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唯「嘘」 -
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1 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:02:18.19 ID:FjSXEy20
百合スレ発企画SSセカンド
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
[
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]: ID:???
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/
渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/
二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/
佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/
全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/
君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/
笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/
【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/
2 :
◆/Rw26BTumM
[sage]:2010/11/21(日) 00:03:41.27 ID:FjSXEy20
一番手いっきまーす
澪ムギでありんす
3 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:04:45.33 ID:FjSXEy20
私は異常なんだと思う。
だってほら、校医さんも私を奇異の目で見ている。
「今日も体調が悪い、と」
澪「……はい」
これで4日続けて保健室に通っている。
授業にも若干の支障が出ているし、
本当に体調が悪いなら、病院に行くことを考える状況だ。
でも私の悪いところは体の調子ではない。
誘惑に負けて、本当に体が悪くなったような気にさせる、私の嘘つきな心だ。
「秋山さん……」
校医の先生は、既に覚えてしまっている私の名前を溜め息まじりに吐いた。
「ハマッちゃうのは分かるけど、程々にしたほうが良いわよ? 大事な場所なんだから」
澪「は……は!?」
一瞬にして顔に血がのぼって、かあっと熱くなる。
「思春期にはよくあることだけどねぇ。私もそんな時期が」
4 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:05:21.15 ID:FjSXEy20
がしゃりとシャッターをおろして、先生の言葉を防ぐ。
相談した訳じゃないのに、軽々しく踏み込んでくるのは止してほしかった。
私のサボタージュを咎めているのかもしれない。
だけど、ここだけは触れないでほしい。
「無理に我慢しろー、とは言えないけど、今晩は少し頑張ってみない?」
澪「はあ」
話の終わる気配に私は耳を開き、そして曖昧に頷いた。
「うん、うん」
校医さんは満足そうにこくこく首を振る。
「それじゃ秋山さん、私4時間目くらいまで用事あって居れないから」
「ここ、お願いね」
ウインク。ターン。オープンザドア。退出。クローズワン。
澪「……」
このままでは私も、あんな風になるのではと危惧した。
私も存分におかしいが、先生も相当のものだ。
5 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:06:00.12 ID:FjSXEy20
未来――いや、今はそんな暗いことを思うのはやめよう。
本当に、確かに少しだけ、眠気はあるのだから。
私は上靴を脱いで、一番奥のベッドに座った。
スカートを何度も直しつつ、布団に潜る。
澪「……あと20分か」
携帯をそっと出し、時刻を確認する。
あの心配性のお嬢様が、あと20分したらやって来る。
とくとくと胸が高鳴るのを感じる。
やっぱり私はおかしい。
嘘で固めて築いた、私たちが見詰め合うステージは
まさしく軋むベッドのように不安定だ。
でも、そんなステージでさえ、私は立ちたいと思う。
……ムギの出てくるストーリーなら。
6 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:06:30.47 ID:FjSXEy20
しばらく目を閉じていたら、チャイムが響いた。
2限の終わりだ。
澪「……」
脈動の速さは、最高潮に達していた。
保健室に足音が近づくたび、呼吸が止まる。
がちゃりとドアが開くと、太腿の筋肉がぴんと張った。
紬「澪ちゃーん?」
澪「ムギ……」
わざと小さな声でムギを呼ぶ。
ライアー・インザライは嘘に余念がない。
しゃっとカーテンを開けて、ムギが現れる。
そして一歩進んで、私たちだけの狭い空間をつくった。
紬「……体の調子はどう?」
7 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:08:09.68 ID:FjSXEy20
ムギは、優しい。
私の嘘に気付く様子もなく、ただ私の体調を案じてくれる。
それが仕事である保健室の先生にすら、疑いのまじる視線を向けられる私なのに。
澪「ん……少し、胸が苦しいかもしれない」
嘘ばかりつくのが申し訳なくて、一匙だけ真実を加えてみる。
紬「苦しいって……大丈夫なの?」
嘘をつかなかったご褒美かは分からないけれど、瞳に焦燥をにじませ、ムギが私の顔を覗きこむ。
澪「い、いや、言う程でもないよ。そんな感じがするくらいだ」
慌てて体を起こす。耳から煙が出そうだった。
そのとき。
紬「こら澪ちゃん、寝てないとだめ!」
ムギが私の両肩に手を置いた。
ふわりと柔らかな力がかかって、私はベッドに沈められていく。
その一瞬が、耐えようもなく甘かった。
8 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:09:33.14 ID:FjSXEy20
きしん、きしん。
私の頭の裏で、何かが数度軋みを上げた後、無音にて断たれた。
澪「ムギ……」
天井の前で、ムギは慌てふためいた顔をしていた。
紬「ねぇ、本当に大丈夫? 顔が真っ赤よ?」
何を言っているかは分からなかった。耳がきいんとして、聞こえない。
でも、私に語りかけていることは間違いない。
そして、それだけでムギのことを愛しく想うには十分だった。
紬「?」
手をのばして、ムギの後ろ頭に左手を置く。
指にふわふわの癖っ毛が絡んだ。
少し力を入れる。抵抗感はなく、ムギの顔が私の口元におりてくる。
紬「……」
9 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:10:18.71 ID:FjSXEy20
ムギは目を開いたまま。
私も、どうしてかタイミングを失ったか、目を開けたまま。
わたし達の唇は、奇跡的にぴったり重なっていた。
「ちゅ」と間抜けな音は、カーテンの中いっぱいに響いた気がした。
ムギが唇を離したのだった。
紬「み、澪ちゃん?」
その声は、ただ純粋な疑問のみを含んでいた。
驚きも、興奮はおろか、嫌悪すらない。
私は、こんなにもぐちゃぐちゃと感情がないまぜになっているのに。
澪「ムギ。……な?」
明確なのは、私がムギを愛しているという事だけ。
ムギの脇の下に腕を差し、ぎゅっと抱き上げる。
紬「ひゃあ!」
やっぱり抵抗しない。ムギには抵抗できないのかもしれない。
10 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:10:56.67 ID:FjSXEy20
されるがままに、ムギが私の上にのしかかる。
澪「うむ……」
紬「あの、澪ちゃん……?」
足の爪先を動かし、少しずつ私たちを阻む布団をどかしていく。
返事をせずに、私はムギをぎゅっと抱きしめる。
紬「……」
ムギの身体はこんなにも温かいのに、彼女はぶるっと小さく震えた。
澪「なぁ、ムギ。ムギは私のことどう思う?」
紬「澪ちゃん……いったい何の話?」
澪「おかしいと思うだろ。こんな私……」
私はなにが言いたいんだろう。
こんな話をムギにして、どうしようっていうんだろうか。
紬「私は……澪ちゃんがおかしいとは思わないけれど」
ムギは私の顔から視線をそらすように俯いた。
紬「嘘をつくのは、いけないと思うわ」
11 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:11:40.26 ID:FjSXEy20
私は息をのんだ。
澪「知ってたのか!?」
紬「だって、澪ちゃん……元気いっぱいじゃない」
目の前のムギの顔が、にわかに歪んだように思えた。
その笑みはどこか淫靡な、私の見たことのないムギだった。
そういえば、私はムギのことをほとんど知らない。
澪「……元気いっぱいということもないと思うけど」
私はぼそりと言う。
体がほてり過ぎて、小さな声しか出せなかった。
紬「そうね。澪ちゃんはきちんと悪いことをしてるって自覚があるからね」
ムギの指先が私の顎に触れる。
背筋に、ぞくりと言い知れぬ感覚が走った。
澪「む、むぎぃ……」
愛されているというより、母親にあやされているような感じだ。
……悪くない。
12 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:12:06.54 ID:FjSXEy20
紬「澪ちゃん、可愛いわ……」
不意に、ムギが目を閉じる。
つられるように、私も瞼をおろし、ムギに身を任せた。
唇が触れ合う。
澪「ん……」
紬「ふふ。……ちゅ」
私のくちびるが、ほのかに潤んだムギの唇に食まれる。
頭がぼうっとして、何も考えられなくなる。
私の背中に、ムギの腕が回される。
わたし達はさらに密着する。
制服越しに、ムギの胸の柔らかさが感じられる。
澪「っ……」
状況の整理もままならない。
けれど、とにかく我慢できない。
私はそっと、左手を浮かす。
13 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:12:40.20 ID:FjSXEy20
ムギの腰より、すこし下。
そこへ手をおろし……
紬「こらっ」
澪「たっ」
目にも止まらぬ速さで、ムギの右手が私の手をはたいた。
紬「みーおーちゃん?」
澪「……」
そうだ。
そのまえに、本当のことを言わないといけない。
けれど。
澪「……」
もう、手も口も動かなかった。
その理由ははっきりしない。
うそばかり言っているから、真実を口にできなくなったのかもしれない。
14 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:13:31.31 ID:FjSXEy20
紬「……そう」
ムギが残念そうに言って、身体を起こした。
ベッドをおりて、ムギは私に背を向ける。
紬「それじゃあ私、そろそろ教室に戻らないと」
澪「あ、ああ……」
顔は見えないけれど、ムギの笑った気配があった。
紬「澪ちゃん。しっかり休んで、元気になってね?」
それだけ言って、すたすたとムギは去っていく。
なにを咎めることもなく、ほんとうに見舞いに来ただけのようだった。
澪「……」
先生、ごめんなさい。
私は今も、今晩も、頑張れそうにありません。
そして、明日もまた、嘘を吐きに参ります。
終
15 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 00:15:52.10 ID:FjSXEy20
(;^ω^)……!?
おわりです
澪「ライムギ畑で嘘ついて」というフレーズが頭の中にがっちり固定されてしまって
もうこれしか書けそうにありませんでした
話の落とし所もわかりませんでした
16 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 03:43:45.09 ID:OmCuVAAo
まだだ、まだ終らんよな
17 :
◆Oiky3b0jxk
[sage]:2010/11/21(日) 07:00:56.43 ID:0VcaO3Y0
はじまるよ
一応、唯梓らしいよ
18 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
:2010/11/21(日) 07:01:40.16 ID:0VcaO3Y0
「待ち合わせ」
19 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:02:40.69 ID:0VcaO3Y0
日曜日
朝 8:00
わいわい…
がやがや…
スタスタ…
梓「…」 スタスタ…
梓「えっと…」 キョロキョロ
梓「唯先輩は… まだ来てないか」
梓「…」
梓「…まぁ、そりゃそうだよね」
梓「…」
20 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:03:26.25 ID:0VcaO3Y0
がやがや…
ざわざわ…
梓「待ち合わせの時間までは随分あるし…」
梓「どうしよっかな…」
梓「…」
梓「とりあえず座ろ」 ストン
梓「…時間はまだ8時」
梓「……まだ2時間もあるんだよね」
梓「…」
梓「…流石に …ちょっと早すぎたかな?」
21 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:04:48.10 ID:0VcaO3Y0
梓「…」
梓「どうやって時間つぶそ…」
ぴゅー
梓「うっ さぶっ」
梓「急に寒くなってきたよね
ちょっと前まで暑い日が続いてたのに…」
梓「もう少し着込んでくれば良かったかな?」
梓「…」
梓「あっ…唯先輩はまだ布団の中だったりして」
梓「…寒いな」
22 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:05:29.77 ID:0VcaO3Y0
…
梓「…」
スタスタ…
律「ん?」
梓「あ」
律「よっす、奇遇だな梓」
梓「おはようございます、律先輩」
律「誰か待ってるの?」
梓「はい、今日唯先輩と遊びに行く約束をしてたので…」
律「あー、そう言えばそんな事も言ってたっけ
それで、梓は唯が来るのを待ってるわけだ」
梓「はい!」
律「……お二人さん仲いいですわね〜」
梓「もう、からかわないでください」
律「あはは」
23 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:06:42.24 ID:0VcaO3Y0
梓「律先輩はどちらに?」
律「ん?私は散歩かな」
梓「一人でですか?」
律「まあね、暇だからちょっとその辺をぶらりと」
梓「寂しいですね」
律「うるさい、ほっとけ」
梓「あはは」
律「こいつ〜」
律「ま、そう言うわけだからさ
私はこれで それじゃ、またな」
梓「はい、また」
スタスタ…
24 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:07:48.37 ID:0VcaO3Y0
梓「…」
梓「…」
梓「こんな寒い日でも律先輩は元気そうだったなぁ」
梓「…」
梓「…」
タッタッタッタ
ピトッ
律「ぴとー!」
梓「ぎゃああっ!」
25 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:08:37.85 ID:0VcaO3Y0
律「あはは、驚いた〜!」
梓「いきなり何するんですかっ!
て言うかなんで戻ってきてるんですかっ!」
律「ほい」 サッ
梓「えっ」
律「缶コーヒー、暖かいやつ
甘いので良かったか?」
梓「えっ…いいんですか?」
律「いいよ全然、て言うかたまには先輩っぽいことさせろって」
梓「…ありがとうございます」
スッ
26 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:09:38.98 ID:0VcaO3Y0
梓「…あたたかい」
律「だろ、最近冷えるからさ
待ってる間、体冷やさないようにな」
梓「律先輩…」
律「あとコレもう一本、唯にも渡しといて」 サッ
梓「あっ…はい」 スッ
律「…」
梓「…」
律「さてと、お邪魔虫は馬に蹴られる前に退散しますかね」
梓「律先輩っ!」
律「はは、冗談冗談
それじゃあ、今度こそまたな〜」 スタスタ…
梓「はい、律先輩ありがとうございます」
律「いえいえ〜」
スタスタ…
27 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:10:43.58 ID:0VcaO3Y0
梓「…」
梓「…」 カチャ
梓「…」 ゴクッ
梓「…甘い」
梓「…」
梓「なんだかんだ言ってもいい先輩だよね」
梓「…」
28 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:11:25.96 ID:0VcaO3Y0
…
梓「…」
スタスタ…
澪「あれ」
梓「あ」
澪「おはよ、梓」
梓「おはようございます、澪先輩」
澪「何してるんだ?」
梓「今日は唯先輩と遊ぶ約束をしていまして」
澪「ああ、それで待ち合わせしてるのか」
梓「はい」
29 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:12:11.12 ID:0VcaO3Y0
澪「それじゃあ 唯、遅刻してるのか?
まったく、こんな寒いのに後輩を待たせたりして」
梓「あ、いえ あの…」
澪「ん?」
梓「私が早く来すぎちゃって」
澪「あ…そうだったのか
なんかごめんな」
梓「いえ」
澪「何時に待ち合わせしてるんだ?」
梓「…あっ…えと…」
澪「?」
梓「…その……10時です…」
澪「…」
梓「…」
澪「早すぎないか?」
梓「そ、そうでもないですよ!こ、これくらいが普通です!」
澪「…そうかな?」
30 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:13:49.47 ID:0VcaO3Y0
澪「でも今からだと結構待つんじゃないか…?
そうだ、少し待ってなよ
その辺で暖かい飲み物でも買ってくるからさ」
梓「ありがとうございます澪先輩
でも大丈夫です」
澪「?」
梓「さっき律先輩に会って…缶コーヒーを戴いたので」
澪「! なんだ、そうだったのか」
梓「はい」
澪「律も…こっちに来てたんだな」
梓「ええ、散歩って言ってましたけど」
澪「そっか、探せば見つかるかな」
梓「律先輩と会ったのはほんの少し前なので
今から追いかければ会えるんじゃないかと」
澪「ありがと、律に会ったら遊びにでも誘うよ」
梓「それがいいと思います、律先輩も暇してたみたいですから」
31 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:15:22.32 ID:0VcaO3Y0
ぴゅー
梓「うぅ…さぶ」
澪「ちょっと風が強いな…
あ、そうだ」 ゴソゴソ
澪「はい、梓」 サッ
梓「?」
澪「使い捨てカイロだけど 良かったら使ってくれ」
梓「澪先輩…ありがとうございます」
スッ
梓「…くま?」
澪「キャラクターがプリントされてるんだ、可愛いだろ?」
梓「そうですね、暖かくて…可愛いです!」
澪「うん、良かった!
それじゃあ私は行くよ、体冷やさないようにな」
梓「はい、澪先輩また明日!」
澪「ああ、またな」
スタスタ…
32 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:16:26.52 ID:0VcaO3Y0
梓「…」
梓「…澪先輩と律先輩も仲いいよね」
梓「…幼馴染かぁ」
梓「…ちょっと羨ましいかな」
梓「…」 スリスリ
梓「暖かい…」
梓「ふわぁ…」
梓「……眠くなってきたかも」 ウトウト…
梓「…」 ウツラ… ウツラ…
33 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:17:13.66 ID:0VcaO3Y0
…
梓「…」 スヤスヤ…
スタスタ…
紬「あら?」
梓「…」
紬「梓ちゃん?」
梓「すぅすぅ…」
紬「ふふっ、寝ちゃってるみたい」
梓「…」
紬「でもどうしてこんな所で…?」
ぴゅー
梓「うっ…さぶっ」
紬「あっ」
梓「ん…ムギ…先輩?」
紬「おはよう、梓ちゃん」 ニコッ
梓「私…寝ちゃってた…?」
34 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:18:03.97 ID:0VcaO3Y0
梓「ムギ先輩、おはようございます…
えと…唯先輩はまだ来てませんか…?」
紬「唯ちゃん?
あ、梓ちゃん 唯ちゃんと待ち合わせしてたのね」
梓「はい…10時から遊ぶ約束をしてたので…」
紬「あら、それじゃあ…たぶんまだじゃないかしら
今は9時ちょっと過ぎたところだから」
梓「そうでしたか…」
紬「…梓ちゃん、唯ちゃんと遊ぶの楽しみにしてたのね」 ニコニコ
梓「えっ い、いえ…そんなことは」
紬「ふふっ」
梓「…」 テレテレ
35 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:18:54.69 ID:0VcaO3Y0
梓「それにしても…今日はよく先輩達に会う日だなぁ」
紬「そうなの?」
梓「さっき律先輩に会って…
そのあと澪先輩にも会いました」
紬「まあ…それは素敵ね」
梓「…はい、きっと今日は素敵な日です」
ぴゅー
梓「さぶっ…」
梓「…」 スリスリ
紬「? それは?」
梓「澪先輩から貰ったカイロです
今日は寒い日だからって…戴きました」
36 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:20:32.16 ID:0VcaO3Y0
紬「えっ、あっ、そっか! わ、私も何かあげた方がいいのかな?!」
梓「えっ」
紬「で、でも 私あげる物なんて何も…」
梓「えと…ムギ先輩…そんなに気にしなくても…」
紬「! そうだ!梓ちゃん!」
梓「は、はい!」
紬「両手出してみて」
梓「? …こうですか?」
ギュッ
梓「!」
紬「あげる物はないけど…
でも私は手が暖かいから…どう?」
梓「えっ あっ あ、暖かいです…!」
紬「ふふっ、良かった〜!」 ニコッ
梓「あ、ありがとうございます…」 テレテレ
37 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:21:49.12 ID:0VcaO3Y0
紬「抱きついて温めてあげてもいいけど
それじゃあ唯ちゃんに怒られちゃうわね」
梓「えっ」
紬「ふふっ」
スッ
紬「それじゃあ私そろそろ行くわね」 ニコッ
梓「あ、あの…」
紬「梓ちゃん、また部室でね」
梓「えっ…はい、また」
スタスタ…
38 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:22:21.53 ID:0VcaO3Y0
梓「…」
梓「唯先輩に怒られちゃうって…
ムギ先輩まで…私をからかってるのかな…?」
梓「…」
梓「…」
梓「まあでも…
みんな…優しい先輩たちだよね」
梓「…」
梓「…」
39 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:22:59.29 ID:0VcaO3Y0
梓「…」
梓「…」
梓「…」
梓「…」
タッタッタッタッタッタ
梓「あ」
40 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:23:49.72 ID:0VcaO3Y0
唯「ぜぇ…ぜぇ…」
タッタッタッタ
唯「はぁ…はぁ…
お、おはよう あずにゃん…!」
梓「おはようございます、唯先輩」
唯「あずにゃん先に来てたんだね
ごめんね…
待ったよね?」
梓「…」
梓「いえ、私もさっき来た所ですから」 ニコッ
41 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:24:51.47 ID:0VcaO3Y0
唯「そっか〜、それなら良かったよ〜」
梓「それじゃあ行きましょうか、唯先輩」
唯「うん、そうだね!
お?」
唯「あずにゃんそれは?」
梓「? あ、律先輩から貰ったコーヒーですね
唯先輩の分も貰ってるのでどうぞ」
唯「おお〜ありがと〜!」
スッ
唯「あれ」
梓「? どうしました?」
唯「冷たいね」
梓「あ」
唯「…」
梓「…」
唯「もしかしてあずにゃん…結構待ってたの…かな?」
梓「えっと…」
42 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:26:06.45 ID:0VcaO3Y0
唯「…」
梓「…」
唯「…」
梓「そ、その……」
ぴゅー
梓「さむっ…」
ギュッ
梓「あ…」
唯「これなら寒くないよね?」
梓「……はい、全然寒くないです」
唯「待たせてごめんね、あずにゃん」
梓「…」
唯「…」
梓「…と、特別ですよ」
唯「うん!ありがとうあずにゃん!」
43 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/21(日) 07:27:17.79 ID:0VcaO3Y0
唯「それじゃ、行こっか あずにゃん!」
梓「…はい 行きましょうか 唯先輩!」
唯「あ、そうだ!
あずにゃんや、肉まん食べよ!肉まん!」
梓「に、肉まんですか…」
唯「うん!おいしいよ!
それにね肉まん食べたら体が温かくなるんだよ!」
梓「…仕方ないですね、一緒に食べましょうか」
唯「わーい!
肉まん〜♪ホッカホカ〜♪」
梓「まったく…」
梓「でも…」
梓「…今日はあまり寒くないかも」
おしまいっ
44 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 07:29:31.35 ID:0VcaO3Y0
終わりっす
次どうぞどうぞ
45 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 07:30:52.57 ID:FjSXEy20
ほのぼのー乙
46 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 07:52:19.02 ID:BqLhNnco
乙
47 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:00:00.60 ID:DxFc.kDO
寒さに包まれた12月の中旬。
乾いた雪が点々と地面を覆い隠していく、そんな人気のない道路の真ん中で、
「……梓ちゃん、きらい」
憂はそう呟いた。
48 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:02:04.09 ID:DxFc.kDO
私は、そんなふうに隣で拗ねる憂の手に、そっと自分の手を滑り込ませる。
憂は拒んだりはしないけど、それでも膨らませた頬は戻らない。
赤と白の、色違いの綿毛の手袋を二枚重ねても暖かさは伝わって、
でもそれくらいじゃ憂は言ってはくれない。
「……梓ちゃん、分かってるくせに」
「だめ」
容赦ない私はそれでも憂を許してあげなくて、真っ赤になって俯く横顔をじっと眺めた。
耳まで淡い紅色に染められているのは、きっと寒さだけのせいじゃない。
お魚マフラーの下に隠された首元も、きっと同じになっている。
いつもよりずっと小さく見える、そんな憂の声がどうしようもなく聞きたくて
私は握った憂の手をコートのポケットに引き入れた。
「……きらい」
「うそつき」
次第に憂のその声は小さくなって、もう唇がその言葉をなぞるだけ。
「うそつき」
でも私は、相変わらず同じ言葉を返し続ける。
「ねぇ憂……言ってよ」
少しだけ意地が悪いそんな私は、憂のことが好きで好きでどうしようもなかった。
49 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:02:45.16 ID:DxFc.kDO
私たちはたぶん、そういう関係。
口で言ったことは一度もないけれど、憂だってきっとわたしと同じ気持ち。
端からは気付かれないように。
私たちはただの友達に見えるように振舞うけれど、手を触れるだけで、視線を重ねるだけでたしかに伝わる。
みんなの前では言えないから、私たちは口を噤む。
それを恥ずかしいって理由の言い訳にするのも、私たちだけの秘密。
キスをしたのは一度だけ。
あの時は、確か憂から手を握ってくれたんだ。
50 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:03:29.36 ID:DxFc.kDO
ごめんなさい梓×憂です
51 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:05:22.12 ID:DxFc.kDO
──
────
頬を冷やす肌寒い風が吹き始めた11月。
もう放課後のころには日が暮れかけてくる。
哀愁を漂わせる廊下と階段で私たちが交わしていた他愛もない会話は、次第に静寂へと変わっていった。
扉の前に立つ私が、言われるわけでもなくその取っ手を捻り、開けた。
「……勉強、する?」
何故だか夕日に見惚れてしまっていると、憂が尋ねてきた。
横を向くとどうやら憂も同じだったようで、やる気が削がれてしまったような、そんな顔で苦笑いをしていた。
憂に見られた私の顔は、恥ずかしいほどに間抜けだったかもしれない。
52 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:06:22.70 ID:DxFc.kDO
「……なんだかやる気でないや」
「はは、私も」
「今日は、いっか」
「そうだね」
そんな会話を交わしたのが、たぶんさっきのこと。
淡い夕焼けが窓から挿し込み、いつの日かティーカップが五つ並んでいた机を照らしている。
部室には、私と憂の二人だけ。
隣同士ソファに座って、何時からこうだったかは思い出せない。
たしか、純は用事があるって先に帰って私たちは二人で部室へやってきた。
53 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:06:57.42 ID:DxFc.kDO
……
いつの間にか三年生。
部活も終わって、受験生の私たちは軽音部の部室で勉強を始めた。
純のおかげでまともに勉強できるか心配だったけれど、思いのほか三人での勉強ははかどった。
「憂〜お茶飲みたい〜」
「うん、今いれるね」
「まだ勉強中だからいいよ憂」
「なによ梓、文句あんの」
「純が一番勉強しなくちゃいけないでしょ」
「ちょっとふたりとも〜」
こんな会話は毎日のように。
口ではきつい言葉を言うけれど、純が憂に甘える度に気が気ではなかったけれど、
それでもこんな会話は私たちらしいななんて、楽しかった。
54 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:07:35.50 ID:DxFc.kDO
その頃もわたしたちの言葉に出せない関係は続いていて、口にしなくても手を繋ぐことだって出来た。
「あーずさちゃん」
「ん……?」
「……えへへ」
その度に憂は笑ってくれて、素直じゃないわたしの顔も綻ばせてくれた。
そしてその度に、憂のことがもっと好きになる。
それは今でも同じ。
絶対に解けないはずの、憂へと絡みついたわたしの糸を憂は更に固く結びつける。
深みに嵌って抜け出せなくなるような感覚も心地良いだけ。
だって、憂のことが好きになるんだ。
嫌がることなんて何一つない。
直接は言えないけれど、そんな気持ちが伝わってくれたら、とわたしも憂の名前を呼び返す。
……
55 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:08:24.97 ID:DxFc.kDO
「もうすぐ12月だね」
静けさが続いていた空気の中、憂が小さく声に出した。
「うん」
「そしたら、きっとあっという間に冬休みだよ」
「うん、きっとね」
隣に座って、顔は見ていないけれど憂が窓を見ているのが分かった。
乾いた空気は、憂の透き通った声を更に響かせる。
「どうしよっか」
えっ、と言ってしまいそうになってどうにか留まった。
声を向けられたのは私なのに、部屋にはあとわたししかいないのに、すぐに返事を返せなかった。
なんだか、とっても嬉しかったから。
「……どうするって?」
やっと言葉を発せたときには、手のひらに汗が滲んでいて、情けない自分が少し恥ずかしくなる。
「だから、冬休み」
「えっと……」
必死に頭をまわして憂が喜んでくれそうな答えを見つけようとするけれど、焦りに焦るわたしの脳は案の定空回りする。
憂に見られてる気さえして、無駄な緊張が余計にわたしを煽った。
そして、なんとかひねり出せた返答は、
「う、憂と一緒にいる!」
そんな、さっきの自分よりずっと恥ずかしい台詞。
56 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:09:15.85 ID:DxFc.kDO
「……」
「……ご、ごめん」
訪れた沈黙に耐えきれなくなって、思わず謝ってしまった。
わたしはだめだなぁなんて思いながら、ちらりと傍らの憂を見やる。
「……えへへ」
でも憂ときたら、本当に嬉しそうな顔で笑っていて、わたしは一瞬だけさっきの言葉を忘れることができた。
後ろから日に照らされる憂は、それでも太陽なんかよりずっと眩しい。
その陰を通るようにカラスが一羽窓の外を飛んでいたけれど、わたしの意識には入らない。
「梓ちゃん」
柔らかい顔のまま、憂がわたしの手を取った。
もうそれなりに寒いはずなのに憂の手は温かくて、強張ったわたしの体まで溶かしていく。
持て余した右の手のひらは、わたしの左手を包む憂の手に重ねた。
そうすると憂は、その手を引きぬいて今度は私の両手を包む。
「……目、閉じて」
「……うん」
折り畳まれていく瞼の外に、近づいてくる憂が見えたけれど、両手を塞がれたわたしには関係がなかった。
57 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:10:36.04 ID:DxFc.kDO
熱かった。
信じられないくらい高鳴っていた心臓の音はいつの間にか聞こえなくなって、唇の感触だけが頭に響く。
目を閉じたままの浮翌遊感が、夢じゃないのかな、なんてわたしに錯覚させた。
でも確かに、柔らかい感触が伝わるから。
地に足がつかない私の意識でも大丈夫。
目を開けて、すぐ前の憂を見たかったけれど、視線が合ってしまいそうで我慢した。
そんなどうでもいい考えだけが頭を巡る。
時間はもう、分からない。
ただ感じるのは、表しきれないような幸福感だけ。
そうして、いつ離れたのかも分からない。
でも憂は、また同じ笑顔で見せてくれていた。
わたしには返す顔がなかったから、唇を今度はその白い頬にあてた。
58 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:11:37.76 ID:DxFc.kDO
──
────
それが、ひと月前。
あの時のことは、まるで幻だったかのように胸に秘めてそのまま。
あれ以来あったことといえば前のように手を繋いだことくらいで、わたしも少し不安になってしまう。
だって、憂はまるでなかったことのように振る舞うから。
でも憂に尋ねるのも恥ずかしさから憚られて、私は悶々とした生活を送っていた。
勉強に身を入れようとしても、少しあの記憶が頭をよぎるとあっという間に気が抜ける。
自分だけが振り回されているような気がして、魂が抜けるようなため息がその度に漏れてしまう。
わたしにはあまり有意義とは言えなかったそんな2学期の後半も、今日でおしまい。
いよいよ明日からは冬休み。
遊びに精を出せるといえばそんなわけはなくて、一応受験生であるわたしたちはそれなりに勉強しなくてはいけない時期だ。
59 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:12:20.20 ID:DxFc.kDO
そんな雪の日の帰り道、どちらが言うまでもなくわたしたちはふたりで歩いていた。
「……寒いー……」
「ね」
わたしの独り言にも、相変わらず優しい憂は返してくれる。
マフラーの前で組まれる憂の手には、ふたりで買った色違いの手袋。
「……もう2学期終わっちゃったね」
どこか切なそうに呟く憂の横顔。
でもわたしはそんなことを気にする余裕もなくて、ここぞとばかりにようやく勇気を出して言った。
「で、でも、冬休み……だよ?」
震える口調のその言葉で、あの日のことを確かめたかった。
まさか嘘だったら。
わたしは悲しくて泣いてしまう。
そんな思いがずっと胸にあったから、憂に聞いて確かめたかった。
60 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:12:59.18 ID:DxFc.kDO
「そうだね」
でも憂は、相変わらずの落ち着いた口調で返してそのままだった。
ゆっくり進む足は止まらないで、僅かに白む道路に跡を付けていく。
わたしたちだから口には出せなかったのかもしれないけれど、そんなの気にしてほしくなかった。
なんなら直接言ってくれたってわたしは構わないのに。
とにかく、このままなんて嫌だ。
明日からは冬休みなんだ。
もう周りを気にしなくたっていいんだ。
「……憂」
それに、もっと憂と想いを確かめ合いたい。
手を繋ぐだけなんて、口づけを交わしたこの体では寂しすぎるから。
言わなくても伝わる関係。
そんなものではもう我慢出来ない。
「なぁに?」
憂に、ちゃんと言いたかった。
憂から、ちゃんと言ってほしかった。
「わたしのこと、好き?」
61 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:13:42.15 ID:DxFc.kDO
憂が足を止めた。
置いていかないように、わたしも立ち止まる。
「……」
横目で憂を見ると、少しだけ俯いて見えた。
憂はずっと答えないで、わたしたちの肩を舞い降る雪が覆い隠す。
わたしが尋ねてから過ぎた時間は少しだったかもしれないけれど、わたしはまた憂の名前を呼ぶ。
「……憂?」
振り向くと、憂の顔は真っ赤だった。
いつも漂わせているふわふわしたような雰囲気は残っていたけれど、見たこともないくらい、普通ではなかった。
憂はさらに俯いて、次第に足元しか見なくなる。
静かなその場所で、わたしが聞いたのはただ雪の音。
「どうして、そんなこと聞くの」
やっと口を開いた時には、その声はまるでいじけた独り言のようだった。
62 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:14:35.01 ID:DxFc.kDO
そんな憂を見ていたわたしの恥ずかしさはもうとっくになくなっていて、今度はしっかりとした声で返す。
「憂のこと、好きだから」
「っ!」
初めて言えたその言葉は、自分でも驚くほどきれいに口から出た。
今度こそ憂は何も言えなくなってしまったようで、拗ねたようにわたしを睨んだ。
変わらず真っ赤なままの顔は、わたしには全然怖いなんてことなかった。
「憂は?」
「……梓ちゃん、きらい」
開き直ったように言う憂は、また下を見つめている。
きらい、なんて言われてもそんなのは今更堪えない。
今までのわたしたちはそんな言葉で崩せるほどの関係じゃない。
「うそつき」
手袋をしていたけれど、憂がスカートを抑える手のひらが寒そうに見えたから、わたしはその手を取る。
63 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:15:07.89 ID:DxFc.kDO
「……梓ちゃん、分かってるくせに」
なかなか強情な憂は、それでも言ってくれなかった。
「だめ」
端から見たら、わたしが憂をいじめてるように見えるかもしれない。
でも、憂が言わないのがいけないんだ。
握った手を、そのまま今度はコートの中に入れた。
「……きらい」
「うそつき」
半分マフラーに隠された口元がもぞもぞと動く。
きっとまたきらいって言っているのだろう。
「うそつき」
そんないじらしい憂が、愛おしくてたまらない。
「ねぇ憂……言ってよ」
寒さに動かしにくくなった唇でも、憂に向かってはしっかりと話せた。
64 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:15:40.87 ID:DxFc.kDO
「梓ちゃん、ずるい」
「だって憂にも言ってほしいもん」
「……ずるいよ」
勝手に自分だけ、と呟いて、憂は再び口を噤んだ。
その後も何か喋っていたのかもしれないけど、わたしの耳には届かなかった。
「……も、もうっ」
わたしにとりあえず何か仕返しでもしようと思ったのか、コートの中の手が少し強く握られた。
でもわたしは、それに負けないくらいの力で握り返す。
「す、好きだよっ!好き!だから梓ちゃんだってもっと……ひゃっ」
憂はまだ言っている途中だったけれど、堪え切れなくて握っていない左手で憂を引き寄せた。
火照るくらい温かい憂の体を、右手も離して抱きしめる。
でも目を合わせるのは恥ずかしいから、耳元でそっと呟いた。
「好き。憂のこと、大好きだよ」
65 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:16:26.12 ID:DxFc.kDO
甘い香りがした。
この匂いは、ずっと隣で嗅いできた香り。
「……っ、ばか……」
「憂だって」
乾いた空気でも、その匂いはわたしを緊張させた。
胸が熱くなる感覚に襲われる。
ずっとわたしを悩ませてきたどうでもいい煩悶は、もうどこにもなくなっている。
もう一度、憂に伝える。
でも恥ずかしいから、耳元で。
「好き」
「……わ、わたしだって」
憂もわたしを抱き返す。
普段と違うわたしの態度に、半ばやけになっているようにもみえた。
でも、構わない。
憂の中には、確かにわたしがいるんだから。
66 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:18:19.07 ID:DxFc.kDO
──雪の中でわたしたちが交わしたのは、二回目のキス。
二回目も、憂からしてくれた。
寒空の下でも、唇には熱い感触が響く。
憂も、きっと同じ感覚。
宙に浮くような、どこかに落ちて行くような、そんな感覚。
わたしよりも恥ずかしがり屋かもしれない憂は嘘をついた。
でも、好きって言ってくれたんだ。
もう不安になったりはしない。
でもまだ足りないから、もっと強く抱きしめる。
降り積もる雪は、わたしたちに触れた分だけとけていく。
誰もいない冬の道では、わたしたち二人は隠せない。
おしまい。
67 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage]:2010/11/21(日) 09:19:09.75 ID:DxFc.kDO
皆さんお疲れでーす
次の方が来てくれますように…
68 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:00:21.60 ID:aF2QzVAo
和憂です
69 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:01:24.60 ID:aF2QzVAo
4月12日 平沢家
憂「いらっしゃい、和ちゃん。今日はどうしたの?」
和「あら、理由がなかったら訪ねちゃ駄目かしら?」
憂「そんなことないよ。ただ、高校生になってからはあまり来てくれなくなったから、珍しいなって」
和「生徒会が忙しいのよ。唯だって部活始めちゃったしね」
憂「お姉ちゃんは忙しいけど、私は暇だよ。和ちゃんはお姉ちゃんがいなきゃ遊びに来てくれないの?」
和「やきもち? 憂にしては珍しいわね」
憂「うふふ、冗談だよ和ちゃん」
和「冗談を言う憂も珍しいわ」
憂「そうかなぁ? それより立ち話もなんだよね。上がって上がって」
和「悪いわね。今日は親におつかいを頼まれててのんびりしていられないの。はい、これ。唯が教室に忘れて行った課題プリント」
憂「もう帰っちゃうの?」
和「本当はもっと憂と一緒にいたかったわ」
憂「デートを終えた恋人みたいだね、和ちゃん」
和「そうかしら? じゃあ彼氏ができたらこのセリフ使うわ」
憂「和ちゃんに彼氏なんてできないよ〜」
和「言ってくれるわね」
憂「嘘だよぉ」
和「この子ったら」
70 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:02:52.28 ID:aF2QzVAo
5月21日 真鍋家
和「あら憂」
憂「こんにちは、和ちゃん」
和「もうこんばんはの時間ね」
憂「えへへ、こんばんは、和ちゃん」
和「何か急用?」
憂「用がないとダメかな?」
和「憂ならいつでも大歓迎よ」
憂「うれしいなぁ」
和「本心だからね」
憂「わかってるよ。和ちゃんって結構ストレートだもん。嘘なんてつけなさそう」
和「そうかしら?」
憂「そうだよ。あ、これ、お隣のおばあちゃんから頂いた筑前煮。お姉ちゃんと私だけじゃ食べきれないから和ちゃんの所にもお裾分けしようと思って」
和「あらありがとう。用事はこれかしら?」
憂「うん、それに和ちゃんに会いたかったから」
和「そう? ありがとう」
憂「もっと喜んでよ」
和「嬉しいわ」
憂「もう。帰る」
和「送って行くわ」
憂「大丈夫だよ」
和「そう?」
憂「バイバイ、和ちゃん」
和「これからは一人で夜道を歩くのはよしなさいよ」
憂「わかってるよ、和ちゃん」
71 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:04:18.30 ID:aF2QzVAo
6月27日 平沢家
憂「後はオーブンに入れてっと」
和「部屋にいないと思ったら」
憂「あ、和ちゃん。もう休憩時間?」
和「ええ。唯がばてちゃって」
憂「あはは。お姉ちゃんだって毎日がんばってるんだよ」
和「休憩時間になったら急に元気になったけどね。今は律達と一緒に梓ちゃんや純ちゃんとじゃれてるわ。憂の部屋、勝手に使っちゃって悪いわね」
憂「大丈夫だよ。みんな楽しそうだなぁ」
和「憂だって楽しんでいいのよ」
憂「楽しんでるよ」
和「クッキー作るなら私も手伝ったのに」
憂「受験生に手伝わせるなんてできないよ」
和「憂だって期末試験前じゃない。それとも、余裕なのかしら?」
憂「そんなことないけど……。勉強会なのにお菓子の一つもないのは辛いかなぁって」
和「そこで市販のお菓子を出さずにわざわざ手作りするところは憂らしいわね」
憂「みんなの喜ぶ顔が見たいもん」
和「羨ましい性格してるわ」
憂「そうかな?」
和「でも今度の勉強会の時は私にも手伝わせてね」
憂「えぇ……」
和「いやなの?」
憂「いやじゃないけど……悪いよ」
和「私もみんなの喜ぶ顔が見たいから」
憂「それなら……しょうがないかなぁ」
72 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:06:06.64 ID:aF2QzVAo
7月26日 平沢家
和「ごちそうさま。夏はやっぱりカレーね」
憂「そうだね〜」
和「せっかくごちそうになったんだし私が皿洗うわよ」
憂「お客様にそんなことさせられないよ。和ちゃんは座ってて」
和「勝手に上がり込んでこんなに美味しいカレーをタダで頂いたんだから、ちょっとくらいお返しさせてよ」
憂「じゃあ……一緒に洗おっか」
和「しょうがないわね」
憂「お姉ちゃん達、楽しくやってるかなぁ」
和「夏フェスよね。ちょっと心配だわ」
憂「何が?」
和「唯達の貞操が」
憂「え……」
和「ごめんごめん。冗談よ。山中先生も付いてるし大丈夫よね」
憂「もう。……本当に大丈夫だよね?」
和「話は変わるけど、憂は室内ではいつもそんな恰好してるの?」
憂「そんな恰好? 普通じゃないの?」
和「誰かが訪ねて来た時妙な目で見られたことない? 特に……男の人が来た時」
憂「うーん、ないと思うよ。そもそもうちにはあまりお客さん来ないからよくわからないよ」
和「……ひょっとすると心配すべきなのは唯より憂の方じゃないかしら」
憂「え?」
和「何でもないわ。それより憂、今晩泊めてくれる?」
憂「うん! 大歓迎だよ和ちゃん。久し振りに一緒にお風呂入る?」
和「……それは遠慮させて」
73 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:08:14.49 ID:aF2QzVAo
9月15日 生徒会室
憂「失礼します。こんにちは、和さん」
和「私しかいないわよ、憂」
憂「こんにちは、和ちゃん」
和「珍しいわね。憂が生徒会室に来るなんて」
憂「そうだねー。はい、クラスの出し物の申請書」
和「憂、実行委員じゃなかったわよね」
憂「そうなんだけどね、実行委員の人が部活に急いでるみたいだったから、私が代わりに。生徒会に知り合いがいるからって」
和「そう。はい、承りました」
憂「忙しそうだね、和ちゃん」
和「学園祭前だもの。しょうがないわ。それに3年目なんだからいい加減慣れたわ」
憂「私も生徒会に入れば和ちゃんのお手伝いができたのに」
和「そうね。憂になら生徒会長を任せられるわ」
憂「それは無理だよぉ」
和「私は嘘はつかないわ」
憂「でも意地悪はするよね」
和「他意はないわ」
憂「和ちゃんったら」
和「ま、憂も高校生活楽しんでいるみたいで何よりだわ」
憂「でも、私には夢中になれるものがないよ。お姉ちゃんや梓ちゃんにとっての軽音部、純ちゃんにとってのジャズ研、和ちゃんにとっての生徒会みたいに」
和「今からでも遅くないわよ。あ、生徒会に入れって意味じゃないわよ。大学に入ってからとか……いえ、来年からでもいいからやりたいことを探してみるといいわよ。憂なら大丈夫よ」
憂「そうかなぁ?」
和「ええ」
憂「じゃあ……がんばってみようかな」
和「頑張りなさい」
74 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:10:11.78 ID:aF2QzVAo
11月21日 某大学
和「あら憂じゃない」
憂「和ちゃん。どうしたの?」
和「いいじゃない。学祭見学したって」
憂「でもここ和ちゃんの志望大学じゃないよね」
和「まぁ気にしないで。それより一人かしら」
憂「純ちゃんと梓ちゃんも一緒だよ。今二人ともお昼ごはん買いに行ってる」
和「そう。それなら邪魔するのは悪いわね」
憂「一緒に回ろうよ」
和「さすがに二年生三人組の中に飛び込むのは気まずいわ」
憂「じゃあ二人が戻ってくるまでお話しよう。ここ座って」
和「それなら」
憂「上手だね。あのバンド」
和「この曲、どこかで聞いたことがあるわ」
憂「うーん、あ、オリコンで上位にランクインしたアニメの主題歌じゃないかな」
和「うん、確かにそんな気がするわ。大学生にもなってアニメなんて恥ずかしくないのかしら」
憂「でもいい曲だよ」
和「まぁそうね」
憂「和ちゃん、勉強はよかったの?」
和「たまには息抜きも必要よ。唯はどう?」
憂「今日は澪さん達と一緒に勉強だよ」
和「そう。よかったわ」
憂「お姉ちゃん、和ちゃんも誘ったって言ってたけど」
和「ええ、でも今日は休みたい気分だったの」
憂「そうなんだ」
75 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:12:22.31 ID:aF2QzVAo
12月24日 平沢家
和「今夜は冷えるわね」
憂「和ちゃん」
和「どうしたの、一人で。みんな探してたわよ」
憂「ごめんね。ちょっと外の空気を吸いたくなって」
和「これ着なさい。風邪ひくわよ」
憂「ありがとう」
和「星が綺麗ね」
憂「うん、でも……」
和「でも?」
憂「雪は降らないね」
和「ホワイトクリスマスなんてめったにないわよ」
憂「そうだよね」
和「そんなに雪が恋しい?」
憂「昔ね、お姉ちゃんがホワイトクリスマスをプレゼントしてくれたことがあるんだ。といっても本物の雪じゃないけど」
和「ふーん。でも私には雪を降らせることはできないわ」
憂「和ちゃん、嘘つけないもんね」
和「いいえ。私は嘘つきよ。唯のような優しい嘘つきじゃないけどね」
憂「和ちゃんは優しいよ」
和「私の嘘は優しくないわよ。欲求に忠実な汚い嘘」
憂「それなら私も一緒かなぁ」
和「そんな風には見えないわ」
憂「ううん。一緒だよ和ちゃん。だって……」
和「だって?」
憂「何でもないよ、和ちゃん」
76 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:13:58.52 ID:aF2QzVAo
12月26日 真鍋家
和「いらっしゃい、憂。上がって」
憂「すぐ帰るよ。勉強の邪魔しちゃいけないでしょ」
和「遠慮しなくていいわよ」
憂「はい、プレゼント。それじゃあね」
和「待ちなさい、憂」
憂「なあに」
和「クリスマスプレゼントなら一昨日くれたじゃない。もう忘れちゃったの?」
憂「え……」
和「あれ? 違うの?」
憂「和ちゃん、今日が何の日か覚えてないの?」
和「さて、何かあったかしら。確かプロ野球誕生の日だったかしら。60年くらい前に読売ジャイアンツの前身が……」
憂「そんなマイナーな記念日知らないよ」
和「ごめんなさいね。昔何となくググったら出てきたから記憶に残ってるの」
憂「その時の和ちゃんはどうしてググったんだと思う?」
和「さぁ忘れたわね。確か中二の時だったかしら」
憂「うん。目的もなくググりたくなるお年頃だよね。たとえば自分の名前とか……」
和「……誕生日とか?」
憂「おめでとう、和ちゃん」
和「すっかり忘れてたわ」
憂「もう、鈍いんだから。お姉ちゃんも後で来るからね」
和「どうして一緒に来なかったの?」
憂「……私これから用事があるから。じゃあね、和ちゃん」
和「……じゃあね」
77 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:15:47.74 ID:aF2QzVAo
1月3日 神社
憂「あけましておめでとう和ちゃん」
和「あら憂。あけましておめでとう」
憂「一人?」
和「生憎、ね」
憂「でもほら、みんな来てるから。そこでお姉ちゃん達と鉢合わせたんだ」
和「梓ちゃん、律に絞められてるけど止めなくていいのかしら」
憂「大丈夫だと思うよ。梓ちゃんも楽しんでるみたいだから」
和「恐ろしいわね軽音部」
憂「純ちゃんもお姉ちゃんに捕まっちゃって」
和「見境ないわね唯」
憂「……」
和「ん?」
憂「えへへ、和ちゃーん」
和「わ、やめなさいよ憂。人が見てるわ」
憂「じゃあ人が見てない所でならいい?」
和「そんなお決まりの返しはいらないわ」
憂「……ねぇ和ちゃん」
和「何? 憂」
憂「もう少し素直になってもいいんじゃないかな、私達」
和「……もう時間はないわよ。あと3ヶ月しか」
憂「だからだよ。和ちゃん、いつか言ったよね。今からでも遅くないって」
和「……がんばってみるわ」
憂「それは嘘?」
和「本心よ」
78 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:17:17.54 ID:aF2QzVAo
2月14日 平沢家
和「ごちそうさま。憂」
憂「お粗末さまでした」
和「おいしかったわよ。特に筑前煮」
憂「ありがと〜」
和「皿洗い、手伝うわ」
憂「ありがとう」
和「唯の部屋、騒がしいわね」
憂「お姉ちゃんも皆さんも嬉しかったんだよ。私だって騒ぎたいくらい嬉しいよ」
和「見てみたいわ。憂が騒ぐとこ」
憂「恥ずかしいよ」
和「私は嬉しいわ。できる限りたくさん、憂の色んな顔を見ておきたいからね」
憂「……合格おめでとう、和ちゃん」
和「……ありがとう」
憂「会えなくなるわけじゃないよね」
和「会える機会は減るわよ」
憂「そんなはっきり言わなくても」
和「私は正直者だから」
憂「こんな時ばかりずるいよ」
和「はい、これ」
憂「これ……」
和「市販のもので悪いわね。ハッピーバレンタイン」
憂「ごまかさないでよぉ」
和「ホワイトデー、期待してるわよ」
憂「知らない」
79 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:19:37.19 ID:aF2QzVAo
2月22日 スーパー
和「今日の夕飯はクリームシチューかしら」
憂「……よかったら食べて行く?」
和「遠慮しておくわ。家族水入らずの所悪いわ」
憂「お姉ちゃんと二人っきりだよ」
和「尚更悪いわね。唯との二人の時間を邪魔するつもりはないわ」
憂「……和ちゃんもおつかい?」
和「違うわ。憂が店に入るのを見たから追ってきたのよ。」
憂「和ちゃんのストーカー」
和「ここにきて反抗期かしら。ちょっぴり嬉しいわ」
憂「なんでそんなに飄々としてるの和ちゃん」
和「正直者だからよ」
憂「私だって正直者だよ。だから和ちゃんに辛く当たっちゃう」
和「抑える必要はないわ」
憂「でもどうしようもないよ。和ちゃんと離れ離れになっちゃうのはどうしようもないよ」
和「そうね。でも今までが奇跡みたいなものだったのよ。幼稚園から今まで10年以上濃密な時間を過ごせたことは。でも私達は三人共独り立ちしなきゃいけないのよ」
憂「私はお姉ちゃんと同じ大学に行くよ」
和「それでもいいわ。傍にいることと独り立ちすること、両立できないわけじゃないもの」
憂「でもお姉ちゃんと和ちゃんを両立させることはできないよ」
和「困ったわね」
憂「……レジ空いてるからお会計済ませてくるね」
和「そう、私はもう帰るけど……はいこれ」
憂「? 何?」
和「誕生日おめでとう、憂」
憂「……エコバッグに入り切らないからうちに持ってきてよ」
80 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:21:45.85 ID:aF2QzVAo
3月14日 真鍋家
和「食べていいかしら?」
憂「召し上がれ」
和「おいしいわよ、憂」
憂「ありがとう」
和「もっと食べたいわ」
憂「いいよ、好きなだけどうぞ」
和「大きいわね。口に含み切れないわ」
憂「舐めればいいよ」
和「そうね」
憂「ひゃんっ!」
和「う、憂? どうしたの?」
憂「な、何でもないよ。気にせず食べて」
和「駄目よ。よく見せなさい」
憂「いやぁ! やめて! 和ちゃん!」
和「濡れちゃってるわね」
憂「うぅ。和ちゃぁん」
和「ごめんね、憂。さっき弟がオレンジジュースを飲んでたからきっとこぼしたんだわ。スカート、染みにならないうちに洗わなきゃ。脱いで」
憂「え、でも……」
和「私のスカート貸すから。災難だったわね」
憂「ひどいホワイトデーだね」
和「悪いけど、私にとっては最高のホワイトデーだわ。こんな豪華なホワイトデーギフト、他に味わえる人はいないもの」
憂「ひどいよ和ちゃん……ふふっ」
和「さ、脱ぎなさい」
憂「ひどいよ、和ちゃん」
81 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:23:29.10 ID:aF2QzVAo
3月31日 並木道
和「曇ってるわね」
憂「星も月も見えないね」
和「それで? こんな肌寒い夜に一人で徘徊してた理由を教えてくれる? いつか言ったわよね。夜に一人でうろつくなって」
憂「お姉ちゃんが明日家を出るんだ」
和「そう……寂しくなるわね」
憂「和ちゃんはいつ?」
和「私も明日よ」
憂「……どうしてもっと早く教えてくれなかったの?」
和「唯の引っ越しの日取りは前々から知っていたからね」
憂「和ちゃん、大嫌い」
和「私は憂のこと好きよ」
憂「……そういうところが嫌い」
和「悪いわね。でも嫌いな相手の家の周りをうろうろする憂も変わり者ね」
憂「だって、会いたかったんだもん」
和「私が気付かなかったらどうするつもりだったの」
憂「和ちゃんは絶対気付いてくれるって思ってたよ」
和「喜んでいいのかしらね」
憂「でもこれからはそうはいかないんだよね」
和「そうかもね」
憂「和ちゃんは私の目の届かないところに行っちゃうんだ」
和「会いに行くわ」
憂「嘘言わないで。もうたくさんだよ」
和「私はいつだって憂の傍をうろついてるから。安心しなさい」
憂「……和ちゃんの……ストーカー」
82 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:26:04.91 ID:aF2QzVAo
4月5日 N女子大
憂「もしもし、和ちゃん?」
和『おめでとう、憂。あんなに小さかった憂が大学生とはね。感無量だわ』
憂「親戚のおばさんみたいだよ、和ちゃん」
和『悪かったわね。どうせ私はおばさんよ』
憂「すねちゃった」
和『言うようになったわね、憂』
憂「私も軽音部員だからね」
和『恐ろしいわね、軽音部』
憂「おかげで和ちゃん欠乏症も治っちゃったみたい」
和『それは寂しいわね』
憂「私、どうかしてたんだよ」
和『それは悲しいわね』
憂「全然そんな感じがしないよ、和ちゃん」
和『憂の成長を喜んでるのよ』
憂「えへへ。ありがとう」
和『でも気を付けなさいよ。悪い男にだまされたりしないようにね』
憂「心配しないでよ〜」
和『いえ、心配だわ。そんなスーツ姿見せつけられたら女でも興奮しちゃうわよ』
憂「えっ?」
和「いいお尻してるわね憂」
憂「……和ちゃんの……エッチ」
END
83 :
◆yRo4IRevm6
[sage]:2010/11/23(火) 06:27:10.29 ID:aF2QzVAo
遅くなりました。すみません。
84 :
以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします
[sage saga]:2010/11/25(木) 15:30:38.43 ID:aQiL4IMo
うわー油断した
>>57
の浮翌遊感は浮遊感に訂正
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