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心理掌握「どうか、次に目覚めたその時は」 - 製作速報VIP(クリエイター) 過去ログ倉庫

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1 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/20(月) 18:32:14.50 ID:0XdCukY0
とある魔術の禁書目録ssです
心理掌握の視点をいれつつ、3つのお話を書く予定

・木原数多→鈴科百合子
十数年前の学園都市で木原くんがまだ高校生の頃の話
鈴科百合子≠一方通行

・垣根帝督×麦野沈利
原作開始以前、垣根と麦野が両想いだった話

・心理掌握
心理掌握がlevel5になるまでの話

上記の順で書きたいと思います
オリキャラが出たり、現役世代より親世代のほうが出番多かったりしますので、苦手な方はご注意ください
投下速度はものすごく遅くなりそうだけど、お付き合い頂けると幸い
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

2 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/20(月) 18:45:38.19 ID:0XdCukY0

その男は誰に対しても虚勢を張っていた。

不条理が背中合わせにある息苦しい世の中だ。
己を嘘で塗り固めるのは仕方がないことなのかもしれない。

他者に負けないように、他者に身下されないように。
その反面、真実から目を背け虚像の世界に浸る。
素直に生きることを放棄した不器用な人生の流離。


「―――なんて、空しい生き方なのかしら」

全身を嘘で塗り固めすぎた男の内面に触れた時、心理掌握は一切の躊躇もせずに、そんな感想を口にした。

3 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/20(月) 19:06:14.53 ID:0XdCukY0

「何、勝手に人の脳味噌を覗いていやがる? 読みとる前に許可くらい取れや、クソガキ」


彼女に自分の内面を読まれた男が眉間に皺を寄せた。
心理掌握の一言に、男はプライバシーの権利を侵害されたことを悟ったらしい。
顔の左半分に掘られた文様型の刺青が、凄味のある眼光の更なる威圧感を強調させる。


「ごめんなさいね。能力をある程度セーブしていても、近距離に居る人物の思考は無意識に『受信』してしまうのよ」


謝罪の言葉を吐きながら、少女の面持ちに変化は見受けられない。
人であふれかえる街中で肩がぶつかった時に言うような、軽い口調の「ごめんなさい」だ。
心理掌握は「貴方もご存知でしょう?」と言いたげな視線を男に向けた。

「そんなんだから、お前はいつまでたっても序列が上がらねぇんだよ、第五位」

「受信を今以上に自由に出来たとしても、私の序列は変らないことくらい理解しているわ。
 そもそも、超能力者の序列は、能力研究の貢献度―――というより、工業的な利用価値が高い順でしょう?
 残念ながら、どれほど私が努力したところで、精神系能力の工業価値は上昇したりしないもの」
4 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/20(月) 19:19:43.74 ID:0XdCukY0

「ケツが青い年齢だってのに向上心の欠片もないな」

「おあいにくさま。最初から向上心をもつ気になんてないの。だって、私は今の時点で到達ラインにまで辿りついてしまっているみたいだし」

「…………おい、誰から読みとった?」

「さぁ、誰だったかしら。私を開発した科学者。それとも、町ですれ違った上層部の幹部?」


心理掌握は記憶の糸を手繰り寄せながら、すらすらとそれらしい人物をあげていく。
腕組みをしながら、ベット脇にあった折りたたみ式の簡易椅子に腰かける。
勿体ぶったような物言いが、男の鼓膜を静かに震わせた。


「暗部で活躍する憐れな能力者かもしれない。……そうね。もしかしたら、」


目の前にいる、ヤクザ風の刺青顔の男の鋭い目線に少女は臆することもなく、


「貴方の中にある知識から読みとったのかもしれないわ。――――木原数多さん?」
5 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/20(月) 19:38:01.39 ID:0XdCukY0
学園都市には機密とされる『情報』が多数ある。

極秘裏に置き去りを対象として行われた人体実験。
超能力者のDNAマップを使用したクローン計画。
AIM拡散力場を基にして存在する人工の命といえる存在など。

それらは都市伝説として実しやかに学生たちの間で噂されていたりする。
しかし、決して、噂の域から脱出することはない。

『あなたの能力はこうで、最終的に達するラインはここです』
なんて、親切に説明してくれる素養格付なるものも、学園都市の裏にある機密の一つだ。

多分、厳重に保管されている最重要機密情報なのだろう。
電子機器に多重のパスワードが。文献資料なら多重の鍵前が。門番として立ちふさがるのだろうが。
人の心を自在に覗き見できる心理掌握にとって、それらは意味を為さない。

鋭利な刃物にも似た眼差しを少女に向ける木原数多のように、
『素養格付』なるものが存在する、と知っている人物の頭の中をのぞくだけで、事足りるのだから。
6 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/20(月) 20:01:12.71 ID:0XdCukY0
「…………どんだけの人物の頭を覗いてんだよ、テメェは」


「プライバシーの権利って言葉知ってるか?」と人を小馬鹿にしたような木原の口調。
心理掌握はむすっと頬を膨らませ、眉をしかめた。
呆れられたような、急に子供扱いされたような気がしてならない。


「さっきも言ったでしょう? 無意識に『受信』してしまうのよ。
 最初から覗こうなんて考えないわよ。この街には知りたくもないことが多すぎる。
 率先してそれら全てを知ろうと冒険するヤツは愚かだとしか言えない」

「あー……、確か『心理掌握は記憶の読心の対象範囲を限定することを苦手とする』だったな。 
 書庫に記されているテメェの能力の欠陥はよ」

「その欠陥のおかげで365日、24時間、周囲20Mの他人の心の呟きを常時聞かされ放題」


もう、うんざりよ、と心理掌握はため息をつく。
大音量で興味もないラジオを終始聞かされて見れば、他人も少しは自分の気持ちを理解できるだろうに。


「今のまま天然サトリモード全開で行くと、それこそ上層部に目をつけられるぞ」
 
「……それは、忠告?」

「……さぁな」
7 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 20:01:24.41 ID:b0enhwDO
超期待
8 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/20(月) 20:20:21.61 ID:0XdCukY0
ワックスで軽くたてた茶髪に、文様型の刺青。
両手につけたマイクロマニュピレータ。
明らかに普通ではありえないパーツの中で、身にまとう白衣だけが唯一、普通に近い。

けれども、白衣の上からでも彼の体躯はバランス良く筋肉がついてるとわかり、
平和な世をのほほんと享受して生きてきた人物ではない、と察することが出来る。


「何をいまさら。忠告にしたって遅すぎる。今だって、私は上層部に目をつけられてるでしょう?」


学園都市の奥のそのまた奥。
この街の中心点にして最奥の時刻に近い位置に居るであろう木原ならば、そのことだって知っているはずだ。
何を今更「上層部に気をつけろ」と的外れなことを言うのだろうか。
というか、木原だって心理掌握からしてみれば、「上層部の一員」なのだが。
9 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/20(月) 20:26:40.99 ID:0XdCukY0
すいません、今日はちょっとこの辺で
ゆっくりペースですが年内に木原くんパートは終らせるつもりです
また明日来ます
10 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 20:33:13.51 ID:Hpce2ek0
乙!こういうの大好きだー
凄く期待してる
11 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 20:44:47.30 ID:JOWS0IIo
乙なんだよ!期待するんだよ!
12 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 21:43:22.52 ID:2P.JzgAO
これは期待。いい匂いがする。
13 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/21(火) 18:44:35.31 ID:60ag0HA0
「今更、か」

「そう、今更」


奇妙な程に静かな空気の中で繰り返されたオウム返し。
テンポの良い会話のキャッチボールは、心理掌握の目にも木原の目にも、やけに滑稽に映った。


「目をつけられたからこそ、私は鳥籠に閉じ込められた鳥になった。違う?」


初めて人を殺したあの時から、少女は上の人間の支配下に収まるよう指示が下っている。
支配下と言えるほど、暗部の世界に染まっている訳ではないから、正しい言い回しではないかもしれない。
しかし、それでも心理掌握の自由は制限されているのが現状。

彼女に『自由』はない。誰かを信じる自由も、助ける自由も、守る自由も。
子ども特有の細い両手が支えるものは何もなく、少女の手のひらはいつも空虚だ。

 
「そうだな。鳥籠の中の鳥こそ、お前に押し付けられたつまらねぇ役割だ」

「役割、なんて言い方は好きじゃないわね。
 上で胡坐をあいている腐れ外道たちから与えられた無責任を、さぞ私の使命のように言わないで頂戴」

「内心がどうであれ。その立ち位置を甘んじて受け入れたのは、心理掌握、テメェだ。
 一度「はいわかりました」といい子ちゃんぶって首を縦にふったのなら、既にそれは役割。
 ……いいや、使命と表現したって可笑しくない。それはそういう代物なんだよ、クソったれ」
14 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/21(火) 19:19:14.66 ID:60ag0HA0
「勘違いするんじゃねぇよ。その手を汚すことを良しとしたのはテメェ自身。中途半端な被害者面は吐き気モンだ」


そうだ。木原の言う通りだ。

学園都市から要求を受諾したのは、
偽りとはいえ「わかりました」と忠誠を誓い従順な鳥となる選択を下したのは、―――心理掌握に、他ならない。
形はどうであれ、卑劣鬼畜と罵倒される道を進む決断をしたのは、少女自身。

単純明快な真実から少しでも逃げるような少女の言葉が、木原には許せなかったようだ。


「役割を持つ対象はオマエだけじゃねぇ。俺だってそうだ。……胸糞悪い事だがな」


怒鳴りさえしない淡々と紡がれる言葉。
それは、親が子供へ、教師が生徒へ、上司が部下へと、教えを伝えるような姿勢にも似て。
グローブ上の奇怪な機械・マイクロマニュピレータで覆われた手で、ガシガシと頭をかく木原の仕草。
「らしくない」ことをしている自覚は、一応あるらしい。


「対象の範囲はこの街に生きている人間にとどまらん。
 能力者達が漏らす微弱な力も、そこらへんに転がっている機械のガラクタでさえ含まれる。
 勝手に押し付けられるソレを『無責任』だと泣き喚く権利を持つのは……」


木原はそこで一旦、声を止め、視線を横へとずらす。
移動した視線の先にいる存在を見つめながら、


「――――せいぜい、何も知らずにぬるま湯の幸せに浸っているヤツらだけだろうな」

15 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/21(火) 19:39:06.16 ID:60ag0HA0
容赦なく叩きつけられる木原の正論に、一瞬、心理掌握は返す言葉が思いつかなかった。
図星をつかれると、人間こうも簡単に身を凍らせるのかと、自虐の笑みだけが浮かんでくる。
同時に普段固い蓋で栓をしている感情すらも、滲みでてきそうになった。


「…………そうね。その通りだわ。私にその権利はない」


心を揺らしながらも、彼女の涙腺は熱くならない。
かけ巡る感情を水滴に昇華する術は、とっくの昔に忘れてしまったから。
すでに諦めはずだというのに、ハッキリと区分けが出来ずにいるのは、中学生という幼い年齢のせいだろうか。

これまでも、これからも。
立ち位置は変えられない。

檻越しに全ての真実を見ていながら何もしない、役立たずの木偶の坊。

それが、心理掌握、
それこそが、心理掌握。

意気地無しだと皮肉られても、彼女には今の居場所から離れる訳にはいかないのだから。
支えるものがなくて空虚ばかりを握りしめるこの十の指に、僅かばかり触れる温もりのために。
16 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/21(火) 20:03:23.89 ID:60ag0HA0
「少なくとも、私や貴方に、泣き喚く権利も自由も勇気はないわね」


情けない自己評価と彼へ評価を、心理掌握が発する。
けれども、一点を見つめ続ける男からは反論すら返ってこなかった。

心理掌握も視線を木原からベットの方へと動かす。
視線が動くと同時に顔や肩も動き、腰かけた簡易椅子がギシギシッと音を立てた。


「…………」

「…………」


視線の先。
病室のベットに横たわる人を見つめる。
数秒、二人は互いに無言だった。

8畳程の病室は、日常の世界には縁が薄い匂いに包まれる。
鼻の粘膜を微かにツンとさせる刺激臭と石鹸のような爽やかな芳香。
両者は入り混じるように空気の中へと溶けていた。

肺に酸素を出し入れする度、胸がすっとするような綺麗さを印象を受ける。
だが、裏側にある、眼を閉じたなるような不気味さ完全に払拭出来ているとは言えなかった。
17 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/21(火) 20:05:24.64 ID:60ag0HA0
最後の行間違った

○肺に酸素を出し入れする度、胸がすっとするような綺麗な印象を受ける。
だが、裏側にある、眼を閉じたなるような不気味さを完全に払拭出来ているとは言えなかった。
18 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 20:44:08.66 ID:qKtUqdc0
んー
この文体どこかでみた記憶がある気がするなぁ

ま、1乙。頑張れ
19 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/21(火) 21:43:38.27 ID:60ag0HA0
時折,パチリパチリと点滅する蛍光灯の光が反射する。
光は屈折しつつも、彼らの瞳に同じ光景を映し出す。

床、天上、カーテン。それら全てが白で覆い尽される密閉空間。
病的に感じるほど他の色の侵入を許さない、汚れを知らない聖域。

その中心点で、一人の女性が眠りについていた。


(……美しい人)


心理掌握は、素直にそう感じた。
過剰な褒め言葉は出てこなかったのは、どのような修飾語も彼女には似合わない気がしたからだ。
あまりにも清い存在感に、卒倒してしまいそうになる。
その場に居るだけで、全てが清浄されるような錯覚すら、抱きそうになる。

粉雪を連想させる白い髪と白い肌。
瞼は閉じられおり、その奥に内在する瞳をこちらから確認することは出来なかった。
目を凝らして観察すれば、ゆったりと胸を上下させて、呼吸をしているのがわかる。
それ以外、一切の身じろぐことがないのため、その姿に大きな人形の影が重なった。


(聞かされていた年齢よりも、随分と若く見えるわね)


眠りについている女性の表情はとても安らかで。
事前に木原から聞かされていた実年齢よりも、彼女はずっとずっと若く見えた。
下手をしたら、彼女の血脈を受け継ぐ少年と同年代くらい、と言っても通じてしまいそうなくらいに。
20 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/21(火) 22:24:39.21 ID:60ag0HA0
ことっ、と台の上に物が置かれる音が聞こえる。
音を合図にして、ようやく心理掌握の思考は女性以外の存在へと向けられた。


「百合子」


途端、低い声が部屋に響く。

それは、心理掌握にも聞き覚えのある声質であったが、
今まで一度も触れたことのない音色を帯びていた。

極自然に、心理掌握の注意は音の発生源へと移動する。

申し訳なさそうに一輪の花が飾られている花瓶の横に、
木原がその手に嵌めていたマイクロマニュピレータ置かれていたのが目に入る。


「残念だったな」


外界に晒された、ゴツゴツと骨っぽい木原の右手が、百合子と呼ばれた女性の頬を撫でる。
まるで、高級な陶器に触れるの鑑定士のような繊細な手つきだった。


「図々しく生き延びてきたみてぇだけどよ、とうとうお前も年貢のおさめ時ってやつだ」


女性の雪の肌に小さな亀裂さえ怖ろしいのだろうか。
無骨な雰囲気を常に纏っている男の爪先はきちんと整えられていた。
人の血肉を見事に裂くナイフを持つことに躊躇すらしない癖に、
ベットに横たわる眠り姫に、かすり傷つけることは酷く及び腰になっているようだった。

恐ろしいほど不釣り合いな優しい声色で、


「お前は今日、ここで『死ぬ』んだ」


百合子に死刑宣告を下す木原の背中が、一歩後ろの位置で座りこむ少女には、とても小さく見えた。
21 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/21(火) 22:31:05.92 ID:60ag0HA0
今日はここまで。また明日ー
22 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 17:45:37.07 ID:0KgvFIAO
乙です。読んでますよ。
23 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/29(水) 00:35:02.58 ID:N4qaOjQ0

「忌々しい腐れ縁も、ここまで」

その一言の後。
頬に触れていた木原の右手が離れていった。

見るものに冷たい印象を抱かせてしまう程、青白い百合子の肌。
彼の掌には確実に彼女の体温が伝わっているはずだ。

指先から染みてくる温もりが、
すでに青年期を逸脱した男の内心に埋もれている、名残惜しさを助長する。
棘がある言葉の数々とは裏腹に、ゆっくりと百合子から遠のく木原の手が震えている。
腕も瞳も、震えている。


「…………じゃあな、百合子」


唯一、声だけが。
夢の中に生き続けている眠り姫に聞こえているかもしれない声だけが、凛と病室の中で強さを保持していた。

24 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/29(水) 00:45:22.67 ID:N4qaOjQ0

(…………馬ッ鹿みたい)


心理掌握は思わずギュッと瞼を閉じた。
その背中を、これ以上見てはいけないような気がした。

不器用な男の強がりは。
泣きそうな声を我慢して、突き放すように吐き捨てた別れの言葉は。
きっと、ベットの上で幸せそうに眠る鈴科百合子、ただ一人のものだから。


(馬鹿。馬鹿よ、バカバカバカ………)


木原のあまりの滑稽さに、愚鈍さに。
心理掌握は悪態を心の中で呟き続ける。

最後の最後の最後の最後の、最後。

もう、会う事が叶わないのに。
もう、彼女と同じ時を生きることは出来ないのに。

本当に、これが最後なのに。

心理掌握が百合子を殺せば―――彼女の記憶を消し去れば、『木原数多を知る鈴科百合子』は死んでしまうのに。
25 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/29(水) 00:52:25.79 ID:N4qaOjQ0

こんな時にまで虚勢を張るなんて、馬鹿だとしか言いようがない。

他者に負けないように、他者に身下されないように。
その反面、真実から目を背け虚像の世界に浸る。
素直に生きることを放棄した不器用な人生の流離。
全てを嘘を塗り固めて、他人にも自分にも偽りを言い聞かせ続ける。

不器用だと他人に呆れられる生き方しか、木原には出来ないのだ、と。
心理掌握にも、なんとなくわかるけれども。

それでもと考えるのは、心理掌握が子供だからか。
26 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/29(水) 00:56:49.37 ID:N4qaOjQ0

(…………それでも)


それでも、最後くらい。
――――いいや、最後だからこそ。


(ちゃんと、言わないと駄目だと思うわ)


人様に堂々と顔向け出来る人生を
送っているとは言えない心理掌握が言える事ではないかもしれない。


(…………そうじゃないと、報われないじゃないのよ)


鈴科百合子も、木原数多も。


(――――――報われ、ないじゃない……)
27 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/12/29(水) 01:13:43.16 ID:N4qaOjQ0

心理掌握は常に中立の立場を崩さない。
誰かのために動くことも誰かの味方であることも許されない。
強固な鎖で雁字搦めに縛られている少女は、ただ、見守るだけ。

今この時も、彼女は舞台の上に立つことはない。
ただただ、裏方に徹するのみ。

なんと、居心地の悪い立ち位置だろうか。

一言。
たった一言。

心理掌握が口を開けば、念波を飛ばせば、救われるかもしれない。

せめて。『背中を押してほしい』と言えば、思えば。
心理掌握だって、一歩踏み込む勇気が湧いてくる。
踏み込んでもいいと、覚悟を決めれる。

それでも、木原数多は。
最後の最後の最後の最後の最後である、このタイミングにおいても。


――――――自分自身に、嘘をつき続ける。
28 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 01:51:18.67 ID:cxT/woAO
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