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少女『言葉が通じなくても』 - 製作速報VIP(クリエイター) 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/15(火) 22:25:51.19 ID:bc4rtgAO
故郷破れて大海在り
島泡となり面影も無し―


ザザーン

ザザーン


少女「!」

少女「――!―!」

侍「…」ピクッ

少女「―!」

ズルッズルッ
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 22:30:52.03 ID:bc4rtgAO
……

侍「…ぅ」

少女「―!」

侍「ここは…いっ!?」

少女「―!?」

侍「だ、大丈夫だ」

侍(どうやら異国に流れ着いたらしいな…)
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 22:39:52.58 ID:bc4rtgAO
少女「―?」

侍(参ったな…言葉が通じぬと礼も言えぬ)

少女「――」スッ

侍「これは…」

侍(食い物か? 見たことのない物だが)
少女「―」ボロ

侍(こんなに貧しく痩せ細っているのに、私に施してくれるのか…)

侍「娘」スッ

少女「?」

侍「忝ない」土下座

少女「―!!」アタフタ
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 22:57:48.21 ID:bc4rtgAO
少女「―」パクパク ゴクン

侍「…ゲホッ ゲホッ」

少女「―!?」

侍「大丈夫、大丈夫だ」ゲホッ

侍(体が食事を受け入れられない…)

少女「…」シュン

侍「…」


侍「据え膳食わぬは男の恥!」バクッ

少女「―!?」

侍「心配無用!ゲホッ 今までで一番美味い飯だゲフッ」
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 23:12:38.41 ID:bc4rtgAO
ドサッ

侍「急に眠気が…」

少女「―」

侍「すまぬ、暫し眠らせてもらう…」

少女「―…」







家老「やりましたな、殿」

将軍「ああ、嵐世は終わった。皆のおかげだ」
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 23:19:09.08 ID:bc4rtgAO
家臣「皆とは、あの人斬りも含めてですかな?」

家老「…これ」

家臣「…失礼致しました」

将軍「…よい、儂もあやつには悪い事をしたと思っておる」

家老「殿の判断は的確でございました。奴はいずれ災いの元となりまする」

将軍「しかし、命懸けで戦ってくれた仲間を島流しにした事に変わりはない」

家臣「奴は戦の中でしか生きられないのです」
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 23:23:50.62 ID:bc4rtgAO
将軍「奴が…侍が船に乗る時なんと言ったか知っておるか?」

家臣「…いえ」

将軍「『この国を頼む』、と」

家老「!」

将軍「我々は、侍や嵐世に散った命の分も生きなければならない」






侍「船に乗って2日か…獄島は遠いな」
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 23:31:32.96 ID:bc4rtgAO
見張り「いいのかい? 侍さんは天下平定の功労者じゃないか」

侍「いいのだ、私は人を殺し過ぎた」

見張り「戦が終わっても人を食い物にしてる奴らは山程いるってのに」

侍「殿が上手く治めて下さる。戦屋の私は消えるべきなのだ」

見張り「…」

侍「…ありがとう」

見張り「このままおっ死んだら許さねえからな!」

侍「ああ、獄島を田畑だらけにしてやるさ」

見張り「そりゃ楽しみだ!」
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 23:36:08.61 ID:bc4rtgAO


侍「すー…すー…」

見張り「侍さん、起きてくれよ」

侍「ん…なんだ?」

見張り「妙な船がいるんだ」

侍「船?」



侍「お頭、どこだ?」

お頭「あそこだ。大筒みたいなのを乗っけてる」

見張り「むしろ船自体が大筒だ、ありゃ」

侍「…嫌な予感がする」
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 23:42:16.61 ID:bc4rtgAO
お頭「あの船、本島を狙ってんのか…?」

見張り「なっ あんなところから届く訳ありませんよ!」

侍「…お頭、小船を一隻下ろしてくれ」

見張り「侍さん!?」

お頭「間に合うかわからんぞ?」

侍「間に合うかもしれん」

お頭「…侍殿には辛い役目ばかり任せて申し訳ない」

侍「辛くなどない。皆を守れるのだ、これほど名誉な事はない」

見張り「侍さん…ッ!」
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 23:48:42.91 ID:bc4rtgAO
お頭「船を回せ! あの大筒船に仕掛けるぞッ!」

「おおおおおおおおッ!!」

侍「お頭!」

お頭「こっからじゃ遠くて仕方ねぇ、俺達が近くまで送ってあげまさぁ」

見張り「俺達が囮になってる間にこっそり乗り移ってくだせぇ」

侍「…すまないッ」

お頭「国を守れるんです、こんな名誉な事はねぇ」
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 23:51:31.41 ID:bc4rtgAO
ザザーン

見張り「お達者で」

侍「また会おう」


ザバンッ

ドンッ ドンドンッ


侍「始まったか…」

侍「皆、無理はするなよ」
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 23:55:31.18 ID:bc4rtgAO
ギコギコッ

侍「急がねば」

ドーンッ ザバーンッ

侍「妙だな…反撃してこない」


「――――――!」


ドォォォォォォオンッッ


侍「ッ!?」
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 23:59:37.49 ID:bc4rtgAO
ザバッザバッ

侍「一体何が……え」

侍「船が…お頭達は……?」

侍「い、いかん、早く大筒船に乗り込まねば…」

ギギギギ

侍「…な」

ギギギギギッ ガゴッ

侍「大筒が…動いて」


カッ―――――――――――



ゴォォオオオオオオオオンッッ
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 00:04:21.81 ID:mSDe4wAO
侍「うあああッ!?」バッ



侍「夢…か」


侍「む、娘がおらぬ」

侍「探しに行くか、それとも…」





少女「…」

【靴磨きます】
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 03:22:38.62 ID:ZD9nL0.0
小ネタスレのときからwktkしてました
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 06:31:27.77 ID:jdBrKIDO
上に同じ
期待
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 09:46:00.03 ID:uN4sfwDO
期待
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 12:18:24.89 ID:RtO6nmU0
きたいー
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 13:26:06.41 ID:mSDe4wAO
兵士『またお前か』

少女『…』

兵士『露天商の許可は取ったのか?』

少女『…いえ』

兵士『ふむ、では警告通り罰金を払ってもらおう』

少女『お金は…』

兵士『無いんだな、拘束させてもらうぞ』

少女『!』
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 13:37:50.00 ID:mSDe4wAO
兵士『こい!』グッ

少女『嫌!』

乞食男『兵士さん、ワシら許可を取る金もねぇんだ!勘弁してくれよ!』

兵士『うるさいぞ、貴様も逮捕されたいみたいだな』

乞食男『ひっ』

兵士見習い『お前はこの売上金で勘弁してやる』ヒョイッ

乞食男『ま、待ってくれ!』バッ

ヒュッ

乞食男『え』プシッ

少女『おじさん!?』

兵士『公務執行妨害だ、次は外さんぞ』

乞食男『ひぃ!?』ツー
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 13:41:49.84 ID:mSDe4wAO


侍「…」正座

侍(この界隈では靴を磨いて日銭を稼いでいる者が多いな)

侍(それぐらいなら言葉が通じずとも…)

ガタ

侍「む」

裕福そうな男「――――――」

侍「謹んでお請けしまする」キュッキュッ

裕福そうな男「――――」
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 13:46:25.73 ID:mSDe4wAO
侍「…」キュキュッ

裕福そうな男「―――」

侍「如何でございますか」

裕福そうな男「―!」

チャリッ

侍「! ありがとうございます」土下座


侍「良かった… なんとか報酬を貰えたな」

ガシッ

侍「ん?」

靴磨きの男「―――――」ググッ

侍「な、なんだ」
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 15:00:25.83 ID:APgNMnko
始まってた(0゚・∀・)
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 16:17:15.85 ID:mSDe4wAO
侍「これは私の銭だぞ」ググッ

靴磨きの男「―!」ググッ

侍(こやつ、私から奪い取るつもりか)

侍「止めぬか!」バッ

靴磨きの男「―!?」バタッ

侍「ふん」


兵士見習い「―!―――!」

靴磨きの男「―!」ダダッ

侍「…見回りの者か」

兵士見習い「―――」

侍「む? 私に用があるのか?」
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 20:50:58.11 ID:mSDe4wAO
兵士見習い「――?――――!」グイッ

侍「な、何やら誤解されているようだが」グイグイッ

兵士見習い「―! ―!」

侍「私を引っ立てるつもりか!」バッ

兵士見習い「―! …――――!!」

侍「ほとぼりが冷めるまで隠れるしかないかっ」タタタッ

兵士見習い「―!!」
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 20:58:58.34 ID:mSDe4wAO
侍「はぁ…どうやら撒いたようだな」

侍「娘は…まだ帰っておらぬか」

侍「一体どこに行ったのだ…」





少女『…ん』

少女『ここは…? 檻!?』

少女『そうだ、私兵士に捕まって…』


ウォォォォォォン…

少女『な、何!?』
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 21:13:19.09 ID:mSDe4wAO
ズシッ ズシッ

少女(近づいてくる…)

ズシッ ズシッ

ブフーッ ブフーッ

少女(何か…生き物の荒い息遣いが近付いてくる!)

ズシンッ ズシンッ
ッゼーハーッ

少女(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!)



少女(…?)


豚顔の巨漢「ゲァァァァッ」

少女『きゃああああああああ!?』
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 21:24:34.98 ID:mSDe4wAO
少女『な、何!? 何なの!?』

豚顔の巨漢「ァァァァァアアア」ガシッ

少女『ひっ!!』ビクッ

豚顔の巨漢「ガァァァァァァアアッ」メキメキ…

少女『いやッ 誰か助け…』



パシンッ

豚顔の巨漢「ギャィッ」

市長『実験材料に手を出すなと言っているだろ豚、檻ごと潰す気か』

少女『市長…?』
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 21:28:00.85 ID:mSDe4wAO
市長『ほれ、向こうへ行けッ』ピシッ

豚顔の巨漢「ブギャッ」



少女(一体どういうこと…)

市長『怪我はないかね』

少女『!』ビクッ

市長『怖がらせてしまったかね、お嬢ちゃん』

少女『…』
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 21:34:01.22 ID:mSDe4wAO
市長『しかし安心したまえ、直に恐怖からも解放される』

少女『…どういうことですか』

市長『君はもうすぐ人間なんかより次元の高い生命体に変わるんだよ』

少女『…え』

市長『簡単に言えば、これから行う儀式により天使へと生まれ変わるのだ』

少女『天使…』ブルッ

市長『まぁ、失敗したらさっきの奴らの仲間入りなんだけれどもね』

少女『嫌…』ブルブル

市長『フフ…光栄に思いたまえ』

カツッ カツッ カツッ

少女『嫌ぁぁぁぁぁぁ!』
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 21:40:49.45 ID:mSDe4wAO


侍「こっちは柿か? 似てはいるが黄色が強い気が…」

商人「――!」

侍「握り飯はないのか? あの娘に食わせてやりたいのだが…」


兵士「―――!!」

侍「ん?」


ザワザワ

兵士「――!」ドンッ

貧しそうな少年「―…」

侍「何故童が縄にかかっている…」
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 21:44:25.74 ID:mSDe4wAO
ザッ

兵士「―?」

侍「待て、その童が何をした」

貧しそうな少年「――!! ―」

兵士「―!!」

バキッ

侍「!」

貧しそうな少年「―」ドサッ

兵士「――――!!」チャキッ



侍「成る程、問答無用か」ザッ
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 21:48:20.07 ID:mSDe4wAO
貧しそうな女性「―!!」タタッ

貧しそうな少年「―!」ダッ

兵士「―!」バッ

侍「行かせはせん」ザッ

兵士「!」


兵士「―… ―――――!!」シャキンッ

侍「…抜いたな? 真剣勝負、受けて立とう」
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 21:56:01.87 ID:mSDe4wAO
兵士「――――――!!!!!」ダダダッ

侍「捉え難き事―」

フォンッ


…ゥンゥンフュン

ドッ


兵士「―!?」

侍「雲の如し」



侍「その様な出鱈目な剣術では死を覚悟した相手は殺せぬ」ズボッ

兵士「―!」ダダッ

侍「逃がさぬ」ザザッ

兵士「―!?」
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 21:59:01.33 ID:mSDe4wAO


少女『…』


コツッ コツッ

少女『…!』

コツッ コツッ

ドスッ ドスッ

少女『ひっ!?』


市長『迎えに来たよ』
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 22:04:04.36 ID:mSDe4wAO
少女『嫌! もう帰して!!』

市長『帰る? おかしな事を言う』


市長『君には帰る場所なんて無いのに』


少女『!』


少女『う…ううううう』

市長『ああ、ごめんね、本当の事言っちゃって』

少女『あああああああああああ』

市長『ふふふ…あははははははは』



市長『連れてけ』

鷲頭の巨漢「ケーッ」
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 22:40:01.80 ID:mSDe4wAO


ジャラッ

少女『……嫌』グスッ

市長『さあ、儀式を始めよう』


魔術師『禊ぎは三度繰り返され、礼拝は四度繰り返される―』

市長『ふふ…』



ガダン ズンッ オオオオン…


市長『…騒がしいな』
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 22:46:41.42 ID:mSDe4wAO
ドガンッ ギャオオーッ ガシャンッ

市長『バケモノ共が暴れ出したか? クソ』






市長『…静かになったな』

魔術師『―空の器に天啓を収める…出よ、』


バンッ


侍「ここに居たか、探したぞ」

少女「―!!」
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 22:50:55.61 ID:mSDe4wAO
市長「―――!? ―!?」

侍「その様子だと…大方魔物でも招いてたか」

魔術師「―」


ヒュンッ


侍「人間の風上にも置けぬな」

魔術師「」ブシュッ


市長「―!?」
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 22:54:18.61 ID:mSDe4wAO
侍「娘、目を瞑っておれ」ソッ

少女「―!」

侍「覚悟はよいか外道」チャキッ

市長「――!? ――!!」



魔術師「…―」


カッ

侍「なっ!?」

ゴゴゴゴゴゴッ

市長「―――――――!!!!!!!!」ググッ グニャッ


シュバァァァァァァァッ
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 22:57:55.71 ID:mSDe4wAO
侍「…ッ 一体何が…」

ボゴッ

侍「がッ!?」


ブァッ



ベヂッッ


少女『お兄さん!?』

侍『』

かつて市長だった悪魔『ガアアアアアアアアアアア!!!!!!!』ゴオオオッ
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 23:07:03.68 ID:mSDe4wAO
少女『あ…、助けて』ガチャガチャ

悪魔『カネ…ワシノカネ……』

悪魔『チイ、ケンリョク、ソシテチカラ…』

悪魔『スベテワタサヌ…!』

少女『…腐ってる』

悪魔『コムスメ…! ワシヲブジョクスルカ!!』

少女『ええ、あなたは手に入れ過ぎた』

悪魔『モタザルモノノトオボエカ、コッケイナ』
44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 23:15:58.91 ID:mSDe4wAO
少女『必要以上に手に入れようとして、あなたは心を失った』

悪魔『ココロナドイラヌ』

少女『…可哀相』

悪魔『ダマレコムスメ、コロスゾ』

少女『黙らない、私の心は恐怖に屈したりしない…!』キッ

悪魔『ガアッ!!』バシッ


ドカッ


少女『』ズッ
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 23:20:06.84 ID:mSDe4wAO
悪魔『オキロ』グイッ

少女『あ……がっ』

悪魔『ドウシタ、ナマイキナメデオレヲニランデミロ』グッ

少女『う…くッ』キッ

悪魔『ハハハッ イイゾ、ユカイダ! マズハソノメ―』


グサッ


少女『―ッ』グリッ

悪魔『グァァァアアアアアアアアア!!!!?メガアアアアアアアアアアア!!!!』
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 23:30:23.58 ID:mSDe4wAO
悪魔『グウウウウウウウウ…クソムシガァァァアッッッ』ギロッ

少女『…』

悪魔『コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス』

シュッ


悪魔『ガアッ』バシッ

ジャラジャラッ


悪魔『カネダッ カネッ!!』ガバッ


シュピッ



悪魔「―ァ」

侍「三途の川の渡し賃故、遠慮なく持って行くがいい」チャキンッ

ブシューッッ
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/16(水) 23:33:02.57 ID:mSDe4wAO
侍「南無…」

侍「娘、大丈夫か」

少女「―…」グッ

侍「…ほれ、負ぶされ」

少女「…」




少女「…―」ヒシ

侍「帰ろう」
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 00:24:13.64 ID:yspLTNEo
がんばれ
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 00:58:49.21 ID:IF6/TsAO
侍「怖い思いをさせてしまったな」

少女「ヒクッ…グスッ」ギュッ

侍「…」

侍(無理もない…このような悪鬼羅刹の類に捕らわれていたのだ。正気でいた事が奇跡に近しい)

侍(しかし…この娘、あの状況で物の怪の目を刺した。信じられん胆力の持ち主だ)


少女「…」スースー

侍(まぁ、年端もいかぬ娘に変わりはないが)

侍「二度も助けられたな、…ありがとう」
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 22:26:26.43 ID:IF6/TsAO


少女「…―」

侍「気が付いたか」

少女「……―、―!?」ガバッ

侍「安心しろ、物の怪はもうおらん」ナデ

少女「…―」


グー


少女「…」ポッ

侍「安心したら腹が減ったか」
51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 22:43:43.24 ID:IF6/TsAO
侍「ほれ、これで良ければ食え」

少女「―?」

侍「情けない事に、こんな木の実しか買えなんだ」

少女「…―」パク


少女「―…!」ポロ

少女「―――…」ボロボロ

侍「お、おい泣くな!? 不味かったのか?」
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 23:20:37.61 ID:VHH2XZ20
おもしえん
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 23:28:50.68 ID:IF6/TsAO
侍『―!? ―――』


兵隊さんに捕まった時は怒られると思った

怪物に襲われた時は食べられると思った

市長に酷い事言われた時は…消えてしまいたくなった


でも


お兄さんが助けに来てくれて、私の為に戦ってくれた時…『生きたい』って思った

こんな私に、優しくしてくれる人がいた―


少女『ありがとう…お兄さん…っ』ボロボロ

侍『…―』ナデナデ
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 23:43:28.68 ID:IF6/TsAO
君に感じては粗飯も馳走となり
死別を拒めば死をも賭そう



少女『何を見てるの?』

侍「――」

少女『んー、よくわかんないけど』


少女『この海の先にあなたの故郷があるのね』

侍「…」

少女『…帰りたい?』
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 23:45:45.89 ID:IF6/TsAO
侍「…」

少女『そうだよね…、お兄さんにも家族が居るんだし…』

侍「―」

少女『…え』

侍「――」スッ

少女『…』


ギュッ


少女『えへへ』

侍「―」ニコ
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/17(木) 23:56:40.30 ID:IF6/TsAO
鉤括弧間違えた
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 00:04:55.57 ID:iNHEe.AO
少女『ねえ、お兄さん』

侍『―』

少女『私、家族いないから……私の家族になってくれないかな』


少女『な、なんてね!』

少女(言葉が通じないのに、私…何言ってるんだろ)


ポン

少女『んっ』
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 00:09:30.65 ID:iNHEe.AO
侍「お主が何を言ってるかわわからぬ」

侍「だが、悲しみや寂しさを押し込めるのはよせ」

侍「お主が天涯孤独の身ならば……拙者がここに辿り着いたのは、それを救う為かもしれん」ナデナデ

少女「―」ヒシッ

侍「よしよし…」ナデナデ




侍「或いは、私が救われたのかも知れぬ」
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 02:04:10.02 ID:iNHEe.AO
世界を巻き込んだ大戦が終わって一年…

戦争で利を得た者達が傷を負った者達を支配する西の国から物語は始まる


祖国を、全て失い、言葉も文化も違う異国の地に流れ着いた『最後の侍』

戦火に焼かれ、家族を、今までの生活を失った力なき『持たざる少女』

二人の孤独な人間が数奇な出会いを果たした


二人は様々な出会い、そして別れを繰り返して行く


「縁は見えざれど延々と連なり
 言の不自由なれど些末に抵る」


強い心と、強い人々に引き寄せられながら
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 16:56:22.58 ID:RfG2uGQ0
つづくのかな?
それにしても乙です
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 20:35:28.40 ID:iNHEe.AO
=火と魔術の都市=

約3年前

極西の大陸の一国、遮光の国の中央位置するこの都市の領主が変わった

領主は歴代で最も外交的で、今まで厳しかった都市の流通規制に緩和策を敷いた

都市は急速に豊かになり、国内でも有数の都会となった

加えて、今までこの都市が単独で行っていた魔術の研究を国際的なプロジェクトとする事で、先端技術による研究が為される事となった

1年が過ぎる頃には遮光の国を始め、極西の大陸は目覚ましい発展を遂げる事となる
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 20:51:14.47 ID:iNHEe.AO
少女『ここが魔術の発信地…』

職を求め、国内で一番栄えていると噂の『火と魔術の都市』にやってきた少女と侍

1年前に戦争があったことを感じさせぬ荘厳な造りの外壁、それに門が都市全体を円形に囲っている

少女『とりあえず中に入ろう、私達は観光に来た訳じゃないし』

少女に倣い、侍も歩みを進める

無一文の彼等にとって由緒ある建物など、パン一切れ程の価値しかないのだ
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 20:56:46.92 ID:iNHEe.AO
番兵『そこ行く者、止まれ』

少女『はい』

番兵『通行許可証を見せてもらおう』

少女『えっ』

少女は戸惑った

国内有数の流通都市であるここは、指名手配者でなければ老若男女誰でも受け入れる、と専らの噂だったからだ

番兵『ん? なんだ無いのか。悪いが出直してくれ』

少女『そんな…』
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 21:02:59.41 ID:iNHEe.AO
職を求めた決死の遠征も門前で一蹴

しかし、はいそうですかと引き下がる訳には行かなかった

侍「なんとかして中に入らねば…流石に餓死からは守れぬ」グー

道中、追い剥ぎや野犬から少女を守った侍も、餓えまでは斬り伏せられない

媚びても諂っても、今日ばかりは少女に食事を与えたかった


侍「一旦引くぞ」ザッ

少女「―!――!」タタッ
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 21:35:27.87 ID:iNHEe.AO


少女『いいなぁ…中に入れて』

二人は検問から離れて身を隠していた

少女『ねえ、もしかして通行許可証を強奪したり…』

侍『…』キッ

少女(ま、まさかね…)



ゴトゴトゴト

侍『―!』ザッ

少女『え!? 図星!?』
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 21:39:58.04 ID:iNHEe.AO
少女『ちょっと待って、いくら命が懸かってるからって強奪は―』

侍『―』ヒョイッ

少女『ぅわっ ちょちょっと、おろして!』ジタバタ



ダッ


少女『―ぇ!?』

侍『…』スタタタタッ
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/18(金) 21:45:46.40 ID:iNHEe.AO
番兵『通行許可証は?』

馬車屋『はいよ』



スタン


タン

タ ー ン ッ


侍は少女を抱えたまま大きく跳び、馬車の幌を踏み台に外壁の上へ飛び移った


ズザァァッ

侍『―』

少女『お、お兄さん…無茶する時は一言言って』ドキドキ
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/19(土) 15:40:23.80 ID:2es4C/o0
期待
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 08:38:12.62 ID:.tvSy5M0
いいよいいよー
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 20:53:16.15 ID:/6QL/QAO


少女『なんとか街中に入れたね、死ぬかと思ったけど』チラッ

侍『―』フン

少女は軽く非難の目を向けたが、侍は反省する節もなく、むしろ成し遂げた顔である

少女『…気を取り直して、仕事を探しましょ』

侍『―』


少女に続き歩き出す侍

二人共空腹に急かされ自然と足取りは早くなる

流通都市らしからぬ静けさに疑問を抱く事もなく、二人は市場を探し始めた
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 21:01:37.46 ID:/6QL/QAO


侍「市…で合っている筈だが」

居住区を抜けてすぐの場所に市場は存在した

少女と出会った街に比べると、圧倒的に店の種類も規模も大きく、都市が栄えている事が伺える

一店も営業していない事を除けばの話だが

侍「今日は休みなのか?」

西の大陸には7日に一度『安息日』なる日があり、その日は基本的に皆休養を取る

しかし、少女の表情からは『予想外』といった言葉が読み取れた

侍「ふむ…どうやら食事は先延ばしのようだな」
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 21:14:40.33 ID:/6QL/QAO
少女『一体どうなってるのよ…』

誰も歩いていない街中をズカズカ進む

人がいなければ働く事はおろか、金の無心すらする事はできない

少女『もう丸2日も食べてないんだから…意地でもご飯にありつくわ』

勇み足で精肉店、パン工房、青果店、菓子屋等々、食に関する店を回るも返事がない

少女『うう…目眩がする…』

もう日が暮れようという時間、いつも背筋を伸ばしている侍もやや俯き加減だ

少女は祈りながら宿屋のドアノブに手をかけた
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 21:19:03.16 ID:/6QL/QAO
ガチャ

少女『開いた!』

侍『―』

少女『ご、ごめんくださーい』


宿屋の主人『はいはい、いらっしゃいませ!』

少女『あ、あの』

宿屋の主人『二名様お泊まりですね?』

少女『あの! 私達…お金がないんです』

宿屋の主人『…はい?』
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 21:25:48.41 ID:/6QL/QAO


宿屋の主人『なる程、仕事を求めてこの街に』

少女『はい…、もし良ければここで雇ってくれませんか?』

宿屋の主人『うーん…』

少女『皿洗いでも風呂掃除でも何でもします! ですから一食だけでも…』

宿屋の主人『…わかりました』

少女『! じゃあ!』

宿屋の主人『お腹が空いているんでしょう? 働くには、まず腹ごしらえしないと』

少女『ありがとうございます!』バッ

勢い良く頭を下げる少女に侍も倣う

二人は主人に続き、足取り軽く食堂へと入った
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 21:31:34.08 ID:/6QL/QAO
宿屋の主人『さあ、遠慮なく食べて下さい』

少女『いただきます!』

侍『―』ペコ

二人にとって戦前以来の『普通の料理』

以前ならなんてことない食事も、今となっては最高峰の贅沢である

少女『おいしい! おいしいよ!』パクパク

宿屋の主人『ホホ、おかわりはいかがかな?』

少女『お願いします!』

侍『…』フッ

少女の笑顔に侍も自然と笑みが零れた
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 21:43:54.55 ID:/6QL/QAO


少女『くー…くー…』

侍『―』スースー

宿屋の主人『よく寝ている…』


警備兵『不法侵入者はこいつ等か』

宿屋の主人『ええ、連れて行って下さい』

警備兵『いつもご苦労』

宿屋の主人『いえ、その代わりに税金を免除されてますから』

宿屋の主人『しかし見事ですよね、通行許可証を持って無いと幻影に捕らわれて、最後はこの店にやって来るんですから』

警備兵『ああ、恐ろしい程に上手く引っかかる』
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 22:01:47.19 ID:/6QL/QAO


看守『ご苦労様です』ビッ

警備兵『うむ、新入りを連れてきたぞ』

侍『―』スースー

少女『ムニャムニャ…』

看守『見たことのない服の男ですね』

警備兵『異国からの流れ者だろ』

看守『それに…幼い子供』

警備兵『戦争孤児だな、同情なんかするなよ』

看守『…ハッ』ビッ
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 23:20:19.13 ID:/6QL/QAO


少女『くー…くー…』

看守『…よくこんなボロい寝床で寝れるな』

カンカンカン

看守『食事だ、起きろ』

少女『…ん? あれ、ここは?』

看守『牢屋だ。君は不法侵入で捕まったんだよ』

少女『えっ』
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 23:23:10.33 ID:/6QL/QAO
少女『お兄さんは? お兄さんはどこ?』

看守『異国の男なら隣で寝てるよ、起こしても全然起きない』

少女『よかった…無事なんだ』

看守『とりあえずさっさと食べてくれ、片付かない』

少女『これは…』

看守『悪いが水とパンしかやれない決まりでね』

少女『こんなに食べていいの?』

看守『あ、ああ…』
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 23:26:34.12 ID:/6QL/QAO
少女『モグモグパクパク』

看守『味付けも何もないパンを無心で食べてる…』


看守『おい、お前も起きろ』ガンガン

侍『…―』ムク

看守『食事だ、さっさと食べろ』

侍『―』ペコ

看守『…?』ペコ

看守『…調子狂うなぁ』
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 23:32:07.21 ID:/6QL/QAO
侍『―…』グー

看守『また寝ちゃったよ…図々しいやつ』

少女『ねぇ、私達どうなるの?』

看守『罰が決まるまではここに居てもらう』

少女『罰!?』

看守『君達は犯罪者なんだから当たり前だろ?』

少女『でも、火と魔術の都市は流通が盛んで誰でも入れるって…』

看守『それは戦前の話』
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 23:55:20.02 ID:/6QL/QAO
―魔術は隠匿されるべきだった

戦時に謎の死を遂げた領主の最期の言葉である


遮光の国は急速に国力をつけ、先進国の中でも群を抜いていた

増長した国王は、遂に禁忌とされてきた魔術を用いた『魔装兵器』『合成生物』、そして『召喚』に手を出すこととなる


全て想像の産物、御伽噺の中の物と多くの者はせせら笑ったが、その禁忌の力が芽吹くのにさほど時間はかからなかった
83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/21(月) 00:06:09.35 ID:EyoBmxQo
猿よけ支援
84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 00:15:43.09 ID:rkpHtIAO
魔術師『女の肉体が手に入ったのですか』

領主『ああ、それも召喚素材に相応しい少女の体だ』

魔術師『それはそれは…天使が体に良く馴染むでしょう』

領主『…我らの悲願、「魔術狩り」の日も近い』

魔術師『ええ…』

魔術師『今宵は星の位置も良い…天使降ろし日和です』
85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 00:20:49.86 ID:rkpHtIAO
少女『ん…ムニャ』

看守『こんな扱いなのに幸せそうな寝顔…』

看守『一体今までどんな扱いを受けてきたんだろう…』



ドッ

看守「―」

ドサッ

侍「体力も戻ったことだ、そろそろお暇させてもらう」
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 00:25:47.44 ID:rkpHtIAO
シャキンッシャキンッ

カラーンッカランッ


侍「ほれ、逃げるぞ」ユサユサ

少女「――…」ムニャ

侍「寝ぼけている場合か、私達は捕らわれの身なんだぞ」

少女「…―!」ガバッ

侍「すまぬな、次の都ではちゃんと職に就く故」
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 00:31:58.59 ID:V9j/l3wo
がんばれニート侍
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 00:32:35.98 ID:rkpHtIAO


魔術師『…これは!?』

不法侵入の少女が捕らえられたと報告を受け、牢屋に来てみれば居るのは伸された看守

牢屋は鉄格子を曲げられ、或いは切断され蛻の殻だった


魔術師『逃げられたな…』

看守『ん…いつつ』

魔術師『…まあ良い、地上に出るまでに「失敗作」共に潰されるだろう』



魔術師『それに、歳をとってはいるが女の体がここにもいる』
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 00:40:32.51 ID:rkpHtIAO


ズバッ


人面馬「ビヒヒヒヒッッ」

ズウウンッ

侍「南無…」


侍「大丈夫か?」

少女「―」グッ

侍「よしよし、お主は強いな」ナデリ



侍(犯罪者は物の怪にし、脱獄者は[ピーーー]か…)

侍「外道め…」ギリッ
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 00:43:16.90 ID:rkpHtIAO
ピー

コロす
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 00:48:59.80 ID:rkpHtIAO
天使を降ろすのに女の体じゃないといけないかって?

いや、本当は男でも女でもどちらでもいいんだ

ただ、完成体が美しい方が天使と呼ぶのに相応しいだろ?

それに、成功した時に女の体だと神々しい光を放って弾けて綺麗だからね―




看守『…ここ…は』

魔術師『気が付いたかね?』
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 00:54:20.82 ID:rkpHtIAO
看守『え!? 何で私鎖に!?』ガチャガチャ

魔術師『君、脱獄を許したでしょ』

看守『脱獄……あ』

魔術師『しかも剣を奪われて、脱獄犯に誰かコロされるかも知れないじゃないか』

看守『そ、そんな…』

魔術師『本来ならキツい罰を与えるところだけど…』

看守『…』ジャラ

魔術師『喜びたまえ、今回の失敗は許そう』

看守『えっ!?』

魔術師『召喚素材には元気でいて貰わなと困るからね』

看守『!!』
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 00:58:25.79 ID:rkpHtIAO
看守『い、嫌…』

魔術師『安心しなさい、地下の醜い「失敗作」みたいにはしないから』

看守『い、嫌だ…』ガチャガチャ

魔術師『美しい天使になって魔術を悪用する連中をミナゴロシにするんだ』



魔術師『さあ、儀式を始めよう…』



看守『嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!』
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 01:07:02.06 ID:rkpHtIAO


侍「出口はどっちだ」

少女「――?」グイグイ

侍「ん? おお、確かに重厚な造りの扉があるな」

侍(恐らくは物の怪共を通さないようにしているのだろう…が)


シャキンッ

侍「扉だけ鋼鉄にしても無駄だな、やるなら全ての壁を鉄にせんと」

ズッ ズズッ ズウウウンッ
95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 01:13:09.24 ID:rkpHtIAO
コツーン

コツーン

少女『随分長い階段ね…』

螺旋階段…と呼ぶには余りに無骨な造りの階段を延々と登る

侍の持つ申し訳程度の灯りで照らされるのはお互いの顔と足下まで

上も下も漆黒の闇に包まれ、手を繋いでなければ恐怖でおかしくなりそうだった

少女『ねえ、いつまで』


ズゥゥウウウウンッッ

侍『―!?』

少女『きゃあああ!?』ギュッ
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 01:16:43.38 ID:rkpHtIAO
暫くし、揺れが収まる

少女『い、今の…』

地震ではない

この建物に何か― 大砲の弾でも直撃した様な揺れだった

侍『―』ギュ

変わらぬ表情で侍が手を引く

その手はいつになく汗ばんでいた…
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 01:17:32.50 ID:FUsCa9k0
支援
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 01:20:24.36 ID:rkpHtIAO


侍『―』

少女『扉! 出口かな!』


長い長い階段を登りきると、今度は比較的綺麗な造りの扉が現れた

恐怖から解放され、思わず少女は駆け寄ろうとしたが

侍『―』スッ

侍に制止される

少女『…どうしたの?』

侍は、少女を庇うような構えで扉を開けた
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 01:25:08.22 ID:rkpHtIAO
ギィィ

侍『…』


魔術師『ん? ああ、君達が例の不法侵入者か』

魔術師『ここまで上がって来るなんて、信じられない戦闘力だね』

魔術師『丁度いい、こいつの力を試すのに打って付けの相手だ』



かつて看守だった天使『アアアアアアアアアアッ』
100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 01:29:32.42 ID:rkpHtIAO
侍「こやつ! 罪無き人間を物の怪にッ」チャキッ


魔術師「――」

天使「アアアアアッ」

侍「んむッッ!?」


天使が戦慄くと侍の体に異変が起こった

内臓を一つ一つ手で握り締められてるような気持ち悪さ、痛みが駆け巡る


侍「ぐぁぁッッ」ガクッ
101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 01:34:35.22 ID:rkpHtIAO
魔術師『あはははは! 凄いね! 鳴き声だけであの剣士は戦闘不能だよ!』

魔術師『私ですら防御円無しでは気が触れてしまうだろうね!』

魔術師『もういいよ、止まりなさい』

天使『…』


侍『』


魔術師『君の国には魔術は無かったみたいだね』

魔術師『さて…星が動く前にもう一人天使になってもらおうかな』
102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 01:39:29.52 ID:rkpHtIAO
魔術師『やあ、かくれんぼかい?』

少女『ひっ!?』

魔術師『ほら、こっちにおいでッ』グイッ

少女『やめッ …お兄さん!?』

侍『』

少女『嫌…嘘…』

魔術師『君を守るつもりだったのかも知れないけど、天使相手には無力だったね』

少女『嫌ぁぁ! お兄さぁぁぁん!!』
103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 01:42:34.21 ID:rkpHtIAO
少女『は、離してッ』バタバタ

魔術師『あっ、暴れるな! オイ、祭壇に連れてけ』

天使『…』

魔術師『どうした、早くしろ』

天使『…』



天使『キミ…』


少女『…え』

天使『ワタシ…ダ、ロウノ…ミハリ』

少女『…お姉さん?』
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 01:47:53.09 ID:rkpHtIAO
魔術師『くッ まだ自我があったか!』バッ

天使『アアアアッ』ブンッ

バキッ

魔術師『ぐはァ!?』ズザッ

天使『ハヤク…ワタシト……ソイツヲ』

少女『で、でも』

天使『ワタシガ…マモノニ…ナリキル…マエ…ニ……コロセ』

少女『お、お姉さん…』
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 01:52:17.60 ID:rkpHtIAO
天使「ガ…アガガ……」


ザクッ


侍「心頭滅却…」ダラダラ

少女「――!」

侍「…お主の手を汚させはせん」



魔術師「―…」ググッ

侍「…」ザッ

魔術師「―!?」
106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 01:59:58.28 ID:rkpHtIAO
侍「覚悟は出来ているな」チャキッ

魔術師「―――!!」バッ

ズバッ

魔術師「―」ブシュッ

侍「成仏出来ると思うなよ」

ズバッ ザンッ ザンッザンッザンッ

スパッッ


侍「滅魂」チャキンッ


魔術師「」

ドサッ
107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 02:03:41.72 ID:rkpHtIAO
天使『ァア…アアアッ!!』

少女『お姉さん…』


ザッ


侍「お待たせ申した」

天使「ゥウッ」ブンッ

ズガァァッ

侍「僭越ながら、介錯仕る」ザッ

天使「ァ…アアッアアッ」グラッグラッ

侍「……ッ」ドクドク
108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 02:18:08.67 ID:rkpHtIAO
天使「アァァアァァァアッ」キィィィィン

侍「ぬんッッッ」ビリビリビリッ

天使「アアアアアアアアアッッ」

侍「揺らぎ無き事―」


チャキンッ


天使「ァ…」プシャーッ

侍「―大樹の如し」


ズウウウウンッッ
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 02:22:40.08 ID:rkpHtIAO
天使『ゥ……ウ』

少女『お姉さん…』

天使『そこに…いるの?』

少女『お姉さん! ここにいるよ!』ガシッ

天使『何も見えない…けど…いるのよね…』

少女『うん!うんッ!』ポロポロ

天使『無事なのね…良かった……』



天使『もう…逝くわね』



少女『お姉さーん!!』
110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 02:40:11.93 ID:rkpHtIAO
侍「ケホッ…逝かれたか」

少女「―、―」グスッ

侍「出来る事なら救いたかった…」



―ありがとう

少女『お姉さん!?』


―あなた達の未来に祝福を

少女『お姉さんにも! 祝福を!!』
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 04:10:36.58 ID:PjnuQYI0
しえ
112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/25(金) 13:37:14.11 ID:JYue0GY0
続きはまだかー
113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/25(金) 23:49:27.40 ID:b1o1OYAO
これはおもれぇC
114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/26(土) 09:04:01.87 ID:7DmpAwAO
なかなか進まなくてすみません
日曜は書けるんで今暫くお待ち下さい
115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 14:59:43.37 ID:68tTzkAO
キタ!
116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 19:44:29.36 ID:XTiY6YAO
侍『―』フラッ

ドサッ

少女『お兄さん!?』

侍『…』

少女『ど、どうしよう』



ガチャ


領主『ム…これは』

少女『!』
117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 19:48:41.16 ID:XTiY6YAO
領主『天使が敗れた…のか』

少女『…』ジッ

領主『そちらの男性がやったのかね』

少女『…ええ』

領主『…』



領主『誰か』

警備『ハッ』

領主『手当てをしなさい。後、彼女を応接間へ』

警備『ハッ』
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 19:53:39.94 ID:XTiY6YAO


領主『君達が件の侵入者だったのか』

少女『…』

給仕『お茶でございます』コト

領主『うむ』



少女『私達をどうするつもりですか』

領主『ああ、脱獄だとかそういう話をするつもりはないんだ』

領主『まあ、まず飲みたまえ』ズズ

少女『…いただきます』
119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 19:57:59.67 ID:XTiY6YAO
領主『…さて、何から話したものか』

少女『…儀式』

領主『む』

少女『人間を怪物にする儀式…何のためにあんな惨い事を』

領主『…』ズズ



領主『魔術狩りだよ』

少女『魔術狩り…?』
120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 20:10:00.15 ID:XTiY6YAO
領主『君達にとって魔術とは何かね?』

領主『油を使わず明かりを灯す物か、それとも季節の節目に身に着ける厄除けの札か』

領主『違うだろ、大切な物を奪っていった戦争の元凶だ』

領主『我々が魔術を隠し続ければ、…魔術が無ければ君達のような孤児も生まれなかった』



領主『魔術は陰徳されるべきだったのだ…』
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 20:35:38.82 ID:XTiY6YAO
領主『…』ズズ

少女『それと天使と、何の関係が…』

領主『…天使には「純粋でない力」が効かないんだよ』

領主『人の手の入った「科学」や「魔術兵器」の類は通用しない』

領主『その力を利用して、世界から魔術を葬るつもりだった』

少女『…私達の生活からも?』

領主『そのつもりだった』
122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 20:46:59.83 ID:XTiY6YAO
領主『しかし…敗れた』

領主『魔術兵器も科学兵器も効かない天使に、力押しで勝ったとでも言うのかね』

少女『…』


少女『確かに、お兄さんの剣術は凄いです』

少女『でも、天使になったお姉さんは人殺しを嫌がってた』

少女『私が天使にされそうになった時も守ってくれました』


少女『お姉さんは負けてなんていません。自分の意志を貫き、ちゃんと勝利したんです』
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 21:00:51.21 ID:XTiY6YAO
領主『…』ギシ

少女『…まだ、魔術狩りをするつもりですか?』

領主『…』

少女『私は、領主さん達が気に病む必要はないと思います』

少女『確かに、私は戦争で家族を失ったけど…でも、領主さん達も「遺された人達」じゃないですか』

少女『「遺された人達」は死んだ人達の分も生きないといけないんです』

少女『悲しみに暮れる事はあっても、いつまでも立ち止まってたり、別の悲しみを生んではいけない…と思うんです』
124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 21:30:11.51 ID:XTiY6YAO
領主『…遺された人達、か』

領主『しかし、私達は戦争の当事者であり、君達は被害者だろう』

領主『当事者である私達はその尻拭いをせねばならん』

領主『それに、口では何と言っても、戦争など無ければ今頃平穏に暮らしていたと考えた事が無い筈が―』


パシンッ


領主『―ッ』ジン

少女『甘ったれた事言わないで』
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 21:34:43.76 ID:AOs/OgDO
投下来てる

頑張れ
126 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 21:39:49.92 ID:XTiY6YAO
少女『人を人外にしといて尻拭い? 何の冗談よ』

少女『罪を犯したとか社会に貢献してるとか、そんな下らない事で奪われていい物じゃないのよ、命は』

少女『…それに魔術を無くせば戦争も無くなるみたいな事を言ってるけど、勘違い甚だしいわ』

少女『魔術なんて無くても、人は争うし時にコロし合う。みんな現実に目を向けないだけ』

少女『ただ、それ自体は悪い事じゃないし、知らない方が幸せな事なのかも知れない…ってだけ』
127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 22:18:22.69 ID:XTiY6YAO
少女『責任が負えなくなったから無くすなんて子供のやり方よ』

少女『本当に責任を感じてるなら、どんなに困難でも惨めでも…媚び諂っても成し遂げようとするわ』

領主『…』



ガチャッ


侍『―』

少女『お兄さん!』

医師『傷は深かったけど魔術で塞げたよ。便利なもんだね、もう大丈夫だよ』
128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 22:31:46.43 ID:XTiY6YAO
少女『…じゃあ、私達はこれで』

領主『ああ…』


少女『あ、言い忘れてましたけど』


少女『戦争が無かったら、…私は平穏に甘えて生きてたかも知れません。今の生活は決して楽だとは言えないけど、もし甘えて生きた私なら、飢えや貧困に苦しむ人の事なんて考えもしないでしょう』

少女『それに…』

キュッ

少女『こうして旅する事もなかっただろうし』

侍『?』

領主『…君は強いな』

少女『いいえ、二人だから強くいられるんです』
129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 22:58:52.88 ID:XTiY6YAO
大戦の終結より続いていた都市の閉鎖が、ある日解かれる事となった

市民は喜び戸惑ながら、領主の開放声明を聞いた


―魔術は隠匿されるべきだった

そう、前領主殿は仰った

確かに、魔術の開発は世界大戦の一因となり、多くの犠牲を出した

しかし、同時に多くの恩恵も与えてくれている

医術では治らない病気の治療、或いは日照りの年の雨乞い…数々の成果を上げている


私は、長く魔術など無ければと思っていた

魔術は人間には過ぎた力だと、そう考えていた

しかし、それは甘え、責任を取れぬ者の言い訳だ…そう諫められた

思い返せば…私は責任から逃れたかっただけだったのだ
130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 23:19:42.02 ID:XTiY6YAO
この閉鎖策も、外を拒む事で厄介払いしていただけなのだ

そんな事では事態が進展する筈もないのに

この場を借りて、今日まで窮屈な思いをさせてすまなかった、と謝らせて欲しい

そして、恥を忍んでもう一つお願いしたい

私は、これからこの「火と魔術の都市」に、魔術の管理機関を発足しようと思う

そうなれば遮光の国どころか、世界中から弾圧されるだろう

だが、私は絶対に諦めない。必ず成し遂げる

それが私の負った責任へのけじめだと自負しているからだ


どうか、この馬鹿に付いて来てくれるという者は拍手で承認して欲しい―
131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/27(日) 23:28:09.99 ID:XTiY6YAO
広場は拍手鳴り止まぬに包まれた

拍手喝采を聞いた領主は深々と頭を下げ、暫くそのままの姿勢でいた

ようやく頭を上げると目尻を拭い、降壇した



数年後、世界魔術機関が発足されるのだが、それはまだ暫く先の話である




侍「その羽……御守り代わりか」

少女「―!」ニコッ
132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 01:30:23.15 ID:7rGFcsAO
=太陽村=

この村には眩く光り輝く「太陽の石」という物がある

触れても火傷をする心配もなく、ちょっとした観光スポットとして有名だ

遥か昔から村を照らすこの石を調べる為、多くの学者がやってきたが、原理は未だ不明である

又、太陽の石の近くには珍しい植物が生える為、それを求めて来る人も少なくない



少女『本当に輝いてるね』

侍『―――』

少女『不思議ー』ペタペタ
133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 01:35:49.40 ID:7rGFcsAO
少女『太陽の石がある以外は普通の村なんだね』

おばさん『今に始まった話じゃないからね、ただ光ってる石なんかより温泉とかの方がいいでしょ』

少女『そうかな』

おじさん『宿屋さんは多少儲かってるみたいだね、人手が欲しいとか言ってたよ』

少女『本当ですか? お兄さん、早速行ってみよう』

侍『―』ペタペタ

少女『ほーらっ』グイグイ
134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 01:41:21.74 ID:7rGFcsAO


少女『鍵はこちらになります、どうぞごゆっくりおくつろぎ下さい』ペコ

宿屋の女将『うん、なかなか筋がいいよ』

少女『ありがとうございます』

宿屋の女将『兄さんの方も、言葉は通じないけど薪割りに掃除、力仕事はソツなくこなしてくれるし助かるよ』

宿屋の女将『文句なしに採用だよ、暫くよろしくね』

少女『頑張ります!』
135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 01:47:16.17 ID:7rGFcsAO
宿屋の女将『しかし、なかなか制服似合ってるよ』

少女『本当ですか?』

宿屋の女将『ああ、ボロで来た時は正直不安だったけど、なかなかかわいいじゃないか』

少女『あは、ありがとうございます』

宿屋の女将『そうだ、確か娘の服が小さくなったって雑貨屋の奥さんが言ってたね。ちょっともらってくるよ』

少女『いいんですか?』

宿屋の女将『いいのよ、どうせ捨てるか誰かにあげるんだから。ちょっと店番よろしくね』

少女『はい』


パタン

少女『服か…嬉しいな』
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/28(月) 01:56:09.23 ID:7rGFcsAO


スカーン スカーン

侍「ふっ」

スカーン

侍「ふーっ こんな物か」

侍は宿屋の裏で薪割りに勤しんでいた

言葉が通じない為、接客も厨房も難しいと判断され、単純作業の担当となったのだ

掃除、洗濯、食材の搬入、ゴミ出し…中でも薪割りは得意中の得意である

侍「ふふ、先生にご指導戴いていた頃を思い出すな」
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/29(火) 09:08:33.30 ID:Mv08bcAO
がんがれ超がんがれ
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/06/30(水) 11:25:23.93 ID:tB0V5l60
saga sage
にすると禁則文字がなくなるよー
殺すとかが隠れなくなる
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/06/30(水) 23:59:16.90 ID:CPF.1QAO
仕事が終わらなくて全然書く時間が無い…
進行スピードは上がらないけど投げたりしないんで、

>>138
アドバイスありがとうございます
知らなかったなぁー
140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/01(木) 21:41:59.75 ID:l4EACQAO
少女「―!」パタパタ

一人懐かしい記憶に浸っていると少女が駆けてきた

少女「―、―?」クル

侍の目の前で止まると一回転する

どうやらボロ以外の服を着れたのが嬉しいらしい

侍「おお、かわいいじゃないか」ナデナデ

少女「―」ニコー

人懐っこい笑みを見せる少女

褒め言葉が無くても満足してもらえたらしい
141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/01(木) 21:49:37.30 ID:l4EACQAO
少女「―」ゴソゴソ

少女「―!」スッ

手に持っているバスケットから何やら取り出し侍に差し出す

侍「昼飯か」





少女『美味しいね!』

侍『―』

青空の下、二人並んで食事をする

少女『あーんっ』パク

足をパタパタ動かす少女は相当ご機嫌な様子だ
142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/01(木) 22:11:31.93 ID:l4EACQAO
侍『―』パン

少女『…』パン

食べ終わると、侍は決まって空になった皿に手を合わせて何か呟く

少女はその真意はわからないながらも、侍に倣って手を合わせる

侍『―、――』ナデナデ

よくわからないが褒められた

よくわからないが嬉しい

少女『…えへ』
143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/01(木) 22:18:28.21 ID:l4EACQAO
スカーン スカーン

少女(そういえば、お兄さんは怪物を斬った時も手を合わせてた)

少女(ご飯と何の関係が…)


ご主人『少女ちゃーん、そろそろ休憩終わりだよー』

少女『はーい』

少女『お兄さん、午後も頑張ろうね』

侍『―』スカーン

ご主人『午後は簡単なメニューを教えるから…』スタスタ

ご主人『って! そんなに割らなくていいよ!?』

少女『え!? お兄さんストップ!』

侍『―?』
144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/01(木) 22:40:59.18 ID:CMWz.H.0
支援
145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/02(金) 00:08:47.22 ID:x/LzuoAO


少女「――、――」スタスタ

手持ち無沙汰になった侍は、バックヤードから少女の仕事ぶりを眺めていた

忙(せわ)しく動き回る姿からは、少々の疲れと大きな充実感が見て取れた


侍「…むう」

一方こちらは急に暇になりいかにも不満気である

宿屋のご主人には「これで遊んできなさい」とでも言わんばかりに小銭まで渡されている

侍「少々気が引けるが…、働き者の娘に何か買ってくるか」

小一時間温めた椅子から腰を上げ、侍は当て所もなく買い物へと向かうことにした
146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/02(金) 00:19:19.27 ID:x/LzuoAO


侍「むー」

侍が露天商の前に立ちかれこれ30分、未だに小物を吟味していた

ご主人にもらった駄賃は「100」と書いた硬貨が4つ

これはどうやらこの店の小物の値段と一致するらしく、昼頃お洒落して喜んでいた少女にはおよそぴったりだった

侍「しかし…」

何かこのまま売っている物を買って渡すのは芸がない

何か一手間加えた贈り物はできないものか…


侍の思案はまだまだ続くのだった
147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/02(金) 08:41:27.53 ID:wvCPAwDO
いいね
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/03(土) 12:12:13.49 ID:WZwdSUAO
これは面白い
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/03(土) 22:30:07.74 ID:CKTSigAO
侍「身振り手振りでも何とかなるものだ」

侍は四苦八苦の末、ようやく買い物を終えた

少女の笑顔を思い浮かべては柄にもなく笑みが零れた


侍「さて、大変なのはこれから」

ドンッ

痩せた男「いてッ」

ドサッ
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/03(土) 22:34:07.97 ID:CKTSigAO
侍「す、すまない…大丈夫か?」

痩せた男「どけッ」バッ

乱暴に落とした紙袋を拾い上げると、痩せた男は走り去った

侍「むう…変わった男だ」

自分の紙袋を拾い上げ首を傾げる侍






侍「あやつ、私と同じ言葉をしゃべっておった!?」
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/03(土) 22:41:59.94 ID:CKTSigAO


侍「ただいま帰った…」

結局痩せた男は見つからず、侍は宿屋へと戻ってきた

少女「――!」パタパタ

少女を喜ばせようと買い物に出掛けたのだが、駆け寄ってきた少女の表情は笑顔には程遠いものだった

どうやら寄り道が過ぎたらしい

侍「す、すまぬ…そうだ! お主に果物を買っているのだ」ガサガサ

少女「…?」

侍「ほれ、土産だ」

ピカーッ

少女「―!?――!」

侍「うお!?」
152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/03(土) 22:45:26.16 ID:CKTSigAO
侍「何故光る石がここに…?」

宿屋の主人「―!?――」

少女「―――!」

侍「…そうか、ぶつかった時に入れ替わって…」


侍「待ってくれ、これは誤解だ」

ガチャッ

自警団「――、――――」

ガシッ

侍「む」

少女「―!」
153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/03(土) 22:51:52.70 ID:CKTSigAO


侍「あっという間に獄中か…」

侍「なんという事だ…やはり言葉の壁は厚いな」



侍「しかし…何故あの男は私と言葉が通じたのだ?」

侍「もしかしたら…帰る術が見つかるやもしれぬな」

侍「よし、行く先々で言葉の通じる者を探してみよう」

侍「怪我の功名…といったところか、後は誤解が解ければ最高なのだが」
154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/03(土) 22:59:56.36 ID:CKTSigAO
少女は混乱していた

何故、侍は太陽の石を盗んできたのか

私を喜ばせる為?

いや、彼は私が盗品では喜ばない事を知っている

少女『何か事件に巻き込まれたんだ…』

女将『少女ちゃん、元気出しな』

少女『女将さん…』

女将『あの男前が悪事を働いたなんて、私は思ってないからね』

女将『それとも、少女ちゃんは信じれないのかい?』

少女『…女将さん、明日休んでもいいですか? 私、お兄さんを助けなきゃ』

女将『ああ、いくらでも休みな!』
155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/05(月) 16:50:05.92 ID:l2UuZIAO
支援
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/07(水) 01:24:09.38 ID:qxs9HAAO
見張り番『面会?』

少女『うん』

見張り番『まあ、構わないよ。付いて来て』


カツーン

カツーン


気付けば此処は地の獄

輪廻転生より間引かれし咎人の末路

嗚呼…願わくば

我が業を悔やませ給え、悔やませ給え



少女『何か聞こえる…』

見張り番『お宅のあんちゃんだよ。何かブツブツ呟いてんだ』
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/07(水) 01:27:37.81 ID:qxs9HAAO
見張り番『さ、ここだ』

侍『――、―』カツーン

少女『何してるんだろ、…お兄さーん!』

侍『―…』ピタ

スタスタ

侍『―』

少女『心配しないで、直ぐ助けてあげるから』

少女『お兄さんの無実は私が証明するから!』
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/07(水) 01:32:57.11 ID:qxs9HAAO
侍『――』ヒラヒラ

少女『脱獄しちゃ駄目だよー』ヒラヒラ


見張り番『物騒な事言わないでくれよ』

少女『ごめんなさい、お兄さんたまに無茶するから』

見張り番『見れば何かせっせとこしらえてるけど、脱獄用の道具じゃないよね?』

少女『あはは、大丈夫ですよ。…多分』

見張り番『市場で買った紙袋を、後生大事そうに持ってたから持ち込みを許可したんだけど』

少女『大事そうに…か』
159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/07(水) 01:55:33.67 ID:qxs9HAAO
少女『常に見張りの人が張り付いてる訳じゃないんですか?』

見張り番『ああ、別に人殺しじゃないしね』

少女『…太陽の石を持ち出したのに?』

見張り番『うーん…俺達にとっては「光る珍しい石」って程度だしなぁ』

少女『…?』


少女(考えてみれば見張りがいる訳じゃないし、盗もうと思えば簡単に盗めるんだよね…)
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/08(木) 00:49:56.36 ID:r9kOHcAO
少女『さて、何から手をつけたものだろう…』

少女『ん?』



少女『あのー』

道行く人『僕? 何用かな?』

少女『太陽の石が無いんですけどー』

道行く人『ああ、何でも盗人が現れたとかでしばらく保管するらしいよ』

少女『そうなんですか』



少女『流石にみすみす盗まれるような真似はしない…か』
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/08(木) 01:00:48.48 ID:r9kOHcAO
少女『お兄さんの足取りを辿ってみよう』
少女『今は少しでも情報を集めなきゃ』



宿屋のご主人『暇そうにしてたからおやつでもと思ってお駄賃をあげたよ。うーん、15時ぐらいだったかな』

主婦『変わった格好の人がいたわね。物珍しそうにキョロキョロしてたわ。16時前ぐらいだったわね』

露天商『いやぁ参ったよ。凄い形相で品を睨んで動かないもんだから、思わず半額にしちまったよ。ありゃあ17時から18時ぐらいかなぁ』



少女『ふむふむ…普通に買い物してたみたいね』
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/08(木) 01:11:19.60 ID:r9kOHcAO
青果店『ああ、髪の黒い男性がリンゴを買っていったよ』

少女『お兄さんは私にリンゴを渡すつもりだったんだ…!』

少女『となると、一体どこで間違いが…』


少女『今度は太陽の石の飾ってあった広場に行ってみよう』

青果店『あ、お嬢ちゃん』

少女『私?』

青果店『昨日の男性の知り合いなんでしょ? 彼、昨日会計余計に置いてったから』

少女『梨ですか』

青果店『ああ、みんなで食べてよ』

少女(…一旦差し入れに戻ろうかな)
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/08(木) 01:18:33.99 ID:jpWG8lgo
ktkr
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/08(木) 22:07:42.27 ID:r9kOHcAO
一つ斬っては国の為

二つ斬っては友の為

独り問答哀れかし

天下泰平大義を翳し

数多の命殺りし罪

仲間に捨てられ異国に流れど

その大罪は流れるか

罪を背負えやお子の為

例え袂を分かつとも

それでも斬れやお子の為

道を開いて果て往けや
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/08(木) 22:21:25.69 ID:r9kOHcAO
見張り番『君んとこのお兄さん、なんかブツブツ言ってて怖いんだけど』

カツーン カツーン

少女『ずっとあんな調子なの?』

見張り番『うん…』


虎に鬼になれるなら

この胸痛まず済むだろが

それはならぬと陰が言う

それはならぬと陰が言う


少女『なんだか泣いてるみたい…』
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/09(金) 01:08:10.39 ID:SmT146AO
少女『お兄さん』

侍『―…』ピタ

スタスタ

侍『―』

少女『梨、一緒に食べよう?』スッ

侍『…―』ナデ

少女『えへへ』



少女『あ、一つどうぞ』

見張り番『おお、じゃあ有り難く』
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/09(金) 01:18:46.45 ID:SmT146AO


侍『―』シャク

少女『太陽の石がなくなったのは昨日の何時なんです?』

見張り番『通報があったのが16時半頃だから…16時ぐらいかなーぁーん』シャク

少女『…16時? 16時ってお兄さんが市場で買い物してた時間です!』

見張り番『そうなの?』

少女『ええ、…多分、犯人ば別にいます』
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/09(金) 01:20:26.69 ID:SmT146AO
犯人ば

犯人は
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/09(金) 01:27:12.43 ID:SmT146AO
見張り番『僕らも捜索の手助けするよ』

少女『いいんですか?』

見張り番『もし冤罪だったら彼がかわいそうだからね。それに梨もご馳走になっちゃったし』

少女『ありがとうございます!』



少女『お兄さん、もう少し我慢しててね』

侍『―』

ナデナデ

少女『えへへ…』
170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/09(金) 09:23:47.04 ID:axaA6qwo
来てたか
171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/09(金) 23:18:20.61 ID:SmT146AO
―ある学者は言った

「太陽の石が何故光るのかより、何故それ以外の石が光らないのか調べた方が早いのではないか?」

研究者達は呆れ、或いはせせら笑った

自分達が魔術師達の笑い話になっているとも知らずに―




少女『え―!?』

見張り番『ひ、光が!?』


留置場を出るとそこは闇だった

まだ日の入りには早い時間にも関わらず、太陽は忽然と姿を消した
172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/09(金) 23:35:27.45 ID:SmT146AO
少女『い、一体どういうこと…』

突然の事に思わず後退る少女

本能からか、光を求めて留置場に戻ろうとするが

少女『あ、あれ!? 扉はどこ!?』

すぐ背後にあった筈の扉を開けようとするが、伸ばした手が空を切る

少女『あ!?』

気付けば隣にいる筈の見張り番の気配もない

少女は一瞬で孤独になってしまった
173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 19:13:29.39 ID:iCQdZ.AO
少女『はぁ…はぁ…』

嫌な汗が吹き出る

呼吸を整え、気持ちを落ち着かせていないとおかしくなりそうだった

これは暗いなんて次元の話ではない

全くの闇なのである

人は光がなければものの数分で前後左右を見失い、自分以外の物を求めて終いには地面に這い蹲る

それが普通なのである



少女『フーッ…フーッ』ザッ

少女は歩き始めた

その大きく見開いた瞳は闇の輪郭を見ようとしていた
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 19:23:38.49 ID:iCQdZ.AO
グニッ

少女『…ッ』

時折、地面以外の何かを踏む感触がする

ギュッ

少女『…くッ』

稀に、その何かが「足を掴む」事がある


しかしそれが何か確かめる術はない

自分さえ見えないこの空間で、何を頼りにできようか

少女の頭に「闇雲」という言葉が過ぎった
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 19:32:28.05 ID:iCQdZ.AO
何かにぶつかり、何かに足をとられながら少女は歩いた

どこを目指し、何を成すべきかさえわからない状況で我武者羅に動いた

あれからどれだけの時間が過ぎたのか…

今が昼なのか夜なのかも最早分からなくなった頃


カッッ

少女『う…ッ!』


眩い光が一筋、中空から伸びていた

少女は、僅かに見える希望に向かって走り出した
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 22:54:31.32 ID:iCQdZ.AO
近づいてみるとどうやら建物の二階の窓から漏れているようだった

少女『…んく』ギィィ

意を決して扉を開ける

少女『あ…』

扉の内側には燭台の明かりに照らされた空間が一瞬見えた

が、扉から侵入した闇にあっという間に飲まれてしまう

少女『ま、待って!!』

元の世界を求め思わず駆け出す、と

バタンッ

少女『はっ!?』

扉が閉まると、また灯りが徐々に浸透してくる

少女は、自分が知っている「光」は、ほんの一面に過ぎない事を知った

それに、落ち着いているつもりだったが、光ある空間に戻れて涙が止まらない程安心している自分がいることも
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 23:13:13.26 ID:iCQdZ.AO
一度萎えた心が再び奮い立つのには暫く時間がかかった

この建物の中は水の様に流れ込む闇は無い
そう自分に言い聞かせ、少女は再び立ち上がる

燭台を片手に赤絨毯の敷かれた階段を上がった




ガチャッ



カツーン

カツーン

痩せた男「また会ったな」

侍「!」
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 23:20:32.25 ID:iCQdZ.AO
痩せた男「やっぱり、蛇島の人間か」

侍「蛇島…?」

痩せた男「八つ首の蛇を信仰し、草で出来た床の家に住み、鯨を喰らう民族だろ」

侍「情報に偏りがあるが…概ねそうだ」

痩せた男「出してやる、ついて来い」

侍「待て、何故お主が私と同じ言葉を喋る?」

痩せた男「ん? 気になるか?」

侍「ああ」

侍(先の偏見模様で同郷で無い事はわかったがな)
179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 23:41:17.30 ID:iCQdZ.AO
痩せた男「これは魔術だ。どの国のどの言語でも関係なく会話が出来る」

侍(やはり島は関係ないか…)

痩せた男「俺は仕事柄世界を飛び回るんでね、この魔術は必須なのさ」

侍「世界を飛び回るのか、よく今まで無事だったな」

痩せた男「ああ、難破の心配は皆無だ。俺は転移魔術が使えるからな、大陸間移動も一瞬だ」

侍「! 島にも…なのか?」

痩せた男「ああ、もちろん」
180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 15:01:33.90 ID:nEzGIwAO
痩せた男「俺に協力すればお前を故郷に戻してやるぞ」

侍「…」


侍「私の故郷には桜という花が咲く。それを一輪持ってきてくれれば信用しよう」

痩せた男「サクラだな、簡単な事だ」


痩せた男『――、――、―――』

ビュウンッ


侍「…」
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 15:10:11.25 ID:nEzGIwAO
キィ…

少女が扉を僅かに開くと力強い光が漏れてきた

それまで頼りなく照らされていた館の中がぼんやり明るくなったような気がした

少女『あれは…!』

光源はやはり太陽の石

それは初めて見た時と変わらず、木製の台座に敷かれたクッションの上に鎮座し、爛々と光っていた

少女が太陽の石に近付こうと足を踏み出す、と

『誰だ!』

少女『!』
182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/11(日) 19:18:34.01 ID:nEzGIwAO
声の主は村長だった

だが、その目は血走り、人の理性を感じさせない荒々しいものだった

村長『これは渡さん…闇を……』

ゆらゆらと近付いてくる村長

捕まれば少女はひとたまりもないだろう

少女『どうすれば…』ジリッ

一歩、また一歩と追い詰められ、扉に背を合わせる

村長『観念せい!』バッ
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/11(日) 19:39:26.55 ID:nEzGIwAO
少女『くッ!』ダッ

少女は掴み掛かられる瞬間、村長の懐を潜り抜け、さらに

少女『やあッ!』グイッ

村長『うおッ!?』ズッ

ドスンッ

少女の引っ張った絨毯に足を取られ、村長は勢いよく転んでしまう

村長『こ、腰がぁぁ…』

少女『ごめんなさい…』

痛みにもがく村長を余所に、少女は太陽の石を手に取った
184 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/11(日) 19:43:24.99 ID:nEzGIwAO


カツーン

カツーン

痩せた男「お待たせ」

侍「転移出来るのに何故目の前に飛ばない?」

痩せた男「大まかな場所にしか飛べないんだよ、結構難しくて」

侍「左様か」

痩せた男「それより、ほら」

痩せた男は侍に一輪の花を差し出す

桃色が艶やかな桜の花である

侍「…」
185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/11(日) 19:56:31.99 ID:nEzGIwAO
侍「そうか…もう島は無いのだな…」

痩せた男「!?」

侍「これは大陸に自生している種類の桜だな、私の国の桜はもっと白が強い」

痩せた男「た、大陸渡来の桜が蛇島では流行していてな」

侍「大陸種は島の土に合わない。葉は散り、幹は割れ、花は咲かない」

痩せた男「ぐぐ…ッ」

侍「これで決心がついた。礼を言おう」

痩せた男「何が礼だ! 人をおちょくりやがって!」

侍「私を騙そうとした者に言われたくないな」
186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/11(日) 20:04:35.07 ID:nEzGIwAO
痩せた男「こうなれば力づくで連れて行くぞ」

侍「何故私に固執する」

痩せた男「蛇島の戦闘民族『サムライ』は白兵戦最強と聞く。なんとしても手に入れたい」

侍「戦闘民族…か」

痩せた男「大人しく従えば良し、でなければ少々痛い目にあうぞ」

侍「断る。お主が手を出すというのなら、私も自己防衛させてもらう」

痩せた男「剣を持たぬ『サムライ』など恐るるに足らん。しかも檻の中なら尚更…」
ボゴッ

痩せた男「…えっ」
187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/11(日) 20:13:01.40 ID:nEzGIwAO
侍「長閑な村故仕方ない事かもしれぬが、牢の造りが雑だな」

カラーンッ

鉄格子を石畳からもぎ取り、侍は男の前に「出てきた」

侍「さて、何の話だったかな?」

痩せた男「で、出鱈目だ…!」

侍「白兵戦最強故、許せ」

痩せた男「このッ」バッ

ベキャッ

男の翳した手の先、石の壁や鉄格子が粘土の様にへこみひしゃげた

侍「大した威力だが、その魔術とやらは遅すぎるな」ザッ
188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/11(日) 20:19:45.00 ID:nEzGIwAO
痩せた男「…ッ」

男は恐怖した

声は後ろから聞こえるのだが、気配が全くしない

今までに殺し合いをした相手は殺意を剥き出しにしている殺し屋か、或いは息を殺し心音を抑えた暗殺者だ

しかし、この男は「居ない」のだ

雲の様に掴めず、霧の様に消える

侍「どうされた? さっさと撃たれよ」

痩せた男「…見逃してくれ」

侍「これはおかしな…さっきまでの意気込みはいかがした」
189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/11(日) 23:23:22.29 ID:nEzGIwAO


少女『はっ…はっ…!』タタタッ

ヒカリダ…

少女『ンくっ…はっ…はっ…!』タタタッ

ヒカリヲクレ…!


少女は走った

漆黒の闇の中を

太陽の石に照らされた視界を頼りに

闇から現れるモノを避け、広場を目指した


『ヒカリヲ!!』バッ

少女『きゃあ!?』
190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/11(日) 23:37:13.41 ID:nEzGIwAO
少女『は、離してッ』グイッ

宿屋の女将『クライ…クライヨォォ…!』

少女『女将さん…!?』

光に照らし出された女将の顔は恐怖に歪み、優しい笑顔の面影は無かった

少女では抗い難い力でしがみつき、太陽の石を奪わんと迫ってくる

少女『くッ…えい!』バッ

ゴッ コロコロ…

宿屋の女将『ヒ…ヒカリガ!』ザッ

投げ捨てた太陽の石に向かって走り出す女将

少女『ごめんなさい!』バッ

宿屋の女将『ギャッ!?』バタッ

少女は女将に足払いを仕掛け、太陽の石を拾い走り去った
191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/11(日) 23:44:18.07 ID:nEzGIwAO


痩せた男「思い上がっていた…まさかこれほどとは…」

侍「…何故あの光る石を盗んだ」

痩せた男「太陽の石は…我らの世界が太陽の恩恵を受ける為の鍵。自然が生み出しし奇跡の一つ」

痩せた男「太陽の恩恵を得るには、この村のあの台座の上に石を置かねばならない」

侍「置かねばどうなる?」

痩せた男「世界は闇に飲まれる」

侍「何…?」
192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/11(日) 23:49:38.47 ID:nEzGIwAO
痩せた男「闇とは光の対ではない…影とは別の物だ」

痩せた男「空気の様に漂い、水の様に流れる。そして光を避ける」

侍「して、何故石を盗んだ」

痩せた男「至極簡単な話だ…私が、闇魔術師だからだ!!」


ドォォォンッッ


侍「ぐッ」
193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/11(日) 23:58:43.65 ID:nEzGIwAO
男の周りが淡く光ったと思うと、留置場が吹き飛んだ

途端、侍は闇に包まれ五感は用を成さなくなった

侍(これは…まさか!?)

「そうだよ…もう太陽の石は俺の手中なんだよ」

「お前が捕まったお陰で、石を誰にも怪しまれず持ち出す事ができた」

「さて…闇に紛れてお前をなぶり[ピーーー]としよう。俺を恐怖させた罰だ」

侍(…)
194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/12(月) 00:33:15.11 ID:YNgRUQAO
ヒュッ  ザッ

「ヒューッ! よく避けれるね、人間技じゃないな」

侍「…」

「それが『心眼』って奴かい? 蛇島は滅んで正解だったな!」

侍「!」

チッ

「お、当たった。心が乱れたかな?」


ザッ

侍「穿つ事―」ツー


「ん?」

メゴッッ

「あごぁ!?」ズザーッ


侍「―羆の如し」ザッ
195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 00:36:28.54 ID:8xw0Z1Ao
sageじゃなくてsagaだぜ?
196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 00:40:18.16 ID:Ujr7NK6o
お兄ちゃんかっこええね
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage sage]:2010/07/12(月) 00:43:27.62 ID:YNgRUQAO
『――!? ――…!』

異国語で呻く男の声がくぐもり響く

侍「しまった、倒しきれなんだ」

「ゆ…許さん!今すぐ[ピーーー]![ピーーー]! [ピーーー]ッッッ!」

『――!! ―――――…』

侍「…ッ」

至近距離なら気配を察知出来たが、どうやら男は遠方から魔術で攻撃する気らしい

侍「一か八か…避けれるか」
198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga saga]:2010/07/12(月) 00:46:08.98 ID:YNgRUQAO
>>195
どうりで!
気付かなんだ…
199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga saga]:2010/07/12(月) 00:49:49.72 ID:YNgRUQAO
「フフ… じゃあな、最後のサムライさんよッ!」

侍「くっ」ザッ

『――…』



カッ―



侍「う…ッ!?」


痩せた男「ま…眩しいッッ!?」



パァァァァッ


少女『光を…!』
200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga saga]:2010/07/12(月) 01:00:04.78 ID:YNgRUQAO
少女が太陽の石を台座に返還すると、闇の潮は引き、陽光が降り注いだ

闇に憑かれた人々の嘆きの声も次第に消え、村の長い夜は去った

再び、日は登ったのだ


痩せた男「な、何故光が…!?」

侍「人々の心には…強大な闇ですら覆いきれぬ強い光がある」

バキッ

痩せた男「がはッ」ドサッ


侍「…闇も又然り」
201 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga saga]:2010/07/12(月) 01:10:48.67 ID:YNgRUQAO
世界が闇に包まれた日

学者の間では大騒ぎになっていたが、魔術に携わる者は、何が起きたのか直ぐに察しがついたという


人々が架空の神を崇拝する前、更に言葉という物が生まれる前…

人は太陽の下に生きていた

太陽の石は、人々の拠り所、絆そのものであった


しかし、人が言葉を生み法が敷かれると、権利者は太陽の石を疎ましく思った
202 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga saga]:2010/07/12(月) 01:22:14.11 ID:YNgRUQAO
人々の抵抗を押し切り、太陽の石を台座から取り上げると、世界は闇に飲まれた

人々は恐怖し、権利者は狂った

ようやく「勇気ある者」が台座に石を戻すと、再び世界に光が溢れた

「太陽の石は世界の法則の一つである」

と、時の王は言ったが、世代を経る事にその重要性は薄れるもの

二度の災厄を経験し、人々が今後どうするのか…太陽は見守っている


203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga saga]:2010/07/12(月) 01:32:03.97 ID:YNgRUQAO
少女『どうかな? 女将さんが知り合いの人から貰ってきてくれたの』

少女『似合うかな?』

侍『――』ナデナデ

少女『えへへ…ありがと』


カチャカチャ


少女『え…何?』

侍『―…』

少女『あ…これ、私に?』

少女『…嬉しい! ありがとう!』ギュッ



金色の髪に銀の簪

不慣れながらも少女にと、手に傷を作りながらこしらえた侍の贈り物

淡い白の桜が輝いていた
204 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 03:09:53.48 ID:8xw0Z1Ao
今回もよかった
205 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 06:27:49.20 ID:Tn2wNC60
乙!
おもしろいなぁ
206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 14:31:47.77 ID:3JHifeEo
sage saga なら文字も規制されないしsageながら投下出来るぞ
まぁ、このスレはage進行でもいいと思うけど、一応
207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 15:26:37.40 ID:FMY4fcAO
初めて来たよ
詩的で良いね
208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 20:37:06.39 ID:YNgRUQAO
てす

殺す
209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 21:19:32.26 ID:YNgRUQAO
=日沈む処=

遮光の国と隣国「銀鈴」の間に在る峠を言う

かつては、越える前に日が暮れることから「夕暮れ峠」や、秋になると落ち葉で埋め尽くされることから「落葉峠」と呼ばれていた


「日沈む処」と呼ばれるようになったのは大戦後である


遮光と銀鈴の主力がぶつかり合ったこの峠は多くの血が流れ、今も弔われていない屍が見つかる

そして、報わない死者達が今も獲物を求め彷徨っているという…
210 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 22:24:01.74 ID:YNgRUQAO
一方


少女『墓荒らし?』

定食屋の大将『ああ、夜な夜な墓を掘り起こす音がするんだ。翌朝見ると、跡が残ってる』

少女と侍は国境付近の都市に居た

激戦区だったにも関わらず復興が早かったのは、国側のせめてもの配慮か、はたまた隣国を牽制しての事なのか…

定食屋の大将『単なる泥棒ならいいが、魔物って噂も流れてる』

少女『魔物…』ビクッ
211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 22:31:29.90 ID:YNgRUQAO
定食屋の大将『この街の近くに大戦ん時の最前線がある。ろくに埋葬もされなかった死人達が、夜な夜な墓を荒らしに来ているって話だ』

少女『…』ゾーッ

定食屋の大将『…』



定食屋の大将『わっ!!』

少女『わーっ!?』ビクーッ

定食屋の大将『あっはっは! そんなに怖かったかい』

少女『し、死ぬかと思った…』ズルッ
212 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 22:37:27.47 ID:YNgRUQAO
定食屋の大将『ま、つまんねーコソドロはそのうち衛兵に捕まるさ』ヒラヒラ

少女『それって、解決したらお金出るんだよね?』

定食屋の大将『ああ、住民を怯えさせてるのは確かだからな』

定食屋の大将『しかし…お嬢ちゃんじゃ無理だな』

少女『大丈夫』ガタッ

定食屋の大将『へ?』


カランカラーン

少女『私一人じゃないから』

侍『―』ペコ

バタン

定食屋の大将『異国人…?』
213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 22:44:32.07 ID:YNgRUQAO


ホーッ ホーッ

少女『さっさと来てよ…』ガクガク

その夜

頃合を見て張り込みを始めた少女達であったが、未だ墓荒らしは現れない

少女『よく…こんなところで寝れるわね…』ブルブル

侍『―…』スピー

事情の飲み込めない侍は、上着を丸めて枕にし、早々に眠ってしまった

少女『ここは…公園じゃないのよ…ッ』ビクビク
214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 22:48:57.31 ID:YNgRUQAO
少女『うう…お兄さん……起きて』ユサユサ

侍『…』フガッ

すっかり熟睡している侍

起きる様子はないが、侍にちょっかい出していないと恐怖が募りそうだった

少女『うう…怖』


ボーンッ ボーンッ


少女『きゃああああああ!?』


少女『な、なんだ2時か……あはは』


ザリ…ッ ザリ…ッ


少女『…えっ』
215 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 22:52:33.17 ID:YNgRUQAO
それは何かを引きずる音

石畳に硬い物体が擦れ、削れる音だった

少女『――!』ユサユサッ

声にならない声で侍を起こす少女

侍『―…』ゴロンッ

押せど引けど侍は起きない

少女『お、お、おに』


ザクッ


少女『…』サーッ
216 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 22:58:44.46 ID:YNgRUQAO
墓荒らしが始まった

土を掘り起こす音が月夜に響く

少女『…』ブルッ

見るだけ…

…危なくなったら声を上げて逃げよう

そう自分に約束し、少女は立ち上がる


ザクッ

ザクッ


好奇心猫をも殺すという、いつか聞いた諺が過ぎった

猫の命は九つらしいが、少女の命はこれっきりだった
217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 23:06:30.78 ID:YNgRUQAO
【我が国の英霊、ここに眠る】

そんな意味の言葉が刻まれた慰霊碑の裏に少女は隠れていた

反対側では墓荒らしがせっせと穴掘りに精を出しているだろう

少女『…』ジリッ

慰霊碑の影から覗き見る、と

墓堀『ロベルト、もうすぐ君の棺が出るよ』

老人がスコップで穴を掘っていた

そしてその傍らに


少女『え……ほ、骨…ッ!?』
218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 23:24:07.78 ID:YNgRUQAO
少女は凍り付いた

あの老人は墓荒らしではなく…殺人―



トンッ


少女『――――――――!!』ビクーッ

侍『―…』

墓堀『ム? 誰かおるのか?』

少女『逃げ…! 逃げ!』アタフタ

侍『…』ガシッ
219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 23:28:12.59 ID:YNgRUQAO
少女『は、離してよ』ジタバタ

侍『…』ズルズル

墓堀『お主ら…こんな夜更けに何用じゃ?』

少女『あ、あなたこそ! 夜な夜な墓場に来て―』

侍『…』スタスタ

少女『え!?』

墓堀『あ!? こら!』


老人の脇をすり抜けると、侍は亡骸の前に正座し

侍『…』スッ

そっと、両手を合わせた
220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 23:34:26.53 ID:YNgRUQAO
墓堀『………そうかい、お前さんも見送ってくれるんかい』

少女『え…』

墓堀『わからんか? あの男は、一つの命の安らかな眠りと、新しい旅の無事を祈ってるんじゃ』

少女『…!』


いつも

お兄さんは食事の時に手を合わせていた

怪物を斬った時も手を合わせていた


少女『……』
221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 23:38:54.20 ID:YNgRUQAO
墓堀『さあ、お別れだ。勇敢なる戦士ロベルト・カーロンに安らかな眠りを…』

侍『…』

少女『…』スッ



ありがとう…



少女『あ…!』

墓堀『聞こえたかい?』

少女『ありがとう…って』

墓堀『ようやく、彼は解き放たれたんだよ』
222 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 23:44:02.07 ID:YNgRUQAO


侍『…』ザッザッ


少女『じゃあ共同墓地は、ほとんど空なの?』

墓堀『ああ、形ばかり取り繕って…宿主は不在じゃ』

少女『ひどい…』

墓堀『仕方あるまいて、何万人も死んでおるんじゃ』

少女『おじいさんは…ずっと?』

墓堀『ああ、死者の声に耳を傾けてやる者が、他におらんでな』
223 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 23:48:48.05 ID:YNgRUQAO


少女『はぁ…』

定食屋の大将『どうだったい、肝試しは』
少女『…』

定食屋の大将『まぁ、おっちゃんのハンバーグでも食って元気出しなって!』コトッ



少女『なんだかなぁ…』

侍『…』スッ

少女『あむ』パクッ
224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/12(月) 23:56:41.83 ID:YNgRUQAO
その日、死者を弔う老人の姿が少女の頭から離れなかった

どこかで信じていた魂の存在

どこかで否定していた魂の存在

心臓が止まるまでが生命なのか

天に還るまでが生命なのか…


少女『…お兄さん』

侍『―?』

少女『…ううん、なんでもない』

ぐるぐるぐるぐる

答えを求め、堂々巡りは続いた
225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/13(火) 00:03:36.70 ID:7MQuwIAO
翌日

少女は街のざわめきで目を覚ました


少女『何の騒ぎです?』ゴシゴシ

昨夜も、老人は一人で死者を送り出していただろうか

そう考えるとなかなか寝付けず、寝不足気味な少女

従業員『なんでも、墓荒らしが捕まったとか』


少女『えっ!?』

眠気が一気に吹き飛んだ
226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/13(火) 00:17:37.72 ID:7MQuwIAO
侍を叩き起こすと、身振り手振りで事情を説明する

スコップ、老人、合掌、手枷の仕草で察しがついたのか、少女を背負い宿を飛び出した

騒ぎの方へ向かい走っていると、大きなざわめきが起きた

少女『ま、まさか…!?』

侍『―…!!』ダッ

風の如き疾走が更に加速する

少女も侍も、汗が滲み出ていた
227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/18(日) 05:52:27.63 ID:AQnmEgAO
少女『な!?』

異様な光景だった

墓堀の老人を兵士達が取り押さえ、それを多数の戦士達が囲んでいるのだ

何が異様かと言うと、戦士達は例外なく紫色に淡く光り、姿が透けているのである

いわゆる、幽霊という物だろう


背の高い兵士『た、助けてくれ…!』

戦士の魂『ハナセ…ソノモノヲハナセ…』ジリッ

背の低い兵士『ひいっ!?』
228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 08:36:05.57 ID:.zLbhd2o
きてたか
229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 14:02:51.27 ID:BNqG9Cs0
きてるー!
よんでるぞー!
230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/18(日) 21:51:02.50 ID:AQnmEgAO
戦士の魂『ツグナイヲセヨ…』

背の高い兵士『わかった! こいつは解放するから!』

兵士達は老人を解放すると亡霊の間を駆け抜けて行った

一人残された老人を囲む輪が、じりじりと狭められていく


戦士の魂『ニクイ…オマエガニクイ……』

墓堀『ああ…好きなだけ憎んでくれ……お前達にはその権利がある』

戦士の魂『コロス…ナブリ、ヒメイ……クルシミモガケ…!』ジャキッ

亡霊の…憎しみ波が老人を飲み込む

老人はそっと、静かに瞳を閉じた
231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/18(日) 21:58:26.11 ID:AQnmEgAO
ドドドドドドッ

墓堀(まさか霊になって現れるとは思わなんだが…)

墓堀(これで…お主らが眠れるなら……)


チャキンッ

ピィンッ ギィンッ パキッ キンッ


戦士の魂「グゥ…!?」

侍「勇敢なる戦士御仁ら、待たれよ」ピッ


墓堀「――!?」
232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/18(日) 22:08:33.08 ID:AQnmEgAO
戦士の魂「ジャマヲ…スルナ!」ギラッ

亡霊の一人が戦斧を構え、距離を詰める

異国人の霊だが、直接頭の中に語りかけてくるので言葉の意味が分かる

侍「…」ガリガリ…

侍は逃げる兵士から奪った剣で円を描く

自分を中心に移動する事なく、半径2メートル足らずの円を書き終え

侍「ここまでが私の間合いだ。入ってきた者は迷わず斬る…、そのまま聞いてくれ」
戦士の魂「グ…ッ」

憎しみに歪んだ顔に、別の感情…「焦り」が一瞬見えた
233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/19(月) 01:52:12.57 ID:IIv4qYAO
侍「こちらの御仁は戦死したあなた方の為に、夜な夜な弔っているのではないのか」

戦士の魂「チガウ…! ソイツハオノレノザイアクカンヲヘラスタメニ…ワレワレヲトムラッテイルニスギヌ!」

侍「罪悪感?」

戦士の魂「タシカニ…センシシタモノモスクナクナイ……ダガ…ワレラハ……ソイツニイキウメニサレタノダ…!!」

侍「生き埋め…?」

少女「―!?」


亡霊の声が聞こえたのか、少女は生き埋めという言葉に驚きを隠せない
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 02:06:14.29 ID:mEQ8daoo
ktkr
235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/19(月) 02:06:39.30 ID:IIv4qYAO
遮光と銀鈴の戦が熾烈を極め、互いに戦闘継続の限界が迫った頃

銀鈴の将軍は、ある一つの決断をした


敵国に送り込んだ草(スパイ)が、魔強化装備で武装した部隊が迫っているとの情報を掴む

魔術では一日の長がある遮光に対抗するには、時間も戦力も足りなかった


翌日、両軍の戦力が落葉峠でぶつかる

中間点である落葉峠は、長くどちらも制圧することなく押しつ押されつの攻防が繰り広げられていた

が、遂に遮光軍が銀鈴の主力を破り、銀鈴は撤退戦を強いられる


そこで将軍は、禁忌である「味方殺し」を実行するのだった…
236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/19(月) 02:17:47.53 ID:IIv4qYAO
撤退戦は、追撃軍の迎撃と撤退を繰り返し行う

追撃側の遮光は、長く煮え湯を飲まされていただけに、多くの戦力を追撃に送り出した


撤退戦の第一戦、高台から雪崩れ込んでくる追撃軍に、迎撃隊は蹂躙されていく

追撃軍が勝利を確信した、その時


ドォォオオオオンッッッ


銀鈴軍は、なんと峠を爆破し始めたのだ

遮光軍を峠に集め、一網打尽にする為である

何も知らない迎撃隊は遮光軍と共に瓦礫に、爆発に巻き込まれ、誰一人として助からなかった
237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/19(月) 02:24:37.21 ID:IIv4qYAO
戦士の魂「オカゲデセンキョクハギャクテン…ギンリンハ……タイショウヲオサメタ」

少女「―…」

肩を抱き締める少女

これだけ犠牲者が集まっていると、どれだけ悲惨な状況だったのか想像するに難くない

戦士の魂「オカゲデソコクハ…ハズカシメヲウケズニスンダヨ……タイショウドノ…!」

墓堀「…」

老人は黙して語らなかった

それが全て事実なのだと証言するかのように
238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/19(月) 02:29:05.52 ID:IIv4qYAO
侍「ふむ…大体の話は理解した」

戦士の魂「ナラバドケ…ソイツニハ……シスラナマヌルイ…!」

侍「待て、一つ訊かせろ」




侍「―お主ら、何が不満なのだ?」




戦士の魂「ナ…ッ」
239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/19(月) 02:43:21.91 ID:IIv4qYAO
戦士の魂「コイツハ…! オレタチヲタテニ…ミナゴロシニシタンダゾ…!」

侍「わかっておる」


侍「しかし、殿(しんがり)を務めるとは味方の盾になるという事…」

侍「お主らがしくじれば味方は皆殺し、国は滅ぶ。女子供まで殺される地獄絵図になるやも知れんかったのだぞ」

侍「お主らは勇猛に戦い、犬死したかったのか? それとも、勝算があったのか?」

戦士の魂「ダマレヨソモノ! オマエハイキテイルカラナントデモイエル!」



ザクッ

戦士の魂「…!?」

侍「ならば、死して語り合おうぞ…」ツー
240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/19(月) 02:52:55.05 ID:IIv4qYAO
侍「とくとご覧あれ…ッ 見事切腹果たして見せようぞッ」グッ

少女「―!?」バッ

墓堀「―――!?」バシッ

侍「かはッ」バタッ

戦士の魂「ナニヲカンガエテオル! ジサツヲハカルナド…! グノコッチョウダ!」

侍「ああ……だがようやっとこちらの話に耳を傾けてくれたな」ダラダラ

戦士の魂「バカモノ…! コンナトキニナニヲ」

侍「お主らの魂を救う為…だ……ご老人と…話……を」ガクッ

少女「――!! ―――!!」
241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 06:53:46.95 ID:wj4re9Qo
SAMURAIだ…
242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/19(月) 12:02:20.81 ID:GqWYJsAO
ぱねぇ
243 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/21(水) 22:24:59.08 ID:x1hqysAO


少女『うう…ッ うううううぅぅ……ッ』
侍『』


墓堀『…』

戦士の魂『…』



墓堀『…迷ったんじゃ』

墓堀『あの…爆破作戦を実行するか』

戦士の魂『…』
244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/21(水) 22:42:16.95 ID:x1hqysAO
墓堀『じゃが…玉砕覚悟でぶつかっても、勝算は無い……降伏か、惨敗か…外道に墜ちるか』

墓堀『儂が悩んでいると伝令が来た…国王から爆破せよ、と』

墓堀『当初儂は陣頭に立つつもりじゃった…爆破は副長にしてもらい、儂はお主らと散るつもりじゃった』

墓堀『じゃが、国王の伝令の内容を聞き、残る事にした』



墓堀『爆破作戦の総大将は作戦後、戦犯として処刑する…と』



戦士の魂『!!』
245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/21(水) 22:51:43.30 ID:x1hqysAO
墓堀『戦犯となれば一族郎党、富、名声は愚か、最悪巻き添えになりかねない…』

墓堀『儂は…お主らを殺す事にした』



墓堀『しかし…儂を処刑すると王宮のイメージが悪くなると上が騒ぎ出し、儂は今日まで生かされた』

墓堀『除名処分され、家族を無くし、国を追われたが…こうしてお主らを弔えた』

墓堀『まだ…死んではいかんと思ったんじゃ』


戦士の魂『…』
246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/21(水) 22:56:53.18 ID:x1hqysAO
戦士の魂『…大将』

墓堀『…』

戦士の魂『やはり…死んで下さい』

墓堀『…待ってくれ、あの娘の面倒を見なけりゃならん。まだ死ねぬ』

戦士の魂『待てません』


墓堀『どうしても…か』



戦士の魂『あなた様の力が必要です』

墓堀『…何?』
247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/21(水) 23:04:48.67 ID:x1hqysAO


……


侍「…ここは」

侍「……ああ、私は自害して」

侍「と言うことは、ここは彼岸か?」



侍「皆、話はできただろうか…」



墓堀「ああ、もちろんじゃて」

侍「ご老人!?」
248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/21(水) 23:17:17.06 ID:x1hqysAO
戦士の魂「おかげさまで我らの『無念』は晴れました」

戦士の魂「結局、私達は魂の弱さ故に亡者と化してしまったのです」

戦士の魂「まぁ…そのおかげで大将とまた話もできたのですが」

侍「いや…私もつい自分の信義を突っ張ってしまって…」

戦士の魂「あなた様が命を張ってくれなければ我々はただの怨霊と化していたでしょう」

戦士の魂「ありがとうございます」

侍「…うむ」



墓堀「では…我ら今一度、命を張ろうぞッ!」バッ

侍「む!?」
249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/21(水) 23:30:22.71 ID:x1hqysAO
墓堀の老人…総大将が手を翳すと、戦士団が腰の剣を顔前に立てる

墓堀「勇敢なる青年の旅路に、戦女神の祝福を!」


バババババッ


戦士団「祝福を!」バッ


天に向かって戦士達の剣が突き挙がる


侍「お主らにも…! 幸あれ!」


それは、彼らの墓標の様であり、軍旗の様でもあった
250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/21(水) 23:39:50.96 ID:x1hqysAO
……



少女『うう…グスッ……』



野次馬『…あ! 幽霊が消えた!』

見物人『…あの墓荒らし…ともう一人、倒れてるな』

背の高い兵士『か、確保だ!』

背の低い兵士『銀鈴の総大将だ!絶対逃がすな!』
251 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/21(水) 23:46:41.42 ID:x1hqysAO
ザザッ

少女『ヒック…え!? 何!?』

太った兵士『ちょっとどいててね』

長髪の兵士『その爺さんは悪い人だからね』

少女『嘘! おじいさんは悪くない!』バッ

背の高い兵士『ええい! 小娘に構うな! かかれ!』

少女『ひっ!?』グッ



チャキンッ


少女「…―!?」チラッ

侍「ただいま帰った」ザッ
252 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/21(水) 23:55:30.95 ID:x1hqysAO
背の低い兵士「―!?」ジーンッ
少女「―――!!!!」

侍「心配を掛けてすまなんだ…」


侍「折れてはおらんだろうが、手が痺れが抜けないだろう」


侍「…道を開けよ。ご老人のお帰りだ」キッ

兵士達「――!?」ビクッ

スッ

侍「さあ、行きましょう」

墓堀「」
253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/22(木) 00:11:53.02 ID:OU7lJwAO
―大戦集結から二年が過ぎ、また命が芽吹く季節が来た

それは多くの命が散った「日沈む処」も例外ではない

戦争の影響で変化した地形は、植物達に大きな変化をもたらした

戦前は、崖下に光が差さず背の高い木しか生えなかった

だが、爆発で遮蔽物の背が低くなった為、様々な種類の草花が生息するようになったのだ

奇しくも、戦士達の消えていった谷底は花々が咲き乱れ、運河の如き儚くも美しい景色を誇っている
254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/22(木) 00:12:28.38 ID:ljaIKUAO
侍KAKKEEEEEE
255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/22(木) 00:18:18.65 ID:dqWu3Z2o
いいね
256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/22(木) 00:25:08.43 ID:OU7lJwAO
この季節になると、日沈む処に近い遮光・銀鈴の都市では両国合同の祭を行うことになった

日沈む処に種を蒔き、互いの都市の燭台に火を灯しに行くのである

この祭のおかげで、大戦で最も激しく争った二国は最も長く手を取り合うのだった


もっとも、それはまだまだ後の話―


侍「これでよし」パンパン

【銀鈴の英霊 ここに眠る】


少女「…」ムスッ

侍「…そろそろ機嫌を直してくれぬか?」

少女「―」プイッ

侍「ああっ」
257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/22(木) 01:59:20.52 ID:OU7lJwAO
=旅路1=


―道とは

永き時を経て動物が、人間が、生きとし生ける者達が踏み締めた足跡である

旅路とは

旅人達が脈々と辿り、拓き、朽ちていった生涯の軌跡である―




少女『釣れないなぁ…』

少女と侍は河原で釣りをしていた

もっとも、侍は既に三匹程釣り上げており、昼寝の真っ最中である
258 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/22(木) 02:06:16.33 ID:OU7lJwAO
少女『なんでお兄さんはあんな簡単に釣れるの?』ムムッ

釣り始めたのは少女の方が先だった

侍は少女にこしらえた竿を渡し、自分の分を作りにかかったので、少女の方が大分長く釣っている

侍は何の気無しに三匹釣り上げたが、それが間違い

普段は聡明な少女も、元来の負けず嫌いが角を出し、魚を焼いて食べるのに待ったをかけたのだ

少女『絶対にお兄さんより沢山釣るんだから!』

ピクッ

少女『きた!』グイッッ

ザパッ
259 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/22(木) 02:15:21.84 ID:OU7lJwAO
少女『やっ……た?』

釣り上げたのは金の輪に白い宝石を装飾した指輪

ただ、リングのサイズは少女の足がスポリと入る程大きく、絵本で見た雪男の物ではないかと思う程であった

少女『重…何これ』

金目の物には間違いなさそうなので、万年金欠の二人には嬉しい誤算ではある

が、魚ではない

少女『今私が欲しいのは魚なのに…』

『では世界中の魚を集めよう』

少女『え!?』
260 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/22(木) 02:17:37.82 ID:dqWu3Z2o
がんばれ
261 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/22(木) 02:21:26.61 ID:OU7lJwAO
バシュウッッ

光が弾けた

釣り上げた指輪から発せられた光が収まると、どこが頭かもわからない程大きな人が立っていた

少女『あ…ぁぁ』ボスッ

侍『―…』スピ


腰を抜かす少女、起きない侍

屈んで少女を覗き込む魔神


白宝石の魔神『願いを叶えよう―世界中の魚を手に入れたいのだな―?』

少女『―』フルフルフルフル
262 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/22(木) 02:26:04.37 ID:OU7lJwAO
白宝石の魔神『では何だ―富か――世界中の金銀財宝を集めよう―』

少女『い、いえ、いいです』フルフル


突然の出来事に戸惑い、魔神の迫力に気圧されながらも返答する少女


白宝石の魔神『では兵か――従順で屈強な兵を全て集結させよう―』

少女『いいです、いりません』フルフル



白宝石の魔神『―――では何が望みだ―』ズイッ

少女『ちょっと、離れて下さい』ビクビク
263 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/22(木) 02:31:50.56 ID:OU7lJwAO
白宝石の魔神『何故願いを言わない――願えば全て手に入るというのに――』

少女『き、気持ちは有り難いんです…けど』


少女『ありとあらゆる…とか、世界中全ての…とか、そんなに必要ないんです』

白宝石の魔神『必要ない―?』

少女『必要以上に手に入れた人は、「足る」事を忘れてしまいます』

少女『私達は…生きていくのに必要な程度、それだけあれば「十分」なんです』


白宝石の魔神『―ムウ』
264 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/22(木) 02:36:06.52 ID:OU7lJwAO
白宝石の魔神『娘―』ズズイ

少女『ひゃいっ!?』ビクッ

白宝石の魔神『面白い――要らぬと答えたのは二人目だ―』

少女『あ、以前もいたんで…』

白宝石の魔神『我は消えよう――さらばだ―』

少女『あ、でも当面の路銀…』


バシュウウッッ

少女『…ッ』
265 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/22(木) 02:38:37.88 ID:OU7lJwAO
少女『…いっちゃった』

夢でも見ていたかのような、ぼんやりとした意識の中


クッ


少女『あ…』クイッ

パシャッ

少女『…釣れた』


少女は魚を釣り上げた
266 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/22(木) 02:42:24.14 ID:OU7lJwAO


侍『―』パクパク

少女『おいしいね』パクッ

侍と少女は「三匹」の焼き魚を食べていた

少女は、釣り上げた魚を川へ返したのだ

少女『これで…十分だもんね!』

侍『―?』

少女『何でもなーいぁむ』パクッ
267 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/22(木) 02:51:03.22 ID:OU7lJwAO
―男は答えた

「僕は何もいらない」

魔神は尋ねた

「何故―欲さぬ――」

男は再び答えた

「僕が手に入れるということは、誰かが失うということではないか?」

「僕は、そんなのは嫌だ」



魔神は男の願いを叶えた

男の「全て」を世界中の人々に分け与えた

男は言葉を誤ったのだ―




侍『…』グー

少女『ちょっと足りなかったね』グー
268 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/22(木) 03:05:55.51 ID:OU7lJwAO
どうですかね…
こんな感じで延々続けますが、ご意見ご感想ご要望あれば
今後の参考にさせていただきます

スレ自体はスクラップノートみたいな感じなのでクオリティもスピードも上がらないですが…
269 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/22(木) 05:19:31.72 ID:VW868.k0
乙です
270 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/22(木) 08:55:18.34 ID:c.gZ/a.o
すごく良い
271 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/23(金) 22:12:15.84 ID:okxfhzIo
こういうの凄く好きだから、これからもこの調子で頑張ってほしい
乙です!
272 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/24(土) 00:08:10.53 ID:x4D/k6AO
これは良いSS
273 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/26(月) 03:27:14.19 ID:zZZW.gAO
―ある国の王がどんな軍でも落とせぬ城を建てた

100万の兵に深く幅広いの堀

堅牢な城門と城下街全体を覆う外壁

難攻不落のこの城を落とそうと考える者は現れなかった

地割れの奴以外は、ね―




牡鹿「ブォォォ!!」ザッザッ

鹿は怒り狂っていた

勇壮な角を振り回し、後ろ脚で大地を抉った

侍「…」ザッ

それもこれも、この難敵が現れたからだ
274 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/26(月) 03:33:58.60 ID:zZZW.gAO
牡鹿「ブルル…ッ」ザッ

侍「…来い、命懸けで…だ」ジリッ

牡鹿も又、歴戦の勇者だった

多くの肉食獣から群を守り、死線を潜ってきた

だから解る


戦えば無事では済まない


牡鹿「ブォォォオッ!」ダダッ


だが、背中を見せれば死ぬ…と
275 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/26(月) 09:08:38.01 ID:zZZW.gAO
ドッッ

牡鹿「ブァッ!」グォッ

牡鹿の角が侍を捉え…しゃくりあげる

角は侍の体を穿ち、ボロ布のように空へ舞った




かのように見えた

侍「見事な一撃…! 相手にとって不足はなかった」

牡鹿「ブォッ!?」

侍は角の先端を掴み、牡鹿の頭上で逆立ちしていた
276 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/26(月) 11:05:28.42 ID:zZZW.gAO
侍「渦巻く事―」クンッ


ゴキリッ


牡鹿「オゴァッ」

侍「―旋の如し」スタッ


ズシンッッ


侍「南無…」スッ

侍「…さて、3日ぶりの食事だ」
277 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/26(月) 11:10:17.44 ID:zZZW.gAO


少女『お兄さん遅いなぁ…』

ガサッ

少女『!』


侍『―』ヒョコ

少女『なんだ…お兄さんか』ホッ

侍『――』ズルッ

牡鹿『』

少女『ひっ!? お…おっきな鹿……』
278 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/26(月) 11:16:48.54 ID:zZZW.gAO
パチッパチパチッ


侍『―』スッ

少女『…』スッ

侍『―』パクッ

少女『あーんむ』ハグッ

3日ぶりの食事に舌鼓を打つ二人

味付けも彩りもない鹿の丸焼きだが、そんな事は些細な問題だった

少女『はぁー、生き返るね』モグモグ

侍『―』モグモグ



兵隊『動くな、お前達は包囲されている』ガサッ

少女『…え?』
279 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/26(月) 11:47:55.35 ID:zZZW.gAO
=自然調和国家 緑謳=

大戦以前は辺境地の小国家だったが、大戦終期に急速に発展した国である

緑謳は自然との共生を憲法に謳い、都市開発の傍ら自然保護運動を盛んに行っている

都市内部は緑に溢れ、小鳥がさえずり、国外から療養に訪れる人も少なくない

又、作物の育ちも良く、家畜は健康で良質な為、面積に対する食料輸出量は世界一である



兵隊『食事を止めろ密猟者。お前達を連行する』

少女『密猟…!?』

兵隊『絶滅危惧種を食すなど言語道断。極刑が処されるだろう』

少女『極刑!?』
280 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/26(月) 20:46:11.87 ID:vm2kNIAO
あうあうあう
281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/27(火) 23:49:01.00 ID:EUPIWoAO
兵隊『やっと12頭まで増えたのに長を失うとは…可哀想に』

兵隊『お前達のような無法者がいるから動物が住処を追われ、滅びていくんだ』

兵隊『さぞかし旨いだろうな。その肉を食えるのはお前達が最後だろう』


少女『うう…っ』ズキッ

兵隊達の容赦ない言葉

生きるため…知らなかったとはいえ、消え行く動物達に追い打ちをかけた事実

少女の心は自責の念に捕らわれ、押し潰されそうになった



兵隊『おい! 貴様…何の真似だ!』

少女『…あ!?』
282 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/27(火) 23:59:50.92 ID:EUPIWoAO
侍『――』ガツガツ

少女『お兄さん!』

兵隊『食うのを止めろ! 我々を侮辱する気か!』チャキッ

少女『あ、あの人はこの国の言葉が…!』

兵隊『だとしてもだ、あれが銃口を向けられている人間の態度か…!』

侍『―』ガツガツ


侍は食べるのを止めない

軟骨から筋、皮に至るまで全て食らってゆく
283 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/28(水) 01:11:53.39 ID:yLl7UIAO
侍『―』ムシャムシャ

兵隊『こいつ…!!』ジャキッ

少女『待って! あなた達は絶滅寸前の生き物は保護するのに、同じ人間は殺すの!?』バッ

兵隊『同じ人…間?』

兵隊『フッ…』

少女『な、何よ…』


兵隊『いや…お前達みたいな害悪と同等扱いされたのが、堪らなくおかしくてな』

少女『害悪…!!』
284 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/28(水) 01:26:57.17 ID:yLl7UIAO
兵隊『社会に貢献しないばかりか、生態系をも崩す害悪だ。駆除せねば』

少女は兵隊達の瞳を見た

その目に理性の輝きはなく、知性の光も差していなかった

少女『…狂ってる』

狂信者

どんなに素晴らしい教えだろうと、どんなに画期的な考えだろうと、盲目的では全く別の結果を生んでしまう

そして一番厄介なのは、そうして生まれた結果を省みず、「教え通りにやったから合っている」などと勘違いする事だ


兵隊『死んで詫び、そして神木に還るがいい』グッ
285 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/28(水) 01:46:29.94 ID:yLl7UIAO
少女『…』

少女は黙っていた

先程の様に叫んだりせず、ただ見守っていた

兵隊が侍の頭を狙い撃ちする様子を


兵隊『…自然へと還れ』


ダーンッッ
チッ
バズッ


兵隊「―!? ― ――――!?」バタッ

侍「食事中だ、静かになされよ」
286 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/28(水) 10:56:02.19 ID:lx89rIAO
287 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/29(木) 00:21:10.23 ID:KJ5XBcAO
侍の頭部目掛けて放たれた金属の塊が目標を貫くことはなかった

侍は手に持っていた骨で眼前まで迫った弾丸の側面を小突き、軌道を変えたのだ

兵隊「―!!!――――――!!!!」バタバタ

軌道を大きく違えた弾丸は、撃ち手の反対側にいた兵隊の肩を貫通した

侍「種子島なんぞで私は仕留めれんぞ」

侍は武装した兵隊に囲まれて尚、身構えることは愚か、立ち上がりすらしていない

侍「何故お主らが怒っているのか分からぬが―」

兵隊「――!!」バッ


ガンッガガガッダンダンッガーンッッ



侍「―もし食すのを止めろと言っているなら、それは命への冒涜だ」
288 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/29(木) 00:52:31.25 ID:iFlvwlAo
来てたか
289 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/29(木) 00:53:52.08 ID:KJ5XBcAO
兵隊『う、嘘だろ…!?』

兵隊『威嚇射撃じゃないんだ!ちゃんと狙え!』

侍『…』

集中砲火の中、侍は正座したまま立ち上がる事はなかった

四方八方から飛んでくる弾丸を右腕一本と、その手に持った鹿の骨で凌ぎきったのだ


少女『…っぷは』

少女は呼吸をも忘れて顛末を見ていた

侍の動きは速すぎて見えなかったが、やはり「どうやら凄い事をしたらしい」事だけは分かった
290 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/29(木) 00:56:23.37 ID:KJ5XBcAO
>>288
ネタはいっぱいあるし、脳内では物語大分進んでるんだけど、いかんせん時間が…

私事だけど、会社で誕生日が終わってしまう始末です
291 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/29(木) 00:57:37.56 ID:iFlvwlAo
遅くてもいいさ
292 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/29(木) 09:07:24.07 ID:bY5b21Uo
遅くても見てるさ!
誕生日いつかしらんがおめでとう
293 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/29(木) 23:31:19.93 ID:jytDsYMo
乙、ついでに誕生日おめ
294 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/30(金) 02:13:51.67 ID:5cWT1.AO
おつおめ
侍のチートっぷりがたまらんな
295 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/02(月) 23:23:43.82 ID:ZDNG5wAO
28日が誕生日でした
皆さんありがとうございます
296 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/02(月) 23:49:11.69 ID:ZDNG5wAO
兵隊『一時撤退だ! Aクラスの武装に切り替える!』

兵隊『しかし、人間一人に承認が下りるか…』

兵隊『ならいい手があるのか! 弾丸を弾くなど、人間技じゃない…!』

兵隊『…あの子供を人質にするのは?』



兵隊『…止めておけ、親熊に殺されたくなかったらな』



兵隊達は去った

この一戦が、新たな戦いの幕開けである事を侍は感じていた

少女は、また一つ何かの幕が降りる予感がしてならなかった
297 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/03(火) 00:28:00.55 ID:xN6DxsAO


少女『よっ ほっ』トンットンッ

侍と少女は森の中を歩いていた

兵隊達の足跡を追えば人里には出れるだろうが、二人はその手を使わなかった

侍『…』ズッ

大きめの石を持ち上げる侍

森を探索し始めてから何度か繰り返した行動だ

少女『…』ジー

二人で石の下にあった地面を見る

…虫一匹いない
298 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/03(火) 00:37:32.84 ID:xN6DxsAO
違和感は最初からあった

この森には朽ち木がないのだ



自然には木を中心とした世界がある

木の実、葉、幹を食料とする動植物や昆虫が居て、木に取り付き成長する蔦、苔、菌糸類が在る

落ち葉は微生物の食料となり、草花の、そして木自らの栄養となる



この森では、どこででも見られる木の世界が無いのだ
299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/03(火) 01:05:11.88 ID:9m2F/gEo
乙かな?
300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/03(火) 08:34:08.63 ID:xN6DxsAO
この森では虫の類を見ない

見ないと言っても全くではなく、華々しい蝶々や輝く甲虫、美しく鳴く虫達はそこそこ見かける


それだけである


それだけで自然は成り立たない


侍「おかしい…どうやってこの森は生きているんだ?」
301 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/03(火) 08:38:28.77 ID:M72jaSAo
なんという里山博士 明らかに高等教育を受けている
302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/03(火) 23:34:57.05 ID:xN6DxsAO
少女も又、違和感を感じていた

この森には何かが足りない

一見、何の変哲もない森なのに…何故


それが分からない

経験が浅い故に気付かない


少女『…うーん』ズッ

だから真似をする

経験者の真似をする事で答えを体感し、擬似的な経験を積む


そういう意味では、少女は他の誰より早く経験を積みつつあった
303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/03(火) 23:42:35.05 ID:xN6DxsAO


侍『―』パン

少女『いただきます』パン


歩き回ること半日、二人は少し遅い昼食をとることにした

献立は残りの鹿肉と瑞々しい「だけ」の果実である

半日もあると疑惑は確信に変わり、新たに疑問が生まれる


どうやってこの森は循環しているのか


侍『…』シャクッ

少女『わっ!?』ビクッ

侍『―?』
304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/03(火) 23:56:28.57 ID:xN6DxsAO
少女は果実を落としてしまった

かじり付いた果実に芋虫がくっ付いているように見えてびっくりしたようだ

勿論、この森には芋虫などいない

果実のヘタがそう見えただけなのだが


少女『…あ』


そう、いないのだ

彼女の苦手な芋虫も、蜘蛛も、足の一杯生えた虫も…一匹もいない


気付けば沢山いない

蛇、蛙、蛞蝓、烏、蛭、鼠、蠅、蚊、虻、蜥蜴………

少女『…おかしい、緑謳は自然を守ってるんじゃないの…?』
305 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/06(金) 23:29:00.51 ID:IRBp8kAO


兵隊『ただいま戻りました』ザッ

兵長『…』


兵長『負傷者が出た…らしいな。あの娘と遭遇したのか?』

兵隊『いえ……、森で妙な男と戦闘になりました』

兵長『妙な男?』


兵隊『黒い瞳と髪を持った、異国語を喋る男です』
306 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/06(金) 23:34:40.08 ID:IRBp8kAO
兵長『異邦人か、何故戦闘になったんだ』

兵隊『絶滅危惧種の鹿を捕食していたからです』

兵長『密猟…ではないのか』

兵隊『我々に囲まれても一心不乱に食べていました。恐らく腹が減っていたのかと』

兵長『…して、捕まえたのか?』

兵隊『それが…』

兵長『…』


兵長『厄介事が増えたな』
307 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 23:34:42.04 ID:XJZmKYDO
ktkr
308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/06(金) 23:43:09.72 ID:IRBp8kAO
兵隊『例の娘ですか』

兵長『ああ、奴に比べたら密猟者なんかかわいいもんだ』

兵隊『奴の狙いは我々ですからね』

兵長『馬鹿者、全ては陽動だ』

兵隊『陽動…?』

兵長『森の見取り図だ。このピンがここ最近の奴と遭遇した場所で、色が濃い程新しい情報だ』



兵隊『これは…「神樹」から徐々に遠ざかっている…?』

兵長『奴の目的は神樹だ』
309 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/07(土) 00:14:35.15 ID:pgfRNaoo
今日の分は終わりかな?
310 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/07(土) 10:13:16.85 ID:JVHiGYAO


少女『なんだか景色が変わったね』

別段、地形が変わったり植物の種類が変わりした訳ではない

見渡しても、相も変わらず木々が生えて森という形を保っているだけである

何が変わったのか


侍「…この花」サス

侍「…………花粉が飛び切っている……………まるで生きるのを止めたような―」


花だけではない

木は新芽を出すのを止め、草は太陽に向かって伸びるのを止めた


いつからかは分からないが、此処はまるで時間が止まっているようだった
311 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 11:30:08.20 ID:7k6XF2AO
侍『…』スッ

少女『え、どうしたの?』



兵隊『ここから先は進入禁止だよ』ザッ

少女『あ、すみません』

林から現れた兵隊は特に警戒する風もなく、注意だけ告げた

先程一戦交えた小隊とは別の者らしい

少女『あの、どうしてこの先に入れないんですか?』


兵隊『知らないの? この先には神樹があるんだよ』
312 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 11:37:52.63 ID:7k6XF2AO
少女『…神樹?』

兵隊『そう、緑謳の自然が美しく保たれているのは、全て神樹のお陰なんだよ』

兵隊『ほら、ここからでも見えるだろ? あの一際大きな木が…』


ターンッ


少女『えっ!?』

兵隊『敵襲!?』ダダッ

静かな森に銃声が響き渡った

兵隊は血相を変えて音の方向へ走り去った

少女『…もしかして、チャンスかも』
313 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 11:54:26.98 ID:7k6XF2AO
ダーンッ

ターンッ ターンッ

一際大きな木を目指し、少女と侍は進む

近付けば近付く程、銃声も近くなる

少女『あ…!』

林を抜けると、一本の巨木が聳えていた

白樺の様な白色、樫の様に力強く、桐の様に神々しい―


少女『これが神樹…』

たった一本、木が生えているだけ

それなのに目を奪われる光景だった
314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 12:05:52.08 ID:7k6XF2AO
ダーンッ

少女『!』

銃声で一気に現実に引き戻された

少女『この木がこの森を維持する鍵なのね…』

では、…もしこの木がなくなったら?

支えられてきた命達はどうなる

少女『…』


ガサッッ

侍『!』

色白娘『はぁ…はぁ…!』ダダッ

兵隊『追え! 神樹に近付かせるな!』
315 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 12:15:53.23 ID:7k6XF2AO
林から色白な娘、それに続き兵隊達が次々と飛び出してくる

色白娘『ここまでくれば…ッ!』チャッ

娘が武器を構える

ただの棒に見えなくもないが、細やかな装飾が施されているあたり魔装武具のようだ

兵隊『撃て! 撃てッ!』ダーンッ

色白娘『やああああああッ!』バッ

淡い光を纏い、神樹に向かって跳び―


バチッッ
316 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 12:29:16.88 ID:7k6XF2AO
色白娘『きゃあッッ』ドサッ

空中で跳ね返された

いや、娘の体が跳ねたのだ

色白娘『ぐぅ…!?』ジーンッ


兵長『やっと捕まえたよ』ザッ

色白娘『く…ッ』キッ

兵長『そう睨むな』

全て脚本通りだったのだ

兵隊達が追いかけ、娘がそれを撒きながら神樹へと辿り着く

神樹へ攻撃しようとすると、防御円に弾き飛ばされるという寸法だ
317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 12:34:43.15 ID:7k6XF2AO
兵長『雷の防御円だ。暫くは痺れて動けまい』

色白娘『く…っ…あ……』ガクッ

痺れて立ち上がれず、舌も回らない

兵長『散々手こずらせてくれたな…神樹を傷つけようなど愚かな』

兵長『連れていけ』

兵隊『ハッ』

色白娘『や……ッ』


バチバチィッッ

兵長『ムッ!?』
318 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 12:40:54.88 ID:7k6XF2AO
兵隊『なんの音だ!?』

兵隊『防御円が発動したんだ!』

兵長『まさかこちらが陽動だったのか!?』

兵隊『な!? 防御円の内側に人が…!!』




侍『…』ビリッ

兵隊『お、オマエ! 今すぐ出てこい!』
兵隊『一体どうやって入った! 魔術師か!?』
319 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 12:44:37.95 ID:7k6XF2AO
侍「ふむ、余程この木が大事と見える」

兵隊「――!!」

兵隊「―――!?」

侍「何を言うてるか分からん。 ―せいッ」


ドゴォッッ


兵隊「―!?」

侍「いつつ… なんと頑丈な木だ…、拳が割れるかと思ったぞ」
320 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 12:49:53.05 ID:7k6XF2AO
ピシッ

侍『―』

兵隊『馬鹿な!? 神樹にヒビが!』

兵長『防御円を解除だ!! あの者を包囲しろ!』

兵隊『兵長殿! 奴です! 例の異邦人です!』

兵長『何…!』




少女『今の内に逃げるよ!』

色白娘『! あなたは』

少女『いいから!』
321 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 12:57:10.43 ID:7k6XF2AO


侍『― ――!!』

ズゥンッッ

ビキッ

兵隊『止めろ!! 何考えてるんだ!!』

兵隊『防御円が解除されればお前は蜂の巣だ!!』


ブゥゥンッ


兵隊『解除しました!』

兵長『撃てぇぇ!!』

ダダダダダダダダダダダダッッッ

兵長『…ッ 逃したか』
322 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 13:10:51.20 ID:7k6XF2AO
色白娘『う…ッ』ビリッ

少女『まだ痛むの?』

色白娘『え、ええ…』

色白娘『それより、何で助けてくれたの?』

少女『…あなたが、この森の秘密を知ってそうだったから』

色白娘『!』

少女『どうしてこの森には蜘蛛や蛇…沢山の生き物がいないの?』


色白娘『…』
323 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 13:18:59.35 ID:7k6XF2AO
色白娘『人間に害成す生き物はいらない…』

色白娘『それが緑謳の考えよ』

少女『でも! 緑謳は自然との共存を…』

色白娘『自然学者でもない限りそうそう気付かないわよ。…害虫害獣がいなくて困る人なんていないもの』

少女『…』

少女は黙った

自分だって、蛞蝓や蜘蛛を気持ち悪いと思うし、出来ればいなくなって欲しいと思っていた

それが現実になっただけ…

少女『でも…やっぱり間違ってるよ』
324 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 13:24:18.27 ID:7k6XF2AO
色白娘『うん、間違ってる』

少女『どうしたら消えた生き物達は戻ってくるの?』

色白娘『神樹を破壊しよう。そうすれば全て元通りよ』

少女『でも、あれはこの森の支えじゃ…』

色白娘『大丈夫、自然は…命はそんなにヤワじゃないわ』

ガサガサッ

少女『!』

侍『―』ヒョコ

色白娘『あなたの相棒も来たところで、再戦といきましょう』
325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 13:32:04.23 ID:7k6XF2AO


ザワ…

少女『なんだか…森の様子が…』

神樹の周りの木々草花

時間が止まっていた植物達に変化が現れた

少女『だんだん…枯れて…!?』

色白娘『急ぎましょ…! 手遅れに…なる前に!』ヨロッ

侍『…』ハシッ

色白娘『あ、ごめんなさい…』

娘の顔色は白を通り越して青くなっていた

疲れなのか、とても動ける様子じゃない
326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/08(日) 13:33:25.64 ID:KpY146DO
いいね
327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 13:37:24.82 ID:7k6XF2AO
少女『少し休んだ方が…』

色白娘『駄目…間に合わなくなっちゃう』

少女『一体何に…?』

色白娘『神樹がこの森の生命を支えているのは知ってるでしょ?』

少女『うん…』

色白娘『その逆も…可能なの』

少女『!』


色白娘『きっと…森中の生命力を集めて…魔導砲を撃つ積もりなの』
328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 13:48:33.03 ID:7k6XF2AO
少女『そんな事したら森は…、ううん、森だけじゃない…魔導砲の先が全て消し飛ぶでしょ!』

色白娘『元々、自然との共存なんて建て前だったのよ』

色白娘『奴らは自分たちの愛でる自然が美しければそれでいい』

色白娘『最悪、神樹が無事ならまた元通りになるもの…』


少女『元通りになんてならない!』


色白娘『…!』

少女『形は戻っても…消えた命は戻らないよ…』
329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 14:01:47.85 ID:7k6XF2AO
色白娘『その通りよ』

少女『…』

色白娘『だから止めないと、思い上がった自然主義者達をね…!』


ザッ


兵長『諦めるつもりはないかね? 我々もできればコイツを使いたくないんでね…』
色白娘『あなた達こそ、自然を矯正するなんて思い上がった行為は止めたらどうなのよ』

兵長『矯正ではない。人間界と自然界が融合した結果だ』


色白娘『…節穴の様な目ね』
330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 14:29:35.75 ID:7k6XF2AO
少女『これのどこが共存なんですか! 自分たちに不都合な生き物を追放して』

兵長『何がおかしい? 不都合を取り除くのは当然の事だろう』

少女『私達は自然に生かされているんです! 何で分からないんですか!!』

兵長『それは遅れた考えだ。文明は進み、魔術と科学によって自然さえ創り出せる世になったのだ!』

色白娘『それが勘違いだと言ってるんだ!』


兵長『もういい…消えてくれ』

少女『だめ―』

ドォォォオオオオオオンッッッ
331 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 14:35:04.69 ID:7k6XF2AO



少女『…え』

色白娘『ぐ…ぁ…あがッ』ググッ

少女達は守られていた

娘のかざした手の先に光の壁が張られ、魔導砲を遮っている

色白娘『すまない……こんな事に巻き込んで…』

少女『そんな! そんな事言わないで!』

色白娘『いや…私一人で決着をつけるべきだったのに…二人につい甘えてしまったッ』グッ



侍「ならば…最後まで甘えてくれ」スッ

色白娘「!?」
332 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 14:53:08.65 ID:7k6XF2AO
色白の娘が落とした棒を構える

侍「大樹の神よ…お送り致します」グッ

色白娘「い…から……逃げ」ビキッ

バリィンッッ


侍「突き抜ける事―」タッ


ドォォオオオオオオッッ

少女「―」 色白娘「―」


――――ッッッズバァンッッ


侍「―光の如し」シュウウ…
333 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 15:04:15.78 ID:7k6XF2AO
魔導砲を突き破り、侍の突きは神樹に突き刺さった

樫の様な丈夫な幹は半壊し、白樺の様な白い樹皮は吹き飛んだ

桐の様に神々しい光を散らし、楓の様に葉を散らした

侍『―…』バタッ

枯れ往く神樹にもたれ倒れる侍

正に渾身の一撃だったのだろう



タタッ

少女『お兄さん!?』バッ

色白娘『大丈夫、直に目が覚めるわ』
334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 15:09:29.57 ID:7k6XF2AO
色白娘『ごめんね、あなたのお兄さんに無理させちゃって』

謝る娘に、少女は首を横に振る

少女『無茶して心配かけるお兄さんが悪いの』

ちょっといじけた風に言う少女

侍の寝息が落ち着いてきて、少し余裕が出来たからだろう


少女『でも、これで元の森に戻るの?』

色白娘『うん、任せて』

少女『…任せる?』
335 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 15:20:44.53 ID:7k6XF2AO
色白娘『さあ! 生命を謳歌しなさい!』バッ

神樹が激しく輝き、光が森に、緑謳中に降り注ぐ

大地から芽が出て蔦が伸び、緑が広がって行く

動物が駆け回り、鳥が飛び交い、魚が川を登る

長く見なかった虫も何処彼処からか顔を出し、緑謳はその名に相応しい姿になった



少女『…すご』
336 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 15:28:29.39 ID:7k6XF2AO
色白娘『これで…終わりね』

少女『あなたは…』

色白娘改め神樹の精霊『私ね、本当は神樹の精霊だったの』

少女『じゃあ! 神樹が枯れたら…!』

神樹の精霊『うん、消えるね』

少女『どうして!? 自分を犠牲になんて…』

神樹の精霊『この森はね、私の子供みたいなものなの』

神樹の精霊『子供達の未来を切り開くのは…親として当然じゃない?』
337 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 15:44:48.64 ID:7k6XF2AO
少女『…』

神樹の精霊『そんな顔しないで、私は「みんな」のいる森が大好きなの』

神樹の精霊『命は巡り、芽吹き、咲き誇る』

少女『でも…あなたは』


神樹の精霊『だから…夢は、ここでおしまい』フッ


少女『あ…!』


『また…巡り逢いましょう』


少女『うん…うん…!』ジワッ
338 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 15:52:13.92 ID:7k6XF2AO


兵隊『…うっ』

兵隊『気が付いたか』

兵隊『俺は…』

兵隊『気を失ってたんだよ、俺もさっきまでのびてた』

兵隊『…! 神樹は!?』

スッ

兵隊は指を指した

その先には神樹が立っていた

少し傾いた神樹からは光が溢れ、緑謳中に降り注いでいた

まるで、命を燃やし、命を振り撒いているかのようで―

兵隊『綺麗だな』

兵隊『…ああ』
339 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 16:06:12.84 ID:7k6XF2AO
―ある日突然緑謳は自然に飲まれた

馬車が走りやすいように整備された石畳は草茫々

あちこちに鳥や虫が巣を作り、見張り台には猿が住み着く始末

元々蔦で覆われていた外壁も、我先にと蔦が競っているかのような伸び振りに、何処が入り口か分からない程である

森では熊を見たとの噂、夜は狼の遠吠え


国民は悲しんだ

自然に怯えて生きなければならないのか、と
340 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 16:14:53.84 ID:7k6XF2AO
ある日、緑謳に新しい仲間が加わった

『大自然の中で暮らすのが夢だった』

都会から引っ越してきた家族はそう言う

緑謳の国民は皆首を傾げた

以前の方が暮らしやすくて良かったのに…

またある日、仲間が加わった

『緑謳は素晴らしい、心が豊かになるよ』

雑草を刈りながら、引っ越してきた男は笑顔で言った

神樹が健在の頃はこんな苦労しなかったのに…

国民は皆溜め息をついた
341 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 16:25:05.13 ID:7k6XF2AO
雑草が伸びたら皆で刈り取らねばならない

家畜の体調に頭を悩ませなければならない

森は危険が伴うから皆で注意しながら歩かねばならない

作物の豊作を天気に委ねなければならない…



悩みは絶えず、快適とは程遠い生活

しかし、国民は去らなかった
342 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 16:33:53.10 ID:7k6XF2AO
問題を解決する為に、皆知恵を出し合い力を合わせた

収穫が終われば誰からともなく宴を開き、喜びを分かち合った

苦労して作った食料に舌鼓を打ち、年々大きくなる子供達の自慢話をする


それだけで幸せだった


緑謳の発展は止まったが、廃れる事もなかったという

今も移住者は増えつつあり、収穫祭は世界一賑やかだとか


『森と大地の国 緑謳へようこそ!』



少女『いっぱい虫に刺されちゃったよ…』ポリポリ

侍『―…』ポリポリ
343 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 17:11:22.09 ID:7k6XF2AO
=旅路2=

―道とは

永き時を経て動物が、人間が、生きとし生ける者達が踏み締めた足跡である

旅路とは

旅人達が脈々と辿り、拓き、朽ちていった生涯の軌跡である―


侍「むぅぅ…」

侍は焦っていた

例え10万の兵に囲まれようが眉一つ動かさないであろう彼だが、頭を抱える事がある

少女「―、―…」ゼェゼェ

共に旅をしている少女の事だ
344 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 17:22:04.42 ID:7k6XF2AO
侍にとって命の恩人である天涯孤独の少女

よく懐いてくれているので旅に連れ出すのに吝かではないのだが…

少女「―!―!」ゲホッゲホッ


少女が飢えるのが怖かった

少女が怪我するのが怖かった

少女が…病気になるのが怖かった


侍は医者でもなければ陰陽師でもない

ましてや魔術など微塵も分からない


だから、少女の身に降りかかる災厄が怖かった
345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 22:05:55.09 ID:7k6XF2AO
侍「…」ギュッ

着物を破いて作った手拭いを絞る

ヒタ

少女「――…」スースー

少し落ち着いてきたのか、寝息に苦しさはない



侍「私の力など…何の意味があるのだ」

人殺しは随分上手くなった

一時は英雄扱いされた事もあった

…だが、病に苦しむ子供一人救う事ができない


剣など手に取らなければ…


そう、幾度も後悔した
346 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/08(日) 22:08:27.72 ID:L3iXdfIo
こんなときに言うべきことではないかもしらん病に伏せっている女性は酷く愛おしく感じることがよくある
347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/08(日) 22:10:07.22 ID:qGgm.Hso
>>346
オレも昔妹の看病したときにそう思ったことがあったな
348 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/08(日) 22:10:44.87 ID:3d6Tb9Mo
病弱萌え
349 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 22:32:30.60 ID:7k6XF2AO
学問を志した事もあった

百姓だった両親を手伝う傍ら、手当たり次第に本を読んだ

学者になればお偉方から声がかかるかもしれない…

少年心に両親に楽をさせようと決めて、実行に移した一年後

戦火が村を襲った


すぐに「お侍様達」が駆けつけたが、その頃には敵軍は引き上げていた

挑発のつもりだったのだろう、村に火をつけ暴れまわって帰っていった

不幸中の幸か、死人は出なかった


父上が歩けなくなっただけで済んだのだから…
350 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 22:39:26.88 ID:7k6XF2AO
父上は正義感の強い方だった

皆を林に避難させる間、敢然と敵兵に立ち向かった

時間稼ぎのつもりだったのだろう

お陰で、皆無事に逃げ仰せた

父上以外



少女「―、―、」ハァハァ

侍「す、すまない、今冷やしなおす」ジャバッ
351 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 22:43:57.44 ID:7k6XF2AO
父上は足に矢を受けてしまった

当たり所が悪かったのか、片足が使えなくなってしまった

動けなくなっている父上の周りを嬉しそうに騎馬隊が走り回った


それを見て、「俺」は―



侍「ほれ」パサッ

少女「―…、―…」フゥ

侍「…ふーっ」
352 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/08(日) 22:45:21.35 ID:L3iXdfIo
そうか、これは萌えだったのか…
353 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 22:55:05.38 ID:7k6XF2AO
援軍が来た頃には敵軍は去った後だった

焼け落ちた民間に荒らされた畑


それと、手に持った草刈り鎌と騎馬隊の死体が幾つか



許せなかった

一生懸命生きているだけの私達の生活を壊して面白がっているのが

勇敢に立ち向かった父上を侮辱したのが


それに、隠れて見ているだけの臆病な自分が
354 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/08(日) 23:01:47.20 ID:7k6XF2AO
少女「――…」ガタガタッ

侍「…!? い、いかん!? 寒いのか!?」

着物は既に掛け布団代わりにしているので、もう布の類は無い

侍「しっかりせい!」ギュッ

抱きかかえて体をこする

嫌な汗が額を伝い、心臓が早鐘を打つ

侍「神様…仏様……」ギュッ



何時振りに神仏に祈っただろう

ああ、父上の足を診てもらった時と、初めて里帰りした時だ
355 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/09(月) 00:09:46.36 ID:ssPqxQAO
仕官して数年、戦に明け暮れ武功を上げ、食うに困らぬ程度の役職に就いたある日、私は里帰りをした

国を守る為に人を殺しているという複雑な気持ちで、今一つ胸を張って帰っていいのか分からない

だが、久しぶりに村の皆、そして両親に会えると思うと嬉しくなる

元気でやっているか?

仕送りは届いているか?

今年は豊作になりそうか?

何から話そうか考えながら峠を越えた



そこに村はなかった
356 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/09(月) 00:17:54.67 ID:ssPqxQAO
隣村で宿を借りた時に聞いた話だと、敵軍が焼き払ったらしい

他の村には目もくれず私の村だけ襲ったらしい

私が仕官した翌年に起きた、小さな惨劇


人殺しなんてするから―




侍「ハァ―ハァ―ッ」ガタガタ

無心で少女の体をさすった

力加減をする余裕は無く、ただただ治れと念じた

少女「―、―、」ゼェゼェ

少女の顔色も優れないが、私の顔色も相当悪かっただろう
357 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/09(月) 00:28:23.91 ID:ssPqxQAO


少女「―…」スゥスゥ

ようやっと容態が安定し、顔色が良くなった頃

日はすっかり暮れ、二人は同じ場所で二日目を終えようとしていた

侍「…」

侍は、自分の臆病さ加減に参っていた

普段は、失う事への恐怖を自己犠牲によって麻痺させているのだが、そのメッキが剥がれ露呈してしまったのだ

侍「…はぁ」

森で採ってきた「食べれるであろう果実」を口にする気にもなれず、侍は幾度目かの溜め息をついた
358 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/09(月) 00:34:16.80 ID:ssPqxQAO
……

少女『…ん』

少女『……朝…か』ムク

グッ

少女『…?』グッ

ググッ

少女『抜けない…?』


布団から起きれないのは温かくて気持ちいいからじゃない

単に、布団が私をしっかり掴んで離さないからで…

少女『ん…? 布団?』

侍『―…』ウツラウツラ


布団じゃなくお兄さんでした

少女『………え?』
359 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/09(月) 00:40:46.85 ID:ssPqxQAO
少女『え、え、ええええええッ!?』

思わず声を上げた

だって、起きたらこんな至近距離にお兄さんの顔があるんだもん

侍『―…』

少女『しまっ 起こしちゃった!』アタフタ

侍『…』

少女『あの、えと…おはようございま』

ガバッ

侍『――!』ダキッ

少女『え!? あの…?』

お兄さんは私の顔を見るや否や私を強く抱き締めた

目尻に僅かに浮かべた涙を、私は見てしまった

イマイチ何が起こったのか分からないけど…

少女『お兄さん…く、苦しいよぅ』ポンポン

侍『―…――…』ギュウッ
360 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/09(月) 00:45:09.50 ID:ssPqxQAO


少女『私が風邪ひいて、お兄さんが一生懸命看病してくれたのはなんとなく思い出した』

少女『でもお兄さんが風邪ひいちゃ意味ないでしょ』

侍『―、―』ゴホゴホ

少女『仕方ないなぁ、もう』


朦朧とした意識の中感じた額に触れる手の感触

昔、母上が看病してくれた時の感触だった

侍『…』

少女『果物、食べる?』

侍『…』コクリ
361 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/09(月) 00:47:38.42 ID:ssPqxQAO
今日はここまでです

私事ですが、12日〜15日は帰省するので書き込みできない可能性大です


ご静聴ありがとうございました
362 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/09(月) 08:37:38.05 ID:BzrlINoo
やっぱこの二人いいなぁ、>>1
363 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/10(火) 02:01:00.06 ID:rJdV.C60
ageようぜ
364 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/15(日) 18:04:07.18 ID:/.G7DAAO
終わり?
365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/15(日) 20:18:25.81 ID:hd.I.lg0
帰省で書けないって書いてあんだろ ちゃんと読め
366 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/15(日) 22:59:34.64 ID:bayzpNQ0
骨洞
367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/15(日) 23:16:34.52 ID:jl72xYAO
『また会う時が来たならば、空に雲無く風も無く』

声が聞こえる

『陰る事無く輝いて、この子を照らし導いて』

優しくて安心する…大好きな声

『巡り巡れ星達よ、この子を祝福しておくれ』

柔らかな声で紡ぐ子守歌…

『蒼く輝け星達よ、この子が迷わないように』



私の…お母さん……
368 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/15(日) 23:21:34.40 ID:jl72xYAO


少女『ん…』モゾ

柔らかい布団にくるまっている時間は最高に贅沢だと思う

あったかくて…

ふわふわで…

また…眠



母『ほーら、そろそろ朝ご飯よ』ユサッ

少女『んっ』
369 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/15(日) 23:30:32.47 ID:jl72xYAO
少女『もう少し寝たいよ…』モゾ

殻に籠もるみたいにお母さんから逃げる

私は朝が強い方じゃなく、スパッと起きれた試しがない

母『うーん、せっかく昨日食べたいって言ってた夏野菜のスープを朝食にしたのになー』

少女『…』ピクッ

でもいつもお母さんの思惑通り起きちゃう

お母さんと食べる朝食も、最高の贅沢の一つだから
370 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/15(日) 23:36:59.08 ID:jl72xYAO


少女『ねー、お母さん』

母『なーに?』

少女『今日って何の日か知ってる?』

母『ええ、もちろん』

お母さんは「誕生日でしょ」と笑いながら言う

そう、今日は私の誕生日

私の星がぐるっと回って山の天辺に帰ってきた日だ
371 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 01:03:11.29 ID:RlqZ.EI0
ありゃ 今日はいないのか…
372 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/19(木) 01:54:06.83 ID:nZRYecAO
母『毎晩、お父さんと星を見てたものね』

最近は、晩御飯を食べ終えるとお父さんと一緒に星の位置を見に出るのが日課になっていた

お父さんは仕事で疲れているのに、むしろ自分の誕生日みたいに嬉しそうにしながら付き合ってくれた

母『お父さん、はしゃいでなかった?』

少女『はしゃいでた!』

母『フフ…お父さんたら昔からなのよ』

私が赤ちゃんの時から、お父さんは私の誕生日が近付くと毎晩星を見ていたらしい

思い出話をするお母さんは、お父さんみたいにちょっとはしゃいでるみたいだった
373 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/19(木) 02:02:06.74 ID:nZRYecAO


友達『ごきげんよう!』

少女『ごきげんよう!』

友達『今日、誕生日だよね?』

少女『わあ! 覚えていてくれたの?』

友達『もちろん!』

級友『私も覚えてたよ!』

少女『ありがとう!』

いたずらっ子『何々? 誰かが誕生日なのか?』

少女『実は、私今日誕生日なんだ』

いたずらっ子『おお! じゃあ学校終わったらお祝いしようぜ!』

先生『とてもいい提案ですが、相談は休憩中にしましょうね』

いたずらっ子『あ、先生…すいませーん』

少女『あはは…』
374 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/19(木) 02:11:29.81 ID:nZRYecAO


級友『誕生日、おめでとー!』


『おめでとう!』パチパチパチ


少女『ありがとう!』

友達『これ、私達から誕生日祝い』

少女『お菓子だ! これ、もしかして手作り?』

級友『うん!』

男の子『僕らもあらかじめ知ってたらなぁ』

いたずらっ子『こんなのしか用意できなかったけど、誕生日祝い』スッ

少女『寄せ書きだ! …でも何だか見覚えが』


『誰だ! 校旗を盗んだのは!』


いたずらっ子『マズい! 逃げるぞ!』

少女『ちょっ!? しょうがないなぁー!』
375 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/19(木) 02:15:42.82 ID:nZRYecAO
……

少女『ただいまー』バタン

母『おかえり』

父『おかえり』

少女『あ! お父さん、今日は早いね』

父『ああ。愛娘の誕生日だ、早く帰るのは当然さ』

母『お父さんたら、張り切るのはいいけど食器出すの早すぎですよ』

父『いや、居ても立ってもいられなくてな』

少女『フフ』

父『いや、アハハ』
376 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/19(木) 02:19:41.01 ID:nZRYecAO
………

母『ちょっと作りすぎちゃったかしら』

父『張り切ってたのは、俺だけじゃなかったみたいだな』

母『…お父さんの分、たぁーっぷりありますからねー』

父『おお…、ささ、早速食べよう』

少女『ご馳走だ!』

母『フフ、じゃーん』パカ

少女『あ!』

父『もちろん、ケーキもあるぞ』
377 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/19(木) 02:23:58.06 ID:nZRYecAO
父『ロウソクは…いち、に…』プス

母『願い事をしながら火を消すのよ』

少女『うんっ』

父『準備万端だ、さぁ食べよう』

少女『いただきまーす』パン





少女『あれ…?』

これ…何だっけ
378 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/19(木) 02:29:02.66 ID:nZRYecAO
お母さんの料理はとっても美味しかった

お父さんのお話は面白いし、お母さんのニコニコ笑顔は見てるだけで楽しくなってくる


お友達が作ってくれたお菓子

公園に集合してみんなで食べた

寄せ書きの入った旗は…お母さん達に見つかったら大変だから、私の宝箱に大事にしまっておこう


本当に最高の誕生日

だから、お終いにしよう
379 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/19(木) 02:33:03.01 ID:nZRYecAO
お父さんがいて、お母さんがいて、お友達がいて…

みんながいる私の幸せだった時間

だから


幸せだったから、終わりにしよう


少女『誕生日おめでとう、私』

ふーっ


蝋燭の火を一息で消す

灯りが落ちると共に、私の夢もふっと消えた
380 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/19(木) 02:36:10.47 ID:nZRYecAO


少女『…!』

私は佇んでいた

少しモヤのかかった森に棒立ちしていた


侍『―』

目の前には「いつも通り」お兄さんが立っている

どれくらいこうして待っていてくれたのだろう


少女『ただいま、お兄さん』
381 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/19(木) 02:47:40.20 ID:nZRYecAO
=記憶の森=

―この世界には、入ると二度と戻れない場所が幾つかある

いずれも、噂は聞けども地図に載っていない不思議な土地だ

出口の無い迷宮、或いは魔物の巣窟

そして、旅人達がその地と一つになってしまうという3種類に分けられる

記憶の森で夢を見続ける旅人達は、美しい思い出の花を咲かせ、遠い日々の葉を茂らせる木々になるという―



少女『…』

侍『―』ポン

少女『うん、大丈夫。 行こう!』ザッ


みんな、ありがとう

みんなのお陰で、私幸せでした

だから

みんなの分まで、幸せになります

お兄さんとなら、きっと幸せになれるから…
382 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/19(木) 13:42:26.24 ID:aE9q1lco
なんというプロポーズ
383 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/19(木) 14:44:13.68 ID:CojB6iwo
なんという告白
384 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/25(水) 22:13:26.81 ID:T7OftAAO
ザバーン

ザバーンッ

卸『ここ最近荒れっ放しだな』

漁師『ったく、これじゃあ家族全員飢え死にしちまう!』

卸『しかも日に日に酷くなってんだよな』

漁師『風ぁねぇのに…一体何なんだよッ』

ザバーンッ


漁師『どっかの馬鹿が海神様を怒らせたのか…』

卸『…津波でも来なきゃいいが…』
385 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 22:16:36.78 ID:9VfMrMAO
追いついてしまった
386 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/25(水) 22:22:27.79 ID:T7OftAAO


ダバーッン

漁師『ただ事じゃねぇ…波が高すぎる…!』

船乗り『それくれぇわかってらぁ! もう半月もこの港で立ち往生だ!!』

卸『海神様…どうか許して下せぇッ』

漁師『馬鹿! 俺たちゃ悪いことは何もしてねぇ! …何にもな!』

卸『でもよ…』

漁師『俺たちが…何したってんだよッ』


ダッバーンッ
387 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/25(水) 22:26:45.63 ID:T7OftAAO
………


ザザザザ…

婆ちゃん『アタシらの港が…』

ザザザザ…

子供『お母さん…』

母『…』ギュッ

ザザザザ…

卸『畜生…ぅ』


ダダァアアアアアアアッッッッ


漁師『港が…沈む……』

ドドドドドドドド
388 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/25(水) 22:31:00.62 ID:T7OftAAO
赤ん坊『アーッ! アーッ!』

主婦『うううううううっ…!!』

爺さん『儂らの故郷が…』

船乗り『どうやって国に帰ればいいんだ……』


漁師『ぐうっ…!!』ジワッ




ズン


漁師『…えっ』

ズンッ

漁師『や、丘が揺れて…!?』

ズシンッ

漁師『な、何だありゃ!?』
389 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/25(水) 22:43:19.47 ID:T7OftAAO


役人『何? 港が津波に!?』

部下『はい、ここ半月ほど海が荒れていたとは聞いていましたが』

役人『被害の規模は』

部下『死傷者は奇跡的に出ませんでしたが、あの港はもう…』

役人『そうか…』



役人『急いで被害者の受け入れ先を確保しよう』

部下『はい』
390 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/25(水) 22:56:10.67 ID:T7OftAAO
……

部下『なんとか全員の住居が決まりましたね』

役人『ああ、君の頑張りのお陰だよ』

部下『いえ、快く受け入れてくれた方々のお陰です』

役人『はは、確かに』

部下『まだまだ支援しなければならない事が山積みですね』

役人『ああ、とりあえず一段落ついたことだ。茶の一杯だけ飲ませてくれ』

カタカタ

役人『ん? 地震か?』



部下『まだ僅かに揺れてますね』

役人『地均しでもしているのだろ』ズズッ
391 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/26(木) 17:24:01.00 ID:J79E7AAO
……

ズズンッ

ズズンッッ


盾を持った軍人『止まれ! 止まるんだ!』

手ぶらの軍人『無駄だろ! あいつに知性があるようには見えない!』

盾を持った軍人『だが、なんとかしてあいつを止めないと街が…!』

伍長『どうします、隊長』

隊長『…大砲6門を一度に食らわせる。全部同時だ、わかったな!』

伍長『砲撃用意!』



砲撃手『点火準備ヨシ!』

伍長『狙え!』

砲撃手『照準ヨシ!』

隊長『ッてぇ!』


ドドンッッ

  ズガガガァアンッッ
392 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/26(木) 17:29:10.17 ID:J79E7AAO
モクモク…

隊長『…』

伍長『やった…?』



ズゥンッ


伍長『バカな!?』

盾を持った軍人『目標!健在!!』


ズゥンッ


隊長『本国に早馬を出せ! このままでは国中が踏み荒らされる…!』

伍長『隊長! 我々の街は…』

隊長『………住民を避難させるッ グズグズするな!』

伍長『! …ハッ』ビッ
393 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/26(木) 17:36:16.84 ID:J79E7AAO
………

ズンッ

役人『皮肉なものだな』

ズズンッ

役人『難民の受け入れ先を探した後に、自分の受け入れ先を探す事になるとは』

ズゥンッ

部下『…街が』


ズガァアッッ

ガラガラガラッ

役人『積み木でも崩すかのようだ…躊躇なく突っ込んで行く』

部下『私達の街など眼中にないのでしょうか』

役人『街どころか、この世すら眼中にないのかもしれん』


ズドォォォォォオッッ
394 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/26(木) 17:55:56.31 ID:J79E7AAO
……

将軍『堰を解放して鉄砲水で攻撃する作戦、失敗に終わりました』

大臣『召集した魔術師達による大魔術も成果を上げれませんでした』

国王『魔術も効かぬのか』

大臣『はい、どのような原理かは分かりませぬが、魔術干渉ができないようです』

将軍『兵器も一通り試しましたが、どれも芳しくありませんでした。一体何を素材にしているのか…』

国王『…あとどれほどで都に到達する』

大臣『あと7日ほどかと』

国王『…………民の避難だけはできるようにしておけ』

大臣・将軍『ハッ』
395 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/28(土) 23:14:30.52 ID:Hqu3UcAO
ズズンッ

ズズゥンッ


遮光の国より南、朔風と呼ばれる縦長の半島を襲った脅威

脅威は津波と共に現れ、陸を踏み荒らし、真っ直ぐ王都目掛けて北上しつつあった


ズゥンッ


とうとう王宮から避難勧告が下され、国民は移住を言い渡される

中には玉砕覚悟で戦いを挑もうと言う者や、王都と運命を共にしたがる年寄りもいた

が、着実に近付いてくる地響きとその巨大さに恐怖し、抵抗を訴える者は減っていった
396 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga忘れてた]:2010/08/28(土) 23:30:40.36 ID:Hqu3UcAO


店長『12代続いた店も、私で最後か…』

奥さん『どうかしたんですか?』

店長『避難勧告が出た…近日中に王都が怪物に襲われるらしいから、荷物をまとめて逃げないと』

奥さん『とうとうこの日が来てしまいましたか…』

店長『すまない…折角商売が軌道に乗ったのに、また苦労をかけるね』

奥さん『あなたが謝ることはありません。…少しついてなかっただけです』



少女『諦めるには早いです!』バンッ

店長・奥さん『お嬢ちゃん!?』
397 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/28(土) 23:37:05.57 ID:Hqu3UcAO
少女『配達、終わりました』バタン

店長『ああ、ご苦労様』

少女『折角仕事を見つけたのに、邪魔されてなるもんですかっ』

奥さん『でもねお嬢ちゃん、軍隊があらゆる手を使っても駄目だったんだよ?』

店長『お嬢ちゃんが御伽噺の魔法使いでもない限り、怪物を倒すのは無理じゃないかな』

少女『ご心配なく、魔法使いは私じゃなくあっちですから』

奥さん『あっちって…』

侍『―』クルリンチョン

店長『えー…』
398 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/28(土) 23:47:11.46 ID:Hqu3UcAO
店長『お嬢ちゃん、お兄さんがどれだけ腕利きかは知らないけど、多分無理じゃないかな』

店長は、傷つけないよう言葉を選びながら少女を諭した

だが、少女は大人達の心配などどこ吹く風といった具合に

少女『大丈夫、店長さん達はいつものように美味しいパンを焼いてて下さい』

人懐っこく笑った


店長達は、怪物を倒すなどという少女の夢物語に何故か何も言えなくなってしまうのだった
399 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/28(土) 23:51:48.09 ID:Hqu3UcAO
少女『じゃあ、ちょっと行ってきます』

まるで配達に行くかのように言う少女

奥さん『ちょっと、本気かい!?』

少女『はい』キッ

奥さん『…!』

一転、人懐っこい笑みから凛とした表情になる

店長『…』



店長『…これ、売れ残りで申し訳ないけど』

奥さん『あなた!』

少女『こんなにいっぱい、ありがとうございます!』
400 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/28(土) 23:58:36.05 ID:Hqu3UcAO
店長は次の配達予定のパンを籠ごと渡した

売れ残りではない。正真正銘焼きたてだ

店長『私も馬鹿なことをしてると思う。でも、どこかお嬢ちゃん達に賭けてみたいと思う心があるんだ』

奥さん『あなた…』


少女『じゃあ、ちょっと倒してきます』ガチャッ

侍『…』ペコ


店長『いってらっしゃい』

奥さん『気をつけてね』


バタン


店長『私は、無事帰ってきてくれ…なんて言っていいのかな』

奥さん『言いたいと思う心があるなら、いいんじゃないですか』
401 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/29(日) 00:13:59.22 ID:HNBTqkAO
……

ザッ

少女『あれが怪物…』

朔風の王都から2日と半日歩いた場所で、二人は脅威に遭遇した


遠くから見た時は山が歩いていると見間違えた程大きな躯体

一歩踏み出す度に大地が揺れ、足跡はさながら地盤沈下の跡である

表面は干からびた海藻、苔、泥や瓦礫に覆われている

耳、鼻、口は無く、顔と思しき場所に目が二つ

体のそこかしこからガラガラガラという駆動音が聞こえ、まるで―


侍「カラクリのようだな」
402 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/04(土) 19:25:34.35 ID:zpE.ZwDO
まだかなまだかな
403 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/04(土) 21:25:22.83 ID:9cI70oAO
>>1
早く…早く!続きを、読ませてくりorz

しかし 怪物がデカすぎる…!
どうやったら勝てるんだ?
404 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/04(土) 22:36:06.26 ID:WIlS/6AO
一気に読んでしまった…
405 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/05(日) 00:00:17.54 ID:UNRrGkco
うっひょー
406 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/06(月) 18:42:44.43 ID:4/DR6oAO
夏風邪ひいてたのと思い付きでVIPに立てたスレ消化するのに時間食ってしまいました

今日明日にでも再開しますんでしばしお待ちを…
407 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/07(火) 23:08:24.40 ID:39xvRYAO
ズゥゥン

少女『うわっと!?』ガクッ

怪物がただ歩くだけで地震が起き、転んでしまう

少女『これは…大見得切ったかな?』チラッ


侍『…』

侍は動かない、動じない

迫りくる怪物をしげしげと観察し、値踏みでもしているかのようだ

少女『…お兄さん? うわっ!?』

ズゥンッ

侍『…』ビリビリッ
408 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/07(火) 23:22:15.29 ID:39xvRYAO
少女『怪物からすれば私達も風景の一部なんでしょうね』グラグラ

四つん這いで堪える少女が怪物を見上げて言う

その大きさたるや、御伽噺に出てくる愚者の塔ほどではないか…と思ったぐらいだ

少女『もしくは、世界中が散歩道なのかも…』

皮肉を込めて言う
409 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/07(火) 23:59:22.07 ID:EYxoI6AO
いつの間にか再開してた!
やったさ!
410 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/08(水) 00:13:16.30 ID:B5FRoTIo
ktkr
411 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/08(水) 12:24:50.47 ID:RaJr8kSO
追いついた…だと……?
412 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/08(水) 23:09:31.84 ID:4Jis26AO
侍「ふむふむ」スッ

少女「―!?」ズズンッ

少女の制止などどこ吹く風

揺れる大地の中を、侍は軽やかに歩いていく

その目には珍しく好奇が宿っており、少しだけ子供っぽく見えた


侍「二本足でちゃんと歩くとは、関節はかなり丁寧に作ってあるのだな…」マジマジ
413 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/08(水) 23:18:58.56 ID:4Jis26AO
少女『もしもーし! お兄さーん!』

侍が怪物を止める様子は全くない

さっきから怪物の周りをチョロチョロ動き回っているだけである

少女『もう…! 一国の平和がかかってるのよ!』

怪物の詳細に興味のない少女の胸中は穏やかではない

もし侍があの街潰しの怪物を、単なる巨大カラクリだと思ってたら…


少女『…お兄さんになんとかして伝えないとっ』
414 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/08(水) 23:32:03.52 ID:4Jis26AO
少女『ちょっとお兄さー…ん…』

小考を終え、侍を呼ぼうと目を向けるとそこに姿はなかった

あれ、と少し目線を上げると何か小さい生き物が怪物の体を駆け上がっているのが見えた

少女『ちょっ、ちょっと!? 何やって…』

ザッ ダンッ ズザザッッ

侍「ふっ はっ」タンッ

山肌とも岸壁とも言い難い斜面を駆け登る
カモシカより、山犬よりも早く上り詰める速さは、山火事が一番近かった
415 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/08(水) 23:46:59.75 ID:4Jis26AO
怪物はこの小動物の疾走に気付かない

気付く必要がない

この怪物にとっては、大凡全てが些末な事なのである

侍「ふっ はっ」ズボッ

故に

侍「ハァッ!」ターンッ


侍「降り注ぐ事―」ヒラッ


ィィィイイインッッ

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッ


侍「―雨の如し」ズシャァッ
416 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/08(水) 23:49:01.52 ID:wx7wfoAO
お 作者さんが来たでっ!
待ってましたよ!超乙です。
417 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/08(水) 23:57:19.35 ID:4Jis26AO
怪物の頂上から跳躍、侍は地面に到達するまで無数の突きを浴びせた

バラッ


ガラガラガラガラッッ

少女『えっ!? 倒したの?』

崩れ落ちる怪物の背中…

侍「ふむ、やはり傷一つ付かぬか」

表面の瓦礫が剥がれ落ち、金属の輝きが現れる

侍「…さて、私からの挑戦、受けてくれますかな」




怪物「―――――――」ギギッ

侍「小さき故に相手にされぬかと思ったが、なかなか話のわかる方よ」ザッ
418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/09(木) 00:05:43.30 ID:4yQM6YSO
侍のチートさがいい

あの逆刃刀ニートとどっちが強いんだろう
419 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/09(木) 00:09:15.11 ID:Wt4c1ggo
>>418
良い勝負
あとニート言うな
420 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/09(木) 00:10:16.46 ID:ndyll.AO
>>418
o(`o´)○二重の極み!
421 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [最近sage saga忘れすぎ…]:2010/09/09(木) 00:23:17.05 ID:jOB5.oAO
街潰しの怪物が初めて歩みを止める

眼前には小さな人間が一人

異国の侍、手には枝きれ一つ

怪物「――――」

侍「いざ、尋常に…」スッ


グォォォオゥンンッ

ガゥンッッッ


少女『ッッ!?』ブァッ

突風が吹き、地響きが走った
422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/09(木) 00:29:57.81 ID:jOB5.oAO
ヒラッ

スタッ

侍「流石にまともに食らうとかなり飛びされるな」ビリビリッ

怪物に薙払われた侍は自ら飛び、衝撃を和らげだ

とはいえ、地面を簡単にえぐり取る程の力である

侍「まだ少し痺れが…」

怪物「――――」ゴオオッ
423 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/09(木) 15:47:08.54 ID:x7lnPgoo
今、追いついた

とても面白い、頑張ってください。
424 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/09(木) 20:46:56.41 ID:jOB5.oAO
>>422
飛びさ→飛ばさ


今日はお休みします
土曜日休みなんで明日はいっぱい書く予定です
425 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/09(木) 21:05:28.46 ID:4yQM6YSO
期待
426 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/09(木) 21:09:07.52 ID:wKiBMs.0
tesu
427 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 14:22:41.89 ID:lxevUAAO
怪物「――――」ブゥゥンッ

侍「そうがっつくな」カシィンッ


グラァッ


怪物「――」ズゥゥンッ


怪物は着地直後の侍に間髪入れず平手をかました

しかしその攻撃は侍により軌道を変えられ、逆に体勢を崩し倒れてしまう

侍「お主の攻撃は強力だ。それ故に外した時の弊害も大きい」
428 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 14:27:40.27 ID:lxevUAAO
ズズズッ

怪物「―――」ググッ

侍「今のは最終的な攻撃の到達点をずらし、敵の体勢を崩すという方法だが…」

怪物「―――――――――」グワンッッ

ズシイッッ

侍「相手の踏み込んだ足等、軸を崩してしまう方法もある」ガキィンッ

グラッ


ズズゥゥンッ

怪物「―――」
429 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 14:34:58.19 ID:lxevUAAO
怪物「――――」グググッ

侍「流石に生身と違って、転けたぐらいでは傷つかぬか」

怪物「――」グォォッ

ズンッ


トンッ

侍「―更に相手の重心移動に合わせて攻撃を撃つ事で、相手の攻撃力を上乗せする方法もある」ググッ

ベコォォッ


怪物「――…」ミシミシッ
430 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 14:43:21.95 ID:lxevUAAO
少女『すごい…怪物を圧してる…』

大きさも重さも、絶対的に大きな敵を相手にして尚、侍は圧倒的だった

特に今の3発目の攻撃で怪物の顔と思しき箇所は大きくひしゃげ、動く度にグラグラ揺れていた


怪物「―――――」プシューッ

怪物から煙が立ち上る

そして駆動音が速くなる

侍「むっ」


バキィィッ
431 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 14:48:05.74 ID:lxevUAAO
侍「速いッ」ビリビリッ

先程に比べると段違いに速くなった怪物の動き

侍を強者と認めたのか…

怪物「――――――」シューッ

…それとも、死を覚悟したのか

全身がら立ち上る白煙


怪物「――――」ブォンッッ

侍「はァッ!!」ガシィンッ
432 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 14:55:59.68 ID:lxevUAAO
ズシィィンッ

怪物が踏み込む度、大地が軋む

ブォォウンッ

怪物が腕を振るう度、風が吹き荒れる

侍「せぁッ!」キィンッ

侍が一打凌ぐ度、白煙が渦巻く


いつしか辺りは白煙で曇り、地は裂け、人ならざる者達の闘う音だけが聞こえる魔境と化した
433 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 15:03:06.56 ID:lxevUAAO
…直、日の入りという時間

半日以上打ち合った侍と怪物はここに来て数分後睨み合い、動かなかった

それは、次の一撃が正しくどちらか一方の死…決着をつけるものだという事を物語っていた


侍「……」

怪物「――――――」グォォッ

怪物は徐に片足を上げた

もちろん、その着地点は侍の頭上であろう

グァァァァッ


侍は逃げない

少女『お兄さん……!』
434 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 15:07:22.18 ID:lxevUAAO
ズシィィィィンッッ

ビキビキビキッッ


怪物の足が大地に着き、地割れが走る

少女『…え、あれ…?』

少女の思い描いていた決着はそこになかった

侍がいつものように敵を切り裂き、生還するイメージ

少女『お兄さ…ん……』


それは再現されなかった
435 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/11(土) 15:22:45.81 ID:lxevUAAO
少女は一瞬動揺した

怪物の足の下に消えていく侍を見てしまったからだ

普通なら、あんな巨大な怪物に踏まれたら無事な訳がない

侍とて人間、潰れたら死ぬ


少女『でも…私は信じる』


ピシッ


少女『お兄さんが、あの怪物を倒す事を!』


ビキッ

「おおおおおおおおおおおッ!!」

怪物「―――!?」ピシピシッ
436 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/11(土) 15:37:52.54 ID:lxevUAAO
―天貫く事

少女『お兄さん!!』

バリィィイインッッ


侍「―龍の如し」シューッ


ズウウウゥゥンッ


怪物「――…」ギギッ

侍「…お主は強かった。だがやはりカラクリ故に心の差で私に負けた」

侍「お主に心があれば…一撃一撃は更に響いたろう」
437 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/11(土) 15:42:45.31 ID:lxevUAAO
怪物「――…」ギギッ

ズズズッ

侍「ん? 何だ?」

怪物「―――…」スッ

侍「これを私に?」


怪物から差し出された物

それは魚のミイラのような物体

侍「そういえばお主、一度も右手で攻撃してこなかったな…」

怪物「…」ギッ

侍「そうか、これがお主の心…か」
438 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/11(土) 17:50:25.30 ID:lxevUAAO
―この世には、不治の病をも治すという霊薬の噂が幾つもある

ある話では妖精の零す涙と言われ、ある話では魔女が作る魔法の薬と言われている


昔、はるか昔。西の大陸で疫病が蔓延した際、感染していない者達は家族や仲間の為、霊薬を求めた

「遥か沖の海の底、深海に潜むミツボシアンコウの体液は、如何なる病もたちまち治す」

言い伝えなど眉唾だが、医者も匙を投げた疫病に対し、人々はその御伽噺にかけるしかなかった



『頼むぞ、必ずやミツボシアンコウを捕まえてきてくれ』

それが皆との約束。今、果たす時が来た

再び陸に上がるまでには大変な年月が経っていた

皆が疫病だけでなく寿命でも死んでいる程に―
439 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/11(土) 17:54:05.06 ID:lxevUAAO
少女『お兄さんー!!』タタタッ

侍『―』ボロ

少女『大丈夫?』サワッ

侍『――!?』ズキーンッ

少女『ああっ!? ごめんね!』


怪物『――』


少女『…倒したんだよね』

侍『…―』ズシッ

少女『…何それ、干物?』
440 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/11(土) 18:03:41.33 ID:lxevUAAO
少女『それ…食べるの?』

侍『…』

怪物『…―』プシュー

少女『怪獣じゃなく機械だったんだね、一体誰が作ったんだろう』

怪物『エイ…ラ……』ギギッ

少女『ん?』

怪物『………』

少女『えいら…って言ったのかな?』

侍『…』

少女『よく分かんないけど、お兄さんは怪物と何か約束しちゃったんだよね』

少女『じゃあ、その干物届けに行きますか!』
441 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 18:13:08.02 ID:lxevUAAO
―地震が止まった

朔風半島を震え上がらせた怪物は、突如進行を停止

王都の目の前で倒れ込み、そのまま眠りに就いた


後に行われた軍の調査によると、怪物は機械巨人で、素材は失われた古代技術の金属が殆ど

何を燃料にしていたかも不明、魔術による遠隔操作との推測もある

足の破損による自力歩行不能が停止原因と思われる
442 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 18:20:56.43 ID:lxevUAAO
現在の技術では分解もできない為、これ以上の調査、及び機械巨人の回収は不可能

怪物は王都の前に放置される事となった


しかし、怪物の破壊された右足には謎がある

股関節部に開いた、まるで鋭利な刃物で貫いたかのような小さな穴

それに、燃やした竹が弾けたみたいに吹き飛んだ腿までの脚部


本当に脅威がいるなら…それは機械巨人ではなく、足を破壊した張本人かも知れない―
443 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 18:28:03.40 ID:lxevUAAO


店長『まさか、本当に店を続けられるなんてね』

奥さん『一時はどうなることかと思いましたけど』

店長『…もしかして、本当にお嬢ちゃん達が…?』

奥さん『…どうでしょうね』

店長『何にせよ、早く帰ってきて欲しいね』

奥さん『ええ、無事に帰ってきてくれたら…』

カランカラーン

店長『!』

町人『店長、ちわー』

奥さん『あ、いらっしゃいませー』
444 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 18:33:40.21 ID:lxevUAAO
=永螺の街=

侍『…』スッ

少女『…』スッ

【疫病に倒れし人々の霊魂、此処に慰むる】


少女『行こうか』

侍『…』コク





子供『わっ 何だこれ!?』

母『お供えかしら…』

おっちゃん『…あれ、これって昔話で聞いた―』
445 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/11(土) 21:09:19.11 ID:An1juwSO
天貫くこと、龍の如し
でゾクゾクした
最後に泣きそうになった

446 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 22:55:44.68 ID:lxevUAAO
ワイワイガヤガヤ

少女『わー!! 賑やかね! 祭かしら?』
街中に溢れかえった人、人、人

町人と思しき人もいれば荷物を背負った旅人や行商人、芸を披露する大道芸人もいる

街灯にはリボンや風船が装飾され、いかにもお祭りといった雰囲気だ

若者『お! そろそろ時間だぜ!』

娘『早く行かないといい席逃しちゃうわ!』

ドドドド

少女『わっ!? 押されるぅ!』
447 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 23:04:03.02 ID:lxevUAAO


少女『良かったー、はぐれたらどうしようかと思った』

侍『…』ポム

人の波に流され、着いた先は競技場

少女『なるほど、何かの大会があるから街中お祭り騒ぎなのね』

街の熱気を見る限り、かなり知名度のある大会のようだ

大会と言ってもマイナーな物は集客力がなく、街の親睦会程度に収まるのも少なくない
448 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 23:10:50.01 ID:xtJehAAO
侍無双に期待
449 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 23:13:48.18 ID:lxevUAAO
有名な大会…国を挙げての規模になれば、優勝者には地位、名誉、富が与えられる

それを目当てに参加する猛者は当然後を絶たない

遠路遥々各国より集いし挑戦者達の闘いは、観衆の胸を躍らせる

娯楽の少ないこんな時代だからこそ、人々はこの勇者の祭典に夢を見るのである


少女『で、これは何の大会なのかな。陸上? それともボールを使った…』


【猛者達による死闘! 勇者の道、開園!】


少女『…はい?』
450 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 23:19:26.91 ID:lxevUAAO


ガキィン!

ヂャギィンッ!

少女『うわぁぁ…見てらんないよ…』

と言いつつ、少女が闘いから目を背ける事はない

少女『あんなの当たったら死んじゃうよ…』

男達はそれぞれ手に戦斧、棍棒を持っている

無論本物、当たればただでは済まない
451 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 23:28:18.18 ID:lxevUAAO
棍棒の男『ふぃぃッッ!』ブォォッ

ガゴゥンッ

戦斧の男『がッ!? しまった!』ジーンッ

フォンフォン…ザクッ

棍棒に戦斧を弾き飛ばされ、男は武器を失った

棍棒の男『ひひッ! 賞金はもらったぁぁ!!』

会場から悲鳴が上がる

その声は恐怖の、あるいは熱気を帯びた歓喜の声だった

戦斧の男(くっ!? これまでか!!)グッ

頭に飛んでくる棍棒に、申し訳程度に両手で防御をする

戦斧の男(奴も俺の攻撃が当たったら死ぬんだ…! これは当然の報い…! でもッ)ググッ


ベギャッッ
452 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/11(土) 23:46:31.29 ID:lxevUAAO
戦斧の男『…』

戦斧の男『…え?』


棍棒が戦斧の男の頭を捉える事はなかった


棍棒の男『ぐううう…ッ』ズシンッ

侍『…』スタッ

侍の放った飛び蹴りであらぬ方向から衝撃を与えられた事で、棍棒の男は手首にヒビが入ってしまったのだ

『おい! 何だオメーは!』

『乱入か!! 面白ぇ!』

『これどうなるんだ? 俺斧ヤローに賭けてたんだけど』

ガヤガヤワイワイ


少女『お兄さんいつの間に…!?』
453 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/12(日) 00:31:12.07 ID:a.2wW6SO
なぜだ?なぜ侍は乱入したんだ?
わっふるわっふる
454 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/12(日) 06:57:49.94 ID:wQ0xeAAO
助けたかっただけじゃね
455 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/12(日) 08:59:11.29 ID:ipyXJPAo
おもしれー!
早く続きがみたい!
456 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/12(日) 17:02:28.51 ID:/OSnj.DO
続きが気になるじゃないですか
457 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/12(日) 19:30:38.23 ID:0vLBEoAO
ガラガラガラガラ…

入場口の鉄格子が開く

中将『乱入は規則違反と、試合毎に注意している筈だが?』

侍『…』

中将『…なるほど、言葉が分からなかったと』

中将『おい』

魔術師『ハッ』

スッ スッスッ バッ

中将『これで一時的に私達の言葉が分かる筈だが』

侍『! 魔術か』

中将『いかにも。なかなか頭が回るようだが、これから連れて行かれる場所も当ててみるかい』
458 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/12(日) 19:40:44.62 ID:a.2wW6SO
きたか
459 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/12(日) 20:14:37.84 ID:0vLBEoAO
侍『さてな、ツレもいるので茶でも振る舞ってもらえると嬉しい』

侍が飄々と言う

ぞろぞろと現れた兵士達に取り囲まれて尚、警戒する様子はない

侍『なんなら食事でも良い。むしろそちらの方が有り難いな』

中将の遠回しの訓告を受けたにも関わらず、侍は反省の言葉もない

それどころか、彼にして珍しく図々しい物言いで、どこまでが冗談なのか判断しかねる

中将『却下だ。乱入し、選手を負傷させた罪人が図々しい』
460 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/12(日) 20:30:45.83 ID:0vLBEoAO
侍『罪人…? 私は何か悪い事をしたか?』

中将『闘いの最中に手出しされたとあれば、戦士にとって最大の侮辱であろう』

侍『…ほう、これは面白い事を言う』

先程までの飄々とした雰囲気は一瞬にして消え、海の底のような静かな怒りが漂った

中将『…何が言いたい』

侍『このような余興を闘いと呼び、あのような素人を戦士と呼ぶ。悪い冗談だ』

中将『無礼者!! 皇室主催の闘技会を余興だと!?』

侍『余興だ。こんな物は闘技会でも何でもない』
461 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/12(日) 20:41:13.09 ID:0vLBEoAO
侍『お主らは三つ程勘違いをしているようだ。折角言葉が通じる故、注意してやろう』

侍『まず一つ、お主らの言う戦士について』

中将『お前は先程、勇敢なる戦士達を素人と言ったな。二人共屈強な肉体、武器の扱い共にかなりの物だったぞ』

侍『節穴だな』

中将『何…ッ?』
462 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/12(日) 21:24:35.84 ID:0vLBEoAO
侍『確かに二人共、なかなか頑丈そうな体をしている。だがそれだけだ』

侍『勝負のついた相手に止めを刺すなど言語道断、心の修練が足らん』

中将『戦士に情けをかけ、恥をかかせるのか!』

侍『恥ではない、これは礼節…闘いの掟なのだ』

中将『敗北を喫して生き恥を晒すなど、耐え難い屈辱だ!』

侍『生き恥など…いくらでも晒すがいい。屈辱を味わい、蔑まれようと死んで終わってしまうより遥かに良い。』

侍『耐え難い屈辱は世の中幾らでもある。だが、耐えられぬ屈辱など無いのだ』
463 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/13(月) 21:46:02.90 ID:jkJ1eMDO
リアルタイムで遭遇とか嬉卓
464 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/13(月) 21:56:43.86 ID:MXbD7cEo
ヒント:日付
465 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/13(月) 22:06:00.30 ID:T6vwcQoo
ヒント:まとめ
466 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/13(月) 22:41:23.97 ID:jkJ1eMDO
orz吊ってくる
467 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/13(月) 23:01:39.29 ID:0twj7kAO
中将『…ご高説有難う。残り二つも気になるが、今は大会中だ。続きは牢屋でゆっくり聞こう』

侍『…』

中将『連れていけ』

兵士『ハッ』ザッ


侍『喝ッ!』クワッ

ビリビリビリッ


兵士『…ひッ!?』ビクッ

中将『かっ…体が!?』

侍『…立ち竦む事、蛙の如し』
468 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/13(月) 23:10:42.99 ID:0twj7kAO
侍『ほれ、どうした。早く案内せい』

中将『くっ…足がッ!』ガクガク

兵士『震えが止まらない…ッ』ゾクゾク


侍『破ッ!』クワッ

キィィィィンッ


兵士『ッはぁ…! はぁ…!』ガクッ

中将『クッ…! あ、…動く!?』ザッ
469 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/13(月) 23:18:08.33 ID:0twj7kAO
中将『お前! 魔術師か!?』

侍『魔術など使っていない』

中将『では何故我々を金縛りにできた! 魔術に相違なかろう!』

侍『私はただ闘気をぶつけただけだ。私の闘気に気圧されたお主らの本能が、恐怖し怯えた…ただそれだけの事』

中将『私が怯えた…?』

侍『お主らのやっている闘いは、死を臭わせ偽りの勇気を引き出すだけの、ただの殺し合いだ』

侍『勇気とは、そんな事では目覚めない』
470 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/13(月) 23:35:00.58 ID:dzbxTdAo
侍かっこよすぎ濡れた
471 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/13(月) 23:43:22.19 ID:PxRnqMSO
おい誰か>>466降ろしてやってくれ
472 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/13(月) 23:46:33.56 ID:WMmjIUDO
お前がやれよ…
473 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/13(月) 23:58:18.50 ID:jkJ1eMDO
言い出しっぺの法則というのがあってだな
474 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/14(火) 00:00:36.66 ID:ma2bWMSO
>>473自分から降りてきてなによりだ
475 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/14(火) 00:14:16.41 ID:eYXfpoAO
侍『二つ目。お主らのやっている殺し合いで目覚めるのは修羅、心に棲む鬼だ』

中将『では一つ訊く。お前は、勇気とはどうすれば示せるというのだ』

侍『そのような事に意味はない』

中将『な!?』

侍『人間の内面にある物を人に見せびらかして、何の意味がある』

侍『勇気に限らず、どれだけ優しさや根気強さを示しても、それは仮でしかない』

侍『心など、水面に映る月の如く揺れ移ろい、変わりゆく物なのだ』
476 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/14(火) 00:35:11.53 ID:eYXfpoAO
中将『それはお前が未熟なだけだろう! 真の達人は常に平常心、揺らぐ事などない!』

侍『達人とて人間、森羅万象と共に在り、移り行く時の中に生きている』

侍『明鏡止水に至るのは一瞬、全霊を掛ける一瞬のみ』


『そこまで語るのなら、さぞ自信があるのだろうな』


中将『!』

大将『のう、達人殿』

侍『…』
477 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/16(木) 22:27:09.54 ID:ft0ecYDO
続きが気になって眠れない
478 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/21(火) 23:44:53.83 ID:xpssMkAO
大将『お主がどれだけ金言を並べようと、それももっともらしい言葉の羅列に過ぎない』

大将『お主の言う仮…だな』

侍『…』

大将『お主が己の正しさ…我々の主張を否定するならば、その力を持って示してみよ』

侍『…私に戦えと』

大将『お主に言わせれば力の証明も無意味に当たるのだろう』

大将『しかしそれを力無き者が言っても負け犬の遠吠え。発言権は常に力有る者にのみ許されるのだ』
479 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/21(火) 23:52:54.45 ID:D9vPXQDO
ktkr
480 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/21(火) 23:53:34.16 ID:xpssMkAO
『オイ…さっさと再開しろよ!』

『その変な奴捕まえちまえよッ!』

少女『何なのこの人達…』

少女は居心地の悪さを感じていた

熱に中てられた会場、人々の勝負への執着心からは僅かながらも確かな狂気を感じた

少女『…、それにしても、お兄さんは何してるんだろ』

見たところ、大会の主催者側と対立しているように思える

立派な鎧を着た二人は恐らく国軍の中心人物だろう
481 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/21(火) 23:58:31.92 ID:xpssMkAO
それに帽子を深く被った人物…魔術師だろうか

少女『会話しているとしたら、あの人の魔術なのかな』

少女は僅かに期待した

いつか、侍と会話出来る日が来るかもしれない



ガラガラガラガラ

少女『あ、話し合い終わったのかな』

格子が再び開き、軍人達と魔術師が退場する
482 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/22(水) 00:05:10.71 ID:VQ/zqEAO
侍はそれに続かない

少女『またこっちに飛んできたりして…』

はは、と乾いた笑いを浮かべる少女

脳裏には侍がこちらに振り返り、跳躍する画が浮かんでいた


が、物語は少女の予想の斜め上を行く



ガラガラガラガラ

『予定を変更して、新たな挑戦者の試練を執り行います!』

少女『…え』
483 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/22(水) 00:12:46.50 ID:PKf9AKAo
久々な気がするな
面白いからがんばって欲しい
484 :>>483thx [sage saga]:2010/09/22(水) 00:24:07.61 ID:VQ/zqEAO
ガシャ ガシャ

侍「…」


『勇者の列に数えられし11番目の男の入場!』


ガシャ ガシャ


鉄仮面の大男『…』ガシャ

『おい…アイツって一昨年の』

『ああ、武器の扱いもさることながら、数々の名刀、名槍を所持してるっていう』

『間違いない、決勝以外全員殺しちまった「地獄の遣い」だ…』


少女『なんか物騒なのが出てきたんだけど…』
485 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/22(水) 00:34:09.31 ID:VQ/zqEAO
『でも前となんか違うぞ』

『あ! 背中の籠が無い!』

『相手によって替えてた無数の武器はどうした』


地獄の遣い『…我が魔槍の錆になるのはお前か』

鉄仮面の大男は禍々しく光る槍を侍に向ける

その槍から溢れる微光は憐憫な紫色、人を憑き殺す禁忌の色


侍「…ふむ、いきなり鬼退治か」

地獄の遣い「…――――――」チャキッ

侍「槍の自慢話か、すまんが全然興味ない」ザッ
486 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/22(水) 00:39:02.93 ID:vTkit/Eo
イメージ画
http://f.hatena.ne.jp/images/fotolife/K/Kazun/20060123/20060123021133.jpg
487 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/22(水) 00:54:47.61 ID:VQ/zqEAO
『で、あの黒髪は何を使うんだ?』

『格闘家じゃないか? なんかすげぇ跳んでたし』

ガラガラガラガラ

『あ、なんか出てきた』


係員『どうぞ』

侍『―』ペコ


『なんだ…?』

『木の棒だぁ!?』
488 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/22(水) 01:01:24.42 ID:VQ/zqEAO
地獄の遣い『……なんだそれは』

鉄仮面の大男は久しぶりに、本当に久しぶり我慢をした

地獄の遣い『まさか、武器ではあるまい』

この質問をするのに、目の前の男をグチャグチャにしたい欲求をグッと堪えた

それ程に憤慨していた

侍『…』サス

侍は棒の状態を目視、そして一撫でして確認すると

侍『…』スッ

鉄仮面の大男に向かって構えた

地獄の遣い『―――――ッ!!』ブチッ
489 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/22(水) 01:10:26.70 ID:VQ/zqEAO
地獄の遣い『アアアアアアアアアアッッ!!』グァッ

侍『―』スッ


ズガガガァァッ

鉄仮面の大男の突きを回避する侍

元居た場所は深く抉れ、石畳が豆腐の様に削れていた


地獄の遣い『フーッ! フーッ!』

荒い息遣いをする鉄仮面の大男

その仮面の奥には狂気に満ちた瞳があった
490 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/22(水) 01:18:11.09 ID:VQ/zqEAO
『おいおい…石畳が抉り取られたぞ』

『叫んでるぞ! まるで猛獣だ!』

『あの武器、相当マズい物じゃないか!?』

酔いが覚めたようにざわつき始める会場

そして次の瞬間、会場は大きなどよめきに包まれる


キィンッ


地獄の遣い「――――!?」ギギッ

侍「相殺しただけだ、驚く程の事ではなかろう」グッ
491 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/22(水) 09:32:28.37 ID:YTrHjgSO
うお〜いつもいいところでCMに入るんだよな〜

まあゆっくりでもいいけど

いつも楽しみにしてる
492 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/22(水) 21:28:38.69 ID:VQ/zqEAO
キンッ キィンッ キンッッ

鉄仮面の大男の繰り出す怒涛の乱れ突き

強力な魔力を帯びた魔槍に対し、侍は何の変哲もない木の棒を突き出す

鋭く、真っ直ぐ、狂わない

魔槍と棒の先端がぶつかる度、鉄を打つような音が鳴り渡る

ただ、それだけ

魔槍の突きの轟音と衝撃波が水に溶けるかのように消える、正に相殺

その様は喩えるならば

大将『鏡のようだな』



地獄の遣い『ハッ―ハッ――!!』
493 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/24(金) 23:39:19.36 ID:ZnWPd6AO
―何故

何故、奴はこの魔槍を防げる

人の手で造られた物では満足出来ず、祈祷師の集落を襲い強奪してきた封印されし魔槍…

太古の時代、これを手にしたが為に堕天使にされた天使がいたという禁忌の槍

地獄の遣い『それが―何故棒切れに防がれるッッ!!』ビキビキッ

鉄仮面の大男の全身に血管が浮かび上がる

地獄の遣い『ハァァァァアアア…』ギギッ

槍の基本、突きの構えを取る

そこから切っ先を地面につけ、重心を前へ―


ドンッッ
494 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/24(金) 23:47:21.40 ID:zHMvvDwo
ktkr
495 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/24(金) 23:50:38.63 ID:ZnWPd6AO
闘技場に突風が突き抜けた

先程までとは比べ物にならない速さで鉄仮面の大男が突進する

切っ先に全体重が乗った瞬間、魔槍を侍に向ける

つっかえのなくなった身体は前に倒れるが、それと同時に地面を蹴る

魔槍により肉体を限界まで強化された鉄仮面の大男は弾丸と化し、侍に襲い掛かる―



バラッ ガラガラッ

地獄の遣い『……手応えがない』

ピキッ

地獄の遣い『なッ!?』バカッ
496 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/24(金) 23:57:49.72 ID:ZnWPd6AO
カランカランッ

真っ二つに割れた鉄仮面が地面に落ちる

侍「縮地の応用か。なかなかいい技だったぞ」ザッ

地獄の遣い「――!!」

侍「ああ、あまり動かない方がいい」


プシッ

地獄の遣い「―!?」ブシュッ

すれ違い際に放たれた侍の斬撃

地獄の遣い「――!? ――――!!」ダラダラ
侍「安心せい、皮一枚斬れただけだ」
497 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/25(土) 00:08:14.35 ID:R5oDucAO
一太刀目で鉄仮面を真っ二つに

二太刀目で首の皮をぐるっと切り裂き


侍「ああ、そういえば勘違いの三つ目をまだ言ってなかったな」


地獄の遣い「―――――!!!!」グァッ


バキィインッッ


音を立てて砕ける魔槍

三の太刀を浴びたそれはまるで硝子の柱が潰れるかのように、先から崩壊した


侍「必殺の一撃ならば、真剣も竹光も当たれば同じ事だ」
498 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/25(土) 00:14:57.57 ID:95Nfo2DO
かっこいいww
499 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/25(土) 00:23:48.10 ID:R5oDucAO
地獄の遣い『……』ガクッ

大男は膝をついた

魔槍を持った自分、鬼と金棒

誰にも負けぬ確信があった、のに

地獄の遣い『負け…た』

魔槍が砕けた瞬間、自分の中の何かが砕けた気がした

勝ち続ける、それだけが生きる意味だったから―


ザッ


侍『…』

地獄の遣い『…』
500 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/25(土) 00:26:25.71 ID:R5oDucAO
スッ

侍『…』

侍は喋らない

ただ、黙って自分の「刀」を大男に差し出した


地獄の遣い『…』







地獄の遣い『…』ガッ

侍『…』コク
501 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/25(土) 04:16:42.41 ID:aOJ/N2AO
続きが気になってしょうがないぜ
502 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 16:37:38.08 ID:6nY.1gAO


少女『お兄さん、どこ行ったんだろ』

仮面の人との勝負に勝った後、お兄さんは出入り口に消えた

戻ってくるかと思ってしばらく待ってみたものの、第二試合、第三試合と大会がただただ進んだ

少女『あ、ここの人に聞けば分かるかな?』

【大会事務局】
503 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 16:45:34.68 ID:6nY.1gAO
少女『すみませーん』コンコン

局員『はーい』

少女『あの、大会に出てる黒髪の男の人はどこにいますか?』

局員『えーと、出場者の人は基本的に控え室にいると思いますけど、試合まで出歩く人も少なくないですね』

少女『控え室ってどっちですか?』

局員『その前に、あなたは出場者の身内の方ですか?』

少女『はい、家族です』

局員『わかりました。あちらに真っ直ぐ進むと控え室です。』

少女『ありがとうございます』ペコ



局員『あの子金髪なのに家族って…?』
504 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 16:50:10.63 ID:6nY.1gAO
侍「…むぅ」

観客席に戻ると少女がいなかった

太陽が真上に登り、皆昼飯にありつこうという時間

侍は出場者に支給される弁当をなんとか二人手に入れ、少女のところに戻ってきた

侍「厠にでも行ってるのか…」

侍は席に腰掛けると少女を待つ事にした
505 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 16:59:25.96 ID:6nY.1gAO
係員『黒髪の人なら弁当持って出て行ったよ』

少女『あ、そうですか』

控え室に行くと侍は既に部屋にいなかった

闘技場は楕円形なので、行き違いになったのだろう

少女『また行き違いになるかも知れないし、どうしようかな…』

少女が少し迷っていると



ザッ

少女『…ん? えっ』

地獄の遣い『…』
506 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 17:04:34.21 ID:6nY.1gAO
地獄の遣い『嬢ちゃん、あの黒髪のツレかい』

少女『あ、あ、あ、あのっ』

地獄の遣い『安心しな、別に嬢ちゃんをどうこうする気はねぇ』ズイ

少女(近い! 恐い!)

地獄の遣い『ちーっと頼まれ事をしてぇんだが』

少女『な、なんですかっ』

地獄の遣い『あの黒髪に礼がしたくてよ』ニィ

少女『…お兄さんに?』ピク

地獄の遣い『ああ、手ぇ貸してくれや』
507 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 17:18:09.69 ID:6nY.1gAO


ワー ワー

侍「…」

ほぼ全員が立ち上がって試合を見る中、侍だけが席に座っている

少女を待って小一時間、周りの人間の視線が刺さる

話しかけてきたりしないのはありがたいが、ジロジロ観察されるのもなかなか居心地悪い

少女の様子も気がかりなので探しに行こうか、と思った時

少女『お兄さーん!』

侍『!』
508 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 17:24:08.06 ID:6nY.1gAO
少女が侍に駆け寄る

その声を聞いた時侍は安堵し、振り返って驚いた

少女『ごめんね、行き違いになっちゃった』ガチャガチャ

その腕には刀が抱えられていた

少女『あ、これ、仮面の人から』


……


少女『これ…剣?』

地獄の遣い『カタナって言う蛇島の剣だ』
509 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 17:34:53.91 ID:6nY.1gAO
少女『蛇島?』

地獄の遣い『東の果てにある小さな島だ。八つ首の蛇の神が居て、草の床の家に住み、鯨を食う黒髪の人間の国らしい』

少女『へー!なんだか不思議!』

地獄の遣い『黒髪は多分「サムライ」って戦士なんだろう』

少女『サムライ?』

地獄の遣い『カタナを使う最強の戦士だ。あんな木の棒じゃ可哀想だからよ、持ってってやってくれ』

少女『……嫌です』
510 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 17:43:54.71 ID:6nY.1gAO
地獄の遣い『…あ?』

少女『これを受け取ったら、お兄さんは戦い続けるしかなくなる気がするんです』

地獄の遣い『嬢ちゃん、それは違うな』

地獄の遣い『黒髪は最初から戦いの中でしか生きられない定めなんだよ』

少女『そ、そんな事!』



地獄の遣い『じゃあなんでこんなところにいるんだ?』
511 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/27(月) 20:28:22.05 ID:gbnELkSO
いつの間にきてたのか
512 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 21:17:36.69 ID:6nY.1gAO
少女は戸惑った

何故闘技場にいるのか、何故この大陸にいるのか

仮面の男はどちらの意味で言ったのだろう

それとも両方…


地獄の遣い『嬢ちゃん、この街に来るまでにも何度もヤバい敵に出会ったろ』

少女『…』

地獄の遣い『黒髪は今までもそうやって生きてきたんだろうよ。そしてこれからもな』
513 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 21:22:57.76 ID:6nY.1gAO
少女『…でも』

少女『いつか、いつの日か、戦わずに暮らせる日が来ます…!』

地獄の遣い『…』

クルッ

地獄の遣い『さて、どうかな』スタスタ

少女『あっ!? 待ってこの剣…!』

地獄の遣い『いらなきゃ捨てていいぜ。お前ぇらこれからもっとヤバい敵とやり合うと、俺は思うけどな』スタスタ



少女『…』
514 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 21:48:09.57 ID:6nY.1gAO


少女『これ、お兄さん達サムライに必要な物なんだよね』

言葉が通じないにも関わらず、少女は続ける

少女『私、お兄さんに戦って欲しくない。お兄さんが傷付く姿なんて見たくない。ずっとそう思ってた』

少女『今でもそう思ってる。この大会にも参加して欲しくないし、どこか平和なところを早く見つけたいってずっと…』

少女『…でも、それって本当にお兄さんの事信じてるとは言わないよね』
515 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 22:00:15.75 ID:6nY.1gAO
少女『戦う事を避けて、可能性を捨てて…』

少女『はは…、私弱いまんまだね。お兄さんと出会う前と何も変わってないや』ジワッ

少女の目尻に涙が滲んだ

少女『ご、ごめんね…これ、渡すつもりなのに』カタカタ

刀を差し出そうとするも、身体が強張り抱き締めた腕が離れない


少女(お願い…もう少し勇気を!)



ギュッ


少女『…あ』

侍『…』ニコ
516 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 22:45:26.88 ID:6nY.1gAO
少女の涙を拭い、侍は少女をそっと離した

少女は刀をぎゅっと抱き、瞳を閉じたまま一つ深呼吸をする


少女『私、自分の未来の為に戦う。もう傷付く事を恐れたりしない!』


そう言うと、刀を侍に差し出した

瞳を開くと、侍が真っ直ぐ見つめていた

侍「お主の言葉は分からぬ。だが、その瞳が覚悟を決めた事を教えてくれた」

侍「子供と思っていたが、お主も己の生きる道を見出したのだな」


カチャッ

侍「ならば私は見届けよう! お主の見据えた未来を!」シャキンッ
517 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/27(月) 23:07:14.95 ID:PJMLF4Eo
侍かっけえ……
518 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/27(月) 23:11:33.90 ID:93NX5oDO
侍が今まで持ってたのは刀じゃ無かったのかな?
刀どっかで無くしてたっけ?
519 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/27(月) 23:14:09.48 ID:rSlcBsEo
ずっと木の棒とかパンチキックで何とかしてたはず
520 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/27(月) 23:19:41.01 ID:93NX5oDO
シャキとか擬音にあったから刀だと思ってたでござる

機械巨人も枝きれで倒してるとは思わなんだ
521 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 23:36:04.26 ID:6nY.1gAO


少女『午後の試合が始まるみたいね』

侍『―』スクッ

少女『…頑張ってね、お兄さん!』

侍『…』コクリ

スタスタ


少女『さて、私は観客席に戻ろうかな』


『その必要はない』

少女『え!?』

中将『君には特別席を用意している』
522 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 23:42:26.27 ID:6nY.1gAO
中将『連れがいるとは言っていたが、子供とはね。拍子抜けだよ』

少女『なんですかっ あn…ムグッ!?』

兵士『大声を出すな』グッ

少女『―!! ―――!!』ググッ

中将『さ、特等席にご案内だ』



『じゃあまずはオメェからどうぞッ』

ギンッ ガキンッ バキッ



地獄の遣い『やっぱ手ぇ出してきたな』

少女『仮面さん!』
523 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 23:47:49.18 ID:6nY.1gAO
少女『一体どういうことですか!?』

地獄の遣い『奴ら強い奴を集めて自分らの兵隊にしてんだよ』

少女『…その為に大会を?』

地獄の遣い『ああ、俺もあの魔力を帯びた槍を渡されてからの記憶がねぇ』

少女『それでお兄さんをこ、殺しに…?』

地獄の遣い『いや、正気でも俺は殺しにかかってるな』

少女『…』
524 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/27(月) 23:54:18.47 ID:6nY.1gAO
地獄の遣い『嬢ちゃんが人質に取られると分が悪いからな、無事で何よりだ』

少女『助けてくれてありがとうございます』

地獄の遣い『礼はいらねえ。お前ぇらにはこれからシッカリ働いてもらうからな』

少女『働く?』





ガヤガヤ ガヤガヤ

『では第27試合、始め!』

無影『さあ、死合いを始めよう』

侍『…』カチャカチャ
525 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/28(火) 00:32:26.04 ID:pEKlr6AO
『片方はさっき地獄の遣いを倒した黒髪か。対戦相手の黒服は?』

『無影って通り名の殺し屋だと。ほら、1試合目で分身してた』

『ああ! 何してんだかさっぱりだったな』

『相手も為す術無く刻まれてたからなぁ』


無影『俺の速さについてこれるか…』ススッ

足音も無く侍を撹乱する黒服

付かず離れず、侍の周りを跳ぶように回る

侍『…』カチチャキ

と、暫くして


『あ! 始まった! 分身だ!』

『6、7…どんどん増えるぞ!』
526 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/28(火) 00:41:40.17 ID:pEKlr6AO
侍の周りに二十数人の黒服

無影『ふ、どれが本物か分かるまい』ススッ

じわりじわり、にじり寄る黒服

侍『…』クイッ

この光景を目前にして、侍は未だ刀の鍔や柄を点検していた

無影『…死にたがりが。殺してやる』スッ

タッ――――――

二十数人の黒服が一斉に襲いかかる


ゴキッ


無影「―」ゴシャッ

侍「遅すぎる」チャキン
527 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 00:49:04.63 ID:843BWGEo
侍かっこよすぎだろ
528 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/28(火) 00:53:22.33 ID:pEKlr6AO
侍「速さで撹乱…残像でも見せていたつもりかも知れんが、私には一人に見えたな」

無影「…―!!」ペッ

殴られて口を切ったのか、血混じりの唾を吐く

黒服は立ち上がると汚れを払い、再び跳んだ


フッ―


今度は残像も無い、影も無い

立ち消えたかのように見える高速移動

侍「ほう、これほどの動きは青嵐の忍以来やも知れぬ」
529 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/28(火) 01:05:33.35 ID:pEKlr6AO
『おい、黒髪が構えたぞ』

『本気…って事か?』


音も姿も、気配すら感じさせない黒服の動き

人間はおろか、野生の獣すら存在に気付く前に殺されるだろう


―ヒュンッ

無影『…ふ』スタッ

侍『…』

ミシッ

無影『なんて奴だよ…』ガクッ

ドサッ

侍「空気を動かさずに移動出来れば、良い忍になれるやもな」
530 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/09/28(火) 01:26:59.23 ID:pEKlr6AO
今日はここまでです
いつも通り亀進行ですいません

一応オリジナルですが、なんか北斗の拳に通じる物を感じる今日このごろ


武闘会編どうですかね…
今まで戦闘描写少なかったから今回で沢山書こうかなと思ったんですが

では、おやすみなさい
531 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 01:36:37.24 ID:L3mu7sDO
戦闘描写いいね
532 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/28(火) 07:23:18.53 ID:CVcxDQSO
いいよいいよ
533 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/29(水) 23:53:41.08 ID:FhySSzUo
侍のチートっぷりがかっこいい
534 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 09:41:21.54 ID:Bfn2DwDO
続き書いて下さい
535 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/08(金) 11:58:32.80 ID:8i5Gm2AO
今日の夜再開します
今暫くお待ち下さい
536 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 15:21:50.37 ID:WjqSM02o
うっちょー!
楽しみに
待ってる!
537 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 17:13:40.89 ID:t9yQC2DO
ktkr
538 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/08(金) 18:27:50.08 ID:v5SoOYSO
wktk
539 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/08(金) 23:40:20.66 ID:8i5Gm2AO



地獄の遣い『この大会、只の見せ物じゃねぇ』

少女『確かに、みんな人が死ねのを何とも思ってないみたいだし…』

地獄の遣い『それだけじゃねぇ。街中どこにも暦がねぇし、廃止になった通貨が飛び交ってる』

地獄の遣い『それに加えて洗脳に誘拐だ。ただ事じゃないぜこりゃ』

少女『何か事件が起きてるってこと?』

地獄の遣い『嬢ちゃん、俺の言うただ事ってのは事件とかそんなチャチな物じゃねぇ』

少女『じゃあ…何なの?』

地獄の遣い『黒幕をブッ倒す以外に生きて出られねぇって事さ』
540 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/08(金) 23:49:55.82 ID:8i5Gm2AO
地獄の遣い『これから話す事は全部想像の話だ。常識は置いてこい』


地獄の遣い『街中の使えねぇ金。試しに新しい通貨を出したが相手にされなかった』

少女『この街ではまだ新通貨が普及してないって事…?』

地獄の遣い『嬢ちゃんぐらいの歳だと知らねえかもしれんが、新通貨は大分前に施行されてる。普及してない筈がねぇ』

少女『って事は』

地獄の遣い『まぁ待て、ヒントはまだ出揃ってねぇ』
541 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 23:56:24.06 ID:ilQKS6.o
ktkr
542 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/09(土) 00:09:58.72 ID:lLHyo2AO
地獄の遣い『次に暦だ。暦どころが日付がどこにもねぇ』

少女『新聞とかも?』

地獄の遣い『ああ、時計はあるが日付がない。この街に来て何日かさっぱりだ』

少女『それって1日2日ならいいですけど、お給料日とかわからないと困りますよね?』

地獄の遣い『だろうな。まぁ街の連中がどうやって生活してるかは大した問題じゃない』

少女『私達に関わる部分が問題なんですね』

地獄の遣い『そうだ。段々わかってきたな』
543 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 05:08:12.09 ID:xe3th.DO
やっと追いついた
なにこれおもしろすぎる


小ネタスレって過去ログあるの?
これの前が読みたい
544 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 15:39:25.05 ID:redJH.DO
あるけど別にこれの前があるわけじゃなくてただの宣伝だったかと
545 :543 [sage]:2010/10/12(火) 02:34:24.35 ID:0YKLW.DO
>>544
そうなのか
ありがとう
546 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/12(火) 16:06:18.30 ID:FbJF8oAO
そろそろ銘刀を手に入れても良い頃
547 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/12(火) 23:25:02.55 ID:NTnq/wAO


侍「種子島か? それでは私には勝てないぞ」


侍の前の一人の撃ち手

腰に拳銃を一丁だけ下げた男は、侍と視線交える事なく深々と帽子を被っていた


『地味な戦いになったな』

『あの早撃ちに勝ち目ねぇだろ』

『あの人間離れした黒髪相手に拳銃じゃあなぁ』



侍『…』

早撃ち『…構えろよ、手加減されちゃ死にきれない』

侍『…』チャキッ
548 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/12(火) 23:37:05.24 ID:ipVSyoEo
ktkr
549 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/12(火) 23:39:34.50 ID:NTnq/wAO
早撃ち『…』

侍『…』


『…動かないな』

『一撃で決まるんだ、下手には動けないだr

侍『―――ッ』バッ

早撃ち『…ッ』チャッ


疾風の様に斬りかかる侍の額を早撃ちの照準が捉える

瞬間、引き金が引かれ―

ガウンッ

―侍はより低空を跳ぶ




早撃ち『…んなとこ見てていいのか?』バッ

侍『―!?』
550 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/12(火) 23:49:44.55 ID:NTnq/wAO
早撃ちは侍の頭上を飛んでいた

侍が銃口から弾が出るのを見送り、早撃ちに視線を戻すと既に姿はなかった



早撃ち『低く飛ぶ鳥は撃たれるんだよ…!』チャキッ





侍「…お主、燕という鳥を知っておるか?」





ガウンッッ
551 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/12(火) 23:57:33.32 ID:NTnq/wAO
早撃ちは低く跳ぶ侍の背を見ていた

地面から浮いたこの状態で自分の動きを視る事は不可能

引き金を引けば間違いなく鉛弾が後頭部を貫く

早撃ち『…あばよ!』

ガウンッッ


侍「翻る事―」


ッヒュン    チュインッ


早撃ち「…!」スタッ

侍「―燕の如し」スタッ
552 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/13(水) 00:13:26.44 ID:wU3Q.gAO
早撃ち『…アンタが本気なら、俺の首は帽子みてぇになってたって訳か』

…パサッ

侍『…』

スタスタ

早撃ち『全く、恐れ入ったよ…』


『おい何してんだ! 奴の背中ががら空きだぞ!!』

『後ろからぶち抜け!』


早撃ち『うるせぇ!! 舞い上がる鳥に弾は当たらねえんだよ!!』
553 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/13(水) 00:20:21.42 ID:SKnlvewo
キテター!
侍かっこいい!
554 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/13(水) 00:26:05.92 ID:wU3Q.gAO


地獄の遣い『最後はここだ』

少女『お墓…』

地獄『推理を確信に近づけるには何かが足りない。ここにそれがある』

少女(昔の通貨…、消えた日付け…)

少女(お墓にあるのは…死んだ人の名前)
少女(ジョ…風化して読めな)

少女『あ!』




少女『答えは数字です』
555 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/13(水) 00:32:47.22 ID:wU3Q.gAO
少女『ここで重要なのは真新しいお墓』

少女『一番新しいお墓の没年が謎解きの鍵なんですね?』

地獄の遣い『その通り、やるじゃないか嬢ちゃん』


地獄の遣い『この墓場には30年以上前の墓場しかねぇ』

地獄の遣い『30年もの間死人が出ねぇ訳がねぇし、墓が新品同様である筈もねぇ』

少女『つまり…』

地獄の遣い『この街は時間が止まってる、あるいは繰り返してる』
556 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/13(水) 00:48:34.59 ID:wU3Q.gAO
地獄の遣い『時間が止まる訳ねぇとかいうツッコミは無しだぞ。一応は不自然な点を突いてんだ』

少女『大丈夫です、結構慣れてます』

地獄の遣い『だろうな、黒髪と一緒にいりゃあな』

少女『…』

地獄の遣い『…』



地獄の遣い『嬢ちゃん、迷宮探索の心得はあるか?』

少女『いえ…』
557 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/13(水) 01:22:37.42 ID:wU3Q.gAO
地獄の遣い『なら質問を変えるぞ、迷宮とは何だ』

少女『えっ、…宝物が隠されてたりする場所?』

地獄の遣い『おしい、迷宮ってのは足止めの手段だ。お宝があろうが無かろうがどっちでもいい』

地獄の遣い『一番奥にあるのがお宝がだろうと出口だろうと、通過困難ならそれは迷宮だ』

少女『つまり今の私達は迷宮の中で、出口への道を見つけないといけないんですね』

地獄の遣い『御明察、頭がキレる奴は好きだぜ。俺が楽んなるからな』
558 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/13(水) 09:57:16.21 ID:pAigeYDO
来てたのか
乙だぜ
559 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/20(水) 19:25:32.70 ID:h6h4wx20
今日は来るかな?
560 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/20(水) 23:47:33.65 ID:44SPQUAO
……

侍(世界は広い。よもや種子島に驚かされようとは)

侍(この先勝ち上がってくる者はその上をいく筈、油断できぬな)

侍『…!』

ザッ

大将『順調に勝ち進んでいるようだね、どうやら実力は本物みたいだ』

侍『…』

大将『これは失礼、言葉がわからないんだったね』スッ

魔術師『業深々、我等の種に課せられし刑に猶予を…』

大将『これで話が通じる筈だ』

侍『…拙者に何か用か』
561 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/21(木) 00:00:52.13 ID:cjxZzkAO
大将『なに、連勝中の若者を激励に来ただけだ。深い意味はない』

侍『それはそれは…お気遣い傷み入りまする』

大将『試合を賭けの対象にしている者も居るようだが、君の倍率は早くも1.3倍を切るらしいね』

侍『…』

大将『さっきの試合なんて完全な不意打ちからの完璧な切り返しなんだから、私も驚いt


チャキンッ


大将『…何の真似かな』ギッ

侍『そちらこそ、魔術師に何をさせている』ギギッ
562 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/21(木) 00:12:20.40 ID:cjxZzkAO
大将『気づいてたのか』

侍『何かを企んでいるかなど、目を見れば一目瞭然だ』

大将『流石―、これはなんとしてでも女王陛下に献上せんと!!』ギィンッ

侍『―チッ』バッ

大将『やれ!!』

魔術師『絡み付け、幾重にも幾重にも、幾重に…』

ザクッ


大将『なッ!?』

魔術師『―』コフッ

侍『すまぬ、加減をする余裕は無いのだ』ズッ

ドサッ

侍『今のが止められぬのならお主に勝ち目はないぞ』


女王『―人の心配より自分の心配をしなさい』

侍『!? しま―――――――
563 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/21(木) 00:31:59.16 ID:cjxZzkAO


地獄の遣い『さて嬢ちゃんに最後の問題だ、この街が迷宮なら出口はどこだ?』

少女『うーん…お城?』

地獄の遣い『なんでだ?』

少女『一番通過しにくい…から』

地獄の遣い『確かに、罠や警備が多い場所はそれだけ重要度が高い事になる』

地獄の遣い『だが、迷宮に限っては別。門の前に番人を用意したらアタリだって分かるだろ?』

少女『確かに…』


地獄の遣い『…まぁ、今回は嬢ちゃんの推理通り城を攻めるけどよ』

少女『どうしてそう思うの?』

地獄の遣い『経験則と理論的思考は、必ず最後裏切られんだよ』
564 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/21(木) 00:36:14.14 ID:cjxZzkAO


門番『ん? 君、止まりなさい』

地獄の遣い『どけ!』バキッ

門番『あぐぅ!?』ズザ-ッ

地獄の遣い『さぁて、派手に暴れっかァ!!』

ドガァァッ


衛兵『侵入者だー!!』

兵士『追えー!!』





少女『うわぁ…見事に蛻の殻だよ』
565 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/21(木) 00:47:02.25 ID:cjxZzkAO
ガチャッ

少女『………誰もいない、か』

少女『陽動するからその隙に探せって言っても、何を探せばいいのやら…』

ズゥゥンッ

少女『…仮面さん大丈夫かな』





ズゥゥンッ

侍『―――う』

侍『…ここは』

女王『気が付いたかえ』

侍『!! …思い出した、拙者は背後を取られ…負けた』

女王『悲観するでない。人間にしてあの反応速度、最高の逸材ぞ』

侍『…逸材?』
566 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 00:19:56.08 ID:Wk0f3Tgo
まだかなー
567 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 08:29:05.28 ID:t22xg72o
追いついたぞ
凄まじく面白いなココ
wktkがとまらないから続けてほすぃ
568 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/22(金) 10:53:43.62 ID:yTS9L.SO
wktkが止まらない
569 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 18:54:06.17 ID:RQOeVYAO
おっす オラ >>568!
wwktkすっぞ!
570 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 18:55:56.63 ID:RQOeVYAO
aaaaaああああああっ!!
いろいろミスったぁ…orz
571 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 22:20:39.58 ID:t22xg72o
読み返したが深い
>>1に最大限の乙を送るから、期間はかかっても完結してくれ!
572 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/22(金) 23:18:40.74 ID:MPE/7sAO
女王『お前は猿が人間の祖先だったという話を知っているか?』

侍『…なに?』

女王『それだけではない。魚が蜥蜴になり、やがて翼を持ち鳥となったという話もある』

侍『……何がいいたい』

女王『妾はの、人間のその先を見たいのだ』

侍『話が見えぬ、私と猿の話と、それにあの武道大会に何の関係がある』
573 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/22(金) 23:30:30.31 ID:MPE/7sAO
女王『生物は常に戦い続けている。負けは死を意味する。弱い種は残らないのが自然の掟…』

女王『御伽噺だと、猿は前脚で道具を持つ事を覚え、それを加工・使用することで知恵をつけた』

女王『そしていつしか利便性を求め後ろ脚だけで歩くようになった』

侍『事実と空想が入り混じっている、一体何が言いたい』



女王『蠱毒壷…知っておるか?』
574 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/22(金) 23:41:05.05 ID:MPE/7sAO
侍『蠱毒壷?』

女王『壷に大量の蠱を入れ、餌を与えず共食いさせる』

侍『!』

女王『分かったかえ? お前にはその蠱になってもらうよ』クスッ

侍『…やめろ、その呪いはお主の望むような結果は生まない』

女王『鬼になるとかいう話かえ? それこそ御伽噺よ。今までも散々殺し合わせたが、物の怪になった者はおらん』

侍『何故そんな無意味な事をする! 鬼など生んで何になる!』



女王『退屈だから』


女王『他に理由などあろうか』
575 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/23(土) 00:02:33.15 ID:EW1i6QAO
侍『…狂っておるな』

女王『かも知れぬな。時の感覚も、人の情も、とうに忘れたわ』クスッ

侍『時の感覚…? 一体どういう…』

女王『話が過ぎたな。お前にはこれから死ぬまで戦い続けてもらう』

侍『…断れば』

女王『お前の知り合いが死ぬだけよ』ボゥッ


少女(…大丈夫、お兄さんがカタナを持ったら無敵なんだから! 早く出口を探さないと)



侍『な!?』

女王『わざわざ向こうから来てくれたのでな、城の中を泳がせておる』
576 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/23(土) 00:18:06.08 ID:4CMHHTUo
ktkr
577 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/24(日) 10:38:32.12 ID:QkBFdBYo
kktkrr
578 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/25(月) 10:03:22.86 ID:DIu3vISO
どうやら来ていたようだな
支援
579 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/28(木) 22:13:25.00 ID:3uToEsAO
侍『…』

女王『おお、恐い、恐い、そう睨むな。お前が戦い続けている間は手出しせん』

女王『そうだ閃いたぞ! 男、一つ賭けをしようではないか』

侍『賭け…だと』

女王『如何にも、あの小娘がここまでたどり着いたらお前の勝ち。どうだ?』

侍『断る…事は出来ぬのだな』

女王『わかっておるではないか』
580 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/28(木) 22:41:00.40 ID:3uToEsAO


石造りの大男『ガァァァア!!』ビキビキ

ズスゥウウンッ

獅子頭の大男『グガァァアアッ!!』

侍『…』スッ

ベゴォオオッ

獅子頭の大男『グ!?』


侍『突!』ビッ


獅子頭の大男『ガ――――ァァアアアッ!?』

ドザァァァアアアアアッ


女王『流石に魔獣程度では相手にならぬか。次は天魔の類を試そう』

堕天使『ァアアアアアアアア』バサッ

侍『―ぐッ!?』グラッ
581 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/28(木) 22:59:09.11 ID:3uToEsAO
侍『こやつは天魔か!? このような者まで使役するとはッ お主一体何者だ!』グッ

女王『質問していいとは言っておらぬぞ!』バッ

堕天使『アアアアアアアアアアッッ』ビィィンッ

侍『また…ッこの声か!?』グワングワン

女王『ほれ、次々行くぞ!』


催眠鬼『ギャァアアアアッ』キィィインッ

羅刹『コロス…! コロスッ!!』バッ


侍『いかん…ッ 意識が―――――




カチャ…ッ

少女『…誰もいないね?』

少女『ふぅ、何を探してるかもわからない探し物って不毛すぎるよ…』
582 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/28(木) 23:45:37.31 ID:nMIInCoo
来てくれて嬉しいC
最高だよ作者殿
583 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/29(金) 00:23:52.15 ID:2IK/XgAO
少女『…それにしても、この「迷宮」の出口はどこにあるんだろ。仮面さんも出口までは見当ついてないだろうし』

少女『もし魔術的なものだとしたら、本…とか? それとも太陽の石みたいな物かな…』

少女『だとしたら私一人で見つけるなんて無―』


―駄目、それは口にしては駄目


少女『…っと、危ない危ない。どんな大変な時も、お兄さんは絶対弱音を吐かないもんね!』

少女『…言葉はわからないけどっ』クスッ



少女『考えるのよ、私。 これは宝探しじゃない、迷宮の攻略なんだ』
584 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/29(金) 00:51:06.34 ID:2IK/XgAO
少女『迷宮の出口には見張りも罠もない…』

少女『言い換えれば…目印が無い。厳重な守りなんて無くても、見つからなければいいから』

少女『…』

…ズズゥン

少女『…仮面さん、無理しないでね』





地獄の遣い『らぁぁああ!!』バキィッ

衛兵『がはァッ!?』ズサァッ

地獄の遣い『雑魚は引っ込んでろ! 親玉ん所に案内するなら話は別だがな』


中将『親玉とは、私のことかな?』


地獄の遣い『雑魚は引っ込んでろって言っただろ』

中将『ヒヒ…実力の違いも分からぬか』

地獄の遣い『…なに?』
585 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/29(金) 01:00:31.47 ID:2IK/XgAO
中将『見るガイイ、チイサキ者よ!』グニャッ

ズォォオオオオオオオッッ

地獄の遣い『くっ! 何だ!? 何が起き…』


かつて中将だった魔人『ヒヒヒ…力だ、力がジュウマンスル!!』

衛兵『ひ、ひいぃ!?』

兵士『バケモノだ!?』

魔人『ジョウカンに向かってナンテ口ヲキクんだ』

ズブンッ

衛兵『』

兵士『…ぁ』
586 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/29(金) 01:09:59.22 ID:2IK/XgAO
ズォォオオオオオッ

衛兵『ァァアァアアアァ―』

兵士『ァアアアアァアァ―』



低級悪魔『ケタケタケタケタ』

低級悪魔『ニタニタニタニタ』

地獄の遣い『…生まれ変わりました、ってか?』

魔人『そうだ、お前のヨウナ人間でもマトモに戦えるようにナ』

地獄の遣い『はッ お前ぇは本当に度し難い馬鹿野郎だな』

魔人『あぁ…?』


地獄の遣い『もう一回言うぞ、雑魚は引っ込んでろッ!』
587 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/29(金) 01:16:12.29 ID:2IK/XgAO
間隔開いてすいませんでした
研修会場が携帯禁止で没収されて…

今日はここまでです
ありがとうございました
588 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/29(金) 01:37:29.64 ID:AUcLQIco
おつおつ
いつも期待wktkしながら見てる
589 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/29(金) 06:31:35.43 ID:9ztyC2.o
乙!
おもしろいっすなぁ
590 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/29(金) 21:07:47.81 ID:2IK/XgAO
魔人『ニンゲン風情が粋がるな』

地獄の遣い『ならさぞかし惨めだろうな、人間風情にぶっ飛ばされる気分はよ!』

魔人『口のヘラヌ奴だ!』バッ

低級悪魔『ニタァ』ジリッ

魔人『ホレ、サッサト得物を抜くガイイ』

地獄の遣い『お前ぇら程度に武器は使わねえよ。俺は弱い者虐めが大ぇ嫌いなんだ』
591 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 08:20:56.10 ID:KdEqxL.o
キテターwktk
592 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 00:48:14.58 ID:g5zlVU6o
楽しすぐるからCさせてーな
593 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 18:29:03.10 ID:eAookASO
来てたみたいだな

支援
594 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/07(日) 22:46:58.88 ID:jxi12aEo
正座してwktk待ってます
595 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 18:55:32.67 ID:Xml6ULko
座して待つおっおっ( ^ω^)
596 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 20:25:41.39 ID:jiFL6EAO
魔神『ホザケ、人間がブキも無しにワレラヲ倒せるか』スッ

下級悪魔『ニタァッ!』バッ

ズパッ

地獄の遣い『くっ!!』タラッ

魔神『我等とニンゲンではシンタイノウリョクガ違いスギル』

下級悪魔『ニタァ』ベロ

地獄の遣い『ハッ! 能書きはいいからかかってこいよ!』

魔神『…ふん、ナラバシネェ!!』

下級悪魔『ニタァッ!!』バッ 下級悪魔『ゲタゲタッ!!』ビュンッ



メッ

ゴォォォォッッ



下級悪魔『ニベァッ!?』ズザァァッ

下級悪魔『ゲタッ!?』

地獄の遣い『貧弱だな。俺の親父の拳はこんなもんじゃなかったぜ』プラプラ
597 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 20:36:30.56 ID:jiFL6EAO
地獄の遣い『それに…』スッ

下級悪魔『ゲッ!?』


ゴキリッ


下級悪魔『ガゴァァッ!?』ビダァンッ

地獄の遣い『こんな簡単に隙を見せねぇしな』

魔神『…オドロイタよ、生身の人間がココマデヤレルとはネ』

地獄の遣い『余裕ぶってんじゃねぇよ、次はテメーだ』ザッ

魔神『次? フフフ…』

地獄の遣い『…何がおかしい』

魔神『次はキミダヨ!!』


下級悪魔『ゲギャッ!』ポウッ 下級悪魔『ニギャッ!』ポウッ

地獄の遣い『! しまっ―』
598 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 20:50:39.95 ID:jiFL6EAO
ドガァァァンッッ


シュー…

下級悪魔『ゲタゲタゲタッ』

下級悪魔『ニタァッ』

魔神『ケシズミと化したカ、呆気ないな』
魔神『所詮人間、魔術ヲクラッテはヒトタマリもない…』

ザッ

地獄の遣い『正直ナメてたぜ…悪魔の打たれ強さをよ』モクモク

魔神『! 下級トハイエ合体魔術を食らったトイウのにブジダト!』

地獄の遣い『ああ、御陰様で十三神の恩恵はボロボロだ』チャリッ

魔神『チッ 護符とは猪口才ナ』
599 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 21:03:12.52 ID:jiFL6EAO
魔神『まぁいい、お前のヨウナ魔術もツカエヌニンゲン相手ならコイツラで十分だ』

下級悪魔『ニタァァッ』

地獄の遣い(奴の言う通りだ。俺の拳じゃ奴らのドタマはブチ抜けねぇ…)

地獄の遣い『ああ、確かにこいつは難敵だ』

チャッ

地獄の遣い『だからよ、こっちも本気でいかせてもらうぜ!』

魔神『戦槍か、ヤッテミルガイイ』

下級悪魔『ゲキャァァッッ』グァッ

地獄の遣い『らぁぁッ!』ズッ
600 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 21:14:16.70 ID:jiFL6EAO
……

侍『――ッハァ…、ハァッ……』ザッ

女王『…ほう』


堕天使『』

催眠鬼『』

羅刹『』


女王『未だ剣を抜かず、か』

侍『スゥ――――ハーッ』



              ―ッ


女王『刃を見せなかったのはこの時の為の奥の手か? ん?』チキキッ

侍『…くッ』ギチチッ
601 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 21:24:37.13 ID:jiFL6EAO
女王『お前はやはり逸材じゃ。妾にここまで近付いた者は魔の者でもおらぬ』ビッ


ドガァァッ


侍『―かはッ』ガクッ

女王『さあ立て! 続きを踊ってみせよ』

侍『ぐ…、う』ギリッ

女王『…なんじゃ、もう終わりか?』

女王『…ふむ、これはあの小娘を殺しても構わぬという事に相違ないな?』

侍『! や、やめ…』
602 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 21:48:04.52 ID:jiFL6EAO
女王『心配はいらん。お前が怒り狂い憎しみに飲まれたとしても、妾が責任を持って相手をしよう』ズズッ

侍『ま、待て!』




少女『仮面さんは言った、迷宮は足止めの手段と』

少女『じゃあ森は迷宮だろうか、確かに足止めはできるけど私は迷宮とは思わない』

少女『だって森に道は無いから。出口への道を探すのではなく、自ら切り開かないといけないから』

少女『迷宮は出口へ到達させない手段、森は入口へも出口へも戻らせない檻だとしたらここは森…』



女王『さあ、かわいいアタマを台無しにしてあげよう!』ズズッ

少女『!』
603 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 21:56:43.22 ID:jiFL6EAO
ガシッ

少女『ッくぁぁ!』ギリッ

少女(いたい!いたい!いたい!いたい!)

女王『ふふふ…さらばだ小娘!』ギチチッ


ザクッ


女王『…何の真似だ』ドクドク

少女『…道は………自ら切り開くもの』グリッ

女王『…いい言葉だな。褒美に楽にしてやる』ビキッ

少女(アア…)



―ピキンッ
604 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 22:03:45.80 ID:jiFL6EAO
女王『むッ!? 魔術が!?』

ザザッザザザザッ



女王『これは一体……ん?』

少女『』パァァ

女王『天使の羽根!? いかん!』ブンッ


少女『』ヒュゥッ




侍「ふッ!」トサッ

侍「おい!しっかりしろ!!」

少女「…―」ヒュー ヒュー

侍「息はあるな…」ホッ
605 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 22:11:55.89 ID:jiFL6EAO
女王『何故あのような小娘が天使の羽根を…』

侍『…』キッ

女王『ほう、先までとは別人の目だな。人質が返ってきて心配事がなくなったか』

侍『――』

女王『おお、魔術が解けたせいで言葉がわからなくなったな。今魔術を』


鋭き事――――


女王『!!』ゾクッ


――――稲妻の如し


侍『…』キンッ
606 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 22:18:11.14 ID:jiFL6EAO
女王『……今のは流石に驚いたのう。避ける事しか出来ぬとは』ズズッ

侍『…女、避ける事もできておらぬぞ』

女王『なに?』


―ピッ

プシャ―――ッ


侍『南無…』





女王『妾に傷を負わせるとは、余程お前たちは死にたいらしいな』シュゥゥ

侍『! 首が繋がるだと…』
607 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 22:24:37.32 ID:7CLbqQDO
久しぶりなktkr
待ってたぜ
608 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 22:41:01.10 ID:jiFL6EAO
女王『妾は死なぬ、…死ねぬのだ』

女王『お前が妾を八つ裂きにしようと、「時の止まった体」には意味を為さない』

侍『時の止まった体…』

女王『お前には分かるまい、死ぬ事も叶わず永遠に痛みや苦しみ、生を謳歌できる者への嫉妬、煩わしさばかり味わう妾の気持ちなど…!』







女王『何か言わぬか』






侍『……ッ』ツー

女王『! 泣いておるのか?』
609 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 22:52:19.47 ID:jiFL6EAO
侍『お主は…いつも見送ってきたのだな』

侍『大切な者が生まれ、死に、国が滅び、また生まれ、それが繰り返される様を幾度も、幾度となく』

女王『そうだ! 妾の家族も家来もおらぬ! 人々は妾を化け物、魔女と呼び遠ざける! 話し相手もおらなくなった今では自分の名前すら忘れてしまった!』

女王『これが不幸! 悲劇でなくてなんだ!』


侍『愚か者!!』


女王『!』ビクッ
610 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 23:02:29.86 ID:jiFL6EAO
侍『では何故人の痛みを知るお主がこの様な真似をする!』

侍『生の尊さを知るお主が! 何故命を弄ぶような事を!』

女王『ゥゥゥゥゥゥゥゥ…』

侍『こたえよッ! 女ァッ!!』

女王『ァアアアアアアアッ!!』







地獄の遣い『むんッ』グォッ

下級悪魔『ゲヒッッ』ブシャァッ

地獄の遣い『ちッ! こいつらどうやったらくたばるんだよ!!』

魔神『フ…大分苦戦シテルナ』

地獄の遣い『ッるせぇ!』ガキンッ
611 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/16(火) 23:06:16.95 ID:jiFL6EAO
お久しぶりです
私情により進行ストップしてすいません
支援レス嬉しかったです、ありがとうございます

またチョロチョロ書いていきたいと思います、よろしくお願いします

今日はここまでです
ありがとうございました
612 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 23:15:39.29 ID:Eg8iCuUo

待ってるぜ
613 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 23:53:56.38 ID:FXnDmYUo
最大限の乙を送るから、マイペースでも継続きぼんぬ
614 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 01:11:45.76 ID:SwhyqgAO
今回もいい所で切ってくれたな
次も楽しみにしてる
615 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/17(水) 01:53:54.31 ID:MmxMX2SO
616 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 07:16:49.46 ID:g6bgeZ6o
乙女王ちゃんちゅっちゅ
617 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 07:06:34.16 ID:FX8mQ5go
うっひひ
おもしろい
618 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/19(金) 17:59:17.43 ID:7wTZbsAO
下級悪魔『ニタァッッ』シュッ

地獄の遣い『! くッ!?』

ブシャッ

地獄の遣い『ぐッ…ぅ』ドクドク

魔神『ショウブあったナ』ニヤッ

地獄の遣い『へ…こんなのほんの掠り傷だ』

地獄の遣い(クソが!爪から毒でも出しやがったな…痺れてきやがったぜ)

ザクッ スパッ シュピッッ

地獄の遣い(自由がきかなくなってきやがった…)

ブシャッッ




けど…何だろうな

この透き通った感覚はよォ
619 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/19(金) 18:07:59.79 ID:7wTZbsAO
辛うじて動く体で必死に、醜く避け生き長らえる

ゲス共は俺を嘲笑い、聞き苦しい笑い声を上げる

俺の命は奴等の手の中

死を待つばかり




なのにどうしてこんなにも静かなのだろう

こうも頭が澄み切っているのだろう

バケモノの笑い声とか、血の臭いだとかは意識の外っ側…「五感」までの情報

「五感」の内っ側、心だとか気持ちだとか

そこだけは真っ白で何もなかった
620 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/19(金) 18:17:15.41 ID:7wTZbsAO
「…」

…なんだ

「…―」

人…なのか

「―――」

邪魔するなよ。今イイキモチなんだ



侍「曇りなき意識は鏡の如く、澄んだ心は水の如し。迷い無き魂から放たれる一刀こそ、天地をも割る剣の極意也―――」



アア、アンタだったか…


低級悪魔『』プシッ 低級悪魔『ゲ…』ブシャァッ

地獄の遣い『これでいいのかいッ 先生さんヨオ!!』
621 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 19:21:49.47 ID:5Dty7g6o
侍のかっこよさが半端ない
622 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/19(金) 19:47:04.32 ID:7wTZbsAO
魔神『ナッ!?』

地獄の遣い『へ……オメェらには感謝するぜ、オメェらのお陰で俺ぁ世界最強になっちまったかも知んねぇんだからなぁ!』

魔神『たかが低級悪魔ヲタオシタグライでチョウシに乗るなッ!』バッ

地獄の遣い『うわッ!?』

ジュウッッ

地獄の遣い『槍がッ クソ!』

魔神『ふ…これでテモアシも出まい』

地獄の遣い『…』

魔神『ソレトモ自慢の拳ヲ試してミルカ?』

地獄の遣い『いや………とっておきがあるぜ』
623 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/19(金) 20:02:23.10 ID:7wTZbsAO
魔神『クフ…なんだそれハ! ただの棒切れではナイカ!』

地獄の遣い『確かにこれはただの棒切れだ』


地獄の遣い『だが俺の魂のっける事で聖剣にも勝る武器になるッッ!!』クワッ


魔神『!? ナンダこの気迫! 本能がコイツハキケンだと言っているッ!』


地獄の遣い『オオオオオオオ…!!』ググッ

魔神『キエウセロ!! 人間ガァァァッ!!』パウッ
624 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/19(金) 20:19:19.90 ID:7wTZbsAO
瞬間、目の前が真っ白になった

多分、あんとき俺は死んだんだと思う


魔人『ハッハハハハッ!! 跡形もないッ!! トンダ虚仮威しだったなァ!!』シュゥゥゥ…








『ああ、とんだ虚仮威しだったぜ』

魔人『!?』
625 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/19(金) 20:27:53.34 ID:7wTZbsAO
魔人『バカナ!? 直撃だった筈!』

地獄の遣い『ああ、直撃だ、当たったよ。当たって死んだ………「生き長らえよう」なんて考える弱ぇ俺はなァ!!』

魔人『クッ!』バッ

――――――ポタッ

魔人『……え』

地獄の遣い『あんま動かねぇ方がいいぞ』

魔人『黙れ人ゲ』ビッ

ブシャァァッ

魔人『ァ―』

ドシャッ

地獄の遣い『言わんこっちゃねぇ』
626 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/19(金) 20:28:29.27 ID:7wTZbsAO
魔人が魔神になってましたね
脳内補完お願いします
627 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 22:02:07.36 ID:QnFRChQo
ktkr!侍にマジ濡れた
628 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 23:04:29.49 ID:0ALWJDwo
629 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 07:29:16.50 ID:AdH9oj2o
待ってるC
630 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/22(月) 17:32:21.66 ID:hGZyNYSO
一々侍のセリフがカッコイイ
631 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 14:43:29.45 ID:XGt8kEAO
ドガァァッッ

ズガァァァッ

女王「――ッ!! ――ッッ!!」バッ バッ

侍「破れかぶれかッ」ザザッ バッ

ズドォンッ

女王『ァァアアアアアアッッ』ゴォッ

侍『!』

ピッ
          ドォォォォオオンッッ


少女『……うっ』ビクッ

侍「無事か?」

少女『…お兄さん』
632 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 14:54:54.70 ID:XGt8kEAO
少女『! お兄さん! 血が!!』

侍「これしき大した事はない。それより、しっかり掴まってろよッ」

少女『え―』ギュ


タン―  ズガガァンッ


女王『ウウ――ッッ』



少女『あの人……』

侍「哀しい目であろう、心が孤独なのだ」ズザッ
633 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 15:04:03.98 ID:XGt8kEAO
……け…


少女『!』


…助け…

独りぼっちはもうイヤ

…お母…様



侍「現世(うつしよ)に縛られし孤独な魂、…僭越ながら私が介錯仕り申す」チャキッ

ギュッ

侍「!」

少女『待って!』
634 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 15:17:40.59 ID:XGt8kEAO
少女『殺せばあの人は救われるの!? 哀しみから解放されるの!!』

私は初めてお兄さんに向かって怒鳴った

言葉が通じる通じないなんて関係なかった

少女『あの人は私達と同じ!! この世に独りぼっちなの!!』

そう、同じだった

だから、お兄さんがあの人を斬るのは私達が離ればなれになるみたいで我慢がならなかった

少女『死んで楽になるなんて事は…』


生きてなきゃ私達は出逢わなかった

あの街で行き倒れてたら、お兄さんとだって旅立てなかった


少女『…生きなきゃ…何もならないんだよ…!』
635 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 15:24:18.91 ID:XGt8kEAO
侍「…」

少女『…グスッ』

私は流れ落ちる涙を拭う事なくお兄さんを見つめた

お兄さんは何も言わない

ただ、私の訴えを受け止めていた



女王『ガァァッ!!』フッ

侍「何ッ!?」バッ

少女『え!?』

ドンッ
636 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 15:32:16.66 ID:XGt8kEAO
少女『いたっ!?』ズザァ

少女『! お兄さ』


ドカァァァンッッ


侍『』

少女『…!!』

女王『ヒ…ヒャァアハハハハハハハハハッ!!』

女王『ヒトリ!! コレデワタシハマタヒトリ!! ヒトリボッチッ!!』

少女『そ、そんな…私のせいで』
637 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 15:46:22.10 ID:XGt8kEAO
女王『アハハハハハ!! オロカな小娘! ワラワに同情したがタメに剣士を失うなんてねぇ!!』

女王『「持たざる者」は自らの為に必死になっておればよいのだ!』

少女『…ッ』

少女『私が…余計な事を言わなければ…』



―信じなさい

少女『!』

―貴女の見据えた未来を、そして彼の信じた貴女の未来を
638 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 15:57:35.38 ID:ybq0AIQo
キテル嬉しwktkおつ
639 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 16:00:23.31 ID:XGt8kEAO
少女『そうだ! 私は逃げない! 私は私の信じた未来の為に戦うんだ!!』

ピカァァアッッ

少女『! お姉さんの羽根が光って!?』

―行きなさい、貴女達なら彼女を救えるわ

少女『…うん!』



女王『ク…!! 魔力が乱れる!』

少女『うああああああああ!!』

女王『! 天使の加護ごときで調子に乗りおって!』バッ

少女『突っ込む!』バシュッ

女王『なにッ!?』
640 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 16:09:41.66 ID:XGt8kEAO
少女『えい!!』

女王『くぅ!』バッ



ダキッ


女王『………え』

少女『…いい子、いい子』ギュ

女王『無礼者ッ! 離れよ…!』


少女『今まで一人にしてごめんね』ナデ


女王『…止めよ、離してくれ』
641 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 16:25:07.41 ID:XGt8kEAO
女王『妾は…! 妾は人を虫けらの如く扱い、殺してきた! 今にもお前を捻り潰すやもしれぬ!』

少女『違う、貴女がしたいのはそんな事じゃないでしょ』

女王『…!』

少女『いい子、いい子』

女王『う…うぁぁぁぁ………!』


女王は少女の胸の中で泣いた

自分より幼い少女の胸で泣く事に、何の躊躇いもなかった

人の温もりが、髪を梳く感触が、伝わる鼓動が…全てが愛おしかった
642 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 16:51:06.83 ID:XGt8kEAO


大将『チッ! 千年生きても人の情を捨てきれないか』

大将『…そうだ、あの娘を目の前で惨殺すれば、女王の心に二度と光は差すまい』

大将『名案だろ? なあ』

侍『…ペッ』ドクドク

大将『何だその目は、凡人の癖に』

侍『…』チャキッ

大将『また肉弾戦か? 今度は手加減せんぞ』スッ
643 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 16:54:42.99 ID:XGt8kEAO
侍『…』ジリッ

大将『…ふ』ニヤリ




侍『…ッ』ダッ



大将『「停止」』カチッ



侍『』

大将『さて、どういたぶってやろうか』
644 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 17:31:05.49 ID:XGt8kEAO
大将『時間停止。女王を実験台にして完成させた時の大魔術…』

大将『この術さえあれば俺は誰にも負けない!』



それはどうかな?



大将『なに!?』

ザクッ

大将『ぐァッ!? 痛ぇ!!』ブシャァッ
645 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 17:46:01.76 ID:XGt8kEAO
侍『時は決して止まらぬ。例え神が望もうともな』ピッ

大将『なっ!? 何故時間停止中動ける!?』

大将の集中力が切れ、再び時間が動き出した

脇腹を切られた大将が、怯えた表情でうずくまる

侍『言っただろ、止まってなどおらぬと。限りなく停止に近くとも、時は流れておったのだ』

大将『ばっ! 馬鹿なッ!! そんな馬鹿なァ!!』

大将は認めなかった

女王の時間は確かに止まっていたし、街の人々も歳をとらなかった

だが、もしもほんの僅かずつでも時間が進んでいたとしたら…?

カラーンッ

侍『では試してみよ。我が太刀が止まるか否か…!』スッ

大将『ひッ!?』
646 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/23(火) 18:06:05.94 ID:XGt8kEAO
侍は刀を頭上に構えていた

諸手で柄を握り、天に刀を掲げる

振り下ろせば大将は真っ二つに―斬れる



大将『てっ「停止」!!』



侍は「居合」を常としている

鞘から素早く抜き、斬り、そして収める神速の剣である

威力は諸手に劣るが、太刀の速さと正確な角度からの斬りつけによりそれを補っている

その侍が今諸手に構えた



ズドンッッ



大将『―ァッ…かはァァ』ブシャァァッ

侍『駆け出した時は止まらぬ』
647 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 18:29:42.77 ID:vnuCaQDO
ktkr
648 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 20:49:18.35 ID:sPR7ntYo
この厨二臭さがたまらないぜ
649 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 23:20:38.78 ID:WIZvxdIo
侍イカシテル‼
作者の前作が知りたい。ヒントだけでもおくれ
650 :1 [sage saga]:2010/11/24(水) 01:01:55.35 ID:PusjByg0
>>649

オリジナルで完結したのは2つだけです
ギャグともシリアスともつかないものですが暇つぶしにでも

処女作、幼女もの
http://blog.livedoor.jp/minnanohimatubushi/archives/1131895.html

短編、兄妹もの
http://blog.livedoor.jp/date_o/archives/51045541.html

禁書

サテンサン
http://2syokan.blog.shinobi.jp/Entry/318/

インなんとか
http://asagikk.blog113.fc2.com/blog-entry-694.html

ビリビリ
http://asagikk.blog113.fc2.com/blog-entry-623.html

北斗の拳
1 http://waranote.livedoor.biz/archives/1256732.html
2 http://tekitouvip.blog107.fc2.com/blog-entry-458.html
3 http://asagikk.blog113.fc2.com/blog-entry-4492.html
651 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 12:37:12.34 ID:.ql1I5Yo
乙!さっそく見て堪能してくる
652 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 18:58:54.11 ID:7uBL9pE0
最初の卵の人だったんだ!!
653 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/24(水) 23:12:29.80 ID:AKGP5wAO
>>652
最初の卵の人って事は類似スレあるんですか?
654 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/25(木) 09:27:08.22 ID:G.4mgQSO
卵はフシギセカイでたのしかた
仮面はクソワロタwwwwww
655 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 15:55:43.65 ID:bX85Qago
世紀末もあなただったのかwww
大いに楽しませてもらったよwwww
656 :本編は28日あたりから再開します [sage saga]:2010/11/25(木) 17:20:47.80 ID:Y0ZSLUAO
>>654
卵のラストは読んでる人達に文からイメージを膨らませて欲しい、というワガママで説明を大幅に省略しました
このスレもそういう傾向が強いかも
書き手としての未熟さからの甘えかなぁ…

仮面は実を言うと別バージョンがありました
ライダー三兄妹という設定でしたが寝落ちして残念な結果に…
個人的に大好きなジャンルなのでまた書きたいなぁ
657 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/25(木) 17:25:05.56 ID:Y0ZSLUAO
>>655
読み返すと3作とも微妙に統一性ないですねorz
北斗キャラが好きすぎて死なせるのは忍びない!って事で書いてるんですが、何故かトキばかり死なせる展開に…
恨みは全くありません。むしろ愛してます

年末にでもまた書きたいなぁ
658 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/25(木) 19:07:10.88 ID:G.4mgQSO
28日か

このスレはまた違うふいんき(なぜかry)で好きだ

どう終わらせるかも興味あるが、今はひたすら少女と侍の旅がみたい
中二心をくすぐられるね
659 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 12:34:22.14 ID:BdUOK7Mo
私も侍と少女の旅をずっと見ていたい
作者の想像を促すシンプルなした書き方と侍の無口だが力強い言葉に惹かれる

前作リンク感謝
卵も感慨深かった
仮面と北斗は腹痛い
ありがとう
660 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/03(金) 18:38:14.92 ID:8GbOMkAO
28日とか言って放置してすいませんでした!
申し訳ありませんがもうしばらくお待ち下さい
VIPに立てた即興スレ消化したら再開します…
661 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 20:00:45.24 ID:HgTZeMEo
>>660
それのすれどのすれ?
662 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/03(金) 20:18:33.16 ID:8GbOMkAO
>>661
お恥ずかしながら

http://speedo.ula.cc/test/r.so/raicho.2ch.net/news4vip/1291128059/l10?guid=ON
663 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 22:48:40.85 ID:HgTZeMEo
>>662
ありがとう
読んでくる
664 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/04(土) 23:30:36.50 ID:Mqqmt2AO
女王『あ…』パァァ

少女『体が光って…』

女王『そうか…誰ぞが妾の呪いを解いてくれたのか』

少女『それってつまり…』

女王『止まっていた時間が一気に流れ、妾の体は消滅する』

少女『そんな…!』

女王『そのような顔をするな。この死は妾の悲願なのだ』

少女『…』グスッ




女王『…しかし、いざ時が来ると…グスッ、何と別れ難きことかっ』ポロポロ
665 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/04(土) 23:46:22.87 ID:Mqqmt2AO
女王『妾はずっと不死を嘆いてきた。何故妾ばかりが苦しむのか、と』

女王『だが、この期に及んでようやっと分かった気がする。妾はお前達に会う為にここでずっと待っていたのだと』

少女『女王様…』

女王『……手を離しておくれ』



女王『お前達はこれから大きな運命の流れに巻き込まれてゆくであろう。それは時に多くの人間の運命を左右する決断を迫るやも知れぬ』

女王『だが、決して選択を他人に委ねてはならん。敢然として己が手に取るのだ』

女王『…頑張りなさい』スゥ

少女『女王様!』
666 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/04(土) 23:50:50.02 ID:Mqqmt2AO
女王『あ…父上、母上………』ポロポロ

少女『女王様ー!』


―アリガトウ、お嬢ちゃん

お嬢ちゃんに良き巡りあれ――


少女『女王様…お幸せに……』グシッ






侍「…」ギュゥッ
667 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 00:00:06.82 ID:qVAo2jAo
久々にktkr
668 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 00:07:18.20 ID:1f7shRko
まったくもってwktk
669 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/05(日) 00:08:53.78 ID:UixtiEAO
―地理学者と歴史学者、それに一部の魔術師は頭を抱えた

地図にも年表にも載っていない国が突然現れた

大平原のど真ん中、幾つかの国境が交わる場所に都は姿を現した

各国の学者は、この発見を国民に、有識者に、あるいは国王に知らせた

しかし彼らは「はて?」と首を傾げる

そして決まって

「あの国は昔からあっただろう」

と言う

学者と魔術師は頭を抱えた
670 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/05(日) 00:22:53.79 ID:UixtiEAO
=出会いと別れの国 燈春=

西の大陸有数の自由商業都市として名を馳せているこの国には、多くの謎がある

何故、新通貨の導入が一番遅かったのか?

何故、暦の普及率が低いのか?

何故、墓地が狭いのか?

何故、武闘大会を年中開催しているのか?

些細な問題かも知れないが、これらの答えを知っている者は一人もいない…


そして、燈春最大の謎

「国王はどこにいるのか?」

を教えてくれる者も―
671 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/05(日) 00:28:08.86 ID:UixtiEAO
少女『これでこの国ともお別れだね』

侍『…』

少女『…』


ギュッ


侍『!』

少女『いっしょだよ』

侍『…』フッ



『おーい!』

少女『あ!』

地獄の遣い『黒髪! 今度戦う時は俺が勝つからなァ!! それまで死ぬなよ!』

侍『…』スッ

地獄の遣い『嬢ちゃんも達者でなぁ!!』

少女『仮面さんも! 幸あれ!』
672 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/05(日) 00:49:44.11 ID:UixtiEAO
少女『村を目の前にして金貨一枚に銀貨二枚。フフ、今回は余裕だったね!』

旅を続ける内に、少女は知恵を付けた

保存の利く物を買い溜めても、栄養に偏りが出てかえって力が出ないこと

水はあまり買わず、水場を進路に組み込むこと

そして方位磁針という便利な物があるということ

少女『完璧だわ! 順調すぎて怖いくらい!』

侍『…』フッ

少々興奮気味の少女を見守る侍も、彼女と同じく喜びを感じていた

それは少女の成長

見聞き感じ、試行錯誤し、計画、行動…そして反省するの繰り返しから確実に経験を積んでいる事だった
673 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/05(日) 00:57:12.82 ID:UixtiEAO


少女『ごめんください』



少女『あのー、すみませーん』



少女『留守かな?』


宿屋に到着し、早速手続きをしようと人を呼ぶが出てこない

次で駄目なら出直そうと決め、一番大きな声を出す

少女『すいま』

店主『すいません! お待たせしました』
少女『っ どうも』
674 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/05(日) 01:39:57.89 ID:UixtiEAO
店主『ご宿泊ですか?』

少女『はい、二名で』

店主『畏まりました。ではお部屋に…』

少女『あ、お昼食べてないから、できれば早めに晩ごはん取りたいんですけど』

店主『わかりました。準備致します』




店主『こんな物しか出せなくて申し訳ありません…』

少女『いえ』

少女達の目の前には小さなパンと煮豆のスープが並んでいる

侍と少女は手を合わせると、質素な夕飯に手をつけた
675 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/05(日) 01:48:34.37 ID:UixtiEAO
少女達は薄々感づいていた

この宿屋には調度品の類が見られない

それだけでなく、客室にはベッドの他は燭台しか無く、絨毯も無い

清掃は行き届いているものの、これでは旅客は寄り付かない

それは店主も重々承知だろう

承知の上で切り捨てたのだ

何らかの理由で金が必要になり、順番に処分していったが足りず、遂に食事代にまで影響したのだろう
676 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/05(日) 01:58:33.40 ID:UixtiEAO
少女『…スッ』

塩味が豆の味を引き立てている旨いスープだ

店主が何とか客をもてなそうと、精一杯努力したのが感じられた

少女『…』

店主『…宜しければこれもどうぞ』

少女『あ、はい』

そう言って山菜の炒め物を勧める店主

少女『…! これ、ご主人の分じゃ!』

店主『いえ! 私にはちゃんと別に…』

店主『…』

少女『…何があったんですか?』
677 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/05(日) 02:07:30.36 ID:UixtiEAO
=御下の村=

村には神が居た

あらゆる災厄から人々を守る、いわゆる守護神だった

人々は感謝し、心から崇め奉った

神もまた人々を愛でよく働いた



そんな村にも戦争の火が回ってきた
678 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/05(日) 02:14:33.39 ID:UixtiEAO
神に護られた村に、軍隊は攻めて来れなかった

しかし、徴兵令から村人を護る事はできなかった

戦争は長引き、男達は次々戦場へと発っていった

ふと、残された者の一人が言った

「神が敵を滅ぼしてくれればいいのに」

もう止まらなかった

堰を切ったように神への的外れな不満が溢れ、村中渦巻いた
679 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/06(月) 02:58:26.01 ID:C/hld.AO
神は嘆いた

なんと身勝手な奴らなのかと嘆いた

今までこんな奴らを護ってきたのかと嘆いた

そして、失望しても村人を護るしかない己を嘆いた


神の嘆きが昼夜を問わず響き渡り、村人達はようやく間違いに気付いた

しかし気付くのが少し遅かった

神の心は村人から離れ、それまで要求した事もなかった供物を求めた


村人は要求に応えた

村の安全の為ではなく、本当に申し訳ないと思っていたから―
680 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/06(月) 03:16:43.62 ID:C/hld.AO


少女『はぁ…』

村の貧しい理由を聞いた少女は、ため息をついた

予想の斜め上を行く理由に、少女は案を練っては破棄しを繰り返していた

今度の問題は倒した何だの問題じゃない

神と村人を仲直りさせるのが目的だ

少女『どうしたらいいんだろ…』
681 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/06(月) 03:37:28.61 ID:C/hld.AO
侍『…』

村の様子を見た侍は心でため息をついた

その原因は少女の事であった

先程からため息ばかりついている彼女は、また何か壁に直面しているのだろう

その壁が何なのか、言葉が通じないが為にわからない

力になりたくとも叶わない歯がゆさ故にため息をついた


侍『…』

侍はまた心でため息をついた

その原因は村人の事であった

老若男女、身分問わず、最低限の生活をしている人々

災害でも起きれば一飲みにされてしまうであろう、儚い存在

侍は彼らに昔の自分を、戦時中の祖国を、あるいは出会った頃の少女を重ねていた

そしてフツフツと、哀しみと怒りが湧いてくるのを感じていた
682 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 08:17:29.26 ID:hPMnuOwo
キタキタキター
作者乙です
683 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/06(月) 11:19:45.96 ID:C/hld.AO
やがて村の出口に男が数名集まった

それぞれ籠を背負い、手には杖を持っている

少女『山登りですか?』

男『ああ、守り神様に月のお供えを…ね』

男はそう言って籠の中を見せた

村の貧困具合に不釣り合いな織物が3本程入っていた

他の男達の籠にも祝いの席にしか出ないような食材、酒等が入っていた

少女『これを毎月ですか!?』

男『ああ、これは我々の償いだからね…』
684 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/06(月) 11:29:24.50 ID:C/hld.AO
少女『…償い?』

少女はその言葉を耳にした瞬間、体中の血液が燃えるのを感じた

そして感じるより先に男達に食って掛かっていた

少女『償いって何よ! 本当に許して欲しいんなら一生懸命謝るのよ! こんな物で機嫌を取ろうなんて、馬鹿にしてるの!?』

怒った

怒りで体が震えた

怒りで涙が出てきた

怒りに身を任せた悔しさで拳を握り締めた
685 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/06(月) 11:36:02.86 ID:C/hld.AO
少女の怒りに気圧された男は、胸倉を掴まれているにも関わらず身動きが取れなかった

他の男達も少女の言葉が胸に渦巻き、ただただうなだれるだけだった

少女『…っ』グシッ

少女『…乱暴してごめんなさい』

男『いや…』



侍『…』

侍は始終を見守った

無論、言葉の不自由から見に回った部分もある

が、それでも事の善し悪しは判別できるつもりである

侍は始終を見守った

少女が何に対して怒り、涙したのか知っているからだ
686 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 11:39:03.31 ID:N2/6KoSO
リアルタイムは久しぶりだ
687 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/06(月) 11:49:09.08 ID:C/hld.AO
男『俺、謝りに行くよ…!』

少女『!』

沈黙を破り、一人の男が言った

男『お、俺も!』

少女『みんな…!』

少女は沈黙が破られるまで内心後悔していた

怒りにまかせた物言いでは、事態は好転しないと思ったからだ

しかし心は通じた

侍『…』ポン

少女『お兄さん…』

侍『…―』コク
688 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/06(月) 11:57:32.81 ID:C/hld.AO
少女『待って』

男『え?』

少女『仲直りするには、まだ足りないことがあるわ』

男『足りないこと?』

少女『謝罪を受け入れる側の態度よ』

男『いや、それは…』

少女『神さまだって本当は仲直りしたい筈。だったらお互い素直にならなきゃ』

男『でも…』

少女『大丈夫! 私達がちゃんと神さま連れて来ますから!』

少し目元が赤くなった少女は、男達に笑いかけた

その笑顔を見た男達は、不思議と少女を信じたくなった
689 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/06(月) 12:02:55.78 ID:C/hld.AO
女『何を騒いでたんだい?』

少女と侍が山に向かって暫く、少女とのやり取りを遠目に見ていた村人が集まってきた

老人『そろそろ供物を持って行く時間じゃろ』

男『…』



男『なぁ、お供えは止めようや…』

女『は!?』

老人『馬鹿言うでない! これは我々の謝罪の徴…』

男『こんなの持って行っても失礼なだけだろ』

婆『どういうことじゃ…?』
690 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/06(月) 12:08:30.40 ID:C/hld.AO
男『神さまが何にお怒りなのか、もう一度ちゃんと考えてみたんだ』

男『神さまは…きっと俺達にちゃんと謝ってほしかったんだ』

男『それをお供えなんかでごまかして…』

女『…』

老人『…』

婆『…なる程』


男『…あの旅の方々が神さまと話をつけて、連れてきてくれるらしい』

女『はぁ!?』

男『気持ちは分かる、でもあの方々は…俺達に出来ない事をしてくれる気がするんだ』
691 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 19:52:04.22 ID:iL.w.360
挿絵が欲しいな
漫画なら最高
692 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 19:57:40.32 ID:cCfrDgso
いや、切り絵か影絵だろ
693 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 20:04:17.94 ID:5C6j4Voo
そこまで高尚なものでもねーよww
漫画絵が合ってる
694 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 20:39:52.19 ID:iL.w.360
>>692>>693
たまーに入る御伽噺的描写は影絵もいいと思った
でも書き方が漫画のカット事っぽいから漫画になると面白いかな
695 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 20:47:58.56 ID:N4Hl1VYo
なんだろうキノ思い出した
696 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/10(金) 07:42:28.01 ID:Es/70sAO


少女『すみませーん』


少女『…あれ? 居ないのかな』

村を出て半日、二人は守り神の居るという祠に着いた

少女は勢いをそのままに、勇み足で祠に入った

が、神は出てこない


少女『留守…って事はあるのかな』
697 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/10(金) 07:50:39.62 ID:Es/70sAO
少女『待つしかないのかな…って、お兄さん?』

侍『…』

少女が祠から出ると侍が正座をしていた

背筋を伸ばし、顎を引いた姿は何か神々しい雰囲気を纏っていた

少女『…』

少女は一瞬見とれた

ただ座っているだけだというのに、人を惹きつけるその姿は、清浄な白とも鮮やかな虹ともつかない魅力……透き通る「無」であった

698 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/10(金) 08:00:01.49 ID:Es/70sAO
侍の意図はわからない

わからないが、少女は侍に倣い正座をした

それは「お兄さんがやる事だから正しい」という短絡的な考えではなく、心から「そうするべきだ」と思った、感じたから起こした行動だった



二人並んで祠の前に座る

目は閉じ、心を静める


少女は不思議な感覚を覚えた

目を閉じているにも関わらず、周囲の…揺れ動く草木の様子や、山頂から見下ろしたような鮮明な麓の景色が浮かんできた
699 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/10(金) 08:07:04.04 ID:Es/70sAO
しかし、少女はそれに驚いたりはしなかった

自分に流れ込む感覚を自然に受け入れ、手放す

少女もまた無となっていた


無の中で少女は感じた

侍の呼吸と心音…「そこに在る」侍という人を

侍「…」

少女「…」



二人の二拝二拍が寸分違わず重なった
700 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/10(金) 08:24:10.40 ID:Es/70sAO
ザワ…

少女『!』

空気が変わった

祠の敷地だけが世界か切り取られたような感覚

それは―かつて神樹を目の前にした時に感じたものに似ていた


少女『…神さま、そこに居るんですか?』

返事はない


少女『話があります。聞いて下さい』
701 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 08:37:41.40 ID:QAeNFUEo
待ってたぜ
702 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 08:51:13.47 ID:Es/70sAO
期間が開きがちですみません、1です

長々となってしまった武闘大会編も無事終えれてほっとしてます
謎掛けみたいなのやってみたかったんで挑戦したんですが…微妙ですかね?

やっと侍に刀を持たせれたので、とりあえず目標クリアです


スレもようやっと700まで来たので、この調子で1000、次スレへいけるよう頑張ります
703 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 09:23:57.40 ID:bRXvFm.o
超がんばれ、終わりまでずっと見るよ!
704 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/10(金) 16:32:55.46 ID:Es/70sAO
>>703
かなり長々続けるつもりですがご愛読頂ければ幸いです
マンネリ化しないよう奮励努力しますので是非ともお付き合い下さい


又、物語の品質向上の為、皆様の忌憚ない意見、ダメ出しを大歓迎しております
言い回し等についても指摘があれば、都度ご指摘下さい
705 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/10(金) 16:44:30.66 ID:Es/70sAO
少女『村のみんなが神さまに謝りたいって言ってます。一緒に来てくれませんか?』
返事はない

枝葉がサワサワと揺れただけ―

少女『神さまだって同じ気持ちの筈です。仲直りしたいんですよね?』

返事はない

祠の屋根に止まっていた鳥が飛び立っただけ―

少女『村のみんなも臆病になってただけなんです。嫌われたくない…面と向かうのが怖い…それだけなんです』

返事はない

向かい風が少し勢いを増しただけ―
706 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/10(金) 17:01:15.58 ID:Es/70sAO
少女『…』

返事はない

周辺の木々の葉が一気に散っただけ―

少女『…いつまでいじけているんですか』

少女『傷付いたからって、他人に迷惑かけていいとでも思ってるんですか』

返事はない

ない…が、一陣の風が少女を襲った


―チャキン


突風が少女を吹き飛ばす事はなかった

侍「…この娘には指一本触れさせぬ」ザッ

風を斬る刃に阻まれたからだ


相変わらず返事はない

代わりに天は荒れ、地が揺れた―
707 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/10(金) 17:50:48.96 ID:Es/70sAO
一瞬にして景色が変わった

祠は風が吹き荒れ、雷が轟き、大地が揺れ動く魔境と化した


雨が ―侍だけの― 体を打った

一滴たりとも雨を浴びていない


侍は少女を庇うように、少女の前に立ち構えた

そしてそこから一歩も動いていない


侍は神を説得しない

事情を完璧に把握してないという事もあるが、「自分の為すべき事」がそれでない
というのが一番の理由であった

雨に打たれる侍

少女の進む道を開く事が彼の為すべき事だった
708 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/10(金) 19:25:08.15 ID:Es/70sAO
少女『お兄さん…』

侍『―』

雨を斬り、風を斬る侍は、その手を休める事なく小さく―しかし確かに呟いた

何と言ったのか、少女には分からない

分からないが、少女に心配するな、と

自分を信じて進め、と言っている気がした


少女『…うん』
709 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 22:03:27.15 ID:V97/Tuso
>>702
前作群もなかなかだが侍は更に一味も二味も素敵だ。この空気を纏った作品に出会えたことが素晴らしく、待つのはつらくない。
だからしっかり悩んで試行錯誤してほしい。マイペースで長々続けてくれ。いや、ください。
710 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/10(金) 22:07:59.33 ID:Es/70sAO
>>709
ありがとうございます!
誠心誠意頑張ります
711 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 02:28:09.39 ID:nmrAxOAo
まってたよ!
モヤモヤが残る完結は嫌だしじっくり続けてくれ
712 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/11(土) 11:40:08.18 ID:RfCDa.AO
>>711
そう言っていただけると助かります
まだ終わりが浮かばないんで、暫く二人には旅を続けてもらおうと思ってます
713 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 19:24:04.61 ID:kG42d7k0
ダメだしが出ないってのもすげぇなwwww
714 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/12(日) 12:46:29.28 ID:2bNwtEAO
>>707
訂正です

× 一滴たりとも…
○ 少女は一滴たりとも…

忘年会が終わったので、今日からまた少しずつ書きます
715 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/13(月) 14:48:55.03 ID:TGiwSZMo
今日も支援
楽しみすぐる
716 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/13(月) 21:23:43.28 ID:JgnXpoAO
少女は訴えた

少女『神さま! 私の声が聞こえますか!』

姿無き「救われるべき人」に向かって

少女『聞こえたなら村のみんなの声を聞いて下さい!』

自分の声すら聞こえなかったが

少女『貴方にはそれができる耳がある筈です!』

その声は暴風と雷雨を切り裂いた

少女『絶対に仲直りできます!』

その人は―或いは未来の自分だったのかもしれない

少女『だって』

ピカッ――――


――――――ドォォオオンッッ
717 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 21:26:00.53 ID:DsNWmwDO
ktkr
718 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/13(月) 21:42:08.81 ID:JgnXpoAO
大気を貫き、雷が少女達を襲った


それは光―

それは瞬き―

―或いは死


雷の舐めた跡には例外なく死の臭いしか残らず



侍「…包む事―繭の如し」シュウウウ


万物の理が覆るのはこれが初めてであった
719 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/13(月) 21:54:49.88 ID:JgnXpoAO
雷を受け止めた侍は刀を収めた

相変わらずの雨に二人ともずぶ濡れになった

やがて


―私は、独りではないのか


と、「聞こえた」


雷に掻き消される事無く、少女の声は届いた


『だって貴方は独りじゃないんだから』


雨が上がった
720 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/13(月) 22:13:14.06 ID:JgnXpoAO
―そんなある日、村に旅人が訪れた


一人は羽根の首飾りに、白い髪飾りの少女

もう一人は黒髪黒眼の異国の剣士


二人は村の宿に泊まったが、村が貧窮している為、禄に食事も出せなかった


少女の旅人は事情を聞くと、顔を真っ赤にし、涙を流しながら村人を叱った

「本当に許して欲しいのなら一生懸命謝れ」

村人は己の行いが恥ずかしくなった

そして少女の言う通りに、身を粉にして謝ろうと思った
721 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/13(月) 22:23:38.56 ID:JgnXpoAO
また少女は言った

「神さまを連れてくる」

村人は狼狽した

姿形の無い神を、少女は連れてくると言う

なんと罰当たりな事か

なんと怖いもの知らずな事か

なんと…強き事か


太陽の様に笑う少女を、村人は信じる事にした
722 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/13(月) 22:45:56.79 ID:JgnXpoAO
旅人が山に入ると大地が揺れ、嵐になった

その凄まじさたるや、世界の終わりを思わせるものであった

しかし、村人は耐えた

皆身を寄せ合い、神が来るのを…そして旅人の帰りを待った


永遠とも思える長い時間が過ぎ、嵐が止んだ

大地の揺れも収まり、空には青が広がった
皆、山に向かい深々と頭を下げた
723 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/13(月) 22:52:20.24 ID:JgnXpoAO
やっと皆が頭を上げると、優しい風が吹いた

「神さまだ!」

若者の一人が言った

神に姿形は無い

だが確かに神は居た

何故なら、その時皆が神の声を聞いていたから





少女『フフ…、良かったね』

侍『―』コク

少女『…っくち!』

侍『―!』クシュンッ
724 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/13(月) 23:01:27.43 ID:JgnXpoAO
村には二つ言い伝えがある

一つは、この村には神がいる事

もう一つは、「あの旅人」が帰ってきたら「ありがとう。そしてお帰りなさい」と出迎える事



「店長、なんでこの部屋はいつも予約が入ってるんですか?」

「ああ、それはね……」
725 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/13(月) 23:21:15.80 ID:JgnXpoAO
神さま編終わりです
風呂入ったら次書きます
726 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 23:35:43.04 ID:Ub8UMC6o

この2人の旅はいつまで続くのか
終わりがあるとするならその時まで見届けなければなるまい
727 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/13(月) 23:51:48.91 ID:JgnXpoAO
=旅路3=

―道とは

永き時を経て動物が、人間が、生きとし生ける者達が踏み締めた足跡である

旅路とは

旅人達が脈々と辿り、拓き、朽ちていった生涯の軌跡である―



侍「んん〜ん〜」バシャバシャ

侍は鼻歌を歌いながら食器を洗っていた

何故食器を洗っているのかというと、路銀が尽きたからである

何故鼻歌を歌っているのかというと、上機嫌だからである

普段なら顔色一つ変えずに仕事に専心する彼が、鼻歌混じりである

そう、侍はかつて無い程上機嫌なのだった
728 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/13(月) 23:59:11.92 ID:JgnXpoAO


少女『はぁー! 今日もよく働いたなぁー!』ググッ

侍『―』モミモミ

少女『あ…えへへ、ありがとお兄さん』

少女『次は私が』


子供『おーい!』


少女『あ!』

女の子『また会ったね!』

少年『一緒に遊ぼうよ!』

少女『…』

侍『…』

トンっ

少女『あっ』トッ

侍『―』コク

少女『…うん! 遊ぼう!』
729 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 00:03:12.89 ID:9/f7zYAO


少女『さて、今日も一日…』

ポンっ

少女『ん?』

侍『―』クイッ


女の子『おーい!』

子供『こっちおいでよー!』


少女『…お兄さん』

侍『――』

少女『うん、今日だけ…甘えさせてもらうね!』



730 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 00:12:08.76 ID:cjUs.fIo
神様編乙
長ったらしい感想は苦手なんで一言でスマします

すごく……いいハナシダー
731 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 00:13:11.56 ID:aEbBNEDO
いつまでだって読みつづけるぜ
732 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 00:25:32.13 ID:9/f7zYAO
侍は嬉しかった

少女が年相応に遊び、笑っている姿を見ると心が温かくなった



あの…少女に救われた日から今日まで、侍は少なからず罪悪感を感じていた

大人であり、男である自分が、力でしか少女を守れないという現実


時に少女だけが働き、太公望になる毎日もあった

そんな状況になるのは、決まって人々が自分を奇異の目で見る時だ

自分の髪が黒い事

自分の目が黒い事

自分が異国人だという事


一人なら気にも留めない事達が、二人になって侍を苦しめた
733 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 00:37:23.98 ID:9/f7zYAO
少女の幸せが侍の願いだった


稀に二人を快く受け入れてくれる人達がいる

仕事を貰い、雨風を凌げる場所を提供してくれて、少女に優しくしてくれる

そんな町村に滞在する度、侍は思った


「ここなら、幸せに暮らせるだろう…」




しかし少女は旅立つ

旅が続く事が不安で……同時に嬉しくもあった
734 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 00:59:54.22 ID:9/f7zYAO


男の子『くぁー!また捕まったー!』

女の子『足早いねー!』

少女『そ、そうかな?』

少年『釣りも虫取りも上手いし、凄いよねー』

少女『フフ…ありがとう』


少女はすっかり街の子供達に溶け込んでいた

元来の賢さと器用さ、そして旅で鍛えた身体能力は、同年代の子供達の中でも一線を画していた


子供『コツとか教えてよー』

少女『コツかぁ…』


ふと、侍の顔が過ぎった

自分の代わりに働いているであろう人の顔が


チクっと胸が痛んだ
735 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 01:13:05.81 ID:9/f7zYAO


侍「…んまい!」モグモグ

侍は上機嫌だった

機嫌の良さを全面に出していた

でないと隣に誰もいない寂しさに気付いてしまいそうで

侍「あむ…んぐんぐ」モグモグ

出来る限りの笑顔で、別段美味くもないパンをがっついた


こんなに不味い食事はいつ以来だろう

侍「…はぁ」

侍は何年振りかに背中を丸めた
736 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 01:24:03.47 ID:9/f7zYAO
侍「さて、午後も仕事を………」

厨房に戻った侍が見たのは食器を洗う少女の姿だった

少女「―! ―――!」ニコ

笑顔で自分を迎える少女

その笑顔を見た時、侍は自分の間違いに気付いた




―ああ、なんだ
       私達は番いなんだ―



737 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 01:37:43.36 ID:ciSvutgo
ば、番い・・・?
738 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 01:42:25.60 ID:9/f7zYAO
流しに並んだ二人が言葉を交わす事はなかった

しかし、確かに通じていた


あなたの幸せがわたしの幸せ

それは好意に見せた独り善がり

幸福の押し付け


何故侍が自分を遊びに出したのか

何故少女が自分に尽くすのか


鑑みれば簡単な事

二人は対、裏表だったのだ
739 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 02:02:08.62 ID:9/f7zYAO
少女もまた、罪悪感を感じていた

常に自分の為に盾となり剣となる侍に、後ろめたさがあった

だから一生懸命働いた

少しでも侍に近付こうと思った

早く大人になれたら…とも思った



でも、それは独り善がり

好意の堂々巡り

裏と表





結局、お互いに好意から逃げていただけ

手を取るのが怖い

一つになるのが怖いのだ
740 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 02:14:13.55 ID:9/f7zYAO
近付きすぎないよう前に出る

前に出るように見せかけて背中を向ける

ぐるぐる、ぐるぐる



いい加減終わりにしよう


私達は二人で幸せになる―







気が付けば洗い物はすっかり終わっていた

少女『あはは…』クスッ

侍『―』フフッ

お互い、顔見合わせ笑った
741 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 02:22:26.51 ID:9/f7zYAO


少女『あーん』モグッ

侍『―』モグモグ

仕事が終わり、二人寄り添いパンを食べる

少女『美味しいね!』ニコ

侍『――』モグモグ


今度のパンは格別に美味しかくて

また――心が温かくなるのを感じた
742 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 02:26:51.86 ID:9/f7zYAO
旅路3終わり
今日はここまでかも

ご愛読、支援ありがとうございました


>>737
番い(つがい)です
小難しくて申し訳ありません
743 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 02:40:30.97 ID:CwNZw9so
乙です

>>737
俺のカフェオレ返せ
744 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 02:45:21.72 ID:OZ4rlWA0
番いってネタでしょwwww
作者乙

このスレも結構盛り上がってきたね
是非完結さしてほしいです
745 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 09:40:04.99 ID:hZpxIsSO
言葉遊びっていうのか、そういうのが上手いな
746 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 12:05:43.15 ID:9/f7zYAO
>>741

美味しかくて → 美味しくて

眠い時に書くとミスが増えるなぁ…
気をつけます
747 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 23:21:33.88 ID:9/f7zYAO
侍「……っはぁ…!」ズリッ

侍は刀を杖代わりに一歩、また一歩と歩みを進めた

侍「頼むから持ってくれよ…!」ザリッ

刀を持つ手は震え、足は身体を支えきれず今にも倒れそうだ

侍「まだ…死ぬ訳には……」グラリ

疲労、空腹、渇き…様々な絶望感で心の灯は風が吹けば消えそうだった

侍「! 見ろ…! 里だ! はは…っ! 人里だぞ!」

少女「……」ゼェゼェ

しかし、背中から感じる少女の…命の重さを確かめる度、侍の灯は何度でも熱く燃え上がった

侍「あと少しだ…どうかこの娘を……」ザッ

侍は大切な人を優しく、かつしっかりと背負い直すと、再び力強く歩き始めた
748 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 23:32:40.70 ID:9/f7zYAO
ガシャンッ

侍「これは…」

思わず刀を落とした

何日も荒野を彷徨い、たどり着いたのは「人里だった」場所

人一人いない廃墟…幽霊街だった


侍「あ―」


ぐらり

視界が暗転

落下



落ちる

落ちる


深く



冷たく






どこまでも―――
749 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 23:42:12.47 ID:9/f7zYAO
―――――



――さ――


お―さん―

お兄さん―


侍「はっ!?」バッ

少女「――!」

目を覚ますと少女の顔があった

何日も食事が取れず、少し痩せてしまったが、とりあえず体調は良さそうだ

侍「良かった…」ナデ

少女「――」ニコ

侍「ここは…」キョロ


見回すと月明かりに蒼く照らされた都があった

夜というのに店は軒並み営業中、大人から子供まで出歩いている

見上げれば銀色の月

その銀と蒼の美しさに、二人は微かな違和感を覚えた
750 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/14(火) 23:50:36.72 ID:9/f7zYAO
―人は、死んだらどこへ逝くんだろう

天国? 地獄?

どこに在るんだい、そんな場所

誰か知ってる人がいたら教えてくれ


「死んだら月の都に行くんだよ」

え? 何、月の都に逝くって?

「そう、逝くじゃなく行く、ね」―
751 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/15(水) 00:26:48.52 ID:Yczl4.AO


少女『ふー! 生き返ったぁ』

侍『…』フッ

数日ぶりの食事に満面の笑みを浮かべる少女

満足げに腹をさする様子に、侍も暫し違和感を忘れていた

少女『お兄さん…大丈夫?』

実のところ、体調に関しては少女の方が衰弱度合いは軽い

それは食料が残り僅かになった時から、侍は水だけ…それも口を湿らす程度取る以外は、少女に与えていたからだ
752 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/15(水) 00:33:43.94 ID:Yczl4.AO
体力と精神力が格段に違うので、結果的に少女が先に倒れたが、そうでもしなければ荒野で共倒れになっていただろう


少女『…ごめ』

侍『――!!』ゲホッ

少女『お兄さん!』

嚥下と嗚咽を繰り返す侍

それは初めてパンを半分こした時みたいで―


少女『…お兄さん、ごめんねは言わないよ』


でも、確かに違った
753 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/15(水) 00:43:27.48 ID:Yczl4.AO
少女は食事の度に食事を半分こしようと思った

「二人の幸せ」

二人で幸せになるなら、侍が食事を抜き、少女に与えるのはお門違いではないか

そう、食事の度に思った

…だが、侍の顔を見る度に、又思ったのだ



―自分の足でお兄さんと歩いていく

それが私の今「為すべき事」―
754 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 08:11:18.15 ID:CKuLOESO
流石の侍も飢えには勝てないか
755 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 08:21:48.33 ID:P.gW6WMo
おっ、キテターーーーー
つづき嬉しいな乙
かみさま編もいいね
れんとうなんて贅沢だ///
756 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 08:27:36.89 ID:EMeKD.M0
>>755
うまいなww
757 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 23:46:20.23 ID:uw2qbaIo
758 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/16(木) 12:39:57.05 ID:LlZ86MAO
いつもご支援ありがとうございます

私情により、18日〜27日まで更新が滞るかもしれません

又、年末は例の北斗スレを書きたいと思ってるのでもしかしたら通常進行は年始からになるかもです


ご理解とご協力の程、よろしくお願いします
759 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 17:46:27.55 ID:P5/kR9Mo
北斗スレ書くならここにリンクはるべし!
760 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 23:10:47.12 ID:oqMi5oAO
>>759
立ち次第告知させてもらいます
多分大晦日から元旦にかけてになると思われます
761 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 23:34:00.00 ID:SVD9Suso
   〃∩ ∧_∧
   ⊂⌒(  ・ω・)    はいはいしえんしえん
     `ヽ_っ⌒/⌒c
        ⌒ ⌒

  ∧_∧
⊂(#・д・)  しえんって言ってんだろ!!
 /   ノ∪
 し―-J |l| |
         人ペシッ!!
       __
       \  \
762 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/21(火) 00:03:08.03 ID:EgwnxEAO


少女『よい…っしょ』ギシッ

侍『……―』

衰弱した侍を寝床に横たえる

食事をした事で消化活動に力を取られているのか、侍は起きていられないようだった

少女『今夜は大丈夫。何も起きない、何も心配することはないよ』

侍の額をそっと撫で、少女は優しく囁く

それは、母が子をあやすようで…

侍『――……―』ググッ


少女『おやすみ』


トサッ

侍は深い眠りに落ちた
763 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/21(火) 00:17:19.24 ID:EgwnxEAO
少女『さて』

月明かりの差す窓から街を見渡す

蒼く照らされた街では人が行き交い、昼間と何ら変わらない賑わいだ

少女『みんないつ寝てるんだろ…』

子供もが駆け回る街の様子を見て、少女はため息を一つ吐いた

少女『……』

振り返ると侍が寝息を立てている

少女が、安らかに眠る彼の姿を見るのはだいぶ久しぶりの事だった

これは、侍が野営にしろ宿泊にしろ眠る時は周囲を警戒しつつの仮眠に留めている事に起因する

…寝顔をずっと見ていたい気もあった


が、少女は侍の布団をかけ直すと、音を立てないように部屋を後にした
764 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 00:21:08.59 ID:iwEwOADO
ktkr
765 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 00:27:32.06 ID:/dgGJGko
来てたのか
766 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/21(火) 00:31:01.47 ID:EgwnxEAO


蒼い光に包まれた街を歩く

街は賑わっているというのに、妙な静けさがあるから不思議だ

少女『夜の世界って黒じゃないんだ…』

少女はこの街に来るまで、夜は黒、闇の世界だと思っていた

いつか体験した闇…漆黒の海こそ夜だ、と


しかし、街は淡く蒼く彩られていた

神秘的に、幻想的に


少女は、それが夢の話のように思えて……少し裾で手の平を拭った
767 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/21(火) 00:42:44.10 ID:EgwnxEAO
おじさん『へぇ! 旅の子か! 小さいのに凄いねぇ!』

ふとっちょ『何にもない街だけどゆっくりしてってよ!』

街の人と話をしてみたが、いたって普通

ちょっとした我が街自慢をする者もいれば、旅路の話を求める者もいる

さっきみたいに少女に興味を抱く人、褒める人もままいる

普通、何の変哲もない普通の街、人…



少女はそれがひっかかった

ひっかかった…が、その違和感の尻尾を掴めずにいた


見上げれば銀色の月

少女を嘲笑うかのように欠けた三日月だった
768 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/21(火) 00:52:11.13 ID:EgwnxEAO
ちょっと書けないストレスが爆発しそうだったのでガス抜きですw
別の事してる時の方がアイディアが湧くんで

おやすみなさい
769 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 00:56:58.15 ID:JU6WWvUo
またなー
770 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/21(火) 07:53:40.51 ID:dve0Dawo
少しでも、気晴らしでもいい
読めたら嬉しい
これ本音
771 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/21(火) 23:49:28.41 ID:EgwnxEAO


少女『―は?』

目覚めると雲一つ無い快晴だった

昨晩の蒼い街並みも幻想的だったが、今日の青空もなかなかに壮観だ


ところで、少女が何故疑問符を使ったかというと、

少女『え、屋根は? 宿屋は? …街はどこへいったの?』

そう、ベッドと今にも崩れそうな建屋を残し、街が消えたからだ
772 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/22(水) 00:06:44.79 ID:gbAWyIAO
少女『一体どうなってるの…』

廃墟となった建物の並ぶ街並みを歩く

壁に残された傷跡は、人が離れて廃れたというより、天災やそれに準ずるものの被害によるものに見えた

少女『まるで私の故郷みたい…』

焼け跡の残る煉瓦に手を滑らせる

手が炭で黒くなった

今度は煉瓦をしっかり掴み、一杯の力を込める

と、煉瓦はボロッと砕けた


少女『……』
773 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/22(水) 00:15:36.27 ID:gbAWyIAO
少女『あれは…』

幽霊街に一際目立つ建物があった

何故目立つかというと、宿屋を除くと唯一形を留めた建物だったからだ


少女『…すいませーん……』ギシッ

埃だらけで人気の無い建物に踏み入る

ギシ…ッ  ギシ…ッ

一歩毎に床が軋む

その音が、人が居なくなって長い事を少女に告げた
774 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/22(水) 00:25:38.28 ID:gbAWyIAO


少女『二階も何もない…』

朽ちた家具はちらほら見られるが、人が住んでいる形跡、食料、それに使えそうな物は何もなかった

少女『でも不思議だな…、ここだけ建物として残ってる』

崩れた壁や基礎だけになった建物が並ぶ幽霊街で、健在はむしろ異様だった

少女に言いようのない不安が生まれ始めていた

何か――助けを求められているようで



少女『…あっ』

ふと天井を見上げると引っ掛けのような物が出ていた

少女『…屋根裏、かな』
775 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/22(水) 00:51:13.75 ID:gbAWyIAO
ギィィ…

少女『………』ソーッ

そっと覗いた屋根裏部屋はガランとしていて、下の階と大差なかった

なんだ、と改めて屋根裏に登った少女は静止した



生命を象徴する黄

成長を象徴する橙

未来を象徴する藍

熱情を象徴する朱

終わり、そして始まりの黒…


様々な色を擁した一枚の絵画

そこには鮮やかな朝焼けが描かれていた
776 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 06:41:53.20 ID:uOzaiVco
乙!
777 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 07:29:22.87 ID:cWw/OQoo
カコイイktkr!
778 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/22(水) 20:16:13.01 ID:gbAWyIAO
息を飲んだ

少女は芸術に通じてなかったが、素人目に見てもこの「太陽」は傑作、…それ以上だった

世の中には希望を太陽に喩える言い回しが幾つもある

そして、幽霊街にそっと飾られた「太陽」は正に「希望」で―


少女『熱ッ』


じっと見ていたら瞳を焼かれた
779 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 20:44:51.27 ID:uOzaiVco
少女「目がぁ!目がぁーー!」
780 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 21:09:02.92 ID:E0rFKXYo
>>779
だれかやると思ったよ
781 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/22(水) 21:55:04.25 ID:gbAWyIAO
少女『熱い…! 痛い!痛い!』

痛みで目が開かない、開けない

強く強く瞑った目の奥には、まだ太陽が燃えていた

少女『熱い!熱いよ!痛い!あああああッ!!』

瞳から視神経、脳へと火傷は広がる

少女『誰か…ッ! ああッ! 見えない! 熱いいぃ!!』

助けを求めて歩き出そうとしたが、少女の視界は太陽の眩しさで掻き消されていた
782 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 22:01:29.53 ID:uOzaiVco
不謹慎だった
本当にすまないと思っている

侍はいずこへ?
783 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/22(水) 22:03:37.21 ID:gbAWyIAO
少女『熱い! 痛い痛い痛い痛い!! あああああああ!!』

いよいよ火傷は酷くなり、ぐりぐりと、少女は自らの眼球を抉り始めてた

少女『誰か…』


殺して―


そう言いかけて、少女は空の声を吐いた

それだけは言えない

死んでも言えない


少女『う…ううう…ッ』ズリッ

少女は真っ白で何も見えないまま、手探りで道を戻り始めた
784 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/22(水) 22:05:46.79 ID:gbAWyIAO
>>782
全然おっけーです


本編はコメディ描写しない方向でいくんで、皆様がパロったりしてくれると私自身楽しいです
785 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/22(水) 22:15:48.49 ID:gbAWyIAO
少女『ぁあ……あづいよぉぉ』ペタッ

目端に熱い物が溢れた

そうして、瞳が焼けても涙は分かるんだな―と妙に冷静な自分がいるのも感じた


はぁ… はぁ…  ドクン ドクン

自分の吐息と、血が流れる音

そしてキーンという耳なり


少女は、「狂って楽になろう」という弱い自分を必死に押し込め、少しずつ前へ進む

脳裏は煉獄、焦げ臭さが漂っている

少女の火傷は既に舌先まで麻痺させていた
786 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/22(水) 22:22:39.45 ID:gbAWyIAO
少女『…………ぁ?』

少女は最後の理性で思った

階段はどこ、と

屋根裏部屋はこんなに広かったっけ、と


そもそも、起きたら突然廃墟になるような街に常識が通用するか、と


少女『―ッ』

喉元まで狂気が出掛かった

発していたら、二度と心の傷は消えなかっただろう

だが、間に合った


ヒタッ


少女『……あ』
787 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/22(水) 22:35:09.92 ID:gbAWyIAO
少女の瞼を冷たい物が覆った

少女はその冷たい物が離れぬよう、手でぎゅっと押し付けた

熱が奪われる

火傷が癒える



少女は闇の恐ろしさを知っていた

恐ろしさを知っていただけに、光の、太陽の素晴らしさを色眼鏡で見ていた部分があったかも知れない

光も又、過ぎれば全てを奪うのだ



やっと少女に視力が戻った頃、辺りはすっかり夜になっていた
788 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/22(水) 22:48:07.96 ID:gbAWyIAO
……

少女『はい、お兄さん』

侍『―』ペコ

宿に戻ると、少女は侍に食事を持ってきた

少女が部屋に入るとほぼ同時に侍は目を覚ました

侍の大分顔色は良くなり、いつもの柔らかい笑みを浮かべ、…グゥと腹が鳴った

いつになく緊張感の無い侍に、少女は安心したのだった
789 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/22(水) 23:09:44.70 ID:gbAWyIAO
食事を終えた侍は再び眠りに就いた

凛として、常に気を張っているように見えるが、実の侍はなかなかに暢気である


以前釣りをした時も、食う分を釣り上げた途端、昼寝を始めた事があった

それに加え、どんな悪環境でも休むと決めたら休む

牢屋だろうが墓場だろうが、横になれればお構いなしに寝た


緩急、というか、静動、というか


少女『…かわいいなあ』

少女はそんな彼が好きだった
790 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/22(水) 23:17:52.32 ID:gbAWyIAO
少女『さってと…』

侍の寝顔から食器に目を移し、少女は椅子から腰を上げる

宿の主人に食器を返しに行かねばならない

夜になったら再び現れた街はかなり不気味だが、謎が解けぬ以上は「郷に従う」他ない

少女『…夜しか現れない街、か』

魔術の類か、それとも化かされているのか…

考えが再び堂々巡りを始める

少女『月…綺麗だなぁ』


見上げれば銀色の月


少女『……………え、あ!?』

下半分の半月は物欲しそうな口の様だった
791 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 00:15:02.81 ID:.5hMS/Ao
相変わらず面白いな
792 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/23(木) 00:25:41.88 ID:6f/B6AAO
少女の知る月という物は、一晩で三日月から半月になる事はない

なら、あれは何?

ようやく見つけたこの街の謎を解く手がかり「らしき物」を、少女はじっと見上げた

よくよく見ると半月より少し満月寄り…にも見える

いや、やはり半月よりやや満月に近い



…ちょっと待って、あれが私の目の錯覚でなければ

少女『月が…動いてる!』
793 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/23(木) 00:45:42.30 ID:6f/B6AAO
ほんの少しずつだが、月は満月に近付いている

それが何を意味するのか、少女にはわからない


ただ…胸騒ぎがした


あの月が満ちる前にやらなければいけない事がある気がして…



少女『おじさん、食事ありがとう』カチャッ

主人『兄ちゃんはおいしかったって?』

少女『うん』

主人『そりゃ良かった!』

少女は主人に食器を返すと、何でもいいから情報を聞き出そうと思った

夜しか現れない事、月の事、…どう尋ねればいいものか少女は迷った


と、少女は壁に飾られた絵を見つける

それは山々の間から見る朝日の絵だった
794 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/23(木) 00:50:03.42 ID:6f/B6AAO
少女『この絵は…?』

主人『それが日の入りに見えるかい?』カチャカチャ

洗い物をしながら主人が応える

少女『いえ…、日の出に見えます』

主人『そ、朝日の絵だ』ジャバジャバ

少女『この街の人は、太陽が好きなんですね』

カチャ…

主人の手が止まる

主人『ああ、大好きさ』

そう言うと主人は洗い物を再開した
795 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/23(木) 01:03:21.16 ID:6f/B6AAO
満月に程近くなった月に照らされ走る

『この街の人は、太陽が好きなんですね』

屋根裏と宿屋でしか太陽の絵を見かけていないのに、少女の口からはそんな言葉が出た

『ああ、大好きさ』

この言葉は、主人個人の心ではなく街の皆がそう思っている、と言ってる様に少女は感じた


注意して見れば一目瞭然だった

太陽の絵は勿論、太陽を模した時計、看板、装飾等々があちらこちらにあった
796 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/23(木) 01:07:13.48 ID:6f/B6AAO
次回、月の都編終わり
息抜きのつもりがこんな時間まで\(^o^)/


>>791
ありがとうございます!
797 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 01:14:02.45 ID:dkfgtloo
おつおつ またねー
798 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 01:26:46.00 ID:xx3tbIIo
いつも素敵な詩的な物語をありがとう
799 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 08:04:37.97 ID:0wL5oEo0
今更だけど、長く続けるなら登場人物に名前あった方がよかったかもね
800 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 08:37:31.74 ID:ekwsqADO


名前が無いからいいんじゃないか
801 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 09:10:50.98 ID:mgES4oUo
意見は色々だな
もし名前があったら全く別物のように思う
この物語は無いところに感ずる作風
だからこそむしろ名前が無いのを支持
802 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 12:05:12.78 ID:j2ojnNEo
今一度聞きたいけど、侍はバカボンドの武蔵で脳内保管してるが、少女がどんな見た目か想像ができないんだ
>>1はどんな感じで書いてるか教えてくれ
803 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 12:25:54.30 ID:S/MRQKco
名前も見た目のイメージも個人的にはいらんな
804 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 14:21:48.17 ID:AJ6eqAMo
そんなもん個々にイメージしとけばいいじゃん
下手に作者とか他の人のイメージ聞いて自分のイメージ壊れるのはやだ
805 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 14:42:07.70 ID:8sp9bt6o
>>804
禿同
無いものを脳内補完が醍醐味
806 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 15:06:51.38 ID:8sp9bt60
侘び寂びってわかるか?
枯山水に何を見る

分かり易く例えるなら、小説映像化の弊害だな
807 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 15:35:20.22 ID:rdex5sAO


少女『ごめんください』コンコン

少女は再び屋根裏部屋の家に来ていた

散々街中を走り回って太陽に関する物を探したが、あの絵がどうも気になって仕方なかった

少女『ごめんくださーい』コンコン

少女『…留守かな』ガチャ

ギィ

少女『開いた!』
808 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 15:48:21.75 ID:rdex5sAO
昼間と違って生活感溢れる室内を進む

そして二階、屋根裏へと登る

少女『見つかったら…起こられるよね』


『そりゃそうでしょ』


少女『! うわ!?』ズルッ

少女の頭上から人の声が降ってきた

驚きの余り少女は足を滑らせて


ガシッ

褐色目の少女『…君、そそっかしいね』フルフル

少女『あ、ありがとう…』フルフル

声の主に助けられた
809 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 15:59:56.30 ID:rdex5sAO


少女『この手拭いはあなたが?』

少女は目を冷やした時に使った手拭いを取り出す

褐色目の少女『そう』

少女『本当に助かったわ、ありがとう』

少女は手拭いを差し出す

褐色目の少女『いい、あげるよ』

少女『でも、月の綺麗な刺繍がされてるし』

褐色目の少女『今は太陽の方がウケがいいんだ』

そう言って褐色目の少女は太陽の絵を見る

その後ろ姿は、どこか物悲しかった
810 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 16:01:21.37 ID:rdex5sAO
>>808
起こられる×
怒られる○


前回の終盤も眠気で雑になってすいませんでした
811 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 16:11:52.81 ID:rdex5sAO
少女『目の時といいさっきといい、二度も助けてくれて…ありがとう』

褐色目の少女『正確には三度目だけどね』

振り返らず、褐色目の少女はぶっきらぼうに言う

少女『三度目?』

褐色目の少女『君と、変な格好をした男の人が行き倒れてたんだ』

少女『それで……夜の街に?』

褐色目の少女『うん。不思議でしょ? 昼間は幽霊街、夜は都になるんだから』

少女『あなたは、昼の世界にも来れるのね』

褐色目の少女『私だけじゃないよ。みんなその気になれば夜の外に出れるんだ』
812 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 16:20:55.92 ID:rdex5sAO
少女『じゃあ…なんで』

褐色目の少女『私の目を見て』

褐色目の少女は振り向き、少女を見つめる

茶色く濁った白目に碧い瞳が浮かんでいる

褐色目の少女『……怖くない?』

少女『怖くない』

パチッ パチッ

褐色目の少女『私の体も?』パサッ

褐色目の少女の身体には赤黒いの火傷跡のようなものが浮かんでいた

きっと、両の頬の綿紗の下にも同じ火傷跡があるのだろう
813 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 16:28:38.47 ID:rdex5sAO
褐色目の少女『……驚かない、か』

少女『…』

褐色目の少女『君は度胸があるのかないのかわからないな…』パチッ

ちょっと拗ねた風に褐色目の少女が言う

少女『……日の光に焼かれたの?』

褐色目の少女『そう。私達はもう太陽の下では生きられないの』

少女『どうして…』


褐色目の少女『私達は「夜の子」だから』
814 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 16:51:11.38 ID:rdex5sAO
―希望、成功、力、神

太古から太陽は人々の心の寄りどころだった

人々は太陽を崇め、太陽に祈った



ある時の権利者は考えた

「より多くの恩恵を太陽から得たい」

陽光にあてられ、熱病に狂った権利者は都に呪いをかけた

「夜の子」らは、月の下でしか生きられない、と
815 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 17:22:20.81 ID:rdex5sAO
夜の子らは月夜に追放された

日の下に出れば、たちまち焼け死ぬ

夜の子らは、封じ込められた夜の世界に生きる事にした

自分の子らが太陽を忘れぬよう、太陽の絵や飾りを沢山作った

そして、いつか太陽の下に戻れる日が来る事を祈った



一方、有力者達「太陽の子」は滅んだ

昼夜は無くなり日照りが続き、水は涸れ、猛暑に皆焼かれた

皮肉にも、崇拝した太陽の力に滅ぼされたのだ―
816 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 17:27:50.68 ID:rdex5sAO
褐色目の少女『太陽の子が滅んだのを、私達は最近まで知らなかったの』

少女『…夜から出ないから?』

褐色目の少女『そう。とっくに呪いなんて解けてたのにね』

褐色目の少女『おかげで、私達の体はすっかり日光に弱くなってしまった…』

褐色目の少女が体を抱きしめる

少女『じゃあ、なんであなたは昼の世界に…?』

褐色目の少女『だって…』

褐色目の少女が悲しみ目で笑う


褐色目の少女『こんなに綺麗なら見てみたいじゃない』
817 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 17:33:33.42 ID:FZMaygDO
スレ的にダメなんなんだろうが、まだ言葉通じないの?と何度も思う
818 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 17:34:43.88 ID:rdex5sAO
少女『…』

褐色目の少女の言葉、その純粋さに少女は何も言えなくなる

褐色目の少女『さ、そろそろお別れだ』

少女『…え』

褐色目の少女『もうすぐ満月になる』スッ

褐色目の少女の指差した先には、銀色の月

全てを飲み込む大きな口の様に見えた

褐色目の少女『太陽の子を入れるのは満月までって、街のみんなと約束したんだ。無断で上がったのは水に流すから、そろそろ帰ってくれ』

少女『…わかった』
819 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 17:45:58.64 ID:rdex5sAO


少女『あ…』

侍『――』

玄関から出ると侍が待っていた

褐色目の少女『君の帰りが遅いから迎えが来たみたいだね』

少女『うん…』

侍が現れても少女は暗い表情だった

侍『―』クシャクシャ

少女『…やめてよう』

少女の頭を撫で回すと、少し不機嫌そうにする

普段なら嬉しいが、真面目に考え込んでいる最中なので、素直に喜べないのだ
820 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 17:54:51.44 ID:rdex5sAO
褐色目の少女『お楽しみ中悪いけど、そろそろ街を出てくれないかな』

今度は強い語調で褐色目の少女が言う

侍『…』

褐色目の少女『…なに』

少女『ごめんなさい、すぐ行くから』グイッ

侍にじっと見られ、機嫌を損ねる褐色目の少女

綿紗で隠しきれない部分の火傷跡や、その茶褐色の瞳は、彼女自身見ていて気分のいい物じゃない

だから、見られているだけで不愉快なのだ

褐色目の少女『…じゃあ、脱いで見せたりしなきゃいいのに』クスッ
821 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 18:02:26.64 ID:rdex5sAO


少女『お世話になりました』ペコ

侍『―』ペコ

褐色目の少女『本当にね』

別れを惜しむ程の仲じゃない、と言わんばかりに褐色目の少女は適当にあしらう


少女『じゃあ…』ザッ

背中を向け、街の外へと歩いていく



少女『ね、太陽は好き?』

褐色目の少女『急に何よ』




褐色目の少女『…好きじゃなきゃ瞳焼いたりしないよ』

少女『そっか』
822 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 18:10:26.12 ID:rdex5sAO


褐色目の少女『行っちゃったか…』

褐色目の少女『さて、たまには太陽以外の絵でも描いてみようかな』



カ―――ッ

褐色目の少女『えっ 何!?』


振り向くと眩い光が街を照らしていた

二つに割れた夜空に太陽が登った



おばさん『あれが…』

青年『本物の太陽……』

褐色目の少女『……』
823 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 18:26:35.19 ID:rdex5sAO
=月の都=

―月の都に住む人々は透き通るような白い肌と灰色の目をしている

その身体的特徴故に昔から日光を好まず、夜に起きて生活していた、などという俗説がある程だ

そんな説が嘘っぱちなのは街中に溢れる太陽型の時計や、装飾品、印入りの商品である


中でも、太陽の絵は世界的にも有名である

月の都に一人の芸術家がいた

彼女は生涯太陽の絵を描き続けた

身体が強い方じゃなかったらしく、作品数は多くないが、その作品の素晴らしさから「命を刻んだ」とまで言われる程である
824 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 18:33:38.92 ID:rdex5sAO
ところで、何故太陽ではなく月の都と呼ばれるのか、誰しも疑問に思うだろう

この謎に、その芸術家が関係しているのだ


彼女は生涯で一度だけ、太陽以外の絵を描いた

その絵には、一人の少女と一人の異国の男性が満月の下に立っている姿が描かれている

題名は無い


ただ、絵の端に小さく「ありがとう」と書かれている―
825 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 18:51:18.16 ID:rdex5sAO
オチに無理があった感はありますが、月の都編終わりです


>名前について
以前話した想像力に委ねるという部分が大きいですが、少女と侍の繋がりを書く上で名前はいらないという結論に至りました

少女にとって侍が、侍にとって少女が何者であっても構わない
そういう絆を表現したつもりです
826 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 19:08:27.75 ID:rdex5sAO
>容姿について
多分私の想像と皆さんの想像では大分差があると思います
それでいい、というかそれがいいんだと思うんです
むしろキャラが頭の中で勝手に動き出すぐらいの物語が書きたいなぁ…と思ってるので

漫画を買うとき、絵柄の好みでやめたりすると思います
絵は想像の礎にも足枷にもなりえると考えてます

寝る前の妄想が一番楽しいと感じる人もきっといる筈
827 :Are you enjoying the time of eve? [sage saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 19:14:44.61 ID:rdex5sAO
>>817
それはお楽しみって事でひとつ



ご愛読ありがとうございました
また次回、来年?
もしくは北斗スレで
828 :Are you enjoying the time of eve? :2010/12/24(クリスマスイブ) 20:28:08.88 ID:p96ahug0
ちゃんとオチついてたよ、乙! よいお年を

にしても、ちゃんと考えてるんだなー
829 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 23:04:09.37 ID:43CAPc2o
素晴らしい
830 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 23:06:47.27 ID:z.5J6lgo


これだけ物語を積み重ねてきたら説明的な文章が無くても侍の存在だけで説得力もつな
831 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/25(土) 00:03:48.78 ID:zty2P5M0
超乙!

ところでこの物語は侍が主人公なのかな?
・・・それも読者次第だったりしてwwww
832 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/25(土) 00:28:42.24 ID:m3rnNWYo
少女が主人公でも侍が主人公でもどっちでもいいだろう
833 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/25(土) 01:07:15.78 ID:aoyNpFEo
詩的素敵支援である
マイペースでいいから続ききぼんぬ
834 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 00:37:22.76 ID:Q2IuNhA0
なんか話々の設定が深いから掘り下げたらそれだけでSS1本書けそうだな
機会があったら褐色ちゃんとか、女王とかのスピンオフ書いてよ
835 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 08:11:34.35 ID:ExE5tuso
スピンオフ禿同
836 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/28(火) 23:26:03.72 ID:n9Q/ecAO
=旅路4=

―道とは

永き時を経て動物が、人間が、生きとし生ける者達が踏み締めた足跡である

旅路とは

旅人達が脈々と辿り、拓き、朽ちていった生涯の軌跡である―




少女『…ん』ムク

肌寒さで目が覚めた

朝の空気が冷えているからなのか

それとも隣で寝ていた人がいなくなったからなのか

多分、後者だと思う

少女『まだやってるかな』
837 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/28(火) 23:36:48.73 ID:n9Q/ecAO


少女『うう…』ブルッ

お兄さんが掛けてくれた上着を羽織り、まだ朝日が登りきってない山道を行く

うっすらと掛かった霧

虫も鳥もまだ寝ている

少女『はぁーっ』

かじかむ手のひらを温める

寒さで耳と頬が痛くなり、その痛みで覚醒が早くなっていく

少女『今日はどこでやってるんだろ』

上着を羽織りなおし、持ち主のもとへと駆け出した
838 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 23:45:30.75 ID:YbWQas6o
C
839 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/28(火) 23:49:21.68 ID:n9Q/ecAO
少女『…あ』ピタ

空気が変わった気がして、自然と足が止まる

空気には色があると思う

森の空気が緑色なら、海の空気は白

雨の日は青、パン屋さんは橙色

朝の澄んだ空気はうすい水色が頭の中に広がる


少女『よいしょ』ガサッ


そして…ここは透明

侍『……』

無色じゃなく、透明が在る
840 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/28(火) 23:56:34.40 ID:n9Q/ecAO
座ったまま、お兄さんは動かない

背筋を伸ばし、目を瞑ったまま……心を消している


波の無い水面

影の無い月

雲の無い空


空気の色は溶け、まっさらに、まっさらに透き通っていく

お兄さんの心も、空気に、山に、世界に溶けていく
841 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 00:00:42.61 ID:CNsw9UAO
――チンッ



少女『―――あ』

侍『―』スッ

立ち上がり、歩み寄ってくるお兄さん

少女『…おはよう!』ニコ

侍『…』フ

とびきりの笑顔を見せると、お兄さんも優しく微笑んでくれた

842 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 00:11:05.21 ID:CNsw9UAO
ほんの一瞬だった

一瞬だったけど、それはとてもゆっくりだった


幾重にも、幾重にも空を斬るお兄さん

煌めくカタナの軌道が、光の線を描く

丁寧に…丁寧に…

その動きはとても綺麗で……まるで踊りのようだった


いつカタナを抜いて、いつ収めたのかはわからない

でも、それは確かに一瞬の出来事

長い長い一瞬の出来事
843 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 00:19:28.67 ID:pDp4mjYo
魅惑的な文だ
844 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 00:41:16.29 ID:CNsw9UAO
……

少女『ねぇ…お兄さん』

二人並んで歩く帰り道

侍『…』

少女の呼びかけに、侍は目を瞑る


少女は剣術を習いたかった

だが、侍は応じない

少女(私が守られる側だから…?)

もしそうだとしたら、不本意だった

少女にとって侍は一心同体、唯一対等である人

これからも数々の運命、未来を共にする存在

故に、守り守られるという概念は無いと思っていた
845 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 01:01:41.65 ID:JOF1dT2o
相変わらず素晴らしい
846 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 01:03:10.49 ID:CNsw9UAO
年齢差、力の差はあるが、侍と対等でいる事を、少女はおこがましいと思ってなかった

二人の対等はそういった「上辺」の事ではなく、一人の「人間」としての事である


各々知られたくない部分、私情、譲れない部分は少なからずある


だが、いくら隠している物があろうと、どんな過去があろうと、芯の部分だけは通じていよう

それが、言葉は通じなくても、出逢い惹かれあった二人の願い
847 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 01:18:35.10 ID:CNsw9UAO
侍も同じく対等である事を願った

侍は少女を尊敬していた

歳の割りにしっかりしている、とかそういった事ではなく、一人の人間として心から尊敬していた


少女は清く正しく、かつ人を慈しめる心がある


侍は敵を倒す、もしくは死による魂の解放でしか人を救えない

しかし、この少女は……自分にできない形で人々を救う

人の心を救う

そんな奇跡めいた事をこの子はやってのける


侍もまた、少女に心を救われているのだ
848 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 01:31:56.38 ID:CNsw9UAO
侍はわかっていた

少女が、剣術を教えないことに不満を持っている事

それに、「侍は守る側、少女は守られる側、と決め付けている」と勘違いしている事も…



剣の強さは心の強さである


刀を手に取り、日々振り続ける事も大切だが、心の成熟無くして剣術は大成しない

心の迷いは太刀筋に現れ、心の濁りは刃を曇らせる
849 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 01:42:54.88 ID:CNsw9UAO
しかし、剣術が上達しても心が成熟するとは限らない

力に溺れ、殺しに魅入られる者もいる

才能ある者程、力に取り込まれ易い



かつて、自分がそうであったように



少女『――さん、お兄さん!』

侍『…』ハッ

少女『どうしたの急に?』

少女が不思議そうに顔を覗く

少女『…、それよりもほら! 日の出だよ!』

少女の指差す先には地平から昇る太陽

故郷では見れなかった絶景が広がっていた
850 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 02:08:51.80 ID:CNsw9UAO
少女『…』

侍『…』

静かに朝日をていた

言葉はない。ただただ魅入っていた



少女『…朝ご飯にしよっか』

やがて少女の方から侍に切り出した

侍『…』

侍は応えず、じっと東の空を見つめ続け


侍「私は……昇る朝日に雲を掛けているのかも知れない」


と、零した
851 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 02:11:49.33 ID:CNsw9UAO
>>850
静かに朝日を見ていた  に訂正です


恥ずかしい間違いだ…
852 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 02:46:15.51 ID:CNsw9UAO
侍「…娘」

振り返らず侍は言う

侍「一度しか見せぬ故、しっかと見ておれ」スラッ

刀を抜き、平突きの構えを取る侍


侍「道照らす事―」

ビ――ッ

侍「―日輪の如し」


侍は太陽に向かって刀を突き出した

神速…という訳ではないが、その太刀筋に迷いは無く、真っ直ぐだった

侍『…』チャキッ

少女『…』

侍は刀を仕舞い、その場を後にした

少女は侍に目をやる事無く、ただ切先のその先を見ていた

と、


――ドンッ

― ド ォ ン ッ


ド  ォ  ォ  ン  ッ ッ



切先の先を中心に、大気に穴が空いた
853 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 03:18:15.67 ID:8sGd0zko
相変わらずのチートっぷりに安心した
854 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 08:27:54.77 ID:eb6s.ESO
侍がかっこよすぎてもうね

鼻血出そう
855 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 11:36:28.59 ID:CNsw9UAO
侍の放った平突きは大気を駆け抜けた

音よりも速く、光ほど近く

突きの威力は大気に穴を空け、衝撃波を生んだ


ややあって

バチバチッ

少女『光…!?』

カァァァ――ッ


真空状態になった大気中で放電現象が起こる

虚空から光が生まれ、衝撃波で生まれた円形の水蒸気に反射する

それは空中に生まれたもう一つの太陽みたいで

少女は、その光が消えるまでただただ見守るのだった――
856 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 11:41:00.36 ID:CNsw9UAO
旅路4終わり

言葉が足らないせいで、表現が追いついてないような気がします…

いつもご支援ご愛読ありがとうございます


ネタ帳の消化が全然追いつかない…
857 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 12:14:49.91 ID:rIETUyEo


侍半端なさすぎワロタ
858 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 12:47:21.57 ID:CNsw9UAO
……

少女『うーん、次はどっちに行こうかな』カチャカチャ
テーブルに地図を広げ、少女は考える

左手にはこの街の食料等の価格表、右手は金貨を手慰みにしている

侍『…』チクチク

一方、対面に座る侍は自分の羽織物の修繕に勤しんでいる

もう相当のボロで、充て布の方が多く見える

少女は何度も新しい服を買おうと言ったが、侍は首を横に振る

嬉しそうに縫い物をする姿を見ている少女は、あまり強くは言えなかった
859 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 13:01:02.02 ID:CNsw9UAO
西の大陸には着物が無い

洋服に抵抗があるのかも、と出来るだけ侍の着ている物に似ているのを見繕ったが、侍は静かに首を振った

倹約でも、好みの問題でも無い

侍『…』プツッ

侍の着物に対する入れ込み具合には、並々ならぬものがあるように感じた

侍『―?』

少女『…っと、いけない』

縫い物を終えて顔を上げた侍と目が合い、少女は自分の作業に戻る

じーっと見ていた事が、なんだか気恥ずかしくて、暫く考えがまとまらなかった
860 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 13:11:30.86 ID:CNsw9UAO
少女『こっちの経路だと途中に村があるけど、収穫時期前は食料が高くなるから…』カチャカチャ

少女は進路を決めかねていた

東に行く経路は途中に人里が無いが、目的地である都はそこまで遠くなく、山や渓谷も無い

北上する経路は距離が最短ではあるものの、山あり谷ありの険しい道で人里も無い

南下する経路は一番距離が長いが、途中人里がいくつかあり、進路変更が利く


少女『うーん…南に行くのが無難かなぁ』

カチャッ

少女『あっ』

少女の右手から零れた金貨が地図の上を転がって行き

侍『―』ハシ

侍に捕まった

少女『ほ…』
861 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 13:15:12.11 ID:CNsw9UAO
少女『ありがとう、お兄さん』

少女は右手を差し出した

が、侍は金貨を返さず、じっとそれを見つめていた

少女『…どうしたの?』

侍『――』

やがて、侍は金貨から地図へと視線を移し

侍『―』コトッ

金貨を地図の上に置いた

少女『んー?』
862 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 13:51:00.87 ID:CNsw9UAO
少女は思った

侍は何か「面白い事」に気付き、私にも自力で気付いて欲しいと考えている…と

侍は時折こういう事をする


侍は少女に先立って行動を起こし、模範を示すが、その挙動の意味「答え」までは与えない

人が成長するには考える事、失敗して反省する事、それらを忘れぬ事が不可欠である

故に、侍はきっかけを与え少女を導く

その中で少女は自分の答えを見つけるのだった
863 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 14:02:46.22 ID:CNsw9UAO
もう一つ、侍は少女に期待していた

それは少女に新しい何かを見せて欲しい、という事だった

少女が見つけるものは「答え」かも知れないし、「手段」かも知れない

時折、思ってもみない行動をとる少女に、侍は沢山の可能性を感じていた




少女『金貨と地図…』

少女はじっとそれらを眺めていた

一見無造作に置かれた金貨だが、もしかしたら…何か意味があるのかも知れない

それに、侍は凝視していた面が表になるよう置いたように見えた

単なる偶然ではない

少女は、侍が残した真意の輪郭をじっと見詰めた
864 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/29(水) 14:06:11.43 ID:CNsw9UAO
長めの休憩に入ります
再開未定です
865 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 14:30:50.88 ID:rIETUyEo

>>1さんの作品が読めるのはGEPだけ!
866 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 16:31:16.59 ID:8sGd0zko
数日空くってことなのか?
867 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 18:48:02.77 ID:eb6s.ESO
なあに数日だろうと数週間だろうと待つよ
868 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 23:10:33.70 ID:edJ3f6DO
今日も乙です
869 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 23:47:36.95 ID:pDp4mjYo
禿同
870 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/30(木) 00:44:18.51 ID:rEmoMUAO
時間をみつけてちょろちょろ書きたいと思ってますが、予告通り31日と1月1日はVIPで北斗スレを書きたいと思います


それにしても、こんなに読者の方がいるとは…感激です
871 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 03:56:53.74 ID:I6.DCgAo
ジャギが哀れなスレか
期待してるよ
872 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 09:42:04.04 ID:77WqAOAo
それにしても、こん素敵な作者の方がいるとは…感激です
873 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/12/31(金) 20:25:47.36 ID:ZBr.92AO
VIPにて北斗スレ書きます
よろしければ読んでください

http://speedo.ula.cc/test/r.so/raicho.2ch.net/news4vip/1293794625/l10?guid=ON
874 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage saga]:2011/01/01(正月) 00:23:59.59 ID:JPSMHUAO
あけましておめでとうございます
今年もどうぞよろしくお願いします
875 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 00:33:53.92 ID:Ldlk08wo
よろしくお願いします
876 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 01:32:43.08 ID:jwrJHQ2o
明けまして御愛でとう御座います
今年も楽しみに楽しみにしておりまする
877 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 01:46:27.12 ID:rW9DscAO
明けましておめでとうです
878 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 02:17:04.98 ID:bldWPO.0
あけおめええええええ!!!
879 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage saga]:2011/01/04(火) 22:18:39.57 ID:o3cTUcAO
まず、少女は金貨に注目した

金貨は表に七つ星の絵柄、裏に貨幣価値が示されている

今、金貨は表向きなので、少女には七つ星が見えている


次に、地図に目を移した

金貨が置かれたのは、少女達のいる地点よりやや西南西の位置

金貨の下の地図には何も明記されていない

少女(七つ星……七つ星と地図に何か繋がりがあるんだ)

少女は注視する為近付けていた顔を一旦離した


行き詰まるのは一点に囚われ、全体を見渡す事ができないからである


少女はその事を知っていた

考えを一旦白紙に戻す為、少女は謎解きから頭を放し、注文したきり手をつけていなかった紅茶に舌鼓を打つのだった
880 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage saga]:2011/01/04(火) 22:34:06.65 ID:o3cTUcAO
紅茶は冷めていたが美味しかった

旅を続ける少女にとって、街に滞在している期間の食事は大変貴重な娯楽である

今日も、本当はただ侍とお茶を飲むだけのつもりだったのだが

少女「貧乏性、…って言うのかな」クスッ

ゆっくりお茶を飲む筈が、いつの間にか一生懸命地図を睨み付けてる自分がいる事に、少し笑ってしまう

少女「私ってこんなに頑張り屋だったっけ」

自分の変化を改めて感じながら、少女は再び地図に目を落とした
881 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage saga]:2011/01/04(火) 22:57:47.76 ID:o3cTUcAO
少女「ん…?」

パッと見て二つの映像が重なる感覚を覚えた

少女「地図の上に七つ星が浮かんだ…!」ガタッ

身を乗り出して地図を覗き込むと、南北の経路が丁度七つ星の形と重なる

少女「この金貨が無いと、星が一つ足りなくて気づかないんだ!」

人里が星となり、地図上に七つ星を描くが、そのままだと一星足りない

少女「…でも、これってこじつけ………!!」

少女は慌てて他の貨幣を一枚ずつ取り出す
882 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage saga]:2011/01/04(火) 23:17:06.95 ID:o3cTUcAO
西の大陸で流通している金属貨幣は、それぞれ星座が印されている

金貨は七つ星

銀貨は六つ星と五星

銅貨は四つ星と三つ星

星の数が多い程価値が高い、という具合になっているが


侍『―!』

少女『これって……偶然じゃないよね』


侍が金貨を置いた地点に他の貨幣を置き換えてみる

すると、六つ星と五星は星座の一星に、四つ星と三つ星は丁度中心になる


少女『決まり……かな?』ニッ

侍『―』ニッ

二人は子供のように無邪気な笑みを浮かべた
883 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage saga]:2011/01/04(火) 23:22:41.76 ID:o3cTUcAO
鉤括弧が間違ってました…
すいません
884 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/05(水) 01:42:39.57 ID:a.BYkqko
885 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/05(水) 18:24:56.56 ID:d0NNHvUo
少しでも嬉しい
書いてくれてありがとう
886 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/05(水) 22:48:39.60 ID:fMDcTkAO
―昔むかし、あるところに、男と女がおりました

男女はそれぞれ大きな大きな……世界を分かった二国の跡取りでした

二人は毎夜毎夜、国境に会いに行き、時の許す限り星を眺めていました

二人は愛し合っていました

仁徳のある男と慈愛に満ちた女

二人の婚約を二人の国王が、世界中の民が祝福しました

星々も二人を祝福するかのように夜空いっぱいに集まり、二人を優しく照らすのでした―
887 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/05(水) 22:55:58.81 ID:fMDcTkAO
……

少女『…あれ!?』

出発から3日

西南西を目指し歩みを進める二人に、予期せぬ事態が降りかかった

少女『方位磁針が……』クルクル

針はくるくる回るばかりで一向に北を指さない

そこいらを歩き回ってみるが、収まる気配はない

少女『うー、高かったのに…』ペシペシ


『お困りかな?』
888 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/05(水) 22:57:24.75 ID:dcLeHsDO
ktkr
889 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/05(水) 23:04:11.20 ID:fMDcTkAO
少女『ええ…』

老商人『どれ、見せてごらんなさい』

通りがかりの老商人に方位磁針を渡す

老商人『ふむ』ゴソッ

老商人は鞄から小さな棒を取り出すと、少女の方位磁針の針を数回撫でる

老商人『ほれ、元通りじゃ』

ピッと一点を指す針

老商人の方位磁針と比べてみても、しっかり同じ方角を指している

少女『わぁ! ありがとう!』

老商人『ホホ、四つ星一枚じゃ』

少女『……え』

老商人『冗談じゃ』
890 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/05(水) 23:19:35.56 ID:fMDcTkAO


少女『もう! 冗談キツいなぁ』

老商人『すまんすまん。つい商人魂がな』

悪びれもせず笑う老商人

いかにも場数を踏んだ商人という具合、人の良さにどこか裏がありそうであり、

老商人『まぁ、裏がありそうなのは職業病とでも思っておくれ』

そう思われるのもなれっこだった



老商人『お嬢ちゃん達はなんでこんな所に? 都ならあっちの方角じゃよ』

少女『うーん…』

西南西の経路には人里が無く、途中で北か南東に折れなければ、いつか大山脈にぶつかってしまう

狩場も湖も無く、「余程の変わり者」でなければ通らない場所だ


少女『星を見に……かな』
891 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/05(水) 23:58:58.35 ID:d0NNHvUo
kkktkrrr
892 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/06(木) 00:13:18.22 ID:cSlLmgAO
老商人『!  ホッホッホ! そうかい! 星を見にかい!』

少女『そんなに笑わなくても…』

老商人『いやスマンスマン。お前さん達みたいなのには久しく会ってなかったでな』

さすがにやや反省の色を見せる老商人

老商人『お詫びに道案内をしてやろう』

少女『道案内?』

老商人『そうじゃ。お前さん達、ここに行くつもりなんじゃろ?』

老商人は鞄から地図を取り出すと、星の印を指差した

少女『そこは……?』

老商人『…星の塔じゃよ』
893 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/06(木) 01:12:43.86 ID:cSlLmgAO
少女『星の塔……』

老商人『そう。世界が一つだった頃、王と王女が星々に愛を誓った場所だそうな』

老商人『そして、その塔からはあらゆる星が見渡す事ができる』

少女『星……運命ですか?』

老商人『ホホ! お嬢ちゃんは賢いのう!』

老商人『時の王と王女は星占いで未来を見通した。あらゆる災厄から民を守り、あらゆる恩恵を民にもたらした』

少女『…』
894 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/06(木) 01:15:28.00 ID:cSlLmgAO
今日はここまでです
オチまでは考えてるので、近日中には星の塔編を終えれそうです

おやすみなさい
895 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 02:15:37.13 ID:kzMKJJUo
またよろしく!
896 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 07:16:23.68 ID:hf6d4uco
いつも期待と支援
あんた最高だよ!
897 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/06(木) 23:45:30.55 ID:cSlLmgAO
老商人は適当な石に腰掛け、煙管をふかし始める

ふぅ、と紫煙を吐き出し、老商人は本を読み聞かせるように、淀み無く続けた

老商人『しかし、星々の力を使いすぎた二人は天の怒りを買い、人々は罰を下される』

少女『罰…』

老商人『虫の大群じゃ』

虫という言葉に、少女は身を強ばらせる

老商人『西風と共に赤い虫の群がやって来て、手当たり次第食い荒らして行きおった』

僅かに声を震わせながら、老商人は続ける

老商人『まるで赤い嵐のようじゃった。石以外はみんなかじられて、皮膚や髪を食われた奴もおった……』

少女『……』


少女『まるで、その場にいたみたいに言うんですね』

座り込んだ老商人に少女の影が差す


老商人『ふうーっ……、そうじゃな――』
老商人は宙に消える紫煙を虚ろな目で眺めながら、また話を始めた
898 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/06(木) 23:58:22.44 ID:cSlLmgAO
老商人『村が、街が、国が……世界が虫に飲まれた頃、王と王女は神に呼び出された。―罰が決まった、と』トンッ

老商人が煙管の火を落とす

老商人『男、お前は世界を彷徨え。永遠に、だ』

老商人『女、お前はこの塔からそれを見ているがいい。永遠に、だ』

老商人『二人は会う事を禁じられ、永遠に生き続けるという罰を与えられた』

少女『その女の人がいるのが…』

老商人『……星の塔じゃ』
899 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 00:02:02.78 ID:tcjZXVso
ktkr
900 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 00:18:58.71 ID:CVdJhQAO
少女『……』

疑問は沢山あった

老商人に訊くのは簡単だが、少女はそれをしなかった


求める答えは、きっとこの先にあるから―



老商人『よし、ここいらで食事にしよう』

老商人の後を追い、辿り着いた丘の上

三人は食事を取る事にした

少女『ねぇ、あとどれぐらいで星の塔に着くの?』

老商人『そうじゃな、日が暮れる頃かの』

老商人が鍋をかき回しながら答える

少女『って、もう西に太陽が沈み切りそうなんだけど…』
901 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 00:31:03.47 ID:CVdJhQAO
鍋が煮立つか、日が沈むか

未だ塔の影も見えぬ状況で、老商人は夜には着くと言う

空には宵の明星

間もなく夜の帳が降りるだろう

少女『あのー、こんだけ見晴らしが良くても、それらしい建物は一つも……』

侍『……』ピクッ

老商人『…到着じゃ』

少女『出来上がり、じゃなくて?』

老商人『後ろを見てみい』

少女『…後ろ?』

くるりと振り返る少女



少女『……なるほど』

そこには古い塔が静かに佇んでいた
902 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 00:43:57.75 ID:CVdJhQAO
老商人『塔は夜しか入れんぞ。早よう行きなさい』

少女『…おじいさんは?』

老商人『ワシは入れんのじゃよ』

少女『……』

どうして?

そう訊くのは簡単だ

しかし、その問いに何の意味があるのだろう


ギィィ…

侍『……』

少女『……』

導かれるように、少女と侍は塔の中へと入っていった
903 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 01:08:46.52 ID:CVdJhQAO
本当は今日書ききりたいんですが、明日早いのでここまでにさせて下さい
本日もお付き合いいただきありがとうございました

やっと900かぁ…
904 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 02:31:52.80 ID:j77CXxwo

905 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 02:35:46.73 ID:tcjZXVso
乙です
906 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 11:09:02.45 ID:EnY0va.o
流麗な文章を乙
907 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 13:10:09.49 ID:CVdJhQAO


塔に入ると螺旋階段があった

他には何も無く、ただただ登る以外になかった

少女『どこまで続くんだろう…』カツーン カツーン

外から見上げた時もえらく高いと思ったが、実際に登ると、塔が途方も無く大きいように感じた


少女は、侍と旅を始めたばかりの事を思い出した

地下牢から脱出する時に登った螺旋階段

僅かな灯りを頼りに地上を目指した時のこと

ただ怖くて侍の手を握っていたこと……
908 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 13:14:48.29 ID:CVdJhQAO
少女『…』カツーン カツーン

侍『…』カツーン カツーン

二人の足音だけが響く

入口から差す星明かりがとどかなくなり、闇の中壁伝いに歩を進める

少女の手はじっとり汗ばんでいた


カツーン

カツーン


少女は思った

今、自分はどうして前を歩けるのだろう……と
909 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 13:22:34.49 ID:CVdJhQAO
私は……決して強くなった訳じゃない

今だって、前が見えない事に不安を感じている


でも―


不安や恐怖以上に身体の底から湧いてくるあたたかさ

それが私の背中を押してくれる

だから……不安も、恐怖も、苦痛も、乗り越えられるんだ


カツーン

少女『お兄さん』

いつしか二人は螺旋階段の終点に着いた

錆び付いた扉の前で、少女が侍に向き直り

少女『……手、繋いでもいい?』

控え目に手を差し出した
910 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 17:21:21.29 ID:CVdJhQAO
侍「…」

侍は少女と旅を始めたばかりの頃を思い出した

地下牢から脱出する時に共に登った螺旋階段

侍の手をぎゅっと握っていた少女と、汗ばんだ自分の手…


人間、誰しも恐怖を持っている

それは時に自制の為の、時に失う事への、或いは死に対するものかもしれない

しかし、出会った頃の少女の恐怖心は、もっと別なものだった
911 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 17:29:52.79 ID:CVdJhQAO
形なき恐怖

自分の住む世界と愛する人達を一度に失い、悲しみでひび割れてしまった心

癒やし難い傷は事ある毎に少女を苦しめ、少女の心を臆病にしてしまった

いや、


侍「私もまた、臆病だったのだ……」


国を逐われた時から

村を失った時から

父の足が不自由になった時から―

私の心はずっと孤独で、臆病だった
912 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 17:33:05.81 ID:CVdJhQAO
侍「…娘よ」スッ

差し出された手を、侍はそっと包んだ

少女の手は小さく、柔らかで、少し汗ばんでいた


侍「ありがとう。私は……私も、もう孤独じゃない」


柔らかく微笑む侍の手を、少女は優しく包み返した
913 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 17:42:23.67 ID:CVdJhQAO
……

ギッ…  ギギィィ……


扉を開けると―――丘の上だった


少女『…あれ? なんで地上に―』

『なッ!? なんという事だ!』

突然の大声

暗くて気付かなかったが、少女達の正面には若い男女がいた

男『厄星の塔の封印が解けるとは…ッ!』
914 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 23:13:47.26 ID:CVdJhQAO
『ホ!ホ! 運命を変えるなど、人間には到底無理な事だったのだ!!』

不快な、しかし聞き覚えのある声に振り返ると、老商人が塔から出てくるところだった

男『彼らを騙して封印を解かせたな…!』ギリッ

老商人『とんでもない! ワシはここに案内しただけじゃ!』ニィ

ドカァッ  ガラガラガラガラッ

老商人が歪んだ笑みを浮かべた途端、塔は音を立てて崩れ去り、跡形もなく消えてしまった

女『塔が!?』

老商人『さあ! 悲劇の続きを演じなさい!』グニャァァ
915 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 23:19:46.50 ID:CVdJhQAO
一瞬にして天は赤黒く染まり、血生臭い空気が四人を包んだ

少女『これは…!?』

男『あいつは災厄を司る星神! 君達を利用して封印を解かせたんだ!』

少女『そんな!? 私達はただ塔を登っただけで…』

女『最後の扉を開ける、それだけで星神には十分だったんです!』


災厄の星神『ホ!ホ!ホ! 望み通り星を見せてやろう!!』ズズズッ


霧とも陽炎ともつかぬ朧気な、それでいてはっきりどす黒い存在が、少女達に立ちはだかった
916 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 23:33:24.12 ID:CVdJhQAO
男『姫! もう一度封印を!』チャキッ

女『はい!』スッ

男『はぁぁッ!』ダッ

災厄の星神『愚かな!』グッ


グキュッ


災厄の星神が手のひらを握る仕草をすると、何か―肉の潰れる様な―嫌な音がした

男『――ッ!?』ゴポァ

ビチャビチャッ

音の直後、災厄の星神に突進していた男は突然崩れ落ち、血の塊を吐き出した

女『王子!?』

災厄の星神『ホ!ホ! 星々に愛されていようと、運命をここまでねじ曲げれば、必然力は弱まる!』
917 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/07(金) 23:46:11.06 ID:CVdJhQAO
女『王子! しっかりして!』

男『姫…! 私はいいから……ガハッ フウイン…!』

災厄の星神『おお、可哀想な王子様。すぐに姫にもお揃いの不運を差し上げますよ』ニィィ

顔の無い黒煙が口を裂いて笑う

女『くっ!』スッスッ

災厄の星神『ホ!ホ! 姫様、急いで急いで!』ググッ

黒い手のひらが少しずつ閉じゆき、

災厄の星神『まずは姫様の御退場だ!!』グッッ

男『やめろォォォオッッ!!』



「瞬く事―」
918 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/08(土) 00:11:04.79 ID:RdCkC.AO
禍き夜に、一瞬星が煌めいた

彗星よりも速く、明星よりも強く、天狼よりも静かに


侍「―星の如し」カチンッ


災厄の星神の片腕は霧散し、虚空に消えた

災厄の星神『……』

ザッ

少女『あなたの好きにはさせない…!』

少女は侍の前に、災厄の星神に対峙する

その「不運」に顔は無かったが、瞳は侮蔑に燃え、少女と侍を睨んでいるように見えた
919 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/08(土) 00:38:48.68 ID:RdCkC.AO
災厄の星神『ホ!ホ! お嬢ちゃんには恩があるからね、手を出すなんて真似はせんよ』

黒煙から下卑た声が上がる

斬り飛ばされた片腕は事無げに再生し、顎を撫でる真似をした

災厄の星神『見たところ、放っておいても災厄に見舞われる星回りじゃし』

災厄の星神『そうだ! ワシがあいつらをなぶり殺す邪魔さえしなければ、お嬢ちゃん達の不運を帳消しにしよう! どうじゃ、いい取引じゃろ?』

災厄の星神は心底楽しそうに語りかける

その声色は、少女が聞いてきた何よりも邪悪という表現が似合っていた
920 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/08(土) 01:19:52.40 ID:RdCkC.AO
少女『不運を帳消し……?』

災厄の星神『そうじゃ。お嬢ちゃん達はこのままいくと、この世のあらゆる不幸、七難八苦を受け惨たらしい死に方をする運命にある』

災厄の星神『そんな事にならないよう、この厄星が常に見守ってあげるから安心しなさい』

少女『……そう、ありがとう』

災厄の星神『いやいや、これは正当な取引―』ニィィ



少女『困難な道が待っているって、教えてくれてありがとう』



災厄の星神『…なに』

少女『七難八苦を越えて行くんだから、先ずはこの試練を越えなきゃね!』
921 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/08(土) 01:46:57.83 ID:RdCkC.AO
災厄の星神『愚かな! 自ら不幸を望むとは余程の……!!』ハッ


少女と侍に出会った場所

そこは「余程の変わり者」でなければ通らない場所

標も道も無く、確かな事など何一つ無い場所に、二人は現れた


災厄の星神『そうか……死運が巡ってきたのはワシの方だったのか』

黒煙から火の手が上がり、土留色の炎が爆ぜる

腐臭が渦巻き、肌や目を襲った

災厄の星神『ならばワシも運命をねじ曲げよう!! 全ては滅びより始まるのじゃ!!』
922 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/08(土) 02:08:08.63 ID:RdCkC.AO
憐憫な陰を映す巨大な土留色の炎

禍々しいそれに対峙して尚、少女は強く在った

災厄の星神『ナゼだ! ワシを目の前にしてナゼそんな目がデキる!?』

たった一人の少女に、災厄の星神は身動きが取れずにいた

少女『いくよ。幸せも不幸も全部連れて私達は生きていく!』ザッ

一歩

また一歩

少女は炎に向かって歩いて行く

炎はじりじりと後退し、とうとう崖淵に追い詰められた

災厄の星神『あり得ん! ワシが小娘ひとりに負けるなとあり得んのじゃ!!』ゴウッッ
923 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 09:16:39.97 ID:B7T9/gSO
ドドメ色ってこう書くんだwwww
封神で見て以来だwwww
924 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 09:24:40.17 ID:GafwK72o
最高!
支援た!
925 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/08(土) 21:32:58.34 ID:RdCkC.AO
少女を飲み込まんと邪悪な炎が黒煙を上げ、死の灰を降らせる

その凄まじい熱で大気が爆ぜ、上天が焦げた

ゴウッッ

災厄の星神『滅びよッッ! 星が運命だと告げている!!』

災厄の星神の両腕が四人を襲う


少女『私は運命を何かに委ねたりしない!!』


少女が両腕を広げ災厄の星神に立ちはだかる

その姿は災厄を跳ね退ける盾というよりも、未来に向かって飛び立つ翼に見えた
926 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/08(土) 21:58:23.45 ID:RdCkC.AO
男『お嬢ちゃん!』

女『逃げてぇぇぇ!!』


少女『運命は私に依って開ける――!』


ゴウッ―――――

――――――ジュゥゥゥウウ……ッ

悲運の炎は少女の眼前で光となり、風に乗って散った

災厄の星神『ばっ、馬鹿な!? 何故運命を打ち破れる!!』

キラッ

星々の光が強く地上に降り注ぎ、災厄の星神を貫いた

災厄の宿命『ぐぅうっ!? ワシがおらずとも人間は互いに災いし合う愚かな種族ぞ! 何故それほど肩入れするッ!』

災厄の星神『小娘! お前も同じ人間に家族を殺されただろ!! 自らの命を賭してまで何故守る! 答えろォ!!』

禍々しい慟哭が夜を貫く

少女『…私が怨み憎んでも、お父さんお母さんは帰ってこない』

少女『私は――失った悲しみも引き連れて未来に進んでいく!』
927 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/08(土) 22:03:45.14 ID:RdCkC.AO
災厄の星神『……』

ザッ

女『…星神様』

災厄の星神『……なんだ』

男『今度こそお別れだ』

災厄の星神『……どうかな?』

女『……』

災厄の星神『何度封印しようが、ワシは蘇る。災いも又摂理なのじゃ』

男『…違いない』
928 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/08(土) 22:15:10.40 ID:RdCkC.AO
ザッ

侍「僭越ながら、拙者が介錯仕る」スラッ

侍が刀を抜き、上段に構える

災厄の星神『……封印ではなく、天に帰すか…。ワシの負けじゃな…』

チャキッ


災厄の星神『…神殺しか。恐ろしい男よ――』


―――ズドンッッ
929 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 22:46:16.40 ID:V3lGosso
乙かな?
930 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/08(土) 23:32:31.04 ID:RdCkC.AO
―二人が星々に語りかけていると、ある晩夜空から声が届きました


厄星が巡ってきた

滅びの日が近い


厄星の暴虐を阻止すべく、二人は立ち向かう事を決意しました

しかし、突如現れた赤い虫の大群が世界を襲った為、軍隊はおろかひとっこ一人集める事ができません

厄星の力は強大で、たった二人の力では太刀打ちできるものじゃありません

抗い難い運命

それでも、男と女は敢然と立ち向かうのでした
931 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/08(土) 23:47:59.74 ID:RdCkC.AO
滅びの日

地上に災いを司る星が降り立ち、世界には死と絶望が溢れました

男と女は何度も、何度も挑みました

しかし力の差は歴然、厄星を止める事はできません

「滅びよ。星が運命だと告げている」

厄星が、世界を破滅の炎で焼き尽くさんとした、その時です

夜空の星々から光の矢が放たれ、矢は厄星の体を貫いたのです
932 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/09(日) 00:05:38.42 ID:ZjMMskAO
二人の強い思いは天に届き、星達を動かしました

そして、天は一対の剣と盾を二人に授けます


射抜かれた厄星は痛みに叫び声を上げ、激しく暴れました

怒りを燃やし、二人に襲い掛かる厄星

しかし、その拳は女の授かった「星の盾」を砕けません

その堅さに拳は潰れ、厄星は怯み膝を折ります

「運命は私達が開く」

男の授かった「星の剣」は厄星を切り裂きついに討ち果たしたのです


多くの犠牲を出した戦いは、ようやく終わりを迎えました―
933 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/09(日) 00:22:07.76 ID:ZjMMskAO
=ふたつ星=

―西の大陸に生きる者で、知らぬ者はいないであろう、世界を救った男と女の話

地域により若干の差はあるものの、概ね3つの点が共通している

「男と女、王子と姫が主人公」という事

「敵は災いを司る星、厄星」という事

そして「男と女は天に登り、ふたつ星になった」という事


ふたつ星は寄り添うように夜空に輝く星で、厄星を監視していると言われている
934 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/09(日) 00:51:58.43 ID:ZjMMskAO
諸説があるが、この物語には元となった国があると言われている

歴史を紐解くと、「ふたつ星」の中にあったように大国の世継ぎ同士が結婚した事例があり、丁度その時期に、虫の大量発生や疫病、天災が重なっている


だが、その説には重大な問題がある

その国の当時の資料には、男と女の他に「剣士と少女」が登場している事

加えて、男と女は厄星を「星の塔」に封印するが失敗している事

更に、解き放たれた厄星と共に現れた「剣士と少女」が厄星を倒している事


追求するときりがないが、大きく3つの点で一般的な物語と差違があり、この説は噂の域を出ない


しかし、そうなると「ふたつ星」は一体いつから語り継がれるようになったのだろう―
935 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/09(日) 01:01:00.08 ID:ZjMMskAO
……

男『行くのか』

少女『はい』

女『本当に……ありがとうございました』

少女『いえ、もとはと言えば私が余計な事を…』

男『いや、君が封印を解かなくとも、何がきっかけで厄星が復活していたかわからない』

女『あなた方のお陰で、厄星を夜空に帰す事ができました』


女『…それに』チラッ

男『これでようやく結婚式を開けるしね』ニコッ

少女『! おめでとうございます!』
936 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/09(日) 01:12:45.67 ID:ZjMMskAO
男『もし封印がうまくいってたら、私達は永遠に結ばれなかっただろう』

女『お嬢ちゃん、ありがとうね』

東の空が白み始め、間も無く夜が明けようとしている

男『お別れだ』

少女『お二人とも、お幸せに』

女『お嬢ちゃんも、』チラッ

侍『…―?』

女『頑張ってね!』グッ

少女『! いやっ、ちが―――


スウウゥ


女『いっちゃった』

男『姫、最後の最後に…』

女『フフ、王子はお似合いだって思わなかった?』

男『確かにそうだが…』


キラッ

男『おや、あんな星……あったかな』

女『あんなに寄り添って、お嬢ちゃん達みたいね』

男『ハハ、本当だ!』
937 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 01:18:17.57 ID:ZjMMskAO
星の塔編終わり
思ったより長くなっちゃいました
切りもいいので、今日はここまでです

感想や指摘とかあれば、どうぞ遠慮なくお願いします


そろそろ次スレ立てた方がいいのでしょうかね?
938 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 01:33:53.29 ID:eAPcTGco

好きにしろ
939 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 01:45:42.17 ID:ZjMMskAO
冷静に考えたら進行スピード全然早くないので1000近くまで行ってから立てます

お付き合いいただきありがとうございました
おやすみなさい
940 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 01:46:38.43 ID:L4MUYqQo
投下中に立ててこっちに貼ればいいとおもう、あと80ものこってんだし
941 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 02:47:47.02 ID:ewC2FcDO
スマン、一つだけ聞かせてくれ
あと80ってなんだ
942 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 03:20:14.88 ID:eAPcTGco
だまってろ
943 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 03:58:24.50 ID:LKm9vMSO
この二人、行く先々で伝説や伝承を作ってやがる…

944 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 05:47:10.95 ID:UVMQKQAO
乙乙
945 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 08:49:47.85 ID:.HGM7.DO
超乙
946 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 15:25:43.95 ID:7SdMVgDO
サークルオブマジック
947 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 20:19:47.19 ID:pV02Fg37o
>>946
懐かしいな
俺、あれを試読して感想が載ったんだ
自分語りすまんがなんでそれが出てきた?
948 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 00:51:27.15 ID:M9AO098DO
>>947
読んだのが小学生の時だから曖昧だけどなんか雰囲気が似てる気がしない?
まあ「…のこと雷の如し」とかは全然違うかなwwww

ていうか載ったってなんだよwwwwww熱心すぎだろwwwwwwww
949 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 09:44:12.30 ID:xQbwvQTIO
一気読みに二日かかった

よきかなよきかな
950 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 13:28:51.69 ID:25XBeZ8AO
=旅路5=

―道とは

永き時を経て動物が、人間が、生きとし生ける者達が踏み締めた足跡である

旅路とは

旅人達が脈々と辿り、拓き、朽ちていった生涯の軌跡である―



騎士の中で最も位の高い、英雄「天騎士」

その権威は王族に匹敵するものであり、軍事面での実質最高権力者である

しかし、天騎士は都度任命され引き継がれていくものではなく、英雄たる実力と高潔な精神の持ち主が現れた時、神託により与えられる
951 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 13:35:39.81 ID:25XBeZ8AO


騎士『やぁッ! はぁッ!!』ザッザッ

天騎士『精が出るな』

騎士『天騎士様!?』バッ

天騎士『ああすまん、邪魔をしたね』

騎士『とんでもありません! むしろ、天騎士様に一度ご指導頂きたいと思っておりました』

天騎士『この老いぼれにかね』

騎士『老いぼれなど御冗談を。先日も山鬼を一撃に仕留めたと伺いました』

天騎士『大した事ではない。今の動きができれば君にもできるだろう』
952 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 13:41:02.94 ID:25XBeZ8AO
騎士『いえ…、私は実戦になるとどうしても膝が笑ってしまい……』

騎士『恥ずかしながら先日も、危うく熊に殺されるところでした』

天騎士『それはいかんな』

騎士『天騎士様のようになりたいと、日々鍛錬を積み重ねているのですが…』


天騎士『少し話をしよう。詰め所に行くぞ』

騎士『は、はい!』
953 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 13:45:42.50 ID:25XBeZ8AO


騎士『どうぞ』コト

天騎士『おお、すまんね』

騎士『お話とは?』ギッ

天騎士『ズズッ なに、私は少々英雄化され過ぎている節があるからの。失敗談でも聞かせてやろうと思ったのだ』

騎士『天騎士様が失敗!?』

コトッ

天騎士『あれは私が君ぐらいの頃の出来事だ…』ギィッ
954 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 13:57:12.02 ID:25XBeZ8AO
……

兵士『報告します! 東国、北国、共に本日は八合目で野営する模様です!』

騎士長『よし、部隊に戻れ!』

兵士『ハッ!』

騎士長『我々が先陣を切る形になりそうですね』

天騎士『ああ、一番乗りとは幸先が良い』

騎士長『畏れながら天騎士様、進軍を少し遅くした方がよろしいかと…』

兵士長『私もそう思います。先陣を切って竜に挑むのは、かなり危険かと』
955 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 14:12:56.54 ID:25XBeZ8AO
三つの国の中心に位置する山に、竜が住み着いて一年

三つの国は共同戦線を張り、竜退治に乗り出した

もし竜が暴れ出せば、国一つ程度なら一夜の内に滅んでしまう

敵の敵は味方

一年前まで、三つの国は小競り合いを繰り返していたが、今度の騒ぎで渋々手を組むに至った


騎士長『三軍同時に仕掛けるのが定石です。他国の進行を待ちましょう』

天騎士『では同時に仕掛けるにはどう合図をする。軍太鼓など使えば、たちまち竜に気付かれてしまう』

騎士長『う…』

天騎士『良いか、此度の作戦は竜を倒すのが目的。その為に最良の手段を使う』

兵士長『……』

天騎士『…そんな顔をするな。先陣は私が切る。他国が来る前に竜を討ち取り、我等の強さを知らしめよう!』

騎士長・兵士長『! ハッ!!』
956 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 14:20:30.24 ID:25XBeZ8AO


翌日、天騎士率いる軍隊は予定通り夜明け前に進軍を開始

竜の寝込みを狙って攻撃を開始した


魔術師長『赤組、拘束の魔術、ッてぇー!!』バッ

カッ


竜『!? グギャァァッ!!』ググッ


魔術師長『青組構えッ! 天騎士様、竜相手では長く持ちません! 行って下さい!』

天騎士『応ッ! 掛かれぇぇ!!』

『オオオオオオッ!!』
957 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 14:29:30.32 ID:25XBeZ8AO
竜『グァァァア…!!』ギギッ

天騎士『先ずは天に逃れられぬよう、その翼もらい受けるッ!!』バッ

天騎士が馬から跳び、竜の翼に斬りかかる
天騎士『ハァァアアアア――ッ!!』

ヒュンッ―――――




―――――キィンッ


天騎士「――――ッ!?」スタッ

スタッ

侍「一宿の恩義があるのでな、加勢させてもらう」
958 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 14:32:31.23 ID:3SCxU8b0o
昔話で出てくるのか
959 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 15:44:09.66 ID:eqpMa0bDO
ヤバイ侍カッコイイ
960 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 15:44:34.20 ID:eqpMa0bDO
侍カッコイイなー
今回は敵として出るのかしら
961 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 16:07:02.15 ID:25XBeZ8AO
天騎士『…貴様、竜の眷属か』

世の中には、竜に限らず、強大な力を持った種族に魂を売る人間が存在する

竜の眷属となった者はその加護を受け、竜を守る為の戦士となる

白騎士『天騎士様! あの者は私が!』ダダッ

天騎士『待て!』バッ

白騎士『!』ザッ


侍『……』スッ

天騎士『もし、私が敗れたら……退け!』

白騎士『!!』
962 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 17:28:13.23 ID:25XBeZ8AO
侍『……』

天騎士『黒眼に黒髪、…竜と共に来たのか』

侍『……』

天騎士『…言葉が通じぬか』チャキッ



天騎士『ハッ!』  侍『――ッ!』

ギィンッ

侍「疾ッ!」  天騎士「―ッ!」

ギィンッ カシィンッ

二度、三度と刃を交える、二人は相対する敵の強さを感じるのだった
963 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 19:35:15.61 ID:zTHC3cJIO
横槍申し訳ない

次スレはいかがしょう?
964 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 20:03:52.65 ID:NB/TgosKo
>>963
>>939
965 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 20:04:57.86 ID:zTHC3cJIO
>>964
本文に夢中すぎた、申し訳ない
966 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 21:06:26.42 ID:25XBeZ8AO


ガキィンッ

侍『……』ザッ

天騎士『……』ザッ

いつしか戦場には静寂が訪れていた

侍と天騎士の刃音だけが響き渡り、竜も兵士達も固唾を飲んで行く末を見守っていた

…天騎士様

天騎士『…っ!?』

魔術師長(天騎士様、聞こえますか?)

天騎士(魔術師長か! 何)

ガキィンッ

侍「貴殿の相手は拙者だ。余所見をすれば……死ぬぞ」ギギッ

天騎士「…ッ」ギチッ
967 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 21:14:56.18 ID:25XBeZ8AO
カシィンッ

侍『―ッ!』

天騎士『はッ!』バッ

天騎士(魔術師長! 奴は私と互角! …いや、それ以上だ!)

魔術師長(存じております! ですから、私が奴の剣を大地に縛り付けます)

天騎士(なに!?)

魔術師長(魔術師団も限界です! 私が三つ数えたら竜に「聖剣」を放って下さい!)

天騎士『…くッ!』
968 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 21:38:52.47 ID:25XBeZ8AO
侍『…―』ザッ

天騎士と侍

互いに繰り出すは必殺の剣

刃が触れずとも、二人の英雄の身体は傷だらけだった


天騎士『…貴殿とは、決着のつくまで闘いたかった』

魔術師長(ひとつ)

天騎士『だが、私は天騎士! 国の為、民の為、私情を捨てなければならぬ!』

魔術師長(ふたつ)

天騎士『…今から見せるは我等天騎士の秘剣。未だ破られた事はない!』ゴゴゴッ

天騎士の剣が淡い光を纏う

天騎士に伝わる奥義「聖剣」

闇を切り裂く光の刃は、不死王すら一撃に葬る

侍『…』

間も無く夜が明ける

決着の気配を、侍は静かに感じていた
969 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 23:30:18.90 ID:25XBeZ8AO
天騎士『……』ザッ

侍『……』スッ








(さん!)

―――ガクンッ

侍『―ッ!?』


天騎士『光と散れッッ!!』

カッ




遮る事―


ドオォォォォォォオオンッッ
970 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 23:39:50.85 ID:125PVfzDO
長いとダルいよね
971 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 23:42:37.11 ID:25XBeZ8AO
天騎士は見てしまった

「聖剣」を放つ寸前、侍が刀を捨て、射線上に飛び込むのを

両手を広げた侍は、「聖剣」の切先を捉え―



―――バキンッ



侍「―大河の如し」


へし折った
972 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/10(月) 23:55:50.93 ID:25XBeZ8AO
天騎士『なんという事だ…』ガクッ

侍『―ッ!?』ズキッ

苦痛に顔を歪め、膝をつく侍

折られたとはいえ「聖剣」。ただの剣と同じようにはいかない

侍の掌は焼け、腕の筋は酷く痛んだ

兵士長『剣士が倒れたぞ!』

騎士長『突撃だ!』

『オオオオッ!!』



天騎士『待てッ』バッ

白騎士『なっ!? どうしてです!』
973 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/11(火) 00:01:38.74 ID:X+VkJGtAO
天騎士『言った筈だ! 私が敗れたら退け、と』

白騎士『しかし! 天騎士様はこうして立っているでは…』


天騎士『愚か者!!』


白騎士『!』ビクッ

天騎士『この様に卑怯な真似をしては……騎士失格ではないか』

白騎士『天騎士様…』



ピキッ

パキパキッ

クェーッ クエーッ

天騎士『な、なんだ?』


『生まれたよ! よく頑張ったね!』
974 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/11(火) 00:09:37.63 ID:X+VkJGtAO
仔竜『クェーッ クェーッ』

竜の仔が夜明けと共に産声を上げる

生命の誕生は、朝日に引けを取らぬ程神秘的で……美しかった


天騎士『竜の子供……?』

騎士長『竜は卵を守る為、あの場を動かなかったのでしょうか…』


竜『グガァァァアアアアッッ!!』


竜が天に向かって吼える

それは我が子の誕生を喜ぶ親の声だった
975 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/11(火) 00:16:36.87 ID:X+VkJGtAO
仔竜『グェー』バサッバサッ

少女『うわっ!? もう飛べるの?』

朝日に向かって仔竜が飛び立つ

竜『グルル』

少女『…え』

竜が頭を下げ、地面に顎をつける

少女『乗れ……って事なのかな』

少女『…っええい! 違ったらごめんなさいっ!』グッ
976 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/11(火) 00:24:01.76 ID:X+VkJGtAO
竜「グルル…」スッ

少女「―――――!」ブンブン

竜の頭に乗った少女が侍を呼ぶ

侍「いや、私はこの通り腕が…」

グァパッ

竜「アガッ」

侍「……入れ、と」



……

天騎士『…竜の親子は大空に舞い上がり、朝日へと消えていった』

騎士『その剣士は、竜の剣士はどうなったんです?』

天騎士『わからん。まだ竜と共に生きているのか、はたまた……』
977 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/11(火) 00:29:57.94 ID:X+VkJGtAO
天騎士『…と、すっかり長くなってしまったな』ガタ

騎士『いえ、とても面白かったです』

天騎士『ひとの失敗談を面白いとは何事じゃ』

騎士『あッ!? いやそのっ』

天騎士『…状態じゃ』

騎士『………脅かさないで下さいよ』

天騎士『ハッハッハッ』



騎士『天騎士様』

天騎士『なんじゃ』

騎士『失敗とは、竜の剣士が倒れた時、攻撃命令を止めた事ですか?』

天騎士『……いや』



天騎士『最後の最後に、再戦の約束をしなかった事じゃ』
978 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 00:40:12.02 ID:LnPULQ8IO
今夜も素晴らしいです。
ホント尊敬します。
余談ながらノーライフキングとは懐かしい…
979 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/11(火) 00:43:04.43 ID:X+VkJGtAO
旅路5終わり

本編は次スレから書く事にするので、以外雑談、感想や指定の書き込みに使って下さい

レスが止まり次第HTML依頼しますので


>>965
夢中になっていただけるとは
嬉しいです

>>970
ラノベ好きな友人にも「終わりのない話は嫌い」と言われました
風呂敷を広げすぎて、最後収集つかなくなったり、作者自身が飽き足りと、長編はリスクがありますよね…

はじめ辺りに書いた通り、このスレはごみ箱手帳です
私の読みたい物語を延々書き連ねる自由帳みたいなものです
私が終わりを書きたくならない限り、多分侍と少女には旅を続けてもらいます

お暇があれば、覗いて下さい
980 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 01:05:59.58 ID:DpvFMKATo
>>979
俺シリーズ小説の最終巻ってダメなんだ
感情移入した奴らのその後がもう見れないのかって寂しくなる
終わらない物語も良いものだよ
それにこの話はどこで終わっても問題がない
逆にどこかで区切りをつけても終わらない
そんな物語な気がする

乙!
981 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:09:30.27 ID:X+VkJGtAO
次スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4gep/1294675508/l20

>>980
そうなんですよね
最終回、寂しくて涙しちゃうタイプなんですよ、私
982 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 01:22:31.11 ID:LnPULQ8IO
>>1はいつから、言葉ではなく行動と情景で語る物語を書こうと思ったのだろうか…
北斗スレとは毛色が全く違う
983 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 01:36:08.26 ID:PJex0R3AO
キノの旅みたいなもんかね
終わらない物語って
984 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:45:45.57 ID:X+VkJGtAO
サークルオブマジックもノーライフキングも未読です
今度買ってみます


>>982
「王ドロボウJING」が大好きで、その影響をかなり受けてると思います
又、「FFタクティクス」の世界観で、別な物語を書きたいなぁと思ってました
書き方は「片岡とも」氏の作品が好きなので、想像力に任せる作風を心がけて……手抜きですかね?

北斗は単純に北斗キャラでほのぼのしたいという私欲と思い付きで書いてます
ギャグは苦手です

>>983
前にも上がってましたね
読んだ事ないんですが、似てるんですかね
今度読んでみようかな
985 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 03:23:19.29 ID:BGoZl6j0o
次スレせーそくじゃないの?
986 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 03:24:27.79 ID:BGoZl6j0o
と思ったら携帯用URLにとんだからブラウザが開いただけだった、スマソ
987 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 03:35:29.46 ID:X+VkJGtAO
>>977
訂正

状態→冗談

誤字が多くてホント恥ずかしい…



お付き合いいただきありがとうございました
おやすみなさい
988 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 06:33:46.19 ID:rAP3Aw9ro
面白いな
次スレでもがんばってくれ>>1
989 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 07:10:45.69 ID:Lkh/5ZFDO
とても好きだ
乙、次スレも楽しませてもらいます
990 :982 [sage]:2011/01/11(火) 07:41:38.18 ID:LnPULQ8IO
流麗で想像力に任せる作風が非常にいい!
一行目に「あんた凄えよ乙」と書き忘れ
ぶっきらぼうな書き込みに見えて陳謝
次スレも応援します
いや、応援させて下さい、乙
991 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 09:22:05.41 ID:GHVtCiyoo
乙です
992 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 17:15:56.46 ID:X+VkJGtAO
>>988-991
ありがとうございます!
私なりにいい作品を書いていきます
993 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 17:36:01.54 ID:LPl3e0lDO
バルバネスさんですねわかります
994 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 19:01:37.00 ID:V29AjIato
追いついたか。こういうゆったりした雰囲気は好きだ。
例え似たような話がすでにどこかにあるとしても俺はこのスレに出会えたことを幸運に思う。
気長に続けてほしい。俺も気長に読みたいから。乙。
995 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 20:04:36.54 ID:QRsc9jSIO
これは一気読みしたいSS
久しぶりに保存した
996 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 20:14:48.31 ID:nT4SPQzeo
乙ちゅっちゅうめ
997 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 20:37:18.12 ID:X+VkJGtAO
>>993
そういえばお父さんは天騎士でしたね
被っちゃった…

>>994
たっぷり書いておくので時間ある時にでも読んで下さい

>>995
ありがとうございます
次もよろしくお願いします

>>996
thxちゅっちゅ
998 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 20:56:04.75 ID:zOqoRyleo

一応PC用次スレhttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294675508/
999 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 22:18:51.36 ID:LnPULQ8IO
まだまだ続くな!
おつおつなんだぜ
1000 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 23:39:59.26 ID:cA+hnz/DO
1000なら赤飯
1001 :1001 :Over 1000 Thread
    ´⌒(⌒(⌒`⌒,⌒ヽ
   (()@(ヽノ(@)ノ(ノヽ)
   (o)ゝノ`ー'ゝーヽ-' /8)
   ゝー '_ W   (9)ノ(@)
   「 ̄ ・| 「 ̄ ̄|─-r ヽ
   `、_ノol・__ノ    ノ   【呪いのトンファーパーマン】
   ノ          /     このスレッドは1000を超えました。
   ヽ⌒ー⌒ー⌒ー ノ      このレスを見たら期限内に完成させないと死にます。
    `ー─┬─ l´-、      完成させても死にます。
        /:::::::::::::::::l   /77
       /::::::::::i:i:::::::i,../ / |
       l:::/::::::::i:i:::、:::/ / |
       l;;ノ:::::::::::::::l l;.,.,.!  |
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       /:::::::;へ:::::::l~   |ヌ|
      /:::::/´  ヽ:::l   .|ヌ|               製作速報VIP@VipService
      .〔:::::l     l:::l   凵                  http://ex14.vip2ch.com/news4gep/
      ヽ;;;>     \;;>

1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
なるほど @ 2011/01/11(火) 23:13:12.80
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4vip/1294755192/

渡辺謙がなかなか帰ってくれない家にありがちなこと @ 2011/01/11(火) 23:02:43.79
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4vip/1294754563/

皆で無料恋愛バトルゲームやろうずwwww @ 2011/01/11(火) 22:48:52.29 ID:KML7SM6SO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1294753732/

安価で昔のアイドル曲っぽいの(70-80年代くらい)を作るスレ @ 2011/01/11(火) 22:43:34.70 ID:GGUUFO8W0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294753414/

ここだけきのこたけのこ紛争 @ 2011/01/11(火) 22:12:49.01 ID:nAcHwy7s0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1294751568/

姉貴がウザイから安価でメールする Part17 @ 2011/01/11(火) 22:04:06.63 ID:xzGWVjtr0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1294751046/

姉貴がウザいから安価でメールする part17 @ 2011/01/11(火) 22:03:50.83 ID:61N+UBAf0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/operate/1294751030/

緑の日記 @ 2011/01/11(火) 22:02:01.97 ID:ce0grXcBo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1294750921/


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