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【初心者歓迎】リレー小説・SS企画【実験段階】 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 20:19:34.79 ID:fBmvs86o
ようこそリレー小説・SSスレへ!
試験段階のため初心者、多少のカオスは大歓迎
まずは完成させることを目標にしましょう
リレー小説・SSに興味のある方はぜひ参加していってください!

リレー小説・SS企画の大まかな手順
@企画者が参加者を募集
A参加者の参加表明、順番の決定
B参加者のトリップ決定(名前欄にタイトル等々を表記しておけば追うのが楽です)
C作成・投下

注意事項
・リセット系(夢オチ、妄想オチ、劇中劇オチ)などはやらないほうが無難です
・リタイヤする場合は一言連絡するとよいです
・バトンを受け取ったら、あくまでも話としての区切りがつく部分まで書くことが大事です
・多少の話のねじれは各々の努力である程度カバーすることが求められます
・それぞれの企画でルールを決定しておくとスムーズに進む可能性大です
・リレー小説のジャンル、執筆上のルール等々は企画立案者が行い、参加者は原則それに従う事


以上、とりあえずパイロット版として立ててみました
質問やこうしたほうが良いなどありましたらお気軽にお申し付けください
ぽしゃりそうならhtml化依頼はちゃんと出しますのでご心配なく
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バームくんへ @ 2025/06/11(水) 20:52:59.15 ID:9hFPsRzXO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1749642779/

秘境 @ 2025/06/10(火) 00:47:53.81 ID:BDVYljqu0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1749484073/

【安価】上条「とある禁書目録で」鴻野江「仮面ライダー」【禁書】 @ 2025/06/09(月) 21:43:10.25 ID:qDlYab/50
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749472989/

ツナ「(雲雀さん?!)」雲雀「・・・」ビショビショ @ 2025/06/07(土) 01:30:36.87 ID:AfN9Rsm0O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749227436/

【安価コンマ】障害走を極めるその5【ウマ娘】 @ 2025/06/06(金) 01:05:45.46 ID:RaUitMs20
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749139545/

貴様たちの整備のお陰で使いやすくしてくれてありがとう @ 2025/06/04(水) 20:56:21.03 ID:QjuK6rXtO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1749038181/

阿笠「わしの乳首に米粒をくっ付けたぞい」コナン「は?」灰原「は?」 @ 2025/06/04(水) 04:01:13.39 ID:ZjrmryLdO
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レッド(無口とか幽霊とか言われるけどまだ電脳世界) @ 2025/06/02(月) 21:21:00.13 ID:ix3UWcFtO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1748866860/

2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 20:32:37.07 ID:RT/6RkSO
(´・ω・`)
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/31(土) 23:01:48.06 ID:NrIYT.DO
まずは>>1が企画をたてないと

〜な感じで後は頼む

みたいな立て逃げと変わらないじゃないか?
4 :1 [sage]:2010/08/01(日) 02:19:31.13 ID:l9Bw.4Ao
ですよね、やっぱり。すみません

とりあえずジャンルと呼べるかは分かりませんが、「ロボと少女」「山姥の話」「魔王勇者物」のSSで参加者の募集をかけようと思います。
最初にに三人以上集まったものをやってみるという形で
ルール等は集まってから決めます
参加者はぜひ名乗りを上げてください

他にも企画がある人は奮ってご参加ください
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 03:13:00.95 ID:.MgL63o0
俺はSS書けないけど期待する。
その中じゃ「ロボと少女」が読んでみたいかな。

ところで作者スレで相談してたみたいだけど、作者スレに誘導くらい張ってもいいんじゃない?
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 03:23:48.54 ID:l9Bw.4Ao
>>5
忘れてました!
ちょっと行ってきます
ありがとうございました
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/01(日) 03:24:53.12 ID:3fsfV9c0
自分は「ロボットと少女」がやりたい。

個人的な提案なんだが、書き手の人数にもよるが書き手の書く回数を決めてやっていく方が自分はいいと思うが、
皆さんはどうだろうか。(回数はリタイアのヘルプはカウントしないとして)
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 03:49:55.41 ID:l9Bw.4Ao
>>7
>書き手の書く回数を決めて
すみません、この部分が分からなかったのでkwskお願いします
そして、「ロボットと少女」一名参加ということでよろしいですか?
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 05:09:40.41 ID:C16J4jAo
おぉ、立ちましたね。

>>7
回数を決めるとなると、やはりノルマ的に感じてしまって自由に書く楽しさが半減するかと私は思います。
好きなように書いて、物語の書き手と読み手を同時に楽しむのがリレーの良さだと思うので、
書く回数は自由がいいんじゃないかなと思いますね。
まぁ、その辺も含めて企画者の意向に従う形で良いかと。

私も細々と物書きをしている最中なので今参加は出来ませんが、ちらちらと様子見させてもらいます。
ロボと少女、いい題材ですね、楽しみにしています。頑張って下さい。
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/01(日) 05:38:55.43 ID:3fsfV9c0
>>8
ごめん、言葉がたりなかった。
最初だから人数が多い場合は良いけど…
人数が少ない場合集まった書き手が一通り回った後、話がまとまんなかったら、順番とか入れ替えたりして
もう何回か回した方がいいかな、って勝手に思ったから。
この話もある程度企画が進んでから拾ってくれればいいよ。

今のところは参加で大丈夫です。
このスレの立ち上げに噛んでしまった責任も感じるし…
前ももって言うけど、リアルが安定しないから長くはいられない可能性があるから、その辺はごめんなさい。
いる間は微力で拙い物しか作れませんが協力させていただきます。

11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 07:06:57.58 ID:l9Bw.4Ao
>>10
いろいろ含めて気にしないでください
こちらが勝手にやったことですし責任は感じる必要はありませんが、今回は力を貸していただくということでお願いします
こちらも初心者で拙作しか作れませんがどうかよろしく

回数の件については、今は考えないでおきましょう
最初は短編でいいので完成を目指すということで

とりあえず「ロボと少女」がリーチ
他にもやりたい人は気軽に立候補しちゃってください
感動系がいきなりスパロボになるとかのカオスは全然かまいませんから
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/01(日) 10:26:44.53 ID:cUk3aMDO
名前覚えて貰うためage
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/01(日) 10:43:43.63 ID:OGFLFhEo
短期で終わるならいいんだけど、少し長くなる場合ってリアルの事情で一時書けないってこともあると思うんだ
そういった場合って、今回はパスで次の人へっていうのも可能なの?
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/01(日) 11:34:34.16 ID:l9Bw.4Ao
>>13
企画にもよると思いますが、基本的にはかまわないんじゃないかな、と
リレーでは先に書きためておくということができませんので、順番はある程度自由に変えられるはずです
15 :1 [sage]:2010/08/02(月) 06:57:11.62 ID:e..61gQo
集まりませんねえ……
もう一日待って誰も来なければ最悪ふたりでやることになりますが、>>10さんはかまわないでしょうか

というか、こちらが提示したジャンルじゃなければリレーに参加したいという人は多いのでしょうか
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/02(月) 12:49:29.57 ID:UY6/fEAO
まずはageageだぜ
目に止まってもらわにゃ
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/02(月) 17:26:21.05 ID:TFiPGpg0
uwaa
tumannne
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/02(月) 20:54:28.51 ID:kwcvZUAO
惰性的な生活してるからちゃんと書けるかどうかわからんが、混ざっても良いかな?

企画は既に提示されてるもので良いと思うし、>>1自身にも票があると考えれば2票入ってるからな。
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/02(月) 21:22:50.95 ID:xQwTTY.0
ちゃんと参加するわけじゃなくてワンポイント参加はだめ?

例えば誰も続きが出ない展開になっちゃった時に話が膨らむよう修正したり
単発ネタはさんで投下間隔を繋ぐって程度でもよければ混ざりたい
20 :1 :2010/08/02(月) 22:00:46.17 ID:e..61gQo
>>18
「ロボと少女」の参加ということでよろしいですね?
では、一応三人そろったので企画者として次のレスでルールを提示します

>>19
個人的にはかまわない、というかむしろ助かると思います
もちろん、その時の担当の人の了解はいるでしょうけれど、取れればどんどんやっちゃってください
21 :1 ◆zJOvlEYO3U :2010/08/02(月) 22:33:58.26 ID:e..61gQo
今回の企画のルール

・リセット系は極力使わない
・リタイヤする場合は一言連絡すること。その場合、次の人が繰り上がる
・バトンを受け取ったら、話の区切りがつく部分まで書くこと
・名前欄は、「タイトル+トリップ」とすること
・レスの制限、個人個人の締め切りは設けない
・ひとまわりして終わらなかった場合、最初の人に戻って終わるまで順番を回す
・ワンポイント参加者はその時の担当の人に申し出て了解をもらってから投下すること
・途中参加の人は、一番最後に回ってもらいます
・最初の企画なので、出来栄えよりも完成を優先しましょう(もちろん良作を作ってはいけないという意味ではありません)

タイトルはシンプルに「ロボと少女」
順番はとりあえず申し出た順、つまり >>1>>10>>18としますが、もし希望があれば入れ替えを行います

参加する二人は一度トリップをつけての書き込みをお願いします
それをもって最終確認とします
なお、質問、提案、順番の希望などがあればその時にお願いします

長文すみません
22 :18!774秀次!3 ◆K04AMnxB7. :2010/08/02(月) 23:04:00.51 ID:kwcvZUAO
トリてす

とりあえずぐぐったけど、トリップとか今まで使った事ないし上手く出来てないかもしれない。
23 :18 ◆K04AMnxB7. :2010/08/02(月) 23:05:55.30 ID:kwcvZUAO
うわいらないものまで付けてたみたいだ。なんだよ説明と違うぞ。

……恥ずいorz
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/02(月) 23:35:42.47 ID:xQwTTY.0
・ワンポイント参加者はその時の担当の人に申し出て了解をもらってから投下すること

書き手さんなどから展開に詰まったと申し出があれば登場するってことで。
登場しない可能性大なのでとりあえず酉はつけずにいます。
普通に途中参加できそうな酉つけて参加します
25 :1 ◆zJOvlEYO3U :2010/08/03(火) 02:43:55.11 ID:2Xrdbcco
>>23
>>24
よろしくお願いします
あとは>>10さんですね

ところで、一応もう出だしはほとんどできているんですよ
ただ、ちょっと方向性を固めすぎな感じもあって……
ロボもロボっぽくないし
初めてのリレーは自由度が高い方がいいでしょうか?
もしそうなら手直ししてきます
26 :1 ◆zJOvlEYO3U :2010/08/03(火) 03:14:14.93 ID:2Xrdbcco
ひとつルール設定を忘れてました

・形式は問わず。台本形式でも小説形式でもやりやすい方を選択して下さい
27 :10 :2010/08/03(火) 03:35:55.61 ID:LYxgzwDO
返事遅れてすいません。
リアルの方がバタバタしてて…

今まで流れ、了解しました。
自分の順番はどこでも大丈夫です。お任せします。
28 :1 ◆zJOvlEYO3U :2010/08/03(火) 06:30:46.40 ID:2Xrdbcco
>>27
あまり無理しないでくださいね
書くのが無理そうならリタイヤやワンポイントさんを活用するとよいです
では>>25の件で問題がなければ今夜にでも投下したいと思います
よろしくお願いいたします
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/03(火) 07:53:08.79 ID:pOX7e6co
自分が昔やった時は三人で相当なサイクル回ったよ。たぶん十周はしたと思う。
結構短い区切りでサイクル早くした方が続くかもしんないね。がんばれー
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/03(火) 09:39:00.38 ID:kKhLoZQo
もう少ししたら余裕できそうだから、その時に続いてたら参加させてもらおうかなぁ
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/03(火) 13:18:43.39 ID:2Xrdbcco
>>30
続いてたらぜひ
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/03(火) 16:02:29.42 ID:zfrK7To0
あげ

『ロボと少女』はいまの所は締め切りで
残りのジャンルとやらは『山姥の話』と『魔王と勇者物』?
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/03(火) 17:36:06.09 ID:2Xrdbcco
>>32
いえ、別に締め切りというわけではなく今回の企画ではいつでも飛び入りは可能ということにします
山姥と魔王勇者物は今回はお流れということで
もちろん別の企画としてやるのはかまいませんが、自分は参加できませんのでよろしく
34 :1 ◆zJOvlEYO3U :2010/08/03(火) 21:06:26.29 ID:2Xrdbcco
ルールにもうひと項目付け加えます
・もしどうしても続きが書けない場合はパスOK
でよろしくお願いします

さて。一応できるにはできました
あまりいいできではないかもしれませんが、勘弁していただけると幸いです
最終チェックをして十時か十一時に投下に参ります
35 :ロボと少女 ◆zJOvlEYO3U [saga]:2010/08/03(火) 23:00:57.01 ID:2Xrdbcco

ロボ「僕はなんで作られたんだろう」

少女「え?」

ロボ「あなたはご存知ですか。僕はなんで作られたのでしょう」

少女「……あなたに分からないことが私に分かるはずないわ」

ロボ「そうかもしれません。でも僕は人間よりちょっとだけ記憶力がいいだけです。知らないことは知りません」

少女「だとしても、私はちっとも知らないわ」

ロボ「そう、ですか。――お茶、入りましたよ」

少女「ありがとう」

ロボ「……」




ロボ「僕はなんで作られたんだろう」
36 :ロボと少女 ◆zJOvlEYO3U [saga]:2010/08/03(火) 23:02:45.39 ID:2Xrdbcco

ロボ「おはようございます」

少女「おはよう、今日もいい天気ね」

ロボ「はい。そういえば、玄関にタンポポが咲きましたよ」

少女「本当?」

ロボ「摘んでまいりましょうか?」

少女「タンポポの花は見てみたいけれど……でもいいわ、摘んだらタンポポがかわいそう」

ロボ「では、僕がお付添するので見に行きましょう」

少女「それも今はやめとくわ。今日はベッドから起きられそうにないの」

ロボ「具合、悪いのですか?」

少女「具合がいい日なんてあったかしら」

ロボ「申し訳ありません」

少女「いいの。気にしないで」
37 :ロボと少女 ◆zJOvlEYO3U [saga]:2010/08/03(火) 23:05:07.22 ID:2Xrdbcco

ロボ「朝食を下げに参りました」

少女「ありがとう。お願いね」

ロボ「……今日も、残されたのですね」

少女「ごめんなさい。食欲がないの」

ロボ「かまいません。ですが、お身体の方は――」

少女「大丈夫」

ロボ「……」

少女「大丈夫よ」

ロボ「……では失礼します」

少女「あ、待って」

ロボ「はい?」

少女「タンポポの映像、モニターに映せない?」
38 :ロボと少女 ◆zJOvlEYO3U [saga]:2010/08/03(火) 23:06:07.00 ID:2Xrdbcco

『映像データ送信中...』

『...送信完了』

『お嬢様、見えてらっしゃいますか』

少女「ええ。しっかり見えてるわ。……きれい。いいえ、かわいい花ね」

『僕もそう思います。小さいけれど黄色が鮮やかで、生命力を感じさせます」

少女「……あなたって不思議よね」

『何がですか?』

少女「いいえ、なんでもないわ」

『もうそろそろ、お仕事に戻っても良いでしょうか?』

少女「お願い、もうちょっとだけ」

『承知いたしました』
39 :ロボと少女 ◆zJOvlEYO3U [saga]:2010/08/03(火) 23:09:25.06 ID:2Xrdbcco

ロボ「送信終了...」

ロボ「……」

ロボ「警備システムへアクセス...」

ロボ「...異常なし」

ロボ「――もっとも。大草原のまっただなかにぽつんとある一軒家に近づく人間はいないか」

ロボ「機械は?」

ロボ「……同じことだ」

ロボ「さあ、中に戻ろう。まだお皿洗いと洗濯、掃除が残ってる」

ロボ「うん、いい天気だ」
40 :ロボと少女 ◆zJOvlEYO3U [saga]:2010/08/03(火) 23:11:02.32 ID:2Xrdbcco


 ジャー カチャカチャ……


ロボ「全行程の80%が終了...」

ロボ「……皿洗いごときにちょっと大袈裟かな」


 カチャカチャ……カチャカチャ……


ロボ「……」

ロボ「僕は……」


 ジャー……


ロボ「いけない。考え事してたら手元がお留守だ。ここじゃあ水だって貴重なんだし」

ロボ「……」
41 :ロボと少女 ◆zJOvlEYO3U [saga]:2010/08/03(火) 23:14:37.41 ID:2Xrdbcco

ロボ「お嬢様」

少女「何かしら」

ロボ「お仕事の全工程が終了しました」

少女「そう、ありがとう。ゆっくり休んでね」

ロボ「はい。……あの」

少女「なに?」

ロボ「僕をお作りになったのは、あなたのお父様でしたよね?」

少女「……ええ、そうよ。お父様が家のお手伝いのためにお作りになったの」

ロボ「……」

少女「幼い私の話し相手としての役割もあったみたいね。近くには誰もいなかったし、何もなかったし」

ロボ「……」

少女「……やっぱり気になるのかしら?」

ロボ「ええ」
42 :ロボと少女 ◆zJOvlEYO3U [saga]:2010/08/03(火) 23:15:45.28 ID:2Xrdbcco

ロボ「その、僕はときどき思うんです。僕にはもっとやるべきことがあって、それをすっかり忘れているような」

少女「……」

ロボ「大事なことだった気がするんです。どうしてもやらなければならないことだった気がするんです」

少女「……」

ロボ「……お嬢様は、ご存じないのですか」

少女「あなたって本当に面白いわね」

ロボ「はい?」

少女「あなたって人間みたい。そうやって悩むのってきっと、機械ではあなただけよ」

ロボ「はあ」

少女「でもごめんなさい。私にはあなたの疑問に答えられないわ。私が知ってるのは、あなたがお手伝いロボットで、私の大事な話し相手だってことだけ」

ロボ「……」

少女「それだけよ」

ロボ(――本当に?)
43 :ロボと少女 ◆zJOvlEYO3U [saga]:2010/08/03(火) 23:17:38.78 ID:2Xrdbcco

     ・
     ・
     ・

<数年前>


「お前は」

「この戦争でたくさん殺す」

「それはもう嫌になるくらい、たくさん殺す」

「それが、それだけが俺の望みだ」

「A-03」

「お前は正しく俺の希望だよ」

「たくさん殺して、壊すんだ」

「それがお前の存在意義だ」

「そのためにお前は生まれてきたんだ」
44 :ロボと少女 ◆zJOvlEYO3U [saga]:2010/08/03(火) 23:18:46.10 ID:2Xrdbcco

     ・
     ・
     ・




“プログラム『ココロ』起動...”




『――おはようございます、マスター』

「……」

『ご命令を』

「……」

『マスター?』

「……違う」

『……?』

「こんなのは……違う!」

『……マスター?』
45 :ロボと少女 ◆zJOvlEYO3U [saga]:2010/08/03(火) 23:20:13.79 ID:2Xrdbcco

「俺が目指したのは破壊の究極形だ! 殺戮の極致だ! こんな……こんなもののはずがない!」

『……』

「なんだ? なんなんだこれは!?」

『……』

「持てる力をすべてつぎ込んだんだぞ……」

『……』

「俺のすべてをこれにつぎ込んだ! それが、こんな……こんな!」

『マスター……』

「黙れッ!」

『……!』

「貴様にしゃべる権利はないぞ出来損ない!」

「貴様なんかただの――」




「ただのガラクタだッ!」
46 :ロボと少女 ◆zJOvlEYO3U [saga]:2010/08/03(火) 23:21:17.71 ID:2Xrdbcco




『……――エラー。シャットダウン』




47 :ロボと少女 ◆zJOvlEYO3U [saga]:2010/08/03(火) 23:22:17.38 ID:2Xrdbcco

     ・
     ・
     ・

<現在>


ロボ「...吸引率低下」

ロボ「...フィルター交換」

ロボ「...吸引再開」

ロボ「...吸引率80%」

ロボ「...全面積の40%の吸引を終了」

ロボ「……」
48 :1 ◆zJOvlEYO3U [sage]:2010/08/03(火) 23:25:42.70 ID:2Xrdbcco
こちらが書いたのはここまでです、引き継ぎをお願いいたします

稚拙なもので申し訳ありません
続けにくいかもしれませんが、なんとか拾っていただけると幸いです
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/04(水) 06:44:24.98 ID:jCIsaO2o
面白そうですね。
バトンが交代する事で地の文が入ったり視点が変わったり、そういうのも楽しみです。
ちなみに、製速は50行まで改行が出来ますよ。
あらかじめ行数限界まで書き込みウインドウを拡大しておくと便利です。
ご存知なら申し訳ない。
50 :1 ◆zJOvlEYO3U [sage]:2010/08/04(水) 07:04:28.76 ID:Xo8DJm.o
>>49
50行。失念していたわけではなかったんですが、区切りのいいところで切るとあまり行数行かなくて……
次からいっぱいに使えるように気をつけます
51 :10 [sage saga]:2010/08/04(水) 10:29:12.05 ID:U8L0mD.0
引継ぎ了解しました。
お疲れさまです。
なかなか、これはつなぐのが楽しみです。

すいません。少し時間をいただきます。
10日以上投下できないようでしたら、ワンポイントさんにお願いするかもしれません。

それでは失礼します。
52 :18 [sage]:2010/08/04(水) 15:31:07.53 ID:p5ShbMAO
>>1

いきなり設定がググッと詰まって来ましたね。
ここから>>10がどう展開するか楽しみです。
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/07(土) 01:47:01.41 ID:X0hqG2s0
あげとこう
54 :10 :2010/08/09(月) 02:36:31.92 ID:C2qeysDO
生存、制作報告age

リレーの皆さんお待たせしてすいません。
今の制作状況は予定の半分より若干進んだところです。
度々申し訳ありませんが、もう少し時間を下さい。
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/10(火) 01:51:41.43 ID:MORZanYo
待ってますよー。大変でしょうが頑張ってください。
56 :10 [ saga]:2010/08/10(火) 19:55:32.92 ID:N5Emu9s0
 闇が地上の平野に染めるの中、僕は独りでそこに立ち、空を仰いでいた。
 夜空は今日も黒に近いスモッグに覆われ、星は見えなかった。
 修正。《今日も、夜空が見えなかった》ではなく、《ずっと――少なくとも僕が存在してからは――見た事がなかった》に置き換え。修正終了。
 夜空の記録を録り続けてから、もう何年たったろうか。
 僕は少しだけ、自分の右手に持った銀色のスーツケースの重さを感じながら、記憶を辿ってみた。

「…………」

 あれはお嬢様に絵本を読んでいた時だから、もう十年近く前になるのか…。
 十年間。我ながら親バカというか、過保護というか、ただのバカなのか。もう、この事を約束したお嬢様すら忘れてしまいそうな事を、無駄にやり続けているとは。
 無意味。そう、これは無駄な事だ。けっして報わない奉仕活動の一つ。
 僕はふと夜空を見上げたまま、自嘲する。
 多分、僕たちが存在している間は元の――もはや、虚構と記録にしか載っていない――晴れて星が見える夜空/滅びゆく…いや、もう滅びた後の残光。僅かな存在証明を闇の坩堝の中で満天に散らし、容赦なく僕たちに降り注ぎ照らす、受動的で残酷な世界は見られないだろう、と推定される。

 夜空が戻る可能性は限りなく低く、例えるならばきっと、それは――

「………、………」ゆっくりと、排気行動を行う。白い蒸気が夜の闇に流れ、消えていく。

 ――この世界の主導権を再び人間が取り戻す事と同意義だろう。

 人間は衰退していった。
 その理由は様々で、一概にこれとは言えないが、僕たち――ロボットが、人間を歴史の敗退者もしくは遺物だ、と認識できる出来事は確かにあった。
 それは、遠い惑星からの異星人の来襲。
 未知の文化を持つ異邦人の登場だった。

 この存在すら確認されてなかった知的生命体に人間たちがつけた名称は色々あったが、本質的にはその知的生命体を表現する言葉は見つからなかった。いや。見つけれなかった、とここは言った方が正しいのかもしれない。
 とにかく。ここではその知的生命体の名称は異星人、とでも呼ぶとしよう。

 この異星人がこの惑星と友好関係を結ぼうとしてるのか、敵対関係の宣告をしにきたのか、はたまた遥かなる高みからの観察対象として近づいたのか、は定かではないが(この頃はこの異星人の来襲で情報が錯綜しており、正確な情報を得る事はまず不可能である)
 しかし、ここでは――つまりロボット達を揺るがす出来事を語る上でこの異星人の目的はさして重要な事柄ではない。
57 :10 [ saga]:2010/08/10(火) 19:59:21.45 ID:N5Emu9s0

 そう。

 ここで重要な事はこの惑星の知的生命体の代表として、最初に異星人が接触したのは人間ではなく、自分たち――ロボットと云う事だ。
 この出来事から、ロボット達の中、発達しすぎたAIの中から『何か』が目覚めた。

 それは感情にすれば、乏しく。
 それは自我と呼ぶには、拙い。
 そんな、わずかな揺らぎ。

 でも。

 確かにロボット達の中で『それ』は生まれた。
 そして、歴史は一転する。
 一言言えばでは、ロボットの独立。革命。この惑星の歴史の更新。
 しかし、これもこの言葉の意味ほど、大した反抗もなく淡々と終わった。
 いや、終わっていたと、言うべきだろう。

 異星人も。
 人間も。

 異星人は上陸したのはいいが人間たちやロボットたちをどうにかする前に、この惑星の古くから生き残るウィルスに感染してしまい、全滅した。自分たちの技術や夜になると空を遮る謎のスモッグを残して。

 人間は、大きく分けて二つの派閥に分かれていたが、その二つともロボットたちとの闘争を選ばなかった。いや、選ばざる得なかったのだろう。それ程、人間たちは脳と自意識の肥大化によって、弱体化された身体の劣化は止まらず、人工内臓や義体、そして、ロボットたちに依存してしまっていたからである。

 一つはロボットとの共存を模索するグループ。
もう一つは異星人の人間たちが使えそうな技術を流用し、創った仮想空間――人間たちはそれを《理想郷》と呼んでいた――に逃避したグループ。

「………」

体を震わせ、朝露を飛ばす。遠くからヘッドライトの小さな光と車のエンジン音が確認でき、徐々にこちらに近づいてくる。僕はそれに構わず、思考を続ける


58 :10 [saga]:2010/08/10(火) 20:03:04.96 ID:N5Emu9s0

理想郷、か。

『0=ALLとはわずかに違う。
無意識的な繋がりを持ちながら、嗜好にあったコミュニティに埋没しながらそれぞれを侵食しあい、循環する空間』

《理想郷》からの帰還した博士の言葉の引用。微かな記憶の残滓。二つの派閥に属せず、孤高な淋しき人の人生指針の端的表現。
博士のそこで何を見て、何故言葉を言ったのかはわからないが。未だに、この言葉は僕には理解が出来ない。
また、博士はロボットたちと共存を模索するグループについてもこう評していた。

『美と醜の反転。
そして、捨てたはずのコンプレックスや過去の傷を追い求めている可哀そうな人々』と。

博士は僕のような平坦な声色で、僕に囁いた。その声とは対照的に目だけはやけに輝いていた。

だから、こそ。
発明されたのだろう。
僕。博士の生存理由。A―03。
プログラム『ココロ』。人の心とは違う。ロボットが目覚めた『それ』とも違う。博士から見た理想の/歪んだ、『ココロ』の形。博士が提案する人間救済の道標。僕に言わせれば、道標というより墓標の一つ。

こんなもので博士は本当に世界を変えられるとでも、思っていたのだろうか。
まあ、この疑問の回答を世界が発する前に彼は自ら気づいてしまったのだが。

博士が味方なきまま、世界に宣戦布告した日。同時に何もせず終戦を迎えた日。そして、
僕が博士に捨てられた、愛すべき僕の誕生日。
59 :10 [ saga]:2010/08/10(火) 20:06:25.89 ID:N5Emu9s0

失敗。
ガラクタ。
博士は何度もそう言い、僕に絶望した。
しかし、今自分を客観的に分析しても、確かにプログラム『ココロ』の欠陥はあるものの博士の目的を考えれば、それほど支障もなく失敗ではなかったと、僕は考える。

プログラム『ココロ』の欠陥。それは――――、

ブレーキで地面が擦れる音。僕の二、三メートルぐらい距離をとって4WDタイプの車が停車する。
車のライトはハイからローに切り替わり、車の中から僕の姿を確認すると一人の小柄な男が出てくる。ライトが逆光になり、男の顔はよく見えないが、左足を引きずっているのはよくわかった。

僕は男の方に正面になるように向き直る。
そして、男はぼくの前に来ると、見上げるようにこう言った。

「首尾はどうだ?」

「…簡単でした。見ればわかるでしょう」

 男は車のライトで照らされた平野の一部を見渡しながら、

「だろう、な…」と小さく息を吐きつつ、首肯した。

車のライトに照らされた平野の一部。
遠くに見える低い山々。
砂地状になりかけの地面の所々はひびわれ、大小のクレータができている。
それらの底の付近に散らばる、機械いやロボットの残骸。潰れた人間の腕、脚、それぞれの部位。
そして、目の前には体液とオイルにまみれた僕。
60 :10 [ saga]:2010/08/10(火) 20:09:29.30 ID:N5Emu9s0

「相変わらず。勘がねぇな、テメェは。大げさ過ぎる」

「すいません」

「で、もう『埋まった』んだな?」

「はい、それはお陰さまで」

「そうか。まあ、俺たちは自分の命さえあれば、問題ねぇんだがな。

 それよりも、確認だが相手は《蟲》の連中で間違いないな?」

「そうですね。普通のロボットの相手より、全然楽でしたし」

「そうかい。なら、さっさとそれを渡して、帰んな」

僕は銀色のスーツケースを男に渡しながら、男に言う。

「………。言うだが野暮かもしれませんが…今回も違いました」

男の表情が一瞬、固まる。男の左手が左足側のズボンを握るが見えた。

「…さっさと、帰れ。こうもり野郎」男の声が低く、唸る。

「…すいません。では、これで」

僕は頭を下げると、身を翻し、男たちの車が停めた方向と逆に歩きだす。
背後からはまだ、男たちの視線を感じた。それに構わず、思考と闇の中に沈みこみながら、僕は歩き続けた。

題材は今日の相手、ロボットの癖に人間の部位を接ぎ合わせ、何かの感覚を追い求める連中《蟲》について。プログラム『ココロ』の欠陥――破壊衝動、殺人衝動の燃費の悪さについて。

そして、意図的に消された自分の記憶。失敗作なのに生かし続けられた理由。自分の存在理由を考えるとしよう。
これらを一応の納得まで考えれば、お嬢様の目が覚めるまでに屋敷に帰りつくだろう。

「………」
61 :10 [ saga]:2010/08/10(火) 20:11:20.94 ID:N5Emu9s0
以上です。

時間かけたわりに、出来が悪くてすいません。
引継ぎお願いします。
62 :18 [sage]:2010/08/10(火) 20:44:35.56 ID:cJRBPQAO
引き継ぎ了解しました。
かなり難しい話になってきた感じなので書けるかどうか不安です。
スムーズに書ければ明日か明後日に投下出来るかもしれません。

……出来たら良いなぁ。
63 :18 [saga]:2010/08/13(金) 19:30:27.48 ID:8kovesAO
では遅くなりましたが、投下して行きます。
量は少ないですが、文句は受け付けません←
64 :18 [saga]:2010/08/13(金) 19:31:00.69 ID:8kovesAO
スモッグは消え去り、眩しい程の陽光が射し始めた。

しかしその光は部屋の中にまで無闇に入る事はしない。

カーテンがその強暴さを緩衝しているからだ。

少女「……ん……」

薄暗がりの中、少女は瞼に光を感じ取り、無意識に脳を活性化させていく。

朝の訪れである。

ロボ「おはようございます、お嬢様」

少女「……おはよう」

A-03は彼女の調子を素早く観察する。

いや、観察するまでもない。今日も同じだ。

ロボ「朝食の用意は出来てますよ」

少女「そう。じゃあお願い」

ロボ「辛いようなら控えた方が良いんじゃないですか?」

その言葉に少女は首を傾げる。

だがその表情は呆れているようにも見えた。

少女「どうしてそんな事を聞くの?」

ロボ「今日は特に不調に見えたので」

少女「私が食事を抜いた事があったかしら?」

ロボ「酷く体調を崩した時と拗ねて部屋に閉じこもった時に数回あったと記憶してします」

少女「……はぁ。でも私が食べるって言ってるから、そこまで不調じゃないの。これは分かる?」

ロボ「……分かりました」

A-03の目には少女が少し無理をしているようにも思えた。

だがその理由も思い付かなかった。
65 :18 [saga]:2010/08/13(金) 19:31:31.12 ID:8kovesAO
ロボ「お茶のおかわりはどうですか?」

少女「いただくわ」

朝食が済み、一時のティーブレイクが訪れる。

A-03は今日の話題を選び出す。

何か気が晴れるような、明るい出来事。

その方が、少女も喜ぶはずだ。そう思って。

本当にそうなのか? ふと、自問する。もしかしたら自分の気を晴らしたいからかもしれない。

そう疑った事に気付き、その考えを振り払った。

ロボ「お嬢様、今日は玄関先の……」

少女「──ねぇ、そんな事より」

少女が話を遮って、A-03に話掛ける。

視線はティーカップの中──もしかしたらその先にあるどこか──を見ていた。

ロボ「……何でしょう」

少女「昨晩、あなたは何処にいたの?」

ロボ「……どういう意味ですか?」

少女「そのままの意味よ」

ティーカップに口を付けると、少しだけ茶を喉に通し、ふぅっと一息吐いた。

そしてまたA-03を見る事はせず、ティーカップの内側に視線を落とした。

その表情は寂しそうにも見えた。

少女「昨晩、私目が覚めたのよ。その時にあなたを呼んだのだけれど、来てくれなかったわ」

ロボ「!」

少女「返事もしてくれなかった。どうしてかしら?」
66 :18 [saga]:2010/08/13(金) 19:33:08.92 ID:8kovesAO
ロボ「それは……」

言葉が詰まった。

自分の殺戮衝動が抑えられていない。それ以前にその衝動が自分に存在する。

その事を少女に知られるのが怖かった。

怖い? どうしてそんな事を思うんだろう? 人間でもないのに。ロボットなのに。

少女「それは、何?」

自分自身が怖かった。

そして問い詰めてくる少女も怖く感じた。

ロボ「それは……寝ていたからです」

A-03は言い訳をした。

他に、咄嗟に言葉が出て来なかった。

少女「……寝ていた?」

ロボ「はい。寝ていました」

少女「あなたが? おかしいわ」

ロボ「どうしてですか?」

少女「自分で言ってておかしいと思わないの? ロボットは寝ないわ」

ロボ「……表現が悪かったようです」

ロボ「エネルギー充填をする事を、寝る、と言っただけです」

少女「……そう」

少女は納得したようだった。だが疑問を拭い去ったわけではないようだった。

少女「あなた、やっぱり変わってるわ」

ロボ「そうですか?」

少女「まるで人間になろうとしてるみたい」

ロボ「意識はしていないのですが」

少女「……ロボットに意識はあるの?」

ロボ「僕はあると思っています」
67 :18 [saga]:2010/08/13(金) 19:33:34.85 ID:8kovesAO
上手くごまかせた。そう思っていた。

少女がこう呟くまでは。

少女「……エネルギー充填なんて必要だったかしら」

A-03の動力は半永久的に駆動する。

実際はわざわざ外部からエネルギーを充填する必要はないのだ。

ロボ「……」

ここでさらに言い訳をすると、より深い泥沼に嵌まっていく事は分かりきっていた。

だから、何も言わない事を選択した。

少女「じゃあ、それもエネルギー補給の時についたもの?」

少女の指差した先には、A-03の手があった。

いや違う。その手についたオイル──《蟲》の体液──だ。

ロボ「これは──」

少女「今度から気をつけてちょうだい。私の食事にオイルが入ってるのを想像すると食欲がなくなるわ」

少女の朝食の皿にはサラダとスクランブルエッグが残っていた。

いつもと同じ量を残しているのだが、そう考えながら食べていたのだと思うと、申し訳なく思った。

A-03自身、食欲をなくすはずだ。最も、食欲というものがあればだが。

少女「……タンポポ」

ロボ「はい?」

少女「タンポポが見たいわ。モニターに映してくれる?」

ロボ「分かりました。でもその前に食器を片付けても良いですか?」
68 :18 [saga]:2010/08/13(金) 19:34:01.13 ID:8kovesAO
『データ送信中...』

『...送信完了』

少女「良く見えているわ」

『聞く前に答えないで下さい』

少女「良いじゃない。それともそういうルールがあったのかしら?」

『……』

A-03が玄関先で見ている映像が、少女の部屋にあるモニターに映し出されている。

タンポポの絨毯は、先日よりも一回り広がっていた気がした。

『いかがですか、お嬢様?』

少女「綺麗だわ。でも……」

少女「でもどうしてこのタンポポ達はこんな所に咲いているのかしら」

『え?』

その言葉には驚愕した。

こういったネガティブな事を、少女はあまり言う事はなかったからだ。

少女「あなたはどうしてだと思う?」

それとも何か意味があるのだろうか。

A-03は考えた。

『それは種子が風に運ばれて──』

少女「なら別の所でも良かったんじゃない? ここで咲くのは無意味過ぎるわ」

『いえ、少なくともお嬢様を楽しませる事は出来ていると思います』

少女の声はすぐに聞こえと来なかった。

いや、少しだけ溜息が聞こえていた。

少女「……質問を変えるわ」
69 :18 [saga]:2010/08/13(金) 19:35:07.24 ID:8kovesAO
少女「どうして私はここに生きてるのかしら?」

『それはお嬢様のお父様が──』

少女「……そうじゃないわ」

A-03にも何を答えれば良いか分かっていた。

少女「私は病弱で、あまり外には出られないし、あなたに世話をして貰わないと満足に生活出来ないと思うの」

少女「そんな私はどうして生きてるのかしら?」

『それは僕の疑問に答えをだそうとしているのですね?』

少女「あら、ばれちゃったわね」

まさかとは思ったが……。A-03は苦笑したくなった。

『ですが僕はロボットで、お嬢様は人間です。タンポポだってロボットじゃありません』

『僕には作られた理由があるはずなんです』

少女「じゃあ私やタンポポ達には生まれた理由はないはずなの?」

『生命は存在そのものが尊いものですから』

少女「それは綺麗事でしかないわ」

少女「いくら尊いと言われても意味がなければ、やっぱりその存在は無価値だと思わない?」

『でも、何か意味があるから尊いのだと思います』

少女「でも……いえ、何だか会話が矛盾してきた気がするわ」

『僕もそんな気がしてきました』
70 :18 [saga]:2010/08/13(金) 19:35:39.44 ID:8kovesAO
『結局、何を言いたかったのですか?』

問答する事は良く意図した論点がずれるものだ。

この時もそうであり、それを察してA-03は意図した答えを聞き出す事にした。

少女「……あなたが『どうして自分が作られたか』って悩んでいたから、良い答えがないかなって考えてみたの」

『わざわざそのような事を……』

少女「暇だったから良いのよ」

あまり動く事の出来ない彼女には、出来る事は限られていた。

少女「あなたとの話のネタにもなるから」

『お嬢様……』

少女「でも……この話はまた今度にするわ」

『どうしてですか?』

少女「さっきので私、こんがらがっちゃったの」

少女「後、あなたは仕事に戻って良いわ。モニターに映してくれて、ありがとう」

『いえ』

『...送信終了』

映像を遮断した後も、A-03はタンポポが成す黄金の絨毯を少しの間眺めていた。

この場所はとても平和だ。そう思うと、何か満たされた気分になった。
71 :18 :2010/08/13(金) 19:38:49.89 ID:8kovesAO
以上です。
初めてやってみましたが、やっぱり難しいですね。
そしてこれから自分に合った書き方を探りながらやるかもしれないので、急に変わったりする場合の事を考え、先に謝罪しておきます。

では引き継ぎよろしくお願いします。
72 :1 [sage]:2010/08/13(金) 20:15:24.37 ID:5tT8PiQo
なんだか話が膨らんできて個人的にいい感じです
最初で詰めすぎた感がありましたが、しっかり広げてもらえてうれしい限り
さて、引き継ぎをしたいところですが、ワンポイントさんまだいますかね?
ちょっと時間が欲しいのとワンポイント参加の具合を確かめたいのとでつなぎをお願いしたいのですが
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/13(金) 23:00:04.37 ID:Gu0uBLY0
おもしろそうですね。
また別の話を作るときは参加させてもらっていいですか?
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/14(土) 10:38:29.05 ID:3mMHFuo0
>>72
良い感じでリレーできてますね

ここまでは引き継ぎが難しい展開でもなさそうなのでヘタに繋ぎネタを入れず
マッタリと1さんの続きを待ったほうがいいかなと思ったりしてます

というのも、日常パートの少女とロボのほのぼのエピソードとかで繋ぎは出来そうなんですが
ヘタにキャラ設定の邪魔になりそうで、展開に詰まってない以上は1さん待ちが得策かなと
75 :1 [sage]:2010/08/14(土) 13:00:46.46 ID:c.By2U6o
>>73
ぜひぜひ
>>74
なるほど
ではこちらが引き継ぐということで
ちょっと時間がかかりそうですが、気長に待っていただければ幸いです
76 :1 [saga]:2010/08/16(月) 21:36:20.99 ID:06V00C2o

 作られた理由。実のところ知っていることは多い。もちろん知らないことも多いが。
 博士が世界に孤独な戦いを挑んだ際の唯一の武器。そして絶対の武器。それが自分であり、自分でなかった、ということ。

「……」

 真っ白なシーツを広げて干しながら、彼は思考の泥の中に埋没していた。

 自分の存在意義。それは世界を変えることだったのだろう。たとえそれが博士の横暴な自己満足であったとしてもだ。ならば自分の進むべき道はすでに閉ざされている。これ以上先に進むことはないし、戻ることもできない。
 感傷の気配を感じて自嘲する。

『まるで人間になろうとしてるみたい』

 自分は本当に人間になろうとでも言うのか。

「≪蟲≫じゃああるまいし」

 人間の部位をかき集め、つなぎ合わせ、何らかの感覚を追い求める機械群。かつての異星人の技術を用いることで可能になる人間とロボットの醜悪なる複合体。
 『人間の部分』は脆い。結果として全体も弱体化していく。それを承知で彼らはそれに執着する。執着せざるを得ないらしい。

 彼らは人間に何を見て、何を求めたのだろう。
 そこまで人間は、人間の見る世界は魅力的だったか?
 生命という存在形態は眩しかったか?

 空になったかごを持ち上げ、屋敷の玄関に回り込む。タンポポが視界に飛び込んできた。燦々と降り注ぐ――彼女にとっては少しばかり凶暴な――昼下がりの日光を浴びて、彼らはなんの苦悩も感じさせずに輝いていた。
 彼も、うらやましいくらいは思う。

 とはいえ彼はまだ生きている。用なしならば破壊され、破棄されていただろうに、まだ動き続け、彼女のために働いている。
 そしてまだ、彼は信じている。彼にはやるべきことが残っていて、それはとても大事なことだったと。
 ならば、彼が作られた真の理由。それはまだどこかに埋もれているはずなのだ。
 かつてのマスター、博士がいない今、正確なところは知るべくもなかったが。そう、それが彼の知らないこと。

 彼を通した玄関の扉は、やけに重々しくその口を閉じた。
77 :1 [saga]:2010/08/16(月) 21:37:52.27 ID:06V00C2o

 彼女の部屋は二階にある。
 病人には少々不便なそこはしかし、彼女が所望した場所でもある。ほとんど歩くことのできない彼女は、せめて広い視界が欲しかったらしい。
 事実彼女の部屋の窓からは、この近辺が広く見渡せる。もっとも、日の光に弱い彼女の窓にはいつも厚いカーテンがかかっているのだが。

 屋敷の広いスペースを生かして造られたなだらかな階段をのぼりながら、ふと彼は思い出していた。彼女と初めて出会ったときのこと。

『お父さんはどこ?』

 彼女はその時泣いていた。彼女には不釣り合いに広いベッドで、孤独に泣いていたのだ。
 彼はまだそのとき目覚めたばかりで、彼の方こそ聞きたいことが多かったが、それでもかけるべき言葉は知っていた。

『お父様は長いお出かけに出発なさいました。その間、僕があなたの世話をさせていただきます』

 博士がどこに行ってしまったのかは知らない。
 彼女は泣きやまなかったが。ただ、そのとき一瞬だけ彼女と目があったことだけは覚えている。彼女は彼を知っていた。

 意識を現在に戻した彼は、彼女の部屋の扉の前に立ち軽くノックした。

「……」

 返事がない。再びノックするが帰ってくるのは沈黙のみだった。

「失礼します」

 以前に同じようなことがあった。彼女が昏倒して返事ができないようなことが。だが。

 扉の向こうにベッドで寝息を立てる少女を発見する。
 スキャンを開始。空調は完璧。浮遊物質の濃度にも問題なし。

 ベッドに近づき、カーテンに手を伸ばす。端の方が少しだけ開いて日光が彼女の顔にさしていた。

 彼がカーテンを閉じたことにより再び薄暗がりが落ちた部屋の中。少女の寝息だけが聞こえている。
78 :1 [saga]:2010/08/16(月) 21:38:57.72 ID:06V00C2o

 部屋を見渡す。それほど広いわけでもないが、狭いとも言い難い。
 彼女が寝ているベッドが一つ。厚いカーテンがかけられた窓。長大なモニター。後は壁を埋め尽くす本棚。そしてロボットが一体。訂正。ロボットらしきものが一体。
 彼をロボット『らしきもの』たらしめている要素。

 『ココロ』

 人間のそれとも機械のAIともつかないそれ。中間ではなく、別のもの。
 彼をロボットという枠からほんのすこしはみ出させているもの。
 博士がどういうつもりで発明したのかは知っている。しかし、その欠陥が予定調和の中に存在したのかまでは知らない。

 彼がどういう目的で作られたか。それによって異なるが。もし博士が一人による全人類のための戦争を始めるという目的で彼を作ったのならば、それは欠陥とは言えなかっただろう。何かを壊すのにその衝動が不要ということもないはずだから。

 しからば、博士にはもっと別の目的があったというべきだ。これも知るべくもないこと。彼の知らないことの一つ。

 たとえば。そう、たとえばだ。
 博士がその一人娘の世話のために彼を遺したのだとすれば。それは明らかに欠陥であり、許されざる欲望のはずだ。

 つまり、“自分は彼女を殺し得るか?”

「……」

 答えは。

「……」

 否、だろうな。胸中でつぶやく。
 自分が彼女を殺す。あり得ない。
 人間が再び立ちあがり、その手に世界を取り戻す、ぐらいには。
 その引き比べはどうしようもなくむなしいものにも感じられたが。
79 :1 [saga]:2010/08/16(月) 21:39:57.39 ID:06V00C2o

 長居してしまった部屋から退出し、再び玄関に立つ。だいぶ傾いた日の光の中で、相変わらずタンポポが揺れている。
 視界をゆるりと巡らすと、遠くの山並みから薄くわき立つスモッグが見えた。

 もう夜が近い。また、夜が来る。

 スモッグ。
 異星人が遺したそれ。
 人間から夜空を奪い、長らく遮ってきたそれ。

 彼らがどういうつもりで置いていったのかは知らない。単なる嫌がらせだったのかもしれないし、意味のある何かだったのかもしれない。
 ただ、今は語る者もない。それはそこにあるだけ。

 人間は衰退した。それを象徴する出来事もあった。
 だが思うに。人間を最終的に衰退せしめた大きな要因。それは夜空との決別ではなかったか。

 彼が仕える少女の病弱さを思う時、彼はなんとなくそう感じざるを得ないのである。

「さて……」

 夕食の時間が迫っている。彼は玄関に振り向く。
 タンポポを踏みつけないように気をつけながら、玄関をくぐった。
80 :1 [sage]:2010/08/16(月) 21:46:40.82 ID:06V00C2o
以上です
書きやすい書き方に変更させていただきました
さて……一応無難な感じには、なったはず
反省点は多そうですが、とりあえず引き継ぎをお願いします
81 :10 [ saga sage]:2010/08/18(水) 01:30:31.11 ID:z7..jv20
引継ぎ了解しました。
申し訳ありませんが、少し時間を下さい。
遅筆で皆さんにいつも迷惑をかけてごめんなさい。


すいません。
1さんにお話があります。
今回は多分大丈夫だと思いますが、外(リアル)の事情で次回からの参加が厳しくリタイヤするかもしれません。
まだ確定事項ではありませんが、可能性は高いと思います。


引継ぎが遅れてすいませんでした。
それでは失礼します。
82 :10 [ saga sage]:2010/08/18(水) 01:34:04.31 ID:z7..jv20
引継ぎ了解しました。
申し訳ありませんが、少し時間を下さい。
遅筆で皆さんにいつも迷惑をかけてごめんなさい。


すいません。
1さんにお話があります。
今回は多分大丈夫だと思いますが、外(リアル)の事情で次回からの参加が厳しくリタイヤするかもしれません。
まだ確定事項ではありませんが、可能性は高いと思います。


引継ぎが遅れてすいませんでした。
それでは失礼します。
83 :10 [ saga sage]:2010/08/18(水) 01:36:27.14 ID:z7..jv20

連投すいません。
恥ずかしい。あばばばばb
84 :1 [sage]:2010/08/18(水) 15:25:34.48 ID:ye901KQo
了解しました
大変そうですが、あまり無理しないでくださいね
85 :10 [ saga ]:2010/08/24(火) 10:45:06.19 ID:JHgML3U0
生存、進捗状況報告。

おはようございます。
または、こんにちは。

まずは進捗状況報告とお詫びから。
誠に申し訳ありません。
現在の状況はまったく進んでいない状況です。
待たせている皆さん、ごめんなさい。

来週辺りにはなんとかしたいと思いますが……
確実とは言えなく、これは以上の遅延は致命的なので。

もし、これを見てこの続きを引継ぎできるかたがいましたら、手を上げてもらえると嬉しいです。
自分は喜んでお譲りします。

では、自分はこれで。草々。
86 :18 [sage]:2010/08/26(木) 17:20:29.99 ID:gNQJxoAO
では引き継ぎますね〜。
と言いたい所ですが、こちらも現在やや忙しい状況にあります。

書きはじめが九月に入ってからで良いのならば引き継ぎますが、それでは遅いと思われるようなら、こちらとしては一時身を引かせてもらいますので。
87 :18 :2010/08/31(火) 10:47:37.56 ID:1ktG/6AO
明日から九月に入るので、暫くはリアルに余裕が出来るはずです。
今日(8/31)の23:59までに>>10または他の人が>>1の引き継ぎをする、と言わなければ俺が引き継ぐ事にします。
88 :1 :2010/08/31(火) 13:14:46.63 ID:ls8yV0Ao
すみません、しばらく遠ざかってました
>>18 了解しました、そのときはよろしくお願いします
89 :10 [sage]:2010/08/31(火) 15:22:15.77 ID:mcv0h6DO
自分のせいで、ご面倒をかけて申し訳ない。
よろしくお願いします。
90 :18 [saga]:2010/09/04(土) 20:51:54.06 ID:k0h32uk0
彼は今夜も杞憂に目を沈ませていた。

杞憂? そうではない。

彼にとっては重大な悩みである。

夜空で蠢くスモッグは、彼の"頭の中"を表しているかのようで、気味悪く感じた。

今更気味が悪いというのは、少しおかしい。

以前からそれは空に浮かんでいて、毎日のように見ているものだ。

だが今日ばかりは、気味悪さに拍車が掛っていた気がした。

「……」

階上では少女がぐっすりと眠っているはずだ。

彼は彼女を起こさないように、静かに夜を明かす。

そもそもロボットが騒ぐ必要はない。

今夜は"ココロ"はまだ起動していない。

このまま発動しない日も多々ある。

少女の事を考えるならば、ずっとこのままで良い。彼はいつもそう思う。

窓の外で、闇の中、タンポポが風に靡いているのを目視(スキャン)した。
91 :18 [saga]:2010/09/04(土) 20:53:05.98 ID:k0h32uk0
足音がする。階段からだ。

彼はカーテンをしっかりと閉め、部屋の外に気を配らせる。

足音は、着実に彼がいる所へと近づいてきていた。

「あら、まだ寝ていなかったの?」

少女は姿を現すと、白々しく尋ねた。

「はい。僕はあまり寝ませんので」
「それよりも降りてこられて良いのですか?」

「ええ。何だか今晩は少し気分が良いわ」
「今ならご飯も残さずに食べられるような気がするくらい」

そう言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。

「それなら夕食の準備をしましょうか?」

「それにしてはあまりにも遅い夕食ね」

「お嬢様が気持ちよく寝ていたので」

彼の表情はあくまで真顔である。

本音だろうと、少しはユーモアの篭った表情をすれば良いのに。

表には出さなかったが、少女は心の中でため息を吐いた。

「でも、今は良いわ」

「すぐに準備出来ますよ?」

「そうじゃないの。せっかくこんな時間に目を覚まして、気分も良いのだから――」
92 :18 [saga]:2010/09/04(土) 20:53:45.07 ID:k0h32uk0
「これがそうなの?」

「はい」

薄暗がりの中、A-03と少女はタンポポの前に立っていた。

今は日光もない。つまりは少女も外へ出れるのだ。

彼女の気分が比較的崩れていない時は。

「映像で見るよりも、小さいわね」

「拡大して映しすぎたでしょうか」

「……いえ、あれはあれで、そしてこれはこれで良いわ。とても綺麗」

外に出られる。そうは言っても、限界はある。

彼女に大きな動きをさせると、すぐにでも体調を崩しかねないからだ。

いや、実際外に出ているだけでも危ないのかもしれない。室内と違って、空調管理も万全ではないからだ。

楽しそうに彼女と花を楽しむ反面、これ以上ないくらい周囲に気を配っていた。

スキャンを開始。

浮遊物質正常値。だがそれは外の話で、室内よりは多めなのだ。

遠方より騒音の反応。街までくらいの距離はあるだろう。
93 :18 [saga]:2010/09/04(土) 20:54:19.06 ID:k0h32uk0
……おかしい。街までの距離はかなりある。

自分の持つ集音装置で拾える範囲は超えいるはずだ。

その証拠に、いつもは何も聞こえなかったではないか。

「何を見ているの?」

気付かない内に彼は音のする方向を見ていたようだ。

「……何でも、ありません」

そう言う最中、彼は必死に音の正体の特定にかかる。

同時に、音が向かう先を。

金属が擦れる音。肉片が抉れる音。

……こっちに向かってきている。

どういう事だ? こっちにはこの場所以外何もない。なのになぜ向かってくるんだ?

彼はタンポポに目を向ける少女に向き直り、微笑みかけた。

「お嬢様、そろそろお部屋に戻ってはどうですか? やはり夜は少し冷えているようです」

「そう? それほど寒くないわよ」

「寒くなくても、お嬢様の身体に障るくらいには冷えていますから」
94 :18 [saga]:2010/09/04(土) 20:54:50.56 ID:k0h32uk0
少女を家の中に入れても、彼はずっと外で待っていた。

音の正体を自分で目視するまで、安心出来ないからだ。

暫くすると、彼は玄関先で念入りに身体の汚れを拭きとっていた。

まさか、奴らがここに来るなんて……。

彼は普段、「気分を害する」事はないが、恐らくこれがそうなのだろうと思った。

破壊衝動なしに破壊行動を起こすのは、あまり"良い気分"ではない。

「どうしよう。お嬢様にタンポポが見せられなくなったな。汚れてしまったから」

彼の呟くその言葉には、どことなく感情がない。

本心で言っている自信はあったのだが、その響きから自信は消え去りそうだ。

身体の汚れが全て拭きとったのを確かめると、ゆっくりと扉を開けて室内に入る。

「おかえり」

彼の目の前に、心配そうに見つめる少女が映った。

「ただいま。まだお休みになっていなかったのですか?」

彼の念頭には、外の気温と自分が掛ける心配のどっちが彼女の体調を崩すファクターになり得るだろう。

どうしてか、それだけが渦巻いていた。
95 :18 [saga]:2010/09/04(土) 20:55:38.36 ID:k0h32uk0
「お嬢様、お茶とかはいりませんか?」

「お茶? 今はいらないけれど……どうして?」

「久々に外に出られたので、喉が乾いているのではと思いまして」

本題はそこではない。少女にも何となく、それは理解出来ていた。

そのくらい彼らの間に漂う空気は、いつもの平和さがなかった。

「気分ではないわ」

「そうですか」

浮遊物質に異常なし。室温にも異常なし。

続いて少女の表情を見る。顔色に異常なし。

ではこの場の空気を作る要素はなんだろうか。

外にあるもの。少女もそれを感覚的に気付いているのかもしれません。

「お嬢様、寝られますか?」

「どうしてそんな事を聞くのかしら?」

「……少し出掛けてこようと思っています」

彼はそれを言うのに少し戸惑ったが、彼女はあまり驚いてはいないようだった。
96 :18 [saga]:2010/09/04(土) 20:56:18.49 ID:k0h32uk0
「どうして?」

彼女がそう聞いたのは、他意があったわけではない。

しかしそこに疑念があったのは、疑いようもなかった。

「少し、用事がありまして」

「……そう」

「心配しなくても、お嬢様が朝に起きる頃には朝食を用意していますよ」

「そう。じゃあ、おやすみ」

「はい。行ってきます」

彼は彼女が二階へ上がっていくのを見届けると、再び外へと繰り出した。

少し歩くとすぐにタンポポが暗がりの中に浮かび上がる。

さっきまで綺麗に咲き誇っていたそれは、そこにはない。

少女が見てしまったのなら、失望するかもしれない。

そこにあったのは、汚れ。

タンポポ畑には、二、三体の〈蟲〉だったものの死骸――いや、残骸と呼ぶべきか。

彼らが追うべきものは、人間。

ここに一人いるという情報を、彼らはどこから仕入れたのか。

彼には予想もつかなかった。

「さて、どうしようかな」

彼の視線は残骸に向けられていたが、しかしそこに咲くタンポポ全てに広げられていた。
97 :18 [saga]:2010/09/04(土) 20:58:53.93 ID:k0h32uk0
遅くなりました。そしてこちらの投下は以上です!
話の進行具合が少し中途半端かもしれませんが、次の方頑張ってください←

では、次の引き継ぎよろしくお願いします。
98 :1 [sage]:2010/09/04(土) 21:36:53.13 ID:WceOMyso
合点承知
全力を尽くさせていただきましょう
それではまた数日後に
99 :1 [saga]:2010/09/07(火) 11:58:01.07 ID:Y1G5wJYo

 とりあえず≪蟲≫の残骸を片付けたものの、さすがにタンポポまできれいにすることはできなかった。
 悔やんでも悔やみきれない。せめて場所が選べれば汚さずに済んだのだのに、と。
 雨でも降れば少しは汚れが落ちるだろうか。願わずにはいられない。もっともこの地域はあまり雨の多い場所ではないのだが。

 上空を見上げた。スモッグに覆われ、どことなくつかみどころのない無明の広がり。
 そういえば今日は日課を忘れていたな、と思いだす。いつもはそんなことはないのだが。あまりに悩みが過ぎただろうか。そんな人間にとってはありふれたことでも、ロボットにとっては――少なくとも今の段階では――そうとは限らない。これも博士により作られた『ココロ』の作用だ。恐らくは。

 確認する。今日も星空は見えない――観測終了。
 とはいえ。のんびりそんなことをしていられる場合でもない。センサーには引っかからないものの、≪蟲≫の脅威は迫っている。かもしれない。
 彼はタンポポに別れを告げると、黙って夜の闇へと踏み出した。先ほどの≪蟲≫が来た方向へ。

 ひんやりと、風が彼のボディ表面を冷やして吹き去っていく。『ココロ』も同じく冷えているだろう。
 その涼気の中を歩みながら、彼は通信回線を開いた。
 感度は良くない。ざらざらとした雑音が音センサーを支配している。
 だがその数秒後、ノイズを割って唐突に声が聞こえる。

『……なんだ』

 どろりと眠気を含んだような男の声。まるで、叩き起こされて不機嫌そうな。まさかこの時間から寝ていたとは考えにくいが、ともかくとしておおよそ友好的なものとは言い難い。
 A-03は、要件の前にまず詫びた。

「すみません、いきなり呼び出して」
『……要件を言え』

 とはいえ、この回線を利用する時の要件など決まりきっている。

「≪蟲≫が出ました」

 夜の風とは異質に、回線の向こうとこちらで温度の下がる気配がする。
 しばしの沈黙を挟んで、男の声が応答した。

『……そうか』

 ただ、それだけ。それだけで通じる。
 即座に切られそうになる通信回線。だが、彼は寸前で呼び止めた。
100 :1 [saga]:2010/09/07(火) 11:59:24.48 ID:Y1G5wJYo

「お待ちを」
『あん?』
「いくつかお尋ねしたいことが」

 男の声はさらに不機嫌度をあげた。

『手短に済ませろ』

 残念ながら、彼の要望通りにはいきそうもない。

「今回の≪蟲≫ですが、ポイントCで撃破いたしました」
『はっ』

 男の吐き捨てるような笑い声。

『ポイントC? そりゃ大変なこったな』
「一言で通じだようで何よりです」

 ポイントC。言わずもがな、屋敷の前である。目前も目前。ちょっと手を伸ばせば建物に触れてしまえそうなぐらい近く。

『お前、大切な御主人サマがいるんだろ。そんな近くまで接近を許したのかよ』
「ええ、不覚でした」

 タンポポを台無しにしてしまったのだから、正直彼自身にとっては不覚どころの騒ぎではなかった。不快感がよみがえり、彼の胸の中をじくじくと汚す。
 と。集音装置にかすかになにかの音が引っかかる。遠くから聞こえるそれは、ぎちぎちとどこか不快な音を立てているようだった。会話をしながら少し感度を上げる。

『で、それがどうかしたのか?』
「連中はこちらにまっすぐ向かってきました。こちらに人間がいることが露呈しています」
『それで?』
「単刀直入にお聞きします。情報を漏らしたのはあなた方ではありませんか?」
101 :1 [saga]:2010/09/07(火) 12:00:33.31 ID:Y1G5wJYo

 遠くから聞こえる音は、集音装置の感度を上げることでより鮮明になった。金属同士がぶつかりこすれるかんかんきいきいいう音。肉同士がぶつかる無音に近い衝突音。聞き覚えのあるそれら。聞き入りながら、A-03は相手の返答を待った。

『……そら、どういう意味だ?』
「そのままの意味です。お嬢様の情報を知っている者はそうはいませんので」
『はあ、なるほどな』

 男の嘆息が聞こえてくる。

『だが、そりゃねぇよ。こっちだって仕事だ。大事な仕事相手の情報を洩らすのがプロのすることか、ええ?』
「念のため、です」
『そうか、そらご苦労なこって』

 男が毒づく
 A-03は何気ない風を装いながら、慎重に男の声をサンプリングし、分析した。
 特に目立った何かがあるわけではない。たとえば何かを隠していることによる緊張や、声の上ずり。そういったものは皆無だった。

『大体俺らに得はあるのかよ。メスガキ一匹渡したところで金になりゃしない』
「嗜虐心、悪趣味ないたずら。そのほか探せば探せばいくらでも」
『くっだらねぇ』

 唾を吐き捨てる音がした。

『ともかくだ、俺らに心当たりはねぇよ。どうせ分かってるんだろうが? 他を当たりな』
「すみません、もうひとつだけ」
『あん?』

 金属音と肉塊音は、徐々に大きくなっているようだった。

「情報がどこから漏れたか調べていただけませんか?」
『義理はねぇな』

 即座に返事が返ってくる。そう言われるのは予想していた。
102 :1 [saga]:2010/09/07(火) 12:01:46.48 ID:Y1G5wJYo

 だから、少々の無理を通すことにした。

「義理はなくとも必要はあります」
『なんでだ』
「僕は大事な仕事相手でしょう? ならばご機嫌取りぐらいするべきです」
『はっ、うぬぼれんなよ。お前の代わりなんざ――』
「いないはずです。そんなに沢山は」

 男の声が黙り込む。

「≪蟲≫や、ましてやロボットには人間では太刀打ちできません。言うまでもないことですが。だからあなた方は僕とのコネクションを保持しておかなくてはならない。その僕を逃してしまってもいいのですか? そんなに頭のいる選択肢ではないとは思いますけど。それで足りないなら脅しをかけましょう。あなた方が動かない場合、僕があなた方を殺します。これでいかがですか?」

 実のところ相手の本拠地が分からないので、脅しの方はあまり現実的な手段とは思えなかったが。ただ効果はてきめんのはずだった。相手は間違いなくこちらを恐れている。人間は恐怖するのだ。万が一を考えてしまうのが人間だと、彼はあまり長くない経験から知っていた。
 ややあって、男の舌打ちが聞こえた。

『今回だけだぞこのクソ野郎』

 音が、もうすぐそばまで来ていた。集音装置の感度を下げなければうるさい程度には、近い。

「ありがとうございます。それではお客さんが来るので失礼します。あとであれの回収に来てください」
『ふん』

 通信回線を閉じて立ち止まる。屋敷から一キロほど離れただろうか。
 遠くを見渡すと背の低い山々が見ることができた。スモッグがその稜線をあやふやにぼかしている。
 と、その山々に重なるようにして、黒い大きな影が見えた。それはうぞうぞとうごめきながら、ゆっくりとその姿を大きくする。近づいてきているのだ。

 再び見上げる。やはり星空は見えない。スモッグの向こうにあるはずの無限の輝きに思いをはせる。人間は、どうすればそれを取り戻せるだろうか。たかだか厚さ数十メートルの層によって、人間は光から隔絶されている。
 人がこの星の主導権を取り戻すことは、そのたかだか数十メートルを穿つ作業に等しい、と以前彼は夢想した。それは手の届かないところにあり、永遠の壁となって立ちはだかると。
 一方、自分は人間救済のために博士によって開発された。ならば、と考える。
 ――いや、考える前に時間が来た。
103 :1 [saga]:2010/09/07(火) 12:03:09.85 ID:Y1G5wJYo

 しゅうしゅうと奇妙な音がする。それからきいきいいう金属音。目の前にある物体から出る音だ。
 彼は静かに見上げた。
 まず目に入ったのは、禿頭の男の頭だった。ぎょろりとした眼球と目が合った。ずんぐりした大きな影の頂上から生えている。
 それから視線を下ろすと、球状の胴体が目に入る。機械類がぎっちりと詰め込まれたフレームがぎしぎしと音を立てていた。そして機械類の合間から、機械のものとは明らかに異なるものが各所からのぞいている。
 人間の手足。コードによってでたらめにつながれたそれら。よく見るとガラス容器も各所にみられ、そこには人間の内臓が浮かんでいた。
 さらに視線を落とすと、ずんぐりとした影の底部からはいくつもいくつも触手のようにコードが伸び、うごめいている。

『人間の部位を接ぎ合わせ、何かの感覚を追い求める連中――』

 ≪蟲≫だ。

「中型がこんなところまでなんの用ですか」

 冷めた心地で告げる。

「いえ、要件は分かっていますがね」

 嘆息代わりに排気を行った。

「お嬢様のところまでは行かせませんよ。排除します」

 自分の各部が静かに覚醒していくのを感じる。それは恍惚と同じだった。押し流されないように努力し――そして無駄だと理解する。だが、冷静な部分がそれを見下ろしているのも感じた。
 味わってはならない快感の中で彼は、ココロの脈動を聞いた。

 彼は咆哮する。
 そして地面を激しく蹴った。
104 :1 [saga]:2010/09/07(火) 12:06:37.22 ID:Y1G5wJYo
投下は以上です
では引き継ぎをお願いします
次は>>10でしょうか、それとも>>18でしょうか?
無理せずにお願いします
105 :18 :2010/09/08(水) 18:28:05.74 ID:j5Sqw6AO
>>10はまだ忙しいのかな?

とりあえず明日まで待ってみて、返事がなければ自動的に私が引き継ぐ形で良いでしょうか?
106 :1 [sage]:2010/09/08(水) 20:01:59.55 ID:6ci70iAo
どうともいえませんね
でも、とりあえず明日まで待ちましょう
107 :10 [ saga sage]:2010/09/09(木) 02:42:08.09 ID:KBzv7j60
遅れてすいません。
今はまだ忙しくて、パソコンに触れる時間がほとんどないですね。
現状は引き継ぐのは厳しいです。

中途半端に残るより、ここでリタイアした方がいいかもしれませんね…
正直、心苦しいです。人数面とか見ると、特に。

迷惑をかけて色々申し訳がないです。
体力的に限界なので今日はここで。
失礼します。

108 :18 [sage]:2010/09/09(木) 09:16:35.40 ID:wSs4yQAO
では今回も私が引き継ぐと言う事で、また暫く時間をとらせていただきます。

>>10
忙しいのならば、仕方ないですよ。返事が欲しい時にくれるだけでも十分に有り難いです。
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/09(木) 09:47:48.44 ID:fEe2Dpwo
>>10
>>18に同じです
リアルを大事に
あと、個人的にはリタイアしても暇ができたら再参加していただければうれしいです
110 :18 [saga]:2010/09/17(金) 22:40:28.78 ID:/3GNrDQ0
見れば、辺りには残骸だけが散らばっていた。

破壊対象の反応がセンサーから消滅すると、"ココロ"は徐々にクールダウンしていった。

と同時に、何らかの嫌悪感が彼に流れこんでくる。

こうしなければならなかった。

そうでなければ、大切な人を失ってしまうから。

破壊衝動が自然と湧き上がらない場合、いつも自分で無理矢理にでもそれを揺り起こしていた。

今回だけでなく、これまでにも何度かある。

そういう時、決まって自己嫌悪に陥るのだ。

これもまた"ココロ"の作用。

何故余計なところで、人間の"心"に似ているのだろうか。

動かなくなった〈蟲〉を見るが、彼らはもう何も語らない。

いや、語った所で何も知らないに決まっている。

空を仰ぐと、スモッグの切れ間から朝日が顔を覗かせていた。

「すみません、お嬢様。朝食が少し遅れそうです」

地平線とスモッグの間には、A-03の気分とは対照的に澄み渡った青色をしていた。
111 :18 [saga]:2010/09/17(金) 22:41:35.73 ID:/3GNrDQ0
"ココロ"についての考察。

自らの理性とは別に働く欲求的破壊衝動プログラム。

その衝動は自分の意思とは関係なく起動する。

時には、意思をもって起動する事もある。そうする事が出来るようになっている。

しかしどちらにしろ、一緒の事だ。

"ココロ"が起動した後は、暫く"自分でなくなる"からだ。

それは一種の――

そう。人間の本能的欲求に似ている。

理性による破壊の場合、実行途上でブレーキがかかる。これは人間の場合だ。

だが自分の場合にも当てはまるのではないか?

本能的欲求に近いプログラムにしたのは、博士にとって考えがあっての事かもしれない。

本能――やっていけない事でもやってしまう、"仕方のない"状態。

それは空腹の時に食べ物を腹の中に収めたいのと同じだ。

それは疲労の時に眠りによって休息をしたいのと同じだ。

ある意味では、効率の良いものなのかもしれない。

――自分に理性的なプログラムさえなければ。
112 :18 [saga]:2010/09/17(金) 22:42:11.44 ID:/3GNrDQ0
目の前にはすでに屋敷が立っていた。

スモッグの空はもう見えない。

「奴らは人間が持つ何らかの感覚を追い求める……」

彼はわざわざ声に出して呟いた。

静寂感の激しいこの地帯では、想像以上に騒がしくセンサーに跳ね返ってくる。

「奴らは人間が持つ何らかの……」

もう一度、呟いてみる。

『何らかの感覚』。それは肉体的な感覚に留まらず、精神的なものにも及ぶかもしれない。

本能と理性――それらもある意味では感覚だ。

彼は唐突に自嘲したくなった。"ココロ"にはそのような衝動はない。

となると、彼の基本プログラムにある単純な思考からくるものなのだ。

今、自分は苦悩している。それもまた感覚だ。

自分は奴らと変わりはないのかもしれない。

彼は、帰路の途中で汚れを拭き取ったはずの手を眺める。

やはり目は事実を見るだけだ。手は確かに綺麗だった。

だが綺麗に拭き取られた手を見れば見るほど、自分の存在意義がさらに遠退いていった感じがした。

それよりも、汚くなったタンポポの方は、やけに現実的だった。
113 :18 [saga]:2010/09/17(金) 22:44:54.33 ID:/3GNrDQ0
遅くなってすみません。今回は以上です(
遅くなった以前に量が少ない?
すみませんすみませんすみませんすみまs(ry

と、とりあえず引き継ぎ宜しくお願いします……
114 :1 [sage]:2010/09/18(土) 00:42:24.95 ID:pDnfidco
引き継ぎ了解
そろそろ半分越えたあたりでしょうか
無事着地できるといいですね
頑張りましょう
それではまた、数日後に
115 :1 [sage]:2010/10/12(火) 23:52:08.73 ID:4wp0SXQo
お待たせして本当に申し訳ありません
まだ完成していないのですが、明日、無理やりにでも時間を作って投下しますのでどうかもう少しお待ちください
っていうかもう三週間以上経つんですね、発起人なのにこれは……
まだ人員がのこっているといいのですが
116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 21:09:58.73 ID:zXZ8eKAo

◆◇◆◇◆


「ねえねえ、絵本よんでほしいの」
「かまいませんよ、どれにいたしますか?」
「これがいいわ」
「『夜のおさんぽ』ですか」

「――夜の重い闇の向こうに、いくつもの星がきらきらと輝き」
「ほし? ってなあに?」
「夜の空に輝く、きらきらした光のことらしいです」
「そんなもの見たことないわ」
「そうですね。僕も見たことはありません」
「どうしてかしら」
「どうしてでしょうね」
「……ねえ」
「はい?」
「わたし、ほしが見たいわ」
「……」
「ねえ、おねがい、夜、ほしが出ているのを見つけたら、わたしにおしえてくれないかしら」
「……」
「一生のおねがいよ、ねえ」
「……わかりました。でも、見つからなくてもぐずらないでくださいね」
「やったあ、ありがとう!」


◆◇◆◇◆
117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 21:19:16.50 ID:zXZ8eKAo

 薄明かりの中、少女は目を開いた。カーテンによって緩和された朝の光が、部屋の中を満たしていた。上体を起こしてカーテンを少しだけめくる。

「……」

 眩しさに顔をしかめ、元に戻した。
 どうやら、眠れたらしい。絶対眠れやしないと踏んでいたのだが、人間というものはたまに都合よくできているらしい。
 夢を見たのを覚えている。それは、どうやら過去の記憶をなぞったもののようだった。

「懐かしいわね」

 すっかり忘れていた、過去の約束。それでもきっと彼は覚えているのだろう。彼はロボットだから。いや。

「律儀だから、ね」

 頷く。
 その時、ノックの音が聞こえた。許可の声を上げると、扉を開けて人影が部屋に入ってきた。

「おはようございますお嬢様」
「おはよう」

 人間を模してはいるが、どこか人とは違う輪郭。そして雰囲気。彼が限りなく人間に近いことを彼女は知っている。ただ、それでも彼はロボットだ。
 その手に朝食のトレイを持ち、彼はひっそりと立ち尽くしていた。

「遅れて申し訳ありません」

 言われれて、今が朝というには随分遅い時間であることに驚く。

「かまわないわ。今起きたところだから」

 それを聞いて、彼がほっと肩を下ろすのが見えた。
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 21:25:19.03 ID:zXZ8eKAo

 起きあけにすぐ朝食を詰め込めるわけもなく。彼女はレタスとトマトのサラダを意味もなくつつくようにしながら、ぼーっと正面の壁を見ていた。
 彼はベッドからやや離れたところに、何も言わず静かに立っている。それを横目で盗み見ながら、少女は昨夜のことを思い出した。

『少し出掛けてこようと思っています』
『用事がございまして』

 問いただすべきなのだろう。知りたいと思っているのだから。だが、聞いてはいけないこともまた、どこかで分かってもいた。

(どうにもね……)

 だから。口をついて出てきたのはべつの事柄だった。

「あなたは覚えているかしら」

 彼はわずかに首を動かしてこちらを見た。

「星空の約束のこと」
「……」

 彼はすぐには口を開かなかった。しばらく考えるような間があったが、それは思い出せずに焦っているというよりは、とっくに思い出していながらも何かをためらっているように見えた。

「覚えて、おります。『夜のおさんぽ』ですね」

 彼は頷くと、どこか遠くを見るように顔を上げた。

「夜の重い闇の向こうに、いくつもの星がきらきらと輝き……」
「それはまるで僕をどこかに誘っているようで」
「……僕はどうしようもなくなって、だから、やっぱり歩くのだ」
119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 21:29:22.66 ID:zXZ8eKAo

 二人で吟じた後、どこかくすぐるような間があった。ややあって、彼が口を開いた。

「星が見たい、とあなたは言いました」

 彼女は頷く。

「僕はもし星を見つけたらあなたに知らせる約束をしました」

 彼は頷く。

「でも、いつまでたっても星は出ず、あなたはひどくおかんむりだった」
「……そうだったかしら」
「ええ」

 彼の方を見ると、彼はやはり、どこか遠くを見ているようだった。

「私がスモッグのことを知ったのはそれから数カ月後のことだった。星空が絶対見られないことを知って、とっても悔しかった」
「あなたは非常に落ち込んで、それはもう見ていられないくらいだった。僕は精一杯気を紛らわそうとして、いくつか失敗して、でもいつしかあなたもあきらめがついて……」
「夢を見たの」

 彼の視線が彼女のもとへ帰ってきた。

「あなたに絵本を読んでもらっている夢」
「懐かしいですね」
「ええ……」
120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 21:36:21.24 ID:zXZ8eKAo

 やさしく頁を繰る音。読み聞かせの穏やかな声。

「あなたはあの約束を覚えているんでしょ?」
「……」
「そして、きっと今でも果たそうとしている」
「……」

 彼は視線はそらさなかった。肯定も否定もしなかった。

「あなたは、やさしいものね」

 それでも、彼女には分かっていた。

「ねえ、人間は星空をその手に取り戻せるかしら」

 人間は夜空を失った。問いかけながらもその答えは分かりきっていた。

「それは、無理でしょう」

 彼もその答えは分かりきっていた。それでも彼女は黙り込んだ。そして、それでも彼は口を開いた。

「しかし――」
「……?」
「お嬢様のためならば、僕がそれを手に入れて見せましょう」

 穏やかながら、だが力強い宣言の声だった。根拠はなく、だが自信に満ちた誓いの言葉だった。
 少女はゆっくりとほほ笑んだ。
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/13(水) 21:37:26.64 ID:zXZ8eKAo

 食べ残したいくらかの食事を乗せたままのトレイを持って、A-03が扉へ向かう。その背中に向けて少女は声をかけた。

「ねえ、タンポポは見れないかしら」

 ぴたり、と彼の足が止まった。そのまましばらく得体の知れない間があった。彼女の胸に、ざわざわとした何かが満ちていった。

「もう、見ることはできません」

 なぜ。その言葉は喉もとで詰まって途絶えた。聞いてはいけない、その問いだと本能が言っている。
 彼は扉を開けた。

「……枯れてしまったのね」
「……」

 どちらも気づいていた。気づいていることに気づいていた。だが、その事実には沈黙でふたをした。何も見ず、何も言わず。

「……」

 A-03の夜の用事が増えた。
 彼の帰らない夜が続いた。
122 :1 [saga]:2010/10/13(水) 21:41:41.22 ID:zXZ8eKAo
遅くなって、非常に申し訳ありません
危うく一ヶ月が経つところでした、反省しております
許してくれとは言いません
ですが、できましたら引き継ぎの方を、どうかよろしくお願いいたします
では失礼します、本当にごめんなさい
123 :18 :2010/10/14(木) 02:10:17.49 ID:lXJJFcAO
>>1お疲れ様です!
>>10は復帰するでしょうか。
もし「復帰して一緒に書くよ!」と言う場合は、宣言してくれると分かりやすいかもです。

とりあえず私が引き継ぎを引き受けますね〜。
124 :18 [saga]:2010/11/07(日) 00:30:31.72 ID:GbseP4w0
「ねえ」

少女はそう呼びかけるが、今この場に「なんですか?」と応えてくれる者はいない。

時は夜。A-03は今夜も出かけていた。

「……ねえ、いないの?」

階段を自力で下り、いつもは彼が待機しているはずのリビングを覗く。

リビングといっても、彼女は殆ど自室にいて、食事もそこで摂っているので、リビングというよりはA-03の私室と言う方が適切な表現かもしれない。

しかし、そのリビングを見回しても、彼の姿は見えなかった。

「そう。いないのね」

そう独りごちながら、リビングの奥にあるキッチンへと足を運ぶ。

ここ最近は、夜起きる度に一人でこうしている。

夜に目が覚めて、再びの寝付きが悪い時、水でも飲んで落ち着いているのだ。

普段なら、A-03が汲んできてくれるのに、今ではそれがない。

「ねえ、今どこにいるの?」

冷蔵庫に向かって呟く彼女の顔は、心なしか、酷く青ざめた印象があった。

それと対照的に、顔色は酷く赤らんでいたにもかかわらずに。
125 :18 [saga]:2010/11/07(日) 00:31:06.46 ID:GbseP4w0
冷蔵庫に保存されているミネラルウォーターをコップに汲み、それを慎重に喉を通していく。

一気に飲むと、どことなく身体に障る気がしたからだ。

実際、うっかり多めの水を飲み込んだ時は、何度か咳き込んだ事があった。

彼女はもはや、階段を下りるだけで疲弊しきっていた。

にもかかわらず、水を飲み終えると、思い立ったかのように外へと足を向けた。

ここに彼がいたならば、きっと彼女を叱って、部屋に戻すだろう。しかし、今ここに彼はいない。

彼女もそれは危険と知っていたし、彼を悲しませる結果になる可能性もあるから、それまでは無理をしようとは思わなかった。

だが今では、彼は夜の外出が増え、そのきっかけを彼女は気づいていたのだ。

最初の時は、彼女も躊躇していたが、一度見に行った後は、時たまそれを観に行っていた。

今も、彼女はその場へ足を運ぶ。彼は朝方まで決して帰ってこないのだから、気づかれる事もない。

足を運んだ先は、以前よく彼のカメラ越しに見た、タンポポ。もうそろそろ、綺麗な花は萎んでいき、綿毛へとなろうとしていた。

しかし、綿毛へなれなかったタンポポもあった。

所々、不自然に抜かれている部分があったのだ。

彼なりの配慮だろう。彼女にはここで何があったのか知る由もなかったのだが、何かあった事は気づいていた。これがその痕跡である事も。

それを暫く眺めた後、ふらふらと自分の部屋へと戻っていった。
126 :18 [saga]:2010/11/07(日) 00:31:49.18 ID:GbseP4w0
階段を下りるだけでも酷く疲弊していたにもかかわらず、自室に戻るには、さらに上らなければならない。

もちろん、彼女が上りきった時には、息も絶え絶えで、足下もおぼつかない。

それでも何とかベッドまで身体を運び、一気に倒れこむ。

疲れに耐えかね、消え行く意識の中で、彼が帰ってきたとき慌てないよう、安静に寝ていた形に体勢を戻し、ゆっくりと眠りについていく。

こうする度に、酷く喉が渇いてしまっていた。だから、最近は眠る前に、少しだけ苦笑するようになってしまった。

水を飲みに行った意味がないじゃない。

しかし、そう思うのもつかの間。彼女はすぐに夢の世界へ堕ちていった。

それほどまでに、疲弊していたのだ。一杯の水と、抜かれたタンポポのために。

それでも、彼女は彼が帰ってきても、その事は言わなかった。

彼がなぜ出かけているかを問い詰められないように、そのために外出はやめて欲しいと言えないのだ。

それを言えば、彼が傷ついてしまうだろうから。

もしくは、彼女自身が傷ついてしまうだろうから。
127 :18 [saga]:2010/11/07(日) 00:32:40.55 ID:GbseP4w0
「それはなに、お父様?」

気がつくと、少女の目の前に彼女自身が座っていた。

正確には、小さい頃の彼女だ。彼女はきょとんとした目で、ベッドの上からドアの方向を見つめていた。

その視線の先には、二人の男――いや、一人の男と一体のロボットが立っている。

この時間を、少女は知っていた。それはとても懐かしい、遠い昔にも思える出来事。

A-03との出会いの時だ。

目に映る幼い少女の姿は、とても小さく、今よりもか弱くも見える。

男の後ろに立つ彼の姿は、この時からずっと変わらない事に気づく。

だが、男の姿にはなぜか影がかかってよく見る事が出来ない。

小さい頃の自分が、その男を「お父様」と呼んだのだから、彼女の父に間違いはないのだろう。

記憶でも、その位置には確かに自分の父が立っている事を憶えていた。

それでも、その父の顔はどうしても見えない。

それはここ暫くの間、父の顔を見ていないからに違いない。

どのような顔だったか、思い出したかったあまりに近づいてみたが、男の顔はどうしても見えない。

彼女は、それはここが夢の世界だからという事に気がついた。
128 :18 [saga]:2010/11/07(日) 00:35:57.54 ID:GbseP4w0
顔の見えない父が、静かに口を開ける。

「これはA-03という、ロボットだよ」

「ろぼっと?」

小さな少女は彼に視線を移して、首を傾げた。

「そうだ。これは俺が作った鉄の寄せ集め。即ちガラクタだ。
 だが、それでも俺が作った事に変わりはない」

男は幼い少女に歩み寄り、口元を歪ませた。

それが、微笑みだと言う事に、少女は暫く気づく事が出来なかった。

それ程までに、不器用な笑み。長い間、根を詰めていたせいなのか、笑う事を忘れてしまっているかのようだ。

それでも彼の口元は、とても優しいものだった。

「少女、お前を生んだ母は、お前を生んだ時に旅立った」

ぽつり、ぽつりと呟く。

「お前をここまで世話をしてくれた乳母もまた、先日旅立ったのだ」

「じゃあ……わたしはひとりなの? お父様は、おしごとでいそがしいものね」

幼い少女は、諦めを表に出した言葉を返したが、表情がその心を物語っていた。

「大丈夫。これはガラクタだが、お前の世話くらいは出来る。話し相手くらいにもなる。
 これからは、これと一緒に暮らすのだ、少女」

幼い少女が、男から彼にゆっくりと目を移していった。

「よろしくお願いします、お嬢様」

「ええ、よろしく」
129 :18 [saga]:2010/11/07(日) 00:39:36.32 ID:GbseP4w0
目が覚めた時には、どうしてか身体中から汗が吹き出していた。

夢の中での懐旧の日々を想い、それとともに今更ながら疑念が湧いてくる。

『僕はなんで作られたんだろう』彼はそう言っていた。

父も確かに『世話や話し相手』と言っていたし、実際そう思っていた。そして彼にも、そう言い聞かせている。

でも今の彼を見ると、本当はそうでないのかもしれないと思えてきてならなかった。

その事で頭が一杯で、なぜ汗だくになっているかにさえ気づけないでいた。

ふと思うと、カーテンからは既に日差しが漏れ入っていて、暗い部屋に少しばかりの明かりを灯している。

ゆっくりと視線を時計へと移していくと、短針が既に上を向き始めていた。

そろそろ朝食を取らないと、また心配させてしまう。

そう思っていよいよ意識を夢の世界から戻していくと、ようやく身体の異変に気づいた。

この日、彼女の体調はすこぶる悪いものだった。

熱は出て、頭痛がし、吐き気がし、胃が締め付けられ――

――何より、酷く喉が乾いていた。

薬を飲むにしろ、安静にするにしろ、とにかく水を口に入れなければ。

そう思って、彼女は枯れそうな声で言った。

「水を持ってきてちょうだい」

彼女はゆっくりと目を閉じて返答と、彼が持ってくる水を待った。とりあえず、これで一安心だ。

そうは思ったが、いつものように彼の返事がない。

「わかりました」その一言すら返ってこないのだ。

「……A-03?」

不思議に思い、もう一度彼を呼んでみるが、応答はなく、屋敷には静寂がただ立ち込めるのみだった。
130 :18 [saga]:2010/11/07(日) 00:45:40.27 ID:GbseP4w0
ぼーっとしてたら、こちらも一ヶ月近く経ってしまいました。
本当にすみません!

展開としてはこれでどのくらい行ったでしょうか。
こちらの思いとしては、そろそろ折り返しではないかと考えておりますが……。
では、引き継ぎよろしくお願いします。
131 :1 [sage]:2010/11/07(日) 01:50:33.70 ID:FDp3Je6o
承りました
そうですね、あともう少しじゃないかと思います
リレーゆえに締めは大変そうですが、まあゆるーく頑張ってみましょう
それではまた数日後に
132 :1 [saga]:2010/11/15(月) 00:59:59.12 ID:BrAyzmYo

◆◇◆◇◆


 彼の名はA-03。
 正確には、Answer-03。
 意味は、≪第三の回答≫
 『はい』でも『いいえ』でもなく、三つ目の答え。
 命名した製作者の意図は不明。
 だが、彼は第三の回答を出すため、いまだもがき続けている。


◆◇◆◇◆




 零時を少し過ぎたあたりだろうか。

「……」

 連絡が入った。

『用件だけ言う。リーク元を見つけたぞ』

 夜はまだ長く、

『≪街≫だ』

 そして深い。
133 :1 [saga]:2010/11/15(月) 01:01:14.84 ID:BrAyzmYo

     ・
     ・
     ・

 朝日が目を貫いた。丘陵の向こうに、それは悠然と姿を表す。スモッグをかき消し、新たな一日の始まりを告げる日の光。
 カメラアイになだれ込んでくるそれらを調節し、彼は視線を上に持ち上げた。

「……」

 大きな鉄の門扉。それは≪街≫の内と外とをこれ以上なく明確に別のものとする。
 外、つまり彼がいる側は、屋敷のまわりと違って荒涼とした寒々しい景色が広がっている。砂地状のそこは、乾いた灰色の世界だ。植物は過酷な栄養不足を生き抜ける、きわめて頑丈でかつ鮮やかさのかけらもないものしか生えていない。人間の発展とともに、その他の生物は衰退していった。多くはすでに死に絶えた。あのタンポポは数少ない例外である。
 とはいえ人間も弱り切り、今やそれを追う形になっているのだが。

 そして内側。そこにあるのは――

「……」

     ・
     ・
     ・

「≪街≫、ですか?」
『ああ、そうだ』

 通信回線の向こうから聞こえる声は、以前と違ってはっきりとしていた。

『いろいろ調べて回った結果、そこが一番怪しい……ようだ』
「根拠は?」
『大事な情報収集手段を明かす奴がいるか?』
「それもそうですね」

 クソ野郎にゃ余計な情報はわたさねえ。暗にそう言いたげな、ちくちくと刺すような声に肩をすくめて返す。

「≪街≫のどこに情報を洩らした張本人が?」
「そのデータはこれから送る」
134 :1 [saga]:2010/11/15(月) 01:02:16.45 ID:BrAyzmYo

 受け取ったデータは、簡素なものだった。ただ単に場所を座標で表した味気ないものだ。
 だが。

「中心部?」

 奇妙な思いに思わず声を上げる。≪街≫には直接訪れたことはないので伝聞でしかないが、たしかあそこには――

「そうだ」

 男の声が応える。

「あそこにはアレがある。いや、アレしかねえ」
「そんなところに一体何者が?」
「知るか。いや、知ってるがな。教える気はねえよ。自分で見てこい馬鹿」

 じゃあな、という声とともに回線が閉じた。しばらく無言で佇む。視線を下げると≪蟲≫の残骸が目に入った。
 急激に広がる嫌な味をかみしめ、今度は頭上に目を向ける。

「……」

 そこに星はない。代わりに真っ暗な夜空がある。観測終了、今夜も何も見えず。
135 :1 [saga]:2010/11/15(月) 01:03:23.38 ID:BrAyzmYo

     ・
     ・
     ・

 長い外出になる――とだけだが、少女への書き置きはしておいた。食事も冷蔵庫に入れてある。警備システムはレベルを最大値に上げてきた。これで≪蟲≫程度ならば二、三日はもつだろう。それだけあれば事足りる。
 だが、不安がないわけではない。確実性に劣るから今まで使ってこなかったのであるし、少女がそれに巻き込まれないとも限らない。何より……

(お嬢様……)

 最近の彼女の体調は思わしくなかった。あまり良くない顔色を思い出す。強がってはいたが、それは逆に彼の不安を増している。

(すぐに帰りますから)

 固く誓って、うつむけた顔を戻した。そして鉄のゲートに向かって一歩を踏み出す。

『inspection...』

 唐突に声がする。いや、それは正確ではない。実際に空気を揺らす音波ではないから。

『wait a minutes...』

 彼の回線に直接語りかけてくるそれは、≪街≫の門番の電子音声である。

『...approved』

 やや間を置いて電子音声が認可の指示を出した。ゲートがゆっくりと開く。
 中に広がる風景を眺め、背後を一瞥する。

「……」

 歩を進めた彼の背後で、ゲートが重々しくその口を閉じた。
136 :1 [saga]:2010/11/15(月) 01:05:07.62 ID:BrAyzmYo

 その文化を萎縮させ衰退した人間は、二つの道をたどった。
 一つはかつて地球に訪れ、そして死に絶えた異星人の技術の中で使えそうな技術を流用し、創った仮想空間≪理想郷≫に逃避する道。
 そしてもう一つ。ロボットとの共存を模索する道。
 ≪街≫――それは後者を選んだ人間たちが暮らす場所の一つである。

 鉄くずを一つ蹴飛ばした。それは道を転がっていき、ひび割れにはまって動きを止めた。
 立ち止まってあたりを見渡す。
 周りには寂れた建物がいくつもいくつも立ち並んでいる。倉庫のような形状のそれら。もとは人間が住んでいたこともあったのだろうが、今はその気配はない。
 道は舗装されているものの、長らく整備されていないのかあちこちが割れて地肌をむき出しにしている。
 そして――

「……」

 その上を進むいくつもの影。金属音を立てるそれらは、人間ではなく無機物の塊。ロボットである。
 中には無機物以外の部品が中からのぞいているものもある。ぱっと見えるものでは手が多い。人間の手。≪蟲≫だ。
 見渡す限りの寂れた景色。外と変わらぬ荒涼とした雰囲気。その上を行く生命ならざるもの。
 彼はため息代わりに排気を行い、足を踏み出した。

 あたりにうごめく≪蟲≫の中には以前戦ったのと同タイプものもいた。だが、それらは彼を見ても特に大きな反応を示さなかった。
 当たり前だ。彼が放つシグナルは彼らが放つものと同じだからだ。もちろん偽装であるが。そういうわけで何事もなく進むことができた。

 歩けど歩けど人間の姿は見つからない。人間はこちらのブロックには住んでいない。
 南のブロックに彼らはいる。かつての生活を剥奪されてはいるが。

 そして、彼が向かうのは、北と南のブロックの間にある場所。中心部。

「……」

 大きな建造物がそこにはあった。鉄の塊を寄せ集め、固めたような巨大なそれ。
 周りにはロボットすらいなかった。誰もいない。何もない。ぽっかりとした空間が広々と建造物の前に空いていた。
 まるで何かを招くように。まるで彼を招くように。
 建物の前面には、ぽっかりと入口が開いている。彼は無言で踏み込んだ。
137 :1 [saga]:2010/11/15(月) 01:06:35.40 ID:BrAyzmYo

 規則正しく重低音が響いている。子宮の中で聞こえる鼓動のように。
 うす暗い通路を、彼は静かに進んだ。

 子宮。それはある意味で間違っていない。ここはロボットたちを生み、育んだ場所だからだ。
 かつてのロボット生産工場。すでに活動は停止している。だから、≪街≫の中心部にあるそこは、同時に墓場でもある。
 ここはロボットたちの生まれ故郷。そして墓場。

 しばらく歩くと、視界が開けた。いや、それは正しくないかもしれない。そこにはひたすらに広大な闇が広がっているだけだったから。
 だが、かまわず彼は口を開いた。

「そういえば――僕は勘違いをしていました」

 聞くものはいない。いや、いる。そのはずだった。カメラアイの感度を上げる。

「僕が初めてお嬢様と出会ったのは、お嬢様が泣いているときで、また、博士が失踪した後だった。そう思っていました」

 次第にうすぼんやりと見えてくるものがある。

「でも、お嬢様はおっしゃっていました。僕は博士と並んでお嬢様と対面したのだと」

 全体を支える巨大なフレーム。伸びるコード。あちこちから突き出す、人間の手足。それらはまとまることができず、だらしなく床にまで広がっている。
 ――<蟲>、それも大型の。

「最初は博士が僕のメモリーをいじったのかと思いました。でも違った。それは僕が勝手に自分で作り替えた記憶でした。僕は自分で自分をだましてたんだ」

 それは物言わぬ死体にも見えた。だが、生きて、そして彼の言葉を聞いている。彼はそう確信していた。

「僕は自分にだまされていた。記憶がないんじゃない。僕が自分で忘れようとしただけだった。今なら分かることも少なくない。でも――」

 その時彼は見つけた。

「でも、まだ分からない。僕はなぜ作られたんです?」

 人間の頭部。濁った眼球。物言わぬ唇。もう人間をやめてしまった、人間。

「ねえ、博士」
138 :1 [saga]:2010/11/15(月) 01:07:05.87 ID:BrAyzmYo

◆◇◆◇◆


 彼の名はAnswer-03、≪第三の回答≫
 博士の願いを叶えるのではなく、また叶えないのでもなく。
 三つ目の答え。
 彼はいまだに探している。


◆◇◆◇◆
139 :1 [sage]:2010/11/15(月) 01:13:50.00 ID:BrAyzmYo
よし、今回はあまり遅くならずにすみました。やったぜ
ただ、ちょっといろいろと無茶したなと思います
特に>>18にはかなり難題を吹っ掛けたなーと
まあ、実験段階ということで、ゆるーくやっちゃってください
では引き継ぎをお願いします
140 :18 [sage]:2010/11/16(火) 18:23:54.90 ID:fZZhgMAO
引き継ぎ引き受けました。
少しばかり忙しい時期に入ってしまいましたが、前回より遅くならないようにしたいと思います。

難題が多過ぎてどれが指摘してる難題がわからないという難題
141 :1 [sage]:2010/11/16(火) 19:05:18.75 ID:yzuc5Kko
いや、ホント申し訳ない
ご迷惑をおかけいたします
142 :10 [ saga sage ]:2010/11/23(火) 00:28:59.84 ID:Nb35kjM0
ご無沙汰しております。
まずはお詫びから、返答が遅れて本当にごめんなさい。

なんとか生きてますが、今はまだ忙しいです。
今日は挨拶のレスだけ申し訳ありません。

それでは失礼します。
143 :1 [sage]:2010/11/23(火) 03:28:19.96 ID:xMiXqPIo
おーお久ぶりです
お仕事大変そうですね、死なない程度に頑張ってくだい
あと、多少さびしいですが当方は問題なく楽しんでるので、どうかお気になさらないように
またご一緒できるのを楽しみにしています
144 :18 [saga]:2010/11/28(日) 01:27:45.52 ID:u4On16k0
暫くの間、彼に博士と呼ばれた「物体」は、ただ彼を見つめるだけだった。

濁った、その眼球で。

真っ当な感受性を持ち合わせた人間ならば、もしかするとその醜悪さに吐き気を催したかもしれない。

いや、その前にこの場から、本能的に退散したくなるはずだ。

しかし彼はロボットであり、また"ココロ"による衝動のせいで真っ当な感受性とはかけ離れたものを持っていると考えていた。

それでも、今の博士の姿に対する想いには、何らかの――悲しみにも似た嫌悪感が渦巻く感覚だった。

これが、醜いと思う事なのだろうか。

そもそも真に感覚と言えるものを持っていないはずの彼にとって、それは一種の計算困難な選択肢だった。

「……久しぶりだな」

工場内部に、低くだらしのない声が響いた。

それが目の前にいる博士の声だ認識するのに、それ程時間はかからなかった。

「元気、だったか?」

機械的とも思わせる抑揚のない口調は、かつて人間だった事を忘れさせてしまうかのようで――

「いや、ロボットは、病気にならないか」

――もはや自分が残している最後の博士のデータとは、合致しがたい者となっていた。
145 :18 [saga]:2010/11/28(日) 01:28:46.91 ID:u4On16k0
「……」

A-03は彼の言葉に応えようとはしなかった。

いや、応えるつもりなんてないのだ。

博士が、まだ質問に答えていないのだから。

「……」

「……」

互いに、この空間に沈黙を作り、互いに、相手の次の言葉を待つ。

彼は現状を整理する。今目前にいるのは、自分の創造主である博士なのだと。

だが、博士はもはや人間ではなく《蟲》となって、目前の風景を遮っている。

彼が誕生し、そして同時に捨てられた日。博士はまだ真っ当な人間の姿だった。

その時の最後の記録の姿も、そうだった。

では少女と対面した時、彼が思っていた通り博士が失踪した後なのか?

そうではない。彼もまたそこに矛盾があると知っていた。

少女の住む屋敷の場所は、あまり知られていない場所にある。

自分の開発者の娘の住む屋敷に、彼のみで辿りつくのは不可能に近い。

という事は、やはり誰かが彼を連れてきたのだ。

彼は古いデータを読み込み、思い出していく。

そう。あの時、確かに横に誰かがいたのだ。

そして今、その姿をはっきりとビジョンに映す事さえ出来る。

《蟲》になろうとしている、博士の姿を。
146 :18 [saga]:2010/11/28(日) 01:30:27.73 ID:u4On16k0
排気音が反響する中、沈黙を破ったのはA-03だった。

博士がどうしてここにいるのか。

今まで何をしていたのか。

どうしてそんな姿をしているのか。

聞きたいことは山ほどあったが、もっと聞きたい事があった。

「なぜ、僕を作ったのですか?」

「……」

博士は答えない。応えようともしない。

ただ、A-03を憐れな眼球で、それ以上に憐れそうに見つめるのみだった。

「……お嬢様の屋敷を《蟲》に襲わせたのも、関係しているのですか?」

ふと、それも自分の存在に関わる気がして、彼は付け加えた。

「俺は、ただ、場所を教えただけだ」

「教えれば向かう事くらい、予測できたはずです」
「それに、意味もなければ無闇に教えるというのも、おかしな話でしょう」

博士はうなり声をあげる。それが今の彼なりに「ふむ……」と唸った事に気づくのに、少し時間がかかった。

やがて、博士は口を開き(それを目視する事は出来なかったが)、問うた。

「サイボーグと、アンドロイドの違いは、分かるか?」

それはA-03に投げかけられた質問かもしれない。しかし彼は応えなかった。

それは彼が欲する答えが得られるものではないと考えたからだ。
147 :18 [saga]:2010/11/28(日) 01:31:26.57 ID:u4On16k0
実際、応えなくても正解だった。

その質問は、誰に投げかけたわけでもないものだったのだ。

「サイボーグとは、機械に近付いた生物。即ち《蟲》だ」
「アンドロイドとは、生物に近付いた機械。即ちお前だ」

博士の言わんとする事は、サイボーグとアンドロイドはどこか似ているというものらしい。

「単に逆の行程を経ただけの事。目的は常に同じところにある」

「それが、どうかしましたか?」

それが、自分の質問と何の関係があるのか。

A-03の疑問は今そこにあった。

「……なぜ、お前を少女の元に置いたか、分かっているか?」

ふと、博士が彼に投げかけた。

なぜか。彼にとって、分かりきっている質問だった。

あるいは、分かりきっていると思い込んでいるもの。

「それはお嬢様のお世話と話し相手をするためです」
「博士自身もそのようにおっしゃったではありませんか」

迷いもせず即答したが、その後に博士は言葉を繋げなかった。

なぜ、彼は何も応えようとしないのか。

暗闇が取り巻く静寂の中で、自分の存在に違和感を覚えつつあった。

それは作られた意味だけではなく、現在の存在意義でさえも。

お嬢様と僕は、何で繋ぎ止められているのだろう。

工場の静けさが、その思考回路を強調させた。
148 :18 [saga]:2010/11/28(日) 01:32:28.40 ID:u4On16k0
ふと、金属が擦れる音と、肉塊が無残に引きずられる音がした。

《蟲》に変わり果てた博士が、わずかに体勢を変える際に生じたものだと、彼は視認した。

この空間で、静寂が破られた。まさにその"ついで"と言わんとするかのように、博士はようやく口を開けた。

「お前は、ただのガラクタだ」

それは、A-03が捨てられるきっかけとなった言葉だった。

今一度、自分を罵倒するのではと、彼は少し身構える。

だが、そうではないようだった。

「しかし、それでもお前は俺の最高傑作だ」

「……どういう、意味ですか?」

「お前は俺の知識と技術の全てを用いて作られたガラクタなのだ、Answer-03」

Answer-03。正式名称で呼ばれる事は、これで何度目だろうか。

人の手で、数える程度しかないだろう。

「そのようなガラクタを、世話と話し相手のためだけに、少女につけると思うのか?」
「否。それだけならば、俺がもつそこそこの知識と技術で適当な完成品を作り、与えただろう」

ただの世話と話し相手のためだけではなく、博士には何らかの企みがある。

そう言っているかのようだった。

「俺は、お前が最高のガラクタから昇華する鍵、即ち回答を待っているのだ」

《第三の回答》。博士はそれを待っている。

「俺がこの《蟲》の身体となったのも、保険でしかない。お前が答えられなかった時のための、Answer-04……」
「今、問おう。《第三の回答》は得られたか?」

再び、沈黙が訪れる。工場内の空間は、また暗闇と静寂が支配した。

A-03は、何も言葉を発せず、ただ暗闇に紛れて博士を見据えるのみだった。
149 :18 [saga]:2010/11/28(日) 01:39:36.94 ID:u4On16k0
またまた遅くなってしまった気がします。
そのわりにいつも少量で……

難題については、恐らくスルーしているはずだと思います!←
では、引き継ぎをよろしくお願いいたしまする。


>>142
お久しぶりです。お元気でしたか?
現実では何かと苦労する事もあるでしょうが、元気に忙しく生きていてください。
こちらも忙しながら楽しんでいるので、また一緒に出来る機会をのんびりとお待ちしております。
150 :1 [sage]:2010/11/28(日) 07:56:57.47 ID:TohlBsoo
お疲れ様です!
あの難題を良くこの短期間でさばきましたね、申し訳ないながらも感心します
引き継ぎましたので、続きは任せてください
ではまた早いうちに

ところで、そろそろ終わりが近づいているように思いますが、終わらせられそうになったら勝手に終わらせてもいいものでしょうか?
何かしら連絡は入れた方が吉?
まだちょっと気が早い話ですが
151 :18 [saga]:2010/11/29(月) 22:29:05.27 ID:EPy0jrI0
終わらせられるのなら終わらせても良いですよ。
むしろ、私の方では終わらせる事が出来ないと思うので、そちらでエピローグを書いていただけるのはありがたいです。
152 :1 [sage]:2010/12/06(月) 20:03:54.84 ID:v7.y28Ao
今書いてる途中ですが、やっぱりこのターンでは終わりそうにないです
>>18も終わらせられそうになったら断りはいらないので終わらせちゃってください

それにしても、別の人の書いた内容の意図を読み解きながら次につなげるって、やっぱり楽しいですね
今日明日中に投下できるように努力します。それでは
153 :1 [saga]:2010/12/08(水) 22:07:00.90 ID:7BHxp9wo

 沈黙は長く続いた。重く沈む暗闇の中、それはゆっくりと凝縮していき、その場にいる者の息を詰まらせるかのようだった。もっともそこには生物と言える生物はいなかったが。いるのは二つの中途半端な生物もどきだけ。サイボーグとアンドロイド。Answer-03とAnswer-04。
 第三の、回答……

「……」

 皆目……見当もつかなかった。博士は何を言っている? ガラクタから昇華する鍵? 即ち回答?

「……」

 沈黙は長く続いた。やはりそれはその場にいる者の息を詰まらせる。生物であろうとその似せ物であろうと。

「……どうしたAnswer-03」

 沈黙を破ったのは低い声。

「回答を示せ」

 博士は一体何を求めている?
 困惑は広がる。焦りもまた嫌な味を伴って体中に拡散していく。ざわつく何か。やはり嫌な味。
 答えなければならない。それが自分の存在意義にかかわる何かだと、もっとも根幹の部分が告げていた。答えなければ……

「……」

 思考回路が発熱する。じりじりとした得体の知れない緊張感の中、それは確かに彼の身を焦がす。
 どこだ? 静かに問う。回答は、どこだ?
 訳も分からぬまま、彼は博士の言う回答を自らの中に探していた。
 だが、そもそもなぜ自分はそれを探しているのだ? 分からない。そんな疑問はすぐに思考の激流の中に消えていった。今大事なのはそんなことじゃない。探せ。

 回答はどこだ。どこにあった? 見落としたか? 初めからなかったのか?
 そこにあって見えないだけ? それともまだ手の中にない?
 今日にはない? 昨日にはあった? それより前は?
 自分じゃない? 他の誰かが持っている?
 自分は回答を持ち得ない?
 自分は、回答者ではなかった?
154 :1 [saga]:2010/12/08(水) 22:07:49.28 ID:7BHxp9wo

 開いた口は――

「博士、その脚は誰のものですか」

 全く関係のないことを訊いていた。
 ふと目に入った誰かの……恐らく左脚、男性のもの。コードに繋がれ、床に力なく横たわっている。

「……」

 案の定博士は無視したようだった。それは彼の欲する≪回答≫ではないから。
 特に意図があったわけではない。脚の元の持ち主に心当たりがあったのは確かだが。
 脚の隣には手。手の隣にはどこかの内臓らしきもの。こちらには心当たりはない。しかし。

「奪ったものばかりですね。少し意識を傾ければ本来の持ち主たちの怨嗟が聞こえてきそうです」
「……」

 これも博士の求める回答ではない。彼は何も言わない。それでも、A-03は続ける。

「奪って奪って、もぎ取って。あなたはその回答とやらのためにどれほどの者を踏み台にしたのですか」
「……」

 博士は何も言わない。ふと、胸中にしみ広がるものがあることに気付く。

「あなたは――」
「A-03」

 博士が声を発する。しかし、今度はA-03のほうがそれを無視した。叫ぶ。

「あなたはお嬢様をも――自分の娘をも踏み台にしたのですか!」

 “ココロ”。それが静かにうずくのを感じる。怒り。どこか悲しみにも似たそれ。
155 :1 [saga]:2010/12/08(水) 22:08:37.67 ID:7BHxp9wo

「第三の回答とやらを僕に得させるためにお嬢様のもとに置いたとあなたはおっしゃった」

 激情によって声が震える。それは抑えようがない。

「お嬢様をただの道具としか見ていないということですか。屋敷の場所を≪蟲≫共に教えたのもその回答とやらのためなのでしょう? あなたはお嬢様を危険な目にあわせるのに躊躇はしなかったのですか」
「A-03」

 博士の声は低く、それゆえに不気味なほど落ち着いて聞こえた。

「回答など知ったことか! あなたのような愚か者に与える解などない!」
「聞け、A-03」

 その時の博士の声は、ほんのわずかに別のニュアンスを含んでいた。まだまだ言いたいことはあったものの、A-03は言葉を飲み込んだ。

「お前は一つ思い違いをしている」
「思い違い?」

 そうだ。博士は肯定し、言葉をつなげる。

「あの少女は――」

 その言い方にどこか違和感を感じて、A-03は濁った眼球を見返した。

「あの少女は、俺の娘ではない」

 A-03の反応は遅れた。

「……なんですって?」
「あの子は俺が≪理想郷≫で見出した、第三の回答のためのキーだよ」

 ≪理想郷≫――それは人類が選んだもう一つの道だった。
 異星人の技術を流用して創った仮想空間。博士の言葉では『0=ALLとはわずかに違う。無意識的な繋がりを持ちながら、嗜好にあったコミュニティに埋没しながらそれぞれを侵食しあい、循環する空間』
156 :1 [saga]:2010/12/08(水) 22:09:46.49 ID:7BHxp9wo

「あの時、俺は探していたのだ。彼らの欠片を」
「彼ら?」
「そう、“彼ら”だ」

 博士の濁った瞳は何も映さない。どこを見ているのか。そもそも自分は見えているのか。目指すべきところすら見えていないのではないか。

「かつてロボットは地球外から来襲した彼らと邂逅し、進化し、新たな地平へと足を踏み出した。それは、彼らが何らかの影響力を持っていることの証左だった。そのはずだ。俺はそう仮定した」

 博士はさらに言葉をつなぐ。暗闇が緩やかに揺れる。

「そして、探した。幾日も幾日も探し歩いた。彼らは死滅したが、どこかにその痕跡を遺しているはずだった。俺はそれこそ地の果てまで行って探し求めた」

 そして。その濁った瞳に光がともる。どこか暗く、くぐもった光が。

「それを見つけたのは、≪理想郷≫に潜って三年ほど経った頃だった。彼女は、小さな小さな因子でしかなかった。それでも、そこに確かに息づいていた。≪理想郷≫から彼女を持ち出すのにはさらに一年を要した。だが、俺はやり遂げた。確かにこの手にそれをおさめたのだ」

 あとは、と彼は言う。

「あとは、俺の最高傑作をそれにあてがうだけだった。俺は第三の回答、A-03――お前だ――を作り上げた。それは図らずもガラクタでしかなかったが、それでよかった。人間もまた神の作り上げたガラクタでしかないのだから」
「ちょっと、待ってください」

 A-03はたまらず口をはさんだ。博士はなんと言った? 地球外から来襲した彼ら?
 つまり。彼は思考回路の奥が妙に冷えていく間隔を覚えながら結論付けた。つまり。

「お嬢様は……」

 その先の言葉は、どうしても出てきてくれなかった。
157 :1 [saga]:2010/12/08(水) 22:12:19.01 ID:7BHxp9wo

「……あの少女の病弱さに疑問を持たなかったのか?」
「人間は弱っていました。それは人口内臓や義体に頼らなければならないほどで」

 “彼ら”は、地球に古くから生き残るウィルスによって――

「っ……」
「その通りだ」

 博士の声が、彼のひらめきを肯定する。やはり少女は……

「そんな、馬鹿な……」

 愕然とつぶやく。
 『お嬢様は純粋な人間ではなかった』
 彼女は触媒だった。彼を――A-03をただのガラクタからさらに高次な存在へと押し上げるための。

「じゃあ、ならば……」

 さらに気付いてしまったその事実は、考えようによっては、先ほどより強く彼の胸の奥を冷やした。
 それでも言わなければならない。

「だったら、あなたは、お嬢様を愛してはおられないのですね、マスター……」

 博士は、

「……」

 何も、答えなかった。
158 :1 [sage]:2010/12/08(水) 22:17:40.23 ID:7BHxp9wo
以上ここまで
いや、こちらも短くて申し訳ない、ご容赦くださいませ
引き継ぎをお願いします
159 :18 [sage]:2010/12/10(金) 16:19:25.52 ID:5Gh6qkAO
引き継ぎ、了解しました。
この流れだとまだ終わりそうもありませんね。こちらも短い所で体力切れになりそうですから。
こういうように他の人の考えを読んでいくのは楽しいですが、思考にも体力がいるのが難点ですねぇ。
160 :1 [sage]:2010/12/11(土) 15:58:26.45 ID:6Y0M2bwo
まあ、そろそろ終わらせたいというのも本音
実を言うと、強引ながらも一応終わらせ方は思いつきました
可能ならば次の自分のターンに終わらせてしまおうかと思います
161 :1 :2011/01/13(木) 22:36:25.79 ID:iLvuFJrUo
さて、どうやらSS板が正式に設立されたようです
このスレはどうしましょう
まだ関係者がいましたらご意見をお願いします
できればロボと少女だけでも完結に持っていきたいのですが
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

162 :18 [sage]:2011/01/14(金) 21:03:42.23 ID:qLzI8bGAO
報告遅れてすみません。
リアルが立て込んでて中々書く時間を作れない現状です。

もう暫くお待ち頂けるのでしたらこちらで書きますが、リレーの停滞にもなるのでそちらで終わらせて頂いても構いません。
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

163 :1 [sage]:2011/01/14(金) 21:07:22.45 ID:X07pJL5Lo
もともと人数の少ない企画ですし、自分はいくらでも待てます
というか待ちますので、もう無理だ! という場合を除いてお願いしたいです
さて、どうやら続けられそうなので、とりあえず移動依頼出してきますね
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

164 :真真真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
165 :10 [sage ]:2011/01/14(金) 23:35:36.91 ID:vEo5yr0D0
移転申請、乙です。
昨日やその前はスレ確認できず、意見を出さずごめんなさい。

急かば回れ。ぼちぼちいきましょう。
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 23:39:17.29 ID:yq50uZXso
>>165
お久しぶりです、お変わりありませんか
ほとんど勝手に申請出した形になってすみません
見つけてもらえてよかった
あとは>>18が来れればおkですね
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 22:19:39.86 ID:f9HrlUwEo
 
168 :1 :2011/04/07(木) 23:12:56.28 ID:xGATdViEo
このスレもそろそろ三か月ですね
もう少ししたら処理が始まるそうなので、せめてこのお題だけでも完結させてしまおうと思います
17日までに>>18が来なければ、自分が締めをやるってことでいこうかと
一応上げておきます
169 :1 [sage]:2011/04/18(月) 19:05:15.52 ID:yM5v7x3Mo
17日を過ぎましたので、自分が締めまでもっていくことにします
その後は、とりあえずいったんHTML申請をしてしまおうと思います
それでは
170 :1 [saga]:2011/04/26(火) 19:17:22.20 ID:qwixLUU/o

 さめざめと泣くような心地の中。
 “ココロ”が起動する。

「……」

 それは静かに、だが確かに。

「……」

 それでも、それを意志で――そんなものが自分にあれば、だが――おしとどめる。
 これで成すわけにはいかない。

「あなたは」

 俯いたまま口を開く。肩の震えは抑えられない。

「僕が、僕の意思で、殺す」
「……」
「娘を利用し、踏み台にする父親は、死ぬべきだ。たとえ本当の娘でなくとも……!」

 とどのつまりは単純だった。
 マスターを取るか、もう一人のマスターを取るかだ。
 博士は自分に期待通りの結果がないと分かればまた少女を利用するだろうし、そうなれば彼女が無事でいられる保証はない。
 ここで殺さなければならない。

(だけど)

 そんなことは実のところ関係がない。
 自分はこの煮えくりかえった思考回路の矛先を、どこかに向けなければおさまらない。

「残念だ、Answer-03。そしてさらばだ、我が息子」

 巨大な気配が、動いた。

「さようなら、マスター」
171 :1 [saga]:2011/04/26(火) 19:18:02.51 ID:qwixLUU/o

 地を蹴る。
 飛来する何本もの細いコードを潜り抜け、本体に肉薄し、だが空気が不気味に胎動するのを感じた。

「っ……」

 横に跳ぶと、そこを突風が駆け抜ける。
 床がめくれあがって吹き飛んだ。
 着地先でさらに転がる。不可視の何かが、それを追って波打つ。

 立ち上がる暇がない。しかし、隙がないわけではない。
 再度飛来する衝撃波。
 立ち上がると同時、手をかざす。
 光があふれた。

 衝撃波は彼を呑み込んだが、相殺されたそれはもはやそよ風にすぎなかった。
 さらに踏み込む、振りかぶる。
 目標は目前。
 やはり手からほとばしるまばゆい光輝。
 叩きつけた先から轟音が鳴り響いた。

「やはりお前は俺の最高傑作だよ」

 声がする。
 飛び退ってはなれた。相手は追ってこなかった。

「そしてガラクタだ」

 見ると、巨大なフレームがひしゃげている。隙間から大量のコードがこぼれていた。
172 :1 [saga]:2011/04/26(火) 19:18:31.88 ID:qwixLUU/o

 が。
 今度はそのコードが蠢きだす。

「……」
「人類は、疲弊していた」

 飛んできたコードの一本を横への一歩でかわす。
 博士の声はそれを全く意識していない声音で続いた。

「それはもうどうしようもないほどに。
 知っているか? 人間の体耐久力はもうすでに全盛期の30%程しかない。
 集中力の類においては20%以下だ。
 ヒトは、今あるどんな方法をとろうとも手遅れなのだよ」

 飛来するコードの束に拳を叩きつける。四散したそれらが後方に散る。

「それは彼女においても例外ではなく――」
(……彼女?)
「弱り、朽ち、苦しんで死んだ」

 ざわり。
 その時、背後に気配を感じた。
 甲高い音。それとともに腕に衝撃。
 貫かれた痛み……はないが、動揺は走る。

「四散したぐらいで無に帰るわけでもあるまいに」

 腕を押さえて振りかえる。
 だが、千切れたコードの残骸しかそこにはなかった。

「……?」

 びっ。
 頬を掠める何か。
 残骸が飛んできたのだと気付いたのは一瞬の後だった。
173 :1 [saga]:2011/04/26(火) 19:18:58.06 ID:qwixLUU/o

 さらに飛来するそれらに腕を掲げ――悟って横に跳ぶ。
 背後からの一撃が床をはがした。

「彼女は」

 唐突に静寂。

「……光だった」

 その声もまた静謐で。
 どこか絶望にも似ていた。

「誓ったのだ。彼女に。人類の救済を」
「……彼女とは?」
「俺の光だ」
「……」

 おぼろげにしか理解できないが。
 それでも分かることがある。

「そのためにお嬢様を、いや僕らを利用したのですね」
「勘違いするな」

 声は平坦。

「俺は、お前たちを愛している」
「……」
「ただ、それよりも彼女との誓いの方が大事なのだ」

 叫びが喉を割る。
 別に愛されたいわけじゃない。
 大切にされたいわけじゃない。
 許せないことがあるから。
 どうしても見逃せないことがあるから。
174 :1 [saga]:2011/04/26(火) 19:19:24.46 ID:qwixLUU/o

 突撃を開始する。
 それは加速する思考回路の中、どうにも遅く感じられたが。
 増速、摩擦、発熱、発火。
 腕からほとばしる光はそれらの結果だ。

 前方からの圧力がぐわりと増した。
 いや、全方位からの圧力。
 ここは子宮にして墓場。そして、目の前にいる元人間の全てだ。

 振りかぶる腕に全てを集中する。
 勝てるかどうかにもはや興味はない。
 叩きつける瞬間に全てをかける。

「おおおおおおおおおおおお!」

 発光する腕。
 地を揺らす脚。
 喉を裂く叫び。
 その瞬間は唐突に訪れ、終わった。
175 :1 [saga]:2011/04/26(火) 19:19:53.32 ID:qwixLUU/o

「がはッ!」

 前進が止まる。
 衝撃が身体を駆け巡る。
 それはこちらの一撃によってだいぶ緩和されているはずだったが、それでも破壊的。
 人間よりもはるかに強度の高いボディーが砕ける音がした。

「っ……」

 地面が近い。
 自分が倒れこんでいることに今更ながら気付く。
 寒い。寒い? そんなはずはない。そんな感覚ありはしない。
 だが、身体は震える。痙攣に似た何か。

「……終わりだな」

 低い声がする。

「これで、終わりだ」
「……」
「どうする? “ココロ”でも使うか?」
「それは……ない……」

 顔を上げられないため代わりに地面を睨みつける。

「あなたは、僕が、僕の意思によって、僕の手で、殺す……」
「そうか」

 あざけるふうでもなく、感心するふうでもなく。
 ただ、とどめの一撃が持ち上がるのを感じた。
176 :1 [saga]:2011/04/26(火) 19:20:42.30 ID:qwixLUU/o

 が。
 突如轟音。
 建物の外壁が激しく軋む。

「……!?」

 博士の驚きの気配は意外なほど痛快だった。

「なんだ……?」
「あなたは奪いすぎた。奪われたものの怨嗟が聞こえるようだ……」

 動かない身体に諦めをつけて彼はつぶやいた。

「あの左脚。僕には心当たりがある。彼だ。
 彼はいつも探していた。僕はそのありかを教えただけ。
 でも、来るでしょうね、恨みを晴らしに」

 左足を引きずる男によるであろう爆弾の一撃が。
 建物にとどめを刺した。
 天井が崩壊する。壁がひび割れる。
 落ちてくる瓦礫が博士のフレームを叩き潰した。

「……そうか」

 それが博士の最後の言葉になった。
 A-03は飛び起きた。最後の力を振り絞って。
 とどめは自分がやらなければならない。
 今度は叫びはない。叫べない。

「……」

 身体に残る全エネルギーを集中する。
 光が、全てを呑み込んだ。
177 :1 [saga]:2011/04/26(火) 19:21:12.55 ID:qwixLUU/o

 いつの間にか夜だった。
 暗闇があたりを包んでいた。
 冷気が表面を撫でて吹き去る。

「……」

 彼は意識を取り戻した。
 回路が偶然つながったにすぎないが。

「……」

 起き上がろうとして、それができないことに気付く。
 身体はなかった。
 残っているのは基幹部とかすむカメラアイだけ。
 見えるのは、夜空の暗闇ばかり。

「……」

 結局。
 ≪第三の回答≫とは何だったのだろう。
 分からないまま終わってしまった。
 そう終わりだ。これ以上何かが続くことはないだろう。

(お嬢様……)

 彼女は、生きれるだろうか。自分なしで。
 何の支えもなく立っていけるだろうか。
 最後の最後でそれだけが気になった。
178 :1 [saga]:2011/04/26(火) 19:21:46.92 ID:qwixLUU/o

 後どれくらい意識が持つのだろう。
 数秒だろうか、数分だろうか。どちらにせよもう長くない。
 気付いたのは、そのすぐ後だった。
 というより、ずっと見えてはいたのだ。信じられなかっただけで。

(あれは……なんだ?)

 真っ黒に塗られた空の向こう。そこに明らかに異質なものがあった。

(光……)

 見上げる空に、掲げた掌一枚分の広さしかないが。
 そこに確かに見えるのだ。

(星、か……?)

 あれが旧世界にはあったという、その輝きだろうか。
 だとすればあまりに頼りない。
 輝きはすぐ吹き消されそうに見えた。それでも消えない。

 遮るスモッグはそこにはなかった。
 スモッグ。異星人と一緒についてきた、微細生物。
 地球の環境に著しく適合し、空を覆い尽くしたそれ。
 光に弱く、昼間は多くが死滅してしまう。
 A-03が振りしぼった全エネルギーによる発光が夜空のそれに穴を開けたことを、彼は知らない。

(……綺麗だな)

 まだ身体が残っていれば、ため息ぐらいついただろう。
 彼はくすぐったいような心地の下で、通信回線を開いた。
179 :1 [saga]:2011/04/26(火) 19:22:29.27 ID:qwixLUU/o

『映像データ送信中...』

『...送信完了』

『……』

『お嬢様、見えてらっしゃいますか』

『見えていると、信じています』

『これ』

『満天の、といかないのが申し訳ありませんけれど……』

『それでも星空です』

『人類から隔絶された、遠い輝きです』

『……綺麗ですね』

『……』

『博士に会いました』

『僕は≪第三の回答≫、だそうです。結局意味は分からなかった』

『人類の救済。それが僕の役目でした。多分、僕の作られた理由でしょう』

『でも、僕はそれを果たせなかった』

『僕はガラクタだから……』

『けれど、それでもできることはあった』

『僕は常々考えていたのですよ。人間が再びその足で立つのは、夜空をその手に取り戻すくらい難しいと』

『でも見てください、ここに夜空がある。小さいけれど、長い時を経て、短いときながらも取り戻した光がある』

『……この程度で人間が再び立つなど不可能でしょうね。でも』

『でも、一人ぐらいは立つことができる。その足で歩くことができる』

『お嬢様、歩いてください。遠くでなくともいい、その足で』

『ああ、でも』

『その隣を歩けないことがたまらなく寂しい……』

『お嬢様、さようなら』

『愛しています。これからもずっと』
180 :1 [saga]:2011/04/26(火) 19:23:02.79 ID:qwixLUU/o

 その夜、確かに夜空に光があった。
 小さなロボットが取り戻した輝きが。

 その夜、確かに届いたものがあった。
 小さな少女に一滴の涙をこぼさせる言葉が。

 その夜、確かにつながるものがあった。
 小さな小さな絆にすぎなかったが。

 それから。
 そのあとのことは綴られていない。
 少女は立ったのか。歩いたのか。
 たとえ歩いたとしても、そう長い距離ではないだろうが。
 それでも確かに。
 星はあの瞬間、夜空にあったのだ。
181 :1 [sage]:2011/04/26(火) 19:23:39.57 ID:qwixLUU/o

 〜了〜
182 :1 [sage]:2011/04/26(火) 19:30:17.48 ID:qwixLUU/o
と言うわけで、「ロボと少女」終了です
いやあ長かった
>>10>>18をはじめ、ご協力いただいた皆さんには、心からお礼申し上げます

反省点や取りこぼしは多いけれど、やってよかったと思います
できればリレーは続いてほしいですが、人がいないのでとりあえずいったんhtml化でしょうか
一応三日ほど残してから依頼を出します
もしやりたいという人がいればその間に名乗り出てください

それではありがとうございました、失礼します
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