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唯「同じ窓から見てた海」 - 製作速報VIP(クリエイター) 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/25(土) 23:41:39.34 ID:JR0.iJAo



 


    
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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/25(土) 23:52:30.37 ID:5IqrVawo
あーあ、立てちゃった
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 00:03:46.10 ID:lc8JRsDO
よっつんばいならぬ乙んばい
4 : ◆yXdFxa9/.k :2010/09/26(日) 00:04:59.88 ID:iZ3WYGso
ここは桜ヶ丘水族館

本日オープンする水族館である




唯「わぁーい♪」キャッキャッ

律「こらー、唯はしゃぎすぎだぞーっ」

唯「だってとうとう桜ヶ丘水族館が開館したんだよー!私ずっと楽しみだったんだもん!」フンス!

紬「どきどきしちゃうわー♪」ムギムギ

律「まあ楽しみに待ってた日だもんな、しょうがないか」

澪「ふふ、まったく、みんなは子供だな」ドキドキ

律「一番楽しみにしてたのは澪だっただろ…」
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:06:02.61 ID:iZ3WYGso






唯「同じ窓から見てた海」




6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:07:09.11 ID:iZ3WYGso
そしていよいよ開館時間になった

たくさんの入場者が、魚とか鰭脚類とか哺乳綱鯨偶蹄目クジラ類ハクジラ亜目とかを見に来るというわけだ



唯「わあああ!見てみてー、いろんなのがいるよーっ♪」つんつんっ

紬「わあっ♪」



ぷくぷくっぷくぷくっ

律「おおっ、なんかかわいらしいのもいるな」

オドオドキョロキョロキョロ

律「ははっ、こいつなんてまるで澪みたいだぞーっ」

澪「むぅ…ばかりつー…」
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:08:14.56 ID:iZ3WYGso
ぷくぷくっぷくぷくっ

唯「…」つんつんっ

わらわら わらわら

唯「おおっ!!」

唯「みてみてー、私に向かってたくさん集まってくるよー」

唯の周りに集まる生き物達

紬「ふふ、唯ちゃんったら人気ねー」

「なんだかんだで唯って不思議な魅力もあるもんなー」

澪「…」ジーッ


澪(うらやましい…)
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:09:52.56 ID:iZ3WYGso
澪(わ、私も…)



ぷくぷくっ

澪「あ、かわいい…」つんつんっ

澪「こんにちは」ニコッ

さーっ

澪「あ…」

澪「逃げちゃった…」シュン
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:11:04.49 ID:iZ3WYGso
律「おい、こっちにはでかいのがいるぞーっ」

ずーんっ

唯「わああーっ、からだがおっきいー」

律「でっかいといえば、こっちの澪も…」ジロジロ

澪「へ、変な目で見るなああ…!」

紬「続けて」

唯「んもーっ、澪ちゃんなんて見飽きてるよー」
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:11:42.18 ID:iZ3WYGso
バシャーンッ

唯「わあっ、みてみてりっちゃん!向こうの水槽にダイバーがいるよぉーっ」

律「おおっエサ係だな〜」

唯「私もお腹すいちゃった…」

澪「唯は食いしん坊だな」

唯「育ち盛りだからね!」

律「でも食いすぎると、澪みたいになっちゃうぞー」

澪「余計なことを言うな!」

律「いでーっ」
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:12:35.77 ID:iZ3WYGso
ぷくぷくっぷくぷくっ

律「おいっあいつムギの方をジーッと見てるぞ」

マンボウー

唯「ほんとだー、ムギちゃんに気があるんだよー」

紬「わあ♪」

紬「マンボウー♪」

マンボウー

律「張り合うなよ…」
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:13:12.13 ID:iZ3WYGso
唯「あっ雲丹だ!」

ぷくぷくっぷくぷくっ

律「うんたんうんたん♪」

唯「ああっ!それ言おうと思ってたのにー」

律「へへ、唯の考えそうなことぐらいわからぁーっ」

唯「ぶーぶーっ!」

紬「海豚ねー」

律「海豚はどちらかと言えば澪だけどな」

ごつんっ
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:13:37.08 ID:swH7YJAo
http://beebee2see.appspot.com/i/azuYz_TmAQw.jpg
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:14:22.38 ID:iZ3WYGso
ぷくぷくっぷくぷくっ

唯「わあ、この子ユニークな顔つきだよー」

律「おーっほんとだなー」

ぷくぷくっぷくぷくっ

紬「こっちの子は小さくてかわいいわー」

律「へへっ、唯の方見てら〜」

唯「なんとっ!照れますなぁ〜」
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:16:14.33 ID:iZ3WYGso
ぷくぷくっぷくぷくっ

律「ほんといろいろいるなーっ」

ぷくぷくっぷくぷくっ

唯「うん、桜ヶ丘水族館が開館してよかったー」

紬「ええ、楽しいわー♪」

澪「私も…楽しいな…」テレテレ

律「へへ、やっぱりいいもんだな」

唯「うん、窓の外にはお友達がいっぱいだよーっ♪」
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:17:09.03 ID:iZ3WYGso
唯「あーっ、あのツインテールの子かわいいー」キャッキャッ

律「ほんと唯は人間好きだよなー」

紬「唯ちゃんは人懐こいのよね」

律「澪も恥ずかしがりを治して人間と仲良くなれよーっ」

澪「よ、よけいなお世話だ!」


ぷくぷくっぷくぷくっ
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:19:44.98 ID:iZ3WYGso
梓「…」ジーッ


アザラシ唯「コンニチワー」ぷくぷくっ

カメ律「オーッス」ぷくぷくっ

クジラ澪「…ドウモ」ぷくぷくっ

マンボウ紬「マンボウーッ」ぷくぷくっ




梓「水族館って楽しいな…」ニコッ





おしまい
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 00:21:34.29 ID:NyEyssDO


なんか虚を衝かれた感じだわ
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 00:29:37.38 ID:b02p32AO
良かった乙

同じ海から見てた窓だな
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 00:43:52.76 ID:aKERkwo0

澪が鯨ってデカすぎるなww
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 00:44:09.37 ID:I8n14U2o
乙 いいオチだ
22 : ◆hNCx62prg6 [sage]:2010/09/26(日) 00:47:36.72 ID:NyEyssDO
無事書き溜め終わった

朝まで寝ます

みんな頑張って
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 01:13:18.55 ID:swH7YJAo
http://beebee2see.appspot.com/i/azuY5JDoAQw.jpg
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 01:14:24.55 ID:swH7YJAo
http://beebee2see.appspot.com/i/azuYpvLuAQw.jpg
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 01:14:53.12 ID:swH7YJAo
http://beebee2see.appspot.com/i/azuY_NruAQw.jpg
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 01:16:01.25 ID:swH7YJAo
http://beebee2see.appspot.com/i/azuYrdLnAQw.jpg
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 01:18:16.38 ID:I7pDxcAO
お疲れさま

書くの難しそうだな
28 : ◆kT8UNglHGg [sage]:2010/09/26(日) 01:54:54.36 ID:cAgiM8s0
出来たけど、2時から投下するひといるのか
あんまり間隔つまってもあれだし、待ってるかな
29 : ◆G8NSPDDm4. [sage]:2010/09/26(日) 01:59:00.02 ID:Yr3zT2U0
トンネルを抜けると、そこには……一面の海が広がっていた。

澪「うわあ……」

思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
雄大な自然。
普段は見ないものだからだろうか、私はそれを目の当たりにする度に大きな感動を覚えるのだ。

澪「はむっ」

事前に用意しておいたポッキーを一本、口の中へ。
カリカリと食べ進めるリズムが小気味よく、チョコレートの甘味がたまらない。

澪「……んっ」

渇いたのどを潤すため、これまた事前に用意しておいた紅茶を一口。
さすがにムギが用意してくれるものとは雲泥の差があるけれど、こういう場面ならこれで十分だ。
……うん、良い気分だ。
今日は良い詩が書けるかもしれない。
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:00:25.71 ID:Yr3zT2U0
澪「……」

ガタンゴトン、と電車が揺れる。
心地よい揺れだ。
この電車には、ほとんど人が乗っていない。
私がわざと人が少ない時間を選んだからだけど、一人の世界に――自分だけの世界に入り込める。

澪「……」

窓の外を眺める。
青天の秋空の下には広い、広い海だ。
一度頭の中を空っぽにして……しようとして……

和「ふわあ……あら、海ね。もうすぐ着くのかしら?」

目の前に座る闖入者によって、見事に現実に引き戻されるのだった。
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:02:15.78 ID:Yr3zT2U0
……

澪「はあ……」

和「大きなため息ね。幸せが逃げていくわよ?」

澪「いいよ別に……」

おかしい。
そもそも今日は、歌詞が浮かばないというスランプを打破するために一人で海に行こうと決めていたはずだ。
軽音部のみんな――律にだってこのことは話していない。
明日の練習の時にばっちり完成したものを見せ、みんなを驚かせようと思っていたんだけど……

和「極細ポッキーって、数が多そうに見えることくらいしか利点はないわよね?」カリカリ

どうして和にはばれてしまったのだろうか。
ていうか勝手にポッキー食うなよ。
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:04:02.74 ID:Yr3zT2U0
澪「……」ジトー

和「あら……」

私がジト目で見つめていた効果があったのだろうか。
和はしまった、と何かに気づいたような顔をして……

和「はい、安物だけど遠慮なく食べていいわよ」

澪「それ私のだから!」

和「気にしなくていいのに……」

澪「私が気にするよ!」

和「もう、いくら人が少ないからってあんまり大声出しちゃダメよ?」

澪「和のせいなのに説教された!?」ガーン
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:05:35.53 ID:Yr3zT2U0
和「わあ、海が綺麗ね」

……本当に何なんだろうか、和は。
今朝、誰にも見つからないように(以前律に見つかってしまい、泣く泣く予定変更をした苦い思い出が……)駅に着いた私の前に、和は当然のごとく現れた。
第一声は……そう、

和『遅い!団長を待たせるなんて団員にあるまじき行為だわ。罰金よ罰金!』

…………。
誰だよお前。
一体どこの団長が来たのかとフリーズしてしまったけど、電車の発車時刻が迫っていたので慌てて中へ。
一息吐いて、さっきのは幻覚だったのだと思い込もうとしたところで……

和『それで、どこに行くの?』

目の前に、和が座っていたのでした。まる。
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:07:40.89 ID:Yr3zT2U0
澪「はあ……」

和「またため息?何か悩みがあるなら聞くわよ?」

澪「いや、主に和のせいなんだけど……」

和「……?」

キョトンとした表情で、くいっと首を傾げられてしまった。
どうやら本当に私のため息の原因が分かっていないらしい。
……しかし、和のこういう表情はけっこうレアなのではないだろうか?
無意識なんだろうけど、あどけない表情で子供っぽいというか何というか……

和「萌えた?」

澪「わざとかよ!」

もうどうすればいいんだよ、この和。
和とは一年以上の付き合いになるけれど、キャラがイマイチ掴めていない。
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:09:37.14 ID:Yr3zT2U0
和「ふふ……ミステリアスキャラを目指しているからね」

澪「考えを読むなよ!」

和「え?さっきから文字になってるじゃない、ほら」

澪「そこは地の文といって、少なくとも和は見ちゃいけない部分だよ!」

まったく、油断も隙もない……
細かいことは気にすんな☆
頼むから地の文にまで入ってくるな!

澪「はあ、はあ……」

突っ込みが多すぎて疲れる。
唯や律で慣れているつもりだったけど、和の言動には突っ込みどころが多すぎる……
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:11:16.16 ID:Yr3zT2U0
和「それにしても……いいわね、こういうの」

澪「えっ?」

和「こうやって景色を楽しみながら、小旅行。何だか楽しくて……落ち着くわ」

澪「……」

そういって微笑む和はすごく大人びて見えて……そう、綺麗だ。
……何というか、ズルイよ和は。

和「ところで澪は何をしに海に行くの?」

澪「えっ?ああ、気分転換を兼ねて詩を書きに行くんだ。最近スランプでさ……」

和「そう、大変ね」

澪「そうでもないよ、私もこういうの結構好きだし。もちろんみんなといるのも凄く楽しいけどさ」

和「ふうん」
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:12:24.37 ID:Yr3zT2U0
澪「ま、たまには一人でゆっくり考えたい時もあるんだよ」

和「……あれ?」

澪「ん?」

和「ひょっとして、私ってお邪魔だったの?」

澪「今さらっ!?」ガーン

和「て、てっきり澪は私を求めているのだとばかり」

澪「どこでそうなったのさ!」

何を言い出すんだろうかこいつは。
さっきまで『笑顔が綺麗』だとか『大人びている』とか考えていた私が馬鹿みたいじゃないか……
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:13:44.47 ID:Yr3zT2U0
和「だってだって、澪がこの前寝言で『和ちゃ〜ん、のどかちゅわ〜ん、むちゅ〜』って……」

澪「絶対言ってないよ!だいたい何で和が私の寝言を聞いているんだよ!?」

和「澪ったら……すっごく甘々な声で可愛かったわ……///」ウットリ

澪「だから言ってないって!……言って、ないよね?ねえ?」

和「……」ニコッ

澪「うわあああっ、その慈愛に満ちた笑顔でこっちを見ないでくれえっ!」

……あ、でも今のでいい歌詞が浮かんだ気がする。
夢の中でも大好きな人と、かあ。
普段は言えないような素直な言葉を、寝言であの人に聞かれちゃう……うん、いいかも。
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:15:17.89 ID:Yr3zT2U0
……

澪「……」

和「……」

二人でボーっと海を眺める。
目的地までは……もう少し時間がかかるかな。
和といる空間は何だか優しげで……居心地がいい。
いつも一緒にいる律は、周りを明るく楽しくしてくれるタイプだから……ちょっと新鮮。

澪「……なあ、和」

和「和様、でしょ?一体誰に断ってそんな失礼な口を聞いているの?」

澪「……」

ああ、これさえなければなあ……
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:17:16.74 ID:Yr3zT2U0
和「突っ込みがないのも寂しいわね……。それで何?」

澪「いや、和は何で私について来たんだ?」

ふと浮かんだ、素朴な疑問。
和も海に用があった……なんてことはないだろう。

和「……何だかその言い方だと、私が澪をストーキングしているみたいね」

澪「あ、ごめん。言い方が悪かった」

和「ふう、別にいいわよ。私はただ、早朝の街中をコソコソしていた挙動不審な澪を見かけたから、何をしているんだろうと思ってね」

澪「そ、そっか……」

そんなに怪しかったのか私……
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:20:15.53 ID:Yr3zT2U0
澪「でも何で和はそんなに朝早くから外にいたんだ?」

和「え?澪の家の電柱の側に隠れて、澪の私生活を覗いていたからだけど」

澪「えええっ!?」

和「ちなみに昨夜からいたわ」

澪「お前は紛れもなくストーカーだよ!それも悪質な!」

和「……///」

澪「褒めてないからな?」

和「照れないでダーリン」

澪「棒読み棒読み」
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:21:04.02 ID:Yr3zT2U0
和「照れないでよぅ……だぁりんっ♪」

澪「感情こめてくれっていうリクエストじゃないよ!?というか和、今のはゾクッとしたぞっ!?」

和「まあ、実際は散歩していただけよ。最近勉強ばかりで疲れていたから。澪について来たのも、いい気分転換になりそうだったから」

澪「ああ、そうか」

最近の和は確かに少し顔色が悪かった。
国立大学を狙う受験生である上、生徒会長という役職を持つ和はとくに忙しい。
さらに真面目で妥協しない性格のため、休む間もなく頑張っていたんだろう。

和「……」

窓を開け、車内に入ってくる風に当たって心地よさそうに目を細める和。
ん、何かまたいい歌詞が浮かびそうだ……
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:23:00.49 ID:Yr3zT2U0
……

澪「……」

和「……」

再び静かな時間が流れる。
窓の外は、一面の海。
二人で同じ景色を共有する……うん、これも歌詞に使えるかも。
……もうすぐ着くかな?

和「……そういえば」

澪「ん?」

和「どうして澪はわざわざ海に行こうと思ったの?一人になりたいだけなら、もっと近場でも色々あるじゃない」

澪「ああ……」

確かに。
一人でゆっくりと考えたい、というだけなら場所はいくらでもあるだろう。
でも私は昔から考え事がある時はこうして遠出をして来た。
そうしたほうがいい考えが浮かぶような気がするし、それに……
44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:24:09.12 ID:Yr3zT2U0
澪「海が好きだから、かな」

和「へえ……」

大きくて、大きくて、とてもとても大きい海。
律や唯はすぐに入って遊びたがるけど、私は海を眺めるだけでも十分心が満たされる。
何だか優しい気持ちになれるんだ。

澪「和も……海、好き?」

和「ええ、もちろん」

澪「そっかそっか!」

どんな些細なことでも、やっぱり仲間がいるのは嬉しい。
私と和は笑い合って……

和「キスをした」

澪「しないよ!」

和「ちっ」

やっぱり和は和だった。
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:25:19.62 ID:Yr3zT2U0
……

澪「ん〜〜〜、着いたっ」

和「いい天気ね……」

電車から降りて、歩くこと数分。
目的地に到着!
潮風が心地いいなあ……

和「よし、泳ぎましょう!」

澪「うん、何となく和なら言うと思ったけど。さすがにそれはない」

和「……あら?澪もレベルを上げたわね」

和のおかげでな。
正直に言ってあまり嬉しくはないけど。
……いや、律をあしらうのに意外と役に立つかも……?
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:27:08.33 ID:Yr3zT2U0
澪「それにしても、和は泳ぐのが好きなのか?」

和「ええ。さっき言ったと思うけど、海が好きだからね」

澪「ああ……でも、海がはしゃぐ和というのもイメージしにくいな」クスクス

和「失礼ね、私は昔からよく海に来ていたわ。唯や憂と一緒に」

澪「なるほど」

和「みんなが海で遊んでいる間……私はシャツとジーンズ、麦藁帽子で防御を固めてパラソルの下から一歩たりとも外に出なかったわ」

澪「それ絶対に海好きじゃないだろっ!?」

和「本を持ち込んで、潮風で傷んでしまったから浜辺からも離れたり……楽しかったわ」ウットリ

澪「そんな『海での楽しい思い出』みたいに語る内容じゃないよな!?」
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:28:05.30 ID:Yr3zT2U0
和「そんな私は山が苦手」

澪「そ、そうか……」

和「山に行くと、思わず鼻歌を歌ってしまうわ」

澪「思いっきり浮かれてるじゃん!」

和「はい、到着」

澪「え?」

和のボケにつき合っているうちに、結構遠くまで歩いて来たみたいだ。
後ろを振り返ると、二人分の足跡が長々と続いている。
……何かいいな、こういうの。
また歌詞のネタになりそうだ。
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:28:47.41 ID:Yr3zT2U0
和「何してるの?ほら澪、見て」

澪「何かあるのか……わあっ!」

地平線の彼方まで、というやつだろうか。
どこまでもどこまでも青い海が続いている、すごい光景だ。

澪「……」

言葉も出ない。
今まで何度も来たことがあるけど、これほど綺麗に、はっきりと見たことはなかったように思う。

和「今日はいい天気だし、波も穏やか。いい景色ね」

澪「うん、すごいよ……」
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:29:43.71 ID:Yr3zT2U0
和「どう?いい歌詞は浮かびそう?」

澪「え……あ」

そうだった、歌詞を考えないと。
いそいそとノートを取り出し、今の気持ちを率直に綴って行く。
今までの間に思いついた分と合わせて……うん、良い感じだ。

和「……」

隣をチラリと見ると、和は岩に腰を下ろして読書を始めていた。
私も歌詞作りに没頭しよう……

澪「……」カリカリ

和「……」ペラッ

しばらくの間、波の音に重なるようにペンを走らせる音とページを捲る音だけが響いていた。
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:31:31.86 ID:Yr3zT2U0
……

澪「ん〜、いい歌詞が出来た!」

和「ふふ、良かったわね」

帰りの電車の中。
行きとは反対側に座り、また窓から見える海を眺めながら和と話す。

澪「今まで歌詞は一人っきりの世界で考えてたけど……誰かと一緒に、というのも新鮮でいいな」

和「そうなの?」

澪「うん、いつもより色々と浮かんできたよ。和だからかもしれないけど」

和「お役に立てたようなら嬉しいわ」

ふわりと笑う和。
不覚にもドキッとしてしまう。
51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:33:00.69 ID:Yr3zT2U0
和「それなら今度は唯たちも誘ってみたら?新しい発見があるかもしれないわよ?」

澪「えっ?う、う〜ん……律や唯が来ると、異様に騒がしくなるんだよな……」

和「いいじゃない、底抜けに明るくて、楽しい歌詞になるんじゃない?」クスクス

澪「むう……」

少し考える。
確かに誰かと一緒に海に来て考える、というやり方はなかなかに有効だと実証された。
でもお守りになるだけの可能性があるんだよなあ……

和「それにほら、見て」

澪「ん、何……わあ……っ!」

和に促され、窓の外を眺める。
そこには昼間見た青い世界ではなく……
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:35:16.22 ID:Yr3zT2U0
澪「綺麗……」

夕日で真っ赤に染まった世界が、広がっていた。

和「どう?この景色、二人占めにするにはもったいないと思わない?」

澪「……」

少し悪戯っぽく微笑む和。
……うん、そうだな。
歌詞なんて関係なく、この素晴らしい景色はぜひ律に、唯に、ムギに、梓に――みんなに、見せたい。

澪「……和」

和「どうしたの?」

澪「今度はみんなで見に来ような!」

和「……ええ♪」

でも今は……和と二人でこの景色を楽しもう。
同じ窓から見ている景色でも……一緒にいる人が違えば、違う色に変わるはずだから。


終わり!
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:36:25.59 ID:Yr3zT2U0
お目汚し失礼。サクサク投下出来るのはいいねー
皆さん頑張ってください、おやすみ
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:38:32.89 ID:jrXyzyEo
乙!!
面白かったよ
55 : ◆kT8UNglHGg [sage]:2010/09/26(日) 02:46:29.94 ID:cAgiM8s0
乙!和ちゃんいいキャラしてんな
じゃあ次いくぜ
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:48:33.35 ID:cAgiM8s0

 夏休みを前にした、ある休日のことだった。

 私は憂と共にガレージの片づけをしていた。

 元はと言えば、リビングで使う大きなすだれを探しに来たのだけれど、

 これがなかなか見つからずに、捜索ついでに少し片づけをすることになったのだ。

唯「ういー、見つかったー?」

憂「だめ、全然見つからないよ。どこにしまっちゃったかなぁ」

 そんなこんなでかれこれ1時間が経つが、

 片づけの進行具合はもちろんのこと、肝心のすだれもまだ見つからない。

 そろそろ休憩を入れたいなぁ、と憂の背中を見ながら考えていると、

憂「あっ!」

 憂がなにか見つけたらしく、がさごそと荷物の下からそいつを引っ張り出してきた。

唯「なぁに、どうしたの憂?」

 私はそばに寄って、それが何なのか確認し、ごくりと唾をのんだ。

 私たちが子供のころ使っていたビニールプールが、くたくたになって横たわっていた。
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:49:47.77 ID:cAgiM8s0

 ん? 唾をのんだ? なぜ?

 私は自分の反射的な行動に不可解さを感じつつ、ビニールプールを拾い上げる。

唯「こりゃまた懐かしいね」

憂「ほ、ほんとだね。すごい昔のやつだよ……」

 答えた憂の声には、どことなく元気がなかった。

 憂もきっと片づけで疲れているんだろう。

唯「……そうだ!」

 私ははたと思いつくと、ビニールプールを持って庭に出た。

唯「うい、プールで休憩しよ!」

憂「ええっ!?」

 驚いて憂が手を開く。

 無理もなかろう、私たちは今や高校生。

 そして本来ビニールプールなんてものは、年齢が一桁でなければ入ってはいけないものである。
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:50:52.59 ID:cAgiM8s0

憂「で、でも……そんな」

 憂は耳まで赤くして、後ずさりをする。

 気持ちは分からなくもないけれど、そこまで恥ずかしがることだろうか。

唯「あー、ダメだね憂は。童心を忘れちゃいけないよ」

 私はちっちっと指を振る。

憂「童心……」

唯「そう、童心だよ」

 憂が唾といっしょに、なにか心を飲みこんだ。

憂「そうだね、今日は暑いし、汗かいちゃったしね。ここ埃っぽいから汚れちゃったし」

憂「プールとか遠くてなかなか行けないし海なんてもってのほかで、だから童心にかえってビニールプールもいいよね」

唯「うん、いいよいいよ」

 私はずらずらと理由を並べあげた憂に笑いかけると、水道にホースを繋いでまずはプールを洗い始めた。
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:51:42.88 ID:cAgiM8s0

――――

唯「よし!」

 私は額に水をかけて汗を流し、かぶりを振って水を飛ばした。

 思い出の中に封印されていたビニールプールが私の足元によみがえっている。

 憂と二人で冷たい水を掛け合って遊んだ夏の日。あのころに比べると、ずいぶん身体も大きくなった。

 私は感慨を覚えつつ、いそいそと家に上がって、合宿のときに持っていった水着に着替えた。

唯「ういー? ヘーイういー! 準備できたよー!」

 わざわざ自分の部屋まで着替えに上がってしまった憂を呼び、私は外に飛び出そうとした。

 その時、ふと私は立ち止まった。目の端に写った光景に、奇妙な既視感がある。

唯「……?」 

 窓の向こうに、揺れる水面を光らすビニールプール。

唯「……あぅっ」

 見つめていると、突然体の中から甘美な感覚が漏れ出た。

 私はぶるぶる首を振り、その感覚をはじき飛ばす。
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:52:43.06 ID:cAgiM8s0

憂「……お姉ちゃん?」

 背後から憂の声がした。

 私は正気に戻って振り返る。

唯「おぉ」

 なんというなやましバディだろうか。

 しかもそれを惜しげもなく披露するような面積の小さい水着。

 妹のくせに、姉に恥をかかせようというわけである。

唯「大した度胸じゃん」

憂「そ……そうかもね」

 憂はまた顔を赤くして、鼻を掻いた。

唯「……?? まぁ、うん……」

 どうにもさっきから、憂の反応がおかしい気がする。

 ただの気のせいだろうか。
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:54:06.17 ID:cAgiM8s0

 いや、おかしいと言うなら私の方こそ。

唯「……っん」

 外に置いてあるビニールプールを見て、私はまた酔いしれた。

 この感覚は、一体何なのだろう。

 知っているような気がするのに思い出せない。

唯「行こっか」

 私は視線を窓から外すと、憂の手を取った。

 素足をぺたぺた鳴らして外に出ると、庭を歩いてプールの水に足を突っ込む。

唯「〜〜っ」

 まだ夏の最盛は来ておらず、気温もそれほど高くない。

 水の冷たさに、私はぶるりと震えた。

憂「ど、どうお姉ちゃん?」

 憂の声がかかる。

 ええい、ここまできて引き下がれるか。
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:55:18.20 ID:cAgiM8s0

 私はゆっくりと足を曲げ、プールの水に浸かった。

 入ってしまえばどうというほどでもない。たかが半身、体が冷えてしまうわけでもなかった。

唯「良い感じだね。憂もおいでよ!」

 ばしゃばしゃ水を叩いて、私は憂を呼ぶ。

 憂は少しためらった後、そろそろと足をプールに入れていく。

憂「つ、つめたくない?」

唯「ない」

 じれったくて、私は憂の足を掴んで強く揺さぶった。

憂「きゃっ!」

 バランスを崩した憂が私に倒れこんでくる。

 私はさっと腕を広げて憂の体を受け止める。ばしゃあ、と水が溢れて、私たちは抱き合うような格好になった。

憂「……もうっ」

 憂が抗議の声を上げたが、私の意識は別のことを考えていた。

 違う。こっちじゃない。

 逆だ。
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:56:34.10 ID:cAgiM8s0

 私は全身に力を入れると、ぐるりと回って憂を下に押し倒した。

 さらにプールの水量が減る。

憂「だだ、だめっ」

 ようやく憂が慌てて私の腕から逃れようとする。

 もう遅い。私は思い出してしまった。

 むかーしむかし、このビニールプールであったことを。

 膝を水に浸しながら抱いた感情を。

唯「憂……」

憂「やめて、おねえちゃぁんっ」

 私は憂の首筋に舌を這わせた。

 憂の口からでる言葉は、やや快感に煽られたふうに揺れる。

憂「だめ、だってば……」

 抵抗の声が小さくなっていく。

 代わりに憂の体が熱くなっていき、私たちの水濡れた体を冷やさないようにしてくれた。
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:57:40.94 ID:cAgiM8s0

唯「ん、ういっ、うい……」

 私の舌は、憂の体と磁石でくっついているかのように離れず、かつ自在に滑っていく。

 私は水着のふちから舌を差し込み、憂の乳首を舐めようと懸命に動かした。

憂「あっ、いや……んううぅ……」

 けれど、私の舌先に突起の感触は訪れない。

 舌裏に感じる、憂の肌とは違う感触から思うに、ギリギリで届いていないのだろう。

憂「ん、は、くぅ……やめて、そんなの……」

 憂が苦しそうにうめく。

 私だって憂を気持ちよくしてあげたいのに、もう少しで舌が届かない。

唯「……うい」

 私は一旦、水着との隙間から舌を抜くと、憂の名前を呼んだ。

憂「うん……?」

唯「家の中でなら、脱がしていいよね?」
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 02:59:04.18 ID:cAgiM8s0

――――

 私はリビングで早速憂を押し倒した。

 初めにキスをして、それから水着を脱がしておっぱいを吸う。股間に舌を這わせる。

 手は使わず、おもに口舌で憂に刺激を与えていく。

 あの日もこんなオーラルセックスだったな、と私は思い出していた。

 憂の視線が窓の外を向く。

 外を気にしているのではなく、ビニールプールを見つめている。

唯「海に行きたい、って憂が言ったんだよね」

 こくりと憂が頷く。

唯「だけど私たちだけじゃ無理だから、ビニールプールを用意して遊んでた」

唯「そしたら……変なはしゃぎ方しちゃったんだよね」

 私もビニールプールを見た。

 そこにあるべき海は、あの日と違い水たまりのような浅さであった。
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 03:00:28.18 ID:cAgiM8s0

唯「そうして、いつの間にか家に戻って……海を見ながらエッチしたんだったね」

唯「……忘れてたよ」

 私は息を吐いて、憂の鎖骨にキスをする。

憂「そりゃあ……忘れるようにしてたもん」

憂「覚えていたら、こういうふうになっちゃうから」

 憂は首をもたげて、私の耳をぺろりとなめた。

憂「……姉妹なのに」

唯「そうだね。でも……」

憂「でもじゃないよ」

 私が言いかけた言葉を、憂は厳しい口調で止めた。

憂「……また、忘れなきゃだめ。こんなのいけないから」

唯「……」
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 03:02:15.69 ID:cAgiM8s0

唯「ふぅーっ……」

 私は、涙が出そうになるのを懸命にこらえた。

憂「……」

 憂が視線を惑わせた。

 私の体を眺めて、結局はくちびるにキスをする。

憂「ん……」

 切なげな声をあげて唇を離した憂の頭を、だまって撫でてあげた。

 憂は深呼吸をした。

憂「けど、ね……」

唯「うん?」

 重たい口調で、憂は言った。

憂「私は、ちゃんと覚えてるから……」
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 03:03:32.98 ID:cAgiM8s0

憂「いつまたこんなことがあっても、びっくりしないように……」

憂「急に昔のあやまちを思い出して、苦しくならないように……」

憂「私がちゃんと覚えておくから、お姉ちゃんは忘れてね」

唯「うい……?」

 それって、と言おうとした私のくちびるを憂が塞ぐ。

憂「ん……お姉ちゃんは何も考えなくていいから」

憂「ことが終わったら、ちゃんと忘れるんだよ」

唯「……」

 私は頷けなかった。

 こんなことを言われてしまって、もはや忘れられる自信はない。

唯「憂……これから嘘をひとつだけ言うから、何も言わずに信じてくれないかな」

憂「……うん、いいよ」

 憂の吐息が熱くなったのがわかった。

唯「今後……こういうことがあっても、ちゃんと忘れるって約束する」
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 03:04:48.71 ID:cAgiM8s0

 こくりと憂は頷いた。

憂「約束だね」

唯「それじゃあ……」

 嘘はひとつだけ。

 私は深く息を吸うと、憂の瞳を見つめた。

唯「好きだよ、憂」

憂「……私もだよ、お姉ちゃん」

 私たちは笑い合い、ふと、窓の外を見た。

 ビニールプールに潮が満ちているような気がした。


 おしまい
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 03:07:30.63 ID:cAgiM8s0
こんなところです
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 03:12:15.81 ID:aKERkwo0

エロくて吹いた
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 03:30:27.29 ID:swH7YJAo
http://beebee2see.appspot.com/i/azuY64HvAQw.jpg
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 03:30:57.86 ID:swH7YJAo
http://beebee2see.appspot.com/i/azuYi9TpAQw.jpg
74 : ◆ZoaEhxgi7I [saga]:2010/09/26(日) 04:55:34.57 ID:LBXmWLk0
そいじゃ5時からの行きます!

<諸注意>

※作中時間として唯たちが1年で、夏合宿〜学園祭ライブの話です。

※けいおん!第1巻を手に取り、一緒に読んでみるのを奨励。

※梓はこの段階では未登場なので出ません。ファンの方ご了承ください。

※ちょっとだけ”ハレルヤオーバードライブ!”というバンド漫画とクロスさせてます。

※「」は肉声。『』はパソコンやマイクからの音・音声とします。


※そんじゃ、テンションバリバリで投下してくぜぃ! 


  ”夜 露 疾 駈 !”
75 : ◆ZoaEhxgi7I [saga]:2010/09/26(日) 04:57:15.56 ID:LBXmWLk0
[前半]

<舞台は紬の別荘。唯たち初めての合宿初日、その夜まで遡る>


白い湯気とバスタオルを体にまとい、

4人の乙女が露天風呂から脱衣所までやってきた。


澪「ふー。いいお湯だったな」

紬「この別荘は広くはないけれど、ここの露天風呂は好きなのよね」

律「おーい、唯行くぞ〜。キンキンに冷えたフルーツ牛乳だぁ!」


ぽ〜い!


唯「はわわわわわ」


きゃっち!


律「ほら、澪もムギもいくぞ〜」

澪「コラ、投げるな!」

紬「うふふ、いただきます」


律「そいじゃァ!」

キュポポン×4

グビッグビッグビッグビっ×4

ぷはぁー×4
76 : ◆ZoaEhxgi7I [saga]:2010/09/26(日) 04:58:26.78 ID:LBXmWLk0

律「ぅくーっ! たまらん!」

澪「律、その言い方おっさん臭いぞ」

唯「お風呂のあとの牛乳って、最高のひと時だねぇ〜」

紬「ええ、そうね〜」


時計は午後10時を少し回ったくらい。
あたりはとても静かで、遠くでセミの鳴き声が聞こえてくるくらいだ。
4人はパジャマに着替え、リビングにやってきた。


澪「よし! 明日は朝から練習するからもう寝るぞ」

律「ええええええええええええええええええええ!」

澪「な、なんだよ律」

律「澪、お前は私をおっさん臭いといったけど、お前はおばあちゃんだなっ」

澪「な、なんだってー!」

律「だってー! まだ寝るの早すぎるぅ〜! もっと遊ぼうぜぇ〜。なーなーなー!」

ジタバタジタバタ
77 : ◆ZoaEhxgi7I [saga]:2010/09/26(日) 04:59:39.77 ID:LBXmWLk0

唯「うん。みんなで大富豪しようよ。大富豪!」

律「いいねぇ。あたしトランプ持ってくるよ」

澪「ええい! やめろ! やめろぉ! もう寝て明日に備えるのっ!」

唯「ぶーぷー」

紬「私も、寝るには少し早い気もするわぁ」

澪「ちょ、ムギまで!」

律「そうそう。唯もギター弾けるようになってんだし、遊んでても大丈夫さ」
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:01:37.52 ID:LBXmWLk0

澪「確かに唯のギターもいい感じだけど、でももっと上手くなるよう練習する方がいいだろ!」

律「この〜。まじめで堅物のいけいけ頑固ちゃんめ〜」


ぐぬぬぬぬぬぬ……


唯「どうしよう、ムギちゃん?」

紬「それじゃぁ中間を取ってこうしない」

律&澪「中間?」


紬「他のバンドの演奏を見てみるの。その、インターネットの動画サイトから」

唯「ほうほう」

紬「そしたら演奏時の参考になるし、一通り見てたらいい時間になるんじゃない」

律「おお、それはいい」

澪「私もそれなら賛成。上手い人たちのを見れば勉強になることも多いだろうしな」
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:02:37.69 ID:LBXmWLk0

彼女らは別荘にある、大きめのパソコンに電源を入れる。

パソコンの名前はWindows。画面の枠が”窓”に見えるため、そう名づけられた。


紬「ちゃんと、ネット回線も繋がってるでしょう」

律「あぁ、回線速度も悪くない。ぬるぬる動画が見れそうだ」

唯「”ぬるぬる動画”ってなんだか卑猥な響き///」

澪「よーつべあたりにあるかな? 律、検索してみてよ」

律「おっけー」

カチカチッ
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:03:43.77 ID:LBXmWLk0

カチカチッ

律「さーて、動画サイトを開いたものの、」

紬「そうねぇ。どんなバンドを見てみる?」


唯「はいはい! 私<アニメ、はるみねーしょん>の第1話見たーい」

澪「バンドの演奏を見るんだろうが!」

唯「じゃぁブルーハーツ! もしくはRCセクションの!」

澪「し、渋い」


紬「でもあんまりレベルの高い人たちのを見ても、参考にできないんじゃぁ」

澪「そうだな……いや、でも色々と見てみようよ」

律「じゃぁ”邦楽”と適当なワードで検索して、いくつかリンクを踏んでみるか」

カチカチッ
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:04:58.03 ID:LBXmWLk0

唯「へー、音楽関連の動画って結構あるんだね」

律「めぼしそうな動画を、片っ端から見てくか」

澪「見終わったら、みんなで感想を言い合おう」

紬「はい。そういえばお茶とかは用意します?」


唯澪律「ちょーだーい」×3

ポクポクポク……

律「よし、お茶も手に入れたことだし、まず1組目再生」カチッ


タンタタンタタンタタタタ タンタタンタタンタタタタ♪

(略)

ジジャーン!


唯「こーいうのってカントリー調って言うんだよね」

紬「ほんとに『美しい日』って感じな、海が似合う曲ね」

律「バンド名のイメージと音が、まさしくあの冒険小説の主人公だな…」

澪「普通すぎて逆に新鮮。よかったよ」
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:06:13.62 ID:LBXmWLk0

律「それじゃぁ2組目!」カチッ


ジャンデェジャンデジャンデ、ジャンデジャンデジャン〜。♪

(略)

ジャーン!


唯「これは若さが全力疾走い! まさに青春!」

紬「そうね〜。紙飛行に乗ってどこまでも飛んできたくなる曲ね」

律「なんかこう。キラリ輝く”閃光”ってかんじだな」

澪「文化祭っぽさに親近感が湧くなぁ」



律「それじゃぁ3組目!」カチッ

チャンチャッチャッチャチャ、チャンッチャッチャチャー♪、チャンチャッチャッチャチャ、チャンチャチャッチャ〜

(略)

セーーーーーーー…

唯「この5人って仲良くバンドしてそうでいいね〜」

紬「歌詞も中高生の心情をキュッと掴んでるわ〜」

律「そういえばこの曲のタイトルと同じ、ジャンプの主人公いなかった?」

澪「いないよ。でもそれってスラムダンクの主人公のことだよな」
83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:07:21.82 ID:LBXmWLk0

律「それじゃぁ4組目!」カチッ

ホワホワホワワワン ホワホワホワワワン ホワホワホワワワン ホワホワホワワワン アハン♪

(略)

ジャン♪

唯「なんで味噌汁?」

紬「さぁ?」

律「みお〜。ブッシュってどーゆー意味ぃ?」

澪「それはぁ、つまりちん毛って意味っ! って何言わせるんだよーーーーーーっ///」



律「それじゃぁ5組目!」カチッ

―――
――
84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:08:27.28 ID:LBXmWLk0

唯「みんなで一緒に曲を聞いてくと楽しいねぇ〜」

律「でも私たちのバンドも参考になる。ってのはなかなかないな」

澪「私たちの感想も、演奏じゃなく曲の方だったしな。いまさらだけど」

紬「今度は高校生のバンドでも聞いてみない?」



律「高校生のバンド……そういえば気になる噂があんだけど」

唯「んー。どんなどんな?」

律「あぁ。なんでも、とあるライブハウスの出来事なんだが」

紬「ふむふむ」

律「コスプレでステージに上がった、高校生バンドのギタリストがいたらしい」

澪「それはまぁ、珍しくもなくないか?」
85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:10:01.07 ID:LBXmWLk0

律「いや、そのコスプレ衣装が問題で、”ウマ”のコスプレなんだよ」

澪「……”ウマ”のコスプレって、さすがにそれは」

紬「……どんなのかしら?」

唯「本当ならちょっと見てみたいね」


律「もしかしたら、よーつべ内にあるかも。検索していいかな」

唯「どうぞどうぞ」

律「えーっと、確かあのバンドの名前は……」






律「”メタルりかちゃん”だ」

カチカチッ
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:11:37.54 ID:LBXmWLk0

律「おっ。”メタルりかちゃん”で検索したら1件ヒットした。ライブ映像みたいなのがある」

唯「折角だから見てみようよ」

澪「うん。律、再生よろしく」

律「おっけー。それじゃぁポチットな」


カチッ


――パソコンの画面から、映像が流れ出す。


ワーワー!!

ボーカル『今日はこのバンド、”メタルりかちゃん”のライブへようこそぉ!』

観客『ワー』


紬「けっこうお客さん入ってるわね」


ギタリスト『声が小せぇもう一回ィィィィィ!』

観客『ワーワーワーワーワーワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!』


澪「この人の……なにこの衣装? 海賊? バイキング??」


ベーシスト『準備できたよ』

ドラムス『こっちも〜』

ボーカル『う〜し』
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:12:38.31 ID:LBXmWLk0


唯「どんな演奏するんだろう?」

律「”メタルりかちゃん”だからな。メタルだろ」


ボーカル『それじゃぁ一曲目! 毎度おなじみ”メタルりかちゃんのテーマ”から』

観客『わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜lっ!』


澪「みんなテンション高いなー」

紬「楽しそうでいいわね〜」









ドラムス『それじゃいくよ〜』

ドラムス『イチ!! ニ!! サン!! シッ!!』カッカッ



 カッ♪





唯澪律紬「おお〜〜〜〜っ!」
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:14:28.68 ID:LBXmWLk0

ギター『ギュァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

ドラム『┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨ン!』

ベース『ガガガガガガガ!ガガガガガガ!がががががが!ガガガガガガ!ガガガガ╋┓″ッ!』

ボーカル『╋┓″ゴオッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』



唯澪律紬「す、すごい……ヘビーメタル!!」



唯(大空へ昇っていく、ドラゴンみたいな音を出す、すごいバカテクギタリスト!)

律(めちゃめちゃ叩いているのに、決して崩れない、百獣の王みたいな熟練ドラマー!)

澪(巨大な猛毒コブラのように、存在感のある、地面を這っていく重量ベース!)

紬(他の音圧に負けない、かいじゅうの咆哮のような力あるボーカル!)



唯澪律紬(これで私たちと同じ高校生!?)


観客『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 ジャーン♪

ワーワー



唯澪律紬「……」
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:15:30.69 ID:LBXmWLk0

唯「( ゚д゚)ポカーン」

澪「( ゚д゚)ポカーン」

律「( ゚д゚)ポカーン」

紬「( ゚д゚)ポカーン」


唯「( ゚д゚)……」

澪「( ゚д゚)……」

律「( ゚д゚)……」

紬「( ゚д゚)……」





澪「も、もっかい見てみよう」

律「う、うん」
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:16:35.62 ID:LBXmWLk0


ギター『ギュァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

ドラム『┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨┣″┣¨ン!』

ベース『ガガガガガガガ!ガガガガガガ!がががががが!ガガガガガガ!ガガガガ╋┓″ッ!』

ボーカル『╋┓″ゴオッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

―――
――



唯「……すごいね」

紬「ええ」


律(この人たち、すげぇカッコイイけれど、)

澪(このレベルの演奏をするのは、今の私たちには無理だなぁ……)

紬(私たちも一生懸命だけど、それでもこの人と比べると、まだまだって感じねぇ〜)

唯(……)
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:18:26.19 ID:LBXmWLk0

唯「……でも、この人たちの音楽も凄いけどさ、」

律「おお?」


唯「観客の人たち、すっごい盛り上がってるよね」


観客『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


唯「この歓声、まるで津波のような勢いがあってさ」

澪「うん」


唯「もうみんな、ハイテンションで、”感動の海”に飲まれまくってます、って感じだよね」

紬「そんな感じね。本当に”感動の海”、だわ」
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:19:59.52 ID:LBXmWLk0

唯「私たちの演奏でも、こんな、”感動の海”は作り出せるかな……」


澪律紬「……」


唯「みんなで同じ、モニターを見てるだけじゃなく、私は、向こう側の”海”に触れたいっ!」


澪律紬「……」


唯「こんな、観客を魅了するようなライブを、学園祭でっ!」





唯「 ねぇみんな! やったろうじゃんっ!! 」
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:21:59.89 ID:LBXmWLk0

澪「……そうだよ! やってやろうよ! 唯!!」

紬「”メタルりかちゃん”さん達には及ばないかもだけど、がんばろう!」

律「おおし! その意気やよし! うん! 軽音部しゅーごー!」

唯澪紬「うおー!」×3
がしっ


――4人は円陣を組んだ。


律「私たち4人はさっき、”メタルりかちゃん”が創った”感動の海”をモニター越しに見た」

律「今度の学祭ライブでも、同じようにモニターから…」


律「…いや、<同じ窓から見てた海> を、私たちもこの手で作りだそう!」


澪「ちょい待ち、なんだその言い回しは」

律「詩的表現だよ。<みんなで一緒に モニター越しで 見ていた感動>よりかっこいいじゃん」


律「とにかく、負けてられないぜぇぇぇぇ!」


唯「うん!」

紬「やろう!」

澪「やってやろう!」
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:22:50.80 ID:LBXmWLk0

律「桜ヶ丘高校軽音部〜ファイトォォォォ!」

唯澪紬「おー!」×3





律「じゃぁもう寝ようか」

唯澪紬「
        ∧∧
       ヽ(・ω・)/   ズコー
      \(.\ ノ
    、ハ,,、  ̄
                   」

澪「なんでだよ!」

律「だってもう夜中2時ジャン。今夜は寝よう。んで早起きして練習!」

紬「そうね。さすがにもう寝なきゃ」

唯「早起きして練習だねっ」

澪「…………わかったよ。じゃぁおやすみ〜!」

―――
――
95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:23:48.38 ID:LBXmWLk0

<翌朝>

律「さてさて、」

律「まぁ私が一番に早起きしたわけですが……」


紬「zzz」

唯「うぃ〜。もう食べられないよ〜。うへへへ〜」

澪「ぅーん」


律「おーい。朝だぞー。澪はパンツ丸出しだと風邪ひくぞー」

澪「むにゃむにゃ……」


律「とりあえず写真撮っておこ」

パシャッ
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:25:27.57 ID:LBXmWLk0
[後半]


気持ちを新たにした夏合宿も終わり、夏が終わり、2学期となる。



その間も”同じ窓から見てた海を、この手で創り出す”

これを合言葉に、彼女たちはライブに向けて練習をがんばった。


いろいろと細かい所も詰め、ライブではオリジナルの曲をやることに。

ボーカルは唯が、ギターも担当しながらやることになったのだが……




唯「ギター弾きながら一緒に歌、歌えない…orz」

さわ子「仕方ないなぁ…」

さわ子「先生が一週間。つきっきりで特訓してあげるわ!!」

唯「先生っ!!」


さわ子「それじゃまず歯ギターのやり方は…」

唯「それはいいです。」
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:26:39.13 ID:LBXmWLk0

さわ子「さて、ボケはここまでよ。これからは血のにじむような特訓の開始よ!」

唯「望むところです! さわちゃん師匠!」


さわ子「よろしい! とりあえず、ギターでも歌でも大事なのは、質のいい反復練習よ」

唯「おっすです! 師匠!!」


さわ子「時間はあるわ。最初は本当にゆっくりのペースでいいから。丁寧に歌とギターを弾くの」

さわ子「そして慣れてきたら一段階ペースを上げてみる。難しいところでは決してごまかさず、」

さわ子「できるまで何度も何度も反復練習をする。とにかく頭でなく、指に、喉に、体に覚えこますの」

さわ子「それだけで全然違った世界が見えるようになるわ」

唯「はい! 頑張ります!」


ジャァアァアアアアン!

唯「君を見てると〜」
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:28:20.13 ID:LBXmWLk0
―――
――


……そうして、1日目の特訓が終わった。

さわ子「よし! 今日はこれまで」

唯「はい! ありがとうございました」


さわ子「それにしても平沢さん。気合入ってるわねー。何かあったの?」

唯「みんなと約束したんです。”同じ窓から見てた海”を作り出そうって」

さわ子「う〜ん? どういうこと」

唯「ようするに、見に来てくれた人を、興奮の渦に巻き込むようにしたいんです」

さわ子「なるほど。その心意気やよし! のこり6日も頑張りましょう」

唯「はい!」


――そうしてさわ子の教えを忠実に守り、ハイペースで頑張った結果……
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:34:07.95 ID:LBXmWLk0
<1週間後>

さわ子「みんな! 待たせたわね!!」

さわ子「さぁ唯ちゃんっ!!」

唯「……」コクッ


  ギャイイィンッ


澪「おおーーっ!! ギター上達してる!!」

紬「わーっ」


唯「君゛を゛見゛て゛る゛と゛い゛つ゛も゛ハ゛ート゛ドキ゛ドキ゛〜」


律澪紬「
        ∧∧
       ヽ(・ω・)/   ズコー
      \(.\ ノ
    、ハ,,、  ̄
                 」



さわ子「いやー。練習させすぎちゃった☆」

唯「こ゛え゛枯゛れ゛ち゛ゃ゛っ゛た゛☆」

律「だめじゃん!!」
100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:35:41.73 ID:LBXmWLk0

――最終的にボーカルは澪になった。


このアクシデントがあってからも、4人は最後の追い込みを頑張った。

すこしでもいいものができるように。

すこしでも、あの動画の、演奏力に近づけるように。


4人とも、観客の感動の”海”を、

自分たちの手で創りだすっていう気持ちは、ずっと一緒だったから。










――そして本番
101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:36:46.29 ID:LBXmWLk0

律「よーし。みんないくぞーっ!!」

唯&紬「おーっ!!」

澪「……」ブルブル


アナウンス『続きましては、軽音部によるライブです。皆さん盛大な拍手を』



  わああああああああああああああああああああああああおああああああああああっ


澪(だ…だめだっ…!!)

唯「澪ちゃんっ!!」





唯「私、澪ちゃんが頑張って練習してたの知ってるから!」

澪「……」

唯「絶対大丈夫だよ! がんばろう!」

澪(……)
102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:37:55.03 ID:LBXmWLk0

澪(……そうだよな)


澪(”海”を作ろうって、約束したもんな。それでみんな頑張ってきた)


澪(だったら、怖気づいてなんていられないじゃないか!)


澪(……律、行けるよ!)


律(よし! ムギに唯。準備はいいか)


紬(おっけーよ!)

唯(ばっちこいだよ!)


律「……」

律「1・2・3・4!!」カッカツ


  ジャラァァン♪


澪「きみを見てると、いつもハートドキドキっ!」

  わああああああああああっ
103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:39:07.68 ID:LBXmWLk0

唯(おおっ、始まった)


唯(練習通りに、私は指を動かしていく。と同時に色々な音が聞こえだす!)


唯(……澪ちゃんの歌声が、少し震えてるのが分かる!)


唯(そして律ちゃんのドラムが、少し走り出した!)


唯(澪ちゃんはそれに気づいて、リズムキープと声音をしっかり保った!)


唯(ムギちゃんはあくまで全体が自然になるように、キーボードを弾いている!)


唯(わたしはわたしの役目を果たすため、全力でギターを演奏し続ける!)
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:41:49.49 ID:LBXmWLk0

唯(大舞台なのに不思議と緊張はない。次はすこし難しいBメロ)


唯(逆光で分かりにくいけど、観客の何人かが、手拍子しているのが分かる)


唯(アンプの音が割れて、雑音が入ったのが聞こえた。何故だろう。演奏に集中しないといけないのに、)


唯(むしろ時間の流れがゆっくり感じられて、全部の音が見えているように流れて、耳から入ってくる!)


唯(澪ちゃんの、りっちゃんの、ムギちゃんのリズムが、体の中に入っていって、)


唯(それに合わせて指を、どう動かせばいいか、わかる。というより自然と指が動いてく!!)


唯(何度も何度も何度も何度も、練習してきたせいかな?)


唯(少しアドリブを入れてみると、澪ちゃんが驚いた。ごめんごめん)
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:43:23.70 ID:LBXmWLk0

唯(見えないけど、後ろのりっちゃんが、スポットライトで熱そうにしている)


唯(左側にいるムギちゃんが、楽しそうに笑い出そうとしている)


唯(……いつの間にか、他人の感情まで、私の耳に、体の中に流れ込んできてる)


唯(なんだか、私の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる)


唯(……1番も終わりだ。声が枯れてるけど、コーラスは歌う)


澪「ふわふわたーぁいむ!!」

コーラス「ふわふわたーぁいむ!」

澪「ふわふわたーぁいむ!!」

コーラス「ふわふわたーぁいむ!」たーいむ」


唯(2回目のコーラスで、5人ほどの観客が歌っていた)

唯(2番のコーラスでは、客席の半分が歌うのが、この時点でなんとなくわかった)
106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:45:07.91 ID:LBXmWLk0

唯(そうして歌は2番に入る。私たちも観客も、だんだんテンションが上がってゆく)


唯(私の指は相変わらず、オートマチックで動いていく。テンションも指も止まれない!)


唯(客席の半分が立ち上がって、私たちに合わせて手拍子をしてくれてる)


唯(私の、澪ちゃんの、りっちゃんの、ムギちゃんのリズムが、体の中に入っていって、)


唯(そこに客席からの手拍子が混じって、体の中で大渦を巻いて、私の体からはみ出たその渦が、)


唯(私のギターの音に乗って、この体育館中を、この空間を駆けていく!)



唯(1人1人の音が、その渦に巻き込まれ、その渦がますます大きくなる!!)
107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:47:21.86 ID:LBXmWLk0

唯(気づけば、この体育館中で奏でられた、私のギターが、澪ちゃんの声とベースが、)


唯(りっちゃんのドラムが、ムギちゃんのキーボードが、観客の手拍子と声と息づかいと心音までもが、)


唯(一つに合わさって、巨大な一体感が生まれてく……そうして、)





唯(合宿のとき、モニター越しでしか見たことのなかった、)


唯(あの時創り出したいと思っていた、まるで本物みたいな、歓声の津波が起きて!)


唯(私たち4人が一緒に手を伸ばしてた、”同じ窓から見てた海”が、目の前に現れた!!!)



観客「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああー」

108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:48:10.16 ID:LBXmWLk0


唯(私たちの演奏は、まだまだ下手だ)


唯(そうだとしても、みんなが、世界が一つになってゆく感覚が、ここにあった)


唯(頑張って練習してよかった。これが、バンド……。音楽!)


唯(まるで魔法みたいだ……この楽しさは、やめられないっ!)



唯(演奏の途中だけど、無性に叫び出したくなってきた)



唯「けいおん大好きーーーーーーーーーーーーーぃ!」
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/09/26(日) 05:48:38.02 ID:LBXmWLk0

――そうして、軽音部4人の演奏は終わった。


澪「みんな、ありがとーっ!!」

律(これで澪も恥ずかしがり克服できそうだな)


ガッ


びたっ

澪「きゃんっ!!」

澪「あいたたた……」


ざわ……ざわ…………


澪「え……?」



  いやあああああああああああああああああぁぁぁ...




――こうして今年の文化祭は幕を閉じました。

<終わり>
110 : ◆ZoaEhxgi7I [saga sage]:2010/09/26(日) 05:53:54.90 ID:LBXmWLk0
解説・補足

いかがだったでしょうか?けいおんSSを書き終えたのは初めてです。
とにかく、なんとなくでもいいから熱い話を書いてみたかった!

(あと同じトリップで別作品のSSを書いとります。見かけたら援護よろしくm(_ _)m)


「同じ窓から見てた海」

=「メインの4人が一緒に、パソコンのモニター越しに見てた、ライブ客の感動(一体感)」

そしてそれを手に入れるために頑張ってた。という話です。


”窓”や”海”の解釈は強引です。反省はするが後悔はしていない。


ちなみに、作中で出てきた”メタルりかちゃん”ってのは

『ハレルヤオーバードライブ!』という青春ラブコメ音楽漫画(?)に登場するバンドです。

その漫画内では主人公の先輩・道しるべ役なので、このSSでもその役目をやってもらいました。

またこの漫画、楽器の演奏描写がカッコよく、音楽を通して結ばれる絆、ってのは

けいおん!と通じる部分があるので機会があれば一読おすすめ。


あと前半で唯たちが見てたのは
HUCKLEBERRY FINNとGalileo GalileiとWhiteberryとRADWIMPSのPV(?)です。


そいじゃこんな感じでしゅーりょー!  次の人っ!

  (=゚ω゚)ノ タッチ! 
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 06:08:30.36 ID:jk2WkkSO
お疲れ〜

ハレルヤオーバードライブも読んでみるわ
112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 07:15:10.89 ID:cAgiM8s0
おぉー、面白かった
乙!
113 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 08:44:35.58 ID:yCZbnEAO

唯「ねえ、澪ちゃん」

澪「何?」

唯「海だね」

澪「海だな」

唯「広いね」

澪「広いな」

唯「静かだね」

澪「本当にな」

唯「いい天気だね」

澪「暖かいな」

唯「綺麗だね」

澪「透き通ってるな」

114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 08:46:47.31 ID:yCZbnEAO

唯「海ってさ」

澪「うん」

唯「しょっぱいし、お魚もワカメもタコもカニもおいしい」

澪「食べ物ばっかりだな」

唯「たくさん泳いで遊べるし、いろんなものが見られるし」

澪「生命の起源でもあるな」

唯「海っていいね」

澪「そうだな」

115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 08:47:59.00 ID:yCZbnEAO

唯「……」

澪「……」

唯「澪ちゃん。歌詞考えないの?よく海の歌ってあるじゃん」

澪「やめておくよ。今考えても、きっと素敵なものにならないだろうし」

唯「それもそうだね」

澪「それに、今難しいことを考えたら寝てしまいそうだから…」

唯「あ、わかる。あれってなんでなんだろうね?」

116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 08:49:07.13 ID:yCZbnEAO

唯「……」

澪「あっ、魚がはねた」

唯「えっ、どこ?」

澪「ほら…あっち。あ、またはねた!」

唯「見えないよ…」

澪「たぶんあの辺にたくさんいると思うんだけど…見てくる?」

唯「ううん、やめとく。だって、帰って来れなかったらやだもん」

澪「魚がはねるなんて、珍しくもないし、それがいいと思うよ」

117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 08:51:31.18 ID:yCZbnEAO

唯「そういえばさ、澪ちゃん」

澪「どうした、唯?」

唯「澪ちゃんは怖くなかったの?魚」

澪「ああ…怖かったよ。海の広さ…深さかな?含めて、不気味で、不安で仕方なかった」

唯「だよね」

澪「でも、今はそんなに怖くないかな。私たちが何かされたわけじゃないし、それに」

唯「それに?」

澪「怖いと思うようなことがあっても、その頃には、きっとそう思わなくなってるよ」

118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 08:52:31.24 ID:yCZbnEAO

唯「ねえ、澪ちゃん」

澪「何?」

唯「海だね」

澪「海だな」

唯「広いね」

澪「周りに何も見えないくらいにな」

唯「静かだね」

澪「船の音でも聞こえたらいいのにな」

唯「いい天気だね」

澪「天気が続いたおかげで体が冷えにくいな」

唯「綺麗だね」

澪「それでも底が見えないよ」

119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 08:53:28.86 ID:yCZbnEAO

唯「海ってさ」

澪「うん」

唯「喉が渇いても水を飲めないし、道具がないから、お魚もワカメもタコもカニも食べられない」

澪「たくさんいるのにな」

唯「いつも泳いで遊んでたのに。可愛い生き物も全然いない」

澪「命が生まれる場所のはずなのにな」

唯「海ってひどいね」

澪「そうだな」

120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 08:54:37.44 ID:yCZbnEAO

唯「二人でずっと見てる海。同じ窓から見てる海」

澪「うん」

唯「見飽きちゃったね」

澪「変わらないからな。仕方ないよ」

唯「大きな船だったのにね」

澪「本当に、何があるかわからないな」

唯「腕がつりそう」

澪「私も」

121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 08:55:35.35 ID:yCZbnEAO

唯「……」

澪「……」

唯「何日目だっけ」

澪「知らない」

唯「あとどれぐらい、このよくわからない窓に掴まってたらいいんだろ」

澪「さあな」

唯「りっちゃんとムギちゃん、何してるのかな」

澪「何か出来る状態なのかな」

唯「私たち、帰れるのかな」

澪「きっと大丈夫だよ」

唯「……」

澪「……」

唯「疲れた」

澪「……」

唯「もうやだ」

澪「…そっか」

122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 08:57:12.97 ID:yCZbnEAO

唯「……」

澪「そうだ、唯」

唯「なあに?澪ちゃん」

澪「気分転換に空を見上げてみないか?」

唯「それはもうやったよ」

澪「じゃなくてさ、海に潜って、窓を通して見上げるの」

澪「きっと違うと思うんだ」

澪「同じ窓から見上げた空、でもさ」

唯「澪ちゃん」

澪「…ごめん」

123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 08:58:36.04 ID:yCZbnEAO

唯「でも、それも楽しそうだね」

澪「そうだろ?」

唯「だけど、ちゃんと出来るかなあ。緊張しちゃうよ」

澪「じゃあ、二人で一緒に潜ってみよう。せーの、で手を離して」

唯「えへへ、ありがとう澪ちゃん」

澪「いいよ。私も実はちょっと不安だったんだ」

唯「澪ちゃんも私と一緒!」

澪「ふふ、一緒だ」

124 :終わり ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 09:01:18.15 ID:yCZbnEAO
唯「行くよ、澪ちゃん」

澪「いいよ、唯」



唯澪「せーのっ」



END
125 : ◆hNCx62prg6 [sage]:2010/09/26(日) 09:51:02.34 ID:NyEyssDO
みんな乙

じゃあそろそろ6番手投下しますね
126 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:52:05.95 ID:NyEyssDO
「―――ねぇ、和ちゃん」


「なに?」


「私たち、大学では離れ離れだね」


ざざーん……


「……そうね」
127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:52:43.97 ID:NyEyssDO
「けいおん部のみんなとは一緒だけど、和ちゃんと別の学校に行くのは寂しいなぁ……」


「仕方ないわよ、いつかは進路が別れることになるって、それが今だったってだけよ」


ざざーん……


「和ちゃん」


「海、綺麗だね」


「そうね、春に海に来るのもなかなか良いかも」
128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:53:17.61 ID:NyEyssDO
ざざーん……


「でも、私たちしか居ないね」


「静かでいいじゃない」


「うん、そうだね」


「………少し寒いね」


ざざーん……


「唯は相変わらず寒がりね」
129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:53:50.76 ID:NyEyssDO



ぎゅっ



130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:54:27.20 ID:NyEyssDO
「えへへ……ありがと」


「手、あったかいや……」


「ええ、あったかいわね」


ざざざーん……


「もうどれだけこうしてるのかな?」


「わからないわ、時計もケータイも持ってきてないもの」
131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:55:00.80 ID:NyEyssDO
「そろそろ帰る?憂も心配するんじゃない?」


ざざーん……


「ううん、まだこうしてたいよ」


「……そう」


「―――ねぇ、」


「なに?」
132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:55:36.27 ID:NyEyssDO
ざざざーん……


「覚えてる?昔、三人で海に行ったときのこと―――」


――
―――
―――――
133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:56:04.06 ID:NyEyssDO
がたんごとん

がたんごとん


和「すー………すー………」

憂「むにゃ………」

唯「…………むぅ」

唯「みんな寝ちゃって………つまんないっ………」

唯「ういなんて私のこと枕にしちゃってさっ………」

唯「…………」ツンツン

134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:56:45.79 ID:NyEyssDO
憂「んぅ…………」すやすや

唯「……かわういのう……」なでりなでり

唯「……もうすぐ海についちゃうよ―――」

唯「―――おぉっ………」

唯「きれい………!」
135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:57:18.54 ID:NyEyssDO
唯「和ちゃん起きて!ほらっ、窓から海が見えるよっ!」

和「ぅ、うん………?」

和「わぁ………」

唯「ほら憂も!」ゆさゆさ

憂「ふぁ………海……?」くしくし

憂「ひろーい……あおーい………!」
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:57:54.85 ID:NyEyssDO
私達が中学三年生、憂が中学二年生の夏休み。
私達は誰にも内緒で海に来ていました。

発案者は私、平沢唯です。
和ちゃんには「受験生なんだから」と咎められてしまいましたが、憂と二人がかりで説得して、なんとか折れてもらいました。

受験生と行っても、進路もまだ決まっていないので本当に遊んでる暇はないんですけど……。

だからこそ、あることにけじめをつけに来たのです。
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:58:33.62 ID:NyEyssDO
がたん……ごとん……

がたん……ごとん……


唯「あっ、切符!切符どこやったっけ!」

和「はい」さっ


唯「あ………そういえば和ちゃんに預かってもらってたんだ……」

憂「ありがとう和ちゃん」

和「どういたしまして」

和「さ、降りるわよ。忘れ物はないかしら?」
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:59:09.04 ID:NyEyssDO
ぷしゅー


唯「とうっちゃーくっ!」

憂「なんだか遠いとこまできちゃったねー」

唯「私達ももう大人だね!親が居なくてもここまでこれちゃうんだもん!」

和「おおげさよ……」
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:59:44.93 ID:NyEyssDO
この時の私達は、初めての子供だけの遠出に心を弾ませていました。
親にも内緒で来た海は、これからの楽しい一時を約束するかのような素晴らしいコンディションでした。

磯の香り、潮っぽい風、波の音、焼けるような砂浜。

海の家もやっています。
お昼は焼きそば……かき氷も食べよう!


唯「早速着替えに行こうよ!」

和「……待って唯、憂」

和「水着はどんなの持ってきたの?」
140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:00:18.20 ID:NyEyssDO
唯「え?上と下で分かれた青のセパレートのだけど……」

憂「私は白のワンピース……」

和「………そう、そうよね……」


何故か和ちゃんは俯いて落ち込んでいます。
なにかまずいことでもあったのかな?
141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:00:50.45 ID:NyEyssDO
唯「和ちゃーん!着替え終わったー?」

和「お、終わったけど、その」

唯「早くいこーよー!」

和「うぅ………」


ガチャ


和「さ、早く行くわよ!」

唯「………」

憂「………」
142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:01:28.99 ID:NyEyssDO
唯「スク水………」

和「うっ」

唯「スク水だ」

和「ううっ」

和「仕方ないじゃない、急な話だったんだもの……」

憂「べ、別に変じゃないよ!むしろかわいいよ!?」

和「憂………ありがと……」
143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:02:02.44 ID:NyEyssDO
唯「うんうん、和ちゃんらしいって感じがするよね!」

和「それは褒めてるのかしら……?」

―――――
―――
――


「和ちゃんったらスクール水着持ってくるんだもん、フォローが大変だったよー」


「全然フォローできてなかったわよ……」
144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:02:38.04 ID:NyEyssDO
「でも、スクール水着、懐かしいね。中学以来………あれ?今年部室で着たっけ」


「部室でなにやってるのよ………」


「いやぁ、あの日は暑くて暑くて……」


ざざーん……
145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:03:12.11 ID:NyEyssDO
「そういえば、あの時も、この海だったね」


「そうね」


「海の家で食べた焼きそばがさ、砂混じってたんだよね」


「あぁ、その割に高いのよね。まぁ、そういうものなのだろうけれど―――」


――
―――
―――――
146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:03:45.35 ID:NyEyssDO
唯「遊んだ遊んだー!」

憂「やっぱり夏は海だね!」

ぐぅ〜………

和「………えっと、お昼食べましょうか」

唯「私じゃないよ!」

憂「お姉ちゃんずるい!私でもないもん!」

和「やれやれ……」
147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:04:24.13 ID:NyEyssDO
唯「あ、せっかく海に来たんだから、海の家で食べようよ!」

和「いいわね」

憂「さんせーい!」




唯「みんな、焼きそばでいいよね?」

和「えぇ、いいわよ」

憂「うん」

唯「おじさん!焼きそば三丁!」
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:05:02.88 ID:NyEyssDO
和「………って、800円……っ!?」

憂「た、高い………!」

唯「まぁまぁ、きっと新鮮な海の幸がふんだんに………」

おじさん「焼きそば、おまち」こと、こと、こと

唯「……………」

憂「具が………」

和「玉ねぎとキャベツにソーセージのみ………」
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:05:36.73 ID:NyEyssDO
唯「………いやー!おいしそうな焼きそばだなー!いただきますっ」ずぞぞっずぞっ

唯「うん、味はおいしいよ、うんうん」もぐもぐ

ガリッ

唯「ん?ガリ?」

唯「………砂入ってた………うえー……」

和「………」

憂「………」
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:06:09.10 ID:NyEyssDO
和「ま、まぁ、800円もするんだし、もったいないから……」

憂「うん、食べよっか………」


和「」ガリッ

憂「」ガリッ

和「弁当持ってくればよかった………」

憂「800円………」

唯「…………」
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:06:41.27 ID:NyEyssDO
唯「こう考えようよみんな!」

唯「大人な私たちは焼きそばそのものじゃなく……そう!海の家で焼きそばをすするという風情あふれるなにがしかを買ったんだよ!800円で!」

憂「それだ!さすがお姉ちゃん!」

唯「えっへん」

和「さっきから店の人ににらまれてるわよ………」

―――――
―――
――
152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:07:13.91 ID:NyEyssDO
ざざーん……


「そういえば、あの海の家はどうしたんだろうね?」


「海開きまで、休業中なんじゃないかしら」


「あ、そっかぁ」
153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:07:39.28 ID:NyEyssDO
「不況だし、潰れちゃってるかも」


「えぇ………それは残念だなぁ……」


「………でも、この海は昔と変わらないね」


「海なんて簡単に変わるものじゃないわよ」

ざざーん……
154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:08:20.66 ID:NyEyssDO
「和ちゃん、私たちは変われたかな?」


「高校生活で?」


「うん、女子高生ライフで、ちょっとはレディになれたかな、って」


「唯は、あんまり変わらないわね」


「そうかなぁ?」
155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:08:56.47 ID:NyEyssDO
ざざざーん……


「ええ、でも、今の唯の方が好きよ」


「えへへ………私も……今の和ちゃんの方が好き……」


「………和ちゃん」


「和ちゃんと同じ学校に行って、本当によかった。和ちゃんと幼なじみで本当によかったよ」


「……そう、ありがとう」
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:09:30.40 ID:NyEyssDO
「明後日だっけ、引っ越し」


「うん、親に無理言って、向こうに部屋借りてもらったんだけど……」


「忙しいときに、ごめんね。海に行こうだなんて」


「唯に振り回されるのには、慣れてるわ」


「えへへ………今までお世話になりました………」


「なにいってるの、これからもよろしく、でしょ」


「………そうだね、これからもよろしくね、和ちゃん」


「ええ、こちらこそ」
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:10:08.43 ID:NyEyssDO
ざざざーん……


「だいぶ日も傾いてきたわね」


「そうだね」


「夕日が眩しいわ」


「でも、きれいだね」
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:10:58.17 ID:NyEyssDO
ざざざざーん……


「そういえば、あの時の帰りも―――」


――
―――
―――――

がたんごとん

がたんごとん


唯「あー、楽しかったね!」

和「ちょっとはしゃぎすぎちゃったかも」
159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:11:34.13 ID:NyEyssDO
憂「うん………疲れた……ふわぁ……ぁあ…」

唯「ほれほれ、お姉ちゃんの膝、空いてますよ」ぽむぽむ

憂「ん………お姉ちゃん………」とさっ


憂の髪の毛からは潮の香りがしました。
更衣室のシャワーで洗い流したつもりでも、まだ匂いが残っています。
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:12:05.08 ID:NyEyssDO
唯「憂ったら一番はしゃいでたもんね」

和「唯も負けてなかったわよ」

唯「そういう和ちゃんだって」

和「まぁ、最近遊んでなかったし」

唯「そういえばそうかも」

和「――で、今日はなんで急に海に行こうなんて言い出したの?」
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:12:42.96 ID:NyEyssDO
………そうでした。
受験生として、あることにけじめをつけに来たのでした。
別に忘れてはいません、タイミングがなかっただけです。
そう、私は今日、和ちゃんに私の本当の気持ちを伝えに来たのです。


唯「………えっと」

唯「その………」


いざ、そういう場面に直面すると、なかなか言い出せないものです。
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:15:18.12 ID:NyEyssDO
「好き」


そのたった二文字が、口からでません。

列車の中は、知らない人たちの雑談と、がたんごとんと線路を踏み付ける音が支配しています。
膝で眠る憂の寝息もかすかに聞こえます。


息を吸って、吐いて、落ち着こうと思っても、和ちゃんの目を真っすぐ見ることが出来ません。

何度目か和ちゃんの目を見据えようとして、目を逸らしたときのことです。
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:15:56.11 ID:NyEyssDO
私が視線を逃がした先では、車窓から見える海が夕日を眩しくキラキラと反射して、オレンジ色に染まっていました。
朝見たときとはまた違った美しさに、私たちは目を奪われました。

唯「わぁ………」

和「本当にきれいね………」


しばらく窓から見える景色に見とれていると、なんだかタイミングを逃したようで、とうとう言い出せなくなってしまいました。

でもそのかわり、今日一日で、一つ決めたことがあります。
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:17:24.18 ID:NyEyssDO
唯「和ちゃん、あのね」

和「あぁ、話の途中だったわね」

唯「うん、志望校決めたんだ」

和「へぇ、どこにするの?」

唯「えへへ……和ちゃんと一緒のとこ!」

和「…………」
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:18:11.15 ID:NyEyssDO
唯「………あれ?ダメだった?」

和「いや………嬉しいわ」

和「でも、今の唯の学力じゃ少し難しいわよ」

唯「うっ………頑張るよ………」

和「ええ、もちろん厳しくいくわ」

唯「教えてくれるの?」

和「明日から毎日みっちりね」

唯「お、お手柔らかに………」

和「絶対に、一緒に合格するわよ」

唯「……うん!」
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:18:49.75 ID:NyEyssDO
唯「高校生になっても、よろしくね」

和「受かってから言いなさい………と言いたいとこだけど」

和「そうね、これからもよろしくね、唯」

――私のこの思いは、まだ伝えないことにします。
いつかまた、この海に来て伝えよう。

唯「和ちゃん、いつまでも友達でいようね!」


がたんごとん

がたんごとん

―――――
―――
――
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:19:31.91 ID:NyEyssDO
ざざざざーん……


「そういえば、今日はなんで海に行こうなんて言い出したのよ?」

「んと………それは……」


ざざざざーん……


「その………」


「まぁ、特に理由がないっていうなら、それでも良いんだけど」
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:20:17.29 ID:NyEyssDO
「ううん………ちゃんと理由はあるよ」


「そう」


「…………」


ざざざざーん……
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:21:04.71 ID:NyEyssDO
「和ちゃん……えと……」


「その………あのねっ……」


ざざざ………

「………和ちゃん………あのっ、私、和ちゃんのことが―――」
170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:21:41.57 ID:NyEyssDO



ざざざざ―――

―――だいすき。

―――ざざざーん……………



171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:22:20.71 ID:NyEyssDO
「なに?」

ざざーん……


「―――……ううん、なんでもない。………あはっ、足、ちょっと濡れちゃった」


「……そう。………もう帰りましょう、暗くなっちゃうわ」


ざざーん……


「……うん、そうだね。お腹すいちゃった」
172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:22:51.08 ID:NyEyssDO
がたんごとん

がたんごとん


唯「結構遅い時間になってたね」

和「春になって、日が長くなったのね」


―――結局、私の思いは伝えられませんでした。
私のばか。いくじなし。
173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:23:23.17 ID:NyEyssDO
でも、もしかして、これがあるべき結果なのかも知れません。

あのとき私の声が和ちゃんに届いていたとして、和ちゃんはどう受け取るでしょうか。

友人として?それとも恋愛対象として?
そもそも女の子同士です。
初めから、おかしくて………おかしいんです。

どちらにせよ、私達は明後日には離れ離れ。簡単には会えなくなります。
これからは「また、いつか」なんてことも簡単に言えなくなるのはわかっています。

今まで、どうにかしてこの恋心を伝えようとしてきました。

でも、私はこの気持ちを封印することにします。
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:23:55.37 ID:NyEyssDO
私は、ずっと和ちゃんが好きでした。

何度も思いを伝えようとしてきたけれど、今日、終ぞ思いを伝えることは出来ませんでした。

きっとそれは、私の恋が叶わぬものだから、波の音で神様が邪魔をしてくれたのでしょう。


ふと窓の外を見ようと目を向けると、太陽はすっかり沈んでしまって真っ暗でした。

いつか同じ窓から見てた海の代わりに、鏡映しの私の顔がうっすらと見えます。
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:24:28.73 ID:NyEyssDO
なぜか窓に映る私の顔はぐしゃぐしゃに歪んでいて、その時初めて自分が泣いてることに気づきました。


唯「うっ………ぐすっ………うええ………」

和「ゆ、ゆい、どうしたの?」


和ちゃんが心配しています。
泣くつもりなんてなかったのに。

みっともないなぁ、私。
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:25:01.02 ID:NyEyssDO
唯「なんでもない………なんでもないよ……えぐっ………」

和「………なんでもないわけないじゃない。ほら、ハンカチ」

唯「うぅ………ありがどう……」


和ちゃんの差し出してくれたハンカチは柔らかくて、良い匂いがしました。
私の涙で汚すのがなんだか忍びなく感じて、手が止まります。
しかしいつまでも泣いているわけにもいかないので、さっと涙を拭きました。
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:25:31.86 ID:NyEyssDO
和「……そのハンカチ、しばらく貸すわ」

唯「え?………ちゃんと明日にでも返すよ」

和「いいえ、すぐに返さなくてもいいわ」

唯「………どういうこと?」


和ちゃんの言っていることの意味がわかりません。
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:26:04.90 ID:NyEyssDO
和「そうね、そのハンカチは私と唯の縁、よ」

唯「えん………?」

和「私が唯にそのハンカチを貸し続けてる限り、唯はいつか私にハンカチを返しにこなくちゃいけないでしょう?」

和「だから、そのハンカチは、私達の縁。借りパクは許さないんだから」

唯「……そうかぁ………縁かぁ………うふふ」

和「まぁ、そんなハンカチなくたって、私達はずっと親友だけどね」

唯「……えへ………そうだね」

和「ふふ、何度目かになるけど、改めて。これからもよろしく」

唯「うん、和ちゃん、いつまでも親友でいようね!」
179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:26:35.82 ID:NyEyssDO
がたんごとん

がたんごとん


ごめんなさい。神様。
私はまだ、この恋をあきらめられそうにありません。


もう一度窓の外の海に目を凝らしてみると、暗い波に揺れる水面には、きれいな月が浮かんでいました。


おしまい。
180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:27:27.00 ID:NyEyssDO
以上です

唯和最高!
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:57:06.84 ID:EKZOrQIo
oh,yeah
182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 11:13:16.03 ID:jk2WkkSO

面白い作品が多くていいな
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 11:26:55.53 ID:Tx5AooAO
ここって一人じゃなくて色んな人が書いているのか
みんななかなかの書き手だな
全員に乙
184 : ◆zwI8yAhfqw [sage]:2010/09/26(日) 11:59:18.84 ID:Hwnugb.o
みなさん乙です

投下開始します
185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:00:11.79 ID:Hwnugb.o

紬「唯ちゃんがトンビに油揚げをさらわれて泣いていたわ」

梓「『待ってよ〜!!』とか わめきながら

  涙目で鳥を追いかける唯先輩が印象的でした」

紬「まさか本当に油揚げをさらわれる人間がいるなんて…」

梓「でも よく起こりうる事だから諺になったんじゃないですか?」

紬「犬も歩けば棒に当たるのかしら」

梓「あっ。私 子供のころ、犬を棒で叩いて遊んでましたよ!!」

紬「なにこの子こわい」

梓「怖くないですよー、あずにゃんですよー」ピョンピョン

紬「なにこの子 気が狂ってるの?」

  「地面に勢いよく叩きつけたいわ」

186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:00:49.50 ID:Hwnugb.o





唯「同じ窓から見てた海」

※ただし澪はのぞく


187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:01:51.34 ID:Hwnugb.o

梓「そうやすやすと地面に叩きつけられるものか!!」

紬「1000円あげるわ」

梓「さぁどうぞ」

紬「しゃらんらああぁ!!」

┣¨┣″ォォン!!
188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:02:47.53 ID:Hwnugb.o

ガチャ

律「おーすクズども!!」

 「ん?」

 「梓に地獄の断頭台(※1)を炸裂させてどうしたんだムギ」

紬「私、梓ちゃんを地面に  

  勢いよく叩きつけるのが夢だったのかしら?」

律「アタシに聞かれても知らん」


※1 スピン・ダブルアームで相手が垂直になったところを上空に投げ飛ばし、
逆さになった相手の首にギロチンのように自分の膝を落とし、そのままリングに叩き付ける技。

古代に一度だけ悪魔超人が地球の支配に成功した時代において
捕虜の正義超人を実験台とし、完成させたとされる。
189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:03:28.30 ID:Hwnugb.o

律「なるほど、また梓の気が狂ったのか」

紬「壊れたテレビにチョップをしたら治るって のび犬のママが言ってたの〜」

律「それで壊れた梓は治ったのか?」

梓「もちろんですとも。ムギ先輩のおかげで正常なあずにゃんに戻りました」

紬「狂人はみな そう言うわ」

梓「デュヘヘwwww」
190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:04:48.43 ID:Hwnugb.o

ガチャ

澪「ごめんごめん、遅くなったよ」

唯「わんわん!」

紬「えっ、唯ちゃん…?」

律「おや、唯の様子がおかしい……?」

唯「わふ?」

梓「わははは!!唯先輩が狂った!!唯先輩が狂った!!」

律「どうすればいいんだ」
191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:05:34.61 ID:Hwnugb.o

紬「唯ちゃん、どうしたの?」

澪「いや、教室で唯をイメチェンさせて遊んでたら

  例の犬の髪型になってさ」

律「犬の髪型って……いつだったか和が『犬みたい』って言ってたヤツか」

澪「それで本当に 唯が犬みたいになっちゃたってワケさ」

律「なっちゃったってワケさ、とか言われても納得できないけどな」

唯「うぉん♪」
192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:06:47.66 ID:Hwnugb.o

紬「トンビに油揚げをさらわれる人類などいないと信じていたけど

  唯ちゃんが犬だったなら謎は全てとけたわね」

唯「わん!」

梓「なっとくなっとく」

澪「それより どうして唯はトンビに油揚げをとられたんだ?」

律「そりゃトンビも腹減ってたんだろうさ」

澪「いやいや、仮に食に貪欲なトンビがいたとしてだ」

 「油揚げって普通、家の中で食べるもんだろ」

 「トンビがゾンビみたいに平沢家に侵入して さらっていったのか?」

梓「違いますよ。○○町の広場でハイパーうどん祭りがあって

  みんなで行った時の話なんですよ、これって」

澪「えっ」
193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:07:48.50 ID:Hwnugb.o

律「そこで みんなで 出店のきつねうどんを食べたんだよな」

紬「私、きつねうどんってキツネの肉が入っているのかと思っちゃったぁ」

梓「ベタですね」

律「あはは、あの時の残念そうなムギの顔、おっかしかったなぁ」

唯「わんわん♪」

澪「なるほど、状況はわかった」

 「しかし、今の会話の『みんな』の中に

  私が含まれていないのはどういうことだ?」

梓「あっ、しまった」

澪「なにがしまったんだ」

梓「私、歯医者に予約を入れていたので失礼します」

澪「返答次第では、梓の歯は全部なくなるから行かなくても大丈夫だよ」

194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:08:44.21 ID:Hwnugb.o

紬「梓ちゃんから『澪先輩は受験のストレスで脱腸して

  口から大腸とウンコがハミ出てるから行けない』と

  聞いていたわ」

律「アタシも」

唯「わぅ」

澪「信じるなよ!!仮に信じても お見舞いに来てよ!?」

 「私、口から内臓がハミ出てるんだろ!?」

律「いや、マジメな話、アタシが遊びに行こうぜって電話したら

 『受験でクソ忙しいこの時期に遊びになんて行けるかこのダメ超人』と

  一方的に罵って切ったんじゃないか」

澪「そういえばそうだったね」
195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:09:43.34 ID:Hwnugb.o

唯「クゥン…」スリスリ

澪「ゆ、唯……慰めてくれるのか…」

唯「わん」

澪「うっとおしいなぁ、あっち行け駄犬が!!」

唯「キャインキャイン;;」

律「最低のクズ野郎だなコイツ」

梓「しかし唯先輩はいつまで犬のままでいるんでしょうか」
196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:11:03.20 ID:Hwnugb.o

律「髪型を元に戻せば元に戻るんじゃないか?」

澪「元に戻せば元に戻る?」

  「お前、なんかすごくアタマの悪そうなしゃべり方だね」

律「うるさいようるさいんだよクソ野郎」

梓「アンタ、なんかアソコがすごい汚物みたいなしゃべり方だな」

律「アンタってのは誰の事だ? チャンスは一回だけだぞ」

梓「アンタっていうのは 実は私の事でした」

律「よしよし、ガムやるぞ」

梓「キヒェwwww」クチャクチャ
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:11:55.92 ID:Hwnugb.o

紬「お手」

唯「わん」ポム

紬「お座り」

唯「きゅん」ストン

紬「はい、ケーキよ〜」

唯「わふわふ♪」

紬「おあずけ」

唯「はっはっ」ピタ

紬「あぁあいいわ、いいわコレ……」ウットリ

唯「わんわん♪」ペロペロ

澪「おっと、梓が狂っている間にムギが唯犬のとりこだ」

紬「唯ちゃん、いいコいいコ〜。1000円あげるわね」

唯「あぉん?」キョトン

律「がうがう!!」

澪「そして人間をやめたバカがまた一人」
198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:12:44.32 ID:Hwnugb.o

紬「がうがうりっちゃんもカワイイわね」

 「1000円あげるわ」

律「わんわんwwww」

澪「欲に目がくらんでイヌになりさがったか」

梓「にゃんにゃん!!」

紬「あら、梓ちゃんはネコ耳をつけてネコあずにゃんなのね」

梓「にゃ〜ん」

紬「バカじゃないの」
199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:13:57.02 ID:Hwnugb.o
澪「さてと、おしゃべりはここまでにして久々に演奏するか」

唯「えぇ〜っ」

梓「あまりの練習に対する拒絶反応で唯先輩が正気に戻った」

律「今日はそんな気分じゃないよなぁ」

澪「みんなはうどんを食べに行ってリフレッシュしたかも知れないが

  私は受験のストレスで口から大腸がハミ出そうなんだよ」

 「練習でスッキリしよう練習で」
200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:15:07.02 ID:Hwnugb.o

律「バカヤロウ、お前ってヤツは口を開けば練習練習とバカヤロウ」

 「物書きがシコシコ文章だけ書いて おもしろい話が書けるか?」

 「よく遊びよく食べてよく笑った経験があるからこそ

  オリジナリティ溢れる作品が生まれるんだ!!」

澪「だから?」

律「なんだっけ?」

澪「知るか」

律「え、アタシ誰だっけ?」

澪「誰だよ」
201 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:17:22.55 ID:Hwnugb.o

梓「つまり人を感動させる音楽を奏でたいなら

  私達自身が色々なことを体験して感動しなければいけないと

  そこのオデコが特徴のポケットモンスターは言いたいワケです」

律「アタシはポケモンだったのか!?すげぇ!!」

唯「そこに7つのドラゴンボールがあるじゃろ?」

紬「願いが叶うわね!」

梓「唯先輩のパンティストッキングお〜くれ!!」

唯「ちょっと待っててね、よいしょ」ズルリ

紬「」パチパチパチパチ

梓「」パチパチパチパチパチ

澪「だめだこいつら、本当になんとかしないと本当に」

202 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:18:11.18 ID:Hwnugb.o

紬「私も久々にキーボード弾くのはいいけど

  練習前にテンションをヒートアップさせるべく、何か一勝負しない?」

律「いいね」

唯「やろうやろう!!」

澪「はぁ、じゃあなんか一回だけやったら絶対に練習しような」

梓「それで何をするんですか?」

 「集団催眠[田島「チ○コ破裂するっ!」]ですか?」

唯「かくれんぼしようよ!!」

紬「かわいい!!1000円あげるわ唯ちゃん!!」

唯「えっ、こんなお金 受け取れないよぉ」

紬「奥ゆかしい!!1000円あげるわ唯ちゃん!!」

唯「このメカニズムで一生、食べていけないかなぁ」

紬「全額没収よ」

唯「わぁああん」
203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:19:02.02 ID:Hwnugb.o

紬「じゃあ かくれんぼに決定!!」

澪「やれやれ、子供じゃあるまいし……」

梓「でも童心に戻るのも、歌を作るのに役に立つかも」

澪「む、確かに」

律「『少年時代』や『夏休み』然り、子供時代を歌詞にした名曲も多いもんな」

梓「澪先輩の作る歌詞ときたら『揺れる思いはマシュマロ』だとか

  『カレーCHOPPILIライスTAPPULI』だとかラリってんじゃねぇの?って

  感じのばっかりですからね」

律「でもあれ、シラフで作ってるんだぜ」

梓「正気を疑いますね」

澪「お前らの上履きにヤモリとイモリを100匹ずつ詰め込んでやるからな!!」

 「うわあああああ想像しただけで気持ちわるいいいいいいい!!」

 「ゲロロロロロロロオロロロロロロオロロr」ビチャビチャビチャビチャ

律「あれでシラフなんだぜ」

梓「疑いは確信に変わった」
204 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:27:10.85 ID:Hwnugb.o

紬「子供心を忘れ汚らしく汚れた天然シャブ中キング秋山澪をその気にさせるために

  かくれんぼキングには賞金10万円出すわ」

澪「マジで!?」

律「おっしゃああ!!オニ決めようぜ!!」

梓「最初はグー!!」

唯「ジャ〜ンケン…」

律「エロ本何冊〜!?」

梓「ぇあっ!?」パー

澪「わあああ梓、エロ本5冊も持ってるんだああ!!」

紬「やーいやーいwwww」

唯「えっち!!あずにゃんのえっち!!」

梓「小学生かコイツら」
205 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:28:24.32 ID:Hwnugb.o

律「じゃあ気を取り直してジャーンケーン…」

唯「ほいっ!!」

澪「あいこでしょ!!」

律「あいこでしょい!!」

梓「あっ」

紬「私の唯ちゃんの負けー!!」

唯「くぅ〜、絶対にみんな見つけるもん!!」

澪「グララララwwww唯なんかに見つかるもんか!!」

 「とっておきのあの場所の隠れてこようっと!!」タッタッタッタッタッタッタッ

律「むむ、澪のヤツ、簡単には見つからないかも知れないぞ」

 「なにせアイツは一人で弁当を喰うスポットを見つける王者だからな」

梓「王様って孤独なんですね」
206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:29:15.62 ID:Hwnugb.o

唯「じゃあ、みんなも早く隠れてきてね」

紬「それよりなんか澪ちゃんが勝利しそうだし

  かくれんぼ 今すぐ やめない?」

律「開始10秒でナイスな英断だな」

梓「賛成です」

唯「ぇあっ? 澪ちゃんは?」

律「アイツはずっと隠れ続けるさ」

梓「その方が幸せなんですよ。だって恥ずかしがり屋さんだから」

唯「そっかぁ」
207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:30:20.01 ID:Hwnugb.o

唯「あっ、じゃあ逆に私達が澪ちゃんから隠れるっていうのはどうかな〜」

紬「いいわね!!唯ちゃんもいい趣味してるわ!!」

唯「ほぇ?」

律「メールの一つも入れてやれば泣きながら探しに来るぞ」

梓「さすがに学校の外にまで出ると澪先輩に深いトラウマを作りそうなので

  あれっ、じゃあ絶対に学校の外に出ましょうよ!!」

 「いっそ、澪先輩抜きでカラオケにでも!!」

律「ヒッヒヒヒヒwwwwww怖いヤツだよ、お前は」

紬「それもいいけど澪ちゃんのあわてふためく顔が見たいから

  校内にとどまりましょう」

梓「はーい!!」

唯「なんだか 私の意図とは別の盛り上がりを見せてきたよー」
208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:31:31.10 ID:Hwnugb.o

────────────────────────
─────────────────
─────────────

梓「ここなんか いいんじゃないですか?」

ガチャ

唯「視聴覚室だね」

紬「目立たない場所だし、隠れ場所として悪くないわねぇ」

律「しっかし、なんか久々だな〜。1年の頃は授業で使ってたけど」

唯「ヒアリングの授業、全然 わかんないから窓の外ばっかり見てたよ〜」

律「ここはアタシらの教室とは逆側にあるから

  見える景色が違うんだよな」

梓「授業も聞かずに、まるで白痴のように窓の外を眺めている

  お2人の姿が目に浮かびますよ」
209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:32:35.58 ID:Hwnugb.o

律「『多数決で 澪が かくれんぼの鬼になりました』っと」ピッ  

 「メール送ったし、これで澪のヤツ あわてて探しにくるぞ」

梓「はてさて泣きながら澪先輩がここにたどりつくのは

  いつになるやら…」

ピロリロ〜

律「おっと、澪からメールが返ってきたぞ」

ピッ
210 :澪のメール [sage]:2010/09/26(日) 12:33:17.39 ID:Hwnugb.o
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211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:34:02.31 ID:Hwnugb.o

律「うわああああああ!?」

唯「こ、こわいよ!!」

梓「5秒でメール返ってきましたけど

  あの人、このコピペ ケータイに登録してるんですかね」

紬「コピペより澪ちゃんの精神そのものが怖いわね」

梓「これは怒ってますね」

律「悲しんでいるのかも知れないな」

唯「悪いことしちゃったかなぁ」

紬「それよりお茶にしよっか」

唯「そうだね!!」

梓「ポット持ってきたんですか」
212 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:34:50.29 ID:Hwnugb.o
唯「はぁ〜、お茶おいしいねぇ、あずにゃんや」ズズッ

梓「そうですね〜」ゴク

紬「部室以外でくつろぐのも なんだか新鮮ねぇ」

律「こうやって、友達同士で視聴覚室に隠れてましたっていうのも

  いい思い出になるのかもなぁ」

梓「さすがに30分もぼーっとしてると退屈ですけど」

唯「ふっふっふ、甘いよあずにゃん」

 「こんな場所でも楽しもうと思えば いくらでも楽しみはあるんだよ」

梓「たとえば?」
213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:35:48.66 ID:Hwnugb.o

唯「床に落ちてるホコリの数を数えてみたり

  窓からどれだけ遠くにオシッコを飛ばせるか試してみたり」

律「お前は界王さまか」

唯「空よ!大地よ!私に元気をわけてくれー!!」ガラリ

律「あっ、コイツ窓を開けて…」

 「本気でオシッコを飛ばす気か!?」

唯「もちろんだよ〜!!」ヒャッホー
214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:39:33.48 ID:Hwnugb.o

律「おい、みんな止めるぞ!!」

紬「なぜ?意味が分からない」

梓「唯先輩の好きにさせましょう。だって唯先輩の人生ですから」

律「しまった、こいつら 唯の放尿シーンを見たくて やまない病んだ変態だった」

 「くそ、こうなったらアタシもウンコするしかねぇ!!」ズルリ

唯「…あれ?」

律「どうした!?今さらためらってんのか!?」ミチ…

 「アタシはもうドキドキが止まんないフルスロットルな脳内ぃぃぃぃっ!!」ブチミチ

唯「ねえ、ひょっとして……あれって海?」

律「え?」ピタ

梓「うみ?」

紬「学校から海なんて…」

梓「あっ、本当に海だ!!」
215 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:40:48.55 ID:Hwnugb.o

律「へぇ〜、視聴覚室からだと海が見えるんだ」

 「高校生活最後の冬にさしかかるこの時期にして初めて知ったよ」

唯「すごいすご〜い!!」

紬「みんな、この教室の同じ窓から海を見てたハズなのに

  誰も気づかなかったのね〜」

梓「山の隙間からかろうじて見える程度ですし

  遠くてぼんやりとしてますからね」
216 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:41:49.71 ID:Hwnugb.o

梓「毎日、部室でムダにダラダラしてましたけど

  こんな身近な景色も ゆっくり観てなかったんですねぇ」

律「ダラダラしているようでアタシたちは

  毎日、かけ足で生きてたって事さ」

 「立ち止まってる時間なんてなかったんだよ」

紬「ホント。そういえば中学生のときの3年間と

  高校生の3年間って密度が違わない?」

 「たくさん思い出があるの〜」

唯「私も私も〜」
217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:42:49.82 ID:Hwnugb.o

唯「中学の頃は家でゴロゴロしたりアイスを食べながらゴロゴロしたり

  テレビを見ながらゴロゴロしてたけど

  高校でけいおん部に入ってからは、部室でお茶したり あずにゃんにスリスリしたり

  アイスを食べながらゴロゴロしたりテレビを見ながらゴロゴロしたりと

  大忙しだよ〜」

梓「結局 ほとんどゴロゴロしているように思えますが本当にかけ足なのでしょうか」

唯「でも本当に色んなことがあったんだよ」

梓「でしょうね」

 「私も色々ありました」
218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:43:53.73 ID:Hwnugb.o

唯「ギー太を買うためにみんなでバイトしたり、合宿にいったり」

梓「私は海で埋められましたけどね」

律「学園祭でライブをして、ライブハウスでもライブして」

梓「私は打ち上げで校庭に埋められましたけどね」

紬「修学旅行も楽しかったし、夏フェスもすごく感動した」

梓「私は山でも埋められましたけどね」

唯「クリスマス会もおもしろかったね」

梓「私は雪に埋められましたけどね」

律「梓は埋められてばっかりだったな」

紬「でも、おもしろかったわね」

唯「そうだね」

梓「私の高校生活を返せ!!」
219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:45:02.64 ID:Hwnugb.o

唯「あ〜ぁ」

律「どうしたんだ?」

唯「せっかく学校で海が見えるスポットを発見したのに

  あと少しで卒業なんだー」

紬「そうね」

律「みんなで集まって いいトシこいて

  かくれんぼしようなんてバカやってられるのも あとわずかか〜」

梓「私はあと1年以上ありますけどね!」

律「そうだな」

梓「そうです。私だけ1年以上もあるんですよー!!」エッヘン

律「アタシらが卒業しちゃったら寂しいだろう?」

紬「いい気味ね」

梓「意味がよくわかりません」

唯「あ〜ずにゃん」ギュ

梓「フヒヒ…」シュン…
220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:46:03.65 ID:Hwnugb.o

ガラララララッ

澪「見つけたぞクソどもおおおおああおおおおあ!!」

梓「ぎゃあああああああああああああああああああ」

唯「わぁあぁあああ!?澪ちゃん!?」

律「マ、マジでおどろいたああ」

紬「」ドキドキドキ

澪「あ?え?マ?お前らなんだよなんでなんだよ!?」

 「私がジャンケンで勝ったのになんで鬼なの!?」

 「講堂のステージの天井裏に潜んでいた

  私の気持ちをどうする?どうすんの私!?」

梓「チッ、申し訳ありませんでした」

澪「ん?なんか 梓 ちょっぴり涙目じゃない?」

 「そんなに私、怖かった?」

梓「そうですね、さすがにビビりましたよ」ゴシゴシ


221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:47:15.87 ID:Hwnugb.o

澪「ははっ、さぁて、次は誰が鬼をやるんだ?」ウキウキ

唯「ふふ、ねぇあずにゃん」

 「今度の休みの日、一緒に海に行こっか?」

梓「ふぇ?」

唯「あずにゃんと もっといっぱい思い出作っておこうかなって」

梓「唯先輩…」

紬「私も行く!!いく!!イクゥゥゥウウウッ!?」ビクンビクン

律「じゃあ みんなで海に行くかー!!」

澪「えっ、なにこれ、どういう流れ?なんで海に行くの?」

 「みんなの気持ちが分からないのは

  私が本当の鬼になってしまったから…?」

律「おい、しっかりしろ」
222 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:48:11.72 ID:Hwnugb.o

澪「あおおおぉああああああ」

人とは思えぬ野太い声で咆哮をあげると

澪の体が むくりと膨らみ、その形相は本物の鬼のそれへと変貌する。

唯「あ、あぁあああ……澪ちゃん…」

紬「そんな…」

爪は長く伸び、髪を振り乱し、いびつにならぶ歯の隙間から

腐った魚のような臭気が漂ふ。

黄色く濁った瞳で獲物を品定めすると

ひゅぅっと飛び跳ね、哀れな標的の首をねじり、その口から華奢で か細い声が漏れる

梓「ぅげえあっ」
223 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:49:15.64 ID:Hwnugb.o

唯「澪ちゃん、やめてええええ!!あずにゃんが死んじゃうううう」

紬「しゃらんらああ!!」

ガシッ

澪「グェア!?」

律「あぁっ、ムギが澪にスピンダブルアームをしかけた!!」

ビュンビュンビュン

律「ダブルアームの体勢で澪の体を回転させるなんて

  なみたいていのパワーじゃ不可能だ!!」

唯「これは巨大たくあんの力が はたらいているんだね!!」

紬「そりゃー!!」

ブゥゥン

澪「……!!」

唯「澪ちゃんを上に放り投げたああああ!!」

ガッ

紬「地獄の断頭台いぃぃぃ!!」

┣″カ″シャアアアアン

澪「グハッ、私は何を…?」

律「正気に戻るの早ぇ」
224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:50:47.09 ID:Hwnugb.o

澪「私は友達失格だよ…」

 「みんなが楽しそうに海の話をしているのに

  私ときたら、『え、なんでコイツら人を鬼にしといて かくれんぼに興味を失って

  海の話してるの!?[ピーーー]!!氏ねじゃなくて[ピーーー]!!』とか思ってムカムカして…」

唯「ごめんね…澪ちゃんの気持ちも考えないで…」

紬「確かに澪ちゃんはルール破りの最低の悪魔超人だけど私達も少しだけ悪かったわ…」

律「アタシはちっとも悪くないと内心 確信してるけどケジメだから謝っておくよクソが」

梓「サメの群れに突入しろよ」

澪「なんだろう、すごくモヤモヤするよ」
225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:51:33.23 ID:Hwnugb.o

唯「ごらんよ澪ちゃん、あの窓を」

澪「唯……」

唯「ほら、何かに気づかない?」

澪「何かってなに?あのアパートのベランダにパンティが干してあるって事?」

唯「そうじゃなくてほら、海が見えるでしょ」

澪「見えるな」

唯「一年生の時、みんな この同じ窓から海を見てたんだよ」

澪「そうだろうね」

唯「ね?」

澪「なにが?」

唯「だからホラ……高校生活でいろいろあったでしょ?」

澪「そりゃあったけど」

唯「そんなことができるのも今だけなんだよ?」

澪「そんなこと唯に言われなくても分かってるよバーカ」
226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:52:25.88 ID:Hwnugb.o

唯「だめだよ澪ちゃんはもうダメだよ」

律「分かってはいたけどさ…」

梓「まぁ話をするタイミングとかもありますし…」

澪「なにが?」

紬「もう澪ちゃん、帰っていいわよ」

澪「なにがだよなんでだよあの窓から海が見えるからなんだって言うんだ…あっ!!」

律「何か感じた?」
227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:53:28.58 ID:Hwnugb.o

澪「いや、トンビがこっちに向かってきて…」

トンビ「ピーヒョロロ」

バサバサ

律「あっ、窓から入ってきたぞ!!」

唯「やぁあっ!?」

トンビ「ピョロロwwww」

バッサバッサ

梓「あっ、あのクソ鳥、唯先輩のヘアピンを盗んでいきました!!」

唯「わあぁん、返してぇぇぇ!!!ヘアピン返してぇええ!!」

澪「ばんざーいばんざーい!!」

  「私も唯がトンビに何かをさらわれる光景を目の当たりにしたよ!!」

  「これで私もみんなの仲間だね!!」

紬「よかったわね」ペッ
228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:54:24.05 ID:Hwnugb.o

唯「その後、澪ちゃんはこれらの経験をもとに

  新しい歌詞をルーズリーフいっぱいに書いてきましたが

  りっちゃんがケツを拭く紙として使用しました」

 「残念だなぁ」



おわり
229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:55:15.01 ID:NyEyssDO

あんたやっぱり最高だ
230 : ◆zwI8yAhfqw [sage]:2010/09/26(日) 12:55:45.12 ID:Hwnugb.o
おわりです

ありがとうございました
231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:59:27.02 ID:cAgiM8s0
おつ
笑わせてもらったwwwwww
232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 13:11:28.38 ID:WksKj6AO
相変わらずの奇才っぷりでwwwwww

超乙
233 : ◆TiRzdTjl.s [sage]:2010/09/26(日) 14:13:43.92 ID:h/FiLGso
みんなお疲れ様です

じゃあ次行きます
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:14:56.01 ID:h/FiLGso


「……もうどれくらい経ったかな」


ざわざわと波の音が聞こえる部屋のなか、私は独り言のように憂に尋ねた。
しばらくして返ってくるのは波の音にも勝らない静けさ。
憂は答えたくないのだろう、私はまた窓からの景色に目線を移した。


――広い部屋。ここに連れて来られたのは突然だった。
家に見知らぬお婆さんが訪ねてきて、後ろから出てきた男の人たちに訳もわからないままに
車に押し込められ、意識を失ったあと気付くとこの部屋にいた。

私には、何故だか抵抗する事ができなかった。

その時のことを思い出すと、途端に頭の中がうやむやになってそれは消えてしまう。
ただその時の私は脱け殻のように心が空っぽだったことが記憶の隅に残っている。


――広い部屋。壁の一面はそのほとんどがガラス張りになっていてそこからは外が見える。
この部屋は三階あたりだろうか、建物の立つ地面の方を見ると砂浜が広がっている。

ここから見えるのは窓の端までいっても果てが見えることのない砂浜と、
目の前に地平線まで広がる青い青い……。
この景色を、この波と風の音だけを感じられるこの部屋から、私たちは出られない。
235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:15:35.02 ID:h/FiLGso
……

スーツを着た男の人が立っていた。
私が目を覚ますのを待っていたらしい。
私は恐る恐る、尋ねた。


「あ、あの……ここは…?」


ぎろりとサングラスの下にある目に睨まれたような気がして体を強ばらせたけれど、
その風体からは意外にも柔和な声が漏れた。


「平沢唯様ですね」

「は、はい」

「突然ですが、あなたはこの部屋から出てはいけません」


本当に突然、私は理解ができずその男の人の次の言葉を待つだけしかできなかった。

「申し訳ございません。これからあなたをここに閉じ込めます。
 外出以外の不便につきましてはなるべくご希望に添えるように致しますので何なりとお申し付けください」


決まりきった口上かのようにすらすらと流れていく言葉は私の耳には入らない。
彼はそんな私を見て何も聞かれることはないと判断したのか、扉に向かって歩き出した。


「ちょ、ちょっと待って!」
236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:16:18.63 ID:h/FiLGso


「……なんでしょう」

「意味がわからないよ!ここはどこ!?私を帰してよ!」


振り向きかけた格好で私の言葉を聞いていた彼は、拍子をおいてサングラスの柄に手をかけた。


「…まだいろいろと落ち着いていないこともあると思いますので、また後ほど」

「やだ!今説明して!」

「……失礼」


私を待たず開けられた扉の前には鉄格子が嵌められていた。
彼はその鍵を手馴れた手つきで開け、部屋から出たあとまた鍵をした。


「何かご希望がごさいましたらこの紙か…」


彼は懐からメモ帳を取りだし扉の前に置き、部屋の奥を指差す。


「お電話で。受話器を取れば私が出ます」

「そんなことより……」


彼は無表情のまま扉を閉めた。
何もできない私の耳に入るのは、遠ざかる足音とそれを覆い隠す波の音。

……
237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:16:48.14 ID:h/FiLGso


目の前で波打つのは、海じゃなくて毒の沼。そう教えられた。
あんなにも青いのに、きれいなのに触れることはできない。

もしかしたら嘘なのかも知れない。
でも海を見たことのない私たちにはそれが嘘かはわからない。


「ねぇ憂…ここから出たらどうしよっか」


もう何度目かわからない質問。
まだ私たちがなんとかここから出ようと躍起になっていた頃、わたしが憂に
「憂も一緒にギターやろうよ」っていったら憂はなんて答えてくれたっけ。


「わたし、みんなともっと練習したいよ」


私たちが連れてこられたのは、私が軽音部に入ってやっとみんなと馴染んできたところ。

みんなは今どうしてるかな。そう考えたらなんだか急に寂しくなってソファに座りながら憂を抱きしめた。

憂は私が抱きつきすぎたせいか私の匂いがした気がしたけれど
いつもとかわらずとても柔らかかった。
238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:17:26.54 ID:h/FiLGso
……

部屋は統一性のない雑貨や家具などが多く置かれていた。
どこかの民族の仮面、陳腐な絵画、埃を被ったゴルフバッグ。

しかし散らかっているわけではない。
部屋の隅に追いやられているそれらを除けば、
部屋は比較的きれいにまとめられており不快感は感じない。


「憂、お腹空いちゃったね。電話かければいいみたいだよ」


憂はまだ状況を受け入れられないのか、無言のまま。
でも何かは食べなくてはいけない。


「じゃあ憂のぶんも私が選んでおくね」


受話器を取るとあの男の人らしき人物が出た。


「なんでしょうか」

「ご、ご飯食べたいんですけど……その……」

「はい、では何がよろしいでしょうか」


彼の口調は相も変わらず淡々としたもので、私は少し苛ついた。


「じゃあ……」


適当に思いついたものを言い、そのまま相手の返事を待たずに切った。
彼は何を言われても動じないのだろうかとかどうでもいいことを考えながらまた憂の隣に腰掛ける。

憂はずっと魂が抜けたようで、私はそんな憂を支えるために出来るだけ気丈に振る舞った。

本当は憂は寂しがり屋だからみんなに会えなくなったことがどうしようもなく悲しいのだろう。
だから私は憂にずっとつきっきりのまま頭を撫でてあげたり、抱きしめてあげた。

……
239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:17:54.52 ID:h/FiLGso
〜〜〜

今日は雨だ。
あの生きているかのような波打はすっかり機嫌を悪くし、ざばざばと怒っているかのよう。
空も黒い雲に包まれて明るい太陽は身を潜めてしまっている。


「憂、今日は雨だね」


優しく語りかけると憂はゆっくり頷いてくれたような気がした。


「少し寒いけど……こうすれば大丈夫」


私は憂を両の手で包みこんで目を閉じた。

こんな場所でも、憂と一緒なら大丈夫。
一つ深呼吸をしてから、頬に触れたかわからないくらいのキスをした。
240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:18:25.69 ID:h/FiLGso
〜〜〜

今日は雪。
しんしんと降り注ぐ雪になんだか神秘的なものを感じながらも、私はあまり意識をそちらに向けていない。
こんな日はどうにも孤独を感じてしまう。


「憂、わたしがいるからね」


心配しないでね、とは言わずにまた二人の時間が流れる。
変な物言いだけれどこの時だけは確かに幸せを感じていた。


その日の食事はシチューに決めた。
メモ帳に書いてドアの前に置き、寒いので憂に寄り添った。


凶器や危険物は断られたけれど、頼めばほとんどのものは手に入れることが出来た。
ティッシュペーパー、布団などの生活に使うものからボードゲームなどの娯楽品まで。

しかしテレビやラジオ、雑誌等の外からの情報は一切手に入れることはできなかった。


「憂……あったかい?」


大好きとは恥ずかしくて言えなかったけれど、私の心は満たされていた。
241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:19:52.48 ID:h/FiLGso
〜〜〜

今日は快晴。
雲は景色の端に少しばかり見える程度で、それがむしろ際立つくらいの青い空。


「憂、あっついねぇ……」


大分蒸し暑くなってこの頃は日がな扇風機を浴びて過ごしている。
憂とくっつけないのは残念だけれど、代わりに一緒にアイスを食べることが私の楽しみだった。


すると、鍵を開ける音がした。
振り向くといつもの男の人。
もう随分見慣れた顔だけれど名前も知らないまま。
別に聞こうとも思わなかった。


「何か頼みましたっけ」

「いえ、用件がありまして」

「用件?」


今まで彼がこんなふうに訪ねてきたことはない。
私は憂の手を握りながら彼に向き直った。


「いきなりですが、もうあなたは自由です」

「……え?」

「ここから出て構いません。どうぞお好きな場所へ」
242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:20:24.27 ID:h/FiLGso
ここに閉じ込められて何日経ったかわからない。
日付は途中で数えるのをやめてしまった。
一生出られることはないと半ば諦めかけていた私は彼の言葉に問い返した。


「……ほんと?」

「はい」

「どうして?」

「我々の都合で御座います」

「そっか」


外に行ける。
それだけで他のことはどうでもよかった。
私は憂の手を引き、長い間見てきた窓にそっと触れた。
243 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:21:16.78 ID:h/FiLGso


「ねぇ、憂……この景色も最後だよ」


訳もわからず悲しい気分になってしまったので憂と顔は合わせられなかった。
沈黙が流れ、耳にこびりついた波の音がまた、部屋に響く。

その静けさを破るようにまた彼は口を開いた。


「……最後に一つだけ。それは毒の沼などではありません」

「……え……?」

「それが、海、でございます」


海。ずっと見たかった。
当たり前だ。毒の沼なんてあるはずがない。
そうか……私は……


「そうなんだ……」


感傷に浸るようにまた海を眺めた。
憂が所在なさげにしているのに気づいた私は、この部屋を出ることに決めた。


「じゃあ行こっか、憂」

「……それは」


立ち上がった私に向かって再び彼の口から漏れたのは、


「置いていってください」


意味のわからない台詞。
244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:22:12.40 ID:h/FiLGso


「……え?」


間を開けず私は聞き返した。
そして男は機械のように、同じ言葉を繰り返す。


「ここで手に入れたものは全て置いていってください」


私が腕に抱き抱えるのは愛しい妹の憂だけ。
だから、また聞き返す。


「何ももってません」


彼はいつかやってみせたようにゆっくりと腕を持ち上げ、指を指す。


「それ、でございます」


男の指先には、私の大事な憂。
ふつふつと怒りが沸いてきてそれをなんとか抑えた。


「憂になんてこと言うの?」

「それは、この家のものですので」


あくまでも冷静にものを言う男が気にくわなかった。


「憂はものじゃない!ふざけないでよ!」

「……あなたの妹様、平沢憂様は……」


そして、男が言った言葉を、何故か私の耳は通さなかった。

聞こえるのは、波の音だけ。
245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:22:49.75 ID:h/FiLGso


「……何いってるの?」

「あなたの抱き抱えるそれはこの部屋に置いてあった人形です」


また「それ」って言った。
憂を馬鹿にした。憂を侮辱した。


許せない。

許せない。

許さない。


私は傍のゴルフバッグからクラブを抜き取った。
男は、私をずっと見ていた。


「憂はずっと私といるんだよ」

「それは人形です」

「憂は、人形なんかじゃない…」

「平沢憂様は……」


男が言い切るのなんか待たずに、私はクラブを振りかぶった。

こんな失礼な男、


「わああああっ!」


いなくなっちゃえばいいんだ。
246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:23:21.40 ID:h/FiLGso

男は臥したまま動かない。
床は男から流れだす赤い水で滲んでいった。

でも、そんなのはどうでもいい。
私は憂を連れて部屋を飛び出した。


長い廊下を駆け、半円を描く階段を二回降りた。
一回は大きな広間になっていて、見渡すとそこには椅子にもたれたお婆さんがいた。

しかし、よく見るとその人は俯いたまま呼吸の様子すら見られない。

首をもたげ、まるで部屋の一部かのようにひっそりと佇むお婆さんは何処かでみたことがあった。


「……はやく出よう」


そんなことは頭の外に放り出すように、正面の仰々しい玄関を開けて外に出た。
247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:24:00.96 ID:h/FiLGso
〜〜〜

「はっ、はっ……」

いつの間にか、夜。
ずっと見るだけだった砂浜を、憂を抱えながら走る。
足にまとわりついてくる細かい砂は進む体を重くさせた。


「憂、わたしがいるからね」


返事がないのは慣れっこだ。


「どこに行こっか?憂の行きたい場所に行こ」


それでも憂は私に焦点を合わせないで虚空を見つめたまま。


「憂……」


気づくと足は止まっていた。
どのくらい走ったのかはわからない。
長い間私たちを閉じ込めてきたあの大きな家はとっくに見えなくなり、家の方向すら今はわからない。
248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:24:30.97 ID:h/FiLGso


「ねぇ、憂……」


喋らないけれど、憂は人形じゃない。
確かめるように手に意識を移す。
息遣いも、温かさも感じないのは私がおかしくなったからかな。


「一回だけでいいから……」


ぎゅう、っと抱きしめるとやっぱり憂は柔らかかった。
憂は、ちゃんとここにいる。


「一回だけ、返事……してよぉ……」


目からは海からする匂いと同じ何かが出て、視界を滲ませた。


「……憂……」


憂は、それでも黙ったまま。

私は、憂と二人きり。
249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:25:32.04 ID:h/FiLGso

その場に座り込んで、まだ真円にはなっていない月の浮かぶ空を見た。
空は私たちなんかお構い無しにゆっくりと時間が流れてる。

だから目線を落として私の心のように静かな海に目をやる。


「……憂、これが海だって」


心臓の音が聞こえるくらいの静けさ。


「憂だって、ずっと一緒に見てきたよね」


憂の息遣いすら聞こえない。


「あの部屋の、同じ窓から」


私の声は、どこに届くかわからない。


「憂、わたし、もう疲れちゃった」


動かない憂をそっと地面に座らせて、私は立ち上がった。


「……ごめんね」


ゆっくりと波の中に足を入れると、ひんやりしていて目が冴えた。
250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:26:28.58 ID:h/FiLGso

一歩ずつ体を進めて、軽くなっていく体。
心の重荷が外されていくよう。

憂に振り返ると、じっと海を眺めてた。
憂は優しいから、私を止めたりしないんだ。


「憂……ありがとね」


次第に冷たさが伝わる体を海が受け入れてくれた気がした。
私の心に満ちるのは、久しぶりに感じる充足感。

ここで、終わりにしよう。


 冷たい冷たいこの海で。

 静かな静かなこの海で。


 あの部屋の、同じ窓から


「……憂と眺めたこの海で」



                 ―終わり。
251 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 14:27:57.08 ID:cAgiM8s0
なるほどわからん
しかし切ないな
252 : ◆S2uwo.Ayis [sage]:2010/09/26(日) 15:00:03.52 ID:lc8JRsDO





同じ窓から

"トー"ホーキ
キ"ムラ"ト
タスー"へ  てた風景
|キ"ター
 ノ 
253 : ◆S2uwo.Ayis [sage]:2010/09/26(日) 15:01:39.74 ID:lc8JRsDO

   「きれいなうみだね」

     「うん」


 蝉は合唱し《ない》ていた



      浜辺

見渡せば 赤く透ける生命泉《うみ》

  絆の強い二人の少女は

 太陽《ひかり》のいたずらを

 浴びる生命泉《うみ》を見て

   ただ『会話を失う』
254 : ◆S2uwo.Ayis [sage]:2010/09/26(日) 15:03:13.20 ID:lc8JRsDO

 どれぐらい経っただろうか


 「そろそろごはんにしよ?」

  「おねがいします!」
   ここに来る前の
「おねえちゃんとつくりたいな」
    彼女らの秘密を
     「うっ」
   知る者は いない
 「だめ? わたしのぶんだけふやしちゃうよ?」

    「ひっひきょぉ!」
255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 15:04:30.86 ID:lc8JRsDO

i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|||||||||||PAST|||||||||||||||||||||
| | | | | | | | | | | | | | | | | | | |

一夜の暗い部屋 一年の黒い交わり
   「ひゃんッ!」
   人と猿のように
  「ここがいいんだね?」
   昼と夕のように
    「んん!」
 あらゆるものは性格を変える
「ン…ンン! はっはげしいよぉ……」
256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 15:05:58.08 ID:lc8JRsDO

 「イッていいんだよ、ほら」
たえまなく響くあえぎ《よろこび》
  「まっまってういいぃぃ!!!」
『二重に閉ざされたその場所から』

 誰がこの絆《つながり》を
  「ハア……ハア…」
禁断《しまいだったもの》を知れるだろうか
「ふふっいとしいいとしいお姉ちゃん」
257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 15:07:44.16 ID:lc8JRsDO

   「ハア……フゥ…」
  そんな現実はやがて
    「ヒャアン!」
 下水《ねたみ》を流しこまれた 「おいひぃよお姉ちゃん」
  湖《おもい》へと変わる
「きっきたないよぉァアン!!」
 「そんなわけないじゃん」
  そのとき彼女の下流に
 「ハア…まって…」
誰が住む《くちをつける》だろうか
258 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 15:09:09.25 ID:lc8JRsDO

i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||A LONG TIME PASSED||
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| | | | | | | | | | | | | | | | | | | |

    「できた!」
  やがて姉は同業者を拒み
 「がんばったねお姉ちゃん!」
 別種の《おなじ》業者となり
    「えへへ」
妹の他に誰も飲めぬ湖《おもい》となった


  「リビングにはこぼ」
259 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 15:10:21.12 ID:lc8JRsDO
約束した愛《みらい》を得た少女らは
    「よっと!」
 この大きな家《らくえん》を
   「きをつけてね」
  初めて訪れたときに見た 
    「うん!」
  大きな窓のある部屋へ

この海《しー》を見れる部屋へ
260 : ◆S2uwo.Ayis [sage]:2010/09/26(日) 15:11:44.84 ID:lc8JRsDO

   祝福の音を奏で
    「終わった!」
  うつわは光に照らされる
 「お姉ちゃん、食べよ!」

 「もうぺこぺこだよぉ」
 その部屋《そこ》にある光景は

 窓に向き合う二人の少女《あい》

    「おいしいね!」
  同じ窓から見てたときと

 ほとんど変わらぬ風景《うみ》

    END
261 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 15:38:17.53 ID:lc8JRsDO
>>257で改行しわすれ発見

「こまれた」のあと改行
262 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 16:28:27.84 ID:LBXmWLk0
おつー
263 : ◆NaJNx./DFI [sage]:2010/09/26(日) 16:40:54.51 ID:Yb/xWwAO
「あずさままー」

梓「はーい。」

「ういままー」

憂「あいちゃーん。あんまりお水に近寄ったらダメですよー。」

「うん!」

冬の冷たい潮風を物ともせず、砂浜を駆ける小さな姿。

梓「愛はホントにお母さん譲りのやんちゃさんだね。」

こちらに向かって、小さな手を一生懸命に振る愛に、憂が小走りに駆け寄りその小さな体を抱きよせる。

これは私達親子3人のある冬の日の物語。
264 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 16:42:18.40 ID:11TrRSgo
http://beebee2see.appspot.com/i/azuYgtvuAQw.jpg
265 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 16:43:47.82 ID:Yb/xWwAO
程なくして、目的の場所である海辺の小さな食堂に辿り着く。

愛「おじーちゃん、おばーちゃん、こんにちは!」

出迎えた老夫婦は、毎年成長していく愛の姿に目を細めている。

梓「今年も御厚意に甘えさせて戴きに参りました。」

爺「こちらこそ、毎年来てくれて感謝していますよ。」

小さな愛の身体を愛しそうに抱き締めて、お婆さんが深い感慨を込めて告げる。

婆「愛ちゃんもこんな立派に大きく育って・・・。」
266 : ◆NaJNx./DFI [sage]:2010/09/26(日) 16:44:55.90 ID:Yb/xWwAO
憂「春からは幼稚園の年長さんになります。」

婆「年々お母さんの・・・唯さんの面影が濃くなってきますね。」

憂「そうですね、私も時々幼かった頃の姉の姿と錯覚してしまいますね。」

愛「ういままないてるの?」

憂「あいちゃんには、そんな風に見えるのかな?」

愛「んーわかんない」

梓「ふふ、愛のそう言う不思議な感覚も正しくお母さん譲りだね。」
267 : ◆NaJNx./DFI [sage]:2010/09/26(日) 16:46:04.15 ID:Yb/xWwAO
愛を憂に任せて、2階の部屋に向かう。

扉を開き、時間が停まったままのような毎年何一つ変わる事の無い室内へ足を踏み入れる、唯先輩がその最期の時を生きた部屋へと。

元から据え置かれていた家具を除けば、唯先輩の私物と呼べる物はほぼ皆無だったと言ってもいい。

僅かな衣類と、最小限の身の回り用品、そして深紅のギターだけが、唯先輩がここに居た証。

梓「唯先輩、今年もメンテに来ましたよ。」

用意してきたツールを取り出し、私は年に一度の仕事に取り掛かる。
268 : ◆NaJNx./DFI [sage]:2010/09/26(日) 16:47:35.26 ID:Yb/xWwAO
機械的に作業を進めながら、様々な記憶が脳裏を過ぎる。

大学進学を機に一人暮らしを始めた唯先輩が、突如私達の前から姿を消したあの夏の日。

自暴自棄に陥りそうになる憂を守るためだけに生きた秋の日。

警察による失踪人探索が、唯先輩の死という最悪の形で決着をみた冬の日。

そして、唯先輩がこの世界に残した最大の希望、それは産み月に満たない小さな命を、まるで己の全て捧げたかの様に最期の瞬間に産み落とした新たなる命。

今は愛と呼ばれる、唯先輩の忘れ形見にして、私と憂の最愛の娘。
269 : ◆NaJNx./DFI [sage]:2010/09/26(日) 16:49:46.50 ID:Yb/xWwAO
愛「あずさままー」

階段を登ってきた愛が、私の背中に小さな身体を預けてくる。

梓「もうすぐ終わるから、お行儀良く待てるかな、愛?」

愛「うん」

私の隣りに座り興味津々な目で、産みの母の形見のレスポールを見る愛。

梓「愛もギターを弾きたい?」

愛「うん!ままみたいにひきたい!」

この「まま」は果たして誰を指しているのか…
産みの母を見た事が無い愛が、知っている訳が無いのを承知で疑問に思ってしまう。
270 : ◆NaJNx./DFI [sage]:2010/09/26(日) 16:50:52.13 ID:Yb/xWwAO
梓「よし、完了。」

その声を待っていたかのように、愛が私に促す。

愛「ままのおうたひいて!」

これも不思議な話だけど、愛は生まれる前に聞いたという歌を「ままのおうた」と呼んで、よく口ずさんでいる。

梓「それじゃ、愛のリクエストにお答えしようかな。」

私は海を見渡す窓辺に腰掛け、弦を爪弾く。
愛を身籠もった唯先輩は、この食堂に住み込みで働きながら、夜になるとここに腰掛けギー太を爪弾いていたらしい。

きっと今の私の様に…。
271 : ◆NaJNx./DFI [sage]:2010/09/26(日) 16:52:25.51 ID:Yb/xWwAO
私の爪弾きに合わせるかの様に、部屋に入ってきた憂が歌う。

憂♪筆ペンfu-fu 震えるfu-fu 初めて君へのwritten-time

正直助かるよ、歌は苦手だから。

憂♪君の笑顔想像して〜

私達の歌を聞いていた愛が突然立ち上がると、押し入れを開けてなにやら中を探している。
そこには何も無かったけど?

暫くすると、愛は一通の大きめの茶封筒を持って出て来た。

愛「ままのおてがみだよ」

私と憂は歌を止めて、愛の手にするモノを見つめる。
272 : ◆NaJNx./DFI [sage]:2010/09/26(日) 16:53:58.99 ID:Yb/xWwAO
愛「はい、ういまま」

憂「あ、ありがとう、あいちゃん。」

震える手で受け取った憂が中を調べると、入っていたのは何枚ものハガキと一冊のノート。

私達はハガキの宛名を一枚一枚確認する。

律先輩、澪先輩、ムギ先輩、さわこ先生、両親
そして、憂と私

それぞれの私信は読まずに、自分達へのハガキに目を通す。

そこに書かれていたのは、ありきたりな季節の挨拶と、謝罪の言葉、そして幸せに暮らしているという近況報告。
273 : ◆NaJNx./DFI [sage]:2010/09/26(日) 16:55:06.39 ID:Yb/xWwAO
憂と二人でノートに目を通す。

いくつかの作詞と共に残されていたのは、唯先輩の日記のようなモノ。

真剣に恋をした事。
愛する人を病で失った事。
二人の愛の結晶を身籠もった事。
誰にも迷惑をかけたくない為に生まれた街を出た事。
この食堂での老夫婦と過ごした幸せな時間の事。

そして…生まれてくる子供の名前を「愛」と名付けようと思っている事。
274 : ◆NaJNx./DFI [sage]:2010/09/26(日) 16:57:30.17 ID:Yb/xWwAO
窓辺を見ると、愛が小さな身体にギー太を抱えて、弦を爪弾く真似をしながら歌っていた。

愛♪きみがいないとなんにもできないよ きみのごはんがたべたいよー

参ったな…唯先輩、あなたはどうしてこんなに…。

私と憂はただ黙って泣いた…だって、なにも言葉はいらないから。

それを見た愛が目にイッパイの涙を浮かべて、私達の元へと駆け寄る。

愛「ういまま、あずさまま、なかないで」

私達3人は初めて一緒に泣いた。

唯先輩、あなたの娘は…愛は元気に育っていますよ。
275 : ◆NaJNx./DFI [sage]:2010/09/26(日) 16:58:36.88 ID:Yb/xWwAO
私達3人は部屋を後にすると、食堂の老夫婦とお別れの挨拶を交わした。

婆「愛ちゃん、また来てね。」

愛「うん!」

爺「ギターは持って行かなくていいんですか?」

憂「はい、身勝手なお願いですがもう少しあの部屋に置いてあげて下さい。」

爺「私達は構いませんよ。唯さんは私達にとっても娘同然ですから。」

憂「本当にありがとうございます。」

梓「愛がもう少し大きくなってあのギターを弾けるようになったら…その時まで、お願いします。」
276 : ◆NaJNx./DFI [sage]:2010/09/26(日) 17:00:42.22 ID:Yb/xWwAO
冬にしては、穏やかな波の砂浜を3人で手をつないで歩く。

見上げると、唯先輩が、私が、憂が、そして愛が見たあの窓辺。

また来年訪れた時もきっと変わらない風景。

唯先輩、私達は幸せに暮らしていますよ。


お し ま い
277 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 17:07:39.15 ID:jk2WkkSO
せつねぇ……けど乙
278 : ◆8PxGuwa2z6 :2010/09/26(日) 18:00:06.22 ID:w9x.bGg0
憂「じゃあ帰るね、お姉ちゃん」

唯「うん、じゃあね憂」

憂は私に挨拶をすると、静かに扉を閉めた。

部屋の中は物音一つせず、部屋一面の白い色と相まって不気味な雰囲気さえ漂わせた。

布団の擦れる音が、私の心の悲鳴にも聞こえた。

窓の外を見ると、一面の海。

どこまでも続く海が、私を不安にさせた。
279 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:01:01.57 ID:w9x.bGg0
病院というのはとても静かだ。

病人のことを思って静かで落ち着いた空気になっているのだろうけど、

それが余計に私の気持ちを陰鬱とさせた。

唯「はぁ・・・つまんないよ・・・」

病室で一人、私はつぶやいた。

私の病室は、今は私一人しかいない。

ナースコールや検査、面会や食事といったイベントが無い限り、私は一人だ。
280 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 18:01:53.23 ID:NyEyssDO
これは反則だろ……よかった乙

ういまま、あずさままって聞いて、「ああ、憂と梓が結婚して未来の技術で子作りしたんだなぁ」とか想像した俺はなにかに毒されている
281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:02:00.95 ID:w9x.bGg0
この海沿いの病院に私が入院したのは、景色が良いということからだった。

確かに景色はとても綺麗だ。

でも、私の心は、美しい景色なんかで満たされることはなかった。

唯「何で、こんな体に生まれちゃったんだろう・・・」

親を恨んでいるわけではない。

むしろ、親には良くしてもらって感謝をしている。

恨むとしたら、神様だ。
282 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:03:19.59 ID:w9x.bGg0
生まれつき体の弱かった私は、ずっと入退院を繰り返している。

本当なら高校に行っている年齢なのに、私は学校に通えるほど強くなかった。

でも、両親や妹の憂、親友の和ちゃんがお見舞いに来てくれるときだけ、私は一人じゃなくなる。

他の入院患者さんが同じ部屋に割り当てられることもあったけれど、

いつも仲良くなる前にすぐに退院してしまった。

だから、私はいつしか特定の人以外とのコミュニケーションを避けるようになってしまった。

だって私には、お父さんお母さん、憂、和ちゃんがいるから。

そう自分に言い聞かせていた。
283 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:04:40.95 ID:w9x.bGg0
ある日、私が一人で本を読んでいると、看護師さんが病室に入ってきた。

看護師「平沢さん、今日から同じ部屋のお友達ですよ」

唯「・・・はい」

また、新しい人が入ってきた。

でも、どうせすぐにいなくなってしまう。

仲良くなる必要なんてないと思った。

看護師「さ、田井中さん、挨拶して」

田井中「あ、田井中律です。平沢・・・さん、よろしくお願いします」
284 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:05:45.19 ID:w9x.bGg0
新しく入ってきた子は、少し小柄な女の子だった。

年は・・・私と同じくらいだろうか。

カチューシャをつけ、オデコを出しているのが印象的だった。

看護師さんは、田井中さんに病室内の一通りのことを説明した後、部屋を後にした。


部屋には、私と田井中さんの二人。

私は、本を読むことに集中した。

しばらく本を読んでいると、田井中さんが私に話しかけてきた。
285 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:06:33.03 ID:w9x.bGg0
田井中「平沢さんって・・・年いくつなの?」

仲良くなるつもりは無くても、険悪な空気を漂わせるつもりもない。

私は暗いトーンで返した。

唯「・・・15歳だよ」

田井中「えっ、マジ?私と同じだぁ」

田井中さんは嬉しそうに私のほうを見て笑っていた。

・・・見ず知らずの人の笑顔を見たのは、久しぶりだった。
286 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:08:06.81 ID:w9x.bGg0
田井中「平沢さんって、ずっとこの部屋で入院してるんだって?」

年齢の次の質問は、ずいぶんと失礼なものだった。

どうやら少し無神経な人らしい。

私は少しムッとした表情で顔を背けた。

田井中「あ、悪い、失礼だったな。好きで入院してるわけじゃないもんな・・・・・・ごめん」

悪い人では、無いらしい。

唯「・・・いいよ、気にしてないから」

田井中「そっか、サンキューな。でも、同い年ってなんか嬉しいよ」

今まで入院してくる人は、大抵暗い雰囲気の人が多かった。

でも田井中さんは、とても明るく、元気な人だった。

それが、とても新鮮に感じられた。

病室の空気も、明るくなった気がした。
287 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:09:57.64 ID:w9x.bGg0
唯「・・・私は、生まれつき体が弱くて、ずっと入院してるの」

唯「クーラーも苦手で、体力も無いから、とてもじゃないけど学校なんて通えないよ」

私自身、自分の発言に少し驚いていた。

だって、まだ会ってから数十分の人に、自分の話をするなんて。

それは、田井中さんの不思議な魅力に、すでに取りつかれていたからかもしれない。

私が他人に興味を持つなんて、いつ以来だろう。

私は田井中さんのことを、もっと知りたくなっていた。

唯「じゃあ私も聞くけど、田井中さんは・・・・・・なんで、入院したの?」
288 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:11:25.37 ID:w9x.bGg0
田井中「私も・・・それほど体が強いほうじゃないから」

田井中「多分、平沢さんほどじゃないけど、今まで何度も入退院を繰り返してる」

田井中「でも、中学に入ってから、少しずつ体も成長してきて、入院回数も減ってるんだ」

田井中「お医者さんにも、今回で入院を最後にしましょうって言われててさ・・・」

似たような境遇だった。

私も、最近は体の調子が少しずつ良くなっていた。

多分だけど、田井中さんと私は、同じような体の構造なのかもしれない。

それが、何となくだけど、嬉しかった。
289 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:12:40.95 ID:w9x.bGg0
田井中「あ、あとさ、私の呼び名なんだけど・・・律でいいよ」

唯「えっ・・・でも・・・」

田井中「何か苗字で呼ばれるの、距離を感じて寂しいからさ、同じ部屋同士、仲良くしようぜ」

私は知り合い以外で仲良くするつもりなんてなかった。

でも、田井中さんを前にすると、そんな考えが馬鹿馬鹿しくも思えたのだった。

唯「・・・うん、でも・・・どうせ仲良くするなら・・・・・・あだ名で、呼びたいな」

唯「・・・・・・・・・りっちゃんって、呼んでもいい?」

律「おう!じゃあ私もあだ名で・・・えーっと・・・・・・」

唯「・・・・・・私の下の名前は、唯だよ」
290 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:13:42.07 ID:w9x.bGg0
律「唯・・・ゆい・・・・・・うーむ・・・・・・・・・・・・・・・ゆ、ゆーちゃん・・・?」

唯「・・・」

なんかしっくり来なかった。

律「だー!今のナシ!やっぱり考え直す!!」

田井中・・・もといりっちゃんは、うなりながら考え始めた。

律「・・・・・・平沢さんって、普段なんて呼ばれてるの?」

唯「えっ・・・えーっと・・・」

普段、何て呼ばれているか。

友達・・・と言える人は和ちゃんくらいしかいなかった。

唯「・・・普通に、唯、かな」
291 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:14:48.44 ID:w9x.bGg0
律「そっかー。やっぱりそうだよなー」

りっちゃんは一人納得したように言った。

律「唯ってすげー良い名前だしな。唯は唯だよ」

律「というわけで、これから唯って呼ばせてもらってもいいか?私の頭じゃ思いつかん!」

妙なテンションで同意を求められた。

唯「・・・うん、よろしくね、りっちゃん」

私に、新しい友達が出来た。
292 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:16:19.65 ID:w9x.bGg0
それからというもの、病室内の雰囲気は見違えるほど明るくなった。

私はりっちゃんと飽きる暇も無くお喋りを続けた。

何と、私とりっちゃんが、同じ高校に「所属」していることも知った。

ただ私は一度も通えたことは無く、りっちゃんもほとんど登校したことがないらしい。

また一つ、りっちゃんとの共通点を見つけて、私は嬉しかった。


喋りすぎて具合が悪くなって注意されることもあった。

そのくらい、りっちゃんと同じ時間を共有することが、楽しかった。

私のお見舞いに来てくれた人は、私の様子を見て、口を揃えてこう言った。

『明るくなったね』

病室の雰囲気が明るくなったのか、私自身が明るくなったのか。

とにかく、りっちゃんのおかげで、全てが良い方向へと動き出していた。
293 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:17:26.84 ID:w9x.bGg0
数日後


いつものようにりっちゃんとお喋りをしていると、ノック音が聞こえた。

女「失礼します」

入ってきたのは、一人の女の人だった。

年齢は私たちより、少し上にも思えた。

律「お、澪、来てくれたのか」

澪と呼ばれた女の人は、りっちゃんを見ると笑顔になり、りっちゃんの近くに腰掛けた。

澪「律、具合はどうなんだ?」

律「あー、いい感じだよ」

どうやらこの二人は、友達のようだ。
294 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:18:42.95 ID:w9x.bGg0
二人は雑談を始めた。

盗み聞きをするわけではないが、自然と二人の会話に耳を傾けた。

・・・話の感じだと、この二人は、古くからの親友らしい。

私と和ちゃんみたいなものかもしれない。

そんな二人の会話を、私が聞いていいものかと思い、私は窓の外へ目を向けた。

そこには、いつもの景色である、広大な海が広がっていた。
295 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:20:22.31 ID:w9x.bGg0
・・・・・・
・・・・
・・


澪「じゃあ私はそろそろ帰るな」

律「おう、今日はありがとな」

澪「無理しようとするなよ。約束なんて、破ったくらいじゃ怒らないから」

澪さんは立ち上がると、出入り口のほうではなく、私のほうを見た。

澪「あ、あの・・・どうもお騒がせしました。すみません・・・」

そう言うと、澪さんは私に頭を下げた。

お騒がせしたというのは、りっちゃんと喋っていたことだろうか。

突然のことで、私はとっさに反応が出来なかった。

唯「えっ・・・あ・・・えと・・・」

律「だー澪はクソ真面目だな。大丈夫大丈夫、唯は私の友達だから。だから澪はさっさと帰った帰った」

澪「わ・・・分かったよ。じゃあ、失礼しました」

扉が閉まり、部屋はまた、私とりっちゃんの二人になった。
296 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:21:18.91 ID:w9x.bGg0
律「今のは、私の幼なじみで、秋山澪っていうんだ」

唯「・・・仲、良さそうだったね」

律「まー昔っからの腐れ縁だなー。家も近いし、いっつも一緒だったよ」

唯「そうだったんだ・・・」

しばらくの間、私とりっちゃんは沈黙していた。

そして、りっちゃんは静かに口を開いた。

律「・・・唯、私たちの話・・・聞いてた?」

唯「・・・ううん、聞かないようにしてた。二人に悪いから」
297 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:22:08.42 ID:w9x.bGg0
律「そっか・・・」

再びの沈黙の後、りっちゃんはこう言った。

律「唯に、聞いて欲しい話があるんだ」

唯「・・・何?」

りっちゃんは、寂しそうに、でも少し嬉しそうに、語りだした。


律「私な、もうすぐ退院するんだ」

唯「・・・」

やはり、りっちゃんも、私から離れていってしまうんだ。

律「だから、もうすぐ唯とは、お別れになってしまうかもしれない」
298 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:23:22.27 ID:w9x.bGg0
律「で、ここからが本題なんだ」

唯「本題・・・?」

私にとって、りっちゃんが退院してしまうこと以上に重要なことは、心当たりが無かった。

律「私、澪にある約束をしてたんだ」

律「中学の頃、高校に入学したら、一緒に軽音部に入ろうって、澪に持ちかけててさ」

律「実際高校に入って、軽音部を作ろうと思ったんだけど、私が体調を崩しちゃって」

律「で、軽音部は結局出来なくて・・・澪も、部活に入るタイミングを失っちゃって・・・」

唯「・・・」

悪いけど、りっちゃんの言ってることがよく分からなかった。

私は、澪さんとは面識が無い。

何故りっちゃんは私に、こんな話をするのだろう。
299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:24:21.70 ID:w9x.bGg0
律「でも、私は退院して復学したら、軽音部を作ろうと思う」

律「澪とはずっと約束してたんだ。私がドラムで澪がベースで、バンドをやろうって」

律「だから私は、その約束を守るためにも、退院しなくちゃいけない」

りっちゃんと澪さんの間には、私が入り込んではいけない領域がある気がした。

唯「・・・うん、りっちゃんが良くなったなら、それはすごく良いことだよ」

律「・・・そこで唯、一つ、お願いがあるんだ」

唯「お願い・・・?」

りっちゃんは私の目を見て、こう言った。

律「唯にも、軽音部に入って欲しい」
300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:25:40.14 ID:w9x.bGg0
唯「えっ・・・私が・・・?」

律「ああ、私たちと一緒に、音楽やろうぜ」

唯「でも、私、一回も高校行ったことないし・・・」

律「もちろん退院してからでいいさ。元気になってからの話だよ」

唯「楽器だって・・・ハーモ・・・カスタネットくらいしかできないよ?」

律「大丈夫。私たちが教えるさ。誰だって最初は初心者だ」

唯「でも・・・・・・」

律「唯、頼む。・・・私は、親友と、音楽がやってみたいんだ」

真剣な眼差しで、りっちゃんは、私のことを、親友と言った。
301 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:26:26.17 ID:w9x.bGg0
唯「・・・りっちゃん、私・・・部活に誘われたのなんて、初めてだよ・・・」

唯「昔から体が弱くて、部活なんて、考えたことも無かった・・・」

唯「・・・本当に、私なんかで、いいの?澪さんとの間に・・・私なんかが、入っていいの?」

律「・・・唯だから、誘ってるんだ。唯と私と澪で、一緒に笑いあいたいんだ」

唯「りっちゃん・・・・・・・・・」

生まれて初めてのことで、私は様々な感情があふれ出した。

その感情を処理するためには、ただただ涙を流すしかなかった。
302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:27:24.33 ID:w9x.bGg0
数週間後


いよいよ、りっちゃんの退院の日が明日に迫っていた。

律「もうすぐ、一時お別れだな・・・」

唯「うん・・・」

律「・・・でも、退院しても、唯とは友達だからな」

唯「・・・私も、りっちゃんのことは忘れないよ」

律「何だよ、今生の別れみたいなこと言うなって」

唯「でも、やっぱりちょっぴり寂しいから・・・」

私は窓の外を眺めた。

そこにはいつもと変わらない、広大な海があった。
303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:28:07.63 ID:w9x.bGg0
唯「・・・私も、早く退院したいな」

律「唯・・・」

りっちゃんは、私の隣に腰掛け、窓から外を眺めた。

律「唯、ずっと、待ってるからな」

唯「・・・うん、絶対行くから。だから、もう少し待ってて」

海を眺めながら、私たちは約束を交わした。
304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:29:39.12 ID:w9x.bGg0
唯「・・・私、部活ってやったことないから分からないんだけど、合宿とかって、行くのかな」

律「合宿か・・・行けたら、いいよな」

唯「うん、私、行くなら、海に行きたい」

律「海?何で?」

唯「この、りっちゃんと一緒に見ていた景色を、思い出したいから・・・」

律「・・・そっか」

私とりっちゃんは寄り添って、同じ窓から海を眺めた。

広大な海は、太陽の光を反射させ、キラキラと輝いていた。
305 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:30:59.54 ID:w9x.bGg0
唯「海でいっぱい遊んで、真っ黒になるまで焼いて、お風呂で痛い痛いって言いながら、笑いたいな」

律「ははっ、それは私たちの体じゃ無理だな。でも日焼けしやすい人って、大変だろうなぁ」

唯「で、軽音部だし、海沿いの小屋でいっぱい練習して、ヘトヘトになるまで演奏して・・・」

律「海沿いで演奏できる家なんて、超金持ちしか持ってないだろ。・・・でも、すごくそれ、楽しそうだな・・・」

唯「想像するだけなら自由だよ、りっちゃん」

律「そうだな、そうなったら、最高だな・・・」

その日、私たちは、最高の青春の日々の妄想をぶちまけ合った。
306 : ◆G6TtgMqJnQ [sage]:2010/09/26(日) 18:31:38.52 ID:WksKj6AO
20時に予定していた者ですが、用事が入り23時くらいになりそうです。

23時にまた来ます
307 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:31:54.08 ID:w9x.bGg0
翌日


りっちゃんの元へ家族がやってきて、りっちゃんは病室を出ることとなった。

律「じゃあ、またな、唯」

唯「うん、今度は学校でね、りっちゃん」

私たちは深く言葉を交わさなかった。

まるで、学校の帰りに途中で別れる友達同士のように、あっさりとした別れだった。

りっちゃんは一度も振り返ること無く、病室を後にした。

病室には、私一人が残された。
308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 18:33:12.07 ID:w9x.bGg0
でも、私にりっちゃんと会う前の不安はもう無かった。

退院しても、私には居場所がある。

そう思うだけで、世界は希望に満ちているように感じた。

りっちゃんとの約束を守るためにも、一刻も早く、退院がしたいと思った。

唯「・・・待っててね、りっちゃん。私、絶対良くなってみせるから」

私は窓から外の景色を眺めた。

広大な海は、まるで、私の未来を見ているかのようだった。





終わり
309 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 18:44:46.88 ID:QVcdSVco
310 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 18:51:37.45 ID:cAgiM8s0
いいね、気持ちいい作品だ
おつ
311 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 19:50:32.06 ID:yCZbnEAO
みんな乙アンド超頑張れ

二つ目、10とちょっと使います
312 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 19:52:37.51 ID:yCZbnEAO
唯「前回のあらすじ。ムギちゃんのたくあんは眉毛でした。もちろんむしってもゲルになりません」

律「まさかムギが梓を道連れに憤死するなんてな…」クッ

唯「そして私たちはお悔やみショッピング()に来てるわけです」

唯「澪ちゃんはあずにゃんが死ぬことで自分のポジションが戻って来る、とご機嫌です」


唯「うふふー」

律「あははー」

澪「黄色いーシャツ着たー♪」スタスタ

チラッ

唯「!?」
313 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 19:56:27.69 ID:yCZbnEAO
唯「ねえねえ、りっちゃん」グイグイ

律「なんだー、唯?」

唯「澪ちゃんのしまむらジーンズ500円からamazonが…」

律「ああ、澪はアフィ厨だからなー」

唯「クリックさせてお金もらってるの!?こいつぁとんだ痴女だっ!!」

澪「オッチョンジー マレドゥロー♪」

唯「澪ちゃんの方がよっぽどオッチョンジーだよっ!!」クワッ

澪「!?」

律「唯は韓国に謝罪しなくちゃいけないよね」
314 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 20:00:31.43 ID:yCZbnEAO
唯「じゃなくって、澪ちゃんが社会の窓からコンニチハさせるごとに一円もらってたら大金持ちみたいな」

律「回りくどいこと言わなくていいよ。澪の陰毛がはみ出してるんだろ」

唯「デリカシーないよ!ていうか知ってたの?」

律「当たり前だろ、普段から私は澪の股間しか見てないし」

律「正直澪の股と尻の穴は私が開けたんじゃないかって思ってる」

唯「でも穴があるから見てたんだよね?」

律「卵が先か、ニワトリが先か。深い問題だな」
315 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 20:04:31.88 ID:yCZbnEAO
澪「あっ、レフティセール」シャガミ 毛「ワサッ」

唯「……」

澪「今日は風が強いな」毛「そよそよ」

澪(┣¨┣¨┣¨┣¨ドド)毛「ドッギャアアァァン」

唯「りっちゃん。私初めに「チラッ」とだけ見えた気がしたんだけど、気のせいだった」

律「ああ。股間にタワシが下がってるな。新手のファッションと考えることも」

唯「出来ないよね。私たち露骨に避けられてるし」

律「澪と同類って思われてるのは不愉快だな」

唯「それと今更だけど、澪ちゃんパンツはいてないよね」

律「ああ…まあな」
316 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 20:07:05.65 ID:yCZbnEAO
唯「でもなんであんな…森林は適切な方法で保護しないと正しく生育されないのに」

唯「エコテロリストの私としては見逃せないよ」

律「実はな…学園祭のあの事件、あったろ?あれ以来、澪はパンツが怖くなってしまって」

律「じゃあ逆にパンツをはかなければ見られることはない、ってことで…うう、澪っ」ブワッ

唯「(頭が)可哀相な澪ちゃん……私たちがなんとかしないと。世間体もあるし」

律「さっさと言っちゃうか?」

唯「ダメだよ、澪ちゃんはめんどくさい子だから自殺しちゃうかもしれないし」

唯「気づかれないように社会の窓を封印するしかないよ」

澪「ふわふわタイム♪」毛「ふわふわタイム♪」
317 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 20:09:21.13 ID:yCZbnEAO
唯「じゃあ私が澪ちゃんの気を引くから、その隙にりっちゃんが奴を封じ込めて」

律「わかった。死ぬなよ…唯」グッ

唯「私を誰だと思ってるの?アナタこそ」グッ


唯「……」ススス

唯「シャチョサーンイイコイルヨー」スリスリチラッ

澪「ゆ、唯?なんで急にカタコトになったんだ?」

唯「シャチョサーンステキヨー、ヤスイヨー」サワサワ

澪「だ、ダメだってば///」

唯(このまま股間に…)スススグサッ

唯「痛ええええっ!!!」

澪「!?」
318 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 20:11:44.38 ID:yCZbnEAO
唯「茨の壁に遮られてダメでした」テヘペロ

律「何やってんだよ〜」

唯「でもしっかり財布はとったよ!」

律「でかした!!」

唯「ていうかりっちゃんがチャック上げるって話だったじゃん!」

律「だって私も澪としっぽりしたいもん」

唯「じゃあ役割交代しよう。私はさっきいっぱいやったから満足したし」
319 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 20:15:14.00 ID:yCZbnEAO
唯「それから!」

律「澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪澪」ペロペロネチョネチョデコデコ

澪「あひいいいぃぃぃ律うぅぅぅ///」アンアン

唯(往来のど真ん中なのは気になるけど、今なら社会の窓に集中できる!)コソコソ

唯「(ガシッ)めん、そーぉれっ!!」グイッ

ブチブチブチブチィィッッッ

澪「ヒギィッ!!」バターン

唯「南無三っ!!」
320 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 20:18:22.92 ID:yCZbnEAO
澪「」ブクブク

唯「もうジッパーが上がらないよ…」

律「手詰まりか…」ツヤツヤ

唯「いや、まだ終わりじゃない…何か方法があるはずだ…」

唯「!!」ピコーン

唯「逆転の発想だよりっちゃん!!」

唯「窓を閉じることが出来ないなら、窓を閉じなくてもいいようにすればいいんだよ!」

律「つまり…」ゴクリ


唯律「 伐 採 」
321 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 20:21:02.41 ID:yCZbnEAO
澪「」

律「唯研究員。地理の問題だ」

唯「なんですかりっちゃん研究員!」

律「秋山アメリカ。起伏の激しいわがままボディだ」ツツー

律「そして、ここ。未開のジャングル。この先に何があるのかわかるか、唯研究員」

唯「わかりません!」

律「正解は海だ。実際に見て確かめてみよう」

唯「こんなこともあろうかとカミソリを用意しておいてよかったー!!」

唯律「…にやり」


ヌガシヌガシ
322 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 20:23:48.08 ID:yCZbnEAO

ショリ…ショリ…

ツルッ

唯「ぱいぱん!」

律「実際のところ、青く点々としてるけどな…」

唯「この先には神秘の海が……んん〜?」

唯「おやおやぁ?澪ちゃんのかた〜く閉じられたつぼみから蜜が垂れてるぞお?」

律「へへへ…この女、感じてやがるぜ。すました顔してとんだ淫乱娘だ」ジュルリ

唯「ひひひ、待ってなお嬢ちゃん。すぐにおいちゃんが大人の階段上らせてあげるからねえ?」

唯「でも私は淑女だからちゃんと同意を得るよ。澪ちゃん、いいよね?」

澪「イイヨー」(律(澪)ノシ

唯「Open sesami」クパァ――
323 : ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 20:26:37.53 ID:yCZbnEAO


――私たちは若かった。

根拠のない万能感に自らを支配され、自分に不可能はなくて、
幸せな毎日が永遠に続くものだと思っていた。

でも、それは大きな間違いだったと思い知ることになる。
そして、それを知った時には何もかもが手遅れだった。
私たちの短い生涯は終わってしまったのだから。

たった一つの社会の窓によって。


私たちが小さな窓から見た密林。それと同じ窓から見えた海は、
触れてはいけない領域だった――

324 :終わり ◆6krNVk0d3w :2010/09/26(日) 20:28:27.92 ID:yCZbnEAO

……


『有毒ガスにより町が壊滅した事件は、一年たった現在も依然として原因が判明しておらず――』


澪「嫌な…事件だったな」


END
325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 20:28:59.73 ID:cAgiM8s0
言葉が……出ない……
326 : ◆VyLhqMWcJ. [sage]:2010/09/26(日) 20:39:44.03 ID:b02p32AO
よし始める
駄短編だし良作の箸休めにでも読んでくれ
327 : ◆VyLhqMWcJ. [sage]:2010/09/26(日) 20:40:48.67 ID:b02p32AO
ガチャッ!

唯「大変!大変!」

律「いきなりどうした」

唯「事件!事件だ!大事件!」

律「なにぃ!?」

唯「尾の島の海で殺人事件だよりっちゃん!」

律「よーし!現場へ急行だ!」

唯「おーっ!」
328 : ◆VyLhqMWcJ. [sage]:2010/09/26(日) 20:41:39.59 ID:b02p32AO
ザザーン

唯「ここが尾の島だよりっちゃん!」

律「おぉ。きれいな海だな!」

律「……ん?」

梓「シクシク」

律「唯、あそこで泣いてるのは……」

唯「……第一発見者のあずにゃんだよ。今はそっとしといてあげよう」

律「そだな」
329 : ◆VyLhqMWcJ. [sage]:2010/09/26(日) 20:42:56.35 ID:b02p32AO
現場


唯「ここだよ」


澪「」


律「げっ、まだ死体が転がってるじゃないか!」

唯「警察にはまだ通報してないからね」

律「ふーん。それで被害者の身元は?」

唯「えーっと、名前が秋山澪ちゃん。桜ヶ丘在住で高校生だって」

唯「澪ちゃんバンドを組んでて、今日はこの尾の島に歌詞を考えに来たらしいよ」

律「一人で?」

唯「一人で」

律「そうか……」
330 : ◆VyLhqMWcJ. [sage]:2010/09/26(日) 20:44:35.77 ID:b02p32AO
律「高校生なのに海の見えるホテルに一人旅……豪勢なこった」

律「……ん?」カサッ

律「なんだこの紙?」

唯「ああ。それ澪ちゃんが考えた歌詞だよ」

律「へぇーどれどれ」


もってけ☆エリザベス
作詞 秋山澪 作曲 琴吹紬

曖昧3弦 そりゃぷにってことかい? ちょっ!
らっぴんぐがベース・・・だぁぁ不利ってこたない ぷ。
がんばっちゃ やっちゃっちゃ
そんときゃーっち&Release ぎょッ
汗(Fuu)々(Fuu)の谷間にDarlin' darlin' F R E E Z E!!

もっていけ!
最後に笑っちゃうのはあたしのはず
ベーシストだからです←結論
月曜日なのに!
機嫌悪いのどうするよ?
低音がいいのです←キャ?ワ!イイv―――――――


律「……」

唯「……」

律「……スランプだったのか?」

唯「そこまでは調べてないよ」

律「そっか」
331 : ◆VyLhqMWcJ. [sage]:2010/09/26(日) 20:45:23.33 ID:b02p32AO
律「さて」

律「私たちの使命は澪を殺した犯人を見つけることだ!」

唯「そうだねりっちゃん!」

律「殺された澪の無念、はらさでおくべきかー!」

唯「はらさいでりかー!」

律「というわけでとりあえず第一発見者の梓の話を聞くぞ!」

唯「うん!」

唯「あずにゃーん、いらっしゃーい!」

梓「はぁーい」ガチャッ
332 : ◆VyLhqMWcJ. [sage]:2010/09/26(日) 20:45:56.42 ID:b02p32AO
唯「あずにゃん。澪ちゃんを見つけた時の状況を教えてくれる?」

梓「シクシク……は、はい」

律「私のこの聡明かつ柔軟な頭脳を使った華麗な推理できっと犯人を探し当ててやるからな!」

律「じっちゃんの名にかけて真実はいつもQED!」

唯「あ。りっちゃんはすごいんだよ!」

梓「はぁ」

唯「この前なんか和ちゃんが後ろから刺されて死んでるのを一目見ただけで」

唯「これは他殺だって見事言い当てたんだから!」

律「えっへん」

梓「へぇー……」
333 : ◆VyLhqMWcJ. [sage]:2010/09/26(日) 20:47:13.20 ID:b02p32AO
梓「グスン……それじゃ、まず私がここに来たいきさつからですけど」

梓「澪先輩が一人で尾の島にいて寂しいとメールを送ってきたんで……グス……いやいやここに来たんです」

律唯「……」

梓「いざ部屋までくると人の声がする」

梓「"このつり目ハゲー!"とか"この金髪[ピザ]娘ー!"とか」

律「へぇー」

梓「不審に思って部屋に押し入ってみると……ウッ……み、澪先輩が死んでたんです」

唯「なるほど」

梓「あ。犯人は窓から逃げたみたいですよ」

梓「なにか強い力でこじ開けられたように窓が勢いよく開閉してて、そこから見える海が妙に印象的でよく覚えてるんです」

梓「というか窓からたなびく金髪が丸見えでした」

律「へぇー……」
334 : ◆VyLhqMWcJ. [sage]:2010/09/26(日) 20:47:45.68 ID:b02p32AO
梓「シクシク……澪先輩を……ヒック殺した人、きっと見つけてくださいね……グスン」

律「……もちろんだ!」

梓「あ、そういえば」

唯「なに?」

梓「部屋の隅にクレジットカードが落ちてたり」

梓「そのあたりに沢庵やキーボードが飾ってあったり」

梓「澪先輩の足元にT.Kって書いてあったり」

梓「そんなことがありましたけど頑張って推理してくださいね」

律「……」

律「が、頑張って推理するぞぉー」

唯「さ、さすが名探偵だねりっちゃーん」

律唯「……」

梓「?」
335 : ◆VyLhqMWcJ. [sage]:2010/09/26(日) 20:48:24.11 ID:b02p32AO
テーテレッテッテー テーテレッテッテーテー テレーテー テレーテー テーテー

りっちゃんの冴え渡る名推理のおかげで無事犯人を突き止めることができました
逮捕後、犯人は

「取調室でカツ丼を食べるのが夢だった」

などと供述していて警察では余罪を含めて捜査しているそうです


こうして、街に平和が戻ったのでした
日は照らし、風が踊り、草木は揺れて、人が笑い
そんな風景が見れる。ただそれだけで私たちはとても幸せです

それに現場の窓から見える海もすっごくきれい

殺された澪ちゃんも最期にこの海が見れて幸せだったのかもしれません
でもこの景色を見ながら盗作するあたり澪ちゃんってたいがいあれだよね

どうでもいっか

そうだ。ねぇりっちゃん、今から泳ぎに行こうよ。あずにゃん誘ってさ!
336 : ◆VyLhqMWcJ. [sage]:2010/09/26(日) 20:49:53.09 ID:b02p32AO
おしまい
337 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 20:56:24.55 ID:EPhPmxY0
みなさんおつー

人いないみたいだから、投下します

スレタイほぼ関係ない気がするのは気のせい
338 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 20:57:25.69 ID:EPhPmxY0
──
───
─────

唯「ねぇ、運転手さん」

トラ「なんだい?」

唯「このトラックは、どこまでいくの?」

トラ「今は教えられないな」

唯「ふーん」

トラ「でも、悪いところじゃないよ」

唯「楽しい場所だったら嬉しいなぁ」

トラ「僕の好きな場所でもあるから、気に入ってくれると嬉しいよ」


ぶろろん
339 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 20:57:55.75 ID:EPhPmxY0



唯「どうして私はこのトラックに乗ってるんだっけ」

トラ「そのうちわかるよ、本当は君みたいな子、乗せたくなかったんだけどね」

唯「あ、なんかごめんなさい・・・、でも」

トラ「ん?」

唯「降ろしてしまえばいいじゃないですか、見ず知らずの女の子ですよ?」

トラ「僕もそう思うんだけどね。でも、見ず知らずって訳じゃないんだ」


ぶろろん


唯「このトラックは、どんな荷物を運んでいるの?」

トラ「んーっと、とっても素敵なものだよ、みんなから愛されてる人気者だよ」

唯「そうなんだぁ・・・いい仕事してますね」

トラ「ありがとう。僕もこの仕事が生きがいさ」


ぶろろん
340 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 20:58:26.97 ID:EPhPmxY0
唯「ずいぶんと遠くまで来たね」

トラ「遠距離を走るのが僕の仕事だからね」

唯「かっこいいね」

トラ「そうかな?」


ぶろろろん


トラ「もうすぐつくよ」

唯「楽しみだなー」

トラ「ほら、このトンネルを抜けたら、すぐ」


ぶろろろろ

くおぉぉーん


唯「トンネルの中って、少し怖いね」

トラ「そうかな?」

唯「トンネルの中に時々歩いてる人とかいるじゃないですか、幽霊かな、とか一瞬考えちゃって」

トラ「人なんていないよ」

トラ「さぁ、もうすぐ出口だ、窓の外、左手を見て」


ぶろろろろ
341 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 20:59:09.21 ID:EPhPmxY0
唯「わぁ───、」

トラ「綺麗な海だろう?」

唯「ほんとうに、きれいだねー」


ぶろろろ・・・・ききっ


がちゃ


唯「あれ?ここで降りるの?」

トラ「うん、この海にお届けものさ」

唯「そうなんだ・・・」

トラ「ちょっと荷物降ろすの手伝ってくれないかい?結構重くてね」

唯「あ、もしかして手伝わせるために私をのせてたのかな?」

トラ「違うよ違うよ、君もここに用事があるんだ。ないかもしれないけれどね」
342 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 20:59:37.85 ID:EPhPmxY0
トラ「そら、これ、受け取って」

唯「・・・・それ、かんおけ?」

トラ「そうだよ、棺おけ、人の死体が入ってる」

唯「運転手さん、悪い人?」

トラ「違うよ、確かに人から見たら気持ちのいい仕事ではないかもしれないけれどね」

唯「うん、怖いよ」

トラ「この棺おけをこの海に還すのが僕の仕事なんだ」

唯「殺人事件の証拠隠滅、とか?」

トラ「そんなのじゃない、この世界では殺人事件なんて起こらない」

唯「・・・・?どういうこと?」
343 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 21:00:07.31 ID:EPhPmxY0
トラ「気づかなかったかい?通行人が一人もいなかったことに、僕ら以外の車が走っていなかったことに」

唯「え、あ、そういえばそうかも」

トラ「ここはね、唯ちゃん──」

唯「・・・どうして私の名前を・・・、あれ?なにか思い出しそう・・・」

トラ「───死後の世界なんだよ」


─────
───
──

ききー、どーん

ぴーぽーぴーぽー

ゆい!ゆい!

おねえちゃん!!おねえちゃあん!!!
344 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 21:00:52.12 ID:EPhPmxY0
──
───
─────

唯「あ・・・・あ・・・全部、思い出した・・・・」

トラ「うん、そうだよ。君は死んだのさ」

唯「もしかして、この棺おけに入ってるのは・・・!」


ちらっ


唯『・・・・・・・んぅ・・・・』

唯『・・・・え?』


唯『「あ、あ、あ、あ」』



唯『「 う そ だ 」』

345 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 21:01:22.20 ID:EPhPmxY0

トラ「うそじゃないよ、うそじゃなければなんだっていうんだい」

唯「そうだ、うい。ういが私に変装してるんでしょう」

唯『ううん、私はういじゃないよ、君こそういじゃないの?』

トラ「信じるも信じないも勝手だよ、でも、今ここには魂の唯ちゃんと肉体の唯ちゃんがいる」

トラ「僕の仕事は、肉体の唯ちゃんを海に還して、また新しい命にすること」

トラ「素敵な仕事だろう?」

唯「ま、まって。頭がついていかないよ」

唯『ようするに、この棺おけに入って海に流されれば、うまれかわれるってこと?』

トラ「うん、そうだね」

唯『じゃあ、早く海に流して!』
346 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 21:01:52.02 ID:EPhPmxY0
トラ「いやぁ、そこでお話があるんだよ」

トラ「本当は魂の唯ちゃんも一緒の棺おけに入って運ばれる予定だったんだけどね」

トラ「実は、まだ君たちは助かりそうなんだ」

唯「え?」

トラ「魂だけ、現世につながれた状態。肉体はほとんど死んじゃってるんだけどね」

唯「でも、生き返れるなら!」

トラ「もちろん、生き返りたいならそうしてもいいよ」

トラ「でもね、唯ちゃん。君の肉体はもうほとんど死んじゃってるんだ。トラックにひかれてぐちゃぐちゃで、二度と喋れないだろうし、二度と歩けないだろう」

唯「え・・・・?」
347 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 21:02:32.26 ID:EPhPmxY0
トラ「それどころかきっと、意識も戻らないだろうね、奇跡でも起きない限り、絶望的だ」

唯「そんな・・・」

トラ「それでも君は、生き返りたいかい?よみがえりたいかい?」

トラ「君の存在は、家族や友人にとって、足手まといでしかなくなるよ」

唯「・・・・」

トラ「そんな目でにらまないでくれ、親切で言ってるんだ。君は君の存在自体が、愛する人の足かせになってもいいのかい?」

唯「・・・・少し、考えさせてください」

トラ「日が沈むまでには、決めてくれよ、夜になったら手遅れになるからね」


─────
───
──


ぴーーーーーー
348 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 21:03:42.93 ID:EPhPmxY0
憂「うっ・・・・ぐすっ・・・お姉ちゃん・・・おねえちゃあん・・・」

和「ゆいぃ・・・ひっ・・・・ぐすっ・・・・」

医師「20時32分、ご臨終です」


「はなせぇーっ!!!ゆいぃぃぃー!!!」

「おい!やめろ、病院だぞっ!!」

「落ち着いてりっちゃん!」

「ぐすっ・・・・ひぐっ・・・ゆいせんぱい・・・」



──
───
─────
349 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 21:04:13.95 ID:EPhPmxY0

ざざーん・・・・


ちゃぷちゃぷ


唯「これで・・・・良かったのかな」

唯『・・・・うん、たぶん良かったんだよ』

唯「みんな、泣いてるかな」

唯『きっと悲しんでるだろうね』


ざばばば・・・・

唯「あっ、棺おけに水が入ってきちゃった」

唯『おぼれちゃうっ・・・あれ?』

唯「息、出来るね」

唯『うん、それに結構温かいもんだね』
350 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 21:04:47.98 ID:EPhPmxY0
唯「夕日が差してるからかなぁ」

唯『うん、小窓から、キラキラした海が見えるね』

唯「次はどんな人生が待ってるんだろうね」

唯『もう一度皆と知り合えたら、嬉しいね』

唯「そうだね」

唯『なんだか眠いや』

唯「寝ちゃおうか、沈んでいくのは少し怖いし」

唯『うん、おやすみわたし』

唯「おやすみ」


ぶくぶくぶくぶく・・・・
351 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 21:05:37.43 ID:EPhPmxY0
─────
───
──
「おぎゃあ おぎゃあ」

「おー、よしよし。今から私たちの恩人のおうちにいくから、泣きやんでねー・・・」


ぴんぽーん

がちゃり

「はい、どちらさまですか?」

「あ・・・・、平沢唯さんのご姉妹の方でしょうか」

「はい、そうですが・・・」

「あの時助けていただいたお礼を、と思いまして、伺わせていただいたのですが───」

「あ、そうなんですか。えっと・・・その子は」

「あの・・・お姉さんの名前を頂いて、唯と名づけさせてもらいました」

「うぶっ・・・う・・・うい・・・ういー・・・」

「・・・・おねえちゃん?」



おしまい。
352 : ◆e4DUQN0Ls6 [sage]:2010/09/26(日) 21:06:38.49 ID:EPhPmxY0
以上です

唯トラはやっとかなきゃいけない気がしてつい
353 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:18:57.81 ID:yCZbnEAO
唯トラはいい…心が洗われる
354 : ◆PFqpfhvtEQ [sage]:2010/09/26(日) 21:35:07.63 ID:OZ6Vu9Uo
拙いながらも書いてみたので投下させていただきます
355 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:35:40.29 ID:OZ6Vu9Uo
ピィーン


ピィーーン
356 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:36:37.26 ID:OZ6Vu9Uo
澪「やっぱりちょっと季節外れだったんじゃないか?」

紬「そうかも……」

唯「いいじゃん!海はいつ来ても楽しいよー」

律「唯の奴、もう水着着てらぁ」

梓「風邪ひかないでくださいよ…」
357 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:37:04.61 ID:OZ6Vu9Uo
律「ムギ、本当に大丈夫なの?こんなの借りちゃって」

紬「気にしないで!どうせ誰も使わないんだから」

澪「私乗るのも見るのも初めてだよ」

唯「ねえねえ!早く乗ろうよ!」
358 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:37:34.95 ID:OZ6Vu9Uo
受験も無事に終えた私達は、卒業前の思い出作りというめいもくで
ムギちゃんの海辺の別荘に遊びに行きました。
何度かみんなで海に行ったことはあるけど、今回はいつもとはちょっと違います。
まずは、今日は合宿じゃなくて旅行が目的、ということです。
だからどんなに遊んでも澪ちゃんにもあずにゃんにも怒られません。
そしてもう1つ、ムギちゃんがはりきりすぎちゃった、ということです。

あ、アホウドリが鳴いてる……。
359 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:38:15.00 ID:OZ6Vu9Uo
律「知ってるか?アホウドリって日本じゃ冬の海でしか見れないんだぞ」

紬「知らなかった」

澪「あほうの律はアホウドリに詳しいんだな」

律「何おぅ!?」

梓「今ってもう春じゃないんですか?」

唯「まだ冬だよ。ほら、こんなに寒いんだよぉ」

澪「だから何故お前は水着になる」
360 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:38:41.04 ID:OZ6Vu9Uo
梓「わぁっやっぱり近くで見ると大きいですね」

澪「潜水艦持ってる家なんてムギのとこくらいだよなぁ」

紬「『艦』なんてもんじゃないわよ。潜水艇って感じかな?」

唯「どっちでもいいよぉ。ねえ乗ろう乗ろう!」
361 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:39:30.40 ID:OZ6Vu9Uo
執事「皆様、お気を付けてご乗艇ください」

唯「わっ艦長さん!?」

執事「いえいえ、『艦』という程ではございませんが」

律「ははは!ムギとおんなじこと言ってる」

紬「ごめんなさいね、付き合わせちゃって」

執事「お気になさることありません」

執事「お嬢様はお友達とめいっぱい楽しむことだけをお考えくださればよいのです」

紬「うん。ありがとう」

唯「このボタンなんだろ?」

ポチッ

澪「おい、勝手にいじるなよ!」
362 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:40:23.56 ID:OZ6Vu9Uo
ピィーン


ピィーーン



梓「わっ!」

律「なんだなんだ?」

唯「ごごごごごめんなさい!」

紬「何これ、ソナー?」

執事「はい。と言っても音が鳴るだけですよ」

執事「あくまで雰囲気を楽しんでいただければと…」

唯「びっくりしたぁ」
363 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:41:02.09 ID:OZ6Vu9Uo
そんなこんなで、潜水艦…じゃなくて、せんすいていでの海の旅が始まりました。
景色がガラリと変わりました。
さっきまでこの丸い窓から見えてたのは海面とソラとアホウドリだったのに…
いつの間にか暗い海。
そして今までみたこともない魚がいっぱい。
364 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:41:33.62 ID:OZ6Vu9Uo
律「みおみお!アレ、なんかグロテスクな生物がいるぞ!」

澪「うわっ見せるなよぉ」

律「期待通りの反応♪」

梓「奇麗なものもいっぱいありますよ」

梓「ほら、あの珊瑚」

紬「素敵ねえ」

唯「すごい!サンゴの迷宮だぁ!」
365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:42:13.83 ID:OZ6Vu9Uo
唯「この海はずーっと昔からこの状態なのかな?」

律「人が手を加えたりしないだろうからな」

唯「あのサンゴ達は遠い昔から今まで…誰も知らないこの海底をずっと見てるんだよね」

唯「なんか不思議な気分になるよ」

梓「いつになくそんな抒情的なこと言う唯先輩も不思議ですよ」
366 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:42:41.30 ID:OZ6Vu9Uo
紬「唯ちゃんの言うこと、なんとなく分かるよ」

澪「さっきまでいた地上とここが、同じ世界だっていうのが嘘みたい」

唯「うんうん!」

梓「どこかの町、どこかの道路に車が走ってて…人が歩いてて……」

律「そういうのが全部、今の私達となーんにも関係の無い出来事に感ぜられるよな」
367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:43:08.68 ID:OZ6Vu9Uo
ピィーン


ピィーーン
368 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:43:36.03 ID:OZ6Vu9Uo
多分澪ちゃんもりっちゃんもムギちゃんもあずにゃんも
私と同じこと考えてたんだと思います。
海の中にいると、海の底を見下ろしてると、何かが分かるような気がしてきます。
だから魚も陸に上がらないのかな。
みんな陸じゃなくて、海に住むことが正しいのかな。

律「それは違うぞ」
369 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:45:14.68 ID:OZ6Vu9Uo
唯「りっちゃん!?」

律「いくら海が奇麗で神秘的でも、人間は魚にはなれないよ」

唯「だ、だよね。当たり前だよね」

紬「やっぱり陽の光に当たらないと!」

梓「学校へ行って、友達と話して、部活をしなきゃ退屈しちゃいますよ」

唯「うん!みんなの言うとおりだよ」
370 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:46:09.51 ID:OZ6Vu9Uo
澪「ところで今何時なんだろ」

梓「時間が全然分からないですね」

執事「そろそろ浮上いたしましょうか」

紬「ええ、お願い」

唯「太陽が恋しくなっちゃった」
371 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:47:00.05 ID:OZ6Vu9Uo
数時間程度潜ってただけなのに、海面に上がるととっても懐かしい感じがしました。
潮の匂い、砂浜の感触、アホウドリの鳴き声、全部海の中からじゃ分からないんだね。
雲1つ無い冬の空は寒いけどとてもあったかいです。

その日はご飯を食べて、お風呂に入って、みんなで寝ました。
朝日が昇るまで……
372 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:48:02.96 ID:OZ6Vu9Uo
ピィーン

ピィーーン

私がふざけてボタンを押したら鳴っちゃったソナー音。
明日になっても頭から離れませんでした。
色とりどりのサンゴを見たとき、色々と変なことを考えちゃいました。
きっと、海の中の全部が私の頭に反響してたのかな。
373 : ◆PFqpfhvtEQ [sage]:2010/09/26(日) 21:49:21.62 ID:OZ6Vu9Uo
以上です。

元ネタ…というわけでもありませんが、ピンク・フロイドの『エコーズ』を意識して書いてみました。
お目汚し失礼いたしました。
374 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 21:52:50.42 ID:h/FiLGso
お疲れさん
いい雰囲気だ
375 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 22:58:37.63 ID:pyHj0AA0
澪「同じ窓から見てた海」


すーっと音を立てて忍び込んでくる夜風が、髪にしっとりと絡み付いた水気を払っていく。

洒落ていて、けれど何処かレトロな香りのするテラス。煤けた木製のローテーブルを挟んで三人掛けのソファーが二つ。

その全てを一人で独占している事に些かの優越感を覚え、ふかふかのソファーが脳に垂らし込んでくる程良い眠気と闘う私。もう夜も遅い。

膝の上にはベース。右手で支えるネックも、左手の親指を置くピックアップも、もうすっかり手に馴染んでしまっている気の知れた相方だ。

触れただけで気分が高翌揚するあの頃のような刺激はもうないが、ボディーから徐々に無くなってきている光沢を見ると、何故だかどうしても顔がニヤけてしまう。

青白い月明かりがライトで、せせらぎの様な波音がコーラス。もうこれだけで一曲出来てしまいそうなシチュエーションなのだが、生憎今ここには紙一枚ペン一本さえも無い。

下階の広間で寝息を立てている面々を起こす訳にもいかないし、ここは今すぐにでもと逸る気持ちをぐっと制して今後の製作活動の糧にするとしよう。
376 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:01:52.82 ID:pyHj0AA0
スマソ 修正

澪「同じ窓から見てた海」


すーっと音を立てて忍び込んでくる夜風が、髪にしっとりと絡み付いた水気を払っていく。

洒落ていて、けれど何処かレトロな香りのするテラス。煤けた木製のローテーブルを挟んで三人掛けのソファーが二つ。
その全てを一人で独占している事に些かの優越感を覚え、ふかふかのソファーが脳に垂らし込んでくる程良い眠気と闘う私。もう夜も遅い。

膝の上にはベース。右手で支えるネックも、左手の親指を置くピックアップも、もうすっかり手に馴染んでしまっている気の知れた相方だ。
触れただけで気分が高翌翌翌揚するあの頃のような刺激はもうないが、ボディーから徐々に無くなってきている光沢を見ると、何故だかどうしても顔がニヤけてしまう。

青白い月明かりがライトで、せせらぎの様な波音がコーラス。もうこれだけで一曲出来てしまいそうなシチュエーションなのだが、生憎今ここには紙一枚ペン一本さえも無い。
下階の広間で寝息を立てている面々を起こす訳にもいかないし、ここは今すぐにでもと逸る気持ちをぐっと制して今後の製作活動の糧にするとしよう。
377 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:02:43.09 ID:pyHj0AA0
「それにしても……」

なんという美しさだろうか。水面で揺らめく青い月の煌輝に見入り、自然と絃を弾く指が止まる。
地元の街では決して見る事の出来ないこんな景色に付ける名前を、私はまだ知らない。それどころか脳に浮かぶ限りの色で形容する事も出来ない。
私の語彙が貧困なのか、はたまたこの景色が脳をふやかす程に麗しい物なのか。

……どちらでもいい。

この涼やかな青い遠景を独り占めしている。その事実が今ここに在るだけで、私は本当に満足だ。
今はこの青をしっかりと瞳に焼き付け、日々の喧騒に固まった脳をふやかして、そして……出来る事なら……もう少し大人になったら……。そんな思いを胸に紡ぐ
378 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:03:41.29 ID:pyHj0AA0
まだまだ遠い大人までの時間、皆で居るのに一人で見つけた景色。それを糧にすべく、私は再び絃を弾きだす。

夏が終わればもう文化祭……。今は、やれるだけのことをやろう。
そう一人で決意した私の髪を、やはりすーっと音を立てて忍び込んでくる夜風が撫でる。波の音が静かに、そう……静かに歌い出す。

私が胸に紡いだのは……

「……いつか歌にしてみよう」

窓の外の海は、そんな夢をくれたのだった。

<澪、了>
379 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:04:17.05 ID:pyHj0AA0
律「同じ窓から見てた海」


今日の夕食、何故か担当が私。何を作るかみんなに聞いたら分かった。

信用ゼロだ。アテにされてない。凹んで涙じんわり浮かぶ。

澪はチャーハン、先生カレー、あとは全員どん兵衛!!

嗚呼……私も一応女の子です。こんな扱い凹みます。

澪は間違いなくハンバーグ作れるの知ってるのに……。

信頼ない……。
380 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:05:07.44 ID:pyHj0AA0
結局カレー作ることになりました。「じっくり煮込めば食中毒も起きない!」

それが生徒に贈る言葉か? 肩を掴んで熱弁するな。

周りも拍手、ボリューム大きい。もうゴールしてもいいよね?

じゃあ買い物行きます。メモを取ります。お菓子は一人三百円。

もちろん税込みで計算。ビールは買いません!
381 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:05:56.15 ID:pyHj0AA0
もう少ししたらスーパー到着なのにな…… 着信鳴り響き、出りゃあ 『レトルトがいいな!』

お前それは一番恥ずかしいだろ! 私のプライドはどうすんの!?

てか最初からこうするつもりで私に料理任せたな!

「あ゛〜もういいぜ! お前らの菓子は買わない!!」『う、嘘だろ!?』



ああ……ホントに一応女の子です。これはガチで凹みます。

もしすんなりボンカレー買ったら 女は終わりだ!

信頼ない……。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

382 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:07:51.61 ID:pyHj0AA0
「りっちゃん、一人で何やってるの?」

「ん? ああ唯か。ハイ、これ」

「わ、歌詞!? りっちゃん歌詞書いてるの!?」

「ああ、よく読め」

「おお〜! ……って、コレは……」
383 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:09:17.34 ID:pyHj0AA0
「タイトルは『信頼ない』だ。昨日のりっちゃんカレーストライキ事件で私の信頼の無さがよ〜く分かったからな」

「ああっ! 根に持っていらっしゃる!」

「じゃあ唯、軽音部は任せたぞ。私ちょっとゴールして来るから」

「あ、あかん! ゴールしたらあかん!! 冗談や! アレは冗談やったんやぁ!」

「文化祭楽しみにしてるぜ。じゃあな」

「ああ〜っ! りっちゃーん! 待っておくんなまし〜! りっちゃあああぁ〜ん! カムバァ〜〜ッック!!」

半泣きで私の足にしがみ付いて来る唯を無視して窓の外に目をやれば、そこに広がる水色の海。そして白い砂の浜。

昨日まではあんなに綺麗に見えた絵のような景色。でも……今の私にはどうしても灰色に見えてしまう。乙女のりっちゃんは痛く傷ついた。

窓の外の海は、悲哀という名の感傷をくれました。


<律、了>
>>379-381を『ふわふわ時間』のメロディーで歌ってみると二度お楽しみ頂けます。お得だね! りっちゃん!
384 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:10:37.05 ID:pyHj0AA0
紬「同じ窓から見てた海」 さわこ「エロスね!」


「分かる? ここを優しく[自主規制]しながらここを強く[自主規制]と……」

「はあっ! ああんっ!」

「そしてここから[自主規制]を掬って[自主規制]に[自主規制]つけると……」

「あっ…… そ……そこはっ…………! ダメッ……!」

「あら、また[自主規制]の? [自主規制]ねぇ……。毎日自分で[自主規制]ってるでしょ? ココなんかもう……」

「あっ! ああっ……! イ、[自主規制]っ!! イ[自主規制]うよぉ……」
385 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:11:40.68 ID:pyHj0AA0
こんばんは、どう考えても琴吹紬です。

合宿も佳境ということで寂しさが募りなかなか寝付けずにいたのですが、同じく飲み過ぎて寝付けずに居たさわ子先生から

「せっかくのサタデーナイトだからフィーバーしましょ!」

という何とも[自主規制]な香り漂う御誘いを受け、私はこの誰も居ない[自主規制]へとティーチャーをお連れしました。

するとどうでしょう。先生は私をたちまち[自主規制]で[自主規制]してしまい、更に[自主規制]と[自主規制]まで装着させて[自主規制]始めたのです。
386 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:12:42.03 ID:pyHj0AA0
それは正しく一瞬の出来事で、私は自分が[自主規制]されていることにも気付きませんでした。

そしてそのまま先生の[自主規制]が始まり、私はあっという間に[自主規制]へ……。

それから数十分、私は気が遠くなる程の[自主規制]を受け、正しく[自主規制]と化した私の[自主規制]を、先生はねちっこく[自主規制]してきます。

「みんな寝てるのに……そんな[自主規制]出してたら起きてきちゃうわよ? 見られたいの? うふふ……この[自主規制]さん」

その言葉でハッとなった私は必死で[自主規制]を堪えようとしました。

ですが、やはり熟練したオ・ト・ナ☆ のテクニックには小娘の稚拙な我慢など歯が立たず、逆に[自主規制]を溢れさせてしまうのでした。
387 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:13:42.37 ID:pyHj0AA0
「[自主規制]そう……。も、もうイ[自主規制]なのっ!」

でも……四度目まではすぐに[自主規制]カせてくれた先生は、なかなか勃[自主規制]した[自主規制]を[自主規制]くれません。

「ふふ……大声で叫ばないと[自主規制]触[自主規制]ないわよ?」

「そ、そんな! お願いします先生! それだけは!」

「ダ〜メ。一分以内に出来なかったら両[自主規制]に洗濯バ[自主規制]を付けて、ディル[自主規制]を[自主規制]けないようにして[自主規制]するわよ?」

その悪魔のような言葉と共に[自主規制]が[自主規制]に入ってきます。どうやら先の言葉は本気の様です。

「ああっ! イ、[自主規制]っ!!!」

「ダ〜メ」

ゆっくりと[自主規制]が引き抜かれていくのが分かります。

[自主規制]に[自主規制]ったピンクの[自主規制]がそれを離すまいと[自主規制]て締[自主規制]つけます。
388 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:14:33.78 ID:pyHj0AA0
「抜かないで! お願い! もうちょっとで[自主規制]る!! [自主規制]のぉっ!!」

「[自主規制]」

「ああああっ!」

あと一歩……あと一歩なのに……!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あれっ? ムギ先輩こんな所で何してるんですか?」

「あら梓ちゃん。夏休みの課題よ。レポート」

「ああ、私も出ました。これ結構面倒くさ……ってわああああああああ!!」
389 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:15:39.98 ID:pyHj0AA0
「ん? どうしたの?」

「が、学校に提出するレポートに一体何書いてるんですか!」

「え? だから体験レポー」

「どう見ても官能小説です! 退学させられますよ! てか体験って!?」

「人なら誰もが通る道よ!」

「ねぇよ! すぐ消して下さい今消して下さい! MONOの消しゴムで、さあ! さあ!」

「ま、待って梓ちゃん! ちゃんと説明すればきっと学校も分かってくれるわ!」

「何言ってるんですか! モラルや倫理観がぶっ飛ぶ程[自主規制]されたんですか!?」
390 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:16:42.86 ID:pyHj0AA0
「これはね、私が作った穴埋め問題って言えばいいのよ」

「そ、それはどういう……」

「この[自主規制]って書かれた文字の所に何て言葉を挿れればエロ方面にならないかを問う設問だって説明すればなんとかなるわ!」

「もう既にいかがわしい事が前提じゃないですか! 大体『いれる』の字が間違ってます!」

「ニュアンスの問題よ!」

「それ以前の問題です!」

「じゃあ……梓ちゃん、『入れる』と『挿入る』の違いを説明してみて!!」

「ひっ!?」

「何処がいかがわしいの何がいやらしいの? 教えて頂戴!さあ! さあ!! さああああああああああぁ!!!」

「な、な、何を……!」

「ナニを?」

「う、うわあああああああああぁ!! 澪先輩助けてええええええええぇ!! ムギ先輩が!! ムギ先輩があああああああああああぁ!!」
391 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:18:31.66 ID:pyHj0AA0

「うふふ……。元気いいわね梓ちゃんったら♪ 何かいい事でもあったのかしら?」

そうそう、いい事と言えば実は今夜もあの場所で……うふふ♪ 胸が高鳴ってもうナニが何だか分かりません♪

窓の外の海がピンクに見えます。本当にありがとうございました。

<紬、了>
392 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:19:13.63 ID:pyHj0AA0
梓「同じ窓から見てた海」


遥か西の空を滑る黄金色の雲が目に沁みる。ジッと見つめて、だけどまだ少し眩しくて、直視できなくて……。
でもいつの間にか慣れていて、太陽の輪郭すら分かるようになって、そしてその頃には……夜が間近に迫っている。

……そんなもの。

輝く何かを追えば……その光が無くなった時途端に目の前が暗くなって、やがてそのまま途方に暮れて、そこで……終わり。

こんな他愛も無い話を哲学的と位置付けて無視出来れば幾分かは楽だが、これは残念ながら私自身の事。
目の前の眩い輝きが無くなって、途方に暮れようとしているのがまさに今の私。

……気だるい。考えるのも、動くのも、両方。


今日、先輩達が大学の入試に合格した。あれは何時間目だったか……昼前だったのは確かだけど……。
とにかく退屈な授業の途中で結果報告のメールが届き、画面の中で桜が四つ咲いていたのは鮮明に覚えている。
零れ落ちそうになる粒を堪えるのがやっとで、何とか押し止めようとたまらず目を合わせた相手の瞳はやはり濡れぼそっており、授業が終わる頃には互いに真っ赤に腫れ上がっていた。

……嬉しかった。祝福のメールも打てない程、本当に。

先輩達が四月から同じキャンパスを歩ける事、そして少ないながらこれからもバンド活動が続けられる可能性が残った事。
人の事を掛け値なし、手放し万歳でここまで喜べた事なんて、きっと今までの人生の中で一秒たりとも無かった事だ。
……誇っていい。私は間違いなくこの二年で成長した。他人の意見からでは無く、背伸びしていない自分の目線でそれが確認出来る程に。
393 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:20:15.14 ID:pyHj0AA0

だけど……それ故に分かってしまう事だってある。例えばこの虚無、虚脱感。そして来る春へ向けての幾分かの焦燥感。

それらを程良く混ぜ合わせて出来た寂寞の重しが、この身体をよく馴染んだ机と椅子から動かなくさせている。そんな事が、今の私には分かる。

「……はぁ」

下校時間はもう間近。いつもなら間違いなく花や蝶やとオチの無い話でも咲かせているであろう四つの影が、今日はこの部屋に姿を現しもしない。
確か学校に合格の報告をしに来た後、昼休みにチラと私の教室まで顔を覗かせに来て、その後はそのまま四人揃って下校したと先生が言っていた。

実際、私の携帯のメールフォルダには例の『サクラサク』メールの上にその手の内容のメールが四通蓄積されているのだ。
内容は四様四様で、一人はこの後家族とお祝いパーティー、一人は家族で外食、一人は明日から早くも始まる家探しについて、一人は疲れたからもう寝る、と何だかいつも通りな感じだった。
魚の骨の絵文字が奇妙に羅列されていたり、後輩宛とは思えない程丁寧な文体であったりと、メールのレイアウトもメールを開く前に予想した通り。

あの四人をまとめて分析させたら私の右に出る者など居ない。さして秀でた能力も無い私が唯一誇れる唯一の長所。

……だが、今となってはその長所も……。
394 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:21:12.35 ID:pyHj0AA0
「……ふう」

吐く息が徐々に白く彩られてきた。こうなると本当に厄介だ。
暖房の電源も入れていなかった自分のせいとは言え、足元辺りに蔓延って来る冷気を避ける為に椅子の上で身体を抱え、余計に席を立つのが億劫になる。

帰らないと……。と、頭ではちゃんと理解している。
家に帰れば炬燵に蜜柑。温かいココアに昨日の残りのシチューだってある。冷たい夕凪が吹き荒ぶ家路をちょっと我慢すればいいだけだ。
そんな温い言葉が脳裏を掠める。

……ダメだ。これはどう考えたって本心じゃ無い。頭で思っているだけ。身体が脳髄から垂れる思考に反発している。膝を抱える両腕がまるで動こうとしない。

「……あ」

まさかのまさか。やけに空気が冷えるスピードが早いと思ったら、私の天敵である雪が降って来てしまった。
まあ望もうが望むまいが私の意思など関係無く降る物は降り、積もる物は積もってしまうのだろうが、それでもどうしても吐かずにいられない言葉がある。

「……バカ」

天気を司る神様の名前なんて知りもしないが、この脆弱な生き物が発する精一杯の罵詈雑言をしかと受け取って欲しいものだ。
冬は嫌い。寒いから。そして……春なんか連れて来るから。
395 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:22:07.03 ID:pyHj0AA0

私の発した素晴らしく愚昧なクレームが本当に届いてしまったのか、米粒程度だった雪のサイズはみるみる膨れ上がっていった。
私がぼんやり注視していた僅かな間に屋根裏の埃サイズまで成長した白い空爆が更に勢いを増したので、私は悲しくなって膝に顔を埋める。
思えば外はいつの間にここまで暗くなったか、そもそも何処からあんなドス黒い雪雲が湧いたのか、私には全く分からなかった。

「寒っ」

今更そんな事に気付いた魯鈍極まりない脳の回転に辟易し、私は合わせた両膝の間に目一杯の温かい息を吐く。

……寒くて辛い。そんな時は楽しい事を考えればいいといつか誰かが言っていた気がする。
炬燵で蜜柑、シチューとご飯、ごはんはおかず。ごはんはおかず? ……ダメだ。ついに邪念まで脳を温床にし始めた。

「ご飯はおかずじゃないよ……」

シチューが主食で、ご飯がおかずで……。

……あれ? ……おかしい?


ついに視界ゼロにまで辿り着いた超の付く程の大降雪。
もう帰らなくていいんじゃないか? 雪が物凄くて帰れなかった、は言い訳にならないか?

ああ……でも学校に泊まるには教員の許可が居る。それどころか両親の許可だっている。その為には何をしなければならない?
まず長い階段を降りなければならない。そして顔見知りの教員を探して、雪道の危険性とこの豪雪の異常さを認めさせた上で宿泊の許可を取る。
それから寝袋を用意して、少ないけど鞄の中の食べ残しメロンパンを齧って、それから……それから……。

……って、何を考えているんだ私は。有無を言わさず「さっさと帰れ!」の一言で校舎からつまみ出されるに決まっているじゃないか。
下校時間とっくに過ぎてるし、ここに居る理由も無い……し。
396 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:23:24.34 ID:pyHj0AA0
……不思議と「私、何をやっているんだろう?」とだけは考えなかった。

どんなに愚鈍な思考でも、どんなに魯鈍な頭でも、私がここで膝を抱えている理由だけは見失わなかったからだ。

「…………」

体温を維持しようと震える身体。この隅々まで赤い血液が巡っているなんて微塵も信じられない程手が白い。それはもう、叩けば折れて割れそうなくらい。
この皮膚の真下に毛細血管なんて物が本当に埋まっているのか? 残念ながらこの状況では少々信じ難い物がある。カッターで切ってみようか?

……いや、ソファーに置いてある鞄から筆箱を取り出すのが億劫だ。そこまで歩くのが……いやいや、そもそも足を床に下ろすのが億劫だ。

「眠い……」

少し前から猛烈な眠気に身体がダウンしかけている。寒さで半ばやられかけているなけなしのモラルと凄まじい攻防。
もう寝てしまおうか……。警備員だってそこまで真面目に巡回していないだろうし、ソファーに隠れて眠ってしまえば……。



……ああ、何だかんだでもうとんでもない時間になってしまっている。どっちみち親にメールを打たないと……。
やっぱり急いで帰った方がいいのかな。でも今更鍵を返しに行ったらそれはそれでこんな時間まで学校に残っていた理由を教員に詰問されそうだ。
それを立って聞いていられる自信が、途中で意識を失わない様にする自信が、今の私には真夏に石垣島の民家の軒先に生える氷柱は生える可能性程も無かった。
寝る、怒られる。今この状況からどう選択肢を広げても、結局この二つに帰結してしまいそうだ。

「だったら……」

と、私はこちらを選ぶことにした。気だるいながらも床に足を着き、上体を再び机へオン。もうどうでもいい。
ヒヤっとした空虚な冷気が制服の布越しに肌を刺す。少し身を捩らせ、曲げて置いた腕の上に右頬を着地させる。
397 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:24:30.83 ID:pyHj0AA0

ああ……いい。すぐにでも眠れそうだ。もう本当にこのまま寝てしまおう。

願わくば……目が覚めたらそこは春先の部室であって欲しい。少ししたら新歓ライブがあって、着ぐるみ着てビラ配って……。
それから……合宿にも行きたい。前回は夏フェスだったから……今度はまた海がいいな。
どうせテンプレであの二人が山か海かの大激論を交わすから、今度は私も割って入ってやるんだ。海派の先輩と肩を組んで主張してやるんだ。
焼きソバで釣ればきっとあの先輩は味方してくれる。肝試し無しならあの先輩だって肩入れしてくれる。

どうせ練習なんかしないんだから思い切り楽しもう。文化祭だって、きっと何とかなる。いつだってそうだった。

「……はあ」

……もういい。だいぶ思考も鈍ってきた。瞼も重い。このまま……もう…………。


ピリリリリリリリリリリリリ


ガタン!と椅子を鳴らして思わず体が跳ね起きた。
キリリと冷えた侘しい静寂が占める空気中に突如響き渡る、耳を劈く様な電子音。
何一つとして物音の無かったこの部屋の中空に向け、突如響き出したその無機質な連続スタッカート音は、私のブレザーの右ポケットから発せられていた。
398 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:25:33.04 ID:pyHj0AA0
「マナーモードにしといたはずなのに……」

一瞬で吹き飛んでしまった瞼の重さの代わりに、一気に寒気が肌を刺す。そして先程から一様に鳴り止む様子の無い電子音がフラストレーションと肩の重さを蓄積させていく。

「もう……誰?」

傍迷惑な着信音をがなり立てる二つ折りのそれを取り出して開き、幾何学模様の壁紙を背景にして表示されたその文字を見て、私の頭の上にはクエスションマークが数個浮かぶ事となった。
業務連絡以外でこの人から電波を受信した事があっただろうか? ……いや、無い。
悪戯で凝りに凝ったデコレーションメールが数回来た事ならあるが、全て無視していたら次の日のモンブランが栗以外無くなっていたという事はあったが……。

結局別の先輩が鉄拳制裁してくれたお陰で事態は収束を見たのだが、そういえばあれ以来業務連絡ですら他の先輩から来るようになったんだったな。
別に嫌われてはいないのだろうが、大方イジってもつまらない位には思われているだろう。

しかしまあそんな人からの電話だ。メールでなく、通話の御誘い。

「ん〜……」

……何も考えまい。深く考えたら負けだ。
私は何を思うでも無く、白く濁った息を虚空へ一つ送り出し、なけなしの気力で親指に力を込め、エメラルドの光を放つ通話ボタンを押し込んだ。

「もしもし」

耳に当たる受話スピーカーがざらついた返事をよこす。

『おお、出たか』

何て返事だ……。

「出たかって……」
399 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:26:31.07 ID:pyHj0AA0
掛けてきたのはそっちじゃないか。

『いやいや、またシカトされるかな〜って思ってな』

「何ですかそれ」

まあ確かに悪戯メール事件の一件を考慮すればそんな風にも思われるか。……あれ? でもよく考えればそれって何気にヒドくないか?
私はそこでハッとなり、首を横にブンブンと振る。深く考えたら負け。負けだ。

「えっと……用事ですか?」

『ハハ。雑談も無しかよ』

「?」

何がしたいんだこの人は? 電話なんだから用事があるんだろう?

『いやさ、何か電話したくなっちゃったんだよ。ほら、私らってあんまり一対一で絡んだ事無かっただろ? だから卒業する前に一度ガツンと絡んどこうってな』

口調がやや明るい。おまけに呂律が回って無い?

「ひょっとして……お酒とか飲んでます?」

『へへっ! 人生初飲酒〜!』

うわ……。

『合格祝いに親のチューハイ勝手にくすねちったよ〜』

何を堂々と自慢してるんだ。
400 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:27:17.56 ID:pyHj0AA0
「じゃあ明日は学校来ないで下さいよ? 先生にバレたら洒落になりませんからね」

『二、三本でバレないっつーの。私二日酔いになりにくいし!』

……人生初飲酒だったんじゃないのか? タチの悪い酔い方だけはしないで欲しい……。

「もう……。そんなんで大丈夫なんですか? 大学生活」

『ん? ああ……』

突然言葉に詰まるスピーカー越しの声。それを訝しく思い問い返そうとした時だった。

『大学は良いんだけど……な』

突然落ちるトーン。そして寂寥感溢れる弱々しい声。

「どうしました?」

ん、と帰って来る返事。それに言葉は続く。

『ほら……なんっつーかさ……





……ごめんな』
401 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:28:03.15 ID:pyHj0AA0
受話器の向こうで、頭を掻くような音が聞こえた。私は何故自分が謝られたのかが分からず、「……はい?」なんて抜けた返事をよこしてしまう。
その言葉を予期していたのか、はたまたアルコールを摂取しているからなのかは分からないが、ここで声は再び妙に明るくなった。唐突に、と付け加えてもいい。

『ま、なんっつ〜かさ、私も一応先輩としてお前の今後を気に掛けてるって訳だ。そんな風には見えないだろうけど』

間髪を容れずに言葉が紡がれる。身に纏わりつく冷気が、ほんの少し和らいだ気がする。

『まあお前に部長らしいなんて思われてないってくらい分かってるけどさ、それでも一応年上は年上だ。だから……』

と、一旦言葉を切り、息を吸って吐く音が聞こえた。

『心配なんだよ……お前がさ』

胸が一つ、酷く大きな音を立てて鳴った。突然真剣になった口調に私は何も返せない。

『だけど思い返せばお前と二年も一緒に居たのにさ、私は先輩らしい事すら何一つしてなかったんだなって思い当たるばかりで……』

はぁ……と、こちらの幸せまで逃げて行きそうな程大きな溜息が私の鼓膜に入り込んで来て、そこで幾度もこだまする。

『だから、ごめん。部長どころか先輩としてもお前にしてやれるようなアドバイスは無い。本当にスマン』

それは、喉の奥から絞り出したような、そして悲痛とさえ取れるような悲しい声だった。私が知り得るどの顔や声とも合致しない、そんな感じの。

「あ……い、いえ……」

そう返すので本当にいっぱいいっぱいだった。
後に続いて然るべきの否定すら出て来ず、お世辞という前置きが前提の感謝の言葉さえ出ない。
402 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:28:50.57 ID:pyHj0AA0
……何か言わないといけないのは私だ。なのに脳の中は紡ぐべき言葉の束がこんがらがるばかり。
やがて電波を介して流れ出す気まずさと、妙によそよそしい白けた空気が体に染み込んでくる。
やがて互いの息遣いすらもわざとらしく感じるようになってしまい、やはり何も言えない私は無闇に項垂れてしまうのだった。

そして時間的には数十秒も経っていない無間地獄の終わりは、何とも呆気なく訪れた。それは電話の向こうの『ガコンコン』という独特の打音。
そして小さく、本当に小さく聞こえた『入るぞー』という声。

「あっ、お、お客さんですか?」

不自然にも程がある甲高い声が出た。つられるようにスピーカーから細い笑い声が漏れ、言葉が続く。

『ああ』

と短く切って

『お客さん』

そう答えた受話スピーカーの向こうの人は、バイバイもおやすみも言わずに電話を切った。本当に呆気なく、何も残さず、でもあの人らしい数分間。
403 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:29:55.51 ID:pyHj0AA0

「…………」

あの人は何故こんな電話を掛けてきたのだろう。
他愛も無いと言ってしまえばそれまでの、けれどやはり何か意味があるような……そんな感じがした。


……けれど、それ以上今の私に分かる事は無かった。
今ここは明かりの無い部屋で、この胸は何だかやりようの無い想いを心に窶していて、私と言えば膝に落とした携帯をボーっと見つめるだけ。

そして何だか取り留めの無い感情が齎す浮翌遊感に疲弊してしまい、私はまたすぐに上体を机に投げ出した。

雪風が鳴らす窓。そこにはまるで波のようなヴィジョンが映し出されている。


「……行かないで」


言った先は目の前に居座っている大嫌いな冬将軍か、それとも……。
404 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:31:31.38 ID:pyHj0AA0
もうすぐ春が来る。望んでいない春が。

去年は五人で見たあの光景が、今年は一体どう見えるのだろうか?

この学校の名前は桜ケ丘。校名の由来は聞きしに勝る桜の散り際の美しさから。

校庭を埋め尽くすその桜の花弁達を「ここから見ると海みたいだぞ!」と揶揄し、はしゃいで私を窓辺に誘った影が一つ。そしてその周りにもう三つ。

もうすぐ無くなる、淡い影。

この窓の外を一人で見るのが……今は本当に怖い。

だから……

「お願い……行かないで……」

返事もしてくれない冬将軍が窓の外で私を見つめる。「その望みは聞けない」と、嵐のような突風だけを残して消えてしまう。
それが『ごめんな』と聞こえたのは……気のせいなのだろうか?

建付けの悪い窓が風と共に鳴らす不規則で勢いだけが良い粗暴な軋音。
それは、正確なリズムの刻めないドラマーのハイハットのような、勇ましくも忙しない音だった。

<梓、了>
405 : ◆G6TtgMqJnQ :2010/09/26(日) 23:32:35.07 ID:pyHj0AA0
唯「同じ窓から見てた海」


唯「というわけで、ここまでありがとうございました〜!」

一同「あざっす!!」

唯「ノリで参加して書き始めた時はどうなる事かとハラハラしましたが、何とか書き上げる事が出来てよかったです!」

梓「書くのに掛かった時間合計六時間!」

律「作者は遅筆!」

澪「他の作者の作品が良くて、このポジションで投下する事になったのがかなりアレだったけどな……」

紬「まあ仕方が無いわよね」

唯「じゃあ、最後に晒して消えようか」

一同「そうだね!」

唯「せ〜のっ!」


全員「ニコニコの『けいおん!SS紹介動画』の人でした!」

<了>
406 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 23:34:20.61 ID:yCZbnEAO
律梓だと…
407 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 23:35:25.35 ID:Kzfv5EDO
お疲れ
俺のも紹介しろ
408 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 23:44:17.99 ID:NyEyssDO
紹介動画の人か、あんたのセンス好きだわ
409 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 23:46:39.57 ID:jk2WkkSO
乙でした〜
410 : ◆htc/zyfnRA [sage]:2010/09/26(日) 23:51:17.93 ID:SLJX.iw0
投下始めます
411 : ◆htc/zyfnRA [sage]:2010/09/26(日) 23:51:56.97 ID:SLJX.iw0
トンちゃん「ハーイ アタイ スッポンモドキ の トンちゃん!チェケラッチョイ!」


トンちゃん「今日はアタイから見た軽音部室の様子を紹介するよっ!チェケラッチョイ!」


ガチャ

紬「シャランラシャランラ♪」


トンちゃん「最初に入ってきたのは 金髪沢庵だいっ! チェケラッチョイ!」


紬「ゲル状がいいの〜♪」


トンちゃん「沢庵は 何時見てもゴキゲンな天然お嬢様だよっ! チェケラッチョイ!」


トンちゃん「正直 アタイには何がそんなに楽しいのか全くわからないよっ! チェケラッチョイ!」


紬「今日も皆のためにお茶を入れなきゃ♪」


トンちゃん「金髪沢庵は 軽音部の給仕係 もといサイフだよっ!  チェケラッチョイ!」


紬「このベルギー王室御用達のチョコレート!皆喜んでくれるかなぁ♪」


トンちゃん「こんな扱いで本当に何が楽しいのかわからないよっ! チェケラッチョイ!」
412 : ◆htc/zyfnRA [sage]:2010/09/26(日) 23:52:36.91 ID:SLJX.iw0
ガチャ

梓「こんにちわ〜」


トンちゃん「次に入ってきたのは ゴキ…間違えた!ツインテールのネコミミ女だい! チェケラッチョイ!」

トンちゃん「これでもいつも世話して貰っている身! あんまり失礼な事は言えないよっ! チェケラッチョイ!」


紬「こんにちは、梓ちゃん」 ニコリッ

梓「あ、ムギ先輩 早いですね」

紬「ええ!皆のためにお菓子の用意しないといけないから早めに来たの〜」 ニコニコ


トンちゃん「沢庵はもはやただのマゾヒストだよ! チェケラッチョイ!」


梓「じゃあ私、トンちゃんにエサあげてきますね」

紬「うん」


トンちゃん「待ってたよ!アタイ待ちくたびれてたよ!この時を! チェケラッチョイ!」


梓「トンちゃん、ご飯だよー」

 パラパラ〜


トンちゃん「サンキュー、ゴキ…間違えた ネコミミ女!アンタやっぱり最高の女だよ! チェケラッチョイ!」
413 : ◆htc/zyfnRA [sage]:2010/09/26(日) 23:53:27.08 ID:SLJX.iw0
ガチャ

澪「おっす」


トンちゃん「次にやってきたのはツリ目の黒髪巨乳女だよ! チェケラッチョイ!!」


梓「澪先輩、こんにちは」

紬「今お茶入れるわ、座ってて」

澪「ああ、ありがとう、ムギ」 ニコッ


トンちゃん「ツリ目は異常に怖がったりメルヘンだったり!キャラ付けに必死だよ! チェケラッチョイ!」


澪「…」 チラッ

トンちゃん「…」 ギロッ

澪「…!」 ビクッ

澪「…」 サッ


トンちゃん「ツリ目のくせに アタイのつぶらな瞳にすらビビって目を逸らすよ!

       アタイより弱いって雑魚にも程があるよ!チェケラッチョイ!」


トンちゃん「正直 アタイあんたが外の世界でちゃんと生きていけてるか心配だよ! チェケラッチョイ!」
414 : ◆htc/zyfnRA [sage]:2010/09/26(日) 23:54:11.87 ID:SLJX.iw0
ガチャ

律「おーっす!!」

唯「みんな、お待たせー」


トンちゃん「おっと 残りのメンバーは2人同時に入ってきたよ! チェケラッチョイ!」

トンちゃん「バカみたいにバカ元気な デコ女と 頭の中お花畑な 髪留め女 だいっ! チェケラッチョイ!」

トンちゃん「2人合わせて軽音部のボンクラーズだよ! チェケラッチョイ!」


澪「唯、律 遅かったじゃないか」

律「さわちゃんに呼び止められてさぁ」

梓「また進路の事ですか?」

唯「まあねぇ…」

梓「ちゃんと進路考えないとダメじゃないですかっ!」


トンちゃん「ゴキ…間違えた ネコミミ女は 最年少なのに 先輩に説教とか全然平気だよっ! チェケラッチョイ!!」

唯「ご、ごめんね あずにゃんっ…」

トンちゃん「でも後輩に 説教される方も説教される方だよっ! チェケラッチョイ!」
415 : ◆htc/zyfnRA [sage]:2010/09/26(日) 23:54:58.71 ID:SLJX.iw0
紬「はい、唯ちゃん りっちゃん お茶」

律「サンキュー、ムギ」

唯「ムギちゃん、ありがとー」 ニヘラー


トンちゃん「あの顔はもう説教された事忘れてる顔だよっ! 流石頭の中お花畑だよっ!! チェケラッチョイ!!」


律「…」 ジロー


トンちゃん「デコ女は 暇な時 ちょいちょい こっちにガン飛ばしてくるのが ムカつくよっ! チェケラッチョイ!」


律「…」 ペカー


トンちゃん「デコに光が 反射して眩しいから こっち見るんじゃないよっ! チェケラッチョイ!」
416 : ◆htc/zyfnRA [sage]:2010/09/26(日) 23:55:58.23 ID:SLJX.iw0
梓「それじゃあ皆さん集まりましたし練習を…」


トンちゃん「この流れで練習が始まった所を見たこと無いよっ! チェケラッチョイ!」

トンちゃん「ゴキ…間違えた ネコミミ女はいい加減学習するべきだよっ! チェケラッチョイ!」


唯「えー、後でいいよー」

梓「よくないですっ!」


トンちゃん「お花畑はもっと色んな意味で色んな事を学習するべきだよっ! チェケラッチョイ!」


律「それより先にお菓子たべようぜー」

唯「ムギちゃーん、今日のお菓子なにー?」


トンちゃん「ボンクラーズは 真面目に練習しようとしないニート気質だけど食い意地だけは一人前だよっ! チェケラッチョイ!」

トンちゃん「働かざるもの喰うべからずだよ! チェケラッチョイ!

       え、『お前も働いてないだろ?』 アタイはいいのさ! 見ているだけで和むからねっ!! チェケラッチョイ!」


紬「ふふ、今日はチョコレートなのー ベルギー王室御用達の!」

唯律澪梓「ベルギー王室!?」


トンちゃん「ニートが王室と同じ物食べられるなんて! 世も末だよ! チェケラッチョイ!」
417 : ◆htc/zyfnRA [sage]:2010/09/26(日) 23:56:52.14 ID:SLJX.iw0
紬「はい、どうぞ」 コトッ  ニコニコ

唯「わー!!おいしそー!! 早く食べようよ!!!」

律「なんか王室!って考えると…食べるのが勿体無い気が…」

澪「チョコレートかぁ… うぅ… また太ったらどうしよう…」


トンちゃん「ツリ目はこんな事言ってるけど 甘いもの食べるのを自重したことはないよっ! チェケラッチョイ!」


梓「ちょっと練習はっ!」

唯「はい、あずにゃん あーん!」

梓「うっ」

唯「あーん」

梓「…パクッ」

梓「! 美味しい…」

トンちゃん「真面目に練習とか言ってても この程度で陥落するよっ!

        ゴキ…間違えた ネコミミ女は本当にチョロいよっ!チェケラッチョイ!」


唯「でしょー!」 ニコニコ

トンちゃん「そして自分が持ってきた訳でもないのに 何故かお花畑が自慢げだよっ! チェケラッチョイ!」


紬「口にあったみたいで良かったー!まだあるからどんどん食べてね!」

唯「うん!」

律「モチですっ!」

トンちゃん「そんな事言ったら 本当にコイツ等はバクバク食べるよっ! チェケラッチョイ!

       だいたいベルギー王室なんて豚に真珠だよっ! チロルチョコとかで十分だよっ! チェケラッチョイ!」


唯律澪梓 パクパク

トンちゃん「よくよく考えると ウチの軽音部は ボンクラーズに限らず 全員食い意地張ってたよ! チェケラッチョイ!」
418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 23:57:02.28 ID:gOjOXwUo
これが噂のオナ海か…
419 : ◆htc/zyfnRA [sage]:2010/09/26(日) 23:57:53.32 ID:SLJX.iw0
律「あー、食った食った!」

唯「美味しかったねー!」

律「ああ、まさにベルギー王室って感じだったな!」

トンちゃん「ボンクラーズはボキャブラリーも貧困だよっ! チェケラッチョイ!

       やっぱり豚に真珠だったよ! チェケラッチョイ!」


梓「それじゃあ、練習しますよ!!」

唯「えー、今日はもう良くない?」

トンちゃん「お花畑はさっき『後でいい』って言った事も忘れてるよ! チェケラッチョイ!

       きっと自分の所属してる部が何部だったかすらも忘れてるよ! チェケラッチョイ!」


梓「 練 習 し ま す よ っ ! !」

唯「ちぇー… あずにゃんのいけず…」


トンちゃん「もはやニート以外の何者でもないよっ! チェケラッチョイ!」
420 : ◆htc/zyfnRA [sage]:2010/09/26(日) 23:58:27.75 ID:SLJX.iw0



唯「…」 ジャラアアァン!!


律「よし、みんな準備できたか?」

澪「ああっ!」

紬「うん、大丈夫!」

梓「もちろんです!」

唯「何時でもオーケーだよ!」


律「じゃあ始めるぞー 1、2、3」


ジャカジャカジャンジャン!

           ジャカジャンジャカジャン!!


                       ♪


トンちゃん「普段はあんなに酷い連中でもやる時はやるよっ! チェケラッチョイ!」 スイスイー
421 : ◆htc/zyfnRA [sage]:2010/09/26(日) 23:59:01.06 ID:SLJX.iw0
トンちゃん スイスイー♪


梓「あ! 見てください!トンちゃんが私達の音楽に合わせて踊ってます!」 ♪

唯「本当だ!! トンちゃんも楽しいのかな!?」 ♪


トンちゃん「アタイも軽音部だからね! やる時はやるよっ! チェケラッチョイ!」 スイスイー



トンちゃん「初めてホームセンターで出会った時には

       アンタたちがこんな出来る奴等だとは思って無かったよ! チェケラッチョイ!」 スイスイー

トンちゃん「でも人は見かけに寄らないねっ! チェケラッチョイ!

       アンタ達といると飽きないし楽しいよっ! チェケラッチョイ!

       本当にこんな楽しい所があるなんて知らなかったよっ! チェケラッチョイ!」 スイスイー

トンちゃん「井の中の蛙大海を知らず!ならぬ

       ホームセンターのトンちゃん、大海を知らずだねっ! チェケラッチョイ!」 スイスイー


トンちゃん「アタイとアンタ達は 水槽の窓を隔てて住む海が違うけどもっ!

       この音楽の中ではきっと 同じ海を共有してる!そんな感じがするよっ! チェケラッチョイ!」 スイスイー


(CV:真鍋 和)


おわり
422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/27(月) 00:02:15.74 ID:FFAknISO
>>421
おつー
423 : ◆mNsLyBMLN6 [sage]:2010/09/27(月) 00:16:34.93 ID:v5rFn2AO
メモ帳がいっぱいになってるのでメールの未送信に保存したやつから引っ張って貼るので酉は初めと終わりだけつけます
ご了承ください
後とにかく長いです
長いのは嫌いな方は遠慮しといた方がいいかもしれません…

では書きます

「同じ窓から見てた海」
424 : ◆mNsLyBMLN6 [sage]:2010/09/27(月) 00:18:54.98 ID:v5rFn2AO
ああこのまま貼ればいいのか

トリありでいきます
425 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:19:59.03 ID:v5rFn2AO
戦争だった。

他に理由はいらない。私達はただその事実にのみ従い、銃を手に取り、ただ殺すことだけを覚えた。

男女平等を謳った今の世の中じゃ、女だからと言って戦わないなんて都合のいいことは言えない。

国の為に戦い

家族や友人の為に戦い

そして何より自分の命の為に戦うしかなかった

そんな中、私はその操縦技術を買われ第三十二航空部隊に配属された。

唯「ここ…かな?」

確かにそこには『第三十二航空部隊』と書かれたプレートがある。恐る恐る中を覗いて見るが…真っ暗である。

唯「もしも〜し、誰かいませんか〜?」
426 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:21:01.82 ID:v5rFn2AO
「動くな」

唯「ひいぃっ」

「両手を上げろ」

唯「はひっ」

まさか敵軍のスパイがこんなところまで!?

「よし、次は服を脱げ」

唯「ええぇぇっ!?」

「脱がないと殺す」

唯「くっ」

私はこれからどんな辱しめを受けるのだろう…。味方陣中とは言え油断し過ぎた…。
そんな甘さがこの結果を生んだんだ。
でも…それでも死ぬわけにはいかない。
どんな辱しめを受けようと軍人のプライドをへし折られようと…命だけは落とすわけにはいかない…!

一人苦しむ妹を置いて先には逝けない…!
427 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:21:49.18 ID:v5rFn2AO
唯「わかりました…。脱ぎます…」

緑色のシャツのボタンを一つ一つ外していく…。その下から更に緑色のタンクトップが露になる。

「タンクトップとズボンもだ。早くしろ」

唯「うぅ…」

今は命令に従うしかない…。
両手をクロスさせながらタンクトップの裾を摘まみ持ち上げ、一気に脱ぐ。
乙女の恥じらいなど軍に入った瞬間に捨てた。今傷ついているのは敵に服従しているという軍人の心であって決して乙女の恥じらいなどではないのだ!
本当だよっ!

「へ〜…可愛い下着つけてんな」

男にしては少し高い声で変態じみたことを!
428 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:23:03.62 ID:v5rFn2AO
「ほらほら、下も早く早く〜」

唯「〜ッ!」

こうなればヤケだ!どうにでもなれ!

唯「南無三ッ!」

ガバッ!

「りいいいいつううううぅぅ〜〜〜?」

「あちゃ〜、見つかったか」

「あちゃ〜見つかったかじゃないだろ! 昼間の訓練サボって何やってんだよ! 真鍋少佐カンカンだったぞっ!」

「スーパーエースに訓練なんて必要ないんだよ」

「この前ちょっと活躍したからって天狗になって! 次どうなっても知らないぞ!」

「へいへ〜い。午後のはちゃんと行くよ」

「全く……。で、さっきからいるこの下着一枚の子は…誰?」

「さあ?」

唯「……(助かった…?)」
429 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:24:09.28 ID:v5rFn2AO
唯「…平沢唯一等兵であります…」

「ご、ごめんね平沢さん。律のやつ新人が来るといつもこれで…。私は秋山澪一等兵です。よろしく」

唯「こちらこそ…」

この人はいい人そう…。

律「田井中律一等兵だよん。よろしくね、淡いピンクの可愛い下着の子」プププ

唯「」イラッ

澪「りーつ!?」

律「わかってるよ。ほら、仲直りの握手握手」

唯「…したくないです」

律「そう怒るなよ〜。私のも見せてやるから」

澪「律! 平沢さんも。同じ航空隊同士仲良くしようよ。階級も同じなんだしさ」
430 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:26:16.71 ID:v5rFn2AO
唯「」ツーン

律「」ヘーンダ

澪「はあ…」

紬「あら? お客さんかしら」

澪「あ、ムギ。紹介するよ。今日からここに配属になった平沢唯さん。階級は私達と同じ一等兵なんだ」

紬「まあ♪ 私は琴吹紬一等兵よ。よろしくね、え〜と…なんて呼べばいいかしら?」

唯「階級は同じなので好きに呼んでくれて結構です」

紬「じゃあ唯ちゃんで! 私のことはムギちゃんって呼んでね」

唯「宜しくお願いします。琴吹さん」

紬「あらあら」

律「つれない奴〜」

澪「お前が悪いんだろ!」

こうして、私達は出会いました。
431 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:27:13.72 ID:v5rFn2AO
夕刻──

律「訓練訓練…毎日訓練。は〜…もっとこうババッと攻めて来ないのかね〜敵さんは」

澪「律! 不謹慎だぞ!」

律「しかしこうも毎日訓練ばっかりだとねぇ。前のだってただの偵察機撃墜だしさ〜攻めて来る気あんのかね〜あちらさんは」

唯「(なんだ…ただの戦闘狂か…)」

紬「真鍋少佐が来たわ!」

澪「」ビシッ
律「」ビシッ
紬「」ビシッ
唯「(あれって…)」ビシッ

真鍋「うむ。では午後の訓練を始める! その前に、平沢一等兵!」

唯「は、はいっ!」

真鍋「中々の腕だと上から報告を受けている。」
432 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:28:02.54 ID:v5rFn2AO
唯「はっ! ありがとうございますっ!」

真鍋「(期待してるわ、唯」ボソッ

唯「(やっぱり…!)」

律「(何かあの二人初対面って感じじゃないよな」ボソボソ

澪「(いいから黙ってろ」ボソッ

真鍋「まず旋回飛行から、始めっ!」

──────

律「相変わらず鬼教官だよなあの人…」

澪「律は午前中サボったから余計に絞られただけだろ。それにしても平沢さん凄いな! あんなに綺麗に旋回する人初めて見たよ!」

唯「そ、そうかな?」

律「実戦であんな基礎的な動きしてたら良い的だけどな」
433 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:29:07.52 ID:v5rFn2AO
唯「っ!」

澪「律! いい加減にしろよ! 平沢さんに何か恨みでもあるのか?」

律「別に…ただ目付きが気に入らないだけだよ」

紬「目付き…?」

律「私だけは特別…そんな目してるよ、お前」

唯「…あなたに何がわかるの?」

律「ああわからないさ! わかりたくもないね! そうやって自分だけが悲しくて思い詰めてるって顔してりゃみんなが心配してくれると思うなよ!? ムシャクシャするんだよそういうの!」

唯「ッ!! お前ッ!」

紬「二人ともやめてっ! ここで争っても…何の解決にもならないわ…」
434 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:30:00.08 ID:v5rFn2AO
澪「ムギの言う通りだ。ここで殴り合った所で生傷が増えるだけだぞ。律、お前の勝手な解釈で平沢さんを煽る様な言い方するな」

律「っ…だってよぉ」

澪「みんな色々あるのは同じなんだ…。戦争なんだから…」

律「…。悪かったよ。言い過ぎた」

澪「平沢さんも」

唯「…すみませんでした」

澪「じゃあこれで二人は仲良しだ。いいな?」

律「はいーはいー…じゃ、先に帰って寝てるわ」

唯「…」

澪「はあ…」

紬「お疲れ様澪ちゃん」

澪「こんなので大丈夫かな…」

唯「ちょっと…いいですか?」

澪「ん?」
435 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:31:51.50 ID:v5rFn2AO
唯「あの人…」

澪「田井中律、だよ」

唯「……田井中さんは戦争で誰か亡くされたんですか?」

澪「うん…。律の家は父親と母親も軍人でね。開戦直後に亡くなったらしいんだ…」

唯「そう…なんですか」

澪「うん…。つい最近たった一人の家族だった弟も戦死して…だからちょっとナーバスになってるんだ。戦争だから珍しいことじゃないんだけど…ね」

唯「……もしかして、秋山さんも?」

澪「うん。家族も親戚も空襲で亡くしたよ…。隣のムギも似たような感じかな」

紬「……」
436 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:33:51.72 ID:v5rFn2AO
唯「辛く…ないんですか?」

澪「辛いさ。けど…もう流れる涙もない…って言ったら嘘になるけど。やっぱり、悲しんでばかりじゃ前に進めないから」

唯「……」

バカだった…。
あの人の言う通りだ。自分が一番不幸だと思ってた。私に比べたら周りのみんなはなんて幸せだろうって…そんな目で見てた。
自分の窓から見えている景色しか観てない私はただそれだけを嘆いてた。
でも、この人達はそうじゃない。自分達の見えてる景色がどんなに悲しくったって…それを嘆いて周りを困らす様なことはしない。それどころか寧ろ笑いかけてすらいる。

そうか…これが強いってことなんだ…。
437 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:34:30.42 ID:v5rFn2AO
紬「悲しいお話は終わりにして…帰って平沢さんの入隊祝いをしましょう!」

澪「それいいなムギ! 平沢さんもいい?」

唯「…唯でいいよ、澪ちゃん。ムギ…ちゃん」

澪「うんっ! ふふっ」

紬「うふふ」

唯「あはは…」

私達はこんな中でも笑い合えた。
私はこの時初めてみんなと同じ窓を覗いたんだ。

その先には何があるかなんてわからないままに。
438 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:35:27.41 ID:v5rFn2AO
それから時が流れるのは早かった。
朝起きては訓練。昼御飯を食べては訓練。夕方になれば訓練。そして床につく。
そんな毎日だった。
あれから澪ちゃんとムギちゃんとは仲良くなったけど、やっぱり田井中さんとはどこかギクシャクしたままだ。
そんなある日…

真鍋「よし、早朝訓練終了!」

律「はあ…はあ…なんで…航空機のパイロットが…こんな走り込みしなくちゃ…ならないんだよ! 陸軍かっての!」

真鍋「肺活量があれば何かと便利なのよ。上官に文句を言える体力があるならもう10周は行けるわね。行ってらっしゃい」

律「ひ〜…」
439 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:37:19.43 ID:v5rFn2AO
澪「鬼だな…」
紬「鬼ね…」
唯「鬼だよね…」

澪「でも凄いよな。私達と同い年ぐらいなのに少佐だなんて! 雲の上の人だよ…」

紬「でも私達はほぼ毎日あの人にしごかれているからそんな偉い人ってイメージないわよね」

澪「そうだよな〜何でだろ? 真鍋少佐ぐらいならもっと前線指揮を任されてもいい筈なのに」

唯「……」

澪「いくつなんだろうな〜二十歳ぐらいかな?」

唯「同い年だよ。私達と」

澪「唯? (やっぱり律の言ってた通り知り合いだったりするのかな)」


律「もう…走れ…ない…」

真鍋「じゃあジェットエンジンでも付けてみる? あなた大好きでしょう? ジェットエンジン」

律「走ります走ります! ぶいーーーーん」
440 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:39:33.30 ID:v5rFn2AO
真鍋「全員集合! 点呼!」

澪「1!」
律「2〜…」
紬「3♪」
唯「4」

真鍋「よし、全員いるわね。今日の昼と午後の訓練は休みとする! 各自体を休ませろ、以上」

律「やったぁ…」
澪「休みなんて久しぶりだな! どうしよっか」
紬「お買い物に行こうかしら」
澪「いいなそれっ! 律は?」

律「私は寝てるよ…」

澪「そっか…。唯はどうする?」

唯「私は…」

真鍋「平沢一等兵。ちょっといい?」

唯「は、はい」

トコトコトコ…

律「……唯のやつ何かやったのか?」

澪「心配か?」

律「べ、べっつに〜…」
441 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:40:10.91 ID:v5rFn2AO
真鍋「ここら辺でいいかしら」

唯「何でありますか真鍋少佐」

真鍋「今はお互い休暇中よ。そんなかしこまらなくていいわ、唯。話すタイミングが中々掴めなくていつ話そうかずっと悩んでたわよ」

唯「和ちゃん…なの?」

和「ええ。久しぶりね唯。見違えたわ」

唯「それはこっちの台詞だよ。少佐だなんて…凄いね」

和「ふふ、まあ色々とあってね」

唯「……」

和「……。憂…元気?」

唯「元気…かな」

和「そ…。なんで軍に?」

唯「お金がいるからね…色々」

和「そっか…」
442 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:41:38.75 ID:v5rFn2AO
和「今から憂のところに行くの?」

唯「…どうしようか迷ってる」

和「行きなさいよ。次いつ行けるかわからないんだから」

唯「うん…」

和「こんな平和な毎日がいつまで続くかわからないんだから…」

唯「…戦況はどうなの?」

和「私もそこまで詳しいことは知らされてないけれど…こっちが劣勢ね。今はチマチマ補給物資やら何やらを断ったり…後は情報戦ね。上も相手の出方を伺ってるって感じ。ただいつこの均衡が崩れるかわからないわ」

唯「そうなんだ…」

和「だから行っておきなさい。今のうちに」
唯「うん…ありがとう、和ちゃん」
443 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:42:38.91 ID:v5rFn2AO
桜ヶ丘病院──

唯「久しぶりだな…ここに来るのも」

ガラララ…

憂「お姉ちゃん?」

唯「…良くわかったね。憂…良い子にしてた?」

憂「大好きなお姉ちゃんの足音だもんわかるよぉ〜。うんっ! お姉ちゃんが来るまでちゃんと良い子にしてたよっ!」

唯「そっか。偉い偉い」なでなで

憂「んふぅ〜///」

唯「目の包帯換えよっか」

憂「ありがとうお姉ちゃん♪」

───

憂「ふ〜んふふふふふふ〜ん♪」

唯「(何故…この子はこんなにも幸せそうなのだろう。視力を失って…両親も失って…それでもまだ…こうして笑っていられるんだろう…)」
444 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:43:33.39 ID:v5rFn2AO
唯「憂、出来たよ」

憂「ありがとうお姉ちゃん! うゎぁ〜お姉ちゃん包帯巻くのまた上手くなったね!」

唯「そう? まあ軍に入ってたら自然と…ね」

憂「凄い凄いっ!」

唯「……」

憂「私もお姉ちゃんみたいに何でも出来たらな〜」

唯「……。目が見えるようになったら…きっと出来るよ」

憂「そうかなぁ? そしたら今度は私がお姉ちゃんの面倒見るんだぁ。いっぱいいっぱい…」

唯「憂…ありがとね」

憂「お礼を言うのはこっちだよぉ? 変なお姉ちゃん!」

唯「……(憂」
445 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:45:35.55 ID:v5rFn2AO
唯「じゃあ私もう行くね」

憂「もう行っちゃうんだ…」

唯「夕方には戻らないと。みんなに心配かけちゃうから」

憂「お友達さん出来た??」

唯「……少しは…ね」

憂「そっかぁ! 今度ここに連れてきてね! 私ね、目が見えなくてもりんごが剥けるようになったの! お姉ちゃんに食べてもらいたくて…」

不意に憂の手に目をやると、そこには傷だらけになった手が目に入った。

唯「バカッ! そんなことしなくていいの!」

憂「えっ…」

唯「憂には…憂にはそんなこと出来ないんだから! もし動脈でも切ったらどうするの!」
446 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:46:25.25 ID:v5rFn2AO
憂「ごめんなさい…」シュン…

唯「……憂は治すことだけに専念して。いい?」

憂「でも…」

唯「いい!?」

憂「うん…わかったよお姉ちゃん…」

これだ。これが私がここに来たくない理由なのだ。こんな痛々しい妹を直視したくない…。簡単に言えば現実を受け止めたくないのだ。
ただ、そこにいればいい。それが燃料になって私は動けるのだから。私は憂をそんな都合のいい人形にしている…。

唯「じゃあね、憂」

憂「また来てね…! お姉ちゃん!」

私は、それを聞こえない振りをして病室の扉を閉めた。
447 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:47:08.78 ID:v5rFn2AO
第三十二航空部隊宿舎───

唯「ただいま〜…」

律「遅かったな」

唯「田井中さん…。二人は?」

律「澪とムギは買い物。てかその田井中さんってのやめてくれ。虫酸が走る」

唯「じゃあなんて呼べばいいんですか?」

律「普通に律でいいよ」

あんなことがあったからだろうか。自然とイライラしてくる…

唯「…呼びたくありません」

だから意地を張ってしまった。せっかく仲直りするチャンスだったのに…。

律「お前なぁ!」

唯「なんですか!」

律「〜っ、っあ〜もうっ! 別に喧嘩したいわけじゃないのに」
448 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:48:47.58 ID:v5rFn2AO
唯「えっ…」

律「もういいよ! 好きなように呼んでくれ。ただ私はお前のこと唯って呼ぶからな! いいな!?」

唯「別に…いいけど。なんで?」

律「長いから! じゃあなっ! オヤスミ!」

唯「…」

律「…」

唯「寝た?」 律「寝てない」
唯「はやっ」

唯「あの…ごめんなさい」

律「いいよ…もう。ただ私の勝手で隊が機能しなかったら困るからな。それだけ。だから私のことは嫌いでもいい。でもその感情を戦場でも向けるのはやめてくれよ。みんなを死なせたくない…勿論お前もな。一応〜? 仲間だし…」

唯「田井中さん……」
449 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:50:10.02 ID:v5rFn2AO
唯「…弟さんのこと聞きました」

律「そーかい。まあ良くある話さ。こんなご時世だしな」

唯「…ごめんね。人の気も知らないで…」

律「……」

唯「みんなもっともっと辛い思いしてきたのに…私だけが辛いみたいな顔しち゛ゃ゛っ゛て゛さ゛」

律「……」

唯「私の妹ね…目が見えないんだ。多分これからもずっと…。でもね…それなのにリンゴなんて剥こうとしちゃってさ…諦めないんだよ? 前はお姉ちゃんが無事に帰って来ますようにって…ぐしゃぐしゃの鶴折ってくれて…」

律「……」
450 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:52:10.60 ID:v5rFn2AO
唯「包帯換えるだけでありがとうお姉ちゃんって…飛びっきりの笑顔でお礼言ったりさ…」

律「……」

唯「帰る前いつもまた来てねって……。前に行ったのだって結構前なのに……そんなこと一言も言わなくて……っ」

律「また行ってやれよ」

唯「えっ……」

律「生きてる限り何回だって行けるんだ。行ってやれよ、唯」

唯「律…さん」

律「私は聡の側にいて守ることも出来なかった…。そしてそれはもう二度と戻らない、けどお前にはまだ守れるんだよ。大切な人を。守ってやれるんだ…その手で」

唯「守って…?」
451 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:53:11.94 ID:v5rFn2AO
律「ああ。その子にとっての光はお前なんだ。私も似たような境遇だったからわかるよ。聡は私の生き甲斐だった…」

唯「……」

律「だから生き延びろ、唯! 何があってもその子より先に死んだりするなよ! 約束だ」

唯「うん…っ」

律「もっとも、私がいる限り死なせたりしないけどな」

唯「頼りにしてるよ、りっちゃん」

律「なんだよそのりっちゃんってーの! やめろよこそばゆいっ!」

唯「好きに呼んでいいって言ったじゃん」

律「あ〜う〜くそぉ〜」

唯「ふふ」

律「へへっ」

こうしてりっちゃんとも打ち解けた。

私の大切な大切な友達。
452 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:54:59.54 ID:v5rFn2AO
それからはまた訓練、訓練、またまた訓練。本当に使う日が来るのかと思うぐらい訓練を重ねに重ねた。
みんなと打ち解けた私はいつの間にかフォーメーションリーダーとなっており、編隊飛行などの組織的な練習も数多くこなした。

そして、

ブーーーーーーーーーウウウウウウウウウウ

《敵襲! 敵襲! 航空部隊は速やかに持ち場につけ! 繰り返す…》

澪「敵襲?!」

律「ちっ、観測班はなにやってたんだよ! スクランブルかけるまで放置するなんて寝ぼけてんのかぁ!?」

紬「しばらくなかったから対応が遅れたのね…急ぎましょう」
453 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:55:38.28 ID:v5rFn2AO
滑走路───

和「あなた達急いで!」

澪「はいっ!」

律「言われなくてもわかってるよ」

紬「了解です」

和「あれ? 平沢一等兵は!?」

律「唯なら妹のとこですよ少佐」

和「全くあの子は……どうしてこういつもタイミングが悪いのかしら!!!」

澪「唯の分もカバーします! 安心してください」

和「任せるわ! あの子もすぐ呼び戻すから」

整備班「秋山さん! いつでもオーケーです!」

澪「いつもありがとう! それじゃ行ってくる!」

整備班「ご無事で!」

ビシュウウウンッ────
454 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:56:33.23 ID:v5rFn2AO
律「整備は?」

整備班「完璧です律さんっ!」

律「オーケー、急いでるんだ、肩借りるぜ!」

整備班「どうぞ!」

律「よっと」

整備班の肩を踏み台にし、操縦席に手をかけると一気に乗り込む。

律「いつも悪いな」

整備班「いえ! 自分にとってはご馳走(ry」

律「他にどっか出てんの?」

整備班「二十二航空部隊が出てます! 後は三十も!」

律「ちっ、あいつらに先越されたらまた自慢話聞かされそうだからな。さっさと落としてくるわ」

整備班「御武運を!」

ズシャアアアアアッ───
455 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 00:59:05.18 ID:v5rFn2AO
整備班「紬様ァー! お急ぎくだされー!」

紬「その紬様ってやめてくださいっ! いつも言ってるじゃないですか! 私なんて家はその…貧乏で…」

整備班「いえ、お嬢様はお嬢様ですから(キリッ」

紬「もうっ! こんな貧乏家庭の人間をからかって!」

整備班「では気をつけて行ってらっしゃいませ、お嬢様」

紬「もぅ〜…」


ズオォォォォゥゥゥッ────

整備班「斎藤、お前も懲りないな」

斎藤「お前こそ、肩に足形ついてんぞ」

整備班「バッカ勲章だろこりゃあよう!」

斎藤「(お嬢様…ご無事で)」
456 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:00:17.40 ID:v5rFn2AO
バスの中───

唯「あ゛れ゛ば!!! 敵゛襲゛!? 急゛い゛で戻゛ら゛な゛い゛と゛」

子供「ガラスに顔擦り付けて変なお姉ちゃ〜ん」

お母さん「しっ! 見ちゃ駄目よたかし」

唯「運転手さ〜ん!!! 急いでくださ〜い!! 敵が来てるんです!!!」

運転手「て〜きが来てるってお嬢ちゃん戦闘機のパイロットか何かかい?」

唯「平沢唯一等兵、第三十二航空部隊の者です!」ドックタグ見せ見せ

運転手「あんりゃまあそうだったのぉ〜こりゃ〜忙しんと〜…捕まってな、嬢ちゃん」

唯「えっ…」

運転手が激しくギアチェンジするとバスは瞬く間に速度を上げて加速していく。
457 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:00:52.20 ID:v5rFn2AO
滑走路前───

唯「遅くなりました!!」

和「遅いっ! 遅れた理由はいい! さっさと乗り込め!!」

唯「了解です!」

整備班「あ、あの! 平沢さんの専用機の整備をさせてもらうものです! よろしくお願いします!」

唯「うん、よろしくね〜。って急がないと! 話はまた帰ってからね〜」

ズブシャアアアアアアアゴウゴウプゥ〜ン────

整備班「かっこいい…」
458 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:01:58.10 ID:v5rFn2AO
律「(早いな…新型か? 三機だけで来たからなんだと思ったけど…こりゃ偵察ってわけじゃなさそうだな)」

律「澪! こっちに誘い込めるか!?」

澪『了解! やってみる!』

澪の機体が敵の機体の背後を取り、追いすがる様に私の所へと連れてくる。

律「今だっ!!」

真正面からミサイルを発射、勢いがつきすぎた敵はミサイルをかわすこともなく撃沈。私は敵と交差するようにすれ違って行く。

「……」

律「(まだ子供じゃないか…って私が言うのもおかしいな。許せとは言わない…。私もいずれ行くから…だから先に待ってて…)」
459 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:02:41.75 ID:v5rFn2AO
唯「あー、あー、こちら一番機。応答よろし」

澪『唯! 早かったな!』

紬『妹さんはどうだった?』

律『リンゴ剥けてたか?』

唯「今は任務中だよみんな。私語は謹んで!」

澪『ふふ、二番機了解です』

紬『怒られちゃった。四番機了解』

律『帰ったら話聞かせろよ? 三番機了解ッ!』

唯「一気に叩くよ! 展開ッ!」

─────

ブゥゥゥゥゥン────

整備班「あっ! 帰って来た!」

斎藤「お疲れ様でした! お嬢様!」

紬「もう…やめてって言ってるのに」
460 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:04:58.95 ID:v5rFn2AO
澪「ただいま!」

整備班「お見事でした澪さん! さすが桜ヶ丘の鷲です!」

澪「よしてよそんなの、恥ずかしいよ」


律「たっだいま〜」

整備班「おかえりなさいませええええええ」

律「元気だけはいいなぁ。あ、急いでないけど肩借りるな」

整備班「どうへぶっ!」

律「悪い…顔踏んじゃったわ」

整備班「(これが何よりのご馳走です!)」


唯「ただいま」

整備班「お帰りなさい唯さん」

唯「これから降りたら真鍋少佐に怒られるんだろうな〜怖いな〜やだな〜」

整備班「ふふ、不思議ですね」
461 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:06:45.94 ID:v5rFn2AO
唯「なにが〜?」

整備班「だって操縦士なんていつ死ぬかわからないのに…まるで怖がってないから皆さん」

唯「それは違うよ。みんな怖い、けど我慢してるんだよ」

整備班「そう…ですよね。知らないのにそんなこと言ってすみませんでした」

唯「ううん。気にしないで。整備ありがとう。そう言えば名前は?」

雨衣「あ、私、ういです。雨に衣で雨衣」

唯「えっ…」

雨衣「どうかしましたか?」

唯「う、ううん…何でもないよ。雨衣…か、良い名前だね。じゃあ怒られに行ってくるね!」

整備班「はい。気をつけて行って来てください」

唯「(雨衣ちゃんか…憂の友達になってくれないかな〜…なんて)」
462 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:08:46.77 ID:v5rFn2AO
あれから警備がより一層厳しくなり、しばらく休暇はなくなっていったのだが、そんなある日

真鍋「今日は他の部隊が受け持つからあなた達は休みなさい。もう一ヶ月は休暇なしでやってもらっているしね。他の部隊もあなた達を頼りにしてるみたいよ」

律「頼りにってかいいコマ使いだろ〜?」

澪「律ッ! 少佐になんて口の聞き方するんだ!(休暇取り消されたらどうするんだ! 今日はみんなで唯の妹のお見舞いに行く約束だろう!」

律「し、失礼しましたっ! これからも誠心誠意この基地の為に全力を尽くす所存であります!」

和「?? あ、うん…良い心構えね。じゃあ解散」

律「(セーフ」

澪「(全く…」
463 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:09:26.03 ID:v5rFn2AO
バスの中────

律「ひゅ〜危なかった。真鍋少佐のことだから…「そんな減らず口が叩けるなら休暇は必要ないわね? じゃあ今から滑走路のゴミ拾いでもしてもらいましょうか?」って言ってるのに違いないぜ」

澪「似てない似てない」

紬「ああ見えて本当は優しいのよ真鍋少佐。ね、唯ちゃん」

唯「……」

紬「唯ちゃん?」

唯「ん? あ、なになに?」

律「おいちゃんと話聞いてろよ〜? せっかく私が真鍋少佐ネタを披露したのにだなぁ」

澪「いつも怒られてるだけあってレパートリーだけはあるよな」

律「なんだとぅっ」

唯「…」
464 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:12:07.40 ID:v5rFn2AO
唯「みんな…ありがとね。貴重な休暇なのに…」

律「気にすんなよ。どうせ休暇って言っても寝るぐらいしかやることないしな」

澪「そうそう」

紬「気にしなくていいのよ唯ちゃん。私達は家族も同然なんだから。唯ちゃんの妹は私達の妹でもあるわ」

律「なにその人類みな友達みたいなノリっ」

紬「いけなかったかしら?」

澪「私はいいと思うよ。みんながみんなそうならいいのにな…」

唯「うん…そしたら戦争なんて起きないのに…」

律「そうだな…」
紬「ええ…」
澪「ああ…」

唯「あ、そろそろだよ」

┏━━━━━━━━┓┃ビー 次 降ります┃┗━━━━━━━━┛
465 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:14:06.25 ID:v5rFn2AO
桜ヶ丘病院──

コンコン

憂「お姉ちゃん…じゃない。どうぞ…」

コンコンコココンコンココンコッ!

憂「ふぇっ、だ、誰ですかぁ…?」

ゴツン! シーン…

紬「こんにちは憂ちゃん。私達唯ちゃんのお友達よ」

憂「お姉ちゃんの!?」

律「ワ|レ|ワ|レ|ワ|、ウ|チ|ュ|ウ|ジ|ン|ダ」

憂「ひいぃ〜宇宙人怖いよぉ! 助けてお姉ちゃ〜ん!」

澪「いい加減にしろ」

ゴスンッ

律「あいでっ」

唯「よしよし、怖くないよ〜」

憂「びえ〜ん」

律「ゴ|メ|ン|ナ|サ|イ。ナ|カ|ナ|オ|リ、E|T」

憂「?ん?へ?」

律「こうやって指先と指先合わせて仲直り〜」

澪「どっかで見たことある風景だな…」
466 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:14:52.18 ID:v5rFn2AO
憂「うん…。仲直り♪」

律「にへへっ」

唯「憂、私の友達だよ。声がおっとりしてるのはムギちゃん。可愛いよぉ」

紬「琴吹紬よ。よろしくね、憂ちゃん」

唯「で、綺麗な透き通る声の澪ちゃん」

澪「透き通るなんて…ちょっと照れるな。秋山澪って言います。よろしく憂ちゃん」

唯「次は元気なりっちゃん! 面白いよ!」

律「さっきはごめんな〜憂ちゃん。田井中律だよん。ヨ|ロ|シ|ク|ネ」

憂「ムギさんに澪さんに律さん! 平沢憂です! いつもお姉ちゃんがお世話になってます!」
467 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:15:21.45 ID:v5rFn2AO
憂「座ってください。今リンゴ剥きますね」

澪「えっ…」
紬「私がやるわ。憂ちゃんは寝てていいのよ」

唯「待って、ムギちゃん。憂にやらせてあげて」

紬「でも…」

唯「お願い」

紬「…わかったわ」

憂「ありがとうお姉ちゃん」

唯「うん。憂、がんばって!」
澪「憂ちゃんがんばって!」
紬「がんばれ〜」
律「負けんな〜!」

憂「ありがとうございます皆さん。うんしょ、うんしょ…」

澪「(あぁっ危ないっ)」
紬「(そのまま行くと手がっ!)」
律「(リンゴだけにヘタるな! なんちゃって!)」
468 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:16:10.79 ID:v5rFn2AO
憂「出来ました! 召し上がってください!」

リンゴ(ボロ……)

澪「う、うん」
紬「いただくわね…」
律「いっただっきま〜す!」
唯「いただきます」

シャクッ

澪「うん、美味しいな」
紬「ええ、とっても」
律「もう一個も〜らいっ」

唯「……」

憂「お姉ちゃん…? 美味しくなかった?」

唯「美味しかったよ……憂…。よく頑張ったね 」

憂「…! うんっ!」

澪「(良かったな、来て」ニコニコ

紬「(ええ。本当に」ニコニコ

律「(ああ、良かった…」ニコニコ

唯「よしよし〜」

憂「♪」
469 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:17:49.77 ID:v5rFn2AO
帰り道 バスの中───

澪「良かったな唯。憂ちゃん喜んでくれて」

唯「みんなのおかげだよ。ありがとう」

紬「どう致しまして」

律「お礼を言いたいのはこっちの方だよ。守りたいものがまた増えた。これでもっと死ねなくなったよ」

唯「りっちゃんらしいや」

そうか、忘れてた。私達は軍人で……いつ命を落とすかもわからないんだった。

バスの窓から外を見つめる。

そこにはいつもと変わらない海が広がっている。

そうだ……

変わって行くのはいつも……私達だけだ。
470 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:19:17.86 ID:v5rFn2AO
それからだった。私達の日常が崩れて行ったのは…。
戦況が大きく変わったのだ。あちらが痺れを切らしこちら側の最重要拠点の一つに特攻、これを見事落としそこに兵力を集め更に進軍を開始。
こちら側が圧倒的に不利になってしまったのだ。

ブーーーーーーーーーウウウウウウウウウウ
《敵襲! 敵襲! 》

律「またかよっ! 今日で何回目だぁ?!」

澪「仕方ないよ…重要拠点が落とされたんだ…敵も奪い返される前に辺りを叩こうって必死さ」

紬「近いうちに奪還作戦があるみたいだし…不安だわ」

唯「行こう、今は私達に出来ることをやろう」

律「そうだな…」

澪「うん」

紬「ええ」
471 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:20:35.35 ID:v5rFn2AO
戦闘終了後、滑走路───

唯「ふぅ…」

雨衣「お疲れ様でした唯さん」

唯「あ、雨衣ちゃんお疲れ〜」

雨衣「最近はスクランブルばっかりで大変ですね…」

唯「整備に比べたらまだマシだよ…。ほとんど寝れないって話でしょ?」

雨衣「えぇ…まあ。でもこの基地とみんなのためですし弱音なんて吐いてられませんよ!」

唯「…そっか! 雨衣ちゃんは私の妹に似てるね」

雨衣「唯さん妹いらっしゃるんですか?」

唯「うん。雨衣ちゃんみたいに一生懸命を当たり前にやる子なんだぁ」

雨衣「唯さんの妹さん…いつか会ってみたいです!」

唯「うんっ! 今度休みが合ったら一緒に行こう!」

雨衣「是非!」
472 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:22:01.42 ID:v5rFn2AO
───宿舎

唯「あっ、ムギちゃん。洗濯物?」

紬「そうよ〜。次いつ干せるかわからないしね。ふっふふ〜ん♪」

唯「ムギちゃんって洗濯好きなの?」

紬「洗濯だけじゃないわ! 掃除も大好きよ!」

唯「へぇ〜!」

紬「私家が貧乏で…両親もすぐに亡くしたからずっと一人で家事なんかをしてたの」

唯「そうだったんだ…」

紬「いつか、いつかだけどね…! 凄い大金持ちになって…そしたらそのお金を世界の平和の為に使いたいなって思ってるの」

唯「ムギちゃんは優しいね」

紬「…優しい…か」

唯「?」

紬「こんな汚れた手でも…優しいって言ってくれるのね。唯ちゃんは」

唯「うん。優しいよ、ムギちゃんは。誰がなんと言おうとね!」

紬「ありがとう、唯ちゃん」
473 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:23:39.70 ID:v5rFn2AO
私が第三十二航空部隊に入ってから丁度一年が過ぎた。前とは打って変わり激戦区となってしまったこの基地だけど、みんな何とか生き残っている。
これも和ちゃんの指導の賜物だろうとみんな改めて感謝していた。
そんな頃───

梓「中野梓ですっ! 一等兵空尉です! よろしくお願いしますですっ!」

律「いよいよ私達にも後輩が出来たか…長かったな」←上等兵

澪「唯は階級同じだったからな」←上等兵

紬「後輩…いい響きね〜」←上等兵

唯「梓……だからあずにゃんだね!」←兵長

和「そこ、私語は謹んで」←中佐

律「おいおかしいだろ! 同じ一階級でもレベルが違うぞ!」

澪「仕方ない…仕方ないんだ律っ! これが現実なんだ。受け止めよう」

和「?」
474 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:24:37.08 ID:v5rFn2AO
梓「あ、あずにゃんじゃありません!梓です!」

唯「あずにゃんがいいよ〜」
澪「そっちの方がいいな」
紬「可愛いわぁ」
律「あ〜ずにゃん」

和「あなた達は本当に…最初の敬意はどこへ消えたのかしら。私じゃなければ銃殺よ銃殺!」

律「でたーッ! 真鍋少佐のレパートリーNo.38「銃殺よ銃殺!」」

和「」ビキッ

澪「律…そろそろ真面目に、な?」ガクブル

律「そ、そだな…」ブルブル

和「中野一等兵は模擬戦で全国トップクラスの実力者よ。あなた達が教えられることもあると思うわ。分からないことがあったらこの人達に聞いてね」
475 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:26:52.55 ID:v5rFn2AO
和「以上、解散」

律「模擬戦で全国トップクラスだってよ。どれだけ凄いか楽しみだな〜」

梓「むっ! 何なら今からでもやりますか? 模擬戦」

律「この基地のエースとやろうなんて100年早いよあ〜ずにゃん」

梓「知ってますよ。禿鷹の律でしょ? あなたが撃墜数が多いのは澪さんの援護のおかげですよ。一人じゃその1/10も落とせてませんね」

律「ぬなっ!? 禿鷹だとぉぉぉ!?」

澪「梓……なんていい子なんだ」ポロポロ

唯「澪ちゃんが泣いてる!?」

紬「そこまでそこまで。どっち道模擬戦は許可なくやれないんだから。またの機会にしましょ。それより宿舎でお茶にしましょう!」

唯澪律「は〜い」

梓「お茶…?」
476 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:27:24.73 ID:v5rFn2AO
宿舎───

ズズズ……

唯「ムギちゃんの入れてくれたお茶は美味いっ」
律「全くだな!」
澪「心が休まるよ」
紬「まだまだあるからおかわりする人は言ってね」

三人「はーい」

梓「なんですかこれは」ワナワナ

律「なにって…」
澪「お茶だけど…」

梓「お茶だけど…じゃないです! 由緒ある航空部隊の宿舎で呑気にお茶なんて聞いたことありません!」

唯「聞いたことないって言われても…ねぇ?」

紬「梓ちゃんもど〜ぞ」

梓「いりませんっ!」

梓「この事は上官に報告させていただきますから!」
477 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:28:09.80 ID:v5rFn2AO
唯「上官ってー?」

梓「真鍋中佐ですっ!」

律「あぁ、それなら待ってた方が早いぞ」

梓「は?」

澪「そろそろかな」

梓「何を言って…」

和「ムギ、お茶ある?」

紬「はい、和ちゃん」

和「ありがとう。丁度ここ本部と宿舎の合間にあるのよね〜助かるわ」

梓「な、な、な、何和んでるんですかあなたはっ!」

和「あら? 梓ちゃんも飲む?」

梓「あ、はい…いただきま…じゃなくて! 敵が来たらどうするんですか!!」

律「おっ! 梓が上官に意見してるぞ! 銃殺だ銃殺だ!」

和「そんな簡単にならないわよ」
478 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:28:52.25 ID:v5rFn2AO
和「中野梓一等兵」

梓「は、はいっ」シャキンッ

和「戦うためには適度な休息も必要よ。いつ敵が来るかわからないと気を張ってばかりいたら勝てるものも勝てないわ」

梓「しかし…」

和「ここはかなりの激戦区だけどずっと持ちこたえて来てるわ。先輩達を信じなさい。いいわね?」

梓「…それは命令ですか?」

和「ふふ、ただのお願いよ」

梓「……」

紬「はい♪ 梓ちゃんの分」

梓「……いただきます」ズズズ……

梓「美味しいです……///」

唯澪律「(飼い慣らした〜っ!」
479 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:29:28.61 ID:v5rFn2AO
あずにゃんを加えて新たに5人となったメンバーですが、それを嘲笑うかのように戦いは降りかかって来ました。
毎日の様に出撃し、帰れるかも分からない基地を眺め、海を眺め…。
私達は戦いました。
しかし次第にイライラは溜まり…

律「梓っ! 何で撃たなかった!? そのせいでみんなが危険にさらされたんだぞ!」

澪「もうよせ律…実戦経験は少ないんだから…いきなりは無理だよ」

梓「っ!」タタタッ

澪「梓っ!」

律「ほっとけよ! いつも口だけは達者でいざという時使えないんじゃここには置けないよ」

澪「律……」

唯「……」
480 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:31:07.00 ID:v5rFn2AO
───

梓「…ここでトリガー!」

梓「……」

梓「ここで撃つです!」

唯「な〜にやってるの、あ〜ずにゃん」ダキッ

梓「っ! ゆ、唯先輩驚かさないでくださいよ!」

唯「ごめんごめん、で、何してるの?」

梓「トリガーを弾く練習…って言ったら笑いますか?」

唯「笑わないよ…どうして?」

梓「…撃てなかったんです。いくら背後をとっても…人が乗ってると思うと」

唯「…そっか」

梓「模擬戦なら上手く行くのに…」

唯「模擬戦は実弾じゃないからねぇ」

梓「うぐっ…」

澪「唯に先越されちゃったな」
481 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:31:37.64 ID:v5rFn2AO
唯「澪ちゃん」

梓「澪先輩…」

澪「梓、人…撃つの怖いか?」

梓「はい…。自分がそうしたことでその人の命が終わってしまうと思うと…堪らなく怖いです」

澪「そっか…」

梓「澪先輩は怖くないんですか?」

澪「すご〜〜〜い怖いよ」

梓「えぇっ!?」

唯「澪ちゃん怖がりだもんね」

梓「あの澪先輩が…?」

澪「だから律の援護が多いって言うのもあるんだ。でも勿論私もいっぱい人を殺してきた。あの撃墜マーク一つ一つが私が地獄へ行くカウントダウンだと思ってる」

唯「澪ちゃん…」
482 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:32:46.52 ID:v5rFn2AO
梓「それならっ」

澪「やめたらいいって?」

梓「…はい」

澪「出来るならやめたい、けど…私の知らないところで大事な人達を死なせたくない。律や唯やムギ、和に整備班の人に梓だって。みんなみんな守りたいんだ。だから怖がってなんていられないよ」

梓「みんなを…守るために」

澪「忘れるな、梓。操縦席の窓の向こう側の景色は、みんなが見てるんだ。自分だけじゃない」

梓「同じ窓から見てる…」

澪「そうだ。だから怖がるな。みんながいる」

唯「私もいるよあずにゃん」むちゅちゅ〜

梓「みんなが…見てる」

唯「あずにゃん手! 手が私の鼻に食いこんでるよ!」
483 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:33:18.04 ID:v5rFn2AO
律「……澪達に先越されちまったな…」

紬「昔の澪ちゃんそっくりね、梓ちゃん」

律「ああ。そうだな…。ってMUGIいいい!?」

紬「静かにしないとバレちゃうわよ。りっちゃんは本当素直じゃないわね」

律「うるさいやい!」

紬「…おかしいわよね。梓ちゃんの気持ちが本当は正しいのに…」

律「世界が変われば人も常識も変わって行くさ…何もかも変わらずにはいられない」

紬「本当にそうなのかしら…」

律「さて、宿舎に戻って飯でも準備しますか」

紬「素直に梓ちゃんの為にって言えばいいのに」

律「うるさ〜い!」
484 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:34:32.03 ID:v5rFn2AO
その日から私達は更に結束を固め戦争と言う名の畏怖に立ち向かった。
だけど…それの前には私達は余りにも無力で、また、弱かった。

そして、20XX年のあの日───

雨衣「唯さ〜ん! 新しいパーツ届いたからつけときました! これでもっと動きやすいと思います!」

唯「ありがとう! いつも言わなくても私好みの整備してくれるからほんと助かるよぉ」

雨衣「いえいえ、それがお仕事ですから!」

唯「そうだ! 今度の休暇やっと取れたから私の妹の所に行かない? 憂もきっと喜ぶよぉ」

雨衣「はいっ! 是非! 約束ですっ!」

唯「うんっ」
485 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:36:33.36 ID:v5rFn2AO
───

唯「一番機から各機へ。敵、撤退を確認。深追いは禁物。今から基地に戻ります。オーバー」

律『三番機了解。しっかし楽な仕事だったな〜。結局偵察の戦闘機も逃げてったし』

澪『二番機了解。確かにな。あっさり逃げたっていうか』

紬『四番機了解。不気味ね…早く戻りましょう』

梓『五番機了…待ってください! 基地より緊急です!』

唯「!?」

梓『基地、襲撃にあいたし、至急戻って防衛せよ…』

澪『基地が…!?』

律『ちっ、これは囮かよ!』

紬『早く戻りましょうっ!』

唯「みんな……憂っ」
486 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:37:01.59 ID:v5rFn2AO
戻った時、あったのは死体の山でした。
基地は既に半壊しており、何とか死守するも組員の1/3が死亡、更にその半分が重軽傷と散々な結果だった。

文書で書けばこれぐらいで終わってしまうだろう。別にこの基地はそれほど重要な拠点でもなく、いくつもある基地の中でも真ん中よりちょっと下ぐらいの価値なのだ。
そりゃあ増援も来ませんよね。

ただ、私達にとっては…とってもとっても大事な基地なのでした。

ザアアアアアアア…

降りしきる雨の中、私達は夢中で穴を掘った。


ザッ…ザッ…ザクッ…
ザッ…ザッ…ザッ…
487 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:39:09.04 ID:v5rFn2AO
みんな泣いているのか雨のせいなのかわからない顔で黙々と埋葬をしている。
言葉に出さなくてもわかる…みんながどれだけみんなを思っていたのか。

そして、私も

唯「守ってあげられなくてごめんね…。一緒に憂の所に行くって約束したのに…」

雨衣「」

唯「ごめんね゛……」

冷たい土の中にゆっくりと沈める。

唯「雨衣ちゃんならきっと天国に行けるから…そしたら内の憂をよろしくね。私は…行けそうにないから」

少しづつ少しづつ土を被せて行く。

唯「さよなら…もう一人のうい…」

掘った土の中に雨が溜まり雨衣の体を沈めて行く…まるで雨の衣を纏っているかの様な…そんな姿だった。

埋葬が終わった後、私達にはもう……笑顔はなかった。
488 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:40:32.94 ID:v5rFn2AO
翌日───

和「まさかこんな辺境の基地にあれだけの戦力を出してくるとはね…。上も予想外だったようね」

澪「…」

和「昨日は埋葬ご苦労様。遺族も喜んでいたわ…。不謹慎かもしれないけど、みんな無事でいてくれて良かったわ」

梓「真鍋中佐は大丈夫何ですか?…その傷」

和「大丈夫よ。腕が折れたぐらいで休んでいられないわ。死んで行った彼らの為にもね」

唯「……」

和「上から命令が出たわ。こちらからも打って出ます。作戦時刻は明日明朝、ヒトマルマル時。作戦内容は追って通達する! 以上!解散!」
489 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:41:06.02 ID:v5rFn2AO
宿舎───

澪「……」

律「……」

紬「……」

梓「……」

唯「……」

誰も喋らない。もう、きっと、壊れてしまったんだ。私達は。
喋る為の部品がなくなったんじゃないかってぐらい押し黙っていた。

唯「(でもこれで…いいのだろうか? もしかしたら明日誰かが欠けてしまうかもしれないのに…こんなので…)」

唯「(嫌だな…そんなの。そんなことになったら私はきっとまた初めの頃に戻っちゃう。今度は…みんなの命を抱いて。私が死んだら…みんなが私の命を抱いて生きなくちゃいけない。悲しい顔をして…。そんなのやだな)」
490 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:42:00.60 ID:v5rFn2AO
唯「ねぇ、みんな。話そうよ」

紬「唯ちゃん…?」

唯「明日が最後になるかもしれないんだよ? このメンバーでいられるのも…もしかしたら」

律「そんなことにはさせないっ! 絶対に!」

梓「律先輩…」

唯「なら尚更話そうよ。もっともっとみんなで楽しい思い出を残そ?」

澪「…唯の言う通りだな。ありきたりだけど…死んでいった人達はこんな私達を見たくないだろうから」

紬「斎藤、あっ、整備班の人なんだけどね。いつも笑ってるあなたが素敵です。なんて言ってくれて…だから…私は笑っていたい。こんな時でも」
491 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:42:58.32 ID:v5rFn2AO
梓「いい人だったんですね…」

紬「結局よくわからない人だったわ…けど、大好きよ。彼のこと。もうちょっと早くに言えば良かったかしら…ね」

澪「…私も、特別仲が良かったわけじゃないけど…いつもキッチリ整備してくれて…彼らなしじゃここまで戦えなかったよ」

梓「(私の整備の人…は生きてるから話に入りずらいな…)」

律「私の整備の人もさ、いいやつだった。みんな家族みたいなもんだったんだよな…」

唯「うん…。みんな大切な人を亡くしたって気持ちは同じだよ」

澪「…なぁ、歌、歌わないか?」

唯「歌?」
492 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:43:51.27 ID:v5rFn2AO
澪「趣味でたまに弾いたりするんだけどさ」

梓「ベース…ですか?」

澪「そうそう」

律「実はみおちゅわんこう見えて詩人なんだよな〜」

澪「う、うるさいっ」

紬「初めて知ったわ! 聴かせて聴かせて」

澪「う、うん…恥ずかしいな」


澪「ふぅ…」

澪「君を見てると〜いつもハートドキドキ」

梓「プッ」

律「こら梓〜。ワンフレーズ目で笑うやつがあるか。もうちょっと耐えろよ」

梓「すみません澪先輩! ちょっとギャップがあるな〜と思って」

澪「悪かったな! だから嫌なのに…」
493 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:44:37.52 ID:v5rFn2AO
梓「すみません。もう笑ったりしませんから続けてください!」

澪「でもな〜…」

唯「澪ちゃんの歌ききた〜い」
紬「私も!」

澪「しょうがないなぁ」

唯&紬「わ〜い」

澪「では気を取り直して。おほんっ」

澪「君を見てると〜いつもハートドキドキ」

澪「揺れる想いはジェット機みたいにぶ〜わっぶわっ」

澪「い〜つも頑張る」
唯「い〜つも頑張る」

澪「(ふふ)君の横顔」
唯「(えへへ)君の横顔」

澪「ずっと見てても〜気づかないよね」

みんなの手拍子も入り出す。
494 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:45:19.98 ID:v5rFn2AO
澪「夢の中なら」
唯「夢の中なら〜」

澪「二人の距離〜縮められるのにな〜」

澪「ああカミサマお願い二人だけの、ドリームタイムくだ〜さい」

澪「お気に入りのバック〜パック抱いて〜え〜今夜もおやすみ」

澪「ふわふわタイム」
唯「ふわふわタイム」

紬「ふわふわタイム♪」
梓「ふわふわタイム」
律「タタンタタンタァーンっと」

澪「ど、どうかな?」

唯「凄い良かったよ澪ちゃん!」

澪「本当に?!」

梓「はいっ! ジェット機のとこなんて特に!」

澪「だろ? ジェットエンジンの音は病み付きになるよな!」

律「やっぱりそこなんだ…」
495 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:45:52.14 ID:v5rFn2AO
律「はは…」
紬「ふふっ」
澪「ふふ」
梓「ははっ」
唯「あははっ。私達らしいね」

律「ほんとそうだよな」
梓「ですね!」
紬「ええ」
澪「そうだな」

唯「みんな、明日は必ず一人も欠かずに帰ってこよう。この海が見える基地は私達が守るんだ」

律「おっしゃあっ! 円陣でも組むか!?」

唯「いいねいいね!」

澪「やろう!」

梓「はいっ!」

紬「円陣なんて初めてね〜」

律「よし、できたな。唯、お前が頼む」

唯「私が?」

律「何だかんだ生きて来られたのも唯のおかげたしな。みんなも依存はないだろ?」
496 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:46:39.37 ID:v5rFn2AO
一同に首を縦にふる。

唯「え〜では…」

唯「みんな、必ず生き残って。みんなの仇を取る前に自分の命がなくなったら意味がないから」

唯「りっちゃん」
律「背中は任せとけ! 誰も死なせやしないよ」
唯「頼りにしてるね」

唯「ムギちゃん」
紬「側面は任せて! きっと守ってみせるわ」
唯「私もムギちゃんを守るから」

唯「澪ちゃん」
澪「もう片翼は任せてくれ。決して折らせはしない…私達の翼を」
唯「うんっ!」

唯「最後はあずにゃん」
梓「私がいる限り後ろはとらせませんから! 安心して戦ってください!」
唯「背中は任せたよ、仔猫ちゃん!」
497 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:47:15.16 ID:v5rFn2AO
唯「桜ヶ丘第三十二航空部隊いくぞ〜」
澪「お〜っ!」
律「おぅっ!」
紬「お〜」
梓「お〜ですっ!」

律「って語呂合わなすぎ〜」

あははははは

私達はまた笑い合えた。
失った人達はもう戻っては来ないけれど、いつまでも窓に映る悲しい景色に嘆いていられない。

前に進むんだ、何があっても。

この時私達は、希望と言う光を見ていたのかもしれない。

勿論、同じ窓から…。

そして、決戦の時───
498 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:48:27.74 ID:v5rFn2AO
整備員「どうですか?」

唯「(足回りがダルつく…これじゃいつもより旋回しにくそう…でも時間もないし腕でカバーするしかない)うん、いけそう(もし…雨衣なら…ううん、やめよう。そんなこと考えるのは)」

律「(絶対敵を叩き潰してみんなを連れて帰る…私がみんなを守るんだ)」

澪「(怖がるな…いつも通り、いつも通り…)」

紬「(斎藤…)」

梓「うっ…整備は完璧です…」

整備員「あずにゃんのことならなんでもお見通しにゃん! あずにゃんは体が小さいから全体的に配置を変えておいたにゃん! 丸一日かかったにゃん!あずにゃんにゃん!」

梓「ど、どうも…」
499 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:49:31.43 ID:v5rFn2AO
和「作戦はさっき伝えた通りよ! あなた達の任務はあの爆撃機の護衛。敵の重要拠点を爆撃するまで守りきるのよ! いいわね!?」

唯「了解。」
澪「了解した」
律「ラジャー」
紬「了解しました」
梓「了解ですっ」

和「唯。一つだけ約束、いいかしら?」

唯「ん? なぁに和ちゃん?」

和「軍規なんてどうでもいい…危なくなったら帰って来るのよ。約束して」

唯「そんなことしたらいくら和ちゃんが偉くても銃殺だよ〜。大丈夫、みんな一緒で帰ってくるから。必ず」

和「そう…。気をつけてね、唯」

唯「うん…。行ってきます」
500 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:50:14.17 ID:v5rFn2AO
和「この作戦にこの基地の全てがかかってるわ! 各員奮闘せよ!」

唯「…」一番機

澪「…」二番機

律「…」三番機

紬「…」四番機

梓「…」五番機

和「……発進」

五人「了解!」


プェ────
ズシャアアアアアッ───
ドゥゥゥゥン────
ズオォォォォォゥゥゥゥ────ブゥゥゥゥゥン────


和「行ってらっしゃい…桜ヶ丘航空部隊」

和「私達の誇りに、敬礼っ!」

ビシッ──────
501 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:51:11.68 ID:v5rFn2AO
唯「暗いね〜」

澪『まあ深夜の一時だからな。暗いさ』

唯「海も真っ暗だよ〜何も見えない」

律『そういや憂ちゃんにこのこと言ったのか?』

唯「りっちゃんがそんなこと言うなんて珍しいね」

律『まあな。これまでの任務とは毛色が違うし…。で、どうなんだ?』

唯「憂にはちゃんと電報出したよ! 目が見えなくても読めるやつ」

紬『なんて送ったの?』

唯「それはこれからのお楽しみ〜」

律『?』

梓『唯先輩、用意出来ました』

澪『用意? なんのだ?』

唯「よ〜しあずにゃんいくよ〜!」
502 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:51:45.65 ID:v5rFn2AO
桜ヶ丘病院───

憂「お姉ちゃん…窓を開けて待っててって言ってたけど…なんだろう」

ヒュ〜〜〜ン ドッ
ヒュ〜〜ン ドッ
ヒュ〜〜〜ン ドッ
ヒュ〜ン ドッ
ヒュ〜〜ン ドッ

憂「うゎぁ〜…花火かな? ううん…微妙に音をずらしてた。あれは…もしかして」

憂「ドッドッドッドッドッ」

憂「ドッドドドドッ」

憂「行ってきますッ!」

憂「かな? 多分そうだ!」

窓からいくら見ても真っ暗な世界を見つめながら

憂「行ってらっしゃい、お姉ちゃん」

そう、呟いた。
503 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:52:37.00 ID:v5rFn2AO
律『閃光弾とは考えたな唯! でも憂ちゃんは目が見えないんだぜ? わかるのか?』

唯「音の方が本命だからね〜! 私には良くわからないけどあれで行ってきますッ! らしいよ! ね〜あずにゃん」

梓『うぇっ!? は、はいっ! そうです…多分。(言えない…実はあずにゃんにゃん!だったなんて…。なんて整備するのよあの人は!)』

澪『そんなことより閃光弾なんて目立つもの使って後で怒られるぞ? いくら味方陣内とは言え』

唯「和ちゃんから許可はもらってるからだいじょーV」

紬『和ちゃん粋ね〜』
504 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:53:31.29 ID:v5rFn2AO
唯「さて、ここからは真面目に行くよみんな! 敵陣地まで長い空旅になりそう。気を引き締めて行こうっ」

律『了解!』

澪『了解。索敵範囲を広げる為に少し散開を要求』

唯「OK、認めるよ」

紬『四番機了解。少しでも怪しい影が映ったら報告するわね』

梓『五番機了解です! 念のために護衛機の後ろについてます!』

律『三番機了解。私は今日は前を行くよ。唯、上と下からも注意しろよ。散開』

唯「わかってるよ! 爆撃機のパイロットへ。私達に離れないように」

パイロット『…了解した。』
505 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:54:54.78 ID:v5rFn2AO
真夜中を切り裂き、ひたすら飛んだ。
その先には朝日があると信じて…。
でもそれは…。

唯「目標の敵基地まで残り500」

律『そろそろ索敵にかかる頃か、奴ら飛び起きてるだろうな今頃』

澪『不謹慎だぞ律』

律『でも仕方ないさ。撃たなきゃ撃たれるんだ。撃つしかない』

紬『それが戦争だもんね…』

梓『……!!!? 前方200に熱源! これは…10…いや、20機はいますっ!』

澪『なんだと!? 20って…そんな急に来られるわけないだろう! まだ索敵に引っかかってるかどうかってレベルなのに!』

律『待ち伏せか…』

紬『まさか…』

澪『考えたくはないけど…情報が…』
506 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:55:49.87 ID:v5rFn2AO
唯「落ち着いてみんな! 落とせない数じゃないよ」

梓『でもっ!』

唯「あずにゃんは爆撃機の護衛! 絶対被弾させないで!」

梓「りょ、了解です!」

唯「りっちゃん! 澪ちゃん! 出来るだけ数を減らして来て。出来る?」

律『誰に行ってんだよ! 三番機了解!』

澪『やってみるよ…。二番機了解!』

唯「ムギちゃんは二人が撃ち逃したやつらを狙って! 奴らはきっと爆撃機を狙ってくる筈だから! 私はこれ以上数を出させない為に滑走路を潰してくる! 私が帰るまでなんとか持ちこたえて!」

紬『四番機了解! 気をつけてね唯ちゃん!』
507 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:56:57.93 ID:v5rFn2AO
20機もの戦闘機を縫うように夢中で駆け抜けた。通り越しに1.2機落とせれたのはラッキーだ。
まさか単機で突っ込んで来るとはあっちも思わなかったんだろう。

唯「誰も追って来ない…?」

妙だ、普通なら2.3機は引き付けられるはずなんだけど…。
前の基地にそれほどの数がスタンバイ出来ているのか。
まさか、まさか考えたくはないけど…

唯「やっぱり澪ちゃんが言ってた通り情報が漏れてたんじゃ…」

そうなれば…行った先には多分。ううん。和ちゃんを信じよう。
私達の命を救い続けて来てくれた上官を。

唯「みんな…がんばって!!!」
508 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:57:29.24 ID:v5rFn2AO
ビービービー

けたたましく鳴るアラーム音の中に私は浸かっていた。

律「危ないことぐらいわかってんだよ…機械に言われなくてもなァ!」

踊るような旋回でミサイルを次々避けて行く。
ミサイルを避けるのなんて私に言わせればカンだ。それにいくら追尾機能があるといえそのスピード故に縦には強いが横には弱い。

律「いけっ!」

逆に後ろを取ってやった戦闘機にミサイルをぶちこむ。…撃墜!

律「後いくつだよ…」

どこを見渡しても敵ばかり。
澪達無事かな…。

こんな時でも海は綺麗だな…。
509 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 01:58:09.86 ID:v5rFn2AO
書きため分終了

即興

かなり時間押してるのでちょっとはしょります
510 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 02:00:23.50 ID:v5rFn2AO
澪「くっ…」

目がついていかない…!

今こうして生きてるだけでも奇跡だ。

唯のやつ…田舎の上等兵が20機相手に勝てるわけないだろう。

なのにあんな簡単に出来る?なん聞いてきてさ…

澪「やらないわけにはいかないよなっ!」

ズオッ!
ズシャッ!

澪「今日だけは援護には回らない! 落としていくぞ!」
511 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 02:01:59.91 ID:v5rFn2AO
紬「来たわね…3機」

やれるかしら…私に。いえ、やるしかないわ。ここまで来て死ねない!

みんなと出会えて、これからなんだもの!

紬「1.2番いきますっ」

ズシャッ!ズシャッ!

紬「ここは通さないっ! 命に代えても!」
512 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 02:05:38.56 ID:v5rFn2AO
─────

和「どういうことなんですか!? わざと敵に傍受させるなんて! 彼女達を殺すおつもりですか大佐は!」

大佐「仕方ないのだよ。我々はただ上にあそこの基地の注意をひけとしか言われてないんだ」

和「それでもわざわざ傍受されてるのがわかって送り出すなんて…!」

大佐「確定情報を優先するだろう? あそこの連中が出てこないってだけでかなり有利らしいんだ。君も軍人ならわかれ、真鍋中佐」

和「私は…私は真鍋和よ!!!」

和「聞こえる!? 唯! みんな!」
513 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 02:10:07.51 ID:v5rFn2AO
────

唯「あ、ああ……」

私は何を見ているのだろう。
まるで蟻のようにいる航空部隊、対空砲、オマケに空母まで出てきている。

さっきやそっとで用意出来る数じゃないのは明白だった。

唯「死んじゃうの…私達」

その時だった。

ガガガ、

和『みんな!聞こえる?! 私よ! 今すぐ撤退して! その行動自体がただ相手を引き付ける為のデコイだったのよ! 爆撃は諦めて撤退よ! いいわね!』

唯「撤退…」

そうか、帰っていいんだ。

私達は、あそこへ

大佐『何を言ってる真鍋中佐! 気でも狂ったか!』

和『おかしいのはあなた達の方よ! 貴重な戦力をわざわざ無駄死にさせ』

バンァッ────

唯「えっ……」
514 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 02:12:59.07 ID:v5rFn2AO
大佐『撤退は認められない。繰り返す、撤退は認められない。少しでも敵の気をひくんだ。』

唯「なにいってんの…無理に決まってるじゃん…? 何機いると思ってんだよ!!!」

大佐『君達には二階級特進を約束しよう。では、健闘を祈る』

唯「おいっ!!! 待ってよ!!! 和ちゃんをどうした!!!! 応答しろ!!! おいっ!!!!」

何……これ…本当に現実なの?
515 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 02:15:02.25 ID:v5rFn2AO
唯「戻らなきゃ…」

みんなの所へ

唯「戻らなきゃ…」

無意識に回頭、来た道を戻る。

当然後ろに数十機の戦闘機も携えて。

それでも戻りたかった。
みんなとまた会いたかった。

唯「みんな……」

世界はなんて、真っ暗なんだろうか。
516 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 02:18:11.48 ID:v5rFn2AO
────

律「聞いたか?」

澪『…ああ』

紬『うん』

律「短い人生だったな…」

澪『投降したら見逃してくれないかな…?』

律「爆弾持って投降なんて出来るかよ。間違いなく撃たれるさ」

澪『死にたくないよ…死にたくないよぉっ! 律ぅ!!!』

律「私だって…死にたくないさ。けど…」

紬『諦めるしか…ないのかしら』

律「……」

律「最後にお前達を逃がすことぐらいなら…出来るかもしれない」

澪『えっ』
517 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 02:23:12.04 ID:v5rFn2AO
律「私が命いっぱい閃光弾を焚くから、お前達はその間に味方の基地のまで飛べ」

澪『りつ!?』

紬『りっちゃん!?』

律「今閃光弾を積んでるのは私だけだ。いけよ、二人とも。梓にも伝えといてくれ。ありがとうってな」

澪『律…』

律「先に二階級特進を使わせてもらう!命令だ! 秋山澪一等兵! 琴吹紬一等兵! ただちにこの空域を離脱せよ!」

澪『……わかった』

紬『わかったわ』

澪『けど、』紬『けど』

澪『やるならみんな一緒でだ』

紬『やるならみんな一緒でよ』

律「……お前らまで二階級特進使うってのか? バーカ」
518 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 02:29:03.21 ID:v5rFn2AO
梓「……使い捨てですか…私達は。わかってましたけど…ね。なんとなく」

梓「爆撃機のパイロットさん。その中身、何もないんでしょ?」

パイロット『はい…』

梓「投降…って言っても今更無理ですよね。結構落としてますし。これでもう軍人としての責務は果たしました。後は…死ぬだけです」

梓「ありがとう、先輩達。こんな世界でも…楽しかったです」

ビービービー

梓「さようなら」

ゴオオオオオオオオ…

律『梓ッ!』
澪『梓!』
紬『梓ちゃんっ!』

血でもう赤か青か見えないや…。
落ちてる…のかな? 私。ってことは下は海か…
ふふ、こんな時なのに……凄く綺麗に見えるな。
なんでだろ……わかんないや
519 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 02:33:00.06 ID:v5rFn2AO
律「クッソォ!!!」

澪『律!!!』

紬『私に任せて澪ちゃん!!!』

ミサイルの残弾を全て発射、三番機の周りにいる敵を撃墜しようと試みるも…

澪『ムギ!!! 後ろッ!』

紬「えっ…」

ババババババ

操縦席に雨のように弾丸が降り注ぐ。
後ろから回り込まれ撃たれたのだろう。

紬「(そう…だめだったのね…)」

墜落する間際に見た最後の景色

紬「梓ちゃんも見たのかしら……海」ニコ

ズシャッアアアアア

澪『ムギイイイイッ』
520 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 02:36:54.70 ID:v5rFn2AO
律「唯はまだか!?」

澪『さっきから通信にも出ないし…きっともう』

律「そっか…」

澪『律』

律「ん?」

澪『最後だから言っとくね。大好きだった』

律「過去形かよ。私も。会えて良かった」

澪『次また生まれて来るときは…平和な世界がいいな。自由に音楽とかもやれてさ』

律「同感だな。そしたら澪がベースで私がドラム? はは、柄じゃないな」

澪『ううん。きっと…似合ってると思うよ。律なら』

律「そっか…。そうだといいな。澪」

澪『ん?』

律「またいつか」

澪『うん。またな、律』

───────
521 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 02:39:38.75 ID:v5rFn2AO
──────

唯「……ん」

唯「ここは?」

辺りを見渡しても何もない。無人島か何かだろうか。

唯「そっか…私撃墜されて…」

あれだけの数に追われて落とされないわけもないか…でも、

唯「生きてる…」

みんなはどうしただろう?
私みたいに流れ着いたりしてないのかな?

ここでしばらく待ってみればわかるか…。

どのみち脱出手段もないし、ここで待つしかない。
522 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 02:41:31.24 ID:v5rFn2AO
唯「海か…。前に見たときより嫌な気分になるのは何でだろう」

同じ窓から見て海なのに

唯「周りに誰もいないだけでこんなにも寂しいなんて…」

同じ窓から見ていても、それは同じじゃない。
私はそんなことをふと思った。

唯「同じ窓から見てた海」

みんなも見たのかな……同じ窓から。
523 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 02:43:41.83 ID:v5rFn2AO
─────

唯「あ〜ずにゃん! どうしたの? 海なんてぼんやり見てさ」

梓「あっ、唯先輩。なんて言うか…なんだか悲しいなって」

唯「悲しい?」

梓「はい。海を見てるとそんな気になってくるんです」

唯「…そっかぁ。実は私もなんだ」

梓「唯先輩もですか?」

唯「うん。何かを忘れてきたみたいな…そんな感じ」
524 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/09/27(月) 02:48:32.81 ID:v5rFn2AO
唯「そんなことよりみんなで写真とろうよ! みんな待ってるよ! あずにゃん!」

梓「ちょ、唯先輩そんな走ったら……」

律「遅いぞあずさ〜!」

澪「みんな待ってたんだぞ」

紬「早く撮りましょう」

唯「じゃあ行くよ〜?」

一眼レフから覗くみんなと海。

ああ、これだ。
と何故か想いを馳せた。

私はただその思いがどこから来たのかわからずタイマーをセットした写真に写るべく奮走する。

「ハイ、チーズ!」

カシャッ

同じ窓から見てた海

みんなで揃って撮った写真。

きっとこれが答えなんだ。

私は胸の中で、そう誰かに呟いた。

律「なんかカチューシャが流れついてるしっ」

唯「りっちゃんつけてみなよぅ」

律「駄目だな! センスが悪いこれは!」

おしまい
525 : ◆mNsLyBMLN6 [saga]:2010/09/27(月) 02:49:38.85 ID:v5rFn2AO
終わりです

ほんとに長々とすみませんでした

やっぱりラストにするんでしたね…。
切り貼りする作業がこんな時間かかるとは思いませんでした

ほんとにすみません
526 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/27(月) 02:51:31.38 ID:BqiARWU0
お疲れ様でした。面白かった。

長くなったのはドンマイです。

遅いので明日に響かないよう、体調に気を付けて〜
527 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:33:00.79 ID:JeWLzYoo
では投下していきます
528 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:38:59.60 ID:JeWLzYoo

りびんぐ!

紬「――でもね、もう言い逃れできないわよ。ここにいる“犯人さん”」

梓「……」

唯「……」ごくり

澪「だ、誰なんだよ。こんな…こんなことしたのはっ」

律「おいおい、私たちには全員アリバイがあっただろ? 今さら何を…」

紬「これを見てちょうだい」すっ

澪「これは……さっき私たち三人が撮った海の写真か?」

紬「そう。これらは全部この別荘の窓ごしに撮った写真のはずでしょう?」

律「だよなー…撮影時刻も入ってるから、誰のアリバイも崩せそうにねーな」

紬「でもね、この写真に注目して」

唯「――ムギちゃん、これって!!」
529 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:39:59.93 ID:aDeaNngP

律「おっおい唯、そんな写真で何が分かるっていうんだよっ」

紬「唯ちゃん正解よ」

澪「ムギ、どういうことだ?」

紬「たしかにみんなが撮った写真はぜんぶ、同じ『窓から見てた海』に間違いないわ」


紬「でもね……この写真だけは違うのよ!」ばんっ
530 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:41:38.80 ID:JeWLzYoo

澪「そうか、確かにこれだけガラスに反射した光も、水滴も映ってない!」

唯「ってことは…」

紬「犯人は――

  りっちゃん、あなたです!」

律「――くそっ! 計画は途中まで完璧だったのに!!」



梓「いや、バナナタルト食べちゃったの私だって最初から言ってるじゃないですか……」

唯「あずにゃん、いまいいとこだからお口チャック」

梓「えっ」
531 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:42:05.74 ID:JeWLzYoo

   ◆  ◆  ◆

 話は半日ほど前に戻ります。

 三月二十五日、金曜日。天気はあいにく弱い雨でした。
 きょう私は「放課後ティータイム☆春合宿!」ということでムギ先輩の別荘に来ています。
 一年半ほど前の夏に来たところと同じ、思い出深い別荘ですね。

唯「わあっ、変わってないね!」

律「相変わらずすげえなあ…」

紬「梓ちゃん、狭いところだけどゆっくりしていってね?」

 いや、十分すぎるほど広いですから!
 ムギ先輩があの時借りたかった別荘ってどんだけ大きいんだろ……。
 もしかして、島一個分とか? ってまさかそれはないか。

紬「島というより半島ね。フィンランドにあるんだけど」

梓「だから人の心を読まないでください?!」
532 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:42:32.38 ID:JeWLzYoo

澪「お前ら、合宿の目的分かってるんだろうな?」

 あきれた声でいさめるのは、少し遅れてたどり着いた澪先輩。
 青い傘と弱い風になびく黒髪がとてもきれいです。

律「わーかってるって! ほら、ちゃんとトランプも持ってきたしなっ」

澪「遊ぶ気まんまんだろ!」

律「いたっ?! ……冗談だってばぁ」

唯「えっ澪ちゃんウノのがよかったの?」

律「そうじゃねーよ!」

 降り注ぐ雨も気にかけずにじゃれあう唯先輩と律先輩。
 なんだか犬みたいでかわいらしいです。

紬「あっでも梓ちゃん、りっちゃんはネコだと思うの」

梓「そういう意味じゃありません!」

唯「ねこはあずにゃんだよ!」

梓「どっちの意味でですかー?!」
533 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:42:58.99 ID:JeWLzYoo

 こほん。失礼しました。
 とにかく今回の合宿の目的はトランプでもウノでもありません。

澪「じゃあムギ、ビデオカメラの用意はできてるか?」

紬「うん、心配ないわ。でも私たち、まだ着いたばっかりよ?」

唯「そうだよ〜! 荷物多くて疲れちゃった…」

 スーツケースに旅行カバンとたくさんの荷物を別荘の事務員さんから受け取った唯先輩が言います。
 ていうか、荷物多すぎ……持ってくもの減らせないタイプだもんなあ、唯先輩って。

紬「じゃあ撮影の準備できるまで、ちょっとこの辺りを見て回ってみない?」

澪「ロケハンってことか……いいかもな!」
534 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:43:25.69 ID:JeWLzYoo

 今回の合宿は練習もそうなのですが、もう一つ大事な目的もあります。
 それは、放課後ティータイムのプロモーションビデオを撮ることです。

 唯先輩たちから今回の合宿に誘われたのは卒業式の一週間後からでした。
 高校の卒業旅行がてら、どこかに遊びに行きたい。
 ついでだから私に「新勧に役立つもの」を何か用意しておきたい。
 唯先輩が思いついたアイデアをもとに律先輩と澪先輩が内緒で企画を練って、ムギ先輩がロケ地を用意してくれたそうです。
 二週間前の金曜日に先輩方はそう明かしてくれました。

唯『あずにゃん、すっごいビデオ作っちゃおうね!』

 そう言って、手を引っぱってくれた唯先輩の笑顔が忘れられません。
 それなのに。
535 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:43:52.29 ID:JeWLzYoo

唯「ええ〜! ちょっとお茶にしようよぉ」

律「そーだそーだ! 腹が減ってはイクサはできーん!」

 この二人、サボる気満々でした。

梓「ビデオ撮るって言ったの唯先輩じゃないですかー!」

唯「だって高校生活最後の合宿だよ? お茶したいじゃん!」

梓「……う」

 高校生活、最後。
 それ言われちゃうと、なんか言い返せないよ……。

梓「……でも、唯先輩には期待してたんですよ」

唯「えっそうなの? じゃあ私がんばっちゃおうかなっ」

梓「わ――ちょっとあぶないです!」

 傘も放りだして次第に強くなってきた雨も気にせず私を抱きしめる唯先輩。
 いろいろ言いたいことがあった気がするけど、やっぱいいかな。
 ……私、やっぱ甘くなったのかも。


律「おっ、てことは部長の私にはもっと期待してたってことか?」

梓「いえ別に」

律「なかのぉーっ!」
536 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:44:18.92 ID:JeWLzYoo

 そんなわけで私たちはロケハンに出かけようとした、のですが。

澪「……雨、強くなってきちゃったな」

律「これじゃあ出歩くのは無理そうだなー」

 私たちはリビングで窓を叩くような雨と向こうの海を眺めながら、結局ぼんやりお茶を飲んでいました。
 あーあ、明日には帰るのに大丈夫かなあ……。

唯「ねえ、あずにゃんは七並べのとき逆流あり派?」

 そりゃもう当然ありです。
 ナシにしたせいで純にスペードの7止められてひどい目にあった覚えがあります。
 ってそんな話じゃなくて!!
537 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:44:45.85 ID:JeWLzYoo

梓「雨上がるまで練習でもしましょうよ…って、ムギ先輩?」

 ふと見ると、ムギ先輩は窓辺に手を乗せてじっと外を眺めていました。
 きっ、と外をにらんだ瞳。トレードマークの太い眉毛も心なしかつり上がっています。
 先輩は何か来るべきものを期待して待っているかのようです。
 犬だったら振ってるしっぽがみえそうなぐらい、子供みたいに。

 ――はっ。
 もしかして、この雨を効果的に使った演出を考えてるのかもしれない!

紬「ねぇ梓ちゃん」

梓「な、なんですか? 雨のなか演奏するんだったらシートとか用意しなきゃですけど――」

紬「なんだかどしゃ降りの雨の中に別荘にいると、殺人事件とか起こりそうな気がしてくるわよね!?」

 目をきらきら輝かせて物騒なことを言われました。
 期待した私がバカだった……。
538 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:45:12.87 ID:JeWLzYoo

梓「そんなことあったら困りますよ。ていうか無意味なフラグばらまかないでください」

律「いーやわっかんないぞー?」

 乗ってきたのはやっぱり律先輩です。

律「ムギ、こういうビデオはどうだ。合宿中に風呂で梓が何者かに殺されて、残った部員で死体を――」

梓「いやですよそんなの!! っていうか私を勝手に殺さないでくださいっ」

紬「それってもしかして倒錯もの? 犯人が最初から分かってるやつよね! すっごく面白そうじゃない!」

 私が死ぬ話に乗らないでください。
 っていうか澪先輩が後ろで震えてるんですけど……。

律「じゃあこういうのはどうだ? ある日突然澪がゾンビ化する薬飲んでゲロ吐きながら襲い掛かってきてー」

澪「やっやややめろぉおぉおりつううっ!!!」

 ぼかっ。
 動転した澪先輩に殴られた律先輩が30cmほど飛ばされました。

紬「うーん、パニックホラーだと推理要素が薄いわね……」

梓「ゾンビの話まで真剣に検討しないでください!」
539 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:45:39.54 ID:JeWLzYoo

梓「とにかく、別荘の中でもできることしましょうよ」

唯「んー、じゃあゲームでもやる? なぞなぞ大会とか英語しか使っちゃいけないゲームとか」

梓「プロモーションビデオの話をしてるんです!」

澪「そうだな……じゃあ別荘の中でも撮影に使えそうな背景とか探してみないか?」

 ようやくまともな意見がでてきました。さすが澪先輩。
 澪先輩はインスタントカメラを取り出して、家の中から見える景色だけでも撮っていこうと提案しました。
 たしかにこの別荘は窓も多くさまざまな場所からいろんな景色が見られるので、PV構成のいいアイデアも出るかも知れませんね。

律「まあな……写真そのものも記念になるしなー」

澪「ムギ、こういうすぐ形になるカメラはほかにある?」

紬「それが、たぶんあと二台ぐらいしかないの」

 気づくと話を聞いていたらしい執事さんがカメラを持ってきてくれました。
 空気が読めすぎてちょっと怖いです。
540 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:46:06.17 ID:JeWLzYoo

唯「じゃあ私行ってくるね!」

律「私も! この別荘どうなってるか気になってたんだよな〜!」

 えっと、じゃあ私は――

紬「梓ちゃんはちょっと私の方を手伝ってくれるかしら?」

梓「――あ、はい。じゃあ澪先輩、撮影の方お願いしますね」

澪「うんわかった。梓、ムギ、頼んだよ」

 結局、カメラを持って出かけたのは唯先輩、律先輩、澪先輩の三人でした。
 澪先輩、一人で二匹も抱えて大丈夫かなあ……。

律「おい中野」

唯「あずにゃん。なんか変なこと思ったでしょ」

梓「変なとこでするどいですよね、二人とも…」
541 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:46:32.77 ID:JeWLzYoo

 そうしてリビングには私とムギ先輩の二人が残りました。

梓「じゃあ私はなにしたらいいですか?」

紬「えっと……なんだったかしら? あまり考えてなかったわ」

 ええー。

紬「そういえば梓ちゃん、前にお茶の入れ方教えて欲しいって言ってなかったかしら」

梓「あー…そうですね。いい機会ですし、お願いできますか?」

紬「どんとこいです!」
542 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:47:00.20 ID:JeWLzYoo

 そんな訳で私はムギ先輩にお茶の入れ方を習いました。
 茶葉の適量、抽出、お湯の量、手鍋での入れ方……思っていたより奥が深く、人によって味も変わるものみたいです。
 音楽でもそうですけど、同じ楽器を使っていても演奏者によって音色は変わるものですね。

紬「……どうしたの? ぼーっとしちゃって」

梓「あっすいません。もうそろそろですか?」

紬「まだもうちょっと待った方がいいわね。……ないしょで、先にお菓子いただいちゃう?」

梓「えっ、いいんですか?」

 ダメだ、条件反射で顔がほころんでしまう。
 こんなんじゃ後輩持ったら形無しだよ……カムバック、あたし!

紬「無理しなくてもいいわよ、バナナタルトでしょ?」

 負けました……。
543 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:47:26.96 ID:JeWLzYoo

紬「それでさっき、梓ちゃんはどんなこと考えていたの?」

梓「えーっと……なんか、ムギ先輩ってすごいなあって」

紬「すごい? どんなところが?」

 ムギ先輩は謙遜するわけでもなく、本当に分からなくて首をかしげます。

梓「私、今まで紅茶の味も入れ方や茶葉によっていろいろあるって知らなかったんです」

 でも、ムギ先輩が入れるお茶はいろいろな味があって。
 まるでその時のみんなの気持ちに合わせて音色を変えてコーラスしているみたいで。

梓「……なんだかキーボードみたいだなって思いました」

紬「ふふ。そんなこと言われたのはじめて」

 先輩は口元を白い指で隠すようにして、ちょっと照れたようにほほえみました。
544 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:56:48.17 ID:JeWLzYoo

 いつしか雨はまた弱まり、窓越しにさらさらとした雨音が響いていました。

梓「私、心配なんです。ムギ先輩みたいに、その場にあわせて支えたりとか、出来ないし…」

 思えば私たち五人を、後ろでそっと支えてくれていたのはいつもムギ先輩でした。
 唯先輩はふらふらしてるし、律先輩は走りすぎちゃうし、澪先輩もテンパるとあれだし。
 でも、私が一番頼りなかったです。迷惑、かけてばかりでした。
 だから――

梓「ムギ先輩が、いなくなったら、私一人でまとめられるのかな、って……」

紬「梓ちゃんなら大丈夫よ」

 言葉も選べずつっかえつっかえになっていた私に、ムギ先輩は優しく声を掛けてくれました。

紬「梓ちゃんは楽器に詳しいでしょう。それに、演奏する人によって音が変わることもわかってる」

 いろんな音があって、どの音も好きでいられるなら、梓ちゃんは心配しなくていいと思うわ。
 ムギ先輩はそう言って程よく温まった紅茶を差し出してくれました。

梓「……なんだか甘いですね」

紬「梓ちゃん、猫舌で砂糖多めでしょう?」

 先輩のほほえみにつられて、こちらも頬がゆるんでしまいます。
 紅茶のやわらかい熱が雨に冷えた身体の奥までしみ込んで、なんだかちょっとほっこりした気分になりました。
545 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:57:14.91 ID:JeWLzYoo

 しばらくしてバナナタルトも食べ終わったころ、食器を片付けに二人で台所に向かうと廊下の方から騒がしい足音が聞こえました。
 律先輩たちが帰ってきたみたいです。
 食器洗い機にティーセットを入れてから私たちはリビングに戻りました。

律「おーっし写真とってきたぜーっ! って、あぁあああっ!!」

唯「ど、どうしたの? りっちゃんっ」

律「唯、見てみろ。梓の分のバナナタルトが――」

唯「ああっ?! 私たちのいない間に、何者かによって食べられてしまってる!」

 なんですかその小芝居。

澪「そこら辺にしとけよな……じゃあ、私たちもちょっと一休みしようか」



紬「これは――事件のにおいね!」

 えっ。
 っていうかムギ先輩、一緒に食べてましたよね?!
546 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:57:41.54 ID:JeWLzYoo

澪「ちょ、ちょっとムギ、一体なにを」

紬「澪ちゃん、これは大事件よ。かわいい後輩のお菓子が勝手に食べられてたんだもの!」

唯「そうだねっ、あずにゃんの笑顔を奪うやつは私が許さない!」

梓「だから私が自分で食べたんですってばあ!」

 するとムギ先輩は何か澪先輩に耳打ちしました。
 澪先輩は長いため息を一つ付いた後、こういいます。

澪「はぁ……じゃ、梓のタルトを食べた犯人を探すか」

 えぇえええ!
 ムギ先輩、いまなに言ったの?!

律「え、澪しゃん大丈夫なの」

 最初に言い出したはずの律先輩まで若干引き気味でした。
 なのにムギ先輩の目はらんらんと輝くばかり。
 なんだかこのままだとムギ先輩がFBIか何かを動かしてまで犯人を探しそうで怖いです。
 犯人私なのに。

紬「その心配は要らないわよ、梓ちゃん」
547 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:58:08.23 ID:JeWLzYoo

紬「なにせ私は琴吹の血を――地を――そして智を受け継ぐ者。

  私の名前は琴吹紬。灰色の脳細胞と百合色の心を持った、名探偵よ!!」

 ばん、と音を立てて歌舞伎のように見栄を張るムギ先輩。
 そしてどや顔。


唯「なんかかっこいい……」

律「すげえ、事件解決してるのに名探偵が出てきた」

澪「っていうかその台詞、あたためてたんだな」

 全員、若干引いてました。
 こんなことならタルト食べるんじゃなかったです……。
548 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:58:34.91 ID:JeWLzYoo

 そんな訳で私たちはバナナタルトを食べた犯人探しをすることになりました。
 食べたのは私なのに。
 ムギ先輩はどうやら現場に証拠が残されていないか調べ始めたようです。
 勧めたのはムギ先輩なのに。

紬「あの時私たちは台所にいた。唯ちゃんたちはそれぞれ窓の外を撮影していた」

律「ムギの話によるなら、梓とムギにはアリバイがあるな」

紬「部屋は完全に密室ね。だけどもし脱出したとしたら、窓からに違いないわ」

 いやここ二階ですし。
 それに窓、カギかかってたじゃないですか。

紬「……むぅ」
549 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:59:01.51 ID:JeWLzYoo

紬「えいっ」

 するとムギ先輩は次の瞬間、あろうことか自分でカギを解錠して窓を開けました。

梓「ムギ先輩、今開けたら部屋に雨が入ってきますって」

紬「逃げた形跡は……ないわね」

 ムギ先輩は頭を出して辺りを眺め、しばらくして窓を閉めました。

紬「あら、足元が雨で濡れてるわ。やっぱり脱出ルートはここだったのね!」

律「おまえが今開けたんだろうがー!!」

 耐えかねた律先輩がついに突っ込みました。
 なんというマッチポンプ。
550 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:59:28.18 ID:JeWLzYoo

 それから別荘の中に潜んでるかもしれない真犯人を探すことになり、グループごとに別荘を調べることになりました。
 最初は律先輩と私、唯先輩とムギ先輩と澪先輩の二組です。
 とりあえず私たち二人は今いる別荘本館の一階を一周したところでどうでもよくなって、リビングに戻りました。

梓「ところで律先輩、髪ぬれてませんか?」

律「ん? ああ、さっきちょっと外出てみたんだよ」

梓「まさか、あんな雨の中をですか?」

律「いやー、雨にわざと打たれてみたくなるときとかってあるじゃん? 気持ちよさそうだし」

梓「まったく理解できません」

律「ええー? 梓、お前そういう子供の心も大事なんだぞ!」

 いや、律先輩は子供っぽすぎます。
 そう言おうとした一秒手前で、私はなぜか言葉を飲み込んでしまいました。
551 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 12:59:54.82 ID:JeWLzYoo

梓「子供っぽすぎるんですよ」

 勝手に律先輩に言い負かされたみたいに思えて、ちょっと悔しいので無理やり口にしてみます。
 ……やっぱり違和感。
 だって、律先輩は子供っぽいっていうよりむしろ――

律「え、梓がか? 自覚あったんだな!」

梓「なんですかその言い方! 私はじゅーぶん大人です!」

律「ほほーう。カラダはずいぶんとお子ちゃまですわよ〜?」

梓「り、りつせんぱいに言われたくないです! ていうかいまそういう話してないです!」

 何の話だったか分からなくなってきました。
 っていうか、ムギ先輩と話した辺りから自分を見失いつつあります……。

律「でも私も子供だよ」
552 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:00:21.44 ID:JeWLzYoo

 ふいに律先輩がひとり言のようにつぶやきました。
 律先輩からめずらしく素直にそう言われてしまうと、こっちもどう返していいか分からなくなります。

律「ああ、そんな気にしなくていいよ。深い意味とかないし」

梓「ほんとですかー?」

律「ばか、そういう時は『リツセンパイが深いこと考えるはずないですもんねー』とか返せよ」

 そう言って律先輩はちょっと笑うのでした。
 なんだろう。心配とも不安ともいえないけど、いつもの律先輩とは違う気がしました。
553 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:00:48.18 ID:JeWLzYoo

律「にしても梓もあと一週間足らずで部長かー」

 変に重くなり出した空気をわざと壊すように、律先輩は話題を変えます。
 傍目からはのんきに窓を眺めているようですが、言葉を必死で探して選んでいるようにも見えました。

律「元・部長から言わせてもらうことがあるとすれば、あれかな」

梓「元、とか強調しないでくださいよ」

律「梓もやっぱさ、もうちょい素直になった方がいいって」
554 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:01:14.96 ID:JeWLzYoo

梓「律先輩には、いわれたくないです」

 なんとなくそう言い返してしまって、いけないことを言ってしまった気がして口をつぐみます。
 ばつが悪くて合わせづらい目をなるべく合わせるようにして律先輩を見ると、いたずらがばれてしまった子供みたいにうつむきがちに笑っていました。

律「うーん、私は梓ほどツンデレじゃねーぞ?」

梓「ツンデレってどういう意味ですか。私ほど素直な子はいません」

律「なーんかさ、後輩が梓でよかったと思ってるよ」

 思い出したように律先輩は言います。
555 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:01:41.56 ID:JeWLzYoo

梓「私なんかで、よかったんですか? 扱いづらいし、めんどくさいのに」

律「あはは、自覚はあったんだな」

梓「分かってますよ……融通利かないし、ダメダメです」

律「私もさー、ほら。逃げぐせあるじゃん?」

 広間がやけに静かに感じました。
 でも、どうしてか心地よい気もします。

梓「なんか私たち、自白したみたいな気分ですね」

律「バナナタルトの犯人だけにか? うまいな、梓」

 ――あー、もっと早くこうしときゃよかったなあ。

 律先輩は日向で温まる犬のように伸びをします。
 その姿は、何か重い荷物をおろしたように見えました。

 なんだか私たち、案外似てますね。
 私がためしにそう言ってみると律先輩も小さく笑って、かもなー、と一言もらしたのです。
556 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:02:08.16 ID:JeWLzYoo

律「梓、お前なら大丈夫だよ」

 どうしてですか?

律「梓って、私よりは素直じゃん? すっげえ分かりやすいし」

梓「それ、絶対ほめてないですよね……」

律「褒めてるっつーの。なんつーか、扱いやすいし」

 だから褒めてないじゃないですか。
 扱いやすいって、後輩になめられるって意味ですよね?
557 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:02:34.81 ID:JeWLzYoo

律「違う違う。なんていうかさ、反応が分かりやすいから……その、安心できんだよ。私とか特に」

梓「……そういうものですか」

律「だからまあ、後輩も付いてきてくれるんじゃん?」

梓「律先輩のほうが後輩ウケよさそうですけど」

律「……え、なにそれ。遠まわしな告白?」

梓「そんなわけありますか。ていうか律先輩は澪先輩辺りとよろしくやっててください」

 一瞬にして顔を赤らめ黙りこくる律先輩。
 やった、勝った。
 ってこんなこと考えてるから私も子供なんだろうな。

律「あ、梓だって唯センパイにベタ惚れじゃねーかよ!」

梓「なっ…そんなことないもん!」
558 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:03:01.50 ID:JeWLzYoo

唯「あずにゃんはろー」

澪「おい律、戻ったぞー。って」

 そこには先輩につねられたほっぺをさする私と、私にはたかれたほっぺをなでる律先輩。
 うぅ…地味に響く痛みだ……。

澪「お前ら、何歳児だ…」

律「梓が先に手ぇ出したんだからな!」
梓「律先輩が言いがかりつけてきたんじゃないですか!」

 そんな感じで結局律先輩のペースに乗せられてしまいました。
 でも、まあこれでもいい気もしたのです。
 今日だけは、なんとなく。
559 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:03:28.27 ID:JeWLzYoo

梓「えっと、ムギ先輩は?」

澪「ああ。プロジェクターのセッティングとかいろいろ忙しいらしくて、先行っててって」

 プロジェクター? 何に使うんだろう。
 もしかして私たちのPVの試写会用に……って、まだ撮ってもいないじゃん。
 首をかしげている私を唯先輩がいつからかにやにやと見つめていました。

梓「なんですかその目は」

唯「えへー、あずにゃんには秘密だよーん」

梓「っていうかもう雨上がったし、練習とか撮影とか始めましょうよ」

唯「だっダメだよ!? まだ、その…ダメなんだもん!」

澪「そ、そうだぞ梓! 天気だって、病み上がりだし!」

 言ってる意味が分かりません。
 なんかもう、私たちって何部でしたっけ……。
560 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:03:54.88 ID:JeWLzYoo

 それからも唯先輩たちはなぜかかたくなに練習や撮影を拒んだので、しょうがないからまた散策に出かけました。
 聞くところによるとムギ先輩は未だに犯人探しをがんばっているそうです。
 ノリを合わせるのが義務化してきてる気がぶっちゃけつらいです。


澪「まあそう言うなって。ムギもムギなりに楽しんで欲しいんだよ」

 私はカメラを持って降り止んだ曇り空の下を澪先輩と歩いています。
 裏手の小道は空気もふんわりした湿り気に満たされていて、なんだか眠りから覚めたばかりのように心地よく感じます。

梓「あの人は真っ先に自分が楽しみたいから動いてる感じがします…」

澪「それだってさ。ムギが楽しい時ってみんな楽しいだろ?」

梓「あ、はい。なんとなく分かります」
561 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:04:21.57 ID:JeWLzYoo

澪「律はいつも楽しませようとしてくれてるけどさ、ムギは自分から楽しんでるんだよ」

 時々、ああいう行動力は見習いたくなるよ。
 澪先輩はちょうど私が考えてたようなことを言っていました。
 唯先輩、律先輩、ムギ先輩。
 今考えると三人とも違った形で私を引っ張ってくれてたみたいです。

梓「でも澪先輩は落ち着きますよ」

澪「そうかなあ…私は自分から動くってタイプじゃないし、結構ブレーキかけてる気がするけど」

梓「ブレーキがなかったら私たち、大変なことになってますよ」

 濡れた縁石の上で、二人だけの含み笑い。
 澪先輩と共犯関係みたいで、ちょっと愉快な気分です。
562 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:04:48.54 ID:JeWLzYoo

 それから私たちはしばらくの間、別荘の周りの道路や草むらを歩いては写真を撮って回りました。
 澪先輩はずいぶん前から写真が趣味だったらしく、小さな花や足元から見上げた曇り空を子供のように撮って回っていました。

澪「あー梓、ちょっとそこに立って」

梓「え、こうですか?」

澪「そうそう。そこの電灯から伸びた影がいい感じだったから」

 私の影なんか撮ってどうするんだろう。
 でも澪先輩が撮る写真はどれも綺麗だったから、たぶん今回のもいい画に仕上がるはずです。
 やっぱり詞を書く人のフィルターで見るとありふれた世界もちょっと違って見えてくるのでしょうか。
 そう思うとなんとなく楽しくなってきて、気づけば私も辺りの草木にシャッターを切っては回っていたのでした。
563 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:05:15.22 ID:JeWLzYoo

梓「ところで澪先輩、大学入ったらサークルとかどうするんですか?」

 私は錆び付いた交通標識をしゃがみこんで下から写す澪先輩を邪魔しないようにそっと話しかけます。
 それとなく切り出した話題ですが、本当はちょっと前から気になっていたことでした。

 たぶん大学入っても、軽音サークルに入るんだよね。
 あっでも前にネットで調べたらN女だけで5つぐらい軽音サークルあったし、どれに入るんだろう……。

澪「私? 文芸サークルに入ってみようと思ってるよ」
564 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:05:41.82 ID:JeWLzYoo

 雲行きが変わり、射しかけていた日差しがまた遮られました。
 冷えた空気の中で木々の葉が静かに擦れあう音だけがやけに強く響いています。

 澪先輩が軽音部をやめる。
 澪先輩が、歌とベースで私たちを支えてくれた澪先輩が、音楽を――
 突然のことで頭が一杯になって、うまく整理できなくなってしまいます。

澪「あ、あずさ?」

梓「……すいません、大丈夫です」

 うそ。全然大丈夫じゃないじゃん。
 自分の声が震えるのを自覚して、けれどどうしようもないまま私は立ちすくんでいました。
565 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:06:08.41 ID:JeWLzYoo

澪「ごめん、なんか誤解させちゃったかな。別にバンドやめるつもりはないよ?」

梓「へ?」

 変な声を出してしまいました。
 気が動転していたせいで、ちょっと調子が取り戻せずにいます。

梓「じゃあ、なんで軽音部やめちゃうんですか!」

澪「うーん……私、放課後ティータイムが大好きなんだ。だからかな」
566 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:06:35.05 ID:JeWLzYoo

 ガードレールの水滴をハンカチで少し拭ってから澪先輩はそこに腰掛けました。
 それから私の目をいたわるように見て、優しい笑みと共に話し始めます。

澪「私もともと高校で文芸部入るつもりだったんだよ。詩とかその頃から書いてたし」

梓「今みたいな詞を、ですか?」

澪「え、梓はあれ気に入ってなかったのか? レトリックがか? それとも構成が?」

梓「いっいえ! メロディーに乗るとすっごい素敵な歌詞だと思います!」

 字面だけを読むと冷たい手で首筋なでられたようなむずがゆさがありますけど……。
567 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:07:01.76 ID:JeWLzYoo

澪「とっとにかくだな、だから大学ではリベンジしたいって考えてたんだ」

梓「リベンジですか。律先輩に邪魔されたんでしたっけ?」

澪「そうだよあのとき律が勝手に! まあ、今じゃよかったと思ってるけどさ」

 そう言って、携帯電話をなんとなく取り出して眺めた澪先輩。
 あ、キーホルダー同じのつけてるんだ。
 仲良いなあ。

梓「でもそれだけじゃ、放課後ティータイムと結びつかないじゃないですか」

澪「ああ、それはだな……より良い歌詞が書けるようになりたいっていうのもあるけどさ」

 いつの間にかまた雲の隙間から光が差してきました。
 澪先輩は長い髪を風にたなびかせ、対向車線のガードレールの向こう、海岸線の方を見やって言います。

澪「私、バンドは放課後ティータイムだけにしたいんだ」
568 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:07:28.44 ID:JeWLzYoo

梓「それって、外バン組まないってことですか?」

澪「そう。サークルだとやっぱり、いろんな人と合わせたりするだろうから」

梓「でもいい経験になると思いますよ」

澪「それは思う。だからたまに律と一緒にラブクライシスのメンバーとセッションしてたんだ、実は」

 うわ、澪先輩ずるい!

 って。
 私はいま何に対してずるいって思ったんだろう?
 他のバンドメンバーとこっそりセッションしてたこと?
 それとも……

澪「大丈夫だよ。私たちは離れ離れになったりしないよ」

 私の心を知ってか知らずか、澪先輩はこんな言葉を掛けてくれます。
569 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:07:55.05 ID:JeWLzYoo

 それから澪先輩はここ二週間会わない間に唯先輩たちと話し合ったことを教えてくれました。
 サークル活動ではHTTではなく個々にサークル内バンドのサポートを行う可能性が高いという情報。
 それよりはメンバーそれぞれバンド以外の経験を積んで、HTTそのものを残した方がいいという結論。
 バンド活動はスタジオ入りとライブイベントへの参加を軸に動いていくこと。
 軽音部は終わっても、放課後ティータイムは終わらないということ。

梓「そうだったんですか……」

 先輩方がそこまでバンド活動のことを考えているとは思わなかったです。
 ちょっとびっくりして、胸の奥に温かいものがこみ上げてきました。

 梓の席はちゃんと残しておくから、よかったら来てほしいんだ。
 つり目気味の、それでいて優しい瞳をこちらに向けて澪先輩が言いました。

梓「……置いてかないで、くださいよ?」

 思わず、泣きそうな声で言ってしまいます。

 海岸線、白いガードレール、雲間の光、揺れる黒髪――それらはなんだか一枚の絵葉書のようでした。
 ふいに見えた澪先輩の姿は私が入学した新勧の時に壇上で歌っていたあの画とシンクロします。
 唯先輩も澪先輩も輝いていてどうしようもなく惹かれたんだっけ。

 だから今この瞬間、絵になるほど現実味が失われて、どこか遠くへ行ってしまいそうで不安だったのです。
 私は思わず、先輩の方へと手を伸ばそうとしました。

澪「ああ。来てくれるなら、みんな待ってるよ」

 ガードレールをぴょんと飛び降りた澪先輩はそんな私の手をそっと握り、帰路へと手を引いてくれました。
570 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:08:21.73 ID:JeWLzYoo

 しばらく歩いて別荘に戻ると、律先輩が迎えに来てくれました。

律「おーおかえり。……今からムギが事件の真相を暴いてくれるらしいぞ、期待しとけ」

梓「まだそのネタ続いてたんですか…」

 なんだかんだでリビングに戻ると、ほどなくしてハンチング帽にコートを着込んだ姿のムギ先輩が現れました。
 す、筋金入りのシャーロキアンだ……。

紬「残念ながら、これは内部の人間による犯行でした

  つまり――犯人はこの中にいる!」

唯「わあ、名探偵コナンみたい!」

澪「唯、そこは元ネタの方で言ってあげような…」
571 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:08:48.48 ID:JeWLzYoo

 そこからのムギ先輩の名推理と真犯人だったらしい律先輩の自供シーンについては省略します。

 ムギ先輩は「窓の外の写真を撮ったりっちゃんこそ、窓から逃亡した犯人なのよ!」と目の前で自作した証拠を元に推理したり、
 同じくノってきた律先輩に反して、澪先輩は思いっきり棒読みで「だれなんだっ、こんなことしたのはー」とか言わされてたり、
 片手に食べかけの大福を持ったまま真剣そうにムギ先輩の推理を聞く唯先輩がいましたが、
 全部まとめてなんとなく二度手間にしかならない気がしたので省きます。

唯「りっちゃん――りっちゃんのこと、私信じてたんだよ?!」

律「すまねえ唯…私も所詮、欲望に踊らされた哀れな傀儡の一つだったってことさ……私のことは、忘れてくれぃ」

紬「そう、確かに人は簡単に道を踏み外してしまう弱い生き物だわ。でも人は、いつか立ち直れるはずよ!」

唯「――りっちゃんが罪を償って戻ってくる日、わたし待ってるからぁ!」

律「ゆいぃいいいいっ!!」

唯「りっちゃぁああああんっ!」

 いつか再会する日を夢見て抱きしめあう二人。
 あー感動的ですねー。


梓「食器片付けてくるんで終わったら呼んでくれますか」

澪「ああうん分かった。なんていうかごめん」
572 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:09:15.12 ID:JeWLzYoo

 私たちのいない間にさんざん飲み食いしてたであろう食器を一通り台所に片付けて戻ると、さすがに茶番劇は終わったみたいです。

梓「ていうかいい加減練習とか撮影とか始めましょうよ。もう半日近く経っちゃったじゃないですか」

紬「まぁまぁ。あせらなくてもいいじゃない、ゆっくりお茶でも飲みましょう?」

梓「だって明日には帰るんですよ! 撮影のために来たのに、意味ないじゃないですかっ」

唯「あ。それなんだけどね」

 ふいに唯先輩が立ち上がって、私の言葉をさえぎりました。
 どうしていいか分からない私の両肩に手を置いて、にっこり言います。

唯「今日一番撮りたかったのは、もう撮っちゃったんだ」
573 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:09:41.75 ID:JeWLzYoo

梓「え、いつの間にですか?」

律「まーいいじゃん? とりあえず大広間行こうぜっ」

梓「え、ええっ? なんですか、私抜きで撮影しちゃったんですか?」

澪「んーまあしょうがなかったんだ。梓には秘密にしたかったし」

梓「そんな……でもいつの間に?」

紬「ほら、さっきまで私たちが一人ずつ梓ちゃんと一緒にいたじゃない?」

 そう聞いてはじめてムギ先輩が推理ごっこをしていた理由が分かりました。
 そっか、あの間に何か隠れて撮ってたんだ……。

紬「まぁ、私もホームズやるの夢だったからよかったけれどね」

 気づくと先輩方みなさんが私の方をにやにや見ていました。
 なんだろう。私一人に隠して、どうするつもりだったんだろう。

唯「ぎゅうー」

 そしたら突然抱きしめられました。
574 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:10:08.38 ID:JeWLzYoo

 唯先輩の腕の感触がなぜか新鮮に感じます。
 ここ一週間ほど会っていなくて、今日も朝に抱きしめられただけだったからでしょうか。
 いや……それだけじゃなくて、最近なんか急速に唯先輩が変わってしまったからなのかも。
 なにが? どこが? 成長なんてしてなくない?
 なんて自分に言い聞かせるんだけど。

唯「あずにゃん、こわいかおしないでよぉ」

梓「そんな変な顔してませんっ」

唯「ごめんね。あずにゃんには内緒で見せたいものがあったんだ」

梓「なんで内緒にするんですか」

 そうだよ。
 五人でずっとずっとずうーっと一緒だと思ってたのに……。

唯「だって、プレゼントがあるんだもん」

 私の耳元、髪の毛ごしに息がかかるほど近くで唯先輩はそうつぶやくと一気に腕をゆるめて離れました。
 急に離れてしまってどうしていいか分からず、私は鼻の奥がちょっとだけつんとするような感じのまま動けません。
 そんな私の手を――さっきとは違って、唯先輩の方から強く――引っ張ってどこかへ連れて行こうとします。
575 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:10:35.02 ID:JeWLzYoo

 気づくと私は大広間に連れてこられていました。
 大きなスクリーンとプロジェクターまで用意されたその部屋に、いつの間にか晴れていた空から夕陽が差し込んでいました。

唯「じゃあまずはこれ見てよ」

律「手ぶれとかあるかもだけど、気にするなよー?」

 律先輩はおどけてそう言うと、ムギ先輩と澪先輩にアイコンタクトを送ります。
 するとムギ先輩はカーテンを閉め、澪先輩は電気を消しました。
 ほどなくプロジェクターが再生され、最初に映ったのは律先輩でした。

  律『おーす、梓元気かぁ? 田舎のばあちゃんも梓ちゃんのためにエンヤコラ、元気でやっとるけぇのう』

  澪『(おい律、真面目にやれ!)』

  律『わーかってるって。ところで梓、今年で晴れて部長だな。おめでとう!』
576 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:11:01.66 ID:JeWLzYoo

梓「こ、これは……?」

唯「ビデオレターだよ。あずにゃんに贈る言葉だよ!」

 一人ずつ、新しく部長になる私へのメッセージを残してくれていたのです。
 そっか。私がいない間にこれ作ってくれてたんだ……。
 律先輩、澪先輩、ムギ先輩のビデオはどれも普段の先輩らしくて、でも一人ずつ応援をくれました。

  律『ま、私ぐらい力抜いてやっていいんだぞ。うん、まあがんばりすぎんなよー』

  澪『一生懸命やれば、たぶん後輩にも伝わるよ。梓なら大丈夫』

  紬『梓ちゃん、ファイト! 梓ちゃんみたいに優しい子ならきっといい先輩になれると思うわ!』

 プロジェクターの光の中から届いたエールは胸の奥に沁み込んで、どうしようもなく私のまぶたを熱く濡らしていきます。

唯「えへ…あずにゃん、泣いちゃった?」

梓「これは――汗、ですよっ」
577 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:11:28.69 ID:JeWLzYoo

 ビデオレターの最後に現れたのは唯先輩でした。
 いつもどおりのほんわかした笑みを浮かべているけれど、私に向ける眼差しは今までとはどこか違いました。

  唯『あずにゃん、進級おめでとう! 留年しなくてよかったねっ』

梓「しませんよ?!」

唯「あはは、ごめんね」

 思わず突っ込んでしまいました。
 うわあ、やっぱ普段通りの唯先輩だ。

  唯『それでね、あずにゃん。私……何伝えたらいいのかわかんないけど――
578 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:11:55.47 ID:JeWLzYoo

  とにかく、今までほんっとうにありがとう!
  わたし、あずにゃんと出会えて本当に楽しかった!

  かわいくて、ぎゅーってしたくなって、
  おこるときもあるけど、私にやさしくギター教えてくれて……

  ほんとうに大好きだよ。ずーっとずうーっといっしょにいたいぐらいなんだよ!
  私だって、卒業してあずにゃんと離れ離れになるの……つらかったもん

  だけどさ。それじゃあいけないと思ったんだよね
  憂やあずにゃん、いろんな人に頼ってばかりじゃダメなんだよ。きっとね

  だから……一人暮らしすることに決めたんだ

  ごめんね。ちょっと離れ離れになっちゃうけどさ
  だけど、だけどね――
579 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:12:22.08 ID:JeWLzYoo

  唯『――バンドは続けるし、これからもあずにゃんと一緒だからね!』

 ほこりも輝くような光の向こう側から、唯先輩の笑顔が届きました。
 こんな暗い部屋の中で、それでも輝いている唯先輩。

 それはまるで、はじめて出会った新勧のあの日みたいで。

梓「こんなの……反則だよ」

 涙を抑えられなくなって、もうどうしようもなくってしゃがみこんでしまいそうになった時。
 唯先輩が、私を抱きしめてくれました。
 いつものように。
 いつもとは違うけれど。

唯「よしよし、いい子いい子」

 そうして子供みたいに泣きじゃくる私を、大人のようになだめてくれるんです。
 やだよ、そういうの。そしたらまるで、

梓「私をおいて、大人になっちゃうの…やだよ……」

 言わないで、おこうと思ったのに。
580 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:12:48.73 ID:JeWLzYoo

唯「……あはは。そんな早く、大人になれっこないよ」

 頭をなでながら、いつもの飴玉のような声で聞かせてくれたのは。

唯「だからね、追いついてきてよ。あずにゃん、待ってるから」

 そんな、一年先の約束でした。

律「それまではがんばれよ、新部長さぁ」

澪「応援してるからな」

紬「ときどき遊びに行くわね」

 点けたままのプロジェクターからもれる白い光は、先輩方の大きな影を作ります。
 部屋の高さほど広がった影を涙目で見やると、その大きさになぜか安心できました。
 唯先輩の腕の温もりごしに、私は決意を固めます。

梓「……はい。がんばります!」
581 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:13:15.37 ID:JeWLzYoo

   ◆  ◆  ◆

 それからおよそ半月して、四月の後半。
 私は高校体育館、新入生歓迎会の舞台に立っていました。

憂「梓ちゃん、大丈夫かな。私」

純「憂は大丈夫でしょ。壇上上がるの初めてっつっても、すっごい練習したんだしさ」

 問題は梓だよ――純にそう言われてしまう私。

梓「あ……あは、うん。ちょー平気。ばっちし、ギターのコードとかすっごいすっごい覚えてるし」

純「それ、大丈夫な人の台詞じゃないって…」

 あきれられてしまいました。
582 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:13:42.03 ID:JeWLzYoo

 あの日はそれから夕食を食べてから練習をして眠りました。
 最後に唯先輩と一緒に寝たい、ってわがまま言ったのは純にだけは絶対秘密です。
 憂にも釘さしときました。

 次の日はよく晴れたので、ふわふわ、ホチキス、ふでぺん、U&I、ごはんの五曲を野外で演奏して撮影しました。
 空がバックになるようにとか、窓から見えた海と組み合わせてとか、いろいろ試行錯誤できて面白かったです。


 憂は引っ越す唯先輩を一緒に見送った日に入部を決めてくれました。
 どうやら唯先輩の一人暮らしが決まった時から、考えていたらしいです。
 私が「これで唯先輩とデュエットできるね。いつかゆいういやってみなよ」と言ったらすごくうれしそうにしていました。

 純は新学期が始まった日に軽音部に入ってくれました。
 ジャズ研との兼ね合いもあるので純については一度断ったけれど、それでも「梓の軽音部に入りたい」と言ってくれました。

  純『だって軽音部入ればお茶飲み放題だし合宿めっちゃリッチなんでしょ!』

 どこまで本気で言ってるのか、今ひとつ分からないですけど。
583 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:14:08.68 ID:JeWLzYoo

純「――ほら、中野部長。しっかりしてくださいよ」

 純の声で我に返りました。
 ここ一ヶ月のことをぼんやり思い返していたみたいです。

梓「あっごめん純。そろそろ出番だよね」

 ダメだな、まだまだだ。
 がんばらなきゃ。

 私はカバンの中から、一枚のDVDを取り出します。
 印字面に四人分の寄せ書きが書かれた、大切な宝物です。

純「あれ、PVまだ届けてなかったの?!」

憂「違うよ純ちゃん、こっちは梓ちゃんの……」

純「ああ。あれね!」

 にやにや笑う純から逃げるようにカバンの元に向かって、深呼吸。
 うん。大丈夫。
584 : ◆cAMlXXCrWM [sage saga]:2010/09/27(月) 13:14:35.99 ID:JeWLzYoo

梓「それじゃあ行こっか」

憂「うん、がんばろうね!」

純「まかせときなって」

 私は壇上に出て、ギターの元に向かいます。
 がんばろうね、むったん。

『それでは続きまして、軽音部の紹介です』

 幕が上がると新一年生たちが見えました。

 私はあの日、唯先輩たちの演奏を見て入部を決めました。
 今度は私が一年生たちを憧れさせる番です。

 深呼吸。
 マイクのスイッチ、オン。
 自信を持って私は話し始めました。


梓「こんにちは。桜高軽音部部長、中野梓です」


おわり。
585 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/27(月) 14:38:31.88 ID:gc5nK2Q0
ええ話や・・・

あと小ネタ多くて面白かった
586 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/27(月) 17:53:29.30 ID:czsNk6AO
1番手◆yXdFxa9/.k「水族館」>>4
2番手◆G8NSPDDm4「澪和・海で歌詞作り」>>29
3番手◆kT8UNglHGg「ビニールプール」>>55
4番手◆ZoaEhxgi7I「ハレルヤオーバードライブ!」>>74
5番手◆6krNVk0d3w「同じ窓から見上げた空」>>113
6番手◆hNCx62prg6「唯和・海辺にて」>>125
7番手◆zwI8yAhfqw「カオスかくれんぼ」>>184
8番手◆TiRzdTjl.s「広い部屋に監禁」>>233
9番手◆S2uwo.Ayis「同じ窓から見てた風景」>>252
10番手◆NaJNx./DFI「唯の手紙」>>263
11番手◆8PxGuwa2z6「病室」>>278
12番手◆6krNVk0d3w「amazonの奥地で」(=5番手)>>311
13番手◆VyLhqMWcJ.「名探偵りっちゃん」>>326
14番手◆e4DUQN0Ls6「トンネルの先で」>>337
15番手◆PFqpfhvtEQ「潜水艇から見た海」>>354
16番手◆G6TtgMqJnQ「4つの短編1つのおまけ」>>375
17番手◆htc/zyfnRA「チェケラッチョイ」>>410
18番手◆mNsLyBMLN6「桜ヶ丘第三十二航空部隊!」>>424
19番手◆cAMlXXCrWM「軽音部・ビデオ撮影」>>527

こっちにも貼っておこう
587 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/27(月) 19:34:11.60 ID:BqiARWU0
ageておこう
588 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/27(月) 19:37:09.57 ID:BqiARWU0
しっぱい
589 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/27(月) 19:37:22.77 ID:X4QErEDO
あげれてないぞっと
590 : ◆S2uwo.Ayis :2010/09/28(火) 23:01:22.64 ID:IxZluMDO
遅くなりました

書き溜めながらの投下なのでペース遅くなります
591 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:03:03.21 ID:IxZluMDO
┌─―――――――――――――┐
│              │
│             ⌒│
│‘(●)’^(●)^爪(●)爪 (●)│
│              │
│ RA YA MA HA NA TA SA KA A│
│ RI I MI HI NI TI SI KI I│
│ RU YU MU HU NU TU SU KU U│
│ RE WA ME HE NE TE SE KE E│
│ RO YO MO HO NO TO SO KO O│
│              │
│              │
│              │
│              │
│              J


じ窓から見る解
592 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:05:45.73 ID:IxZluMDO
  〜〇 〇 〇 〇 〇〜

「よっしゃ玉砕だ!」

「姉ちゃんうっさい」

〔ある朝 強くなりはじめている太陽の温もりを受け
歩く一人の少女がいる〕

気分の滅入る MORNINGU{モーニング}

必死に詰めた KNAWLEDGE{ナウレッジ}
「おはよう律」

「私と話そうとすんな、単語が抜けちまう」
訪れる敵は
「へえ、それが恩を売った友人に言う言葉なんだな」
学生なら味わう TESTO{テスト}!
593 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:08:54.75 ID:IxZluMDO
「恩は仇で返すもんだぜ澪!」

「覚悟はできたな?」
だから味わうのさ
「いっ…てえ…」
このつかの間のLEST{レスト}
「まったく…」
ただじゃれあうだけの
「澪のせいでテスト赤点だ!」
平和なDEYS{デイズ}
「なっ…ふん、自業自得だ」

「おや〜今動揺したな澪ちゅわん?」

「白紙の解答用紙でいいな、律?」

「鉄パイプはやめろ、な?」
594 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:13:51.05 ID:IxZluMDO

i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
〔険悪なムード漂うあの日々に
彼女らは刻々と戻っていく〕
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| | | | | | | | | | | | | | | | | | | |

「りっちゃんおいっす」

「うっす!」
さあ立ち向かえ!
「ムサいおじさんみたいだよそれ」
学生生活阻む
「おい律、テスト前の確認ぐらいしろよ?」
忌ま忌ましきPEPAR{ペーパー}に!
595 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:18:51.85 ID:IxZluMDO
「へいへい、澪さん辞書貸して」

「澪ちゃんこの文章どう訳せばいいの?」
一夜漬けの成果
「えっ……ちょっと待ってて」
今ここに晒す時
「澪、この辞書Sがないんだけど」
動き出せマイBREIN{ブレイン}!
「はっ? ちょっと貸して」

「ぶぅ、りっちゃんびいきだね澪ちゃん」
ところでアメリカって
「なんだ、普通に見つけたぞ」
よく震撼するな
「どれどれ……Rの次だっけ?」
まるで澪のCHESUT{チェスト}!
「…中学生に戻ろう律?」

「じょっ冗談だぜ今の」
だからなんだって?
「ほおっなら言ってみろ、ABCの並び順」

「……憂の言うとおりだ」
もちろん意味はNATHING{ナッシング}!
「おはようみんな」

「…ムギちゃんおいっす」
596 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:23:33.97 ID:IxZluMDO

i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

「二人とも、願い通り楽園に住めたね」

「結局警察送りでしたけど」

「警察こそ楽園なんだよきっと」

「ずいぶんと病んだ思想ですね」

「…厳しい言葉どうも」

「試しに作った世界だけど、謎解きしないとつまんないねこれ」

「今未来に影響させませんでした?」

「漢字とカタカナはいいんだよ、でなきゃわざわざ海の英訳でひらがな使わないよ」

「めんどくさいル」「その先は使えないよ」

「…ほんとですね」

「さすがに私たちの存在基盤は崩さないよ」
597 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:29:07.17 ID:IxZluMDO

||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| | | | | | | | | | | | | | | | | | | |

「オワった……」
試験後に
「一夜漬けじゃもう無理だろ、三年の期末だしな」
私は真っ白
「りっちゃんどうだった…聞くまでもなさそうだね」

「打ち上げられた魚みたいね」
でも立ち直れ私!
「そっくり!」

「それより今日で部活解禁日よね? 早く部室に行きましょう」
このあとに
「私先に行くね!」
598 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:33:36.19 ID:IxZluMDO

「ほら律起きろ、部室行くぞ」
真の敵が
「……澪、ちょっとトイレにきてくれ」

「……私にナニしたいんだ」
いるのだから
「しないよ!? 同性にナニしないよ!?」

「……ふぅ、気持ち悪いこと言うなよな」

「澪ちゃん、聞き捨てならないわ」

「ムギもいっしょに来てくれ」

「そう?」

i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

 〔訪れてしまった時間を

  彼女らは話し合いの果てに

   過ごすことになる〕

||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
599 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:38:49.03 ID:IxZluMDO

「このころは平和だね」

「裏ではどろどろしてますけどね」

「思いは違っても行き着く感情は同じだしね、対立しちゃうんだよ」

「……別種だけど同じ業者……」

「うん、ねたみは相手がうらやましくって邪魔に思うこと」

「それを受けた人は……ですね」

「部室に着いたみたいだよ」

| | | | | | | | | | | | | | | | | | | |
600 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:46:09.67 ID:IxZluMDO

「今日のおやつはなんだムギ!」

「少しは遠慮しろ」
ついにやって来た
「おだんごにしてみたの、京都のお店の人にゆずってもらったんだけど」

「おったまには和風もいいな」

「本場だね〜」
この微妙な空気
「おいしそうです」

「実はおだんご片手にお勉強の夢が叶ったの〜」
私は必死に
「私も! よくアイス食べながら〜」

「お菓子つまみながら、は私もときどき」

「おいおい太っちゃうぜ澪」
場を盛り上げる種をまく
「ひょえっ!?」
601 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/28(火) 23:52:34.77 ID:IxZluMDO

「律先輩、ムギ先輩が怖い顔になってます」
たまに思わぬ芽が芽吹く
「ムっムギちゃん落ち着いて」

「明日は合宿だな!」

「話すり替えた!?」

「…たく、三年だってのに……」

「フフフフ」
602 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:55:52.69 ID:IxZluMDO

「海楽しみだね〜」

「夏フェスの圧敗……」

「澪先輩諦めましょう、多数決では勝てません」

「私の味方は梓だけだ……」

「りっちゃん飲みきったのね、はいお代わり」

「サンキュ」

〔世間を大分知るようになった少女
彼女が差し出したそれは 72 93 23〕

「ねえねえりっちゃん、憂もいっしょに行っていいよね」

「うっういちゃんも……」

「い い よ ね」

「別にいいぞ」
とっさに
「りつ!」

「わ〜い」
私は言ってしまった
603 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:56:59.42 ID:IxZluMDO
「うい……」

「……梓ちゃん…」

「海行ったらいっぱい遊ぼうぜ!」【377107063】

「はっ、練習しに行くんです!」
この判断は
「私トイレ〜」

「唯ちゃん行ってらっしゃい」
正しかったのか?
「……」
「……」
「……」
「……」

「ごめん梓」

「律先輩は悪くないです」
どんよりした空気
「そうだ、唯と憂は……オェッ」

「ねえ梓ちゃん…そろそろなんで」

「…唯ちゃんたちと仲悪くなった理由を……」
私はただ
「……すいません…話したくないです」
604 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 23:58:51.32 ID:IxZluMDO

「もう…5日もよ?」

「………」

「…こんな湿っぽい空気だめだ!」
いつもの日常に戻そうと
「なっなんだ急に」

「梓! 明日は目一杯遊べ!」

「なっ!? 練習第一です!!」

「部長命令だ!!」

「意味不明です!! さぼりたいだけでしょう!!?」

「今の梓にいい演奏なんてできないだろ!!!」
懸命にわめく
「うっ……」

「……話したくなったら話してくれ、協力したい」

「……律先輩」
解決はしないけど
「…私も……」

「梓ちゃん、みんな仲間なのよ」
今を日常に戻そう
「……」
605 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:01:12.19 ID:QzU3L2DO

「みなさんこんにちは」
そんな中
「うい!!?」

「お姉ちゃんは?」
問題の彼女が現れた
「トットイレだよ」

「律さん、今度の合宿は別荘と聞いたんですけど」
ああ ただ一人の後輩は
「そうだよなムギ?」

「…ええ、とってもキレイな所よ」
ただただむなしい声をあげ
「うい……」

「…夜になったらみんなで肝試ししような!」【377107063】

「憂ちゃん、梓が…」

「そろそろご飯作らないと、みなさん失礼します」
泣くのを必死にこらえている
「ただいま〜」
606 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:02:39.12 ID:QzU3L2DO

i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

「憂は楽器持ってないのに合宿に行くんだね」

「これがタイトルの謎の答の一つ」

「……見、のことだね」

「よく見たら、見、の字のパーツが一棒分足りないんです」

「残りのパーツは埋まらない、だって楽器を持ってないもん」

「でも他にも、見、の持つ意味が……」

「若干こじつけくさいけどね」

「そうでもないです、今回のタイトルと関連してますし」

「同、だね?」

「はい、これもまた複数の意味をもってますね」

「書いたものと書いてないもの」

「二つ考えなければいけません」

「……目…だよねアレ?」

「正確には……いえ今は」
607 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:04:32.58 ID:QzU3L2DO

「うん、話変えよ。 澪ちゃん、憂が行くの嫌そうだったねぇ」

「仕方ないですよ、さっきの反応で察してください」

「憂、澪ちゃんを無視してたね」

「唯先輩もですね、澪先輩と会話してません」

「最初話してたよ?」

「でもほとんど相手にされてません」

「これは無理ないと思います、昨日突然二人の関係をカミングアウトされたんですもの」

「それも一年以上の関係だし、澪ちゃんはそれの受け入れに時間が必要なんだね」

「大事な友達が、実は自分の嫌いなタイプの人だったんですしね」

「それよりね、問題は泣きそうな」

「わたし……」
608 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:05:28.82 ID:QzU3L2DO

「彼女の気持ちはもう届くことはないね」

「そういえば、彼女も澪先輩の嫌いな対象に成りえますね」

「……けど嫌われてません」

「彼女の気持ちは二人以外に知らないもん」

「不思議な関係ですね」

||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
〔そして物語は終結へ向かう!〕
| | | | | | | | | | | | | | | | | | | |
609 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:06:37.92 ID:QzU3L2DO

肌寒く

薄明るい朝の
「澪みっけ!」
人まばらな駅に着き
「律でも遅刻はしないんだな」

「私がいつ遅刻した!」

「学校」
私は勢いよく
「なんのことやら」
カバンを置く
「おはよう二人とも」

「おっは」

「私たちも今来たとこだ」
少しずつ
「澪と同時だったんだ」
照らされていく世界
「おはようございます先輩方」

「梓ちゃんおはよう」
自然に昇る太陽
「その……平気?」
610 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:08:16.39 ID:QzU3L2DO

「……大丈夫です!」

「…そうだよな! よっしゃ梓、澪のパンツにダイレクトアタックだ!」
私は太陽になろう
「ヤッテヤルデス!」

「なんで!?」
「この梓ちゃん、ノリノリだわ♪」
仲間の悲しむところなんてみたくないから
「ちょっちょと待て梓!?」

「黒と白の縞パンですよ律先輩!」

「ひゅうっ♪」

「…とうとう梓に手を出す時が来たな!」

「つうぅ!!? ぃたた……」

「琴吹先生、秋山さんが後輩をいじめました〜」

「澪ちゃんはアイアンメイデンの刑です♪」

「ついていけない……」
「いたいですぅ……」
611 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:10:05.39 ID:QzU3L2DO
でも太陽の光は
「みんなおまたせ〜」

「もうお姉ちゃん、二度寝はだめだよ?」
影を生むんだ
「うい〜♪」

「ん…もっもうお姉ちゃん、みんなの前で///」


あちらを照らせばこちらが影になる
612 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:11:25.80 ID:QzU3L2DO

i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| | | | | | | | | | | | | | | | | | | |

「りっちゃん、荷物はこっちにおいてもらえない?」
午前10時
「わりぃわりぃ」

「私りっちゃんの隣に置く!」
陽射しの強い
「おい唯隊員! この部屋すごいぞ!」
絶好の海日和
「りっちゃん隊長! 大きい窓を見つけやした!」

「ごくろう唯隊員! こりゃ絶景だな!」
静かな海
613 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:13:49.39 ID:QzU3L2DO

「こんなところで花火してみたいな!」【377107063】

「お姉ちゃんまだ?」

「……律、私ら先に行くわ」
陽射しを浴び白く輝く
「そうね」

「わっわたしも!」
真っ白な浜辺
「待て! 部長をおいてくな!」
海との境目は
「唯隊員、準備を早く済ますんだ!」
透明に透き通った海水
「りっちゃん先行ってていいよ」

「律さん、私が見てますのでお先にどうぞ」

「よし、早く来いよ二人とも!」
さあみんな遊ぶぞ!

〔蝉は合唱し《ない》ている〕
614 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:15:49.10 ID:QzU3L2DO

i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| | | | | | | | | | | | | | | | | | | |

「勝手に家に入っていいの?」

「暑いですし」

「あっこの窓見て見て、すごい光景だよ」

「……直視したくはないですね」

「おお、海が真っ赤だよ」

「昼間に言う言葉じゃないです」
615 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:17:20.72 ID:QzU3L2DO

「意味が変わっちゃうもんね、昼と夕だと」

「終わりました?」

「うん」

「……あの二人もまた、私たちがこの同じ窓で見てた風景を…」

「どうでしょう、洗い流されてしまいそうですけど」

「そろそろまとめに入ろ?」

「まとめって……例えばなんです?」

「出題したもの」

「具体的に言ってください」

「一作目だと、例えば業者とは誰のこと?」

「例えば不自然なタイトルの意味は?」

「そして1番難しいのは矛盾だね」

「ぶっちゃけちゃいますと、タイトル直後にミスリード作りましたよね?」
616 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:19:56.64 ID:QzU3L2DO

「浜辺のことだね、浜辺の描写があっても二人が浜辺にいたって保証はないんだよ」

「浜辺は蝉について言ってた、て解釈ですね」

「そうでないと海を見渡したら一面赤色なんて不可能だよ」

「……えっと…」

「海辺より少し離れた場所、例えば家のすぐ前にいたの」

「空の色についてわざと触れない、これ重要だよ!」

「1番重要なのは長い間食事の準備してたにも関わらず、窓を通して見た海にほとんど変化がないことでは?」

「だね、食事時だし夕方になったら赤く成りはじめてるよ」

「いくら夏でもね」
617 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:23:37.06 ID:QzU3L2DO

「でも初めて見た時と変わらない……色が変わってないということは」

「その時は昼だったんだよ」

「にも関わらず海が赤く透き通ってたのは……ですね」

「一応言っとくとね、蝉も比喩表現だよ」

「さすがに気づけます」

「今回の話はタイトル部分で六人が関係してることに気づけたら、すぐ裏が潜む話だなっていうのには気づいたと思う」
618 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:25:21.93 ID:QzU3L2DO

「……ふぅ、まだ解説してない謎は残ったけど」

「一度これで失礼しましょう」

「だね、今回は舞台設定も兼ねてたし」

「というわけではい、これ」

「平行世界の私達と同じ移動手段ですね」

「ほら二人とも戻ってきちゃうよ」

「ではまたこんどです」

「読んでくれた人アりがとう!」

「読んでくださった方アりがとうございました」

END
619 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:27:12.46 ID:QzU3L2DO
うう……ミステリーは需要少ないんだな…
けいおんでやる意味も含めたつもりなんだけど
620 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:42:07.54 ID:QzU3L2DO
しょっぱなからAAがズレてるのかorz
621 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:57:03.53 ID:zK6QkQko
うん…なんていうか、
ミステリーとか以前に、読みづらいんだ…
622 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 00:59:10.83 ID:QzU3L2DO
>>621

「」

「」

のことだよね
やっぱ

「」



「」

の方が良かったかな?
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