった。
436 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/13(火) 00:08:04.00 ID:blYulCAo
CV:三木眞一郎
437 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/13(火) 00:09:18.38 ID:DlyNYwko
アラストル『いや、そもそもあのだらしないマスターが俺の命令系統の防護を渋ったからだ』

アラストル『あんな人間の小娘にこの俺を扱いきれるわけが無かったのだ。この俺を』

アラストル『俺のせいじゃないな。俺の……』

アラストル『大体、この俺も肉体を解放していればあんな事にはならなかったのだ』

アラストル『そもそも、こうして魔剣として忠義を尽くしている俺には自由が無く、そして肉体を持つのにも許可がいるにも関らず、』


アラストル『なぜ一方であの魔帝の「元忠犬」には自由が許されているのだ?』


アラストル『まずそれ以前にあの「女」よりも俺の方が先に従ったのだ。俺がマスターの右腕となるべきじゃないのか?』


アラストル『この俺が相棒に相応s………………』


トリッシュ「…………」


麦野『…………………へ?は?』


アラストル『……トリッシュ殿、ご機嫌麗しゅう』


トリッシュ「おはよ。あ〜、言っておくけど」


トリッシュ「ダンテは『野郎』を横には置きたくないらしいわよ』

トリッシュ「もう一つ。アナタ前に勝手に『外出』したでしょ?しばらく帰って来なかったわよね?多分それのせいでアナタに厳しいのよ」


アラストル『……何のことでしょう?見に覚えがありませんが』
438 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/13(火) 00:13:54.24 ID:DlyNYwko
麦野『……しゃ……喋った……?』

その勝手に長々と喋りだした剣に麦野は呆然としていた。
驚きその剣から手を離すことすら忘れるほどに呆然と。

そんな麦野にお構いナシでトリッシュは剣と話を続ける。


トリッシュ「まあ、無駄話はこのくらいにして」


トリッシュ「アラストル、その子に従い力を貸しなさい」


アラストル『チッ……また人間の小娘か……』


トリッシュ「何?聞こえない」


アラストル『仰せのままに』


トリッシュ「それと相手はバージルだから。その子が死ぬ時はアナタも終わりだから全力で支援しなさい」


アラストル『―――ババッババッバッッッ…………兄殿だとォ!!!!!!!!!!!』


アラストル『―――い、い、否!!!!!ママママママママスター不在でかのk』



トリッシュ「その子を置いて逃げたりしてみなさい。そうしたらアナタはどの道殺されるから」


トリッシュ「ブチ切れたダンテに」


アラストル『……ぐ……!!!仰せのままに……!!』
439 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/13(火) 00:16:35.64 ID:DlyNYwko
麦野『……』

バージルという名を聞いた『剣』が急に焦り始めたのが、声を聞いててわかる。

剣が喋るという異常な事はとりあえず脇に置くとして、
(というか今日になってから不思議な事が多すぎて、麦野はある意味もう慣れてしまったのだ)、

どうやらこれから己を追ってくる存在の名は『バージル』と言うらしい。


麦野『バージル……』


その名を認識した瞬間、再び胸元のバラの『熱』が強くなった気がした。


麦野『(……)』


そしてその思念。

妙に暖かく、そしてなにやらむず痒くもどかしい感情。

麦野にはそれが何の感情なのかはわからなかった。

いや、過去に知っていたかもしれないが、
幼少期の内に学園都市に来てしまった麦野はもう忘れてしまっていた。



それは『家族』、『兄弟』に抱く感情なのだから。
440 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/13(火) 00:18:47.89 ID:DlyNYwko
トリッシュ「じゃあ早速 ね」

トリッシュがアラストルから麦野の顔に視線を移動させ。


トリッシュ「さすがにそろそろ気付かれそうだから」


アラストルが完全に目覚めた今、
現地に向かおうとする気配が無くともバージルがこっちに来るかもしれないのだ。

麦野は無言のまま小さく頷くと、踵を返し再び現地の方へ向く。

目を瞑り大きく一度深呼吸。


麦野『……ふーー』

そしてゆっくりと目を開き、再び前方を見据えた。
とその時。

再び右手の『剣』が口を開いた。

アラストル『待つんだ。行く前にせめて自己紹介させてくれ』


麦野『……麦野沈利。レベル5第四位「原子崩し」―――』



アラストル『―――俺はアラストル。雷刃魔神アラストル』



アラストル『よろしく頼むよ。ヘマはしないでくれ。「マスター代理」』


麦野『うるせぇ。黙って力を寄越せってんだよガラクタ』


アラストル『ふはは……小娘が……後悔するなよ―――』
441 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/13(火) 00:21:54.19 ID:DlyNYwko
次の瞬間。


麦野『―――』


麦野の背中が突如眩く輝き始め―――。


明るい『紫』の閃光が噴き出し―――。


―――青白い光の衣に覆われた、一対の巨大な『紫』の翼を形成した。


麦野『―――』

麦野はその己の中に渦巻く莫大な力に身を委ねながら、ふと思った。



私、『本物の怪物』になるつつあるわね  と。



そして小さく笑った。
少し滑稽だったのだ。

以前までは自嘲気味に己の事を『怪物』と称していた。
あの頃の『クソまみれ』だった自分はそう自虐していた。


しかし、今に比べればかなり可愛いものだった。


色んな事に気付き、
やっと己自身が納得できる『信念』で戦おうと覚悟している今、

一方では『本物の怪物』へと成る道をも進んでいるとは。
442 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/13(火) 00:22:13.61 ID:lIotLKso
半端じゃあないわくわく感が俺を襲うんだが
443 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/13(火) 00:23:54.40 ID:DlyNYwko
ある意味皮肉な事だ。

以前までは心のどこかで嫌悪していた怪物としての力だったはずなのに、


それを今の己は心の底から歓迎しているのだから。

ただ成すがままに戦いと破壊に明け暮れていたあの頃は特には欲していなかったのに、

己の信念で命を賭して何かを守り救おうとしている今は、
どれ程得ても足りないくらいに力が『必要』なのだから。



左肩から伸びるアームを大きくうねらせ、右手のアラストルを一度バトンのように回転させる。

それと同時に右目から迸る青白い閃光と、大きく一度羽ばたく背中の翼。



アラストル『―――全力で行くぞ小娘』



麦野『―――当然だろーが。出し渋りやがったらブチコロしてやる』



そして次の瞬間、麦野の姿が消失した。


青白い閃光に包まれた紫の『砲弾』がビルを次々とぶち抜き、
猛烈な速さで突き進んでいった。


―――
444 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/13(火) 00:24:50.69 ID:DlyNYwko
短いですが今日はここまでです。
次は明日の夜中に。
445 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/13(火) 00:28:50.48 ID:CLL.hf2o
446 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/13(火) 00:34:12.62 ID:lIotLKso
乙!
447 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/13(火) 00:34:48.04 ID:dZ5aDfo0
麦のんカッコよすwwww
乙です。
448 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/13(火) 01:27:26.97 ID:O4PG0TQo
乙!
半端なくかっこいいよ麦のん・・・
449 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/13(火) 01:55:14.24 ID:/XNmR6DO
来てた!乙です!
アラストルってこんな性格だったのかw
VJに出てたんだっけ?そこらへんは詳しくないから新鮮だったw
アニメのドラマCDでは質草にされながらもダンテに尽くしてて
イイヤツだ!って感動したなぁ
450 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/13(火) 02:59:01.00 ID:ZHCiLNM0
新コンビ麦ストル誕生


(*´ω`)つかかわいいよ麦のんマジ悪魔
451 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/14(水) 16:30:36.30 ID:58QW8/o0
ひょっほおおおおい!続きキテタ!!
乙っす
452 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/14(水) 18:57:57.85 ID:cKGuxgEo
全然せかしてるわけじゃなくて投下スピードにも大満足なんだけど、
今まで告知どおりに投下してただけに現れないと怖いな・・・
こんだけ面白いと未完の恐怖がやばいぜ・・・
453 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/14(水) 19:41:35.73 ID:NSXjymc0
まぁ、そもそもここ自体落ちてたわけで
454 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/14(水) 19:48:13.77 ID:rB0./m.o
毎月の恒例行事だしな
455 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/14(水) 22:16:15.56 ID:Pa87ARAo
また鯖代未納か
456 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:06:27.84 ID:LmLWwPko
―――

アリウスが人造悪魔を作る際、
彼は必ずとある二つの『本能』をその魂の核の部分に刻み込む。

一つ目。

アリウスに危害を与えることはできない。

二つ目。

アリウスの身元の情報については口外することはできない。

そしてこの二つの本能に抗おうとした場合、その個体は自壊し情報は全て消去される。

『第三者』に操られ体が勝手に動いた場合も。
『第三者』によって解体され、直接アリウスの情報を引き抜かれようとされた場合も。

通常は、この上に更に多くの術式を被せ思考を制限している為、
人造悪魔はこの本能に抗おうとはしない。
そんな『概念』すら存在しないのだ。


だがルシアは違う。

彼女の中の術式は既に破壊され、その『思考』は自由の身。

そんな彼女は今、自らその『掟』に反する事を行動を取った。
そして当然『アリウス作の人造悪魔』としての『本能』は彼女を蝕む。


『今』、どんなに彼女が愛を知っていようが。

『今』、どんなに彼女が慈しみを知っていようが。


彼女は『人造悪魔』。

忌まわしき大罪の子。

その『現実』が消え去ることは無い。

その『現実』から逃れることは出来ない。


『今』がどうであろうと。

『過去』という『現実』は決して変わらない。


絶対に だ。
457 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/14(水) 23:09:23.47 ID:8KkaOYDO
このアラストルは何基準なんだろうか
とても心臓を贄に捧げなければならない1のアラストルとは思えん
458 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:09:32.21 ID:LmLWwPko
ルシア「……うぅっ!!!!あああぅうああ……!!!!」

アリウスの足の下で血を吐き、苦痛の声を漏らすルシア。


アリウス「…………醜い」


そんな少女を見下ろしながら、
アリウスは苛立ちの篭った言葉を吐き捨てた。

アリウス「……苦しいか?憎いか?」

いかにも人間的は表情を浮かべ悶え苦しむ彼女の姿。
それはある意味アリウスにとって『侮辱』でもあった。


アリウス「その感情は本物か?その痛みは本物か?」

人造悪魔技術の集大成である傑作品。


アリウス「―――ふざけるな」

そんな個体がこんなに『陳腐』な『茶番』を、あたかも己の『本心』のように『思い込んで』いるなど。


アリウス「お前は擬似的に再現しているだけだ」


アリウス「人間の感情をコピーしてな」


アリウス「決して『本物』ではない」


アリウス「決して『本物』にはならない」



アリウス「お前は『人形』に過ぎん―――」



アリウス「―――目障りだ。さっさと『機能停止』するがいい」
459 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:12:17.79 ID:LmLWwPko
アリウスはその踏みつける足の力を更に強める。

ルシア「ぐうっ…………!!!!!」

その痛みと圧力がルシアの怒りと憎しみを更に刺激し、
そのアリウスに対する敵対感情が『掟』に触れ、彼女を更に『死』へと導いていく。

猛烈な速度で体力が減っていき、魂があっという間に削られていく。


ルシア「…………う……ぁ……」


そんな薄れ行く意識の中。

ぼんやりとアリウスを見上げていた彼女の瞳に、一瞬だけ小さな光が差してきた。


ルシア「(…………)」


それはアリウスが手に持っている、小さな水晶球が放つ淡い光。


そう、小さな水晶球。


ルシア「(…………………あれは……)」


見覚えがある。

何にどうやって使われるものかも知っている。

あれはアリウスが作り出した『霊装』。

『偶像の理論』を応用したとある魔術を行使できる。

簡単に言えば、確実に『人質』を『取る』ことができる魔術を。

ルシアは以前そのテストに立ち会った事がある。
アリウスは場合によってはウィンザーの件で使うつもりだのだろう、

それで恐らく彼女にも記憶させておいたのだ。
460 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/14(水) 23:14:12.41 ID:LmLWwPko
そんな忌むべき過去の記憶が、
今現在の彼女の総合力を高める『知識』となっているのもある意味皮肉な事だ。

光っている所をみると、
あの霊装は今現在起動中なのは確かだ。

ルシア「…………」

つまりアリウスは今、誰かを『人質』に取っている。

ではなぜ人質を取っている?

人質を取るという事は身の安全の保証が欲しいが為。
戦力においてはその『相手』に劣っているという事。


ではその『相手』は?

ルシア「―――」

今のこのフォルトゥナ周辺で、
アリウスから見てそれ程の脅威性を有している者はたった一人しかいない。


たった『一人』しか。


当然、『人質』はその『人物』の―――。



ルシア「―――」


その時、ルシアの瞳にもう一つの光点が映った。


それはアリウスの遥か後方に迸った『青い光』―――。
461 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:16:43.71 ID:LmLWwPko
いや、確かに遥か『後方』だったが。


ルシア「―――」


僅か一瞬で。


ルシアでさえ意識して追う事が出来ない程の、
圧倒的な速度で急速に接近してくる。


ルシア「(だめ―――)」


凄まじい『憤怒』を携えて。


猛烈な『殺意』の矛先をアリウスに向けて。


青の光と真紅の爆炎を纏い。



ルシア「―――だめぇえええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!



彼のすぐ背後にまで一気に距離を詰めてきた―――。



―――レッドクイーンを振り上げている『ネロ』。


そしてようやく気付き振り向き始めたアリウスの頭頂部に―――。


古代ギリシャ風のフルフェイスマスクに振り下ろされる―――。



―――ネロの破滅的な一撃。
462 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:20:07.03 ID:LmLWwPko
不気味な静寂が辺りを包んだ。


誰しもがその時動きを止めた。
瞬き一つしなかった。


気を失っているキリエの周りにいる騎士達も。

アリウスの足元に横たわっているルシアも。

そんな彼女を踏みつけながら半ば振り返っているアリウスも。


そして。


アリウスのマスクの眉間の部分から僅か5mmの所に―――。



―――振り下ろす半ばの体勢で刃を突きつけているネロも。



ネロはレッドクイーンを振り切らなかったのだ。

直前に聞こえた少女の声と。

それとほぼ同時に彼を襲った『嫌な予感』で。


静寂の中、ネロの荒い吐息の音だけが静かに響き渡っていた。


彼の中に渦巻く、凄まじい『憤怒』によって熱せられてる『音』が。
463 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:22:45.68 ID:LmLWwPko
アリウス「………………久しぶりだな。スパーダの孫よ」


そんな沈黙を破ったのはアリウスだった。
仮面の下から響く篭った声。


ネロ「―――あぁ゛ぁ゛??」

そして刃を突きつけたまま、凄まじい重圧が宿っている声を発するネロ。

彼の体は荒い呼吸と興奮によって少し震えていた。
誰が見てもわかる。

彼は今、懸命に己の殺戮衝動を押さえ込んでいるのだと。


アリウス「さすがの勘だな。どうだ?俺を切れんだろう?」


アリウスはルシアから足を下ろし、ゆっくりとネロの方へ振り向き切り両手を大きく広げた。
切れるものなら切ってみろ とでも言っているかのように。



ネロ「……」


レッドクイーンを降ろし、ゆっくりとアリウスの横へ回り込むように歩きながら彼の全身を眺めるネロ。

煮えたぎる怒りの色が篭められた瞳で。
鼻を小さく鳴らしながら。

まるで腹を空かせた猛獣が舌舐めずりしながら、
その『肉』の匂いを味わっているかのように。


ネロ「『臭え』―――」


そしてネロはアリウスの真横へ並び立ったところで小さく呟いた。
眉間に皺を寄せ、鼻筋を苛立ちで小刻みに震わせながら。


ネロ「―――最っっ高に『臭え』なおい。鼻にクソ捻じ込まれる方がまだマシだぜ。ケツ穴野郎」
464 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:31:15.42 ID:LmLWwPko
そのままネロはアリウスとすれ違うように、彼の後ろ側に回り込み。


ネロ「大丈夫か?」


ルシア「……は、はい……」

ゆっくりとルシアを抱き上げた。
そしてアリウスに背を向けたまま歩き離れていく。

そんなネロの背を、アリウスは再び振り向き直しながら目で追った。



ネロ「名は貰ったか?」


ルシア「……ルシア」


ネロ「OK、『ルシア』。あのケツ穴野郎の妙な『匂い』は何かわk―――」


そうやって手っ取り早く、
あの『ケツ穴野郎』について感じるこの妙な悪寒の原因を聞こうとした時だった。


アリウス「―――スパーダの孫よ!!!遠慮するな!!!!俺が教えてやろう!!!!!」


20m程離れている場所に立っている、『ケツ穴野郎』から放たれた声でネロの問いが遮られてしまった。
まあ、もう一度聞きなおす必要はなさそうだが。


ネロ「…………」

顔を上げアリウスへとその研ぎ澄まされた槍のような視線を『突き刺す』ネロ。

首を小さくクイッと傾けながら。

そのネロの挙動の意味を悟った二人の騎士がネロの元へ素早く駆けていき、
ルシアを受け取ると逃げるように離れ、キリエの元へと戻っていった。


そして改めて対峙するネロとアリウス。
465 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:34:00.65 ID:LmLWwPko
改めてアリウスと対峙したネロはレッドクイーンを大きく振り上げ―――

ネロ「……そうかい。それじゃあ―――」

足元の地面に突き立て、イクシードを思いっきり噴かし―――。



ネロ「―――聞かせてもらおうじゃねえか!!! オオ゛ォ゛ッッ!!!?」


爆炎を撒き散らしながら憤怒の『一部』を耐え切れずに吐き出す。


アリウス「では説明してやろう」

そんな彼とは対称的に落ち着いた口調のアリウス。

アリウス「なあに、複雑な事では無い」


そしてその口から語られる―――。


アリウス「そう固くならずに楽にして聞くが良い」


アリウス「俺が血を流せば、お前の恋人も血を流す」


ネロにとってはあまりにも―――。


アリウス「―――俺の首が飛べば、お前の恋人の首も飛ぶ」



アリウス「―――俺が死ねばお前の恋人も死ぬ」


―――許しがたい言葉。


ネロ「―――」



アリウス「―――どうだ?簡単な事だろう?」
466 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:35:39.16 ID:LmLWwPko
ネロ「―――ア゛?」


その瞬間、一帯の空気の『質』が更に豹変する。


当然ネロによって。


彼の手足と肩、そして頭が激しく震え始める。

頭からは本当に『何か』がブツリブツリと弾け切れる音が聞こえてきそうだった。
いや、実際にネロ自身は確かに聞いていた。


何かがブチ切れていく音を。


続く、レッドクイーンの柄を握る拳からはメキリと金属が締め付けられる音。

顔のありとあらゆる表情筋も、痙攣しているかのように振動している。


固くかみ締められた歯。
その隙間から漏れ出してくる青い光の靄。


まるで吐息そのものに色がついたかのように。



ネロ『―――んだと―――?』



震える口からこぼれ出てきた『地獄の底』からの声はエコーがかかっており、

同時に異形の右手から目を覆いたくなるほどの光が溢れ、
彼の全身からも青い光が湯気のように漏れだしてくる。
467 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:38:48.55 ID:LmLWwPko
逆鱗しているネロを目にして、その場にいた誰しもが言葉を失って硬直していた。
息すらすることさえ忘れてしまいそうなほどに。


仮面の下から不敵な笑い声を漏らすアリウスを除いて だが。


アリウス「さて……」

アリウスは左手をスッと己の首元に伸ばす。

仮面の下にある素肌の首へと。
次の瞬間、彼の指先には小さなナイフが出現した。


アリウス「一応証明しておいてやろう」


そしてその刃を―――。



ネロ『―――』



―――己の首にゆっくりと押し当てた。



ネロ『―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!!!!!!!!』



同時にアリウスへ向けて一気に跳躍するネロ。


デビルブリンガーを振り上げながら―――。


―――その巨大な拳を固く握り締めながら。
468 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:40:01.34 ID:LmLWwPko
だがその巨大な青い『拳』は振り下ろされない。

ネロはまたもや振り下ろすことが出来なかったのだ。


アリウスの仮面から僅か5cmのところで止まっているデビルブリンガー。


ネロ『―――ぐ…………オ゛ォ゛………………!!!!!!!!!』


押し寄せてくる破壊衝動と理性が激突し、
ネロの口からは言葉にならない声が光と共に漏れる。


アリウスの首にはナイフによる小さな傷。
一滴の血液が静かにナイフの刃を伝い落ちていく。


それと同時に後方から響いてくる―――。



「―――キ、キリエ殿…………!!!!!!!!」



―――キリエの周囲にいる騎士達の声。


彼女の首にもアリウスと全く同じ小さな切り傷が刻まれていたのだ。


全く同じ形の傷が。
469 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:43:20.56 ID:LmLWwPko
アリウス「ふむ、言っておこうか」


不気味な程に落ち着き払っているアリウスが静かに口を開く。

目の前でデビルブリンガーを振り下ろしかけている姿勢のまま、
憤怒のあまり震えているネロの顔を覗き込むように身を乗り出しながら。


アリウス「俺はここから生きて離脱しなければならんのだ―――」


アリウス「覇王を復活させその力を手に入れる為にな。そして―――」


紡がれた更に許し難い言葉達。



ネロ『―――』


聞くことさえ憚られそうな呪うべき言葉達。


アリウス「―――『スパーダ』が敷いた『封印』を解くのだ」



全人類、人間界、そしてスパーダの一族へ向けての。



アリウス「―――魔界への『大扉』のな」



宣戦布告に等しい言葉を。


アリウス「さあ選べ。選択の時だスパーダの孫よ」


アリウス「『殺す』か―――」



アリウス「―――『逃がす』か」
470 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:52:13.45 ID:LmLWwPko
見開かれるネロの目。
赤い光を放つ瞳。

ネロはデビルブリンガーを大きく振り上げた。

やり場の無い凄まじい『激情』を吐き出しながら。


ネロ『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!』


そして即座に叩き降ろす。

アリウスの真横に。


巨大な半透明の拳が凄まじい激音と共に地面に深く食い込む。


アリウス「スパーダの血とはいえ所詮『混血』。芯は脆い。やはり殺せんか」

そこから飛び散った破片やチリを、アリウスは煙たそうに手で払いながら吐き捨てた。
仮面の下にある見下すような不敵な笑みが手に取るようにわかる口調で。


アリウスはほくそ笑む。
この『賭け』はやはり読みどおりだった と。

このスパーダの孫はあまりにも人間的過ぎる と。
己の血の『使命』よりも、愛や情という『安っぽい』陳腐な感情の方が強い と。

この一族の『強さ』の秘訣たるその『心』。

だがその『心』が余りにも濃すぎると、逆に『弱さ』にもなってしまう諸刃の剣だ。

今のネロは正にそうなのだ と。

アリウスは確信した。


勝利を。

己の野望の成功を。


まあ、このアリウスの確信は数十秒後に覆される事になるのだが。
471 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:55:50.20 ID:LmLWwPko
アリウス「お前が選んだ『選択肢』は弱者の物」


アリウスは言葉を紡いでいく。
拳を振り降ろしたまま地面に顔を向けているネロに対し。


アリウス「スパーダの孫よ。最早お前には人間界を護る資格など無い」


彼の瓦解したであろう精神を更に揺るがすべく。


だがそんな『勝利』に浸る彼の言葉はすぐに遮られた。


アリウス「たった一人の人間の為にとったお前の決断h―――」



突如伸びてきたネロの右手によって。


その右手はアリウスの胸ぐらを乱暴に掴み―――。



―――彼の体を一気に引き寄せた。
472 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/14(水) 23:56:44.10 ID:WNXI/LMo
サリーちゃんパパ原作よりも悪役やってんなwwwwww
473 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/14(水) 23:58:08.80 ID:LmLWwPko
同時に上半身を上げたネロはそのアリウスの仮面の下の瞳を覗き込む。

仮面と鼻が接触しそうな程の距離で。

ネロが全身から放つ青い光が仮面の眼孔から差し込み、アリウスの瞳をも照らしていた。

まるでアリウスの瞳からも青い光が放たれているかのように。


そしてネロは静かに口を開いた。


『この場』での『選択』の答えを―――。



ネロ『ああ。いいぜ―――』


口にする為に。


ネロ『さっさと―――』






ネロ『―――失せやがれ』
474 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:02:00.73 ID:bX8F9ewo
アリウス「―――愛か。泣かせるな」


何もかもを超越している圧倒的な魔を見に宿していながら、
これ程の余りにも人間的過ぎる『人間らしさ』。

『血』に刻まれている『本質』をも退けるその情の強さ。

アリウスはふと思う。


まるでかつてのスパーダのようではないか―――と。


アリウス「―――」


―――そう、スパーダと『同じ』。


アリウス「(―――まさか)」


アリウスはこの瞬間、遂に気付いて『しまった』。



ネロとスパーダの『一番』の共通点を―――。



なぜ魔剣『スパーダ』がネロを選んだのかを―――。


『コレ』だ。


たった『一人』の人間への底無しの『想い』だ。


己の使命も義務も宿命も全てを『捧げて』しまう程に強い『愛情』だ。
475 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:04:18.94 ID:bX8F9ewo
ダンテは全人類への愛情はあるが、それは『使命』の延長線上の物。
特定の女性に対して恋することも愛を注ぐことも無かった。


バージルはネロが存在する以上、特定の女性を愛した時期があった『『かも』』知れないが、
『『もし』』そうだったとしても後の行動を見る限り結局は『力の探求』を優先した。



だがネロは違う。


彼は『本当』に、そして『永久』に人を愛することを知っている。


スパーダと同じく。


この共通点。


たった一人の女性を永久に愛する心。

悪魔には決して無い感情だ。


それは一見すると陳腐な共通点。


アリウス「―――」


だがこれこそが、スパーダが何よりも守ろうとした『人間』の『一面』ではないのだろうか。


これこそが、スパーダの何もかもを超越した『史上最強の強さ』の原動力だったのではないのだろうか。
476 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:07:32.53 ID:bX8F9ewo
アリウスは見くびっていた。

先程の考えは甘かったのだ。

どうやら考えを改める必要がある。


ネロにとって、その人間性はもしかしたら弱点には成り得ないかも知れない と。


魔剣『スパーダ』が彼を選んだ要因の一つも『コレ』だったのではないか と。 


アリウス「―――」


そしてアリウスは今、『ソレ』の『証拠』を垣間見てしまう。

否定しようが無いほどにありありと。



ネロ『だが勘違いすんじゃねえ―――』



その底無しの『強さ』を。





ネロ『―――これは始まりだ』





目の前のネロに―――。
477 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:09:41.92 ID:bX8F9ewo
ネロは確かに『選択』してしまった。

『この場』では だ。

そこから生じる今後の『問題』を放棄したわけでは無い。


むしろ―――。


ネロ『良く聞け』


―――真っ向から戦うつもりだ。


ネロはアリウスに対し宣誓する。


ネロ『―――いつか必ず―――』


この場の『選択』のツケは全て己が払う と。


ネロ『―――俺が何もかもを叩き潰してやる』


己が全部『背負う』 と。


ネロ『てめぇの胸糞悪ぃ便所の落書きみてぇな企みも―――』


己が全ての『責任』を持つ と。


ネロ『―――てめぇの魂をも』


この『選択』は―――。



ネロ『―――何もかもをな』



―――全身全霊を賭けた『戦』の始まりだ と。
478 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:11:30.94 ID:bX8F9ewo
それは奇しくも2000年前に―――。


ネロ『ここで「全て」に誓ってやる―――』



己がとった『反逆』という選択のせいで―――。



ネロ『―――必ず俺の手で「終わらせる」』



人間界を苛烈な『全面戦争』の舞台へ引き摺り上げ―――。



ネロ『―――俺の手で何もかもを―――』



魔界全土の凄まじい憎しみの矛先を人間界へ集めてしまった―――。



ネロ『―――全てを』



―――『スパーダ』の言葉と同一だった。



ネロ『―――必ずな』
479 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:13:29.58 ID:bX8F9ewo
数年前、ネロはキリエを守るというこの一心だけで力を求めた。
そして『血』はそのネロの声に応じ力を与えた。

当然ネロは迷い無く使い、最終的にキリエを救った。
だがそれだけだった。

『それだけ』 だ。


それ以来、ネロはダンテの後を『追った』。
『人間界を守る』という信念を。

だがそれは『ダンテ』の『使命』だ。


ネロのものではない。


彼はただ相乗りしていただけなのだ。


少し雑な言い方をすれば、ネロはダンテの『真似事』をしていただけなのだ。


ネロのあの日以来の全ての行動は、
偉大な祖父の背中を、ダンテとバージルの背中をただ追いかけていただけなのだ。


父や祖父や叔父が切り開いていった『轍』を後から辿って歩んでいただけなのだ。



だがこれからはもうそれが許されなくなる。



この選択をとってしまった以上それはもう許されない。

その偉大な先駆者達の『庇護下』にはもういられない。
480 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:14:58.43 ID:bX8F9ewo
ネロにも遂にその『時』が来たのだ。

かつて『祖父』が魔界への反逆を決意した時のように。

母の死を目の当たりにし、『最強』となって『血』に刻まれた『戦いの連鎖』に
終止符を打つことを決意したバージルのように。

テメンニグルの搭でバージルと激突し、
父が残した『義務』を『全て』引き継ぎ背負う決意をしたダンテのように。


そして今、ネロにも。


『全て』を背負う覚悟を決める時が来た。

スパーダの一族の『力』を持つ物としての、
『責任』と『義務』に正面から向かい合う覚悟を決める時が。

己の『意志』で、己の『選択』で道を進む『時』が。


彼の『幼年期』は終わりを迎える。


これからは彼は『己自身』の『使命』を胸にして進まなければならない。

己の足で新たな轍を刻まなければならない。


人間界全体の、全人類の『未来』に手を出してしまう『選択』をとってしまった以上、
彼はその『責任』と『義務』に正面から向き合わなければならない。

そして『己の手』で果たさなければならない。

確実に。

絶対に。


成し遂げなければ成らないのだ。
481 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:17:00.09 ID:bX8F9ewo
ネロの右手から『赤』い光が漏れ出すようにゆっくりと放出され始めた。


それは彼の中にある魔剣『スパーダ』の光。


その赤い光が、ネロが全身から放っている青の光と混じっていき―――。



―――『紫』となる。



『スパーダの色』へと。



アリウス「―――」


そんなネロの姿を目の当たりにしてアリウスは一瞬こう思ってしまった。


この男は『スパーダ』だ と。


アリウスは当然スパーダの姿など見たことは無い。

だがなぜかそう迷い無く思ってしまったのだ。
482 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:18:03.84 ID:bX8F9ewo
ネロは右手でアリウスの胸ぐらを掴んだまま、
左手に持っていたレッドクイーンを脇の地面に勢い良く突き立て。


ネロ『―――ルシィアァァァァッ!!!!!!!』


後方で騎士に保護されているルシアの名を呼ぶ。
刃が瓦礫に深く突き刺さる音と共に響くネロの怒号。


ルシア「―――!!!!!」


ネロはレッドクイーンの柄から手を離すと、
その手でコートのポケットから小さな黒い石のようなモノを取り出し。



ネロ『―――キリエをトリッシュの所に連れてけ!!!!!!!!』



驚き目を丸くしているルシアの方へと放り投げた。
それは魔界の生命体が元となっている通信魔具。


ネロ『そいつでトリッシュの位置を特定しろ!!!!!!!!』



ルシア「―――は、はい!!!!!!!」
483 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:20:52.55 ID:bX8F9ewo
アリウス「……」

そのネロの行動の意図をアリウスは即座に察知した。


まずあの博識高いダンテの相棒に判断を仰ぎ、
そしてこの『呪縛』の詳細を禁書目録に解析させ、
イマジンブレイカーにでも消させようとでも考えているのだろう と。


確かに妥当な判断だろう。


だがアリウスから言わせて貰うとそれは不可能だ。

禁書目録は今は『解析』できる『状態』ではない。
詳細を確認せずに強引に消そうとすれば、その『個体』が死ぬ『安全装置』もある。


あのダンテの相棒ならば、時間をかければ解析できるだろうが、
その時は既にアリウスの計画が『本格始動』している頃であり手遅れだ。

まあ、その事を親切に教える義理も無いが。


それに今はそんな事よりも注意を払わねばならない事がある。


アリウス「…………」



このネロの変化だ。


たった今、明らかに精神的に『進化』したのだ。
484 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:22:46.92 ID:bX8F9ewo
アリウス「(スパーダ……か……)」


その『血』が引き出す予想すら出来ない底無しの『可能性』。

確かに重々承知していたが、ここで改めて痛感する。

己が勝負を挑もうとしている『存在』の大きさに。


だがそれを目の当たりにしてさえ、アリウスは決して押されはしなかった。


むしろ―――。


アリウス「(―――面白い)」


―――彼の心は昂ぶる。


―――『戦い』の『高揚感』で。


この『程度』で挫けてしまうくらいなら、そもそもこんな所に立っていない。


彼の野望。


それは『スパーダの一族に勝ちその力を我が物にする』という、
誰も成し得なかった事実上確率0%の『挑戦』。

その道を歩むことを覚悟した時から、彼は『人類最強の挑戦者』の一人となった。


不可能にも正面から立ち向かうこの心もまた人間の強さの『一面』。

それもまたスパーダが守ろうとした『存在』。


ネロとアリウス。


二人の『強き人間性』の激突。
485 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:24:22.98 ID:bX8F9ewo
アリウス「いいだろう―――」


そしてアリウスは認めた。

ネロは『獲物』ではない。

乗り越えるべき『タダの障害』でもない。


真っ向から渡り合うべきの『敵』だ と。


己の全てをぶつけるべき『好敵手』だ と。


お互いの根にあるのは同じ『人間性』。


己とこのスパーダの孫は―――。



―――『兄弟』だと。



『見下し』はしない。


『尊敬の意』を篭めて必ず―――。



アリウス「―――その挑戦を受けてやる」



―――己の手で引導を渡してやる と。
486 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:26:21.38 ID:bX8F9ewo
その言葉を受け取ったネロは口の端を僅かに上げ、小さく笑った。
胸ぐらを掴んでいた右手を離し、数歩後ろに下がりながら。


アリウス「―――時が来たらこちらから『招待』してやろう」


自由となったアリウスの足元に赤い魔法陣が浮かび上がる。
この場から離脱する為のモノだ。

そして徐々にアリウスの姿が光に包まれ薄れていく。



アリウス「―――その為の『舞台』を用意しておいてやる」



そんな中、アリウスは手に持っていたナイフをゆっくりとに掲げ。



アリウス「『招待状』だ。受け取れ―――」



そして手放した。



アリウス「―――『兄弟』」



小さな金属音を伴って二人の間の地面に突き刺ささるナイフ―――。
487 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:28:27.67 ID:bX8F9ewo
ネロ『ハッ……そうかい―――』

それを見てネロは小さな笑い声を上げゆらりと右手を高く掲げた。


ネロ『それなら俺は「プレゼント」を用意しといてやるぜ―――』



そして即座に振り下ろす。
その瞬間、彼の右手から赤い光が溢れ―――。


ネロ『「コレ」だ。良く覚えとけ。てめぇの―――』



―――『最強の魔剣』が出現する。


ネロ『あの世への「切符」だ―――』



振り下ろされた凶悪な刃はナイフを跡形も無く粉砕し―――。



            コ イ ツ
ネロ『―――「スパーダ」がなッ!!!!!!!!』




―――その場の地面に深く突き刺さった。


瓦礫と『招待状の破片』を飛び散らせながら。
488 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/15(木) 00:29:27.69 ID:bX8F9ewo
それを見てアリウスは仮面の下で小さな笑い声を上げた。

そして。


アリウス「―――楽しみにしていよう」



アリウス「―――『ネロ』よ」


彼の姿は光の中へと消える。

続けて魔法陣がかき消されるように消滅し、そして何も無くなった。


何も。


その場にアリウスが残していったのは砕け散ったナイフの残骸だけだった。


ネロ『…………』


それだけだった。




フォルトゥナの争乱はここに『終息』した。
だがそれは新たな、そして更に大きな戦いの『幕開け』にしか過ぎなかった。


ネロの戦いはこれからだ。


『選択』をした『責任』と『義務』を全うすべき戦いは。


魔剣『スパーダ』を受け継ぐ者としての戦いは。


―――
489 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/15(木) 00:36:58.71 ID:bX8F9ewo
今日派ここまでです。
そろそろこのパートの終わりも近くなってきました。
次は金曜か土曜の夜中に。

>>457
このSSでは、ダンテの前では、というかダンテに対しては1のように従順で威厳のある態度で。
ダンテがいないところでは、
ビューティフルジョーの時のように結構好き勝手やるインテリナルシーさんの部分が出てしまう、

という感じで考えています。

裏ではグチグチいうものの、基本的にダンテのことをハイパーLOVEなのは他の魔具と同じです。
490 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/15(木) 00:38:25.44 ID:DOajHQAo
乙!
アリウスパネェっす
491 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/15(木) 00:39:48.31 ID:5g3wIvAo

バサラだかなんだかにもダンテの魔具でてなかったっけ

>基本的にダンテのことをハイパーLOVE
ただしベオウルフは除く
492 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/15(木) 00:59:51.05 ID:SI90jVA0
うおおおおおおもしろかった乙!!
ネロの成長っぷりがたまらん!
ちゃんとスパーダがネロを選んだ理由があって、なるほどなぁって思った
493 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/15(木) 15:24:21.39 ID:SeD8FSo0
とうとう紫のオーラが・・・
乙ー
494 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/16(金) 21:19:57.68 ID:6AkBycDO
スパーダカラーって赤黒なイメージなんだが4じゃ違うのか?
495 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/16(金) 21:41:07.37 ID:wbpv8vE0
俺もそう思ったけど、スパーダの人間状態って紫の服着てるじゃん?
つまりはそういう事なんじゃね
496 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:01:07.00 ID:.ct4h5co
―――

学園都市。

第七学区。


一人の少女を救う為に突き進んでいく『銀』と『黒』と『赤』―――。


そしてそれを迎え撃つ『オレンジ』と―――。


救われるべき『白』―――。



上条を先頭に、後方両側に一方通行とステイルが続く。

すかさず彼ら三人へ向けて、天空から振り下ろされる巨大なオレンジの光の柱。


上条『―――ッッッッラァ゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!』


どういう訳か、ここに来た時から既に負傷しているステイル、
そして体力が限界近い一方通行ではこの攻撃は防げない。

そう瞬間的に判断した上条は、
その『大剣』を握りこんだ左拳のアッパーで受け止めながら即座に右手の平を押し当てる。

凄まじい轟音と共に激突点から弾け飛ぶオレンジと銀の光の閃光。
同時に幻想殺しの作用で亀裂が走っていくオレンジの『大剣』。

その隙に上条の横を駆け抜けて突進していく一方通行とステイル。
一方通行はその瞬間、先程と『同じく』一本の黒い杭を上条の横に『置いて行く』。


そんな二人へ向け放たれる、インデックスの『竜王の殺息』。

それは先程一方通行の『生身の右手』を奪った時と同じ、

『柱状』ではなく『前面』を全て制圧する、『扇状』の『全面噴射』。
497 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:06:11.18 ID:.ct4h5co
それを悪魔的な勘で察知したステイルは、
横方向90度にステップを刻み一方通行の背後に回る。


一方『―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!!!!!』


全ての杭と両腕の義手を前に突き出し、『光の濁流』を受け止める一方通行。

黒い『壁』の表面をみるみる削っていくインデックスの『竜王の殺息』。

このままでは先程と同様、一方通行が弾き飛ばされるのも時間の問題。


だが今はそんな事態になんかはならない。


今の彼は『一人』では無い。


一方通行のすぐ背後でステイルは両手の炎剣を地面に突き立てた。


次の瞬間。


一方通行の前方、突き抜けていく光濁流の真下、そこの地面が赤く光り出し―――。


―――巨大な火柱が火山のように噴き上がった。


猛烈な勢いでぶち上がった『業火の壁』は、インデックスの『竜王の殺息』に真下から激突し、
鼓膜が破裂しそうな程の激音を轟かせながら『拡散』させる。

灼熱の閃光と白の光の雫が混じりながら周囲に飛び散っていく。
498 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:07:51.68 ID:.ct4h5co
その僅かな一瞬の間だけ、『竜王の殺息』の弾幕が薄れる。

次の瞬間にはステイルの業火は押し戻され、
再び苛烈な弾幕が一方通行らを襲うだろう。

だが彼らにはその極僅かな一瞬だけでも充分だった。



一方『―――いけやァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!』


弾幕が薄れた瞬間、一方通行は先程『置いてきた』一本の黒い杭を一気に引き戻す。


釣り上げるように大きくしならせながら。


その先端には―――。



―――上条当麻。



黒い杭を左手で掴み、右手の平を正面にかざしている上条当麻。

跳躍と黒い杭の力により。砕け散るオレンジの光の破片の中を一気に突き進んでいく。


一方通行とステイルのすぐ頭上を通過し、
そして『拡散』された竜王の殺息の『霧』の中へ突入する。


体の正面にかざしている右手の平で、白い光の粒子の『霧』を切り裂いていきながら。

『霧』を突破し、フィアンマとインデックスの元へと進むべく。


その直後に一方通行とステイルも跳躍し上条の後を追い、
彼が切り開いていく『割れ目』へと続く。
499 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:12:16.86 ID:.ct4h5co
フィアンマ「(―――そう来るか。まあ妥当だ)」


どうやら、あの三人は『得意』の近距離戦を挑む気なのだろう。


猛烈な勢いで急速に距離を詰めてくる。

上条が先頭になった瞬間、インデックスの『竜王の殺息』の噴射が弱まる。
これはフィアンマが彼女に出しておいた、「幻想殺しは殺すな」という指令が働いた為だ。

勘かそれとも偶然か、
あの三人の少年はその事は知らないのだろうが、結果的にフィアンマの指令が利用される形となってしまった。


フィアンマ「(―――ふむ、まあ仕方ないな)」


フィアンマの遥か頭上に再び巨大な光の柱が精製され始める。

それと同時に彼の周囲にもオレンジの光が充満する。


彼は近距離戦の挑戦を受けるつもりだ。


フィアンマだけならば即座に離脱して距離をあけることも出来るが、
インデックスはそうはいかない。

『今』の彼女はそんな高速移動はできない。

相手が三人もいる以上、インデックスの傍から離れるのは危険だ。
これから始まる『素晴らしいショー』を、幻想殺しによって台無しにされるかもしれないのだ。


わざわざあの三人の得意とする『舞台』に乗り込むのは少々危険だが、
『ショーの開演』までは、己が時間を稼がなければ成らないのだ。
500 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:18:23.55 ID:.ct4h5co
上条は先程から迷っていた。

上条『―――』

今、インデックスを救う為の一番の要は『己の右手』。

それはわかっている。
ステイルの言うとおり、『あの時』と同じ戦法で行けば救えるの『だろう』。


だが上条は『あの時』の記憶が無いのだ。


今までの経験から言うと、『何』を幻想殺しで破壊すれば良いのかは薄々予想がつく。


だがその『どれ』を『優先』すれば良いのかが上条には判断しかねたのだ。


フィアンマの持っている霊装(もしくは魔具)か、
それともインデックスの前面に浮かび上がっている複数の魔方陣か、

その魔法陣は同時に全て破壊する必要があるのか、
それとも一つ壊せば連鎖的に全て崩壊していくのか。

それとも直接インデックスに触れる必要があるのか。


複数思い浮かぶ候補。


恐らくどの行動をとってもそれなりの効果があるだろう。

だがどれが最も効果的なのかがわからない。


全てを試している暇も無いし、そもそもこれ程の相手なら、
そう何度も簡単にチャンスを与えてくれるはずも無い。


どれかを優先して、そこに全力をつぎ込まなければならないのだ。
501 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:20:06.41 ID:.ct4h5co
更にリスクの面でも問題がある。

こういう見るからに高度な術式とわかる『現象』には、
何かしらの保険なり安全装置なり罠がある可能性が高い。

相手方がそう意識してなくとも、偶発的に大変な事態になってしまうこともある。


幻想殺しは使い方によっては事態をかなり悪化させる事もあるのだ。
記憶に新しいのでは、偶然だったとはいえウィンザーの事件で大悪魔を解き放ってしまった事も。


今の懸念なら、例えばフィアンマの持っている霊装。


あれが『動力源』ならば、破壊した瞬間全てが解決するだろう。
だが『タダの操作端末』だとしたら。

そうだった場合、インデックスに『乗り移っている何か』は
機能停止するどころか暴走を起こす場合だって充分ありうる。

最悪、リミッターやら何かしらの箍が外れて自壊してしまう恐れもあるのだ。



上条『―――」


こんな時はいつも『彼女』が隣から的確に指示してくれた。


インデックスが。


だが今、彼女は『隣』にはいない。

『檻』に閉じ込められ『敵』として正面に立っている。


彼の助けを待ちながら。
502 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:23:10.74 ID:.ct4h5co
ステイルは言う。

『あの時』と同じく と。

だが上条はわからない。

『あの時』と『今』のどの『部分』が同じなのかが。

その『同じ答え』が『どれ』なのかが。


上条『―――』


唯一の解決手段は。


ステイルに『聞く』こと。


だがそれは今まで隠してきた己の『記憶喪失』を明かしてしまう事に繋がる。

先程から時々インデックスの声が聞こえてくる辺り、
彼女は『あそこ』から今も『見ている』のかもしれない。


つまり一番知られたくなかった想い人にも知られてしまう可能性が。



君との『出会い』は俺は覚えていない。


君と過した『あの時間』は俺は覚えていない。


君との『絆』が始まった『あの頃』を俺は覚えていない と―――。
503 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:25:51.50 ID:.ct4h5co
しかし。

視界に入るインデックスの姿で上条の中で『何か』弾け飛ぶ。
『小さな苦悩』から彼を叩き起こすかのように。


上条『(―――うるせぇ―――ふざけんな―――)」


そう、今はそんな『小さな事』で迷っている場合ではないのだ。


上条『(―――何考えてんだよ俺は!!!!)』



今はインデックスを救わねばならない。

何よりも彼女の『命』を。


上条は遂に決意する。
白い光の粒子の霧を、幻想殺しで裂いていきながら。


彼女を救えるのならば。


上条『―――ステイル!!!!!「理由」は後にしろ!!!!!』


彼女を守れるのならば。



上条『教えてくれ!!!!!俺は「あの時」―――』



こんな秘密など『安い』。



上条『―――インデックスをどうやって助けた!!!??』


『安すぎる』。
504 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:27:45.92 ID:.ct4h5co
ステイル『―――』

当然、突然そんな事を言われてステイルは一瞬困惑する。

眉をピクリとさせて。

だが『「理由」は後にしろ』という言葉を飲み込む。
確かに聞きたい事や疑問がこの瞬間一気に湧き上がって来たが、今はそれどころではない。

ステイルは即座に口にする。

ステイル『―――魔法陣だ!!!!彼女の前にある魔法陣の「全て」を「一度」に破壊しろ!!!!!』

上条が失っていた『記憶』を。


そしてお互いをサポートしている、『三人』の戦士は白い光の霧を『難なく』突破し―――。


上条『―――わかったぜ!!!!!!!!!!!!』


―――フィアンマとインデックスの前5m程の場所に着地する。


凄まじい慣性エネルギーを受け、足を地面にめり込ませながら。


その瞬間、続けて三人は即座に前へと踏み出す。


迸る『銀』の煌きはインデックスへ―――。

吹き上がる『爆炎』はフィアンマへ―――。

大気を切り裂く『黒い影』は、二人の間でどちらをもサポートできる位置へ―――。




禁書『―――開錠完了まで残り15秒』


―――
505 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/16(金) 23:27:57.74 ID:wbpv8vE0
ずっと待ってたーーーーーおかえり。
506 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:30:24.36 ID:.ct4h5co
―――

学園都市第七学区。

とある少年達の決死の戦いの場へと、真っ直ぐに突き進んでいく青白い閃光が一つ。
ビルを次々とぶち抜き、正に文字通り『一直線』に。


『神』とも称される程の、圧倒的な存在の『全面的な支援』を受けている『人間』。

右目の眼孔と左肩から大量の青白い閃光を噴き出している『メルトダウナー』。

背中から紫の、その凄まじい存在の『畏怖の象徴』たる『翼』を生やした『魔人』。

完全に覚醒したアラストルを従えた『麦野沈利』。

人の身でありながら、『神の領域』に足を踏み込んでいる強者。


アラストル『来たぞ―――』


そんな彼女に急速に接近してくる―――。


麦野『―――っせぇ―――んなもん―――!!!!!!』


―――『神々』から見ても何もかもを『超越』している正真正銘の『怪物』。


麦野『―――わかってるってーんだよぉおおおおおおおおおおおあああああああああああ!!!!!!!!!!』


振り返りながらアラストルを一気に斜めに振り下ろす麦野。


そしてその刃に十字状に交差し直撃する―――。


―――青いの光の『斬撃』。
507 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:35:20.47 ID:.ct4h5co
耳を劈く金属音。

弾け飛ぶ『光の爆発』。



とてつもない衝撃を受け、砲弾のように打ち出され大きく弾き飛ばされる麦野の体。

ビル一つを丸々ぶち抜き、更にその後方のビルへと一瞬にして叩き込まれる。


麦野『―――ッッッッ!!!!!!!!』


その瞬間、麦野の背面から大量の青い閃光が『逆噴射』され、
同時に背中の翼が紫の巨大な稲妻を放散させて一気にブレーキ。


そして大量の粉塵と火花を撒き散らせながらも、
二棟目内部の三階フロアでようやく麦野の体は止まった。


麦野『―――ッ……はぁッ……!!!!』


破壊された薄暗いオフィスの中、麦野は今の一撃の『余韻』を静かに味わう。


たった一撃。


それだけでも、あの攻撃を放ってきた相手がどれ程の怪物なのかは手に取るようにわかる。

痺れ震えるアラストルを握る右手。
早くも感覚が麻痺しかけている。
508 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:39:16.08 ID:.ct4h5co
アラストル『恐怖するにはまだ「速い」ぞ小娘。今のはほんの「挨拶」程度だ』


麦野『…………黙ってろ!!!……わかってるってんだよっ!!!!』


アラストル『ならば集中しろ。次だ―――』


そう、こんな所でゆっくりしているヒマなど当然与えられるはずが無い。


麦野『―――』


一気にビル全体を覆い尽くす咽返るような殺気と悪寒。



アラストル『右に跳べ――――――』


魔剣の指示に従い、
いや、半ば操られているかのように麦野は瞬時に横に跳ねる。


床のタイルにめり込む両足。
噴射される電子のジェット。


砕け、そして溶かされた破片が舞い飛―――


―――びかけた瞬間。



―――縦一閃、ビルを『丸ごと』両断していく青い光の筋。
509 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:44:42.10 ID:.ct4h5co
麦野『―――』


横に跳ねた麦野の、僅か50cm横の空間を切断していく凶悪な光。

彼女の栗色の髪の先端を、不気味な程に抵抗も無く切断していく。
まるで爽やかな風に優しくなびいたかのように。

跳ねた麦野はそのままの勢いで外へと、
ビルの壁面を突き破り離脱するべく突き進む。



だがこの凄まじい『殺意』は彼女に更に手を伸ばす。


甲高い金属音と共に。

間髪いれずにビルの中に縦横無尽に。

ネズミ一匹をも逃がさまいとでも言うかのように網状に走る―――。


麦野『―――や―――ば―――』



―――『無数』の青い光の筋。



そして次の瞬間。

麦野の離脱を許さずに。

ビルが丸ごと『解体』され一瞬で姿を変える。

大きさ1m以下の欠片の雨に。

周囲の建物をも巻き込んで。
510 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:49:19.55 ID:.ct4h5co
余りにも滑らかに、そして抵抗も無く切断された破片は飛び散らない。

まるで砂に返ったかのように、真っ直ぐ真下へと倒壊していくビル。


その瓦礫の『滝』の中から一気に飛び出してくる―――。



―――青白い光の衣を纏った、球状に丸まった『紫色の翼』。



翼の表面には無数の細い筋が何重にも刻まれていた。


電子の衣によって焼かれた破片の煙を引きながら、
200m程離れた場所の道路へと落下していく翼の塊。


だが激突するかという瞬間。


翼がふわりと大きく開き、中から姿を現す麦野沈利。


広げられた翼が一度羽ばたき、そして麦野の体を静かに下ろした。


大気を切り裂き焼き付ける音と共に、
迸る青白い閃光と紫の稲妻が周囲を照らし出す。


闇夜の街に舞い降りた、
不気味でありながらも美しい、許されざる『女神』を。
511 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:52:32.92 ID:.ct4h5co
麦野『―――はぁッ……!!!!』

安堵の気持ちが篭められた息を軽く吐く麦野。


あの瞬間、背中から伸びるアラストルの翼が瞬時に麦野を包み、
幸いな事に彼女が傷を負う事はなかった。


まあ、『傷を負う』というよりは『死ぬ事』を防げた と言った方がいいだろうか。


一瞬でもあの光の刃に触れてしまえば『良くて』致命傷だ。



トリッシュ『―――まだよ。まだ足りないわ。もっと接近して』



脳内で響く、リンクしているトリッシュからの声。


麦野『チッ―――』


そう、まだだ。


もっと現地に接近しなければ意味が無い。


あの『怪物』を引き連れて だ。
512 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/16(金) 23:56:23.97 ID:.ct4h5co
だがそれは余りにも困難な事。


麦野『―――』


麦野は改めて実感する。



アラストル『―――気を抜くなよ小娘。ここからだ―――』



―――その『怪物』を遂に視界に捉えて。



アラストル『―――見ろ。御出でになられたぞ』



道路の向こう、100m程の場所に悠然と立っている『怪物』を。


その姿を見た瞬間、何もかもがくじけてしまいそうな。


呼吸困難に陥ってしまうかと思ってしまう程の存在を。




アラストル『―――「兄上」殿だ』
513 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/17(土) 00:01:05.50 ID:i6GKZy6o
バージルは左手に閻魔刀を携えながらやや早歩きでこちらに向かってくる。
青いコートをなびかせ、突き刺さるような鋭く冷たい瞳で真っ直ぐに麦野を見据えながら。


トリッシュ『いい?余計な事は考えないで感覚と本能に素直に従って―――』


アラストル『委ねろ。ここで塵と成りたくなければ全てを受け入れろ―――』


トリッシュ『大丈夫。私達がいるから。それに―――』


麦野の胸の『赤』い光が強まる。
それを見て一瞬だけ僅かにバージルの眉が動く。


アラストル『―――我がマスターも付いていて下さる』


トリッシュ『―――信じて』


アラストル『―――信頼しろ』



麦野『―――うん』



小さく頷く麦野。

それとほぼ同時にバージルは柄に手を当て―――。


―――抜刀する。


―――そして再び放たれる『次元斬り』。


―――
514 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/17(土) 00:04:47.65 ID:i6GKZy6o
今日はここまでです。
次は明日の夜中にも投下できるかも。
無理だった場合は日曜に。

>>494
自分は厳密に言えば『黒に限りなく近い紫』と考えております。
赤と青が混ざって、色が潰れる位に濃くした感じのです。
515 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/17(土) 00:14:46.72 ID:nMuNx0ko
乙乙
516 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/17(土) 00:15:50.56 ID:eCMdagAO
乙!
517 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/17(土) 00:20:29.50 ID:bpIcM4Eo

寸止めに定評のある>>1
518 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/17(土) 00:33:42.43 ID:Ir6Fm9w0
519 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/17(土) 00:47:17.34 ID:XHkwL8.0
ああ、いいところで…!
乙です!!
520 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/17(土) 03:42:06.79 ID:Vyd932w0
>>517
(;´ω`)b いやまったく同感ww

(´ω`)それでも乙♪
521 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/17(土) 04:49:32.07 ID:Q1Ev7ooo

バージルはどうするのか・・・
522 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/17(土) 14:38:57.84 ID:ySF7DIwo
DMC3のスーパーダンテでラストミッションのバージルを時間止めてレイプしたのはいい思い出
523 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 00:52:07.86 ID:2zmfo.DO
>>522
あのスタイルはインチキレベル
524 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 06:33:52.39 ID:hReiDjko
綺麗な魔剣カオスだな
525 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 22:15:36.27 ID:2SaUT2DO
せっかくだからトリッシュも武器になってむぎのんについて行けばよかったのに

3しか知らないけどボス戦直後に武器化してたし、怪我してても行けるんだよな?
526 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 00:04:05.26 ID:s/QJOwgo
>>525
『悪魔が武器になり誰かに仕える』ということは完全な『服従』であり、
その経緯は大まかに分けて以下の二つのパターンだと自分は考えております。

1、
直接的な力の衝突で、徹底的にぶちのめされて強引に屈服させられる。
(ベオウルフ等のいわば『奴隷化』。4の小説版によるとルシフェルもこのパターン)、

2、
悪魔がその者の事を『己よりも強い』と認め『この強大な存在の下に付きたい』と、
その力に『惚れ』て『自ら』の意志で身を捧げる。
(アラストル等の主従契約。敗北後に自ら身を捧げたケルベロスやアグルド等も)


そして主に求められる条件は、
己の力のみで魔具を完全に制御できる、
そして決して魔具に蝕まれることが無い圧倒的な強さ だと考えております。

トリッシュがここで『敗北・瀕死』が原因で武器化してしまうなら、その『主』はバージルとなってしまいます。

麦野に自らの意志で身を捧げるにしても、『力こそ全て』という悪魔の本能により、
己よりも『弱い者』の下に付くことができません。


もし武器化して麦野に身を捧げることができたとしても、
今度は麦野が『トリッシュ』という魔具の力に耐え切れません。


アラストルが麦野におとなしく従っているのは、
『所有者代理』としてのトリッシュの命令と『バラ(ダンテ)』の加護があるからこその事です。

ここでトリッシュが武器化して仕えてしまったら、麦野を守るそんな防護は当然ありません。
どストレートに力を受け止める必要があります。

そしてトリッシュの方が圧倒的に強いので、当然麦野は死にます。


つまり ここでトリッシュが武器として麦野につくのは不可能、という事です。


以上は自論であり、確実な公式設定ではありません。
この部分も作中に入れようと思っていたのですが削ってしまいました。
長々とすみません。


では再開します。
527 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:05:27.40 ID:s/QJOwgo
―――


フィアンマ『―――』

フィアンマはその瞬間感じ取った。

あの『怪物』が近くまで来ていると。


だがまだだ。

確かにリスクを考えれば今すぐにでも離脱するべきなのだが、
これから待望の『ショー』が始まるのだ。

こんな時に退くなど余りにも生殺しだ。

それに近いとはいえそれなりに距離がある。
こちらへ殺意を向ける気配も『まだ』無い。



フィアンマ『(大丈夫だな―――さて)』


半ば己に言い聞かせるかのように、フィアンマは頭の中で呟き。


フィアンマ『(―――こちらをどうにかしようか)』


『ショー』を台無しにしようと、突進してくる三人の少年へと意識を戻す―――。
528 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:08:13.46 ID:s/QJOwgo
フィアンマへ向けて、炎剣を一気に振りぬくステイル。

インデックスに突進し、彼女の前にある魔法陣をぶち抜くべく右手の平を突き出す上条。


そして炎剣と幻想殺しがそれぞれの『標的』へと直撃―――。


フィアンマ「―――はは」


―――する直前。


二人の少年の前にオレンジの光の壁が出現する。


ステイル『―――ぐがッッッ!!!!!!!!』


上条『―――!!』


あと一歩、あと一瞬というところで光の『衝撃波』に行く手を阻まれる。

上条の幻想殺しは難なくその『壁』を貫通したものの、
『壁』自体は崩壊せず右手を省く全身がとてつもない衝撃を受ける。


ステイルの炎剣も弾かれ、
二人は全身に受けた凄まじい衝撃により一気に後方へと吹き飛ばされ―――。



―――るかと思われたが、

後方にいた一方通行の黒い杭が二人の背中を押し留める。
529 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:09:16.97 ID:s/QJOwgo
距離を開けられたら終わりだ。

再び圧倒的な物量で一方的に釘付けにされ、
ステイルと一方通行のスタミナが無駄に消費され、そして迎えるは完璧な敗北。

何としてでもこの近距離の『舞台』に張り付いていなければならないのだ。


一方通行の支援により、『舞台』から弾き出されるのを免れた二人。

だが『それだけ』だ。


根本的な問題は解決しない。


標的との『たった4m』の距離が縮まないという問題は。


ステイル『―――!!!!!』


ステイルには更に光の第二波が襲いかかり。


上条『―――』


上条には『竜王の殺息』。

太さは40cmほどだろうか、そ
の光の柱が上条の顔面へ向けて4mという近距離から放たれた。


上条は即座に右手をかざし受け止め、
そして撫でるようにいなしながら上条は身を落とし一気に前に踏み込もうとするも。
530 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:11:07.30 ID:s/QJOwgo
地を這う程に身を低くした上条の背中を。

真上から押し潰すかのように―――。


上条『―――がッ―――』


―――オレンジの巨大な光の柱が彼を襲う。


一瞬にして踏み潰されたカエルのように地面に叩きつけられ、這い蹲る上条。


上条『―――ぉ―――がァアアアアアアアア!!!!!!!!』


全身に圧し掛かる凄まじい重量。


幻想殺しのおかげか、手首から先は自由に動くが、
それ以外の全身が1mmも動かせないほどに固く押さえつけられる。

背中を真上から押さえつけている『光の柱』を壊そうも、自由なのは手首から先だけ。

腕を挙げ幻想殺しを背面に伸ばすこともできない。


一方でステイルは、背中を押してくれる一方通行の黒い杭の支援と共に
前面から絶え間なく押し寄せてくる、オレンジの光の衝撃波を耐えるだけで精一杯だった。


『標的』までの距離は僅か4m。

必要な歩数はたった一歩。

必要な時間はほんの一瞬。


だが前に1mmも進めない今の二人にとって、その距離は途方も無く遠いものだった。
531 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:13:25.16 ID:s/QJOwgo
一方『(―――バカ正直に突っ込む奴がいるかよアホ共が―――!!!!!!)』


インデックスの弾幕を抜けたのも束の間、すぐに釘付けにされてしまった二人を見て、
頭の中で悪態をつく一方通行。


そんな『最後の一人』である彼の方へと監視カメラのレンズのような瞳を向ける―――。


一方『(―――まァ、そォ来るよな)』


―――インデックス。


再び己に向けて、『竜王の殺息』が放たれるのを即座に察知した一方通行。

あれをバカ正直にまた直接受け止めてしまったら、
『めでたく』三人とも釘付けで動けなくなる。


『直接』受け止めてしまったらの話だが。


彼はその瞬間、一気に前に踏み出す。

巨大な『光の柱』で、地面に押さえつけられている上条の方へと。

ちょうどインデックスと一方通行、その間に聳え立つオレンジの『光の柱』を割り込ませるように。


そんな位置関係の中。


一瞬後に、一方通行に放たれた『竜王の殺息』は当然―――。


一方『―――ハッ』


―――二人の間に聳え立っている『光の柱』にぶち当たる。
532 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:15:12.32 ID:s/QJOwgo
確かにこのオレンジの『光の柱』、異常なほどに長く巨大な『大剣』は恐ろしい攻撃だ。

だがこうして『盾』として『利用』させてもらうと。


一方『(―――助かるぜ―――)』


なんと頼もしいことか。

インデックスから放たれてくる光の弾幕を直撃し続けてもビクともしない。



その隙に一方通行は、
ステイルの背中を押さえていた黒い杭を今度は彼の胴に巻きつけ一気に引き寄せる。


ステイル『―――』


当然支えを失ったステイルは、衝撃波に押し負けて後方へと弾き飛ばされるが、
腹部に巻きついている黒い杭によって遠くへ吹っ飛ばされる事無い。


伸びきりピンと張る黒い杭。


突然の事態にも関らずステイルには驚きもしていなかった。


一方通行と目があったからだ。
533 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:15:58.73 ID:s/QJOwgo
その一瞬のアイコンタクトで二人の『戦士』は意志を疎通させる。


左足の先端に力を集中させるステイル。


太陽のように光を放ち形成される『炎の脛当て』。


そんなステイルを一気に引き寄せながら両拳を固く握りこみ、

その『義手』を大きく引く一方通行―――。


そして。


一方『―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!』


前方の『光の柱』にその漆黒の拳を叩き込む。



ステイル『ハァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ―――!!!!!!!!!!!!』



同時に引き寄せられたステイルの飛び蹴りもぶち込まれる。


一方通行の頭上、僅か数センチのところを掠り通り。
534 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:17:52.07 ID:s/QJOwgo
二人の渾身の激打を受けるも、
光の柱には亀裂一つ入らない。


だがびくともしなかったわけではない。


側面からの凄まじい衝撃を受けて、オレンジの光の柱が一瞬だけ。


一瞬だけ僅かに『浮く』。


そして。


上条『シッ―――』


上条の拘束も緩む。

その瞬間、
上条は一気に身を捻り仰向けになりながら右手の平を『光の柱』に叩き付けた。


1秒後。


光の柱に瞬く間に亀裂が走っていき。

先程から噴射されていた『竜王の殺息』に耐え切れずに『爆散』する。
535 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:19:32.38 ID:s/QJOwgo
飛び散るオレンジの光の欠片。

そんな中、拘束から解放された上条は跳ね起き、
再びインデックスへの再突撃を図ろうとするも。


上条『がぁッ―――!!!!!』


またしても光の衝撃波で即座に止められてしまった。


一方『―――「野郎」を先にやンぞ!!!!』


見かねた一方通行が声を張り上げる。


上条『―――』


ステイル『―――』


そう、このままじゃ埒が明かない。

インデックスに近付こうとしても即座に防がれてしまう。
三人で強引に突破しようにも、そんな事をしたらフィアンマが『自由』に攻撃をしかけてくるだろう。

インデックスの竜王の殺息はまだ何とか反応ができるものの、
フィアンマの『光』の衝撃波攻撃は『受けてから』じゃないと認識できない。

回避することができないのだ。


ならば。

一方通行の言うとおり、『野郎』を先に『潰す』。
殺しまではしなくても良い。

先程のように、一部の遠隔攻撃できる力を奪ってしまえば良い。


上条の幻想殺しで。


『光』を奪ってしまえば良い。
536 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:24:02.39 ID:s/QJOwgo
上条とステイルは、一方通行に返事も目配せもしない。

そんな『必要』が無いからだ。


一方通行の声が耳に入った瞬間二人は即座に地面を蹴り、
フィアンマの方へと突進する。

これ以上の、お互いの確たる意志疎通を証明する応えがあるだろうか。



フィアンマ「―――そうか―――」


フィアンマの背中から伸びる巨大な腕が大きく揺らぎ、
彼の全身を包む光の衣の輝きも増す。


フィアンマ「―――遊んでやる」


その光の衣に叩きこまれる―――。



上条『―――ラァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!』



ステイル『―――ハァアアアアアアアアアア!!!!!!!!』



―――上条の蹴りとステイルの炎剣。




禁書『―――残り10秒』
537 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:25:59.22 ID:s/QJOwgo
立て続けに連続蹴りを叩き込む上条。

それに重ねてステイルの炎剣ラッシュ。

息付くまもなく。


ガトリングガンのような猛打。

二人が放つ激打の数は秒間三桁に達する。


だがそれほどの数をもってしても。

フィアンマの衝撃波攻撃と巨大な腕の『盾』をすり抜けたのは極一部。

そんな一部も。



禁書『―――9』


今度はフィアンマの全身を包む光の衣にぶち当たり、防がれる。


猛打の中、上条の幻想殺しがフィアンマの『巨大な腕』に触れる。


人間程度の腕力と速度しかない右腕を、
この超高速下でのラッシュの中に織り交ぜるのは至難の業。

そして上手く標的に当てれたとしても。



禁書『―――8』



破壊する『まで』の接触は許されない。


『遅すぎる』のだ。


『処理が完了』するよりも『速く』。

肘辺りに光の衝撃波が直撃し、彼の右手が大きく弾かれてしまう。
538 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:27:27.19 ID:s/QJOwgo
二人の猛打を捌く、

放たれる衝撃波と振るわれるトカゲのような巨大な腕。

そのコンビネーションはあまりにも完璧すぎた。



禁書『―――7』



それを掻い潜りフィアンマの光の衣に攻撃が到達しても。
その激突点は分散。

先程のように一点集中が出来ない。

同じ『点』に連続して叩き込まなければ、薄くなるどころか直ぐに再生してしまう。



二人では無理だ。

フィアンマと上条・ステイル。

完全に拮抗し膠着状態。


この状況を覆すにはもう一人。


もう一人の攻撃の『手』が必要だ。



禁書『―――6』



『三人目』が。
539 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:28:45.34 ID:s/QJOwgo
だがその三人目は手が離せなかった。


フィアンマに猛攻を続けるステイルと上条の『背中』を守っている『黒』。

インデックスから。


射線上にフィアンマがいるからか、先程のような全面噴射はしないものの、
『竜王の殺息』の火力は凄まじい。

二人の背中を貫こうとインデックスから放たれる『光の柱』を、
両手の『黒の義手』で『捌く』一方通行。


そう、『捌い』ていた。


先程までとは違う。

真っ向から『受け止め』、『ただ堪えていた』のでは無い。

そしてもう一つ違う点があった。

それは彼の背中から噴出している『黒』。

形は『杭』状ではなかった。

ばらつき、『雑』な影。


つまり。


彼は黒い『杭』の演算を切っていたのだ。
540 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:30:41.15 ID:s/QJOwgo
では、その莫大な演算力は今はどこに使われているか。

それは―――。



禁書『―――5』



―――彼が捌いている『竜王の殺息』に対して だ。


確かに『竜王の殺息』の性質は未知。
そして細かな粒子の性質もそれぞれが微妙に異なる。

だが。


一方『(俺を誰だと思ってやがンだ―――)』


こんなに腐るほど受ければ。
そして全ての演算をつぎ込めば―――。


一方『(ワンパターンなンだよ―――)』


全ての性質を解析とはいかないが―――。


一方『(―――こンだけ喰らェばよォ―――)』


―――粒子間のそれなりの『共通因子』は見出せる。



一方『(―――バカでもわかるぜ)』


そしてその『共通因子』を己の能力に『適用』すれば―――。
541 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:34:14.21 ID:s/QJOwgo
全ての性質を解析できれば、触れずとも完全にベクトルを操ることが出来る。

だがそこまでは不可能だ。

彼と一万の妹達の頭脳を持ってしてもリアルタイムでは完全解析不可。


しかし。


『共通因子』だけを強引に揺さぶれば、ある程度は制御が可能だ。

あとはこの『黒い義手』で力ずくで補正すれば良い。



一方通行の黒い義手に当たる『竜王の殺息』。

『共通因子』を持っていない一部の粒子が義手に直撃し弾け飛ぶ。


だが残りの大半は―――。



一方『(―――充分だ。いけるぜ)』



―――今や一方通行の支配下だ。



禁書『―――4』
542 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:36:29.17 ID:s/QJOwgo
フィアンマ「―――」


突如フィアンマの瞳に映る白い閃光。

目の前で彼に猛打を加えてくる二人の少年の隙間をすり抜けて目前に迫る―――。



―――『竜王の殺息』。



それは一方通行が捻じ曲げた『大砲』。

彼の手に当たった『竜王の殺息』は、
光の屈折のように角度を変え、ピンポイントでフィアンマの顔面へと照射された。


全く意識していなかった攻撃方法に、フィアンマの思考が一瞬だけ遅れる。

僅か数百分の一秒程度。

だがそれだけでも時間は充分すぎる程だった。

顔の前にある光の衣に、竜王の殺息が到達するのに。


苛烈な弾幕を顔面に受け仰け反るフィアンマ。


彼は即座に右手に持っている霊装で『攻撃停止』の命令を送る。
543 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:39:14.17 ID:s/QJOwgo
そして照射が終わり、フィアンマの視野を覆っていた白い閃光は消えるも。

次に彼の瞳に映った色は『太陽』。

それは眩く輝いているステイルの『足の裏』。


フィアンマ『―――』


竜王の殺息から解放されたのも束の間。
今度は顔面に蹴りが炸裂した。

ステイルの足は光の衣に激突し、オレンジの欠片を飛び散らせる。

だが貫通はしなかった。


『竜王の殺息』とこの『一撃』をもってしても、フィアンマの防護は敗れなかった。




そう、この『一撃』では だ。



フィアンマ『―――しまっ―――』



事が終わってしまってからフィアンマはようやく気付いた。

この竜王の殺息もステイルの蹴りもただの時間稼ぎ。

これは己の注意を逸らす為の行動だ と。


『上条』から。



フィアンマの巨大な腕の先端に触れている―――。



禁書『―――3』



―――『幻想殺し』から。
544 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:40:06.40 ID:s/QJOwgo
フィアンマ「―――お前ら―――」


フィアンマの顔から笑みが消える。

そして同時に。


『加護』も消える。


『光』を失うフィアンマ。


巨大な腕を振るい、即座に上条を捕えようとするも―――。


ステイル『―――オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』


―――その手は届かなかった。


上条の腹部へ蹴りを放ち、彼を『後方』へと吹っ飛ばしたステイルによって。


上条を『後方』へ。


そう、インデックスの方へ―――。



禁書『―――2』
545 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:41:40.70 ID:s/QJOwgo
蹴り飛ばされた上条は即座に身を捻り―――。



右手の平を進行方向へかざす―――。



―――インデックスの方へ。




彼女の前に浮かんでいる魔法陣をぶち抜くべく。




愛おしいあの少女を―――。



何よりも大切なあの少女を―――。



―――檻の中からこの手で解放するべく。



絶対に守るという魂の『誓い』を―――。



―――果たすべく。




上条『―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――!!!!!!!!!!』
546 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:42:28.00 ID:s/QJOwgo
禁書『―――1』


突き出された上条の右手の平が遂に届く。


一枚目の魔法陣を貫通する。



ガラスのように砕ける魔法陣。



禁書『―――警告―――』



更に二枚目。



飛び散る光の欠片。



禁書『―――致命sjje―――的な損傷を―――』



そして『最後』の。



三枚目を―――。



禁書『―――確n―――kaoo―――wggghi―――』
547 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:45:06.01 ID:s/QJOwgo
その瞬間。


上条『―――イン―――』


少女の瞳に戻る―――。


その顔に戻る―――。



禁書「―――ま」


『インデックス』の光。



禁書「―――とうまあああああ―――!!!!!!!!!」



そして遂に上条は聞いた。


聞くことが出来た。

『インデックス』の声を。

そこから続く―――。



禁書「―――お願い!!!!!!―――」



禁書「―――逃げtalogh―――alppqg」



禁書『――――――――――――開錠完了。損傷部の修復完了』



―――絶望の言葉も。
548 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:47:20.92 ID:s/QJOwgo
[『インデックス』の光が戻ったのは僅か『一瞬』だった。


僅か一瞬。


そして無情にも『元』に戻る。



上条『―――クス!!!!!!!』



届きかけた少年の右手は。


上条『―――インデックス!!!!!!!!インデックス!!!!!!!!!』


再び切り離される。


覚醒した『怪物』によって。



上条『―――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――』



インデックスの頭上に『青と金』の奇妙な魔法陣が浮かび上がる。


まるで『天使の輪』のように。
549 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:48:58.35 ID:s/QJOwgo
それは『エノク語』の魔法陣。


それは『魔女』の業。


それは『怪物』の息吹。



そして同時に、彼女の周囲にも複数の同系の魔法陣が浮かび上がり―――。



禁書『「ローラ」、出力25%』



禁書『「メアリー」、出力48%』



そこから一気に噴出する―――。



禁書『―――「アンブラの鉄の処女」。迎撃開始』




―――『青と金』の大量の繊維。




―――青髪と金髪の『ウィケッドウィーブ』。
550 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/19(月) 00:50:01.32 ID:s/QJOwgo
噴き出した大量の髪が凄まじい勢いで伸びていく。
余りの速度に、この三人ですらまともに反応できなかった。


一部は上条に、一部はステイルに。
そして残りは一方通行に。


一瞬にして彼らの全身に巻き付いていき。


上条『―――ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』


地面に叩き落し拘束する。

三人がどんなに暴れても。
どれ程の力を篭めてもまるでびくともしない程に固く。


解き放たれた圧倒的な力。
その前に三人は成す術なく一瞬で屈してしまった。



禁書『―――確保。制圧完了』



ふわりと浮かんでいるインデックスが事務的に一言。

三人の少年の敗北を告げる。

完璧な敗北を。


淡々と。

無感情に。


―――
551 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 00:50:40.38 ID:s/QJOwgo
今日はここまでです。
次は火曜か水曜の夜中に。
552 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 00:51:39.08 ID:.e7gOboo
ペンデックスつええww
553 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 01:17:43.83 ID:79AzVMDO
スタイリッシュ乙乙乙
そろそろダンテが来ないと危険な領域に入ってきとるな。
554 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 05:26:17.98 ID:K0jLA8go

やべぇ
まさか髪が出てくるとは思ってなかった
555 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 22:11:45.19 ID:aQN89OI0
乙!ペンデックス強えええええ
フィアンマより強そうだな
556 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/20(火) 01:39:12.86 ID:UA9hWJAo
乙!すげええ
557 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/20(火) 23:59:52.56 ID:g4XYAfU0
男三人拷問アタックとかにならなくて良かったww
558 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:13:47.42 ID:WTgngCUo
―――

遡ること数分前。

学園都市。
第七学区。

とある少年が行使した魔術によって氷原と化していた一画。

そこに佇む少年と少女。

肩と足を真っ赤に染め地面に力なく座り込んでいる海原と、
彼の前に屈み手当てをする御坂。


海原「………………大丈夫です。このくらい……」

と、御坂の顔を見ながら口を開くも、その表情はいつもの柔和な笑みとは到底言えなかった。

幻影剣が貫通した右肩と脛から溢れ出てくる真紅の液体。
その激痛は彼の鉄壁の『仮面』をも歪めていた。


御坂「大丈夫なわけ無いじゃないの!!!!!黙ってて!!!」


手当てをする御坂の手つきは決して手馴れたものではなかったが、その処置方法は正確だった。
上条に同行するに当たり暗記した、任務要項に記述されていた応急処置術がここで役に立ったのだ。

周囲の氷を電熱で溶かしながら傷口に当て、汚れを流し落とす。
そして着ていたパーカーの一部を引きちぎり、肩口と太ももをきつく縛る。

更に周囲の瓦礫から能力で鉄筋を抜き出し、電熱で消毒した後に限界まで細く捩じ上げて、
ホチキス代わりにして傷口を縫い止めて行く。
559 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:15:48.01 ID:WTgngCUo
細くしなやかな指が海原の血で真っ赤に染まっていく。

だが一切臆することなく処置を進めていく御坂。


海原「…………」

そんな御坂の姿をぼんやりと海原は眺めていた。

その姿は、最早『誰かに守られる』者ではない。

彼女は信じられないほどに強くなっていた。

『誰かを守る』者になっていた。


海原「………………」


つい先程、海原も守られてしまった。

とんでもない存在を前にし、彼は本能的な恐怖から理性を失って自ら死を招きかけていた。
まるで怯えきり所構わず吠えまくって牙を向く犬のように。


だが御坂は決して負けなかった。

御坂は冷静に状況を分析し、
『今の己達とバージルが衝突する理由は無い』と判断し正確に行動した。

彼女の精神は揺らがなかったのだ。

その恐怖に屈さなかったのだ。
560 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:17:52.96 ID:WTgngCUo
そんな御坂の姿を思い起こし、そして今の彼女の姿をも眺めながら。


海原「…………ああ……ますます……あなたに惚れそうです」


海原は思わず心の中の言葉をストレートに漏らしてしまった。
意識が朦朧としていたせいもあるだろう。


御坂「黙れってば。喋らないで」


そんな海原のうわ言を特に気にすることも無く流す御坂。


海原「…………すみません……」



御坂「…………これで……ひとまずは……!」

しばし経った後、額の汗を手の甲で拭いながら小さく呟く御坂。

一応の応急処置が完了したのだ。

だが安心はしていられない。

確保できたのは『猶予』。

次はこの時間稼ぎが有効である内に、
彼を全うな医療施設に運ぶ必要がある。
561 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:19:46.45 ID:WTgngCUo
御坂は横方向に左手の平を掲げた。

すると先程手放した大砲が能力によって浮かび上がり、
彼女の手へと電撃を迸らせながら舞い戻ってきた。


御坂はその大砲を海原の前に下ろしながら。

御坂「これの上に座って!」


御坂はこの金属の塊を運搬車代わりにして、
海原を病院まで運ぶつもりなのだ。


海原「…………」


海原もその意図がすぐにわかった。

だが彼は御坂の顔を静かに見つめるだけで、動こうとはしなかった。


御坂「ほら―――」

そんな海原に肩を貸そうと御坂が手を伸ばしたが。


御坂「―――?」


その華奢な手は、海原の震える左手で鷲掴みにされ止められた。
そして海原はゆっくりと口を開く。




海原「―――『こんな事』を……している場合では無いでしょう?」
562 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:21:52.52 ID:WTgngCUo
確かに御坂は海原の命を救った。

だが彼女はその為にここに来たわけでは無いのは確かだ。

海原は気付いている。

御坂は敏感に『あの事態』を察知して、そこに向かおうとしていたのだ。
奮戦する一方通行達の元へと。

彼女の戦いの『舞台』へと。


海原「…………」


それなのに、自分のせいで彼女をここに足止めさせてしまう。
弱い己のせいで、彼女の『歩み』を妨害してしまった。

海原にとってそれがたまらなく嫌だった。

何が彼女を『影で守る』だ。
そんな偉そうな事など最早言える立場ではない と。

今は『お荷物』になってしまっているではないか と。



御坂「『こんな事』って……!すぐ運ばなきゃ!!!!」


海原「……貴女がここに来た『理由』はわかります」


海原「こんなところで……『道草』などせずに行って下さい」


海原「ここから約1km北です。『音と光』を辿れば……すぐに着くでしょう」
563 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:23:00.66 ID:WTgngCUo
御坂「―――」


そう、もともとここで海原を助ける予定など無かった。

あの『現地』へ直行するつもりだった。
だが一方で彼女は、瀕死の者を見捨てるほどの『鬼』にもなれない。


御坂「―――ダメよ!!!先に運んでから―――」


海原「―――行って下さい」


御坂「―――ダメだってば!!!」




海原「―――行け!!!!さっさと行くんだ!!!!!」



御坂「―――ッ……」



海原「―――お願です……頼む」


海原「―――行って……下さい」


海原「自分は……大丈夫ですから……ほら」

海原は御坂の手を離し、その左腕で原典の端を掴んだ。

淡く輝きだす原典。


海原「心配要りません……この『程度』じゃ死にませ……んよ」


海原「…………一応それなりの『力』もありますから」
564 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:24:31.12 ID:WTgngCUo
御坂「…………」


御坂には肌で力を感じる感覚は無いが、
一応素人目にも海原がそれなりの強力な力を有しているのがわかる。


御坂「…………わかったわよ」


御坂「じゃあ……必ず病院行ってね。絶対よ」


海原「……ええ、もちろん」


そして御坂は大砲を手に持ち、
ゆっくりと立ち上がり北の空を見据えた。


オレンジの光が空を照らし、
地上からは巨大な火柱がビルの背丈を越えて空高くぶちあがっていた。
565 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:28:32.44 ID:WTgngCUo
御坂「…………ちょっと聞いて良い?何でバージルがここにいるの?目的は?」


その方向を見据えながら、御坂は静かに口を開いた。


海原「……わかりません。『彼ら』については……貴女の方が良くご存知かと」


御坂「……そう……ね。じゃあ行くわ」


海原「…………聞かないんですか?」


海原はその御坂の後ろ姿に向け、最後に問う。
なぜ彼が『事情』を知っているのか聞かないのか と。

御坂は、そもそも海原が『暗部』に関っている事すら知らなかったはずだ。

ましてや、暗部なんかが『可愛く』見えてしまう程に深いこんな『裏』にまで。


御坂と同じ『裏』の世界の住人だという事など。


それに対し御坂はそっけなく答えた。
振り返らず、特に気にする風も無く。



御坂「―――お互い様でしょ」



まるで当たり前の事にかのように。
566 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:30:51.64 ID:WTgngCUo
海原「……ですね。それもそうだ」


海原「最後にもう一つ……お願いがあります……理由は聞かないで下さい」


御坂「……何?」


海原「今後、『表の世界』で『自分』に会った時は―――」



海原「―――この『裏』の話は絶対にしないで下さい」



海原「―――『表の自分』は何も『知らない』んです」



海原「約束してください……」



御坂「……わかった。約束する」


御坂は背を向けたまま、呟くように応え。


そして即座に能力を行使し、
電撃を迸らせながら跳躍して街の中へと消えていった。
567 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:32:57.06 ID:WTgngCUo
そんな御坂の後姿を見送りながら海原は小さく呟いた。


海原「……さようなら……御坂さん」



あの姿を見れるのはこれで最期だと思いながら。



彼は先程嘘をついた。


己には力がある。
この程度では死なない と仄めかし。


だがそれは嘘だ。


確かに力はある。

しかし体は『人間』だ。


悪魔や天使のように驚異的な治癒力はあるはずが無い。

治癒魔術を行使するにしても、
幻影剣によってこう体内の力がかき乱されていたら最早不可能。


強大な力を有する原典があろうと、
その『器』が壊れてしまったらもうどうしようもない。
568 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:34:56.04 ID:WTgngCUo
もし御坂に魔術についての知識があったら、その嘘はすぐに見抜けただろう。

そして即座に真実に気付いていただろう。


彼はこのまま死ぬと。



『裏』の海原、魔術師エツァリはこの場で終わりを迎える。

海原「(…………)」


ゆっくりと目を閉じていく。


海原「(……なあ…………)」


共に薄れていく意識。

重い瞼が、彼の『世界』に徐々に幕を降ろして行く。

そんな彼の脳裏に最期に浮かび上がった顔。


海原「(………………………………)」



それは恋心を抱いていた御坂では無く。



海原「(………………………………ショチ……トル……)」



―――
569 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:36:27.04 ID:WTgngCUo
―――


放たれた次元斬り。

同時に麦野は半歩横に動きながら、アラストルを薙ぐ様に横一閃に振るう。
その銀の刃から放たれる、青白い閃光に包まれた紫の斬撃。


直後に麦野が一瞬前までいた空間を寸断していく次元斬り。

その空間に走る光の筋とすれ違いに、
電子を帯びた紫の斬撃がバージルへと直撃する。

大気を引き裂き、焼き付ける音を発し周囲を粉砕し溶解させて。


麦野『―――』

いや、直撃した『よう』に見えただけだろう。

その姿は見えないがあの強烈な殺気が、
舞い上がった粉塵の中から先と変わらずこちらを真っ直ぐに捉えている。


向かうべき『現地』は正面、あの粉塵の向こう。

つまりバージルの方へと向かい、
更にその奥へと彼を引き連れて進まなければならない。


と、その時。


トリッシュ『―――あー、ちょっといい?』


脳内に響くトリッシュの声。


麦野『……何?』
570 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:38:12.99 ID:WTgngCUo
トリッシュ『私、少し外すから。心配しないで。感覚は繋げておくから』


麦野『―――な?!おい!!!外すって―――!?』



トリッシュ『―――大丈夫。アナタにちょっとした「プレゼント」用意するから』



トリッシュ『―――あ、あと作戦変更』


トリッシュ『無理して進まなくて良いから、「防御」に徹して彼をそこに繋ぎ止めて置いて』


トリッシュ『とにかく「時間」まで死なないで』


麦野『―――ど、どういう―――!!!?』


トリッシュ『アラストル。頼むわよ』



アラストル『―――お任せを』



麦野『―――ちょ、ちょっと!!!!おい!!!!』


そこでトリッシュの『声』がプッツリと途切れた。
感覚は今だに繋がっているものの、トリッシュとの対話が出来なくなったのだ。
571 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:40:12.97 ID:WTgngCUo
アラストル『話は後だ。集中しろ』


麦野『チッ―――!!!』


麦野は立ち込める粉塵へ向けて、
即座に左肩から伸びる電子のアームをかざす。

そしてその『三本指』の異形の『手』から放たれる特大のビーム。

『放たれる』という表現の他に、
アームそのものが『形を変えて伸びた』とも言えるかも知れない。


研究者間での名称は『粒機波形高速砲』。


ただ、アラストルの力が流入している今の『ソレ』は正確にはそう呼べないかもしれないが。

その破壊力も運用方法も、
既存の『原始崩し』のデータからは到底考えられないモノだ。


以前なら自壊してもおかしくない特大のビームを、

今の麦野は容易く放ち、
そして一秒にも満たない僅かな時間の内に40発以上を放つ。


『連続射撃』ではなく『一斉射撃』で。
572 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:42:34.52 ID:WTgngCUo
麦野付の研究員が見てしまったら卒倒してしまうような光景。

だがその彼女の相手は、データどころか既存理論の概念すら全く当てはまらない、

『あらゆる法則を完全に無視した』規格外の正に『有り得ない』存在だ。



麦野『―――』



放たれた大量のビームが粉塵に着弾する瞬間。

甲高い金属音と共にそのビームの束がパックリと『割れる』。


抵抗の欠片もなく恐ろしいほどに滑らかに。


そしてその『割れ目』の向こうに見えるバージルの姿。

いや、『向こう』に見えたのは一瞬だ。


なぜなら。


麦野『―――!!!!!!』


次の瞬間にはバージルは麦野の目の前、僅か3mの場所にいたからだ。


閻魔刀の柄に手を当て、低く腰を落としながら だ。
573 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:43:54.43 ID:WTgngCUo
麦野『―――ッッッッ―――!!!!!!!』

気付き『意識した』時にはもう遅い。


振りぬかれる閻魔刀。



そして。



麦野『―――」



上半身と下半身を分断され―――。





―――ていただろう。





アラストルが目覚めていなければ。
574 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:45:25.05 ID:WTgngCUo
その瞬間、麦野が『意識する』前にアラストルが彼女の右手ごと動いた。


麦野『―――ッぁあああ!!!!!!!!』


激突する刃。

水平に振り抜かれた閻魔刀を、斜め上に打ち流すアラストル。

正に耳を『裂く』ような、硬い金属同士が擦れ弾ける音。

閻魔刀の刃が、アラストルの刃面を覆っている紫の電撃の衣を剥ぎ取っていく。



アラストル『―――下がれ』


同時に彼女の脳内に響く魔剣の声。

彼女は無意識の内に、能力の噴射と共に後方へと跳ねる。
アラストルがまるで麦野の体を操っているかのように。

閻魔刀の『直接』の間合いから離脱するべく。


だがそう易々と逃れられるわけでもない。

上方へといなされた閻魔刀。


バージルは即座に返し。


今度は振り下ろす。


更に速く。

更に凶悪に。
575 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:48:17.49 ID:WTgngCUo
麦野が能力を全開し、そしてアラストルの支援を受けての後方への跳躍でさえ、
バージルにとっては遅かった。

冷酷な二撃目が麦野に振り下ろされる。

麦野『―――』

再び動く『アラストル』。
頭上に水平に構え、垂直に振り下ろされる閻魔刀の刃を受け止める。

今度はアラストルでさえ少し反応が遅れてしまった。
『器』が麦野『程度』である事も原因の一つだ。


閻魔刀の刃を、アラストルはいなすことが出来ず直で受け止めてしまったのだ。


先程とは違い、短くも激しい金属の激突音。


麦野『―――ぐッ―――!!!!!!!』


大量の火花が散り、衝撃がストレートに麦野の体へと伝わっていく。

あまりの衝撃に、跳躍し浮きかかっていた麦野の体が再び地面に『着地』させられた。
両足が地面に叩きつけられめり込み、膝も曲がり、腰も低く落ちる。


そして顔を地面に向けている麦野の瞳に映る。


今しがた振り下ろされたばかりの閻魔刀が―――。


麦野『―――』


―――『もう』返され、その刃が上を、己の顔の方へと向いていたのを。

今度は彼女を下から切り上げようとしているのを。
576 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:49:32.93 ID:WTgngCUo
続く三撃目。


今度は下から。


トリッシュの感覚とアラストルの力に全てを委ね、
麦野は大きく仰け反りながら、右手の痺れも気にせずにアラストルを一気に振り下ろす。

下から振り上げられる閻魔刀へと。



三度激突する二つの魔剣。


軍配は当然―――。



―――閻魔刀に。



ダンテが振るったアラストルならまた結果は違っていたかもしれないが、今の使用者は麦野。
アラストルがどんなに強大でもその差は歴然。


勢い良く弾き返され―――。


麦野『―――』


―――麦野の右手から離れ飛ぶアラストル。


一方で『ほどんど』速度を減衰させずに振り上げられてくる閻魔刀―――。
577 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:50:56.94 ID:WTgngCUo
だが、『ほとんど』だ。

極僅かだが、確実に速度は減衰していた。

そしてその一瞬の時間の猶予が麦野の命を繋ぎ止める事になる。

振りぬかれた閻魔刀。

その刃は仰け反る麦野のワンピースコートのへそから胸元、
ちょうど両乳房の間を縦に切り裂いたが、その刃はギリギリ肉に達することはなかった。

もし、バージルが無意識の内に正中線を正確に狙う、生粋の正統派の達人ではなかったら。
そして麦野の剣激でその剣線がぶれてしまう『程度』の者だったら。

場合によっては、麦野の豊満な乳房の片方を縦に切り裂いてしまっていたかもしれない。


まあ今の麦野にしてみれば、そんな事などどうでもいいのだが。

そんな些細な事など。



今、目の前を舞っている―――。



―――切断されたバラに比べれば。



それは麦野が懐に大事にしまっていた『象徴』。


『赤』。


その『赤』が。



麦野『―――あぁぁぁぁあああッ―――!!!!』



斬られていた。
578 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:52:32.67 ID:WTgngCUo
最期の灯火のように薄く儚く光っているそのバラ。

水を一滴も与えずとも決して弱まることがなかったのに。


今、彼女の目の前でバラは一瞬にして萎れていった。


麦野『(―――待てよ!!!!!―――)』


徐々に弱まっていく光。


麦野『(―――ダメ!!!!―――だめ)』


そして完全に光を失い。


麦野『(―――待てってば―――)』


花は散り。


麦野『(―――だめだって…………ば―――)』


麦野と『融合』していた『思念』も消失した。


完全に。
579 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/21(水) 23:56:53.50 ID:WTgngCUo
その舞い散る花の向こう。

仰け反り、上方へと顔を向けている麦野の瞳に再び映る。

先程と同じような光景が。


今度は上下が逆だったが。



振りぬかれた閻魔刀は再び返されており―――。



麦野『―――』


―――その刃が今度は麦野を『見下ろして』いた。



バラは死んだ。


アラストルは麦野の右手を離れ、宙を舞っている。

今やその凶悪な刃から彼女の身を守るモノは無かった。

アラストルとの接続が切断され、彼女の背中から生えていた紫の翼も一瞬で消失する。
閻魔刀はアラストルを弾くどころか、彼女と魔剣の繋がりをも破断したのだ。

当然、アラストルを中継点として繋がっていたトリッシュとも―――。


その驚異的な感覚も―――。


彼女は戻ってしまった。

神にも比する力を失い。


『タダ』の『レベル5 第四位 麦野沈利』に。
580 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/22(木) 00:00:15.24 ID:/m2gKgIo
振り下ろされる閻魔刀。


麦野「―――」


『奇跡』は起きない。

『あの時』のようには。

こんな絶妙なタイミングでまた現れる訳が無い。

そんな『御伽』のような展開など―――。


それが『現実』。


麦野もそれはわかっていた。


だがそれでも―――。


麦野「(―――どこ―――」


―――あの男を『信じ』たかった。


麦野「(―――いるんでしょ……―――)」


麦野を闇から救い上げた、彼女のヒーローを。



麦野「(―――どこなのよ……ねえっ……―――)」
581 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/22(木) 00:01:33.39 ID:/m2gKgIo
その時。


突如麦野の目の前、閻魔刀と彼女の間に割り込んできた『影』。



まるで壁のような、大きな大きな『背中』。



それはトリッシュの言っていた『プレゼント』。


そして―――。










「―――よう―――」










―――それは麦野が今一番見たかった『色』。




『赤』。



―――
582 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/22(木) 00:02:12.87 ID:/m2gKgIo
今日はここまでです。
次は金曜か土曜の夜中に。
583 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/22(木) 00:02:49.94 ID:EM.M7EAO
乙!
やっとダンテさんが…っ
584 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/22(木) 00:03:35.11 ID:ax7u/p.o
・・・戻ったか。
585 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/22(木) 00:06:31.48 ID:DJCLcNoo
ダンテェーイ…
586 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/22(木) 00:12:15.25 ID:V5WJ1sDO
おっぱいおっぱい!!
587 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/22(木) 00:52:27.15 ID:NfLl68Uo
きたああああああああ!!
588 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/22(木) 23:25:26.24 ID:AwWBuCYo
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!!
バージルを唯一足止めできる男!
589 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/23(金) 03:11:23.84 ID:0PBXkDo0
乙です(´ω`)ゞ

・・・そしてもうたまらん位絶妙にいい処で寸止めしますね>>1様はww
590 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:09:18.57 ID:USipasYo
―――

トリッシュは地面に座り、
街頭に寄りかかりながらぼんやりと空を眺めていた。

その直ぐ脇には、気を失い力なく地面に横たわっているキリエ。

どうやらフォルトゥナでも一悶着あったらしい。
この『お姫様』をつれて来た『とある少女』によると、もう既に事態は一応の収拾がついたとのことだ。


『こちら』はまだだが。


と言うか、『これから』だ。


今、『彼』が『兄』の前に立っていることだろう。

そう、『彼』しかあの男を止められない。

彼に任せるしかない。


だが。


トリッシュ「……………………」


もしかしたら『彼』を呼ぶべきではなかったのかもしれない とも彼女は思ってしまった。

冷静に状況を考えたら、浮き彫りになってきてしまったからだ。

今ここで、『彼』と『彼の兄』を合わせてしまうのがどれ程『危険』な事なのかを。


そしてそれがどれ程―――。




―――残酷な事なのかを。
591 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:10:31.58 ID:USipasYo
二ヵ月半前にも、あの兄弟は10年振りに再会しそして少し刃を交えた事もあったが、
今はまるで状況が違う。


なぜ彼がそうしたのかの理由はわからないが、今のバージルは明らかに一線を越えていた。


今や、あの二人の兄弟の立ち位置は『完全』に敵対している。


『完全』に だ。


トリッシュ「…………」

あの二人の表面的な部分は正反対だが、根の部分は良く似ている。

二人とも己の心には恐ろしいほどに素直であり、とてつもなく『頑固』だ。


弟は決して表には出さないが、兄を心の底から慕っている。

そして二ヶ月前、兄はそれを受け入れ弟の手を取った。



そんな二人がこんな状況で再会するなど。


最悪だ。

最悪すぎる。


あまりにも『残酷』すぎる。
592 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:12:11.19 ID:USipasYo
だがトリッシュにはどうしようもなかった。


後はもう信じるしかない。

あの兄弟達を。

後はもう委ねるしかない。

あのスパーダの息子達に。


トリッシュ「…………」


ぼんやりと見上げている空。

雲が僅かに層が薄い箇所から、淡い光が差し込んできている。

どうやら雲の上には満月があるらしい。

とはいえ、決して美しい月明かりの夜にはならなそうだ。

その雲の層は重くて暗い。

大気の湿気も濃くなりつつある。


トリッシュ「……………………荒れそうね……」


天候の変わり目を肌で感じながら、トリッシュはポツリと呟いた。


少し哀しげに。


―――
593 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:17:23.96 ID:USipasYo
―――

バージル。

彼は今とある目的の為に、
禁書目録をフィアンマに持ち帰らせようとしている。

近い内にやってくる『その時』の為に だ。

フィアンマとアリウスの傍、『その時』の『現場』に禁書目録がいないとダメなのだ。


大局としてみれば、今のところまではバージルの思惑通りだった。


大局としては だが。


実は言うと、今の『フィアンマの支援』自体は予定に無かった。


当初の予定ではあえてこちらが動いて、
『魔女が禁書目録を狙っている』と匂わせて回収させるつもりだったのだが。


どういう訳かその陽動を行う前に、フィアンマが禁書目録を回収しに来たのだ。


フィアンマが自ずからやってくる理由はバージルにもわからなかった。


確かに、全体の計画に添う形でこうして上手く利用できるものの、

その不確かな因子が、バージルにとってはたまらなく不快なものだった。
594 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:21:59.73 ID:USipasYo
確かに結果としてみれば計画通りとなるだろう。


だが『不確かな』因子だ。


完璧主義者のバージルにとって、そんな因子の存在自体が許せなかった。


魔界と天界、イギリス清教、ローマ正教、ロシア盛教、ウロボロス社、学園都市、
各地のデビルハンター達、フォルトゥナ、

そしてダンテとネロ。


全ての行動と情報を掌握していたはず。
情報を揃え、全てを調べ上げていたはず。

何もかもを だ。


そのはずだったのに、ここに来て突如出現した『不確かな』因子。

今のところまでは、全体の予定通りとなるかもしれない。

だが計画に入り込んできたその『不確かな』因子は、
後に予想外の影響を及ぼしかねない。


最悪、その小さなほころびは連鎖的に全体に広がり。


計画全体をも瓦解させる恐れがあるのだ。
595 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:22:52.08 ID:USipasYo
その『不確かな因子』は複数確認できた。

一つ目は、前述のフィアンマが自ずから禁書目録を回収しようとする理由。


二つ目。


『第三』の魔女の力が確認されたこと。


つい先程、イギリスの『炎獄の悪魔』が突如現地に乱入してきたのを感じた。
それでもフィアンマは敗れないと見込み、あえて見逃したのだが。

実際に見ていないから確実な事は言えないが、
どうもあの腹立たしい『女共』の匂いがする。


『魔女』の だ。


一瞬、あのどちらかの魔女が裏切ったのかとも思ったが、どうやらそうでは無いらしい。
確かに系統は同じだが、恐らく別人だ。

つまり三人目の魔女がどこかにいる。
それもこちらとは敵対する勢力に。


更にたった今、
同じ『匂い』の魔女の力がどういうわけか禁書目録から放出されている。

目録の中に魔女の業も記録されていたのか。


それとも―――。


これは一つ目の因子とも何らかの関係があるかもしれない。
596 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:24:48.84 ID:USipasYo
三つ目、息の根を止めたはずトリッシュがなぜか生きており、
人間の女に覚醒したアラストルを持たせ、更に感覚支援をしていたこと。


四つ目。その人間の女からダンテの匂いがする事。
恐らくトリッシュが生きているのもこれと何らかの関係がある。


そして―――。



―――『五つ目』。



今現在、ここに立っている彼にとって最大の不確かな因子。


その存在がバージルの奥底を煮えたぎらせる。


できるだけ、この『因子』が割り込んでこないように計画を練ったはずなのに。


『彼』と『息子』だけは遠ざけようとしていたのに。


その一方に行動開始早々に『会って』しまうとは。



それは唯一彼と対等な存在。



それは唯一彼の『世界』をかき乱すことが出来る存在―――。
597 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:25:56.39 ID:USipasYo
そしてその存在は唯一。


冷静沈着な彼の心に火をつけ―――。



バージル「………………貴様……」



―――『感情』を昂ぶらせることができる『男』。



そう、今この場で彼の目の前に立ちはだかり―――。



彼の閻魔刀をリベリオンで受け止めている―――。




ダンテ「―――よう―――」




―――『弟』。
598 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:27:37.96 ID:USipasYo
麦野の前に立ち、振り下ろされた閻魔刀を右手に持つリベリオンで受け止めているダンテ。

二つの最強の魔剣の接触点から、大量の火花が絶え間なく散っている。


麦野「あ…………あぁ…………!!!!!」


そんなダンテの大きな背中を見上げながら、言葉にならない声を漏らす麦野。
悲しんでいるようにも笑っているようにも見える顔で。


ダンテ「―――『チビ助』!!!!!『エスコート』してやんな!!!!」


その時、ダンテがバージルを見据えながら声を荒げた。


「―――はい!!!」


そしてダンテの声に応えながら、どこからともなく麦野の傍に即座に駆け寄ってきた―――。


麦野「!?」


ルシア「立てますか!!?早く!!!」


―――全身ボロボロな赤毛の少女、ルシア。


彼女がダンテをここまで『運んできた』のだ。


ネロの言い付け通りキリエをトリッシュの元へと運び、
今度はトリッシュの言い付けでダンテを迎えに行き、そしてこの場へとだ。
599 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:33:19.11 ID:USipasYo
ルシアと麦野が離れていく気配を感じながら、
ダンテは薄ら笑いを浮かべバージルの顔を見つめていた。

そんな中、天から雫が一つ、また一つと落ちてくる。
そして徐々に数を増やしていき、一帯を雨音の静かな合唱が優しく包み込んだ。


ダンテ「.........Hummm.......」

ダンテは雨に打たれながら、左手で顎を軽くさすり小さく息を吐く。

先程から麦野とトリッシュを『通して』状況を『見ていた』が。


ダンテ「―――で、随分とウチの相方が『お世話』になったみてぇだが―――」


二ヵ月半前、バージルは長い長い『旅』を終えようやく『こちら側』に戻ってきた。
バージルはダンテの兄として、スパーダの息子として、エヴァの息子として『人間界』に戻ってきた。

バージルもそれを自覚し認めたからこそ、『あの時』ダンテの手を取ったはず。

ダンテはそれを確信している。

そして。


ダンテ「―――なぁにやってんだ?俺抜きでよ」


信じている。

ちょっとやそっとの理由じゃ、『兄』は刀を持つことはしないと。
決して『破滅的』な目的の為にはもう刃は振るわないと。



ダンテ「……なあ。『何』があった?『何』を見ちまったんだ?」



では、今のバージルを突き動かしている『モノ』は『一体』。

『こちら側』に立ったことで何かを見つけてしまったのか。

『こちら側』に立ったことで別の新たな『戦い』を見つけてしまったのか。
600 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:35:32.62 ID:USipasYo
バージル「失せろ」


だがバージルから返ってきた言葉は『いつも通り』。

『いつも通り』、何も答えない。


バージルが発した、その突き放すたった一言で充分だった。
ダンテが彼の内にある意志を読み取るには。

彼はまたダンテを『外』に置く。

彼はまた一人で背負う気なのだ。


『何か』を。


僅かに一瞬だけダンテの表情が陰る。
少し寂しそうに。

すぐにまたいつもの飄々とした顔に戻ったが。


ダンテ「……ハッハ〜、そうもいかねえんだなコレが。答えろよ」


バージル「貴様に用は無い。消えろ」


心を閉ざし、冷徹に突き放そうとする『兄』。



ダンテ「よー、どうしたってんだよ」



僅かに哀しげに、そして親しげに近付こうとする『弟』。
601 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:38:13.97 ID:USipasYo
『兄』と『弟』。

スパーダの血を分かち合った『双子』。

一番近い存在でありながら。


一番遠い対極の存在でもある二人。


お互いの性格も思考も何もかもを知り尽くしているからこそ。

お互いに退けなかった。



バージル「―――三度は言わん。『この期』に及んでまで俺の邪魔をするな」



ダンテは相変わらずの薄ら笑いを、バージルはいつもの無表情。



ダンテ「ヘッヘ……………」


だがその一方で二人の柄を握る拳がギチギチと軋む。


それは彼らの内面の『圧』の音。



今にも弾け飛びそうな―――。
602 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:39:47.50 ID:USipasYo
そして遂に、共鳴し火が付いた二人の魂が臨界点に達する。


冷徹な仮面と飄々とした仮面が剥げ落ち―――。




ダンテ「―――ざけんじゃねえぞテメェこの野郎―――」




水面下から顔を出し、露になる熱き心―――。




バージル「―――黙れ―――」




ダンテの顔から薄ら笑いが消え。



バージルは目を大きく見開き。



お互いが鍔迫り合いしていた刃を押し出し、弾き合う―――。
603 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:44:01.29 ID:USipasYo
降っていた雨はいつのまにか土砂降りとなっていた。

そして二人の頭上、黒い雨雲の割れ目からは満月が顔を出していた。


『あの時』と同じように。


10年以上前に、二人がテメンニグルの塔の上で激突した時のように。


スパーダの息子は『感情』を爆発させた。


唯一、お互いが『本気』になってしまう、そして『本気』にさせてしまう存在同士。
お互いがお互いの魂を刺激し、その奥底の想いを引きずり出してしまった。


ダンテの怒りの理由は、トリッシュを傷つけられた事でも、
学園都市の友人達の障害になっていた事でもない。

バージルが『何も言わない』事に対してだ。


もう我慢がならなかった。

己の『何も見出せない目』に。

いつも何かが起こってからようやく気付く己に。

そんな『受身』の己に。


バージルが何を見たのかがわからなかった己の見識の浅はかさ。
彼がその何かで決意し、再び刃を振るおうとしていた事に気付かなかった己の愚かさ。

何が 行き当たりばったり と。

己が気付き、そしてバージルの横に立てていれば、
彼に『こんな方法』をさせずに済んだのかもしれない と。
604 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:45:36.87 ID:USipasYo
そしてバージルの怒りは。


どうやってもダンテを引き寄せてしまう己の『存在』に対して だ。


どんなに距離を置こうとしても、
結果的に『己の戦い』に巻き込んでしまう自分の『小ささ』に対して。



ダンテの参入を受け入れてしまいそうになる己の『弱さ』に対して。



彼は最早、己自身の力の『解放』が
フィアンマにも大きな影響を与えてしまうという事など気にしてもいなかった。


それどころではなかったのだ。



ここでこの『感情』を吐き出さなければ。



このままズルズルと甘えてしまいそうになってしまうからだ。
605 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:46:39.25 ID:USipasYo
二ヵ月半前、ようやく気付き取り戻したこの人間的な『感情』。

その感情があるからこそ、バージルは『戦う』決意をした。

再び刃を振るう事を決意した。


今度は何かを『殺す』為ではなく―――だ。


だが一方で。


その『感情』は彼に『甘え』と『弱さ』をも与えてしまう。


彼はダンテのように、その感情と悪魔の血を『両立』させられるほど『器用』ではない。

ダンテのように、人と関わり人を知りながら成長していく環境など無かった。


ネロのように、その『感情』を己の『全て』と融合させ直結し『利用』するやり方も知らない。

ネロのように優しい養父母に育てられ、
クレド・キリエという義兄妹達と共に、人間の愛情の中で生きていく環境なども無かった。


バージルは何も知らなかった。
この『感情』の扱い方を。



だから『不器用』な彼はこうして抑え込み、吐き出し、突き放す事しか出来なかった。


こうするしかバージルには術がなかった。

こうしないと保つことが出来なかった。



『戦う為の強さ』を。
606 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/24(土) 00:48:19.74 ID:bxzBsGQo
まー、なんて仲の良い兄弟なのかしら(棒
607 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:49:21.94 ID:USipasYo
弾き合った刃。


ダンテはリベリオンを脇に引き、水平にして構える。

バージルは閻魔刀を頭上に掲げ、腰を落として構える。

二人の体から一気に溢れ出す、青と赤の光―――。


彼らは『最強』。


『最強』だからこそ。

哀れな事に、彼らへと『上』から手を差し伸べられるほどの存在など無かった。

彼らだけの高潔な『使命と義務』が生み出す『問題』を、『外』から解決できる者などいなかった。


圧倒的なスパーダの血と、
弱き人間という相反する性質が『半々』に混ざった者にしかわからない壮絶な『苦悩』。


その『痛み』から。

彼ら『最強の子羊』を『救える』者などいなかった。


彼らを『救える』のは彼ら自身だけなのだ。


『理解者』はお互いしかいなかった。


だが今、二人の『理解者』は感情を抑え込めない。


その『感情』で―――。


―――二人は魔人化までしてしまう。
608 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:50:19.85 ID:USipasYo
溢れ出す光。


その光の衝撃波は周囲の何もかもを吹き飛ばす。

二人から半径400mが一瞬にして更地と化し、音が一瞬消失する。


空間が歪み、人間界が大きく軋んで行く。

余りの空間の『負荷』に耐え切れず、地面や瓦礫が粉上になり散っていく。



ダンテ『YeeeeaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHH!!!!!!!!!!』


そして刃を再び交じらせる兄弟。


バージル『HAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』



双子の兄弟の刃は同等。

刀と剣。


その扱い方は違う。
それぞれの剣術も違う。


だがタイミングは完璧だった。


二人の息はあまりにもピッタリだった。


ちょうど二人の中間、高さもお互いの顔の前。


そこで完璧な十字状で交わる刃。
609 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/24(土) 00:51:16.64 ID:USipasYo
赤と青の光が飛び散り、お互いの刃が『同じ分』だけ大きく弾かれ、
その衝撃で二人は『同じ歩幅』で後方へと一歩下がる。


そして『同時に』体勢を建て直し。


『同時に』再び刃を返して振るう。



お互いへと向けた―――。



ダンテ『―――バァァァァァァァァァァァァジィィィィィィルッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!』



そして『己』へも向けた―――。



バージル『―――ダンテェェェェェェェェェェェェェェエ!!!!!!!!!!!!!!!!!』




―――慟哭と共に。



『あの時』と同じ『満月』の下で。


二人の衝突を嘆き悲しむ、『涙』のような雨が降り注ぐ中で―――。


―――
610 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/24(土) 00:52:16.17 ID:USipasYo
今日はここまでです。
次は日曜か月曜の夜中に。
611 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/24(土) 00:57:23.04 ID:/3Ujux.o
612 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/24(土) 00:59:29.09 ID:bxzBsGQo
たまんねぇ・・・・・乙だ
613 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/24(土) 01:17:24.17 ID:pSNuTrY0
相変わらずの派手な兄弟喧嘩wwww
乙です。
614 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/24(土) 01:24:40.13 ID:dwAaf7oo
アレイスター「迷惑な兄弟だ…」
615 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/24(土) 13:00:07.16 ID:mfRz6nU0

兄弟喧嘩、か


・・・・・「兄弟喧嘩」かwwwwwwwwwwそうだな、うんwwwwwwwwww
616 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/24(土) 20:48:23.47 ID:PB8aBag0
熱いな……
乙!!
617 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/24(土) 22:10:25.10 ID:e17Lej6o
ダンテ口調ちがうね
618 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/24(土) 22:30:03.74 ID:c2NhZRso
どの辺のこと言ってるかわからんがシリーズごとに結構なブレがあるんだから全然許容範囲だろ
619 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/24(土) 22:47:46.05 ID:jzbwLsDO
「へっへ」とか「よー、」とか「ざけんじゃねえ〜」あたり?
ちょっと若めの口調かな?とは思ったけど、すごい違和感を感じたって程じゃないな 
まぁ、久々の本気の兄弟喧嘩で心が若返ったんだろw
乙でした!
620 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/24(土) 22:57:00.24 ID:uV/pv5k0
むしろおっさんになってからも若々しい口調な事もあるしなあのおっさん
つまりおっさんカッコいいです
621 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/25(日) 08:25:26.89 ID:OooaGsAO
前これと同じタイトルのあったよな
続編?
622 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/25(日) 08:52:07.07 ID:DomxB6AO
>>621
続編
623 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/25(日) 13:58:06.34 ID:Un9Do.AO
まあダンテに限らずネロとかも口調違うなとは思った
でも面白いしあまり気にしてない
624 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:08:22.27 ID:m1sObdUo
―――


それは『最強のデビルハンター』と『最強の悪魔』という二人の『戦士』の『戦い』ではなく、


『感情的』になった『兄』と『弟』の『衝突』。


互いの臨界点を越えた『熱』の『冷却』。


どんな事があっても決して壊れない、彼らの『普段の顔』をブチ破る程のフラストレーション。

それを生み出す相手は、彼らにとってはお互いのみであり、
そしてそのやり場の無い衝動を晴らせれるのもお互いのみ。

大人げの無い『兄弟喧嘩』とも言えるだろう。
年の近い男兄弟を持つ者ならほとんどが経験した事であり、特に珍しいことでは無い。


今の二人の衝突は特に珍しいことで無いのだ。


その『兄弟喧嘩』が災害級の規模であり、下手すると人間界すら危うくなってしまう点を省けば だが。


この『兄弟喧嘩』は否応無く、周囲に多大なる影響を及ぼしてしまう。



ダンテの友である上条らにも。


バージルと繋がっているネロにも。
彼と同じ目的の為に動いている二人の魔女にも。


そして。



フィアンマにも。
625 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:10:23.65 ID:m1sObdUo
フィアンマ「―――な―――」


もう一つ増えた怪物。


その二体の激突。


更に魔人化。


当然フィアンマも感じていた。

衝撃波が到達し、粉塵が舞い上がり瓦礫が飛び散っていく中で。



フィアンマ「(長居しすぎたな―――潮時だ)」


ここにこれ以上いるのはあまりにも危険すぎる。
これからここで何が起こるのか、事態がどう転がっていくかはもう判断がつかなかった。

フィアンマの全身に鳥肌が立つ。
あの二人から放出される力が、ここにも到達し覆い始めているのだ。


その余りの『濃さ』に、彼の『力の感知域』もジャミングされているかのように塗りつぶされていく。

あの二人の反応があまりにも強すぎ、
今インデックスが押さえ込んでいる三人の少年の反応ですら『見えにくい』程だ。
626 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:11:26.19 ID:m1sObdUo
至急ここから離脱するべきだろう。


だがフィアンマの今の状態では『離脱』はできない。


先程幻想殺しに触れられた事により、
彼の『聖なる右』は『光の加護』を失ってしまった。


あの『光の加護』がなければ遠隔攻撃や光の衣による防護は当然、
『高速移動』や『瞬間移動』もできない。


『瞬間移動』ができなければこの場からも『離脱』できない。

一度機能を完全に停止させ、『聖なる右』を『再起動』する必要がある。


だが『再起動』には問題が一つ。


機能を完全に停止させるという事は、
言葉を変えればフィアンマは完全に無防備になるという事だ。


彼は一瞬の間、何も力の無い『ただの人間』になってしまうのだ。


その間に頭でも撃ち抜かれたら確実に死ぬ。
627 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:12:35.32 ID:m1sObdUo
だが今は特に問題ないだろう。

フィアンマ「…………」

青と金の髪の束で拘束され、地面に押さえ付けられている三人の少年。
呻き声を上げ歯を食いしばり、どうにか抜け出そうと無駄な抵抗を続けている。


今現在、彼に攻撃できる者はいない。


まあ、リスクはできるだけ避けた方が良いが。
万が一がある。


再起動するよりも先に、
幻想殺し以外の二人に止めを刺しておいた方が良いだろう。


フィアンマ「―――さて、お開きだ諸君」


三人の少年へ向け幕引きの言を飛ばしながら、
彼は右手に握る遠隔制御霊装から新たな指令を送った。


フィアンマ「楽しかったよ」


インデックスに。


幻想殺し以外の二人を殺せ と。



だが―――。
628 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:19:33.37 ID:m1sObdUo
フィアンマ「―――なに……?」



遠隔制御霊装から返ってきた『報告』は、
彼が予想すらしていなかったものだった。


そしてその報告と同じように口を開くインデックス。


禁書『―――緊急警告。非常事態発生。未知の危険因子を検知』



禁書『―――脅威度、測定不能。繰り返します。測定不能』




禁書『特例、第19章4節に従い―――』




禁書『―――これより目録の「保全」を最優先とし、』



禁書『―――全統制システムを「アンブラの鉄の処女」に移行します』




禁書『―――警告、移行完了次第、全ての回線を「切断」し、現行の命令は全て「破棄」されます』
629 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:23:26.92 ID:m1sObdUo
全てがトリッシュの作戦通りとはいかなかったものの、
結果的に彼女の狙い通りになったのだ。

バージルとフィアンマを近づける作戦は失敗したが、

ダンテとバージルの衝突はその『距離』を完全に『補った』のだ。



フィアンマ「―――」



インデックスが発した言葉。

それはつまり。


この『遠隔制御霊装』の命令が『最上』では無くなるという事。


スパーダの息子達のあまりにも巨大な力を検知し、
己の保全行動に移ろうとしているのだ。



フィアンマ「(―――マズイ)」



このままでは『禁書目録』が己の支配下から失われる。
『魔女の業』はともかく、その膨大な記録と頭脳が制御下から外れてしまったら、


今後のフィアンマの計画が全てご破算だ。


何もかもが終わってしまう。
630 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:26:03.29 ID:m1sObdUo
フィアンマは己の頭脳を最大限活用し、この場を乗り切る最善の策を猛烈な速度で模索していく。
あらゆる情報を参考にしながら。


インデックスのこの『魔女の業』。
これは専用のシステム『アンブラの鉄の処女』が起動していないと使えないようだ。

その『アンブラの鉄の処女』も、どうやら自動書記が起動していないと動かないらしい。
そうじゃなかったら、二ヵ月半前の争乱の際にとうに起動しているはずだ。



禁書『予想所要時間は10秒』



その点を踏まえると、全システムを強制停止させれば恐らく大丈夫だ。
自動書記ごと止めれば、『遠隔制御霊装』の権限が失われずに済むだろう。


そして停止した後に、即座にインデックスの術式を少し書き換えるのだ。


自動書記から『アンブラの鉄の処女』への、
起動・動作に関するデータはもう既にフィアンマの頭の中にある。


それを参考にして書き換えてしまえば良い。
『アンブラの鉄の処女』のオンオフも『遠隔制御霊装』で操作できるように。


その書き換え作業には3秒あれば事足りる。
631 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:30:51.53 ID:m1sObdUo
エノク語で構成されている『アンブラの鉄の処女』自体には、そう簡単に手は出せないが、
その周りの部分ならいくらでも書き換えられる。


圧倒的な頭脳と知識を持っているフィアンマにしてみれば3秒で充分だ。


だがそれは一方で、3秒の間インデックスの支援を受けられないという事にもなるのだが。


インデックスの機能が停止するという事は、あの三人を拘束している『魔女の業』も消える。
つまり彼らは自由となる。


魔女の業により三人はかなりのダメージを負っている為、彼らが起き上がり攻撃に転じるより先に、
インデックスの書き換え作業が完了するかもしれない。


だが逆に、フィアンマは一人で上条達を相手にしながら、書き換え作業を行う事にもなるかもしれない。


フィアンマは先程上条の幻想殺しに触れられ、『光の加護』を失っている。
この背中にある巨大な腕、『聖なる右』本体だけで直接相手にするハメになるのだ。


一人ずつならこちらが圧倒できるものの、三人同時だとさすがに厳しい。


そんな展開は避けたい。



フィアンマ「(―――やはり先に『こっち』を再起動するべきか)」



即座に己の力『聖なる右』を『再起動』し、完了次第すぐにインデックスを強制停止させる。

その後、三人を適当に蹴散らしながら3秒でインデックスの術式を書き換え、
彼女を再起動させ再び牽制させる。


そして三人が怯んでいる隙にインデックスと共にこの場を離脱する。


これがフィアンマが4秒間の間に打ち出した、この場を乗り切る為のプランだ。
632 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:32:49.88 ID:m1sObdUo
インデックスが制御不能になるまで残り『6秒弱』。

だがフィアンマにとっては十分。

『聖なる右』の再起動は1秒あれば事足りる。

問題なければすぐに終わる。



問題がなければ だが。


フィアンマ「(―――)」


早速己の力を再起動しようとした時だった。

彼は少し離れた所にとある『反応』を感知した。
スパーダの息子達のせいで、彼の探知網は雲がかかったように『視界』が悪いが、


それでも結構見えやすい、それなりの『大きさ』の反応だった。


彼は即座にそちらの方角へ目を向け、意識を集中させる。

それは南に800m、地上80mの場所。

無視する事もできなかった。

その反応は真っ直ぐとフィアンマに殺気を向けていたのだ。
そして移動しようとはしていない。


何か遠隔攻撃でも仕掛けてくる気なのか―――。

そう彼が思った瞬間。

その方角、彼の視線の先で。


青白い『稲妻』が瞬いた―――。


―――
633 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:34:45.94 ID:m1sObdUo
―――


御坂はとあるビルの屋上にいた。

そこから800m先の現地を見下ろし、『大砲』を腰だめに構えながら。



間にはビルがいくつもあり、直接目では捉えられないが。




18990号『修正して下さい、下方に0.78度。右に0.34度』




御坂「OK……」




彼女は完全に標的を『捕捉』していた。


イヤホン型の受信機からの、
一方通行からのデータによる妹達の指示で。
634 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:36:21.49 ID:m1sObdUo
御坂「(―――出力最大、連射速度最大―――)」


彼女の能力の集中を受け、『大砲』が電撃を帯びて輝く。


発射準備は整った。


そして整うと同時に。


18990号『―――ターゲットがお姉さまの方に顔を向けました。気付かれたようです―――』



御坂「―――撃つわよ」



その瞬間、猛烈な閃光が迸り、
青白い光の槍が大砲から放たれる。



6000m / sのレディ特製の12.7mm『魔弾』が。



それはまるで小さな隕石が落下してきたような光景。



光の矢はビルをいくつも貫通し吹き飛ばしながら―――。



―――一瞬で『標的』に到達する。



―――
635 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:38:14.67 ID:m1sObdUo
―――


フィアンマ「―――」

脅威を感知した彼の背中の『腕』が一気に動き―――。



―――その『光の矢』を受け止め弾く。


大量の電撃と火花が散り、耳を劈く音。


弾かれた弾頭は勢いを保ったまま天空を突き進んでいった。


フィアンマ「(―――これは―――)」


弾いた巨大な腕、『聖なる右』の本体が少し痺れているのをフィアンマは感じた。


弾頭の運動エネルギー自体は、彼にとってそれほど危険でもない。


だが。


フィアンマ「(―――対悪魔術式か―――)」


どうやら弾頭に術式が刻まれていたようだ。
それもかなり高水準の。

悪魔系統は専門外とはいえ、博識高いフィアンマはそれなりに精通している。
そこらのデビルハンターなど、彼にしてみれば無知も同然。


だがこの術式はあまりにも格が違う。


フィアンマでさえこんなモノはそう簡単には創れない。


確実に『人間最高クラス』のデビルハンターのモノだった。
636 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:40:41.83 ID:m1sObdUo
確かに対悪魔用だが、
全く系統の違うフィアンマの『聖なる右』にも影響を与えている。

『力』と『魂』がかき乱されている。

たった一撃、それも弾いた瞬間にしか触れていないにもにも関らず。


そして彼に襲い掛かってくるのはその一撃だけではなかった。

再び放たれてくる『魔弾』。

立て続けに。


フィアンマ「チッ―――」


フィアンマの巨大な腕はうねりながら、その魔弾の群れを弾き飛ばしていく。
そしてこの魔弾を一発弾いていくたびに、確実に『聖なる右』とフィアンマが蝕まれていく。


いつまでもこうしていられない。

時間は刻々と減っていく。

既に『2秒』を無駄に浪費している。


インデックスに干渉できなくなるまでの残りの猶予は『4秒弱』。


だがこんな状況では計画通りに事を進めるわけにもいかない。


魔弾が向かってくる中で、『聖なる右』を再起動するわけなど。


こんな弾幕の中で『無防備』になるなど―――。


『タダの人間』の状態の時に、こんな魔弾など受けてしまったら跡形も無く『蒸発』だ。
637 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:42:17.61 ID:m1sObdUo
ウィケッドウィーブに拘束され地面に押さえつけられながらも、
上条はなんとか顔を上げてその光の矢を見た。


上条『(―――あれは……!!!!)』


あの攻撃が誰のものかは一目瞭然。

射出されている弾頭は別でも、あの『姿』は何度も目にしている。



上条『(―――御坂ッッッ!!!!!!)』



なぜここにいるか、なんてはもう考える意味が無い。

あのインデックスが凄まじい未知の力を使うのを見、そしてバージルとダンテの激突を感じ。

上条とっても、今の状況はあまりにも理解を超えているものだった。


彼に今できるのは願う事しかない。


彼女に託すしかない。


この状況を打開してくれるのを。



上条『―――御坂ァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!』



―――
638 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:43:44.43 ID:m1sObdUo
―――


御坂「―――ッ!!!はッ!!!!!」

腰だめで大砲を連射する御坂。

迸る閃光。
内臓が揺れるほどの大気の振るえ。


18990号『もっと強く速く撃てませんか?今のところ全て弾かれてm』


御坂「―――わかってるわよんな事!!!!!」


18990号『む、ターゲットが左手で瓦礫か何かを掴みあげたようです」


御坂「―――はあ!?それが何だってn」


18990号『それを上に放り投げて……』


御坂「―――」


18990号『……「大きな方の手」でお姉さまの方へ弾き―――』


受信機からの淡々とした妹の声と同時に。


御坂「(―――や―――ばッッッッ!!!!!!!!!!)」


標的から『何か』が放たれたのを御坂のレーダーが感知した。
639 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:45:50.53 ID:m1sObdUo
放たれてきたのはタダの瓦礫片だった。

速度は音速の数倍にも達し、摩擦熱で流れ星のように輝いていたが。

大砲を標的の座標に連射しながら、
御坂は能力を使って隣のビルの屋上へと跳躍する。


その僅か一瞬後。


飛翔してきた『何か』が、一瞬前まで御坂がいたビルの上半分を吹き飛ばした。


御坂「―――ッッッはぁ!!!!!!」


御坂「アイツの位置は変わって無い!!!?」


18990号『はい。今のところ動いてません。同じ座標にそのままぶち込んでください』


18990号『ターゲットはまた瓦礫を掴みあげました。回避行動を取りながらそのまま撃ち続けて下さい』


御坂「―――ったく簡単に言うわねアンタはッッ!!!!!!」


ビルの屋上から屋上へと連続して飛び移りながら、
標的の座標へと魔弾をぶち込んでいく。

そんな御坂の後をワンテンポ遅れて追う様に、
光り輝く瓦礫片がぶち抜いていった。


―――
640 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:47:27.95 ID:m1sObdUo
―――


フィアンマ「(チョロチョロと……)」

弾幕の間を縫って、左手で瓦礫放り上げて背中の腕で弾き出しているが、
どれもあと一歩というところで命中しない。

『光の加護』が使えたら、あの程度の者など一瞬で叩き潰すことが出来るのだが。


だがそれには『再起動』する必要があり、こんな状況下では危険すぎる。


今拘束している三人の少年も、あの狙撃者も個々としてみれば、
元々はフィアンマにとっては全く脅威ではない。

今ある問題もそれぞれを独立してみれば、
頭を悩ませるほどのものではない。


だが全てが複雑に絡まっているこの状況は話が全く別だ。



今までの彼はその『聖なる右』の力の一つ、『奇跡と幸運』に守られてた。

運をも消してしまう幻想殺しとは正反対に、彼の『聖なる右』は運を増幅させる。

そのおかげでこの力を手に入れ発現してからは全てが順調であり、
そして思わぬ幸運にも恵まれ続けた。


だが今はどうだ?


まるで世界が彼を呪っているようだった。

何もかものタイミングも相性も悪すぎる。
641 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:49:52.83 ID:m1sObdUo
これは『聖なる右』が『加護』しきれない、
不可侵の領域に踏み込み、関り始めてしまったからなのだろうか。

それともあの何もかもを超越した、
二人の怪物達が漏らす余波が、『聖なる右』の『幸運』を押し潰し吹き飛ばしてしまっているのか。




何が原因にせよ、これだけは確かだ。


今、この『場』はフィアンマには味方していない。
むしろ、今までの分を清算させようとでもしているかのようだ。



フィアンマ「(―――マズイな……)」


背中の腕を直接伸ばし、あの狙撃者を叩き潰すか?
だが魔弾の術式によって麻痺しつつある。


もし外したりすれば、その隙に魔弾を直接『体』に受けてしまう事も考えられる。


この魔弾の術式が直接魂にまで流れ込んできたら、
最悪の事態にだってなってしまうかもしれない。


インデックスを盾にする という案も浮かんだが、
今の彼女に更なる刺激を与えるのはさすがにマズイ。

何が起こるかわからないし、相手が躊躇いも無く彼女をぶち抜くような者だったらそれ以前の問題だ。
642 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:51:38.47 ID:m1sObdUo
とにかく、インデックスの『強制停止』と『システムの書き換え』は必ずやらなければならない。
それが最重要だ。

『強制停止』させなければ『遠隔制御霊装』は優位性を失い、ただのガラクタと化してしまう。
そうなれば全てが瓦解する。


何もかもが。



そんな事態だけは絶対に避けなければ。


インデックスが制御下から外れるまであと『2秒』。



フィアンマ「(仕方ない―――)」


フィアンマは決断する。


『聖なる右』の再起動は後回しにし、
まずは何よりもインデックスが制御下から外れる事を防ぐのを優先する と。


先に彼女を強制停止させ、書き換え作業に入る と。


これは一種の賭けだった。


最悪、この魔弾の雨の中で三人の少年を相手にしながら、


精密な書き換え作業を行うハメになるかもしれない。
643 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:52:50.43 ID:m1sObdUo
フィアンマ「(―――)」


インデックスが制御下から外れるまで残り『0.2秒』。

その瞬間、フィアンマは即座に強制停止の指令を送る。
ねじ込み割り込ませるように強引に。



そして。



禁書『―――』


事務報告すらせずに。


インデックスは『機能停止』した。


一気にうねり、猛烈な速度で巻き戻っていくかのように、
魔法陣の中へ吸い込まれていく青と金の大量の髪。


三人の少年はその拘束から解放された。


消える魔法陣。


そしてフッと目を閉じ。


浮力を失い。


地面に力なく落ちる少女の体―――。
644 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:54:10.66 ID:m1sObdUo
上条『ッッ―――……ガァァァッ!!!!!!!!』

そして、当然解放された三人は跳ね起きようとするも。


ステイル『……ぐッ……あ……!!!』


一方『…オォ゛ォ゛……ァ゛ァ゛ア゛!!!!』



ここに来て展開はフィアンマに味方した。


彼の『賭け』は大勝だったのだ。



三人の少年のダメージはフィアンマの予想を超えていた。



満身創痍の彼らにとって、
両手を付きぎこちなく起き上がるのが精一杯だったのだ。


地面に手を付き、顔を上げる。


それだけの動作で。


3秒は有に越えてしまった。


フィアンマ「ははは、やっと運が向いてきたようだ」


当然、インデックスの書き換えはその間に余裕を持って完了した。
645 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:57:33.55 ID:m1sObdUo
上条『がッ…………インデックスッッ……!!!!』


フィアンマ「お前らには礼を言わなければな。良い『アトラクション』だった。かなり楽しませてもらったよ」


フィアンマは嬉しそうに微笑んだ。
背中の腕で御坂の砲弾を弾きつつ、地面に未だに這い蹲っている上条達を見ながら。


フィアンマ「俺様はな、性質上こういう胸躍らせる展開にはそうそう恵まれなくてな」


インデックスが制御下から外れてしまうのは避けられた。

そして書き換えも済み、あとはインデックスの自動書記を再び起動させるだけだ。


そして彼女に幻想殺し以外の二人とあの『魔弾』の狙撃者を潰させ、
改めてフィアンマの『聖なる右』を再起動し悠々と離脱する。


これで今回の仕事は完了だ。



フィアンマ「久々だな。こんなに『苦労』したのは。懐かしいよ」



状況が好転したことで、フィアンマに余裕が戻る。



その余裕と過信が命取りとなるのだが。


彼はまだ気付いていなかった。

いや、この高慢な性格上、気付くのは無理だっただろう。



まさかあんなに小さな『虫けら』が、数十秒後に彼へ『敗北への切符』を届けてくるとは。
646 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/26(月) 23:58:45.94 ID:m1sObdUo
彼は見逃していた。

この場へのとある侵入者を。

その者がこっそりと彼の背後へと忍び寄ってきていたのを。


彼が気付かなかった原因。


それは近くで二人の怪物が激突し、
その影響でで『感知』が曇っていたせいだ。


そして、その侵入者の力はあまりにも小さすぎたからだ。
更にそんな小さな者など鼻から意識していなかった過信も原因の一つだ。


彼にとっては正に『虫けら』同然だろう。


だがそんな『虫けら』一匹が状況を180度変えてしまうのだ。


その『時』が目前に迫ってきているとは露とも知らずに、
フィアンマはベラベラと喋り続けた。


貴重な時間を無駄に消費し、敵にチャンスを与えてしまうのだが。


彼はこの『勝利』と『優越感』を味わう誘惑には勝てなかった。

何せ久しぶりの『苦闘』だ。

それを乗り越えたこの感覚はなんと甘美なことか。



フィアンマ「お前らは良くやったよ。誇ってくれても良い。『その程度』でありながら俺様をここまで追い込んだのだからな」
647 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/27(火) 00:00:16.15 ID:g7heEIUo
禁書「…………う……」

そんな中、地面に横たわっているインデックスの目がゆっくりと開く。
そこには感情の光が戻っていた。


フィアンマ「さて、最期に彼女に残す言葉は?もう機会は無いぞ」


フィアンマがニヤニヤしながら、
『別れの言葉』を言うように三人に促す。

そう、『別れの言葉』を だ。



上条『……インデックス!!!!……おい!!!!……聞こえるか?!』


上条はインデックスに声を飛ばす。
ようやく体を起こし、地面に四つんばいになりながら。


禁書「……ま……」


上条『―――インデックス!!!!』


上条の声に反応し、インデックスは弱弱しくも彼の方へと視線を移し。



禁書「…………とうま……」


そして彼の名を呼んだ。

今にも泣きそうな顔と震えた声で。



上条『―――待ってろ。今行く』



上条『―――今助けてやるからな―――』
648 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/27(火) 00:04:13.61 ID:g7heEIUo
フィアンマ「全く……もっと言葉を選べないのか?下手に『希望』を持たせるのは酷だぞ?」


上条『―――』



フィアンマ「アドバイスしておこうか。その心意気も良いものだが、男には諦めと引き際も肝心だ」



その時。


フィアンマがベラベラと、己の声に酔いながら相変わらず喋っている時だった。



上条はフィアンマとインデックスの向こう、彼らの背後40m程の所に立つ一つの人影を見た。

一方通行とステイルも。



上条『いや、俺からも一つ……アドバイスしてやるよ……』



そしてその姿を見、上条は薄く笑った。



上条『―――そうやって笑うのは幕が閉じてからにしな』
649 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/27(火) 00:05:33.66 ID:g7heEIUo
フィアンマ「違うな。これは確信してるからだ」


フィアンマ「なんだ?まさかあの程度の者がこの状況を覆せるとでも思ってるのか?現実を見ろ」


フィアンマは左手で御坂がいるであろう、魔弾が今も放たれてくる方向を指差しながら、
呆れたような笑みを浮かべた。

それに上条は無言のまま微笑を返した。



一方『オィ聞け。もう一つだ……そのベラベラ喋って時間潰す癖は直した方が良いぜェ……』




今度は一方通行が、薄っすらと笑いながら口を開いた。



フィアンマ「心外だな。俺様の言葉はありがたく聞くべきだと思うがな」



遠隔制御霊装を持つ右手をゆっくりと顔の横に掲げながら、
少し不機嫌そうに言葉を飛ばすフィアンマ。
650 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/27(火) 00:07:25.14 ID:g7heEIUo
フィアンマ「さて、ステイル=マグヌスだったか、お前は何かn―――」


そしてようやくインデックスの自動書記を再び起動しようとした時。




ステイル『―――「右手首」だ!!!!!!!!!!』




突如ステイルが声を張り上げた。


それは御坂が遠方から放った一つの魔弾が、
フィアンマの元に到達した瞬間だった。



だがフィアンマに到達した『弾』はそれだけではなかった。


もう一つあったのだ。


別方向から放たれたもう一つの銃弾が。


それは魔術的なものでも―――。


悪魔的な力で強化されているものでもなく―――。



―――『普通』の拳銃から。
651 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/27(火) 00:09:31.05 ID:g7heEIUo
すかさずうねり、『弾』を弾く巨大な腕。

御坂の『魔弾』を だ。


その瞬間。



フィアンマ「――――――――――――」



遠隔制御霊装を持つ、右手首に走る鋭い痛み。


右手首にドングリほどの穴。

そしてそこから溢れ出す真紅の液体。



フィアンマ「――――――なッッッ」



彼は一瞬何が起きたかわからなかった。


あの『魔弾』は弾いたはず と。

砕けた欠片が飛び散ったわけでもない。



だが状況を把握するよりも速く、次の『魔弾』が放たれてきた。


そしてその『目立つ』魔弾の騒乱に紛れて、『普通の銃弾』も再び―――。
652 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/27(火) 00:11:19.39 ID:g7heEIUo
再び『聖なる右』で弾く。

今度は意識を集中させ、破片の一つも己の方へと向かわないように。

耳を劈く爆裂音が響き、弾かれた『魔弾』は今までの同じように天空を突っ切って、
遥か彼方に飛んでいった。


今度は丁寧に弾いた。

破片一つ飛び散っていない。


そのはずなのに。


フィアンマ「―――な……に…………?」



右手首にはもう一つ穴が開いていた。



先程の穴と並ぶように―――。



その二発の銃弾によりフィアンマの手首の腱が完全に断裂し。


力の抜けた手から―――。


彼の体から離れ落ちる―――。




―――『遠隔制御霊装』。
653 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/27(火) 00:11:52.73 ID:g7heEIUo
『遠隔制御霊装』がフィアンマの手を離れたと同時に、
上条ら三人は雄叫びを上げながら起き上がり前へと。


最後の力を振り絞り、フィアンマとインデックスの方へと突き進んだ。





「―――俺からも一つ『アドバイス』だ」





そしてフィアンマの40m後方で、その二発の『銃弾』を放った者がニヤリと笑う。


サングラスをかけた金髪の少年が。


この状況を覆した―――。







「―――人の『アドバイス』は聞いた方が良いぜよ」






―――小さな小さな『虫けら』が。



―――
654 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/27(火) 00:12:22.66 ID:g7heEIUo
今日はここまでです。
次は水曜か木曜の夜中に。
655 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/27(火) 00:13:00.47 ID:x9c/Kmg0
つっちーかっけえええええええええ!!!!!
うわああああ鳥肌たつわ
乙!!!
656 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/27(火) 00:14:47.23 ID:zRqXZtM0

40mも距離が開いてるのに当てられるのか・・・
657 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/27(火) 00:14:54.53 ID:MkvMxwAO
乙!
土御門さんかっけぇ…
658 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/27(火) 00:17:44.04 ID:3oruyEDO
うおおおぉぉ!かっけええぇぇ!!
熱い展開がたまらん乙!
毎回の投下が本当に楽しみな作品だ
659 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/27(火) 00:18:02.72 ID:kCWkI1co
乙乙wwww
確かに40メートル先に当てるとかライフルでも使わんと当たらんわwwwwww
660 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/27(火) 00:26:41.43 ID:g7heEIUo
すみません皆のレスで抜けてたの今頃気付いた

修正です。
>>649

>今度は一方通行が、薄っすらと笑いながら口を開いた。

の後に



フィアンマの後方にいる『男』に意識と能力を集中し、
脳内で慎重にベクトル操作による『支援』の準備を整えながら―――。



これが入る予定でした。

すみません。
661 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/27(火) 00:53:01.89 ID:93gftDE0
なるほど一方さんが誤差修正で補助してたのか
でも土御門素敵!乙!
662 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/27(火) 01:03:53.94 ID:vPI2ug.o
土御門のかっこよさは禁書男キャラでトップレベルだと思うんだ
663 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/27(火) 01:39:24.43 ID:dajpvAco
うおおおおおお乙!!!
664 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/27(火) 02:11:21.27 ID:BwQJwsAO
つっちーがかっこよすぎて生きていくのが辛い

665 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/27(火) 02:14:45.14 ID:UOgo9oDO
というか一方さんが万能型のサポートキャラだなwwww
単体でも強いけどサポートで一番使える系
666 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/27(火) 04:34:43.13 ID:CdlQj.A0
(´;ω;`)土御門が男前過ぎて今日仕事行くのが辛い
667 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/27(火) 11:28:57.02 ID:FYiA2Lg0
つっちー、いや、土御門△
668 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/27(火) 12:51:55.61 ID:fRzth0.0
もうデルタフォースとは言わせn…
いややっぱり土御門はデルタフォースでないとしっくりこないな
669 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/28(水) 15:24:09.71 ID:dD7q2u60
もうステイルや一方通行を入れてペンタゴンでいんじゃね?
670 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/28(水) 20:19:45.29 ID:2IlBa6AO
流石は「背中刺す刃」だな。土御門△
671 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/28(水) 23:46:17.85 ID:Jg6ommco
「背中撃つ銃」に改名したと聞いて
672 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/29(木) 23:51:54.19 ID:hT0kAwQo
―――


フィアンマの手を離れた『遠隔制御霊装』。

赤い雫と共に地に落ちる。

透き通った金属音を奏でながら。



それが『号令』となる。



雄叫びを上げ起き上がる三人の少年。

そしてそれぞれが『色』を伴って前に踏み出す。



その動きは先ほどと同じ、一糸乱れぬ動き。



『赤』はフィアンマへ向かい。



『銀』はインデックスに向かい。



『黒』は赤と銀の後方間に。
673 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/29(木) 23:53:57.20 ID:hT0kAwQo
インデックスに突進していく上条。

彼にとって余りにも遠かったその『距離』。

余りにも長かった『時間』。


だが今は、先ほどとは違い二人の間に『障害』は無い。


もう彼の道を遮るモノは。


何一つ無い。




上条『―――』




彼はようやく『戻る』ことが出来る。



彼はようやく『取り戻した』。



己の『居場所』を。



彼はようやく『帰って来た』。





彼女の『傍』に―――。
674 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/29(木) 23:56:30.14 ID:hT0kAwQo
上条は滑り込みながら。

優しく、かつ素早く少女の華奢な体を抱き上げ。

フィアンマに背を向ける形で、彼女に覆いかぶさるように強く抱きしめた。


あの男からの禍を退ける『盾』となるかのように。


強く。


もう二度と離さない とでも言うかのように。


決して離さない と。


もう『悪意』には一切触らせない と。



ステイル『―――オォォォォォォォ!!!!!!!』


その瞬間に響くステイルの咆哮。
彼は両手をその場の地面に突き立てていた。


次の瞬間。


フィアンマ「―――」


フィアンマの足元から噴き上がる巨大な火柱。

その業火は物質的には当然、魂すらをも焼き尽くさん炎獄の存在。



溢れ出た業火は瞬時にフィアンマを包み込んだ。
675 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/29(木) 23:57:31.24 ID:hT0kAwQo
フィアンマを包む業火は、当然すぐ脇にいる上条らをも巻き込む。


普段のステイルならば、
インデックスが近くにいる状況でこんな攻撃など絶対に使わなかっただろう。


だが今は違う。

インデックスに傍には『上条』がいる。


信頼に足るあの『男』が。


彼が今、彼女を固く守っている。


彼女にとってこれ以上の『守り』があるだろうか。



インデックスに覆いかぶさっている上条からは銀の光が溢れ、
そして腕の中の少女を優しく包み込んだ。


炎獄の業火は上条の背中をも焼いていく。


だがその熱は決して腕の中の少女には届かなかった。


決して。
676 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/29(木) 23:59:29.69 ID:hT0kAwQo
そんな中、業火の渦が突如吹き飛ばされる。
内側からの突風で。

フィアンマの背中から伸びる巨大な腕が、超高速で彼の周囲を薙いだのだ。
その衝撃波でステイルの業火は一瞬にして吹き消された。


しかしステイルはこんな展開になることは予想済み。


元々この程度で殺せるとは思ってはいない。


狙いは―――。



フィアンマ「(しまった―――)」



『遠隔制御霊装』。



『持ち主』が気付いた時には遅かった。

反射的に行われた『聖なる右』の防御行動は、彼の『切り札』をも弾き飛ばしてしまった。



フィアンマを守った衝撃波。


その爆風が、業火と共に『遠隔制御霊装』をも遠方へと運んでいく。
677 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/30(金) 00:01:31.23 ID:Er8WMZso
回転しながら宙を舞い、フィアンマから一気に遠ざかっていく『遠隔制御霊装』。


フィアンマ「―――」


禁書目録は幻想殺しの腕の中。


今の状態で自動書記を再起動しても、恐らく直ぐにあの右手で破壊される。
かといって、この状況下でまたあの『魔女の業』を使うわけにもいかない。


彼に今出来ること。


それは『遠隔制御霊装』を取り戻し、何とかしてここから離脱すること。


だが離脱にはフィアンマの力の『再起動』が必要だ。



実はもう一つ、離脱に使える『奥の手』もあるが、それは今までフィアンマが一度も使った事の無い、
リスクがあまりにも大きすぎる技。



こんな不確かな状況で『ソレ』を『試す』など『自殺行為』。


だが、一瞬だけ『無防備』になる『再起動』も危険すぎる。
678 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/30(金) 00:02:32.49 ID:Er8WMZso
一体どうすればいいのか。


フィアンマ「―――」


最早フィアンマの頭脳でさえ、この場を打開する策は思いつかなかった。

とにかく今は優先順位に従い出来ることから先にやるしかない。



まずは『遠隔制御霊装』の確保。



あれが無ければ彼は死んだに等しい。
彼が今後生きていく『意味』が無くなる。



『遠隔制御霊装』は金属音を奏でながら地に落ちていった。


フィアンマから100m程離れた地点に。


『光』が使えたのなら、即座に彼の手に引き戻すことができる。


フィアンマ「―――」


だが今は『光』が使えない。

『直接』この手で取りに行くしかない。



『聖なる右』を伸ばし、直接取るしか―――。
679 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/30(金) 00:04:07.02 ID:Er8WMZso
だが。


フィアンマ「―――」


それはできなかった。


今、この体から『聖なる右』の防御を裂く事など―――。


彼は感じる。


左60m程の場所にいる大きな反応を。

それは例の狙撃者。

先程までは遠方にいたあのネズミ。



フィアンマ「―――」



肉眼でやっと捉えたその姿。


それは十代前半程の茶髪の少女だった。


そして手に持って腰溜めに構えているのは。


可愛らしい容姿には余りにも不釣合いな、見ただけでその禍々しさがわかる不気味な『大砲』―――。
680 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/30(金) 00:07:06.67 ID:Er8WMZso
距離は60m。

フルパワーのこの大砲にとっては『超近距離』。



御坂『―――だらぁぁぁぁぁッッッッしゃぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』



御坂は図太い声を張り上げながら、大量の『魔弾』を一気にぶち込んでいく。



フィアンマ「(―――小娘がッ―――)」


すかさず『聖なる右』で弾き飛ばしていくフィアンマ。

だが向かってくる敵意はそれだけではない。



ステイル『―――ハァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!』



弾幕の間を縫って放たれてくる業火。

口からも炎を吐きながら、凄まじい形相で炎剣を振り抜いてくる『炎獄の悪魔』。


更に、どこからともなく伸びてくる大量の『黒い杭』。



フィアンマはこの猛烈なラッシュをいなし続けることしか出来なかった。


最早不可能だった。


この猛攻を無視して『遠隔制御霊装』に『聖なる右』を伸ばすなど。
681 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/30(金) 00:10:22.94 ID:Er8WMZso
光が溢れ、大地が連続して震える中。


土御門「…………やべえやべえ」


土御門はその激突点から100m程の瓦礫の山の中に立っていた。


先ほど思いっきり『キメた』後、一目散に離れたのだ。
あのまま近くにいたら巻き込まれて確実に死んでしまっていただろう。


とはいえ、この今の100mという距離もかなり近いが。


あそこで戦っている『怪物達』にしてみたら目と鼻の先。

衝撃波や瓦礫片が絶え間なくここまでも飛び散ってくる。


そこらにある瓦礫の山を盾にして行動しなければ、
この距離でも死んでしまう可能性があるのだ。


そして何よりも、『怪物達』の溢れ出る力が一帯に充満し、
彼の小さな魂をきつく締め上げていく。


一般人ならあまりの『重圧』に一瞬にして意識を失ってしまうだろう。
682 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/30(金) 00:11:26.70 ID:Er8WMZso
土御門「……寿命が縮んじまうぜよこりゃあ……」


へへっと緊張感無く軽く笑いながら瓦礫の中を進む土御門。


彼は『避難』している訳では無い。


この方向、この場所にやって来たのもちゃんと理由がある。


そしてその『理由』の『基』を。


土御門「お、あったあった」


土御門は遂に探し当てた。


彼の足元に転がってる、ダイヤル式の南京錠のような金属の塊。



仄かに光を放っている―――。



―――先ほど吹っ飛ばされた『遠隔制御霊装』。



彼は素早く拾い上げ、今度は今来た方角へと全力疾走で引き返して行った。


『怪物達』の戦いの場へと。
683 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/30(金) 00:13:39.56 ID:Er8WMZso
御坂の魔弾。
ステイルの業火と、イフリートに影響された屈指の体術から繰り出される炎剣。

そしてその間を縫って突き立てられてくる一方通行の黒い杭。


フィアンマは『出口』を見出せぬまま、この敵意の嵐をとにかく退け続けていた。


そんな中。


フィアンマ「―――」


ふと気付いた。

近くにいる上条当麻が、この攻撃には加わらずに黙って彼を見ていたのを。


インデックスを抱きフィアンマに背を向けつつも、横目で彼を『眺めて』いた上条当麻。


その瞳には恐怖も怒りも篭っていなかった。


『何』も篭っていなかった。



フィアンマ「(―――見るな)」



冷たく無感情な瞳。
それでいながら、それを見た者には得体の知れない『強烈な悪寒』が襲い掛かってくる。


『知る者』なら上条のこの瞳を見てこう思っただろう。




フィアンマ「(―――そんな目で俺様を見るな―――)」




まるで 『バージルの目だ』 と。
684 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/30(金) 00:15:24.66 ID:Er8WMZso
その時。


突如フィアンマに向かって来ていた攻撃が止む。

御坂もステイルもピタッととまり、黙ったままフィアンマを見据えていた。


フィアンマ「―――……なに……?」


状況が掴めず、警戒しつつ周囲を見渡すフィアンマ。
何をする気だ 何を企んでいる と。

と、そんな彼に向けて。


一方『―――オィ!!!!!!!』


響き渡る一方通行の声。

フィアンマは即座にその声の方に振り返った。

見ると、一方通行は彼から50m程の場所に立っていた。

先まではもっと近くにいたはずだ。
そして彼の隣には、不敵な笑みを浮かべるサングラスをかけた金髪の少年が立っていた。


なぜ一方通行が距離を置いているのか。


そうフィアンマが瞬時に思索を巡らせようとしたが。


そんな思考などすぐに止まってしまった。


見てしまったのだ。


一方通行の右手に―――。



フィアンマ「―――」



―――『遠隔制御霊装』が握られていたのを。
685 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/30(金) 00:23:06.05 ID:Er8WMZso
フィアンマ「―――やめろ」


なぜ攻撃の手が止んだのか などはもうどうでも良くなった。


何も考えれない。


フィアンマの思考が完全に停止する。




一方『―――こィつが欲しいンだろ?』



一方通行は『漆黒の右手』を顔の前に掲げた。
その手の中にある金属の塊を強調するかのように。




一方『―――ざァンねン。このオモチャは没収だ―――』





フィアンマ「―――よせ―――」




『身を守る』という事も忘れ、フィアンマは一気に『聖なる右』を一方通行に向けて伸ばした。

その瞬間、彼は『手元』から『聖なる右』の『盾』を失う。


だが思考が定まらない彼は、最早そんな事を考える余裕など無かった。


そして。


そんな『代償』の上で伸びて行った巨大な腕も。



間に合わなかった。
686 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/30(金) 00:25:49.14 ID:Er8WMZso
一方通行は右手を一気に握り込む。


渾身の力を篭めて。




一方『―――ハッ。良い「ツラ」してンじゃねェか―――』



『遠隔制御霊装』が軋み。



そして―――。





フィアンマ「―――やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」





歪み、弾け―――。





一方『―――カマ野郎ォ―――』





―――砕け散る。
687 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/30(金) 00:28:08.34 ID:Er8WMZso
砕け散った『遠隔制御霊装』。

細かな金属のチリがダイヤモンドダストの様に舞う。



フィアンマ「―――………………な……ん……」


呆然とするフィアンマ。

目を大きく見開き、口を半開きにしながら。


彼の精神状態を現すかのように、
伸びていきつつあった『聖なる右』も力なくうな垂れる。

芯が無くなったかのように。

そして戻らなかった。


フィアンマの下には。


上条『なあ―――』


そんな彼に向けて、近くにいた上条が遂に口を開く。


静かに。ゆっくりと。


右手でインデックスを抱きつつ、左手で腰から黒い拳銃を引き抜き―――。




―――半身振り返り、銀の光が迸っているその銃口をフィアンマに向けながら。
688 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/30(金) 00:31:25.40 ID:Er8WMZso
上条『言葉がでねえだろ。わかるぜ―――』


上条はゆっくりと言葉を続けた。

まるでフィアンマの心の中を覗き見ていたかのように。


彼の心理状況を全て把握しているかのように。



上条『そういう時はな―――』



徐々に絞られる引き金―――。



上条『こう言うんだ―――』



そして放たれる―――。







上条『―――――――――「不幸だ」   ってよ』






―――『白銀』の魔弾。
689 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 00:32:21.89 ID:GMLl5uYo
フィアンマ「不幸だあああああああああああああああああああああ」
690 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 00:33:18.20 ID:mc04pAg0
こんなかっこいい「不幸だ」って台詞が他にあるだろうか
いやない
691 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/30(金) 00:33:39.31 ID:Er8WMZso
フィアンマ「――――――…………『不幸』 か」



上条の発した言葉を、放心状態のままポツリと口にするフィアンマ。


今まで、絶大な『奇跡と幸運』に守られ続けてきた彼が初めて発したその言葉。



次の瞬間、『光の矢』が彼をぶち抜いた。




―――『胸』を。




いや、『ぶち抜いた』のではない―――。




―――彼の上半身を『吹き飛ばした』。




続けて御坂の魔弾とステイルの業火も解き放たれ―――。




―――残った下半身も一瞬にして消滅する。



光の中に。



跡形も無く―――。



―――
692 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 00:34:58.87 ID:Er8WMZso
今日はここまでです。
次は明日か土曜の夜中に。
693 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 00:35:32.51 ID:tg2UnRQo
フィアンマさん・・・(-人-)
694 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 00:36:20.36 ID:AXjBPPg0
やべぇかっけぇわ

そしてここの連中投下し始めたら一斉に黙るんだから、よく訓練された読者だわwww

と言いたかったがそうでもなかった

とりあえず乙!!
695 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 00:55:50.03 ID:AEo1Saoo
乙!
696 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 01:02:13.01 ID:.2Y9LpQ0
乙乙!
次回も楽しみにしてる!
697 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 01:06:05.99 ID:GMLl5uYo
今日も僕らの土御門さんはカッコよかった
698 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 01:06:11.20 ID:ReaKsyA0
フィアンマ敗退じゃなく死亡か……乙っした!
699 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 01:16:45.53 ID:.9izLTwo
遠隔制御霊装が壊れてもインデックスには影響ないの?
700 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 01:22:12.99 ID:GMLl5uYo
ババアのとこにもう一個あるんじゃなかったっけ?
それにあれはあくまでリモコンみたいなもんだから本体であるインデックス自身が無事なら問題ないんだろ
701 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/30(金) 01:32:35.44 ID:1woMAUQ0
おつです
702 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/30(金) 02:04:06.86 ID:zaSMGFw0
ちょっと上条さんカッコよすぎてやべぇ
703 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/30(金) 02:26:07.44 ID:knHQKLc0
乙!

そして抜群の安定感
704 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 11:21:49.75 ID:/mCT.8go
フィアンマ散る・・・
まぁ本当に散ったか分からんがな


これでバージルの計画に支障をきたしたか・・・?
705 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 11:38:28.53 ID:.9izLTwo
良く考えたら一方さんだけ生身なのか
半端ないな
706 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/30(金) 12:04:48.75 ID:zaSMGFw0
魔女側の動きもきになるところだ
神袈と五和の安否も
707 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 12:30:31.07 ID:.qRUEMDO
>>705
だんだん生身減ってるけどな…
708 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/30(金) 14:37:42.26 ID:B/iNjZ20
乙っした

>>705
少なくとも両手の肘から先は異形に変貌しますたwwwwww
709 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 17:32:45.39 ID:yt/816U0
1週間後、そこには鋼鉄製の義手を付け、
相手の殺気で射線を読み取り弾丸を弾く一方さんが…
いや、貧弱だから無理か、鋼鉄の義手
710 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 18:10:53.23 ID:o7FEQ.DO
本編はリアルタイムで見てたが、まだ続きがあった……だと?
711 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 19:37:33.23 ID:RLs3mUYo
>>709
イージスかよww
712 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 20:18:48.00 ID:Hp4ktDIo
義手にジャミング機能付いてたりしてな
713 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 23:29:23.21 ID:k8L/CUDO
なんか一段落的な空気になってるけど…
現在進行形でエラい事になってんだよな…
魔人化状態でフルパワーでリベリオンと閻魔刀でぶちかましあったら…
714 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 00:56:41.26 ID:1yah3ks0
結構前のほうでDMC事務所に神の右席の人間が喧嘩売ってきたって文章があったはずだけどあれは
フィアンマだったのだろうか
715 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 00:57:53.65 ID:4V6DzhQo
あれはおまけってか番外編みたいなもんだったと記憶してるが
716 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 01:05:05.87 ID:RcE/7bEo
                                           __          , - 、      _,、_
                                         └一 、 ̄L__,、   〈  }r─‐冖'ィ^´
                                             L.r‐- 、_  ` ̄` `ア^  {フ }
       , -─- 、                                         , -=マ      、_ |
.       /.::/ ̄`ヽ.:ヽ.                                     //^}::::}      \`´        _
     l:::::}    _ 、::.、             __                    //   ,'.::,' . : :      ` ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    ̄>
     l:::/  // ',:::',        _  /.::::}     _                _/.:/    /.::/. : : :                   /
     |/   /.::/.   ',:::',         /.} //}::/      /.::} /}      _, - '7.:/  . ://  /  . :             {
          /.::/     ',:::}        し' {:レ'/      /.:://.:::,′__ _, - '´  /.:/ . : : : :´ _  {  :/. : _            ノ
.         /.::/     }::レ'^V^l /| _ |::/      /.:,:〃..:/ /.::}´__ ,ィ  /.:/. : : : : : /.:::::} 」 /}  { \         /
       _/.::/       ノ.:{::::ソ.:::レ',::レ'::}_ノ:{__,   /.:/.::/}::{_/.〃::レ'.::レ'.::{_ {::: {___/:/^}::レ'::レ'.:::L,  }   、     , -‐′
   __/.:::::`'ー─‐::"´_.:::〔/,イ:::/ `^}:::/{::::ノ _//{:/ .L:ィ::/L.ィ/}::7 : 、:::::::::::::::/  l_/L/}::71 j    ',  /
  ` ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄´ ` ̄ `´   `´ `´  ̄/ ̄´   ア⌒´   /:/   ` ̄ ̄´     }  /:/ } {    } /
    デ ビ ル   メ イ   ク ラ イ/      _/     /:/           ノ /:/ | \_  レ'′
                        /    _/        〈:/              `¨〈:/   ` ̄¨´
                         ̄ ̄
717 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 11:22:33.17 ID:VVceyYDO
>>716
1ロゴかと思ったらアニメか
718 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 15:22:27.92 ID:3Kg1PYDO
ここまでインデックスがヒロインな話があるだろうか…そういう目線から見てもこの話は貴重だわ
719 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:02:13.89 ID:Oe4qCTMo
―――


ダンテとバージルの衝突は徐々に激しさを増していく。

双方の怒号染みた掛け声。
それに続くリベリオンと閻魔刀の激突。


そして飛び散る閃光の雨と、
吹き荒れる何十にも重なった『光の衝撃波』の渦。


絡みぶつかり合う赤と青の『光の舞』。


それだけを見れば、
まるでこれ以上無い程に美しい『アート』だろう。


大地を叩き割り、大気を切り裂き、何もかもを粉砕していく『破壊』に目を瞑れば だが。

魔人化したスパーダの息子達の壮絶な刃の打ち合い。



その速度もパワーも何もかもが超越していた。



『普通』の『神々』では到底踏み入ることが出来ない領域だ。
720 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:04:00.54 ID:Oe4qCTMo
ダンテとバージルの刃は『神クラス』を易々と叩き切って来た代物。
それどころか、『神』から見て『神クラス』である魔帝をも打ち砕いたレベルだ。


その『力』は扱いを一歩間違えると、
それはそれはとんでもない破壊を振りまく恐ろしいほどに危険な物。


二人が立て続けに振るう、無数の剣撃の一つ一つが高濃度に圧縮された莫大な『力の塊』。

これがもし一つでも『拡散』してしまえば、
学園都市は230万の命と共に『終焉』を迎える事になるだろう。
そして連鎖的に『界』が壊れていく。


以前ネロが鏡の世界で行ったあの『破壊』が、今度は表の世界に吹き荒れる事になるのだ。


まあ、ダンテとバージルは『拡散』させてしまうような安易なミスなど犯すことは無いが。
というか『大悪魔』にとっての力の『圧縮』は、人間にしてみれば『息をする』というのと同じように当たり前の事。

あえて『拡散しよう』と意識しなければそうはならない。



ただ、『拡散』しなくとも。


『ソレ』が『存在』しているというだけで、
その場の『界』には凄まじい負荷をかけてしまうのも事実。

今の二人にとって『人間界』は小さすぎる。
721 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:05:20.53 ID:Oe4qCTMo
刃を弾きあうたびに、二人は徐々に『力』を強めていく。

いや、お互いが共鳴してしまい力を『引きずり出し合っている』と言った方が良いだろうか。
今のところは、二ヵ月半前に見せた魔帝戦時の『フルパワー』にはまだまだ程遠い。

だが確実に、じわじわとあの時のレベルに近付いていきつつある。

あの時の『隔離された異界』での戦いとは違い、今は『人間界』のど真ん中。



ダンテ『(―――)』



その『意味』は当然ダンテも把握していた。

このまま『力』を強めていけばどうなるかは。


こうして感情的になり、かなり久しぶりに表にも出てしまってるが、
『激情』に誘われるままその一線を越えるほどの『子供』でもない。


この『子供の部分』に、体が乗っ取られる程今の彼は『小さく』は無い。


ダンテ『(……)』


それにしても今の自分を突き動かしているこの『衝動』。


かつてテメンニグルの塔におけるバージルとの激闘の時と良く似ている。



『子供』だったあの頃の感覚だ。
722 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:06:50.99 ID:Oe4qCTMo
ダンテ『(―――はっは……懐かしいなコレ)』


刃を振るいながら、ダンテはふと頭の中で呟いた。

最初は激情に駆られ、こんな感覚に耽る余裕など無かったものの、
こうして思いっきりバージルと打ち合っていたら、
その『熱』が徐々に引いていったのだ。

いや、放出されたと言った方が良いか。

そして違う『想い』がじんわりと彼の中に広がっていく。


激突し震える刃。

そこから腕に伝わってくる振動。

そして奏でられる金属の響き。


彼は楽しかった。


普段の戦いの場での『心躍る』楽しさとはまた違う、『穏やかな』楽しさ。



ふと更に昔を思い出す。

それはまだ己が幼い頃。


まだ『手の届くところ』に父がいた頃。



ダンテ『(…………)』


バージルと共に、父に剣の修練をさせられていた頃―――をだ。
723 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:09:12.56 ID:Oe4qCTMo
腕から伝わってくる振動も、流れ込んでくる力も良く似ていた。

スパーダとバージル。

父と兄。


家族の剣だ。

家族の刃だ。


幼いあの頃も、テメンニグルの搭での戦いの際も、
当時はこんな風に『剣』を味わう余裕など無かった。

これも『大人』になったせいなのか。


心地よさの一方で、少し寂しくもあった。

『あの頃』と『今』の己の違いが浮き彫りになったのだ。

あの頃と比べて、色々な意味で成熟し強く大きくなりすぎた と。


力も。

精神も。


もう、あの頃のように無我夢中で刃を振り続ける事ができない と。


最早バージルが相手でも、剣に『全て』を乗せて振るう程に『身を焦がす』ことができない と。


こんな状況であるにも関らず、自分は結局落ち着いてしまった と。
724 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:10:13.28 ID:Oe4qCTMo
お互いの刃の力は壮絶だった。

だが『殺気』は皆無。


お互いとも、最早相手を『殺す気』では刃を振っていなかったのだ。

最初は噴き出した感情に突き動かされたものの、
その『燃料』は直ぐに底を突き、熱は急速に冷めていく。


『激情』を『殺気』に直結させるほど、彼らはもう若くは無かった。


もうそんなに幼くは無かった。


『大人』になってしまったのだ。



ダンテ『(バージル―――)』


弟は刃で問う。


ダンテ『(―――お前もだろ?)』


兄に向けて。



そしてそれに応えたかのように。


バージルはダンテのリベリオンを乱暴に大きく弾いた。


衝撃で二人は後方に跳ね、お互いとも距離を開け着地する。
725 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:12:33.02 ID:Oe4qCTMo
二人の距離は20m程。

その程度の距離など、今の二人にとっては『無い』に等しい。
だがお互いとも続けて攻撃しようとはしなかった。


感情が爆発したのは僅か一瞬。

兄弟が斬り合っていた時間は僅か10秒足らず。

無数の剣撃を超高速化で叩き込み合った壮絶な10秒間。

一瞬だけ露になった彼らの『子供の頃の感情』は、
その間に再び奥底へと沈んでいき。


『現在』に戻った今の二人。


ダンテ「………………ハッハ〜、懐かしいぜ」


魔人化を解き、地面に軽くリベリオンを突き立てながらヘラヘラと笑うダンテ。


ダンテ「そう思わねえか?」


バージル「……」


同じく魔人化を解いたバージル。
軽く閻魔刀を振り、ゆっくりと鞘に納めながら沈黙を返す。



ダンテ「まあ……アレだがな」



ダンテ「……俺らはもうそんな『トシ』じゃねえらしいな」
726 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:14:34.94 ID:Oe4qCTMo
ダンテは突き立てたリベリオンに気だるそうに寄りかかり、
緊張感の無い笑みを浮かべたまま言葉を続ける。


ダンテ「話そうぜ。少しよ」


バージル「…………話など無い」


ダンテ「ある。ワケを聞かせろ」


バージル「相変わらずだな」


ダンテはニヤけながら肩を竦める。
何が?『どの』点が? と言いたげに。



バージル「……お前は気付かないのか?」


ダンテ「だから聞いてんじゃねえか」


ダンテ「俺はお前みたいにオツムが良く出来てねえからな」



バージル「それは関係無い」



バージル「知らぬのならば知る『必要』など無いという事―――」


バージル「気付かぬのならば気付く『必要』は無いという事―――」



バージル「―――つまりこの『戦い』にはお前の『席』は無いという事だ」
727 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:16:16.11 ID:Oe4qCTMo
ダンテ「……何だソレ。こじ付けみてえなんだが」



バージル「違う。『スパーダの息子である』という事が何よりの証拠だ」



ダンテ「……あ?」


今一つ掴めないダンテが眉を顰め、抜けた声を漏らす。



バージル「―――俺達が『なぜ』双子なのか。わかるか?」




バージル「―――『なぜ』スパーダの血が二つに『分かれた』か」




バージル「―――俺達はスパーダのどの『部分』をそれぞれ受け継いだか」




ダンテ「さあな。俺らを運んで来たコウノトリの気まぐれだろ」
728 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:18:05.34 ID:Oe4qCTMo
そんなダンテの返しを聞き、フッと小さく笑うバージル。


ダンテ「…………?」


それには少しダンテも驚いてしまった。
何気なしに返したくだらない冗談半分の応え。

それを聞いてこの堅物が笑うとは。


まあ、バージルはその言葉に笑ったわけではなかったのだが。



バージル「―――そうだ。お前はそれでいい」



ダンテの『調子』に対して笑ったのだ。
それも可笑しいからではなく。

『何か』を再確認するように。



バージル「それが『お前』だ」



ダンテ「…………」



バージル「そのままお前は『お前の義務』を果たせ」



バージル「―――『俺』は『俺』でやる」



バージル「―――『コレ』は俺の『モノ』だ」
729 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:20:20.62 ID:Oe4qCTMo
バージルがダンテに対して使った『義務』と言う表現。


ダンテ「…………」


バージルは今己自身が行っていることも、
『義務』として捉えているのだろう。


『スパーダの息子』としての義務 だ。


その点についてはダンテは嬉しかった。

二ヶ月半前までとは違い、確かに今のバージルはダンテと『同じ側』にいるようだ。

ただ、そこまでは良いのだが。


ダンテ「…………」


『同じ側』どころか、一気にダンテよりも『遥か先』へと行ってしまったらしい。


余りにも『先』すぎて、
バージルが見出した『義務』が何なのかがダンテには見当が付かなかった。


そしてそこから彼がやろうとしている事も。


そして本人もそれをダンテに話す気は無いらしい。

その点についてはダンテも『同感』だが。

こういう『モノ』は誰かに聞いて知ることでは無い。


自分自身で見つけ気付かなければ意味が無い。



まあ、それ以前にバージルが話さないと決めたのなら何をしても無駄だ。
彼は例え死んでも話さないだろう。
730 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:21:41.67 ID:Oe4qCTMo
ダンテ「そうか……」


寄りかかっていたリベリオンから身を起こし、
両手を広げて軽く笑うダンテ。


ダンテ「わぁった。わぁったよ。聞かねえ」


半ば呆れがちに、そしてその一方で少し嬉しそうに。



ダンテ「良いぜ、俺は俺でやる」



そう、聞かなくて良い。
自分で進み見出してやる。



ダンテ「『見つけて』やるさ。『お前』をな」



バージルが『見ているモノ』を。


彼が立っている『場所』を。




ダンテ「必ずな」
731 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:25:20.95 ID:Oe4qCTMo
バージル「……」


無表情のままダンテを見据えながら、
バージルは沈黙を返す。


そんな彼の足元に浮かび上がる青い光の円。



ダンテ「で、『今の用』は済んだのか?」



バージル「『邪魔』が入ったからな」



ダンテ「ハッハ〜、そいつは苦労したな。兄貴を邪魔するとはそりゃあスゲェ奴に違いねえな。だろ?」


バージルが誰の事を言っているのかは当然わかる。

だがわざとらしくダンテは肩を竦め、
まるで 一体どこのどいつだ? とでも言いたげに大げさな顔。


と、そんな表情を浮かべてすぐに。


今度は無表情でバージルを睨み。



ダンテ「おい。これだけは言わせて貰うぜ」



ダンテ「お前に何が見えてんのかはまだわかんねえが―――」



ダンテ「―――この『やり方』だけは認めねえぜ」



ダンテ「―――『絶対』にだ」
732 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:26:25.37 ID:Oe4qCTMo
そう、この『やり方』だけは絶対に認めることが出来ない。

あの『人間のガキ達』を巻き込み、犠牲を強いるような手段など。

バージルの『見ている何か』がどれ程のものだろうと、それだけは許せない。


絶対に。


バージル「……『何も知らぬ』今のお前がどう思おうと関係ない」



バージル「口出しするな」



ダンテ「そうかい……じゃあ今度もう一回言わせて貰うぜ」



今の言葉が届かないのならば。



ダンテ「―――お前と同じ『場所』に立ってからな」


彼を『見つけて』、彼の横に立てば良い。

バージルは何も言わなかった。


無言のまま。

無表情のまま。

冷たい視線をダンテに突き刺しながら、青い円に沈んでいく。

そんな彼へ向けてダンテが最後に。



ダンテ「あ〜、もう一つだ。俺には『席』なんざいらねえよ―――」



ダンテ「―――観客『席』よりも『ステージ』に立った方が面白えだろ」
733 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:27:52.74 ID:Oe4qCTMo
そんなダンテに向けてバージルが冷ややかに一言。


バージル「……阿呆が」


その言葉を残して消えていった。


ダンテ「…………」


雨の中残されたダンテは、
ぼんやりと先程までバージルが立っていた場所をしばらく眺め。


ダンテ「…………ったくよ。お互い様だろ……」


ポツリと小さな声で呟いた。

そして何かを取り出そうと、
いそいそとコートのポケットに手を突っ込む。


その瞬間。


ダンテ「……」


彼は不機嫌そうに眉をピクリと動かし。


恐る恐る手をポケットの中から引き出す。

その手が握っていたのはウイスキーの小瓶の『首』だけ。



ダンテ「あ〜、クソ」



『下』は無かった。
734 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:29:18.78 ID:Oe4qCTMo
あれ程の戦いだ。

魔人化までした。


首の部分だけでも残っている事が奇跡だ。


ダンテ「……ツイてねえな今日は」


首を軽く傾げながら舌打ちをし、
瓶の残骸を指で弾くように放り投げ。



ダンテ「アラストル!!!!!」



今度は己の魔具の名を叫ぶ。


するとどこからともなく、銀色の魔剣が回転しながら飛んできて彼の足元に突き刺さった。


召喚によって『空間』から出現したのではなく、空を飛んできて だ。


ダンテとバージルの激突の衝撃波で、遠くへと吹っ飛ばされていたのだ。

ちなみに麦野は、赤毛の『チビ助』に連れられてトリッシュの所に戻っているだろう。
735 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:30:52.36 ID:Oe4qCTMo
         マ ス タ ー
アラストル『我が主よ、お呼びで?』


ダンテはリベリオンに寄りかかりながらアラストルを見下ろし。



ダンテ「お前、酒持ってねえか?」



先に聞くことが他にもあるだろうにも関らず。


アラストル『…………は…………いえ』



ダンテ「だろうな」



ダンテ「買ってこれるか?」



アラストル『……………………………命とあらば……』




ダンテ「ワインの大瓶だ。銘柄は何でも良い。金あるか?」




アラストル『……………………………………………………いえ』



ダンテ「だよな。冗談だ」



アラストル『…………………………』
736 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:33:44.10 ID:Oe4qCTMo
ダンテはあ〜っと腑抜けた声を漏らしながら、不機嫌そうに頭を掻く。

困惑しているアラストルなど全く気にも留めず。


雨に濡れた銀髪から雫が舞い落ちる。


彼は本当に不機嫌だった。


そもそもこの場に来ようとした一番最初の動機は、

胸が躍る『祭りの予感』ではなく、
胸がざわつく『トリッシュの悪寒』。


元々気乗りしていた『パーティ』ではない。


そしていざ来てみれば、今度は『閻魔刀の歓迎』だ。


それだけでも非常に面倒臭い事なのに、
バージルの様子を見る限りじゃこの『イベント』はまだまだこれからが本番のようだ。


『家族』が絡んでくるイベントは、ほぼ100%の確率で『ビッグ』になる。


確かに『刺激中毒』のダンテにとっては良い事だが。


面倒臭いのは丁寧にお断りしたい。


できれば何も考えずに暴れたいのものだが。


どうもこの『イベント』はそうすんなり行かせてはくれないようだ。
737 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:35:14.88 ID:Oe4qCTMo
ダンテ「……………………」


だがまあ、とりあえずの出だしは特に問題無い。

少々出遅れた感はあるが結果はまあまあ。


ダンテ「……まっ……」


どうやら知り合いの『ガキ共』は一人も死んでいない。
かなりの激戦だったようだが、あのガキ共の方が勝利したらしい。

上条やステイル、一方通行と御坂の匂いがする。

インデックスも健在のようだ。
(彼女については、今までとは違う少し『気になる』匂いが『混ざって』いるが)



そして何よりも。




トリッシュが生きている。




ダンテ「上々だ」



彼女に舞い降りていた『死神』は手を引いたらしい。


『相棒』の命は繋ぎ止めた。


今はそれだけで充分では無いか。


それだけで。
738 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:38:41.18 ID:Oe4qCTMo
ダンテ「…………あ〜……」

と、トリッシュの事を思った途端、彼はまた不機嫌そうに頭を掻き毟った。

これから会いにいかなければならないのだが、また小言を言われそうなのだ。
ここに来るのが遅れた点についてはトリッシュも攻めないだろう。


だが。


ダンテ「…………やっちまったぜ……」

さすがにこの魔人化状態での衝突は弁解しようが無い。

魔帝戦時のような、『全身全霊を賭けた本気の本気』では無いとは言え、
(というかあのレベルなら、少なくとも『余波』だけで学園都市は吹き飛んでいる)

かなりの負荷を人間界にかけてしまったのはダンテも肌で感じている。


当然、その事についてあれやこれや言われるだろう。

トリッシュが放つ言葉が簡単に予想できる。


わかってるの?何考えてるの?いえ、何も考えて無いでしょ? と。

最終的にお互いが退くなら、最初からやらなきゃいいでしょ と。

アナタ達って本当に馬鹿ね と。

ぶっ飛ばしあわなきゃわからないなんて猿以下じゃないの と。


ダンテ「……」


しかしまあ、確かに小うるさいが。



ダンテ「………………ま、悪くはねえな」



そんな小言を聞けるのも良いものだ。



―――
739 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:40:11.92 ID:Oe4qCTMo
―――


光が収まり。

吹き抜ける熱風。

周囲に降り注ぐ瓦礫。




そして『根元』の無い―――。



―――『聖なる右』。



巨大な腕は宙に浮いていた。


傷一つ無く。



だが根元の『主の体』は跡形も無くなっていた。



主を無くした『聖なる右』が宙で大きくしなる。


そして。


悲鳴にも似た耳鳴りのような音を発しながら、風に吹かれるようにかき消えていく。



少年と少女達は皆押し黙って見ていた。


その『終焉』を。


いつのまにか降り始めていた大粒の雨。

それが地面を打ち付ける音が響く中。
740 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:41:13.96 ID:Oe4qCTMo
ステイル『…………』


ステイルがゆっくりと歩を進めていく。
先ほどまでフィアンマが立っていた場所に。


そのすり鉢上に凹んだ地面。


ステイル『…………』


よくよく見ると生焼けの小さな肉片が散らばっていた。

それを確認して、ステイルは安堵の意が篭められた息を大きく吐く。



今度こそ完璧に『仕留めた』 と。



ステイルは顔を上げ、上条の方へと目をやり小さく頷いた。


インデックスを抱きかかえながら、上条も小さく頷き。


そして一方通行、土御門、御坂がそれぞれ視線を合わせ目で確認しあう。


戦いは終わった と。
741 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:42:27.85 ID:Oe4qCTMo
ステイルはその場に屈み、黙々とフィアンマの『残骸』を『回収』し始める。
ローマ正教、『神の右席』の『体』は情報の塊なのだ。

それが例え小さな肉片でも、イギリスに持ち帰り詳しく分析すれば様々な事がわかるだろう。


体力が限界に来ていた一方通行は、その場に乱暴に座り込みうな垂れ。

その隣で土御門は携帯を取り出し、どこかへと電話をかけようとしていた。


御坂は天を仰ぎ、雨粒のシャワーを浴びていた。
今だ抜けない戦闘の興奮で肩を揺らしながら。

まるでその熱を冷まそうとしているかのように。



そして上条は腰に拳銃を差し戻し。


穏やかな表情で腕の中の少女の顔を覗き込こみ。



左手で彼女のかき乱れた前髪を優しく整える。



瞳は未だに『赤く』光っているものの、
その奥には溢れんばかりの『人』としての愛情があった。
742 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 17:43:16.82 ID:Oe4qCTMo
上条『―――インデックス。大丈夫か?』


そして少女も上条の顔を見上げる。


禁書「―――……うん……私は平気なんだよ……」


華奢な手を彼の頬に伸ばし。


禁書「………………とうま」


微笑みながら、そのまま腕を彼の首に絡ませ。



禁書「―――おかえりなんだよ」



ギュッと抱きついた。
上条の頬に己の頬を摺り寄せるように。


そして上条もそれに応え。


優しく、それでいて強く抱きしめる。



上条『―――おう。ただいま』



強く。



強く―――。



―――
743 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 17:44:25.42 ID:Oe4qCTMo
とりあえず今はこの辺で。
次は今日の夜11時辺りか、明日の日中です。
744 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 17:46:37.83 ID:LWuS2.Mo
インデックスがヒロインしてるぅぅぅ!!
745 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 17:50:43.21 ID:1hysJ5M0
おおお…!乙!
みんなマジお疲れ
特に一番長期戦だった一方さん超お疲れ
746 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 17:51:58.39 ID:QQSRCmwo

とりあえずミッションクリアのリザルト画面だな
747 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 17:54:30.99 ID:2mpFsVcP
乙!
ここのインデックスは正ヒロインで嬉しい
>>745
妹達のこともたまには思い出してあげてください
748 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 18:08:43.40 ID:1Wy0LEc0


>>745
ついでにかなり無茶をしたエツァリも思い出してあげてください
749 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 18:10:47.16 ID:VVceyYDO
アニメ見てきたら進んでた
さて残りはサリーちゃんパパか
750 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 18:16:59.01 ID:1hysJ5M0
>>747-748
それをいうなら死にかけたトリねえさんを先に思い出すわ
751 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 23:07:29.51 ID:Oe4qCTMo
―――

降りしきる雨の中。

麦野は路上に止められた乗用車に寄りかかりながら立っていた。

どうやらあの『怪物』達の衝突も終わり、例の『現地』での戦いも終結したようだ。

ワンピースコートの胸元を裂かれ、隙間から艶やかな肌と下着が見えていたものの、
麦野は全く気にも留めていなかった。

そんな事など、この状況下ではどうでもいい。
ここにはそんな『目』で見てくる者もいないだろう と。


麦野「……本当に……大丈夫なの?」


雨に濡れた栗色の髪をかき上げながら、麦野は静かに口を開いた。


目の前の街頭に背を預け、地面に座っている右腕の無いトリッシュへ。


トリッシュ「……私?問題ないわよ」



トリッシュ「簡単に死ぬ『アナタ達』と違って『私達』は結構しぶといの」


小さく笑いながら、麦野へと言葉を返すトリッシュ。

752 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 23:11:30.63 ID:Oe4qCTMo
『問題ない』。

厳密に言うとそれは嘘になる。

確かに命はとりとめ、この傷で死ぬ心配は無いが。
欠損した右腕や胴の傷が再生する気配は一切無かった。

魔人化したバージルの刃による傷は、パックリと口を開いたまま。


まあ、それも仕方の無いことだ。

スパーダの一族や魔帝、それに比する頂点の存在達の力は余りにも規格外すぎる。

大悪魔といえど、その規格外の攻撃を受けてしまったら傷が永遠に癒えない事もある。
(それで生きているだけでも運が良い方なのだが)


例えばスパーダに片目を潰されたベオウルフ。
彼のその傷は2000年を擁しても癒える事は無かった。


当然、その圧倒的な力を身に受けてしまったトリッシュも同じだ。


腕が再生することはもうないかもしれない。

バージルから受けた『痛み』に絶え続ける人生になるかもしれない。


切断された右腕を繋ぐ というのも、そもそも肉が再生しないから不可能。
切断面同士が癒着しないのだ。


それに例えどうにかして繋ぐことができたとしても、指を動かせるかどうかすら怪しい。
形だけ繋げれても、それはただ『肉塊』をぶら下げているに過ぎない。


これは肉体の問題ではなく『魂』の問題。

『魂』の傷が癒えなければ腕は元には戻らないのだ。


決して。
753 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 23:13:16.03 ID:Oe4qCTMo
麦野「……ねえ。ところで今更だけどさ。アンタらって一体『何』なの?」


トリッシュ「…………あ〜……」


麦野は少し眉を顰め、右手の親指で真後ろを指しながら。


麦野「…………この子もアンタらと『同類』だろ?」


その麦野の指差した方向。

彼女が寄りかかっている乗用車の上。


トリッシュ「…………」


そこには赤毛の幼い少女が立っていた。


ルシアが。


両手に曲刀を握り締め、鋭い目つきで周囲を未だに警戒している。

ネロの『言い付け』を忠実に守っているのだ。

下の乗用車の後部座席にはルシアが横たわっている。
雨に当たらせないように、ルシアがドアを強引に外して彼女を中に入れたのだ。

そしてルシアはその上に立ち、キリエを今も守っている。

周囲に目を光らせて。
754 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 23:15:34.19 ID:Oe4qCTMo
トリッシュ「ふふ……」

そんなルシアの姿を見て、トリッシュは思わず小さく笑ってしまった。
まるで『番犬』ね と。


麦野「そうなんだろ?」


トリッシュ「あ、話は後よ。後で詳しく話してあげるから」


その時、トリッシュはふと横に顔を向けた。

麦野もつられてそちらの方へ視線を向けると。


トリッシュ「やっと来たわね」


麦野「―――」



その視線の先に人影が見えた。

道路の向こう。

雨と夜闇のカーテンの奥から。


ダラダラと歩き進んで来る、赤いコートを羽織った銀髪の白人大男。

ニヤニヤと舐め切ったような笑みを浮かべているダンテ。


右手にアラストルを携えて。




ダンテ「Hola!! Ladies!!」
755 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 23:18:31.85 ID:Oe4qCTMo
トリッシュ達とようやく合流したダンテ。


彼はコートの雫を払いながら、アラストルをアスファルトの地面に突き刺し。

麦野が寄りかかっていた乗用車のトランクの上にに飛び乗り、だらしなく座り込んだ。


大男が乗った衝撃で車体が大きく揺れ、
それで驚いたのか上に乗っていたルシアが反射的にダンテを睨む。

ダンテはルシアに対し 「おお」 と軽く手を挙げてくだけた謝罪の意。


トリッシュ「…………で、随分とやらかしたわね」


そんないつも通りの飄々としているダンテへ向け、低い声で言葉を飛ばすトリッシュ。


ダンテ「あ〜……」


そして彼女はまくし立てていく。


トリッシュ「本当にクレイジーねアナタ達。本当にイカれてるわよ」


トリッシュ「何やってるの?限度ってものを知らないのアナタ達は?」


トリッシュ「まともに決着つける気が無いのなら最初からやらなきゃいいでしょ」


トリッシュ「斬りあわなきゃ話できないの?野蛮人?猿なの?」


トリッシュ「誰がアナタの後片付けすると思ってるのかしら?ねえ?誰だと思ってる?」


トリッシュ「私よ私。わかる?この死にかけに更に仕事を押し付ける気?」



ダンテの予想通りに。
756 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 23:21:14.09 ID:Oe4qCTMo
そんな中、ダンテはニヤニヤといかにも面白そうな笑みを浮かべ始めた。

『いつも通り』のトリッシュの小言を聞いて。


トリッシュ「何?何がおかしいの?何が?」


ダンテ「ヘッヘッヘ……ナリの割には元気だな」


トリッシュ「ええ『おかげ様』で。死にぞこなったわよ」


ダンテ「へぇ。そいつは災難だな」



トリッシュ「あぁ゛〜〜〜〜〜…………イラつくわね」



ダンテ「良いじゃねえか。それが生きてるってもんだ」


トリッシュ「それはそれは有難い『ご指摘』ね。心に染み渡るわ」



ダンテ「お〜礼はいらねえぜ」
757 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 23:22:41.90 ID:Oe4qCTMo
トリッシュ「全く……」


ダンテ「なあ、話変わるけどよ」


ダンテは乗用車の車体を拳で軽く叩いた。


ダンテ「何でこの『お姫様』がここにいる?」


中に横たわっている、気を失っているキリエを指して。


トリッシュ「……向こうでも問題があったみたい。その子は何か術式を仕込まれたみたいね」


ダンテ「……『ココ』と関係あるか?」


トリッシュ「情報を整理してからじゃ確かな事は言えないけど『恐らく』 ね」



ダンテ「へぇ……」


トリッシュ「ま、とりあえず移動しましょ」
758 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 23:25:03.60 ID:Oe4qCTMo
ダンテ「だな」

勢い良く身を起こし、トランクから飛び降りるダンテ。

話を聞いていたルシアもひらりと舞い降り、
車の後部座席からキリエを丁寧に出して抱き上げた。


小さな少女が、
高身長のスタイルの良い女性を抱き上げているのは何ともおかしな光景だ。


麦野「……え?……は?」

その傍で、彼らを少し戸惑いながら麦野は見ていた。


ダンテとトリッシュの会話は全て英語だ。

頭の良い麦野もいくらかはわかるとはいえ、突然始まった早口のネイティブ英語の掛け合いは
さすがに聞き取れなかったのだ。


そんな彼女に向け。


ダンテ「行くぜ。ほら、コイツは『礼』だ。取っとけ」


ダンテが今度は流暢な日本語を発しながら、アラストルを地面から引き抜き彼女に投げつけた。


麦野「……?!……何?!」


戸惑いながらも右手でアラストルをキャッチする麦野。



ダンテ「何だ?いらねえのか?」




麦野「……いや……そうじゃなくて……へ?『礼』……って!?」
759 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 23:31:46.55 ID:Oe4qCTMo


ダンテ「見せてくれてんじゃねえか。中々『良いもん』持ってるぜベイビー」


ダンテはヒューっと軽く口笛を発し改めて指摘する。


麦野の『大きく開かれた』胸元を指差しながら。


ダンテ「俺を落としてえなら5年後くらいにもう一度試しな」


ダンテ「『負ける』自信あるぜへっへっへ」




麦野「―――ッッッッッ!!!!!!!!!」



そういう『目』に晒され、ようやく胸元を慌てて隠す麦野。


そんな彼女をルシアは不思議そうに見上げていた。

この人は何に慌てているのだろう? とでも言いたげな表情で。


慌てふためく麦野など尻目に、
ダンテは再びトリッシュの方へと目をやり。


ダンテ「おい」


トリッシュ「何?」


ダンテ「立てるか?」


トリッシュ「無理」


ダンテ「OK」


そして彼女をひょいっと抱き上げる。
760 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/07/31(土) 23:37:32.18 ID:Oe4qCTMo
ダンテ「……」

と、そこでダンテはふと動きを止める。

腕の中のトリッシュ。


思えば彼女を抱き上げるのは二度目だ。

それは10数年前の事だ。
あの時の彼女は、魔帝の攻撃を受けて今よりも酷い状態だった。


トリッシュ「何?」


ダンテ「なぁに。今日は懐かしい事をよく思い出す日だってな」


トリッシュ「そう……私、あの時よりも軽くなったでしょ?」


ダンテ「『腕一本分』くれえな」


トリッシュ「『ダイエット』したのよ」



ダンテ「命がけの『ダイエット』だな」



トリッシュ「ええ。もうこりごり」



ダンテ「だろうな。んな『ダイエット』はもうやらせねえよ」



トリッシュ「それは『ボスの命令』?」



ダンテ「ああ。『禁止』だ」



―――
761 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 23:38:27.87 ID:Oe4qCTMo
今日はここまでです。
次は明日か月曜の夜中に。
762 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 23:42:03.64 ID:Y9Ngg7Ao
おつ
これでひと段落か
763 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 23:44:13.60 ID:LWuS2.Mo
この後が大変そうだな・・・

紙状さんどーするんだ
764 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 23:46:14.77 ID:D0ge9wAO
乙!
これだけ投下したのに次回は明日か明後日だっつうんだから、作者の絶倫っぷりにはほんとに頭が下がるな。
765 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 00:09:14.87 ID:jLJsNJg0
>紙状さんどーするんだ
主人公格なのにペラペラやね
766 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 00:14:25.84 ID:AVVZMKk0
まさかの1日に2回投下乙です!!
本当に続きが気になる作品だ…
ところで、
>下の乗用車の後部座席には「ルシア」が横たわっている。
の「ルシア」→「キリエ」かな?
767 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 00:17:22.96 ID:ZB2MY4Mo
このSSの禁書さんはちゃんとヒロインやってていいね
原作と違って上条さんが「守りたい」って気持ちになる気がよく伝わってくるわ。
768 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 00:30:46.93 ID:bKTsyR.o
>>766
すみません
正にその通りです。

>>753の31行目を

『後部座席にはキリエが横たわっている』

に修正です。
769 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/01(日) 01:30:57.60 ID:5t5In3A0
おつおつ!(*´ω`)ゝ
770 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/01(日) 02:06:30.09 ID:iytlZyE0
むぎのん可愛いのう
アラストルは納得するのか、この待遇
771 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 02:46:26.92 ID:PYlGP.Mo
>>770
主の命とあらば・・・じゃね?
772 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/01(日) 11:20:05.41 ID:RdcAmLo0
なんかルシアが可愛いな
なかなか登場しずらくはあるけど
773 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 13:32:33.94 ID:FguY7DQo
>>770
カミナリボーイ的には後で日記に書いておくだろうな、3ページくらい
774 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 16:57:43.73 ID:ZkYkeaIo
書くの早い上におもしろすぎる、すごい>>1
775 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/01(日) 23:37:27.92 ID:bKTsyR.o
―――


御坂「………………」


御坂は雨の中、
上条とインデックスをぼんやりと眺めていた。


固く抱きしめあっている二人。


御坂「…………」


確かに、自分が割り込む余地の無い『絆』を見せ付けられて悔しくないわけが無い。


あの腕の中にいるのが自分なら―――と。


そんな『夢』のような『もしも』を考えないわけも無い。


だがそんな『幻想』など。


そんな『幻想』なんか、
今の御坂にとってはもう何も『価値』が無い。

もう覚悟はしてある。


この『幻想』と決別する覚悟は。


その上で彼女は今、ここに立っているのだ。
776 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/01(日) 23:39:27.84 ID:bKTsyR.o
上条の為に戦うと決めた。


全身全霊を賭けて、彼が守ろうとする存在を自分も守ると決めたこの道。

淡い胸のざわめきはあっても、迷いと後悔は無い。

あの二人の姿を、あの上条の穏やかな表情を守れたという『現実』で充分。


御坂は『上条』の事を愛している。


彼の『何もかも』を。


『上条当麻』という人物の『全て』に惚れている。

上条の『あの想い』は自分には向いていない。

だがそれも御坂が愛する上条の大事な『一面』。

御坂にとって、かけがえの無い『宝物』の一つ。


誰かを愛する上条の姿はなんて素晴らしいものか。


あの瞳。

あのしぐさ。

あの表情。


何もかもが、御坂にとってこれ以上無い『芸術品』だった。
彼女の恋心は更に強くなっていく。

何重にも更に、更に惚れ直してしまう。
777 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/01(日) 23:43:09.76 ID:bKTsyR.o
そして、彼がその『心』を表に出しているという事が何よりも嬉しかった。


御坂は思う。


やっとアンタにも『その場所』が見つかったんだね と。



彼の中に潜んでいる、憎しみと怒りの『怪物』。

『虐殺』に快感してしまう『化物』。


上条は一度それに負けてしまい、
戦意を無くした者を引き千切り、血で喉を潤し、そして御坂にまで手を出そうとした。


悪魔を殺すことにさえ、一定の良心の呵責を感じてしまうほどの『善人』の彼にとって、
それはどれ程の苦しみだったろうか。


味方は当然、敵をも生かそうとする彼にとってどれ程の痛みだったろうか。


どれ程の自己嫌悪を抱いてしまっていただろうか。


現在の彼がいるのは殺し殺されの壮絶な『現実』。

今まで通りのやり方では、生きていくことが出来ない。

今まで通りのやり方では、守りたい存在を守りきれない。


そこは容赦と慈悲が許されない苛烈な世界。


その中では、彼が嫌悪するその『怪物』の力を借りないと何もできない。


そんな彼をどれ程の苦悩と重圧が苛んでいることか。
778 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/01(日) 23:46:16.09 ID:bKTsyR.o


だから御坂は思うのだ。



当麻にも一つくらい拠り所があってもいいじゃないの と。


鈍感な当麻がやっと自分で見つけた『楽園』なんだから と。


羽を伸ばし、その苦痛を忘れることが出来る『場所』があってもいいじゃないのよ と。


当麻は、今まで何もかもを一人で背負い戦ってきたんだから と。



そして。


私は当麻のそのたった一つの『楽園』を絶対に守る と。


当麻が守ろうとする存在、彼のその心、そしてその魂を守る と。


当麻の後で、当麻の隣で、当麻の下で私も戦う。



命を賭けて―――と。
779 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/01(日) 23:48:00.09 ID:bKTsyR.o

一方「…………あァー……」

雨の中、一方通行はあぐらをかき、ぼんやりと宙を眺めていた。

反射膜が雨を退けていた為、彼は『雨水では』全く濡れていない。


雨水では だ。


代わりといってはアレだが、彼は自分自身の『赤い液体』で濡れていた。

額から頬へと伝う、真紅の液体があご先から滴り落ち。


肘から先が無くなっている上着は、ぼろきれの様になり赤い染みが方々にある。


見た目は正に『血まみれ』。


反射膜を簡単にブチ破ってくる、規格外の攻撃が飛び交う中で戦い続けたのだ。

そりゃあ無傷なわけが無い。


こうして意識を失わずにいられる『程度』で済んだのが奇跡的な程だ。


だが、見た目の凄惨さに反して実際の傷はそう酷くなかった。

簡単に能力で自己診断したが、大きな傷は無い。
いくつか縫わなければならない『程度』の裂傷はあるが。



一方「……」


当然、チョーカーのスイッチはまだ入れたまま。

バッテリー残量はもう三分の一。

自己診断も終えたことだし、さっさと切るべきなのだろうが。
780 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/01(日) 23:50:09.28 ID:bKTsyR.o
一方「…………」


ゆっくりと己の両手に目を落とす。

黒い噴射物で形成されている『義手』。

演算は必要とせず、
ただ『手がある』と意識しているだけで存在している妙な腕。


チョーカーのスイッチを切るとどうなるのか。

もしかして己の気付かないところでミサカネットワークが演算しているのか。

そうだとしたらスイッチを切った途端に、
この義手はあのザラついた粗悪な噴射物に戻だろう。


では、そうではなかったら。



一方「…………」


さすがに何が起こるかわからない。

腕はそのままなのか、それとも何かしらの現象が起こるのだろうか。

何もかもが未知だ。
元々あの黒い噴射物自体の正体も知らないのだ。


フィアンマはコレが何なのかを知っていたらしいが、
最早聞くこともできない。
781 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/01(日) 23:52:13.35 ID:bKTsyR.o
一方「(……試してみるしかねェか……)」


やはりそれしかない。

このままバッテリーを無駄に消費するわけにも行かない。


一方通行はチョーカーのスイッチの部分を持ち上げ、口に咥えた。
腕がなくなった場合、万が一に備え即再びスイッチを入れることができるようにだ。


腕が消えるンなら、別の方法で起動できるよォに改造する必要があンな とぼんやり思いつつ。


チョーカーのスイッチを起用に歯と舌でオフに。


反射膜を失い、大粒の雫が彼の体を一気に濡らしていく。
補助を失いずしりと重くなる体。


そして。


一方「…………」



消えない『漆黒の義手』。



彼の肘から先の義手は、何一つ変わらずそのままだった。


何一つ。
782 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/01(日) 23:56:11.93 ID:bKTsyR.o
一方「(そォか……)」


どうやらこの腕は、ミサカネットワークとは全く関係が無いらしい。
とりあえずそれは良いことだ。

妹達や打ち止めに、更なる負荷をかけてはいなかったということだ。


試しに目の前の大きめのコンクリ片を左手で拾い上げてみる。

直径は30cm程、重さは10kgはあるかもしれない。
生身なら、その大きさ故に片手で掴み上げることすらまず難しいが。


漆黒の義手は羽でも掴み上げたかのように、
全く重量を感じさせずに持ち上げた。


一方「……」


どうやらあの凄まじい力は今だ健在。

このコンクリ片を音速の数十倍もの速度でぶん投げるのも余裕だろう。

まあ、チョーカーのスイッチを入れずにそんな事したら、
体の他の部分がついて行けずに弾け飛んでしまうかもだが。


一方通行の圧倒的な戦闘能力も、
そもそも能力による『目』と『処理』、そして肉体への『補助』があるからこそのもの。


それが無いと、手元にどんなに強力な『武器』があろうと使いこなせない。


能力無しの生身のままじゃ、普通の銃器を扱うだけで精一杯だ。
こんな得体の知れない戦略兵器級のモノを扱い切れるわけが無い。


足元が覚束無い幼児が、巨大なチェーンソウを持ち歩いているようなものだ。

有益どころか、注意しないと自分自身をも傷つけてしまう可能性がある。
783 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/01(日) 23:59:21.71 ID:bKTsyR.o
一方「(…………まァ、仕方ねェか)」


とはいえ、一方的な不利益では無いだけマシだ。

少なくとも能力使用時の戦闘能力は格段に向上する。

上手く扱えば、ミサカネットワークに負荷をかけてしまう
あの黒い杭も使わずに済むかもしれない。


一方「(…………待て……)」


と、そこで一方通行は突拍子も無い事を思いつく。


一方「(ドタマ潰されたら……どォなる?)」


頭が、つまり脳が破壊されたら。

腕と脳は構造がまるっきり違うが、この現象に既存の科学理論が当てはまらない。


義手と同じく、もしかしたら黒い噴射物で脳を代用できるのだろうか。

それができたら、ミサカネットワーク無しで能力が使えるのか。

脳の障害も治るのだろうか。



一方「ハッ…………」


そこで一方通行は小さく息を吐いて、思考を打ち切った。

何を馬鹿な事を とでも己に言いたげな呆れ笑いを浮かべ、
持っていたコンクリ片を捨てるように放り投げながら。
784 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/02(月) 00:02:37.87 ID:qjcog/Mo
そして顔を上げ、遠くの上条達へ向けて声を張り上げる。


一方「上条ォ!!!!!!!いつまで惚けてやがンだ!!!ガキが冷えンぞ!!!!!!!」


ステイル「僕も同感だ!!!!彼女を早く屋根のあるところに連れて行ってくれないか?!」



ステイル「そうしていられるとな、最高に『目障り』なんだ!!!」



クレーターの中心で肉片を拾っていたステイルも、
顔を上げぬままその一方通行の言葉に乗る。


上条「お、おう!!!!」


上条は苦笑いを浮かべ、少し焦りながらインデックスを抱き上げ立ち上がる。
その腕の中でインデックスは少し恥ずかしそうに俯いた。


一方「チッ……レールガン!!!!オマェもだ!!!!!!」


御坂「え……っ……あっ!!!!!!」


ボーっとしていた御坂もハッとしたように顔を上げ。

上条達の傍に駆け寄り、そのまま三人で足早にこの場を離れて行った。
785 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/02(月) 00:05:37.19 ID:qjcog/Mo
土御門「お前がそう、気を聞かせることができたとは少し驚きだぜい」


そんな一方通行に、隣に立っていた土御門が少しからかうように口を開いた。
話は済んだのか、携帯を懐に仕舞いこみながら。


一方「……結標か?」


通話の相手は土御門の口調から大体予想がつく。


土御門「ああ」


一方「……オマェら……もしかして全員でここに来やがったのか?」


土御門「まあな」


一方「……『仕事』はどォした?」


そう、この時間は土御門達は潮岸を襲撃している予定だ。


土御門「それは終わったぜよ。メルトダウナーが一発で全部吹き飛ばしやがった」


土御門「潮岸も死んでる。『多分』な」



一方「アァ?!何も聞かねェでか?!つーかなンで死亡確認してねェ!?」



土御門「そりゃあ、お前らが戦ってたからな。こっちの方が重要だぜよ」


土御門「いやーな予感してな。それで来てみりゃ案の定あの有様だ」



土御門「『いらねェ』とは言わせねえ。『俺ら』が来なきゃお前らオシマイだったんだぜい?」
786 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/02(月) 00:12:23.41 ID:qjcog/Mo
一方「…………チッ……」

否定しようが無い。
反論の余地無しだ。

それに、土御門達が彼を守ろうとするのも理にかなっている。
『反逆者達』にとって、彼は最大戦力でありながら重要な『ネタ』の一つでもあるのだ。


それに上条の件についても。

土御門と海原は、利益が無くともまず彼を支援しようとするだろう。


そして彼もそうする。

同じ時に打ち止めの危機でも無い限り、
彼はすぐに飛んでいくだろう。


だから反論できない。
土御門達の行動を責める事が出来ない。


一方「……で、海原とメルトダウナーはどこにいる?」


土御門「海原は結標が『回収』した」


一方「…………回収ゥ?」


土御門「バージルにやられたらしくてな」


一方「…………」

バージルの存在は気付いていた。
あんな強烈な存在に気付かないわけが無い。

なぜここにいたかは全くわからなかったが。
787 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/02(月) 00:14:06.59 ID:qjcog/Mo
土御門「結標は生死の判断がつかなかったみたいだ。『妙な状態』だったらしい」


一方「あァ?」


土御門「で、とりあえず『あの病院』にぶち込んできたとよ」


あの病院とは、『こういう件』に関係した者達が押し込められる、
二ヵ月半前にも使用された例の隔離された病院だ。


この時期に、『反逆者』があの病院に行くのは少し『アレ』なのだが。


一方通行「…………」


だがバージルにやられたというのなら、あの病院に入るしかない。

悪魔につけられた傷など、他の病院では処置できない。
裏社会のヤブ医者じゃ手もつけられない。


一方「メルトダウナーは?」


土御門「それがまだ確認が取れない」


一方「『アラストル』は?」


そう、問題はアラストルだ。
あれは重要な『切り札』。

『原子崩し』という力よりも『アラストル』の方が重要だ。
788 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/02(月) 00:19:18.00 ID:qjcog/Mo
土御門「それもまだ情報が無い」


一方「……チッ……」


土御門「話は後だ。お前は休む必要がある」


土御門「傷の手当もだ。検査も必要だろう?」


一方「…………」


確かに。
ここで頭を悩ませてもどうしようもない。


そして『精密検査』も必要だ。

海原がいるであろう『あの病院』で。



アレイスターの管理下である、あの施設で。



確かに簡単な自己診断は済ませたものの、
やはり脳の調子や、ミサカネットワークの状態は専用の設備が無いと確認できない。


その専用設備はあの病院にしかない。


そしてあの病院は今、アレイスターの権限の下に管理され隔離されている。


つまりあの病院に入るという事は、アレイスターの手の上に乗るという事。
789 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/02(月) 00:24:10.77 ID:qjcog/Mo
これだけの騒ぎの陰に隠れたとはいえ、
アレイスターは当然土御門達の『潮岸殺し』に気付いているはず。


あの者は確実に状況を把握しているだろう。


一方通行達が反逆している事ももう既に知っているはず。


一方「(……)」


だが、そうだからといってあの病院内で手を出してくるのも考えづらい。


あそこはある意味『中立地帯』だ。


上条もまずあそこに向かうだろう。
ダンテに預けられている事になっている上条は、一応今でも彼の管理下。

そして上条が学園都市に帰って来てるという事は、トリッシュもいるはず。
ならば当然彼女もあの病院に顔を出す。


この二人がいる間に、
アレイスターが強行的な手段をとるとは考えにくいのだ。

アレイスターもダンテ達を下手に刺激したくは無いはずだ。


一方「(……まァ……しばらくはイィな)」


少なくともあの二人がいる間は大丈夫だろう。


結標も、その点を把握して海原をあそこに運んだのかもしれない。
790 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/02(月) 00:28:18.08 ID:qjcog/Mo

土御門「さて……結標がそろそろ来るぜい」


と、土御門は一方通行の腕を掴み支えようとしたが。


一方「……触ンじゃねェ」


彼は漆黒の義手でその手を軽く弾いた。



土御門「杖も無いし立てないだろ」


一方「立たなくても運べンだろォが」


土御門「そう刺々しく言うな。お前のこと心配してるんだぜい?」


一方「『俺』じゃなくて俺の『能力と体』を だろォ?」



土御門「当然だ」



一方「まァまァ……思いやりのある『同志』を持って幸せだぜこンチクショウが」



土御門「だろ?」
791 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/02(月) 00:30:08.38 ID:qjcog/Mo

ステイル「……」


ステイルは黙々と一人でフィアンマの『遺体』回収作業を続けていた。
先程のインデックスの事について考えながら。


あの『髪の毛』。


そう、あの『髪』を使った攻撃。


見間違えるはずが無い。


あれはヴァチカンを襲ったあの『女』が使った力と同じだ。


そして最大主教ローラ=スチュアートも―――。



ステイル「……」





なぜインデックスがあの力を?


『アレ』は一体『何』なのだ?

792 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/02(月) 00:31:33.61 ID:qjcog/Mo
だがいくら頭を捻っても、ここで答えがでるはずもない。

とにかくまずは最大主教に話を聞かなければならない。


聞きたい事が山ほどある。


山ほど、腐るほどに。


ステイル「……」


とその時。


彼は手の平に載っている、フィアンマの『遺体』に妙な違和感を感じた。


『遺体』、といってもその大きさは1cmに満たない『肉の欠片』。
瓦礫の中から見つけ出すのは難しく、更にその数もかなり少ない。


大部分が蒸発してしまったのだろう。


見えるのを全部集めても、
片手で握りこめる程度の量しかない。
793 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/02(月) 00:33:24.01 ID:qjcog/Mo
ステイルの手の上にある、その小さな小さな肉片の集り。

彼は恐る恐るもう片方の手で、肉片の一つを摘み上げた。


と、その瞬間。


ステイル「―――」


肉片が突如『砕けた』。

灰の塊のようにいとも簡単にサクリと。
摘み上げる指の圧力にさえ負けて脆く。

そして手の平にある残りの肉片もボロボロと崩れ、風に吹かれるように散っていった。


ステイル「…………」


どうやら『証拠』は無くなってしまったらしい。

だがそんな事などどうでも言い。


それよりもだ。


問題は『なぜ肉片が崩壊したか』だ。

794 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/02(月) 00:34:30.30 ID:qjcog/Mo
ローマ正教の真の頂点、『神の右席』。

その力は謎に包まれており、ローマ正教の最高機密の塊だ。

そんな連中の体には、死ねば情報漏れを防ぐ為に崩壊するような、
何らかの安全装置があってもおかしくはない。

テッラの件があるが、あれは同じ神の右席のアックアが送りつけてきた物であり、
その安全装置を外していたかもしれない。

そう考えればこの現象は何も問題ないだろう。

だが。


ステイル「…………」


そうでなければどうだ?

安全装置など存在していなかったら?



―――この現象は一体何だ?



ステイル「…………クソ……」


妙に嫌な予感がする。
とてつもなく嫌な予感が。
こういうのに限ってよく当たるのだ。



ステイル「―――…………まさか…………な……」



この『悪魔の勘』は。


―――
795 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/02(月) 00:34:58.75 ID:qjcog/Mo
今日はここまでです。
次は明日か明後日の夜中に。
796 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/02(月) 00:35:55.86 ID:8CoDnH6o
おつ!!!

美琴さんせつねぇな
797 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/02(月) 00:47:11.65 ID:DTRAw520
乙乙!
肉片が崩壊した意味…何だろう?
次回も楽しみだ
798 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/02(月) 01:11:13.28 ID:9Hhdv32o

しかし予定じゃあとどんくらい続きそうなんだ
8月すぎそう?
799 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/02(月) 06:37:07.51 ID:p0YKEoDO
そういえばこれ3月7日(6日?)からずっとやってるんだよなwwwwすげぇwwwwwwあともう少しで5ヶ月だwwww
つか、作者さんはこの展開を一体いつから考えてたんだ?
800 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/02(月) 23:19:42.53 ID:qjcog/Mo
>>798
できれば禁書二期が始まる前、9月いっぱいで完全完結したいところですが、
どうなるかはわかりません。
まず8月は余裕で越えるかと。

今のところの予定だと、あと三編+ラストエピローグがあります。

>>799
本編を練っていた時期から、
断片的な「ああしたいこうしたい」というパーツはありました。

今の勃発・瓦解編も含め、完全完結までのおおまかなストーリーが完成したのは、
外伝の投下が終わった辺りだったかと思います。

ちなみに初投下日時はVIPでの2/27で、
本編の後のパラレルおまけが終わったのが3/7でした。


それと今日の投下はありません。
すみません。
801 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/03(火) 01:53:26.20 ID:hOPQF5wo
かなりの大長編になるなww楽しみだ
>>1はクオリティも書く速さも安定してるから安心して読める
802 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/03(火) 07:34:09.21 ID:pfkGaH20
プロットの錬度、文章力、そして投下ペースとサービス精神。
近年稀に見る良質SSです。応援してるから頑張って(´ω`)b
803 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/03(火) 08:32:16.18 ID:PPn1aRU0
どいつもこいつも覚悟が決まり過ぎてるwwwww
804 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/03(火) 19:31:05.24 ID:JcIRxwDO
>>800
9月いっぱいまでかー。予定とはいえ決まってるとそれはそれで寂しいぜ…頑張ってくれ
つか5ヶ月はとうに過ぎてたかww
805 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/03(火) 20:22:09.90 ID:WcTyxv.0
ちょっとくらい長いプロローグ
が終わった後の>>1の本気に惚れっぱなし
806 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:18:30.89 ID:spbZm.Io
―――

窓の無いビル。

アレイスターは水槽の中、ホログラムのモニターを見つめていた。

一連の騒動の経過報告が表示されている。


アレイスター「…………とりあえずは終わったか」


一時はどうなるかと思っていたが、どうやら『今』の事態は終息したようだ。


最悪の場合、後々に支障が出るのを承知で己が直に打って出て、
一方通行と幻想殺しを確保し保護するつもりだったが。


その必要は無くなった。

彼の体の隣に浮かんでいる、『ねじくれた銀の杖』を使うことも。



そして。



アレイスター「……」



この『肉体』の『能力』を使うことも―――。
807 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:20:23.31 ID:spbZm.Io
そして思わぬ収穫もあった。

『棚からぼた餅』とでも言うべきか。


一方通行が更に進化したのだ。


アレイスターのプランが要求する『存在』へともうあと一歩。


確かに彼は成長している。

アレイスターの望む方向へと。



アレイスター「……さてどうするか」



と、そう喜ぶ暇も無いのも確かだが。


今の問題は一応の解決を向かえたが、それは更に大きな問題の『始まり』だ。

今後の『道』の険しさを思うと、さすがのアレイスターもうんざりする。

いや、もう二ヵ月半前からうんざりしっぱなしなのだが
808 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:23:01.04 ID:spbZm.Io
アレイスター「……」


モニターに表示されている、今採取したばかりの『聖なる右』のデータ。


現物を観察し『実験』で理論を確認し、くまなく調べ上げた『幻想殺し』とは違う。

『聖なる右』についてアレイスターが持っているのは、不確かな『推測』のみだった。


だが、これでその推測が正しかったことが一応証明できるだろう。


アレイスター「……それにしても懐かしいな」


実はアレイスター、60年程前に『聖なる右』を一度目撃したことがある。


『当時』の『神の右席』が振るう、あの『腕』を。


いや、『目撃』どころではない。


実際に『戦った』。


忘れもしない。


あの禍々しくも美しいオレンジの光は―――。
809 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:24:55.54 ID:spbZm.Io
そもそも『聖なる右』とは何か?


これは 『能力』とは何なのか? というのにも強く関係している。


それと『能力と天界』の歴史にも。


これらは全て、これから始まる『争乱』に大きく関係して来るのだ。


天界の動きにも。

そしてアレイスターのプランにも。



まず『聖なる右』。


十字教においては『右方の力』、『大天使ミカエルの右手』とされている。


それは一応間違いでは無い。

だが厳密に言えば、『完全にその通り』とも言えない。

あの『巨大なトカゲのような腕』。

あれは元は『幻想殺し/竜王の顎』と一つだった存在。




今は亡き、当時の人々からは『竜王』と呼ばれていた存在の『右腕』。



天界によって滅ぼされた、人間界の『最上神』の『行使の手』だ。


そして。


彼ら『人間界の神々』の『魂』を破壊した『矛』でもある。
810 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:26:23.32 ID:spbZm.Io
『行使の手』は、今の世では『聖なる右』と呼ばれ、

十字教の間では

『悪魔の王を地獄の底へ縛り付け、1000年の安息を保障した右方の力』

と伝えられている。


これは後世の十字教側の人間達が勝手に解釈したものだが、
あながち間違ってはいない。


厳密に言えば、『竜王』は『悪魔』ではない。

『人間界の神々』と魔界の者達は全く別物だ。


だが、天界にとって『人間界の神々』は邪魔者であり敵。

その天界の下にいる十字教の人間達が、
『神の敵』である竜王を『悪魔の王』と表現したのもおかしいことでは無い。



『右方の力』というのも間違ってはいない。

『右方の力』というのは十字教の天使の一人、『ミカエル』の力を指す。


なぜミカエルの名が出てくるのか、
それは『人間界の神々』が滅ぶ経緯に関係している。


ある時、『ミカエル』は竜王に滅ぼされ『取り込まれて』しまう。


一見、それは『ただの敗北』だと思われた。


だがそれこそが『人間界の神々』の滅亡を決定付ける、

人間界の支配権を狙う『天界の罠』だった。
811 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:28:38.85 ID:spbZm.Io
ありとあらゆる『情報と力』を取り込み、
我が物とできる『竜王』の特性が仇となってしまったのだ。


その力の特性が現す通り、『竜王』の本質は底無しの『貪欲』さ。


『ミカエル』と融合したことにより、『竜王』はその自らの欲望を抑えきれなくなり。



何もかもを喰らい始めた。



同族である『人間界の神々』をも。


僕である、『人間界の天使達』をも。


『魂の還る場所』である、『人間界の力の根源』をも―――。



(魔界で例えるならば、正気を失った魔帝が配下の大悪魔達を次々と抹殺していくようなものだ)



そして『たった一人』の『神』となった竜王は最後に『己』をも喰らった。

己の『行使の手』で己の体を裂き、自らの魂をも噛み砕き破壊してしまった。


残ったのは『一塊』となった、『意志』を失った『純粋な力の集合体』と。

肉と魂を引き千切る『行使の手』と、噛み砕き飲み込む『顎』。


それだけだった。


『自らの力』と『欲望』での滅亡。



それが貪欲な『竜』の結末。
812 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:33:18.39 ID:spbZm.Io
その最後に残った、一塊になった『力』を天界は固く封印した。


『意志』を失った力の集合体は一切抵抗することなく、
人間界の奥底へと封じ込まれていった。


人間界の表世界に残ったのは、力の根源と切り離された人間達。


天界の者達は、彼らの『魂』を今度は『セフィロトの樹』によって天界と接続した。

これで天界による『人間の養殖』・『魂の搾取』の体制が完成し、
人々の『運命』は天界によって以後数千年間、操作し続けられる事となる。

これが『人間界の神々』が滅び、
人間界の支配権が天界に移ったおおまかな経緯だ。


つまり『行使の手』は竜王のものでありながら、
融合したミカエルのものでもある ということだ。


そして竜王に引導を渡したのもミカエル。


十字教側の視点からならば、

『大天使ミカエルは自己犠牲を持って、邪神共を地の底に叩き堕とし人類を解放した』といったところか。


『右方の力』であるミカエルが『悪魔の王』を滅ぼした という表現もある意味正しいのだ。



残った『行使の手』はその後、

ミカエルが宿っている『聖なる右』として、天界傘下の十字教の人間に託された。


『人間界の神々の力』に対抗する為の『強力な兵器』として。


というのも、この一連の出来事から発生する『副産物』は、
完全に取り除くことが不可能だったからだ。


これが今に残る『聖なる右』の歴史背景とそのおおまかな概要だ。
813 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:35:55.65 ID:spbZm.Io
ではその『副産物』とは?



それは『能力者』。



ここからは『能力と天界』の歴史だ。


天界の行った『人間界の力場』の封印は完璧では無かった。

いや、完璧というよりも完全に封印し切れなかったのだ。


例え意志が無い『純粋な力の集合体』でも、
その莫大な量からくる圧力だけで封印の殻を強く圧迫する。


そしてその力は徐々に、
ゆっくりと僅かずつだが確実に『表世界』に染み出してくる。


それらの『雫』が今日で言う『AIM拡散力場』であり、


そしてその力を扱える人間が『能力者』だ。


能力が発現するという事は、『人間界の力場』とも繋がること。

つまり、『セフィロトの樹』を経由した天界との『二股』の繋がりだ。


それはさまざまな障害をもたらす。

実質的に魂の接続が分割される為、
『セフィロトの樹』の支配権も弱まってしまう。


更に、その個体から溢れる『AIM拡散力場』は周囲の人間にも強い影響を及ぼす。


放って置くと連鎖的に『セフィロトの樹』が崩壊していく恐れもあるのだ。
814 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:38:34.21 ID:spbZm.Io

能力が強いほど、『AIM』が濃いほどに支配権は傾いていき、
そして『セフィロトの樹』から外れてしまい、


最終的に新たな『人間界の神・天使』となる場合もある。



だから天界は『能力者』を敵視し、
そして傘下の人間達に力を分け与え『魔術』として行使させたのだ。


その『努力』のおかげか、
『セフィロトの樹』から外れかかった個体は歴史上複数存在したものの、


『人間界の神・天使』にまで成長した個体は一体も現れることは無かった。


全て未然に防がれてきたのだ。



少しでも能力の素質がある者達は魔術師によって殲滅され。



『セフィロトの樹』から外れかかった、強大な力を有する個体には聖人を当て。



それでも処理できなかった場合は『神の右席』等が出た。
815 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:41:51.99 ID:spbZm.Io
絶対的に数が少ない能力者達には成す統べはなかった。

彼らは羊のように追い立てられ、そして徹底的に殺戮された。


100年に1人程度で強大な力を有する能力者、

今日では『レベル5クラスの原石』と言える者も稀に現れはしたが、


さすがに複数の聖人や『魔神』と呼ばれる程の魔術師、

更に『神の右席』達の総攻撃の前には斃れていくしかなかった。

そうやって天界の支配は長きに渡り保たれ続けてきた。


ほころび一つ無く。



『80年前』までは―――。



あの当時最強の魔術師が、当時最強の『原石』に出会うまでは。



1人の『男』と1人の『女』の運命が交差するまでは―――。
816 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:46:38.18 ID:spbZm.Io
アレイスター「……ふ……」


過去を思い出し、アレイスターは水槽の中で小さく笑った。


『聖なる右』の『出生』の秘密、その背後にある抹消された『歴史』。


そこから続く人間達の操作されている『運命』。


脅威とされ一方的に迫害され処分され続けた『能力者』達。


そしてアレイスターの出現。


遠い過去から今まで、そしてこれからの未来も全て繋がっている。
これは『一本の物語』なのだ。


アレイスターがその『物語の主要人物』となったのが『80年前』だ。


かなり昔の事だが、今でも昨日の事のように鮮明に覚えてる。


あの『20年間』の日々の事を。


今までの概念が全て崩れ、人間の『魂』を、『生死』すらも支配し操作する、
抗いようの無い巨大な『意志』に気付き。

真の歴史と天界の正体を知った驚愕の日々の事を。


そして60年前に勃発した、あの運命の『激戦』の日の事を―――。


その時に『聖なる右』も目撃した。


彼が最終的に『肉体を失ってしまう』原因となったあの戦いの場で―――。
817 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:50:01.91 ID:spbZm.Io

それはそれは壮絶な戦いだった。


アレイスターと彼と共に行動した当時最強の『原石』は、

その場にいた『神の右席』を省く全員を『殺した』。


天界の命の下、アレイスター達を『討伐』する為に
世界中から集められた1000人以上の精鋭の魔術師。


そして2人の『魔神』と5人の『聖人』。


それらで構成されていた連合部隊は、アレイスター達2人の手によって全滅した。


皆殺しだ。


その部隊の指揮官であった、当時の『神の右席』の『右方』を省いて。



だがアレイスター達も多くを失った。


共にしていた原石は『魂』を失い。


アレイスターは最期の最期で当時の『右方』と相打ちとなり、『肉体』を失った。
818 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:53:20.52 ID:spbZm.Io

失ったのは肉体だけでは無い。


彼はあの時何もかもを失った。

何もかもを吐き出し、捨て去った。

あの日あの場所に『アレイスター』という『人間性』は全て置いてきた。


本当の『喜び』も。

本当の『怒り』も。

本当の『悲しみ』も。


思い描いていた淡い『理想』も。


そして人間としての『愛情』も―――。


残ったのは、恐ろしいほどに冷たい『鋼鉄の信念』のみ。


それだけだった。


そしてあの瞬間から始まった。


アレイスターの『本当の戦い』が。
819 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/03(火) 23:56:39.25 ID:spbZm.Io
相打ちとなった当時の『右方』があの後どうなったかは、確かな事はわからない。

あのまま死んだか、それとも生き永らえたか。

だが十字教側には、あの場での戦闘詳細は残されていないところから見て、
当時の『右方』はあのまま息絶えたと考えてもいいだろう。


つまり生きてあの地を脱したのはアレイスターのみ。



あの場で『何』があったのか。

なぜあの『戦い』があったのか。

なぜ天界はそこまでしてアレイスターを抹殺しようとしたのか。


それらの理由どころか、そこまで大動員されたという記録すら一切残っていない。

残された歴史はただこう告げている。

理由は『アレイスターが突如魔術を捨て科学に寝返った為』。

戦いの経緯は『魔術師討伐組織が、アレイスターをイギリスの片田舎まで追い詰めた』 と。


それは正しくは無い。

真実では無い。

天界による『隠蔽』だ。

セフィロトの樹に繋がれた者達は疑いなく信じ込むだろうが、アレイスターだけは違う。


彼のみが闇に葬られたその『真実』を知っている。

唯一の生き証人であり、中心人物だった彼のみが。
820 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:00:29.19 ID:riXh1IQo

そしてその天界の『隠蔽』はあまりにも雑すぎた。

アレイスターを逃してしまった事が、彼らにとっての最大の失敗となったのだ。


あの『戦い』から天界による支配も大きく揺らぎ始めた。


『アレイスター生存』という最大の『イレギュラー』により。


あれから半世紀。


能力者と魔術師との『数の関係』は完全に崩れた。


人工的に創りだされた大勢の『能力者達』。


より濃くより広範囲に浸透していく『AIM拡散力場』。


『100年に1人程度しか現れない』というレベルの者をも、
この僅か10数年の間に複数体創りだし。


そして、その中の一人は『人間界の神・天使』にまでもう手が届きかけている。
821 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:02:45.72 ID:riXh1IQo

今回の戦闘は間違いなく天界の注目を集めた。


その『人間界の神・天使』に『近すぎる』人間も確実に目撃された。

戦闘の中で更に進化しその『存在』へと近付くのも。


今回の戦闘は決定的なものとなったはずだ。


ここまで来れば、あの鈍い天界の者達もようやく意識し始めるはず。



『学園都市は今すぐ破壊すべきだ』 と。



その張本人がアレイスター『本人』だという事がわかっていなくとも、
そして彼の真の目的に気付いていなくとも だ。


皮肉な事ではないか。


天界がアレイスターを恐れた理由は、
こうして別の形で、半世紀の時を越えて証明されたのだ。


天界の予想は的中していたのだ。


アレイスターという人間は、とんでもない脅威になるという予想が。
822 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:04:32.05 ID:riXh1IQo
人間界は今、大きく変わりつつある。

スパーダの一族・悪魔サイドと魔術・科学サイドの接触。

魔帝とジュベレウスの滅亡。

度重なる人間界への負荷はセフィロトの樹をも大きく歪ませ。


世界に浸透する人造悪魔兵器により、
天界が人間界に敷いた『平穏』は崩壊しつつあり。


今回の戦闘が例え無かったとしても、

今や天界も大々的に動かざるを得ない状況になりつつある。


これからが本番なのだ。


アレイスターにとっても。


そして天界にとっても―――だ。



天界は必ず動く。


必ず軍勢を『直接』人間界に降臨させて来る。
823 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:05:44.16 ID:riXh1IQo
この2000年間で、天界の軍勢が『直接』降臨するのはこれで二度目となる。


一度目は500年前。


『ルーベンの賢者』の『生き残り』が物理的に繋げた『穴』を通り、
大軍勢が降臨してきた。


アンブラの魔女達を滅ぼすべく。


そして今度の二度目の降臨目的は。


人間界に蔓延る人造悪魔達の『排除』と。


そして同じく彼らの『庭を荒らし』、
『脅威』となりつつある『学園都市』の『破壊』だ。



増えすぎた能力者の『殲滅』だ。



最早、傘下の魔術師達では手に負えないのは天界もわかっているだろう。


かの『軍勢』は必ず近い内に学園都市にも牙を向く。


かの者達は必ず『直接』手を下す。


500年前、アンブラの魔女達へと行ったように。
824 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:08:15.47 ID:riXh1IQo
アレイスター「…………」

あのアンブラの魔女達が絶滅に追い込まれたほどだ。

たった一日で都ごと、4000を越える魔女がこの世から消し去られたのだ。

天界の本気の侵攻を受ければ、
学園都市など10分経たずに人間界から『抹消』されるだろう。

レベル5が例え100人いようと、『かの軍勢』には到底歯が立たない。

攻撃が始まったら、学園都市は間違いなく滅ぶ。
大勢の『能力者』と共に。


アレイスターにとって、学園都市がどうなろうと知ったことでは無いのは確かだ。


だが、それはプランが成就した『後』の話だ。
プランが成就する『まで』は学園都市は存在していないとダメだ。

学園都市もプラン成功の為の重要な要素の一つ。
この能力者の街が作り出す『AIM拡散力場』も必要なのだ。


だから『成就』までは絶対に守り切らなければならない。


絶対に だ。


アレイスター「……」


プランが成就すれば、天界は人間界へ『介入』できなくなる。
その影響力も完全に失われる。

だからこそ、何としてでも天界の侵攻を未然に防ぎ回避するか、
そうでなくとも時間稼ぎしなければならない。


プラン成就までは。

決定的な『勝利』を収めるまでは何としてでも。
825 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:11:27.77 ID:riXh1IQo

今回、天界と人間界を繋げようとしていたのはフィアンマだ。


先程見たとおり、フィアンマは『滅んだ』。

『聖なる右』についてはアレイスターにとっても未知な部分が多い為、
何らかの方法で生き延びる術もあるかもしれない。

フィアンマは確実には滅んでいないかもしれない。

だが、これだけは言える。


あれだけの攻撃を受ければ、例え生きていようともしばらくは確実に再起不能だ。
『聖なる右』がいくら強大とはいえ、その器は所詮一介の『人間』。

たかが知れている。

まあ、その『しばらく』という期間が三日かそれとも10年なのかはわからないが。



しかし、その件については然したる問題でも無い。


死んでいようが生きていようが『今』は『関係ない』。


問題は、『フィアンマはアリウスと協力していた』 という事だ。


あの男、アリウスは協力者が『死んだ位』では絶対に諦めない。
826 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:17:38.48 ID:riXh1IQo
アレイスター「……」


アリウスは本物の『天才』だ。

アレイスターすら己とあの男の、どちらの頭脳が優れているかは判断がつかない。

恐ろしい程に頭のキレる者だ。


例えフィアンマが死んでいたとしても、絶対に動じない。
特に驚きもせず、鼻でせせら笑うだけだ。

そして彼の仕事を黙々と『代行』しようとするだろう。

確実に何らかの方法を使って、いずれ必ず成功させるはずだ。


だからフィアンマの生死は、この件については然したる問題は無いのだ。

彼が生きていようが死んでいようが、生きていて再起するのがいつだろうが、
天界と人間界は繋がり『かの軍勢』は必ず降臨するのだ。


アリウスの手によって だ。


アレイスター「…………」


明日にでも第三次世界大戦が勃発するだろう。

だがそんな『人間同士』の小競り合いなどこの問題に比べたら小さすぎる。

問題は人造悪魔兵器、そしてそれに触発されて降臨するこの天界の軍勢だ。

今回の件により、天界の軍勢は確実に学園都市を潰そうとする。


『かも』ではない。


『確実』にだ。

そして、それを手引きする役目を今担おうとしているのはアリウス。



アレイスター「……やはりあの男は潰さねばな……」
827 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:27:04.30 ID:riXh1IQo

一番の不穏因子は、バージルと彼の『未知の仲間(恐らくジュベレウスを屠った例の魔女?)』だが、
それはダンテに任せれば良い。

彼なら必ず何とかしてくれるだろう。

見ていた限り、彼の『参入』は確実だ。


禁書目録が先程使った力と、『原子崩し』が持っていたアラストルもかなり気になるが、
それらも後回しだ。


人間同士の戦闘も、理事会の老人共に任せて置けば良い。
こういう時に『雑用』を任せる為の連中だ。


ネックは人造悪魔兵器。


それらの参入は一週間後辺り。


というのも、今回の開戦はアリウス達にとっても予想外の早さだったのだろう、
人造悪魔兵器の各地への配備は今だ完了しきっていないのだ。

大々的に前線に投入され始めるのは、配備状況から見て恐らく一週間後。


それがデッドライン。


そのラインを過ぎたら、すぐさま天界の軍勢の降臨だ。
828 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:29:59.57 ID:riXh1IQo


アレイスター「やるしかないか……」


猶予は一週間。

その前にアレイスターも行動を起こさなければならない。

先手を打たなければならない。



アリウスはデュマーリ島に本拠を構えている。

あそこがウロボロス社の真の心臓部であり、
アリウスの野望の『舞台』でもあるのはアレイスターも知っている。


そこに『こちら』から乗り込んで行き。



デュマーリ島を破壊し尽くし。



アリウスの野望を妨害し叩き潰す。



そしてできるならば―――。



―――アリウスをも『殺す』。
829 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:31:38.31 ID:riXh1IQo
あの男が天界への口を開ける前に。


そして『覇王』を手に入れこちらが手を出せなくなる前に だ。


あの男は邪魔なのだ。


アレイスターのプランにとって。

その動機の根底にある、彼の信念と確実に相反するのだ。


あの者は『人類の敵』だ と。



恐らくネロも動く。


つい先程アリウスはフォルトゥナを襲撃したばかり。

かのスパーダの孫の逆鱗に触れていることだろう。



だが期待してはいけない。

スパーダの一族の行動はまるで予想が付かないのだ。


最初から、彼らがいないと考えた上で計画を練った方が良いのは確実だ。
830 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:34:47.97 ID:riXh1IQo

アレイスター「…………」


ではまず、具体的に『誰』をデュマーリ島へ送り込むか。

あの島の防御は確実に『鉄壁』だ。


幾重もの結界と魔界魔術が張り巡らされ、
島全体が人間界の理から外れている『魔境』と化していることだろう。


そして人造悪魔兵器はもちろん、本物の生粋の悪魔達も無数にいるはず。


そこを攻撃するなど、通常兵器を使用する既存の部隊では到底不可能。


アリウスを排除するどころか、一方的に叩きのめされ壊滅するのがオチだ。

通常の科学の産物では、どれ程強力な兵器だろうとダメージは全く負わせられない。

例え核兵器を使用したとしても、破壊できるのは物質的な構造物だけ。

『本質』である『魔』達には傷一つつかない。



『力』を破壊するには『力』をぶつける必要がある。



つまり。



『能力者』を送り込むしかない。


それもかなりの数を。
831 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:40:31.14 ID:riXh1IQo
アレイスター「…………」

能力者の『戦闘部隊』。

能力者が初めて『軍事作戦』に『大量動員』されるのだ。


『兵器』ではなく『兵士』として。


今までまともに軍事訓練を受けた能力者などいないが、『妹達』という例外がある。

彼女達と同じく、
あの島へと送り込む能力者達にも、戦闘での立ち回りを『学習装置』で刷り込めば問題無い。

更に能力データは揃っている為、有効かつ最適な能力の使い方もそれぞれ刷り込めば、
個体差はあるが戦闘能力も増強できる。


アレイスター「…………いけるな」


即座に思考を巡らし、動員可能な能力者達を脳内にリストアップしていく。


できれば暗部所属が好ましい。

そうでなくとも実戦経験がある事が絶対条件だ。

戦闘での立ち回り自体は『学習装置』で刷り込めば問題無いが、
精神的な強さはやはり生まれながらの『人間性』と、『実際の経験』でしか培われない。

腹が据わっていないと、どんなに能力が強くても『兵』としては使えない。


『心理掌握』に記憶と人格を変えさせるという手もあるが、
さすがに能力の構造にも関係してくると彼女すら手にあまり、そして時間がかかりすぎる。


次に能力の強度はレベル4以上が必須。
基本的にそれ以下だと使い物にならない。

レベル4であっても、それが戦場に不向きかどうかも考える必要がある。
832 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:45:16.92 ID:riXh1IQo
アレイスター「…………」


そうやって振るい分けていった結果、レベル4の該当者は102人。


次に、その部隊の核となるレベル5を選抜する必要がある。


戦闘に使えるのは4人。


『一方通行』、『超電磁砲』、『原子崩し』、『念動砲弾』。


更にここから選別していく。


まず『超電磁砲』。

彼女は少し心もとない。
確かに戦闘能力自体は高いが、精神的にまだまだ幼い。

これは『路地裏の殺し合い』とは全く違う。

レベル5は部隊の『核』となり、そして場合によっては『指揮官』となる必要もある。

『超電磁砲』にそれは不可能なのは目に見えている。

それに『幻想殺し』が動かない限り、あの少女はどこにも行こうとしないだろう。


わざわざ波を立てて無理やり送り込む必要は無い。

学園都市にも万が一の為の防御は必要だ。

彼女にはそれを担ってもらうべきだろう。
833 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:47:37.96 ID:riXh1IQo

次に『念動砲弾』。

戦闘能力は『超電磁砲』以上、強さならレベル5内で実質三番目。

だが思考に問題がありすぎる。

はっきり言うと馬鹿だ。

『超電磁砲』以上にその役目にはそぐわない。

彼も『超電磁砲』と同じく、学園都市の防御に徹してもらうべきだろう。





では『一方通行』は。

戦闘能力はもちろん、作戦能力や精神的な面でもパーフェクトだ。
彼なら確実に能力者達を率いる事ができる。


だが。


彼はアレイスターのプランにとって重要な因子だ。
わざわざ危険に送り込むなど持っての外。
当然、学園都市に置いておく。

それに彼には別にやってもらわなければならない『作業』がある。
834 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:52:46.93 ID:riXh1IQo

そして残るは『原子崩し』。


彼女こそ最適だ。

一方通行と同じく、あらゆる面で『兵士』としての土台は完成している。

後は『学習装置』で軍事知識を刷り込めば、
彼女は本物の軍人顔負けの者となるだろう。


それに厄介払いにもなる。


一方通行と同じく、彼女は反逆の首謀者の一人。


アラストルの件もあり、学園都市に残っていてもらっては不安すぎる。

出来ればアリウスに深手を負わせるかして、
あの島でとっとと死んで欲しいくらいだ。



と、これでとりあえずのトップは決まった。



合計103人。


おおまかな人選も完了だ。
835 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:56:24.17 ID:riXh1IQo
では能力者達をどうやって動かすか。

一部は暗部に所属しておらず、更にもう一部は『反逆者』だ。


だがそれは然したる問題ではない。


簡単だ。


引き換えとして、彼らが望むものを約束してやれば良い。

富が欲しいのなら富を。

自由が欲しいのなら自由を。

治療処置が欲しいのなら治療処置を。


また、望むものが例えなくとも。


学園都市の危機となれば動かざるを得ないだろう。

能力者にとって学園都市だけが唯一の生きる場所。

この街が無ければ彼らは生きてはいけない。


そしてそれ以上に。


この戦いの行方は、人類全体の命運をも左右するのだ。

これでも動かないのならば、その者は最早死んだも同然。

人間界にいる資格無し・生きている価値無しだ。

そんな者にはアレイスター自ら引導を渡してやっても良い。


これならば一方通行と原子崩しも協力せざるを得ないはずだ。


何せこの戦いに勝てば、彼らが望むもの全て手に入るのだから。
836 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 00:58:39.72 ID:riXh1IQo

と、ここまで練り上げたが。


アレイスター「…………足りんな」


まだだ。

まだ戦力不足だ。


アリウスに対抗するにはまだまだ戦力が必要だ。

この程度では、あの男の野望を妨害するどころか揺さぶることすら難しい。


レベル5が少なくとも『3人』はいなければ。

だが他のレベル5は送り込めない、もしくは使えない。



ではどうするか。


アレイスター「……仕方ない」




ならば『増やせ』ば良い。




あと『2人』ほど。



暫定的に『第八位』と『第九位』を。
837 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 01:01:10.54 ID:riXh1IQo
増やす、と言っても『本物』のレベル5を作るわけでは無い。

そう簡単に作れるのなら、アレイスターもこんなに苦労していない。


厳密に言うと『レベル5クラス』の『擬似的』なものだ。


少しだけ『手』を加えて、ミサカネットワークで演算補助すれば、
一時的にレベル5クラスの力が得られるだろう。

三日もあれば作業は終えられる。


だが誰でも良いと言うわけでは無い。

条件はレベル5に『限りなく近い』レベル4だ。


幸いにも、先程挙げたメンバーの中に『2人』ほどそんな者がいる。



二人とも『全て』が順調に成長していたら、
今頃正規のレベル5として名を連ねていてもおかしくない者達だ。



そして一人は例の反逆の首謀者の一人。

もう一人は別の首謀者の元部下。



そんなそれぞれの『関係』も上手く利用できるだろう。
838 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/04(水) 01:02:50.86 ID:riXh1IQo


アレイスター「…………これでいいか」

練り上げた計画を頭の中で二度ほど再確認。

問題は無い。

そのアレイスターの思考を『読み取り』、
ホログラムのモニターに概要が自動的に打ち込まれていく。


同時にぞれぞれの関係各所へ送信されていった。



ちなみに該当しなかった他のレベル5達。


脳しか残っていない第二位は言わずもがな。
また、彼はあの有様でも今後のプランの歯車のひとつだ。


第五位『心理掌握』は、
人間が相手なら強力だが悪魔相手では無力。

彼女にはいざという時の学園都市の『統制』を担ってもらう。



そして第六位は―――。



アレイスター「…………」



その『肉体』は―――。


―――
839 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 01:03:40.80 ID:riXh1IQo
今日はここまでです。
次は木曜か金曜の夜中に。
840 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 01:04:30.89 ID:pKG8sUYo
おつなんだよ!!
841 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 01:08:56.95 ID:l/YDT.Io
乙なんだよ!
ところですごいぱーんちの人・・・
842 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 01:12:59.76 ID:kH.qMAAo
アレイスター当初は御坂動かすのにゲコ太で釣るとか言ってたよなww

>条件はレベル5に『限りなく近い』レベル4だ
あわきんはわかるがあと一人は誰?
843 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 01:14:22.32 ID:pKG8sUYo
はまづらの嫁じゃね?
844 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 01:18:38.10 ID:kH.qMAAo
あーなるほどきっついな浜面
でも滝壺の能力って対能力者じゃなきゃ意味無くね?
身体能力もそんなでもなさそうだし
845 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 02:52:54.00 ID:CR7D6RAo


禁書原作を途中で脱落した自分にはどこまで公式に沿ってるか全くわからん
846 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 03:01:53.13 ID:/yanG6DO
>>845
ダンテが出てきた辺りからオリジナル展開じゃね
847 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 03:09:13.07 ID:CR7D6RAo
>>846
いやそらそうなんだが
アレイスターとか設定とかそこらへん
848 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 03:37:35.56 ID:kH.qMAAo
☆のプラン(笑)の内容とか目的とか正体とかはまだ原作でもわかってないしそこらへんもオリジナルだろ
それにしても原作で最強格であるはずのエイワスや風斬が空気だなww
849 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 11:26:26.81 ID:AOYNPMDO
>>844
強化するんだからなんか他の能力が加わるんじゃね?
850 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 17:49:58.29 ID:SX6N86Yo
てか俺は絹旗だと思ったんだが
851 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 18:44:39.45 ID:cWzGHeAo
ぐんは、酷い言われようだなww
まぁ事実だけど
852 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 20:46:30.30 ID:xbsYUIAO
戦闘要員としてだからモアイかな
853 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 22:26:28.66 ID:ea70GJI0
わざわざレベル5に近いって明言してるし原作でもそんな感じの設定がある滝壺じゃね?
854 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/04(水) 22:42:07.57 ID:31PVUX20
>>844
指揮云々言ってるし、常に味方の居場所探れるってだけで十分使えるような
855 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/05(木) 05:36:49.48 ID:XttocUAO
もしかしてアイテムのメンバー再会かな
856 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/05(木) 23:27:59.30 ID:9B4Ym420
久々に禁書原作読んだら滅茶苦茶違和感が・・・
>>1の考えがそれっぽ過ぎてwiki見てから見始めた感じ
何より戦いがすごく感じなくなった
スパーダ一家のせいで感覚が麻痺してやがる・・・
857 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/05(木) 23:34:25.12 ID:igpVckQo
今の原作も似たようなもんだろ
チートキャラばっか増えすぎて科学側のキャラとか霞んで見えるわ
858 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/05(木) 23:48:43.80 ID:vQoWRaQo
―――

20分後。

とある病院の一室。


その病室の中央に置いてあるベッドの上で、インデックスは小さな寝息を立てていた。
余程疲れていたのだろう、上条がインデックスをベッドに降ろして二分も経たない内に、
彼女は深い深いまどろみの中へ落ちて行った。


ベッドの傍に腰掛けている、上条の右手を固く握り締めながら。


上条「……」

そして上条はそんな彼女の寝顔をぼんやりと眺めていた。

彼も当然疲労困憊していたが、睡眠をとるつもりは無かった。
寝るよりもこうして彼女の顔を見ているほうが何だか癒されるのだ。


上条「……」

話したい事はたくさんある。

聞きたい事もたくさんある。


先程の戦いの場で何を見ていたのか と。

『聞いて』しまったのだろうか と。

彼女は一見能天気だが、実は頭が物凄く良い。

あのほんの僅かな、上条とステイルの会話からもすぐに導き出せるはずだ。


上条には『記憶』が無い事を。
859 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/05(木) 23:50:13.93 ID:vQoWRaQo
上条「……」

だがこの寝顔を見ていると、そんなことなどどうでも良くなってしまう。

そんな『些細』な話をする為に彼女の安眠を妨げるなど、
今の上条には到底出来なかった。


上条「……」

左手で彼女の額を優しく撫でる。
そしてそのまま体の方へとずらしていき、白い修道服にゆっくりと触れる。

修道服は所々ススで黒ずんでおり、また彼女の胸元には血の染みが付いていた。

インデックス曰く、これは彼女のではなく一方通行の血であるという。

上条「……」

ふといつもの癖で これ洗い落とすの難しそうだな と思い。
その一方で洗い流すということに少し気が引けてしまった。

一方通行がインデックスの『為』に流した血だ。

上条の代わりに流した『痛み』だ。

彼の『戦いの証』なのだ。


それを単なる『汚れ』として消すのはやはり忍びない。

いや、いつまでもこうしておくわけにはいかないので、
最終的に洗い流す事になるが。

今ぐらいは、この『証』が主張する声に耳を傾けていても良いだろう。


と、そんな事を考えていた時。


病室のドアが軽くノックされ、そしてゆっくりと開き。


ステイル「……やあ」


のそりと姿を現した赤毛の大男。
860 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/05(木) 23:51:52.68 ID:pZq/ZsDO
禁書「ハァ?聞こえませんなぁ!?」
861 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/05(木) 23:52:58.34 ID:vQoWRaQo

ステイル「彼女はどうだい?」


上条「ぐっすり熟睡だ。気持ち良さそうに寝てるよ」


ステイルはベッドの傍まで歩き進み、
そして少しだけインデックスの顔を覗き込み。


ステイル「……そうか」


すぐに面を上げて、今度は上条の顔を見据えた。


ステイル「話がある」


上条「……イギリスに運ぶのか?」


そう、彼女の体調を調べるにはイギリスに運ぶ必要がある。
なにせ魔術サイドの知識の結晶『禁書目録』。


科学サイドのこの学園都市で、
彼女の体をあれやこれや調べるのは色々と問題がありすぎるのだ。


様々な権限を持つさすがのステイルも、それだけは勝手に許可できない。

というかステイルは個人的にも、
彼女の詳細情報がアレイスターの手に渡るのは避けたいのだ。

例えイギリスが許可しようと、彼は最後までそれだけは拒もうとするだろう。
862 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/05(木) 23:54:27.24 ID:vQoWRaQo

上条「それならさっさと運ぼうぜ」

上条としては早くイギリスに運びたい。
彼女の容態をはっきりさせたいのだ。

それはステイルも同じだろう。

だが。


ステイル「…………いずれは……な」


ステイルから返ってきた言葉は曖昧なものだった。


上条「……は?」


ステイル「それとは別に、先にはっきりしておきたい事がある」


ステイル「『君』の事でな」


上条「……何だ?」




ステイル「君が今まで、あの『事務所』に行っていたのは何の為だ?」
863 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/05(木) 23:55:36.29 ID:vQoWRaQo
上条「……はい?何って……お、お前も知ってるだろ」

いきなりの『当たり前すぎる』質問に、
上条は戸惑いを隠せずに間の抜けた声を発する。


ステイル「言え」

だがステイルは顔色一つ変えぬまま。
そして威圧的な口調。


上条「な、なんだよ…………人間に戻る為だ……」


ステイル「よし、今の答えを踏まえた上でもう一つ聞く」


上条「お、おう」





ステイル「君が『人間に戻って』いたら、先程の戦いの『結果』はどうなっていた?」




上条「―――」


そのステイルの言葉で上条もようやく気付く。
彼が言わんとしている事を。
864 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/05(木) 23:58:45.07 ID:vQoWRaQo
ステイル「……確かに君は今までも右手1本で戦い、そして彼女を守ってきた」

ステイル「だが二ヵ月半前にその『限界』を見たはずだ」


ステイル「その『限界』を超える為に『今の君』になったのだろう?」


ステイル「そうせざるを得なかったのだろう?」


上条「………………ああ」


ステイル「君が人間に戻ろうとしていること『自体』を否定するつもりは無い」


ステイル「それは彼女も……望んでいることだしな……」

フッと上条から視線を外し、ベッドの上のインデックスに目を落とすステイル。

そして彼女の寝顔を見つめたまま、言葉をゆっくりと続けた。


ステイル「だがな。それは彼女を『救って』からにしてくれ」



上条「…………」



ステイル「『守る』んじゃない。『救って』からだ」



ステイル「彼女を『救って』くれ」
865 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:00:54.34 ID:oX5VND.o

『救う』。

その一言にステイルの願いと苦悩が全て篭められていた。


彼は『守る』ことしか出来なかった。

彼はただの『矛と盾』。

インデックスに降りかかる火の粉を掃うこと『しか』できなかった。


ただ『守る』だけ『しか』。


彼女を戦いの『中心』から『救う』ことはできなかった。


火の粉が決して『届かない』場所へと、彼女を連れて行くことはできなかった。

彼女の手を取り、安寧の地へ導いていくことが出来なかったのだ。

戦いが無い地へと。




上条「…………」


上条は特にステイルから過去話を聞いたことも、その苦悩を聞かされた事も無い。
(というか、ステイルは絶対にそんな事を他人に喋らない)

彼が見てきたもの、彼が体験してきた事は知らない。

それ以前に、お互いとも『人』として特に親しいわけでもない。
866 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:03:13.86 ID:oX5VND.o
上条「ああ」


だが彼が何を『思って』いるのかはわかる。

彼が何を感じているのかも手に取るようにわかる。


上条「任せろ」


お互いとも同じ少女に恋をし、
同じ少女を命に替えても守ろうとしている。

そしてその同じ想いの下、2人は並び戦った。

それだけで分かり合うには充分では無いか。



上条「俺が必ず『救う』」


低く、そしてはっきりとした声で上条はステイルに誓う。

『守る』だけでは無い。


上条「コイツに纏わり付いてくる『影』は全部剥ぎ取ってやる」


『魔導書の記録媒体』・『禁書目録』というレッテルをいつか剥ぎ取り。


上条「絶対に」


この戦いの連鎖から『彼女自身』を必ず『救い出す』 と。
867 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:04:23.80 ID:oX5VND.o

ステイル「…………ははは」


その言葉を聞き、ステイルは小さく笑った。

いつも通りの鼻で笑うような表情。
だが醸し出す空気は普段とは別物だった。

それはそれは穏やかな雰囲気だった。


ステイル「はは……君には本当に呆れる」


半ば呆れ、その一方で安堵しているかのように。


ステイル「そこまで『かっこつけれる』のが羨ましいよ」


ステイル「僕もそのくらい『馬鹿』になれていればな……」


上条「はは、なんならお前も『こっち』こいよ」


つられて上条も笑う。
口の片端を上げ、皮肉ったような笑みを。


ステイル「いや、それは遠慮しておくよ。僕の立ち位置は『そっち』ではないしね」
868 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:07:23.63 ID:oX5VND.o
ステイル「とりあえず今の話はそんなところだ。それと彼女のイギリスへの移送の件だが」


薄く笑いながらドアの方へと向かうステイル。


ステイル「それは最大主教と話してからだ。さっきから通信を試みてるのだが繋がらなくてな」

ステイル「まあ、また後で顔を出すよ」


上条「待て」

と、病室のドアへ手を伸ばしかけたところで、
そのステイルの背中に声が放たれた。


ステイル「まだ何かあるのかい?」

顔だけを向け、
横目で上条の方へと視線を向けるステイル。


上条「さっきな、確かに『俺が救う』って言ったがよ」


上条「俺『一人』じゃ無理だ―――」



上条「―――お前も俺の『隣』にいてもらうぜ」



上条「『俺達』で救うんだ」



ステイル「…………君がそう言うのならばいくらでも」


ステイル「地獄の底まで付き合ってやろう」


―――
869 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:10:30.20 ID:oX5VND.o
―――

同じ病棟のとある一室。

壁際がさまざまな電子機器で覆い尽くされている病室。

二ヵ月半前に『彼』が入ったのと同じ病室だ。

ここはすっかり『彼』専用部屋となってしまっているようだ。

それらの電機器に囲まれるように、
この部屋の占有主『一方通行』はベッドの上に座っていた。


パンツ一枚で。

隣の小さな椅子に座っている、
いつかと同じようにリンゴを手に持っている打ち止めの視線を浴びながら。


一方「…………」


とはいえ、身に纏っているのはパンツだけでは無い。

上半身下半身いたるところに、
そして額にも赤く滲んでいる包帯が巻かれていた。


打ち止め「今のあなたってまるでミイラ男みたい、ってミサカはミサカはシャレた事を言ってみたり!!」


一方「全然シャレてねェよ」
870 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:14:46.39 ID:oX5VND.o
打ち止め「うう……、ってミサカはミサカはいつも通りのあなたで安心したけど、相変わらずの冷たさで(ry」


一方「つーかなンでオマェがここにいンだァ?いくら何でも早すぎンだろ」


打ち止め「お見舞いはすぐ行くものなんだよ!!!、ってミサカはミサカは(ry」


一方「あーァうるせェ」

そんな賑やかな打ち止めの声を遮るかのように、一方通行は左手を彼女の方へと差し出した。

目で そのリンゴを寄越せ と促しつつ。


どうせ彼女じゃ剥けないのだから、
いつかのようにやんややんや言われる前に、やってしまおうと思ったのだ。

だが。


すべてがあの時と同じというわけではなかった。


伸ばされた一方通行の手はあの時とは『別物』だった。


ぱあっと打ち止めが笑みを浮かべたのも束の間。


一方「―――」


リンゴを手にした漆黒の義手は、
一瞬でその赤い果実を握り潰してしまった。
871 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:16:53.81 ID:oX5VND.o
一方「―――チッ!!!!」

力の加減ができなかったのだ。

いとも簡単に砕かれ潰されたリンゴは、黄色の液体となって
指の隙間からぼたぼたと床に落ちていった。


打ち止め「―――ああ!!!!ちょ、ちょっと待ってて!!!!今お手拭もってくるの!!!!ってミサカはミサカはぁ(ry」


それを見て、打ち止めは大慌てで椅子から飛び降り、
賑やかに喚き立てながら病室を出て行った。


残された一方通行はその左拳を静かに見つめていた。
感覚を確認するかのように、ゆっくりと開いたり握ったりしながら。


一方「…………」


己はもう『人』に触れることが出来なくなってしまったらしい と思いながら。

馬鹿騒ぎする打ち止めの頭を軽くはたく事も。

飛びついてきた打ち止めを軽く剥すのも。


もう彼女に触れることはできない と。
872 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:19:25.25 ID:oX5VND.o
これも更なる力を求めた代償か。


一方「ハッ…………」


そんな中、一方通行は小さく笑った。

これこそおあえつらむきではないか と。


後悔は無い。


『守る為』に力を求めたのだ。

何を今更。

そもそも、もう触れないと思っていたのだ。

もうあの少女のいる世界には戻らないと思っていたのだ。


ちょうど良いでは無いか。


これで心理的だけではなく、物理的にも決別できたのだ。


一方「…………そォだ」


そうだ。
これで、これからの道を一切の心残りなく突き進むことができる。
一切振り返らずに だ。
873 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:21:16.63 ID:oX5VND.o
と、その時。


一方通行は気配に気付き、ゆっくりと顔を上げた。

その視線の先。

そこにはカエル顔の医者が立っていた。


カエル「気分はどうだい?」


一方「……クソみてェだ」

左手を大きく振るい、リンゴの雫を払いながら吐き捨てる一方通行。


カエル「ふむ、問題は無いみたいだね?」


一方「さっさと言え。検査結果は出たンだろうが」


カエル「じゃあ要点だけ。君が懸念していたネットワークの負荷についてだが、」

カエル「特に問題は無かったよ。全妹達を検査しなければ100%とは言えないが、僕の名に懸けてそれは保障しよう」


一方「……」


カエル「次に君の脳。これも問題は無い。全く損傷していなかったよ」


カエル「ただ……」


と、そこで少しカエル顔の医者は口篭った。
別の『問題』が見つかったとでも言いたそうに。
874 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:23:56.31 ID:oX5VND.o
一方「ただなンだ?さっさと言え」

カエル「君の体は『構造』が変化しつつある。少しずつだが、今もそれは進行している」

カエル「そして君のAIMも性質が変わりつつある」


一方「…………あァ?はっきり言え。なンだ?やっぱ俺もついに『人外』の仲間入りですかァ?」

一方通行は皮肉めいた笑みを浮かべながら、
漆黒の両手を見せ付けるように顔の両脇に掲げた。


カエル医者「いや。君は『人間』だ。どれほどこの変化が進もうが、そして変化が終わろうが君は『人間』だ」


一方「……………………はァァ?」


カエル「それは『本来の人間』としての『真っ当な進化』だよ。『人間界に生を受けた者』としての ね」


一方「…………全っっ然わかンねェンだがよ」


カエル「それもそうだろう。実は僕も詳しくは知らなくてね。その『段階』の『人間』は専門外だからね」


カエル「『誰』がこの件に詳しいかは、君もわかっているはずだ。知りたければそちらに聞いてくれ」


カエル「ではここらで僕はお暇するよ。『ご覧』の通り、今日は『患者』が多いからね」


小さく微笑んだ後、カエル顔の医者は退室して言った。

足早に。

一方「…………」


―――
875 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:27:21.64 ID:oX5VND.o
―――

同じ病棟の別の一室。


その病室の中央にある、小さな丸椅子に麦野は腰掛けていた。

まるでボクサーが、コーナーリングにて座り込んでいるかのように肩を揺らしながら。

ボロボロになったワンピースコートの隙間からは、医療用のチューブが大量に伸び、
周囲の電子機器に繋がれており。

右手にはアラストルが固く握られていた。


そして麦野の前に立っている、険しい表情の土御門と結標。


麦野「…………だからアイツに聞けっつーの!」


麦野は苛立ちを隠そうともせずに、その二人へと吠えた。


麦野「私はただ貰っただけだって!」


アラストルで床を軽く叩きながら。


土御門「……『貰った』のか?」


結標「『借りた』んじゃなくて?」


そんな麦野を冷たく鋭い視線で『尋問』する二人。


麦野「……ん……とにかくだ!私はこれを直接渡されたんだよ!!」


麦野「『OK』って事だろ!?承諾を得たんだよコレを使う為のな!!!」
876 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:29:55.67 ID:oX5VND.o
土御門「…………まあいい。後で直接聞いて確認するぜよ」


結標「この病棟に今いるし。ダンテ」


麦野「―――!!!!…………やっぱり……まだいるの……?」


その名を聞いた途端、そして彼がこの病棟にいると聞き、
今度は子犬のように大人しくなる麦野。


土御門「ビビッてんのか?ちょっかい出さなきゃすごく良い連中だぜ?」


結標「後で顔出せば?相方さんがバージルにやられて重傷だから、しばらくここにいると思うわよ」


麦野「……………………そ、そそそそうだ、そういえばあの優男はどうした?」


土御門「……海原か?」


結標「あ〜……」


麦野は、バージル繋がりで上手く話を展開したつもりなのだろうが、
わざと話題を変えようとしたのは見え見えだった。

まあそこに突っ込むの無粋だったので、二人は特に気にせずに話を続けた。


土御門「『一応』生きてる。一応な。未だに意識不明だが」


結標「それと『優男』では無くなったけど」
877 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:33:30.80 ID:oX5VND.o
麦野「……は?」


土御門「『皮』が剥げてるんだぜよ」


麦野「……『皮』……ね……それはそれは…………」


皮が剥げているといわれれば当然、目も当てられない悲惨な姿を思い浮かべるだろう。
この時の麦野もそうだった。


土御門達は別の意味で『皮』と言っているのだが。


結標「ま、今は完璧に戦力外よ」


麦野「そうだろうな……」


土御門「とりあえずだ、で、お前はどうなんだ?調子は?」


麦野「は、やっとそれか」


というのも、病室に入ってきた土御門達の開口一番は『アラストルは!?』だったのだ。 
878 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:34:40.88 ID:oX5VND.o
麦野「問題無い」


麦野「『調整』も今終わったし」


アラストルを持ったままの右手で、
乱暴にチューブをむしりとっていく麦野。



土御門「……で何か言われなかったか?」


麦野「何かって?」


結標「例えば、『君の体は変異している』とか」


土御門「『人間ではなくなりつつある』 とか」


麦野「……いや何も」


その麦野の答えを聞き、土御門と結標は顔を見合わせた。
微妙な笑みを浮かべながら。
879 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:36:02.49 ID:oX5VND.o
麦野「……コレか?」

そんな二人に見せるように麦野はアラストルを掲げた。

二人が何に対してそう言っているのか、麦野も薄々感付いたのだ。

土御門「そうだ」


麦野「……」

ふとつい先程の事を思い出す。


アラストルとトリッシュの支援を受けたあの時の事を。

確かにあの瞬間、自分は人間の枠から外れた。
詳しい事は分からないが、それだけはなぜか本能的に確信できる。


あの時の己は『人間』ではなかった と。

本物の『怪物』になっていた と。


麦野「……逆に聞くけど」


土御門「なんだ?」



麦野「私が『怪物か人間か』なんて、どうでも良くない?」



麦野「というか、『怪物』の方が良いでしょ?『私達的』に」
880 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:37:07.77 ID:oX5VND.o
土御門「はは、それもそうだにゃー」

これは1本取られたとでも言いたげに、土御門は頭を掻きながら笑った。

そう、『これから』の事を考えると『怪物』であった方が有利なのは確かだ。


結標「てっきり、一見強そうに見えて中身はナイーブだと思ってたけど。そうでもないみたいね」


麦野「アンタには言われたくないわね」


土御門「生粋の『女帝』だぜよこりゃあ」


麦野「で、これからどうするの?」


土御門「ん、とりあえず計画は修正する必要がある。今の状況を考えてな」


麦野「……それで今の状況は?」


土御門「それがかなり複雑でな……色んな事が起こり過ぎてる」


結標「『騒動』があったのは学園都市だけのじゃないのよ」


麦野「?」


土御門「情報が足りないが、まあとにかくこれだけは言えるぜよ」


土御門「明日にでも第三次世界大戦が勃発する」
881 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:38:40.14 ID:oX5VND.o
麦野「第……三次……それか?お前らが言ってた学園都市の危機ってのは」


土御門「違う」


麦野「は?じゃあ何よ?」


土御門「第三次世界大戦はただの『火種』だ」



結標「もっと大きな『爆弾』のね。それこそ学園都市だけじゃなく人類全体に関係する ね」



麦野「だからその爆弾は何?」


土御門「わからない。だから『聞く』」



麦野「誰に?」



結標「アレイスターに」
882 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:40:32.13 ID:oX5VND.o
麦野「アレイ…………!!!!!」

その名を聞き、麦野は勢い良く立ち上がった。
切り裂かれたワンピースコートの胸元が大きく開くのも気に留めずに。


土御門「慌てるな」


結標「向こうも話があるらしいのよ。ちなみに私達の行動、『やっぱり』全部知られてたわよ」


麦野「で、何よ?雁首そろえて自らハイドウゾって差出に行くっつーのかよ?」


土御門「まあまあ。向こうも『今』は手を出してくるつもりはないだろう」


麦野「根拠は?」


土御門「ダンテからアラストルを渡されたお前がいる」


結標「そのダンテも今は学園都市に」


結標「いくらアレイスターでも、この状況下でまた騒動起こすとは思えないけど」
883 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:42:16.90 ID:oX5VND.o
麦野「…………ん……まあ……」


土御門「じゃあそういう事だ。準備しとけ。俺はアクセラレータにも伝えてくるぜよ」


ニヤニヤと笑いながら、
土御門は手を振りつつその病室を後にした。


病室の外は長い長い廊下。


ところどころに黒服の男が立っている。
アレイスター直属の非公式部隊の連中だ。


そんな中を、土御門は早歩きで進んでいった。


とその時。


土御門「……ん?」


ズボンのポケットの中で、携帯が激しくバイブ。
振動の仕方からみてメールだ。

はいはいと呟きながら携帯を取り出し、やや乱暴に開き。


そして画面を確認した瞬間。


土御門「……………………………………は?」


土御門はその場で絶句した。
884 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 00:44:28.67 ID:oX5VND.o
メールはイギリスからだった。


イギリス清教からの通達だ。

そこまでは良い。
通達などしょっちゅうある。


だが問題はその内容だった。


土御門「…………最…………インデッ…………」


小さな画面にはとんでもない事が記されていた。



土御門「…………おいおい……『お前ら』何やらかしたんだよ……」



今、イギリスを揺るがしているとんでもない事が。



土御門「………………ステイル……」





―――
885 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 00:45:06.14 ID:oX5VND.o
今日はここまでです。
次は明日か土曜の夜中に。
886 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 00:46:34.08 ID:m2zAr5oo
なんてとこで止めるんだ・・・・・・・・
887 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 00:53:15.17 ID:SM4DroAO
これが生殺しか
888 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 00:56:20.25 ID:OrD8ovso
たまらんなあ。

この言葉はとっておいたのだが……

「たまらんなあ」

乙!
889 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 01:14:46.08 ID:inocNwY0
おおおおお乙…!


てか一方さんがどんどん切ない感じに
890 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 09:27:48.58 ID:sEDpycDO
乙なんだよ!
続きが気になってしょうがない・・・
本当に毎回いいところで切るなw
891 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/06(金) 13:25:44.95 ID:I2KQ4EQ0
御覧のスレッドは

「たまらん寸止めには定評がある良質SS書きの>>1さんと」

「そんなSSに首までどっぷりな俺たちでお送りしております」
892 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/06(金) 14:32:42.82 ID:cgJZawc0
ベヨネッタのゲームって公式でDMCと関わってるの?
893 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 17:23:59.00 ID:EUJjXUDO
>>892
つながってる
デビルメイクライに出たエンツォっていう情報屋がベヨネッタにも出てる
894 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/06(金) 17:41:32.70 ID:QZPijYDO
>>ヤクザ
ダンケ
895 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 18:37:57.46 ID:89yuO2DO
>>1はもしかして、FateとDMC4のクロスを書いてる作者?
896 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 21:03:46.79 ID:oX5VND.o
>>895
いえ、違います。


あと今日の10時半から11時の間に投下開始します。
897 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/06(金) 22:33:04.69 ID:I2KQ4EQ0
ヽ(´ヮ`)ゝ今夜もLet's go the Crazy♪
898 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 22:55:38.23 ID:oX5VND.o
―――

同じ病棟のとある一室。

普段なら八人の患者が入る大きな病室。

その部屋には今、四人の大悪魔と一人の人間がいた。


繋げて並べられている二つのベッド。

その片方には今だ意識が戻らないキリエ。

もう一方には右腕の無いトリッシュが座していた。
残った左手でキリエの右手を掴み、その手首にある赤いアザをジッと見つめながら。

ちなみに、トリッシュのチューブトップの服は彼女の力によって修復されたが、

鎖骨から腹部にかけての傷は今でもパックリ開いており、
それを隠す為に白いシーツをマントのように羽織っていた。


壁際には、待合室から勝手に持ち出されたであろう、
大きなソファーが無造作に置かれており、そこにだらしなく寝そべっている座っているダンテ。

キリエが寝ているベッドの横には、腕組をしたネロが立っていた。
つい数分前に、ルシアにここまで連れて来てもらったのだ。


トリッシュがこの有様の今、世界中を自由に移動できるのはルシアしかいないのだ。


その当のルシアは、窓枠のところに座り足をプラプラと揺らしていた。
899 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/06(金) 22:56:20.43 ID:I2KQ4EQ0
・・・投下が遅れてるのはやはりサマーウォーズなのか
900 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 22:57:31.40 ID:oX5VND.o
トリッシュ「…………ん〜、これは中々手がつけられないわね」

小さく息を吐き、肩を竦めるトリッシュ。

トリッシュ「気を失っている事自体は、力を浴びた一時的なショックだからすぐ起きると思うけど……」

ネロ「……けどなんだよ?」

トリッシュ「禁書目録に解析してもらってからじゃないと、正確な事は言えないけど」


トリッシュ「この術式は彼女の魂まで達してるわよ。というか、彼女の魂を『核』にしてるみたい」


ネロ「外せるか?」


トリッシュ「…………一週間あればなんとか。イマジンブレイカーの助けも借りて……」

トリッシュ「レディも呼ばなきゃ。というか、コレについては私は出る幕無いわよ」


人間が扱う術式については、レディの方がこの場にいる誰よりも精通している。
その分野においては、トリッシュでさえ彼女には手も足も出ない。

それにインデックスは、魔界魔術の分野は網羅していない。

それ以前に、このキリエの魂に組み込まれた術式は製作者の完全オリジナルだ。

インデックスが解析して全体の構造が把握できたとしても、
個々の『構文』が何を意味しているかは彼女も理解できないだろう。


そこを埋める為にもレディの知識と経験が必要なのだ。


トリッシュ「禁書目録が解析、彼女の知識に無い部分はレディが埋めて……」

トリッシュ「そしてレディが解除術式を作ったり、彼女の指揮の下イマジンブレイカーで壊したり……ね」


ネロ「……それで一週間か……」
901 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 22:57:35.07 ID:qic4KNk0
キター
902 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:02:32.03 ID:oX5VND.o
ネロ「で、レディは今どこにいる?」


トリッシュ「さあ」


ダンテ「ロダンかエンツォ、それかモリソン辺りに聞けばわかるだろうよ」


ネロ「……まあ、とにかく早くしてくれ」


トリッシュ「それもそうね」


そう、このままでは相手に手が出せない。
相手を潰せば、キリエも死んでしまう。


だがネロの話を聞く限り、
相手は早急に潰さなければならない『最悪の者』だ。


トリッシュ「この子は私達の方で何とかするから、アナタはその男を追いなさい」


ネロ「当たり前だろ」


トリッシュ「その男、『覇王を復活させて魔界への口を開く』って言ってたのよね?」


ネロ「ああ」


トリッシュ「そう……この術式は彼女専用に作られてる。つまり、その男は最初からこの子が狙い」


ネロ「大元の狙いは『俺』って事だろ」


トリッシュ「そうなるわね」
903 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:06:20.17 ID:oX5VND.o

トリッシュ「覇王と魔界の口……そして『ネロ』……」


覇王の力だけで、スパーダの一族に対抗するつもりは相手もさすがに無いだろう。

それはタダの自殺志願者だ。


覇王はかつてスパーダに完敗して封印されたのだ。

そして今のダンテはスパーダと互角レベルなのは確実。
ダンテと互角以上のバージルもいる。

更に彼らに匹敵しつつあるネロもいる。


彼ら三人は、戦力においてでは魔帝すらをも圧倒した。

その魔帝よりもワンランク下の覇王の力のみで、この三人に勝てるか?


否。


絶望的だ。


今のネロとギリギリ互角レベル。

ダンテとサシで遣り合ったら確実に覇王は負ける。

それは相手もわかっているはず。


つまり、相手は他にも何らかの切り札を持っているはずだ。


トリッシュ「…………」
904 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:09:02.14 ID:oX5VND.o
トリッシュ「……じゃ、皆で確かめていきましょ。まず『魔界の口』を開くには何が必要?」


ダンテ「『力』。バカでけえ『悪魔の力』だ」


ソファーに寝そべっているダンテが、天井を仰ぎ見たまま呟く。


トリッシュ「それに足りうる力を有していて、今も『存命』の者は?」


ダンテ「バージルと俺とネロと―――」



ネロ「―――『覇王』だ」



トリッシュ「それが恐らく、覇王の力を求めてる本当の理由ね」

トリッシュ「アナタ達と戦う為ではない」



トリッシュ「じゃ次。なぜそこまでして『魔界の口』を開けようとしているのか」


トリッシュ「人間界を破壊し、魔界に取り込む為?」



ネロ「開けれたとしても『俺達』がいる間は無理だろ」
905 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:11:33.48 ID:oX5VND.o
トリッシュ「そうね。それが目的だとしてもまずはアナタ達を排除する必要がある」


トリッシュ「じゃ、次は別の視点から」


トリッシュ「なぜネロに挑発的行為をしたのかしら?」


トリッシュ「なぜ彼女を狙ったのかしら?」


キリエ専用の術式を作っていたことからも、
フォルトゥナに来た目的そのものが彼女だったのは間違いない。

それにネロが騎士達から聞いた証言によると、
悪魔達は当初キリエを連れ去ろうとしていたらしい。



トリッシュ「なぜこの子を誘拐しようと?」




ネロ「…………俺…………だ。俺を誘き出す為だ……」




ダンテ「ビンゴ」
906 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:13:37.93 ID:oX5VND.o

トリッシュ「じゃあ、ネロを誘き出す目的は?」


トリッシュ「それともう一つ。『魔界の口』とネロの間にある共通点は?」




ネロ&ダンテ「『スパーダ』」




トリッシュ「……答えは出たわね」


トリッシュ「『魔界の口』を開く本当の目的は、その封印の要になっている『スパーダの魂』を解き放つこと」


ネロ「……」


トリッシュ「で、アナタを誘う目的は『魔剣スパーダ』」



ネロ「…………決まったな」


トリッシュ「ええ、相手は『スパーダの力』を欲してる」



トリッシュ「いえ、覇王とスパーダが融合した『怪物』になろうとしてるのかも」
907 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:15:53.00 ID:oX5VND.o
トリッシュ「これなら、場合によってはアナタ達に勝てるかもしれないわね」


ネロ「……そいつは随分と……胸糞悪ぃな……」


薄々感付いていたとはいえ、
はっきりと口に出されてネロはより一層顔を曇らせた。

それとは対照的に。


ダンテ「ハッハー!!!!!!そいつはスゲェ!!!!」


跳ね起き、満面の笑みを浮かべるダンテ。


だがその笑みは複雑なものだった。


ダンテ「たまんねぇぜ!!!最っっっ高だ!!!!―――」


強敵の出現に喜ぶ一方で。


ダンテ「―――ぶっ潰してやろうじゃねえか!!!!とっととやっちまおうぜんなアホ野郎はよ!!!!!!」


父を穢され、侮辱された怒りも同時に噴き出していた。



だが、そんな漲るダンテに向かってトリッシュが一言。


トリッシュ「アナタはバージルの件が先」


ダンテ「―――……ッ……………………あ〜……」
908 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:17:59.86 ID:oX5VND.o
ネロ「こっちは俺がやっておく。アンタは親父をどうにかしてくれ」


ネロはやっとダンテの方へ振り返り、彼の顔を見据えた。


ダンテ「…………まあそうだな」


ダンテがスパーダや覇王の件に割り込みたいのと同じく、
ネロも父親の件に割り込んで行きたくてたまらないのだ。

だがお互いとも全力で集中しなければならない問題がある。


今はそれぞれが我慢して進むしかない。


トリッシュ「ま、そう心配しなくても良いでしょ。バージルの行動もコレにかなり関係してると思うし」


トリッシュ「最終的に全てが繋がって、一点に集中するわよ多分」



ダンテ「……へえへえ」


ダンテはそんなトリッシュの言葉を掃うかのように手を振り、
少し拗ねたようなそぶりで再びソファーに乱暴に座り込んだ。
909 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:20:06.03 ID:oX5VND.o

トリッシュ「じゃあとりあえずネロの方はこんなところね」

トリッシュ「アナタはその男の行方を追う」

トリッシュ「この子の術式は私たちの方で外す」


トリッシュ「場所は……」


ネロ「学園都市で良い。フォルトゥナにはまだ連中の残党が残ってる」

ネロ「ここには向こうに無い医療機器も揃ってるしな」


トリッシュ「OK、じゃあ術式が外れ次第、アナタはその男を叩き潰す」


トリッシュ「できれば『魔界の口』が開かれる前に」


トリッシュ「魔界の口が開いた場合は状況に応じてそれぞれが動く」


ネロ「ああ」


トリッシュ「それと……アナタ他にも仕事があるんでしょ?」


ネロ「まあな」


ネロにある別の仕事。

それはフォルトゥナに未だに残っている悪魔の残党を狩り、
そして世界に溢れかえるであろう、人造悪魔に対抗する為に騎士団を再編成する事だ。


ネロ「まあ、それは大丈夫だ。俺はいくつか指示するだけで言い。あとは皆がやってくれる」
910 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:22:18.70 ID:oX5VND.o

トリッシュ「なら問題ないわね。じゃあ次」


トリッシュ「バージルの動きについて」


トリッシュ「少し前にアナタの所に魔女が来たのね?バージルの使いとして」


ネロ「……ああ」


トリッシュ「ヴァチカンを襲撃したのは魔女。その直後に、神の右席を支援する形でバージルも学園都市に」


ネロ「…………」


トリッシュ「つまり、戦争を誘発させたのはバージルと魔女と考えて良い」


トリッシュ「フォルトゥナを襲撃したその男はウロボロス社関係、ウロボロス社とローマ正教は協力関係」


トリッシュ「彼らは学園都市・イギリス清教と対立してる」


トリッシュ「そして彼らの背中を強引に押したのはバージルと魔女」


トリッシュ「バージルと魔女は彼らに何かをやらせようとしている」


トリッシュ「さっきのバージルの行動から見て、彼らの目的を後押ししてるみたいね」


ネロ「……」
911 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:24:30.78 ID:oX5VND.o
トリッシュ「ウロボロス社関係のその男の目的は先の通り」


トリッシュ「じゃあ神の右席の目的は何だったのかしら?」


ネロ「魔女が絡んでるっつーことは天界も関係してたんだろ?」


トリッシュ「ええ。ローマ正教も絡んでるし」



ダンテ「……………………で?」


ネロ「……………………」


トリッシュ「……………………さあ」


そこで彼らの推理は行き詰った。

そう、彼らにとって天界は専門外だ。


ダンテもネロも、そしてトリッシュも天界の事については詳しくは知らない。
魔女の事も、軽く聞いた程度でほとんど知らない。


だがそこを知らなければ神の右席の目的は見出せない。



そしてそれを見出さなければ、バージル達の真の目的も推測できないのだ。
912 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:26:05.58 ID:oX5VND.o

トリッシュ「…………『こっち』についてはもっと情報を集めなきゃ」


ネロ「その神の右席は死んだんだろ?」


トリッシュ「さあ。木っ端微塵になったらしいけど」


トリッシュ「何ともいえないわね。最も強い天界の加護を受けてる連中だから」


ダンテ「あの『培養野郎』に聞けば良いだろ」


トリッシュ「アレイスター?喋るかしら?」


ダンテ「俺が行くぜ」


トリッシュ「ああ……じゃあ喋るわね」


今のダンテは一見するといつも通り飄々としているが、
その中はかなり煮えたぎっている。


なにせバージルの事に大きく関ってきているのだ。


アレイスターもこのキレる一歩手前のダンテには、

いや、ある意味もうキレている彼にはどうしようもないだろう。


彼に聞かれたことは洗いざらい、そしてウソ無く喋るしかないだろう。
913 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/06(金) 23:27:42.39 ID:I2KQ4EQ0
((((;゚Д゚)))) ← 培養野郎
914 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:30:11.45 ID:oX5VND.o

トリッシュ「……じゃ、とりあえず今はそんなところね」


ネロ「俺は戻って良いか?」


トリッシュ「ええ」


ネロ「頼んだぜ」


トリッシュ「そっちもね」



ネロはキリエの顔を覗き込むように身を屈め、
その頬を軽く撫で、額に軽くキスをした。

そして再び身を起こし、今度はダンテの方を向き。


ネロ「親父の事もな」


ダンテ「おー」


それに対し、ダンテはソファーに寝そべったまま軽く手を挙げた。


その時、黙って彼らを見ていたルシアがヒラリと窓枠から飛び降り、
ひょこひょことネロの横に向かって来た。


ネロをフォルトゥナに送る為だ。


ネロはそんな彼女に一瞥をし、そして最後にもう一度キリエの方を見、
そのままルシアと一緒に赤い円に沈んでいった。
915 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 23:31:22.87 ID:ECwEJqwo
☆が☆彡になるな
916 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:34:02.21 ID:oX5VND.o
ダンテ「……坊や、何かあったのか?」

ネロが姿を消した後、ダンテがポツリと呟いた。


トリッシュ「さあ……でもなんか……妙に落ち着いてるわね」

トリッシュ「もっと熱くなってると思ってたんだけど」


トリッシュ「……私と会った頃のアナタに似てるわね」


ダンテ「そうかぁ?」


トリッシュ「……って、ほら、アナタも行きなさいよ」


ダンテ「なあ」


トリッシュ「何よ?」


ダンテ「ここにワインって(ry」


トリッシュ「病院にあるわけないでしょ」


ダンテ「喉が渇いてよ」


トリッシュ「水はトイレにあるわよ」


ダンテ「……」


トリッシュ「……」


しばしの沈黙。
917 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:36:32.12 ID:oX5VND.o
とその中、部屋の床に赤い円が浮かび上がり、
そこからルシアが姿を現した。
フォルトゥナにネロを送ってきたのだ。

そんな彼女にすかさず。


ダンテ「おうチビ助」


ルシア「は、はい!……な、……なんですか?」


ダンテ「おつかいがあん(ry」


トリッシュ「子供に買わすな」

ダンテ「……」


ルシア「?」

状況が飲み込めず、
赤毛の少女はキョロキョロと二人の顔を交互に見る。

そんな彼女に、トリッシュは不気味な程に穏やかな笑みを浮かべ。

トリッシュ「いい?この人の言う事まともに聞かないようにね」


トリッシュ「基本的に頭おかしいからこの人」


トリッシュ「こんな大人になっちゃダメよ」


ルシア「は……はい」


ダンテ「ヘッヘ、まあ、そいつは言えてら」

―――
918 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:38:28.06 ID:oX5VND.o
―――


病室を出たステイルは、
足早に廊下を進んでいた。


向かうはアレイスターの下。

先程上条に伝えたとおり、最大主教と連絡がつかない。


というか、イギリスへ向けての通信魔術が『起動』しないのだ。


ステイル「…………」

妙だ。


通信が繋がらないのではなく、魔術そのものが『起動』しないのだ。


何かが起こっているのは確かだ。

ヴァチカンもあの有様。

今や、世界規模の『何か』が現在も進行しつつあるのは確か。


その情報を得る為に、彼はアレイスターの下へと行こうとしているのだ。

あの男が全て喋ってくれるとは思わないが、
行けば必ず何らかの情報は得られるはずだ。
919 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:40:11.73 ID:oX5VND.o
ステイル「…………」


そういえば一つ、先程上条に伝えなかったことがある。



神裂の事だ。



彼女の死についてだ。



ステイル「…………」



上条もその事については知る権利がある。

ヴァチカンで起こった事を。

ステイルが目にした彼女の最期の姿を。


そしてその事を聞いた彼は必ず悲しむだろう。

まるで家族を失ったかのように。
920 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:42:48.53 ID:oX5VND.o

ステイル「……」

だがそれは今言うべきではない。

今の上条は精神的にも肉体的にも疲れ切っている。
休息してからの方が良いだろう。


ステイル「…………」


と考えたのだが。

実はこれは建前的な部分もある。


ステイル側の だ。

目の前で悲しまれると、
こちらが我慢できなくなってしまう気がしたのだ。

この悲しみと喪失感に負けてしまう気が。


今まで気付いていなかったが、
ヴァチカンにて動かなくなった神裂を見た瞬間、彼は自覚した。


彼は気付いてしまった。


どれほど神裂が己にとって重要な存在だったのかを。
921 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:44:30.86 ID:oX5VND.o

インデックスとの思い出の中には、常に神裂もいた。

『三人』で過したかけがえのない思い出。


共に笑い、共に哀しみ、共に喜んだあの頃。


インデックスとステイルと神裂の『三人』で過した日々。


神裂は、ステイルにとって『ただの仕事仲間』ではなかったのだ。


親友であり戦友であったのだ。


なぜその『絆』に気付かなかったのか。

なぜ彼女が生きている間に気付けなかったのか。


ステイル「……」


そんな己が憎い。


最期の最期までしょうもない、最悪の『馬鹿』だ と。


一体己は今まで何を『見て』いたのか? と。


何が『戦士』だ? と。


『矛と盾』になり切ることでその役目を果たせるとでも? と。


『ハート』を捨てておきながら使命を全うできるとでも? と。


こんなことだから己はインデックスを『救う』ことができなかったのでは? と。
922 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:46:09.86 ID:oX5VND.o
ふと思う。

君は気付いていたのか? と。


いや、彼女は気付いていたはずだ。

ステイルのように心を閉ざしてはいなかったはずだ。


だからこそ彼女の手はインデックスだけではなく、
弱き者すべてに差し出されていたのだ。


『あの日』から時間が止まっているステイルとは違い、
彼女は歩み続けたのだ。

現状をただ保持し、『守るだけ』しかしなかったステイル。
上条と出会っても尚そのまま。
まるで進歩無し。


だが彼女は違った。

上条と出会った彼女は変わった。

インデックスだけではなく、現状を『変えるため』に、
彼女が住まう周りの世界をも救っていこうとしていたのだ。


ステイル「……」


そして彼女は最期までその思いを胸にしていたはずだ。

インデックスを守るという誓い。

それだけでは無い。

世界を守り、そして救おうと。


彼女は最期の最期まで、その為に刀を振るい続けたはずだ。


決して諦めず、命尽きるまで。
923 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:48:12.96 ID:oX5VND.o
ステイル「…………」


先程の上条の言葉が、今でも頭の中で木霊している。


彼は言った。


『俺達で救うんだ』 と。


以前のステイルならば一歩引いていただろう。
己は今までと同じく『矛と盾』で良い と。



だが神裂の死でようやく気付いた今は違う。


上条の言葉を正面から受け止め、そしてそれに応えたい。


『本当の戦い』に歩み出す時なのだ。



『守る為』の戦いではなく。


『救う為』の戦いに。
924 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:49:28.72 ID:oX5VND.o
できれば生きている彼女と並んで戦いたかったが。

できれば彼女と一緒にこの道を歩みたかったが、それはもう無理だ。


ステイル「…………」


だからステイルは思い、そして誓う。


ならば、せめて『彼女の名』と共に戦おう と。

気高き本物の戦士であった『彼女の姿』を胸に と。

かけがえの無い『親友の笑顔』を心に と。



ステイルは長い廊下を進んでいった。

その足取りは力強かった。



この時、彼は思ってもいなかっただろう。


約一週間後に再会するなど。


『生きている神裂』に。




そして。




壮絶な『殺し合い』をするなど。
925 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:51:40.44 ID:oX5VND.o
とその時。

廊下の先から、こちらの方に向かってくる土御門が目に入った。


ステイル「(……ちょうど良いな)」

正にちょうど良い。

土御門も、今の状況の全体像が掴めずに色々と困惑しているはずだ。

ここは一つ、
情報交換という事でお互いの知っていることを確認しあったほうが良い。


土御門もそのつもりだったのか、彼を見つけた駆け足で向かってきた。


その表情はいつもとは違い、なぜか強張っていたが。


ステイル「やあ」


土御門「ここにいたか」


ステイル「ちょうどいい。いくつか聞きたい事があったんだ」


ステイル「イギリスへの通信がなぜかできなくてな。君もそうだろう?」


土御門「…………いや……俺は『できる』」



ステイル「…………なに?」



土御門「…………その前に答えろ。『お前ら』何したんだ?」
926 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:55:34.94 ID:oX5VND.o
ステイル「何って……?おい……何のことと言っているんだい?」


土御門「お前……やっぱり知らないんだな」


ステイル「…………待ってくれ。話が全然見えないのだが」

土御門「聞け」



土御門「最大主教、いや……『今』はそう言わないな」



土御門「ローラ=スチュアートとステイル=マグヌス、およびインデックス」



ステイル「……僕等がどうかしたのかい?」




土御門「お前ら三人は先程、位と権限を剥奪され『必要悪の教会』を『除名』―――」





土御門「―――そしてイギリス清教から『破門』された」




ステイル「………………………………………………………………は???」
927 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/06(金) 23:57:42.10 ID:oX5VND.o
ステイル「……………………………………………な、………………」


土御門の口から告げられた驚愕の事実。
余りの事に、ステイルの思考が停止しかけてしまった。



土御門「それだけじゃない。これと一緒に『陛下』が全軍にこう布告した」




土御門「『神の名の下、ローラ=スチュアートとステイル=マグヌスを即刻処分せよ』」




土御門「『忌まわしき肉体はその場で「火刑」に処せ』」




土御門「『禁書目録は舌を抜き、四肢を切断した後にイギリスへと持ち帰れ』」




土御門「『その際の生死は問わない』」




土御門「『これは神の名の下の命であり―――』」





土御門「『―――主の意思である』ってな」




―――
928 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 23:58:41.83 ID:oX5VND.o
今日はここまでです。
次は明日か日曜の夜中に。
929 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/07(土) 00:00:50.91 ID:6h.taZ60
(´ω`)ゝ乙でした!!

>トリッシュ「いい?この人の言う事まともに聞かないようにね」
>トリッシュ「基本的に頭おかしいからこの人」
>トリッシュ「こんな大人になっちゃダメよ」

もうここ最高ww
930 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/07(土) 00:01:25.81 ID:mNnD2wI0

対応早いね天界
931 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/07(土) 00:41:24.41 ID:KPA6uUDO
>「『禁書目録は舌を抜き、四肢を切断した後にイギリスへと持ち帰れ』」


正直、たまりません。
932 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/07(土) 01:12:40.17 ID:Gnh0hRMo
>>931
933 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/07(土) 09:04:54.29 ID:PjO9DMDO
魔帝以降からのまとめってある?
魔帝までは見つかるんだけど…
934 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/07(土) 17:34:03.05 ID:dSfKAeco
ジュベレウス派がしっかり追い込みかけてきたのか、インデックス頑張れ、ステイルマジ頑張れ
935 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/07(土) 22:30:04.04 ID:ke9ul6Uo


やはり天界の動きはまずそこからか・・・
そしてねーちん・・・
936 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/08(日) 06:30:29.63 ID:7mH71FY0
上条さんって今何着てんだ?制服?私服?
あと、一方さんの黒い杭ってARMSのキースホワイトの羽みたいのでいいのかな・・・
937 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/08(日) 23:36:10.54 ID:w2mYm2ko
>>936
描写しておりませんでしたが私服です。
この前夜の、クラブでの悪魔退治の時と同じような暗いトーンのです。

ARMSは未読なのでわかりませんが
イメージとしては黒光りした先の尖っている触手的な感じ、

エイリアンの尻尾の表面が滑らかになったような物です。


では投下開始します。


938 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/08(日) 23:39:11.09 ID:w2mYm2ko
―――

イギリス。

バッキンガム宮殿のとある廊下。

その長い長い廊下を、最大主教ローラ=スチュアートが足早に歩を進めていた。


右手に古めかしい大きめの『皮袋』を持ちながら。

重めの物が入っているのか、
彼女が歩を進めるたびにゆさりゆさりと大きく揺れていた。


ふわりとなびくゆったりとしたベージュの修道服と、『解放』されて光り輝いている金髪。



彼女のその歩む姿は、さながら映画の神秘的なワンシーンの様だった。



周囲の『惨状』はそれとは余りにも対称的だったが。



ローラに飛び掛る騎士や衛兵達。

今や彼らは、イギリスが誇る最大霊装『カーテナ』の影響により莫大な力を授かり、
その身体能力も行使する魔術も凄まじい程に強化されていた。


何の為か?


それは女王が全軍に下した命に従い、『魔女』を排除する為。


『正体』を現し、イギリスと『神』に反旗を翻した穢れし者を殺す為。



ローラ=スチュアートを―――。
939 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/08(日) 23:42:13.17 ID:w2mYm2ko
だがそんな彼らも、この『アンブラの魔女』の前には無力だった。


ローラ「ふふん、私に触れたるなど500年早いのよ」


騎士や衛兵達は一瞬で『金の光』に弾かれ、
そして壁を突き破って吹き飛ばされていく。

彼らの放った魔術は、ローラに到達する直前になぜか霧散し、
彼らの剣や槍も全て届かぬまま粉砕されていった。


そんな中、ローラは指先一つ動かさず彼らなど元からいないかのように、
鼻歌交じりでそのまま流れるように歩を進めていく。


彼女は今、魔女の力を隠そうとはしていなかった。


もう隠す意味が無いのだ。



いや、逆に今はこうしてこちらからわざと目立たたせ、

『天界』に向けて強烈にアピールする必要がある。



ローラ「……」


そう、こうしなければならないのだ。



この状況を切り抜ける為には。



こうやって、完璧な『敵役』に徹しきらなければ。



『イギリスの敵』に―――。
940 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/08(日) 23:44:39.25 ID:w2mYm2ko
ヴァチカンでの力の行使が、
天界に正体を知られるという事はローラは理解していた。

だが、『かなり鈍い天界』はそうそう即座に行動してこないのも知っていた。

これは彼らの生まれながらの『気質』、
現在に至る成り立ちに起因する、天界内の『複雑な体制』、


そしてジュベレウスの滅亡・魔帝の完全敗北からくる、ここしばらくの『混乱』も影響している。


更に今後に控えている『問題』も。

これらの状況下ではローラの件もどさくさに紛れてしまい、
本格的な『解決』に乗り出すのはいくらか時間がかかったはずだったのだ。


それにジャンヌやセレッサ(ベヨネッタ)のような名の知れた頂点クラスならまだしも、
ローラ程度を最優先するはずもない。


あのヴァチカンで見せた程度では、ローラのかつての身分も判別できないだろうし、
そもそもあの程度の力じゃ『即刻排除すべき脅威』とも見られない。



ローラの件は『保留』となり後回しにされるはずだったのだ。



少なくともこれから始まる戦争が終わり、
ローラの親友であり恩人であるエリザードが退位し隠居するまでは。


ローラがかつてエリザードに誓った、
『あなたが在位している間はイギリスを全力で守り、そして助けとなる』という約束を果たしきるまでは。


そのはずだったのだが―――。
941 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/08(日) 23:47:26.82 ID:w2mYm2ko
ローラ「…………」


今回の件はそれ『だけ』では済まなかった。


ヴァチカンの後、彼女は再び力を使わざるを得なかった。

天界に注目されていると知りつつも。


学園都市にいるインデックスを守る為に。

その為に、ステイルを『使い魔』として魔女の力で送り込んだ。


そして事態は瞬く間に『悪化』した。


学園都市の件はローラも全く予期していなかった。


更に、遠隔制御霊装の持ち主が『あの点』に気付いていたとは、
さすがのローラも思ってもいなかったのだ。




インデックスの中にある、彼女の『本当の姿』に。
942 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/08(日) 23:49:59.93 ID:w2mYm2ko
学園都市は、人間界において天界の影響がもっとも少ない場所の一つ。
天界の目は中々届かない。

だが『上』から見えなくても『セフィロトの樹』がある。

対象が接続下ならば、『魂』から直接情報を得ることが出来る。


そしてインデックス。

『御使堕し』にも影響されるとおり、彼女は『セフィロトの樹』としっかり繋がっている。

これもまた、彼女を隠蔽する為のローラの策の一つだったのだが。
今回はそれが仇となった。


『解放』されたインデックスの『別』の、いや『真の力』。


当然、その『魂の情報』は『セフィロトの樹』経由で上に運ばれ。


彼女の正体と、かつての『身分』が暴かれたであろう。


一平卒ではない、『ただの魔女』ではない、
アンブラの『書記官』というかなり高い位にいたということが。
943 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/08(日) 23:56:06.11 ID:w2mYm2ko
天界は500年前の降臨の際、

アンブラ魔女の幹部・高官・そして名だたる強者を名指しにし、最優先として皆殺しにした。

(唯一その手から逃れ切ったのがジャンヌだ。ベヨネッタはとある特別な理由があって、殺害ではなく『捕縛』対象とされていた)


アンブラの魔女を再興しうるレベルの者達を残さない為にだ。

100人の魔女の部隊よりも、これら一人一人の方が天界にとっては凄まじい脅威だったのだ。

人間の世界で言えば、正に『十億単位の賞金首』クラスだ。


その『リスト』の中に、当時の幼い『書記官』の名もあった。

そして今の今まで当然『排除済み』として記録されていただろう。


今の今まで だ。



その記録は覆された。



つい先ほど、その『書記官』が生きていたことが明かされたのだ。




なんとイギリスの懐で。
944 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/08(日) 23:59:53.91 ID:w2mYm2ko
最早、天界はローラ達の件を『保留』しようとは思わないだろう。


この件は最優先事項の仲間入りとなるのは確実。

いくらトロい天界でも、『賞金首』を見つけたとなってはかなり早く動いてくるはず。


ローラ「…………」


このままではローラ達に矛先を向けるだけではなく、
『書記官』を匿ったイギリスへ制裁を加えてくる可能性も高い。

天界の支援を失えば、イギリスは魔術的な力を大幅に失う。
カーテナ等の霊装もただのガラクタと化し、騎士や魔術師も天界魔術を使用できなくなる。

ネロの指導の下、魔界魔術をマスターした者もそれなりにいるが、それでも全体の極一部。

魔界魔術のみでまともに戦えるのは10%にも満たないのだ。


そんな状況下でこれから始まる『大乱』を乗り切れるか?


否。


魔術超大国イギリスの名は地に落ち。


滅亡する。
945 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:02:39.76 ID:3okE3Kso
そもそも、ヴァチカンのステイルを保護しに行かなければ、
こんなイギリスの危機にはならなかったのか。


いや、それは違う。

ステイルを死なせていたら、インデックスは敵の手に落ちていた。
ステイルを保護し、学園都市に送らなくとも。


あの場で天界に『身分』を知られなくとも、

『遠隔制御霊装』保持者である神の右席が、
彼女の中の力に気付いていた時点でどうせ同じだ。


どの道『天界』に知られ、神の右席は『魔女の高官を捕らえた』事を称えられ、
そして彼女を匿っていたイギリス清教は敵視される。


どの選択を取っても結果は同じだったのだ。


これは誰の責任でもない。

誰かが判断を誤ったのでもない。


大きな大きな世界の流れが生み出した、逃れ様の無い結果だ。

一つ一つの事象が、誰も予想していなかった未知なること。


それらが組み合わさって導き出す結果を誰が予想できる?


誰も予想できるわけがない。
946 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:04:09.53 ID:3okE3Kso
ローラ達が今やるべきなのは、
最小限の犠牲をもって状況を切り抜けること。


天界よりも先に、こちらが行動で『示す』こと。


その方法がこれだ。


ローラとエリザードはこの方法しか思いつかなかった。




エリザードはローラ達を『イギリスの敵』として宣言し。



ローラは『本物のイギリスの敵』となる。



そして天界に証明する。




『イギリスは魔女派ではない』 と。
947 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:09:07.77 ID:3okE3Kso

イギリスを守る為に だ。



そして今のところ、その方法は結果を出しつつある。


天界は魔女と戦う『イギリス清教側』を支援している。

騎士や衛兵達も魔術を使い、カーテナの支援を受けている。

イギリスの罪は、この『戦い』で水に流しきれるとはさすがに言えないが、
かなり優しい恩赦を与えられたようだ。


ローラ「……」

ローラは歩み進み、適当に騎士や衛兵をぶっ飛ばしながらふと上を見上げた。


見ているのは『天井』ではない。


天界だ。


『上』では今、『穏健派』である十字教が、
怒り狂っているジュベレウス派をなだめてくれているのだろうか。


500年前と同じく―――。
948 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:13:45.67 ID:3okE3Kso
本気になったジュベレウス派はそれこそ、
イギリスごと6000万の人命もろとも地図から消し去りかねない。

500年前、アンブラの都が滅んだ後に行われた魔女の残党狩り、

つまり『魔女狩り』も、

当初はヨーロッパ全土が破壊されかねない規模になるはずだった。


ジュベレウス派は魔女を完全根絶する為に、
億単位の人間をも平気で巻き添えにしようとしたのだ。


これは『聖戦』であり、犠牲とは救われる事を意味している と宣言しながら。


それを懇願して押し留めたのが、十字教の神と天使達だと言われている。


ジュベレウス派の命で、直接人間界を管理してきた十字教。

十字教の神や天使達は直接人間に接する関係上、『情』も移ったのだろう。


そのおかげか、魔女狩りは比較的穏やかなものだった。
人間の巻き添えは最小限に留められた。

その温情による、ツメの甘い追跡のおかげでローラもこうして逃げ延びることが出来たのだ。


まあその点を考えれば、十字教の連中にはある意味感謝できるだろう。



同族を滅ぼされた恨みと怒りの方が万倍億倍も強いが。
949 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:16:37.18 ID:3okE3Kso
それにこういう、
十字教の神や天使達のコソコソとした動きがローラは無性に腹が立つ。


人間の死が嫌ならば、なぜ声を大にしてジュベレウス派に抗議しない?


人間を愛しているのならば、なぜ『本当の意味』で人間側に立たない?


なぜ『本当の意味』で人間を救おうとしない?


なぜ反旗を翻し戦おうとしない?


ジュベレウス派のご機嫌を伺いビクビク怯えやがって。


結局は天界における『保身』が一番大事か? 


『誇り』というものは無いのか? と。


実は『御使堕し』の際、ミーシャ・クロイツェフに直に会い、
その文句を直接言いたかったほどだ。

そんな事をしたら、
己が魔女であると明かしてしまうようなものだから結局は我慢したが。
950 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:19:08.51 ID:3okE3Kso

まあ、勝ち目がないから立ち上がらないのもわかっている。

天界の一大派閥である十字教も、
ジュベレウス派には到底敵わないのは自明の理だ。

魔界や人間界の者ならばそれを承知の上で、誇りを胸に立ち向かうだろうが、
天界の者達は基本的に『安寧』を好む。

『不可能』に対して立ち上がる根性などない。


ましてや、ジュベレウス派の『犬』としてもう型に嵌りきっている十字教には。


――――――と、ローラの『文句』はここらで置いておくとして、とりあえず今はイギリスを守れそうだ。


天界はイギリスを見捨てなかったのだ。



まあ、ここからはローラ達にとって新たな『苦難の始まり』でもあるのだが。
いくら十字教でも、『コレ』はさすがになだめきる事ができないだろう。



ジュベレウス派がローラ達に向ける、壮烈な『怒り』と『殺意』は。



かの者達は絶対に容赦しない。



ローラ、インデックス、そしてステイルに対し、
ジュベレウス派は全力で壮絶な追い込みをかけてくるだろう。



ありとあらゆる手段を使って―――だ。
951 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:22:02.32 ID:3okE3Kso

ローラ「…………………………む?」

ぼんやりと天井を仰ぎ見ていたら、
いつのまにか目的の扉の前に到着していた。


周囲は静かになっている。

バッキンガムに詰めていた兵達は、無意識の内に大方ぶちのめしたのだろう。

いくらローラの力が不完全とはいえ、腐っても『アンブラの魔女』。
普通の人間では到底相手にならない。



ローラ「……さて……………………行きたるか……」



扉の前でポツリと呟くローラ。

この扉の向こうが『山場』だ。

今こそ親友、エリザードとの誓いを果たす時。


彼女の『退位』の時までイギリスの為に。


そして思いっきり目立ち、『見せ付ける時』だ。


『私はイギリスの敵だ』 と。


全ての思いを内に押し込め『鬼』となる時だ。


イギリスへの愛も。

そして親友への思いも。


『本物のイギリスの敵』となる時だ。
952 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:23:51.61 ID:3okE3Kso

ローラは両手で、ゆっくりとその大きな扉を押し開けた。

扉の向こうは薄暗い大きな部屋。



そして扉から10m程奥。

そこに英国女王エリザードが座していた。

質素でありながらも洗練された、美しい木造りの椅子に。

肘掛に肘を突き、頬杖をし。


鋭い矛のような瞳を真っ直ぐにローラに向けながら。

全身から殺意と敵意を溢れ出させ。

だらりと下がっている女王のもう一方の手で、

霊装『カーテナ=セカンド』の柄を握り締め。



『カーテナ=セカンド』。

見た目は長さ80cmほどの両刃の剣。

使用者となる英国王室の者には天使長の力を与え、
その者に仕える騎士達にも天使の力が与えられるという、

イギリスが誇る最大霊装の一つだ。


そんな最終兵器級の霊装が淡く光を放っていた。


天界の『意志』を帯びて。


エリザードがローラに向ける敵意を後押しして。
953 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:26:22.49 ID:3okE3Kso

エリザード「……………………来たか」


ローラ「ふふ―――」

その『光』を、その『親友』の顔を見てローラは目を見開き。


ローラ「んふ、んふふんふふふふふふふふふふ―――」


口を大きく横に裂き。



ローラ「さぁさぁ、『退位の時間』でありけるわよ―――」



魔女の証である、その妖しくも艶やかな『金色の髪』をうねらせ。



ローラ「―――『最期』の祈りは済たるか?」





       陛 下 殿
ローラ「Your Majesty」




そして『本物』になる。

これで天界はイギリスを『許す』だろう。
これでイギリスは守られるだろう。


女王エリザードの『退位』をもって。


女王エリザードの『血』をもって。


―――
954 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:28:00.25 ID:3okE3Kso
―――

学園都市。
とある病棟の廊下。


ステイル「……………………アンブラの………………魔……女………………だと?」


土御門「……知らないままあの女に従ったのか?」


土御門「布告によればローラ=スチュアートは『アンブラの魔女』。お前はその『使い魔』」


土御門「インデックスは…………お前らと関わりが強いから疑われてるんだろ」


ステイル「…………」


違う。

土御門は知らないだろうが、ステイルは知っている。

ステイルは見た。

ヴァチカンでのあの女達、そしてローラが使った力を。
そしてそれと同じ力をインデックスも使ったのを。


あれは恐らく、いやほぼ確実に『魔女の業』だろう。


つまりインデックス『も』―――。
955 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:31:07.81 ID:3okE3Kso
ステイル「……」


土御門「まあ、ともかくだ。お前らは今、イギリス清教の敵だ」


土御門「十字教、天界の敵だ」


ステイル「そうか………………」


土御門「…………」


二人は向かい合ったまま、
無言でお互いの顔を見据えた。


鋭い目で。


睨むように。




ステイル「………………つまり今……君と僕は『敵同士』という訳か」
956 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:32:50.32 ID:3okE3Kso
土御門「…………まあ、そうなるな」

そのステイルの地を這うような重い声に、土御門はそっけなく答えた。

無感情に。


ステイル「…………で、どうするつもりだい?命令通り、僕を『排除』するかい?」


土御門「そうするべきだろうな」


ステイル「…………僕を倒せると?」



土御門「いいや。無理だ。だがそれでも従うべきだろ。何せ陛下の命だしな」



土御門「…………っと言いたいところだが……」


とその時。
土御門は急にニヤニヤとし始め。


ステイル「…………?」


土御門「こっちは今な、『個人的理由』で猛烈に忙しいんだぜよ」
957 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:38:06.15 ID:3okE3Kso

土御門「いや〜、ちょうど『休職届』でも出そうかと思ってたところでな」

土御門「『悪い』が、『向こう』に付き合ってるヒマはないんだぜよ」


頭を掻き、大げさに残念そう仕草をする土御門。


土御門「そういうことでだ。俺はこの命令は『聞いていない』」


ステイル「…………は、はは」


解ける緊張。

ステイルも軽く笑みを浮かべた。


ステイル「そうかそれは『残念』だな。君とも一度『本気』で遊んでみたかったんだが」


土御門「勘弁してくれ。今のお前とは絶対に戯れたくないぜよ」


土御門「……と、そうだ、一つだけ言っておく」


土御門「お前が死のうが、あの胡散臭い女が死のうがどうでもいい。だがな―――」




土御門「―――俺の『ダチの女』は絶対に死なすなよ」




ステイル「……ふん、当たり前だろう」
958 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:39:43.73 ID:3okE3Kso
土御門「OK、っつーことでな」


そして土御門は軽くステイルの上腕を叩き。


土御門「お前らの事は何も報告はしない。だがお前らを助けるつもりもない」


ステイル「いや、助けたかったら助けてくれても良いんだが?」


土御門「おおっとその手には乗らねえぜよ。『そっち』には行かないぜ」


ステイル「そうか、それは残念だな。楽しくなりそうなんだが」


土御門「はは、…………ところで一つ聞くが」


ステイル「何だい?」



土御門「ねーちんはどうした?」



ステイル「…………………………………………彼女はもういない」
959 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:41:22.08 ID:3okE3Kso

土御門「………………………………そう……………………か」


一瞬だけ。

僅かに一瞬だけ、土御門の表情が濃く翳った。


ステイル「…………」

すぐにまたいつもの『仮面』に戻ったが。

その僅かな表情がステイルの脳裏にはっきりと焼き付けられた。
土御門が一瞬だけ見せた『悲しみ』の顔が。


以前なら、そんな他者の表情など気にも留めなかっただろう。


そんな風にステイルが思っているとは露とも知らず、
土御門はまたいつもの調子で言葉を続けた。


土御門「ま、何せ情報が足らなくてな。イギリスもお前らの件もあって大混乱だしよ」


土御門「そういう事でだ、俺は今からアレイスターの所に行くぜい。お前も一緒にどうだ?」


ステイル「……」
960 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:43:09.77 ID:3okE3Kso
そう、ついさっきまでステイルもアレイスターの下へ向かおうとしていた。


己が置かれている状況を知るまでは。

学園都市はイギリスと同盟を結んでいる。


つまり―――。


土御門「あー、それは心配ないと思うぜよ。引渡しはしないと思うぜい」


と、そこでステイルの懸念を察したのか、土御門が先回りして答えた。


ステイル「……そうだといいがな」


土御門「お前はともかくインデックスを今、かみやんがいる時に引き渡すのは色々と問題があるだろ」


土御門「ダンテもここにいるしな。そう波風は立てたくないはずだ」


ステイル「……そうか。では少しは君を信用してみるかな」


土御門「少しはって、今まで信用されてなかったのか俺は」


ステイル「まあな。君も『あの女』と同じくらい胡散臭いからな」


土御門「おおう、そいつは手厳しいぜい」
961 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:45:03.66 ID:3okE3Kso
土御門とステイルは並び、そして廊下を進んでいく。


土御門「……それにしてもな、まさか『アンブラの魔女』の伝説も事実だったとはな」


ステイル「『スパーダの伝説』も同じだっただろう?『真実』は『物語』よりも『物語らしい』面がある」

ステイル「僕も実際にフォルトゥナに行って、スパーダの息子と孫に会うまでは信じてなかったしね」


土御門「そう考えると、俺らってかなり『バチ当たり』だぜよ」


ステイル「……どういうことだい?」


土御門「十字教の事だって、俺らは『神の存在を知っているだけ』で、『神を信じてはいない』だろう?」


ステイル「はは、まあ確かに。『力』を利用させてもらっていただけだったな」


ステイル「だがそこは『現実主義』と言って欲しいね」


土御門「……というかな、話はまた戻るが、」


土御門「『アンブラの魔女』が実在してたって事は、その『滅亡の経緯』も実話だった可能性が高いな」
962 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:47:01.79 ID:3okE3Kso

ステイル「『神々の軍勢が降臨し、一夜にしてアンブラの都を滅ぼした』……か」


土御門「……最……いや、ローラ=スチュアートの力は直で見たのか?」


ステイル「ああ。恐らく、いや確実にあの女は僕よりも遥かに強い」


ステイル「少なくとも大悪魔上位クラスの力を持ってるだろう」


土御門「……ということは、『神々の軍勢』は……」


土御門「そのレベルの連中がごたまんといた都をたった一日で滅ぼしたってことか」


土御門「ひゃ〜、本当に『ご愁傷様』だぜよステイル君」


土御門「んな連中に狙われてるとは」



ステイル「…………さすがにストレートに言われるとかなり堪えるな……」
963 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/09(月) 00:51:50.37 ID:3okE3Kso

土御門「ま、落ち込むな。何とかなる。せいぜい死なないように頑張るんだぜい」

ステイル「……君も『こちら』に来ないかい?助けは多い方が良い」

土御門「だからその手には乗らないぜよ。『勧誘』はお断りだにゃ〜♪」

ステイル「…………上条が(ry」

土御門「おおう、頼むから巻き込まんでくれ。勘弁してくれい」


ステイル「…………はは」


土御門「……それにしてもな……こう『伝説』や『神話』が真実だったら、色々と夢が広がるぜよ」


ステイル「…………僕は逆に嫌だがな。厄介事が増えるだけだ。『真実の歴史』は知らない方が良い」


土御門「いんやあ、歴史は浪漫だろ。もしかしたら『あの伝説』も実在してるかもな〜」


ステイル「……どの伝説だい?」


土御門「『伝説のメイド王国』」


ステイル「…………さて、僕がその『伝説』を知らないだけなのか、それとも君がおかしいのか、一体どちらだろう」


土御門「お前が知らないだけだ。世界は広いんだぜい?」


ステイル「…………君を信じるのはやはりやめておこうかな」


土御門「ステイル君ったら本当に夢が無いにゃ〜。つまんない男だぜよ」


―――
964 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/09(月) 00:52:33.75 ID:3okE3Kso
今日派ここまでです。
次は火曜か水曜に。
965 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/09(月) 00:54:35.67 ID:vH0GVjM0
おつおつ!!
966 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/09(月) 00:54:52.30 ID:r/nKM8Qo
乙なんだよ!
967 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/09(月) 00:58:47.71 ID:Gjuing60
フォルティトゥードとテンパランチアがいつ介入してくるか楽しみ
968 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/09(月) 02:12:35.22 ID:oDe61R60
>>1さン乙です、ってなァ
969 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/09(月) 17:15:24.13 ID:NCSFPe60
>>1
わざわざ返答していただきありがとうございます
970 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/10(火) 23:44:17.82 ID:XUFczEM0
(´ω`)明日には新スレなのかな
971 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/10(火) 23:44:35.22 ID:rTQks5Qo
―――

窓の無いビル。

赤い液体が満たされた水槽の中、アレイスターは静かに目を瞑っていた。

眠っているわけでは無い。
こう見えて実は脳内はかなり活発に活動している。

彼は今の状況、そして今後の情勢、その中でのプランの位置を確認していたのだ。
これはいつもやっている、言わば日課・癖のようなものだろう。

こうやって常に自分の位置を見定めつつ全体像を把握し、
絶え間なく入ってくる新情報を組み込み、
これから起こりうる様々な事態を予測することが重要なのだ。


絶え間なく入ってくる新情報。

つい数分前、大きな『ソレ』が飛び込んできたばかりだ。


それはイギリスでの騒動。



『元』最大主教、アンブラの魔女ローラ=スチュアートの『反乱』。



ローラ=スチュアートは身分がバレたと知った途端、バッキンガム宮殿に乗り込み、
女王エリザードにかなりの重傷を負わせて逃走したらしい。
972 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/10(火) 23:45:41.12 ID:XUFczEM0
(゚Д゚)と思ったらキター!?
973 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/10(火) 23:48:00.47 ID:rTQks5Qo

これにはさすがのアレイスターも驚いた。

以前からあの女には色々思うことがあったが、まさか本物のアンブラの魔女だったとは。

まあ、それならば天界傘下のイギリスから『国家の敵』・『神の敵』として認定されるのも当然。


同じく『神の敵』として指定されたステイル=マグヌスと禁書目録。

この二名は今、学園都市にいる。


アレイスター「……」


天界からすれば、学園都市が匿っているようにも見えるだろう。
つまり、かの者達の学園都市への怒りは更に倍増されたというわけだ。

そして当然、イギリスもこの二名の引渡しを要請してくるだろう。


だがアレイスターにとって、それに応じる理由は無い。

応じても何も利益が無いのだ。

あの二人がいなくともどの道、天界は学園都市を潰す気だ。
ならば大きな戦力となりうるあの二人を、匿っていた方が良いのは確実では無いか。


敵の敵は味方。


至極当然、単純明快な法則だ。
974 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/10(火) 23:50:11.79 ID:rTQks5Qo

イギリスの要請を断れば同盟は破棄されるだろうが、それも今や大した問題ではない。

この同盟も対ローマ正教としてパワーバランスを保つ為のものであり、

その人間世界のしがらみなどどうでもいい今の状況下では、
アレイスターにとって気にすることでは無い。

そもそもアレイスターは天界と敵対していたわけなのだから、
どの道イギリス清教とも敵対するのは確実だったのだ。


そして今の状況下では、イギリス清教も脅威では無い。

イギリス清教とローマ正教が手を結んで学園都市に対抗する事も有り得ない。

ヴァチカンの件もあって、彼らの関係はもう修復の余地無しだ。

必ず全面戦争となる。

そうなれば、イギリスも遠く離れた学園都市には構ってはいられないだろう。
何せ海峡を挟んですぐ隣にローマ正教陣営があるのだから。


例え魔術師の刺客を送り込んできたとしても、
『とある理由』で彼らは学園都市内では『ほぼ無力化』される。


アレイスター「…………」


そう、『とある理由』で。


今の学園都市内では、『通常の天界魔術』は使用できないのだ。
975 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/10(火) 23:51:57.64 ID:rTQks5Qo
学園都市は今、高密度のAIMに覆われている。

この中では、『通常の天界魔術』はまともに起動しない。


これは以前、神の右席『前方のヴェント』が学園都市に襲来した際の、
ヒューズ=カザキリの『完全起動』下での状況と同じだ。


この高濃度のAIM拡散力場が、『通常の天界魔術』を阻害する原理。

それは『セフィロトの樹』に重大な障害が起きる為だ。


基本的に『通常の天界魔術』とは、

『セフィロトの樹』を経由して送り込まれてくる、
人間の為に『調整』された『テレズマ(天使の力)』を動力として、機能する魔術の事を指す。


これが『魔界魔術』や『能力』と最も違う点だ。


『魔界魔術』や『能力』は、力の源から『直接』引っ張ってくる。


だが『天界魔術』は、『セフィロトの樹』という管理システムのワンクッションを置く。


『調整』と『統制』の為に。


『調整』とは、天界の力の法則を規格化し、薄めることだ。


『純の力』だと人間に負荷がかかりすぎるのだ。
976 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/10(火) 23:56:57.61 ID:rTQks5Qo

『能力』、つまり『封印されし力場』から引き出された力は既に『死んでいる』。
太古の昔に滅びた、『死んでいる』存在の残骸だ。

その為、使う際の『拒絶』はほとんど無い。


だが魔界や天界からの力は『生きている』。

『生』として存在している者達の力を引き出すのだ。

当然、胎動し意志を持っている力は、使用者に対し拒否反応を示すこともある。


その部分を削り落とす為にある機能が、『セフィロトの樹』の『調整』だ。
これにより力はかなり弱まるが、それを扱える者の人数を爆発的に増やすことができる。

天界は個々の戦闘能力よりも、数を優先したのだ。

魔界魔術の使い手の数が絶対的に少なく、それでいて個々の戦闘能力が異様に高いのはこの為だ。

(天界魔術の使用者の合計が数百万に達するのに対し、魔界魔術の使用者は数万足らずだ)


そして『統制』。

天界に仇なす者に天界の力を利用されない為の制御機構だ。

『天界の敵』である『能力者』が、
天界魔術を使おうとすると『魂』が蝕まれるもこの働き。


強引に能力者が天界の力を使おうとすると、
『セフィロトの樹』の働きによりその者の『魂』が破壊されてしまうのだ。
977 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/10(火) 23:59:37.18 ID:rTQks5Qo

この様に、『通常の天界魔術』は『セフィロトの樹』があってこそのもの。


『セフィロトの樹』に障害が起これば、当然それに頼っている魔術にも影響が出る。

調整システムも狂い。

規格外の『純の力』を流し込まれた術式は、まともに動くわけも無く暴走し。

魔術が起動するどころか、使用者自身がその莫大な力によって蝕まれる。


これが、通常の天界魔術が今の学園都市で使えない理由だ。



だが『通常』と冠するだけあって、例外もそれなりに存在する。


『セフィロトの樹を介さない天界魔術』 だ。


例えば、天界と特別なパイプを持つ『聖人』。

彼らは『セフィロトの樹』を介する、既存の天界魔術も使うが、

聖人としての力そのものは、天界から『直』で流れ込んできている『純な力』だ。
リスクもかなりあるが、その分強力な力を行使する事ができる。

もちろん、それを制御している術式も特別なものだ。

つまり『根元の基本的』な構造は、『魔界魔術』や『能力』と良く似ている事になる。
978 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 00:05:22.39 ID:3iWVRjAo


次に『魔神』の称号を持つ者。


一般的に『魔術を極め、神の領域にまで達した者』と言われる者達だ。

具体的にはどうなのかというと、
『セフィロトの樹を介さずに、直で天界から力を引き出す方法を知っている者』だ。

聖人と同じに聞こえるが、聖人は生まれながらにして直で繋がっている『だけ』であり、
その構造を把握しているわけでは無い。


一方で魔神はその構造を把握し、自らその『直のパイプ』を作る事ができる。


つまり聖人は生まれた時から持っている『一本のパイプ』のみであるのに対し、
魔神は複数のパイプを作り、そして状況に応じて使い分けることが出来るのだ。

その為、彼らが行使する力は通常の聖人など遥かに凌駕し、
その気になれば複数の天使から、同時に力を直接授かることも可能だ。


これに該当するのが在りし日のアレイスター自身。

彼はこの道を究めた結果、『セフィロトの樹』の構造と存在意味をも全て暴いてしまったのだ。
人間が決して知ってはならない真実を知ってしまったのだ。



偽装して『セフィロトの樹に繋がっている』と天界に思い込ませ、
のうのうと天界の力を使い捲くっていたローラ=スチュアートもこれに該当する。


言い換えれば、『アンブラの魔女』は魔神と呼べるほどの技量をもった集団だ。

彼女達に対抗しパワーバランスを保つ為に組織されてた、
ジュベレウス派直属の『ルーベンの賢者』も究極の魔神集団と言える。
979 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 00:08:26.93 ID:3iWVRjAo

神の右席『右方のフィアンマ』と禁書目録。

この二名も、今の学園都市の状況には左右されない『例外』だ。


アレイスターの知る限り、禁書目録は魔女ローラ=スチュアートの手がかなり入っている。
それならば『魔神』化してても何ら不思議ではない。

先程の戦いを見るとおり、
AIMの濃度が爆発的に上がった後も、普通に天界魔術を使っていたのがその証拠だ。


そして『右方のフィアンマ』。


『神の右席』は、十字教の四大天使の力を授かっている。

彼らの『セフィロトの樹』は通常のとは違い、
その四大天使の力を効率よく使えるよう、天界の計らいで特別に調整されているものである。

神の右席専用術式を他の者が使えないのもこの為だ。

だが神の右席といえども、『セフィロトの樹』を介して力の行使を行っている以上、
AIM拡散力場による障害は確実に受ける。

前方のヴェントのように。


しかしその神の右席の中でも、『聖なる右』を有する『右方』だけはまた『特別』だ。


『聖なる右』、つまり『竜王の行使の手』の歴史を見るとおり、
その本質ははっきり言って『天界の力』では無い。



根は『能力』と同種の力だ。



つまり、フィアンマはミカエルの『加護』を有する『魔術師』でありながら、
『能力者』でもあるという事だ。
980 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 00:12:02.42 ID:3iWVRjAo

天界の『了解』の下で、『聖なる右』という『能力』を有しているのだ。

『聖なる右』のとある特性上、『セフィロトの樹』とも繋がってもいない為、
高濃度のAIMによる妨害も一切受けない。

当然天界魔術と能力を『併用』し、更に『融合』させても何ら障害は無い。



『右方』とは、唯一人間の中で能力と天界魔術の併用を『許されてる』座なのだ。



アレイスター「…………」


在りし日を思い出す。

あのイギリスの片田舎での激闘を。

そう、『聖なる右』との戦い。

その場にいた他の聖人や魔神とは一線を画す、とんでもない存在だった。

年齢も50程だったろうか、
その力の使い方は今のフィアンマよりも成熟され、かなり練り上げられていた。

当時の『右方』ははっきり言って、先程のフィアンマよりも強かったのだ。


あの時アレイスターは、
一度限りの『切り札』によってようやく相打ちに持ち込むしかなかった。



一度限りの『切り札』によって だ。
981 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 00:15:07.25 ID:3iWVRjAo

幸運な事に、今その切り札を使う必要は無かったようだ。

アレイスター「…………」

というか、あの程度の『聖なる右』ならば、その『切り札』を使うまでも無い。

アレイスターが出る必要なく、現『右方』は敗北した。

木っ端微塵に爆散して だ。


アレイスター「…………」


だが、『死んだ』と断言するのは早計すぎるのもまた確か。

考えれば考えるほど、懸念すべき部分が浮かび上がってくる。


特に一番の問題点。


それは この高濃度のAIM拡散力場の中心地で、竜王の『行使の手』が霧散した事 だ。


まるで。


『溶け込んで』いくかのように。
982 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 00:16:44.03 ID:3iWVRjAo

だがまあ、そこまで頭を悩ませる心配も無い。

それを考えて一応『防壁』も組み込んでいる。

そして今のところ、その『探査ネット』に引っかかる反応はない。

AIM拡散力場には何ら以上は無い。

これらの結果を見れば、『心配ない』と言えるだろう。


アレイスター「……」


溶け込んでいたとしたら、必ず反応があるはずなのだ。

あれほど巨大な力の塊だ。

隠しきれるはずが無い。


まあ、念には念を入れて、注意しておくに越したことは無いが。


この高濃度の『AIM拡散力場』を、
何度もくまなく調べ上げたほうがいいだろう。


そしてこの高濃度の『AIM拡散力場』の放出主である―――。


―――大事な大事な『要』もだ。


ちなみにその『要』は、以前のヴェント襲撃の際とは違う存在だ。

この『AIM拡散力場』の放出主は『ヒューズ=カザキリ』ではない。




―――先程進化を遂げた『一方通行』だ。



―――
983 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 00:18:16.70 ID:3iWVRjAo
―――


とある病棟。


長い廊下を並んで歩く二人の少女がいた。


黒子と佐天。


佐天「それにしても……相変わらずここは厳重ですね……」


黒子「あまりキョロキョロなさらないでくださいまし」


黒子「それと口うるさいでしょうが、余計な物を見たり、面識がない方とは話さないように」


黒子「絶対にですの。ここはある意味『超法規的』場所ですので」


佐天「ちょー……ほ…箒……?……やだなあ、わかってますって〜白井さん」
984 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 00:19:48.14 ID:3iWVRjAo

黒子「……はぁ……」

隣の友人の緊張感の無さに溜息を付く黒子。

佐天がこの状況を理解していないわけでは無いのはわかってるが、
どうにもこの空気は気に入らない。


以前も認識したが、

この友人はナイーブな面もあるが一度吹っ切れると、
とんでもなく図太くなるということを改めて認識させられた。


この友人はネガティブになればとことん堕ちるが、
そこを越えたら今度は馬鹿としか言いようが無いほどにポジティブになるらしい と。

一線を越えた後の順応力は黒子以上だろう。

まあそのくらいないと、
二ヵ月半前の事件の後の黒子のように、精神的に擦り切れてしまうのだろうが。

いわばPTSDの一種だ。


黒子としては、友人がそんな風になる姿は見たく無いので、これはこれでいい事なのだが。
985 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 00:22:46.62 ID:3iWVRjAo

とはいえ。

佐天も決してこの状況を舐めているわけでは無いはわかるが、
彼女も彼女なりに緊張し、事態の重大さを認識しているのもわかるが。

黒子「……少しは顔を引き締めてくださいまし」


それでも一言告げたかった。


黒子「今回の件、『今のところ』は死者の報告はありませんが負傷者は千人を越えておりますし、」

黒子「住居を失った方は二万人を越えておりますの」


外傷を負った者は極少数だが、大勢の避難途中の市民達が突如意識を失ったのだ。
市民どころか、避難誘導をしていたアンチスキルやジャッジメントまで だ。

事態が終息した後、何事も無く皆意識を取り戻し、大事はないらしいが。

ちなみに黒子はその『強烈な威圧感』に慣れていたため大丈夫だった。

初春は支部で情報統制をしており、現場に出ていなかった為その難は逃れた。


そして死者の報告も『今のところ』はない というだけ。


これだけの規模なら、必ずいくらかは出ているはずだ。
広大な廃墟の中から遺体を見つけ、確認するまでは少なくとも数日はかかるだろう。
986 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 00:24:34.87 ID:3iWVRjAo


佐天「………………あ………………すみません」


強い口調で現実的な数や被害状況を示され、ようやく佐天も顔を引き締めた。


二人は無言のまま、廊下を進んでいく。

彼女達は御坂に会いに来たのだ。

厳重な身元確認をし立ち入りと面会が許された際、
その黒服の男から『超電磁砲は無傷であり、軽い検査で済む』と聞いたが、

あれ程の規模の戦いに身を投じていたとなれば、やはり心配だ。


と、そうしてL字状の廊下の突き当たりを曲がった時。

廊下の向こうに、その目当ての人物が立っていた。

黒服の男に食いかかるように、何かを話し込みながら。


佐天「あ、いましたよ……元気そうですけど何話してるんでしょ?」


黒子「……行きますわよ」
987 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 00:26:34.38 ID:3iWVRjAo

―――

御坂「もう一度ちゃんと調べて。『海原 光貴』」


「何度も言うが、この病棟にその名の者は入ってない」

手のひらサイズのPDAを操作しながら、小さく肩を竦める黒服の男。


御坂「もしかして私のセキュリティレベルが低いから教えられないっての?」


「いいや。お前の方が俺よりも上だ。少なくとも俺の所にはその者の情報は来てない」


御坂「そう……じゃあそれちょっと貸して。私の方がセキュリティレベル上なんだからいいでしょ」

と、言いながら御坂はPDAを奪い取り。


「お、おい!…………チッ……クソガキが……」


黒服の男のボヤキなど全く聞かずに、自ら操作し調べていく。

だが男の言うとおり、『海原 光貴』の名はどこにも無かった。

一応能力を使ってハックもして、周辺の病院も調べたがそれでも見つからなかった。

まあ代わりに、上条・インデックスと一方通行の病室の位置を特定したので、
収穫ゼロというわけではないが。
988 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 00:29:01.64 ID:3iWVRjAo

御坂「…………本当に無いわね。邪魔して悪かったわ」


溜息混じりに、御坂はPDAを投げつけるように男に返した。


「……おい。お前の面会人だ」

とその時、黒服の男は立ち去ろうと踵を返しながら、顎で御坂の背後を指した。


御坂「へ?」

振り返ると。


黒子「おっっっっ姉さまああああああああああああああああああく、くくくくく黒子はぁあああああああああああ!!!!!!!!」


飛びかかって来ていた後輩が目に入り。


御坂「っっっしゃぁあああああああああ!!!!!!!!!」


黒子「んひぃいいぎぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


そして反射的に電撃で打ち落とした。

ついつい反射的に。

ついつい強めに。


黒子はこの時以降、二度と背後から飛びかかろうとはしなくなった。


背後から だが。


―――
989 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 00:30:33.89 ID:3iWVRjAo
次スレ立ててきます。
続きは次スレからで。
990 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/11(水) 00:33:52.56 ID:HllDkZU0
(`・ω・´)ゞお疲れ様です
991 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 00:48:55.19 ID:qNtqAgA0
992 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 00:50:14.30 ID:3iWVRjAo
次スレです。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1281455278/

ではここは埋めで。
993 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 00:51:48.69 ID:3iWVRjAo
うめ
994 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 00:52:25.02 ID:bqyA.2AO
乙です!
995 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 00:53:02.65 ID:3iWVRjAo
うめうめ
996 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 00:55:35.11 ID:3iWVRjAo
うめうめ
997 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 00:56:14.96 ID:3iWVRjAo
うめ
998 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 00:57:04.72 ID:3iWVRjAo
うめ
999 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 00:58:21.58 ID:3iWVRjAo
うめ
1000 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/11(水) 00:59:18.67 ID:HllDkZU0
1000うめ
1001 :1001 :Over 1000 Thread
    ´⌒(⌒(⌒`⌒,⌒ヽ
   (()@(ヽノ(@)ノ(ノヽ)
   (o)ゝノ`ー'ゝーヽ-' /8)
   ゝー '_ W   (9)ノ(@)
   「 ̄ ・| 「 ̄ ̄|─-r ヽ
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ダンテ「学園都市か」【MISSION 05】 @ 2010/08/11(水) 00:47:58.03 ID:3iWVRjAo
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なのはに詳しい奴に聞きたいんだが・・・ @ 2010/08/11(水) 00:03:24.73
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4vip/1281452604/

☆「もう戦闘飽きたな。それ以外で決着をつけよう」ローラ「望む所なりけるのよ」 @ 2010/08/10(火) 23:43:25.90 ID:ZajkeoU0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1281451405/

三田モードビジネス専門学校のヤツちょっと来い @ 2010/08/10(火) 23:20:20.60
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ニャース速報 @ 2010/08/10(火) 23:10:10.51 ID:Mr7QbMDO
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