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澪「サイゴノネガイ」 - 製作速報VIP(クリエイター) 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/05(火) 22:40:25.57 ID:oI2kWUQ0
※最初から死ネタあり(というか最初から死んでます)
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713277692/

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713183168/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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エルヴィン「ボーナスを支給する!」 @ 2024/04/14(日) 11:41:07.59 ID:o/ZidldvO
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2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/05(火) 22:51:13.43 ID:oI2kWUQ0
街が賑う聖夜。
私は、死んだ。



暗闇が私を覆い尽くしている。誰もいない、寂しい空間。いや、ここを空間と言っていいものなのか。
そんな場所なのに、私はなぜか怖いとは感じなかった。
最期のあの瞬間から、私の感情は麻痺してしまったのだろうか。寧ろ安心感さえある。
そんな場所で私は独り、蹲っていた。ずっと頭の中で走馬灯の如く流れては消えて行く“私”の記憶。
時折頬を伝う涙、そして緩む口許。
何度も何度も頭の中で再生する記憶。そろそろ三周目も終わりに近付いていた。
なのに、私は一度も私の“最期”を思い出せなかった。ただ怖い、という感情しか浮かんでこない。
それ以外は頭の中は真っ白で、何もわからなくなる。

どこからか声が響いた。

「思い出せたか?」

私は首を振った。この声は誰なのか、どこから聞こえてるのかとかわからない。だから私は勝手に
カミサマだと思っている。カミサマの言葉に私は黙って首を振るとカミサマは困ったように息を吐き出した。

「全ての記憶を思い出せねばお前は生まれ変わることは出来ない」
「はい」
「普通、ここに来る人間は生きているときは思い出せなかった――例えば生まれた瞬間の記憶――を思い出す
ことができるはずなのだ。それなのに思い出せないというのか?」
「はい」

私は頷いた。本当に、最期の瞬間が思い出せないのだ。私が最期を迎える瞬間(とき)の少し前、
律と喧嘩していたような記憶は残っているのだけど。どうやって私が命を終えたのか、全く覚えてない。
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/05(火) 23:02:52.16 ID:oI2kWUQ0
カミサマは暫く考え込むように黙り込んだ。何もない空間に沈黙が訪れる。私はカミサマが
何も言わないうちに、私の記憶を一周させた。四周目の中盤辺りに入ると、突然カミサマは言った。

「お前は何か向こうの世界で思い残したことがあるのか?」
「思い残したこと……?」

私は記憶を再生させるのを一旦やめ、カミサマの言った言葉に首を傾けた。
私が生きているときにいた世界で思い残したこと。そんなの――。

「沢山ありすぎて、わかりません」
「沢山、ある?」
「私はまだ……、17歳だったんです、もっと……、もっともっと、生きたかったんです」

そうだ、私は生きていたかった。こんなに早く死にたくなんかなかった。もっともっと、
高校生活を満喫していたかった。もっともっと、未来を見ていたかった。
けど、私は死んだんだ。受け入れていないわけじゃ無い。けど、やっぱり心の奥底では信じていない
自分も居る。

「……お前は生前、何が一番楽しかったのだ?」
「私は……」

再び記憶を再生する。何が一番楽しかったのか。どの私が一番笑顔でいられたのか。

「音楽、です。高校で、軽音部の皆と演奏していたときが一番、楽しかった」
「自分の最期の記憶を無意識に封じるほどお前が何かを思い残しているのだとすれば、それは
その軽音部での生活なのだな?」
「……多分、そうだと思います」

それに、と私は呟いた。それに、私はまだ律と仲直りしていなかったんだ。喧嘩したまま、
私は逝ってしまった。あの律のことだから、ずっと悔やんでるに決まってる。




4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 17:53:11.00 ID:vY3o6gw0
戻りたい、と思った。そんなこと思っても、願っても無駄だってわかってるけど、戻りたいって思った。だってまだ、私としての記憶も人格も存在するのに。まだ私はここに在るのに。

カミサマは困ったように唸ると、やがて言った。

「一度だけ、向こうの世界へ戻してやろう。そして自分の最期のことを思い出してくるがいい。但し、お前は誰とも話してはいけないし向こうの世界の人間と関わってはいけない。もちろん、お前の姿が見える奴はそういないだろうが」
「……良いんですか?」

もう一度、あの世界をこの目で見られる。そんな嬉しいことは他にない。
正直、私の最期の瞬間なんて思いだしたくなかった。けど、思い出さなければ私は生まれ変われない。それなら思い出すしかない。

「お前はもう死んだ人間、そのことは決して忘れるな。そして、何があっても他人の死に関わらないように。たとえそれがお前の大切な人の死だったとしても――」

私は頷いた。すっと息を吸い込んで目を閉じる。
目蓋の裏が光に包まれた。


5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 18:21:47.92 ID:vY3o6gw0


気が付くと、私はいつもと変わらない部室で、いつもと変わらない自分の席に座っていた。
温かい日差しが私に降り注ぐ。部室には誰も居なかった。立ち上がって、皆のいない部室を
歩き回る。ゆっくりゆっくり、踏みしめるように。

「おいーっす」

元気な声が響いた。私は思わずびくりと身を震わせた。
勢い良く扉を開け入ってきたのは唯だった。その後ろからムギが入ってくる。

「あれ、りっちゃんまだ来てないやー」
「そうねえ、とりあえずお茶の準備しとこっか」

いつもどおりの二人。カバンをソファーに置くと唯はいつもの定位置へ、ムギはお茶の準備に
取り掛かった。けど、それ以上二人の間に会話はなかった。
私は「なあ」と口を開きかけて慌てて噤んだ。
そうだ、私は死んだんだ。声を発しても聞こえないんだろうけど、だからこそ私は声を発しなかった。
いや、発せなかった。声を掛けて返事をしてもらえなかったら、虚しいだけだから。
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 18:31:23.02 ID:vY3o6gw0
暫く二人の様子を眺めた。
唯は髪が少しだけ伸びたようだった。ムギは心なしか少し痩せたように見える。けどムギの顔色を見ればそれは良い痩せ方じゃないんだろうな、と思う。
私のせい、なんて自意識過剰かも知れないけど、きっとそうなんだろう。
私が死んでしまったから。だから明るかった部室は今、活気がなく静かなんだ。

突然、私の前にコトリ、と紅茶のカップが置かれた。いつも私が使っていたものだった。
唯が不思議そうにムギを見た。ムギは苦笑すると、「皆の分淹れなきゃ、落ち着かなくって」と言った。
私は思わず胸がいっぱいになった。今でもムギは私を軽音部の「仲間」だと思ってくれている。ちゃんと私を人数に数えてくれている。それが凄く嬉しかった。

「そっか……」
「けど、りっちゃんが来たら片付けなくっちゃね」
「うん、そうだよね。じゃあ私、そのお茶貰うねー!」
「でも唯ちゃんの分のお茶、淹れちゃった」
「どっちも飲むから大丈夫!」

二人はそんなふうに言いながら、力なく笑いあった。そのとき、「こんにちは」という控えめな声と共に閉まっていた部室の扉が開いた。梓がいた。
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 18:40:01.94 ID:vY3o6gw0
「あ、あずにゃん!」
「梓ちゃん、今日は茶葉殆ど切らせちゃってミルクティーしかないんだけど良い?」
「あ、はい」

梓は頷きながら部室に入ってくると、唯たちのカバンの横に自分のカバンを下ろして定位置に
腰を下ろした。そういえば梓、ギターを持ってない。ムギもそれに気付いたのか、首を
傾げながら訊ねた。

「あれ、梓ちゃん、ギターは?」

梓は一瞬きょとんとした表情をするとすぐに「あ!」と言って固まった。それから周りを
見渡すと「すいません」としょんぼりした様子で俯いた。唯は「大丈夫だよ」と言いながら
頭を撫でる。

「やっぱりまだ、ショックが抜けきらなくって」

梓は呟いた。きっと私のことだ。梓がその言葉を言った途端、その場の空気が一変した。
気まずい沈黙が流れた。梓もそれに気付いたのか、「すいません!」ともう一度謝った。

「一番辛いのは一緒にいた時間が長かった唯先輩やムギ先輩、……それに律先輩、ですもんね」
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 18:53:05.48 ID:vY3o6gw0
梓はそう言った後、話題を変えようとばかりに「そういえば律先輩は?」と言った。
何を言ったらいいのかわからない、というような感じだった唯達も、漸く肩の力を抜いた。
ムギが溜息をつきながら「それが」と言って唯を見た。

「りっちゃんね、最近遅刻や早退を繰り返してて」

唯がムギの言葉を引き継ぐように言った。梓がえ、と言うと「それっていつからですか?」と訊ねた。

「……お葬式の後。だから、そうね、多分、数週間前くらいからかしら」
「そうですか……」
「なのにりっちゃん、ちゃんと部室には来るんだよー?サボりだよねー、あずにゃん」

唯の空元気に、梓は黙り込んだまままた俯いてしまった。
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 19:04:23.63 ID:p2OOCB20
sienn
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 19:08:34.60 ID:vY3o6gw0
再び訪れた微妙な空気を打ち壊すようにさっきの唯のときより勢い良くドアが開いた。
そしてドアを開けたそいつは能天気な声で言った。「おいーっす」と。
まるでさっきのデジャヴ。
唯達もそれに気付いたのか、くすくすと笑った。

律は「何がおかしいんだよ?」と言って持っていたカバンをソファーに置いた。
私はそれを見てさっきとは別の意味で胸がいっぱいになった。
その場所に私のカバンが寄りかかることはもうないんだって思って。

「ううん、何でも!」と唯は首を振ると、それから慌てたように私の前においてあった紅茶のカップを自分の元へ持っていった。律はそれに気付いていないように私の前に座った。そして唯を見ると「何で唯だけカップ二つあるんだよー?」と言った。
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 19:52:15.72 ID:vY3o6gw0
ムギが「唯ちゃん今日凄く喉渇いてたんだって!」と慌てたようにとりなした。律はそれほど興味もなかったのか、その答えを聞くと「そっか」と言ったっきり頬杖をついて黙り込んだ。

「……、あ、あの、先輩方、練習しませんか!?」

梓ががたっと音をたてて立ち上がった。唯とムギもそれぞれ頷くと立ち上がる。けどふと気付いたように唯が言った。

「でもあずにゃん、あずにゃんのギターは?」
「あ……」
「なんだ、梓、ギター忘れたのか?」

律が焦点の合っていなかった目を梓に向けると訊ねた。梓が気まずそうに目を逸らしてはい、と頷いた。

「んじゃあ今日の練習は無しなー」

律はそう言うと、大きく伸びをしてまたぼーっと宙を見詰めた。律の焦点の合って無いような目が自分のほうにはっきり向けられているのに気付いて、私は居心地が悪くなった。
律に私の姿が見えるわけ無い。ずっと一緒にいたけど律は霊感なんてない。だから見えてないはずなのに……。

12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 19:57:58.81 ID:vY3o6gw0
三人は顔を見合わせると、再び椅子に座りなおした。

「そ、そうですよね、たまにはティータイムばっかりっていうのも……」
「そうだよあずにゃん、たまにはいいよこういうのも!」
「私、新しいお茶淹れるわね」

口々に三人はそう言ったけど、律は何の反応も示さなかった。だからよけいにその場の空気が
重くなる。私がこの場所にいたら、いや、実際いるんだけど、皆に見えてたら、皆と話せたら
きっとこんなふうにはならないのに……。

なあ、皆。
どうしていつもみたいに笑ってないんだよ、こんなの私の戻りたかった軽音部じゃないよ。

13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 19:59:00.23 ID:WUj8boAO
しえん
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 20:20:49.23 ID:vY3o6gw0
私がそんなこと思っていてもこの沈黙がなくなるわけでもなく、唯と梓はもじもじと身体を動かし、
ムギは心配そうに律と、そして私(実際には私のいたはずの席)を見比べてはその特徴的な眉毛を思い切り
下げた。

「……、私、ギー太弾いていい?」
「何でそんなこと訊くんですか、ここ軽音部なんですから……」
「そ、そうだよね」

とうとう唯が耐え切れなくなったのかそう言って愛用のギターのカバーケースを開けながら
あははと力なく笑った。
唯がギターのチューニングをしだすと、律は立ち上がった。

「りっちゃん?」
「悪い、今日はもう帰るわ」

律はムギにそう言うと、ついさっき置いたばかりのカバンを持った。


15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 20:25:16.63 ID:vY3o6gw0
「あ、りっちゃん、気をつけて帰ってね」
「最近交通事故多発してるみたいですよ」

唯と梓がそういうと、律は軽く手を上げてひらひら振った。
部室を出る間際、律は小さな声で呟いた。
「いっそ事故にでも遭って[ピーーー]ればいいのに」と。

その言葉は私の逆鱗に触れた。私は立ち上がると急いで律を追いかけた。もちろん、律には
見えてないし聞こえていないのに、私はつい「律、待てよ!」と叫んだ。
律はしーんと静まり返った部室を振り返りもせず、黙々とポケットに手を突っ込んで下駄箱に
向かう。



16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 20:26:49.10 ID:vY3o6gw0
まさかの規制がかかってた…orz
ピーーーのとこは大体想像つくと思うから脳内補完でお願いします。
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 20:31:44.90 ID:vY3o6gw0
「なあ、律!律ってば!」

思わず熱くなって、私は自分が死んでいるということを忘れて何度も律に呼びかけた。
けど律は振り向かなくて、それがよけいに私の頭に血を上らせた。

「律、聞いてるのか!?なんだよ、さっきの言葉!」

その時、ぴたり、と律が立ち止まった。それからゆっくりと振り向いて苦い笑みを浮かべた。

「私、ほんとバカだよな、澪の声が聞こえた気がした、なんて」

私は吃驚して喉まで出掛かっていた言葉たちを飲み込んだ。そしてその律の呟きが私の頭を
冷静にさせた。聞こえるはずがない律に何を言ったって、何を叫んだって意味がない。
けど律が一度振り向いたことで、私の胸に微かな希望が生まれた。もしかして、うまくいけば
律と話すことが出来るんじゃないかって。

18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 20:37:05.43 ID:5gUAKYDO
確かメール欄にsagaで規制回避できる支援
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 20:38:51.81 ID:vY3o6gw0
そんな微かな希望を抱いたのはいいが、一方の律はやっぱりたまたまだったらしく、さむ、と呟きながら
下駄箱まで行くとコートを着込んでマフラーを巻いた。
そのマフラーが以前私とおそろいだったマフラーとは違うもので、私は「え?」と固まってしまった。

捨ててしまったのかな、あのマフラー。
そんなことを思いながらも、律の後を追いかけようと私も下駄箱で靴を履き替えようとした。
そして当然のことながら自分の名前がないことに少し傷つきながらも、そのまま外にでて早足の
律を追いかけた。


20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 20:39:57.02 ID:vY3o6gw0
>>18
そうなのか?ありがとう、やってみる。
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 20:43:23.41 ID:vY3o6gw0
外に出ても私は寒さを感じなかった。死人なので当たり前、と片付けてしまえればいいのだけど
変な感じだった。私の服装は死んだときのままなので制服。その上にコートとマフラーに、そして
手袋。コートやマフラーは外せるけど、ほかの服装に着替えるのは無理だ。まあ、ほかの服に
着替えても意味はないんだけど。

私は寒くも暑くもないんだけど、何となく、コートの襟を立てた。少しでも以前生きていた頃のように
過ごしたかった。

律のすぐ後ろに追いつくと、私はそのままの距離を保って歩いた。
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 20:47:12.19 ID:vY3o6gw0
校門を出ると、律は時々立ち止まり周囲の様子をきょろきょろと見ながら歩いた。
その方向はいつもと正反対で、律は何を警戒しているのか顔を見せないように俯きながら
歩いている。

私も見慣れない道だったので、律と同じくきょろきょろと辺りを見回した。
けど、確かに見慣れないけど来たことはあった気がする。
いつ、何でかは忘れたけど。あの何もない空間にいたときは全部を思い出せたのに、この世界に
戻ってきた途端、殆どの記憶を忘れてしまった。

これじゃあ忘れた最期の瞬間の記憶を思い出すなんて無理な気がする。
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 20:56:16.29 ID:vY3o6gw0
そんなことを考えてるうちに、律は段々と暗くて細い道を突き進んでいった。
私は少し迷いつつもどうせもう死んだ身なんだから、と意を決して律の後に続いた。

「……っ」

ふいに律がしゃがみこんだ。苦しそうに胸を押さえながら。
私は慌てて駆け寄って「大丈夫か!?」と言った。けど律の背に置いたはずの手は律の身体を
すり抜けた。
私は何もつかめないその手を自分の胸の前にやると、唇を噛締めた。

律は暫くずっとその態勢でいると、浅い息を繰り返し吐いて立ち上がった。
少しふらふらしていたけど、そこまで大変そうじゃない。

24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 21:16:33.58 ID:vY3o6gw0
律はそのままふらふらと吸い込まれるように奥へ奥へと進んで行く。
何で律は戻らないんだ?こんなに具合悪そうなのに。
そういえばムギと同じく凄く痩せたような気がする。顔色も悪いし。それなのになんで。
この先に何かあるのか?






「……澪」





え?

25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 21:18:43.48 ID:5gUAKYDO
sageじゃなくてsagaだよー
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 21:21:33.65 ID:vY3o6gw0
律は立ち止まり、突然私の名前を呼んだ。いつのまにか突き当たりの場所まで来ていた。
私は咄嗟にストーカー紛いの行動をしていた自分に気付き無意識のうちに座り込んでいたが、律には私が見えていないことを思い出して立ち上がった。

けど、何で律は突然私の名前を。

そっと律の様子を窺うようにその後姿を見ると、私はさっきよりももっと驚いて今度は倒れそうになった。けどこの死んでしまった身体ではいくら精神的なダメージが強くても倒れたりはしないようだ。
律の肩越しから見えた光景は壮絶だった。

「……血」

私の身体がぶるぶると震え始める。その光景から目を背けながらも私は何で律がこんなとこに来たんだと気になって律の後姿に再び目を移した。
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 21:22:38.50 ID:vY3o6gw0
>>25
あぁ、本当だorz
てっきりsageかと思った。何度も教えてくれてありがとう。

28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 21:26:35.87 ID:vY3o6gw0
律はさっき私の名前を呟いたきり、一度も身動きせずにじっとそこに立っていた。その様子を見て、
もしかして、と思った。もしかして、私が最期を迎えた場所はここなんじゃないかって。
けど何でこんなところで――

もう一度律の肩越しにそこを覗いてみるけど、吐き気がしてきて慌てて目を逸らした。

その後、律は多分、数十分はそこにいた。私もずっとそこで、律の後姿を見ていた。
出来るだけ血の海は見ないようにしながら。そして私の最期を思い出そうとしながら。

29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 21:30:45.73 ID:vY3o6gw0
やがて律は、力ない足取りで踵を返すと元来た道を辿り始めた。
私は半ばほっとした気持ちで律の後ろに続く。
まだ律がここにいたらどうしよう、と思っていた。正直、もうあんな血だらけの場所に居るのは
我慢の限界だった。

明るい通りに出ると、色とりどりのイルミネーションが私たちを迎えた。
空はすっかり暗くなっていた。

律はやっぱり時々人目を気にしながら家への道を辿っていく。
家につくと、律は「ただいま」と一言言ったっきり、律のお母さんが「ご飯はー?」と訊ねている
にも関わらずそれを無視して自分の部屋へと入ってしまった。



30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 21:37:28.40 ID:vY3o6gw0
律の身体に触れられなかった私は、きっとほかのものにも触れられないのだろうと思って
一度閉まった扉を開けずにそのまま入ろうとすると、どういうわけかちゃんと私の身体は
ドアに触れていて、結構な勢いだったので額を打ってしまった。どうやら痛みは感じるらしいし、
生きているものに触れることはできないけどこういう物には触れられるらしい。

けど今ここでドアを開いちゃったら律に私は見えないんだから流石の律でも驚くだろう。
私は一旦躊躇ってドアノブから手を離した。唯たちのとこに行こうかな。
そこまで考えて、ドアを開けられないんじゃどこにもいけないということに思い至った。

どうしよう。
私は慌てて辺りを見回した。出られる場所なんてなさそうだ。
律がこの部屋のドアを開けてくれない限り身動きできない。

31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 21:42:13.25 ID:vY3o6gw0
私はつい混乱して勢い余って律の部屋のドアノブを回してしまっていた。
あ!っと思ったときには遅かった。部屋の扉は開いていた。

「……あ」

律はベッドに寝転んでいたらしく、上半身だけ起こして私を見た。
いや、私というよりは勝手に開いたドアを、なんだろうけど。
私はどうしよう、ときょろきょろ辺りを見回した。何か、何かいい案は……!

「風か」

律がほっとしたように呟いた。私はえ?と律の視線の先を見た。確かに窓が開いていた。
私は助かった、と息を吐いた。
けど、律。風でドアが閉まるのはわかるけどドアが開くのはありえないんじゃ……?
今はそんな律のバカさに助けられたんだけど。

32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 21:54:51.81 ID:vY3o6gw0
律は立ち上がるとまず窓を閉めると、私の直傍まで来るとドアをガチャリと閉めた。
それからさっきと同じようにベッドに座って上半身だけを起こすと、部室と同じくぼーっと空中を眺めた。

全く律らしくないその行動。
一度生きていたとき、私がいなくなったら律はどうなるんだろう、って考えたことが合った。まさかこんなに抜け殻みたいになるなんて思わなかった。

33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 21:59:00.34 ID:vY3o6gw0
えっと、凄く無責任だとわかってるけど受験生の為、これからあまり投下できなくなると
思う。というより、多分もう今日以降、殆ど受験が終わるまでは投下するのは難しいと思う。
迷惑かけるだろうし、だいぶ待ってもらわないといけないかもしれないけど、それでも
良ければ、是非最後まで付き合ってやって下さい。

とりあえず、あとちょっと投下する。

34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 22:04:48.89 ID:vY3o6gw0
私はそんな律を見るのに耐え切れず、「律」と名前を呼んだ。聞こえないってわかってるのに、
なのに私は自分を止められなかった。

「律、律」

何度も何度も、律の名前を呼んだ。
この世界に戻ってきて初めて自分のことに気付いてもらえないことを哀しいと思った。

律、私はここにいる、ここにいるんだ律。
さっきみたいにたまたまでもいいんだ、ちょっとでもこっちを向いてくれないか?
なあ、律……!

35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 22:09:06.71 ID:vY3o6gw0
やがて私は、諦めたように黙り込んだ。律がこっちを向いてくれないのは当たり前なんだから。
けど……。
少しでも、少しでも律に私がここにいる、って気付いてほしかった。
そのときにはもう、私はすっかりカミサマに言われた言葉を忘れていた。

私はもう知りすぎている律の部屋を見渡して、「あ」と声を上げた。
CDプレイヤーがぽつん、と部屋の片隅に置いてあった。
私は出来るだけ音をたてないように、CDプレイヤーを開けると、その近くにあったCDケースから
よく律と聴いた音楽の入っているCDを取り出してセットした。
そして電源をON。

静かな部屋に、勢いのあるロックが流れ出した。
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 22:16:21.89 ID:vY3o6gw0
律の身体がびくっと震えた。

「な、何だよいきなり……」

さすがの律もおかしいと感じたらしく、こわごわと辺りを見回した。
律の立場が私だったなら、卒倒してること間違いなしの怪奇現象。大嫌いな怪奇現象を
まさか自分で起こすことになるとは。

律がそろそろとベッドから下りると、CDプレイヤーのほうに近付いてきた。
時々周りを見回してはびくびくしている。
そういうところを見て、やっぱり律も女の子だったんだな、と変に感傷的な気分になった。

37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 22:22:39.54 ID:vY3o6gw0
律はCDプレイヤーの前に座り込むと、電源ボタンを押そうと指を伸ばした。
けど、曲のサビが流れてきた途端、その手が止まった。律は無意識のうちだろうか、リズムに
乗りながら曲を口ずさんでいた。私が隣に居たとき、よくそうしたように。

律はその曲に聞き入っているようだった。目を閉じて、小さく小さく口ずさみながら手を
動かしてリズムを刻んでいる。

その曲が終わって違う曲が始まっても、律は目を開けなかった。
何を考えているんだろう。律の目尻には涙が浮かんでいて、私はそれを見て見ぬ振りをした。
だって、私も泣き出しそうだったから。


38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 22:31:04.82 ID:vY3o6gw0
全ての曲が鳴り終っても律は動かなかった。私も動かなかった。CDがプレイヤーの中でくるくると
回っている。けど律は電源も切らずにじっとその様子を見詰めていた。




気が付くと、すっかり夜は明けていた。
私は眠っていたんだと気付くのに数分かかった。壁によりかかっていた身体を起こす。
死んでいても眠ることは出来るんだ。そんなことを考えながら律の部屋の時計を見ると、
9時過ぎ。律は学校行ったのかな、とベッドを見るとベッドには誰の姿もなかった。
少しほっとする。昨日唯達が遅刻云々と言っていたからひょっとして、と思ったから。
とりあえず私は立ち上がると、少し空いていたドアの隙間に手を入れて音をさせないように
ドアを開けると、階下に下りて律の家を出た。

どうしよう、このまま学校へ行ってみようか。
けど、私の足は違う場所へ向かっていた。昨日律が訪れていたあの場所へ。


39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 22:34:26.04 ID:vY3o6gw0


そこは昨日と何も変わらず血だらけだった。
一体なんで律はここを知っていて、ここに来たんだろうか。
そう考えると、やっぱり私の死に関わってるんじゃないか、と思ってしまう。

生々しい血の跡が残るその場所で、私は暫くの間昨日律が立っていた場所と同じ場所に立ってみた。
何かを思い出そうと躍起になった。
けど何も思い出せなかった。

思い出そうとすればするほど、答えは遠くなっていく気がした。
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 22:38:38.15 ID:vY3o6gw0
結局その後、私は気分が悪くなってその場所を離れた。
血を見たということだけじゃなくって、別のことでも気分が悪くなったような気がした。
きっと無理に思い出そうとしたからだ、と自分に言い聞かせ、私は歩いた。
学校の校門前に着くと、私は踵を返した。

今は皆授業中。今のうちにもう一つ、絶対行きたい場所へ行っておこう。
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 22:43:11.07 ID:vY3o6gw0

――――― ――

私の家は私が生きていた頃よりひっそりした感じがした。相変わらず庭は綺麗にされているのに、
心なしか元気が無い。
ポストを見るとまだ自分の名前が残っていてほっとした。

多分、この時間帯、家には誰も居ないはず。
ポストに隠してあった合鍵を取り出すと、私はそれを差し込んで家へ入った。

階段を上り、自分の部屋の前に立つ。本当に、私が生きていた頃そのままだった。
中も同じで、一切物が片付けられたり何かを捨てられたりしていなかった。

「ママ……っ、パパ……」

ごしごしと目を擦る。泣いちゃだめだ、よけいにこの世界にいたくなる。

42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 22:47:46.39 ID:vY3o6gw0
私は一度大きく深呼吸すると、部屋の中に足を踏み入れた。
机の上には問題集が山積みにされている。ベッドの上にはあの日急いでいた為脱いだ服が
そのまま置いてあった。
ママ、これくらいは片付けといてよ……。けど、それでも私はやっぱり嬉しかった。

「あ」

久しぶりに見る部屋を眺めていると、机の脇に置いてあった小さな日記帳を見つけた。
結構前にやめてしまった日記。そういえばまた書き直そうかなって考えてたんだっけ。
日記帳を手に取ると、表紙を開いた。それは、中学の入学式から始まっていた。




43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 22:53:12.94 ID:vY3o6gw0


4月7日 晴れ
今日は入学式だった。律と同じクラスでほっとした。
あぁ、やっぱりまだ律って呼ぶのに慣れないよ……。

4月9日 曇り
間違えてりっちゃん、って呼んじゃうと律は決まって私の嫌いな怖い話を持ち出してくる。
今日も怖い話いっぱい聞かされて眠れないかも。

4月14日 晴れ
今日は体育の時間、転んでしまって血がいっぱい出て痛かった。私が泣いてると、律は
飛んできて私の頭を撫でながら「大丈夫」って言って私を支えて保健室まで連れて行って
くれた。そんな律をかっこいいって思ってしまった。

44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 22:56:34.14 ID:vY3o6gw0


笑えるほど律ばかりの日記。それ以降も律、律と名前が並んでる。
私は数ページ読むと、あまりに「律」という名前ばかりで呆れて日記帳を閉じた。
確かこの日記、去年――高校の最初のほうまで書いてたんだっけ。

私は日記を元の場所に戻すと、ベッドに寝転がり天上を見詰めた。
結局何も思い出せないけど、もうこのままでいいや、って思ってしまった。
何も思い出せなかったらずっとここにいられる、それならそれでいいや、なんて。

45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 22:57:12.89 ID:vY3o6gw0
っと、そろそろ終わる。
またいつ書けるかどうかわからないけどorz
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 00:14:28.83 ID:xlm.peso
受験とSSどっちが大切なんだよ!!!
ああん!?!?


待つ
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 00:53:36.66 ID:RT0ndcAO
まつ
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 16:38:47.19 ID:Z50LykDO
なんと
まつ
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/07(木) 17:04:10.98 ID:NH2U.4U0
何か今日来れたwww続けられる限り続けるわ。
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/07(木) 17:18:17.56 ID:NH2U.4U0
何でかわからないけど、私は泣いていた。哀しいわけじゃない、寂しいわけじゃない。
なのに涙は溢れて止まらなかった。辛いのは皆だって一緒なのに……。

「誰か、気付いてよ……」

呟いた。
このままじゃ心が折れてしまいそうだ。こんなんじゃ生まれ変われるはずがない。
もしかしたら悪霊になっちゃうかも……。

嫌、それは嫌だ!

私は自分の考えに自分で絶叫すると、ガバっと起き上がりぶんぶんと首を振った。
だめだ、こんな気分になっちゃ本当にそうなっちゃう。
最初から誰にも気付いてもらえないことなんてわかってたんだから。
ここに戻ってきた目的は、記憶を取り戻すこと。その為には私の思い残したこと――軽音部のみんなのこと――を知らなきゃいけない。

「よし」

声に出して自分に気合を入れなおすと、私は窓から外を見た。小学生の子供たちが帰ってきていた。そろそろ部活が始まる時間だな。私は学校を目指して家を走り出た。

51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/07(木) 17:33:14.24 ID:NH2U.4U0
――――― ――

思ったとおり、学校では授業が終わっており私は途中で見かけた梓の後ろを着いていった。
梓は憂ちゃんと純ちゃんと一緒に歩いていて、昨日よりも元気そうに見えた。

「梓、今日も軽音部行く?辛いんでしょ?暫く休んだら?」
「そうだよ梓ちゃん、お姉ちゃんも家で梓ちゃんのこと心配してたよ」
「うん……、でも私より唯先輩達の方が辛いでしょ?なのに三人ともちゃんと来てるんだもん、
私が休むわけにはいかないよ。それに律先輩のこと、ちゃんと見ておかなきゃ」

律のことちゃんと見ておく?
私は梓の後ろを歩きながら変わりない教室を眺めていた目を梓に向けた。
会話はさらに進んでゆく。

52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/07(木) 17:51:03.77 ID:NH2U.4U0
「あぁ……律先輩、大変らしいね」
「うん、もうほんと、誰にも手がつけられないみたいで。普段はいつもどおりなんだけど、
あの話が出た途端……」
「お姉ちゃん、凄く怖かったって言ってたよ、あんなりっちゃん初めて見たって家で泣いてた」

何の話だろう?あの唯が律が怖くて泣くなんて。それに誰も手がつけられない?それくらい今の律は荒れてるのか?
三人の下級生組みはそこで話を切り上げた。少し前に律の姿を見つけたからだろう。
憂ちゃんと純ちゃんが交互に梓の肩を叩いて「頑張って」と言うとそれぞれ帰って行った。
梓は二人に手を振ると、律の傍まで走ると「こんにちは!」と明るい声で挨拶した。
私もすぐ後ろまで追いかける。

「ん、梓」
「律先輩、カバンもちましょうか?」
「何だよ急に、気持ち悪りーな……。大丈夫だし」
「そ、そうですか?」
「そ」

そんな会話をした後、直に声は途切れた。律がおかしいのは昨日からわかってたけど、
よくよく律の声を聞いてみると普段の声より低くて言葉遣いもいつもより悪い。これは律が機嫌の悪い証拠。けどただ機嫌が悪いだけじゃない。なんだろう、感情が、感じられない。
ただいつもどおりに返答しようとしてるだけで中身は何も考えて無いみたいだ。
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/07(木) 18:12:32.68 ID:NH2U.4U0
途切れた会話を再び始めようとせずに、二人は部室の扉を開けた。梓がドアを押さえようとすると
律がそれを先回りして部室のドアを押さえて先に梓を部室の中に入れた。
こういうさりげなく優しいところはいつものまま。

私は梓のすぐ後ろに張り付くようにして中に入った。

「あ、りっちゃん、あずにゃん、やっほー」
「今お茶淹れたところよ」

中には唯とムギが二人いて、笑顔で律たちを迎えた。

「こんにちはです」
「おっす」

律は中に入ってくると、カバンをソファーに置いて椅子を音を立てて引いて座った。
梓もその後に続く。ムギもみんなの前に紅茶の入ったカップを置いてから椅子に座る。
私も見えないながらも椅子に座った。

久しぶりにこの位置からみんなの顔を見ることが出来た。
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 04:00:10.09 ID:u7t89.DO
まつ
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 01:03:18.78 ID:w0v6WFc0
ほう、これは期待

気長に待ってるぜ
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 08:08:05.28 ID:MhXxeLoo
受験は何度でもできる
しかし、このSSが輝きを持つのは一瞬だけだ!


待つ
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 12:07:44.34 ID:Vr9mMXI0
まつ
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 13:34:55.32 ID:5iuFkUc0
たまに来れるから来れる日に必死で書くことにするwww
とりあえず続ける。

59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 13:44:25.00 ID:5iuFkUc0
昨日も思ったけど疲れきった顔してるな、皆。私が生きていたころはいつでもじゃれあっていた唯と律は、唯はちらちらと律のほうを見るけど何も言わないし律は机の端を見詰めたまま時折指でリズムを刻むだけで何もしない。
ムギや梓もただその場に座っているだけ。

練習、しないのかな。このままじゃ、軽音部、だめになっちゃうよ。それでいいの、皆?
律、お前部長だろ、何とかしろよ。
唯やムギだって、何で笑わないんだ?
梓も前みたいに「練習しましょう!」って怒ればいいのに。

自分勝手だってわかってる。けどこんな光景哀しくて、私はついつい叫びだしたくなるんだ。

「やっほー」

ふいに部室の扉が開いて間延びした声が聞こえた。さわ子先生だ。
さわ子先生も以前みたいにあまり元気があるような感じではないけど、皆よりはマシだった。
さわ子先生はふらふらと部室に入ってくると、私の椅子に近付いてきた。

あ、あれ?どうしてさわ子先生がこっちに?

60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 13:56:15.73 ID:5iuFkUc0
さわ子先生はずんずんと私(というより私の座っていた椅子)に近付いてくる。
そして大きな音をたてて椅子が引かれる。さわ子先生は私が見えてないんだろうけど、思い切り
座ったまま椅子を引かれた私は椅子から転がり落ちた。

「いたた……」

打ってしまった頭を擦っていると、ギシッと私の椅子が座るときに鳴る特有の音が聞こえた。
さわ子先生が我が物顔で私の椅子に座っていた。(実際決まってたわけじゃないんだけど)

え、何で?ちゃんとさわ子先生の椅子も置いてあるのに。
まあけど、多分さわ子先生はこっちのほうが近いし良いんだろうけど。ただ、それだけの理由なんだろうけど。

「ムギちゃん、レモンティーお願いできる?」
「あ、はい」

さわ子先生は隣に座っていたムギにそう声を掛けると、ぐるり、と周りを見回した。
そして「あなたたち」って少しだけ先生らしい口調で言った。

「練習は?」


61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 14:01:26.61 ID:5iuFkUc0
律がぴくっと身体を震わせた。私の席だった席に座るさわ子先生を不機嫌そうな瞳で見ると、
「お茶を飲みに来ただけの顧問に言われたかないね」と吐き捨てるように言った。
さわ子先生の眉がなんですって?とつりあがる。
それをとりなすように、ムギが先生の前にレモンティーの入ったカップを置いた。

「私はね、なりたくて軽音部の顧問になったわけじゃないの」
「知ってる」
「なのにわざわざ来てあげてるのよ?」
「お茶とケーキのためだろ。そんなに恩着せがましい言い方すんなら顧問辞めればいいじゃん」

なっ、律!?

律の言葉にそれまで黙って傍観していた唯や梓が驚いたように律を見た。ムギも「りっちゃん」って
いつもの数倍眉を下げてさわ子先生と律を交互に見る。

62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/10(日) 14:03:43.45 ID:cIoHEUAO
お、来たか!時間の許す限り続けてくれ
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 14:07:55.47 ID:5iuFkUc0
いくらさわ子先生でもそんな言われ方したら辞めちゃうかも知れないんだぞ?
そしたら軽音部には顧問がいなくなって、また廃部の危機に直面しちゃうかも知れない。
なのになんで律はそんなこと言うんだよ?

私は他の皆がびくびくしているのにも関わらず、律はさらに言葉を紡いだ。

「別にもう良いんだよ、どうせ学祭でライブする気も無いし、梓とかにも悪いけど練習なんて
したくないし」
「りっちゃん!そんな言い方……!」

唯が慌てて止めに入る。けど律は言葉を止めなかった。真直ぐすぎる瞳を先生に向けながら、
律は言った。

「辞めたきゃ辞めれば?」

64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 14:16:01.02 ID:5iuFkUc0
さわ子先生が微かに身体を揺らした。そしてずり落ちた眼鏡を戻すと、さわ子先生がすっと息を吸い込むのがわかった。律以外の皆がそんなさわ子先生の様子を見守る。先生が口を開けた。

「辞めてやるか!お前等の面倒は卒業するまでずっと見るって決めてんだよ!」

そこで一旦言葉を切ると、さわ子先生はじろり、と律を睨んだまま言った。

「だからねりっちゃん。私は絶対辞めないわ。あなたに何を言われようと」
「……どけよ」
「え?」
「そこからどけよ。その椅子に座るな」

私はハッと律を見た。律は今まで見たことが無いくらい、ただ憎悪に満ちた表情でさわ子先生を見ている。さわ子先生がたじろいだ。けどすぐにいつもの調子を取り戻すと、言い返す。

「どかないわよ!ねえりっちゃん、いつまで引きずってるのよ澪ちゃんのこと!」
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 14:24:55.41 ID:5iuFkUc0
「ちょっと、さわちゃん!」
「お、お茶淹れるわね、新しいお茶!」
「り、律先輩、落ち着いてください、ね?」

さわ子先生の言葉に皆が慌てたように動き始めた。梓が律の肩を落ち着かせるように叩いたけど、律は大きな音をたてて立ち上がった。さわ子先生が「何よ?」と少し後ろに退いた。けどそんなさわ子先生に構わず、律は突然さわ子先生に掴みかかった。

「りっちゃん!」

ムギが小さく悲鳴をあげて律とさわ子先生の間に入る。唯が「ほ、他の先生呼んでくるね!」と部室を出て行った。梓は「どうしよう、どうしよう」っておどおどとその様子を見守る。



66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 14:30:16.19 ID:5iuFkUc0
「言っただろ、私の前で澪の名前は出すなって!」
「そうね、聞いたわ……。けどそんなんじゃいつまで経っても澪ちゃんのこと引きずって、一生を無駄にしちゃうかも知れないのよ?そんなの教師として……黙って見てられないわよ!」
「関係ないだろ!良いからもう、ほっといてくれよ、頼むから……!私だってわかってるよ、澪が戻ってこないことなんて!けど仕方ないじゃん、忘れられるわけなんてないんだよ!私が忘れちゃだめなんだ、忘れたくないんだよ!」

律は最後のほうはもう、叫ぶようにそう言ってさわ子先生から手を離した。そして唯が呼んできた他の先生と入れ替わる形で鞄も持たないまま部室から走り去ってしまった。

67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 14:38:59.47 ID:5iuFkUc0
さわ子先生がぐったりと椅子の背に凭れ掛った。一部始終を見ていたらしい他の先生が、
律を追いかけようとして走っていったがすぐに戻ってきた。どうやら足の速い律に追いつけず振り切られた
らしい。

「山中先生、ちょっと職員室へ」
「……はい」

戻ってきた先生に言われて、さわ子先生が渋々と立ち上がった。それから入ってきたときと同じように
ふらふらとした足取りで部室を出て行った。
残された唯、ムギ、梓はへなへなと自分の椅子に腰を下ろした。
私もさっきまでさわ子先生が座っていた椅子に再び腰を下ろす。

さっきの律のことを思い出す。追いかけようとしても足が竦んで動かなかった。あんな律、初めてで
どうすればいいかわからなくて、ただ、怖いって思った。律のことが、怖い、って。

「さわちゃん、あぁなることはわかってるくせに……ひどいよね」
「けど、あれが先生なりの励まし方だと思う。でも、今日のは言い過ぎよね」
「そうですね……。しかも、澪先輩の椅子に座って、澪先輩の名前出すなんて。律先輩が怒るのわかってて」

68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 14:50:15.49 ID:5iuFkUc0
三人の会話を聞いているうちに、何となくさっき聞いた二年生組の会話の意味がわかった。
きっと、前にもこんなことがあったんだろう。誰かが私の名前を出して、それであんなふうに律が怒って……。

律は、変わってしまった。
こんなふうに、他人を困らせるようなことだけは絶対にしなかったのに――

「律先輩、大丈夫かな……」
「……さわちゃん、変に怒られたりしてないよね」
「唯ちゃん、変に怒られるって?」
「辞めさせられる……、とか」
「それはないですよ、さすがに……」
「ならいいけど……」

唯たちの声が、静かになった部室に響く。
私はこの場にいることが苦痛になって、椅子を引いて立ち上がってしまった。人には見えないけど音をたてたり物を動かしたりすると生きてる人でもわかるということを忘れて。

「ひっ!?あ、あずにゃん、今澪ちゃんの椅子が勝手に……!」
「き、気のせいですよ、ね、ムギ先輩?」
「そうよ、見なかったことに……」




69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 14:50:48.56 ID:5iuFkUc0
悪い、休憩。また夕方くらいに再開する。
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 15:23:35.80 ID:QhzpAgDO
澪が死んだら律は本当にこうなっちゃいそうだなまつ
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 19:01:30.05 ID:uk4yZkQ0
醤油ってかけすぎたら辛いんだな、再開っと。
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 19:19:43.17 ID:uk4yZkQ0
はあ、危なかった。っていうか見なかった振りって無理があるよ、ムギ。そういうこと言ってる
時点で見たことを肯定してる……、そんなこと考えたって意味はないんだけど。とりあえず皆が
大騒ぎしないでくれてよかった。
それより、今の音のおかげで軽音部の雰囲気が和らいだ気がした。

私は立ち上がったままほっと息を吐くと、部室を出た。
あのまま部室にいたって何も出来ない。とりあえず律を探そう。律を探して、それからのことは
律を見つけてから考えればいい。ただ今は、何となく律の顔を見たかった。

校舎を出て、校門をくぐる。律はどこに行っちゃったんだろう、って考えながら、とりあえず
律の家のほうへと足を進めた。律の家の近くには大きな犬を何匹も飼っている家があった。
律と一緒に通るときはなんともないんだけど、一人で通るときはよく吼えられてた。だから生きてるとき、
怖がりな私は律が一緒に居ない時はわざわざ遠回りしてでも違う道から家に帰った。
けど今は犬にも見えない身体になってしまった。だから私は堂々とその家の前を通ろうとした。


73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/10(日) 19:27:07.51 ID:uk4yZkQ0

わんわんっ!

「ひっ!?」

なのに――
吼えられた!?私は無意識のうちに飛び退いた。けど、きっと私に吼えたわけじゃないよな、
そう思いながら辺りを見回した。けど、周りには誰も居なかった。
もしかして、私が見えてる……?
動物は人間より霊感が強いって聞いたことがあるけど、本当なのかな。

けど。
そういえば、って私は思った。自分の身体を改めてちゃんと見てみる。自分が見てるんだから
透けてるとかそんなことはない。だけど、最初、本当に最初、この世界に戻ってきたとき痛みや
生きてるときみたいに怖さや辛さを感じた?

ううん、感じてない。カミサマは言ってた。あっちの世界にいるとこの世界に生きていたときの
“私”が段々消えていくんだって。“私”の人格が、浄化して、そして生まれ変わるんだって。
ということは、“私”が戻り始めてるの?
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 19:33:07.32 ID:QhzpAgDO
醤油はすごいよ何でも合うよ
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 20:13:30.73 ID:Eh7WJZso
ダラダラ♪
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 02:19:18.92 ID:3XQtppgo
泣いた

待つ
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 14:24:51.72 ID:Diw/kt.0
もし、そうなんだとしたら、私は律たちと話すことができるかも――

そこまで考えて、私はまさか、って首を振った。それにカミサマだってここの世界の人間とは関わっちゃだめだって言ってた。それを破ってしまったら私はきっと、本当にどこの世界にも戻れなくなっちゃうかも知れない。
けど、もし。本当にもし、誰かと話すことが出来るんなら……。

どうせ無理ってわかってるけど、確かめてみることくらいいいよね。

もし確かめるのなら律じゃなくて、別の人。本当に話せるって思ってないけど、もし万が一話せたとしたら律はきっと周りに関係なくハなしてきそうだし。今の状態でそうなったら絶対に変に思われて病院に連れて行かれちゃう。
だからそういうことも配慮して、私はムギに話し掛けてみようと自分に言い訳しながら、部室へと元来た道を戻り始めた。

78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 20:36:00.64 ID:7kxxf3k0
まだ皆部室にいるかな、そう思いながら校門をくぐった。玄関を通ろうとすると、聞きなれた声がした。ムギたちがいた。どうやら部活は終わってしまったらしい。時計を見るとまだ数十分残ってるのに。

とりあえず、軽音部の三人が並んで歩く後ろを私も着いて行くことにした。
今さっきくぐった校門を、私はもう一度くぐってから、私は「ムギ!」と呼びかけてみた。
ムギは――振り向かなかった。

当たり前だよな。
そう思って肩を落としたとき、ムギではないけど、梓が振り向いた。
けど近くに猫が通ったから、振り向いただけだろう。私の声が聞こえた、なんてわけはない。だけど。もう一回、私は試してみた。

「梓!」
「にゃ!?」

梓が驚いたようにぎょっと後ろを振り返った。そして、はっきりと私を見て立ち止まった。
梓、もしかして見えてる……?

「……ぱい」

梓の口が「みおせんぱい」と動いた。けど、それは殆ど声にならなかった。
私は「梓、見えるのか!?」と思わず梓に駆け寄った。
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 20:54:31.75 ID:UTwwXDwo
すごく続きが気になる
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 21:38:00.23 ID:mkgYCSgo
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1192847.jpg
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 16:52:00.88 ID:qFoaKJE0
明日実テなんだけど息抜きに進めに来たww
待たせてたらごめん。

82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 16:56:44.58 ID:qFoaKJE0
梓は私が近寄ると、「ひっ」と悲鳴を上げて後ろに仰け反った。
私は「あ」と立ち止まる。当たり前だ。私は死んでいるんだ、と思い出す。
だけど、梓の反応に少しだけ傷ついてしまった自分がいる。

「あずにゃん、どうしたの?」

私を見て足を止めていた梓に気付いて、少し先に行っていた唯とムギが振り返った。
唯や、そしてさっき試してみたムギも、やっぱり私に気付いていないようだ。
梓だけが私に気付いてくれている。もちろん、怖がってるけど。
私なら絶対に卒倒してるな、と他人事のように思った。

「い、いえ、何でもないです」

梓は私から目を逸らすと、何事もなかったかのように唯たちを追いかけていく。
私はその場に取り残されてしまった。
83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 17:18:58.94 ID:qFoaKJE0
関わっちゃだめ。関わりたい。でも関わろうとしたら自分が傷付いてしまう。
カミサマがこの世界の人と関わっちゃいけないというのは、多分そういうことも見越した上で
だったのかも知れない。

言い知れない悲しみに、私はその場に座り込んでしまった。
車が後ろから迫ってくる。避けない私をそのまま擦り抜けて行く。
改めて、自分がこの世にいるべき人間じゃないということを思い知らされた気がした。

もういいや。
早く自分の記憶を取り戻して、生まれ変わってしまおう。
私は力なく立ち上がった。そのとき、前から誰かの走る音が聞こえた。
梓が大きく肩で息をしながら、私の前に立っていた。

「……、梓」
「澪、先輩っ」

梓は泣きそうな顔になると、抱き着こうとしてきた。けど、梓の身体は私の身体を擦り抜けた。
驚いたように固まってしまう梓。梓は「どうして」と小さな声で呟いた。

「どうして、ですか……、澪先輩。何で……今私の前にいるんですか、何で、死んじゃったんですか」
「梓……」


84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 02:56:18.91 ID:DgFMW2go
おいおい書くの止めたのか?
85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/22(金) 08:10:21.83 ID:t232O3Io
支援
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/25(月) 07:08:11.52 ID:jVcpXawo
待ってるよ
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 20:38:07.49 ID:X5qHQRQ0
梓は小さな肩を震わせたまま、でも涙は堪えたまま、「どうして」と繰り返した。
私は何も言えずに、そんな梓を見下ろすことしか出来なかった。

こうして梓と話せたことは嬉しかった。
だけど、話せたことで残された人の悲しみに触れてしまった。
死んでしまった私は、謝ることしか出来ないし、でも謝ったってどうしようも出来ない。



「梓」
「すいません、取り乱しちゃって……」

しばらく経って、やっと梓は落ち着いた。
ごしごしと制服の袖で涙を拭って、真直ぐと私を見る梓の瞳に、恐怖の色は混じっていなかった。
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 20:45:14.99 ID:X5qHQRQ0
「澪先輩、本当に澪先輩、なんですよね?」
「うん、私だよ。たぶん、私なんだと思う」

梓の問い掛けに、私は少しだけ自信なさげに答えた。
でも、梓に私が見えているということはやっぱり自分が戻ってきているということ。
だから、私は私なんだ。

「……先輩、澪先輩が死んじゃってから、ずっと軽音部がぐちゃぐちゃなんです」
「うん、知ってる。見てた、から……。律のことも、知ってる」
「そう、ですか……。私、何とかしたいのにどうしたらいいかわかんないんです」

梓はそう言いながら、今さっき梓が走ってきた方向に視線を移した。
きっと、この先には唯たちが歩いてる。

「さっき、澪先輩が見えたときは私おかしいんだって思いました。けど、どうしても気になってここに戻ってきちゃって……。もしこれが私の幻だったり妄想だったりしたら、私、絶対に気が狂っちゃってますよね。律先輩たちのほうがもっともっと辛いのに……」
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/31(日) 20:52:59.33 ID:X5qHQRQ0
そんなこと、ない。
たぶん、悲しみの重さとか大きさとか、そんなものってないから。

「でも、ほんとに澪先輩が私の前にいるなんて……幽霊だとしても、嬉しいです」
「あんまり幽霊なんて言葉、言わないでほしかったな……」
「あ、すいません!」

別にいいんだけどさ、と私は苦笑する。
実際、こっちの人間にとっては私は“幽霊”なんだから。

「私だったら絶対倒れてるよ、いくら知り合いでも目の前に死んだ人が現れるなんて」
「でしょうね……」

梓は頷くと、少しだけその時の様子を想像してみたのか、笑い声を漏らした。
久しぶりに見る梓の笑顔は、以前見たときと変わっていなくてほっとした。
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/31(日) 20:58:05.20 ID:X5qHQRQ0
短いけど、とりあえず今はここまで。
また今日書けそうだったらもうちょっと投下する。

あと、酉ってつけたほうがいいんですかね?
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 21:49:19.07 ID:OtSHsxUo
ここなら基本誰かが乱入してくるとかないから
俺としてはあってもなくてもいい
付けるんならそれはそれで全く構わん
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 22:14:55.48 ID:tX3Prsso
すきにしる

とうとう本編か…
93 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 20:02:34.36 ID:PjVLfwEo
http://sukima.vip2ch.com/up/sukima005390.jpg
94 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 03:01:51.82 ID:7Vo73QDO
続きはまだかのぅ
95 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 20:58:11.18 ID:XUixDh6o
原ノ町
96 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/05(水) 00:15:26.83 ID:9PFRQi6o
四ツ倉
97 : ◆fROP3PHx3A [sage]:2011/01/06(木) 02:05:55.66 ID:eIQzqyM0
っていうか生存報告ないの?

…まさか投げた?
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 02:06:36.98 ID:eIQzqyM0
すまん、酉ついたままだった
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 02:09:53.09 ID:VHXbOX.o
受験生らしいからな
春になったら来るかもしれん
100 :lain. [sage]:2011/02/19(土) 22:30:08.49 ID:???
SS・やる夫系スレッドは、SS速報VIP【http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/】へ移転することになりました。
それに伴いこちらのスレッドをHTML化させて頂きます。
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