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ダンテ「学園都市か」【MISSION 05】 - 製作速報VIP(クリエイター) 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 00:47:58.03 ID:3iWVRjAo
「デビルメイクライ(+ベヨネッタ)」シリーズと「とある魔術の禁書目録」のクロスです(かなり長いです)。

○今までの大まかな流れ

本編 対魔帝編 

外伝 対アリウス&ロリルシア編

上条覚醒編

上条修業編

勃発・瓦解編←今ここの終盤(スレ立て時)

準備と休息編(多分短め)

デュマーリ島編




○ダンテ「学園都市か」で検索すればまとめて下さったサイトが出てきます。

○過去スレ

http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267269712/
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267368924/

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1267417603/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1269069020/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1271690981/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1276448902/


○有志の方がうpして下さった過去ログ(dat)
ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/88288.zip
pass:dmc


※DMC(ベヨネッタ)勢は、ゲーム内の強さよりも設定上の強さを参考にしたため絶賛パワーインフレ中。
それに伴い禁書キャラの一部もハイパー状態です。

※妄想オリ設定がかなり入ります。
ダンテ・バージル・ネロの生い立ちやキャラ達の力関係、幻想殺し等『能力』や『魔術』等の仕組み・正体など。
また世界観はほぼ別物となっております。

※禁書側の時間軸はイギリスクーデター直後(原作18巻)、DMC側の時間軸は4から数年後です。
この後の展開は双方の原作には沿わないものとなります。

その関係上、禁書原作21巻以降に明かされた諸設定は基本的に適用されてません。
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/11(水) 00:51:42.04 ID:HllDkZU0
(`・ω・´)ゞ5スレ目突入おめです!!
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:04:02.99 ID:3iWVRjAo
―――


窓の無いビル。


アレイスター「…………」



学園都市を覆う高濃度の『AIM拡散力場』。

その原因は、ヒューズ=カザキリではない。

エイワスでもない。



一方通行だ。



学園都市中のAIMを掻き集めた存在と同じ規模・濃度のAIMを、

今の一方通行はたった一人で放散しているのだ。
その原因は当然、先の『戦い』だ。


あの場で、一方通行は更に進化した。

遂に『人間界の天使』の領域へ、
『生きている身』・『魂と器』を持つ者として足を踏み入れたのだ。

この 『生きている身』・『魂と器』を持っている という点が、
一方通行がヒューズ=カザキリやエイワスと最も違う部分だ。


今の一方通行とヒューズ=カザキリの『力』自体は拮抗しつつあるも、
その『性質』と『構造』は全く別物だ。
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:05:45.02 ID:3iWVRjAo

ヒューズ=カザキリとは、
『学園都市中の能力者』という小さな蛇口から僅かに染み出た、

『AIM拡散力場』を寄せ集めた結晶だ。


古の滅びし、人間界の神々の『力』の『集合体』であり、『タダの力の塊』に過ぎない。

『風斬 氷華』という人格は操作しやすいようにアレイスターが組み込んだものであり、
厳密に言うと『生命』ではない。

『器』も『魂』も持っていないのだ。

当然、ヒューズ=カザキリの上位体であるエイワスもだ。
この二体は、大勢の能力者がいないと存在を維持できない。

封印されている『力場』から力を引き出す、『大量の蛇口』がないと だ。

この供給が止められたら、ヒューズ=カザキリやエイワスはいずれ完全に消滅する。

器と魂が完全に破壊された、悪魔や天使が復活できないのと同じく だ。

『器』と『魂』が無ければ、力を『修復・成長』させることどころか、
現状を維持する事もできずに、時間と共に崩壊して霧散していくのだ。


『器と魂』が無い『タダの力の塊』はつまるところ、
『生ある存在』としては完全に死んでいる状態だ。


つまり、ヒューズ=カザキリとエイワスは古の神々の『亡霊』だ。


『死んでいる力』のみで形成されているのだ。
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:08:23.37 ID:3iWVRjAo
対する『一方通行』。

彼は『生きている』。

『器と魂』を持ち、そして力の『修復・成長』も可能だ。


その力は『生きている』のだ。

数千年の時を越えて、遂に『生きている状態』の『人間界の力』が誕生した。


『人間界の天使』の領域へと踏み込んだ彼は、
最早ヒューズ=カザキリらのような外部からの供給はもう必要としていない。

封印されし『力場』からの供給を だ。


もう一般の能力者のように、その『力場』から『死んでいる力』、

『古の神々の残骸』を借りなくてもいいのだ。


何せ彼の魂と器の中で力は『生きている』。

彼の内部で力は胎動し、成長を始めている。


『力場』から大勢の能力者へ。
その能力者達から供給を受ける。

というヒューズ=カザキリらの行程を、


今の一方通行は己の『内部』のみで完結し、今尚更なる高みへと進化し続けているのだ。
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:10:40.23 ID:3iWVRjAo

本物の悪魔や天使と同じく、己の『器と魂』を力の供給源とし、
『力場』に頼らない存在へと。

魔女達と同じような、『別次元の人間』へと昇華するのだ。

(その力の属性は魔界と人間界で全く別物だが)


もう、ただ一方的に力場から供給を受ける立場ではなくなる。


逆に、一方通行『側』から『力場』へと力を供給することも可能だ。

つまり、一方通行『側』からの『力場』への干渉も可能なのだ。


ヒューズ=カザキリやエイワスを形成した、
この巨大なAIM拡散力場を統べれるようになれるのももうすぐ。

全能力者の『力』を統制するのも可能になる。

それだけじゃない。



封印されていた『力場』の、その莫大なエネルギーを手中に収めるのも可能になる。



これこそが、アレイスターが一方通行に求めていたモノなのだ。
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:12:29.56 ID:3iWVRjAo

天界に封印されて数千年。

その時を越えて、遂に『人間界の力』と『人間の魂』が直接繋がり、そして融合した。


長き時を越えて、『力場』に生ある者の『意志』が流れ込むのだ。


アレイスター「…………」


この状況下での、『通常の天界魔術』はまともに起動しない というのはアレイスターにとってただのオマケだ。

天界の干渉を避ける為に一方通行を育てたわけでは無い。


『封印されし力場に直接干渉できる個体』が欲しかったのだ。


『セフィロトの樹』から完全に外れ、『力場』に『直接』繋がる個体が。




『力場』へと、こちらの『意志』を流し込める巨大な『パイプ』が。



とはいえ、一方通行にはもう少し手を加える必要があるが。

欲しいのは力場に直接干渉できる『魂と器』。

彼の『精神』ではない。
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:14:35.78 ID:3iWVRjAo

その精神、つまり『意志』を排除する必要がある。


『未元物質』とミサカネットワークがその『最後の調整』の為のパーツだ。

その調整が終われば、プランのゴールはもう数歩先。

目前だ。

調整が終わった後。

次にエイワスとヒューズ=カザキリ、この二つの存在を形成する、大勢の能力者によって支えられている巨大なAIM拡散力場、

これらで『幻想殺し』を洗浄し『初期化』する。


いや、幻想殺しとしてではなく、あらゆる情報と力を飲み込むことが出来る『竜王の顎』を だ。

『完全起動』させ『生きている力』として だ。


その後、その『浄化』された『竜王の顎』と『一方通行』を結合し。

そして最後にアレイスターの『意志』を、
このアレイスターが『入っている肉体』の『能力』を使用して結合させる。


『セフィロトの樹』の構造を完全に『理解』した、アレイスターの『意志』を だ。


それで彼の最終目的が遂げられる。

それでプランが遂に成就する。


アレイスター念願の、とある『二つ』の事象が起こるのだ。



それは天界の完全滅亡と―――――――――。
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:15:18.16 ID:3iWVRjAo
―――と、そうやって思考を巡らせていた時。


アレイスター「…………」


とある複数の気配に気付き、アレイスターはゆっくりと目を開けた。

すると、水槽の前5m程の所に三人の少年と二人の少女が立っていた。

いや、その内の一人は座っていたが。


土御門、ステイル、結標。


そしてボロボロのワンピースコートを着、アラストルを右手に持っている麦野と。

同じくボロボロの服を着て、床に座っている一方通行。


アレイスター「…………待っていたよ」


ステイル「話がある」


土御門「同じく」


―――
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:16:48.43 ID:3iWVRjAo
―――

とある深い森。

太陽が高く昇っているにも関らずその一帯は薄暗く、そして湿った冷たい空気が覆っていた。

そんな森の奥深くにポツンと佇んでいる古い廃屋。

人の手が入っていた頃はそれはそれは立派だったであろう洋館。

人々の記憶から捨て去られた今は、
正に『化物屋敷』という表現が相応しすぎるほどにおどろおどろしい姿をしている。

ある意味その『姿』は『正しい』。


なにせ今は、本物の魔女達と最強の悪魔のアジトなのだから。



廃屋の一階。

広め部屋の中央に置かれている、大きな薄型テレビとソファー。


そのソファーに、シャワー上がりのベヨネッタは寝そべっていた。
缶ビールを片手に。


格好は、普段の黒縁メガネに大き目の白いTシャツ、下はいろいろな意味で際どい黒のパンツ一枚。
当然ノーブラ。

ちょうど太ももの付け目辺りまで覆っているTシャツ、
そのギリギリの裾から黒のパンツがちらりちらりと見え隠れしていた。
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:20:02.38 ID:3iWVRjAo

普段の黒いピチピチボディースーツは、ベヨネッタの髪が変異してたもの。
つまり厳密に言えば、あのスタイルのベヨネッタは常に『全裸』という事になる。

そしてシャワー上がりの今、一応ようやく全裸では無くなっているというわけだ。

そんな彼女の周りの床には、空になったビールの缶や、ウイスキーやワインのボトル、
スナック菓子の袋等が散乱していた。

これらはたった今、シャワーから上がった彼女が一気に消費したもの。


ベヨネッタ「………………………………げぇぇぇっっふっ……」


だらしなくソファーに寝そべりながら、胃からこみ上げてきた空気を下品に吐く。

完全OFF時間のだらしなさは、どこかの某デビルハンターと良く似ているかもしれない。

ON状態のぶっ飛び具合も良く似ているが。


と、そうしてソファーの上で伸びていたところ、
部屋のドアが開け放たれジャンヌがツカツカと入ってきた。


ベヨネッタと彼女の周囲の有様を見、
あからさまに呆れた表情を浮かべて。


ベヨネッタ「ん〜んお先。ほらどうぞ」


そんなジャンヌに対し、ベヨネッタはもう片方の手で別の缶ビールを持ち、
ジャンヌの方へと放り投げた。
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/11(水) 01:20:07.82 ID:HllDkZU0
(*゚∀゚)ムヒョー!!!
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:23:11.30 ID:3iWVRjAo

ジャンヌ「……全くお前って奴は……」

その缶ビールをキャッチし、ソファーの背もたれに軽く腰掛けるジャンヌ。


ジャンヌ「……バージルはまだか?」

ベヨネッタ「戻ってないわよ。学園都市はもう静かになったらしいけど」


ベヨネッタ「というか『右方』の『ドラゴンちゃん』どーすんのよ。アレ生きてんの?」


ジャンヌ「それもバージルと話しなければな」


ベヨネッタ「どこをほっつき歩いてるんだか」

ベヨネッタ「というか勝手に学園都市行くとか」


ジャンヌ「『右方』が学園都市に来るのを察知してたんだろ」


ベヨネッタ「あーあーわかってたなら教えろってのよ」


ベヨネッタ「『協調性』が無いから結局ミスするのよ」

ベヨネッタ「こっちはしっかりきっかり仕事済ませたのに」


ジャンヌ「…………まあ仕方ないさ。まさかダンテが来るとはバージルも思っては無かっただろうよ」

一瞬ジャンヌは どの口で協調性って と突っ込みたくなったが、そこは心の奥底に静かに仕舞いこんだ。
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:28:56.18 ID:3iWVRjAo

ベヨネッタ「こっちだって『不測の事態』があったけどちゃんとこなしたでしょ」

ジャンヌ「仕事が済んだ後だっただろ。それにローラとダンテを比べるわけにもいかないさ」


ベヨネッタ「…………ローラ……」


ベヨネッタ「…………あれ、『メアリー』じゃないの?私見たのよ『ローラ』が死んでるの」


ジャンヌ「いや、それは無いよ。あのすっ呆けたノリはローラだ。メアリーはもっとお淑やかだった」

ジャンヌ「私はメアリーとはあまり話したことも無かったしな。ああやって接してくる事はまずないさ」


ジャンヌ「少なくとも私らが話してた『相手』はローラだと思うよ?」


ベヨネッタ「…………でも『バレットアーツ』使おうとしてたわよ?」


ジャンヌ「……」


ベヨネッタ「そもそもアレ、『おてんばローラ』の装備じゃないでしょ?」


ベヨネッタ「あの子、バレットアーツを習う歳ですら無かったと思うけど」
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:34:59.54 ID:3iWVRjAo

『バレットアーツ』とは、武器を取り付けた四肢による魔女の超高速体術だ。

『バレット』とあるが、武器は銃だけではなく剣や槌・鞭等などありとあらゆる物を扱う総合的なもので、
戦闘員には必須の技術だ。

更に単純な戦闘能力強化だけではなく、

力の統制の仕方・己の内にある『魔』の強化・様々な術式を体と魂に『染み込ませる』等、
全体的な強化の面もある。

アンブラの『戦士』の基本中の基本だ。
これを習得していなければ、アンブラ内では戦力として数えられない。


アンブラの魔女の戦闘スタイルの基本は、至近距離下での超高速肉弾戦。

彼女達の戦闘の根底には必ず『バレットアーツ』がある。
アンブラの魔女の戦闘能力は、『バレットアーツ』をどれだけ扱えるか に直結している。


ベヨネッタとジャンヌがアンブラ最強と謳われているのも、
『最強のバレットアーツ使い』という前提があるからこそだ。

魔女達が扱う魔術も、基本的には『バレットアーツ』と併用すること前提として、
長い歴史の中で熟成されてきたものだ。

当然、奥義の一つでもある『ウィケッドウィーブ』もだ。

それらの魔女の術は、『バレットアーツ』と組み合わせる事により本当の威力を発揮する。

その組み合わせの相性によっては、単体時の数千倍もの火力を発揮することもあるほどだ。



と、ここまで言えば、お手軽な万能ツールのようにも聞こえるがそれは違う。

『バレットアーツ』をマスターするにはかなりの時間を要する。

魔女の修練の内、バレットアーツ習得の為に裂かれる時間は8割以上。

そして一人前として認められるには、最低でも50年はかかるのだ。
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:39:25.57 ID:3iWVRjAo
一人前になるだけでそれだ。

『一人前』とは決して『達人』というわけではない。

ようやく『戦力』として認められる最低ラインだ。

かつてメアリーが在籍していた、近衛等の精鋭になるには、
更に過酷かつ長きに渡る修練が必要だ。


そして当時のローラの年齢は10歳前後。

魔女の世界では正に赤子同然。

彼女がバレットアーツを習得していたはずはない。


(『書記官』とは文官であり戦士では無いため、就任にはバレットアーツ技術は必要としていない)


更に、素質さえあれば習得できる『ウィケッドウィーブ』とは違い、
『バレットアーツ』を本格的に教わるのは肉体がある程度成熟してからだ。

当時のローラは修練が始まってさえいなかったはずだ。


都が滅んだ後の500年間で独学で習得したとも考えられない。

数千年に渡り、無数の魔女達が人生を捧げて練り上げてきた技術の結晶だ。


『世界の目』という反則的な力を持っているベヨネッタはともかく、

こればかりはジャンヌでも無理だ。


たった一人、たった500年で『ゼロ』から習得するなど。
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:43:17.90 ID:3iWVRjAo
だが、ヴァチカンのローラは確かにバレットアーツを習得していた。

ただ装備を持っていただけではない。


立ち振る舞いや、醸し出す空気でわかる。


ジャンヌ「…………あの装備…………メアリーのか?」


ベヨネッタ「ただ、姉の『形見』を持っているってわけでも無さそうね」


ジャンヌ「じゃあこうか。私らが話していたのは『ローラ』だが……」


ベヨネッタ「戦おうとしていたのは『メアリー』」


ジャンヌ「あの金髪の体はローラ、話していた精神もローラ、でも魂はメアリー……」


ベヨネッタ「……な〜んか腑に落ちないわね。どこかが間違ってる気がする」


ジャンヌ「『観測者』さんよ、その『世界の目』で何か見えないかい?」


ベヨネッタ「ん〜はぁ、そう都合良く動くもんじゃないのよ『この目』は」


ジャンヌ「まあ、そりゃそうだ」


ベヨネッタ「…………心配?おてんばローラの事」
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:44:31.53 ID:3iWVRjAo
ジャンヌ「…………」


『心配じゃない』と言えばそれは嘘になる。

現に、ヴァチカンで彼女に会った時は心の底から嬉しかった。
生き延びていた『家族』が自分達だけではなかった と。

そして当然、『あの子』が心配だ。

天界傘下に入っていたという大罪を背負ってはいるが、

かけがえの無い家族なのは真実。

かけがえの無い同族なのは事実。


彼女が『こちら』に来なかった理由も気になるし、
何よりも絶対に死なせたくない。


これ以上、『姉妹』が死ぬのは見たくない。


だが。


ジャンヌ「………………ま、アイツの件はまた今度だ」


『今』は『今』の仕事を優先すべきだ。
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:46:30.50 ID:3iWVRjAo

ベヨネッタ「…………そうね」

缶ビールを一口飲み、小さく呟くベヨネッタ。


彼女も内心はジャンヌと同じだった。

ここで今ジャンヌが ローラを救う と言ったとしたら、彼女も共に立ち上がっただろう。

今の仕事を放棄してでも、だ。

だがそんな事など許されない。

そんな事をすれば、『人間界を救う』チャンスは二度と来ない。

魔女も広義では『人間』に属している。

『魔界の理』で生きているが、生まれた地は人間界。


その故郷である人間界と魔女一人の命。

天秤にかけるまでもなかった。

優先すべきなのはどちらなのか、それは明白だった。


ベヨネッタ「今は『コレ』やらなきゃね」


ジャンヌ「ダンテが動く以上、バージル一人に任せてられないしな」


ベヨネッタ「ねぇ〜。ダディってなんだかんだで弟に『甘い』みたいだし」
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:48:40.21 ID:3iWVRjAo

ジャンヌ「…………」


ベヨネッタ「で、話し変わるけどどう?あのイギリス清教の子は?」


ジャンヌ「ほら」

ジャンヌが指を軽く弾き音を鳴らすと、
先程彼女が通ってきたドアが一人でに大きく開き。

その向こうの、小部屋の角にいる五和がベヨネッタからも見えた。


五和は七天七刀の鞘を固く抱き、
頭を伏せて小さく蹲っていた。


ジャンヌ「ご覧の通りだ」


ベヨネッタ「あら、萎れちゃってかわいそーねぇ」


ベヨネッタ「どーすんのあの子。私がバージルに説明するのはイヤよ」


ジャンヌ「『勝手にしろ』の一言で終わるさ」


ベヨネッタ「でもさ、『アレ』の『転生』が失敗してたらさすがにさ」

ベヨネッタ「『置いておく意味は無い』ってバッサリやられちゃいそうだけど」


ジャンヌ「失敗してたらお前の責任だからな」
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/11(水) 01:53:03.15 ID:3iWVRjAo

ベヨネッタ「んん……あの『刀』はバージルの『子』なんだから、一番はバージルじゃない?」


ベヨネッタ「あ……もしかして、バージル直で『煉獄』に行ったんじゃない?」


ジャンヌ「……今か?早すぎると思うがな……」


ベヨネッタ「アイツがただ様子見に行くとかはまず有り得ないから、今『連れて来る』気ね多分」


ジャンヌ「…………」


ベヨネッタ「ん〜、『センセー』は心配性ねぇ。しかめっ面はやめなって。大丈夫だって。多分」

ベヨネッタ「私の一張羅をぶった切ったくらい、気合入ってたエンジェルちゃんだったし」


ジャンヌ「……」

ベヨネッタ「……」

ジャンヌ「……」

ベヨネッタ「……」


ベヨネッタ「…………ボヨヨーーーンッッッ!!!!!!!!」


ジャンヌ「うるさい」


ベヨネッタ「少しは笑いなよ。せめて呆れ笑いくらい。私が惨めでしょノリ悪いわね」


ジャンヌ「断る。バカがうつるからな」


―――
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 01:55:02.24 ID:3iWVRjAo
今日はここまでです。
次は金曜か土曜の夜中に。
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 02:53:47.01 ID:OHg76cSO
ラストwwwwww
乙した
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 03:17:10.78 ID:mLU5Bw.o
ボヨヨーーーンッッッww
乙した
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 03:33:40.95 ID:dRR.CwAO
ラストwww
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/11(水) 10:12:38.31 ID:HllDkZU0
ちょwwwwwwおヨネさんwwwwwwwwww
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 16:33:28.61 ID:rYRLKKE0
ベヨ姐が可哀想なくらい浮いてしまうパーティだなwwwwwwwwww
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/11(水) 17:29:41.51 ID:KaoHkGwo
実力も飛びぬけてるしなこの面子ww
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/12(木) 03:32:50.30 ID:pY5xnDE0
・・・話の展開が加速するに従って陣営が込み入ってきたけど

@アリウス/フィアンマ陣営
Aデビルメイクライ組(ベオ条&ビリビリ含)
Bおヨネさん&お兄様+ジャンヌ
Cエゲレス
Dローマ
E学園都市(アレイスター)
F反アレイスター派
Gフォルトナ(含ネロ坊)

・・・であってる?
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/12(木) 08:51:22.46 ID:Tif92T.P
エクセレント!
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/12(木) 19:21:28.34 ID:ldCVOdco
>>29
今の情勢は大体そんな感じです。
もう少し修正とこんな風に。

@アリウス&フィアンマ
Aデビルメイクライ&フォルトゥナ(ネロ&ベオ条含)
B学園都市(アレイスター)
C反アレイスター派
Dバージル&ベヨ・ジャンヌ
Eイギリス清教
Fローマ正教(イギリス省くEU)・ロシア盛教
Gジュベレウス派率いる天界勢


ダンテ組とネロ(フォルトゥナ)組は別行動ですが、その根の行動指針は同一なので同じ陣営と言えます。

ただ、これは大まかな分け方なので、細部はこの限りとは言えません。

いくつかの例を箇条書きで上げると、

・Cの一方やむぎのんはAに属している面もある。
・EとFは完全に敵対しているが、そのバックは同じ十字教でGの傘下。
・BとCは共闘せざるを得ない状況になりつつある。

・フィアンマはジュベレウス派と結託しているが、魔界の肩を持つ形になるアリウスは天界の敵。
 そして二人とも、後にお互いを裏切る気マンマン。
・フィアンマも結局はジュベレウス派を良いように利用しているだけ。

・G内でも、ジュベレウス派とその他十字教等との間には摩擦がある。

などなどです。


複雑な情勢になってしまいすみません。
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/12(木) 19:39:28.56 ID:hh0JKsg0
もはやSSとは思えぬ深さだ…そして伏線の数々をキチンと消化して、あぁなるほど!って納得できるのもすごい。
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/12(木) 19:58:54.79 ID:vOskocDO
かまち暗殺して>>1が禁書も書いちまえよ
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/12(木) 20:23:10.49 ID:zez3VADO
んなことしたらどっちも無くなるわwwwwww
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/12(木) 21:40:20.40 ID:PDE2G3A0
>>31
レス&解説あざっす!!(´ω`)ゝ
天界も1勢力としてカテゴライズなのですな
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/13(金) 19:35:35.98 ID:4oC5YEDO
>>32
ああ、もうLong novelの領域だな
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 00:00:09.02 ID:DMcpqGE0
ものすごく今更だが、ネロはバージルが父親って分かった時、
同時にダンテが自分の叔父だって分かったんだよな
いい年してはっちゃけてるオッサンが実の叔父だって分かった時の心境が気になるww
あと、ネロにとってはトリッシュはばーちゃん(エヴァ)と同じ顔した人なんだよなww
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 17:33:30.17 ID:Arjuuw.o
―――


窓の無いビル。


アレイスター「―――これが大まかな状況だ」


ステイル「―――…………そうか……」


土御門「…………」


アレイスターの口から告げられた、全体の状況。

ヴァチカン、フォルトゥナ、学園都市、そしてイギリスで起こった事。

だが教えたのはそれだけだ。

『全て』を教えたわけでは無い。


バックグラウンドや、それぞれの人物間の繋がりなどは一切教えていない。

アレイスターにとって教える必要などないし、
土御門達もその裏の、核心部分を聞き出せるとは元々思っていない。



ステイル「それで、僕達を引き渡す意思は無いという事だが……」


アレイスター「思う存分この街にいてくれてもかまわん。フォルトゥナもあの惨状だ」

アレイスター「君達が安心して休めるのはこの地くらいしかないだろう」
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 17:34:26.24 ID:Arjuuw.o

ステイル「…………僕等を匿う理由は?」


アレイスター「理由は『能力と魔術』の歴史が証明しているではないか」


ステイル「…………つまり……『能力迫害』も天界の意思だったということか?」

アレイスター「当然だろう」

ステイル「ふん、敵の敵は味方か……」


土御門「(………………学園都市は天界の……敵か……?)」


アレイスター「『味方』かどうかは任せるが、少なくとも今は敵対すべきではないと思うがな」


ステイル「…………もう一つ聞きたい事がある」


アレイスター「何かな?」


ステイル「今のフォルトゥナが危険なのはわかる」


ステイル「だがなぜ学園都市が『安全地帯』なんだ?」


アレイスター「…………」
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 17:36:16.63 ID:Arjuuw.o

フォルトゥナは天界の影響を全く受けない地の一つ。
襲撃され結界・防壁が破壊されていなかったら、ステイルとインデックスにとって最も安全な場所と呼べただろう。

だが今は違う。

結界・防壁が無い今は更に魔が強くなっている。
魔窟となりかけているのだ。

天界からの脅威が無いのは確かだが、
それとは桁違いの強大さを誇る魔界の手がいつ伸びてきてもおかしくない地なのだ。

さすがにステイルも、そんな地にインデックスを連れて行く気にはなれない。
それならば天界の脅威に晒されていたほうがマシだ。

ステイルは天界と直接交戦したことは無いが、どちらの『世界』の連中が恐ろしいかは承知している。

『天界が魔界を心底恐れている』という事実がそれを物語っているではないか。



だがフォルトゥナがそうだからといって、『じゃあ学園都市は安全だ』 とはならない。


ステイル「僕が納得しうる説明をしてもらおうか」


ステイル「お前の話を聞く限り、この街『そのもの』にも天界の敵意が向いているという事になるが?」


ステイル「……もしそうだとしたら、僕達にとってはそこらの荒野にいた方が安全だと思うが」


アレイスター「…………」
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 17:38:25.58 ID:Arjuuw.o

そのステイルの問い。

これに土御門達もそれぞれの反応を示した。


―――この街『そのもの』にも天界の敵意が向いている。


土御門「―――」


『天界に敵意を向けられる』。


『学園都市』が。


天界等、そういう世界関係や歴史を知らない一方通行や麦野、
結標は怪訝な表情を浮かべただけだったが、

その危険性を知っている土御門は表情を凍らせた。


土御門「…………」


ステイル「答えろ」


アレイスター「……一部の例外を省き、人間界は天界の強い影響下にある」


アレイスター「その例外が、魔界の影響下にあるフォルトゥナ等」



アレイスター「そして今の学園都市だ」
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 17:40:13.66 ID:Arjuuw.o

アレイスター「この街の中では今、『セフィロトの樹』に障害が起きている」


アレイスター「天界が人間達に嵌めた、『セフィロトの樹』という『首輪』の管理機構が機能していないのだよ」


と、簡単すぎる説明を受けたが、当然ステイルと土御門は理解しきれない。

『セフィロトの樹』という存在自体は知ってはいるが、
その範囲は十字教や魔術関係で教わった『程度』のみなのだから。


土御門「……管理機構?何の事を言っている?」


ステイル「それがどう関係……一体何を言っているんだ?」


アレイスター「知らぬのも当然、か」

アレイスター「まあ、『魔』に接した君達は、少しくらいは違和感を持っていたと思っていたのだが」


ステイル「……『セフィロトの樹』とは、ただの『界の繋がり』のことだろう?」




アレイスター「―――良く考えろ。『誰』が『セフィロトの樹』についてそう言った?」




アレイスター「―――その概要は『どこから』、『どうやって』学んだ?」
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 17:42:04.28 ID:Arjuuw.o

そのアレイスターの言葉で、二人の魔術師は凍った。


誰がそう言った?

どこから学んだ?

どうやって学んだ?


それは『天界魔術』から。


『天界』から―――。



ステイル「……な、な…………」


土御門「………………」


二人の中で、『魔術サイドの常識』が音を立てて崩壊していく。


今のこの状況下でなければ、
アレイスターの言葉など『嘘』として全く気にも留めなかっただろう。



今のこの状況下でなければ だ。
44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 17:43:22.71 ID:Arjuuw.o

アレイスター「全ての真実を話すには少し時間がかかる」

アレイスター「知りたくばまた後にするか、トリッシュに聞くがいい。」


アレイスター「私程では無いが彼女も良い線をいっている」



アレイスター「天界がここまでして隠そうとした、その真実を知る『勇気』があるのならばな」



ステイル「……」


土御門「……」


知る『勇気』。


なぜアレイスターがその表現を使ったのかはわかる。


天界が隠そうとした真実。

『隠し続けてきた』真実。


それを知れば、どんな状況に陥ってしまうかなど―――。
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 17:44:32.46 ID:Arjuuw.o
土御門「……」


土御門は迷っていた。
果たして知ってしまってもいいのだろうか と。

天界が隠し続けてきたのだ。

言い換えれば、知ってしまった者は皆消されてきたということだ。


ステイル「……」

だがそんな土御門とは違い、ステイルは知りたかった。
天界にはもう既に睨まれている。

知ってしまったところで状況には大差が無い。


そして何よりも。


その『真実』が、インデックスを『救うカギ』になるような気がしたのだ。


確証は無い。
その理由を具体的に説明しろ と言われても無理だ。


だが悪魔としての『勘』が妙に反応しているのだ。



その真実の向こうに『カギ』がある と―――。
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 17:46:28.22 ID:Arjuuw.o

そんなステイルの思考を見透かしていたかのように、アレイスターは口を開いた。


アレイスター「それとだ、禁書目録について一つだけ言っておこう―――」




アレイスター「―――彼女は学園都市から出たら死ぬ」




ステイル「―――……な、に!!!!??」



アレイスター「『御使堕し』の時を見る通り、彼女は『セフィロトの樹』と固く繋がっている」


アレイスター「その『セフィロトの樹』から障害が取り除かれた瞬間、天界は彼女の『魂』を操作するだろう」


アレイスター「普段は連中もこんな手は中々使わんが、何せ標的が標的だからな」


アレイスター「『魔女』が制御下にあるのならば、少々強引でも手を打つはずだ」



ステイル「……だ、黙れ!!!!!!」


アレイスター「嘘と思うか?ならば試すが良い。後悔するぞ」
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 17:49:29.91 ID:Arjuuw.o
ステイル「……く、クソ!!!!!!!」

ステイルはその場で歯を食いしばるしか出来なかった。

試すなどもっての他。
アレイスターの言う通りに学園都市に留まるしかない。

彼にある選択肢はそれだけだった。



土御門「……とりあえずそれは置いておく。で、学園都市が天界の敵とはどういうことだ?」


そう、今の土御門にとって、『セフィロトの樹』だのなんだのよりもそっちの方が重大だ。
アンブラの滅亡が事実だった以上、そこだけははっきりさせておきたいのだ。


アレイスター「その言葉の通りだ」


土御門「それは、例の『真実』を知っているお前に対しての敵意か?それとも学園都市そのものへの敵意か?」


アレイスター「全てだ。私も。学園都市も。そしてここに住まう能力者達もだ」


と、そこで話についていけなかった二人がようやく口を開いた。


一方「…………なンだ?今度は『天使』さンとも戦えってのか?敵には事欠かねェな」

結標「というか、私達にもわかりやすく説明してくれない?」

結標「魔界も天界も名前だけは知ってるけど、具体的にはわかんないんだから」



麦野「つーか、そもそもテンカイだのマカイだの何の話してるのよアンタら」


そして最後に、この場で最も濃い『魔界』力をその手の中に有していながら、
この件に関する知識がゼロの麦野も。
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 17:52:07.22 ID:Arjuuw.o

土御門「悪いがお前らは黙っててくれ。後でわかりやすく説明する」


一方「……そォしてくれ。こっちは頭が回ンねェからよ」

麦野「…………チッ」


先程の激戦の最前線にいたこの二人、当然疲労は限界のところまで来ている。

麦野はアラストルを肩に乗せ、
そのまま一方通行の隣に乱暴に座り込んでしまった。


と、そんな彼らに向け。


アレイスター「いや、ここからは君達にも聞いてもらおう」



アレイスター「先に言っておく。君達を呼んだのは、状況説明の為でも『反逆行為』を弾劾する為でもない」



その言葉に、ステイル以外の四人がピクリと眉を顰めた。




アレイスター「ここからの話をする為に君等を呼んだのだ」
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 17:57:37.17 ID:Arjuuw.o

アレイスター「ステイル」


ステイル「……」


アレイスター「ここからは土御門達との『ビジネス』の話だ。君には退出してもらう」

アレイスター「気になるならば、後で土御門に問うがいい」


ステイル「……わかった。おい、ムスジメ……だったか?頼む」


そのステイルの声に、結標は無言のまま手に持っていた軍用ライトとクルリと回し、
即座にステイルを外に飛ばした。

実はステイルや一方通行、麦野のような特殊な力を持ってたりする異質な者は、
座標移動で飛ばすのが結構楽なのだ。

もし失敗してコンクリ等の中に飛ばしてしまったとしても、こういう連中ならいとも簡単に抜け出せるだろうし、
100mの高さに飛ばしても無傷で着地するだろう。


まあ、逆に抵抗されたら飛ばすことが困難なのだが。

まず一方通行には『座標移動』の能力そのものが反射されるし、
ステイルや今の麦野のような研ぎ澄まされた悪魔的勘を持つ者は、
飛ばす寸前にその座標位置から難なく離脱してしまうだろう。


そして二ヵ月半前の経験上、
例え座標を捉えられたとしても悪魔は『飛ばせる時』と『飛ばせない時』があるようだった。

相手が結標を意識し戦闘態勢となった瞬間、どういう訳かその悪魔の体には干渉できなくなるのだ。
『放出されている悪魔の力』とでも言うか、どうやらそれが障害となっていたらしかった。


(結標は知らないが、黒子でもダンテを飛ばせた例もある通り、
 『戦闘態勢』でなければどれ程強大な存在でも一応飛ばせることが出来る)
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 18:00:17.18 ID:Arjuuw.o

アレイスター「―――……さて、では聞いてくれ」


アレイスター「イギリス清教、ローマ正教とロシア正教、そしてこの学園都市」

アレイスター「禁書目録らを匿った以上、こちらとイギリスの同盟は破棄」


アレイスター「その三つ巴の第三次世界大戦が勃発するのは、君達も承知だろう?」


アレイスター「そして本当の問題はこの『程度』の戦いでは無いのも、だ」


土御門「ああ」

一方「もったいぶってねェでさっさと要点を言え」


アレイスター「その前にもう一つ言っておこう」



アレイスター「君達の用意した『交渉のテーブル』につく用意はできている」


土御門「…………なに?」


一方「…………あァ?」


結標「…………え?」


麦野「…………はぁああああ?」


アレイスターの突然の申し出。

その言葉を聞き、腑抜けたそれぞれの声を漏らす反逆の首謀者達。
51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 18:05:03.54 ID:Arjuuw.o
アレイスター「聞こえなかったか?君達の要望を聞こうということだ」

土御門「…………は、ははは……」

正に拍子抜けだった。

こうもあっさりとアレイスターが『降りてくる』とは。
この『反逆作戦』の主要目的が早々に達成されてしまったのだ。

土御門「…………はは、いいぜい。俺達が具体的に何を望んでるかは知ってるな?」

アレイスター「もちろん。だからこうしよう」



アレイスター「事が済み次第私は全権を放棄し、統括理事長の座を『親船 最中』に譲る」



アレイスター「これで充分だと思うが」

一方「ハッ……」


『親船 最中』。

理事会の中で最も子供達のことを気にかけている者だ。
何せ、『学生達にも選挙権を』 と訴えている程。

彼女が学園都市のトップとなれば、
学園都市の闇の部分がいずれ解決されるに違いない。

非人道的な実験は全て中止され、能力者達への扱いも改善されるはずだ。
子供達の人権が保障されるのだ。

能力者にとって、学園都市が本当の意味で『安寧の地』となる。

打ち止めと妹達も全うな人生を歩めるだろうし、

囚われの身である結標の仲間達の安全も保障され、

麦野の体も治療され、彼女の『元部下達』も平和の中で生きることが許され、

土御門の義妹も、このまま学園都市で平穏な日々を過すことができるだろう。
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 18:05:49.49 ID:5Mwo.Kko
支援
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 18:06:14.83 ID:Arjuuw.o


一方「で、当然『タダ』と言うわけじゃァねェだろ?」


結標「そっちの提示条件は?」



アレイスター「君達の『思惑通り』、学園都市には『危機』が迫っててな」


アレイスター「そこで君達の手が借りたい」



アレイスター「まず、一週間前後の内に『人造悪魔兵器』がこの戦争に投入される」


表情を曇らせる、麦野以外の四人。
麦野は相変わらず頭の上にクエスチョンマークを浮かばせていた。


アレイスター「大規模な悪魔の介入だと思ってくれ」


アレイスター「これもこれで大きな問題だが、その他にもあってな」


アレイスター「天界がこの悪魔を自らの手で排除しようとしている」


アレイスター「つまり、かの者達は500年振りにこの世界に『直接降臨』する気だ」
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 18:09:08.66 ID:Arjuuw.o

土御門「―――500年振りに…………だと…………?!!!!」


500年振り。

500年前に何があったか。


アンブラの都の滅亡だ。

その事を知っている土御門の顔から、一気に血の気が引いていく。


そんな事を知らぬ一方通行は。


一方「ゴキブリ共を退治してくれンのか?じゃァいいじゃねェか。せィぜィ化物同士戦わせておけや」


と、半笑いを浮かべながら口を開いたが。


アレイスター「いや、『彼ら』の目的はもう一つある」



アレイスター「それは全能力者の『殲滅』」



アレイスター「学園都市を人間界から『完全』に消す気だ」


一方「―――あンだって??」



アレイスター「跡形も無くな」
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 18:11:08.39 ID:Arjuuw.o

土御門「…………ッッッッ!!!!!!!」

最早、土御門は言葉が出なかった。


第三次世界大戦自体はほぼ全く脅威では無く、
その後ろに控えている『モノ』が問題なのは感付いていた。


だがこれ程までの『モノ』とは思ってもいなかったのだ。



一方「…………おィ!??」


麦野「つまり……どーいう事よ???」


その只ならぬ空気を感じ、未だ具体的に把握していない二人のレベル5も勢い良く立ち上がった。

一方通行は義手の両拳を床に突き、杖無しで足を震わせながらも身を起こし。
麦野はアラストルを一度大きく振りながら。


アレイスターは表情を一切変えぬまま、土御門の方へと視線だけを動かし。



アレイスター「君はわかるだろう?この街はアンブラの都と同じ『運命』を辿るという事だ」



その言葉を受け、今にも砕けそうなくらい強く歯を食いしばり、拳を握りこむ土御門。
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 18:13:50.76 ID:Arjuuw.o

一方「つまりどォいうことだってンだよ!!!具体的に言ェ!!」


アレイスター「二ヵ月半前の争乱の際、ダンテ達が『いなかった』場合を想像してくれ」


アレイスター「背後関係は全く別物だが、学園都市が見舞われる事態はそれと良く似ている」


結標「―――ッ……」


二ヵ月半前の争乱からダンテ達を省けば?

その結果、学園都市はどうなっていたかはバカでもわかる。


一方「…………で、オマェの要望はそのカス共と戦えってことか?」


アレイスター「いや。そうではない。君達『程度』では、かの軍勢と直接交戦したら10分ももたん」


一方「あァ!?」


アレイスター「降臨する天使の数は百や千ではない」




アレイスター「数百万の単位だ」



アレイスター「学園都市の空を完全に覆い尽くすだろうな」
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 18:16:40.83 ID:Arjuuw.o
アレイスター「その軍勢の核となっているのが、上級三隊、『熾天使・智天使・座天使』」

アレイスター「この『大悪魔クラスと並ぶ』者達が少なく見積もっても『500』体」


一方「………………!!??」


結標「…………なッッ…………!!!?」


大悪魔クラスという『わかりやすい例え』を聞き、ようやく土御門と同じく愕然とする一方通行ら。


大悪魔クラスという区分自体については詳しくは知らないものの、
そう呼ばれる連中がどれ程のレベルなのかは身をもって知っている。



土御門「…………熾……天使……」

そして土御門らは、その天使の階位の高さに愕然としていた。
魔術サイドならば常識中の常識だ。

だがアレイスターの指している対象は、呼び名は同じでも全く『別物』。

土御門の頭に浮かんでいる天使ではない。


アレイスター「勘違いするな土御門」


アレイスター「私が言っているのは『十字教の天使』ではない」


アレイスター「言ってもわからんだろうが、『主神ジュベレウスに直接仕えてた天使』だ」


アレイスター「かつて太古の昔、強大な魔界に対抗する為に組織された集団だ」
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 18:18:40.49 ID:Arjuuw.o
アレイスター「十字教の四人の大天使達は、個々の力は上級三隊をそれなりに上回っているが、絶対的な差があるとはいえん」

アレイスター「上級三隊所属の10人にでも囲まれたら、ミカエルだろうとガブリエルだろうと『一方的』に殺される」


土御門「…………!!!!!!!!」

実際に『御使堕し』事件の際、その領域の力の片鱗を垣間見た。


そんな存在ですら、『一方的』に殺される。


何か『悪い夢』を見ているとでも思いたかった程だ。

『悪夢』としか言いようがない。



アレイスター「更にその上級三隊を統べるのが、天界の現最上位『四元徳』」


アレイスター「この『四元徳』の力は、少なくともトリッシュよりは強大だ」



アレイスター「十字教の神も彼らには遠く及ばん」



アレイスター「そして500年前と同じく、この『四元徳』も直接降臨してくるだろう」
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 18:20:42.77 ID:Arjuuw.o
ブツ切りですが少し休憩。
七時半辺りから再開します。
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 18:22:39.64 ID:aRFQ5owo
おつなんだよ!
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 18:26:45.26 ID:EPkq0dco
乙!


しかし、その四元徳をヌッコロしちまったベヨ姐さんってば洒落になんねぇ強さだな、おい・・・・
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 18:31:03.71 ID:5Mwo.Kko

楽しみに待ってる
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 19:17:38.24 ID:IXlT8.Y0
インフレパねえ
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 19:31:57.92 ID:Arjuuw.o

一方「………………おィ……前にも同じことがあったみてェな口ぶりだが?」


アレイスター「知りたいか?絶望が深まるだけだと思うがな」


一方「実例があンなら知っといて損はねェだろォが」


アレイスター「……『アンブラの魔女』と呼ばれていた集団がかつて存在していた」




アレイスター「その者らの頂点は……そうだな、スパーダの一族に匹敵しうる者もいたが、」



アレイスター「それでも敗北した。この天の軍勢の前にな」



一方「………………」


アレイスター「まあ、それは彼女達の本当の力が発揮できない、彼女達にとって最悪の状況だったせいもあるがな」



一応、魔女も大悪魔と同じく『力の拡散攻撃』もできる。

大悪魔クラス相当、上級三隊以上に対しては全く意味を成さないが、
それで雑魚天使の群れは一掃できる。


だがそんな攻撃手段をとったら、守るべき都も破壊される事になる。
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 19:36:21.27 ID:Arjuuw.o
魔女の中で、上級三隊を越える力を有していたのは一部の精鋭。

ジャンヌやベヨネッタのような上級三隊をも軽く圧倒でき、
『四元徳』にも匹敵しうる者も両手で数える程度だが存在していた。


だが逆に、その彼女達の強大すぎる力『それ自体』が『防衛』の枷にもなったのだ。


フォルトゥナの都の『中』で、

最大出力の魔弾をばら撒き、フルパワーのウィケッドウィーブを振るい、
挙句に『魔界の諸王』や『大魔獣』を召喚してしまったらどうなるか。

そんな事をしたら自滅だ。

守るべき都は破壊され、
仲間の魔女達にも多数の巻き添えが出てしまう。


『少し』本気になっただけであのヴァチカンの有様だ。

ジャンヌやベヨネッタクラスの者達が複数人、同時に『全て』の力を解放してしまったら、
それだけで都は崩壊する。


一対一において最大戦力を発揮できるその戦闘スタイル。

『超』攻撃特化し、それを極めてしまった魔女。

その戦闘スタイルと大きすぎる力が、
皮肉な事に『アンブラの都』の陥落を決定付けてしまったのだ。
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 19:38:12.02 ID:Arjuuw.o
その状況下では、個々の戦闘能力が突出していても何も意味を成さない。

ジャンヌ達がどんなに強大でも、フルパワーを使えなかったら意味が無い。

彼女達は『組織』へのダメージを懸念するあまり、『大火力』で一掃することはできなかった。

押さえ込み凝縮した攻撃で少しずつ削っていくしかなかった。


そしてそれは正に『焼け石に水』だった。

その間に、彼女達がいなかった区画は次々と制圧され破壊されていき、仲間は次々と斃れていった。


もし天界の軍勢が全員でジャンヌら最精鋭に殺到していたら、
時間はかかるだろうが彼女達は最終的に天使達を皆殺しに出来ただろう。


だが、天界の最大の目的はアンブラの魔女という『組織の破壊』だ。

『個人の殺害』ではない。


ジャンヌを倒すのは難しいと判断した天使達は、
彼女の事は後回しにして他の魔女の殺害に向かった。

殺せぬ1人よりも、殺せる100人を優先するのは当然。


結果、ジャンヌは生き延びたが組織は滅んだ。

優先リスト筆頭『ジャンヌ』殺害の任務を帯びた天使達は失敗したが、
その他の天使達は任務を成功させたのだ。

ジャンヌは『勝ち』続けて生き延びたが、アンブラの魔女は『敗北』して滅亡した。


個々の戦闘能力では勝っていたものの、結局『数の暴力』の前には彼女達も屈するしかなかった。
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 19:41:03.17 ID:Arjuuw.o

先日のベヨネッタによるジュベレウス滅亡も、天界側から言わせれば『戦争』ではなく、
首脳達とのピンポイントでの『決闘』だ。


このやり方は、2000年前のスパーダの戦法にも似ている。

かつての人間界へ対する魔界の侵略も、魔帝というトップが敗北したからこそ防がれたのであって、
侵略軍『そのもの』が滅ぼされたわけでは無い。


魔界の兵力は正に無尽蔵だった。
天界でさえ比べ物にならない。


スパーダが前線に立ち一振りで千単位の悪魔を薙ぎ払おうと、
その損失以上の兵力が次から次へと補充されてくるのだ。

大規模破壊による人間界へのダメージもある以上、スパーダにとってそんな戦法を取ることはそもそも不可能だった。


幹部クラスをピンポイントで次々と倒していき、そして魔帝を打ち倒す。

『頭』だけを排除していく。

それが勝利への最短ルートであり、
総兵力では劣る人間界側にあった唯一の選択肢だった。


500年前、魔女側も同様の戦法を取れていれば結果はまた違っていただろう。

ベヨネッタやジャンヌ等の最強最精鋭達が先手を取って殴りこみをかけ、四元徳を打ち倒していたら だ。

だが当時はそれが許されなかった。
天界の降臨は完璧な奇襲だったのだ。

気付いた時には遅かった。

アンブラの『心臓部』には既に天界の手がかかり、無数の軍勢によって包囲されていたのだ。
その時点で、既に『組織対組織』としての勝敗は決していた。
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 19:45:02.86 ID:Arjuuw.o
また、『天界と人間界は直接繋がっていない』というのもその『殴りこみ』が難しい要因の一つでもある。


この間のジュベレウスに纏わる件は、

『四元徳』全員が僅かな手勢のみを率いて、
『プルガトリオ(狭間の世界)』にいたベヨネッタに会う為に自らやってきたからこその戦果。

首脳総出で雁首そろえて、わざわざベヨネッタの手が届く場所へと『来てくれた』に過ぎない。


直接繋がっていない天界の奥深くに居座られていたら、さすがの魔女達も手が出せないのだ。

そして天界の口が開くのは降臨する瞬間。
口が開いた瞬間に軍勢が解き放たれる。

殴りこみをかける時間など無い。



まあ、学園都市側としては、例え殴りこみが可能な状況でもどうしようもないが。

一方通行やアラストル所持状態の麦野『程度』で天界に殴りこむのは、それこそただの自殺行為。

エイワスでさえ、『四元徳』に届く前に100を越える上級三隊からの
一方的な袋叩きにあって消滅するだろう。

(そもそもエイワスは学園都市内及びその周辺での限定的な存在であり、天界へと派遣すること自体が不可能だが)



アレイスター「―――スパーダの一族に匹敵する者でも、この『数の暴力』を退けることは出来なかった」


アレイスター「結果、それ程の強者がいた都もたった一日で陥落した」

アレイスター「この戦火の中から『個々』が『逃げ延びる』事は不可能では無いだろう」

アレイスター「現に、500年前の戦火から生き延びた者も少数だがいるしな」


アレイスター「だが学園都市『そのもの』を防衛するのは不可能だ」


アレイスター「学園都市の全兵力をもってしても、無論私が直に打って出ても20分ももたん」
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 19:46:51.92 ID:Arjuuw.o


土御門「…………正に『審判の日』ってやつか……」


アレイスター「『審判の日』?そんな畏まった言葉で表すな」


アレイスター「実質は、君達が今まで暗部として行ってきた事と同じだ」


アレイスター「敵対者・障害と成り得る者の排除」


アレイスター「それだけだ」



結標「……ダンテ……ダンテ達はどうなのよ?あいつらなら……」



アレイスター「……彼らなら食い止められるだろうな」



アレイスター「それと引き換えに、結局は学園都市は無くなるだろうが」
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 19:50:06.28 ID:Arjuuw.o
土御門「…………」


学園都市に群がる百万単位の軍勢、500を越える大悪魔クラス。

その『塊』をダンテやネロのような更に『規格外の巨大な爆弾』で吹き飛ばせばどうなるか。


天界の軍勢は壊滅するだろう。


だが学園都市も消滅だ。


二ヵ月半前、ダンテ達と魔帝は隔絶された異界で衝突したが、
今度はその戦いが『隔絶無し』で行われるようなものだ。


アレイスター「ダンテがその軍勢と正面から戦うという事はだ。『学園都市を守る』という事ではなく、」


アレイスター「天界の軍勢もろとも『学園都市を道連れ』にするという事だ」


アレイスター「天界の軍勢が現れたその時点で既に『手遅れ』なのだよ」


アレイスター「この件に関しては彼らの救いは期待できん」


結標「…………」



アレイスター「わかったかな?これが具体的な『学園都市の危機』だ」
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 19:52:10.27 ID:Arjuuw.o

一方「―――…………その天使さンとやらの軍勢には、どォやっても勝ち目がねェのはわかった」


一方「俺達は当然、オマェも学園都市が無くなったら困る」


アレイスター「…………」


土御門「だが、その軍勢が『降臨』した時点で何をしても結局は学園都市は終わり」


一方「…………猶予は一週間強。そうだな?」


アレイスター「そうだ」




一方「……つーことはだ、どォにかして『降臨』とやらを『未然に防ぐ』しかねェ。違うか?」




アレイスター「話が早いな」



一方「……『ソレ』がオマェの『条件』か?」



アレイスター「ご名答。君等の『最後の仕事』だ」
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 19:53:52.49 ID:Arjuuw.o
土御門「……で、その内容は?」

その土御門の声に合わせ、麦野がアラストルを見せ付けるように大きく振り上げて肩に乗せ、
一方通行が両手の拳を軽くぶつけ合わせた。


麦野「よくわかんないけど『最後の仕事』。最っっ高の響きね」


一方「最後だ。色々『サービス』してやってもいいぜェ?」


アレイスター「乗り気になってくれて助かるよ」


アレイスター「ちなみに言っておくが、『裏』を疑う必要は無い。私も全力を尽くさせてもらう」


アレイスターの本音は『学園都市を守る』ことではなく、
その先にある『プランの成就』の為に全力を尽くすという事だが。


アレイスター「では簡潔に話そうか。少し長くなってしまったからな」


アレイスター「かの軍勢が降臨するには、『口』を開く必要がある」


アレイスター「それは人間界側からの作業も必要だ」


一方「その『コッチ側』のクソ野郎を潰せば、カス共は降りてこれねェってことか」


アレイスター「そうだ」
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 19:56:03.58 ID:Arjuuw.o


アレイスター「その男の名は『アリウス』」


アレイスターの水槽の表面に、壮年の男の画像が浮かび上がった。


土御門「……こいつは……!!!」

その場にいる全員が目を見開いた。
科学サイドでは超有名人だ。


アレイスター「ウロボロス社CEOだ。デュマーリ島が本拠だ」



学園都市と共同関係にあり、そして双璧をなす巨大多国籍企業ウロボロス社。

つい最近、テロによって首脳が死亡した巨大複合企業体「イザヴェルグループ」を吸収し、
更に巨大化した勢力だ。
(この『テロ』は、実はベヨネッタの戦いによるものなのだが)


その大企業のCEOが標的。


アレイスターとは違い、メディアにも良く顔を出している著名人だ。

主に軍需産業に力を尽くしており、そのイメージは決してクリーンではないが。
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 19:57:39.51 ID:Arjuuw.o
一方「そォと決まったンならさっさと潰すぞ」


アレイスター「そう簡単に排除できるのならば苦労しない」

アレイスター「この男は多数の悪魔を使役し、大悪魔すらも傘下においている」


一方「チッ……」


土御門「…………」


世界中に拡散しつつある人造悪魔兵器もウロボロス社製。

ウロボロス社のトップが悪魔サイドにドップリと浸かっているのならば簡単に説明がつく。



それだけじゃない―――。



土御門「(なるほどな……)」



その人造悪魔兵器の『精製技術』。


これは別の事件とも繋がってる。



土御門「(そうか)」



―――ウィンザー事件の『黒幕』だ。



―――覇王を復活させようとしていた許されざる者だ。
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 19:59:18.00 ID:Arjuuw.o
と、そこまで御門は考えたが、ここでふと疑問が浮かんだ。

土御門「待て……悪魔を使役してるのに天界を支援するのか?」


アレイスター「目的は知らん。あの男が何を企んでるかはな」


だがアレイスターはここでさりげなく誤魔化した。
下手に情報を与えると、色々と厄介な事になるのが目に見えているのだ。


アレイスター「質問は後にしてくれ」


土御門「……」



アレイスター「このアリウス、先も言った通りかなりの兵力を有している」


アレイスター「そして彼自身の戦闘能力も相当なものだ」



アレイスター「先程の『右方のフィアンマ』と同等クラスと考えてくれ」



一方「……………………クソ……どいつもこいつも……」
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:01:42.25 ID:Arjuuw.o
アレイスター「確実に殺せとは言わん」

アレイスター「殺害はあくまでも『副次目的』だ」


麦野「……」


アレイスター「『主要目的』は、この男の障害となり、その行動の妨害に成功する事」



アレイスター「最悪でも時間稼ぎを、だ」



一方「時間稼ぎだァ?確実に潰さなきゃアウトなンだろ?」


アレイスター「いや。時間稼ぎの間、私が学園都市にて『策』を講じる」


アレイスター「それが成功すれば、天界からの脅威は完全に消失する」


アレイスター「まあ、アリウスを殺してくれれば最適なのだがな」


アレイスター「お互いが全力を尽くすことで乗り切れる」


一方「…………ハッ……『最後の仕事』が、本当の意味での『最初の共同作業』とはなァ」


アレイスター「不満か?ウェディングドレスでも着たいか?」


一方「おォ、オマェも随分と言うじゃねェか」
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:03:20.94 ID:Arjuuw.o

一方「なンなら早く行こうじゃねェか。その島へよォ」

麦野「さっさと済ませたいんだけど」

土御門「……」


アレイスター「いや。それなりに準備をする必要がある」


アレイスター「それにアクセラレータ。君は学園都市での『策』に必要だ。君は残ってもらう」


一方「あァ?」


アレイスター「君の『力』が必要なのだよ。断れないと思うが」


一方「……カッ……」


アレイスター「その他三名」


麦野「あ?」


アレイスター「君等に能力者の『部隊』を率いてもらい、デュマーリ島を強襲してもらう」


結標「……『部隊』?」
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:05:52.26 ID:Arjuuw.o
アレイスター「人選は済ませてある。暗部所属をメインとした、レベル4以上」


アレイスター「君達を省くと101人だ」


麦野「…………待て……」

暗部所属。

レベル4以上。

その言葉に真っ先に反応したのが麦野だった。


アレイスター「何かな?」


麦野「そのメンバー……の中に…………」

左目を見開き、右目眼窩から閃光を迸らせる麦野。



そんな彼女のとある『懸念』を即座に察したアレイスターは。


アレイスター「絹旗 最愛と滝壺 理后も入っている」


麦野の思いを知りつつも、それを気にも留めずに淡々と応えた。


それに対して声を荒げる―――。



麦野「―――ふッ…………ふざけんなッッッ!!!!!!!!!外せ!!!!!そいつ等を外せ!!!!!!!」



―――アイテムの元リーダー麦野 沈利。
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:08:14.15 ID:Arjuuw.o
アレイスター「何か問題か?」

それでも淡々と言葉を続けるアレイスター。


麦野「―――テッ……テメェ!!!!!!ッッッッざっけんじゃねええええええ外せ!!!!!!!!!!!!」


アレイスター「それは無理だ。絹旗 最愛はともかく、滝壺 理后は重要な『要』だ」


アレイスター「外したせいで任務が遂げられず、学園都市が無くなれば元も子も無いと思うが」


麦野「…………!!!!!!!」


アレイスターの言葉は正論だ。

それに倣うかのように、
土御門・結標が麦野へと冷たい視線を向けた。


ただ、一方通行は顔を曇らせてそっぽを向いていたが。



アレイスター「君自身の手で守ればいいではないか。それとも『私の手』に預けておきたいか?」



麦野「…………がッッ……!!!」
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:10:25.92 ID:Arjuuw.o

アレイスター「私が君の立場なら『全員』連れて行くが。『公認下』で学園都市から『脱出』できるのだぞ?」


そう、学園都市が滅ぶという最悪の事態が起こったとしても、
少なくともその瞬間に道連れとはならない。


麦野「…………!!!!!」


戦えば生き延びれる可能性のある『地獄、デュマーリ島』か、
戦っても生き延びれる可能性がゼロの『地獄、滅亡の日の学園都市』か。



麦野「………………クソッタレがッッ!!!!上等だっつーの!!!『全員』守ってやるってーよ!!!!!!」



麦野は前者を選んだ。

少なくとも己の腕次第で何とかなる方が良い と彼女は判断したのだ。


アレイスター「承諾と受け取る。『全員』を君の直下に編成しといてあげよう」


とこの時、熱くなっていた麦野は気付いていなかった。

アレイスターとの会話が、いつのまにか『全員』を指して進んでいた事に。
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:11:44.85 ID:Arjuuw.o

土御門「―――……ところでだ、俺は戦力にならんぜよ?」


アレイスター「君は戦闘員ではなくアドバイザーだ」

アレイスター「エツァリはあのザマだ。君ぐらいしか私の直命で動ける『五体満足』な魔術師はいなくてね」


土御門「……」


アレイスター「君には後ほど、『口』を開く術式の構造を暗記してもらう」

アレイスター「どのような方法で行使するかまではわからんが、」

アレイスター「術式の媒体を物質的な物で賄っているのならば、それを破壊すればいいしな」

アレイスター「それを見つけ判断するのが君の役目だ。無論、その他の悪魔関連の知識サポートもしてもらう」


こればかりは経験豊富な魔術師でないと不可能だろう。

術式は何気ない風景、何気ない物体の配置にも混ざっていることがある。
それを見出すには、一夜付けの知識では到底無理だ。


アレイスター「それと結標 淡希」




アレイスター「君は『四日』で『レベル5第八位』になってもらう」




結標「……………………………………………………………は?」
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:13:17.94 ID:Arjuuw.o

結標「……………………………………私が………………………レベル5…………?」

突然の宣告。

その内容に結標は耳を疑った。

目を見開き口が半開きのまま呆然。


だがそんな結標の様子など気にも留めず、アレイスターは淡々と言葉を続けていく。


アレイスター「先程言ったとおりアリウスは強大だ。いくらアラストルを保持しているとはいえレベル5が一人だけでは心もとない」


アレイスター「だから君も戦力の『要』となってもらう」


結標「…………ど…………どうやって…………?」


アレイスター「君には少し手を加えるだけでいい」



アレイスター『学習装置』で演算方程式を最適化し、そしてミサカネットワークに接続してもらう」



一方「―――おィ!!!!!待て!!!!!ミサカネットワークだァ!!!!?」


当然、一方通行はその単語が出ては黙っていられない。
83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:17:20.88 ID:Arjuuw.o
アレイスター「心配するな。ミサカネットワークは君が思っているよりも性能が高い」

アレイスター「タダの『レベル3が一万人集ったモノ』ではない」

アレイスター「最適化し、極限まで演算効率を高めた代物だ」

アレイスター「それぞれの相互作用により、その性能は『加算』ではなく『乗算』的に跳ね上がっている」

アレイスター「能力演算だけに限って言えば、その処理速度は『ツリーダイアグラム』と互角だ」


アレイスター「あのネットワークを『使い潰し』、クラッシュ寸前にまで追い込める『人間』は今の君くらいだろう」


アレイスター「『原子崩し』や『超電磁砲』程度なら80人分を難なく同時演算できる」


麦野「……あぁ?」


アレイスター「今更レベル5が『二人』接続されたところでどうってことは無い」


結標「(……二人?)」


一方「ッ…………!!!!」


何せヒューズ=カザキリやエイワスをも統制できる代物。
普通のレベル5を『複数人』演算補助したところで全く負荷にはならない。

だが一方通行の懸念は、ネットワークへの『負荷』だけではない。

一方「そ、そォじゃねェ!!!!!…………またあのガキに…………!!!!」

そもそも、これ以上打ち止めに手が加えられたくはない。

だが。

アレイスター「ではどうしろと?」


一方「…………!!!!」


どうしろと?

その問いに答える言葉を一方通行は持っていなかった。
84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:19:52.50 ID:Arjuuw.o

学園都市を守る。

その為には妥協は許されない。


打ち止めが生きているこの世界を何としてでも守らねばならない。


一方「…………!!!!!!!!!!!」


だがそれには。


アレイスター「状況が状況だ。『全員』にそれなりの仕事をしてもらわんと乗り切れんぞ?」


打ち止めの力も必要だという事。


アレイスター「何も命を頂こうという訳では無い。『自由と安寧』への少しばかりの奉仕をラストオーダーにもしてもらう」




一方「―――クソ!!!!!クソがッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」




選択の余地は無い。



アレイスター「先程言った通り、君がその『力』を使うよりはかなり安全だ」


アレイスター「保障しよう」
85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:21:38.91 ID:Arjuuw.o

一方「あァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」



一方「わかったぜ!!!!!!!わかったぜこンチクショウが!!!!!!!!」


一方「だが条件がある!!!!!!!!!」


アレイスター「…………」


一方「あのガキに書き込むプログラムを芳川にチェックさせる!!!!!!!!」


一方「それで俺と芳川の立会いの下で作業してもらうからなァ!!!!!!!!!!!」



アレイスター「かまわんよ」



一方「もしなンか妙ォな事しやがったら全部ぶつ壊してやる!!!!!!!!全部叩き潰してやっからよォ!!!!!!!」



一方「―――オマェの大事な大事な『俺の体』を『蒸発』させてやっからなクソが!!!!!!!!!!」



アレイスター「うむ。決まりだな」
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:24:14.44 ID:Arjuuw.o
一方「カッ!!!!!!!!オァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!」

苛立ちが押さえきれずに、声を荒げて落ち着き無く体を揺らす一方通行。

そんな彼の精神状態が影響を及ぼしているのか、
両手に義手に僅かにだが薄く黒い靄のようなものが纏わりつき、屋内を不気味な空気で覆っていた。


結標「……ちょっと待って」


アレイスター「何だ?」


結標「『二人』って?私ともう一人は?」



アレイスター「滝壺 理后。彼女が『レベル5第九位』候補だ」



麦野「…………!!!!」


再び鋭い目でアレイスターを見据える麦野。


アレイスター「おっと、先言わせて貰うぞ」

そんな彼女の心中を察し、『先手』を取ったアレイスター。


アレイスター「まず体晶による『侵食』は全て治癒処置させる」


アレイスター「その後、結標と同じく演算方程式を最適化、そしてネットワークに接続させる」


アレイスター「彼女自身への負荷は無い」



アレイスター「質問は?」
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:29:03.91 ID:Arjuuw.o

麦野「…………そもそもなんでアイツを連れてくのよ?」

結標がレベル5候補になるのはわかる。
彼女の力が強化されたら、それはそれは凄まじい物となるだろう。

だが滝壺は?

彼女はそんな戦闘向けではない。



アレイスター「現地の能力者の『管理と統制』」


アレイスター「そして能力の『強化支援』」


麦野「……管理……強化……?」



アレイスター「『能力追跡』が対象のAIM拡散力場に干渉し、」

アレイスター「理論上は完全な支配化に置ける事が可能。これは知っているな?」


麦野「…………『乗っ取り』、か」



アレイスター「ミサカネットワークの演算補助があればそれが可能だ。それも大々的にな」

アレイスター「少なくとも同行する100の能力者を支配下に置くことができ、」


アレイスター「滝壺 理后を核としたAIM拡散力場のネットワークを構築できる」


麦野「……!!」
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:30:22.13 ID:Arjuuw.o

アレイスター「対象の能力を遠隔で操ることが可能だ」


アレイスター「AIM拡散力場を乗っ取るという事は、対象の『演算域』にも接続するという事、そこから知覚情報も共有できる」


アレイスター「そしてあくまで擬似的にだが、滝壺 理后を介して、個々へのミサカネットワーク代理演算支援も可能になる」


アレイスター「それが『強化支援』だ」



土御門「待て…………対象のAIM拡散力場、能力を完全に支配下に置けるという事は……」



アレイスター「滝壺 理后『が』対象の能力を使用することも可能だ」



アレイスター「『多才能力』と呼べるな」



アレイスター「それも個々の能力をレベル5相当に強化して行使できる」



アレイスター「その間、能力の『本当の持ち主』はその力を行使できなくなり、負荷で昏倒するがな」
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:33:13.24 ID:Arjuuw.o

滝壺 理后のバックには『超電磁砲』80人分に匹敵する演算補助がある。

それを使えば、ただ乗っ取って能力を奪い取るだけには留まらない。


例えば、彼女が絹旗の『窒素装甲』を乗っ取り、
そしてレベル5並に強化して行使できることも可能なのだ。

だがその間、能力を奪われている絹旗は無能力者となり意識を失う、という事だ。



アレイスター「その『多才能力』を使うことは考えるな」



アレイスター「『一時的』に優位になる『だけ』で、最終的に全滅する」



理論上は100人種類のレベル5相当の力を同時に行使できるが、
かわりに『部隊』としての戦力は『ゼロ』となるのだ。

当然、昏倒した者達は無力であり悪魔達に易々と狩られていく。
そうすると、滝壺もその能力を使えなくなっていく。


『多才能力』となった滝壺『自体』はそうそう負けはしないだろうが、
基盤である100の能力者が死ねば最終的に完全に無力化だ。



アレイスター「彼女の派遣目的は、あくまで部隊の統制と個々の能力強化支援、及び知覚サポートだ」
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:35:17.34 ID:Arjuuw.o

アレイスター「さて、彼女が『要』という理由もこれでわかっただろう?」


麦野「………………………………」


アレイスター「ここまでで質問は?」


土御門「こっちが出撃するのはいつだ?」


アレイスター「予定は五日後だ。色々と作業が多くてな」


アレイスター「では……とりあえず今はこんなところにしておこう」


アレイスター「君達も疲れているだろう?しっかり休息を取るんだ」


アレイスター「明日の朝、それぞれに詳細を通達する」


そのアレイスターの言葉に皆無言で同意し、
結標の『座標移動』で去っていった。


麦野だけは無言ではなく、最後にもう一度クソッタレと吐き捨てていったが。


また、一方通行は無言だったが凄まじい形相でアレイスターを睨みながら。
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:36:59.64 ID:Arjuuw.o

一人となったアレイスターは、水槽の中で一度目を瞑った。


いや、厳密に言うと『一人』では無いのだが。


いつ侵入してきたかはわからないが、先程からこの広い室内の天井の角に気配を感じていた。

ただでさえ薄暗い。
角なんかは完全に漆黒だ。


だが、その『空気』で相手が誰なのかはすぐにわかった。


アレイスター「さて…………君はいつからそこにいた?」


アレイスターは目を閉じたまま声を飛ばした。

その侵入者に対し。


すると。



「あ〜、『セフィロトの樹』と魔術がどうのこうのって辺りからだ」



バサリとコートをはためかせながら、上の漆黒の中から降りてきた銀髪の大男。


ダンテ。
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/14(土) 20:39:13.89 ID:Arjuuw.o

アレイスター「ほぼ最初から聞いていた訳か……」


ダンテ「まあな」


ダンテは肩を竦め、ニヤニヤと笑いながらだらしなく歩を進める。


アレイスター「それで君は何が聞きたい?」


そこでアレイスターはようやく目を開き、彼を見据えた。

『今まで以上』の威圧感をこの男から感じながら。

いつも通り笑ってはいるが、その纏っていた空気はかなり張り詰めていた。


ダンテ「半分は立ち聞きで済んじまったからな、いくつか質問があるだけだ」



ダンテ「右方のフィアンマって野郎と―――」



ダンテ「―――そのアリウスって野郎についてもうちっと詳しく聞きてえ」



アレイスター「…………なるほどな」


―――
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 20:40:18.20 ID:Arjuuw.o
今日はここまでです。
次は月曜か火曜の夜中に。
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 20:41:32.46 ID:aRFQ5owo
乙なんだよ!
95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 21:21:52.67 ID:EPkq0dco
さあ、下手をぶっこくとここで終了だぞアレイスターww
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 22:39:43.44 ID:6M/Y7uso
軽くデコピンするくらいで☆の居るビーカー割る位出来るだろうしなwwww

(`・ω・´)ゞ 乙であります!
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/15(日) 13:24:21.96 ID:/JlAJeAo
本格的にスフィンクスが心配になってきたな・・・
巻き込まれて消し飛ばなきゃいいけど
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/15(日) 15:33:53.12 ID:yfFC5pY0
スフィンクスめちゃくちゃ忘れてたwwwwwwwwww
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/15(日) 16:14:54.67 ID:yKt9T.6o
大丈夫、スフィンクスは美琴の電撃にも耐えた猫だからな
100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/15(日) 18:52:57.15 ID:ZT7NzQDO
スフィンクスさんのシャドウ化はまだですか
101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/16(月) 03:51:25.11 ID:3vzHvmQo
そういや先生んとこに預けられっぱなしか>スフィンクス
102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/16(月) 08:05:49.45 ID:4JRCwoDO
スフィンクスさんはスネークと一緒に、恐竜がいる島へ出稼ぎに行きましたよ
103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/16(月) 13:00:15.08 ID:OomiBwU0
>>96
下手すりゃ指先で「ちょい」とつつく(ダンテの感覚で)だけでビーカーがおじゃんだぜwwwwwwww
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 00:04:18.73 ID:z9ph//.o
いや一睨みで精神破壊できるだろうに
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/17(火) 00:33:00.78 ID:5.2259o0
こんな化け物揃いの中で生身で立ち位置のあるレディちゃんがすげぇ
106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 00:41:05.94 ID:UkUD4f2o
―――

とある病棟の一室。


御坂の病室。

その部屋の窓枠に御坂は腰かけ、佐天はベッド脇の小さな丸椅子に。

そしてベッドには少し焦げ臭い黒子が座っていた。


佐天「本当に……どこも怪我してませんか?」


御坂「え?あ、うん、私は無傷よ」


黒子「はぁ…………お姉さま。あれ程寮にいて下さいましと……」


御坂「いやぁ〜、だってこれが今の私の『仕事』だし」


特に緊張感も無く、軽く笑みを浮かべながらあっけらかんと応える御坂。

黒子「むむ……」

107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 00:43:53.14 ID:UkUD4f2o
佐天「何があったんですか?」

御坂「あ〜っと……喋ってもいいのかなこれ」

御坂「……とね……どっかの馬鹿が、私の『大事な人』の『大事な人』を襲ったみたいなの」


佐天「あ、あのツンツン頭の人ですか?」


御坂「ん、そいつの大事な人」


黒子「…………」


御坂「でさ、結構ギリギリでねー。それなりにやばかったんだけど」


御坂「何とか皆でその馬鹿を『ぶっ殺した』 と」


御坂「こんな感じかな」


これまた平然と告げる御坂。
さも当たり前の事かのように。


佐天「こ、『殺した』んですか……??」


御坂「うん。当然でしょ」


佐天「うひゃあ」
108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 00:46:19.96 ID:UkUD4f2o

黒子「……」

そんな、あれ程の戦いの事を淡々と普通に喋る御坂を見て、
黒子は改めて再認識させられる。

もう、こういう戦いは御坂にとっての『普通』であるのだと。
これが彼女の殺し殺されの『日常』だ と。


彼女はその事についてはもう何も迷いが無い と。


距離感を実感する。


別世界に生きるその距離を。


黒子は『闇の最深部』に『関っているだけ』。
だが御坂は完全にその最深部の『住人』となっている。

そして御坂はそこから脱出する気も一切無い。

上条当麻という男が更に深い底にいる以上、彼女は絶対に戻ってこない。
彼女は先の見えない苛烈な戦いに身を投じ続ける事になる。


それに対し、黒子の立ち位置では『何』もできない。


最愛のお姉さまには決して手が届かない。


ただ傍観しているだけしかできないのだ。
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 00:49:33.52 ID:UkUD4f2o
それが黒子にとって最も苦痛だった。

確かに、御坂が手が届かない世界へといってしまった事も苦痛だ。

だがそれ以上に、その戦いの渦の中にいる御坂をただ見ているだけしかできない事が耐え難い。


黒子「(……)」

黒子はふと思った。


己も『闇の最深部』に身を投じれば、最愛の人の傍で戦えるのだろうか と。

御坂が行ってしまうのなら。
己が置いていかれるのなら。

こっちからついて行けば良いでは無いか と。
こっちが飛び込んでいけば、ずっと傍にいれる と。


そんな事をすれば、御坂はそれはそれは怒るだろう。
だが上条の為に戦う御坂のように、己も御坂の為に戦いたい。


大切な人の傍で。

大切な人と同じ痛みを。

大切な人の盾となり。


大切な人の為に―――。


黒子はもう耐えられないのだ。

自分だけがこうして表の日常にいることが。


その影で、己の知らぬ場所で御坂が命の『駆け引き』をやっているなど―――。
110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 00:50:35.05 ID:UkUD4f2o

佐天「……白井さん?どうしたんですか?」


と、思索に耽っていた黒子を現実へと呼び戻す友の声。


御坂「?」


黒子「は……い、いえ。別に何でもありませんの」


御坂「……あっそうそう!」

御坂「黒子。お願いあるんだけどっ良いかな??」


黒子「?」


御坂「私の荷物さ、後でここに持ってきてくれない?」


黒子「へ?『向こう』にもう戻られるんですの??」
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 00:52:05.89 ID:UkUD4f2o
御坂「う〜ん、それは今のところはまだ何とも」

御坂「でも学園都市にいるとしても、多分しばらくこの病院にいそうだし」

黒子「?」

御坂「当麻達がいるからね。離れられないでしょ」

御坂「パッと見ただけだからわからないけど、多分当麻の家も壊れているだろうし、」

御坂「もし戻らないんだったら当麻達もここに寝泊りすると思うの」


黒子「…………ええ、わかりましたの」



佐天「御坂さん。ところでアレ……」


と、その時佐天が病室の角を指で指しながら口を開いた。


                   バット
佐天「何ですか?あの棍棒みたいの」


その指の先には、壁に立てかけられている『黒い大きな金属の棒状』の物体。



御坂「―――!!!!あ〜!!そうそうこれね〜!!」


御坂の『大砲』だ。
112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 00:53:53.92 ID:UkUD4f2o

ぱぁっと笑みを浮かべ、能力で大砲を右手に引き寄せる御坂。


御坂「いひひ〜!これは秘密兵器!!私の大砲よ!!」

そして佐天に見せ付けるように、これ見よがしに弄り始めた。
年相応のはしゃぐ中学生の笑みを浮かべながら。

その手に持っているのは、とても中学生には似つかないモノだったが。


佐天「たいほー……う?」


御坂「そうそう!ダンテに作ってもらってさ!!!!」


佐天「だんて?」


黒子「ネロ殿の叔父さまですの」


佐天「―――へぇ!!へぇええええ!!!!で!!それで!?」

黒子の捕捉でネロの名を聞いた途端、瞳を輝かせる佐天。
113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 00:56:28.33 ID:UkUD4f2o

御坂「これで私のレールガンが最大出力でボンボン打てるんだけど、」

御坂「それだけじゃなくてタマがすごいのよタマが!!!」


佐天「タマ?ですか?」


御坂「そうそう!!!」

御坂は手馴れた動作でフィードカバーを開き、そこから一発の弾丸を取り出し。

御坂「これ!!!」

そしてポンとサテンの方へと投げ渡した。


佐天「こ、これが……お、おっきいですね!!!…………って、なんか変な模様ありますけど?」


渡された、奇妙な模様がある12.7mm弾。
本物の弾薬など手に持つどころか見るのも初めてだが、
そんな佐天でも、この弾の表面に刻まれた紋様には妙な違和感を感じとった。


御坂「それ!!その模様がスゴイのよ!!!良くわかんないけど、それのおかげで威力が馬鹿みたいに上がってるの!!!」


佐天「へえあ、はぁ」
114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 00:59:42.44 ID:UkUD4f2o

御坂「ダンテの友達の、レディさんって人にこのタマ作ってもらったんだけどさ、それがもう凄くって!」


佐天「へぁ」


御坂「あー……んーっとね……黒子!!!」

黒子「は、はい!!!?」

御坂「路地裏で前に羊みたいな悪魔と戦ったでしょ!?」

黒子「……ええ、覚えておりますの」



御坂「レールガンでこのタマ撃てば、アレとかでも三体くらい一度に吹っ飛ばせるんだって!!!!」



黒子「―――!!!!そ、そんなにですの!?」


御坂「そのレディさんも凄くってさ〜、能力者でもない普通の人間なんだけど、当麻がボッコボコにされてたし」


佐天「む、無能力でですか!?」


御坂「そうそう。ヤッバイ強いわよ。それでまたスッゴクかっこよくてさーレディさん」
115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 01:02:18.17 ID:UkUD4f2o
佐天「す、すごいですね〜、無能力者でもそういう人いるんだ…………」

御坂「クールでさ〜そこもまた痺れるのよね」

御坂「このタマも貰ったんじゃなくて買ったんだけど、『値は品質の保障・証明なのよ』って。仕事人よ仕事人!!」

佐天「か、買ったんですか?いくらで?」


御坂「え〜っと、一発が××××ドルで300発だから……日本円だと××××万円くらいかな」



黒子「ぶふッッッッ!!!!!!!!!!」

佐天「ちょっとぉおおおおおおおおおお!!!!!!!!家建てれるじゃないですか家えええ!!!!!!」

御坂「これで全部貯金使っちゃった。それでも三分の一までしか払えなかったから、あとは出世払いって」

御坂「だから今の私って実は借金まみれなのよねー」


黒子「お、お、お、…………」

ゴートリングを簡単に殺せるくらいの弾にそれ程の値がつくのはわかるが、
その御坂の余りの使いっぷりに、最早黒子は言葉が出なかった。

それに、黒子自身はそのレディとは面識が無いが、話を聞く限りかなりヤバそうな人物というのはわかる。
そんな相手にそれ程の借金をするとは。

そこが心配で心配でたまらなかった。


まあ、その黒子の懸念はあながち間違ってはいない。
レディに借金をするということはどういう事か。

デビルハンター界隈では、ある意味もっともやってはいけない事の一つとされている。
116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 01:09:32.92 ID:UkUD4f2o
と、黒子はそう懸念している一方で、その弾薬に妙に興味をそそられていた。

先程から、御坂と同じ世界に飛び込むか否かも考えていたが、
今のままでは足を引っ張るだけなのも自覚している。

だがたった今おおまかな概要を聞かされた、あの山羊の悪魔をも簡単に蹴散らせる威力の弾。

それを聞いて、黒子は瞬間的にこう思った。


あれがあれば、己も戦力となりうるかもしれない と。


御坂の戦闘能力が爆発的に上がったのは、あの弾による恩恵が全てでは無い、というのは黒子はわかっている。

彼女の力を最大限発揮できる環境が整った というのが最大の要因であり、
あの弾『だけ』で強くなった訳では無いのだ。

あの弾が真の威力を発揮できるのも、御坂のレベル5としての能力があってこそのもの。
御坂の強大な能力、そしてそれに耐え得る頑丈な『砲身』、それらがあってこその破壊力だ。

レベル5として、超能力者としての力が大前提となっているのだ。


黒子があの弾の類の強力なモノを持ったとしても、爆発的には戦闘能力は上がるとは限らない。
それどころか、持て余して身を滅ぼす結果になるかもしれない。

それは黒子もわかっている。


だがそれでも。


それでも。

試してみたい。
僅かな恩恵でも良い。

その小さな恩恵の為なら、体を蝕まれても良い。
とにかく戦闘能力を向上したかった。
何を代償にしてでも。

御坂の隣で戦えるようになりたかった。
117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 01:11:32.85 ID:UkUD4f2o

幸か不幸か、黒子はダンテとそれなりに面識がある。


そこからレディという人物に接触できれば―――。


そう考えながら、黒子はいつのまにか脳内で己の貯蓄金額を確認していた。


黒子「(…………)」


だが財力はあまりにも寂しいものだった。

御坂が持っている、あの弾のレベルの物を一つ買えるかどうかも怪しい。



黒子「…………はぁ……」


思わず、大きく溜息を付いてしまう黒子。


当然、他の二人はそれに反応する。


佐天「……あ、あの白井さん?」
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 01:12:44.88 ID:UkUD4f2o
御坂「……黒子?も、もしかしてさっきの私の電撃が……」


黒子「い、いえ!!!!少し疲れているだけですの!!!」


御坂「そう……」



黒子「……さて!!!わたくしはこれからまだお仕事がありますし、お姉さまもお疲れでしょうし、この辺りで」


佐天「あ、はい!そうですね!」


御坂「……あ、うん、そうね」


黒子「お仕事が終わり次第、お姉さまの荷物を持ってきますの」


御坂「お願いね〜」


佐天「あ、それとまた明日来ますね。どうせしばらく休校になりそうですし」


御坂「はいは〜い待ってるわよ」
119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 01:15:47.96 ID:UkUD4f2o
そうやって一応の挨拶した後、二人は御坂の病室を後にし、
また来た時と同じく長い廊下を歩み進んでいった。


佐天「御坂さん、元気そうでよかったですね」

黒子「ええ……まあ」

佐天「……」

黒子「……さて、わたくしは先程言ったとおり、仕事がありますので」

佐天「あ、テレポートで行っちゃうんですか?」

黒子「はいですの。あなたはどうしますの?送ってさしあげても……」


佐天「う〜ん、戻っても初春いないしなー、他の皆も今は避難所で寮はスッカラカンかもしれないし……」


佐天「それで一人きりだと心細いんで……」


佐天「もう少しこの病院にいようかなって感じです。ここなら色々と安全ですよね」
120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 01:17:01.66 ID:UkUD4f2o
黒子「わかりましたの。では、さっきも言ったとおり(ry」


佐天「変なのに頭突っ込むな でしょ?わかってますって〜」


黒子「……では、わたくしはこの辺でお暇させて頂きますの」


佐天「はいはーい。お勤め頑張ってください」


にこやかに手を振る佐天に対し、
黒子は軽く会釈した後にテレポートして姿を消した。



佐天「……さて、どーしよっかな」

一人残った佐天。
先程黒子に伝えたとおりなんとなくこの病院に残ったものの、特にやることがない。

先程一応の別れの挨拶をした建前上、また御坂の所にすぐに行くのも少し憚れる。


佐天「あ……」

と、そこで佐天は思い出した。

一階の広い談話フロアに大きなテレビが置いてあった事に。
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 01:18:43.22 ID:UkUD4f2o
佐天「……」

暇つぶしには最適ではないか。
それに今回の件を何と報道しているかもかなり気になる。


佐天「…………うん、いいね」


そうと決めた佐天は、長い廊下を歩み始めた。

その談話フロアで『ちょっとした』、いや、『運命的』な出会いが待っているのも知らずに。


力は無い。

武器は無い。

戦う術は知らない。

そんな普通過ぎる中学一年生の少女が、
その『出会い』によって『主要キャスト』に名を連ねてしまう事になる。

この大きな世界のうねりの中に引き摺り込まれていく。


数週間前、ネロと出会った事によりどこかに作り出されてしまった運命の歯車。

それが遂に回り出す。


そして彼女を運んでいく。

様々な意思と多くの生と死が集約する、激震地の『中心』へ。

以前彼女が体験した、デパートでの騒動でさえ生易しく感じる壮絶な戦場へ。


彼女も遂に立ち上がり、己の意思で行動し戦わねばならない『地獄』へと―――。
122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 01:20:00.42 ID:UkUD4f2o
エレベーターから降り。
一階の廊下を進み。

ソファーが多く並んでいる、広い談話室に着いた佐天。

そんな彼女の目にとまる、壁際に置いてある自動販売機の前に立っている―――。



―――褐色の肌に赤毛の幼い少女。



容姿から見て歳はちょうど10前後だろうか、佐天よりも二周りほど下のような。
白い短めのマントを羽織り、赤毛の長い髪を後ろで一つに結っている端正な顔立ちの子だ。

佐天「?」

その少女は、何やら不思議そうに首を傾げては
背伸びをして自動販売機を恐る恐る軽く叩き。

(スイッチのところではなく、ディスプレイが飾っているところを だ)

そして小さな手に持っている硬貨をボーっと眺め、また不思議そうに首を傾げて を繰り返していた。


佐天「(…………わからないのかな??)」

何となくだが、見た感じだと自動販売機での飲み物の買い方がわからないように見える。

今時そんな人はいないと普通は思うが世界は広い。
あれ程ではなかったが、実際にネロも生きていた世界が違うせいか『こっち側』の常識にはかなり疎かった。


佐天「(よし……人助け人助けっと!涙子って良い人〜!)」

佐天は根っからの親切心で、その少女の方へと歩を進めていく。


この出会いから始まる運命など露とも知らずに。


―――
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/17(火) 01:20:04.63 ID:L8i3TaU0
きてたー!
124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 01:21:38.70 ID:UkUD4f2o
―――

黒子は夜空の下、宙を連続テレポートで移動していた。

黒子「(少し……時間過ぎてますの)」

休憩と言って、強引に持ち場を離れてきたのだ。

ちゃんとした許可も取らず、そして時間も超過。

同僚や上司に色々と文句を言われるのは目に見えている。

と、そう思っていた矢先。


黒子「(…………む。早速ですの)」


鳴り響く携帯。

状況から見て、恐らく同僚からだろう。

黒子は一旦地上の道路に降り、
そして携帯を取り出して着信表示に目を向けた。


黒子「…………?」
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 01:22:56.59 ID:UkUD4f2o

その表示は御坂からだった。


黒子「(お姉さま?)」


黒子「はいですの」

だが実際に出てみると。


『白井黒子か?』


聞こえてきたのは低い男の声。


黒子「―――なっっ??!!!」


『白井黒子か?』


予想外だった声に驚き言葉を失う黒子に対し、
相手は淡々と同じ質問を繰り返してきた。
126 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 01:24:11.92 ID:UkUD4f2o
黒子「そ、そうですの!!!!それで(ry!!!!!」


『慌てるな。回線を借りているだけだ』


黒子「なッ??!!はぃ???!!!」


黒子「ちょっと!!!!どちら様ですの???!!!」


『黙って聞け。「悪魔関係」だ。これでわかるだろう?』


黒子「―――!!!!!!」



『白井黒子。君に理事長命令が下った』



そして男は淡々と言葉を連ねていく。

明日の午前11時に第一学区のとある施設に出頭しろ。


学園都市そのものに関る重要事項だ。


この事は如何なる者にも一切他言するな と。
127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/17(火) 01:25:41.09 ID:UkUD4f2o
黒子「一体……!!!!!!」


『君に拒否権は無い』


『学園都市が消え、友人や「ルームメイト」の「生きる場所」が無くなっても構わない、というのなら別だが』


黒子「―――!!!!!!!!」


『詳細は明日説明する』


と、そこで男は一方的に通話を切った。



黒子「…………一体……なんですの……?」


携帯を握り締め、一人呆然としながら呟く黒子。



『レベル4』大能力者。

暗部所属ではないが、悪魔との実戦経験多数。

大悪魔を前にしても意識を保つことができる程の『慣れ』。



『切符』はそんな白井黒子にも配られてきたのだ。


決して拒否できない『切符』が―――。



地獄に等しい、壮絶な戦場への『切符』が―――。



―――
128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 01:26:33.55 ID:UkUD4f2o
今日はここまでです。
次は水曜か木曜の夜中に。
129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 01:33:26.84 ID:yvLqypIo
(`・ω・´)ゞ 乙であります!
130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 01:37:46.52 ID:1qeNnFEo
大変だ、初春だけ置いてけぼりだww
131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 01:50:08.55 ID:z9ph//.o
そりゃあ「温度を一定に保つ」って能力じゃどうしようもねぇしな・・・
132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 02:31:55.85 ID:.Wd.jdU0
レベルが上がって「周囲の環境を固定する」くらいになれば・・・いや、無理だなぁ
133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 02:35:33.45 ID:GByulqYo
初春「てめぇらの恥ずかしい画像ネットに流すぞ」
134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 05:42:42.92 ID:Ni5qqJMo
スフィンクス「にゃあ(乙)」
135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 07:44:53.98 ID:r/7IR2DO
>>130
いくら友達が壮絶な戦いを強いられようと一般人は関わらないほうが幸せだよ。初春なんか精神崩壊しそうだし
あ、佐天さんは別よ?
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 14:20:23.01 ID:rPzbB8Io
初春にはハッキング(笑)があるじゃないか
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 21:42:38.11 ID:o2P1wioo
>>122
二周りってどゆこと?
年齢で二周り下だと、24歳下になっちゃうけど…
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 23:08:55.50 ID:UkUD4f2o
>>137
使い方間違ってました。
すみません。
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 23:15:43.75 ID:UkUD4f2o
[ピザ]と[ピザ]のケツの間に頭挟むロックは拷問
[ピザ]とキスしそうになるくらい猛烈合体するプロップも拷問
140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 23:16:11.57 ID:UkUD4f2o
誤爆です
141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 23:22:34.66 ID:odn7PTUo
クソワロタwwwwwwwwwwww
>>1どこのスレ見てんだwwww
142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 23:25:12.05 ID:GByulqYo
まったく意味がわからない
143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/17(火) 23:31:03.06 ID:UkUD4f2o
VIPに珍しく建ってたラグビースレを見てました。
144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/18(水) 00:26:10.73 ID:x3YU4l2o
職人気質な>>1の意外な一面発見ってやつか
145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/18(水) 02:02:20.43 ID:WE0TWCI0
(;゚Д゚)wwwwwwwwww
146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/18(水) 09:53:37.38 ID:wWQqywDO
上条「インデックスまじ天使」
147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/18(水) 23:31:04.30 ID:.AZvfLg0
>>131実はあれは「温度を一定にする」ではなく「時間を止める」能ryくぁwwせdrftgyふじこlp
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/18(水) 23:51:33.79 ID:4lEAWgDO
温度を一定に保つってどの程度のもんか知らないけどさ、
自身の体温を一定に保てるなら火傷も凍傷もしないよね
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/19(木) 07:02:05.29 ID:1Ghx3fg0
突き詰めると能力者は全員分子運動に干渉してる事になるよね
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/19(木) 16:30:31.28 ID:BGvJ.bQ0
初春「う〜ん、暇ですねー。……そうだ!ウロボロス社をハッキングしましょう!」



彼女もまた壮絶な戦いに巻き込まれる運命だったのである……。
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/19(木) 23:20:18.06 ID:G8ixZ96o
やっと『べよねったおりじなるさうんどとらっく』をかってきたぞ!!

ということで投下します。
152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:21:22.77 ID:G8ixZ96o
―――

とある病棟の一室。


カエル「君にとっては今の時代、学園都市の最先端医療施設で、こうしたアナログ作業は無駄に思えるだろうがね」

机に向かい、目にもとまらぬ速さでカルテに記入していくカエル顔の医者。

カエル「でもね、たまにはこうしたアナログ作業も重要なんだ」

何枚も何枚も捲っては記入。

カエル「字の形をなぞる事で二重記憶し、そして同時に再確認・再チェックもできる」

その手を休めぬまま、声を飛ばしていく。

カエル「僕は元々アナログ世代だからね。この方が慣れているという事もあるんだけどね」

壁際の椅子に座っている一方通行へと。


一方「それとこれとは別だろォが」


苛立たしげにそれに言葉を返す一方通行。
彼の隣には、金属製の杖が立てかけられていた。

取っ手の部分が大きく歪んでいる杖が。


一方「『アナログ』だと潰しちまうっつってンだろォが」


カエル「まあね。さて、君の要望を纏めるとだ」


カエル「『脳信号で能力起動できるようにして欲しい』 ということかい?」


一方「そォだ」
153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:22:39.60 ID:G8ixZ96o

今の一方通行の手。

この『黒い義手』。

その力加減は、能力非使用時だとかなり難しい。
この金属製の杖も、ちょっとした拍子に取っ手を握り潰してしまったのだ。


このままだと、チョーカーを握り壊してしまう事も目に見えている。

かと言って、いちいち口で咥えて歯と舌でスイッチを入れるのも難しい。


カエル「…………」


一方「何が言いたいかはわかる。だがよ、これだけは俺じゃァどォにもなンねェんだよ」


カエル「…………なるほどね」


一方「金ならいくらでも積む。だから新しいの作ってくンねェか?」



カエル「…………」


一方「…………」


カエル「一つだけ条件がある」
154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:24:24.58 ID:G8ixZ96o

一方「あァ?」


カエル「いや、条件では無く『要望と忠告』と言うべきかな」

カエル顔の医者は相変わらず作業しながら、声だけを一方通行に飛ばす。


カエル「それを聞いてくれて、心に留めておいてくれたらお金もいらないよ」


一方「……なンだ?」


カエル「先程の戦い、あの『力』の使い方はもう止めた方がいい」


カエル「あの『強引な制御』はね」


一方「……」

『強引な制御』。

その言葉だけで、このカエル顔の医者が何を指しているのかがわかった。

あの黒い噴射物を、能力を使って力ずくで杭状に纏め上げて操る事だ。
155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:29:08.60 ID:G8ixZ96o
カエル「まあ、このチョーカーの件が無くとも今日中に伝えておこうと思っていたんだけどね」

カエル「ついさっき、君の頭にもミサカネットワークにも、そして『彼女達』自身にも何も障害は残って無いとは言ったが」


カエル「そろそろ限界だよ」


一方「……」


カエル「君の通常の能力使用時における、ミサカネットワークの占有率は50%程度だ」

カエル「だが、『あの力の使い方』をしている時の占有率は異常なんだよ」


カエル「先日のデパートでの戦闘の際、占有率の瞬間最大値は90.8%」


カエル「今日の瞬間最大値は99.4%まで達した」


カエル「ミサカネットワークはね、維持統制と相互通信の為に最低0.1%の『遊び』が必要なんだ」

カエル「つまりだね、君が今日あと0.5%以上占有していたら、ミサカネットワークは負荷によって完全停止していたんだよ」


一方「………………」

カエル「プログラムが連鎖的に崩壊していき、再起不能になる」

カエル「そうなれば、『彼女達』の中から脳死状態に陥る個体も大勢出てくるだろうね」



一方「―――……ッッ……!!!!!!」
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:31:33.25 ID:G8ixZ96o

カエル「君が好んであの力の使い方をしている訳では無いのはわかる」

カエル「そうせざるを得ない、ギリギリの状況だったのもわかる」

カエル「だから絶対に使うなとは言わない」


カエル「だけどね、そろそろ『別の戦い方』を見つけた方がいい」


一方「…………なッ…………………」


カエル「…………『幸い』とは言わないが、今の君には『その手』がある」

ここでようやくカエル顔の医者は一方通行の方へと視線を移し、
ペンを持っている手で軽く彼の義手を指した。

演算を必要としない、黒い杭以上の力を秘めた漆黒の義手を。


カエル「君ならそれを上手く利用して、あの力の使い方をせずとも戦えるはずだ」


一方「……………………」


カエル「……とまあ、僕が言いたいのはこんなところだ」


一方「……………………そォか」


カエル「じゃあ明日の夜八時辺りに来てくれ。それまでに新しいのを用意しておくよ」


一方「……あァ……悪ィな。頼んだぜ」


一方通行は杖に手をかけ、ぎこちなく立ち上がり覚束無い足取りで退室していった。
杖の取っ手の部分から、金属の軋む音を響かせながら。


―――
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:33:28.41 ID:G8ixZ96o
―――


窓の無いビル。

ここは今、凄まじい密度の大気が立ち込めていた。

肌が焼け付き、徐々に削り取られていくような熱すぎる重圧。
それでいて体の芯までが凍り付いてしまいそうな悪寒。


何もしていなくとも、体力と精神が見る見る磨り減っていく。


アレイスター「…………」


彼が今日、この『威圧』を味わうのは二度目だ。


『あの目』に見据えられるのは二度目だ。


なんという災難か。

なんという不運か。


一度目は最強である兄。


バージル。


そして今の二度目は最強である弟。


ダンテ―――。
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:35:07.96 ID:G8ixZ96o

アレイスター「さて…………」

水槽の中から真っ直ぐと怪物を見据え。

アレイスター「…………具体的に……あの二人の何が聞きたいのかな?」

ゆっくりと言葉を選びながら口を開くアレイスター。


ダンテ「まあそう固くなんな。気楽に行こうぜ」


それに対し、相変わらずの薄ら笑いを浮かべ肩を竦めるダンテ。


『気楽に』。


その言葉と表情とは裏腹に、凄まじいオーラをアレイスターに向けながら。


アレイスター「…………」


一目見てわかる。

いや肌で感じる。

外面は相変わらずだが、その内面は凄まじい程に煮えたぎり、
今にも噴火しそうなくらいに張り詰めている事に。
159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:36:06.80 ID:G8ixZ96o

ダンテ「お前もお前の立場で色々あると思うけどよ」

ダンテ「こっちも結構困っててな」


ダンテ「バカ兄貴がアレでよ。そこでお前の『助言』が欲しいんだ」


アレイスター「…………」



ダンテ「……まず…………そうだな、フィアンマって野郎の目的は?」



アレイスター「…………ふむ」

アレイスターは脳内で呟く。


『いきなりそれか』 と。


一発目から『核心』に迫るストレートな問いだ。
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:37:15.30 ID:G8ixZ96o
アレイスター「…………あの男はな。天界への口を開けようとしていた」

アレイスターは答える。
まずは当たり障りの無い部分から。

プランの根幹にも係わってくる『核心』、そこから最も離れている場所から。


その時、ダンテはいきなり背中のリベリオンの柄へと手を伸ばし。


ダンテ「それはアリウスって野郎じゃねえのか?」


揚場の無い声で言葉を返しながら、その魔剣を一度軽く振るい。


アレイスター「いいや。元々はフィアンマが行うはずだったらしい」


ダンテ「へぇ」

今度は柄の先を鼻先に当てるように、リベリオンを水平に持ち上げ片目を瞑った。
そしてもう一方の手の指で刃面をゆっくりとなぞり始めた。

一見すると刃面のチェックでもしているかのように見える。

いや、実際にそうなのだろうが。



アレイスター「…………」


だがアレイスターにはそのダンテの仕草が、
獲物を殺そうと舌舐めずりしながら、歯を研いでいるようにも見えてしまった。


哀れな『獲物』を殺そうと、だ。
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:38:45.59 ID:G8ixZ96o

ダンテ「で?何で天界の口を開く?」

ダンテはリベリオンの刃面をチェックしながら、声だけをアレイスターに飛ばす。


アレイスター「…………人造悪魔兵器と能力者を滅ぼす為だ」


ダンテ「ほぉ」


アレイスター「…………」


ダンテ「で、本当の目的は?」



アレイスター「…………………………………………本当の目的だと?」



ダンテ「知ってんだろ?隠すなよ水臭え」
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:40:38.61 ID:G8ixZ96o

アレイスター「…………」

フィアンマの本当の目的。

そこを言ってしまえば、アレイスターのプランにも大きく係わってくる。
何せ、アレイスターもフィアンマも最終目的の核は上条当麻。

そして上条当麻はダンテと深く繋がっている。


必然的に、ダンテがアレイスターの真の目的に迫る事になるのだ。


アレイスター「…………」


この時期に、これ以上ダンテが割り込んでくるのは何としてでも避けたい。
この怪物がアレイスターの目的に迫り、そして何かを感付いた時、一体どんな行動をするのか。

完全放置か。

それとも叩き潰しに来るか。

どうなるかはわからない。
予想がつかない。


だが、ただ一つ確かな事がある。


この怪物が本腰を入れて動き出せば、最早アレイスターには到底止められない。
どんなに足掻こうが無駄なのだ。
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:41:44.58 ID:G8ixZ96o

ダンテ達を利用して上条当麻の『器』の強化を目論んだ際、
この『関係』が及ぼす危険性も考えてはいた。

だがこんな形で迫ってくるとは思ってもいなかったのだ。



まさかバージルに関る形で、とは。



アレイスター「……」


声が出ない。

なんと言えば、核心を誤魔化しつつダンテを納得させられるのか。

どの言葉を使えば、ここを乗り切れるのだろうか。

フィアンマの目的の核心は言いたくない。


だが言わなければ―――。


そう、言わざるを得ない状況に追い込まれている。


アレイスター「…………」


思考だけが虚しく空回りしていく。
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:44:49.07 ID:G8ixZ96o

ダンテ「…………コレな」

と、その時。

相変わらず刃面をなぞりながら、ダンテは独り言のように呟き始めた。

ダンテ「バージルと魔人化してやり合うとよ、さすがに少し刃毀れすんだ」

ダンテ「ま、少しすれば元通りになるけどな」


ダンテ「だが―――」


そしてダンテは再び大きくリベリオンを振り。

ダンテ「滾っちまった『コイツ』はそうそう大人しくなんねえんだな」


ダンテ「大抵はな、それなりに強え奴を叩き切りゃあ『コイツ』も満足すんだが」


ダンテ「今回はんな『エサ』が無くてよ」


肩に乱暴に乗せ。


ダンテ「そもそも俺が『不完全燃焼』ときたもんだ」


ようやくアレイスターに目を戻した。
仄かに赤く光っている瞳を。


ダンテ「生殺しの寸止めだぜ?ひでぇと思わねえか?男にとっては拷問ものだろ?」


そして再度薄ら笑いを浮かべる。
掴みどころの無い、不気味な笑みを。
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:46:59.97 ID:G8ixZ96o
ダンテはただ、普通に愚痴を言っているつもりなのか。
それとも何か裏を見て、アレイスターを弄び揺さぶっているのか。

アレイスターは判断がつかなかった。


あの笑み。

今までどおりの笑みだ。


だが、あの『マスク』の下から心中を見透かされているような気もする。


ダンテ「で、お前は『どうする』?」


アレイスター「…………」

そしてそんな困窮しているアレイスターへの更なる追い討ち。
なんでもないような言葉。
だが、その裏に渦巻く得体の知れない『威圧』。



ダンテ「お前も俺を『生殺し』にするつもりか?」



そして。



ダンテ「まあ俺は『どっち』でも『構わねえ』けどよ」



アレイスターは遂に陥落する。



アレイスター「…………………………わかった。全て言う」
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:49:15.94 ID:G8ixZ96o

ダンテ「ン〜ハッハァ、いいねぇ。話のわかる奴は好きだぜ。『平和的解決』が一番だ」

指を弾き鳴らし、そのまま人差し指をアレイスターに向け微笑むダンテ。


アレイスター「……………………フィアンマはな……」


アレイスターはフィアンマについて知っていることを全て吐いた。

あの男が古の人間界の神に転生しようとしていた事。
その為には幻想殺しが必要な事。

天界はそれを承諾しておらず、フィアンマは天界の目を逸らす為に戦争を引き起こそうとしていた事。

天界の軍勢を導き入れ、人造悪魔と戦わせるのがその隠れ蓑である事を。



ダンテ「―――……へえ」


アレイスター「それともう一つ言っておこうか。バージルに関してだが、先程彼は幻想殺しをも殺そうとした」

アレイスター「バージルは影でフィアンマを利用しているようだが、竜王の復活自体はどうでも良いようだ」


先にこれを言っていれば、フィアンマの真の目的を言う必要は無かった、という訳ではない。

フィアンマの真の目的を言った上で、この説明がようやく意味を持つのだ。

先にこれを言っていたとしても『どうして?なぜ?』と問われ、
どの道フィアンマの真の目的を言うハメになっているだろう。
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:52:50.85 ID:G8ixZ96o

アレイスター「あくまで私が思うにだが、バージル達は天界への口を開く事自体が目的に思える」

アレイスター「いや、ジュベレウス派を首脳もろとも誘き出そうとしているのかもな」

アレイスター「何の為にそんな事をしようとしているのかはわからんがな」

ジュベレウス派を皆殺しにしようとしているのか、それとも直に開いた穴から天界に殴りこもうとしているのか。
ただこんな回りくどいやり方をしている以上、これらが目的の中にあるとしてもそれだけではないのは確かだ。



ダンテ「………………セフィロトの樹って何と何が繋がってんだ?」

と、その時。
ダンテが顎を摩りながら、今度は別の質問を繰り出してきた。


アレイスター「人間と天界の者達だよ」

話が繋がっていないように感じながらもアレイスターは答える。


ダンテ「どんな風に?」


アレイスター「人間を支配し統制するという役割もあるが、最大の目的は人間の魂を搾取することだ」

アレイスター「力を吸い取り、それを天界の様々な強化に使っている訳だ」


アレイスター「例えば、君ら悪魔は魂と器が完全に破壊されたら復活が不可能になるが、」

アレイスター「天界の者達は、人間界からの力の供給を受けて魂も器も修復することができる」

アレイスター「復活のサイクルも早く、その為完全抹殺も難しい」


アレイスター「強大な魔界に立ち向かう為に編み出されたシステムだよ」
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/19(木) 23:57:06.78 ID:G8ixZ96o
ダンテ「…………人間を奴隷にしてんのか?」

アレイスター「私から言わせれば『養殖』だな」


ダンテ「……へぇ……………………そのセフィロトの樹ってよ、お前は『見える』のか?」


アレイスター「……存在をはっきりと知覚して『認識』できるのは天使達だけだ」

またも意図がよくわからない、ダンテの思考がどこに向かおうとしているのか見当もつかない質問。
それにもアレイスターはしっかりと答えるが。

アレイスター「人間も悪魔も、セフィロトの樹が起こす現象は認識でき存在を知る事はできるものの、『直接』見ることはできない」

ダンテ「どうすれば『見える』?」

アレイスター「…………『見える』ようにする方法は、少なくとも私は知らない。『見えていた』であろう人物は知っているが」

ダンテ「誰だ?」


アレイスター「『右方のフィアンマ』と…………『竜王の顎』が覚醒した状態の『上条当麻』」


ダンテ「ほぉ……」

アレイスター「それとこれは推測なのだが……」



アレイスター「イギリス清教に所属していた『天使』も知覚できていたかもしれない」



アレイスター「あくまで推測だ。見えていなくとも、知覚できる土台はあったはずだ。本物の『天使』だからな」


ダンテ「……あのサムライガールか?」


アレイスター「そうだ」
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/20(金) 00:00:52.20 ID:B6X/zMAo
ダンテ「へぇ……あのお嬢ちゃんは今どこにいるか知ってるか?」


アレイスター「死んだよ。ヴァチカンで魔女に襲撃されてな」


ダンテ「魔女……ねぇ」


ダンテ「『死に様』はどうだ?『どうやって』死んだ?」


アレイスター「……そこまではわからんな。ステイルに聞くがいい。彼は直に見たからな」


ダンテ「Humm.....OK」



アレイスター「……」

ここまでくれば、ダンテが何に興味を示しているのかは薄々気付く。
このダンテの一連の質問で、アレイスターもそのとある『部分』に気付いたのだ。


アレイスター「…………魔女がヴァチカンを襲撃したのは……」


ヴァチカンの件、もしかしたらあれは戦争を誘発させる為だけではなく。


アレイスター「彼女も目的の一つだったと君は考えているのか?」


セフィロトの樹を知覚できる、もしくはそれの『土台』がある神裂火織をも狙っていたのだろうか と。
170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/20(金) 00:03:40.48 ID:B6X/zMAo

それに対し、ダンテは無言のまま小さく肩を竦めた。
『わからん』と意思表示しているのか、それとも適当に誤魔化しているのか。

アレイスターは見定めることができなかった。


ダンテ「あ〜、もうちょっと聞きてえ。その右方とイマジンブレイカー、あのお嬢ちゃんはセフィロトの樹と『繋がって』いるのか?」


アレイスター「右方とイマジンブレイカーは繋がってはいないが、彼女は繋がっていたよ」


ダンテ「……『天使』として、か?」


アレイスター「そうだ。死ぬ間際の彼女は『天使』だった。人間ではなく、天使として繋がっていた」


アレイスター「つまり、『上』の『力を吸い取る側』だ。セフィロトの樹に『干渉できる』立場だよ」


アレイスター「ただ所属は『十字教』であり、権限はそれほどでもないがな」


アレイスター「人間の生死すらをも操れるのは、ジュベレウス派のトップ集団のみの権限だ」


ダンテ「『生死』、ねぇ…………」
171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/20(金) 00:05:27.05 ID:B6X/zMAo
ダンテ「…………」

ダンテの『思考』は巡っていく。
いや、『悪魔の勘』と言うべきか。


普通の者からすれば、それはそれは奇妙な思考回路だろう。

様々な事柄を並べては、『悪魔の勘』に嗅ぎ分けさせ選別していくのだ。

特に理由が無くとも、『なんか違う気がする』と思ったらそれは却下。
『これじゃねえの』と思ったらそれを持ち上げて更に調べていく。


ダンテの行動を最終的に決定するのは、この『なんとなく』の『気まぐれ』なのだ。

もしアレイスターが、このダンテの脳内を見ることができたら驚愕してしまうだろう。

そんなに簡単に、そんなテキトーに重要事項を決めていくのかと。

究極の馬鹿なのか常軌を逸した天才なのか、
それともその両方か、その両方でもない別の何かなのか。


だがダンテは今までもこうしてきた。
そして、少なくとも結果は全て成功してきたのだ。
ここにダンテは絶対的な自信を持っている。

いや、『自信』としてではなく、『当たり前の何でもない事』と彼は認識している。


頭ではなく魂で動く。


脳ではなくハートで動く。


驕りも躊躇いも無い。
ただ素直に気の向くままに。

それがダンテのやり方だ。
172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/20(金) 00:06:58.21 ID:B6X/zMAo
ダンテ「…………」

バージル達は『セフィロトの樹』を知覚できる素材を求めている?
『セフィロトの樹』に干渉できる素材を求めている?


アレイスターならば、ここで『いや、ならば神裂でなくとも別の天使を狙えばいいだけだ』 としてこの論は却下してしまうだろうが。


ダンテ「(匂うな)」

ダンテの『気まぐれ』は、そんな論を越えた『何か』を捉えた。


ダンテ「(バージル……魔女……バージル……魔女…………閻魔刀……閻魔刀……閻魔刀……か?)」


そこで更にダンテの『気まぐれ』が反応する。


『閻魔刀』。


あの魔剣が神裂の件に何か関係しているような『気がする』。

そう、『そんな気がした』だけなのだが。


ダンテ「(Ha-ha,BINGO)」


ダンテが動くにはその『なんとなく』だけで充分だ。
彼は確信する。


神裂と閻魔刀は必ず何らかの関係があると。
173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/20(金) 00:09:07.58 ID:B6X/zMAo
ダンテ「…………」

バージル達は魔界の口を開かせようとしている。
バージル達は天界の口を開かせようとしている。

ここまでは確実だ。


バージル達は、セフィロトの樹を知覚し干渉しうる『土台』がある神裂を狙った。
目的は閻魔刀と関係している何か。

アレイスターは神裂は死んだと言ったが、ダンテの勘はその真逆を示していた。
その勘はステイルの証言を聞けば確たるものとなるだろう。



大方、どデカイ『魔』が宿った剣かなんかに『魂』を突きたてられて――――――といったところなはずだ。



この件もほぼ確実だ。

『気まぐれ』がそう告げている。




では、なぜ魔界の口を開かせようとしているか?

では、なぜ天界の口を開かせようとしているか?
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/20(金) 00:12:07.93 ID:B6X/zMAo
ダンテ「…………」

『天界の口を開けて軍勢を降臨させる』

『魔女はその連中をぶち殺したい』

これは当たっているだろうが間違いでもあるだろう。


ダンテ「…………」

『それだけ』ではないのは確実。

先程話に出た『四元徳』。

特に詳しくは無いが、つい最近魔女に完膚無きにまで叩きのめされて、
煉獄に落とされたのは風の噂で聞いた事がある。

だがアレイスターの口ぶりを聞く限り、その連中はもう既に復活しているようだった。
これも説明があったとおり、セフィロトの樹からの力の供給作用か。

魔女は四元徳を筆頭としたジュベレウス派首脳部をぶち殺したい。
だが、いくら叩きのめしてもセフィロトの樹で素早く復活。

つまり。


ジュベレウス派を再起不能に追い込むには、『人間界』の破壊、

もしくは『人類の根絶』、


それか―――


ダンテ「…………ハーハァ」


―――『セフィロトの樹』の完全破壊が必要だ。
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/20(金) 00:16:37.92 ID:B6X/zMAo
バージルは『義務』と言っていた。

スパーダの一族としてその言葉を口にするのならば、人間にとっての不利益はまずない。
(小規模の不利益はあるだろうが、それも更に大きな利益の為だ)

つまり、人間界の破壊でも人類の根絶でもなく。

狙いの一つは『セフィロトの樹』の完全破壊。

そしてこれも別の大きな『何か』をする為の一つの『手順』。




その『何か』は―――。




『そこ』に到達した瞬間。

ダンテはバージル達の目的の全貌をようやく捉えることができた。


間の思考や行程を飛ばし、その一応の答えまで一気に飛んだのだ。
人間には到底できないやり方だ。


魔界の口。

天界の口。

神裂と閻魔刀。


まだ足りないピースはそれなりの数あるだろうが、
ダンテの中でそれらの因子が猛烈な速度でどんどん組みあがっていき。


ダンテ「ハッハー」

彼は、遥か先に先行していたバージルの背中をようやく捉えた。

まだその距離は遠い。

だが、見えるのならば必ず―――。


―――いつか必ず追いつける。
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/20(金) 00:18:00.60 ID:B6X/zMAo
ダンテ「OK」

ダンテはリベリオンを背中に差し戻し、軽く微笑んだ。
相変わらずの掴みどころの無い不敵な笑みだが。


ダンテ「聞きてえことは全部聞いた」


アレイスター「……………………そうか。それは良かった」

アレイスターからすれば、この纏まりの無い一連の質問で
彼が何を見出したのかなどまったくわからなかったが。


ダンテ「あ〜そうだ、わかってると思うが、ネロもそのアリウスって野郎の件で動くぜ」


アレイスター「……だろうね。だが期待はしとらんよ。君達の事を想定すると、どうしても計画が纏まらなくなるからな」

アレイスター「君等の『気まぐれ』までは計算できんよ」



ダンテ「計算できねえから『気まぐれ』なのさ」



ダンテ「ま、向こうでネロやフォルトゥナ騎士団と鉢合わせすっかもしれねえからよ、それだけは用心しときな」


ダンテ「殺りあっちまったら『無駄』だろ?」


アレイスター「…………うむ」
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/20(金) 00:20:40.77 ID:B6X/zMAo
ダンテ「…………で、お前はアリウスを何としてでも邪魔するか、殺したいんだな?」

アレイスター「そうだ」

ダンテ「…………(少し面倒だな……)」

ネロはアリウスを殺そうとしている。
キリエの術が解けるまでは手を出せないが、それが解けた途端ネロは即座に殺しに行くだろう。

アレイスターはそんな事関係無しにアリウスに危害を加えようとしている。
キリエの術が解ける前に、能力者の部隊がアリウスに届けばどうなるか?

万が一にでもアリウスが死んだら?
キリエと共に。



その危険性に気付いた時、ネロはどうする?



とりあえず、キリエの件はアレイスターに知られてはならない。

キリエを殺せばアリウスにも大きなダメージを与えられるとなれば。

ダンテが見るところ、アレイスターはもう後の事を考えてないようにも思える。
人間は腹を括ったら、どれ程の困難でも立ち向かう事をダンテはよく知っている。

キリエの事を知ったアレイスターは、指を咥えて見ているだけでは留まらないだろう。
必ず行動を起こす。


ダンテ「…………」

ダンテは心の中で溜息交じりで呟く。


こいつはマジで厄介な事になってきやがった と。
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/20(金) 00:22:42.86 ID:B6X/zMAo

それとは別に、あの『バージル親子』の問題もある。


このままでは、ネロとバージルが対立しうる可能性がかなり『高い』。


アリウスは魔界の口と共に、フィアンマの代わりに天界の口も開けようとしている。
それが完了するまでは、バージル達はアリウスを守ろうとするだろう。


逆に、ネロは魔界の口が開くのをなんとしてでも避けようとしている。


ダンテ「……」


ダンテも人の事は言えないが、あの親子は二人共とことん頑固だ。

そして自分の『仕事』には何人も立ち入らせようとはしない。


説明も何も無しで、いきなり親子で刃を交え殺し合いをする可能性だってある。


ダンテ「…………………………………………面倒臭ぇ…………」


いやはやどうにもこうにも。


どいつもこいつも。


本当に面倒臭い事態だ。
179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/20(金) 00:25:12.07 ID:B6X/zMAo
幸か不幸か、ダンテは今その輪の中から一歩外にいる。

ダンテのような、全体を把握できている第三者がいることは『幸運』だろう。

血を減らす為の『調整役』として立ち回れる事ができる。


ダンテにとっては『不運』だが。

彼にとってはこんな面倒な調整役なんざクソ喰らえだ。


ダンテ「………………マジでツイてねえな」


今更己の置かれている立ち位置に気付いても手遅れだ。
そして投げ出す訳にもいかない。



アレイスター「…………どうかしたのかな?」


そんな頭を掻き毟っているダンテに対し、アレイスターが口を開いた。


そしてダンテは言葉を返す。



ダンテ「いんやあ、何かお前の気持ちもわかった気がしたぜ」



アレイスター「………………?」


ダンテ「気にすんな。なんでもねえ」
180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/20(金) 00:27:45.05 ID:B6X/zMAo
ダンテ「…………あ〜、そうだ」


アレイスター「……まだ何かあるのか?」



ダンテ「ピザとワイン届けてくんねえか?銘柄は何でも良い」



アレイスター「………………………………………………構わんよ」


ダンテ「ハッハァー!!!助かんぜ!!!トリッシュの部屋に届けてくれ!!!!」

ダンテ「じゃあな!邪魔したな!!」

そう言い残し、ダンテはひらりと踵を返すと真上へと跳躍していき、
薄闇の中へと消えていった。

アレイスター「…………」


どうやらダンテ、今回は天井に穴を開けていたようだ。



アレイスター「……………………やはり出入り口を作るべきだったか……」



―――


勃発・瓦解編      おわり
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 00:28:18.48 ID:B6X/zMAo
今日はここまでです。
次は土曜か日曜に。
182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 00:37:34.09 ID:/7EPHO2P
乙!

アレイスターさんカワイソス
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 00:49:10.22 ID:tLFYbnoo
乙!
☆wwwwwwww
セフィロトの樹の破壊は何となく途中で読めたが
その先は未だに分からないな・・・だがそれがいい
184 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 00:50:03.55 ID:tjcge6AO
乙!
185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 01:12:54.97 ID:uJNFEy6o
アレイスター、生き残れてよかったなww
186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 02:05:20.73 ID:ZSMrSek0
乙乙!!
次は「準備と休息編」か
楽しみにしてる!!
187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 02:09:26.28 ID:lY2/PuA0
おぉ、やっと、やっと全体像が見えてきたな。
これは期待せざるを得ない

>>1乙!

後、☆wwwwwwww出入り口の件はでワロタwwwwwwwwwwwwww
188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/20(金) 02:10:15.14 ID:LtYnquU0
ダンテが現象把握と調整に廻るとは意外ww

(´ω`)ゝそして今夜も乙っした!
189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 02:11:22.78 ID:pjiS692o
これだけ人間味のあるアレイスターが見れるのはここ位だなwwww

(`・ω・´)ゞ 乙であります!
190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/20(金) 02:27:53.65 ID:DLJHx3U0
乙!
>>183 人間を天使から切り離すためだろ
☆よく生きていられたな・・・見てるこっちがハラハラしたわ
191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/20(金) 18:33:30.28 ID:pEy2ZIDO
そういや この世界で21巻に出てきたガブリエルって 強さ的にはどれくらいのポジションなんだ?
地球と月と太陽の位置関係すら手中に収めるってかなりすごい方だよな?
そもそも ガブリエルとかミカエルとかって天使の中でどれぐらいの強さなんだ?
WIKI見てもよく分からんかったから誰か教えて
192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 18:43:24.56 ID:UXw.YADO
ミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエルはセラフっていって天使の中でも最上級に位置するんじゃなかったっけ?
193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 18:54:41.98 ID:WswX5FUo
最高位は熾天使で、ミカエルは大天使だから下から二番目くらいだったかと
194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/20(金) 19:49:13.77 ID:pEy2ZIDO
>>192-193 え〜と……どっち?
195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 19:50:28.86 ID:DemDJV6o
後世の学者が「俺設定」を勝手に追加していった結果がこれだよ
だから自分もそうすればいいのさ
196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 21:33:55.55 ID:KXvv4P6o
強さってのが階級で決まってるのか知らんし文献や学者によってはミカエルが大天使だったり熾天使だったりするよね
9階級ってのもどっかの学者が勝手に決めたもんだし実際は曖昧だったりする。
9階級的に言えばミカエルは下から二番目の大天使だがキリスト教とかイスラム教ではもっとも偉大な天使とされてるし
ミカエルとラファエルとガブリエルは他の階級のトップだったりするから案外適当なのかも
でも一番上にいるのはメタトロン様
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 21:38:13.81 ID:DemDJV6o
目からビームを出します
198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 21:39:22.97 ID:0YAxDHso
やたらメカメカしいです
199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 21:50:53.16 ID:KXvv4P6o
つかドラゴンはキリスト教的には邪悪の象徴だしルシファーだったりサタンだったりするから
もしかしたら原作の上条さんマジ悪魔
あと21巻でインデックスさん赤い翼出したしかまちーの後書きからすると
もしかしたら原作のインデックスさんマジ大天使
200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/20(金) 22:35:31.64 ID:B6X/zMAo
かなり長文ですが失礼します。

>>191
当SS内ではどうかというと、

ガブリエル達は第一位階『熾天使』と同等以上としております。
力の大きさでの『天使クラス』という区分としてでは、ガブリエル達が最強クラスとなります。
(『熾天使』より上は『神クラス』に区分してますので)

ただSS内で言ったとおり、他の『熾天使』達と絶対的な差がある訳ではなく、
一対一ならば余裕で勝てますが数の暴力でこられるとヤバイ、といったレベルです。


『かなり』大まかですが、具体的にガブリエル達がこのSS内でどのへんのランクかと言うと


魔人化したバージルとある程度打ち合えるトリッシュには到底敵わず、
(ファントム等の魔帝軍の幹部・ヘカトンケイル等の魔界の諸王クラス)

魔人化無しダンテに完封されるベリアルとなら互角に戦える といった感じです。
(エキドナ等の魔界の領主クラス)

決して最強クラスではありませんが、かなり強い部類です。


これまた大まかですが、当SSにおける天界内の力の順位は

四元徳>>>>>『十字教の神』等の様々な派閥の最高指導者>>>>ガブリエルら四体≧上級三隊の『熾天使』>上級三隊の『智天使』.......

としております。


ちなみに四元徳さん達は一応『天使』と呼ばれてはいますが、
『主神ジュベレウスに仕える者』という意味合いの『名ばかり天使』であり、
ジュベレウス亡き今は実質『天界の最上神』です。

ジュベレウスを頂点としたヒエラルキー内の『役職・位』として『天使』と冠していただけであり、格は余裕で『神』です。


これは余談ですが、ガブリエル達ら四体を第八位階『大天使』クラスに設定する案もありました。
しかしそうすると、とてつもないインフレを起こしてしまうので却下しました。

今以上の凄まじ過ぎるインフレです。

ベヨネッタ内での第八位階は雑魚中の雑魚ですので。
201 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/20(金) 23:55:14.03 ID:IZ97YQA0
おお!
>>1様 この程度の案件にレスありがとうございます!了解であります!
それと回答してくれたみんなもファミマ!
202 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/21(土) 00:13:47.68 ID:YMEeuBI0
ファミマww
203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 01:08:16.14 ID:uJ1Y/8co
俺の中でバージルたちの化け物っぷりが際立った
204 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 01:41:34.70 ID:IhK2I6.o
四元徳ってのがいまいちよくわからん。デビルメイクライやったことないがこれは神様とかそうゆう類のものなのか?
205 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 01:48:32.92 ID:3eUcvN20
>>204
どっちかっつーとベヨネッタが関係してくんじゃね?
俺の知るかぎりじゃ天子は出てこないと思う。

まぁ、小説版では違うってんなら話は別だが
206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 02:01:28.08 ID:IhK2I6.o
>>205
そうなのか。
調べた限りじゃ知恵、勇気、節制、正義ってのを合わせて四元徳って言うみたいだがベヨネッタで擬人化でもしてるのかな?
つか悪魔とか天使とかそうゆう類の話好きだからこのSSに食いついたけどデビルメイクライもベヨネッタもやったことないから
このSSの中の悪魔や天使が俺の持ってる知識と違うんだよな。
ゲームやってみたいけどアクション苦手だから手出しにくい。
207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 02:10:46.28 ID:g6ez3CIo
四元徳はベヨネッタに出てくる大ボス達のこと

フォルティトゥード(勇気)
テンパランチア(節制)
ユスティジア(正義)
サピエンチア(知恵)


の四人がいて、コイツらがジュベレウス派のリーダー格であり、とんでもなく強い

でも、ベヨネッタさんに一度ヌッ殺されました
208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 02:28:43.92 ID:IhK2I6.o
じゃあやっぱりベヨネッタのオリキャラなのかな?
ああなんか興味でてきたけどアクションゲームはキツイなぁ
209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 03:05:19.82 ID:hwYRVG2o
友人宅でやったらスタイリッシュ痴女アクションだった。或いはSMアクション。
210 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 03:27:42.62 ID:3eUcvN20
>>209
だなwwwwwwwwR指定が入るゲームではあるwwwwwwwwww
まぁ、俺はこのSSを見て4を買う予定だがな。PCだけど。
211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 03:32:20.28 ID:IhK2I6.o
「ベヨネッタ紳士用」って動画みたんだがアレはMADなのか?
212 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 07:48:27.76 ID:AIfprUDO
>>211
あれはマジです
213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 10:43:29.45 ID:3Lcsp2DO
DMCシリーズはイージー(オートマティック)があるから単なるクリア目的なら簡単
シリーズ毎に操作が複雑になっていく感じ
俺も基本的にアクション苦手だけどやり続けたら1と3はそれなりに得意になったよ
4も3の延長線だからそれなりに出来るけどランクはズタボロだぜ!
214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 15:09:24.00 ID:AIfprUDO
>>206
天使や悪魔がどういう存在かはそれぞれ個人個人の解釈で変わるから、自分の考えで固定しないほうがいいぜ!ややこしくなるしな!
215 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 16:33:17.50 ID:8s6bGsDO
四元徳ってゲームとか漫画にありがちな四天王的ものなのか?
一人目が噛ませで二人目が三人目に後から刺されたり四人目が他の三人合わせるよりも強かったりするの?
216 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 16:39:05.48 ID:p9wpSYso
ありがち四天王ではないかな
4人がそれぞれ規格外に強くて、普通の魔女とかは軽く捻れる位には強い



しかし、上には上がいるもので、ベヨ姐さんはソイツらを全員魔界送りにしちゃった訳
そこらは、バージルさんと契約を結べるくらいなので察してくださいという事で
217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 16:54:14.77 ID:8s6bGsDO
じゃあ「くくく…奴は我ら四元徳の中でも最弱」みたいなセリフないのか…
つか禁書原作でもそうだが他のゲームや漫画にしてもやたら四人組にこだわってるのって多いよね
なんか意味があるのかな?
218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 17:22:07.20 ID:AIfprUDO
>>217
単純にバランスが良いからじゃね?
多過ぎず少な過ぎずで
219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/21(土) 21:48:04.99 ID:3Lcsp2DO
>>217
先ずもって四天王って言葉があるしね
それに方位や四神、トランプ、クローバー、小アルカナなんかのモチーフになる物も多い
単純にバランス取ったら四人組になった、なんてこともあるだろうから一概にには言えないけど
よくある理由はこんなとこじゃないかな
220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 02:52:14.02 ID:rJzCAYAO
四元徳は、トリッシュより強いと考えても良いな



つまり、ダンテかネロクラスでないと太刀打ちできないレベル
221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 03:04:34.39 ID:pWTf/VAo
>>214
俺が今までためてきた悪魔や天使の知識が役に立たないのも
スパーダ一族が規格外なのもこのSS読んで学んだよ
222 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 11:35:02.27 ID:mdYdn6AO
変態:スパーダ一族=魔女
最強:ムンドゥス=ジュベレウス
準最強:覇王
魔帝軍幹部=四元徳
1魔具.トリッシュ=十字教神
3.4魔具=ガブリエル

て感じか
設定的にはジュベレウスのが魔帝より上っぽいけど
223 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 12:07:19.38 ID:HWKciQDO
>>222
トリッシュが十字教神クラスかよ…と思ったが、よく考えたらあのムンドゥス直々に創造した存在なんだから、ダンテと戦うことを想定してそれぐらい強くしてても不思議ではないか

激強なDMC・ベヨネッタ組の中で成長していく禁書組が素敵だ。人間らしいね
原作の上条さんはデビ条さんで、インデックスはテンシックスか
224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 15:08:07.84 ID:SjekEPUo
ググっても外伝より後が見つからん…
225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 16:25:01.19 ID:LRi8jbso
>>224
ダンテ「学園都市か」 上条覚醒編  と、編名とセットで検索していただければ。
226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:26:23.82 ID:LRi8jbso

準備と休息編

―――

デュマーリ島。

この名は、新大陸の外れにあるとある二つ島の事を指す。

南北20km東西15kmの北島『デュマーリ=セプテントリオ』。

その南東、幅4kmの海峡を挟んで寄り添っている南島『デュマーリ=メリディエス』。
南北40km、東西17km。


この南島が、近世になってデュマーリ島の名を世界に知らしめる引き金となった。

40年前、この二つの島の権利を手に入れたウロボロス社が、
南島の地下に莫大な規模のレアメタル鉱脈を発見。

今のような精密電子機器が一般に行き渡っていない当時から、
ウロボロス社は先を見てこの島の開発に専念する。


その結果、2000年以上もほとんど変化が無かったこの島の風景画一変する。

以前のデュマーリ島の面影を残すのは、
南島の南端にある寂れた廃村周辺のみ。


北島には高層ビルが連なる近代都市が広がり。
更にその下には、地上の規模を遥かに凌ぐ研究・開発の為の地下都市。

そして南島には、採掘施設と直結する形でその上に工場施設が立ち並ぶ。


島の人口は50万人。
その98%は北島に集中している。
ウロボロス社社員、技術者、工員、そしてその家族等だ。
227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:30:49.55 ID:LRi8jbso
ウロボロス社の本社は別にあるが、
この島が実質的な心臓部と言っても過言ではない。


世界的軍事大企業ウロボロス社。


その心臓部であるデュマーリ島の名が知れ渡るのも当然。

だが、この島の実像は全くといって言い程に知られていない。

学園都市にも引けを取らない、厳重な情報・渡航規制が敷かれているのだ。
いや、学園都市よりも厳重だ。


地理的観点から見ると、この島は隣接する某超大国の領土ではあるが、
ここも学園都市と同じく完全自治権を有する『独立国家』だ。

周囲の海域には重武装の警戒艇やヘリが行きかい、
海底には最新の聴音・ソナー網が隙間無く張り巡らされ、
島の周囲にはあらゆるセンサーが取り付けられている物々しい堤防が連なっている。

防空網も強固であり、最新のレーダーや衛星とリンクした監視網、
高出力マイクロ波攻撃を行える無人機から、様々な迎撃用レーザー兵器等々、
正に難攻不落の要塞島である。


この内側で、ウロボロス社は人知れず様々な研究開発を行っているのである。
それも最先端技術を出し渋る学園都市とは違い、実際に大量生産し輸出される為のモノを だ。


『技術のデモンストレーション』ではなく、実際に戦場で使われる為の兵器を だ。
228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:32:48.18 ID:LRi8jbso

これ程の厳重さ。
一見すると度を越していると感じるかもしれない。

だが決して過剰ではない。

実際にこの島を標的にしたテロが後を絶たないのだ。

以前には、小型の核兵器が持ちこまれそうになった事件なんかもある。
当然全て未然に防がれたのだが。


こういう背景もあり、『まああの島ならばそれも仕方無いだろう』 というのが世間の認識である。

危険な火種となりうる施設を一箇所に集める事が、
テロに巻き込まれる一般被害を未然に防ぐ形にもなっている、と一部からは賞賛もされている。


禍の種である闇を一箇所に集めている と。


だが外の人々はデュマーリ島の真の姿を知らない。
いや、この島に住んでいる者達のほとんども知らない。


この島の深淵にある『本物の闇』の事は。
229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:35:37.46 ID:LRi8jbso

ウロボロス社、その創始者でありCEOであるアリウスがなぜこの島に目をつけたのか。
それはレアメタルの大鉱脈なんかでは無い。

そんな『小さなモノ』の為ではない。


ここに彼が真に求めるモノの『手がかり』があったからだ。


魔界魔術を極め、そして強大な力に魅了されたアリウスが望むモノへの。



デュマーリ島。

そこはスパーダと覇王の最後の戦いの場。

この地で覇王は敗れ、そして『虚無の底』に封印された。



その際に作られたのが『アルカナ』と呼ばれる『鍵』であり、
長きに渡って南島の地下深くに隠されていた。

つまり、このレアメタルの鉱脈そのものが隠れ蓑でもあったのだ。


この『鍵』を掘り出す為の。
230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:38:00.07 ID:LRi8jbso

開発が進む中、アリウスは裏でアルカナの発掘作業を進めた。

それと同時にデュマーリ島の闇の底では、様々な悪魔関連の実験が繰り返される事になる。
実験体となる悪魔はもちろん、島内には『人間』も腐る程いる。

それらを使った、非人道的実験も数え切れないほど行われてきた。
住民の失踪に関しては、洗脳魔術でもかけておけば何も問題は無い。

つまり背景や取り扱っている力は違うものの、
裏でやっている事は学園都市もウロボロス社も似ているのだ。

それどころか学園都市における御坂のような、闇に抵抗する者すら出てこない以上、
ウロボロス社の方がかなり徹底していたと言えるだろう。


これはトップの性格の違いでもあるだろうが。

一方のアレイスターは『偶然』を誘発させ、それらの因子を利用してプランを急速に進めていく。
強い刺激を与えて育てていくといった、ギャンブル性の強いやり方だ。


かたやもう一方のアリウスは当初の計画通り慎重に、
段階を確実に踏んでいきながら手堅く進んでいくやり方だ。

だが、慎重だからといって臆病という訳では無い。

計画通りに少しずつ進めるのだが、その計画内容は大胆極まりないのだ。
231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:39:30.13 ID:LRi8jbso
そんな『計画通り』を第一にしているアリウス。
彼は今、その貫いてきた理念を曲げざるを得ないのを感じていた。


北島『デュマーリ=セプテントリオ』を覆う大都市。
その中でも一際高く聳え立っている、地上580mにも達するビル。

そこの最上階のホールにアリウスはいた。

上質な椅子に深く腰かけ、葉巻を燻らせ、左手には水晶型の通信霊装を持ちながら。
彼の横には奇妙な古めかしい杖が宙に浮いていた。

『アルカナ』だ。


アリウス「…………」

覇王の封印を解く為の『鍵』は全て揃った。

あとは自分と融合できるよう少し調整するだけであり、
アリウスの『方』では三日もあれば準備が整う。


アリウスの『方』は だ。

今の問題は別の『方』。
彼を不機嫌にさせているのもそれだ。


フィアンマの『方』だ。
232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:40:23.65 ID:LRi8jbso

アリウス「…………ふん…………それでだ…………」


アリウスは苛立ちを隠さぬままを開く。


アリウス「―――随分と無様な結果だな。小僧」


通信霊装の向こうの―――。






フィアンマ『―――そう言わないでくれ』





―――学園都市にいる共謀者に対し。





フィアンマ『俺様とて好き好んで「ここ」にいる訳じゃあない』
233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:44:40.11 ID:LRi8jbso

アリウス「ハッ。そのザマになったのも自惚れるからだ」

フィアンマ『それは否定しないが、お前もわかるだろう?不測な事態が立て続けに起こったんだ』

アリウス「それは単にお前の判断ミスが積み重なっただけだ。己の経験不足を呪うんだな」

アリウス「悪魔と戦うのは初めてだったのだろう?言った筈だ」


アリウス「お前のそのチャチな『幸運』とやらは『魔』に通じんとな」


フィアンマ『はは、随分と言ってくれるな……』

アリウス「……それで用件は?」


フィアンマ『……俺様はこの通り、「肉体が無い」んでな。お前に天界の口も開けてもらいたい』


アリウス「……それはお前に言われなくともやる」

アリウス「『戦争』は必要だからな」


フィアンマ『天界の「鍵」は一週間もあれば複製できるだろう?どうせお前の事だ。影で情報を抜いていただろう?』


アリウス「お前があえて俺に流したのだろう?気付かないとでも思ったか」


フィアンマ『ははは、そうだろうな』


アリウス「生意気な口を叩くな小僧。俺はここでお前を切っても良いのだぞ?」


フィアンマ「……だろうな。だが俺様を切ったら『創造』は手に入らない。違うか?」


フィアンマ「『創造』の力が無いと『完全体』にはなれんと思うが?」
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:46:30.66 ID:LRi8jbso
アリウス「…………」

ピクリと眉を動かすアリウス。

そう、『創造』が無いとアリウスが望む『全能』にはなれない。

覇王と、封印の底にあるスパーダの力。
それだけでもかなりの存在にはなれる。

だが、それだけじゃあダメだ。


覇王とスパーダ。

その強大な礎の上で創造の力を行使し、そして己を新たな唯一無比の存在へと創り変える。
スパーダの一族やジュベレウスすら敵ではない、想像を絶する力を持った『人間』へと。


『人間』として、だ。


勘違いされがちだが、彼は強大な力に魅了されているだけであり、
決して『悪魔になろう』としている訳では無い。

逆に人間としての誇りを持っている。
それは一般からすればかなり歪んでいるようにも見えるが。

いや、その誇りが強すぎるのだ。

アレイスターにかつて放った、『最期に勝つのは人間だ』という言葉は嘘ではない。
悪魔も天使も何もかもを越えた、頂点に君臨する『全能の人間』となるのが彼の野望だ。


そして『創造』が無いとその境地にはたどり着けない。


覇王とスパーダを手に入れただけでは、
悪魔に転生したままで終わる。


これでは意味がないのだ。
235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:49:50.34 ID:LRi8jbso
魔帝の死で一時は諦めかけた夢。

アリウス「……」

これも人間の性か、彼は二度目の諦めはどうしてもできなかった。
この恵みともいえるチャンスを逃す『勇気』は無かった。


その『高み』を見定めてしまった以上、今更妥協などできない。

もう覇王とスパーダだけでは納得できない。


アリウス「……いいだろう」


フィアンマ『はは、良かったよ。さすがに拒否されたら俺様もどうしようもないからな』


アリウス「…………それでだ。当然、お前は『戻る方法』は既に見つけているんだろうな?」


フィアンマ『心配しなくても良い』


フィアンマ『俺様はただ時期を待つだけで良い』




フィアンマ『アレイスターが全てやってくれる―――』




フィアンマ『―――何も知らずにあの男は俺を「復活」させてしまうのさ』
236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:54:05.85 ID:LRi8jbso
フィアンマ『器に使うであろう能力者のガキもな、ちょうど俺様の目の前で進化した』

フィアンマ『殺さなくてよかったよ全く』


フィアンマ『アレイスター風に言えば「ホルス」の世代の「種」か』


アリウス「そのガキは『界』を超えたのか?」


フィアンマ『腕だけな。まあ、一旦変化が始まったらすぐだ』


フィアンマ『で、俺様の「復活」もすぐ、と』


アリウス「ふん」


フィアンマ『この点ではアレイスターに感謝すべきだな』

フィアンマ『「手」の「結合」の手間も大きく省けるしな』


アリウス「それにしてもだ。お前は良くそんな所に潜り込んだな。中々やるな。まるでゴキブリだ」


フィアンマ『……賞賛の意もあるのだろうが、全く嬉しくないなその言葉は』


フィアンマ『まあ、アレイスターがこの「手」の事を詳しく知らなかったのも幸いだ』

フィアンマ『右方の前任者がこの「力」を使わなかった事にも感謝しなければな』
237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:56:11.08 ID:LRi8jbso
アリウス「お前もその力を使うのは初めてだったのだろう?」

フィアンマ『そうだ。一か八かで使ってしまったよ。恐らく本当に使った右方は俺様が初だろうな』

アリウス「それにしても厄介な技だ」


フィアンマ『だがまあ、今の学園都市でなくては意味を成さないからな。この状況があってこその結果だ』


アリウス「ハッ」


フィアンマ『そうだ。そいういえばな、面白い話を聞いた』

アリウス「なんだ?」


フィアンマ『アレイスター、どうやらお前が天界の口を開けるのを察知しててな』

フィアンマ『お前のところに能力者の部隊を送る気だ』


アリウス「ほぉ……」
238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 17:00:37.55 ID:LRi8jbso
フィアンマ『油断はしない方がいい。お前にとってはゴミ同然だろうが、一人注意するべき人物がいる』

フィアンマ『覚醒してるアラストルを所持した女だ。バージルともある程度やり合ったようだ』

フィアンマ『そこにフォルトゥナ騎士団やスパーダの孫の行動が重なれば、色々と面倒な事になるだろうな』

フィアンマ『ダンテもどう動くかはわからん』

フィアンマ『しっかり頼むよ?お前が潰されたら俺様も終わりだからな』


アリウス「ふん……」


フィアンマ『それと「エサ」がこっちにいるのだが。マーキングは完了してるのか?』

アリウス「まあな。ちょっとした『オマケ』も一緒だ。アレでスパーダの孫は一週間は俺に手を出せんだろうよ」

フィアンマ『はは、「あれ」か……お前も随分とセコイ手を使うな』


アリウス「貴様に言われたくは無いな」


フィアンマ『ま、お互い様だ。人間らしく存分に足掻こうじゃないか』


アリウス「ハッ…………それでだ……『連中』はどうなんだ?」



フィアンマ『…………バージルと魔女……か』
239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 17:03:31.99 ID:LRi8jbso

アリウス「なぜバージルがそこにいた?奴は何を企んでいる?」


フィアンマ『知っていたらこんな苦労はしない』


アリウス「……」


フィアンマ『今更情報収集に専念する事はできない』

フィアンマ『あんな連中の事を懸念していたら一歩も進めなくなるだろう?』

フィアンマ『とにかく、今は出来るだけ事を速く進めるべきだ』


フィアンマ『幕は上がったのだからな。歩みを緩める訳にはいかない』


アリウス「……」


フィアンマ『お前はさっさと口を開けて、覇王とスパーダ、ついでにスパーダの孫の力も手に入れろ』

フィアンマ『そうすれば連中にも正面から対抗できる』


アリウス「黙れ小僧。貴様に指図されずともやるわ」


フィアンマ『はは、それはそれは頼もしい』


―――
240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 17:04:18.08 ID:LRi8jbso
今はここまでです。
次は今日の夜に。
241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 17:04:57.12 ID:uq3XYBEo
フィアンマとアリウス、仲良しだなww
242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 19:30:49.16 ID:rJzCAYAO
なんか、どんどんフラグが立ってんなぁ、この二人はww
243 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 19:44:51.05 ID:faknE56o
たまらんな。 乙!
244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 21:57:32.19 ID:t5P2JeIo

このままだと碌な死に方しないなこの二人ww
245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 22:09:40.60 ID:dFuQ/8oo
なんというか、シリアスだけど、コイツらが何かやってるとほのぼのとしてしまうなww
246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:24:53.20 ID:LRi8jbso
―――

とある病棟の一階。

複数の長椅子と薄型テレビが設置されている大きなフロア。
つけっ放しのテレビから響く、緊急放送の機械的な声。


その大きなフロアの片隅で、とある二人の少女が向かい合って硬直していた。
お互いの距離は5m。


一方は瞳を見開き、瞬きもせずに無表情の赤毛の幼い少女。

警戒心の篭められた鋭い眼差しのルシア。
警察犬が吠えも唸りもせずに、耳を立ててジッと見据えているように。



もう一方はその強烈な目に囚われて、
金縛りにあったかのように固まっている佐天。


佐天「………………ッ…………!!!」

全身から冷や汗を噴き出し、一歩も動けない。


どうしてこうなったのか。
247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:29:25.06 ID:LRi8jbso
自動販売機で苦戦しているルシアを助けようと、親切心から彼女に近付いていった佐天。
当然、ルシアは未確認人物の急な接近に反応する。

佐天が彼女まであと5mというところまで来た時。

ルシアは突如振り返り、佐天をその強烈な視線で押し留めたのだ。

まだ人間との交流経験が少ないルシアは、
佐天は何が目的で近付いてきたのかがよくわからないのだ。


そこに警戒心が生まれるのもまた当然。

確かに相手はどっからどう見ても、『匂い』もただの人間であり、
ルシアやトリッシュといるキリエにどうこうできるとは思えない。

だがルシアは決して油断はしない。


一方の佐天は。


佐天「……………………(ちょ、ちょっと…………これ……)」


久しぶりのこの『悪寒』。
デパートでの悪夢が脳裏を過ぎる。

この体の芯が急激に凍り付いていくような、
それでいてジリジリと焼き焦がされていく感覚。

佐天はその前回の経験から本能的に感じ取る。

この子は人間じゃない、と。
248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:31:09.24 ID:LRi8jbso
と、感じてはいたが。

佐天の心はあまり焦燥してはいなかった。

佐天「…………」

というのも何となくだが、あの瞳がネロに似ているような気がしたのだ。
全体の雰囲気もだ。

というか服装の系統もどことなく似ているような。

かなり一方的なのだが、佐天はこの目の前の赤毛の少女に対し、
勝手に親近感を持ってしまっていたのだ。

そして幸いな事に。


ルシアの側でも、似たような事が起きていた。


ルシア「……」

彼女はふと佐天の髪飾りに気付いた。
極僅かにだが、ネロの匂いがする髪飾りに。

そしてこう判断していく。

『この女はネロと何らかの面識があるかもしれない』

『人間の子供であるから、敵対関係とは考えにくい』

『こちらを欺こうと、何らかの術式で姿を変えている痕跡もない』、と。
249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:32:55.72 ID:LRi8jbso

警戒心を解いていったルシアの眼差しから威圧が消えていく。

と同時に、今度は佐天の事など一切気にする風なく、
ルシアは再び自販機の方へと目を戻した。

そしてまた同じく、自動販売機を軽く叩いては首を傾げて、と。


佐天「………………………………え、えーっと…………」


強烈な威圧から解放された佐天がようやく口を開き、そして一歩前に進む。

と同時にルシアはまたまた佐天のほうへと振り向く。
今度は威圧的な無表情ではなく、どことなくキョトンとした顔で。
何か用ですか?とでも言いたげにだ。


佐天「……ハ、ハロー……アーっと…………ジャパニーズ……アンダスタンド?」



ルシア「あ……に、日本語わかります」


佐天のたどたどしい英語に対し、
少し戸惑いつつも流暢な日本語で言葉を返すルシア。
250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:36:16.27 ID:LRi8jbso

佐天「あ、そ、そう!!えーっと…………飲み物買いたいのかな?」

お互いの距離は開いたままで、少しよそよそしい会話が続く。


ルシア「……はい」


佐天「…………買い方、わからないのかな?」


ルシア「はい」


佐天「じゃあ……お姉さんが教えてあげよっか?」


ルシア「…………………………………………」

その佐天の言葉を聞き、自販機と佐天の顔を交互に見るルシア。

そして視線を4往復させた後。


ルシア「……お願いします」

ペコリと頭を下げるルシア。


佐天「よっしきたぁ!!!!!!」

佐天はあっけらかんとした笑みを浮かべ駆け寄り、
ようやくその中途半端だった距離を詰めた。
251 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:38:10.06 ID:LRi8jbso

佐天「じゃぁ……それ貸して!」

佐天に促され、ルシアは右手に持っていた硬貨を佐天に手渡し。

佐天「一番最初にね、お金はここに入れるの」

佐天はその硬貨を専用の口へと入れた。

次の瞬間自販機のボタンのランプが付き、
それを見たルシアは驚いたのか、僅かに体を小さく揺らした。

佐天「よしっと、これで欲しいとこのボタンを押せば買えるよ」

少し誇らしげに笑いながら、傍らの赤毛の少女の顔を見る佐天。


ルシア「……水は……どれですか?」

佐天「えっと水?水ならここはタダで貰えると思うけど……」


ルシア「…………ではワインはありますか?」


佐天「ワ……さ、さすがにそれは無いなあ」


ルシア「……では……お茶はありますか?」
252 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:43:11.91 ID:LRi8jbso

佐天「お茶……」

自販機に目を戻す佐天。

お茶、と言っても色々な種類がある。

パパイヤ風味、焼肉風味等々。

学園都市住みの佐天にとっては普通なのだが、
学園都市の外ではこれらがかなりのキワモノとして扱われてる位は知っている。


佐天「(……無難なのでいった方がイイよねやっぱり)」

ここは普通のを選んだ方が良いのは当然。


佐天「OKOK、お茶ね♪」


普通の冷たい緑茶のボタンを押す佐天。


ガタンと取り出し口にペットボトルが落ちる音。
そこでまたルシアはビクッと体を小さく揺らし怪訝な表情を浮かべた。
253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:45:32.74 ID:LRi8jbso

そんな彼女が見守る中、佐天はペットボトルを取り出し。

佐天「はいどうぞ♪」

にっこり微笑みながらルシアに手渡した。


ルシア「…………?????????」

ルシアはそのペットボトルを両手で恐る恐る受け取ると、
角度を変えながらまじまじと観察し始めた。

『お茶』と言えば、『カップに入ってる暖かい紅茶』というのがルシアの中での小さな常識。

だが今手の中にあるのは、母マティエがいつも作ってくれた『お茶』とは似ても似つかない。

『妙な容器に入っている冷たい液体』だ。
どこからどうやって飲むのかもわからない。

香りもしてこない。

というかこの容器のままで出てくるとは思ってもいなかったのだ。

あのディスプレイのところに置いてあるのはタンクか何かで、
そこからカップに注がれるとルシアは思っていたのだ。
254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:49:31.53 ID:LRi8jbso
佐天「……(ペットボトルも……知らないのかな?)」

そのルシアの仕草を見て、佐天も何となく彼女の困惑に気付いた。
さながら、時代を飛び越えてきた100年前の女の子、といった感じだろうか。

佐天「っとね、そこの先っちょの部分をこう、クイッと軽く回せば蓋が開くよ」

ジェスチャーを交えて、ルシアに優しく促す佐天。

ルシア「?」

佐天の仕草を真似て、ペットボトルの蓋の部分を握るルシア。

佐天「クイッと、ほら、こうクイッと」

ルシア「…………くいっ……と?」

メキンと『バリ』が裂ける音がし、蓋が一回転。
そこでまたルシアが驚き手を止める。

容器を壊してしまったとでも思ったのだろう。

佐天「ううん、そのままでいいんだよ。そのままクルクルッてまわして」

ルシア「…………?」

佐天に促されるまま、恐る恐る蓋を回し。

佐天「ほ〜ら!そこから飲めるよ!」


ルシア「!!」

ようやくルシアはお茶にありつく事ができた。
『冷たい奇妙なお茶』だが。
255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:51:20.80 ID:LRi8jbso
ペットボトルを両手で握り締めたたまま、
その場で口をつけゆっくりと一口飲むルシア。

佐天「……どう?おいしい?」

その佐天の言葉に、ルシアは嬉しそうに微笑み返し小さく頷いた。

佐天「よしよし!よくできました!!」



ルシアの笑みは、ただ飲み物を手に入れたという事だけに対してでは無い。

本当の意味で『生』を知って未だ数週間。
こうした小さくささやかな出来事も、ルシアにとっては大きな大きな宝物なのだ。

人間との関わりが何よりも嬉しい。
人間の優しさと温もりが何よりも彼女の心を充実させていく。


この世界と人類へ向けた少女の淡い『初恋』。


人造悪魔という忌まわしき存在である以上、どんなに近付いてもその恋は決して実らないだろう。
少なくとも彼女自身は幼いながらもそう思っている。


だが彼女は幸せだった。


こういう、小さな小さな人間世界との繋がり。
それが何よりもルシアにとってはかけがえの無いものだった。
256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:53:34.69 ID:LRi8jbso

佐天「♪」

この出来事がルシアにとってどれ程のモノかは露とも知らずに、
佐天は赤毛の少女を穏やかな目で眺めていた。


とその時。


ルシア「―――」

突如目を見開き、ピタリと硬直するルシア。


佐天「?」


ルシア「(帰ってきた!)」

ダンテが帰ってきたのを感じたのだ。


ルシア「あ、あの!!!ありがとう御座いました!!!」

今度はハッとしたかのように、慌てて佐天に頭を下げるルシア。


佐天「え?あ、いーってことよ!!あははははあは!!!」
257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:54:45.17 ID:LRi8jbso
ルシア「で、では……あ、あの失礼します!」

再度ぺこりと頭を下げ、ルシアは踵を返してパタパタとフロアの出口へと向かう。

佐天「―――あ、ちょ、ちょっと待って!!!!!」

とその時、佐天はそんなルシアの小さな背中に慌てて声を飛ばした。

ルシア「はい!?」

落ち着き無く、これまた慌てて振り返るルシア。


佐天「名前教えて!!私は佐天涙子!!!」


ルシア「え……あ!!る、ルシアです!!」


佐天「この病院にしばらくいるの?!」


ルシア「は、はい!!!」


佐天「じゃあ……ね、ねえ!また今度話さない!!!!??」


ルシア「…………は、はい!!お願いします!!」


三度ルシアは頭を下げると、パタパタと廊下の方へと消えていった。

佐天「……ルシアちゃんかぁ……」

その少女の背中が見えなくなって尚、
佐天は廊下の方を見つめていた。

穏やかな笑みを浮かべながら。

―――
258 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 23:55:23.69 ID:LRi8jbso
今日派ここまでです。
次は火曜か水曜の夜に。
259 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/23(月) 00:04:39.39 ID:BekxQPQo
乙 ルシアかわいいよww
260 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/23(月) 00:26:56.19 ID:BJ.LCTg0
(*´ω`)乙です♪休戦モードの和み話ええですなぁ
261 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/23(月) 00:31:10.76 ID:5OAcLXo0
このSS読むとかまちがいかにキャラ掘り下げてないかがよくわかるな
262 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/23(月) 02:10:49.88 ID:If.GRa20
ルシアがかわいすぎるwwwwww
なごむな〜乙でした!
263 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/23(月) 08:37:38.05 ID:JiTGrcDO
>>261
そういう発言は荒れるからやめろ
264 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/23(月) 14:50:12.40 ID:R.osz0Qo
>>261
この二次創作関係なくみんな思ってるだろ
265 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/24(火) 00:18:29.92 ID:QS9oBWMo
悲しくなるからかまちーのことはそっとしといてくれ…
266 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/24(火) 02:10:34.76 ID:BlK/4Hw0
茶店さんとロリルシアかわええなぁ・・・
267 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/24(火) 16:02:20.55 ID:yYi3t2AO
しかし、四元徳さんは出番が来ないな




いや、出て来た瞬間「かーまぼーこー!」される運命ですけど
268 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/24(火) 17:10:26.86 ID:C1cI6YAO
続編あったとかwwwwしかも長い上
悪魔と天使側のインフレすげーな 俺のダンテはこんなに強くねーよ
269 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/24(火) 18:10:12.01 ID:U88yqgDO
大抵の人のダンテはこんなに強くないけどな。
設定上の強さを再現できるのは、TASさんぐらいだろ
270 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/24(火) 18:19:59.34 ID:6VhDxNEo
>>267
そしてワンちゃんにションベンかけられて魔界送りだな
271 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/24(火) 19:22:28.75 ID:VDxSOwDO
四元徳「もしかしてオラオラですかーッ!?」
ベヨ「YES!YES!YES!」
272 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/24(火) 19:23:52.74 ID:DnXnid2o
>>271
トス!トス! アタ−−−−−−−−ック!!
273 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/24(火) 21:01:53.52 ID:VDxSOwDO
>>272
スカッ

テンッ、テンッ……
274 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/24(火) 21:06:23.78 ID:DnXnid2o
>>273

 かえる
 もういっかい挑戦
ニアオラオラ
275 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/24(火) 23:55:11.54 ID:hmyUMVAo
―――

とある病棟の廊下の突き当たりにある、小さな談話フロア。
そこのソファーに患者衣を纏った麦野はだらしなく座り、背もたれに頭を預けて天井をボンヤリと仰いでいた。

さすがにあのボロボロの、胸の下着が見えてしまう服を着ている訳にもいかず、
とりあえず病室にあった患者衣に着替えたのだ。

左肩から伸びるアームは今は消している為、患者衣の左手の部分は一応残っている。
僅かに漏れている閃光で肩口のあたりが少し焦げていたが。


麦野「……ふぅぅぅ……ぁぁ……」

チリチリっと小さな閃光を右目眼窩から漏らしながら、
麦野は気の抜けた息を吐く。


アラストル『何しているんだ?マスターに会いに来たんじゃないのか?』

そんな彼女に対し、右脇に立てかけられている銀色の大剣が声が飛んできた。
ややナルシストっぽい、妙なエコーのかかかった脳内に直接響いてくるような声色。


麦野「……うっせえ」


アラストル『全く。人間の思考回路は理解しかねるよ。先程の威勢はどこにいった?』


麦野「……つーかさ、アンタだってアイツの前じゃコロッて態度変わるじゃん。口調も声の高さも」


麦野「なんかこう、“Yes, My Master.” とかって妙にかしこまっちゃってよ」

英語の部分だけを、ダンテを前にしているアラストルに真似て低い声で言う麦野。


アラストル『当然だ。マスターの前だ。無礼は許される訳がないだろう?』
276 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/24(火) 23:58:40.21 ID:hmyUMVAo
麦野「……」

麦野はそういうのでは無く、裏表がある点に対して言及したつもりなのだが。

だがそんな事は別にどうでも良い。
この妙なガラクタの『性格』など別に興味無い。

聞きたい事は別にある。


麦野「つーか聞くけど、アンタ達って一体何?」

そう、麦野は未だに知らないのだ。
神と呼べる程の存在をダンテに預けられていながら、だ。


アラストル『悪魔だ』


麦野「…………それは何となく聞いてたけどさ、具体的にどんなのよ?」


アラストル『別世界の住人だ』

アラストル『この世界にお前ら人間が存在しているのと同じく、魔界には我々悪魔が存在している』


麦野「……っつーこと事は、アンタも私達と同じ『生き物』って事?」


アラストル『表現上は同じくそう呼べるな。ただ理も法則も全く異なっているが』
277 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:02:07.20 ID:rn7q9i.o

アラストル『そうだな……一番わかり安い違いはだ、この世界の生命は物質的な面で縛られている』

アラストル『だが魔界は違う。魔界の生命は「力」に縛られてる』

麦野「……はぁ?」

アラストル『お前らには肉体の物理的限界がある。例えば寿命とかな。「魂と器」が無傷でも、肉体の損壊で簡単に死ぬ』

麦野「…………はぁ」

アラストル『だが我々魔界の存在は違う。我々は力、魂、器が破壊されれば、肉体が無傷でも命を落とす』

アラストル『逆に言えば、「単なる」肉体の損壊では死なない。ダメージすら無い』


麦野「……つまり今アンタをへし折って砕いても死なないって事?」


アラストル『いや。俺を折れる程の攻撃ならば俺は死ぬかもしれん』


麦野「はぁぁぁ?」


アラストル『これはまた別の事でな。お前ら人間の肉体の強度は決まっているだろう?』

アラストル『お前のような能力者でも、肉体はただの生肉だ。どんなに鍛えようとこの世界の物理的限界は超えられないはずだ』
278 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:08:25.83 ID:rn7q9i.o

アラストル『だが我々にはその物理的限界が存在しない。有する力に比例して、肉体も強化する事ができる』

アラストル『いくら肉体の損壊が問題なくとも、いちいち手や足が千切れていたらまともに戦えないだろう?』


麦野「……そりゃあ……」


アラストル『だから悪魔は戦う時は常に肉体の強度を最高に保つ』

アラストル『例外はあるがな。マスターや兄上殿のような、』

アラストル『あまりにも超越している存在は、相手の力量や状況に合わせて強度を決めている』

アラストル『そもそもマスターは娯楽も兼ねているからな』

アラストル『二ヶ月半前や先程の兄上殿との時のような事態でも無い限り、最高強度にはそうそうしない』


麦野「…………その最高強度状態の肉体を壊せば……』

アラストル『そうだ。それは悪魔にとって死に直結する』

アラストル『ただ「力」で強化された肉体には、「力」で強化された攻撃を叩き込まねばほとんど効果は無い』

アラストル『どれだけ物理的破壊力が高くともな』


アラストル『特に我々のような高位の存在にはな』


アラストル『下等な者達ならば物理的破壊でもそれなりに通じるが、俺のような高位の存在には一切ダメージにならん』

麦野「じゃあ……例えば核兵器が使われてもアンタは無傷って事?」

アラストル『ふん。笑わせる。その程度の「単なる」花火など、例え一万発貰ってもサビにすらならないさ』

麦野「……それじゃあ逆に言えば、物理的破壊力が針で指す程度でも、その『力』が莫大だったら殺せるって事?」

アラストル『そうだ。まあ、大体は力に比例して物理的破壊力も増すがな』
279 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:12:03.23 ID:rn7q9i.o

麦野「…………へえ…………あ〜……」


アラストル『難しく考えるな。存在する界が違う。根本的に格が違うんだ』

アラストル『紙の上の二次元世界で何をされようと、三次元の書き手と筆には何も影響は無いだろう?』


麦野「……………………まあ……」


アラストル『それと似たような概念だと思えば良い』

麦野「(何言ってんだよコレ。ますますわかんねーよ)」


アラストル『とりあえずそこは深く考えない方が良い。別次元・別の界の事をこの程度で、お前らの思念で理解できる訳も無いからな』

アラストル『そもそも、お前は頭で理解する必要は無いだろう?実際に俺と同化したのだ。本能的に感じることができるはずだが』


麦野「…………さっきの?」


アラストル『そうだ。兄上殿との戦いの際だ。あの時お前は俺と同化して、お前の「理」は魔界のモノとなった』

アラストル『その上での俺の力による強化が無ければ、兄上殿の刃の直撃を受けずとも「圧」だけでお前の肉体が消失していただろうな』


麦野「…………ちょっと待て。確か、前にアクセラレータもバージルと戦ったらしいけど、その時アイツも悪魔の力を使ってたって事?」


アラストル『…………あの白髪の小僧か?俺はその時の戦いを見ていないから確かな事は言えんが……』



アラストル『あの小僧は恐らく、「自分の力」で肉体の強度を上げているぞ』
280 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:16:44.15 ID:rn7q9i.o
麦野「はぁ……??じゃあ何??能力者でもできんのその『強化』って??」

アラストル『能力もどうやら「力」の一種だからな。可能と言えば可能だろうな。ただお前は無理だが』

麦野「何??どういう事??」


アラストル『少し見た程度だから断言はできんが、あの小僧は界を越えかけている』

アラストル『「既存」の人間界の理から外れかかっている』

アラストル『それで可能なのだろう。本人は気付いていないかもしれんが、生存本能で無意識下の内に強化されることもある』


麦野「…………」


アラストル『それにだ、あの小僧は自分自身の「力」を使ってるようだ。二ヵ月半前の時点で既にそうだったらしい』

アラストル『俺の感覚だと、お前らも含め他の能力者の「力」は借り物に過ぎん』

アラストル『同じ能力者という枠内であるだろうが、あの小僧とお前らが使っている力は根本的に「格」が違う』

アラストル『あの小僧は特別だ』


麦野「……」

そう言われればそんな気もする。
あの一方通行の黒い腕。
かなり異質だ。

そもそも、普通に考えてあのバージルの刃を生身で受けて生きている訳が無いのだ。
実際に打ち据えた麦野だからわかる。

二ヵ月半前、一方通行はバージルによって瀕死の重傷を負ったと聞いたが、
あんな刃で切り裂かれて『その程度』で済むはずが無いのだ。

そう考えると、『一方通行が特別』というのも納得できる。
281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:19:31.03 ID:rn7q9i.o

麦野「じゃあさ、アクセラレータはアンタとかとも普通に戦える訳?」


アラストル『はは、それはまた話が別だ』

アラストル『あの小僧程度の者など、魔界には腐る程いる』

アラストル『俺のような列神・諸王の存在にはどう転んでも勝てんよ』

アラストル『良くて地方の田舎領主程度だろうな』


麦野「……は?そっちの魔界とやらにも『領主』とかってあんの?」


アラストル『こっちの言語だとこれが一番意味合いが近いと思うが』


アラストル『魔界のgakillahha語だとlaoatyighh、kajahgga語だとkjhggaeuueだな。kahagff語だと……』

次々と、様々な魔界の言語の該当する単語を口にしていくアラストル。


麦野「はぁ?」

だが当然、『界』が違う麦野には妙なノイズにしか聞こえない。
282 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:24:12.63 ID:rn7q9i.o

アラストル『―――jhslia、ytarwiil語だと(ry』


麦野「あー!!!わかったからもう良い!!!普通に話せ!!!」

麦野「で、こっちみたいにそういう、行政システムみたいのあんの?」

アラストル『……行政、ではないな。その地域地域、「界」でトップの奴の事を指す』


アラストル『魔界は「力」の強弱が全てだ。単純に強い者が上に立ち生き永らえる権利を持ち、弱い者は殺されるか奴隷となる』

アラストル『力を強くするには、戦い続けるか他者を喰らい続ける』

アラストル『そして強くなれば強くなるほど、別の強者が戦いを挑んでくる』

アラストル『殺さねば殺される。力の高みに昇る為に他者を殺し喰らい続け、強くなり続ける』

アラストル『敗者は死ぬか、取り込まれて勝者の力の一部となるか、それとも永遠の奴隷となるか、だ』


アラストル『これが魔界の一番のルールだ。お前ら人間界の者には忌まわしく聞こえるかもしれんが、』


アラストル『我々にとってこれが当たり前なのだ。これが魔界の理だ』


アラストル『お前らが当たり前のように呼吸するのと同じく、我々は戦い殺し合う』


アラストル『お前らが本能的に生の保全を図るように、我々は本能的に力を求める』



麦野「……随ッッッ分殺伐としてるわね………………ちょっと面白そうだけど。いいわねそういう力至上主義って」
283 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:35:17.59 ID:rn7q9i.o

アラストル『その戦いを這い上がり、億を越える悪魔を支配しその界を征服した者は「領主」と呼ばれる』

アラストル『この辺りから俗に言う「大悪魔」だな』


麦野「……………………億…………って……!!!」


アラストル『魔界は広いからな。人口も面積も人間界とは比べ物にならんぞ』

アラストル『魔界がこの世界の大洋規模とするなら、人間界の規模は浜の一粒の砂に過ぎん』

アラストル『領主の人数は大体5万だな。ただ広い分、名が知られていない者もいるだろうから、実数はこの1.5倍はあるかもしれん』


麦野「………………………………」


スケールの違いに最早言葉が出ない麦野。
あの一方通行と同等、もしくはそれ以上の奴が5万、場合によってはその1.5倍とかおかしい位にぶっ飛びすぎだろ、と。

先程の『面白そうね』という言葉を発した、自分の『世間知らず』っぷりがアホらしく感じる。


アラストル『そして50以上の領主を支配しうる力を有する者は、人間界の単語で現すと「王」や「神」と呼ばれる』

アラストル『俺やトリッシュがこの位置だ』


麦野「……………………じゃあ……アンタも『王』って事は国とか持ってんの?」

アラストル『これは行政的な意味ではなく「格」の表現だ。皆がみな国や領地を持っている訳では無いさ』

アラストル『悪魔にもそれぞれ個性がある。上の者ほど個性的になりがちだ。力が強くなれば強くなるほど自我の部分が大きくなるからな』

アラストル『国を持ち兵を率いる者もいれば、一人でより強い相手を求めて放浪する者もいる。俗世を捨てひっそりと暮らしている者、』

アラストル『より強い存在の下で、主の為に戦う道を選ぶ俺のような者も。様々さ』
284 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:37:23.56 ID:rn7q9i.o

麦野「へえ……つーかさ、アンタも結構スゴイのね」


アラストル『小娘、俺を誰だと思ってる。雷刃魔神「アラストル」だ』


アラストル『お前は今や、自らを遥かに超越した神を手にしているのだ。しっかりと自覚してくれ』


麦野「わかったって。喋る古臭い剣にしか見えないけど、アンタが凄いのはわかるって」

アラストル『ふん、俺の解放された真の姿を見たらそんな減らず口など叩けないさ」

麦野「じゃあ見せなよ。両手合わせて拝んでやるから」

アラストル『……それにはマスターの許可が必要でな…………で、俺は今謹慎中の身だ……』

麦野「なんでよ?」

アラストル『…………少し前に無断で外出してな…………いや、お前にこれを喋る筋合いなど無い』


麦野「あ、そう」


アラストル『それでだ、その「王」と「神」は俺が知る限りじゃ、今の人数は大体800前後だ』


麦野「……………………ちょ、ちょっと待て……アンタとかトリッシュみたいなのが800もいるの?」


アラストル『これでも「2000年前の対人間界戦時」以前に比べれば「三分の一」にまで減ったんだがな』


アラストル『それに俺やトリッシュのような、と言うのは少し間違ってる』

アラストル『同じ「王」や「神」の領域でも、上と下は天と地ほどの差がある』

アラストル『俺やトリッシュはこの位の中では「中の上」だ』

アラストル『俺達よりも強大な存在は200以上はいるだろうな』
285 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:41:14.35 ID:rn7q9i.o
麦野「…………なんつーか、もう呆れるしかないわね」

アラストル『お前らが先程話してた天界と比較するとだ』

アラストル『天界にいる、魔界の「領主」と同等の連中は多くても800、魔界の「神」や「王」に比する者は30程度だ』

アラストル『天界の現最高位の四元徳だが、魔界にはそいつらと同等の者が今も100以上はいる』

アラストル『中には遥かに凌ぐ者もな』


麦野「…………は…………ぁ…………」

いきなり言われても具体的にはわからないが、
とにかく魔界という世界のスケールの規格外さはわかる。

もしステイルや土御門が聞いていたらこう思うだろう。
『そりゃあ天界ですら恐れるわけだ』、と。

数も強さも桁違い。

この規格外の規模、そしてその熾烈な競争の中から頭角を現す規格外の『怪物』達。
魔界の『力のピラミッド』は、その裾野の幅に比例して頂点も凄まじい高さなのだ。

これが魔界の強大さの根源だ。


麦野「てかさ、天界と魔界って仲悪いんでしょ?良く言うわよね天使と悪魔は敵だって」


アラストル『まあな。一応今も戦争状態だ』


麦野「じゃあなんでとっとと潰さねーのよ?戦力の差は圧倒的なんでしょ?」

アラストル『今の魔界内ではな、諸王・諸神らが勢力争いしていてな、凄まじい内戦状態なんだ』

麦野「……………………へえ」


アラストル『「外」に構っている余裕など無い』

アラストル『天界のような小勢力の事など、今や誰の眼中にも無いのさ』
286 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:47:11.49 ID:rn7q9i.o

麦野「ところで…………アイツ……ダンテってどの位強いの?」

麦野「アンタ達よりも強いのはわかるけど、その魔界の基準とやらじゃどの辺よ?」


アラストル『最強だ』


麦野「…………!」


アラストル『頂点さ。マスターと兄上殿、一対一の決闘でこの二方に勝てる者は今の魔界にはいない』

アラストル『どの王も神も勝てん』


麦野「………………………………………!!!!!」


アラストル『単体で強いのなら「魔帝」がいたが、マスターと兄上殿、そして兄上殿の息子の三人に破れた』

アラストル『そもそも距離を詰めた接近戦に限定すれば、マスター達は一人でも魔帝を圧倒できるしな』


麦野「良くわかんないけど…………じゃあアイツらより強いのは今どこにもいないって事?』


アラストル『いや……魔帝よりも強いジュベレウスを屠った例の魔女ならば…………』

アラストル『…………いや待て。そもそも魔女は魔を召喚して力を借りている…………』


麦野「……………………は?」
287 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:50:36.06 ID:rn7q9i.o

アラストル『ジュベレウスの際は確か……「クイーン=シバ」を召喚したと聞いたが……』

アラストル『いや、そもそも「クイーン=シバ」は単一の悪魔ではなく「魔界そのもの」の「力場」の……』

アラストル『そうだな……アレは完全に反則だな……』


アラストル『アレがOKならばマスター達も……いや……それは無理か……?』


麦野「…………何ブツブツ一人で言ってんのよ?」


アラストル『いやすまん…………「単体」で強い者は俺の知る限り、存在しないな。「互角」はいくらかいるが』

アラストル『まあマスター達や例の魔女、魔帝やジュベレウスの領域になると、相性の問題がより強く絡むから一概には言えないな』

アラストル『魔帝のような、力の強弱が関係無い反則的な力を持っている場合もあるしな』

アラストル『そもそもどんな状況で戦うかでかなり変わる』


アラストル『俺が断言できるような事では無い』


麦野「…………ねえ、マテイとかジュベ何とかって誰よ。それに魔女って」
288 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:53:37.71 ID:rn7q9i.o

アラストル『魔帝はかつて魔界に君臨していた統一王だ』

麦野「統一?さっき魔界は内戦中って言わなかった?」


アラストル『そうだ。だが魔帝は2000年前に玉座から引き摺り下ろされ、そして二ヵ月半前にマスター達の手で滅んだ』

麦野「!!!」

アラストル『だから実質、マスター達が今の魔界の基準では最強なのさ』

アラストル『更に言うとな、魔界のルールからしたらマスター達が魔界の頂点の座に付くべきなのだがな、』

アラストル『あの通り本人達はその玉座には一切興味が無い』


アラストル『だから今、その空座を巡って内戦が激化しているのさ』


麦野「そう……で、ジュベ何とかって?」

アラストル『主神ジュベレウス』


アラストル『約1500万年前、魔帝・覇王そしてスパーダの三人によって敗れた、全ての世界を統べていた最上主神だ』

アラストル『そのスパーダがマスターと兄上殿の父君だ』


麦野「父…………はおうってのは?」


アラストル『当時の魔界の三番手だ』

麦野「……じゃあ、アイツらのおやっさんは?」
289 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:55:55.80 ID:rn7q9i.o

アラストル『スパーダの地位は二番手だったな。「単純」な力量は魔帝をも凌いでいたが』

麦野「じゃあ何で二番手なのよ?」

アラストル『父君は支配欲はなかったからな。それに魔帝の無二の友でもあった』

アラストル『そもそも、この二人が戦っても「完全」な決着はつかん』


麦野「何でよ?おやっさんの方が強かったんでしょ?」


アラストル『単純な戦闘能力はな。だが魔帝にはそれとは別に特殊な力があってな』

アラストル『覇王も同じく特殊な力を持っていてな』

麦野「?」

アラストル『まあ色々あるという事だ。先程言ったとおり、この領域は誰が誰よりも強いなどとそう断言できんのさ』

麦野「……あ、そう」

アラストル『それと、覇王についてはお前らにも関係あるぞ?』


麦野「何で?」
290 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:57:57.87 ID:rn7q9i.o

アラストル『お前らの標的のアリウスという男はな、この覇王を復活させようとしている』

麦野「っ……!!!」

アラストル『まあ、その方面ではマスター達が何らかの手を撃つと思うがな』

アラストル『一応言っておこう。もし鉢合わせたら逃げるぞ。俺でもどうしようもないからな』


麦野「……アンタより強いの?」


アラストル『当たり前だ。魔帝と父君がいなくなった後、あの魔界をたった二ヶ月で三分の二まで掌握した者だぞ?』

アラストル『俺があの「怪物」に敵う訳が無いだろうが』

アラストル『マスター達か、例の魔女じゃないと相手にできんよ』


麦野「………………その魔女って?」


アラストル『アンブラの魔女。一応人間なのだが、生まれながらにして「魔」でもある者達だ』

アラストル『お前ら普通の人間とは全く別の「界」にいる者だ』


麦野「…………?」
291 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:01:32.77 ID:rn7q9i.o

アラストル『この者達は、我等から言わせてもかなり異質でな』

アラストル『彼女達自身の力も強大だが、それ以上なのが「召喚技術」だ』

麦野「召喚?」

アラストル『原理は詳しくは知らんがな、それを極めた者は魔界の諸王・諸神と同化でき、その強大な力を自由に扱えるらしい』

アラストル『強者となれば、一人で何体もの王や神の力を使う事も可能だと』

麦野「……それってスッゴク強くなれるんじゃ……」

アラストル『そうなるな』


アラストル『中には「魔界そのもの」、我等が「クイーン=シバ」と呼んでいる存在の召喚に成功した者もいるらしい』

アラストル『その瞬間火力はマスター達をも上回るだろうな』

アラストル『ただ瞬間火力は、だ。どちらが強いかはまた別の話になる』

アラストル『そもそも「クイーン=シバ」の「性質上」、これをマスター達相手に使えるかどうかはわからんしな……』

麦野「…………はい?」


アラストル『いや……最後の部分は気にするな』

アラストル『でな、この魔女の生き残りがつい最近ジュベレウスに止めを刺した』

アラストル『「クイーン=シバ」を使ってな』


麦野「……へえ……なんつーか、色々と凄いわね色々と……」


麦野「頭がこんがらってきたけど」
292 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:04:59.26 ID:rn7q9i.o

アラストル『無理して覚えるな。人間の思考力など所詮高が知れている。雰囲気だけを掴め』


麦野「あ?私の事バカだっつってんの?」


アラストル『なに、そう悔しがる事ではないさ。人間と高位の悪魔じゃデキが違うからな』

麦野「……舐めてんじゃねーぞガラクタ。テメェで生ゴミ箱引っ掻き回すぞ」

麦野「ぐっちゃぐっちゃのゲチョゲチョになりてーの?」

麦野「それともお花付けたり模様書いたりして、カッッワイイデコレーションしてあっげようかにゃーん?」


アラストル『…………口を慎めよ小娘。俺を誰だと思ってる?』

麦野「テメェこそ。『今の主』は誰だと思ってんだよ」

麦野「私がアイツからお前を預かった。こっちはアイツのお墨付きなんだっつーの」

アラストル『…………』


麦野「じゃあじゃあそれを踏まえて聞きましょーねぇん。テメェの今の主は?」


アラストル『…………』


麦野「さっさと言えよコラ。落描きすっぞ」


アラストル『………………………………お前だ』


麦野「よろっっっすい」
293 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:08:23.40 ID:rn7q9i.o
とその時。

廊下の先からパタパタと走ってくる赤毛の少女の姿。
ルシアだ。

麦野「……」

ルシアはそのまま走ってきて、ソファーに座っている麦野の前で立ち止まった。

麦野「何?」

ルシア「あ、あの……暇潰してないで来いって……」

ルシア「ダンテさんとトリッシュさんが……」

麦野「!」

ダンテの名を聞き、ビクッと一瞬身を硬直させる麦野。


アラストル『ほら。さっさと行けよ。マスター代理』


麦野「……!」


アラストル『立てよ。行かないのか?マスター代理。ほれ。行くぞ?おら。何をして(ry』


麦野「う、うっせぇ!!!!!!!」


―――
294 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:12:21.53 ID:rn7q9i.o

―――


何も見えない。

感じるのはズキン、ズキンと鼓動のような『胸の鈍痛』だけ。

それ以外には何も感じない。

触覚も。
気配も。
温度も。
匂いも。

それでいながら意識だけは妙にはっきりとしている。

「………………」

その明瞭な意識の中にあるもの。


それは罪悪感。

それは嫌悪感。

形容しがたいほどに凄まじい後悔の念。

295 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:14:53.97 ID:rn7q9i.o

聖人。

天使。

その存在の真実が、守ろうとしていた者達をどれ程までに傷つけていたことか。
どれ程の人間の犠牲の上にあったのだろうか。

何も疑問を抱かずに使ってきたこの力。

その力は一体何人の人間の『命』だったのだろうか。

千か。万か。いや、高位の天使に匹敵する力を使った以上、『億』に届くかもしれない。


彼女は心優しい。
高潔でそして清い心の持ち主。

そんな彼女だからこそ、この真実には耐えがたかった。
とてつもない自責の念に押し潰されてしまった。

「…………あぁぁ…………」

彼女にとって、これが何よりも苦痛だった。


何よりも。


肉体の痛みよりも。
肉体の陵辱よりも。


素晴らしいほどに清い精神から来る、この自責の念が何よりも耐え難かった。


これが彼女に与えられた罰。

これが彼女に課された地獄。

彼女の『芯』を折り、叩き潰し続ける苦痛。
296 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:16:42.61 ID:rn7q9i.o

気が狂えばどんなに楽か。

精神が消失してしまったらどんなに楽か。

だが意識は以前明瞭としたまま。


「…………」


時を刻んでいるかのような胸の鈍痛。

それが否応無く彼女を向き合わせる。

己の存在の罪に。


目を背ける事ができない。


「…………」


『完全な死』という許しは与えられないのだろうか。


永遠の時をこのまま過すのだろうか。


―――と思ったのも束の間。
297 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:19:23.57 ID:rn7q9i.o
ふと気が付くと。

「………………………?」

彼女は古めかしい白亜の大きなホールの中央に立っていた。
つまり、視覚が戻っていたのだ。

自分の体をぼんやりと見る。

そして目に入る己の胸を貫いている『愛刀』。

「………………」

彼女はおぼろげに自分の身に起こったことを思い出した。

そう、己は敗北しこの愛刀で胸を貫かれたのだ。


そして彼女はゆっくりと顔を上げ、周囲へと目を向けた。

そこは球天井の、列柱に囲まれた円形のホール。

「…………」

その列柱のところに沿って、彼女を取り囲むように並んでいる奇妙な女性達。


人数は25人。


皆、彫像のように白い無表情で彼女を見つめていた。
いや、本当に彫像なのかもしれない と思える程に血の気の無い顔で。

異常な程に整った顔立ちや、非の打ち所の無いスタイルがその感をより一層際立たせていた。


袖口や裾は大きく開いているが、体の部分は肌に密着している豪華な衣服を纏っている。
全体の雰囲気は修道服に似ているだろうか、だがその荘厳な装飾はまるで王族や貴族のようだ。

彼女達は手に皆それぞれ違う武器を持っていた。
古代ローマのグラディウス風の剣、クレイモアのような長剣、クロスボウ、ハルバード、等その種類は様々。
中には日本刀らしき物を持っている者も。

どうやら時計回り順に、武器の類が近代的になっていっているようだった。

11時方向を越えた女性は、フリントロック式の拳銃を両手に一丁ずつ持っていた。
298 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:20:52.66 ID:rn7q9i.o
「…………」

そして彼女達の頭上には、赤い光の紋章と奇妙な文字が浮かび上がっていた。

その奇妙な文字。
見たことは無い。

だがなぜか一目で意味がわかった。

あれは『エノク語の数字』だと。

武器の系統が古い所から『1』、一番最後のフリントロック式の拳銃を持っている者の上の数字は『26』。


25人で『26』。


そう、一つ数字が欠けていた。

その数字は『10』。


「…………」


と、彼女がその点に気付いた時。



『さて、気分はいかがかな?』



突如背後から聞こえてきた、透き通りつつも湿っぽい妖艶な女性の声。
口調は威厳のあるモノだがその声色が妙に色っぽい。
299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:25:04.31 ID:rn7q9i.o
「!」

彼女が慌てて振り返ると。

3m程の所に一人の女がいつのまにか立っていた。

周囲に立っている女性等と同じく豪奢な衣服を身に纏ってはいたが、
それだけではなかった。

その上に羽織っている、カラスの羽のような飾りが付いた黒いマント。
そして顔の上半分を隠している、鳥の頭蓋骨のような不気味な仮面。

手には武器のような物は持っていなかったが、手首には大量の腕輪。


周囲の女性達とは何かが違う。

仮面の下から見える口も、周りの者とは違い薄い笑みを浮かべていた。

鳥の頭蓋骨状、その仮面の眼窩の向こうに見える瞳も生気が宿っていた。

少なくとも感情の色が見える。


『驚かしたか?まあまず自己紹介せねばな』

仮面の女が薄く笑いながら、呆然としている彼女に対し言葉を続ける。




『我は「第10代」アンブラが長―――』





『―――魔女王アイゼン』

300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:26:08.36 ID:rn7q9i.o

魔女王アイゼン。
そう、女は両手を広げ少し顎を上げて誇らしげに名乗った。


「…………魔女王…………?」

だが彼女は魔女の事など何も知らない。
名乗りから王族、長なのはわかるがそれ以上の事は何も。


そんな彼女の様子に気付いたアイゼン。

アイゼン『ほれ、「クイーン=シバ」の召喚式を完成させ、初めて召喚に成功した者と言えば……………………わからぬか』


「……?」


アイゼン『22の魔界の王・神にアンブラへの専属契約を結ばせ、下々の者でもウィケッドウィーブを扱えるようにした……』

「…………?…………いえ……」

アイゼン『これでもわからぬか。仕方無い。大ヒントだ。『長の証』の腕輪を作ったのが我だ』


「………………………?…………………あのう……」


アイゼン『…………』

「…………」



アイゼン『―――――――――貴様ァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!!!』



「ひっ…………!!!」
301 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 01:27:22.63 ID:BmdwGe.o
ねーちん空気嫁よ
302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:28:31.84 ID:rn7q9i.o

アイゼン『もしや魔女については何も知らぬ身で―――!!!』



アイゼン『―――ここに来たというのではあるまいなァッッッ??!!!ハァンン!!!!』


大きく身を捻らせ、腕を振るってその片方の指先で彼女を指すアイゼン。


アイゼン『アアァァァァァァァハァァァァァァァァァァアアアアアアアアアンンンッッッッッ!!!!!!!????』


そのオーバーな、かつしなやかな動き。
激しくもしっとりと捻られた腰。


「…………あ……!!!す、すみません!!!!!!すみません!!!!!!」


それに凄まじい既視感を感じながらも、
彼女は勢いに押されて平謝りしてしまった。

なんだがついさっき似たような挙動を見た気がするのだ。


この胸に愛刀が突きつけられる直前に、だ。


彼女がアンブラの魔女についてそれなりに知っていたらこう思っただろう。

この連中は、大昔からこういうノリが共通だったのだか と。
303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:30:41.35 ID:rn7q9i.o

アイゼン『ハッッッッ!!!!!!もしやのもしやだが……まさか……なぜこの今の状況なのかも理解しておらぬのか!?』


「はい…………すみません……」


アイゼン『………………全く。何も教えとらぬとは……「表」の者共は何を考えておるのだ』

アイゼン『スパーダの息子といい我が子孫らといい……最近の若い連中はどうにも真剣身が足らん』


「……………………わ、私は……」

真剣身が足らない。
そう言われて、礼を重んじる彼女は反射的に反応した。

名乗られたのならば名乗り返す。
それが礼儀だ。

礼が染み付いている彼女は咄嗟に名乗り返そうとしたが。



「―――…………ッ……」


なぜか己の名前が出ない。
己の名前がわからないのだ。

言葉が出せず、金魚のように口をパクパクさせる彼女。

アイゼン『あ〜名乗らなくとも良い。そもそも名乗ることが「できぬ」だろう?』

そんな彼女を見てクスリと口の端を上げる魔女王アイゼン。


アイゼン『そなたの名は今は「奪われておる」からな』


アイゼン『その胸の魔剣にな』
304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:32:46.92 ID:rn7q9i.o

アイゼン『それとこの者達はな、我も含めて―――』

仮面の女が腕を広げ、ぐるりと回転して周囲を見るように促しながら。

アイゼン『―――3万4千年のアンブラの歴史そのものだ』

そして告げる。

アイゼン『かつての長達だ』

彼女達はアンブラの歴代の長だと。

アイゼン『皆死んでいる。いわば亡霊だ。魔に完全転生した我を省いてな』

アイゼン『さて、改めて歓迎しよう』

そして再び彼女の方へと向き直り、手を一度叩き歓迎の言葉を述べた。


アイゼン『ようこそ。煉獄最下層、「アンブラ列長の墓場」へ』

アイゼン『ここでそなたを見定めよう。「表」に戻すか否か』


『天の者』に対する裁きの始まりと。


アイゼン『永遠の地獄へ幽閉するか否か、をな』



アイゼン『―――神裂火織よ』



神裂「―――」


彼女の名を。


―――
305 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 01:34:46.40 ID:rn7q9i.o
今日はここまでです。
次は木曜か金曜に。


ちなみに魔女王アイゼンさんは、名前だけベヨネッタに出てきます。
306 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 01:42:01.03 ID:bdNwLNMo
ああ、むぎのんがどんどん可愛くなっていくな・・・・そしてアラストルwwww
307 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/25(水) 02:15:35.44 ID:BO8bRRs0
乙ですよチクショウどんどん面白くなっていってるよ


(*´ω`)魔女王様素敵♪
308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 03:14:22.61 ID:jIDOQnI0
やっぱり歴代の魔女達も大体スタイリッシュ痴女アクションな人々なのか…
309 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 09:20:12.49 ID:5/jafwAO
アラストルさん饒舌だなビューティフルジョーの時のノリか
本編だと心臓を捧げよなんて悪魔ぽかったのにww
310 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 15:17:51.10 ID:IJxtI6DO
ねーちん魔女になったら今でさえ痴女なのに下手したらただの変態になりかねないよね
311 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 20:04:33.34 ID:zVzv2J.0
ビューティフルジョーのアニメ初めの方だけ見たが、
こんな強さのアラストルと戦えてるジョーすげえなww
ついさっきまでただの一般人だったのに
そしてアラストルが意外に紳士だったwwこれからナルシストっぽくなるのか
312 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 23:19:12.48 ID:prLm9.DO
まぁジョーはヒーロー補正とメタ的な力があるしな
313 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/26(木) 19:30:31.14 ID:YmKLNjI0
ねーちんが性格ノリノリに変わって復活しそうで怖いやら楽しみやらww
314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:08:21.75 ID:rHThjHko

―――

無能力者の元スキルアウト。
替えの利く駒として暗部に回された『タダ』のチンピラ。

ある時は撒き餌に。
ある時は切り捨てられ。
ある時は上位組織の雑用に。
ある時は幹部達のストレスのはけ口に殺され。
そしてある時は利用価値無しとされ処分される。

人権など笑止千万。
名すら呼ばれぬモブ。

泥にまみれ道端で無様にのたれ死に、墓も作られずに死体は焼却処分される。

学園都市の『闇の底』に積もっていく、小さな小さな塵の粒子の一つ。

『カス』が死のうと、姿を消そうと誰も気にも留めない。

誰の記憶にも残らない。
誰も彼らを探そうとしない。
誰も彼らの死を嘆き悲しまない。

そんな最底辺のゴミクズ。
部屋の隅に溜まるようなクズボコリ。


彼もまた、その中の塵の一つであったはずだった。


浜面仕上は。
315 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:12:18.14 ID:rHThjHko

この少年。

アレイスターのプラン上では、彼は暗部組織同士の抗争の中で
既に死んでいなければならなかった。

なのに生きている。
それどころかレベル5に打ち勝ってまでだ。

これはアレイスターにとって異常事態であった。


格の違う悪魔達や天使達、魔界や天界の力に強く影響されている一部の人間を省き、
全ての人類の行動とそこから来る結果をアレイスターは予測できる。

いや、厳密に言うと『予測』ではなく、『知っている』のだ。

とある力を使うことで、今のアレイスターは短時間ながらも人間達の『未来を見る』事ができる。

限界が無いとは言えないが、
それでも学園都市内の人間達の未来を把握するのは簡単だ。

学園都市内の人間達の未来は完全に把握していたのだ。


だからこそ。


だからこそ、浜面仕上の生存が異常事態だったのだ。
316 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:25:32.84 ID:rHThjHko

『知っている未来』から、ずれ始める分岐点となった二ヵ月半前の事態。

その『後』に起こった事ならばまだアレイスターは納得がいく。
そうならば説明はいくらでもできる。

事実、二ヵ月半前を発端とする悪魔達との関わりで、
浜面仕上のように『レール』から脱線しだした者が続出した。

だが浜面仕上は、悪魔達の介入以前に脱線したのだ。
それも前触れ無く突然。

理由を把握していれば、一方通行や上条のように『進路』を修正していく事もできる。

だが理由がわからなければ―――。


果たしてプランを根底から破壊するような『爆弾』なのか、
それとも僅かなズレから生じた、小さな小さなタダのバグなのか。
それすらも判断がつかない。

いや、現状では何も影響の無い小さなバグとは言い切れない。
第23学区の一連の騒動だって、それの大元の原因は浜面仕上だ。

一体因果はどこから繋がっているのか、この男が作り出した小さな渦が、
巡り巡ってアラストルが原子崩しの手に渡る要因にもなっている。

悪魔サイドの関わりが源となっている二ヵ月半前の件とは違う。
第23学区からの一連の件は、浜面仕上から始まっている。

彼は大きな流れに飲み込まれたのではなく、
逆に自ら一つの流れを作り出したのだ。

アレイスターの方が浜面仕上が作り出した渦に巻き込まれた、と言っても過言では無い。


これぞ正に『イレギュラー』。
317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:28:16.07 ID:rHThjHko

ある意味アレイスターは、浜面仕上という存在に恐怖したのだ。

この不穏な、ダンテ達とはまた別の意味で未知である存在に。


唯一の解決策は排除する事。

経緯は違えど、そしてタイミングは違えど、
アレイスターが見た未来と同じ『死』という結果を与えること。

だがイレギュラーはイレギュラー。

何を引き起こすか全くわからないこそイレギュラー。
何がどうなり、どんな事態になるかがわからないからこそイレギュラー。


結局、浜面仕上の殺害は失敗した。

それも最悪の形で。
浜面仕上の物語は、別の巨大な物語と合流してしまったのだ。

ダンテの物語に。

浜面仕上の協力者である、絹旗最愛に差し向けた部隊はダンテに一蹴され。
それを見てアリウスに協力を求めたがそれも失敗。

更にアリウスが召喚した悪魔達のせいで、麦野はダンテに救われ懐柔されて改心。


あげくに浜面仕上もダンテに救われた。


これでアレイスターは最早手が出せなくなってしまった。


『浜面仕上の命はダンテに救われた』


この正にイレギュラーすぎる結果のせいで。
318 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:31:47.12 ID:rHThjHko
ダンテが守った命である以上、そう易々と手を出すわけにもいかない。
今はアレイスターにとって非常にデリケートな時期。

ダンテを刺激してしまうような因子は、どれだけ小さくとも避けたかった。
その為、浜面仕上の殺害の件については完全に保留状態となったのだ。


そういう事もあり、
この数週間浜面達は束の間の平穏の中へ。




その浜面仕上は今、第五学区にあるとあるビルの階段を昇っていた。


浜面「……」

携帯でテレビ放送を見ながら。


浜面「…………」


案の定、放送では何が起きたかなどという詳細は全く伝えていない。

絹旗に『情報収集してきてください』言われ、
外に出て辺りを行きかう人々にも話を聞いたが、皆言っている事がバラバラだった。

タンクローリーが爆発しただのテロが起きただの、
高位の能力者同士の戦いだの、ローマ正教側が和平協定を破って攻撃してきただの。

どれもこれも確かな証拠無く、誰が見たという訳でも無く。
人伝いに回ってきた噂に尾ひれが付いたようなものだった。
319 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:36:17.10 ID:rHThjHko

このどれかに真実が紛れ込んでいる可能性もあるだろう。

だが浜面そうは思えなかった。
絹旗や滝壺もこれには同意していた。

少なくとも、この『程度』の騒動ではない と。

遂先程、突如感じた強烈な悪寒。
近くにいた絹旗や滝壺も感じた、あの意識がすり潰されてしまいそうな威圧感。

彼ら三人はこれには覚えがあった。

数週間前の、第23学区に纏わる一連の騒動で味わったのと同種の感覚だ。

絹旗曰く、『私はあの日、もっと強烈なのを味わって超トラウマですよ』、

滝壺曰く、『あの時とおなじ。信号が強すぎて何もみえなくなっちゃった』との事だ。


あの日味わった今まで経験したことの無い、
今までの暗部生活が生易しく感じてしまうような『本物の狂気と闇』。

それと今日のは同じだった。

あの日の後、レベル5第三位に紹介してもらったカエル顔の医者。
滝壺の容態を安定させてくれた、浜面にとっては救世主的な人物だ。
(実はこのビルのアジトも、彼が手配してくれた)

彼はこの異質すぎる『何か』について良く知っているらしかったが、
浜面達には何も教えてくれなかった。

『これ以上踏み込んじゃいけないよ。一度深く関ったら二度と戻れなくなるよ』と。
320 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:38:35.26 ID:rHThjHko

浜面「どおなってんだよ…………」


だが知るなと言われれば、より興味が沸いてしまうのも人間の性。
というか、ここまで派手にされれば注意を向けざるを得ない。

今回は第七学区の中央辺りが騒動の中心地らしかった。

その規模は凄まじく、10km以上は離れているここにも、
例の悪寒や大地震のような揺れが到達し、
遠くの雷鳴のような凄まじい爆音が大気を大きく震わせ。

ここからでもはっきりと見えた、空を照らす様々な異質な光達。


そしてその光の中に、ビルの七階の窓から浜面は見覚えのある閃光を目にした。


それは青白いビーム。


見えたのは一瞬。
だが決して見間違えることは無い。

浜面は瞬時に確信した。


あれは麦野の力だと。


この距離からもはっきり見えるくらい、その太さも長さも光の強さも、
今までとは比べ物にならないサイズだったが。

それも一本だけではなく数え切れないくらいに大量に。
321 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:40:51.18 ID:rHThjHko

浜面「……」

麦野沈利。
あの第23学区での再開のシーンが、浜面の中でフラッシュバックする。


『は〜まずらぁ』


地下駐機場の闇の中から、青白い閃光を迸らせながら現れた麦野。
残った左目を大きく見開き、口を大きく引き裂いて笑うあの姿。

浜面にとって、狂気・死そのものに見えたあの女。


彼女があの後、どうなったのかがかなり気になっていた。
死んだのか、それとも生きて再び己達の前に立ち塞がる時が来るのだろうか と。

だが先程見たとおり、麦野は生き延びていたらしかった。
それどころか、今まで見たこと無いくらいの強大な力を行使していたようだった。

これは黙ってはいられない。
あの女が生きているとなると、非常に危険だ。


浜面「……………………」


だがその一方で、浜面はなぜだか彼女が生きていた事に安堵をも感じていた。
なぜなのだろうか。

相手は自分達をただ殺すだけでなく、
最悪の苦痛を味合わせようとしていた天敵なはずなのに。

なぜ憎み切れないのか。
なぜ完全な敵意を向けられないのか。

浜面自身でさえ、なぜそう思うのかがわからなかった。
322 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:42:35.00 ID:rHThjHko

あの第23学区での彼女の雰囲気。

何となくだが、今思えばどことなく悲しげなオーラがあった。

自暴自棄のヤケクソになり、泣き喚きながらとにかく暴れているような。

こんな事を直で言ったら殺されるだろうが、
浜面は彼女に恐怖する一方でこういう妙な感情をも抱いていた。


一体なぜ麦野はああなってしまったのか。


どうしてこうなってしまったのか。


アイテムとして過した日々。
お互い達の間にはそれなりの距離があり、とてもじゃないが友情と呼べる暖かい繋がりはなかったものの、
それとはまた別の仲間意識、いわば『戦友』と言えるような、
殺伐としながらも決して弱くは無い繋がりを浜面はメンバー間に見ていた。

浜面は人の心理を読むのに長けている訳では無い。
むしろ鈍感かもしれない。

だがスキルアウト時代の経験から、そういう組織内での空気というのには敏感だ。

駒場達との繋がりも感じたし、
自分がリーダーとなった時に、他の仲間達が己をどんな目で見ているかもはっきりと感じていた。


メンバーが女性であるアイテムはそういう男社会とはま別だろうが、
浜面は何となくその空気も読んでいた。


滝壺、フレンダ、絹旗達の関係は当然、
口や態度では突き放すような麦野も、根にはその繋がりがあったのでは? と。

彼女もまた、あのファミレスでのくだらない時間潰しの日々が楽しかったのではないか? と。
323 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:45:12.38 ID:rHThjHko

浜面「(…………何考えてんだよ俺……)」

と、そこで浜面は溜息を混じらせて小さく頭を振った。

そう、今更麦野の事を考えたって無駄だ。
何かが変わる訳でもない。

例えそういう繋がりを麦野が持っていたとしても、フレンダを手にかけた時点で彼女は一線を越えた。
これもまた、こういう世界で生きてきた浜面だからこそわかる。

何かとんでもない事が無い限り、こういう人物はとことん暴虐に手を染め決して戻らない と。
己の立ち位置にさえ気付かずに、とことん底に堕ちていく と。


何かこう、規格外の『大きさ』の救いの手が無い限り決して這い上がれないと。



浜面「…………」

そもそも浜面は、こう麦野の事を気にかけている余裕すらないのだ。
彼は今、どうしても守らなければならない人物、滝壺理后がいる。


それだけで一杯一杯だ。


滝壺が全てなのだ。

絹旗と共に彼女を守る。


それが今の浜面の『全世界』だ。
324 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:47:00.43 ID:rHThjHko

そう、あれやこれや考えながら、
浜面は階段を上がりそして七階の廊下へと。


浜面「―――!!!!!!!!!!!!」


と、その廊下の先を見た時だった。

浜面の目に入る、黒服の屈強な男達。
その者達は滝壺と絹旗がいる部屋のドアの前に立っていた。


経験上、ああいう連中はほぼ100%上層部の手の者。


浜面「(―――クッソッッッッ!!!!!!!!!!!!)」


最悪の事態が浜面の脳裏に浮かぶ。
手に持っていた携帯を放り投げ、即座に腰に差し込まれている拳銃に手を伸ばし―――。


―――そうとした瞬間。


真後ろから別の男に一瞬で組み伏せられてしまった。
325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:49:47.15 ID:rHThjHko

数々の修羅場を越え、そして腕っ節にもそれなりの自信がある浜面だが所詮はチンピラ上がり。

一回りも二回りも体が大きい、正規の訓練を受けた屈強なプロには到底敵わない。
浜面は腕を捻り上げられ、足を掃われてあっさり床にうつ伏せに叩きつけられる。


浜面「―――がぁっっっ!!!!!!!」


「落ち着け」

黒服の男からの低い声。
だが熱くなった浜面は聞く耳を持たず、無駄にもがいては廊下の先を見据えて叫ぶ。


浜面「滝壺ぉぉぉぉぉぉッッッッ!!!!!!!!!!絹旗ぁぁぁぁああああ!!!!!!」


とその時。

廊下の先の扉が開き。


絹旗「超うるさいです。少しは空気を読んでください。相変わらず猿並に頭の中まで超筋肉状態ですね浜面は」

何事もなかったかのように姿を現した絹旗。

そしてその背後からヒョコッと顔だけを出す。


滝壺「はまづら、あわてないで。だいじょうぶ」


滝壺。
326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:52:19.39 ID:rHThjHko

浜面「―――な…………??」


二人の様子を見ると、拘束されたどころか特に何もされていないように見える。
てっきり襲撃されたと思っていた為に拍子抜け。

そんな呆然としている浜面を見て、
押さえつけていた黒服の男がゆっくりと彼を解放した。


浜面「何なんだよ……?何が……?」

強く捻られた腕を軽く摩りながら、眉を顰めて立ち上がる浜面。


絹旗「話は後です。とりあえず超早く入って(ry」


「いや、君達からゆっくり話してくれ」

とその時。

絹旗の後ろ、部屋から出てきたこれまた屈強な男。


「我々はこの辺でお暇させてもらうよ」

立ち振る舞いから、ここにいる黒服連中のトップに見える。
327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:54:04.19 ID:rHThjHko

絹旗「……」

滝壺「……」

それに対し何も言わずに鋭い視線を返す絹旗と、
相変わらずボーっとしている滝壺。

浜面「……?」

とりあえず『敵』というわけではなさそうだが、
滝壺はともかく絹旗の様子を見る限りでは友好的でもないらしい。

その頭であろう男はあからさまな作り笑いを浮かべながら、そのまま浜面の方へと廊下を進んできた。
それに他の男達も続く。

「忘れないでくれ。『彼』もだからな」

そして男は浜面とすれ違うかという時。
彼の肩へ軽く手を乗せ、絹旗の方へ半身振り返って。


「『三人』で来い。『全員』でだ」

「明日の午前11時だ。遅れるな」

それだけ言うと再び視線を前に戻し、浜面の肩から手を離すと階段の方へと消えていった。
他の男達もそれに続いていった。


浜面「…………おい……何なんだよ……?」

状況が掴めず、腑抜けた声色で口を開く浜面。


絹旗「…………仕事ですよ。『最後』の『引退試合』です」


浜面「し、仕事?……最後のって…………はぁ?」
328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:55:21.52 ID:rHThjHko

絹旗「…………ッッッだあ゛ぁ゛ー!!!超ヤバそうです!!!!これは超超ヤバそうな気がします!!!!」

絹旗「ぎーぃぃぃぃぃ超ォォァァァァアアア!!!!!!!」

そんな浜面の返しなど聞こえていないかのように、突如うなりイラつきながら声を張り上げる絹旗。
小さい両手で、これまた小さい自分の頭を掻き毟る。

滝壺「でも、しょうがないよ。こればっかりはやらなきゃ」

絹旗「確かに!!!確かに超そうですがッッッ!!!!!って何でそう超落ち着いてるんですか滝壺さんは!!!!!」

滝壺「だいじょうぶ。皆で力を合わせればきっとうまくいくよ」

絹旗「こういう『最後』の大仕事に限って超最悪な事になるんです!!!!」

絹旗「大体にして、私達みたいなはぐれ者まで召集する必要がある程なんて、超超超超ォ〜ヤッッバイ事に決まってます!!!」

絹旗「条件も条件で!!!!!どうせ超死ぬから大盤振る舞いしとけって感じじゃないですか!!!」

絹旗「死亡フラグが超ビンビンですよ!!!!!!万年発情期の浜面よりも超ギンギンにおッ勃ッてますよコレは!!!!!!」

滝壺「??……きぬはた、何言ってるかちょっとわからないよ?」

浜面「………………なあ……」

絹旗「浜面!!!!!!!!」

浜面「お、おう!?」

絹旗「いつまで超アホ面してんですか!?さっさと入ってください!!!!」

絹旗「滝壺さんも!!!!」


滝壺「きぬはた、おちついて。深呼吸(ry」


絹旗「だぁぁッッッッきぁああああああ!!!!!!!!!!!」


滝壺「う、うん。わかった」

―――
329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 01:00:22.99 ID:rHThjHko
―――

とある深い森の中にある洋館。


ベヨネッタ「―――Hahahahahahahahahahahahahahahahahahahaha!!!!!!!!!」


ソファーに寝そべり、テレビを見て馬鹿笑いを上げているベヨネッタ。

ベロンベロンに酔っ払い赤くなっている頬。
全身で爆笑して身をよじる為、着ていたTシャツが捲り上がり、
パンツとしなやかな腹部が露になり、乳房の下方が見え隠れしていた。

更に事あるごとに、手に持っているビール缶から中の液体が零れ落ちる。
周囲には山積みになった空のビール缶。


ジャンヌ「……………………」

ジャンヌはそんな相棒の有様を冷たい視線で眺めていた。
部屋の片隅にある椅子に軽く腰かけ、優雅に足を組みながら。


ベヨネッタが見ているもの。
それは映画のDVD。

どこから持ってきたのか、いつのまにかかなりの本数がこのアジトに集められていた。

テレビの下に散乱しているパッケージ。
そのタイトルは、『オー○ティン=パワーズ』だの『ほぼスリー○ンドレッド』だの『ホッ○ショット』だの。


ジャンヌ「………………………………………………………………」
330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 01:03:02.59 ID:rHThjHko

ベヨネッタ「んふ、んふふ、あははははははははははははははははは!!!!!!!」


ジャンヌ「…………」

確かに、アンブラの魔女は色々とトンでいる。
それは否定しない。


超近距離下での肉弾戦を好む、猛々しいアマゾネス的気質。
『魔女』という、色欲も重んじている淫魔的気質。
禁制などクソ喰らえとそれ以外の欲も否定しない、天界から言わせたら罰当たりな気質。

これらが組み合わさり、アンブラの魔女は一風変わった文化と気質を持つ集団となっている。

端から見ればハイテンションクレイジー集団に見えるだろう。


ベヨネッタ「ひっひ、へぁあははははははははははははは!!!!ちょっと!!!!こ〜れへあははっははは!!!!」


ジャンヌ「…………」

だが、そうだからといっていつもいつもクレイジーではない。
アンブラの魔女にも法と礼がある。

いや、むしろその部分を特に重んじている。

アンブラの魔女たる者、高潔にそして美しく、『品』の高き色魔であるべきである と。


ジャンヌもヒートすればぶっ飛ぶ事もある。
だが決して礼と品を保った威厳のある姿勢を崩さない。
331 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 01:05:22.74 ID:rHThjHko

ジャンヌ「…………」

ベヨネッタもベヨネッタで普段はそうだ。
バカな行動に見えるモノも、必ず一定の品と風格を保っている。
色情的でありながらも下品ではないのだ。


ベヨネッタ「あははははっはははっっっっ……!!!……げぇっふ…………ははははっははは!!!!!!」


ジャンヌ「…………」

だが今はどうだ。

馬鹿笑いし衣服をはだけさせ、
ベロンベロンに酔っ払ってビチャビチャとビールを零しているこの姿。

どこに品がある?

どこに魔女の高潔さがある?

ジャンヌ「…………」

この姿を見たら、偉大なる祖先達は一体何を思うのだろうか。
これが一介の魔女であるのならばまだ良い。


だがベヨネッタは特別だ。

『世界の目』を持ち、そしてジュベレウスをも倒した歴代最強の魔女だ。

アンブラ史上最高の戦士だ。

そんなアンブラの究極の境地である存在が、こんな有様とは。
332 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 01:07:00.95 ID:rHThjHko


だが。


ジャンヌ「…………」

これもまたいいのかもしれない。


確かに、アンブラの基準に沿っても『普通』とは言いがたいが、
普通じゃないからこそ、ベヨネッタは今まで誰も出来なかったことを成し遂げ、
そして前人未到の境地へと到達したのだ。


そして何よりも。

ジャンヌはこのベヨネッタの一面を否定するつもりはない。

これもまた大事な友の人柄の一面だ。

ジャンヌの大切な宝の一つだ。


ジャンヌ「…………」

と、しばらくすると。
いつの間にかベヨネッタの笑い声は止んでいた。


ソファーの上から聞こえてくる小さな寝息。
333 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 01:09:30.73 ID:rHThjHko

ジャンヌ「(……まるで子供だな)」

小さく笑いながらジャンヌはゆっくりと立ち上がると、ベヨネッタの傍へと向かった。

ベヨネッタは見ていたその姿勢のまま、口を小さく開けたままスースーと寝息を立てていた。
メガネが微妙にズレているのはご愛嬌だ。

ジャンヌはそのベヨネッタの手からビールを静かに取り、そしてはだけている彼女のTシャツを元に戻す。

とその時。

ベヨネッタ「Hummmmm............................」

寝ぼけているのか、薄目を開けていきなり唸り始めたベヨネッタ。
そしてふわりと手を伸ばし。

ベヨネッタ「.......Yeah.......」

ジャンヌの胸を鷲掴みにした。

ジャンヌ「…………………………………………」


ベヨネッタ「....Yes..........middle size......Wow...........Yeeaaha-ha-ha...........」.


ジャンヌ「―――HA!!!!!!!!!」

次の瞬間、ベヨネッタの顔面に叩き降ろされた拳。
メガネが景気良く割れる音が聞こえ、
いや、ソファーが潰れ下の床板が砕ける音に、その小さな破砕音はかき消された。


ジャンヌ「黙って寝てなホルスタイン野郎」


そしてジャンヌは表情を一切変えずに口を開いた。

上半身が床下までめり込み、
足が床から生えているように見える体勢のベヨネッタに。


―――
334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/27(金) 01:10:35.11 ID:rHThjHko
今日はここまでです。
次は土曜か日曜に。
335 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/27(金) 01:23:53.72 ID:O5esJl6o
乙!
いやあ丈夫なカラダってイイよね!
336 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/27(金) 01:29:05.68 ID:YXVsemwo
乙です
ワロタwww
337 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/27(金) 04:34:15.33 ID:wRYMfco0
(;゚Д゚)おヨネさんグダグタですな乙♪
338 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/27(金) 05:18:32.89 ID:klN0EIUo
上条さんはまだかー
339 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/27(金) 06:23:11.57 ID:wjOvTwDO
ベヨネッタwwwwwwクッソワロタwwwwww
確かに上条さんとインデックスが気になるところ
340 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/28(土) 00:31:31.95 ID:/.lm1fQ0
乙です
ベヨ姐さんがスケキヨにwww
341 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/28(土) 14:40:40.14 ID:8omdVkDO
クイックシルバーって使えないのかな
342 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/28(土) 16:32:10.52 ID:uNTovZ2o
トリッシュが神クラスとかインフレしすぎだろwwwwww
343 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:11:56.82 ID:6uASVZQo
―――

とある病室。

トリッシュ「へぇ…………なるほどね」

頭の中を整理しつつ小さく呟く、シーツに包まりベッドに座っているトリッシュ。
首から上だけを出しており、全身は完全に白いシーツで覆われている。

彼女の隣に横たわっているキリエは以前意識を失ったまま。
まあ単に気を失っているだけであり、明朝にもなれば目を覚ますのはほぼ確実だろう。


ダンテ「まだわかんねえ所が結構あるがな」

そして部屋の隅にあるソファーに寝そべりながら、
軽く手を挙げてトリッシュに言葉を返すダンテ。

アレイスターからの証言により、二人共一応の見解は纏め上げた。
とりあえず、バージルらはセフィロトの樹を破壊しようとしているらしい と。

だが『とりあえず』だ。

まだ謎は多い。
天界の軍勢を誘き出すのはわかるが、アリウスの方面はなぜ支援しているのか。
何となく思いつく事はあるものの、具体的な答えが未だに出てこない。

セフィロトの樹を破壊するにしても、具体的な方法は見当もつかない。

しかもそれはあくまで『過程』であり、真の目的はその向こうにあるようにも思える。
344 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:16:34.30 ID:6uASVZQo

ダンテ「……後で事務所に戻る。そのついでにロダンの所にも行って来る」

ダンテ「アイツなら色々知ってるだろうからな」

トリッシュ「よろしく。あ、あと私の銃もね」


シーツの下で突き出された左手により、ピンと張る純白の柔らかい布地。
その『頂点』は、ベッドの隅に置いてある二丁の大きな拳銃を指していた。

ルーチェ&オンブラだ。


右手がバージルに切り落とされた際、その莫大な力が流れ込んだのか、
その手に持っていた方の『内部構造』が破壊されていたのだ。

自動装填の術式はもちろん、
トリッシュが自作し刻み込んだ様々なシステムが悉く崩壊したのだ。


一応今の状態でも発砲はできるが、
悪魔的な力が全て削ぎ落とされている以上、最早『タダの大きめの拳銃』だ。


時間をかければトリッシュでも修復できるが、ロダンに頼んだ方がかなり早い。

二丁共持って行けば、無傷な方の一丁を参考にして
一日二日程度で完全修復してくれるだろう。
345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:18:56.16 ID:6uASVZQo

ダンテ「おー」

トリッシュ「まあでも、これが直ったとしても私が治らなきゃほとんど意味が無いけど」

ダンテ「ハッハ、お前は『一回休み』だ」

ダンテ「黙ってここで寝てな」


         ソ イ ツ ラ
ダンテ「ルーチェ&オンブラは俺が可愛がってやるさ」

トリッシュ「あら、それは嬉しいけど。どうやって『四丁』使うのよ?」


ダンテ「…………さぁな。足にでもつけっか?」


トリッシュ「ふふ、いいかも知れないわねソレ」


ダンテ「(…………ギルガメスに同化させりゃいけるかもな)」


トリッシュ「……ってちょっと。本気で考えてんの?」

ダンテ「あ?面白そうじゃねえか」


トリッシュ「(まーた変な遊び方思いついたみたいね)」
346 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:20:58.53 ID:6uASVZQo

ダンテ「なあ、面白そうだと思わねえか?」

そうダンテは寝そべりながら頭だけを動かし、



麦野「…………っ!」



部屋の隅の椅子に座っている麦野へと言葉を飛ばした。
ここだけ日本語で。

突如話を振られ、えっとでも言いたげに目を少し見開く麦野。
というか、それ以前の会話が早口の砕けた英語だった為、
ほとんど聞き取れなかった。

銃を持って行ってどうのこうのっと、それぐらいしかわからない。

麦野「あー…………私は……良いと思う……かな?」

とりあえず良く分からないが、
ダンテに肯定的に答える。


それを聞きダンテはニヤリと笑い、
トリッシュは小さく頭を振りながら、呆れたように溜息。

麦野「…………あれ…………(ちょっと、私何かミスした?言葉の選択誤った?)」
347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:23:43.42 ID:6uASVZQo

トリッシュ「あーところでアナタ。アラストルと結構仲良くなったみたいね?」

麦野「っ……!!!」

トリッシュ「さっき廊下で色々話し込んでたみたいだけど」

麦野「あーっと…………ま、まあ……(おい、なんか喋りなさいよ。聞こえてるんでしょ?)」

苦笑いしながら、頭の中でアラストルへ向けて言葉を放つ麦野。

アラストル『…………』

麦野「(何黙ってんだよ)」

アラストル『(俺はマスターの前ではヘラヘラと余計な事は喋らない。臣下たる者、寡黙であるべきなのさ)』

麦野「(寡黙だぁ?テメェこの野郎………………)」


トリッシュ「…………アラストル。どうなの?」

アラストル『問題はありません。我が主の命を忠実に果たしております』

アラストル『マスター代理の為、命を賭して戦い支援していくつもりです』

トリッシュ「あ、そう」

麦野「(………………………………言った傍からペッラペラかよクソッタレ)」

アラストル『(なあに、場合によりけり、だ。優秀な臣下たる者、場の空気を読み柔軟に(ry)』

麦野「(うっせえ)」
348 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:25:54.59 ID:6uASVZQo

トリッシュ「だってさ〜」

トリッシュが視線をダンテの方に戻し、続けて彼の方へと言葉を飛ばした。
それに対し、ダンテは特に興味無さそうに手を軽く振った。

トリッシュ「あ、そうそう、アナタさ」

そこでまたトリッシュは麦野の方へと視線を向け。


トリッシュ「少し手入れた方いいわね」


麦野「…………………………………へ?」


トリッシュ「カッコ」


麦野「……かっこ?」


トリッシュ「服よ服。もっとちゃんとしなきゃ。女の子なんだから」
349 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:28:41.19 ID:6uASVZQo
麦野「服……」

トリッシュ「今日着てたの破れちゃったみたいだけど、その前からボロボロだったわよね」

麦野「…………」

そう、バージルに切り裂かれる前から既に服はボロボロだった。
更に季節はずれの秋物で、そしてあちこちが破れススだらけ。

以前は身なりにかなり気を使っていたが、
左手と右目を失って以降全くと言って良い程に気にしなくなってしまった。

いくら気を使ったところで、こんな化物染みた姿じゃ意味が無い、と。

右目は無くなり、眼窩から光が漏れ出し周囲はケロイド状。
こんな顔じゃ、例え左手が残っていたとしても化物だ。

今までかなり気にしていたその反動か、
この自慢でもあった顔が、悲惨な状態になった事でプッツリと関心を失ってしまったのだ。

今はただ、『着れればいい』という考えしかなかった。


アラストル『(そうだな。この俺を持つ以上、お前には身なりを整えてもらうぞ)』

アラストル『(よしてくれよ?仮にも「主」がみすぼらしい姿じゃ、俺の名にも傷が付く)』

麦野「(うるせーっつってんだよ黙って『寡黙』になってろやボケ)」

麦野「今更……どんなカッコしたって同じよ。こんなナリじゃ」

内心ではアラストルにツバを吐き、
外面では小さく鼻で笑いながら、己を卑下して吐き捨てる麦野。


トリッシュ「そう?そう悪くないと私は思うけど」


だがトリッシュはそんな麦野の表情など一切気にすることも無く、
相変わらず淡々と言葉を続けた。
350 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:30:27.18 ID:6uASVZQo


麦野「……ハッ……どこがよ……」

トリッシュ「ダンテだってアナタの事ホットだって言ってたわよ。ねえ」

その言葉に合わせダンテが軽く手を挙げ。

ダンテ「スカーフェイスがクールになんのは男だけとは限らねえってな」

トリッシュ「傷が付いたのなら、それをカバーできるカッコにすればいいのよ」

麦野「………………??」

トリッシュ「さっき見た感じだと、今までのアナタの服装の系統じゃカバーするの難しいわね」

そう独り言のように呟きながら、トリッシュは包まっているシーツの下から左手を出し、
その指を軽く鳴らした。

すると小さな金の電撃が一瞬迸りその閃光が止むと、
どこから現れたのか小さな紙がトリッシュの前に浮いていた。

更に、これまたいつのまにか左手には万年筆。


トリッシュ「あー…………っと」

そして麦野の方をチラチラ見ながら、
なにやらその宙に浮いている紙に書き込んでいった。
351 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/28(土) 23:31:08.25 ID:e0TdC8Qo
まあ曲がりなりにもムンドゥスパパにダメージ与える力あるわけだしその程度なのでは
352 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:32:14.98 ID:6uASVZQo

麦野「………………何してるのよ?」

トリッシュ「アナタのサイズ見てるの」

麦野「はぁ?」

トリッシュ「……85……。股下は…………」

怪訝な表情の麦野を尻目に、
トリッシュはブツブツ呟きながら手を動かしていく。

トリッシュ「ダンテ」

ダンテ「あ?」

トリッシュ「ダークグレーでいいと思う?」

ダンテ「知るか。俺に聞くんじゃねえ」

麦野「ちょっと……何の話してるのよ?」

トリッシュ「あ、ちょっといい?」

麦野「何?」

トリッシュ「アナタのその光、最高温度はどれくらい?」

麦野「…………最大出力で射出すれば……多分4万度とかまではいくかも」

トリッシュ「……射出じゃなくて……じゃあ今の『右目』内の温度は?」

麦野「?わかんないけどそんなに高くは無いと思うわよ」

麦野「……あんまり高かったら私が焼けるし」
353 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:36:41.78 ID:6uASVZQo

トリッシュ「そう…………ま、少し余裕あった方がいいわね……」

ダンテ「あ〜、タングステンの合金とかでいいんじゃねえの?目からビーム出さなきゃ充分だと思うが」

トリッシュ「ええ。それにこの街にはもっとすごい耐熱材あると思うわよ多分」

ダンテ「まあな。つーか最初からアラストルに強化させればいいじゃねえか」

トリッシュ「そうね。それで充分ね」


麦野「?????????」


トリッシュ「……こんな所ね」

と、一通りの記述を終えたのか、トリッシュは紙を軽く指に挟み。

トリッシュ「ルシア」

窓枠に座っていた少女の名を呼びながら、ピッと軽く上げた。
それとほぼ同時に、即座にトリッシュの傍へと駆け寄るルシア。

トリッシュ「これ、ある人に届けてきて欲しいんだけど?」

ルシア「?」

トリッシュ「さっきダンテが言ったところ、『匂い』で位置はわかるわよね?」

ルシア「は、はい」

トリッシュ「そこのビルの中に、逆さまに水槽の中に入ってる変な人いるから、そいつにコレ渡してきて」
354 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:41:11.85 ID:6uASVZQo

ルシア「?…………はい」

トリッシュの説明に首を傾げながらも、紙を手にするルシア。
まあ、実際に行って見ればトリッシュの言葉通りだという事がわかるのだが。

それはそれでまたルシアの純粋な疑問となるだろう。

あの人はなんで服を着たまま、逆さまにお風呂に入っているのだろう?と。


ダンテ「あー待て。ワインとピザはまだかって伝えてくんねえか?」

ルシア「あ、はい」

小さく頷くと、ルシアは即座に円に沈んでいった。



麦野「……ちょ、ちょっと……一体何よ?」


トリッシュ「ん?ああ、近い内に大仕事があるんでしょ?デュマーリ島で」


麦野「何でそれを……!?」


トリッシュ「それで、よ。大仕事だからこそビシッと決めなさい」


麦野「……もしかして…………私に服をって事?」
355 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/28(土) 23:41:31.78 ID:BXQp3WI0
>逆さまに水槽の中に入ってる変な人

…(;´Д`)実もフタもねぇなwwwwwwwwww
356 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:42:44.21 ID:6uASVZQo

トリッシュ「スーツとコートと……あといくつか小物ね。ホルダーとか。アラストルだって四六時中手に持ってる訳にはいかないでしょ?」

トリッシュ「その右目だって丸出しにしとく訳にもいかないし」

麦野「んな…………」

トリッシュ「文句言わないで受け取りなさい」

トリッシュ「これはアラストルの士気にも影響する事でもあるし」

アラストル『(正にその通り。みすぼらしい「使い手」など願い下げだ)』

アラストル『(「力と容姿」、そして立場に「見合った」服装をしてもらわなきゃな。「麦野沈利」よ)』

麦野「……」

トリッシュ「あ、でも着こなしは任せるわよ。アナタ結構センス良さそうだし」

トリッシュ「多分、明日の朝とかにでもアナタのところに届くと思うから」


麦野「……わかった。じゃあ有難くもらうわ」



トリッシュ「気張りなさい。そして堂々と。アナタは誰にも負けないわよ」



麦野「…………………………あ……ありがと」


―――
357 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:45:58.73 ID:6uASVZQo
―――

少女は長い長い、そして奇妙な夢を見ていた。

はっきりとした映像ではない。
おぼろげな、断片的な光景。

見た次の瞬間、何を見たかを忘れてしまう。
いや、走馬灯のように次々と流れていくせいで、頭の処理が追いつかないのかもしれない。

だが何を見たのかを忘れても、何を思ったのかははっきりと胸の中に残っていく。


妙に懐かしい、遠い昔のような感覚。

心が温まる穏やかな感覚。

気高き戦士達。尊敬する『英雄』。

そして『家族』がいたあの遠い日々。


それは彼女の魂の中にあった記憶の断片。
先程『拘束』が外れた際に漏れ出した、彼女自身の『過去の物語』の一部。


彼女が見てきた、そして経験してきた『歴史』。


彼女はとある理由で、脳内のエピソード記憶は一年おきに完全削除されてきた。

だが、魂に刻まれていく記憶は決して消えない。
魂が経験してきた歴史は決して消えない。

それは彼女自身のモノ。
彼女だけの、彼女たる存在を示す証。
358 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:48:18.24 ID:6uASVZQo
その断片的な淡い物語。
穏やかな日々は突如終焉を迎える。

それは彼女がその日の勤めを追え、
近衛にいる『――――』の帰りを待ちながら自宅の庭の椅子に座り、日向ぼっこをしていた時だった。

突如脳内に響く、緊急の通信魔術。

そしてその瞬間、周囲の状況は一変した。


「―――うう…………」

突如現れた、空を覆い尽くす『白金の軍勢』。
凄まじい地響き。
飛び交う怒号。
響き渡る掛け声。

耳を劈く様々な破砕音。
飛び散る瓦礫と倒壊していく建物。

辺りを照らす赤や青、濃い紫の光。
それを一瞬でかき消していく白金の閃光。

そして斃れてく気高き戦士達。


少女は走った。
恐怖を感じ。

この空の下で今も激闘を繰り広げているであろう『――――』を探すべく。

古いホールを抜け。

崩れ落ちた噴水のある、
大量の天使の死骸と、多勢に無勢で斃れた戦士たちの亡骸が散らばっている庭を横断し。

列柱廊を駆け抜け。

そして少女は遂に探し人を見つけた。
『――――』は血にまみれ、傷を負いながらも生きていた。


青い髪の最愛の―――。
359 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:51:21.64 ID:6uASVZQo

『夢を見ている側の彼女』は、その人物の名が思い出せなかった。
顔はわかる。
いつも傍にいたのもわかる。

だが、なぜだが思い出せなかった。



その相手は彼女を見た瞬間、顔色を変えて駆け寄ってくる。

彼女も走り出―――。


―――そうとした瞬間。



「―――…………あ……………………」



胸からいきなり『生えてきた』、豪華な装飾の白金の槍。
背後から放たれた槍は、彼女の胸をいとも簡単に貫通していた。

次の瞬間、『――――』が上げるとてつもない咆哮。
いや、それは正に絶叫だった。
今まで彼女が聞いた事の無い程の悲痛な叫びだった。

そして放たれる魔弾と、青髪のウィケッドウィーブ。

彼女はゆっくりと地面に倒れ意識が薄れる中、
鬼神の如く奮戦する『――――』をぼんやりと眺め。


そこで『夢』は途絶える。
360 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:53:11.41 ID:6uASVZQo


ゆっくりと暗転したのではない。

真っ暗になった訳でもない。
ノイズ・砂嵐のようなモノに夢が消されたのだ。

まるで何者かによって『塗り潰された』かのように。


そして『夢を見ていた側の彼女』は、具体的に何を見ていたのかを再び忘れる。

残ったのは『心の震え』のみ。


そこからまた夢は飛ぶ。

今度はうって変わって近代的な風景。

さっきの夢とは、何だか己の感覚がどこと無く違う。
確かに同一人物なのだが。
別人のような気もする。

例えるならば、先程の夢が『前世』といったところか。


そしてそこから、また短くも穏やかな日々が始まった。
361 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:54:17.70 ID:6uASVZQo
彼女の『護衛』である、『――――』・『――』と共に過す日々。

『護衛』と言っても役職上のモノだけではなく、三人の中にはもっと強い繋がりが生まれていった。
まるで家族、兄弟のような。

だがそれも突如終焉を迎えた。


『最後の日』。


怯える彼女に対し、『――――』・『――』は言った。

「いつまでも友達だから。ずっと。ずっと」と。

それに対し、彼女は泣きじゃくりながらこう言葉を返した。

「絶対に忘れない。絶対に忘れないから」 と。


そしてこの『夢』も終わる。
見終わった瞬間、彼女は何を見たのかを忘れた。

何かに遮られ『記憶』できない。

だが心には響く。
揺れ動く魂は止まらない。


そして再び。


別の夢が始まる。


いや、ここからは『思い出』だ。

ここからは彼女の『頭』の中にも記録されている。
そして何よりも。

彼女の魂に、今までで最も深く刻み込まれた記憶だ。

もし彼女が今脳内をリセットされたとしても、
ここからの物語は決して忘れないだろう。

決して。
362 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:56:43.62 ID:6uASVZQo
彼女の思い出。

誰に出会い、そして何を見て、彼女がどうなったのか。
説明は不要だろう。


彼女の為に、そして彼女の為だけではなく、出会う人全ての為に戦おうとする少年。
決して諦めず、決して立ち止まらず、ただ人の為に突き進んでいく少年。


彼女はそんな少年の姿を傍で見続けてきた。
そして何度も救われ、いつもいつも守られてきた。

そんな日々の中、彼女の中で今までとは違う妙な感情が生まれた。
彼女自身は気付いていなかったが。

当初は『守られている恩』、『保護に対する』感情と区別が付かなかったのだ。
そもそも、そういう自己分析なども彼女はしない。

だが膨れ上がっていくその感情は、
いつしか無視出来ないほどにまで巨大化していった。


二ヵ月半前、その強烈な『胸の痛み』をようやく彼女は認識し。

デパート事件までの日々の中でその正体に思い悩み。

デパート事件の後、正体がわからぬままも彼女は惚けて。


そして今日。


彼に抱かれ、彼の顔を見た瞬間彼女は遂に知る。

遂に完全に認識する。

己のこの感情が何なのかを。



「―――とうま―――」
363 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:59:28.42 ID:6uASVZQo

彼女は聞いていた。
先程の戦いの中の上条とステイルの会話を。

それを聞き、すぐにピンと来た。

思えば、おかしなことは多々あった。
出会った頃の話をすると彼はなぜだか相槌だけになり、話を広げようとはしなかったのだ。

上条は隠していたのだ。

記憶を失った事を。


だが、彼女はそれを確信しても何も思わなかった。

いや何も思わなかった訳では無い。
怒りも失望も、裏切られたというそういう負の念は何も思わなかったのだ。

出会った頃の、そこまでお互いを知っていなかった頃は怒ったかも知れなかったが、
強い絆で結ばれている今はそんな事など思わなかった。


ただ嬉しかった。


そして愛おしかった。


早く彼に触れたくなった。


再び彼の笑顔が見たくなった。
364 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/29(日) 00:03:19.68 ID:RJQ8j0go
「…………とうま」

彼女は最早立ち止まれなくなった。
この感情に全てを委ねたくなった。

これは拘束が外れ、『生来の気質』が一部沸き出したせいでもある。

彼女の脈々と受け継がれてきた『血』に刻まれた『本能』だ。
この感情を知り、そして相手を見定めてしまったこの『魂』は止まらない。

この一年間の『彼女』も。
そして深淵に眠っていた、別の『彼女自身』も。

『二人』とも、上条当麻という少年に心を囚われてしまった。


―――『恋する魔女』は強い。


―――『恋する魔女』の気持ちは永遠のモノ。


魔女が本当に恋するという事は、ある意味『呪い』でもある。

何としてでも成就させるか、それとも死か。
それだけしかこの『呪い』から脱する術は無い。


そしてそのような『恋』は、必ず巨大な『うねり』を作り出す。


宿敵であるルーベンの賢者の長に恋し、
後にアンブラの運命を変える子を産み落とした、あの黒髪の魔女のように。

魔女王アイゼンの孫であり後に長の座に付くと言われていながらも、
愛する者の為に都から離れ、全ての力を捨て一介の人間の身に落ちてまで


『最強の魔剣士』を追い、種族の壁を越えて結ばれたあの金髪の魔女のように。
365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/29(日) 00:03:55.66 ID:RJQ8j0go

「…………う…………ん……」

そして少女はベッドの上で目を覚ます。
手から伝わってくる、温もりを感じながら。

「…………」

寝ぼけ眼のまま、ぼんやりとその手の先を見ると。
上条が彼女の手を固く握り締めたまま、ベッドに顔を突っ伏して寝息を立てていた。

「…………えへへ…………とうま〜♪……」

少女は穏やかに笑い、今の歓びに浸る。

「…………」

話したい事はたくさんある。
伝えたい事もたくさんある。
先程見た、『忘れてしまった夢』もかなり気になる。

だが今はこのまま、穏やかな温もりの中に浸っててもいいだろう。
この気持ちをもっとかみ締め、そして包まれたい。

彼女はもぞもぞと上条を起こさぬように体の位置を少し変え。

そして彼の頭に己の頭を寄り合わせるようにして、
手を優しくそれでいながら強く握り締めながら、ゆっくりと目を閉じた。


彼の空気と。
彼の体温と。
彼の存在を全身で感じながら。


インデックスは再びまどろみの中に落ちていった。


―――
366 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 00:04:44.90 ID:RJQ8j0go
今日gはここまでです。
次は月曜か火曜の夜に。
367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 00:06:15.93 ID:zJf9L5Ao
イチャイチャしやがって
368 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/29(日) 00:06:41.56 ID:JVlZcRY0
胸キュン乙!!!!
369 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 00:08:48.22 ID:sbP6TkAO
まあ俺はもう麦のんとアラストルしか見えないけどな
370 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 00:23:13.13 ID:vPgNqsAO
実際問題、眼帯だけでもしてりゃ
元がいい麦のんならかっこよさそうだな

あぁ麦のんに罵られたい
371 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 00:38:47.57 ID:f1sflADO
前例としてスネークもかっこいいしな
372 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 01:31:32.99 ID:HljVPQDO
エヴァ母ちゃんまで結びつけるのはどうなのよって気分
373 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 01:38:13.47 ID:sbP6TkAO
予想

S ムンドゥス アビゲイル
A アルゴサクス ナイトメア 
B ベリアル ファントム グリフォン
C エキドナ ベオウルフ リヴァイアサン
D ケロベロス ルドラ&アグニ ネヴァン ドッペルゲンガー
E ゲリュオン 蛙
374 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 02:40:59.29 ID:RJQ8j0go
>>372

ベヨネッタ原作の『時の腕輪』の説明文にて

>時の腕輪
>古の悪魔剣士と契約を結んで、魔界の侵略軍に立ち向かった孤高の魔女エヴァが作り上げた魔導器

本当は神谷さんのちょっとしたお遊びでしょうが、
この説明を初めて見た瞬間からピンときてたので、公式設定と見て使わせてもらいました。

スパーダと契約(結ばれて?)してできた『時の腕輪』、
という設定があまりにもおいしく感じ妄想が爆発してしまったので。
それと『時の腕輪』にはDMC1の時もかなりお世話になったので。

そしてアイゼンの孫というのは完全オリジナルです。

気分を害してしまったのなら本当にすみません。



ちなみに当SSでは母ちゃんは生き返って登場したり等はせず、
さらりと名前だけの出演の予定です。
375 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/29(日) 03:51:22.92 ID:JVlZcRY0
ベヨネッタがリンクした事で話(と設定)の纏まりが飛躍的に面白くなったよね
376 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 07:33:11.23 ID:s8dMKcDO
>>372
スネークの後にエヴァなんて、ビッグママが最初に思い浮かんだわ
インデックスはやっぱ魔女だったかー。まぁわかりきってたことだが
この物語のインデックスを『イン○○さん』とか言う奴はいまい
377 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 11:08:45.63 ID:ejRu3XQ0
>>374
ベヨネッタ全然知らないからググってたらちょうどその説明見かけて、
その設定がここで取り上げられたら面白いだろうなーって思ってたところだww

それにしても麦のんとアラストルの掛け合いいいなwwなんか和む
378 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 11:11:31.02 ID:ZsHKH3Uo
魔剣カオスっぽいな
379 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 18:39:23.93 ID:s8dMKcDO
>>374
母親生き返ったらダンテ達がどんなリアクションするか……
380 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 20:45:23.50 ID:yeP4fM6o
―――

神裂「………………裁き……」

神裂「それは……私が「天の者」となったからでしょうか?」

アイゼン『まあな』

神裂「…………」


アイゼン『勘違いはするな。これは我等の「復讐」ではない』

アイゼンがゆっくりと、神裂を中心に円を描くように歩き始めた。


アイゼン『確かに、確かに我等は怒っておる。この者達は天界を憎み、恨みながら死んでいった』

アイゼン『そして成仏を許されず、今だにその怨念に縛られ続けている』


アイゼン『だがな、この行いはその怒りを晴らすためでは無い』


アイゼン『これは「裁き」だ』


アイゼン『「誓い」を破った者達への―――』



アイゼン『我等を「裏切り」、そして策略に嵌めた天界へのな』



アイゼン『そして我等の「贖罪」だ』



アイゼン『「過ち」を正す為のな』
381 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 20:46:33.65 ID:yeP4fM6o

神裂「う、裏切り…………ですか?」


誓いと裏切り。
この言葉が出てくるとは思ってもいなかった。

天界と魔女が協力していた時代があった、とでも言うのか と。

だが、時に真実は物語よりも奇である。


アイゼン『500年前にかの者達は我等を裏切りおった』


神裂「…………」

500年前。
神裂も聞いた事はある。
500年前に魔女が天界の手によって滅んだと。

数ある『伝説』の一つとしてだが。

アイゼン『まあ、今思えば2000年前の「あの時」から既に予兆はあったのだがな』


アイゼン『向こうはそれの二万年前からその気だったらしいが』


神裂「…………」

2000年前。
その時に何があったか。

魔界の人間界侵略と、スパーダの反逆だ。

神裂「…………裏切ったとは……どういう事ですか?」
382 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 20:48:29.82 ID:yeP4fM6o

アイゼン『知らぬか……』

アイゼン『本来はここに来る前に知っておいて貰う予定だったのだがな』


アイゼン『真の歴史背景を知った上で、そなたの答えが聞きたいのだ』


アイゼン『それが「この場」の判断材料となるのでな』


神裂「?」


アイゼン『どれ、一通り話してやろう…………立ち話もあれだな』

と、アイゼンが呟いたと思った次の瞬間。

神裂「……!」

突如、アイゼンの後ろに出現した古めかしい石造りの椅子。
そこにアイゼンは、手首の大量の腕輪をジャラジャラ鳴らしながら腰を降ろし、
長い美脚を見せ付けるように優雅に足を組んだ。

そして。

アイゼン『座れ』

顎で神裂の背後を軽く指しながら一言。

神裂が振り向くと、彼女の背後にはいつのまにか
『背もたれの無い』椅子が出現していた。

背もたれが無いのは、神裂の胸を貫通している七天七刀が引っ掛らないよう配慮したのか。
それとも、立場の違いを暗に示す為なのか。

そんな事をふと考えながら恐る恐る座り、アイゼンと再び向かい合う神裂。
383 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 20:51:58.57 ID:yeP4fM6o

そんな神裂の心中を察したのか、アイゼンが思い出したように。

アイゼン『あ〜、既に何となく気付いておると思うが、その刀は抜かぬようにな。それは後でだ』

神裂「……?はい」


アイゼン『さて……まず話の前に一つ言っておく』

アイゼン『これから我が言う事は、我等の「視点」からだ。我等の考えからの「表現」を使って言葉を選んでいく』


アイゼン『ここからは「アンブラの魔女」の側からの語りだ』


アイゼン『「天界」や「魔界」、そして「一般の人間」の視点からならばまた違った語りになるだろう』


アイゼン『真実は常に多面的な性質を持つ。片方の側からだけで全てを物語ることは不可能』


アイゼン『全てを纏め綺麗な1本筋にする事もまた不可能だ』

アイゼン『真実の反対は虚構だが、真実の反対はまた別の真実である場合も存在する』


アイゼン『そこを踏まえ、そなたには我の言葉を客観的に聞いて欲しい』

アイゼン『納得するのも、疑念を抱くのもそなたの自由だ』

アイゼン『そこから導き出された、そなたなりの答えを知りたいのだ』


アイゼン『あ〜それとだ、我は嘘を言うつもりという事では無いからな。我は我の方で出来るだけ客観性を保つようにする』


神裂「…………わかりました」
384 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 20:55:32.70 ID:yeP4fM6o
アイゼン『うんぬ……では話そうか』


アイゼン『2000年前のあの時まで、我等と天界は「建前上」は同盟を結んでいたのだ』

アイゼン『そして約520年前までは、表向きは敵対関係でもなかった』



アイゼン『それとな、天界による人間の魂の管理、「セフィロトの樹」も元々は我等の承諾の上だった』



アイゼン『つまり、「我等」もこの今の「人間界の体制」を作った者の一部、だという事だ』



神裂「なっ……………………はぃぃッッ…………??!!!!!」


アイゼン『その体制が作られた当時は、そうせざるを得なかったのだ』

アイゼン『人間界を守る為、いや―――』


アイゼン『―――少しでも滅びの日までの時間を稼ぐ為にな』


神裂「っっ……!!!……魔界の侵略……ですね」

アイゼン『そうだ。今の短命な世代の人間達からすれば「長き時」だが、当時の者達にとっては最早秒読み段階だった』

アイゼン『本来ならば人間界は人間界で団結して立ち向かうべきだったのだがな、肝心の「人間界の神々」が腑抜けでな』

アイゼン『どいつもこいつも危機感無く、いつまでも自分勝手だった』

アイゼン『人間界を心の底から守ろうとしているものなど片手で数える程度だけだった』


神裂「……?『人間界の神々』……ですか?」
385 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 20:57:59.38 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ん?ああ、そこから知らぬのか』


神裂「……」


アイゼン『当時の人間界には本物の神々と天使が君臨していた。「竜王」と呼ばれた者を一応の頂点としてな』

アイゼン『「人間の神族」だ。魔界に諸神、そして魔帝が君臨するのと同じく、「人間界生まれ」の神々が存在していた』

アイゼン『これがまた強欲で我侭、自己中心的でとてつもなく優柔不断な連中ばかりでな』

アイゼン『まあ、ある意味「人間界らしい」といえばそうなのだがな』

アイゼン『だが連中は度を越していた。魔界による人間界の滅亡が目前に迫ろうとも、連中はいつまでも呆けて好き勝手戯れていた』


アイゼン『我等「下位の人間」の方が「大人」だったのだよ。全く笑い話だなこれは』



神裂「…………」



アイゼン『そして我等「下位の人間」は立ち上がった。とは言っても、時間の猶予はない。じっくりと各々の力を成長させる余裕など無い』

アイゼン『だから我等が取った行動。それは別の世界から力を授かることだった』


アイゼン『半分の者は天界へと支援を求めた。これが「ルーベンの賢者」の祖だ』



アイゼン『そしてもう半分は魔界へと支援を求めた。これが我等「アンブラの魔女」や、フォルトゥナ等の祖だ』
386 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/31(火) 20:58:17.60 ID:X51oB6DO
更新来た!何と言うグッドタイミング!
387 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:00:50.54 ID:yeP4fM6o

神裂「………………はい?それって……」

そう、今の部分は矛盾している。
天界へ支援を求めるのは良いとして、
魔界の侵略に立ち向かう為に、魔界の者に支援を求める とは。

話が合わない。

アイゼン『ハハン』

そんな神裂の心中に気付いたのか、アイゼンは軽く笑い。


アイゼン『聞いた事は無いか?2000年前にスパーダと共に戦った人間の戦士がいたと。そして彼らは魔の力を使っていたと』


アイゼン『普通に考えて分かるだろう?彼らが魔の力を使えたのは、魔界にも協力者がいたからだ と』

アイゼン『そもそも、昔も今も人間達が「なぜ魔界魔術を使えるのか」を考えたことが無かったのか?』


神裂「…………確かに……で、ですが……どうして魔界が人間に協力を……?」


アイゼン『ん?ああ、まあ厳密に言うと、「影で魔帝を憎んでいた諸王・諸神」だ』


神裂「…………あの、当時の魔界って魔帝に完全統一されてたんじゃ……?」


アイゼン『まあな。表向きはだ。だが魔界の理を考えてみろ』

アイゼン『確かにより強き存在に完全服従するのは道理。だが力によって抑圧され、強引に奴隷化されるのを嫌うのも道理』

アイゼン『力こそすべてだ。誰もが力のヒエラルキーの頂点を本能的に目指しておる』

アイゼン『機会さえあれば、下克上を狙うのもまた道理だ』


神裂「……」
388 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:04:59.79 ID:yeP4fM6o

アイゼン『確かに魔帝、そしてその横にいるスパーダと覇王の存在はとてつもなかった』

アイゼン『大半が彼らの力に心酔し、そして完全な奴隷と化した』

アイゼン『だが全員が全員そうでは無い。中には表向きは服従しつつも裏では激しく憎んでいた者もいた』


アイゼン『そして我等は、水面下でその「反逆者」達と結託したのだ。利害が一致してな』

アイゼン『我等は魔帝軍に対抗する為、できるだけ早くより強大な力を持たねばならなかった』

アイゼン『そして反逆者達は、魔帝の勢力が少しでも削れる事を目論んだ』

アイゼン『彼らは人間界は結局滅ぶと思っていたようだがな。とにかく魔帝勢力に傷を負わせたかったのだろう』


神裂「……」

アイゼン『フォルトゥナの祖も然り、各地のデビルハンターも然り、「魔に属す人間」の元を辿れば全てここに行き着く』

アイゼン『彼らの扱う魔界魔術は全てこの「対魔帝反逆一派」の力だ』

アイゼン『当然我等「アンブラの魔女」が扱う力も、そして召喚する存在も大抵はこの反逆者の一派だ』

アイゼン『ちなみに、そなたをつい先程叩き潰したヘカトンケイルもその諸神の一人だ』

アイゼン『悪魔という存在の全部が全部、人間を憎んでいるわけでは無いぞ』


アイゼン『そもそも「人間を憎む」というのも、そして「スパーダの一族」を憎むのも、』

アイゼン『「魔帝の侵略」が失敗した事を発端としているしな』


アイゼン『反逆者達は基本的にスパーダを憎んではおらぬ。人間を憎んでもおらぬ』



アイゼン『彼らからすれば、今やスパーダは「英雄」であり、そして「魔に属す人間」は共闘した「気高き戦士」だからな』
389 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:08:16.26 ID:yeP4fM6o

神裂「………………」

確かに。
アイゼンの言葉は道理にかなってる。

「全ての悪魔が人間を憎んでいる」という、今までの一般常識が正しかったのならば、
アイゼンの言うとおり人間は魔界魔術など扱えない。

魔界の存在から力を借りるなど到底不可能だ。


アイゼン『……まあ、そういう事で我等は力を手にした』

アイゼン『ある一派は天界の力を、ある一派は魔界の力を、とな』

アイゼン『行動を起こし始めたのは大体5万年前、力が高まり組織としてそれぞれが纏まったのが約3万4千年前だ』

アイゼン『そこからアンブラの「正史」も始まった』


神裂「あの……少し聞いてもいいですか?」

アイゼン『何だ?』

神裂「魔に属すということは……あなた方魔女もデビルハンターもフォルトゥナの方々も、」

神裂「『人間でありながら私達とは違う人間』という事ですか?」

神裂「あなた方魔女は、魔界の理で生きる『魔界の人間』、という事ですか?」

アイゼン『まあ……そうなるがな。だが一つだけ捕捉しておくぞ』


神裂「?」


アイゼン『我等の方が本物の「純粋な人間」だからな』

アイゼン『「ルーベンの賢者」もだ。彼らは今や絶滅したがな』


アイゼン『そなたらの世代の人間は「純血」とは呼べぬ』
390 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:10:09.63 ID:yeP4fM6o

神裂「………………?!」

アイゼン『確かに我等の理は魔界のモノ。だが本質、存在自体は正真正銘の「純粋な人間」だ』

アイゼン『だがそなたらの、今の世代の大半の人間は違う』

アイゼン『いわばそなたらの魂は「改造済み」だ』

アイゼン『生まれ着いた時からセフィロトの樹によって管理され、天界の手が入っておる』

神裂「……!」

アイゼン『この人間界の法則も、天界の手で大きく変えられた』

アイゼン『セフィロトの樹に繋がっていなくとも、この変化の影響は出てくる』

アイゼン『フォルトゥナの者も各地のデビルハンターも、いくらか影響を受けており我等ほど純粋ではない』


アイゼン『肉体の「老化」という現象に制限される命、「寿命」がその一番わかり安い例だ』


アイゼン『言い方を変えればな、深く魔に入り込んだおかげで我等は「本物の人間」の「純血」を保ち続けたのだ』

アイゼン『より強い異界の力が「人間界の変化」を跳ね付けてな』



神裂「……じゃあ……太古の人々は不老だった……と?」



アイゼン『精神の成熟度に左右されるが「基本的」にはな』


アイゼン『肉体の老化には左右されん。というかそなたらのように急速な老化は無い』


アイゼン『我等魔女のように、生粋の真人間は「魂と器」が存続する限り「不老」だ』
391 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:12:03.18 ID:yeP4fM6o

アイゼン『これも疑問に思わなかったか?』

アイゼン『スパーダは2000年前、魔界の侵略を退けた直ぐ後に「一人の純粋な人間」の女と結ばれた』

アイゼン『この「女」はスパーダと共に侵略軍に立ち向かい、そして「魔界の口」の封印にも立ち会った』

アイゼン『そしてその「女」が息子達を生んだのはつい30数年ほど前だ』


神裂「…………」


アイゼン『客観的に考えてみればわかるだろう?この事実が何を意味してるか』

神裂「…………そ、そう……ですね」

アイゼン『では話を戻してもいいか?」

神裂「……はい」


アイゼン『さて………………………………ん?…………どこまで話したか?』


神裂「あなた方が魔界の反逆者達と手を結び、力を手に入れたところまでです」


アイゼン『おお、そうだった』

アイゼン『すまんな、ゆっくりとまともに会話できる者が来たのは久しぶりだからな』

アイゼン『中々口が止まらずに話があちらこちらに飛んでしまう』


神裂「……」
392 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:16:56.32 ID:yeP4fM6o

アイゼン『それでな、我等がそうして力を手に入れたのだがな、そうしたら今度は人間界の神々が難癖をつけてきた』

アイゼン『「貴様等如きが何を勝手な事をしている?立場をわきまえろ」とな。それはこっちの台詞だ全く』

アイゼン『我等の成長に危機感を抱いたのだろうな。魔界ではなく我等に矛先を向けるとは愚かな連中だ』

アイゼン『現に、我等は人間界の神々を超える勢いで力をつけていったからな』


神裂「…………」


アイゼン『そうして、今度は人間界の内部がキナ臭くなってきた。誰もが内戦が始まると思っていた』

アイゼン『そしてちょうどその時だ。天界の者達が直接やって来たのは』


神裂「…………」


アイゼン『当時は天界のかの者達も、今程「狂って」はなくてな』

アイゼン『今とは違い、当時の彼らは尊敬に値する高潔な者達だった』

アイゼン『信じられぬかもしれんが、かの者達が人間界にやってきた理由も当初は「救う」為だった』


神裂「…………っ!!!?」


アイゼン『近場である人間界の勢力基盤を固め、前哨とする思惑もあったかもしれぬ』

アイゼン『界の位置関係、順序で言えば魔界の侵略は人間界から天界へと繋がっていくからな』

アイゼン『だがそれ以上に彼らの当時の第一目的は人間界の住民を守ることだった』
393 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:18:50.23 ID:yeP4fM6o

アイゼン『当時の彼らはな、本物の「慈愛」と高潔な使命感で溢れていた』

アイゼン『ジュベレウスが立ち上げた、魔界への対抗の旗印。天界はその本拠の一つだ』

アイゼン『当時の天界の者達は、今のように「読み違える」ことなくその主の命に従っていたのだ』

アイゼン『ジュベレウスが敗北し眠りについても尚、彼らは魔と抗おうとし続けたのだ』

アイゼン『そしてそういう純粋な、高潔な者達から見たらどうなる?』

アイゼン『人間界に君臨していた自分勝手な神々は?』


神裂「………………それは……」


アイゼン『天界の者達が、人間界の神を排除しようと決意するのには時間はかからなかった』

アイゼン『人間界内で、神々と魔の者達の間で内戦が勃発するのは秒読み状態だったからな』


アイゼン『まあその天界の行動は、我等にすれば結構な時間を有したが』

アイゼン『これも天界の気質だな。かの者達は人間界の神々に丁寧に呼びかけ、そして団結するよう何度も説得した』

アイゼン『だが当然、それは逆効果だった。神々は逆鱗し、中には魔帝側に付こうと言い出す者まで現れたのだ』


アイゼン『ここまで来れば、基本的に争いを嫌う天界の者達も動かざるを得なかった』


アイゼン『我等と天界は協力し、そして神々を策略に陥れた。これで連中は滅んだのだ。一人残らずな』


神裂「…………全員死んだのですか?」


アイゼン『ああそうだ。己の力に喰われ、そして共食いをしてな』
394 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:20:40.97 ID:yeP4fM6o

アイゼン『その亡骸、残った大量の力は一塊にされ、そして固く封印された』

アイゼン『同時に人間界の力場も封印され、これによって人間界生まれの「神」は誕生しなくなった』

神裂「……?なぜそこまでしたんです?死んだのならほっといても消えますし……それにわざわざ『誕生』を遮ってまで……」


アイゼン『死した者がどうなるかは知っているか?』


神裂「………………いえ……確実な事は……」

魔術関係で色々と教わったこともあるが、
それらの信憑性がなくなってしまった以上、最早己の既存の知識に頼ることができない。

現にセフィロトの樹の真実を知り、
今までの認識の多くの部分が崩壊していた。


アイゼン『魂と器が砕けた者の力は、「故郷の力場」へと還る。そこでゆっくり「浄化」、』

アイゼン『つまり個人的感情や記憶・人格が消え、溶け込んでいく』

アイゼン『そして、新たに生まれる者の糧となる』


アイゼン『例えば、炎獄生まれの悪魔は死せば、その亡骸の力は炎獄の力場へと還る』

アイゼン『そして長い時間をかけて溶け込んでいき、その力場から新たな炎獄の悪魔が誕生する』


アイゼン『炎獄生まれ特有の特徴と性質を持ちながらな』


アイゼン『つまりこうも言える』

アイゼン『個人の人格や性格が消えようとも、力に刻み込まれている本能的な部分はしっかりと受け継がれていく、とな』
395 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:22:29.52 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ではだ。人間界の神々が一度に死んだ。その莫大な量の力や、「強くなった本質」が力場に還るとする』

アイゼン『どうなる?』

神裂「………………新たな神が誕生しますね。人格や記憶は違えど、その本質を受け継いで」

アイゼン『そうだ。連中の自己勝手な気質はな、全ての人間に共通する本質的な部分だ』


アイゼン『ここまでくればわかるだろう?』


神裂「………………ええ。防ごうとしたんですね?自己勝手な神がまた現れるのを』


アイゼン『そうだ。まあ、かなり強引だったがな、時期が時期だ。手早くこうするしか方法が無かった』

アイゼン『ただまあ、その力場の封印も不完全でな。時たま神の因子を持った人間が出現したが、それは然したる問題でも無い』

アイゼン『コレに関しては天界が処理してきたからな』


神裂「…………」


アイゼン『と、こうしたところで今度はまた別の問題が出てくる』

アイゼン『人間達は「力場」を失ったのだ。その日、人間界は「白紙」となったのだ』

アイゼン『我等や賢者のような他世界に「間借り」している者は問題は無かったが、そういう者は極一部』

アイゼン『大半の人間達が「拠り所」と「還る場所」、そして「存在の基盤」と「理」を喪失した』



アイゼン『全ての「法則」を失った「本物の混沌」。「虚無」だ』



アイゼン『曲がりなりにも魔術に精通しているそなたなら、その恐ろしさはわかるだろう?』


神裂「……………………はい……」


アイゼン『そしてその解決策こそがセフィロトの樹だった』
396 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:24:30.07 ID:yeP4fM6o

アイゼン『別の力場、つまり応急処置的に「天界の力場」と接続し、新たな「理」で人間達の存在を保つ。そして人間界を安定させる』

アイゼン『セフィロトの樹が作られた本来の目的はそれだ』

アイゼン『後世の者達から見れば「天界による支配体制」と捉えることもできるが、』

アイゼン『少なくとも当時の我等はこれが人々の為だと思っていた』


神裂「…………では……いつから今のように……?」

神裂「人間の魂を操作し、搾取して吸い取るようになったのですか?』

神裂「確かに当時はそうだったとしても、今や『奴隷』じゃないですか」

神裂「『今の私』が言えた口ではありませんが…………やっている事の本質は正に『虐殺』です」


アイゼン『ふふん、「虐殺」か。その表現を使うか……』


アイゼン『いつから、か。それは我等も確実な事はわからぬ』


アイゼン『愚かな事だが、我等は天界を信じきって全権を委ねてしまっていたからな』


アイゼン『言い訳するつもりは無いが、当時の天界の者達は非の打ち所が無い程に高潔だったのだ』


アイゼン『それにだ。例え疑念を抱けたとしても、状況が状況なだけに荒波を立てる訳にはいかなかった』


アイゼン『魔界の脅威が何よりも大きかったからな』

アイゼン『とにかく手を結んで共闘せざるを得なかった』


アイゼン『異界に「間借り中」の我等には、人々に新たな力場を与える方法も無かったしな』


神裂「…………」
397 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:26:14.48 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ただまあ、何が原因で天界の者達が変わってしまったかはわかっている』

神裂「…………何です?」


アイゼン『闇の左目と光の右目、二つ合わせて「世界の目」。これらの存在だ』



アイゼン『天界の者達は、人間界の中にこれらの存在を見つけてしまったのだ』

神裂「……世界の目?」


アイゼン『主神ジュベレウスのrjjalaoa…………うん?……』

アイゼンが何か言おうとしたところで、妙なノイズで言葉が潰れた。

神裂「……?」

アイゼンのその言葉はエノク語ではないのは確かだ。
天の者となっている神裂は、今はエノク語がわかる。

                 コッチ
アイゼン『すまぬな。魔界に慣れすぎてしまったようだ』

アイゼン『魔界のgakillahha語はわからんだろう?』


神裂「……はい」


アイゼン『うん……さて、どうしたものか、当てはまる言葉が中々思い出せん』
398 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:27:58.75 ID:yeP4fM6o

アイゼン『世界の目は過去を認識し、観測者となることでkhayhwp…………ぐ……」

神裂「……」

アイゼン『いや、時空をopikqall…………うん……」

神裂「……」

アイゼン『wolkjaqk…………ぎ……』

神裂「……………」


アイゼン『……っ……』


神裂「…………」


アイゼン『―――ンハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!』


神裂「……ひっっ!!!??」


アイゼン『…………ええいもう面倒だ。あれだ、要するにだ、それを使えば主神ジュベレウスを復活させる事ができたのだ』


アイゼン『ジュベレウス復活の為のカギだ』


アイゼン『原理は聞くな。とにかくそういうモノだ』

アイゼン『いいか?世界の目の概要に関してはここで終わりだ。わかったか?ハン?』


神裂「……は、はい!」

399 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:29:19.88 ID:yeP4fM6o

アイゼン『でな、片方の「闇の左目」は魔女、片方の「光の右目」は賢者が有していた』

アイゼン『いつ、どこからこのジュベレウスのrjjalaoa……ん、いや「世界の目」が人間界に落ちてきたのかは我等も知らん』

アイゼン『魔帝・スパーダ・覇王に敗れた際の激闘の中で零れ落ち、時空を越えて人間界に落下してきたか』

アイゼン『それともジュベレウス自らがpoaalqoの保全を図る為に、この辺境の目立たぬ人間界に隠したか』

アイゼン『どういう経緯かは今や誰もわからぬ。いつの間にかあったのだよ』

アイゼン『500年前まで、我等はこれがジュベレウスのrjjalaoaとは知らなかった』

アイゼン『真の正体を知らぬまま、強大な力を持つ最上級の秘宝の一つとして所有していたのだよ』


神裂「……」


アイゼン『まあそれでだ。これらの存在を知った天界がどうなったかは想像が付くだろう?』

アイゼン『彼らの行動指針の優先順位が変わったのだ』


アイゼン『最早、人間達の守護は重要な事では無い。その世界の目を手に入れることが最優先事項となった』

神裂「…………」

アイゼン『光の右目はルーベンの賢者、つまり間接的に天界の手中』

アイゼン『残るは魔女の所有する闇の左目、だ』
400 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:33:08.51 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そしてかの者達は、セフィロトの樹を利用し、我等の知らぬ所で人間界の支配を着々と強めていった』

アイゼン『世界の目を手に入れるまでは人間界を手放す訳にもいかぬからな』

アイゼン『そして人間界が魔界に滅ぼされる瞬間、どさくさに紛れて奪い取っていくつもりだったのだろう』


アイゼン『その時の為に、更にジュベレウスの復活の時に向けて天界内の強化も始めた』

アイゼン『人間の魂を吸い取ってな』

アイゼン『ジュベレウスの為に強い軍勢を、とな。上手い具合にセフィロトの樹の利用方法を見出したのだよ』


アイゼン『正に一石二鳥。全く、こういうところは抜け目が無いな天界は』


神裂「……あなた方は気付かなかったんですか?」


アイゼン『死した魂が力場に還るのは当然の事。我等は、人間の魂が天界に流れていく事を何も疑問に思っていなかった』

アイゼン『実はその先は力場ではなく、天界の者達の「腹の中」とは知らずにな』


アイゼン『まあ…………そこが我等の落ち度だな』


神裂「…………いえ……仕方ない事だと思います。巧みに隠されて来たのでしょうから……」

神裂「あなた方が気付けなかったのならば、誰にとっても不可能だったでしょうし……」

アイゼン『仕方ない…………か。当事者である我等はそのような軽い言葉では済まんがな』


神裂「い、いえ……あの……すみません」

アイゼン『気にするな。少なくともそなたが謝る道理は無い』

神裂「……」
401 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:35:19.01 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そうしてだ。しばしの時の後、遂にかの運命の時がやってきた』

アイゼン『人間界への魔界の侵攻が始まったのだ』


神裂「……」


アイゼン『我等魔女や戦巫女、それらの魔の戦士達はその侵略軍に立ち向かう為に動き』

アイゼン『そして天界も表向きは共闘の為、実はどさくさに紛れて背後から魔女を叩き潰し、闇の左目を奪取する為、』

アイゼン『人間界の直ぐ「外」に軍勢を集め待機した』

アイゼン『ルーベンの賢者は、当時はその真意は知らされてなかっただろうが、天界と共に戦闘態勢を取り待機していた』


神裂「……」


アイゼン『このまま事が進んでいたら、我等は挟み撃ちにされ全滅し、人間界は滅んでいただろうな』


アイゼン『だがこの時、誰しもが予想し得なかったことが起きた』



神裂「……スパーダの反逆ですね?」



アイゼン『そうだ』
402 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:37:09.86 ID:yeP4fM6o

アイゼン『突如、スパーダが魔帝に反旗を翻したのだ』

アイゼン『魔帝の右腕・魔帝の友、唯一魔帝と対等に振舞え、魔帝もそれを許していた存在』

アイゼン『魔帝を頂点とする支配体制の中核の一つ』


アイゼン『そんな存在が人間界側に付くなど誰が予想できた?』


アイゼン『我等についている魔界の諸神も、そして天界の者も混乱した』


アイゼン『あまりの事に我等でさえ混乱し、組織としての機能は完全に停止してしまった』


アイゼン『まあ、一番混乱したのは魔帝勢力だろうがな。正にパニックだ』


神裂「……」


アイゼン『誰しもが混乱している中スパーダは魔界にとんぼ返りし、』

アイゼン『瞬く間に魔帝配下の諸神・諸王達を片っ端から切り捨てていった』


アイゼン『そして頭を次々と失っていった魔帝軍は見る間に崩壊していった』
403 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:41:30.76 ID:yeP4fM6o

アイゼン『我等魔女の中には瞬間的にならば、火力のみならばスパーダを上回る規模を 発揮しうる事が可能な者もいた』

アイゼン『我もその一人だ』

アイゼン『ちなみにそなたを屠った者もだ』

神裂「…………!」

アイゼン『だがあくまで一瞬だ。時間にすればもって十数秒がいいところだ』

アイゼン『そしてそんな事をすれば力はスッカラカンになり、下手すれば命を落としかねん』


アイゼン『だがスパーダは違う。そんな時間制限などない。スタミナという概念など存在しないに等しい』


アイゼン『彼は正に鬼神の如く、休む暇なく立て続けに魔帝傘下の強者を屠っていった』

アイゼン『人間界の時間にしてたった三日で、魔界の全諸神・諸王の人数を半分にまで減らした程だ』


神裂「…………なっ……!」


アイゼン『「魔界最強の矛」、「主神の首を裂きし刃」、「究極の破壊」』


アイゼン『その名で呼ばれた力が、完全に解き放たれた瞬間だ』


アイゼン『一体どれ程の王や神達が切り捨てられたか、一体どれ程の力が放出されたか』


アイゼン『たった三日間でのこの大記録は、未来永劫破られることは無いだろうな』


アイゼン『「アンブラの魔女」という我等も大概だが、スパーダの血も我等に負けん程に「ふざけておる」存在だな全く』
404 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:44:03.76 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そんなこんなでだ。我等がようやく状況を把握し始めた時には、既に魔帝軍は崩壊していた』

アイゼン『一部では、統率が残って進軍を続けていた一群もいたが、全体としては最早壊滅だ』

アイゼン『だが依然としてな、我等は組織としては今だ混乱していて動けなくてな』


アイゼン『それを見かねた者達が、組織を離脱しスパーダと並び「個人的」に戦い始めた』


アイゼン『組織という構造は戦力としては強みだが、やはり即応性が低いのが難点だな』

アイゼン『想定外の事態を前にすると足が止まってしまう』

神裂「…………ええ……わかります」


アイゼン『そういう事でだ。アンブラの魔女という組織自体は動けぬまま、戦いは終わりへと近付いていった』


アイゼン『その締めこそがスパーダと魔帝の決闘だ』

アイゼン『そしてそれこそが最大の難関であった』

アイゼン『スパーダにとってでさえ困難な、だ』

アイゼン『魔帝がどのような力を持っていたかはわかるだろう?』



神裂「ええ……聞いただけですが『創造』だと」
405 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:48:19.95 ID:yeP4fM6o
アイゼン『そうだ。それでな。スパーダもその点を懸念していた』

アイゼン『魔帝は創造がある限り「殺しきる」事ができんからな。そう簡単に戦いに決着はつかん』

神裂「…………でも確か……打ち勝って封印に成功したのでは?」


アイゼン『……まあな。スパーダは激戦の末、「一人」で打ち勝った。「封印」は彼一人ではできんかったが』

神裂「?」

アイゼン『そもそもだ。封印するには、相手が止まっていてくれなければならん。そしてそうするには、大きなダメージを与えなければならん』

アイゼン『だがな、魔帝は素早く己を「創り直し」、そしてリセットだ』

アイゼン『封印を施す隙が無かったのだ』

アイゼン『スパーダがいくらダメージを負わせようが、封印できるレベルまで落ち込む前に魔帝は元通りだ』


神裂「…………ですが二ヵ月半前は……」


アイゼン『二ヵ月半前あの「人間の少年」が創造を壊せたのは、』

アイゼン『スパーダの息子達と孫の三人で、力ずくで一気に押し切ってできた隙のおかげだ』


アイゼン『スパーダと並ぶ二人、そしてそこに匹敵しうる一人』

アイゼン『その三人を相手にしたら、さすがに「完全体の創造」もその作業が追いつかんかったのだろう』

アイゼン『だが2000年前の当時、スパーダ一人ではそこまで圧倒して押し切ることはできんかった』

アイゼン『封印する隙を作れなかったのだ』


神裂「……ではどうやって?前から懸念していたのなら何か策があったのですよね?」


アイゼン『そうだ。その問題を解決する為に、「時の腕輪」という魔導器が創られた』



アイゼン『スパーダと「契約」した、とある一人の強大な魔女の手でな』

アイゼン『彼女の全ての力と引き換えにな』
406 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:50:47.45 ID:yeP4fM6o

神裂「…………契約……スパーダと……」

アイゼン『彼女は先程言った、組織を離れ個人的に戦い始めた者の一人だ』

アイゼン『後々の長の座が約束されていながらも、彼女は掟を破り離反しスパーダの傍に付いた』

神裂「離反……」

アイゼン『掟は掟だ。例外は決して認められん』

アイゼン『誰しもがその行動を内心で褒め称えながらも、事実上彼女はアンブラへの「反逆者」となった』


神裂「……」


アイゼン『……でな、その彼女が最も得意としていたことはな、「時空魔術」だ。その分野の第一人者だった』

神裂「時空魔術?」

アイゼン『ウィッチタイムは知ってるか?』

神裂「……いえ」


アイゼン『周囲の空間の時間軸を切り離し、擬似的に過減速する技術だ』

アイゼン『ウィケッドウィーブと並ぶ、魔女の秘技の一つだ』

アイゼン『これにより、強大な存在との超高速下の戦闘を可能としている』

アイゼン『諸神・諸王以上と刃を交えるならば、こうでもしないとついて行けんからな』

アイゼン『まあウィケッドウィーブと同じく、境地に達すれば諸王すら圧倒できるが』
407 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:53:26.66 ID:yeP4fM6o

神裂「……」

時空魔術。
概念だけは聞いた事があるが、実現していたとは今まで聞いた事が無い。

身体の感応速度を加速させる魔術は神裂も知っているが、それは身体強化の延長線。

時間軸を捻じ曲げるのとは原理が全く違う。


アイゼン『現にそなたも先程、これで圧倒されておったではないか』


神裂「…………あ……」

そう、今思えば、先程の魔女も突如スピードが上がったりしていた。
力を解放し、感応速度が爆発的に高まっていた神裂ですら認識できない程に速く。

アイゼン『この技術はな、魔界の力の特性を再現した物だ』

アイゼン『魔の力というのはな、大きければ大きいほど「界」に負荷をかけ、空間を捻じ曲げていく』

アイゼン『あげくに、周囲の空間の「理」をも変えていく』


アイゼン『力こそが唯一のルール。その前には時間軸ですら捻じ曲げられていく』

アイゼン『境地に達した力は、外界とは隔絶した独自の時間軸を保有する、といったところか』


神裂「…………?」


アイゼン『ん……まあ簡単に要点を言えばだ。力が強い程、そして解放すればするほど、悪魔は動きが加速していく』

アイゼン『まあ、その加減は個人個人の気質や性格、そして戦闘スタイルにかなり影響されるがな』

アイゼン『スパーダの一族のような超肉体派の連中は、それはそれは凄まじい速度になるぞ』
408 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:55:18.99 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ん……また話が逸れたな。まあとにかくだ。その分野に精通した魔女がスパーダに付いたのだ』

神裂「…………」

アイゼン『そして、彼女はスパーダの力を元に究極の時空魔術が刻み込まれている魔導器、』


アイゼン『「時の腕輪」を創りだした』


アイゼン『ちなみに彼女は、それと引き換えに魔女としての全ての力を失ったがな』


神裂「で、その『時の腕輪』というのが魔帝を封印する切り札だったのですか?」


アイゼン『まあな。封印できる「役」はやはりスパーダだけだったが。元々彼の力を動力源としているからな』

アイゼン『その莫大な力が必要なのだよ』


アイゼン『本来の性能は「彼の血」にしか引き出せん』


アイゼン『この方法を使えるのはスパーダのみだった』
409 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:56:52.14 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ま、使い方はこうだったらしい。まず「時の腕輪」を閻魔刀と結合』

アイゼン『魔剣スパーダでできるところまで魔帝にダメージを負わせ、そこにこの閻魔刀を叩き込む』

アイゼン『そして、「魔帝という空間」に時の腕輪の効力を刻み込んでいく』


アイゼン『それを何度も繰り返す。いくらスパーダの力を受けた時の腕輪でも、魔帝相手では、一発二発では全く効果が出てこないからな』

神裂「魔帝の動きを緩める為にですか?」

アイゼン『いや……少し違うな』

アイゼン『魔帝の戦闘速度自体は変わらん』

神裂「?」



アイゼン『狙いは「創造」だ』


アイゼン『魔帝の力はスパーダと並ぶ。格が同じだ。いくらスパーダでもその力自体の時間軸は支配できん』

アイゼン『だが創造はまた別だ。あれはある意味、「方程式の塊」だからな』

アイゼン『魔帝自身が戦闘に使う力とは分離している、また別の機構だ』

アイゼン『ダメージを負わせれば、「創造」が損壊部分を創り直そうと稼動する』

アイゼン『そこに閻魔刀で空間を裂き、「時の腕輪」の効果を少しずつ刻み込んでいく』


アイゼン『これでどうなっていくかはわかるな』


神裂「…………最終的に『創造の時間軸』、つまり『稼動速度』が極端に落ち込む……という事ですね』
410 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 21:59:28.64 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そうだ』

アイゼン『これで結果的に隙が生まれる。封印を施す充分な隙だ』


アイゼン『傷を負った魔帝を、スパーダは余裕を持って封印した』

アイゼン『そして更にスパーダは閻魔刀と時の腕輪を使い、』

アイゼン『魔界の大穴からの「侵食速度」を緩め、己の魂の多くの部分を礎としてその口を封印した』

アイゼン『その後、覇王をも封印』


アイゼン『これでかの大戦は終結した』


アイゼン『人間界にはほとんど被害なく、まさに完全な勝利…………だったはずなのだがな』


神裂「……?」


アイゼン『綺麗さっぱり解決とはいかなかった。色々とまた別の問題が残ってな』
411 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:01:27.14 ID:yeP4fM6o

アイゼン『まず、魔帝の存在。生きて存在している以上、復活の時がいつか訪れるのは必然だ』

アイゼン『覇王も、だ』

アイゼン『そして「魔界の口」も問題だった』


神裂「……それは閉ざされたのでは?」


アイゼン『……ああ、閉ざされただけだ。「穴自体」は今も存在している』


アイゼン『そしてその封印も不完全でな』


神裂「―――……!!!つまり、また開く時が来ると?!」


アイゼン『…………まあな。まず、スパーダでさえ、この口を完全に消すことは出来なかった』

アイゼン『魔帝軍と魔帝の戦いで、底なしの力を誇るさすがのスパーダも疲弊してな、封印も不完全』

アイゼン『かといって魂の大部分を使ってしまった為、再封印を施す力も無い』


アイゼン『いつか復活する魔帝を再び封印するのも困難だった』


アイゼン『魔帝は馬鹿では無いからな。同じ手で負けることはまず有り得ん』


アイゼン『時間をかければスパーダの力も癒えただろうが、人間界でそうするには少なくとも数万年はかかる』

アイゼン『魔界ならば治癒速度も速いのだがな』

アイゼン『そして魔界の口の封印は、それよりも速くに崩壊するのは確実だった』


アイゼン『更にだ。実は今な、二ヵ月半前の戦いの負荷でその封印がかなり揺らぎ始めておる』
412 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:03:27.71 ID:yeP4fM6o

神裂「!!!!!」


アイゼン『だがまあ、スパーダはこの事態を見越していた』


アイゼン『そして後に、その解決を委ねる事になる。「次の世代」にな』



神裂「…………それって……つまり……!!」


アイゼン『皮肉な事だな。最愛の息子達に困難な宿命を背負わせるとは』



アイゼン『それこそ、血の滲む思いだっただろうなスパーダは』

アイゼン『できれば自分で全てを成し遂げたかったはずだ』

アイゼン『せめて家族達はそういう連鎖の外におきたかったはずだ』


アイゼン『だがそれは許されなかった』


アイゼン『彼はこうせざるを得なかったのだ』


神裂「…………」
413 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:05:00.33 ID:yeP4fM6o

アイゼン『それでだ。スパーダの願いどおり、まず魔帝の件は息子達、そして更に次の世代の手によって解決した』

アイゼン『二ヵ月半前にな』

アイゼン『残るは覇王と魔界の口』

神裂「そ、それは……どうするんですか?」

アイゼン『ん〜ハッハァ。心配には及ばん。もう解決の目星は付いておる』


神裂「―――!!!本当ですか!!!!!」


アイゼン『これは我も意外だったな。てっきり先に動くのは「弟」の方だと思っていたのだが』


神裂「……!!!??じゃあ……つまり……!!!」


アイゼン『今、「兄」が主導して動いておる。バージルがな』


神裂「!!!!!!!」


アイゼン『まあ、閻魔刀をバージルに授けた時点でスパーダは予見してたのかもな』


アイゼン『性格もバージルの方が父に似ておるしな』

アイゼン『力を追求してきたが、ある日を境に何かを守る為に戦い始める、という境遇も似ておる』

アイゼン『背景は全く違うが、まるで父の半生をなぞっておるようだ』

アイゼン『逆にダンテの方は母似だな。というか母の「生まれの気質」が見事に受け継がれておる』

アイゼン『まあ、母はあそこまでトンではいなかったが。息子二人とも両極端だな全く』

神裂「……?」

414 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:08:15.63 ID:yeP4fM6o

アイゼン『ま、そういう事でバージルが動いておる。魔界関係の事は心配ない』

アイゼン『困難すぎる事なのは違いないが、スパーダの血は必ずやり遂げる』

神裂「……そう……ですね」



アイゼン『それどころかな。彼は「人間界そのもの」の問題も「己の身と引き換え」に解決しようとしておる」


アイゼン『我等「魔女の義務」をも、あの男は引き受けた』


アイゼン『いやはや、その度量には驚かされるな全く』


神裂「……また別に何か問題が?」


アイゼン『2000年前の大戦の後、魔界に纏わる問題も残ったか、人間界の問題も同じく残ってな』

アイゼン『セフィロトの樹だ。依然、人間達の魂は天界の手の中にあった』

アイゼン『天界は大戦の際に一気に動くつもりだったが、スパーダの介入でその機会が無くなってしまったからな』

アイゼン『そしてスパーダが人間界に残った以上、天界も天界で容易に手が出せなくなってしまった』


神裂「……スパーダはセフィロトの樹について何も言わなかったのですか?」


アイゼン『ん?ああ、まあ彼も最初は驚いていたな。だがな、我等と同じく彼も天界の真意までは気付けなかった』

アイゼン『我等からすれば、力場を失った一般の人間達を天界は懐で守ってくれている、といった認識だったからな』


神裂「…………」



アイゼン『そういうことでスパーダも容認したのだ。セフィロトの樹の存続をな』
415 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:10:58.05 ID:yeP4fM6o

アイゼン『それにな、当時はセフィロトの樹が起動してから既に二万年以上経っていてな』

アイゼン『人間達はその中で既に安定しつつあったのだ』

アイゼン『「この人間達」は確かに弱い。寿命に縛られ容易に死ぬ』


アイゼン『だがな…………その分、極端な「変動」はおきなかった』

神裂「……」


アイゼン『全体的に穏やかだったのだよ』

アイゼン『まあ、人間同士の戦いはいつの世もあったが、』

アイゼン『それでも古き神々が君臨していた時代よりは遥かに秩序が保たれていた』

アイゼン『人間達は次々と。我等からすれば、かなり早いサイクルで死に、そして世代を連ねていった』

アイゼン『そしてその中で紡がれる無数の物語』

アイゼン『短命だからこそ、一瞬に全てをかけて燃え上がる美しい灯火』


アイゼン『短命だからこそ、限りある寿命だからこそ、彼らは勇気と誇りを持ちその一瞬に全てをかけていく』



アイゼン『敵意も。愛も。喜びも。悲しみも。短命な分、全てが濃密であり、まるで芸術品だ』



神裂「……………………………………………………」
416 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:12:23.70 ID:yeP4fM6o

アイゼン『我等もな、そしてスパーダも。この「人間界の姿」に愛着をもってしまったのだよ』



アイゼン『そもそも、スパーダは「この人間界の姿」を見て、「この人間界の為」に立ち上がったのだ』


アイゼン『彼が心奪われ、そして愛してしまったのは「この状態」の人間界なのだからな』



アイゼン『更にそれ以前に、「この人間界」の体制を壊す訳にはいかない』

アイゼン『セフィロトの樹をいきなり全て取っ払ってしまえば、大半の者達は「力場」を失う』

アイゼン『それは正に最悪だ。滅ぶに等しい事だ』


神裂「…………」


アイゼン『だから誰も変化を望まなかったのだよ』

アイゼン『我等はこの人間界を守る為、そして愛してしまった為』

アイゼン『そして天界はいずれ闇の左目を手に入れる為、そして力を拡大させる為にな』

アイゼン『これまた皮肉な事にな、双方の望みが一致した訳だ』
417 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:13:19.54 ID:yeP4fM6o

アイゼン『だが人間界には天界とルーベンの賢者、魔界の諸神に支援されている我等、そしてスパーダ』

アイゼン『この三勢力が半永久的に留まる事になる』

アイゼン『それはそれで、また様々な問題の火種となり得る。そもそも天界と魔界は完全には相容れないからな』


アイゼン『そこでそれぞれの権利の領分を取り決め、誓いを立てた』


アイゼン『天界は人間達のこの世界を管理させ安定させる事。大きく動けるのは人間界の為である事のみ』

アイゼン『我等魔女は天界とルーベンの賢者を監視』

アイゼン『ルーベンの賢者は我等魔女を監視』

アイゼン『スパーダの役目は、魔界からの脅威を退ける事とそれぞれの力関係を監視する事』



アイゼン『そして人間界の保全が最優先になるように行動する事、だ』



アイゼン『こうして相互監視、それぞれの領分に取り入らないよう、バランスが保たれた』


アイゼン『今から約520年前まではな』


神裂「…………確か、アンブラが滅亡する頃ですね?」



アイゼン『…………正しくな。このバランスが崩壊したのだ』


アイゼン『天界の策略でな』
418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:14:29.15 ID:yeP4fM6o

神裂「何があったんです?」

アイゼン『色々と複雑でな……』

アイゼン『まず当時のルーベンの長、「バルドル」。光の右目を所有していた男だ』


アイゼン『この男は天界と深く繋がっていてな。彼もまた、天界の意志に沿いアンブラの魔女から闇の左目を奪取しようとしていたのだ』


アイゼン『そして奴は、アンブラを陥れた』


アイゼン『奴の光の右目は、既に天界の協力で本来の姿で覚醒していてな、その目を使ってlkoiagffda、いや……』

アイゼン『うん…………「観測者として因果律を見定めた」…………これは何か違うな』


神裂「……あの、正確でなくとも大体で良いですよ?』


アイゼン『……………まああれだ。かなり簡潔に言うと未来を見たようなものだ』


アイゼン『とにかくだ。奴は「後に闇の左目が継承されるであろう者」を特定し、その者が「生まれる前」に手を加えたのだ』


アイゼン『まあ、闇の左目は特殊な体質と血筋の者しか継承できんからな。そこまで大変な作業ではなかっただろう』


アイゼン『そしてバルドルは「その者を生む予定」の母を誑かし、そして子を儲け、「後の闇の目の継承者」を「自分の娘」としたのだ』

アイゼン『いわば未来を変えたのだな』

アイゼン『その娘は順当に成長していれば、若き戦士として後にアンブラに君臨し、長の座さえ狙えた者となっていただろう』

アイゼン『アンブラの核の一つとなり、そして民を守る者となっていたはずだろう』


アイゼン『だが彼女の未来は書き換えられた』


アイゼン『賢者一族と魔女一族の禁忌の子』


アイゼン『アンブラの運命を変えた子となった』
419 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:15:51.02 ID:yeP4fM6o

神裂「…………」

アイゼン『互いに距離を置き、お互いに干渉せずにバランスを保っていた我等と賢者』

アイゼン『この二者間が繋がり、子を儲けたとなっては大問題だ』

アイゼン『更にだ。その子は闇の左目を継承してきていた血筋』


アイゼン『この事で一気に緊張が増した』


アイゼン『これは一部の上位の者達にしか知らされていなかったが、我等はその子の父がバルドルである事を突き止めた』

アイゼン『そして光の右目も覚醒している事をもな』

アイゼン『当時の我等は、この目がジュベレウス復活のカギである事は知らなかったが、それでも相手の狙いが闇の目である事はわかる』


アイゼン『「闇の目を狙った戦争行為」。我等はそう捉えた』


アイゼン『賢者も賢者で、裏を知っているバルドルを省き、上層部は魔女が光の目を狙って動いたと捉えたようだ』

アイゼン『バルドルがそう煽ったんだろうな。戦争を起こす為に』


神裂「…………」


アイゼン『そして魔女と賢者は衝突し、100年に渡る戦いの後、賢者が絶滅するという形で決着が着いた』



アイゼン『魔女が勝利したのだ』


アイゼン『だがな。それがまた問題となった』
420 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:17:54.49 ID:yeP4fM6o

アイゼン『どちらが先を手に出したか、どちらに非があったかなどは最早どうでも良かった』


アイゼン『問題はパワーバランス』

アイゼン『ルーベンの賢者の絶滅。それにより大きく傾いた人間界のパワーバランスだ』

アイゼン『更に、その戦争から消すことの出来ない巨大な火種が誕生した』


アイゼン『賢者と天界は繋がっている』

アイゼン『当然、我等魔女は天界に対しても疑念を抱き、そして敵意を抱く』

アイゼン『魔女の怒りは爆発したのだ。こちらは裏切られたと認識しているのだからな』

アイゼン『あちこちで天使と魔女の戦いが散発的に起こり、更に我等は他の人間の天界勢力、』

アイゼン『十字教徒達にも敵意を向けるようになった』


神裂「…………!!!!」


アイゼン『当然、天界はそれ相応の行動をとる』



アイゼン『その結果がこのザマよ』



アイゼン『そなたが知っている伝説通りの「結末」だ』


神裂「ちょ、ちょっと待ってください!スパーダは結局介入しなかったのですか?!」
421 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:21:27.33 ID:yeP4fM6o

アイゼン『介入できなかったからな。状況的に』

アイゼン『まず魔女と賢者、どちらに非があるかは、第三者のスパーダからは確かめようが無い』

アイゼン『というかだ、彼が話を聞く前にに戦火が開いたからな』

アイゼン『そしてその後の天界の総攻撃による「魔女狩り」』

アイゼン『これも彼は動けなかった』


アイゼン『彼の最も重要な理念は「人間界の為」』


神裂「…………」


アイゼン『では、その天界が動く直前の状況を見てみると?』

神裂「…………そ、それは……魔女の方が……」


アイゼン『そうだ。我等こそが人間界への脅威となりつつあった』


アイゼン『大勢の一般の人間達へ敵意を向け、そしてあちらこちらで無差別に天使を狩る』


アイゼン『スパーダにとって、双方が掲げる「正義」のどちらが正しいかは二の次だった』



アイゼン『より大勢の命が救われる方を選ぶしかなかった』



アイゼン『だからこそ、スパーダは天界の動きを黙認した』
422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:23:05.00 ID:yeP4fM6o

アイゼン『彼もその時、これは天界が太古から張り巡らせてきた罠だと感付いたかもしれない』

アイゼン『だがな、そこに気付いたとしても当時の彼にできる事は無かった』

アイゼン『状況的に見て人間達は人質。その魂は天界に握られていた』

アイゼン『閻魔刀を使えば、セフィロトの樹を切断する事は出来たかも知れぬ』

アイゼン『だがな、それには莫大な力が必要だ。それこそ全力の一振りを必要とする』

アイゼン『当然人間界内でそんな力を行使すれば、被害は莫大な規模になる』

アイゼン『最悪、人間界が崩壊する恐れがある』


アイゼン『これも天界の「保険」だろうな、セフィロトの樹の強度は人間界の器の強度を遥かに上回っていたのだ』


アイゼン『そして天界の軍勢と正面から戦うのも被害が伴う』

アイゼン『そもそもどうにかして天界を退けたとしても、あるいはセフィロトの樹を破壊できたとしても、』

アイゼン『それと引き換えに「この人間の世界」は理を失い崩壊する』



アイゼン『これは見方を変えれば、スパーダの生涯でたった一度の「敗北」と言えるだろうな』


神裂「…………」


アイゼン『彼は戦わずして、戦うことすら出来ずに「負けた」』



神裂「…………」


アイゼン『そしてスパーダは我等を見捨てた。見殺しにした』


アイゼン『より大勢の人間の世界と命を守る為にな』

423 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:24:46.45 ID:yeP4fM6o

アイゼン『それにだ。スパーダが天界を当初信頼してしまった理由は、』


アイゼン『彼が直に会った者が十字教の神であった事が原因でもある』


神裂「…………?」

アイゼン『四元徳率いるジュベレウス派、十字教はその下部派閥だ』

アイゼン『この十字教の者はな、どちらかというと人間を慕っていてな』

アイゼン『できるだけ人間達を守りたがっていた連中だ』

アイゼン『天界内の穏健派とでも言うか』

神裂「……」

アイゼン『ジュベレウス派はそこを上手く利用したのだろう。人間界の実質的管理をこの十字教に任せ、』

アイゼン『2000年前の大戦後の誓いの場でも、スパーダと十字教の神を面会させた』

アイゼン『そしてスパーダは「彼」を見て信頼してしまったのだ』

アイゼン『彼には人間に対する「本物の愛」もあったからな』


神裂「……そう……なんですか……」


アイゼン『……少しほっとしたか?そなたの慕う神が穏健派で』

神裂「あ、いえ…………」


アイゼン『これは忘れるな。天界は天界。どれだけ穏健派だろうと、セフィロトの樹を創った張本人の一人だからな』


神裂「…………はい」
424 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/31(火) 22:25:20.06 ID:mkqxeHs0
今夜の>>1は本気だぜ
425 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:25:48.46 ID:yeP4fM6o

神裂「…………ところで……あなた方は憎んでいますか?スパーダを?」


アイゼン『ん?いや。我等は全く憎んでおらん』

アイゼン『確かに哀しい結末だが、我がスパーダと同じ立場なら確実に同じ選択をとっていた』


アイゼン『誰も彼を責める事が出来ん』


アイゼン『我等が彼を責める事は絶対に許されん』


アイゼン『そして、この件について彼を責める者は我等は絶対に許さぬ』


アイゼン『絶対にだ』


アイゼン『これは、天界の目的を知りえる機会があったのにも関らず、見過ごしてきた我等の自己責任だ』

アイゼン『スパーダにセフィロトの樹の事を伝え、心配ないと教えたのも我等だ』



アイゼン『全てが我等アンブラの魔女の責任だ』



神裂「…………」
426 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:28:14.61 ID:yeP4fM6o

アイゼン『…………まあ、そんなこんなでな』

アイゼン『この問題は我等がケリをつけねばならん事』

アイゼン『セフィロトの樹も、今の状況も、我等が創ったようなモノ』


アイゼン『我等が清算するべきなのだ』


アイゼン『これが今の「魔女の義務」だ』



神裂「……それで、バージルさんはそれをも引き受けたのですか?」


アイゼン『まあな。彼は彼で、父の行動に色々責任を感じておるらしい』

アイゼン『彼が思い悩む事ではないのだがな。まあ、彼が共闘してくれるのならば百人力』

アイゼン『拒む理由も余裕も無い』



アイゼン『ようやく本格的に動けるのだ』



アイゼン『ただ、全てを彼に押し付ける訳では無い』


アイゼン『我が子孫の二名にも身を粉にして動いて貰っておるし、』


アイゼン『我も可能な限りサポートする』
427 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:30:15.11 ID:yeP4fM6o

アイゼン『そしてそれが今だ』


アイゼン『そなたの先程の戦いと死も、この始まりの一部に過ぎん』


神裂「じゃあ私が戦った魔女は……」


アイゼン『彼女もバージルと共闘している』


アイゼン『もう一方は会っておらんだろうが、二人の魔女とバージルは共に動いておる』

アイゼン『この二人共、我に並ぶ、いや我以上のアンブラ史上きっての強者だ』

アイゼン『決してバージルには引けをとらん』


神裂「…………」


アイゼン『こう思えば、少しは誇りになるのではないか?』

アイゼン『バージルと同等の者に一切り加えることができた と』


神裂「……ま、まあ……」


アイゼン『ま、本気の本気、全力でやっていたとしたら掠りもせんだろうがな。そなたは一撃で即死だ』


神裂「……………………………でしょうね(ここで上げて落とすんですか)」
428 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:32:15.76 ID:yeP4fM6o

神裂「……あの、清算……ってつまりすべてを解決することですよね?」


アイゼン『そうだ』

神裂「スパーダでさえ動けなかった問題を解決できるんですか?」

アイゼン『あの時と今は状況が違っていてな』

アイゼン『まずバージルは全盛期、つまり一連の大戦で疲弊する前のスパーダと同等の力を有しておる』

アイゼン『傷の癒えていなかったスパーダには出来ずとも、今のバージルにはできうる事がある』


アイゼン『そして主神ジュベレウスの死。これにより、天界内も混乱がおき始めている』


神裂「ジュベレウスって……さっき言ってた……」

アイゼン『そうだ。つい数年前、生き残っていたバルドルと天界は光の右目と闇の左目の両方を手に入れてな』

アイゼン『ジュベレウスを復活させた』

アイゼン『だがその直後に、そなたを屠った者が打ち倒した』

神裂「!!!!!」


アイゼン『これにより、天界は人間界を手中に収めておく最大の目的を失い、そして天界内でも火種が生まれ始めた』

アイゼン『ジュベレウスの為に今まで耐え忍んできたのだ。その最大目的が消失した今、』

アイゼン『ジュベレウス派の四元徳を筆頭とした、天界の体制に揺らぎが生じ始めておる』


神裂「……」


アイゼン『そして魔帝の脅威も失せ、覇王の件の解決も秒読み段階』


アイゼン『正に好機。今こそ「時代の変わり目」だ』



アイゼン『今こそ動く時だ』
429 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:33:54.66 ID:yeP4fM6o

神裂「…………では具体的に何を?」


アイゼン『まあ、「まず」はセフィロトの樹を破壊する。いや「一発で切断」する、か』

アイゼン『覇王の排除・魔界の口の件を平行しつつ―――』



アイゼン『―――そして「利用」しつつ、な』



神裂「―――破壊って……!!!!??」


セフィロトの樹の破壊。それが状況的にできないからこそ、スパーダは動けなかったのではないのか?
先の話の通りだと、それは人間にとって最悪の結末を引き寄せるのではないのか?

さっきまでとは食い違う、矛盾している言葉に神裂は興奮して立ち上がろうとした。

だがそんな彼女を、アイゼンは軽く左手を挙げて制止し。



アイゼン『ただ切る訳がないだろうが』



アイゼン『だから「まず」と言っておるだろうが』



アイゼン『全ての問題を解決する算段は既に出来ておる』
430 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:37:12.26 ID:yeP4fM6o

アイゼン『魔界の口や覇王の件はもちろん』


アイゼン『セフィロトの樹の破壊と、それに纏わる被害の件、』

アイゼン『それと力場の件も全て入念に練っておる』

アイゼン『「全ての問題」を今の一度で解決させる』



神裂「…………で、ですが……さすがに一度にそんな……!!!!」


アイゼン『いいか、これだけは我が魂に賭けてやる』


アイゼン『「闇の目を覚醒させた魔女」と「列長を越えた魔女」、』


アイゼン『そして完全なる成長を遂げた、「全盛期のスパーダの血」に不可能は無い』



アイゼン『それぞれが己の力を信じ、道を歩み通せば必ず成就する』




アイゼン『必ずな』




神裂「………………ッ!!!!」
431 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:38:22.45 ID:yeP4fM6o

アイゼン『………………と、はいったもののだ』

と、アイゼンは瞳を光らせキメた次の瞬間、今度は力が抜けたようにヘラヘラ笑いながら、
息を吐き背もたれにだらしなくよりかかった。


アイゼン『重要な「パーツ」、「駒」が依然足らなくてな』

アイゼン『ハッハー、まだ準備が整っておらんのだなこれが』

アイゼン『このままでは計画がオジャンだ』


神裂「―――じゃ、じゃあダメじゃないですか!!!!!???」


その呆れ笑いのように口の端を上げているアイゼンに対し、
声を張り上げて立ち上がる神裂。


アイゼン『ハァン待て待て。あるにはある。どの道手に入れる』

アイゼン『だがな、その「候補」がいくつかあってな』



アイゼン『どれを選ぶか、迷っておるのだ』
432 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:40:07.86 ID:yeP4fM6o

アイゼン『まあ、第一候補は「今」手中に収めているのだがな』

興奮する神裂とは対象的に、
アイゼンは落ち着いたままニヤニヤ笑い、顎の下を摩りながら彼女をジロジロと眺め始めた。

アイゼン『これは相手側の意志も関係しておってな』

アイゼン『相手の答えを聞き、その心を確かねばならん』


神裂「で、では!!!さっさと決めてください!!!!!もう計画は始まってるんですよね!!!!」


神裂「なんでそう悠長に構えているんですか!!!!!!!???」

アイゼン『なぜそなたがそんなに興奮する?』




神裂「――――――な、なな、―――」




神裂「――――なぜって当然だろうが!!!!!!!!!皆の命がかかってんだっつうううんだよ!!!!」




アイゼン『ほぉう?そなたは「天の者」。立場的には我等の敵だぞ?』
433 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:42:48.06 ID:yeP4fM6o

アイゼン『我等の計画に不備があるのを喜ぶべきでは無いか?」



神裂「―――ふ、ふざけんじゃねーぞアバズレが!!!!!!!!!!違う!!!!!!!!!!!」



アイゼン『何がどう違う?言って見ろ。「天使」よ―――』



アイゼン『―――天の手先よ』


今にも跳びかかってきそうなくらい興奮している神裂に対し、
相変わらず平然と言葉を返すアイゼン。


神裂「私は……!!!!!!!私は!!!!!!!!」



神裂「確かに身は天の者!!!!!!」



神裂「だけど―――!!!!!!!!!」



                  
神裂「―――――――『私自身』は『人間』だッッッッ――――――――!!!!!!!!!!!!!!」




神裂「――――――舐めてんじゃねーぞコンチクショォォオォォォォォォオ!!!!!!!!!!」


434 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:44:32.50 ID:yeP4fM6o

その激昂した神裂の言葉。

アイゼンはそれを聞き、小さく笑った。

そして一回だけ手を叩き。


アイゼン『ハァ〜ハン。これで決まったな』



神裂「…………………………………………………………ハァ??」



アイゼン『合格だ』


アイゼン『神裂火織』




アイゼン『我等はそなたに決めた』




神裂「――――――……………??????」
435 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:46:13.37 ID:yeP4fM6o

突如放たれたアイゼンの言葉。

神裂は口をぽっかりと開け、呆然として立ち尽くしていた。
何を言われたのか、そしてその意味は。

それらを理解するまでにいくらか時間が必要だった。

そんな彼女に対し、アイゼンは淡々と言葉を続けた・


アイゼン『いいか、よく聞け。裁きを下す』


アイゼン『そなたに科せられる「刑」は―――』



アイゼン『我等の「駒」となり、我等と「共に」戦い―――』




アイゼン『―――人間達を救う為に死力を尽くす事だ』




アイゼン『―――この戦いに身を捧げろ』




神裂「―――」


そして完全に思考が停止する。

一体この魔女は何を言っているのか。
436 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/31(火) 22:46:35.07 ID:mkqxeHs0
(*´ω`)っ∠※ ねーちん採用おめでとうww
437 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:49:12.17 ID:yeP4fM6o

固まって15秒後。


神裂「………………………………い、いいんですか……?……『私』で……………?」


それが、この判決を聞いた彼女の第一声だった。
停止しそうな思考の中、彼女がどうにかして吐き出した一言だ。

『いいんですか?私で?』


これは彼女の今の純粋な気持ちだったのだ。


知らずとはいえ、天界の手足となった身。
その罪は重い。


そんな自分なんかがバージル達と並び。

そして人間を救う為の大仕事を担うなど。


アイゼン『そう思えるからこそ、そなたが良いのだ』


そんな神裂の心の中を察したようなアイゼンの言葉。



アイゼン『答えは聞かぬ。そなたのことだ。聞いたところでそれは「無駄」な事だ』



神裂「………………………………………………………あ、ありがとうございます…………」

そして神裂はその場で、アイゼンに深く頭を下げた。

瞳から大粒の雫を落としながら。
438 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:50:59.52 ID:yeP4fM6o

それは嬉し泣きだった。

己の「存在の過ち」を償う機会に対しての。


この突如舞い降りてきた、二度目のチャンスに対しての。


『本当の意味』で人間達の為、そして友の為に戦える機会を与えられて。

彼女はその場に泣き崩れた。
両手で目を擦り、言葉にならない声を上げながら。


激昂していた分その興奮の反動で、彼女の心が一気に溶け落ちていった。


数十秒後、黙って見ていたアイゼンは椅子から立ち上がり進むと、
そんな神裂の前に屈み、彼女の顎を右手で軽く上げた。

そして神裂の鼻先と仮面の先端が触れそうな距離から、彼女の顔を覗き込み。


アイゼン『神裂火織』


神裂「うぅ゛…………はぃ゛………」


アイゼン『立て』


神裂「―――………………」
439 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:53:08.36 ID:yeP4fM6o

アイゼンの言葉に促され、そして顎に優しく添えられている手に従い、
神裂は依然泣きながらゆっくりと立ち上がった。

アイゼン『さて、決まったならさっさと事を進めようか』

アイゼン『具体的な計画内容は後だ。まずはそなたの身を「清め」ばならん』


アイゼン『「絶大なる魔」でな』


アイゼンは手を神裂の顎から頬へと優しく伝わせ。
もう片方の手で己のマントの端を掴み、一度大きく広げて仰がせた。


アイゼン『少し痛むが、しばしの辛抱だ』


神裂「………………?」


その瞬間。

仰がれたマントの向こうから姿を現す。



バージル。



神裂「!!!!!!!!」

そして次の瞬間。


神裂「―――――――――ぐがァッッッッ!!!!!!!!」


バージルは左手に持っていた閻魔刀、その鞘の先で彼女の首へと強烈な突きを放った。
440 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:54:28.10 ID:yeP4fM6o

一気に後方に吹っ飛ばされ、柱列の一本に叩きつけられる神裂。
背中から突き出ていた七天七刀の刃が柱に突き刺さり、磔状態となった。


神裂「が…………ぁ……!!??」

両手で喉を押さえ、もがく神裂。
そんな彼女の元へとバージルは進み、そして彼女の胸から突き出ている七天七刀の柄を握った。


その瞬間。


神裂「―――!!!!!!!!!!」


七天七刀から流れ込んでくる思念。


神裂はこの瞬間に知った。
七天七刀が魔剣化したのはバージルによってだと。


神裂「――――――…………あ、あなたが―――」



バージル「黙れ」
441 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:56:15.84 ID:yeP4fM6o

神裂「―――」

そしてこれから何が起こるかも。
己がどうなるかも、この七天七刀を介して彼女は理解した。


―――己は悪魔に完全転生する、と。


バージルの力によって。

バージルに影響された、バージルの系統の悪魔へと。


バージル、そして閻魔刀の『子』である七天七刀を核とした悪魔へと。


神裂にとって、バージルは『主』となる。
神裂にとって、バージルは『師』となる。
神裂にとって、バージルは唯一の『神』となる。



バージル「―――『名』を『与える』。『名』を『返す』」


凍て付くような無表情、鋭い突き刺さるような眼差しのまま、
『主』は『子』に言霊を刻み込む。




バージル「『神裂火織』」





バージル「―――『俺』の為に戦え」





神裂「―――」
442 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/31(火) 22:57:37.26 ID:yeP4fM6o

バージルの思念、その信念の強さを感じ一瞬にして彼女は思った。

この男なら確実にやり遂げる。

この男についていこうと。

この男が望む『世界』の礎となろうと。

そして神裂は即答する。



神裂「――――――はい。あなたの為に―――」



その神裂の答えを聞き、バージルは七天七刀を一気に引き抜いた。
次の瞬間、神裂体から溢れる青い光。


そして響く咆哮。


そして響く雄叫び。



それは『産声』。


二度目の『チャンス』と。


『真の戦い』を始めるべく生れ落ちた―――。




―――魔剣士 『神裂火織』の。




―――
443 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/31(火) 22:59:10.76 ID:yeP4fM6o
今日はここまでです。
次は木曜か金曜に。
444 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/31(火) 22:59:40.47 ID:VYSEecQo
これで大先輩の仲間入りか、しかしパワーバランスの調整とはいえみんな悪魔になってくな
445 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/31(火) 23:01:06.72 ID:xLrMD5Mo
天使から魔人にランクアップとかパねえ
446 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/31(火) 23:05:37.49 ID:mkqxeHs0
読み応えガッツリでした。乙!!
447 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/31(火) 23:11:48.92 ID:UrwMxkAO
ここまできたらもはや覇王(笑)じゃね? つーかネーちんダンテ派と対立しちゃうんじゃね

しかし良くできてるなぁ
448 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/31(火) 23:31:22.01 ID:2duu47Yo
まさかバージルさんじきじきに魔人式成人式をされるとはなwwwwww
449 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/01(水) 00:25:45.09 ID:FV5CZDMo
どーでもいいけどルーメンの賢者じゃね?

ダンテの中の人になってるよ
450 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/01(水) 00:28:28.41 ID:AiDZidwo
ねーちんも痴女になるん?
451 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/01(水) 00:37:24.43 ID:CJprjQ60
うおおおおおもしろかった!!
今回は読み応えあったなあ
ここまでクロス作品を上手く融合できるなんてすごいと思う
452 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/01(水) 00:55:21.83 ID:Ib47Oqco
>>450 何をいまさら
453 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/01(水) 01:31:10.63 ID:F1pYvU.0
いや 「バージルの系統の悪魔」言ってるからきっともっとクールになるだろつーかなってくれ
これ以上痴女になったらもう人間界で暮らしてけんわwwwwww
上条さんもドン引きするわwwwwww
454 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/01(水) 12:12:57.31 ID:c2CPEYAO
バージル系統の悪魔ということは、七閃なんて手加減をせずに最初から唯閃を放ってくるのか……
455 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/01(水) 17:10:05.75 ID:bhnlBmA0
ねーちんが永遠の18歳になったのかwwwwwwwwww
456 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/01(水) 18:25:42.56 ID:tfCl.Ag0
いちいちリアクションが大げさなねーちんが好きだ
457 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/01(水) 18:32:43.26 ID:V0ZVFKso
永遠の神裂火織さんじゅうはっさい・・・ゴクリ・・・
458 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/01(水) 18:55:35.06 ID:YLlgPMDO
>>457
刀持ったポニーテールのババァがそっちに行ったぞォ
459 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/01(水) 19:41:43.02 ID:TyAGDUDO
>>455
永遠の18歳化は天使になった時からじゃないのか?
460 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/01(水) 21:10:19.65 ID:xNx0g2SO
バージルが出てきた所で脳内にオリーブの首飾りが流れてきたのは俺だけか…
461 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/01(水) 23:31:25.70 ID:1tZQQgDO
そんな奇術的場面じゃねぇーだろww
462 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/02(木) 01:41:33.80 ID:5t5Zzz.0
想像しちまったwwひでえwwwwww
463 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/02(木) 02:06:39.52 ID:A6eBEl.o
デビルメイクライには日本の神様的なのはいないの?
464 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/02(木) 10:37:29.23 ID:iaJx.IDO
>>463
いない…はず
ダンテとバージルってヴァッシュとナイブズに似てるな…良いね
465 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/02(木) 19:16:31.85 ID:WACjgPs0
んじゃ、トリッシュがウルフウッドだな
466 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/02(木) 21:00:35.21 ID:iaJx.IDO
>>465
…似てるか?ポジション的には相棒だが
467 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/02(木) 23:38:39.76 ID:Y9sHpogo
―――

翌日。

日本標準時間で午前3時頃。

この時、人間世界の大局が大きく変わった。

ローマ正教は、ヴァチカンの破壊は学園都市とイギリスの共謀によるテロと発表。
これにより、『聖地』を破壊されたローマ正教諸国は激怒する。
一気にイギリスと学園都市に対する敵意が爆発した。

それに対し、ほぼ同時刻にイギリスはその『テロ』の関与を完全否定。
全ては学園都市の単独行動と発表。

更に、バッキンガム宮殿がローマ正教によるいわれの無い『報復テロ攻撃』を受け、
女王エリザードが重傷を負ったと発表。


これによって全イギリス中が逆鱗。


逆に学園都市は『テロ』はイギリス単独によるもの、
そしてこちらもいわれの無い言いがかりで、ローマ正教の『報復テロ攻撃』を受けたと発表。


ロシア、ロシア成教は当然の如くローマ正教を最大限支持する事を表明。

更に国内の学園都市系列企業が、国家乗っ取りを目論んだと発表。
468 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/02(木) 23:41:53.68 ID:Y9sHpogo

イスラエルを省く中東諸国と中国・インドは中立を表明。


北欧諸国はプロテスタント色が強いものの、カトリックの影響も強く正に板ばさみ。

魔術的方面では北欧神話系統が最大派閥である事もあり、どちらに付くかをはっきりと決めるとのは困難を極めた。
そこでドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド等はとりあえず中立的立場を表明。


十字教徒が中枢を占めるアメリカ、カナダ、オーストラリア等も混乱したが、
魔術サイドが直接国家の根幹に関ってはいない、ある意味『科学サイド的』な政治体制である為、
『物理的な利益』をも鑑みてイギリスよりの意志を表明。

アメリカ等にとって、ローマ正教諸国よりも
兄弟・家族国家であるイギリスの方が信頼できるのは当然だ。


イギリスが無くなれば事実上、大西洋の覇権の半分がアメリカの手の中から離れる事になる。


更にアメリカは、学園都市(というよりはその母体の日本)を支持する意志も示した。

これはロシアによる太平洋進出を懸念して、
更に不気味に沈黙し、虎視眈々と漁夫の利を狙っているであろう中国を牽制する目的もある。


十字教内の危機的な対立はアメリカにとっても大問題だが、

それ以上に物理的な『太平洋と大西洋の覇権』維持が、
この超大国の最優先事項となったのだ。
469 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/02(木) 23:43:10.46 ID:Y9sHpogo
そして当の日本は確たる意志を表明せず、いわば中立的立ち位置を望んだが。

学園都市がある以上、そして様々な恩恵を受け深く繋がっている以上、

更に何としてでも太平洋覇権を維持しようとする、形振り構わないアメリカの意志が関ってきたことにより、
第三者的位置に付くのは当然不可能だった。

少なくとも、学園都市・日本をセットとして敵意を向けているロシアに対して、断固たる対応を迫られた。


こうしてそれぞれの勢力の、『表向き』の見解が出揃った。

どの勢力の言葉も真っ向から食い違っていた。
どれが正しいのか、それが真実なのか、どれが嘘なのか。

一般の人々には知る由がなかった。

だが、極一部の人々は何となく気付いていた。


この『世界』のとある『違和感』に。


何かがおかしいのだ。
何かが狂ってるのだ。
何かが病んでいるのだ。


中立を表明した国はそれなりにあるものの、なぜか開戦を防ごうという意志を表明する国は一つも無かったのである。
どの国も、戦争勃発自体を拒否しようという姿勢を見せなかったのだ。

各国の配置は、なぜか上手い具合に『二分』。
そして各国の声明はどれも対立を仰ぐようなものばかり。

ローマ正教諸国もロシアも、アメリカ・イギリス等のアングロ=サクソン諸国も、
皆あまりにも挑発的・攻撃的すぎる声明を出している。

中立を表明した国も、戦争自体には否定的ではない。
いずれ参戦していくのが目に見えている。


これでは、まるで『世界そのもの』が大戦を『やりたがっている』ような―――。


皆が口裏合わせて、世界大戦が泥沼と化すように動いているような―――。
470 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/02(木) 23:44:44.88 ID:Y9sHpogo

しかし、極一部の冴えてる者でも気付けるのはここまで。

ここから先は『物語』の『中心人物達』しか知る事が出来ない。


この『違和感』と『狂気』の正体は深い深い影の底。


その闇の底からの『意志』で、世界各国は踊らされているのだ。
どの国も、人知を超えた巨大すぎる『うねり』に流されているのだ。


フィアンマに影から扇動されている十字教も然り。
ウロボロス社と軍需産業で深く繋がっているせいで、踊らされるアングロ=サクソン諸国も然り。


当の国々はそんな事には全く気付いていない。
己の行動は、全て己達の意志だと認識している。


だが違う。


全て『茶番』だ。

より大きな火種が形成されるよう、
より大勢の命が失われ、大きな戦火が起きるように巧妙に誘導されていただけ。


彼らは『道化』。

彼らは『生贄』なのだ。
471 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/02(木) 23:45:53.20 ID:Y9sHpogo

これらは全て『表向き』に過ぎない。

これらの『虚構』の下にある、『巨大な爆弾』。


これこそが本物の『危機』。


第三次世界大戦など、ただの『小さな火花』だ。


魔界と天界の全面衝突という巨大な爆弾を点火する為の。

更に、その破滅的な衝突でさえ、極一部の者が超越した存在になろうと企んだ『隠れ蓑』。



ここからとある『変革』が始まる。

そしてこの争乱が終わった時。

そこからは誰にとっても『新たな時代』となる。

一般の人々が気付かないような『些細な変化のみ』で留まるか。
それとも全人類が認識する劇的な変化か。

それは想像を絶する苦難の時代か、逆に希望に溢れた時代か。


それとも『終末の最期の時代』か。


『誰の目的』が遂げられるかで、未来は千差万別。

変化の度合いも様々。
472 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/02(木) 23:47:43.72 ID:Y9sHpogo

この『うねり』の主人公・中心人物達。

『荒波』の中、懸命にもがきながらも、望む未来を手に入れようとする『少年少女達』。

『全て』を統べる力を手に入れようと、野心に溢れる『挑戦者達』。

そして己自身の強大な力と宿命に縛られつつも、その義務を全うしようとする『怪物達』。


皆が皆、己の信念を貫くべく突き進む。


激突し、絡み合う信念と運命。

その紡がれる物語は今、ついに佳境を迎える。


ついに始まる。


ここがこの物語の『終わりの始まり』。


姿を現す『戦いの終点』。



その『ゲート』の向こうにあるのは『清算』と『成就』―――。


―――そして『終末』。


どれが誰の手に渡るか。


誰がどれを掴み取るのか―――。


―――
473 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/02(木) 23:48:18.56 ID:Y9sHpogo
―――

午前9時半。

学園都市、第一学区のとあるビル5階の薄暗い一室。

会議室として使われていたのか、部屋の壁の一面には巨大なスクリーン。
そのスタンバイ中の白い光が薄暗い室内を淡く照らしていた。

部屋の中央には、金属製の無骨な大きな机。
20人くらいが一同に会することが出来るくらいの大きさだ。

そんな机の周囲に、ぽつぽつと互いに距離を開けながら座っている三人の少年少女。

一方通行、結標、土御門。
三人の前の机の上には、それぞれ分厚い冊子とPDAが無造作に置かれていた。

部屋の片隅には医療用のベッドが置かれており、その上には包帯とギプスに覆われた褐色の肌の少年が横たわっていた。


『海原光輝』、いや。


化けの皮が剥げたアステカの魔術師、『エツァリ』だ。


この部屋の中にいるのは彼らだけではない。

壁際に並んだ椅子に、スーツを着た男や制服のままの高校生程の女、常盤台の制服を着た見るからに高慢そうな少女、
白衣を着た初老の男など、計10人ほどがそれぞれ足を組んだりしながら座っていた。

どれもこれも、暗部や学園都市の根幹に関っている者達だ。
474 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/02(木) 23:49:47.30 ID:Y9sHpogo

この集まりの目的は?

それは当然、デュマーリ島の件に関する具体的な話をする為だ。

この後、11時に二階の大きなフロアにて、集められた能力者達への説明がある。
その前に幹部級の見解を一致させておく必要があるのだ。

そして直接的には関らない一方通行やエツァリも、立場的には知っておく必要がある。

彼らグループを核とした反逆派は完全にアレイスター側に組した訳ではなく、
一応今も厳密に言えば敵対関係なのだ。

土御門・結標・麦野等の中核である幹部の身を出す以上、
残る二人も同じように状況を把握しておかねばならない。

そうして集ったものの。


結標「……遅いわね」


一方「チッ……」


肝心の麦野がまだ来ていないのである。
そもそも9時集合だったはず。

彼女はもう30分も遅刻していた。
475 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/02(木) 23:51:06.22 ID:Y9sHpogo

一方「カッ!……あのクソアマ何してやがンだァ?」

苛立ちを隠せず、義手の指先で机をガリガリと削る一方通行。

彼自身は軽く指先で叩いている感覚なのだろうが、いかんせん力加減難しく、
更に不機嫌な無意識下の行動ということも合間って、黒い指先は金属製の机の表面を見る見る抉っていった。


エツァリ「……落ち……着いて……待ちましょう……」


そんな一方通行を、ベッドの上から途切れ途切れの言葉で宥めようとするエツァリ。


一方「あァ?喋ンじゃねェよ半死人が。黙って寝てろや」


エツァリ「がッッ…………ぐふッ……!!!」

そんな一方通行の言葉が終わる前に、咳き込むエツァリ。

一方通行はそれを聞き、
そォら言わンこっちゃねェ とでも言いたげに軽く肩を竦めた。


と、そうしていた時。


会議室のドアが勢い良く開け放たれ。



麦野「悪いわね。遅れたわ」
476 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/02(木) 23:52:17.40 ID:Y9sHpogo

やっと姿を現した麦野沈利。


土御門「…………」

一方「…………」

結標「…………」

エツァリ「…………」

四人ともその麦野の、昨日までとは全く系統が違う格好を見て固まってしまった。


麦野の非の打ち所の無いスタイルを上手い具居合いに強調している、
くびれ、ヒップ、そして太ももにかけての曲線が素晴らしい、
完全オーダーメイドのダークグレーのスーツ。

ジャケットの下には純白のワイシャツ。
タイはなく襟元は大きく開けられており、これまた美しい鎖骨の一部が見えていた。

肩には大きめの黒いコートを腕を通さずに引っ掛けている。
歩くたびにコートの袖と、スーツの『空』の左袖がスカーフのようになびきアクセントにもなっている。

腰には濃い茶色の皮製のような大きなベルト。
その腰の右側にアラストルを吊るしており、麦野は右手をその柄に乗せていた。


そして右目を覆う、大きめの黒い金属製の眼帯。
隙間から青白い光が少し漏れていた。
477 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/02(木) 23:54:05.31 ID:Y9sHpogo

麦野「……何ジロジロ見てんのよ」


土御門「…………イメチェンしたんだな」


麦野「……………………で?」


土御門「はっは、なんつーか、どっかの女軍人っつーか女将軍っつーか」

結標「なんか威厳あるわね。『大佐』とか『少佐』って呼びたくなるわ」


麦野「あ?何それ。文句あんの?」


土御門「いいやあ、褒めてるんだぜよ。バッチリ決まってるぜよ」

結標「前の格好も良かったけど、そういうのもスゴイ似合うわね」

土御門「俺もこの際だからビシッと決めようかにゃー。結標、お前もそろそろその格好どうにかしろよ」

結標「うるさい。私はいーのこれで」


一方「…………ハッ、少しは貫禄つけたなァ。良いンじゃねェのか?」


一方「少なくとも『今の仕事の間』はそっちのカッコゥのほォがいいかも知ンねェ」


麦野「あ、そう、それはそれはどうも」
478 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/02(木) 23:56:15.18 ID:Y9sHpogo

そっけなくも、まんざらでもなさそうに麦野は一言返すとコートと左袖、
そして栗色の美しい髪を靡かせながら指定の座に着いた。


それを見て、壁際に座っていた一人のスーツの男が立ち上がり。

「全員揃ったな。では始める」

スクリーンの横に付き、机を囲んでいる四名を見据えた。

「いや、その前にいつくか新情報を伝えておこう」

「ここにいた君達は知らんだろうからな」


「今から26分前、イギリス国内の軍事施設へ向けて、フランス原潜によるミサイル攻撃が行われた」

「今回の件において初めての、通常軍による軍事行動だ」


「三分の一は通常軍が迎撃、もう三分の一はイギリス清教と騎士が撃墜」

「残る三分の一は着弾した」



土御門「……………………被害は?」


「被害は軍属の死者が23名、一般人が2名、そして迎撃の際に魔術師4名が戦死」


土御門「…………」
479 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/02(木) 23:58:40.34 ID:Y9sHpogo

「それに対しイギリスは報復として、17分前にビスケー湾にてフランス海軍の駆逐艦二隻を撃沈した」

「一隻は空軍機の攻撃により、もう一隻は騎士の攻撃によってだ」

「そして現在、双方とも正規軍・魔術師達をドーバー周辺に集結させている。海軍はビスケー湾にも展開しつつある」

「お互いとも今だ相手の動きを監視していている段階であり、攻撃は散発的・小規模なものだが、全面衝突は三日以内に確実だ」

土御門「…………」

「それと平行してな、これはまだ公表されていないが、」

「24分前にロシアは、学園都市及び自衛隊・在日米軍の主要基地へ向けてミサイル攻撃を行った」

麦野「……!」

「それらは学園都市が全弾撃墜した」

一方「ハッ…………なンだ、アンチスキル共のひ弱な『エセ軍』もやりゃァできるじゃねか」

「いいや、アンチスキルはまだ動員されていない。これから召集する段階だ」

「今動いているのは別の部隊だ」

一方「はァ?」

「常識的に考えてみろ。本当に学園都市は純軍事組織を持っていないと思っていたのか?」

一方「……アビニョンに行った連中か?」


「そうだ。アビニョンに動員されたのはこれの極一部だがな」
480 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:01:09.08 ID:yoYeaoYo
「まあ、それでな、16分前にその学園都市の『軍』と在日米軍、自衛隊によって日本海及び東シナ海の制空権は完全に掌握された」

結標「じゃあ、ロシアはもうこっちに手を出せないって事?」

「いいや。ロシアはまだ本格的にこっちには動いてきていない。今のところ、国内の学園都市系列施設を制圧している段階だ」

一方「おィ、その系列企業はどォすんだ?」


「当然、切り捨てる。状況的に見てロシア国内へ軍を展開するのは危険だ」


一方「自慢のトンデモ軍でもロシアと正面からやり合うのは不可能ってか?」

「いいや、『通常軍』相手なら圧倒できる。だが、君達は忘れていないか?」


「ローマ正教もロシアも、大量の人造悪魔兵器を保有している」


土御門「……」


「それらが大規模に使われ始めたら、学園都市の軍といえどもかなりの苦戦を強いられるだろう」

「ましてやロシア国内にまで手を広げていたら、包囲され殲滅されるのは確実だ」


「いいか、人造悪魔兵器が大規模動員されれば、この日本海・東シナ海のラインを守るので限界だ」

「いや、いずれ確実に突破される。学園都市の軍も自衛隊も、そして米軍も最終的には粉砕される」

「そもそも、アメリカはウロボロス社と深い繋がりがある為信用できん」


「そしてそれだけではない。時間が経てば今度は『天界』がやってくる」


一方「……」


「だからこそ君達に、その前に動いてもらう必要があるのだ」
481 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:03:13.26 ID:yoYeaoYo

「さて、前置きはこのくらいにしてだ、本題に入ろう」

男が手に持っていた小さな端末を操作すると、スクリーンの画面が変わり、
とある二つの島の衛星画像に切り替わった。


「これが俗に言うデュマーリ島だ。北の島が『デュマーリ=セプテントリオ』」

その男の言葉にあわせ、さまざまな情報が衛星画像の上に表示されていく。

「この北島に広がっている都市が『メガス=デュマーリ』」

「人口は現時点で約49万4000人と思われる」

「ウロボロス社の中枢であり心臓部だ」

「そしてこの都市の地下には、地上の規模を上回る研究施設群がある」


「主に地上は経営・管理関係と住居、地下は研究開発だな」



「次にだ、南の島が『デュマーリ=メリディエス』」

「地下には採掘施設が広がり、地上は工場施設となっている」

「南島の人口は一万人弱だろう」
482 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:05:10.24 ID:yoYeaoYo

「それでだ。今回、君達の最優先目標である、『天界の口を開く術式』はだ」

男の言葉にあわせ、北島がズームされる。


「ここ、『メガス=デュマーリ』内のどこかにあると思われる」

「ただ、どのような形で存在しているかは不明だ」

「都市全体を覆う規模なのか、それとも手に収まるサイズなのかはわからない」


一方「……使えねェ連中だなオマェらは」


「……この件に関しては反論の余地が無いな」


土御門「大体の位置の目安は付いてないのか?結構な面積もある。一から探してたら一ヶ月はかかるぜよ?」


「ああ。だがまあ、大きさはわからんが術者であるアリウスを『中心としている』のは確実だ」


麦野「居場所は?」


「ここだ」

男の声にあわせ、スクリーンに表示される巨大なビルの画像。
摩天楼の中でも一際高く聳え立っている。

大通りを挟んで二本の棟が聳え立ち、地上500メートルの上空で繋がっている、
凹をひっくり返したような構造の、頂点の高さは580mにも達する巨大建造物。
483 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:06:53.57 ID:yoYeaoYo

「ここの最上階がアリウスの住居部分となっている」

土御門「……待て。術式の発動時もそこにいるとは限らないだろう?」

「それはもちろん。これ以上は現地での君達の行動が頼りだ」

「ここにいるのならばここを強襲し、別の場にいるのならば見つけ出す」

「確実なのは、『メガス=デュマーリ』内という事だけだ」


「ただまあ、これだけではさすがに君達でも難しいだろう」


「だからいくつかの、アリウスが使うであろう可能性の高い地点をリストアップしてある。大半が地下の研究施設だ」

「それらは後で各々確認してくれ。配られているPDAの中に情報がある」


「それとだ、土御門。後で君には拡大した衛星画像を一通り見てもらい、該当する魔術的因子がないか確認してもらう」


土御門「……ああ。わかった」


「できれば、君の『友人』に頼んで禁書目録の『目』も借りたいがな」


土御門「……一応話しておくぜよ」
484 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:08:37.58 ID:yoYeaoYo

「ただ、それはあくまでも確認だ。アリウスがそう簡単に尻尾を出すとは思えない」

「最悪、最後の時まで術式を発見できない可能性も高いだろう」


麦野「そのジュツシキが見つかんない場合は?」


「術式の捜索と平行し、君達には『メガス=デュマーリ』を完全に破壊してもらう」


結標「…………街を壊すの?」


「そうだ。地上の構造物は当然、地下施設まで全てを徹底的にだ」

「術式があるかもしれない以上、とにかく破壊してもらう」

「できれば島ごと消し去ってもらいたいが、『君達程度』では無理だろう」


麦野「…………どうして?少なくとも『今の私』には不可能とは思えないけど?」


「物理的にではなく、『魔』的にあの島は要塞化している。恐らく、地球上で最も『固い』地の一つだ」

「単純に火力で消し飛ばせるような『存在』ではない」

「あそこは人間界でありながら人間界では無くなっているからな」

「『外側』からダメージを与えるのは難しい」


麦野「…………あ、そう。じゃあとことん『内側』で暴れてぶっ壊せばいいわけね」


「そういう事だ」
485 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:10:51.36 ID:yoYeaoYo

一方「ちょっと待て。50万の住人はどォする?」

一方「どうせアリウスの片棒を担いでる連中は極一部で、9割以上は『カタギ』の一般人ってパターンだろォが?」


「気にするな」


結標「…………じゃあ何よ、50万人ごと吹っ飛ばせって言うの?」


「そういう意味ではない。君達が行く頃には、住人は皆居なくなっているのだ」


結標「?」


「これを見てくれ」

その男の言葉と同時に、スクリーンが切り替わった。

表示されたのは、『恐らく』衛星画像。

恐らく、というのも、画像の上端や下端に海面が少し見えているだけで、
大部分が黒い靄のようなモノで覆われていたからだ。


一方「…………?」




「10分前に捉えたデュマーリ島の姿だ」
486 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:13:12.39 ID:yoYeaoYo

結標「―――!?」


土御門「………………何が起こってる?」


「アリウスが魔を召喚したのだ」

「人造悪魔ではない、本物の悪魔達を『降ろした』のだ」

「防御を固める為か、より大きな力を必要としているのか」

「それかアリウスも本格的に動き始めたのか、それとも我々がまだ気付いていない別の目的があるのか」

「それらは置いておくとして。とにかくこれにより、デュマーリ島の『存在』は更に異質なモノへと変わった」


「今や魔窟だよ」


「一般人は今頃、悪魔達によって貪られているだろうな」


「アリウスは50万の命を差し出して悪魔達を手なずけたのかもしれん」


「向こうは今正に阿鼻叫喚の地獄絵図だろう」


一方「……………………………………………………チッ……」
487 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:15:06.03 ID:yoYeaoYo

「まあ逆に言えばだ。この悪魔達の暴虐の後に『形を保って残っている』構造物は、術式の一部である可能性もある」

「人気がない分、いくらか捜索しやすくなるだろうな」


麦野「…………で、それでもジュツシキとやらがぶっ壊せなかったら?」


「…………その場合はアリウスに対して全戦力を投入してもらう」


「出来る限りあの男を妨害しろ」

「殺せずともいい。時間を稼いでくれれば、学園都市側で別の手を打てる」


一方「……俺が必要ってやつか?」


「そうだ。ただ、今日はまだその事は話さない。概要は後日だ」

一方「ンだと?」


「俺も何も聞かされていない。俺に詰め寄ったところで何も得る物は無いぞ」


一方「…………あァそォですか」
488 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:16:27.00 ID:yoYeaoYo

土御門「OK、向こうでやる事は大体分かったぜよ」

土御門「それでだ、これからの日程は?」


「まず今日11時から行われる説明が終わった後、」

「原子崩しと座標移動は、他の能力者達と共に別の施設で『調整』を受けてもらう」

「原子崩しは知識面の『書き込み』だけだが、その他の座標移動達は能力そのものをも調整する」

「その後、二日から四日間をもって『慣れて』もらう」


「それが完了次第、HsB-02七機によって君達をデュマーリ島へ『投下』する」

                                   シ ェ ル
「投下の仕方は、原子崩し以外は専用の『砲弾型カプセル』に入ってもらい、それらを超音速で撃ち込む形になる」


麦野「私は?」


「今の君なら『そのまま』降下できるだろう?」


麦野「…………」


「それと君には編隊の防御も兼ねて貰う」
489 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:18:56.47 ID:yoYeaoYo

「『デコイ』も兼ねて護衛機をそれなりの数同行させるが、デュマーリ島の防御は鉄壁だ」

「本物の悪魔達が迎撃してくる可能性もある以上、既存の通常兵器のみでの突破は難しいからな」


「降下が完了次第、後は君等の判断に委ねられる。ミサカネットワークや衛星通信を介してこちらもバックアップするが、」

「最終的な判断を下すのは現地の君達だ」


「わかっていると思うが、降下してからが本番だ。悪魔達は必ず君達に群がってくる」

「死人は確実に出る。負傷者も出る。だが実質的な支援はこちらからは行えない」


「全て自力で行ってもらう」


「全滅してでも任務を全うしろ」


「もし君達が失敗したら、例え生き残れていたとしても、君達が帰る場所は最早『存在していない』」



「君達の『生きる場所』は地球上から消滅している」



「生きたければ、そして守りたい者がいるのならば命を引き換えにして戦え」



「君達は我々の『希望』だ」
490 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:20:04.74 ID:yoYeaoYo

土御門「…………」

そのスーツの男の言葉。
最後辺りは何やら私情が入っているようにも聞こえた。

大体予想が付く。

この男も妻か恋人か、それとも子供か、とにかく大事な者が学園都市にいるのだろう。

ここの集っている者も大半がそうであるはずだ。
これは学園都市の者全員にとっての、決して引けない戦いだ。

机を囲んでいる四人とも、沈黙のまま鋭い目つきで男を見据えた。

何も言葉を返さずに。


「………………ここまでで質問は?」

一度小さく咳払いした後に男が小さく、それでいて良く響き渡る声を発した。


土御門「……デュマーリ島に行くのは『俺達』だけじゃあないだろ?」


土御門「そこら辺の『動き』はどうなってる?」


「それは君達の方から『直接』聞いた方が良いんじゃないか?」


「君達の『友人』だろう?少なくとも我々側からは近付きたくはないからな」


土御門「…………まあな」
491 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:21:33.86 ID:yoYeaoYo

「さて、他には?」

一方「……今日から能力者達の『調整』を始めンだろ?」

一方「クソガキの頭を弄るのはいつだ?」


「……書き込むプログラムがまだ完成していないからな、確実な事は言えないが……」

「まあ、明日の夕方までには準備が整うだろう」


一方「で、わかってンだろォな?」


「ああ。もちろん君と芳川桔梗に立ち会ってもらう。当然プログラムのチェックもな」


一方「…………」


「他には?」

男が軽く手を広げ、小さく眉を上げてそれぞれの顔を見る。
逸れに対し、皆小さく頷いた。


「……さて、じゃあ今はこの辺にしておこう」
492 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:23:17.08 ID:yoYeaoYo


「出撃前にもう一度集ってもらい、更なる詳細説明と確認を行う」

「それまでに、その手元にある資料に目を通し覚えておいてくれ」

「あー、原子崩しと座標移動。後でついでにその資料も『書き込む』か?」


麦野「……いや。あんまり頭弄られたくないから結構」

結標「……私も遠慮しとくわ」


「よし……ああそれとだ、部隊内の人員編成も君達に任せる。48時間以内に報告してくれ」

「一応、こちらとしては原子崩しが指揮官、座標移動が副指揮官、土御門がアドバイザーと考えているが、」

「そこも好きなように役割分担してくれて構わない」

                                      オ ニ モ ツ
土御門「俺は『アドバイザー』役だけでいい。『部下・護衛』はつけなくていいぜよ」

土御門が薄ら笑いを浮かべながら、麦野の方へ軽く首を傾けながら声を飛ばした。


土御門「『一人身』が好きなんでな」


麦野「はッ、だれがお前なんざに『分ける』かよ。『部下』は『部下』。全部『私のモノ』よ」
493 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:25:18.15 ID:yoYeaoYo

土御門「ほぉ〜言うぜよ。さすが『女帝』だな」

結標「あー、ちょっと、私には少し『分けて』よね。そこの『アホグラサン』みたいに『雑用』まで全部やりたくないし」


土御門「ヒュ〜こっちもこっちで言うぜよ。なあ、何か言ってくれよ『女王サマ』」

土御門は軽く口笛を吹きながら今度は、
壁際の椅子に座っている常盤台の制服を着ている女に視線を移した。


「話しかけないでくれない?私、アンタみたいなバカ男ってキライなの」

それに対し、鼻で笑いながら言葉を返す常盤台の『女王サマ』。

                 ココ
土御門「おーおー、『暗部』にはこういう女しかいねえのかよ全く」

土御門「もうちょっとこう、メイドみたくおしとやかな子はいねえのかにゃー」


「死ねば?冥土にいけば会えるんじゃない?」

「あ、死ぬのなら向こうで任務全うしてからね」


土御門「…………はぁ〜、俺、任務が終わったら絶対お前らとは会わない生き方するぜよ」

「あら、すっごく嬉しいわねそれ」

結標「そうね。良い心構えよ」

麦野「雑草は雑草らしく、せいぜい目立たないように生きてな」
494 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/03(金) 00:26:49.07 ID:yoYeaoYo

土御門「…………お前ら…………外見は整ってるけど中身は本当に荒んでるぜよ……」

「アンタみたいなのにはコレで充分」


そんな他愛も無いくだらない会話の中、先程まで説明していた男はやれやれと言いたげに退室し、
一方通行は相変わらずイラつきながら机を指で『削り』。

その一方通行をエツァリはベッドの上から、苦笑いを浮かべながら見ていた。

エツァリ「…………」

一方「……………………こォいう時に一番思う。『脳』を無くす前ならチャッチャと音を排除できただろうってなァ」

エツァリ「…………」


一方「………………………………あァクソ……今のは忘れろ」


エツァリ「…………わかりました」


一方「つゥかおィ、何見てやがンだァ?何が可笑しい?」


エツァリ「……いえ……ははは」


一方「笑ってンじゃねェすり潰すぞミイラ野郎」


エツァリ「…………すみません」


―――
495 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/03(金) 00:27:40.04 ID:yoYeaoYo
今日はここまでです。
次は土曜か日曜に。
496 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 00:28:36.82 ID:/.nv4YQ0
総力戦の予感乙!
497 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 00:45:26.01 ID:AJU7Kr60
盛り上がってまいりました乙!
498 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/03(金) 00:50:50.32 ID:RCH1MSIo
たっぷり、がっつり、胃の腑にくるねえ。たまらんなあ。
499 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/03(金) 01:25:23.00 ID:JZR40oAO
こんなわざわざメンバー導入するより
ダンテの魔具達を派遣したらドゥマーリ島壊滅しそうだけどな。
統率力0ぽいけど
500 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/03(金) 10:47:25.62 ID:di3yqUDO
ダンテは元から頭数に入ってないしアラストルみたいに全て無力化される可能性もある
501 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/03(金) 18:31:05.40 ID:yoYeaoYo
>>499
ダンテ達はダンテ達で別の方向から動いてます。


それを抜きにして、
一方通行や麦野達はこれが自分達が戦うべき事であるとして、出来る事を最大限やろうとしています。

ダンテ達はダンテ達で動くだろう、こっちはこっちで判断して全力を尽くす と。
ある意味、ダンテ達を信じている訳です。


そしてアレイスターはダンテ達、というかスパーダの血を全く信頼していません。

彼からすれば、ダンテ達がデュマーリ島に関与すること自体をも実は好ましく思っていません。
アレイスターは計算上、この麦野らの戦力で『時間稼ぎ』できると踏んでいますが、

そこにダンテ達が割り込んでくるとこの計算が根底から崩れますから。

良い方向に変わる『かも』しれませんが、
今まで悉くプランを滅茶苦茶にされてきたアレイスターにとっては経験上、悪い方向に変わる確率が高い訳です。


更に言うと、今回の学園都市の危機が500年前のアンブラ滅亡時の状況と被ってる事、
500年前、スパーダは大を救う為に小を切り捨て見殺しにした事、
更に彼は天界による能力者迫害を黙認し続けた揺ぎ無い事実等があり、

アレイスターは今回の件で、必ずしもダンテ達が学園都市を救ってくれるとは考えていません。

上条や一方通行のように人柄を見て『心』で信頼してはいません。
全て計算で物事を判断していくアレイスターは、そういう感情が欠落してますから。


という事で>>500が言う通り、アレイスター・一方通行側からはダンテ勢は最初から除外されています。


例え助力を求めたとしても、ダンテ勢はそう簡単に動きません。
ダンテ勢はバージルやキリエの件があり、デュマーリ島に関してはかなりピリピリして慎重になってますから。
502 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/03(金) 21:13:20.42 ID:Icc.yoDO
このストーリーの内容、そして>>501の説明…よう考えとるのう>>1さんはwwwwww
503 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/04(土) 20:14:13.42 ID:f3EDqsDO
こんだけ禁書勢がランクアップしている中でもし垣根くんがいたらどんなになってたんだろうか
504 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/04(土) 20:40:44.19 ID:ZvaKpho0
そして続きは今夜なのか日曜なのか
505 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/04(土) 21:29:05.87 ID:OBjJj2o0
この話での帝督ってどうなってんだっけ?
506 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/04(土) 22:23:15.56 ID:jIG6BIEo
れいぞうこ
507 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/04(土) 22:25:30.99 ID:pgMbbl60
>>505
一通さん強化のために脳をMNWに繋げられた上に、酷使されたせいで脳が死にかけ
508 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/04(土) 22:34:45.10 ID:fO2JOYYo
15巻の通り一方にぶちのめされて脳だけ。

本編の時に戦力増強と平行して、一方に人間界の天使の領域を更に濃く認識させる為の餌で利用?
その際に負荷で脳細胞の大半が死亡。

そして今、一方を最終段階へ進化させるパーツ?


覚醒し力を認識したところを見ると、一方と同じく人間界の天使になる素質は有り?
何かが違ったら(垣根がアレイスターにとっての第一候補だったのならば)、
垣根が今の一方通行の様に半天使化(AIM拡散力場の『核』化)してた可能性も有り?

レベル5の上位序列の真の意味は、人間界の天使の領域に届きうる順位?(覚醒しうる確率順?)

こんな感じ。
509 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:30:37.54 ID:fKIUncwo
―――

イギリス。

とある沿岸部にある、打ち捨てられた小さな小屋。
この屋内、床の上で、一人の女が横たわり小さな寝息を立てていた。

女の『下』には、長い長い金髪が広がっていた。
まるで金色の『ござ』が敷いてあるようにも見える。

ただその『ござ』の中央、女の腰の下辺りは真っ赤に染まっていたが。
そして女のベージュの修道服も、その腹部が同じく真っ赤に染まっていた。


彼女の名はローラ=スチュアート。


『元』イギリス清教最大主教にしてアンブラの魔女。

彼女は今、『逃亡の身』だ。

警察・正規軍は当然、必要悪の教会・騎士達からも追われている。


その罪は、『表向き』はイギリス女王の殺害を謀った事。
そして真の罪状は『魔女』であった事。

そのどちらの『罪状』も、彼女と女王エリザードにとっては作戦の内であり、
こうしてローラが追われているという事は成功した訳である。


まあ、その成功の『代償』は小さくなかったが。
510 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:32:54.96 ID:fKIUncwo
エリザードはローラの魔女の力によって左手を失い、更に胸部にも大きな傷を負い瀕死の重傷。
ローラは、エリザードによるカーテナ=セカンドの最大出力の攻撃によって、
腹部に大きな『穴』を穿たれた。

双方とも手負い。

ローラは逃げ。
エリザードは追跡できず。

これによってどちらかが死ぬ事無く、天界を信用させる事に成功した。
この『作戦』はこの二人しか知らない。

重傷を負ったエリザードの代理として実権を握るキャーリサも。
次の正式な最大主教が決定するまで、その代理の座に着いた者も。
そしてローラに続き神裂・ステイルが抜けた事により、実質的な指揮権が集中するシェリーも。

今やエリザード以外の者は皆、心の底からローラが敵だと思い込んでいる。
反旗を翻したのが人望の厚かった神裂ならばまた別だったろうが、ローラでは誰も庇おうとはしないのは当然。

それどころか、『ああ、そうか。そういう感じが前からあったな』と納得する声がちらほら出てきている事だろう。


ただまあ、普通ならローラ捜索に全力が注がれるだろうが、
今は状況的にそれどころではない。

たった一日。

それだけで世界の空気は変わった。
街中には開戦を告げる号外が溢れ。
テレビやラジオ、そしてネット上も戦争の話題で一色。

非常に嘆かわしいことだが、少なくとも『今』の逃亡中のローラにとっては好都合だった。

いくらアンブラの魔女といえでもこう手負いでは、
魔術師や騎士の実働部隊に徹底的に追い込まれたらどうしようもない。

実は言うと、彼女は『寝た』という訳ではなく、
半ば意識を失いかけ倒れ込んだのだ。

こんな状態では一介の平の魔術師相手ですら少々厳しい。
511 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:35:33.65 ID:fKIUncwo

そんなローラ。

彼女は今、とある夢を見ていた。
冷や汗が滲み出ている顔、その瞼が少しだけ動き、
『夢の中』で視線をせわしなく動かしている。

彼女が見ている映像。


それは『500年前の記憶』。


力を解き放ったと同時に、その力に刻み込まれていた『思念』も
一気に彼女の中で湧き上がってきたのだ。

そしてそれは、決して『良い夢』では無い。


『悪夢』だ。

しかも『二つの視点』からの。


片方は姉を前にして、命を散らす『妹からの視点』。
もう一つは、それを目の当たりにして絶望の底に叩き落された『姉の視点』。

その『両者からの視点』と『両者の思念』。

それらを『同時』に見て、そして感じる。



『両方』が『自分』―――。



『自分』が『二人』―――。
512 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:37:31.47 ID:fKIUncwo

ローラ「…………う…………ん……」

悪夢にうなされ、熱い息を吐きながら身をよじるローラ。
何も知らぬ男がこの光景とローラの仕草を見れば、それはそれは刺激的に映るだろう。

しなやかな体つきの美しい顔立ちの娘が、顔を火照らせて息を吐きながらゆっくりと身をしならせる。
魔女の独特のオーラもあり、腹部の血が不気味な官能さを際立たせている。

当のローラはそれどころではないのだが。


彼女の眉を顰ませている悪夢は、クライマックスへと向かっていく。

一見すると平和な穏やかな日々。
だがその裏で、張り詰めた糸は着々とその緊張を増し。

そして遂にはち切れる。

入り乱れる天の兵と同胞達。
一つ一つの粒子が天の兵である、都を覆う金色の『雲』。

そこから大量の死が降り注いでくる。

どこを見ても死、死、死。


最後に『彼女自身』が遂に『死ぬ』。

最後に彼女は『自分自身』の『死』を目の当たりにする。


『二つ』の視点。

片方は途切れ。

もう片方は思考が崩壊し、爆発する。
513 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:39:02.04 ID:fKIUncwo

そして彼女は跳ね起きた。


ローラ「―――――――――『ローラ』ッッッッ!!!!!!!!!!!!」


瞬時に両手に『青い』装飾のフリントロック式拳銃を出現させ、構えながら。

ローラ「…………ぐ……………………」

そして一気に炸裂し、染み渡ってくる腹部の鋭い痛み。

その痛みはローラの顔を歪ませると同時に、
彼女が今見ていた映像が過去の『夢』であったことを告げる。

ローラ「…………ふ……は……」

彼女は少し肩を震わせつつも再び上半身をゆっくりと倒した。
血の気が引き、冷や汗が噴き出してる額に片手を乗せながら。


ローラ「…………」

焦点の定まらない目で小屋の天井を仰ぎ見る。
屋根板が所々割れ、その穴から夜空に輝いている星が見えていた。


その星々を見つめながら、ローラはボンヤリと考えていた。
今の状況。
これからどうするか。

学園都市にいる、姉であり妹でもあり―――。



―――そして『もう一人の自分』でもある少女に関する事を。

514 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:43:23.85 ID:fKIUncwo

あの少女の身分が天界にバレているのは確実。
学園都市にそう長く置いておく事もできない。

ベヨネッタやジャンヌのような、『余りにも強大すぎて狩れない』という訳では無いため、
天界が本気を出せばいとも簡単に仕留められてしまうだろう。

セフィロトの樹経由で全て特定されている以上、
今までのように身分を偽装して身を隠す事も最早不可能だろう。


ローラ「(……潮時……でありけるか……)」

そう、そろそろ限界だ。


これ以上『こっち側』の力が回復するのは待ってられない。


500年前、中途半端にしか出来なかった『とある仕事』をやり遂げるべき時期だ。


あの時『姉』は、主席書記官の『妹』の頭の中にあったとある『禁術』を使った。

それはアンブラでは使用は禁止されていた技。
どんな事態であろうとどんな者であろうと、例え『長』でも使った者は処刑、だ。

なぜなら、この禁術は同胞を『喰らう』モノ。
なぜなら、この禁術は祖先達を侮辱するモノ。
なぜなら、この禁術はアンブラの3万4千年の歴史を冒涜しうるモノ。


安らかな眠りについている、偉大なる祖先達の魂を引きずり出しそして『喰らう』禁術。

いわば『共食い』だ。


歴史、伝統、礼を重んじるアンブラにおいては究極の忌まわしき技、だ。
515 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:45:43.03 ID:fKIUncwo

だが。

当時の『姉』には、この禁術を完全起動させる程の力は到底無かった。

禁術中の禁術。

その謂れが匂わす通り、使用にも莫大な力が必要だ。

英雄でも長でもなかった、
精鋭といえども一介の兵にしか過ぎなかった姉にはそんな力は無かった。



『妹の魂』が喰らった魂はただ一つ。


『姉の魂』だけ。


それも『消化』しきれずじまい。

本来ならば『姉』は『妹』に溶け込んで『消滅』するはずだったのだが、

そのせいで二つの別人の力はうまく同化せず、
結果、『彼女』は姉と妹の『両方』の記憶と意志を『同時』に持ってしまった奇妙な存在に。

中途半端に溶け合ってしまったのだ。

『思念』が無秩序に絡み合ってしまい不安定。
そして今度は内部崩壊の危険性。

そこで『彼女』は、応急措置的に己を分離させた。


『力の核』と『思念』に。


『人形』と『感情』に。


『禁書目録』と『最大主教ローラ』に。
516 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:48:35.82 ID:fKIUncwo


ローラ「…………」

そして感情と思念を有する『最大主教ローラ』は身を隠し、力を蓄え続けた。

もう一度あの禁術を起動させ、今度こそ『妹』を完全に蘇生させる為に。

今も溶け合わずに残っている『姉』の部分を完全に『消化』し、
更に英霊の魂をも喰らって『燃料』とし、完璧に成功させる為に。


成功すれば。


あの『人形』とこっちの『思念』が完全に融合し。


そしてそこから『主席書記官ローラ』が再び生れ落ちる。


それは『魔女の再興』を可能にする。


禁書目録側の魂の奥底には、アンブラの魔女のありとあらゆる知識と情報が眠っている。

完全記憶能力を有した主席書記官、その存在自体がアンブラの新たな核と成り得るのだ。
517 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:49:35.19 ID:fKIUncwo


ただ、そのアンブラ再興は『姉』にとっては実は建前。


『姉』の本当の願いは。


『妹』を蘇生させる事それ自体。


言わば私益の為に禁術を勝手に使い、

祖先や家族、英霊達の魂を喰らおうとしている、
正にアンブラの法に乗っ取れば愚かしい冒涜行為だ。


だが姉はそんな事など最早どうでも良い。
妹を完全蘇生できるのならば、反逆者となっても良い。

誇りも何もかもを捨てても良い。


『姉』は『妹』を蘇らせたい。
『妹』は蘇りたい。

その二つの強い思念が、今の『元最大主教ローラ』の核となっているのだ。
518 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:51:52.12 ID:fKIUncwo

その目的の前では、今の『人形』の中に宿っている『インデックス』という人格などどうでも良い。
あれはこちら側から言わせればタダの『幻影』。


『インデックス』という人格はアンブラの魔女ローラでもメアリー『本人』でもない。
この二者の記憶がベースとなった、タダの『疑似人格』。

『力の核』を隠蔽する為の『偽装人格』。


『思念』である側の元最大主教ローラの人格が『本物』なのだ。


つまり、少し可哀そうだがあの『疑似人格』は最終的に『消えて』もらわねばならない。

『思念』である元最大主教ローラにとって、正に自分の生き写し。
その姿が姉にも妹にも重なる。


だが幻影は幻影。


幻想は幻想。


『本物』は元最大主教ローラ側に。


『人形』に『思念』が戻った時、彼女の目的が達成された時、
あの『偽装人格』は用済みとなる。


ローラ「……………………」


『インデックス』という一人の少女の『夢物語』は終わってもらわねばならない。



『消滅』してもらわねば。



そう、『死んで』もらわねば―――。
519 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:54:41.16 ID:fKIUncwo

だがこの時、彼女はまだ知らなかった。


あの『インデックス』という『疑似人格』が魔女の部分と固く結合し―――。



―――『本物』になりつつあったことを。



決してまがい物ではない。


決して幻影などではない。


『本物の人格』として、一人の少年を愛し始めていた事を。


『インデックス』という『本物』の魔女の人格は、
上条当麻という人物を愛している。


かつて姉が妹を愛したように―――。


かつて妹が姉を慕ったように―――、だ。



果たしてどちらがより『本物』なのか。


果たしてどちらが『幻影』なのか。


元最大主教ローラはしばし後に、その『究極』の判断を迫られる事になる。


―――
520 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:55:40.76 ID:fKIUncwo
―――

禁書「―――――――――『ローラ』ッッッッ!!!!!!!!!!!!」

冷や汗を滲ませながら、
『本物の人格』を手に入れ始めた『人形』は跳ね起きた。

当然、その悲痛なインデックスの叫び声を聞き、
傍で寝ていた上条も飛び上がるように身を起こし。


上条「―――ッ!!!!!!ど、どうした!!??」


禁書「う…………なんだか……よくわからないけど………………ひっ……えぐ……」

そんな上条の顔を見てインデックスは体を震わせながら、
瞳から大粒の雫を滴らせ始めた。

上条「…………大丈夫だ。大丈夫」

上条は握っていた彼女の手を優しく引き、そして抱き寄せ。
インデックスは上条の服の胸の部分を固く握り締め、顔を埋めた。


上条「…………怖い夢でも見たか?」

胸の中でうずくまり、静かな泣き声を上げるインデックスの頭を左手でゆっくりと撫でながら、
優しく囁きかける上条。


禁書「……えぐ…………覚えてない……覚えて……ないんだけど……」


禁書「何だか……ひっ……すごく……悲しいんだよ……」
521 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:57:44.76 ID:fKIUncwo

ステイル「―――どうしたッッッ!!!!?」

とその時。
病室の扉が勢い良く放たれ、赤毛の大男が凄まじい形相で乗り込んできたが。

ステイル「―――…………悪い…………どうしたんだい?」

二人の姿、主に泣きじゃくっているインデックスの姿を見て、
瞬時に穏やかな口調に切り替えた。


上条「…………何かの夢を見たらしい」


そんなステイルに向け、小さな声だけを飛ばす上条。

ステイル「……………………そうか……」


禁書「…………う……………………もう大丈夫なんだよ…………」


その時、インデックスは両手で目を擦りながらも、
上条の顔を見上げてにっこりと微笑んだ。

己のせいで、いらぬ心配をかけてしまっていると思ったのだろう。
少し無理をして堪えているのを、上条とステイルも瞬時に感じ取っていた。
522 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/05(日) 23:59:13.15 ID:fKIUncwo

上条「…………本当に大丈夫か?」

禁書「……うん」



ステイル「いらぬ助言かもしれんが、『泣ける時』は泣いた方が良いと思うがな」


ステイル「何で泣いているかは知らないがね」


禁書「……うん、ありがとう。でもね」


禁書「『笑える時』は笑った方が良いとも思うんだよ」

禁書「…………少なくとも……みんなとこうしていられる時は私は笑いたいんだよ」

ステイル「…………そうか。それならば何も問題は無いな」

上条「……」


ステイル「さて、じゃあ僕は君達の朝食を取って来よう」

上条「ん?いや、俺が取ってくるよ」

ステイル「余計な遠慮はしないでくれ」


ステイル「君は彼女の傍にいてくれよな」


上条「……おう……じゃあ甘えさせてもらうぜ」
523 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/06(月) 00:01:14.95 ID:.W.mGWEo

ステイルがいそいそと病室から出て行った後。

上条「……本当に大丈夫か?」

腕の中で目を擦っているインデックスを覗き込みながら、心配そうに話しかける上条。

それに対し、インデックスは背筋をいきなりピンと伸ばし

禁書「もう大丈夫なんだよ!!私は笑うの!!」

ぱあっと太陽のような笑顔を浮かべながら上条の顔を見つめた。



と、その二人の体勢。


上条「……………………」


禁書「……………………」


ベッドの上で、上条に抱えられる形のまま背筋を伸ばしたらどうなるか。


当然、二人の顔は至近距離。
鼻先が触れ合うくらいに。


時間が一瞬止まり、極僅かな時間の間だけ二人は硬直する。

そして次の瞬間。


両者の顔が一気に赤くなる。
524 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/06(月) 00:02:33.57 ID:.W.mGWEo

上条「―――お、おおおおお、おおおお俺おおおおおおおぉおぉおお!!!」

禁書「―――わ、わたたたたあわわわわわわひゃ!!!!

動転し、言葉にならない声を漏らす二人。

混乱のあまりそこまで思考が回らないのか、その体勢を崩そうともしないのはご愛嬌だ。
密着する体、相手の体温、そして香り。

それらが更に二人を動転させる。

もし二人に恋愛経験があれば、向かい合ったときにそのまま『甘い一歩』を踏み出していただろうが、
経験ゼロの彼らにそれは難しい。


そうやってしばし、時間にして15秒ほど経った頃。
ようやく二人は自分達の体勢に思考が向けることが出来た。



上条「―――ちょ、ちょっと!!!!タンマ!!!!!タンマ!!!!!」

禁書「―――えっあっっっっ!!!!!う、うん!!!!!!」


何を『タンマ』なのかはさておき、上条はバッ手を広げ立ち上がり彼女から離れた。
そして壁際へと向かって駆け出し、両手を壁についてうな垂れた。


上条「(……落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け(ry)」

頭の中で、興奮している己に言い聞かせながら。
525 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/06(月) 00:03:42.76 ID:.W.mGWEo

禁書「…………………………………………」

インデックスはそんな上条の背中をチラチラと恥ずかしげに見やり。

禁書「………………えへへ……」

下唇を軽く噛みながら小さく笑った。

当然、頬を赤らめさせて。



そんな最中、病室のドアが開き。

トレイを両手に一枚ずつ持ったステイルが姿を現した。
両手が塞がっていた為、足で起用にドアを開けたようだ。


ステイル「待たせ―――…………」


当然、この室内に立ち込めている妙な空気を彼は感じ取った。
ベッドの上で、頬を赤らめて俯いているインデックス。
そして壁際で何やらブツブツ言いながらうな垂れている上条。



ステイル「…………………………………………おい。朝食を持ってきたが」



ステイル「おい」
526 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/06(月) 00:04:50.89 ID:.W.mGWEo

上条「んぉ!!?お、おお!!!そ、そうかッッ!!!!」

そのステイルの二度目の言葉でようやく気付いたのか、
妙に焦りながら言葉を返す上条。

ステイル「…………」

そんな上条と、相変わらず何かに惚けているいるようなインデックスを怪訝な目で見ながら、
ステイルは持ってきたトレイをベッド脇の小さな机の上に載せた。


上条「……あ、あのよ!!!お、俺!!ちょっとトイレいって来る!!!!!」

とその時、微妙に腰が引けている、
少しばかり前傾姿勢ぎこちない動作で上条がそそくさとドアの方へと向かっていった。

上条「ステイル!!!!少し頼む!!!!」

ステイル「………………ちょっと待て!」

そんな上条の後を追い、ステイルも駆け出した。
そして廊下に出て、インデックスに直ぐ済むからと軽く促した後、扉を閉めた。

ステイル「………………」


上条「な……なんだよ……急いでるんだ」

もぞもぞと、ぎこちない上条。
そんな彼を怪訝な目つきでジロジロと見ながら、ステイルはゆっくりと口を開く。
527 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/06(月) 00:06:53.49 ID:.W.mGWEo

ステイル「……トイレに行くって?」

上条「あ、ああ、そうだって言ったろ!」

ステイル「……」

そこでステイルは一際鋭く睨むような薄目をし。
そしてゆっくりとその視線を上条のちょうど股間の辺り、


妙に『盛り上がっている』部分に降ろした。


そして一言。

ステイル「…………『抜き』にか?」


上条「ばッ……!!!!!『抜かねえ』よ!!!!!」


上条「ちょっと押さえて沈めて来るだけだって!!!!!!」

ステイル「…………」

上条「………………しまっ…………」


ステイル「…………何を抜かないだ?何を押さえて沈めるって?ええ?おい?」


上条「……!!!!い、いや…………!!!!」
528 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/06(月) 00:08:35.62 ID:.W.mGWEo

ステイル「おいおいおいおいおいおい待て待て待て待てちょっといいか?何をした?何を彼女にした?おい言え」


上条「な、何もしてねえよ!!!!!何も!!!!!」

ステイル「本当にか!?本当に何もしてないのか!!?誓えるか!!!??」

上条「誓う!!!!誓って何もしてねえ!!!!」

ステイル「では『それ』は何だ!!!?随分元気だな!!?ええコラ!!!??」

上条「ち、違え……!!!!こ、これは…………!!!!」



上条「―――あ、朝立ちだッッッ!!!!!!!」



ステイル「ほぉ!!君はあんな状況でも普通に朝立ちするのか!!!??彼女が涙している時もか!!!??」

ステイル「なんという男だ!!!せめてこう言ってくれないか!!!?彼女に対してそうなってしまったと!!!」


上条「ああわかった!!!そうだ!!!!正直に言うとそうだこんちきしょう!!!!」



ステイル「……………………………やはりな……」


上条「…………………あっ…………」
529 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/06(月) 00:11:20.44 ID:.W.mGWEo

上条「…………す、すまん……」

ステイル「…………まあ謝る事はない……………………僕もその気持ちはわかるさ」

上条「おう………………………………え?」

ステイル「後ろの方は忘れろ。と、とにかくだ。あまり気を緩めないでくれ」

上条「ああ、もう二度とこんな事は無いようにするよ。気を引き締めなきゃな」

ステイル「いや…………だが、それが彼女の望みだというのならば……」

ステイル「それが彼女が求めることならば、僕からは君たちについては何も言わ…………」

上条「………………はい?何の事言ってんだ?」

ステイル「…………い、いや全て忘れろ」

ステイル「トイレに行くならさっさと行け。いや、もう収まったか?」

上条「あ〜、そっちの方は収まったが今度はマジで小便が……」

ステイル「じゃあさっさと行け。早く行け」

上条「お、おう」

上条は途中からどことなくおかしくなったステイルに対し、
少し首を傾げながらも足早に廊下を進んでいった。


ステイル「全く…………僕は何言ってるんだ」


そんな上条の遠のく背中を見つめ、
半ば呆れがちに小さく笑いながら溜息を付くステイル。


ステイル「(…………これじゃあ、まるで僕は『父親』だな…………)」


ステイル「(はは、『お前なんぞにあの子はやらん』とでも怒鳴れば良かったか……………)」


ステイル「(…………………………………僕も変わったな。こんな事で笑うとは)」


―――
530 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/06(月) 00:11:52.76 ID:.W.mGWEo
今日はここまでです。
次は火曜か水曜に。
531 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/06(月) 00:12:41.92 ID:eQhactUo
二人のぎこちないやりとりっていいなー

お義父さん・・・
532 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/06(月) 00:32:19.91 ID:1HTdlVU0
十代の悲しき生理反応乙ww
533 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/06(月) 00:50:37.47 ID:g4RHd5co
久しぶりに純粋なギャグが出たなwwwwwwwwwwこれは面白いのぜwwwwwwww>>1乙!
534 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/06(月) 06:59:00.36 ID:7JZdy2DO
やっぱステイルはお義父さんだな
535 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/07(火) 23:36:39.48 ID:hqGGq5Mo
プロットを見直し大体の総量を計算してみた結果、

このペースだと、もしかしたらのもしかしたらで12月に突入してしまうかもしれない

という予想が出ましたが、特に気にせずにいそいそ投下します。
536 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/07(火) 23:38:02.30 ID:hqGGq5Mo
―――

第一学区。

とあるビルの中の大きなフロア。

壁の一面を覆っている大きなスクリーン、その脇に置かれている演壇を正面にし、
大量のパイプ椅子が無造作に並べられていた。

そしてそれらの椅子に座っていく、少年少女達。
ほとんど会話せず、皆一様に警戒心を示しながら。

室内は異様な緊張感で張り詰めていた。


そして常盤台の制服を纏ったツインテールの少女、
黒子もその椅子の一つに座りながら周囲をさりげなく観察していた。

黒子「(なんか……社会不適合者達の集会みたいですの……)」

一見すると普通の中高生達だが、良く見ると皆やけに目が据わっており、
異様なオーラを醸し出している。

それこそ、一人や二人は平気で殺しているような。
黒子はまだ知らないが、実際に周りの者達は当たり前のように人を殺してきたのであるのだが。


と、その黒子だが、彼女自身は気付いていないが、
実際に今の彼女も端から見れば目が据わっていた。


暗部の者達から見ても、コイツは相応の修羅場経験あるな と納得させる程の空気を纏いながら。
537 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/07(火) 23:39:00.87 ID:hqGGq5Mo

そしてまた別の一画には、同じように鋭い目つきで座っている三名。
いや、真ん中の一人は普段どおりの少し眠そうな目をしていたが。

絹旗「…………」

絹旗は小さな両手を膝の上で軽く擦り、『窒素装甲』の調子を確認しながら。

滝壺「…………」

隣の滝壺は、周囲の大量の『信号』を受信し、少し頭をゆらゆらさせながら。

浜面「…………」

その隣の浜面は鋭い目つきで周囲を見据え、
万が一に備えて腰にある拳銃を強く意識しながら。


浜面「……おい……あいつも確か……」

小さな声で隣へと声を飛ばす浜面。

滝壺「うん、あの人はレベル4の(ry」

絹旗「ええ…………わかってますから超静かにして下さいっっ」

絹旗も同じように小さな声を返す。
538 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/07(火) 23:40:21.63 ID:hqGGq5Mo

元アイテムの彼らにしてみれば、ここに集ってきている面子の中には
かなりの知っている顔がある。
どれも暗部だ。

とある任務の時に共同で動いた事がある者、
同じ獲物を狙って鉢合わせになり、一触即発になった者等々。
中には、このフロアに入ってきて彼らの顔を見つけた途端、軽く会釈してきた者もいた。

そういう連中がオールスターとなれば、他の知らぬ顔も恐らく暗部。
共通しているのは皆高位の能力者、それも戦闘向きの者ばかりだ。

つまり、暗部の能力者戦力が集められているという事だろう。

浜面「……」

そんな事からすれば、浜面にとっては己がとんでもなく場違いな者に思えてしまう。
なにせ無能力者だ。

ここにいる連中は能力者の中でもレベル4。
それも一般のレベル4とは違い、戦闘に長けている者達ばかり。

浜面「(…………くっそ………………)」

浜面のチキンレーダーがビンビンと反応する。
これはかなりヤバそうだ、と。
539 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/07(火) 23:43:01.01 ID:hqGGq5Mo

そうやってそれぞれが一通り座した。
ちょうど100人程度だろうか。

それを見てか、壁際に立っていた一人のスーツの男が演壇に立ち。

「おはよう。諸君」

「さて、簡単に説明を始めよう」


「君達には最後の任務に就いてもらう」


「報酬は既に聞いているだろうが、望む物全てをあげよう」

「金が欲しいのなら金を。10億でも100億でもくれてやる」

「体に何らかの異常があるのならば治療を」

「暗部から抜けたいのなら好きなようにするがいい」

「自由が欲しいのなら自由をやる」

「戦いそのものが好きならば、この任務自体が報酬にも成り得るし、」

「その後も暗部に留まれば良い。好きなだけこき使ってやろう」


「君達の望みを叶えてやる」


「ただし条件は」


「任務に全力を尽くし、各々の仕事を完遂させる事、だ」


「物理的な報酬ならば、いくらか『前払い』もしてやる」

「だが、最終的な支払いは任務が完遂されてからだ」
540 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/07(火) 23:44:59.03 ID:hqGGq5Mo

集っている少年少女達は誰も、一言も口を開かなかった。
皆鋭い目つきで演壇の男を見据えていた。


「さて……ここまでで気に食わないのならば、退出してもらってもいい」

「学園都市が無くなってもかまわない、というのならばな」


「こちらから頼もう。戦う意志の無い者は出て行ってくれ」


「ここから『先』の話を聞けば後戻りはできんからな」

それでも誰も動かなかった。
皆表情を変えず沈黙。


「良いだろう。全員承諾したと受け取る」


「では具体的に話そうか」


そして男の声にあわせて、巨大なスクリーンに複数の画像が表示された。
それを見た瞬間、少年少女達は皆一様に反応を示した。

声は相変わらず上がらなかったが、皆目を見開き息を飲み込んでいた。

その画像。


それは悪魔達の写真。

二ヵ月半前、そして第23学区の件で捉えられたモノだ。
541 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/07(火) 23:46:28.54 ID:hqGGq5Mo

「ここにいる者は皆、それぞれこのような人外の存在を『認識』しているはずだ」

「まず君達の大半は二ヵ月半前の動員の際に交戦したことがあるだろう」

「その他の者も、その後に様々な理由で関っただろう」


「君達の今回の任務はこれに大きく関係している」

「今までの概念と常識を捨ててくれ」


「相手は常識の外、全く異なる世界の存在だからな」


そして男は細かく作戦の内容を口にしていった。
麦野や一方通行達と同じ知識レベルまで。

当然、天界だの『口を開く術式』だの言われれば、大半の者はチンプンカンプンだ。
というか大半が、この場で初めて『魔術』という存在を認識したほどだ。

徐々に少年少女達の顔が曇っていく。
こいつは何を言ってるんだ? とでも言いたげに。


だがそれが『デタラメ』『嘘っぱち』と疑う者は誰一人いなかった。

皆、現に悪魔と言う存在と直接関わり、
常識では説明が付かない現象を実際に目の当たりにしているのだ。

理解不能でも、最初から突っぱねるのではなく皆わかろうと懸命に思考を巡らせていた。
542 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/07(火) 23:47:58.75 ID:hqGGq5Mo

「…………わからないか。まあ、仕方無いだろうな」

「今は簡単にこれだけ覚えておいてくれ」

「学園都市を守る為、時間稼ぎをする為にデュマーリ島に行く」

「そして向こうで悪魔達と戦いつつ都市を破壊、そして状況によってはこのアリウスへと戦力を投入する」

「こんな所だな」

「さっき言った通り、様々な情報を『学習装置』で君達の中に書き込む。そうすれば詳細も理解できるだろう」


「さて、そろそろ紹介しておくか……」

一通り皆の顔を見渡した後、軽く両手を叩いて呟く男。



滝壺「―――!!!!!!!」

とその時だった。
浜面と絹旗の間にいた滝壺が、突如ビクンと体を揺らし、そして目を見開いた。

浜面「…………お、おい?」

絹旗「…………どうしたんです?」

小声で、滝壺に両側から囁きかける二人。


滝壺「………………む…………む……む……」


浜面「む?」


滝壺「六時方向から…………信号が……」
543 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/07(火) 23:49:39.35 ID:hqGGq5Mo

六時方向。

その言葉を聞き、軽く身を捩って後ろに視線を向けようとする絹旗と浜面。
同時に、タイミング良く響く。



「お、来たな。では後ろを見てくれ。君達のリーダーだ」



演壇の男の、フロアの後方へと視線を向けるよう促す声。

そして絹旗と浜面と同じく、皆も一斉に後方に振り返った。



そして目に入る。


二人の女の姿。

スーツを纏い眼帯をしている女はパイプ椅子の一つに足を組んで座っており。

その隣には、長い髪を二つに結っている、サラシを巻いているような奇妙な格好の女。
近くの壁によりかかり軍用ライトをクルクルとまわしていた。



絹旗「―――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


浜面「―――――――ッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



その片方の女の顔を見て、二人は硬直した。
特に浜面は、まるで世界の終わりを見ているかのような悲壮すぎる表情で。


一方とある一画では、もう一人の方を見て驚愕の表情を浮かべている少女が一人。


黒子「(…………あの女はッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!)」
544 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/07(火) 23:51:46.81 ID:hqGGq5Mo

「右側が今作戦の副指揮官」


「レベル5第八位昇格予定、『座標移動』 結標淡希」


黒子「!!!!!!!」


「左側の眼帯をしている方が総指揮官」


「レベル5第四位、『原子崩し』。麦野沈利」


絹旗&浜面「!!!!!!!!!!!」


「それと……おい、彼はどこだ?」



結標「ああ、アイツはトイレだって。もう来ると思うけど」

とその時。

フロアの扉が開き。


土御門「ひゃー、スマンスマン、遅れたぜよ」

ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら、姿を現す金髪にサングラスの少年。


「ああ、彼が土御門元春。今作戦のアドバイザーであり『頭脳』だ」


「君達はこの三名の命令に従って行動してもらう」

「『原子崩し』と『座標移動』はその必要はないだろうが、土御門については全力で守護してくれ」


土御門「はは、せいぜい俺の邪魔しねえように頼むぜよ」


黒子「(あの殿方は確か……………………)」
545 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/07(火) 23:56:02.82 ID:FLM2QMo0
>>535
毎回楽しみに読ませて頂いておる身としてはどんとこいでございます
546 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/07(火) 23:57:07.45 ID:hqGGq5Mo

男の声が響く中、一人の無能力者は冷や汗を垂らして体を震わせていた。

浜面「(やべえ!!!!!!マジでやべえ!!!!!!こ、こ、こ、―――)」


浜面「(―――殺される!!!!!!!!本当にやべえ!!!!!)」


麦野沈利。

正に浜面にとって死神。


彼女については色々思うこともあるものの、
やはり現に目にしたらそんな事など頭の中からすっ飛んでしまう。


目を合わせないように意識しながらも、麦野の方をチラチラと見てしまう。
ダークグレーのスーツを身に纏っている麦野は無表情。
いや、少し目を薄めて気だるそうにしているか。

長い足を優雅に組み、首を少し傾けやや流し目で
演壇の男の方を真っ直ぐに見ている。

その醸し出しているオーラ。
異様な威圧感。
不気味なほどの落ち着きっぷり。


浜面「(……………………??)」


そう、今の麦野は不気味な程に『安定』している。
今までのような、全身から狂気を噴き出してはいない。


浜面はそこでようやく気付いた。

麦野の何かが違う、と。

あのフレンダの上半身を引き摺って現れた時のような。
あの第23学区で見た時のような、狂気と殺意が今の麦野からはまったく出ていない。

それどころか、麦野が豹変する『前』よりも妙に安定しているような。
547 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/07(火) 23:59:10.64 ID:hqGGq5Mo

絹旗「ちょっと浜面ッッ!!!何超ジロジロ見てんですかッッ!!!!」

小さくも、張り詰めた声を浜面に飛ばす絹旗。
浜面と同じく、彼女も冷や汗を滲ませていた。

浜面「お、おう……」

そう言われても見てしまうのが人というもの。

これが最後だと、もう一度チラリと麦野の方へ視線を向けた浜面。


浜面「―――」


すると。



目が会う。


麦野も真っ直ぐと浜面の方を見ていた。
無表情のまま。

鋭く凍て付くような左目。

そして。

一瞬だけ。


一瞬だけ、その左瞳が赤く光ったような―――。


浜面「―――うぉぉぉッッッッッ!!!!!!!!!!」


思わず彼は大きな声を上げてしまった。
全身の毛穴が開くのを感じ、その強烈な悪寒に耐えかねて。
548 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:01:20.11 ID:SX9yjlMo

絹旗「―――バッッ!!!!超バカ浜面ッッ!!!!!!」

そして同じく大きな声を上げる絹旗。
当然、皆の視線が一気に彼らの所へと集中する。

「どうした?何か問題でもあるか?」

その男の声に対し、
浜面は口を固く結びながら無言で首を左右に振った。

絹旗も同じく、小刻みに首を振った。


「……そうか。ああ、それとだ」

男が小さく頷いた後、思い出したように呟きながら浜面と絹旗の『間』へと視線を動かし。



「滝壺理后」



滝壺「…………?」


「君の事も皆に紹介しておかねばな」



「レベル5第九位昇格予定、『能力追跡』。滝壺理后」



浜面「―――レベル5…………!!!!???」

絹旗「!!?はぃぃぃぃッッ!!!!?」



滝壺「………………………………………………??????」
549 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:04:47.66 ID:SX9yjlMo

驚く両脇。

そして状況を掴めず、相変わらずポカーンとしている滝壺。
そんな三名を気にも留めず、男は皆に説明する。


「彼女は今作戦における、皆の管理・統率を担う」

「運用面における『核』だ」

「彼女の守護にも全力を尽くしてくれ」



「さて、ここまでで何か質問は?」

「何もなければ、この後直ぐに能力調整と知識面の書き込み作業に入ってもらうが」


「ちょっと待て」

とその時。
浜面達から見て3列前にいた、高校の学生服を着ている一人の茶髪の少年が立ち上がった。


「要は戦えば良いんだろ?なんなら一人でやらせてくんね?」

「チームとかに入りたくねえんだけど」

「つーか部隊とかウゼエ。全部俺の下っつうなら別にいいけどよ」



「大体にして『あのアマ』が頭なんざ気に食わねえ」


そして少年は半身振り返り、麦野と結標を鼻で小さく笑いながら見やった。
550 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:06:21.82 ID:SX9yjlMo

「それとも何?レベル5ってだけで頭になれるくらいのバカしかいねえの?」

「強けりゃ階級も上ってか?なんだよそれ。組織として最悪じゃねえか」

少年の言葉に同意し、少し笑みを浮かべている者も幾人かいた。
まあ、端から見ればそうだろう。


土御門が総指揮官、となればまた違った風になるかもしれないが、
少なくともレベル5(予定)の麦野と結標がトップとなれば、
能力重視で命令系統を決めたようにも捉えられてしまうだろう。

浜面や絹旗等は、麦野の指揮能力の高さを良く知っているが、
それを知らない者にしてみればそう思ってしまうのも当然。


「いや。指揮系統の人選はしっかりと指揮能力を考慮して行ったが」

男が少年に対して返答するも。


「俺はんな事知らねえ。信用できねえよ。第四位に関して聞いたことと言やあ、」



「部下をも機嫌の良し悪しでぶっ殺す『虐殺女帝』ってだけだが」



「『血に狂ってるバケモノ』ってな」


それは明らかに挑発だった。
一瞬にして室内の空気が張り詰める。
551 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:10:40.33 ID:SX9yjlMo

その沈黙の中。
不気味に響く小さな笑い声。


麦野「はは、あははは」


麦野は眼帯の隙間から青白い光を漏らしながら、乾いた笑い声を発した。

そしてゆっくりと立ち上がり、少年をまっすぐと見据え。


麦野「ま、それは間違ってないわね」

麦野「私は殺しまくった。アンタら全員が殺した分よりも恐らく多く、ね」

麦野「昨日も『散歩がてら』に、潮岸と奴の部隊350人をシェルターごと『蒸発』させたし」


麦野「そして部下も殺した事があるわ。下っ端じゃない幹部をね」


浜面「…………」

絹旗「…………」

滝壺「…………(むぎの……)」



麦野「でも、そこだけを見て『バケモノ』って呼ぶのは間違えてるわよ」


麦野「その評判が出回った頃の私は、『まだ』本物のバケモノじゃ無かったんだから―――」
552 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:13:23.71 ID:SX9yjlMo

次の瞬間。

皆が麦野の姿を見失った。
フロアの後方のパイプ椅子の前に立っていた麦野。

その姿が、小さな空気を裂く音と共に一瞬にして掻き消えたのだ。

だが誰も探そうとはしなかった。


なぜなら、再び姿を現した麦野はあまりにも『目立ち』過ぎていたからだ。
視覚的にも。
そして感覚的にも。


茶髪の少年。
そのすぐ背後に、麦野は瞬時に移動していた。

左瞳を眩いほどに赤く光らせ、
背中から青白い光に包まれている紫の翼を出現させ。

周囲の者達が驚き、その威圧に押されてパイプ椅子から転げ落ちたり、
咄嗟に立ち上がって後ずさりし、麦野と少年から離れた。


「―――ッ…………………………………………!!!」

少年は動けなかった。
直ぐ背後の凄まじい存在を本能的に感じ。

そんな少年の耳元に軽く麦野は顔を寄せ。



麦野『バケモノってはね。今の私を見てから言いな』

麦野は囁くように、そして少しエコーのかかった声を発した。



麦野『―――今の私は「本物」だから』



麦野『覚えとけ。「バケモノ」ってのはこういうのだ』
553 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:17:03.66 ID:SX9yjlMo

結標と土御門以外、少年少女達は皆硬直し息を呑んだ。

レベル5というのは、能力者達の中でもかけ離れている存在とは常識的に知っていたが。

これはあまりにも異質すぎた。
最早人間とは呼べない。
皆が皆、本能的に感じ取った。


正に『バケモノ』、と。


絹旗「(あ、あの目は…………!!!!!!!!)」

一人の少女は、以前とある白人男に直視されたトラウマ的記憶を思い起こしながら。

黒子「(あのお方も…………悪魔……ですの!!!??)」

また、周りの者よりも『アレ』が何なのかを良く知っている別の少女は、知識を元に麦野の存在を確認しながら。
皆が皆、麦野を見つめていた。


麦野『私の事は信用しなくて良い。だがこの「私の力」は「信用すべき」だと思うけど」


麦野『勘違いすんなよ。今はもう、テメェらの命は私のモノ』


麦野は少年の耳元に顔を寄せたまま。


麦野『ここにこうして残っている時点で、テメェらは承諾したはず』


フロアにいる全員へ向け言葉を発した。


麦野『私は「私のモノ」をもう誰にも「壊させない」』


少年越しに、3m先で固まっている浜面を見つめながら。
554 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:20:11.28 ID:SX9yjlMo

浜面「…………!!!!」


麦野『約束はできないけど一応の最善は尽くしてあげる』


麦野『任務の成功の次に、テメェら「私の所有物」共の保全を優先してやる』

麦野『「おりこう」にしてくれたら、「この私」がテメェらの為に戦ってあげる』


麦野『テメェらが生きて帰れるよう、それなりの努力はしてやる』



麦野『それと「コレ」は「約束」するわ』



麦野『私のモノになりたくないってーのなら、今ここで壊してあげる』



麦野『私に従わないっていうのなら―――』




麦野『―――今ここでブチ殺してあげる』
555 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:21:16.65 ID:SX9yjlMo

誰も言葉を発しなかった。
ここにいた少年少女達、皆が麦野に飲み込まれていた。


選択の余地は無い。


麦野の下につくか、それとも全てを水の泡にして死ぬか。

ここにいる者は皆 生きる為、もしくは生きて何かを欲している為に集っているのだ。
今ここで死ねば元も子もない。

もう、麦野に対して反旗を掲げる者はいなかった。

茶髪の少年は小さく頷き、
麦野に目を合わせないように自分のパイプ椅子に座った。


土御門「ひゅ〜」


そんな異様な沈黙を容易くぶち割る、
ニヤニヤ笑っている土御門の口笛とテキトーな拍手。

同じく、結標も小さく笑っていた。
556 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:23:43.40 ID:SX9yjlMo

土御門「さっすがだぜよ〜」

抗いようの無い恐怖を一気に与えた後、
今度はその『圧倒的な力』が自分を守ってくれると認識させ。


最後に死か服従かを叩きつけ、
圧倒的『異常な存在への畏怖』を、絶対的な『主従関係の畏敬』にすり返る。


これぞ正に帝王学。


ここだけを見ても麦野は上に立つ素養を充分に秘めている。
それが良いか悪いかを別として、だが。


軽口を叩く土御門を、赤い瞳のまま睨み返す麦野。

土御門「ひゃー、おっかねえおっかねえ」

それを見て、左手をひらひら振りながら相変わらず笑う土御門。

皆が一様に顔を引きつらせている中での、土御門と結標の小馬鹿にしたような、
半ば呆れがちな笑顔はかなり異質なモノに見えた。


そして、これも他の少年少女達の中に無意識の内に刷り込まれていく。
この土御門と結標は麦野と『同等』であり、自分達の『上司』である、と。

つまり土御門と結標は、麦野のばら撒いた恐怖を利用して、
自分達の『格』をも示して刷り込ませたのだ。
557 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:25:34.50 ID:SX9yjlMo

グループのメンバーは皆キワモノだ。

それぞれが、別のところでは一組織を纏め上げてしょって立つような素養を持っている。
そこが他の暗部組織との大きな違いだ。

一方通行と土御門は言わずもがな。
エツァリは、アステカ魔術師の中から選抜され学園都市に送り込まれた最エリート。
向こうにいた頃は、組織内では幹部級の立ち位置。

結標は、グループに入る以前までとある一つの組織を率い、
学園都市に対して計画的な反抗を目論んでいた策士。

そして言わずと知れた麦野はアイテムの元リーダー。

学園都市にとって、一歩扱いを間違えると爆弾となりうる者達が集められているのがグループなのだ。
危険物の掃き溜めとも言えるし、頭が『飛んでいる』者達が集められた最精鋭とも言える。

上に立つ素養は麦野だけではなく、
グループの現メンバー五人ともそれぞれが有しているのだ。

皆が皆、それぞれかなりの切れ者だ。



そうやって、一応の認識が全員に染み渡ったところで。


「……さて、そろそろいいかな?」

男が演壇に寄りかかりながら、タイミングを見計らって口を開いた。


「原子崩し。他に言いたい事は?」


その男の言葉に対し、麦野は背を向けたまま左手を軽く振り、
何もいう事は無いあまを示しながらツカツカとフロアの後ろの方へと戻っていった。

男は続けて視線を土御門と結標に移し。
二人は麦野と同じように、先を続けてくれと軽く眉を動かして意思表示した。
558 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/08(水) 00:25:53.83 ID:nBnFxHw0
つっちーがんばれ(;´ω`)
559 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:27:38.44 ID:SX9yjlMo

「では、これから調整に入ってもらう」

「一階に降りてくれ。そこで別れ、それぞれの施設へと向かってもらう」


その男の言葉を合図に、皆が無言のまま立ち上がりドアの方へと歩き進んでいく。


そんな中、常盤台の制服を着た少女はふと足を止め。

黒子「…………」

結標の方へと視線を向けていた。
相手も彼女の方を見ていた。

そして結標は軽く微笑んだまま、小さく顎を揺らす。
何かの意思表示か。

挨拶のようなものか。

黒子「…………」

それに対し黒子は小さく眉を顰めただけで、
再び前に向き直るとそのまま人の流れに乗ってフロアを後にした。
560 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:29:29.78 ID:SX9yjlMo

土御門「…………そういえば、お前ら前に殺し合ったんだっけか」

そんな二人のテレポーターの一瞬のやり取りを見ていた土御門が、
相変わらず不敵な笑みを浮かべながら結標の方へと言葉を飛ばす。

結標「…………まあね」

土御門「はは、お前の方に配属したらどうだ?『息が合う』んじゃないか?」

結標「うっさい。私よりも濃い因縁持ちはココにいるでしょ」

からかうような土御門の言葉を一蹴しながら、結標は顎で横にいる麦野を指した。

麦野「……」

土御門「おお、そうだったぜよ」



ちょうどと言うべきか。


そんな麦野を、座っていたパイプ椅子のところから見ている一人の無能力者の少年。

浜面「…………」

絹旗「ちょ、ちょっと浜面!!!!滝壺さんも!!何超見てんですか!!!さっさと行きますよ!!!」

滝壺「……むぎの…………なんか違う……あの時と……」

浜面「…………ああ」

絹旗「滝壺さんも何言ってるんですか!!?超意味不明ですが!!!??」
561 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:30:56.47 ID:SX9yjlMo
浜面「……お前ら先行っててくれ。俺…………ちょっと確かめるわ」

絹旗「はぁ?!浜づッッ…………!!!!!」

そんな絹旗の声など気にも留めず、早歩きで浜面は歩き進んでいった。
ドアの方ではなく。

麦野の方へ。

彼は麦野の前、一メートルのとこまで迫った。

そんな浜面を、軽く咳払いし足を組み替え、
無表情のまま鋭い視線で見る麦野。



浜面「…………………………………………よ、よう……ひ、久しぶりだな」



それが、異常な程にぎこちない苦笑いを浮かべている浜面の第一声。


麦野「……………………何か用?」

それに対し、相変わらず冷めた調子で淡々と言葉を返す麦野。


麦野「何か質問ならあの男に聞け」


浜面「……い、いや…………そうじゃなくてな……」
562 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:31:40.14 ID:SX9yjlMo


麦野「……じゃあ何?さっさと言えよ」

浜面「……………………………あのよ…………」

麦野「…………」

浜面「…………」

麦野「…………何?」


浜面「あ……あのよ!!!―――」



浜面「―――俺を殺さねえのか!!!!!???」


浜面「―――こんなに近くにいるんだぜ!!!!!???」


浜面「―――今更無能力者の一人や二人なんかどうってこと(ry」


麦野「おい」


浜面「…………ッ!!!!あ、ああ何だっ!!!!??」


麦野「…………言いたい事はそれだけ?」


浜面「…………お前は…………何か無いのか?俺達に……?」

麦野「…………………………………それだけならさっさと行け」
563 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:33:37.86 ID:SX9yjlMo

浜面「…………麦野…………お前どうしちまったんだ?」

麦野「…………」

浜面「おい…………」

その浜面の問いかけはそれはそれは奇妙なものだっただろう。
まるで死にたがっているような。

当然、浜面は生きたい。

それなのに、『俺を殺したかがってるはずじゃなかったのかよ!?』と聞くとは。
むしろ『俺を殺す約束じゃなかったのかよ!?』と怒っているかのように。


麦野が自分達への殺意を見せない事に対し、『失望』しているかのような。


明らかに浜面の行動は矛盾している。


だが、この時の浜面の『お前どうしちまったんだ?』という問いには、別の意味も篭められていた。
浜面自身認識していなかった、別の『感情』が。

浜面は心のどこかで麦野を心配していたのだ。
彼女が豹変したのは二度目。
そのどちらも劇的に。


この今の二度目は確かに狂気も薄れて、客観的に見れば好ましい変化かもしれない。

しかし浜面はどうしても気になってしまっていた。

浜面は、この麦野がますます自分の知る『リーダー』の姿からかけ離れて行くのを感じていた。


殺意を見せないのは好ましいことなのに。
自分達の最大の脅威が無くなっているのは手を叩いて喜ぶべきなのに。


それでいて、数少ない『友人』が消えていってしまうような―――。


更に遠くに行ってしまうような―――。
564 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:35:16.05 ID:SX9yjlMo

そんな、得体の知れない感情を同じく滝壺も感じていたのか、
見るからにハラハラしている絹旗の隣で、彼女は哀しげな目で麦野と浜面を見ていた。


浜面「…………なあ……一体どうしちまったんだ?」

浜面「おい…………」


麦野「うるせえ」

だが麦野は表情を全く変えない。
そして相変わらず淡々とした口調で。


麦野「さっさと行け。『命令』だ」


命令を下す。


浜面「…………」

在りし日の頃のように。


浜面「………………ああ、了解」

そして浜面もスッと踵を返し、
絹旗と滝壺に目で合図をしてドアの方へと向かう。
565 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:36:59.60 ID:SX9yjlMo

とその時。





麦野「――――――浜面―――」





浜面がドアから出るかどうかのところで、麦野の声。


浜面「……お、おう??!!!!」

少し焦りながら慌てて振り向く浜面。



麦野「……………………………………………………………………………………」


そんな浜面の顔を、そしてその向こうの少し悲しげな目の滝壺と、
警戒心むき出しの絹旗の顔を麦野はしばらく見つめ。


何かを言いたげに口を少し開いたが。


麦野「……………………………………………………………………………………何でもない。さっさと行け」



再び閉じ、最後に目をそらしながらポツリと呟いた。
これまた淡々と。

感情が一切読み取れない、揚場の無い声色で。


浜面「……………………あ、ああ」
566 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/08(水) 00:39:22.67 ID:SX9yjlMo

浜面達が退室し、フロアには説明していた男と、三人の『幹部』だけが残った。

麦野「…………」

土御門「……麦野」

麦野「何?」

土御門「言いたいことがあるなら、言える内に伝えておいた方がいいぜよ」

麦野「……ほっとけ。余計なお世話だ」

土御門「…………それともう一つ」

土御門「任務の完遂が最優先だからな」



土御門「―――『あいつら』を優先するなよ?」



麦野「…………んなもんわかってる…………」

アラストル『(心配するな。俺がいる)』

麦野「(…………)」

アラストル『(お前なら出来る。俺の名に賭けてやる)』

アラストル『(そもそもだ。お前が満足いくまでやり遂げてくれなきゃ、俺がマスターに会わせる顔が無くなるし、)』

アラストル『(お前を選んだマスターの顔にも泥を塗ってしまう)』

アラストル『(マスターの名を汚す事態だけは全力で避けさせてもらうからな)』

麦野「(…………ええ……わかってるって)」


―――
567 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/08(水) 00:40:06.61 ID:SX9yjlMo
今日はここまでです。
次は木曜か金曜に。
568 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/08(水) 00:40:31.48 ID:WZbe8wYo
乙乙


ああ、むぎのんかっこかわいいわ・・・!
569 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/08(水) 00:52:36.24 ID:nBnFxHw0
乙!

今回はむぎのん独壇場ね(*´Д`)
570 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/08(水) 01:00:42.55 ID:vgs6H9U0

つっちーかっけぇ
571 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/08(水) 01:12:56.86 ID:omGfg2AO
乙!

上司3人がかっこよすぎて寝ようとしてたのにテンション上がって寝れなくなったぜwwwwww
572 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/08(水) 08:57:09.34 ID:89r39QDO
>>535
『やった、終了予定が9月から12月に延びた。まだまだ読めれるぞ!』と思った。要するに、かまわん、やれ
573 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/08(水) 16:19:19.44 ID:sU5cj5oo
激しく同意
574 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/08(水) 19:38:34.14 ID:bI7tGgAO

level5やネーチンでもDMCベヨッタのボス相手にまあまあ戦えるか位がバランス良かった
魔人化ダンテバージル>通常ダンテバージル>四元徳 ベリアル=一方通行 ネーチン>ブリッツら高等悪魔天使=美琴>level4
575 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/08(水) 21:12:02.91 ID:89r39QDO
>>574
ランキングにするのはやめたほうがいいぜ。ややこしくなるからな
576 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/09(木) 01:09:49.50 ID:3Y9XCcAO
とある勢がスタイリッシュに進化している今の状況も面白いもんだぜ
577 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/09(木) 01:39:14.77 ID:RrDj7oQo
現時点じゃアラストル麦のん>美琴なのかな?序列逆転か。
まぁ周りが人外になる中美琴はダンテ作の武器持ったぐらいで基本的には人間のままだからな
578 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/09(木) 01:52:16.32 ID:BAWrx9go
早くスタイリッシュ痴女アクションが見たいんだぜ
579 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/09(木) 07:41:15.61 ID:AyO1S.AO
まあ美琴の武器はロダン製でもない魔具もどきだし
アラストルさんには全く及ぶまい
580 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/09(木) 16:40:43.89 ID:bsJbAkDO
そういえば、結構前の話だが上条さんって☆からいくらくらい貰ったんだろ
一躍金持ちになった、その日何度も0の数を数えたってあるし
まぁご想像にお任せしますって奴だろうけど
581 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/09(木) 18:40:36.30 ID:uyU7dow0
>>580上条ちゃんはバカなので五つ以上の桁は数えられませんよ?
582 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/09(木) 20:36:02.21 ID:KHQYyEg0
>>581 メッサウケたwwwwwwありえそうで困るwwwwwwwwwwww
583 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/09(木) 21:56:38.69 ID:bsJbAkDO
>>581
5桁以上数えられないから何度も確認した…
つまり万以上は確実と考えとくとしよう
まぁ1000万以上は行ってるだろうな
584 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:17:24.82 ID:HjU1p5.o
―――

とある病棟の廊下を歩く、一人の成人女と一人の幼い少女。

一人はシャレたサングラスをかけ、胸元が大きくはだけたジャケットにホットパンツ。
背中に巨大なロケットランチャーを背負い、腰や太ももに大量の銃器や弾倉をぶら下げている、
美しくもかなり危険な香りを漂わせている白人女性。

人間界最高峰のデビルハンター、レディ。


そして足長なレディの歩行ペースにあわせ、
やや早歩きでヒョコヒョコとその隣についている褐色の肌に赤毛の少女、ルシア。

少女は背中に、彼女の体の1.5倍はあろうかという巨大なバッグを二つ背負っていた。
端から見ればなんとバランスの悪い光景か。

このバッグには、ルシアから話を聞いたレディが選んだ一式の道具が入っている。
様々な魔導器、魔導書等、その分野は魔界関係だけではなく天界関係にまで及んでいる。

当然それらの大量の物資など、筋力は一介の人間と同レベルしかないレディは運ぶことが出来ない。

戦闘時に時々使う肉体強化魔術を使用すればまた別だが。
しかしそれは切り札の一つであり、物を運ぶ為だけに使う訳には行かない。

それに彼女の肉体強化魔術は、
パワー等の身体能力面では無く感応速度を爆発的に高める仕様であり、力仕事には全く向いていない。

そもそもパワー面は様々な武器で十二分に補強している為、特に必要としていないのだ。

とまあ、そういう事もあり荷物はルシアに運んでもらっているという訳だ。
実際、少女が背負っているバッグの一つは重量が約200kgだ。
585 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:20:36.33 ID:HjU1p5.o

レディ「…………」

廊下を進みながら、さりげなく周囲を観察するレディ。
彼女が学園都市に来るのは初めてだ。

実は二ヵ月半前の『パーティ』にもかなり参加したかったが、まあそれは置いておくとして、
実際に来て見ると、レディが聞いた話だけで思い描いていた学園都市像とは少し違っていた。

もっとこう、近未来的な姿を思い描いていたのだが、それ程ではなかった。


病院の中を多くのロボットが行きかい、様々な情報端末はホログラム化し、
どこにいても手をかざすだけでその立体映像の端末が出現するような、そんな未来都市がレディの想像だったが。


現に来て見ると、ヨーロッパの先進的な病院とほとんど変わりが無い。
ちらほらと清掃用のロボットを見るが、未来要素を醸し出しているのはそれだけだ。

まあ、まだ病院しか見ていないから、それで学園都市全体を判断するのは早計だろうが。


レディ「…………(ま、後でゆっくり出来るようになったら観光しようかしら)」


レディ「…………(でも日本語できないのよね〜)」


そう、実は彼女、日本語が喋れない。
何でもかんでも直感的に把握し、『覚える』のではなく『知っている』状態に持ちこめる悪魔とは違う。

人間である以上、頭を使ってコツコツ記憶していかねばならないのだ。
ヨーロッパの主な言語は堪能だが、今まで日本に関ることは無かった為習得していないのも当然。


レディ「…………(誰かついて来てくれれば良いけど)」
586 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:23:54.39 ID:HjU1p5.o

と、そうやって適当な事を考えながら廊下の突き当りを曲がると。

レディ「……あそこ?」

ルシア「はい」

廊下の先、とあるドアの直ぐ前で、
ダンテがシーツでぐるぐる巻きになっている
トリッシュを抱きかかえながら突っ立っていた。

ダンテは立ちながら器用に眠っているのか、目を瞑って頭をだらしなく傾けており。

そんな彼にお姫様抱っこされているトリッシュは、何か思考を巡らせているのか、
焦点の定まってない目でボーっと天井を眺めていた。


レディ「(……何やってんのアイツラは)」


ルシア「……?」

それは何とも奇妙な光景だった。

ただ見ただけでは、
何であんな事になっているのか、なぜああしてるのかその意図が全くわからない。


レディは呆れたような表情で、ルシアは不思議そうに頭を傾けながら、
その奇妙な二人の下へと進んでいった。
587 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:27:17.75 ID:HjU1p5.o

トリッシュ「あら、来たわね」

そんな二人の接近に気付き。
ふとトリッシュが視線を降ろし、レディ達に向け口を開いた。

レディ「………………何してんの?」

レディ「とうとう『教会』に行くつもり?それがウェディングドレス?」

小馬鹿にするように笑いながら、二人の姿をまじまじと眺め、
そしてトリッシュの体に巻かれているシーツを指すレディ。

ちなみにダンテは相変わらず、立ちながら器用に眠っていた。


トリッシュ「……………………笑えないわねその冗談は」


トリッシュ「違うわよ。フォルトゥナの『お姫様』が目を覚ましたの」

トリッシュ「それで今、中で『王子様』と二人っきり」

トリッシュ「そんなとこに部外者がいるのは野暮でしょ」


レディ「あ〜……そう。で、気使ったのはわかるけど、それなのに何でドアの直ぐ傍にいんのよ?」


トリッシュ「そりゃあ、『聞きたい』から。面白いじゃないの。『人間式の交尾』の音って」

レディ「…………」

トリッシュ「でも中々始まんないのよね〜ボソボソ喋ってるばっかで。時々キスの音は聞こえてたんだけど」

トリッシュ「ダンテなんか待ちくたびれてこのまま寝ちゃったし」

レディ「……………………(コイツ等本当にアホね)」
588 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:30:47.77 ID:HjU1p5.o

ルシア「?な、何か始まるんですか?」

レディ「何も始まらない。アンタはまだ知らなくて良い事だから。忘れろ」

トリッシュ「あ、勘違いしないでね。ダンテは違うけど私は学術的な意味で(ry」

とその時。

ドアが勢い良く開け放たれ。


ネロ「うっせーな、丸聞こえなんだよ」


見るからに不機嫌そうなネロが姿を現した。
その奥のベッドの上には、少し恥ずかしそうな表情のキリエ。


トリッシュ「あら、もう『済ませた』の?」


ネロ「んな訳ねえだろうが」

ネロ「くだらねえ期待してねえでさっさと入れよアホ共」

トリッシュ「ふふふ、じゃ、ほら起きなさい」

トリッシュがダンテの腕の上で軽く足を跳ね上げ、大男の大きく揺さぶった。


ダンテ「………………あぁ…………?何だ?もう『終わった』のか?随分『早え』な」

ボンヤリと目を開き、腑抜けた声を発しながらネロの方へと目を向けるダンテ。


ネロ「何をだ?何をだよバカ野郎?それと俺はんな『早く』ねえからな。舐めんなよ」


ダンテ「…………へっへ……ああそうかい」
589 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:32:59.94 ID:HjU1p5.o

ネロもネロの方でストレートな言い様。

ベッドの上で恥ずかしそうにしているキリエを尻目に、
飄々とダンテは病室に入り、トリッシュをキリエの横に降ろし。
それに続いて入室するレディと大きなバッグを背負ったルシア。

そして依然不機嫌なままのネロが、最後にやや乱暴にドアを閉め。

ダンテはトリッシュを降ろした後、壁際のソファーへと向かい腰を乱暴に降ろし。
ネロはベッド脇でやや眉を顰めながら腕組をし、

ルシアはベッドの近くにバッグを下ろして、定位置の窓枠にピョンと乗り。


レディはその大きなバッグの上に腰を降ろす。


トリッシュ「気分はどう?」

何事も無かったかのように、隣のやや俯き気味のキリエへ声をかけるトリッシュ。


キリエ「あ……もう大丈夫です。すみません……色々とご心配をおかけしてしまい……」


トリッシュ「気にしないで。それと無理もしないでね。まだ少しめまいとかだるさがあるでしょ」

キリエ「……………………はい」
590 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:34:50.49 ID:HjU1p5.o

トリッシュ「さてと…………レディ」

レディ「一応使えそうなのは一通り持ってきたけど」

トリッシュ「ええ、確かに大荷物ね。じゃあ早速見てちょうだい」

トリッシュ「彼女の右手首よ」

その声に合わせ、キリエがスッと右腕をレディの方へと差し出した。
レディも立ち上がり、サングラスを外し胸元に引っ掛けながら、

もう片方の手でキリエの腕を軽く掴んで顔を近付け。


レディ「……………………………………コレ…………随っっっっ分厄介ね……」

そして軽く舌打ちしながら、溜息混じりに呟いた。


レディ「『アイツ』のやり方に似てるけど…………もっと洗練されてるみたいね」


ダンテ「『親父さん』にか?」

トリッシュ「……『アーカム』?」


レディ「………………………………その名は言わないで」


トリッシュ「あらゴメン」
591 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:38:29.83 ID:HjU1p5.o

レディ「ちょっと我慢して」

レディはそう小さくキリエに良いながら、腰に大量にぶら下がっているポーチの一つから小さな黒い針を取り出し、
数ミリほど彼女のアザの中心に突き刺した。

キリエ「…………」

そしてスッと引き抜き、今度は指した周辺をやや強めに指圧し、血を数滴分染み出させ。
その血を人差し指で撫でるように掬い取ると。

一旦キリエから離れてバッグの方へと向かい、もう片方の手で起用に荷物のゴツイ拘束具を外し、何やら漁り始めた。


ネロ「…………『構成』を見んのか?」

レディ「ええ」

ネロ「禁書目録もここにいる。アイツに見てもらった方早くねえか?」

レディ「…………術式構造はともかく、その力の根源が神クラスだったらどうするのよ」

そんなネロの素朴な疑問に対し、レディは荷物を漁りながら淡々と答える。


レディ「そしてそれで精神汚染するようなトラップがあったら?」

レディ「禁書目録がどんだけの『器』持ってるか知らないけど、用心に越したことは無いでしょ」

レディ「表面見た感じだと、『コレ』作った奴は本当に化物染みた頭しているみたいだし、」

レディ「何が仕掛けてあるかわからないわよ」


ダンテ「お前の『親父さん』よりもか?」


レディ「…………多分。少なくとも私よりは頭がぶっ飛んでる」
592 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:41:09.99 ID:HjU1p5.o

レディ「…………っと……」

と話している間に、レディは目当てのとある魔導書を探し当てた。

表紙が黒ずんでいて古めかしく、
その姿を見ただけでこれがどれ程おぞましい存在かがわかるくらいに、
不気味な空気を漂わせていた


レディは再びバッグの上に腰を降ろし、その魔導書を膝の上に乗せると、
片方の手で再びサングラスをかけ。

レディ「キリエ」

上目遣いで、サングラスの上辺からオッドアイを覗かせながら
キリエの方をチラリと見やった。

その意図を察し、

ネロ「キリエ。目瞑ってろ」

ネロの声も受けて、キリエは目を瞑ってレディから目を背けた。

ネロ「俺が良いって言うまでそうしててくれ」

キリエ「……うん」


レディ「じゃ、始めるわね」

キリエの状態を再度目で確認した後、レディはそっと魔導書を開き。
そっとページを捲り始めた。

その瞬間、明るかった病室が一気に暗くなり、
凄まじい重圧が充満していった。
593 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:43:07.19 ID:HjU1p5.o

魔導書の中身。

そのページは『白紙』だった。
何も書かれていない。

だが。

レディ「…………」

先ほど指先でとったキリエの血をそのページに擦り付けると。


黒い染みのようなモノが一気にページ全体に染み出し、
そして様々な魔法陣や奇妙な紋章を浮かび上がらせた。


レディ「………………………はッ……」


それを見た瞬間、レディは短い笑い声をあげた。
本当に呆れてしまっているかのように。


トリッシュ「…………どう?」



レディ「…………術式の系統は様々ね……古代ギリシャのグノーシス式がメインだけど…………」

レディ「歴代のフォルトゥナ式も混ざってるし、天界魔術の構造も見えるわね……エノク語の式もあるし、最近のアレイスター式もあるわ」

レディ「ごちゃ混ぜ……っていうか、本当に良いとこ取りしてるわ。こんなの見たこと無いわ」


レディ「なんちゅー応用の仕方よ…………コレ作った奴イカれてるわ本当に」
594 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:45:33.32 ID:HjU1p5.o

トリッシュ「…………力の根源は?『誰』の力?」

レディ「……………………大量の高等悪魔の魂ね…………待って。大物がいたわ」


レディ「『トリグラフ』、それと恐怖公『アスタロト』」


トリッシュ「………………随分デカイのが釣れたわね」


ダンテ「?誰だそいつら?強えのか?」


トリッシュ「ええ。私よりも強いかしら。覇王の直属だった『神』よ」

レディ「『アスタロト』の方は確か今、魔界の内戦で10強に入ってるって聞いたけど」

トリッシュ「2000年前、覇王と一緒に別の世界へ侵略に行ってたから、スパーダにやられずに済んだ連中よ」

トリッシュ「レディの言うとおり、今は覇権争いで『頑張ってる』みたい」

レディ「ま、そういう連中が覇王復活の支援するのも理にかなってるって所ね」


ダンテ「…………へぇ…………そいつは面白えじゃねえか」


ネロ「待て……こいつらは俺の獲物だからな」
595 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:46:50.66 ID:HjU1p5.o

ダンテ「おいおいつれねえな。お前は覇王があんだろ?一体くらい寄越せよ」

ネロ「うるせーな、アンタはアンタの方で取り分があるだろ」


トリッシュ「……ダンテ。ネロの言う通り、この連中は彼の領分よ」


ダンテ「…………………あ〜」

ネロ「そういう事だ。ま、気が向いたら一体くらいやっても良いけどな」

ダンテ「本当だな?」

ネロ「気が向いたらな」

トリッシュ「あ、そうそうダンテ、向こうに行ったらこの二人の事もロダンに聞いといて」

トリッシュ「彼なら魔界の『近況』知ってると思うから」

ダンテ「へーへー」
596 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:49:36.90 ID:HjU1p5.o

トリッシュ「で、どう?外せそう?」

レディ「…………多分ね。慎重に行けば」

レディ「私の監督で一層一層しっかりと見てけば大丈夫だと思うから、禁書目録の目も借りたいわね」

レディ「禁書目録ってどの程度まで『受け止められる』の?」


トリッシュ「…………少なくとも、二ヵ月半前には私が直接力流し込んでも平然としてたわね」


レディ「じゃあ一応大丈夫ね」

レディ「この『二人』の力は精神系特化型でもないし、トラップの方も多分問題ないわ」

ダンテ「ソイツら、直接攻撃型か?」

レディ「まあね。記録が正しければ」


ダンテ「ヒューッッハッハァ、ますます面白そうだな」

ネロ「だからアンタのじゃねえって。俺のだ」

ダンテ「わぁってるって」
597 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:54:33.21 ID:HjU1p5.o

レディ「それともちろん幻想殺しも借りたいわね」

トリッシュ「大丈夫なの?あの子の手って加減できないで、一気に全構造ぶっ壊しちゃうみたいだけど」

                                                               アンタ達
レディ「……それは様子を見ながらね。幻想殺しが使えない場合も考えて、『スパーダ』の血もちょうだい」


レディ「この大物二人の力を打ち消せると思うから」


ダンテ「………………………………どんくれえだ?」

レディ「数滴で充分だから。何ビビッてんのよ」

ダンテ「…………お前が血寄越せとか言うとシャレになんねえんだよ」

ネロ「…………はは……」


レディ「ちょっと。アンタ達私を何だと思ってんの?こんな『か弱い』人間の『乙女』を捕まえておいて」

ネロ「………………乙女……ね。笑えるぜ……」


レディ「あ?どこが笑えるって?」


ネロ「……………………いや、すまん。笑えねえな……悪い……」
598 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/09(木) 23:55:52.14 ID:HjU1p5.o

トリッシュ「じゃ、そういう事でなんとかなりそうね。時間はどのくらいかかる?」

レディ「まだ何とも言えないけど…………四日あればいけるかも。遅くても一週間あれば」

ネロ「OK、早くて四日な」

ネロ「術が解け次第、俺とフォルトゥナの選抜部隊がデュマーリ島に乗り込む」

ネロ「それまでは監視に留めておいてくれ。絶対に『直接的』に手を出すなよ」


そこでネロはダンテの方へと振り向き。


ネロ「―――な。その事を頭に刻んでおいてくれ」


破天荒な叔父に対して念を押す。

そんなネロの言葉を受け、ダンテは苦笑いを浮かべた。
正にその点についてとある問題があると言いたげに。

当然、ネロもそのダンテの表情をすぐに読み取った。


ネロ「………………何かあんのか?」


ダンテ「…………ん〜……まあな」
599 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/10(金) 00:01:46.29 ID:Z1S.LJco
ダンテ「手を出すなって事だが…………」

トリッシュ「…………」

ダンテ「実はな、学園都市側でもデュマーリ島強襲をするらしくてな」

ダンテ「アリウスに対する妨害作戦らしい」

ネロ「…………どういう事だ?」

ダンテ「何でも、天界の口が開く件にもアイツが絡んでるらしくてな」

ダンテ「で、その天界の軍勢は学園都市を潰したがってるらしい」


ネロ「………………………俺らの事について、アレイスターは何か知ってるのか?」


ダンテ「いいや。知ってたら、そこの『お姫様』をどうにかしようとなんか仕掛けてくるだろうよ」

ダンテ「今のアレイスターは形振り構わない感じだったからな」

ダンテ「目的の為なら、俺らを敵に回す事をも厭わないだろうよ」

ネロ「…………そうか……」


ダンテ「どうする?」



ネロ「………………俺は『俺のやり方』を貫くだけだ」



ネロ「さっき言っただろ。キリエの術が解けるまでは『絶対』に手を出させねえ」



ネロ「如何なる理由があろうとな」
600 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/10(金) 00:03:58.42 ID:Z1S.LJco

ネロ「…………アラストル持ちもそれに絡んでるのか?」

ダンテ「まあな」

ネロ「じゃあアンタがそっちからなんとかしろ」

ネロ「こっちから先に手を出すつもりは無い」

ネロ「術が解けた後なら自由にしてもらって構わない」

ネロ「応援は喜んで受け入れる」


ネロ「だがその前に、先に勝手に動いたらそれ相応の『手段』をとるからな」


ダンテ「……………………あーへいへい。了解だ」


レディ「……ところで、ココに天界の軍勢が来るのよね?私達が間に合わなかったら?」

ネロ「ルシア。その時はキリエをフォルトゥナに運べ」

ルシア「は、はい」

レディ「フォルトゥナの結界は全部ぶっ壊れてるんじゃ?」

ネロ「今ウチの連中が再構築してる。一週間で元通りだ」

レディ「…………そう……」

小さく頷きながら、レディは魔導書をゆっくりと閉じた。
それと同時に、ネロはキリエの肩に手を置いてもう良いぞと小さく声をかけた。


トリッシュ「…………じゃ、今はこんな所ね」

トリッシュ「またなんかあったらルシアに迎えに行かせるから」

ネロ「ああ」
601 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/10(金) 00:07:21.43 ID:Z1S.LJco

そしてネロは軽くキリエに挨拶した後、ルシアと共にフォルトゥナへと向かっていった。

レディ「…………それにしても随分と厄介な事になってるじゃないのよ」

トリッシュ「そうね。私はこのザマだから、ここはダンテに頑張ってもらわなきゃ」

ダンテ「………………あ〜……」

トリッシュ「頼むわよ?ルシア戻ってきたらすぐ向こうに行って」

ダンテ「…………おー」

レディ「あ、その後でもいいから、あの子に禁書目録と幻想殺しも呼んできて貰って。早速始めたいから」

トリッシュ「ええ」

キリエ「あの、私は何をすれば……?」

レディ「右手を出してくれていればそれで充分よ。ただ、術式を弄る際はいくらか負荷が掛かるかも知れないから、」

レディ「ま、そこは様子を見ながら休み休み、ね。私もかなり疲れそうだし」

トリッシュ「禁書目録もそうだけど、人間には無理させないようにね。代わりに幻想殺しはいくらでも使って良いから」


レディ「当然でしょ。あんのクッッッッッッッッッソガキは死ぬまでこき使ってやる」


レディ「ていうか普通に殺したいんだけど。今日はしっかりフル装備で来たわよ?」


レディ「私としては、そろそろ殺しておかないとさ」


レディ「人間に戻ったら戻ったでつまんないし。今が旬の殺し時だと思うんだけど」


トリッシュ「それはさすがにダメ。半殺しなら別にOKだけど」


ダンテ「(へっへ、マジでご愁傷様だな坊や…………同情すんぜ)」

―――
602 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/10(金) 00:09:20.06 ID:Z1S.LJco
―――

一方その頃。
別の病室。


上条「うぉぅッッッッッ!!!!!!!!!!」

悪魔の感で、その強烈な殺意を感じ取った上条。
体を一気に駆け巡った冷気に溜まらず声を上げてしまった。

禁書「?どうしたのかな?」


上条「い、いや…………何か一瞬だけ…………」

この感覚は前にも一度経験がある。


レディを怒らせてしまった時だ。
あれ程おっかない『人間』はそうそうお目にかかれない。

悪魔ならまだしも、ただの人間でありながら上条にトラウマを刻み込んでしまう、正にある種の『怪物』だ。

力としての問題ではなく、もうなんだか本能的に『あの女には勝てない』と思い込んでしまう程だ。

上条「(………………まさか……学園都市にいるわけねえよなあ……気のせいだよな……)」


禁書「とうま?」

そんな上条を、軽く首を傾げながら不思議そうに見るインデックス。


上条「ん……あぁ……はは……なんでもねえぜ」
603 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/10(金) 00:12:32.86 ID:Z1S.LJco


上条「あ〜、それにしてもなあ……。こうゆっくりしてると色々思い出しちまったぜ」

禁書「?」

上条「まず、ウチの窓とベランダぶっ壊れちまっただろ?」

禁書「あ…………」

上条「…………金はそれなりにあるし修理はできるんだけどなぁ……」


上条「なんかそろそろ追い出されちまいそうな気がするぜ」

禁書「?あそこって学園都市側から借りてるんじゃないのかな?」

上条「そうだけど、こうも色々あるとご近所さんがさすがに怒るだろ?」

禁書「そう?つちみかどは怒らないと思うんだよ!」

上条「その反対側とか上とか下とかもいんだろ」

禁書「…………う……じゃ、じゃあいつかお引っ越しするの?」

上条「うーん…………まあ……考えてる」
604 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/10(金) 00:14:16.26 ID:Z1S.LJco

上条「寮じゃなくて一軒屋みたいなところとか。良く考えると、今回だって巻き添え出てたかも知れねえしな」

上条「できるだけ、他の人が近くに住んでいないような状況がいいかなってよ」


上条「それにお前もいるとなるとな〜。さすがに『二人で暮らす』には少し狭いだろ今のまま…………じゃっっっ……!!!」


自分が何気なしに口にした言葉で自爆する上条。

上条「い、いやっ…………ま、まあそんな感じでな……!!」

禁書「…………ふ、ふ、ふ、ふふ『二人』でっ……ねっ………!!」

そして同じく、飛び火して少し恥ずかしそうに俯くインデックス。


上条「そ、そうっ!!!そういう事でな!!!引っ越すのを考えてる訳だ!!」

禁書「う、うん!!!ちゃ、ちゃんと選ぶんだよっっ!!」

上条「お、おう!!!」

その時、病室のドア向こうに門番よろしく立っている、
赤毛の大男の舌打ちが小さく響いた。

惚けている二人の耳には当然入らなかったが。
605 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/10(金) 00:16:06.37 ID:Z1S.LJco

禁書「……あ、でもね。こもえとかあいさの家が遠くなるのはイヤなんだよ」

上条「あ〜、そこら辺も考えておかなきゃな。学校までの距離もだな」

上条「別に遠くても今の俺なら問題ねえけど、人間に戻ったら通学大変だしな」

禁書「とうま、もう学校いかなくていいんじゃない?」

上条「え?いやいやいや、それはさすがにマズイですよ〜インデックスさん」

上条「確かに学校とか言えるような『世間』から、俺はもうだいぶかけ離れちまったけどよ…………」

上条「やっぱり、一応高校ぐらいまではしっかり出ておきたい訳ですよ、上条さんとしては」

禁書「…………ふーん……そういうものなのかな」

上条「友達もいるしな。あいつらとも一緒に過したいしなやっぱり」

禁書「あっ!!!!じゃあ行かなきゃダメなんだよ!!!ともだちは大切にするんだよ!!!!」


上条「おう。ははは、そうだな」


上条「まあ、大学まで行きたかったけどな。だがさすがに『ココ』までくりゃあ、そういう『普通の世界』にはもう戻れないだろ」

上条「だからせめて高校くらいはって感じだな」
606 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/10(金) 00:17:59.08 ID:Z1S.LJco

禁書「…………………………とうま、後悔してる?『ココ』まで来て……」

上条「ん?ま、少し残念って感じかな」


禁書「……」


上条「あ〜、でもな。後悔はしてねえ」


上条「色々大変だが、今は『不幸』とも思わねえ」


禁書「………………ぇ?」



上条「お前がいりゃあ充分だ」



禁書「―――」



上条「お前に会えたんだ」



上条「それなのに『不幸だ』なんて言ってりゃあ、それこそバチが当たっちまうじゃねえか」
607 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/10(金) 00:19:57.23 ID:Z1S.LJco

禁書「……と、とうまっ…………」


上条「それにな、確かに大変だったが、それこそ一度死んじまったぐらいだけどな、」

上条「それ以上に色々な事を知る事が出来たし、色々な人にも会えた」

上条「例えば一方通行があんな風に、誰かの為に戦ってくれる事も知れたし」

上条「ステイルとか神裂がどれだけ『友達』の事を思ってたのかももっとわかったし」

上条「御坂が……そのなんつーか、アイツの想いもわかって、俺はちゃんと向き合う覚悟ができたし」

上条「悪魔とかも、こっちから見ればとんでもねえ連中だけど、向こうの立場から見れば人間達が憎いのも仕方ねえことだし」

上条「そんな悪魔の中でも人の為に戦ってくれる人がいて、そいつらの方が俺ら自身よりもよっぽど人間らしかったり」


上条「本当にたくさんな。今挙げたのは極一部だ」


上条「これらもな、元を辿れば全部お前がくれた『贈り物』だ」


禁書「…………」


上条「だから後悔なんざしてねえ」


上条「もし、これを『不幸だ』なんて言いやがる『俺』がいたら、思いっきりぶん殴ってやる」


上条「『今の俺』は『幸福』だよ。本当に恵まれてるさ」
608 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/10(金) 00:22:12.41 ID:Z1S.LJco

上条「…………っって……おいぃ?」

と、そうやって一通り言い終わったところで。
上条はようやく、インデックスが瞳を潤ませて
今にも泣きそうな顔をしているのに気付いた。

上条「…………ど、どうした?」

禁書「ううん!なんでもないんだよ!」

心配そうに覗き込む上条に対し、インデックスは今まで以上の笑みを浮かべた。
頬に水晶のような雫を伝わせながら。

上条「そ、そうか?」

禁書「うん!」

上条「い、いや…………俺がなんか悪いこと言ったのなら……」


禁書「ううん。でも…………まだまだ……」


禁書「…………………かん…………!」


上条「……へ?」


禁書「―――鈍感なんだよっっっとうまはっっっ!!!!」
609 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/10(金) 00:23:37.30 ID:Z1S.LJco

泣きながら、そして笑いながら、一気に上条に飛びついたインデックス。
彼の胸に飛び込み、そしてギュッと抱きついた。

上条「うぉぉ!!!ちょ、ちょ!!!!!!」

上条「い、インデックス!!!!!い、いいいいいいいいいいいいきなり何をッッッッッ……!!!!!!!」


禁書「……ねえ、とうま」


慌て焦る上条など全く気にせずに、
インデックスは彼の胸の中で目を瞑りながら小さく呟いた。

上条「……お、おうぅっ!!!?」

禁書「お引越しする前に、何回かあの家に戻るの?」

上条「ま、まままままあな!!荷物も運ばなきゃだしな!!!飛び散ったガラスとかも掃除しなきゃ(ry」

禁書「私も行きたいんだよ」

上条「……へ?」


禁書「だって、あそこはとうまと出会った場所」

禁書「とうまの思い出がたくさんある場所」



禁書「―――私の『聖地』だもん」




上条「―――…………」
610 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/10(金) 00:25:09.56 ID:Z1S.LJco

その言葉で上条の体から緊張が一気に引いていった。
そして彼はようやく。

ようやく静かにインデックスを抱きしめた。

上条「ああ。一緒に行こう」


禁書「…………でもね、本当はね、私はあそこで暮らしたいんだよ」


上条「……じゃあ、こういうのはどうだ?」

上条「あそこは別荘にする」

上条「普段の家は別に買って、休みの日とかにあそこに行く」

上条「いつでも好きなときに」

禁書「…………好きなときに……二人で?」

上条「もちろん。『俺達の聖地』だ。一緒に、な」

禁書「…………うん……それなら…………良い…………んだよ…………」

上条「………………?」

急にテンポが遅くなったインデックスの声。
上条は首を傾げながら、少し頭を傾けて腕の中を覗き込むと。

上条「(はは……寝ちまったのか。早業だな…………)」


上条「(ま、昨日の今日だしな。疲れてんだろうな…………)」


インデックスは、上条の胸の中で小さな寝息を立てて蹲っていた。

心地よさそうに。

まだ少し目の辺りを濡らしながら。

―――
611 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/10(金) 00:25:44.67 ID:Z1S.LJco
今日派ここまでです。
次は土曜か日曜に。
612 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/10(金) 00:26:56.64 ID:K9Mr6kQo
乙乙
613 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/10(金) 00:29:59.49 ID:CKQgOMAO
ほぼリアルタイムに読めたぜ!
614 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/10(金) 02:25:30.48 ID:Mb1jsVI0
乙!

レディたん(*´Д`)
615 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/10(金) 03:36:47.87 ID:fwXvLWQo
乙!甘くて砂糖吐いた
616 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/10(金) 05:37:27.38 ID:FPfX.x2o
インデックスさん・・・
617 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/10(金) 13:53:34.88 ID:GfDP7kDO
嵐の前の静けさってやつだな、ずっとこのままでもいいくらいだ
618 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/10(金) 16:18:33.16 ID:WztcsUDO
甘すぎてヤバイ。舌打ちするステイル良い
レディさんマジこええ
619 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/10(金) 18:04:49.92 ID:2ZCPeQAO
うざいからインデックス死なないかな
上条でもいいけど
620 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/10(金) 19:53:54.09 ID:C90jBsAO
ちょっと作者に聞きたいんだけど、これの他に今まで書いたSSってある?
621 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/10(金) 22:22:04.15 ID:Z1S.LJco
>>620
一レス二レスの小ネタならば、このSSを始める前に何回か書いたことがあります。
それだけです。
622 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 01:02:30.06 ID:MYpljMDO
長編は初なのか
すごいな
623 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/11(土) 09:04:52.06 ID:C94DtUAO
そうとうなファンと見た
624 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:06:36.35 ID:lj6gqawo
―――

魔界、煉獄の深淵。

暗く淀んだ『怨念の海』の上に佇む、白亜の大きな列柱廊円形ホール。

上も下も漆黒の闇である為、
その白き建造物とのコントラストが異様に際立っていた。

そのホールの中。

そこに今、一人の古の魔女と。

一人の最強の悪魔が立っており。


その前で、一人の『生れ落ちたばかり』の悪魔が床に四つんばいになり、
肩を大きく揺らしながら激しく呼吸していた。


アイゼン『…………それでこの者、使えそうか?』

第10代目アンブラの長、『魔女王』と称えられたアイゼンが、神裂を見下ろしながら
隣のバージルへ向けて口を開いた。


バージル「…………まだだ。少し『足りん』」

バージルはそれに対しそっけなく答えた。
全く感情の読めない冷たい眼差しを神裂に向けながら。



神裂「……はぁっっ…………ふっ…………?」
625 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:08:49.00 ID:lj6gqawo

アイゼン『調整できるか?』

バージル「ああ」

アイゼン『間に合うか?』

バージル「間に合わなかったら別の候補を使えば良い」

アイゼン『そうか…………一つ言っておくぞ。この者はそなたの力から生れ落ちた、いわば「子」だからな』

アイゼン『粗末にするのではないぞ?例え本命に使えずとも、別の使命を与えるのだぞ?』

アイゼン『意志を全うさせてやれ』


バージル「黙れ。口を出すな」


神裂「………………はぁっ…………っ…………!!」

と、その時。

息を切らしながら、神裂はゆっくりと顔を上げバージルの目を真っ直ぐと見つめ。


神裂「……誓って……失望…………は絶対にさせません……如何なる事であろうと……必ずやり遂げます……」


途切れ途切れながらも、
己の心の内をバージルへ向けて宣誓した。


バージル「…………」

その言葉を聞き、バージルは表情を変えぬまま、
右手に持っていた抜き身の七天七刀を神裂の前へと放り投げた。
626 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:09:57.71 ID:lj6gqawo

鋭い金属音を響かせながら神裂の直ぐ前、
白亜の床の上に落ちる七天七刀。

神裂「…………っ……!?」

バージル「さっさと拾え」

神裂「は、はい…………!!!」

その七天七刀の柄を握り締め、
神裂は震えながらぎこちなく立ち上がった。


アイゼン『もう始めるのか?』

そんな神裂の様子を見つつ、
アイゼンが小さく笑いながらバージルへと言葉だけを飛ばす。


アイゼン『まだ誕生したばかりだぞ?安定もしておらん。もうしばし時間を……』


バージル「不安定な今だからこそだ」


バージル「今が一番作り変えやすい」


アイゼン『ふ…………何とも……容赦の無い男よ』
627 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:12:56.57 ID:lj6gqawo

神裂「…………まず……私は………何をすれば良いのでしょうか?」

息を切らし肩を揺らしながらも、神裂はしっかりとした目と声色で、
力強く主に対して問うたが。



バージル「…………二時間で『俺の全力の次元斬り』を使える様になれ」



神裂「…………!!?」



バージル「自由に扱える程とは言わん」



バージル「一発だ。一発使える様になれば充分だ」


目を丸くしている神裂を尻目に、
淡々と言葉を続けるバージル。


バージル「お前はその『一発の為』に生かされている」


そんな彼の瞳が徐々に赤い光を増していき―――。
628 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:13:52.75 ID:lj6gqawo

バージル「もし使えぬのなら。そこまで到達できぬのなら―――」


次いで全身から青い光を放出し―――。


バージル『所詮その程度だったのならば―――』


バージル『その力を持つに足らぬ存在ならば―――』





バージル『―――さっさと死ね。邪魔だ』





―――そして魔人化する。



神裂「―――」

次の瞬間。

閻魔刀の鞘の先端が神裂の腹部に食い込こんだ。

湿った、不気味な破砕音を響かせながら。
629 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:16:04.83 ID:lj6gqawo

先程とは桁違いの威力の突き。

例え真剣ではなくとも、魔人化したバージルの突きはそれはそれは凄まじいモノだった。


神裂「―――」

一瞬にして神裂は突き飛ばされ、
ホールの外の漆黒の海の上を1km以上も跳ねながらぶっ飛んでいった。

巨大な黒い飛沫をいくつもぶち上げ、凄まじい地響きを響かせて。

                                       ココ
アイゼン『…………あまり暴れるなよ?確かに「煉獄」が崩壊することは無いが、さすがに大きく軋むからな』

アイゼン『他の界の連中にそなたの匂いが気付かれて、下手すると諸神達が軍勢を引き連れて群がってくるぞ?』


バージル『ならばその連中も殺せば良い』


アイゼン『はは、うむ、確かにそうだな。そなたには要らぬ心配だったか」


バージル『…………「時の腕輪」は?』

アイゼン『ああ〜、「あやつら」、「この間」かなり酷使しおったようだな。それはそれは修復が大変だったぞ』

アイゼン『ま、ジュベレウスを廃したのだ。この程度の損傷で済んでいた事に喜ぶべきだがな』

バージル『御託は良い。済んだのか?』


アイゼン『おおスマン。もう修復は完了した。使えるぞ』
630 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:20:30.90 ID:lj6gqawo

アイゼンはゴソゴソと、袖口から一つの奇妙な腕輪を取り出した。

骨をモチーフにしたような、銀色の不気味な腕輪だ。
琥珀色の奇妙な時計盤が、張り出している鉤爪で固定されていた。

アイゼン『ほれ』

とその時。


『―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!!!!!』


エコーのかかった凄まじい『女』の咆哮が、煉獄中に響き渡り、
周囲を大きく奮わせた。


そして神裂が吹っ飛んで行った方角で瞬く、青い閃光。

アイゼン『ほぉう。中々素養があるようだなあの者も』

バージル『…………腕輪は後で良い』

その光を見ながら、バージルは呟いた。

バージル『コレが済んでから受け取る』

アイゼン『……そうか…………しつこいようだが、くれぐれも力加減には気をつけるのだぞ?』

アイゼン『このやり方は危険だ。そなたであろうとミスはあるだろう?』

アイゼン『その小さなミスであの者は簡単に死にかねんからな。例え鞘でも、な』


バージル『…………言ったはずだ。口を出すなと』

念を押してくるアイゼンに対し、そう吐き捨てたと同時にバージルは一気に床を蹴り、
もう一つの『青い光』の方へと爆進していった。


アイゼン『…………………ふふは、スパーダの血は相変わらずだな』
631 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:22:16.22 ID:lj6gqawo


煉獄を覆っている漆黒の海。

ただ、海と言ってもその水深は10cm程しかない。
底はまるで肉を踏んでいるかのように少し軟質だ。

更に、海を形成しているのは液体とは断言しづらい、得体の知れないモノだ。
液体のように波打ちながらも、霧のようにもやもやとして重量感がほとんど感じられない。


しかし、今の神裂にはそんな事に首を傾げている余裕など無かった。


神裂『ガァッッ…………ァァァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!!!!!!!!』

漆黒の海の上、神裂は全身から青い光を放ち瞳を赤く輝かせながら、
苦痛に顔を歪めて咆哮していた。

あの突きの一撃で、肋骨は粉砕。
複数の臓物も一瞬にして破裂した。

と同時に、内部の『何か』が『点火』されたようだった。

全身から噴き上がる、今まで感じたことの無いような莫大な力。
その力のおかげで損傷した腹部は一瞬にして再生したが、

今度はその凄まじい量の力で体中、内部をも全てをとんでもない激痛が襲い始めた。

七天七刀を握る手も焼かれていくような感覚。
632 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:24:44.62 ID:lj6gqawo

神裂『ぐゥ…………!!!!!ァ゛ァッッ!!!!!!!!』

激痛の中、先程のバージルの言葉を思い出す。


「『俺の全力の次元斬り』を使える様になれ」


そして今のこの状況。

何の為にこうしているのかは、一目瞭然。
バージルクラスの次元斬りを放てる水準まで、神裂は到達しなければならないのだ。
それも二時間以内に。

今すぐに、だ。

このやり方はかなり強引だ。

例えるならば、身長を伸ばす為に体を力ずくで引き伸ばすような。

一歩間違えると、体が引き裂かれて命を落とす。

だがもう後には引けない。
既に始まっている。

バージルの力から生まれた七天七刀が、ついに神裂に対して全ての力を傾け始めた。

バージルの力から生れ落ちた彼女自身の力が、彼の突きで『点火』され最大出力で暴れ始めた。

これらを抑え込み、我が物とできるかどうかは彼女次第。
もしそれが出来なければ力との序列が覆り、彼女は飲み込まれて消滅する。

そして完全制御ができるようになったとしても、
今度はその水準がバージルの求める値まで到達していなければ、

用無しとしてあっけなく『処理』される。
633 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:26:18.96 ID:lj6gqawo

これらは、一見すると不条理・理不尽な仕打ちに見えるだろう。

神裂『ぐッッッ…………!!!!!!』

だが、巨大な力がそう易々と手に入る訳が無い。

ましてやスパーダの血の系統の力。


この程度の苦痛など、かなり『割引』されている方だ。

そして何よりも、神裂がまず求めたのだ。

本当の意味で人々の為に戦いたい。

本当の意味で、『友』を救いたい。

そしてその為の『資格』が欲しい。

その為の『力』が欲しい。

なんとしてでも。

これは神裂自身の試練なのだ。

本当の意味での『彼女自身』の戦いの始まりだ。




神裂『(―――良いでしょう―――!!!!!!)』



神裂は苦痛を全身で味わい、そして受け止めながら心する。


必ずこの試練を乗り切る事を。

好機を与えてくれた『師』、彼女の『神』であるバージルを
決して失望させない事を。
634 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:30:39.07 ID:lj6gqawo

神裂『―――』

ふと気付くと。

20m程正面に、いつのまにか『師』が悠然と立っていた。
魔人化し、周囲の空間を界ごと大きく歪めながら。

そして、鞘に入ったままの閻魔刀を軽く振り。


バージル『殺すつもりで行く。それしか見せ方は知らん』


バージル『直に見て、直に身に受けて「知れ」』


神裂『…………』

それに対し、神裂は固く口を結び、
全身を這い回る激痛を気にも留めずに独特の構えを取った。

七天七刀を体の前に突き出し、
己の中心線に重ねるように、手首を捻って垂直に刃の先を真下に向け。

そしてもう一方の手を軽く刀身に添え。


神裂『―――わかりました。始めましょう』


その神裂の言葉と構えを見、
バージルも閻魔刀を腰にあてがい構えを取った。


鞘での『お遊び』はもう終わり、だ。


ここからは『真剣』勝負。


日本刀をこよなく愛する一人の武人が、
史上最高最強の日本刀使いに認められる為に。


今、その最強の刃を前にする―――。


―――
635 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:31:42.41 ID:lj6gqawo
―――

一方その頃。

とある深い森の中にある、古びた洋館。

時刻は深夜。
昼間でも薄暗いこの地は、今や異様な程に濃い闇のカーテンに覆われ、
風も吹かず音一つ、虫の鳴き声さえなかった。


そんな洋館の中、大き目の広間。
片側が大きくブッ潰れ、床下まで突き抜けているソファーの上で、
大きく股をおっぴろげて寝ていた妖艶な黒髪の女がもぞもぞと動き出し、目覚めの時を迎えた。


ベヨネッタ「……………………痛ッ…………」


と、起き上がろうとした瞬間、額から鼻先にかけて響く鈍痛。
軽く片手をあてがい、寝ぼけ眼、いや、寝起きの不機嫌そうな薄目で周囲をジロジロ見渡しながら
起き上がるベヨネッタ。


ベヨネッタ「…………ん……?……あ?……どーなってんのこれ?」


当然、周囲の惨状が目に入る。


と、そうやってボーっとしているベヨネッタへ向け。

ジャンヌ「おはよ」

壁際の椅子に座り、優雅に足を組みながら小難しい本を読んでいるジャンヌが、
そっけなく声だけを飛ばした。
636 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:33:08.67 ID:lj6gqawo

ベヨネッタ「…………………これ……何?」

相変わらず思考が完全に覚めていないベヨネッタが、
やや呂律の回っていない声で呟いた。

ジャンヌ「あー、それか…………」


ジャンヌ「…………お前が寝ぼけて、一人でヘッドバッドかましたんだ」


ベヨネッタ「あ、そう…………」

ジャンヌの即興の嘘。
普通ならこれで誤魔化せないだろうが、相手はベヨネッタだ。

ベヨネッタは普通に納得した。
たまにだが、寝ぼけて周囲をぶっ壊すこともある。

ベヨネッタ「…………あ〜、私のメガネ知らない?」

ジャンヌ「普通に木っ端微塵だろ」


ベヨネッタ「…………………………そう……」

ベヨネッタがぼーっとしながら呟き、軽く手を振った。
するとパチン、という音と共に、その指先にお馴染みの黒縁メガネが出現する。


そしてそのメガネを、依然のろのろと気だるそうな仕草でかけた次の瞬間。


ベヨネッタ「―――ッッッッハフェェェェェェェッッッッッッッ――――――ッッッッッキシッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」


今度は全身を大きく躍らせながら、豪快なくしゃみを轟かせた。
637 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:35:27.75 ID:lj6gqawo

ベヨネッタ「……ウ゛ゥ゛ー……」

ジャンヌ「…………んな格好で寝るからだろ」

鼻をズズっと鳴らし唸っているベヨネッタに向け、
ジャンヌは呆れたように吐き捨てた。


ベヨネッタ「……もっかいシャワー浴びる……」

そんなジャンヌの言葉など聞こえていないかのように、
ベヨネッタは歩きながら服を脱ぎ捨てて、浴室の方へとフラフラと向かい始めた。

歩いているにも関らず、起用にパンツをも脱いでいく。

ジャンヌ「セレッサ」

その時、ジャンヌは瞬く間に全裸になっていたベヨネッタを呼び止めた。


ベヨネッタ「んあ?」


ジャンヌ「ロダンのとこ行くんだろ?早めにメンテ済ませてきな」


ベヨネッタ「あー……」

そう、これから大仕事がいくつも控えている。
様々な銃器をしっかりと手入れしておく必要がある。

ベヨネッタ「…………浴びたら行くわ……アンタは?」

ジャンヌ「私はもう済ませてきた」

ベヨネッタ「あ……そう……」


―――
638 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:37:17.84 ID:lj6gqawo
―――

とある病室。

そこで今、上条当麻は冷や汗を垂らしながら硬直していた。
つい先程まで浸っていた『素晴らしい時間』。

今はそれとは真逆だった。

何もせず、こうして部屋の片隅の椅子に座っているだけだが、
それだけでも上条の精神はみるみる疲弊していった。


人生とは良い事もあれば、悪いこともある。

良い思いをすれば、悪い思いもする。

何事もバランスだ。
今の上条の『苦行』も、先ほどの甘い時間の分の『支払い』のようなモノ。

あくまで中立である『運』は、『なぁにいっちょ前に惚けてだクソッタレ』 と上条を叩きのめしたのだ。


先程、彼はこう言った。

『俺は幸福だ』、と。


だが、今はとてもそんな風には言えなかった。
これぞ正に『不幸だ』という台詞が相応しい。

まさか学園都市にあの女が来ていたとは―――。
639 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:39:25.68 ID:lj6gqawo

上条「…………」

部屋の片隅で縮こまっている上条を尻目に、
キリエの手首を調べ、何やら彼にはわからない単語を並べて話している三人。

レディとトリッシュ、そしてインデックス。

その表情、喋りからも、三人はかなり集中しておりピリピリしているのがわかる。
だが上条にとっては、更に別の緊張感があった。

レディだ。

別に今何かされた訳ではない。

赤毛の褐色肌の少女に連れられ、この病室へやって来た上条とインデックス。

そんな二人を、レディは素晴らしい笑みで迎えた。
これでもかというくらい最高ににこやかに。

インデックスは普通に挨拶していたものの、
以前色々と関わりを持った上条にとっては、その笑みはまるで死神の微笑だった。

その瞬間から彼は生気を失い顔面蒼白となった。

上条はしっかりと感じ取っていた。

レディの笑みの下にある、己に対して真っ直ぐに向けられていたどす黒い狂気を。


猛獣が、最高のご馳走を前にしたようなあのオーラを。
640 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:41:26.68 ID:lj6gqawo

上条「…………」

三人は上条などいないかのように集中して作業を行っている。
レディはちょうど彼に背を向けて。

だが、その小さな動作一つ一つが、
どことなく背後で縮こまっている上条を意識しているかのようだ。


本人にその気があるのかどうかはわからなかったが、少なくとも上条は潰されかけていた。


レディの放つ無言、無視、沈黙の威圧によって。


そんな上条の恐怖を、定位置の窓枠に座っていたルシアは敏感に感じ取っていた。
彼が『何』に怯えてるのかまではわからず、不思議そうな表情を浮かべながら。


そして赤毛の少女はひょいっと窓枠から飛び降り、
硬直して妙に姿勢の良い上条の方へと近づいて行き。


ルシア「……あ、あの……どうしたんですか?」

心配する親切心から、彼女は上条に向けて口を開いた。


上条「!!!!!!あっ…………い、いや!!!!!」

そして思わぬ方向からの思わぬ声に、これでもかと言う程に焦る上条。
641 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:42:59.81 ID:lj6gqawo

トリッシュ「あ〜、ルシア」

とその時、一旦作業を止めて隅の二人の方へと向きながら、少女の名を呼ぶトリッシュ。

ルシア「はい」

トリッシュ「そこのお兄さんを連れて少し散歩してきなさい」

ルシア「?」

トリッシュ「そのままだと窒息死しそうな感じだから」

ルシア「…………具合が悪いんですか?」

禁書「とうま、どうしたの?」

上条「い、いや…………!!!!!!」

トリッシュ「良いから行きなさい。そこでガタガタされてると気散るの」

とその時。


レディ「は?何で?別に大丈夫でしょ?何か問題でも?」


いかにもわざとらしく、あっけらかんとした声色で口を開くレディ。
だがそんな彼女に対し、

トリッシュ「レーディ。『遊ぶ』のは後にして。今は集中して」

目を細めて叱るように言葉を放つトリッシュ。


レディ「……………………………………………………チッ」


上条「すんませんっっ!!!すんませんっ!!!!!じゃ、じゃあ…………あ、あの少し外の空気を吸ってきます…………」

すかさず椅子から立ち上がり、トリッシュの助け舟にしがみ付いた上条は、
レディに目を合わせぬようにそそくさとドアの方へと向かった。
642 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:45:27.68 ID:lj6gqawo

禁書「とうま?大丈夫?」

上条「いいいいい、いやだだだっだだ大丈夫だ」

上条「なななんかあったらドドドドドドアの直ぐそそそそそ外にステイルがいるから」

禁書「??」

トリッシュ「良いからさっさと行きなさい」

上条「はははい!!!!ありがとうございます!!!!!」

そう最後に礼をトリッシュに言い、相変わらず不思議そうな表情を浮かべているルシアと共に
上条は素早く退室していった。


トリッシュ「…………相当アナタが怖いみたいね」

レディ「ねえ、アンタどっちの味方?」

トリッシュ「どっちの味方でもないわよ。ただ死なれたら業務上困るの。ウチの失態だから」

レディ「…………その契約、私に売らない?『悪いよう』にはしないから」

トリッシュ「売らない」

レディ「借金全部チャラでどう?」

トリッシュ「…………………………………………うーん…………それは…………少し考え(ry」

禁書「ちょ、ちょっと何の話してるのかな!!??」

禁書「その契約って、『私の』のような気がするんだよ!!!!」
643 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:49:32.72 ID:lj6gqawo

レディ「あ、アンタがクライアント?あのクソガキを人間に戻すってやつの」

禁書「そ、そうなんだよ!!!ってクソガキってっっっっ!!!!!!」

禁書「その言葉撤回して欲しいかも!!!!!!」

トリッシュ「まあまあ、いい?確かのあの坊やは立派な面もあるけれど」

トリッシュ「レディに言ってはいけない事を言っちゃったのよ」

禁書「…………ほぇ?」

トリッシュ「たまーに物凄くデリカシーの無い事言うからねあの子は。しかもヘラヘラ笑いながら」

トリッシュ「更に、相手に怒られても何がいけなかったのか気付かず仕舞いとか」

トリッシュ「アナタならわかるでしょ?」

禁書「う…………」

トリッシュ「今までアナタもそれで怒ったこと無い?」

禁書「…………い、いっぱいあるんだよ…………」

レディ「アンタってずっと一緒にいたらしいけど、私は会った次の日でいきなり言われたんだから」

トリッシュ「だから、レディの怒りもあの坊やの自業自得ね」

レディ「そう、だから私はクソガキって言っていいのよ」

トリッシュ「そうそう」

禁書「そ、そうなのかも………………そうなのかな…………?」

レディ「そしてついでに殺して良いの」

トリッシュ「そうそ………………いやそれは無しだってば」

禁書「えっ?えっ?ええ、えっ!!!!??」

トリッシュ「気にしないで。イカれ頭の戯言だから」

レディ「私のどこがイカれてるってのよ?」

トリッシュ「……………………全て」

―――
644 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:50:51.54 ID:lj6gqawo
―――

事務所、デビルメイクライ。

シャワーから上がったばかりのダンテは、

片手で頭にタオルを押し当て乱暴に拭い、
もう片方の手でワインボトルをラッパ飲みしながら階段を上がり。

そして廊下を進み、己の作業部屋の扉を足で蹴り開け。
持っていたタオルを無造作に放り投げ。

様々な部品や工具で散らばっている机の上に、ワインボトルを叩きつけるように起き。

着替えが入っている古いクローゼットへと向かい、これまた乱暴に開けた。


ダンテ「…………」


とその時。
開けた拍子でクローゼットの上の棚から、黒い小さな何かが『二枚』。

ひらりと舞い落ちた。
645 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:58:03.72 ID:lj6gqawo

ダンテ「…………」

それは黒い皮製の指無しグローブ。

二枚とも、手の平の部分に鋭い筋。
注意しないと見落としてしまいそうな程に細い裂け目。

だがダンテが見落とすはずが無かった。
それは彼の超人的な感覚からの事では無い。

『見なくても』。

『意識しなくても』。

その裂け目は彼は絶対に見落とさない。


何せ、二つとも『兄』が引き裂いたのだから。


閻魔刀の切っ先で。



一枚は手放してしまった方。

『二度目』のもう一枚は、しっかりと捕えた方 だ。


決して手放さなかった―――。


―――兄を『繋ぎとめた』方だ。
646 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 00:59:01.92 ID:lj6gqawo

ダンテはクローゼットの扉に手をかけたまま、
静かにその足元に落ちているグローブを見下ろしていた。

この作業部屋には、例の『おしゃべり』な双子の魔具も居座っている。

だが彼らは一言も話さなかった。
彼らでも空気を読み、思索に耽っている主の邪魔はしなかった。


一分ほど経ったころだろうか。
ようやくダンテは動き出した。

無表情のままクローゼットの中から上着を取り、手早く着込み。
ベストに腕を通し、胸の中央のバックルをきつく締め。

真紅の、トレードマークであるお馴染みのコートをバサリと羽織り。


そして。


屈み、足元の指無しグローブを手に取り。


片方を手に嵌めた。


兄を繋ぎとめた方を―――。
647 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 01:00:32.73 ID:lj6gqawo

『掴めなかった方』をクローゼットの棚の上へと放り上げ、
新品を一つ取り出してもう片方の手へと嵌めた。


こういう『思い出の品』、というのは、
衣服に限って言えばダンテは二度と身に着けない。

だが彼はこの時、再びこの品を手に嵌めた。


なぜか、その理由を聞けばダンテはこう答えるだろう。

『気まぐれだ』、と。

それは決してごまかしている訳では無い。
本当に『気まぐれ』なのだ。

だが、その『気まぐれ』こそが彼自身の強固な芯。

他の者ならば『信念』、もしくは『覚悟』と呼べる部分。


今の彼は『本気』だった。


ダンテ「…………」


スパーダの息子。バージルの弟、ダンテ。

彼は再びこのグローブを手にする。


その手で再び兄を『掴むべく』。

今度は『刃』ではなく。


あの大きな『背中』を。


先を進み、そのまま遠くへと突き抜けてしまいそうな兄の『背』を繋ぎとめるべく―――。
648 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 01:02:02.44 ID:lj6gqawo

アグニ『主よ、「戦の猛気」の匂いがするぞ』

ルドラ『主よ、我等も馳せ参じる「機」があるか?』

タイミングを見計らい、
机の傍に立てかけられていた双子の魔具が口を開いた。


ダンテ「……おー、準備しておけ」


ダンテ「まだわかんねえが、お前らを『総動員』するかもしれねえ」


ダンテ「―――『全員』、な」


背中にリベリオンを背負い、
トリッシュの分をも足した四つの拳銃を腰に差していくダンテ。


アグニ『おお、戦。戦だ。愛おしき戦』

ルドラ『ああ、戦。戦だ。この芳しい香り』


アグニ&ルドラ『かの大戦と同じ香りよ―――』



アグニ&ルドラ『―――これ程の戦気は2000年振りよ』



ダンテ「ハッハ〜、今までで一番でけえパーティかもな」


ダンテ「楽しみにしてな」
649 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 01:03:03.69 ID:lj6gqawo

ダンテ。

多くの大悪魔や、諸神を従えている最強の男。
その規模は、魔界の基準から見ても一大派閥だ。

言葉を変えれば、
ダンテはとんでもない魔の軍事力を率いている頭領なのだ。


普段使っている魔具はほんの極一部。

大半がエンツォ等への質に回され、狩ったっきり会ってない大悪魔達。
一度も魔具として使ったことの無い連中がほとんどだ。


だがダンテがひとたびその名を呼び、
号令をかければ皆が一気に集結するだろう。

それだけの『権限』が今のダンテにはある。

それこそ、『全て』のパワーバランスを覆してしまう程の。

ダンテは今までそんな権力になど全く関心が無かった。
そんな『派閥』など一切興味が無かったし、それどころか意識した事も無かった。


だが、今のダンテは違った。


彼は今、場合によってはその『権力』を使う事も考えていた。
650 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/12(日) 01:04:39.21 ID:lj6gqawo

確かに気に喰わない。
己のポリシーに反する事だ。

しかし、バージルの事だけで一杯一杯になってしまう可能性がある以上、
他の者の手が必要な場合だって当然考えられる。

いや、彼は確信していた。

どういう形かはまだわからないが、手段を選んではいられない事態が必ず訪れる と。

一人の最強は、遂にその力の『玉座』を使う事を意識し始めた。

そして胎動をし始め、徐々にその姿を形成していく―――。


スパーダの血に集い、
その力に心酔し、


―――心奪われた強者達の『一大派閥』。


『最強の首領』に率いられた、悪魔の『一大軍団』―――。



アグニ『戦だ』

ルドラ『戦ぞ』

アグニ『我等が双剣の刃を』

ルドラ『我等が双刀を牙を』


アグニ&ルドラ『今こそ解き放(ry』


ダンテ「黙ってろ。いちいちキメてんじゃねえ。声揃えんな」


アグニ『ふむ、我等は主を見習い』

ルドラ『うむ、主の流儀に沿(ry』

ダンテ「うるせえわぁったから喋んな」

―――
651 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/12(日) 01:05:48.07 ID:lj6gqawo
今日派ここまでです。
次は月曜か火曜に。
652 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/12(日) 01:06:37.13 ID:Qej0s4Qo
上条ざまぁww
653 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/12(日) 01:08:55.87 ID:q9VmuQYo

流石にレディさんにはフラグ建たないよね?
654 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/12(日) 01:17:38.81 ID:lj6gqawo
>>653
DMC側への恋愛系のフラグは有り得ません。
代わりに、上条さん自身の死亡フラグならばバーゲンセール状態ですが。
655 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/12(日) 01:28:48.94 ID:FMZS5m.o
さぁて、今度の上条さんは何度しぬのかなーっと
656 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/12(日) 03:06:50.84 ID:DRgKfpo0
DMC組ではトリ姐が一番の常識人なのか・・・ボーダー超低いなww
657 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/12(日) 03:35:12.11 ID:5ddD77go
じっくりねっとり楽しむぜ。いつでも心して待つ。
658 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/12(日) 15:59:30.56 ID:d3ywZcAO
アグルドがコンってされてるのが目に浮かぶなww
659 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/14(火) 22:59:19.60 ID:92ekXd20
続きが楽しみすぎてドキがムネムネ
660 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:16:33.92 ID:rnKXC16o
―――

イギリス。

カンタベリー大聖堂の地下2000m。
百を越える強固な結界に守られている、地下宝物庫の最下層。

聖遺物や霊装、歴史的遺産、
そして、かつて実際に使われた魔女狩り用の魔導器などが大量に眠っている。

イギリスが誇る、魔術物資の最大最古の集積場だ。

いや、『封印庫』と言った方が良いか。

ここに収蔵される物は全て、今後一切使われる事は無い。
用途も名前も封印が完了次第、全て抹消される。

それがこの封印庫の『掟』。

収蔵に関与した者は、一部の者を省いて作業が完了次第、
関係する記憶をも抹消される。


破壊する事が出来ない物、もしくは使ってはならないが破壊する事もいけない物、
用途は無いが魔術的遺産として残すべき物、
そして破壊して良いのかどうかすら『わからない』物、

破壊の仕方が全くわからない物がここに集められる。


中には建設が始まった紀元597年よりも『前』から収蔵されている物、
収蔵されるよりも『前』から用途不明・由来不明、名すら判明していない、完全に正体不明な物まで存在している。
661 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:19:46.77 ID:rnKXC16o

ローマ正教がバチカンの地下深くに、巨大な宝物庫を持っているように。
フランスがルーブル美術館の真下に、厳重なシェルター倉庫を有しているように。
アメリカがエリア51の地下に、様々な『手のつけられない』極秘物を集積しているように。

それと同じく、ここがイギリスの決して表に出してはいけない、
表には知られてはいけない、それでいて隠滅が不可能な物の『終点』だ。


そんな、イギリスの闇の闇の底。
地下2000mの薄暗い廊下を、
先程『必要悪の教会』の実働指揮権を委任されたシェリー=クロムウェルと、
彼女の補佐の地位に就いたアニェーゼが歩いていた。

この『封印庫』の管理人である、フードを深く被った一人の魔術師を伴いながら。



今現在。

最大主教ローラ=スチュアートは、その忌まわしき正体を明かし、女王殺害を企てて『反逆』。

神裂が『死亡』、ステイルはローラと共に『離反』。


この様に、立て続けにイギリス清教と『必要悪の教会』の実働指揮官が消え去り。


残った経験豊富な最高幹部は、シェリーただ1人。


最大主教の座を始めとし、空いた位にも代理の者が就いたが、
やはり皆が頼っているのは実際に指揮をとってきた英雄シェリーだ。

挙句に上司である最大主教の代理の者が、シェリーに全実働指揮権を委任し、

実質的に彼女が今、『必要悪の教会』のトップであり、イギリス清教の代表代理だ。
662 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:23:20.33 ID:rnKXC16o

シェリー「…………」


シェリーはたった二ヵ月半で、中間管理職的立場から一気に組織のトップへと、
軍隊の階級で言えば尉官から将官へといった風に、凄まじい飛び級昇進を成し遂げた。

元から優秀だったとはいえ、彼女は様々な騒動を起こしてきた問題児。
上からは煙たがられ、キャリア組みから外されていた。

というか彼女が優秀でなければ、もしくは上層部がその点に利用価値を見出さなければ、
今頃過去の大逆罪によって死刑か終身刑が科せられていただろう。

それほどまでの厄介者だったのだ。

そこを鑑みれば、この昇進劇は正にミラクルだろう。


だが、実際はそうも喜んで入られない。
彼女の目覚しい昇進劇の背後には、組織の人材不足・戦力不足という大きな問題があるのだ。

『たかがシェリー程度』が重要な心臓部となってしまう程に、
今のイギリス清教、そして『必要悪の教会』は力を失っているのだ。

実質的な戦力だけではなく、最大主教が反逆した事による信頼性の失墜も大きなダメージだ。
騎士派・王室派の高官の中には、イギリス清教という組織を一時凍結するよう提言している者も。


シェリー「…………」

今のイギリス清教、そして『必要悪の教会』に必要なのは『力』だ。
崩れてしまったバランスを持ち直せるほどの大きな『力』が必要だ。

実質的な戦力も、そして信頼性と人脈を確たるモノにする力も。

確かにこの戦争の危機を乗り越え、イギリスを守るという事にも必要だ。


更にその一方で。

イギリス清教と『必要悪の教会』、
シェリーにとっての戦友・同志達の居場所を守る為にも必要だ。
663 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:26:02.32 ID:rnKXC16o

現時点では、一応シェリーは正規軍への権限も有しているが、
このままだといつか全ての権限を凍結され、
『必要悪の教会』そのものが一度解体されてしまう可能性もある。

純イギリスの魔術師達は再びどこかに配属されるだろうが、
ローラの一存で吸収された、天草式十字凄教やアニェーゼ隊等がどんな処遇を受けるかはわからない。

確かに彼らは今やイギリスに心から忠誠を誓った者達だが、そんな彼らを未だに忌み嫌っている者も多い。
上層部には、いくらでも消耗して良い傭兵部隊的見方をしている者もいる。


確かに、敵対組織を吸収するのは今までの歴史の中で珍しいことでは無いが。


問題はそこでは無い。


女王殺害を目論んだ、魔女ローラの一存で所属したという事が問題なのだ。
ローラが作った体制も集めた人材も、その全てが今疑われつつあるのだ。



今はまだ大っぴらでは無いが、その疑惑の目はシェリーにさえ向けられて来ている。


挙句にこういう声すらある。

ネロを雇いデビルハンターを育成しようとしたのも、
後にその魔界魔術を使う軍勢を率いて、イギリスを乗っ取る気だったのではないか、と。

そしてそれを否定できる証拠は無い。

魔界魔術の浸透も、全てローラが中心となって推し進めたからだ。
664 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:27:42.42 ID:rnKXC16o

シェリーはその危機感を感じていた。


基本的に、十字教国家であるイギリスは魔とは相容れない。

スパーダ一族、特にネロの献身的な姿勢を見て、ここ最近はその姿勢も軟化しつつあったが、
魔女であったローラの反逆は、それらを全てひっくり返すには充分過ぎた。

上層部はこれで再認識し、その決意を固めただろう。
魔に対する絶対的な敵意を抱いたはずだ。


それなりに魔という存在を身を持って知っているシェリーとは違い、
上層部は聞いた話のみで認識している。

その『老害』共は、『魔』を全て一括りにして毛嫌いし始めたのだ。

過剰反応とも言えるが、
上層部にとってはそれを認識する判断材料が無く、これも仕方のないことだろうが。


この戦争を乗り越え、平和がやってきた時。

このままだと、イギリスの魔術世界では歴史的な大粛清が行われるかもしれない。

天草式十字凄教やアニェーゼ隊はもちろん、
魔界魔術を習得した魔術師、そして騎士達も。


魔に関与しその力の恩恵を受けた者は、全て抹殺されるかもしれない。


それどころか、今大戦において捨て駒として使用され、
困難な任務に送り出される可能性も高い。
665 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:30:53.58 ID:rnKXC16o

シェリー「…………」

だからこそ、決定的な『何か』が必要なのだ。

彼女の肩にはイギリスを守るという使命の他にも、
数千に達する同志・戦友達の命もかかっている。


彼女の敵は、イギリスを陥れようとする者全て。


そして良く調べもせずに鼻っから毛嫌いし、ゴミのように切り捨てる上層部の老害共。

そんな死にぞこない共の、理不尽な感情的一声で消え去っていく。

国家の為、民の為、家族の為、友の為、そして愛する者の為に忠誠を誓い身を捧げた戦士達が。


確かに。


確かに、状況的に切り捨てねばならない事態もあるだろう。

そうせざるを得ないのならば、シェリーも他の戦士達も進んで身を捧げ、そして喜んで死ぬ。
それもまた、忠誠を誓った戦士の義務の一つなのだから。


だが救えるのに、切り捨てる必要の無い命まで切り捨てるなど到底許せない。

臆病な老害共の、頑固な思い込みで高潔な者達が犠牲になるのはもう見たくない。



そう。



『エリス』のように―――。
666 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:32:24.23 ID:rnKXC16o

「こちらです」

シェリーを案内していた魔術師が、とある一つの扉の前で止まった。
黒い金属製の、いかにも頑丈そうな扉だ。

アニェーゼ「……すげえ嫌な空気ですね…………」

シェリー「…………記録は?」

シェリーの声を聞き、案内人の魔術師がその扉に軽く手を当て、
目を瞑り閲覧用の術式を起動する。

案内人の手には元の肌が見えないくらい、難解な術式の刺青が刻まれていた。
閲覧専用の術式だろう。

「はい、1522年6月7日に封印、その後ウィンザー事件の翌日に一度開かれ、再封印なされてます」


シェリー「封印した者の名は?」


「…………一度目の名は抹消されております。二度目は、先代最大主教ローラ=スチュアートでございます」


シェリー「…………中身は?」

「それはご自分の目で確認なさって下さい。記録はありません」

シェリー「……」

アニェーゼ「開けて見てからのお楽しみってやつですかね」
667 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:35:49.35 ID:rnKXC16o

実は、今この二人が封印庫に来ているのは極秘事項だ。

重傷を負い床についているエリザードから、
直々にこの扉の番号と『行って来い』とだけ言われたのだ。

そしてキャーリサの許可と命を受け、二人はここに来ている。


あの第二王女は他の上層部とは違い、シェリーら魔の力を手に入れた者を特に嫌ってはいない。
というかその力の根源がなんだろうと、『戦力』と成りうるのならばキャーリサは全く構わないのだ。

ある意味、超現実主義者と言うべきか。

イギリスを守り得る力ならば、例え魔でも彼女は大歓迎、
イギリスに危害を与えうる力ならば、『天の意志』に逆らってでも拒否するだろう。

そしてキャーリサはシェリーに向けこう言った。

『母上の思惑は知らんが、使えそうな物は全て使うの。どんな力でも構わない。「武器」は「全て」持って来い』、と。


「ではごゆっくり」

案内人の魔術師は深々と頭を下げ、踵を返して元来た方向へと進み始めた。

アニェーゼ「…………ちょ、ちょっと待ってください!鍵は?!」

そんなアニェーゼの声など聞こえぬかのように、そそくさと魔術師は去っていった。

シェリー「慌てなくてもいいわよ。ここ封印庫の扉には鍵はかかってねえ」

アニェーゼ「……はい?」

シェリー「扉が入室者を『選ぶ』から」
668 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:37:16.40 ID:rnKXC16o

アニェーゼ「…………もしかして……そのパターンって……」

アニェーゼ「入室者として認められなかったら死んじまうとかそういう……」

シェリー「そう」

アニェーゼ「……………………お先にどうぞ行きやがってください」

シェリー「…………順番は関係ないわよ。死ぬときゃどの道死ぬ」

シェリー「グダグダ抜かして無いで、良いからついて来い」

アニェーゼ「…………うーぁー…………」


心底嫌そうな表情を浮かべ杖を握り締めるアニェーゼと、
目を細め怪訝な顔のシェリーは、ゆっくりと扉を押し開けた。

一見すると非常に重そうな扉だったが特に抵抗無く、
いや、異常な程に重量感を感じさせずにすんなりと開いた。

扉の奥は完全な闇だった。
廊下のろうそくの光が全く届いていない。
その闇の奥からもわりと、冷たく古い空気が漂ってくる。

そしてシェリーは物怖じせずにズカズカとその扉の向こうへと進み。

その背後を、アニェーゼが杖を構えながら忍び足で付いて行った。
669 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:38:35.60 ID:rnKXC16o

と、3m程進んだその時。


アニェーゼ「―――ッッ!!!!!!!!!!!」

シェリー「!!!」


突如響く耳鳴りのような音。

いや、音とも耳鳴りとも言い難いかもしれない。

一瞬だけの、頭が割れそうになる程の金属音のような『何か』。
暗闇の中二人は食いしばり、その異質な激痛に堪えながら咄嗟に身構えた。


シェリー「…………」

アニェーゼ「…………」

その異常な音はほんの一瞬で鳴り止んだ。

だが。

シェリー「…………アニェーゼ」

アニェーゼ「…………はい……」

シェリー「…………『コレ』が何かわかるか?」

アニェーゼ「…………わかんねーですよ」


二人共、今度は別の違和感を感じていた。
なんと表現すれば良いのか、それはそれは奇妙な感覚。

自分が自分ではないような―――。


あの耳鳴り以前の己と、今の己は何かが違うような―――。
670 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:40:17.92 ID:rnKXC16o

シェリー「…………明りを点けろ」

アニェーゼ「はいはい」

アニェーゼは暗闇の中、杖で一度床を叩いたが。

アニェーゼ「…………ありゃりゃ?」

シェリー「どうした?」

アニェーゼ「ちょっと待ちやがってください…………『こっち』は……」

そしてアニェーゼはもう一度床を叩いた。
すると。

杖の頂点に赤い光が灯り、周囲を赤々と照らした。
周囲とはいえ、壁らしき者は一切見えなかった。

室内はかなり広いのか、そして妙に闇が濃く、
その光はアニェーゼのまわり半径3mを照らしただけ。

アニェーゼ「っと……」

シェリー「『そっち』の明りを使ったのか?」

アニェーゼ「ええ、魔界魔術は問題ねえですが……天界魔術はウンともスンとも言いませんね」


アニェーゼ「この部屋の中じゃ、なぜだが『天界魔術が使えねえ』みたいです」

シェリー「…………」

今この二人は知る由は無いが、実はこの部屋で天界魔術が使えない、という訳では無い。
厳密に言うと彼女達自身が、『未来永劫』既存の天界魔術を使えなくなったのだ。



この部屋に入ると同時に、セフィロトの樹が切断された事によって。
671 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:41:59.88 ID:rnKXC16o

アニェーゼ「―――っておおおおぅううわッ!!!!!!!」


とその時。

シェリーの姿を見たアニェーゼが跳ね上がるように驚き、シェリーに対して杖を向けた。

まあそれも当然。

シェリーはあの耳鳴りの瞬間、咄嗟に魔像の一部を引き出したのだろう。

今の彼女の体は、黒い魔像の『スーツ』に覆われていた。
どっからどう見ても『人型の黒い悪魔』だ。

シェリー「おいおいおい待て!!待ちな!!!私だって!!!!」


アニェーゼ「……………………っくっはぁ……心臓にすごく悪いですね…………その格好はやめてやがって下さい」

何度か見たことがあるとはいえ、さすがに暗闇が明けた中から
ヌッとその禍々しい姿を露にされると反射的に驚いてしまう。

シェリー「…………あ?この『芸術』がわかんねえのかよ」

シェリーは魔像の形を身に纏ったまま、己を見せ付けるように手を広げた。

アニェーゼ「…………はいはい凡人の私にゃあわかんねーですよ。良いからさっさと脱ぎやがってください」

シェリー「…………ったく……」

ブツブツと呟きながら、術を解除し脱ぎ捨てていくシェリー。
ボロボロと彼女を覆っていた黒い装甲が剥げ落ち、床に落ちては砂となり掻き消えていく。
672 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:44:07.05 ID:rnKXC16o

シェリー「じゃあ…………もっと光強めて」

アニェーゼ「アイアイ」

シェリーに促され、もう一度杖を床に叩きつけるアニェーゼ。
その赤い光が一気に強まり、今度こそ室内全体を照らし出した。


そして。


姿を現す、その部屋の異質な光景。

シェリー「……………………なんだよコレは…………?」


アニェーゼ「………………………………っ?!」


その光景。
『倉庫』とはとても言い難かった。

二人はてっきり、さまざまな物が山済みにされている宝物庫のような光景を思い描いていたのだが。

全く違っていた。


そこは広大なホール。
いや、大聖堂と行った方が言いか。

奥行きは300m以上、横幅もそれぐらいはあろうか。
高さも50mはある。

大量の柱が立ち並び、上は荘厳な装飾と絵が描かれている球天井。
正に地下に埋もれた古代の遺跡のようだ。
673 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:46:25.32 ID:rnKXC16o
アニェーゼ「…………ほぁああ……」

二人は上下左右キョロキョロと見渡しながら、
そのホールの中央辺りへ向けて歩き進んでいく。

巨大なホール、その構造に沿い何本も円形に立ち並んでいる巨大な柱。
100本以上はあるだろうか。

それらの柱の前、1本につき一体ずつ、これまた巨大な彫刻が並んでいた。
普通の人間女性に見える物から、どうみても人外の異質な物まである。

そして柱にも得体の知れない彫刻。
何かの戦いの様子や、長か貴族かと思われる者達の姿が描かれていた。


シェリー「…………」

芸術の観点からそれらを見ていくシェリーだが。
彼女でさえ、その壁画や彫刻の文化や年代を割り出せなかった。

色々な文化が混ざっているようでありながら、根本的なところがなんだか違う。
はっきり言うと、こういう芸術文化はいままで見たことが無い。

少なくとも、彼女氏自身が初めて目にする物だ。


そして他にもう三つ。
彼女が気付いたとある点。


一つ目。

刻まれている文字。

それらを見る限りこの場を築いた者、もしくはここを何らかの目的で使っていた者達は、
少なくとも『普通の人間』ではなかったらしい。
いや、人間ですらなかった可能性が高い。

刻まれている言語の一部はエノク語。
人間には到底扱えない、天界の公用語だ。
シェリーでもさすがに解読は出来ない。
それにもし解読できたとしても、その意味を理解した途端精神汚染される可能性が高い。

他にも別の言語が刻まれているらしかったが、どれも人間世界では使われていない物だ。
以前書物でチラリとしか見た事が無いが、中には魔界で使われている言語らしき物も。
674 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:47:49.51 ID:rnKXC16o

二つ目。


所々にある、人外の怪物のような彫像。

それらの中には、現に直接関った事があるシェリーから言わせると、
確実に『悪魔』だと断定できる像がいくつかあった。

像の土台に刻まれているのは魔界の言語。
紋章の系統もどう見ても魔界由来。

ここまで正確な悪魔像を描いている文化は、
シェリーの知る限りだとフォルトゥナしかなった。

つまり、実際にこの建造物を作った文化は悪魔達と直接深く関っていたか、
もしくは悪魔達自身がここにいたかもしれない。


これだけは言える。

これ程の再現度と、実際に使われている異界の言語。

この聖堂を築いた者は『伝承』や『神話』を元に、これらの芸術品を生み出したのではない。

『現実』を元にしたのだ。

眉唾の物語ではなく、事実として記したのだ。


現代の人々が、古文書を解析して当時の様子を『間接的に推測』するのではなく、
テレビや写真等、もしくは実際に目で見て触れて認識するように、『直接的な現物』がその時に存在していたのだ。


実際に。


現実に、だ。
675 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:49:36.53 ID:rnKXC16o

そして三つ目。

人外の彫刻は『悪魔』だけでは無かった。



『天の者』の像もあったのだ。



シェリー「―――………………ッ……」


それらの彫像の前で、シェリーは足を止めた。


彼女は悪魔は見た事があるが、『天の存在』は見た事が無い。
土台に刻まれているエノク語の碑文は読めないが、だが目立つように大きく刻まれているその『紋章』。

それらの中にはシェリーが見た事がある、
いや、魔術師界隈では常識中の常識であるモノもあった。


先ほどの二つ目の事実を踏まえて、この三つ目の点を考えると。


本物の悪魔を知っていた者達が築いたこの聖堂で、
その忠実な悪魔像と同じく並べられている天の者の像。


この状況が何を意味しているのかは、最早自明の理。



シェリー「……………………嘘…………でしょ…………?」



そこから導き出された、当然の帰結を認識したシェリー。
彼女はあまりの事に、半ば放心して思わず呟いてしまった。


天の者の『御姿』を前にして―――。
676 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:51:05.05 ID:rnKXC16o

半分はわからない。
だがわかる方の紋章。

その印が示す、彫像の元となった存在の身分。


シェリー「……………………………な…………」


それらを見ていたシェリー、彼女の体は武者震いを起こしていた。
これらの彫像が一体『誰』なのかを認識した瞬間、押し寄せる凄まじい畏敬の念。

彼女はその震える手で十字を切り、胸元で手を合わせていた。

それなりに精通した十字教徒の魔術師なら、
いや、アステカやイスラム、ユダヤ等の魔術師も皆、シェリーと同じ反応を示しただろう。


彼女は思った。


己はもしかして、とんでもない所に今立っているのではないか、と。
己はもしかして、神や天使達の本当の姿を見ているのではないか、と。

そして。

いつの時代かはわからないが、遥か太古の昔に、
今己が立っている場所に、本物の神や天使達が立っていたのかもしれない、と。
677 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:52:51.31 ID:rnKXC16o

とある一つの像。

甲冑のような物を纏い兜を深く被り、
右手に持っている細身の長剣を高く掲げている、巨大な翼を背から伸ばして広げている男性像。

背後の柱には何かの戦いの様子が刻まれていた。

その内容はこの『像』の人物が、『竜』の頭部と鱗をした巨人と絡み合って奮戦しているもの。

今にもその像の人物を『丸飲み』にせんとしているかのように、『竜の顎』が大きく開かれていた。


そして。



その土台の紋章は十字教の天使、ミカエルの物。



他にも名だたる宗教の天使や神の像が立ち並んでいた。


大勢。


大勢―――。


恐らく『事実』を元にした彫刻が刻まれた、
背後の巨大な柱とワンセットになって。
678 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:54:28.27 ID:rnKXC16o

更にシェリーは目にした。

遂にその『御姿』を見てしまう。



他よりも豪華な装飾が施されていた像の。

その土台の紋章を。

土台の上に立っていた―――。



十字教――――――の―――。



シェリー「――――――」



―――その御姿を。



シェリーはその場で崩れ落ちるように膝を付き、再び十字を切り、
そして無心で祈りを捧げた。
679 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:57:10.30 ID:rnKXC16o

シェリー「…………」

としばらくの後。

祈りを終え、顔を恐る恐る上げたシェリーの、
視野の端に入る巨大な像。

それは今正面にある十字教の神像よりも更に豪華に飾られ、そして巨大だった。

シェリーはふと違和感を覚え、立ち上がりながらその隣の像へと近付いた。



『巨大な頭を胴にして』、そこから蛇の頭部に似た触手のような物と巨大な翼を伸ばし、
猛禽類の物に似ている鉤爪のついた足を生やした奇妙な像。


その頭上には『天使の輪』のような、エノク語の奇妙な陣の彫刻が取り付けられていた。

土台の紋章は今まで見たことが無いものだったが、
系統的に『天の者』なのは確かだ。


更にその配置。


十字教の神の横に、豪奢で目立つように置かれているこの像。


どこからどう見ても、こう示しているように見える。


『―――十字教の神がこの像の存在よりも下位である』、と。


こういう並びは、人間世界の遺跡でも良く見られる。
豪奢な像の隣に、あえて更に豪奢な像を置き、
どちらが偉大か、どちらがより高位なのかを意図的に表すやり方だ。

権力誇示のスタンダードなやり方の一つだ。
680 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/14(火) 23:58:35.19 ID:rnKXC16o

シェリー「…………」

そのような、一際大きく豪奢な像は計『四体』。

どれも奇妙な格好だ。

どこかの天才芸術家が狂って彫ったような、アンバランスでありながら妙に洗練され、
神々しくもどことなく不気味なデザイン。

他の天の者とは一線を画す、凄まじい存在感。


天の者達の間に等間隔で、それぞれがかなり目立つように配置されていた。

両側にはそれぞれ別の宗教の神を侍らせ、
くどいほどにその優位性を誇示する形で。


シェリー「…………………………」


名の知らぬ、存在すら知らなかったその『神』。


シェリーは再認識する。
己はもしや、今とんでもない所に立っているのではないか、と。

ここにあるのは、恐らく『真実』。


ここは、人間界では全く知られていない事実の宝庫、だ。
681 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:00:03.82 ID:lbsjmzAo

例えば、この十字教の神よりも高位である存在。
(あくまで配置から見た、状況証拠からの観点だが)

これら四体の存在が周知になるだけで、既存の人間社会の宗教文化は大きく混乱するだろう。

十字教も然りどの宗教においても、一般ではあまり意識されていないが、
裏の魔術世界では、己の掲げる神こそが天の最上の存在だと長年に渡って強く主張してきた。

それで何度も大きな戦争も起こってきた。

魔術師達は、見たことは無いが天界の存在自体は知っている。
彼らにとってこれは概念上の優劣ではなく、現実の序列問題だったのだ。


だが。


ここにある状況証拠はそれらの全てを大きく覆している。


どの存在が最上なのかという議論は無意味だったようだ。

その上には、別の存在がいるらしいのだから。

既存の宗教のどの神よりも、高位の存在が天界には四体も存在している、
と、この聖堂は告げているのだ。

これだけでもとんでもない事実だ。


シェリー「…………………」


エノク語や魔界の言語を読めれば、
更に大量の事実が浮き彫りになってくるだろう。

人間の歴史からは抹消された真実達がゴロゴロと。
682 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:01:47.97 ID:lbsjmzAo

昂ぶる鼓動を押さえ、深呼吸した後、
シェリーは再び歩き始め、像達を眺めながら進んでいく。


どうやらこの聖堂の円形ホール、西側の半分は天の者、
東側の半分は魔の者で纏められているらしかった。

アニェーゼはシェリーと平行して魔の方を見て回っている。

彼女もこっちを見て回っていたら、シェリーと同じように震えながら十字を切っていただろう。


シェリー「…………」

と、しばらく進んだところで。

ちょうど北の頂点でシェリーは足を止めた。

彼女の前には、高さ5mはあろう大きな彫像。

柱や壁、他の像は全て白亜にもかかわず、

その彫像だけが黒曜石のような黒い材質で作られていた。
そして瞳の部分にはめ込まれている、ルビーか何かの赤い宝石。
683 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:03:04.01 ID:lbsjmzAo

シェリー「…………」

その配置も、作られ方も他の物とは違う。

例の『天の四体』でさえ、並びにはしっかり沿っていたのに、
この像だけは2m程前へ、つまりホールの中心側へと張り出す形で配置されていた。


正に『特別』、だ。


更にその姿。

シェリーは見覚えがあった。

フォルトゥナの書物の挿絵にて。

背中から伸びる巨大な漆黒の翼。
頭から伸びる一対の湾曲した角。


そして。


地面に突き立てられ、柄を胸元で握り済める形で置かれている不気味な大剣。


シェリーは己の知識を元に、小さく呟いた。



シェリー「………………………………………………………………スパーダ…………」



像の元になったであろう存在の名を。
684 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:04:37.23 ID:lbsjmzAo

とその時。


アニェーゼ「シェリー!!!!!ちょっとこれを!!!!!!!!!!」

シェリー「?」

ちょうど背後から聞こえてきたアニェーゼの声。
振り返ると150m程後方だろうか、この円形ホールのちょうど反対側、南端に建っている大きな彫像の前で、
アニェーゼがシェリーに向かって杖を大きく振っていた。

シェリー「……」

そのアニェーゼの前にある女性の彫像。
大きさはこのスパーダ像と同じくらい、
ホールの中心点を挟んでちょうど向かい合っているようだ。


アニェーゼ「なにボーっとしてやがるんですか!!!!早く!!!!」

シェリー「わかったから喚くな!!」

アニェーゼの声に引っ張られるように、シェリーはボロボロのゴシックドレスの端を掴み上げ、
小走りで彼女の方へと向かった。

シェリー「何?」

アニェーゼ「この像!!!この像の顔!!!見てください!!!」

そしてアニェーゼは、例のスパーダ像と向かい合っている彫像の顔を指差した。

シェリー「……………………………………え?」
685 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:06:46.30 ID:lbsjmzAo

シェリー「この顔ッ…………!!!!」

アニェーゼ「そう!!!あの顔!!!!」

その女性像。
良く見ると、かなり『見慣れた顔』だった。

忘れるわけが無い。
見間違えるわけが無い。



アニェーゼ「―――トトト…………!!!!!



アニェーゼ「―――トリッシュさんですよコレ!!!!!!!」




シェリー「…………トリッシュ…………!」


アニェーゼ「絶対そうです!!!まちがいねーですよ!!!!!」
686 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:08:01.05 ID:lbsjmzAo

異様な緊張感と、
次から次へとやってくる謎と衝撃。

驚き、鼓動が高まるたびに精神疲労が募ってくる。


シェリー「…………一体…………どういう……」


ここでシェリーは困り果てた表情を浮かべ、
獅子のようなボサボサの金髪を掻き毟りながら、

背後のスパーダ像と、このどっからどう見てもトリッシュの顔をした像を交互に見やった。


女王エリザードの意図が全くわからない。

これらを見せる為に、ここに向かわせたのか。

それともこれは関係の無い、
女王からすれば別段意味のない事なのか。
女王は別の目的でシェリーをここに向かわせたのか。


シェリー「…………どうしろっていうのよ畜生」

一体ここで何をどうすればいいのか。
687 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:09:54.13 ID:lbsjmzAo

ただ、ここに来たのが無意味という訳では無いだろう。

必ず何らかの意味がある。
そしてそれは、少なくともシェリーの推測だと大きな力に成りうる何かだ。
というか、このまま手ぶらで帰ったらあの殺気だっている第二王女キャーリサに何をされるかわからない。

何としてでも何かを手に入れ、持ち帰らねばならない。


シェリー「…………」

シェリーはふと、近くの柱に刻まれているエノク語を見た。

もしかすると、これらをどうにかして解読しなければならないのかもしれない、
真の歴史の中に何らかの武器があるかもしれない、

と思いながら。


とその時。


アニェーゼ「あ!!!向こうにもなんかありやがりますよ!!!!!」

再び何かを見つけ大声を上げ、
その方向へと駆け出していくアニェーゼ。

柱の向こう、大聖堂の外、この大洞窟そのものの壁際に何かがあったようだ。

シェリー「おい!!ちょっと待て!!!」

その後ろを、先程と同じくドレスの端を掴み上げて走ってついて行くシェリー。
688 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:10:41.65 ID:lbsjmzAo

アニェーゼ「―――…………ッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

そして。

アニェーゼはその『何か』の全貌を見た瞬間、顔を引きつらせ。
両足でブレーキをかけ急停止し、咄嗟に杖を構えた。

更に、半ば転びそうになりながら慌てて後ずさりした。


シェリー「…………いや……!!!!待て!!!!」

そんなアニェーゼの背中を押さえ制止するシェリー。


シェリー「…………『コイツ』、多分死んでるわ。大丈夫だ」


アニェーゼ「本当にですか!!!?また『コイツ』と戦うのはゴメンですよ!!!!」


シェリー「大丈夫だって。死んでやがる」


その二人の前にある何か。

それは岩肌に巨大な『金』色の杭で磔にされている―――。



―――タルタルシアン。
689 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:12:37.49 ID:lbsjmzAo

悪魔の死体は時間と共に風化し、最終的に跡形も無くなるのが常識。

だがこのタルタルシアンの死体は、何らかの方法で消滅が防がれているようだ。

とはいえ、半分ほどが砕けて見るも無残な姿だったが。

シェリー「これか……」

案内人の話によれば、ウィンザー事件の直ぐ後にここの封印が再び開かれたらしい。
その時に収蔵されたのだろう。

そしてシェリーはピンと来た。


この大悪魔の死体と、イギリス最高峰のゴーレム使いシェリー=クロムウェル。


シェリー「…………なるほどね。これは良い土産だ」


どうやら、キャーリサに怒鳴られずに済むようだ。

ウィンザー事件の後にネロに聞いた話によると、
この大悪魔は昔はかなり高位の者だったらしい。

魔帝に楯突いた為にその自我を破壊され、
厳重な拘束具で力を抑制、そして人形へと変えられてしまったらしい。
690 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:15:59.25 ID:lbsjmzAo

拘束具が解けた状態の力は、それはそれは凄まじいものだった。
シェリーは完全に圧倒され、あのままネロがこなければあっけなくやられていただろう。

そしてその力は、残骸とはいえ今のシェリーにとってはかなりの足しになる。

寄せ集めの下等悪魔の力だけで、今まで騙し騙し頑張ってきたが、
やっと大悪魔の力の片鱗が手に入れられるようだ。


アニェーゼ「…………陛下はこれをシェリーに渡すつもりでしたんですかね?」

シェリー「…………恐らく」

アニェーゼ「なんだ。じゃあ私には何も無いわけですか」

シェリー「そりゃ、陛下は私に対して仰ったからな」

アニェーゼ「…………全く…………驚き損ですね」

シェリー「探せば他に何かあるかもね。そこら辺見て回りな」

シェリー「私は今から、コイツを取り込む術式を作るから、邪魔すんなよ?」

アニェーゼ「へいへい」


地面にオイルパステルで、陣や術式を描き始めたシェリー。

そんな彼女から離れ、
アニェーゼは足を投げ出すような歩き方で、プラプラとホールの方へと戻っていった。
691 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:17:04.95 ID:lbsjmzAo

アニェーゼ「…………」

ブラブラと、ホールの中を見て回るアニェーゼ。

アニェーゼ「まだですか!!!??」

そして一分おきくらいの感覚で声を張り上げ。

シェリー「うるせえ!!!!まだだ!!!話しかけんな!!!!!」

シェリーのイラつきの混じった声で一蹴される。


アニェーゼ「…………チッ」

軽く舌打ちをしながら、ヒマを持て余し歩きながら像を指でなぞったり、
あちこちを杖の先でコンコンと叩くアニェーゼ。

アニェーゼ「何も無し……ですかそうですか」

ブツブツと呟きながら。
692 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:18:35.74 ID:lbsjmzAo

アニェーゼ「…………」

そして何となしに、とある一つの彫像の前で立ち止まった。



鳥の頭蓋骨のような、奇妙な仮面を被っている女性像の前で。



アニェーゼ「……それにしても……なんでこう、どいつもコイツもボインボインのバルンバルンなんですかね」

アニェーゼ「嫌味ですかこれ。エロ過ぎですよ。これ掘ったのは相当なスケベ野郎だったんですかね」


ブツブツと相変わらず呟きながら。
彼女は杖の先で、その彫像を突っつく。

足元、太もも、腹部、そして。


胸の乳首辺りをツンツンと。


と、その瞬間。


『―――何をしおる小娘』


アニェーゼ「…………………………………へ?」
693 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:20:23.78 ID:lbsjmzAo

そしてタイミングよく、ちょうど登場するシェリー。

シェリー「こっちは終わったわよ。何か見つけたか?」

アニェーゼ「…………シェリー。今何か喋りやがりましたか?」

シェリー「…………は?」

アニェーゼ「い、いや……あのですね。さっき妙な声が……」


『うん?誰だそなたらは?』


アニェーゼ「ほ、ほら!!!!!!!!!!」



シェリー「―――!!??」


オイルパステルをスッと指先に出し、周囲を見渡すシェリー。
同じく杖を構えるアニェーゼ。

だが周囲には人影は無い。

気配も無い。
694 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:21:34.37 ID:lbsjmzAo

そして二人はようやく気付く。


『どこだ?そこはどこだ?どこから我に触れておる?』


その声の源に。


アニェーゼ「…………まさか……」

シェリー「…………」


二人は再び、目の前の奇妙な仮面を被っている彫像に眼を戻した。
その瞬間。


『答えろ。そこはどこだ?』


例の謎の声と共に、像の口が動く。

アニェーゼ「!!!!」


シェリー「―――下がれッッッ!!!!!!!」
695 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:24:10.18 ID:lbsjmzAo

響くシェリーの怒号。
それを聞き、慌てて離れるアニェーゼ。

そしてシェリーはすかさずオイルパステルで宙を切り、
まず魔像の一部分を引き出す。

一瞬にして彼女の全身が、黒く蠢く肉のような粘土のようなモノで覆われ。
身長3m程の、ごつい黒い人型の『悪魔』へと姿を変えた。

瞳の部分には赤い光が宿り、全身から禍々しいオーラを噴き出して。


シェリー『―――何者だ?』


そして、シェリーはエコーのかかった声を彫像に向け飛ばす。



『先に答えるのだ。そこはどこだ?場所は?どこの世界か?』


『周りはどうなっておる?』
696 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:25:13.51 ID:lbsjmzAo

シェリー『…………』

どうやら、この現象は通信魔術のような物の一種か。
相手は別の場所から、音のみを拾っているようだ。
少なくともこちらの映像は見ていないらしい。


シェリー『…………は、そんなに知りたいのなら見にきやがれ。姿を現せ』



『…………うん?……そうしたいところは山々なのだが、今こちらは色々忙しくてな…………』



『…………しばし待て。ちょいと聞いて来る』



シェリー『………………』

アニェーゼ「……………………なんか……緊張感の欠片もねえ奴ですね」

シェリー『黙って。罠かもしれねえ』
697 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:26:39.71 ID:lbsjmzAo

そして約20秒後。

『すまぬ。待たせたな、今行く』

アニェーゼ「―――」

シェリー『―――』

そんな一言が突然聞こえたと思いきや。

彫像の直ぐ前の空間に黒い靄のような物が一気に立ちこめ、
猛烈な速度で滅茶苦茶な渦を巻き始めた。

何本もの、回転方向が違う竜巻が合体しているかのように、その靄の流れが全くわからない。


シェリー『アニェーゼ!!!!もっと下がれ!!!!』

その異常な光景に警戒し、
連れに声を張り上げながら己自身も数歩後ずさりするシェリー。



その次の瞬間。


今度は靄が一気に晴れ、その中心から姿を現す一人の女。

その格好は真後ろにある彫像と瓜二つ。

鳥の頭蓋骨のような仮面を深く被り、襟元には黒い羽飾りがついたマントを羽織っている、
妙に妖艶な空気を醸し出していた。
698 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:27:42.48 ID:lbsjmzAo

シェリー『…………!!!!』

アニェーゼ「…………!!!」

更に一段と気を張り詰めさせ集中する二人。

だが、現れた女はそんな二人の闘気など全く気にもせず、
周囲をキョロキョロと見渡し始め。



『………………………………これは………………驚いたな…………』



ぽつりと。
誰が聞いてもわかる、あっけに取られた声を小さく発した。



『………………既に「現出」していたとは……………………』



そしてようやく。

『そなたら。ここはどこだ?どこの世界だ?』

仮面の女は、
ジッと身構えている二人の戦士へ向けて言葉を発した。
699 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:29:05.64 ID:lbsjmzAo

シェリー『黙れ。まず名乗れ。何者だ?』

『ああ、そうだな。我が名は―――』



アイゼン『―――第十代アンブラが長、魔女王アイゼン』



魔女。

その単語を聞き、二人の顔が一気に引きつった。
そんな二人に対し、アイゼンは手首の大量の腕輪をジャラジャラ鳴らしながら腕を広げ。


アイゼン『待て待て。そなたらと戦うつもりは無い』


アイゼン『少し話を聞ききたいだけだ』

アイゼン『そこの小娘。そなたも来い』

そして、50m程離れているアニェーゼに向け手招き。

それを見て、アニェーゼは杖を構えながら恐る恐る近付いていき、
シェリーの少し後ろについた。


アイゼン『さてと。もう一度問う。ここはどこだ?』


シェリー『…………イギリス……カンタベリー大聖堂の地下』

戦闘態勢を崩さぬまま、その問いに答えるシェリー。


アイゼン『ほぉう…………人間界か。これは真に驚いたな』
700 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:30:19.82 ID:lbsjmzAo

アイゼン『それで、いつからこの「神儀の間」がここに現出しておる?』

シェリー『…………神儀の間?』

アイゼン『何だ?そなたらコレが何か知らぬのにここにいるのか?』

アニェーゼ「………………どれの事を言ってやがるんですか?」

アイゼン『ここ。全て』

アイゼンがもう一度大きく手を広げ、周囲をみるように促す仕草を取った。



アイゼン『この聖堂全体が「神儀の間」だ』


シェリー『…………何かの儀式場か?』


アイゼン『「全て」の、だ。魔界の口の封印も、セフィロトの樹の構築も、人間界の器もその土台も』

アイゼン『更に封印されし人間界の力場も。その「全て」の主だった「儀」がここで行われた』


アイゼン『「今」の人間界の歴史は全てここから始まっている』


シェリー『………………????」

アイゼン『……まあいい。わからぬのなら。話せば長くなるしな。それよりもだ。いつからコレがここに?』

シェリー『…………記録によれば……1522年にここに封印されたらしい』

アニェーゼ『詳しい記録は残ってねえんですよ。それだけです』


アイゼン『…………誰がここにコレを?』


アニェーゼ『その名も残ってねえです』


アイゼン『………………ふむ……なるほど…………』
701 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:31:36.00 ID:lbsjmzAo

シェリー『魔女…………』

とその時。
ポツリとその単語を呟くシェリー。


アイゼン『ん?』

シェリー『お前「も」魔女か?』

アイゼン『そう、我はアンブラの魔女。それで。「も」というのはどういう事かな?』


アニェーゼ「しぇ、シェリー!!!!」

シェリー『落ち着け』


アイゼン『ふむ。何か魔女について思うところがあるようだな?』

アイゼン『我が同族に会ったことが?』

シェリー『お仲間かどうかは知らないけど、会った事はある』

アイゼン『ふむ……それはあれか?黒髪に黒縁メガネをかけていた者か?』

アイゼン『それとも銀髪で派手な赤い服を纏っていたか?』

アイゼン『どちらだ?』


シェリー『どっちでもないわよ。金髪だ』



アイゼン『………………………………………………うん?』



アイゼン『………………………今何と言った?』
702 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:33:23.75 ID:lbsjmzAo

シェリー『金髪だ』

アイゼン『金…………髪………………………』

金髪。
その単語を聞き、片手を顎にあて大げさな仕草で唸り始めるアイゼン。

アイゼン『……うん…………』

アイゼン『…………本当に驚いたな。まさか生き残りが他にいたとは』


アイゼン『名はわかるか?』


シェリー『…………ローラ=スチュアート』


アイゼン『……ローラ……金髪……ローラ……ローラ…………金髪……』

ローラの名を何度も呟き、再び大げさな仕草で思索に耽るアイゼン。
そして10数秒後。



アイゼン『わからぬ。誰だそやつは一体』



アイゼン『我が治世よりも大分後の者か、それとも名が残らぬ下位の者か?』



シェリー『…………は?』

アイゼン『いやすまぬ。そなたらに聞いてもわからぬだろうな』

アイゼン『まあいい。後で別の者に聞く』
703 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:35:03.67 ID:lbsjmzAo

アイゼン『……それで、そなたらはどうやってその者に会った?』

シェリー『上司だった』

アイゼン『ん?というと?』

シェリー『12時間前までイギリス清教最大主教だった』



アイゼン『なんと………………………………ハァァアアアアンッッッ!?』


アイゼン『そのような話は聞いておらんッッ…………聞いておらぬぞ!!!!!!!』


アイゼンは突如声を荒げ、シェリー達から目を背けるように己の彫像の方へと向き、
その前の空間へと軽く片手を翳した。

すると次の瞬間。
空間が裂けるように影が現れ、先程と同じような靄の塊が出現し。

アイゼンはその靄の中へ頭だけを突っ込み。


アイゼン『おい!!!!!!!!!少し手を休めろ!!!!!!!聞け!!!!!!』


アイゼン『そなたは知っておったのか!!!!!??イギリス清教の頭が我が眷属だったという事を!!!!!??』


そして『こちら側』、シェリー達がいるホールにまでガンガン響く大声で、
靄の向こうの誰かへと叫び始めた。
704 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:36:49.69 ID:lbsjmzAo

アイゼン『おい!!!!??ええい無視するな!!!!!!』

アイゼン『ハン!!??喋れ!!!!こんな時まで無口になるでない!!!!』

アイゼン『何?!!!今なんと言った??!!!!』


シェリー『…………』

アニェーゼ「…………」


アイゼン『「黙れババア」と聞こえたが!!!!!!???ハァアアアアアアン??!!!!!!』


アイゼン『答えろこの小童!!!!!いくらスパーダの息子であろうと許さんぞ!!!!我を誰だと知ってのその暴言―――』



アイゼン『―――ううううンンンッッッ!!!!!!???』

そして今度は、いきなり身を仰け反って、
その靄の中から頭を引き抜くアイゼン。
と同時に、凄まじい金属音と共に靄が一瞬大きく縦に歪んだ。


そして一瞬だけ。

一瞬だけ『青い光』が溢れ、その余波のごく一部が『こちら側』にも漏れ出し。


シェリー『―――後ろに!!!!!!』

アニェーゼ「―――やばッッ!!!!!!!」

莫大な魔の衝撃波がホール内に吹き荒れた。
シェリーは反射的に全面の魔像の装甲を強化し、
アニェーゼはその背中に飛びつきしがみ付いた為難を逃れた。
705 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 00:39:22.00 ID:lbsjmzAo

アイゼンは再び、すかさず靄の中に頭を突っ込み。

アイゼン『ふ、ふ、ふ、ふざけるな馬鹿者!!!!!!バーカバーカ!!!!アホたれ!!!!』

アイゼン『んな代物をこっちに放つなでないわ!!!!何を考えておるのだ!!!!!!』

再び向こうの誰かに向かって怒鳴り始めたが。

アイゼン『―――ま、待て!!!!わかった!!!わかった!!!一段落してからで良い!!!』

アイゼン『一段落してからで良いから後で顔を出せい!!!待て待て待て待て待て構えるな構えるな!!!!!!』

何かの『形勢』がまずくなったのか、
今度は相手をたしなめる様な口調で叫び始め。

アイゼン『待て待て待てその「量」は止せ!!!!溜めるな!!!溜めるでない!!!』


アイゼン『落ちt』


そして彼女が何か言いかけたところで再び、
先程よりも大きな金属音が響き渡った。

が、今度はアイゼンの体が『栓』の役割をしたおかげか、
その莫大な量の力はホール内には漏れ出てこなかった。

シェリー『…………』

アニェーゼ「…………」


その代わりと言ってはアレだが、
頭を突っ込んだままのアイゼンの体は力なくダラリと下がり、時折ピクピクと。


そう、死後痙攣のような動作をしていた。

アニェーゼ「…………何がしたかったんでしょうかね?」

シェリー『……知るか』
706 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 00:39:53.93 ID:lbsjmzAo
とりあえず今日はここまでです。
続きは明日に。
707 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/15(水) 00:40:36.11 ID:BswE4N6o
くっそわろた
708 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 00:41:51.07 ID:CCcFrAAO
アイゼンなんか可愛いなww
乙〜
709 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 00:41:59.38 ID:bqBHdO.o

汚い流石兄貴汚い
710 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 00:49:22.53 ID:Ye1z8pMo
痴女王のキャラが完全にギャグキャラだなwwww
711 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 01:08:20.95 ID:HXewHlQo
こんな話の流れ好きだ!先が益々楽しみだぜ!
712 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/15(水) 01:50:56.31 ID:0VbejxQ0
くそわろたwwwww
兄貴汚いwwwww
713 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 02:31:06.20 ID:h2Yfxko0
次元斬→大量の幻影剣ということか…?
魔女王ェ…
714 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 05:18:31.06 ID:GZsHUYAO
魔女王不憫wwwwww
715 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 06:05:09.70 ID:7DXgjKUo
>アイゼン『ふ、ふ、ふ、ふざけるな馬鹿者!!!!!!バーカバーカ!!!!アホたれ!!!!』
威厳台無しだぞwwwwwwww
716 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/15(水) 06:41:58.72 ID:jgxyviM0
(;゚Д゚)b ・・・と、とにかくいちおつwwwwwwwwww
717 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 09:28:08.54 ID:kY7mkwDO
アイゼンがこの先生きのこるには
718 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 10:47:31.66 ID:0LZS59k0


アニェーゼが「嫌味ですかこれ」と言ってるところ、ちょっとかわいいと思ってしまった。
719 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 22:24:44.23 ID:TemiWsAO
これは‥‥‥
http://www.youtube.com/watch?v=krPdp8McEag&feature=player_embedded
720 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 22:39:12.17 ID:dmQ68pAo
どんな判断だ、これがダンテって…
同姓同名ですよね?考えてみればダンテなんて名前よくあるしね!ハハッ
721 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 22:59:33.44 ID:1fOSYu2o
アイゼン可愛いよアイゼン
722 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 23:23:16.11 ID:jW2QA2Uo
ttp://hamusoku.com/archives/3587379.html
わろた
723 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 23:27:41.59 ID:x.AbiD6o
オワタ
724 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 23:41:16.79 ID:lbsjmzAo
4の時も初期と比べてデザがかなり変わりましたし、まだですまだ。
ですがこのままだったら


とりあえず、やや少なめですが今日の分を投下します
725 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 23:42:41.60 ID:lbsjmzAo

と、二人は首を傾げ、互いに目を合わせていたところ。

靄の向こう側から、蹴り出されるようにアイゼンの体が軽く吹っ飛び床に落ちた。

そのアイゼンの体。

顎から上が、綺麗さっぱり『無くなって』いた。
鋭利な、まるでレーザーにでも切り落とされたかのように滑らかに。


だが、シェリー達はそんな事になど注意を留める事ができなかった。

原因は、その黒い靄の中から突如姿を現した第三者。



その人物とは二人共面識は無い。



面識は無いのだが、この目の前の存在が誰かは一目でわかった。

ダンテと瓜二つの顔。
それでいて、弟とはかけ離れている冷徹な表情。
そして青いコートと長い日本刀。

これだけで充分だ。


シェリー『…………ッ…………!!!!!』

アニェーゼ「…………………な、なッ……!!!!??」




この目の前の男がバージルだと断定するには。
726 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 23:45:41.12 ID:lbsjmzAo

バージルは左手に鞘に納まった閻魔刀を持ち、その靄の中から半身出現させ。
シェリー達など完全に無視して、
ホールの中を軽く、その鋭く冷たい目で見回した。


次いでゆっくりと、残りの体の部分を靄の中からこちらへと移動させてきた。


シェリー『―――』

アニェーゼ「―――」

そして二人は見た。


バージルが右手で引き摺っていた『モノ』を。

彼は長い黒髪を握り締めていた。
その髪の束の先には。

全身に完全に致命傷である深い傷が刻まれている、
いや、刻まれていると言うよりは、半ば体ごと裂けかけている血まみれの女。

その女体が誰なのかも、二人は一目で判別した。

真っ赤に染め上がりながらも一応残っている白いTシャツ。

右腕『らしき』先に、包帯のような物で括りつけられている長い日本刀。


アニェーゼ「―――…………か…………!!!!!!!!!!



シェリー『―――……………………神裂ッッッッ!!!!!!!!!!』



それは見るも無残な姿の神裂火織『らしきモノ』。
727 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 23:48:17.10 ID:lbsjmzAo

どっからどう見ても死んでいる。

そしてその『遺体』を乱暴に、ゴミのように引き摺っているバージル。

彼は右手を開き、その髪の束を手放し。
血まみれの頭部らしき部分が、
湿った重い音を響かせながら床に落ちた。

明らかに。

明らかに、どう考えても友好的とは言い難い。

シェリーら二人は、体の底から噴き上がるどす黒い感情に突き動かされ、
鋭く睨みながら構え直すも。

シェリー『…………!!!!!!!!』

その場から一歩も動けなかった。
バージルを前にしているだけで。

その姿を見ているだけで、彼女達は完全に押し負けてしまった。

アニェーゼに至っては、顔中から冷や汗を滲ませ、
息を切らせてその場にへたり込んでしまった。


だがそんな二人など全く気にも留めずにバージルは。


バージル「一段落ついたが」


ポツリと。

少し離れた場所に横たわっているアイゼンの方へと言葉を飛ばした。

すると。

アイゼン『…………そなた…………覚えておけ……この小童めが……』

ムクリと起き上がるアイゼン。
欠けていた顎から上の部分は、いつのまにか元に戻っていた。
728 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 23:50:31.95 ID:lbsjmzAo

アイゼン『我が魔に転生しておらねば死んでおったところだぞ?』

アイゼン『覚えておけ。いつか必ず、必ずこの魔女王と称された我が力を(ry』

バージル「黙れ。無駄口を叩くな」

バージル「要点だけを言え」


アイゼン『―――…………う……ぐ……」


バージル「なぜ『神儀の間』が既に現出している?ここの位置は?」


アイゼン『…………現出している理由はわからぬ。ここの場所はブリタニ……』


アイゼン『いや今はイギリスか、カンタベリー大聖堂の地下だそうだ』

アイゼン『あの者らの記録によれば、1522年からここにあったらしいが』

バージル「…………」


その言葉で、バージルはアイゼンと軽く目を合わせた。

1522年。

それはアンブラの都が滅亡してからちょうど一年後。
729 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 23:51:50.89 ID:lbsjmzAo

アイゼン『どうやら、見たところだとココは外と剥離されているようだ。恐らくあの者らのセフィロトの樹も切断されておる』

アイゼン『完全に外界と切り離されておるココは。しかもこの封印式はどうやら魔に由来しておるな』

アイゼン『器用なものだ。物質的な干渉は通しつつ、力の干渉は全て切り離しておるとは』

アイゼン『これを行った者は相当の知識と応用力を有しておっただろう』

アイゼン『これならば、我等も天界も気付かぬのは当然だな』


バージル「現出させたのは天界の者では無い」

アイゼン『…………そうだ。実はな、イギリス清教の最大主教が我が眷属であったらしい』


バージル「…………」

アイゼン『そなたはその点について気付いておったか?』

バージル「いや」

アイゼン『ふむ…………まあ大方、生き延びた魔女の一人が、何らかの理由でここに現出させたといったところか』


アイゼン『とりあえずだ。我等が現出させる手間が省けたな』


バージル「…………その魔女、知っている者か?」
730 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 23:53:17.40 ID:lbsjmzAo

アイゼン『いや。だがそのような事ができる者は極僅か、調べれば直ぐに身元が割れるだろう』

アイゼン『諸長に聞けばすぐだ』

アイゼン『お、それとセレッサ達にも聞いておいてくれ。あの者らは何も報告してこんからな』

アイゼン『何か知っておるかもしれん』

バージル「…………その魔女はどうする?」

アイゼン『うん…………どの道捕えねばなば』

アイゼン『「神義の間」を現出させるには諸長の10以上の許可が要る。その者は明らかに掟に反しておる』

アイゼン『それにだ、状況が状況だけに勝手に動かれることがあれば困るからな』

バージル「殺すか?」

アイゼン『……ま、それは見つけ話を聞いてからだな。今のところは、掟に沿うと処刑が妥当だが』

アイゼン『なぜそのような事をしたのか、何の目的で現出させたかが気になるからな』

アイゼン『もしかしたら、一族の為良かれと思ってやった事かもしれぬ』

アイゼン『現出した時期も時期だしな。何かあるだろう』

アイゼン『見つけても直ぐに殺すな。我等の元に送ってくれ』

アイゼン『身内の問題は身内で処理する』


バージル「…………」
731 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 23:54:37.31 ID:lbsjmzAo

アイゼン『さてと…………そのローラとやら、今どこにいるかはわかるか?』

一度手を叩きながらアイゼンは、
シェリー達の方へと向き言葉を飛ばした。


シェリー『知らねえわよ………………おい……』

アイゼン『うん?』



シェリー『彼女を…………返せ』




シェリー『…………神裂をこっちに引き渡してもらう』



アイゼン『お、そういえばこの者もイギリス清教だったか』


バージル「……」


アイゼン『おおう、そうだそうだ。一段落ついたという事だがその者はどうなったのだ?』


アイゼン『結局死んだか?』
732 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 23:57:09.73 ID:lbsjmzAo

シェリー『…………!!!!』

飄々としたアイゼンの調子と、その言葉で魔像の拳を握り締めるシェリー。
その体は、芯から煮えたぎってくる熱く猛々しい思いで震えていた。

そんなシェリーの憤怒など全く気にもせず、

バージル「さっさと起きろ」

足元に横たわっていた肉塊に言葉を放つバージル。


いや。


シェリー『―――!!!!!!!!!!』

アニェーゼ「―――!!!!!!!!!!!』


ソレは、今やもう肉塊とは呼べなかった。

一体、いつの間に。

ほんの一瞬。
ほんの一瞬の隙に。

肉塊だったソレは、綺麗な神裂の姿に戻っていた。

今にも分離しそうな程の傷も、
全身に纏わりついていた血も跡形もなく消えていた。

この今の瞬間の映像だけを切り取れば、
ただ寝ているだけのようにも見える。
733 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/15(水) 23:58:09.47 ID:lbsjmzAo

アイゼン『ほぉう。やりおったかこの者は。さすがはそなたが目を付けただけあるな』

バージル「…………」


シェリー『………………か……神裂……?』

傷が治っている、という事は。

まだ神裂は生きている。
生きているのだ。


バージル「コイツを運べ」

アイゼン『うん?』


バージル「俺は『神儀の間』を『向こう』に移動させる」


アイゼン『おお、ん、頼んだぞ』

バージルの声に促され、神裂を意図も簡単にヒョイッと持ち上げて肩に乗せるアイゼン。
そして踵を返し、再び例の黒い靄を出現させた。
734 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/16(木) 00:00:07.62 ID:FwvNhDco

シェリー『―――…………!!!!!』

三度目の今はもうわかる。
あの靄は『門』、悪魔が使う移動術のようなモノ。

神裂がどこかに連れて行かれる―――。


遺体だけでも回収したかった。
彼女を帰したかった。


それが生きているのなら尚更だ。


このまま見過ごす事など決して―――。


そう思ったシェリーは、先ほど取り込んだばかりのタルタルシアンを解放―――。


『エェェェェェリ――――――!!!!!!!!!!!!!!』


―――しようとした瞬間だった。


「―――やめ―――」


耳に入る、聞きなれた女の声と。


喉元に伝わる、冷たい金属の感触―――。
735 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/16(木) 00:02:01.09 ID:FwvNhDco

気付くと。

シェリー『―――……ッス……ッ…………!!!!!!』

正面には抜き身の閻魔刀を構え、
その切っ先をシェリーの喉元に突き立てているバージル。

凶悪なその刃は、彼女の体を覆っていた黒い装甲を意図も簡単に、
まるで存在すらしていなかったかのように貫通し、生身の肌に軽く触れるところで静止していた。

シェリーは動いてはいない。

バージルが一瞬で距離を詰めてきたのだ。
彼女は一切目視できなかった。
その動きが全くわからなかった。


彼女は呼吸すらままならない程に、
その狂気の刃を前にして固まっていた。

一ミリも体を動かすことが出来なかった。

そんな中。


神裂「…………お願い…………します…………手を…………お引きになって…………下さい……」


アイゼンの肩の上からバージルへ向けて放たれる、
今にも途切れそうなか細い声。
736 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/16(木) 00:03:06.92 ID:FwvNhDco

シェリー『…………』

先ほど一瞬聞こえた声も、恐らく神裂のモノ。

バージルへ向けて、殺さないでくれという意味で放ったのか。
それともシェリーへ向けて、バージルに楯突くなという意味で放ったのか。


どちらにせよ、その一声がシェリーの命を辛うじて繋ぎとめたのは確かだ。


神裂「…………お願い…………します…………」


バージル「…………」

その言葉が届いたのか。

それとも単なる気まぐれか。

バージルはスッと閻魔刀を引き、
依然固まっているシェリーの横をすれ違いザマに。


バージル「二分以内にここから失せろ」


それだけ言葉を放ち、ホールの中心へと足早に進んでいった。
737 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/16(木) 00:05:38.88 ID:FwvNhDco

シェリー『か、神裂…………お前……一体…………』

神裂「事情はまだ話せませんが…………これは私自身の選択です…………」

アイゼン『話なら手早く済ませろ。ああ、そうだ、そなたら、今宵の事は決して他言する出ないぞ?』

アイゼン『己の命を縮める事になるからな』


神裂「あ…………信じてください…………これだけは約束します…………」


神裂「私は…………全身全霊をかけ…………私自身の戦いを成し遂げます…………」


アイゼン『そろそろ行くぞ。ほれ、そなたらも行かぬと死ぬぞ?』


アイゼンが少し急かしながら、靄の中へと消えていく。
肩に乗っている神裂も。
738 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/16(木) 00:07:18.72 ID:FwvNhDco

神裂「必ず…………あなた方を守り抜いて見せます…………!!!!!誓います…………!!!!」


そして。


神裂「どうか……!!!!……絶対に死なないでk―――!!!!!!」


シェリー『待―――!!!!!!!』


言葉を言い切る前に、神裂とアイゼンは靄の中へと姿を消し。
数秒後にその靄も消失した。

跡形も無く。


そして響く。


バージル「後30秒だ」


小さいながらも、突き刺さるように響くバージルの冷たい声。

次いでホール全体に、耳を覆いたくなる程の異質な耳鳴りが響き。
凄まじい量の青い光がホール内を満たし始めた。
739 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/16(木) 00:09:13.52 ID:FwvNhDco
シェリー『―――神裂ッ!!!!!!神裂ィ!!!!!!!!!』

例の黒い靄が消失しても尚、異常な耳鳴りの中その空間へと呼び続けるシェリー。

アニェーゼ「さっさと行きましょう!!!!!このままじゃこっちがやばいですよ!!!!!」

そんな彼女の、黒い装甲に覆われた手にぶら下がるようにしがみ付き声を張り上げるアニェーゼ。

シェリー『待て……!!!!神裂が…………!!!!』

アニェーゼ「彼女は強い!!!!!!!信じるべきじゃねえーですか!!!!!!!!!」


シェリー『だ、だが…………!!!!!!!』


アニェーゼ「こんな所で死んじまったら!!!!神裂にどの面下げりゃあいいんですかッッ!!!!!!!???」


アニェーゼ「シェリーィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!」



シェリー『―――』

そのアニェーゼの言葉と。
叫ばれた己の名で、シェリーはようやく動く。

腕にしがみ付いているアニェーゼを瞬時に抱え込み、
魔像の力で床を一気に蹴り、100m以上先にある扉の方へと跳躍する。

砲弾のように射出されたシェリー達は、そのままドアをブチ破って廊下の壁へとめり込んだ。


それとほぼ同時に。


部屋の中から凄まじい金属音と光が溢れ出し。
封印庫全体を大きく震わせた。
740 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/16(木) 00:13:04.66 ID:FwvNhDco

数十秒後。

シェリー「………………」

アニェーゼ「………………」

魔像化を解いたシェリーとアニェーゼは、
大きく凹んだ廊下の壁に寄りかかり床に座り込みながら、

反対側の破壊された扉の向こうを眺めていた。

視線の先の闇。

その向こうには先ほどまでの異質な空気も、重苦しい闇も消え失せていた。
廊下の仄かなろうそくのあかりが、さっきとは違い部屋の中にまで良く差し込んでおり。

奥には何も無かった。


何も。


あの巨大なホールは跡形も無くなっていた。

アニェーゼ「………………大丈夫ですよ。神裂なら…………きっと…………」

シェリー「………………」


そして二人はゆっくりと立ち上がり。

アニェーゼ「…………………………行きましょうか。こっちにはこっちで仕事が山積みですからね」

シェリー「…………………………ああ」

二人は一度、壊れた扉の奥へと目をやった後、
正面を向いて力強い足取りで廊下を進んで行った。

アニェーゼ「…………で、どうします?キャーリサ様への報告は?」

シェリー「…………タルタルシアンを手に入れたってだけ言えば充分よ。後は知らぬ存ぜぬで」

アニェーゼ「アイアイ」

―――
741 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/16(木) 00:15:42.47 ID:FwvNhDco
今日はここまでです。

明日の夜から連休にかけて用事がありますので、
次は月曜の夜か火曜になります。
742 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/16(木) 00:27:29.54 ID:YSDzIYso
おつ!
743 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/16(木) 08:45:00.32 ID:8R/7/IDO
最近魔女パートばっかりだったから忘れかけてた
バージルめちゃくちゃ恐い
744 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/16(木) 14:54:30.35 ID:.BoL1ADO
噂の名倉メイクライか……
745 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/16(木) 22:49:07.27 ID:yY/f0Vso
乙なんだよ!
746 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/18(土) 16:20:10.33 ID:7heeMcDO
でもまぁインパクトはあったからいいんじゃね?あくまで予告なんだし
あとはストーリーだよ。ゲームシステムも
ガッカリするのはまだ早い
747 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/18(土) 21:48:21.66 ID:Z/x8IQDO
4の時にトレイラーだとダンテが完全に敵に見えるような作り方してたし今回も何かあると思うんだ
そして「My name is Dante」って一々アピールしてる点も引っかかるんだ・・・

つまり・・・名倉はダンテの偽物か何かなんじゃ・・・
748 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/18(土) 22:37:05.02 ID:CC.6ooAO
どうせ趣向変えてやるなら日本人主人公がいいな 名倉以外で
749 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/18(土) 23:23:22.20 ID:9oXXUUAo
日本人じゃスタイリッシュは無理だろニンジャガ位になったら別だけどww
750 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/18(土) 23:45:31.46 ID:fPJN/EDO
3の特典映像で日本人が演じたあれはかなり酷かった
あれを見る限り日本人はどう考えても無理だ
751 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/19(日) 01:30:20.83 ID:NaUsLkAO
>>750
あれはふざけて作ってんだろwwwwwwwwwwあの顔といい段ボール剣といい真面目にやったなんて言わせねぇwwwwwwwwwwww
なんであんなゴミPV流したのか製作者の意図が分からんがな
752 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/19(日) 09:35:48.20 ID:l2E57g2o
ただのパロディムービーに本気になられてもwwww
753 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/19(日) 10:49:18.59 ID:zA31.QDO
パロディと言えばこれはクソ笑ったわ。まぁDMCじゃないんですけどね
http://www.youtube.com/watch?v=XKTP3mOt2Vo
754 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/19(日) 16:39:31.80 ID:ufzDyiUo
笑どころが分からない
755 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/19(日) 16:52:35.92 ID:zA31.QDO
>>754
仮面ライダーW観てないとわからんネタだからね。仕方ない
756 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/19(日) 17:08:14.03 ID:nCDAtvQo
この連休で一通り読み返しちまった

魔帝対スパーダファミリー、ベヨ対神裂、フィアンマ対ステイル・一通・上条が俺のベストバトルだぜ
あと御坂対ゴートリングの鉄柱使ったバトルも好き
757 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/19(日) 22:02:02.56 ID:XTtpwIQ0
やはりここでも名倉メイクライは物議を呼んでるね(;´ω`)
758 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/19(日) 22:44:19.95 ID:LyeUe6AO
名倉でもいいけどスタイリッシュやめてホラーな世界観をおっかなビックリ進んでくアクションしたい
759 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/20(月) 01:21:42.89 ID:G9mlcMAO
>>756
JudgmentDeathNo!!!Yeah!!!
がすんごく懐かしく感じるよな
760 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/20(月) 10:56:11.46 ID:YRQCafQ0
初スレからベヨネッタとのリンクをキボンしてる人いて慧眼だた

レスしてるみんなの狭いリクにちょこちょこ応えてくれてる>>1のサービス精神がニクい
761 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/20(月) 13:06:07.66 ID:c8DvY2DO
にしても、ここまで長くなるとは思わなかったな…実に良いことだ
762 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/21(火) 01:53:58.93 ID:tLSyR2g0
>>759
ありましたっけねそういうのwwwwww
763 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/21(火) 18:42:58.96 ID:Pr1vCxAo
書きこめるか???
764 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:04:03.69 ID:lizh526o
―――

学園都市。
午後5時過ぎ。

季節は冬、外は既に薄暗くなり乾き冷たい風が吹く中、
第七学区ではあちこちに巨大な作業灯が聳え立ち、
瓦礫除去作業を行う多くの重機を煌々と照らし上げていた。

第七学区に刻まれた、先日の凄まじい戦闘の傷跡。
今現在、24時間体制で作業が行われている。

そんな第七学区の端、被害を免れたとある病棟一階の大きなフロア、
そこの長椅子の一つで、上条とルシアは並んで座っていた。

フロアの端にある、大きなテレビから流れてくる報道を見ながら。

先日の戦闘による、一般人の被害は負傷者は約8000人(魔の力による意識昏倒も含め)、
死者は3人、行方不明者は8人(生存は絶望的とされている)。

負傷者の数・都市の破壊規模からすれば奇跡的な程に犠牲者は少ない。
少ないのだが。


上条「…………」


やはり、上条当麻にとってはかなり心が痛む事実だった。
自分達の戦いで犠牲者が出た、それも一般の学生。

上条「クッソ…………」

こみ上げてくるやり場の無い怒り。
765 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:06:45.68 ID:lizh526o

だが、報道の仕方や世間の反応を見ると、この件はさほど重大視されていないようだった。
『平時』ならば、学園都市にてこれ程の規模の『テロ』が起こったとなれば、世界的な話題となるだろう。

だが今は違う。

世界はもうそれどころではない。
世間では、この程度の事など最早小さな因子に過ぎない。

WW3の中の小さな戦闘の一つとしてしか認識されていない。

学園都市の件も今やさらりとしか報道されず、メインは世界各地の戦闘状況。

上条「…………」

それがまた、上条にとってもどかしい怒りとなる。

彼は今の状況の全貌を掴んでいるわけでは無い。

だが、己がこの戦争の『本当の核』の場所に立っていることぐらいはわかる。
この戦争がタダの『人間同士の戦い』ではなく、もっと巨大な別の姿を持っていることも。

ステイルからも、午前中にいくらか話は聞いた。
ウロボロス社とローマ正教側に纏わる人造悪魔兵器の件、そして己達が戦っているちょうどその時、
ヴァチカン・フォルトゥナにても異界の力・存在による大規模な戦闘があった事を。

まだまだ全貌は掴めないが、上条ははっきりと認識していた。
己もこの戦争の『要因』の一つである、と。
この忌まわしい物語の主要登場人物の一人だと。


これは己の戦いでもある、と。
766 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:08:33.00 ID:lizh526o

上条「…………」

トリッシュからも話を聞くべきだろう。
きっと何かを知っているはず。
事実を知っていなくても、彼女の人間とは格の違う頭脳から導き出された推測や助言はかなり役に立つ。

あの『良くわからない作業が』一段落でもしたら、今日にでも上条は聞くつもりだ。
(何かの術式を解く、という話らしいが上条にとってはチンプンカンプンだった)

上条「…………」

そんな事を上条は考えながら、
横にいる赤毛の少女の方へさりげなく目を向けた。

ルシアはちょこんと座りながら、ジッとテレビの報道を見ていた。
その大きなクリッとした目を開き、報道の内容に集中しているのではなくテレビそのものを珍しそうに。

その瞳は一欠けらの濁りも無く純粋そのもの。
かといって、ウィンザー事件の時のように無感情ではない。

宿っているのは純粋な感情だ。
清すぎる心。

上条「…………」

上条はふと思う。
面白いもんだな、と。

悪魔が天使のような心を有しているとは。
(ここの天使と言う表現は、種族を指したものではなく概念的な例えだ)

インデックスの瞳にも少し似ている。
767 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:10:06.12 ID:lizh526o

こういう瞳の悪魔は、上条はこの二ヵ月半の間見た事が無かった。

ダンテやトリッシュ・ネロのような人間側に立っている悪魔、
更にステイル等の元人間の者でさえ、
その瞳のどこかには悪魔特有の影の部分が見え隠れしていた。

上条自身、己の瞳を鏡で見た時に感じる。

恐怖、絶望、力の渇望、底無しの闘争欲、そして人間には到底理解できない凄まじい狂気、
それらが不気味な光を放っている事を。
人間にとっては災厄そのもの、悪魔にとっては『真理』であるその影の面。

上条自身でさえこうなってしまった以降、戦闘を楽しんでいる自分がどこかにいる事を感じていた。
昨日の戦闘の時でさえ、上条は言いようの無い昂ぶりを感じていた。

フィアンマに魔弾を撃ち込み、彼の体が爆散する瞬間、
上条は不気味な快楽に浸っていた己をも認識した。


上条「…………」

だがこの隣の少女は、そんな感情など一切無いのだろう。
悪魔特有の気質が全く感じられない。

上条自身がこう思う。
元人間の俺よりも人間っぽいな、と。

なんという皮肉か。

忌まわしき人造悪魔として生み出された存在が、人間よりも遥かに高潔な心の持ち主だとは。

人々が当たり前のように感じ、その美しさや愛おしさを忘れかけているこの人間世界、
その姿を彼女は瞳一杯に捉え、そして本当の価値をしっかりと認識しているとは。

上条「…………」
768 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:12:25.85 ID:lizh526o

ルシア「?」

そう上条が考えていた最中。
ルシアが上条の視線に気付き、その愛くるしい瞳を彼の方へと向けた。

それに対し、上条は眉を軽く上げて笑い、
肩を小さく竦めて「なんでもない」と意思表示。

ルシアは軽く首をかしげながらも再びテレビの方へと目を戻した。

とその時。

ピクリと背筋を伸ばし、テレビではなくフロアの入り口の方をジッと見つめ始めたルシア。

上条「……?」

数分間、彼女はそんな調子で固まっていた。
不思議に思った上条が声をかけようと思ったその時。

上条「……ん?」

彼も廊下の方から近付いてくる、二つの人間の気配を察知した。
片方は上条が慣れ親しんだ気配。

上条「(御坂?)」

そして徐々に聞こえて来た軽い足音の後。


フロアに姿を現す、


御坂「あれ?」

佐天「あ!!」


二人の中学生。
769 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:14:06.46 ID:lizh526o

上条「おーっす」

ソファーに座りながら、御坂とその友達らしき人物へ向けて軽く手を振る上条。
その御坂の隣の子を以前見たことあるような気がしていたが、この時はまだ思い出せていなかった。

御坂「おー……ってアンタ、ここで何してるの?インデックスちゃんはどうしたのよ?」

御坂「っていうかその子は?まさか『また』…………」

どことなく不審げな表情をしながら上条達の方へと向かう御坂。

上条「な、なんだよっ……あー、この子はな……」

なぜかやや不機嫌になった御坂に戸惑いながらも、
上条は説明しようとしたその時。

佐天「ルシアちゃん!!!」

満面の笑みでルシアの方へと駆け寄っていく佐天と。

ルシア「さ、佐天さん!!!」

上条の隣で更にピンと背筋を伸ばし、笑顔を浮かべるルシア。



上条&御坂「…………はい?」
770 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:18:59.38 ID:lizh526o
〜〜〜〜〜

数分後。

首を傾げていた二人に、出会った時の状況を佐天は一通り説明し終えた。

佐天「…………って事で、昨日ここで知り合ったんですよ」

ルシア「そ、そうなんです」

その佐天の言葉に合わせ、すこし恥ずかしそうにも相槌を打つルシア。

上条「へぇ〜…………で…………その、御坂の友達か?」

御坂「うん、佐天さん。黒子繋がりで」

佐天「あ、佐天涙子です。どうも。お話は色々と御坂さんから……」

上条「俺の話?どんな?」

佐天「そりゃぁ、めちゃくちゃかっこ良くt」

御坂「え゛へェ゛ンッッ!!!!!」

その時、突如響く御坂の大きな咳払い。

佐天「あ…………そ、その〜とにかく強いって」

上条「?」

御坂「い、良いから、その子の事も紹介してくれない?」

上条「おおう、この子はルシアだ」

ルシア「は、はじめましてっ。る、ルシアです」

立ち上がり、ペコリと御坂に対して頭を下げるルシア。

御坂「(い……良い…………持って帰りたい……)」

上条「ダンテの同業者だ。この子もあk……え〜っと…………」

傍らのルシアを御坂に対して紹介する上条。
だが何かを言いかけたところで少し言葉を濁した。
771 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:21:16.83 ID:lizh526o

佐天「?」

上条「佐天さんもここにいるって事は、一応『関係者』だよな?」

御坂「え?あ、うん。普通に喋っても言いと思うわよ。佐天さん、セキュリティレベル満たしてるわよね?」

佐天「あ、はい(セキュリティ?良くわかんないけど多分OKっしょ)」

上条「おお、それなら良いか。この子は悪魔だ」

御坂「へぇ〜!」

佐天「(やっぱり……)」

上条「ステイルとか神裂よりも強いらしいぜ」

御坂「へぇ〜すっごいわね。アンタより強いの?」

上条「うーん、そこはやってみないとわからないなー。な?な?」


とその時。


ルシア「私の方がだいぶ強いです」


ルシアは疑問に対して事実を素直に答えた。


上条「……………………だそうです……」

その言葉を聞き、わかってはいたがどストレートではっきりと言われ、
少し肩を落とす上条。
772 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:23:03.30 ID:lizh526o

御坂「へぇ〜!具体的にどんくらい差があるの?!」

ルシア「わ、私はステイルさん・神裂さん二人を相手にしてちょうど互角でした」

御坂「なるほど……ステイルさんと神裂さんってルシアちゃんの見立てだとどのくらい?」

ルシア「えっと……ウィンザー事件時のステイルさんよりも、今の上条さんはやや劣ります」

上条「…………う……」

ルシア「ですがその差は極僅かなので、戦闘内容によってはどちらは勝つかはわかりません」

上条「だ、だよな!?つまり互角っていうk」

御坂「アンタはちょっと黙ってて。で、神裂さんの方は?」

ルシア「か、神裂さんはもっと遥かに強かったので、上条さんが勝つ事はまず不可能だと思います」

上条「………………う……ま、まあ神裂にはどう転んでも勝てないかな……」


御坂「まあまあ、そう気を落とさないでって!ねえねえ、ところで私ってどのくらい?!」


ルシア「…………そ、そうですね……確かレディさんから魔弾を貰ったんですよね?」

御坂「そうそう!」
773 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:28:37.32 ID:lizh526o

ルシア「その魔弾を一発でも直撃させられれば、上条さんに勝利する展開も望まれますが、」

ルシア「レディさんのような豊富な経験と鍛え上げられた感覚か、高度な術式による照準補正が無いと、」

ルシア「上条さんの今の身体能力ならば射線を読まれて簡単に避けられてしまいます」

御坂「…………」

ルシア「そ、そして一気に距離を詰められてすぐに決着がつきます」

ルシア「中近距離戦に持ちこまれた場合は、御坂さんでは上条さんの速度に全くついていくことができません」

ルシア「現状の御坂さんレベルが4人いれば上条さんを弾幕で圧倒できますが、一対一ではかなり厳しいです」


御坂「………………うう」


上条「ま、現実はそういうもんだ!な!御坂!落ち込むな!!!ははは!!!」


佐天「じゃあじゃあ私は?!」


上条「……」

御坂「……」

ルシア「…………あ、あの……」

佐天「……って、じ、冗談!!冗談ですよ〜もう!!」

御坂「だ、だよね〜!」

上条「ま、まあそうだよな!」

佐天「私は皆の友達ってだけで、か弱い非戦闘員ですもん!!」


ルシア「(友達…………友達……私の……友達……)」
774 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:31:31.36 ID:lizh526o

上条「あ、そうだ御坂」

御坂「何よ?」

上条「レディが来てるぜ」

御坂「うっそ!!?どこ!?」

上条「トリッシュの部屋に。今よくわかんない作業しているから、俺締め出されたんだけどな」

上条「インデックスも今その仕事やってる。でもそろそろ終わるんじゃねえかな?夜には今日の分は終わるって言ってたしな」

御坂「じゃ、じゃあ、会いに行っても良いのかな!?」

上条「お、俺じゃなくてルシアに……」

御坂「良い?!」

ルシア「あ、は、はい。良いと思います」

佐天「あ、あの〜…………私は……?」

御坂「佐天さんもおいでよ!レディさん紹介してあげる!」

上条「トリッシュにも紹介すると良いぜ?な?ルシア。『友達』だって」

ルシア「は、はい!!」

佐天「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔しちゃおっかな〜!」

上条「じゃあ、ルシア、二人を連れて行ってくれ」
775 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:34:31.05 ID:lizh526o

御坂「へ?アンタは?」

上条「お、俺はもうしばらくここにいるかな」

御坂「何で?」

上条「な、なんとなく」

やや顔を引き釣らせて笑う上条。
だがそんな彼に対し、鋭い声色で言葉を放つ御坂。

御坂「ダメ。大体にしてアンタがインデックスちゃんと別行動してる時点で問題ありなんだから」

上条「い、いや、護衛については問題ないだろ?ステイルとレディ、そこにルシアが加われば俺なんかよりも……」

御坂「そういう問題じゃないでしょーが。アンタはあの子の傍から離れちゃ(ry」

上条「あ、あのな!!!……じ、実はこ、これから別の約束があってな!!」

ルシア「?わ、私は聞いてませんが予定があったんですか?」

上条「(純粋で素直すぎですよルシアさん!!!)」

御坂「ですって。あ!!!アンタもしかして…………」

上条「ち、違うぞ!!!!良くまた女かって何だか言われるけど違うぞ!!!」

御坂「いや、そうじゃなくて……もしかしてレディさんが怖いとか?」

上条「―――!!!!!!!!」
776 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:35:52.25 ID:lizh526o

御坂「全く……や〜っぱり……」

上条「いやいやいやいやいやいやいやいや」

御坂「大丈夫だって。冗談だってあの人なりの。レディさんって結構優しいわよ?」

上条「いやいやいやいやいやいやいやいやあれはマジです」

御坂「……ルシアちゃん。当麻をさ、あの良く悪魔が使う魔法陣みたいので運べる?」

ルシア「あ、はい、できます」

上条「ちょっと待って待ってちょっと」

御坂「じゃあ、当麻を押さえつけて、それで(ry」

とその時。
ルシアと上条は、再び別の気配の接近に気付いた。

そしてその存在。

それは正に上条にとって助け舟だった。


フロアの入り口に姿を現す―――。



一方「あァ?」


一方通行。
777 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:38:54.56 ID:lizh526o

上条「おおおおおおおおおおおう!!!!!!!!!!!」

その場から一気に跳躍し、一方通行の脇に飛び込むように移動する上条。

上条「ま、待ってたぜアクセラレータ!!!さ、さあ行こうぜ!!!」

一方「アァ?!!!なン―――」

見るからに嫌悪感むき出しの表情で、
杖をつきよろめきながらも身を仰け反らせる一方通行。

上条「良いから調子を合わせてくれ頼む頼むマジで頼むお願いします」

上条はそんな彼に対し、高速で小さな小さな声の言葉を一気に並べた。

御坂「ちょっとアンタ達」

上条「い、いや、俺はアクセラレータと約束しててな!な?!な?!」

一方「…………」

御坂「……いや、当麻は黙ってて。本当?」

一方「まァ…………用事があるってンのは嘘じゃねェ」

上条「(おっけーおっけー!!!!!!!)」

御坂「へぇ……どんな?」

一方「俺がオマェにベラベラ話すと思ってンのか?」
778 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:41:01.38 ID:lizh526o

御坂「………………………そう。まあいいわ」

御坂「とにかく、できるだけ早く戻ってきなさいよ?」

上条「お、おう!!!わかった!!」

疑惑の目をしながらも、御坂はそのままルシア・佐天と共にフロアを後にしていった。
そんな三人の姿が消えた後。

上条「ふぅ〜〜〜〜〜〜〜!!!!いやぁ〜助かったぜ!!!」

一方「…………オィ、オマェあのガキの傍にいなきゃなンねェンじゃねェのかよ?」

上条「……ま、そうなんだけどよ。今だけは別だ今だけは……」

一方「アァ?オマェあンな事がつい昨日あったくせにまだンな事を(ry」

上条「ああ、そっち方面なら別に問題ないぜ。御坂とステイルがいるし、」

上条「更にもう二人、俺なんかじゃ手も足も出なさそうな強い奴がいる」

上条「今インデックスを狙うよりかは、俺かお前が一人で護衛している時を狙った方が楽な状況だぜ?」

一方「…………ハッ……つー事は、その二人はダンテのお仲間か同業者って所かァ?」

上条「そうだけど……なんでわかった?」

一方「こっち側につくそォいう連中ってのは大体そっち方面だろォがよ。別勢力にもンな野郎がいるンじゃたまンねェよ」

上条「あ〜、まあ確かにな。それにしても助かったぜ!お前が話し合わせてくれてな!」

一方「ちょォど良かっただけだ」

上条「…………はい?」

一方「オマェの右手を借りようってよォ、これから探そォとしてたところだ」

そこで一方通行は右手を顔の前当たりに挙げ、上条に見せ付けるように握っては開きながら、
不敵な笑みを浮かべた。


上条「…………な、なんの用でせう?」


一方「ちょっとした『実験』だ。付き合えや。なァに、すぐ終わるぜェ」


―――
779 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:43:06.94 ID:lizh526o
―――

窓の無いビル。

アレイスターは、己の直ぐ前に浮かび上がっているホログラム画面を閲覧していた。

浮かび上がっている画面は三つ。

一つは、今行われている能力者部隊の調整作業の経過報告。
一つは、現在の世界情勢の様々な情報。

そしてもう一つは。

一方通行の進化により大きく変化した、学園都市全体のAIM拡散力場のデータ。


アレイスター「…………」

封印された力場から引き出しているのではなく、己自身の魂から力を放出し始め、
『生きたAIM拡散力場』の核へと変化しつつある一方通行。


『生きているこの力』を実際に見るのは、アレイスター自身も始めての事だ。
数千年振りに生れ落ちた、『人間界の天使の卵』。


彼の類稀なる頭脳は、間接的なデータだけで確実性の高いモデルを構築できていたが、
現物を実際に調べてみると少々誤差が見られる。

やはり計算上の理論だけでは、いくらアレイスターでも完璧なモデルは構築できなかったようだ。
まあ、それも当然。

ここからは人知を超えた、未知の領域なのだ。
それなりに確実性の高いモデルを構築できたのはアレイスターだからこそ。

それに、その誤差もどうってことは無い。

どれも少しの修正で事足りる。


しかし一つだけ。


一つだけ、とある懸念事項がある。


それは、この『誤差の原因』が調べられない事だ。
780 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:46:27.53 ID:lizh526o

想定モデルと、一方通行の『現物』との微妙なAIM拡散力場のズレ。
既存の、学園都市が有するAIM拡散力場への、一方通行の力場から来る影響。

そして『幻想殺し』、いや『竜王の顎』への小さな干渉。

全体に極僅かずつ見られる、このアレイスターの想定モデルとは一致しない微妙な誤差。

アレイスターならば、一ヶ月かければ全てを調べ上げられるのだが、
この通りその時間的余裕は全く無い。


アレイスター「…………」


状況的に、この点は見過ごすしかないだろう。
修正は簡単だ。
プランの障害とはまず成り得ない。

この小さな問題の原因はわからなくても、プラン成功の確率はほぼ全く変動しない。


『計算上』は全く問題ない。
この点は目を瞑るべき。

いや、残された時間的余裕を見ると、目を瞑るという選択肢しかない。


そうアレイスターの頭脳は答えを導き出し、そして判断を下した。
迷い無く。


しかし。


この判断が、後にアレイスターにとって最悪の事態を招く。
781 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:48:32.38 ID:lizh526o

勘や感情を一切信頼せず、己の類稀なる頭脳の、
正確な計算に絶大な信頼を寄せているアレイスター。

心があったからこそ彼は一度大敗北をし、
心を捨て頭で動くようになってからこそ、彼は勝ち続け再起を果たし、
そして今のこの局面にまで到達した。


二ヵ月半前からその『戦い』は苦しくなったが、
それでも彼は様々な手を冷静に講じて己の道を勝ち続けた。


悪魔、そしてスパーダ一族と言う、規格外の存在に揺さぶられながらも、彼は決して道を外さなかった。

確かに辛く苦しい『峠』だったが、
その一方で彼自身はそ、こを乗り越えつつある己のやり方に絶大な信頼を寄せていた。

あのスパーダ一族の介入があったにも関らず、プランの芯は瓦解せずにここまでやってきたのだ、と。

感情には一切左右されない、
この完璧な頭脳が彼の最大最強の強みなのだ。


だがアレイスターはまだ自覚していなかった。


この点が究極の弱点ともなり。


たった今、最大級のミスを犯してしまった事に。
782 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:50:22.96 ID:lizh526o

とその時。


「一方通行、彼はやはり興味深い」


どこからともなく、いや、彼の脳内に直接飛び込んでくる声。
それはアレイスターの守護天使、『エイワス』の言葉。

アレイスター「君か。彼がどうした?」



エイワス「系統はやはりハデスに似ているな。それとあの危うさと戦気はクラトス、アレスにも類似している」


エイワス「懐かしいな。在りし日の彼らの顔があの少年と重なる」


アレイスター「……君が『懐かしい』という表現を使うとはな」

エイワス「私にも一応は、君達で言う『感情』に比する意識反応はある」

エイワス「例え壊れた思念と記憶の集合体であっても、その残滓は在りし日のような反応を見せる事もある」

エイワス「それにだ。『生の力』は少なからず私にも影響を及ぼしているな」

エイワス「意思に反する終焉を迎えた死者は、どこの世界でも生者を羨むものだ」

エイワス「意味の無い『記号の集合体』であってもな」
783 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:52:23.26 ID:lizh526o

アレイスター「…………わざわざ私に対してその『表現』を使う必要は無い」

エイワス「そうか。まあそれはどうでも良い。表現の仕方など腐る程あるしな」

エイワス「話を戻すか」


エイワス「やはりあの少年がガイアの血族に似るのは、君がグノーシス式をベースに現出理論を構築した影響だな」


アレイスター「…………」

エイワス「グノーシス式は汎用性が高いからな」

エイワス「天の検閲を免れた因子が多々ある、数少ない理論の一つだしな。そのおかげで魔にも天にも応用が利く」

エイワス「扱いにくさと天の意志による十字教への同化によって、魔術世界一般では本来の姿を失ったがな」

エイワス「確か、君の『旧友』もグノーシス式をベースにしてたなかったか?」


アレイスター「君は何が言いたい?ガイアの血族に似た事への指摘か?」


エイワス「いや、批判するつもりは無い」

エイワス「それに心配には及ばない。かつての者達に似ることは合っても、本質は別物」

エイワス「あの少年は誰とも血の繋がっていない、新世界の『現初神』の卵だ」

エイワス「おめでとう。君は人間界の、新たな神族世代の第一子を、遥かな時を越えて誕生させた」


エイワス「やはり君は最も興味深い。私を楽しませてくれるな」


アレイスター「…………」
784 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:55:53.59 ID:lizh526o

エイワス「それとこれは私の戯言だが、あの少年はアキレウスとも重なる部分が多い」

エイワス「一体いくつの『偶像』をあの少年に重ねていたのだ?」

エイワス「君との関係性を見れば、ヘラクレスとも重なる」

エイワス「その場合、君はプロメテウスだな。君がこの『偶像』を重ねたのか?」


アレイスター「いいや。ヘラクレスの像とは重ねていない。勝手に現出しただけだ」


エイワス「なるほど……ヘラクレスは偶然であり、一方で必然か。君をこの闘争から『解き放つ』者だな」

アレイスター「…………」

エイワス「『君』は人間に『火と文字と知恵』を与え、つまり新世界へと導き、」

エイワス「そして『親』の怒りに触れ、磔にされ半永久的に肝臓を喰われ続けた」

アレイスター「厳密には『私』の相手は天だったがな。それに永遠に奪われたのは『全ての肉』だ」

エイワス「そうだったな。その苦痛の終焉を、この若き『ヘラクレス』は君に届けに来る」


エイワス「そして最期は。『皆』が『竜』に飲み込まれる」


エイワス「同じだな。君達は『歴史は繰り返す』と言ったが、正にその通りだ」

アレイスター「…………」

エイワス「人間界そのものが過去の『偶像』に囚われ、その歴史を再現しようとしている」


エイワス「古の人間界の『像』が、今の人間界へ重なり映し出されている」
785 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/21(火) 23:58:53.77 ID:lizh526o

エイワス「君はやはり天才だな。人間界そのものに『偶像の理論』を照らし合わせ、」

エイワス「その虚像の力を利用して、望む方向へと局面を運んでいくとは」

アレイスター「元の技術自体は2700年前にホメロスが確立させてある。私はそれを実用段階まで完成させただけだ」

アレイスター「それに『私如き』ができたのだ。魔界にはこの程度など、居眠りしながら構築できる者もいるだろうな」

エイワス「いや、『実像』とは別物の、『作られ与えられた世界』だからこそ、」

エイワス「『偶像』に仕立て上げることが可能だ」

エイワス「魔界や天界では、決して考えられぬやり方だ」

アレイスター「それは必要性が無いからだろう?この方式が通じるのは『今の人間界』だけだからな」

アレイスター「それにだ。偶像の理論自体、力なき人間界独自のやり方だ」

アレイスター「オリジナルの力が手に入らないからこそ劣化コピーで賄う、付け焼刃な子供だましだ」


エイワス「確かに、『偶像の理論』から生み出されるのは複製」


エイワス「あくまで再現。オリジナルとは別物。100%完全同一体ではない」


エイワス「だが、君は逆にそこを逆手にとったではないか」


アレイスター「……」


エイワス「再現度を抑え、己の手を加え、似ているようで全く別の帰結へと方向修正」

エイワス「全体像は似ていても、『竜』に今回飲まれる対象は別物」

エイワス「結末も違う。大いなる破壊により、大いなる時代を誕生させる」


エイワス「こういう君の発想が私は好きなのだよ」
786 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:01:35.11 ID:NgSVEzIo
エイワス「その『偶像』に重ねる事のできない、『幻想殺し』の手綱取りも見事だった」

アレイスター「周囲を固めれば、自ずと所定の位置に嵌り込んでくれる」

アレイスター「あの少年自身の思考回路は単純だからな。誘導は簡単な事だ」


アレイスター「ただ、この二ヵ月半の間はかなり厳しかったがな。半世紀振りに精神疲弊した事もあったよ」


エイワス「確かに。君があんな精神状態に陥ったのを見るのは久しぶりだったよ」

エイワス「だが君は着実に成し遂げてきた。数々の最大級のイレギュラーをも利用してな」

エイワス「そして過去の『偶像』にはもう囚われない、全ての因果と理を消去した新たな人間世界、」


エイワス「『ホルスの劫』の始点が、つい先日構築された」


エイワス「古の神々の『偶像』へと仕立て上げられた、あの少年の昇華でな」


エイワス「あと一歩だな。『エドワード』。君が思い描く未来まで」


アレイスター「『思い描く』、ではない。私が『見て知っている未来』を、だ」


エイワス「表現の違いに一々突っ込むな。言葉は違えど、私の認識は君と同一だ」

エイワス「まあ、やはり君は最高だ。よく縛された人の身でここまでやったな」

エイワス「君が舞台を整え、脚本を書いたこの『劇』ほど楽しいものは無い」

エイワス「過去の事実因子を組み込みながらも大幅加筆し編纂、全く新しい『神話体系の始まり』を君は書き上げた」

エイワス「君の目論見が成功すれば、後世の者達は君の名と共に、『今』というこの瞬間から始まっている『神話』を詠うだろう」

エイワス「ホメロスを越える偉業だな。あの『者達』は結局世界を変える事はできんかったからな」

エイワス「まあ、時期が悪かったという事も原因だが」
787 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:04:33.34 ID:NgSVEzIo

エイワス「それに君の守護天使となったおかげで、かのスパーダ一族の戦いも間近で見れた」

エイワス「見ていて楽しいよ。ここから更に私を楽しませてくれ」


エイワス「私にすら見えぬ、私ですら認識できぬこの大渦」


エイワス「その中央で、不測の事態に陥った君がどう動くかが見たい」


エイワス「非常に興味がある」


アレイスター「……その言い方、今後も何かあるように、何かある事を期待しているように聞こえるが?」

エイワス「何が起こるかはわからない。だが何かを期待しているのは否定しない」

エイワス「それにだ。状況的に見て何かが起こるのは確実だろう?」

アレイスター「……わかっている。ところでエイワス」

エイワス「何だ?」

アレイスター「……私の許可無しで勝手に現出するのは止めてくれないか?」

エイワス「声だけでもか?良いでは無いか。今くらい大目に見てくれ」

エイワス「私だって話し相手が欲しくなる時がある」

アレイスター「ヒューズ=カザキリで我慢してくれ。君が勝手に動くと様々な方面に影響が出てくる」

アレイスター「それにだ。もう少し我慢すれば『自由』だぞ?」

エイワス「ああ、あの『少年』との件か。いつだ?」

アレイスター「どうせ盗み聞き盗み見しているだろう?一週間以内だ」

エイワス「楽しみだ。それにあの少年の目に早く入ってみたいよ」

エイワス「私を『知った』彼がどんな反応するか、非常に興味深い」
788 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:06:00.81 ID:NgSVEzIo

アレイスター「一方通行には数日中に会わせてあげよう。彼も『ドラゴン』には会いたがっていたようだしな」

エイワス「楽しみだ」

アレイスター「だから(ry」

エイワス「わかったわかった。現出するなと言いたいんだろう?わかったよ」

アレイスター「そうか」

エイワス「ではここらでお暇させてもらおう。ちょうど君の『旧友』が通話したがっているようだしな」

アレイスター「…………」

とその時。
エイワスの声が途絶えたと同時に、
ホログラムに表示される、通信が届いてきたと知らせる通知。

その相手は。

通話元の場所は。


アレイスター「…………」


ウロボロス社、デュマーリ島の。


アリウスの専用回線。


アレイスター「………………」

無言のまま、脳信号で回線を開くアレイスター。

そして画面に表示される、豪華な椅子にふんぞり返りながら、

葉巻の煙を燻らせているアリウス―――。
789 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:08:15.22 ID:NgSVEzIo

二人の天才魔術師。

彼らはかつて若かりし頃、同じ魔術結社に属していたライバルであり学友であった。
お互いを切磋琢磨し合い、共に高みを目指していた。

だがある時。

この天才達の道は大きく分かれた。

一人は魔術世界からも姿を消し、
影で魔の力を追求し人知を超える究極の存在を目指し始めた。

もう一人は天の力を追求しその名を魔術世界に轟かせたが、
掘り当ててはならない『真実』を我が物にしてしまい、天の怒りに触れ。

そして途方も無い戦いの道を決意した。



そんな二人が今。


『最期の会話』として言葉を交わす。

半世紀以上昔、時に罵りあい、時に殴りあい、
そして時に笑いながら肩を組み合った男達が。


当時の感じに似た口調で。
半ば懐かしみながらも。


お互いの『死相』を見、そしてほくそ笑む。


相手の死を望みながら。
790 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:10:46.48 ID:NgSVEzIo

アリウス『…………アレイスター』


アレイスター「……………………意外だな。何の用かな?」

アリウス『いやなに、挨拶でもしておこうとな』

アレイスター「それはそれは。遺言でも伝えておきたいのか?」

アリウス『はッ、生憎死ぬつもりは無い。お前こそ身辺整理を始めた方が良いんじゃないか?』

アレイスター「………………整理する程の私物は無いんでな。まあ、するとしたらお前が死んでからにしよう」

アリウス『相変わらず寂しい男だな』



アリウス『―――エドワードよ』



アレイスター「…………君には言われたくないな。『ジョン』」


アレイスター「少なくとも私は一度伴侶を得ている」


アリウス『ふん…………そうだ、エド。どうやら俺に、今週中にでもプレゼントを贈ってくれるらしいな』

アレイスター「まあな。香典代わりだ。返送は受け付けんからな」

アリウス『…………はッ、ありがたく受け取っておこう。精一杯可愛がってやる』
791 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:12:18.23 ID:NgSVEzIo

アレイスター「…………それでだ…………そちらは順調か?」

アリウス『万事良し。問題は何も無い。お前は?」

アレイスター「こっちもだ。ただ、君という大きな問題があるがな」

アリウス『それはスマンな。同じ時代に生を受け、同じ時代を生きた事を呪え』

アレイスター「全くだ。ただな、一応君にも感謝している」

アレイスター「君がいなければ、学園都市はこんな短時間でここまで発展しなかっただろうしな」

アリウス『まあ、それは俺も同じだ。おかげで我が社はここまで大きくなれた』

アリウス『俺が設計した人造悪魔もな、その生産ラインはお前から貰った技術を一部使わせてもらってるしな』

アレイスター「それを言うならば、学園都市の初期の設備代も全て君からの資金提供だからな」

アレイスター「このビルの初期設計も、確か君のところからのモノだと記憶している」

アレイスター「私の延命措置技術開発の資金も、君が出してくれたしな」

アリウス『正にお互い様だな』

アレイスター「そうだな」
792 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:14:33.01 ID:NgSVEzIo

アリウス『…………』

アレイスター「…………」

アリウス『…………こうは思った事は無いか?俺とお前が「同じ側」に立っていたら、と』

アレイスター「…………」

アリウス『俺とお前。二人で共に歩んでいたら、正に不可能は無かっただろうな』

アレイスター「…………確かに、『目的』は即遂げられていただろうな」



アリウス『お前が俺と共にこちらの道を歩んでいたら、』

アリウス『そんな小細工をし、「展示ケース」に入らぬとも1000年の命は約束されていただろうに』


アレイスター「生憎、欲しかったのは寿命ではない。君のように力に渇望もしていない」


アリウス『それでは何だ?その「原石」とやらの「体」が欲しかったのか?』


アレイスター「……止してくれ……」


アリウス『名は何と言ったか?そこまでしてその女と一緒に―――』


アレイスター「―――黙れ」
793 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:16:36.51 ID:NgSVEzIo

アリウス『ふん…………お前はいつもそうだった。そこは昔から変わっとらん』

アレイスター「……何がだ?」

アリウス『常に冷静沈着、感情には一切左右されぬ、完全無欠の思考』

アリウス『心を捨て、神の視点から世界を見る達観者』

アリウス『意識体が人の領域から離れた超越者』

アリウス『―――そう思っているようだが、所詮お前も人間だ』

アリウス『どうした?その「肉体の能力」で「未来を視て」いる内に、己が他の人間とは存在が違うと思い込み始めたのか?』


アレイスター「…………何が言いたい?」


アリウス『そのままだ。所詮お前も俺と同じ。そこらの愚民共と同じ「タダの人間」だ』


アレイスター「…………」

                                      セ レ マ イ ト
アリウス『欲望、欲求、感情と完全に剥離し、「真の意志」に従っているだと?』


アリウス『お前はそう己に言い聞かせているだけだ』



アリウス『心の痛みに怯え、目を背け、鍵をかけて震えている負け犬に過ぎん』
794 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:19:22.99 ID:NgSVEzIo

アレイスター「…………」

アリウス『人間の俗世を忌み、その存在から目を背けた者が、』

アリウス『その人間達を全て理解して昇華させるなど笑止千万』


アリウス『お前は全てを理解していると自負しているだろうが、何もわかってはいない』

アリウス『お前の、人は個々の不可侵の「真の意志」を有しているという自論はある意味正しい』

アリウス『だがな、その「真の意志」が欲求・欲望とは隔絶すべき存在と言うのは間違いだ』

アリウス『常に揺らぎ続ける欲求・欲望・感情こそが人間の核。この人間界に生まれし者の真理』


アリウス『人間の「真の意志」とは、それらの混沌の中で構築される「願望」だ』


アリウス『「真の意志」とは、欲求・欲望・感情のまた別の姿。これらは完全に同一。剥離など不可能」


アレイスター「…………」


アリウス『お前は人間を舐めているのか?』


アリウス『―――貴様如き負け犬が、愚か者が「先導者」とは成り得ない』


アリウス『そして俺は違う』

アリウス『俺は「俺の全て」受け入れた』

アリウス『怒りも。憎しみも。喜びも快楽もその全てを』


アリウス『その上で俺は己の「真の意志」に従う』


アリウス『「人の身」で「全能」を』


アリウス『―――必ず「全能の人間」になって見せよう』
795 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:22:11.93 ID:NgSVEzIo

アレイスター「…………」

アリウス『お前の「夢物語」は終わる』

アリウス『確かに新たな時代がやってくるだろう』

アリウス『だがお前の言う、「ホルスの劫」などという時代は来ない』


アリウス『それは「亡霊共」の戯言に過ぎん』


アリウス『死した愚かな神々の、壊れた記憶と思念の混ざり合った残骸が吐き出した、ただの「幻想」だ』

アリウス『お前はそれらの「記号」を掬い取り、事実から目を背け、都合よく解釈したに過ぎん』


アリウス『お前の「視た」未来は到来し得ない。存在しない「幻」だ』

アリウス『現代の人間共が、お前の描く「神の領域」に昇華することはできぬ』


アリウス『更に言わせて貰うとな、お前のやろうとしている事は「人類の昇華」ではない』


アリウス『根拠の無い自己解釈に沿い、人間を異質な存在へと作り変えようとしているだけだ』


アリウス『人間ではない「ゴミ」へとな』

アリウス『人類の95%を生贄にしてな』



アリウス『そしてそれすらも建前』



アリウス『お前の真の目的は「復讐」だ』


アレイスター「…………」



アリウス『―――天界へのな』
796 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:24:09.40 ID:NgSVEzIo

アリウス『……とな、まあこれが―――』

画面の向こうでアリウスは葉巻を咥えながら、
己の前の机の上へ何冊も魔導書を乱暴に積み上げた。

それらはアレイスターが記した魔導書の写本。

『法の書』や『嘘の書』など。
様々な魔術結社や、ローマ正教・イギリス清教等が理解に多大なる労力を費やしてきたものの、
未だに一ページも正しく解読されていない代物だ。

アリウス『お前が書いたコレらの魔導書を読み―――』

そんな物らをアリウスは、まるで読み終わった週刊誌を投げ捨てるように、
無造作に積み上げ。


アリウス『―――お前の人生を見てきた俺の「一個人として」の感想だ』

葉巻の煙を燻らせながら、片方の眉を上げて小さく笑った。

アリウス『まあ、読み物としては中々であったな。それに面白い見方や概念もあった。術式の参考書としてもそれなりに役に立ったぞ』

少し小馬鹿にするように。

アリウス『倫理書、歴史書、思想書としては紙クズだがな』


アレイスター「……それは手厳しい評価だな」

アリウス『どうせ最後だからな。言いたい事は一応言わせて貰ったぞ?』

アリウス『少しでもお前の「アドバイス」になればな』


アレイスター「…………なるほど。それは嬉しいな。腐っても友情は残っていたという訳か」

アリウス『俺達の仲だ。死に行く友には花くらい贈っても良いだろう?』


アレイスター「ならば、私からも一応言わせてもらおうか」
797 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:28:46.42 ID:NgSVEzIo

アレイスター「私から見ればな、君のやっている事は『真の意志』ではない」

アレイスター「ただの『猿真似』だ」

アレイスター「愚かな猿が、樹の上の実をどうやって手に入れようか足りない頭を使って悩んでいるようにしか見えん」

アリウス『ほぉ…………』


アレイスター「私は私自身の理論を正しいと認識している。君に何と言われようが、私からすれば君の言葉が戯言だ」

アレイスター「ありふれた欲求・欲望・感情に『だけ』支配された存在はタダの『獣』だ」

アレイスター「君は獣、猿に過ぎん」

アリウス『…………』

アレイスター「確かに、『真の意志』の始まりが、人としての欲求・欲望・感情と密接に繋がっているという君の理論は面白い」

アレイスター「だが、『真の意志』に従い動くには欲求・欲望・感情は障害にしかならん」

アレイスター「それは陳腐な衝動にしか過ぎん」


アリウス『…………』


アレイスター「君はな、獣染みた低俗な欲求に従い、過去の遺物を奪い取ろうとしている『盗人』だ」

アレイスター「己自身の手では何も作り出せない」

アレイスター「過去の存在達が生み出した力を、その器を横取りし、そこに居座ろうとする『賊』に過ぎない」

アレイスター「そんな者が『全能』になどなれるか?答えは否だ」

アレイスター「奪い借りる事しか出来ぬ者は、『生みの親』を越えることは出来ない」

アレイスター「君がどんなに強大な力を手に入れようとも、その力の元の主を超えることはできない」

アレイスター「単純な力量ならば一時だけでも上回れるかも知れんが、格は越えられない」


アレイスター「覇王、スパーダ、魔帝、君が彼らの力に憧れ欲している限り、彼らを越えることは不可能だ」


アレイスター「はっきり言おう。君に全能になる資質は無い」
798 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:31:29.81 ID:NgSVEzIo

アリウス『…………ふむ』

アレイスター「君は先ほど、私に『事実から目を背けている』と言ったな?」

アレイスター「だが私から言わせれば盲目になっているのは君の方だ」

アレイスター「『オリジナルのスパーダの血』を目の当たりにし、その刃を身に受けてまでわからないのか?」

アレイスター「彼らが今まで、彼らの血がどれだけ『理』を容易く曲げてきたのかがわからないのか?」

アレイスター「君は、あれ程の存在に対して何かできると思っているのか?」

アレイスター「確かに、私の目的も困難な物だ。だが、達成の確率を示すデータによって裏打ちされている」

アレイスター「そして目的の達成の為には何が必要か、何をすればいいのかを私は考える」

アレイスター「目的の次に方法をな」

アレイスター「私はそれに従い歩んで来た。これからもそうしていく」


アリウス『…………』


アレイスター「だが君はどうだ?論理的思考から打ち出された答えよりも、感情・欲求を優先する」

アレイスター「この手法で目的を達成したい、この道を通ってあの場所に到達したい、とな」

アレイスター「目的と方法を同時に考え、しかもどちらも好ましい方向に捻じ曲げようとな」

アレイスター「わからないのか?その行動倫理の行き着く先は自滅だ。そのやり方は『スパーダの一族』にしかできん」

アレイスター「彼らのような、無意識の思念が世界の運命を変える程の存在であってこそ、初めて通じるやり方だ」

アレイスター「君は私を卑下し、己自身が人間のあるべき姿と自負している」


アレイスター「だが私から言わせれば、君の方が人間と言う存在を見誤っている」


アレイスター「愚かな過信だよ。身の程を知った方が良い」


アレイスター「君こそが思い込みと根拠の無い自信で、己の論理を固めているのではないか?」
799 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:33:26.84 ID:NgSVEzIo

アリウス『ハッ…………ハハハハハハ!!!!!!!』

アレイスターの話が終わった直後、アリウスは画面の向こうで豪快な笑い声を挙げた。

アレイスター「…………ふっ」

それにつられ、アレイスターも少しだけ口の端を細める。

アレイスター「ついでにもう一つ言わせるとだ、私のやり方では確かに人類の95%は死ぬが、」

アレイスター「君のやり方ではそれがほぼ100%ではないか。この点では五十歩百歩だと思うが」

アレイスター「いや、私はその95%の犠牲と引き換えに、残りの5%を超越者へと昇華させ『救う』が、君の場合は正に絶滅だ」

アリウス『ハハハ……いや確かに。それはご尤もだな……それにしても懐かしいなエド。あの頃のようだ』

アレイスター「…………確かにな。よくこう議論を交わしていたものだ』

アレイスター「何年ぶりかな、ジョン。君とこうして『罵り合う』のは」

アリウス『さあな。一世紀近くは経っていると思うがな。それにしても、やはりお前と議論を交わせば終わりが見えんな』

アレイスター「当時でも意見の一致はそうそう無かったんだ」

アレイスター「今更言い合っても、お互い納得し合う事など到底不可能だ」

アリウス『徐々に喧嘩腰になり、仕舞いにはお互いの論理の真っ向否定だ。あの頃と正に同じだな』

アレイスター「そしてそのまま殴り合いか」

アリウス『確かに。だが、あの頃とは一つだけ違う』

アレイスター「…………そうだな」


アリウス『あの頃は殴り合い。だが今は殺し合い、だ』
800 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:34:58.27 ID:NgSVEzIo

アレイスター「皮肉なものだな」

アリウス『人生とは面白いものだ』

アリウス『これぞ人間の世だ』

アレイスター「…………」

アリウス『一応最期に言っておくが、俺はお前を憎んでいる訳では無い。むしろ感謝している』

アレイスター「わかっているよ。私も同じだ。君はどう思っているかはわからないが、」


アレイスター「私は今でも君の事を友人だと思っている」


アリウス『ハッ、お互い共数少ない友人だな』


アレイスター「…………」


アリウス『…………ではせめてもの手向けだ』

アリウス『お前ができるだけ楽に死ねるよう、祈っておいてやる』


アレイスター「それは嬉しいな。私も君の死を称えてあげよう」
801 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/22(水) 00:36:58.33 ID:NgSVEzIo

アリウス『さて、もう二度と生きて顔を合わせる事は無いだろう』


アレイスター「ああ」



アリウス『さらばだ。エドワード=アレグザンダー=クロウリー』



アリウス『汝の上に速やかな、そして慈悲のある「死の祝福」があらんことを』



アレイスター「ああ。『達者』でな。ジョン=バトラー=イェイツ」



アレイスター「汝の上に、早急なる『穏やかな死の救い』があらんことを」


そして画面は消え、通信は途絶えた。

ここで終わった。
お互いの死を望む、旧友同士の最期の談義が。

アレイスター「……………………」

その漆黒となった画面を、アレイスターはそのまましばらく見つめていた。
表情を一切変えずに。

静かに。

沈黙したまま。



―――
802 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/22(水) 00:37:42.82 ID:NgSVEzIo
今日はここまでです。
次は金曜の夜に。
803 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/22(水) 00:47:33.72 ID:R1iTb5go
最高だったぜ!

しかし、メガテンのカオスVSロウを思い出す話し振りだったなぁ
804 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/22(水) 02:12:08.65 ID:J8T5GBU0
禁書&DMCの「設定の縛り」が邪魔に感じる位>>1の文章がチリチリする。
原作の制約全部取っ払って>>1が全力で突き抜けたらすげぇの書けるんじゃないだろうか。

今回も良かったです乙!!(`・ω・´)ゞ
805 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/22(水) 09:32:30.08 ID:ZIlA22DO
『人間界の神、天使』っていう設定の時点で既にぶっ飛んでる
面白いね
806 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/22(水) 09:39:07.13 ID:9NrzZQIo
たまらんなあ…… 乙ぅ!
807 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/22(水) 12:41:05.27 ID:HLkHiwAO
喧嘩するほどってやつか…いいねぇ
808 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/23(木) 23:29:39.33 ID:8yy4CMAO
こいつらの会話聞いてなんだか微笑ましいと同時に哀しくなった。
809 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/24(金) 14:32:47.40 ID:2D9pdAAO
名倉はいつ登場しますか?
810 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/24(金) 14:55:09.82 ID:AmBsJwDO
そういえば上条の記憶喪失に関しては今後あるかな?ステイルに後で言うと言ってたが
811 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:21:55.93 ID:GQakPlQo
―――

学園都市。

午後5時過ぎ。

第一八学区。
とある研究施設の地下。

広大な空間の中ズラリと並ぶ、
様々な電子機器が取り付けられているリクライニングチェア風の椅子。

それらにデュマーリ島強襲作戦に選抜された能力者達が、
戦闘機パイロットのヘルメットのようなモノを被り座っていた。

夢を見ているかのように、皆が体を小さく動かしたり、指先を小刻みにピクリピクリと動かしながら。

それらの間を、端末を操作したりPDAに目を通しながらせわしなく行きかう白衣を着た者達。


今ここで行われている作業は、学習装置による能力の最適化・必要知識と技術の『インストール』だ。

ちなみにレベル5昇格予定の結標・滝壺は、更に特別な作業が必要な為別施設で調整が行われている。


そんあ地下空間の北側、管制室のような一室。

そこの大きな窓から、麦野は右手を腰のアラストルの柄に軽く乗せながら、
その隣で土御門は腕を組みながら、この広大な地下空間を見下ろしていた。

二人の後ろには大量の端末が並び、
数人の白衣の者達が業務的な言葉を発しながら淡々と操作している。
812 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:25:51.12 ID:GQakPlQo

土御門「壮観だな」

100を越える能力者達のインストール作業を眺めながら、ぽつりと呟く土御門。

土御門「毎度毎度思うが、良くやるぜよこの街は」

麦野「…………たった100ちょいよ?連中は2万体以上にもこういう事したんだからどうってことないわよ」

土御門「……まあな………………」


作業が始まってから3時間。
そろそろ終わる時刻。

ちらほらとインストールが終わり、
白衣の者達に促されて起き上がる能力者が見える。


土御門「…………そろそろだな」

麦野「…………」

土御門「この後は?」

麦野「コイツらは今日このまま、あの病院に叩き込む。そして明日の朝6時から、第二学区で能力測定及び演習」

土御門「…………へえ。ダンテ達と同じ病棟か?」

麦野「んなわけないでしょ。別病棟」

麦野「結標と滝壺は同じ病棟だけど」
813 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:27:39.62 ID:GQakPlQo

土御門「そうか……」

麦野「あ、そうそう、アクセラレータに伝えておいてくれない?」

麦野「ラストオーダーの書き込み作業、今日の26時から行うって通達があったわよ」

土御門「おう。じゃあアレか?結標と滝壺理后は明日からもうレベル5か?」

麦野「ミサカネットーワークに接続されればね」

土御門「ひょー、そいつはすげえぜよ」

麦野「で、アンタのこの後の予定は?」

土御門「あ〜、結標達の方を確認して……今日はそれで終わりだぜよ」

麦野「衛星写真の鑑定も終わったの?」

土御門「ああ。俺は何も見つけられなかった。明日にでもインデックスに見せる」

麦野「じゃあ今日の夜はヒマ?」

土御門「おう……ってもしや、俺を誘ってるのかにゃー?」


麦野「そうそう。一晩付き合ってくれない?」


土御門「ほっほーう…………いやぁ、俺には女がいるんだが、お前がどうしてもと言うのなら一晩だけ相手してやってもいいぜぃ」

土御門「で、俺とナニをしたいのかにゃー?まさか女王様プレイならぬ女帝様プr」


麦野「コイツらのデータ確認して配置決める作業と、その報告書の作成」

麦野「明朝までには仕上げるから」


土御門「………………………………ま、そんなもんだと思ってたぜよ」
814 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:30:14.66 ID:GQakPlQo

麦野「一つ言っておくけど、アンタとヤるくらいならアラストルとヤッた方がマシだから」

アラストル『だそうだ。小僧。残念だったな』

土御門「…………」

麦野「今日の……夜9時くらいに私の病室に来い」

土御門「へいへい……」

麦野「結標にも伝えておいて」

土御門「あいよあいよっと」

苦笑いし頭を掻きながら、部屋を後にしていった土御門。
その姿が消えた後。

アラストル『で、この俺と寝たいのか?ちょうど良い。俺も人間の女とそれなりにs』


麦野「勘違いすんな。土御門よりはアンタの方がマシ、」


麦野「で、アンタとヤるくらいなら死んだ方がマシって事」


アラストル『………………………………お前、女の方が好きなタチか?』


麦野「んな訳ねえだろうが」
815 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:34:57.16 ID:GQakPlQo

ぽつぽつとインストール・調整作業を終え、起き上がる能力者。
その中に常盤台の制服を着たツインテールの少女、白井黒子もいた。

黒子「…………っ……」

ゆっくりと身を起こし、台の上に座りながら体と頭の調子を確認する。

黒子「…………」

頭の中。

不思議な感覚だ。

今まで知らなかったあらゆる知識が、既に普通に頭の中にある。

より高度な応急処置の仕方、様々な兵器の扱い方や構造、
その威力やどれ程の遮蔽物があれば遮れるか、

戦闘時における動き方、デュマーリ島の位置関係やその全体図、
そして複数の悪魔の種類や弱点と戦い方、アリウスの顔まで。

黒子「…………」

更に能力についても感覚がかなり違っている。

目で見た瞬間、対象の座標位置が瞬時に認識できる。
計算で割り出すのではなく、視界に捉えた瞬間に正確に頭の中に浮かぶのだ。

しかも複数を同時に。
数値化せずともその位置や質量、体積をも即座に手に取るように完全に把握できる。
816 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:36:27.14 ID:GQakPlQo

今まで彼女が能力を使う際、
11次元上の座標、飛ばす物体の質量・体積、
それらを正確に割り出さなければならなかった。

そしてその作業には1、2秒ほどのラグが常に伴っており、また冷静な思考を必要とする為
精神的な面でもかなり慎重にならねばならなかった。

黒子「…………」

だが今は少し違うようだ。
まだ能力を試してはいないが、まずそのラグがかなり短くなっている事は確実だ。
手に触れたとほぼ同時に、即その物体を飛ばせるだろう。

恐らく同時に飛ばせる個数、その質量制限の上限も大幅に伸びている。

己自身のテレポートなら、超高速で何度も連続してできそうだ。

さらに緻密な思考を意識することなくとも即必要なデータを認識できる為、
精神が少し不安定な状況でもそれなりに使えるだろう。



また別の一画では。

絹旗「……」

絹旗が同じように台に座りながら、己の手を眺めていた。
817 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:38:33.71 ID:GQakPlQo
調子を確かめるように、手のひらを開いては握ってをゆっくりと繰り返す。

絹旗「…………」

窒素装甲。
体の表面数センチの範囲だけだが、大気中の窒素を自在に操り、
圧縮し装甲代わりにしたり、大質量の物体を持ち上げたり等もできる彼女の能力。

それらの特性が、全体的に大幅グレードアップしたようだ。

操作範囲は体表から20cm程にまで広がり、
掌握できる窒素量は、簡単な見立てだと約200倍にまで増加していた。
当然、圧縮密度も以前とは桁違い。

絹旗「…………」

『暗闇の五月計画』という、一方通行の演算パターンを参考にした、
最適化開発の被験者でもある絹旗。

その下地があったおかげか、かなりの能力強化が可能となったのかもしれない。

絹旗「…………」

ふと顔をあげると。
何やら複雑な表情で、頭を掻きながら近付いてくる浜面が目に入った。

絹旗はそんな彼に、小さな右手の平をおもむろに向け。

浜面「絹旗、お前も終わったk―――」

その次の瞬間。

浜面「―――んぐッッッッ!!!!!!!ごぁッ!!!!」

突如喉を押さえ、その場で苦悶の声を挙げながらもがき始める浜面。
818 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:40:44.75 ID:GQakPlQo

絹旗「(……圧縮した窒素の撃ち出しも可能、集中すれば射出後のある程度の操作も可能、距離は少なくとも5mは有効、ですか)」

絹旗はちょっとした人体実験で、別の新たな使い方を確認、
その数秒後、哀れな無能力者を窒素の縛から解放した。

浜面「げほぁッ!!!!がはッ!!!!…………クッソ!!!な、なんだってんだよ!!!?」

その場の床に膝を付き、むせ返りながらも言葉を吐く浜面。
そんな彼に向け、絹旗は台からピョンと飛び降りながら。

絹旗「超おおげさですね。大丈夫ですよ。超優しくしましたから」

浜面「お、お前か!!!何だよ!!!俺で人体実験しやがったのか!!?」

絹旗「ぎゃあぎゃあ喚かないで下さい。超みっとも無いですよ。ところで気分はどうですか?」

浜面「ん?あ…………まあ何か不思議だよな……知らない事をちゃんと知っているってのは……」

喉を軽く摩りながらも立ち上がり、言葉を返す浜面。

浜面「なんつーか、すっげえ違和感が……お前はどうだ?能力者だとやっぱもっとアレだろ?」

絹旗「私は過去に何度も経験してますから、超どうってことありません」

浜面「そうか……それにしても……何で無能力者の俺がこんな所にいるんだろうな」

絹旗「……知りません。でも超良かったじゃないですか。とにかく滝壺さんの傍にいれますので」

絹旗「まあ、私達の足を引っ張らないよう、せいぜい超頑張ってください」

浜面「……おう」

―――
819 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:42:35.51 ID:GQakPlQo
―――

とある病棟。

廊下を進む、二人の高校生。
片や右手に不気味な篭手を付けている、
健康的でありながらもどことなく不気味なオーラを纏っているツンツン頭の少年。
もう一方は杖を激しく軋ませながら歩く、白髪の華奢な少年。

上条当麻と一方通行。

上条「……」

一方「……」

上条「……」

一方「……」

上条「なあ」

一方「あァ?」

上条「お前とこうして、平時に一緒にいるってのは初めてじゃねえか?」

一方「それがどォした?」

上条「いや……なんて言うかさ、お前の事良く知ってる気がしたんだが、よくよく考えてみるとほとんど関わり無かったなって」

上条「なんかな、なんで俺はお前の事こんなに信頼してるか、俺自身不思議なんだ」

一方「こンな殺人鬼野郎に、なンで大事なガキ預けちまったンかってか?」
820 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:43:42.78 ID:GQakPlQo

上条「殺人k……!!い、いや……!お前はそんな奴じゃあ……!!」

一方「変に気ィ使ってンじゃねェよ。気持ち悪ィなおィ」

上条「お、俺はな!!もうお前の事をんな風には……!!!」

一方「うぜェ。オマェがどォ思ってるかなンざ知ったこっちゃねェ」

一方「黙ってろクソが」

上条「…………」

一方「……」

上条「…………なあ」

一方「……今度はなンだ?」


上条「…………ありがとな。インデックスの事」


一方「…………………………………………チッ」

上条「……」

一方「……」
821 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:44:53.83 ID:GQakPlQo

二人は無言のまま、廊下を進み。
エレベーターに乗り込み。

そして地下4階に降り、再び長い廊下を進んでいく。
地上階の患者用のエリアとは違い、壁はコンクリートむき出し、
天井は様々な配管が走り、所々にあるドアも大きな金属製の無機質なモノ。

上条「ところでよ、何するつもりなんだ?」

一方「黙って来ィ」

そして一方通行はとあるドアの前で止まり、片手で押し開けた。


上条「……」


長袖の手首の先から出ているその漆黒の手。
光も反射せず、漆黒な為当然陰影も無い為、
質感が全く感じられない奇妙な手だ。

正に影自体が立体的になって動いている感じだ。

上条「そういえば、お前その手どうしたんだ?」

一方「どォなってンのかは俺が聞きてェよ」

上条「?」

不思議そうな顔をする上条を気にする風も無く、
一方通行は室内へと入って行き上条もその後に続いた。
822 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:47:08.54 ID:GQakPlQo
ドアの向こう。

そこは少し広めの、恐らく器材置き場として使われていた場所のようだった。
今は何も置かれてなく、ガランとしていたが。

その部屋の中央まで一方通行は歩き進んだところで立ち止まり。
手首で起用にチョーカーのスイッチ部分を押し上げ、咥えて能力を起動させ、
杖を部屋の壁際へと放り投げた。

上条「…………?」

一方「よし…………握れ」

そして上条の方へ向けて右手を差し出した。
握手を求めているように。

上条「……お、おう」

戸惑いつつも、上条は彼に促されて恐る恐る右手で握り返した。

その次の瞬間。

上条「―――!!!」

響く特徴的な、耳鳴りに似た金属音。
そして上条の右手に伝わってくる、幻想殺しが発動した時の感触。

だが。

一方「…………」

一方通行の漆黒の手は、まったく変わっていなかった。
通常の手と同じように、上条の右手をしっかりと握っていた。


一方「………………なるほどなァ」
823 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:48:44.92 ID:GQakPlQo

上条「…………お、おい…………これ一体……??」

一方「良いから離せ。いつまで握ってやがンだ」

上条「お、おうスマン……」

パッと手放す上条。
その開放された己の右手を、一方通行はまじまじと見つめた。

背中から噴出する黒い『影』、そしてその『影』で形成された杭は、
多少のラグがあったが以前上条の右手であっさり消されていた。

一方「……」

だが、同じように『影』で形成されているこの義手には全く変化が無い。
表面のちょっとした靄がかき消されただけで、腕自体には全く影響が無かった。

一方「……おィ」

上条「……な、なんだ?」

一方「オマェの右手、能力とかを消す際の条件とかあンのか?」

上条「あーっと……そうだな、俺もはっきりとは知らねえけどよ、経験上だと、まずデカ過ぎる力は消せない、」

上条「ただ、力の量が大きすぎてもそれが方程式とか何かで形を保っている存在ならば、」

上条「その方程式とかをぶっ壊して分解できる、ってらしいのと……」

上条「あ、そうだ、大前提が『生命体そのものには一切効果が無い』って事だ」

上条「生き物の『肉体そのもの』、またその生き物の『本来の性質』とかには全く効かないって感じだ」
824 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:52:05.85 ID:GQakPlQo

一方「…………」

大きすぎる力は消せない。
まずこれに該当するわけがない。

一方通行は上条の右手が処理できない程、
そこまで己の力が大きくない事は重々認識している。

上条が消せないというのは、それこそダンテやバージル、ネロの本気の斬撃や、
魔帝が放ったような赤い光の大剣等の、
この世界が簡単に壊れてしまう程の規格外クラスの代物に当たる。

それらと比べれば、この義手などオモチャに過ぎない。
力の総量では、余裕で上条の右手の許容範囲内なはずだ。

次に方程式の破壊。

一方「…………」

このやり方ならば、力の大小に関係なく作用するのだろう。
一方通行は詳しくは知らないが、恐らく魔帝の『創造』とかいう力が破壊されたのもこの作用だろうと推測した。

だが、上条の右手に握られた義手は変化なし。
何らかの方程式等や『能力による制御』等で、この形が形成されてはいる訳ではないようだ。

つまり、残るは。


一方「(肉体……ねェ……)」
825 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:55:26.92 ID:GQakPlQo

一方「…………」

この漆黒の腕の正体を解き明かそうと、上条の協力を得た今。
その謎の一部の答えが浮き彫りとなった。

消去法で導き出された結果。


一方「…………(『義手』じゃねェ…………)」


一方「(『俺自身』の……新しい『生身の腕』…………か?)」


少し信じ難い。
だが、こうして漆黒の腕がある時点で既に信じ難いこと。
最早彼は驚きはしなかった。

というか、薄々どこかで気付いていたかもしれない。

見た目や腕力は全く別物だが、感覚自体は生身の時とは何一つ違いが無いのだ。
それに黒い杭とは違い、能力のONOFF関係なく普通に存在している。
カエル顔の医師によれば、ミサカネットワークとも関係ないとの事。

それらの状況証拠がこう示しているように聞こえる。

一方「チッ…………」


これはお前自身の腕だ、お前自身の肉体そのものだ、と。
826 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:56:52.03 ID:GQakPlQo

一方「(……俺はどォなっちまうンだ?マジでバケモノになろォとしてンのかよ……)」

一方通行は己の状況に、彼らしくもなく少しだけ戦慄した。

こうしている時も感じる。
己が少しずつ。

少しずつ。

穏やかに、緩やかに。

この影に侵食され、徐々に肉体が『入れ替わって』きていることを。


一方「(…………チッ………………)」


そして彼は少し焦りを感じ、顔を顰めた。

もしかしたら、己に残された時間はもう僅かしかないのではないか、と。


果たして己は持ちこたえてくれるのだろうか?


打ち止め達を『解放』するまで、と。
827 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 17:59:15.87 ID:GQakPlQo

一方「……おォ、悪かったな。もォ済ンだぜ」

ベクトル操作で杖を引き寄せた後、
能力をOFFにしながらそっけなく言葉を飛ばす一方通行。

そのまま、杖を軋ませながら足早にドアの方へと向かって行った。

上条「…………待て…………あのよ……」

そんな彼の背中を、上条は呼び止めた。
何かを言いたげに恐る恐る。
上条もまた、一方通行の漆黒の腕を握った瞬間、とある異質な感覚を覚えていたのだ。

一方「あァ?」

半身だけ振り返り、横顔を上条の方へと向ける一方通行。

上条「良くわらんねえけどよ……お前のその手握った時な……」


上条「あいつの……フィアンマのデカイ手を触った時と同じ『感触』だったんだが……」


一方「…………それは正しいかもしれねェな……」

一方「あのクズ野郎曰く、『アレ』は俺の力の『上位互換』つゥ事らしィぜ」

上条「?……それってどういう……」

一方「俺が聞きてェよ」

それだけ吐き捨て、一方通行はそそくさと退室していった。

そんな彼の後姿を上条は怪訝な表情で見つめながら。

上条「…………上位……互換…………」

ぽつりと、その言葉を確認するかのように呟いた。

己が、その『上位互換』の『片割れ』を有していることなど露とも知らずに。

―――
828 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/24(金) 17:59:43.90 ID:GQakPlQo
とりあえず今はここまで。
七時半辺りに再開します。
829 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/24(金) 18:47:25.04 ID:6eZb0QDO

つか科学サイドもインフレしてきたな。レベル5の戦闘力の差とかどうなってんだ?
なんか美琴は完全に埋もれてんな
830 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/24(金) 19:25:03.41 ID:S9DMCMAO
アラストルって人型になれるんだっけ?
なれないんなら麦野とかなり特殊なプレイをしようとしたってことか?
831 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/24(金) 19:47:00.58 ID:2D9pdAAO
1でDT引いた姿がアラストルだろ

ジョーの方は……
832 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/24(金) 19:54:59.67 ID:2D9pdAAO
御坂はもうβつかうっきゃねーな
833 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 19:56:27.81 ID:GQakPlQo
―――

某大陸沿岸部の都市の一画に広がる、
広大なスラム街。

時刻は、あと数時間で日が昇る頃。
辺りはまだ深い闇に覆われ、点滅する街頭の淡い光が、
その犯罪都市の陰湿な姿をおぼろげに照らし上げていた。

その埃っぽく薄暗い街並みの一角に佇む、
一際不気味な空気を漂わせてあるバー。


ゲイツ・オブ・ヘル。


さまざまな犯罪組織・凶悪犯罪者が大勢潜んでいるこのスラム街の中でも、
この店にだけは手を出してはいけないという暗黙のルールがある。

やってくる客の大半が札付きの無法者。
それだけではない。

『普通では無い人間』、『人間ではない者』もやってくる。
834 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 19:57:46.66 ID:GQakPlQo

そんな店に今、常連の中でも特に規格外な客の一人が来店する。
そのドアを乱暴に開けた銀髪の白人男。

真紅のコートを靡かせ、分厚いブーツの靴底を打ち鳴らし、
ニヤニヤと掴みどころの無い笑みを浮かべかったるそうにカウンターへと向かう、
背中に背負っている大剣をもう隠す気ゼロの大男。

ダンテ。

ダンテ「よぉ」


そんな彼を、ワイングラスを磨きながらカウンター越しに一瞥する、
ダンテにも引けを取らない体躯の黒人の大男。


「……久々だな」


地の底から響いてくるような低い声。
タトゥーが掘り込まれているスキンヘッドにサングラス。
ワニ皮の分厚く重厚なコート。


この店のマスター、ロダン。



ロダン「ダンテェ……」
835 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:01:13.33 ID:GQakPlQo

ダンテ「悪ぃな。最近は予定が埋まっててな。顔出す機会が無くてよ」

薄ら笑いを浮かべたまま、ダンテはカウンターに片肘を乗せ、
これまた乱暴に椅子に座り込んだ。

ロダン「だろうな。お前さんの話は色々と聞いてるぜ」

ロダン「最近は随分と派手に動き回ってるらしいじゃねえか」

ダンテ「ハッハ〜、まぁな。とりあえず退屈はしてねえな」

ロダン「とりあえずだ……一杯いくか?それともストロベリーサンデーか?」

ダンテ「あ〜……まずはワインくれ。銘柄は任せる」

ロダン「よし……」

棚から一つ、赤ワインの1500mlボトルを取り出したロダン。

ロダン「こいつはどうだ?シャトー・ペトリュス 1947年もの。結構な上物だぜ?」

ダンテ「…………上物はよしてくんねえか?高えんだろ?」

ロダン「なぁに、一杯くらいは奢ってやる。久々だしな」

ダンテ「ハハッ。それじゃあ貰うぜ」

ロダン「どうせ毎度の如く、今日の分もツケにするつもりだったんだろう?」

ダンテ「まあな」

ロダン「だと思ったぜ」
836 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:04:43.47 ID:GQakPlQo

ロダン「OK……」

ロダンはそのボトルをカウンターに置き、ワイングラスを出そうと。

したその時。

ダンテは普通にそのボトルを手に取り、片手で弾くように手際よく栓を飛ばし。


豪快に『ラッパ飲み』し始めた。


ガブガブと。

ダンテ「…………っは…………結構旨えなコレ」

ロダン「……………………」

ダンテ「いやぁ、ありがとな。いいもん貰ったぜコイツぁ」

ロダン「……………………」

ダンテ「どうした?」

ロダン「…………ツケとくぜ。5万ドルだ」

ダンテ「んあ?じゃあ返すぜ。まだ一杯分しか飲んでねえから大丈b」

ロダン「お゛ぉ゛ッ??聞こえねぇな。今何て抜かしやがったお前さんよ?」

ダンテ「………………………………OK……ツケといてくれ」
837 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:08:32.58 ID:GQakPlQo

ロダン「…………ところでだ。今日は何の用で来やがった?」

ロダン「どうせお前さんの事だ。ただ飲みに来たわけじゃねえだろう?」

ダンテ「へっへ…………」

そこでダンテは腰に手を回し、
二丁の大きな拳銃をカウンターの上に乗せた。

その白と黒の拳銃が置かれた瞬間、
確かに大きめだが、そのサイズとは余りにもかけ離れた重い音が響いた。

ロダン「…………トリッシュのか?」

ダンテ「そうだ」

ロダン「相手はバージルだな?」

ダンテ「もう知ってんのか?速えな」

ロダン「当然だ。片やスパーダの息子、片やもう一人のスパーダの息子の相棒、かつての魔帝軍の重鎮」

ロダン「その激突は魔界でも噂されてるぜ?」

ロダン「ここからお前さん達兄弟の殺し合いに発展しねえかってよ、そう望んでる声が多い」

ダンテ「……へぇ……」
838 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:11:05.66 ID:GQakPlQo

ロダン「で、だ。コイツを直せって?こりゃあまた派手にやったみてぇだな」

ダンテ「そうだ。できそうか?」

ロダン「俺を誰だと思ってる。そうだな、15分もありゃあ作業は終わる」

ダンテ「何だ?随分速えな」

ロダン「こういう事もあろうかとよ、お前らの銃のパーツは一通りスペアを揃えてる」

ロダン「それにだ。『片割れ』が残ってるからな。術式構造もコピーするだけで良い」

ダンテ「そうか。そいつは良かった。でよ、他にも聞きてえ事があんだが」

ロダン「…………魔界の動きか?」

ダンテ「おう。アスタロトってのとトリグラフって野郎の事で、何か知らねえか?」

ロダン「…………お前さん達も連中の関与に気付いたか」

ロダン「二人共、覇王の元直下の幹部だった野郎だ。特にアスタロト」

ロダン「コイツ自身の力もデカイが、有する兵力も魔界きっての規模だ」

ダンテ「確かよ、今の内戦で良い線までいってるって聞いたが?」

ロダン「そうだ。現時点で魔界の10強の勢力の一つだ。更にその10強の内、四つの勢力がコイツに靡き始めてる」

ロダン「例の人間、名はアリウスだったか、その野郎が提示している覇王復活という餌が魅力的なんだろうよ」

ロダン「覇王の旗印の下、再び集おうとしてやがる」

ダンテ「…………」
839 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:12:21.71 ID:GQakPlQo

ロダン「そうなっちまえば、覇王シンパ共による魔界の統一も時間の問題だ」

ロダン「そうならなくとも、この10強の内の一勢力だけでも人間界に向かい始めれば、かなり危険だがな」

ロダン「そして少なくともアスタロトは、覇王復活のため軍勢を人間界に放とうとしている」

ロダン「もちろん奴自身が直接率いてな。どうやってその大軍勢を一度に送り込むかは知らんが、既に待機状態になっている」

ダンテ「…………軍勢を送り込む方法、俺は知ってるぜ」

ロダン「ほう?」

ダンテ「アリウスはな、親父が封じた魔界の大穴をも開けようとしてやがる」

ロダン「…………そいつはマズイな。そうなると一勢力どころじゃないぜ?

ロダン「魔界中のクズ共がそこを通って一気に押し寄せてくるぞ?」

ロダン「更に覇王復活とほぼ同時だろう?群がってきた連中は覇王の下で一気に統一軍に変貌するかもな」

ロダン「いくらお前さんでも、人間界にいる限りその物量を押し切ることは不可能だろうぜ」

ロダン「お前さんが人間界への負荷を気にしないのならば別だが」

ダンテ「……」

ロダン「随分とデカイパーティだな。バージルも動いてんだろ?こいつは面白いモンが見れそうだ」

ダンテ「まぁな…………まあ魔界の事はそんぐらいでいい」

ロダン「次はなんだ?」



ダンテ「天界の事でなんかねえか?」



ダンテ「『ファーザー=ロダン』さんよ」
840 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:13:48.57 ID:GQakPlQo

ロダン「………………………………参ったぜ。お前さんの口からその名が出てくるとはな」

ダンテ「ま、詳しい事は俺も知らねえけどよ。お前が『どこ生まれ』なのかぐらいは知ってるぜ?」

ダンテ「800万年前に魔界に来るまで、その『故郷』で『ふんぞり返ってた』のもな」

ロダン「……誰から聞いた?」

ダンテ「勘と風の噂だ」

ロダン「…………なるほどな。本当に油断ならねえ奴だなお前さんは」

ダンテ「で、『古巣』の事情はそれなりに知ってんだろ?」

ロダン「……ある程度はな。お前さんが最近顔出してる学園都市を……」

ダンテ「知ってるぜ。天界はあそこを潰す気なんだろ?」

ロダン「そうだ。四元徳が自ら軍勢を率いてな」

ダンテ「四元徳って野郎については?」

ロダン「少し前な、俺の知り合いに四人とも魔界送りされたんだが、二人がそこから脱出して復活してる」

ロダン「更に今、天界で『大食い』して力をかなり増強してるらしい」

ダンテ「大食い?」

ロダン「セフィロトの樹経由で吸い出された人間の魂、本来は天界の者達全員に平等分配されるんだがな、」

ロダン「今はこの二人が占有してるらしいぜ。たった一人の魔女に敗れた事がよっぽど悔しかったんだろうよ」

ダンテ「へぇ……」
841 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:16:11.68 ID:GQakPlQo

ダンテ「そうだ、後もう一つ聞きてえ」

ロダン「何だ?」


ダンテ「魔女」


ロダン「……」

ダンテ「お前の事だ、知ってるんだろ?バージルと魔女が一緒に動いてる事ぐれえ」

ダンテ「その四元徳ってのとジュベレウスをぶっ倒した例の女、ここの常連なんだろ?」

ロダン「……さぁて。どうだかな」

ダンテ「おいおいおい教えてくれよ」

ロダン「……OK、教えてやるが後だ。先にコイツを直してくるぜ?壊れたままの銃を見てると落ちつかねえ」

カウンターの上に置いてあったトリッシュの二丁の銃を掴み挙げ、薄く笑うロダン。

ダンテ「……OK、さっさと済ませてくれ」
842 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:17:36.58 ID:GQakPlQo

トリッシュの銃を手に、ロダンはカウンター後ろの部屋の方へと消えて行き。
ダンテは一人、カウンターにてワインボトルをラッパ飲みしていた。

そうして5分程経ったころか。

ダンテ「…………」

ピタリと動きを止め、少しだけ目を細めるダンテ。
その次の瞬間。

バーのドアが、来客を知らせる鈴の音と共に大きく開き。
そして入ってくる一つの足音。

ダンテ「……」

ダンテは振り向かずに、そのまま背後の足音を聞いていた。
その優雅な足音からして、スタイルのいい高身長の女、と即判別しながら。

ダンテ「…………」

そして足音の主は、
カウンターのダンテの右三席ほど離れたところに着いた。

それと同時に、ダンテは小さく笑いながら横目を向け。

ダンテ「ヒュー」

足音の主の、予想以上の『どストライク』な姿を見て、
思わず軽く口笛を吹いた。
843 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:19:20.06 ID:GQakPlQo

ダンテの右側、少し離れた所のカウンターに着いた女。

肌にフィットしている黒いボディスーツが、その抜群のスタイルを更に強調している。
端正な顔立ちに黒縁のメガネ、高く結っている長い長い黒髪、そして口元のホクロ。

咥えてる棒つきキャンディーを、愛撫するかのように口で弄んでいる。

全身から凄まじい妖艶なオーラを醸し出している。

ダンテ「(ン〜ン。最高だ)」

軽く口の端を上げ、斜めに顔を傾けながら、
その女の全身を舐めるように見回すダンテ。

恐らく最初から意識してたのか、
相手の女も艶やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりとダンテの方へと顔を向けた。


ダンテ「Hello Beautiful」


薄く笑いながら、軽く挨拶をするダンテ。
それに対し女も棒つきキャンディーを含みながら軽く唇を舐め。


「Hey.Baby」


艶やかな声色で言葉を返す。
同じく小さく微笑みながら、誘うような妖艶な目つきで。
844 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:21:58.68 ID:GQakPlQo

ダンテ「…………」

「…………」

ダンテ「…………」

「…………」

小さく微笑みながら、
お互いの全身を舐めるように見る女と男。

「ねえ」


ダンテ「何だい?子ネコちゃん」

「ン〜、ロダンは?」


ダンテ「アイツなら席を外してるぜ」

ダンテ「今ここにいるのは俺とお前だけだ」

「ふふ……二人っきりって訳」
845 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:23:13.72 ID:GQakPlQo

「そう、とりあえずロダンはいないのね。は〜ん、喉乾いちゃった」

そこで女はそう呟きながら、
ダンテの手にあるワインボトルを流し目で見つめた。

意図を察したダンテは、スッとそのボトルを差し出すも。
当然、三席分も離れている為、手渡す事ができる訳が無い。
それどころか、ダンテは手を伸ばそうとせずに軽く突き出しただけ。

それでありながら、小さくボトルを振りほらどうぞと言いたげな表情。


女はそれを見て、小さく笑いながら椅子から降り。
キャンディーを艶かしく口に含みながら、ゆっくりとダンテの方へと歩き進み。

ダンテの隣の席に、身を寄せるようにして座りながら、
差し出されているボトルを彼の大きな手ごと握り締め。

ダンテの顔を見つめながら、そのままゆっくりと口に運び一飲み。

その時、ダンテはさりげなく女の馨しい香りを鼻に含んだ。

ダンテ「(ン〜ン…………こいつぁ『大当たり』だ)」


女は少し名残惜しそうに、ボトル口から唇を離し。

「ンハん…………結構な上物ねこれ。美味しい」

熱い吐息を交じらせながら、小さく笑った。


ダンテ「……ああそうだな。『旨い』ぜ」
846 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:24:25.40 ID:GQakPlQo

「それにしても……セクシーねアンタ。完璧」

ダンテ「お前もな。最高だぜ」

「でも私って、完璧すぎる男はあんまり好きじゃないのよねぇ」

ダンテ「へぇ、そうかぃ?」

「そう、だって完璧だったら『攻める』隙が無いじゃない?可愛げが無いし」

ダンテ「成る程な。だが難攻不落を『攻め落とす』のも面白いと思わねえか?」

「んは、それもそうね。でもアンタ、かなり『攻め落とす』の難しそう」

ダンテ「そうか?試してみなきゃわかんねえぜ?」


ダンテ「案外簡単に落ちるかも知れねえ。特にお前相手ならな」


「へぇ。どうすれば落ちるかしら?」


ダンテ「なぁに、難しい事は必要ねえ」

ダンテ「ちょっとばかし『運動』をするだけだ」

「ン〜ホットな『エクササイズ』、ね。二人っきりの」

ダンテ「ああ、二人っきりでじっくりな」
847 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:25:37.90 ID:GQakPlQo

「それで、アンタの事は置いとくとして、私を『攻め落とす』自信はあるのかしら?」

ダンテ「そいつも試してみねえとな」

「自信あるのねぇ?」

ダンテ「お前もそうだろう?俺の『動き』を『感じたい』んだろう?全身で、な」

「アナタも私を『感じたい』んでしょ?そして私の事が『隅々』まで『知りたい』んでしょう?」

ダンテ「まぁな。隅々まで、包み隠さず『全て』をな」

キャンディーをほお張りながら、グッとダンテに身を寄せる女。
ダンテも、手に持っていたボトルをカウンター脇に寄せ、彼女の腰に手をあてがう。
二人の顔の距離はわずか10cm。

相手の唇と瞳を交互にゆっくりと見ながら、
熱い吐息を交じらせる。

「ン〜欲張りね。そういうボーヤはオシオキしたくなっちゃう」

ダンテ「ヘッハァ、舐めてると痛い目見るぜ。火傷しても知らねえぜ?」

「大丈夫、熱いのダイスキだから」

ダンテ「OK、それなら火ィつけてやる。今までお前が味わった事のねえ火をな」

ベヨネッタ「一生かけても忘れられない火を。それで朝まで私を熱してちょうだい」

と、その時響き渡る。


ロダン「おい……お前ら」


地の底から聞こえくるかのような低い声。

カウンターの後ろのドアからロダンが顔だけ出し、
今にもそこで絡み合いを始めそうな二人を睨んでいた。
848 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:26:35.14 ID:GQakPlQo

「は〜い、ロダン。お邪魔してるわよ」

ロダン「ベヨネッタ…………お前さん達よ、場所をわきまえやがれ」

ダンテ「よお、見物しててもいいが、混ぜはしねえぜ?」

ロダン「馬鹿野郎。俺の店でヤルんじゃねえ。どっか他所に行きやがれ」

ベヨネッタ「だってさ」

ダンテ「仕方ねえ。ちょっとばかし移動するか」

ベヨネッタ「そうね」

二人はひらりと椅子から降り、

ダンテ「ロダン、朝までには戻る」

ベヨネッタ「私も」

そして並びながら、優雅に店内から出て行った。


ロダン「全く、本当にイカれてる連中だぜ」


ロダンはそんな二人の後姿を見送った後、
小さく頭を振りながら呆れがちに笑った。
849 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:27:14.12 ID:GQakPlQo

ゲイツ・オブ・ヘルのすぐ前。
街頭が照らす、薄暗く小汚い路地。

二人はそこに並び立っていた。

ダンテ「ふー……」

星が瞬く空を見上げながら、
真冬の大気中に白い息を吐くダンテ。

ベヨネッタ「…………冷えるわね」

ダンテ「だな。さっそく『暖める』か?」

ベヨネッタ「もちろん」

ダンテ「ヘッヘ…………そうか……」

ベヨネッタ「ふふ……」

小さく笑い、ふとお互いから目を逸らす二人。



その次の瞬間。



瞬時に。
神速でダンテは背中からリベリオンを引き抜き―――。



同時にベヨネッタは両手に派手な拳銃を出現させ―――。
850 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:29:53.07 ID:GQakPlQo

ぶわりと、路地の中を吹き抜けていく疾風。
それは衝撃波。

ダンテが振るったリベリオンの剣風。

ベヨネッタが身を翻した爆風。


その猛烈な風が止んだ時。


ベヨネッタの喉元にはリベリオンの銀の刃が突きつけられており。
その大剣と交差するように、ベヨネッタの二丁の拳銃がダンテの顔面へ向けられていた。

そして二人はニヤリと。
武器を向けたまま不敵な笑みを浮かべ。



ダンテ「ヘッハァ…………ビンゴ。たまんねえぜ」



ベヨネッタ「ン〜ンアンタも。『お兄ちゃん』よりもタイプ」



そして顔で笑いつつも凄まじい殺気を漲らせ、軽く言葉を交わす。



ダンテ「そいつは嬉しいぜベイビー。お前に会いたかったんだ」



ベヨネッタ「私もね。一度会いたかったの」
851 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:31:39.61 ID:GQakPlQo

ダンテ「知りたい事がある」

ベヨネッタ「何が知りたいの?」

ダンテ「全部だ。当然お前の事もな。『全て』、赤裸々に、だベイビーちゃん」

ベヨネッタ「はぁん初対面なのに積極的ねぇもう……」

ベヨネッタ「じゃあ私を『楽しませ』て。満足させてくれたら、欲しいモノをアゲル」

ダンテ「ヒュー、OK、そういうのは得意だ。忘れられねえ夜にしてやるぜ」

ダンテ「最高の夜にな」

ベヨネッタ「それはン〜、また火照ってきちゃった。早速クールダウン、頼めるかしら?」

ダンテ「生憎俺は熱することしかできねえんだ。悪いな」


ベヨネッタ「じゃあ暖めて。『蒸発』しちゃうくらいに」


ダンテ「ン〜ンお安い御用だぜ」


ベヨネッタ「さて……ここでヤるとロダンに怒られるから、場所移しましょ」

ダンテ「ああ。人気の無い所にな」

ベヨネッタ「そう、二人っきりになれるバショに」

ダンテ「早く行こうぜ。俺はさっきからギンギンなんだベイビー」

ベヨネッタ「ハァン慌てないで。前戯は丁寧に。ガツガツしてると見っとも無いわよ」

ベヨネッタ「ついて来て」
852 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/24(金) 20:33:21.53 ID:GQakPlQo

ダンテ「ヘッヘ、どこに連れてってくれるのかな。『ウサちゃん』」


ベヨネッタ「『魅惑の夢の世界』よ」


ベヨネッタ「つかまえてごらん、『アリスボーイ』」


そしてベヨネッタは天高く跳躍し、スラム街の屋根の上を一瞬で駆け抜けていった。


ダンテ「ハッハァ、まずは追いかけっこか。ン〜、良いねえ」


ヘラヘラと笑い、独り言を言った後。
ダンテも同じく跳躍し、彼女の後を猛烈な速度で追いかけていった。


星が瞬く中、スラム街の屋根を凄まじい速度で駆け抜けていく黒と赤の『魔』。


二人の顔には笑み。

だが、その放つオーラは凄まじい殺気に満ちていた。



朝まではまだまだ時間がある。


二人の怪物の、激しい激しい『デート』は始まったばかりだ。


―――
853 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/24(金) 20:33:47.48 ID:GQakPlQo
今日はここまでです。
次は月曜の夜に。
854 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/24(金) 20:35:43.62 ID:GoGy0bo0
遂に出逢ってしまったよ・・・

もうたまらんですよ乙!!!!!
855 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/25(土) 05:43:17.25 ID:wsAXq.AO
wwktkがとまらん!
856 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/25(土) 09:29:25.40 ID:gRCSSoAO
満足するまでヤルノデス!
857 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/25(土) 10:54:45.28 ID:Qz1YpAAO
sexy過ぎるぜ、この二人
興奮してきた
858 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:10:22.86 ID:s5jypcco
>>856、それは別ネタだが大丈夫か?
859 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:49:53.75 ID:QET.iIAO
>>858大丈夫だ問題ない
860 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 17:33:04.00 ID:VipToQDO
敵がギューンって来たらブレイクダァゥンして、ダンテェーィとか言ってる隙にホォーゥしてバババババってする。
そのままシュバっと跳んだ瞬間にヒヤ!ヒヤ!ヒヤ!ヒヤして、ブラストォ!の直後にレッツローック!
でスウィート!ベイベーッになったらゴーマリソーンになる前にバヒョッで周りの相手にカムヒヤッミ。
けどそれだけやってもまだ敵がベリカッベリカッベリカッならイィィィャッでホゥホゥホゥホゥホゥをキャンセルしてカマーンで打ち上げ、
最後にデュデュデュヒッ!デュデュデュヒッ!してれば大抵の敵は倒せる
861 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/27(月) 12:39:58.79 ID:Gcll68M0
>>860
何処からツッコめばいいのかわからんように見えてあながち間違ってないんだよねww
862 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/27(月) 15:22:19.21 ID:DhpcuCI0
>>860
間違っていないな、むしろ結構同じことしてたわ
863 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/27(月) 19:21:53.31 ID:rq3cNgDO
そう見せかけて実はおかしいぞwwwwww

ヒヤ!ヒヤ!ヒヤ!ヒヤして、ブラストォ!の直後にレッツローック!

エネステキラビして、兜割りの直後にジャムセッション、という3つ装備になってるのでここだけは不可能
864 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/27(月) 19:24:21.04 ID:5.jFEEAO
>>IDがVip
865 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/27(月) 23:07:40.88 ID:qoDtCQw0
そろそろ全裸待機
866 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:17:27.17 ID:RzOmPFQo
―――

遡ること数分前。

同じ病棟のとある廊下。
そこを歩く、三人の少女。

ルシア、御坂、そして佐天。

御坂「あーっと、インデックスちゃんもいるんだっけ?」

ルシア「は、はい」

佐天「い、インデックスちゃんって…………あ、あのシスターっ娘のですか?」

御坂「そうそう、青い髪の。ってあれ、佐天さん会った事あるの?」

佐天「あ……はい。あの……デパートの事件の時に……」

御坂「あ〜…………なるほど……それでさ、三人で何やってるの?」

御坂「当麻の話だとなんかの作業してるみたいだけど?」

ルシア「み、皆さんでキリエさんの術式の解析作業を行ってます」

御坂「きりえさん?」

ルシア「え、えっと……フォルトゥナの方です」

御坂「?なんかの重要人物?」



ルシア「……あ…っと……ね、ネロさんの婚約者です」



佐天「―――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
867 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:22:32.82 ID:RzOmPFQo

御坂「へぇ〜、ネロさんって婚約者いたんだ」

特に驚きもせず、普通の反応を示す御坂。
だが彼女の横にいた黒髪の少女、佐天は。


佐天「――――――」


その場で歩みを止め完全に硬直していた。
目を見開き、口を半開きにし。
さながら時間停止の魔法でもかけられてしまったように。

御坂「……佐天さん?」

佐天「―――はッッッ!!!!!!!!はい!!!!!!!!!!」

御坂「どうしたの?」

佐天「い、いえええええいえいえええだッッだだだだだだだだっだだ大丈夫ででででです」

佐天「(どうしようどうしようどうしよう何何何何何何よくわかんなくなってきた)」

ルシア「あ、あの?佐天さん?」

佐天「あは、あははははあはははああああさささささあ行こ行こ行こ行こ!!!!」

佐天「(ねねねねねネロさんののののののここここあばばばばあああ)」
868 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:27:00.89 ID:RzOmPFQo

複雑すぎるこの感情。
まだまだ佐天には、自分自身でも理解しがたいものだった。

そんな挙動不審な彼女に対し、不思議そうな顔をしながらも御坂とルシアは歩き進み。

そしてひとつのドアの前で止まった。

佐天「(こ、こここここここここの向こうに…………)」

ごくりと喉を鳴らす佐天。

そして、ルシアによって開かれるドア。

佐天「―――」

広めの病室。
くっ付けられてその部屋の中央に置かれている大きなベッド。

そこの上に座っている二人の女性。
片方はシーツに包まっている、気が強そうなシャープな顔立ちの金髪の女。
もう片方は、栗色の髪で穏やかそうな清楚な女。

そんなベッドの脇に座っている、短めの黒髪・白いジャケットにホットパンツという出で立ちの女と。
ちょこんと小さな椅子に座っている、修道服を纏った青髪の佐天が見知っている少女。

白人四人のそれぞれ整いすぎているかと言う程の端正な顔が、ドアの方へと一気に向いた。

それらの視線を浴び固まった佐天は、一瞬こう思ってしまった。

ここは本当に日本なのか? と。

そして思う。

頭が割れそうなくらいに、思っては思っては更に思い、考える。

シスターを省く、この三人のどれかがネロの婚約者なんだ、と。
869 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:29:04.25 ID:RzOmPFQo

トリッシュ「あら」

レディ「あ」

禁書「あッ!!」

御坂「どうもどうも!」

入って来た三人に対し、相変わらずのクールな反応を示すレディとトリッシュ。
御坂と佐天の姿を見た瞬間、ぱあっと笑みを浮かべるインデックス。

そして御坂達に向け、スッと小さく上品に会釈するキリエ。

御坂「(わっ……これまたすごい美人さん。この人がねえ……うん、お似合い)」

禁書「短髪!!」

御坂「やっほー。具合はどう?」

禁書「うん!!良いんだよ!!」

御坂「そう、それは良かったわ」

禁書「るいこ!!ひさしぶりなんだよ!!」

佐天「あ…………う、うん!!」
870 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:33:05.10 ID:RzOmPFQo

トリッシュ「お友達?」

御坂「あ、うん!佐天さん!」

佐天「あ……は、始めまして!!!」

佐天「佐天涙子です!御坂さんとルシアちゃんのお友達をやらせていただいてます!!!」

トリッシュ「ルシアの……?」

そこでトリッシュは少し意外そうに、目を少し見開いた。

佐天「はい!!昨日お会いしまして!!」

トリッシュ「あ〜、じゃあアナタが自販機の」

佐天「はい!!そ、そうです!」

トリッシュ「少しだけだけど話は聞いてるわよ。ルシアが嬉しそうに話してたから」

先日、ルシアがニコニコとして病室に戻ってきたのだ。
ペットボトルを大事そうに抱きかかえながら。

佐天は、ルシア自身による初めての『普通の友達』だ。

佐天「…………!!!」

トリッシュ「お友達ねえ。大事にしなさい。ルシア」


ルシア「は、はい!!!!!!」
871 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:34:45.16 ID:RzOmPFQo

レディ「何?何だって?」

そこで、キョトンとしながら英語でトリッシュの方へと声を飛ばすレディ。
ここまでは全て日本語で会話が行われていた為、当然彼女は話についていけない。

キリエ「?」

同じくキリエも。

トリッシュ「ルシアに友達ができたの。この黒髪の子」

レディ「へぇ〜」

キリエ「良かったねえルシアちゃん」

ルシア「はい!」

レディ「あ、そういえばミコトちゃん、私の弾結構使ったみたいね」

御坂「はい。も〜う凄かった!」

レディ「思いっきりどっかんどっかん撃ちまくると気持ちいいでしょ?」

御坂「か・な・り」

レディ「アンタもわかるコね。中々素質があるわ」

御坂「えへへへへ……」

トリッシュ「…………」

なぜそこでレディは素質があると言うのか。
そしてなぜそれで御坂が喜んでいるのか。

いつかこの日本人の少女が、イカれたデビルハンター『レディ二号』に
なる姿が一瞬トリッシュの脳裏を過ぎったが。

彼女は最早突っ込む気にもならなかった。
872 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:36:16.27 ID:RzOmPFQo

佐天「え〜……っと?」

次は英語の会話。
当然、佐天が置いてきぼり。

トリッシュ「あ、一応紹介しといた方が良いわね」

そんな佐天に気付き、トリッシュが今度は日本語で口を開いた。

トリッシュ「私はトリッシュ」

トリッシュ「そっちがレディ」

レディ「今はサイン受け付けてないから」

佐天「…………」

トリッシュ「…………で、この子が……」

ポンと隣のキリエの肩に手を乗せ。

トリッシュ「レールガンも初対面ね」


トリッシュ「キリエ。フォルトゥナの『お姫様』よ」


キリエ「Hello」


そしてにこりと、穏やかな笑みと透き通っている優しい声で挨拶をするキリエ。



佐天「―――!!!!!!!!!!!!!!」
873 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:38:09.88 ID:RzOmPFQo

『キリエ』。

その名を聞いた途端。
佐天は彼女を見つめたまま硬直した。
先ほど、ルシアの口からその名を聞いている。

佐天は遂に『捕捉』した。

この女性がネロの婚約者だ、と。


御坂「―――お、お姫様ぁ!!??」

トリッシュ「そう」

御坂「へぇええええ!!!!!!すごいすごい!!」

『お姫様』という単語を聞き、瞳を輝かせる御坂。
彼女の頭の中では、このキリエが豪奢なドレスを纏い、
メルヘンな城に住んでいる光景が瞬時に浮かび上がっていた。

キリエの品に溢れる佇まいからしても、全く違和感が無い。


ただ実際の住まいは、ネロと営む事務所と自宅を兼ねた小さな一軒屋であり、
その生活もかなり質素なものなのだが。
874 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:39:52.26 ID:RzOmPFQo

キリエ「???」

なぜ御坂が突然はしゃぎ始めたかがわからないキリエ。
自分の事らしいのはわかるが、いかんせん日本語が全くできない為話の内容も全然わからない。

彼女は、御坂のキラキラ光る『夢見る少女』の瞳にただただ苦笑いを返すしかなかった。


トリッシュ「あ〜、本当の意味での王家とかの『princess』じゃなくて、何ていうのかしら」

そんな御坂が何を思い描いているか、
即座に察知したトリッシュが軽く補足する。

トリッシュ「皆の憧れのアイドルみたいな?まあ血筋は由緒あるモノだし、いわば貴族の系列なのは間違いないけど」

レディ「そりゃ〜もう結構な血筋よね。             私に負けないくらいの」

禁書「そしてこの若さであのフォルトゥナの修道女長なんだよ!」


御坂「じゃあ本物のお姫様じゃん!!!きゃー!!!!!」


補足も空しく、御坂の妙な誤解は解けなかったらしく。
レディのさりげない自己主張とインデックスの追加情報も見事にスルーされた。

トリッシュ「…………」

レディ「…………まあいいわ」

禁書「…………むう」
875 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:45:04.90 ID:RzOmPFQo

キリエ「……???」

と、そうしていた所、キリエはもう一つの熱烈な視線に気付いた。
未だに目をまん丸にし、彼女をジッと見つめている佐天の眼差し。


佐天「(こ、ここここここの人が……………………綺麗…………)」


禁書「あれ、そういえばとうまは?ルシアと一緒じゃなかったのかな?」

御坂「え?なんかアクセラレータとどっか行っちゃったわよ。すぐ戻るって言ってたけど……」

禁書「…………あ……」

御坂「……よし、アイツを探しに行こっか?」

禁書「うん!」

トリッシュ「じゃあさっさと連れて来なさい。今日の作業はもう終わったって伝えて」

御坂「はいはいよっと」

レディ「さっさと、ね。早く、ね早く」

御坂「了解了解〜」

御坂とインデックス、二人は姉妹のように並びながら病室から出て行った。

インデックスの移動を察知し、どこからともなく即座に現れたのか、
ステイルらしき男の声が少し聞こえ。

そして彼らの足音が離れていった。
876 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:47:17.44 ID:RzOmPFQo

病室に残ったのはトリッシュレディ、ルシア。


と、カチコチに固まっている佐天。


トリッシュ「……知り合い?」

そんな佐天の、キリエへの『熱烈』な視線に気付いたトリッシュ。

佐天「え……あ、いや……!!!」

慌てながらも顔を勢い良く何度も横に振るう佐天。
そんな時。

ルシア「さ、佐天さんはネロさんと面識があるんですよね?」

純粋すぎるルシアがご親切に補足をした。

佐天「―――えッ!!!!!ええええッ!!!!!!!」

トリッシュ「へぇ〜……」

レディ「なぁに?何だって?」

キリエ「ネロ?」

ネロという部分だけを聞き取れた二人。
キリエは不思議そうに首を傾げてたが、レディは佐天の反応の意味を即読み取り、
ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。

トリッシュ「あ〜、この子、ネロと面識があるみたい」

トリッシュはそんな彼女達に英語で補足。
877 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:51:21.51 ID:RzOmPFQo

レディ「経緯は?ねえ経緯は?どうやってどこで知り合ったの?お姉さん知りたいなあ」

トリッシュ「このイカれ女がどこでどう会ったのか知りたいって」

佐天「あ…………二、三週間前に………」

トリッシュ「あ〜、ウィンザー事件の直後にここに滞在した時みたい」

レディ「へぇ…………なぁるほどなるほど」

キリエ「……そういえば、ネロがその時の学園都市のお土産でブレスレットくれたんだけど……」

キリエ「それ選んでくれたのが現地の女の子って。もしかしてあなたかな?」

トリッシュ「ブレスレット選んだのかって?」

佐天「は、はい!!!!」

キリエ「やっぱり!ありがとう!!!」

キリエ「ゴメンね、今はつけてないんだけど、すごく可愛いので素敵だったよ」


トリッシュ「可愛いのをありがとうだって」


佐天「いえいえいえいえいえいえいえこここここちらこそ!!!」
878 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:54:57.30 ID:RzOmPFQo

トリッシュ「って、通訳面倒ね」

トリッシュ「ルシア。あなたが佐天ちゃんに通訳してあげなさい」

ルシア「は、はい!」


レディ「それにしてもあのボーヤが赤の他人と仲良くなるなんて」

トリッシュ「あら、イギリスでも結構ハッちゃけてたわよ」

キリエ「……………………」

トリッシュ「あ、男特有のバカ騒ぎね。女関係ってわけじゃなく」

レディ「でもそれってアレでしょ、なんていうか、脳筋猿共の土人的な宴みたいな」

レディ「このコみたいな一般人の、しかも一回りくらい年が下っぽい女の子と仲良くなるなんて」

レディ「イメージとしては、どっか消えなとか言ってそっぽ向くと思ってたんだけど」

トリッシュ「まあ、大人になってある程度丸くなってきたんでしょ」

キリエ「あ、元々ネロは子供には優しいですよ?」

キリエ「昔からよく孤児院に顔出したりして、皆の面倒見たりしてましたし」

トリッシュ「へぇ〜」

トリッシュ「でもこういう、プライベートの事には一切他人を関らせないでしょ?」

トリッシュ「イギリスでも、一介の騎士とか魔術師達ととは、やっぱり上の立場としての一線を引いてたし」

キリエ「あ……そう……ですね。最初、ネロからあのブレスレットの話聞いたときは驚きました……」
879 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:57:10.74 ID:RzOmPFQo

レディ「ていうかさ、自分の女へのプレゼントを別の女に選んでもらったって、普通言うの?」

レディ「それもこんな、まだ毛さえ生えてないような子に選んでもらったなんて。なんか見っとも無いじゃないの」

佐天「…………」

トリッシュ「正直で良いんじゃない?ネロらしいって言えばネロらしいし」

トリッシュ「そんくらいキリエにゾッコンなんでしょ」

レディ「へぇ〜」

キリエ「……あははは…………」

佐天「…………」

レディ「それにしてもネロがデレデレするのってなんか想像つかないわね。そこのところどうなの?」

キリエ「ええ?!……どう…………なんでしょうね…………??」


レディ「最近みたいに忙しくなる前は、週何回くらいヤッてたの?」


キリエ「えええええ!!!!!!!!!!!!!!」

レディのあまりにもどストレートな問いに、顔を真っ赤にして声を挙げてしまったキリエ。


そして、隣のルシアの一語一句間違い正確な訳を聞いていた佐天も。

佐天「―――!!!!!!」

身を硬直させた。
880 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 23:58:19.82 ID:RzOmPFQo

トリッシュ「何回?」

キリエ「し、知りません!!!!!!!」

レディ「あ〜、覚えてられないくらい、普通に回数多くって事ね」

キリエ「ち、ちちちち違います!!!!!!!!!!!!!!!」

トリッシュ「やっぱり、出張から返ってきた久しぶりの晩には燃えるの?」

レディ「いや、昼から始めるんじゃない?で、晩も、と」

キリエ「わわわっわわあわわわわかりません!!!!!!!!!!!!!」

レディ「ネロってリード上手いの?」

トリッシュ「どうかしらね。どっちも相手が初めてみたいだったから。二人一緒に成長してんじゃないの?」

レディ「あ〜なるほど」

トリッシュ「で、二人とも同じくらいのテク、と。ね、そうでしょ?」


キリエ「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


佐天「(きぃぃぃぃぃぃいあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!)」


もしこの場にダンテがいたら、ニヤニヤしながらこう思っていた事だろう。


全く女というやつは、と。

複数集ったらロクな事にならねえ、と。


―――
881 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/27(月) 23:58:58.08 ID:rVNODvk0
まさに姦
882 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 00:00:33.47 ID:msuwctQo
―――

とある深い森の中にある、大きな寂れた洋館。

その一画にある、小さな薄暗い小部屋の片隅。

そこに七天七刀の鞘を抱きかかえながら、五和が蹲って座っていた。

髪はボサボサ。
服はところどころ黒ずみ小さく破け。
その破れた服の隙間から、小さな擦り傷等の固まった血が見えている。

だが、五和は今やもうそんな己の身なりの事など全く気にしてはいなかった。
いや、そんな小さな事など考える気にもなれなかった、と言った方がいいか。

頭の中は真っ白。
もうどうでもいい。

己の置かれているこの状況ももう興味が無かった。


目の当たりにした、神裂の最期。
心の底から敬愛していた女教皇の死に様。


それが彼女の心を空っぽにしてしまった。
もう涙も枯れたようだった。

鞘を抱きしめる腕に顔を埋め。
外界からの気配も音も全て興味なく聞き流し。


彼女はただ一人、この『無の殻』の中に閉じこまっていた。
883 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 00:03:06.77 ID:msuwctQo

五和「…………」

ふと気付くと、扉の向こうの大部屋にて複数の足音が聞こえた。
二人、いや、三人か。

なにやらボソボソ話をしている。

だが五和にとってはそれだけ。
ただの『音』。

ぼんやりしているこの頭では、
その足音と声が女のものなのか男のものなのかすらわからない。
そして、五和はそれすらをも確認しようとはしなかった。

どうでもいい。
ただ聞き流す。


と、その時。


今度はこの小部屋の扉が開いた。


五和「…………」


だが五和はそれでもピクリとも動かず、
一切の興味を持たなかった。

入って来た人物の正体など露とも知らずに。
884 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 00:04:05.64 ID:msuwctQo

その『衝撃』はすぐに彼女を覚醒させる。

五和「―――…………」

何者かが入ってきたと思ったその瞬間。
抱きかかえている鞘に走る、あの『感触』。

スルリと。

鞘に刃が納められていくこの触感―――。


そして。


五和「―――」

鞘に伝わるやや大きめな振動と共にチンッっと響く、小さな金属音。

そう。

それは。



鞘の口と鍔が『完璧』にかみ合った音色―――。



五和「――――――ッ」
885 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 00:05:29.86 ID:msuwctQo

その音色でようやく五和の心が反応し。
そして一気に躍動する。

五和が目を見開き、顔を勢い良くあげたその瞬間。


彼女の瞳に映る―――。



「五和」


小さな微笑を浮かべ、穏やかな瞳で五和を見下ろしている―――。



五和「―――…………あ―――」


「何たる醜態ですか。髪ぐらい梳かしなさい」


五和「―――…………あぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――!!!!!」


「『我ら』天草式十字凄教たる者、その身なりは常に整えておきなさい」



―――女教皇、神裂火織。
886 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 00:07:35.74 ID:msuwctQo


その姿と見、声を耳にした五和の瞳から、
一気に透き通った雫が溢れ出し。

五和「うぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛う゛ぅ゛う゛あ゛あ゛あ゛う゛い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」

彼女は言葉にならない声を挙げながら、
七天七刀の納まった鞘を抱えながら神裂の足にしがみ付いた。

幼児のように泣きじゃくり。


神裂「…………ふふ」

神裂はそんな五和の頭に軽く手を乗せ。

神裂「大丈夫。大丈夫です……」

ゆっくりと、彼女の髪の毛を梳くように美しい指先で撫でた。
母親が小さな娘を安心させようとするかのように。

優しく。

優しく。

慈愛に溢れたその美しい指先で。
887 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 00:09:43.56 ID:msuwctQo

そんな二人の姿を開かれたドア越しに、大部屋の方から眺めていた二人がいた。

腕を組み、口の端をあげ薄っすらと笑みを浮かべているジャンヌと。
相変わらずの無表情であるバージル。

ジャンヌ「……それでだ。うまくいったみたいだな?使えるんだな?あの元天使は」

バージル「一応はな」

ジャンヌ「そうか。そいつは良かったよ」

バージル「……」

ジャンヌ「……」


バージル「………………あれは何のつもりだ?」


ジャンヌ「ん?」

バージル「あの人間の女だ」

ジャンヌ「あ〜……」

バージル「……」

ジャンヌ「そうあからさまに嫌悪感出すな。小間使いにでも何にでもすればいいさ」

ジャンヌ「こっちは少し頭数が足りなかったしな。雑用が一人くらい欲しかったところだろ?」

バージル「……」

ジャンヌ「心配するな。忠誠心も折り紙つきだ。あの元天使がお前に与した以上、あのコも従うさ」

ジャンヌ「それにもし邪魔になるようだったら、私が責任持って『処理』する」
888 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 00:11:15.68 ID:msuwctQo

バージル「……………………勝手にしろ」

ジャンヌ「OKって事だな」

バージル「どうでも良い。それよりも貴様等に話がある」

バージル「…………待て、もう『一匹』はどこだ?」

ジャンヌ「ああ、セレッサはロダンの所に行った」

バージル「そうか。まあ良い。貴様に聞く」


バージル「イギリス清教最大主教。知ってる事を全て吐け」


ジャンヌ「……あ〜…………」

バージル「貴様等の同族だと聞いたが?」

ジャンヌ「それか……アイゼン様は何て?」

バージル「『発見次第、捕縛し連れて来い。話ができる程度に生きてれば良し』」

ジャンヌ「…………あ〜」

バージル「恐らくその魔女、『神儀の間』をイギリスに現出させた張本人だ」


ジャンヌ「―――…………は……………はぁぁッッ?!!!!!」


バージル「知らないのか?」


ジャンヌ「ちょ、ちょっと待ちな!!!!!『神儀の間』がどうしたって!!!!??」
889 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 00:13:56.01 ID:msuwctQo

イギリス清教、ローラ、それらの単語。
さらに突如声を荒げたジャンヌに対し、小部屋の方の神裂も二人の方へと顔を向けた。

五和は相変わらず彼女の足にしがみ付き泣きじゃくっていたが。

それに気付いたジャンヌがさりげなく手を振り、魔術で扉を閉めて神裂の視線を遮った。

バージル「カンタベリーの地下に現出してた。現出の時期は貴様等の都が滅んだ直後だ」

バージル「先ほど、俺が煉獄に移動させた」

ジャンヌ「…………なッ……!!!??……はぁ!!!!??あのコが!!!!!??」

バージル「身分を知ってるのならさっさと言え」


ジャンヌ「ッ…………私等の世代の、そして最後の『主席書記官』だ。恐らく、な」

バージル「…………恐らく、だと?」

ジャンヌ「そこがまだ良くわからん。ただ、主席書記官の『頭』を有しているのは確実だ」

バージル「…………まあいい。それでだ、その女は『神儀の間』を現出させる事が可能だったか?」

ジャンヌ「……力はとても足りない」

ジャンヌ「……だが、主席書記官は禁術も記憶してある。個人のオリジナル技以外は全ての術を網羅してる」

ジャンヌ「更にそれらの術を組み合わせ、新しい術式を作る事も可能」

ジャンヌ「つまり力が無くとも、どうにかして騙し騙し禁術を起動させることも理論上可能だ」

バージル「…………」
890 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 00:16:01.87 ID:msuwctQo

ジャンヌ「んな事をすれば、通常は即座に近衛か執行部隊に捕えられ、」

ジャンヌ「即決裁判でその場で極刑に科せられるが……」

ジャンヌ「時期が『あの時』だとするとどさくさに紛れて起動したか、それとも滅亡後に悠々と行ったか」

バージル「禁術の種類は?何に『神儀の間』を使った?」

ジャンヌ「それはなんとも言えない。現物を綿密に調べればある程度はわかるだろうが……結局は本人に直接聞くしかないな」

バージル「そうか」

ジャンヌ「……………………で、狩れって?」

バージル「そうだ。最優先ではないが」

ジャンヌ「……………………」

バージル「幸い、こちらに時間的余裕は二日、三日程ある」

そう口にしながら、バージルは軽く閻魔刀の柄に手を添えた。

ジャンヌ「…………」

それを見てジャンヌは思った。
バージルにローラ追跡を任せてしまったら。


ローラ確保の条件は『話ができる程度に生きてれば良し』。

その条件内ならば、確実にバージルは容赦なく刃を振るう。
手足を全て切り落とすくらい普通にやるだろう。

それどころか、何かがあれば独断で殺しかねない。
891 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 00:19:22.73 ID:msuwctQo

そして、バージルが勝手な判断をしてもジャンヌ達は何も言えない。
こちら側の要はバージル。
彼が全ての核であり、最終的な権限は全て彼が有している。


表向きは利害の一致による共闘だが、
バージルの方は彼単独でも、多少難しくなるがやり様によっては目的を遂げることも可能なのだ。

だが一方で、ジャンヌ達はバージルがいないと目的を達することは絶対に不可能。
アイゼン、ベヨネッタ、ジャンヌにとって、バージルと彼の有する閻魔刀が必要不可欠なのだ。


ジャンヌ「……私に任せな。身内の事だ。私がやる」

そこを踏まえ、ジャンヌは自らその任を担うことを名乗り出た。
バージルにやらせてしまったら、ローラがどうなるかはわからない。
そしてそれを防ぐ事もできない。

どんな者でも、これ以上『家族』を傷つけたくないジャンヌはこうするしかなかった。


バージル「…………」

そんな彼女の思惑を見透かしているのか、
バージルは彼女の方を横目で見ながら小さく鼻で笑い。


バージル「下手な真似はするな」

それだけ言い残し、外へと繋がっている扉の方へと歩を進めていった。
892 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 00:20:30.71 ID:msuwctQo

ジャンヌ「…………わかってる」


そんなバージルの背中へ言葉を飛ばすジャンヌ。


ジャンヌ「ローラの事も私が責任を持つ」


その言葉が聞こえたのかどうか。
バージルは一切反応を示さず、そのまま室外に姿を消していった。


その開かれたままの扉をジャンヌはぼんやりと見つめながら。


ジャンヌ「(…………ローラ……………………)」


あの金髪の。
『少女』の顔を思い浮かべていた。


ジャンヌ「(お前………………このままじゃ……)」


―――
893 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 00:21:15.27 ID:msuwctQo
今日派ここまでです。
続きは明日の夜か水曜に。
894 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/28(火) 07:31:08.89 ID:UEn0iUAO

憧れの人の一番聞きたくない話を聞かされる佐天さん・・・(´・ω・`)
895 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 10:04:39.24 ID:thhTrMAO
おつ!
896 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/28(火) 10:50:48.78 ID:fuHmAEk0
乙でした!!
897 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 23:31:49.93 ID:msuwctQo
―――

とある街の郊外、森の近くの開けた原地。
今だ闇の深い時刻、この人気が無い地。
草の原からは虫の鳴き声、近くの森からはフクロウらしき鳥の鳴き声が聞こえていたが。

突然、全ての音が止む。
草の海を撫でていた風も止み。
鳥と虫の声も止み。

森の葉の音も止み。


シンッと不気味な静寂。


そして。


その原のど真ん中にふわりと降り立つ―――。


黒髪・黒いボディスーツのグラマラスな女。


ベヨネッタ。


その格好は黒ずくめでありながら、
なぜかこの光の無い闇の中でもはっきりと浮かび上がっていた。
異質すぎる程に。

まるで『黒い光』が照らし上げているかのように。
898 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 23:33:27.56 ID:msuwctQo

彼女は片足に体重をかけて腰をしならせ、
薄く笑いながら星が瞬く夜空を見上げた。

その瞬間。

彼女の視線の先、天の彼方に赤い光が瞬き。


『落下』してくる真紅のコートを纏った男。


ダンテ。


彼はベヨネッタの正面20m程の所に降り立った。

先に降り立ったベヨネッタとは対照的に、
凄まじい地響きを打ち鳴らしながら。

地面が割れ、彼の着地点を中心に円形に10cmほど窪む。
深さはそれだけだが、範囲は半径10mも。


ダンテ「さて…………へっへっへ…………」

ダンテはリベリオンを肩に乗せ、
もう片方の手でコートについた土ぼこりを掃う。

ベヨネッタ「ン〜〜〜ン」

銃を持つ右手で、
己の腹部から胸をなぞりながら喉を鳴らすベヨネッタ。


交わり絡み合う色気タップリの二人の視線。
899 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 23:36:23.32 ID:msuwctQo

お互い、無言のままほくそ笑む程数十秒。

先に動いたのは。


ベヨネッタ「―――mm―――HA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ベヨネッタ。

掛け声と共に体を激しく素早く、キレよく躍動的に捻り。
両手を大きく振るい。


一拍置いた後、足を大きく開き胸張り、腰をくねらせ。
持っている銃をクルクルと回しながら両手を頭上で交差し。

軽く舌で唇を舐めながら、その二の腕に己の顔を摺り寄せ。


ベヨネッタ「―――huuuuuuuuuum.......Yesyesyeeeeeeeees.......」


誘うような横目でダンテを見ながら熱い息を吐き。


ベヨネッタ「HmmmHA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


最後にもう一度掛け声をし、再び勢い良く両手を広げ彼女はキメた。

完璧に。

最後の掛け声の瞬間、
彼女のバックで鮮やかな(主にピンクを基調とした)光が溢れ出した。


ベヨネッタ「(…………んふん…………)」

そして彼女は得意げに勝ち誇った笑みを浮かべた。


完全に勝った、と。
900 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 23:38:55.33 ID:msuwctQo

それを見て目を見開くダンテ。

ダンテ「(―――……………………なッ……ん……だと……?)」

だが、この程度では彼は負けない。
逆に彼のハートに火がつき。

ダンテ「(へっ………………中々……いや、かなり…………だがよッ―――!!!!!!!!!!!!!)」

『応戦』。


ダンテ「Hooooooouuuuha!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

リベリオン、続けて腰に差していたエボニー&アイボリーを華麗に天高く放り投げ。

ベヨネッタに負けないくらい激しく、かつキレ良くステップを刻み。

ダンテ「Yeah―――HA!!!!!!!!!!HA!!!!!!!HA!!!!!!!!!」

重力に従い落ちてきた二丁の拳銃を指に引っ掛けキャッチし、そのまま西部劇のようにクルクルまわし。
放り投げて己の腰へとスッポリト差し込ませ。

左手指を顔のとなりで鳴らしながら、右手を天にかざし。

そしてどこからともなく出現したバラを咥え、
右手で同時にリベリオンをキャッチし、正面を一刀両断するかのように振り下ろし。


ダンテ「Sweet....Baby......」


ベヨネッタに半身を向け、大剣の切っ先を地面に向けながら。
左手で口のバラを取り彼女の方へとスッと差出し、そして軽く指で弾きながら手放した。
901 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 23:40:29.81 ID:msuwctQo

ダンテの余裕タップリな笑みと、ふわりと地面に落ちるバラ。

ベヨネッタ「(―――……………………なッ……んですって………………??)」

今度はベヨネッタが目を丸くした。

思わぬハイレベルな応戦。

その凄まじい『威力』。

ベヨネッタ「(―――…………チッ……中々…………まさかここまでとはね……少し甘く見てたわこのボーヤの事……)」

まさかこの『分野』で己に正面から対抗できる者がいたとは。
彼女は夢にも思っていなかった。

ダンテ「(…………これでも互角……か。…………こいつは手強いぜ……)」

ダンテも同じく。


ダンテ「Yeah-Ha-Ha-Ha-Ha...............」

ベヨネッタ「Ya-haha-hahahaha-ha...................」


そしてわざとらしく笑い、お互いから一旦目を背ける二人。

ダンテは『いやあまいったぜ』と言いたげに軽く右手を振り。
ベヨネッタは、それに対し『ええそうね』と返事しているかのように、
咥えてるキャンディーの棒を軽く指で弄びながら。


その次の瞬間。


ダンテ「―――Yeeeeeeeeeeaaaaaaaaaaaaaahhhhhhhh!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ベヨネッタ「―――HAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
902 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:41:10.15 ID:vPfZHb2o
まさにセクシーコマンドーだな
903 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:43:58.27 ID:u8Y4KO2o
何勝負なんだww
904 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 23:45:59.65 ID:msuwctQo

二人は雄叫びをあげながら同時に地面を蹴り。

ダンテはリベリオンの切っ先を向けスティンガー。

ベヨネッタは即座に出現させたウィケッドウィーブと連動した右足の蹴り。

凄まじい衝撃波と余波で周囲の地面を抉りながら、二人は激突した。

第一撃から容赦なく、ノーマル状態最大戦速の
音速の数十倍もの速度で。

ウィケッドウィーブとスティンガー。

とてつもない金属音と共にお互いが弾かれたが。

だが二人共、後方に吹っ飛ばされること無くその場で難なく持ちこたえ、即座に次の動きへと移る。

ダンテ「―――Hu!!!!!!!!」

ダンテは即座に腰から、左手でエボニーを引き抜き。
弾かれた反動を利用して身を捻り、その銃口をベヨネッタの顔面へ。
そして躊躇い無く、超高速で引き金を何度も引く。

ベヨネッタ「―――YA!!!!!!!!!」

同じくベヨネッタも反動を使って素早く身を捻り、回し蹴り。
更にその足首についている銃口から大量の魔弾を放つ。


お互いへ至近距離で放った、両者の大量の魔弾。


ダンテは闘牛士のようにコートを靡かせて半身を捩り。
ベヨネッタは仰け反り。

そして両者とも、軽々とそれらの魔弾の雨を回避。
905 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 23:49:05.89 ID:msuwctQo

そのまま、二人は至近距離で撃ち合う。
神速で振りぬかれる刃。
同じく神速で放たれるウィケッドウィーブ。

そして飛び交う大量の魔弾と二人の掛け声。

余波と流れ弾により、
周囲の地形が見る見る、そして目まぐるしく変わっていく。

地響きと凄まじい光の明滅を伴って。

ダンテ「ヘッヘ!!!刺激的で良いぜ!!!」

リベリオンを振るい、引き金を絞りながらダンテは心底楽しそうに声を挙げた。

ベヨネッタ「最ッッッッ高!!!!痺れちゃうわッッ!!!!」

同じくベヨネッタも。

ベヨネッタ「でもまだ足りないわ!!!!もっと―――もっと―――!!」

白銀の刃がベヨネッタの頬をかすり。


ベヨネッタ「―――もっと感じさせて!!!」


宙から出現した巨大な足や拳が、ダンテの周囲を突き抜けていく。


ダンテ「OK!!!果てまで連れてってやるぜベイビー!!!」


それはあまりにも。

あまりにも常軌を逸している、そして禍々しく殺気に満ちた舞い。


正に狂気のダンス。
906 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 23:50:35.99 ID:msuwctQo

そんな最中。

ベヨネッタが後ろに跳ね、宙で身を捩り。


ベヨネッタ「ホットに痺れて―――!!!!!!」


ベヨネッタ「―――ドゥルガーッ!!!!!!」


その瞬間、ベヨネッタの手足に金を基調とした大きな装具が出現。

魔導器、魔具ドゥルガー。

両手先端のポータルからは稲妻が迸り。
両足先端のポータルからは業火が噴き出す。

着地した瞬間、足元の地面を溶かしそして抉っていく。


ダンテ「―――ホットかつクールにな!!!!!!」


ダンテ「―――アグニ!!!!ルドラ!!!!」


同じく、ダンテの左手には柄が繋がった双戟状態のアグニ&ルドラ。
二つの刃から業火の渦が巻き上がり、
周囲の地面を溶かしては、その灼熱の液体と火の粉を天高く舞い上げさせる。


ベヨネッタ「YA-HAHAHA!!!!!!!!!!!!!YEAAAAAAAAAAAAAAhummmmm-HA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ダンテ「HAHAHAHAHA!!!!!!!!!!!!!YEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEESBABY!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


この場に更に加わった、強大な魔の『雷』・『風』と二つの『炎』。


狂乱は更にヒートしていく。

熱く熱く。

全てを燃え尽くさんばかりに。
907 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 23:52:29.31 ID:msuwctQo

右手にリベリオン、左手には結合した双戟状のアグニ&ルドラを握り、
ダンテは一気にベヨネッタに突進する。

ベヨネッタ「―――YAA!!!!!!!!!!!!!!」

それを見、左手で一気に前面を凪ぐように振るうベヨネッタ

その瞬間。

青白く、巨大な鍵爪状の雷性を帯びたウィケッドウィーブが出現。
突進するダンテを地面ごと真横から抉り取ろうかと、一気に横に振るわれた。

ダンテ「―――Hum―――」

鉤爪は三本。水平に、そして縦に積みあがっているように並んでいる。
それらの隙間は訳50cm。

数千分の数秒という極僅か一瞬で、横目でその巨大な鍵爪らを即座に認識したダンテ。

彼は軽く地面を蹴り、僅かに跳ね。

そして身を翻しながら、仰向けに。
空に横たわるような姿勢に。

それと同時に『すり抜けていく』巨大な鉤爪。

ダンテ「―――Ha!!!!!!!!!!!!」

いや、ダンテがすり抜けたのだ。
爪と爪の間の極僅かな隙間に飛び込み、身を滑り込ませ。

文字通りダンテ『本体』にはかすることも無く、鉤爪は一体を凪ぎ、
地面を抉り飛ばしていった。

彼の翻ったコートの一部を削いでいったが。


それらの凶爪の通過後、
即座に体勢を直し、勢いを殺すことなくそのままベヨネッタに向かうダンテ。
908 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 23:57:10.45 ID:msuwctQo

ベヨネッタ「Huuum―――HA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

小さく笑いながらベヨネッタは続けて体を回転させ、今度は右足で回し蹴りを放つ。
前方に迫っているダンテ目がけて。

すると今度出現したのは、炎に包まれた同じく巨大なウィケッドウィーブの蹴り。
さながら、いや正に火柱が『横向き』に噴き出すかのように、凄まじい爆発を伴って。

ダンテ「Ha-Ha!!!!!!!!!!!!!!」

それを見たダンテ。
今度は両足で即座にブレーキをかけ―――。

そして左手に持っていたアグニ&ルドラを放たれた巨大な『業火の蹴り』に向け。

バトンのように素早く回す。



『―――ASH to ASH!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』



                                                         Twister
次の瞬間、この魔具の掛け声と共に、『横向き』に巻き上がる灼熱の『 竜 巻 』。


真正面から激突する、業火のウィケッドウィーブと業火を纏った爆風の渦。
その激突点から、二人を軽く飲み込む程の直径50mに及ぶ火球が形成され。

そして破裂する。

周囲へと吹き荒れる、近くの森の木々をも焼き払い薙ぎ倒す爆炎―――。
909 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/28(火) 23:59:27.97 ID:msuwctQo

その中でダンテは一瞬ベヨネッタの姿を見失った。

だが見失っただけ。
視界の外に逃れられただけ。

彼女の気配は手に取るようにわかる。


ダンテ「Hey,don't Hide.C'mon―――」

ダンテは即座に相手の位置を把握し。


ダンテ「―――BABY!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


振り向きながら横一線に右手のリベリオンを背後に振るった。

剣風で爆炎が一気に掃われ、周囲が晴れ渡る。

そしてダンテの斬撃を仰け反り、鼻先で華麗に回避したベヨネッタの姿も露に。

ベヨネッタ「You want to touch me? Humhuhu―――」

爆炎の布を剥がされた彼女は薄く笑い。


ベヨネッタ「―――Badboy!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


仰け反り、そのままバック転しながら、今度は両足の二連撃。
ダンテの顎を下から蹴り上げようと、再び出現する業火のウィケッドウィーブ。
910 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/29(水) 00:00:41.13 ID:vetDFyAo


その一撃目をダンテは、左手のアグニ&ルドラで華麗にいなし。

そして。


ふわりと跳ね、彼は二撃目の上に『乗った』。


ウィケッドウィーブをジャンプ台代わりにし、一気に天に跳ね上がるダンテ。
更にその直後に、真下のベヨネッタへ向けて。


ダンテ「DRIVE!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


リベリオンから特大の赤い斬撃を放つ。

それを見て小さく笑うベヨネッタ。
彼女は小さく笑いながら、先ほどのバック転蹴り上げの動作からそのまま逆立ちし。

蹴り上げた両足を大きく広げ、先端のドゥルガーから炎を噴き上げながら、
ヘリのローターのように高速で一回転。


ベヨネッタ「YA-----HA!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ダンテの放った斬撃を、
その業火のローターで難なく叩き割り霧散させた。
911 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/29(水) 00:02:24.51 ID:vetDFyAo

ベヨネッタ「―――YeeeeeeeeYA!!!!!!HA!!!HU!!!!HA!!!!!!!!―――」

次いで放つ、四肢のウィケッドウィーブの連発。
真上のダンテ目がけ繰り出される、ブレイクダンスのように踊りながら次々と破壊的過ぎる攻撃。

ダンテ「―――Yeah-HA!!!!HA!!!!HA!!!!HU-HA!!!!!!―――」

それらをダンテは左手のアグニ&ルドラで弾きいなし、

ダンテ「ONE!!!!!!!TWO!!!!!!」

負けずにリベリオンで赤い斬撃をぶっ放す。

弾いては避け、避けては相手の急所に打ち込み。
そしてお互いが再びその攻撃を弾いては避け。

身を捻り、ステップし、掛け声と圧倒的過ぎる『破壊』の応酬。

空に大量の光が瞬き、地面は削れ。



ベヨネッタ「――――――Get out!!!!!!!!!!!!」


そしてベヨネッタは真上に渾身の蹴りを放ち。



ダンテ「――――――Blast!!!!!!!!!!!!!」



ダンテはリベリオンとアグニ&ルドラを交差させ一気に振り下ろし、
地面のベヨネッタの元へと突き進み。


激突。

二度目の、そして先ほどよりも凄まじい『破壊』。
空間が歪み、あまりにもド派手すぎる『衝撃』―――。
912 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/29(水) 00:04:13.55 ID:vetDFyAo

数十秒後。

迸った爆炎が晴れ、そして舞い上がった粉塵が納まり。

15m程の距離を開け、荒地と化した地のど真ん中に二人は向き合いながら立っていた。
先ほどのお互いへ向けられた攻撃。

両者とも直撃した。

大悪魔ですら、それこそ致命的な傷を負ってしまう程の強大な攻撃。

それが直撃したのだが。


二人は完全に無傷。

衝撃を受けた肌が赤くすら、それどころか衣服の乱れさえない。


そしてダメージなど一切感じさせない表情。
素晴らしい程にうれしそうな笑み。


ダンテ「たまんねえ……たまんねえぜッッ!!!!!!ハッハーァッッ!!!!!!!最高の女だぜお前は!!!!」


ベヨネッタ「はぁあああああああああああああんもうダメ!!!!!もう我慢できないッッッ!!!!!!!」


二人はもう限界に達していた。

これ以上、力が抑えきれない。

ダンテの瞳が眩く赤く輝き始め、全身からも赤い光が溢れ出し。

ベヨネッタは身を情熱的にくねらせ、両手を後頭部に。
髪留めの所に手を当て。
913 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/29(水) 00:06:51.01 ID:vetDFyAo

ベヨネッタ「……そろそろ『本気』で…………『愛でて』いいかしら……?」


ダンテ「良いぜ……『前戯』は終わりだ……『本番』を始めようぜ子ネコちゃん……」


そして二人は力を解き放つ。


ダンテは魔人化し―――。


ベヨネッタは『髪』を全て開放し―――。




―――そうしようとした時だった。



「まああああああああああああああああああああてえええええええええええええええええい!!!!!!!!!!!!!!!」



地響きを伴程の低い声が周囲を揺るがし。

二人の間、ちょうど中間の地面から突如赤い光が迸り。


その光の中から姿を現す―――。



ロダン「―――もう終わりだ!!!!!いい加減にしろ!!!!お開きだ!!!!!!!!!!!」


ロダン。
914 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/29(水) 00:09:50.97 ID:vetDFyAo

ダンテ「……………………あぁ?」

ベヨネッタ「……………………はぁぁ?」


ロダン「こんな所でバカ騒ぎするんじゃねえ!!!」


あからさまに煙たそうな表情を浮かべる二人に対し、
青筋を立てながら声を荒げるロダン。


ロダン「目立ち過ぎだ!!天界からも魔界からも思いっきり注目されてるぜ!!!!」

ロダン「このままじゃ『ココ』が『崩壊』しちまう!!!イギリスみてぇな『界の穴』をもう一つ作る気かお前さん達よ!!!」

ロダン「これ以上続けたいなら魔界にでも行け馬鹿野郎共!!!」


ダンテ「……」

ベヨネッタ「……」


ロダン「おいおいおい何だその目は!?俺は間違ってねえぞ!!!!」

ロダン「このままヤリ合ったら一番困るのはお前さん達だろう?!!!!」

ロダン「いい加減少しは大人になりやがれアホ共!!!!発情期の猿か!!!!!」


ロダン「ここは猿山じゃねえぞ!!!!!」
915 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/29(水) 00:11:51.70 ID:vetDFyAo

ダンテ「…………あ〜……こりゃあヒデェ生殺しだ……空気読めねえな」

ベヨネッタ「……チッ……………………この『ゴリラ天使』め」

二人はブツブツ愚痴りながらもロダンの言葉に従い、
武器を名残惜しそうに納めて行く。

ロダン「(こんの野郎共…………)」

ロダン「ダンテェ」

ダンテ「あ?」

ロダン「ほれ。直ったぞ。だから今日はさっさと失せやがれ。少しは頭冷やして来い」

そう言葉を発しながらロダンはコートの下から二丁の拳銃、
トリッシュのルーチェ&オンブラを取り出し、ダンテの方へと放り投げた。

ダンテ「ハッハー、頭じゃなく『セガレ』が火照ってんだがな」

それらをキャッチしながらヘラヘラと笑うダンテ。


ベヨネッタ「私も疼いちゃってるのよね。Gスポt」


ロダン「うるせえ黙ってろ」


それに同調し卑猥な言葉を口に仕掛けたベヨネッタだが、
ロダンの一声で一蹴された。
916 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/29(水) 00:14:39.16 ID:vetDFyAo

そしてロダンは一歩ずつ、大地を響かせながらベヨネッタの方へと向かう。
それと同じように、ベヨネッタはさりげなくロダンから離れようとするが。

                                コ
ロダン「俺に用があるんだろう?俺の『銃』達を診てほしんだろう?」

ベヨネッタ「あははうふふ。もういいわ。大丈夫みたい」

ロダン「ダメだ。お前は良くとも俺は良くねえ」

あえなく彼女は、その黒髪をムンズと鷲掴みに髪にされ。

ベヨネッタ「いやあーーーーー」

ズルズルと引き摺られていく。

ダンテ「ヘッヘ、乱暴にしないでくれよな?また今度その子ネコちゃんとイチャつきてえからよ」

そんなベヨネッタの姿を見、面白げに手を叩きながら言葉を飛ばすダンテ。

ロダン「お前さん達を会わせると碌な事になりゃしねえ。良いからお前はさっさと帰れ。『金髪美女』が待ち焦がれてるぜ?」

ダンテ「ハッハー、止してくれ。お袋の顔した女とじゃれあう気にはなれねえよ」

ロダン「フン」

ロダンと、彼に掴まれているベヨネッタの周囲に赤い光が溢れ出す。

ベヨネッタ「バーイ。またね」

ダンテ「あばよ。子ネコちゃん」

そして二人の姿が光に包まれ、消えていった。
917 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/29(水) 00:19:14.13 ID:vetDFyAo

残ったダンテは一人、何となく手にあるトリッシュの愛銃を眺めていた。

ダンテ「…………」

そうしてたところ。
ふと、先ほどのベヨネッタの戦い振りを思い出した。

あの動き。
四肢に取り付けた銃の連動した戦法。

ダンテ「Hum...............」

『何か』を思いついたダンテは一度喉を鳴らした後。


ダンテ「―――ギルガメス!!!!!!!!」


一つの魔具の名を高々と叫んだ。
次の瞬間、両手両足に出現する、銀色の『魔導金属生命体』。
ギチギチと機械的な音を響かせ、彼の手足の先端を包み込む。


ダンテ「Ha!!!!!!!!」


次いでダンテは、手に持っているルーチェ&オンブラを頭上に放り投げ。

まずは右足を大きく蹴り上げるように真上に振るった。

その右足先端のギルガメスにルーチェが当たり。
次の瞬間、金属生命体がダンテの意思に沿い、ギチギチと音を響かせながら変形し―――。


―――ルーチェのグリップ部分を掴み、そのまま同化。
918 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/29(水) 00:22:12.55 ID:vetDFyAo

ダンテ「Hooooha!!!!!!!!!!!!」

続けてダンテは跳ね上がるように、今度は左足を大きく天に振るい。

同じように、次はオンブラを左足先端のギルガメスと同化させ。

そして宙で一回転しながら、腰からエボニー&アイボリーを引き抜き。



ダンテ「Yeaaaaaaaaaaaaahhh!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


先ほどのベヨネッタの動きを真似て、空中で手足を鮮やかに振るい、


ダンテ「Ha!!!! Hu!!!!! Ha!!!!!YeeeeeeeeaaaaaaaaaHA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


四つの銃口から華麗に魔弾を放つ。
ギルガメスの歯車で火花を散らしながら蹴りとパンチ。
それと連動して絞られる引き金。

放たれる、赤い光を帯びた魔弾。


一通り動作を宙で確認した後、彼はコートを靡かせながらふわりと着地し。

低く腰を落とし両手を広げながら、そこでポツリと。


ダンテ「So Sweet」


ニヤリと笑みを浮かべながら歓喜の一声。

彼はここに新たな『スタイル』を手に入れた。


アンブラの魔女の近接格闘術、『バレットアーツ』。


史上最高の使い手からコピーする形で。
919 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/29(水) 00:23:52.47 ID:vetDFyAo

ダンテ「ハッハ〜、こいつぁいい」

エボニー&アイボリーをクルクルと回しながら腰に差し込み、
次いで軽く蹴り飛ばすように足先のルーチェ&オンブラを解放して放り投げ、手に取った。

そしてギルガメスを戻し小さく笑った。

ダンテ「燃えてきたぜ。ロマンがある」

これを応用すれば、例えば別の魔具をギルガメスに同化させ、
四肢の刃で『踊る』事も可能だ。

ベヨネッタからは、結局バージルの事については聞き出せなかったが、
それでも彼にとってはこの『プレゼント』が素晴らしいものだった。

ダンテ「本当にいい女だぜ」


ダンテ「喜べトリッシュ。『お前』も戦えるぜ」


ダンテが小さく笑いながら、手の中にある銃に言葉を飛ばしたその時。


トリッシュ『何その口ぶりは?私はまだ死んでないんだけど』


直った銃を通じて、即座に彼女の声が聞こえてきた。
920 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/29(水) 00:26:06.76 ID:vetDFyAo

ダンテ「あ〜そうだったな」

そんな、銃を介して脳内にリンクしてきたトリッシュに向け、笑いかけるダンテ。

トリッシュ『というか、結局何も聞けなかった訳?』

ダンテ「まあな。でも良いじゃねえか。お前も『戦える』方法が見つかったぜ?」

トリッシュ『……まあ。悪くは無いわね。というか案外楽しそう。「眺め」が最高だし。足蹴にされてるのが少し癪だけど』

ダンテ「動けねえお前の代わりに俺が連れて行ってやる」

ダンテ「どこに行きてえ?」

トリッシュ『……そうね。とりあえず私の所に戻ってきて。…………いえ、それは「最期」でいいわ』

ダンテ「……」

トリッシュ『……どこでもいいわよ。アナタの行きたい所に連れてって』

トリッシュ『あ、そうそう。「楽しい所」にして。これだけは外せないわ』

ダンテ「OK、しっかり見てな『そこ』でよ」

トリッシュ『すぐ傍で見てるわよ。片時も目を離さずに。勝手されちゃ困るもの』

ダンテ「おっと、変なところは見せられねえな」

トリッシュ『何を今更。んなもん見慣れてるわよ』

トリッシュ『いつからアナタを見続けてると思ってるのよ』

ダンテ「ハッハー、確かにな。  『相棒』」

―――
921 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:28:23.25 ID:vetDFyAo
今日はここまでです。

今週末は投下できませんので、次は可能ならば明日か明後日の夜に投下するつもりです。
無理だった場合は月曜の夜となります。
922 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/29(水) 00:40:37.24 ID:TkZiLtA0
(;゚Д゚)・・・ダメだ。この二人が同時に存在するとノリが暴走するwwwwww

>>921
(´ω`)ゝ無理しないペースで投下してくれればええですよ。今夜も乙っした♪
923 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/29(水) 00:48:12.82 ID:HIKWYEAO
たなかなやな
924 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 01:17:24.35 ID:qFRJ18go
イかれてやがるwwwwwwww


最高にホットだぜ、YEAH!!!!!
925 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/29(水) 07:10:08.54 ID:.KS5tUAO
ギルガメスさんようやく日の光を浴びたか・・・しかも将来を感じさせる出方だな・・・
乙乙
926 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 09:37:28.63 ID:vhbNOEDO
ギルガメスで『バレットアーツ』かぁ…考えたな〜、素ですげえよ
927 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/29(水) 19:16:37.56 ID:HIKWYEAO
きもい
928 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 22:39:23.97 ID:5M.uzkDO
まさかのスタイリッシュ合戦。
パラレルルートのあれかww
929 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 03:43:32.01 ID:GEL3i.AO
ダンテが又強くなってしまった
変態が二人交わるとこれだからこま……SSS
930 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/30(木) 17:49:16.73 ID:KZ6uzDc0
トリッシュさんとの会話が気になるな・・・とりあえず乙
931 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 19:57:41.71 ID:9c8IO3go
乙、おいついた
932 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/01(金) 09:39:42.25 ID:jo/RBYAO
>>930
ヤバいフラグが・・・・・・
933 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 12:28:59.95 ID:ny1HXQDO
ダンテは母親を母さんと呼ぶ筈だが
934 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 14:49:09.42 ID:WIupKQDO
>>933
1の時と4じゃダンテのテンション違い過ぎるから、おふくろの方がしっくりこないか?
935 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 16:49:15.93 ID:EOdieX60
>>933
4の悪ノリ全開ダンテが、軽いノリの時に「母さん」と言うのは合わなくないか? 
この年長ダンテがふざけ半分の時は「母さん」とは言わないと思う 
感情を込めて母本人に向けるような、シリアスパートなら全然アリだけど 
936 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 17:26:17.50 ID:Qcssxewo
たまんねえ…… 乙ぅ!
937 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 17:41:31.03 ID:ny1HXQDO
>>934-935
1はもちろん3でも母さんと呼んでるから俺的にはしっくりこなかった
938 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 18:23:23.11 ID:EOdieX60
>>937
ここのダンテは1の10年以上後、40目前だから口調が10代20代の時と同じとは限らない、と考えてもOK
それと1後のアニメ版では「頼むからお袋みたいな口を聞かないでくれ」って言ってるから、
シリアスとテキトーな時の違いって事でも良いんじゃね?

まあ、どうとでも解釈できるって事で、細かい事は気にするなってこった
939 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/02(土) 01:30:04.16 ID:Qf2PMAI0
ところで ダンテとベヨネッタって会った事あるんじゃないの?おまけその2で
気にしたら負け? もしやあれがポージング合戦か……
940 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/02(土) 02:15:39.22 ID:mxQuWHEo
あれはパラレル的なモノと認識して流した
941 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/02(土) 02:20:04.09 ID:Ekp5tpAo
本編後のおまけは完全パラレルで現行の話とは無関係だぜ

942 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/02(土) 03:47:53.66 ID:7JgAPyA0
>>939
その話kwsk
943 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/02(土) 10:00:19.54 ID:yv8dYR6o
本編の後日談であったろ忘れたのか?
まあ一から読み直せば分かる事だ
944 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/02(土) 10:42:42.81 ID:wnT4ccDO
>>940-941
把握した
945 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/02(土) 19:59:34.77 ID:7JgAPyA0
>>943
トンクス
946 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/02(土) 21:03:29.03 ID:FstE9bo0
久しぶりに来てまとめて読んだがやっぱりおもしれええ!!
というか、ベヨとダンテの掛け合いがたまらんww

気になるのはトリッシュだな…「最後」じゃなくて「最期」って…?
なんか考えるのが怖ろしい
947 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/03(日) 14:02:13.39 ID:EV1khUDO
まとめサイトは本編だけしか出してないからまだ続いてること知らない人はいるんだろうな
本編の上条さんは不穏な空気を漂わせて終わりだし、禁書勢は本編後更に活躍するってのに
948 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/03(日) 14:45:23.69 ID:1wmlicko
本編はプロローグだと思ってる
スパーダ一族の長きに渡る宿命のラストバトルに、禁書勢が特別出演した感じ

そこで人間の小ささと悪魔達の強大さ、スパーダ一族と魔帝で最強クラスのラインをドンと明示、
この世界観の中における力関係を提示

そして本編後はどっちかというと、その規格外の怪物達の中での禁書勢の奮闘に重きがおかれているな
禁書勢は、困難に立ち向かっていくギリギリで泥沼的な熱い戦い、
スパーダ勢(魔女も含む)は、チート級の力でスカッとする爽快感ある戦い、って役割分担して

あと考えてみると、インフレって言っても強さの上限自体は最初でもうしっかりと決まってるんだよな
インフレ自体は本編の時にもうかなりぶちあがってて、あとは実はそれなりに一定しているという
スパーダ勢・魔帝とその他の差が開きすぎてただけで、今はその間を補完してきてる感じ
949 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/03(日) 21:49:47.54 ID:GIVFS.AO
>>1自身、ここまでの長編になるとは思ってもみなかっただろう
950 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/04(月) 01:28:55.26 ID:sQiggwDO
一回会社オワタになってるしな
951 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/04(月) 13:26:58.31 ID:PseD0mQ0
確かにあれが幕開けだったな
952 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/04(月) 23:42:21.17 ID:zP2YhGwo
―――

学園都市。

午後6時過ぎ。

とある病棟の一室では。
壁際に並んでいる電子機器に囲まれ、その中央のベッドに一方通行は横たわっていた。
半裸の彼の足から腰、背中にかけて、テーピングのように白い布状の物が巻かれていた。

そんな彼のベッドの傍らにはカエル顔の医師。

一方「……………………終わったか?」

一方通行は、薄めで天井を眺めながら小さく口を開いた。

カエル「終わったよ。気分はどうだい?」

一方「…………最悪だ」

カエル「薬が抜けるまであと20分はかかる。新しい電極を確かめながらでもいいから、しばらくはそのままにしてなさい」

一方「…………」

カエル顔の医師の言葉を聞き、彼は頭の中で能力の起動を意識した。
すると。

一方「(…………へェ)」

彼の要望どおりの物をカエル顔の医師はたった一日で仕上げたようだ。
脳信号によって能力が即座に起動。

彼は漆黒の右手をゆっくりと掲げ、手のひらを開いたり閉じたりして、
能力の状態を確認していった。

このとんでもない『暴れ者』の手の握る、開くという動作。
そこから生じるベクトル。

それらを正確に検知し、そして向きを変えては自由に動かしていく。


一方「(…………問題はねェな)」

正に完璧。
一方通行の希望通りの品だ。
953 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/04(月) 23:50:11.94 ID:zP2YhGwo

一方「…………おィ」

と、そうした後に。
一方通行は目が覚めた先ほどから、疑問に思っていた事を口にした。

一方「コレはなンだ?」

軽く頭を上げ、寝ながら顎で己の下半身に巻かれている妙な物を指す。

カエル「ああ、それはだね。君の歩行支援の機器だよ」

一方「あァ?」

カエル「発条包帯に少し手を加えた物でね。電極を通して君の運動信号を直接送り込み、筋肉に刺激を与えて動かす」

カエル「通常の歩行は杖無しでも容易に行えるよ。全力疾走はさすがに厳しいと思うが」

一方「……こンなもンまかねェで演算補助だけでどォにかできねェのかよ?」

カエル「君自身の伝達神経にも損傷があるからね。そこを直すならば、本格的な手術が必要だよ」

カエル「そして今の君には、そんな時間的余裕は無いだろう?」

一方「……………………そォか。まあアリガトよ」

軽くそっけない礼を述べながら、一方通行はゆっくりと上半身を起こした。

カエル「まだ安静にして―――」

一方「薬は今分解した」

カエル「…………そうかい。それなら良いね」
954 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/04(月) 23:54:11.58 ID:zP2YhGwo

一方通行は起き上がった後、
ゆっくりとベッド脇にある己の衣服を着始めた。

カエル「…………ああ、それとだね……」

そんな彼の背中に向け、
手元にあるPDAに目を落としながら言葉を放つカエル顔の医者。

カエル「君の『その手』、いや、その『黒い物質』が君の体細胞と入れ替わっていく速度がね、」

カエル「やはり少しずつ加速してきているね」

一方「…………全部入れ替わっちまうのはいつだ?」

カエル「…………この速度だとね、96時間以内に……」

一方「…………」

カエル「……すまない。その方面では、僕はどうしようもない」

一方「…………ハッ、さすがの冥土帰しサマでもお手上げってか」

カエル「…………」

一方「……そんなに自分の患者に手ェだせねェのが辛いのか?大した『聖人』さンだなァ全くよォ」

カエル「……………………君は良く耐えているね。その激痛に。顔には全く出さないが、データにはしっかりと出てるよ」

一方「…………」

カエル「せめて、痛み止めだけでも処方させてくれ。少しは痛みが和らぐだろう」

一方「ンなもんいらねェ。元々オマェに『こィつ』どうこうしてもらうつもりはねェよ」

一方「『こィつ』は俺の自業自得だ」

一方「俺に課された『刑罰』みたィなもンだろ」

一方「『死刑なンざ生温ィ、テメェは苦痛の中で化物に成り果てろ』、ってよ」


一方「しっかりタップリ骨の髄まで味わってやンよ」


カエル「…………」
955 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/04(月) 23:57:06.81 ID:zP2YhGwo

カエル「…………いや。その痛みはね、元を辿れば君のせいではない」

一方「ハァ?俺が自分でやった事だ。俺のもンだ。どォせ記録だの映像だの見てンだろ?オマェの目は節穴ですかァ?」

カエル「いや………………………………一つ、とある昔話を聞いてくれないか?」

一方「あァ?ジジイのボケ話なンざ聞きたくねェよ」

カエル「そう言わないでくれ。すぐ済む」


とその時。

病室のドアが勢い良く開け放たれ、姿を現すアホ毛が特徴的な少女。

一方「―――」

打ち止め「あなた元気ー!?、ってミサカはミサカは通い妻よろしくまたあなたの所に来てみたり!!」

一方「……なンでオマェがここに(ry」

打ち止め「ミサカの情報網を舐めちゃだめだよ!!、ってミサカはミサカは、本当はネットワークで拾っただけなのを隠していばってみたり!」

あからさまに眉を顰め、カエル顔の医者を睨む一方通行。
それに対し、彼は僕じゃあないと言いたげに肩を少し竦めた。

そんな彼等などお構い無しに、打ち止めは一方通行の近くの小さな椅子にピョンと乗り。
今だ着替えの最中の一方通行をニコニコしながら眺め始めた。

カエル「…………」

一方「…………」

カエル「…………」

一方「…………何見てやがる?」

カエル「……いや。特に何でも無いよ」

一方「オマェじゃねェ。ガキの方だ」

打ち止め「あなたの事、見てちゃだめ?、ってミサカはミサカは少し上目使いで(ry」

一方「ぶっ飛ばすぞクソガキ」
956 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/04(月) 23:59:47.05 ID:zP2YhGwo

一方「チッ…………調子が狂うぜ…………話を続けろ。手早くな」

カエル「…………昔の話だ。僕はかつて若い頃、一人の患者を助けて『しまった』」

カエル「僕は知っていた。彼が何者かを。そして僕は理解していた。彼の存在が、後に多くの命を奪うことを」

カエル「だが僕は助けた」

一方「…………なンでンな野郎を助けた?」

カエル「彼に『夢』を見たからだよ」

カエル「彼の中に、若かった僕は『救世主』の姿を見たのだよ」

一方「カッ。随分なアマちゃんだなァ」

カエル「まあね。それにその時の僕は若くてね。彼にすがりたかったのさ」


カエル「僕には彼が『孤高のヒーロー』に見えたのさ」


遠くを見ているような眼差しをしていたカエル顔の医者だが、
そこで一方通行をジッと見据え。


カエル「全ての罪をたった一人で背負い、命と引き換えに己の正義を貫こうとした、ね」


一方「………………………………」
957 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 00:02:59.93 ID:qhpTqigo

カエル「…………彼に会うまで、僕は常々思っていた。そして怒りを覚えていた」

一方「…………」

カエル「処置は完璧、容態は安定していたはずなのに。どこにも以上が無いはずなのに」

カエル「それなのに命を落としていく者が大勢いる、不条理さに」

カエル「人は『そういう運命だった』という。だが僕はそれが納得できなかった」

カエル「偶然ならば。偶然の『事故』等ならばわかる。だが『何も』異常が無いのに、『不自然』に命を落とすのは」

カエル「僕はいつしか、『何か』の存在を意識し始めた。人々の生死を決定している『何か』をね」

カエル「憎くて憎くてたまらなかった。その『何か』を打ち負かすことができるのならば、僕は何でもやるつもりだった」

一方「…………」


カエル「そして彼はその『正体』を知っていたのだよ。『打ち勝つ』方法も」


カエル「更に二度と虐げられることの無い、二度と『他』から『干渉』を受けない、」


カエル「『強固』で『隔絶』された世界へ人々を『押し上げる』方法も」


一方「……」
958 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 00:07:17.47 ID:qhpTqigo

カエル「僕等が意識していたその相手の正体、今の君ならピンと来るだろう?」

一方「……………………なンとなくはな……」

カエル「いや、むしろ『君達』の方が、僕よりもそういう存在には詳しいかもしれない」


カエル「『天』に立っている存在だ。今も昔も、常に人間達を監視し、その運命を手中にし」

カエル「そして今、この学園都市を消そうとしている者達だ」


一方「…………」


カエル「それでね、彼は治療の際に僕にこう言った」

カエル「『私を生かせば、私は君によって救われたその命で大勢の命を奪うだろう』、と」

カエル「『だが約束する。誓う。私は必ず、必ず目的を遂げてみせる。それらの命を無駄にはしない』、とね」


一方「…………」


カエル「そして僕は彼を救った。彼の魂を『あの肉体』に繋ぎとめた」


カエル「僕は目が眩んでしまったのさ。怒りに。若き僕は、人々の命よりも『報復』を優先してしまった」

カエル「凄まじい数の命が失われるのも省みず、僕は彼の掲げた『旗』を再び建て直したしまったのさ」

一方「…………」
959 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 00:09:59.33 ID:qhpTqigo

一方「………………で、いつになったら俺と関係がある話になンだ?」

カエル「…………彼はその後、言った通り多くの命を奪った。目的の為にな」

一方「…………」

カエル「……そして『君』のような『駒』を、『被害者』を生み出し続けた」


一方「…………………………何ィ?」


カエル「君は己の事を『加害者』と思っているだろうが」


一方「―――あァ?」


カエル「僕から言わせれば、君も被害者の一人だ」



カエル「彼によって、君は人としての大事な部分を全て『破壊』され―――」


カエル「―――哀れな少女を一万も殺させるよう、『仕向けられた』」


一方「―――」


カエル「それも彼の計画の一部に過ぎない」

カエル「彼は今、天を滅ぼし、人間達を二度と虐げられることの無い強き存在へと押し上げようとしている」


カエル「この街の、大勢の子供達の今までの人生も。無論、君が歩んで来た道も―――」


カエル「―――その全てがこの目的の為だ」
960 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 00:11:02.01 ID:TMmOcj60
カエル先生ェ・・・
961 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 00:16:17.76 ID:qhpTqigo

一方「―――」

カエル顔の医者が言っている『彼』が一体誰なのか。

ここまで来れば誰だってわかる。

その人物を確信した一方通行の顔に、一気に憎悪の色が滲みあがってきた。
そしてその瞳を、矛のような視線をカエル顔の医者の顔に『突き刺す』。

あの男が何をするかを知りつつ救った男に。


アレイスター=クロウリーを救った男の顔に。


一方「――――――オマェ―――………………!!!!」

話を聞いた一方通行。
彼は今、それだけしか言葉が出せなかった。
一方通行自身はここまで言われても、妹達を殺めた罪は自分自身のモノだと思っている。

そして、その引き金を引いたアレイスターをも自分と同じく呪っている。
決して許せない、己と同じく悲惨な結末を迎えるべきだと。

だが。

この『聖人』すぎるカエル顔の医者は―――。

一方通行は知っている。
この男は、患者を救うことに命を賭けている。
昔がどうだろうが今はとにかくそうだ。

まさに善人、上条と同じような『光の住人』。
妹達はもちろん、上条や一方通行達にとっても、決して足を向けられない恩人。


しかしその『恩人』は独白した。

過去の行いを。

そしてその過去の行いが今、巡りめぐってこの街の子供達を酷な世界に縛り付けているとは―――。
962 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 00:21:25.83 ID:qhpTqigo
カエル「僕を憎んでくれてもかまわない。いや、僕はそうされるべきだ」

カエル「僕の行いが、結果的に君の手をも血で染め上げてしまった」

カエル「君を含む、多くの子供達を闇の底に突き落としてしまった」


カエル「『僕等』の罪を背負わないでくれ」


カエル「君はもう充分苦しんだ。充分苦痛を味わった」


カエル「『僕等』が撒いた罪でこれ以上、己を貶めないでくれ」


カエル「それは僕等のものだ」


カエル「アレイスターと僕の、だ」


一方「―――ッ!!!ざけンじゃねェぞクソがッ!!!!!!!!!!」

一方通行はこの男を『どう見れば』良いのかがわからず、たまらず苛立ち声を荒げた。

何が悪か。
何が善なのか。

誰が悪人で。
誰が善人なのか。

その線引きが、ラインが、境界が、彼の中であやふやになっていく。


話を聞けば、カエル顔の医者は悪人にもなり得る。

だがその一方で、アレイスターは善人にもなり得る。


皆が悪人であり、それでいて善人でもあるのか―――。

その視点で、『客観的』に己を見てしまったら―――。

そして『罪』の根源がカエル顔の医者の言う通りだとしたら―――。


一方「―――」


こんな己ですら―――。
963 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 00:24:32.47 ID:qhpTqigo

一方「――――――ふッッッざけンじゃねェッッッ!!!!!!!!!!!!」


一方「―――俺は認めねェ!!!!!!!絶対に認めねェッッ!!!!!!!!!!」


彼の頭脳は、客観的にその答えを導き出してしまった。

だが一方通行は絶対に認めたくない。
死んでも認めることができない。


カエル「本当にすまない。本当に―――」


一方「オマェに謝られる筋合いなンざねェッッッ!!!!!!」


一方「『コレ』は俺ンだ!!!!!俺のもンだッッッ!!!!!!!!」


そんなふざけた事。
理解できない。
理解したくも無い。


確かに、

確かに昨日のフィアンマとの戦いの中でも彼は感じた。
もう、悪人などヒーローなどどうのこうのはどうでもいい、守りたいから守る。

ただその為に戦う、と。

しかし。

それとこれとは別だ。


全く別すぎる。
964 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 00:27:15.96 ID:qhpTqigo

何かを守る為に、無我夢中で戦う事は出来ても―――。


カエル「違う。もし君に罪があったとしても、君はもう充分やった。振り返るな」

カエル「君は自分自身の為、そして愛する者の為だけに、前だけを見るべきだ」

カエル「死に場所を求めるような戦い方はもう止すんだ」

一方「―――」


自分を『認め』、自分の為に戦う事など―――。


カエル「妹達は。もちろんラストオーダーも。彼女達は君が生きる事を望んでいる」

カエル「罪を背負い、悔やみながら生きろという事では無い」

カエル「それとは別に、彼女達は君にただ純粋に生きて欲しいと願っている」

カエル「もう良いだろう?素直に応えてあげてk―――」


そんな事など―――。


一方「―――ッッッるせェェェェェェェェェッッッッッッ!!!!!!!!!」


彼が受け入れることなど到底不可能だった。


ある意味、『純粋すぎる』一方通行には―――。


一万の血に染まった己の手から、目を逸らす事など不可能だった。
965 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 00:30:50.98 ID:qhpTqigo

肩を震わせ。
目を充血させ、顔を火照らせている一方通行。

今にもカエル顔の医者に飛びかからんとばかりに。

一方「二度とだ!!!!二度とンな口を聞くんじゃねェ!!!!!」

一方「次はそのクソ頭叩き潰してやる!!!!!!!!」

カエル「…………じゃあやってくれ。君が僕をやるべきだ。その権利がある」


一方「うるせェってンだよクソが!!!!!!!!黙れ!!!!!」



一方通行の隣で、黙って話を聞いていた打ち止め。

声を荒げた一方通行に体を一瞬ビクっとさせながらも、彼女は椅子から降り、
心配そうな表情で彼の背後に行き。


そして優しく握り締めようと、彼の漆黒の手に触れたが。



一方「――――――触ンじゃねェェェェッッッ!!!!!!!!!!!!!」
966 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 00:33:05.32 ID:qhpTqigo

手を振りほどき、凄まじい剣幕を今度は打ち止めに向ける一方通行。

打ち止めはビクリと再び体を震わせたが、彼の瞳から目を離そうとはしなかった。
泣きそうな顔をしながらもジッと。

そんな彼女の大きな瞳を見た一方通行、少しずつ興奮が和らいできたのか、
深く息を吐き。

一方「……二度とだ……」

顔から感情の一切を消し去り、
少女から顔を背けドアの方へと向かいながら。

一方「……二度と俺に会いに来るんじゃねェ」

告げていく。


一方「―――二度と俺に近づくンじゃねェ」


そしてはっきりと示していく。


一方「二度と―――」


打ち止め「―――」



一方「――――――俺に触るンじゃねェ」



己が何たるかを。
967 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 00:35:04.92 ID:qhpTqigo

そして。

打ち止めの方を一切見ず、カエル顔の医者にも一瞥もせず、
一方通行は病室を後にした。


その時後ろからは。


幼い少女の小さな泣き声が聞こえてきていた。
己の名を弱弱しくも何度も呼ぶ声も。

だがその声は彼の心には届かなかった。


いや、届いてはいた。

あの少女の声は、他の誰よりも彼の心を揺さぶる。


だからこそ。
だからこそ、彼は絶対に応えなかった。


彼は振り返らず。


足を止めずに、表情を一切変えずに廊下を進んでいった。


徐々に遠ざかり、
小さくなっていく少女の泣き声を聞きながら。
968 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 00:37:11.32 ID:qhpTqigo

一方「…………」

先ほど激昂した瞬間。

カエル顔の医者の言葉を聞いた瞬間。

彼は一瞬だけ思い描いてしまった。


己が打ち止めと共に生きていく未来を。


己が、彼女と共に『普通』の生活をしている未来を。


一方「…………」

状況的にそれどころではないのに。

命と引き換えに、彼女と彼女の世界を守るだけで精一杯なのに。

己自身が彼女を傷つけてしまうのに。


己自身が、彼女達にとっての『最大の傷』であり『痛み』でもあるのに。
969 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 00:37:57.56 ID:qhpTqigo

一方「……………………クソが…………」

彼は吐き捨てる。
そんな『生ぬるい夢』を描いてしまった己に対し。


彼は今一度、己の淡い『幻想』を叩き壊し。
この『願望』を一切認めずに。


己の背中にある『重り』を背負い直す。


あいつらを何が何でも守る『だけ』、『それだけ』だ、と。



近づく事など許されない、触れる事など許されない。



用が済んだらさっさと死ぬべきだ、と。



―――『救い』などクソ食らえ、と。


―――
970 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 00:41:14.15 ID:qhpTqigo
今日は短めですがここまでです。
次はできれば明日の夜か、水曜の日中に。

水曜の夕方から週末にかけてまた忙しくなるので、
次は可能ならば30レス以上は投下したいと思っております。
少なくとも週に50レス以上投下しなければ、悶々としてうなされてしまいそうなので。
971 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 00:43:34.56 ID:ftwBfz.o
乙でしたァ!!
一方さん切ねえ…頑なだな、無理ないけど…

しかし週50レスとか凄まじすぎる
972 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 00:43:35.25 ID:TMmOcj60
(´ω`)ゝ今夜も乙っした 
973 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 00:58:56.60 ID:edH.b.ko

もうすぐ次スレだが今までずっと思ってたんだが何故このスレの>>1000は決め台詞で〆ないのか
974 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 01:16:17.03 ID:8trZGIgo
スタイリッシュ1000getあったぞ
975 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/05(火) 02:46:23.65 ID:vCQ9kYAO
合言葉を覚えてるか?
976 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 07:58:43.01 ID:zaP7ZEDO
大丈夫だ、問題ない。
977 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 09:41:42.25 ID:vk7sIcAO
一番いいヤツで頼む。
978 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 12:13:51.91 ID:qFKeIQDO
『ダンテが魔人化した状態でスティンガーしたらどうなるの?』っと
979 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 13:34:47.32 ID:.VzZuDEo
ふおぉほおおおおおおおおおお
泣いちまったぜ・・・・いいねいいねぇ、最っ高だよぉ!!

次も待ってるぅ('ω`)
980 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/05(火) 23:03:18.74 ID:oOOBuEA0
もう埋めちゃっていいのかな?
981 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 23:04:33.52 ID:TMmOcj60
どうなんだろね。次スレへの誘導は残しといた方がいいんじゃないかと
982 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 23:36:59.30 ID:qhpTqigo
次スレです。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1286289178/
983 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 23:38:44.26 ID:qhpTqigo
―――

学園都市。

午後九時。
とある病棟の一室。

病室の中央のベッドには、
患者衣を着たインデックスが蹲りながら小さな寝息を立てていた。

日中の、集中して行った解析作業により彼女はかなり疲たらしく、
この部屋に戻り夕食、シャワーに入った後すぐに眠りについた。
(ちなみに彼女の白い修道服その他は、先日の件でかなり汚れていた為、病院の洗濯に出されている)

もともと昨日の今日。
その時の疲労もまだ抜けきってなかったのだろう。

彼女は深い深い眠りについていた。

ベッドの傍らの椅子に座り、
彼女を見守っている上条の右手をぎゅっと握り締めながら。


上条「…………」


長く美しい青い髪を広げ、スヤスヤと心地よさそうに眠っているインデックス。
そんな『天使』の寝顔を、上条はボンヤリと眺めていた。

穏やかでありながら、どことなく影のある表情で。
984 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 23:41:12.14 ID:qhpTqigo

上条「…………」

この青い髪。
改めて見ると、あの時の事を思い出す。

フィアンマとの攻防の終盤。

彼女の前に浮いていた魔法陣を破壊した直後、
上条・一方通行・ステイルを一瞬にしてねじ伏せたこの青い髪。

それまでのインデックスもかなり凄まじい力を行使していたが、
この青い髪が動き出したときは正に規格外だった。

手負いとはいえ、大悪魔に匹敵しうる三人をあっという間に制圧するとは。

一瞬だけの出来事であり『アレ』が全力なのか、
それとも極一部の片鱗に過ぎないのかはわからないが、これだけは確実だ。

あの時のインデックスは、明らかにあの場にいた三人よりも遥かに強かった。

もしかしたらフィアンマをもすら上回っていたかもしれない。

上条「…………」
985 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 23:43:21.85 ID:qhpTqigo

インデックスが『タダ』の魔道図書館ではない、というのは上条も前から知っていた。

『今の彼』にはその時の記憶が無いが、
どうやら周囲の話を聞くと彼女は以前にも凄まじい力を行使したらしい。

先日の件でもステイルの反応を見る限り、
あの魔方陣が出現していた状態が当時と同一のようであるらしかった。

そこまでは良い。
その辺まではある程度は認識していた。

だが。

あの巨大な鞭のように伸びてはしなる青い髪は、想像を遥かに超えていた。
最早『人間レベル』ではない。

上条の経験から言わせれば、二ヵ月半前のベリアルやボルヴェルグと同等にも思える。

当時のステイルや神裂は、魔具等の力を受けた身を滅ぼしかねないドーピング状態であったからこそ、
かの大悪魔達とやり合えたのであって、現在の人外となっている二人でも再戦は不可能だ。
(当然上条は、現在の神裂が魔に転生し凄まじくパワーアップしているのは知らない)

上条「…………」

少し、いやかなりインデックスの事について考えを改めねばならない。
986 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 23:45:21.26 ID:qhpTqigo

彼女は想像を遥かに超える、とんでもない『何か』を奥底に宿している。
今の上条では到底手に負えない『何か』を。

上条は、二ヵ月半前にこの凄まじい『世界』に飛び込んだ訳ではなかったのだ。


『最初』からだ。


最初から、この少女と出会ったその瞬間から、彼は既に飛び込んでいてしまったのだ。

そして知らぬまま過ごして来たのだ。

己の隣にいたこの少女が、『本物』の神に匹敵するレベルの力を秘めていた事を。

上条「…………」

上条は何も知らなかったのだ。

こんなに近くにいて。

彼女にもっとも慕われる者であったにも関わらず。


彼女の本質を何も。
987 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 23:48:21.36 ID:qhpTqigo

上条「…………」

今思えば、奇妙な事もいくつかあった。
なぜ今まで疑問を抱かなかったのか。

まず、彼女が魔導書を際限なく記憶できること。
そういう体質・能力だと言われれば『ああそうか』、と今までは返してきたが。

今ここではこう思う。

『何で』そういう体質なのか、と。
『どうやってるのか』、その『メカニズムは?』、と。

更に、これは二ヵ月半前にわかった事だが、
彼女の記録の中には悪魔関係のかなり危険な術式もあるようだ。

触りしか聞いていないが、それらは『魔剣の精製』等の規格外の代物らしい。
使い方によっては容易くこの世界を破壊できる術式達だ。

そして上条は続けてこう思う。

インデックスが学園都市に留まり、
己が保護者・護衛、そして『暴走』を止める『首輪』代わりとして預けられたらしいが。


当時の右腕一本しか武器がなかった『己程度』が、そんな大役などどう考えても担える訳がない、と。


イギリスの判断は明らかにおかしい。


どう考えても。
988 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 23:50:55.27 ID:qhpTqigo

バージルのような者ですら、彼女の頭の中にある代物を必要としていた。
そうならば、普通に考えて他の悪魔達が襲撃してくる可能性だって当然あったはずだ。

上条の右手が全く意味が成さない、『本物』の悪魔が。

今でこそフロストレベル等ならば瞬殺できるが、当時の上条だったら逆に瞬殺されている。

悪魔でなくとも、聖人のような者がインデックスを狙って来ていたら、
上条ではどうしようも無かったはずだ。


そしてインデックスの武器化したあの青い髪。

あれに右手が利くかどうかはわからないが、そんなことを試すのは不可能。
今の悪魔化してる上条ですら反応できない速度なのだから。

昔の上条なら、文字通り『何が起こったかわからないまま』木っ端微塵だ。


だから彼は思う。


護衛であり『暴走』を止める『首輪』の役、というのはおかしい、と。
989 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 23:53:13.45 ID:qhpTqigo

またこれは以前から思っていたことだが、インデックスがイギリス清教の最重要の存在なのに、
彼女が何か危機・もしくは事件に巻き込まれても
当のイギリス清教はあまり動かない、という事だ。

いつも小規模の人員、しかもギリギリの分しか派遣してこない。

上条の認識ならば、それこそ大部隊を送り込んで大規模な保護作戦を行いそうなものであるが。
というか、本当に彼女に『保護と護衛』が必要ならば、そもそも学園都市になどに置いたりはしないはずなのだ。


そこから一つだけ確かな事がわかる。
イギリス清教の上層部、もしくはトップの最大主教はこう思っていたはずだ。


インデックスには護衛も保護も必要無い、と。


さすがに二ヵ月半の前のような事態では、
ダンテ側と共同で動き本気でインデックスを回収しようとしたらしいが。

あのレベルでもない限り、インデックスは基本的に『単独』でも切り抜けられる、と。


恐らく追い詰められた最後の最後には、
先日見た究極の防御機構のような何かが発動するのだろう。

そして圧倒的な力を持って、彼女に危害を加えようとした『愚か者』を叩き潰すのだ。

一方的に、だ。
990 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 23:56:44.40 ID:qhpTqigo

上条「…………」

上条はそんな事を考えながら、
とてもそんな力を秘めているようには見えない、この可愛らしい少女の寝顔を見つめていた。

ステイルとの会話が思い出される。
彼は言った。

『彼女を救ってくれ』、と。

上条は改めて認識し直す。
彼女を固く縛っている、その『鎖』のとてつもない頑丈さを。

どうすれば良いのか。

己程度で彼女を解き放てるのか。

上条「…………」

だが彼は、この目の前の困難に打ちひしがれてはいたが、
決して諦める事は無い。
そんな選択肢など元々彼の中には存在していない。


少年は改めて決意する。

己自身は絶対に人間には戻らない。

彼女を戦火の『中心』から救い上げる『まで』は。

戦いの連鎖から解き放つ『まで』は。

魔に完全に食われてでも、必要な限り使える力は使い続ける。

例え命を落としても。


それで彼女が救われるのならば何も『問題』は無い、と。
991 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:01:23.76 ID:Ip2Ds8co

上条「…………」

と、そうしていた時だった。
病室のドアがゆっくりと静かに開き、
ステイルが指先で小さな炎を弄びながら室内に入ってきた。

ステイル「君もシャワーに行くといい。その間は僕が見てる」

そしてインデックスを起こさぬよう、小声で上条に向けて口を開いた。

ステイル「少し匂うしな。君は」

上条「はは……悪いな。俺はまだいくらか人間の部分が残ってるからよ。あれだけ動けば汗臭くもなるんだ」

ステイル「まあ、僕の鼻が効き過ぎてる事もあるがな。どうにも人間の時よりも敏感になりすぎてる」

ステイル「君の体臭を鼻いっぱいに吸い込み、否応無く『堪能』してしまう僕の気持ちがわかるか?」

上条「ははは、悪い悪い」

上条は軽く笑いながら、ゆっくりとインデックスの手を解いて椅子から立ち上がり。
ステイルとすれ違うようにドアの方へと向かったその時。

ステイル「…………………待て」

ステイルはその瞬間ある匂いを捕らえ、やや強めの口調で上条を留めた。

何の匂いか。

それは『血』。

生温い、『鮮度』の良い血と肉の香り。
992 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:03:13.38 ID:Ip2Ds8co

上条「ん?」

そしてステイルはその匂いの元を捕らえ。

ステイル「…………篭手。外してけ」

覆いかぶさり、『源』を隠している金属生命体製の篭手を外すよう上条に促した。
やや強めの口調で。

上条「…………ここでか?」

ステイル「ああ」

上条「いや、脱衣所で外すから(ry」

ステイル「良いから今外せ」

上条「…………………………わかったよ」

強く押してくるステイルに負け、
上条はその場で右手を覆っている篭手を手際よく外し始めた。

上条「…………ッ…………」

少し顔を歪ませながら。

そしてステイルは見た。

魔界製の金属生命体の篭手が引き剥がされていく瞬間を。

それはただ包んでいただけではなかった。
無数の針が伸びており、上条の右腕に深く食い込んでいた。

がっちり固く肉に食いつき。
993 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:04:57.47 ID:Ip2Ds8co

あまりにも痛々しい光景なのだが、上条は軽く眉を顰めただけで、
手馴れた動作で針を引き抜いては、ぶちぶちと引き剥がしていった。

そして露になった『生身』の右手。


ステイル「……………………」


普通なら目を背けたくなるほどに生傷だらけ。

生々しい打撲跡、裂けた皮膚。
血はまだ乾かず、その傷口の中の『肉』は未だに湿っていた。

それらの下には、大量の直りかけの傷や古傷。

更にそれだけではない。

腫れ具合から見てもまず確実に筋繊維のかなりの断裂、
それどころか、骨が折れているか少なくとも骨にヒビが入っているように見える。


ステイル「………………」

上条「…………まあ…………こんな感じだ……」

ステイル「………………右手は……人間のままか?」

上条「ああ。手首から上は『純正』だ」

上条「その下も、肘の辺りまではかなり人間の割合が大きい」

上条「二の腕から肘までは完全に悪魔化してるんだけどな。肘から先がやっぱり中々……」
994 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:07:49.48 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………新しい傷は昨日のか?」

上条「…………多分な」

ステイル「多分だと?」

上条「いや、なんというか…………わかんないんだよな。デビルメイクライの時の傷がまだ全部治り切ってないしな」

ステイル「…………」

傷が治っていないからわからない。
それはつまり。

常に激痛に襲われているという事だ。
新しく傷を負っても分からない程の。

ステイル「……手当てを…………する必要があるな」

上条「いやいや、別にいいぜ」

そんな事など一切表に出さず、上条はいつもの笑顔を浮かべる。

上条「見た目ほどじゃねえんだ。骨がいっちまってもこの篭手が補強してくれるし」

ステイル「(…………骨…………)」

上条「どういう原理かはわかんねえけど、食い込んでる針が血を止めてくれるし、消毒もしてくれてるらしい」

上条「この篭手をつけてれば、そこらの手当てよりも全然効果があるんだ。治りもそこそこ早いしな」
995 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:12:38.98 ID:Ip2Ds8co

ステイル「…………」

さらりと、上条は別になんでもないように言葉を続けた。
ステイルに心配させないよう、明るく振舞いながら。

実際に、彼本人は本当にそれほど重要には思っていないのだろう。

ステイルからすれば、どう見てもそうは思えないのだが。

まあ、普通に考えて『この有様』でなければおかしい。

先日のフィアンマとの戦いの際も上条は、魔の物である両足左手に比べればかなり劣るが、
それでもこの右手も凄まじい速度で振るっていた。

1mに満たない距離の中で、『悪魔化してる二の腕まで』の力で音速近くにまで押し出す凄まじい加速度。
更にその速度での激突による衝撃。

いくら周りを強固に補強していたとしても、
やはり『それ自体』は『無強化』である、生身の人間の肉や骨が耐えられるわけが無い。

篭手があるからこそこの程度で済んでいるのであって、
篭手が無ければその加速度で一瞬にして、熟れたトマトのように弾け押し潰されてしまうだろう。

まあこの程度、と言っても、見ればわかるとおりとんでもない損傷具合だが。

悪魔と人間の痛みの『感度』は、経験者のステイルから言わせれば基本的に同一だか、
その痛みの『捕らえ方』が全く違う。

悪魔は痛みに慣れ、最終的には全く気にしない事もできる。
『苦痛』ではなく、タダの『肉体の損壊信号』として捕らえられるようになれる。

だが人間は違う。
小さな傷はまだしも、こういう大きな傷に慣れる事はまず無い。
意識と痛みを『分離』することは不可能に近い。

人間なのに痛みを意識しなくなってしまったら、それは慣れたのではなく『麻痺』・かなりの興奮下の『トランス状態』であり、
判断力の低下等々重大な障害が起こっている可能性が高い。

更に悪魔は短時間にして治癒する為、
その痛みもすぐに消え去るが、人間はそうもいかないのだ。
996 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:15:18.90 ID:Ip2Ds8co

上条「はは……気味悪いもん見しちまって悪いな」

その痛みが今も猛威を振るっているにも関わらず、
相変わらずのノリで笑う上条。

上条は袖を下ろして右手を隠しつつ、苦笑しながら再度ドアの方へと半身を向け。

ステイル「いや…………」

上条「じゃ、行って来るぜ。インデックスを頼む」

ステイル「…………待て。先に話しておきたいことがある」

上条「?」

ステイル「…………後にしようと思っていたが気が変わったよ。今話す」

上条「へ?」

ステイル「インデックスの事についてだ。君も知っておくべき事だ」


上条「…………」


ステイル「僕らが見た、あの『青い髪』の攻撃に関する事だ」


上条「…………」
997 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:17:25.16 ID:Ip2Ds8co

ステイルは一度小さく咳払いした後、ゆっくりと口を開き始めた。

一語ずつ確認しながら。

ステイル「まず最初に結論を言う。確実ではないが、状況証拠的にもう否定しようが無い」

上条「…………何だ?」



ステイル「インデックスはアンブラの魔女だ」



上条「あんぶら…………魔女?」


ステイル「…………まずはそこからか」

首を傾げてる上条へ向け、
ステイルは己の持っている知識と経験の範囲内で簡単に説明した。

かつて人間界に、アンブラの魔女と言う勢力が存在していたこと、
その勢力の者達は魔の力を使い、上位の者になれば普通に大悪魔クラスの力を行使すること、
ある時、天界の総攻撃によって文明としては滅んだが、一握りの頂点クラスの強者が生き延びていたこと、

ステイル自身の経験では、ヴァチカンに現れた魔女達はそれこそスパーダ一族のような規格外の力を有していたこと、
その際に見た攻撃の仕方が、インデックスのあの髪を使った攻撃にかなり類似、いや、完璧に同一だったこと。

そして。

イギリスの最大主教ローラも魔女であった事と。

インデックスと彼女の異常な程の『何か』の繋がりを。

誰も『気づかなかった』、『意識できなかった』二人の瓜二つの顔について。
998 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:20:14.68 ID:Ip2Ds8co

上条「………………ッ…………!!!!………………なッ…………はぁ!?」

いきなり、しかも一気に言われ、
頭がついていかない上条は言葉が出なかった。

上条「ま、待て……!!」

己の額に軽く左手を当てながら、
ステイルの言葉を脳内で反芻し、確認していく。

上条「…………は…………えっとよ…………あーっと……あの最大主教とインデックスが……?」


上条「確かに結構似てる気もするが……そこまでか?」

ステイル「……君でもってしても完全に『破れ』てなかったのか」

『結構似てる』という印象を持っている以上、
少なくとも以前のステイルよりも認識は強いようだが。

やはりあの二人の関係性に覆いかぶされている『ベール』からは、
上条ですら完全に逃れられていないらしかった。


ステイル「…………」

ステイルの推測だと、このベールは恐らく視覚から進入し脳に影響を及ぼす術式。

光に乗せられているような感じだろう。

そしてその光を捉えた者の脳、
二人の容姿に関する認識には永続的に術式がかかり続ける、といった形だろう。
999 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 00:23:24.63 ID:Ip2Ds8co
空間そのものに直接かかる術式ならば、
ヴァチカンにてステイルは魔女モードのローラの姿を見ても、
この容姿の類似を認識できなかったはずだ。

ステイルが認識できたのは、『ベールに包まれていない』光を捉えたことによる『矛盾』で、
彼の認識を縛っていた術式が破綻をきたし崩壊した為だ。

それに空間そのものに直接かかる術式ならば、
上条は気づかぬ内に右手で周囲の空間を浄化し、術式を打ち破ってるはず。

つまり上条の今の状態も、この術式が光に乗せられている事を裏付けている。

上条の右手は、何らかの物理現象に付加されて形を伴っている術式は、
直接触れないと打ち消すことができないのだ。


ステイル「…………」

そうなれば。

上条がこの術式から逃れるには頭に触れれば良い。
それが駄目だったら頭をかち割り、直接脳に右手を突っ込む。


普通の人間なら死ぬが、今の上条ならばできる。
『多少』苦しいだろうが。
1000 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 00:24:07.21 ID:Ip2Ds8co
Jack pot!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
1001 :1001 :Over 1000 Thread
    ´⌒(⌒(⌒`⌒,⌒ヽ
   (()@(ヽノ(@)ノ(ノヽ)
   (o)ゝノ`ー'ゝーヽ-' /8)
   ゝー '_ W   (9)ノ(@)
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ダンテ「学園都市か」【MISSION 06】 @ 2010/10/05(火) 23:32:58.52 ID:qhpTqigo
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ここだけクラシック閉鎖1日前 @ 2010/10/05(火) 23:32:29.21
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やる夫で学ぶ不思議のダンジョン @ 2010/10/05(火) 23:32:10.12 ID:Hp0TspEP
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