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キョン「戯言だけどな」 - 製作速報VIP(クリエイター) 過去ログ倉庫

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1 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 10:52:04.12 ID:ELudVZg0
さて、一年ももう残すところ後わずかとなった十二月某日。
職員室前に貼られた「廊下は走るな」の標語も師走のこの時期には、なるほど気の利いた冗談だなどと冷たい手を擦り合わせながら感慨に耽ってしまいそうになっていたのはつい先日まで。
クリスマスおめでとうテストなどというありがた迷惑な儀式も終了し、俺達高校生も晴れて冬休み突入と相成った。晴れてとは言ったものの低気圧様が冷たい空気を伴って日本列島上空を漂っているのにはどうか目を瞑って貰いたい。
年末にかけて荒れ狂う予報とはうってかわって俺の心は近年稀に見る開放感でいっぱいなんだ。
部屋で一日中ゴロ寝していようがエアコンの効いたリビングでパジャマのままテレビを流し見していても誰にも何も言われないとか、最早気分は南国である。ちょっとしたリゾートだ。冬なのに。
今日ばかりはいつもうだつの上がらない親父様に感謝しちまうね。
勤続何年だったか忘れたが、なんかそんなので会社からペア温泉宿泊券だかを貰ってきた時の「さあ、俺を褒めろ」的なしたり顔こそ見るに耐えないものではあったが。
そんな訳で今朝から両親は妹を引き連れて年越し温泉旅行に行っちまっている。俺? 察して貰えば余り有るだろうが、なんでこの年になって両親と旅行に行かねばならんのかとつまりはそういう事だ。

「やばいな……今なら新世界の神とやらにもなれそうな気がするぜ」

いささかオーバーかも分からないが、しかし年末という事もあってSOS団関連の呼び出しも無いと来てみれば、果たしてここ一年半これ程までに何にも束縛されない時間が俺に与えられた事が有っただろうか。
いや、無い。
1.5リットルのペットボトルコーラとポテトチップス、それに昨日ミスドで買った山の様なフレンチクルーラetcetcが俺の目の前、リビングの低いテーブルに整然と並べられている。
これが極楽か。天国か。
どうやら人間は神様なんぞに縋らなくても自分で天国を作り上げちまえるらしい。……ハルヒ形無しだな。

「この世で神様が創ったものなんてのは整数とフレンチクルーラだけだよなあ」

何を隠すでもなくミスド信者な俺である。勿論、ポイントカードだって持ってるぜ?
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小テスト @ 2024/03/28(木) 19:48:27.38 ID:ptMrOEVy0
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満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
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旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:25:33.60 ID:AZ8P+2+I0
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2 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 11:06:35.64 ID:ELudVZg0
さてさて。そうは言ってもたった三日である。神様とやらが世界を創るのにも一週間(流石に日曜は休んだけどな)掛かった事を考えると決して長い訳ではない。
日ごろ積もり積もった鬱憤を晴らすにはただじっとしているだけともいかないのである。ああ、悲しきエコノミックアニマルよ。
とりあえず、一人で家に篭っていてもつまらないと判断した俺はここで誰か気心の置けない相手を巻き込む事とする。
谷口か国木田辺りが捕まらないだろうか。……少し話が急すぎるかも知れんが、国木田はともかく谷口なら捕まるだろ。
アイツはそういうキャラだし。

「今から? それはちょっと無理だよ、キョン。だって僕、今、父の実家に向かう電車の中だからね。ごめんよ」

「はあ? 何、言ってやがるんだよ、キョン。お前と違って俺は忙しいんだ。あん? デートだよ、デート! 駅前ですっげー綺麗なお姉さんをゲットしたんだ。うらやましいか? いや、妄想でも幻覚でもねえっつの!」

ああ、新学期初日に谷口がどんな沈んだ顔をしているのかが今から楽しみでしょうがない。
相手の「お姉さん」とやらにとっては只の暇潰しでしかないに来年のお年玉を全額賭ける事も辞さない俺だった。
3 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 11:19:29.96 ID:ELudVZg0
しかし、こうなってしまうとせっかくの休みもなんとも味気ない。国木田と谷口しか友人がいないと思われるのも癪だ。
誰に対して癪なのかはこの際脇に置いておくとしても……とは言え、他に誰を誘おうかと思案して出て来る選択肢は数少ない。
佐々木……いや、アイツが友人なのは間違いないが、それにしたって俺一人しか居ない家に異性を呼び込むのは流石に気が引ける。
そもそも、アイツの場合は予定が空いていそうにないしな。
ならばハルヒか? それこそ本末転倒な選択肢だろう。日ごろの横暴、暴虐、虐待からの一抹の清涼剤であるこの休みになぜにその元凶を呼び込まねばならんのか。
大体、アイツだって異性には違いない。同様の理由で朝比奈さん、長門も却下だな。複数人を呼べば男女云々そんな心配とも無縁なのだろうが、大勢で騒ぎ立てる気分でもないのだ。
となると……選択肢ってヤツは大概は消去法で選ぶものなのかも知れん。

「よお、古泉。今、暇か?」

「おや、貴方から電話とは珍しいですね。明日は雪でも降るのでしょうか?」

「俺に聞くな。お天気お姉さんがその方面は詳しいだろうよ」

「ふふっ。そうですね。後で天気予報でも見る事にしましょう。それで、今日はどうかなさいましたか?」

まあ、たまには古泉と差しでダベるなんてのも良いかもなどと、この時の俺はなんとはなしにそんな事を思っていた。
4 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 11:31:09.95 ID:ELudVZg0
「どうも。お招き預かりまして光栄の至りです」

三十分程してやってきた古泉は玄関口で黒コートを脱ぎながら俺に笑いかけた。その両手にはコンビニで調達してきたものだろう、ビニール袋がぶら下がっている。

「悪いな、突然で」

「いいえ、滅相も有りません。貴方の要望で有ればそれは全てにおいて優先させて良いと、そう機関からも言われていますし」

「あんまり堅くなんなよ。只の暇潰しで呼んだだけだぜ?」

俺がそう言うと、古泉はいつもの顔で微笑んだ。畳んだコートを小脇に抱えて逆側の手に握っていたビニール袋を差し出す。

「構いませんよ。僕も年末年始は機関に行動を縛られっぱなしになる所でしたから。良い息抜きと、そう思わせて頂いても?」

「お前も大変だな。ああ、コートはその辺に掛けておいてくれ」

言いながら受け取った、袋の持ち手は思いの外ずっしりと俺の手のひらに食い込んだ。何が入っているのかと中を覗けば、未成年では購入出来ない筈の品々がこんにちは。

「アルコールは確かお嫌いではありませんでしたよね?」

超能力少年の笑顔に胡散臭さを拭えない俺がそこにいた。
5 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 11:38:26.46 ID:6SfUGkAO
wwktk
6 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 11:41:11.64 ID:ELudVZg0
「いや、嫌いじゃないが取り立てて好きでもないぞ?」

靴を脱ぐ古泉にスリッパを出しつつ、そう言ってみる。もしかして、コイツが呑みたいだけなんじゃないかとそう思わないでもない。

「そう言わないで下さい。折角買ってきたのですから。それに年の暮れ、明けには日本人ならお酒を嗜むものでしょう。厄払いだと、そう思って頂けませんか?」

「の割に袋の中身はビールとカクテルとしか俺の目には見えないんだけどな」

「日本酒がご希望でしたら届けさせますが?」

「そういう事を言ってるんじゃねえっつの」

古泉を先導するようにリビングへと向かう。俺に続いてドアを潜った古泉が後ろから声を掛けてきた。

「貴方とは趣味が合いそうに有りませんね」

聞こえる溜息。首だけで振り向くと超能力者は苦笑いを浮かべていた。

「いきなりなんだよ」

「ミスタードーナツと言えばゴールデンチョコレート一択だと、僕は思っていました」

ああ、そいつは分かり合えそうに無い。
7 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 11:54:11.03 ID:ELudVZg0
「悪いな。フレンチクルーラこそ人類の至宝と教えられて育ったんだよ、俺は」

我が家では朝食にミスドが並ぶ事が極稀に有るが、その時は例外無くフレンチクルーラが八個用意されて一人二個と宣告されるハウスルールが設けられている。
このサクサク感を出すまでにどれだけの苦労が有ったのか、それを考えたならばフレンチクルーラ以外を選ぶのは最早ミスドへの冒涜と言えないだろうか?

「分かっていませんね。ゴルチョコ……失礼、ゴールデンチョコレートに辿り着くまでの歴史をご存知であればこのような愚かしい選択は有り得なかったと言うのに。無知とは、これは罪でしかないという事でしょうか」

古泉は首を振る。俺たちが互いに譲り合えない信念を持ち併せている事はその悲痛な物言いから理解出来た。そして、もう一つ理解出来た事が有る。

「古泉、ミスドのポイントカードは好きか?」

「僕の財布には二枚しかカードは入っていません。クレジットカードと……そしてミスタードーナツのポイントカードです」

すっ、と古泉が手を差し出す。俺はそれを無言で握り締めた。
ミスドを慕う男がここに二人居る。男が甘党で何が悪い。俺たちの間に言葉は、要らなかった。
8 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 12:08:14.31 ID:ELudVZg0
「ところで、今日はどういった風の吹き回しですか?」

古泉がテーブル上のゴールデンチョコレートに手を伸ばしながら聞いてくる。どういった……? いや、質問の対象が曖昧で抽象的だな。返答に困る。

「いえ、平生(ヘイゼイ)であれば僕が、それも一人で貴方の家に招かれる事など無いような気がしましてね。ちょっとした好奇心です。お気を悪くなさらないで下さい」

「気紛れだよ、気紛れ」

「そうですか。ふむ、深い追求は止すべきでしょうね。折角のアルコールが不味くなっては興醒めですし。それに僕としてはこのように暇潰しの相手に選んで頂けた事は嬉しいのですよ。例えそれが、国木田君、谷口君に次ぐ優先順位であったとしても……ええ」

うげ。なんでコイツ、そんな事を知っていやがる。盗聴か? 盗聴してやがったのか?

「機関ってヤツはどこにでも居る一介の男子高校生の電話の中身を詮索するのが仕事なのか? 羨ましいこったな」

「そう、皮肉を仰らないで下さい」

「誰だって自分にプライバシーが無い事を知ったら皮肉の一つだって言いたくなるっつーの。トゥルーマンショウじゃねえんだぞ?」
9 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 12:18:54.98 ID:ELudVZg0
釈然としない胸の内をフレンチクルーラにぶつけ、スクリュードライバで飲み下す。それでも消えないモヤモヤを視線に乗せて古泉を睨み付けると、少年は「申し訳ありません」と頭を下げた。

「しかし、それでも貴方にはその事実を許容して頂かなければなりません。貴方はどこにでも居る一介の男子高校生などでは、間違ってもないのですから」

「だから、その認識が間違ってんだよ」

「間違っているのは僕ら、ですか。かも知れませんね。もしくはこの世界の在り方か。ああ、僕らは何と言われても構いませんが」

古泉は手の中のローズなんとかってカクテルをわずかに口にして唇を湿らせて、そして言った。

「それでも、涼宮さんだけは否定しないであげて下さい。僕からの、お願いです」

「分かってるさ」

ああ、そんな事は言われなくても。
ハルヒによって創られた破天荒な俺の世界。不可思議な日常。
そういうのを受け入れて、俺は去年の冬こっちの世界へと帰ってきたんだから。
10 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 12:29:26.47 ID:ELudVZg0
だから、俺に文句を言う筋合いは無い。だったらこれは、そう。きっとアルコールのせいで古泉に絡んでいるだけなのだろう。
どうやらそういう「愚痴を聞く」のも古泉の仕事の一部らしいから俺が罪悪感を抱く必要も無いし、それにこれくらいは言ってやってもバチは当たらないだろう。
ヒーローだっていつもヒーローではないしな。舞台裏では愚痴の一つも零しているに決まってる。俺なんざヒーローでもなんでもないからそこに輪を掛けてってな具合。

「愚痴ならお前が引き受けてくれるんだろ、古泉?」

「勿論、喜んで」

「そうと決まれば今日は溜まりに溜まったハルヒへのやり切れないあれやこれやをぶつけてやるよ。覚悟しとけ」

スクリュードライバの残りを煽る。アルミ缶越しに見えた少年は苦笑していた。

「どうかお手柔らかに」

俺の扱いがもう少し柔らかくならない限り、そいつは無理な相談だぜ、超能力者?
11 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 12:47:43.77 ID:ELudVZg0
深夜。古泉を送り出した後。日中だらだらと食べ物を口にしていたせいで、変な時間に腹が減って起きてしまった。携帯を開けば時刻はAM二時。こんな時間ではどこの店もやってはいまい。
空腹をやり過ごして寝てしまおうかとも思ったが、しかし今日ばかりは何も我慢するべきではないと俺の中の誰かが囁きやがる。悪魔とかそんなんかね?
まあ、何でもいいさ。どうせ、着の身着のままで寝ちまったんだ。外出に際して着替える必要も無い。コート一枚羽織れば俺@コンビニ突撃仕様の出来上がりだったしな。
おっと、財布財布……はコートのポケットに入れっぱなしか。寒いし、おでんかカップ麺だな。あったかい食物を胃が欲してぐるぐると唸りをあげていやがるぜ。
コンビニに置いてある食い物その他を頭の中で物色しながら玄関を出、最初の十字路を右に曲がり……

街灯の下に、ソイツは居た。
まるで、舞台劇でライトアップされた役者のような、しかしどこにでも居そうな取り立てて特徴の無い、しかししかしソイツが纏っている雰囲気だけは役者、それも主演役者のような。
視界に浮かび上がって見えるとでも表現すればいいのだろうか。俺にはちょっとその男を形容する言葉が出て来ない。
それでも。
それでもあえて足りない語彙で表現するとしたら。
位置外。
そこに居てはならない。
世界にそんな人間が存在していてはいけない。
なぜか、そんな感情をこちらに抱かせる、ソイツはそんな男だった。
12 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 12:58:13.85 ID:Kt/g9IDO
壱外
13 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 13:04:22.53 ID:ELudVZg0
ソイツをこちらを真っ直ぐに見つめ、そして右手を上げる。

「やあ」

さて、ここで俺から質問だがもしもアンタが深夜二時、閑静な住宅街の他に人気の無い道で知らない人に親しげに声を掛けられたらどう思うだろうか?
ちなみに俺の答えはこうだ。
無言で回れ右。君子危うきに近寄らず。
知らない人に声を掛けられても付いて行ってはいけません。しかもそれが得体の知れない雰囲気を醸し出しているようなら尚更だ。
ふむ、そう考えると幼少期の教育ってのはほとほと大事だと思うね。

「いやいや、無言は無いんじゃないかい? 他に誰もいないのだからぼくが声を掛けたのは君以外に居ないだろう? それとも、ぼくには人に見えない何かが見えていて、その何かに向けて親しげに挨拶したのかな?
 なんてね。残念だけど、いや残念でもなんでもないけれどぼくにそういったものは見えないよ。君の友人と違って」

ピクリ、俺の耳がソイツのその言葉に反応する。歩き出そうとしていた足が、止まる。

「大体さ。君、自分の価値みたいなものをきちんと理解していないんじゃないのかな? ぼくみたいなのが君と出会う、君の前にこうして立つ事がどれだけ高難易度か少し考えれば分かると思うけどね。
 首領蜂って往年のシューティングゲームよりもまだハードなんだよ、本当。ああ、君の世代じゃ知らないかな? クインティの裏ステージって……こっちも多分通じないだろうなあ」

男はそんな意味の分からない事を言って、上を向いた。その方向には空しかない。曇っているのか、星も見えない空しかないのに男はそれでも眩しそうに目を細めていた。

「ま、戯言だけどね」

この時の俺は、目の前の男が正義の味方だなんて夢にも思っちゃいなかった。
14 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 13:25:43.54 ID:ELudVZg0
「……アンタ、何モンだ?」

俺の問いかけに、ソイツは鼻を鳴らす。今、俺は何か面白い質問をしただろうか。そんなつもりはないのだが。
しかしてよくよく自分の発言を思い返して、それは確かに漫画かアニメのような気取った発言に聞こえなくも無い。やっちまったか、俺? 自意識過剰か非日常にどっぷり肩まで浸かり込んで日常パートにまでそういうのが侵食してきたのだとしたらコイツはもう笑えない話だ。
アンタ、何モンだ?
ああ、こんな台詞が一介の男子高校生から出て来たらそりゃもう大分危険な兆候だ。
だが、そんな俺の煩悶とは違った場所で男は面白みを感じていたようだった。

「何者……いや、本当ぼくは『何物』なのだろうね。君たちみたいに生き物を名乗ることすらおこがましいと、以前誰かに言われたよ。ただ、そんなぼくにもレッテルみたいなのは有るんだ。
『人類最弱』
まったく、人を馬鹿にするにも程が有ると、そうは思わないかい?」

「人類……最弱?」

「そうさ。ま、ぼく自身も認めるに吝かではないけれどね。脆弱で軟弱で惰弱で零弱で、総じて最弱。でも、このままだと呼びづらいかな。君とはこれから先も縁が『合』いそうだし。もう少し呼び易い呼称を教えておくよ」

その立ち姿は、とても俺には弱そうには見えなかった。どちらかと言えば芯の有る、強い針葉樹のように見えた。

「立てば嘘吐き座れば詐欺師、歩く姿は詭道主義。口を開けば二枚舌。舌先三寸にて行いますは三文芝居」

男はスポットライトの下、まるで映画のような見事なお辞儀を俺に向けて披露したのだった。

「戯言遣いとは、ぼくの事さ」
15 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 13:42:41.33 ID:ELudVZg0
ソイツは言う。

「世界の危機が迫っている。だからぼくがここに居る。ああ、そうは言ってもぼくはどこかの『女の子の間でしか噂にならない殺人鬼』とは違うのだけれどもね」

何を言っているのかはよく分からなかったが、それでも「世界の危機」という下りだけは俺の心に引っかかった。普通に生きていれば、どこにでも居る俗っぽい男子高校生であり続けたならばきっと「戯言」の一言で片付けられた筈で。
今更ながらに自分の立ち位置が日常と非日常の狭間、とても不安定なステージである事を思い出す。

「……世界の、危機?」

「食いついたね。その目は聞き捨てならない、っていう眼だ。ああ、これで確信が持てた。君が、『鍵』か」

貴方が、鍵です。いつだったか古泉が俺にそう言った。
俺を指してそんな世迷言を言うのだから、目の前のこの男は真っ当な人間では、無い。咄嗟に俺が考えたのは古泉と同種の可能性。機関の工作員か何かか、コイツは?
いや、それにしたって機関のスポークスマンは古泉じゃなかったのか?

「ああ、そんな疑惑に満ちた目を向けないでくれないかな。男の子にそんな眼で見られても何も嬉しくないじゃん。そんな眼は三つ子のメイドさんがやってこそだとぼくは思っているからさ」

どうも話が噛み合わない。いや、煙に巻かれているような、捕らえ所が無いこの感じ。……率直に言って気持ちが悪い。
16 :VIP [age]:2010/12/30(木) 13:53:44.59 ID:dZbEuIAO
文が多い。
会話文増やして。
17 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 14:05:50.83 ID:B4QxUk.o
文が多いのは構わんが、その割りに周りの情報が少ないような…。

まぁ支援
18 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 14:08:16.43 ID:uXkKDVE0
「あの……スマンが話がさっぱり掴めんのでこの辺で俺はお暇させて頂いてもいいだろうか?」

言いながらも俺は後ろ足に重心を掛け始めていた。男に隙を見つけたらその時点でマイケルばりのムーンウォークでもって逃げ出す気は満々だ。

「いや、ぼくは別にいいけどね。ただ、ここでぼくとの間にフラグを立てておかないと多分、君の友達はみな死んでしまうと思うけど」

死んじまう? 何、物騒な事言ってやがるんだ、コイツは!?

「涼宮ハルヒ……ね。ぼくもその存在を知った時には正直驚いたよ。そんな、それこそ戯言みたいな存在がこの世界に居るものか、居てたまるか、ってさ」

「ハルヒ!?」

「そう、涼宮ハルヒ。彼女と、彼女の周り、そして世界に危機が迫っている。つまり、君にも例外なくだ」
19 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 14:25:16.56 ID:uXkKDVE0
そう前置きして、ソイツは喋り始めた。長くなるので仔細(ソイツが言う所の「戯言」)は割愛してここでは俺に出来る限りの要約をしてみようと思う。

あるところに、世界の終わりを求める男が居た。ソイツは俗に言う所の天才だったが、しかしそれはスペックに関してでありそこに搭載されているソフトウェア、つまりは人格の方が破滅的に壊滅していた。
天才で、天災。
その狂気の男は考えられうる限りの方法をもって世界の終わりを模索したそうだ。そして、それは確かに何度となく世界の終わりを呼び、「いい所」まではその都度行ったそうだ。
そして、その過程で「戯言遣い」とも戦争を繰り広げたとの事。俺には目前の男に戦争なんて真似が出来るとは思えなかったからこの辺りは話半分である。
結果として世界の終わりを目論む男、戯言遣いが言うところの「狐さん」とやらは未だもって生き永らえ、そして未だもって世界の終わりを捜し求めているという。

「まるで悪の秘密結社だな」

俺の感想に対して戯言遣いはこう応えた。

「まるで、ではなくそのものだし、それに悪でもない。『最悪』なのがあの人の最悪な部分でね」

話を続ける。
そしてソイツ……狐さんとやらは世界を終わらせる方法を探す過程で、一人の少女について知る事になった。
それが、ハルヒだ。
神様の創った世界を壊す、一番手っ取り早い方法。世界における唯一のリセットボタン。それの存在を俺は痛い程知っている。
ただ一人、たった一人の少女に絶望を教えてやれば、それでいいという事。
20 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 14:32:55.74 ID:C6.q7XEo
支援というか、楽しみだ
21 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 14:44:41.99 ID:uXkKDVE0
一通り話が終わった後で、戯言遣いは俺に向けて何かを投げて寄越した。

「長話で体が冷えただろう?」

それを受け取って、手の中の温もりに愕然とする。缶コーヒー。それはいい。これ自体はどこにでも有る市販のものだ。だが、今コイツはこれを懐から出したんだぞ? たった今!
それがなんで、どうして温かいんだよ!? もしもこれが人肌、戯言遣いの体温なのだとしたら今すぐ病院行きを俺は薦めざるを得ない。

「手品師かよ、アンタ」

「ぼくは戯言遣いさ。戯言以外は、遣えないし遣わない」

「だったらこの手品の種を教えて欲しいモンだね。なんでこの缶コーヒーは熱い?」

「たった今買ってきて貰ったものだからさ。本当はもう少し早く持ってきて貰う予定だったんだよ。寒い中立ち話だしね。ただ、お使いを頼んだ子が自動販売機にお金を入れるのに躊躇ってしまって今になったと、そういう事」

まただ。よく分からない発言でこちらの脳みそをクエスチョンマークでいっぱいにしてくるのは、これが戯言ってヤツか?

「それだと懐から出した謎が解けないし、そもそもそのお使いをしてきたヤツってのに俺は気付かなかったぜ?」

「ああ、良い着眼点だね。そしてぼくにはそれに対してこう応えるしかない。それくらいの事をどうして疑問に思うのか、ってさ」

「それくらい、だと?」
22 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 15:01:01.43 ID:uXkKDVE0
「それくらい、だよ。ぼくは何も必要とせずに自分のその体だけで空を飛べる人を知っている。
 ぼくは素手でアパートを五分も有れば更地に戻してしまえる人を知っている。
 ぼくは目に付いたというそれだけの理由で人間を細切れにする人を知っている。
 ぼくはたった16ビットのプログラムで世界中のコンピュータを支配下に置いた人を知っている。
 ぼくは三百年以上生きていた人を知っている。
 ぼくは口を開くだけで人を壊す事が出来る人を知っている。それに比べれば……崩子ちゃん、これ、ちょっと甘いや」

戯言遣いは缶コーヒーをすっと前に出すと、それを意図的に取り落とした。自然、俺の視線はその缶に集中する。

「勿体無いから残りはあげる。甘いもの、好きだよね?」

ソイツがそう言った、その瞬間に俺が注視していたはずの缶コーヒーが……消えた!?

「こういう事。手品じゃないのは分かって貰えたかな?」

いや、何が「こういう事」なのか。俺にはさっぱり意味が分からない。先ず第一に缶コーヒーは消えたりしない!
23 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 15:02:13.72 ID:YnPjfI2o
支援
完結はするんだよね?
24 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 15:12:08.30 ID:UczF9oAO
数が減ってきたハルヒssが最近増えてきて嬉しいわ
ちょっと前にここで建ったハルヒのクロスssはクロス先が分からないから切ったけど
西尾なら分かるから頑張って書いてくれ

因みに前にあったハルヒ×零崎とは何も関係ないよね?
25 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 15:17:07.89 ID:u0y90I.o
支援
26 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 15:21:52.56 ID:uXkKDVE0
「こんな事は驚くに値しない。それよりも、こういった事を平気で行えるような人間が君の前に現れた、その事をこそ君は驚愕するべきだとぼくは思う」

「どういう意味だよ」

「君は知らないのかな? それとも知っていて考えないようにしているのか。別にどちらでもぼくはいいけれどね。『鍵』。宝物の鍵。それは宝物に次ぐ優先順位で守られるべきものだ。
 つまり、宝物についでリスクが高い……次に狙われるのは、まず君だ」

知ってか知らずか知らないが、その台詞は実は一年以上遅い。

「悪いな。そういう話なら俺はもう聞いてる」

「そうかい。では、君に機関の護衛が四六時中、二十四時間付いている事もぼくが今更口に出す必要も無い訳だ」

「へ?」

「おや、こっちは初耳だったかい?」

男は言って、髪をかきあげた。

「君の前にこうして得体の知れない人間が立つというのは、実は骨の折れる、これだけで一つの仕事なのさ」
27 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 15:34:48.79 ID:uXkKDVE0
……いや、考えてみれば確かに男の言うとおりなのかも知れん。俺がもしハルヒの力を狙っていたとしたら、ハルヒに絶望を強要するつもりならば、最初に狙われるのはアイツの身内。
SOS団だ。
そして、その中でもっとも攻略が容易な、言い換えるなら特殊な背景を持たない人間。
そいつは俺で、間違いない。

「まあ、その気になれば玖渚の名前を出して穏便に済ませる事も出来たけどね。しかし、それだと友の耳にまでこの事件が伝わりかねないから。
 機関……同じ玖渚機関でありながら所属が違うだけでこうも秘密主義なのはどうかと思うけど、まあ仕方ないか。壱外も体質は同じだ」

「玖渚、機関?」

……機関? どっかで聞いた事が有る単語じゃねえか?

「ああ。トップシークレットらしいけれどね。この件に関しては玖渚機関の弐栞が管轄らしい」

「それってーのは、古泉のヤツが言う『機関』ってヤツの事かよ、戯言遣い?」

俺の問い掛けに頷くソイツ。

「古泉一樹。一の名を隠れ蓑に遣う弐栞を代表するプレイヤー。『優しい嘘(ブラフイズブラインド)』……そうかい。彼が涼宮ハルヒにおける責任者か。やりづらいけれど、しかし話の分からない人じゃなくてぼくはほっとしたよ」
28 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 15:46:07.59 ID:uXkKDVE0
……なんだ? 今のブラフなんとかっていうのはもしかして古泉の事を指してんのか?
しまった。もっとちゃんと聞いておけばよかった。あの似非スマイルをおちょくる材料を聞き逃すなんてあるまじき失態だぜ、チクショウ。

「……彼一人では狐さんの相手は難しいだろうな。とは言え、壱外の人間がのこのこと出て行けば玖渚機関における火種になりかねないとか、ああ困ったものさ。そうは思わないかい?」

「アンタが一人で勝手に納得してるだけで俺にはちっとも話が見えてこないから、同意も否定も出来ん。戯言遣いさんや。アンタはもう少し人に理解を促すような喋りは出来ないのか?
 それともそいういう事が出来ないって意味で戯言遣いなんて言われてんのかよ?」

そう言った、瞬間だった。俺の首筋に何か冷たいものが当たる、感触が有った。

「戯言遣いのお兄ちゃんを嘲る事は私が許しません」

目の前の闇が、女の子の声を発する。
29 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 15:55:35.33 ID:uXkKDVE0
それは夜の闇にしか見えなかったし、闇が人の輪郭をしているように俺には思えない。それも目を細めて、それでようやく分かるほどおぼろげな輪郭。
人間はここまで夜と同化出来るのかと、そんなどこか見当外れな事を俺が思っていると、背中に更に二つ何かが当たる。

「"いーちゃん"さんの敵はぼく……私たちの敵だ」
「"いーちゃん"さんの敵はぼく……私たちの敵だ」

サラウンドで聞こえる少女の声。何が起こっているのかと振り向く……事も喉に突き付けられたバタフライナイフがそれを許さない。
おい、何がどうなっていやがるんだ!?
なんで深夜にちょっとコンビニに出掛けただけで三方を少女に取り囲まれなければならない!?
一体、俺が何をしたってんだ! どこに居るか知らんがこの世界の責任者、ちょっと出て来い!

「崩子ちゃん、高海ちゃん、深空ちゃん、止めるんだ」

……この女の子達はアンタの子飼いかよ、戯言遣い。とんだ猛犬を飼ってやがるじゃねえか、このやろう。躾をちゃんとしないとペットは飼っちゃいけないって教わらなかったのか?
30 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 16:18:44.84 ID:uXkKDVE0
「彼は敵じゃない。彼は世界の……敵じゃない」

俺の喉、そして背中から違和感が消える。それと同時に目の前に有った人の形をした夜も、背後に確かに居たであろう少女の姿も正しく言葉通り影も形もなくなっていた。
奇術集団かよ、お前らは。

「悪く思わないでくれると助かるな。彼女たちはちょっと……職務……うん、職務に忠実なだけなんだよ」

「アンタの部下の職務ってのは人の頚動脈スレスレにバタフライナイフを持っていく事なのか? 世間一般じゃソイツは真っ当な職業とは言えないぜ?」

「そうだね。まあ、仕方ないよ。君の目の前に居た女の子、井伊崩子(イイホウコ)ちゃんって言うんだけどさ。彼女は元暗殺者だから」

サラリと物騒な単語を吐く男。暗殺者? なんだ、それ? ここは現代日本だぞ?
いや、宇宙人未来人超能力者に比べればまだ現実に則していると言えない事も無いが、それにしたって無茶苦茶だ。
俺の日常はどこへ行った?

「なあ、頼むから日常を返してくれ、戯言遣い」

「選択肢は二つだよ。二つしかなくて、二つも有る」

ソイツは俺に向けて逆向きでピースサインを示した。

「一つはぼくと協力して世界の敵から世界を守りぬくか」

人差し指が折られ、戯言遣いの中指だけが街頭に照らされる。それは世界で一番物騒なハンドサイン。

「涼宮ハルヒとこの世界を見捨てるかだ」

ファック。くたばっちまえ。
31 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 16:37:24.00 ID:uXkKDVE0
「十三銃士」

戯言遣いに促されるままに道を歩く。その俺に向かってソイツは肩口にそう言った。

「じゅうさん……じゅうし? 突然数を数えだして何がしたいんだよ、戯言遣い」

「狐さんお得意の言葉遊びさ。三銃士。名前くらいは聞いた事が有るだろう? あの物語では三人だったが今回、ぼくらの敵に……いや、世界の敵に回るのは十三人だから」

「十三銃士、って事か?」

「そういう事さ。ああ、余談だけど、ぼくと初めて敵対した時にも同じような組織が有って、その時は十三階段っていう名前だったんだ」

これまたワンパターンなヤツだな、その狐さんとやらは。

「いや、異例の事なんだ。あの人は二つポリシーを持っていてね。それは同じ事はしない、というのと、ポリシーを持たない、っていうのなんだけれど」

おい、その発言矛盾だらけじゃねえか。ポリシーを持たない事がポリシーなら、他に何か持っちゃダメだろ。違うか?
後、戯言遣い。お前は俺をどこに連れて行こうとしていやがる。

「あの人の最悪たる所以はそこに尽きるよ。直訳するとやりたい事をやる。それだけだから。他人の迷惑なんて考えた事も無いんだろうさ」

「そりゃまた、迷惑な大人も居たモンだな」

俺がそう言うと、そこで初めて戯言遣いは笑った。

「ああ、そうか。そういう考え方も出来るのか。なるほどね。勉強になったよ」

「何がだ? 戯言遣いさんよ。アンタ、コミュニケーション障害の気が有るんじゃないか? 人に分かるように物事を喋らないってのは、ウチの団長を引き合いに出すまでも無く悪癖だぜ?」

「いや、ね。ぼくの周りには迷惑じゃない大人っていうのが居ないんだよ。過去も。現在も」

そしてきっと未来も、とソイツは付け足して。そして笑った。俺からしてみればこの男も十分に大人と呼べる年齢だったりしたのだけれども、その時ばかりはなぜだろうか、同年代のように見えた。
32 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 16:51:24.96 ID:uXkKDVE0
「なあ、そう言えば戯言遣い。アンタ"いーちゃん"って呼ばれてたよな」

「ん? ああ、そうだよ。いーちゃん、いっくん、いーたん、いの字、代表的なのはこんな所かな。何? 戯言遣い、って言いにくいかな? だったら好きなように呼んでくれていい」

名前なんて所詮ただの識別信号だしね、とソイツは言うがその台詞も俺はどこかで聞き覚えが有るぞ、オイ。

「どれも戯言遣いよりは呼び易いだろうけどよ。そうじゃなくて、俺はアンタの名前を聞いてるんだが」

人に名前を聞く時は先ず自分から。恐らくコイツは既に知っているだろうがそれでも俺は自己紹介をしようと口を開き、しかしそれよりも早く戯言遣いは言い切った。

「知らない方が君の為だよ」

「どういう事だよ、そりゃ」

「その若さで死にたくないだろう?」

「意味が分からん。なんで名前を聞いたら死ぬんだ?」

「ぼくを名前で呼んだ人は今までに三人居るのだけれどね。その三人は」

「三人は?」

「例外なく死んでいる」

絶句する。言葉が出てこない。何も、言い出せない。俺は戯言遣いじゃないから。

「だから、無用な詮索は君自身の為にも止めておいたほうがいいよ。こっち側は君みたいな人が生きていられるほど、優しくない」

戯言遣いの背中は、俺よりも小さなその背には、俺なんかよりも余程重たいものが乗っているのだと知る。人の死の重さなんて俺には分からない。
分かりたくも、ない。
33 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 16:52:08.73 ID:PFppQkDO
飛行機が墜落して10人居なくなって名実ともに三銃士になるんですね
34 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 17:01:43.84 ID:zwGYiMIo
よし
35 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 17:06:52.37 ID:uXkKDVE0
「さっき」

戯言遣いは話し出す。

「君の喉にナイフを突き付けていた娘、居ただろう?」

「ああ、えっと……井伊崩子ちゃん、だったか? ん? 井伊?」

「ぼくの娘だよ。とは言っても養子だけどさ。血の繋がりはないんだ。代わりにぼくと崩子ちゃんの間には流血の繋がりが有る」

血の繋がりは無い。
流血の繋がりが有る。その言葉の意味するところを鑑みる間も無く、答えは戯言遣いの口から出た。

「彼女のお兄さん、ああ、こっちは実のお兄さんだけど。石凪萌太くんは、ぼくのせいで死んだんだ」

まただ。また「死」という単語がソイツの口から当然と出てきた。

「ぼくのせいで、崩子ちゃんの目の前で、死んだ。だからという訳じゃないけれどそれ以来ぼくが彼女の面倒を見ている。
真っ当な人生を彼女には歩んで貰いたいから、三年ほど前かな、彼女には無理を言ってぼくの養子に入って貰ったって訳。暗殺者に戸籍なんて無かったし」

「よく分からんし、なんだか俺の中の何かが深入りは止めておけと言っていやがるから考える事を放棄させて貰っていいか?」

他人の家の事情には無闇に首を突っ込むものじゃ、ないと思う訳だ。

「構わない」

「それで、話は戻るが戯言遣い。アンタの苗字は『井伊』で俺は"井伊さん"って呼んで良いのかい?」

いーさん。なんか、外人みたいだな。
36 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 17:22:04.31 ID:uXkKDVE0
「さっきも言ったと思うけど。好きに呼べば良いよ」

前を歩く、ソイツの歩みは止まらない。遅くも速くもならず、一定のリズムで歩き続ける。
井伊崩子さんとやらの兄が死んだ話をした時も。
自分の名前を口にした三人が例外なく死んだ話をしていた時も。
その足は淀み無く。その唇は淀み無く。
どこか自分の事じゃないような、誰かから聞いた話をそのまま口に出しているだけのような印象を俺は受けた。

「なら、いーさん」

果たして人とはここまで「死」に対して無反応になれるものだろうか?
一体、どんな経験を、人生を歩んでいればこんな無感情になれるのだろうか?
不感症と不干渉の二つの言葉がそのまま人間になったような、ソイツ。戯言遣い。

「何かな?」

「俺たちは今、どこへ向かっているのかだけでも教えて貰えると助かるんだが。アンタに付いて行ってるのは別に世界の敵云々の話を信じた訳じゃなくて、どっちかと言うとあのバタフライナイフっ娘が怖いってファクタが大きいんだ」

「なるほどね。崩子ちゃんは確かにぼくも怖いな」

いーさんは振り返ると俺に向けて携帯電話を見せる。最新式のヤツだろうか。見た事が無い型だぜ、これ。

「それのGPSを頼りに歩いてるんだ。行き先は」

ピコピコと点滅する赤い印には「人類最悪」と地点名が付けられている。

「悪の秘密結社さ」
37 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 17:46:11.15 ID:uXkKDVE0
悪役のアジトを話が始まった途端に強襲する正義の味方サイド。
聞いた事ねえよ。

「よお、よく来たな、俺の敵」

「どうも、ご無沙汰しています、ぼくの敵」

「フン、『ご無沙汰しています、ぼくの敵』か。その様子だと涼宮ハルヒの事を聞きつけたらしいな。また邪魔しに来たか。
 毎度毎度のご都合主義。俺は飽き飽きしてきたぜ。そろそろこの辺で超展開が有ってもいいもんだとは思わねえか、"いーちゃん"」

「いいえ、ぼくは貴方と違って王道が好きなんですよ、狐さん」

「フン、つまらなくなってきやがった」

「どう転んでも貴方にとって面白い展開にはさせる訳にはいかないでしょう」

何も言葉を挟めないのはいーさんと狐さんの雰囲気に飲まれているというのも大きいが。しかし、それよりも。
狐さん。
その人のファッションに絶句していたというのが正しい。
少なくとも二十四時間ファミレスでする格好ではない。それは間違いない。
長身痩躯に藍色の着流し。これが最早違和感しかないのだが。季節感をまるで無視した軽装は、しかし寒さ暑さを引き合いに出してはファッションは語れないと聞いた事が有るし目をぎりぎり瞑れるレベルだとしても。
狐のお面。
それはない。
それはねえだろ、おっさん。
こんな格好、夏祭りか何かでしか見た事ないぞ、俺。

「おいおい、"いーちゃん"。それにしたってこれはねえだろ。まだ物語は始まってすらいねえんだぜ? ちょっと長いプロローグってなモンだ。
 せめて十三銃士のお披露目までは手を出さないのが王道ってヤツだろうよ。それがどういう事だ? 闇口のお嬢ちゃんまで引き連れやがって」

「うおっ!?」

いつの間にか、俺の座っている席からいーさんを挟んで向こう、窓側の席に少女が座っていやがる、だと!?
なんだなんだ、ドッキリか!?

「この場で決着を付けちまう気、満々じゃねえか」

狐面の男、狐さんはそこで深々と溜息を吐いた。
38 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 18:05:53.34 ID:uXkKDVE0
はてさて、お分かり頂けたとは思うだろうが、それとも読み飛ばされただろうか。悪の秘密結社と言って俺が連れてこられたのはどこにでも有る二十四時間ファミレスである。
最近の流行か知らんが喫茶店を拠点にする正義の味方は聞いた事が有っても、流石にファミレスに寄生する悪役ってのは前代未聞だ。
少しづつではあるが、もしかしたらそんなにシリアスな話でもないのかもなと思えてきた。
そんな俺の醸し出す気だるい空気など最初っから、存在すらも無かった事にしてしまいかねない勢いでいーさんと狐面の男のやり取りは続く。

「回りくどいのは昔と違って嫌いなんですよ。哀川さんの影響でしょうね。今のぼくはどちらかと言うとやり込みプレイよりも早解きに主軸を置いていまして」

「製作者に敬意を払わないその態度はお前的には良いのかよ、ああん?」

「与えられた枠内で何をやろうとそれはプレイヤの自由でしょう。あ、崩子ちゃんさっきからデザートメニューをずっと見てるけど好きなのが有ったら頼んで良いからね?」

「うー……そうは言われましてもお兄ちゃん。これなんて六百三十円もするんですよ? これは私の一日分の食費に相当します。崩子は水で十分です。……お水は、無料ですよね?」

「フン、『与えられた枠内で何をやろうとプレイヤの自由でしょう』か。与えられた枠内で満足出来るような人間では俺もお前も有るまい。違うか、戯言遣い? 闇口のお嬢ちゃん、なんでも好きなものを頼むといいぜ。少しでもいいから"いーちゃん"に経済的打撃を与えてやれ」

「生憎ですが、ウチの財政は六百三十円くらいで傾いたりしませんよ」

「塵も積もればという言葉を知らんとはな。戯言ばかりが専門で格言は埒外か」

「いえ、私はお水で……」

……オイ、こいつらは一体何の話をしてるんだ? ハルヒの話はどこへいった?
39 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 18:09:59.33 ID:Fvg09IDO
仮面ライダーのなんかで喫茶店だかBARだったかが本拠地の悪の組織があったっけ……
40 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 18:32:18.77 ID:uXkKDVE0
「はい、ご注文のマロンパフェ、お待たせしましたー」

通路側、俺の後方からそんな声がして振り向く。
赤。
そこには真っ赤な、本来ならばそこは白いレースで仕立ててくるモンだろうと思われる部品まで赤く染めた、髪まで真っ赤なウェイトレスが居た。

「え? 私そんなの頼んでませんよ、お兄ちゃん!? マロンパフェって……それ八百二十円もするじゃないですか!? ごめんなさい、ウェイトレスさん、これ提げて下さ……!?」

「そんな事を言われましても、これはいーちゃんの奢りですから、ちゃんと食べて下さいね。と、猫撫で声はこれくらいでいいよなあ」

「フン、ようやく来たか」

「哀川さん!?」

いーさんが驚愕の叫びを上げる。深夜のファミレスだから客は俺たち以外にいないけど、しかし叫び声をあげていい場所では、ファミレスはないと俺は思う。

「おい、クソ親父。アホ戯言遣い。お前ら揃って何を下らねえ話をしていやがるんだ。それとな、いーちゃん。アタシの事を苗字で呼ぶのは……いや、今回に限って言えば敵同士だったな」

ニヤリと。野生の肉食獣を思わせる捕食者の目で、その赤い彼女は俺といーさんに笑いかけた。
41 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 18:55:31.03 ID:uXkKDVE0
「……敵同士、って!?」

「おうおう、動揺してる姿も可愛いねえ、いーちゃん。だが、幾ら可愛くても今回ばっかりはダメだ」

赤いウェイトレスさんはそう言って、狐面の男の隣にどかりと座り込む。え? 店員さんじゃないの?

「でもって、キョンだっけ? こっちはお初だな。アタシは哀川潤。潤さんって……ああ、敵だから苗字で呼んでくれりゃいっか。自己紹介はめんどくせーから簡単にな。アタシは」

赤い服に身を包み、赤い髪をかきあげて。赤い瞳で俺を射抜く、赤い視線。

「人類最強だ」

人類最強。それは、それも言葉通りに取るならば、一番強いという、それ以外の意味に取りようがない。

「つまり、アタシがこっち側に加担した時点でこのゲームはエンディングが決まってんだよ。悪いな、いーちゃん」

俺が隣を見れば、戯言遣いは絶句していた。
口を開いてこそのその人は。
けれど口を開く事さえ、忘れてしまっていた。
42 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 18:56:10.85 ID:uXkKDVE0
とりあえず今日はこの辺で。
縁が「合」ったら、また会いましょう。明日とか
43 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 19:01:18.88 ID:Fvg09IDO
支援
44 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 19:28:00.57 ID:g5AJUiI0
支援
45 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 19:35:39.67 ID:XUDVXgDO
支援あげとかしなくていいから新参
46 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 20:23:17.78 ID:2Jf0oToo

哀川さん出てくんの早いな
47 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 20:55:00.74 ID:/Op2lkAo
明日は大晦日だってのに書いてくれんのか
ありがたやありがたや
48 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 22:22:11.22 ID:B6GDk3c0

幸いにして西尾がわかんない俺はこの作品を半オリジナルとして楽しむことが出来る。
49 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 23:54:08.10 ID:2Jf0oToo
>>48
安心しろ
戯言は原作でも読者の知らないキャラクター同士でしか通じない会話だらけだから
言ってることの意味が分からなくていつもどおりだ
50 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 00:50:09.42 ID:egBG5wAO
哀k‥潤さんは戯言遣いのこといーたんって呼ぶくね?

支援
51 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 01:18:56.71 ID:xCFnP1Io
崩子ちゃんかわいい
52 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 01:41:19.86 ID:lpYowMUo
あれ?崩子ちゃんもう闇口のスキルはなくなったんじゃないの?
53 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 11:38:09.83 ID:qmGtY2k0
「……人類最強、ですか?」

質問する口調もなぜか敬語混じりになっちまうのは、この哀川さんって人がそれだけの存在感っつーか、なんかおどろおどろしい雰囲気を醸し出しているからであり。
例えるなら場末のコンビニでたむろしてるヤンキーを一万人束にしたような、そんなプレッシャを放っていたからだった。この女性の機嫌だけは何が何でも損ねてはならないと俺の中の生存本能が声高に訴えている。今更ながらハルヒの機嫌取りに奔走する古泉の気持ちが少しばかり理解出来た気がするぜ。

「よく分からないんですけど、それは一体どのくらい強いんすかね?」

絶句するいーさんに代わり俺が恐る恐るそう質問すると、哀川さんとやらはふふんと鼻を鳴らした。

「そうそう。そこなんだよ、そこ。良い質問するじゃねえか、キョン」

「良い質問?」

「アタシは強い。そりゃ分かり切ってるんだ。なんせ、誰よりも強いからな。だが、あんまりに強過ぎて実際今、アタシはどんくらい強いのかが分かんなくなっちまってんだよな。少年漫画風に言うなら『敵がいない』ってヤツだ」

いや、俺にしてみれば二つ名で呼ばれてたり、そのファッションセンスであったりとかがもう最初から少年漫画から抜け出してきたみたいに見えるんですけども。
宇宙人であってもそんな奇抜な格好じゃなくて、ごく普通の学校指定の制服だぜ?

「だから、アタシは欲してた。指標っつーか、物差しだな。都城王土は黒神めだかの何億倍凄い、って感じでさー。でもダメなんだよな、ドイツもコイツも。人類に敵はいなかった訳よ。だが……」

背中にゾクリと悪寒が走り抜ける。悪い予感……いや、悪い確信。急激に体中から熱が引いていく。

「宇宙人なら、もしかしたら物差しくらいにゃなるんじゃねえ? ってな!」

宇宙人。俺の大切なSOS団の団員の一人。
狙われているのは、本当に俺たちだったって訳だ。
54 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 11:55:53.00 ID:qmGtY2k0
哀川さんは豪快に笑う。ファミレス中に轟く、大音量でその人は笑った。

「正直、諦めてた部分も有ったんだよ。アタシらしくもないが、それでもちょっと強くなり過ぎたっつーかロープレでチートして途中からゲームをする事自体がダルくなる感じだな。やっぱ最初から勝敗が分かってるような敵じゃ、こう……燃えねえよなあ」

燃え盛る炎のような真紅で全身を染め上げて、立ち上る存在感は最早熱気としか形容のしようがない。炎と比喩して何の問題もないであろう人類最強の口から出た「燃えない」という言葉。
この女性は、俺の目から見れば人間ビル火災でしかない女性は、それでもまだ燃え足りないのだろうか。
熱血、なんてレベルじゃねえ。
劫火……劫血。それはすなわち、豪傑ってヤツか。

「だが、やっぱり人生ってのは面白いねえ。諦めなきゃきっと道は開けるとはよく言ったモンだぜ。まさかこのアタシの為にモノホンの人外を用意してくれてるたあ、流石のアタシも恐れ入った!」

言ってバンバンとテーブルを叩く。その頬は高翌揚からか赤く紅潮していたが、それとは対照的にこっち側、いーさんと井伊崩子さんは顔面蒼白だった。恐らく、俺も同じような顔色なんだろう。そんなのは鏡を見なくても分かった。
宇宙人と力比べ!?
そんなのは常人が考え付く発想じゃねえ。そんなのは思い付いたって実行を口に出す事すら憚られる。
それを哀川さんは。
笑って。
心底楽しそうに。
笑って口にする。
俺にはその心境が、いや哀川潤という女性の存在そのものが理解出来ない。
55 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 12:10:23.40 ID:qmGtY2k0
「……本気、なんですか?」

「本気も本気。超本気だぜ、キョン。戯れでこんな事を口にするのはそこの戯言遣いくらいのモンだ」

「哀川さん。貴女は長門の……宇宙人の事を何も知らないからそんな事が言えるんですよ。俺はそりゃその力を見た事だってほんの少しだしアイツの事を理解してるとは言えないけど、それでもアイツには」

情報操作能力。動く事をすら不可能にして、机を槍の雨に変え、抵抗を許さず存在を光の粒に昇華する力。
哀川さんが、例えるなら全ての能力値がカウンターストップしてる超絶無敵のキャラクタであったとしても、長門はそのゲームの枠組、システムの方をどうこうしてしまえる存在だ。

「人である限り、勝てません」

こう言えば、諦めてくれるだろうと思っての発言だった。実際、長門と戦って勝つ方法なんて俺にはてんで見当がつかん。しかし。
しかし、俺は間違えた。哀川潤という人の人となりを見誤った。
炎は、焼き尽くすまで止まらない。

「へえ! ソイツはいいな! 今までで最高に楽しい喧嘩になりそうじゃねえか!」

火は、油を注げば燃え上がる。

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。だが、アタシは言ったよな。勝つ事が最初から分かってる喧嘩になんざもう、飽き飽きしてんだよ。未知との遭遇にワクワクしちまうのは孫悟空だけだと思ったか?」
56 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 12:50:46.09 ID:qmGtY2k0
オラ、ワクワクしてきたぞを地で行くその眼の輝きは紛れもない本心なのだろう。なんだ、この人。どんな図太い神経してやがるってんだ。

「つまり、アタシにしてみりゃクソ親父の世界の終わり云々なんってーのはどうでもいいんだよ。アタシは強敵と出会えればそれでいい」

格闘漫画みたいな事言い出しやがった。本当にこの人は現実に居る人間か、俺にはどうも怪しく思えてきたぜ?
立体投影とかじゃないだろうな?

「なんだよ、その疑惑の篭った目は。あのなあ……もしもアタシが本気でこのダメ大人に加担してんなら、この場でテメエといーちゃんをぶち殺してるよ?」

何、物騒なこと考えてやがる!?

「そんな事……こんな往来のファミレスで出来る訳が……」

無い。そう言おうとした俺の肩を隣に座っていた男が叩く。いーさんだ。

「有る」

「いーちゃんはちゃあんとアタシの事を理解してるじゃねえか。いいねえ、愛してるぜ。往来のファミレス? おい、キョン。だったらちょっと回りを一回見回してみろよ」

促されるままに首を左右に動かして、そして悟る。
客らしい客が俺たちしかいない店内。

「ここは悪の秘密結社。その総本山だぜ?」
57 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 12:56:54.25 ID:dyMslggo
ハルヒと長門には絶対に勝てないだろ
58 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 13:33:44.13 ID:qmGtY2k0
「強襲をかけたつもりがぼくらは袋の鼠だった、という訳ですか。哀川さん」

「だな。急がば回れだぜ、いーちゃん。ま、一回目は見逃してやる。哀川潤の名にかけて、この場ではお前らに手出しはさせねえよ。勿論、いーちゃんのかわゆいかわゆい崩子ちゃんが手出ししなければの話だけどな?」

くひひ、と笑う。彼女は手の中でバタフライナイフを弄び……バタフライナイフ!? おい、あれ、どっかで見た事あるぞ、俺! それもつい一時間ほど前にだ!
その持ち主だったはずの少女を咄嗟に見れば、彼女は目の前の栗たっぷりスイーツに眼を奪われていて気付いていない。
……緊迫感ねえー。

「そんな事、最初からするつもりはありませんよ。この場に崩子ちゃんを連れて来たのはただの護衛です。いえ、本当は連れて来るつもりも無かったのですけれどね。しかし崩子ちゃんがどうしても、というものでして」

「相変わらずの溺愛ぶりじゃねえか」

「まあ、義理とはいえ娘ですからね、この子は」

「は? いーちゃんの話じゃねえよ」

戯言遣いが首を傾げる。意味が分からないといった様子だがしかし、俺にだって哀川さんの言った意味が理解出来るのにこの人は理解力が無いのか?
溺愛しているのは戯言遣いの方ではなくて、井伊崩子の方なのだろう、きっと。
他人からの好意に鈍い、ってのは傍で見ていてなんかこう、不愉快になるな。

59 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 13:41:45.29 ID:MtOE6wDO
今こそ切り札を使うときだっ!
キョン、ミスドカードを出せッ!
60 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 13:45:33.84 ID:qmGtY2k0
「話し合いで済むのならば、それに越した事は無いと思っていたんですよ。そういうのがぼくの戯言における本領ですからね。ただ……ただ、哀川さんがそちら側に回っているのは予想外でした」

いーさんは言う。

「貴女は、貴女だけは正義を間違えないと思っていましたから。どうやらぼくの買い被りだったようでほっとしていますよ。哀川潤も、人の子だったんだな、なんて。変な話ですけど」

戯言遣いの口振りから俺は理解する。この目の前に居る哀川さんとやらは、ちんけな言い方になっちまうが「正義の味方」ってどうやらそんな役回りらしい。本来ならば。
だが、世界の終わりに加担しておいて、それでも正義の味方だなんてそれは虫が良過ぎる話だろう。それとも。
正義の味方なのだろうか。
それこそが正義なのだろうか。
俺だって疑問に思った事が無い訳じゃない。ただ一人の少女の掌の中に収められている世界。ソイツが健全なのか、どうか。
言い方は悪いかもしれないが、それは独裁ってヤツによく似てる気がしないでもないんだ。だったら、ハルヒの手から世界を零す事は、それを企む事は果たして悪か?
だけど、正義だなんて信じたくない。そんな俺が居る。
俺たちは、色々やってきたけど、それでもそれなりに楽しい毎日を、非日常を日常として生きてきたはずなんだ。
それを。
悪。
だなんて、俺には思えない。

「どっちが正義かなんてどーでもいい話だろ。ここのクソ親父の思想だって、誰かから見りゃ正義には違えねえ。だったらそれぞれが好きにやりゃあいいんだよ」

「好きに。貴女はただ自分の力を見定める為だけに世界を危うくするつもりですか?」

「どっちがアタシにとって比重が大きいかなんてのは、アタシにしか分かんねーよ」

強くなり過ぎた人間にしか、そこから見える荒野の風景なんてのは分からない。つまり、そういう事。
61 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 13:52:18.98 ID:G/aDKUDO
>>59
切り札は最後まで見せるな!
62 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 14:00:35.31 ID:qmGtY2k0
「その辺にしておけ、潤」

「……クソ親父。なんだよ、アタシのパートはこれで終了かよ。つっまんねえな」

頬を膨らませて立ち上がる赤い彼女。その鋭い眼光で睨み付けるのは、俺。……え? なんで、俺?
そこは今日ついさっき出会ったばっかの男子高校生じゃなくて、もっと因縁深そうな戯言遣いに視線を向けるべきじゃない? なあ?

「ま、最後にな。これは規定事項、ってヤツだよ。今回の『敵』に名乗りだけはさせてもらうぜ」

敵。
いーさんではなく。
涼宮ハルヒにとっての鍵に対して。

「十三銃士、第四席、哀川潤だ」

俺の顎に手が当てられる。火傷しそうなほど熱い指が俺の顔を抗えない力で上向かせる。自然、俺と哀川さんの視線が交錯して。
眼を逸らしたいのに、眼を逸らす事すら許されない眼力。今の俺はそのものずばり蛇に睨まれた蛙……いや、月に睨まれたスッポンってトコか。

「人呼んで『人類最強』だ」

眼で見るだけで人をぺしゃんこに出来ちまいそうな、圧倒的な存在感。赤いカリスマ。

「じゃ、そんな感じでよろしくな、アタシの敵」

そう挨拶された。次の瞬間、俺の唇に焼き鏝を乗せられたような熱量が押し付けられた。なんだ、これ? どんなイベントが起こってやがるってんだよ、コンチクショウ!
63 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 14:19:24.03 ID:qmGtY2k0
動けない。動けない。射竦められたように、身竦んだように、見竦められたように動けない。
朝倉との対峙を思い出す。あの時は情報操作能力だったか!? だが……そういう物理的に動けないのとは違う! 全然、違う!
動こうとする意志力を、抵抗しようとする意識そのものをごっそりと奪われたようなこれは!
これは、ヤバい!!
長門に立ち向かうなんてそんな真似は人間に出来るモンじゃないと、俺は確信しているけれど。その確信を揺るがされちまった。
少なくとも、この哀川さんって女は。ただ人を見るというそれだけの動作で。
朝倉涼子……宇宙人と同じ事をやってのけやがった!
振り……解けない!
ただ、このキスか捕食か味見かを人類最強が終えるまでじっとされるがままで居なきゃならないなんて、そんなのアリかよ! 反則だろ、こんなの!
たっぷりと、一分は過ぎたかと思った頃になってようやく、哀川潤が離れる。幻熱を伴う重圧から解放された俺は、ぜえぜえと無様に酸素を求める事しか出来ない。

「……っぷはぁ。はっはー。ちょいと少年には刺激が強すぎたかよ? ま、今のはアタシの前に好敵手を引っ張り出してきてくれた、そのお礼の前払いってトコだ。おいおい、咳き込んでんじゃねえよ、失礼なヤツだな、このやろう。ぶつぞ」

「こっちの意向を無視してキスするのは失礼って、げほっ、言わねえのかよ、くそっ」

「はあ? アタシみたいな超絶美人にキスされてその何が困るってんだ? アタシだったら喜んでおかわり所望しちまうぜ? おっと、アタシの出番はもう終わってんだよな。あんまりグダグダしてっと出待ち食らってるのに怒られちまう。
 ほんじゃな。キョン、いーちゃん、崩子ちゃん、あでゅーれじぇんど」

カツンカツンと赤い足音を響かせて大股で立ち去っていく人類最強。チクショウ、竜巻みたいな女だ。あれならまだハルヒの方が可愛らしい。
64 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 14:38:54.11 ID:qmGtY2k0
「良いんですか、狐さん。哀川さんを帰してしまって。これでもう、貴方を守る人は居ませんよ」

「『これでもう、貴方を守る人は居ませんよ』、フン。いいか、"いーちゃん"。潤はただの前座だ。お前も得意な時間稼ぎってヤツだ。時間が時間だからな。連絡が付いたのは六人しか居なかったが、それでもお前らを全滅させるには十分だろ」

十三銃士。あんな人が後十二人も居るっていうのかよ、おい。たった一人でも長門の相手を出来そうな規格外が他にまだ!?

「ま、高校生の女の子にこんな時間出歩かせる訳にはいかなかったからな。一番お前らに……キョンに逢わせてやりたかったヤツには連絡すらしてないが、しかし真心の一件を振り返るまでもなく切り札ってのは最後の最後に出すモンだ」

「……それで、狐さん。この場でぼくたちを[ピーーー]つもりですか?」

いーさんがさも当然とそんな事を口走るが、いやいや勘弁してくれよ。覚悟も何も出来てねえっつの。
アンタたちはどうか知らんがこっちは完全無欠に一般人なんだぜ? 展開に付いて行くのすら正直厳しいんだから、もう少しこっちに気を配ってくれてもバチは当たらないんじゃないのかい?

「フン。そんな事をしてどうなる? 今回の一件は結構こっちにとっても条件がシビアなんだよ。分かんねえか? 涼宮ハルヒを絶望させる、って勝利条件を満たすにはどうすればいいか、俺は頭を捻って考えたぜ。
 それでようやく出て来たのが、自分でもいささか閉口しかねないやり方だ」

涼宮ハルヒを絶望させる方法?
アイツは結構頻繁に神人を産み出して世界を無かった事にしようとして……いたのは去年までか。今のハルヒは、こう言っちゃなんだが我慢強くなったからな。いや、前と比べてだぞ? 世間一般から見てみればまだまだ我が侭な女子高生なのは間違いない。

「その女の子が大切にしてるモンを目の前でぐちゃぐちゃに踏み潰してやればって、ああ、こんな方法しか思い浮かばなかった自分の頭が嫌になるぜ。人類最悪の名が泣くってな。もっとスマートに最悪なやり口が有ったら教えてくれないか、キョン?」

……ぐちゃぐちゃ。
大切にしてるモン……SOS団を、目の前で。
なんてコト考えやがる。コイツ……この狐面の男。
言うコト言うコト、「最悪」だ。
65 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 14:42:24.80 ID:eeYwEuoo
あ、来てた
66 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 15:11:55.63 ID:qmGtY2k0
「とは言え、潤の顔を潰すのもマズいからな。後でなんとでもなるが、それでも俺の娘は人類最強だ。その娘が自分の名に賭けてまでこの場で手は出さない出させないと言ったとあっちゃ親としては手を出す訳にはいかないだろうよ」

「……懸命ですね。狐さんらしくもない。ぼくの知っている貴方は何もかもをやりたい放題にして後始末すら尻拭いすら出来ないほどに状況を壊滅させるのがお得意だったはずですが」

「フン、信じるも信じないも勝手にするがいい。俺は部下に恵まれるが、指揮官ではないらしいからな。ドイツかが勇み足を踏んだとしても知った事ではない。そして、そこで死んだ時は何をしてもソイツはそこで死ぬ運命だったと、それだけだ」

運命。それは神様の領分。
神様。それは……。

「では、今日は顔合わせ。宣戦布告で済ませましょう。ぼくとしてもこの場で貴方に手出し出来ない以上、もうここに用は無い」

「『用は無い』、フン。明朝にでもゲームのルールを決めて遣いを寄越してやる。今夜はもう、お開きだ。俺はこれでも忙しい身でな」

「ゲームのルールって、テメエ! 何がゲームだ! ふざけんなよ!」

ハルヒの絶望を、ゲーム感覚だと? ふざけるのも、大概にしやがれ!

「吠えるな、餓鬼。俺の娘ごときに射竦められて動けなくなるような小物と話す事は何も無えよ。もしも俺を本気で止めたいならテーブルに有るフォークでもナイフでも使って俺の心臓を貫けばそれで足りる話だ。違うか?」

バスケットに入ったナイフとフォークに眼をやる。だけど、それに手を伸ばす事が俺には出来ない。
人を刺す事なんて、俺には出来ない。

「教えてやる、キョン。お前には覚悟が足りてねえよ。もしかして、お前。ここに至ってまでまだ自分は死なないとか思ってるんじゃないか?」

狐面が俺に向き直る。その面に空いた、二つの穴から覗き込む双眸。相貌。それは冗談を言っているようにはどうしても、見えなかった。

「そんなんだと、死んじまうぜ? なあ、戯言遣い? 俺たちの戦争はたっくさん死んで、殺して、死んでるよなあ?」

いーさんは何も言わず、ただ一つだけ頷いたのだった。
67 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 15:42:28.11 ID:qmGtY2k0
俺といーさんと井伊崩子さんは揃ってファミレスのドアをくぐる。カラリカラリと小気味の良い来客を告げる鐘が鳴った次の瞬間、いーさんが小さな声でぼそりと言った。

「……伏せろ」

俺は何を言われたのか分からなかった。そりゃそうだ。伏せろなんてアクション小説なんかじゃよく見かける台詞ではあったが、それは所詮フィクションの中ばかりであり、真っ当に生きてきて自分が言われる対象になるなんざ夢にも思っちゃいなかった。
けれど体はそんな俺の混乱をあっさりとシカトして地面に倒れこんだ。隣から誰かによって突き飛ばされたのだと気付くにも、それはそれで一秒弱の時間を必要とする。何が起こったかを理解するよりも早く、俺は喚いた。

「痛ってえな、コノヤロウ!! 一体、なんだってんだよ、チクショウ!!」

「敵襲です」

いつの間にか、俺を目前の何かから庇うように戯言遣いの娘が傍にしゃがんでいた。顔が近い。しかし、整ったその日本人形のような顔に俺が見とれている暇も無く正面では「物語」が始まっていた。
黒スーツの男と毅然と相対する戯言遣い。まるで何もなかったかのように。攻撃なんてただの冗談だったとでも言うように。だが、いーさんの立っているすぐ脇、コンクリートで舗装された道路は夜の明度少ない視界でも分かるほどに明らかに陥没している。
こんなものは、ここに来た時には無かった。こんな大きな穴を、きょろきょろと視点を落ち着かせずに歩いていた俺が見過ごすはずはない。
ならば、人為的。たった今、作られたクレータ。

「……やるとは思っていたけど、本当にとはね。『この場では』なんて言うから怪しいと睨んでいて正解だったな。ああ、多分初見だよね。良かったら名前を教えてくれるかな」

「構わない。こっちも最初からそのつもりだった。だが、今の不意打ちが避けられたのは少し驚きだったか。いや、不意打ちは予測されていては不意打ちではないか。なら、この場合は俺の予想よりも場数を踏んでいたという事だ」

ソイツはスーツ姿に似合わない、鈍器を肩に掛けていた。暗くてよく分からないが野球バットのような形状をしている。

「初見なのは確かだが、俺はお前を知っている。戯言遣い。この名に聞き覚えは有るか?」

野球バット(状の金属塊)を肩から地面に落ち着けた、男の足元でカラカラと音がして。

「十三銃士。第九席。式岸軋騎。二つ名は」

その音は徐々に大きくなっていく。地面に金属バットを押し付けているのだと俺は気付いたがそれで何を言えば良いのかが分からない。

「『街(バッドカインド)』」



68 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 16:00:58.87 ID:lpYowMUo
すまん、地の分が見にくいから改行して欲しいのだが
69 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 16:11:36.19 ID:qmGtY2k0
ソイツがそう言った次の瞬間地面が、爆ぜた。一瞬にして視界をもくもくと白い煙が覆い隠す。だああっ、さっきから超展開の連続で付いていけてねえぞ、俺! 途中下車させろ、こんな暴走特急!

「走ります。私の背中に付いてきて下さい、キョンさん」

少女の声が耳元で聞こえるが、背中なんてどこにも有りゃしねえっつの。言っただろうが。視界は真っ白で頭も真っ白なんだよ、こっちは!
なんてボヤくよりも早く、コートの袖を引かれ無理矢理に立ち上がらされる。ああ、くそ。こうなりゃヤケだ。状況に流されるのは悲しいかな俺の十八番だって、はい、諦め完了。服を引っぱられるままに走り出すしか選択肢は許されちゃいねえ。

「ああ、チクショウ。今日、俺何回『チクショウ』って言った!?」

「そんな事一々数えていません」

「だよなあ!」

時間にして一分ほど走った所でようやく白煙の中から脱出する。振り返れば俺たちが走ってきた道すがらをずっと煙が守るように覆っていた。
逃走しながら煙幕を撒き続けた結果だろう。少女の仕業か戯言遣いの仕業かなんてのは俺は知らん。
あれ、そういや戯言遣いはどこへ行ったんだ? 前にも後ろにもその姿は見えず。余りの展開に付いて行けず置いてけ堀になったんじゃないかと俺が不安になった頃、並走する少女が直角に路地を曲がりわき道へと滑るように進入した。慌ててその姿を追う俺……の服が後ろから掴まれる。
汗が一気に冷えていく感覚。捕まった。脳裏にクレータと化したアスファルトの映像がフラッシュバックする。ほとんど半狂乱になって俺は叫んだ。

「オイ、放せよ、テメエ!」

「……静かに」

「……え!? いーさん!?」

「声を荒げないで。静かにしてくれないかな」

路地に入り込んだ、すぐその脇で腰を下ろしているのは誰あろう戯言遣いその人だった。
70 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 16:25:08.30 ID:G/aDKUDO
キョンテンパりすぎだ
今こそ赤玉を召喚するんだ
71 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 16:28:32.35 ID:qmGtY2k0
「いや、え? え?」

二度三度、走り去っていく崩子さんの後ろ姿と座り込んだいーさんを見比べる。

「追わなくて……いいのか? 一人で行かせちまって?」

「大丈夫。崩子ちゃんなら大丈夫だよ。闇口は……彼女の実家はどうも忍者に源流が有るらしくてね。遁走術でのみ語るなら同姓相手でもない限りは安心していい。彼女にはこういった場合に備えて逃げ込む場所もきちんと教えてあるし、もう少し囮になっていて貰おう」

「忍者? この平成の世にかよ?」

「殺人鬼だって闊歩する世の中さ。忍者が居たって別に不思議は無い。囮にするのは心苦しいけど、まあ、闇口ではなく井伊として戦うのだからそんなに無茶はしないかな」

いーさんはパンパンとコートに付いた埃を叩き落しながら立ち上がる。

「さて、ぼくらも行こうか」

「行くって、どこにです?」

回れ右するのもなんだかさっきの野球バット黒スーツが待ち伏せていそうで気持ち悪いし、とは言えそうなると崩子さんの後を追う以外に道は無いのだが。

「もう少し戦い易い場所さ。さっき、狐さんは六人呼んだって言っていただろう? となると後五人、ぼくらは今夜中に相手にしなくちゃならない」

……おいおい、冗談だろ。

「大丈夫。安心していいよ。もう手回しは済んでる。ファミレスを出た時点から戦争が始まるのは予想が付いていた。ぼくはそう言ったはずさ」

いーさんはそう言ってニヤリと笑った。

「君の力も貸してもらう事になる」

俺の力? そんなん有ったら逆に教えて貰いたいくらいだ。戯言にも程が有るだろ、戯言遣い。
72 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 16:39:20.79 ID:qmGtY2k0
十三銃士で誰を出そうか考え中。後四名。少し休憩して考えてきます
73 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 16:42:44.56 ID:NC0m0GA0
戯言だけじゃなく化物語あたりから引っ張ってきたら?
74 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 17:01:20.89 ID:WO8hmsAO
十刃みたいになったりしてな
75 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 17:01:37.98 ID:MtOE6wDO
休み休みながら頑張ってくれ
楽しみにしてる
76 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 17:35:09.66 ID:qmGtY2k0
気付いた時、既にいーさんは隣から消えていた。唐突にこんな事を言っても理解が難しいとは思うが実際そうだったのだからそうとしか言いようが無い。ついさっきまで今後どうするかを話していた……はずなのに。で、ありながら。
二分前か、三分前か。五分前か十分前か。
辺りを見回してみても一本道の裏路地である。ここを二人で並んで歩いていたはずなのだ。さっきまで。
おいおい、レベルの高い迷子能力だななどと、皮肉を少しばかり響く声で口走ってみても音沙汰無し。
……これはもしかして、敵の攻撃ってヤツか?
どうやったのかは知らんし見当も付かんが、しかし離れ離れにして各個撃破は戦術の基本……だな。なるほど、さっきの式岸なんとかといい哀川さんといい実戦要員以外にも十三銃士ってヤツは居るらしい。
しっかし、となるとどーすっかな。頼みの綱であるはずの戯言遣いもどっかに行っちまったし、今夜は大人しく家に帰るべきか?

「寒いしな……下手の考え休むに似たりって言うし、そうだな。帰って寝ちまおう、もう」

呟いて路地を進む。一本道の突き当たりを右に折れた。
そこに居たのは女性。真っ白な、雪のようなウェディングドレスを着たすっげえ美人。

「オデットと申します」

「……はあ」

生返事を返すしか出来ない俺。だが、理解していた。今夜、この状況下、このイレギュラーな服装。
どう考えても敵でしかない。

「十三銃士、第十二席。オデットと申します」

「いや、名前はさっき聞きました」

その女の人の眼はずっと、俺を見ていなかった。いや、眼は俺の方を向いているんだ、しっかりと。けれど視線は合わない。
彼女は俺のずっと後方、そこに何かが、誰かが居るようなそんなうつろな眼をしていた。けれど、そこに有るのは壁ばかりだ。

「貴方ならば切り刻んでも構わないと聞きました。狐のお面をした人から聞きました。オデットと申します。貴方ならば切り刻んでも構わないと聞きましたオデットと申します切り刻ませて頂きます切り刻ませて下さいませんか切り刻みますと申します」

……うわ、この人、マジモンの電波さんだよ……。
77 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 17:50:54.74 ID:qmGtY2k0
その余りのアレっぷりにじりじりと後退を余儀なくされる俺。いや、誰だってそうだろ? そうなっちまうだろ? だってもう、目付きが泥酔した親父様並に怪しいんだぜ? 加えてウェデイングドレスだぞ? 無理だって! 流石にこれは相手出来ないって!

「……どうしてそんな眼でオデットを見るのですか、イリア姉さま?」

俺はイリア姉さまではありませんっ!!

「姉さまが提案した遊びではありませんか。キラキラ光るものを体中に埋め込んだらきっと綺麗に、もっと綺麗になれるでしょうって。だから、今度はオデットが姉さまを綺麗にしてあげる番」

その考え方は余りに猟奇じみ過ぎちゃいませんか! ねえ、聞いてる!?

「たくさん、たくさん、たくさんたくさん、たくさんたくさんたくさん、綺麗になって欲しいのです。オデットの愛する姉さまにはいつも、誰よりも一等、綺麗でいて頂きたいのです」

言いながら、ウェディングドレスの裾から取り出したのは……ああ、やっぱり刃物ですよね、そう来ますよねえっ!?
ゴテゴテと柄に宝石で装飾が施された、西洋風の剣。RPGとかでよく出て来るアレがレイピアってヤツか? うわあい、こんな所でその本物が拝めるたあ、ツいてる。訳が無えよなあ!!

「ちょっと待て! そんなモン体に差し込んだら出血多量で死んじまうぞ!」

「そんな事はありませんわ、姉さま。オデットはあの時たくさん、たくさん、たくさんたくさん、たくさんたくさんたくさん姉さまに綺麗にして頂きましたけれどこうしてちゃんと生きていますもの。冗談がお上手ですわね、イリア姉さま」

口元に手を当てて上品に笑う。その様は良家のご息女様がしなければ決して絵にはならないが、つまりこのオデットさんとやらは良家のご息女様なんだろう。だが、それがどうした。
窓辺でまどろんでいてこその美貌が、その左手に物騒なモンぶら提げてちゃこりゃもうホラー映画以外の何モンでもないっつーの!
78 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 17:53:34.47 ID:g3UhRkDO
十全ですわ
79 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 18:07:55.99 ID:qmGtY2k0
「えーっと、ああーっと……オデットさんや?」

とにもかくにも話し合いを試みる俺。そうだ、きちんと向かい合って話し合わないからお互いを理解出来ずに戦争が始まってしまうのだろう。であるならば、言葉が通じる以上無用な血を流す必要なんてどこにも無いんだ。そうだろ?
人間関係は信頼関係。きっと電波さんとだって分かり合えなくとも共存の道は有るはずさ、どこかに。
……隔離病棟とかだろうか。

「嫌ですわ、姉さま。さん付けだなんて。いつものようにオデット、と。そうお呼び下さい」

ね? と可愛らしく微笑みながら念を押す。ああ、左手に刃物さえ持っていなきゃコロっといっちまいそうないーい笑顔なんだけどな、チクショー。

「あー、そんじゃ、えっと……オデット?」

「はい、なんでしょうイリア姉さま!」

……名前を間違えられるのはともかくとして性別まで無視とか、この子の眼はガラス球か何かで出来てんのか?

「なんでも仰って下さい、姉さま。オデットは姉さまに尽くす事こそ至上の喜びです。オデットは姉さまのためにこそ生きているのですから!」

何食ったらこんな歪んだ性格になるのだろうか。ちょっと親の顔とお抱え料理人の顔を見てみたい気もする。

「その左手に持っている刃物をとりあえず捨てないか?」

「……え?」

女性の顔から一瞬にして笑顔が消え、能面のような無表情がそこに現れる。真っ白な肌の色も合わさって、その様からは生気がまるで伝わってこない。幽霊のような、という比喩がとてもぴったりとそこにあてはまった。

「姉さま……どうしてですか? どうしてオデットを傷付けるのですか? オデットは痛いのです。痛いのです。オデットは泣いているのです。見えませんか、イリア姉さま? 愛しているのです、イリア姉さま」
80 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 18:28:08.35 ID:qmGtY2k0
女性の首がガタガタと、発条仕掛けの人形のように動く。横顔は、それこそヨーロッパ辺りの絵画のように非の付け所の無い造詣をしていたが、残念ながら彼女が美人であればあるほどホラーでしかないのであるからして。

「姉さま、どうかオデットに切り刻ませて下さいませ。私は見たいのです。姉さまの体が真っ赤に染まればそれはそれは美しいと私は何度も夢に見るのです。ですから、どうか。お願いですイリア姉さま」

お願いされたって無理なものは無理なのだが。生まれが良いとお願いすれば何でも許容して貰えるものなのだろうか。
いや……流石に死んで下さいって言われて首を縦に振るヤツはいないだろうなあ。

「そんなん頼まれたって無理だろ、無理。考えるまでもないとは思わんかね、オデットさ……オデット」

「私は姉さまに同じ事を願われて了承致しましたでしょう?」

うえ、マジかよ。つか、オッケー出してんじゃねえし、そもそもそんな事をお願いしたそのイリア姉さまとやらもどんな頭の構造してやがるんだ?
姉が姉なら、妹も妹って事だろうか。

「だから……姉さま」

純白のウェディングドレスが狭い路地に翻る。その不思議な光景に一瞬見蕩れてしまい、そのせいで反応が遅れた。しまったと思った時にはもう遅い。瞬く間に六メートルは有ったはずの俺との距離を詰めた美女は、その握る剣の切っ先を俺の胸に押し付ける。
ぷつり、服が裂ける音が聞こえた気がした。

「一緒に、真っ赤になりましょう?」

殺人鬼の口から漏れたその声は、とても甘い、甘ったるい響きを含んでいた。
まるで愛する恋人にベッドの中で睦言を囁くような。

81 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 18:49:54.06 ID:qmGtY2k0
ああ、これで終わりか。こんなトコロで終わりか。人間ってのは死ぬ時はやけにあっさりと死んじまうモンなんだなと俺の頭が諦念でいっぱいになるまでには一秒と掛からなかっただろう。
多分、走馬灯みたいな感じで時間が圧縮される現象がそこには起きていたんじゃないかと思う。なぜかっつーとそれは美女が俺から飛びのく様がスローモーションで見えたからであり、また俺と彼女との間に飛んできたナイフの軌跡がやけにはっきりと見えた事から俺はそう思ったのだが。
……助けに来るのおせーよ、ったく。

「その人は赤神イリアではありませんよ、赤神オデットさん。よく見て下さい。そもそも彼は男性です。その人を赤く染めたところで貴女の本懐は達成出来ません。悪しからず」

ナイフが飛んできた方を見れば……よう、数時間ぶりじゃねえか、超能力者。

「古泉! 助かった!」

「まったく、貴方という人は本当におかしな人に好かれる体質なのですね。ああ、後、礼を言うのならば僕よりも彼女に言ってあげて下さい」

「……彼女?」

その言葉に、古泉の背中に隠れるようにして縮こまっている影の存在に気付く。

「ひ、一つ一つのプログラムが甘いですう。く……空間製作技術や情報統制もまだまだこの時代に行える域を出ていませえん。だから私に気付かれるんですよお。古泉くんを呼んで……うええん、キョンくうん。間に合って良かったよおお」

涙をぽろぽろと流しながら俺に駆け寄ってきたのは、我ら! SOS団が誇る癒し系メイドキャラ、朝比奈さんだった! って多分一々説明入れなくても声聞きゃ分かって貰えるような気もするけどな。
82 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 19:10:39.43 ID:qmGtY2k0
「朝比奈さんがこの場所まで誘導してくれたんですよ。僕だけでは先ず救援は手遅れになっていたでしょう。プロのプレイヤの仕業ですね。ただの路地裏を迷路迷宮へと仕立て上げる、そんな魔法のような事をやってのける方には……まあ、二人ほど心当たりはありますが」

びっくりホラー美女からは決して目を離さず、古泉は言葉を続ける。

「しかし、所詮は現代の技術です。GPSはジャミングが可能でも、我々にとって未知の技術にまでは対応していなかったようですよ」

「そうか。ありがとうございます、朝比奈さん。ああ、それと一応お前にもな。礼を言っておく。古泉、さんきゅな」

「いえ、わたしは当然の事をしただけですっ」

「僕の方は一応、ですか? 困りましたね……いえ、貴方が無事であっただけ良しとしましょう。……朝比奈さんを連れて、僕から離れて下さい。いえ、ですが離れすぎないように」

そう言って真打ち、超能力者にしてSOS団の頼れる副団長は赤神オデットに向けて右手を伸ばした。おい、今「頼れる」って言ったのは誰だ? 俺か? 本当に俺がそんな事を言ったのか?
しまったな……今の部分、カットで頼む。何? 出来ない?

「……誰? 私と姉さまの間を邪魔する、貴方は誰?」

「そうですね。名前の方は言っても心当たりが無いでしょうし、所属を言っても四神一鏡の貴女には無縁でしょう。ですのでもし覚えていて貰えるのでしたらば二つ名だけ、心に留めておいて下さい」

古泉が右手を振る。たったそれだけの動作にしか俺には見えなかった。が赤神オデットは立っていたその場を飛び退く。闇に慣れた眼を凝らせばさっきまで美女が立っていたその場所にはキラキラと光るものが……アレはカッターナイフの刃、か?

「『優しい嘘(ブラフイズブラインド)』。そう、呼ばれています。どうぞ、お手柔らかに」

言いながら古泉が背中から出した左手には無数のカッターナイフの刃が、握りこまれていた。
83 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 19:14:25.42 ID:egBG5wAO
なんというオールスター
84 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 19:32:24.48 ID:WO8hmsAO
紅のスーパーボール
85 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 19:34:45.68 ID:qmGtY2k0
「カッターナイフ? の刃?」

「ええ。ほら、一応僕って機関の構成員と学生っていう二束の草鞋な訳じゃないですか。となるといざという時に武器に出来そうで持っていられる物というと筆記用具関係しかないんですよ」

なるほどなるほど。つまり、コイツは常在戦場って感じなのか。不味いな。そんなの知っちまったら迂闊にからかう事すら出来ねえじゃねえか。あー、知らなきゃ良かった。

「一応、拳銃なんかも持っていますけどね。音が五月蝿いですし、サイレンサを取り付けるのも手間ですからどうもこういった文房具で済ませてしまう……癖のようなものですね。悪癖です」

おおい!? 文房具で戦うのが癖になっちまうって一体日頃お前はどんな殺伐とした生活を送ってるんだ、古泉!?

「イリア姉さまと私の間を、貴方は邪魔をするの? お父さまのように? お母さまのように?」

「ええ。申し訳ありませんが、ここで僕に出会ってしまった以上、赤神オデットさん。貴女の道は行き止まりです。赤神家では既に貴女は死んでしまった事になっているので、持ち帰るのもそれはそれで火種、でしょう?」

古泉が右手を、左手を交互に手首のスナップを利かせて振る。それに併せて左右に飛び回る純白の美女。それをぼけっと見ている俺はまるでソイツがダンスでも踊っているように錯覚してしまう。指揮者が古泉で。

「ふむ、なるほど。赤神の鬼子と、かつて呼ばれたその異才……異彩は健在ですか。飛び道具のあしらいはお手の物ですね」

落ち着き払った声で古泉が言う。手のひらからカッターナイフが無くなったのを俺が視認したのと同時に、美女が超能力者向けて駆け出した。

「邪魔ですわ、貴方」

「おやおや、嫌われたものですね」

レイピアの先が直線距離、矢のような速度で古泉に迫る。
86 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 19:58:26.39 ID:qmGtY2k0
「ですが、僕もどちらかというと飛び道具は苦手でして」

言うが早いか古泉の姿が消えた。目に見えて動揺していたのは赤神オデット。しかし、その突進は止まらない。そのスピードは、矢に例えて遜色無いその加速は最初からブレーキングを考えられている速度ではない。

「消え!?」

「消えてません、よっ!」

古泉の右足がコンパスを使って書いたような綺麗な弧を描く。狙いは……足首。消えたように見えたのは、眼にも留まらぬ速さでその長身を縮めたのか! 
必殺のタイミングと思われたその刈り足は、しかし宙を切った。

「あのタイミングで跳びますか!?」

少年が驚愕の声を上げる。その頭上を飛び越える美女。が、空中で何かに当たったようにその体が背後に引っ張られる。ウェディングドレスの、その先を握っているのは超能力者!
そして、それがラスト。

「チェック」

地面に無様に尻餅を着いた美女のその左腕を踏み付けて古泉は、その顔の中心にどこから取り出したのかピストルの銃口を突きつける。

「戦闘に出向くものの服装ではありませんでしたね。最近のプレーヤはいけません。戦場はファッションショーではないのですよ」

ゴキリ、何かが折れる音。赤神オデットが痛苦の声を挙げる。剣を握っていた左手を少年は踏み付けるままに折り壊していた。

「古泉、やり過ぎだ!」

「何がですか?」

副団長はこちらを向いて笑った。まるでいつも通りの似非スマイルも、拳銃を構えているその姿には全然似合ってない。それは……男子高校生とは、俺にはとてもじゃないが見えやしない。
ってのに。
古泉の手の中から、パンというやけに軽い、軽くけれど響く破裂音が聞こえたのはその直後だった。
87 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 20:23:38.70 ID:qmGtY2k0
煙草切れました。もう書けませんww
そんな訳で続きは後日、ですね。今度は一月の三日か四日辺りになると思います

とりあえず、今考えている十三銃士のメンツでも晒してそれじゃあバイバイ

1 人類最悪の遊び人 2 空間製作者 3 結晶皇帝
4 代替なる首 5 大泥棒 6 心内宇宙
7 断片集 8 蠢く没落 9 辻褄併せ
10 不選不実 11 害悪細菌 12 心中強要
13 神の付人
88 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 21:30:05.89 ID:egBG5wAO
はい無理ゲー入りまーす

…うん、勝てないだろjk
89 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 21:31:22.12 ID:qw5Wfm.0
いーちゃんサイドで仲間になってくれそうかつそこそこ戦えそうなのは人識と真心ぐらいか
90 :以下、2011年まであと1094秒。。。 [sage]:2010/12/31(金) 23:41:47.96 ID:OZdQNlso
戯言のみなさん、大体死んでるもんな……
91 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 01:09:13.55 ID:dqiTb2DO
saga入れようぜ…

長門や朝倉とかのハルヒ勢に期待するしか勝ち目ない相手だな…
人生不敗とか勝てないwwww
92 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 09:49:55.62 ID:WtZ4nKso
結晶は何人のハルヒキャラと子作りをするのか
93 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 14:05:46.91 ID:imMG6QDO
軋騎って全滅してるメンバーに入ってないんだっけ?
94 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 20:23:51.24 ID:FH0vnjI0
零崎軋識は死んで式岸軋騎は生き残っただっけか
それでも普通にシームレスバイアス使ったりするんかな
95 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 20:41:26.21 ID:5K9.igAO
金属バットと書いてあって釘バットじゃないのが差別化かも
それより哀川さんが「代替」って書かれてる方が気になる。そこは人類最強の請負人だろ
96 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 23:39:18.03 ID:rEaUuAAO
伊織ちゃんに期待
97 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 16:14:25.20 ID:N0C5Bcg0
そこは橙なる種とかけたんだろ
98 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 20:17:42.37 ID:fReBZdoo
くびといえば
いまなきくび
99 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 15:57:06.55 ID:Jmom7J60
「古泉!」

非難の意味を込めて少年の名前を呼ぶ。しかし、ソイツは無言で足元を見ていた。その視線の先には物言わぬ屍が転がっている、はずだった。
だが、俺の予想はここでも外れる。「それ」は口を聞いた。物言わぬはずの「それ」は、物を言った。

「銃はいけません。銃ではいけません。それでは美しくないでしょう。そうは思いませんか、『優しい嘘』?」

顔の真ん中に銃口は突き付けられていた。それはブレず狙いが外れた訳でもない。そして、火薬の爆発する音がした。これだけの条件が揃っていて普通、人間は生きていない。普通は。
俺の中の常識を照らし合わせて、撃ち出された弾丸を食い止める術なんてそんなものはない。
その美女は、けれど汚らしい裏路地でウェディングドレスを着ていても周りの景色をすら背景として取り込んでしまうような、非常識。
普通は生きていられないけれど女は普通ではない、異常者。

「私を彩るつもりならば、どうかイリア姉さまと同じようにやって下さいまし」

そう言って、美女は唇から真赤な舌を取り出す。その上にはまるでシロップ漬けのブラッドチェリーのように、弾丸が乗っていた。

「まさか……奥歯で『喰』い止めたとでも言うのですか!?」

古泉の顔に浮かぶ一瞬の動揺。そりゃそうだ。そんなモン想像の範疇外、人間技では有り得ない。至近距離で放たれた弾丸を歯で噛み、更に止めるなんて……まるで、化け物だ。
ウェディングドレスを着て、左手に剣を携えた女殺人鬼。都市伝説であったとしても嘘臭過ぎてけっして噂にはならないだろうに。
事実は小説よりも、奇なり怪なり。

「これは、お返しします」

スイカの種を飛ばすのと大差無く見えた、たったそんだけの所作でも超能力者の右肩に真赤な華を咲かせるのには十分だった。
少年の手から、拳銃が取り落とされる。思わず俺は叫んでいた。

「古泉!」

「」
100 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 16:17:43.44 ID:brNnm/Mo
あんだけカッコ良く厨二ネーム名乗ったのに……ウッ(´;ω;`)
101 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 16:22:54.05 ID:Jmom7J60
ウェディングドレスの上からバックステップで距離を取り、しかし俺たちの方へは決して近寄らずに古泉は右肩を押さえる。指先からはぽたりぽたりと赤い滴が落ち続けて。それがやけに鮮やかな色をしていたから、こんな事は全て夢だと思う事すら出来ない。

「しくじりました……格好悪いですね、僕」

こちらをちらりと横目で見て、そして薄笑いを浮かべる少年。その笑顔に俺は血の気が引いた。なぜ、ここで笑えるんだよお前は?
格好悪いとか格好良いとかそういうのを気にしていられる状況じゃねえだろうが!

「……きゅうっ」

可愛らしい鳴き声が隣で聞こえ慌てて古泉から視線を移せば、そこでは朝比奈さんの上体が今にも地面に後ろから倒れこむ所だった。間一髪俺の手は間に合って少女の後頭部に大きなたんこぶを作ってしまう事態だけは回避する。
顔を覗き込めば、まあ分かっていた事だが余りの展開に意識を手放し未来人少女は可愛らしい眠り姫モードである。
……スリーピングビューティ、ってか。だが、起こすのはどうにも気が引けた。

「格好悪いとかそんな馬鹿な事言ってんじゃねえ、古泉! こんな化け物相手にしてられるか!」

「化け物? ……イリア、姉、さま?」

赤神オデットの首がぐるりとこちらを振り返る。その顔には爛々と、無表情の中で眼だけが憎悪と歪んだ愛情に満たされていた。
それが、こっちを見ている。こっち見んなよ……チクショウ、直視出来ねえ……。

「おやおや、随分嫌われましたね赤神オデットさん。いえ、赤神イリアの幻想を追い求めるだけの殺戮貴婦人……『心中強要(ハネムーンストーン)』。どうなさいます?」

古泉が嘲笑う。赤く濡れた肩口を押さえたままの、その額には玉のような汗がぽつぽつと浮かび上がり街灯の明りを反射していた。
その光は俺に分かり易く少年の現状を教えてくれている。

102 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 16:44:46.58 ID:Jmom7J60
「いいえ、姉さまはちゃんと分かって下さいます。貴方さえいなくなれば、邪魔者さえいなくなれば、紅茶とスコーンを用意してゆっくりと話し合えば優しいイリア姉さまは私の事をちゃんと受け入れて下さいます」

ですよね? と同意を求められても俺に頷ける訳が有るかよ、オイ? こんな妹は持った覚えは無いし、本物の妹は今頃、兄の不遇も知らずに温泉旅館で夜もぐっすり熟睡モードだ。ああ、こんな事になるんだったら俺も一緒に温泉に行っておくべきだった!
誰だ、後の祭りであるとか後悔先に立たずとか上手い日本語作りやがったヤツは。大きなお世話にも程が有るだろ。そんなんは言われんでも今、骨身に染みて理解してるっつーの!

「そうですか。では、僕としてはどこまでも邪魔者を貫くしか有りませんね。やれやれ、これは重労働ですよ? 機関に特別手当を申請するにしろ書類が多くていけません」

右肩を撃ち抜かれた古泉と左腕を踏み砕かれた殺人鬼。条件は互角に見えなくもなかったが、にしたって苦しそうに見えるのは古泉ばかりなのはどういうこった?
残った片腕を自由にするのは赤神オデットばかり。古泉はさっきからずっと左手で負傷した肩を握り続けていやがる。

「では、続きと」

「まいりましょう?」

二人が同時に動く。だが、やはり眼に見えて古泉の動きが悪い! 右半身を庇っているのは明らかじゃないか! 一体……あ!
弾丸。
舌で「撃」ち出された弾丸が、けれど火薬なんかで撃ち出された訳じゃないから、もしかして体内に残っちまってるのか!?

「……マズいかも知れませんね、これは」

呟いた、珍しいと言わざるを得ない余裕の無い弱音。それでも超能力者は立ち向かうのを止めなかった。
それは俺たちが後ろに居るから。
気絶した朝比奈さんを背負って逃げ切るなんて体育会系な真似が、それもあの化け物から、許される可能性は零に等しい。きっと少年は、副団長はそれより少しでも高い可能性に賭けたんだろう。なんて気付いた時、俺は肺の奥から声を絞り出していた。

「負けんな、副団長!」

エールを、送るしか出来ない俺を……けれどソイツは前を向いたままに微笑んだのだった。
副団長らしく、いつも通りに笑って見せたのだった。
103 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 17:13:49.01 ID:Jmom7J60
走り寄る勢いと美女が飛びかかってくる勢いを利用するように、少年の長い右脚が空手のお手本のような回し蹴りを放つ。タイミングはばっちし。避けられる道理も無く、今度は上に跳ぼうがそれすら叩き落とすハイキック。
赤神オデットは、避けなかった。とは言っても防いだ訳でもない。一度砕かれたその左腕はされるがままに古泉の脚と衝突し、二の腕がひしゃげる。
だが、そこまでだった。女性の体くらいならばきっと簡単に吹き飛ばすであろうその一撃を、赤神オデットは有ろう事か動力として利用した。
右足を軸に、ワルツのように。裾の長いウェディングドレスが夜の中に大輪の白百合を咲かせて、回る。
そして一度古泉から背を向けたその美貌が舞い戻って来た時、その右手に握られていたものは……さっきまでずっと左手に携えていたレイピア。
正しく、言葉通りの「剣の舞」。

「常に美しくあれ。可憐であれ。イリア姉さまが私に教えてくれた事です」

夜に白銀の刃が舞う。その速度は回し蹴りを終えたばかりの古泉には後退すら許さない。

「彩ってあげましょう」

そう、例えば。古泉の右腕が使えたのならばまだ防ぐ手段は有ったのかも知れない。
もしくは、左腕で右腕を庇ってさえいなければ何かが出来たのかも分からない。だが……だがそんなのはもしも、でしかない。
実際に古泉の肩口は血だらけなんだ。コートの上からでも分かるほど、それは出血を強いられているんだ。
古泉は悔しそうに歯噛みして、残念です、と言った。
残念? 何が!? 俺たちを守れなかった事か? そんなんはどうでもいいから、こんな時まで自分の事より団員の事を優先させてんじゃ……格好良過ぎんだろうが、副団長テメエ!

「すいません、オデットさん」

迫り来る刃を受け止めて、古泉は言った。
「血の滴る」「負傷したはずの」「右腕を上げて」、古泉は言った。

「痛がっていたのは全部、演技でした」

笑う。それは『優しい嘘』、その本領発揮の微笑み。
104 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 17:35:15.18 ID:Jmom7J60
よく考えれば。あんな小さな弾を撃ち込まれただけで血があそこまで噴き出すだろうか。冬に、コートを別にしても三枚は着ている服を抜けてコートの外にまで血が滴るものだろうか。
そして、なぜ古泉はずっと右肩を左手で押さえていたのか。俺はそれをずっと出血を抑えていたのだと勘違いしていたが。それが。
血糊を肩口で押し潰しているだけだったとしたら、どうだ?

「!?」

「まったく、夜で助かりましたよ。流血に不自由しない貴女ですから、日中の明りの下でしたら本物の血液ではない事に気付かれてしまっていたでしょう」

どこからが演技なのかは俺には分からない。痛がっていたのが演技なのか、撃たれたのすら演技なのか。いや、古泉はさっきそういやこう言ってやがったっけ。
「全部、演技でした」ってな。
だとしたら……なんて役者だ。なんて道化だよ、あの超能力者は! ハルヒの前での嘘吐きっぷりすらその才能の片鱗でしかないんじゃないだろうかと俺は勘繰っちまうぜ?
ああ、そうだ。それこそが古泉一樹がハルヒの隣に居る人間として選ばれた理由なんだろう。誰が付けた呼称か知らねえが、上手い事言いやがるモンだと俺は感心しちまうじゃねえか。
「優しい嘘」。
ああ、すっかりしっかり騙されちまって逆に清々しい気すらしてくるっつーの。

「そん……な」

「コートを着ている時点で怪しんで下さいよ。これだから最近のプレーヤは困ります。大戦争の頃ならば防弾装備なんて必要最低限だったというのに」

ドサリ、美女の上半身が力を失って古泉に凭れかかる。その腹部には少年の左手が突き刺さっていた。よく分からんが格闘漫画なんかでよく見る当身ってヤツだろうか。

「戦場でファッションを楽しむのは、僕に言わせればプロとは言えません」

古泉は赤神オデットの体を地面にゆっくり横たえると、こちらを振り向いて俺に笑いかけた。

「まあ、僕はどこにでも居るちょっと神に選ばれただけの男子高校生ですけどね?」

お前、ここまでやっといてその言い草はちょいと嘘吐きが過ぎるんじゃねえの?
105 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 17:45:37.83 ID:brNnm/Mo
くやしい、でも(ry
106 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 17:53:21.82 ID:Jmom7J60
以前気絶しっぱなしの朝比奈さんを背に負って歩く、俺の隣を古泉は歩いていた。
いわく、心苦しいがいざという時に自分は戦わなければならない為に朝比奈さんを背負っては歩けないとの事だ。いや、今しがたまで謎のホラー美女と大立ち回りやらかしてたヤツにそこまでさせるのは流石に俺だって出来ねえよ。
それに、ま、これはこれで役得ってヤツだしな……現状が緊急事態でさえ無ければ表情筋を一筋残らず弛緩させていてもおかしくはない。
しっかし、去年の七夕(正確には四年前の七夕になるのだろうか)以来だよな、こうやって朝比奈さんを背負うのも。
なんかちょっと既視感だぜ。

「なあ、古泉」

「はい、なんでしょう?」

「さっきの、赤神オデットさんだっけ? あの人はあのまま放置しといて大丈夫なのか? ウェディングドレスっつーのは着たこと無いが」

着てたまるか。

「どんくらい暖かいか知らんし、真冬に放置して凍死されてたりしても寝覚めが悪いんだが」

俺がそんな事を言うと古泉は笑った。

「ふふっ。貴方は本当にお優しいのですね」

「そんなつもりはねえけど。だが、少年Aにはなりたくないぜ?」

今しがた殺されかけた相手に対して何言ってんだ、ってのは分かる。分かるけど、それにしたって……なあ。殺されるのも嫌だが[ピーーー]のだって同じくらい嫌だ。普通の感覚だよな、コレ?

「機関には連絡してあります。空間製作……今、この裏路地は少々特殊な状況になっているのですが。しかし、それにしても魔法ではありませんので彼女が凍死する前には回収も済むかと」

「そうかい。ああ、そうそう。その空間製作ってのに関して俺はまだ聞いてないぜ?」

一体どんなシロモンなんだ? やっぱり閉鎖空間だとか局所的非侵食……なんだったかな、ごちゃごちゃした名前の長門が創るアレ。あんなんの類似品か?
107 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 18:12:39.42 ID:Jmom7J60
「空間製作……そうですね。どうやって説明したものでしょうか。貴方は富士の樹海ではコンパスが狂うという話をご存じですか?」

「あー、聞いた事くらいは有るな」

確か、その樹海の土やら石やらが磁力を持っていてそれでコンパスがぐるぐると迷子になっちまうんだっけか。

「ええ。同様に磁力は人の方向感覚にも微細にでは有りますが作用します。ただ……微細ではあれ微に入り細に入りすればそれは十分に人から方向感覚を失わせる事が可能です」

「つまり、磁力が原因なのか」

そりゃまた学園異能バトルみたいな話だな。磁力怪人でも出て来るのかよ、次は。

「原因の一部、ですね。他にも色々な技術を用います。例えばあのゴミバケツ。一見何の変哲も無いものですが道を二度曲がって、その後にアレと同じものを同じ配置で見たら人はどう思うでしょう?」

「自分が同じ所をグルグル回ってると、そら思うわな」

俺が答えると古泉は一度指を鳴らして、そしてピストル型にした内の人差し指を向けた。芝居掛かってるにも程が有るだろ、その仕草。

「ええ。実際はまったく同じものが二つ用意されていただけにも関わらず。そういった人間の錯覚心理、その他諸々を利用して人を遠ざけ人を誘導し、自分の思い通りのシチュエーションを創り出す。それが空間製作技術です」

なるほど。魔法じみちゃいるが、その中身はどっちかっつーと粋を凝らした手品の枠内ってこったな?

「はい。閉鎖空間や長門さんお得意の局地的非侵食性融合維持空間とはまるで別物です。そういった理解でいいでしょう」

そっちはびっくりどっきりくっきりはっきり魔法の類だもんなあ。ま、どっちにしろ非常識なのは変わりない。
108 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 18:14:43.41 ID:brNnm/Mo
ふむふむ
109 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 18:31:25.65 ID:Jmom7J60
「ええ。非常識極まりありません。ちなみにこうやって貴方に種明かしをしている僕ではありますが、その道のプロではないので正直貴方と逸れないようにするのが精一杯なんですよ、これでも」

そうかい。そりゃ……って、おい、ちょっと待て古泉!?

「気付きましたか。僕たちは危機から逃れたつもりでいて実はまだ敵の術中、その只中に居るのです」

一難去ってまた一難は時間の問題と来たモンだ。いい加減にして家に帰しては貰えんだろうか。俺のウキウキ年越し一人っきりハッスルしてやるぜ計画をなんでこんな形で裏切られにゃならんのだ。

「ですが、ご安心下さい。僕が居る限りは貴方と朝比奈さんには……おっと」

古泉の出した左手が俺の歩みを制する。なんだなんだ。また何か出やがるってのか、コンチクショウ。出るなら出てこい。でも、出なかったら出ないでくれても構わない。いや、むしろ出ないでくれ。

「後ろに下がって下さい。敵との間に必ず僕を挟むように動いて貰えたら、非常にやり易いのでよろしく」

「オーケー」

朝比奈さんを背負ったままにムーンウォーク。なんだか厄介事を全部押しつけちまってるようで気分は悪いが、仕方ない。あんな人外魔境を相手にして俺なんかが何を出来るのかって言ったら両手を上げて壁を向く事くらいしか残ってないしな。

「……そこの角に潜んでいるのは分かっています。どうかお顔を拝見出来ませんか?」

優しげな響きさえ持った超能力少年の求めに応じて、道の影から一人の男が姿を現す。
まるで、舞台劇でライトアップされた役者のような、しかしどこにでも居そうな取り立てて特徴の無い、しかししかしソイツが纏っている雰囲気だけは役者、それも主演役者のような。
視界に浮かび上がって見えるとでも表現すればいいのだろうか。俺にはちょっとその男を形容する言葉が出て来ない。
それでも。
それでもあえて足りない語彙で表現するとしたら。
位置外。
そこに居てはならない。
世界にそんな人間が存在していてはいけない。
なぜか、そんな感情をこちらに抱かせる、ソイツはそんな男だった……って、アレ?
この説明文、今日二度目じゃね?
110 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 18:51:32.24 ID:brNnm/Mo
そろそろミクルが活躍する予感っ!
111 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 19:01:30.64 ID:Jmom7J60
「やあ、奇遇だね。……いや、戯言だったかな。木の実さんの仕業だろうから必然と考えた方がいい」

「いーさん!」

朝比奈さんを背負っている為、走り寄ることこそ出来なかったが俺は心の底から安堵していた。去年の十二月、光陽園高校の前でハルヒを見つけた時のような心持ちだったと言えば俺がどれだけ心細かったか、どれだけこの再会に安心したかがお分かりいただけると思う。

「おや、無事だったかい。それは十全。人数も増えているみたいだし、流石は『鍵』と言ったところかな。ぼくが心配するまでも無かったみたいだ」

カツカツと歩み寄る戯言遣いに対して、しかし警戒を解いていないヤツが一人。古泉だ。そういやまだいーさんの事を説明していなかったな。

「……この方は?」

抜け目無く、いーさんからは死角に置いてある左手に拳銃を忍ばせながら副団長が問いかけてきた。俺はいまだかつてこんなに血生臭い展開には幸運にも出会った事がないので、そこに違和感を覚えちまう。
が、状況を考えればきっと古泉の対応は間違いではないのだろう。

「人に名前を尋ねる時は先ずは自分の名前を名乗るのが筋ではないのかい、古泉一樹くん。玖渚機関、弐栞所属の鬼札。一番の切り札がブラフとは悪くないジョークだとぼくも思うよ」

一歩、また一歩と踏み出す戯言遣いと後ろ手で拳銃のトリガに指を掛ける古泉。場に緊迫した空気が流れるも、いーさんはどこ吹く風で歩みを止めない。

「……名前を知っている方相手に、自己紹介は時間の無駄でしかないでしょう」

「お、おい、古泉」

「貴方は黙っていて下さい」

ぴしゃり叱咤される。その男が味方である事を告げるタイミングが、ああ、切り出せる空気じゃねえ。

「君こそ黙るんだ、古泉一樹」

「なっ!?」

「弐栞は玖渚友に絶対服従しろ」

いーさんがそう言った、次の瞬間古泉が片膝立ちで頭を垂れた。まるで、ここが中世ヨーロッパで王の前に出た騎士のように。

「イエス、マイロード」

騎士、そのままに。
112 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 19:24:00.28 ID:Jmom7J60
「良い忠犬ぶりだ。玖渚機関の『情報操作室』、弐栞らしい掌の返しようだね」

「勿体ないお言葉です」

古泉はその姿勢のままに動かない。頭を上げる事も無く地面に向けて言葉を発するが……どういうこった? 玖渚ってのはコイツが所属してる機関の正式名称で……ダメだ、分からん。

「だが、いけないな。古泉くん、君は間違えたよ。『玖渚友』の名に反応してはならなかった。君が弐栞なら尚更ね。トップシークレットはそれを知っているという事すら隠されねばトップシークレットとは言えないだろう。
情報操作、情報捜査が弐栞の仕事だけど、それは全てを知る権利を許されていると勘違ってはならないんだ。そうじゃない。そうじゃないんだよ。まあ、君の知るところだろうと名前を出したぼくもぼくだけどさ」

戯言遣いが古泉に近寄る。超能力少年は微動だにしない。

「以後、肝に銘じます」

「いいね。いい返事だ。ああ、顔を上げていいよ。ぼくだって玖渚の所属じゃない。壱外だから君とは同列だ。ただし、青色サヴァンの名を口に出す事がぼくには許されている。この事から大体事情は察して貰えるだろう?」

悪いが部外者の俺にはさっぱり分からんぞ、いーさん。第三者置いてけ堀ってそれは……まあ、そんなん今更か。

「はい。……もし宜しければ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」

顔を上げる事を許されたにも関わらず地に視線を落とし続ける古泉が言う。それにいーさんは一つ頷いた。

「名前は知らない方が良い。弐栞に戻ってからも詮索は控える事をオススメするよ。君の為にね」

ビクリ、古泉の肩が震えた。

「……もしや、貴方の二つ名は」

「『なるようにならない最悪(イフナッシングイズバッド)』。いや、『戯言遣い』と、こっちの方なら聞いた事くらいあるだろう?」
113 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 19:27:32.64 ID:brNnm/Mo
と見せかけた大ドロボウじゃないだろうかとドキドキしてるんだが
114 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 19:44:54.33 ID:Jmom7J60
戯言遣いを先頭に歩く俺たち四人。道すがら俺は古泉に耳打ちした。

「なあ、あのいーさんってのはお前が畏まるくらい凄い人なのか? 正直、俺にはその辺に居る普通のヤツとあんまり変わり映えしないんだが」

白ウェディングドレスの殺人鬼に黒スーツでめかし込んだ金属バット、着流しに狐面を付けた長身痩躯や全身真紅の人類最強と今日見た「そっち側の人間」っていうのはどいつもこいつも服装からしてどっか螺子が吹き飛んでいた。
そこに来て戯言遣いはどうだ?
どこにでも売っていそうなちょっと値の張るだけの灰色のロングコートに大型量販店で幾らでも掛っているだろうブラウンのスラックスパンツ。どっからどう見ても一般人にしか見えやしない。
どっちかと聞かれれば俺は間違いなく「こっち側」判定してしまう。
ぶっちゃけ、古泉が傅(カシズ)くようなオーラが見えない訳だが。いや、むしろオーラが無い感じ?

「僕らの業界では生ける伝説ですよ」

どこの業界だ、どこの。いや、やっぱいい。そんなん聞きたくねえ。
深入りしたら今でさえ日常と非日常の境ギリギリに立ってるっつーのに、戻ってこれなくなっちまいそうだし。

「僕らの所属する玖渚機関……壱外(イチガイ)、弐栞(ニシオリ)、参榊(サンザカ)、肆屍(シカバネ)、伍砦(ゴトリデ)、陸枷(ロクカセ)、染(シチ)の名をとばして、捌限(ハチキリ)を束ねて玖渚(クナギサ)。
その全て……世界の政治力の全てをかつて相手取ったただの一般人が居ました。それが、彼。戯言遣いです」

「悪いが、そんな風に言われても正直ピンと来ない。なんか凄いんだな、ってくらいの認識だ」

「そうですね……分かり易く言うならメジャーリーグのオールスターチームを相手にたった一人の野球少年が試合を創り上げたような感じとでも言えば分かって頂けますか?」

……いや、野球は一人じゃ出来ないだろ。ピッチャーやれてもキャッチャーいないんじゃそもそも試合にならん。

「それを試合にしてしまったのです。そこが彼の恐るべき所ですよ」

なんだ、そりゃ? 分身でも出来るってのかよ、いーさんは。いや、さっきから有象無象を見てるから今更驚かんけどな!

115 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 20:02:48.26 ID:Jmom7J60
「そういう訳ではないのですが……いえ、彼の遣う『戯言』を説明するのは難しいですね。そも説明出来るようなものではありませんし」

「そうかい」

古泉のような説明好きキャラがキャラ放棄をしてまで説明を諦めるっつー事から、俺にもなんとなくではあるがいーさんの遣う「戯言」ってヤツがどんくらい高度な技術なのかはちょっとばかし理解出来た。
果たしてそれは長門の使う情報操作能力とどっちが難解なんだろうね。いや、多分どっちも俺には理解出来はしないんだろーが。

「ああ、そういえば。いーさん」

前を歩く戯言遣いに声を掛ける。彼は足を止めて振り向くと俺を見つめた。

「何かな?」

「俺達の方はさっき『敵』に襲われたんだけどさ。いーさんは大丈夫だったのか?」

俺たちばっかり襲われてそっちが襲われてないとはどうも思えないし。いや、今回の標的は俺(俺たち?)なのだからそっちにはノータッチなのかもしんないけど。しかし個別撃破は戦術の基本だとはさっき言ったよな。
敵の味方はやっぱり敵でしかないだろ。うむ。

「ああ、追い返したよ」

いーさんはあっさりと、至極あっさりとそんな事を……おいおい、マジですか? あんなけったいな集団の一人をそんなティッシュをゴミ箱に捨てるような気軽さで「追い返し」ただって!?

「藤原くんとか言ったかな。十三銃士の第九席。『辻褄併せ(イレギュラーペイント)』なんて名乗っていたっけ」

藤原……藤原。どっかで聞いたこと有るな、その名字。「落ちない落書き(イレギュラーペイント)」……ん? 落書き?
「わたしという存在はこのパラパラ漫画の隅っこに描かれた落書きのようなものなんです」。
あれは、誰のセリフだった!? 思い出せ、俺!

「未来人って本人は言ってたけど、もしかして知りあいだったりする?」
116 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 20:13:13.15 ID:DqU1L6DO
アララ木くんとかこないのかな?
忍だったら結構いけそうじゃね?
117 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 20:27:19.46 ID:HPvhpzwo
>>116
アニメ化が決まったからって何でも混ぜるなww
118 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 20:43:36.99 ID:Jmom7J60
藤原。
佐々木団(仮)における未来人で、SOS団における朝比奈さんのポジションにある少年。ソイツの事をようやく俺は思い出す。
アイツまで出演して来てんのかよと愚痴りそうになって、しかし俺は思い直す。
未来人その二の思惑、目的の一部が狐さんのそれと合致していないとは必ずしも言い切れない事実に思い当ったからだ。

「……知り合いですね」

「ええ、残念ながら僕らの知り合いですよ、戯言遣い」

「そう。その様子だと余り良い知り合いではないようだけど、まあいいや。彼は以降、今回の一件には関わらないと約束させてきたからさ。気にしないでもいいと思う」

どうやってそんな約束をさせてきたのかが俺には非常に気になったが、しかしそれよりも口約束くらいで安堵出来るはずもない事の方が先に問い質したかった。なにせ、相手は藤原。未来人だ。
俺の言う事なんか「現地人が」とかなんとか言って取り合う相手にすらしやがらねえぜ?

「信用していい。ぼくはね、伊達や酔狂で戯言遣いと呼ばれ、また名乗っている訳じゃないんだ。ぼくの戯言は言葉の通じる相手でありさえすれば平等に作用する。それが未来でも過去でも。そんなものは関係ない」

言い切るのは、それだけの修羅場を潜っていることの証明なのかも分からん。なんにしろ、いーさんの言葉にはなぜだか信じられそうな圧力っつーか匂いみたいなモンが有った。

「流石です、戯言遣い」

「褒めても何も出ないよ、古泉くん」

「ぼくは言葉の通じない、暴力相手にはとことん無力だからね」

いーさんがしみじみと言った。次の瞬間、俺たちの眼の前の路地が爆発した。
突然の事に目を瞑る。砂煙がもうもうと辺りを覆い尽くしているのが肌に当たる砂の感触や口の中の異物感から分かった。なにが起こったってんだコンチクショウなどと口を開けて抗議する事すら躊躇われる。そんな俺の耳に届いたのは笑い声。

「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」

そんな身の毛もよだつ、血の気を与奪自在な、笑い声。
119 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 21:02:10.52 ID:Jmom7J60
「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら!」

ようやく目を開けた時、一番に視界に飛び込んできたのは地面に倒れ込んだ古泉の姿だった。

「古泉!!」

叫んで、しかし駆け寄っても朝比奈さんを負ぶっている状況では咄嗟に手を差し出す事すら出来やしない。何が起こったのかといーさんの方を見れば、いーさんは立ち尽くしていた。いや、立ち竦んでいた。
その向こうには夜の中にあっても輝くような橙色の髪を注連縄の様にぶっとい三つ編みにしたツインテール。アイツが古泉をやったってのか?
音も無く!?

「喧嘩しにきたぞ――友達」

挑発的にそう言って。すっくと立ち上がる。身長は古泉と同じくらいか? 男にも女にも見えるが、それよりなにより「人類最強」によく似ていると。俺はなぜだかそんな印象を受けた。

「……真心」

いーさんが呟く。苦々しく、痛々しい響きを伴って。

「おう、いーちゃん。久し振りだな」

「喧嘩しにきた、ってどういう事だい?」

「ああん? 決まってんじゃね? 俺様気付いちゃったんだよな。まだ戦ってない相手が居るってさ。いっちばん拳を交えるべき相手とまだ戦(ヤ)ってねえよな、って。そこにタイミング良く請負仕事が入っちまったら、これはもう運命だろ、ウンメー」

とりあえず朝比奈さんを壁に寄り掛かるように座らせて(すいません、朝比奈さん)、古泉の様子を窺う。口元に手を当てて呼吸は……とりあえず息はしてるな。辛そうな感じもない。
古泉のコートにも裂けた感じはない事から外傷もどうやら無さそうだ。

「人類最終ばーさす人類最弱。今までずっと有りそうで無かった対戦カードだろ。げらげらげらげら!」
120 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 21:21:52.72 ID:Jmom7J60
人類最終。オレンジ髪のツインテールはそういう二つ名なのだろう。人類最弱ってのがいーさんを指すのは何度か聞いたし多分間違いあるまい。だが。問題はそこではない……よな。
人類最弱ってのはいっちばん弱いってこったろ。人類最終ってのがどれだけ強いのかなんてのは知らないが、しかし最弱よりも弱かったらそれはそれで問題有りだと俺は思う。そんなんなっちまったらいーさんは看板の付け替えが必要だ。
「弱い」とは「勝てない」ってそういう意味だ。喧嘩であれ、なんであれ。勿論、この俺に古泉を音も無く昏倒させたような化け物を相手に出来るような度量もスキルも有りはしない。
あれ? 詰んだんじゃねえの、この状況?

「真心、君、本気で言ってる? 君とぼくが本気で戦ったら無事じゃ済まないよ?」

「そりゃあ、いーちゃんは無事じゃ済まねえだろうけどよ。俺様は別に無事で済む気もねーし、むしろいーちゃんがそこまで善戦してくれたら俺様にしてみりゃそっちの方が面白いからどんどんやれっての」

「そっか。それじゃ、もう一つ。君、何しに来たの?」

「喧嘩」

「いや、そうじゃなくて。質問が悪かったかな。誰に頼まれて来たの?」

「そんなん俺様に仕事をさせられるって言ったら人数は限られてくるだろ。いーちゃんなら大体察しは付いてんじゃねーの?」

「ふーん。なるほどね。そっか。分かった。なら、戦(ヤ)ろう。ぼくは今日中にもう三人ほど相手にしなくちゃいけないみたいなんだ。君に時間を割いてはいられないんだよ」

いーさんは、人類最弱は平然と宣戦布告を口にする。俺にはその発言が自殺志願にしか聞こえない。けれど。
何も言えないのは、いーさんが自信たっぷりにそれを口にするから。戯言遣いの言葉は、なぜだか信じてしまいたくなる不思議な力に溢れていて。俺はそこに賭けてみたくなる。

「余裕じゃねーか、いーちゃん。だがな、始まった途端に『参った』なんて戯言遣っても、それこそ許さねーかんな俺様は」

「分かってるよ。君を退屈させたりはしない。友達だからね」

「げらげらげらげら! 戯言だな、いーちゃん」

「ああ、そうさ。だけど君の存在も大概戯言だよね。考えてもみなよ。ぼくが、この無力にして卑劣な戯言遣いが人類最悪を相手にするって言うのに友達に助力を請わないと思うかい?」
121 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 21:35:02.33 ID:Jmom7J60
オレンジ髪の挑発的な太い眉がへの字に歪む。

「……何が言いたいんだよ、いーちゃん」

「友達のピンチには友達がやってくるものなのさ、そうだろ、想影真心?」

応える声は、遥か上空から聞こえた。

「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら!」

その笑い声は、彼方上空から響いた。

「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら!」

着地する。今度は砂煙は上がらない。本当に、本当の「なんでもできる」とはこういうものなのだと俺は知る。
どれだけの高さから落ちても、地球の重力をすらなかった事にして自身も地面も無傷で降り立つ。それは最早非常識なんて言葉すら使うのが安っぽ過ぎて躊躇われる、異次元の生き物の在り方。

「誰の求めも無視して友達の危機に馳せ参じるのは、類友なのかな、これは」

「戯言だぜ、いーちゃん。げらげら!」

夜の中にあっても輝くような橙色の髪を注連縄の様にぶっとい三つ編みにしたツインテール。ソイツは馴れ馴れしく戯言遣いを後ろから抱きすくめて、そして言った。

「喧嘩しにきたぞ――友達(ディアフレンド)」

鏡映しの想影真心。二人目の人類最終の登場だった。って、これどうなってんの!? やっぱ分身!?
122 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 22:10:14.11 ID:Jmom7J60
「悪いね、真心。仕事の依頼が有ったんだろ?」

目前の想影真心を見ながらいーさんは自分を抱きしめている想影真心に向かって言う。いや、だからこれどうなっちゃってる訳!? 双子!? ねえ、双子なの!? それともやっぱり今回も俺ばっかりが事情も分からず捨て置かれる感じでファイナルアンサー!?

「べっつにー。最近、小唄のヤツも俺様からのお願いを無視しまくってくれてたし、一回ぐらいこっちから無視してもいいんじゃね?」

想影真心はその髪と同色のオレンジをした瞳に想影真心を映しながらそう応え……ああ、もう説明したってごっちゃになってめんどくせえ! こっから想影真心(先)と想影真心(後)ってそう言う事にする! します!

「ふうん、今回真心に協力を要請したのは小唄さんか。そう言えば小唄さんにももう一年くらい会ってないな。でもさ、一体ぼくがこんな事に巻き込まれてる、世界が危機に陥っているってタイミングで小唄さんは何を真心に頼もうとしたんだろうね」

「そんなん俺様が知る訳ねーし。けど、そっちの俺様ならなんか知ってそうだな」

想影真心(後)といーさんの掛け合いは淀み無く。まるで事前に打ち合わせでも有ったみたいにするすると続く。

「そう思わねえ、いーちゃん?」

「ああ、同感だよ真心。にしてもライダーVS偽ライダーなんて古典中の古典じゃないか。誰がマッチメイクしたかは知らないけど、ソイツはよっぽど王道が好きなんだろうね」

ライダーVSライダーなら分かるが、偽ライダーってなんだ? そんなん仮面ライダーに居ただろうか。……分からん。

「いやいや、どっちが偽ライダーだよ、いーちゃん」

「そりゃ、負けた方に決まってるだろ、真心」

「違いねえな。げらげらげらげらげら! って訳で俺様のそっくりさん。どうもいーちゃんは忙しいらしいからピンチヒッターって事でおめーの相手は俺様だ。人類最終ばーさす人類最終。げらげら! これって戯言じゃね!? 生きてるのもそうつまんねー訳じゃねえな!」

そう言って想影真心(後)は、いーさんから手を離す。

「いーちゃんの友達はこれだから辞められねえ」

その笑顔は俺を敵と認めた時の人類最強にそっくりだった。
123 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 22:23:55.87 ID:PcZXk2DO
面白いな


主義としてバランサーである忍野
圧倒的で破壊的な正義を振りかざす翼
熱血漢なお人好し暦

この位なら出てきても問題無く戦える…のか?
確実に暦さんは自分がズタボロになるけど

めだかなら王土さんあたりしか出られないかな
箱庭から出てきそうなキャラいないし
124 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage saga]:2011/01/03(月) 22:26:16.90 ID:RxoPOWso

「ゲフッ、……ごほごほっ!」


爆煙を吸い込んだせいで、激しく咳き込んでいるそのアバターの色は、銀。
煙たいせいで鈍灰色にみえるが、バイクのヘッドライトを受けて光り輝いている。
アッシュ・ローラーよりも頭一つ分ほど小さい体躯は、今のダメージを受けてよろよろして
いるため、見た眼よりもさらに弱々しく見える。


そのアバター、――≪シルバー・クロウ≫は近くの廃車によりかかり、何とか立ち上がる。

そのフォームは人型で、二次成長が始まる中学1、2年の男子くらいの大きさだ。
ただ、男子にしては体の線が細い。肉厚なアッシュ・ローラーと比べるまでもなく、細い。
それは体を衝撃から守る装甲が少なく、さらに薄いせいでもある。

特に胴は、肩や胸には一様装甲が付いているのだが、面積は小さい。
背中や腹に至っては、覆うものが一切なく、剥き出しにされている。
肢体にはそれなりの装甲が付いているが、なにぶん元が細いせいでやっと普通の太さだ。
右足に至っては先の衝撃により装甲がひび割れ、崩れて燻銀の素体が露出している。


「ふぅ……はぁ…。ま、まさかアメリカンバイクに乗ってるアッシュさんから『侘寂』なんて
 難しい日本語を聞くなんて思ってなかったですよ」

「オイてめぇ!! どんだけ俺様のこと馬鹿にしてんだよ! サッチ・オブァ・ビッチッ!!!」

アッシュ・ローラーはシルバー・クロウへ向けて中指を突き立てる。
やっていることは、海外でやったら路地裏に連行されてリンチされるレベルのことなのだが、
お互い大して気にしている様子はなく、シルバー・クロウは苦笑している。
125 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage saga]:2011/01/03(月) 22:26:43.81 ID:RxoPOWso
すまん誤爆気にしないで
126 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 22:40:08.17 ID:Jmom7J60
「……ふう」

想影真心(後)が出て来てから一言も喋らなかった想影真心(先)が口を開いて最初に出たのは溜息だった。

「まったく、そういう事だったのですね。人が悪いですわ、お友達(ディアフレンド)。最初から分かっていたのでしょう? こちらとしては真心に連絡が付かなかったからの苦肉の策だったのですけれど、はあ、まったくこんなものは十全ではありません」

その口から出てきた声は、先ほどとは打って変わっての美声。まるで歌うように想影真心(?)は続ける。

「いいでしょう。ここからでも挽回出来ない訳ではありません。それに……悪い子を躾けるのは母親の役目ですね。まったく、哀川潤も大変な子守をわたくしに押しつけたと思いません、お友達?」

「いいえ。一度引き受けた事を後から云々言うのは貴女らしくありません。そういう甘ったれた事を安易に言うのはやめたらいかがですか。みっともないでしょう、小唄さん?」

小唄、と呼ばれて想影真心(先)が顎の辺りを引っ張って皮膚をむしり取……アレ、見た事有るぞ、俺。ルパン三世がよくやる変装ってヤツじゃねえ? そうそう。あんな感じで顔の上に被ってた特殊メイクじみた顔をはぎ取って中から……中から出て来たのは眼鏡美人。
……いや、なんで眼鏡がマスクの下から出てくるんだよ。物理的に有り得ないだろ、それ。

「……戯言ですわね、お友達。屈辱ですわ」

三つ編みは変わらずだが、その色はアメジストを彷彿とさせる深い紫。その頭にハンチング帽を載せて彼女は、俺に、向き直る。

「初めましてですわね。自己紹介をさせて頂きますわ」

いつの間に着替えたのか。全身を動きやすそうなデニム地の服で覆い、足元は編上げの洒落た登山靴。恐らく、これが彼女の本来のファッションなのだろう。その格好は勝気そうな美女の強い意志を湛えた眼によく似合っていた。

「わたくしは石丸小唄。人呼んで『大泥棒』。お察しの通り十三銃士の、その第五席ですわ。よろしくお見知りおきを、私の敵(ディアエネミイ)」
127 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 22:59:38.49 ID:brNnm/Mo
誤爆吹いたww
128 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 23:14:50.88 ID:Jmom7J60
さて、十三銃士もようやく減ってきてどこでハルヒと長門さんが出てくるか、って感じですね
とりあえず……あれ? こんだけ書いたのにまだ二人しか減ってないとかどゆ事!?
あとさ、どんだけ化物押しされてもここに化物ぶちこんだらどんだけのカオスになるか分かる? 今でもいっぱいいっぱい綱渡り(しかも失敗気味)なのに
あーいいや。また、明後日にでも書きに来れたらいいなーとかそんな感じで
ではまた
129 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 23:27:57.78 ID:/hL0lRU0
130 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 23:39:09.85 ID:Iec4L/Ao
おもしろい
西尾っぽさだと戯言だといつかの初音ミクの以来だ

崩子ちゃんかわいい
131 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 00:05:48.94 ID:E0pPPH.0
おつ
こういうクロス書ける人って凄いな
俺が書こうとすると、キョンのスペックを根底から変えないと書けない
ふふ。キョンが零崎になるのが某スレのおかげて結構あるし
132 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 00:50:27.64 ID:.Jybb2DO
古泉は零崎になりうるよね
名前的に
133 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 01:33:32.82 ID:L5EyyoAO
>>130
kwsk
134 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 06:51:56.87 ID:UCBGWoAO
これの事じゃなかろうか

初音ミク「いーさん。だいっきらい」《ハツネリサイタル》
135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/05(水) 23:13:41.43 ID:CwiPoE.o
今日くるかな
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 00:32:48.66 ID:0Uom+qfTo
まだかね
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 17:04:47.70 ID:vizjIJ41o
続きまだかな
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 17:28:24.71 ID:yItyMx+jo
書くの遅くても誰も文句言わないんだから生存者報告くらいはしてほしいものだ
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 09:36:11.88 ID:bIDYwTSuo
こないなー
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/19(水) 20:01:04.18 ID:YtWHVTgko
ムーバー使わずにSS板に新設の模様
このスレはHTML依頼出ました

キョン「戯言だけどな」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295432289/
141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 23:28:19.19 ID:/D6Sv+yto
おおー、わざわざ転載したの?
乙すぎる
それとムーバーってなんスか
142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 00:45:46.97 ID:kClVfOMBo
上位運営の特殊能力で発動するとスレッドを別位相空間に転移させることができる

スレッドムーバー、スレごと別板に移動させる機能ね
143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 00:51:52.23 ID:gk2nEjBmo
なるほど、便利だね
というかソレをしないってことは手動で移動してくださいってことかww
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