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唯「私たちの歌を、聴いてください!」 - 製作速報VIP(クリエイター) 過去ログ倉庫

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1 : ◆S2uwo.Ayis [sage]:2010/11/02(火) 14:33:12.88 ID:Px1Mi4U0
11月3日に行われるけいおんSSの企画の舞台にございます
詳しくはこちらhttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1288606785/l50
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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714136403/

少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 16:56:18.53 ID:m9rSTrMo
 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
 |  お断りします | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
 |__| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|りします  |
    ∧|  お断りします |____| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|     ぞろぞろ・・・・・
. . ( ゚ |_______|. ||    |  お断りします |
  / づΦ. ∧∧ || ( ゚ω゚ )||    |_______|ぞろぞろ・・・・・
.       ( ゚ω゚ )|| / づΦ     ∧∧ ||
 ̄ ̄ ̄|  / づΦ ぞろぞろ・・・・・.( ゚ω゚ )||       | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
り | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|          / づΦ.       |  お断りします |
_|  お断りします |    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|      |_______|
  |_______|    |  お断りします |       ∧∧ ||
.    ∧∧ ||         |_______|.     ( ゚ω゚ )||
.   ( ゚ω゚ )||      .       ∧∧ ||             / づΦ
   / づΦ           ( ゚ω゚ )||
         ぞろぞろ・・・・・  / づΦ
3 : ◆S2uwo.Ayis :2010/11/03(水) 00:43:03.28 ID:4.KU3wDO
2時より一曲目が始まります
4 : ◆1AdCyz06bo [sage]:2010/11/03(水) 01:59:40.93 ID:u.br/ak0
じゃあ始めるよ
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:00:26.11 ID:u.br/ak0
いつかの放課後のぶしつ!


 キラ  *・☆ 
  キラ   お菓子の箱    キラ
              ☆*・  キラ


律「ま、まぶしっ!!」

梓「み、見るからに高級そうなお菓子ですね…」

澪「い、いいのかムギ…こんなの私達が食べちゃって…」

紬「うん! 家に置いてても余っちゃうだけだから」 ニコッ

律梓澪(こんなのが余るってどんな家…?)


唯「ふおおおおお…!!!」 キラキラキラ

梓「そして唯先輩の目もいつも以上に輝いてます…!」

澪「はは、唯らしいな」

唯「む、ムギちゃん!私これ欲しい!!」

律「おいおい…欲しいって…
  慌てなくてもお菓子は無くならないって」

紬「うん、唯ちゃんの分もちゃんとあるわよ」 ニコッ

唯「ううん」

澪律梓紬(?)


唯「 箱!! 私この箱が欲しい!!」
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:01:19.14 ID:u.br/ak0
梓「箱…ですか?」

唯「うん!!だってこの箱可愛いよ〜!」

律「…ま、確かにキラキラしてて可愛いって言うか…高級そうな感じはするな」

唯「でしょ!でしょ!ねぇねぇ!ムギちゃん!!

  中のお菓子食べ終わったらこの箱、私が貰っていい!?」 キラキラキラ

紬「食べた後は捨てちゃうだけだし…

  うん!唯ちゃんにあげる!!」

唯「わぁあ! やったぁ!ムギちゃんありがと〜!」



唯「うふふ〜♪」

律「…そんなの貰ってどうするんだ?」

唯「そうだなぁ…う〜ん」

梓「使用用途考えてなかったんですか…」

唯「!」 ピコーン

唯「そうだ!宝箱にしよう!!」

澪「宝箱?」

唯「大切なものたくさん詰めるんだ〜」

澪「宝箱かぁ…確かにその箱にぴったりかも!」

唯「うん!」
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:02:08.69 ID:u.br/ak0
唯「よ〜し!この箱いっぱいにたくさん色んな物入れるぞ〜!」

唯「まずは何入れよう……りっちゃん!何かない!?」

律「ん?そうだな〜…」 ゴソゴソ

律「おっ ポケットの中に…」

ササッ

律「こんな物が」

唯「ビーズのマスコット?」

紬「ちっちゃくてかわいい〜」

澪「これこの前、帰りがけに寄った店で買った奴じゃないのか?」

律「イエス!」

澪「ずっとポケットに入れっぱなしだったのか…」

律「すっかり忘れてたな」

梓「忘れてたって…なんで買ったんですか…」

律「ん? だってかわいいだろ」

梓「……プッ」

律「おい、梓…今なんで笑った?」

梓「だって律先輩似あわな

律「な〜か〜の〜!!!」
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:02:42.78 ID:u.br/ak0
律「うりうりうりうり」 グリグリグリ

梓「やめてください〜…!」


律「おほん!…と言うわけでそれは唯にやろう」

唯「えっ! いいの…?りっちゃんが買った物なのに…」

律「ま、考えてみたら使わないしな…もったいないから貰っとけって」

唯「そっか…うん!りっちゃんありがと〜!」 ニコッ

律「いえいえ〜どういたしましてですわん」


パカッ

唯「まずは1つ目だね〜」

律「でも、そんなので良かったのか?
  宝箱なんだろ?私があげたのは大した物じゃないぞ」

唯「ううん!宝物だよ!
  だってりっちゃんから貰ったものだよ!
  大切な友達から貰ったものだから宝物だよ!」

律「…よ、よせやい!恥かしい!」

唯「えへへ〜」

紬「唯ちゃん、1つ目って事は…」

唯「うん!まだまだたくさん入れるよ!」 フンスッ

紬「じゃ、じゃあ…コレとかどうかしら?」 ササッ

唯「おぉ!ムギちゃんコレも可愛いね!」

梓「それなら…コレもどうぞ」

唯「わぁ!あずにゃんありがと〜!」

澪「わ、私も」
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:03:16.60 ID:u.br/ak0
……

パカッ

唯「うふふ〜♪」

梓「結構入りましたね」

唯「うん!ビーズでしょ…チャーム、キャンドル、リボン、シャボン、クローバー!」

澪「どこから持ってきたのかわからない物もあるな…」

唯「他にも…予備のピックも入れたし、教室でまわしてた手紙も入れたし、皆で撮ったプリクラも入れたし、

  後は…クッキーとか!飴とか!チョコレートとか!」

梓「いや、食べ物は止めましょうよ…」

唯「えぇ なんで〜…?」


唯「…みんな、ありがとう!

  みんなのおかげで宝物がたくさん集まったよ!」

律「そりゃあ良かった〜」

澪「ああ、大切にしてくれよ」

唯「うん!よーしっ!この調子でどんどん入れちゃうよ!」

梓「まだ入れるんですか?」

唯「そうだよ!まだまだ入るからねっ!」 ブイッ

紬「頑張って唯ちゃん!」

唯「頑張るよ!ムギちゃん!!」


唯「明日はどんなもの入れようかな〜♪」
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:04:17.53 ID:u.br/ak0


唯「ういーういー」

憂「? お姉ちゃんどうしたの?」

唯「宝物集めてるんだー、何か無いかな?」



唯「和ちゃーん!」

和「あら、唯どうしたの?」

唯「宝物を集めてるのです!」



さわ子「なーに、唯ちゃん?」

唯「宝物を(略



唯「純ちゃーん」

純「わっ、唯先輩どうしたんですか?」

唯(ry

11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:05:25.92 ID:u.br/ak0
それからそれから!


どっさり!

唯「ふんすっ!」

律澪紬梓「おぉ〜!」

律「な、何かたくさんあるな」

唯「たくさん集めました!」

梓「いいですけど…どう見てもいらない物も入ってるような…」

澪「小石とか…紙切れとか…」

律「ごちゃごちゃしてて一見すると宝箱には見えないな…」

唯「えぇ…そうかな…」


澪「色んな人に声掛けたって言ってたよな…」

紬「クラスの皆がこの箱の事知っていたわ」

梓「憂や純も声かけられたって言ってましたね」

唯「さわ子先生やおばあちゃんにも声掛けたんだ〜
  それにお父さんやお母さんにも貰ったよ!」

唯「もう少しでこの箱いっぱいになるんだ〜」

澪「一杯になったらどうするんだ?」

唯「大切にしまっておくよ!宝物だからね!」
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:05:52.76 ID:u.br/ak0
そうしてそうして!


紬「えっ!」

澪「な、なくした?!」

唯「えっぐ…ぐすっ…」

律「あんなに大切にしてたのにどうやったらなくすんだよ…」

唯「うぅ…ぐずっ」

梓「ほら、唯先輩これで涙拭いて下さい」

唯「えっぐ…あずにゃん…ありがどう…ぐずっ」


梓「何処かに置き忘れて、気づいた時にはまるっと消えていたそうです」

律「あっちゃー、誰かがゴミと間違えて捨てちゃったのかも…」

唯「うぅゔ…」

澪「りつっ!」

律「わっ あっ ごめんごめん!冗談だって冗談!」
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:06:29.17 ID:u.br/ak0
唯「み…みんな゙…ごめんなざい…

  みんながら貰っだ…大切な宝物だったの゙に…ぐすっ

  なくしちゃって…私なんて謝ったらいいかあ…」

澪「唯…」

唯「ぐずっ」

澪「まったく、しょうがないな唯は」

唯「澪ちゃん…」

紬「大丈夫よ、唯ちゃん 探せばきっと見つかるから」

唯「ムギちゃん…」

梓「はい!皆で探せばすぐ見つかります!」

唯「あずにゃん…」

律「よし!手分けして探すか!」

唯「りっちゃん…」


唯「みんな…

  みんな本当にありがとうっ!」
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:07:17.62 ID:u.br/ak0
―――

――



律「なんて事もあったよな〜」

澪「あったあった」

唯「懐かしいね〜」

梓「でも結局見つからなかったんですよね、宝箱」

律「まったく何処行っちゃたんだろうなぁ」

紬「唯ちゃん、あの時は見つけられなくてごめんね」

唯「…」

澪「…唯?」

唯「そ、それなんですが…」


唯「家にありました…」 コトッ
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:07:52.07 ID:u.br/ak0
律「…」

澪「…」

紬「…」

梓「…」

唯「えと…一人暮らしするから…部屋の片づけをしてたら…その…机の下から出てきまして…

  そ、その節はお騒がせしてすみませんです…へい…」

律「私達学校中探し回ったよな」

唯「はい…」

澪「あの苦労は一体…」

唯「申し訳ありません…」

梓「はぁ…唯先輩には呆れました」

唯「うわ〜ん!みんなごめんなさいっ!!」

紬「…まあまあまあ」
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:08:22.08 ID:u.br/ak0
澪「まぁ、過ぎたことだし気にしないけどさ」

律「それに今振り返ればあれもいい思い出かもな〜」

唯「だよねっ!」

梓「調子に乗らないでくださいっ!」

唯「うっ…すみません」

紬「まあまあまあ…」


唯「…でもね、私あの時気づいたんだ」

澪「?」

唯「本当の宝物!」

梓「…本当の宝物?」

唯「うん!本当の宝物…それはね…

  この胸の宝箱の中にある…みんなとの絆だよ!

  みんなとの絆そのものが私の宝物だったんだよ!」

紬「唯ちゃん…」

唯「えへへ〜」 ニコッ

律「いい話にして誤魔化そうったってそうはいかないぞ〜」

唯「うっ、りっちゃん鋭い…」
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:09:32.45 ID:u.br/ak0
澪「でもまあ確かにな…私にとってもみんなとの絆は宝物だよ

  もしみんなと出会えてなかったら、こんなに楽しい日々は送れてなかったと思うし」

梓「もし出会ってなかったら…どんなだったでしょうね」

律「放課後は帰宅部で、する事が無いからコンビニで立ち読み〜とか」

澪「暗い…」

紬「でも私立ち読みはしてみたいかも〜」 キラキラ

澪「いや、そう言う話じゃないから」

律「絆か…考えてみれば1年、2年、3年…
  ずっと一緒だったんだもんな…そう思うとなんかあっと言う間だったな」

梓「私は1年遅れですけどね」

唯「この調子で5年、10年、100年!一緒に過ごせたらいいね!」

澪「いや100年は無理だろ」


唯「…学際も、合宿も、ライブも、クリスマスも!

  みんなと一緒に過ごせたから楽しかったんだよね…

  私ね、幸せだよ!皆と会えたから!」

律「何をっ!私だって幸せだぞ!!」

紬「うん、私だって幸せよ!」

澪「私だって幸せだ!」

梓「皆さんと会えて私も幸せです!」

唯「うん!えへへ…」
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:10:25.90 ID:u.br/ak0
律「ところでさ、その箱って何入ってたっけ?」

唯「えっと…いろいろ……あまり覚えてないや」

澪「見つけてから開けてないのか?」

唯「うん、何か勿体無くて」

紬「ここで開けちゃわない?」

唯「そだね、せっかくだし開けちゃおう!」


梓「皆さん、何入れたか覚えてますか?」

律「えっと…何だったけ?」

澪「全然覚えてないな…」

紬「確か…リボンとか入ってたと思う…」

梓「あ……食べ物は入ってないですよね?」

唯「あ、入れっぱなしだったかも…」

律「デンジャーっ!!」

唯「りっちゃん… 例え何が入ってたとしても…

  それはあの頃の私達の輝かしい日々の結晶なんだよ!」

律「いい話にして誤魔化すな!」

唯「えへへ」


唯「まあまあ何が入ってるかは

  開けてからのお楽しみと言う事で」


パカッ

おしまいっ
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:11:15.04 ID:u.br/ak0
おそまつっ
次どうぞ
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:14:47.05 ID:4JLBzG2o
トップバッター乙!
キラキラの歌詞かわいいよね
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 02:18:18.11 ID:4.KU3wDO
二曲目待ち
22 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:45:15.70 ID:qFnCB.AO
二曲目行きます。時間なかったんで結構ハショッたけどご愛敬。
23 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:45:57.71 ID:qFnCB.AO
律「卒業記念に軽音部のPVを作りたいと思います!!!」

澪「なんだよ急に」

勢いよく椅子から跳ねた律を怪訝そうな顔で見る澪。

唯「それいいね! りっちゃん!」

それにすぐさま賛同の意を表明する唯。

紬「素敵ね〜」

みんなの分のお茶受けを並べながら右に同意といった感じの紬。

梓「前に勧誘ビデオ作ったばっかりじゃないですか!」

あれ以来何かにつけて映るのを拒んでいる梓は当然ながら反対、抗議する。

律「梓…いや、みんな! ちょっと忘れてないか…?」

どこか誇らしげな顔でそう呟く。
24 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:46:47.98 ID:qFnCB.AO
梓「なにがですか?」

唯「あっ! わかった! ムギちゃん今日のお菓子は手作りだねっ!?」

紬「そうなの! ちょっと作りたいものがあってチャレンジしてみたんだけど…」

唯「とっても美味しそうです。お茶の時間だと言うことを思い出したところで…では、いただき(ry」

律「ちがーーーーーーーーーーーうううんっ! みんな忘れてるだろ! わたしが部長だってことに!」

唯「忘れるわけないよ〜やだな〜りっちゃん」

梓「別に忘れてるとかじゃないですけど…」

澪「そういうことはもっと部長らしいことしてから言おうな律」
25 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:47:42.89 ID:qFnCB.AO
律「ふっ…何を言われようと今部長なのはこのわたし田井中律っ!!! つまりっ!! 部 長 権 限 が行使出来るってわけだ!!!」

唯「部長…」

梓「権限?」

律「おうともさっ! 部長と言えば部の中の代表! トップ! その部長が
卒業記念! さよなら軽音部! みんな大好きをありがとう! を撮ろうって言ってるんだ…」

律「否定できまい」ニヤリ

梓「24時間テレビみたいなタイトルですね」

澪「誰がそんな紙切れより薄い権力に…」

唯「へへー」フカブカ
紬「ははー」フカブカ
律「えっへん!」

澪「おおいっ!」
26 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:48:34.52 ID:qFnCB.AO
──

澪「で? まあ撮るのいいけどさ…内容はもう決まってるのか?」

律「ふっふっふ…この部長を侮るなかれっ! これを見ろぉっ!」ドヤッ

紬「歌詞…?」

梓「もしかして律先輩が書いたんですか!?」

律「この卒業記念…だけどそれは新たなる門出! さあゆけ軽音部! みんな大好きをありがとう! を撮る為に夜なべをして書いて来たのだ!」

唯「わたしと憂とりっちゃんの合作だよ!」

梓「あ、やっぱり。律先輩だけにしては手際が良すぎると思いました」

律「」ピューピュー
27 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:49:37.12 ID:qFnCB.AO
澪「唯も知ってたってことは出来レースってことか」

唯「てへっ☆」

梓「待ってください澪先輩! これ楽譜までありますよ!」

澪「……ムギ?」

紬「……てへっ☆」

律「てへっ☆」キラキラ

澪「最後だけ無性に腹が立った」
梓「奇遇ですね」

律「ではこれより卒業記念! さよなら軽音部! 地球の平和をありがとぅー♪ のPV撮影を開始する!」

唯「わーい」
紬「どんどんぱふー」

澪「……不安だ」
梓「タイトルがどんどん24時間テレビになってるけど大丈夫かな…」
28 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:50:20.61 ID:qFnCB.AO
──

澪「……よく考えたなこれ」

律「部長に不可能はないっ!」ドヤッ

唯「振り付けとか考えたのは憂だけどね〜」

律「唯、おやつ食ってな」

唯「おやつーっ」

梓「大体のプロセスはわかりましたけど…5人で映るシーンはどう撮影するんですか? 結構ありますけど…」

律「そこら辺に抜かりはない…鬼監督を呼んでるからな!」

澪「鬼…」
梓「監督?」

律「さあ入っておくんなせぇ監督ッ!」

ガララ──

和「誰が鬼監督よ…律」

澪「なんだ和か……(ほんとに鬼みたいな人が来なくて良かった…)」
29 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:50:57.70 ID:qFnCB.AO
律「あの荒くれ者が集う生徒会を牛耳ってるこの方こそっ!!! 生徒会会長にして鬼監督の真鍋和さんだ!!!!」

和「なによそれ」

唯「今日一日よろしくね! 和ちゃん」

和「まあもう会長じゃないし…暇だからいいけど」

澪「ごめんな和…」

和「気にしないで澪」

梓「てっきりさわ子先生が来るものかとばかり思ってましたよ」

紬「だから身構えてたのね梓ちゃん」

律「さわちゃんは何か会議があったりで色々忙しいんだと」

和「ふぅん…それで私に白羽の矢が立ったわけね…」
30 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:51:31.58 ID:qFnCB.AO
和「まあやるからには厳しくやらしてもらうわ。映像に残すんだから中途半端なものじゃ末代までの恥よ!」

机の上に置いてあったメガホンを掴み取り吼える。

和「早速シーン1から撮ってくわよ! 準備しなさいっ!」くわっ

澪「うっ……な、なぁ律。和のやつちょっと性格変わってないか?」

律「メガホンを持つことによって人格が変わる……なんちゃって」

澪「そんなわけ…」

和「ほら! そこ! 無駄口叩かない!」

澪「ひいいいっ」

律「私達はとんでもないものを呼び起こしてしまったのかもしれない…」
31 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:52:08.40 ID:qFnCB.AO
──

TAKE1

澪「」タンッ
梓「」タンッ
唯「」タンッ
律「」タンッ
紬「」タンッ

和「カット!!! 唯ッ! あなたは一番最後に振り向くって言ったでしょっ!? 梓ちゃんにつられて振り向いてるわよ! やり直し!」

唯「みんなごめ〜ん」

律「どんまい」

TAKE2

澪「」タタンッ
梓「」タンッ
律「」タンッ
紬「」タンッ
唯「」タンッ

和「カット!! 澪! ちょっとよろけたでしょ? バランス悪くなるからきっちりね。撮り直し!」

澪「ごめん…」

梓「どんまいです」


和「次行くわよ!!!」
32 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:52:39.98 ID:qFnCB.AO
TAKE3

澪「」タンッ
梓「」タンッ
律「」タンッ
紬「」タンッ
唯「」タンッ

和「カット!!!」

唯「あれ…? さっきのは上手くいったと思うけど…」

紬「ええ…」

律「なんでカットなんだよー和」

和「……律、もうちょっとおとなしく飛びなさい。そ、その…し、下着が見えたから…///」

律「/// あぁ〜〜〜ごめんあそばせっ」

唯「りっちゃんたら〜」

紬「和監督! 編集作業は是非私が」

和「え、えぇ」

澪「私も手伝うよムギ」キリッ

梓「もうやだこの部活…」
33 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:53:38.46 ID:qFnCB.AO
和「はいカットォ! オッケーよ。じゃあ次は教室で実際弾いてるシーンね。楽曲を3-2に素早く移動させない。いいわね。私は紙吹雪の用意をするわ」

そう言い残しそそくさと部室を出ていく和。

律「……まさかTAKE10までやらされるとはな」

梓「か…からだが持ちませんよぉ…」

唯「和ちゃんの情熱に火をつけちゃったね…!」

澪「終わるのかな…これ」

紬「」じ〜…

紬「」コマオクリコマオクリ

紬「……! 白!!!」

律「ん〜?」

紬「あ、は、はやく行こ! 和ちゃん監督が待ってるわ!」

梓「楽しそうですねムギ先輩…」
34 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:54:14.10 ID:qFnCB.AO
──

唯「ちょいとごめんよー嬢ちゃんたちー」

律「どっこらしょ」

音楽室から持ち運んで来た機材を次々に壇上に飾る軽音部の面々。

木下「なになに?」

瀧「次は何するのー?」

矢田「また軽音部…騒がしいわね」

飯田「いいじゃない楽しいし。どうせもう授業全部自習だしさ」

信代「放課後ティータイムー!!!」


和「静かにしなさい」ドンッ!

いちご「……覇気」

風子「能力者……!」

姫子「やだこの子可愛いっ!!!」

梓「に゛ゃっ」

律「おーおー馴染みが早いこって」
35 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:54:50.44 ID:qFnCB.AO
和「今軽音部のPVを撮ってる最中なの。あなた達も協力してくれない?」

佐々木「何をすれば…?」

和「そこでやんややんややって指示があったら回ったり」

佐藤「回る…」

信代「なんだかよくわかんないけど面白そうじゃない! やろうよみんな!!!」

和「信代、あんたは紙吹雪撒きなさい」

律「(鬼っ)」

澪「(鬼だ…鬼がいるよぉぉぉ)」

佐々木「澪ちゃん、がんばってね」

澪「えっ…あっ…うん。ありがとう…」

和「始めるわよ!!! 総員配置につきなさいっ!」
36 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:55:18.92 ID:qFnCB.AO
──

唯「」パクパクパクパク

唯「」パクパクパクパク

クラス一同「やんややんや」

信代「……」パラパラ…

唯「」トトンッテ トトンッテ

唯「」トントントントン

梓「」ジャカジャカジャジャーン

紬「」ポロポロポロ〜

唯「」パクパクパクパクパックパクッパクパッ! シュビッ!

澪「」ベンベン

律「」ドンシャカ


和「……カット」

律「え」

和「見ててつまらないわね」

律「お前が曲は後から撮った音源を差し込むからエアーでいいって言ったんだろ!?」

和「そうなんだけど…やっぱり何か道しるべがないと合わせにくいでしょう?」

律「まあそうだけど」
37 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:55:51.82 ID:qFnCB.AO
和「だから唯、歌っていいわよ」

唯「ほんとに?! 良かった〜…口パクパクするのだけって意外と煩わしいんだよね〜」

澪「これで合わせやすくなったな」

梓「ですね」

和「まだまだシーンはあるんだからちゃっちゃっと行くわよ! 信代! 紙吹雪追加しときなさい」

信代「あっ…はい…」

姫子「あずさちゃ〜んお水ですよ〜」

梓「ありがとうございます…」

佐々木「澪ちゃん…これ」

澪「ありがとう」ニコ

佐々木「///」

唯「もてますな〜みなさん」

律「そうでございますわね〜」

和「さっさとしなさい!」
38 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:56:29.38 ID:qFnCB.AO
唯「届けたい〜精一杯のsoulをっ!」



和「……カット! オッケー! 次また音楽室行くわよ。編集がめんどくさいから場所事で撮り溜めは極力しないわ! いいわね?」

律「はぁい…」
澪「はい…」
梓「はい…」
紬「わかりました〜」
唯「わかったよ!」

和「信代! 後からもっと撒くからそれまでにその倍作っときなさい。いいわね」

信代「あっ…はい…わかりました…」

そう言い残し一足先に部室に向かった和。

澪「もう誰にも止められない…」

律「ああ……だが……反撃の機会は…ある」ニヤリ
39 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:57:00.95 ID:qFnCB.AO
──

唯「」テービュン
梓「」テービュン

律「」ムーンウォークー

澪「」シュワー

紬「」マンボー

和「律、止めろ」

律「はっ!」ビシッ

紬「どうして〜?」キョトン

和「はい次一人一人紹介。さっき書いてもらった紙を持ちながら上手く自分を表現してみて。まずは唯から」

唯「まかせといて!」

和「じゃあ行くわよ〜アクションッ!」



┏━━┓
┃平沢┃
┗━━┛
唯「」アトズサリケリ

唯「(ギー太ッ!)」ニコッ

和「……可愛いから一発オッケー」

唯「やった!」

梓「可愛いとOKなんだ…」

和「次律!!!」
40 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:57:44.55 ID:qFnCB.AO
律「」┏━━━━┓
   ┃部長  ┃
   ┃ り★つ ┃
   ┃たいなか┃
   ┗━━━━┛

律「」ドカドカドカードン

和「……お疲れさま。ドラムって大変ね。持ち運びが」

律「ぜひゅ……ひゅ……ありゅがとうごさいます……」

和「じゃあ次ムギ」

紬「はい!」


┏━━━━┓
┃琴吹 紬┃
┗━━━━┛
 紬「」

紬「」ポロンポロンポロ~ン

和「とりあえず眉毛剃れと言いたいけれどそれはまた今度にしましょう。次は梓ちゃんね」

梓「は、はい」
41 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:58:17.85 ID:qFnCB.AO
 梓「」
┏━━━━┓
┃ 中野梓 ┃
┗━━━━┛

梓「」ジャカジャカジャジャーン


和「カメラ目線すぎだけどまあいいわ。巻いてかないと尺が足りなくなるし」

梓「はあ…」

和「最後澪!」

澪「う、うん」

和「あ? はいでしょ?」

澪「はいいいいっ」


澪「」ベンベン〜

澪「」ベンベン〜


律┏━━━┓
 ┃mio┃
 ┗━━━┛
     紬「」ユビサシ


和「カット」

澪「えっ…」

律「なんか間違ってた?」

紬「そんなことないはずだけど…」

和「あのさ、なんで一人だけ英語なの?」
42 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 02:58:53.44 ID:qFnCB.AO
澪「えっ…」

和「アーティスト気取りですか?」

澪「そんなことないけど…」

律「自己紹介なんだからなんだっていいだろ!?」

澪「律…」

和「あーあー悪かったわね。すいませんでした。わかったからイルクーツクにでもハネムーンに行ってくださいよお二人で。次ステップ行くわよ!」


律「なんだよ和のやつ…偉そうにッ!」

澪「ごめんな…律。私が英語で書いたばっかりに…」

律「澪は悪くないよ。今に見てろよ…和!」
43 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 03:00:36.62 ID:qFnCB.AO
唯「」ステップバイステップ


「か澪「」♪
 ま律「」♪♪
 わ紬「」♪♪♪
 ず梓「」♪♪♪♪
 |唯「」♪♪♪♪♪ 
 に
 ♪
  」

和「はい肩組んで〜ひざっ! 違う! 最初は膝! それで唯以外足と来て唯のおっちょこちょいをアピールしつつ最後は澪が落とす!!!」

紬「…」
梓「……」
唯「」ヒザッ
律「(うぜぇ…)」
澪「(イライラ…)」

和「笑いあって〜〜〜」

紬「」ニコニコ
梓「あはは…」
唯「あははっ」ニコリ
律「はは…」
澪「はぁ…」

和「はい移動。教室で仕上げよ」


律「☆☆」キラン
澪「★★」キラン
44 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 03:01:08.37 ID:qFnCB.AO
──

和「信代ー紙吹雪作ったかー?」

信代「あっ…はい」

和「じゃあ終盤行くわよ。ほんとに大好きテンション上昇ルララからね」

唯「わかったよ!」フンスッ

和「さっきより騒げよお前ら。じゃあスタート」

クラス一同「……」

唯「ほんとに大好きテンション上昇ルララPowerful Gig Time」テッペンユビサシ

クラス一同「やんやんや」

唯「ハートって!ハートって!ワクワク探す転載」クルクルクルパッ

和「カットOK! 廊下せわしなく走ってきなさい!」

律「……」
澪「我慢だ律っ」
45 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 03:03:06.94 ID:qFnCB.AO
┗唯律紬澪梓┓=== ◎◎◎◎◎燥燥


===┏梓澪紬律唯┛ 燥燥早掾掾掾掾


和「カット次校長像拝んでこいや」

律「ふんぶぅぅ」
澪「律落ち着いて…」

──

 \パンッパンッ/
   校長
 澪     紬
  梓 唯 律

和「よーし次ショートケーキが増えないかな〜?のおまじない掛けいってみよ〜」

──

紬「」むぅん
ショートケーキ「」

澪「…」律「…」
ショートケーキ「」

梓「(美味しそう…お腹減ったな…)」
ショートケーキ「」

唯「あーん」ポロッ
ショートケーキ「」

和「よしっ! 後はエアー演奏だけよ!!! 教室にダッシュ!」
46 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 03:03:32.03 ID:qFnCB.AO
──

和「紙吹雪少ないっ! 終盤なんだからもっと撒いて!!!!」

和「みんな一緒に回るなんてあんた達チンパンなの? バラバラに回った方がリアル性出るでしょうが! 仕込み入ってますアピールしたいわけ?! やり直しっ!」


それから何回も何回もTAKEを重ね……ようやく……。

TAKE44

和「こんなもんかしら。後は大好き〜の部分を取ればおしまいね」

唯「ようやく終わるんだね〜長かった」

紬「終わったらお茶にしましょう」

律「」ボソボソ
澪「」ボソボソ

梓「……わかりました」

和「?」
47 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 03:05:19.89 ID:qFnCB.AO
──

和「」コトッ

さわ子「忙しいから早く済ましてね」

和「すみませんわざわざ。じゃあ大好きのところ行くわよみんな」

唯「は〜い」
紬「///」
梓「…」
澪「…」
律「…」


唯「大好き〜」ぎゅっ
梓「〜っ(唯先輩わたしに抱きついてどうするんですかっ!)」
律「…」
さわ子「」ニコ
紬「良い匂い///」クンカクンカ
澪「あはは〜」


和「OKよ。さすがさわ子先生。人気ですね」

さわ子「そんなことないわよ。じゃあ私職員室に戻るから」

唯「次は和ちゃんの番だよ〜」

和「ええ。わかったわ」

律「クックック…」
澪「フフフ…」
48 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 03:06:10.95 ID:qFnCB.AO
和「じゃあ行くわよ〜シーン64。スタート」

───唯「ダイスキ」

和「えっ…

誰かのラリアットが和の首元に炸裂した。余りの反動に眼鏡は耐えきれず空中に飛散、

──梓「ダイスキ」

更に追い討ちの後頭部からラリアット。高等テクニックだ、後頭だけに。

───澪「ダイスキ」

いたっ! 腕いたっ! 噛まれてる噛まれてる!

紬「大好き〜」ペロペロ

太ももに何か生暖かいものが這っている…。

───律「ダイスキをあ・り・が・と」

恐らくこれが留めになるだろう律の飛び肘落としが私の顔面に炸裂した…。

なんで……どうしてなの……みんな……。
49 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 03:07:03.17 ID:qFnCB.AO
──

律「いや〜大変だったな色々」

澪「でもPVも出来たし良かった良かった」

梓「そうですね」

唯「和ちゃん全治三ヶ月だって〜」

紬「お気の毒に…」

律「そんなことよりせっかくだし撮ったやつ見ようぜ〜」

澪「テレビもあるしな」

唯「見よう見よう!」

ウィーン……。


──────────
唯「」パクパクパクパク



──────────

律「あ」
澪「あ」
紬「あ」
梓「あ」
唯「あ」

律「音入れてなかった」
50 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 03:08:47.50 ID:qFnCB.AO
──桜ヶ丘記念病院


和「だ、大好きいいいい」

弟「お母さんお姉ちゃんがまたうなされてる!」

妹「ダイスキダイスキってうなされてるよぉ!」



─────

憂「お姉ちゃんと大好きーしてないよっ!」

純「わたしで我慢してよ! だいすきー」ぎゅっ

憂「わたしも〜」ぎゅっ


おしまい
51 : ◆jKl1WclfZM [sage]:2010/11/03(水) 03:09:59.82 ID:qFnCB.AO
和ちゃんのぶっ飛ばされたのを真相解明した結果かこれだ!

次の人にパース
52 : ◆HLxYS9HHyE [sage]:2010/11/03(水) 09:58:36.82 ID:1EXv3cAO
三曲目10時からいきます
携帯でコピペやるんで途中一回数分だけ空くかもしれません
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:00:11.86 ID:1EXv3cAO
梓「ある日の放課後のことだった…」

・・・・・・・・

2の1


純「ふわ〜!やっと授業終わった〜!」

憂「おつかれさま〜♪」

純「…部活行く前にちょっと休んでくかなー」

梓「ちゃんと行きなよ、純」

純「まあまあいいじゃ〜ん
梓も休んでく〜?」

梓「私は行くから!
それじゃあね」ばたん

純「……」

純「はー、やる気満々だねー」

憂「もうすぐ軽音部のみなさん、卒業しちゃうもんね…」

純「そうだね〜寂しくなるね、あの軽音部がいなくなるなんて…
ジャズ研のみんなも言ってたよ」

憂「そうなんだ…
クラスの子たちも言ってたよね」

憂「あ…もうこんな時間…
私、帰らなくちゃ
ばいばい純ちゃん♪」

純「ばいばーい
……あっ、私も部活行かなくちゃ」
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:00:40.24 ID:1EXv3cAO
・・・・・・・・・

たった

梓「〜♪」

階段を駆け上がる梓

もうすぐ先輩達は卒業!
この放課後の時間、一秒一秒を大切にしていかなくちゃね!

梓「みなさん揃ってるかな?」

律「おう、梓!」

梓「あ、律先輩!澪先輩!」

澪「部活に行くところだったか?」

梓「はい!」

律「じゃあ一緒に…」梓「一緒に行きましょう!」

律「…?
なんかいつにもまして張り切ってるな〜」

澪「いいことじゃないか」

律「まあ行こうぜ〜」

―と律が歩きはじめたと同時に、廊下に大きな音が響いた

バァン!!!
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:01:08.09 ID:1EXv3cAO
律「!?」

澪「ひ…!」

梓「な、なに!?」

律「…今の音、音楽室の方から聞こえなかったか……?」

梓「……!
行きましょう!」

律「ああ!」

澪「い、行くのか!?」

律「当たり前だろ!
今の音がなんなのか確かめないと!」

澪「…こ、こわい」

律「いってる場合か!
置いてくぞ!行くぞ、梓!」だっ

梓「はい」

澪「……お、置いてかないでくれ〜!!」だだっ

梓「……」たった

さっきの音はなんだろう…
なにが起こって……
…嫌な予感がする
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:01:34.67 ID:1EXv3cAO
・・・・・・・・・

音楽室


律「着いた!」

澪「はあはあ…」

梓「……」

律「じゃあ…開けるぞ?」

ドアはそーっと開けられた

がちゃ

ぎいい…

律梓澪「!!」

そこにいたのは、血を流している唯だった

唯「……」

梓「ゆ、唯先輩!!」

律「唯!!」

梓と律が唯に駆け寄る

澪「ひ、ひい…!ゆ、唯が…」
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:02:10.80 ID:1EXv3cAO
唯「……」

澪先輩が恐がるのも無理もない
唯先輩の体は血だらけだ、私だって怖い…

梓「り、律先輩…」

律「落ち着け、梓
まず脈を…」さっ

律が唯の手首を持つ

梓「……」

ちょっと気持ちが楽になったかも…
今になって思う、なんて頼りになる先輩だろう

だが、そんな梓の心は律の一言で一瞬にして砕かれる

律「もう脈が止まってやがる…」

梓「…!!」

律「息もしてない…」

澪「じ、じゃあ唯は…!」

律「………死んじまった……!」

梓澪「……!!」
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:02:41.66 ID:1EXv3cAO
梓「そ、そんな…」

突然、生温い風が吹く

梓「!」

ふわっ…

風と一緒になにかが飛んできた

梓「…髪の毛……?」

飛んできたのは金色の髪の毛

ムギ先輩かな?あの人、よくこの辺で寝てるし…

ひゅうっ

風がまた髪の毛をさらっていった
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:03:19.29 ID:1EXv3cAO
澪「り、律ぅ…
警察に言った方が」

律「…いや、犯人は私達で見つけよう」

梓「!」

犯人…?これは他殺と決められたのだろうか…
いや、でも自殺なわけがない
唯先輩が自殺なんて有り得ない

澪「む、無理だよ!
私達で犯人を捕まえるなんて…」

律「唯が殺されたんだぞ!!」

澪「!」

律の声が閑静した音楽室に響く

律「……」

律「……すまん
でも、唯は私達の友達だ
警察に任せるなんて…いやそれが一番なんだろうけど……」

梓「……」

律先輩の気持ちも分かる…でもこれは…

澪「そ、そうだな」

梓「!?」
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:03:53.99 ID:1EXv3cAO
澪「私達で犯人を見つけよう!」

梓「え…」

律「梓はどうだ?」

梓「あ、はい…いいですけど」

律「よし、決まりだな」

澪「とりあえず唯は部室のどこかに隠しておこう」

律「ああ」

梓「……」

……?なんだろう、何か違和感が…
あの怖がりの澪先輩がこうもあっさりと…?
まあ、大きな事件は人を変えると言うし…

律「よし、今日はもう帰ろう
言うまでもないと思うけど、このことは誰にも言うなよ?」

澪「ああ」

梓「……」

律「…梓?」

梓「あ…はい!」

律「?」
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:04:42.66 ID:1EXv3cAO
・・・・・・・

帰り道

律「んじゃあな、梓
明日放課後に部室集合な」

澪「じゃあな」

梓「はい」

梓「……」

一抹の不安を抱えたまま、梓は帰路についた

・・・・・・・

翌日

2の1

ガララッ

純「お、梓おはよう」

梓「おはよう純」

梓「……」

梓はもう一人の友人の席を見る

…やっぱり憂は休みだよね、唯先輩が行方不明なんだ当たり前だよ
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:05:39.11 ID:1EXv3cAO
純「どうしたの梓?顔色悪いよ?」

梓「そ、そう…かな?」

純「?」

結局昨日は眠れなかった
もう今日学校を休もうかと思ったけど犯人のこともあるしで登校してきたけど…

純「憂、どうかしたのかなー?何も言わないで休むなんて」

梓「さ、さあ…」

言えない…

純「?
梓もおかしいし…」

梓「そ、そう?」

純「??」

梓「あ、あ…もう先生来ちゃうよ?席着こ!」

純「う、うん」

梓「はは、は…」

我ながらおかしかったと思う
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:06:12.20 ID:1EXv3cAO
・・・・・・・

キーンコーンカーンコーン

帰りのHRが終わった

がたがた

梓「……」

純「梓〜、ここで一休m」梓「」たたっ

がちゃ

ばたん!

純「あり…?」

・・・・・・・

梓「はあはあ……」たったっ

律「!
梓、来たか」

澪「……」

梓「はい」
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:06:50.82 ID:1EXv3cAO
律「んじゃ、開けるぞ?」

やばい、緊張してきた…

律「せーの!」がちゃ

律先輩はドアを威勢よく開いた

そして、ドアの先にいたのは紬だった

梓「…ムギ先輩?」

紬「……」

そう、そこに立っていたのはムギ先輩だった
だがいつもと違うところ、それは…

律「む、ムギ…
銃か?それ…」

紬「……ふふっ♪」

紬はいつもの微笑みをみせた
そして、次の瞬間…

トゥートゥトゥートゥトゥル♪
トゥートゥトゥートゥトゥル♪

紬「1・2・3・4・GO」

BANG!!

澪「…ッ!」ドサッ

律梓「…!?」
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:07:18.77 ID:1EXv3cAO
梓「澪先輩!」

澪「……」

梓「…!!
……ムギ…先輩……?」

一瞬何が起きたのか分からなかった
それほど驚愕した
まさか、ムギ先輩が澪先輩を…

律「ムギ!お前なにしてんだ!!」

紬「……」

律「…!
まさか…唯を殺したのも……」

紬「……ふふっ♪」

紬はまた微笑んだ

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

梓「!」
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:07:56.89 ID:1EXv3cAO
律「まずい!また撃ってくるぞ!」

梓「ど、どうしたら…」

律「逃げろ、梓!!」ばっ

梓「え…?」

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

律「このままじゃ二人共オダブツだ!」

梓「で、でも!」

律「早く!!」

梓「……」

律先輩の覚悟は本物だ、目を見れば分かる
なら…

がちゃっ

律「放課後ティータイムを…頼んだぜ、梓」

紬「1・2・3…」梓「」バタン!

BANG!!

私は走った 途中で銃声が聞こえたが、気にせず走った
後ろを振り返ることができなかった、不安だった…が、無事家に帰宅できた
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:08:25.78 ID:1EXv3cAO
梓「はあはあ…
一体、どうなって…」

とりあえず状況を整理しよう
昨日の放課後音楽室から銃声が聞こえて見に行ってみたら、唯先輩が殺されていた
今日は音楽室にはムギ先輩がいた
ムギ先輩は銃を持っていて、曲に合わせて銃を撃ち、澪先輩を殺し、そのあと多分律先輩も…
私はかろうじて逃げてきたけど…

そもそも何でムギ先輩がこんなことを?唯先輩達を殺して…

待てよ…さっき流れていた曲って……
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:11:25.00 ID:1EXv3cAO
・・・・・・・

翌日

2の1

梓「」ガララッ

純「梓おはよ…」梓「」スタッ

純「…?」

梓「……」

今日も眠れなかった
でもただ時間を無駄に過ごしていたわけではない
ムギ先輩とあの曲…何の関係があるのか
昨日は混乱してて分からなかったが、あの曲は…そう、『ごはんはおかず』
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:12:16.68 ID:1EXv3cAO
・・・・・・・

キーンコーンカーンコーン

やっと放課後…すぐに音楽室に行こう

たったった

梓「……」

『ごはんはおかず』といえば、学園祭の前日に徹夜して変なテンションになって作った曲…
作曲したのはムギ先輩だけど、ムギ先輩とは無関係な曲だ
でもムギ先輩はこの前、こんなことを言っていた…

ガチャッ

梓は音楽室のドアを無造作に開けた

紬「軽音部の部員達が一人、また一人とごはんはおかずの歌詞の通りに消えていくのは〜?」


70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:13:05.49 ID:1EXv3cAO
梓「……ムギ先輩
やっぱりですか」

紬「うふふ♪
私はあの時名案だと思ったんだけど、没にされちゃったから現実にしてみたの〜♪」

梓「なんで…そんなこと…」

紬「……ふふっ♪」

紬は微笑んだ

紬「分かってるわよね?」かちゃ

梓「!」

次は…私……!!

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

トゥートゥトゥートゥトゥル♪
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:14:03.18 ID:1EXv3cAO
梓「……」

覚悟はできていた
どうせ逃げられないのだ
このまま、唯先輩達と…

紬「1・2・3・4・GO」

BANG!!

梓「……」

梓「……?」

あれ……?撃たれてない?じゃあ今の音は…?

ざっざっ

梓「…!
ま、まさか…」

音と共に姿を現したのは、殺されたはずの唯だった

72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:15:06.01 ID:1EXv3cAO
唯「……」

梓「ゆ、唯先輩…?」

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

唯紬「1・2・3・4」

BANG!BANG!!

また殺されたはずの二人が音と共に姿を現した

澪「……」

律「……」
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:16:18.91 ID:1EXv3cAO
梓「澪先輩…律先輩…
これは…どういう……?
まさか、夢…?」

澪「夢じゃないさ」

梓「!」

紬「騙しててゴメンね?」

律「ちょっとしたサプライズでな!」

唯「私達の演奏、きいてくれる?」

澪「梓のために演奏するぞ」

梓「え…?」

74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:17:04.61 ID:1EXv3cAO
トゥートゥトゥートゥトゥル♪

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

1・2・3・4・GOBANG!!

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

1・2・3・4・GOBANG!!

梓「……!!」

ドガッ ドドドッ ドガッ! BANG!BANG!!

『ごはんはおかず』に合わせて机と机がぶつかる音と銃声が響いた

75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:18:02.19 ID:1EXv3cAO
トゥートゥトゥートゥトゥル♪

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

1・2・3・4・GOBANG!!

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

1・2・3・4・GOBANG!!

なんでだろう…
さっきまではあんな気持ちだったのに今は清々しい…

ドガッ ドドドッ ドガッ! BANG!BANG!!

なんだろう…この曲を聴いていると…ううん、先輩達の演奏を聴いていると…
なんで…

76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:19:05.39 ID:1EXv3cAO


唯先輩と律先輩は机の投げる方向はバラバラで…
でもその唯先輩と律先輩が投げた机を澪先輩が蹴って軌道修正して
それをムギ先輩が銃で撃つ…
でこぼこな4人が助け合って引き出しあって奏でる『ごはんはおかず』はどんなバンドミュージックよりも輝いてみえました…

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

1・2・3・4・GOBANG!!

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

1・2・3・4・GOBANG!!

77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:20:20.69 ID:1EXv3cAO
バスッ!ドン!BANG!BANG!!

梓「!」

唯先輩達は机以外のものも投げ、撃ちはじめた
椅子やアルバム、楽器、トンちゃんまでも…

私は悟った
そうか…先輩達は…私に伝えようとしてるんだ
もう…卒業だって…

そっか、もう悲しくないように全てを壊して…

私はいつの間にか泣いていた

78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:21:23.90 ID:1EXv3cAO
梓「ううっ…ぐすっ」

律「な〜に泣いてんだよ!」

澪「泣いてたら聞き逃しちゃうぞ!」

梓「す…すみませ…」

唯「今度はあずにゃんも一緒に!」

梓「は、はい!」

紬「さあ、梓ちゃん!」すっ

紬が梓に手を差し延べる

梓はその手をとった

そして、あの曲が流れ出す

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

トゥートゥトゥートゥトゥル♪

紬「1・2・3・4・GO」

BANG!!

ドサッ


―END―
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:23:29.34 ID:1EXv3cAO
なんか途中ぶっ飛んだが、まあ温かい目で見てやってくれ

次の四曲目の人頑張ってくれ
80 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 10:59:58.93 ID:F3zpbMk0
三曲目
81 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:00:35.40 ID:F3zpbMk0
12月に入り、本格的に寒さが厳しくなってきた。

この季節になると、布団から出るのも少し億劫だ。

でも講義を休むわけにはいかないし、今日は午後から学友会の総会もある。

和「よいしょっと・・・」

私はベッドから起き上がると、軽く伸びをした。

和「はぁ・・・寒っ・・・」

今日は、雪でも降りそうな寒さだ。

和「こんな時、唯ならサボっちゃうんだろうな・・・」

旧友のことを思い出しつつ、私は洗面台へと向かった。
82 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:01:24.51 ID:F3zpbMk0
・・・・・・
・・・・
・・


和「行ってきます」

誰もいない我が家に向かって、私は一人挨拶をした。

こういう細かいことが防犯上は大事らしい。

自分に魅力があるとは思えないけど、一応は女子大生の一人暮らし。

それなりに気を使ったほうがいいだろう。

唯も一人暮らしだし、ちゃんと気を使って生活しているだろうか。

鍵をかけ、空を見上げると、灰色の雲が広がっていた。
83 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:02:17.92 ID:F3zpbMk0
和「それにしても寒いわね・・・」

半年以上往復し続け、慣れきった道を歩く。

?「お、真鍋さん。おはよう」

後ろから聞きなれた声で話しかけられた。

和「あ、先輩。お早うございます」

話しかけてきたのは、同じ学友会に所属する、一年上の先輩だった。

先輩「今日の総会の資料、大丈夫?」

和「はい。ちゃんと揃えてあります」

先輩「そっかそっか。真面目な後輩がいて助かるわー」
84 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:03:03.63 ID:F3zpbMk0
先輩はフランクな性格で、言うなら律みたいなタイプだ。

先輩「それにしても真鍋さんって珍しいわよねー。部活もサークルもやってないのに学友会に所属してるんだもの」

学友会は部活やサークルに関する援助について学校と話し合う学生団体だ。

普通なら自分の部活のために代表者が加入するが、私は違った。

和「昔から、誰かのために働くのが好きなんです」

先輩「くー、偉いねぇ。しかもいっつも資料バッチリ揃えてくるから頭が上がらないよ」

和「・・・好きで、やってることですから」
85 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:04:08.38 ID:F3zpbMk0
先輩「・・・でもさ、真鍋さん。少しは遊びなよ」

和「・・・・・・どういう、意味です?」

先輩「あー変な意味じゃないよ。そのまんまの意味。真鍋さんは少し働きすぎだと思うのよ」

和「・・・そうですかね・・・」

先輩「そんだけ日々働いてればさ、やりがいも感じるだろうけど、息抜きも必要よ?」

確かに私は、大学に入ってからは学友会の運営に付きっきりだ。

友達は出来たけれど、その人たちと一緒に遊んだ記憶はあまりない。

先輩「げ、やばっ、もうこんな時間。次の授業、遅刻厳禁の授業なんだ。それじゃ後で!」

和「はい。また後で」

先輩は走り出し、嵐のように去っていった。
86 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:05:21.72 ID:F3zpbMk0
和「やりがい・・・か」

先輩が言っていた言葉を思い返す。

高校の頃は、生徒会役員として、3年間頑張ってきた。

あの頃の仕事が辛くなかったかと言えば嘘になる。

でも、あの頃は、仕事に追われながらも、やりがいを感じていたのは確かだ。

今は、どうだろうか。

今の仕事が嫌いなわけではない。好きでやっているというのは本当だ。

でも、あの頃と今では、何かが、違っていた。

何かが足りない、そんな気がしたのだった。
87 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:05:55.57 ID:F3zpbMk0
・・・・・・
・・・・
・・


司会「では、これで今日の総会を終わります」

総会の終わりの言葉と共に、会議室が賑やかになる。

先輩「いやー、終わった終わった」

和「お疲れ様です、先輩」

先輩「真鍋さんもお疲れ。今日もバッチリだったわね」

和「そんなことないです。まだまだ勉強不足です」

先輩「あはは、真鍋さんで勉強不足なら、私はどうなっちゃうのよー」

先輩は笑いながら答えた。
88 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:06:45.89 ID:F3zpbMk0
先輩「ま、とりあえずこれで今年の会議も無事終えたし、今からみんなで遊びに行かない?」

会員「あ、賛成ですー。駅前に出来たカジュアルショップ、行きましょうよ」

先輩の誘いに、他の会員たちも賛同の意を示した。

和「すいません、私はちょっと・・・」

先輩「ん?この後用事あったっけ?」

和「いえ、今回の議事録作成と、年明けの総会の資料作成をしたいので・・・」

先輩「もう来年のこと考えてるの?そんなのまた今度でいいわよ〜」

和「でもテスト期間と重なってますし、年末は色々立て込むので・・・」

先輩「・・・そう、なら仕方ないわね。じゃあまたの機会ね」

和「はい、すいません。では私は失礼します」

私は一礼して会議室を後にした。
89 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:07:20.20 ID:F3zpbMk0
慣れきった通学路を歩きながら、私は今日の出来事を思い返していた。

何故、先輩の誘いを断ったのか。

いくら忙しい時期だからといっても、今日遊びに行くことくらい出来たはずだ。

先輩と遊びに行くのが、億劫だったわけではない。

もしかしたら私は、自分を追い詰めたかったのかもしれない。

やるべきことを、無理矢理増やして、仕事量を増やして、

やりがいの感じられない今を、変えたかったのかもしれない。

しかし、そんな程度の事で、現状が変わる気は、しなかった。
90 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:08:00.83 ID:F3zpbMk0
家に帰って鞄から携帯を取り出すと、着信が来ていた。

和「・・・唯?」

ディスプレイには『平沢唯』の文字が映し出されていた。

ほんの10分ほど前に電話が鳴っていたらしい。

歩いていたから、バイブレーションに気づかなかったようだ。

私は携帯を開いたまま、履歴から唯に着信を返した。

・・・、・・・

唯「あ、もしもし和ちゃん?」

和「ええ、どうしたの?唯」
91 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:08:42.35 ID:F3zpbMk0
唯「えっとね、もうすぐクリスマスじゃん?」

和「そうね。この間学園祭だと思ったら、もうそんな季節ね」

一ヶ月ほど前、3年生となった梓ちゃんに誘われ、私たちは桜高の学園祭に行った。

梓ちゃん率いる新生けいおん部の演奏を聴いたのも、まだ記憶に新しい。

唯「今年もウチでクリスマスパーティーやろうと思ってるの」

和「あらそうなの。けいおん部で集まるのかしら?」

唯「うんっ、そうだよ。それでね、和ちゃんも是非ウチに来てよ!」

和「・・・いい、の?・・・久しぶりにけいおん部が集まるチャンスじゃない」
92 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:09:13.17 ID:F3zpbMk0
唯「だから誘ってるんだよ!和ちゃんも一緒にパーティーしようよ!」

和「・・・そう、じゃあ、参加させてもらおうかしら」

唯「やった〜!あ、日にちは25日なんだけど、大丈夫?」

和「ええ、大丈夫よ。25日ね」

唯「うん!楽しみにしてるよ〜。じゃあまた今度ね!」

和「こちらこそ楽しみにしてるわ。それじゃあね」

私は唯と約束を交わし、電話を切った。

和「・・・・・・クリスマスパーティーか・・・」
93 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:10:19.56 ID:F3zpbMk0
唯との短い会話で、私の心は妙に軽くなった。

高校時代と今の違い、それは―――唯が、すぐ隣にいないことだ。

高校生になって、唯が軽音部に入って安心した反面、複雑な想いもあった。

小さい頃からずっと面倒を見てきた唯は、いつしか傍にいるのが当たり前になっていた。

だから、唯が自分でやりたいことを見つけ、自立し始めた時、私は少し、寂しかった。

けれども唯は、ずっと、私と一緒にいてくれた。それが嬉しかった。

でも、大学に入ってからは、私の心はどこか穴が開いたようになってしまった。

唯が隣にいないことが、こんなにも寂しいことだとは思わなかった。

私はずっと、唯を支えてるつもりで、実は唯に支えられていたのかもしれない。
94 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:10:51.14 ID:F3zpbMk0
だから、唯に誘われた時、私の心は支えを取り戻したように、軽くなったのだ。

まだ、唯とは別の道を歩んでいることが、私自身受け入れられてないのだろう。

どうにもならないことをいつまでも悩んでいる時点で、私はまだ子供だ。

和「・・・はぁ、ネガティブなことばかり考えてちゃ駄目ね」

私は長々とした思考を中断して、議事録を作るため、パソコンに向かうことにした。
95 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:11:52.12 ID:F3zpbMk0
数週間後


あっという間に日にちは過ぎ去り、25日になった。

町中がクリスマスムード一色の中、私は唯の家へ向かっていた。

今日は唯の家でクリスマスパーティーが開かれる。

毎年プレゼント交換をやっていたので、今年もやるのかと思ったら、やらないらしい。

理由を聞いたところ『子供っぽいから』とかよく分からない理由だった。

相変わらず、唯の考えていることはどこかずれていると思う。

なんてことを考えているうちに、唯の家に着いた。
96 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:12:22.09 ID:F3zpbMk0
ピンポーン

唯「はーい」

ガチャ

和「久しぶり、唯」

唯「あ、和ちゃん!ようこそー!ささ、入って」

和「お邪魔するわね」

私は靴を脱いで、部屋へと案内された。
97 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:12:58.58 ID:F3zpbMk0
澪「お、和、久しぶりだな」

紬「和ちゃんこんばんわ〜」

律「よう、和、待ってたぜ!」

梓「和さん、お久しぶりです」

憂「こんばんわ、和さん」

和「あら、みんな揃ってたの」

まだ約束の時間まで15分以上あるのに、もうおなじみのメンバーが揃っていた。
98 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:13:46.57 ID:F3zpbMk0
和「普段は時間通りに揃わなそうなメンバーなのに、今日はみんな早いのね」

律「おう!準備がいろいろあったからな!」

澪「おい、律!」

律「あっ・・・な、何でも無いぜ!今日は・・・その、み、みんなで集まるのが嬉しくて早く集まったんだ!」

和「・・・?」

また律が、よからぬ事を考えているようだったが、深く追求するのはやめておいた。

唯「それじゃあ時間は少し早いけど、パーティー始めよっか」
99 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:14:42.86 ID:F3zpbMk0
「かんぱーい!!!」

全員の掛け声と共に、グラスをぶつける音が響いた。

律「もう待ちきれねー!どの料理も旨そー!」

和「今年はすごい量ね。全部憂が作ったの?」

憂「いえ、今年は紬さんも手伝ってくれたんです」

紬「張り切りすぎちゃった〜♪」

机の上には数え切れないほどの料理が並んでいた。

唯「私も飾りつけ、頑張りました!」

梓「威張れることじゃないですよ、唯先輩・・・」
100 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:15:23.48 ID:F3zpbMk0
・・・・・・
・・・・
・・


律「それじゃあ宴もたけなわということで・・・」

律が鞄から何かを取り出した。

律「ジャジャーン!大人への階段、ビールでーす!」

澪「って駄目だろっ!」ゴチン!

律「いってー、せっかくウチの冷蔵庫から盗んできたのに・・・」

和「ふふっ、相変わらずね」

この懐かしい雰囲気に触れているのが、何だか心地よかった。
101 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:16:18.56 ID:F3zpbMk0
唯「はいみんなどいてどいてー、ケーキ様の入場だよー」

台所から唯と憂が、ケーキを持ってやってきた。

それほど大きいものではなく、人数分で分けたらかなり小さくなってしまうようなものだ。

和「今年のケーキは小さめなのね」

紬「・・・りょ、料理を作りすぎちゃったから!」

澪「そ、それに甘いものは控えたほうがいいし、な」

和「・・・?」

何かをたくらんでるのは、律だけじゃないみたいだ。
102 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:17:03.05 ID:F3zpbMk0
和「でもケーキを7等分って・・・難しいわね」

憂「任せてー」

憂がそう言うと、ためらい無くケーキに包丁を入れた。

そして瞬く間にケーキは綺麗に7等分され、それぞれのお皿の上に盛り付けられた。

梓「憂・・・凄い・・・」

澪「良く出来た、妹だな・・・」

憂「それじゃ、みんな、食べましょう」

憂は満面の笑みで、返事をした。
103 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:17:59.40 ID:F3zpbMk0
その後、ケーキを食べ、ゲームや話をしたりし、クリスマス会は大いに盛り上がった。

澪はやっぱりサンタ服を着せられたり、梓ちゃんも何故か着せられ、結構ノリノリだったり

ボードゲームでムギが圧倒的な強さを見せたり、楽しかったことは挙げればきりが無い。

時間もあっという間に過ぎ、気づけば日付が変わる頃となっていた。

はしゃぎすぎた分、今はみんなゆっくりとテレビを見ている。

和「・・・今年も終わりね・・・」

テレビでは司会者が必死にクリスマスムードを盛り上げようとしている。

でも日付が変われば、一気に世間は新年へ向けて雰囲気を変える。

今年のクリスマスは、もう残り5分を切っていた。
104 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:18:33.47 ID:F3zpbMk0
憂「私、食器とか片付けてきちゃいますね」

唯「あ、私も!」

唯と憂がおもむろに立ち上がる。

和「私も手伝おうか?」

唯「いいよぉ、和ちゃんはお客さんなんだし、休んでて」

和「そう?」

昔なら唯はもう少し、私を頼っていたかもしれない。

でももう、唯は私の傍にはいない。
105 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:19:43.72 ID:F3zpbMk0
気づけはもうクリスマスの終わりまで、本当に数えるほどになっていた。

時計の秒針が、頂点へと向かっていく。

10・・・9・・・8・・・

夢のようなこの時間も、終わりに近づく。

クリスマスが終わることが、こんなに寂しく感じられたのは初めてだ。

5・・・4・・・

私は本当に、唯たちに助けられてばかりだな。

3・・・2・・・

律「おーい、和ー」

なんだかネガティブになっていた私に、律が声をかけた。

和「どうしたの?り・・・」


「ハッピーバースデー!!」


部屋中にクラッカーの音が鳴り響き、色とりどりの紙テープが舞った。
106 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:20:32.00 ID:F3zpbMk0
和「え・・・?」

突然の出来事に、私はどうすることも出来なかった。

唯「はいみんなどいたどいたー!バースデーケーキ様の入場だよー!」

憂「和さん、誕生日おめでとうございます!」

唯と憂が持ってきたケーキは、先ほどのとは比べ物にならないほど巨大なケーキだった。

上には大量のイチゴが飾り付けられている。

和「これって・・・?」

唯「お誕生日おめでとう、和ちゃん♪」

・・・今日は12月26日、私の、誕生日だった。
107 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:21:30.46 ID:F3zpbMk0
和「ふふっ、なるほどね・・・一本、取られたわ」

律「プレゼントもあるぜー!ほれほれー!」

みんなが私に綺麗に包装された箱を渡す。

和「始めから、こういう計画だったのね・・・」

唯「うん!だから25日にクリスマス会をやったんだよ!」

律「よーし、それじゃあこれからは和のお誕生日会だ!今日は徹夜で遊ぶぞー!」

和「・・・みんな、ありがとう」

私は本当に、この仲間たちに、感謝の気持ちでいっぱいだった。
108 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:22:17.33 ID:F3zpbMk0
・・・・・・
・・・・
・・


和「ん・・・」

寝てしまっていたみたいだ。

辺りを見回すと、全員力尽き、雑魚寝をしていた。

今、何時だろうか。

外はまだ暗い。

私は物音を立てないように、静かに部屋を出た。
109 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:22:59.59 ID:F3zpbMk0
家の扉を開けて、外に出る。

深夜ということもあり、外はかなり冷えていた。

和「ふぅ・・・」

私は壁に寄りかかり、空を見上げた。

和「・・・誕生日なんて、私が忘れてたわよ・・・」

独り言をつぶやきながら、今日のことを思い返した。

ふとその時、静かに扉が開き、唯が顔を出した。

唯「・・・和ちゃん?」

和「あら、唯。起こしちゃった?」
110 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:23:37.51 ID:F3zpbMk0
唯「うん、和ちゃんが外へ出てくの、見えたから」

和「そう、それは悪かったわ」

唯「・・・外は寒いよ。はい、これ」

唯はそう言うと、長いマフラーを差し出した。

唯「二人で巻けば、あったかあったか、だよ」

和「・・・そうね」

私たちは、マフラーを一緒に首に巻いた。
111 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:24:08.10 ID:F3zpbMk0
和「・・・今日の企画、唯が考えたの?」

唯「うんっ、そうだよ」

和「そう・・・驚いたわ」

唯「えへへ」

こうして唯と二人きりで話すのは、久しぶりだ。

唯と話しているだけで、私の心は温まってゆく。
112 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:24:46.65 ID:F3zpbMk0
唯「和ちゃん、元気出た?」

和「え・・・?」

唯「最近の和ちゃん、元気ないみたいだったから」

唯は、いつも私を、支えてくれる。

和「・・・すごいわね、唯は」

私は、唯がいなかったら、どうなっていたのだろう。

和「私は、色んなものを、唯に貰ってばかりね・・・」
113 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:25:24.64 ID:F3zpbMk0
唯「色んなもの?」

和「ええ、とっても大切なものを、あなたはいつもくれるわ」

和「今日だって、唯から、大切なものを貰った」

和「考えてみると、私は唯に何もしてあげられてないわ」

風が、少し強く吹いた。

唯「・・・ううん、そんなことないよ」

唯は、静かに答えた。
114 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:26:18.45 ID:F3zpbMk0
唯「いつも私に良くしてもらってるのは、和ちゃんだよ」

私は、風の冷たさを感じなかった。

和「・・・唯は、優しいのね」

唯は優しすぎるから、ついその優しさに甘えてしまう。

あなたに伝えなくてはいけない言葉を、後回しにしてしまう。

和「唯・・・」

あなたは、いつも私の傍にいてくれた。

だから、あなたに伝えたい、ありったけの、感謝の気持ちを――


和「・・・ありがとう、唯」
115 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:27:06.70 ID:F3zpbMk0
唯「・・・お礼を言うのは私のほうだよ」

唯「いつも、私の傍にいてくれて、ありがとう、和ちゃん」

和「・・・続きを先に言うなんて、ずるいわ」

唯「えへへ、早い者勝ちだよ」

唯はそういうと、静かに寄りかかってきた。

唯の体は、温かかった。
116 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:27:49.26 ID:F3zpbMk0
和「唯が傍にいるのが、当たり前じゃなくなっちゃったんだものね・・・」

和「いなくなって、初めて気づくなんて、皮肉よね・・・」

風が再び強く吹き、私たちは身を寄せ合った。

私は、意を決して、口を開いた。

和「唯、笑わないで、聞いてくれる?」

唯「うん・・・」

和「ずっと、友達で、いてね」

唯「・・・うん!」

唯はとびっきりの笑顔で、答えた。
117 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:28:40.37 ID:F3zpbMk0
和「・・・寒いし、家に入ろっか」

唯「そうだね・・・・・・あっ」

唯が空を見上げたので、私もつられて空を見上げる。

和「あ・・・」

暗闇に覆われた空に、白い雪がちらつき始めた。

唯「ホワイトバースデー、だねっ」

和「ふふっ、何よそれ」

お互いの吐く息が、白く輝いていた。

唯「・・・和ちゃん、お誕生日、おめでとう」

和「・・・ありがとう、唯」

白い雪は少しずつ、町を銀世界に、染めていった。
118 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:29:16.80 ID:F3zpbMk0
数週間後


年も明け、冬休みも終わり、私は再び普段の生活へと戻った。

今日は学友会の総会の日。

資料もしっかりと準備してきている。

先輩「お、真鍋さん、あけおめ〜」

和「あけましておめでとうございます。先輩」

先輩と顔を合わすのも、今年初だ。

先輩「さて、新年一発目の会議、頑張りますかぁ」
119 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:30:04.00 ID:F3zpbMk0
・・・・・・
・・・・
・・


先輩「ふー、終わったぁ」

和「お疲れ様です」

先輩「いやー、新年ってこともあってだらけてたけど、真鍋さんがいて助かったわ。フォローありがとね」

和「お役に立てたのなら、嬉しいです」

会議も終わり、各自が帰る支度を始めた。

先輩「さて、帰りますかぁ」

和「あ、先輩・・・」

私は先輩に、提案をした。

和「もしよければ、これからどこか遊びに行きませんか?」
120 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:30:52.32 ID:F3zpbMk0
先輩「・・・真鍋さんが珍しいねぇ、テスト期間で忙しいんじゃないの?」

和「私、もう頑張るのは、やめたんです」

先輩「・・・そっか、そのほうがいいよ。じゃあどこ行く?」

和「おまかせします。先輩の好きなところで」

これからは一人で頑張るより、傍にいてくれる人を大切にしたい。

大切な親友から教えてもらったことだ。

和「先輩・・・」

そして、もう一つ、教わった大切なこと。

それは、ありがとうの、感謝の気持ち。


和「・・・ありがとう、ございます」


私は頭を下げる振りをして、恥ずかしさで赤くなった顔を隠したのだった。





終わり
121 : ◆EsB0oaQ6E6 [sage]:2010/11/03(水) 11:31:57.66 ID:F3zpbMk0
>>80
ごめんなさい、四曲目でした。
まとめるときとかは訂正お願いします。
次は五曲目です。
122 : ◆jaFeOXeRoQ :2010/11/03(水) 13:01:12.90 ID:Gol.gY20
五曲目投下します
123 : ◆jaFeOXeRoQ :2010/11/03(水) 13:01:50.74 ID:Gol.gY20
唯「運命のパートナー?」


11月の半ば、N女子大。

唯「今日ね、うちに春がくるんだよ!」

紬「まぁ、ステキね!」

律「いや、もう冬なんだけど。」

澪「唯、まだ寝ぼけてるのか?」

唯「違うよ!春だよ、春くん!」

大学生活も一年半が過ぎて、もうすぐ20歳。

私にも、ついに春がやってきました。
124 : ◆jaFeOXeRoQ :2010/11/03(水) 13:02:53.25 ID:Gol.gY20
彼の名前は渡橋 春(とばし はる)くんっていいます。

現在16歳、高校2年生です。

出会いのきっかけは、憂にもらった手袋。

彼が私の落とした手袋を拾って届けてくれたのがはじまりでした。

春「はぁ、はぁ、すみません!手袋、落としましたよ!」

唯「え?私?」

春「はぁ、はぁ。コンビニの出口でこれ・・・」

唯「あっ!妹に貰った大切な手袋なんだ。本当にありがとう!」

春「はぁ、はぁ。声かけたんだけど、気付かなかったから・・・」

唯「すごい汗!お礼にお茶でも飲まない?お姉さんがおごっちゃうよ!」

春「そんな、でも悪いですし。」

唯「いいからいいから。手袋を届けてくれたお礼だよ!」

私は遠慮する彼を引っ張って近くの喫茶店に入りました。

駅前にあるおしゃれなカフェ。大学生にもなるとこんなお店にも入っちゃうんです。
125 : ◆jaFeOXeRoQ :2010/11/03(水) 13:04:12.88 ID:Gol.gY20
内装もすごくおしゃれなお店。やっぱり私には敷居が高かったかな・・・

そういえば、男の子と二人でお茶するなんてはじめてかも。

唯「何でも好きなもの頼んでいいからね!」

春「は、はい。どうも。」

唯(あれ、思ったより高い・・・)

春「じゃあ、いちごパフェ・・・じゃなくてコーヒーブラックで。」

唯「おぉ!ブラック飲めるんだ?大人だねー。」

春「はい、まぁ・・・」

唯「いちごパフェもおいしいよー。」

春(苦い・・・パフェにすれば良かったかな。)

春くんは近くの高校に通う一年生だそうです。

学校のこと、部活のこと、いろんなことをお話しして、すごく楽しかったな。

暗くなるまでおしゃべりして、帰りには互いにメールアドレスを交換しました。
126 : ◆jaFeOXeRoQ :2010/11/03(水) 13:05:16.78 ID:Gol.gY20
それから私たちは、頻繁にメールを交わすようになったんです。

そんなある日のメール。

唯『最近どう?学校は楽しい?』

春『楽しいですけど、勉強が苦手です』

唯『わかるわかる!私も苦手だよー』

春『実は、この前の中間テストで追試になっちゃって』

唯『あはは、大丈夫だよ!私も追試だったけど、なんとかなったもん!^^v』

春『でも今度赤点とったら親に部活禁止にされちゃうんです><』

唯『しょうがないなぁ。それじゃあお姉さんが家庭教師してあげよう!』

こうして週に一回、春くんの勉強を見てあげることになりました。
127 : ◆jaFeOXeRoQ :2010/11/03(水) 13:06:37.44 ID:Gol.gY20
期末試験の前日、私たちは最後の追い込みに入っていました。

ちょっと苦手意識が強いけど、飲み込みは早いみたい。

この調子なら、赤点の心配はなさそうです。

唯「うん、いい感じだね!これならいけるんじゃない?」

春「唯さん。もし今度の期末テストで90点以上とれたら、デートしてくれますか?」

唯「え、デート?」

春「デートじゃなくてもどこかに遊びにいく、とか・・・」

唯「いいね!じゃあ遊園地なんてどうかな?」

私たちにとってはじめての、デートの約束でした。

春くんと遊園地、楽しみだなぁ。
128 : ◆jaFeOXeRoQ :2010/11/03(水) 13:07:24.44 ID:Gol.gY20
そして一週間後、春くんから電話がかかってきました。

なんだか声のトーンが落ち込んでるみたい。

唯「どうしたの?また追試だったとか?」

春「テスト、89点だったんです・・・」

唯「すごいよ!がんばったね!」

春「でも、90点取らないと遊園地に行けないですから・・・」

唯「行こうよ、遊園地。私も行きたいもん!」

次の休みの日、二人で近所の小さな遊園地に行きました。

二人で乗ったジェットコースター、メリーゴーランド、観覧車。

今でも大切な思い出です。

生まれて初めての告白を受けたのは、その観覧車の中。

それならお友達から、って感じで私たちの交際は始まりました。
129 : ◆jaFeOXeRoQ :2010/11/03(水) 13:08:26.83 ID:Gol.gY20
二人で撮った写真を眺めて思い出に浸っていたらあっという間に時間が過ぎていきます。

約束の時間になって、春くんが私のマンションにやってきました。

唯「雨だねぇ。」

春「土砂降りですね。」

唯「今日は一日のんびり部屋で遊ぼっか。」

春「あ、俺ゲーム持ってきたんです。」

唯「いいね、やろうやろう!」

春「このソフト、結構人気なんですよ。」

唯「うぅん、難しいな。春くん、お願い!」

春「ここはこうして・・・」

唯「おおっ!じょうず!」

しばらく二人でテレビゲームをして遊びました。

春くんはゲームがとっても上手です。
130 : ◆jaFeOXeRoQ :2010/11/03(水) 13:09:34.13 ID:Gol.gY20
ひと段落したら、お茶を入れて一休み。

小さなソファーに寄り添って座ります。

唯「もう知り合って一年かぁ。初めて会ったのは春くんが15歳の時だったよね。」

春「俺が唯さんの手袋を拾ったことから始まったんですよね。」

唯「不思議な縁だよねぇ。」

春「・・・俺、唯さんとずっと一緒にいたいです。」

唯「二十歳になっても、百歳になっても?」

春「もちろんです。約束します。」

唯「ふふ、ずっと一緒にいてね。約束だよ?」

部屋の中で、指切り。

その後も、二人きりで甘い時間を過ごしました。
131 : ◆jaFeOXeRoQ :2010/11/03(水) 13:10:28.50 ID:Gol.gY20
翌日はサークル部屋でいつものティータイム。

今日は久しぶりにメンバー五人が集まりました。

年頃の女の子が集まってするのはもちろん恋愛トーク。

高校生の頃にはなかった光景です。

唯「でね、春くんがさぁ・・・」

梓「唯先輩、最近幸せそうですね。」

紬「うふふ。恋する乙女って感じね。」

唯「えへへー。」

澪「ふふ、私たちもそろそろ相手をさがさないとな。」

律「あれ、言ってなかったっけ?小学校の同級生で公人っていたろ?あいつと・・・」

紬「私もパーティで知り合った方と・・・」

梓「実はライブハウスで・・・」


澪「・・・・・・ええええええええぇ!?」


おしまい
132 : ◆jaFeOXeRoQ :2010/11/03(水) 13:12:32.46 ID:Gol.gY20
以上です。
おそまつさまでした。
133 : ◆59JcttAZqc [sage]:2010/11/03(水) 14:00:33.31 ID:Dc03aj20
場違いな六曲目、投下しますー。
134 : ◆59JcttAZqc [sage]:2010/11/03(水) 14:02:15.35 ID:Dc03aj20
「うわあ、人いっぱいだあ……」

ギターを手に持ったまま、舞台袖から観客の数を数える。

「そりゃあ新入生全員来るからね」
「大丈夫だよ、梓ちゃん!今までいっぱい練習してきたんだし!」
「うん……。純、憂、ありがと」

そうだよね、何も心配すること無いよね。

「梓、もうすぐ出番だよ」
「う、うん……」
「頑張って、梓ちゃん!」

私は頷くと、ステージ上に上がった。
もうすぐ、幕が開く。
私は大きく深呼吸した。

――――― ――
135 : ◆59JcttAZqc [sage]:2010/11/03(水) 14:03:59.43 ID:Dc03aj20
澪先輩は覚えているだろうか。私に「これが私たちにとって最高の曲なんだ」
と言っていたこと。

いつの日のことだっただろう。
確か、まだ私が入部して間もない頃。
辞めようかと迷っていたとき、澪先輩はそう言って、電話越しに歌ってくれた。
今思えばあの恥ずかしがり屋の澪先輩が、私のためにそれを我慢して歌ってくれてた
んだなあ、と嬉しくなる。

「梓。私な、軽音部の皆でこの曲演奏するの、すごく楽しくて、すごく好きなんだ。
最初の学園祭のことは思い出したくもないけど……。だから、梓。私、梓とも
一緒に演奏したいんだ。五人になった軽音部のサウンド、きっと良くなると思うし、
唯や律だってやるときはやるし……。五人でやったらもっと、楽しいと思う」

澪先輩は、そう言って私に自分の想いをぶつけてくれた。

澪先輩。
私、澪先輩の言葉、信じてみてよかったです。
軽音部に入って、良かったです。
136 : ◆59JcttAZqc [sage]:2010/11/03(水) 14:05:44.59 ID:Dc03aj20
そして舞い戻った軽音部で待っていたのはやっぱり、練習の日々ではなく、
お茶会の日々。
初めは「練習しましょうよ!」と口を酸っぱくしていた私も、いつのまにか
それに馴染んでしまっていた。

「お茶会がなきゃ放課後ティータイムじゃないもんね」

そう言って笑ったのは誰だっけ。
あぁ、そうだ。ムギ先輩。

「梓ちゃん、私たちが卒業してもお茶会は続けてね!」

大丈夫ですよ、ムギ先輩。
「お茶、お茶!」とうるさい先生のためにも、お茶会、続けてます。
憂がほとんどしてくれているんですが。

ムギ先輩も、見に来てくれてるかな。
そういえば、初めてのライブのとき、こうして幕が開く前、緊張が私を呑み込もうとして
いたとき、突然ムギ先輩は歌い始めた。
唯先輩はギターを忘れてその場にいなかったし、澪先輩も私と一緒でカチコチで、
律先輩だって落ち着きなかった。

「ムギ先輩?」
「皆、唯ちゃんきっとすぐ戻ってくるし大丈夫だよ!私たちは出来る限りのことを
やって唯ちゃんを待ってよう」

ムギ先輩はそう言って歌い続けた。
律先輩が、そして澪先輩が、一緒に口ずさむ。
気がつくと、私も一緒になって歌っていた。
二番に入ったとき、幕は開いた。
いつのまにか、私の中の緊張は溶けて消えていた。

ムギ先輩がさりげなく教えてくれた緊張の解消法。
その時の曲も、やっぱりあの曲だった。
137 : ◆59JcttAZqc [sage]:2010/11/03(水) 14:07:29.07 ID:Dc03aj20
「この曲はな、私たちの本当の意味での最初の曲」

律先輩はそう誇らしげに言っていたっけ。
確か初め、曲だけ作って歌詞は考えてなかったんだよなあ、とも。
それはあんまり誇らしげには言えないことだと思うけど。

律先輩は、本当に大雑把で元気だけが取り柄のような人で。
だけど、無責任なように見えて、皆をちゃんと最後まで引っ張ってくれて、軽音部のことを
ちゃんと考えてくれていた。

「梓、私たちの曲、ひとまず全部梓に預ける。頑張ってくれよ、部長」

律先輩は私の頭を優しく叩くと、「大丈夫だよ、んな泣きそうな顔しなくても」
と笑った。

「私だって部長出来たんだし、梓にできないわけないだろ」

そして、律先輩は私に訊ねた。
「私たちの曲を好きか」と。

「当たり前です」
「うん、私も大好き。だから全部覚えとけよ、私たちの曲。それで梓が卒業するとき、
梓の作った新しい極も含めて全部、また新しい部員に預けて来い」
「はい……」
「だーかーら。そんな顔するんじゃねーの。私たちはずーっと仲間だろ?唯語で言うと、
放課後ティータイムはいつまでも放課後なんだから」

あの時、律先輩だって泣きそうになってたのに。
最後までずっと、笑ってた。

ねえ律先輩。
私、ちゃんとこの軽音部の部長、出来てますか?
放課後ティータイムの一人として、この場所に立っていいですか?
138 : ◆59JcttAZqc [sage]:2010/11/03(水) 14:08:45.73 ID:Dc03aj20


「大丈夫だよ、あずにゃん!」

突然、懐かしい声が聞こえた。
声のしたほうを見ると、やっぱり、唯先輩がいた。
舞台袖で、私にもう一度、唯先輩は叫んでくれた。

「大丈夫だよ」と。
独りじゃないよ、と。

139 : ◆59JcttAZqc [sage]:2010/11/03(水) 14:10:16.87 ID:Dc03aj20
「あずにゃあん」

唯先輩はいつでも渡しに抱きついてきて、練習して下さいと言っても中々してくれなかった。
でも、いざステージに立つと、唯先輩はすごく輝いていて、かっこよかった。
私は唯先輩が立っていたこのステージに、少しでも近付きたくて入部したんだっけ。

あの時の新歓ライブ。私は未だに忘れていない。
唯先輩の、澪先輩の歌声。
重なり合う音。

そして去年の新歓ライブで、私はあの時憧れた先輩たちと一緒に演奏した。

そして今。
私はこの場所に、一人で立っている。

「ねえあずにゃん。皆で演奏するの、楽しいねっ」

唯先輩の笑顔が浮かぶ。
卒業式の日、先輩たちは私の為に歌ってくれた。
私は卒業していく先輩たちのために、演奏した。

重なった音が、私の身体を震わせた。

「もう一回!」

私の始めての学園祭の時のように、曲が終わると唯先輩は叫んだ。
楽しくて、楽しくて、仕方がなくて。
いつのまにか涙は乾き、私は笑顔になっていた。
140 : ◆59JcttAZqc [sage]:2010/11/03(水) 14:14:30.80 ID:Dc03aj20
演奏することは楽しいんだと唯先輩から教えられた。
演奏することを楽しむんだと唯先輩は言っていた。

それを聞いたとき、私は「あぁ、そっか」と思った。
だから私は、大して上手くもなかった先輩たちの演奏に、あんなに心が動かされたんだと。

でも、それを聞いた時の私は、一人になっちゃうと焦って、怖くて、
「一人じゃ演奏したって楽しくないです!」と先輩にすがり付いてしまった。
唯先輩は困ったような顔をして、ただ私の頭を撫でてくれていた。

結局、私は最後の最後まで先輩たちに迷惑を掛けてしまった。
先輩たちが部室に来なくなって暫く、私は部室にいることさえ出来なかった。
そんな私を元気付けたのは、ほかでもない、歌だった。

先輩たちが残していった、放課後ティータイムの記憶。

大丈夫、私たちはずっと一緒だよ。
そんな声が、先輩たちの演奏から聞こえた気がした。
141 : ◆59JcttAZqc [sage]:2010/11/03(水) 14:15:49.90 ID:Dc03aj20
そうだ、私はもうずっと唯先輩たちに会えないわけじゃない。
もうずっと、一緒に演奏できないわけじゃない。
私は、独りじゃない。

だから歌うよ、放課後ティータイムとして。
新しい放課後ティータイムをスタートさせるために。
私たちの、始まりの歌を。

――――― ――
142 : ◆59JcttAZqc [sage]:2010/11/03(水) 14:20:16.42 ID:Dc03aj20
幕が上がった。

先輩たちを心配させないように。
私は大丈夫だって伝えるために。
新たな部員のために、私は……!


「あずにゃん!」


唯先輩の声が。それに重なるように、「梓!」「梓ちゃん!」と優しい声が聞こえた。
振り向いて見てみると、唯先輩の隣に、他の先輩たちの姿もあった。

目が合う。
先輩たちが、頷いてくれる。
私も頷き返す。

すっと息を吸い込んだ。
今、このステージにいる私は一人だけど、独りじゃない。

「“私たち”の曲、聴いてください!『ふわふわ時間』!」

終わり。
143 : ◆59JcttAZqc [sage]:2010/11/03(水) 14:21:51.19 ID:Dc03aj20
あぁ、なんとか30分以内に終わらせられた……。
ぐだぐだ長くて読みにくくてすいません。

次は七曲目です。
144 : ◆S2uwo.Ayis [sage]:2010/11/03(水) 15:57:51.47 ID:4.KU3wDO
………な曲を歌います




145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 15:58:40.42 ID:4.KU3wDO
私が桜ヶ丘高校に合格して二日。

憂「ん……朝…」

目を開けると私の部屋の天井が見えた。枕元にはデジタル時計。いつもの起床時間を指してる。

顔を左に向けると

唯「……」

すぐ横のお姉ちゃんが仰向けで熟睡中。私はそのまま人差し指でお姉ちゃんのほっぺを軽く押す。
この弾力と柔らかさはクセになる。

唯「ん〜……」

憂「おっと」

慌てて引っ込めた。
お休みのじゃましてごめんね。
146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 15:59:26.67 ID:4.KU3wDO

私は朝ごはんを作るために体を起こそうとした。でも

唯「ん〜……ん」

憂「!」

寝返りをうった拍子に、お姉ちゃんの唇が私の唇に軽く押しつけられた。いわゆるキスしてる状態。
お姉ちゃんの乾いた唇と静かな鼻息が私を温める。

お姉ちゃんったら♪

そのまま最後にお姉ちゃんとキスした幼少期を思い出していると

唯「ん〜…ん?」

お姉ちゃんの目がほんの少しだけ開いた。

唯「んひゃ!?」

憂「お姉ちゃんおはよ♪」

私とキスしてるとわかると、お姉ちゃんは赤面しておおげさに私から離れた。
147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 15:59:59.02 ID:4.KU3wDO

憂「お姉ちゃんがしてきたんだよ?」

唯「ごっごめん!」

憂「謝んなくていいよぉ、姉妹だしいいじゃない」

唯「うぅぅ…」

そんなに私とキスするのが恥ずかしいのかな?
お姉ちゃんは夜使っていた毛布に真っ赤な顔をうずめて動かなくなった。なんという小動物。
朝ごはんができたら呼ぶことをお姉ちゃんに伝えて洗面台へ向かった。


――私がシチューをかき混ぜ温めていると

唯「……」

死角から顔だけ覗かせて私をじっと見る恥ずかしがり屋さんがいました。隠れたつもりなのかな?

憂「そんなところでどうしたの?」

唯「ばれた! 目が覚めちゃって寝れないよぉ」

憂「じゃ朝ごはん一緒に作ろ?」

唯「ん〜…いいよなんでも来なさい! フンス!」

憂「うん。 お鍋を見てて欲しいな」

唯「おっけぇ!」
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:00:28.35 ID:4.KU3wDO


――朝食を食べ終えた私たちは学校へむかった。

唯「えへへ〜合格おめでとう〜」

憂「もうそれ何十回も聞いたよ?」

唯「いいの♪」

私たちは道路脇に並ぶ桜を眺めながら歩いている。そんな中にお姉ちゃんの鼻歌が舞う。

お姉ちゃんは一昨日からルンルンです。私以上に合否の心配をしてくれるほどだからその反動だと思う。
その日からお姉ちゃんと一緒に寝るようになった。うれしいけど…もういいよね?

……今日は一昨日と違って抱き着かれないまま下駄箱に着いた。
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:01:09.13 ID:4.KU3wDO

i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||


始業式を終えて教室に着くと、中学時代の友達に会えた。

憂「鈴木さんと同じクラスだぁ」

純「おっ平沢さんじゃん」

軽い社交辞令を済ませた。

純「純でいいよ憂」

憂「そう? じゃ改めてよろしくね純ちゃん」

そうだ、たしか純ちゃんは音楽やってたっけ。

横から純ちゃんのお友達も加わり雑談した。その時に三人を軽音楽部に誘ってみた。
純ちゃんだけ釣れました♪
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:01:44.57 ID:4.KU3wDO


――軽音部を覗いた帰り際、下駄箱でツインテールの女の子と目があった。ちょっと冷めた雰囲気の漂う子だったなあ。


i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||AT NIGHT||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

唯「新入生連れてきてくれてアリガトね〜」

憂「うっうん…」

私は少しひきつった顔を見られないよう振り向かず、料理に集中しする。

結果は芳しくなかった。まさか軽音部のみなさんがメイドさんになってるとは……。純ちゃんも軽くヒイてた。

そんなお姉ちゃんは居間で一生懸命ギターを引きながらご飯を待っている。去年よりずっと頑張り屋さんでうれしいよ♪

……あれ、ギターの音が聞こえない?

振り向くと同じ場所でギターを抱えているお姉ちゃんと目が合った。
と同時にお姉ちゃんは慌ててギターの練習に戻った。
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:03:17.07 ID:4.KU3wDO

憂「ごはんもう少しだよ〜」

唯「ほっほい!」

お姉ちゃんのほっぺが若干赤くなってるのに気づいたけど、なんとなく声はかけなかった。お姉ちゃんはいつもよりジャカジャカと指を動かしている。

おっと、ご飯の炊ける音。

私は鍋の火を止めて炊飯器からお茶碗にご飯をついだ。

憂「ごはんだよ」

唯「ほいさ!」


――たびたびお姉ちゃんは箸を止めて私をぼーっと見た。そのたびに私は

憂「アイス遅くなっちゃうよ?」

唯「はっ! アイスアイス!」

うん、かわいい生き物です……けど…。



――お姉ちゃんは私より少し遅く食べ終えてアイスを舐めきると、駆け足でお風呂に入った。
というのもアイスを食べてる最中にもぼーっとして、シャツに甘い液体をこぼしたから。

私は液体を拭ききれてない床を濡れティッシュで上書きした。


……去年の年末にもこんなことがあったね。

お風呂場のトビラの閉まる音が響いた。やけによく聞こえた気がした。
152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:04:23.16 ID:4.KU3wDO


i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||AT BATHROOM||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||


唯「はぁ……」

なにやってるんだろわたし…。変なおねえちゃんだって思われたかなぁ…。

洗面台で自分の顔を見てみる。…しょげてるなあ私…。
シャツを脱いでブラをは…ずした。憂より小さい残パイが鏡に移る。

唯「こんな貧相な胸にも恋心って持てちゃうんだなぁ…」

何度目かわからない感想が口からこぼれた。
153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:04:57.15 ID:4.KU3wDO

――最初に憂を意識したのはいつだっけ……私が桜校に合格した時かな。

唯「やった! 和ちゃんとおんなじ学校に入れたよ!!」

憂「わぷっ!? だったらわたしも!」

唯「おお我が妹よ!」

和「二人とも落ち着きなさいよ、周りの視線釘づけじゃない」

小学校以来久しぶりに憂と抱き合って喜びを分かち合った。中学時代はほとんど活動しなくて、抱きつくなんてことはなかった。
抱き着いた時、懐かしい感触が私をほんわかにした。憂の体温ももちろんだけど、それ以上に胸の内から沸き上がる熱が私を気持ち良くした。

もっと憂に触れていたくなった、

それからはうれしいことがあるたびに私から抱き着いた、あの感触が忘れられなくて。クセになっちゃって。

――お風呂場を開けるとあったかな蒸気が流れ込んでくる。

唯「こんなのじゃない」

私が感じたいのはあの心の温もりだもん。
154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:06:25.90 ID:4.KU3wDO
私は床に座り込んでシャワーで髪を濡らし始める。身体だけはあったまる。


――事あるごとに抱きついて時には抱き合っていくうちに、込み上げてくる喜びはどんどん増していった。鼓動が以前より速くなっていくのもわかっていた。
この快感にずっと浸りたかった。憂はいつもうれしそうな顔をしてくれた。


――シャワーを止めてシャンプーで髪を洗う。少しして

唯「…ちょっとさむい」

4月なのに。
普段より素早く髪を洗ってシャワーで流し始める。やっぱり身体だけでも暖かくしてたい。


――快感が羞恥心に変わったのは去年のクリスマスの夜。軽音部のみんなとか和ちゃん、ついでにさわ子先生も交えて遊んだなぁ。

夜は憂と昔を思いだして、久しぶりに一緒にお休みすることになった。
……あの頃までは例の快感を寝るとき欲しがらなかったなぁ。
155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:06:55.99 ID:4.KU3wDO

唯「ぅ……ん……まだ夜…」

目覚めた時間は知らない。そんなこと気にしてられない状況が暗闇にセットされていた。

私は憂の左隣でゆとりをもって寝ていたはず。
でもいつのまにか憂と私は背中をくっつけあって寝ていた。寝てる間に毛布をお互いに取り合ってたみたいで、毛布は密着した私たちを包みこむようだった。

あの快感と熱が私の手を汗ばませた。

唯「ぅ〜ぃ」

漫画によくある、背中合わせで寝ている相手に呼びかけるシーンを再現してみた。優しい寝息だけが耳に聞こえる。

唯「……しつれいしま〜す」

小声でそう言うと、毛布の形がずれないよう憂の方に身体を向けくっついた。
そのまま憂のお腹を右腕で抱いた。
普段抱き着く時とは一味違う快感。ドクンドクンって胸の内から鳴る。それになんだか顔が熱い。


待って待って熱いなんてもんじゃないよこれ!?
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:07:30.03 ID:4.KU3wDO


唯「ぅ……ぃ…」

自分の胸の鼓動が耳に響く。額から一筋の汗が垂れ落ちた。
頭がぼうっとしてきた…。

思わず抱く力を強めた。

憂「んん……」

かすかに響く誘惑の声。
私の中でなにかが吹き飛ばされた。

唯「ふぅっ…ふぅっ」

呼吸が荒くなる。
私は毛布から右腕を抜いた。その汗ばんだ腕を憂の上をまたがせ、手の平を布団に広げた。冬の寒さなんて感じなかった。
そしてゆっくりゆっくりと上半身を浮かすと同時に左肘で支える。そこから右手に重心を傾けて、憂を真上から至近距離で見た。

唯「ぅぃ…ぅぃ…」

実の妹のほっぺを細めた目で見つめる。今までとは違う快感が私の中を暴れた。

唯「ひゅぅ…ぅぃ……」

自然に私は目を閉じる。そのまま憂のほっぺに顔を近づけていった。

とにかく憂のほっぺが欲しかった。
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:08:07.96 ID:4.KU3wDO

唯「はぁっはぁっ…」

心臓が爆発しそう…。いくつもの汗玉が私の頬をつたう。私の荒く生暖かい息が憂の頬からはね返って私に吹きかかってくる。

やがて憂の肌から発される体温層を抜けると、私の唇に柔らかい感触が伝わる。

憂のほっぺだぁ。
私の中の暴走が収束し始めた。代わりにかつてない量の快感が駆け巡る。
しかも私の上唇に憂の寝息か吹きかかってこそばゆい。今感じてる感触の全てが私をとろけさせる。
憂の臭い、憂の鼻息、憂の乾いた


ん?


なんでほっぺにキスしてるのに鼻息が私に?


思考停止していた頭でようやく浮かんだ疑問。でもそれを考えようとはしないで目をパッと開くと

憂の閉じた両目が目の前にあった。

………いつのまに寝がえりうったんだぁ…あはは……
ほっぺがすこしうごいたのがくちびるに伝わった……ううん…これほっぺじゃないや

くちびるじゃん
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:09:16.90 ID:4.KU3wDO

唯「ひゃいん!!!? いた!!」

電流がわたしの身体を流れた気がした。思わず憂から飛びのく。その拍子にベットから落ちた。

唯「はぁっはぁっはぁっ!」

息を吸うのもままならないので、呼吸が整うのを待った。

幸い憂は起きなかった。毛布はなんとか憂にかかっている。

冷たい床に大の字になった。
人差し指で自分の唇を優しくさする。さっきまで……憂の唇がふれてたんだよね…

唯「〜〜!」

再び心臓が高鳴る。自然に両手がほてる顔を覆う。身体が勝手に縮こまり床をごろごろと転げまわった。

ようやく落ち着いた。
するとクールダウンした頭が私に事実を伝えた。

唯「わたし……恋してたんだ…」

女の子に。妹に。それはあってはならない恋。
それを確認するように、体を起こして憂の横顔を見た。
視線が自然に唇に向かう。私の頭から湯気が出てる気がした。
159 : ◆S2uwo.Ayis [sage]:2010/11/03(水) 16:09:36.90 ID:4.KU3wDO

とにかくもう寝よう、こんなんじゃ体がもたない。
疲れた体というより心にむちうってなんとか立ち上がる。
その時ひんやりした感覚がお股からあった。
私は軽く右手でそこを押さえてみた。

あれ、おしっこ漏らしてる…。

ふれた部分から水気が伝わった。仕方ないから音をたてないように引き出しからパンツを取り替えて、湿ったパンツはビニール袋に入れて隠した。パジャマは…あきらめた。

――不意に浴室を叩く音がした。

憂「お風呂入りすぎ! はやく上がって!」

わしゃわしゃわしゃわしゃ。
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:10:43.03 ID:4.KU3wDO


i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||AT MIDNIGHT|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ねれない……。
久しぶりに一人になった真っ暗な自分の部屋で、私は床の上にうずくまっていた。

憂。憂。うい。「うい」

一日中頭から憂のことが離れなかった。

今日はいつにもまして憂を気にしてしまった。朝のキスのおかげ……せいだ。
興奮した。あのクリスマスの夜とおんなじだ。思い出すとまた身体が火照ってきた。

不意にあの日の憂の泣き声が再生された。記憶同士が密接に繋がってるからかな。

唯「心配掛けちゃったね…」

独り言を漏らした。
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:11:19.35 ID:4.KU3wDO


――恋を自覚した夜が過ぎた私は、憂と普段通りのやりとりができなかった。

……憂の料理中では

唯「……」ジー

憂「〜♪」クルッ

唯「!」

憂「?」

憂「ふふっもうちょっと待ってね」

唯「ぁぅ…」

憂「?」

……部屋で下着姿の憂を目撃した時

唯「うい〜遊ぼ…」

憂「ちょっと待ってて、服着させてね」

唯「…しっしつれいしました!!」

憂「? 階段走っちゃ危ないよ!」

……憂が私の宿題を助けてくれた時なんて

唯「アリガトうい〜ぎゅ〜」

憂「どういたしまして♪」

唯「ん〜……ん? ひぇっ!!? 」バッ

憂「えっえっ?? なんで急に離れちゃうの? 」

唯「ううんなんでもない!」

憂「? 顔赤いよ? 風邪? ちょっとおでこだして」

唯「ほっほんとになんでもないの!!」

憂「おねえちゃん……?」

……憂にさんざん不信がられてきた。
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:11:53.74 ID:4.KU3wDO

そして宿題を手伝ってくれたその日の深夜、とうとう

憂「お姉ちゃん」

唯「…ん? うい〜」

憂「…入っていい?」

唯「うっうん」

部屋のドアが開いた。部屋の外は真っ暗だった。

憂「……ねえお姉ちゃん」

唯「どうしたの? 電気つけていいよ」

憂「ううんいらない」

唯「…そう?」

憂「……わたし、お姉ちゃんに悪いことした…?」

唯「えっ!? してないしてない!」

憂「じゃぁなんで最近……わたしを避けてたの…」

唯「ぁぅっ…」

憂「…ねえ…」

唯「……」

憂の口から全く想定してなかった言葉が飛び出た。
私はただ憂と触れるたびにあの…キスがちらついて体が勝手に動いちゃうだけ。恥ずかしさで。

そっか、憂から見たらそう見えちゃうのか……。
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:12:35.14 ID:4.KU3wDO

暗闇で憂の顔は見えない。でもなんというか…悲しい気配が黒い影に纏われていた。

憂「…ごめんなさい……ヒック…」

無音の部屋に嗚咽が轟く。

今までの自分がバカに思えた。

なにが恋しただって? その恋の相手を泣かせといて。
なに挙動一つ驚いてんの? 世の中にありふれた行動でしょ。

なに泣かせてんの? 恋の相手である前に妹でしょ。

二つの嗚咽が部屋中に響いた……憂と私からだった。

唯「ごめんね…おねえちゃんが変になっちゃっただけなの……うえええん!!」

憂「……」

唯「ヒグッ…ごめんね…ごめんね…グシュッ…」

憂「……」

唯「…?」

右の頬を温かいものがおおった。とてもここちいい。

憂「おねえちゃん」

すぐ近くで憂の声がした。
この温かいものは憂の手だった。
憂は私のすぐ横にしゃがんだ。
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:13:18.63 ID:4.KU3wDO

憂「わたしこそごめんね。お姉ちゃんを困らせちゃうつもりはないの…」

唯「……憂は悪くないよ」

憂「…そんなことない」

唯「ううん、私がいけないの…」

憂「……」

唯「……」

憂「……オアイコにしない?」

唯「! うん」

憂「ふふっ」

目から熱い涙があふれた。その涙は右頬に添えられている憂の手にも流れた。


――あれから普段通りに接しようって頑張ったっけ。

唯「意識しない。憂は妹」

真っ暗な独房に零した、禁断の恋を封じるためのスローガン。私たちが仲直りしたあと作ったものだ。
もちろん憂は知らない。私の恋のことは話さなかった。
でもそれからの元通りな私を見て憂は安心したみたい。追求はされなかった。
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:14:13.05 ID:4.KU3wDO

でも結局

唯「元通りの元通りだね…はぁ」

あれから快感、ううん興奮を悟られない程度に抑えることは可能になっていた。
だから時々憂と一緒に寝ることもあった。その夜の夢はたいてい憂とのデートになるけど、夢ぐらいはいいよね。


なのに朝、起爆剤が投入された。


そのせいで朝より一層いや多層強く憂を意識してしまって、あの泣いた夜を再現しないか不安だった。

唯「っ!」

チリッと朝のキスが頭に浮かんだ。心音が鳴り響き顔が熱を帯びてくる。

唯「もう!!」

床を叩いた。一発。強く。沸き上がる感情を抑えつけるように。

麻薬のように心地良い興奮を受け入れた自分を戒めるために。

唯「わたしのバカァ…」

動物のぬいぐるみたちの目に抱かれて一晩中静かに泣いた。
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:15:02.23 ID:4.KU3wDO


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||||||||||||||||||||||||||||||||||MORNING IN CLASSROOM|||||||||||||||||||||||||||||||||
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お姉ちゃんが無理してる。

朝は私より早く起きてたし、私を見るたびなにかを我慢してるようだったし、なにより目が真っ赤だった。デジャブを感じた。
夜中に泣いてたのは明らか、それなのに私に偽りの元気を振る舞って、先に学校へ行ってしまった。

なんで相談してくれないの?
なんで私を避けるの?

あの夜に仲直りしたんじゃ「ちょっとうい!」

憂「ひゃっ!? 純ちゃん…」

純「大丈夫? 具合悪そうだよ」

憂「ううんなんでもないよ、えへっ」

純「も〜。じゃ憂はどう思う?」

憂「ん、なにが?」
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:15:51.11 ID:4.KU3wDO

純「女の子同士で付き合うの。この二人がどうしても知りたいって」

昨日のお友達二人が夕方遅くにクラブ見学に行ったら現場を目撃したらしい。

純「私は別に本人たちが良ければいいと思うのよ。でもこの二人がキモいキモいって」

憂「うん私も純ちゃんと同じだな。いいと思うよ」

HRをしに先生が来たので私たちは自分のクラスに戻った。クラスのみんなが席に着いた時、目立つツインテールが視界に映った。

――授業という名の馴れ合い時間の中お姉ちゃんのことで頭がいっぱいだった。


i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||AFTERSCHOOL||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||


帰りのHRが終わって憂鬱なまま教室を出た直後

純「うい!」

憂「純ちゃんどうしたの?」

純「いやカバン持たないで帰ろうって気?」

憂「…えへへ忘れてた」
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:16:44.51 ID:4.KU3wDO

相当周りが見えてなかったみたい。ありがとう純ちゃん。

私はカバンを取って来て、純ちゃんと並んで歩いた。お姉ちゃんたち軽音部はお弁当中だと思う。


純「憂も今日のお昼は外で済ますの?」

憂「うん、お弁当忘れちゃって」

食欲がでないよ。

純「…そっ。じゃ私ジャズ研の見学行くわ」

憂「いい先輩たちだといいね」

純「……」

憂「わっ!」

突然純ちゃんは私の正面に飛び立って私の目をじーっと見つめてきた。

純「…憂、今日変だよ? 本当に大丈夫?」

……話した方がいいのかな? ううん、これは私たち姉妹の大事な問題。

憂「そんなことないよ、純ちゃん気にしすぎ」

純「いんや変だね」

憂「……なにが?」

純「朝は言うまでもないし、憂がお弁当作らないわけないし」

憂「うっ…」

純「軽音部に誘ってくれたのは憂だよ? それなのに他の部活の見学行こうって私に、いい先輩だといいねって……」

たしかにその通りだった。特に最後の指摘は私の心を刺した。その行動は純ちゃんのことにもう無関心だって言ってるようなものだ。
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:17:16.51 ID:4.KU3wDO

私は自分のことを考えるあまり友達を蔑ろにするところだった。

純「ちょっと!? なにも泣くことはないでしょ!」

憂「えっ……ぁっ」

純「ほら拭くよ、ハンカチハンカチ…いたいた」

憂「ん……」

純「ンションショ」

憂「……」

純「はい終わったよ」

憂「…アリガトウ」

純「どういたしましてマドモアゼル♪」

憂「クスッなにそれぇ」

純「はははっ!」
憂「えへへっ」

ほんとはそこまで笑うことではなかったけど、笑った方が良い気がした。だってその方が気分がいいし♪

……そうだよね、友達に隠し事はだめだよね。

憂「純ちゃん、相談に乗って欲しいの」

純「ようやくね」

私は全て話した。お姉ちゃんの様子がおかしくなった最初のこと。あの仲直りした日のこと。
そして昨日と朝のこと。

純ちゃんは相槌をうちながら最後まで聞いてくれた。
シコリが取れたようだった。
170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:18:03.37 ID:4.KU3wDO

純「ん〜……確証はないんだけど…」

憂「うっ…うん、覚悟はできたよ」

純「憂のお姉さんは憂と距離置きたいんじゃ…うおお泣くな泣くな!! そういう意味じゃなくて!」

憂「…ふぇっ…? どういうこと?」

純「お二人さんの仲は中学でも有名になったほどでしょ、ていうよりお姉さんが憂に頼りっきりでしょ」

憂「それほどじゃないよぉ」

純「褒めてない褒めてない」

純ちゃんが言うには、お姉ちゃんは自立しようと頑張ってるんじゃないか、てことみたい。
……それでお姉ちゃんはあんなに驚くかな…?

純「まずは本人に聞くのが一番でしょ」

憂「でもお姉ちゃん話したくなさそうだよ……泣いちゃったし…」

純「その日のことももちろん考えた結果だよ。 ほらついさっきのこと思い出して」

ついさっき……私と純ちゃんが話してたとき…あっ

憂「…そうだね、うん。 アリガトウ!」

純「礼にはおよびませんよ♪ じゃ私クラブ見学してくわ」

憂「え〜軽音部入ろうよぉ」

純「考えとく〜」

憂「お願いね〜!」

ほんとうにありがとう純ちゃん。おかげで決心がついたよ。
171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:19:22.85 ID:4.KU3wDO
i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||EVENING||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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玄関の扉がゆっくり開く音がキッチンに聞こえてくる。間違いなくお姉ちゃんだ。

唯「……」

唯「……」

憂「お帰り!」

唯「! じゃっじゃぁわたし部屋で練習して」憂「ちょっと待って」

唯「っ!」

私の顔を見て逃げるように階段を駆け上がりかけたお姉ちゃんを呼び止めた。

唯「な…なぁに…」

振り向かずに発された声。それは震えていた。
多分私のこの一言がお姉ちゃんの体も震えさせることになりそう。

憂「お姉ちゃんが変になっちゃった、てどういうこと?」

唯「っ!!!」
172 : ◆S2uwo.Ayis [sage]:2010/11/03(水) 16:20:20.24 ID:4.KU3wDO

お姉ちゃんがびくついて振り向いた。驚愕を孕んだ顔は紅潮していた。

覚えてるんだね、あの日のこと。

唯「そっそんなこと言ったっけ〜…ははは…」

憂「どういうことなの?」

唯「………」

私が目に力をこめると、お姉ちゃんが私から目を離した。
その横顔は泣くのをこらえてるように見えた。

だめっここであきらめるなわたし。

唯「…ごめん…」

憂「…だめ、おしえて」

唯「……ふえぇ」

憂「わたしの方が泣きたいよ!!」

唯「ひっ!!」

おねがい、そんなに怯えないで。
階段でしゃがんだら危ないよ?


憂「私がどれだけ心配して……ヒック…」

泣いちゃだめ……お姉ちゃんだって泣きたいはずなのに…
173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:20:54.33 ID:4.KU3wDO

唯「……」

憂「なんでも…エグッ…そうだんしてくれていいのにぃ…ウゥッ…」

唯「! ……」

涙で視界がにじむ、景色が混ざる。
拭かなくちゃ。震える裾で目を拭おうとした。

唯「…むりだよ…相談なんてできないよぉ……」

憂「……なんでそんなこと言うの…」

唯「……ヒック…」

憂「……」

唯「……だってぜったい…ウッ…気持ち悪いって思うもん…」

憂「!」

やっと聞けた。
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:22:01.54 ID:4.KU3wDO

憂「どういうこと!?」

唯「ひゃい!? こっこないで!」

憂「こっち向いて!!」

唯「キャアア!!!」

憂「はっごめん!」

断片的にもお姉ちゃんから話を聞けたことにうれしくなったあまり、うずくまるお姉ちゃんにずかずかと歩み寄ってしまった。
そのまま私に背を向け怯えるお姉ちゃんの頬を両手で押さえて無理矢理振り向かせ、目と鼻の先にある私の顔を見させていた。

唯「おっおねがい…ハアッハアッ…はなして…」

お姉ちゃんの息がどんどん荒くなっていく。
すっかり熟れきった顔は涙でぐしょぐしょになって…エロい…なに考えてるのわたし!?

憂「…うん」

唯「ふゅぅっ! ふゅぃっ!」

解放されたお姉ちゃんは私から顔を背けて深呼吸した。
それでも耳まで赤い。

唯「ふゅぅ……」

憂「…ごめんね」

唯「…いいよ…わたしがへんなんだよ…」

憂「! そんなことない!」

唯「いもうとのことが好きでも?」
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:22:33.61 ID:4.KU3wDO

憂「…? 私だってお姉ちゃんのこと好きだよ?」

唯「そういう好きじゃないのぉ!!」

憂「!!」

突然お姉ちゃんが泣き腫らした両目を私に向け叫んだ。

……なんとなくお姉ちゃんの悩みがわかってしまった。

唯「愛なの!! わたしは憂を愛しちゃったの!! 今だってドキドキしちゃうしずっと前も!!! …」

昼間の会話がリピートされた。
同性愛。私は本人たちが良ければいい、と答えた。

唯「…ははっ気持ち悪いよね…すごく…気持ち悪い……うえええぇん!!!」

丸まったお姉ちゃんの背中がとても小さくみえた。

私はお姉ちゃんのことをどう思ってるんだろう?

そんな疑問が浮かんだ直後、その背中が愛おしく思えてきた。

唯「ごめんね…出てくよ…」

憂「えっ」

不意にお姉ちゃんは立ち上がったかと思うと、階段を駆け降りた。
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:24:23.80 ID:4.KU3wDO

憂「ちょっと!!!」

唯「ひゃっ!!?」

追いかけた私は階段の途中で飛び降りて距離を稼ぎ、玄関の扉の前でお姉ちゃんに抱き着けた。ふらつくのをなんとかたえて静止した。

唯「なんで…」


ねえ愛ってどういうもの? 一緒にいて幸せだって思うこと? 私恋したことがないから知らないんだあ。

じゃあこの気持ちが愛なんだよきっと。お姉ちゃんとずっとずぅっといたいっていうこの気持ちが。

女の子同士? しかも血の繋がった姉妹?

憂「小さな問題だよ」

唯「……憂?」

憂「おねえちゃん、ギュ〜」

唯「うっうい!?やっやめてへんになっちゃう!」

憂「もう心配しないでいいんだよ」

私を振りほどこうとしたお姉ちゃんの動きが止まった。

憂「私もお姉ちゃんのこと愛してたみたい」

唯「…えっ…?」

私はお姉ちゃんから両腕を離すと、お姉ちゃんに向き合う位置に移動した。
赤い目をぱちぱちと瞬かせるお姉ちゃん。

憂「二回も言わせないでね?」
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:25:02.10 ID:4.KU3wDO

さあ、お姉ちゃんを縛り付ける呪縛を解く魔法の呪文を唱えよう。

憂「私は平沢唯といつまでも幸せに生きたいよ」


唯「…ぅぃ…」

唯「う゛いいい!!!」

憂「わっ」

お姉ちゃんは顔をくしゃくしゃにして私を抱きしめた。とても強く、熱く。

憂「よしよし」

唯「アリガト……アリガトウ…」
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:25:30.42 ID:4.KU3wDO


――お姉ちゃんの泣き止むのを待って

憂「落ち着いた?」

唯「…えへっ」

憂「ふふっ」

私はお姉ちゃんの顔に両手を添えて鼻先まで持っていった。
混じり合った私たちの息はとってもあったかい。

憂「よろしくね、私の彼女さん♪」

唯「えぇだめ! 憂の方が女の子らしいもん」

憂「それじゃ二人とも彼女で、ね?」

唯「う〜ん…いいよ!」

お姉ちゃんの見せるとびっきりの笑顔。つられて私も満面の笑顔ができたと思う。

憂「目っ閉じて」

唯「…とうとう……うん」

憂「そんなに目に力入れなくていいよ。自然に自然に」

唯「…こう?」

返事をせず私は目をつむり、顔を引き寄せて口づけをした。

こころが舞い上がった。至福の時間が流れる。


i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||AFTER THREE MONTHS||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:26:39.92 ID:4.KU3wDO


憂「ほら起きて! 遅刻しちゃうよ!」

唯「んぅぃ〜…ん、おはよ〜」

憂「おはよ♪ じゃ早く食べにきてね」

唯「ちょっと待って」

憂「なぁにふみゅっ」

唯「〜♪」

憂「〜♪」

唯「ふぅっおはよ♪」

憂「……」

唯「うい?」

憂「は、キスなら先に言ってよぉ…おはよ♪」

唯「うん!」

テンション上げた私たちは手を繋いで居間に向かった。

あれからお姉ちゃんは恋人らしい絡みを求めるようになった。
といってもせいぜいキスしたり手を繋ぐ程度。あとは一緒に寝る頻度が上がったかな。

お姉ちゃんはプラトニックラブを望んでいたようです。


そう、お姉ちゃんは。


私は二ヶ月前からある悩みを抱えている。
180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:27:25.02 ID:4.KU3wDO


――食事中。

憂「この紙パック、もう牛乳入ってないや」

唯「そう? 私の飲む?」

憂「アリガトウ」

唯「はいどうぞ」

憂「飲ませ…」

唯「?」

憂「…ううんなんでもないよ」

唯「?」

お姉ちゃんの口つけた牛乳を私が飲む。
ささやかで恋人チックなシチュエーションに私の頭はいらん妄想をしたのだ。

――妄想が頭の中をひとり歩きする。

憂「飲ませて」

唯「いいよ!」

唯「〜♪」

唯「モゴモゴ」
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:28:33.37 ID:4.KU3wDO

憂「口いっぱいに牛乳含んだらしゃべれないよぉ」

唯「ん〜ん?」

憂「うん」

唯「ん」

憂「ん♪」

お姉ちゃんが私の顔を支えるように両手を添える。両の頬が熱いのは多分この手のおかげだけじゃない。

かがむお姉ちゃんの閉じた唇と、椅子に座っている私のわずかに開いた唇が、隙間を作らないようぴったりと吸着する。
私たちは両目を閉じた。

唯「んんんぉ?」

憂「ん!」

言葉になってない言葉で意思疎通を行い、お姉ちゃんの水門がじらすように開いていく。
すると神秘の液体がこれまたじらすように少しずつ私の口内を通り喉の奥に飲み込まれていく。

コクンコクンと、私の喉の骨が動く。私の中をお姉ちゃんの唾液を含んだ生ぬるい牛乳が満たされていく。

憂「んん…」

少し息が苦しくなるけどかまわない。それすらも心地良い。
少量でも絶え間なく流れる液体の味を舌で入念に堪能する。
182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:29:18.95 ID:4.KU3wDO

憂「ん……」

長いようで短い時間が過ぎた。
少し名残惜しい。
私は目をひらいた。ゼロ距離のお姉ちゃんと目が合う。その目が優しくほほ笑んだ。

瞬間お姉ちゃんの舌が私の唇を押し分け口内に侵入する。

憂「んぅ…!」

唯「ん…」

その舌は積極的に私の舌に「ううういいいい!!!」

憂「キャア!!?」

唯「やっと帰ってきた……」

憂「へ? そうだ今なんじ!?」

唯「うん…確実に遅刻…」

憂「…ごめんなさい!!」

遅刻は遅刻でも私たちは走って学校へ向かった。お姉ちゃんは私についていくため、私は煩悩を振り切るために。


――そう。私の悩みは、お姉ちゃんのふとした仕草に肉体的行為を妄想してしまうこと。そのたびに後悔が残る。

初めは抱き合うぐらいだったし実際に変な時に抱きしめたことがあった。そういう時お姉ちゃんは少しだけ困った顔で笑う。

それがディープキス、首筋なめなめ、乳揉み、乳しゃぶりとどんどんエスカレートしていった。

妄想だけで済ますことができず自慰行為もした。刺激がとてつもなく快感だった。この快楽がまた妄想を促進させた。
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:30:09.99 ID:4.KU3wDO

こうして性のスパイラルが完成した。6月の終わりには行為の最後まで妄想する淫脳になってしまった。

あの頃のお姉ちゃんより「うい!!」

憂「ひゃい!!?」

梓「やっと戻ってきた…」

憂「また…」

梓「また?」

憂「ううんなんでもないよ」

梓ちゃんとは新歓ライブを通じて仲良くなった。最初は人見知りっぽかったけど、そこまでじゃなかった。
今度一緒に遊びに行きたいな♪

憂「ってもうお昼休み!?」

梓「休み時間のたびに呼んだんだけどね、ごめん」

憂「梓ちゃんは悪くないよ」

梓「そう聞くと安心した。 お弁当いっしょに食べない?」

憂「いいよ。ん、ちょっとトイレ」

梓「じゃわたしも」
184 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:30:45.86 ID:4.KU3wDO

梓ちゃんとは軽音部の話で盛り上がる。最近ではプライベートの話も多い。なぜかお姉ちゃんの話で私が悦に浸ると梓ちゃんの顔は若干引きつるけど。

軽い雑談をしながら廊下を歩いていると、嫌でも反応してしまう言葉が通りすぎた知らない女子達から聞こえた。


女同士で? きもちわるーい!


思わず振り返った。その女子のグループは私に気づいたと思うと足早に去って行った。

梓「どしたの?」

憂「! ううん大丈夫、蚊がいた気がしただけ」

梓「そういえばそろそろだね、蚊」

私があの子たちをどんな顔で見てたのかは私も梓ちゃんもわからない。
ただ日に日にああいう発言に対して過剰に反応するようになっていったのはわかる。
185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:31:51.41 ID:4.KU3wDO


――トイレに入ると自然に右手が股間に向かった。お姉ちゃんのことで悩んでいたら、それが原点になって妄想の螺旋を描いたのだ。

憂「はぁっはっはっ…!」

入る前からすでに濡れかけていたアソコの…クリトリスを右手でいじめた。

お姉ちゃんのあの笑顔は卑怯だ。
あの日からいつもいつも幸せそうに笑って……私の気も知らないで…って待ってだからってもう泣いて欲しくない…。


二度とお姉ちゃんを泣かせないって誓ったじゃないかわたし!

だから肉体関係になりたくてもしない! お姉ちゃんが純愛を欲してるから! このままでも幸せなはずだから!!
186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:33:12.49 ID:4.KU3wDO


頭がピリピリしてきたのを感じ、クリトリスをいじっていた人差し指の第二節までを十分に濡れきった穴の入口に挿入した。
背徳の快楽が走った。それでも私の人差し指は仕事であるように穴へ出し入れされる。

その指が入るのを見計らってさらに奥へと押し込んだ。
指を除く全身が麻痺したようだった。あつい…。あつい!

ああお姉ちゃんおねえちゃん!!

憂「ヒッヒャアアアァァン!!!」

梓「ういだいじょうぶ!!?」

妄想と思考の結合が、トイレの扉を叩く梓ちゃんの声で切れた。
アレの跳びはねた便座を拭きながら、真っ白な頭で梓ちゃんへの言い訳を考えた。


i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||NIGHT|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||


唯「ごちそうさま!」

憂「…ごちそうさま」
187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:34:13.95 ID:4.KU3wDO

唯「? 憂、最近元気なくない?」

憂「そっそんなことないよ」

学校のトイレでナニしたのは初めてだ。いつも自分の部屋かお姉ちゃんの入浴後の浴槽でしてるのに。

唯「ん〜じゃお風呂はいっちゃうね」

憂「うんそうして…」

唯「……」

お風呂場に向かう足が不意に止まった。
お姉ちゃんが振り向いた。いつになく真剣な顔をしていた。

唯「相談してね? 私、まだ憂に恩返ししてないんだぁ」

最後にほほ笑んで、お姉ちゃんは落ち着いた足取りでお風呂場に入っていった。
188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:34:50.44 ID:4.KU3wDO


懐かしい顔してたなあ。
興奮を忘れ眼を閉じ思い返す。

文化祭の光景。一年生の頃は四人で演奏してたっけ。
お姉ちゃんは真面目に、そして楽しそうだった。中学まではあんな顔したことはなかった。

そんなお姉ちゃんの顔は私を安心させてくれた。


まぶたを上げた。

憂「うっ」

どれくらい経ったかな。照明が少しまぶしい。

もう一度あの顔を思い出すと興奮が帰ってきた。

憂「お姉ちゃん、アリガトウ」

三ヶ月前のお姉ちゃんと私を重ねる。お姉ちゃんもこんな感じだったんだね。

私の足はまだ恋人が入っているお風呂場へ向かった。
189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:36:19.87 ID:4.KU3wDO
i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i i ii i i i i i i i i i i i i i i i i i i i
||||||||||||||||||||||||||||||||||BATHROOM|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||


そんなに時間は経ってなかったみたい。お姉ちゃんは浴室でまだ髪を洗っていた。

おちつけわたし。
ケモノになっちゃだめ!
お姉ちゃんがいやだって言ったらあきらめてわたし!!

私は身につけてるものを全て脱ぎ、濁ったガラス張りの戸口に手をかけた。

唯「うい〜?」

お姉ちゃんの呼びかけに手から力が抜けた。


この先の展開次第では後戻りできなくなるんだ。


憂「うっ…うん、わたしだよ」
190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:36:56.68 ID:4.KU3wDO

わかりきってるから! そんな不自然な返事してどうすんの!

唯「久しぶりに一緒に入らな〜い?」

憂「久しぶり……そうだね」

ガラス戸をゆっくりと開けた。

唯「おお! やっぱ憂の肌ってきれいだね〜」

憂「やっやだなぁもう」

唯「え〜いやぁ?」

憂「うぅ…恥ずかしいってことだよぉ、言わせないで」

やばい…興奮してきた。

唯「ういカワウイ!」

憂「おこっていい?」

唯「きゃ〜」

お姉ちゃんがからかい半分に私に、よく知っている私に笑う。
それに答えるように私も笑った。
それに答えるようにワタシが両足を勝手に動かす。

私は踏ん張って足を止めた。ワタシに任せたらケモノになってしまうから。
191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:38:02.16 ID:4.KU3wDO

お姉ちゃんが不思議そうな顔で私を見てる。

唯「…頭洗ってくれない?」

憂「! うん…」


――右手にシャンプーをためてお姉ちゃんの頭皮を軽くこする。泡と髪だけが奏でる室内をお姉ちゃんの頭が連動して揺れる。


……どう切り出そう。

付き合いはじめたばかりがうらやましい。一緒にお風呂に入るのはよくあったし会話も弾んだ。

お姉ちゃんの白い背中が目に止まる。食べちゃえというようにワタシが私の鼓動を速める。
背中を見まいと鏡に目をやると、今度は抱えられた白い両足に意識が向く。

唯「うい」

自分の手が止まっていたことに気づいた。お姉ちゃんは下を向いたままだった。
192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:38:49.93 ID:4.KU3wDO

唯「だいすきだよ」


プチン


憂「おねえちゃん」

唯「ん〜?」

憂「相談、乗って」

唯「おぉやっと恩返しだ!」

頭の中がショートした。ワタシも私も目の前の魅力に打ちのめされた。
昔のように話すには無理な話題だと短絡的に結論づける。


どうにかなるよね。


憂「私はお姉ちゃんのことが好き、大好き」

唯「じゃ私は大大好き!」

憂「恋人として」

唯「私も〜」

憂「身体も大好き」

唯「わたしも…ん?」
193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:39:33.23 ID:4.KU3wDO

憂「わたしね」

お姉ちゃんの慎ましい胸に手を回して抱きしめる。

唯「きゃっ!!?」

憂「今のままじゃ満足できなくなっちゃった」

唯「ひゃい!! くすぐったいよぉ…」

左手で右胸を、右手で左胸を優しく撫でた。
お姉ちゃんが身体を震わせる。その振動が押し付けられた私の乳首にも快感を与える。

憂「おねえちゃん…」

身体をなぞるように右手を胸からおなか、わずかに生える陰毛、そしてアソコへ移動させる。

唯「うぅン…ゥァッアン!」

アソコを覆うように手で押さえただけで身体がびくついた。
194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:40:53.39 ID:4.KU3wDO

感度良好。やっぱりお姉ちゃんは性的なことをなにも知らない。


私がおしえてあげる。


唯「ね…ねえ……どうなってん…のこれ……」

憂「おねえちゃん」

すでに息の乱れ始めたお姉ちゃんの右肩に顔を乗せ、お姉ちゃんの横顔をやらしく見つめる。
お姉ちゃんの顔が久しぶりに真っ赤になって左を向いてしまった。

しかたないから右手の人差し指で穴を上から撫でる。

唯「…ぁ…」

憂「きもちい?」

左手を右胸から離し、三本の指であごに触れ右に力を加える。
その程度の力にも逆らえないお姉ちゃんの首が私と目が合った。潤んだ目をしていた。

唯「…ぅん…」

憂「ふふっ」

お姉ちゃんの瞳が下を向く。初めてのエッチは誰でもこんな感じかな?

憂「じゃもっと気持ちよくしちゃうね。 愛の証だよ♪」


――この日の夜、私たちはお姉ちゃんの部屋に行って何度も夢見た初体験を済ませた。
お姉ちゃんはこういうのも愛だって理解してくれた。

わたしたちは一つになって舞い上がった。

END
195 : ◆S2uwo.Ayis [sage]:2010/11/03(水) 16:41:49.62 ID:4.KU3wDO
以上……留意点満たせてる微妙な7曲目でしたorz


次は8曲目にございます
196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 16:54:20.19 ID:4.KU3wDO
待ったああああ!!!!!

>>80から数え間違えてる!

私のが8曲目だから次の方は9曲目ですわ
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 17:23:16.67 ID:4.KU3wDO
と思ったら修正されてた

……リスト見る限りだと自分8曲目のはずなんだけど…
198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 17:28:49.57 ID:4.KU3wDO
自己解決した

問題なく今まで通りの曲番でお願いします
199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 17:29:18.52 ID:L1iRDYDO
一人都合で飛ばされたからじゃないの
200 : ◆D8R1/Af/eU [sage]:2010/11/03(水) 17:50:04.77 ID:M/Z8WKMo
八曲目。人によっては耳を閉じたほうがよさそうです。
201 : ◆D8R1/Af/eU [sage]:2010/11/03(水) 17:53:30.81 ID:M/Z8WKMo
 もうすぐクリスマス。その先に少し距離をあけてお正月がある。二つの記念日を間近に控えて、田井中律は自
室の机の上で筆ペンを握っている。ひじをつき、ペンの尻をおでこにあてて唸っている。時刻はおよそ十時。学
生であれば、模範的なものは予習復習をし、そうでないものはそうでないなりの趣味や私事に走る時間帯。しか
し彼女は自分のためでも自分の成績のためでもないことに挑み続けている。
 ふと彼女は親友である秋山澪との最初の出会いを思い出す。衝撃的なことはなにもない。ただ小学校のクラス
別けで同じ組になり自己紹介をしたこと。もしかしたら入学式に少し話したりしていたかもしれないし、それ以
前にご近所同士のお付き合いで一緒に遊んだことがあるのかもしれない。しかし明確な記憶の再来はいつまでも
訪れない。気がつけば側にいるようになっていて、友達ということで今まで続いている。そのことを書こうかと
律は頭を悩ませるが、結局書こうというまでには至らない。筆ペンは相変わらず定位置であるでこの先にある。
 それからいくつかの記憶がシャボン玉のように浮かんでくる。ゆっくり考えれば大きな事柄で、すばやく考え
れば小さな事柄がたくさん浮かんでくる。その中に幼馴染みとしての軌跡を辿っていく。また律はそれらを書こ
うかどうか迷う。しかし意識は記憶を掘り起こすことが癖になってしまっている。一時的に、頭の中で、二人だ
けのアルバムが徐々に完成していく。二人が高校に入った辺りでやっと回顧作業は中断される。
 律は携帯を取り出してメールをする。手短かな要件と顔文字を一つつけて送信する。すぐに返信がくる。凡庸
的な応援メッセージにため息をつく。携帯を折りたたんだでベッドのほうに放ってしまう。また机の中心に視線
を固定する。書けそうな数行だけ試しに書いてみるより、真白な紙を中途半端に汚してしまうことに罪悪感を覚
える。こういったものは自分には向いていないようだと結論を出す。
 律はベッドに勢いよく倒れこむ。また携帯を開けてみる。そこにはまだ彼女宛てに送られてきたメールの本文
が残っている。メールの送り主である名前を示す文字列を睨む。依頼主の名前が本当にその人物であることを再
認し、なんだか気怠い気持ちに襲われる。

 夜中の執筆はまだ幾日か続く。とうとう第一筆は二日目の夜に決行される。そして当然のように数秒経って書
き直したい衝動に駆られる。試しにいらない紙切れに田んぼの田を書き、消しゴムでこすってみる。そこだけ堤
防が消滅した川のようになってしまう。また消しゴムのほうにも黒いインクがついてしまい、憂鬱な気分になる。
このまま次に使うと消しゴムが黒線伸ばしゴムになってしまうので、親指で強引に消しかすを出してやる。三回
擦ってから、今度は思い立ったようにでこに擦りつけてみる。一回で摩擦というものを体感する。やはり親指に
対処を任せたほうがよさそうだと思い改める。
 一度筆をおろすと、やけくそが手伝ってか効率は徐々に上がっていく。その分だけとりとめの無さは増える。
見直せば重複しているところを見つけることができただろう。しかし律はそれをしない。筆ペンで書いたものは
消せないのだし、本気で消去するつもりなら紙ごと捨てなければならない。努力が無駄に終わるというものを律
は好まない。だいたい一枚目を書き終えたのが三日目の夜で、二枚目もその日のうちに完成する。
 そうやって誰が特をするのか頭を悩ませるような作業が続く。しかし依頼主は確かに存在する。律がメールを
送るとだいたい十分以内に返信がある。逆にメールをしないと、さて寝ようとかという時に向こうから送られて
くる。一日一通。その正確さが捻じれる気配はない。監視されているみたいだと律は思い、全くその通りだと断
定したのが、だいたい五日目の夜になる。
 執筆ペースは尻上がりの逆放物線を唐突に逸脱する。こんなことをしてなにになるという自暴自棄に似たどう
でもよさが膨らんでくる。六日目の夜。いよいよ律はもう無理だとメールを打つ。依頼主は本当に無理なのかと
念を押して訊いてくる。律は正直に疲れたし飽きたんだと告白する。依頼主はしぶしぶといった感じで了承する。
六日目の夜、金曜日。
202 : ◆D8R1/Af/eU [sage]:2010/11/03(水) 17:55:09.64 ID:M/Z8WKMo
 学校での依頼主の態度はまったく変わらない。ひょっとしたら頼んだ本人がそのことを忘れているのではない
かと思ってしまうほどだ。律一人だけが不毛な悩みを勝手に抱えているようにみえる。絶対に他言しないように
と頼まれていて、律は友達との約束をかたくなに守る。そのせいか体の芯が鈍くなっているような気がする。ス
トレスが徐々に溜まってきているのだろうか。七日目。昼休みを利用して例の人物を誰もいない音楽準備室に連
れ込む。
「あのさ」と律は言う。「昨日メールでも伝えたけど、これ以上は書けないと思う」
 彼女は少し黙っている。それから分かりやすく残念という顔をする。「そっかぁ。もう無理?」
「うん。もう無理だわ」
「どれくらいの量になった?」
「ルーズリーフ五枚くらいかな」
「以外と少ないね」と彼女は以外そうに言う。
「だって、こういうの書いたのはじめてだったし」
「ふーん」と彼女は言う。「私もまだ書いたことはないよ」
 律は、彼女が彼女の幼馴染みとの馴れ初めを書き綴っている姿を想像する。少なくとも自分よりは似合うので
はないかと思う。かなり早いペースで書き続けられるだろう。しかし文章は乱雑とした内容であることも予想で
きる。
「それで」と律は会話を再開させる。「なんでこんなの書いて欲しかったんだ?」
 彼女はまた少し黙る。「理由言ったほうがいい?」
「あ、いや別に」と律は思わず否定してしまう。
 時計の針が残された時間を削っていく。
「ちなみに、今日そのルーズリーフは持ってきてる?」と彼女が訊く。
「いんや。まだ家に置いたままだけど」と律は答える。
「じゃあじゃあ、明日土曜日だからうちに来ない?」
「あの紙を持ってか?」
「そう」
「うーん」と律は唸る。「でもクリスマスイブイブだし、迷惑にならないかな」
「そんなことないよ!」と彼女は迫真に主張する。「おいしいお昼ごはん作って待ってるから」
「それは翌日の、クリスマス会のために控えといてもいいと思うぞ」
「大丈夫。憂が色々と用意してくれるから」
 放課後の部活は、日曜日のクリスマス会への出席とプレゼント交換の確認に、茶と菓子を堪能するくらいしか
することがない。学祭は少し前に終わり、今日で二学期の授業が終わっている。律は土曜日に彼女の家に遊びに
いくという旨をここで話題に出そうか迷う。しかし結局話さないまま下校のチャイムが鳴ってしまう。

 土曜日。律は平沢家に暖かく出迎えられる。チャイムを押すと姉妹揃って玄関までやってくる。時刻は十二時
少し前。二階のリビングに上がると、既に食卓テーブルには三人分の食器が並んでいる。ちょうどお腹も減って
いたので、早速ご馳走になることにする。
 平沢家の食事は、なにか秘密にしている万能の旨み薬を使っているのではないかと勘ぐりたくなるほどだ。ち
ょっとしたデパートの上階にあるレストラン街にそのまま店を構えてもおかしくはない。目の前には平沢姉妹が
並んで座っていて、おいしいおいしいと食べる律のほうを見ている。食事をする律の姿をつまみにものを食べて
いるといった感じを受ける。腹八分目となったあたりで、ようやく食への欲求が先細っていく。
「お父さんとお母さんは?」と律が訊く。
「いないよ」と平沢唯は答える。「うちの両親仲いいから、二人でドイツに行くって部室でも言ったよ。もうと
っくに向こうに着いてると思う」
 食事が済むと、手早く憂がテーブルの上を片していく。テーブルの空白が増えてどこか物足りなくなる。唯が
ふんすと鼻の穴を膨らませてなにかを待っているので、仕方なく例のルーズリーフを取り出してやる。きっと手
に取るなり夢中で読み始めるのだろうと思っていたら、本当にその通りになる。唯はうんうんと誰かに相づちを
打ちながら熱心に字を追っている。心を覗かれているみたいで羞恥がこみあげる。頭のしんがぼやけて広がって
いくのを感じる。まさか明日のクリスマス会で使おうと思ってるんじゃないだろうな、と問おうとしたけれど、
何故か呂律がまわらない。靄がかかっていく視界の端に、唯の満面の笑みがうつる。
203 : ◆D8R1/Af/eU [sage]:2010/11/03(水) 18:00:11.65 ID:M/Z8WKMo
 寒気と熱気に律は目を覚ます。まだ頭のしんのほうはうまく再構成されていない。なんとなくここが唯の部屋
であるということが分かる。それから今日はクリスマスイブイブで平沢家でお邪魔になっていたことを思い出す。
招かれてすぐに昼食をとり、そのまま眠ってしまっていたのだ。熱気の正体はストーブ。異様に近い距離にある。
体の全面だけぬるいバーナーであぶられ続けたように肌がちりちりする。寒気の正体は、丸裸になっていること
からきている。
 律はのっそりと起き上がり周囲を見渡す。間違いなくここは唯の部屋だ。なにせ部屋主が、ベッドの上からこ
ちらを見下ろしているのだから。律は直感で狂気を悟る。筆ペンを片手に控えた唯は、爛々と目を輝かせてこち
らを凝視している。
「なあ。これは……」と律は言い続けたかったが、途中で断念される。体を唯のほうに向けながら言ったのだが、
その途中でみっともなく床に転がってしまう。足の自由がきかないからか? いや、手の自由もきいていない。
冷たい拘束を感じることができる。
「りっちゃんはこれっぽっちしか澪ちゃんのことについて書けないの?」と唯が言う。右手に筆ペンを持ち、左
手に一組の幼馴染みの軌跡がある。「こんなんじゃダメダメだね」と唯はその紙に大きくバツ印を上書きする。
 律はなにか言うべきか迷ったが、浮かんでくるどんな言葉もこの場には不適切であるような気分になる。喉が
詰まり、反対に顎は震えてきている。裸であることも影響しているのかもしれない。今までに見てきた彼女のど
んなイメージにも当てはまらない姿を目の当たりにしている。これは夢なんじゃないかと考えていたら、くしゃ
みにそれを否定されてしまう
「ねえ。私は、なにを書いてきて欲しいってお願いしたんだっけ」と唯は言う。
 律はどうにか声帯を広げてから答える。「澪との思い出に、その時の感情とかそういう感じの」
「それがたったのルーズリーフ五枚? ふざけてるの? 小学校の時からの付き合いなんでしょ? もっと他に
も色々書くこと書けることなかったの?」
 質問のマシンガンが続く。その全てが律を、薄情者と罵る意味合いを含んでいるように聞こえる。黙って聞い
ているうちに、ふつふつと心の奥から熱い感情が沸きたってくる。例えば自分が、もっと澪を大切にしている気
持ちがあるにしても、それを全て現実にさらけ出すのは間違っているはずだ。
「んなもん人の勝手だろ!」と律は大雑把にひとまとめに言う。
 唯は大声に驚いて一瞬だけ黙る。「私ならもっともっと書けるよ。りっちゃんの肌全てを下地にしてもまだ足
りないくらい」
 唯が筆ペンの先を向け身を乗り出してきている。こいつは、人の体を紙替わりに同じことをやろうとしている。
律は咄嗟に、思い出したように胸と股を隠す。きつい体育座りをしながら神様にお祈りしている風になる。体躯
としてそう大差ないはずの唯が、とてつもない巨人となってのしかかってくるのを感じる。
 唯が一筆目を脛からはじめる。律は反射的に目を瞑ってしまう。くすぐったくはないが、掻いてしまいたくな
る。縦に二行目が書かれようというとき、律はゆっくりと目を開ける。逆文字になっていて読みづらいが『はじ
めて澪ちゃんを見たのは入学式のとき』と書かれている。それからすぐ横に『大きな吸い込まれそうな瞳だった』
と続けられるのを目で追う。また横に、また横に、彼女が抱いた秋山澪という人間の身体的特徴を一つづつ丁寧
に書き込んでいく。筆先が踊っている。唯の目はスイーツを前にするより輝いている。彼女の狂気が黒いインク
から血液に染み、全身に行き渡っていくような錯覚に陥ってしまう。
 唯が太ももの裏に筆を進めようと、足首を掴んで引っ張ってくる。律はたまらず力を入れて振り払う。くるぶ
しに鉄環が擦れてひりひりする。しかし唯は臆さない。もう一度律の足首を掴みにかかってくる。
「いい加減に!」と律は振り払う。「しろって!」と唯の右肩めがけて両足で蹴りを入れる。反動で背中がスト
ーブにぶつかりそうになるが、なんとか堪える。
 ベッドの手前までよろよろと飛んだ唯はどこか呆然としている。それから時間をかけてゆっくりと立ち上がる。
表情のなかに固いものが含まれるようになる。大股一歩で律の目前に立塞がると、無造作に右足を振り上げる。
204 : ◆D8R1/Af/eU [sage]:2010/11/03(水) 18:01:21.09 ID:M/Z8WKMo
 律は後方へ足蹴にされる。ダン、ジュッという音が耳に飛び込んでくる。同時に、肩甲骨から首にかけて刺す
ような痛みを感じる。律は短く「あ゛!」と叫び、転がるようにその場を脱しようとする。右に体を捻ったとき、
右頬が一瞬熱棒に触れてしまう。どうにか熱源から離れることに成功する。しかし体は別の熱いものを手に入れ
たように滾って強ばっている。どうして最新式のものを使わないんだ、などと律は、相応しくないところに文句
をつけたくなる。
 唯はストーブを起こしてから律の体を抱き起こす。「りっちゃんのためを思って置いといたのに」と耳打ちさ
れる。それは裸にしたことへの対処だろうか。懲罰としての戯具だろうか。判別をつける前に、考えはどこかに
消え去ってしまう。
 律はすっかり弱気になる。両肩の間が、今も燃え続けているように思える。耳をすませばジクジクと膿んでい
く音が聞こえるかもしれない。反面それ以外の皮膚は、細胞が活動をやめてしまったように固くなっている。筆
先を甘んじて受け止め続ける。
 片足がほとんど文字で埋め尽くされるまでそう時間はかからない。唯は疲れというものを知らないように書き
続けている。踵をあげられ、足の裏が地面から離れる。唯は親指の先から小指の先まで丹念に文章を繋げ続ける。
足の裏は律にとってくすぐったさが最も露呈する場所である。にも関わらず、身を捩ったり暴れたり高い声をあ
げたくはならない。それはどこか自分の倫理的な面が打ち壊されつつある不安に変換される。犯されている、と
いう言葉がはじめて脳裏を掠める。
 両足の白と黒の比が一対一になる頃、唯は満足して顔を上げる。そして次の満足を満たそうと上半身へ迫って
くる。律ははじめ嫌がるが、肩を掴まれ少しづつ押されていく中でしぶしぶ承諾する。足を伸ばしてバンザイの
状態になり、前面の全てを唯の前に提供する。救いがあるとすれば、彼女は友達の女性としてのシンボルにさし
て興味を示さないことだ。右の肩から左の肩へ、流れるように筆先を滑らせていく。
 ふと律は一つのチャンスに気がつく。唯は相変わらず一つのことしか頭にないようで、律自身の動作について
は無関心である。およそ字にならないほどの震えでなければ許容するといった感じだ。今彼女は律の胴体に夢中
になっていて、上方に意識を向けているようには見えない。この金属の手錠を彼女めがけて振り下ろしたらどう
なるだろう。律の手首は悲鳴をあげるはずだが、頭で受け止める痛さには遠く及ばないだろう。突然の痛みに彼
女の頭は混乱するに違いない。そこで思い切り張り倒し、仰向けにさせ、のしかかってマウントポジションを取
る。それから手錠の鎖を彼女の首筋にあてがって降参させる。記憶のどこかで似たような映画のワンシーンが上
映される。
 しかし想起したタイミングが悪ことに気づく。筆先はもう律の胸の上にまで迫ってきている。左から右へ、二
つの丘を昇り降りしはじめている。これでは力が入らない。仕方なくやり過ごしてしまうしかない。文字列の起
伏の差がどんどん広まっていく、が早々に山頂を迎えてしまう。律は息を止めてぐっと目を瞑る。胸先だけの感
覚が、ぴりぴりと体の芯に伝っていくのを感じる。呼吸器全般が結束して圧力をかけてきている。はあと思い切
り息を吐けたら、どんなに楽になれるだろうと思う。それが二回続く。我慢に我慢した律の顔は酸欠で赤くなっ
ている。ひあ、と擦れた空気をついに吐き出してしまう。唯の手が一瞬だけ止まる。しかしすぐに続きに集中す
る。
 律はとうとう覚悟を決める。彼女の頭部を見据えて何度かシミュレーションをする。友達に暴力を振るうのは
良心が痛むけれど、元はと言えば向こうから仕掛けてきたのだ。躊躇する必要はない、と何度か言い聞かせる。
唯はへその辺りで『部室での普段の澪ちゃんは』というくだりに差しかかっている。鼓動が高まり、アドレナリ
ンが放出する。感づかれないようにひっそりと決意を固める。こんなことは間違っている。正直言って気持ち悪
い。吐き気がする。ありたっけの負の感情と共に、律は正義の鉄拳を振り下ろす。
205 : ◆D8R1/Af/eU [sage]:2010/11/03(水) 18:02:00.82 ID:M/Z8WKMo
 しかし何故か急停止する。なにかがおかしい。決意は確かに揺らいでいないし、これほど力を込めているとい
うのに。クレーンが鉄骨を吊るように、徐々に徐々に、両腕が意志に反して上昇していってしまう。手首に冷た
い鉄が食い込んでくる。やっと律は気づく。ストーブの熱気に隠れるように、背後に誰かが立っているのだ。そ
して手錠のチェーンを握り締めると上方にきりきりと締め上げている。認識した途端にその存在は強大なものに
変わる。目下の唯はなんくるないといった様子で作業に没頭している。律は、もはや逃れられないという運命を
認めはじめる。
 まさかとは思ったけれど、急所の入り口を広げられなくて心底安心する。そうこうしている間に、もう腕にま
で文字の侵略を許している。表面的に見れば半分以上の行程を終えている。律は、もうひと踏ん張りだという妥
協と、できるなら突っぱねたいという強がりに挟まれる。顔を逸らしても、目を閉じても、触感が否応なく反応
してしまう。
「こんなことしてなにになるんだ?」と律は言う。声が微妙に上ずっている。言った後で、久しぶりに意思疎通
を計ったことに気づく。
「私のためになる」と唯は言う。「りっちゃんには悪いと思ってるけど」
 彼女が罪悪感を持っていることに驚く。それから、彼女が罪悪感なんて捨てていると思っていた自分にも驚く
。これはもしかすると説得することができるかもしれない。かすかな希望が見えてくる。律は慎重に言葉を選ん
でいく。
「今こんなことになってるって知ったら、澪は悲しむと思う」
 唯の動きがまた一瞬止める。しかしすぐに続ける。「一方的な感情は誰だって持ってるよ。相思相愛だけが全
てじゃない」
「それでも、唯は澪が悲しんでる姿なんて見たくないだろう?」と律は優しく言う。
「悲しい思いをしても、後が楽しければたぶん問題ない」
「後が楽しい?」と律は声を大きくして聞き返す。「あいつの幼馴染みを十年近くやってきた私が言うけど、そ
れは絶対に有り得ない。自慢じゃないけど、たまにひどいことしてるけど、私がひどい目に合えば本気で心配し
てくれるような奴だから」
「だからさ」と唯も負けじと強く言う。「その後でなんとかすれば問題ないんだよ」
「どうやって?」
 唯は黙る。それから小さく言う。「教えない」
 説得は唐突に打ち切られる。短い言葉で呼びかけてみても、唯は反応しない。『合宿のときの澪ちゃんは』と
いう話に差しかかっている。人の体は使うくせに、声にはてんで興味を示さなくなる。このペースで書き続けて、
果たして残りのスペースで書ききれるのだろうかという疑問が湧いてくる。不意に唯のことが可哀想な子だと思
えてくる。なにをもってこんな行為をしているのか。おそらく常人の考え方でないことは確かだ。これが母性の
一種なのか、という考えた頭をもたげたところで、律はぶんぶんとその考えを振り払う。
 唯は律にうつ伏せになるように促す。カーペットだが、平らな冷たさが全身に伝わってくる。むしろ熱を奪い
取られているように感じる。前は冷気、後ろは熱気という異様な状態に長く置かれながら、それでも体は芯は火
照っているというのはなんとも不思議だ。
 刺すようだった痛みは、染み入る痛みに姿を変えてくる。火傷を負っているだろう部分でも、それこそ少しシ
ミてるけど問題ないといった調子で、唯は筆ペンの先を押し付ける。律はうつ伏せになって両腕を前に出してい
る。上から見れば体は一本の線のようになっているだろう。目を開けていると、否応にも二の腕から先の呪詛の
ような恋文を見ることになってしまう。そんなものを見続けていたいはずもない。律はやっかいな様々な現状か
ら逃れようと、なにか別のベクトルで考えていられればと思う。
 耳なし芳一という言葉が浮かんでくる。法師の芳一は悪霊から身を守るために全身に般若心経を書かされるが、
うっかり耳だけ書き忘れられてしまい、結局その悪霊に耳を持っていかれてしまうという話である。このお話し
に一体どんな教訓や開示が込められているのか、律にとってはそれこそどうでもいいことになる。ただ全身にお
経を書かれるのはいい気持ちでなかったろうなということだけだ。想像上のお話しに共感者を求めるのは、なん
とも滑稽である。染みるような痛みは消えかかっている。後は腰と上尻と、顔さえ許せば終わるのだといった安
心がこみ上げてくる。
206 : ◆D8R1/Af/eU [sage]:2010/11/03(水) 18:03:07.85 ID:M/Z8WKMo
 唯は無言でいる。律も無言でいる。うつ伏せから起き上がる時に背後を盗み見たが、他には誰もいない。さき
ほどの殺意にも似た存在感はどこかに消えてしまっている。作業効率は滞りなく一定を保ち続ける。一体こいつ
は疲れを知らないのだろうか、という疑問はとうに出尽くしている。はじめのほうは、唯がどの思い出を書き写
しているのかちらちらち確認していたが、今はさっぱりそんな気持ちは無くなっている。しばらくは文字という
文字を見ないで数日を過ごしたいと思うようになっている。日本語でなくても、英語しかり中国語しかりアラビ
ア語しかり。
「りっちゃん目え閉じて」といきなり唯が言う。律はどきりとしてその通りにする。
 まぶたの上にもなにかが書かれていくのを感じる。律は一つのシーンを思い出す。新入生の中野梓が入部した
日のこと。せっかくだから記念撮影をと五人で撮った写真がある。それはちょっとしたお遊びを含むものだ。梓
を除く四人が瞼を閉じ、マジックで書いた第三の目を出して写るという趣向のもの。誰が言い出したのかは定か
ではないが、確かに律の瞼の上に目を書き入れたのは唯だ。あの時も、今みたいに気軽に話しかけられてのこと
だ。だが、状況とはまるで違っている。確かに一つの共通点があるが、それは全く別物であると信じたい律がい
る。つまり今の唯とあの時の唯は別人である。それほどまでに律は固く目を閉じ、今この時を否定したい衝動に
駆られる。
「埋まったー!」と唯は明るく言う。
 律はゆっくりと瞼を上げる。「終わった、のか?」
「そうだよりっちゃん。これはかなりの傑作だよ」
「そうか」と律は言う。全身が弛緩していく。妙な達成感が沸いてきて、たまらなく嫌な気持ちになる。
 唯が背後からなにかを運んでくる。気を利かせてストーブを前にしてくれるのだろうか。いや、違う。それは
勘違いだと次の瞬間知ることになる。全身すっぽり映るだろう立ち鏡が律の目の前に置かれようとしている。お
まけに角度を調整できるタイプのものだ。律は反射的に顔を逸らしたが、最悪の光景を数瞬目にしてしまう。
 まるでゴキブリにたかられているみたいだ。まるで無数の黒い粒が律の動きに合わせて進軍してきているよう
だ。顔を逸らした先にはギターがあったが、そんなものはまるで目に止まらない。頭の中で、ほんの数分の一秒
だけ見えてしまったものが、絶え間なく誇張を続けている。律は嗚咽を覚えて両手を口で塞いでしまう。胃がお
かしな方向に暴れようとする。唾液が隙間から垂れて手錠にまで付着する。吐いてしまいたい気持ちを必死に抑
えつける。素直に吐けばいいじゃないかと誰かが耳打ちする。しかしどうにか堪える。それは一言でいえば自尊
心なのかもしれないが、本当のところは律自身にも分からない。ただ体も思考もぐちゃぐちゃにされつつあると
いう不快感が止まらない。
 唯が今度は手鏡を持って迫ってくる。そして俯いたままの律に上から被さると、生え際の辺りを確認してなに
やら「んー」と唸っている。律は薄目をあけて鏡越しに唯の顔をちらちら見ている。十分根元まで書けきってい
るじゃないかと、視線に訴えを込める。それと同時に、梓はいつもこんな風に抱きしめられているのかと、ふと
思ってしまう。でこに書かれている文字が目に入ってしまう。『学園祭のときの澪ちゃんは』という辺りで文字
が切れている。
「でも」と唯が言う。「まだまだ全然書き足りないなぁ」
 律の全身に怖気が走る。記された文字たちが意志を持って動き出そうとする錯覚に陥る。唯の手が律の後頭部
に添えられる。全ての動作がスローモーションのように感じられる中で、思考だけが回転速度をあげているのが
分かる。これからなにをされるのか。思いついていくものは悲しい結末ばかりだ。
「やめろ! もうやめてくれ!」と律は叫ぶ。
 律は力の限り抱擁から脱する。いもむしみたいなほふく前進で、できるだけ唯から遠いところに行ってしまい
たいと切に願う。カーペットとの摩擦をじかに感じる。ベッドをなんとか這い上がる。すぐに部屋の角にぶつか
ってしまう。勢いで平沢チキンを人質にとってその場にうずくまる。もう何も考えられず、ひたすら平沢チキン
を顔に押し当てて涙がでないようにする。
207 : ◆D8R1/Af/eU [sage]:2010/11/03(水) 18:03:49.97 ID:M/Z8WKMo
 少しの沈黙。ガチャとドアが開く音がする。今度は気配[ピーーー]必要はないらしい。唯が「よろしくね」と言うと、
おそらく唯ではないもう一人が律に無遠慮にのしかかる。大切なカチューシャを外される。首筋に片手が添えられ、
もう片方の手がいちょう色の髪の毛をぶぢぶぢと引き抜いていく。律はひたすら痛みに耐え続ける。何も考えず
、何も憂いず、ただ被害者としての役割を真っ当に引き受ける。涙が出ているのかいないのか、それすら分から
ないくらいになっている。いつしか平地になった頭皮に冷たい文字が走っていく。
 次の瞬間、律は股間に蛇が這ってくるような感覚に苛まれる。その蛇は残されたままの陰毛にかぶりつき、飲
み込んでしまおうと引き千切る。律は陰核を噛まれたみたいに叫ぶ。これは生理現象みたいなものだ。一束ちぎ
られるたびに一叫する。股関節から深腹筋が正常に機能しなくなっていくのを感じる。
 律の体が優しく横に倒される。仰向けになる。もう目を閉じ続けていく気力がない。唯はなんの気概もなさそ
うに、律の膣に筆を進める。それからメインディッシュといったように黄色いカチューシャを手にとる。
 あれには澪との大切な思い出があるのだと、言おうとしたが言葉にはなってくれない。はじめて律のことをポ
ジティブに言ってくれたのがカチューシャのことだ。それ以来ほとんど毎日つけ続けている。そんな、律と澪を
繋ぐ最後の砦まで毒されようとしている。唯はつるつるしたプラスティックの表面に挑むが、早々にこれは無理
だと断念してしまう。助かったと律は思った。しかし甘かった。唯は半ばやけくそになったように黄色い部分を
黒で塗りつぶしはじめる。ぼやけてきた視界の中で、真っ黒になったカチューシャの出来栄えに唯がにこりと笑う。
もう駄目だ。もう自分には澪に合わせる顔がない。体もない。心もない。全ては唯のどす黒い願望で上書きされ
てしまっている。



 軽音部クリスマスパーティーは予定通り決行される。三人プラス平沢姉妹が、平沢家のリビングに集合している。
そこに田井中律の姿はない。昨晩彼女は平沢家に泊まったのだと他のメンバーは聞かされている。しかし全員が
集合したにも関わらずまだ姿を見せていない。おそらくなにかドッキリを仕掛けるつもりなのだろうと、メンバ
ーは思っているはずだ。
 特に何も起こらないままプレゼント交換をしようと唯は言い出す。澪はもう一度律のことを尋ねるが、唯は自
身満々に問題ないと言う。おそらくドッキリというのはプレゼント交換の時に仕掛けられるものらしい。それぞ
れのプレゼントがテーブルの上に乗せられていくなか、唯はソファーの裏から特大の箱を引きずりだす。そして
澪の前まで持っていく。皆だいたいの見当をつける。全く、といった調子で澪は、丁寧にリボンを解き包装紙を
はがす。息を呑んで上部の蓋を開ける。
 そこには全身を黒いチェーンのようななにかで縛られた律がいる。まるで死んでいるようにピクリとも動かない。
澪は絶句する。他の二人がなんだなんだと興味津々な表情で澪の後ろから覗きこむ。またたく間に血の気が引い
たような顔になる。
「私からのプレゼント交換」と唯が言う。「それからかくし芸もあるよ」とどこに隠していたのかギー太を取り
出して演奏をはじめる。ふでペン〜ボールペン〜。そんな唯を、非現実なものみたいに眺めている残された三人。
 唯は言う。「交換だからちゃんと返してね。澪ちゃんの愛で。大丈夫。ちょーきょーっていうのは一晩で覚え
たから」
 箱の中からメロディーに合わせた鼻歌が聞こえる。とても愉快に、とても楽しそうに。
208 : ◆D8R1/Af/eU [sage]:2010/11/03(水) 18:04:49.92 ID:M/Z8WKMo
刺激の強い八曲目でした。

次は九曲目です。
209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:00:00.39 ID:4JLBzG2o
唯「もうすぐあずにゃんの誕生日だよね」

紬「そう言えばそうね!」

律「ここは可愛い後輩のために私たちで盛大なパーティを開いてやろうじゃないか」

唯「あずにゃんきっと喜ぶよぉ」

澪「まず梓に渡すプレゼントを決めようよ」
210 : ◆YVNRN7aqRM [sage]:2010/11/03(水) 20:00:37.11 ID:4JLBzG2o
律「プレゼントか…」

紬「梓ちゃんってどんなもの貰うと喜ぶかなぁ」

澪「ギターの弦とかどう?」

律「とりあえず喜んではくれそうだけど…」

唯「あんまり可愛げが無いよね」

澪「うっ」
211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:01:12.29 ID:4JLBzG2o
律「そもそも梓ってあんまり欲無さそうだよな」

紬「コレが欲しい!っていうのが無い反面、何をプレゼントしてもそれなりに喜んでくれそうよね」

澪「それが一番難しいんだけどな」

唯「何あげようかなぁ」

律「やっぱ本人に聞く?」

澪「それは野暮だよ」
212 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:02:41.72 ID:4JLBzG2o
唯「あずにゃんの気持ちが知りたいなら」

唯「あずにゃんの歌を聴いてみよう」

律「梓の歌!?」

澪「…って何?」

唯「じゃーん!コレです!」

紬「あっキャラソンだ!」

律「お前これ買ったんだ?」

唯「可愛い後輩のCDだもん!買うよぉ」

澪「でも何か小汚いぞ。ケースにヒビ入ってるし」
213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:03:30.30 ID:4JLBzG2o
唯「ああ、これ私がやったんじゃないよ。最初から入ってたんだよ」

律「中古品!?」

唯「UNIONで200円で買ったんだ!」

紬「まあ200円じゃね…」

唯「もっと状態の良いのも売ってたんだけど」

唯「ま、別にガチで聴くわけじゃないし一番安いのでいいやって……」

澪「お前本当に梓のこと可愛い後輩だと思ってる?」
214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:04:15.64 ID:4JLBzG2o
紬「とりあえず聴いてみよ?」

澪「そうだな。『じゃじゃ馬Way To Go』だって。はは、何か可愛いな」

律「待て澪!」

澪「えっ」

唯「シングルってのは2曲目のが良かったりするもんだよ」

澪「そうか?」

唯「ブランキーのロメオ然りミッシェルのジェニー然りゆら帝のミーのカー然り」

律「スマップのオレンジ然りビートルズのエリナーリグビー然りストーンズのビッチ然りツェッペリンのホットドッグ然りだ」

紬「スマップ浮いてない?」

澪「分かったよ。2曲目の『私は私の道を行く』を再生するぞ?」 ぽちっ

♪ふぅ〜もとめられているのはー
215 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:04:58.28 ID:4JLBzG2o
♪そこのけのこのけ でっす!


律「聴いてみたけど…果たしてこの歌詞の中に梓が欲しいものなんて入ってるのかな」

澪「まず最初が『求められているのはどんなキャラですか』だもんな」

紬「むしろ貴女が私達に何を求めてるのかを知りたいのに…」

唯「『押して押して押すです』だって」

澪「押す…押す……うーん」

紬「ねえ、何か重いものを押すときって、足が滑っちゃわない?」

律「確かにそういうときあるな。それがどうかしたのか?」
216 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:05:54.94 ID:4JLBzG2o
紬「スパイクシューズがあれば足がガッチリ固定されて便利じゃないかな!?」

澪「それだ!!」

唯「さすがムギちゃん!」

律「目の付け所が違うな!」

紬「わーっそんなに褒めないで〜」
217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:06:33.73 ID:4JLBzG2o
唯「歩きやすそうだし、次の『猫のよにしなやかに歩いてくんです』にも通じるね」

澪「じゃあ梓はスパイクシューズが欲しいんだな?」

紬「まだ分からないけど…とりあえず候補に入れとこう?」

澪「じゃあメモしとくね」

律「『誰にも手なづけられないです』」

唯「これは何だろうね」

律「簡単じゃないか。手なづけるには首輪してやるのが一番だ」

澪「首輪…っと」 メモメモ
218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:07:15.57 ID:4JLBzG2o
紬「『ハグされたら途端にちから抜けちゃうんです』」

澪「ハグか。これ唯に対して言ってるんだよね、きっと」

唯「私のハグってあずにゃんの内なる力を封印してたんだね…」

律「このまま放っておくと梓、弱って死んじゃうぞ」

唯「あ、だったら体を鍛えればいいんだよ」

澪「プロテイン…っと」 メモメモ
219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:07:52.62 ID:4JLBzG2o
唯「『人体は不思議です 教科書にも辞書にも克服する方法はないです 困るんです』」

律「この一節には不審な点がある」

唯「何何!?」

律「教科書にも辞書にも…って、こういうフレーズ使っていいのは和みたいな優等生タイプに限るだろ?」

唯「確かに!あずにゃんってそこそこ勉強できるみたいだけど、そういうキャラじゃないよね」

律「何故梓がこんな言葉を使ったのか……」

紬「もしかしてそれこそが梓ちゃんの願望なんじゃない!?」

澪「願望?」
220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:08:28.59 ID:4JLBzG2o
紬「きっと、梓ちゃんは和ちゃんみたいなエリートキャラになりたいのよ」

唯「そうだったのかー…」

律「どうすればいいんだ?」

紬「メガネがあればそれっぽく見えるかも!」

澪「メガネか」 メモメモ

律「ギターに合わせて赤レンズにしよう」

唯「似合うかなぁ」
221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:09:04.61 ID:4JLBzG2o
澪「『生まれて約15年 先は長いです』だって」

唯「先って何?」

律「そりゃあお前…寿命だろ」

澪「梓…早く死にたがってるのか」

紬「『私生きるです』とか言ってるし それは無いと思うけど」

澪「…もしかして!」

律「何か分かったのか?」

澪「先が長いって…これ爪のことじゃないのか?」

唯「生まれて約15年…あずにゃんって15年間一度も爪を切ったことが無かったの!?」

律「かわいそうに…」

澪「爪切り…っと」 メモメモ
222 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:10:04.66 ID:4JLBzG2o
紬「梓ちゃんってそんなに爪長かったかしら?」

唯「あっそう言えば別に長くないや!」

律「クッ!盲点だったぜ」

澪「爪切りじゃないなら何だろう…」

律「15年……先は長い…15年前……95年」

律「あっ分かったよ!」
223 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:10:51.78 ID:4JLBzG2o
澪「なんだよ!」

律「これは1995年に発売されたゲームのことだ!」

紬「そうなの?」

律「…先は長い。つまり15年間遊び続けてるけど一向にクリアできる兆しが無い」

律「そういうことだ」

澪「で、そのゲームって何?」

律「95年発売で梓が遊んでそうなゲーム…それはズバリ太閤立志伝2だ」

唯「きっと本能寺の変が起こせなくて困ってるんだね」

紬「つまり、太閤立志伝2の攻略本を欲しがってるってこと?」
224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:11:28.88 ID:4JLBzG2o
1時間後


澪「かなり頑張ったな私達…」

唯「ここまで詩を意識しながら曲を聴いたのって初めてだよ」

紬「でも梓ちゃんの考えてることが伝わってきて嬉しい!」

律「澪、メモ見せて」

澪「ん」
225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:12:42.79 ID:4JLBzG2o
ギターの弦
スパイクシューズ
首輪
プロテイン
メガネ(赤レンズ)
太閤立志伝2の攻略本
搗栗
涙のキャンディ★ハウス
魏志倭人伝
がんこちゃんのVHS
力水


律「結構いっぱい出てきたなぁ」

紬「唯ちゃんならこの中でどれが一番欲しい?」

唯「ギターの弦かな」
226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:13:23.98 ID:4JLBzG2o
澪「ま、まだ見つかるかもしれないからもうちょっと頑張ってみようか」

紬「あとは最後のところだね」

律「『ぬき足さし足しのび足……』」

唯「『先輩後輩クラスメイト…』」
227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:13:55.29 ID:4JLBzG2o
そして梓の誕生日



ガチャッ

梓「みなさん、おつかれs…」

パンッ! パンッ! パンッ! しけっ…

梓「!?」

唯「あずにゃん!」

紬「お誕生日」

律「おめでと」

澪「う!」

梓「みなさん……」 ジン
228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:14:46.50 ID:4JLBzG2o
梓「もっもう…こんなに綺麗に装飾して…後片付けが大変じゃないですか!」

唯「えへへ。張り切っちゃった」

律「ほらほら、座れよ」

澪「出来合いの物ばっかりだけど、食事も用意したから」

紬「ケーキも食べてね」
229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:15:24.79 ID:4JLBzG2o
梓「おいひいです」

律「食べながら喋るなんてお行儀悪いぞ〜」

唯「今日はブレイコーだよブレイコー!」

紬「そうだ、プレゼント!」

澪「あっ今渡しちゃおうか」

梓「プレゼントまで!?」
230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:15:55.07 ID:4JLBzG2o
澪「梓に喜んで貰えそうなもの…みんなで考えて選んだんだ」

梓「ほんとに…本当にありがとうございます!!」 グスン

紬「はい、どうぞ♪」

梓「あ、開けてもいいですか!?」

律「どうぞどうぞ!」
231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:16:45.42 ID:4JLBzG2o
数日前


律「なるほど!そういうことだったのか!」

澪「ここリピートされてる辺り、梓の強い気持ちが込められてるのが分かるよ」

唯「ここに気づくとはやっぱりムギちゃんて凄いね」

紬「ふふ。じゃあ、プレゼントはこれで決定! でいいかな?」

唯「あ……でも」
232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:17:14.59 ID:4JLBzG2o
紬「どうしたの唯ちゃん?」

唯「恥ずかしながら…私まだそのね……」

律「分かった!ミナまで言わんでいい!」

澪「は…ははは。唯はどうしよっか」

唯「あ、代わりに憂のでもいいかな?」

律「いいんじゃない?」

紬「そうね。でも唯ちゃんがまだなのに憂ちゃん……」

唯「お恥ずかしい限りです」

澪「気にするなよ」
233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:18:03.30 ID:4JLBzG2o
──そして現在

梓「あ、開けてもいいですか!?」

律「どうぞどうぞ!」


するする…ぱかっ


梓「……?」

梓「何ですかこれ?」

唯「『そこの毛そこの毛』でーっす♪」
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 20:18:34.20 ID:4JLBzG2o
梓「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああん!!」

澪「あ、逃げちゃった」

律「気に入らなかったのかな」

紬「やっぱりね!」



「ζζ月ζζ日」

おわり
235 : ◆YVNRN7aqRM [sage]:2010/11/03(水) 20:20:45.44 ID:4JLBzG2o
九曲目お終いです
挨拶もしないでいきなり始めてしまって申し訳ありませんでした

次は十曲目の方です
236 : ◆tLcx2heu5. [sage]:2010/11/03(水) 23:04:44.47 ID:QEdAoRQo
さて、instrumentalは私が努めさせていただきます。

文学は好きですか?
237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 23:05:58.98 ID:QEdAoRQo
得体の知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。
焦燥と言おうか、嫌悪と言おうか。
結果した肺尖カタル※1や神経衰弱がいけないのではない。


……誰もいない音楽室で、私は読んでいた文庫本を机に置いた。

もう暗唱できるくらいに読んだこの本。
今ならこの主人公の気持ちがわかる気がする。
文庫本を置いた横には真っ白な紙が一枚置いてあり、先程から何一つ進んでいない。

いけないのはその不吉な塊だ。

また新しい曲を作ろうと筆を取ったのはいいが何か気にかかる。
ワンパターンというか、なんというか。
今の現状を打破したい。
もちろん今までだって余裕で作ったような表情を見せていたけども、水面に浮く白鳥のように水の中で必死にバタ足して、苦しんだ。

辛いことから逃げて怠けたい本能に忠実で、それに翻弄されるのも分かっている。
だからこうたまにスランプっていう休憩が。

それにだ、以前私を喜ばせたどんな美しい音楽も、どんな美しい詩の一節も辛抱がならなくなった。あの主人公が蓄音機を聞かせてもらいに行ったように、私も律の部屋にCDくを聴かせてもらいにわざわざ出かけて行っても、最初の二三小節で不意に立ち上がってしまいたくなる。
何かが私を居堪らずさせるのだ。

それで私は一人、自分の部屋にも入れずに、街をさ迷ってみたり、海へと出かけて見たりした訳で。

もしこの苦しみに目的地があるというのであれば、近道でもしてみたいな。
できる事ならばすべて無くしたい。
238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 23:07:03.39 ID:QEdAoRQo
そんな怠け者な私。

そういえば昔、スランプした時の私は見すぼらしくて美しいものに強くひきつけられたのを覚えている。
いつもみたいな可愛らしい人工物のものでは無く、道端の花や、何も無い寂しい場所に一本咲いている向日葵みたいな、そんなモノに憧れた。
それは考えて見れば自分の理想図、というか律や唯みたいた私には無いものに惹かれるものであったのだろうか。
別に律や唯がみすぼらしいと言っているわけじゃないぞ、それは本当だ。
別に自分を愛して、なんていうのは大げさだけど自分を意識したり、可愛がってやれない人は他人だって愛せないよなぁ。

ペンを転がして見てもアイディアは思い浮かばない。

私は詩を書くときはまるで私がこの寂しい音楽室や居慣れた自室では無く、どこかヨーロッパの建築や、まるでメルヘンな世界にいるような錯覚を起こそうと務める。

その錯覚がようやく現実と区別付かなくなった頃、私はペンを取ることができるんだ。
けどそれっていうのはこう意識すると出来ないもので、例えばつまらない授業中や、寝る前の妄想などが一番適している。
こうやって私は錯覚の中に現実の私が溶けて混ざるのを楽しむ。
想像は一生懸命で、現実はいつもこう絶体絶命で。
……なんだかねぇ。
だけどその発展途中があるから不意にいいアイディアが生まれたりするんだけど。

さて、さっき律や唯に惹かれるといったのには他にも理由があって、特に律なんかは自分ではそう思っていないのかもしれないけど、目には映らない何かがある。
やる気っていうのかな、いつも全力で生きてて、それで全力疾走していて。
私の前には輝いて見える。とても、妬ましいまでいくほどに。
239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 23:08:27.84 ID:QEdAoRQo
唯は……主にケーキ食べているときかな。
体重気にしないであんだけ食べれるって羨ましいけしからん。
私なんて少し痩せたからといってムギのケーキを食べたらまた戻って、なんというかすごい敗北感を味わってるけど。
けどそれって体が育っているってことで、そういう風に思うことにした。


そういえば私が読んでいた文庫本の中で、主人公が丸善というお店に行く描写がある。
そこで彼は赤や黄のオードコロン※2や洒落た切子細工や典雅なロココ趣味の浮模様を持った琥珀色、翡翠色の香水瓶を眺めに行く。そして彼は一本の鉛筆を買ったりする贅沢をするんだ。
けどそれも今では借金取りの亡霊に見えるらしい。
私もそこまでひどくはないが今、そのような気分だ。フリル、綺麗な小物、キーホルダー。
すべてが私を惑わすものに見えてしまう。
だから今日の買い物も断り、私は一人ここにいるって訳。
240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 23:10:15.96 ID:QEdAoRQo
少し話を変えようか。
この前、ムギがレモンティーを飲もうとして、檸檬をまるごと持ってきた時があった。
私は檸檬が好きだ。あの形、鮮やかな色、そしてあの味。
何もかもが刺激的なもの。
持った時のこの独特の冷たさも好きだ。
冬の日、ムギの手が暖かいといって皆で握り合った時があったが、その時のムギの気持ちは檸檬を持った時の心地良さだったのかもしれない。

……あれ、確かまだどこかにあった気がするな。
と私は立ち上がり、ムギのティーセットが綺麗に並べられている戸棚に手をかけた。

あった。

私は手を伸ばし、オブジェとして置かれていた檸檬を手にとった。
ずっしりとくる檸檬の質感。

――つまりはこの重さなんだな――

なんて言ってみたりする。

私は檸檬の重さ、冷たさを心地良く感じながら再び席に着き、ようやくペンを手に取る。

その重さこそ常々尋ねあぐんでいたもので、疑いもなくこの重さはすべての善いものすべての美しいものを重量に換算して来た重さであるとか、思いあがった諧謔心からそんな馬鹿げたことを考えてみたり……だったかな?

何がさて、私は幸福だったのだ。
241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 23:12:09.63 ID:QEdAoRQo
「白鳥たちはそう……見えないところでバタ足してるんで、いや、するんですの方がいいか」

すら
すら
とペンを動かす。

なんで今まで気がつかなかったのだろうか。

今まで死んでしまうほど辛いことが今では快感に近いものを私に与えてくれる。

私のこの鬱憤を発散するようにペンに気持ちを込める。
孔雀だって、ここぞと言う時に羽を広げるんだ。
私はその美しさを表現しているんだと思っていた。


そういえば唯が詩を書いてきたとき、私はそれを何故か、いや理由は分かっているのだけれどそれを認めたくなかった自分がいた。
私は詩には自信を持っていたし、それが私レーゾンデートル に近いものであると思っていたからだ。
けどそれは本当は唯の発送を妬んでいるんじゃなくて、その発送に勝てなかった自分を許せないだけなんだ。

大事なのは自分を認めてあげること。

自分を許せない人間が、他人を許せるはず無いじゃないか。



242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 23:14:05.73 ID:QEdAoRQo
―――――――――――。


しかしどうしたことだろう、私の心を充たしていた幸福な感情はだんだん逃げていった。

最後のフレーズが見つからないのだ。

最後、というかこの詩すべてを司るものが。
ペンを握る手が疲れたような、もうすべて投げ出して、後ろに倒れこみたい気持ちに襲われる。
ペンを投げ出す、それが偶然にも檸檬に当たった。
気怠い、もの虚ろげな、それでいてこみ上げてくる焦りが。

……そうだ。

私は適当な、インクが切れたペンを取り出し、思い切り檸檬に突き刺してみた。
手に、突き刺さる感覚と、飛び出した果汁が先程まで書いていた詩に飛び散り、あの芳しい檸檬の香りが私を包む。

突き刺さった檸檬を持ち、引き抜き、また刺す。

先程穴が開いた部分から果汁と果肉が飛び出し、私は檸檬の香りを思い切り吸い込んだ。
まるで肺に檸檬を直接絞り込んだような、そんな気分に陥る。

……そこの空間はまるで今までの音楽室では無く、異質の、カーンと冴え渡るような何かが、私を包み込んでいた。

狂っているな。

この空間も、この私も。

けどそれは何か悪い感情の表れでは決してない。

Please dont say You are lazy
だって本当はCrazy。

狂っている?
いや違う。
本当は熱狂してるんだ。

こんな自分に、こんな歌詞を求めた自分に。
243 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 23:15:45.50 ID:QEdAoRQo
濡れた紙に殴り書きで書き足し、私はすべてを終える。
……ああ、そうだ。
それをそのままにしておいて私は、なに食わぬ顔をして外へ出る。

まるで彼のように。

私は穴があいた檸檬を歌詞の上に置き、荷物を手に取る。


これでこの気詰まりとした空間も木っ端微塵だろう。


音楽室から出ようとした瞬間、何か変にくすぐったい気持ちが私の身体を巡り、運動部の声がかすかに聞こえる放課後の階段を下っていった。


244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 23:17:10.91 ID:QEdAoRQo
――――――――――――――――

律「おい、澪これ新しい歌詞か?」

澪「あ、ああどうかな?」

律「なんか今までの歌詞っぽくなくて……なんというか澪っぽくない?」

澪「私もそこを意識して書いてみたんだ」

梓「なんかカッコいい歌詞でいいですね!」

澪「だろ?クールな私たちをイメージして書いたんだけど」

律「けど音楽室に歌詞忘れるなんて澪っぽいよなぁ」
澪「そうか?いや、なんかさ出来た喜びでついな」

唯「じゃあさわちゃんに見せて新しい衣装作ってもらおうよ!」

紬「いきましょ、いきましょ」

トテトテ

澪「……」

私は後ろを振り返る。
机の上に置き去りの穴の開いた檸檬を見つめ、大きく深呼吸をする。

狂ってる。

私は自分しか感じる事が出来ないのであろう、檸檬の香りを胸いっぱいに感じながら、音楽室のドアを閉めた。


245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 23:19:26.65 ID:QEdAoRQo
終わりです。
最近の高校では習うのかな?
文芸部に入りたかった彼女なら好きなはずだよね。

最後に注釈を
※1
肺尖部の炎症。特に、結核性の炎症。肺結核の初期と考えられていた。
※2
芳香品の一種。万能香水とも呼ばれ、床まき用、おしぼり用、頭髪用など広い用途に使用される。
246 : ◆S2uwo.Ayis [sage]:2010/11/04(木) 00:59:34.03 ID:nCqSS.DO
皆様お疲れ様でした 語りたい方はお好きにどうぞ


わがままですまんが、まだこのスレは落ちないで欲しい
247 : ◆tLcx2heu5. [sage]:2010/11/04(木) 01:11:49.44 ID:jPjthwgo
曲名は書いたほうがいのかね?
248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 01:20:35.27 ID:nCqSS.DO
イエス

いっそ本スレで作品の簡単な紹介とその他語りでもしてもらいましょうかね?
249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 06:47:23.92 ID:nCqSS.DO
まだ野暮用がある
250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 22:06:40.75 ID:nCqSS.DO
間に合わないから野暮用は諦めた
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