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学園都市第二世代物語 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 21:03:03.84 ID:T9C4vLc0
初めて投稿致します。
皆様どうぞ宜しくお願い申し上げます。

*地の文あり、小説形式?というのでしょうか。
*基本的に主人公が語る方式ですが、場面によっては他の人の視点や、第三者
 視点で書かざるを得なかった部分があります。
*基本メンバーは科学サイドのみ、魔術サイドの人々は出ません。
*書いてみてわかりましたが、男性キャラが全く足りませんのでオリキャラで
 補充せざるを得ません。ご了承下さい。
*一応完結させたのですが、全ての伏線は回収できませんでしたし、種明かし
 をしたに過ぎない状態になっています。
 続きをどういう形にするか、まだ決まっておりませんが、まずは投稿して
 みようということでやってみました。

どうぞ宜しくお願い申し上げます。
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小テスト @ 2024/03/28(木) 19:48:27.38 ID:ptMrOEVy0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/zikken/1711622906/

満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1711617334/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1711590867/

旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711498027/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459578/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:25:33.60 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459533/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:23:40.62 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459420/

2 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 21:06:03.52 ID:T9C4vLc0
「行ってきま〜す!」

「気を付けて行ってらっしゃい、利子」

どこにでもある、朝の風景。

あたしは佐天利子(さてん としこ)、中学2年生。東京のとある中学に通っている。

今日は珍しく母が見送ってくれた。というのは、母は学者で、ざっと月の半分はどこかに
出張してしまい家にいないからだ。

母の名前は佐天涙子(さてん るいこ)という。その筋ではかなり有名で、日本のみなら
ず海外にも知られており、年に数回は海外出張もある。

昔、小さい頃は母に連れられて一緒に講演に行った事もあったらしい。

らしいというのは、記憶がうろ覚えだからだ。

でも、小学生になった頃からあたしは知り合いに預けられるようになり、母は一人で出張
するようになった。

もちろん最初は、あたしは泣きわめき、床に転がり、うずくまって最大限に抵抗したが、
その日の母は強かった。

「お母さんの言う事が聞けないような子は、私の子じゃないよ!」

「そんなにいやなら、どこにでも行きなさい!」

こども心にも、本当に捨てられるかもしれない、という恐怖心がわきあがるくらい、その
ときの母はとても怖い顔をしていた事を覚えている。

あたしは恐ろしくなり、そして諦め、せめてもの抵抗として「なら早く帰ってきて」と泣
いたのだった。

3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/11/07(日) 21:10:27.03 ID:07s1lJk0
佐天さんの夫が誰か、それが問題だよな……
期待する
4 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 21:12:09.26 ID:T9C4vLc0

――――― 父はいない ――――

小さい頃は「遠いところにいるのよ」と言われ、小学校に上がったときに「あなたのお父様は、
あなたが生まれてまもなく事故で亡くなったの。とても立派な人だったわ」と教えられたのだ。

(そうか、あたしのおとうさんはいないんだ)とその時理解した。よそのうちにはおとうさん
がいるのに、どうしてうちにはいないんだろう?とずっと不思議だったのだけれど。

でも、直ぐに(おかしいな)と思うようになった。なぜなら、わが家には、父と母の結婚式の
写真がないのだ。

ある時、小学校に入って間もない頃、友達の家に遊びに行ったとき、「見て見て、あたしの
うちのアルバムなんだけど〜♪」

と彼女の家のメモリアルアルバムを見せられたのだった。

あたしは初めて世の中にはそういうものがある事を知った。

あたしは自分の家に帰り、出張から戻っていた母に「あたし、パパとママの結婚式の写真見た
いな」と無邪気に聞いてみた。

すると、いつもならどんなにくたびれて帰ってきたときでもニッコリとほほえんでくれる母が
一瞬青ざめたのだった。

それは、こども心にも(え?まずいこと聞いちゃったかな?)と思わせるに十分だった。

でも、直ぐに母はにっこりと、でもどこかいつもと違うほほえみであたしにそっと答えてくれ
たのだ。

「ごめんね、としちゃん。写真、撮ってないの。もう少し大きくなったらちゃんと答えてあげ
るから」

(大きくなったら、っていくつになったら教えてくれるの?)………………と、もう一度聞こ
うとおそるおそる母の顔を見上げると、

そこには「お願い、聞かないで」と書いてあった。

(聞いちゃいけない事を聞いたんだ)と感じていたあたしは、気まずい空気を吹き飛ばすように

「ママ、おなか減ったよ〜、今日のごはんは(なに)?」と大声を上げ、母は「はいはい、

今日はカレーライスよ」とホッとしたように答えてくれたことをあたしは今でもはっきりと

覚えている。
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/07(日) 21:18:39.89 ID:QWFG/EAO
支援C 神スレの予感

なんか俺と境遇が一緒で…orz
6 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 21:19:57.40 ID:T9C4vLc0
学校はちょうど2学期の期末テストが終わったところ。自分の進路を絞りこまねばならない時
が来ていた。

自分はどちらかというと、理系は苦手で、文系に進みたいと思っている。母はあたしを医者に
したいようなのだけれど、そもそもあたしは血を見るのが嫌いなので、かなり早いうちから母には「医者にはなりたくないの」と話していた。

母は「まぁ、あなたの人生だから」と鷹揚に構えていたけれど……
7 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 21:23:45.67 ID:T9C4vLc0
「リコちゃーん!! 待ってよー! 一緒に帰ろ!」

マコちゃんだ。いつも元気なあたしの大親友。

ちなみにあたしはみんなから”リコ”と呼ばれているのだ。

「ちょっと待った! ハイ、さっさとコレ触る!」あたしはとあるキーホルダーを取り出し、彼女の前に突き出す。

「アンタも神経質ねー、大丈夫だってばさー」とふくれっつらをしながらもマコはそのキー
ホルダーを左手で触る。彼女は左利きなのだ。

        ――― ピカッ ―――

静電気防止キーホルダーはその瞬間輝き、彼女が手を離した後もしばらくLEDライトは
光を放っていた。

「ほ〜ら見なさいよ、しっかり光ってるじゃない。どこが大丈夫だって? ビリビリは勘弁
してよねー、全く。アンタ、まさか毛糸のセーターでも着て来たんじゃないの?」

と突っ込むと、

「そ、そ、そんなの着てないわよっ!」とマコが真っ赤になって言い返してくる。

「ほうほう、じゃぁもしかして?」とあたしは………

        ――― ファサァーッ ――― 

マコのスカートをまくり上げたのだった。

「あれ? 只の・・・ってゲコ太? ……って何よ、何なのぉ?? わー懐かしいわぁ!!」

一瞬、マコは呆然と立ちすくみ、

次に顔を真っ青にして

それから真っ赤になり

「リリリリリ、リコぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」と叫ぶや否や、あたしに飛びかかってきた。

もちろん対策は打ってある。あたしは、飛び込んできた彼女を抱え込む形を取り、鎖を長く
垂らしたキーホルダーを彼女のアタマにガシッと当ててやる。あたしの編み出した安全対策だ。

「かわいいねぇ、リコ!」

「ふにゃ〜」あっけなく彼女は崩れ落ちてしまった。
8 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 21:28:46.08 ID:T9C4vLc0

「まったく、只でさえマコは静電気貯め込みやすいんだから……もう冬なんだし自分でも
ちゃんと対策しなさいよ」

「だ、だからって、なななんでスカートまくるわけぇ?」うるうるしながらマコが見上げ
てくる。

か、かわいい。ものすごく可愛い。この姿が見たくて実はやっている、ということは絶対
にナイショだ。

「そりゃー、静電気が貯まってる、ということはマコが毛糸のセーターを着ているか、
さもなければ毛糸のパンツを履いているしかないでしょー? 

来年には3年生になろうという乙女が毛糸のパンツはマズイでしょ?

でさ、ゲコ太っていつの時代のキャラパン履いてるのよ??」

「そ、そんなもの履いてるわけないでしょー!! だいたい校庭の真ん中で言うことじゃ
ないわよ! は、恥ずかしいでしょっ!!」

あ、そうだったっけと、顔を上げ廻りを見ると……

「いやぁ眼福眼福」
「マンガのパンツw」
「中学でスカートめくりかよw」
「なんで女の子同士で……?」


――― やばい、ひじょーにやばい ――― 


「し、失礼しましたーっ! マコ、帰るわよーっ!!」右手で彼女の左手をひっつかみ、
脱兎の如くあたしはマコと共に校門を飛び出した。
9 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 21:34:06.32 ID:T9C4vLc0
「酷いよー、リコったらぁ………」

「いやぁ、あんなに人が集まってるなんて思ってもみなかったんでねぇ、ごめんね、マコ」

あたしたちは家に向かって帰って行く。あたしたち二人の家は実は凄く近いのだ。

「うう、あたし、もうお嫁に行けない」

「そりゃまた大変だねぇ」

「誰のせいなのよ?」

「まさか……あたし?」

「他に誰がいるのよ」

ちと派手にやりすぎたのだろうか。さすがに少し反省する。

「かくなる上は……、やっぱり学園都市の高校に行くしかないかも……」

「なんで話がそうなるかなー ……はぁ」

来年は3年生。そう、受験の年になる。今まではずっと先だと思っていた「高校受験」が
なんとなく見えてきた気がするこの頃。

でも、あたしたちの「来年の受験」の話はちょっと違っているのだった。

「あたしのパパもママも学園都市出身じゃない、やっぱり行ってみたいもん」

「あたしはダメ。行けない」

「前もそう言ってたよね。なんで? リコのお母さんだって同じでしょ?」

「うーん、そうなんだけど……。母さんは絶対反対全否定、だからねー。自分はしょっちゅう
行ってるのにさぁ。ずるいよね。

まぁマコはさ、能力の片鱗が見えるじゃない。もちろんご両親とも”あの ”学園都市でスゴイ
しさー?
 
だから行った方がいいんじゃないかな。あたしは、母さん同様何もないからね。母さん、凄く
大変だったっていうのよ。

いじめられたってよく言ってた。無能力者が行くところじゃないって」

それでも、いじめを見返すために母は勉強で頑張った……らしい。あたしとは大違いだ。

「えー、リコが行かないんなら、あたしも行くのやだなぁ」

「なんであたしが行く行かないで、マコが悩むのよ?」

「だって、「あら、二人とも今帰り?」 ママ!?」
10 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 21:40:00.33 ID:T9C4vLc0

交差点を渡ってやってきたのは、マコのお母さんだった。久しぶりだ。1年ぶり……だろうか?

相変わらす綺麗な人。マコも全体的には似ている。でも髪がマコは黒髪でおばさんは栗色。

マコはお父さんに似たのだろうか?

あたしは……父さんを知らないから似ているのかわからない。はー、いやな事を思い出して
しまった。おっと挨拶しなきゃ。

「こんにちは、おばさん。母がいつもお世話になってまーす」

「まぁ、ちょっと見ないウチに大きくなって。元気そうだわね」

「母も珍しく家にいますよ。よかったら寄っていきませんか?」

「あら、ほんと? あ、でも私もこれからウチに帰るところなの。私も久しぶりだからまずは
お義母様に挨拶しないと、ね?」

「ママ、今度はいつまでいるの?」ちょっと引いていたマコが心配そうな顔でお母さんの顔を
見ている。

あたし、おじゃま虫かも。少し歩くタイミングを遅らせてみた。
11 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 21:41:57.73 ID:T9C4vLc0

「ごめんね。今回は3日だけ。そんなことより、勉強は進んでるの? 試験は出来た? 来年は高校受験なのよ?

 まぁアタシの娘だから大丈夫だとは思うけど、アイツの血も入ってるわけだから……」

「はいはい、ノロケ話のフラグ立ちました〜w」

「なっ、なにを親をからかってるのよっ!」

どう見てもあたしは邪魔だ。親子水入らずだよね。ここはいったん引こう。

「それじゃぁ、私はここで。母におばさんが戻ってきてることは伝えてもいいですか?」

「あら、利子さん、随分他人行儀になったわね? 昔は…いやそんなことよりお母様いらっしゃる
のね。

だったら、佐天さん、じゃなかった、あなたのお母さまには私が直接電話するわ。

明日は土曜日だし、ウチでお昼にパーティやりましょって、どうかな?」

「わーい、パーティだぁ! ごちそうだぁ!」

マコがはしゃぎまわる。さっきの悪夢はもうすっかり忘れてくれたらしい。切り替えが早いのも
彼女の良いところだ。

「こらっ! もう子供じゃあるまいし、道の真ん中で跳ね回るんじゃないっ!!」

いいなぁ、こういう親子ってのも……

「じゃぁ、リコ〜、明日またね〜 待ってるよ! ♪♪」

「利子さん、あなたからもお母様によろしくってね。明日はとっても良い日になりそうだわ」

「はい! こちらこそ宜しくお願いします!!」あたしは深々と二人にお辞儀をして別れた。



………… かくして、明日、パーティが急遽行われる事になった。

ウチの隣の隣、上条家(かみじょうけ)で。
12 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 21:51:01.77 ID:T9C4vLc0

「え、こっちにいらしてるんですか? ………… 明日のお昼ですか? ハイ、もちろんOK
ですとも! 

この佐天涙子、命に代えても!」

いつもはむつかしい事を考えている母も、昨日家に帰るとものすごくゴキゲンだった。

ここ最近見た事がないくらいのハイテンションぶりだった。あんな楽しそうに電話している姿
はいつ以来だろうか?



そして今は日が変わってその土曜日の朝10時過ぎ。

「うかつなもの持っていけないしなぁ……とりあえずお花は持っていこうか……

みんなでつまめるものは? と…… それよりか、いっそお肉と野菜持っていって、ちゃちゃっ
と借りてやっちゃおうか……」

あれこれ悩んでいるようだけど、とっても楽しそう。

「あ、利子、そのお花と、ウーロン茶とオレンジジュースの袋持っていって。アタシちょっと
電話してみるから」

「はーい」

そこへピロピロと電話がかかって来た。マコからだ。

「おはよー、リコ。いつ来る? 出来ればさー、直ぐ来て欲しいんだけどさー」

「なに? どうしたん??」

「ママよ、ママ。ちょっとテンパっちゃって……」

「母さーん、おばちゃんテンパってるみたいよー」

「ほーぉ? この佐天さんにおまかせあれ!っていっといて。さぁ行くわよ! 佐天一家のお通りだぁーっ!」

……なんなのかしら、このテンション。あたしら一家っていったって二人だし。まぁいいか、ふふ♪
13 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 21:54:38.39 ID:T9C4vLc0

なんせ隣の隣なので、あたしたち親娘は直ぐに現場に到着した。

上条家。あたしの第2のふるさと、と言ったら大げさかな。

「お待ちしてましたっ!」と門を開けるマコの顔は、救世主を迎えるかのように輝いていた。

「お久しぶりです、佐天おばちゃん!」

「ホント、こちらこそご無沙汰。おととい帰ってきたんだけど挨拶できなくてごめんなさいね。
いろいろあって。

(しげしげとマコの顔を見て)いつも利子の面倒見て頂いてありがとうね、マコちゃん。
でもホントお母さんに似てきたわね」

「いえいえ、そんなぁ/// ……。 リコちゃんだって…………そ、そっくりですよぉ!」

……本当にマコは正直。あたしと母さんは実は全然似ていないのだ。女の子は父親に、男の子は
母親に似る、と言うけどあたしはきっと父親に似たんだろう。

……どんな顔だか知らないんだけど、あたしに似てたんだろうな。

「で、そんなことよりどうしちゃったの? 何があったの?」

「そ、そうでしたっ! ととととにかく、現場の方へ! こ、こっちですっ!」

おいおい、マコ。アンタまでテンパってどうするんだい?って…………おーい、なんじゃこりゃ??




綺麗に飾り付けられていた「らしい」ダイニングルーム。

         
             そこには。


ぐちゃぐちゃになっている食器と料理、それになんか焦げくさい。


 「ふにゃ〜」

その中に呆然と座り込む―――― 上条美琴(かみじょう みこと)―――(マコの母)と、

「あらあら、まぁどうしましょう、ちょっと美琴さん、どうしちゃったの?」

あまりの事におろおろする―――― 上条詩菜(かみじょう しいな)――― (美琴の義母/マコの祖母)

「ちょっと、ママったらぁ、なんで電撃しちゃうのよー! しっかりしてよ、もう!」

と美琴をピタピタと叩くマコ―――― 上条麻琴(かみじょう まこと)―――― がいた。
14 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 22:03:56.76 ID:T9C4vLc0

「いやぁー、安心しましたよ、御坂さ…もとい、上条さんらしいなって、変わってないなーって♪
あはははははっ!」 

母がとても快活に笑っている。

むすー、としていた美琴おばさんは母の笑いに釣られかけて、とっても変な顔になっていた。

「ちょおっとー、そんなに笑う事ないでしょー? そ、そりゃぁさぁ、ちょっとお粗末だったけどさ……」

「いやいや、ご謙遜を。十分お粗末ですよー、これ」


――― あたしたちが受けた説明によれば ―――

料理を並べ始めた時に、壁のすみっこからついーっと滑るように「ボク呼びました?」と物体Gが高速で
足下に接近するのを捉えた美琴おばさんは、反射的に「ぎゃぁーっ」と叫びバランスを崩した後に電撃が
暴発し、TVのギャグそのままに部屋の中のものを吹き飛ばしたらしい。

ご丁寧に最後は金たらいが壊れた天井から落ち、おばさんのアタマを直撃……ということは幸いなかったという。

「あらあら、わたしそれ好きなのよー、今度是非お願いね♪」と詩菜大おばさまが発言して、美琴おばさんが

「お、お義母さま……」

と落ち込む嫁姑コントが、収まりかかった母をまた笑わせた。

「利子、マコちゃん、あんたたちは部屋をちゃっちゃっと掃除しちゃって。アタシその間に料理やっちゃうから」

と、いきなり腕まくりをした母はどこから出したのかエプロンをさっと着て、キッチンにずいっと入り込み、

持ち込んだ材料をそこへ並べるや否や「ふんふんふーん」と鼻歌を歌いながら、あっという間に3品の料理を

作り上げた。やっぱりスゴイ。

「あらあら、佐天さん、すごいわぁ。やっぱり貴女のそのお料理テク、とっても役にたつわねぇ?」と無邪気に

母を褒める詩菜大おばさまのむこうで「ちょっ、そ、それ、お義母さま、きついですわ」と美琴おばさんがまた
落ち込む。

うーむ、こうして見ていると、麻琴のところ、ちゃんと嫁姑の戦いがあるんだな………。
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/07(日) 22:04:38.71 ID:CeGoJqQo
齢77になる俺の婆さんも、名を利子と言ってだな
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/07(日) 22:08:31.77 ID:ZduK2sAo
>>15
まさか俺達は第五世代?
17 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 22:14:22.36 ID:T9C4vLc0

なんやかんやでお昼もまわった頃。

涙「それじゃぁ、かんぱーい!」
美「かんぱーい」
詩「はいはい、かんぱいね、おほほほ」
麻「いっただきまーす!」
利「いただきまーす!」

ということで、ようやく上条家でのホームパーティが始まったのだった。

「もう、ママったら、どうしてジャマー外しちゃったのよ!ダメじゃないの〜」 

麻琴が文句を言っている。

(おいおい寝た子を起こすか、いや寝ようとしていた母を起こす、かね)とあたしは心の中で
つっこんでみる。

――― 美琴おばさんは、実はただ者ではない。あたしたち親娘からすると別世界のひと、と
言っても良い。

いわゆる「超能力者」の一人なのだ。私と同じ年の頃、既におばさんはあの学園都市で
「超電磁砲<レールガン>」というちょっと物騒な、しかしまさしくドンピシャの
「利子さん、どうかしたかしら?」

(おっと、美琴おばさまのいきなりの攻撃! 読心術か?? 多重能力者に進化したのかっ?)

脳内で絶賛つっこみ中だったわたしは、「は、はいっ??」不意打ちに声がうわずってしまった。

「んー、何かあたしに言いたそうな顔してたからさ」 

「ママ、話をはぐらかさないの!」 ナイスフォローだよ、マコ。さすがあたしの妹分。
 
麻琴が指摘した「ジャマー」、正式には「AIMジャマー」とか言うらしい。超能力を押さえ

込む、文字通り「邪魔」をする機械で学園都市以外では能力を使う事が厳しく禁じられている事

から常時着用しているのだそうだ。

昔はそれこそトラックにでも積まなければならなかったくらい巨大なものだったそうだが、今では

非常に小型化されて普段着用していても差し障りがないくらいになっているらしい。

で、料理に奮闘していた美琴おばさんは、装着していた腕輪、すなわちAIMジャマーを外して、

おばさまの十八番のひとつセルフIHクッキングに取りかかったのだそうだ。キャンプで無敵の能力

だよねぇ、といつも感心している力だ。

そして何もなければ良かったのだが……って、これ、違反なんじゃないの?
18 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 22:19:34.65 ID:T9C4vLc0

「あらあら、そう言えば利子ちゃんもウチ来るの、ちょっと久しぶりじゃないのかな?」

今日はゴキゲンな詩菜大おばさまがにこにこしながらあたしに話を振ってくる。

(あのう、わずか2日ですけれど……?)と、大おばさまに脳内で軽くツッコミを入れておいて、

「そう「すみません、おばさま、本当にご迷惑ばかりおかけしてしまって。

この佐天涙子、ほんとーに感謝致しておりますっ!」」

と私が返事をしようとした途中に母が割り込み、へへーっと平伏する。

「あらあら、いいのよ、止めてちょうだい。私はね、本当に良い子に恵まれて、私の方こそお礼
言わなくちゃ。

ウチは男の子だったでしょ? それで当麻が学園都市に行った後は、本当に寂しかったのよ。

刀夜はろくすっぽ家にいないし。

でも、あの子が美琴さんと結婚して麻琴が生まれて、ウチで預かる事になった時は、ああ、

ようやく私にも女の子が出来たわぁってホント嬉しかったのよ。さぁこれから……」と遠い目を
して頬に手を当てて昔に思いをはせている大おばさま。

ふと美琴おばさんの方を見てみると、おばさんは少しプルプルふるえて……え? まさか? 

「ええ、ええ、どうせ私はろくに子供の面倒も見れない嫁失格、母親失格人間ですよ……」

ぶつぶつつぶやいてる。美琴おばさま、暗黒面に入りかけてる。まずいです、これは。

麻琴は既に警戒信号(黄色のパトランプ)を出してるし。今はちゃんとジャマー付いてる、よね?

大おばさまは気が付かないのか、話を続けてる。これはちょっとあたしが割り込んだ方がいいかもね。

「詩菜おばちゃん、育ててくれてありがとうね。あたし、おばちゃん大好きだよ」

「あらあら、どうしたの今日は。でも嬉しいわ、そう言ってくれると。うふふ、おばちゃんもね、

としこちゃんが大好きよ。本当によかったわ、あなたがウチに来てくれて」

そう、詩菜大おばさまは、あたしの育ての親、というのは言い過ぎかもしれないけれど、それに近い
存在なのだ。

正確にいえば、麻琴もまた……。
19 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 22:22:46.45 ID:T9C4vLc0



ちなみに、話に出てきた”刀夜 ”というのは、上条 刀夜(かみじょう とうや)さんで、

詩菜大おばさまのご主人、美琴おばさんのお義父さん、麻琴のおじいちゃんにあたるひと。

あたしもたまに顔を合わせるのだけれど、すごく格好いい。若い頃はもてたそうだ。

詩菜大おばさまもその点では結構苦労したらしい。ただ、この話を出す事は自殺行為なので、

今回もあえて触れない。

せっかくのパーティがお通夜になってしまう。華麗にスルーが鉄則なのだ。

20 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 22:30:28.35 ID:T9C4vLc0
入籍する前に亡くなってしまったあたしの父。シングルマザーとなったあたしの母は、
実家から勘当されたと聞いている。

覚悟はしていたらしいが、実際にそう言う状況に置かれて、母は途方に暮れたらしい。

詳しい事情はまだ教えてくれないが、母を救ってくれたのはこの上条美琴おばさん。

お友達のつてであたしを保育施設に入れてくれたそうだ。

母はあたしを学園都市の学校には絶対行かせたくなかったので、小学校に入る前に親娘
とも学園都市を退去することにしたそうだが、その際のごたごたを全部引き受けてくれ
たのも美琴おばさんだったそうだ。

更に母の仕事が急激に忙しくなり、今までのように子連れ出勤することが出来なくなり
そうになったとき、再び手をさしのべてくれたのもやはり美琴おばさん。

実家は問題があって預かれないので、当麻おじさん経由でお義母さまに相談してみたら
二つ返事で引き受けてくれたのだそうだ。

実際にはその時には既に麻琴は、美琴おばさんが学園都市ではなく普通の学校に通わせ
たいからという理由で詩菜大おばさまのところにいたんだけれど。

母はなるべく近くに住みたいからと家を探したら、出来すぎた話だけれど上条家の隣の
隣が売りに出たので速攻で購入した。

ちなみにローンはまだ終わっていない(笑

その際の保証人も美琴おばさんがなってくれたそうだ。

何から何まで美琴おばさん頼み。もうウチは美琴おばさんに一生アタマが上がらないん
じゃないだろうか。
21 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 22:37:04.53 ID:T9C4vLc0

それで話を戻すと、普段はあたしたちは母娘で暮らし、母は出張に出るときにはあたしを
上条家に預けてゆく、という形を取ったのだった。

あたしからすると、家が2軒あるのと同じことだったし、逆に「上条のおば(あ)ちゃんち」

(最初、「あ」を入れて呼んだところ、『あらあら、そんな年に見えるのかしら、ショック
だわ〜。もう今日はご飯作る元気ないわ〜』とご飯抜きの刑をくらってしまったので、
命に関わる禁句のひとつとなった)

に行くと、詩菜おばちゃんはとても優しいし、麻琴と一緒に寝るまでおしゃべりできる事が

楽しくて、実際のところは母が考えたほど苦痛ではなかった。

あげく、一時期母が頻繁に出張を繰り返していた時、上条家にあたしを迎えに来た母に向かって

「ねー、お母さん、今度はいつ<来るの?>」と聞いてしまい、母がボロボロ泣き出して
しまった事があった。

笑い話にもなるくらい有名なネタだけれど、言われた母には相当のショックだったらしい。

しばらく出張を控えたらしく、確か1ヶ月以上家にいた。

詩菜おばさまから「麻琴が寂しがってるので、二人で是非うちにお泊まりに来て欲しい」

とお願いが来たのには参ったけれど、母は

「なら、今こそ普段の借りを返すときだぁ〜!」

と逆に麻琴を拉致同然に連れてきて、その日は我が家でどんちゃん騒ぎだった。

麻琴が詩菜大おばさまにそれをしゃべったものだから(普通報告するわな)、

「あらあら、私、のけものにされちゃったのね。ああ、凄く寂しすぎるわぁ〜」

とマリアナ海溝より深く沈み込んでしまい、引き上げるのに3日付きっきりでお世話するハメに

なり、母の休みが詩菜大おばさまのご機嫌をとる事で終わったのは暗黒の歴史の1ページだ。
22 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 22:47:14.38 ID:T9C4vLc0

ふと気が付くと、

「もうね、楽しいわ。やっぱり子供の笑う声が聞こえる家って、幸せそのものじゃないかしら」

「男の子って、家を出てっちゃうから……。この娘たちは、わたし、私の娘にするんだから〜。

うふふふふっ♪ 私に出来た女の子2人。あれもこれもしたいなぁって。」

詩菜大おばさま引き続き絶好調、独演会絶賛開催中。

……というわけで、大おばさまには遠大な、かつ危ない下心がかなりあったようだ。

預けておいてなんだ、と思うけれど、美琴おばさまも母もうすうすこの下心には気が付いていて、

あたしたちがおばあちゃんっ子にならないようにかなり気を付けていたらしい。

結果的に、あたしと麻琴は母さんたちからは厳しくしつけられることになったのは言うまでもない。

同性に厳しい、すなわち、母親は娘に厳しく、父親は娘に甘い、という話もあるけれど、あたしと

麻琴の場合は、母は厳しく、祖母(あたしの場合、小母)は甘い、という役割分担をしていたのだろう。

ふと気が付くと、

「もうね、楽しいわ。やっぱり子供の笑う声が聞こえる家って、幸せそのものじゃないかしら」

「男の子って、家を出てっちゃうから……。この娘たちは、わたし、私の娘にするんだから〜。うふふふふっ

私に出来た女の子2人。あれもこれもしたいなぁって。」詩菜大おばさま引き続き絶好調、独演会絶賛開催中。


……というわけで、大おばさまには遠大な、かつ危ない下心がかなりあったようだ。預けておいてなんだ、と思うけれど、

美琴おばさまも母もうすうすこの下心には気が付いていて、あたしたちがおばあちゃんっ子にならないようにかなり気を付けて

いたらしい。

結果的に、あたしと麻琴は母さんたちからは厳しくしつけられることになったのは言うまでもない。

同性に厳しい、すなわち、母親は娘に厳しく、父親は娘に甘い、という話もあるけれど、あたしと麻琴の場合は、母は厳しく、

祖母(あたしの場合、小母)は甘い、という役割分担をしていたのだろう。

さて、ここまで考えてもう1人役者が足らない事に気が付いた。
23 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 22:51:08.41 ID:T9C4vLc0
すみません、>>1です。

>>22でコピペをミスりました。

>ふと気が付くと
以降が重複してしまいました。申し訳ございません。

こういう場合は>>22を無視してもう一度作った方が良いのでしょうか?
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/07(日) 22:55:51.99 ID:RNyFwGAo
大丈夫ですよ
25 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 23:03:48.66 ID:T9C4vLc0
(*それでは、先へ進めたいと存じます)

そう、麻琴のお父さん。上条当麻(かみじょう とうま)さん。

美琴おばさんはと……ありゃー、黄昏れちゃってるわ……。

「おばさん、当麻おじさんは一緒じゃなかったんですか?」と美琴おばさまに話を振ってみる。

「えええ? あ、アイツは、じゃなかった、当麻はね、今ちょっと学園都市を離れられないの。

いろいろと難しい舵取りを要求されてるみたいでね。今回もホントに来たがってたのよ。

利子ちゃんと麻琴、アンタたちの顔を凄く見たがってたんだから。

時間があったら動画メールでも送ってあげてね。凄く喜ぶと思うの」

さすが、旦那さんのことになると別人ですね♪

「パパ、会いたいなぁ……、ね、ママ? あたし、学園都市の高校に行きたいんだけど、パパのところダメかな?」

おいおい、麻琴、ここでそういう話出すなよ、凄くマズイよ……あ、母さん気が付いた!

「利子、アンタは絶対だめだからねっ!」  


ほらみろ……


―――― 神様が通っていった ―――― (と英語では表現するらしい)


一瞬、その場が静まりかえった。 
26 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 23:09:26.24 ID:T9C4vLc0

「行ってきます」

「寄り道しないで帰ってくるのよ!」

「うぃーす」

「こらっ、下品な言葉、女の子が使っちゃダメっ!」

月曜日の朝。

土曜日にちょっと母とやりあった余韻は日曜1日では消えず、週明けの今日もちょっと
ギクシャクしたスタートになった。

母とは一緒にいる時間が短いのだから、せめてその間は親娘仲むつまじく過ごしたいと
は思うのだけど、逆に不満憤懣やらの方が先に飛び出してきてしまう。

距離の取り方もちょっと難しい。母さん、どうしてああなるかな……。

はぁ、月曜からブルーだ。

上条家のベルを鳴らす。

「はいはい?」

「おはようございまーす、今日も元気な佐天でーす。マコちゃんお願いしまーす」

「はいはい♪ ちょっと待っててね」

詩菜大おばさまがインターホンに出てくるのもいつもの通り。そして……

27 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 23:14:49.49 ID:T9C4vLc0

   ――― 「ひっへひまっふー!」 ―――

マコ、おまえアニメキャラか? パンくわえて飛び出してくるって、テンプレ通り過ぎないか? だけど……?

   ――― もきゅもきゅ ごっくん ―――

「え? マンガなら食パンにジャムでしょ? ざーんねん。これチョコレートロールパンなんだなっ!」

「そういうことじゃなーい!!」 

   ――― ぽか ―――

「いったーい」

「なわけないでしょ、触っただけなのに」

「うう、暴力はいけないんだよ、リコぉ……」

おー、来た来た、お約束のうるうる。あー癒されるなぁ、よし今日も頑張るぞっ!

「リコ、ちょっとダダ漏れなんだけど。アタシおもちゃにして楽しい?」

「そーだよぅ、マコはあたしの活力源だもん! 頼りにしてるんだからねー?」

「ひっどーい、そんなので頼られたくなーい! わたしの汚れなき青春を返してよ−!」

「まっかっせっなっさい! 10年後に利息なしで返してあげるから。楽しみにしてね♪」

「うう、24歳になるまで返してくれないの?……ってところでさぁ、あれからどうしたの? 

 アタシは母さんと御坂ばぁちゃん家に行ったんだけどさー」

………マコぉ、勝てないどころか逆転ホームランかい? アンタってひとは本当に寝た子を起こすのが得意なのねぇ。

せっかく忘れかかったのにまた思い出したろうが。

「……ご、ごめんね? 言っちゃいけなかったかな、そ、そんなつもりで「いいから!その話、またにして!」」

「ごめんなさい」

あー、ホントにもう、さ・い・あ・く・だぁー!
28 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 23:17:55.69 ID:T9C4vLc0
土曜日のパーティ後半戦。

出だしでちょっとした騒ぎはあったものの、それをネタにしたりして女だけの姦しパーティは

だんだん盛り上がり、オトナ、すなわち母親2名+大おばさまの3名はワインの酔いも加わって、

ケンケンガクガクの話になっていた。

「だーから、無能力者にとって、学園都市は地獄以外の何ものでもないんですってば!」

いつもの母の持論だ。

「あの子には、私が味わった苦しみは、絶対に味わせたくない。親として自分の子、娘を守るのは当然です!」

美琴おばさまも思い当たるふしがあるのか、黙っている。

まぁ自分の娘も学園都市に置いていないわけだから、そう言う意味では、母と意見は同じなのだろう。

でも、大丈夫なんだろうか? 学園都市のエライひとであり、レベル5であり、超電磁砲<レールガン>こと

学園都市のスーパースター、と言えるひとが自分の娘を学園都市に置いていない、っていうのは。

絶対ワガママとしか思われないよねぇ……。まぁおかげであたしは麻琴という得難い友を得たんだけど。


――― 普段ならばこの辺で母の発言は終わり、無限ループ2周目に入る……のだが ―――


今回は違った。トンデモ爆弾が炸裂したのだ。
29 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 23:22:26.19 ID:T9C4vLc0

「御坂さんはいいんです。レベル5だし、今は学園都市統括理事会メンバーだし。

麻琴ちゃんだってもう能力者の片鱗みえてるし」

あらら、旧姓で呼んじゃってるよ。って、何もマコを引き合いに出さなくてもいいのに。

「ちょ、ちょっと、佐天さん、ウチの麻琴が?」 

え? これにはちょっと驚いた。おばさん知らないの? そりゃホントに母親失格だよねー(棒読み

というか、麻琴、あんた自分の親に何も言ってなかったの? 

「ちょっと、麻琴、こっち来なさい。アンタ、そ、そ、そうなの?」

(見せてあげなよ)あたしは無言で静電気防止キーホルダーを麻琴に渡した。

麻琴は「エヘ」とばつの悪そうな顔をしつつ左手で受け取った 

      ―― その瞬間 ――

キーホルダーはカッと輝いたかと思うと 

   
   ――「パン」と乾いた音を立てて ――  

    
       ―― 壊れた ――


「マコ……」あたしもこれには驚いた。昨日の帰り道でも、せいぜいライトが長く光る程度だったのに……

言い出しっぺの母も絶句していた。

詩菜大おばさまは「あらあら……」といったまま二の句が継げず。


そして、本人が一番驚いていた。 黙って、そして……震えてる? 
30 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 23:30:41.10 ID:T9C4vLc0

美琴おばさんはさすが「電撃使い<エレクトロマスター>」だけのことはあり、
瞬時に能力<レベル>を見て取ったようだ。

しばらく目をつぶってなにやら神経を集中していたようだけれど。

「よし、解った」おばさんが目を開いてにっこり笑った。

「麻琴の生体電磁波、記憶したわ。今までなんとなく感じていたけど、気に
してなかったからね。

ごめんね、麻琴。もう大丈夫。というかもう逃がさないからね、わかった?」

よくわからないけど、身近すぎて気に留めていなかったってこと?

というか、麻琴に能力があることはうすうす感じていたのだろうか? じゃぁなぜ驚いたんだろう?

「は、はい。ごめんなさい」麻琴も混乱してるみたい。怒られると思っていたのだろう。

そこであたしは別のことに気づいた。じゃぁ昨日のアレは、麻琴は本気じゃなかったのだろうか? 

あたしは麻琴に遊ばれていたのだろうか?

「ち、違うわ、リコ」さすがマコ。昨日の事を思い出したのか?

「怖い顔しないで、リコ。違うのよ。昨日は何ともなかったの」

あたしの顔に何か書いてあるってかい? それともつのが生えているとか、かしらん。

「今、初めてなの、こんなこと。ただちょっと、ママを驚かせてやろう、って思って
エイッと集中したら、壊れちゃったの。

ううっ、ご、ごめんなさぁーい!」とわんわん泣き始めてしまった。


え、これってあたしのせいですか? ちょっと母さん睨まないでってば。

元はと言えば、母さんが言い出しっぺじゃないの! なんであたしのせいなのよ……

当麻おじさんの叫び借りたいなぁ、ホント。
31 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 23:34:21.39 ID:T9C4vLc0

「麻琴、びっくりしちゃったのね。そうよね、いきなりだもんね。怖かったよね。

大丈夫、大丈夫。あなたはママの娘だから。ママがちゃんと守ってあげる。おめでとう。

あなたも能力者なのね」

ああ、こういうのって親娘だなぁ……。

でも終わりのところで、母が一瞬苦い顔をしたのがわかった。あたしにもその訳がわかる。

図らずも、あたしたちもやっぱり親娘なんだなー、と改めて思ってしまった。

麻琴たちとは全く逆だったけれど。

「さてと、じゃぁ一度、あなたを学園都市に連れて行って、ジャマーを作らないとね」

「え、学園都市に行けるの?」麻琴が急にキラキラキュピーンになった。立ち直りはやっ!

「もちろんよ。そうしないと、あなた、こっちで能力暴発させたらおおごとよ」

あのーおばさま、数時間前に誰かさんがそれをやっちゃったような。お忘れでしょうか……?

「もちろんあっちでも違う意味で大変だけどね。早いほうが良いわよね」

バッグから小さなホルダを取り出すと、それをパタパタを開き、指を当てるとなにやら3次元ホログラムが出てきた。

さすが学園都市。見慣れないものが何気なく出てくるなぁ。ま、いつものことだけれど。

「うん、水曜日の午後がいいかな。お義母さま、水曜日一日、麻琴を休ませたいのですが、よろしいでしょうか?」
32 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 23:36:55.83 ID:T9C4vLc0

テキパキと話を進める美琴おばさん。きっと仕事がデキるおんな、ってこういう感じなんだろうな。

ちょっとカッコいいな。

いきなり話を振られた詩菜大おばさま。でもさすが、あわてずにコクンとうなずいて、

「はいはい、ええ、良いわよ。でも……麻琴ちゃんはひとつオトナの階段を上ったのね。おめでとう、かしら。

ああ、でもちょっと寂しいわ。私もなんだか急に歳を取ったような気がするわ…… で、利子ちゃんはどうなの?」

「へっ? わ、わたしですか? と、ととんでもない。私はフツーですよ、フツー。佐天利子、中学2年ですっ」

と、あたしはあたふたとわけのわからない回答をしてしまった。

落ち着いて考えると、ちょっと失礼な答えだったのだが美琴おばさんはさすが、あたしの聞きようによってはきつい答えを

スルーしてくれた。

「じゃ、麻琴、火曜日学校終わったら、中央線に乗ってXX駅まで来てくれる? 私が迎えに行くから。

パスポートはまだ有効よね? 忘れないでね、入れなくなるから。申請はあとでやっておくから、月曜日の朝には入場許可が

下りてるわ。久しぶりに家族3人揃うわね」

「パパと一緒出来るの? やったー、ねぇどこで晩ご飯食べるの? あたし、中華がいいかな? パパ、私が能力出たって

言ったら泣いちゃうかな?」 さすが、色気より食い気の麻琴だわ。

「大丈夫。アンタの能力なんか、パパなら簡単に消せちゃうから」

「えー、せっかく出来たのに。そんなパパなら嫌いになるからいいもん!」

あたしたち親娘と詩菜大おばさま、完全に空気。お呼びでない。こりゃまた失礼致しましたって、化石ギャグをどうしてあたしは

知っているんだろ?



しかし、今から思えば、母のあの爆弾発言。まさに爆弾だった。

全てはあの発言から。

運命の歯車は、今までとうってかわって、突然違う方向に回り始めたのだった。
33 :LX [sage saga]:2010/11/07(日) 23:51:37.24 ID:T9C4vLc0

お読み下さっていらっしゃる方、有り難うございます。
>>1でございます。

コピペミスったり、改行方法がバラバラだったりして申し訳ございません。

いくつか追加御報告致します。

*エロは殆どありません。
*バトルはありますが、そう長くはありません。書くだけの技術がないからです。
実際に書いてみて、ものすごく難しいことがよくわかりました。
想像力の問題もあるかもしれません。
残酷な場面も必要上あるのですが、さらっと流しています。
*自分では結構長くなるかな、と思っておりましたが、実際に投下して様子を見て
おりますと、この流れで行けば200位で終わるのではないかと思います。

*会社勤めですもので、あまり夜遅くまで投下出来ません。何卒ご了承下さいませ。
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 00:02:47.08 ID:ePfzBCwo
超乙!

楽しみだ
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 00:43:37.34 ID:Ee2IYrAo
乙でした
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 01:06:15.74 ID:HsbAroAO
乙!!続きが気になるのよ!

あと、死亡男性で「利」の字っつーと某リーダ…げふん
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 01:08:49.37 ID:g1hhnygo
なんにせよ、幸せになって欲しいものです。
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 01:08:51.45 ID:Khy2nwYo


飾利
涙子

…まさか!?
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 06:48:44.34 ID:JQyNbfoo
>>38
おっとそこまでだ
40 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 07:08:20.78 ID:/33g0rA0
>>1です。皆様おはようございます。
ご支援有り難うございます。投下する側になってみると、ご支援頂けるのは
とっても励みになります。本当に有り難うございます。
出かける前に少しだけ投下致します。
41 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 07:12:20.79 ID:/33g0rA0

月曜の午後。

授業が終わったあたしと麻琴は帰宅部なので、素直に帰る……はずだった。しかし。

「おい、今日はスカートまくりやらねーのかよ?」

「是非またお願いしますよ、ね?」

「俺、先週見てないんだよ。不公平じゃね?」

あまりガラのよくない、不良3年生に絡まれてしまったのだ。

うー、金曜日のツケがこんなところで出てくるとは。ブルーだ。

「すいませーん、今日は予定してなかったもんで、またの機会をお待ちくださ「うるせーんだよ!」キャッ!」

あたしは1人に突き飛ばされて、あっさりと地べたに転がった。ぶざまだ。恥ずかしい。それより結構痛い。

「ううう、痛たたたた……」

「リコ!? ちょ、ちょっとあんた達、何すんのよっ! 先生に言いつけてやるからっ!」

マコがくってかかる。

「おもしれぇじゃねーか。言ってみろよ。俺らにも言い分があるんだぜぇ?

女の子同士がスカートまくり合って、エッチなことをしようとしてたのを止めようとしたんですってさ。

オマエがエロ女って言われるようになっても俺らは知らねーからな?」

「やーい、エロおんなー」「すけべーおんな!」

廻りの男子生徒たちがはやし立てる。あーそう言うところホントにガキ臭い。こんちくしょー。ちょっとすりむいてる……。

「なぁ、おまえ、今日何色履いてんだ? ちょっと見せるだけでいいからさぁ……「さわるなぁぁぁぁぁぁっ!!」」

一番大柄なヤツが麻琴に近づき、彼女の肩に慣れ慣れしく手を掛けようとした瞬間、

麻琴が絶叫し同時に「ぎゃっ!」と声を上げてそいつが倒れたのだった。

(ちょっと、マコ……?)

「あたしとリコに近づくなーっ!!!」 

麻琴が左手を振り回し、さわられた男子生徒は「わぁっ!」「痛ぇっ!」と地面に伏してゆく。

あたしは呆然として、暴れ回る跳ね馬のような麻琴を見つめていた……。

42 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 07:14:57.73 ID:/33g0rA0

火曜日、麻琴は学校を休んだ。

電話にもでないので、メールで

「助けてくれてありがとう。もし聞かれたら、護身用にスタンガンを持っていた、と

言っておくからマコも覚えておいてね」と打っておき、母のそれを(勝手に)借りて

学校に行った。

不思議な事に、先生から呼び出されるような事はなかった。

彼らは先生に何も言わなかったらしい。

そのかわり、「ビリビリ女」「歩く静電気」というあだ名が学校に静かに広がったのだった。
43 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 07:17:45.85 ID:/33g0rA0

水曜日の夜遅く、麻琴は当麻おじさんと一緒に帰ってきた。

「リコ〜、久しぶり〜!」マコが門を開けて飛び込んでくる。 

ちょ、アンタ何よ、その脳天気ぶりは? あんなに心配してたあたし、ちょっとバカじゃない? 

むかっときたあたしは麻琴に冷たい声で、

「お帰り。マコ、あんた、明日学校へ行ったら”ビリビリ女 ”って言われるから覚悟しといた方
がいいよ」といきなりかました。

「へ?」

「そ、その名前、上条さんとしてはひじょーに気になるんですが、もしかしてウチの娘のことでせうか?」

え? え? あちゃー、お父さんが一緒だったのか……大失敗だ……。

「ちょっとー、リコ、帰ってきていきなりのそれはなによ……」麻琴がちょっと黄昏れる。

まぁ、あたしにも、あんたのビリビリおんなというあだ名の責任がないわけじゃぁないさねー。それよりも、

「こ、こんばんは、おじさま。ご無沙汰しています。いつも母がお世話になってます」まずは挨拶しなきゃね。

「あ? いえいえ、こちらこそ。麻琴から良く聞いてます。こいつがいつもご迷惑かけてるようで、ホントに
すみません」

と右手で麻琴のアタマをわしわしと撫でる。

「やーめてよ、パパ、子供じゃないんだからー。髪ぐちゃぐちゃになっちゃうでしょー、このー、うにアタマっ!」

「ちょっと、家の前で何騒いでるの、こんな夜に……あら、もしかして、上条さん?」おっと、母まで出てきてしまった。

もしかして、噂のフラグメイカーが見れるかも?
44 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 07:21:37.66 ID:/33g0rA0

「え、あ? 佐天? おう、久しぶり。相変わらず綺麗だぞ、いやホント、昔から変わってないなー」

思わず、キタ━(゚∀゚)━!! がアタマに浮かんでしまった。

いやー、久しぶりの挨拶がいきなりコレですか? 

旧来の知人とはいえ、お互いの娘がいる前で、よその娘の母親にいう言葉じゃないよねー。ちょっとわざとらしいし。

美琴おばさんが気を抜けないわけだわ。

麻琴は……あはは睨んでるよ。娘とはいえ、そういうところは女だねー。

「いやー、なーにを言ってるんですかぁ? 何も出ませんよ? 上条さんこそ、昔から”ちっとも変わってません ”ねぇ。

美琴さん泣かしてたらあたし、怒りますからねー?」

「ななななんの事でしょうかー佐天さん、なんかトゲがあるようですけれど? わわわ私が美琴を泣かすことがあるわけが
ないのことよ?」

動転してる、動転してる。日本語ヘンだ。しかし、自分の発言に問題がある事に気づいてなさそう。重傷だなー。

「ちょっとマコ、上がって?」 

まぁ親同士は好きにやっててもらおう。あたしらにはあたしらの話があるんだっての。

「うん。じゃ、パパ、先に帰ってて。あたし、ちょっとリコと話してくるから」

「あら、あたしとしたことが。立ち話もなんですからお茶でも飲んでいきません? 上条さんにお聞きしたい事もありますし」

と母が麻琴パパを家に上げようとしている。

そういえば、ウチに男の人が来るのは、中学校に上がってからは初めてかも。

おじさん、上がる事にしたみたい。ちょっとしたイベントですねっ、これは! 

「リコ、早く上がってきてよー」 

おーい、ここはあたしんちだし、そこ、あたしの部屋なんですけどー?
45 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 07:32:30.38 ID:/33g0rA0

「えー、それであたしがビリビリ女ってわけ?」

「職員室に呼ばれなかっただけ良しとしなさいよ。ヒヤヒヤしてたんだから、こっちは。

スタンガンを使ったことにすればいいじゃないか、という結論出すまですっごく考えたんだからねー?

アンタは学校さぼって、家族とおいしいもの食べて「ちがーう」」

「あたしだってすっごい大変だったのよ……」

「?」

 ―― 麻琴の説明によれば ―― 

1.「学園都市のスター、超電磁砲<レールガン>のお嬢様帰国!」とド派手に歓迎された。

   もちろん上条一家には知らされてはいなかった。麻琴自身は、あまりのことに気を失った。

   美琴おばさんがパパラッチに激怒して電撃をぶっ放したことが逆効果になり、さらに注目されることになった。

2.簡単な身体能力チェックを受けさせられた。得体の知れない薬を飲まされたのがいやだった。

  美琴おばさまは、これには反対しなかったので、それがまた麻琴にはちょっとしたショックだった。
  
3.簡易検査では「静電気」を「起こす・貯める・放出する」ことに対しての能力が認められ、通常電圧3千ボルト、最大電圧

  1万ボルトを確認した。判定は「レベル1」。全く開発を受けていないのにレベル1というのは母親からの遺伝にしても、

  将来は有望と見られる、というものだったそうな。

  コントロール能力がもう少しつけば電圧も上がり、直ぐ「レベル2」になる、と言われたそうな。

4.ということで、とりあえず左腕に美琴おばさまと似た感じのAIMジャマーリングを作ってもらい、はめて帰ってきた。

5.当麻おじさまがどうしても、ということで一緒について帰ってきた。美琴おばさまは仕事に戻ったとのこと。

6.学園都市は、実際に見てみると、こことは違う世界だった。確かに紹介ビデオやウェブサイトで知っていたものがあったけど、

  動く実物をみることで、よりそのすごさに圧倒された。また、日本以外のひともけっこう見かけたそうだ。

 ―― (説明終了) ―― 
46 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 07:35:49.26 ID:/33g0rA0

「はーん、やっぱりマコは能力者だったんだね……」

わかってはいたけれど、仲の良い友人がなんか違う世界に行ってしまったような気がして、あたしは
ちょっと寂しい気がした。

やっぱり麻琴は学園都市に行ってしまうのかもしれない……。

「まぁね、でもパパはレベルゼロなんだよね。両親が能力者でも子供がレベルゼロだったという例は
沢山あるみたいだし。

あたしはたまたま、まぐれが少しかすっただけ。レベル1だし。やだ、そんな顔しないでよ、リコ」

無邪気な麻琴の話を聞いて行くうちに、なんとなく、母がその昔感じていた思いというものが解って
きたような気がした。

麻琴、レベル1とレベルゼロとでは天と地ほどの差があるんだよ……?

「で、あっちの高校にマコは行くの?」

「わかんない。怖いことされるのはいや。普通でいたいし。でもあの世界でもっと自分の力を試して
みたい、と言う気もする」

そうよね、あるものは使ってみたい、それも当然の思いだよね……「ある」ものならね……。
 
「リコも、行く行かないは別として、一度測定してもらったら? もしかしたらあたしより上かも
しれないよ?」

おいおい、そんな馬鹿な事を言うもんじゃないって。あり得ない。無能力者の娘に向かってなんと
言うことを……

「だってさ、リコは測ってもらったことがないわけでしょ? 佐天おばさんが無能力だった、と
いうだけじゃない。

もしかしたら、お父さん ―――― あ」 

麻琴の言葉が詰まった。あれ、もしかして泣き出した? なんであんたが?

「ご、ごめんなさい、失礼なこと……う、ぐすっ、……うわぁぁーん」 

あーあー、全くもう。よしよし泣くな、麻琴。

可愛いやつめ。ホント、アンタが心配だよあたしは。こんな不安定な状態で学園都市へ行けるんかね?
47 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 07:38:48.44 ID:/33g0rA0
「まぁ、気にしないでよ。ありがと、マコ。ところで、もう一度言っておくよ、いいかな? 

1つめ。あんたが電撃を放った男子生徒は、火曜日には全員学校に来てた。

で、職員室に私は呼ばれなかったから、たぶん騒ぎは漏れていないと思う。

2つめ。そいつらの誰かが、おもしろおかしく話を作ったみたいで、マコにさわるとビリビリくるぞ、って。

で、あんたにビリビリ女という名前がついた。そこから歩く静電気という名前も出来てる。

3つめ。たぶん、明日にはまた違う名前が出来てるかもしれない」

「うわーん、やっぱりあたし、もうお嫁にいけない、学校行くのいやぁぁぁぁ!」 

げっ! やばい! またやっちゃう!

「ちょっちょっと、待ったぁ、ここで電撃放つなー!」

と私は昨日買ってきたウレタンゴム製のマットをバッと彼女に押し当てた……が、何も起きない。

「ちょっとー、リコ、止めてよ。もう大丈夫なんだからさぁ?」

ウレタンの向こうから麻琴がごにょごにょ言っている。

「え?」 あたしはウレタンマットをのけた。

「ぷふぁー、あぁよかった……ちゃんと効いてるわ、コレ」 

麻琴が左腕をまくると、二の腕のところに薄いけれど幅のあるリングが嵌っていた。
48 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 07:41:48.29 ID:/33g0rA0

「利子ちゃんも大きくなったんだな」遠くを見るように上条がつぶやく。

「そりゃそーですよ。あなたのとこと同じなんだから。

でも、あたしに似て、マコちゃんを引きずり回してるみたいでごめんなさいね。」

「いえいえ、麻琴の話には必ず利子ちゃんが出てきますからね。

頼れるお姉さん、という感じみたいで上条さんも安心しているんですよ」

下では、佐天涙子と上条当麻との話が続いていた。



「初春は元気してますか?」佐天の親友、初春飾利(ういはる かざり)のことである。

現在の名前は、正確には花園飾利(はなぞの かざり)。結婚して姓が変わっているが、佐天は相変わらず「初春」と呼んでいた。

彼女は天才SEとして「その世界」で名を馳せているのだ。

「うーん、美琴は何回か会ってるらしいけれど、俺は会ってないな、ここしばらく。佐天さんこそ会ってないの?

いつも二人一緒だったんじゃなかったっけ?」

「いやぁ、ちょっと最近はご無沙汰なんですよ。結婚してからちょっとね。やりとりはたまにしますけど。

初春がここへ来れるような仕事をしてたらよかったんですけれどねー。どっちかというと、なか専門ですからね。

学園都市内ではホログラムメールのやりとりが出来ますけど、アレは外へ出ちゃうと使えないじゃないですか。

だからあたしが行った時じゃないと会える可能性はゼロですもん。でもここのところ、呼ばれる回数も減ったし。

やっぱり目つけられちゃったかなぁ……まぁいいけど」

「考えすぎだと思うぞ。あまり言えないけど、中は今も大変なんだ。そんなところを外部に見せたくないんじゃないかな。

最近は子供は別だけど、外からの見学者とか観光客も積極的には誘致してないような話も聞くぞ?」

「そうそう、麻琴ちゃん、無事に入れたんですか? というか戻ってこなかったらどうしようかと思ってましたけど♪」

冗談めかして軽く聞く佐天。

しかし、返ってきた上条の言葉は衝撃的なものだった。

「ちょっとな……俺も美琴も失敗したと思ってる。いや本当に大失敗だった」
49 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 07:44:09.01 ID:/33g0rA0
>>1です。

それでは出勤致しますので、次の投下は夜になります。

すみませんがご了承下さいませ。
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 16:37:07.23 ID:3bSsmaUo
乙です
面白いんで楽しみに次回待ってますよー
51 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 18:55:12.49 ID:09lw7FI0

こんばんは、>>1です。

それでは投下を始めたいと思います。
よろしくお願い致します。
52 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 18:57:08.54 ID:09lw7FI0
上条当麻は下を向き、苦しげな顔で話をしている。

「美琴と麻琴が一緒に帰ってきた時のことなんだが、報道陣が100人くらい詰めかけたんだよ。

いかに歓迎してるか、ってのを見せつけたかったんだろう。もちろん俺たちはそんなこと知らされ

てなかったから唖然呆然ってところ。あの通路に報道の人間だけで100人だぜ? 佐天ならわかるだろ?」

「すごいですね……」びっしりとカメラやライト、マイクを持った人間、それに警備員やらアンチスキルやら、

風紀委員(ジャッジメント)やらを入れたらもっと多い数になったろう。

(そう言えば白井さんはどうしているだろう?)と一瞬佐天の脳裏に懐かしいひとの面影がよぎった。

「やっぱり美琴、御坂美琴っていう存在は学園都市の華、なんだな。俺と結婚して上条美琴になって、

一児の母になってもそれは変わらない、いや更にステータスが上がっていたのかもしれない。俺たちは甘かった」

上条当麻の話は続く。

「そういうところに、新たに外の世界からスターの娘が帰ってきたと?」

「まさにそうなったわけだ。親娘二代の花形スターに仕立て上げようとしたのさ。実際、俺はあいつらのところにたどり

着けなかったんだぞ?」

「あら、感動の対面が出来なかった?」

「ある意味、感動の対面、だったね」 上条はそこで大きくため息をついて、茶を飲み干した。

「まぁぐちゃぐちゃで、参った。思わず上条さんは叫んじゃいましたよ、不幸だーって。まぁ俺のことはいいさ。

で、冗談はともかく、美琴も途中から恐怖を感じたって言ってた。麻琴は本当に怖がって震えてたらしい。

そんなところで……」  

53 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 19:02:02.59 ID:09lw7FI0


     ――― バン! ――― 


上条当麻がテーブルを叩いた。湯飲みがひっくり返る。

「ひっ」佐天がパッとひく。

「す、すまん。驚かしたか?」上条当麻が謝る。

「ごめん。ちょっと年甲斐もなく興奮しちまった……」

佐天が上条の湯飲みにもう一杯、お茶を入れる。

「まぁ無礼なレポーターが、何人もつきまといながらしょうもない質問をしつこく繰り返して、あげくに

1人か2人が麻琴をひっぱったらしいんだな」

「そりゃ美琴さんがキレますよねー」

「いや、違うんだ。……麻琴が電撃食らわしたんだよ」

「えーっ???」

そう、佐天は、麻琴がその前日に中学校で男子生徒数人を電撃で打ち倒していたことをまだ知らない。

「もちろん、美琴とは比べものにならない、可愛いレベルだったらしいんだけど、パニックになったものだからまぁ暴走状態に

なっちまったんだよ。

美琴が電撃使い<エレクトロマスター>なのは有名だけど、今は立派な大人だからな、アイツが電撃食らわすわけないって

みんな考えてるから電撃防止対策が緩かったんだな。自業自得だと思うが、まぁけっこう伸びちゃったひとが出たのよ」

「……」

「俺がそばにいたら、止められたんだろうけどな」上条は右手を見ながらぼそりと言う。
54 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 19:07:56.19 ID:09lw7FI0

「美琴がAIMジャマーを外していなかったのも運が悪かった。外して、麻琴にコンタクトして暴走を押さえ込むまで時間がかかった。

俺が二人のところに駆け寄れたのは邪魔者が全員ぶっ倒れたから、と言えばわかってくれるかな。

そしてまたこれがスクープになっちまってな。もちろん上層部が押さえこんだんだが、ウェブやTVの生放送は流れちゃったからな。

見たヤツの口はふさげねーよ」

上条は少し線が細くなったツンツン頭をぐしゃぐしゃとかき回した。

「よく帰って来れましたね」

「まぁな。で、覚えといて欲しいんだけど、」と上条は一旦話を切り、佐天を見据えて低い声で話し始めた。

「麻琴は騒ぎをよく覚えていない。学園都市は美琴が電撃を放ってまわりを蹴散らしたことにした。もちろん美琴も納得した」

「次に、麻琴は直ちに身体測定に掛けられた。能力開発を受けていないにもかかわらず、パワーは最大10万ボルトが出せて既に

レベル3にほど近いんだが、ノーコン状態。従って形の上ではレベル1だ。麻琴にはパワーとレベルを1段下げて教えてある。

要は、麻琴は今、非常に危険な状態なんだ。急激に能力が発現しつつあるノーコンの能力者、と言えばわかるだろう?

とりあえずAIMジャマーで暴発を防ぐことにしたが、今付けているのは実は美琴と同じレベル5用の最新型なんだ」

「それじゃ……麻琴ちゃんは……」

「だから、一時帰国みたいなもんなんだ。最悪、3学期から学園都市に編入させなければならないかもしれない」




下ではそれぞれの親が深刻な話をしているとは知らず、二階の私の部屋ではあたしと麻琴が他愛もない話で盛り上がっていたのだった。
  
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 19:12:09.33 ID:XsEPVMso
コントロールを覚えなきゃいけないものね…
56 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 19:28:18.47 ID:09lw7FI0

3学期。

クリスマスもお正月も、いつものように過ぎていった。

マコ、すなわち上条麻琴は引き続き、あたしと一緒に学校へ行っていた。

AIMジャマーの威力は確かで、あれ以降麻琴が電撃を放つことは全くなくなった。

「電撃が出そうになると、アタマが痛くなるの」と言っていたけど。条件反射でそのうち出せなくなったりしてね。

「ひとの噂も75日」とはよく言ったもので、「ビリビリ女」などのあだ名はだいぶ影を潜めてきた。



バルセロナで会合がある、ということで母が2週間の出張に出ていたある日。

あたしは第2の我が家である上条家で夕食を共にしていた。

「あたし、こんど自炊してみようと思ってます」とあたしは詩菜大おばさまに話しかけた。

「あらあら、自立心が芽生えてきたのかな、利子さん? すごいわ。麻琴、あなたも見習わないとね、女の子なんだから。

でも、利子さん、まさかおばちゃんのご飯がもういやだとか、そういうことではないわよね?」

大おばさまが悲しそうな顔をする。

「とととと、とんでもない、違います、全くの勘違いです」

また飯抜きの刑を受けるのは絶対勘弁してほしい。

「もう春には15歳ですし、いっぺんどこまで自分で出来るかな、って試してみたくなっちゃったもんで……」

「そうね、今ちょうどお母様も出かけてらっしゃるし。巣立つ練習するのにはちょうど良いかもしれないわね。

 でも、いやだわ、お願いだからうちで練習してくれるかな。おばちゃん1人でご飯食べるのは寂しいわ」

え? 最後の言葉にひっかかった。1人って? なに?

「ちょっと、母さん、ワシがおるじゃないか」 口を挟んだのは上条家の主、上条刀夜さん。久しぶりに帰ってきているのだった。
57 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 19:49:39.95 ID:09lw7FI0

「何言ってるんですか刀夜さん? 

自分は好きなようにほっつき歩いてて、ろくすっぽ連絡もなしのくせに、いきなりクリスマスにサンタの格好で帰ってきて。

何がワシ自身がクリスマスプレゼントー! ですか、ばかばかしい。

そうやって何人の女をくどいてきたのかしらねー。…………ちょっと、聞いてるの、刀夜さん?

ああもう、刀夜さんったらそんなに私を怒らせたいのかしら? あなた、もしかしてマゾなのかしら?」

真っ黒なオーラが巨大化し始めた大おばさまと、

ああもうどうしよう助けて下さい、という顔をしている刀夜おじさま、

そして「また始まったか、好きにしろ/好きにやってろ/してやがれ、の三段活用!」という顔で

ぱくぱくご飯を食べている麻琴。

ああ、これで台所デビューの話は消えたなーと、あたしは一人小さくため息をついた。

「ねぇ、リコ、ちょっと相談したいことがあるんだけど」と麻琴が小さい声で言う。

「なに?」

「部屋で」

「む(OK!)」

ぐちゃぐちゃのドロドロが始まってしまった刀夜・詩菜お二人からそーっと抜け出したあたし達は、そーっとまた麻琴の部屋に

上がっていったのであった。
58 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 19:55:52.24 ID:09lw7FI0

「脱出成功!」「いぇっさー!」


「あー、しんどかったー」

あたしは床にごろんと転がって、ベッドに飛び込んだ麻琴の方を見る。

「リコ? 食べてすぐ寝るとウシになっちゃうんだよ? だからね、うしリコ? リコうし? うーん」

「ひねりが足りません! そのままじゃないの。ざぶとん取り上げだね。つーか、アンタだって同じじゃないの」

「えー、あたし寝転がってないもん。座ってるからウシじゃないよー」カエルのぬいぐるみを抱きしめている麻琴。

「でもホントにね、おじいちゃん、(帰ってきたとき)サンタのカッコした泥棒かと思ったのよー、くくく」

と思い出し笑いをひとしきりしたあと、あたしの方を見ずにカエルのぬいぐるみに向かって麻琴が言う。

「リコ、学園都市に行かない?」

「わかってるでしょ」とあたしはいつもの答えを返す。

でも、その瞬間、私はさっきの大おばさまの言葉の意味を理解した。

「え、あんた……」血の気がひいたのがわかった。

「……ごめんなさい……」ぬいぐるみに顔を突っこんだまま麻琴が泣き出した。「わたしだって、やだよ、でも」

「だめなの。行かなきゃだめなの。コントロール出来るようにならなきゃいけないの。今のままだと、あたし、化け物になっちゃう」

あたしは泣く麻琴にかける言葉を見つけられなかった。

「こんな能力いらないのに。サンタさんにだって頼んでないのに。どうして今になってこんなことになっちゃったの? 

私のせいなの? ねぇ、リコ、なんか言って!お願い」

あたしはあたしで突然のことに衝撃を受けていた。

マコが、かわいいマコが、あたしのマコが、あたしの妹分が、あっちに行ってしまう。きっと、もう会えない。

あたしの頭の中を、ぐぉーっといろいろな思い出が駆けめぐっていた。



しかし、その中で、(ああ、やっぱりその日がきたか)という冷静な自分がいることにも気が付いていた。

(仕方ないよ、麻琴は能力者なんだから)というそいつは、混乱するもう一人のあたしをじっと見ていたのだった。
59 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 20:07:05.01 ID:09lw7FI0

「リコ、今度の週末、学園都市の見学ツアーがあるの。母も来るけど、途中からなの。だから代理という形で、

一緒に行って欲しいの。お願い」

「あたしが行っても「いいの。リコは、あたしの親代わりなんだから」……」

(あたしはアンタの母親かいっ!……まぁ姉ぐらいってとこかもね)

幸か不幸か、週末にはまだ母は日本に帰ってきていない。行こうと思えばいける状態にあった。

このチャンスを逃したら、次はいつ行けるかわかったものではないし、麻琴と一緒に行ける、ということもあたしの心を

揺り動かすに十分だった。

見学ツアーというのも社会科見学みたいなものだろう、とその時は考えていた。中学2年生の好奇心は不安より強かった。

しかし、(お嬢ちゃん、世の中はそんなに甘いもんじゃおまへんがー)ということをイヤと言うほど思わされることになるのだった。





そして運命の土曜日の朝。

新宿駅西口のホテルの前に学園都市行きの見学ツアーバスがざっと10台並んでいた。

驚いたことに日本人だけではなく、欧米や東南アジア、オーストラリア、中近東の各国から来た、という感じの親子も

かなりの数がいた。

圧倒的に子供が多いが、中にはあたしたちのような中学生、また高校生以上かな?というような大人っぽい学生もチラホラと。

「ちょ……、スゴイねぇー」あたしは少し雰囲気にのまれていた。
60 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 20:11:07.74 ID:09lw7FI0

「ママに聞いたんだけど、少子化の日本だけじゃじり貧になるから、海外からも子供を呼んでるって言ってた。

こうやってみると世界にはいろんな人がいるんだねー」

すこし経って、

「本日は学園都市先行体験・見学講習会にご参加頂きまして有り難うございます。お忙しいところお集まり頂きまして

誠に恐れ入ります。つきましては、日本国籍の方の点呼を取りますのでこちらへお集まりくださーい」

という内容の案内が流れた。

その後、英語、スペイン語、中国語など各国の言葉での説明が続いていた。

「麻琴、先行体験ってなに? 何か変なことされるんじゃないよね?」

「ママは何も言ってなかったから大丈夫だと思うよ?」

「ちょっとアンタ、詳しいこと何も調べてないの?」

「いやー、『アンタは黙って、来れば良いだけだから』って言われたの……。まぁとって食われることはないと思うよ。

それより、この間みたいなことになったらどうしよう、ってそっちの方があたし少し心配」

「それ、マズイ。あたしが一緒に行ったこと母さんにバレちゃうよ。大変なことになっちゃうよー、やっぱり止めようかなぁ……」

「今更ここまで来て何言ってるのよ、リコはあたしの親代わりでしょ?」

不安になったあたしと、すっかり腹をくくった麻琴との間で真剣なんだか漫才なんだかわからない言い争いが始まったとき、

「上条さーん? かみじょう まことさぁん、いませんかぁ?」係員の女性が麻琴の名前を呼んでいる。

「呼ばれてるよ? アンタ」

「リコ、行くよ!」 

麻琴があたしの右手を左手でひっつかんだ。麻琴はあたしを引きずりながら係員さんの方へ走っていった。

61 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 20:19:53.77 ID:09lw7FI0
>>1です。

お読み下さっていらっしゃる方々、どうも有り難うございます。

申し訳ございませんが、一旦ここでPCから離れる必要が生じました。
1時間ほどお時間を頂戴致しますが、用件済み次第、再度投稿を開始致しますので
何卒ご了承下さいませ。
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 20:30:06.01 ID:lz5c.0.o
無理せずにゆっくりしてきてください
63 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 21:41:59.02 ID:09lw7FI0
>>1です。

失礼致しました。
それでは、再び投稿を始めます。宜しくお願い致します。
64 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 21:44:50.42 ID:09lw7FI0

――― 学園都市 入出国管理事務所 エントランス ――― 

あたしたちはバスの中にいた。

(どうしよう、ホントに来ちゃったよ……)7割の罪悪感と3割の好奇心があたしの心を占めていた。

ガイドさんが車内マイクで案内を始めた。

「それでは、ここで入国審査を行います。外へ出る必要はありませんが、申し込み時と本日変更されて違う方が

付き添われているような方はいらっしゃいませんか? 

すみませんが、その方は一旦事務所で確認作業を行いますので、お手数ですが一旦下りて頂きます」 

「すみません、母親の代わりで来てまして、私は父親なんですがそう言う場合も下りないとダメですか?」

「申し訳ございませんが、個人情報が異なりますので、お手数ですが再審査となりますので宜しくお願いします。

お時間はかかりません。他にはいらっしゃいませんか? 

ご本人である証明書、日本政府発行のパスポートまたは免許証などをお持ち下さい」

何人かの親御さんがガイドさんに連れられて事務所の方へ入っていった。と、入れ違いに2人の入国管理官?が入ってきた。

「えー、それではチェックを始めますので、身分証明書の提示をお願い致します。お子様は生徒証、学生証でもちろんOKです」

幼稚園児もいるんだけど、証明書なんてあるのかしらん、と思っていたらその子はパスポート出していた。杞憂だった。

「前もこうだったらよかったのにな……」と麻琴が一人ごちていた。
65 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 21:47:29.44 ID:09lw7FI0
あたしはチェックが終わったので外をぼけっと見ていると、他のバスからはぞろぞろとひとが下りている。

どうやら外国人は全員一旦外へ出されているみたいだ。

「あたしらはいいのかな」とつぶやくと、隣の麻琴が小さい声で

「結構、身分証明書を偽造して入ろうとするひとが多いんですって。あたしが行ったときにも、あっ!?」

麻琴が小さく叫び声を上げたので、(なに?)と外を見ると……



男が子供を引っ張って走っていた。なにがあった?

――― 突然その前に高校生?ぐらいの男子生徒?が現れて、「あれ? あの人どこから?」 ――― 

次の瞬間、男は道路に倒れ込んでいた。というより何かで押さえつけられた、と言う感じだった。

子供はその男にしがみついていたところを、駆けつけた警備員風の女性にだっこされて事務所の方へ連れて行かれた。

残された男の方はもう1人の警備員に、こちらは屈強な男の人で、スタンガンかなにかで気絶させられたみたいで、

警備員に軽々と担ぎ上げられてこちらは警備車?の方へ運ばれていった。この間、たぶん2分も経っていないだろう。

「おお〜」声にならないどよめきのようなものがバスの中に広がり、あたしは我に返った。

「マコ……」

「リコ……」

あたしたちは顔を見合わせたけれど、二人ともそれ以上言葉が出なかった。
66 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 21:51:05.38 ID:09lw7FI0

少したって、先ほどの女性警備員?さんがトントントンとバスのステップを上がってきた。

「学園都市へようこそお越し下さいました。わたくしは学園都市アンチスキルに所属致します、入出国管理事務所警備担当の

内田(うちだ)と申します。ご覧になった方もいらっしゃると思いますが、先ほど偽造パスポートで不正入国を図った男性1名と

小児1名を拘束致しました。2名とも大きなけがはしておりません。お騒がせ致しまして誠に申し訳ありませんでした」

バス内がざわめく。

「なお、入国審査場から脱走を図った際に数人の一般の方が巻き込まれて、軽いけがをされた方がいらっしゃることから、

このバスの出発は少し遅れますのでなにとぞご了承頂きたく、宜しくお願いします」

よどみない説明を述べたアンチスキルの内田さんは、バス内を進み、奥でチェックをしている入国管理官と二言三言、

言葉を交わしてバスを降りようとバスの乗車口に戻って来た……

「すいません、あの」 あたしは反射的に声を上げた。

「なんでしょうか?」と内田さんは笑顔であたしの顔を見た。

「さっき、あの、突然男の学生さんが現れたような気がするんですけれど……?」
67 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 21:53:51.71 ID:09lw7FI0

彼女は一瞬考えた後、またニッコリして答えてくれた。

「彼は風紀委員<ジャッジメント>でしてね、空間移動<テレポーター>の大能力者、つまりレベル4、の学生ですね。

テレポート能力を見るのは、あなたは初めて?」

まわりから「あのひと学生だったの?」「すげー、あれが超能力か…」「ホントなんだ……」というささやきやら何やらが

バスの後部へ向かって波紋を広げて行く。

「は、はい。一瞬見間違えた、というか、あれ? どこから来たんだろうって思っちゃいました」

あたしの声も少しうわずっていたんだろう、内田さんはくすっと少し笑って、

「最初に見るとびっくりしますよね。私もいきなり人が目の前に現れた時は、買い物袋落としちゃいましたから。心臓によくない

ですね、アレは。(というか、アレは越権行為なんだけど。ことと次第では後でしばいてやらないと!)」

と後半はブツブツ独り言? を言ってバスを降りていった。

(アレが超能力か!)とにかくいきなりレベル4の能力をナマで見ちゃったわけで、すっかりさっきまでの不安はどこへやら、

(あたし、ホントに来ちゃったんだー!!)という興奮の方が先に立ってしまった。

「ちょっとー、リコ、なにキラキラしてるの? おーい、帰ってこーい? リーコー?」

麻琴があたしをトントン叩いていたことは全く記憶にございません、でした。
68 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 21:57:40.25 ID:09lw7FI0


smile for you and 〜、とメールの着信アラートが耳元で小さく鳴った。

「あれ、なんだっけ、これ……と」

学園都市の守護神<ゴールキーパー> 花園飾利(旧姓初春)はスカウターのホログラムを開く。

<着信メール 1件>という表示が出ている。発信人は<学園都市入出国管理事務所情報センター>とある。

「?」と思いつつ、<開封>のところに視線を合わせる。

すると”さてん としこ 再入国 ”と文字だけが流れてきた。

(わぁ佐天さん……じゃないわ?、他に佐天って誰かいたっけ……?    

          ……             

          ……

えぇぇぇぇぇぇぇぇっ??? まさか、あの子? ホントに?)


あたふたと花園はスカウターの<メール発信>に視線を合わせ、次に<思考入力>を選び、アドレスの欄に<佐天涙子>を想定し、

頭の中で発信内容を作り上げ、内容を確認して<送信>を念じた。

同時に部屋のブラインドを下ろし、スタンバイ中のPCを立ち上げてジャッジメントIDを入力して入出国管理事務所の

監視カメラ映像を確認し始めた。
69 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:01:17.95 ID:09lw7FI0

しばらくして、

Go go ready 〜 と違うアラートが鳴り、スカウターに ”佐天涙子 音声通話 ”の表示がでた。

<開始>を頭のなかで念じると、

「う・い・は・る〜、ひさしぶり〜。なに? どうしたのこんな時間に〜?」

と懐かしい声が飛び込んで来た。

「いまは、は・な・ぞ・の、ですって! いい加減に覚えてくださ〜い、佐天さんたら!」

「あー、そうだったねー、いやぁごめんごめん。でも、初春はいつまでも<ういはる>だからねー!」

「なに訳のわからないこと言ってるんですか? 昼間から飲んでるんですか?」

「今はもう深夜1時だっての。こっちの時間見えてない?」

なるほど、<発信場所検索>を想定すると、スカウターのホログラムには" Barcerona, Spain : Telefonica AM 1:17 "と

表示が現れた。

「はー、スペインにいるんですか……、いいなぁ」

「よかないわよ、初春。遊びならいいけどさー」

「そ、それどころじゃないですよっ、佐天さん!!」

またもや佐天に「ういはる」と呼ばれたのだが、もうそんなことはどうでもいい。肝心な話だ。花園飾利は叫んだ。

「お嬢さんって、”としこ ”って名前でしたよねっ?」

「としこがどうしたのっ!!???」 

それまでの<へろへろ・あはーん>というようなだらけた口調はすっ飛び、いきなり緊迫した声になった。

「学園都市に入ったというオートコールがありました!」

「あン の バカむすめがぁっ――!!!!!!!!」

ものすごい衝撃波が来た。
70 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:06:55.13 ID:09lw7FI0

ボイスオートコントロールがあって助かった、と花園飾利はスカウターに感謝した。

それでもアタマが一瞬クラっときたくらいだったのだから。

「で、今どこ、どこにあのバカがいるのっ?」

「ちょっと押さえて下さい、佐天さん、怒鳴ったところで状況は変わりませんよ」

彼女はいつもの守護神らしさを取り戻していた。パタパタと検索をかけて行く。

「どうも、学園都市主催の先行体験・見学講習会に参加しているようですね」

「……」

「全体の参加メンバーを見てみますね。……ひゃー、ざっと13カ国ぐらいの多国籍研修会ですねー」

「もしかして、”かみじょう まこと ”って子がその中にいないかな?」

佐天も少し落ち着いたようだ。

「かみじょうさん? って、ええ? もしかして御坂さんのお嬢さんですか? この間の、もしかして超電磁砲二世とか噂されている?

キャー!すご〜「いたの、いないの、どっちなのっ!?」」佐天がじれて怒鳴る。

「んもう、そんなに怒鳴らないで下さいよぅ……、あ、いました。参加してますね」

「あン のガキめらぁ……、わかった。ありがとね初春!」

「はなぞの、ですってば!」

「すまないけど、ちょっと見ててくれるかな、あたしもそっち行くから!」

「いいですよ……え? はい? ちょ、ちょっと、ちょっと佐天さん!?」

71 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:11:34.33 ID:09lw7FI0

スカウターのホログラムに " 通話終了 リダイヤルしますか?" の文字が躍る。

花園飾利は、一瞬リダイヤルを思いかけたが、まぁいいかと<通話終了><思考入力 解除>を選択して一旦スカウターを解除した。

(さーて、どの子が佐天利子ちゃんなんだろう?)と先行体験・見学講習会のデータリストをチェックし、顔データをダウンロード

して監視カメラのプログラムに「捜査」を入力しチェックを開始した。

「ふーん、この子か……。やっぱり佐天さんとは似てないわね、ま、そりゃそうよね……。

あの子がねぇ……あたしがおばさんになるわけだわ」

花園飾利はぶつぶつ独り言を言いながらデータをチェックして行く。

「さーて、今はと……バスから降りてるのかー。ちょっと面倒かもしれないですね。どうしよう? 

そうだ、上条麻琴ちゃんを見つければ一緒にいるかもしれない」

ともう1台のモニターに上条麻琴の顔を映し出しておき、こちらでは「自動追尾」を指示した。




だが、この時まだ花園飾利は気が付いていなかった。バスが止まっているところがどこなのかを。
72 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:14:52.90 ID:09lw7FI0

一方そのころ、佐天涙子は……

「わかったわ、佐天さん、任せておいて」

「すみません、あたしも直ぐ行きますから」

「いいわよ、あなた、今回発表なんでしょ?」

「いいんです。" Nature " に既に発表してますから、今回はそれの詳細を追加発表するつもりでしたけど、次の京都での

開催の時でも問題ないですから!」

「そんな、佐天さん……ごめんなさい。麻琴のせいで」

「あはは、気にしないで下さい。でも、言うこと聞かないで突進しちゃうの、ちょっとあたしに似てきたと思いません?」

「自慢にならないような気もするけど? 佐天さんも親ばかねぇ」

「そう言ってもらえると、親やってる甲斐があるってもんですよ……あたし。 じゃもう空港なんでまた連絡します」

「気を付けてね!」



(あの行動力はさすが佐天さんねー、あたしも見習わなくちゃ。ってそんなことより娘たちは今どこかしら?)

上条美琴は席に戻ると秘書に、

「申し訳ないけど、予定を変えるわよ。公式行事は今で終了。私はこれからプライベートタイムに入ります。

復帰は明日の午後。戻る1時間前に連絡します。やっかいそうなもの、残ってる?」と指示を下す。

「本日18時からの新入学予定者たちとの合同懇親パーティはどうされますか? お嬢様と御出席予定となっておりますが……。

これはやはり委員ご自身の方が宜しいかと判断致します。その他はとりあえず私でも大丈夫でしょう、とカミジョウは、

……コホン、失礼致しました」

「あなた、今、もしかしてウケ狙ったのかしら? 美子(よしこ・元10039号)?」
73 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:19:06.97 ID:09lw7FI0

「いえ、とんでもありません、上条委員。委員の影を果たせるのは今やこの私だけです、とささやかな自負と共に私は宣言します」

「まぁね、それは認めてるわよ。しっかりね。じゃ18時のパーティには娘たちと戻ってきて参加します」

「了解致しました。ということで、プライベートに入ったお姉様<オリジナル>にミサカからお願いがあります」

「ちょっと、もう委員からお姉様<オリジナル>に切り替えたの? す早いわね」

「当然です。伊達にお姉様<オリジナル>と22年を共にしておりません、とミサカはちょっと自慢げに胸を張ります」

「申し訳ないけど、それは他の妹達<シスターズ>も同じなんだけれど?」

「いえ、内容の充実さにおいて、このミサカは他の個体に対し優位に「あー、もういいから。で、早くお願いをいいなさい!」」

「はい。ミサカはお姉様<オリジナル>のお嬢様にお会いしたいのです、とミサカはささやかな希望を述べてみます」

「ごめん、それはまだ早すぎるわ。もうちょっと時間が経ってからじゃないと、今は無理。で、いったいどうしたのよ、突然?」

「はい、このミサカと上条当麻さんとが結ばれて、出来た子供がどうなるのかを実例を見て考えてぐぷっ!?」

       ――― ごちん ――― 

「何考えとんじゃゴルァァァァァァァァァァァァァァ!」 

ミサカ美子(10039号)は美琴のチョップを食らってのびてしまった。
74 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:22:06.39 ID:09lw7FI0

「いけない、いま麻琴がどこにいるのかわからなくなってしまったじゃない。あー失敗だぁ。……こら、起きなさいミサカ!」

「……てめぇでチョップ食らわしておいて、今度は起きろですか、勝手にしやがれとミサカは心の中でがさつなお姉様<オリジナル>

をののしってみます」

「もう一度吹っ飛ばされたいの、あ・な・た?」 美琴がニッコリと微笑む。

「そうだ、今日は琴子(ことこ・元19090号)に頼もうかしら?」

ぽーんとミサカ美子(10039号) ――― 上条美琴のクローンの1人 ――― は「なんでもありません、お姉様<オリジナル>」

と立ち上がって起立の姿勢をとった。彼女はスカウターをささっと走査し、5秒後に回答を出した。

「上条麻琴他、日本人の新入予定者を乗せたバスは現在、第1中央能力開発センターに到着しています。既に1時間が経過」

「何ですって?」

美琴の顔が厳しいものになった。

「そんな予定なかったわ。おかしい。というより佐天さんがまずいわ。普通に行ったのでは間に合わないわね。

……仕方ないけど、呼ぶしかないか」

美琴はブローチに触れてささやく。

「黒子? 聞こえる? こちら美琴です。悪いけど、抜けられたら第1学区の広報センターの2Fメインロビーまで来てくれるかな、

出来れば急ぎで。緊急事態発生よ!」

ささやいた後、美琴はミサカ美子(10039号)に向かって命令する。

「アイツにも伝えておいて。私はこれから第1中央能力開発センターに行きますから、と。それからあなた、私の影を頼んだわよ。

それから琴子(19090号)をあなたの影にしなさい。わかったわね」

「かしこまりました。それでは大切なことなので、私は直接当麻さんへ会ってお伝えして参ります、とミサカはあの人に

会う口実が出来たことを密かにほくそ笑みます」

「あなた、顔がニヤケてるわよ。鏡見てご覧なさい?」

と言い残して美琴は役員専用エレベーターへ乗り込んだ。
75 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:28:09.21 ID:09lw7FI0



親たちがケンケンガクガクの大騒ぎになっているとも知らず、佐天利子と上条麻琴は他の見学者たちと一緒に

第1中央能力開発センターにいた。



「ちょっと、もしかして、ここで能力チェックするんじゃないの?」あたしはちょっと不安になった。そんな話じゃなかったからだ。

「ごめんねー、リコ。あたしも聞いてなかったのよ、こんなことがあるだなんて……。だって、スケジュールには書いてないのよ、これ」

ブツブツいいながら、どうしよう、怒られるかも、という顔をして麻琴があたしの顔を見る。

白衣を着た、いかにも研究者、という感じの男の人や女の人がニコニコしながらあたしたちを見ている。

一人の男の人がマイクを使って説明を始めた。

「それでは、今日は人数が多いので、いくつかのグループに別れて頂きます。よろしいですか?

まず大きく分けて、能力があると判定されたことのあるご家族がいらっしゃる方、こちらへどうぞ、左手へお集まり下さい!」

麻琴が左へ移動しようとして、麻琴の顔を見て立ち止まった。そしてニッコリ笑ってあたしに言った。

「あたし、リコに付いてあげる!」

「いいの? だって……」

「気にしない気にしない、バレたからってどうというモンじゃないし、あ、スイマセーンてなものよ、たぶん」

正直、ほっとした。あたし1人じゃとてもこの中にはいられない。ちょっと怖いから。
76 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:31:09.97 ID:09lw7FI0
>>1です。

間違いがありました。

X 麻琴が左へ移動しようとして、麻琴の顔を見て立ち止まった。(ありえませんorz)

○ 麻琴が左へ移動しようとして、あたしの顔を見て立ち止まった。

原稿が間違ってました。申し訳ありません。



77 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:35:03.27 ID:09lw7FI0

「それでは、それ以外の方はこちら、右手へお越し下さい!!」

だいたい四分の三くらいの人たちがあたしと同じ、家族に能力者がいない方に集まった。

背の高い、ちょっとカッコイイ研究者のような人が説明する。

「今日は簡易検査ですので、お時間はかかりません。注射とかそういうこともありません。ご安心下さい。学園都市に正式に

入られてからもう一度再検査を致しますので、気を楽にして下さいね」

「次に、年齢毎に別れて頂きます。小学校入学前のお子様並びに保護者の方は" A "の列に、現在小学生のお子様並びに保護者の方

は " B "の列に、現在中学生のお子様並びに保護者の方は" C "列に、高校生以上の方並びに保護者の方は" D "列にお並び下さい」

さらに4つのグループに別れたので、それぞれはだいぶ小さくなった。あたしたちC列のグループは、中学生本人がざっと10人、うち

男子が6人、女子が4人といったところだった。

「何されるんだろう?」「薬飲まされるんだって」「えー、なんか怖い」「だったら来るなよ」

みんな勝手に言いたい放題。

「まぁ、ここでいっぺん見てもらえば、リコもはっきりするかもね?」

麻琴がペロっと舌を出す。

「あのね、母さんにバレたらあたしどうなると思うのよ? 怒ったらそりゃスゴイんだからねっ!」

麻琴に文句を言ってみる。

「んー、もし家放り出されたら前のように詩菜おばちゃん家に居候すればいいよ。詩菜おばちゃま喜ぶよ?」

「そういう問題じゃないんだけど!」

「怖いの?」

「怖くなんか! (……やっぱり怖いよ)」

あたしたちC列のところに男の人と女の人がやってきた。

「それじゃぁ、Cグループの方、我々がご案内致します。私は垣内(かきうち)です」

「わたくしは湾内(わんない)と申します。どうぞ宜しくお願い致しますわ」

あたしたちは大ホールからエレベーターで上に昇っていった。
78 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:37:32.11 ID:09lw7FI0

あたしたちは8階の待合室みたいなところに通された。

「どうもこういう病院という感じのところは好きになれないなー」

とあたしはため息をつく。

「病院が好きな子なんか普通いないわよ」

と麻琴がツッ込む。いつもと立場が逆だねー、どうもいかんな。

「あー、でもあたしのパパはしょっちゅう病院に入ってたから、とうとう専用の部屋が出来た、ってママが言ってた」

はいはい、アンタのお父さんは不幸の避雷針だもんねー。

「でも、お父さんがいるってのは心強いわよ」

と、何気なく言葉を返すと、(あ、やっちゃったかな?)

「うう……、ごめんなさぁい、リコぉ、またあたし余計なことを……」

またグスグスが始まってしまった。

しかし、言われたあたしがわりと平然としてるのに、加害者のアンタがなんでいちいち泣くのかしら。はー、不幸だ。

「お待たせしました。それではここからは男女別になりますので宜しくお願いします。保護者の方はここでお待ち下さい。

男子の方……6人の方は私に付いてきて下さい」

垣内さんが男子6人を連れて行く。

「行ってくるねー」

と意気揚々と男子たちが部屋に吸い込まれて行く。
79 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:39:57.97 ID:09lw7FI0

「それでは、女子の4名の方、わたくしに付いてきてくださいね。保護者の方はこちらでお待ち下さいませ。

あら? あなたはどうして残っていらっしゃるの? それに、あなた(あたし)とあなた(麻琴)のご家族の方はどうなさいましたの?」

と湾内さんがあたしたちに尋ねる。そりゃそうだよね。中学生の女の子2人だけ、とは思わないよね。

「あ、あたしは実はこの子の親代わりなんでーす」とあたしがちょっとおどけて答える。

「まぁ! 本当に? かわいらしいお母様ね、ほほほ。じゃあ、あなたたち2人だけで今日は学園都市に来たの? 偉いわね」

「ええ、でも私の母は、あとから来るはずなので」と麻琴が会話に割り込む。

「あら? ではあなた、お母様はこちらにいらっしゃるの?」と湾内さんが麻琴に聞く。まずい、麻琴のウソがばれる!

「あのー、早く行った方がいいんじゃないかと……」とあたしは話をそらせようと必死。

「あらいけない、ちょっとおしゃべりしちゃったわね、ごめんなさいね。直ぐに行きましょう」 よっしゃ、作戦成功!

「ところで、その前に、あなたは検査受けなくても良いのかしら? どうなの?」おっと、意表をついた質問が来た! 

「いえ、あたしは付き添いですか「受けなよ、リコ!」……」 麻琴!この小悪魔!

「あらそうよ。大丈夫、怖いことは絶対無いから。おねえさんが保証してあげる。受けていきなさいな」

かくして遂にあたしも能力検査を受けることになってしまったのだった。

尤も、あたし自身、どこかに「もしかしたら」なんていう、かすかな期待みたいなものがあったのは事実だったから……。
80 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:46:36.41 ID:09lw7FI0

「はい、それでは確認致します。かみじょう まこと、さん」

「ハイ」

「あなたは、さてん としこ、さんね」

「はい」

「たてかわ ゆめの、さん」

「ハイ」

「ゆかわ ひろみ、さん」

「ハイ」

「それではお一人ずつ入って頂きます。服はそのままで大丈夫ですから。それではかみじょうさん、入って下さいね」

「じゃ、行ってくるね、リコ」「ハイハイ、あたし知らないからね、マコ」「だいじょぶだってー♪」

相変わらず脳天気なヤツだ。アンタ、大物になるよ、ホント。


――― ものの30秒で麻琴は出てきた ―――  (マコ、早い、早すぎるよ!)

「どうしたの?」あたしは当然ながら聞いてみた。残りの2人も寄ってきた。「何をされました?」「どうでした?」

「パパとママの名前を答えたら」麻琴がちょっとむくれて言う。

「あなたは今日ここで測る必要はないです、お母様に尋ねてご覧なさい?、と笑って言われちゃったわよ。

湾内さんって、ママの学校の後輩なんですって」

「へーっ」「なーんだ」「え、じゃあなたはもしかして能力者なの?」「え、そうなの?」「すごーい!」

「ねぇ、空飛べるの?」「火の玉出せるとか?」 2人の女の子から矢継ぎ早に質問される麻琴。

「ちょ、ちょっと、何よ、知らないわよっ、リコ助けて!」

「知ーらないってば」あたしは冷たく麻琴をあしらった……ふりをした。

「さてんさーん、入って下さいね〜」  湾内さんが私の名前を呼んだ。来てしまった。

「じゃ、あたし行ってくる」  ちょっと緊張して私は麻琴に言った。

「大丈夫、なんかあったらあたし助けに行くから」  麻琴が言う。

「ハイハイ、あてにしないで待ってるわ」

私は扉を開けて中に入った……
81 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:50:32.47 ID:09lw7FI0

「もう、御坂さんのお嬢さんだったなんて。どこかで見たような気がするなぁ、と思ってましたのよ」

と湾内さんは机の3次元ホログラムモニターからあたしの方を見て軽く睨んだ。

「すみません、あたしが不安だったので、彼女が気を利かせてあたしと同じグループに入ってきてくれたんです」

「なるほど、優しいのね。……大丈夫よ。じゃ、まずお父さんとお母さんの名前を仰って下さいね」

「父は……わかりません。あたしが生まれて直ぐに事故で死んだと聞いています」

「まぁ、それは……お気の毒でしたわね。ごめんなさいね、これも規則なので。それではお母様のお名前を」

「さてん るいこ、です。るいこは" なみだ "のるいに、" こども "のこ、です」

「佐天涙子……ね。ごめんなさいね、チェックかけているので………なるほど、お父様はわからないのね……。

あら、あなた、ここで生まれてるのね? 生年月日はXX年X月X日で正しいのかしら?」

「はい、間違いないです。記録が残っているんですか?」

「ええ、あなたがいつどこで生まれたのか、あなたのお母様がいつ学園都市に来られたかもわかりますよ……あら?」

湾内さんのデータ入力を操作している手が止まった。そして驚くべき質問が来た。

「あなた、お母様が能力をお持ちだったことは聞いてらっしゃらなかった?」
82 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:52:15.47 ID:09lw7FI0




――― かあさん、そんな話、本当なの? ――― 



「母がですか!? そんなことは聞いてません!……母は無能力者だったと常日頃言ってますし、だから、あたしが

学園都市に行くことはもちろん、今日のこの見学のことも大反対でした。無能力者には厳しいところだからって」

湾内さんはちょっとまずかったかな、という顔してあたしに答えた。

「記録によれば、あなたのお母様は、あなたの年の頃、正確には中学1年生の時に、ある病院に入院されたことがありますわ。

とある事件の被害者だったようですね。

うーん、詳しくは申し上げられませんけれど、この事件で入院された方は、いずれの方も能力を持っていらした方ばかりでしたの。

ですから、もしお母様が本当に無能力者であったならば、被害者になることはなかったはずですわ。

ただ、書庫<バンク>の記録にはお母様の能力の記載がなかったので、たぶん能力が発現したばっかりで公式に確認される前に

発病して入院されてしまったのではないかと思いますわ」

(母さんは完全無能力者ではなかった……)(母さんがウソを言ってた……)(あたしは無能力者ですからねー……)

私のアタマのなかでは、母さんの顔が、言葉が渦を巻いていた。

「ごめんなさいね、ちょっと混乱させてしまったようね。ちょっと落ち着きましょうか。とりあえず次の項目に、……あら?」

またもや湾内さんが不審な声をあげた。くるりと椅子を回してじっとあたしの目をみつめて言った。

「あなた、もしかして、AIMジャマーをつけていらっしゃる?」
83 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:56:04.91 ID:09lw7FI0

本当に今日は驚かされっぱなしだ。

「はい? アタシが、ですか? ととととんでもない、そんなもの付けたこともないです。

マコなら、いやあの上条麻琴さんが付けてるのは知ってますけど?」

「ええ、わたくしも知っておりますわ。さきほどね。」と湾内さんがあたしの顔をまっすぐに見つめて言う。

「彼女のジャマーの影響はこの部屋には及びません。ですが、今、この部屋の中にAIMジャマーが存在すると言う反応が

明確に出ておりますのよ? ほら」と湾内さんがモニターをこちらに向けるとそこには警告表示が出ていた。


       ――― ホントだ ――― どこに? どうしてあたしに? ―――    


「あなた、お母様からはやっぱり何も?」

「……はい。もう、なにがなんだかわからなくなってきました。母さんは無能力者じゃなくて、実は少しだけど能力があった。

そして、今度はわたしにAIMジャマーがくっついてる、なんなんですか? 私、いったいどうなってるんですか?

そんなこと、聞いたこともないです。母さんも何も言ってないです。もうわからないです!」

もうあたしのアタマの中はぐしゃぐしゃだった。
84 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 22:58:09.94 ID:09lw7FI0

「ねぇ、一旦休みましょうか」と湾内さんが優しくあたしに言った。

「感情が乱れると、テストにならないし、危険なこともあるの。大丈夫よ、いま無理することはありませんわ。

ちょっと何か飲んで落ち着いた方が良いですわ。コーヒーでも如何?」と優しい言葉をあたしにかけてくれた。

「ぐすっ、は、はい。コーヒー頂きますぅ……」

あーあ、麻琴を笑えないわ、あたし。グジュグジュのボロボロ。しっかりしろ、佐天利子! みっともないぞ!

「ミルクとお砂糖はどうしましょうか?」

「ミルクは普通で、お砂糖は少なめでお願いします、すみません、みっともないところお見せして」

「気にしないで大丈夫よ。コーヒーには鎮静効果がありますから、もう少ししたらだいぶ楽になりますわ。

そうね、あと2人だから先に彼女たちを測定してみましょうか。時間ももったいないし。あなたは最後にもう一度やってみましょう。

そのころにはもう落ち着いているわよね?」

「すみません、ご迷惑おかけしました……」

「いいえ、大丈夫よ。こちらのことは気にしないで下さいな」



(さて、彼女のジャマーのデータは取れたと……。これを打ち消すようにデータを作れば良い……)

……湾内は、佐天のAIMジャマーを無効化するアンチジャマーのデータを作成にかかった。
85 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 23:02:20.08 ID:09lw7FI0

あたしはコーヒーの入ったカップを持って外へ出た。

「どうしたの、リコ!?」 

ぐちゃぐちゃのあたしの顔を見て麻琴がすっ飛んできた。

麻琴の顔を見たあたしは緊張が一気に緩んで、

「マコぉぉぉぉ! うわぁぁぁぁぁぁーん!!」  

と恥も外聞もなく泣き出してしまったのだった。

「リコ、リコったら、何よ、どうしたのよ、泣いてちゃわかんないよ、しっかりして!」

たてかわゆめの(館川夢乃)さんと、ゆかわひろみ(湯川宏美)さんもちょっと不安そうにあたしを見ている。

「たてかわさん、お入り下さいな」

ちょっと困った顔をしながら湾内さんが出てきて次の館川さんを呼んだ。

「はい」

とちょっと不安げな顔をしながら館川さんが入っていった。

「ねぇ、リコったら、しっかりして。何があったの? 一体どうしたの?」

麻琴があたしに問いかける。

湯川さんもすごく心配そうな顔をこちらに向けている。

「うっ、うっ、あ、あたしに、AIM、ジャマーが、取り付けられてるって、湾内せんせいが、言うの。

で、か、母さんも、能力者だ、能力を持ってた、ってあたしに教えたの。

かあさんの、今までの話、じゃぁみんなウソだったって、そういうことなの? もうわかんないよ!」

「そ、そんな……」

麻琴が絶句してしまった。
86 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 23:05:03.75 ID:09lw7FI0

「ジャマーって、あの、能力者が付ける機械のことです、よね?」

湯川さんが恐る恐る訊いてくる。

「うん、こういうヤツだよ? ママもうちに帰ってくるときはしてるよ」

と麻琴が袖をまくり上げて自分のAIMジャマーを湯川さんに見せた。

「へー……、すごーい、ということはお二人とも、もう能力者なんですね?」

と尊敬するような目であたしたちを見る。

「いや、あたしはちょっと問題があるんだけどね? でもリコは持っているのかどうかはっきりしてなかったの。

お母さんが無能力者だってことはお母さんが言ってただけだから、リコもそれを信じてただけで、本当のことを

知らなかったと言うことよ。今まで測ったことなかったから、(チェックしてもらって)よかったのかもよ」

麻琴がわりと冷静なことを言い始めた。その通りだよ、とあたしを見つめるもう1人のあたしがささやく。

でも、そんなのいや、あたしは、と言おうとしたところで

「ありがとうございました」

と館川さんが部屋から出てきた。泣きそうな顔をしている。

「どうでした?」「どんな感じでした?」麻琴と湯川さんが口を揃えて訊く。

「簡易検査だから、改めて精密検査を受けることも出来るけど……」

館川さんが、ぽろっと涙をこぼした。

「たぶん、能力はない、って、うぁぁぁぁん! 悔しいよぅ、どうしてなのよぅ、うわーん!」

ばっと走り出し、ソファーにしがみついて、バンバン座面を叩きながら館川さんが泣く。

(能力が無くて、悔しいって泣くひともいるんだ……)とあたしは、自分と彼女とが全く逆の立場なのに、どっちも衝撃を受けて

泣いていることにちょっと不思議な気がした。
87 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 23:08:51.72 ID:09lw7FI0

「ゆかわさん、どうぞ」  湾内さんが湯川さんを呼んだ。

「は、はい。直ぐ行きます」  すっかり緊張してしまった湯川さんがおずおず、と言う感じで入っていった。

むこうのソファーでは、館川さんがぐすぐすまだ泣いている。


「うまくいかないものね……」  と麻琴がため息をついていう。

「リコは能力があるかもしれない、ってことで泣き、館川さんは能力がたぶん無い、と言われて泣く。入れ替わってれば

めでたしめでたしだったのにね……」


ちょっと違うんだよね、リコ。あたしの衝撃は、あたしの母があたしにAIMジャマーをどっかに付けたこと、そしてそういうことを

全く教えてくれなかった、ということにあるんだけどね。



――― そうか、だから反対してたんだ ――― 



謎が解けた。なんで母さんがあれほどあたしを学園都市にいかせまいとしたのか。秘密がばれるからだ。なんだ。そういうことか。


――― じゃ、あたし、もしかしたら本当は能力があるのかも? ――― 


そうでなくては、あたしにAIMジャマーを付けておく意味がない。どんな能力なんだろう? 麻琴のような電撃?

さっきのあのひとのようなテレポート? それともスーパーマンとか? 空飛べたらいいな。



母さんの能力は、いったいどんなものだったのだろう? でも母さんがAIMジャマーを付けてるようには見えなかった。

記録にもない、ということはどういうことなんだろう?

1つの疑問は解消した。しかし新しい疑問がまた生まれた。


あたしはすっかりぬるくなってしまったコーヒーを飲み干した。
88 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 23:13:02.13 ID:09lw7FI0

「ありがとうございました」  湯川さんが出てきた。どうだったんだろう? 

「どうだったんですか?」  麻琴が尋ねる。

館川さんも聞き耳をたててるみたい。

「精密検査を受けた方が良いですって」  不安と希望が入り交じった感じで湯川さんが答える。

「簡易検査では能力発現性は確認できないけれど、完全にゼロという答えも出てこないので、もう少し調べた方がいいと言われました。

その上で進路を決めた方が良いんじゃないかって……」

「なら、あたしも精密検査受けるー!」  館川さんが叫ぶ。

「簡易検査じゃわからないことだってあるんでしょ? あたしだって精密検査受けてもいい、って言ってたし。

絶対あたし、能力あるはずなんだから!」

どんな検査受けるんだろう? 痛いんだろうか? 気持ち悪くならないだろうか? あたしはそんなことを考えながら、

元気を取り戻した館川さんと、とまどっている湯川さんとを見つめていた……



「さてんさん? どうかしら」 湾内さんがあたしをまた呼んだ。

「大丈夫です!」 先ほどとは違った考えであたしは再び部屋に入った。 
89 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 23:17:06.13 ID:09lw7FI0

「気分は如何? もう落ち着いたかしら?」  と湾内さんが微笑みながらあたしに訊いてきた。

「ええ、なんか吹っ切れた、というか、あたしにはもしかしたら本当に能力が隠されてるのかも、という気がしてきまして」

「そうかもしれないわね。じゃ、ちょっとあなたのAIMジャマーを無効にしてみるところから始めますわ。

ちょっとこちらに来て、そこのベッドで休んで頂けるかしら? あ、服はそのままでいいわ」

湾内絹保は佐天をベッドに寝かせ、何やら小型のZアームの先に小型の機械を取り付けて行く。

「あの、あたしのAIMジャマーがどこにあるかはわかったんでしょうか?」  と佐天が尋ねると、

「あなたが全く知らない、ということは私にもどこにあるかわからないと言うことなの。もしかすると体内に埋め込まれているかも

しれないんだけれど、それをチェックする時間をかけるより、今動作しているAIMジャマーの働きを打ち消してしまう方が簡単

だと思うのね。大丈夫よ、痛くもかゆくもないから、安心しててね。じゃスイッチ入れます」

湾内さんはホログラムキーボードでひとしきりコマンドを打ち込み、いくつかのスイッチを入れた。

特に何の変化もない。

「オッケー、ジャマーは見かけ上動作を止めたわ」 なるほど、画面にはジャマーの動作が殆ど見えていない。

あたしには何も感じられない。ホントにあたしにAIMジャマーなるものなんか付いているんだろうか?
90 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 23:20:29.29 ID:09lw7FI0

「じゃ、ちょっと起きてくれるかな? この水薬飲んでみて下さいね」

と湾内さんがあたしにピンク色のちょっとどろっとした感じの薬を渡した。

以前、麻琴が言っていた「あやしげな薬」って、もしかしてこれ?

「あの、これは……?」  さすがになんだかわからないものを黙って飲むのはいやだった。

「ああ、ごめんなさいね。説明しなかったわね。それは脳活性化誘導促進剤といって、脳の活動を促進するお薬よ。

これを飲むと、脳のある部分を刺激して、今まで使われていなかったところの隠れた能力が出せるようになったりするの。

これは昔からあるもので安全性は確認されてますわ。それと、あくまで補助なので、脳への負担は少ないの。大丈夫よ」

湾内さんが優しく説明してくれた。

「もしかして、館川さんや湯川さんも?」  と聞いてみると、

「ええ、飲みましたよ。結果はあたしは秘密保持の取り決め上、何も言えないの。ごめんなさいね」  と湾内さんが答えた。

結果は本人たちが既にさっきバラしちゃいましたけど、というつっこみは止めておいた。

(えい)とばかりに、あたしは目をつぶって飲み込んだ。あま〜い。ちょっと、スゴイ甘い。

「あなたよりうんと小さな子もいたでしょ?だから甘くしてあるの」

とあたしの渋い顔をみて湾内さんは少し笑いながら、理由を言った。

「じゃ、また横になってね。ちょっとデータを取りますから……」

と湾内さんはあたしの頭、首、手、腕、足首、おなか、胸に電極をテキパキと取り付けて行く。

と、その時。

部屋のスピーカーから

「業務連絡、業務連絡、研究第1グループ6チーム、湾内絹保さん、研究第1グループ6チーム、湾内絹保さん、至急館内連絡電話

をお取り下さい。繰り返します、研究……」とページングが流れてきた。

「あら、何かしらね、ページングなんて珍しいこと」とつぶやきながら壁にかかっている子機を取った。

「ハイ、湾内ですが?……はい、確かに私のところに……、まぁ、本当ですか? ……は、はい、そうですね。はい。わかりました。

それで、まだ1名確認が終わっておりませんので、その後で、あれ? もしもし、もしもし?」


そのとき、部屋の外では……
91 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 23:25:29.38 ID:09lw7FI0

「間に合ったかな?」「お姉様、受付の確認途中にいきなりここへ飛び込むというのはマナー違反だと思いますけれども?」

上条美琴と白井黒子が、いきなり中学生3人の前にテレポートして姿を現したのだった。

麻琴、館川、湯川の女子中学生3人は、突然空中から現れた女性2名にすっかり土肝を抜かれ、呆然としていたが

いち早く気を取り直したのはさすがに麻琴で「ママ、ごめんなさい!」と先手を打った。

「あたしがリコを誘ったの!」

「麻琴、あんた、誰に断って利子ちゃんを連れてきたのっ? このバカたれっ!」  とバチンと麻琴を張り飛ばした。

「ごめんなさい、ごめんなさい」  とひたすら謝る麻琴。

「おおおおお姉さま、いけませんわ、暴力はいけませんわ、おやめ下さい! お嬢様にそんなことを……」

白井が美琴を押さえにかかる。しかし、美琴は、

「ほっといて、黒子。これはあたしのウチの問題なんだからっ! いやウチだけじゃない、佐天さんに迷惑かけてッ!

娘といえど、いや、ウチの娘がッ、ウソついて、自分のことのウソならまだしも、大事なお友達のことでウソついてッ!」

館川・湯川、2人の女子中学生はあまりのことに呆然として成り行きをみている。


「ちょっと、何さわいでいるんですかっ!」  扉をガラッと開けて湾内が飛び出してくる。

「ここは研究室でっ、あ……? あ、あのもしかして、今の電話の……、御坂さま……と、しらい……さんでしょうか?」

二人をみて、湾内の怒りがすっと消える。
92 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 23:28:26.85 ID:09lw7FI0

「お久しぶりですの、湾内さま。白井黒子でございますわ。お変わりございませんこと?」

「上条美琴です。ご無沙汰してましたわね。湾内さんもお元気でいらっしゃいましたか?」

今までぎゃーぎゃー騒いでいた美琴と黒子がころっと態度を変えた。これまた第三者の中学生2名は唖然。

「湾内絹保でございます。お久しゅうございます」  と湾内さんがぺこりと頭を下げる。

「湾内さん、佐天利子さんは?」  美琴が湾内に訊く。

「は? はい、今、中でちょうど検査を始めたところですが」

「止めてっ! 危険だわ、早く止めて!」  ダッと美琴が部屋に走り込む。

「え、えええっ? ちょ、ちょっと、それってどういうことですかっ?」  湾内が動転する。

「お、お姉様っ? 落ち着いて下さいましっ! 危ないですわっ?」  美琴を追いかけて白井も部屋に突っ込む。

「リコが危ないって? どういうことなのっ?」

美琴にひっぱたかれて出来た赤い手形をほっぺたに付けたまま、麻琴も部屋に入ろうとするが、

「麻琴さんは外にいて下さいっ!」  と湾内に立ちはだかられ、締め出されてしまった。

「えー、なんでアタシはだめなんですかぁ〜? ひどいよぅ、ねぇ、ママ〜」  と外でダダをこねるしかない麻琴であった。

館川・湯川の女子中学生2人は、あまりの展開の早さに全く付いて行けず、お互いに顔を見合わせるのが精一杯だった。
93 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 23:34:28.64 ID:09lw7FI0

「ど、どうしたんですか、いったい? あ、おばさま? ……あのう、それにそちらの方は?」

体中にセンサーを貼りつけられていたあたしは、いきなり血相を変えて飛び込んできた美琴おばさま、そしてもう1人の女性に

ちょっと驚き緊張した。

「はー、とりあえずは無事みたいねー、ふう」  と美琴おばさまが肩で息をする。

「ご挨拶が遅れましたわ、私、風紀委員会<ジャッジメント>統括総合本部におります白井黒子(しらい くろこ)と申しますの。

こちらの上条美琴委員(おねーさま)の1年後輩にあたります。佐天さんのお母様とは同い年で、良く存じあげておりますの。

宜しくお願い致しますね?」

と白井さんが挨拶した。お母さんのお友だちだったんだ……。

「私は中学2年生で、佐天利子といいます」  寝たままであたしは白井さんに答えを返した。

「あたしも中学2年の上条麻琴と「こらっ! 何してるの?」……いいじゃない、あたしとリコは姉妹なんだから!」

外で聞き耳をたてていたのだろう、麻琴がいきなり飛び込んできて美琴おばさまとちょっと言い争いを始めた。

いきなり飛び込んでくるってところはさすが親娘、あなたたちそっくりだねぇ。

「まぁ、なんという運命のいたずらなのかしら、御坂様のお嬢さまに佐天さんのお嬢さまと、こんなところでお会いするなんて!

本当に素晴らしいことなのですの! それに湾内さんまでここにいらしたなんて」

白井さん、緊張感ゼロですけどいいんですか? 美琴おばさま、引いてますけど?

「そんなことより、湾内さん、はやく佐天さんのこのセンサー、外して!」  美琴おばさまがはっと我に帰り、湾内さんに指示する。

「は、はい? でもどうして?」 

あたふたしながら、湾内さんがあたしの身体のそこここに付いているセンサーをバリバリと引きはがして行く。

「いたっ!」

「ご、ごめんなさいね」  せっかく取り付けたセンサーは全部外されてしまった。

「とりあえず、これでいいか……」  美琴おばさまはふーい、と息を吐いて、空いている椅子を見つけて腰を下ろした。

94 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 23:38:33.31 ID:09lw7FI0

白井さんがあたしの顔をじっと見ながら訊いてきた。

「佐天さん? あなた、この先行体験ツアーに参加されているわけですけれど、あなたはこの学園都市にいらっしゃるおつもりですの?」

「いやー、正直、よくわかんないんですけれど……。母はとにかく反対ですし、あたしも母譲りで能力はゼロですから、どうかと……」

と答えると、白井さんは

「何を仰ってるんですの? お母さまは無能力者ではありませんのよ。能力開発を望まなかっただけですのよ」

とやはり湾内さんと同じようなことを言う。やっぱりそうなのか……。

「えー、佐天のおばさんはレベルゼロじゃないんですか?」  と麻琴が突っ込んでくる。

「おばさん、と言う言葉には少々引っかかるものがございますわね?」  と白井さんが突っ込み返すが、

「え? だってウチのママの一つ下、ってことは……36歳でしょー? 立派なおばさんですよぅ?」

と麻琴が地雷を力一杯踏みつけた!

「ななななななななんと言うことをッ!? レディに向かってその発言は失礼ですのよっ!」

おーい、娘みたいな中学生相手に本気で怒るんですかー白井さ〜ん? はーアタマ痛いわ…… 



ホントになんか痛い?

やだ、なにこれ? え?

ちょっと……冗談じゃないわ、痛いよ、すごく痛い! 死ぬかも!!

助けて……マコ…… 怖いよ母さん! お母さぁん!! 助けて!!! お母さん!!!

猛烈な頭痛が突然押し寄せてきた。頭が割れそう。身体の力が抜けた。もうだめだ。

くらっとあたしはそこに横倒しに崩れて倒れ込んでしまった。

「佐天さん?」

「利子さん!!!」

「リコ? ちょっとリコ? どうしたの? リコ!!」

麻琴が駆け寄って…… 真っ黒な雲があたしを包み込んだ。



あたしの意識はそこで切れた。
95 :LX [sage saga]:2010/11/08(月) 23:53:13.73 ID:09lw7FI0
お読み下さっている皆様、

こんばんは。>>1です。

ちょっと早いのですが、キリがよいところだと思いますので、今夜はここまでに致しとう
ございます。
(このあとですと、中途半端な位置でとめることになりそうで、それはどうかと思いまして)

テキストファイルの大きさで見てみましたところ、現在約1/4を投稿したあたりの
ようです。
ということで、200ではなく300くらいはかかりそうです。

宜しくお願い致します。
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 23:56:38.22 ID:Khy2nwYo
>>1
乙です
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 00:19:17.13 ID:ELbmJOYo
乙でした
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 02:07:38.74 ID:GYZd3e2o
追いついたぜ!
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 03:52:54.79 ID:F8XZTcAO
続きが気になってしょうがない
100 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 07:08:18.43 ID:nJEwQ/c0
皆様、おはようございます。>>1です。

コメントありがとうございます<(_ _)>
励みになります。

では少しですが出勤前に投稿致します。
101 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 07:11:16.58 ID:nJEwQ/c0

「リコ、リコっ、しっかりして!」  麻琴が利子にしがみつく。

「麻琴、アンタ邪魔だからどいてっ!」  上条美琴が麻琴を引きはがし、顔をひきつらせている湾内を睨む。

「あんた、何をしたのっ!?」  美琴が目を血走らせて言う。

「は、はい、薬を処方してます。精神集中補助剤と脳活性化誘導促進剤の複合剤です。簡易能力チェック用の薬です。

傾向を見るのにはこれが確実ですし、副作用も殆どありませんので……」  湾内絹保はすっかり動転している。

「ああ、アタシ迂闊だったー! なんてものを……あんた、彼女がジャマー使ってること知らなかったの?」

「本人は知らなかったそうですが、チェッカーが作動しましたので使っていることは確認してました」

「バカっ、もし体内にあったらどうするのよ!こんなところじゃ取り出せないわよ!?」

「そのことを考えて、AIMジャマーのパターンを読みとって減衰機<アンチジャマー>を動作させてあるんですよ? 

 なのに、なのにどうして?」

「あー、説明してる時間がないっ! 湾内さん、解毒剤というか、あなたの薬を効かなくするヤツは?」

「はいっ、あります!」

「それ飲ませなさい、早く!」

湾内が控え室にすっ飛んで行く。

「ごめんね、利子ちゃん、あたしたちのせいで……本当にごめんなさいね」

美琴が涙を流しながら、意識がなく顔をゆがめて荒い息を吐いている利子を撫でさすっている。
102 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 07:14:57.18 ID:nJEwQ/c0

「これです!」  湾内が薬を持ってくる……が、

「これ、注射器が必要なやつじゃないのよ!」

「ええ、でも注射器は今ここにはないです」

「何ですって?? あーもう役に立たないわねっ! 黒子! アンタ、看護師免許あるわよね?」

「もちろんですわ、風紀委員<ジャッジメント>の上級職員は必須ですの」

「どっかで注射器見つけて、あんた、この薬を佐天さんにうって!」

「はいですの!」  白井がテレポートして消える。

「す、すみませんでした」  湾内がひたすら恐縮している。

「あたしに言っても意味ないわよ。佐天さんが起きたら謝りなさいね?」  美琴が言う。

「そうだ、麻琴、ちょっと手伝って。えーと、あんた外出て、待ってる女の子2人をお母さんたちが待ってる集合場所まで

 連れて行ってあげて」

「は、はい。じゃ行ってくるね、ママ。リコを見ててね、お願い」  麻琴が泣きそうな顔で出て行こうとすると、

「わ、私もちょっと一緒に行ってきます。垣内さんにも連絡しておきますから」  と湾内も一緒について部屋を出た。

部屋には上条美琴が1人残った。

「まさかこうなるとは……、ごめんなさいね、利子ちゃん。完璧なはずだったんだけど……」

と独り言を言いながら苦しげに荒い呼吸を続ける佐天利子の髪を撫でていた。


103 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 07:18:07.60 ID:nJEwQ/c0

「ありましたわ!」  白井黒子が救急キットを持ってテレポートしてきた。

「近くの66番支所で借りて参りましたわ。では早速」  黒子は薬の瓶にある注意書きを読み、注射器にその薬を充填した。

「あんた、息切れてない? 大丈夫?」  美琴がちょっと不安そうに白井に聞く。

「お姉様、そ・れ・は・ちょっと黒子に失礼、ですわよ? わたくし、学園都市1級看護師の白井黒子、ですのよ?」

と軽口を叩きながら、さっさと佐天の腕をまくり、静脈注射を1本打った。

「とりあえず、これで脳の暴走は食い止められるはずですの。でもやはり脳の問題ですから病院で念のため検査を受けた方が良いと思いますわ」

「そうよね、どこに連絡しようか?」

「一番近いのは、私ども風紀委員直属のジャッジメント付属病院がありますけれど……」  白井が考えながら答えを1つ出す。

「近いの?」

「クルマで5分、というところですわ」

「オッケー。そうしようか?」  美琴は答えたが、

「しかしお姉様、そうなりますと、ことが大きくなりますわ。正式に捜査になるおそれがありますの。佐天さんも場合によっては

捜査の結果が出るまで出国できなくなるかもしれませんし、湾内さんもいろいろとややこしいことになるかもしれませんわ……」

と白井が懸念を示す。

数秒間「考える人」のポーズを取った美琴はパッと顔を上げて白井を見た。

「黒子、決めたわ」

「はい?」

「アイツの行きつけのところにする」
104 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 07:24:44.14 ID:nJEwQ/c0

救急車に佐天利子を乗せ、上条美琴・麻琴親娘、白井黒子、湾内絹保の4人が美琴のリモに乗り込み、救急車の後を走る。

「で、結局どういうことなんですの、湾内さん? 説明して頂けませんこと? 場合によってはあたくし、風紀委員<ジャッジメント>

として、貴女にお話を伺わねばならなくなりますのよ?」

と白井がじとっとした目で湾内を睨む。

「は、はい。佐天利子さんはお母様から全く能力について知識を与えられていなかったようですわ。

それだけならよくあることですが、しかしその一方で何故かAIMジャマーを身につけていらっしゃる。

でもそのいきさつを佐天さんご自身は全く知らない。かなり不自然な状況です。

本人がAIMジャマーの存在を知らないということは、体内に埋め込まれている可能性が高いために、

今回はジャマーを一旦無効化した上で能力のチェックを行った方がよいだろうと考えまして、

まずAIMジャマーの波形を取り、アンチジャマーの動作プログラムを作りました。

これを動作させることでAIMジャマーを無効化出来ますし、実際に無効化出来たことを確認した上で

あの薬を処方したのですが……。薬自身は合法的なものですし、今までも入学時の先行テストでは長いこと

使われておりまして、安全性には定評がありましたから、特に疑いもなく……」

「なぜAIMジャマーが動作していないのに彼女が昏倒してしまったか、ですわねぇ……」

白井がため息をつく。
105 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 07:26:32.46 ID:nJEwQ/c0

「は、はい。その通りです。今思えば、やはり身体スキャンしてジャマーの場所をきちんと確認した上で、

AIMジャマーを外してから検査にかかればよかったと……ごめんなさい、ううっ……」  湾内が頭を抱えて突っ伏してしまう。

「状況からみて、作動していないはずのジャマーが実際には動作している、ということしかなさそうね。

それならば、能力発現促進剤によって脳が刺激を受け活動が激しくなったところに強制ダウンの圧力がかかった、

ということだから、佐天さんが昏倒する説明はつくわね。想像もしたくないわ。

片方で煽って、もう片方で妨害だもの。脳だってどうしたらいいかわからなくなるわよ」  美琴が考えを述べる。

「でもお姉様? すると……」  白井が考えながら発言する。

「ジャマーと脳が葛藤して、佐天さんが倒れた、ということは……?」

「彼女に能力があるから、ということになる、わね……」  美琴が白井の疑問を引き取る形で答えを出した。

「ママ、リコは? リコは大丈夫なの……?」  黙って聞いていた麻琴が不安そうな顔で美琴に尋ねる。

「大丈夫よ」  と美琴が微笑んで麻琴に答える。

「明日はみんな揃っておうちに帰るわよ!」
106 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 07:30:40.86 ID:nJEwQ/c0

>>1です。

それでは出勤準備にかかりますので、朝の投稿を止めます。
夜にまた投稿致します。

お読み頂きましてどうも有り難うございました。
107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 08:09:41.53 ID:ejCimg2o
>>1
乙でした
108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 14:20:03.94 ID:/kBbQuEo
乙でした
109 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 20:40:05.25 ID:PAYCfSg0

皆様こんばんは。>>1です。

遅くなりましたが、これから投稿を始めます。
どうぞ宜しくお願い致します。
110 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 20:41:48.20 ID:PAYCfSg0

ここは、冥土返し<ヘヴンキャンセラー>の病院。

あの、カエル顔の医師は健在であった。

彼の部屋に上条美琴が座っていた。

「こんにちは、上条さん。久しぶりだね。まぁ、僕には滅多に会わないほうが良いんだけどね?」

「こちらこそご無沙汰しております。おかげさまで、妹達<シスターズ>も、ここのメンバーは全員健在ですし」

「そうだよ、僕が面倒みているんだからね、君より長く生きてもらうつもりだよ。まぁみててごらん?

ところで、今日の患者は彼じゃなかったんだね?」

「つまらない冗談はよして頂けませんか? それより彼女の方を宜しくお願いしますわ」

「ああ、話は湾内さんだったかな、彼女から聞いている。応急処置も適切だったようだね。念のためチェックを今、

 いつもの彼女にしてもらっているよ。そう時間はかからないだろう」

「そうですか、良かった……」

「そうそう、データで思い出したよ。あのときの子なんだね? いや、月日の経つのは早いものだね、僕が年を取るわけだよ」

「そのことは内密に願います。先生のところを選んだのは「いや、すまなかったね。キミの言うとおりだ。僕は医者だからね。

 患者の秘密は守る義務がある。信用してくれていいよ?」……お願いしますね」

その時、扉がノックされた。
111 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 20:43:58.58 ID:PAYCfSg0

「終了したかな? 入って良いよ?」カエル医師がノックに答える。

「入ります……!! これはこれは、お姉様<オリジナル>ではありませんか! あのひとに何かあったのですか?」

入ってきたのは、かつて御坂妹と言われていた妹達<シスターズ>の1人、ミサカ麻美(あさみ・元10032号)であった。

「アンタねぇ、ひとの亭主つかまえて<あのひと>発言はやめなさいよね、誤解招くわよ?」

はー、とため息をついて美琴がミサカ麻美(10032号)をたしなめる。

「このミサカにとって、<あのひと>は命の恩人です。なによりこのミサカは、直接<あのひと>に生きる希望を与えられた

唯一のミサカなのですから。他に呼び方は考えられません」

「はいはい。事実はその通りね。あなた、そう言えばしゃべりかたはかなり普通になってきたわね?」

「お望みとあらば元に戻せますが、戻しましょうか? と、ミサカはお姉様<オリジナル>に質問を投げかけます」

「いいわよ、別に。ちょっと気になっただけだし、あたしの影役とは違うなと」

「10039号や19090号とは生活環境が大きく異なりますから、とミサカはお姉様<オリジナル>からミサカの質問に回答がないことに

対して何ら不満の声を上げることなく、お姉様<オリジナル>の質問に対し丁寧に回答します」

「あー、ミサカくん? 姉妹ゲンカはその辺にして、肝心の報告をしてもらってもいいかな?」

カエル顔の医者がここらでもういいだろう、と二人の口撃を止めさせた。
112 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 20:48:14.91 ID:PAYCfSg0

「失礼致しました、ドクター」ミサカ麻美(10032号)は直ちに看護師に戻った。

「B−316の救急患者の容態確認が終わりました。報告します。

血圧、上下ともに正常範囲内、血液内各成分分析、速報ですが異常データなし。脈拍数若干高いものの正常と判断。

心電図チェック、異常値なし。 

脳波レベル、α波 正常値、β波 正常値、θ波 正常値。突発波発生認められず、波形異常認められず」

美琴はその報告を聞いてほっとため息をついた。が、

「現在、過度の脳の活動集中及び相反するAIMジャマーによる疲労のため脳活動の一部ダウンにより睡眠中ですが、あと1時間弱で

意識も回復するものと判断します。なお、AIMジャマーの動作も異常ありませんでした」

との報告に思わず美琴はミサカ麻美(10032号)に

「麻美、ゴメン、先生と2人で話がしたいんだけど、ちょっと席を外してくれるかしら?」  と頼む。

「いえ、報告は終わりましたので、わたくしはこれで失礼致します」  とミサカ麻美(10032号)は二人に礼をして部屋から出て行った。
113 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 20:49:59.40 ID:PAYCfSg0

カエル顔の医者はミサカ麻美(10032号)が去ったのを確認して美琴に振り返って言う。

「ね? 僕の作ったものはしっかりしているだろう? もちろん、彼女とあの娘さんが僕の言いつけをしっかり守ってくれている

 からこそ、僕の技術が生きているのだけれど」

「湾内さんにばれたらどうしよう、とヒヤヒヤでしたわ」  と美琴が苦笑して答える。

「ただね、これは僕よりもむしろ木山君のテリトリーだと思うけれど」  と前置きして、カエル顔の医師は顔を引き締めて美琴に言った。

「今回のことで、今まで意図的に押さえられてきた脳の一部分の活動が彼女の脳に記憶されてしまった。

まぁいつかは起きることだったかもしれないが、とにかく起きてしまったことはもう消せないんだ。

今後も何かのショックでまた同じことが起きる可能性がある」

「すると……また倒れることが?」  美琴が恐る恐る聞く。

「それでは済まないかもしれないな。ジャマーが壊れるか、彼女の脳が壊れるか……」

「!」

「あのジャマーは残念だけれど、お役目御免の時が来たのかもしれないね。キミやお嬢さんのように、能力発現部分にのみ影響を

及ぼすタイプに切り替えるべきなんだろうな」

「でも、彼女の能力は正確には……」

「そこまでは僕はタッチできないな。僕が言えるのは、彼女はもう普通の人には戻れなくなってしまった、と言うことだ」
114 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 20:52:37.82 ID:PAYCfSg0

(どうしよう、とりかえしのつかないことをしてしまった……) 

と美琴は重い足取りで個室を出てフロアへ戻った。

そこには不安そうな顔で麻琴、白井、湾内の3人が待っていた。

「ママ、リコはどうなの?」「先生はなんと仰ってましたの?」「……」

と、我に返った美琴は、声を張り上げて

「あ? ああ…、ああ! もちろん全部異常なしだって!あと1時間以内に目が覚めるだろうって言ってたわ!」

と力強く答えた。

「よかったですの!」

「あ、あたし、アタシ、リコに、もし万一のことがあったら、もう生きていられ……びえええええ」

麻琴はようやく気が緩んだのか盛大に泣き始めた。

「ほらほら、麻琴さん? レディたるもの、びーびー泣くものじゃございませんよ? ほらお顔を拭いて」

と白井が麻琴の面倒を見ている。すっかり麻琴も白井に慣れたようだ。

「は―――っ……」  

湾内絹保もやはり気が緩んだのか、ソファーに崩れるように座り込んだ。

(湾内さんも気が張ってたのね……)と思いつつ、(だけど、どうしよう、佐天さんにはいつ? どうやって言えば?)

と再び美琴は考え始めた。
115 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 20:54:45.59 ID:PAYCfSg0

「……さま、お…………ま、ちょ……えていらっしゃいます? ちょっとお姉様?」

「は、はいっ?」  白井の声で再び美琴は現実世界に引き戻された。

「もう、なにをそんなに考え込んでいらっしゃいますの? そろそろ佐天さんのお部屋に行っていた方が宜しいのでは?

お部屋に参りませんか? とお尋ねしておりましたのに」  と白井が麻琴を従えて訊いてくる。

「そ、そうよね、起きたときに誰もいない部屋は寂しいよね、じゃ行こうか?」

「あ、あのう……あたくしはやはりちょっと……」  湾内はこの事故を引き起こした張本人なだけに遠慮しきっている。

「うーん、じゃ部屋の外にいてもらって、落ち着いたら呼ぶから、というのはどうかな?」

「そ、それで十分ですわ、ではわたくしは部屋の外でお待ち致しますわ」  ホッとしたように湾内が答える。

「よし、じゃ行こう。えーと、B棟の3階、316号室だったわね」




「ここですわね」

「静かに、まだ寝てるはずよ」

「ではわたくしはここで待っております」

「リコ、ちゃんと起きてくれるよね……?」

部屋の中に静かに入って行くとベッドに突っ伏しているひとが1人。

(……誰?)顔が向こう向きなのでよくわからない。

美琴が静かに低い声で

「すみません、あの……」  と尋ねながら肩に手を置いた瞬間、

「は、はいっ!?」  とそのひとは反射的に立ち上がった。


――― 佐天さん ――― 


目は真っ赤に充血し、目の下には深い隈が出来ていて、化粧ゼロのすっぴん、



佐天涙子だった。
116 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 20:58:33.83 ID:PAYCfSg0


「本当に申し訳ございませんでした」

「本当ですよ。あのバカ娘め、顔を合わせたが最後、さんざんぶちのめしてやろうと思って意気込んできたら、

 <病院に担ぎ込まれました> ですよ? あたしの立場どうしてくれるんです、湾内さん?」

いつもの軽口を交えて話す佐天涙子であったが、昨日は大変だった。

ーーーーーーー

バルセロナの国際空港に着いたのが午前2時。カウンターですったもんだして学園都市行き超音速機直行便のビジネスクラスを

ゲットして出発は午前3時。例によって強烈な旅の末、23学区の国際空港に降り立ったのは昼の12時半。

タクシーに飛び乗り、中から花園(初春)飾利に連絡、利子の居場所を聞き出し(第1中央能力開発センターという名前を

聞いてまた愕然)、センターに着いて問いただしてみると「さきほど救急車で運ばれましたが」との話で驚愕、腰砕け状態。

どこへ運ばれたかが不明で、再び花園に情報収集を依頼、救急車が「あの病院に入った」ことを知り、ようやくのことで

たどり着き、娘の病室に入り込んだ。

しかし、ぶちのめすはずだった娘利子は深い眠りについており、それを見た佐天涙子も安堵と疲労から急激な睡魔に襲われ、

ベッドの脇で突っ伏してしまったのであった。
117 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 21:02:29.91 ID:PAYCfSg0

「佐天さん、あなた確かさっきまでバルセロナにいたのよね?」   美琴が涙子に訊く。

「ええ、おかげさまで徹夜状態ですよぅ……はは、アタシも残念ながら歳なんですかねぇ、昔はこれぐらい、どうということも

なかったのに」

顔を洗ってはきたものの、目の下の隈は取れていない。化粧しようにも、バッグには最低限のものしかなく、殆どは空港に預けてきた

スーツケースの中だ。

「ちょ、そんなこと言ったらあなたより一つ上のあたしはどうすればいいのよ?」  美琴がむすっとして答える。

「ちょっと、佐天さん? お顔の色がすぐれませんし、そのままではちょっと宜しくないと思いますわよ? あたくしので
 
差し支えなければお貸ししても、如何ですの?」  黒子がバッグを「ほれ」と佐天に突きつける。

「いやいやいや、この佐天涙子に身に余るお言葉、有り難うございます、でも……」

と涙子がいやいやとんでもない、と言おうとしたときに



「……お母さん?……」     かぼそい声がした。



「としこ?」

「おかあさん!」     利子が跳ね起き、ベッドから飛び出して、母・涙子に飛びつき、ひし、としがみついて泣き出した。

「おかあさん、おかあさん、おかあさん!」

「……」   

母・涙子は黙って、娘・利子を左手で抱きしめながら、右手で頭をよしよしと優しく撫でてやる。

「あたし、怖かったよう、頭痛かったよぅ、うわぁぁぁぁーん」

いつもは、ちょっと大人びた感じがする利子だったが、涙子にしがみついて泣きじゃくる姿は、どこにでもいる、ただの14歳の

普通の女の子であった。


そう、「普通の14歳」の……
118 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 21:09:02.52 ID:PAYCfSg0

「そんなことより佐天さん、先生がいらっしゃいましたですの」  白井が、湾内と喋る佐天涙子に注意を促した。

「え? あら、いけない」  佐天(涙)がパッパッと服をなおし、娘・利子をそばに立たせ、

「このたびは、本当に娘がおせわになりまして、どうも有り難うございました」  佐天親娘がカエル顔の医者に深々と頭を下げる。

「いやいや、僕は今回は特に何もしていないよ? お嬢さんの面倒を見てくれたのは」  その医者は廻りを見渡していう。

「ここにいる、みんなだと思うよ」

ニコニコ笑っている上条当麻・美琴・麻琴のファミリー、白井黒子、湾内絹保、そして花園飾利であった。



ちなみに奥の方では、美琴の秘書ミサカ美子(10039号)と影役ミサカ琴子(19090号)、看護師ミサカ麻美(10032号)が

上条当麻を巡って一悶着を起こしていたが、美琴から「あなた達を娘に紹介するのはもう少し時間が欲しいから、今は席を

外して待っていて欲しい」と強くお願いされたため、表面上はおとなしく見えないところに詰めていた。

当然ながらミサカネットワーク内では激しいやりとりが交わされていたのだが特に大筋には関係ないので省略しよう。



「いやぁ、今回もまたウチの麻琴が企んだことで皆様にご迷惑かけてしまったみたいで、本当にすみません。ほれ、おまえも頭下げなさい」

当麻が娘・麻琴の頭をぐいと押さえつける。

「ちょっと、パパ、止めてよ、そんなことしなくたって、アタシ反省してるんだからって……ごめんなさい、あたしのせいです」

と父当麻に少し反発しつつもおとなしく頭を下げた。そうとうしかられたのだろうし、彼女自身も肝を冷やしたのだろう。
119 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 21:12:13.72 ID:PAYCfSg0

「そ、偉そうなこといってるアンタは何もしなかったけどねー。まぁアンタが今回は何もしなかったから、スムースに事が

進んだんだけれど?」

美琴が当麻にまぜっかえす。

「おいおい、こういうときになんてこと言いやがりますかねー、美琴さんは? そんなこと言われると、上条さんはまたここへ

入院しちゃいますよ?」  当麻がやり返す。

「部屋は用意してあるよ? 入るのかい?」  カエル顔の医者が言う。

「うちにはキミを待っている看護婦もいるようだしね?」

当麻は、一瞬御坂妹ことミサカ麻美(10032号)がガッツポーズをしている姿を思い浮かべたが、

「わぁっ!?」

美琴が左手を握り軽く電撃を飛ばしてきたので悲鳴を上げた。

「アンタ、今へんなこと考えてたでしょ?」  美琴がすました顔で言う。

「な、なにを仰っているんでせうか、美琴さ〜ん?」  当麻が泣きそうな声を上げる。

「お、お姉様、何をこんなところでいちゃいちゃなさっているんですのっ? お止め下さいまし」  白井があたふたしながら注意をする。

「おほほ、仲がお宜しくて羨ましいですわ」  と湾内が一歩引きながら笑う。

120 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 21:15:34.34 ID:PAYCfSg0

「御坂さんも相変わらずですねぇ……」  と花園飾利がやれやれと言った感じでつぶやく。

「佐天(涙)さん、忘れないでくださいね? 銀座のパティスリー・アオヤマのアレとイデミ・スギタのアレですからねっ!」

「おー、初春、わかってるって」  佐天(涙)が笑っていう。

「初春じゃありませんって」    花園が答えると、

「花園だろ? 冗談だよ、あははは、……もうホントにいくつになっても初春はカワイイんだからさー」  と佐天(涙)が弄り返す。

「また<ういはる>って呼んだじゃないですか〜(怒)」

「あなたたち、そろそろその辺で終わらせなさいな、もう時間過ぎてますわよ」  と白井が佐天(涙)と花園2名をたしなめる。

「じゃぁ、美琴、頼んだよ。母さんには連絡しといたから大丈夫だと思うけど」  と当麻が美琴にそっと言う。

「わかってるわよ。でもたぶんアタシがまた怒られるんだから。ま、仕方ないわね、その通りだし」  と美琴はふっと自嘲のため息をつく。

「ママ、あたしがおばあちゃんに謝るから、大丈夫だから、ね?」   と麻琴が母・美琴を心配そうに見る。

「はいはい、あんたに心配されるほど、あたしはヤワじゃないわよ」  と美琴はぽんと麻琴の頭を叩く。



「お世話になりました」「ご迷惑おかけしました」

佐天親娘が先に乗り込み、続いて美琴・麻琴親娘が乗り込んだリモはすっと病院の車寄せを離れ、病院を走り去っていった。
121 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 21:20:06.54 ID:PAYCfSg0

「利子さん、ホントに大きくなりましたねぇ……」  と花園が感慨深げに言う。

「あ、あの、子供さんの頃をご存じなのですか?」  と湾内が恐る恐る尋ねる。

「お父様はご不明なんですよね?」

「湾内さん?」  ぴしっと白井が言う。

「あまり、ひとさまの微妙なところを詮索するものではございませんこと、ね?」

「あ、し、失礼致しました。そ、そうですわよね」  とまたまた湾内が恐縮する。

(でも、いつかは……きっといつかは……でも佐天さん、頑張ってね……)  と花園飾利は親友佐天涙子を思ってそっと涙を拭いた。



「さて、上条当麻委員、スケジュールの打ち合わせをしたいのですが、宜しいでしょうか?」

いつの間にか、そこには秘書のミサカ美子(10039号)と影、ミサカ琴子(19090号)が立っていた。

「お、おう、驚かすない。じゃ、とりあえず俺の車に行こうか? それじゃみなさん、今回は本当にウチの娘がご迷惑を

おかけしてしまってすみませんでした。許してやって下さい。では私はちょっと用事がありますのでお先に失礼します」

上条当麻が歩き出し、美琴のクローン2人が付き従う。



「ふう、わかってはいますけれど、やっぱり何度見ても一瞬どっきりしますよねー」  その姿を目で追いながら花園が白井にいう。

「以前よりは差が見えるようになりましたから、だいぶ慣れてきましたけれど、昔はほんとわかりませんでしたわね」

と白井も言う。

「お姉様はどうやってあの方たちをお嬢さんに御紹介するのか、人ごとですけど気になりますわ」

「御坂さまのご姉妹、ではないのですか、あの方たちは?」  湾内がとまどったように訊いてきた。

「あら、ご存じではなかったのですか、湾内さんは? まぁお会いになってしまったのですから仕方がございませんわね。

あの方々は上条、いえ御坂美琴さんのクローンですわ。でも、それ以上はお知りにならない方が無難ですわ。

わたくしもそこで止めざるを得なくなりましたし、知ったところであの方たちがどうなるわけでもないですもの」

白井黒子が小さな声で答えた。
122 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 21:23:59.10 ID:PAYCfSg0

「……え? あの、中学の時の都市伝説の……?」  湾内が呆然としたところに、

「ドクター、回診のお時間ですが?」  と現れたナース服に身を包んだ「美琴」を見て再び目をみはった。

「あ、あなたは……?」

「ミサカに何か、御用でしょうか?」  とミサカ麻美(10032号)が訊く。

「い、いえ、あの、御坂さんと仰るのですか?」  と湾内は恐る恐る尋ねてみる。

「はい、このミサカはミサカですが」  とニッコリ笑って湾内を見る……その笑顔は確かに上条美琴によく似ていた。

「さて、じゃ僕らも仕事だから、もう行こうかね?」  とカエル顔の医者はミサカと名乗る美琴そっくりの女性看護師を連れて

中へ入っていった。

「さて、私たちもここで解散致しましょうかしらね。湾内さんは?」  白井が湾内に訊く。

「は、はい、わたくしは今回のテストのレポートを仕上げませんといけないので」  湾内が答えると、

「上条委員からの指示は聞いていらっしゃいますよね?」  白井が小声で確認する。

「もちろんです! とある方は今回はいらっしゃらなかった、ですね?」

「そう、ですわね。それが一番望ましいですわね。では、また改めて別の機会に一席設けてやりましょうね?」  

白井はニッコリと笑って、「では、ごきげんよう」 とテレポートして姿を消した。
123 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 21:28:16.90 ID:PAYCfSg0

「湾内さん……」  花園が湾内に近づき、これ、ナイショですよ?と前置きして小声で言った。

「白井さんの酒グセはかなり悪いので、飲みに誘われてもなるべくなら用事を作っておいて避けるのがセオリーですよ……?」

「ええっ? そ、そうなんですか?」  またもや湾内が驚く。

「ええ、実際それで旦那さんとは別居状態なんですって。ちょっと信じられないですけれど」  ひそひそと花園が言う。

「えええええ? 今、あたくし、白井さんから一席設けてやりましょうね、って言われたばかりですのよ?」

花園は(あ〜あ、間に合わなかったか〜)というような、気の毒そうな顔をして、

「まぁ、何事も経験ですから、一度ご一緒してみるのもいいかもしれませんね、もしかしたら案外話が合うかもしれませんよ?」

と気休めにもならない事を言う。

「ちょ、ちょっと花園さん、その辺の喫茶店でもう少しお話して行きませんか?」  と湾内は花園の腕を取り、しがみつく。

「じゃ、XXの△△へ行きましょうか、あそこにはおいしいパフェがあるんですよ?」 

と花園は(まさか、タダで、とはいいませんよね?)という顔で湾内の顔を見る。

「いいですわね、そこにしましょう! も、もちろんあたくしが奢りますから、御坂さんや白井さんの是非詳しいお話を……」

かくして2人の商談は成立。タクシーに乗り込み、喫茶店のパフェに向かって走り去った。








誰もいなくなった病院の車寄せ。



しばらくして1台のファミリーセダンが駐車場から出て行ったが、気がついた人間は誰もいなかった。
124 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 21:42:36.82 ID:PAYCfSg0
お読み下さっている皆様、>>1でございます。

キリがよいところなので、すみません、ちょっと一時的に席を離れます。
すみませんが少々お時間を頂戴します。

125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 22:09:39.96 ID:ejCimg2o
>>1乙です
>>110 冥土返し→冥土帰し
どうでもいい誤字ですけどね
126 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 22:16:06.99 ID:PAYCfSg0
戻って参りました。>>1です。

>>125さん、

御指摘有り難うございました。
原稿を検索してみましたら、全部で6〜7カ所くらいありました。
早速全部修正をかけました。 どうも有り難うございました。

それでは投稿を再開致します。
127 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 22:21:46.32 ID:PAYCfSg0

4月。中学3年生の新学期が始まっていた。

「行ってきま〜す」

「気を付けていってらっしゃい」 母があたしを見送る。

あたしはいつものように……1人で学校に向かった。



麻琴は結局中学3年生の新学期を学園都市で迎えることになったのだった。学校は私の母の母校、柵川中学校だそうだ。

是非常盤台中学に、と言う声が他ならぬ常盤台中学校やら教育委員会やらいろいろあったらしいが、

「レベル1の人間は常盤台中学には入れないはず」という他ならぬOGである上条美琴委員の正論が通り、麻琴は柵川中学校に

決まったそうだ。

ご両親は学園都市にいるわけだが、柵川中学の方針で麻琴も学生寮に入ることになったらしい。

ホームシック対策や安全上の問題から最初は2名部屋での共同生活をすることになっており、麻琴も例外ではなかった。

ただ、麻琴は3年生からの転入なので相方の選択にちょっと時間がかかったらしいが、同じ3年生の天川さんという人が

面倒を見てくれることになったとの事だった。

ちなみにこれらの話は全部詩菜大おばさまから聞いた話。なんで麻琴は直接電話してこないんだろう?

というか、あたしから電話してもいつもお話中だし。忙しいんだろうか?

まぁ、麻琴のことだからあっちでもうまくやって行けるだろう、とは思っている。

私の一件以来、麻琴もあたしを同時に引っ張り込むことはいったんは諦めたらしい。

それでも「高校からは絶対来てよね」と言ったことからみて、完全には諦めきっていないのは間違いない。

あたし自身は、というと、昏倒してしまったことからむしろ能力発現を恐ろしく思うようになってしまい、麻琴には

悪いが、平凡な普通の女子中学生ー女子高生の道を歩こうと考えていた。
128 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 22:27:01.80 ID:PAYCfSg0

「かあさん、かあさんの能力ってどんなものなの?」

美琴おばさまや麻琴たちと別れ、自分たちの家に帰ってきたあと、あたしは母に聞いた。

「あーあ、ばれちゃったねぇ……」  と母はあたしに背を向けたまま答えた。

「利子、あんた、知りたいの?」

あたしは下を向いてぽつりと言った。

「だって、あたしも能力者なんでしょ? だからあたしにジャマー付けてるんでしょ?」

「疲れてるんでしょ、さっさと寝なさいな」  あたしを見ずに、母はスーツケースを床に広げて中のものをぶちまけ始めた。

「母さん、はっきり言ってよ。どうして自分のことを隠してたのよ? どうしてあたしにウソ言ってたのよ?

どうしてあたしにジャマーをつけたのよ? はっきり言ってちょうだい!」

あたしはまたぽろぽろと涙を流しながら母に抗議した。

(ああ、ずっと昔、子供のときにあたし、こうしてかあさんにくってかかってたな……)  

遠い記憶がよみがえってきた。

母は振り向き、とても怖い顔をしながらあたしに向かってきた。

(あの時と同じ……かな?)

だが、母の態度はあの時とは違った。母はあたしをしっかりと抱きしめたのだ。
129 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 22:29:40.97 ID:PAYCfSg0

(母さん、泣いてる……の?)

「としこ、おまえはあたしの、母さんの大切な、とっても大事な子……ごめんね。母さんを許して。お願い。本当にごめんね……」

あたしは本当に驚いた……。 母さんが泣いている。あの、強かった母が、あたしの母さんが。

母はとっても弱く脆くなってしまっていて、いまにも壊れそうになっていることに初めて気がついた。

「おかあさん……」

こんなに弱々しげな母を見るのは初めてだった。あたしは母にこんなに大きなショックを与えてしまったのだ……。

「ごめんなさい、おかあさん。本当にごめんなさい。もう絶対心配かけないから、もう安心して。あたしは佐天利子ですから、

強い子ですから、ね、かあさん?」

すっかり立場が逆転してしまっていた。

あたしは母さんを守らなきゃいけないんだ。

あたしはもう子供でいちゃいけないんだ、あたしはオトナにならなきゃいけないんだ!

「ぐす、な、なに生意気な口叩いてるの、あんたはあたしの子供なんだからね、いくつになってもあんたはあたしの娘なんだから、

絶対忘れるんじゃないよ?」

「わ、わかってる。あたしは……ちょ、ちょっと母さん、顔、ひどいよ?」

「ちょっと、何言ってるの? 誰のせいでこうなったと思ってるのよ、ってあんたも自分の顔みなさい!」

親娘揃って涙でぐしゃぐしゃの顔をお互いに見て、あたしたちは吹き出し、「あはははは」と笑い始めた。


――― さっき泣いたカラスがもう笑った―――  


「久しぶりに一緒に風呂入ろうか?」  母があたしに聞いてきた。

「いいよ? じゃ母さん、あたし背中流したげるから」  あたしも笑って母に答えた。



風呂からあがったあたしたちはあっという間に睡魔に襲われて眠りについてしまった。

結局母の能力は何だったのか、あたしに何故AIMジャマーがついているのか、聞きそびれてしまった。

まさか、うまくはぐらかされた……ってことはない、よね?
130 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 22:33:27.68 ID:PAYCfSg0

3年生になって、クラス替えになったあたしは陸上競技部に入った。

なんで今頃運動部に入ったのか?というと、新しく出来たお友だちが陸上をやっていたから、というよくあるパターンだ。

加藤裕美(かとう ひろみ)ちゃんと三田桂子(みた けいこ)ちゃんだ。

三「リコ! ね、今日遊びに行って良い?」

佐「いいけど? じゃ一緒に帰ろ?」

加「えー?ならあたしも行くから、ちょっと待ってて!」

あたしたちは同じクラス。さっそく付いたあだ名が「陸上かしまし娘」って、すっごく時代物の名前だった。

あたしは筋肉の付き方が短距離ではなく中長距離向き、ということでとりあえずトラック競技主体で行くことになった。

裕美ちゃんは短距離の選手。小柄だけどうちの中学では100m走ではトップで、東京都の大会にも出ているのだ。

桂子ちゃんは身体がしなやかでかつバネもあるので走り高跳びの選手だった。



…… そんなことより、だ。電話しなきゃ。

「もしもし?」

「はいはい? としこさん、どうしたの? 今日はウチだわよね?」

詩菜大おばさまが出る。

「あのね、おともだちを2人連れて行って良いですか?」

「あらあら、それは嬉しいわ、賑やかになりそうね? 素敵だわ。お願い、来てちょうだい? 待ってるわ!」

よし、オッケー。大おばさまは今日はご機嫌麗しいみたい。3人で突撃だ。
131 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 22:36:54.98 ID:PAYCfSg0
「ひろぴぃ、ケイちゃん、あのね、今日はウチ、誰もいないから、隣の隣に行くから」

「えー、リコんちじゃないところなの?」

ひろぴぃ(加藤裕美)が「?」を掲げて聞く。

「うん、あたしの育ての親の家、ってところかな? 第2のふるさとだねー」

「ちょっと、リコ? 育ての親ってどういうこと? それに隣の隣、って何よ?」

とケイちゃん(三田桂子)もあたしに聞く。

「まぁ話せば長くなるからさ、さっさと行こうよ。おなか空いたでしょ?」

まぁ、普通は聞いてくるよねー、とあたしはそう思いながら食い物ネタをふる。

「もっちろーん! 色気より食い気だよーん」

ひろぴぃが真っ先に食いつく。

「あんた、中学3年で乙女捨ててたら人生終わりだよ?」

ケイちゃんが冷やかす。

「うるさーい!」

ひろぴぃが叫ぶ。

これじゃたしかに「姦しい」、女三人、字の通りだよねぇ、はぁ。
132 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 22:40:22.82 ID:PAYCfSg0

隣のとなり、上条家では麻琴がいなくなり、加えてまたもや刀夜おじさまが姿をくらましたことから、詩菜大おばさまは

一人きりになってしまい、その余波はうちにやってくることになった。

「佐天さん、あなた今度出張はいつなの?」

「いやー、GW前にはたぶん何もないかもしれません。ただ、5月後半あたりからまた半月ぐらいは……」

「まぁ、あと1ヶ月もわたしはこの家で、たった一人きりで過ごさなければならないの? お願い、今度としこちゃんと

ウチにご飯食べに来て頂けないかしら? 寂しいのよ」

母にしてもあたしにしても、詩菜大おばさまには絶対に頭があがらないのは既にご存じのことと思うけれど、

少なくとも最低3回に1回は言うことを聞かないわけにはいかないので、特に何もなければ土日は上条家に行くか、

あるいはウチに詩菜大おばさまを呼ぶか、という形になっていた。

ということで、今回はお友だちを連れて行くことにしたのだった。



「……もしかして、<上条>さんって、あの上条さん?」  ひろぴぃが聞いてきた。

「そうよ、上条麻琴って覚えてない?」   あたしが聞き返す。

「えー、あのビリビリ中学生って子だよね?」  ケイちゃんが言う。

あー、やっぱりまだ覚えられてるわ……美琴おばさんが聞いたら激怒するあだ名だったよねー、確かこれって。

……血は争えないねー、親娘そろって同じあだ名ってのは。

「リコがなんであの子のウチにいるわけ?」  ケイちゃんが尋ねるのはもっともだ。

「まぁね、話をすると長いんだけど、それよりおなか減ったよ、あたし」

「あたしも〜」

「同じく」

というわけで、あたしたち3人は詩菜大おばさまのお家にご飯を食べにお邪魔した。

「ただいま〜、お友だち連れてきました〜」

「あらあら、お帰りなさい、利子さん。まぁまぁ、お二人さんよくいらしたわね、さぁさぁ、どうぞお入りになって?」

詩菜大おばさまがニコニコしながら出迎えてくれた。

「失礼致します〜」「おじゃま致しますぅ〜」 ひろぴぃとケイが挨拶して上がった。
133 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 22:50:15.12 ID:PAYCfSg0

「「「いただきまーす!」」」

あたしにひろぴぃにケイちゃん、中3トリオ(陸上かしまし娘)は詩菜大おばさまのところで夕飯を取っていた。

「どうぞどうぞ、たんと召し上がれ。」  大おばさまはモリモリ食べるあたしたちを、とても楽しそうに眺めている。



「美味しいぃ〜!」 ―― パクパクパク ――  

「はぁ、し、しあわせですぅ〜!」 ―― もぐもぐごっくん ―― 



最初はひたすら黙々と掻き込む2人だったのだが……

「ちょっとひろぴぃ、あんたいつまで食べてんのよ? ってせめて食い気は縦にのばしなさいよ。横に広がったら悲惨よ?」

ケイちゃんがちょっかいを出し始めた。

「ひ、ひっどーい、ケイだってちっとも胸に栄養行って無いじゃないの!?」  ひろぴぃが正面から受けて立つ。

「……ふっふっふっふ、ひろぴぃ? あんた、この、アタシを怒らせたね? わかってるよね、あんた?」

「ちょっと、二人とも、しょうもないこと止めなよ」   おまえら、ここは他人(ひと)のウチなんだよ?

「「 リコは黙ってて!」」  ひろぴぃとケイちゃんが、ケンカしていながらきちんとハモってあたしにビシッと言う。

あのねぇ、あんたら、ひとのうちでごちそうになってるんだよ? わかってる? あたしは胸の中で言う。

「そもそもリコの胸は反則なのよ!」  ケイちゃんが更にビシっと追撃してくるが

「それはケイがなさすぎ……ぐふっ!」  ひろぴぃがケイちゃんのチョップを食らった。

「あんた、もう背丈伸びなくなってもアタシのせいじゃないからねっ!」  とケイちゃんがひろぴぃに宣言する。

「いいもん、だったらあたしはロリ路線で生きてやるー! ロリで巨乳は無敵なんだからね!」  ひろぴぃがケイちゃんに逆に宣言する。

「ふ、シリコン入れれば誰でもなれるわ、そんなもの。いいこと? 時代はつるぺたよ? 貧乳はステイタスなんだからね?」

ケイちゃんが切り返すが、

「ふーん、じゃそのテーブルにある1gパックはなんなのかな〜?」  とひろぴぃの逆襲に会う。

「運動選手にはカルシウムが必要だからよ!」  と言いながらごくごくとケイちゃんが飲む。

「あたし、あんなに飲めないな……」  と小さな声であたしは言ったはずなのに、

「「黙らっしゃい!」」とまたハモり返されてしまった。
134 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 22:55:52.47 ID:PAYCfSg0

正直、あたしの胸はこの半年で大きくなったと思う。中学生にしてはありすぎる気もする。母も中1では十分大きかったらしいが……。

「ないよりあった方が」という人もいるが、あればあったで悩むこともある。まず異性の目がいやだ。すれ違う男のひとの視線は

まずあたしの胸を見て、顔を見て、そしてまた胸を見て行く。頬が緩んでいる人もいる。ヘンタイだ。気持ち悪い。もういやだ。

何気ないフリをして触って行くとんでもないエロ親父もいる。あたしのお父さんはこんなことしなかった……よね?

次に、肩が凝るし、走れば邪魔だ。陸上やってみて心底思う。なまじあるから押さえつけるのも大変。

さらし1本胸に巻いて、とはいかないのだ。

ケイちゃんは楽でいいよなー、と思っていたら「バカっ!」とひっぱたかれた。食事中になにするのよ!

「あんた、胸、テーブルに乗っけてるでしょー? それ、あたしに対する嫌がらせかいっ?」

ケイちゃんが半分本気で、半分笑いながらあたしをもう一回ひっぱたいた。

「だって、重いんだもん……」


     ―――― ダメだ、こいつ ――――

     ―――― いっぺんやったろか? ――――

     ―――― おお、いってまえ! ―――― 


二人が顔を見合わせてなにやら、「?」とあたしが思うまもなく、

     ―――― スパァァァァァァァン ――――    

小気味よい音が部屋に響いた。ひろぴぃがどこから出したのか、ハリセンがあたしのアタマに炸裂したのだった。

「いったぁーい!」

「それぐらいガマンしろーぉ!」

あっけにとられていた詩菜大おばさまが、

「こらー! あんたたち、いいかげんにしなさーい!」



……ずっとニコニコしていた詩菜大おばさまもさすがにぷっつんしてしまった。

「すみませーん」「ごめんなさい」「失礼致しました……」

あたしたちは正気に戻り? 小さくなって、それでも「残りのご飯を全部食べきった」のだった。
135 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 22:59:54.53 ID:PAYCfSg0


「すごいわぁ、あなたたち、ホントに全部食べちゃったのねぇ、おいしかった?」 大おばさまは驚きながらも嬉しそうにあたしたちに尋ねる。

「ええ、すっごく美味しかったです」

「今までで一番しあわせですぅ……」

「おばちゃん、ありがとう」

「どういたしまして。全部食べてくれて嬉しいわ♪ 作った甲斐があるわぁ……、ね、また来てちょうだいね。

とっても楽しかったけど、ハメ外しすぎるのはダメね、わかった?」

「「「 はーい! ごちそうさまでしたー! 」」」

あたしたち「かしまし娘」は綺麗にハモって御礼を述べたのだった。



「……というわけなの」   食事後、上条家でのあたしの部屋で、陸上かしまし娘はおしゃべりタイム。

「ふーん、リコのウチ、いろいろあったんだねぇ……」   ケイちゃんが感心したようにうなる。

「まるでドラマみたいだねぇ……」   ひろぴぃが正直に感想を述べる。そう、ウチはある意味すごくドラマ的な歴史の持ち主かも。

「それで、リコのママは今出張してるってわけ?」   ケイちゃんがまた訊く。

「すごーい、世界を股にかけて活躍する学者さんなんだぁ? あたし、憧れちゃうなぁ……」

実は、母から「1つ仕事を休むことにしたの」という話を先日聞いたのだった。

理由は「ちょっと身体がきつくなってきたから」と言っていたけれど、あたしはそれだけじゃない、と思っている。

この間の事件は母に強い衝撃を与えていたのは間違いない、とあたしは見ている。
136 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 23:04:05.19 ID:PAYCfSg0

    ――――――   「おかあさん、今度はいつ来るの?」 ――――――

たぶん、あのとき以来の衝撃だったと思う。中学生という微妙な年頃のあたしに、あまりにも注意を払わなさすぎた、

それであんな形でその報いが返ってきたのだと母は受け止めて、自分を責めていたらしい。

後で知ったことだが、母も中学1年生の時に誰にも相談できない事で悩み、その結果半死半生の境地をさまよったことがあった

らしく、その時のことを思い出したのだったそうだ。
 
……

「リコ、寝ちゃったの?」   ひろぴぃがあたしの顔をのぞき込んでいた。

「わっ!? 近いよっ!」「キャッ!!」  

あたしはあわててしまい、のけぞった拍子にケイちゃんの胸に思い切りアタマを当ててしまったので、2人ともひっくり返ってしまった。

「ちょ、ちょっと痛いよ〜、リコったらぁ〜」  ケイちゃんがムッとした顔で抗議する。

「ご、ごめんなさい」   謝って、あたしがアタマを上げたその時、

「あれ?」ケイちゃんが不思議そうにあたしに訊いた。「リコって髪染めてるの?」

「……」

「あんたの髪、ホントは栗色なんだ?」

バレたか……。
137 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 23:06:34.44 ID:PAYCfSg0

つむじ部分のところに、伸びた髪の根元にわずかに地毛の栗色が見えていたらしい。

「えー、そうなんだぁ?」  ひろぴぃがバッと飛んできて、あたしのアタマをかき回す。

「こらこら、何してるの、あんたは?」  あたしはたしなめるが、

「やーん、気持ちいい〜」  とひろぴぃはあたしのアタマをなで回すのが気に入ったらしく、指で弄くり始めた。

「いつから染めてるの?」  ケイちゃんが訊いてくる。

「うー、覚えてない。ずっと、昔からそうだったの。母が買ってきて、しょっちゅう染めてたの。だから普通のウチでも

みんなそうやってるんだと子供の時は思ってた……」

「あんたのウチってホント、変わってるよねぇ」   あきれたようにケイちゃんが言う。

「え、でも、ウチの学校は髪染めたら校則違反になるよね?」   ひろぴぃが「?」をアタマに掲げている。

「だから、それはピンクとか緑とか青がダメなだけだっつーの。まぁ、確かに黒く染めるのも文章だけ読むとアウトって

気もするけどさ、奇抜な色はだめだ、と言う本来の意味からすればOKなんじゃないの? 

髪が黒じゃないと、地色だっていちいち説明するのも大変だし、結局黒に染めろって言われるだろうしさ。

リコのお母さんはそれを見越してリコの髪を黒くしてたんと違うかな……?」 

ケイちゃんが考えながら言う。たぶんそんなところだろう。
138 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 23:11:13.85 ID:PAYCfSg0

「そういや、リコのお母さんは栗色なの? まさかキンパツとかじゃないよね?」  ひろぴぃが興味津々の顔で訊いてくる。

「キンパツのムチムチだよーん♪」  あたしが答えると

「うそっ!? そうなの? ガイジンなの?」  ひろぴぃは目を丸くする。

「うそに決まってるでしょ、あたしがガイジンの娘に見えるかいって? 黒髪のストレートだってば。スタイルはまぁ見れる方だと思うよ」

「おうおう、自慢ですかぁ? アハハ、羨ましいねぇ……じゃ、お父さんがきっと栗色だったんだろうね?」  ケイちゃんが笑う。

「あたしはわからないけど、そうなんじゃない?」  あたしも軽く答える。 おとうさん、か……。

「ふーん、でもリコの髪、ウェーブしてるところも素敵だよねー。羨ましいなぁ……。栗色も良いんじゃないかな?

ちょっと見てみたいなぁ?」  ひろぴぃがあたしの髪を弄くりながらため息をつく。

ひろぴぃの髪は結構硬いけれどその分まっすぐで、ツヤがとても綺麗。肩まで伸ばしている。

ケイちゃんはひろぴぃとは正反対で、まるで赤ちゃんのようなふわふわの柔らかい髪。触るととっても気持ちいい。

麻琴のふにゃ〜んが見れない今、あたしの癒しは実はケイちゃんの髪なのだ。

「まぁ、高校に入ったら黒染め止めてもいいんじゃない? お堅い女子高はダメかもしれないけどね」

「!」

あたしは今まで考えたこともなかったし、染めてはいるもののこの黒髪も嫌いじゃなかったのだけれど、ひろぴぃやケイちゃんの

言葉で少しその考えがぐらついた事を認識した。髪の色が変わったら、どうなるんだろう?

それからしばらく、あたしは鏡を見ると、髪の色が違う自分を想像してあれこれ考えてみるようになったことはナイショだ。
139 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 23:14:07.56 ID:PAYCfSg0
ケイちゃんとひろぴぃが帰ったあと、

「としこちゃん、良いお友だちが出来てよかったわね?」  と大おばさまが家に戻ろうとするあたしに声をかけてくれた。

「え?ええ、はい。おかげさまで」

「麻琴がいなくなって寂しそうだったけれど、今はまた明るいあなたの顔が戻ってきてる。おばちゃんちょっと安心したな。

おばちゃんはね、あなたのその笑顔がとっても好きなのね。だから今日も本当に良かったわ。おともだちを大切にね?」

あたしは詩菜大おばさまの言葉に思わずほろっとしてしまった。おばちゃん、あたしのために……

「おばちゃーん、ありがとうね、あたし、頑張るから」  あたしは泣きそうになるのをぐっとこらえて詩菜大おばさまにしがみついた。

「あらあら、こんなに大きくなったのに、また子供に戻っちゃったのかな、としこちゃんは? よしよし、良い子ね」

そう言いながら、詩菜大おばさまはあたしを抱きしめて、ぽんぽんと肩をやさしく叩いてくれたのだった。






その頃、学園都市……
140 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 23:19:32.72 ID:PAYCfSg0

「チッ、大したタマはいねぇなぁ……」

「ぼやくんじゃねーよ、そう簡単にいねぇからこそ、見つかったときが楽しいんじゃねぇかよ?」

「ケッ、毎日毎日こんなガキの顔ばっかり見てるってのも、いい加減飽きてくるぜ……」

「おまえ、まさか顔しか見てねーつんじゃねーだろうなぁ?」

「アホか、いくらオレでもそこまでロリじゃねーよ、バカにするない」

「結局よ、今年の収穫って、超電磁砲二世ぐらいなのか?」

「アレは収穫じゃねーだろが。そもそも俺らが見つけたわけじゃねーしよ。だいたい血統から見てありそうな話だからな。

二世になって当たり前、ならなきゃハズレ、てなところだろ」

ここはとある研究所、地下のデータセンター。数人の男たちが、新入生ざっと1万人のデータを片っ端からチェックしているのであった。

「あーあ、今日はもう止めてーなー。ここんところ、さっぱりだし。今年はハズレの年なんじゃねーのかね?」

「おいおい、おまえちゃんと見てるんだろうな?」

「うん? なんだコレ? ………………ちぇっ、ダメか……」

「どうした?」

「あン? いやな、ちょっと発想を変えてるんだよ、今週からな。つまり、オレは今、ハズレ組を見てるんだよ。」

「なんだぁソレ? ……ふん、面白いが、徒労じゃねーの?」

「もちろんだ。ただな、あの幻想殺し<イマジンブレーカー>も、まともに測ると無能力者<レベル 0>であることは知ってるよな?」

「当然だろ。この業界で知らないものはいないさ」

「と、いうわけで、オレは第2のそいつが埋もれてるんじゃねーかとちょっぴり期待してるわけよ」

「逆転の発想か? うーん……まぁそう言う考え方もあるだろうよ。だが、たぶん徒労だろうな」

「まぁな。ひとの行かない道を探すってのは、オレにぴったりだからな」

「任せたよ。ただな、ひとが行かない、ってのにもちゃんと理由があるんだぜ? 例えば、そっちに行って、生きて帰ってきたものはいない、

とかな?」

「おいおい、縁起でもないこと言ってくれるねぇ」

「いや、確かにおまえにぴったりな道だよ、アハハハハハ」

ひとしきり冗談を飛ばして緊張をほぐした男たちは、また黙々とデータのチェックを始めたのだった……。
141 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 23:24:16.87 ID:PAYCfSg0

麻琴がいなくなって、あたしは一人で学校にかようことになった。正確には途中まで、だけれど。

まぁ、朝は寝坊さえしなければ、みんないつもおおよそ同じタイミングで行動しているから、だいたいはいつもの

待ち合わせ場所(特に決めた訳じゃないけど)で一緒になって登校する。

しかし、下校時間は部活があったり、帰りに寄り道するなどいろいろなことがあるので、バラバラになって帰ることがしばしばある。

麻琴がいたときは二人とも帰宅部だったし、しかも家が殆ど同じ場所という事もあって、一人で帰るということは殆ど無かったのだけれど、

陸上部に入って部活をやって帰るときは帰り道は途中から殆ど一人になる。

2人で帰っているときはおしゃべりに気を取られていて、不覚なことに全く気が付いていなかったのだが、一人で帰るようになって

気が付いたことが出てきた。



―――― 誰かが、あたしを見ている? ―――― 



「なーに自惚れてるんですかァ?」 とあたしは否定的に思っている。でも一方の冷静なあたしがアタマのなかで言う。

「あたしを監視している人間がいる」と。「明らかに視線を感じる」のだと。
142 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 23:29:19.08 ID:PAYCfSg0

「自意識過剰じゃないの?」ケイちゃんが気のせい、気のせい、と言う感じで否定する。

そうだよねー、と安心する反面、いや視線を感じてるんだってば、という不安感が行き場を失ってふくれあがる。

「魅力のないひとにはわからないのよね〜」  ひろぴぃが挑発する。

あ、ケイちゃんがパンを握りつぶした……

「ほうほう、それは、このあたしには魅力がない、というご発言と受け取って良いのだね、ひろみくゥゥゥゥゥゥゥン??」

「自慢じゃないけど、付け文、待ち伏せ、ストーカー、全部経験済みのあたしに立ち向かおうというその根性、褒めてやるわ!」

確かに待ち伏せとストーカーは自慢にならないよ、ひろぴぃ? いや違う逆だ。あんたよく無事だったね?



……まさか、あたしのこれ、もしかしてストーカーなんだろうか?



「なにすんのよー」「うるさい、今度という今度はお仕置きだ〜」給食のあとの昼休み、恒例のかしまし娘口先バトルである。

今回は口だけじゃなくてハリセンくらいは出そうな勢いだが、ちょっと待った。

「あんたら、少しはあたしの心配しろ〜!」




「よしよし、わかったわよ。じゃ、しばらくリコの後を見張っててあげるからさ!」

ひろぴぃとケイちゃんが仕方ないねぇ、と言う感じで、あたしの後方をバックアップしてくれる、と言ってくれた。

「えー、でも大丈夫なの〜?」 

(やってくれるのは嬉しいけれど、逆に危害を加えられたら大変な事になる)と気が付き、余計なことを言ってしまったな、と凄く反省した。
143 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 23:33:37.08 ID:PAYCfSg0

「ふっふっふ、見ては細工を御覧じろ、だわよ?」

ひろぴぃがカバンの中から取りだしたのは……

小型発煙筒(薬液混合型。投げつけてその衝撃で二液が入った細管が割れて混ざることで発煙する)

小型星弾(これも薬液混合型。投げつけて二液が混ざると強烈な光が発生する。夜間用)

小型カラーボール弾装填のモデルガン(コレが出てきたときはのけぞってしまった)

そして警笛(昔ながらの笛)

そして、カバンについているキーホルダーの人形を引っ張ると、大音響が響く防犯サイレン。

携帯には、ワンタッチで地元警察への直通電話がかかる専用ボタン。

ケイちゃんとあたしはポカーンとしながら、「はいコレ」「次コレ」「そしてコレ」と魔法の小箱の如く次から次へと防犯グッズが

出てくるのを黙ってみていた。

「あんた、それ、趣味で集めたわけじゃない、よね?」   あたしはクラクラしなからひろぴぃに尋ねた。

「言ったでしょ? 待ち伏せにストーカーって。警察にも届けてあるけど、毎日護衛してくれる訳じゃないから、こうやって自衛してたわけよ」 
ひろぴぃが急に頼もしく見えたのは気のせいだけではあるまい。すごい……。

「で、今もそうなの?」  ケイちゃんが不安そうな顔で訊く。

「だ・い・じょ・う・ぶ。交通事故にあったって警察から教えてもらってて、ストーカーなんかやってる状態じゃなくなっちゃったみたいなの。

ザマーミロだわよ」ひろぴぃが明るい顔でコワイ事をズバと言い切った。

「そういえば、あたしの家、スタンガン持ってたっけ……」 

あたしは麻琴のビリビリ騒ぎの時のことを思い出した。たぶんまだあるはずだ。

「お、それは最強だね、ホームズ君?」

「そうだね、それは心強い味方だよ、ワトソン博士」   二人が茶化す。

「ん、じゃ今日から始めましょうかね?」

「らじゃー……、ほら、リコ、あんたもほれ、何か言いなさいよ?」

「ごめんね、二人とも。でも、危ないと思ったら直ぐに逃げてよ? まずは自分が一番大切なんだからね?」

あたしはせめてそう言うしかなかった。
144 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 23:40:12.61 ID:PAYCfSg0

「出ませんね……」  ひろぴぃがふとつぶやく。

「そだね。ま、単なる気のせいでしょ。まぁヘンなの出たら、正直コワイしさ」  ケイちゃんが合わせる。

時刻は夕方の6時半過ぎ。さすがに暗くなりつつある時間。佐天が歩いて帰るずっと後からひろぴぃとケイちゃんが

ぷらぷらと付いて行く。

かれこれ半月が過ぎたが、幸いな事に何も起きていなかった。

「何ご褒美にもらおうか?」

「うーん、パフェ食べ放題とか? いや東京プリンセスホテルのケーキバイキングご招待がいいかも?」

「あんた、もう決めてるの? 気が早いねぇ……、!! ひろぴぃ!!」

「声が大きい!下がって!」

ひろぴぃとケイちゃんのいる1つ先の交差点から男2人が急に現れ、早足で佐天を追いかけて行く。

「どうする?」

「とりあえず、ケイはリコに電話! あたしは笛出すから!!」

「あぅあぅ、走りながら電話は難しいってばさー」二人は前を行く三人の方へ走った。







―――― Brrrrrrrrr ―――― 

佐天の携帯がバイブレーションした。

「ケイちゃん?」

携帯を手に取り、振り返った佐天は直ぐそばに男性2人がいるのに気が付いた。

「!!」
145 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 23:42:09.64 ID:PAYCfSg0

「リコ、男2人よ!!」   ケイちゃんが叫ぶ。

男の1人が佐天の手を取った!



―――― ピイイイイイィィィィィィィィ ―――― 



ひろぴぃが笛を吹く。

もう一人の男がぎょっとした顔でこっちを見た。



ひろぴぃとケイちゃんが佐天たちに追いついた。


―――― 佐々木? あんた、何やってんのよ?? ―――― 



それは同級生の佐々木剛士(ささき たけし)だった。

佐天の手を取ったのは?

「あ、三田さん?」

「長坂クン? あなたどうしてここに?」

隣のクラスの長坂弘(ながさか ひろし)、2年生の時はケイちゃんと同じクラスだった男子生徒だった。

「さささ、佐天さん、すみません、それ、読んで下さい。ボク、貴女のことが好きです。お願いします。じゃ、失礼しますっ!」

長坂は佐天に何かを渡し、言いたいことを一方的に言って走り出した。

「お、おい、長坂ぁ、オレを置いていくなよ!? バカヤロー! す、すいません。失礼しました!!」

佐々木は帽子を取ってぺこりと頭を下げ、長坂の後を追いかけていった。




後に残ったのは………呆然としている陸上かしまし娘3名だった。
146 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 23:53:19.05 ID:PAYCfSg0

「おはよ、リコ。……さぁてと、昨日のアレは何だったのかしらねぇ?」

「あたしもおはようだわね。あ〜、ホント、あたしら半月もバカ見たわよ。あげくの果てに、アレだもん。あーあほらし。

へいへい、どうもごちそうさまでした。もう好きにしなよ」

「ご、ごめんなさい。まさかあんなふうになるとは思ってなかったから……」

次の日の朝。

予想通りであったが、ひろぴぃとケイちゃんがいつもの場所であたしを待ちかまえていた。

で、更にまた予想通り、

「で、何書いてあったの? 好きです、愛してます、つきあって下さい、とか?」

「いいねぇ、青春だねぇ、若さだねぇ? ああ、リコにも春が来たのねぇ」

二人が問いつめてくる。


「 ……まだ、読んでないの…… 」

たぶん、あたしの顔は真っ赤だったはず。


「「ええええええええ?」」     二人がハモる。近くを通るひとが何事か、と言う顔であたしたちを見て行く。

「だって……」    言えない。ずっと手紙をみつめていただなんて。自分でもバカじゃなかろうかと思ってるくらいだもの。

「あなたねぇ……」  ケイちゃんがため息をつく。

「いまどきの小学生でもそんな子いないわよ?」

「いや、さすがリコ、かもしれない?」   ひろぴぃがうんうんと頷きながらあたしの肩をぽんぽんと叩く。

「どれどれ、おねぇさんが読んであげようか?」   ニタァとひろぴぃがあたしの顔をのぞき込む。

「し、しらないからーっ!」    あたしは二人を置いて駆けだした。



「おとめ、だねぇ……」

「まだ世の中にいたんだ、ああいうの……」
147 :LX [sage saga]:2010/11/09(火) 23:56:53.04 ID:PAYCfSg0
あたしは今日、部活をさぼった。

今日は最悪だった。



ひろぴぃとケイちゃんは休み時間になると佐々木くんのところに行き、あーだこーだと問いつめている。

「だから、オレに訊くんじゃねーよ!」   彼の当惑する声が聞こえる。

チラと彼の顔を見ると、パチと視線が合ってしまい、あわててそっぽを向く。

「ちょっと、リコ、あんたもここ来たら〜?」   ケイちゃんのいやらしい声が聞こえる。あたし、知らないから!

昼休み、もうこの頃には、少なくともあたしのクラスの女子全員は「佐天に隣のクラスの長坂クンが告白した」という

ことを知っていた。

好意的な態度のひともいたが、「やっぱり胸がでかいおんなはいいわね」「ホントに男ってのはおっぱいがでかければ

それで良いのかしら」等というやっかみというか、そういう悪意のような態度を取るひともいた。ああ、不幸だ。

あげくの果てには、トイレから帰ってきたら、黒板にヘタな絵が書いてあり、「長坂&巨乳」と説明が書かれていた。

ひどい、酷いわよ。名前ならまだしも、巨乳って……

あたしが立ちすくんでいると、いきなり飛び込んできた男子がザッとその落書きを消した。
148 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 00:00:09.33 ID:Zbprwpg0

「よっ、話題のご両人!」「おっと、ここでヒーローのご登場か?」ヒューヒューという声も聞こえる。そう、彼は長坂くんだった。

「バカっ!」   とあたしは叫ぶと、自分の机に戻って突っ伏してしまった。もういや。こんなの……

「誰だ、こんな事書いたヤツは? 出てこい!」   彼が大声で言う。誰も答えるものはいない。

「なーに嬉しがってるんだよ?」   と誰かが冷やかすように言う。

「なに本気にしちゃったのかな〜? やっぱりホントなんだ〜?」   と言う男子も。あれは小川くんの声だ。酷いわ。

あんたたち、あたしを笑いものにして、そうやって楽しんでるのね、酷い酷い酷い………いやだ、こんなの。

許せない! 

……




え? 

やだ、この感じは……また? そんな?

何かがあたしのなかでふくれあがって、何かがあたしのアタマを思い切り押さえつける、いやなアレがまた来る??

やめて……助けて!

「いや〜!」

再び暗黒があたしを包み込んだ……。
149 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 00:04:18.47 ID:Zbprwpg0
読んで下さいました皆様、こんばんは。
>>1です。

申し訳ありませんが、本日はここで投稿を止めたいと思います。

明朝、また出勤前に少しですが続きを投稿したいと思います。
それではお先に失礼致します。

読んで頂きましてどうも有り難うございました。
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 00:11:05.93 ID:c596qh.o
>>149
乙です。
プロローグが終わって物語が動き始めたといったところでしょうか。
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 00:20:23.34 ID:LoNj81Uo
本当に乙です
152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 01:35:31.02 ID:UC3FiwAO
超乙です。
続きが楽しみでしょうがない!
153 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 07:06:00.42 ID:Eyve7bw0
皆様、おはようございます。>>1です。

僅かですがこれから投稿致します。
宜しくお願い致します。
154 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 07:08:02.60 ID:Eyve7bw0

気が付くと、あたしは白い世界にいた。

「ここ、どこ?」 

しばらくしてわかった。ここは保健室のベッドだった。頭がすこし重い。時計を見ると、もう6時間目が終わる頃だった。

「まずい!」   あたしはベッドから起き、すこしクラッとしたけれど、上履きを履いてベッドのカーテンを開けると、

「あら、気が付いた?」    養護教諭の渡辺先生が声をかけてきた。

「気を失って倒れたのよ? 気分はどうかしら?」   と優しい声で先生が訊いてくる。

「は、はい、もう大丈夫です」   あたしはベッドに腰掛けた。

「前にもこういう事はあったの? 場合によってはお医者さんに見て頂いた方が良いかもしれないわよ?」

「は、はい。ちょっと前に一度ありまして、お医者さんに見てもらってますから」

「そう? 何かお薬もらったのかしら?」

「いえ、そう心配するようなことではなかったと言われましたけれど……」

「そんな馬鹿な? あなた、普通の人はそう簡単には気を失って倒れませんよ? ちゃんとご両親に御報告して、御相談した

方が良いと先生は思うけれど?」と先生はさらさらとレポートに書き込み、

「はい、コレ。ご両親にちゃんと渡すのよ?」と手紙を渡されてしまった。はー、不幸だ。

ここでキーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴った。ああ、午後の授業パスしちゃった……。

「すみませんでした」   と渡辺先生に御礼を言って保健室を出ようとしたところで、

「あ、リコ、起きたの?」

「大丈夫?」

ひろぴぃとケイちゃんだった。
155 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 07:13:39.37 ID:Eyve7bw0

「ごめん、あたし、きょうは部活パスするから」

あたしは自分のカバンに机の中のものをしまいながら二人に言った。

「そ、そうだね」

「まぁ、今日はそのほうがいいよね……」

二人はおどおどしながら相づちを打つ。

「大丈夫? 一緒に帰ろうか?」

ケイちゃんが心配そうに言ったが、あたしは冷たく「いい、一人で帰るから」とにべもなく断った。

「いや、でもさ」

とひろぴぃが言いかけるのを「一人で帰らせてよ!!」とあたしは大きな声を出してしまった。

二人が黙りこくってしまったことにちょっと自責の念を駆られたが、(あんたらのせいで!)という怒りの方がまだ大きかった。

あたしは「寄らば切るぞ」的にオーラを放ちながら学校を出た。


帰る途中であたしは、あの怒りの最中に頭の中にわき上がってきた何か得体の知れないもの、そして同じくして

頭を押さえつけるような大きな力が加わってきた事を思い出していた。

(あの時、あたしは怒っていたんだよね……それがきっかけなんだろうか……?)





だから、気づかなかった。



――― いきなり口を何かで押さえられ ―――


え?と思った瞬間、あたしの意識は飛んだ。
156 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 07:17:32.86 ID:Eyve7bw0

「あの、上条詩菜と申しますが、うちにおります佐天利子がまだ帰ってこないのですが、今日はなにか特別に練習でも?」

というような電話が学校に入ったのは夜の7時過ぎ。

それからあっちこっちへと連絡が飛び、誰も佐天利子の下校した後を知らない、と言うことになり、一気に事件性を帯びた様相に

なったのは夜8時過ぎ。

学校と上条詩菜大おばさま両方から警察に「女子中学生が下校後行方不明」という届け出があったのはそれからまもなくだった。

詩菜大おばさまは警察に届けた直後に母である佐天涙子、そして自分の息子上条当麻、嫁の上条美琴に電話をしたが

そろいも揃って全員移動中なのか電話がつながらない。

いや、一人つながった。上条麻琴だった。

「どしたの、おばちゃん?」

「麻琴? あのね、としこちゃんがいなくなったの!」

「はい?」

「学校から帰ってこないの! 午後3時過ぎに学校を出た後、誰も知らないのよ! 携帯も出ないの。

あなた、はやくお母様に知らせて! こっちからだとあなた以外誰も出ないのよ」

「そんな、リコが? どうして、どうしてよ!?」

「いい、麻琴ちゃん? 今の事実は、としこちゃんの行方がわからないということ。わかった? 早くみんなに知らせて!」

「わ、わかったわ、おばちゃん。リコは必ず帰ってくるから安心してて。大丈夫だから!」



麻琴との連絡が切れたあと、警視庁の刑事が2名やってきた。誘拐の可能性があるからだった。
157 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 07:23:22.87 ID:Eyve7bw0
>>1です。

これから出勤準備に入りますので、申し訳ないですが今朝の投稿はここで
止めと致したく存じます。

さて、今日の夜は予定が入っているため遅くなる可能性があります。
(1次会で終わればそう遅くならない・・・かも?)
すみませんがご了承下さいませ。

それでは失礼致します。
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 08:18:57.79 ID:UC3FiwAO
更新超乙です
いってらっさい ノシ 俺もか
159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 09:45:01.62 ID:09jsC8so
乙です
160 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 21:19:25.53 ID:1W0TYBw0
こんばんは。>>1です。

1次会で済みました(ふー)
それでは投稿を再開致します。

ちょっとアルコール入りなので、ミスをしでかさなければいいのですがw
161 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 21:22:15.56 ID:1W0TYBw0

麻琴は寮で詩菜大おばさまの電話を受けると、直ちにまず父の上条当麻に電話をしたが……            つながらない。

「あーん、もうどこにいるの、パパはもう! バカッ!」 

学園都市で電波が届かない場所というのは実はあまりそうない。しかし何故?

理由は簡単。当麻がクルマから降りるときに

「運悪く」  落としてしまい、当麻の足に当たって跳ね、例によって

「運悪く」  排水溝の網を通り抜けて落ち、そしてまた

「運悪く」  溜まっていた汚泥の底深く沈んでしまったからである。

いかに防水型携帯でも物理的に拾い上げられない状態ではどうしようもない。

もちろん十八番の「ああ、やっぱり上条さんは不幸だぁーっ!」という叫びがこだましたのは言うまでもない。



麻琴はさっさと諦めて美琴にかける。「緊急・割り込み可」「音声メール変換同時通話」を選択している。

「ママ、あたし。リコが行方不明になった、と詩菜おばさまから電話があったわ」と簡潔にして音声送信し、待機。

10秒後に「音声回線接続 緊急割り込み」と表示されると同時に「何があったの!?」と母・美琴の声が飛び込んできた。

「わかんないの。リコが学校から帰る途中でいなくなったってことらしいの! ど、どうしたらいい?」

「それだけじゃどうしようもないじゃない? わかった。あたしが電話して詳しく訊く」

「佐天のおばちゃんにも言った方が良い? なんかあっちからだとつながらないみたいだし」

「じゃそれもあたしがやるわ。あとであんたにも教える。間違ってもここから抜け出そうなんて考えるんじゃないわよ?」

「ちょ……」

「やっぱりね。アンタの力じゃ無理よ。そう言うこと考えてる連中、沢山いるんだから対応策はバッチリ取られてるわよ」

ふっ、と笑って電話を切った美琴は厳しい顔になる。
162 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 21:25:44.13 ID:1W0TYBw0

(可能性はまず2つ。あちら側とこっちだ)   美琴は考えを巡らせて行く。

(あっちの場合、誘拐=身代金、あるいは変質者か? 変質者だったら危険だ。ただ、両方とも表向き学園都市の人間は動けないわね)

(次にこっちの場合。理由はただ一つ誘拐。どうして? 彼女の素質を見抜いたものがいるのか? 過去の記録はないから無理。

ではそういう可能性が? あったとすれば先日の湾内さんの記録だけ。表面上は消されていたが……、まさか?)

学園都市サイドの誘拐の可能性の場合に備えて美琴は考えを纏めて行く。

(ここでは無理だ。抜けるか……)

「ちょっと休憩します、失礼」

美琴は一旦会議の席から抜け、廊下に出る。リラックスルームで待機していた秘書ミサカ美子(10039号)を従えてパウダールームにに入る。

「ごめんなさい、ちょっと急用で抜ける必要ができたの。後をお願いしたいんだけれど?」

「かまいませんが、復帰はいつ頃になりそうですか? こちらもある程度見通しが必要ですから」

「スケジュール表をもう一度見せて? …………んー、今日と明日は問題なさそうね。

あさっては? ……この11時のはあたしが出ないとまずいか。わかりました。あさって朝5時までには復帰します」

「了解致しました。ご自宅にはお戻りですか?」

「……あんた、もしかして、またろくでもないこと考えてない?」

「いえいえ、そんな、夜のお勤めも代行しようなどとは、キャッ!」

       
        ―――――― パコーン ――――――

 
「考えてただろーっ!」

ミサカ美子(10039号)は美琴のパンプスでひっぱたかれた。
163 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 21:27:18.64 ID:1W0TYBw0

「もしもし、花園さん?」

「はぁい、どうしたんですか、上条さん?」

「ちょっとセッティングして欲しいんだけど?」

「え、イリーガルはパスですよぅ?」

「グレーだわね。佐天さんのお嬢さんの利子さんの事なんだけど?」

「ああ、あの子ですか、あの時以来なんですよ〜? 大きくなっててびっくりしちゃいました〜」

「彼女のAIMジャマーのデータを送るから、学園都市の市内監視レーダーにこの電波が入ったら、あたしにアラートを送るように

セッティングして欲しいんだけど? あと、そのデータはあなたがチェックしてくれると凄く助かるけど?」

「かなり公私混同なような気がしますけど。それよりまたどうして?」

「佐天利子さんは、今日中学校を下校後、行方不明になったの」

「えええええええええええ?」

「あなたのことだから、きっと佐天さんに連絡するだろうけど、もし、学園都市へ拉致されてるようだったら、相手は普通じゃない

かもしれないから、佐天さんがまともに立ち向かうのは危険だと言っといて。それはあたしがやるわ。

でも、東京側で捕まってたらちょっと難しいけど……。花園さん、やってくれるわよね?」

「は、はいです! あとでパフェお願いしますねっ?」

「あなた、太るわよ? じゃ、データ送るから、あとは頼んだわよ」
164 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 21:29:03.30 ID:1W0TYBw0

……………… 上条さんも人使い荒いなー、あたしだってそんな暇じゃないんだけどなー ……………… 


……………… でも、佐天さんの娘さんが行方不明となれば、まずはあたしがやるしかないか ……………… 


……………… あれ? でもどうして上条さんが佐天さんのAIMジャマーのデータ持ってるんだろう? ……………… 


……………… まさか、ハッキングして???  あー、もう私、知ーらないっと。どうにでもなれ〜 ………………  


……………… えーと、このデータだわね。キープと。さて、警戒レーダーの受信システムは〜 ……………… 


……………… これこれ。とりあえず、今から30分前のデータはと ……………… 


……………… コピー終了。回線一旦開放。さてデータ解析しますかね。…… げ、ロックかかってる ……………… 


……………… なんでこんなロックかけるかな、あーもうめんどくさい。これで終了。さて生データだ ……………… 


……………… え? もういるの? マジ?、本当に? どこ、どこよ? 佐天さんてば? ………………


……………… 位置情報解析完了。さて、地図情報に読み替えと。さ〜てどこだ? ……………… 


……………… 第10学区 …… Bブロック …… 5341−2、どこ? キリヤマ医科学研究所? ……………… 


「とりあえず、上条さんに連絡しなきゃ! それから佐天さんにも!」
165 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 21:33:02.92 ID:1W0TYBw0

そのキリヤマ研。午後7時過ぎ。

「検体搬入完了しました」

「あー、おつかれさん。今日は君たちは帰って良いぞ」

「はい、じゃお先します」「お先に〜」「帰ります」

5〜6人の作業員が実験室から出て行った。

「ふ〜い、いや、なんとか手に入ったな……」   

黒田主任研究員は長いすに身体を投げ出し、大きくのびをした。

「さて、大当たりになるか、大ハズレになるか、大金かけたんだから頼むぜお嬢ちゃん?」

カプセルに入っている「お嬢ちゃん」、それは佐天利子であった。




話はおよそ2ヶ月前にさかのぼる。

ここは同じくキリヤマ研。

「むう……」

一人の男が繰り返しデータを見て考えている。

「コイツは絶対におかしい」「なんか隠してるな」

ブツブツつぶやいているが、廻りの研究者は慣れっこなのか誰も注意を払わない。

「どうした、黒田?」「ああ、大川課長?」

「ひとの行かない道に金の斧でも落ちてたか?」   と大川課長研究員はニヤッと笑って黒田という研究者に尋ねる。

「だったら良いんですけどね、というか、その斧は正しくは湖に沈んでるんじゃなかったですかね?」

「どうでもいいさ。で?」

「いや、この日本人の体験者調査レポートなんですけれどもね、おかしいんですよ」
166 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 21:36:09.46 ID:1W0TYBw0

「時間がない。簡潔に言ってくれ」   大川が時計を見ながら黒田をせかす。

「きっかけは人数が合っていないことだ。1人足らない。おそらく何らかの都合で1人消したのだろうが、データのつじつま

合わせにミスがあったと思われる。

次に、問題なのがAIMジャマーを付けていた人間が2名いた。しかし、1名しか該当者がいない。1名はあの超電磁砲二世。

しかし、もう1名のデータが見た目にはどこにもない。この2つから能力者らしい1名が今年の体験者レポートから消されて

いるという判断が成り立つ」    黒田研究員が一気にまくし立てる。

「ふむ。本当だとすれば、その能力者は原石? の可能性があるとでも?」   大川主任が興味を示してきた。

「かもしれない」   黒田がいう。

「で、このAIMジャマーのデータを取ってみた。これだ」   黒田がデータリストを画面に表示する。

「消されてなかったのか?よく残ってたな」

「いや、さすがに残っていない。これはオレがアンチAIMジャマーの稼働データから逆算して作り出したものだ」

「ふむ、さすが逆転の発想だな……」

「でな、これで検索をかけると、なんと15年も前のレポートに似たものが出てくるのさ」

黒田はタブをひょいひょいとめくって行くと、そのレポートのデータと作成者のデータが表れた。

大川の顔色が変わった。

「冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>じゃないか!」   思わず声が大きくなる。
167 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 21:38:34.93 ID:1W0TYBw0

「そう、彼もこの頃は若いな」   

黒田が苦笑してレポートをめくる。「オレなんか学生だよ」

「マイクロサイズのAIMジャマー???」   大川が感嘆する。

「ああ、今でも十分通用するね、これは。こんな論文正直見落としてたよ。古い論文もちゃんとチェックしないとダメってことかもな」

黒田がドロップを口に放り込む。

「で、ターゲットは?」   大川が再び時計を見て黒田をせかせる。

「この子だ。さてん としこ。14歳、東京都XX区XX中学校3年生。住所は東京都XX区XX-X-X-Xだ。

父親不明。私生児だな。生まれはここ、学園都市。母親はさてん るいこだ。面白いのが、生まれた病院で」

黒田が佐天のデータタブをめくる。

「冥土帰し<ヘブンキャンセラー>のところか!」   また大川が大きな声を上げる。

「な、面白いだろう?」   黒田がニヤと笑う。

「繋がってるな」   大川は厳しい顔のまま言う。

黒田は、大川が興味を示したときに厳しい顔をすることをよく知っていた。

「そうなんだよ、それにな」

「まだあるのか?」

「ああ、実は母親もな、おかしいんだよ。書庫<バンク>上は無能力者<レベル0>なんだが、幻想御手<レベルアッパー>

で入院している。つまり無能力者ではない。しかもだ、この暴走竜巻<トルネードボム>事件ではな」

大川は最後まで聞かずに机から離れ、ドアに向かって歩き出した。

「時間切れだ。すまん。で、参加してもらうのか?」   と黒田に聞く。

「そのつもりだ」

「了解が得られればいいんだがな」   大川の姿は部屋から消え、ドアがゆっくりと閉まって行く。

「あとでもらうさ」



果たして、最後の言葉は大川に届いたのだろうか……。
168 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 21:40:23.02 ID:1W0TYBw0




学園都市、暗部(ダークサイド)、

ひと生きるところに汚れ役あり。光あるところに影がある。

一時期、この暗部(ダークサイド)は粛正につぐ粛正で大幅にその勢力を減らしたが、冒頭の文の通り、世の中はきれい事だけでは

廻っていかない。大粛正を逃れた、本当に「有能」な一握りの者たちは「保護する」ものたちの手により、生きながらえた。

その後、再び暗部(ダークサイド)は、その求めに応じ、再び勢力を拡大し始めた。

頼む者がいるから応じる者が出来るのか、そう言う者がいるから頼もうかと考える者が現れるのか、鶏が先か卵が先か、本当のことは

誰も知らない。

キリヤマ研の黒田は、「原石」の可能性を疑った「佐天利子」を「入手」すべく、この暗部の下部組織のメンバーに依頼をしたのだった。

裏の世界への取次屋というものがいる。彼ら自体は動かないが、客の要望の内容によって、紹介する相手を選択する。

従って、優秀な、幅広い分野に渡る「その道のプロ」を知り、仕事を依頼できるかどうかが彼らの評価の決め手になる。

黒田はその取次屋を知っていた。
169 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 21:43:39.20 ID:1W0TYBw0

表の世界ですら、学園都市外へフリーで出入りができる者はそう沢山はいないため、裏のメンバーは極秘ルートにて出入りを行っている。

もちろん、裏の人間がフリーパス、と言うことではない。

作戦実行員3名、は学園都市を秘密裏に出国し、東京に潜入した。

佐天利子の通う中学校を見つけ出し、下校時間をねらい、じっとチャンスを待った。

ある時は友人に邪魔され、ある時はイヌに邪魔されたこともあった。しかし、彼らはいらつくこともなく、ひたすらチャンスを待ち続けた。

ところが、ある時以来、彼女の下校途中の道に、1人もしくは2人の男子生徒がいるようになった。チェックする相手が増えたことは

予想外であったが、所詮素人であるから発見は容易く、「今日は1人」「今日は2名」とチャンスを窺う際の楽しみ?になりつつあった。

「あいつ、ただ立って見てるだけかい?」という声も出るようになった。

しかし、事態は更に変化した。彼女は1人で帰らなくなり、彼女のずっとあとから同じ学校の女生徒2名がつけて帰るようになったことである。

プロの彼らには所詮児戯なのであるが、彼女の付け人が一気に倍になってしまった。

「あのガキはいったいなんだ?」という疑問の声もメシ時に出るようになった。

しかし、ある日。

事態が動いた。途中で待っていた男子生徒がついに動いたのである。

「!」 

続いて、護衛?していた女生徒2名もそこに合流する。すったもんだ?の後、男子生徒2名が走り去り、女生徒3名が取り残された。

あのバカども、ようやく動いたのか、とその日のメシ時に肴になったくらいである。



そして、次の日。

何があったのか、いつもより非常に早い時間に彼女は1人で歩いてきた。奇跡的にクルマはいない、学生も他の人間もいない。

プロは迷わない。1名が近づき一瞬にして麻酔薬で佐天を眠らせ、もう一人がバックアップ、もう1名がクルマをさっと寄せ、

3名は直ちにその場から消え去ったのであった。時間にしてわずか5秒ほどの出来事であった。
170 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 21:49:25.75 ID:1W0TYBw0

「さーて、じゃぁさてんちゃんのジャマーをチェック致しますかね?」   と黒田はAIMジャマーの確認作業を始める。

CTスキャナーで彼女の頭をチェックすると、そこに出たのは、彼女の髪全体がジャミングを起こしている様子である。

「こりゃすげぇな」   黒田が独り言を言う。

「こりゃ騙されるわ。あのレポートを深く読んでなければ、普通わからないな……」

黒田は彼女の髪の毛を1本取り、顕微鏡で覗いてみた。

「元は栗毛か。黒く塗ってるが、こりゃ何かのコーティングだな、あとで分析してみるか。で、本筋だ」

黒田はケースからあるものを取り出した。

「すまんな、お嬢ちゃん。自慢の髪だろうけどな、ちょっとそのままだと危険なんで、切らせてもらうよ」

そう言って、電動バリカンで佐天利子の髪を剃り落とし始めたのだった。

「髪はおんなの命、だよなぁ。すまんなぁ」そう言いながら剃り落として行く黒田。


―――――― キン ――――――



―――――― キン ――――――

剃り落として行くうちに、ところどころで刃が金属的な音を立てるところがあった。

「これ、か?」

そのうちの1本を手に取り、バリカンの刃を当ててみるとキンキンキンと金属的な音を立てるが切り落とせないのだった。

「そうか、これか!」彼はその髪の毛にテープを貼って行く。
171 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 21:51:20.87 ID:1W0TYBw0

ヴィーンと唸る電動バリカンが佐天の髪をあらかた落とすまで30分ほどかかった。

テープの付いた髪はざっと20本近くになった。

「なーるほど、ねぇ」 

その髪の位置は、頭のうち、前頭葉に近い部分におよそ半分ほど、そして頭頂葉部分に残りが集中していたのだった。

「さて、これでどうかな?」

黒田は再びAIMジャマーの確認を行う。すると、そこに出てきたジャマーの波形は先ほどとは全く違うものであった。

「予想通りだ。あのコーティングされた髪は、ダミーのジャミング発生装置だったわけか。これで騙されて検査をやったら

トラブルが起きるだろうな。よく考えたものだ」

「さて、じゃ今度はこのホンモノはどうなっているかだ」

と黒田は再び佐天をカプセルに入れ頭部をスキャナーにかける。

「むう、一部は脳まで届いているのか…… それでは高電圧をかけて破壊するような強引な手段は無理か。

物理的に破壊するのが無難か…… 原点に帰って、ダイヤモンドヤスリでも使ってみるか」

黒田は工作箱からダイヤモンドヤスリを取り出し、残った髪、いやAIMジャマーを破壊すべくズリズリとヤスリ掛けをして行く。


―――――― ピシ ――――――


小さな音を立てて、ジャマーが割れるように切れた。

「はは、さすがにダイヤモンドには勝てないか。原始的な方法も場合によっちゃ有効だな、まてよ、壊すだけならどこでもいいのか」

彼は残りの髪(AIMジャマー)を纏めて、一気に削り始め、5分ほどで全部切り落とした。

「ひゅー、まさか学園都市でこんなヤスリ掛け工作をするとは想像もしなかったぜ……さて、ジャマーは止まったかな?」

黒田は再びジャマーの稼働状況をモニターで見てみると、何も反応がない。

「よし、これでOKだ! もう邪魔するものはない。さて、念のため準備してくるか」

黒田は部屋を出て行く。
172 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 21:59:10.20 ID:1W0TYBw0


8時半過ぎ、大川課長研究員が外出先から戻ってきた。

いくつもの検問ゲートを抜けて、事務所についた大川はページングで黒田を呼び出す。

「大川だ。黒田主任研究員は内線2205へ連絡しろ」

数分後に「黒田です。B2実験施設、101にいます」という電話が入った。

「どうした? 了解はもらえたか?」

「いえ、まだ目が覚めないので、了解はもらえてませんよ」

「お前な、相手は学園都市の置き去り<チャイルドエラー>じゃないんだぞ? わかってるのか?」

「起きたらもらいますよ、へへっ」

「問題が起きたら、私の責任なんだからな! で、どこまで行ってる?」

「AIMジャマーは全て排除。従って今はすっぴん状態。おなじみの精神集中補助剤と脳活性化誘導促進剤を投与完了。

現在効果チェック中、ってところですね」

「わかった、今から行く」

大川が電話を切る。

(あの、はねっかえりめ、やりすぎだ)   大川は急いで実験室に向かった。
173 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 22:01:23.93 ID:1W0TYBw0

「黒田!やりすぎだぞ!」

ドアを開けて大川が101号室に飛び込む。

しかし、黒田の返事はない。

ベッドに横たわっている人の姿を認めた大川は、そちらへ注意を向けた。

頭は綺麗に剃り上げられていて、身体のあちこちにはセンサーが取り付けられている。

モニターを反射的に見つめてしまったのは、彼もまた研究者であるからだった。

「ふむ、身体の一般部分には影響は起きていないのだな」

と判断した大川は、今度は脳の状態を見るためモニターを切り替える。

「ほう、前頭葉部分はかなり活動が激しくなってきているな。側頭葉もこれは連動しているようだ。これは期待できるかもしれんな」

大川が独り言をつぶやいたそのとき、

「あれぇ? いいのかい、そんな格好で? そろそろ彼女も目覚めるはずだが、その時、何が起きるかわからんのだぞ?」 

黒田が駆動鎧(パワードスーツ)を纏って部屋に入ってきたのだった。

一瞬大川はあっけにとられたが、直ぐに黒田の言わんとすることを理解した。

「!」

「まぁ、何も起きないかもしれないしさ、オレはただ念の為、こういうカッコしただけだから」



「……む……」

うしろで声がした。

大川が振り向くと、ベッドの上のツルツル頭の佐天利子が目をさました。


「あれ?……あたし、どうしたの?……また倒れたのかな…………!!!!」

 
彼女の目と大川の目が合った。


「キャァァァァァァァァァァァ!」


その瞬間、白光が部屋を覆った。
174 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 22:03:51.23 ID:1W0TYBw0

「あれ?」

子供をあやしていた彼女に、ふいに飛び込んできた感覚は明らかな違和感を与えた。気を集中させて分析を始める。

「これ……、だれ? でも、どこかで、なにか覚えが……」

しばらく彼女はその感覚に集中していたが、やがてほっと気を抜いて、彼女は遠くを見つめて一人ごちた。


「どうしてるかな、あのあと……」





「昔もこういうことやったわね……」

上条美琴はキリヤマ医科学研究所の前にたたずんでいた。

「昔のようには身体は動かないだろうけど、やったろかい!」

と一歩前に踏み出した瞬間、美琴は強烈な電磁波を感じた。

「!!」

廻りの明かりが一斉に消え、



――――――――――――  ゴォッ  ――――――――――――



という地響きの直ぐ後に、



――――――――――――  ズドォォォォォォォォォーン ――――――――――――




爆発が起こったのだった。
175 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 22:27:21.96 ID:1W0TYBw0

反射的に斜め後の鉄塔に電磁波を飛ばし、回避動作にかかろうとした美琴に強烈な爆風が襲いかかった。

「ちょっとやばいかもコレーっ!」

美琴は爆風に逆らわずに飛ばされる形を取り、斜め前15m先に止まっているトラックへ電磁波を飛ばし、

それに引き連られる形で爆風から逃げ、トラックの影に入った。

ガンガンといろいろなものが吹っ飛んでくる。トラックにもグシャンと音を立ててぶつかる鉄柱やら何やらがある。

数秒間ののち、爆風はやんだが、砂埃でろくすっぽ前が見えない。

「何なの、この爆発? それより、まさかここに利子ちゃんがいたら大変!?」

美琴は暗視ゴーグルを取り出して被り、立ち上がった。

「ひどいわぁ、この服、もうダメねぇ……」

パッパッと埃を払い落とそうとするが、殆ど無意味なくらい埃まみれになっていた。

地面は酷い有様で、軽量靴ではとても歩ける状態ではない。辺りを見回す美琴。

その時、ゴーグルの中に一瞬写ったものがあった。

「ん?」

データ解析をすると、どうやら駆動鎧(パワードスーツ)らしい。

「ラッキー!」

美琴は注意しながらそちらへ向かう。

この頃になると、あちこちで非常電源に切り替えたのか、少しずつ明かりがともってきた。

クルマのヘッドライトもチラホラと見えてくるが、道路状態が悪く、近くまでは入って来れないらしい。

僅かだが明かりがともり始めたことで、美琴は少し歩きやすくなり、なんとか駆動鎧(パワードスーツ)のそばまでたどり着けた。
176 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 22:28:50.90 ID:1W0TYBw0

中に人はおらず空で、バッテリーチェックをかけると生きていることがわかった。

「よし、コレ借りよう!」   と美琴はその駆動鎧(パワードスーツ)に身体を滑り込ませた。

(メインスイッチ、オン)

ブン、と音を立てて駆動鎧(パワードスーツ)が起動した。

「こいつ、動くわ」

チェックの結果、左腕が肩以上には上がらなくなっていること、平行バランスセンサーが少し傾いてしまっている事が判明したが、

ただの靴でがれきを歩くことから比較すれば天国である。



「しかし酷いわね、何なのよこれは?」

木っ端微塵と言う言葉があるが、まさにその言葉が相応しい状態であった。

やがて前方に何やら大穴が見えてきた。

「あそこが中心部分かな?」

美琴は穴の手前2m付近で立ち止まった。縁まで接近すると、自重で縁を破壊して落ちてしまう可能性があるからだ。

彼女は鉄柱を1本探しだし、思い切りそれを地面に突っ込む。そこに安全ワイヤーを結び、腹這いになって穴の縁へ向かった。

なんとか縁を崩すことなく、美琴は縁から顔を出した。

深い穴が開いている。ライトをつけるが、まだ埃が多くよく見えない。赤外線ライトに切り替え、熱感知暗視カメラでもう一度

そこを見ると、そこに何かがいるのが判別できる。

「もしかして人間かしら?!」
177 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 22:30:16.46 ID:1W0TYBw0

拡大投影してみると、明らかに人間のようだ。

美琴はマイクを使って声をかけた。

「そこに誰かいるの?」 

返事が聞こえない。スピーカーの雑音の方が大きい。音声録音をオンにして、もう一度話しかける。

「聞こえないわ……誰かいるの?」

しばらくして美琴は音声データをチェックする。

美琴の声のデータのあと、小さな波形があるのがわかった。ノイズ部分を削除し、その波形部分を拡大してスピーカーに通す。

「その……は、美……ばさん? あ……さて……とし……たすけ……」

なんとなく、佐天利子のような声に聞こえてくる。美琴はもう一度マイクで叫んだ。

「利子ちゃんなら手を振って!」 

暗視カメラでみるとその人間らしきものは手を振っている様に見えなくもない。

「危険だから、穴の真ん中にいて! 縁は崩れるかもしれないから!」

そうマイクで喋ったあと、美琴は駆動鎧(パワードスーツ)の安全ワイヤを頼りに穴を降り始めた。

あちこち壁を崩しながらではあったが、何とか底に着き、赤外線ライトのあかりに照らし出されたのは……

ほとんどすっぽんぽんの、スキンヘッド状態の佐天利子であった。

「利子ちゃん!! 無事だったのね!!!」
178 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 22:32:14.34 ID:1W0TYBw0

美琴は当麻に電話をかけるが、繋がらない。理由は先に記したとおりだが、美琴はまだその事情を知らない。

「あのバカ、本当に肝心なところで役に立たない!」

ひとしきりののしったところで、ミサカ美子(10039号)へ電話する。

「ちょっと、直ぐにあたしのこのケータイのGPS地点にヘリ1機まわして! 出来れば麻美も一緒に! けが人がいる!」

「上条委員、了解しました。しばらくお待ちを」

ミサカ美子は簡潔に答えた。よし、とりあえずOKだ。

美琴は駆動鎧を「降機」位置にセットして、中から救急医療セットを持って暗視ゴーグルをつけて飛び降りる。

「としこちゃーん!?」   

美琴が叫ぶ。

「ここ、で、す……」

消えそうな細い声が聞こえた。暗視ゴーグルに姿を捉えた美琴は上着を脱いで佐天利子に駆け寄った。

「もう大丈夫だからね! 安心して!! あたしが来たからもう大丈夫だから!」

上着を彼女に掛け、意識が朦朧としているらしい彼女を抱きしめて美琴が利子を励ます。

「おばちゃん、あたし……何がなんだか、さっぱり……」

安心したのか、佐天利子から力が抜けた。どうやら気絶してしまったらしい。

「ちょ、ちょっと!しっかりしなさい!」

美琴はそういいつつ、左肩で佐天を支えながら弱い電撃でそこら辺を軽く均し、ゆっくりと身体を沈めて佐天の身体を寝かせ、

救急キットからエアークッションを取り出して頭を載せ、酸素マスクをつけた。

美琴はまだ埃が舞い上がっていく空を見上げていらだちを隠さずにつぶやいた。

「あー、まだかしらね!?」
179 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 22:35:31.31 ID:1W0TYBw0

それからおよそ10分後、爆音と共にヘリが上空に現れた。

「上条委員、遅くなりました」

ミサカ美子(10039号)の声がスカウターに入る。

「ヘリの爆音がひどいわね。ちょっと待って」

美琴はスカウターの視線入力で、「外部雑音排除」を選択する。

すると、ヘリの爆音の周波数にあわせてノイズキャンセラーが動作し、スカウターのイヤホンにはヘリの爆音が殆どしなくなった。

「美子、通話OK?」

「感度良好、ノイズ減少良好です。それでは指示をどうぞ」

ミサカ美子が指示を求めてきた。

「まず毛布を下ろして、次に担架を!」

美琴が指示を下す。

スルスルと毛布を載せた担架と人間が一人降りてきた。

「お姉様、お久しぶりです」戦闘服に身を包んだミサカが言葉を投げかける。暗視ゴーグルをしているので顔が見えない。

「あなた、麻美?」

美琴が確認をすると

「はい。暗いことと埃が酷いので久しぶりに暗視ゴーグルを装着しています。また、負傷者がいるという事でしたので

 野戦用の救護班用制服を着て来ました。お姉様<オリジナル>に確認しますが負傷者はその女性でしょうか?」

御坂妹ことミサカ麻美(10032号)が美琴を向いて話すのだが、暗視ゴーグルをつけた麻美の姿に、一瞬美琴は遠い昔の悪夢を思い出していた。

(ミサカは18万円でいくらでも自動生産できる、作り物の身体に借り物の心を与えられた実験用動物にすぎません)

180 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 22:39:04.43 ID:1W0TYBw0

「……お姉様<オリジナル> ? もう一度確認します。負傷者はその女性ですか?」

はっと美琴は現実に戻る。

「そ、そうよ。ちょっと見てあげて、お願い!」

美琴は苦い思い出を再び封印した。今はそれどころじゃないのだ。

「む、殆ど裸ですね、体温が奪われ生命維持に危険が生じます。直ちにこちらへ」

ミサカ麻美はまず担架のセッティングをし、美琴が応急的に着せた上着を広げて、気絶している佐天をざっと一通り見た上で

大きな怪我がないことを確認して毛布でくるみ、さらに頭部に衝撃吸収カバーをかぶせ、担架に載せて引き上げさせる。

「さすがね」

手際のよさに美琴が感心する。

「さ、お姉様<オリジナル>、私たちも上がりましょう」

ミサカ麻美と美琴は吊り具に足を引っかけてヘリに吊り上げてもらう。




「うわ、結構な人だかりじゃない」

上昇する吊り具から下を見た美琴が驚く。いつの間にか、アンチスキルの装甲車や警備車、投光器などがずらりと並んでいる。

サーチライトの明かりがヘリと美琴たちを捉えて追尾している。
181 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 22:41:50.29 ID:1W0TYBw0

「あー、もうどうでも良いときになってあいつら、もう役立たずが!」    美琴が悪態をつく。

「お姉様、読唇術で言葉を読まれます、気をつけないと」      ミサカ麻美が無表情を作って小さい声で言う。

「わ、わかったわよ……」  美琴もその通りなので返す言葉がない。

「爆発の穴の大きさがハンパではありませんね」    ミサカ麻美が感嘆したようにつぶやく。

「報道関係者は?」

「その質問の回答については、中の10039号に聞かれた方が良いと思います」    とミサカ麻美が答える。

「私は負傷者の状態チェックを行いますので」

「そうね、頼むわ」

2人は無事ヘリに乗り込んだ。

ミサカ麻美は担架に寝ている佐天利子のところへ行く。

美琴は「報道陣はどうなってるの?」とミサカ美子に聞く。

「現在2社、10名ほどです。例のパパラッチもいます」    ミサカ美子は携帯端末でチェックして回答してきた。

「振り切れるかしら?」

「可能ですが、直行すると彼らが押しかけるものと容易に判断できますが?」

「そうよね……利子さんの具合はどう?」    ミサカ麻美に容態を確認する美琴。

「現在チェック中です……、軽度の興奮状態、脈拍88、血圧115-45でやや高め。外傷15箇所ですが、いずれもごく軽傷。

殺菌清浄剤で外傷部分は消毒済みです。骨格部分、筋肉部分に損傷はなさそうです。心電図に異常波形は出ていません。

問題は、内臓その他の損傷についてここでは測定不能な事です。早い検査処置が必要と考えます」

「仕方ないな」美琴がスカウターを操作して、連絡を取る。

「もしもし、黒子? ごめんね、また頼まれて欲しいんだけど」
182 :LX [sage saga]:2010/11/10(水) 22:57:25.88 ID:1W0TYBw0
>>1です。

お読み下さっている皆様、こんばんは。
どうも有り難うございます。

すみせんが、ちょっと起きているのが難しい状態ですので、本日はここで止めたいと
思います。
明日の朝、投稿を再開したいと思います。

早く落ちてしまいましてすみません。では。
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 23:00:50.19 ID:41Y3J5Yo
乙です
ゆっくりとしてください
184 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 23:01:24.11 ID:LDn.qcwo
物凄いハイペースでテンポ良く進むしとても面白くてびっくりだ・・・
この後他の原作キャラが未来世界でどうなってるのかとか、
リコ(&佐天さん)に秘められた謎がなんなのかも楽しみ過ぎるwwww
185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 23:05:52.29 ID:c596qh.o
>>182
乙です。休むのも大切かと
続き待ってます
186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/11/11(木) 02:33:29.46 ID:CaKvj.AO
超乙です
wktkが止まらない
187 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 07:04:35.48 ID:ViwOjwA0
皆様おはようございます。>>1です。

コメント書き込み頂き本当に有り難うございます。
にじファン等で作者の方が、どんなことでもいいのでコメント下さい、と書かれていたり
しますが、その気持ちが良くわかるようになりました。
投稿する側になってみますと、非常に気になるものなんですね。

さて、それでは僅かですがこれより投稿を再開致します。
宜しくお願い致します。
188 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 07:07:02.65 ID:ViwOjwA0


あたしは、上も下もない、なんだかよくわからない、としか言いようのない世界を漂っていた。

ここって、もしかして死後の世界だろうか? あたし、死んじゃったんだろうか? それは困る。

まだあたしには未来があるのに。お母さんが悲しんじゃう。

そうだ、お母さんは?

母を思い出すと、いきなりそこに母の顔が現れた。おかあさん、ゴメンね。あたし、死んだみたい。

ね、泣かないで。おかあさん、どこ行くの? 行っちゃイヤだ。あたしを置いていかないで! 良い子でいるから、ねぇ!

「おかあさん!」

目が覚めた? あたしはベッドから起きあがっていた。

(夢……だったのか……)

廻りは真っ暗。廊下の非常灯のあかりがほんのりと見える。窓からも外の明かりが入ってきているけれど、静かな夜、だ。

(どこだろう、ここ?、だいたい、どうしてあたしは……?)

さっぱり状況がつかめない。ベッドの脇にあった時計の表示を見ると、午前2時過ぎ。深夜だ。

声に出して、記憶を辿ってみることにした。
189 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 07:11:15.71 ID:ViwOjwA0

「学校に行った」

「ひろぴぃとケイちゃんに冷やかされた」

思わず、あたしは顔が赤くなる。

(ラブレター、どうしちゃったっけ? あ、あたしの部屋だ。よし、オッケー)

「長坂くんとのこと黒板に書かれた」   (そうだ、巨乳って書かれてた)

「長坂君が消した」  ……(それから、あれ? どうしたんだろう?)思い出せない。何があったんだろう?

「保健室にいた……ってあれ、あれは夢、かな?」  記憶があやしい。夢と現実の区別がわからなくなってきた……。

「部活出ない、一人で帰るってひろぴぃとケイちゃんに言ったよね……、夢の話なのかな、ああ、わからない」

「で、校門を出た…… だめだ。全然覚えていないや……夢なのかホントなのか、途中からわからない」

(まさか、まだ夢のなか、とか?)  あたしはほっぺをつねった。間違いなく痛い。

(でも、そういう夢の時もあるし)

ふと、壁を見るとカレンダーがかかっている。  (そうだ、夢の中では計算が出来ないはず)

(5+21=26、あ、計算できた……)

「ホントの世界なのか、ここは……」

あたしは髪に手をやろうとして包帯に触れて気が付いた。

「あれ?」  もしかして、……あるべきものが……ない? そういえば頭が軽い。

「うそっ!?」  あたしはぺたぺたと裸足のまま部屋を歩き、明かりのスイッチを探したが見つからない。

(あ、ベッドのそばか)  あたしはベッドの脇にあるコントロールユニットを弄くり、明かりをつけた。

恐る恐る鏡の前に行くと……

「なに、これやだ〜!!!!!」   

思わず叫んでしまった。
190 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 07:15:05.32 ID:ViwOjwA0

アタマには包帯がグルグル巻かれているが、どこにもあたしの髪は出て居らず、その形から察するに包帯を取った下には

ツルツルあたまが覗くであろう事が容易に想像できたからだ。

「なんで、どうして、なんなのよこれは」   と、麻琴の三段活用がグルグルとアタマの中を駆けめぐる。

あたしはベッドに腰掛けてもう一度記憶を呼び起こそうとした。

その時、ドアがノックされた。

「は、はいっ!?」   まさかこんな時間にノックされるとは思わなかった。

「目覚められたのですか?」   美琴おばさんが入ってきた……ってナース服?

「お、おばさん、どうしてその格好……?」

「むぅ、まだ二度目の遭遇で、しかも初めて会話をするガキンチョに『おばさん』呼ばわりされるのは非常に不愉快」

「?」   意味不明だ。

「とはいえ、たぶんお姉様<オリジナル>と間違えての発言だと解釈しましょう」

「あ、あのぅ……?」

「もしかして、私を上条美琴さんと認識していますか?」   といよいよ謎の発言をするおばさま。

「このミサカはミサカ麻美(あさみ)といいます。かつての名は御坂妹、正式名称は個体番号10032号です。以後宜しく」

あたしは何の事やらさっぱりわからなかった。何をこの人は言っているんだろうって。
191 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 07:17:41.09 ID:ViwOjwA0

でも、この人は美琴おばさんではないのだ、ということはわかった。


―――――――― 手が全然違う ―――――――――― 


すごい綺麗。それに指輪をしていない。

あたしの母や美琴おばさんの手は、子供を育て、水仕事をしてきた女の手。

この人の手はそう言うことをしたことのない手だった。

「あなたは、東京都内からここ学園都市に拉致されてきました」

いきなり、麻美さんがあたしに話し始めた。拉致って誘拐のことだっけ? そう……なんだ、やっぱり。

「詳しいことはまだ不明ですが、あなたはキリヤマ医科学研究所に連れ込まれたようです。

しかし、その研究所は今から4時間ほど前に謎の大爆発を起こし、跡形もなく吹き飛びました。

あなたはその穴の底から殆ど無傷で発見され、この病院に運ばれた訳です。

ちなみに、3ヶ月前にもあなたはここに入院して、このベッドに寝たことがあります」

凄いことを麻美さんが無表情で淡々と述べてくれた。はぁ……。

とても信じられない。

連れ込まれた場所が爆発。

その穴の底にあたしがいて、五体満足で見つかった? 

あたしは不死身の女の子か? 

どういうことなんだろう?
192 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 07:22:14.99 ID:ViwOjwA0

そうだ、あたしの髪。

「あ、あの、あたしの頭、どうしちゃったんでしょう?」

気になっていた事を聞こう。

「鏡を見れば一目瞭然だから隠しても意味はないと判断します。穴の底から発見された時、既にあなたの頭は、殆ど髪がない状態でした。

調査の結果では、意図的に、切り落とすつもりで切られたものと判断されています。乱暴な切り方でしたので。

また、髪に似せて取り付けられていたAIMジャマーは全て破壊されていましたので、今回摘出手術を行い、全て撤去されました」

最初はふーん、と言う内容だったが、終わりの話は衝撃だった。


―――――― 髪に似せて取り付けられていた ――――――


あたしの頭にAIMジャマーが、あたしの髪の毛に混ぜられて付いていた、のか。

それじゃわからないだろう……湾内さんも気が付かなかったのだろうな……

お母さんは、? まさか?

…… お母さんが知らないわけがない! お母さん、どうして黙ってたの?

そのとき、はっと気が付いた。

さっきの夢に出てきたお母さんって誰だ?

あのひと、全然知らないひと、お母さんじゃないその人にあたしはお母さん、行かないで、と泣き叫んでいたような気がする。

リアルすぎる夢だった。

だめだ。どんな顔だったかもう思い出せない。でも、でもあのひとはお母さんじゃなかった。

元ネタはテレビドラマかな? それとも映画だろうか? なんだろう……?
193 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 07:25:12.07 ID:ViwOjwA0

「…………佐天さん、聞いてますか?」

麻美さんがずいっとあたしのそばに顔を寄せていた。

「は、はいっ?」   

ち、近い!  (あ、顔も近くで見ると、違う……ほくろとしわが)

「あなた、今、私とお姉様<オリジナル>とを比較しませんでしたか?」

たまに、美琴おばさんも読心術を使ったのだろうか? と思うほど内心を読むことがあるけど、この人もそうなんだろうか?

「ええええええ、いえいえいえ、そそそそんな」

「その答えでわかりました。他に何か質問はありますか?」

「あ、あの、あたしは今、どういう状態なんですか?」   まずは自分の状態を聞かなきゃ、ね。

「はい、一言で言えば、問題ありません。外傷箇所は微少なものも含んで43カ所ありましたが、そのうち28カ所は既に自家治癒が

始まっており、手をつける必要はないと判断しています。残り15カ所も消毒し、外傷治癒薬を塗布していますので1週間で跡形もなく

消えるでしょう。また、念のために破傷風の予防接種を行っています。

骨格・内臓への損傷は皆無。呼吸器官へ少量の無機物の吸入が見られましたが、これは自然に外部へ排出されますので、あえて手は

つけておりません」

はー、安心だわ。しかし、いよいよあたしって、バイオニック・ジェミーか、鉄腕バーディか、はたまたアリスなのか。
194 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 07:28:30.05 ID:ViwOjwA0

「問題の毛髪の状態ですが、単純に切り落とされただけで、毛根には一切の被害がないので、頭部の毛髪は問題なく再生します。

ただ、以前入院されたときは黒でしたが、今回の調査では栗毛と正式に判断されました。データも書き換えを行っています」

あー、でも今、あたしのアタマって、その『ハゲ』だよね、『ヤカン頭』なんだよね? 外に出られないじゃない!

「毛髪育成促進剤というものがありますが、毛根自体を痛める副作用がある、と言われていますので、頭皮全体に使用する

ことはお勧め出来ません」   と麻美さんはニヤと笑っていう。こういう顔出来るんだ、このひと。

「しばらくはカツラを使うことをお勧めします。風で飛ぶこともなく、通気性も確保されているので、地毛に悪影響も与えない、

という謳い文句、です」

あたしは、思わずカツラを被った自分の姿を想像して「ぶっ」と吹き出した。

「次に、あなたの脳の活動状態ですが」   麻美さんはあたしが吹いたことに気も止めず、先に進む。

「AIMジャマーがない状態にあり、AIM拡散力場の放出が確認されています」

え?それって、つまり……

「あなたは既に、能力者、です」

宣告されてしまった。あたしは能力者なんだ……。
195 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 07:34:37.19 ID:ViwOjwA0
>>1です。

短くてスミマセンが、今朝の投稿はここで止めたいと思います。

今日の夜ですが、昨日に引き続き連チャンで予定が入っておりまして、本日は2次会も
あるはずなので遅くなりそうです。
投稿するだけだからたいしたことはあるまい、と思っておりましたが結構厳しかったです。
もしかしたら夜は出来ないかもしれません。
すみませんがご了解下さいませ。
196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/11(木) 08:09:38.96 ID:BOJhhHYo
>>195
乙です。
用事があるのなら休んでいいと思います。
毎日投稿してる書き手はほとんどいませんし、休みの日にその分投稿すればよろしいかと。
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/11(木) 12:52:45.32 ID:760RnpUo
乙です
198 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 21:58:44.53 ID:uQUt54Y0
お読み下さっている皆様、こんばんは。
>>1でございます。

1次会が早くスタートしたので2次会も早く終わりました。

それでは意識のある限り投稿したいと思います。

>>196さま
コメント有り難うございます。たいへん気が楽になりました。
そう言って頂けますと精神的にとても助かります。


それでは投稿開始します。
199 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 22:01:58.30 ID:uQUt54Y0

嬉しいような、困ったような。て、ことは、あたしはあの家に帰れないのだろうか?

お母さん、詩菜大おばさま、どうしてるだろう? 心配してるだろうな……。

学校の先生、クラスメート。ひろぴぃ、ケイちゃん、あ、長坂くん……も、かな。

「但し、あなたの能力はテストをしていないため不明です。キリヤマ医科学研究所の爆発と関係があるかどうかも未確認です。

出来れば、能力の暴走を起こさないようにテストを受け、コントロールするすべを身につける事をお勧めします」

(そうか、春の頃のマコと同じってことか)   とあたしは理解した。

(でも、マコは美琴おばさんと同じ、電撃系だったよね? あたしは、母さんと同じなんだろうか? って母さんの能力が

なんなのか未だにわからないからなぁ……こんどこそ聞かないと)

「もう午前3時です。朝食は7時から8時に、あなたの場合は食堂で取ることが可能です。この部屋番号とあなたの名前を

伝票に書けばOKです。ではもう遅いので、ごゆっくりお休みなさい」

麻美さんが帰ろうとするのをあたしは止めた。

「あ、あの、麻美さんは美琴おば、いや美琴さんの妹さんなんですか?」

これだけは聞きたかった。双子なんだろうか?

麻美さんはニッコリ笑って言った。

「お姉様<オリジナル>に聞いてみてご覧なさい」 
200 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 22:05:36.86 ID:uQUt54Y0




「すごいものね」

「立ち入り禁止」のはずの瓦礫の山にたたずむ女が1人。

「あのクソ野郎なら出来てもおかしくはないわね」

しばらく立っていた女は、やがて意を決したようにきびすを返し、クルマを止めた方向に向いたとき、

ボコボコガリガリドサッという音を聞いた。

「ん?」

女が振り向くと、傷だらけの駆動鎧(パワードスーツ)が瓦礫の中からはい出してきた。

「うはー、あぁひでー目にあったぜぃ……」

駆動鎧(パワードスーツ)から降りてきた男は、そこに女が立っていることにも気を払わず、腰を下ろして

ああ、やれやれ、と言う感じで喋った。

「あなた、ここの生き残りのようね」   女が問いかけると、

「おお、こりゃまた綺麗なおねぇさんだな。やっぱり生きて帰ってきたのは正解だな。人間あきらめちゃいけねぇな。今日はツイてるぜ」

と男が軽口を叩く。

「ふん、つまらないお世辞言っても何も出ないわよ」   と女は冷たくあしらう。

「残念だな、ビールとは言わないが、なんか飲むものがあったら分けてくれると助かるんだがなぁ」

女の態度は全く気にしないそぶりで男は軽口を続ける。

「野菜ジュースならあるわよ」   と女がバックから紙パックを放り投げる。

「おお、有り難いね。すまん。恩に着るぜ。……ダイエットしてるのか? いまでも十分魅力的だけどなぁ?」

男はストローを挿してジュースを飲み干した。

「いや、生き返ったぜ。地獄を抜けて天使にあった、と言うところだな。申し遅れた、オレは黒田明(くろだ あきら)だ。

改めて礼を言うぜ、いや、今度ディナーを奢るよ、どうだ?」

女は「ふ」と小さく笑って言う。
201 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 22:08:24.65 ID:uQUt54Y0

「じゃぁ、あたしも1つお願いしちゃおうかな?」    女の口調が少し変わった。

「おう、なんでも言うこと聞くぜ? なんだい?」    黒田も応じる。

「あたしの聞くことに、正直に答えることよ!!」    ブンと女の右手から光線が飛び出し、黒田の頭の直ぐ左を通過して

駆動鎧(パワードスーツ)に命中した。

「ひぇっ!」    黒田はずり落ち、後の駆動鎧(パワードスーツ)を見ると、光線が当たったところには大穴が開いていた。

「わかってくれたかな〜? ちゃんと答えてくれないと、あなたもあーなるかもよぉ?」    女が一歩前に出る。

「おいおい、脅かしっこはなしだぜ」    黒田が気を込めて言うと

「脅かしかどうか、もう一発くらわせてあげようか?」    と女は更にもう一歩前に出てきた。

「わわわ、わかった。答えるよ」    黒田が仕方ないという声で承諾した。

「じゃあ、第1問。あなた、何してたのかなぁ?」

「寝てたんだよ」

ブン、と光線が黒田の靴を焼く。

「うぉあちぃ!」飛び上がる黒田。

「今度くだらねぇ事ぬかしたらてめぇのキンタマ丸焼きにしてやるからね!」    女が下品な言葉で黒田を怒鳴りつける。

「げ、原石らしき女の子の能力テストだよ!」    黒田が観念したように話し始める。
202 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 22:11:01.58 ID:uQUt54Y0

「置き去り<チャイルドエラー>の子供?」

「ち、違う。東京から連れ出した」

「名前は?」

「さ、さてん、なんとかだ」

ブンと光線が黒田の左手を焼き吹っ飛ばす。

「ぎゃぁぁぁぁぁっ! て、て、手がっ!!」

「キンタマじゃなくて感謝しろ! さっさと答えねぇと次は右手行くぞっ!」   更に女は一歩前に出る。

「と、としことかいった。さてん、としこって女の子だ」

「その女の子に何をしたの?」   顔は普通だが、目は笑っていない。

(本気だ、この女)と黒田は恐怖した。

「じゃ、ジャマーが、髪の毛に偽装してあったから、それを切り落として、頭に刺さってたヤツは物理的に破壊した。

能力を発揮できるように、誘導剤を使った。そ、それで目がさめたら、ドカンだよ! コレが全部だ。知ってることは全部言った!

もう良いだろ?」

「ああ、確かにもういいさ」 

女がきびすを返し背を向けると、黒田は右手で銃を取り出し、女に銃口を向けようとした……


―――――― ブォム ――――――


それより先に女は左手から高エネルギー線らしきものを放射し、一瞬にして黒田の身体は四散した。

「バカが」

女は振り返ることもなく、その場を去った。
203 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 22:13:45.25 ID:uQUt54Y0


ぐわーっとベッドが持ち上がった。

「キャッ!」あたしは飛び起きた。時計を見ると朝7時。またベッドが元に戻って行く。

「もしかして強制起こし?」   あたしはまた寝転がってみた。何も起きない。

「なーんだ」   とあたしはまた夢の世界に入ろう……としたところでまたベッドの半分がぐわぁーっと持ち上がった。7時5分。

「はー、起きて飯食えってことかぁ……」   あたしは諦めた。

寝起きのパジャマで食堂へ行くのはちょっと恥ずかしいな……と思ったので、どこかに替えのパジャマか服はないのかなと

探したけれど見つからない。

「えー、どうしよう」

パジャマごときでナースコールするのはなぁ……と一人で悩んでいたら、ドアをノックして入ってきたのは美琴いや違う、麻美さんだった。

「おはようございます。気分は如何ですか?」   と麻美さんがニッコリとほほえみかけてくる。別人だけど、本当にそっくり。

「お、おはようございます。おなか空いたんでご飯食べに行きたいんですが」

「もう食堂は開いてますよ? どうぞ行ってらっしゃい」   と麻美さんが笑って答えてくれる。

「それで、ちょっと汗臭いんで、新しいパジャマか何か……」

「ハイ、コレをどうぞ!」   キャリーワゴンから新しいブルーのパジャマを出してくれた。

「ピンクってないんですか?」   と調子に乗って聞いてみると、

「色で入院しているブロックと階数を分けているので、色をあなたが選択することは出来ません」   と言われてしまった。

へー、それはそれでスゴイことですねー。

「では朝ご飯行ってきまーす! 腹へったよー!」   あたしはペタペタとスリッパの音を立てながら食堂へ向かって突撃した。
204 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 22:16:05.58 ID:uQUt54Y0

食堂に行くと、なんと入り口にまた麻美さんがいた……え? 美琴おばさんのはずが……ない。手がやっぱり違うし。

ええっ? ホントに? 美琴おばさんって三つ子だったの?

「なにか? どうかされましたか? とミサカは呆然としているあなたに質問を投げかけてみます」

声も似てるけど、しゃべり方が全然違うわ、このひと。

「あ、あの、あなたは麻美さんでは、ない、ですよね?」

「アサミ? ああ、検体番号10032号のことですね、とミサカはああまた間違われたこんちくちょうと思ったことをおくびにも

出さずにこのミサカは検体番号13577号のミサカ琴江(ことえ)ですと息もつがずに一気にしゃべります」



う、うざい……つまり、御坂琴江(みさか ことえ)さんというんだ、この人は。

「し、失礼しました」   あたしは関わり合いになるのを避けようと、さっさとお詫びを言ってその場を離れようとした。

しかし、そうは問屋が卸さなかった。

「そのパジャマの色からすると、あなたはB棟の3階の患者ですね、とミサカはあなたに確認を求めます」

「そ、そうですが」    あたしのおなかがグウと鳴く。だって、美味しそうなにおいで一杯なんだもの!

「なるほど、そこはミサカ麻美こと検体番号10032号の担当エリアですから、それであなたはこのミサカをミサカ麻美こと10032号

と見間違えたのですねとミサカはあなたに事実の確認を再度行います」

「はいはい」    お願い、あたし、おなか空いてるの。食べたいの。お願い、行かせて!

「む、何やら投げやりな答えの態度にミサカはちょっと不満を表に示そうかと思慮します。ですが、あなたとは初対面ですし、

あなたよりこのミサカ琴江は長い年月を生きてきたのですから年上の度量を示すためにもここは一つおおらかに笑ってあなたと関係

回復を図るべきではないかとミサカは心の中で葛藤を繰り広げます」

「すみません、失礼しますっ!」    あたしはミサカ琴江さんを置いて食堂に突撃した!


……「本当に最近の若い子は礼儀がなっていませんね、とミサカはため息をつきます」
205 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 22:19:56.28 ID:uQUt54Y0


「うう、あれっぽっちしか食べさせてもらえないなんて……、不幸だ」

あたしは病室に戻ってベッドに潜り込み、腹三分目ぐらいしか食べられなかった悔しさに泣いていた。



「ダメです、カロリー計算してあるんですから、おかわりなんてとんでもない! 寝てなきゃいけないんですから、

そんなに食べたら太りますよ?」 

くそぅ、みんなに笑われてしまったジャマイカ!

(太ったっていいよーだ、あとで痩せればいいんだから! あー、全然足らないよぅ)あたしは不幸を嘆いていた。

「!」 

思い出した! お母さん! 詩菜大おばさま! 学校! うわ、どうしたらいいんだろう?

と言っても、あたしの持ち物はゼロ。なんにもないのだ。どうしようもない。

「あ、電話あるじゃん!」ベッド脇の電話を早速取ってピピピ……

「お客様がおかけになった電話番号は、現在使われておりません」    はいー? んなバカな!? もう一回。

「お客様が……」    ダメだ。なんで? んな訳がない。あたしのお母さんのケータイの番号。

じゃ、次。パピポ……

「お客様が……」    なんなんだ? この電話壊れてるのか? なんで大おばさまの家に繋がらないの?

結局そのあと、覚えている番号にかけてみたが全て繋がらない。

「なんでなのよー……ぐす」    あたしは泣き出しそうになっていた。
206 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 22:24:47.45 ID:uQUt54Y0

するとそのとき、ピーンポーンピーンポーンとチャイムが流れ、

「現在、時刻は午前8時半です。面会時間が始まりました。

面会にお越し下さいました皆様はこれから指定されました場所、もしくは指定されました個室のみ訪問が可能です。

それ以外の場所は入れませんのであらかじめご了承下さいませ」   との案内が放送された。

「面会か……」   とボケッとしていると、いきなりドアが開いて「リコーっ!!」と懐かしい声と共に麻琴が飛び込んできた。

「マコ? ホントにマコなのね!? 久しぶり〜!」     あたしはベッドからバッと飛びだし、麻琴と一緒に跳ね回った。

「リコが行方不明になったって大騒ぎだったんだよ!?」   麻琴が半べそかきながら笑って言う。

「でも、本当によかった……リコに会えて……」       麻琴があたしの胸に顔を埋めてグスグス泣いている。

「ごめんねぇ、マコ、心配かけちゃってさ、来てくれてありがとね」   と麻琴の頭をなでてやる。

「ふにゃ〜」    ああ、この感触。凄く久しぶりだ、こんなに癒されるの。

「で、アンタどうしてここが?」   とあたしはアホな質問をしてしまった。

「リコ、あんたテレビに映ってたんだよ?」   と麻琴がこれまた驚きの話を始める。

「へ? 何それ?」
207 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 22:29:33.19 ID:uQUt54Y0

「じゃーん、そういうだろうと思って持ってきた!」    (……切り替え早いね。変わってないわ)

カバンから筒を取り出した麻琴は、中から薄い膜のようなものを出して広げ、そこにパチンパチンと部品をセットして、

片方をコンセントにつないだ。

「さて、と」   麻琴は独り言をつぶやいてメモリーらしきものをつなげた。

「あ、外部スピーカー忘れた」いきなり膜に映像が映し出された。

「音声は小さく出るけど、モノラルなんで臨場感は出ないんでゴメン」

夜中だ、ヘリがサーチライトにてらされて明るく写っている。爆音が大きくて、なんか喋っているらしいがよく聞こえない。

「これ、この担架に乗ってるの、リコだよ!」    麻琴が教えてくれる。

なるほど、担架がゆっくりとつり上げられている……けれど、顔までは見えない。

「マコ、よくあたしだってわかったわね?」   これであたしだとわかったらアンタ超能力者だよ、って既にそうだったわね。

「えー、これでわかるわけないじゃん? これ、宿題済ませて、テレビつけたらたまたまやってたんだよ。ほら、ママが出てきた!」

なるほど、すすけた女の人と、軍服? 着た女の人が2人でつり上げられてきた。

「でもね、ここ、最初の生中継の時だけなの。後のニュースとかじゃ全部カットされてたわ」

麻琴が不満そうに口をとがらせていう。

「せっかくママのカッコイイところだったのに」

「あら、元気そうね? 利子ちゃん、おはよう! 具合はどう? その調子だったらもうバッチリかな?」

噂をすればなんとやら。話題の中心人物、上条美琴おばさまが入ってきたのだった。
208 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 22:31:44.50 ID:uQUt54Y0

「また、そんなの見てる! 利子ちゃんに見せてどうするのよ」

「えー、だって自分がどういう風に救い出されたか、なんて滅多に見れないよ?」

「あ、ありがとうマコ。よくわかったわ」   また親娘でケンカ始められたらたまらないのであたしは話題転換に動いた。

「あのう、おばさん、母と詩菜おばさまに連絡を……」

「ああ、それはあたしが昨日のうちに電話したわ。詩菜お義母さまのほうはちょっと大変だと思うな。利子ちゃんは学校の帰りに

誘拐されたことになってて、警察も動いてたから」

誘拐か……詩菜大おばさま、心配しただろうな…………

「あなたのカバンは途中で放り出されてたらしいわ。携帯電話も見つかってた。まぁあたしも仕事柄、折衝するのは全く問題ないけど、

警察相手はやっかいよね。アンチスキルにふってもいいけど、そうするとまた最初から説明しなきゃならないし。

あ、利子ちゃんは別に心配しなくて良いからね?」

「すみません。で、母はどうでしたか?」

「すっごい驚いてたわよ。ただ、全部結果出た後だったからね、あれであなたの行方がわからない時点で連絡付いてたら

かえって良くなかったかもね。もうすぐ来るんじゃないかな?」
209 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 22:35:16.43 ID:uQUt54Y0

「それでなんですけど」   あたしは美琴おばさまに聞いてみた。

「ここの電話で、詩菜大おばさまや母に電話しようとしたんですけど、繋がらなくて……」

「ああ、教えてなかったわね」   と美琴おばさんが苦笑いしてあたしに教えてくれた。

「基本的に外には繋がらないの。外からも繋がらないし」    へ? 電話が?

「あのね、学園都市は外とは科学技術が20年以上差が開いてるのね。だからスパイしようとする連中が沢山いるわけ。

だから電話は基本的には繋がらない。許可を得た番号だけが会話可能なのね。但し、会話は全部筒抜けでしかも録音されていて、

暗号解読ソフトにもかけられるみたいよ。もちろん話せる内容にも制限があるしね」

し、知らなかった……。道理で麻琴からあたしの携帯に電話がないし、あたしがかけるといつもお話中なわけだ。

「じゃあ、行き来もあんまり出来ない……のですか?」

「簡単には出来ないわね。入る場合は、基本的には中の人の招待状がいるし、まぁ昔は大覇星祭の時は比較的緩くてパスポートだけで

入れたときも例外的にはあったけど、今は厳しいわよ。あなたが潜り込んだ春の体験ツアーは対象が子供だから緩かったわけ。

中にいる人間が出るときは許可がいるし、どこにいるかどこに行ったかチェックのためにGPS埋め込まれるし、能力使用は厳禁とか

そりゃ大変なのよ。ちょっとでも違反すると次の外出は難しくなるから、そりゃみんな必死で守るわよ」

「じゃあ、母は例外なんでしょうか?」

少なくとも年に3ないし4回は出入りしているはずだ。
210 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 22:38:10.22 ID:uQUt54Y0

「ん〜、そこまではあたしもわからないけど」

と美琴おばさまは言う。

「あなたのお母様はここにいたことあるし、それに今は気象学の大家よ。大学で講義持ってたこともあったわよね。

だからじゃないかな。あたしだってレベル5という肩書きがあるから結構横車押したりもできるの。それがオトナの世界ってものよ」

あたしの考えは甘かったようだ。学園都市に一回入ってしまったら、当分出てこれないらしい。夏休みに実家に帰る、なんていうのも

そう簡単ではないみたい。入るにはちょっと覚悟がいるようだ。

あたしは普通に生きて行きたい。でも……あたしは能力者になってしまった。ただの人に戻れるのだろうか?

戻れないとすれば、コントロールできないままの能力者が、東京で暮らして行けるのだろうか? 

万一暴走して、みんなに危害を与えたら? ああ、どうしたらいいのだろうか?

「リコ? 大丈夫? 具合悪い?」 

麻琴が心配そうにあたしのそばに座った。

「ううん、大丈夫よ。で、マコはこっちきてどう? 楽しい?」

あたしは麻琴にこちらの世界の話をせがんだ。

「じゃ、ちょっとあたしは先生に利子ちゃんの状態聞いてくるから、あんた、利子ちゃんとお話しててね? 外へ連れ出すのはダメよ!? 

わかってるわね?」

美琴おばさまはそう言って部屋から出て行った。




211 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 22:40:08.00 ID:uQUt54Y0

「じゃぁ、外行ったらダメっていうから行ってみようか?」

と麻琴がいたずらっぽい顔でニヤと笑う。

「バ、バカ言っちゃだめだってば。あたし今朝起きたばっかりのけが人なんだからね。ダメよ」

あたしは思いきり釘を深く刺した。

「ちぇ、リコはマジメだからなー、せっかくこっち来たんだからいろいろ見て行けばいいのに。おいしいケーキ屋さんもあるんだよぅ?」

おいしいケーキで一瞬あたしはグラと来たけれど、アタマのことを考えて踏みとどまった。

「ダメだってば。大体こんなアタマで外出れないってば」 

これで麻琴も諦めるだろう、と思った。

しかし、今日の麻琴はしぶとかった。

「おっけー、じゃカツラ借りてくるわ。病院の近くにあると思うんだ。2〜3種類持ってくるから選んでね?」

ちょ、ちょっと麻琴ってば。あ〜、行ってしまった……。

ヘンに行動力でてきたなぁ、麻琴。やっぱり学園都市に来ると変わるんだろうか? 

どうしよう、と思ってふう、とため息をついた……


―――――― コンコン ――――――

ノックの音が部屋に響いた。
212 :LX [sage saga]:2010/11/11(木) 23:03:33.46 ID:uQUt54Y0
すみません、>>1です。

申し訳ありませんが本日もお先に失礼させて頂きます。
明日朝、また少しですが投稿したいと思います。

今現在、半分を超えたあたりまで来ています。
明日は、今日現在予定はありませんので、一気に進められると思います。

それではお休みなさいませ。
213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/12(金) 00:14:44.14 ID:D2QUMYUo
乙です
214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/12(金) 00:19:04.54 ID:3A9x6Ywo
乙です。
続き待ってます
215 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 06:53:27.62 ID:mLATCRk0
皆様おはようございます。>>1です。

2日連続で早落ちしてしまい失礼致しました。

それでは今朝の投稿を始めますのでどうぞ宜しくお願い致します。
216 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 06:54:44.05 ID:mLATCRk0

「はい!」 

誰? お母さんかな?

静かだ。もう一度返事する。

「どなた?」

やっぱり静か。いたずらだろうか?

ペタペタと歩いて行き、ドアの……下に紙が差し込まれていた。

「?」

あたしはそれを抜き取り、開いてみた。


「佐天利子さま

あなたのお母様、佐天涙子さまをお預かり致しました。お母様を助けたければ、直ちに当病院玄関へお一人でお越し下さい。

上条美琴さん他、外部の人間に絶対に連絡しないよう警告致します。我々の言うとおりにして頂ければ、あなたにも、あなたの

お母様にも危害を加えるようなことは絶対にありません。それでは」


あたまが真っ白になる、とよく言うが、まさにその通りだった。

刑事ドラマか?と思うような、絵に描いた通りの展開だった。

反射的にあたしは走り出した。階段を駆け下りて走る。

玄関に着いた。
217 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 06:56:39.55 ID:mLATCRk0
「おねーちゃん?」 

子供が寄ってきた。

「これ、おねーちゃんにって」

紙を子供が手渡してきた。

「あのおじちゃんが、あれ? いないや」

「ありがとう」

声がうわずっている、あたし。紙を開いてみる。

「玄関を出て、右手の駐車場へ この紙をもってこい」  とある。

あたしは何も考えずに玄関を出てペタペタと駐車場へ走る。

バイクが走って来た。

「これ、たのまれものだけど?」

とその人があたしに紙を渡して去って行く。

開くとこうあった。

「駐車場を抜けてもう一度右に曲がれ」 

あたしはまた走った。ちょっと息が切れてきた。スリッパでは走りにくい。あたしはスリッパを脱ぎ捨て裸足で駆けた。

「陸上部員をなめるなぁ!」

しかし、右に曲がったところで

「動くな!」

作業服姿の男の人が立ちはだかった。
218 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 06:59:06.91 ID:mLATCRk0

業務用出入り口からバンが出て行った。

それを遠くから見守っていた女が一人。 

「ふん」

女はスカウターを取りだした。

「漣? あたしだ。仕事だから、直ぐに第7学区、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院、外来駐車場まで飛んでこい!」

女はそれだけ言うと、バッグから何やらを取り出し、チェックを始めた。

「よし、ちゃんと追えてるわね」

再びバッグにしまいこみ、女は駐車場へと歩いて行く。



駐車場へ戻ると、そこには高校生が立っていた。

「授業中に呼び出しってのは、ちょっと困る場合があるんですが」   と彼、漣孝太郎(さざなみ こうたろう)が言う。

「うっさいわね、どうせ寝てたんでしょ?」   女がセダンのドアを開けながら言い返す。

「そう、だから参ったんですよ。学校に来て寝てると思ったら早退とは何事かって、えらく怒られました」

「ふん、あんたの成績ならどうって事ないでしょ。それより、今日の内容。ターゲットはこの子」

ほれ、と女が漣に顔写真を渡す。

「え? こんなカワイイ子を?」   孝太郎は驚く。

「勘違いしないようにね。今日は守る方よ。たった今、その子は誘拐されたわ」

「はぁぁぁぁぁ? 誘拐されたぁ???? わかってたんならなんで、どうしてそこで止めないんだよ?」

「あんたバカァ? ここでふんづかまえたら黒幕がわからないでしょうが? ホント、バッカじゃないの?」

女が漣をさんざんに口撃する。

「ハイハイ、どうせボクはばかですよーだ」   孝太郎は口をとがらせて拗ねる。

「かわいくないわね、ほら、早く乗る!」

漣を乗せ、女の車が病院を出て行く……。
219 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 07:04:41.77 ID:mLATCRk0

「あれ? リコ? どこ?」    麻琴がカツラを持って戻ってきたが、部屋には誰もいない。

「トイレかな?」

3階のトイレを探すが、いない。4階にも、2階にも、1階にも。

「ちょっと、また行方不明なんて……? やめてよ、もう人騒がせなのは……」   といいつつ、麻琴の脳裏に不安が広がる。

「まさかね、まさか、ホントだったりして……」   麻琴は胸ポケットから腕章を取り出し、受付へ走る。



「すみません、風紀委員<ジャッジメント>です。わたくし114支部の上条麻琴と申します。調査にご協力をお願い致します。」

「は、はい」   受付の女性が目を丸くする。

「保安係の方にお話をお伺いしたいのですけれど」




「あいつら……」   一方、入れ違いで部屋に戻ってきた上条美琴は怒りで僅かながら帯電していた。

まさかね、と思っていたが、そのまさかで二人とももぬけの殻、だからだ。

「脱走した……んだろうな。どうせ麻琴の差し金よね……」

見つけたらただじゃすまさんという状態のところに麻琴が飛び込んできた。

「ママ?」

「ママじゃないでしょっ!」

ぐわぁっ、と怒りの表情で迫った美琴に麻琴が応戦する。

「リコが拉致されたの!」

「そんな見え透いたウソが「ホントなんだってば! あたし保安係で監視カメラ見てきたんだから!」なんですって!?」
220 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 07:08:05.99 ID:mLATCRk0

麻琴が必死の形相で美琴に説明する。

「玄関で子供からなんか受け取って、駐車場でバイクの男からやっぱりなんか受け取って、スリッパ脱ぎ捨てて走って

行ったところまで監視カメラに映ってるの。でも肝心なところがないんだけど、その後、業務用出入り口からバンが1台

出て行っているの。たぶんそれに乗っているんだわ」

「出て行ったクルマのナンバーは控えてあるの?」

「わかってる。今保安係から照会してもらってる」

「まぁたぶん偽造だと思うけど。よく調べたわね。」

「66番支所に行って監視カメラデータを見せてもらってきます!」

「あ、じゃあたしも行こうか?」

すると麻琴はニヤっと笑い、

「一般の方はここまでですよ? あとはあたしたち風紀委員<ジャッジメント>におまかせを」   と言ってのけた。

「なっ?」    一瞬美琴は衝撃を受けた。

(ま、まるでいつかの黒子のような)   昔。そう、今の麻琴と同じくらいの頃。あの日の自分が麻琴と重なって見えた。

(ふふ、麻琴が、あの麻琴が言うようになったじゃないの)

「わ、わかったわよ。じゃ、あたしはあたしのやり方でやってやるから。あんたとどっちが早いか競争だわね!」

「負けないわよ、上条美琴委員?」

「間違えちゃダメよ。目的は佐天利子さんを無事助け出すこと、なんだからね?」

「もちろんよ!!」   

麻琴が飛び出して行く。
221 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 07:12:06.34 ID:mLATCRk0

(利子ちゃんもそうだけど、未だにここに佐天さんが来ないのはおかしい。まさか??)

先ほどの会話でふと気が付いた美琴は佐天の携帯に連絡を入れる。しかし、強制割り込みを選択しても繋がらない。

「いよいよ絶対おかしいわね」   と今度は花園飾利に連絡を入れる。

「はーい、花園ですぅ」      いつもの甘ったるい声が応答する。

「美琴ですけど、佐天さんが現れないんだけど入国の時刻を調べてくれる?」

「上条さ〜ん、まだ前回のパフェ、ごちそうになってないんですけど?」

ほわほわ〜んという感じの花園の声に、美琴は(この非常時にあんたはパフェかいっ!)と心の中で突っ込んだ後

「あー、もうジャンボでもスペシャルでもアルティマでも好きなの頼んで良いわよ!」   と返した。

「ひゃほーい、やりましたねっ! えっと、涙子さんのほうですよね? 佐天さんは今朝6時5分に国際空港入管を通過してますよ?」

ほとんど即答だった。

「ちょっと? もしかしてあなた……?」   美琴は疑問をぶつけてみた。

「もしかして、あなた既にチェックしてるの?」

「あはは、上条さんから昔あたし頼まれてたじゃないですか? 佐天さんのお嬢さんが学園都市に入ってきたらチェックしてって。

覚えてないんですか?」 

しっかり彼女は覚えていたのだ。

(まぁ、正直いうと、春の入国事件まで忘れてましたけど、そんなの言う必要ないし、えへへ)

花園飾利はガッツポーズを決めて言う。
222 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 07:15:03.44 ID:mLATCRk0

「それにあたしと涙子とは大大大の大親友ですからね、だから、彼女の方はいつもバッチリですよ。あれ? 涙子は、そういえば

一緒じゃないんですか?」

「だからあなたに聞いてるのよ!早く見て」   美琴はイライラしながら花園の答えを待つ。

「おまかせ……アレ? 利子ちゃんのデータ、昨日の夜から全然無いわ?」

美琴はため息をついて花園に言う。

「あのね、昨日利子ちゃんのAIMジャマーは全部破壊されちゃったのよ。だからもう二度とそのデータは入ってこないわ」

「そ、そんなぁ〜」 

がっくりとした声が聞こえてくる。その後直ぐに、

「でました。第十一学区、エリア335B、3−56ですね。これってどこだろ?  ……インターナショナル(株)第6倉庫ですね。

そこに涙子さんはいます……って、まさか誘拐ですか? 本当に? そんな!」

「ありがとう! ちなみに利子ちゃんの動きはつかめない? 今朝、前と同じ病院から利子ちゃんも拉致されたみたいなのよ!」

「ええええええええ? なんなんですか、それは? クルマでですか?」

「そうらしいわ。麻琴が追っかけてる。ナンバーは学園XXーあ XXXXだって」

「はい、あー、あれ? 他からもこのナンバー、検索にかかってますねぇー。………ほい、出た。え? データ上はこのナンバーは

一昨年に事故で廃車になってますよ?」

予想通りだ、と美琴は思う。そう簡単に誘拐犯は足がつくようなことはしないはずだ。

「でも監視カメラに映ってますね」

(なによ、それ!)美琴はずっこけた。
223 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 07:21:18.43 ID:mLATCRk0

「今朝の9時11分にそのナンバーのクルマは第7学区B料金所から高速に入っています。えーと、まだ降りたというデータはないです。

追跡しておきましょうか?」

「ありがとう、頼むわ! で、あたしはこの後、あなたの教えてくれた第十一学区の方へ黒子と行くわ。

ドンパチやるかもしれないから、後の情報は音声は止めてメールにして。スカウターで見るから!」

「わかりました。白井さんが行くのであれば、風紀委員<ジャッジメント>への連絡は良いですね? 気をつけて下さい!」

「まかせといて。終わったらみんなで飲みに行こう!」 

美琴は通話を切った。



「………あたし、飲めないしなぁ、白井さんがおとなしかったら喜んで行くんだけど………どうしよう?」

悩む花園飾利であった。

  


(佐天涙子side)

どうして他人を根拠もなく信用してしまったのだろうか? 

「佐天さんですか?」

泡を食って出口を飛び出してきたわたしに男性が声をかけてきた。普段なら絶対に信用しないのに。

どうしてあのとき確認の電話をしなかったのだろう?

「田中脳神経外科病院のものです。佐天利子さんは今、我々の病院に搬送されています。お待ちしてました」

出迎えなんかいるわけがないのに。

動転していたわたしは「迎えの車」に乗ってしまった。



いま、わたしは倉庫の隅に転がされている。

15年経って、また同じ事が繰り返されてしまった。いや違う。こんどはわたし一人ではない。このままだと娘が巻き込まれてしまう。

わたしの大切な、わたしの利子が。神様、お願いです。助けて下さい!
224 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 07:28:49.92 ID:mLATCRk0
>>1です。

お読み頂いている皆様、どうも有り難うございます。

これより出勤準備に入りますので朝の投稿はここで止めたいと思います。
今日の夜の投稿はそう遅くならない時間に始められると思います。
それでは失礼致します。

225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/12(金) 08:06:41.87 ID:iiPCAc.o
>>224
乙です。
226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/12(金) 12:02:34.03 ID:2tFABUgo
乙です
227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/12(金) 17:32:56.22 ID:jjUZokoo
最後のオチが読めたけど、まぁ面白いので気にならん
しえーん
228 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 18:47:49.22 ID:hl/uEKA0
お読み頂いていらっしゃる方、こんばんは。>>1です。

それでは投稿を始めたいと思います。
宜しくお願い致します。

>>227さん
ご支援有り難うございます。
お手柔らかにお願い致します<(_ _)>
229 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 18:50:08.85 ID:hl/uEKA0

(佐天利子side)

「着いた」 運転していた?男が言う。

「動くな」 左隣の男が言う。目隠しが外された。 暗いところ。倉庫の中だろうか。

ドアを開けて左の男が降りてあたしに向かって言う。「降りろ」

ひんやりとした冷たいコンクリートの感触があたしの頭を冴えさせる。

裸足のあたしを見て、先に降りていた男が運転席の男に命令する。

「おい、サンダルがクルマにあっただろう? それ履かせろ。足にけがでもされて病気にでもなったらえらいことになる」

「へいへい、女には甘いね」 運転席の男が嫌みを言ったが、それでも後からサンダルを持ってきた。

「履け。そして前の男に従って進め」 後からあたしの右に座っていた男が命令する。

少し歩くと扉があって、底を開けて入ると、奥に明かりがともっていた。

「うまくいったか?」

「まぁな」 あたしの前の男が答える。

「さっさと決めてずらかろうぜ。時間がかかるとろくなことはねぇ。おい、連れてこい」

…………奥から連れてこられたのは、母だった。
230 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 18:52:07.53 ID:hl/uEKA0

「お母さん!」

「利子! 無事だったのね!」

「お母さん、どうして?」

「やかましい! 黙れ!!」 

男が怒鳴り、あたしたちは黙った。

「感激のご対面を邪魔してすまなかったな。だが時間がないんでな、許せ」

真ん中の男が頭を下げた。

「あんたらに恨みも何もない。ただ、俺たちに仕事を頼んだヤツが金を払わずに消えた。ま、そこのお嬢ちゃんが消したわけだがな」

あたしには話が見えなかった。あたしが消した? 何を?

「というわけで、俺たちも生きて行かねばならんので、仕方なくお嬢ちゃんをメシの種にすることにした。

まぁ売り飛ばした、と言うわけだ。お母さんとやらは行きがけの駄賃だ。あんたにはすまんな」

母はじっと男を見ている。

「あんたらはこれから、そこにあるコンテナに入ってもらう。そのままじゃ無理なので、一時的に仮死状態になってもらう。

そして貨物としてこの学園都市を出て、東京港まで出て、そこで一旦引き取られて開封される事になっている。まぁ1日ちょっと

の旅だ。たいしたことじゃない。じゃ、元気でな」

男が話を切った。

「さっさとやれ」左端の男が命令した。

231 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 18:55:43.33 ID:hl/uEKA0

(漣side)

「位置はここですね。うーん、発火能力者が正面1人 レベル3、中に2人これもレベル3。風使いが同じく正面1人、レベル2。

中に1人、レベル2ですね。あと氷結能力者レベル3が2人中にいます。あとはざっと20人くらいが散開してますがレベル1や

レベルゼロですね」

AIMストーカーを見ていた高校生、漣孝太郎が報告する。

「漣、行けるわね?」

「いえ、キャパシティダウンが動作してます。この部分」

「情けないわね、あんたそれでも大能力者かい?」

「お言葉ですが、レベル4でもレベル5でもキャパシティダウンに対抗するのは大変だと思いますけど?」

「しょうがないわね。じゃぁあたしがソレぶっ壊すしかないじゃない?」

女が指を動かし始める。

「実は最初から暴れ回りたいんじゃ<痛いです!スイマセン!ごめんなさい!>」

女が漣に連続チョップをくらわした。

「さぁて、準備運動もしたし、やるかい」

「ちょ、人のアタマで準備運動しないで下さい!……でちょっと待って下さい。位置を確認しないと、火線上に被害者がいる位置での

攻撃は危険です。一発目でしくじると後が大変ですし」

「孝太郎ちゃん? キミは誰に向かって発言してるのかにゃーん?」

女が甘ったるい声で聞くが、漣はこういうときは非常に危険な時だと言うことを経験で知っていた。

そう、目が笑っていないのだ。実際、空気がイオン臭くなって来ている。

「は、はいっ、レベル5、風紀委員<ジャッジメント>委員会特殊任務委員長、麦野沈利さんですっ!」

「宜しい。アドバイスありがと。気をつけるわ。位置を指定して」

「は、はい。ではその位置へご案内します」

漣は麦野の手を取りテレポートした。
232 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 18:57:43.92 ID:hl/uEKA0

(上条美琴side)

一方その頃。

「黒子、準備はいい?」

「OKですの」

倉庫建屋の前に止まっているトレーラーの陰に上条美琴と白井黒子、完全武装のミサカ琴江(13577号)がいた。

「念のため、もう一度確認しますわ。……あ、お姉様、ちょっと待って下さい!」

白井黒子がAIMストーカーを見て上条美琴と琴子にストップをかけた。

「レベル5とレベル4がいますの!!」

「はぁぁぁぁ? レベル4と5? 誰よそれ?」

「レベル4はテレポーターですわ! レベル4のテレポーターって、まさか……?」

「レベル5って、誰よ?」

二人が顔を見合わせたその瞬間、


―――――― バァン ――――――

爆発が起こった。

「何?」

「AIMストーカーに強力な反応がありました。能力者による攻撃と判断します」

「キャパシティダウンが動作を止めましたわ!」

「黒子!チャンスよ」

「行きますわ!」黒子がテレポートした。
233 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:02:21.33 ID:hl/uEKA0

(倉庫内)

佐天涙子と利子親娘は手を縛られてコンクリに転がされていた。

「じゃ、これでちょっと眠ってくれや。気が付いたときにはもう東京だ。それじゃ、お別れだ、あばよ」

と男が麻酔をかがせようとしたとき、

       ―――――― バァン ――――――

爆発が起こった。

「敵か!?」 

男たちが爆発音がした方向を向き、佐天たちから注意が離れた。

その瞬間、男が飛来した。

そしてその直後、女が飛来した。

ぶつかりそうになった二人は顔を見合わせて叫んだ。

「母さん!?」

「孝太郎!? なんであなたが?」

それでもさすがに経験の差か、白井黒子は脇にいた男を蹴り上げ、その隙に佐天涙子をひっつかみテレポートして去った。

「敵だ! 同士討ちに気をつけろ! 明かりをつけろ!」

しかし、漣孝太郎はイレギュラーな事態に動転して演算に失敗、佐天利子と共にテレポート出来なかった。

「ごめん、こっちだ!」漣は佐天(利)を連れて奥へ逃げる。

「てめえら、あいつらを逃がすんじゃねぇぞ!!」白井黒子に蹴られた男が大声で怒鳴った。

漣たちを男たちが追いかける。漣も戦闘訓練は受けているものの、暗部の男たちとはレベルが違う。

あっというまに二人は追いつめられてゆく。



「爆発はなんだった?」   残っている、真ん中にいた男はあわてずに聞く。

「キャパシティダウン装置をやられました」   報告が届く。

「ふむ。では我々が不利だ。あのお嬢ちゃんを確保して逃げるのが正解だな、野郎ども、失敗だ!! 逃げるぞ」
234 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:04:44.11 ID:hl/uEKA0

三十六計逃げるにしかず、一斉に逃げ支度にかかろうとしたとき、


―――――― シュバババッ ――――――

壁を突き抜けて青白い電子線が走り、ガラガラと壁が崩壊した。

埃が舞う薄暗い中を、青白い光に包まれたものがやってくる。

「そうはいかないのよね、女をメシの種にするなんざぁ、クソどものなかでも最高のクソ野郎どもじゃない?そんなクソどもは」

―――――― バシュッ ――――――

「ギャッ」「ぐぷ」「ぎゃぁ」

レベル3を含む数人の男が電子線に捉えられ、四散した。

それを見たものはあまりの残酷さに茫然と立ちすくむ。

「クソ溜めのなかでのたうち回って死ね! このクソ野郎ォォォォォ!」

麦野が両手をふりまわし、青白い、死を呼ぶ電子線が倉庫を縦横無尽になぎ払う。

かつて学園都市暗部「アイテム」のリーダーだった頃を彷彿とさせる、麦野沈利の容赦ない攻撃が始まった。

電子線上に捉えられたものは一瞬にして吹っ飛び、廻りに血しぶきをふりまく。

漣たちに向けて銃を構えていた男は戦意喪失して失禁して震えていたところを電子線の乱れ打ちにあって吹っ飛んだ。

「オラオラオラ、愉快にケツ振って逃げてんじゃねーよ、ギャハハハハハ、てめえらクソ虫なんざ生きてる価値もねぇんだよ!」

麦野のエキサイトした声、吹き飛ぶ人間の悲鳴が倉庫に響く。
235 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:08:00.14 ID:hl/uEKA0

「きみ、見ちゃダメだ。目をつぶってて!」

漣は佐天(利)に覆い被さるようにして物陰に潜む。

「怖い、お母さん助けて!」

佐天(利)は震えながら母を呼ぶ。

ふいにブンと電子線が頭の上を通り過ぎ、一瞬明るくなったが直後に「ギャーッ」というものすごい人間の断末魔が近くで聞こえ、

ドサリとものが落ちる音、ガラガラドシャーンといろいろなものが崩れる音があたりを満たす。

埃が舞い、そして血の臭いもあたりを漂う。

「ひえぇぇぇぇぇ、麦野さん、やりすぎですーっ、僕らまで死んじゃいますーっ!」

アタマの上を飛び交う電子線がいつ自分たちに突き刺さるか、漣は生きた心地がしなかった。



―――――― バシュッ ズドォォォォォン ――――――


その瞬間、一発の高エネルギー弾が倉庫を貫き爆発した。

「ちょっと、いい加減にしなさい!」 

上条美琴の声が響く。

麦野の電子線が消える。

「ちっ、超電磁砲<レールガン>のお出ましか」 

麦野は美琴の方を向く。

「久しぶりね、元学園都市第三位、超電磁砲<レールガン>」

「あんたもね。生きてたのね、元第四位、原子崩し<メルトダウナー>」

二人のレベル5が向かい合った。


236 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:15:19.60 ID:hl/uEKA0

(少し前、倉庫前での美琴side)

白井黒子が佐天涙子を連れてテレポートして帰ってきた。

「佐天さん! やっぱり! でもよかった!……って、アンタ、利子ちゃんはどうしたのよ!?」

美琴が白井を問いつめるが、気が抜けたのか、黒子はわなわなと震えるばかり。

「ちょっと、黒子? 黒子ってば?」

「む、む」

「はい?」

「息子が、あたしの息子が、そこに孝太郎がおりましたのぉぉぉ」

と黒子はへなへなと崩れてしまった。

「え―――っ? 特殊任務委員会にいる(あの子)??」

今度は美琴が驚いた。

そう、漣孝太郎は白井黒子の息子であった。

<解説>

お嬢様であった白井黒子は、その家庭の事情により弱冠20歳で漣健介と結婚せざるを得なかった。

政略結婚ではあったが、当初二人は仲むつまじく、美琴ですらあてられるほどであり、目出度く男の子が生まれた。

これが長男孝太郎である。

しかし、孝太郎が2歳になった頃から夫の健介とはすれ違いが多くなり、やがて破綻、別居生活をせざるを得なくなった。

6歳になると孝太郎は学校に上がり、学園都市の取り決め上、寮生活に入らざるを得なくなった。

可愛い盛りに子供を手放さねばならなかった黒子の酒量が増えたのはこの頃から(美琴:談)

孝太郎は母の能力を受け継ぎ、テレポーターとして当初からレベル2の評価を受け、訓練の結果、現在母と同じレベル4に

到達している。

また、母同様、正義感を持った少年として育ち、現在風紀委員<ジャッジメント>として活躍中である。

<解説終>
237 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:20:00.92 ID:hl/uEKA0

「そうだ、佐天さん大丈夫?」

美琴は砂鉄剣を作り、佐天涙子を縛っていた縄紐をバラバラに切り落とし、猿ぐつわを外した。

「ぷふぁー、み、美琴さん、有り難うございましたぁ!」 

佐天が生き返った〜という感じで声を出す。

「大丈夫? けがはない?」

「だ、大丈夫です。それより利子は?」

まわりを見て、娘を捜す佐天の姿が痛々しい。

そこにズドーンという爆発音が響いた。

「ひっ!」

「佐天さん、あなた、危険だからここにいて。黒子、しっかりして! 佐天さんを守ってよ!! わかったわね!

琴子、行くわよ! あなたはあたしの背中を守って!」

美琴が先に立つ。

「このミサカにお任せを!」

電子ゴーグルをかけ、サブマシンガンを持ったミサカ琴江(13577号)が左右を警戒しながら美琴の後を追う。



(黒子・佐天涙子side)

すっかり黒子は意気消沈してしまっている。佐天涙子にしても、ここまで落ち込んでいる白井を見るのは初めてだった。

「白井さんのところも苦労が絶えないですね……」

と佐天が声をかける。

「うぅ、あたしだって、あたしだって、あの子と笑いあいたかったですの! あたしの息子なのに! あの子、あたしを恨んでますの。

自分を捨てた母親なんか、と言って。あたしがどんな気持ちでいたかちっとも知らないくせに!」

白井が佐天の胸に飛び込んできて嗚咽する。
238 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:23:40.88 ID:hl/uEKA0
>>1です。

今投稿した>>237に間違いがありました。

X  琴子、行くわよ! あなたはあたしの背中を守って!」

○  琴江、行くわよ! あなたはあたしの背中を守って!」

大変失礼致しました。
239 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:28:13.83 ID:hl/uEKA0

「抱きしめてあげればいいんじゃないですか?」   と優しく佐天が言う。

「へ?」   白井が佐天を見上げる。

佐天が話し続ける。

「まぁ、高校生の男の子だと恥ずかしいから素直に母親と話せない、ってところかもしれませんけれど。

もう少し大きくなればまた普通に母親と接することが出来るようになりますしね。あたしの弟もそうだったみたいですし」

「そ、そうですわね、親子ですものね」   白井も少し落ち着いてきたようだ。

「利子をどうしたらいいんでしょう?……」   今度は佐天(涙)が白井に聞く。

「今ですらこう、あの子を巡ってこんな争いが起きるのであれば、いっそあたしと同じように能力を捨てさせた方が……」

「佐天さん、それは親のエゴですわよ?」   と黒子がはっきりという。立ち直ったようだ。

「親は、子供の未来を妨げるようなことをすべきではありませんわ。するならむしろ地ならしをすべきですわ。

あの子たちには未来がありますもの。あの子たちが曲がった方向へ走るのは直さなければなりませんし、ルールを教えるのも私たちの責任

ですけれど。でも、利子さんの未来は、彼女が自分で切り開くべきものですわ」

佐天涙子は白井黒子の考えを黙って聞いていた。

また、ボーンという爆発音が上がる。

(利子、とにかく無事でいて) 

佐天涙子は爆発音や銃撃音が絶えない倉庫の方を見て娘を案じた。

遠くの方から警報が聞こえてくる。アンチスキルがやってきたようだ。
240 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:30:57.56 ID:hl/uEKA0

(倉庫内)

にらみあうレベル5。上条美琴が先に口火を切る。

「やりすぎよ、麦野さん」

「大きなお世話だ、超電磁砲<レールガン>。こいつらは暗部だ。暗部の戦いがどういうものかはあたしがよく知っている。

中途半端な情けは結局災いとして降りかかるのよ。一旦戦い始めたら殲滅あるのみよ。お互いにね。さ、どいて」

再び麦野に薄く青い輝きがともる。

「本末転倒でしょ? あんた何の為にここに来たわけ? あたしは拉致されたあの子を救いに来たのよ。あんたもそうなんじゃないの? 

でさ、あんたのおかげで、あの子がこんな残酷な場面見ちゃってたらどうするのよ? 一生トラウマものよ? 

あんたの昔の話、アレは一体なんだったのよ?」

「う」 

麦野が言葉に詰まる。一瞬にして青い輝きは消えた。

「わかった? とにかく、孝太郎クンと利子ちゃん探さないと」

美琴が言う。

「なんであんたが孝太郎のことを知ってるのよ?」

麦野が苦い顔で吐き捨てる。

「母親が鉢合わせしたのよ。ここで。親が子供を忘れると思う?」

沈黙が訪れた。

そして麦野がスカウターをオンにして喋る。

「あたしだ、漣! どこにいる? ターゲットはどうした? 無事か?」
241 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:34:10.63 ID:hl/uEKA0

奥のぐしゃぐしゃになっているところから、

「は、はい・・・ここです、二人とも無事です。僕らまで殺さないで下さいよ〜」    と直接返事が返って来た。

「情けない声出してるんじゃないわよ、あんた男でしょうが」     スカウターを切って、麦野が声のした方向へ歩いて行く。

「あんたねぇ、男だっていっても彼はまだ16歳ぐらいでしょ? 自分と同じレベルで考えたらダメでしょうが」 美琴が麦野にダメ出しする。

「あー、わかったわよ。ホントにうるさいな。あんた立派な小姑になれるよ」      麦野がせめてもの返しを放つ。

「なっ」     美琴は意表をつかれて言葉を返せない。



二人は孝太郎と佐天(利)がいるところに来た……

「あちゃー」

「これはちょっとやりすぎたわ……大丈夫?」

佐天利子をかばう形で漣が覆い被さっているが、その上にはがれきや鉄骨が倒れかかっている。

運良く空間が出来たので二人は押しつぶされずに済んでいた。

「あなた、よく利子ちゃんを守ったわね。さずが風紀委員<ジャッジメント>ね」

「なんならもう少し、そのままにしといてやろうか? んんん?」     麦野がニヤニヤしながら聞く。

「苦しいです、美琴おばちゃん、早くここから出して」     と下にいる利子の小さい声が聞こえる。

「そ、そうですよ、麦野さん、こんな時に不謹慎です!」    漣が抗議する。

「はいはい、あたしがこれ、どかすわ。ちょっと待っててね」

美琴は電磁力を使って、鉄骨やら鉄筋入りの壁やらを排除して行く。
242 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:37:59.83 ID:hl/uEKA0



「ひゃぁー、ようやく出たぁ……いてててて」    漣孝太郎が思いきり伸びをする。

ふらふらしながら佐天利子も立ち上がり、美琴を見て、

「美琴おばちゃん! 助けに来てくれたんだね、ありがとう!」   と美琴に抱きつく。

漣は利子の顔を見て「あれ?」と思い麦野を見た。

麦野も利子の姿を見ていたが、漣が自分を見ていることに気が付き、あわててそっぽを向いた。

「あなた、裸足ね?、じゃあたしおぶってあげる。ほらしっかりつかまって」

美琴はしっかりと利子をおぶった。

「利子ちゃん、大丈夫? ちょっとこの先酷いところだから絶対目開けちゃダメよ。いいわね? 

あたしが良いというまで目をつぶってるのよ、わかった?」

「は、はい」   利子が小さい声で返事をする。

「お母さんは無事ですか?」   と利子が聞く。



一瞬、麦野が小さく反応したのを美琴は見逃さなかった。

「ふ」   ほんの僅か、見えないくらいに微笑む美琴。



「大丈夫よ、白井のおばちゃんが、テレポートして外で手当てしてくれてるから」



「白井」の名前を聞いて、一瞬漣の顔が動いたが、直ぐに何もなかったかのように元の顔に戻った。
243 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:42:23.54 ID:hl/uEKA0


上条美琴が佐天利子をおぶって歩いて行く。


「ち、甘っちょろいヤツ」

麦野はふん、という顔で立っていたが、不意に斜め後ろに向かって

     ―――――― ブン ――――――

電子線を飛ばした。


「ガッ」     生き残っていた男が電子線でまっぷたつになって崩れ落ちる。

その姿を見届けた麦野はまた向き直って、だいぶ前を歩く美琴と利子を見てひとりごちた。

「あいつのアタマが吹っ飛ばされるのを待ってても良かったけど、そんなの見せるわけにいかないものね」



しばらく先を行く二人を見ていた麦野が振り返った。

「漣、行くよ」     優しい声だった。

「は、はい」     ビクっとしながら孝太郎が返事をする。

「まだまだ修行が必要ね。戦場でテレポーターが演算を失ったら死ぬだけよ。よくわかったわよね?」

「そうですね。今回は運が良かったです」

「あら、素直ね…………でも、あなた、良くあの中でターゲットを守りきったわね。それは誉めてあげる」

麦野と漣孝太郎は戦場を後にした。
244 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:45:17.60 ID:hl/uEKA0


二人が倉庫を出ると、いきなり飛んできたものがある。

「孝太郎!」      

白井黒子がテレポートしてきたのだった。

「母さん?」      

面食らったように漣がつぶやく。

「あなた、無事だったのですわね。良かったわ! 本当によかった」    

白井黒子が孝太郎に抱きつく。

「もう、あなたの方があたしより背が高いのね」     

しみじみと黒子が言う。

「何すんだよ、やめてくれよ、頼むよ、みんなの前で恥ずかしいだろぉ!」    

孝太郎が母・黒子から逃げようとする。

「親が息子を心配して、何が恥ずかしいことがありますの!」 

逃がすものかとガシっと黒子は息子・漣孝太郎を捕まえたまま息子の顔を見上げる。



(へぇー、黒子もやっぱり母親なんだ……)

(あの黒子さんが母親してる……、でも良かったなぁ……初春に見せてやりたいな、なんて言うだろ?)

(あの変態百合女がここまで変わるものでしょうか、子供を持つと女は変わる・母は強しという言葉はこのようなことをいうのでしょうか? 

でもイイハナシダナー、とミサカは衝撃のシーンをネットワークに流し広く意見を求めます)




……ひとり、麦野はそっぽを向いて、いや利子を横目で見ながら立っていた……

245 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:50:06.52 ID:hl/uEKA0

(佐天利子side / 白井親子が感動の対面をする少し前 )

「としこ!!」    母の声が聞こえた。

「もう目を開けて良いわよ」   と美琴おばさまが明るい声で教えてくれた。あたしたちは倉庫を出ていた。

あたしは美琴おばさまの背から降りた。

「利子、よかったわ!」   母が走って来た。

「お母さん!!」   あたしは母さんをしっかりと抱きしめた。

「ごめんね、あたしがバカだったからあんたに迷惑かけちゃって、これじゃあんたを叱れないね」   と母が軽く言う。

「ううん、もういいの。でもちょっといろんなことありすぎ。あたし、怖いよ、お母さん」   あたしは母に正直に言った。

母の顔が曇る。

「なんで、あたしと母さんはこんな目に遭うの? あたし、ちょっと不思議なの」


ちょうどその時、あたしをかばってくれた風紀委員<ジャッジメント>の漣さんと、女の人が出てきた。


―――――― あれ? あのひと、誰だっけ? 知ってるような………? ――――――
 
246 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:51:47.85 ID:hl/uEKA0

瞬時にあたしは思った。思わず母の顔を見て、視線があった。母はニッコリ笑ったが、どこかヘンだったような気がした。

白井さんがテレポートして、漣さんのところへ飛んで行き、二人の騒ぎが始まった。

あの二人が親子だとは思わなかったな。

白井さんの顔が嬉しそうに輝いている。母に聞いてみたら、漣さんは学校に入って以来、ずっと寄宿舎や寮住まいで殆ど

白井さんとは会っていなかったらしい。それならわかる。あたしだって同じ。母さんが出張から帰って来る日をいつもいつも

待っていたもの……。


「リコ〜」      あ、あの声は麻琴だ。

「マコ〜」      あたしは手を振った。



麻琴の方へ向かって、走り出した瞬間、


腕と足、背中にプスプスと何かが当たった感じがして、


それがグリグリとあたしの身体にねじ込まれてきた。



熱い!! 痛い!! 



「ギャッ!!」とあたしは声をあげて、


宙を舞って、また、

あたしは、

気が

遠く…………なった……
247 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 19:55:38.40 ID:hl/uEKA0

(倉庫前)

上条麻琴が警邏車から飛び降り、こっちへ走ってくる。

「リコ〜」    麻琴が呼びかける。

「マコ〜」    利子が答えて手を振る。

佐天利子が上条麻琴のほうへ走り出した瞬間、

チュイン、チュインと弾がコンクリートに弾かれる音がして、

佐天利子の背後に血煙が上がり、

そのまま道路に彼女は叩きつけられた。




一瞬何が起きたのか茫然とする一同。

即座に反応したのは麦野沈利だった。

「こぉのブタ野郎ォォォォォォがぁぁぁぁぁぁ!!」

麦野沈利が吠え、怒りの電子線が狙撃犯めがけて襲いかかった。

だが、とっさのことで僅かに角度がズレ、さしもの強力な電子線も狙撃犯全員を一度には捉えられず、1名を吹き飛ばしただけだった。

次に「不覚!」と叫んだミサカ琴江(13577号)がサブマシンガンを三斉射し、1人が倒れた。

二人が倒され、残る1人は逃げ出したようだ。

「自分が行きます!」

漣がテレポートして狙撃手の後に飛び、武器を蹴り飛ばし、再びテレポート。

そして正面やや高めに現れみぞおちにキックをけり込み、ジエンド。

「現行犯逮捕です!」能力者用手錠をかけてもう片方を手すりに咬ませた。

「犯人確保です!」と漣が叫ぶ。

しかし……
248 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:00:20.46 ID:hl/uEKA0

「利子、利子、目を開けて、しっかりしなさい!、起きて!! としこ!!」    佐天涙子が半狂乱で叫ぶ。

「だから言ったろうが!」     麦野が駆け寄ってくる。

「リコ!!」     麻琴は泣きながら、美琴が手当をするのを見ていることしか出来なかった。

「佐天さん! しっかりして! 頑張って!!」

美琴が電撃で心臓マッサージを行い、麦野はハンカチを引き裂き、佐天利子の左腕の銃創部の上を縛り止血を図る。

ミサカ琴江(13577号)は野戦戦闘服から包帯を取り出し、利子の左足大腿部の上を縛り上げ、止血作業を始めた。

「麻琴! ボケッと突っ立っていない! 救急医療車をここに!!」

手当をしながら美琴は麻琴を呼ぶ。

サイレンが鳴り響き救急車が突進してきた。

「2台いるうち! 1台呼んだ!」

麻琴が叫ぶ。

クルマのドアが開き、中からミサカ麻美(10032号)が飛び出してくる。

「麻美? あんた、ちょっと見て! 狙撃されたのよ!!」

麻美はさっと見て再びクルマに戻り、直ぐに応急セットを持ち出して戻ってきた。麦野と美琴は一旦離れた。

麻美がハンディスキャナーでチェックを始める。
249 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:03:12.57 ID:hl/uEKA0

「む、これはけっこうな出血ですね。弾は3発でしょうか? 腕の1発はかすめて、左足への1発は貫通銃創、最後の1発が体内ですか、

やっかいですね、と第一状況を把握しました。」

麻美は左足太股部へ止血バンドを巻き、失血を押さえにかかる。

続いて左の背中部分のチェック。

「肝臓は外れているようです。しかし出血が腹膜内を圧迫する可能性が高く、ショックのおそれがあります。 

万一に備え救急ヘリの出動を要請します」

「わかった!麻美、頭も見て!倒れたときに頭を打ってるかも!」

美琴が指示をする間に

「こちら、風紀委員<ジャッジメント>114支部、上条麻琴です。直ちに救急ヘリの出動をお願い致します。被害者は銃撃を受け被弾、

出血多量。その他頭部損傷の恐れあり」

涙を流しつつ、麻琴が報告をしている。

「了解です。ハンディスキャナーで簡易チェック開始。…… 頭蓋骨一部損傷発見。……脳波に乱れあり。脳損傷の可能性があります。

これは即刻精密診断が必要です! 耐ショック用担架が必要と判断、クルマより取り出します」

麻美が準備をしている間、白井黒子が美琴に相談する。

「あたくしがテレポートした方が早いのではないでしょうか? 送る病院は、昨日のところですわよね?」
 
一瞬美琴は考えたが、やはりテレポート時の衝撃を考えるとテレポートによる移送は難しいと判断した。
250 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:07:54.65 ID:hl/uEKA0

ようやくヘリの音が聞こえてきた。

「手術に備え、血液提供のドナーを募ります」    と麻美が言う。

「血液型は○○型、Rhプラスですが、同一血液型の方はいらっしゃいますか?」

少しの沈黙の後、「あたしだ」と手を挙げたものがいた。

麦野沈利だった。

え?と言う顔で、何人かが麦野を見た後佐天(涙)を見る。彼女は真っ青な顔で震えている。

その時、

「ヘリが降りるわよ、どいて! 麻琴! 利子ちゃんを守ってそばにいる!」    美琴が声を張り上げる。

救急ヘリが無事着陸するが直ぐ飛び立つためローターは廻ったままである。

「ローターに気をつけて下さい、とミサカは警告します!!」     中からナース服のミサカ琴子(19090号)が降りてくる。

耐ショック担架に載せられた佐天利子がミサカ麻美とヘリに乗ってきたミサカ琴子の手で再びヘリに乗せられる。

茫然とする佐天涙子をヘリに乗せた美琴がまた降りてきて白井黒子を呼ぶ。

「黒子? 孝太郎くんと、麻琴を宜しく! 風紀委員<ジャッジメント>メンバーは、アンチスキルと組んでここの調査をお願い!

あたしは佐天さん親娘と行くわ!」     と大声で話す。

「お任せを、上条委員(おねえさま)。佐天さんを宜しくお願い致しますの」     目を真っ赤にした黒子がきっぱりと言う。

美琴は、「ほら、アンタ、行くよ、あなたは大事な関係者なんだから!」     とぽんと麦野の肩をたたいてヘリに乗り込む。

麦野は一瞬ものすごい目で美琴を睨んだが、直ぐにヘリに乗り込んだ。

ヘリが上昇する。

再び冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院を目指してヘリが飛ぶ……。

251 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:11:42.60 ID:hl/uEKA0

「だから殲滅しろって言ったのよ!! あの子が死んだりしたら、あんたも、ぶ・ち・こ・ろ・す、からね!!」

「縁起でもないこと言うんじゃないわよ! 生きて連れてこられた病人で死んだ人間はいない、ってのがアイツの謳い文句よ。

絶対死なないわ。死なせるもんですか! 死ぬわけないでしょ!」

ヘリの奥でレベル5同士が罵り合う一方、娘・利子のそばに母佐天涙子は寄り添っていた。

「利子、もう十分よね。お母さんと一緒に帰ろうね、東京へ。そしてどこか遠くに行こう。もう沢山だわ。

わたしがいけなかったのよ。わたしが未練たらしくしていたのがいけなかったの。もう決めたわ。

母さんが利子を守ってあげる!」

野戦戦闘服を着て、耐ショック担架のそばに付いていたミサカ麻美(10032号)は、佐天涙子のつぶやきを無表情で黙って聞いていた。







ヘリが降下する。冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院のヘリポートはすぐそこだ。
252 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:15:36.54 ID:hl/uEKA0


「なんだか上条君みたいになってきたね」     カエル顔の医者が言う。

「縁起でもないことを言わないで頂けますか!?」     まだ興奮が冷めていない上条美琴がガツンと言い返す。

その二人をかき分けるようにして「お願いします、娘を助けて下さい!」   佐天涙子がカエル医者にすがりつく。

「ああ、佐天くん、だったね? 心配しないでいいよ。さぁ立って立って。おや?キミも少しけがをしているようだね?

一緒に手当てしてもらった方がよさそうだよ? ああ、ミサカくん、誰か来てもらって、佐天くんの傷の手当をしてもらうように

頼んでおいてくれるかな?」     そう言い残してカエル医者は、彼の戦場である手術室へ向かう。

「はい、かしこまりました」

ミサカ麻美(10032号)は医局インターホンでどこかへ連絡をした後で

「お姉様<オリジナル>、佐天さんのけがについては、簡単にチェックした限りでは大きなものではありませんでした。

軽度の擦り傷、打撲、そして切り傷が2カ所です。いずれも殺菌消毒、絆創膏で自己治癒可能と見ています、とミサカは報告します」

「ありがとう」     美琴が答える。

「ですが」     と麻美は続ける。

「相当な精神上の打撃を受けていますので、むしろこちらの方が影響が大きいとミサカは危惧します」

「そう……だよね」     と美琴は視線を落とし、手術室の方を見つめる。

「ミサカはこれから手術のアシストに向かいますので、お姉様<オリジナル>にくれぐれも病院内で大げんかを始めないようにお願いします、

と釘を刺してこの場を去ります」

「はいはい、頼んだわね、麻美!」

美琴は麻美を見送った後、視線を元に戻した。

(そうすればいいんだろう?)     美琴は考えていた。

憔悴しきった佐天涙子を、銃弾に倒れた佐天利子を、この二人を今後どう守ればよいのかと。
253 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:18:47.20 ID:hl/uEKA0




手術中のランプが消えた。長かった。6時間を超える手術だった。

カエル顔の医者がゆっくりと出てきた。

一瞬飛び出しそうになった上条美琴だったが、途中で引いて下がった。まず、母親の佐天涙子が聞くべきだったからだ。

「佐天さん、行こう?」     美琴が佐天を支える形でゆっくりと立ち上がった。

麦野自身も非常時対応ということで、本来ならありえない800mlという大量献血を3時間ほど前に一気に行ったために僅かに青い顔をしていた。

「ふん」     麦野も遅れてゆっくりと立ち上がる。

「無事、終わったよ?」

カエル医者は軽く手を挙げて、集まってきた佐天・上条・麦野の3名に僅かな笑みを浮かべた顔を見せた。

「ありがとう、ございました……先生」 

「佐天さん? 大丈夫、佐天さん?」

佐天涙子は御礼を述べて、気が抜けたのかぐたっと崩れ落ちてしまった。

「いやいや、彼女もこれではダメだね。さて、空いている部屋はあったかな……」

「先生、同じ部屋にしてあげて下さい。とにかく親娘でいた方が絶対に精神的にプラスですから」美琴が頭を下げてカエル医者に頼む。

「ふーん、状態が違うからねぇ……、でも確かにその方が良いかもしれないな。そうしようか?」

とカエル医者は少し考えた後、同意したのだった。
254 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:24:40.88 ID:hl/uEKA0

「じゃぁ、念のため、彼女もチェックしておこうかな? ミサカくん、お疲れついでですまないが簡易検査のデータを持ってきてくれるかな?

部屋は……全般検査室Bだな」

「すみません」     

美琴がまた頭を下げる。

「なに、気にすることはないさ。これが僕の『たたかい』なんだからね? 目の前で倒れたひとを放っておくことは許されないことだから」

反対側からミサカ琴子が新たに寝台を持ってきた。佐天涙子を乗せて検査を行うためである。

「お嬢さんの状態報告はどうしようか? 後にするかい?」

ミサカ麻美と琴江が佐天涙子を寝台に寝かせている時にカエル顔の医者が尋ねた。

「とりあえず佐天さんを見て頂いた方が……」

「その倒れたひとを先にみてあげなさいよ、時間はあるし?」

美琴は思わず麦野を見た。麦野は青い顔をしていたが、目の力はいつもと変わりはなかった。

「じゃ、そうしよう。ちょっと待っていてくれるかな? 病室はわかるようにしておくから、とりあえず待合室で待っていてもらった方が

良いね。そうそう、君たち二人、まず先にパウダールームに行った方がいいよ?」

そう言ってカエル医者は次の戦場へと向かった。
255 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:28:00.19 ID:hl/uEKA0
はた、と二人は顔を見合わせ、お互いの服を見た。

「きゃあ!」

「げ!」

悲鳴が上がる。

二人とも、髪は砂埃にまみれ、ヘリのローターに煽られたためにスタイルは崩れバラバラ状態、服も同様にスレ傷やひっかき傷などで

少し裂けていたりだったが、なんと言ってもスゴイのは麦野の服。

お構いなしにぶっ放した電子線の戻りが彼女の服のそこら中に焼けこげの跡を残し、数カ所には血しぶきの返り、などと

「歴戦の強者」の証拠で埋め尽くされていた。

そして、二人の顔も推して知るべし、だった。

「恥ずかしい!」

「あーっ、あたしとしたことが!」

二人は顔を見合わせる。

「まずいわね」

「あなたのその服はちょっと問題だわね」

「そうね。持ってこさせるわ」

「へ?」

麦野は、

「30分以内に戻るわ」  

と言ってエレベーターホールへ向かっていった。

「あたしも顔ぐらい洗おうっと」

美琴は4階にあるパウダールームへ向かった。
256 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:30:50.55 ID:hl/uEKA0
 

「すごいね、ちょっと顔ぐらい洗った方がいいよ、というくらいのつもりだったのに、麦野くんなんかすっかり別人みたいに

綺麗になっちゃってるね?」

(麦野さん、ひとりだけ綺麗になっちゃってずるいわよ!)

美琴が小さい声で麦野を責める。


―――――― 確かに30分以内に麦野は待合室に戻ってきた ―――――― が。


派手ではないが、仕立てのいいスーツ姿で、髪も洗髪できなかったとは言っていたが、櫛を通し、先ほどよりは遙かにまし、


――― 別人のようになって ―――


待合室に現れたのだった。病院だから、ということで、香水もつけず、化粧もごく控えめ、青白い顔なのでこれくらいは、とほんの少し

あわい頬紅をさしてはいるが。

「何よこれぐらい。少しは年上の先輩を立てなさいよね」

と澄まし顔で麦野は小さい声で答えてきた。

ボロボロの上条美琴との差は歴然としていた。
257 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:34:32.70 ID:hl/uEKA0

「それで佐天涙子さんはどうだったのでしょうか?」

美琴はそれより本題だとばかりにカエル顔の医者に尋ねた。

「結論をいえばね」カエル医者が答える。

「けが等、外傷については全く問題はなかった。しかし、肉体疲労と精神疲労の両方がかなりきつい状態にあったのは事実なんだねぇ。

まぁまだ若いから1日充電するくらい休めば肉体の疲労は回復するだろう。ただ、精神の疲労は僕のテリトリーではないので、うまく

言えないな。ケアが必要だろうと僕は考えるけれど、専門家の意見を聞いた方がいいかもしれないね。

一応精神安定剤は打っておいたから今頃はぐっすり眠っていると思うよ」

二人はため息をついた。

「質問はあるかな? 無いようなら、娘さんの方の話をするよ」

カエル医者はそう言ってちょっと水を飲んだ。

「さて、まず順番にいくね?

左腕の銃創はそれほど酷くない。やけどみたいなもので、本来なら放っておいても問題ないと思うけれど、女の子だから傷跡は

残したくないだろうから、お尻から皮膚の移植を行い、カバーした」

「お尻ですか?」美琴が質問する。

「昔から普通に行われていて、手術事例は何百、何千とあるんだよ? 知らなかったのかい?」

麦野と上条の二人はへぇ、へぇと頷く。
258 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:39:00.08 ID:hl/uEKA0

「次の貫通銃創だけれど、これはちょっと大きな傷だった。銃弾が抜けた後が焼けていてね、出血が見た目の傷程には少なくて済んだ

のは良かったのだけれど、直る際には障害になるのでね。焼けた部分を一旦削り落とし、お尻の肉を削って充填したんだよ。

さっき、お尻の皮膚を使ったと言ったのはこの為でもある」

「お尻は傷にならないのですか?」

また美琴が訊く。

「仮になったとしても目立たないよ? それに普通は人に見せる場所じゃないからね。まぁ君たちは、愛するご主人には見せてるんだろう

けれど?」

「まっ……」

美琴は真っ赤になる。

「うっ……」

麦野も一瞬青い顔に血の気がさしたが、直ぐに元に戻った。さすが年の功か。

「で、腹部の銃弾なんだが、これは結構やっかいだったね。幸い肝臓や膵臓、脾臓といった取り返しが付かない臓器には損傷が無くてね、

本当に奇跡だったね。肝臓に被弾してたら即死だったんだよ?

大腸と小腸の一部、腸骨に被弾していたが、全部取り除く事が出来た。神経にも被弾による影響はないようだから障害は出ないと思うね。

まぁ、ここまでは原因がはっきりしているから対応方法も明確なんでね、時間はかかっても確実に直るからいいんだけれど」

「先生? 頭のことですか?」麦野が聞く。

「うん、頭蓋骨の一部が割れていて、脳に少し当たっていたんだよね……」

美琴が息を呑む。
259 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:49:06.25 ID:hl/uEKA0

「まさか、それで記憶を無くすとか、植物人間になるとか?」

「おいおい、僕はそんな事を言っていないよ? 場所は前頭葉部分でね、頭蓋骨の一部分が内側に折れ曲がる形で脳に触れていた訳なんだね。

幸い突き刺さっていたわけではなく、すこし圧迫していたというようなものだから、脳は壊死もしていないし、脳血管の損傷も殆ど無かった

状態だったから血液による脳の圧迫も殆ど無かったと言って良いと思うね。運が良かった。腹部の銃弾の件と言い、この頭蓋骨損傷の件と言い、

彼女は幸運の持ち主かもしれないね」

(本当に幸運なら病院なんか来ないわよ)

麦野が心の中でそう毒づくと、カエル医者は

「その通りだよ、麦野くん? 本当に幸運な人というのは、病院に来ることもなく健康なまま生涯を全うしたようなひとのことだね。

僕はこんな医者だから、余計そう思うのかもしれないけれど」

麦野の顔が少し引きつる。彼女の身体の一部分は親からもらったものでは無くなっているからである。

「それで、ここらへんは僕よりも木山君のほうが向いているとは思うんだが、彼女が目覚めてからいろいろとチェックをしてもらった方が

よいと思うんだね。あの子は嫌がるかもしれないけれど」

「チェック、ですか……」

美琴がつぶやく。

「頭を打っているのでね、絶対やっておくべきだと思うよ? さて他に質問はあるかな? 出来れば僕もちょっと休みたいんだけれどね」

そう言ってカエル医者は少しほほえんだ。

「何かあったら遠慮無くそこのナースコールを使ってくれるかな。気にしなくて良いよ、それが僕らの仕事なんだからね」

「有り難うございました」

と美琴と麦野が頭を下げる。

「じゃあ」

と言ってカエル医者が出て行く。


「……」

すこし考えた麦野は彼の後を追いかけて部屋を出る。
260 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:52:30.55 ID:hl/uEKA0

「先生!」

追いついた麦野が深々と頭を下げる。

「あの子を、あの子を二度も助けて頂いて有り難うございました。御願いです、あの子の笑顔を取り戻してやって下さい。御願いします!」

彼女の頬を涙が伝う。

カエル医者は頭を下げ続ける麦野を見つめて、やさしく言う。

「僕がやれることは全てやった。あのときと同じようにね。君も僕がどういう医者かは知っているよね? あとは、あの子の精神力次第だね。

僕らに出来る事は、あとは祈ることだけだ」

麦野が涙で濡れた顔を上げる。

その目を見つめながら、

「もしかすると、だよ?」   

カエル医者が小さな声で言う。

「あの子は能力を失っているかもしれない」

「えっ……」 

麦野が絶句する。

「損傷した部分は、かつてAIMシャマーを植え込んであったところだったんだよ。だから、逆の可能性もあり得るんだ。

正直どうなるか今の時点ではわからない。ともかく、まずは彼女が意識を取り戻す事が先決だよ。

全てはそこからまたスタート、じゃないかな?」

そう言って、カエル医者は呆然としている麦野の肩をポンと優しく叩いて医局へ歩いていった。



麦野はただ、立ちつくすだけであった。
261 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 20:56:05.33 ID:hl/uEKA0
お読み下さっていらっしゃる皆様、改めましてこんばんは。

>>1です。

2時間ぶっ通しで連投してましたもので、ちょっと休憩させて頂きます。

夜10時頃に再開する予定です。すこしお待ち下さいませ。
262 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 22:12:43.26 ID:hl/uEKA0
>>1です。

それでは投稿を再開致します。
宜しくお願い致します。
263 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 22:16:02.81 ID:hl/uEKA0

わたしはタクシーに乗っていた。隣には、知らない男の人。

むーちゃんの結婚式のあとの3次会。ちょっと飲み過ぎてしまったわたしは裏通りの陰で吐いていた。

ちゃんぽんはダメだ、といつも反省はするんだけど、ついつい飲んでしまう。

「あー、いけませんね、大丈夫ですか?」      わたしの頭の上から男の人の声が降ってきた。

「だ、大丈夫、です、すみません」     口ではそう言いつつ、地球が回っているのをわたしは実感していた。

「ダメですよ、女の子がべろべろになるまで飲んじゃね。お家はどっちですか?」

こら、ダメじゃないかと言う感じで語りかけてくるその男の人に、わたしは自分のアパートがある場所を教えていた。

わたしは用心深いはずだったのに、どうしてあの時、警戒しなかったのだろう?

そもそも、どうしてあんなになるまで酒を飲んでしまったのだろう?

どうして……。

わたしは結局その男の人に支えられるようにしてタクシーに乗り込んだ……らしい。

ふと気が付くと、自分の家とは全く違う、どこかわからない場所にわたしはいた。

「え?」

「気がついたかい、おねえちゃん? いけないなぁ、ベロベロになるまでお酒飲んじゃ。ママに怒られちゃうぞ?

危ないひとに連れてかれるかもしれないって?」

わたしは一瞬にして酔いが覚めた。しまった、大失敗だ、ああ、神様と思ったけれど現実は甘くなかった。

5〜6人のスキルアウトがいる。暗くてよくわからない。怖い、誰か来て、助けて!

わたしはバックを振り回して「誰か! 誰か来て!! ドロボー! ヘンタイ!」と叫んでは見たものの、酒の為に直ぐに息が切れてしまい、

へたってしまった。
264 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 22:18:09.93 ID:hl/uEKA0

「お嬢ちゃん、ヘンタイは言い過ぎじゃないかなぁ?」

と1人が言ってわたしの腹を思い切り蹴り上げた。

わたしは簡単に吹っ飛び叩きつけられた。背中も痛いが、蹴られたおなかがものすごく痛い。

ゲボッとわたしは吐いたが、酒の臭いと血の臭いがした。

わたしは動けなくなってしまった。

(ここでやられて、死んでしまうのだろうか、情けない、そんなのいやだ)

とは思ったが、更に男たちに足を思い切り踏まれ、また腹を蹴られた。

「おい、腹はそれぐらいにしとけ。死んでしまうぞ?」

一人が嫌そうな声で言う。

「アン? いいじゃねぇか、どうせヤッちまったら用はねぇ。死んだらソレまでってことでいいんじゃね?」

「さっさとやろうぜ、時間が無駄だ」

一人がわたしの胸元に手を突っ込み、思い切り両方へ引きはがした。

「おう、なかなかいいオッパイだぜ、さすがだな、ヘヘ」

男が下卑た笑いをしながらわたしを見る。

ああ、おかあさん、おとうさん、誰か助けて!

「さっさと裸にしちまえよ」

「バァカ、こういうのはさっさとひんむいたらつまんねぇんだよ。少しずつやんだよ」

「お前の趣味を聞いてるんじゃネェよ」

「はやく下も取っちまえよ」

「お前押さえてろ。キンタマ蹴られるぞ!」

ダメだ、もう。わたし、もう……
265 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 22:21:17.94 ID:hl/uEKA0

―――――― バリバリバリバリ ―――――― 

壁をぶち破ってきた青白い光線が、わたしの頭の上をが横なぐりに通った。

「ぎゃぁーっ」

「ぶぐぉーっ」

「げぇーっ」


        …… その光線の明かりで ……

        …… わたしを蹴り飛ばした男が ……       胴体をまっぷたつにされて

        …… わたしの服を引き裂いた男が ……      足と手をちょん切られて

        …… わたしを押さえつけていた男が ……     首がすっぱりと切り離されて



わたしに血しぶきが降りかかった

        …… 向こうから輝くひとがやってくる ……

わたしは気を失った……





「うわぁーっ!!」

わたしは飛び起きた。

ここのところずっと見ていなかった悪夢。 汗びっしょりだ。動悸はでも普通。呼吸も普通。不思議だ。

「ゆ、夢だよね……」

気が付いた。(びょう、いん?)

わたしは思い出した。娘は? 利子はどこに?
266 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 22:23:36.29 ID:hl/uEKA0

「あ、起きたのね?」

暗い部屋でいきなり声をかけられて

「きゃぁ!」

とわたしは叫び声を上げて布団に潜り込んだ。

誰かがベッドの脇をまさぐりピッピッピッと電気をつけた。

「大丈夫、安心して。わたしよ?」

とまた声をかけられた。

わたしは布団の中から顔を出して、声の主を見た。栗色の髪、とても綺麗なひと。

「もしかして、あの、むぎの、さんですか?」

わたしは恐る恐る名前を尋ねてみた。

「あんたねぇ、命の恩人を忘れたわけ? それはちょっと寂しいものがあるわよ?」

とそのひとはわたしにずいっと顔を寄せてきた。

やっぱり、麦野さんだった。わたしの、命の恩人。しかも二度、今度で三回目になるのだろうか。

そして、「返事がないってことは、忘れたのね?」

とんでもありませーん!

「とととと、とんでもないです! たった今も、あの時の悪夢を見て……」

「ちょおっと!? あなた、あたしに助けてもらったのに『悪夢』って何よ? ずいぶんじゃない?

さぁぁぁぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇぇんさぁぁぁぁぁぁん? 口のきき方をもう一回、お勉強しましょうかねぇー?」 

ちょっと麦野さん、青光りしているような? もしかして怒ってる?
267 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 22:26:39.53 ID:hl/uEKA0

「すすすすすみませーん、あああああの、利子は今どうしてるんでしょうか??」 

ふっと青光りが消えた。はー、助かった。

「集中治療室にまだ入ってるわよ。明日の昼くらいには出られるんじゃないの? まだ多分意識は戻っていないと思うけど」

そうだ、とりあえず手術は終わったんだっけ?……助かったのか、あの子。良かった…… 麦野さんもホッとしてるよね。

だって「あなたに言わなくちゃいけないことがあるわ」

「え、ええ?」

麦野さんが目を伏せて、そしてまたわたしの目を見つめて言った。

(な、なんでしょうか〜?)

とおどけて返事を返そうとしたけれど、とてもそんな返事をするような雰囲気ではなかった。

「はい……」

素直に返事をした。

「あなたの、『娘さん』、はね」

麦野さんが一瞬口ごもった。

「外傷は足の貫通銃創と腹部への2つが大きなものだったけど、2つとも幸運に恵まれて生命への危険はもうないそう。これはいいわね?」

「ええ」

わたしはうなずく。

「問題は、撃たれて倒れた時に頭を打ったこと。比較的軽いらしいけど、頭蓋骨陥没骨折。その骨の一部が脳を圧迫。

損傷や壊死まではいかなくて、これも奇跡的な幸運らしいって」

わたしは麦野さんをだまって見つめる。麦野さんが話を続ける。

「脳科学の専門家じゃないし、目覚めてみないとわからないって先生は言ってたけど」

麦野さんはわたしを見すえるかのように強い目で言った。

「もしかすると、能力を失ったかもしれないと」
268 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 22:29:39.33 ID:hl/uEKA0

わたしは彼女の目の強さに思わず下を見つめていたけれど、思わず見つめ返してしまった。

「そ、そんな……」

能力が消えた? 本当に? そんな簡単に? 喜んでいいの? 悲しむべきなの?

「あなた、一瞬安心したでしょ?」

先に言われてしまった。視線を外して小さな声で。

わたしの顔には喜びの色が出ていたのだろうか。それは正直すぎる。しかもレベル5のひとの前で。

「そうよね、あたしのような暴力と破壊に特化したような能力は、人間にとって不要なものよ。こんな力は、本当なら無いほうが幸せよ、

本人もまわりもね。あたしは捨てられなかったけど」

どう答えればよいのだろうか。わたしはこの人に、その「不要な」はずの能力で命を助けてもらった。偶然だったにせよ。

そして今回もまた、その能力でわたしのみならず、「娘」までも助けてもらっている。

その力はもしかすると「あの子」にも……? それが無くなった……の?

「でも、安心するのは早いのよ、佐天さん」

わたしの顔を見て、麦野さんは何とも言えない顔をした。

「逆のパターンもありうるんだって」

「え……?」 

逆、ってどういうこと?

「今回の衝撃で一気に開花してしまうかもしれないのよ」

「……」 

極端すぎる。能力が無くなるか、一気に開くか、そんな一か八かみたいなことって、そんな!

「どうなるか、全てはあの子が目覚めた時にわかるわ。AIMストーカーがどういう反応を示すかひとつの目安になるわね」
269 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 22:32:43.88 ID:hl/uEKA0

かわいそうな、利子。ごめんね。あたしがいけなかった。



「撃たれる前、あの子が言ったんですよ」          わたしは誰に言うともなくつぶやいた。

「お母さん、どうしてあたしたちばかりこんな目に遭うの? って」

麦野さんがわたしの顔を見て、そして視線を外した。

「おかあさん、怖いって。 そしてその後、あの子は撃たれて……」

「そんなあの子を、私はあの子を守ってやることが出来なかった。すみません、私は母親失格です」

「そんなことはないっ!!」

麦野さんがわたしをにらみつけて小さな声で、でも強く言った。

「あんたは、あんたこそあの子の母親、なのよ!」

「でも、守れなかった。いいえ、逆にあの子をおびき出す釣り餌になってしまいました。あの子を狙うであろう勢力に、あまりにも

私は無力です……。 

もし、あの子に、麦野さんのような超能力があったら、あの子は幸せになるんでしょうか?」

わたしはそう言いつつ、必死で考えていた。

どうしたらいいのだろう、と。

「私は、少し前まで、あの子と二人、東京を離れようと思ってました。そう、昔おばあちゃん家があった田舎に引っ込もうかと。

でも、そんなことぐらいじゃ焼け石に水かな、なんて思えてきて……」





わたしは14年前の事を思い出していた。あの時の麦野さんの気持ち、今ではすっごく良くわかるような気がする。

「あなたは……」               わたしは思わず口に出してしまった。

「あの時、あの子を殺そうとしてましたよね?」
270 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 22:37:34.59 ID:hl/uEKA0

(どうすればいいんだろう?)

美琴は、集中治療室の外の待合室で考え続けていた。

能力が消えていたとき。

ある意味、佐天(涙)さんの希望通りになった、ということかもしれない。

東京で、ごく普通の女子高生になって、ごく普通の生活を送ることが出来るかもしれない。

その場合、まだ諦めきれない連中が彼女を狙うかもしれない。

無能力化したことを書庫<バンク>に明記するか? いや、もう少し何か事故発表でも使って逆アピールをするとか? 

それぐらいで済むか? 

佐天(涙)さんの例を見ればわかるとおり、無能力者と判明してから実際に手を出した連中はいない。何故?

他にいくらでも可能性を持ったひとがいたからだ。佐天(涙)さんを追いかけることは効率が良くなかったからだ。

今回の利子さんもそうなるだろうか? 

なるだろう。能力を失って、学園都市の外に出たものを今更追いかけるようなところはないはずだ。

よし、この場合はOKだ。
271 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 22:40:52.15 ID:hl/uEKA0

次は、能力が明確に発現してしまった場合。

父親もしくは母親の能力が受け継がれていた場合、だ。

キリヤマ研を吹き飛ばしたあの能力は、強力なものだった。あの原子崩し<メルトダウナー>をも凌いでいた可能性が高い。

暴走した場合は危険すぎるし、そのパワーに魅せられた連中が押しかけるのは確実。押しかけるどころか再び拉致しかねない。

学園都市以外の勢力からも狙われる可能性が高い。



「東京に戻すのは危険すぎるわね……」

美琴はため息をついた。

佐天(涙)さんには申し訳ないし、上条のお義母さまの楽しみを奪うことになるけれど、本人とその廻りの安全を考えれば学園都市で

きっちり保護するしかない。

「佐天(涙)さんは危険だわね……」 

母親だからだ。彼女を拉致して人質にする。今回のように。

「!! そう考えたら、佐天(涙)さん以外だっていくらでもいるじゃない……」

拉致して脅すことの出来る関係者は、上条のお義母さま、彼女の同級生など非常に多いことに気が付き、

(とても全員保護しきれる訳がないわ)

頭を抱えてしまった。

272 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 22:46:56.28 ID:hl/uEKA0

「彼女の今までの関係を全部精算すれば……?」

美琴は頭を振った。(それって、14年前に一度やったことじゃないの!)

また同じことをするのか? この方法が可能だったのは、まだあの子が小さかったから。知っているひとが極めて少なかったから。

でも、今、同じ事が出来る訳がない。影響が大きすぎる。いまさら「佐天利子」という人間の存在を消すなんて不可能。

「できっこないわよ……」

そのとき、美琴に閃くものがあった。ミサカ麻美の言葉。「精神的に相当な打撃を受けています」

「まさか! 佐天さん!?」


そのとき、バンと扉が乱暴に開けられ、駆け込んできた女が一人。

「佐天さん!?」 

佐天涙子だった。

涙子は集中治療室へ入ろうと扉を乱暴に引っ張るが、ロックされていて開かない。

「開けて! お願い! 開けなさい!」 

佐天が扉を開こうとしてドアノブをガチャガチャと乱暴に扱い、叫ぶ。

「何をしてるの? 他にも人がいるのよ! 止めなさい! 佐天さん!」

美琴はあわてて佐天を押さえようとするが、彼女のどこにそんな力があったのだろうか、美琴はあっけなくふりほどかれて投げ出される。

「さ、佐天さん……?」 

あまりのことに声も出ない美琴。

「もうたくさん! みんな、みんなあの子に寄ってたかって! あの子はおもちゃじゃない! 1人の人間なのよ! 私の大事な娘なのよ!」

佐天が美琴を恐ろしい顔でにらみつける。

「超能力が何よ! そんなもの、わざわざ引き出して何が楽しいのよ? 争いの種になってるだけじゃないの!?

一生あの子は平和に暮らせなくなったわ! 一生あの子は戦いの場所から離れられない! 血みどろの世界にあの子を放り込んでおいて

何が超能力は素晴らしい!? そんな世界に、どこに自分のかわいい娘を送り込むような親がいますか!?

私は、あの子を学園都市には絶対におかない! それがあの子を引き取った、私の約束!! 違いますか、麦野さん!?」



佐天涙子が涙を流しながら叫ぶその視線の先には、真っ青な顔で、よろめくように立つ、麦野沈利がいた。
273 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 23:04:33.68 ID:hl/uEKA0



17年前。

麦野沈利は学園都市の暗部に所属していた。もっとも大半の仕事はもっと若い連中が専ら対応しており、ベテランとなった彼女が前面に

出るような仕事は事実上無かった、と言うような状態だった。

彼女自身もいい加減飽きていたところだったし、いつまでもこんな血なまぐさい仕事を続ける気もなかった。



そんなある日、珍しく電話が来た。

「ちょっと、今回は今までとは違う話なんだけど?」    

いつもの相方はいつになく下手に出た切り出し方をした。

(ち、ろくでもない話か)

こういうときは大抵めんどくさい話なのだ。もう何度も経験している麦野は心の中で舌打ちした。

「よければ、これが最後の仕事になるかもしれないんだけれど?」 

(最後の仕事? どういうこと?)   

ベッドに寝転がっていた麦野は起きて携帯を持ち代える。

「へぇ、こんなおばさんはもう御用済みですって? じゃぁ、たっぷり退職金を頂けるんでしょうね?」

皮肉たっぷりに麦野は返したつもりだったが、相手はマジメに返答してきた。

「退職金もいいけど、それより次のポストを準備しようかなー、と思ってるんだけど、どうかな?」

「けっ、これ以上まだあたしを働かせたいってわけ? もっとイキのいいアンちゃんネェちゃんにやらしたげなよ?」

だが、麦野の毒舌に返ってきた言葉は意外なものだった。
274 :LX [sage saga]:2010/11/12(金) 23:48:01.31 ID:hl/uEKA0

すみません、>>1です。

読み直しているうちに落ちてました(苦笑
大変失礼致しました。

ちょっと中途半端で申し訳ございませんが、続きは明日に投稿致します。
どうかご了承下さいませ。
275 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/12(金) 23:55:10.98 ID:iiPCAc.o
>>274
276 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 01:05:26.40 ID:E.5/iNAo
乙です
277 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 01:29:45.56 ID:mJsj7Ogo
やっと追いついた
面白いよ乙
278 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 10:08:42.05 ID:WXbpecAO
そろそろ携帯じゃ辛い位置になってきた
279 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 12:56:47.35 ID:o1eYDBg0
>>278さん

一度ageた方が良いのでしょうか?
280 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 14:20:09.57 ID:EiHTrPoo
べつに上げなくても、携帯だってブックマークしておけばいいだけじゃ
281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 16:22:12.64 ID:/R3EcI.0
そんなに気にしなくていいよう
sage方針ならそれに従うまでです。
282 :LX [saga]:2010/11/13(土) 18:44:43.50 ID:K5qD1Ho0
先ほど帰宅しました。

お読み下さっている皆様、こんばんは。>>1です。

それでは投稿を開始致します。
少しの間、sage進行を止めてやってみることにします。

ラスまであと2割というところでして一気にゆく予定です。
それではどうぞ宜しくお願い致します。
283 :LX [saga]:2010/11/13(土) 18:47:10.58 ID:K5qD1Ho0

「風紀委員<ジャッジメント>の特別ポストなんだけどなぁ? 綺麗事だけじゃなくて、裏のウラまで知り尽くした麦野さん

じゃないと勤まりそうもない、し・ご・と、なんだけど?」

(風紀委員<ジャッジメント>だぁ????? 何を言ってるんだ、コイツ? 暗部の人間に表をやらすってのか?)

「気でも狂ったの? 暗部の人間を表に出すってどういうことだかわかってんの?」

「なかなか面白いでしょ? でも、これはあなただから可能な事。他のひとでは無理なのよ。それに、表といっても半分は裏方なのよ。

だからこそ、あなたでないと勤まらないの。わかってくれるかな?」

(けっ、何のことはない、やっぱりウラじゃん。あー、一瞬でもどきっとしたあたしがバカだったわ。はぁ)

「言っとくけど、表の世界なのは間違いないからね、裏方って言葉に反応したみたいだけど?」

「で、最後の仕事ってなんなのよ?」

「気になる?」

「どうでもいいけど、聞き始めちゃったからね、最後まで聞くわよ」

「女であるあなたしか出来ない仕事。子供を産んで欲しいの」

「ふっざけるなぁああああああああああ!!!!!!!!」 



思わず麦野は携帯を吹き飛ばしてしまった。

もちろんそれだけでは済まず、壁に大穴が開いてしまったが……
284 :LX [saga]:2010/11/13(土) 18:54:13.89 ID:K5qD1Ho0

1週間後、新しい麦野の携帯に仕事の話が入った。よくある危険分子の排除だった。

(そんなことをあたしにやらすのか?)

と思ったが、能力者(レベル3)で危険なので是非あたしに、と言うことだった。

気乗りしないまま行って驚いた。どう見ても相手はまだ子供、小学生だったからだ。

「子供を、小学生をあたしに始末しろ、というのか?」

麦野はほっぽって帰ってきた。特に何も、文句は来なかった。


翌日、再び仕事の話が舞い込んだ。

「また子供じゃないだろうな?」  「行けばわかるわ」

果たせるかな、前回の小学生ではなかったが、中学生。生意気盛りの女子中学生だった。

(あいつら……、あたしに嫌がらせで子供の始末をさせるつもりか?)

麦野は耐えた。


その翌日。依頼はまた来た。今度は依頼そのものを、無視した。

するとその翌日、買い物に出かけた麦野にスキルアウトの連中が襲いかかった。

異例なのは、通常スキルアウトの集団には能力者はそう多くはなく、いてもせいぜいレベル3がいいところで、通常はレベル1もしくは2

程度というのが相場だった。もちろん圧倒的多数はレベルゼロである。

しかし、今回麦野を襲ったのは軒並みレベル3であった。

さしもの麦野もレベル3が束になって来られると簡単には撃退できない。

そのうち、1人の発火能力者が麦野のお気に入りの服に焼けこげを3つ作ったので、さすがの麦野もこれにはキレた。

「この野郎ォ!」   

手加減はしたものの、原子崩し<メルトダウナー>の電子線はその発火能力者の左腕をすっぱり切り落とした。

「いてぇよう、いてぇよう、かぁちゃん!!!」  泣き叫ぶその発火能力者はどう見ても中学1年生程度であった。

「わぁっ!?」 「逃げろ!!」

腕を切り落とされるところを見た他のスキルアウトは一斉にクモの子を散らすように逃げたが、麦野もまた逃げたのであった。

(クソ、子供の手を切り落としてしまうなんて!)
285 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 18:57:33.08 ID:K5qD1Ho0

そしてその次の日も、次の日も電話がかかってくる。

無視を続けたある日には、部屋に催涙弾が投げ込まれた。

逃げて行くのは子供であった。



2ヶ月が過ぎた。

麦野は陥落した。さすがに70日近く、連日の子供たちによる攻撃にはもう精神が耐えられなかった。

「で、誰と寝ろっていうのさ」

半ばやけくそ、自暴自棄になっていた麦野はどうとでもなれ、と言う調子で訊く。

「そんな必要はありませんよ?」

相方は極めて冷静に言う。

「一度、指定病院で検診を受けて下さい。そして休養を取って頂きます」

精神的に参っている状態ではダメ、と言うことなのだろうか、麦野は指定された病院へ行くと直ちに入院手続きが取られ、

丸1ヶ月精神のリハビリを受けた。

そしてある日。

「あなたの卵子を使った、人工受精による妊娠・出産を行います。同意頂けますね? 宜しくお願いします」と告げられた。

「誰の精子さ?」

麦野は訊いてみたが

「規則により、お教えできません」

ということだった。
286 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:01:14.57 ID:K5qD1Ho0

およそ1年後。すなわち16年前。


麦野沈利は女の子を出産した。父親は不明。

自分(だけ)の子供だから、と言うことで、麦野は自分の「利」をとって、彼女は「麦野利子」(むぎの りこ)と命名された。

約束通り、麦野にはもはや仕事の電話が来ることは無くなった。

退職金ということなのだろうか、銀行口座にはある日大金が振り込まれていた。

一生喰うには困らない金額であった。

もっとも、彼女の実家自体が既に裕福であったし、彼女のレベル5時代の奨学金やら、暗部時代からの報酬も相当な金額が残っていたので、

仮に退職金?が無くても問題はなかった。



麦野は学園都市を出て(許可は簡単に下りた)、気候が穏やかな海に面した、とある小さな街の1軒の家を借り、生活を始めた。

温暖な気候と、新鮮な海の幸と山の幸が豊富な、風呂は近くの温泉から引いているという実に恵まれた環境である。

考えてみれば、小学生で学園都市に転入して以来、初めての穏やかな日々だったなと、麦野は今でも懐かしく思う時がある。

あの時が一番幸せなときだったと。
287 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:04:17.01 ID:K5qD1Ho0

「どこそこの家に、スゴイ美人の若奥様と玉のように可愛い赤ちゃんがいる一家が来た」

と言う話が街であっという間に広まった。

麦野も最初は面食らったが、特に下心があると言う訳ではなく、新しく街の一員になった若い奥様と、未来を担う可愛い赤ちゃん

に心からお祝いをしているだけ、ということがわかったので、不要な警戒心は解け、ゆったりとした時を過ごせるようになった。

利子(りこ)は人なつこく、良く笑ったので、たちまち街の人気者になった。

「将来が楽しみだねぇ」という声もあった。

生まれを思い出すとちょっとブルーになる麦野ではあったが、利子の笑った顔はそれを忘れさせるに十分であった。

麦野もよく笑うようになった。

学園都市にいたひとが見たら驚くだろう、あの原子崩し<メルトダウナー>が大笑いをするだなんて、と。



それから1年が過ぎようとしていた。すなわち15年前。


1歳の誕生日の1週間前に、利子が「ママ」と言い始めた。初語である。

麦野は感動した。自分の子供が、自分を「ママ」と呼んだのだ。

まん丸な目で、麦野を見てニッコリ笑って、ちっちゃな手をふりふりして「まんま、まんま」と。

嬉しくてボロボロ涙が出た。

「利子ちゃん、かわいいわ、ママはあなたが大好きなのよ、いい子ね」

と訳のわからないことを言いながら、麦野は利子をずっと抱きしめていた。
288 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:07:29.16 ID:K5qD1Ho0

1歳の誕生日を少し過ぎたところで利子(りこ)は歩き始めた。麦野が気が付かないうちに利子が台所に立っていた、というのが正しいが。

ハイハイするだけでも結構神経を使うのに、歩き始めたことから麦野はさらに気を配らねばならなくなった。

ちょっと目を離すと利子はとんでもないところに行ってしまうのだ。

またいたずらも激しくなった。

手が入るところには必ず手を突っ込んでみる。トイレの便器に手を突っ込んでいたこともある。

飛び出ているものはつかんでひねる、ぐるぐるまわしてみる、かじってみる。

開いている扉は必ず閉めてみる。閉まっているドアは必ず開けてみる。

水たまりには必ず入ってどろんこにならないと気が済まない、そして泣く。

麦野は毎日へとへとだった。

それでも夜、自分の腕の中で安心しきってすやすやと眠る利子の顔を見ていると、疲れも吹き飛ぶのであった。

麦野は幸せだった。そう、本当に幸せだった。






そうして、あと少しすると利子が2歳の誕生日を迎えるというある日。

麦野は台所で夕飯の支度をしていた。
289 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:10:13.63 ID:K5qD1Ho0

ふと麦野は久しく感じたことのなかった悪寒を感じた。嫌な感じがふくれあがる。庭で利子が遊んでいたはずだった。

台所を駆け抜け、居間を突っ切り裸足で庭へ飛び出した。

「利子? リコ!? リコ!!」

利子がいない。いない? い・な・い!!


麦野の第六感は異変を感じ取っていた。

(あいつらだ、学園都市だ!)

久しくかけていなかった番号を選択してコールする。

「あら、珍しいひと」   二度と聞きたくなかった人間の声が返ってきた。

「きさま、娘をどこへやった!?」   久しく出したことがなかった口調が、声が出た。

「そろそろ、こちらへ返して頂こうかな? と思いまして」   と相方はごく当たり前の事のように回答してきた。

「ふっざけるなぁぁぁぁぁ! あたしの娘をなんだと思ってるんだ、きさまはぁ!?」

「あら、あたくしは『子供を産んで欲しい』と依頼しただけですけれど。育てて欲しいなんて言ってないでしょう?

誤解なさらないでちょうだいね? あなたもこれで肩の荷が下りたでしょう? そろそろ次の」



    ―――― グシャ ――――  



麦野は携帯を握りつぶした。




その日以降、街から麦野親娘の姿は消え、街ではあの親娘はどこへ行ったのだろうかとひとしきり噂になった。

290 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:12:19.34 ID:K5qD1Ho0

麦野は学園都市へ戻っていた。

ピーンと張りつめた空気は廻りにひとを寄せ付けず、人々は彼女をよけて通っていった。

麦野はまず、自分が入院した病院へ行ってみた……が。


   ―――― 病院がなかった ―――― 


そこは鉄索で囲われ、大型トラックやダンプ車、クレーン車などが入り乱れていた。

近くのひとの話では、昨年に病院は取り壊されたということで、しかも移転ではなく廃業ということだった。

建築予定表をみると商業ビルが建つ予定になっていた。

近くのネットカフェに入って検索をかけてみる。ものの見事に何も出てこなかった。 

「クソ、あいつら存在自体を消しやがったか」

昔使っていたパシリの小僧に電話をかけてみた。

「おかけになった電話番号は現在使われておりません。もう一度」 

無機質なお知らせ回答が流れた。

(くっ……!)

麦野はギリギリと歯をくいしばる。名前も顔も知らない学園都市の人間が、麦野をあざ笑っているようだった。

(あたしは、あたしは利子を取り返す。絶対に諦めない! あの子はあたしの娘なんだから!)
291 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:14:20.62 ID:K5qD1Ho0

ふっと麦野はあるひとを思い出した。

「あの子なら出来る!」

麦野は決断した。

正直言って本当なら電話したくない相手。だがもう他に考えられる手段はない。

麦野は15学区へ移動した。少しでも目立ちにくい場所を選びたかったのだ。そしてレンタカーを借りた。

足が付くがこの際かまってはいられない。クルマを走らせ、多摩川べりに出る。

河川敷のゴルフ場へ向かう道の途中でクルマを止めた。

この場所は少し開けており、接近するクルマその他がよく見える場所であった。

もちろん麦野の方も相手から見える、のであるが、強大な戦闘能力を持つ麦野は頓着しない。

麦野は運転席に座ったまま新しい携帯を取りだし、電話をかけた。

コール2回で相手が出た。

「もしもし?」  麦野がまず聞いた。

「もしかして、むぎの?」  相手はすぐさま答えてきた。懐かしい声。

滝壺理后だった。
292 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:18:03.47 ID:K5qD1Ho0
「あんた、元気なようね」

「うん。もうすっかり大丈夫だよ? むぎのも元気?」

<解説>

一時期、滝壺は「体晶」と呼ばれる能力増幅剤を用いて自らの能力をフルに利用していたが、その副作用により廃人一歩手前まで

追いつめられたことがあった。

そしてその状態に追い込んだのは他ならぬ麦野自身であった。

その結果、暗部「アイテム」のパシリであった浜面仕上と滝壺理后はアイテムから脱走し、2人を追った麦野と浜面は戦うこととなり、

麦野は右目をその戦いで失ったのであった。(麦野の右目は現在人造眼球でもちろん見える)

その後、滝壺は体晶の毒をとある療法で排出することに成功し、現在は健康を取り戻した。

また、治療後のリハビリで、彼女は「体晶」を使用せずともAIM拡散力場を識別できるようになっている。

さらにもう一段上の能力も実はその結果発揮できるようになっているのだが、これを公にすることは彼女の立場を極めて危険なもの

にしてしまうために、いつもは使用することを自ら封印しているのであった。

<解説終>

「ああ。それで、実はあんたに頼みたい事があるんだけど?」

「?」

理后のとまどう様子が感じられる。
293 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:23:33.50 ID:K5qD1Ho0

「あたしのAIM拡散力場、まだ把握できるよね?」

「うん、むぎののはとってもよくわかるよ?」

「あたしと同じようなソレを持っている人を捜してるの。御願い、滝壺。あんただけが頼り。御願いだから探して、いいえ、探して下さい。

御願いします! 助けて下さい!!」

「むぎの……?」

途中から麦野の声はそれまでとは違った悲痛な声に変わっていた。理后は返事を返せない。

「あたしの娘なのよ!」

麦野が叫ぶ。

「あたしの宝物! 学園都市に連れ去られてどこかで実験動物にされるかもしれないの! 絶対にそんなこと、許さない。

あたしの娘を助けて……、御願い、お願い助けてよ!」

今まで、耐えに耐えてきたものが一度に堰を切ったようにあふれ出た。麦野は泣いた。

理后は、電話の向こうで号泣し、嗚咽する麦野の声をじっと黙って聞いていた。

(あのむぎのが、あのプライドの高いむぎのが、わたしに……、わたしに……)

麦野の嗚咽が少し収まってきた。

理后はとても優しい声で

「むぎの、ママになってたんだね? おめでとう。よかったね。あたしはそんなむぎのを応援する。ちょっと待ってて?」

麦野はあわてて叫んだ。

「切ったらダメ!!!」

「ふぇ?」

あまりの剣幕に理后がびくっとする。
294 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:28:26.82 ID:K5qD1Ho0

「切ったら次は繋がらなくなるかもしれない。あたしのいた病院は影も形もないの。存在自体が消されてるの。だから切らないで! 

待ってるから、このまま」

「うん、わかった。むぎの。やってみる」

しばらく沈黙が支配する。

理后は、まず麦野のAIM拡散力場を捉えた。強大な「原子崩し<メルトダウナー>」のパワー。

かつて学園都市の闇に君臨したレベル5の一人。

「むぎのの位置は把握出来たよ? 昔と変わらないね」

理后は優しい声で麦野に声をかける。

「そう?有り難う」

少し落ち着いた麦野。

「むぎの? お嬢ちゃんはいくつなの? 名前はなんていうの?」

「リコ。あたしの利に子供で利子にしたの。もうすぐ、2歳になるわ。なるはず、だったのに……」

麦野の声は、娘を思い出したのだろう、再び涙声になる。

「むぎの? 泣いたらだめ。むぎのは強いんだから、これから子供を取り戻しに行くんだから、強い精神力が必要だよ?」

(まさかあの子に言われるとはね……)

麦野は心を奮い立たせた。(ありがと、滝壺)

「むぎの……?」

理后の声に麦野は携帯を握りしめる。

「似た人は……むぎのと同じようなAIM拡散力場を持ったひとは……いないわ」

(まさか、利子には能力がない? それならそれであの子にとっては良かったかもしれないけれど……、いいや、だったら学園都市が

誘拐するはずがないわ!)
295 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:31:46.05 ID:K5qD1Ho0

「有り難う、少し違うタイプで探せないかな?」

「だよね? ちょっと違うパターンを見てみるから……はぁ」

理后の苦しそうなため息を麦野は聞き逃さなかった。

「滝壺? 大丈夫なの?」

まさか、また体晶なんか使ったの??

「うん、もうアレは使わないでも、能力は使えるようになってるの。でも、体力を、つかうん、だよ。

でも、むぎのの娘さん、探すから、待ってて?」

苦しそうにとぎれとぎれに話す理后。麦野は携帯を握りしめたまま祈る思いで理后の答えを待つ。


「かなり違う、けど、これ、かな?」

数分ののちに理后が口を開いた。思わず麦野は息を吐いた。

「むぎの、の位置、から、西北西、4318m、に、同じ、ような、反応が、2人いる。その、近く、東北東17mに少し、違う、反応が1人」

「待って、GPSで確認するわ……自分の位置……ここ。ここから、半径4318m 、位置は西北西……鮎原リサーチセンター? 

でも、どうして3人も同じようなAIM拡散力場が?? 最初の2人は同じタイプなの?」

どうして3人もいるのか? 1人は利子だとしても、残りの2人は? 

「最初の二人は同じ波、 でも、むぎのとは違うよ? でも、同じ、むぎの、と、同じ、色、が見えるの」

(色? いろ? わからないわ。でも、いいわ)

「離れている1人は?」

麦野が聞く。

「この、ひと、は、全然、違うの。 でも、むぎの、と、同じ、精神波。波が、すごく、似て、いるの。だから」

(よくわからないけど、2人と1人か。1人が利子かもしれない。残り2人って、まさかクローン? いや、それならもっとそっくりなはず。

どういうことだ?)

麦野の頭脳はめまぐるしく回転を始める。

「理后、ありがとう。もういいわ。休んで。他にはあたしと似たAIM拡散力場は観測されていないのね?」

「うん。娘さんの能力がゼロだったらあたしでは無理だけど?」
296 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:35:27.53 ID:K5qD1Ho0

(その可能性もあるけれど、ならば学園都市は誘拐なぞするわけがない。あの子はおそらく能力者になるのだろう)

麦野はあのあどけない利子が、自分のような戦闘型能力者になった姿を想像しかけて思わず震えてしまった。そんなことは!

「ううん? 理后、ありがとう。今更だけど、あのときはつらく当たってごめんなさい。許してちょうだい」

「むぎの……」

理后は一瞬言葉を失った。よもや「あの」麦野が自分から謝ってくるとは予想もしなかったからである。

思わず、理后の頬を涙が伝って落ちた。

(むぎのが、『ごめんなさい』と謝ってくれた! あたしに謝ってくれた……)

「もういいの。あの時は……仕方が無かったんだよ? それより早く、子供のところへ! 着いたら電話して!

それから、むぎの、こんど子供と一緒に遊びに来て? 待ってるから………… はまづらも、待ってるから、ね?」



最後に言うべきかどうしようか迷っていたひと、夫の名前を滝壺は出した。

「そうね、無事取り返したら、きっとね。じゃぁ行ってくるわ」

電話は切れた。思い切って浜面の名前を出してみたが、特に麦野の声に変化はなかった。

(本当に言って良かったかな?)

浜面理后と名を変えた滝壺は満天の星空を見ながら、遠く離れた学園都市にいる麦野とその子のことを考えていた。



「……ったく、最後にアイツの名前出して! あー、一番聞きたくなかった名前だっつーのに! 

……けど、仕方ないか。あの子の愛するダンナだもんね!」

思いの外、冷静にその名を聞くことが出来た自分に、麦野は少し驚いていた。我ながらずいぶん大人になったもんだ、と思う。


「利子、待ってなさい。ママが必ず助けてあげる!」麦野は思い出を捨て、レンタカーを走らせる。
297 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:36:30.44 ID:K5qD1Ho0

「しかし、あの子カワイイねぇ」

「あんた、何父親やってるのよ? 情が移ると仕事に差し支えるわよ」

「へ、そこはプロだから任せろ。と言ってもなぁ、あの子のアタマかき回すのは俺はちとやだな」

「ほら、もうおかしくなってるw」

「お前ら!無駄なおしゃべりしてるんじゃない! DNAチェックはどうなっている?」

「現在チェック中だよ。あと2時間くらいかかるんじゃねぇの?」

「こっちの抗体検査は終わった。やっぱり自然の子は違うね。研究室の無菌培養じゃ太刀打ち出来ねぇよ」

「いや、あいつらはウチで生き残ったエースだからな、これでうまく行かなかったら悲惨だよ」

「しかし、やっぱり男はダメだな。結局生き残ったのは女の子だし」

「そりゃお前、もともとの遺伝子からすれば男は傷入りのイレギュラーなんだからな、自然の掟の通りになっただけだろ」

「いやいや、そもそもうちのチームが大体だな」

「そこ! くっだらないこと言ってるんじゃないわよ!!」

「ほらな、自然の掟の通りだよなアハハハハ」

「全くだ、アハハハハ」「ハハハハ、異議なし!」

「お前ら全員給料カットするーぅ!」

――― しーん ―――

「静かに出来るじゃないか」
298 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:39:06.61 ID:K5qD1Ho0

ここは鮎原リサーチセンターのリラックスルーム。

笹岡梢(ささおか こずえ)をリーダーとする第3チームのメンバーが休憩を取っていた。

麦野利子(むぎの りこ)は、浜面(滝壺)理后のAIMストーカーによる探知の結果の通り、鮎原リサーチセンターに運び込まれていた。

彼女の無垢の笑顔はここでもその力を発揮し、第3チームのメンバーを虜にしていた。リーダーの笹岡梢を除いて。

「今日はどうします?」

「今日はもうこれで止めよう。急ぐ話でもないからな。各人の帰宅を認める」

笹岡は今日の仕事の終了を宣言した。

「あー、終わったか」 とメンバーの1人が椅子から立ち上がった


       ――― その瞬間 ――― 


グワッシャーンという轟音が響き、リラックスルームの壁を貫いたエネルギー電子線が横なぐりに部屋をなぎ払った。

立ち上がったメンバーはその電子線に水平にまっぷたつにされ、上半身がすとん、と床に落ちた。

「え?」とその男はどうして急に背が低くなったのかわからずにまわりを見渡し、

――― 上半身のない下半身が臓物をぶちまけながら自分に倒れてくるのを見て ――― 

「うわぁーっ!!」と叫んでショック死した。

他にも、伸びをしたところで発光線に手首を切断され、手首から血を振りまきながらのたうちまわる男。

頭の皿を飛ばされ、脳みそをぶちまけて倒れた男。

腰が抜けて立てない男。

リーダーの笹岡は死体を見てげぇげぇと吐いている。

        ――― ボォン ――― 

2人が無惨な死に方をしたリラックスルームの扉が破壊された。
299 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:42:27.05 ID:K5qD1Ho0

笹岡が振り返ると、そこには体中が青白く輝き、目をつり上げた若い女が立っていた。

「!!」   笹岡の目が大きく見開かれる。

「利子を取り返しに来たわ」   女がドスのきいた声で言う。

笹岡は恐怖で答えることが出来ない。

「どこにいるの?」   女が聞く。

「警告! 警告! 攻撃エネルギー探知、攻撃エネルギー探知!」

そこへ警備ロボットが3台突っ込んでくる。

「うるせぇ邪魔だ!!」   女が喚き、右手から電子線を乱射する。

 ――― ボンボンボン ――― 

あっけなく3台の警備ロボットが溶けて小爆発するのを笹岡は見た。

「わぁーっ!」「助けてくれーっ!」

2人の男が逃げ出す。

「逃がすか!」   再び右手から発光線が飛び、2人の男は肉片と化して飛び散った。

「ぐげぇっ!」   その光景を見てしまった笹岡は、もはや吐くものもなく今度は胃液を吐いた。

「そこのあんた、もう一度聞く。子供はどこにいる?」   女は吐いている笹岡の髪を左手でひっつかんで顔を引きずり上げて聞く。

「し、知らない」   笹岡は視線をそらせて答える。
300 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:48:15.26 ID:K5qD1Ho0

「ふ」   女は髪をつかんでいる左手に力を込め髪を焼き切った。タンパク質が焼ける臭いが新たにあたりを包む。

「ぐ」   笹岡が頭から崩れ落ちる。

「なら思い出させてあげるわ」   女は躊躇せず、笹岡の左手を発光線で切り落とした。

「ギャーッ!」   笹岡は悲鳴を上げて床を転げ回る。

「時間の無駄。死にたい? 死にたくない? どっち?」   

女はのたうち回る笹岡を蹴り飛ばし、仰向けにしてヒールを思い切り腹に突き刺して聞く。

「知らない、あたしは、何も!」   笹岡は同じ答えを返す。

「そう。残念ね」   女は笹岡の頭を吹き飛ばした。

女は、今度はうめき声を上げている両手首を失った男へ近づく。

「く、来るな! あっちへ行け!、こ、この悪魔!」   男が叫ぶ。

「あたしを悪魔にしたのは、あんたたちよ!」   女はその男のあたまを蹴り飛ばす。

「あんたも、あいつのように頭吹っ飛ばされたい?」   右手をバチバチさせながら質問をする女。

「こ、子供『たち』なら、地下2階に、いるよ!」

「階段?エレベーター?」

「ど、どっちでも行ける」

「そう? ありがとう」   言うなり女はその男の頭を吹き飛ばした。

女、修羅と化した麦野沈利はリラックスルームを出て、振り返ることもなく事務所棟を歩いて行く。
301 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:51:14.60 ID:K5qD1Ho0

途中にあるセンサー類は、義眼である右目のマルチセンサーがギミックを全て見破っていた。

もっとも、その殆どを破壊しながら進んで行くので、ある意味ではどう動いているか丸見えでもあったが。

地下2階。

思っていたよりこの区画は細かく広かった。

ある部屋に入ると、そこは更に細かく区分けされた、半個室がかたまっていると言うべき部屋だった。

「おねえちゃん、どうしてここに?」

不意に男の子が目の前に現れた。青いパジャマを着ている。

「テレポーター?」   麦野はその子に聞いてみた。

「うん。まだレベル2だけどね。もっと練習してレベル5になってえらくなるんだ!」

胸を張った、まだ10歳にもなっていないであろうその子に麦野はちょっと心惹かれた。

「どうして偉くなりたいの?」   彼女はそう尋ねてみた。

「え? だって、レベル5になればテレビにも映るしさ。そうしたらお母さんかお父さんか、誰かが僕を見つけてくれると思うんだ。

そうすれば、僕がどこの誰だかわかるはずだし、家に帰ることも出来るからね!」

(置き去り<チャイルド・エラー>か……かわいそうに)   心にズキっと走るものがあった。

麦野は思わず微笑んで、

「そうか、だからなのね。さすが男の子ね、おねえさん応援したげる」と答え、

「おねえさん、君に聞きたいことがあるんだけど、昨日か今日、ここに2歳くらいの女の子が来たはずなんだけど、知らないかな?」

とその男の子に聞いてみた。
302 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 19:59:31.99 ID:K5qD1Ho0

「うーん、僕知らない。この部屋には新しいこは来てないし。ちょっと待ってて?」

そう言うと、男の子はある部屋の扉を叩いて「ねぇ、18番、ちょっと起きてよ? 子供探してるひとがいるんだ?」



しばらくして扉が開き、ピンクのパジャマを着た女の子が出てきた。

「こんばんは。どちらさま?」

少し年上らしい。見たところ5年生か6年生あたりだろうか。

「こんばんは。あたし、むぎの しずりって言うんだけど」

麦野は携帯を出して、その中の待ち受け写真を18番と呼ばれた彼女に見せた。

「この子を探しているの。あたしの娘。間違って、ここに送られて来ちゃったらしいんだけど、地下2階にいるとは言われたんだけど、

あなたご存じない?」

女の子は写真を見て、そして麦野を見て、

「いいな……おかあさんが来てくれて」   と本当に小さな声でつぶやいた。

そしてその子は「あたし、過去の形跡を見ることが出来るの。AIM拡散力場の流れを逆に読めるかららしいけど」

それを聞いて、麦野は青ざめた。上での戦闘を見られてしまうからだ。

「もう知ってるわ。おばさんのAIM拡散力場はものすごく強力だもの。あの人たち、心底悪い人たちじゃなかったけど、でも嫌いだった」

そう言って再びその子は目を閉じて精神集中に入った。

(く、おばさんと呼ばれた)と麦野は一瞬カチンときたが、(子供のいる女は、この子からすればおばさん、だわね)と思い直した。

そんなことで怒っていては身が持たない。

気が付くと、いつの間にか他の部屋からも子供たちが出てきていて、そこには6人の子供が集まっていた。

「この部屋を出て、左、直進して。突き当たりを右に行き、正面の部屋に運び込まれていたわ。前野さんていう先生がたぶんいるはず」

目を開いて女の子が答えた。
303 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 20:02:51.94 ID:K5qD1Ho0

「ありがとう。ところであなたの名前は?」

麦野はその子に尋ねてみた。

「18番よ」

女の子はちょっと寂しげに笑った。

「ここにいる子には名前がないの。番号で呼ばれるだけ」

「僕は37番」

さっきテレポートしてきた子が答えた。

「あたしは136番」

髪の長い女の子。

「55番さ」
「99番」
「174番だよ!」

男の子3人が一斉に名前、いや番号を答えた。

「全部で6人いるのね」

麦野は緊張した声で子供たちに確認を取った。

「ううん、あと3人いるよ」

と37番の子が言う。男の子では最年長のようだ。

「外に出れない子が2人。それからおねえちゃんが1人」

「おねえちゃん?」

どういうこと?と麦野が尋ねる。置き去り<チャイルド・エラー>の中・高校生ということだろうか?

「おねえちゃんとおなじくらいのひとだよ? 風使い<エアロ・マスター>だけど、暴走するとすごいんだよ?」

「わかった。じゃあとでその3人にも会ってみるね」

と麦野は答えてくれた37番の男の子に返事をした。

すると、「2人とは、あなたは直ぐ会えると思う」

と18番の女の子が無表情で言う。

「あなたの子供と同じ部屋にいるから」
304 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 20:06:28.17 ID:K5qD1Ho0

18番と一緒に麦野は自分の娘がいるはずの部屋に入った。

「18番、そのひとは誰かな?」   前野という研究者はこちらを一瞬だけ見て再びモニターに視線を戻した。

「その子供のおかあさんだそうです」   と18番が答えた。

「ほう、それはそれは、よくここへ。さすがレベル5は違うねえ」   と前野は軽く答えた。

18番の女の子は「え?」と言う顔で麦野の顔を見上げる。



「利子(りこ)を返してもらうわよ」   麦野は憤怒を押さえ、努めて冷静な声を出した。

「いやいや、それは困ったな。ようやく実験が始められると思ったのにな」   前野が困った声を上げる。

「ひとの子供を勝手に誘拐しておいてなんていう言いぐさよ!」   麦野の声が大きくなる。

「いやいや、麦野くん、それは違うぞ? あの子は、我々が頼んだ子供だ。

我々の依頼による、キミの意志ではない妊娠によりこの世に生まれてきた子供だったはずだよ? 

キミの妊娠は依頼された仕事だったはずだ。違うかね?」

「く」   麦野が詰まる。

「キミにはそれなりの報酬も渡ったはずだ。すくなくとも突き返されなかったと聞いているが? 慰謝料だな」

(しまった、突き返しておけばよかったのか……)   あの時に来たカネにはまだ一切手を触れていない。

自分のカネで十分生きてこれたからだ。ただ、そんなことを今更言ったところでなんの効果もないこともわかっていた。麦野は唇をかむ。

「慰謝料には違う意味もあったんだがね? そこに2人の女の子がいるんだが」

前野が手元を弄ると、暗くて見えにくかった奥に、4つのカプセルが立っており、そのうち2つに子供が入っていた。

「あの子たちもきみの子供だ」
305 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 20:10:57.42 ID:K5qD1Ho0

カプセルの中に、まだ小さな女の子が2人いた。

(滝壺の、言っていた2人はこれか!)   麦野は驚愕した。

「クローン?」   麦野が震える声で聞く。18番の子は黙って聞いている。ひとことも聞き漏らすまいとして。

「違う」   前野が即座に否定した。

「クローンでは、既に結論が出ている。オリジナルに遠く及ばないと。第三位の話ぐらい聞いているだろう?」

第三位、レベル5の第三位すなわち御坂美琴。超電磁砲<エレクトロ・マスター>のクローンによるレベル5量産化計画は大失敗

に終わったことは麦野も知っていたし、御坂美琴本人とも戦ったことすらある。

「ならば、高位者同士のカップリングによる自然交配ではどうか、ということで、生まれたのがキミの子供たちさ」

麦野の顔が引きつった。高位者、ということはレベル5に決まっている。まさか……?

18番が麦野の顔をじっと見つめている。

「第二位、垣根帝督と第四位のキミ、すなわち麦野沈利の組み合わせが選ばれた。本来なら第一位と第二位だろうが、

第一位は生殖能力が低く実験には不適当だった。第二位と第三位の組み合わせは統括理事会で明確に否定されたのでボツになった」

麦野がこぶしを握りしめている。ツメが手のひらに食い込み血がにじんでいる。

「もちろん、第二位はもはや人間の形をとどめていない。だが彼の肉体であったものは残っている。精液も冷凍保存されてね?」

「キミに人工授精を施す際に、キミの卵子も実は排卵誘発剤を用いて複数個取りだした。残念ながら未成熟な卵子は受精後に死んで

しまったりして、結局生き残った個体は4体だった」
306 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 20:15:23.51 ID:K5qD1Ho0

麦野が顔を上げて前野をまっすぐに見すえる。

(こいつら、ひとの命を……なんだと思っているのか)

「更に、保育器のメンテなどで外に出した際に病原菌に冒されて死んでしまったものが2体。2年後の今、生き残ったのはその2体。

どっちも女性だ。キミのところも女の子だが、やはり女の方が生き残る確率は高いのだな」

「自然に生まれでた個体と、人為的に誕生し生育を受けたものとで、どのような違いが出るのか、今から思えば、キミに依頼した方も

双子にしておけば、ウチの子たちと良い比較データが取れたかもしれない、と思っているのだが」

「……すると、そこの2人は、一卵性双生児、ということ?」   麦野が目を伏せて言う。

「その通りだ」   と前野が言う。

「もう一つ。父母がともに能力者だった場合、どちらの影響がより強く現れるのか?という観点がある。学園都市の年齢層は現在上の方は

結婚適齢期を迎えており、第二世代が今後増えることが予想される。どのような結果になるのか知りたいとは思わないかな?」

「話はわかったわ」   麦野が前野を見すえて言う。

「利子だけじゃない、その双子も取り返すわ。あたしの娘だもの」

「それは、無理な話だ」   前野は即座に否定した。周りがそんなことは許さないだろうと。

「わたしが死んでも」

前野は続ける。

「キミの娘は、レベル5を両親に持つエリートだ。これは動かしがたい事実なのだ。

ここにいる生き残った2体もまた、育った環境こそ違え、同じレベル5から生まれた子供だ。これは学園都市にとって歓迎すべきことなのだよ。

この3人の娘たちは私たちが消えても、必ず誰かが注目することになろう」
307 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 20:25:20.11 ID:K5qD1Ho0

「ふふ」   麦野は冷たい笑いを浮かべた。

「18番さん、目をつぶりなさい?」   と言い、「ハッ?」と彼女が一瞬の躊躇のあと目をつぶったのを見届けた麦野は、

「あなた、考え違いをしているようね」  と冷たく言い放ち。

――― 「ダーッ!!」―――

気合いと共に放たれた電子線は4つのカプセルと前野を粉々に吹き飛ばした。


「取り返したわ。あんたたちの汚い手からね」

麦野は18番という名の女の子に「目を開けていいわ」と言おうと振り返った。

しかし、彼女の目は既に見開かれていた。その目には明らかな敵意があった。

(やっぱり見ていたか、子供には見せたくなかったけど……)

「どうして?」   最初の言葉だった。敵意を持ったままの彼女の目からぽろりと涙がこぼれた。

「どうして、殺したの? なんの罪もない子供2人を? かわいかったのに。よく笑う子だったのに?」

麦野は答えない。

「あんたも、ここの連中と一緒だわ! 人殺し! 卑怯者! ばけもの! あんたなんか消えちゃえ!」

18番の子は泣きながら麦野に向かって呪いの言葉を吐く。

「やかましい、クソガキ!」   麦野は18番の子を張り飛ばす。

「あたしは、アンタの言うとおり、人殺しさ。ああ、何十人、何百人と殺してきたさ」

麦野は彼女のパジャマの襟を握りしめてささやく。

「アンタも自分の子を持ったときに、自分の子供を手にかけた、あたしの無念がわかる時がくるだろうよ」

18番は、目をぎらつかせ殺気に満ちた麦野の頬に、涙の跡を見た。

麦野は、18番の襟を離すと、自分の娘、利子を捜し始めた。
308 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 20:28:52.75 ID:K5qD1Ho0

何も知らぬ麦野利子は、カプセルの中で、いつもと変わらないあどけない顔ですやすやと眠っていた。

笑う利子、泣いた利子。私を「ママ」と呼んだ利子。私の、私の利子!

「ママを許して、ごめんね、リコ……」

麦野は利子が寝ているカプセルにすがりつき、思い切り泣いた。18番はじっと号泣する麦野を見つめていた。



「カエルの子はカエル、か……」   泣きはらした麦野はふらっと立ち上がり、小さくつぶやいた。

「あんたに、あたしの人生は歩ませないわ」

麦野は自分の、血に染まった半生を思った。

なんでこんな能力を持ってしまったのだろうと考えたときもあった。

悩み続けた結果、「考えない」という結論に達した。持ってしまった事実は消せない。人を殺してしまった事実も消えない。

あたしは闇の掃除人。学園都市の暗部の1人。光あるところ影がある。影なら、影らしく生きて死のう、と。

「利子……」

産まれてきた利子は、そんなあたしに、再び「人間」としての意味を考えさせてくれた。この子とともに生きようと。

でも、神様はあたしを許さなかった。ひとの命を奪い続けた女に、人並みの幸せを与える訳にはいかなかったのだろう。

「あたしの娘として産まれてきたのが、あなたの不運。ごめんなさいね、利子」

あたしは人並みの幸せを望んではならなかった。死神ともいうべきあたしに、そんなことはあってはならなかったのだと。

「利子、ママと一緒に、遠いところに行こうね。誰にも邪魔されないところに。

なんか、あなたに姉妹もいるらしいし、みんなで楽しく暮らそうね」

麦野はきっ、と利子の寝るカプセルを睨み、右手をあげた……
309 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 20:38:57.58 ID:K5qD1Ho0

「がっ!?」

いきなり目の前が真っ暗になり、麦野は床にたたきつけられた。

「うはー、ひでぇよー、でも、成功だぜ〜」    37番の男の子が麦野にテレポートアタックを敢行したのだった。

「こ、このクソガキがぁ! ……てててて、痛っ?」 

麦野は悪態を付き、反射的に電子線を放とうとしたが、打った場所がよくなかったのか、演算がうまくできない。

「うわぁ、可愛い子だ〜? ハイハイ、おねーちゃんが守ってあげるからね〜、もう心配ないでちゅよぉ〜?」

どこからか、子供ではない、女の声がカプセルのところからした。

「リコ!? リコ!!」 

麦野はついさっき、自分が利子を殺して自分も死のうとしたことも忘れ、利子に近づいた女を見ようと立ち上がった。

「その子に触るなぁっ!!」   麦野が怒鳴りつける。

「なーに言ってるんですか? 貴女は殺そうとしてたじゃないですか、こんな可愛い子を? 絶対ダメです。渡しません!」

見ればまだ若い女だ。20歳くらいだろう。

長い黒髪。意志の強そうな目。その女は利子をしっかりと抱きかかえ、麦野に渡すまいと全身で防護しようとしている。

「おねーちゃん、だめだよ!」

「止めて、ください」

「そんなことしちゃ、いけないんだよ!」

子供たちが利子を守る女の前に集まってかたまる。

その姿は2年前の、あの相方が送り込ん出来た子供たちを麦野に思い出させた。

「てめぇらぁーっ! どこまであたしをバカにしやがるんだぁーっ!!!!」

思わず麦野は電子線をなぎ払う、



………… 子供たちの頭の遙か上を…………


310 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 20:41:25.45 ID:K5qD1Ho0

はぁはぁと麦野は荒い息をつきながら悪態をついた。

「クソったれが……」

子供たちは一瞬茫然としていたが、麦野のその言葉で我に返り、

「うわぁぁぁーん!!!」と一斉に泣き出したのだった。

「怖かったよー」

「死にたくないよー」

「ごめんなさい、もうしませんから、ごめんなさい!!」

その、いかにも子供らしい泣き声に、麦野の緊張はぷっつりと切れた。

「あー、もう止めだ、止め!! てめーら泣くんじゃねぇ、泣きたいのはあたしの方なんだよ!!」




そのとき、利子をかばっていた若い女が小さい声で言った。

「あ、あの、2年ほど前に、あなたは、わたしを助けてくれませんでしたか?」
311 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 20:55:51.85 ID:K5qD1Ho0

「あん? なんだって? 2年前って、どこで?」   そう言いながら、麦野は思い出した。

不良能力者の始末を依頼された麦野は、予定通りに任務完了して帰ろうとした途中で、異様な空気を感じ取ったのだった。

果たせるかな、そこには3人がかりで若い女性に襲いかかっているスキルアウトを見つけ、まだ仕事の興奮の余韻が残っていた麦野は

その3人を一撃で粉砕したのだった。

襲われていた女はパーティの帰りだったらしく、着飾った服が破られ、無惨な状態だった。

野が気づいたのは、その女の口と下腹部から血がにじんでいたことだった。服をめくると、下腹部にはどす黒い内出血の跡が見える。

「ちっ、面倒なことになったわね」   

そう思いつつも、麦野は後始末専門の部隊長を呼ぶ。

気を失っている女をワゴンに乗せ、病院へ搬送したのだった。


――― あの時の? ――― 

麦野は、利子(りこ)を守る女の顔をもう一度見た。

「そういえば、そんなこともあったかもね……」麦野はつぶやいた。

「やっぱり!? 今の光線見て、もしかしたら、あたしの命の恩人なんじゃないかっておもったんですよぅ!!

あ、あたし、佐天涙子(さてん るいこ)って言うんです!! そ、その節は、本当に、本当に有り難うございました!」

佐天はペコペコと頭を何度も下げる。

彼女の周りにいた子供たちは、新しい話の流れに耳を傾け、じっと聞いている。泣いている子はもういない。
312 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 20:59:08.40 ID:K5qD1Ho0

「もし、あのとき、来てくれなかったら、あたし、きっと強姦されて、そして殺されてました! 貴女は、わたしの命の恩人ですっ! 

もう、何でも言うこと聞きますから! そ、そう言えば、貴女のお名前はなんと仰るんですか?」

(あー、もううざいな、コイツ)   と思うが、命の恩人、と持ち上げられて悪い気はしない。

「麦野沈利(むぎの しずり)だよ。あたしは」   麦野は名乗った。

「むぎのさん、なんですね? じゃ改めて、麦野沈利さん、本当に命を助けて頂きまして有り難うございました!」

もう一度佐天は麦野に深々と頭を下げて御礼を言った。

「もういいわよ、過ぎたことよ。それよりね、あなた、いい加減に娘を返して欲しいんだけど」

うんざりした感じで麦野が佐天に言う。

「え、この子、貴女のお嬢さんなんですか? えええ? 娘を殺そうとしたんですかっ!? 一体どうして??」

「うっさいわね、誰だって好きこのんで自分の子供を手にかけるわけがないでしょ!? どこに、どこに自分の子供を殺す……

親がいる……わけが……ないじゃない」麦野はうつむいてしまった。

「何があったか知らないですけど、一人で悩んだらダメですよぅ。一人だと、かならず結果を悪い方向へ想像するんです。

あたしも昔幻想御手<レベルアッパー>で酷い目にあってますし」   

佐天が熱弁をふるう。(この子供の命がかかっているんだから! 母親が娘を殺すなんて絶対させないから!)

「難しい話は人の意見を聞くべきです! それで、たとえ最後の結論が変わらなかったとしても! かならずいい方法があるはずですから、

ね、ちょっと時間を取りましょう!」
313 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 21:05:36.27 ID:K5qD1Ho0

麦野は下を向いたままだった。少し落ち着いた彼女の頭の中では、激しい葛藤が渦巻いていた。



よりによって、あの第2位、メルヘン野郎の子供……、 人為的な「原石」の創造を狙ったのか……、

父親の能力を受け継いだとすればこの子には未現物質<ダークマター>が、私の能力を受け継いだら原子崩し<メルトダウナー>が。

どっちもろくな能力ではない。どちらかといえば戦闘能力。学園都市の科学者が押し寄せるだろう。

いや、外界のあらゆる国も欲しがるのは確実。この子を巡って争いが起きるのは自明の理。実際のところ既に起きているのだし。

どうする……? 殺してしまうのが一番早い。あの子たちのように。つらすぎるけれど。

殺さないで済む方法は? 能力を消す。

そんなことが出来るのか? 

キャパシティダウナーは、昔から見れば小型化されたが、まだ持ち運びできるところまでには至っていない。

AIMジャマーは小型化されてきているとはいえ、慣れの問題でジャマーの機能が無効化される例もある。完全ではない。

どうすれば、どうすればこの子が生きて行けるか……?

「あのー、もしもし、麦野さん? 聞こえてますかー? 」   ふと気が付くと、目の前に佐天の顔があった。

「わ!」   思わず麦野が後へ飛び退く。

「す、すみません、ちょっと遠いところに行ってらしたみたいなもので……」   佐天が頭をかきながら謝る。

「それで、とりあえず一旦ここから出た方がいいんじゃないでしょうか? あたしは少なくとも今行方不明になっているはずなので、

連絡取りたいですし、この子たちの行く先も相談したい人がいますので……」

ふと、麦野は思った。この子、誰に相談するつもりだろうか? アンチスキルでは危険だし、おそらく上の手がまわっているはずだから、

逆効果になる可能性も高い。
314 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 21:09:05.33 ID:K5qD1Ho0

「そうね、ここにいてもしょうがないし。おちびさんたち! ここから出るよ!」 

麦野が声をかける。

「えー、どこ行くの?」
「そとは寒いんじゃないかな?」
「夜はこどもは出ちゃいけないって昔おかあさんに言われた」

「おまえら、もう変な薬飲まなくて済むんだからすこしは喜べよな!」

「……一難去ってまた一難……かも?」

「く、こいつら……」

麦野は子供たちがもう少し喜ぶと思っていたので、予想外の反応にとまどいを隠しきれなかった。

(住めば都ってことか? あのままいたら研究材料として死んでいっただろうに。その方が良いとでもいうのか?)

「いやならここにいろ! あたしにゃ関係ないことだからな。アタマ弄くられて、実験のモルモットになって、捨てられてもいいのなら、

ここにそのまま残ってるんだね!」

麦野はそう突き放した調子で子供たちに宣言し、部屋から出た。



1階へ上がると、夜の冷気が襲ってきた。麦野が入ってくる時にぶちこわした正面玄関から冷たい風が入ってくるのだった。

既に11月。夜は冷える。

「さむーい!」   付いてきた子供たちが震え上がる。

「こりゃ、このままじゃダメですね……」   佐天が残念そうに言う。

「あんたたち、下へ降りてなさい。あたしの友達に来てもらうから!」

佐天がいうと、子供たちは

「うん、この服じゃ耐えられないもん!」
「明日の昼でもいいよぅ……」

と適当なことを良いながら下へ降りていった。
315 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 21:13:42.26 ID:K5qD1Ho0

「すみません、もし良かったら電話貸して頂けませんか?」   と佐天は麦野に尋ねてきた。

「どこに連絡するつもり? アンチスキルは当てにならないよ?」   麦野が質問しながら佐天に携帯を渡した。

「あ、あたしの中学時代からの友達で、初春飾利ってのがいまして、エヘヘヘヘ……」

いやぁすいませんねぇ、という調子で佐天は受け取った携帯で電話をかける。

「その子、大丈夫なの?」   麦野はまだ警戒を解いていない。

「ええ、バッチリですよん……………もしもし、初春? あたし。 ……ごめん、捕まってた。うん、…………、そうなのよ!

なんとかね。…… それでね、チャイルドエラーの子供たちもいるのよ、全部で6人。…………そう、出来ればね。…………場所はわかる?

これ、あたしのケータイじゃないのよ。……むぎのさんってひとの…………そう、むぎの しずりさんてひと。……ええっ? 

ホントに!?…………マジでレベル5なの? 道理でスゴイわけだ……」

佐天は話しながら、麦野を驚きと尊敬のまなざしで見る。

「すいません、ここ、なんていうところだかご存じですか? すみません、あたし昨日一昨日くらいに連れてこられたもんで知らないんです」

佐天が聞いてくる。

「鮎原リサーチセンターよ」   と麦野が教えてやる。

「鮎原リサーチセンターだって…………オッケー?……うん、じゃ待ってるから、ありがとね、初春!」

佐天は電話を切ると、「どうも有り難うございました」と麦野に携帯を返した。

「ちゃんと連絡できたの?」   麦野は佐天に尋ねる。

「ええ、もう大丈夫だと思いますよ」   とニッコリ佐天が微笑む。



―――――― 佐天が続きを言おうとしたとき ――――――




「風紀委員<ジャッジメント>ですの!」

いきなり現れたのは白井黒子だった。
316 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 21:26:58.31 ID:K5qD1Ho0

「いやいや、僕はただの医者だからね? あまり患者個人の事情には立ち入りすべきじゃないと考えてるんだが?」

カエル顔の医者がちょっと面食らった顔をする。

そう、ここは冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院であり、彼の個室である。

「いえ、先生には大人の男性としての意見を述べて頂くだけですから」

赤ん坊を抱くのは御坂美琴改め上条美琴。

彼女は昨年に上条当麻と結婚式を挙げ、先月初めに女の子を出産していた。

名前は当麻の「麻」と美琴の「琴」を取って「上条麻琴(かみじょう まこと)」と名付けられていた。


(よりによって第三位が出てくる、とはどういうことなのよ……)

麦野は会いたくない相手の一人である上条(御坂)美琴の出現に混乱していた。

学園都市に7人しかいなかったレベル5の二人。片や学園都市のヒロイン。しかし、元はレベル1からのたたき上げという努力のひとであった。

その努力は実を結び、彼女は美貌と知性・教養と、そして学園都市ならではの超能力者<レベル5>という3つを備えたスーパーヒロイン

として、揺るぎない地位を確立していた。まさに「光」のヒロイン。

片や、麦野沈利。彼女は天才であった。とある資産家のお嬢様として産まれ、持って産まれた美貌と知性、優秀な頭脳は小学生時代で既に

折り紙付きであった。

しかし、中学生時代に起きたある不幸な事故以来、彼女は表の世界から姿を消した。

彼女が表の世界から消えて数年後。

「裏」の世界で、たぐいまれな美貌を持つ「暗殺者」が話題に上り始める。

圧倒的パワーで邪魔なものを排除してゆく、「原子崩し<メルトダウナー>」、それが「麦野沈利」すなわち「影」のヒロインであった。
317 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 21:43:39.94 ID:K5qD1Ho0

「許せないわ、そんなこと! 絶対に許さない。女をなんだと思ってるのよ?」

美琴が麻琴を横抱きしながら怒っている。

妊娠して以来、彼女は極力電撃を飛ばさないように首、腕、手首、足首にAIMジャマーを内蔵したリングを着けていた。

まだ試作品であり、それぞれは結構大柄でフルに装着した姿はやや異様であった。しかも、これとて美琴のレベル5のパワー

を全ては受け止めきれないレベルでしかなかった。とはいえ、無いよりはましで、麻琴がぐずることが大幅に減ったのもまた事実であった。

「お姉様、言うは易く行うは難し、ですわ? 24時間じゅう起きて守っているわけには参りませんのよ? しかも相手は学園都市だけ

ではない可能性もありえますの。学園都市から出てもまた同じ事が起きるとなれば気の休まるときはありませんわ。

いかに学園都市レベル5の第4位のパワーを持っていたとしても……」

白井黒子が麦野をちらちら見ながら上条美琴を諫める。

「そう、ですよね……、だからいっそのこと、って考えちゃったわけですよね、ここからいなくなればって……」

初春飾利が言う。

「ひとつ、良いかな?」

黙って話を聞いていたカエル顔の医者が言う。

皆が一斉に彼を見つめる。

「いなくなってしまえば、死んでしまえば追跡は消える、んだね? 初春くん?」

カエル医者が初春に尋ねる。

「えっと、それは100%保証できませんけれど、通常死亡届が出ると、もちろん戸籍から『抹消』され、他に書庫<バンク>からも

データは『抹消』されます。但し、普通は死亡ということで通常の検索からは外されますけれど、あくまでも記録データそのものは残って

いる事が多いのです。ただ、中には完全に消えてしまっている例があります。どういう場合にそうなるのか、私にはわかりませんが……

私の小学校のお友だちがそういう目にあっています。……『最初からそんな人はいなかった』ということになっているんです。

あたしと、一緒に遊んだ……う、ううっ、…………有希、ちゃんが……」

初春は今は亡き幼なじみを思い出したのか、涙声になる。

「おいおい泣くな、初春、ね?」   佐天がハンカチを出して初春に渡す。

「す、すびばせ〜ん」   初春が鼻をかむ。
318 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 21:46:44.29 ID:K5qD1Ho0

「おやおや、ちょっと初春くんにつらい思い出を思い出させてしまったみたいだね、ごめんね。そう言うつもりじゃなかったんだけれど。

さて、母である麦野沈利くんのやってしまったこと、やろうとしたことは、追跡者の手を逃れる、と言う面から見れば正解だったと言える

んじゃないかな? 誤解しないでくれるといいけれど?」   カエル医者が言う。

「先生、つまり、死んだことにすればいいと?」   佐天が言う。

「でも、そうしたら麦野利子さん本人はどうしますの? 幽霊になってしまいますわよ?」   白井が否定する。

「それですよ! 新しく産まれたことにすればいいんですよ!」   佐天が目を輝かせて言う。

しかし、白井はため息をついて、

「あなた、この子が赤ちゃんなら良いですわよ? お姉様の麻琴ちゃんのように。ですが、こちらのリコちゃんはもう2歳になろうかという

もう立派なお嬢様ですのよ? それを今更どうしろと?」

白井が重ねて否定する。

「うーん、良い方法だと思ったんだけどなぁ……」   と佐天が言う。

「記憶は学習装置<テスタメント>を使えば修正可能ですよね、先生?」   今まで黙っていた上条美琴が口を開いた。

「可能、だよ」   カエル医者が答える。

「あたしは、麦野さんに残酷なことをあえて言うけど、『死ぬ』ことしか追跡を終わらせる方法はないと思うわ」   

美琴がいう。
319 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 21:52:13.04 ID:K5qD1Ho0
 
「なんですって!! ひとの娘だと思ってなんて事を! そんなことならここへ来る必要なんかなかったわよ!!

そんな結論聞きたくもないわ!」   黙っていた麦野が激高する。

「最後まで聞きなさいよ、麦野さん? それから大声出さないでよ、麻琴が起きちゃうから」   美琴がやんわりと言い聞かせる。

「『麦野利子』という人間は死んで消える。そして新しい子供が生まれる、ならいいのよ? 全然関係ないひとのところで」

「でも、この方法では、麦野さんと利子ちゃんの縁は永久に消さなければならないの。新しく産まれてきた子が麦野さんの娘と言うこと

になれば、話は振り出しに戻ってしまう。あと、2歳年をサバ読みするから、子供の時にすごく苦労すると思うわ。

まぁあたしたちくらいになれば、良くやってることだから問題ないわよ(笑)」

最後で美琴は固くなっている雰囲気を和らげるように冗談を言った。残念ながら皆マジメに聞いていて、笑うものはいなかったが。

「……」

麦野は黙って美琴の話を聞いていた。

(麦野利子という存在は消える。あたしが殺しても同じ事。あの双子と同じように。でも、利子自身は生きて行く。どこかの誰かの娘として。

あたしからすれば同じ事だ)

「あたしは、その条件のむわ」   麦野は美琴の目を見て宣言した。

「あの子が生きていけるなら、あたしは親娘の縁がなくなってもかまわないわ」   彼女は言い切った。

「麦野さん……」

「……」

「……」

白井、佐天、初春は黙って麦野の決断を聞いていた。

「あの時に、麦野利子は死んだのよ。あたしが殺したのよ。あいつらが勝手に育てていた双子と一緒に、親のあたしが」

麦野は両手で顔を覆った。その隙間から涙が伝って落ちていった。
320 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 21:56:31.59 ID:K5qD1Ho0

「で、里親というか、新しい親をどうやって見つけようか?」

美琴がしばらくして、重苦しい雰囲気を振り払うべく新たに問題を提起した。

「あの、御坂さんの寮監さんの行ってたところ、なんて言いましたっけ、あそこに預けるというのは?」

初春が合わせるように明るい声で尋ねる。

「あすなろ園、ですわね?」   

白井が答える。

「ですが、あそこはもともと置き去り<チャイルド・エラー>の子供がいる場所ですのよ? 真っ先に手が伸びますわ。

あまりに危険すぎますわよ」

「ダメか……」   

初春はしゅんとしてしまう。

「困りましたわね、内容が内容だけに、広くオープンに聞けることではありませんし……」

白井がため息をつく。

しばし、沈黙が支配する。


―――――――――――― そのとき ――――――――――――


「あ、あたしがなりますっ!」

佐天涙子が手を挙げたのだった。

「佐天さん?」
「あなた……?」
「ほ、本気ですか?」

一斉に皆が佐天に訊く。
321 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:00:17.34 ID:K5qD1Ho0

「あー、もう、あたしは聖徳太子じゃないんで、一斉に訊かれても答えられません!」

佐天がどうどう、となだめにかかる。

「佐天さん、あなた、確か……」

白井が言いにくそうに途中で言葉を切る。

「えへ、そうです。あたしはあの事件で実は子供を産めなくなってます」

重大な発言なのだが、佐天はしれっとして言い放った。

麦野は「えっ?」という顔で佐天の顔を見つめる。

カエル顔の医者は「むう」と唸った。

「実は、スキルアウトに乱暴されていたあたしを助けてくれたのが、この麦野さんでした!!」

佐天はジャジャーンというオープニングをつけて麦野を改めて紹介した。唖然とする他の仲間。

「もし麦野さんがあの場にいなかったら、あたしは今、ここでみんなとお話していなかったでしょう。私の命の恩人なんです。

しかも今回で2回目です」

「残念ながらもうあたしは自分の子供を持てません。だから、というわけじゃないですけれど、でも命の恩人のお役に立てるのなら、

その人のお嬢さんを育てられるのなら、あたしは喜んで親になります!」


少し間をおいて、

「佐天さん、あなた、シングルマザーになるのよ? 世の中冷たいわよ? 犬猫飼うのとはわけが違うのよ? 

ひとさまの娘さんを育てるのよ? あなたの人生、大きく変わるのよ? 覚悟は良いの?」

上条美琴がかんで含めるように訊く。

「あたしは、二度死にかかった女ですよ? それを思えば」

佐天はいつもとは違う真剣な顔で言う。
322 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:02:29.83 ID:K5qD1Ho0

「あなた、研修生でしょ? 生活費は? 子供いてやっていけるの? 片手間じゃ出来ないのよ?」

「生活費はあたしが出す」    

いきなり麦野が発言した。

「あたしの、昔、あたしの娘だった子のために」

みな声を出さなかった。

「す、すみません。でも正直有り難いです。最初はお世話になりたいと思います。でもいつの日か、お返ししますから」

佐天が頭を下げた。

「いいわよ。でももらいっぱなしがいや、というのならわかった。期待しないで待ってるわ」

麦野が答える。


「佐天さん、もう一度訊くけど、本当にいいのね?」

美琴がもう一度訊く。

「決めました。麦野さん?」

佐天は麦野を見て言う。

「私があなたのお嬢さんの母親になります。安心して下さい。あたしの娘として、どこに出しても恥ずかしくない子に育てます!」

麦野は混乱していた。

こんなことでいいのだろうか、と。

こんな簡単に、3人の人生が決まってしまってもいいのだろうかと。

そして、本当に、あの子が、利子が自分のところからいなくなってしまうのだ、という事が今や彼女の頭を占めていた。
323 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:05:46.62 ID:K5qD1Ho0

物事は決まるとトントン拍子に進むものである。

その日のうちに、やることは決まり、翌日朝から全員が行動を開始した。



上条美琴は、鮎原リサーチセンターの事件の内容確認である。親船元理事長のコネを使ってもみ消しに入ったものの、そう簡単にはいかない。

しばらく時間がかかりそうで、一刻も早く麦野親娘を舞台裏に隠す必要があることが判明した。

そして佐天が預けることになる保育園の打診。これは夫の上条当麻の高校の担任だった月詠小萌先生の紹介でなんとかなりそうだった。

白井黒子は、鮎原リサーチセンターから脱出してきた子供たち6人の落ち着き先を決めること、これはあっさりとあすなろ園の園長先生が

引き受けてくれたので簡単に済んだ。

問題は戸籍及び学籍の再調査であった。なんせ記憶を消されていたので自分の名前を覚えておらず、難航が予想された。

初春飾利は、データハッキングの準備である。普段とは逆の作業をすることになる。

カエル顔の医者は、学習装置<テスタメント>の下準備、そして自分の開発した新型AIMジャマーの最終チェックであった。

彼としては万全の準備と言うことで、大脳生理学の木山春生教授に来てもらっての事前打ち合わせまで行った。

これといってやることがなかったのが中心人物の麦野親娘と佐天涙子の3人だった。
324 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:07:51.95 ID:K5qD1Ho0

3人は病院から出ることなく特別室で一緒の時を過ごしていた。

佐天は麦野から、娘利子の癖や好み、過去にあったこと等、聞けること全てをメモっていった。

麦野もまた、覚えていること全てを佐天に話した。話し始めると、麦野は饒舌になった。

佐天は話をしている麦野の顔がとても穏やかであることに気が付いていた。

(このひとから、あの子を取り上げてしまって、本当にいいんだろうか?)  ちくちくと佐天は良心が痛むのを感じていた。

一方の麦野は麦野で、

(この子、本当にあの子をちゃんと育ててくれるのかしら? しっかりしてるようで、大ざっぱだし……利子、お母さんを許して、

あなたをもう危険な目に遭わせることはさせないからね、あなたを捨てるわけじゃないのよ、わかってね)

自分の娘を手放す事に、良心の呵責と未練が心をさいなむのであった。

そんな二人を和ませるのは、あどけない利子の仕草であった。二人は利子のかわいらしい動きを見て声を上げて笑った……






そして、そのときがやってきた。

麦野は忘れたことがない。

忘れることが出来ようか?

今でも夢にみることがある。

ひともいなくなった、面会時間を1時間過ぎた夜。病院のある部屋。
325 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:09:31.52 ID:K5qD1Ho0

まだ2歳なのに、なにか感じ取ったのだろうか?

いつもの、ニコニコとした見る人に安らぎをもたらす笑みもなく、利子が、不安そうに自分を見つめている。

「ママ?」

麦野は一瞬手を伸ばしかけた。

が。

麦野はくるりと、わが娘に背を向けると、そのまま部屋を出た。

「ママ? マぁマ!? マぁマ!!??」

背中に利子の声が突き刺さる。麦野は耳をふさいで階段を駆け下り、走って、走って、走った。

病院を出て、街の中を走った。

とめどもなく涙を流しながら。

(ごめんなさい、悪いママを、許して。お願い、生きて、さよなら利子!)

どれくらい走ったのだろうか。麦野は走るのを止め、息をついた。



そして、恐る恐る振り返った。

もしかしたら、もしかしたら利子がニコニコ笑ってそこに立っているのではないかと。






そこには、誰もいなかった。

ただ、静かに眠る学園都市の夜の姿があっただけであった。

麦野はぺたっと座り込んでしまった。

「リコ! あたしの、あたしのリコ!!!!」 

麦野の脳裏に、幸せだった海辺の家での生活が浮かんで、消えた。
326 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:12:26.66 ID:K5qD1Ho0












翌日、麦野は、娘・麦野利子(むぎの りこ)の死亡届を出した。

立会人は、カエル顔の医者と、学園都市風紀委員<ジャッジメント>第7学区委員長白井黒子、学園都市教育大・大学院生上条美琴の3人。



そして、1週間後。

佐天涙子はカエル医者の病院で女児を出産し、女児は「佐天利子」(さてん としこ)と名付けられた。

立会人は学園都市風紀委員<ジャッジメント>情報部第2チーム・チームリーダー初春飾利であった。



……という言うデータが書庫<バンク>に作成されたのであった。もちろんこの作業の主役は初春飾利であった。
327 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:16:14.04 ID:K5qD1Ho0

初春は1週間、佐天涙子の病歴記録を総当たりして、彼女の子宮頸管破裂事故に関するデータを全て消して廻ったのであった。

さらにそこから彼女に乱暴したスキルアウトのデータ内容についても確認を行うなど、1件のデータを改ざんするのにどれだけの

労力を要するか、またとない経験を積むことになったのだった。

麦野利子の死亡について、初春はデータロガーをひそかに仕掛けておいたが、最初の1週間は恐ろしくなるくらいのアクセスが

あり、一部はデータ履歴の詳細までチェックしようとした形跡が数度あったが、これは全て撃退されていた。

1ヶ月を過ぎると大幅に減少し、1年を過ぎるとほとんどアクセスは消えた。しかし、用心深い初春は今でもまだロガーを撤収

していない。

同じように佐天涙子についてもデータロガーを仕掛けていたが、こちらは数回アクセスがあっただけで、しかもいずれも役所関係

からのもので通常よく見られるデータ検索であったことから、こちらもロガーは残してあるが年に1回見る程度になっている。



鮎原リサーチセンターにおいて研究員が全員死亡した件は、漏れていたガスによる爆発事故によるもの、として処理された。

センターに拉致されていた子供たちは、結局追跡が出来ず、置き去り<チャイルド・エラー>ということで、全員に名前と学籍が

新たに付与された。
328 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:22:20.95 ID:K5qD1Ho0

佐天涙子は1年間の休職を取った。規則上は問題はないものの、研修生の身分でシングルマザー、という内容は水面下ではかなり問題となった。

この苦境は上条美琴が圧力をかけて、佐天涙子の地位は確保された。もちろん、彼女自身の成績の優秀さによる部分もあったのは事実である。

「麦野利子(むぎの りこ)」はその後カエル医者の病院で、木山春生教授の指導の下で学習装置<テスタメント>により記憶を完全消去され、

「佐天利子(さてん としこ)」として、ゼロからのスタートを切ることになった。



とはいえ、元々は2歳児であった佐天利子がゼロ歳児というのは実際上はかなり無理があり、佐天親娘は大変な苦労をすることになった。

誰がどう見ても彼女はゼロ歳児には見えなかったからである。

それが明らかになったのは休職期間が終わるほぼ1年後、保育園でのことである。

彼女は名目では1歳であるが、外観はどう見ても3歳ぐらいだったからである。

上条美琴から紹介を受けた保育園にしても、園長先生や保育士まではなんとかごまかせても、他の子供の親の目をごまかすのは不可能であった。

その結果、彼女ら親娘は保育園を転々とすることになり、そして直ぐにそれすら出来ない状態になった。

「異様に育ちがよい、とっても可愛い女の子」の話が広がり始めたからである。

非常に危険だった。研究者たちの興味を引く可能性が出てきたからである。万一調査され、その結果能力が発見されたのでは、なんのために

麦野親娘の縁を切り、データを捏造してまで追跡を振り切ろうとしたのか意味が無くなってしまうからである。

佐天はいつものメンバーに相談を持ちかけた。
329 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:25:18.00 ID:K5qD1Ho0

もはや学園都市にいることは難しい、というのが佐天の実感であった。しかし実家に戻る選択は既に無くなっていた。

麦野から利子を譲り受けたその日に、既に佐天涙子は実家に連絡をしてみたのだった。

彼女の父親は激怒し、「そんなふしだらな娘は二度とウチの敷居をまたぐな」と勘当されてしまったのである。

まさに、美琴が言った「世の中はシングルマザーに冷たい」という事実を、身にしみて実感した佐天であった。

よもや、自分の実の親に否定されるとは彼女も予想だにしなかったのである。



相談を受けたなかで、まず上条美琴は自分の母親、御坂美鈴に、佐天利子の里親になってもらえるかどうかを確認してみた。

美鈴は二つ返事で受けたので、割と簡単に片づくと思われたこの件は思いもかけないところで躓いた。

学園都市が許可を出さなかったのである。原因は明らかにしてもらえなかった。

後に親船ルートで確かめたところ、昔、彼女の母御坂美鈴が「帰還事業」の首謀者として危険人物として登録されていたことに原因があった。

学園都市にとっての危険人物たる人間に、学園都市で産まれた子供を寄宿させるなどもってのほか、ということなのであった。

御坂美鈴・美琴親娘は大いに落胆した。その晩、愚痴をこぼした美琴に夫となっている上条当麻が助け船を出した。

すなわち、彼の母、美琴の義理の母である上条詩菜に白羽の矢が立った。
330 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:27:23.85 ID:K5qD1Ho0

上条詩菜もまた、二つ返事で引き受けた。どれくらい気に入ったかというと、翌日に学園都市に単身乗り込み、どの子がうちに来るのか

教えて欲しいと言ってきたくらいである。

そして再び、今度は上条詩菜を里親という形で学園都市に申請を出したのであるが、今回は違った。許可が下りないのである。

御坂美鈴の時は、「不許可」という回答があった。しかし今回は回答そのものが出ないのである。

ここにいたって、佐天涙子は決心した。方法は、二人揃っての学園都市からの「退去」であった。

佐天涙子は既に「無能力者」として書庫<バンク>に登録されていた他、娘の「佐天」利子は、カエル顔の医者の試作品である

マイクロAIMジャマーのおかげで無能力者扱いされていたためか、不思議に許可が下りたのであった。

「どうして、子供だけでは不可で、親子ならOKなんでしょうね?」

佐天はそう言って美琴にぼやいた。

佐天母娘が住む場所は、上条当麻の家、すなわち上条詩菜のところであった。これは詩菜自身が強く望んだからであった。

そして、佐天涙子は気象科学研究所の研修生を辞め、東京の気象大学大学院に再入学した。彼女の頭脳・才能・頑張りのおかげで、

彼女はめきめきと頭角を現し、2年後には逆に学園都市気象研究所から再招請を受けるほどになっていた。

彼女は再招請を受ける際に条件を出した。

「東京に住んで学園都市に通勤すること、出張の際には子供が小学校に入るまでは同伴する場合がある」というものだった。

実際には毎日行く必要はないので、気象研究所は許可を出し、再び佐天涙子の姿を学園都市で見ることが出来るようになった。
331 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:33:18.80 ID:K5qD1Ho0

そして、それから十年ほどが経過した今……

麦野沈利、佐天涙子、上条(御坂)美琴の3人は再び冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院で対決した。

「そうね、あんた、あんたはまるで、昔のあたし」   麦野は荒い息をしながら答えた。

「あの子と一緒に死のうとしてた、あたしそのものよ……」   佐天を見すえながら麦野は続ける。

「あたしになんて言ったっけ? え? 子供に罪はない、子供を守るのが親の務め? 一人で悩むと悪い方を考える?

全部あんたに、いま返してやるさ!」

佐天は14年前を思い出したのだろうか、大きく目を開き、そして麦野から目をそらした。

「あんたはよく頑張ったよ。正直、大丈夫かと思ったこともあったけど、あの子を見てよくわかった。

あの子が良い子に育っていて、本当に良かった。本当に有り難う。感謝してもしきれないくらいよ。

あんたは間違いなくあの子の母親よ。だから、最後まで、あんたは死ぬまであの子の親をやり遂げるのよ。御願い」

麦野はゆっくりと喋る。

「あの子はまだ中学生。でも、今の年頃で自分の一生を決めてしまうひともゼロではないわ。今は、最初の巣立ちの時期。

たぶんあの子は揺れ動くと思う。あの子が今飛び立つか、飛び立てるかどうかはわからない。でも、もしあの子がそうしようとしたら、

あんたはそれを止めちゃいけない」
332 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:34:47.18 ID:K5qD1Ho0

佐天はじっと立っている。アタマの中では沢山のことが渦巻いているのだろう。

「佐天さん?」

美琴が佐天に近寄って、優しく言う。

「あなた自身、お母様の願いを振り切って学園都市にやってきたのではなくて?」

佐天がびくっとすくむ。

「お母様は、あなたの強い意志を知って、せめてとあなたに神社のお守りをお渡しになったのではなかったの?

お母様はあなたを止めることだって出来たはず、でもお守りをお渡ししただけなのでしょう?」

美琴は言葉を切った。麦野は黙って佐天を見つめている。

「おかあさん……」

ぽつりと佐天は言ったまま、下を向き、身じろぎもしなかった。

しばらく3人は黙って立ちつくしていた。

「佐天さん、行こう? ここでの立ち話は邪魔だし、どこで誰が何を聞いてるかわからないし。とりあえず部屋に戻ろうよ?」

美琴は優しく佐天の肩を抱き、歩き出した。佐天涙子も落ち着いたのか、美琴に抱かれるまま歩き出した。

「あたしは、オフィスに戻るわ」

麦野は僅かにほほえみを浮かべて「報告書がどうなってるか、ちょっと見ておかなきゃいけないからね」と言った。

佐天ははっという顔で麦野を見つめた。

麦野は無言のまま、ぽんと佐天の肩を優しく叩き、そのまま右手を軽く上げて挨拶をすると、廊下を歩いて去っていった。
333 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:38:32.01 ID:K5qD1Ho0

            ヤバ〜い!!!!!!!!!!!!


              大変なことに気が付いた!


               「宿題やってない!!」


あたしは飛び起きた。


あれ? 母がいる。美琴おばさん、それに何故か麻琴もいる。みんなびっくりしてる。

「はい?」

あたしは麻琴がなんでここにいるのかちょっとわからなかった。

麻琴がぶっと吹き出し、「リコ〜! 起きたのね!! よかった!! 良かった〜!!!」と顔をくしゃくしゃにして飛びついてきた。

「ちょ、ちょっと、何よ、どうしたのよ、なんでアンタが?」

あたしはまだわかっていなかった。

「利子、おはよう。よく寝てたわね? ちょっと寝過ぎよ」

お母さんが、怒ったような、泣き笑いのような何とも言えない顔であたしに声をかけてきた。

ここ、いったいどこ?
334 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:42:47.81 ID:K5qD1Ho0

「リコちゃん、おはよう。ここは学園都市なんだけど、覚えてるかな?」

美琴おばさんがニッコリ笑って言う。

はいっ?

「ええっ? どうして? なんであたしが学園都市に? あれ? 3月に学園都市に行きましたけど、えっと? 今日はいつですか?」

あたしのアタマがおかしいんだろうか? なんか未だにピンとこない。

「今日は5月26日よ、あなた4日間もずっと寝てたのよ?」

お母さんが優しい声で教えてくれる。う、この優しい声はちょっと怖いかも、って

「5月? 4日間も!!?? どうして誰も起こしてくれなかったのよ?」

なんでみんなしらけた顔するの?

「ゴメンね、ちょっとあたし、よくわかんないから、順追って話すね? いい?」

あたしのアタマはものすごく混乱している。なんなんだろう?

「無理しなくて良いからね? まだ起きたばかりだしー?」 

麻琴が心配そうにあたしの顔をのぞき込む。

「うん。ありがと。えーと、じゃぁ、ラブレターもらったとこからね。」



―――「「「 えええええええええええええええええ???????????????」」」 ―――




               あたし、





               バカだ。 orz

335 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:46:05.33 ID:K5qD1Ho0











結局その日一日、あたしは3人からおもちゃにされた。

麻琴はふくれるわ、お母さんと美琴おばさんは目を輝かせて、

「誰よ誰、どこの誰から? どんな男の子なの? 何が書いてあったの?」



思い出した。あれはあたしの机のなかにしまいこんだままだった。何が書いてあるか、あたしだって知らないのだ。

だから答えられる訳がない。あー、よかった、初めは記憶無くしたのかと思ってしまった。

もうお願いだから聞かないで、と言っても聞く耳持たず状態だったりで、さんざんいじりまわされて悲惨な目にあった。

もともとはあたしのおバカな発言からなんだけど。自業自得か……


            「不幸だ」
336 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:50:47.75 ID:K5qD1Ho0

少しずつ思い出してきた。

学園都市に拉致されてきたこと、お母さんが誘拐されて、あたしも拉致されて、倉庫で銃撃戦があって、あたしは撃たれてけがをして

入院し、4日間寝ていたというわけだ。

麻琴のお父さん、上条さんの「不幸」が伝染したみたい。

「不幸だ」あたしはまたつぶやいてみた。

明日はリハビリらしい。わずか4日寝込んでいただけだけど、筋肉はもう弱ってしまっているらしい。

確かになんかちょっと違和感がある。陸上選手のはしくれとしてはこれはちょっと問題だわね。

そして髪の毛。伸びて来てはいるけれど、まだまだ坊主刈り状態でとてもこのままでは外へ出られない。事のきっかけになった

麻琴の「カツラ」も、明日また麻琴が持ってくるらしい。情けないけれど、髪型の研究だと思えば少しは気が……休まらない。



夕方、美琴おばさんの携帯を借りて、詩菜大おばさまと電話で話をした。

最初、大おばさまはあたしの声を聞くなり泣き出してしまって話にならなかった。

ごめんね、心配かけちゃって。

あたしも早くうちに帰りたいよぅ。はー、お家でみんなでご飯食べたいなぁ……

337 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:52:50.73 ID:K5qD1Ho0

それからひろぴぃとケイちゃんにも電話した。

二人とも最初びっくりして(あたしは幽霊かい!)、そして二人ともズルズル涙声になって、更にお見舞いに行くからと言いだして

しまって往生した。とりあえずみんなに宜しく、と言っておいたけど、どうやらあっちでは結構な騒ぎだったらしい。

なんだか、話が少し違っていて、いつの間にか「学園都市」そのものに拉致されたことになっているらしい。

美琴おばさまから、「それ以上しゃべると帰れなくなるかも!」と注意されてしまった。

母も実は1日ここで一緒に入院していたらしいことも知った。

あたしたち、無事に東京へ帰れるのかなぁ……




3日後、あたしは退院した。

栗色の髪は伸びているけれど、まだまだ、とてもとても人前には出られない。

仕方ないので麻琴が持ってきたカツラをつけている。いろいろ選べるのはある意味楽しかったけれど、自分の頭を見ると泣きたくなるやら

恥ずかしいやら。

結局無難な、黒髪のストレートをベースに緩くウェーブをかけたものにした。まぁ今までのものに近い、かな。
338 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:56:09.99 ID:K5qD1Ho0

カエル顔の先生は、

「としこちゃん、元気でね。僕のところにくるのは、これが最後になるといいんだけれど、でもそれはちょっと寂しいかな?」

なんて言っていた。

ミサカ麻美さん(10032号)がそれを聞いて

「ぶっ、ミサカはいまの発言が信じられませんと思わずネットワークのメモリーを呼び返してみます」なんていってた。

母と美琴おばさんは、「その通りですよ」「ホント、ウチのアイツだけで十分よ」と言って笑っていた。

麻琴は「リコ、来年は一緒の高校に行こうね!」と顔を輝かせていたけれど、あたしは曖昧に頷くしかなかった。

学園都市には、出来るならもう来たくはない。あたしには刺激が強すぎる。



(でもさ、結局戻ってくることになりそうだよ)

もう一人のあたしは、ずっとはっきりとものを言うようになっていた。

(美琴さんみたいに、ちゃんと超能力を使いこなせるようにならないとだめだろ? 人間凶器になるのはいやだろ?お母さん守るんだろ?

それには訓練しないとだめじゃないのか?)



あたしの首には新しい特注のネックレスが、両腕には小型のアームレットが収まっている。AIMジャマーだ。

半年前の麻琴と同じ状態。 

昨日、あたしは能力開発テストを受けたのだ。

母の希望もむなしく、あたし自身も願っていたのだけれど、あたしの能力は消えていなかった。

しかも、その能力はおぞましいものだった。思い出したくもない。どうせならもっと平和な能力であって欲しかったのに。

それでも判定はレベル3<強能力者>。麻琴に追いついてしまった。無意識下で演算を行っているらしい。

基本的な開発教育を受けていないのにこのレベルにあるのは珍しいらしい。

木山という女の先生も「珍しい、良い素質を持っているから訓練と勉強をして、レベル5<超能力者>を目指しなさい」と言っていた。

あたし的には、まだ全然力を出していない感じがするのだけれど、何をどうやったらいいのかわからないし。

(だから、ちゃんと訓練がいるんだよ)とまたぞろ、もう一人のあたしが割り込んでくる。
339 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 22:58:40.30 ID:K5qD1Ho0

母があたしを心配そうな目で見ている。

「不幸だ……」

あたしは小さくつぶやいた。

(何言ってるんだ、ついこないだまで無能力者だと思いこんでいたくせに)   あー、あんたちょっと静かにして! 挨拶!

「本当に今回も前回もいろいろとお世話になりました。おかげさまで無事健康体を取り戻して東京へ帰れます。どうも有り難うございました!」

あたしはニッコリと笑顔で、皆さんに挨拶をして、母と美琴おばさまと一緒に、美琴おばさまのリモに乗り込んだ。



「さようなら」

「有り難うございました」

「お世話になりました」

あたしたちを乗せたリモが病院を出て行く……










「良かったんですか? 挨拶しないままで? だって」 

「黙ってて!!!」



病院のバス停に立つ二人は、走り去るリモを黙って見つめていた。 



                                                         
                                                    (第1部 完)
340 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 23:02:06.55 ID:K5qD1Ho0
お読み頂きました皆様、こんばんは。
>>1です。

とりあえず、投稿完了致しました。
最後までお読み頂きまして、本当に有り難うございました。

まずは取り急ぎ、皆様に御礼申し上げます。
341 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 23:11:46.11 ID:mJsj7Ogo
乙です
面白かったよ第一部
第二部が楽しみだ
342 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 23:29:23.38 ID:XHTzUtso

第2部はいつぐらいになりそうですか?
343 :LX [sage saga]:2010/11/13(土) 23:32:45.25 ID:K5qD1Ho0
>>1です。

*いくつか、初期に佐天利子が説明する内容と、終わりの頃の第三者視点での内容に食い違いがあることに気づかれた方がいらっしゃる

かと思いますが、それは意図的なものがありまして、佐天涙子または上条美琴や上条詩菜などの大人が、佐天利子にそう説明していた、

というように解釈して頂けると助かります。

*基本線ですが、最後まで悩んだのが「佐天利子」に能力を与えるのか、無くすのか、という事でした。今回の終わり方は、本来「無くす」

方向でのもので、「ただのひと」になって東京へ帰るのであれば問題ない終わり方なのです。

しかし、ややもすると「負け犬」的印象を与えかねないこと、アタマ打ったぐらいで能力って消えるのか?(笑)、という問題が出てきま

して、急遽「能力発現」に切り替えたのでした。

*しかし、そうなると、「じゃこのSSは結局なにが言いたいの?」ということになりました。

「第一部」としたのはそれに対する「逃げ」でありましたが、つまり今回投稿した話全部がプロローグにしかなっていません。

 最初の>>1に書いてあります通り、「佐天利子」の御紹介で終わってしまっています。

*タイトルもそうですが、「佐天利子の大冒険」であればこれで「完結」で済んだのですけれど、悩んだ末に付けた名前が「学園都市

第二世代物語」、これはでかく出過ぎました。

正直悩んでいます。佐天利子物語を続けるのか、あらたに上条麻琴物語を始めるのか、はたまた漣孝太郎物語か、あるいは他のオリキャラ

物語か?

*今回の物語の主人公である佐天利子は、結局最後まで結論を出さずに東京に帰ります。

それは、作者である当方が結論を出せなかったからです。いや〜難しい。
344 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 23:35:40.22 ID:mJsj7Ogo
まずは佐天利子物語の続きをお願いします
345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 23:41:06.14 ID:IjGwu6DO
最初から一気に読んじゃった。面白かったよ!
346 :LX [sage saga]:2010/11/14(日) 00:08:41.47 ID:yKXpnRs0
引き続きの>>1です。

コメントお寄せ頂きましてありがとうございます。投稿者冥利につきます。感謝感激です。


*このSSは投稿開始までおよそ2ヶ月かかりました。

「書きためろ」とよく書かれていますが、実際にやってみると、書きためていないとならない理由がよくわかりました。

まず、最初に書いた話と後半に書いた話との中に食い違いが出てしまうことがあります。

面白い例では、途中から登場人物が勝手に動き出してしまうことがありました。当初の筋書きと全く違うことをやり始めたのでした。

仕方ないので、オリジナル路線と勝手な動きのスジとを二本立てで進めましたが、片方は結局つじつまがあわなくなりボツ原稿に

なってしまいました。(そちらも、登場人物のキャラが良く出ていて面白いのですが、最後に致命的なエラーが出てしまいボツと

しました)

書きためてあれば、書き直す(最悪です)、スジを考え直す等の対策が取れますが、投稿してしまっているとお手上げです。

次に、書きためていると最初に書いた文章を推敲するチャンスが何度もありますが、投稿してしまっているとアウトです。

それこそ、コピペしている時にも見直しをしています。これが直打ちでは出来ません。

書いたエピソードを当初の位置から全然違うところに移動して飛び込ませた箇所もあったと記憶しますが、そういう大仕事も書きため

あればこそ、ですね。



ということで、どういう形になるにせよ、続きはちょっとお時間を頂く形になりそうです。




347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 02:49:26.59 ID:wNmH2CAo
とりあえずの区切りはついてるし、じっくり書き溜めて貰っても充分待てると思うよ

しかし本当に面白い・・・オリジナルとはいえ、親となるキャラはいるわけだし、
その親子関係やらを上手くからめてどのキャラも魅力的でイイ
ゆっくりと第二部を楽しみにしてます!
348 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 22:18:13.19 ID:QwDWSAAO
オリキャラに色をつける―つまり詳細な設定を作る二次SSはクソになりがちだが上手くバランスが取れていたように思う
>>1


個人的には第二部やるならオリジナル能力出してもいい気がするなあ
無論世界観やバランスを揺らがさないレベルで
第二世代だからって同じ能力しかないのはちょっと寂しい
まあいいんだけどね
349 :LX [sage saga]:2010/11/14(日) 22:30:56.30 ID:yKXpnRs0
皆様こんばんは。

>>1です。

いろいろアドバイスのコメントを頂き、感謝感激であります。

さて、第2部をつたない足取りですが書き始めました。

なんせ原作にない時代設定を書こうとしてますので、固有名称に困ってしまいます。
小学校、高校、大学、全然足りません。名無し大学というわけにも(苦笑

まぁ常盤台に囲い込み政策で大学まで出来ている、と言う設定もおかしくないですが、
それでは身動きが取れませんし、男性はどうしろと(笑

第2部は、新たにスレを立ち上げるべきなのでしょうか、
(まだずっと先の話ですけれど、このスレが生きているうちにお聞きしたかったので)
それとも、まだ300台なのでこのスレを生かした方がよいのか……?
ルール上はどうなんでしょうか?

350 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 23:25:02.52 ID:0oWt88so
第一部が終わっただけだからこのスレで続けて良いんじゃないかな?
期待して待ってる
351 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 19:44:53.66 ID:KkGoJ.DO
同じくこのスレでいいかと

1〜2週間に1回でも>>1の生存報告があれば消える事もないだろうし
充電期間が長くなりそうなら酉つけとくといいかも
352 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 19:56:21.58 ID:3zeOe2oo
このスレでいいと思うよ
一方さんとか他のキャラがどうしてるか気になるな
353 :LX [sage saga]:2010/11/17(水) 21:49:00.92 ID:Qv5EFV60
こんばんは、>>1です。

第二部もこのスレで、という皆様の声ですので、ここにて追加発表をすることに致します。
現在書いてますが、落としどころも山場もまだ何もない状態です。
スミマセンがいましばらくお時間を頂戴します。では。
354 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 22:42:40.21 ID:ikP7U52o
待ってるよ
355 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 12:03:45.26 ID:xjfUKQMo
きたいして待ってる!
356 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 21:46:34.76 ID:jiTmmjc0
セリフの前に名前入れて欲しいな
オリジナルが多いから誰が何言ってるかわからない
357 :LX [sage saga]:2010/11/29(月) 00:28:38.14 ID:7NVBSu60
こんばんは。>>1です。
取り急ぎ生存報告です。

一応オチらしいものは考えました。あとはどうやってそこまで持ってゆくか、です。
いろいろなエピソードの部分を思いつき、それをどうふくらませ、それぞれどう繋げる
かで苦労しています。

もうしばらくお待ち頂きたく、すみません。
358 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 00:31:06.91 ID:kLdM0hIo
やった!
つまり続きが出来つつあるって事ですね
ゆっくりでいいから待ってる!
359 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 07:50:27.13 ID:PxrvrWko
待ってます
360 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 00:24:42.53 ID:wiC9wk2o
まーだっかな
361 :LX [sage saga]:2010/12/10(金) 20:41:41.56 ID:RFSLr420
こんばんは。>>1です。

100レスぐらいは書いたか、というところでふん詰まりました(泣
途中から分離してエピソードを2つぐらい入れてからまた戻そうかと考えていますが
結局同じところでふん詰まるような……

出だしは固まりましたので、発表しても問題はないと思うのですが、どうしましょう?
多分、50レスも進まないと思いますが……


能力開発シーンって難しいです。原作には殆ど出てきませんし、既発表の方のSS話は
素晴らしく、絶対どこかにあった話に似てしまうようで。

麦野沈利がゲームに出て来るそうで声優さんも発表されてますが、ちょっとイメージ
違うような気もします。
362 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 22:14:37.16 ID:NG7YOBwo
気にしたら負けだろ
SSなんだからオリ設定でも構わないと思う
363 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 22:30:37.61 ID:jn2.ZiMo
>>361
できたら でいいけど、オリキャラ祭りでちょっと こんがらがって きたから簡単な人物紹介書いてくれると嬉しい
364 :LX [saga]:2010/12/11(土) 08:57:40.12 ID:nEIb/ac0
皆様おはようございます。>>1です。

ご要望がありました、登場人物の紹介編を投稿致します。
纏めを作った結果、自分自身も改めてキャラの位置づけを確認できましたので
おかげさまで助かりました。
>>363さん、有り難うございました。

ちょっと下まで落ちていますので、今回はage進行で参ります。
365 :LX [saga]:2010/12/11(土) 09:02:14.72 ID:nEIb/ac0
第1部 キャラ説明

1)主人公のまわり

主人公 佐天利子(さてん としこ) 東京都に住む中学生。第1部では中学2年生3学期から3年生の1学期途中。
                  年齢は戸籍上は14〜15歳。愛称リコ
                  母親は佐天涙子(さてん るいこ)、父親不明。
 
母   佐天涙子(さてん るいこ) 東京都在住、世界的にも著名な気象学者。現在36〜37歳。
                  シングルマザーとなって佐天利子を育ててきた。
                  風使い(エアロマスター)系の能力者であったが捨てたことになっている。詳細不明。                          実家とは音信途絶状態。

詩菜大おばさま
  上条詩菜(かみじょう しいな) 東京都に住む。現在59〜60歳。夫は上条刀夜(かみじょう とうや)で、
                  息子が上条当麻(かみじょう とうま)、嫁が上条美琴(かみじょう みこと)
                  息子当麻の依頼で、佐天涙子・利子親娘を一時期預かる。
                  後に自身の孫娘、上条麻琴(かみじょう まこと)も預かることになる。
                  その後、佐天涙子は1軒隣の家を購入し離れるが、出張の際は佐天利子を預かり、
                  彼女の幼年期は事実上母親役であった。
                  待望の女の子ということで実の孫である上条麻琴と分け隔て無く育ててきた。            

美琴おばさん
  上条美琴(かみじょう みこと) 学園都市第八学区在住。旧姓御坂、御坂美琴(みさか みこと)。現在37〜38歳。
                  大学卒業後、22歳で上条当麻と結婚。学園都市教育大大学院生2年生、23歳で女児出産、
                  上条麻琴(かみじょう まこと)と名付ける。
                  現在、学園都市理事会広報担当委員。
                  レベル5 通称 超電磁砲<レールガン>
      
366 :LX [saga]:2010/12/11(土) 09:05:42.90 ID:nEIb/ac0
上条のおじさま
  上条当麻(かみじょう とうま) 学園都市第八学区在住。24歳で御坂美琴(みさか みこと)と結婚。 
                  現在学園都市理事会メンバー(詳細不明)
                  幻想殺し<イマジン・ブレイカー>

親友のマコ 
  上条麻琴(かみじょう まこと) 第1部前半では東京在住で、物語中盤に中学三年生に進級の際、学園都市に転出し、
                  柵川中学校に転校した。現在風紀委員<ジャッジメント>、117支部所属。
                    
                    *本文では114支部になっていますが、これだと多分第4学区になってしまいます。
                    柵川中学校がどこにあるか、原作では明確に書かれてませんが、多分第7学区でしょう。
                    ということで訂正しました。

                  主人公佐天利子(さてん としこ)と同い年14〜15歳。
                  上条当麻(かみじょう とうま)と上条美琴(かみじょう みこと)との間に産まれた一人娘。
                  左利き、母の能力を受け継ぎ、電撃使い<エレクトロマスター>として能力発現、
                  まだ静電気までしか扱えていないらしいが第1部終盤ではレベル3まで到達。 

上条家の主
  上条刀夜(かみじょう とうや) 東京都に住む。妻は上条詩菜(かみじょう しいな)、
                  息子が上条当麻(かみじょう とうま)
                  今なお、世界中を旅しており、いつの間にかいなくなり、いつのまにか帰ってくる。
                  いい加減詩菜からは愛想を尽かされつつある……。
367 :LX [saga]:2010/12/11(土) 09:09:13.29 ID:nEIb/ac0
2)中学校のクラスメート(全員オリキャラ)

ケイちゃん
    三田桂子(みた けいこ)  中学三年生になって佐天利子と同じクラスになった。陸上部・走り高跳びの選手。スリム。
                    
ひろぴぃ
    加藤裕美(かとう ひろみ) 中学三年生になって佐天利子と同じクラスになった。陸上部・短距離の選手で都大会出場経験もある。
                  小柄でグラマー。ストーカー被害経験あり。  
                                            
    佐々木剛士(ささき たけし)男子生徒。三年生になって隣のクラスに行った長坂弘(ながさか ひろし)の友人でもある。
                  長坂が佐天利子にラブレターを渡すのをずっとつきあっていた模様。

*隣のクラス
    長坂 弘(ながさか ひろし)佐天・三田・加藤の「陸上かしまし娘」の隣のクラスにいる。二年生の時は三田桂子と同じクラス
                  だった。佐天利子にラブレターを渡す。
368 :LX [saga]:2010/12/11(土) 09:15:24.30 ID:nEIb/ac0
3)学園都市

*カエル顔の医者  (カエル医者)  基本的に原作のまま。年齢は上昇しましたが、今なお現役、と言うところでしょう。                           冥土返し<ヘヴンキャンセラー> 

*妹達<シスターズ>
     ミサカ麻美(検体番号10032号) 御坂妹。現在も冥土返し<ヘヴンキャンセラー>の病院に勤める看護師。
                       言葉遣いは基本的には普通になっている。

     ミサカ美子(検体番号10039号) 現在、上条美琴の秘書。美琴が休暇を取る場合や出張する場合の代打ちを
                       勤めることが多い。言葉遣いはノーマルを基本。
                       上条当麻派で、言葉ではストレートに欲望を出すが、実際の行動は?

     ミサカ琴江(検体番号13577号) 現在、ミサカ麻美と同じく冥土返し<ヘブンキャンセラー>の病院に勤める
                       看護師。言葉遣いは昔のままで、今となっては珍しい?    
 
     ミサカ琴子(検体番号19090号) 上条美琴の第2秘書。美琴が出張や外出した場合、美子が代打ちになるため、
                       秘書が必要になるので、その役をやることが多い。

     *なお、4名全員が今でも戦闘態勢を取ることは可能である。妹達<シスターズ>同士は昔のまま、検体番号で呼び合っており、
      戸籍名で呼ぶことはない。


*白井黒子 (しらい くろこ) 現在、学園都市在住。36〜37歳。学園都市風紀委員会<ジャッジメントステーツ>統括総合本部勤務。                   1級看護師免状所持。                                                       弱冠20歳で、漣健介(さざなみ けんすけ)と結婚、漣黒子(さざなみ くろこ)となる。
                翌年21歳で長男の漣孝太郎(さざなみ こうたろう)出産。
                但し23歳で夫婦生活は破綻し別居、27歳で離婚、旧姓の白井黒子に戻る(設定です)
                テレポーター レベル4。 
                                 

*花園飾利 (はなぞの かざり)学園都市第三学区在住。36〜37歳。旧姓初春、初春飾利(ういはる かざり)
                学園都市風紀委員<ジャッジメント>情報部勤務。
                1級看護師免状所持。
                35歳でようやく結婚。まだ新婚さんです。(設定です) 
                               
                *<ゴールキーパー>は不滅です。


*麦野沈利 (むぎの しずり) 現在、学園都市在住。41〜42歳。学園都市風紀委員会<ジャッジメントステーツ>特殊任務委員長。
                1級看護師免状所持。(設定です)
                学園都市理事会メンバーの命令で、人工授精の結果、25歳で長女麦野利子(むぎの りこ)
                を出産するが、利子が2歳になる直前に学園都市に連れ去られる。
                娘を拉致した鮎原リサーチセンターの前野研究員から、自分の相手、麦野利子(むぎの りこ)の
                父親がレベル5の垣根帝督であることを教えられる。
                レベル5 原子崩し<メルトダウナー>
369 :LX [saga]:2010/12/11(土) 09:19:51.24 ID:nEIb/ac0
第1中央能力開発センター編)

*湾内絹保 (わんない きぬほ)現在、学園都市在住。36-37歳。学園都市第1中央能力開発センター勤務。
                レベル3 水流操作<ハイドロオペレータ>(設定です)

*館川夢乃 (たてかわ ゆめの)学園都市の先行体験・見学講習会に参加していた中学生。
オリキャラ           能力判定簡易検査で無能力と判定され悔しがって泣いた。


*湯川宏美 (ゆかわ ひろみ) 学園都市の先行体験・見学講習会に参加していた中学生。
オリキャラ           能力判定簡易検査では判断できず、精密検査を受けることになった。

キリヤマ医科学研究所編)  (全員オリキャラ) 

*大川孝弘 (おおかわ たかひろ)キリヤマ研究所 課長研究員。黒田主任研究員の上司。

*黒田明  (くろだ あきら) キリヤマ研究所 主任研究員。
                学園都市新入生のリストから佐天利子を発見。暗部下部組織に依頼し、彼女を東京から拉致してくる。

インターナショナル(株)第6倉庫編)(全員オリキャラ)

*漣孝太郎 (さざなみ こうたろう)現在高校1年生。16歳。風紀委員<ジャッジメント>特殊任務委員会メンバー。
                  漣健介(さざなみ けんすけ)と黒子との間に産まれた。
                  2歳の時に両親である健介・黒子は別居、父健介に引き取られ、6歳の時に寮に
                  入ったため、両親と過ごした時間は少ない。
                  母、白井黒子の能力を受け継ぎ、テレポーター レベル4の能力を持つ。

鮎原リサーチセンター編)

*浜面理后 (はまづら りこう) 旧姓滝壺。滝壺理后(たきつぼ りこう)
                 瀬戸内海の小豆島に住む。現在39歳。夫は浜面仕上(はまづら しあげ)子供は2人。
                 レベル4 能力追跡<AIMストーカー>
*登場させた後に22巻読んで引きつりました(苦笑)

*笹岡梢 (ささおか こずえ) 鮎原リサーチセンター第3チームリーダー。

*前野保 (まえの たもつ)  鮎原リサーチセンター 部長研究員。レベル5同士の人工授精による第二世代育成計画責任担当者。 

*チャイルド・エラー 18番  当時11〜12歳の女の子。AIM拡散力場の流れを逆に読み、過去の事象を捉えることが可能。
                当時はレベル3 過去探索<リバースド イベント>

*チャイルド・エラー 37番  当時8〜9歳の男の子。テレポーター。レベル2。

*チャイルド・エラー 55番  当時5〜6歳の男の子。能力不明。

*チャイルド・エラー 99番  当時5〜6歳の男の子。能力不明。

*チャイルド・エラー136番  当時10歳くらいの髪の長い女の子。能力不明。

*チャイルド・エラー174番  当時5〜6歳の男の子。能力不明。
370 :LX [sage saga]:2010/12/11(土) 09:23:35.46 ID:nEIb/ac0
>>1です。

再びsage進行に戻しました。
登場人物の御紹介は以上です。
一部、改行に失敗して読みづらい部分が出来てしまいました。
申し訳ありませんでした。

では第2部作成に戻ります<(_ _)>
371 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 09:40:29.58 ID:iA5g50co

続き待ってる
372 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 21:17:38.06 ID:WvmzahAo
イッキ読みしてしまった。
他のメンツの現状も気になる。
373 :LX [saga]:2010/12/25(クリスマス) 19:26:29.08 ID:A8JqrPw0
皆様、こんばんは。>>1です。

長らくお待たせ致しました。

第二部、投稿開始致します。完成しておりませんので、途中で止まりますがご勘弁下さいませ。
しばらくはageで参ります。ご了承下さいませ。

374 :LX [saga]:2010/12/25(クリスマス) 19:34:42.00 ID:A8JqrPw0
<第二部>


「行ってきま〜す」

「ごはんまだ〜?」



「ぶっ!?」

あたしはあやうくフローリングの床で滑って転ぶところだった。

「いいから静かにしてなさい!! あたしは学校行ってくるんだから!」


あたしの名前は佐天利子(さてん としこ)、学園都市教育大付属高校に通う高校1年生。

あたしは、高校1年からここ学園都市に来た。だから、学園都市デビューは遅いグループに属している。



「おはようございま〜す、佐天で〜す」  あたしは隣の部屋のインタホンに向かって挨拶する。

お隣は湯川宏美(ゆかわ ひろみ)さん。

そう、あたしと上条麻琴が初めて二人で学園都市に入ったとき、第一中央能力開発センターで一緒のグループになったうちの1人だ。

世の中は思ったより狭い、なんてね。彼女はあたしより1つ年上の2年生だ。

少しして、ドアが開いた。

「おはようございます。お待たせ。じゃ、行きましょ!」

湯川さんが玄関を開けて、扉を閉めた。殆ど音がしない、重厚な扉。

ここはオートロック、まるでホテルかと思うような、贅沢な作りの教育大付属高校の女子寮の廊下。

もう慣れたけれど、最初に来たときは正直あたしは少しびびった。



分厚いカーペットの上をあたしと湯川さんは並んで歩いて行く。

「佐天さん? つまんない話だけれど」  湯川さんがいたずらっぽい顔であたしを見る。

「昨日から、誰か、お部屋にいるの、かな?」
375 :LX [saga]:2010/12/25(クリスマス) 19:37:40.17 ID:A8JqrPw0

「わっ!?」

     ――― ドスン ―――  

あたしは今度こそ転けた。カーペットの継ぎ目に靴先をひっかけて。

「ちょ、ちょっと! 佐天さん大丈夫!?」

「ててて……、だ、大丈夫です。スイマセン」  あたしは湯川さんに掴まって立ち上がった。

「危ないわねぇ、気をつけないと……。 で、マンガ的にこのタイミングで転けるというのは、図星、ってわけ、なのかな?」

湯川さんが(ほーら、はよ言え)という顔であたしを見てくる。

「ち、違いますよぅ、そんな期待してるようなことじゃないんですよぅ! 誤解しないで下さいよ!」

あたしはあたふたと手をふりまわして、湯川さんの誤解を解こうとする。

「ふ〜ん、そうなの?」

「あ〜、先輩が今晩うちに来ればわかりますから!」

「あら、そう。行って良いのかな?」 

湯川さんは、(会わせてくれるってことは、カレシとかじゃないのか〜)とでも思っているのか、明らかにちょっと落胆した感じで

返事を返してきた。

「せんぱ〜い、まさか、おかしな事考えてたんじゃないでしょうね〜? だいたい、ここに外部の人は簡単に入れませんよぅ?」

「こらっ! 先輩を冷やかしちゃだめっ!」

あたしたちはエレベーターホールでエレベーターを待つ。
376 :LX [saga]:2010/12/25(クリスマス) 19:46:02.13 ID:A8JqrPw0
(夕方・完全下校時刻を少し過ぎた頃)

「あ〜、自分で取っておいてナニだけど、月曜から補習って失敗したかなぁ〜…… 花の女子高生だってのに……」

あたしはブツブツ文句を言いながら連絡バスを降りた。

「高校受験より酷いかも……」 クラスメイトの大里香織(おおさと かおり)ちゃんがあたしのつぶやきに合わせてため息をついた。

「こんなに補習があるだなんて、詐欺だよねー」

「……うん」 あたしも同感だ。

高校から入ったクラスの人間は、学園都市育ちの人とのカリキュラムレベルを合わせるために補習に次ぐ補習があるのだった。

(解説)

学園都市のカリキュラムは、普通の学校で行う勉強の他に、「超能力」についての開発が入っていることに非常に特徴がある。

どっちかというと、この「超能力開発」にスポットライトが当たることが多いのだけれど、実は「普通の学校で行う勉強」についても、

実際のところは違うのである。

簡単に言うと、幼稚園の段階で、既に小学校低学年でやるような事を教えてしまっているのだ。

従って、小学校に入学すれば4年生のレベルの勉強が、そして高学年では中学校の、中学校では高校生の、と言うような感じだ。

しかし、当然ながらそれぞれの段階で外から入ってくる児童・生徒・学生がいる。いきなり、下から上がってきているひとたちと同じ

レベルのクラスに入れると問題が起きるので、どこの学校もレベルによって区分けを行っている。

もちろん、逆に素晴らしく優秀なひともまれに存在するわけで、そう言う人たちは飛び級で進学できるようにもなっている。

だから中学校3年生のレベルのクラスに何故か小学生程度の子供がいたりする。

ちなみに、あたしのいるクラスは全員が高校入学からの転入組だった。
377 :LX [saga]:2010/12/25(クリスマス) 19:48:12.60 ID:A8JqrPw0

ちなみに、あたしのいるクラスは全員が高校入学からの転入組だった。

補習は3時限あり、最後は完全下校時刻の18:30直前の18:15まで行われていて、連絡バスはその18:30に終バスが出る。

これに乗りはぐれると歩いて帰ってくるか、タクシーを使うしかなくなるのだ。

東京より圧倒的に不便だ。時代の最先端を行く学園都市なのに、なんという田舎かとあたしは今でも思う。

連絡バスはタダだし、座れれば快適ではあるが、当たり前の事ながら、学校と寮との往復しかなく、途中下車は出来ない。

途中で買い食いとか本を買う、という場合には全く使えない。

「朝は仕方ないから乗るけど、帰りはね……」と言った湯川さんの言葉の意味が今よくわかる。

でも、朝にはメリットもある。これに乗ってさえいれば、たとえ途中で渋滞等によりそのバスが遅れた場合でも遅刻扱いにならないのである。

そのため、たいてい朝の最後の連絡バスはすし詰めだし、雨の日はもちろん沢山の人が乗る。

一度寝坊して、危なく最終バスに乗り損なうところだった。

(解説終)

あたしは寮の玄関前に立ち、左手をチェック機にに当て、「だるまさんがころんだ!」と話しかける。

「声紋チェック、さてん としこ と確認」

「静脈シルエット・指紋チェック 完了 さてん としこ 確認」

無機質な機械音声が流れてゲートが開いた。

正直、セキュリティはスゴイと思う。でも、すっごくトロいし、実際に一度にバスから30人も出てきたら、この6つしかないゲートは

行列になってしまう。これじゃぁ、連絡バスで帰りたがらない人が出てくるわけだよねー。
378 :LX [saga]:2010/12/25(クリスマス) 19:50:33.63 ID:A8JqrPw0
>>1です。

すみません、>>377の1行目、ダブりました。大変失礼致しました。

<(_ _)>
379 :LX [saga]:2010/12/25(クリスマス) 19:53:47.58 ID:A8JqrPw0

「月に代わって、おしおきよ!」

隣のゲートでは、カオリん(大里香織)がセーラームーンの決めぜりふで声紋チェックをやっていた。

最初の頃はみんなマジメに自分の名前を言っていたけれど、いまでは誰もマジメに言っていない。

ただ、まずい言葉はあるらしくて、あるとき誰かが「痴漢〜!」と叫んだところ、いきなりサイレンが鳴って警備ロボがすっ飛んで

きた事があって、その子は後で寮監からこっぴどく怒られていた。


ふかふかの絨毯を踏んで、あたしたちは食堂に入った。

ブッフェスタイルなので、この時間になると残りは少なくなっていた。

プチトマト完売。キュウリのスライス完売。水菜完売。スイートコーン残り僅か。レタス少し、千切りキャベツ少し。

セロリ 沢山(笑)、きんぴらゴボウ 少し、ほうれん草おひたし完売……

ベーコン少々、ソーセージ完売、生ハム完売、ハンバーグ完売、チキンカツ完売、メンチカツ完売、スモークサーモン残、ゆで卵残、

生卵残、ええええ? 結局、ごはんとみそ汁、スープ以外、何が残ってるんだろう??

そして、あたしたちの最大の楽しみ、デザートは「んなもの、あるわけねーだろ」状態だった。

猫がなめたように綺麗さっぱり消えていた。

「はぁ……、補習だとやっぱり無理だよね……」  あたしはため息をつく。

「あたし、今日はご飯ぬいちゃおうかな、疲れたし」  カオリんもため息をついた。

「そう言って、チョコ食べると太るよ?」   あたしはカオリんのウエストをおおげさに見ながら釘を刺した。

「どこ見てるのよ? やめてよ〜、気にしてるんだから!」   カオリんが笑いながらあたしの肩をパンと叩く。

「ま、少しでも良いから食べよう?」   

「うん、リコちゃんと一緒ならいいよ?」   

ニコッと笑ったカオリんと一緒に、あたしは夕飯を食べた。お互いに少しは気晴らしになっただろうか。
380 :LX [saga]:2010/12/25(クリスマス) 19:56:41.67 ID:A8JqrPw0

ふと、あたしは思った。

詩菜大おばさまは、あの家で、一人でご飯を食べているのだろうか……、寂しいだろうなぁ……





「上条さん、どうしましたぁ?」    御坂美鈴がほんのり赤い顔で言う。

「はいはい? いえね、あの子たち、ちゃんとご飯食べてるかな?ってふと思っちゃったりして……」

上条詩菜がこれまた少し赤い顔で答える。

「ふーん、寂しいんだ?」    美鈴がからむ感じで突っ込む。

「そうね、ちょっと寂しいかもね。だーから、美鈴さんを呼んだんでしょー! ほらほら、かんぱーい!」

「いぇーい!」


キャハハハハという二人の笑い声が玄関から漏れ聞こえている。


「どうした?」

「今、凄く入りづらい……」

「なんで?」

「かなり出来上がってるらしいんだよ」

「じゃぁちょうど良いんじゃないか?」

「どうやら、きみのかみさんも一緒みたいなんだが?」

「え?…………あの、上条さん、場所を変え……ないかな?」


上条刀夜と御坂旅掛の二人は玄関先で立ちすくんでいた。
381 :LX [saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:00:11.71 ID:A8JqrPw0

「じゃ、おやすみ〜」

「おやすみなさ〜い」

カオリんは4階で降りた。あたしはそのまま8階まで上がってゆく。 自分の部屋の前まで来て「あ」とあたしは思い出した。

あたしはカバンをドアノブにぶら下げておき、隣の湯川さんの部屋のインタホンに向かって喋る。

「こんばんはー、佐天です。先輩いらっしゃいますか?」

しばらくして湯川さんが出てきた。

「遅かったのね、今日も?」

お疲れ様、と言う感じで声をかけてくれた。

「はい、月曜からってのは勘弁して欲しいですねー」とあたしも合わせて答える。

「もしかして、朝の話の続き、なのかな?」

「そうですよー」

「ホントにいいの、かな?」

「いいですよ、やましいことないし」

あたしはカバンをノブから外して、オートロックチェッカーに自分の左手を当て、ロックを解除した。ドアを開けると玄関に電気が点く。

「おなかすいた、おなかすいた、おなかすいた!」

いきなり叫ぶものがいた。

「佐天さん、だれっ??!!」

湯川さんがバッとあたしの後に隠れる。

「大丈夫ですよ、安心して下さいな」

あたしは湯川さんの肩をぽんぽんと叩いて、靴を脱いで部屋に上がる。

湯川さんもサンダルを脱いでおそるおそる、と言う感じでうしろについてくる。

「あ」



「ごはんまだ〜 ごはんまだ〜」

九官鳥だった。
382 :LX [saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:03:25.41 ID:A8JqrPw0

「いや、昨日のことなんですけどね」

あたしは湯川さんに話し始めた。



*ふとんを干そうとベランダに出ると、何か黒いものがそこにいた。

「あら?」

「おなかへった、おなかへった、おなかへった」

いきなり呼びかけられて、あたしは思わずふとんを落としてしまった。

九官鳥がそこにいたのだった。

あたしが、そーっと後ずさりすると、九官鳥は「おなかへった、おなかへった」と言ってあたしについてくる。

とうとう部屋の中にまで入ってきた。

「アンタ、人に慣れてるねぇ?」

あたしは何か食べるものなかったかな?と考える。

ものは試しでピーナツをあげてみた。

トリはいきなり丸飲みして「クー」と鳴き、また「ごはんまだ? ごはんまだ? おなかへった」と言う。

あたしは3つあげた。3つともすぐさま丸飲みした。

「あたし、あんた飼うこと出来ないから、ほら、バイバイ?」

あたしは九官鳥を外へ追い出して、ふとんを干した。
383 :LX [saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:07:21.00 ID:A8JqrPw0

2時間ほどして、ふとんをひっくり返そうとしてベランダに出ようとしたら、


―――― そこに、ヤツはいた ――――


つぶらな瞳でそいつはあたしを見て、

「ごはんまだ? ごはんまだ? ごはんまだ?」と鳴いたんですよ。



「アンタねぇ、あたしは飼えないって言っただろー?」と言ってしっしっと追い払おうとすると

あの野郎、いきなりあたしのアタマに止まって、

「おなかへった、おなかへった、おなかへった」と鳴きやがったんですよ。


「佐天さん、ちょっとだんだん言葉が乱暴になってきてるわよ?」 湯川さんがたしなめる。

「あはは、そうですね。でも本当にあのときはコイツをマジで締めようかと思いましたよ、あー、思い出しても腹立つ!

だってですよ、トリの爪がアタマに食い込んで、そりゃ凄く痛いんですよ。病気持ってるかもしれないし。

ヒチコックの『鳥』を思い出しちゃいましたよ。まぁそれでコイツをつかんで外へ放り出したんですが……」

九官鳥は飛んでいった。

あたしはホッとして、やがてそのことを忘れた。

そして夕方。洗濯物を取り込もうとしてカーテンを開けると


―――― ベランダの手すりに、ヤツは留まっていた ――――
384 :LX [saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:10:10.17 ID:A8JqrPw0

あたしは意を決して、ガラとサッシを開けると、そいつはニコッとして(そういうように見えた)

「ごはんまだ?」といいやがりましたよ。

あたしが「不幸だ」とため息をつくと、そいつはひょいと飛んでよく知った家のごとく中に入って「おなかへった」と

いいやがったんですよ。

あたし、とうとう根負けして、でも鳥かごがないので、とりあえず段ボール箱に入れてあるんですが……


「おもしろいわぁ! アハハハハハハハハ、あなた、すっかり九官鳥に気に入られたのね、おなかへった、ごはんまだ?

ってすごいわぁ、アハハハハ」

湯川さんが腹を抱えて笑う。

「でも誰が教えたんだろうね? よりによって、『おなかへった』と『ごはんまだ』って、何よ? ……… 子供かな? 

よっぽどおなか空かせてるんだわね、かわいそうに……え?」 

ふと、湯川さんがまじめな顔になった。

あたしも気が付いた。

まさか、……虐待?

「ちょっと気になるわね。他に言葉は出てこないのかな?」   湯川さんが聞く。

「うーん、まだ1日しか経ってませんから……。もう少し時間が経つと他に喋るかもしれませんが」

「よし、明日、風紀委員<ジャッジメント>のみんなに相談に行くわよ!」

「……マジですか? あたし、明日も補習なんですけど」

「あら残念ね。じゃ、あたしがこの子借りるわ。あたしは通常授業だから結構時間はあるから。まかせてよ」

湯川さんはそう言って、あたしのところから九官鳥の入った段ボールを持って部屋に帰っていった。
385 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:20:28.58 ID:A8JqrPw0
>>1です。 

10レスほど続けましたので、再びsage進行と致します。

佐天利子シリーズ、高校編に入りました。
自分で書いていて、先般の「キャラ一覧表」を作成しておりまして、
まぁ随分と(『とある科学の超電磁砲』のオリジナルメンバーたちが)歳食った
時代の話を書いてるもんだ、と自分で驚いてしまいました。

当然ながら、当SSオリキャラだらけになりますのでまたどこかで一覧表を作る必要が
あるな、と思っております。

では投稿を再開致します。

386 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:23:33.60 ID:A8JqrPw0

火曜日。

今日も補習。でも昨日より1限少ないので、昨日よりずっと早く帰ることが出来た。

今日はカオリん(大里香織)の他にもう2人クラスメイトがいた。青木桜子(あおき さくらこ)ちゃんと、

前島ゆかり(まえしま ゆかり)ちゃんだ。

寮のゲート声紋チェックで、

あたしは「ひらけー、ゴマっ!」とベタな呪文を、

カオリん(大里香織)は「助さん、角さん、やっておしまいなさい」と何かのせりふを、

さくら(青木桜子)は「主であるイエス・キリストは、全てをお見通しでいらっしゃいます」と。 へー、クリスチャンだったんだ……

ゆかりん(前島ゆかり)は「お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許し下さい」 

ええええええーっ????? それはまずいんじゃないの??



果たせるかな、

「言動に問題があります」  

と警告が出て、警備ロボが2台飛び出てきて、

寮監さんが飛んできた。

「誰だ? なんだ、まえしま、またお前か!? ちょっと来なさい!!」

「えー、なんでよぅ??」

……ずるずると彼女は引きずられていった。

以前「チカン!」と叫んだのは、どうやらゆかりんだったらしい。

これで前科2犯になってしまった。もう少し当たり障りのない言葉にすればいいのに……
387 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:27:07.53 ID:A8JqrPw0

早く帰って来れたので、ブッフェは今日はかなり余裕があった。サラダバーもバッチリだ。

「リコはちゃんとお通じ来てる?」   カオリんが皿にグリーンリーフとカイワレ大根を載せながら聞く。

「んー、あたしは今朝、ちゃんと太いの出たよぅ?」  あたしは、紫キャベツみじん切り+キュウリ+プチトマト+スイートコーンの

サラダにドレッシングをかけながら、どんなもんだい、と胸を張って言う。

あ、さくらが皿を落とした……。あー、もったいない、フランクソーセージが2本も……。


席に着くと

「ちょっと、カオリん、こういう場所で何てことを聞くのよ?」   さくらが言う。

「いいなぁ、リコは。あたしこれで3日めだよ?」    カオリんがさくらを無視する形で、ため息混じりに言う。

「く……、あ、あんたたちは……場所も考えずに〜!」   さくらがブルブルと、あ、火花が出た!

「あ、さくら、ごめんごめん、押さえて、ね? お願い!」   カオリんが必死でさくらを押さえにかかる。

「いいから! ちょっとカバン取ってくれる? 早く早く!!」   さくらが赤い顔で焦り気味に言う。

「ほい、これ!?」    あたしはさくらのカバンを渡す。

彼女はカバンの脇から釣り竿のようなものを取り出し、ひょいと先っちょを天井に向けて投げ、スプリンクラーにその先を巻き付けた。

「?」
「?」
388 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:32:13.54 ID:A8JqrPw0

「でぇーいい!!!」 

 
―――― イオンの臭いがあたりに漂った ―――― 


さくらがかけ声と共に放電したらしい。ハァハァとちょっと荒い息を吐く。

「ま、間に合った……」

「青木さんて電撃使い<エレクトロマスター>だったの?」   あたしはさくらに聞く。

「う、うん。マスターってレベルじゃないけど……レベル2なの。まだ感情の起伏が……、そのまま、能力発動しちゃうの。

だから、気をつけてるんだけど……って、食堂で変な話出さないでよ、もう」

そこへ、ゆかりんがふらふらと歩いてきた。

「ゆかりん! こっち〜、こっちだよ!」 あたしは彼女を呼んだ。



「ふぇ〜っ、あたし、死んだわ〜」   ゆかりんはぐだーっとテーブルに突っ伏してしまう。

「怒られた?」   と、あたし。

「叩かれた?」   と、カオリん。

「ううん、反省文書けって言われた。でさ、あたしってほら、自動書記<オートセクレタリー>だから、楽勝だと思ったんだよねー」

「それで?」    と、さくら。

「そしたらさー、アタマにジャマーつけられちゃってー、そしてさ、反省文を紙に書けって。ジャマーついてるからホントに文章を

考えて書くの、大変だったのよ……」   机に突っ伏したまま、カオリんがぼやく。

「だから、何もわざわざ変なこと言わなければいいじゃない?」   さくらが言う。

「えー、だって自分の名前いうのは、個人情報を自分でさらけ出しちゃうようなものだから、アウトでしょ?

でさぁ、同じパスワードを使い続けちゃいけない訳でしょ? あたしのおつむじゃもうネタ切れなのよねー」
389 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:36:21.41 ID:A8JqrPw0

「だからって、何もわざわざ物議を醸すようなネタを言わなくてもいいじゃないの?」   カオリんが突っ込む。

「そうかなー? わりとありふれたフレーズだと思うけどな?」

「いや、ありふれた物議を醸すネタは沢山あるわよ?」   あたしが今度はゆかりんに突っ込んでみる。

「どんなの?」

「アンタの『チカ〜ン』の類なら、『ドロボー』とかさ、『火事だぁ』とか」

「ふんふん」

「それから、『先立つ不幸』だったら、『もう探さないで下さい』とか『人生に疲れました』とか」

「おお、いいねぇ」

「ちょっと、ゆかりん、まさかアンタ、あたしが言ったネタ、使おうなんて考えてないわよね?」

あたしは念のため、ゆかりんに釘を力一杯打ち込んでみたが、果たせるかな返ってきた言葉は

「え? まずいの、今のヤツ?」    あのねぇ、ゆかりん?

「だ・か・ら、物議を醸すネタと言ってるでしょーが……」    あたしは脱力してしまった。

「アハハ、大丈夫だよ、リコ。あたし、良い方法思いついたから」

「何?」
「何よ?」
「言ってみなさいよ」

あたしら3人はゆかりんに迫る。

「手に取った教科書の1フレーズを読むことにした!」

「……」
「……」
「……」   

あたしら3人沈黙。 まぁ、それなら、問題は起きないと思うけど……

「みんな、それでご飯は?」    ゆかりんが尋ねる。

「ううん、これから」    さくらが答える。

「今までお通じの話してたの」  こら〜ぁ、おおさと〜!!! はっきり言うな〜!

「うんこのこと?」    

あたしら3人はずっこけた。
390 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:42:57.32 ID:A8JqrPw0

4人であーだこーだとおしゃべりしつつ、夕飯を食べているとあたしの携帯がブルブル震えた。

ちなみにこれは学園都市で買った携帯だ。

開くと湯川さんの顔が映った。

あたしはちょっと席を外して電話に出る。

「はい、お待たせしてすみません! 佐天です」

「もしかして、ご飯食べてた、かな?」   さすが湯川さん、鋭いのは耳だけじゃないな……

「ええ、もうすぐ終わるところですけれど。今、どちらですか?」

あたしが今度は尋ねた。このへんではなさそうな場所に湯川さんはいるみたいだ。

「そうそう、あなた、お手柄よ、あなたと、あの九官鳥! 置き去り<チャイルドエラー>を虐待していた養護施設が見つかって、

摘発されたの。今、わたしもそこにいるんだけど、ここ十三学区なんで、帰るのは少し遅くなりそうなの。

まだアンチスキルとの引き継ぎやら何やら終わってないし。

すまないけれど、寮監に門限に遅れる可能性があるからって伝えておいてくれると嬉しい、かな?」

ひゃー、やっぱりそうだったのか……、絞め殺さないで良かった……

「わかりました。じゃ寮監さんには、その旨伝えますね! よかったら後で来て下さい」

「ありがと、先に寝てていいわよ。寝坊されても困るし。その代わり明日の朝、早く起きてくれるかな? 朝食の時に話すわ。

朝7時に食堂。よろしくて?」

「はい、わかりました。それでは気をつけて、お仕事頑張って下さい!」

「じゃね!」

あの九官鳥がねぇ……。
391 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:47:18.14 ID:A8JqrPw0

でも、「ごはんまだ?」「おなかへった」で子供の悲痛なつぶやきじゃないのか? 

とアタマが回るところが、さすが風紀委員<ジャッジメント>だよねぇ……

「リコ? 誰からだったの? どしたん?」    カオリんが聞いてくる。

「湯川先輩から。あたしの隣の部屋のひと。風紀委員<ジャッジメント>なんだけど、仕事で遅くなるから寮監にあらかじめ伝えて

おいて、って」   あたしが説明する。

「かっこいいねー」   ゆかりんが遠い目をする。 「あたしも風紀委員<ジャッジメント>になりたいな〜」

「へぇ、それ、どうして?」   さくらが問いただす。「結構大変らしいよ? あんた大丈夫?」

「うん。あたしの自動書記<オートセクレタリ>には最もあってると思うから。書類作成ならお茶の子さいさいってもんよ!」

「あー、な〜るほどねぇ〜」   カオリんがすごく納得している。

「ね? あたしは世界一のOLになれるわよ、はっはっはっはっ!」

(いや、それはちょっと違うと思うぞ、ゆかりん)  

あたしは心の中で前島ゆかりちゃんに目一杯突っ込んでみた。

(でも、そういう実用的な、人の役に立ちそうな能力っていいな……)    ふとあたしはそう考えた。

(あたしの能力なんかより、どれだけ役に立つか)  

あたしはそう思って、彼女の能力がとても羨ましかった。
392 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:52:31.59 ID:A8JqrPw0

水曜日、朝7時。

「おはようございま〜す」

湯川さんは既にテーブルでスタンバっていた。

テーブルにはクロワッサン2つ、プチサラダとコーヒー、フルーツヨーグルトがあった。

「おはようございます。ごめんね、早起きさせちゃって」

「いえいえ、いつもとそれほど変わらないですよ」 

あたしはフルフルと首をふるが……

「ふふ、ウソばっかり。あなたの目覚ましは7時に鳴ってるじゃない? 地獄耳<ロンガウレス>は伊達じゃないのよ?」

そう、だった。湯川さんの能力は、恐るべき聴力だった。この寮全部の音を聞くなど朝飯前らしい。でも全部を理解して聞く事のは

さすがに演算が追いつかなくなるらしく、いつもは単に聞き流しているそうだけれど……。

正直、プライバシーの侵害にもなりかねない能力なので彼女が入寮して来てから、この寮の各部屋には対能力者用の防護装置が

もうひとつ追加されたのだそうだ。追加、とはなんのことかというと、今は卒業してしまった透視能力者のひとがいて、

本人にはそういう意思はないのだが周りがやはり落ち着かないから、と言うことで彼女に合わせた防護装置が設置されていたから

だそうだ。

………ちょっと待て、じゃどうしてあたしの部屋の目覚ましの時間が湯川さんにバレてるわけ? おかしくない?

「あなたの部屋の前の人は電磁波使いだったから、もしかしたら防護装置は壊しちゃったままなんじゃないかな?」


         ―――― え? ――――


あたしは茫然として、次にあることに気が付き真っ赤になった。あたしの部屋の音、全部筒抜けってこと?
393 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:57:09.15 ID:A8JqrPw0

「あああああの、今までずっと、聞こえてたんですか?」    小さな声であたしは聞いた。

「聞いてなかったけど、聞こえてたわよ、いろんな音やら、そのくらいの声とかでも」

あたしはぐわぁーっと恥ずかしさの感情が……

「いたたたたたた!」

AIMジャマーが作動したのだった。

「ちょっと、佐天さん、どうしたの? 大丈夫?」

「……だ、大丈夫です……」

さすがに中三の一時期のように、AIMジャマーが動作する度に気を失うような情けないことはもう無くなっていたが、

それでも演算を強制中断させるこのジャマーには文字通り頭が痛い。

一刻も早く自分の能力をコントロール出来るようにしないといけないな、と思う。

「もしかして、寮監に言ってなかったのかな?」   湯川さんがあたしに聞く。

「……知らなかったです……」

あたし、恥ずかしすぎる。

394 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 20:58:05.74 ID:A8JqrPw0

「あ、あの……」

「気にしなくて良いわよ」 湯川さんが少し笑って、でもまじめな顔で

「みんな同じ世代なんだし、ここには異性がいない女子寮だから、多かれ少なかれ、いろいろあるのが普通。

健康な子なら誰だってそう。あたしだって(笑)

でも、そんなことよりトイレのほうが大変だったわよ。全部そういうのはスルーしてたけど、ほんとたまらなかったわよ。

防護装置のおかげで実際あたしはものすごく助かってるのよ?」



えええええ!? トイレの音までぇぇええええええ??????



だめだ。もうあたし、生きて行けない!




久しぶりに、

強烈な、

頭痛が、

あたしを襲った。

「ちょっと!? 佐天さん、しっかりして? 起きて!」




………バスには間に合ったけど、朝ご飯は食べられなかった…… 

………学校の食堂が開く3時限の休みまで辛かった……
395 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 21:02:24.95 ID:A8JqrPw0

こういうときに限って補習は長い。今日もびっしり最終下校時刻まで目一杯補習だった。

「はらへった……」

「声紋チェック、さてん としこ と確認」

「静脈シルエット・指紋チェック 完了 さてん としこ 確認」

「はい?」

思わずつぶやいた言葉に声紋チェック機が反応したらしい。あたしはゲートから押し出された。

ふらふらしながら、そのままあたしは食堂に向かった。

「あ、リコ帰ってきた!」    さくらが手を振っている。

いいなぁ、さくらは早く帰って来れて……

「リコ、早くこっちこっち、来て来て!」    さくらがやたらテンション高い。どうしたんだろ?

「ちょっと待ってよ、牛乳くらい飲ませて?」

あたしは先にドリンクコーナーに行き、冷蔵庫からムサシノ牛乳を1本取りだし、その場でぐびぐびっと開けた。

「ふーぃ、一息ついた……」

あたしはいつものメンバーがいる場所に向かう。

「ただいま……」

「リコ、あの飲み方、おじさん臭いよ? もう少し淑やかに飲んだ方が」 ありがと、カオリん。 

「お疲れ、待ってたよーん? でさ、リコは、そんなに胸あるのにまだ牛乳飲むんだ?」

さくらが羨ましそうにつぶやいた。
396 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 21:05:16.51 ID:A8JqrPw0

「胸と牛乳は関係なーい」    あたしは速攻回答全否定!

「そうなの? じゃぁ都市伝説なのかなー、ムサシノ牛乳飲むと胸が大きくなるってのは?」

さくらはまだ追及の手を緩めない。なるほど、500mlパックが転がってるのはそれか。

「関係ないと思うよ、あたしのウチでとってたのは霜印のだったし」   あたしがとどめを刺す。

「ふーん」   さくら、納得してないね?

「そうそう、リコはどうしてそんなに補習多いの?」   ゆかりんが聞く。

「んー、週の前半に固めてるから、かな? だから明日は4時には終わるし、金曜はないもん♪」

「おお」というどよめきが。

「さっすが、考えてるねぇ」    カオリんが感心したように言う。

「みんな、ところでごはん食べたの?」    あたしが聞く。

「「「待ってたよ!」」」     3人がハモって答える。

「えー?待って無くても良いのに、おなか空いたでしょ?」

「「「ふふふふふふふ♪」」」     なに、この不気味三重奏?

気が付いた。お皿とフォーク。そこここに転がるケーキの破片。

「なに? なに? カオリん、今日のはなんだったの???」

「今日のデザートはシンプルな苺のショートケーキだったよーん♪」

あたしはくらっとめまいがした。「う……ふ、不幸だ……」

「大丈夫だよ、リコの分ちゃんと取ってあるからさ!」

あ、ありがとう、持つべきものは良いお友だちだね! カオリん!

「手間賃として、苺は頂きましたけど?」



あたしは突っ伏して泣いた。
397 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 21:08:35.30 ID:A8JqrPw0

「もう、ホントに苺だけ食べちゃうわけないじゃん? 信用してないの?」    カオリんが笑いながら怒る。

「……」   あたしはむすーっとしながら鳥からを食べていた。

「なんか怒ってるよ?」    ゆかりんがあたしの顔を見ながらカオリんにいう。

「ふーん、あんまりいつまでも拗ねてると、ホントに苺食べちゃおうかなー?」   彼女が言う。

「負けた! あたしが悪かったから、お願い、ケーキ出して!」    あたしは平身低頭する。

「よろしい、ではケーキを出して進ぜよう」    そう言って、カオリんはカパッと逆さにおいてあったどんぶりを開けた。

かわいらしい苺のショートケーキがそこにあった。

「うれしい!有り難う!!」
 
あたしは素早くその皿を引き寄せ、脱兎の如く残っていたごはんを一気に平らげた。

「はやっ!」

「スゴ……」

「執念がコワイわぁ……」    3人がドン引きしていた。
398 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 21:10:51.70 ID:A8JqrPw0

「あ〜 しあわせ〜♪」

あたしは幸せ一杯で、紅茶を飲みつつショートケーキを少しずつ少しずつ、ちまちまと削って食べていた。


「だってさー、ここのところ、毎日寮と学校の往復だけじゃない? 楽しみっていったら食べることぐらいじゃないのよ?

部屋に帰ったらテレビ見る……あーっ!??? そうだった!!」

あたしは気が付いた。防音設備は直ってるかしらん?

学校に着いてから、あたしは寮に電話を掛けて、寮監さんにあたしの部屋の防音設備の状態を確認してもらい、壊れていたら

直してもらうよう頼んでいたのだけど?

あたしはケーキの残りを口に放り込み、紅茶で流し込んだ後、パタパタと走って行き館内電話に飛びついた。



「なんか、今日のリコはせわしないよねぇ?」    大里香織(カオリん)が二人に同意を求める。

「うん、ちょっとヘンかも」            青木桜子(さくら)が答える。

「ちょっと情緒不安定かも? あの日かな」     前島ゆかり(ゆかりん)がストレートに発言する。

 
大里香織(カオリん)が「ぶっ」とお茶をふいた。
399 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 21:13:49.71 ID:A8JqrPw0

「保護装置が働いて、ブレーカーが落ちていただけだったから、リセットしてブレーカーを戻した。

テストの結果問題なく動作している、と業者から報告を受けた」という寮監の話を聞いたあたしは、ものすごくホッとした。

とりあえず今後は大丈夫だと。

精神的な重圧が消えたあたしは、気分もぐっと戻って、足取りも軽くみんなのところへ戻った。

「どうしたの? 何かあったの?」       カオリんが尋ねる。

「リコ、ちょっとヘンだよ? あの日なの?」  ゆかりん、アンタなんてことを……

「ななななななにを??? ち、違うわよ! あと1週間先! って、何を言わせるのよ?」

「いや、ちょっとリコのお天気がころころ変わるもんで……」    ゆかりんがぼそぼそという。

「はぁ……、部屋の電気の具合がおかしかったので、点検して下さいって頼んでいたの。単に電球の問題だけだったみたい」

「なあんだ……よかった。何か大変なことでもあったのかと思っちゃったわ」    さくらが明るい声で話を続ける。

「それでね、リコ、ちょっと見て欲しいものがあるんだけど?」

「ん? なーに、さくら? 」

「ジャーン! これなんだけど!」

さくらはカバンから雑誌を取り出した。

それは見覚えがある雑誌。

あたしの顔色が変わった。
400 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 21:17:43.17 ID:A8JqrPw0
お読み下さいました皆様、有り難うございました。
>>1です。

本日の投稿はここまでです。

明日は用事がありますので、投稿は遅い時間になると思います。
まだ投稿可能なパートですので、明日の投稿は大丈夫だと思います。
それではおやすみなさいませ。
401 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/25(クリスマス) 21:21:46.33 ID:NmvQ.6Mo
>>400
402 :LX [sage saga]:2010/12/25(クリスマス) 21:34:14.20 ID:A8JqrPw0
>>1です。

情けないですが、ミス見つけました。

>>388

X→ 考えて書くの、大変だったのよ……」   机に突っ伏したまま、カオリんがぼやく。

○→ 考えて書くの、大変だったのよ……」   机に突っ伏したまま、ゆかりんがぼやく。

ごめんなさいです。
403 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/25(クリスマス) 23:23:45.37 ID:dMilIMAO
久々に来てた乙
404 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 13:18:46.51 ID:xyTs5J2o
乙です
405 :LX [saga]:2010/12/26(日) 21:08:06.33 ID:DjGQxDw0
皆様こんばんは。
>>1です。

それでは本日の投稿を始めます。
*あっという間にテキストが進んでいきます。
年内どころか、御用納めまですらストックは保たないかもしれません。
406 :LX [saga]:2010/12/26(日) 21:09:30.02 ID:DjGQxDw0

「リコ?」 カオリんはあたしの顔色が変わったのに気が付いたらしい。

「これって、もしかして、リコよね?」さくらはあたしの顔色に気が付いていない。

彼女が手に持っている写真週刊誌。それは1年くらい前のもの。

あたしはその雑誌を絶対に忘れないだろう。




さくらが開いているべージには、3人の女性が写っていた。

それは、あの日、羽田空港でヘリから降りてタクシーに乗ろうとして3人で歩いていたときにパパラッチされた写真。

あたしの頭が黒髪のカツラだったときのもの。

粒子が粗いけど、あたしを見ながらその写真を見れば、十中八九「本人だ!」と思うレベルのもの。

あたしも母も美琴おばさんも撮られたことに気が付かなかった写真。


「……」

「おおおお、スゴ〜い、これ、ホントにリコだねぇ?」 カオリんが、

「このひと、超電磁砲<レールガン>の上条美琴さんでしょ?」 さくらが、

「そうなんだ? じゃこっちのひとが、リコのお母さん?」 ゆかりんが、

三人が興奮して雑誌を食い入るように見ている。

あたしは観念した。

「そう、それ、あたし。隠し撮りされたヤツ」
407 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 21:15:00.30 ID:DjGQxDw0

「でも、リコは、あんな目にあったのに、どうしてここにきたの?」 さくらが聞く。

「あの事件の被害者って、リコだったんだ……。 ここにも詳しい事書いてないんだけど、結局あの事件て何だったの? 

あたしの学校でも、先生がみんなに『おまえらも注意しろ』って随分言ってたし〜」  ゆかりんが突っ込んでくる。

あたしは答えられない……いや、答えたくない。

「……、ちょっと、かわいそうだよ。止めなさいよ、あんたたち。 リコ、いい思い出じゃないんでしょ? 

つらいこと思い出させるような事聞いて、リコをいじめちゃかわいそうだよ」  カオリんが二人を押さえるように言ってくれた。

「ありがと、カオリん。確かに、あんまり良い思い出じゃないの……」  あたしは小さい声で答えた。 



あんまりどころではない。

正直、思い出したくない悪夢。

忘れたいけど、忘れることができない、それは事実。

「リコ、ごめんなさい。ほんとにごめんね。そんなつもりじゃなかったの、忘れて」

さくらが顔色を変えてあたしに謝ってきた。

彼女は決してあたしをいじめるつもりで雑誌を持ってきたわけではないことは、もちろんわかっている。

わかってる……けど。
408 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 21:16:39.28 ID:DjGQxDw0

「……そう、だよね…… 思い出したくないよね、やっぱり」 ゆかりんも気が付いたらしい。

あたしも言うべきだろう。あたしは口を開いた。

「みんな、わかってくれてありがと。もう忘れた、なんてとても言えないし、ちっとも良い思い出じゃないから、

できればもう、ソレは話に出して欲しくないネタなの……」

あたしは話を続けた。

「さくら? 悪気があったとは思わないから安心して。持ってても良いけれど、あんまり見せびら

かさないで欲しいんだけれど…… ちょっと?あんた!」

「ご、ごめんなさい、これ、こうしちゃうから、ほんとに、ごめんなさい!」

さくらが雑誌をバリバリと引きちぎり、破いて、破いて、破いて粉々にして行く。

「あたしが、バカだったの。リコ、ごめんね。許してね」

そう言って、ポロっとさくらが涙をこぼした。

なにも泣かなくても良いのに……

「そうね、あんた、バカよ」

あたしはそういって、小柄なさくらを抱きしめて、軽くデコピンした。

「いったーい!」

「あはは、これでお終いよ! さ、あたしは部屋に戻ってあしたの予習やって風呂入って寝るぞー!」

あたしは明るい声を出して、湿っぽい雰囲気を吹き飛ばした。
409 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 21:18:45.99 ID:DjGQxDw0

「り、リコ?、あ、あ、あのね、ちょっと教えて欲しいところがあるから、後でお部屋行って良い?」

さくらが赤い顔であたしに聞いてきた。なに赤くなってるの? かわいい♪

「ん? じゃこのままおいでよ。さっさと終わらせよぅ?」

「うん! ありがと! じゃねー、カオリんもゆかりんもお先に〜」



佐天利子と、彼女に付き従うかのように、青木桜子がくっついて食堂を出て行く。

残された大里香織と、前島ゆかりはぽかーんとしている。

「な、なにあれ……あ、あの子たち、ゴミそのままにしていった……!」

「結局あたしらがやるのか……ってなんであたしたちがやるのよ、ムカつく〜ぅ! こりゃ明日のさくらはパシリ決定だねー!」

大里香織と前島ゆかりは、二人が出ていった後に散らばっていた雑誌の残骸を集めてゴミ箱に捨てた。


紙片がひらひらと舞い落ち、ゴミ箱からこぼれた。

大里香織はその紙片を拾い上げた。

切れ端に躍る二文字。

「拉致」


大里香織がつぶやく。

「そりゃ普通思い出したくないよねー」

「うん、誘拐なんてまっぴらよ……」 

前島ゆかりも小さく答えた。


410 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 21:21:25.87 ID:DjGQxDw0

さくらが帰ったあと。

あたしは思い出していた。


それはおよそ1年半前。

あたしが中学二年生終わりの時。

大親友の上条麻琴と一緒に軽い気持ちでここ学園都市に来たのが運命の大転換。

能力チェックで飲んだ能力発現促進剤のおかげで、あたしには無かったはずの能力がAIMジャマーと葛藤したことから、

あたしは能力者であることを認識した。

そして、三年生になって迎えた5月中旬のあの日。あたしは下校途中に拉致され、ここ学園都市のとある研究所に運び込まれたが、

その研究所は謎の爆発により吹き飛んだ。あたしは無事にそこから救出されたが、病院に入院したあたしを見舞うべく学園都市に

戻ってきた母をあるグループが誘拐、あたしもろとも海外へ売り飛ばそうとした。

しかし、そこに麻琴のお母さんである上条美琴おばさんや、謎の殺人ビーム女やらのおかげであたしと母は救出されたのだが、

最後の最後であたしは銃撃を受け、重傷のあたしは再び病院へ送られ手術を受けた。

そのときの頭のケガがもとで、あたしの能力は開発を受ける前に一気に開花してしまい、現在レベル3にあることが確認された。

ノーコンの能力者となったあたしは、そのまま東京にいるわけにはいかなくなったのだった。



あたしは学園都市から東京に戻った時の大騒ぎを思い出していた……

411 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 21:23:49.68 ID:DjGQxDw0

あたしたちを乗せたリモは、前に通った入出国ゲートに向かわずに、ドンドン街から離れて行く。

最初は美琴おばさんや母がいるから、と思っていたあたしもさすがに車が高速に入るとさすがに不安になった。

まさか、この二人は変装した暗黒組織の手下、とか??

「なーに心配してるのよ?」

美琴おばさんがニヤニヤしながらあたしを見る。

「空港、ですか?」

母が訊く。

「ええ、いつものところからはとても無理で」

美琴おばさんがため息をつきながら答えた。

「利子ちゃん、覚悟してなさいね、しばらくあなた、時の人だから」

あたしはなんのことだか理解出来なかった。

「ほら、これ、今の様子よ」

美琴おばさんは、バックから携帯データ端末を取り出し画面を見せてくれた。

前に出入りしたことがある入出国ゲートの東京側はひとで溢れていた。殆ど空も見えないくらい。

「これって……」

あたしは絶句した。
412 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 21:25:41.36 ID:DjGQxDw0


「どれどれ?」

隣に座っている母が端末を手にとって画面を見る。

「いやぁ、どこの大スターが来るんですかねぇ、ってこれ? ちょっとすごすぎですね……これじゃ、確かに出れませんね、

ここからは……」

最初は笑っていた母も、しまいには言葉を失っていた。

「どっちにしても、あたしたちは東京に黙って戻れないのよ。佐天さん、利子ちゃん、記者会見をやらないとダメみたいよ」

「えー、そんなのイヤですよー!!」

あたしは車の中で叫んだ。

その瞬間、あたしのアタマはギリギリと締め付けられるように痛んだ。

「くうっ」

あたしは両手で頭を抱えて下を向いた。

「あ、ジャマーが動作したかな?」

美琴おばさんが言う。

「利子、大丈夫?」

母があたしを抱きかかえるようにして優しくなでてくれた。

「かわいそうに……」

あたしのおでこに母は優しくキスをしてくれた。

「おまじない、よ」

「お母さん……」

あたしは甘えるように母に抱きつき、美琴おばさんは、そんなあたしたちを優しい目で見てくれていた。
413 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 21:30:30.27 ID:DjGQxDw0

結局あたしたちは国際空港からヘリで学園都市を後にして、羽田空港ヘリポートに着き、東京に戻ってきた。

「あー、やっと戻ってきたー! …… 痛たたた!」

あたしは思わず大きく伸びをしたが、背中にちょっと軽い痛みを覚えた。

「ほら、けが人なんだからもっと注意深くしてないとダメよ」

母があたしをたしなめた。

「利子ちゃん、これからが本番だからね、覚悟しててね」

美琴おばさんが恐ろしいことを言う。

「大丈夫よ、利子。殆どはあたしたちがしゃべるから。大体あなた、意識失ってたんだから質問の大半には答えられる訳がないでしょ?」

母があたしの不安を押さえるように言う。

「そ、質問の大半は、学園都市側のあたしに来るはずだから、あなたは黙ってなさいな。

そうそう、あなたは未成年で18歳未満だから、顔出しはないし、声も変換されるから今日は大丈夫よ」

あたしたちはヘリの乗降場カウンターからタクシーに乗り込んだ。

「けが人を歩かせてごめんね、さすがに横付けはちょっと出来なかったわ」美琴おばさんがすまなそうに謝る。

「いえいえ、リハビリみたいなもんですから、これくらいなら大丈夫ですよ」

あたしは東京に戻ってきたことがとっても嬉しくて、その後に来る大騒ぎを軽く考えていた。

でも、それが甘かったことは、その週に出た写真週刊誌であっけなく打ち砕かれるのだけれど……
414 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 21:36:17.42 ID:DjGQxDw0

あたしたちを乗せたタクシーは品川のあるホテルに入った。

そこに泊まるのか?と思ったらそこから地下駐車場に下りた。

「まるでアクション映画みたいだね?」

あたしはまだ自分に起きていることが現実だとは思えなかった。あたしはひたすら美琴おばさんに付いて歩いた。

それは母も同じだったようだけれど。

あたしたちは地下の駐車場に待っていた1BOXリムジンに乗り込み、品川のホテルを出た。

1BOXのリムジンはスモークガラスで、あたしたちからは外が見えるのだけれど、外からは中が見えないようになっているの、

と美琴おばさんが教えてくれた。

しばらく車は町中を走っていた。心地よい振動であたしは眠くなってうとうとしていた。

車が止まった。あたしは目を覚ました。

「着いたわよ」美琴おばさんは厳しい顔になっている。あ、色つきメガネかけてる?

「佐天さん、始まるわよ、しっかりしてね!」

「はい。利子、あんたもしっかりするのよ」母はサングラスをかけていた。

あたしは二人の雰囲気が全く違う事にちょっと驚き、一気に緊張した。
415 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 21:37:58.57 ID:DjGQxDw0

「さ、利子ちゃん、このパーカー被って? 顔を撮られないように深く被るのよ!」

あたしは訳もわからずに美琴おばさんに言われた通りにパーカーを被った。

「もっと深く、こう、ね?」

お母さんがフードを直す。あごのところで紐を縛る。

「それから、このサングラス付けて!」

美琴おばさんからあたしはサングラスを受け取る。

車の外のざわめきが聞こえてくる。ガードマンのひとがこちらを見ている。

ものすごい数の人たちがこの車を取り囲んでいる事にあたしは気が付いた。

ひとだけじゃない。ものすごい数のレンズがあたしたちに向いている。

「す、すごい……」

あたしは思わずつぶやいた。通路の両側は、ひととカメラで一杯だ。

「麻琴を連れて帰ったときよりはましよ、こっちの方が場所が広いし、統制取れてるし」

美琴おばさんが皮肉っぽく片目をつぶってあたしに言う。

麻琴がパニックになって電撃を飛ばした話をあたしは思い出した。麻琴の気持ちがよくわかる。すごく、怖い。

まずい、このままだとAIMジャマーが動作しちゃう!
416 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 21:44:09.87 ID:DjGQxDw0

「大丈夫、ここ、あなたの中学校の体育館だから、安心してね?」   美琴おばさんが思いも掛けない事を言った。

「へ?」

一瞬あたしは力が抜けた。

「利子、大丈夫よ、母さんがいるんだから、安心してなさい」    お母さんがあたしをしっかり抱きしめてくれた。

そうだ、母さんと美琴おばさんがいるんだっけ。

あたしは気持ちが落ち着いたのを感じた。


「さぁ、佐天さん、利子ちゃん? 行くわよ!」


美琴おばさんが、あたしをポンと叩く。あたしは現実に戻った。



美琴おばさんが車のドアを開けた。


「開いたぞ!」「出てくるぞー!!」「押さないで下さい!!」「前に出ないで下さい!!! 前に!!!」


すさまじい喧噪が襲ってきた。 


どよめきが、津波のように押し寄せてくる。


ものすごい数のストロボの閃光と


バシャバシャバシャバシャバシャという無数のカメラのシャッター音と


いろんな人の声が


突き出される無数のマイクが


向けられるTVカメラが


あたしたちを押し包んだ。

417 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 21:48:51.25 ID:DjGQxDw0









記者会見が終わった。

やっと終わった、というのがあたしの感想だ。 二度とこんな騒ぎに巻き込まれたくない。



あたしは曇りガラスで上半身は隠されていたし、しゃべる声はまるで子供アニメのようなおかしな声になっていたので、

自分が喋っているとは到底思えず、最初はまともにしゃべる事すら出来なかった。

そのうちに慣れたのだけれど、その頃にはあたしがしゃべることはもう殆ど無く、あたしは黙って座っているだけだった。

自分が喋ることはもうないな、と思ったあたしはそれ以後、第三者の立場で冷静に会見を見ていることが出来た。


殆どが美琴おばさん、いや学園都市に向けられた疑惑、疑問、質問、悪意、誤解、そういったものから来るものすごい数の質問に、

美琴おばさんは凛々しく、

ある時は微笑みながら、

ある時は厳しい顔で、

ある時は怖い顔で、

ある時は困った顔で、

次々と答えていった……。

美琴おばさんや母はずっと慣れていた。よくあんな場所でしゃべることが出来るなー、とあたしは素直に感嘆していた。
418 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 21:54:03.06 ID:DjGQxDw0




学校からあたしたちを乗せた1BOXワゴンはあたしたちの家の方ではなく、都心に向かって走っていることに途中で気が付いた。

「どこへ行くんですか?」

心配になったあたしは美琴おばさんに訊いてみた。

「XXホテルよ」

美琴おばさんもしかめっ面で答えてきた。

「このクルマもつけられてるしね」

美琴おばさんがため息をつく。

「ワイドショーなんかで見てましたけど、追っかけられる側に立ってみると、ちょっとたまりませんね」

母もうんざりした調子で言う。

記者会見会場を出るとき、押し寄せるマイクとカメラの放列の中を下を向いたまま歩くというのは、なかなか難しいものである

ことをあたしは理解した。美琴おばさんが手を握って引っ張っていってくれなかったら、あたしは絶対クルマにたどり着けなかっただろう。

「ここが学園都市ならね、電撃お見舞いしてひるませることも出来るんだけど……」

み、美琴おばさん、そんなことしてたんですか? あたしは思わずおばさんの顔を見てしまった。
419 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 21:59:18.94 ID:DjGQxDw0

「あたしたちは、まだ当事者だから仕方ない、って気もするんだけど」

美琴おばさんが吐き捨てるように話を続ける。

「上条の家もあなたの家もマスコミだらけで大変なのよ。上条のお義母様なんか、家からジャイロコプターでもないと出られないわぁ、

って仰ってるくらいなんだから」

「そう、なんですか……」

あたしはちょっと悲しかった。




せっかく自分の家に帰れると思っていたのに。

詩菜大おばさまと、母と、美琴おばさんと、みんなでごはんを食べられると思って楽しみにしていたのに。

ケイちゃんとひろぴぃと一杯お話したかったのに。


「不幸だ」


思わずつぶやいたあたしに、

「バカ言ってるんじゃないの! 命が助かった事に感謝しなさいよ! あなたの命を救おうとして、いったい、どれだけのひとが

動いたと思ってるの!?」

母があたしを怒鳴りつけた。

「……ごめんなさい……」

あたしは悲しくなった。 あたしは、あたしは、ただ。

「まぁね、利子ちゃんは自分の部屋で寝たかったんだよね、自分の家でごはん食べたかったわけだよね?」

目を赤くしたあたしは、うん、と黙って頷いた。
420 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 22:03:59.00 ID:DjGQxDw0

「あとひとつ、大事なこともしたかったんだよね?」

「え? なんですか?」

あたしは顔を上げて美琴おばさんを見つめた。

「お手紙」

美琴おばさんがにやりと笑いながら言った。

あたしは最初何のことだか………… あ!

「なななななな何を言ってるんですか〜!!」

「正解だったみたいね」

意味がわかった母もニヤニヤしている。

「ひとつ、言っておくわ」

美琴おばさんがちょっと笑いながら言った。

「上条のお義母さまから、捜査の際に、いろんなものを調べられて、あなたの机に隠してあった手紙も資料として押収されてるって

話があったの。だから、その出した相手も、関係者ということでまちがいなく事情を聞かれてると思うな」

「やっぱり不幸だ〜!」
421 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 22:19:35.32 ID:DjGQxDw0

ホテルに着いたけれど、正面入り口は警備上問題があるからと言うことで、あたしたちのクルマはそのまま地下駐車場へ誘導された。

エレベーター前まで護衛のガードマンが作った人垣の中を抜ける形でエレベーターに乗り込んだ。

あとから追っかけてきたマスコミの人とガードマンの人との間でちょっと小競り合いしているのが聞こえた。

記者会見だってやったんだし、もういいじゃないの? 仕事なのかもしれないけど、しつこい。

あたしたちは高層階に直行し、エグゼクティブクラス専用ラウンジでチェックインした。

ここには報道陣はおらず、あたしたちはようやくホッと一息つくことが出来た。



案内されたのは角部屋のスイートルームだった。

「「すご〜い」」母とあたしはおもわず感嘆した。

100平米以上あるらしい。洗面所2つ。トイレも2つあって、どっちも専用スペースになっている。

お風呂はジャクジー付きで、外が見える。シャワールームは別にあって、ミストシャワーも出来る。

アメニティは超一流ブランドの限定品で、あたしと母はきゃぁきゃぁ言ってはしゃいでしまった。

「あたし、このまま持って帰りたい!」

「こら、うちの生活レベルがわかるようなこと言わないの! そういうのは黙って持ってくの」

  
  ……あのね、母さん……

422 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 22:36:40.54 ID:DjGQxDw0

ハンドタオルもバスタオルも、そしてバスローブも分厚くて重い上等なもの。

どれも「別途販売しておりますので、御用の節はアシスタント・マネージャーまでお申し付け下さい」とある。

すごい、おもうしつけください、なんて言葉、聞いたこと無いような気がする。

販売している、ということは持って帰れないってことだよね?

「としこ、それは持って帰っちゃダメだからね」

ちょっと母さんてば……、よっぽどあたしが気に入ってるように見えたのだろうか?

「なーに、要るなら買ってあげてもいいわよー?」  美琴おばさんが声を掛けてきた。

「いえいえいえ、結構ですから、大丈夫です、もったいないです」 とあたしはあわてて打ち消した。

使い捨てスリッパもペタペタではなくて起毛のもの。

あたしは、このスリッパを使わないで黙って持って帰ることに決めたw

これで十分だもん♪



寝室にあるベットは大きいし、低反発マットは柔らかく包んでくれる。まくらはそれぞれ3つも用意されている。

ベッドは電動で半分ほどが起きあがるのでそのままテレビは見れるし、その気になればここでごはんも食べられそうだ。

別にマッサージチェアまで置いてある。

信じられない。すごすぎる。

ふと、あたしは心配になった。

「この部屋、いくらするの? お金大丈夫?」

「いいから、子供がお金の心配しないの!」    美琴おばさんが笑いながらぴしゃりと締める。

(あたし、もう子供じゃないもん) ちょっとあたしはおばさんに心の中で反発してみた。
423 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 22:40:54.56 ID:DjGQxDw0



「ラーメンが2500円もするの!?」

あたしはお風呂を使った後、何気なく手に取ったルームサービスの価格表を見て死ぬほど驚いた。

どんなラーメンがでてくるのか、あたしには想像が付かなかった。なぜなら学校の近くの中華そばは280円なのだ。

ざっと10倍もするラーメン、ってそれは本当にラーメンと言って良い食べ物なのだろうか?

だいたいにおいて、1000円以下のものがない。

あったのは、ごはん単品が500円、みそ汁単品300円、お新香セットは980円だった。

単純にこれだけ頼んでも2000円近くになる。信じられない……

「あら、利子ちゃん、おなか空いた?」    美琴おばさんがあたしに聞いてきた。 

「はい、おなかと背中がくっつきそうです」

「大変率直なご意見、承ったわ」    美琴おばさんは笑いながらシャワールームに歩いて行き、中にいる母に尋ねた。

「佐天さんもおなか減ってるかしら?」

「あー、いいですね、頂きましょうか」    母が答えたのが聞こえた。

「おっしゃー、じゃぁどうせだし、豪華に行こうか!」    美琴おばさんが気勢を上げて宣言した。

「さて、言い出しっぺの利子ちゃんは、何が食べたいのかな?」   戻ってきた美琴おばさんがあたしに聞いてくる。

あたしは本当はラーメンが食べたかったんだけれど、こうなるとちょっと言い出しにくくなる。
424 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 22:43:39.66 ID:DjGQxDw0

「ラーメン頼んでも良いわよ?」とおばさんが片目をつぶってニコッとする。

「でもね、ここに来るまで時間がかかるから、のびちゃってる事が多いんだな。だからルームサービスでは、どっちかというと

麺類はあたしはお勧めしないんだけど、トライしてみてもいいわよ?」

おばさんにそう言われるとあたしも考えてしまう。2500円もするのびたラーメンって、それはちょっと勘弁だ。

「お寿司なんか、どう?」    おばさんが助け船を出してくれる。いいな、それ。廻らないお寿司♪

あたしはニッコリ笑って「お寿司食べます」と答えた。

「利子ちゃん、お寿司で良いって言ってるけど、佐天さんはそれでいいかな?」 

美琴おばさんはまた母のいるシャワールームに行った。

「あ、その選択、良いですね」と母が答えている。

「生ビールもらう? つまみは刺身盛り合わせでいいかな?」

「それ、行きましょう。海鮮サラダ入れといて下さい。食事代はあたし払いますから」 母が答えている。

え、じゃ部屋代はおばさんが払うの? えー、それはちょっと……それでいいの?
425 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 22:46:02.37 ID:DjGQxDw0

「何を言ってるのよ、ここはウチが年契でキープしてるところだから、そんなことされるとかえって後で精算がややこしくなる

から止めて。気にしないで良いからね」

美琴おばさんはそう言って、部屋の電話でルームサービスをオーダーした。

(ということは……、部屋代は前払いされてるってことか……でも食事代は別勘定なんじゃないのかな……)

あたしはなんとなく、それ以上突っ込まない方がいいような、大人の世界を見たような気がした。

「じゃ、あたしもお風呂入るわ。ルームサービスくるまで1時間くらいかかるから。ガマンできなければ、そこにカップラーメン

あるから食べて良いわよ?」

そう言って美琴おばさんはバスルームに消えた。

あたしはガマンした。値段表みると、このカップラーメン、450円もする。あほらしい。

でも、実際のところは

「利子ちゃんは育ち盛りだからねー、寿司も2人前ぐらい楽勝よねー?」そう言って、美琴おばさんは特上にぎりを

4人前、太巻きを2本も頼んだからだ。

(さてんとしこ、期待に応えて頑張りますっ!) 

あたしは、それから1時間弱、クウクウ泣き叫ぶおなかを押さえ、必死で、耐えた。

お寿司のために。

426 :LX [sage saga]:2010/12/26(日) 23:10:32.78 ID:DjGQxDw0
>>1です。
お読み頂きました皆様、誠に有り難うございました。

ちょっと短いですが、本日の投稿はここで止めたいと思います。
明日、また夜に投稿再開と致したく存じます。

それではお先に失礼させて頂きます。

427 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 23:21:39.80 ID:0vK1F2go
428 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 14:21:30.50 ID:E9MkUowo
乙です
429 :LX [saga]:2010/12/27(月) 21:21:09.72 ID:.iiDkFo0
皆様こんばんは。
>>1です。

昨日は中途半端なところで止めてしまいまして失礼致しました。
ちょっと内容に不満が残る部分がありまして、修正した上で投稿したかったものですから
やむなく失礼せざるを得ませんでした。

それでは本日分の投稿を開始します。
430 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 21:25:13.32 ID:.iiDkFo0

「食った〜、もう入りません〜 あ〜シアワセ♪♪」 

あたしは満足した。ホントに食べた。もういい。苦しい。動きたくない。

「さすが、十代だね〜。ウチの麻琴もよく食べるもの……」

「すみません、なんかいつも満足に食べさせてないみたいで、みっともないところお見せしちゃって……」

「あ〜ら、大吟醸握りしめてゴキゲンなひとが何言ってるんだか、佐天さんたら……ふーぃ」

母と美琴おばさんとは、日本酒大吟醸を3本空けて相当ご機嫌だった。

あたしは、もちろん冷蔵庫のウーロン茶でした。念のため!

「それで、明日なんだけど」     

美琴おばさんが赤い顔であたしたち母娘に言う。

「朝早く3時過ぎにここを出て、おうちには早朝に入るわ。今回は正面突破よ」

すごいな、美琴おばさん。お酒飲んでても忘れてないんだ……。

「明け方の3時半から4時頃は夜詰めの人だけで、一番きつい時間帯だからチャンス。あたしと囮がお義母さまの家に入るから、

かなりの人間はこっちに引きつけられると思うの。その隙に佐天さんたちは家に入って。良いわね?」

美琴おばさん、何からなにまで、本当にありがとう。

「御坂さん、すみません、今回は本当にご厄介になってしまって……本当に有り難うございます」

母が涙ぐんでいる。あれれ、また旧姓で呼んじゃってるよ……
431 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 21:30:34.16 ID:.iiDkFo0

「あはは、止めてよ佐天さんたら……。あなたにそんな湿っぽいこと似合わないわよ? ほら、利子ちゃんに笑われるぞー?

ふーい……  それに、あのね、今回のことはね、個人的なことだけじゃなくて、学園都市としての責任問題でもあるのよ?

公にはならないことなんだけれど、学園都市の人間が東京から中学生を拉致した、またその母親も学園都市を訪問中に同じく拉致された、

なんてことはね、とんでもないことなのよ。そしてこともあろうにその子が銃撃されるなんて、もうね、そんな事実が存在することすら

いけないことなんだな、要は。

だ・か・ら、今回あたしがここまで世話を焼いているのは、半分は仕事、とも言えるのよ。仕事の費用なんかいくらかかってもいいの。

だからさー、いっちばん高い大吟醸頼んじゃったのー、あははは」

正直、あたしはこの美琴おばさんの最後のところにちょっとカチンときた、というかムカッとしたというか。

そして、ちょっと悲しかった。

「仕事」だったんですか? あたしたちを監視してたんですか? 余計なことを喋らないように?

そんな、そんな……美琴おばさん……ひどいよ……

「御坂さんはねー、学園都市に貸しがあるのよ、とっても大きい貸しが」 

母さんはあたしの顔に不満の色を見て取ったのだろう、謎かけのようなことをゆっくりと言いだした。

おっと、美琴おばさん睨んでる? 目がちょっと怖いかも。
432 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 21:39:28.89 ID:.iiDkFo0

「御坂さんはねー、学園都市のスターなのね。でもスター故に、学園都市から離れられないんだなー、離してくれないんだなー。

それがわかってるから、麻琴ちゃんを詩菜おばさまに預けたのよね、可愛い盛りの娘をね。自分のようになることを恐れたんだよねー。

……学園都市に縛られるのは、あたしだけでたくさんだって」

そ、それでマコを? 仕事で忙しいから、っていうのは口実だったの……?

美琴おばちゃん、目が……赤い? 泣いてるの?

「御坂さんはねぇ、利子、よくお聞き。あたしたちを見張ってるのは間違いないの、仕事でね。でも同じことが学園都市にも言えるのよ。

御坂美琴、超電磁砲<レールガン>が見てるんだから、あんたら、へんな手出しするんじゃないよ! ってことなのよ。わかった?」

は……そう、なのか。

あたしたちを見張ることで、あたしたちを守ってくれていたんだ……疑ってごめんなさい、おとなの世界って、単純じゃないんだね……。

「もうひとつあるんだけどねぇ、御坂さんてねぇ、照れ屋なんだけど素直じゃないんだなぁ…… 

としこー、このひとはなー、好きなオトコに毎日ケンカふっかけてたおんななんだよー? 

相手をして欲しくてさぁ、毎日電撃飛ばしてたんだよぅー」

「ちょぉっと、さ、さ、佐天さんなんと言うことをいうのよ!」 ふーん、やっぱり美琴おばさんってちょっと危ないタイプなんだ……

「へへ、素直に『好きですぅ、つきあって下さーい』、なんてついに言えなかったひとだからねー、あたしも初春もほんと

大変だったんだからねー、でさー、上条さんを追いかけてさぁ、同じ高校へわざわざ……むぐ?」

「すと――――っぷ!! そこまで! ごめん! 佐天さん、あたしが悪かったわ、そこまでにして、お願い!!」

美琴おばさんが母さんの口を押さえた。母がばたばたしてる。

おばさん同士の酔っぱらいのからみなんて初めて見た……酷いもんだ。 
433 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 21:42:03.98 ID:.iiDkFo0

「ぷふぁー、何するんですか御坂さんたら?」  美琴おばさんが離れるや母が大げさにため息をつく。

「もうおしまい! 明日早いんだから、ほら、佐天さんもさっさと寝る!」

「うー、まぁそうですねぇ? あと少しですから、お互いガンバりましょーねー! じゃ朝早いから、これでお開きにして

寝ましょーねぇ……zzzzz」    いきなり母さんが落ちた。 マジ?

「ちょっと、佐天さんたら、って、ホント?」   美琴おばさんがピタピタと母さんを叩くが、全く反応がない。 

「早いわぁ……。利子ちゃん、お母さんってお酒飲むと絡んで寝るタイプだった?」  美琴おばさんがあたしに聞いてくる。

「いや〜、家で飲むことは殆どないですから……、あたしもちょっと驚いてます……母さんってこういうひとだったんだ……」

「あ〜あ、佐天さん、利子ちゃんにバレちゃったわよ〜、知〜らないっと。……じゃ、お母さんをベッドに運ぶから、

かけぶとんめくっておいてくれるかな?」

美琴おばさんは、あたしは力をいれると傷口が開く可能性がある、ということで母を一人で引きずってベッドに寝かしつけた。

あたしは、その間、力がいらない宴会の後かたづけをして、歯を磨いて、ベッドに潜り込んだ。

美琴おばさんは、お肌のお手入れをしてくると行って洗面所に行った。

時計を見ると、え、まだ夜の9時前? すっごい早いわ!

と思うまもなく睡魔にあたしは取り込まれた……おなか一杯。しあわせ……zzzzzzzzz
434 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 21:49:45.55 ID:.iiDkFo0

早朝、朝3時半過ぎ。

あたしたちはホテルをチェックアウトした。

地下に降りるのか、と思ったらそのまま正面玄関に出た。

「ふふ、地下には昨日の1BOXを横付けしてるから、張ってる連中の半分以上はそっちへ行ったはずよ」

荷物はあらかじめベルキャプテンに頼んでおいたので、あたしたちは身一つという気軽な格好で、車寄せに来た1BOXに楽々乗り込んだ。

すると中には、

「おはようございます、とミサカ麻美は眠い目を擦りながらあいさつします」

「同じくおはようございます、とミサカはあいさつします」

ミサカ麻美さん(元10032号)……とミサカさん……誰だろう? 琴江さんじゃないようだし…… 

二人とも黒髪で、麻美さんはあたしと同じような服を、もう一人のミサカさんは母と似たような感じになっている。

「申し遅れました。このミサカは三重県にいます検体番号13874号のミサカです。名前はまだありませんので、この機会に是非名前を

付けてもらえたら嬉しいとミサカは20年溜まっていた思いを吐露します」



名前がないって? 意味がわからない。それより、ミサカさんって一体何人いるの?
435 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 21:52:44.59 ID:.iiDkFo0

助手席に座ったその親玉、上条美琴おばさんがこっちに身を乗り出して、新たなミサカさんに言いだした。

「ちょっと、アンタ、そんなこと決めるためにアンタ呼び出したわけじゃないんだからね? アンタ、今日自分がやることちゃんと

わかってるわね?」

「はい、でも10032号や10039号のように学園都市にいる個体だけ優遇されるのは同じミサカとしてはいささか悲しい気持ちがします、

とミサカは名前が欲しいという希望をひたすら隠してお姉様<オリジナル>の命令に従います」

やっぱり、このひともウザいタイプなのだろうか……あれって琴江さんだったっけか……?

「あー、わかったわよ。三重県にいるから、まずミエ。ミはあたしの『美』を使いなさい。エは……と」

「ちなみにミエという名前をもつミサカは既に5人おり、うち2名が鬼籍に入っています。

美枝、美絵、美江、美恵、美栄で、美絵と美恵が鬼籍に入ったミサカです。

鬼籍入りした名前を付けられたりダブルブッキングすることを防ごうと、ミサカはしっかり予防線を張ります」

先手を打って、三重ミサカさんが回答する。

その光景を見ていたあたしは、今頃になって少し不気味なものを感じ始めた。これはただごとではない。

双子とか三つ子とかそういうものでは絶対無い。ありえない。こんなに殆ど同じ、といえる人が大勢いるなんて……
436 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 21:56:16.27 ID:.iiDkFo0

(クローンなんだろう)ズバっと冷静なあたしが回答した。

こら、いきなり出てくるなっての!

でも、やっぱりそうだよね、とあたし自身は納得した。そんな馬鹿な、という気はしなかった。

あたしも学園都市に染まり始めているのだろうか……?

でも人間のクローンって、許されているの? それは神をも恐れぬ行為のはず。植物や昆虫の世界では単性生殖として存在し、

実験動物レベルでは実用化されているけれど……まさか、そんな???

あたしは美琴おばさんと、ミサカ麻美さんと、美英さんという名前に決まったらしいミサカさんを見比べていた……。



「はい、上条委員、この通りです。どうですか? 似ていますか? とミサカは女子高生になった気分で質問します」

「似ていますか? と美英も女子高生になりたかったという欲求を心の底に隠して質問します」

はい?

アタマの中で自問自答していたあたしはミサカさんたちの質問でいきなり現実に戻された。

「服は似せたし、美英の格好は良いと思うけど、麻美の女子高生というのは諦めなさいよ」美琴おばさんが苦笑していた。

じょしこーせー????  誰が?

それは、無理でしょ、いくらなんでも、ねぇ。 二人とも、成熟した女性の体型だもの……。

「やはり、無理ですか、残念です」と麻美さんが悲しそうに言った。

はい。無理ですって。
437 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 21:58:19.45 ID:.iiDkFo0


「佐天さん、利子ちゃん、いい?」 

美琴おばさんが、あたしたちに聞こえるように大きな声でしゃべり始めた。

「まず、先導するガードマンの車が上条の家に着き、通路を造るの。そこにわたしと、この2人が上条の家に入る。

そうすると朝張り込んでいる人間の大半は上条の家に集結するから、あなたの家の方は減るはずよ。

その隙にこの車はあなた方の家の前に突入するから、あなたたちは家に入るのよ。

入ったらまず門を閉めるのよ、開けて入ろうとすれば不法侵入だからそこまで突っ込むバカは普通はいないはず。いいわね?」

あたしと母は緊張して顔を見合わせた。

「利子、あなたが門を開けなさい。あたしはあなたを守るから。鍵はこれ。右にひねるのよ、しっかりね!」

「わかった。頑張ろうね、お母さん」

あたしたちが「やるぜ!」と気勢を上げようとしたときに、美琴おばさんがまた言った。

「で、その前にね、あなたたち、家に食料あるの? 明日は家から出られない可能性もあるから、この先の深夜スーパーで

買い出ししておいた方が良いんじゃないかな? あたしも実は買っておこうと思うんだけど」

反対者ゼロ。クルマは深夜スーパーの前に止まった。
438 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 22:04:26.30 ID:.iiDkFo0

前を似たような1BOXが走っている。

美琴おばさんが言った「ガードマン」が乗っているのだろう。

誰も歩いていない深夜早朝の街、こんな時間に走るのは初めてだった。

よく知っている風景になった。もうすぐあたしの家。

「もしもし、お義母様? 美琴です。まもなく付きますので受け入れ方宜しくお願いします………ええ、一緒ですけど、まずは

自分の家に入って頂くのが……はい、そうですね。では一旦切ります」

美琴おばさんが電話をした。詩菜大おばさまだそうだ。早く会いたいな……あれ?

あたしは気が付いた。こんな深夜なのに沢山クルマが止まっているのだ。見るとマスコミの会社のマークがついているものが多い。

テレビ局もいる。

「ちょっとまずいかも」      美琴おばさんがつぶやいた。

「ここまで多いとは思わなかったわ」

あたしはちょっと不安になった。家に入れるんだろうか?

「大丈夫よ、利子」      お母さんがあたしの手を握って来た。

延々と繋がるクルマの列。でもその中でぽっかりと空いているところがあった。

そこはあたしの家と詩菜大おばさまの家があるところ。

「佐天さん、利子ちゃん、伏せて! 見えるとまずいから! さて、行くわよ、麻美、美英、いいわね!」

「「了解です」」     ミサカさんたちが声を揃えて返事をする。

あたしと母さんは伏せた。

クルマが急ブレーキを掛けて止まった。
439 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 22:08:43.95 ID:.iiDkFo0

前の1BOXからガードマンが6人降りて上条家の入り口についた。

「行くよ!」     美琴おばさんが助手席から降り、ミサカさんたちがドアを開けて家に走り込む。

「クルマ出して!」  美琴おばさんが叫ぶ。

扉を閉めないままあたしたちの1BOXは走り出し、あたしの家の前で止まった。

「降りて!」     初めてドライバーの人が声を出した。

あたしは反射的に買い物袋を1つ持ってクルマから飛び降りた。母さんも袋を2つ持って後に続く。

外へ出ると、上条家のところではライトが煌々と点き、怒号やストロボの閃光、カメラの音が響いている。

「こっちです、早く!」

ガードマンの人が2人、あたしたちをカバーするように門の前に立つ。

あたしは握りしめていた鍵を門の錠穴に差し込み、ひねる。開いた! 鍵を抜き取った!

「おい!こっちにもいるぞ! ホンモノはこっちだ!」     叫び声が直ぐそばで聞こえた。

「すみません!! XXテレビのレポーターの△△と申します! さてんさんですか? 恐縮ですが一言お願いします!!」

テレビカメラのライトがこっちに向かってくる。

あたしはそのレポーターを無視して叫んだ。

「お母さん!、こっち、早く!」

「としこ、先に入りなさい!いいから!」

ガードマンが母に迫ったカメラマン?を排除しようとして、母まで一緒に押さえてしまっているのだ。

あたしは門の中に入り、「お母さん、お母さん!」と叫んでいた。
440 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 22:11:17.68 ID:.iiDkFo0

反射的にあたしは袋のなかのタマネギを手に取り、

「お母さんから離れてよ!!」

とガードマンの方に投げつけ、1コがまぐれでガードマンに当たった。

「わっ?」

アタマを押さえたガードマンのおかげで母はカメラマンのかげから脱出して、門に飛び込んできた。

あたしは母が入ったのを確認して門を閉めた。

「お母さん、大丈夫?」

あたしは息を切らしながら母に尋ねた。

「大丈夫、靴脱げちゃったけど……」

それでも買い物袋をしっかり握りしめているところは、さすが、だ。

門から顔を乗り出して

「すいません、週間レディースのXXですが、こんな時間にすみませんが、ひとこと、ひとことお願いします!」

という週刊誌のひとと、

「XXテレビです! すみません、ひとこと、ひとことでいいですから、お願いします!」

と、さっきのレポーターの人が叫んでいる。

そのうちにドドドという大勢の足音がこっちに来た。ミサカさんたちの偽装がばれたのだろうか。

「お母さん、家の鍵、早く開けて!」

「暗くて、よく見えないのよ!」

そこにTVカメラの煌々たる明かりがあたしたちを照らした。

「あら、ジャストタイミングね」

無事鍵を開けて、あたしたちは家の中に滑り込んだ。

「やっと、やっとお家に帰ってきた……」

「利子、ほんと、すごかったわねぇ……」 

あたしたちは玄関のたたきに腰をおろして顔を見合わせてお互いに笑った。

しかし、その直後。
441 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 22:16:59.34 ID:.iiDkFo0

”ピン・ポーン ” 門塀の呼び出しボタンが押されているのだ。一回どころか、絶え間なくピンポンが鳴り続ける。

「あー、やかましい!」 

あたしは怒った。

「空気が湿っぽいわね。朝になったら空気入れ替えないと、でも開けられるかしら、この状態で……」

母はそう言いながら玄関の電気を点け、部屋の電気もつけてゆく。

ああ、久しぶりの我が家だ……。やっと、やっとあたしは帰ってきた。

わずか1週間程度だったけど、ものすごく長く離れていたように思う。

「全くもう、うるさい人たちだねぇ」

お母さんが鳴り続けるインターフォンを取った。

「すみません! お疲れのところ、すみません、週間『女性の友』の記者のXXと申します。5分ですみますので、なんとか出て

頂けませんでしょうか?」

インターフォンにどよめきと押しつけがましい男の声が響く。

「切っちゃおうね」

母があたしに確認するように言う。

「そうしよ、じゃなきゃ寝れないよ、お母さん?」

あたしは大きく頷いた。
442 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 22:19:51.93 ID:.iiDkFo0

「切る前に言っとくわね」    と母は言って、インターフォンに向かってまくしたてた。

「夜明けの3時4時にひとのうちに押しかけて何を騒いでいるんですか!! 隣近所の迷惑です! お引き取り下さい!

このインターフォンも電源切りますから無駄です! おやすみなさい!」

その直後、また、ピンポーンと呼び出しが鳴り響く。しつこい。

母がインターフォンのスイッチを切るとピンポンも消え、外のどよめきだけが聞こえる。

時計を見ると、明け方の4時10分。

「あんた、ところでさっき何投げたの?」    母が聞く。

「え? ……なんだっけ?」     あたしはスーパーの袋から中のものを取りだしてゆく。

「タマネギ……だと思う」   あたしは答えた。

「あらあら、じゃぁ痛かったでしょうね、あの人、かわいそうに……」   母はそういいながら、冷蔵庫の中を確認している。

「これ、もうダメね……これも。これは……まだいいと」    主婦だ。さすがだ。


「あたし、今日学校行けるかな……」   あたしはダメになったものをゴミ袋に入れながらつぶやいた。

「今日はちょっと無理じゃないのかな? 明日で良いんじゃない? 」   

母はまぁまぁ、と言う感じで言うが、あたしは一日も早く学校に行きたかった。

ひろぴい、ケイちゃん、あたし、帰ってきたよ!
443 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 22:24:31.77 ID:.iiDkFo0

「はい……はい、どうもご迷惑かけてすみません。……ええ…………本当に困りますわね……、はいどうも失礼致します……」

上条詩菜が電話口でぺこぺこと頭を下げていた。

「はぁ……」

電話が終わった詩菜が大きくため息をつく。

「どちらからの御電話でしたの?」

美琴が聞く。

「お隣の浦辺さんから。マスコミの人たちどうにかならないのかって、苦情よ。うちに言われても困るんだけど、お気持ちもわかるし……」

「そうですよね……間に挟まれてるから大変ですよね……」

美琴は考えた。

「アメ投げるしかないか……」


夜が明けた朝8時過ぎ。美琴が外へ出る。

どっと人が動く。カメラがうなりストロボが光る。

張っていたアナウンサーが走ってくる。

「はいはい、押さないで下さい、ちゃんとお話ししますから〜」

美琴がマイクでしゃべる。
444 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 22:29:35.95 ID:.iiDkFo0

「え〜、皆様お仕事お疲れ様です。私は学園都市統括理事会広報部門責任者の上条美琴と申します。

最初に苦情を申し上げます。皆様のお仕事は理解致しますが、まわりにお住まいの方々や、中学生の彼女の通学その他に多大な影響を

与えており、はっきり言えば迷惑であるとまず断定させて頂きます。

尤も、皆様方は社の命令でやむなくこちらにきていらっしゃることと理解しておりますし、各個人個人をつるし上げるつもりは

ございません。


さて、当方よりご提案がございます。

今回ここに詰めていらっしゃる会社につきまして、ここを撤退して頂いた会社の方々は、2ヶ月後に当方より学園都市に御招待致します。

取材は機密部分には制限を付けさせて頂きますが、それ以外は基本的に自由に出来ることにしております。

学園都市では今まで外部のマスコミを入れたことがございません。今回を逃すと次の取材はちょっと難しいのではないかと考えます。

如何でしょうか?

皆様におかれましては、至急上司とご相談の上、ご希望の社の方はこちらへお名刺を置いてお帰り下さい。

受付時間は1時間とさせて頂きます」







1時間半後。あれだけいたマスコミ群は綺麗さっぱり姿を消していた。
445 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 22:39:27.10 ID:.iiDkFo0

「まぁ、現金なものね……それだけ学園都市を取材したいのか……」

美琴はひとりつぶやいて、携帯を取りだした。

「もしもし、あたし。おはよ。……なんとかね。まぁどこも似たようなものよ。

…………うん、利子ちゃんは大丈夫だったわ……佐天さんもなんとかね。

……それはないわよ。AIMジャマーはちゃんと効いてたし……変なこと期待しないでよね。

……うん、お義母さまもへとへとだったわ。関係ないのに、ホント、バカじゃないのかしら、あいつら。それで、お隣やらお向かいやらに

相当迷惑かけてて……うん、

……そう、それでね、結局アレ使うことになっちゃったの。

……わかってるけど、仕方ないじゃない、ここであたしがブチ切れるわけにいかないでしょ? 

……そうよ、だからあとはどうするかだけよ。まさかそのまま……

そうね、うん。今日の夕方には戻ろうかって思ってる。麻琴はなんか言ってた?

……まぁね。でも、圧倒的大多数の子供たちは親から離れて暮らしてるんだから、甘ったれたこと言ってるんじゃないって

言っておいてよ! 

……はい……はい。じゃ、宜しくね、はい、どうもね!」 

美琴は電話を終えるとため息をついて、

「あー、アイツもこれから大変だわよ……」とひとりごちた。

446 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 22:42:48.07 ID:.iiDkFo0

美琴はまた電話を掛ける。

「おはよう、佐天さん。連中帰ったわよ。もう出てきても大丈夫よ」

少し経って、家から佐天涙子が姿を見せた。

「ふぁ〜、お疲れ様です〜。だけど、あんなにいたマスコミの人、なんで帰ったんでしょうね?」 

佐天が首をひねる。

「さ、さあね、他にやることが見つかったんじゃない?」   

美琴が白々しく答える。

佐天はその様子を見て、おおよその状況がわかったようで、

「すみません、上条さん、何から何までお世話になりっぱなしで、本当にすみません……」

と深く頭を下げた。

「や、やめてよ。そんなことしないでったら。こっちも恥ずかしいでしょ?」

美琴は佐天を起こそうとするが

「いえ、あたし、今までずっと、偉そうなこと言ってきましたけど、結局は、実際には皆さんにご迷惑をかけっぱなしでした。

本当にすみませんでした」

佐天涙子はガンとして頭をあげようとはしなかった。

「さ、佐天さんたら……ねぇ……」

美琴はどう声をかけていいものやらとまどっていた。
447 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 22:45:43.82 ID:.iiDkFo0

そこへ隣の浦辺さんが出てきたのだった。

「まぁまぁ、上条さんも佐天さんも、先ほどはごめんなさいね、でも本当に怖くて。誰に言えばいいのかわからなくて、お宅に電話

しちゃったの、ごめんなさいね」

「あらあら、浦辺さん、まぁまぁ今回は本当に済みませんでしたわ。うちはそんなこと気にしてませんわ。ほんと、災難でしたでしょ、

すみませんでした」

上条詩菜大おばさまも出てきて浦辺のおばさまと話を始める。

「いえいえ、こちらこそずいぶんとご迷惑かけてしまってすみませんでした。うちもずっといませんでしたので」

佐天涙子が浦辺おばさまと上条の大おばさまにまた頭を下げる。

「佐天さんのところも、とんでもないことでしたわね。利子ちゃんが無事帰ってきて、本当に良かったわね、よかったわ……」

浦辺おばさまは、さっきの電話の剣幕はどこへやら、すっかりいつもの穏やかな調子に戻っていた。



「さて、じゃあたしたちも戻りますか」

そうつぶやくと、美琴は上条家に入った。

中では美琴の妹達<シスターズ>の二人が美琴を待ちかまえていた。

「ミサカは銀座のスイーツを食べてみたいと」

「ミサカは銀座でアクセサリーを買いたいと」

美琴は少し考えて宣言した。

「おーし、じゃせっかくだし、ご褒美も含めて学園都市に帰る前に銀座に行くか!」

「きゃほーい!」

「さすがお姉様<オリジナル>ですね、とミサカは他のミサカに自慢げにこの喜びを自慢します!」



……その頃、主人公である佐天利子は、自宅にようやく帰ってきたという喜びで緊張が一気に解け、学校に行くどころか自分のベッドで

ぐっすりと眠っていたのだった。
448 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 22:49:32.01 ID:.iiDkFo0

「利子、いい加減におきなさーい!!!」

母、佐天涙子がバサーッとふとんをまくり上げた。

「ひゃぁっ??」

あたしは不意をつかれて驚き、次の瞬間

「痛い!」 

頭を抱えてうずくまった。AIMジャマーが動作したのだった。

「ご、ごめんなさいね、利子。大丈夫? 驚かせちゃってごめん!」

母がおろおろしながらあたしをさすったり撫でたりしている。

「かあさん、驚かせないでよ……、あたし、まだ慣れてないんだから……」

「ごめんなさい、ってあんたいつまで寝てるのよ、もうお昼よ? まったくどこが『がっこうへ行きたいの〜!』なのよ?

あんた、制服は一着無くなってるから買っておかないとダメでしょ? それから携帯。カバン。警察から当分戻ってこないことを考えたら、

学校に行く前に買ってくるもの、いっぱいあるわよ?」

はた、とあたしも気が付いた。そうだ。学校に行こうにもカバンすらないのだ。

「そっか、買い出しか……」

ぺたんとベッドに座り込んだあたしは頭の中で確認を始めた。

「さっさと着替えて、出かける準備しなさい!」

母さんはあたしをしかりつけると下へ降りていった。

だんだん、いつもの調子になってきた。嬉しいような、寂しいような。
449 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 22:53:54.82 ID:.iiDkFo0

母と二人で家を出ようとした時、あたしたちは写真に撮られた。

「どちら様ですか? 肖像権侵害で訴えても宜しいのですか?」

母が穏やかに言う。

「どうして、芸能人でもないあたしを撮るんですか??」

あたしはちょっと甲高い声になる。

「やめなさい、利子。ビデオで撮られてネットに流れる可能性もあるんだから、あなたは黙ってなさい」

母があたしを押さえる。

その隙にパパラッチは逃げていた……。ちくしょう、あのバカ野郎、ヘンタイ、卑怯者〜!

「まぁ、写真を持ち込んでも、学園都市の取材許可とを天秤に掛けられて終わりだと思うけど……」

仕方ないな、という顔でお母さんはつぶやいた。

「お母さん、早く買い物行こう?」

せっかくの気分を出だしでぶちこわされたあたしは、ちょっとブルーだった。
450 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 22:56:39.13 ID:.iiDkFo0

制服は袖詰めやら何やらで3日かかるとのことだった。

出来上がってくるまで二着で使い回しするしかない。

ノートだバインダーだ、カバンだとなんだかんだと買っていたら、結構な金額と結構な量になった。

出がけのことがあるので、あたしたちは帰りは豪華にタクシーで家に帰ってきた。

美琴おばさんが機転を利かしてくれた奇策のおかげで、早朝に帰ってきたあの時のような大集団はいないものの、

それでもなんだかんだといるのがわかった。

予想外なのは、どう見てもあたしと同じくらい、あるいは大学生くらいの男の人がいることだった。

「あの子たちもそうなのかな? あんたモテそうね?」 

母がからかうようにあたしに言う。

「止めてよそんなの、あたし、気持ち悪い!」 

あたしは速攻で否定する。

「ふーん、もうあの彼一筋に決めたの? まだ早いと思うけどな?」

母は方向を変えて攻めてきた。

「な、なに言ってるのよ、娘をからかわないでよ! もう知らないから!」 

狼狽するあたしを母はニヤニヤしながら見ていた……。
451 :LX [sage saga]:2010/12/27(月) 23:03:02.03 ID:.iiDkFo0
お読み頂きました皆様、どうも有り難うございます。
>>1です。

本日の投稿はここで止めたいと思います。

明日は打ち上げがありますので遅い時間になるか、もしかすると投稿できないかもしれません。
出来なかった場合はお許し下さいませ。

それではお先に失礼致します。
452 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 23:07:00.55 ID:38NF1gco


三重ミサカか…
453 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 23:12:45.76 ID:iXcVBzgo
一回の投下量とストーリーの動きが安定してるのがいいね
シーンや状況の移り変わりの描写が丁寧で分かりやすくそれでいて読んでてホント面白いわ
乙乙
454 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 00:10:38.70 ID:0TmdtjYo

次回も楽しみにしてるよ
455 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/28(火) 00:25:02.46 ID:VaCXOm20
乙乙
456 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 00:59:05.58 ID:5nx3s6.0
製作速報禁書wikiに収録させていただきました
http://www35.atwiki.jp/seisoku-index/pages/13.html
>>1さんがんばってください!
457 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 11:08:09.33 ID:UypY7f.0
皆様こんにちは。>>1です。
昨日はべろべろになりまして、やはり投稿できませんでした。
本日はこのあと、投稿を開始致します。

>>452,>>453,>>454,>>455各位、
ご支援ありがとうございます。
>>456さん、
収録有り難うございました。頑張ります。
またリンク先も全部拝読致しました。紹介文どうも有り難うございました。
欲を言えば、場面が切り替わっているところなどを1行開けて頂けていたら読みやすくなったかも
なぁと思います。
458 :LX [saga]:2010/12/29(水) 11:15:09.21 ID:UypY7f.0

「警察から電話なんだけど、あなたから事情を聞かないとこの事件の調査が終了出来ないんだって。

仕方ないけど、事件になっちゃってるし、受けざるを得ないわね。明日の夜に来てもらうことでいいかな?」

母が下からあたしに話しかけてきた。

どうもこうもなかった。あたしもいい加減疲れ果てていた。

「うん、お母さん、いいよ」

もう、どうでもよかった。

はやく終わって欲しかった。

ケイちゃんとひろぴぃに新しい携帯で電話してみた。

二人とも電話が来たことでものすごく喜んでくれた。

朝あたしの家に来てもいい、とまで言ってくれたけれど、盗撮される可能性があったから、あたしは必死になって二人に思いとどまる

よう説得して、なんとか納得してもらったけれどすっかりへとへとになった。

それでもあたしは、二人とお話し出来たことですごく満足したし、嬉しかった。

ふと気が付いた。

あたしは机の中を開けてみた。

やっぱり、なかった。

長坂くんからの、お手紙。

「ホントに持って行かれたんだ……どうしよう」

あたしは机に突っ伏した。
459 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 11:20:24.57 ID:UypY7f.0


「佐天さん、連絡有り難う。でも、あたし、いない方が良いわね」 

上条美琴はきっぱりと答えた。

「いいんですか? いないといけないんじゃないですか?」 

役目上、居ないとマズイだろう、と考えていた佐天涙子は上条美琴の返事に逆に面食らった。

「佐天さんは、利子ちゃんのお母さんだから、彼女は未成年者だし、親権者として一緒にいることはなんの問題もないと思うの」

警察が事情聴取に来る、というので佐天涙子は上条美琴に電話をしたのだった。

「でも、あたしは違うわ。しかも問題の学園都市の人間。そんな人間が、いくらご近所づきあいをよくしているから、と言っても

話が通らないわ」

「そうですね」

「仮に、今回あたしが入ってOKだったとしても、改めてあたしがいない時を見計らって警察の人はもう一度調書を取りに来るわ。

そんなの、無意味でしょ? 何回も調書取られるのはいやでしょう?」

「確かにそうですね、上条さんがその席にいたら、あたしたちは本当のことを喋っていない、と警察の人は思うでしょうね」

「ね? だからあたしはいない方がいいのよ。あと1回。それで終わりにしたいでしょ?」



次の日の朝、あたしは家を出た。

こんな朝からパパラッチらしき人がいる。もういい加減にして欲しかった。

正直、能力使って追っ払ってやりたかった。ふっとばしてやりたかった。

でも、ソレは出来ないし、してはいけないこと。

あたしは走った。ケイちゃんとひろぴぃが待つ、いつもの場所へ。
460 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 11:29:57.90 ID:UypY7f.0

「リコー!」 ケイちゃんが手を振っている。

「リコちゃーん!!」 ひろぴぃが振り向いて跳ねている。

「ケイちゃーん!!  ひろぴぃ! おはよー!」 

なんか、久しぶり。なかなか感動的なシーンだった……と思う。


「よかったね! リコ、無事だったんだね!! もう……」 

ケイちゃんの目が赤い。ぽろりと涙がこぼれた。

「心配したんだからね! あー、もう会えないのかと思っちゃったよー!!」 

ひろぴぃがグスグス言い始めた。

「ごめんね、本当にごめんね、心配掛けちゃって……」

二人がうるうるするのを見て、あたしもグシュグシュになってしまった。

朝だというのに、制服を着た女子中学生がズルズル泣いているのを見て、

(な、なんだ、こいつら?)という顔の人もいれば、

(あれ? あの子、もしかして!?)という顔で通り過ぎる人、

驚いたことにケータイ構える人もいた。

「ちょっと、見せ物じゃないわよ! 何勝手に撮ってんのよ!?」

気が付いたひろぴぃが声を上げる。泣いた顔じゃ迫力ないってばさ……でもありがと、ひろぴぃ。

「みんな、早く行こ?」

あたしは二人を誘って学校へと走った。
461 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 11:32:34.47 ID:UypY7f.0

門を入ると「来たぞー」という声がした。

「さてんさぁ〜ん!」「リコちゃーん!」と声がかかる。

「え?なに?」    あたしはちょっととまどった。

「えへへ、あたしが昨日の夜に先生やクラスのみんなにメールしておいたの。リコがあしたから登校しますって」

ケイちゃんがちょっとやりすぎたかなって顔をしている。

「あたしはね、黙っておいて、リコがいつも通りに来て、普通に席に座ってる方がインパクトあると思ってたんだけど」

ひろぴぃがニヤニヤしながら言う。

「でも、みんな喜んでるから、こっちの方がやっぱり正解だね!」



久しぶりに下駄箱にクツを入れる。

「リコ〜おはよ〜! 大変だったね?」

「良かったね〜」

「お〜い、さて〜ん、良かったなぁ!! おめでとう!」

「もう良いのか?」

「テレビ見たぞ〜」

クラスのみんなや1・2年生の時の同級生等が沢山待っていてくれた。

久しぶりの顔。もしかしたらもう会えなかったかもしれない、みんな。

担任の岡沢先生がいた。

「おはよう、佐天。無事で何より、よく学校に戻って来たな。とにかく良かった、本当に、良かったな……!」

先生がほんの少し涙ぐんでいたようだった。

「みなさん、おはようございます! さてんとしこ、今日から登校します! ご心配お掛け致しました!」

あたしは頭を下げた。また涙がこぼれてきた。

「おーっ!」

どよめきと万雷の拍手があたしを包み込んだ。
462 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 11:37:32.73 ID:UypY7f.0

「疲れたよ〜」

あたしたち3人は今帰宅途中。


玄関で拍手のあと、胴上げされるとは思わなかった。

校長室に呼ばれて、校長先生と教頭先生からいろいろと言われたけれど、舞い上がってて、正直あんまり覚えていない。

「怪しいヤツが今後も出ないとは限らないから、気をつけなさい」って言われたけれど、毎日緊張して通え、というのは正直難しいよねー、

と思った。でも実際に拉致されたあたしとしては、返す言葉がある訳がない。

教室に戻るとまた拍手。

黒板には「お帰りなさい!」と綺麗な絵文字が書いてある。

あたしは、思わず発端となったあの時のヘタな絵を反射的に思い出した……。



授業に来る先生みんながみんな、「良かった」「おめでとう」と言ってくるので、その都度その都度あたしが

「有り難うございますご心配お掛けしました」と返事するもんだから、最後の方ではみんながハモって

「「ご心配お掛け致しました」」

なんてしょうもないことをするまでになった。

でも、記者会見とは違って、プレッシャーは全くなかった。
463 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 11:47:54.37 ID:UypY7f.0

ちょっと参ったのは、拉致されたときに持っていた鞄に入っていた教科書とノートが手元にないことだった。

鞄は丸ごと発見されていると詩菜大おばさまから聞いていたが、そっくり証拠品として警察が持ったままなので当分戻ってこないらしい。

事情が事情なので、先生に話をしたら、いくつかの教科書は予備分からもらえたけれど、2つの教科書は新たに買う必要があった。

今日はとりあえず席が隣の渡辺優花(わたなべ ゆうか)ちゃんにみせてもらったけど……。

ノートがないのも痛い。というか、あのなかにある落書きを見られるのはすごく恥ずかしい……



部活はさすがに走ることは出来ず、簡単な体操をしただけだった。力を入れると危険なので、ゆるゆるの体操だったけれど、

それでも身体を動かせたのは嬉しかった。

指導の都築先生は「最初から無理するな、身体が緩んでるから時間を掛けて戻すんだよ」と笑っていたけれど。

まさか銃で撃たれた傷が開いてしまうので、なんて言ったら大騒ぎになってしまう。

着替えの時は、傷口がちょっと心配だったけれど、昨日母さんに見てもらって「パッと見なら全くわからないわよ」ということだったので

まぁ大丈夫だろうと考えていたし、実際気が付かれずにすんだ。



「リコ、髪変わった……よね……?」ケイちゃんがおそるおそる、と言う感じで聞いてきた。

「マジ? ホントに?」 ひろぴぃが追いかけてくる。

早速2人があたしの頭、正確に言うとカツラをいじくり廻す。

「ホントだ、違う〜」

自分でもわかっている。確かに髪質が違う。でもカツラだから仕方ないところだ。
464 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 11:52:11.30 ID:UypY7f.0

「うん、実はね、連れ込まれた研究所で全部切り落とされちゃったの」

「ええええええええ? じゃ、これ、もしかしてカツラ?」   ひろぴぃが驚いてカバンを落とした。「キャ!」

「ほんと? じゃぁ頭はマルコメなの?」   ケイちゃんが真剣な目で訊く。

一瞬あたしは自分がマルコメ坊主になったところを想像して吹いてしまった。

「ひっどーい、あはははは、痛っ!」    また背中に響いた。はー、しばらくはまだダメですね。

ケイちゃんが「どしたの? どこかケガでもしてるの?」と聞いてくる。

「あ、頭がちょっとね」  たいしたこと無い、と言う感じで軽く流す。ナイショにしておかないと、ね。

「でも、ホント、髪を切り落とすなんてこと、女の子に対する重大な犯罪だわよ!」 ケイちゃんは見えない相手にパンチをくれていた。

「でさ、ソレ、風で飛ぶ、なんてことは?」   ひろぴぃが真剣に訊いてくる。

「あのねぇ、マンガじゃあるまいし、しかも学園都市製のものよ? その点は大丈夫よ」

「どうして切られたの?」

……来た。そりゃ来るわね、来るに決まってるわ……

「うーん、わかんないの。そのときはあたし気を失っていたから。気が付いたらあたしはベッドの上で、そして頭は既に包帯で

ぐるぐる巻き状態だったの……」

「ふーん、ツルツルアタマのリコかぁ〜、ぷぷぷ、アハハハハ」   ひろぴぃがあたしの顔を見ながら笑い出す。

「ちょっとなによ、その笑い? 人ごとだと思って!」

「自分だって吹いてたじゃないの? でも、マルコメのリコって、そんな、キャハハハハハ」   ケイちゃんも笑い出す。

あたしはどうしたらよいか、道のど真ん中でおなかを押さえて大声で笑う二人に挟まれて、往生していた。

こいつら、涙まで流してる……




不幸、いや違う。

平和、だ。
465 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 12:05:28.77 ID:UypY7f.0

でも平和な気分はそこまでだった。

夜、警察の人が2人来た。女性2名だった。

二人とも顔はほほえんでいるけれど、目が笑っていない。


「この度は無事にご帰宅されましたこと、お喜び申し上げます。

こちらも仕事上、つらいこともお聞きしなければなりませんが、何卒ご了解頂きたく、また捜査にご協力をお願い致します」

固い挨拶だけど、仕方ないよねー。

「まず、念の為ということでお名前と生年月日を確認致します」

事情聴取が始まった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


約2時間ほどで事情聴取は終わった。

肝心な部分は、被害者のあたし自身に記憶がないので、どうしようもない。

ショックを受けたのは、どうやら美琴おばちゃんやマコちゃんに嫌疑がかかっていることだった。

つまり、麻琴が、あたしを学園都市に来させる為に母親である美琴おばちゃんに依頼して、美琴おばちゃんがあたしを拉致するように

部下に命じたのではないか、と。

どこをどうすると、そんな筋書きになるんだろう?

あたしは「そんな馬鹿なことがあるわけ無いじゃないですか」と笑い飛ばしたかったけれど、

目の前の女性刑事の顔を見ると、とてもそんなマネは出来なかった。

「でも、それって、何の証拠もないですよね?」あたしが言えたのはそれくらいだった。

「捜査中ですのでお答え出来ません」にべもなく片方の刑事さんが言った。
466 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 12:11:18.82 ID:UypY7f.0

「ただ、非常にやりにくいのは事実です。形式上、学園都市は日本の一部でありますが、独自の条例や諸規則を設け、途中にゲートを

設けるなどあたかも一つの独立国家のような形をとっています。

こういう問題が起きたときに、矛盾点がはっきり表に現れるのですが、例えば我々が学園都市内に入ることが出来ない状態で、

事の真相解明・真相追及に多大なる支障をきたす等、影響は極めて大きいものがあります。

もちろん、逆も出来ないのですが、実際どうなっているかはあちら側の事であり、正直わからないのです」

もう一人の刑事さんが悔しそうな顔で淡々と述べる。

でも、それあたしに言われても……ねぇ。




刑事さんたちが帰った後、あたしはお母さんと話をした。

「心配しなくていいよ。あの人たちも仕事だから。でもわからないわよ。だってあたしたちを誘拐した人たちは、あの倉庫でみんな

『逮捕』されちゃったし、残念だけど、真相は警察では掴みようがないわ」

かあさん、『逮捕』じゃないでしょ?

あたし、わかってるんだから。

みんな、殺しちゃったんでしょ?

みんな、『むぎの』って人が吹き飛ばしたんでしょ?

さざなみさんが叫んでいたもの。

……「むぎのさ〜ん、やりすぎですーっ! 僕らまで死んじゃいますーっ!」……



あたしは覚えている。

目は閉じていたから、その分聴覚と嗅覚は鋭敏になるのだ。

かすかに聞こえるうめき声、吐きそうになる漂う血の臭い…… ああ、いやだ!
467 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 12:13:42.38 ID:UypY7f.0


「利子、聞いてる?」

「え、ええ」

あたしは現実に引き戻された。

「あの人たちも、理由を考えたんでしょうね……。でもまさか上条さんと麻琴ちゃんに狙いを持って行くとは思わなかったわね。

噴飯ものだけど、でもこれでこっちに来るのがちょっと面倒になるかもしれないわね」



あたしの、あたしのせいだ……

あたしが、あの時に学園都市に行かなければ、

あたしがあの時に、ちゃんと拒否していれば、

あたしが……


でも、もう遅い。

もう、後戻りは出来ない。

「お母さん、あたし、高校進学だけど、学園都市の高校に行く。そしてあたし、能力開発を受けて、ちゃんとコントロール出来るように

なって、あたし帰ってくるから! あたし、決めたから!」

あたしは一気に母にまくし立てた。

母は、しばらく黙っていた。

すごく長い時間が経ったような気がした。
468 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 12:18:56.99 ID:UypY7f.0
お読み頂いてます皆様、>>1です。

お昼ですのでいったんここで投稿を打ち切ります。
また後ほど再開致します。
469 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 18:35:37.70 ID:WbSDYrA0
>>457
wikiの管理人です。
改行の仕方を微修正しました。
メンバー登録不要で編集できますので、何か気に入らない点がありましたらご自由に
訂正して下さってかまいませんので、よろしくお願いします。
470 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 21:24:49.60 ID:UypY7f.0
皆様こんばんは、>>1です。

後ほどの再開が夜になってしまいました。
どうしてもちょっと気に入らない部分がありましたので、書き直しておりましたら
佐天涙子が勝手にしゃべり始めてしまいました。
元々は1レスだったものがかなり増えてしまいました。
そろそろ変更がありうる部分に入ってきますので
一時停止する可能性もあります……

>>469さま
どうも有り難うございます。
のちほどちょっとやってみることに致します。<(_ _)>
471 :LX [saga]:2010/12/29(水) 21:32:17.50 ID:UypY7f.0

母はあたしの顔を見て、ようやく口を開いた。

「あなたが、そう決めたのなら、行きなさい。もう母さん、何も言わない。その代わり、逃げ戻ってくることは許しません。

中途半端は許しません。

あなたに備わった能力は、母さんはよくわからないけれど、きちんと自分のものにしないと、自分でコントロール出来ないと、

とても恐ろしいことになるはずなの。

そのとき、あなたは、自らを制御出来ない、人間の形をした化け物になるかもしれない。

あなたがそんなことになるくらいなら、母さんは、あなたを今ここで殺して、自分も死ぬわ」

恐ろしいことを母はさらりと言った。

でも、あたしはそのときはちっとも不思議に思わなかった。

「それと、あなたに言っておくことがあるの」

母はゆっくりとしゃべり始めた。

「母さんが、今の利子より少し小さかった頃、中学1年生の時のことね。

あたしはずーっとレベル0<無能力者>と判定され続けて、とっても悔しかったし、寂しかったの。

その頃から上条さん、当時は御坂さんと言う名前だったけれど、彼女は既にレベル5<超能力者>の一人、第三位というとんでもない

地位にいたわ。白井さんもレベル4の大能力者で、第7学区の風紀委員<ジャッジメント>では有名だったしね。

あたしは羨ましかったわ……。そしてあたしは幻想御手<レベルアッパー>というものに手を出してしまったんだけれど、

そうしたら、生まれて初めて能力が発現したのね。

風使い<エアロマスター>の一種だったわ。とても可愛らしいものだったけれど、あたしはものすごく嬉しかった。

ああ、やっとあたしも能力者の一員になれたんだってね」
472 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 21:39:27.55 ID:UypY7f.0

母の話が続く。あたしは黙ってじっと聞いていた。

「まぁ、その幻想御手<レベルアッパー>というものは、まやかしの一つで、騒ぎが終わった時には、また元通りのレベル0<無能力者>

に戻っちゃったんだけれど、人間の脳というのはすごいもので、一回覚えたことは忘れなかったのね。

2年かかったけれど、高校に入るときにはレベル1になったのよ。全然大したことはないんだけれど、でも今度のものは正真正銘、

自分の力で獲得したものだから、そりゃぁみんなでお祝いしてもらったものよ……」

母は若かりし頃を思い出しているのだろう、あたしと、同じくらいの歳の頃を。

「いったん、コツをつかんだら、なんとかなるものなのね。まぁ実際あたしも努力した訳だけれど、高校2年生でレベル2になって

高校を出るときにはレベル3にあと少し、と言うところまで来てたわ」

「でもね、人間てものは初心を忘れるのよ。ついつい奢っちゃうのね。

あたし自身はつい数年前まではレベル0<無能力者>だったのに、それなりに努力してレベル1に、そして2に、もうすぐ3だと

遅まきながら伸びてくるとね、やれば出来るんだ、あたしは出来るんだ、となんの根拠も無い自信を持ってしまったのね。

自信がなさ過ぎるのも問題だけれど、根拠のない自信というものは始末に負えないものなのよ。

困ったことにそれに気づかないのよね、本人は。とりわけ、若いうちはね……。今思い出しても、恥ずかしい、本当に穴に入りたい

気がするわ。若さゆえの過ち、って言葉があるけど、やり直しが出来る過ちならまだまし、取り返しのつかない過ちは悲惨よ……」

母はあたしの顔をじっと見つめていう。

「母さんはね、ひとを殺しちゃったのよ」

「え?」   

あたしは驚愕した。

そんな……そんな……
473 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 21:58:11.01 ID:UypY7f.0

「母さんの高校最後の能力開発授業の時だったわ。新しい向精神薬を投与されたあたしは、能力をコントロール出来ず

そのまま気を失ったの。気が付いたら病院で寝てたわ。

1日で退院出来て、次の日学校に行ったら、あたしの試験場所だった運動場は立ち入り禁止になっててね、大穴が開いてたわ……。

その向精神薬を試作した製薬会社の人と試験器メーカーの人、そしてあたしの学校の先生、3人があたしの暴走竜巻<トルネードボム>

に吹き飛ばされて、大けがをしちゃったのね。

ずっとあとになって、試験器メーカーのひとが意識不明のまま亡くなったと言うことを知ったの」


「……」 

あたしは何も言えなかった。母さんにそんな過去があったなんて……。


「……薬のせいだから、涙子のせいじゃない、ってみんなから言われたし、その試験器メーカーの偉い人も言ってた。

でも、そんなの言い訳にもならないわ。あたしなら出来る、あたしはレベル3,そして次はレベル4になるんだ、って自信満々だったし、

その薬を飲むことを承諾したのはあたし自身だったんだからね……。

例え、事故発生時の誓約書に3人のひとがサインしてたからといっても、例え規則上問題なかったと言われたって、事故が起きて人が

死んだのは事実だしね。

あたしの能力が人に大けがをさせて、その一人を意識不明のまま死なせてしまったということは、取り返しのつかない事実なのよ……」

474 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 22:05:00.52 ID:UypY7f.0

「それで、母さんは自分を責めてたのね……?」

「そうね。だって、あたしのせいで、あたしの能力が1つの家族の幸せをぶち壊しちゃったんだから……。

みんな、あたしが死ぬんじゃないかって、それはもう心配してくれてね……でもね、直ぐにそれどころじゃなくなったのよ。

死を選ぶ事も出来なくなるような事態がね。

その製薬会社はね、どうしたと思う? 喜んだのよ!? でかした、よくやったって。意味わかる、利子?」

あたしはあっけにとられてしまった。人が死んで、悲しむんじゃなくて喜ぶ? どうして? そんな馬鹿な?

「利子? 覚えておくのよ。世の中はいろんな事があるの。常識じゃありえないこともあるの。

……母さんの能力は、レベル3手前、というものなのは話したわね。でも、その暴走の結果は、レベル4(大能力者)を通り過ぎて

レベル5(超能力者)に匹敵する破壊力を生み出した、と判断されたらしいのね。喜んだ、と言う理由はそれ。

ところが、他の人にそれを投与しても、母さん並みの効果は全く出なかったらしいの。検証できなかったということで、その薬の

何があたしとマッチングして大幅な能力アップを引き起こしたのか調べなければならなくなったのよ」

「母さんはもちろん……?」

「する訳がないでしょう? もちろんお断りしたわ。でもしつこかった。

あちらの言い分は、ひとを大けがさせたんだから、その分、せめて協力するのが当然だ、とかいうものだったわ。

ものは言いようだわね。学校やら寮やらに、毎日やってきて大変だったの……。

さすがに学校が頭に来ちゃってね、アンチスキルに訴え出たのね。なんたって母さんはそのとき未成年者だったし。

正面切って持ち出されたらあちらも困ったんでしょうね。

それで話はおじゃんになり、その薬品のプロジェクトは解散になった、らしいのね」
475 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 22:10:57.21 ID:UypY7f.0

「よかったね、母さん……」

「甘いわ、利子。それは表面上の話だったのよ。実はずーっとそれは休眠していてね、そしてあたしが大学を出るときに、実力行使に

出たのね、そこは」

「?」

「母さんを拉致したのよ」

あたしは母の話の、あまりの内容にもはや何も考えられなくなっていた。

「気の長い話よね。学校というあたしの保護が消える時まで待っていたわけだから。4年も経てばとっくに新しい方法が出来ているはず

だと思うんだけど、その薬に匹敵するものは結局出来なかったらしくて、なんとしてもあたしを使って謎を解き明かしてやるんだと

思ってたらしいわ」

「……」

「で、あたしは偶然ある人に助けられて、そこから脱出できたんだけれど、そこで母さんは決断したの。能力を捨てると」

ようやく全部話がわかった。母さんは「その後」完全無能力者になった。しかし、それ以前は能力者だった、遅咲きの。

「せっかく、血のにじむような思いをして開花した能力だったけど、あたしの場合は人に不幸を与えただけだったわ……

そう言うと身も蓋もないかしらね。確かに発現したときは天にも昇る心地だったから、その喜びを得ることが出来た、というのは

役にたった、のかな。

苦しんで努力して、それでも発現してこない昔のあたしのような人たちもいるから、その人たちからすれば、母さんは裏切り者

かもしれないわね。許せない存在だったかもしれないわ。

ま、なくなって何か変化があったか?っていうと、その製薬会社から1度だけ恨みがましい電話をもらったけど、それっきり

だったわ。あの人たちは無能力者に用はないのよ、ふふ」
476 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 22:15:46.05 ID:UypY7f.0


………あまりに、あまりに凄絶な人生じゃなくて、お母さん?

このひとの、どこにそんな強い意志が隠れているんだろう?

以前に「あたしがお母さんを守ってあげる!」なんて口走っちゃったけれど、笑っちゃうわよね、とても敵わない。


「それで、利子、今度はあなたの番よ。……お母さんに誓いなさい、利子。

あなたは、正しい道を行き、自分の力を自分のものとして、そして正しい事にのみ使う事を。

でも、その何が正しいか、何が正しくないか、それはあなたが人生経験を積まなければならないわ。

子供の単純な正義感は、場合によっては正解じゃないの。

世の中は、正義と悪、白か黒か、という単純な二問選択で済むほど簡単じゃないのよ。

だから、自分の命の問題じゃない限り、少なくとも二十歳になるまでは使っちゃダメだと思いなさい」



あたしは、少し考えて、母の目をまっすぐに見て誓った。

「あたし、佐天利子は、正しい道を歩み、あたしの力を正しい事のみに使うことを、あたしは一刻も早く自分をコントロール出来る

ように。誓うわ。お母さん」

「それから、自分の命の問題以外は、二十歳になるまであたしの能力は使わないわ」

母はあたしの傍に来て座り、あたしの頬を優しくなで回し、あたしをぐいと抱きしめた。

「利子、あなた、後悔していない?」

とっても優しい声だった。

「何を?」

「能力者になっちゃったことを」

「……なくても良かったけど。ないほうが良かったのかもしれないけど。

でも、それがあたしなんだったら、仕方ないよ。そうでしょ? おかあさん」

「あなた、大人になったわね……立派よ」
477 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 22:18:15.07 ID:UypY7f.0




目覚ましが鳴った。

「え?」

木曜日の朝7時、だ。

どうやらあたしは電気つけっぱなし、制服着たままの格好でそのまま寝てしまっていたらしい。

「うわー、制服しわだらけ〜!」

あたしはバタバタしながら制服を脱いで、ブラウスと下着を洗濯機に放り込んだ。

裸のまま風呂場に飛び込み、シャワーを浴び、超特急で髪を洗い、髪を痛めるので普段は使わない速乾剤を使って髪を乾かした。

その後大急ぎで顔を洗い、予備の制服を取りだし、準備を整えたのは7時35分。

カバンの中身を確認して、部屋を出て湯川先輩の部屋の前に立つ。

「おはようございます、佐天です。すみません、先に食堂行きます!」  とインターホンに喋ると、ちょっと経って

「おはよう。ちょっとお話ししたいことがあるから、8時10分のバスに乗ってくれる?」  と湯川さんが答えてきた。

「わかりました。じゃ8時10分のバスで!」

あたしはそう答えると脱兎の如くエレベーターホールに走った。現在7時45分。
478 :LX [sage saga]:2010/12/29(水) 22:50:22.55 ID:UypY7f.0
お読み下さいました皆様、こんばんは。
>>1です。

本当は>>476で切ろうと思っておりましたが、そうすると佐天涙子の話が続くように
受け取られる可能性がありましたので、>>477で、佐天利子が夢から覚める場面を入れました。

この後、およそ100レス分ほどは書きためてあるのですが、つい先ほどもエピソードを途中に
放り込みましたし、推敲も殆ど出来ておりませんので一旦投稿を休止したいと思います。

それでは本日はこの辺で、お先に失礼致します。
479 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 23:01:24.99 ID:hXVi/PIo
480 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 00:36:48.60 ID:SDxpum6o
乙です
481 :LX [sage saga]:2010/12/31(金) 15:01:20.48 ID:ywDTJFI0
皆様こんにちは。>>1です。

しこしこ修正したり、追加したり、引っこ抜いたりをしています。
先日投稿した佐天涙子のせりふですが、ちょっと口調が違うような気もします。
まぁ、オリジナルでは友人同士での語りしかないので、彼女が自分の娘に語りかけるときの
口調がその友人同士の時と同じではない、と考えればいいのかもしれませんが。

>>469のwiki管理人さま
教えて頂きまして有り難うございました。昨日自分なりにやってみましたけれど、果たして
あれで良かったのかわかりませんが……。


それではこれより帰省します。ネット環境がないところなのでご挨拶は3日になると思います。
皆様有り難うございました。
良いお年をお迎え下さいませ。
482 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 01:35:41.43 ID:rW9DscAO
あけおめー!
待つぜ待つぜ
483 :LX [saga]:2011/01/03(月) 20:56:36.67 ID:f94oVlk0
新年明けましておめでとうございます。
本年もどうぞ宜しく申し上げます。



皆様こんばんは。>>1でございます。
年初の御挨拶のみで終わるというのも芸がありませんので、この後、少しだけ投下致します。
ちびちび、いうのは正直気がひけますが何卒ご勘弁のほど……。
484 :LX [sage saga]:2011/01/03(月) 20:59:18.81 ID:f94oVlk0

クリームクロワッサンをコーヒーにつけて柔らかくして一気に口の中に放り込み、フレンチトーストもちぎって同じように放り込む。

野菜ジュースをぐびぐびと飲み、最後にクロワッサンのかけらと油が浮くコーヒーを飲み干して8時ジャスト。

「ぷはぁー、ふぅー、間に合った……」

「リコ、あんたもう少し落ち着いて食べなさいよね……」

カオリんがあきれた顔であたしに注意する。

「あはは、そうだね。今朝ちょっとどたばたしちゃって……」

あたしは頭をかきながら答える。

「カオリん、ごめんね、今朝は湯川さんと一緒に8時10分のバスに乗るから」

そう言うと、「いいよ、じゃあたしもソレにするわ」

カオリんはやおらごはんを掻き込み、みそ汁を飲み干した。

「ごめんね、なんか急がせちゃって」

あたしが言うと、

「それより、うがいしていかない? みそ汁とコーヒーの臭いって結構きついからさ?」

とカオリんが言うので、あたしらは洗面スペースへ飛んでいった。
485 :LX [sage saga]:2011/01/03(月) 21:02:16.71 ID:f94oVlk0

バス乗り場に行くと、結構な数の人がいた。

「佐天さん、ここよ!」 湯川さんが手を振る。

「すいません、遅れました〜」 あたしとカオリんが挨拶する。

「あら、こちらの方は? 同級生、なのかな?」 湯川さんが訊いてくる。

「おはようございます。1年K組、大里香織(おおさと かおり)です。佐天さんと同じクラスで、埼玉出身です」

カオリんが自己紹介した。

「あら、こちらこそごめんなさいね。失礼しましたわ。私は2年D組、湯川宏美(ゆかわ ひろみ)です。静岡出身よ」

湯川さんも自己紹介をした。

「それでね、あなたに話があったというのは」 湯川さんがあたしに話を始めようとすると、

「あ、あの、あたしお邪魔でしょうか?」 カオリんがおずおずと湯川さんに聞いてきた。

「あら、そんな心配はご無用よ」 湯川さんはニッコリ微笑んで「いい話だし、なんの問題もないわ」とカオリんに答えた。

いい話って、なんだろう?

「この間の、九官鳥の件でね、あなたと私は表彰されることになったの」

は、はい???? ひょうしょう?

「あ、あたし何もしてませんけれど?」 あたしは仰天した。表彰ってまた大げさな。

「してるわよ、あなたは結果的にあの九官鳥を保護してたんだから」 湯川さんはちょっとまじめな表情になった。

「あなたが九官鳥を保護して、風紀委員<ジャッジメント>のあたしに相談した、あたしはあの鳥の言葉に疑いを持ったので

調査したところ、置き去り<チャイルドエラー>の虐待していた施設が発見された、ということなのね」

湯川さんが説明する。

カオリんが真剣な表情で、というか周りの子たちも興味を持って聞いてる……ような。
486 :LX [sage saga]:2011/01/03(月) 21:04:18.52 ID:f94oVlk0

「残念ながら、学園都市にはそういう影の部分もあるの。あたしたちはそういうところを無くそうとはしてるけれど、まぁなくならない、

というのが正直なところね」

あたしにはわかる。あたしと母さんを売り飛ばそうとした人たち、あの人たちがそうだ。この街には、そう言う人たちがいる。

「でね、今回は、全く知られてなかったことが、この調査でわかった、表に出た、と言うことなの。ゼロからの発見ね。

だから表彰すべきだ、ってことになったの」

「すごいじゃない、リコ。で、表彰されると何か良いことあるんですか?」  カオリんが興味津々で湯川さんに尋ねる。

「表彰そのものは賞状1枚だからたいしたこと無いわ。でもね、確か学生の場合は奨学金が加算されるんじゃなかったかしら?

一時金よりは毎月の奨学金が増えた方が、無駄遣いしなくて済むから、あたしは賛成だけど、佐天さんはどうなのかな?」

「ええ、あたしも毎月もらう奨学金が増えたほうがいいですね、って500円くらいだとわかんないですけれど?

どれくらいなんでしょうか?」 

期待はしてないけれど、もらえるんだったらもらえた方が良いに決まってるし。

もう少しお洋服も欲しいし、欲しい本もあるし、ケーキも食べたいし……

「あはは、あたしも実は知らないの。あたしも初めてだから、ちょっと期待しちゃうんだけれどね」



バスが来た。5分遅れ。でも専用通学バスだから遅刻にはならずにすむ。女子高生を満載したバスが動き出す。

運転手はいない。リモートコントロールだそうだけれど、最初に見たときは本当にのけぞった。

まるで幽霊が運転してるとしか思えなかったから……。
487 :LX [sage saga]:2011/01/03(月) 21:17:25.15 ID:f94oVlk0

6時限終了後、ページングであたしと湯川さんは風紀委員室<ジャッジメントルーム>に来るよう呼び出された。

「こんにちは。貴女が佐天さんで良いのよね? あたしは3年A組の馬場です。所属は77支部で、ここの高校の代表もやってるの」 

そういって、馬場夏美(ばば なつみ)さんは自己紹介をしてくれた。

「あなた、今日の補習は1時限で終わりで良かった、かな?」

湯川さんがあたしにスケジュールを聞いてきた。

「ハイ。えっとー、演算活性化訓練コース、ですね」

あたしが答えると、馬場さんと湯川さんはお互いに顔を見合わせて

「そりゃ今日はだめかも」
「やっても無意味、かな」

とヒソヒソ話をしている。

あたしは、とってもいや〜な予感がした。

「あの……なんか大変なの選んじゃったんでしょうか……?」

恐る恐るあたしが二人の先輩に聞くと、二人は

「いやー、佐天さんなら、若さがあるから大丈夫だよ!」
「受けてみれば、きっといい思い出になる、かなと」

そう言うなり二人はあたしの肩をぽんぽんと叩き、

「明日、改めて話をしますから、今日は補習に頑張ってね!」
「土曜日、朝からお昼まで開けておいてね? 77支部で表彰式やるから、覚えておいてね」

とあたしをにこやかに送り出してくれた。

うーん、絶対にこれは、不幸の前触れ以外の何ものでも、ないな。

はぁ……
488 :LX [sage saga]:2011/01/03(月) 21:25:50.36 ID:f94oVlk0

「パーソナル・リアリティ、ねぇ……要はあたしの思いこみ次第ってことなのよねー、……思いこみすぎるのかなぁ」

あたしは、ヘロヘロになった状態で校門を出た。思い切り頭の中身を絞り出された感じがする。

あたしの能力の場合、そのまま発現させるととんでもないことになってしまうので、補習授業中においてあたし自身のAIMジャマーは

アームレットもネックレスも外しているのだけれど、その代わりに部屋全体でのAIM拡散力場の流れをチェックしており、ある一定限度

を超えると危険と判断して、自動的にキャパシティダウン装置が作動するようになっている。

AIMジャマーを外すと、頭がすっきりしてシアワセな気分になるのだが、あたしの演算コントロールが未熟なせいか、

なかなかAIM拡散力場の微妙な流れを追うことが出来ず、いきなり臨界を超えてしまうので、そのたびにキャパシティダウン装置

の洗礼を浴びるハメになってしまう。

わずか10分でヘロヘロになってしまい、あとの30分が死ぬかと思うほどつらかった。

あまりに情けなくて、悔しい。歯がゆい。とてもじゃないが、寮にまっすぐ帰る気にならない。



「そう言えば、ずっと走ってないな……」

学園都市に来てからと言うもの、補習授業の嵐で全く運動していないのだ。

(ヤバイよねー、筋肉落ちちゃうよ……、せっかく鍛えたのに。……よし、これからジョギングシューズ見てこよっと!)

あたしはプラプラと街へ向かって早足で歩き始めた。
489 :LX [sage saga]:2011/01/03(月) 21:40:02.10 ID:f94oVlk0

>>1でございます。

拙文をお読み下さいまして麻琴に有り難うございました。

大変短くて申し訳ございませんがここで一旦止めさせて頂きたく存じます。
とびとびでエピソードを書きなぐっております関係で辻褄が合わなくなったり、その結果
全面的に書き直し・抹消などがありますので、次回の発表まで少しお時間を頂きたく存じます。

明日から会社です。
ご出勤される方、新年頑張りましょう!
490 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 21:42:45.33 ID:TqD/uTIo


『麻琴に』これはわざとなんだろうか
491 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 23:39:29.43 ID:zWyA1T6o
乙です
『麻琴に』は俺らへのお年玉だろ
492 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/04(火) 03:36:24.55 ID:E82v86co
社会人も頑張ってるねえ
2chにいた人じゃあ無さそうだが物語は非常に面白い
493 :LX [saga]:2011/01/08(土) 22:13:33.99 ID:WDVJOro0
皆様こんばんは。>>1です。

今回もちょっと短いですが、投稿致します。
宜しくお願い致します。
494 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:15:33.56 ID:WDVJOro0

あたしは携帯のGPSを見ながら歩いていた。かれこれ15分は歩いている。

(この公園を突っ切った方が早いか……)

子供たちが数人遊んでいる公園を大きく斜めに横切っていくあたしの目に、ふと飲料の自販機が目に留まった。

(そういえばちょっと何か甘いの欲しいな……って)「何よこれ?」

思わず声が出てしまった。

「まともな飲み物ないじゃん!!」

きなこ練乳、いちごおでん、ガラナ青汁、スープカレー、椰子の実サイダーって……バカにしてない、これ?

あたしは他に飲料の自動販売機がないか見渡してみた。どうでも良いときにはそこらじゅうに立っている(ように思える)

自動販売機が、不思議と探すと現れない。これ、なんとかの法則っていったよね……マーフィーだっけ?

諦めてしばらく歩けばあるだろう、という選択肢もあるが、一旦気になり始めると不思議と今飲みたくなる。

疲れ果てているあたしの脳は甘いものを欲している。意を決したあたしは100円を入れてボタンを押す。

「ピ」

―――― きなこ練乳がころがり出てきた ――――

あたしはそれを取りだし、プルタブを開けようとした。
495 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:17:52.38 ID:WDVJOro0

「ピ」

―――― もう1本きなこ練乳が出てきた ――――

(あれ? くじでも当たったのかな?)

あたしはそれを取りだし、もう一度自販機を見てみた。

「ピ」

―――― また1本きなこ練乳が出てきた ――――

「え?ちょっと……」

「ピ」

―――― またもや1本きなこ練乳が出てきた ――――

「なんなのよ!」

「ピ」

―――― 引き続き、きなこ練乳が出てきた ――――

「まさか……この機械壊れた?」

「ピ」

―――― 引っかかって出てこない ――――

あたしは引っかかっている1本を抜き取った。ガラガラと、きなこ練乳が落ちてくる。

「ちょっとぉ〜、誰か助けて〜!!」

「ピ」

―――― こんどは熱いスープカレーが出てきた ――――

「お願い〜!、誰か来てよ〜!!」

機械が止まってくれない。あたしは落ちてくる缶をひたすらそばに置き続けた……
496 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:22:31.85 ID:WDVJOro0

「アハハハハ、最初から見たかったなー、君が青くなって缶を並べてるところ」

「笑わないで下さい! もうどうしようか必死だったんですから!!」

「逃げちゃえば良かったのに、君のせいじゃないんだしさ?」

「風紀委員<ジャッジメント>がそんなこと言って良いんですか? ……不幸だ」

あたしはファミレスで思いもかけない人とお茶をしていた。

………

壊れた自動販売機の中の商品が次々に出てくるので、あたしは反射的にその缶をまわりに並べていた。

確かに言われるとおり、逃げてしまえばよかったのだが、そこまであたしのアタマは廻らなかった。

とにかく、転がり出てくる缶を取りだして並べるのが精一杯だった。

「どうしたの?」取りだしては並べるあたしの後から男の人の声がかかった。

「見ればわかるでしょ! 自動販売機が壊れてて、缶が出てきて止まらないのよぅ! 助けてよ!」

「おっけー、待ってろ!」その人の影が消えた。

不意に自販機の電気が消えた。

そして、

―――― ビィーとブザーが鳴る ――――

「えええええ?」これ、防犯ブザーじゃないの?? 

不意にさっきの人があたしの前に立つ。

「大丈夫、僕が証人だから……って君は、あの時の!?」その人が絶句した。
497 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:27:19.97 ID:WDVJOro0

あたしもその人の顔を見て驚いた。

「さ……ざ……なみ、さん?」

漣さん。

あたしが倉庫に拉致されてきたとき、あたしを助けに来てくれた人。

あの殺人ビーム女がぶちこわす倉庫の破片からあたしをかばってくれていた人。

「やっぱり、ホントに、君だったんだ? 嬉しいな。直ぐここ終わるから」

そう言って漣さんはあたしの手を取り、


―――― あたしたちはファミレスの入り口にいた ――――


これって、テレポート……だよね?

「直ぐ戻るから、なにか頼んでおいてよ! 待っててよね!」

そう言って漣さんは再びテレポートして消えた。あの自販機のところに戻ったのだろうか?

あたしは初めてのテレポートに茫然としていた。



「いらっしゃいませ、お一人さまですか?」

ウエイトレスのおねえさんがポケーっとして立つあたしに聞く。

「はい、いえ、いや、あの、二人です。一人、後から来ます!」

心の準備が出来ていなかったあたしは、あたふたととっちらかった答えを返してしまった。

クスっと笑いをかみ殺したおねえさんはあたしを席に案内した。
498 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:30:07.27 ID:WDVJOro0

20分くらい経って、入り口に漣さんの姿が見えた。

あたしは手を挙げて「ここです!」とやってしまったけれど、直ぐにちょっと恥ずかしくなりうつむいてしまった。

いきなり目の前に漣さんが来た。テレポートしてきたらしい。

「ごめんな、ちょっと時間かかっちゃったよ。あれ? もしかして何も頼んでないの?」

「すみません、あたしのやったことでご迷惑おかけしてるのに、先に飲み食いするわけに行きませんから……」

と、あたしが言い訳すると、

「そんなのいいのに。結構待ってたんじゃない? お店の人、睨んでなかった?」

と漣さんがまた訊いてくる。

「うーん、でもお水は何回も入れられましたから、結構水腹になってしまいました……」

「アハハ、それはね、『ご注文はおきまりですか』ってことなんだよ。いや、それは済みませんでしたね。

何か簡単に食べない? ここはね、チーズケーキ美味しいんだけど、どう?」

「あ、じゃそれにします」

あたしはもう何でも良かった。

「そう? よし、決まった。すいませーん!」

漣さんがお店の人を呼んだ。
499 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:33:28.04 ID:WDVJOro0

(うそ……)

漣さんは、スペシャルフルーツサンデーを食べている。

(しまった、それならあたしもチョコパにすればよかった……)

「男がサンデー食べるのって、変?」 

どうやらあたしはサンデーを睨んでいたらしい。は、恥ずかしすぎる!!

「疲れた時には甘いものが良いんだよ……あ、そうか。じゃあさ……こっち、手つけてないから大丈夫。

よかったら、持っていって良いよ?」

そう言って漣さんが、あたしの方にフルーツサンデーを押し出して来た。

正直、あたしは悩んだけれど、さすがに初めて(初めてじゃないけど)会った人のものにスプーンを突っ込む勇気はなかった。

「あ、い、いえ、すみません、遠慮しておきます!」

思わず力が入ってしまった。

「いや、そんなに全力で否定しないでくれるかな、悲しいから……そうか、君は教育大付属高校に行ったんだ……

あれ? でも、どうしてあの公園に? 寮と逆方向じゃないの?」 

漣さんが訊いてきた。
500 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:36:40.90 ID:WDVJOro0

「はい。あたし、中学で陸上やってたんですけど、こっち来てからずっと出来なくて。で、そろそろ再開しようかと思って、

用具にどんなものあるかなぁって、アロースポーツに見に行こうとして」

「あぁ〜それで、あの公園を通り抜けて」

そらで地図を描いたのだろう、漣さんがあたしの言葉を取って続けた。

「たまたま、あの自動販売機にお金を入れた、と」 

漣さんがおかしそうな顔になった。

「はい。そしたらあんなことになっちゃって……」

「アハハハハ、最初から見たかったなー、君が青くなって缶を並べてるところ」

「笑わないで下さい! もうどうしようか必死だったんですから!!」

「逃げちゃえば良かったのに、君のせいじゃないんだしさ?」

「風紀委員<ジャッジメント>がそんなこと言って良いんですか? ……不幸だ」

あたしはため息をついた。

「缶ならいいよ? 置けるし、別に壊れる訳じゃないしさ。俺は天ぷらそばの自動販売機で同じことあったもん」

漣さんが笑いながら言う。

「天ぷらそばで?」

あたしは面白そうだったので突っ込んであげた。
501 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:39:32.23 ID:WDVJOro0

漣さんが話を続ける。

「うん。高校の食堂でね、去年あったんだよ。2時限めの休憩で、どうにも腹減って耐えられなくてさ、食堂行ったんだ」

「2時限めって、随分早くありませんか?」

「まぁね、でも普通そんなもんだよ? でさ、その時間だとまだおばちゃんが作るごはん類は出来てないからね、自動販売機の

天ぷらそばにしたんだけど。で、150円入れて、20秒くらいで最初の1杯が出来てきたんだよ」

「ふんふん」

「で、取りだしてさ、テーブルへ持っていこうとしたら、ピッピッピって機械が動いてるわけよ。

あれ?もしかしてもう1杯出来てくるのかな?なんて、そのときは『こりゃツイてるな』って思ったのさ」

「同じですねー」

「で、後に2人いたんで、『なんかタダでもう1杯出来てきそうですよ』って俺が話したら、その人も『え?ほんと?』

って言ったけど、ちょうどそこで1杯出来てきたんだよ」

「ラッキーですね」

「で、2番目の人はタダで天ぷらそばをゲットして喜んでたんだけれど、3番目のひとがお金入れようとしたら

『あれ?また出てくるぜ?』っていうのよ」

「ぷぷぷ」
502 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:42:50.15 ID:WDVJOro0

当然ながら、あたしには既にもうこの後の展開が読めたけれど、面白いのでひたすら相づちに専念していた。

「で、時間がないから俺はもうそのとき食べ始めてたんだけど、ちょっと嫌な気がしたね。

『まさかずっと出てくるんじゃないか』ってね」

「ふふふふふふふふ」

「4杯めが出てきたところで俺はおばちゃんを呼びに行ったんだよ。そしたら、『その機械はウチのじゃないからほっといていいわよ』

て言うわけよ」

「そんな、無責任な……」

「いや、それはね、そのそばの機械はパン屋のものだったんだな。で、パン屋はいつも3時限の休みから来てるからまだいないんだよ。

ということでさ、戦いが始まったんだよね」

「アハハハハ」

「いや、ほんと、そばじゃん? 缶ならさ、転がっても良いし、積むことも出来るけど、天ぷらそばの熱々のどんぶりをどうしろって

いうのさ、てなわけだよ。3人で、出てくるどんぶりをテーブルに置くのが精一杯なんだよ」

「テレポートすれば良いんじゃないですか?」

「あんなアッチッチのどんぶり持ってるんじゃ演算に集中できないって(笑)

持っていった方が早いさ。結局、20杯以上出て止まったんだけどさ、授業は遅刻するわ、先生には信用してもらえないし、

肝心のそばは全然食べられなかったし。いや酷い目にあったよ」
503 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:46:02.75 ID:WDVJOro0

あたしは、天ぷらそばのどんぶりを持って右往左往する男子高校生3人の姿を想像して笑った。

本当に笑った。

涙が出るまで笑った。

テーブルを叩いて笑った。

漣さんも釣られて笑った。

………

ふと気が付くと、お店の他のお客さんがあたしたちを、しろーい目で睨んでいた。

「で、出ませんか?」

「……その方が良さそうだね。あ、洗面所あっちだけど大丈夫?」

あたしは漣さんに感謝した。水腹に紅茶はかなり厳しいものだったから。ちょっと駆け足であたしはトイレへ駆け込んだ。

…………

あたしが戻ると精算は終わっていた。

「あ、あたし払いますから」とあたしが言うと、漣さんは「アハハ、こういうものは男が払うもんだよ。僕が連れてきた訳だしさ」

と言って払わせてくれなかった。あらら、おごられちゃったよ……。

「そうだ、運動具店行くんだったよね、アロースポーツだっけ? ゴメン、連れてくよ?」

とあたしの手を取ったので、反射的にあたしはその手を払ってしまった。

「え?」 漣さんは一瞬怪訝な顔をして、

「あ」  あたしは(しまった!!)と思い、


あたしたちはお互いにうつむいてしまった。
504 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:49:16.51 ID:WDVJOro0

「す、すみません、思わず……」

あたしはドキドキしていた。なに意識しちゃったんだろ?

「い、いや、確かに、ごめん、失礼した」 

後から思えば、どうということでは無かったのだけれど。既に一度手を取られてテレポートしてもらってるのに、ねぇ。

あたしはホントにもう……。

「どうする? スポーツ店行きますか?」

漣さんが恐る恐る、と言う感じで改めて訊いてきた。

あたしはドキドキが止められず、

「きょ、今日は帰ります」って言ってしまった。

「そ、そうか。うん。もう遅いもんね。ゆっくり見たいよね、予定つぶしちゃってゴメン」

と漣さんが謝ってくる。

違う、あたしがドジっただけだもん。いや、やっぱり、今日、行こう!

「や、やっぱり行きます! 連れてって下さい。見るだけだから、どういうのがいくらぐらいするかだけですから!」

あたしは勢い込んでさっきと逆のことを言った。

「無理しないで、いいよ? 明日もあるし? ホントに行って良いの?」

漣さんはあたしの豹変に驚いている。

「お願いします」   

あたしはそう言って左手を出した。

「うん……じゃ、行こう!」


漣さんはあたしの左手を取って、


あたしたちはスポーツ用品専門店アロースポーツのショウウインドウの前に立っていた。
505 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:53:56.86 ID:WDVJOro0

「着きましたよ!」

あたしは寮の近くまで漣さんにテレポートで送ってもらってしまった。

テレポートの中継で、ビルの上やら宙を飛んでたり、人の家の屋根とか、とんでもないところが一瞬目に入る。

おもしろーい! これはこれでやみつきになるかもしれないな……

「今日は本当にどうもお世話になりました」

あたしはとってもすっきりした感じになっていた。学校を出た時とは大違い。

「いや、楽しかったよ。久しぶりに笑ったし」

そう言いながら漣さんはまた少し笑う。

「あれは笑いすぎました……」

あたしは思わずしろーい視線を思い出してしまった。

「あ、あのさ、携帯番号とメルアド、交換してくれるかな?」

突然、漣さんが切り出してきた。

二人目、だ。 長坂くん……どうしてるだろう? あたしはふと思い出した。

「……はい」

あたしは自分の携帯を取りだし、データのやりとりをした。

「あの、つまんないことだけど、リコ、さん? トシコ、さん?どっちですか?」

漣さんが訊いてきた。

ええええええええ? あたしの名前知らないの? 今までずっと???

そう言えば、あたし、名前で呼ばれてなかった……よね?  ちょっとショックかも。
506 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:54:44.48 ID:WDVJOro0

「着きましたよ!」

あたしは寮の近くまで漣さんにテレポートで送ってもらってしまった。

テレポートの中継で、ビルの上やら宙を飛んでたり、人の家の屋根とか、とんでもないところが一瞬目に入る。

おもしろーい! これはこれでやみつきになるかもしれないな……

「今日は本当にどうもお世話になりました」

あたしはとってもすっきりした感じになっていた。学校を出た時とは大違い。

「いや、楽しかったよ。久しぶりに笑ったし」

そう言いながら漣さんはまた少し笑う。

「あれは笑いすぎました……」

あたしは思わずしろーい視線を思い出してしまった。

「あ、あのさ、携帯番号とメルアド、交換してくれるかな?」

突然、漣さんが切り出してきた。

二人目、だ。 長坂くん……どうしてるだろう? あたしはふと思い出した。

「……はい」

あたしは自分の携帯を取りだし、データのやりとりをした。

「あの、つまんないことだけど、リコ、さん? トシコ、さん?どっちですか?」

漣さんが訊いてきた。

ええええええええ? あたしの名前知らないの? 今までずっと???

そう言えば、あたし、名前で呼ばれてなかった……よね?  ちょっとショックかも。
507 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:56:30.51 ID:WDVJOro0
>>1でございます。

エラー表示で「もう一度投稿」と出たものでやってみたら、二重投稿になってしまいました。
>>506は無視して下さいませ。
508 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 22:59:29.48 ID:WDVJOro0

「ち、ち、ちがうってば。僕は、君の顔写真しか見せてもらえてなかったんだから!! 

名前だって、あの時会話の中で初めて『さてん』という名前を聞いたんだよ! だから……ごめん」

そうだ、よね。そういやあたし、自己紹介してないもんね。あー、あたしの早とちり、だ。

「ごめんなさい、そういえば、わたし、自己紹介してなかったかも。私は、佐天利子です。教育大付属高校1年。リコは呼び名です」

「そ、そうだね。僕もだ。漣孝太郎、飛天昇龍学院高校3年生。風紀委員<ジャッジメント>です」

思わず、あたしはちょっと笑ってしまった。

「すごいですね、あたしたち名前もお互いによく知らないで、最後になって……」

「ま、まぁいいんじゃないの? 最初が最初だし……」

漣さんが答えたが、その答えは出来れば避けて欲しかった思い出。

黙ってしまったあたしを見て、

「あ、あの時の話は、もしかして、タブー?」

と漣さんが訊いてきた。

あたしは黙って頷いた。

「そっか……まぁな。明るい話じゃないもんな。わかった! じゃ、また今度! おやすみ!」

漣さんが手を振って門と反対側へ歩き出す。

「おやすみなさい!ありがとうございました!」

あたしは挨拶を返して手を振る。

漣さんがテレポートして姿を消した。あたしはその後をしばらく見送っていた……
509 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 23:01:59.45 ID:WDVJOro0

あたし自身は気が付いていなかったが、端から見るとあたしは完全に舞い上がっていたらしい。

食堂に行く途中で湯川さんに会ったらしいのだが、あたしは全く気づいていなかった。

気づいていれば、まだ手の打ちようもあったかもしれないのだが、全ては後の祭りだった。



確かにあのときのあたしは、いろんなことを考えていたので心ここにあらず状態だったことは間違いない。

気が付くと自分の部屋にいたのだが、何故かサンドイッチと野菜ジュースパックはしっかり持って帰ってきていたところが

いじ汚いというか、あたしらしいというか……



ブブブと携帯が振動する。メールだ!

あたしは携帯をひっつかんで開ける。

うそ、一杯入ってる……けど。漣さんからのは、ない。

「なーんだ……」といいつつ、さくらからの最新メールを開く。

”リコ? 起きてる? 様子おかしかったんだけど、なんかあったの?”

「う」 まずい。絶対、ヤバイかも。

メールを開いて行く。
510 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 23:05:00.04 ID:WDVJOro0

”オトコでもできたの?”  ぶはっ!! ゆかりん、鋭い! 

”このメール見たら下りてきて、待ってるから” あ〜、カオリんゴメン、もう食堂閉まっちゃってるよね……。

”ごはん食べないの?” さくら……

”補習、きつかったらしいけど、なにかあったの?” カオリん、補習はきつかったよ〜

”様子ヘンなんだけど、大丈夫?” ゆかりん、ゴメンね。

(………全員に打つか)あたしはメールをみんなに打った。

”ごめんなさい。アタマ使いすぎでぼーっとしてたみたいです。でももう元に戻ってます。ご心配かけて、ゴメンね!

じゃ、またあした! リコ”


あ、あと、仕方ない、あたしから打っちゃえ! えっと漣さんのメアドは……と。

”佐天です。今日は楽しかったです。有り難うございました。おやすみなさい!”



……しばらく待ったけど、漣さんからは返事は来なかった。

なによ、ケータイの番号とメルアド教えてくれ、なんて言って来たくせに、あーなんなのよ、これ?

あたし、恥ずかしいじゃない!
511 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 23:07:46.73 ID:WDVJOro0

金曜日、朝の食堂。

あたしはクラスメートに取り囲まれていた。

「おはよ、リコ。はい、これ見て?」 さくらがあたしに携帯を見せる。

「ぶっ!?」 あたしはぶったまげた。 たしかにそこに写っているのはあたし……なのだが、どう見ても目が逝っている。

「な、な、な」 言葉が出てこない。

「何があったのかなー? こんなニヤケててさー?」 ゆかりんがニヤニヤしながらあたしをツンツンする。

「様子がヘンだってわかる? わかるよねー? 普通じゃなかったわよぉー?」 カオリん、貴女まで……?

そこへ、

「おはようございます、佐天さん? 今日は大丈夫かな? 昨日はヘロヘロだったみたいだけど?」 

湯川さんが割り込んできたのだった。

(ちぇっ! 邪魔が入ったか、命冥加なやつめ、覚えておくがよい!)というような感じで、残念そうな顔をしてみんなが

あたしから一歩離れた。あ、ありがとうございます、湯川先輩!

「で、昨日、門の近くでお話ししてた風紀委員<ジャッジメント>のひととは、どういう関係だったのかな? 

ケータイ番号とメルアドは交換したようだけど?」

し、しまった、地獄耳<ロンガウレス> ……

「えーっ????!!!!」
「何それぇー??」
「リコ、ちょっと? あたしにちゃんと最初から報告しなさい!」

離れていたやつら<クラスメート>がどどどど! とあたしの側に集結して四方から集中砲火を浴びせてくる。

お、鬼だ、悪魔だ、さ・い・あ・く・だー!!!!!!
512 :LX [sage saga]:2011/01/08(土) 23:16:48.22 ID:WDVJOro0
お読み頂きました皆様、>>1です。

本日分の投稿は以上です。

この後、近い部分にエピソードを飛び込ませた結果、そこが現在も伸びており、確定しないと
投稿ができない状態です。
また間が空きますが何卒ご了承下さいませ。
それではお先に失礼致します。
513 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 00:35:25.98 ID:U2psfDUo
オリキャラ祭りで敬遠してたけど禁書SSまとめのあらすじみて読みにきますた
よくできてて面白いわ
514 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 08:11:34.35 ID:fE+zTk7IO
乙です
相変わらず面白い
次の投下待ってます
515 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 23:02:16.09 ID:xGLODwywo
板移転みたいだから依頼出したほうがいいぞ作者

■ 【必読】 SS・ノベル・やる夫板は移転しました 【案内処】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294924033/

SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

516 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 23:46:36.12 ID:5vde65KPo
移転というか新設だな
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

517 :LX [sage saga]:2011/01/14(金) 07:35:22.53 ID:d6dGAluo0
皆様おはようございます。
>>1です。
移転申請を提出しました。
新しい板へ無事移転できますように……
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

518 :真真真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
519 :LX [saga]:2011/01/14(金) 22:48:42.30 ID:z0T0SsyK0
皆様こんばんは。>>1でございます。

移転完了したようですが、
まだ完全ではないみたいですね。

ものは試しで、少量ですがageで投稿してみます。
520 :LX [saga]:2011/01/14(金) 22:50:23.86 ID:z0T0SsyK0

お昼。



「不幸だ……」

「ちょっと、リコ、余計なことは言わないの! 自動書記<オートセクレタリ>動かしてるんだから!」

ゆかりん、NGワードに『不幸だ』って登録しといてよ……はぁ。

「いいから、早く続きを話しなさいよ?」

「ちょっと、なんで聴衆が増えてるわけ? 斉藤さんに遠藤さんまでなんなのよ!?」

「いや〜今朝久しぶりに食堂に下りたら、あんたたちが騒いでるから何かなぁって。で、そこにいたひとに訊いたらさ、

なんか、あんたが昨日の夜にオトコと逢い引きしてたっていう話でさぁ、こりゃニュースだね本人に訊かなきゃねって♪」

「うん、あたしも朝食べないひとだからね? でもそういう面白いことがあるんだったら、今度から朝、食堂行こうかな?

入ってもいいよね?」

**

斉藤さんというのは斉藤美子(さいとう よしこ)、遠藤さんというのは遠藤冴子(えんどう さえこ)のことで、

やっぱりあたしたち同様、高校から学園都市に来たメンバーで、あたしたちと同じ寮にいる。

斉藤さんがこんなに喋るひとだとは知らなかった。いつも一人静かに本を読んでいるし、(あたしにかまわないで)という

オーラが出てるので、こちらから話しかけづらかったこともある……。

遠藤さんはとってもアタマが切れる。理屈っぽいところもあるので、直ぐに「さえちゃん先生」というあだ名が付いたくらいだ。

**
521 :LX [saga]:2011/01/14(金) 22:53:21.69 ID:z0T0SsyK0

「ぜーんぜんかまわないよ? 多い方が楽しいもん、夕ご飯も時間あったらおいでよ?」

ゆかりんが笑ってOKサインを出す。

「そうそう、でね、早く帰ったひとは、みんなのデザートの確保をする、っていうのがいつの間にか出来たお約束だから、それはお願いね?」

さくらが言うが、え、そんなお約束あったかな?

「あはは、あたしがさくらと決めたの。まぁ早く帰れたら、と言う条件つきだから、あんまり気にしなくてもいいわよ」

カオリんが事情を説明する。

……あたしは、じっと息を殺して、話題があたしに戻ってこないように気配を殺していた。なんとか、なんとかあと20分保ってくれ!!



しかし、世の中は甘くなかった。

ブーンブーンとあたしの携帯が振動する。しめた!

「ご、ごめんね、電話入ったから!」 

あたしはこれ幸い、そこから脱出を図った……が。

がしっ、とあたしはカオリんとゆかりんに押さえつけられ、「遠慮しなくていいから、どうぞここでお話なさいな?」

とさくらが黒い笑顔で宣告した。

その間もブーンブーンと携帯が振動している。

あたしは観念して携帯を開くと………

  鬼

じゃなかった、湯川先輩だった。あたしはほっとため息をついた。

「はい、すみません、佐天です」

「今日、6時限が終わったら風紀委員室<ジャッジメントルーム>にまた来てもらえる、かな? 大丈夫よね?」

「は、ハイ、大丈夫です」

「あしたの土曜日の午前中も大丈夫よね?」

「ええ、伺ってましたから」

「じゃ、待ってるわ。そこにいるみんなによろしく、ね?」

……じ、地獄耳<ロンガウレス>……恐るべき、能力だ……
 
522 :LX [saga]:2011/01/14(金) 22:56:32.68 ID:z0T0SsyK0

6時限終了後、あたしは風紀委員室<ジャッジメントルーム>にいた。

「これから77支部に行きます。奨学金増額もそこで教えてもらえるわ。表彰状はあした、第三学区の風紀委員会統括総合本部だそうです」

馬場さんがあたしと湯川さんにそう言うと、鞄を持って部屋を出た。

「あら、なにか御用かしら?」  

馬場さんの声がする。

「「いえ、失礼しました〜!」」 

あの声は、ゆかりんとさくら、だ。

(あいつら、何やってんのよ?) 

あたしはおおよそ見当が付いていた。たぶん、ゆかりんが全部自動書記<オートセクレタリ>で記録していたのだろう。油断も隙もない。

「ちょっと、ストーカーじみてきた、かな?」 

湯川さんがつぶやいた。

「ごめんなさいね。あたしにも責任あるから、ちょっとどこかであの子たちにお話ししなきゃ、ね」

そう言って、湯川さんはあたしに謝った。

「いいえ。今、彼女たちは楽しいのかもしれません。ゲームをしてる気分なんでしょうね」

さくらは、話せばわかる子だ、とあたしは思っている。あの雑誌を引き裂いた子だもの。

ゆかりんがどう出るかわからない。結構つかみ所が難しい子だから……
523 :LX [saga]:2011/01/14(金) 23:00:34.88 ID:z0T0SsyK0

77支部は学校から歩いて5分ほどのところにあった。目の前、といっても良いくらいの距離。

何回か前を通ったことのある雑居ビルに入っていた。

「ここにあったんですか……」

あたしは拍子抜けしていた。

「なぁに? もっとスゴイところ想像してた?」

馬場さんがちょっと笑って言う。

「ええ、もっと厳めしい、パトカーが並んでいるような……」

あたしが思っていたことを言うと

「それじゃ、『ここに風紀委員<ジャッジメント>の支部がありますよ!』って宣伝するようなものでしょ?

そういうことも場合によっては必要かもしれないけれど、あたしたちクラスの支部は逆に

『目立たずひっそりと、でも中身は充実バッチリ!』というようでなければ、ね? 

それに支部はどっちかというと数が必要だから、家賃にはあんまりお金がかけられないのよねー。

多分それが最大の理由だとはあたしも思ってるけれど」

あたしたちはエレベーターには乗らず、階段を使って2階に上がった。

「エレベーターは使わないの。中に閉じこめられる可能性もあるし、いきなり攻撃される可能性もあるから。

だからエレベータはここのフロアには停止しないようになってるわ」 

湯川さんが教えてくれた。

「馬場です」 

馬場さんが左手をチェックに当ててインターホンに話しかける。

「声紋チェック確認、ばば なつみ と 認識しました」
「指紋並びに静脈シルエット・データ確認、ばば なつみと認識しました」

無機質な声が流れて、扉が開いた。

「ようこそ、77支部へ!」 馬場さんと湯川さんが微笑んであたしを招き入れた。
524 :LX [sage saga]:2011/01/14(金) 23:05:22.54 ID:z0T0SsyK0
>>1です。

テストをかねて極めて僅かですが投稿してみました。
次は、もう少しまとまった量を投稿したいと考えておりますので、もう少しお待ち下さいませ。

宜しくお願い申し上げます。
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 23:45:56.07 ID:tb+5mYnIO
移転と投下乙です
次回も楽しみにしてる
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 22:30:43.92 ID:yqwGjoRAO
むう、続きはまだかのう
527 :LX [saga]:2011/01/21(金) 23:29:51.27 ID:2JeOqfWg0
皆様こんばんは。>>1です。
ご支援頂きまして有り難うございます。

それではこれより投稿を再開致します。どうぞ宜しくお願い致します。
528 :LX [saga]:2011/01/21(金) 23:32:05.92 ID:2JeOqfWg0

「やぁ、初めまして。77支部の支部長代理をやってる打田疾風(うちだ はやて)です。断崖大学2年生です」

大学生か……あたしより、大人だなぁ、博士っぽいような感じだな、理系のひとかしらん?

「こんにちは。あたしは佐藤景子(さとう けいこ)、馬場さんと同じ3年生。寮がちがうけどね?」

ふうん、馬場さん、湯川さん以外にもうちの学校に風紀委員<ジャッジメント>がいるんだ……

「まいど。ジブンは高橋勇次(たかはし ゆうじ)言いますのん。よろしう頼んます」

おお、関西弁だ。そういえば、不思議とあんまり関西言葉聞かないなぁ。珍しいかも。

「 Good day !! Nice meet you! My name is Jack Clare, how are you ? 」

ええええええ、英語ぉぉぉぉ? ガ、ガ、ガ、ガイジンじゃないの???

「こら、脅かしたらダメでしょ? なにハッタリかましてんのよ?」

湯川さんがガイジンに日本語で怒ってる、って?

「アハハ、失礼しました。ボクも英語で答えられたらどうしようかと。ジャック=クレアです。これでもうボク、覚えたね?」

完璧な日本語だ。え、どういうことなの?

「ジャックはね、日本生まれなのよ。でもご両親ともニュージーランドのひとだから見た目は完璧な白人だけど、中身は日本人なのよ。

あたしも最初驚かされたわよ」   

湯川さんが説明した。

「いや、だから困るんです。ボク、日本人に見えないでしょ? ガイジンみんなボク見ると助かった、と言う顔で英語やフランス語、

果てはスペイン語でしゃべってくるんですよ、ボクは日本人だっての!」

はー、確かにガイジンっていう言葉、日本人以外使わない言葉だもんねぇ。

でもガイジンがガイジンをガイジンっていうの、すごくヘンだ。
529 :LX [saga]:2011/01/21(金) 23:37:49.05 ID:2JeOqfWg0

「他にまだ数人いるんですけれど、外を巡回してるので、今はこのメンバーで全員です。宜しくね?

………さて、今日来て頂いたのは、火曜日の件ですが、佐天さんが捕獲された九官鳥をウチの湯川委員がここへ持ち込みまして、

それで、ある方の協力を得まして九官鳥がどこから飛んできたのかを確認しましたところ、第十三学区にありました保育所、

ちょっとここも子供たちの将来がありますので名前を出せないところなんですが、まぁそこから飛んできたことがわかりまして、

そこをアンチスキル共々、抜き打ちの調査をしましたところ、まぁ出るわ出るわ、認可上では最大でも25名のはずが、

倍の50人もそこにいました」


打田さんが、九官鳥事件を説明してくれている。


「もちろん、先方にも言い分はありましてね、曰く、『認可数より多い子供を預かって、違反していることは承知している。

だけれど、彼らが捨てられたのは事実だし、放っておけば死ぬだけだ。それは避けたかった』と言うんですよね」


そう、そう言う話は残念ながら結構いろいろなところで、アングラな話ということであたしも知っている。
  

「それだけならまぁある意味では美談なんですけれど、実際には食事もまともに与えておらず、しかもその子供たちのランク付けを

してですね、あるものは非合法なことをするところへ売り飛ばしたり、能力が発現しているものは、そういう研究所へ売ったり

貸し出したりしてカネを稼がせていたわけですよ。とんでもない話ですよ。

科学は確かに東京より20年進んでいるかもしれない。でもそう言うところは逆に一気に50年以上元に戻ってしまった」


(確かに日本で児童労働なんて、手伝いはあるかもしれないけど、新聞配達だって今時、子供はいないはず)

あたしもそう思う。
530 :LX [saga]:2011/01/21(金) 23:41:46.30 ID:2JeOqfWg0

打田さんの熱弁が続く。

「児童労働、その中には性的なものも入ってます、そして人身売買。とんでもない話です。許せない犯罪です。

いかなる理由もこの二点については異論を認めません。この悲劇は無くさなければなりません。でもなかなか無くならないし、

表に見えにくいのです。だから、みんなに注目して欲しいし、気を配って欲しいし、なんかヘンだ、と思ったら我々に教えて欲しいわけです。

こういうことをやっている連中は大抵がダークサイドですから、一般人が入り込むのは危険すぎます。

でも、無関心になることは避けて欲しい、ですから通報をしてくれればいいのです、なにかおかしいと。

あとは我々や、アンチスキルが調査しますから。その良い例なのです。今回の件は」


打田さんの熱弁を引き取るかたちで佐藤さんが話を続ける。

「というわけでね、今回は他にも3件表彰があるんだけれど、ちょっと派手にやるみたいなの。おねがい、受けてほしいんだ」

「はい、わたしはかまいません」

湯川さんはきっぱりと宣言した。

「え……と、………私は、顔はちょっと出したくないなと、できれば名前も……」

あたしは、去年のあの大騒ぎの悪夢を思い出し、正直そこまで大きな催しになるなら出たくなかった。

というか、出たらまずいのではないかという疑念があった。

「さよか、なんぞ名前と顔がでたらマズイことあるんか?」

高橋さんが聞いてくる。

「はい、ちょっと似たようなことがありまして、すごく大騒ぎになってしまって、全く良いこと無かったもので……」

あたしは慎重に言葉を選んだ。

「ふーん、そら難儀やな……」

高橋さんは黙った。
531 :LX [sage saga]:2011/01/21(金) 23:44:39.90 ID:2JeOqfWg0

「オッケー、じゃ、名前は匿名にして、場所には来てもらうけど、表彰の時には湯川さんに代理でもらってもらえばいい。

湯川さん、どうだろう?」

打田さんが湯川さんに打診する。

「あ、あたしはかまいませんけれど、佐天さん、あなた、それでいいの? 名前出れば、あなた有名人よ?」

湯川さんがあたしに(このチャンス、のがしてもいいの?)という顔で訊いている。

「あたしは、……有名人にはなりたくないんです。ホントならここ<学園都市>だって、能力が発現さえしなければ、絶対来たくなかった、

来るつもりも無かったんですから……」

ちょっときつかったかもしれない。でも、あたしは、この能力を、コントロール出来るようにならないと、あたしは帰れないのだ。

そのために、あたしはここにいるんだ。


みんな黙ってしまった。


「すみません、えらそうなこと言って、ごめんなさい」

あたしは頭を下げた。

「いやいや、謝ることはないさ。わかりました。ひとにはひとの訳ってもんがありますからね、本人の希望は優先されなきゃ。

佐天さん、あなたの要望は守りますから、すみませんが会場まではお越し下さいね? 私があなたの要望を責任もって伝えますから、

大丈夫ですよ。

じゃ、湯川さん、あした、宜しくお願いしますよ?」

打田さんが最後を締めくくった。あれ? これで終わりですか?
532 :LX [sage saga]:2011/01/21(金) 23:47:51.11 ID:2JeOqfWg0

「それで、奨学金の増額なんですが」

佐藤さんがようやく待っていた話を切り出した。

「湯川さんは高校在学期間があと2年間なので4万5千円が、佐天さんは高校在学の3年間、毎月3万円があなたがたの口座に

振り込まれます」 

さ、さんまんえんも!!??

あたしは思わずいろいろなものがアタマの中を駆けめぐっていた。

ランニングシューズ、あの1万8千円もするヤツが楽勝で買えるし、

いや、あのラ・ベットラの750円のケーキが、毎日買っても250円おつり来るし……

いや、あのお店のスカート、1万2千円だったけど、バーゲン待たなくても買える……



「ちょっと、佐天さん、ちょっと!?」

湯川さんがあたしをつつく。

「は、はいっ!!」 

あたしは夢の世界から引き戻された。

「嬉しかった?」

打田さんがニコニコしながらあたしの顔を見ている。

「……は、はい……」

あたしは真っ赤になって小さな声で返事をした。

「いや、そうでないと困るんです。それくらいインパクトがあれば、みんな注目してくれるでしょうね。

中途半端では結局無駄なカネになってしまう。悪く言えば、懸賞金はそうでないと効果がない」


ちょっと引っかかるけれど、でもそうかもしれない。犯罪を防ぐには、みんなの目が必要なんだし。
533 :LX [sage saga]:2011/01/21(金) 23:51:01.69 ID:2JeOqfWg0

「いいですか?ではすみませんが、こちらの書類に必要事項を書き込んで頂けますか? そこのテーブルをお使い下さい」

クレアさんが書類を持ってきて、あたしと湯川さんに渡した。あたしたちはその書類に書き込み、サインした。

クレアさんはその書類を裏返したままスキャナーにかけ、しばらくしてからあたしたちを呼び、

「この画面に、あなたの書いた書類を読みとったデータが出てきますので、内容を確認して下さい」

と2台のモニターを湯川さんとあたしにそれぞれ見るように指示した。

間違いなし、と伝えると、クレアさんは先ほどの書類をシュレッダーして処分した。

「では画面のエンターキーに触れて下さい。触れて、申し込み終了の文字が出たら終わりです」

とクレアさんが説明する。

キーを触れると、画面に「申し込み終了」のサインが現れた。


「終わりました」 と答えると、

「良かったですね、これで終わりですよ」 とクレアさんがニッコリと笑った。


「お二人とも当支部へお忙しいところ来て頂き、どうも有り難う。湯川さんはもうわかっているだろうけれど、この街を造って行くのは

僕らなんだ、良くするのも悪くするのも結局は僕たち1人1人にかかってる。1人じゃまず何も出来ないけど5人、10人とまとまれば

それなりに力になるんだ。これからもよろしく、ね! 今日は有り難う」


最後まで、打田さんは熱弁だった。あたしは打田さんの熱意にすっかりうたれてしまっていた。

ふと、あたしは思った。

(あたしの、このしようもない能力も、もしかしたら、もしかしたら使い方さえわかれば、役にたつ、かもしれない)



(あのなぁ、おまえ、それよりまずはコントロールだろ? 昨日を思い出せよな)と久方ぶりに冷静なあたしがささやいた。

あんたは直ぐそうやってひとの感動をぶちこわすんだから、まったくもう!
534 :LX [sage saga]:2011/01/21(金) 23:52:56.64 ID:2JeOqfWg0


土曜日朝。

あたしと湯川さんは、玄関側の、面談ルームでお迎えを待っていた。

服装はどうしよう?と言う話になったのだけれど、困ったときの「制服」頼み、制服なら文句はないよねー?

ということで、二人とも制服になった。まぁ昨日の夜、一生懸命アイロン掛けしたんだけれど。



面談ルームのインターホンが鳴った。

「湯川さんと佐天さんに来客です。面談室にお通しします」

あたしたちは、

「クルマのお迎えが来る、のかな?」「じゃ、運転手さんが来るのかしら?」と他愛もない話をしていた。

あれ? あそこを歩いてくるひと、制服姿の、学生?

「あの人、誰、かな?」

女子高生の寮だから、男子の姿を見ることは普段は皆無だ。目ざとい子は早くも珍しい男子(高校生?)の姿を見つけて友達を

呼びに行ったのもいる。

「あ」

「リコちゃん、知ってるひと?」

「……あのひと、です……」

「誰?」

「この間、立ち話してた、漣さん、です……」

あたしは何故か顔が火照るのを覚えた。
535 :LX [sage saga]:2011/01/21(金) 23:56:17.03 ID:2JeOqfWg0

「おはようございます。風紀委員<ジャッジメント>、飛天昇龍学院高校3年、漣孝太郎(さざなみ こうたろう)です」

「おはようございます。初めまして、風紀委員<ジャッジメント>、学園都市教育大学付属高校2年、湯川宏美(ゆかわ ひろみ)です」

「おはようございます、今日は宜しくお願いします」



「あら、佐天さん、自己紹介なしで終わり、なのかな?」 

湯川さんがいたずらっぽくあたしを弄る。

「はい? え?、え、え、え、だ、だって」

あたしはどぎまぎして、あたふたしてしまう。

「あはは、冗談よ。あなた方、先日の夜、もう自己紹介しちゃってたものね? 朝の挨拶で十分だものね?」

湯川さんはあたしと漣さんを交互に見やってクスリと笑う。く、黒いです……湯川先輩……

「えっ? ……そ、そんなこと、なんで知ってるんですか? 佐天さん、そんなこと言ったの???」

漣さんが驚いて(まじですか?)と言う顔であたしを見る。

「もう、リコちゃんはねぇ、あれからもうすっかり舞い上がっててねぇ、もうノロケ話をあたしたちにするんですよぅ?

もう漣さんたらとっても素敵なのよぉ……って。あたし、どんなひとかと思ってましたの」

「ち、ち、ち、ちがーうぅ!!!」

あたしは立ち上がって叫んだ。

「あたし、あたし、そんなこと絶対言ってないから!! 何もしゃべってませんから!!」

536 :LX [sage saga]:2011/01/21(金) 23:59:18.35 ID:2JeOqfWg0

湯川さんが、顔を真っ赤にして否定するあたしを見て

「あら可愛いわねぇ、そんなにムキになって否定しなくてもいいのに」

そう言うと、湯川さんは立ち上がって音もなく動き、いきなり手前の扉を開けた。


「キャァ!!」
「痛い!」
「わ!」


どさどさどさっと女の子がマンガのように倒れ込んできた。ゆかりん、さくら、カオリんだった。


「ちょ……」 

あたしは絶句した。


「青木さん、この間の写真、あの人に見せてあげなさいな」 

湯川さんがニッコリ笑ってとんでもないことを言った。


あ、悪魔だぁー!


「そ、それだけは絶対にダメ〜!!!!!!!!」



ぐわぁーっと来た感情の大波と、最大出力のAIMジャマーの一騎打ち!



あたしは、気を失った。



(今週2回目かよ。おまえ、情けないやっちゃなぁ………)

冷静なあたしは、気を失ったあたしをあきれて見ていたのだった。
537 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 00:03:55.92 ID:ZlofLuEP0

「ごめんなさい、ちょっとやりすぎましたわ……」 

湯川さんが平謝りしている。

「いえ、僕の鍛錬が不十分なんです。申し訳ありません」

結局、あたしがAIMジャマーと能力発動とのバッティングで目を回し、更に漣さんが冷やかし話に動揺してテレポート出来なくなって

しまったことで、寮を出るのが大幅に遅れてしまい、タクシーを飛ばすことになってしまっていた。

「ぅぅ……きもち悪い……」

あたしはまだ回復出来ておらず、青い顔で後部シートで揺られていた。



どうにかこうにか、始まる時間5分前にあたしたちは第三学区にある風紀委員会統括総合本部の建物に到着した。

「はぁ……」あたしは単純に圧倒されていた。

昨日行った77支部の入っている雑居ビルとは比べものにならないビルがそこにあった。

「湯川さぁん、佐天さぁん?」  

遠くから声が聞こえる。

「はい、湯川です!」  

湯川さんが叫ぶ。



いきなり女性が目の前に立っていた。

「白井ですわ。遅かったですのね? 風紀委員<ジャッジメント>たるもの、開始時刻の15分前には到着しておりませんと?」

あたしには記憶があった。確か……あたしの母の友人、白井黒子さん、だ。
538 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 00:09:42.49 ID:ZlofLuEP0

「あら、佐天さん、どうなさいましたの? そんな青い顔をして? 具合が宜しくないようですわね? クルマにでも酔われましたの? 

あら、そう言えば今日はタクシーで来る予定でしたかしら?」 

白井さんは矢継ぎ早にあたしたちに質問を投げてくる。

「すみません、あたしがちょっと悪戯、からかいすぎてしまって、佐天さんが気分を悪くしてしまいましたし、せっかく来て頂いた……

あら? どこへ行ったのかな?」

湯川さんが必死に言い訳をして、漣さんに言及しようとしたが、いつのまにか彼はいなくなっていた。

お母さんの前で恥ずかしかったのだろうか。

「時間がありませんの。これで止め。湯川さん、直ぐに参りましょう!」

そう言って白井さんは湯川さんの手を取り、テレポートした。



取り残されたあたしは、まだぼーっとしていた。気持ちが、悪い。

そこへまた、白井さんが飛来した。

「さぁ、佐天さん、あなたもですわよ。あなたは今日は観客席ですから、ね? 静かに見てらしてね」

白井さんはあたしの肩に手を置くと、



――― あたしはホールの入り口に白井さんと立っていた ――― 



「どこでもかまいませんが、後のグループの、演壇に向かって右側の席が化粧室に近いですわよ」

そう小声で白井さんはあたしにささやいて再びテレポートして消えた。

白井さん、優しいひと。

539 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 00:12:11.32 ID:ZlofLuEP0



利子があたしをにらんでいる。

あたしは一瞬目をそらす。

利子の目にじんわりと涙が浮かび、つーと流れ落ちる。

あたしは耐えきれずにまた目をそらす。

「ママ?」 利子があたしを呼ぶ。

あたしは答えられない。

あたしは、下を向いたまま、利子を見ることが出来ない。

「ママ、あたしを見て」

あたしは顔を上げられない。どうしてもあげられない。

「ママ、どうしてあたしを捨てたの?」

ごめんなさい、と言おうとしても、声が出ない。

「ママ、あたしが嫌いになったの?」

(そんなことない!)あたしはようやく顔を上げる。

目の前は、誰もいない真夜中のどこかの道。




「許して、お願い、許して!!!」



目が覚めた。
540 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 00:16:19.67 ID:ZlofLuEP0



「また、見たのね……?」

そこには、心配げにあたしを見つめる、泣き出しそうな志津恵(しずえ)の顔があった。

ち、見られたか……

あたしは起きあがって、志津恵の顔を見つめて、軽くウォーミングアップをする。

「志津恵、いつまでもひとの寝起き見てるもんじゃないわよ?」 

右手がほんのり青光りを放ち始める。

悲しそうな顔をしていた志津恵は、ホッとしたような表情になる。

でも顔にふっと影が差して「『母さん』、やっぱり苦しんでるのね……」と小さくつぶやいた。

「ふん、歳のせいってやつさ。あたしもヤキがまわったもんだ……あーぁ『娘』に心配されるってのも情けないねぇ」

あたしは志津恵にバレているだろう強がりを言って、ベッドから出る。

「今日は学校は?」 あたしは「娘」に尋ねてみる。

「今日はあたしは休みよ? 『母さん』は?」 志津恵が逆に聞いてくる。

「へっ、先生と違って風紀委員会<ジャッジメントステーツ>は年中無休ってね」 

あたしは見せてしまった弱みを覆い隠すように強がって言葉を返した。

「風呂入ってくるね。志津恵、今日出かける?」 

あたしはバスローブを持ってバスルームに向かいながらまた「娘」に今日の予定を聞いてみる。

「ううん? 特にない。それより、来週のカリキュラムの組み直しもしなければならないし、今度は高校で……」 

「あっそ」

あとの方の言葉は良く聞こえなかった。

あたしはバスルームに入った。

「ごめんね、心配掛けて、志津恵」 

あたしは小さい声で『娘』に謝った。
541 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 00:19:46.53 ID:ZlofLuEP0
>>1です。

>>540に間違いがありました。すみません。

誤)志津恵(しずえ)

正)志津恵(しづえ)

大変失礼致しました。 <(_ _)>
542 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 00:26:58.84 ID:ZlofLuEP0





「お母さん」はまたあの子の夢を見たらしい。

あれからもう15年も経つのに、やっぱり忘れられないんだろう。

でも、ここ最近、そう2年くらい前からちょっと雰囲気が変わっている。



昔は、それこそ私が来て間もない頃は、「お母さん」があの夢を見ると大変だった。

もう涙ボロボロ、汗びっしょり、起きたら起きたで最悪の御機嫌、ピリピリしていてとりつく島もない有様、そんな時に迂闊にも

ヘマでもしようものなら、ものすごい勢いでひっぱたかれるわ、はり倒されるわで、ものすごく怖かった。

もっとも、そのあとでちゃんと八つ当たりしたことを反省して、高そうなお菓子やおみやげを買ってきて、あたしの御機嫌を必死に取ろう

とするところが「お母さん」の憎めないところだったけれど、正直そんなことしないでいいから、最初からもう少し優しくして欲しいなー、

と私はずーっと思っていた。



ところが、最近はその夢を見ても、涙ボロボロまでは同じなのだけれど、起きてしまうとけろっとしているのだ。

あまりに昔と違いすぎるので、最初、私はものすごく恐ろしかったことを絶対忘れない。おかしい。絶対に、おかしい。

催眠療法か何かを受けたのだろうか……?





……15年も前なのに。

……わずか二歳の生涯だったのに。
543 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 00:30:53.47 ID:ZlofLuEP0

私はものすごく羨ましい。

そりゃぁだって、彼女は「お母さん」のホントの子供なんだから、当たり前なんだけれど、私だって15年も「お母さん」と一緒なのに、

あの子の7倍もの時間を過ごしているのに、彼女に勝てないのはつらい。悔しい。



……でも、そんなことを考えちゃいけないだろう。

あのまま、あそこにいたら、私は学園都市に、いや、とっくにこの世には居なかったに違いない。

「お母さん」は、私を救ってくれて、私が持っていなかった全てを与えてくれたのだ。

私をここまで育ててくれたのだ。

ちょっと荒っぽかったけれど。



そう、例えそれが、あの子の代わり、だったとしても。



私は「お母さん」に感謝してる。



だって、

         ―――― 「お母さん」は ―――― 



  ―――― 「麦野志津恵(むぎの しづえ)」と言う名前を与えてくれたのだ ―――― 




――――   「18番」という番号で呼ばれていた実験動物、私<チャイルド・エラー>に ―――― 


…………


「じゃ行ってくるから。志津恵? あんた、たまには外に出てフラフラしてみたら? オトコッ気なさすぎるわよ?」


………う、う、う、う、うるさーい! 


          ”麦野沈利(むぎの しずり)・ 原子崩し<メルトダウナー> の娘 ”


だからオトコが寄ってこないのよ〜!!
 

これだけは、私も予想だにしなかった……。

そりゃ子供のあたしにわかるはずも、ないよね ……orz
544 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 00:35:50.63 ID:ZlofLuEP0


「すみません、またヘマしました」 

漣孝太郎は上司、麦野沈利の前で報告していた。

麦野は黙っている。

しばらく経って、麦野が口を開いた。

「ヘマはしていないでしょ? 5分前には着いてるんだから。遅刻したら問題だけど? 早めに行っておいて良かったわけでしょ?

不測の事態が起きたけれども、それに対応すべく計画を組んでおいたのが成功した訳だから。違うかな?」

「はい」 

漣はおとなしく答える。

「だから、今回のあなたの仕事に関しては、なんら問題はないの。わかった?」

「は、はい。有り難うございます」

「バカったれ! 有り難う、じゃないわよ! 何勘違いしてるの?」

一転して麦野は厳しい言葉をはき始めた。

「前にも言ったわ。テレポーターが戦場で演算を忘れたら死あるのみ、ってね。覚えてるわよね?」

「はい」

「よろしい。何故、忘れたの?」

「……」

「どうせ女の子の話でしょ?」

「……はい」
545 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 00:38:20.70 ID:ZlofLuEP0

「ったく。あのね、男に女の話したら、女に男の話したら、普通は心が揺れて当然なのよ! 当たり前なの。

問題はね、一旦動いちゃった平常心を如何に早く取り戻すかが勝負なのよ! 

あんたみたいに1時間も2時間もかかったら生き残れないわよ、いい? 

動くのは仕方ないの、人間なんだから。動揺した心をいかに短時間で平常心に戻し、演算可能な状態に戻すかが勝負なのよ! 

わかった?」

「はい! わかりました」 

漣は顔を上げてはっきりと答えた。

「何がわかったのか、言ってごらん?」

「は、はい。自分は、とにかく心を平準化して、動揺しないように、動転しないように、と言うことばかり気にしてました。

ある程度は対応できるようになってましたが、予想していなかった事態が起きると、まったくその訓練は役に立ちませんでした。

訓練の方向を間違えてました。今度は、いかにして動揺を早く抑えるか、興奮を静めるか、と言う点を集中して訓練します。

以上です」

「よろしい。訓練の成果を期待します。今日はこのあと特に仕事もないから、帰りなさい」

「はい! 有り難うございました。漣孝太郎、帰ります!」

ふっと漣は消えた。

……



「そんなに簡単に動揺なんか抑えられないって……」麦野はつぶやいた。

「あの子は優しいから…そもそも戦闘には向いてないわよね」



しばらく書類を見ていた麦野はひとりごちた。

「さて、表彰式でもちょっと覗いてみるか。あの子もいるらしいし」
546 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 00:41:53.96 ID:ZlofLuEP0



(なんで佐天さんが座ってないのよ?) 

上条美琴は壇上にいる4人の表彰者を見ながらやきもきしていた。

学園都市の広報委員として、来賓としての出席であった。

彼女は母・佐天涙子に娘・利子の表彰について連絡を取っていたが、

「残念ながら出張で今は日本にいないので、出席出来ません」という返事であった。

あまりの素っ気なさに言葉が出てこなかった美琴だったが、

「まぁ今まで2回とも、利子ちゃんが学園都市にいるときに佐天さんが来ると事件になってるからなぁ……気にしてるのかも……」

せっかくの娘の晴れ姿なのに惜しいな、と考えていた美琴であった。

しかし、



―――― 肝心の佐天利子がいない? ―――― 



式次第を読んでいた美琴は気が付いた。

(佐天さんの名前もないじゃない? どういうことよ? 外したの? なんで?)

むかーっときた美琴であったが、昔のようにいきなり雷を落とすようなことはもうない。

(なんでよ、どうしてよ?) とビリビリしていた美琴はふと、ある文字に気が付いた。

「他、匿名者 1名」 

(もしかして、これ、佐天さん? なんで……そうか、そうよね。そうだわ、彼女はおおっぴらに表にでたら危険だわよね)

彼女の生い立ちを考えれば、むしろ大々的に顔をさらけ出すことは絶対に避けねばならないことに気が付いたのだ。

(いや危なかったー、自爆するところだったわよ……、そうよね。これでいいんだわ。だけど誰が気が付いたんだろう?)

美琴は観客席をチェックし始めた。
547 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 00:48:08.15 ID:ZlofLuEP0


(いたいた! あそこに……え? ……… 違う! あれは原子崩し<メルトダウナー>? 

え? なんであんたがそこにいるのよ? まさか知ってて?)

美琴は真っ青になった。佐天利子だと思ったのは産みの親、麦野沈利であったのだ。遠目で見間違えるほど似てきたのだ。

(ホンモノの利子ちゃんは……いない? ウソ、絶対いるはずよ……)



そのとき、ドアが開いて、一人の女子高生が入ってきた。

(あれだ!……って、なんてこと、最悪! こらぁ、あんたどこに行こうとしてるのよ、えええええ、そこに座るの? それまずい!)

 なんと佐天利子は、麦野沈利の3列前に座ったのだ。

(写真撮られたら、いやテレビにあの位置で映ったら、親娘だって思われても不思議じゃないわよ! 

だいたい麦野、あんた気が付きなさいよ? 自分の娘でしょうに!?)



そのとき、麦野が立ち上がり、通路を抜けて扉を開けて外へ出て行った。



美琴は見た。

佐天利子がゆっくりと振り返って、去りゆく麦野沈利をじっと見ていたことを。

(まさか、気が付いた? ……まさかね。一度、あの倉庫で顔見てるはずだけど、気づいてなかったし。……あとで探っておくか)



上条美琴は人知れず安堵の息を吐いた。



548 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 00:54:41.19 ID:ZlofLuEP0



*上条美琴の周りに座っている人々は美琴の異変にとっくに気が付いていた。 

彼女がイライラして神経が逆立っていることに彼女の半径5m以内にいる全員が気づいており、

彼らは皆、毛が逆立つような負のオーラを浴びせられて恐怖に震えていた。



原因がどうやら観客席にいる誰かにある、ということは彼女の顔の向きで簡単にわかった。

ただ、ビリビリするその空気の中、顔をそちらに向け、その相手を捜す勇気は誰もなかった。



1人の女が出て行った直後、

彼女のとぎすまされていた神経が一気に緩んだのを感じた周りの出席者は一斉に「はー」とため息を吐き、テーブルに突っ伏した。



そして司会者が「みなさん、何かお疲れのようですが、大丈夫ですか?」と聞くハプニングが起きたのだった。


549 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 00:57:23.65 ID:ZlofLuEP0

(麦野沈利 side)

驚いた。よもや、後から利子が入ってくるとは思わなかった。しかも、あたしの3列前に座るとは。

制服姿も良く決まっている。さすが、我が娘。あたしは殆ど着たことがなかったけれど。

去年の、あのときは頭は包帯姿だったけれど、今は豊かな綺麗な髪がある。こうしてみるとぐっと大人びて見える。

そうか、そりゃそうだ。もうあの子は18……。

あの子がゆっくりと左右を見渡した。その横顔は、もはや2歳の頃の面影は感じられない、1人の若い、未来ある女性のソレだった。

おもわず、あたしはあの子の一瞬の横顔に嫉妬した。

そのあと、あたしは、あの佐天という女に感謝した。

どうなることかと思ったけれど、

途中であたしと同じことをしようとしたけれど、

あのいい加減な女は、あの子をここまでしっかり育て上げてくれたのだ。

もう十分だ。

ここは危険だ。あの子と並んでしまう。見られたらまずい。

あたしは、泣きそうになるのを必死にこらえて、外へ出た。

よかったね、利子(りこ)。

ありがとう、佐天。
550 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 01:00:30.35 ID:ZlofLuEP0

(佐天利子side)

あたしはまたトイレに行って吐いた。

今回のは結構つらい。回復しきる前にタクシーに乗ったからだろうか?

あたしはフラフラしながら自分の席に戻るべく、扉を開けた。

何か、気持ちの良い、不思議な感覚をあたしは感じ取った。



この感じ、どこかでこの感覚を味わったことがあるような……懐かしい? 心和ませる?



何かよくわからない、でもとても心地の良い感覚が、自分の席に近づくと、どんどんはっきりしてきた。

ヘロヘロにだったあたしはなんとか自分の席にたどり着き、腰を下ろした。

すると、その心地よい感覚がはっきりとあたしを包み込んだのをあたしは感じ取り、ぐらぐらしていた脳みそは急激に立ち直り始めた。

しばらくあたしはその感覚に身をゆだねていたが、突然その気持ちよい感覚が動き出した。

あたしが後を向くと、1人の女のひとが通路を後の出口に向かっていくところだった。

あたしはその後ろ姿に、どこか覚えがあるような気がした。

気持ちよい感覚は、その人と共に動いているようだった。

なぜなら、その人が扉を開けて出た瞬間、心地よい感覚は消滅したから。



あたしはよっぽどその人を追いかけようかと思った。でも何故か身体は動かなかった。

「みなさん、なにかお疲れのようですが、大丈夫ですか?」 

司会者が突然変なことを訊いたけれど、あたしにはわかった。

あたしは答えたかった。

(さっきまで死んでましたけど、もう大丈夫で〜す!)と。

551 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 01:06:21.84 ID:ZlofLuEP0
お読み下さいました皆様、御支援下さっていらっしゃる皆様、こんばんは。
>>1です。

本日の投稿はここで止めたいと思います。

少しですがまだ投稿できると思いますので、その分はこの土日で行いたいと思います。
それではお先に失礼致します。
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 01:17:11.25 ID:ij3fgAvqo
乙乙
相変わらず物語世界に引き込まれる・・・
また面倒な事件に巻き込まれないといいなぁとかハラハラしながら見守ってしまったww
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 09:54:45.34 ID:hYE+HINIO
乙!
相変わらず面白い
次の投下待ってるよ
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 11:49:03.10 ID:IGsZfWYko
あかん。定番と言えば定番なんだが、それでも母娘の再会(?)にドキドキしてしまう。
555 :LX [saga]:2011/01/22(土) 19:53:15.06 ID:Tj18/Q2T0
皆様こんばんは。
>>1です。
御支援本当にありがとうございます。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

それではこれより本日の投稿を始めます。
556 :LX [saga]:2011/01/22(土) 19:59:34.89 ID:Tj18/Q2T0

表彰式はつつがなく終了した。

あたしはロビーで湯川さんが出てくるのを待っていた。

「佐天さん、お疲れ様ですわ」

「は、はいっ!」

白井さんがあたしのそばに立っていた。テレポートしてきたのだろう。ちょっとびっくりだ。

「いえ、どうもありがとうございます!」

「どなたか、お待ちですの?」

「あ、湯川先輩を待ってます。今回表彰を受けてらっしゃいますので」

「あ〜、そういえばチャイルドエラー虐待事件の第一通報者があなたともう一人、教育大付属高校の方でいらしたわね、その方ですわね」

「ええ、……そういえば、去年の春、第1中央能力センターで、あたしと同じグループに湯川先輩はいたんですよ? 

顔見れば思い出すんじゃないですか?」

「まぁ、それは奇遇ですわねぇ、世の中は狭いものですわね」

おしゃべりをしていたところに、その湯川さんがやってきた。

「せんぱーい、ここですよ〜」

湯川さんは、手を振るあたしを見つけたらしい。

「あら、ずいぶん元気になったのね? もう具合はよくなったのかな?」

湯川さんは白井さんの顔を見て頭を下げた。

「昨年春に、第1中央能力開発センターでお目にかかっております、教育大付属高校二年生の湯川宏美です。

今回は表彰して頂きまして有り難うございました」
557 :LX [saga]:2011/01/22(土) 20:04:48.47 ID:Tj18/Q2T0

「こちらこそ。風紀委員会<ジャッジメントステーツ>統括総合本部の白井黒子ですわ。

貴重な通報を有り難うございました。50人もの子供たちが救われましたの。これからも宜しく御願い致しますですの」



「いえ、元々は」

と湯川さんがあたしをぐいと前に出し、

「彼女が九官鳥を保護したからです。佐天さんも功労者ですし、あと1名、私は知らないのですが、その九官鳥から、子供たちを

虐待していた施設の場所を引き出した能力者がいるはずです。本当なら彼女もここで表彰されるべきなんです」



「鳥から情報を引き出した、ですって? それはまた珍しい能力をお持ちの方ですわね。むぅ……

と、それはともかく、その方、今回はどうして表彰されていないのかしらね」

「本人が強く拒否された、とだけわたしは聞いています。理由は存じませんが……」

「そうですの……人には色々な事情がありますから、とやかく詮索するのはいけませんわね。でも、どんな

能力でも、人の役に立つことがあるのだ、と言うことは御理解していただきたいものですわね」


最後の言葉はあたしにぐさっと来た。あたしに向かって言われたような気もした。

558 :LX [saga]:2011/01/22(土) 20:10:20.49 ID:Tj18/Q2T0

「湯川さ〜ん?」

あ、上条美琴おばさん?

そうだ、来賓で壇上に座っていたんだっけ。広報委員だものね、土曜日も仕事か……、大変だなぁ。

「失礼? 広報委員の上条ですけれども、えっと、あなたが湯川宏美さんでしたよね?」

後にはテレビカメラを構えたクルーが2人居る。

あたしは反射的に一歩引いた。

白井さんがめざとくあたしの動きを見て、あたしの手を取った。

次の瞬間、



 ――― あたしは白井さんと一緒に小綺麗なレストランの前にいた ――― 



テレポートされたのだ。

「そういえば、佐天さん、テレポートされても全然驚きませんのね? 朝もそうでしたし。テレポートされた経験がおありですの?」

 白井さんが不思議そうにあたしに訊いてきた。

「え? は……い、いえ、一瞬だったので驚くひまもなかったというか……」

なぜか、ここで漣さんの名前を出すのはマズイ、という気がしたあたしは、適当にごまかした。

「そうですの? まぁ、今日は近かったから1パスで済んだからかもしれませんわね。初めての方では目を回された方も

いらっしゃいますのよ、ふふふ♪」

いや、白井さん、それ、そんな嬉しそうに……ちょっと怖いです(ガクブル
559 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 20:13:17.05 ID:Tj18/Q2T0

「佐天さんはマスコミの取材は苦手でしたわよね?」

白井さんが話を戻してあたしを見る。

「え……ええ、おかげさまで助かりました」

「では、あたくしは上条広報委員のところに一旦戻りますの。その前に」

白井さんはドアを開けた。ベルがチリリンと鳴る。

ウェイターさんがやってくる。

「予約しておりました白井ですの。わたくしはちょっと仕事が未だ残ってますので戻りますけれど、1名待ちますので御願いしますわ」

「お待ちしておりました。かまいませんですよ。あとどれくらいかかりそうですか?」

白井さんは時計を見て、

「そうですわね、10分〜15分でしょうか?」

「そうですか、ではおなかも空くと思いますから、お嬢様には先にスターターを差し上げてもかまいませんでしょうか?」


(え? あたし、お嬢様じゃないですけれど)と言おうとしたけれど、別にどうでも良さそうなのであたしは黙っていた。
560 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 20:25:05.29 ID:Tj18/Q2T0

「そうですわね、佐天さん? あなた、おなか減ってるでしょうから、スターターを先に召し上がってても宜しいかと思いますわ。

でも食べ過ぎますと、メインディッシュがおいしく召し上がれなくなりますわよ?」

と白井さんは、まるであたしの食いっぷりを見透かしたかのように釘をさした。


「は、はいありがとうございます」

そう言うや否や、あたしのおなかが「わっかりやした、親方!」と言うかのように、ぐうぅぅぅぅぅうと鳴いた。

 
   orz....



「あらまぁ……正直ですわねぇ。では、御願いしますわね」

そう言って白井さんは店を出て行った。

「それではガーリックトーストを大至急お持ちしますね」

ウェイターさんは笑いをこらえて戻っていった。




あたしはひとり、真っ赤になって固まっていた。
561 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 20:32:04.19 ID:Tj18/Q2T0

「お待たせー、おなか空いたでしょー?」 

扉を開けて、美琴おばさんが開口一番あたしに向かって訊いてきた。

「おばさん、止めて下さいよ、ただでさえとっても恥ずかしい思いしたばっかりなんですから!」

あたしはまた顔を赤くして、わたわたと手を振る。

「佐天さんは、とっても正直なんですのよ?」 

うう、白井さん、止めて!

「スターターでおなかふくらますと、あとで悲しいことになるのよ? ……って、その様子だと、ちょっと食べ過ぎてない、かな?」

湯川先輩がじっとテーブルの上を見てズバッと指摘してきた。

確かにガーリックトーストを2切れ、すっごく美味しかったパンを1コ食べたけど、ナイフを使わないとうまく食べられない

固いパンだったので、随分粉が落ちてしまった。それを見たらしい。

「大丈夫、佐天さんならそんなもの、へっちゃらよね?」 

美琴おばさん、それは褒めてるんでしょうか、それとも……

「さぁさ、みんな座りましょ! って、あら? 二人足らないわね? なにやってるのかしら?」

「……ですわね。今日は朝の特命事項以外は何もスケジュールには無いはずですのに」

「ちょっと連絡してみるわ」

美琴おばさんがバックから携帯を取りだした瞬間、


「なーにうじうじしてんのよ? コーちゃん、早く入りなさいよ!」

え? その懐かしい声は……コーちゃんって?

「おまたせー! あーっ、リコ!! やっと会えたね!! やっと学園都市来たんだね! キャッホー!」

突き抜けてハイテンションの上条麻琴が、




ちょっと拗ねた感じの漣孝太郎をズルズルと引きずって入ってきたのだった。
562 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 20:43:05.11 ID:Tj18/Q2T0

漣さんが麻琴に引っ張られるように入ってきたとき、あたしはどきっとした。

二人はあたしの向かい側に並ぶ形で座り、さっきの表彰式の話を始めた。

しかし、麻琴と漣さんの会話を聞いていると、この二人の関係が、只の風紀委員<ジャッジメント>同士、ではないことに気が付いた。

「あれ」「それ」

二人が同じ時を共有していないとわからない符丁。それらが飛び交う二人だけの会話が成立しているのだ。



(そうか……麻琴は漣さんとつきあってるんだ……)



そのとき、あたしは気が付いた。

(麻琴が、お化粧してる!)   



―――― 誰のために? 決まっている。漣さんのために、だ ―――― 



あたしの中に、ちょっともやもやしたものが産まれた。

(これ、なに?) 

あたしは、そのもやもやに戸惑いつつ、二人を凝視していたらしい。

湯川先輩ににツンツンとつつかれてあたしはふっと現世に戻ってきた。

(あのさ、あの二人、ここのメンバーとはどういう関係なの?)

あたしが答えようとしたとき、美琴おばさんが

「はーい、お待たせ! 始めましょう!」

とパンパンと手を叩きながら話し始めた。 
563 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 20:46:45.29 ID:Tj18/Q2T0

「今日はせっかくのお休みのところ、お集まり頂きありがとうございます」

「初めての方もいらっしゃるので、まず、自己紹介から行きましょうか、言い出しっぺはわたしね。

わたしは上条美琴。学園都市の広報の仕事をしています。そこにいる、」

と、美琴おばさんは麻琴を指さして、

「常盤台学園高等部の服着た、やかましいのが娘で、上条麻琴といいます。いろいろとご迷惑おかけしていますが、

宜しくお願いします。ほら、じゃあんた、次、自己紹介しなさい」と御指名した。


「えー、御指名にあずかりました?」

といって麻琴が立ち上がって引き継ぐ。この呼吸、さすが親娘だねぇ。

「常盤台の超電磁砲<ビリビリおんな>が結婚して産んだ娘があたし、上条麻琴でございます。マコと呼んで下さいませ。

やかましいのは母譲りでございまして、あたしの責任ではございません。この母にしてこの娘あり、です。宜しくお願い致します」

ニヤニヤしながら麻琴がとんでもない自己紹介を終えた。笑いが起こるけれど……

「………」

あらら、美琴おばさん、黒いオーラが……

(なんて言ってるかわかりますか?)  あたしは隣の地獄耳<ロンガウレス>湯川さんに小声で聞いてみた。

(覚えてなさい、マコト、あとで思い切りとっちめてやるからね、だって。まぁ親娘漫才みたいなものじゃないの?)

さ、さすが地獄耳<ロンガウレス>……え? 今AIMジャマー止めてるんですか?

「僕は、漣孝太郎、飛天昇龍高校3年。僕には両親はいません。すいません、用があるので帰ります。ごめんなさい!」


えええええええええええええええ?????????? なにそれ?????



………… そ、ん、な …………



座が静まりかえった。
564 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 20:49:07.72 ID:Tj18/Q2T0

漣さんがつかつかと店を出て行く。

「ちょ、ちょっとー? コーちゃんたらー、何バカ言ってるのよ? バカバカバカバカ!! ちょっと待ちなさーい!」

麻琴が漣さんを追いかけて飛び出していった。



あたしは反射的に白井さんを振り返った。

白井さんは………… じっとうつむいていた。



つーっと 涙がほほを…………


ど、どうしよう……… うかつに話しかけられない、よ。

湯川さんも息をのんでいる。




恐ろしい沈黙が席を支配した。




「おまたせしましたー、シーザーサラダですー!」

沈黙を破ったのは、お店の、明るい笑顔のウェイターさんだった。
565 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 20:53:51.99 ID:Tj18/Q2T0



「あたくしが、いけなかったのですわ」 

白井さんがぽつりと言った。

「あたくしがいなければ、あの子はここで、皆さんとわいわい騒いでいたはず、ですわ。麻琴さんがいたのですもの。

あたしが、ぶちこわしたんですわ、せっかくのパーティを」

「やめなさいよ、黒子! あんたまでここ暗くしてどうするのよ?」

美琴おばさんが白井さんをなだめようと……

「わたしは、やっぱり、まだあの子に許してもらえないのですわね……」

白井さんはそう言って両手で顔を覆うと、


もう耐えきれなくなったのだろう、 


―――― 「ううっ」という嗚咽の声が漏れ ―――― 


ふっと姿を消した……。



「はぁー、どうしてこうなるのかしら……」

美琴おばさんが頭をかかえて突っ伏してしまう。

566 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 20:56:53.59 ID:Tj18/Q2T0

(さっきの続きだけど、漣さんて、あの白井さんの?)

湯川さんが小さな声で訊いてきた。

(はい、息子さんだそうです。離婚されて、漣さんはお父様の方に行ったそうなんですが、でもそれも学園都市の小学校に入って

寮生活に入って離れてしまったようで、『両親はいない』というのはある意味正解かも……)

(それは漣さんは言い過ぎよ、本当にいなくなっていたらチャイルドエラーになっちゃうし。

ご両親だってどうしようもなくなって最後の手段で離婚されたんじゃないの? 捨てられたわけでもないのに。甘えてるわよ!)

(いや、そこらへんは、事情を知らない他人がどうこう言うのは止めた方が……)

(あら、佐天さん、随分とカレの肩を持つのね? んんん????)

(違います。あたしも父を知りませんから、なんとなくわかる気もする、っていうだけですよ)

(え?)



湯川さんも沈黙した。



そこへチリリンとベルが鳴って扉が開いた。

「あのバカ。あー、どうしてああ子供なんだろ?」 

麻琴が帰ってきたのだった。

567 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 21:00:19.24 ID:Tj18/Q2T0

さんざんなパーティになってしまった。

美琴おばさんは黙ってワイン飲んでるし。

麻琴、あたし、湯川さんの3人も、どうも話が進まない。

料理も2人欠けて、

「リコ、全然食べないね?」
 
「うるさーい、こんな雰囲気でバクバク食べられるほど、あたしは鈍感じゃないわよー!」

……と言い返すこともなく、目一杯盛り下がったまま、パーティは終了した。

せっかくのお料理も、悲しいくらいおいしくなかった。



「ごめんなさいね、湯川さん、せっかくのおめでたい話をぶちこわしてしまって、本当にごめんなさい」

美琴おばさんが平謝りに謝っている。

「いえ、とんでもないです。呼んで頂いただけですごく嬉しかったですから」

湯川先輩、大人の対応だよねー。

第1中央能力開発センターの時といい、湯川さんにとっては絶対忘れられないイベントになってしまっただろうな。

「湯川さん、リコ、ごめんなさいね。アイツ、素直じゃないのよ。もう18にもなるのに何子供みたいに拗ねてるんだって

言ってやったんだけど、言えば言うほど意固地になっちゃって、情けないったら……もう」

麻琴が同じように謝っているんだけど……

「マコ、あのさ、つまんないこと聞くけど、あんたたち、いつからあんたたち、そういう関係なわけ? 

あんたたちの話、単なる同じ風紀委員<ジャッジメント>のメンバー同士じゃなくて、もっと親密な関係にしか聞こえないんだけど?」 

あたしはちょっと胸が痛むのを感じながら麻琴に突っ込んだ。
568 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 21:05:57.40 ID:Tj18/Q2T0

「さすが利子ちゃんね……。そうよね、わが娘にしてはずいぶん積極的だけれど。麻琴? 

まさか、あんた、彼とおかしなことしてないでしょうね?」

うわ、美琴おばさんが参戦してきた。かすかに見えるのって、火花? まさか電撃??

「え、やだちょっと、二人ともなにそんなに真剣になってるのよぅ? あたしとコーちゃんはそんなことありません!」

「ちょっとあんたねぇ……」

前に出ようとする美琴おばさんを制して、あたしは麻琴をひっつかまえた。

「やだ、目がマジだよ、リコってば。 いや、ちょっと離してよ、あたし何もヘンなことしてないってばさー!」

あたしはじたばたする麻琴を左手でぐいっと抱き押さえ、がしっと抱きしめた。

「マコ、あたしの目を見なさいな」 

そう言いつつ、あたしは麻琴の目を見つめながら右手で麻琴をなで回す。

「どうなのよ? ホントのこと、リコねぇちゃんに言ってごらんなさい」

小さな声であたしは麻琴に話しかける。

「……」 

湯川先輩は目を丸くして、あたしたちの怪しげな雰囲気の会話を茫然として聞いている。



「ふにゃー……」

「ふにゃーじゃないでしょ? マコ? どうなのよ?」

「だからぁ、まだ何もしてないんだから……、ほっぺにキスしただけだよぅ、うふふふふ♪」

あたしの手が止まった。
569 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 21:10:48.50 ID:Tj18/Q2T0

「マコがしたの?」

「うん……」 

ま、なんて幸せそうな顔しちゃって……

「いつ?」

「4月10日だよ? 高校入学おめでとうって、これ、ペンダントもらったの……。嬉しかったなぁ……

でね、御礼にね、ほっぺにしちゃったの。うふふふふふ」

麻琴がとろーんとした顔で、可愛らしいハートマークのソレをつまんであたしに見せる。

うわぁー、あほらしい!!!! あたし、まるでバカじゃん? 聞いてられないわぁ! あたし、泣きたい! 



ふと脇を見ると、湯川先輩が真っ赤になっている。

お母さんの美琴おばさんは……あれ?少し震えて……る?



「そしたらね、カレがね、あたしの唇にね、チューしてきちゃったのぉ……キャ、恥ずかしい!」


 !! こらぁ! したんじゃないかい!! ちゃんと何かしてるじゃないかぁ!! 偽証だ!


「有罪<ギルティ>」 湯川先輩が厳かに断言した。

「は……」

くたっと美琴おばさんがしゃがみこんでしまった。

「ママ!?」
「おばさん!?」
「上条さん!?」

あたしたち3人が駆け寄る。

「はは、今日は、すっごくいろんなことがあった日だわねぇ……悪酔いしたかな……ちょっと足にきちゃったかも」

美琴おばさんは、何とも言えない顔でつぶやいた。

「黒子と(あたしが)親戚に? いや、まだ(そうならない)可能性はあるわ、あるはずよ、あるに決まってる……」


あたしもちいさくつぶやいた。

「不幸だ」

湯山さんが「はい?」という顔をした。
570 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 21:15:04.13 ID:Tj18/Q2T0

あたしは湯川先輩と一緒に寮に戻ってきた。

「お、帰ってきた!」
「リコー、もう具合はいいの?」
「カレはどうしたの?送ってもらったの?」

カオリん、さくら、ゆかりんの三羽がらす、がめざとく突撃してくる。

あー、うざったい! あたしは、今、最高に機嫌が悪いぞ〜!!!!

「ごめん、あたし、気分わるいからちょっと寝る!」

「へ?」 
「え?」
「はい?」

予想していなかったのだろう、三人があっけにとられていた。



(はぁ、あの、麻琴が、ねぇ……)


あたしはベッドに寝転がって考えていた。

理由は随分違ったものになったけど、あたしは学園都市に来た。麻琴がそこにいたから、という理由も実はゼロじゃない。

(なのに、あんにゃろう、あたしに断りもなく、しかも漣さんとキスしちゃったですって、嬉しそうにノロケちゃって!

なーにがペンダントもらっちゃいましたよ、ムフフフフフですって? ばっかやろぅー!)
571 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 21:19:24.18 ID:Tj18/Q2T0

「どう?」   大里香織が小声で訊く。

「かなり荒れてるみたい」   青木桜子が、前島ゆかりのノートを見ながら答える。

「あんたたち、ほんとストーカーだわよ?」

あきれつつも、湯川宏美は青木桜子と一緒に前島ゆかりのノートを食い入るように見ている。

「シッ!! 聞こえなくなるからしゃべっちゃダメ!」

ドアに張り付いた前島ゆかりは、自分のノートに自動書記<オートセクレタリ>で、佐天利子が中で喚いてる言葉を打ち出して行く。

「マコって誰よ?」   大里香織がつぶやく。

「たぶん友達でしょ?」   青木桜子が答える。

「か・な・り、危ない感じのね。姉と妹みたいだけど、ちょっと百合ッ気あるわよ、この二人の関係。

昔からの幼なじみです、とは言ってたけどね」

湯川宏美が、ついさっきの二人が絡んでいた場面を思い出してわずかに赤くなる。

「うそー、リコが? ちょっと想像できないかも……」   青木桜子の声が高くなる。

「ちょっと、さくら、声でかい!」   前島ゆかりが小声で注意する。

「さくらだってその気あるじゃん……」   大里香織が小さな声でつぶやいた。
 
「それでね、朝のカレ、そのマコって子とつきあってるらしいのよ」   湯川宏美が話を続ける。

「えー? 百合なのにぃ?」   前島ゆかりが思わず叫ぶ。

「声がでかーい!」   青木桜子がお返し、と言う感じでパシ、と軽く前島ゆかりをはたく。

「で、とりあえずキスまではしちゃったって」   湯川宏美が小さな声で言う。

「うそー!」
「あちゃー、それでか……」
「やるねー、その子」

三羽がらすが声を揃えて ”小さな声” で驚きを表現する。
572 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 21:24:59.02 ID:Tj18/Q2T0

「そっかー、朝のあのひと、先に友達にツバつけられちゃってたんだ……?」   青木桜子が頷きながら言うと

「あるよねー、そう言う例ってさ」   大里香織が同調し、

「いやー、あたしも話には聞くけど、実際に現在進行形で見たのは初めてだわ」   湯川宏美が話を合わせる。

「そっか……リコはダブルショックなんだね」   前島ゆかりがぼそっと言う。

「「「?」」」   三人がはてな?と言う顔でゆかりの顔を見る。

「そうでしょ? かわいがってたお友だちはオトコとつきあってた、そして自分がちょっと気を引かれたオトコは自分のそのお友だちと

つきあってた、という訳だからさ……」

「おお、昼メロだねぇ」
「ドロドロだねぇ……」
「そうね、ダブルパンチだね……」



”バカーっ!!” 

部屋の中から、主である佐天利子の悲痛な叫びが聞こえてきた。


「うは」
「こりゃまたでかい波が来たねぇ」
「そろそろ、避難します?」
「そうね、もうだいたいわかったから撤収しましょ?」

佐天の部屋の前で集結していた4人はそそくさと引き上げていった。



……翌日、せっかくの日曜日なのに、寮監から4名は呼び出され、監視カメラの映像を見せられた上で「覗き」の現行犯として

こっぴどく怒られたのは言うまでもない。罰は食堂の大掃除であった。

とくに風紀委員<ジャッジメント>であり、表彰されたばかりの湯川宏美は残されて、こんこんと説教をされたうえで食堂の掃除

に放り込まれたのであった。
573 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 21:32:40.64 ID:Tj18/Q2T0

日曜日。

本当なら昨日パーティのあとに買ってくるはずだったジョギングシューズだが、昨日は結局それどころではなかった。

今日買ってこないとまたしばらく買いに行けない。今日は意地でも買ってくるぞ〜w

さて、出かけるか、と言うところに麻琴からメールが入ってきた。

「おはよー、リコ、今日ヒマ? 時間あったら遊びに行かない? おいしいケーキ屋さんまだ連れて行ってないからどうかな?」

うーん、とあたしはちょっと考えた。今日はジョギングシューズ買いに行きたいんだよなぁ……

先にアロースポーツ行ってから麻琴お勧めのケーキ屋さん、という手もあるか……



と考えていたときに今度は「アイツ」からメールが来た。

「昨日はとんでもないことをしてしまって、ごめんなさい。反省してます。麻琴さんに大変しかられました。

お詫びにお二人にケーキ奢ります。これからどうですか?」

   ――― かちーん ――― 

なによ、これ? あたしが行ったら、麻琴とアイツのカップルにくっつくってことじゃないの?

あんたら二人のお熱いところなんか見たいもんかー! 好きにしろ・好きにやってろ・してやがれだ…… 

あ〜ぁ、せっかくの日曜日の朝から……不幸だ。

あ、バス来た。



あたしは乗り込んだバスの中から二人にメールを打った。

「おはようございます。お誘い嬉しいけれど、今日はどうしてもやらなきゃいけない用事があるので、ごめんなさい。

お二人でどうぞ!」

メールを打ったあと、あたしはケータイの電源を切った。へへ、知ーらないっと。

………
574 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 21:35:26.83 ID:Tj18/Q2T0


しばらくたってから、上条麻琴と漣孝太郎ペアが学園都市教育大付属高校の女子寮にテレポートして飛んできたが、

佐天利子は外出しているとのことで、二人は彼女に会うことは出来なかった。



「リコが来ないって言ったのは、コーちゃんが余計なこと書くからよ! ホントにもう、バカバカバカ!」

「えー、二人で誘おうって言ったのお前じゃんかよー」

「アンタってひとは、ほんっとぉーにデリカシーがないわね! いっぺん死になさいよ!」



……女子高生の寮のゲート前で、女の子にののしられている男子高校生というイベントが注目を引かぬ訳がない。

あっという間に寮生が集まってくる。

「何あれ?」
「誰?」
「どうしたの」
「なんかやったんじゃない?」
「あの子、うちの寮生? 誰か知ってる?」



上条麻琴と漣孝太郎が気が付いた時は、ゲートの内側には寮生の女子高生が鈴なり状態。

ビクっとした漣孝太郎はテレポートを図ったが例によって失敗。

あわてて上条麻琴の手を取って脱兎の如く走り去る。

そのシーンがまた女子高生にウケ、

「キャー!」
「あー、待ってよー」
「コラー、逃げるなー」
「スゴすぎる〜!」
「色男がんばれ〜!」

やんやの喝采を浴びる始末であった……。

575 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 21:39:38.32 ID:Tj18/Q2T0




あたしはバスとモノレールを乗り継いで、アロースポーツ店についた。

ショウウインドウを見た瞬間、また木曜日のことを思いだしてしまった。

あんにゃろう、マコと付き合ってるくせにブリッ子しやがって……それにしたって、騙されるあたしも情けない。

いいや、「別れたら、次のひと」だ、好きにやってろー!

そんなことより、あたしは走るんだぁー!!

「すいません! このシューズ下さい!」


…………

「な、情け……ない……わぁ……」

あたしは学校の門のところで息を切らしていた。

寮から学校まで、たぶん2kmあるかないか、くらいなのに。

アロースポーツでジョギングシューズを買い込んできたあたしは、早速おニューのシューズを履き、

まずは小手調べとばかりに寮から学校までの往復をやってみたのだが、あえなく片道で挫折。

とほほ……情けない。

確かにアップダウンが少しあるけれど、基本的には殆ど平坦なのに。

想像以上にあたしの身体はなまっていた。

とても中学で陸上中長距離をやっていたとは言えないレベルだ。

「こりゃダメだ……真剣にやらないと。まるで、並みのひとじゃないの……いやぁ参ったわ……」

もうひとつ。胸だ。今のだとブラが胸の動きを抑え切れていない。ちょっとこれは予想外だった。

(スポーツブラも買い直しか……こりゃ今回の報奨金はこれで終わりだなぁ)

ようやく息が戻ってきた。

「さて、もういっちょ寮まで戻って、ブラ買いに行ってきますかね!」
576 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 21:54:13.26 ID:Tj18/Q2T0

走り出して数十メートル、向こうから歩いてきたひとがあたしに手を振った。

(あたしに? 誰だったっけ? えっと、風紀委員<ジャッジメント>77支部長の……?)

「よ、佐天さんだったよね、ジョギング?」 

そう、打田さんだ。

あたしはステップを踏みながら、

「ハイ、陸上、やってたんですけれど、高校入ってから、全く、やってなくて、今日から、復活、しようって、とりあえず、

学校まで、走って来たんですけど」

「えー? 結構あるよね、教育大付属女子寮からだと? さすがだね」

「いえ、2キロ、ないと、思うんですけど、でも、さっきはへばってしまい、ましたぁ、エへへ」

「そうか、ところで、キミ、スポーツブラ、してる、の?」

打田さんがいきなりビミョーなことを訊いてきた。

「えええ、な、なんですか、突然?」  思わずあたしは止まってしまった。

「いや、邪魔してごめんね。いや、そのキミの胸、がさぁ、ちょっと動きすぎなんだよね。いやいや、その、エッチな意味ではなくて、

女性の胸はメッシュ状の靱帯で支えられてるので、同じ刺激を受け続けると緩んじゃうんだよ? 知ってる?」

「……はぁ? そうなんですか?」 

あたしはそんなことを聞いたことがなかった。

「あたしは、ただ、走るとき邪魔なんで動きを抑えるためのものだと思ってましたけど」
577 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 21:56:42.50 ID:Tj18/Q2T0

「それはそれで正しいよ。で、僕の言ってるのは、それが出来てないで靱帯が切れたり伸びたりすると、おっぱいが垂れちゃうんだな」

「えーっ! そうなんですか?」 

あたし、只でさえ目立つから恥ずかしいのに、それが垂れたらもっと恥ずかしいことに!

「うん、だからちゃんと自分の胸の大きさにあったスポーツブラをつけた方が絶対良いよ。ごめんね、ジョギング中にヘンなこと言って。

邪魔しちゃったね。じゃ、クルマと自転車に気をつけて! 頑張ってね!」

「あ、ありがとうございます。それじゃ、また!」

あたしは再び走り出した。

だけど打田さんに言われたことが気になって、あたしはずっと自分の胸が揺れることに神経が集中してしまって、無心で走ることが

出来なかった……すごく恥ずかしかった。あーなんなんだ、今日は!



打田さんの話は確かにいい加減なものではなかった。でも、打田さん、なんでそんなこと知ってるんだろう?

アロースポーツでお店のお姉さんに聞いてみても、おおよそ同じような話が返ってきた。はー、垂れ防止、ですか……。

あたしの胸は大きいからと、外国製のやつを勧められた。お値段もさすがだったけれど、つけた感じは今までのものとは全然違った。

勢いであたしは2つ、色違いで買ってしまった。ケイちゃんはこんな高いの、要らないんだろうな……。

そうだ、ケイちゃんとひろぴぃ、今どうしてるだろ、二人とも陸上続けてるのかな……?

あーぁ、それにしても、今日は運動具で大散財だ。




………月曜日の朝6時。

あたしはおニューのスポーツブラをつけて、寮の周りを簡単に走ってみた。

「べ、別物だ……」 

胸が揺れない。初めてだ、こんなの。高かったけど、最高だ。スゴイ楽。

おもわず一周するだけのはずが三周もしてしまった。

よーし、これから朝も走ろう!
578 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 22:00:06.80 ID:Tj18/Q2T0



ある日の朝。

HRも終わり、1時限目。

先生がなかなか来ない。最初は静かに待っていたあたしたちも、ひそひそ話が始まり、そのうちにごく普通のおしゃべりになっていた。

「あたし、見てくるね」 

さえちゃん(遠藤冴子)が教室から出て行った……



1分経つか経たないかのうちにさえちゃんが教室に走り込んできた。

「代講ですぅー!!」

「キャホー!」
「やったー!」
「わんだほー!」

クラス中が歓喜の声に満たされる。

「代わりの先生が出席取りに来るから、まだ出ちゃダメよ〜!」 

さえちゃんが警告を発する。

……そう、たまに先生が急病で休んだりすると、代わりの先生が「授業をする」ので、代理講義すなわち「代講(だいこう)」と言う

仕組みがあたしたちの高校にはある。

で・も、本当に授業をする先生は皆無だった。

出席を取って、「自習」を宣言して教員室へ戻ってしまうのだ。

そうなると、そこには1次限まるまる使えるフリータイムが出現する。

「はい、いいですか、出席を取ります!」

初めて見る女の先生<ひと>だった。
579 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 22:02:48.29 ID:Tj18/Q2T0

「あおき さくらこさん?」  「ハイ」

「えんどう さえこさん?」  「はい」

「おおさと かおりさん?」  「ハイ」


……あたしの番が来た。


「さてん……? としこ、さん?」 


「は、はい?」 

なんであたしは疑問形で呼ばれたんだろう?

あたしはその初めて見る先生?を見た。

先生も私の顔を見た……視線が合った。

先生が驚いた顔をしている。はて、どこかで会ったかしらん?

数秒間、あたしたちはお互いに見つめていた、らしい。

「?」 

カオリんがあたしと先生とを見比べている。

「あの?」  

田畑恵美(たばた めぐみ)ちゃんがせかすように声を上げ、先生?は我に返ったようだ。

「ご、ごめんなさいね。 たばた めぐみ、さん?」  「ハイ」

……その後は特に何もなく出席確認は終了した。

「それでは、皆さん、自習していて下さいね?」 

そう言ってその先生は出て行こうとした……が、

「すみません、あの、佐天さん?」 

あたしを呼んだのだった。

580 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 22:07:35.31 ID:Tj18/Q2T0

「ごめんなさいね、ちょっとお聞きしたいことがあって……」 

あたしは廊下でその先生と向かい合った。

「はい…………あの、なんでしょうか?」 

あたしもさっき見つめられていたので、その理由を聞いてみたい気もした。

「さてん、って言う名字、あんまりないですよね?」 

先生は聞いてきた。

「ええ、珍しい方だとは思います」 

あたしはなんのことかわからないままに一応答えた。

「あたしね、さてんるいこ、さんという方を覚えているんだけど、あなたのお母様とかご親戚にそう言う名前の方いらっしゃらないかしら?」

おそるおそる、と言う感じで先生が聞いてくる。

へー、母を知っているんだろうか? このひと。 大学のゼミで一緒とか、だろうか。

「あぁ、るいこというのは、あたしの母の名前が佐天涙子ですけれど、もしかしたら同じかもしれませんね? どこで一緒だったんですか?

大学のゼミ、とかですか? 母は大学で講義も持ってましたから……」

すると、その先生はニッコリと笑って

「ううん、そこじゃないけれど……。お母様はお元気ですか?」

「ええ、と言っても母は東京に住んでますから、ちょっとここ最近の様子は知りませんけれど?」

「そうなの? ……そうよね! ここは学園都市だもの、あなたは寮生なのね。じゃぁ、夏休みにでも帰省されたら

お母様にお伝えして頂けるかしら? 『18番は元気にやってます』って」

「じゅうはちばん、ですか? それでわかるのかな……って、そう言えば先生のお名前、あたし知らないんですけれど?」

18番とは何ぞや? 出席番号かなぁ? なんだろう? まぁ名前と一緒に言えばわかるだろうな……くらいに考えていたあたしは、

先生の名前を聞いて驚いた。
581 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 22:10:10.32 ID:Tj18/Q2T0

「あらいけない。 そう言えばあたし、自分の名前、教室で言ってないような気がするわね……。 

あたしは、麦野志津恵(むぎの しづえ)と言います。こころざし、に、津田沼のつ、めぐむのえ、ね。よろしく」


   ――― むぎの ―――

まさか。

まさか、ね?

まさか、だよね……?

あの、殺人ビーム、のひとの、娘さん?


今度は、あたしがじーっと麦野先生を見つめる番だった。



「あの……、そう見つめられると困っちゃうんだけれど?」

先生に言われて、あたしは我に返った。

「し、失礼しました! すみませんでした! ごめんなさい!」 

あたしは平謝りに頭を下げた。

「あはは、あたしもあなた見て、さっきちょっと固まっちゃったから、おあいこ、ね?」

先生はあたしがペコペコ頭を下げるのを見て? ちょっと笑いながら話を続けた。

「あなたがね、あたしの昔、知ってたひとにちょっと似てたから、驚いてたの。気にしないで」

でも、そう言った先生の目は笑っていなかった。

(え、なんでそんな顔するんですか?)  あたしは麦野先生の目がちょっと怖くなった。

その怖れが伝わったのだろう、ふっと先生の目の力が消えて、とても優しい目になった。

「ごめんなさいね、つまらないことしゃべっちゃって。あたし、もう戻りますから、佐天さんも戻って下さいな。じゃ」

そう言って、一方的に麦野先生は職員室の方へ戻っていった。

(聞けないよ……先生のお母さんって、殺人ビーム出せますか、なんて……)  あたしはふーっと息をついた。
582 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 22:15:17.55 ID:Tj18/Q2T0



死ぬほど驚いた。

女子高生姿の「お母さん」がいるのかと思った。

しかも、よりによって名字が「佐天」だ。おそらくあの時の「さてん」と言っていたひとの娘か親戚に間違いないだろう。




やっぱり娘だったか……

あの「佐天さん」に、「お母さん」そっくりの娘がいるなんて……出来すぎた話だ。

お母さんの娘は死んでしまったというのに……皮肉なものよね……。他人のそら似、とはよく言ったものよね……

………! 

まさか? 

まさかよね。そんな馬鹿なことはない……よね?

それはいくらなんでも、それこそ出来過ぎじゃないの……。

あれ? ちょっと待って? 15年前に2歳で亡くなっている訳だから、今年17〜18歳になるわけよね?

今年、もし生きていれば高校三年生のはずだ。歳が合わない。





ふーん、経歴データを見ても15歳、誕生日が来て16歳か。

やっぱり他人のそら似なのかな……私の考え過ぎか。
 

…………
583 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 22:21:19.22 ID:Tj18/Q2T0

その日の夜。


「お帰りなさい、お疲れ様でした」 と、麦野志津恵が声をかけた。

「はい、ありがと。ただいま」   帰宅した麦野沈利は、玄関で志津恵に挨拶を返す。



「あのね、『お母さん』、あたし、今日、『お母さん』そっくりの子供に会ったの」   少し探るような感じで志津恵が話しかけた。 

「へー、じゃその子、美人だったろう?」   それがどうしたんだい、という感じで沈利が聞き返す。

「う、うん、『お母さん』が女子高生だった時ってああだったのかな、って思うくらい。その子、さてん としこ って言うの」


ごく一瞬、沈利の顔に緊張が走ったが、そこは年の功、靴を脱ぐべく下を向いていたので志津恵には悟られなかった。


「女子高生? あんた、いつから高校勤務になったの?」     顔を上げた沈利は、少し話題をそらせようとする。

「やだ、この間言ったでしょ? 聞いてくれてなかったの、『お母さん』?」   志津恵がむくれた声で返事を返してくる。

「いつよ? 志津恵、あたしはあんたが言ったことはちゃんと覚えてるわよ、歳くっててもね。でも今回の話は誓って言うけど

聞いてないわよ?」   沈利はちょっと強気で志津恵に出た。

いつもの志津恵なら、ここら辺で弱気になって「そ、そうだったかな?」と引っ込むのだが、今日の志津恵は違った。
584 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 22:27:48.14 ID:Tj18/Q2T0

「い・い・ま・し・た! あの日だもん。『お母さん』がいつもの夢……」 

言い返した志津恵が、突然黙ってしまった。

「どうしたの? 志津恵?」 

言い返してくること自体が珍しいことなのに、更に黙り込んでしまった志津恵の様子に沈利もただならぬ気配を感じ取っていた。



「……『お母さん』の娘は、可愛かったあの子は、思い出したけど『リコ』だったよね? 

で今日のあの子は「としこ」だけど、字は同じ『利子』じゃないの? 

………もしかして、あのそっくりなあの子、死んだはずの」

「そうだったら、あたしは嬉しいけれどね」 

沈利は、志津恵をがっちりと押さえ込んで、彼女の目を悲しそうに見つめ、話を途中で遮るように話し始めた。

「あの子は死んだの。もう、二度と帰ってこないのよ、志津恵。 お願い。あたしの悲しい昔を思い出させないで。

自分の娘を三人とも亡きものにした愚かな母をこれ以上責めないで」

沈利はそこまで一気に言うと、志津恵を抱きしめた。

「ごめんなさ……い、『お母さん』……」

(『お母さん』を苦しめるのなら、これ以上調べるのはやめよう……忘れよう) そう思った志津恵だった。

585 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 22:30:48.83 ID:Tj18/Q2T0



疲れた。

よもや利子と志津恵とが正面から出会うことになろうとは予想だにしなかった。

あの佐天も超電磁砲<レールガン>も、なんで教育大付属なんて地味な高校に進学させたのか……。

常盤台高校なら超電磁砲の言うとおりになる学校のはずなのに、なんでまた……



そもそも志津恵が高校へ派遣されること自体想定外だったのだが。

志津恵があの佐天<おんな>の名前を覚えていたことも予想外だった。

「佐天」なんていう名字はかなり珍しい。まずあの時の女の娘だと思うだろうし、利子は間違いなく正直に志津恵に言うだろう。

これであの時のピースがひとつ完成してしまった……。

しかもあの子はどんどんあたしに似てきている。あたしとしては嬉しい反面、ばれる可能性が高くなる。

万一、志津恵が利子を連れてきたらどうする……? あたしとあの子が並んだら……

ここから逃げるか? それは出来ない。親バカと言われても、公私混同と言われても、あたしは陰であの子を守らねばならない。

それが、せめてものあたしの償い。あたしはあの子が学園都市にいる限り、ここを離れることは許されない……。



いっそばらすか? ……とんでもない。 そんなことをしたらあの子には二度と平和な日はこない。

あの子だけじゃない、佐天<ははおや>もまた同じ目に遭うことになる。絶対にダメだ。

今までの、みんなの16年間をぶち壊してしまう。無駄にしてしまう。そんなことは許されない。



では、どうする……?



麦野沈利は暗い天井をいつまでも見つめていた……。
586 :LX [sage saga]:2011/01/22(土) 22:43:11.52 ID:Tj18/Q2T0
拙文をお読み頂きました皆様、こんばんは。
>>1です。

ストックの大半を投稿致しました。
首尾良くまとまれば、あと1つのエピソードを明日投稿出来るかもしれません。

それを投稿しますと書きかけのストックだけになってしまいますので、またお時間を
頂戴することになりそうです。
書き出したネタはいくつかあるのですが、絡ませ方・組み込む時期・終わり方が全く
決まっていないので困ってます。
さらに、現在会社の仕事が忙しい為、平日の夜は殆ど創作が出来ない状態なのでしばらく間が
開きそうです。頑張ってみますが、間があきましたらごめんなさい、であります。

それではお先に失礼致します。
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 22:44:09.04 ID:bkcFOPV6o
>>586
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 23:39:27.75 ID:ij3fgAvqo
まさかの麻琴ちゃんと漣くんのカップルとは・・・
黒子一家の事情も気になるな
589 :LX [sage saga]:2011/01/23(日) 21:38:00.06 ID:jJiP3o3c0
皆様こんばんは。
>>1です。

本日、1エピソードを投稿するつもりでしたが、改めて読み返しますとちょっとひっかかる
点がありまして、修正・追加をしていますが、どうもうまくいきません。

申し訳ございませんがお時間を頂戴致したく、宜しくお願い致します。
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 22:03:16.09 ID:TC8HL/EAo
把握した
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 22:10:14.20 ID:8Tp5qiSwo
ゆっくり続きを待ってる!
592 :LX [saga]:2011/01/25(火) 00:04:14.08 ID:4EdQrwcR0
こんばんは。
>>1です。

本日新年会で、今戻りました。
アタマはぐらぐらしてますが、少し投稿致します。
宜しくお願い致します。

593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 00:06:08.60 ID:CL9dpNCAO
うむ、よろしゅう頼む
594 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 00:06:45.84 ID:4EdQrwcR0


「そろそろいいかなぁ……」

上条麻琴はスカウターを弄りながらぽつりとひとりごちた。

佐天利子との間がちょっとギクシャクしてしまっている。

麻琴としては、特に利子に何かをした、という意識はない。なのに、あの悲惨なパーティ事件以降、利子は麻琴に妙につっけんどんな

態度を取ってくる。なんで、何を利子は怒ってるんだろう? と悩んでいるのだった。



まぁ、今までも常に順風満帆だったわけではないのだが、今までは家も近ければ学校も一緒、というわけでさっさと仲直りして

次行きましょう、という暗黙の了解みたいなものがあった。

加えて、利子がどちらかというと年長者的な位置、麻琴は妹分みたいな位置付けだったので、その都度誰に言われる訳でもなく、

二人のどちらかが仲直りのきっかけを作り出して今まではうまくやってきたのだった。今までは。



しかし、今回は少し勝手が違った。今の二人は学校が違う。場所もちょっと離れている。

さらに利子は寮、麻琴は両親と一緒のため住んでいる学区も違っていることから、会わずに済ませようとすれば容易に出来てしまう

状態だった。ちなみに寮にいない麻琴の例は、常盤台学園としてはややイレギュラーな扱いではあるが。

そして、麻琴は柵川中学校以来の風紀委員<ジャッジメント>の一人であり、一方の利子は現在補習授業の嵐のまっただ中にいて、

平日は殆ど時間がない状態であった。

メールでは、文字の羅列であるが故、ともすればトラブルを拡大するだけであり(既に起きていた)、残された手段は電話で

話をするぐらいしかないわけであるが、これも相手が電話に出ない・出れないという状態ではどうにもならず、二人の仲は

今までのつきあいのなかで初めて、と言っても良いくらい長い疎遠状態にあるのだった。
595 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 00:11:07.61 ID:4EdQrwcR0


prrrrrrr, prrrrrrr, と呼び出し音が鳴っている。 ”カチャ”と音がした。

(また、留守電かな?)と麻琴は思ったが、今回は違った。

スカウターに「音声通話 接続・開始」の文字が出たのだ。あわてて麻琴は回線をオンにする。

「もしもし、リコ、リコ?」

「なーに? どうしたの、マコ?」 

拍子抜けするような利子の声だった。あまりの普通さに一瞬、留守電案内かと疑ったくらいである。 

「い、いやね、ここんところ、リコとお話出来てなかったから、ちょっと声聞きたいなって……」

「あはは、何言ってるの、1週間も経ってないんじゃない? もしかして、また癒されたいとか? 

……そう言うところは変わってないねー、あんたも」 


あたしに癒されたいのは、あんたでしょー?、と麻琴は出掛かった言葉を飲み込む。そして、


「そ、そうかなぁ、でもあたし、変わってないもん。なのにさ、リコがさ……」

「ん? その発言、ちょっとひっかかるねぇ。なんかしたっけ、あたし?」

なんかした? もないもんだ、と麻琴は思う。

「んー、そうねぇ、なにもしてくれない、ってことしてるね、リコは」

「はぁ? なによそれ? ちょっとヘンだよ? マコ」

「……」

「こら、どうしたのよ? マコ? 黙っちゃって。 なに拗ねてんのよ? リコねぇちゃんにはっきり言いなさい」

(よぉーし、作戦成功! 画像同時転送にしないで正解!) 麻琴は思わずガッツポーズを取った。

利子が「リコねぇちゃん」と自分から言いだした時は機嫌がとても良いときなのだ。

あとは麻琴が従順な妹役を演じれば全てうまく収まる。
596 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 00:16:10.16 ID:4EdQrwcR0

「前にさー、つーか、ずっと前、中学の時からリコと美味しいケーキ屋さんに行こうってあたし言ってたんだけど、覚えてる?」

ちょっとした賭けだ。リコの大好きなケーキ。さぁどう出るか?

「あー、そういえば、あったねぇ。マコ、まだ覚えてるんだ?」 

おかしそうな声で利子が聞いてくる。

「そう。リコを連れて行く、って言ってもう1年過ぎたんだよぅ? 時間作ってよ、リコ」

「マコはだって風紀委員<ジャッジメント>でしょ? アンタこそ時間作れるの? 

二人で行きました、あれれ?ごめんね、あたし仕事です行かなくちゃ、リコ一人で食べてね、じゃぁね……っていうのは勘弁してよ? 

……んーと、あたしはだいたい月曜と水曜がフルに補習。火曜と木曜は補習1時限。時間あるのは平日は金曜だけ。

それでアンタの方で予定組んでみてよ?

……あたしだって、ほら、学舎の園のケーキ屋さん行きたいもん。常盤台高校のマコ様の御紹介がないと入れないんだから、

この作戦の成否はアンタ、上条麻琴サマの双肩にかかってるんだからね?」

よしよし、やっぱりケーキ屋さん作戦は成功率高いね! 

「うん、じゃちょっと明日スケジュール表見て連絡するね!」

「え、今わからないの?」

「機密保持上の問題で、あたし個人のスカウターからだとアクセスできないのよー。不便だけどセキュリティの問題だからどうしようもないの」

「ふーん、まぁいいや。楽しみにしてるね、頼みますよ、麻琴サマ! あとさ、念のため言っておくけど、カレなんか連れてこないでね?」

グサ。覚えてたか……さすがリコだ……

「なーにー? なんか返事がないようだけど、まさかアンタ、この前みたいに、いけしゃあしゃあとカレ氏同伴の席にあたしを

呼ぼうなんて、か・ん・が・え・て・ないでしょうね?」

「あーははははは、あたしだって、バカじゃないわよ。そ、そんなこと考えても居なかったわよ? リコ、ちょっと勘ぐりすぎじゃない?」

いやー、ホント、音声通話でよかった……

「ふーん、なんかマコ、冷や汗かきながら話してるような気がするけどね? まぁいいか。じゃ、連絡待ってるね。

そ・こ・の、コーちゃんとやらにも宜しくね!」



”音声通話終了 リダイヤルしますか? ”の表示が踊る。
597 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 00:19:48.57 ID:4EdQrwcR0


「はーっ………疲れたわぁ」 

上条麻琴はぐだーっとテーブルにのびた。



「どうだった?」  

離れて座っていた漣孝太郎が寄ってきて、麻琴に自信なさそうに聞く。

「……バレてたわよ。あんたは連れてくるなって、で最後に宜しくねって」 

あっちを向きながら麻琴はそう言い捨ててストローをくわえて、アイスが殆ど溶けて薄くなってしまったオレンジジュースを飲み干す。

「……なんでここまで嫌われたかなぁ……?」 

頭を抱えてしまう孝太郎。

「それは、あんたがガキみたいなことするからよ。まったくもう、せっかくのパーティ完璧にぶち壊したんだからね」

「……まだ言ってるのかよ?」

「一生言われるわよ」

「ひとの個人的な問題に口挟むなよな……容赦ねえなぁ……」

598 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 00:22:20.88 ID:4EdQrwcR0

「個人的な問題でみんなが楽しみにしてたパーティぶち壊したの誰よ?」

「あのな、オレが最初からあれが来ることを知っていて、それでも行きたいって言ってたんならそれはオレの責任だ。

だけど、オレは何も聞いてなかったんだぞ?

いきなり昼前に麻琴からメールが来て、パーティやるから来い、利子ちゃんがくるよ、って話だったからそれなら行こうかって言っただけだ。

あれが来るんだったら、おれは参加しなかったよ!」

「あんたがそこまで母親を嫌ってるなんて、あたしだって聞いてなかったわよ! なにさ、男のくせにうじうじと!

席が隣ならともかく、端と端だったじゃないの。しかも同じ列で顔は見えないし。あたしとリコとに囲まれる形の席だったじゃない。

嫌いだったら無視してればよかったじゃない。あたしたちだって少しは気を遣ってたわよ。

それが、言うに事欠いて、なにが『ボクに親は居ません』よ、あたしだって、子供の時は両親なんかいなかったわよ!

あたしの両親だって、おばあちゃんにあたしを預けっぱなしで、滅多に会いに来てくれなかったわよ!

でも、あたしはアンタと違う。あたしは両親恨んでないもん! あんたみたいに拗ねてないわ!」

「うるさい!」 

孝太郎がテレポートして消えた。

「……たく、アイツまた逃げて……はーぁ、ホント情けない男だ……」

ふと気づくと


――― まわりの視線が痛い ――― 


麻琴は真っ赤になった。



そそくさと席を離れようとしたところで気が付いた。

「あ、あのバカ、カネ払ってないじゃん!! く〜、年下の女の子にお茶代払わせるってなによ〜? 信じられない〜!!」
599 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 00:25:56.16 ID:4EdQrwcR0
>>1です。

本日、短くて申し訳ございませんがここで止めさせて頂きます。
明日夜、やはり短いですが続きを投稿したいと思います。
お先に失礼致します。お休みなさいませ。
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 01:06:57.83 ID:4h1wTl2vo

おやすみ
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 09:52:16.65 ID:afAB+ABbo

超楽しみにしてます
602 :LX [saga]:2011/01/25(火) 22:14:21.18 ID:D2Wc2dYf0
皆様こんばんは。
>>1です。

本日分、投稿を開始致します。
どうぞ宜しくお願い致します。
603 :LX [saga]:2011/01/25(火) 22:15:50.68 ID:D2Wc2dYf0


「………てなことがあったの、あのあと」

話し終わった上条麻琴がティーカップを置く。

「ふーん、あたしのカンもまんざらじゃなかったわけか……」

あたしはちょこっと嬉しそうな顔になるのを必死で押さえた。

マコがアイツとケンカしたことを喜んでる、なんて思われたくないし、あたしもそんな醜いオンナになりたくない。

でも、あたしの心の中にあるもやもやしたものは、ちっとも消えていなかった。

正直、ここのところ忘れていた……ような気がしていたのだが、マコの顔を見た瞬間に、あっけなくそれは復活したのだった。



ここは学舎の園の中にあるティールーム。

うちの寮の備品なんかお呼びでない、見ただけでも高価なものだ、ということがわかるカップ・ソーサー・ティースプーン。

おいてある砂糖も、グラニュー糖ではない、正真正銘の砂糖だ。

そのかわりお値段はぶったまげ価格だ。昔泊まったスイートルームの2500円のラーメンじゃないけど、

とっても香りの高い紅茶はポット1杯分サービスされて、クッキーがついていて、さらにケーキをセットしたわけだけど、

3,000円はすごすぎる。場所代込みだ、とはいえ……。メニューを開いて思わず笑ってしまったくらいだ。

あの奨学金がなかったら絶対この店には入れなかっただろう。

……なのに、なんなのだろう、どう見ても中学生、という感じの子たちが結構座っている。

まぁお嬢様学校だらけのエリアだからいても不思議ではないけれど。
604 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 22:18:17.65 ID:D2Wc2dYf0

「リコはどうだった? お母さんはちょこちょこ出張してたけれど、恨んだことある?」

いきなりマコが話を振ってきた。

「え? なによ、いきなり……。 う〜ん恨んだこと無いと言ったら、ウソだよね……。

でもあたしには詩菜おばちゃんがいたからねぇ……。もし、おばちゃんもいない、一人っきりだったら、絶対寂しかったと思うな」

「あたしじゃ役にたたなかったの? ひどい……」

おっと、今度はマコが拗ねた。勘弁してよ、そんなつもりで言った訳じゃないのに。

「こらこら、バカ言ってるんじゃないわよ? あんたまでおかしくならないでよね……。あんたはあたしの、唯一無二の大切な

友達なんだから。て言うか、あたしたちは、詩菜おばちゃんに育てられた姉妹そのものでしょうが?」

……ったく、もう。 わかってると思ってたけれど、これくらい言ってやらないといけないのかなぁ?

まぁ、昔みたいに毎日顔を合わせてる訳じゃないから、会話のキャッチボールがちょっとヘタになってるのかもしれない……。
 
「う、うん、そうだよね。はぁー、最近のリコ、ちょっと怖いんだもん……」 

安心したような、ちょっと甘えたような声で麻琴が答え、シフォンケーキを切り取ってもぐもぐしている。

「どこが、よ?  まぁ補習補習で追いまくられてるから、くたびれてて余裕が無くなってるからかも? 

……えーと、なんの話だったっけ? どっからこんな話になったんだっけ?

ああ、母さんを恨んだことないかってところからだよね?  昔、あんたに言ったような気がするけどな……

あたしは恨むっていうより悲しかったよね、 どうして母さんはあたしを置いて仕事に行っちゃうんだろう?って。

でも、母さんが『そうしないとお金稼げないのよ? お母さんが働かないと、利子とお母さん、ごはん食べられなくなるのよ?』

って言ってね……それ言われて子供ごころにもわかったもの。『そうか、ガマンしなきゃいけないのか』ってね」

あたしは子供の頃を思い出しながら、四等分したメルベイユの1つを口に運ぶ。

お、おいし〜い!! さすが、だ。
605 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 22:20:38.66 ID:D2Wc2dYf0


「マコ、連れてきてくれてありがと。これ、すごくおいしいよ!! あんたもこれ、ひとつあげる!」 

あたしはメルベイユの皿を麻琴の方に押し出す。

「ホント? じゃ1コもらうね♪ かわりにこれ、シフォン半分持っていって良いよ?」 

嬉しそうに麻琴がメルベイユの1つをフォークで持っていった。

あたしは代わりに麻琴のシフォンケーキを少し欠き取って自分の皿に置いた。

「これ、メルベイユっていうのね、あたしまだ食べたこと無かったの。……すっごくおいしいね、これ。 いやん幸せすぎる!!」

その通り、メルベイユを食べる麻琴の顔はとっても幸せそうだった。可愛いねぇ、マコ。



それを見ているうちに、あたしは、なんかもう、麻琴と漣くんとのことなどどうでもいいや、と言う気になってきた。

麻琴の幸せそうな顔が見られるのなら、この子が幸せなんだったら、あたしが漣さんに接近するのは良くないこと、

この子を泣かしたり、苦しめたりすることになりかねない。あたしはそんなことをしちゃいけない……



「リーコー? どしたん? またあっちの世界行ってるねぇ? 」 

気が付くと麻琴の顔が目の前にあった! 

「な、なんでもないって!」 

あたしはあわてて紅茶を飲み干した。

「でさ、今度はリコのこと聞くけど、結局ラブレターのカレとはどうなってるの? あたし聞いてないんだけど?」

ぶは! 思い出したくないことを!
606 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 22:23:59.19 ID:D2Wc2dYf0

「ちょっと、マコ? なんであたしばっかり話しなきゃいけないのよ? さっきから、あんたが一方的にあたしに聞きまくってる

だけじゃないさ?」

あたしは反撃に転じた。しかし、

「なーに言ってるのよ? リコはあたしのこと既に知ってるでしょ? 

あの時のどさくさでさ、あたしからコーちゃんとのことしっかり聞き出したじゃない? もう最悪だったんだから! 

ママがいること忘れてたあたしがバカだったんだけど……。

あたしもついつい話したくてさ、リコにしゃべっちゃったけど、あのあとママから責められて、あげくの果てにパパに言いつけられて、

パパは『そんな野郎<げんそう>はぶち殺す!!』って顔真っ赤にして、もう大変だったんだから……」



そうか、さしもの上条パパも、麻琴がチューしたのは許さなかったのか……。やはりお父さんはそういうものなんだろうか?

麻琴がお嫁に行くとき、上条さんはボロボロ泣くのだろうか? ちょっと想像つかないけれど……

あたしのお父さんが生きていたら、あたしを見てどう思うだろうか……、こんなあたしでもやっぱり可愛がってくれたのだろうか?

お父さん、かぁ……


………。


―――  パン! ――― 


目の前で麻琴が手を叩き、あたしは我に返った。
607 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 22:26:31.68 ID:D2Wc2dYf0

「リコ? ひとがお話してるときにあっちの世界に旅立たないで欲しいなぁ? ちょっと失礼じゃないかなぁ?」

おお、麻琴がちょっと怒ってる。うう、久しぶりに見るけど、怒った顔もやっぱり可愛いよマコ。

「久しぶりにアンタの怒った顔見たけど、やっぱ可愛いよ、マコ♪」

「な、な、なにを言ってるのよっ! そ、そ、そんな戯言で、ご、ごまかさないでよっ!」

あはは、本当にもうあんたは可愛いんだから。


ああ、久しぶりだなぁ、こんな馬鹿話するのは……


「終わってるわよ、とっくに」 

あたしは冷静に答えを返した。いつの話だというように。

「えー、なんで? あたしなんかお手紙なんかもらったことないのに!」 

麻琴の声が大きくなる。

「マコ、声が大きいよ? 第一、それは自慢にならないと思うけど?」 

あたしは静かに麻琴に突っ込む。 

「あたしのことなんかどうでも良いの、今は。 どうして終わっちゃったの? なんで?」

麻琴があたしのツッコミなど何のその、ともう一度突撃してきた。

「あたしが能力者になっちゃって、学園都市に行く、って決めたから……。彼は普通の人であることを選んでいたし、あたしにも

普通の女子高生になって欲しかったらしいの……。

仕方ないよ……こればっかりは。あんたと同じでさぁ、あたしはあのまま東京では生きて行けなかったからね……」

あたしはポットからもう一杯紅茶をカップに注いだ。麻琴も自分のカップの紅茶を飲み干し、改めてポットから自分のカップに紅茶を

満たした。

「リコ、ずいぶんと諦めが早くない?」 

麻琴がグサと古傷に剣を突き刺してきた。
608 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 22:30:06.81 ID:D2Wc2dYf0

(なんだって?)   あたしの顔色が変わったかもしれない。自分でも驚くくらいアタマに血が上るのがわかった。

(あたしだって、すき好んでこんなところに来たんじゃない!) あたしはそう叫びたかった。思い切り怒鳴りたかった。

(あんたになんで言われなきゃいけないのよ!?) まずい、このままだとAIMジャマーが動作する!

(止めろ!) 冷静なあたしが代わりに怒鳴った。



めざとく麻琴は見て取ったらしい。

「ゴメン、リコ、言い過ぎたね! ごめんなさい。忘れて、ゴメンね、本当にゴメン!」 

………あたしは我に返った。麻琴の顔を見る。



そこには、泣き出しそうな、おびえた麻琴の顔があった。


(ガマンしろ、佐天利子! もう子供じゃないんだ!)


………あたしは耐えた。うん、よく耐えた、えらいぞあたし!……… 



「ふ――――っ………」 

あたしは深く深呼吸した。

ふと見ると、麻琴がかわいそうなくらい小さく縮こまっている。その姿を見て、あたしは思わず笑い出してしまった。

「アハハ、何小さくなってるのよ、マコ。ほら、もう良いから、ちゃんとしなさい。もう怒ってないから」


顔を上げた麻琴は赤い目をして、ポロリと涙をこぼし、「ほんとに?」と小さい声で聞いてきた。

609 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 22:32:33.30 ID:D2Wc2dYf0

(う…… か、かわいいやつ)

あたしは思わず席を立ち、麻琴の前に立って、彼女をぐいと抱きしめた。

「馬鹿」 

あたしは小さな声で麻琴をしかった。

麻琴はその言葉を聞くや本格的にグスグス言い出してしまった。



「1年、寂しかったんだよぅ……リコ〜」 



あ〜、はいはい、そうです、そうだよ、そうなんだよ! 

あたしはアンタの頼れる姉で、そしてアンタはあたしの可愛い妹なんだよ。

……いや〜、やっぱり癒されるなぁ、この感じ…… はれ?


店のなかのひとたちがあたしたちを見てる……

常盤台の中学生……だよね、あの制服は。 いけない、ここ、学舎の園だった……

しまった、外であたしら、何やってるんだろう?

(あの子、確か、上条麻琴……だよね?)
(相手は誰? 知ってる?)
(あれ、超電磁砲二世だよね?)
(ちょっとアブナい世界じゃない?)
(えー、信じられない世界……)

まわりのヒソヒソ話が聞こえる。

湯川さん、私にも聞こえる、聞こえますよ!


見ると麻琴はすっかり安心しきってあたしにしがみついている。幸せそうなデレた顔で。

うかつだった。さ・い・あ・く・だぁ〜!!!!!
610 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 22:36:27.26 ID:D2Wc2dYf0

「じゃ、マコ、またね〜♪」

リコが御機嫌でバスに乗った。

あたしは手を振る。

バスは動きだし、中で手を振っていたリコの姿がわからなくなるけれど、向こうからはまだあたしが居ることがわかるはず。

バスが交差点を左折し、見えなくなったたところで、あたしはようやく肩の荷を下ろした気になった。



「疲れた〜」

あたしは思わずバス停の椅子に腰掛けた。

張っていた気が緩む。



たぶん、これでリコとのギクシャクした感じは殆ど無くなったはずだ、とあたしは思う。

「リコねぇちゃん」とあたしが可愛い妹役を演じていれば、リコは満足なのだ。

(まぁ、ずっとそうだったもんね)同い年のわりに、リコはあたしよりずっと大人だった。身体もあたしより大きかったし、

今だってリコは魅力的だ、女のあたしが見ても羨ましいくらい。

リコとは、張り合うより従ってた方が都合が良かったし、楽だったし、楽しいし、何よりリコが可愛いからだ。

お姉ちゃんを演じるリコはすごく可愛いから、あたしは喜んで妹役を演じている。



しかし、あのときはちょっとやばかったな、と思う。
611 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 22:44:30.79 ID:D2Wc2dYf0

リコは滅多に怒らない。

でも、あの時はすごく怖かった。言った瞬間ヤバイ!と思ったけど、確かにリコの顔色が変わっていたもの。

だけど、必死になってリコが怒りを抑えようとしていたこともあたしにはよくわかった。

リコの理性が勝ってくれて本当に助かった。あの話はもう出来ないな……

リコが本当に怒ったら……あたしなんか、けし飛んでしまう……



(終わってたのか……妹分としては情報収集能力は失格だね)

今から思えば、そうなっていても不思議じゃないな、とあたしは思う。

リコはこと異性関係については不思議と奥手だった。

ラブレターもらって、開封もせずにそのままずっと見ていた、というリコの話は「リコならありうる」と思えるほどだもの。

きっと、誰もリコの手を取ったり、ひっぱったり、背中を押したりしてあげなかったんだろう。

どうしてよいかわからずリコは途方に暮れて、結局何も出来なかったんだろうな……。

そんなところに、「妹」のあたしがボーイフレンド連れてキャッキャッうふふ状態見せつけちゃ、さすがのリコねぇちゃんも

こころ穏やかでは済まないよねぇ。庇護下にあったはずの「可愛い」あたしが、自分より先進んじゃったんだからリコは戸惑うよねぇ。

……

(と、いうことは、だ)

リコにオトコが出来るまでは、あたしは単独もしくは大勢でないとリコと会えないわけか。

あ〜、メンドくさいな〜! リコにオトコ友達を作れなんて言える訳ないし、リコが自分の力で作れるわけないし。

うわぁこれは大事だわぁ……。
    
612 :LX [sage saga]:2011/01/25(火) 22:51:18.54 ID:D2Wc2dYf0
お読み頂いていらっしゃいます皆様、
>>1です。

短かったですが、ここで今回の投稿ネタは全部up致しました。

さて、次からは新ネタシリーズへ入りますが、物語の進行上、うしろの方で書き出したネタを
前に持ってくることにしたほうが流れがよくなると判断したのですが、そのため書きためてあった
部分はずっと後になり、まだまとまっていないネタを次に書き上げる必要が生じました。

ということで、しばらくお時間を頂戴致します。
すみませんが何卒ご了解頂きたく存じます。
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 22:53:00.62 ID:hEouOvBuo
>>612
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 02:39:03.18 ID:Cz5ar+nyo
リコマコの関係も成長するにつれ複雑になっちゃってるんだなぁ・・・
しかし普通に考えると美琴とむぎのんの子供が親友なんだね
他のレベル5の子供とかいるのかなぁ
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 13:49:03.59 ID:YWJ14XaIO
乙乙
時間かかっても待ってるよ
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 16:38:07.63 ID:S+0kVH7ho
なにより一方通行が気になるな
617 :LX [sage saga]:2011/02/01(火) 20:29:07.12 ID:Cahr40is0
皆様こんばんは。
>>1です。
月が変わりましたが今回は申し訳ございません、生存報告であります。
来年度の予算作成やら新年会やらで時間が取れず、遅々として進んでおりません。

スタートしたらしたで、新たな登場人物がおかしな方向へ話を持って行ってしまいました(泣
今現在、どうやって元々考えていた方向へ話を戻したらよいか悩んでおります。

第二部では、話のつじつまがあっていないところがみつかりましたし、推敲不足が露骨に出てます。
もう少々お待ち頂きたく存じます。
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 22:51:42.79 ID:TgcGH5Lqo
>>1の物語すっげえ好きだからゆっくり待つぜー。
619 :LX [sage saga]:2011/02/08(火) 23:32:19.17 ID:VYeBdVSm0
皆様こんばんは。>>1です。
本日は送別会で、アタマぐらぐらです。

物語はなんとかかんとか執筆しておりますが、新たな登場人物2名の口調が大変難しいので
苦労しています。

今週末には投稿したいなと思っておりますがどうなることやら。

今回も生存報告で申し訳ありません。ではまた。
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 00:37:20.25 ID:BxjwlKnoo
把握
楽しみに待ってる
621 :LX [saga]:2011/02/12(土) 20:10:42.84 ID:FxrovuBo0
皆様こんばんは。
>>1です。

半月近く間隔が開いてしまいましてすみません。
次のエピソードを投稿致します。なお、まだ完了しておりませんので途中で止まりますが
ご了承下さいませ。
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 20:11:10.91 ID:OWfxkPW8o
わくてかああああああ
623 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 20:14:29.46 ID:FxrovuBo0

ある日曜の朝。

あたしは多摩川べりを走っていた。

陸上部には結局入っていない。

というのは、学園都市だからだろうか、単純な、自身の身体能力のみで運動するのではなく、超能力を併用、あるいは専用に使用しての

運動がメインだったからだ。

あたしとしては、これはこれでありなのだろう、とは思ったけれど、ちょっとあたしの考えている陸上競技とは違っていたので

入るのを止めた。



ということで、あたしは一人で、土曜と日曜の朝、多摩川まで行き、走ることにしたのだ。およそ5kmある場所をみつけ、

最初は片道、ペースがわかってきてからは往復10kmを走っている。

最初は5km走るのもやっとだったけれど、今は普通に10kmを走ることが出来る。

朝はひとが殆どいないので、いつも快適だ。

多摩川に行くと、河原へ下りて、川に足を足を浸して休憩。

そのあとで、自分の力のコントロールを練習する。

道具には石を使っている。

いろいろな大きさの石を選び、「それだけ」を砕くことで、細かい微調整が出来るように訓練をしているのだ。
624 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 20:17:58.32 ID:FxrovuBo0

一番最初はひどいものだった。

自分ではうんと小さくしたつもりが、土台のコンクリート護岸ごと吹き飛ばしてしまった。

当然ながらあたしは逃げ帰り、しばらくそこへは近づかなかったけれど。

じゃぁ、ということで大きい石を選んだら、逆に何も起きなかったり。

それでも辛抱強くあたしは続けたおかげで、ようやく最近では、石であれば大きさを見ただけでどれくらいの力を使えば良いのか

見当が付くようになり、とんでもない事態は殆ど起こらなくなっている。

そこで、こんどはあたしは自分で石を投げ、落ちる前にそれを砕くことにした。

これは難しい。遠くなれば照準を合わせるのが難しくなり、見た目の大きさも異なる。

投影されたイメージと自分の脳内で演算した大きさ、エネルギー方向とが合わないとまるで話にならない。



「だめだー、難しいよぅ」 



まだのべ3日目、ではあるがまだ1度も成功していない。多分100個は投げているだろう。

あたしは河原に座り込んで息を整えていた。



「何やってるンだオマエ?」

「はいっ!?」

いきなり後から話しかけられて、あたしは思わず飛び上がった。
625 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 20:22:52.78 ID:FxrovuBo0

「そンなにおどろくこたァないだろうが? 別に怪しィもンじゃねェよ。

見たところ、どォやら能力のパワーコントロールを制御しよォって感じの訓練みたいだったからなァ、

なンか随分無駄なことやってるなと思ったンで、声掛けただけだ」

必死にやっていることをいきなり「無駄なこと」と言われて、あたしは少しムッとなった。

「そ、そんなこと他人のあなたに言われたくないです! あたし、これでも必死なんです。邪魔しないで下さい!」

その人は杖をついていた。何よ、このおじさん。髪真っ白。赤い目。ちょっと怖いかも。

言ったあとであたしは少しびびっていた。もし怒って襲われたら……こんな朝早く、ここはそう人は来ないのに……。

「そォかい、そりゃすまなかったな。もォ少しやりようがあるかな、と思ったンでつい声をかけちまった。

いや悪かったな。もォ何も言わねェよ。しっかりやンな」

そういうと、その人はゆっくりと歩いて行ってしまった。



(なによ、ひとが必死でやってることを『無駄なこと』ってさ……)

あたしは少しのあいだ、さっきの人の言葉を反芻していた。



「随分無駄なこと」

「もう少しやりようがある」



だんだんあたしは(案外、そうなのかもしれない)と思うようになってきた。

正直、自分で思いついた方法だから、そういうこともあるかもしれないな、と。
626 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 20:25:40.85 ID:FxrovuBo0

(なら、効率的な方法を教えてもらおうじゃないの? あたしもその方が手っ取り早いし) 

あたしは、さっきの人が歩いていった方へ走った。

あっけなく追いついた。へへ、あたしの韋駄天ぶりも捨てたもんじゃないね!



「あン? どォしたンだ? 」

「す、すみません。先ほどは年長の方に、大変失礼な口をきいてしまいましてごめんなさい!」

「……」

「あ、あの、先ほど言われたことですが、『無駄』『やりようがある』ということに実は思い当たることがありまして」

「……」

「あたし、自分の能力をうまくコントロール出来ないんです。それで、建物を吹き飛ばしてしまったこともあるんです。

あたし、そんな能力がいやで、でもほっておいたらもっと大変なことになるから、だから」

「それでコントロールの訓練をしてたってわけですかァ? ハハ、ご苦労なことで」

あたしはまたムッときた。でも抑えた。このひとはこういうしゃべり方をするのだ、と思って。

「……オマエ、自分の能力をそもそも全部わかってないンじゃないのか? どこの学校のもンだ?」

「……学園都市教育大付属高校ですが……」
627 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 20:27:52.70 ID:FxrovuBo0

「あー? チッ、それじゃァ無理もネェな。ソコは基本的に先生になるヤツが行くとこだ。

オマエの能力がどォいうもンか調べたり、それをどォ役立てるか、なンてことには全く向いてねェ学校だわ。

それじゃァ宝の持ち腐れになっちまうな。

……オマエ、明日かあさってぐらいにオレんとこ来い。オマエの能力をまず見てやンよ」



言われた。自分の学校をバカにされた……いったい、なんなんだ、この人? やっぱり話なんか聞くべきじゃなかったかな……



「……あ、あの、どこへ行けばいいんですか?」

「あー、わりィわりィ。何も言ってないもンな。そりゃ警戒するよなァ。長点上機学園ってわかるな?

ソコ来て、鈴科(すずしな)のところへ行きたいといえばわかる。あー、それからオマエなンて言うンだ?」

(えええええ? 長点上機? それって能力開発の超エリートじゃん! それならバカにするわけだわ……)

「さ、佐天利子、です。高校1年生です!」

「わかった。さてんな。じゃァ月曜か火曜にな、まァしっかりそれまで石で遊ンでな」

そう言うと、そのひとは片手を上げてまたひょこひょこと歩いて行ってしまった。



「すずしな……へんなおっさん」



石で遊んでろ、と言われてしまったあたしはさすがに落ち込んでしまい、河原の練習は打ち切って、寮へ戻ることにした。
628 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 20:32:01.37 ID:FxrovuBo0

火曜日。

今日は補習が1時限のみなので、とりあえず行ってみることにした。

バスとモノレール、そしてまたバスでざっと小一時間かかった。

「へーっ」

学校というよりは研究所というか、工場のようなところだった。

あたしの教育大付属高校のいかにも学校、と言う感じとはすいぶんとかけ離れたところだった。



あたしはとりあえず正門?入り口の案内所に入った。

なんと、無人。

受付の受付?がある。タッチセンサーが沢山並んでいる。 近くに寄ってみると……

「一般の方」「父兄の方」「教職員に御用の方」「備品・機材搬出入の方」「リサイクル・廃棄物搬出の方」………

すごいな。

うーん、どれだろう? 雰囲気からして、教職員、かな? 

あたしは「教職員の方」と言うところをタッチして、受話器を取った。

1回のコールで相手が出た。「はい?」

「あ、あの、こちらに鈴科先生っていらっしゃいますか?」 

あたしは緊張して固い声になった。  
629 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 20:35:52.12 ID:FxrovuBo0

「はい、どちら様でしょうか?」

「は、はい、私はさてん としこと申しますが、教育大付属高校1年ですけれども」

「お待ち下さい……、昨日はいらっしゃらなかったのですね?」

おっと、アポは昨日だった?

いや、月曜か火曜と言っていたし。

「昨日はあの、補習で来れませんでした。月曜か火曜来なさい、と言うことでしたので、今日伺ったものですが?」

うう、入れなかったらどうしよう……?

「はい、昨日と今日の2日、さてんさんと言う方の入場申請が鈴科教授から出てますので確認しました。

今日は身分証明書をお持ちですか?」

「はい、学生証とIDカードがあります」

「それでは、仮入場証を発行しますので、タッチセンサーのところにそれが出ます。それをお持ちになり、3番入場口にお回り下さい。

そちらで確認の上正式入場証を発行致します」 

通話が終わるか終わらないかの時点で、ICカード?が出てきた。

3番入場口のマップが表示されていた……。

630 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 20:39:28.11 ID:FxrovuBo0

3番入場口へ行き、ここで学生証とIDカードをサーチされ、正式入場証を渡された。

その入場証を、来客用無人カートに乗り込んで指定されている読みとり機にタッチさせると

「10秒後に走行開始します。……5秒後に走行開始します……これより走行開始します」

と警告が流れ、カートは動き出した。

正直、歩くスピードと大差がないものだが、迷子防止、いやスパイ防止には少しは役にたつだろう。

なぜなら指定場所までカートに閉じこめられるのだから。

………何人かの学生とすれ違う。教育大付属の制服が目立つのか、視線が集まるのがわかる。恥ずかしい〜……


うねうねと走ったあと、1つの棟の車寄せにカートが止まった。

さてここからは? と思って辺りを見回すと、入り口に案内台らしきものが立っている。行ってみるとやはり案内台だ。

モニターに触れると研究室やら教室やらの案内がずらりと出てくる。

えっと……すずしな、だったよね?

これかな?

「鈴科研究室」 

たぶんそうだよね……

受話器を取り上げて、説明されたとおり受付台のセンサーに入場証を当てる。

画面が変わり、「只今呼び出し中です 少々お待ち下さい」の文字が点滅する。

画面が変わった。



「ハイ、鈴科研究室です!!」 



………あたしは、茫然とした。

そこに映し出されたのは、上条美琴おばさんそっくりの顔だった……。
631 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 20:46:25.39 ID:FxrovuBo0


「もしもーし、どうしましたー? ……受話器壊れてるのかな……? 聞こえてますかー? 

おかしいなー、モニターには写ってるんだけど? 佐天利子さんですよねー? 聞こえてますかー?  おーい!」




あたしは、びっくりして言葉も出ない有様だった。

(いったい、ここには、美琴おばさんのクローン?ってひと、どれだけいるんだろう……)

あたしは底知れぬ恐怖を感じていた。

(おばさんは知らないんだろうか……そんなはずはないよね……まだ来て1ヶ月そこらのあたしが、これだけの人に出くわすんだから

美琴おばさんが知らない訳がないよ……)



あたしは画面を凝視しながら、アタマの中でミサカ麻美(元10032号)さんやミサカ美英(元三重ミサカ13874号)さんたちとの

記憶を思い出していた。



いきなり、あたしはポンと肩を叩かれた。

「佐天さん?」

あたしは現世に戻った。

「は、はいっ! 佐天利子ですっ!」
632 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 20:55:05.93 ID:FxrovuBo0

「あー、よかった。受話器握りしめたまま固まってるから、どうかしたのかなー、ってちょっと心配になってたりして。

『先生』も待ってるから、一緒に行きましょう!」

そこに立っていたのは、上条美琴おばさん……にそっくりな、でもちょっと若いひとだった。



「は・は・は・はいっ! すいません! あ、あの、ミサカさん、ですか?」

あたしはちょっと軽くパニックになりながらも、カマをかけてみることにした。



「半分当たりですっ、って、佐天さんはどうしてどうしてわたしの名前を知ってたのかな? わたし、まだ名乗ってないけれど? 

………そうか、あなたは美琴お姉様や他の『妹達<シスターズ>』に会ってるんだ……

なるほど、あなた、去年から学園都市に何度か来てるのね……10032号や13577号、10039号に19090号、13874号にも会ってるのね」

ミサカさんから、あのとんでもない大きな数字がひょいひょいと出てくる。その数字って……



「あの、あなたも、もしかして」

「そうですよ。わたしも美琴お姉様のクローン。検体番号20001号、打ち止め<ラストオーダー>こと、ミサカ未来(みさか みく)よ」

ニッコリと微笑むその顔は、美琴おばさんとそっくりだった。
633 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:01:40.89 ID:FxrovuBo0

「あの、失礼ですが」

あたしの声は少し震えていた、はずだ。

「その、番号、にまんいち、と言うことは……美琴おばさんのクローンは2万人いる、と言うことなのでしょうか?」

美琴おばさんをちょっと若くした感じの、そのミサカ未来さんはすこし顔をしかめた。

……… やっぱりまずい質問だったか、な? ………

「妹達<シスターズ>に会っているあなたに隠しても仕方ないよねー。ショックかもしれないけど……

………そう、一度に作られたわけじゃないから、全員が揃ったことは無かったけど…… のべではそういう数になった、わねー」



信じ・られ・ない ……

2万人。

田舎だったら、一つの市に匹敵する人間の数、だ。

美琴おばさん、どうしてそんなことに……、麻琴、あんたは知ってるの、この恐ろしい話を……?

狂ってる、この街、は。



お母さん、あなたは知っていましたか、このことを?



――― 「私は、利子を学園都市にやるつもりはありません! 利子、絶対ダメだからね!!」―――


そうか……お母さんも知ってたのかも……ここの街の本当の姿を……

だから、あたしを……

ごめんなさい、お母さん。あたしが、バカでした……。
634 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:05:11.30 ID:FxrovuBo0

「もしもーし、佐天さーん、びっくりしたのかなー? 生きてますかー? んー、よく向こうの世界に行っちゃうひとだな……」



あたしはようやくこちらの世界に戻ってきた。

「す、すみません」

あたしは深々と頭を下げた。

「……まぁ、いきなり聞いたら、普通のひとは驚くよね。ふふ、ここはなんでもあり、のところだからねー」

ミサカ未来さんのしゃべり方は、他のミサカさんたちとはちょっと違う……ようだ……?

「いっけなーい、あのひと、じゃなかった先生が怒っちゃうから早く行きましょう……って!」

「いつまでくだらねェおしゃべりしてるンですかァ、このクソガキ?」

あ、あのときの……

スーツ姿だとイメージ違うな……

「ひとの前でクソガキって言っちゃダメだって何遍言ったらわかるんですか、先生! もう私はガキじゃありませんって痛い!

痛い、やめてよー、」

いったいなんなんだ、このひとたち…… クソガキって未来さんのこと? 

ええええ? 20代後半くらいの女性をつかまえてクソガキはないでしょうに。セクハラにパワハラだよぅ!
635 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:08:42.09 ID:FxrovuBo0


「あの、すずしな、先生ですよね?」


あたしは目の前で荒っぽいスキンシップ<こめかみグリグリ>を取っている鈴科先生?に確認を取ってみた。

「あー? おォ、すまねェな。そのかっこだと学校帰りってとこかァ? 

佐天、と言ったな、クソガキと迷子にならないよォ一緒にきやがれ」

「えええー? ミサカはもう迷子になるような年じゃないし、もうここじゃベテランだよ!」

「オマエじゃねェ、そこの女子高生の佐天さンに言ってるンだ、はぐれたら危険だからなァ、このエリアは」

………このミサカさんは、初めてのタイプだなぁ……美琴おばさんとは随分性格が違うような気がする……

あたしはそんなことを思いながら、鈴科先生の後をミサカ未来さんと一緒についていった。

 

この記録はミサカ未来、すなわち最終番号<ラストオーダー>の記憶からミサカネットワークに流されていた。



【運営】あのひとの研究室にお客さんがきたよ【打ち止め】

1 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

女子高生が来たよ、とミサカは口火を切ってみる!
636 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:11:08.45 ID:FxrovuBo0

2 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

確か、この子……



3 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

去年の2月に一度、AIMジャマーと脳活性化促進剤との葛藤で脳がオーバーヒートして入院、

次に同年5月にキリヤマ研究所爆発跡から発見され入院、

その後犯罪グループに拉致され人質となり、救出作戦時に負傷、再入院した記録が残っています。



4 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

いずれも10032号の受け持ちでしたね? とミサカは記憶を呼び起こし確認を取ります。



5 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

はい、間違いありません。



6 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

この制服は、学園都市教育大付属高校女子部のものですね?



7 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

間違いないと思います。しかし、どうして長点上機学園に、更に言えば一方通行<アクセラレータ>のところに?

上位個体はこの件に関して何か情報をつかんでいるのでしょうか?
637 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:12:59.02 ID:FxrovuBo0

8 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

ミサカは何も聞いてないよ! 直接会うのも今初めてだし? ……ちょっと待って?

あ、昨日の朝、来客スケジュール表にこの子の名前を登録したのを思い出した!

どちらにしてもそのうち来た理由はわかると思うんだけど。



9 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13874

ミサカが女子高生の格好をしたら似合わないと言われました。あのときの悪夢を思い出します……そういえば、

イデミ・スギタのスイーツはもう一度食べてみたい……



10 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

そういえば、そう言うことがありましたね。あの時はお姉様<オリジナル>と、この子と、あと母親も一緒でしたね。

あの時は朝っぱらからひどい目に遭いました。



11 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

やっほう! 13874号? あなた、お姉様<オリジナル>と10032号と一緒に東京に行っていたときに、

あなただけ銀座ではネットワーク切っていたわよね? わざわざ思い出させてくれてありがとー!



12 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13874

ひええええええええ、しまった、語るに落ちたぁぁぁぁぁぁぁbbbbbbbbbbbbb



13 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

どこかで、この顔を見たような気がするのですが……思い出せません、とミサカは強引に話の流れを戻します。
638 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:14:55.86 ID:FxrovuBo0

14 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

このミサカも、何かが引っかかっている気がします、非常にもどかしい感じが少し気に入りません、と相づちをうってみます。



15 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

10039号と19090号、あなた達は昔に直接会ってるからじゃないの?



16 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

いえ、それとは全く違うもののように思われます。19090号、あなたはどう思いますか?



17 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

はい、無意識に見ているとでも言えばよいのでしょうか、例えばTV CMに出てくる人、とかそう言う感じの……



18 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

ふーん、まぁそのうち思い出すんじゃないかな? あ、もうスタンバイしなきゃ。じゃね!


【Misaka20001が退出しました】
639 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:19:26.74 ID:FxrovuBo0
>>1です。

あぁ、抜けがありました……

>>637
レス番12、Misaka13874のレスの後に、

【Misaka13874が退出しました】

を入れるのが抜けておりました。済みません。
640 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:21:41.29 ID:FxrovuBo0

19 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

さて、お姉様<オリジナル>に報告すべきかどうか……



20 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

今報告しても、情報が少なすぎて中途半端に止まる気がします。現時点で危険はなさそうですから、

この後の経過を見てからでも遅くはないとミサカは考えます。



21 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

同じく。



22 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

異議なし。



23 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

それでは、お姉様<オリジナル>への報告はとりあえず先送りと言うことにしましょう。


【Misaka13577が退出しました】
【Misaka10032が退出しました】
【Misaka19090が退出しました】
【Misaka10039が退出しました】


作者注)

*参加しているミサカが少ないと思われるでしょうけれども、これは関係する妹達<シスターズ>のみをあらかじめ抽出している

からです。他の妹達<シスターズ>は全てノイズ扱いで排除されています。
641 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:24:12.52 ID:FxrovuBo0

あたしたちは、研究室ではなく、ごく普通の応接室にいた。


「改めて自己紹介する。オレは鈴科、一方通行<アクセラレータ>とも言うが、鈴科、でイイ」

あれ、名前はなんて言うのかしらん? 名無しさんじゃないよね? 

「能力は『ベクトル操作』、あらゆる力のベクトルを分析、操作出来るってもわからねぇかもなァ」

「そう、昔はレベル5、学園都市第1位だったんだよって、ちょろーっとナイショの話を『愉快なオブジェになりてェのか、オマエ?』

な、なんでもないですーっ!」


え? 

ええっ?

ええええっ?

このひとが、そうだったの?  

レベル5 ????  うっそー?

しかも、学園都市第一位 ?? 

そのウソほんと? マジですか? それはヤバすぎですぅ!


昔、美琴おばさんから聞いた当麻おじさんの武勇伝<のろけ話>のひとつが『学園都市第1位との戦い』だったんだけど……

でも、聞いたら怒るよね、たぶん。雉も鳴かずば、だろうな……。
642 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:27:25.91 ID:FxrovuBo0

「あたしは、さっきも言ったけど、ミサカ未来<みさか みく>。 発電能力者<エレクトロマスター>のレベル3。

生物学・生体電流の研究者で、鈴科教授の助手でもあり、ラブリー奥さんで『そォだな、ならラブリーなオブジェにしてやンよー?』

キャァァァァァ!」

美琴おばさんそっくりの未来さん、教授にこめかみグリグリされてる……これ、形を変えたスキンシップじゃないの?

ばっかくさいなぁ、はぁ……好きにしろ、好きにやってろ、してやがれだわ……  

なんでこんなバカップルばっかりなのかしら。 

こんな内輪のコメディ、学校帰りの疲れたアタマには、全然っ・おもしろく・ないっ!



「ご、こめんなさいね、しょうもないところ見せちゃって、チョーカー切ったから少し静かになったでしょ?」

*静かになったのは鈴科教授以外にも、打ち止めの<ラブリー奥さん>発言がミサカネットワークに流れたことにより

ミサカ一美(みさか かずみ・元検体番号14510号)等、生き残り妹達<シスターズ>のうちの数人が失神していた。



閑話休題。


「では、時間もありませんし、早速場所を変えましょうか?」

ミサカさんがすっと立ち上がった。どこへ行くんだろうか? 

あれ、教授(ダンナ)を置いていっていいんですか、ミサカさん?

643 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:31:48.52 ID:FxrovuBo0

「ここは……?」

あたしは、真っ白な、綿ふとんのような柔らかなものであたり一面を覆われた部屋にいた。

「ここは、AIM拡散力場疑似開放調整室っていうの。簡単に言っちゃうと、あなたの能力を最大限開放することが出来る場所なの」

「え? それ、まずいかもしれません」

「どうして?」

「あたしの能力は、ものを原子レベルまで分解してしまうものなんです。その際に発生するエネルギーが、周りのものを破壊してしまう

ようなんです」

「へー、そうなんだぁ。でも、安心していいわよ? わずかだけれど、この学園にもそう言う能力の人はいるの。

でも、大丈夫なんだなー。そう言う能力でも問題なく測定できるのよ、ここは。

一つは、まず、脳を騙してしまうことが出来るの。簡単に言うと、あなたの脳は、AIM拡散力場をコントロールしてあたかも

普段通りにパーソナルリアリティを構築して超能力を発現させている、と思っているんだけれど、現実ではそのようなことは起きない。

あたかも夢の中で活動しているようなものなのね。

次に、万一AIM拡散力場に干渉を起こしてしまった場合には、この部屋はそのAIM拡散力場のエネルギーを吸収・発散させてしまう

ことが出来るの。

そして、非常用としてはキャパシティ・ダウナーが控えているの。これはレベル5の人でも対抗できる出力を持っているから、

万一暴走したときにはこれで演算を妨害して強制的に終了させるのよ」
644 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:36:36.00 ID:FxrovuBo0

な、なんかすごい大がかりな話になってきてる。

ちょっと怖いかも…… あたしの、たかがレベル3程度の能力に、そこまでやらなくてもいいような気がするけれど。

「あはは、怖いことなんか全くないから、大丈夫。このミサカさんにまっかっせっなっさっいっ!」


あの、言っても良いですか?

――― 不安だ ―――

----------------------------------



なるようになれ、的にあたしは結局言われるままに服を着替え、まるで病院か、というようなパジャマを着て、カプセルに腰掛けていた。

「佐天さん、少し深呼吸してみて。緊張するのは仕方ないけれど、でもガチガチもよくないからね?」

そうはいっても、緊張しちゃうよね。

でも、当たり前かもしれないけれど、美琴おばさんそっくりだ、このミサカさんも。

「としこちゃんは好きな食べ物は何?」

「はい? え? そ、そうですね、あたし、ケーキが大好きなんです」

「あはは、あたしも好きなんだ、あたしはねー、モンブランが好きなの、あのあたまに載っかってるマロンがだーい好きなの!」

「そうですね、あのマロンが全てですよねー。あ、あたしはいちごのショートケーキが好きなんですよ、特に、上に載っているのが 

”あまおう”だったら最高ですね!」

「じゃ、終わったら一緒に食べましょ? 楽しみにしててね! じゃ横になって寝てみて?」

あたしはカプセルの中に入り、枕に頭を載せてみる。
645 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:38:33.90 ID:FxrovuBo0


『あーあー、聞こえますか、佐天さん?』

頭を動かすと、直ぐ脇にスピーカーがあるのだった。

「ハイ、聞こえますよ!」

あたしは元気な声で返事をした。

『ではカプセルを閉じます。手や足を出さないでね?』

あたしは子供ですかって(苦笑



……ゴトッと重苦しい音がしてカプセルが閉じられた。

『どう? 息苦しくない?』 

ミサカさんの声が聞こえる。

僅かに空気が流れているのがわかる。頭の方から出てきた空気は足先から吸い出されているらしい。

「大丈夫ですよ? あたしの声聞こえてますか?」

『聞こえてますよー!音質・ボリューム問題なし、オッケーだねっ! じゃぁリラックスしていて……』

穏やかな音楽が流れ始めた。打ち寄せる波の音も聞こえてくる。

あたしは目を閉じて、身体の力を抜いた。



はー、リラックス出来るなー…… これはこれでなかなかいいもんだなぁ…… 気持ちいい……

あ〜今日も勉強疲れちゃったなぁ………
646 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:46:06.94 ID:FxrovuBo0

「いっけなーい、チョーカー入れてなかったー!(おいおい……) 

うう、また怒られるかもしれないって悪い予感がするけれど、あの人いないともっと困るから……」

独り言をつぶやきながら未来はチョーカーのスイッチを入れる。



次の瞬間、ガシッと未来の頭はわしづかみされた。

「さーて、ピカソがイイか、岡本太郎がイイか、どっちがイイか選べ、クソガキ」

「うう、ミサカはミサカであり続けたいって思ってるけど、って痛い痛い!」

「ざァーンねンだったなァ、今度という今度は、オマエをオブジェにして庭の噴水のところに飾ってやることにしたからなァ」

そのとき、打ち止めはAIM拡散力場測定データの動きに気が付いた。

「す、すごい動きだって、見てみて!!」

「アアン? そンなことより早く決めろ、クソガキ」

「それどころじゃないかも、って、アナタも気が付いてるんじゃないのーって!」

鈴科教授、いや一方通行<アクセラレータ>は、「ちっ」と舌打ちをすると目を閉じてAIM拡散力場の集中度を測り始めた。

「お? こりゃ、なかなかおもしれェことになりそォだなァ」

測定装置は、いずれもAIM拡散力場がものすごい勢いでこの部屋に集中してきていることを示していた。

「こ、これは……」

打ち止めが茫然としている。

佐天利子のパーソナル・リアリティは、与えられたダミーの世界(すなわち、夢)をものともせず、直接外の世界、すなわち実世界の

拡散力場に働きかけ始めたのである。
647 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 21:56:51.34 ID:FxrovuBo0

「打ち止め<ラストオーダー>、ここを離れてろ!」

打ち止めはその言葉に危険を察知した。彼がクソガキと言わなかったからである。本当に危険なのだ、と。

「アナタは大丈夫なの?」

大丈夫だとは思ってはいるけれど、でも彼の演算を補助する妹達<シスターズ>は、その数をかつての半分以下に減らしていた。

もちろん、ミサカネットワークは健在であり、クローンとはいえ、同じ人間としてその脳の能力は劣っている訳ではなく、

数が減った分、1人当たりの演算負担部分が倍になっただけである。

しかし、普通の生活を送っているような場合の演算負担は、倍になろうがそもそもがそれほどの負担ではなく、殆ど無視できる

ようなものであったが、今回のようなあたかも能力者同士のバトルの如く最大出力を長時間継続した場合、はたして問題なく済むか

どうかは経験がないのでわからないのだ。

「心配無用だ。オマエらの頭脳を借りてる分際で、でけェ口を叩くのは気がひけるがなァ、おおよそのピークはつかめたからなァ。

ベクトル反射は有効だしなァ。だが、打ち止め<ラストオーダー>、オマエは避難していろ。

いや、違うなァ。 コーヒー切れてるからさっさと買ってこい、それからあとモンブランと苺のショートケーキをな」

鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>はそう言ってニヤリと笑った。

「わかった! あたしはコーヒーとケーキ買ってきておくから!」

そう言うと打ち止めは調整室から外へ出た。


「さて、と。ちィっとばっかし真剣(マジ)に解析始めるとすっかァ」

鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>は打ち止めが外へ出たことを確認すると、一転してまじめな顔つきになった。
648 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 22:02:53.01 ID:FxrovuBo0





あたしは、茫然としていた。

久しぶりに家に帰ってきたのに、そこにあるべき家はなかった。

いや、さっきまではあったらしい。まわりに沢山の野次馬がいる。警察官、消防士、TVカメラ、報道陣、もいる。

あたしはそこらへんにいる人を軽々と引きはがし、自分の家に近づいて行く。

「お母さん!」

あたしの足が速くなる。

あたしは人を蹴散らし、玄関にたどり着く。

家は完全に崩れていた。

「お母さんが、お母さんが中にいるのっ!」

あたしは門を開け、中に飛び込む。

あたしはそこに立ち、少しためらった後、AIMジャマーであるネックレスとアームレットを全部外した。

おお、アタマがすっきりしたぞ、すごく爽快だぁー!

孫悟空も、最後に観音様にはめられた緊箍児が外された時には、きっとこんな感じを受けたことだろう。

力が四肢にみなぎってくる。

「学園都市外での能力使用は厳禁」

一瞬その警告が頭に浮かんだが、それどころじゃない! あたしはお母さんを助けなければ!
649 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 22:05:25.77 ID:FxrovuBo0

崩れてぐしゃぐしゃになっている家の部材に焦点を当て、あたしは演算を開始する。

「はぁっ!!」

ふっと大きな柱が消える。よし、良いぞ!

「はぁっ!」

大きなモルタル壁が消える。

「はっ!」

「はっ!」

お母さん、もう少しだから! 待っていて! あたしがお母さんを助けるから!

………

………

………

お母さんらしき人の頭が見えた。

「お母さん!!」

お母さんの上にのしかかっている柱に手を当てて、演算を行う。

「はっ!」

柱が消えた。

これでお母さんを助け出せる。
650 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 22:08:56.87 ID:FxrovuBo0

「お母さん! 大丈夫? ね、目を開けて? 起きて、お母さん!」






母が目を開けた。しかし、母の第一声は予想もしないものだった。



「利子、あんた、約束を破ったわね?」



あたしは驚きで声が出ない。

「二十歳になるまで、能力は使わないって、母さんに約束したわよね?」

ものすごい目で母さんがあたしをにらみつける。

「うそつき。お前なんか、母さんの子じゃない! 出て行け! さもないと、殺すわ!」

う………そ………
 
母さんがあたしの首に手をかけた。あたしは身動きも出来ない。

「止めて、母さん、止めて!」



―――― ゴン ―――― 



「いったーい!」

あたしはカプセルの天井に頭をぶつけたのだった。
651 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 22:15:24.92 ID:FxrovuBo0

「自分でブレーキかけちゃうってェのは珍しィかもなァ、オイ」

コーヒーを飲みながら鈴科教授がぼそりと言う。

「カプセルの天井にアタマぶつける例はたまにあるけれどね。

やっぱりウレタンでも貼っておきましょうよってあたしは改善提案を出してみる! これで今月のノルマ達成ーぃ!!」



……あたしは、ひとの不幸<どじ>ではしゃぐミサカ未来さんを恨めしい目で見ていた。

おでこにはクールシートが当たっている。少しこぶになっているかもしれない。

とっても恥ずかしい。

ああ、みっともない。

うう、穴掘ってそこにずっと入っていたい、あたし……。




つまりだ。

あたしは能力を開放し始め、さぁこれから全開放だというところになって、何故かあたしの脳は「母」を呼び出し、

あたしと母との「約束」を思い出させることで能力の全開放を押さえ込んでしまったのだ。



ある意味、それって「能力のコントロール」なんじゃないの?と言う気もするけれど……

そう言ったら、二人にあきれられてしまった。

うう、やっぱり黙っておくべきだった。
652 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 22:22:57.67 ID:FxrovuBo0

「そォだな、もォ一度来い。次はオマエのそのブレーキを緩めるよォなシステムを組ンでおく」

しぶーい顔をして、鈴科先生がぼそっと言った。

「はぁ……済みません……いつもならブレーキ掛けるヤツが出てくるんですけれど、今日は出てこなかったんですよ……

なんであいつが出てこないのに、あたしブレーキかかったんだろ……?」

あたしは半分独り言のようにつぶやいた。



「……オイ」

はい? とあたしは鈴科先生の方をみた……



そこには、ものすごい目をした鈴科先生の顔があった。

こ、怖い!!

「オマエ、今、なンつった?」

「は?」

「だ・か・ら、今言ったことをもォ一度、オレの前で言ってみろ?」

ひえぇぇぇぇぇぇ、なんか気に障ったんだろうか?

こ、怖いよぅ、この先生!
653 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 22:26:44.06 ID:FxrovuBo0

「言ってみろっていってンだよ!」

「は、はい。

いつも、なら、えーと、ブレーキかけるヤツが出てくるのに、今日は出てこないし、そいつが出てこないのにどうしてブレーキが

かかったのかな……って言ったんです、すみません、ごめんなさい!」

あたしは思いっきりアタマを下げた。 うう、ひっぱたかれるのかなぁ……

……

……

……

はて?

どうしたの、かな?


あたしは恐る恐るアタマを上げてみた。



そこには。



「ひとにものを尋ねるときに、しかも女の子に話を聞こうとするのに、そんな横柄な態度と怖い顔じゃ、聞ける話も聞けなくなるって

わたしはアナタをしかりつけてみる!」



……ミサカ未来さんが仁王立ちする隣で、鈴科先生がひっくり返っていた。

654 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 22:47:49.50 ID:FxrovuBo0

「えーと、復唱するね?」 

ミサカ未来さんは、ボイスメモリーをハンディターミナルに繋いでデータをソートしながら、あたしに確認を取っていた。

「あなたの中には、2人の思念のようなものがある。片方は、ときたま現れ、普段は表に出てこない。良いかな?」

「ええ、そんな『思念』というほど正確なものではないと思いますが」

「じゃぁ、こうかな? 

……ある特別な時にだけ、『冷静なもう一人の自分』が現れることがある。特に、大きく感情が動いたときに出てくることがある」

「うーん、それがよくわからないんです。気が向いたときにだけ出てくるというか……

確かに激情に駆られた時なんかに出てくることが多いような気がしますけれど、そうでないときもあって、全然見当がつきません」

「そっちのあなたは『冷静』なのね?」

「それじゃ、まるであたしが感情だけで動いてる『おんなの子』になっちゃいませんか?」

「あはははは、そういうように取れちゃうよねー、ごめんなさーい」

「まぁ、例えば、あたし自身が沸騰しているような状態でいるのに、そいつはどこか違う場所であたしを眺めてる、と言う感じ

なんですよ。……そう、第三者みたいな……」

「……なるほどね。……はい、どうも有り難う。これで今日はオシマイにしましょうね」

おしまいと言いつつ、ミサカさんは難しい顔をして考え込んでいる。

さっきのおちゃらけていた時とは似ても似つかぬ顔だ。

その顔は、あたしが知っている美琴おばさんの顔とよく似ているな、と思う。
655 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 22:50:52.59 ID:FxrovuBo0

「佐天さん?」

ミサカさんがあたしを見て少し微笑む。

「さて、テストで疲れたでしょ? ご苦労様。ケーキ買ってきたから二人で食べません?」

「ほ、ホントですか? はい! 喜んでごちそうになりまぁす♪♪」

すっかり忘れてた。ホントに買ってきてくれたんだ……嬉しいな!

「さっき、ひとっ走りして、買ってきたの! うちの学食のケーキって、隠れた銘品なんだよ? 結構お使いものにしてる人も多いんだって。

そうそう、来月号か再来月号の『学園都市うまいもの探訪』っていうグルメ雑誌で、学食スイーツ特集が組まれて、これも出るらしいの♪ 

あ、でもそうすると混んじゃうから、しばらく買えなくなっちゃうかも……それも困るなぁ……」



ミサカさんが蓋を取った。

うわぁ、立派な苺のショートケーキ! 中にも大きな苺が挟んであるじゃない!

モンブランのマロンも、すっごく大きくて美味しそうだし、ああ、そっちもいいかもしれない……



あたしは思わず手を伸ばした……が。

「それでね、もう一度、時間があるときに来て欲しいんだけれど、次はいつ来れるかしら?」

ミサカさんがあたしの手を握って質問してきたのだった。
656 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 22:59:44.70 ID:FxrovuBo0

佐天利子が着替えに行った後の研究室で、鈴科教授と助手のミサカ未来の二人がメモ書きを交換している。

他人に聞かれたくない会話はメモ書きというアナログチックなやり方が実は一番無難なのだ。カメラさえなければ。

もちろんここにカメラはない。全部彼らがぶち壊し済みである。いたちごっこのような時もあったが、その都度彼らは我慢強く壊し続けた。

およそ半年以上、壊す→再設置→壊す→再設置を延々と繰り返し、ついに学校が音を上げた。

もちろんカメラが再設置されていないか調べるのはもはや出勤後の日課となっている。

『多重人格?』

『可能性はある。見た目上、多重能力者(デュアルスキル)になる可能性もゼロではない』

『では今度の検査では?』

『重要だ。金曜のスキャンで明確にする必要がある。ここも危険だ。おもちゃにしそうな連中が沢山いる。今回のテストデータは?』

『ホストへはまだ送信していない。現在はまだスタンドアローン状態のまま。消す?』

『直ぐに消せ。言い訳はオレがしておく』

そこまで書いた鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>はメモを灰皿に載せ、火をつけた。

メラメラと上がる炎は一瞬にしてメモを焼き尽くし、灰に変えた。

「フン、どっかのクソガキがチョーカーを止めたおかげで、どっかのオッサンが操作をあやまったってなァ」

突然、彼はいつものような人を揶揄するような口調で、皮肉っぽく言いつのった。

「あなた、クソガキは止めてよね、もう子供じゃないんだから、アンタもあたしも!」

ミサカ未来こと最終個体20001号、打ち止め<ラストオーダー>は、まったくもう、と言う調子で打ち返す。

「あー、その通りだなァ、クソッタレ」
657 :LX [sage saga]:2011/02/12(土) 23:13:39.76 ID:FxrovuBo0
お読み下さっている皆様、こんばんは。>>1です。
いつもご声援頂き、本当に有り難うございます。
今回書き上げましたネタはほぼ全て投稿しましたので、本日の投稿はここまでです。

ようやくご要望がありました一方通行&打ち止めペアを登場させることが出来ました。
第二部をスタートさせたときから彼らを出すことと、彼らの位置付けは決まっておりましたが、
登場させるシチュエーションが出てこなかったのです。
と言いますのも、当初の予定では、夏休みより後の段階で彼らは出る予定でした。
なので、簡単に最初の部分だけきっかけとして3レス程度だけをメモ書きしてありました。

しかし、流れを書いて行くうちに、どうしても彼らと利子(としこ)を夏休み前に会わせて
おかないと、後で起きるエピソードをスタートできない、もしスタートするのならば更に
1年後にしなければならない事になってしまい、どうしても彼らを夏休み前に会わせる必要が
生じました。

さて、そうなると正直ネタに困りました。専ら夏休みの事件を書いており、彼らは全く考えて
おりませんでしたので(苦笑
というわけで、半月近く時間を要し、しかもまだ全部終わっていないと言う情けない状態です。
どうかご了承下さいませ。

では本日はこの辺で。お先に失礼致します。<(_ _)>
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 23:18:09.36 ID:g+TFjwleo
ついに出たか。一方さん。
打ち止めとは幸せそうで何よりですな。
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 23:26:43.21 ID:kVBg5UCto
面白ェ・・・・!たまンねェなァ!
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 23:29:53.89 ID:mjayH7g/o
ここで一方通行だと……!?

続き超楽しみにしてます
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 00:11:56.89 ID:Uh+2AMruo
これで3位と4位と1位が出た事になるな
益々先の展開がwwktkするぜ
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 00:23:44.57 ID:geNzKydAO
期待支援
663 :LX [sage saga]:2011/02/22(火) 00:49:43.76 ID:rqs5n3lG0
皆様こんばんは。>>1です。
御支援頂きまして本当に有り難うございます。

風邪ひいて先週末から昨日まで寝込んでおりました。インフルエンザではありませんでしたが。
生存報告ですみません。今週末くらいにはなんとか、夏休みに突入するところまで持ち込みたい、
と考えてます。
お待たせしておりますが、ご容赦下さいませ。
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 01:25:08.86 ID:0vENAaaAO
把握
細々待つ
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 18:51:35.12 ID:3wV4id4G0
ものすごく面白いです。作者さんありがとう。がんばってください!
666 :LX [saga]:2011/02/26(土) 18:26:28.40 ID:LbjZKn7P0
皆様こんばんは。
>>1です。
毎度度支援コメントを頂きまして本当に有り難うございます。
たいへん励みになっています。
篤く御礼申し上げます。

さて、いつもながらお待たせして申し訳ございませんでした。
それでは今回の投稿をこれより始めたいと思います。
どうぞ宜しくお願い致します。
667 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 18:29:11.04 ID:LbjZKn7P0

「じゃぁ、金曜日、待ってるからねー!!」

明るい声のさよならを残して、ミサカ未来さんは元来た道をUターンして走り去っていった。

もう遅いから、ということで彼女が自分のクルマであたしを寮まで送り届けてくれたのだった。



「本人確認を行います」

「阿耨多羅三藐三菩提、阿耨多羅三藐三菩提、阿耨多羅三藐三菩提!」

「声紋チェック、さてん としこ と確認」

「静脈シルエット・指紋チェック 完了 さてん としこ 確認」


大きな苺のショートケーキのおかげで、とりあえずあたしのおなかは一時的に満足してはいたものの、やっぱり腹にたまるものが

欲しかった。

………さすがに夜8時ではものの見事に何も残っていなかった。もちろん誰もいない。

「ま、この時間だから仕方ないさねー」

あたしは野菜ジュースのパックと夜食用カップ麺を棚から取りだし、部屋へ戻った。



翌日朝。

「おはよー、リコ、昨日どうしたの?」

さくらが開口一番聞いてくる。

「あぁ、昨日はね、長点上機学園に行って来たの」

「おはよ、え〜何それ? そんな遠いところに何しに行ってきたの?」

カオリんが早速割り込んでくる。

「そんなの、カレシに決まってるじゃな〜い?」

おお、いつの間にゆかりんが?

「え? リコの彼は飛天昇龍高校だったはずでしょ? 何、また新しいカレ作ったの?」
「うそ〜? どうしてそんなに直ぐ出来ちゃうの? あたしなんかここ来て、まだ一度も男の子と話すらしてないのに!」
「リコがうらやましいなぁ、あ〜ぁ、やっぱり共学の高校選ぶべきだったかなぁ」


「ちょっと待てぇ!! あんたら勝手に、あたしにカレシを作るなぁ!」

さえちゃんとゆかりんが勝手にあたしに彼を作り出しそうなので、あたしは二人に、釘ではなく杭を思い切りハンマーで打ち込んだ。

「ちょ……」
「リコ、大声で何言ってるのよ?」
「あ〜ぁ、あたしゃ知〜らないっと」


………食堂の注目があたし達に集中していた。がくせい、ちゅう・もく〜!!! 

うぅ、空気が、寒い。

視線が、痛い。

試しに箸を転がしてみたけれど……しらけ鳥の大群が食堂から南の空へ飛んでいっただけだった。



不幸だ。
668 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 18:33:20.28 ID:LbjZKn7P0

金曜の午後。

あたしはまた長点上機学園の鈴科研究室へ来ていた。

ここでは、AIMジャマーを大手を振って取り外せることが出来るので、実は楽しみだったことはナイショだ。

カオリんやさくらも来たがったけれど、もともとはあたしの個人的な話から始まった事で、しかもまだ2回目の訪問。

許可もなく勝手に部外者を連れて行くのは無礼だろうと言うことで諦めさせたのだけれど。

更衣室でさっさと着替えてAIMジャマーを取り外しておく。あぁー、気持ちいいわぁ!



「今日は最初は問診から行いますね。AIMジャマーは外してもらって大丈夫よ?」

ミサカ未来さんがにこやかに笑いながら言う。

「おでこ、大丈夫みたいね?」

「あはは、そうですね、大丈夫でしたよ〜」

あたしは少し赤くなりながら、ぴたぴたと額を叩く。

「それでね、どうやら『もう一人の佐天さん』はあなたの意識下にいるらしいのね。今日はその人に出てきてもらおうと考えてるの」

「……はい?」

もう一人のあたしって、冷静なあいつ、か……。

出てきたり出てこなかったり、本当によくわからない。いることは間違いないけれど。

「それで、催眠薬を使わせて欲しいんだけれど、いいかな?」

むう……あまり良い気持ちはしないけれど……ただ、気まぐれにしか出てこないあいつを表面に出すには、あたしが眠るしかないのかも

しれない。

う、ちょっと待てと。あたしが寝たらあいつが何しゃべったのか、肝心のあたしは全くわからないじゃない?

それはちょっと嫌だな……あたしも知らないことをミサカさんや鈴科先生が知っちゃうっていうのも。

変なことしゃべられたりしたら……
669 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 18:35:34.44 ID:LbjZKn7P0

「それしか方法がないんだったら……仕方ないですけれど……でも、何があったかは全部教えて頂けるのなら、かまいませんが……」

どっちかというと、あたしは、いやだなぁ、という気持ちで答えたつもりだった。

だけど。

「そう? よかった! じゃ、進めるね! 大丈夫。能力が発現しにくい人によく使われる薬だから。安全性も極めて高いのよ。

只の一度も事故例はないからね」

ミサカさんはニッコリ笑ってあれよあれよと進めてしまう。

うう、今更いやだって言えなくなっちゃった……。

1年前の学園都市潜入の時みたいだ……。 

麻琴、あたしちょっと怖いよ……。

もうAIMジャマーはないはずだけど。

「じゃその前に何か飲みません? お茶がいいですか? 紅茶? コーヒー?」

ミサカさんが聞く。

「じゃ、紅茶頂きます。ミルクと砂糖も下さい」

あたしがそう言うと、

「ちっ、よくそんな甘『ハイハイ!先生はブラックなのはわかってますから!!!』………」

と、鈴科先生のつぶやきを押しつぶすようにミサカさんが大きな声で返事を返した。

夫婦漫才が今日も展開されるのだろうか?
670 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 18:36:56.48 ID:LbjZKn7P0

「コーヒーの香りや苦み、甘みを味わうならブラックに限るっていってンだけどなァ、高い豆に失礼だろうがァ」

と鈴科先生がぶつぶつつぶやいている。

「ええ、インスタントじゃないホンモノはすごいですよね、だからあたし、ダメなんです」

「あァ?」

「あたし、ホンモノのコーヒーだと、胃が痛くなるんです。もうギリギリと痛むんで……インスタントなら大丈夫なんですけれど」

「そりゃまた、素敵な胃袋をお持ちのようで」

ミサカさんがあたしに紅茶を、鈴科先生には香り高いコーヒーを持ってきた。すごくいい香り。香りはいいんだけれど、ねぇ……。

あたしはミルクと砂糖をいれてティスプーンでかき回す。こちらもコーヒーほどではないが、良い香りがする。

クッキーをお茶請けに、って、いいのかな、こんなことしてて。

「あの、こんなゆっくりしていていいんですか?」

あたしはちょっと時間も気になったので聞いてみた。

「もう飲んじゃってるわよ、あなた。ゆったりと、気を楽〜にして………ね?」

あたしは急激に眠気が襲ってきたことに気が付いた。

あはは、一服盛られてたのか、気が付きませんでした……。

「あ、あたしのこと、宜しくお願いします……」

…………あたしは眠りに落ちた。
671 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 18:40:42.40 ID:LbjZKn7P0

「ちょっとだまし討ちみたいで、気がひけるかもって」

そういいながら、ミサカ未来は眠っている佐天利子をキャスターベッドに乗せ、少し離れた別室へ移動する。

既に鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>はスタンバっていた。

ミサカ未来は佐天利子の頭にヘッドセットを、そして腕と胸にピックアップを取り付ける。

「脳波、α波、β波、θ波とも正常」
「突発波なし」
「心電図も異常なし、脈拍通常、と」

鈴科教授は基本データのチェックを行って行く。

「AIM拡散力場確認、通常レベルであると判断します。AIMジャマーはありません。キャパシティダウナーチェック済みです」

ミサカ未来も各装置の確認を行っている。

「ちょっと待て、AIM拡散力場をよく見ておけ。多重人格であれば、複数のAIM拡散力場が無ければおかしいからなァ。

どォなっている?」

「えー、そんなこと言っても1つしかないよってミサカは回答する!」

「ンなはずはねェ、ちゃンとよく見てろクソガキ!」

「なら自分で見てごらんなさいよ!」

そう言うとミサカ未来は部屋を飛び出して行く。

「ちっ、クソガキがァ……… ン? 何故だ? 拡散力場は1つだけ? おかしィ……1人は無能力者とでもいうのかァ?」

鈴科教授は考え込み、パズルを組み立て始める。

(可能性は、

1. 多重人格ではない。従って、AIM拡散力場は1つ。

2. 多重人格。しかし1人のみ能力者で、他が全員無能力者。
 
3. 多重人格。複数の能力者だが、安静時にはAIM拡散力場の波形がほぼ一緒。

4. 多重人格。複数の能力者だが、普段は1人だけ。ある特定条件時に他の人格が現れ、AIM拡散力場も現れる。

5. 多重人格。複数の能力者だが、AIM拡散力場を操れるのは1人だけ。他は休んでいる。

ざっとこンなもンか? 
672 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 18:45:13.91 ID:LbjZKn7P0

チッ、この間の時の事例が再現できれば絞り込める可能性があるが……)

「さァて、どォやって『もォ一人のさてんさン』を呼び出しましょうかねェ?」

そうつぶやいた瞬間、鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>は瞬時にチョーカーのモードを「エコ」から「フル」に切り替えた。

「!!!」



「アナターっ、切り札連れてきたわよー!」

打ち止め<ラストオーダー>ことミサカ未来が連れてきたのは1人の女性。

「心理定規<メジャーハート>!」

「あら、覚えてくれていて嬉しいかな? 元第1位、一方通行<アクセラレータ>」



…………



「打ち止め<ラストオーダー>!? てめェ勝手に誰を連れてきてやがるンだァっ!?」

教授らしからぬ言葉でミサカ未来をののしる鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>。

「ちょっと止めなさいよ、あなたそれでも教授? お・く・さ・ま、にそういう態度はないと思うんだけど。

ツンデレは女子高生までよ、可愛いのは。オッサンがやってもキモイだけ」

「ケッ、ババァにオッサン扱いされるたァ、マジでへこンじまうぜオイ」

「くっ、ロリコン風情にババァ扱いされて光栄よ!」

言い争うレベル5とレベル4。

じっとガマンしていた打ち止め<ラストオーダー>が遂に噴火する。

「どっちもいい加減にしなさーい!!!」
673 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 18:53:33.43 ID:LbjZKn7P0

一方通行<アクセラレータ>にはミサカネットワークからの強制切り離しを、心理定規<メジャーハート>には電撃を浴びせて

強制鎮火を狙ったのだった。

「二人ともいい大人のくせに、いったい何やってるんですかっ!! 恥ずかしくないのっ!?」

二人とも床にのびている………が。



ふと、打ち止めは気が付いた。



       「あ」


  ――― やっちゃった ――― 



そう、ここは「測定室」なのだ。

高価な測定機器がそこら中にあるこの部屋で、誰かさんが電撃を飛ばした結果、どうなるか?


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


ぐるぐる歩き回った打ち止めはやがて意を決して

「ミサカは今日は早引きすることにしようと……『ちょっとそこのナイスな奥様?』ひゃいっ!?」

がっちりと肩をつかまれた打ち止めがギギギと振り向くと。

「あなた、1年以上お給料なしかもよ?」

心理定規<メジャーハート>が素晴らしい笑顔で彼女をつかまえていた。
674 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 18:55:08.09 ID:LbjZKn7P0

「クソッタレ、打ち止め<ラストオーダー>を脅かすンじゃネェ、クソババア」

「ふん、しなびたセロリに言われたくないね」

誰かさんの電撃は幸いにして機械を壊すには至らなかった。

あらかじめいくつかの能力暴走によるトラブルは想定されており、とりわけ測定機器には防護システムが組まれているのである。

もちろん、安全のために機械の電源は落ちてしまうが。

「あのねー、本来の目的忘れてませんかー、あななたちは?」

打ち止めが、再び口げんかを始めかかった二人に割って入る。

「あら、壊れてなかったと知ったら、結構強気ね、ええと……そうそう『ラブリー奥様』?」

「あなたにその名前は呼んで欲しくない、ってミサカは少しむっとしたり」

「用がないンだったら、さっさと消えろ、クソババァ」

「やれやれ……、ミサカさん、どうなの? 私、帰った方が良いのかな?」

「そ、そんなことはないからって。あたしがわざわざ話をして来てもらったのだから、このまま帰られたら困ってしまうの」

「そう、じゃ、そこのしなびたセロリはほっといて始めましょうか?」

「誰がしなびたセロリだオイ」

「うっさい、静かになさい!」



心理定規<メジャーハート>は能力を用い、眠っている佐天利子に語りかける。

「さーて、佐天さん、起きてくれるかな?」
675 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:01:45.23 ID:LbjZKn7P0

「もう漫才は終わりなの? 面白かったのに。さっきから起きてるよ? わたしは。

それから、わたし、佐天さんじゃないんだなぁ、じ・つ・は」

眠っている佐天利子が口を開け、仰天する言葉を返してきた。



心理定規<メジャーハート>は一瞬「む」という顔をしたが、直ぐに立ち直る。

「あら、じゃ一体どこのどなた、なのかしら?」

鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>と、ミサカ未来こと打ち止め<ラストオーダー>の二人は息をのむ。

「ひとにものを尋ねるにしては、ちょっと上から目線じゃないかなぁ? へりくだれ、とは言いませんけれど」

佐天利子ではない、と名乗った彼女はややおかんむりのようだ。

「ミサカはミサカだよって割り込んでみる! こんにちは。あたしはミサカ未来(みさか みく)です。

それで、あっちにいるのが、ミサカの大事な人、すずしな『一方通行<アクセラレータ>だ。よろしくな』……だよ!」

「こんにちは。ミサカさんに鈴科さん。わたしは、りこと言います。佐天さんの愛称もリコですけれど、それとは違う、

別人です。わけあって、普段は隠れてます」

(なんであたしとこの二人との口調を変えてるのかしらね……思春期の女の子だから、まぁいいか)

心理定規<メジャーハート>は少しムッとしたが、ミサカ未来がうまく語りかけてくれているので黙っていることにした。

しかし、黙っていないコドモオトナがもう一人。

「オマエ『りこちゃんは、どうして佐天さんの中に隠れているの?』チッ……」

コドモオトナが語りかけ<脅迫し>そうになったところに、ミサカ未来が質問を強引にかぶせる。

舌打ちしてもう一人のコドモオトナも沈黙した。
676 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:05:33.68 ID:LbjZKn7P0

「隠れてるっていうか、元々はわたしなの、この身体は。わたしのものなの。でも、わたしは表に出ちゃいけないの」

後半分は自分に言い聞かせるかのように小さな声でりこがつぶやく。

「どうして?」

「わからない。でも、わたしはママに捨てられた子供。それを拾ってくれたのが、佐天涙子さんで、わたしはその娘、佐天利子

(さてん としこ)さんになったの。だから、表に出ているのは佐天利子。わたしはたまにこの子を指導するの。危なっかしいからね」

「能力については、わかってる?」

「わたしは持っているのは知っている。でも、最近まで知らなかった。去年ぐらいかな、アタマにあったAIMジャマーがなくなって、

わたしは自由に動けるようになったし。最近なの、能力を使い出したのは。まだ半分も使ってないんじゃないかな? 」

「え?半分って、どういう事?」

「わたしにもよくわからないの。あることはわかってるけれど、最後まで使い切ったことがないというのかしら。

でもわたし自身ではどうしようもないことなのね。

普段、表にいるのは佐天さんね。彼女のパーソナルリアリティの基本骨子は、わたしのパーソナルリアリティ。でもわたしの全部

じゃなくて、たぶん半分くらいだと思う。全部使い切れていない、というのはそこからの推測。

彼女がそれをベースに演算をするわけだけれど、その演算式はそのままわたしにも送られて来ているから、わたしは再解析して

問題がない場合はそのままあたしの演算結果になるわけ。そしてその結果は、あたしのAIM拡散力場に影響を及ぼして、

わたしのパーソナルリアリティに基づく超能力現象が発現する、と言うことみたい」
677 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:08:04.26 ID:LbjZKn7P0

「気が狂いそォなくらい、無駄なことやってやがンな……」

「心配しないで、自覚してるもん」

「えっ!?」

心理定規<メジャーハート>が思わず声を出した。

(今、彼女はなんて言った……?) 

「最初の時は、私も慣れていなかったので彼女の演算を特に再解析もせずにそのまま確定して、パーソナルリアリティを具現化させたのね……

そしたら、わたしの周りは吹き飛んで大穴が開いた瓦礫の山になっていたの」



(あれ、この話、もしかして?)

打ち止め<ラストオーダー>がMNW(ミサカ・ネット・ワーク)にアクセスを行う。


【運営】あの女子高生の衝撃の告白【打ち止め】

1 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

2回目の訪問で、衝撃の事実が明かされている、とミサカは口火を切ってみる!



2 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

ワイドショー的なノリはいかがなものか、とミサカは上位個体をたしなめてみます。
678 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:12:08.62 ID:LbjZKn7P0

3 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

彼女は昨年5月のキリヤマ研究所爆発事故のことを述べているものと推測します。



3 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

彼女<佐天利子>の中に、もう一人の「りこ」という名の人格が存在しているということでしょうか?

そのようなことが可能なのでしょうか?


4 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001  

10039号の疑問はもっともだけど、りこちゃんの話もウソには聞こえないよ?

それで……えーと、キリヤマ事件では10039号と10032号が出動したんだよね?



5 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

病院の中でミサカも遭遇しています。ちょっと不愉快な事を思い出してしまいました、とミサカは後悔します。

 

6 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032 

管轄違いなのに、またどうせクドクドとオバサンくさく説教したんだろうなと、10032号は13577号に責められたであろう彼女に同情し、

ため息をつきます。



7 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577 

む、まるで自分はオバサンではないかの如く発言する10032号に対し、オマエも立派なオバサンだわかってんのかコノヤロウ明るい部屋で

とっくりと鏡を見やがれ、と思ったことはおくびにも出さずにスルーします。



8 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001 

ハイハイ、そこでストーップ!!! りこちゃんの話続いてるから後にして! 

【Misaka20001が退出しました】
679 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:14:57.58 ID:LbjZKn7P0

9 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577 

ちっ、また立て逃げかよ、とミサカは嘆息します。



10 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

お姉様<オリジナル>への報告はどうしましょうか?



11 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032 
 
状況が変わりました。彼女の話が全部終わった段階で、前回の訪問の内容から併せて報告した方がよいかと。



12 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

誰が報告しますか?



13 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090 

それは当然、「委員の影を果たせるのは今やこの私だけです、とささやかな自負と共に」宣言した10039号が適任かと。


 
11 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

異議なし。



12 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

同じく。



11 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

なんとなく嵌められたような気がしますけれど、まぁわかりました。この難局、無事に乗り切ってみせます、とミサカは宣言します。


【Misaka13577が退出しました】
【Misaka10032が退出しました】
【Misaka19090が退出しました】
【Misaka10039が退出しました】
680 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:18:21.53 ID:LbjZKn7P0


「彼女が正常に起きているときはあたしは何も出来ないの。 たま〜に運良く思念が送れたりするけれど。

今、彼女が休んでいるから、あたしはおかげさまでこうしてあなたたちとお話しできてるんだけどね。

……こんなにしゃべって良いのかな、あとで目一杯怒られるような気がするなぁ、あたし……」

りこがふと不安そうな声になった。

「大丈夫。この会話は録音してないし。ちょっと佐天さんにも教えない方がいいかもしれない」

ミサカ未来が慰めている。



話は続いているが、心理定規<メジャーハート>の頭の中では、さっきの「りこ」の言葉が渦巻いていた。



――― 心配しないで、自覚してるもん ―――  


――― 心配するな、自覚はある ―――  

――― 俺の未元物質<ダークマター>に、その常識は通用しねぇ ――― 


(帝督……まさかね……年があわないし)

「あ、あの、りこ、さん?」

心理定規<メジャーハート>がちょっと口ごもりながらりこに声をかけた。
681 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:21:34.61 ID:LbjZKn7P0

「なんですか?」

「あたしは、心理定規<メジャーハート>っていう能力者だけど、あなたのお父様とお母様はご存じないの?」

「ママはね、『しずり』よ。パパは知らない。一度も見たことないし。ママに聞いても教えてくれないとは思うよ?」

心理定規<メジャーハート>は唇をかむ。

(しずり……か。まぁいい、あとで書庫<バンク>で検索すれば何人か出るだろう)

「りこちゃん、いいかな?」

ミサカ未来がまた話しかける。

「はい、なんですか?」

「いま、りこちゃんのお話聞いていて、ふと思ったんだけど、あなたは、自分のパーソナルリアリティから自分で演算して、

自分で再構築して自らAIM拡散力場に働きかけたことはないような気がしたんだけど、どう?」

しばらく「りこ」は沈黙した。

「そうですね、ないかもしれません」

「りこ」が答えてきた。

「だから、あなたの能力を最後まで使い切っていないのかもしれない、とあたしは思ったの。

だから、今のように、佐天さんが活動していない状況の時ならば、『りこ』さんの能力を引き出せるんじゃないかなって」

しばらく考えていた「りこ」が再び口を開く。
682 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:23:58.30 ID:LbjZKn7P0

「……そうですが、そうすると、今までのバランスを崩してしまう気がします。

あたしはあくまで陰であって、佐天利子(さてん としこ)がメインなんですよ。

能力が発動するまで、あたしと佐天利子のダブルチェックがあるんです。お粗末ですけれど。

一度でもそういう方法を取ってしまうと、脳が覚えてしまい、最悪の場合、佐天利子の意思にかかわらず、あたしの能力を発現する

ことが出来てしまう可能性があります。

まぁ、普段はAIMジャマーの影響を受けていますし、私自身がが暴走する可能性はゼロに近いでしょうけれど、少なくとも今

わかっている限りでの私の能力は『破壊』ですからね、暴走したらすごく危険ですから、ショートカットをつけるようなことは

慎むべきじゃないでしょうか?」

「………」

ミサカ未来も、鈴科教授もこの正論に正面切って答えることは出来なかった。

「こういう場を設けて頂いて感謝します。他の人とこんなにしゃべったのは、生まれて初めてです。とっても嬉しいです。

とっても楽しかった。

じゃ、そろそろ私は引っ込んだ方が良いのかもしれません。下がってもいいですか?」

「あ……あァ、わかった」

「うん、リコちゃん、お疲れさま。ミサカもお話しできてとっても楽しかったよ。また会おうね」

「そうですね、出来たらいいですね。心理定規<メジャーハート>さん、さよなら。皆さんお元気で」

そう言うと、佐天利子は目を閉じた。

しばらくして、佐天利子の規則正しい寝息が聞こえてきた。りこは再び奥にひっこんだのだろう。

何も知らないかのように、すやすやと幸せそうな顔で眠る佐天利子。

対照的に、その顔を眺める鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>、ミサカ未来こと打ち止め<ラストオーダー>、

そして心理定規<メジャーハート>の顔は複雑なものであった。
683 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:28:52.18 ID:LbjZKn7P0


次の日の夕方。

ここ18学区にある長点上機学園。能力開発の超エリート学校である。



一天にわかに掻き曇り、つむじ風に乗って雷さまがやってきた。



「くっだらねェ、オレはいないと言っとけ」

「ええええ、ミサカもいないって答えたいかも」

「オマエ、もォビジターチェックに出ちまっただろうが、諦めろ」

「やだやだ、ミサカ一人じゃいやだって、あたし、気を失っちゃうかも……」

「そん時は、あたしが優しく起こしてあげるわよ、未来<みらい>?」



ミサカ未来こと打ち止め<ラストオーダー>はその声を聞いた瞬間棒立ちになった。

「あはははは、来ちゃってたー」

あさっての方向を見ながらミサカ未来が独り言をつぶやく。 

「ちょっとなによ、その挨拶? まるで来たら困るような物言いだわね?」



ゆっくりと雷さま、いやお姉様<オリジナル>である上条美琴が部屋に入ってくる。



「チッ、そォいや電子ロックはおまえにゃ無意味だっけなァ?」

「そういうこと。お久しぶりね、一方通行<アクセラレータ>さん? いや、鈴科教授って呼ばなきゃ失礼ですかしら?」

元学園都市第一位、一方通行<アクセラレータ>と、元学園都市第三位、超電磁砲<レールガン>とが、それほど広くはない研究室の

応接間で並び立つ。

684 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:34:36.14 ID:LbjZKn7P0

「クソッタレが。好きにしろ、超電磁砲<レールガン>の ”おねェさン ”?」

「くっ………、アンタに”おねェさン”と呼ばれるのだけは勘弁して欲しいわね、まだ超電磁砲か三下の方がましよ」

「ならご要望にお応えして、三下ねェさン?」

お互い様子見とも見える、言葉のパンチの応酬に切れたのは、「やはり」超電磁砲<レールガン>の美琴だった。

「……だ・か・ら、その『ねェさン』つってるのを止めろって言ってんでしょうが無視すんなやゴ『お姉様<オリジナル>、そこまでです』

う」

「こんにちは、上位個体<ラストオーダー>、と声を掛けて、ミサカは上位個体<ラストオーダー>の脱走阻止に成功しました」

本気になられたらシャレにならない元第一位と元第三位との口げんかに割って入ったのは、妹達<シスターズ>の一人。

「うう、そういうアナタは10039号ね?」

「はい、あの方に直接つけて頂いた名前はミサカ美子(みさか よしこ)です、と上位個体<ラストオーダー>にささやかな自負と共に

名乗ってみます」



ちなみに、『ミサカ未来』という名前は一方通行<アクセラレータ>と上条美琴<レールガン>がまるまる一日を費やして

上げていった名前の中から、打ち止め<ラストオーダー>こと検体番号20001号が「うん」と頷いたものである。



「ハイハイ、そこまで。自己紹介はこのくらいで、とっとと本題行くわよ? ところでここ、秘密の話OK?」

ついさっきまでの剣幕はどこへやら、しれっとして上条美琴が場面を切り替える。

「あン? カメラについては毎日チェックしてるから問題ねェ。マイクについては三下の方が見つけやすいンじゃねェのか?」

「ちょ、客<レベル5>に調べさせるってわけ? アンタの研究室は……ったくなんてとこなのよ……?」

そう言いつつ歩き回る美琴。
685 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:36:57.46 ID:LbjZKn7P0

「すまねェなァ、ちなみに毎日オレもカメラが取り付けられてねェかチェックやってるんだぜオイ?」

「ホントなの? ……はぁ、レベル5相手にこの学校も何やってるんだかホントに……」

そう言いながら上条美琴はゆっくりと部屋の中を歩き始める。

「お姉様<オリジナル>、私も?」

「ミサカも?」

ミサカ美子(元10039号)と打ち止め<ラストオーダー>が手伝いましょうか?という感じで腰を浮かせると、

「あ、あたしが一通り終わったらお願いするわ? 同時に複数が同じように電波チェックすると、お互いが干渉しちゃってノイズを

出すだけで無意味だから」と美琴が美子をとどめる。

「では、私は音声を出してあえて拾わせて、お姉様<オリジナル>のチェックをアシストしてみます。

じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ くうねるところに

すむところ やぶらこうじのぶらこうじ ぱいぽ ぱいぽ ぱいぽのしゅーりんがん しゅーりんがんのぐーりんだい ぐーりんだい

のぽんぽこぴーの ぽんぽこなーの ちょうきゅうめいのちょうすけ……あの、お姉様<オリジナル> ?」

「あった!」 美琴が指さしたのは、開きドアのストッパーである。

美琴がクイっとひねると、それはいとも簡単に回転した。クルクルとまわしてラバー部分を外すと、その部分には小型マイクが

入っていた。
686 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:53:42.69 ID:LbjZKn7P0

「ちょおっと、学園都市第一位とは思えないわねぇ……こんな簡単に見つかるような場所にマイク嵌め込まれるなんてさ?」

「ホントだ、信じられないってミサカは心底驚いてみる……」

上条美琴が見つけ出した超小型マイク・トランスミッターをミサカ未来ものぞき込む。


「誰も、ミサカの努力を評価して下さらないのですね、と一人黄昏れているミサカに誰も注意を払ってくれないのですね」と

ミサカ美子(元10039号)がぶつぶつ独り言を言っているが、まさにその通り。


「チッ、言ってろ三下が……どれだ?」

鈴科教授に上条美琴が(こんなもの埋め込まれちゃってー、アンタもヤキがまわったんじゃないのー?)という顔でそのマイクを見せつける。

「……ああ、わりぃわりぃ、それつけたの、たぶんオレだわ」

「「「はぁぁぁぁ?」」」

鈴科教授以外の3人が驚きでハモる。

「何のために??」 上条美琴が、事と次第によっては、という感じで鈴科教授に詰め寄る。

「あったり前だろ、オレが席を外したときに、打ち止めを狙っておかしなヤツが侵入したとか、そのクソガキがまた仕事さぼってフラフラと

どっか行っちまったとか、そォ言うことに対するアイテムの一つなンだよ!」

「ミサカはそこまで子供じゃないっていつも言ってるのに〜!」

「ふーん、前半はわからなくはないわ。で、未来? あんた何、そんなに脱走したりするわけ?」

「そ、そんなことはないってミサカは『ダウト! とミサカは上位個体<ラストオーダー>の回答に疑問を投げかけます』……」

先ほどの寿限無で完璧に外してしまったミサカ美子が復活を賭けて再びリングに登場した。
687 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:57:22.70 ID:LbjZKn7P0

「少なくとも」と、ミサカ美子(元検体番号10039号)はミサカ未来の罪状を事細かに上げて行く。

     ――― (中略) ―――

「以上、少なくとも先週5日間で、脱走回数はのべ13回に及んでいます。この回数が多いか少ないかは、皆様の判断にお任せします」

「打ち止め<ラストオーダー>ーッ? てめェそンなにフケてやがッたのかァ? 給料差し引くからなァ?」

「うわーん、そ、それは勘弁して欲しいって、ミサカは平謝りするって泣いてお願いしてみたり?」

以下、世間で言う夫婦ゲンカ第二幕。

      ――― (中略) ―――

「やってられないわね」

「そうですね、お姉様<オリジナル>」



「で、本題なんだけど、そろそろいいかな?」

「あぁ……」

「アンタ達、佐天利子ちゃんのこと調べてたんだって?」

「頼まれてな」

「誰に?」

「本人だっつーの」

「はぁぁぁぁぁぁぁ? としこちゃん自身が?」

「あァ。 あのガキが自分の能力のコントロールつけるつもりでな、多摩川の河原で石を投げては自分の能力で破壊しようと

一生懸命やってたンだがな。まるっきり見当違いなことやってたンで、見てる方がバカバカしくなってなァ。

けどよォ、あんまり真剣なンで、ちィっとばかしお節介を焼いただけだ」
688 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 19:59:48.82 ID:LbjZKn7P0

「な、なんて事を……」

「あン? で、あのガキ自身が自分の能力わかってねェらしィから、じゃァちょっくら調べてみましょうかねェ?ってことになったわけ

だっつーの」

「……」

「でな、最初の時は、ガキが自分自身で能力を押さえ込ンでしまった。本人も意識せずに、だ」

「……」

「ガキが言うには、冷静なもう一人の自分がいる、今回出てこなかったのにどォして?つー、とンでもねェ発言をしやがった」

「なんですって!?」

上条美琴の顔色が変わる。

(……、う……そ……、そ……ん……な……、ま……さ……か……)

「この意味わかるな? 三下ねェさん? ……ン? 反応がネェな。つまらねェなァ」

「……そ、それで、どうしたのよ!」

「昨日、そのガキが来た。それで、睡眠療法で誘導を掛けたら、別人が出てきたわけだ。まぁそういうことだ」

(まさか、むぎの りこって名乗った、って?)

「名前、聞いたの? その『別人』のひとに?」

上条美琴の声が震えている。

(ン?)という顔で、鈴科教授こと一方通行<アクセラレータ>と、ミサカ未来こと打ち止め<ラストオーダー>がお互いに顔を

見合わせて、そして美琴の顔を見ながらゆっくりと答える。

「りこ、と言ったなァ」

「ママは『しずり』って名前だっていってた。パパは知らないって……」
689 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 20:05:22.77 ID:LbjZKn7P0

床がぐにゃりと溶けて行くような気がした。


………やっぱり。 



話の内容から、それ以外考えられなかったけれど。



   ――― あの子が、『生きていた』 ―――


木山春生教授の、学習装置<テスタメント>による記憶破壊をくぐり抜けた、のか、あの子は。

でも、そんなことって、本当に、ほんとにあり得るのだろうか。

いったいどうやって?

現実に起きているのだけれど、半信半疑、だ。


上条美琴は、思わず頭を抱えてしゃがみ込みたい、と真剣に思った。

(何でなのよぉー!!!!)と叫びだしたかった。


学園都市が麦野沈利に産ませた、垣根帝督の娘。

レベル5同士の自然交配による、人工的な「原石」の創造をもくろんだ『実験』の、唯一の生き残り。

麦野利子(むぎの りこ)。

二歳を目の前にして、死んだ女の子。

そして生まれ変わった、佐天利子(さてん としこ)。



美琴は思い起こす。16年前の、あの時。
690 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 20:09:20.72 ID:LbjZKn7P0
皆様こんばんは。
拙文をお読み頂きましてどうも有り難うございます。

ちょっと一時的に席を外す必要が生じましたので、一時投稿を中断致します。
用件が片づき次第、再開致します。

済みませんが何卒ご了承下さいませ。
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 21:38:19.99 ID:OZuliZ//o
物語が確実に動きつつあるな・・・
しかし20年近く経っても通行止めコンビは相変わらずで和むわwwwwww
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 21:41:56.24 ID:gGPN9hg9o
じらしプレイ……っ!

パーソナルリアリティの拠り所って考え方は面白いなあ。
でも二人とも母親の愛情注がれまくってるしなんとかなるよきっと!
693 :LX [ saga]:2011/02/26(土) 21:53:03.18 ID:LbjZKn7P0
>>1でございます。
投稿を中断致しまして大変失礼致しました。
これより再開致します。

短い間にコメントをお寄せ頂きまして、どうも有り難うございました。頑張ります。
694 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 22:09:59.59 ID:LbjZKn7P0


最初に麦野沈利から話を聞いたとき、麻琴はまだ産まれたばかりだった。

もし、自分がその対象だったら? ぞっとした。

もし、その実験対象に自分が選ばれていたら、自分が抱くこの子、麻琴は、第一位か第二位との子供だったかもしれないのか?

冗談ではない!

美琴は、恐ろしさに震え上がると同時に、その計画を立案した見知らぬ相手に、強い怒りを、軽蔑を、そして不幸にもその実験に

選ばれてしまった第四位の麦野沈利に対して、同情と後ろめたさを感じたのであった。

なぜ、自分は対象から外されたのだろうか? なぜ、わたしではなく彼女だったのだろうか、と。

そして、自分は選ばれずにすんだ、という安堵の気持ちを持ってしまったそのこと自体に、美琴は強い自己嫌悪を覚えた。

そういう思いを持ってしまったことを恥じた。自分のそんな思いにも気づかず、目の前で語る麦野沈利に対して、美琴は後ろめたさを

持ったのも事実だった。

しかし、彼女、麦野沈利は美琴が思っていたほど女々しい女ではなかった。

父親がだれだろうと、この子は腹を痛めた我が娘、自分の血を分けた娘、と明快だった。強い『母』だった。

その思いが強すぎ将来を悲観して、ちょっと暴走しかかったけれど。

『麦野利子』が生きていたと知ったら、麦野沈利は……?

今は裏でつつましく生きている『麦野利子』が表に出てきたら?

いや、そうしたら、『佐天利子』はどうなるのだろう? 『佐天涙子』もまた……?
695 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 22:12:10.77 ID:LbjZKn7P0

いや、それよりも、かつての彼女らの『敵』は、もういないのだろうか? 消滅しているのだろうか?

……そんな保証があるわけがない。

ここは、『学園都市』なのだ。



「……仕方ない。打ち止め<ラストオーダー>、美子(元10039号)、あんたたち二人、MNWから外れてもらえる?

それから、鈴科教授? 他言無用でお願いしたいんだけど?」

「ケッ、なんですかァ、ずいぶんとものものしい御発言のようで?」

「あったり前。人のいのちに関わるかもしれないんだから」

「フン……なら三下、筆談だ。アナログが一番なんだよ、そう言う話はな」



「ちっ」 舌打ちをした女が一人。

ヘッドホンを外したのは心理定規<メジャーハート>だった。

「あの子が、元レベル5・第四位『麦野沈利』の娘なのか、そして父親があのひとだったのかどうか、聞けるかもと

思ったのに……  まぁ、最後は本人に聞くと言う手もあるか」

  
  …………

鈴科教授がメモを焼き捨てる。

「お解り頂けたかしら?」

「なかなか愉快な人生歩んでるようで、あのガキも」

「ちょおっと!」

「フン、守るものが1人増えただけだ」




「ミサカはすっかり空気だね……」

「同じく、このミサカは何のためにここにいるのでしょう、と上位個体と共に悲嘆にくれます」
696 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 22:14:59.72 ID:LbjZKn7P0


「オマエ、ここへはもう来るな」



ある日のこと。

あたしはいきなり鈴科先生から告げられた。

「え?」

「オマエのためだ」

あたしはわけがわからなかった。

まだ能力コントロール訓練は始まったばっかりなのに。

だいたい、最初に言い出したのは、鈴科先生の方でしょ? それがどういうことですか? 何なんですか?

もう来るなって、そんな、ひどすぎる!!

……と、あたしは心のなかで、コテンパンに鈴科先生を畳んで伸してアイロン掛けしてやりこめていた。



でも、実際はというと、あたしは黙って目に涙を浮かべていたのだった。ヘタレだ、あたし。 

「帰れなくなる可能性がある」

「?」 はい?

「オマエの能力は未知数過ぎる。それに惹かれる連中がここには沢山いるンだ。ある日突然、オマエを研究対象にしちまうような

連中がいるンだ。危険なンだよ、ここは」

あたしは、茫然としていた。

あたし、そんな、たいそうな人間じゃないのに……違うの?
697 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 22:18:33.24 ID:LbjZKn7P0

「オマエがなぜ、教育大付属なンつークソッタレな学校へ行くことになったのか、今頃オレはわかった。

オマエ、自分で決めた訳じゃねェだろう? 誰がオマエに教育大付属高校を薦めた?」

「美琴、上条美琴おばさんです」

「上条? あの三下のことか? 第三位か!?」

「超電磁砲<レールガン>という名はご存じですか?」

「ケッ、知らないでどうするってかァ? そうか、なるほどねぇそういうことか。こいつはちっとばかし、面白しれェことに

なっちまったかもなァ」

何を言ってるのか、あたしにはさっぱりわからなかった。

「あ、あの……」

あたしは、不安だった。

「心配すンな。オレが守ってやンよ。帰ったらなァ、おばさんに『一方通行<アクセラレータ>が、余計な事をしちまった代わりに、

お手伝いを致します』と言っといてくれ」

「は、はい……?」

いよいよ、わからない。

でも、鈴科先生の目は、前と違って、ずいぶんと優しい柔らかな調子に見えた。



「打ち止め<ラストオーダー>、クルマ出してくれ! 彼女を送って行くぞ!」




こうして、あたしの長点上機学園での能力コントロール訓練は、うやむやのうちに終わってしまった。

あたし、悲しい。どうしよう。

また石ころを投げるしかないのだろうか?

698 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 22:21:34.79 ID:LbjZKn7P0




一学期が終わった。

「学業補習 完了」の通知が成績表と一緒に入っていた。成績は、まぁ良し、とすべきだろう。

必死の補習が功を奏したのか、とりあえずなんとかカリキュラムは学園都市レベルに追いついた、ということらしい。

「やった、やっと終わった……」

あたしは長かった補習期間を思い出していた。

「ヤッホー、これで女子高生に戻れる〜!」 

「成績落ちるとまた補習が復活するから、気をつけた方がいいわよ?」

浮かれるあたしに、湯川先輩が声を掛けてきた。

「はぁ………」 

ちぇ、少しぐらいはしゃがせて欲しいなぁとあたしは思った。

「で、夏休み、あなた何か予定あるの、かな?」 

湯川先輩があたしに聞いてきた。

「そうですね、久しぶりに実家に帰ってみようと思ってますけれど、まだいつ帰るか決めてません」

「あらそうなの? あのね、……よかったら、海に行かない?」

海か……もうずっと行ったことがないな……お母さんに連れて行ってもらったのって……小学校2年の時か。
699 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 22:28:05.53 ID:LbjZKn7P0

「あの、……まさか女ふたりでですか?」

「え? いやいやいや、多い方が楽しいから。あたしの方はあと2人来るけど、ウチはまだ余裕あるし、どうかなって」

いや、助かった。湯川先輩と二人ってのは、ちょっと勘弁して欲しいもの……。

「もしかして先輩のご実家ですか?」

「そ、西伊豆だけど? 魚は美味しいし、海は綺麗だし、富士山も見えるし、お風呂は温泉だよー?」

新鮮なお魚? ここ学園都市でもそれなりに美味しいお魚も食べられるけれど、やっぱり海辺だよね!

そして、温泉? うーん、絶対行くしかないな!!

「行きます! 絶対行きます! 何が何でも行きます! みんな誘って行きます!」

「じゃ、今日とりあえず声掛けてもらって、行きそうな人の数、後で教えてくれる、かな? 家の準備もあるし、学校に

外出届出さなければ行けないし」

「はーい! ……で、肝心なことですけど、いつ行くんですか?」

「あしたでもあさってでもいいけど、期間は一週間!」

「いや、明日は無理ですよ、準備しないと……」

「ならあさって出発!」



詩菜大おばさま、ごめんなさい。帰るの、少し遅れます……。
700 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 22:31:08.19 ID:LbjZKn7P0

「おー富士山だ!」
「えー? あれ? 頭白くないの?」
「夏には富士山の雪は解けちゃうからね。真っ黒よ」
「へー、知らなかった……」

あたしたちは、湯川先輩の実家、静岡の西伊豆に来ていた。

湯川先輩のクラスメートは二人。

古賀祥子(こが あきこ)さんと、佐藤操(さとう みさお)さんだ。

あたしの方は、いつものメンバー、

青木桜子(さくら)、遠藤冴子(さえちゃん先生)、大里香織(カオリん)、斉藤美子(ミコ)、前島ゆかり(ゆかりん)。

合計9人の、花の女子高生軍団が学園都市から来襲したのだった。



海と、山と、温泉。最高の場所だ。

青い海を前景に富士山がそびえ立つ。出来すぎた風景だ。

冬は空気も澄んでいるだろうから、雪を被った富士山の姿は絶景だろうなと思う。

あたしは荷物を置くと、一人で海岸へ出て、ぽけーっと波が打ち寄せる海を眺めていた。

潮の香りが鼻をくすぐる。
701 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 22:41:14.87 ID:LbjZKn7P0

ひとは水を見ると心落ち着くと言う。

全ての生命を生み出した、母なる海。

一体、どれだけの水が海にあるのだろう?



「リコちゃーん!」 カオリんが呼んでいる。

「バーベキューの準備するから戻ってきてって!」

「オッケー! そっち戻るわ!」 

あたしはしゃがんでいた岩場から立ち上がろうとしたが、ずっと同じ形でしゃがんでいたせいで、固まっていた足が

急激に伸ばされた形になり、バランスを崩してしまった!

「きゃあっ!」   

身体が宙に浮いて、

次の瞬間、


――― どっぷぅぅぅぅん ――― 

 
あたしは海に落ちた。
702 :LX [sage saga]:2011/02/26(土) 23:01:41.73 ID:LbjZKn7P0
皆様こんばんは。>>1です。
最後までお読み頂きまして有り難うございます。

本日分はここまでと致したく存じます。
ストックはまだあるのですが、手直しが必要です。うまく行けば、あしたまた少し投稿できる
かと思います。

第二部は第一部と異なり、書きためて投稿、書きためて投稿、というやり方なものですから、
やはりアラが目立ちます。
辻褄があってないところは少なくとも2カ所ありますし、同一人物の一人称が3つくらいに
なっていたりとお恥ずかしい次第です。

ようやく夏休み編に突入できましたが、当初の話では>>569のあと、いきなり>>698となって
おりました。
で、本来なら夏休みのあとに通行止めが始まる予定でしたが、書き留めてあったのは>>623から
>>627までしかなかったのでした。
この状態から今の状態まで持って行くのにやはり時間がかかりました。
荒っぽいところがかなりありますがご笑覧下さいませ。

それではお先に失礼致します。
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 23:25:49.71 ID:ilH3XloIO

多少のズレは脳内補完でいける
それぐらい面白い
次の投下楽しみにしてる
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 23:42:32.97 ID:Ojv3hmxAO

大変面白いです
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 23:54:27.23 ID:gGPN9hg9o
好きなSSが投下される日はgooddayなんだぜー。
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 00:09:59.32 ID:Bh86bQyDO
つい読みいっちゃうわ
乙。次も楽しみにしてます
707 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 20:12:43.27 ID:ced4TtE30
皆様こんばんは。
>>1です。

コメント頂き有り難うございます。
それでは、本日分をこれより投稿致します。
宜しくお願い致します。
708 :LX [saga]:2011/02/27(日) 20:16:56.41 ID:ced4TtE30
投稿開始の時はageるのを忘れました^^; 代わりにコレをageで投稿致します。



岩の上に落ちていたら、あたしは死んでいたかもしれない。

ゴボボボボボと大量の泡と共に沈み込む。

(痛っ!)

脛を擦った。そしてそれほど深くなかったことであたしは腰を岩にしたたかに打ち付けてしまった。

反動で前へつんのめる形で頭が下へ沈み込む。

腰の痛みであたしは一瞬気を失いそうになった。

(うわっ!)

瞬間、鼻から水が入り込む。つーんとした痛みが走る。

死ぬかもしれない、という恐怖が頭をよぎる。



いきなりあたしは強い力で引きずりあげられた。予想もしない力だったので逆にあたしはちょっとパニックになりかけた。

あたしは海から放りあげられ、宙を飛び、そして何かにぶつかった。

「キャッ!」
「ぶっ!!」

あたしはカオリんに激突したのだった。


しばらく二人とも動けなかった。

「ゲホゲホ、か、カオリん……」
「リ、リコ大丈夫?」


「ゲホ、体中、ゲホ、痛くて、ゲホゲホッ、息、が、苦しい……」
「リコ、重い、少し、動けない?」
「ごめん、ゴホッ、あたし、今、うご、け、ない……」

水を少し飲んでむせるし、身体は痛くて思い切り息が出来ない。重なったまま、あたしとカオリんは小さな声で会話をしていた。
709 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 20:19:23.31 ID:ced4TtE30

「おみゃぁらー、だゃあじょーぶかー!?」

地元の人だろうか、おじさん2人が駆け寄ってきた。

「おお、可愛い娘さんじゃなぁ、しっかりしろ! おお、こっちのお嬢さん、鼻血出とるで」

そう言いながら1人のおじさんがあたしをカオリんの上から下ろす。

「い、た、い」  

あたしは消えそうな声で叫んだ。

「おお、ぃたぁーなら生きとりゃーすな、だゃじょーぶずら」

「ほれ、これ詰めい。お? そっちのお嬢さん、足から血流してるで?」

もう一人のおじさんはポケットからティッシュを出してカオリんに渡した。あたしは足に傷を負った。血が流れている。

「すみません、ありがとう、ございます……」  

カオリんがティッシュをちぎって鼻に詰めている。

「おお、こりゃ血止めが必要だで。あっこの家で包帯もらってこ」 

一人のおじさんがあたしの足のけがを見て近くの家に走っていった。

「す、すみません」  

あたしは少し息が出来るようになったが、まだ大きい声で話せない状態だった。
710 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 20:21:20.28 ID:ced4TtE30

「しかし、おめぇさ、海にでも落ちたんかや? えーかん濡れとるで」

「……はい……落ちました……」

「あんた、宙飛んでこんかったけ? ようわからんけじゃ?」

「……わかりません……」   

実際、あたしもよくわからないのだ。もしかしたら……カオリんの能力?

「ほれ、かってきた。ちょっくりゃあ、ぃたゃあかもしれにゃあけれど、がまんしてくよぉー」

おじさんが消毒薬であたしの脛の傷を洗う。

「くぅぅっ!!!!」  

あたしは痛さで涙が出た。

「砂がひゃぁってるずら、医者行って洗ったほうがいいずらよぅ」

そう言いながらおじさんは器用に包帯をあたしの足に巻いてゆく。

「おう、真治、クルマもってこ? 娘さん病院連れてったほうがいいずら?」

「おう、行くさ。こっちの娘さんも一緒に連れてくで」

あたしたち二人は、かくしてそのまま診療所へ送られることになった。
711 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 20:24:16.63 ID:ced4TtE30


「志津恵、あなた今日学校休み?」

珍しく寝坊した娘に「母」麦野沈利は声を掛けた。

「……夏休み……うちらの学校は……寝かせて……」

ふとんに潜り込んでいる志津恵が眠そうな声で返事を返してくる。

「そうか……、はは、良い身分だねぇ。あたしもガッコの事務員になれば良かったかね」

やれやれ、と言う感じで麦野は志津恵の部屋を出る。



(夏休みなのか……あの子は東京に帰るのかな?) 

ふと、麦野は利子の事を思い出す。

スカウターを手に取り、「メール・音声同時送信」をセレクトする。

「夏休みだそうだけど、今はどこにいるのかな?」

簡潔な文章にして、送信先を「漣孝太郎」にセットして送信した。



返事は来ない。



返事が来ない。



全然返事がこ・な・い……



ぷち……
712 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 20:30:04.16 ID:ced4TtE30

(何やってるんだ、あのクソガキ……)

ここしばらく麦野はぶち切れた事がない。

それはそれで平和な証であり、正直目出度いことではあるのだが、反面溜まったストレスをどう処理するかが問題である。

(お・し・お・き、かく)

危ういところ……で、ブブブブとスカウターが振動した。

「発信者 漣孝太郎  音声通話 通話開始しますか?」の文字が躍る。

(ち、もう少し早く決めときゃ良かったか……) 

格好の弄り相手を失って更に不機嫌さが増した麦野は「通話開始」を選択した。

「こーたろーくぅぅぅぅぅんー? 今、何してたのかにゃーん?」



「不良、スキルアウト、6名、鎮圧完了、したところ、です!! 連絡、遅くなりました! なんでしょうか?」

息を切らしながら孝太郎が報告してきたのだった。

予想外の内容に返事が出来ない麦野。

とはいえ、さすが百戦錬磨の強者。1秒で立ち直り返事を返す。

「あ、あ、それはご苦労さん。取り込んでるみたいね? しばらくしたらまた連絡するわ。ケガはない?」

「いえ、大丈夫です。今回はテレポート失敗はありませんでした! では後ほど」

「音声通話完了:リダイヤルしますか?」の表示が出る。
713 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 20:32:57.22 ID:ced4TtE30

(何やってるんだ、あたしは……)

この炎天下の中、風紀委員<ジャッジメント>特殊任務委員として活動している漣に、あろうことか自分の「娘」のスケジュールを

調べさせようなどと考えた自分の身勝手さに腹が立ってきた。

(公私混同、親バカの最たるものね、情けないったらありゃしない……さて、どうするか、放っておくか。

いや、親バカかもしれないけど、調べないといけないような気がする……自分で行くか!)





風紀委員会<ジャッジメントステーツ>特殊任務委員室の自分の席で、麦野はチェックにかかった。

もちろん、いきなり佐天利子のところにアクセスはしない。そこらへんは最低のリスク管理だ。

まずは、あの表彰のところからスタート。表彰者を検索する。

名簿順に、どうでも良い他の表彰者の検索を行い、「湯川宏美 学園都市教育大学付属高校2年」を見つけ出す。

この名簿の中には佐天利子はいないが、あの子はこの湯川宏美という風紀委員と共に九官鳥事件に関係していたとのレポートがあるのだ。

それから、今度は風紀委員の特権を必要とするデータ群へアクセスを開始する。

学園都市の風紀委員専用のアクセスページにログインし、諸届の項目から、XX年夏休みの専用ページに飛ぶ。

夏休み、冬休み、GWなどは学生その他が学園都市外へ出ることが非常に多いので、毎回専用の特集サイトが設けられるのである。
714 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 20:35:25.26 ID:ced4TtE30

そこから、学校名で学園都市教育大学付属高校女子部を選択し、「外泊・外出届」を開く。

ずらりと表示されるID番号と個人名。

個人名でソートをかける。

まずは「湯川宏美」からだ。しっかり外出届が出ている。



期間:7月XX日〜XX日 

場所: 静岡県XX市XX町XX番地

宿泊場所: 自宅

目的: 帰省のため

その他:同行者8名 別紙の通り



その場所を見て、麦野の顔が一瞬ほころんだ。

昔、産まれたばかりの利子を連れて住んだ町があるところだ。正確な事はわからないが、隣町とか、たぶんそう離れてはいないだろう。

「へー、あそこからここに来たんだ、この子……」

一番幸せだった、と今でも言えるだろうあのひととき。

出来るのなら、願いがかなうのならば、あの頃に戻りたい……あの平和だった、穏やかな日々に……。
715 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 20:38:22.27 ID:ced4TtE30



「まさか!?」

麦野は気づいた。   

『同行者8名』 

別紙をクリックしてファイルを展開する。

届が開かれる。


「同行者名:青木桜子、遠藤冴子、大里香織、古賀祥子、斉藤美子、佐天利子、佐藤操、前島ゆかり」




      ―――― いた ―――― 




予感的中。

佐天利子が加わっていた。

(あの子が、あそこへ行くのか……)

麦野は自分の不安の元が、彼女の夏休みの日程にあったことを理解した。

突き止めた結果は、むしろ逆に不安を煽る結果になってしまったが。

716 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 20:41:20.09 ID:ced4TtE30

あの子がもちろん細かな事を覚えている訳がない。二歳になるかどうかの頃だ。

仮にあったとしても、単発のイベントを細切れでほのかに覚えている程度のはずだ。

そして、何よりも、あの子は記憶を消されているのだ。あの子の記憶は、学習装置<テスタメント>によってまっさらに上書きされたのだ。

心配するようなことが起きる訳がない。そもそも「心配すること」ってなに? どんなことよ?

言ってご覧なさい、沈利? あなたは何を心配しているの?



……麦野はひとつひとつ、論理的に自分の不安に対して否定する事実と推論をぶつけて行く。



何も起きない。佐天利子の記憶に、友人達との楽しい夏休みの記憶が、青春の1コマが記憶されるだけだ。

そう言い聞かせた。



……なのに、何故? どうしてあたしの心はこんなに不安なのだろう?

ああ、出来るなら、あたしも伊豆に行きたい……

だが、彼女の自尊心は「娘のため」という私用による休暇を取ることを拒否し、彼女の責務とスケジュールもまた、休養を許さなかった。




麦野はまだ知らない。

彼女の娘、「麦野利子」の心が、強力無比で過酷な「学習装置<テスタメント>」の記憶消去上書き作業に耐え抜き、

今も「佐天利子」の陰でひっそりと生き続けていることを。


717 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 20:45:11.56 ID:ced4TtE30

湯川さんと、彼女のお父さんがクルマで駆けつけてきた。

「大丈夫?どうしたのよ、ほんと心配したわよ」  湯川さんの開口一番。

「……すみません……ドジ踏んじゃいました……」  あたしはまだ大きな声を出せないので小さい声で謝った。

「申し訳ありません、ご迷惑おかけしまして済みません」  カオリんも頭を下げた。

「とりあえず、あんたたちの健康保険証は持ってきたから出してくるね」 湯川さんはあたしとカオリんの保険証を受付に出しに行った。

「いやいや、それでも大したけがでなくてよかったね。宏美が血相変えて飛んできたときには何が起きたかと思ったよ、ハハハハ!」

豪快に笑うお父さん。

「ちょっと、恥ずかしくなるでしょ、そんなに笑ったら。まったく乙女心をわかってないんだからお父さんは!」

湯川さんが戻ってきた。

「そうそう、はい、これあなたのバッグ。着替え入ってるようだから丸ごと持ってきた!」

「す、すみません」  あたしは蚊の鳴くような声で御礼を言った。

「大里さんのバックはこれね。あなたもほら、血の跡付いてるし、着替えなさいな」  湯川さんがカオリんのバッグを渡す。

「あ、有り難うございます」  恐縮してカオリんがバッグを受け取った。

「すみません、あの、着替えられる場所ありませんでしょうか?」  湯川さんが診療所の人に聞いている。

あー、またこれで湯川先輩に頭があがらない〜!
718 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 20:55:12.00 ID:ced4TtE30

着替えながらあたしはカオリんに謝った。

「ご、ごめんね、カオリん。あたしのせいでけがさせちゃって……」

「ううん、あたしがもっと驚かせないように近くまで来て言えば良かったの。あなたのけがの方が酷いじゃないの。ごめんなさい」

「でね、カオリんって、もしかして念動力者だったの?」

「……うん。でもね、いままでこんなことは出来なかったのよ。せいぜいあまり大きくない石とかで、人間なんかとてもとても。

だから、正直今でも信じられないの。リコがあたしに向かって飛んできたのを見て、あたし、びっくりしてすくんでしまった、

というのが本当なの」

「でも、おかげであたし助かったわ。腰打って、あたし息が詰まりそうだったの。あのまま沈んでしまっていたと思う。

カオリんのおかげよ。……それに、最後、カオリんにぶつかって、クッションになってくれたからよかったけど、もしよけられたら

あたし、ものすごい勢いであそこに放り出されたことになるから、ヘタしたら大けが、骨折してたと思うな……」

「あのパワー、火事場のバカ力ってヤツなんだろうな……」

カオリんがつぶやいた。

719 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 20:58:27.42 ID:ced4TtE30

「カオリんさぁ、あたしを引きずり上げたのは事実なんだから、多分潜在能力は高いんだよ、きっと。

やり方さえつかめればきっとレベル3や4になるわよ」  

あたしは、励ますつもりでカオリんに言ったのだが、答えは逆だった。

「ううん、リコ? あたしは今のままでもいいの。サイキックパワーが今以上強くなって、レベル3や4になったからって、

世の中が良くなるわけじゃないし」

「でもさ、現実にあたしはカオリんに助けられたのよ? カオリんの能力は、人の役にたったのよ。それは忘れちゃいけないと思うよ」



あれ? あたし、なんでこんな事言ってるんだろう? 普段は自分の能力を否定してるあたしが……おかしい。



いきなり足にけがをしてしまったあたしは、その日温泉に入れず、悔しい結果になってしまった。ちなみにカオリんも同じ。



――― いいお湯だったわぁ ――― 

*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:* ミ ☆



湯上がりの火照った幸せそうな顔をしてるみんなが羨ましかった…… 

くそー、自棄食いしてやる〜!
720 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:01:15.87 ID:ced4TtE30

朝日に照り輝く海の明るさであたしは目が覚めた。

げ、まだ朝5時前!

でも素晴らしい天気。暑くなりそうだ。

あたしはふとんから出て、窓から海を眺める。学園都市のあたしの部屋から見る風景とは完全に別世界だ。

おととい買った水着を着て……足とお尻、けがしてたっけ。足はともかくお尻のけがはどうにもならない。

水着は論外、スカートだってはけないかも?

それはちょっと情けない。今日はガマン、かなぁ……。




不意にぽんと肩を叩かれた。

「ひゃ!」

「あはは、驚かせてゴメンね。おはよう、ちょっと外に出てみない?」  湯川さんだった。



まだ寝ているみんなを起こさないように、そっとサッシを開けて、あたしたちは外へ出た。

潮風がさわやかだ。遠くではリズミカルに漁船のエンジン音が響いているし、すぐそばではスズメが朝早くからさえずっている。

「素敵なところですね」 あたしは心底そう思って言った。
721 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:03:49.86 ID:ced4TtE30

「そう? あたしはここで産まれて育ったの。だからあたしから見れば、いつもの風景、かな?

でも、確かにあたしはここが好き。綺麗な海と、潮の香りと、山の恵みと、温泉。海の向こうに聳える富士山。

田舎だけど、でも誇りに思ってる、ってところ、かな?」

湯川さんは遠くを見ながらそう言いながら、視線をあたしに向けて、

「昨日のことなんだけど、」

とちょっと困った顔で切り出した。

「あなた、海に落ちたのよね?」

「ええ、そうです。みっともないったらありゃしませんけれど……」

あたしは頭をかいた。

「そのとき、大里さんに助けられた訳だけれど、彼女は能力を使っちゃった、んだよね……」

「……あ!……」

そうだった!

学園都市外での能力使用は御法度だったっけ…… ひじょーにまずい、まずいですね……

「知ってるよね? 外で能力使っちゃいけないこと」

「はい……」 

カオリん、ごめんなさい。あたしが不注意だったから……

722 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:08:01.34 ID:ced4TtE30

「まぁ、緊急事態だったから、そして人の命が助かった、という言い訳は立つので、抗弁は出来ると思うの。

あなた、今日は海は入れないわよね?」

「明日も無理だと思います……」

「先生、次はいつ来いって言ってた?」

「あさってか明々後日と」

「じゃ、あさって、先生のところに行ったついでに診断書もらってきましょう。大里さんへの処分が軽くなるよう努力しないと」

「あ、あのぅ……」   あたしは湯川さんに聞いてみた。

「カオリん、いえ、大里さんにはもう?」

「昨日のうちに聞いといたわよ」   湯川さんはそう言って微笑んだ。

「あなたを助けるためだったから無我夢中でしたって。罰受けるのは面白くないけど、使ったことには……」

「悔いもないし、恥じることもないわ。リコ、気にしなくて良いのよ」    カオリんがサッシを開けて顔を覗かせていた。

「カオリん……」

「でもね、リコ? 診断書はお願いね。あたしだって罰は軽い方がいいからさぁ?」    カオリんが笑って言った。
723 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:10:58.62 ID:ced4TtE30

三日目。

今日もまた良い天気。

カーテンから漏れる朝日であたしは目が覚めた。

やっぱり5時前だ。むちゃくちゃ早起きだ。

昨日と同じように、あたしはふとんから出て、朝日に輝く海を眺めていた。

「リコ、早いねぇ」   

ミコちゃん(斉藤美子)がふとんから出てきた。

「おはよ。ミコちゃん?……も朝早いね?」   

あたしは寝起きのミコちゃんの顔を見ながら聞いてみた。

「なによ、あたしのすっぴん見てそんなに驚かないでよ(笑) そんなにヘン?」

ミコちゃんからは予想もしない返事が返ってきた。ず、図星だ。

「ふーん、別人に見えるってか……。まぁあたしの化粧が巧いってことだから許したげるわよ」

そう言うと、ミコちゃんは冷蔵庫から水のペットボトルを取りだしてきて、

「ベランダ出てみない?」とあたしを誘った。

まだ寝ているみんなを起こさないように、そっとサッシを開けて、あたしたちは外へ出た。
724 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:13:15.94 ID:ced4TtE30

潮風がさわやかだ。

遠くではリズミカルに漁船のエンジン音が響いているし、すぐそばではスズメが朝早くからさえずっている。

「すっごく良いところだよねぇ」    

あたしは心からそう思った。

「うん、自然が豊かだよねー、ここ。やっぱり海があるのって、最高だね」

ミコちゃんが一口水を飲んで、あたしにボトルを渡してきた。

間接キス……だよね? まぁいいか。女の子同士だし?

あたしも一口飲んだ。はー、生き返る。

「間接キス? ……ああ、そうか、アハハ、気が付かなかったわ、ゴメンね。そう言うつもりじゃなかったの」

えええええええ、また? ちょっと、どうして?

あたしが驚いてミコちゃんを見つめると、彼女はちょっと緊張した顔でしゃべり始めた。

「これが、あたしの能力、なの」
725 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:17:56.58 ID:ced4TtE30

「あたしの能力は、心理解読<インタープリット>」

ミコちゃんがぽつぽつと話し始めた。

彼女はいわゆる「顔色を読む」ことが可能なのだそうだ。しかも、ものすごいのは、人間はもとより、場合によっては犬・猫や

チンパンジーなどの類人猿やイルカなどの動物たちに対しても有効な場合があることなのだ。

しかし、彼女本人はこの能力をとことん嫌っている。これ以上能力開発なんかしたくもないと言う。今現在レベル3だそうだ。

彼女に言わせると、いきなりの初対面でも数分経つと、相手がいま何を考えているのかが顔に出てくるのだそうだ。

自分の思念を読まれるのは相手にとってはたまったものではない。だから彼女の能力を知った人はみな彼女を避ける。

子供の時にそれっぽいことを話したら村八分にされ、一家丸ごと引っ越すハメになったという。

以後、彼女は絶対に自分の能力を話さなくなった。

彼女は学園都市内でも常にAIMジャマーを装着している。

「あたしはこれがあって本当に嬉しかったな」

と寂しく笑った顔は忘れられないだろう。

「もしかして」

あたしはミコちゃんに聞いてみた。

「九官鳥とお話した?」

ミコちゃんはぷっとふきだしてしまった。

「あはは、やっぱりばれたか? まぁしゃべったらばれるとは思ってたけれど。そう。あたしなの」
726 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:21:21.62 ID:ced4TtE30

笑いながらミコちゃんは話を続けた。

曰く、たまたま遺失物の件で風紀委員<ジャッジメント>第77支部に相談に行っていたところ、同じ高校のひとが九官鳥を持って

入ってきたのだそうな。(それが湯川さんだと知ったのはずっと後らしい)

「おなかすいた・ごはんまだ?」

と叫ぶ九官鳥が珍しかったので見ていたところ、何やら児童虐待の話になり、それがどこだかわからないという話になった。

そこでミコちゃんは、ちょっと失礼してその九官鳥を覗きに行ったところ、子供たちの名前がいくつか出てきたのだそうだ。

あたしからすると、九官鳥にそんなに表情やら思念があるとは思えないのだけれど、彼女には見えたらしい。

その名前で検索したところ、運良く1名がデータでヒットしたのだそうだ。

そこでテレポーターの1名が潜入したところ、彼の見たものは、やせ細った哀れな子供たちの姿だったそうな……

「じゃぁ、ミコちゃんの能力で子供たちが救われた、ってことなのね?」

「……そう、かもしれない。でもね、今回は運が良かっただけなのよ? あなただっけ? 最初に九官鳥を保護したのは。

あなたが保護しなかったら? 湯川さんが興味を持たずに、風紀委員<ジャッジメント>に話を持ち込まなかったら?

風紀委員<ジャッジメント>が興味を持ってくれなかったら? 本当にたまたま全部良い方向に動いただけなのよ。

……さて、じゃあたし、ジャマーつけるわね。リコも内心読まれるのはいやでしょ? 

大丈夫。ジャマーつければあたしは只の女子高生になるからさ、安心してよね。」

そういうと、ミコちゃんはもぞもぞとジャージからヘアバンドとイヤリングを取りだした。
727 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:23:48.05 ID:ced4TtE30

それでわかった。寝起きの違和感。ヘアバンドがなくて、髪を全部下ろしていたからだ。

「これがそうなのよ。これつけると、直ぐに頭に負荷がかかってるなぁって気が付くの。まぁ慣れちゃうんだけど。

外したときもそうなの。すごくすっきり感があるんだよねー」

そう言いながらミコちゃんはさっさと髪を纏めてバンドで止め、イヤリングを耳に留めた。

おお、いつものミコちゃんが現れた。たった2つのアイテムなのに、随分違う印象になるもんだ。

「う、やっぱりちょっと来た」 

一瞬ミコちゃんの顔が曇る。

それ、わかる。

あたしもジャマー外すと、頭がすっきりと冴えた感じがするし、その後で再装着するとアタマにもやがかかったように感じるのだ。

もっとも直ぐに慣れてしまい、装着していることを忘れてしまうのだけれど。

「リコ? お願いだから、今の話、絶対に言わないでね? 絶対よ!」 

ミコちゃんがあたしに指切りげんまんを示してくる。

「うん、わかった」とミコちゃんに不安を与えないようあたしは即答した。

その直後。

「おーい、リコの次はあたしだよー?」
「そのつぎ、あたしね?」
「あ、あたしもそうだから」
「絶対、言わないから安心して」

みんながニコニコして小指を立てていた。
728 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:27:38.25 ID:ced4TtE30

「あたし、地獄耳<ロンガウレス>だしね、聞こえちゃったのよ」 

湯山さんが困ったような照れくさそうな顔で言う。

「あたしもさ、名前の通り自動書記<オートセクレタリ>は勝手に起動しちゃうんでさぁ、でももう全部消去しちゃったから大丈夫よ」

ゆかりんがにっこり笑って言う。

「み、みんな……こんなあたしでも、いいの?」 

ミコちゃんが泣きそうな顔になっている。

「あったり前じゃないの、友達だもん」
「そういうこと。なんならジャマー取ってもいいぞ? 今ならねw」
「ミコはあたしのおともだち。そして、みんなの仲間だから」


「あ、ありが……と……う」 

感極まったのか、ミコちゃんは座り込んで泣き出してしまった。みんなもミコちゃんのまわりにしゃがみ込んでミコちゃんを励ましてる。

まるで、青春ドラマのように。いや、ホンモノの青春だよ、これは。



朝食後。水着に着替え出撃の準備タイム!

数人を除いて、もう日焼けして赤くなっている人もいて、いかにも夏休みという感じになってきた。

あたしも水着にこそなっていないものの、襟足や腕、足はそれなりに日焼けしていた。

顔も日焼け止めクリームを塗りたくってはいたけれど、海辺の直射光・反射光は生半可な日焼け止めクリームなぞはものともしないのだ。
729 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:30:22.52 ID:ced4TtE30

「へへ、日焼けサロンより健康的だよーん」 

ゆかりんは綺麗にサマーガールに変身しつつあった。見事、だ。

「歳くってから後悔するわよ?」 

さえちゃんがまぜっかえす。彼女は逆に夏の太陽対策・完全武装派であった。

パンツルックに長袖、手袋に帽子、日よけ傘、UV対策の化粧品に日焼け止めクリームバリバリ。

海に行っても、海ではなく海の家に殆ど居ずっぱりなのだそうだ。

はっきり言って、そこまでするならいっそ海に来ない方がいいんじゃないの? と言いたくなるような話。

もちろん水着など持ってきていない。

「波の音は心を落ち着かせ、ストレスを弱める働きがあるし、適度な潮風も健康に良いのよ? 問題は強すぎる紫外線だけなんだから」

というのがさえちゃん先生の言であった。

「冴子もまた極端だと思うけどなぁ」

そういうミコちゃんはミコちゃんで、毎日水着をとっかえひっかえしている。

水着のあとがくっきり残るのは恥ずかしいからだそうだが、ブラやワンピースのラインが、あっちこっちにうっすらと

出ているのは、ちょっとおかしな気もするけれどもねぇ。
730 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:33:40.49 ID:ced4TtE30

「おー、さくら、新しく買ってきた水着はソレか?」 

ゆかりんの声に、みんなが一斉にさくらに注目する。

「ちょ、はずかしいから見るなーっ!」

さくらは、当初、なんとスクール水着で来たのだった。

小柄でスリムなさくらがスクール水着を着ていると、あまりに嵌りすぎていて、みんなから「かわいい」「ロリすぎ」「小学生」とか

さんざん弄りまわされたのだった。

特に1つ上の先輩からは完全におもちゃにされていた。

ということで、彼女は昨日1日つぶして、地元とちょっと離れた市街のお店を片っ端からまわって、新しい水着を買ってきたというわけだ、

「あたしと一緒」に。



「わざわざ恥ずかしいの買ってきたの?」
「見るなって言われてもねぇ?」
「水着は見せるためにあるんじゃね?」
「なーに?彼でも来るの?」
「えー、それマジ??」
「なによそれ、それならそうと言いなさいよ」



それは、可愛らしいフリル付きのワンピース。やっぱりさくらは弄られていた。

さて、あたしはどうしようか……
731 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:38:20.70 ID:ced4TtE30

「スイカ割りやろーよ」
「夏の風物詩だねぇ」
「やろやろーぅ!」
「念のため言っておくけど、能力禁止だからねっ!」
「もち!」

みんなではしゃいでいる。

ここはあたしが落ちた岩場ではなく、反対側の、あまりそう広くはない海水浴場。

結局、あたしは持ってきたセパレーツの水着に短パン・Tシャツ、麦わら帽子という出で立ちでやってきた。

お尻のけがのところに化膿止め薬を塗ったガーゼがぽこっと出ているので、水着ではすごく恥ずかしいが、短パンをはくとパッと見では

わからないので助かった。

「うぉりゃー!」

  ―――― ボコ ――――

「ミサがやったぁー」
「割れたー」
「完璧……」

ミサ(佐藤操)先輩がど真ん中に叩きつけ、スイカは見事に2つに割れた。

実際にやってみればわかるが、大抵は変な角度で当たってしまい、汚い割れ方になることが多いのだけれど、

佐藤先輩は絵に描いたように綺麗に割ったのだった。
732 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:41:24.59 ID:ced4TtE30

「でもさー、これどうする? 誰か包丁……持ってきてるわけないよね?」

ミサ先輩がみんなに聞く。

たしかに綺麗に2つなので、人数分にどうやって小割りするかが問題になった。

「あ、あたし、昨日行った海の家に持っていって切ってもらいましょうか?」 

おお、さえちゃん先生、思いもかけないところで役にたちそうだね?

「うん、じゃあたしも手伝うね」 

あたしはそう言って片割れのスイカを持つ。

「さえちゃん、服汚れるからあたし持つよ」

見事なサマーギャルになったゆかりんがもう一つを持つ。

「しっかし、あんたら、そうやって並ぶと両極端だねぇ……」 

アッコ先輩(古賀祥子)が真っ黒になりつつあるゆかりんと、完全武装で白いままのさえちゃんを見比べて感嘆する。

「環境に順応するのが早いんですよ、あ・た・し♪ どこでも生きていけますから〜、じゃ行ってきます」

ゆかりんはそう言うとすたすたと歩き始めた。

「あれ、さえちゃんの海の家ってあっちだっけ?」 

あたしはゆかりんが向かう方向を見て「?」と思い、さえちゃんに訊いた。

「違うわよ、  ゆかり〜!!!! 違うよー!!! あっち〜!」 

おお、さえちゃんの大声って初めてだ。

あたしたちは方向を変えたゆかりんと一緒に海の家に向かった。
733 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:44:19.46 ID:ced4TtE30

あっさり海の家のおじさんは承諾してくれて、スイカをとんとんとんと切ってくれた。

「たいしたもんだな、大抵は不細工に割れるんだけどな」

そういったおじさんは、あたしの顔を見て「おや?」という顔になった。

「どっかで会ったかな、お嬢ちゃん?」  とあたしに訊いてきた。

「いや〜、ここ来たの初めてですから……、おととい来たんですけど」   とあたしは面食らいつつ答えた。

「そっかー? うーん、他人のそら似かなぁ、どっかで見たことあるような気がするんだけどな」

(……多分、誘拐報道か、その後の大騒ぎで盗撮された写真の載った雑誌だろうな……)とあたしは思った。

やっぱり、そう簡単には記憶から消えてくれないのだろう。

「さすがリコだねぇ、美人は覚えてもらえていいわねー」    ゆかりんが少し嫌みっぽくあたしをからかう。

「お嬢ちゃん、リコって言うのか。……リコ、リコ、うーむ」    おじさんがまた考え込む。

「リコはあだ名です。としこ、って言います」    あたしは訂正にかかる。

「奥様のお名前じゃないんですかぁ?」   さえちゃんがおじさんをいじりにかかる。

「あはは、女房の名前なんか忘れちまったよ」

「えぇぇぇ? そんなひどーい!」   さえちゃんが非難の声を上げる。

「あんた、なんか言ったかい?」    いつのまにかおばさんがそばに来ていた。おじさんの奥さんなんだろう。
734 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:49:29.09 ID:ced4TtE30

「いやいや、別になんでもないさね」   

おじさんがおどけて答える。

「あら、みんな可愛いわねー。青春まっただ中って感じ……あら、あなた、どっかで見たことあるわね?」

おばさんからいきなり「見たことがある」と言われてあたしはまた驚いた。

「お前、このお嬢ちゃん知ってるのか?」   

おじさんもびっくりしておばちゃんに訊く。

おばちゃんはあたしをじっと見て、直ぐにはっとした顔になって苦笑いを浮かべて話し始めた。

「……あらあら、ごめんなさい、違ったわ。ひと間違いしちゃってごめんなさいね。なに勘違いしたのかしらね? 20年も前の話を。

あなた覚えてない? ほら、なんと言ったっけ、あそこの……

石橋さんちの離れに引っ越してきて、そしていつの間にかいなくなっちゃった……」

「ああ、それだよ、それ。思い出した。あの可愛い赤ちゃん連れてた人な。すごい昔の話だな。はは、別人だよ」

夫婦で話が通じてるけれど、あたしにはさっぱりわからない。

「いやいや、ゴメンね、お嬢ちゃん。あはは、歳くうと、固有名詞を忘れちゃうんだなぁ。

昔、俺らがいた街に、君によく似た人がいてねぇ。結構話題になっててねぇ、オレが二十歳の時だったな」   

おじさんが遠い日のことを思う顔になった。

「ふーん、あんた、あたしとつきあってたのに、あのひと気になってたんだ……」 

奥さんがチャチャを入れる。

立派な夫婦漫才だ。
735 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 21:52:56.40 ID:ced4TtE30

「リコ、そろそろ行こう?」 

ゆかりんがせかした。

「そうね、行こ! おじさん、ありがとね! お盆お借りします!」 

あたしは御礼を言って店を出た。

「おぅ、後で返すついでに、かき氷でも食べに来なよ!」 

おじさんが返してくる。

「また寄らせてもらいますね!」 

さえちゃんが挨拶してあたしたちを追う。




「なんて言ったっけなぁ……顔は思い出せるんだけど、名前が出てこねぇよ」

「あんたボケが始まってるんじゃない?」

「へいへい、オレは昔からボケでしたよ」

「あの子、絶対その人に似てたわよ、だって一瞬本人かと思ったのよ……案外あの娘だったりしてさ」

「あはは、まさかな、って話そらすなよ」

「うっさいわね、昔のおんなの名前思い出すヒマあったら、ちっとはそこらに出て注文でも取ってきなさいよね!」

「あはは、その通りだ」
736 :LX [sage saga]:2011/02/27(日) 22:03:38.48 ID:ced4TtE30
最後までお読み頂きました皆様、こんばんは。
>>1です。

今回の投稿はここまでと致したく存じます。
まだストックはあるのですが、話の展開が思っていなかった方向に行きまして、戻すべきか
そのまま走らせるかまだ決められない状態です。

なお、来週土曜日は用事がありまして外出致します。土曜日の投稿は出来ないかもしれません。
申し訳ございませんが、またしばらくお時間を頂戴致したく、宜しくお願い申し上げます。
それでは早いですが、お先に失礼致します。
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 22:31:39.54 ID:dFUSACKgo
二日連続で読めるとは思ってなかった。うれしい。
蒸し暑いのに腰のあたりだけ冷えてるような感覚がして薄ら寒いというか
素直に喜べないのがもどかしいな。
こんなとこで区切りやがってちくしょうww
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 10:20:15.04 ID:n3qhMAX8o
平和な日常が少しずつ傾き始めてる感じがなんとも怖いなぁ・・・
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 16:08:47.66 ID:YOhMx/bIO
追いついた乙です
740 :LX [saga sage]:2011/03/06(日) 16:31:43.93 ID:h7ToXpIr0
皆様こんにちは。
>>1です。3月に入りました。最初の投稿は11月初旬でしたからもう4ヶ月も経ちました。
遅筆でスイマセン。

1日間違えてまして、法事は今日でした。昼間から酒飲まされるのはちとツラいです。
酔っぱらってるので少し寝ます。

で、こんなとこで切るか?という御指摘もあるので(笑)夜にちょびっとだけ投稿します。
実は、次の投稿スレからは日が変わっているので、ちょうどよい区切りだと作者は
勝手に思ってまして^^;

この時間に訪問して下さる方がいらっしゃるか不明ですが生存報告を兼ねてとりあえずの
御報告でした。
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 17:12:16.58 ID:QptXPrRmo
>>740
おつおつ
ゆっくり寝て、起きたら期待
742 :LX [saga]:2011/03/06(日) 19:38:23.94 ID:h7ToXpIr0
皆様こんばんは。
>>1です。

それでは、ほんの少しですが投稿致します。
どこで止めるか、非常に難しい場面の巻です。
743 :LX [sage saga]:2011/03/06(日) 19:41:53.28 ID:h7ToXpIr0

ママ、どうして泣いてるの?

ママ、どうしてあたしを抱いてくれないの?

ママ、ヘンだよ?

ママ、怖いよ?

ママ、どうして?

ママ? どこへ行くの?

ママ、あたしも一緒に行く!

ママ、あたしをおいて行かないで!

ママ、帰ってきて! あたし、良い子でいるから! 

ママ、ママ!! お願い!戻ってきて!! ママ!!!!



「いやぁーっ!」

あたしは飛び起きた。

これで、3回目、だろうか。

あたしを、お母さんが捨ててゆく、悪夢。

最初の時はテレビドラマかと思ったが、どうも違うような気がする。小説? マンガ? 元ネタがわからない。

(だんだん、リアルになっていくような気がするけど……?)
744 :LX [sage saga]:2011/03/06(日) 19:49:17.47 ID:h7ToXpIr0

「リコ、どうしたの?」
「うなされたの?」

カオリんと、ゆかりんが心配そうにあたしを見ている。

まだ午前3時。草木も眠る丑三つ時、だ。

「ご、ごめんね、怖い夢見たの……」

「カレに振られたとか?」 

ゆかりんが訊く。それもまたきつい。

「こら、ゆかりん、そう言うことで図星当てちゃダメでしょ!?」

カオリんがたしなめる。カオリん、ゴメン。ゆかりんは全然的はずれなんだけど。



さくらはいびきをかいて寝ていた。鈍感なのか大物なのか……

あたしは「ふん」と言ってまたふとんにくるまった。

なんなのだろう、この怖い夢は。

だいたい、あたしは「お母さん」と呼んでいるはずなのに、夢のあたしは「ママ」と呼びかけているし。

もう、わけわかりません。

あー、もういやっ!


745 :LX [sage saga]:2011/03/06(日) 19:52:02.74 ID:h7ToXpIr0





「はい、これが診断書です」

「有り難うございました」

「お大事にね」

あたしと湯川先輩は、先般お世話になった病院に来ていた。

足のけがはまだ完全に直っておらず、一部で膿んでいた。まぁそのうちかさぶた状になって、それが剥がれれば完治だし。

お尻のほうは既にかさぶたになっており、こっちの方は早く完治しそうだとのこと。

「この診断書で無罪になってくれると嬉しいんだけどなぁ……」    

あたしがつぶやくと、

「まぁ、いざとなったら、あなたのお知り合いに頼むって手もあるわよ」 

と湯川さんがまじめな顔で言った。

「はい?」

そんな知り合いなんていたかしらん?とあたしが湯川さんの顔を見ると、

「上条さんとか白井さんとか偉いひとがお知り合いじゃないの? もし、困ったことがあったら相談すべきよ」

と言って、湯川さんは片目をつぶった。

「えー? 相談すると無罪になるもんですか?」

あたしは湯川さんの「相談」の意味がわからないので正面から聞いてしまった。
746 :LX [sage saga]:2011/03/06(日) 19:54:00.63 ID:h7ToXpIr0

「あなた、その言い方はちょっと問題よ」

湯川さんがあきれたようにあたしに言う。

「というより、もしかして本気で言ったの?」

「……いけなかったですか?」

あたしはどう言うべきなのか未だにわからなかったので、もう一度同じ意味の答えをしてしまった。

「はぁ……いいわ、あたしが頼むことにするから」

「えー、あたしじゃ役不足ですか……?」

「そう言う訳じゃないけど、あたしがこの旅行の言い出しっぺだし、起きたのはあたしの地元だから、まぁあたしが説明するのが

スジかなと思っただけ。気にしないでね」

は、はぁ……気にしないでね、と言われると実は気にするもんなんですけれど……

「そう言えば、佐天さん? あとで、あの時のおじさんたちに御礼に行かなきゃダメよ?」

そうだ。あたしとカオリんを病院へ運んでくれたおじさんたちに御礼しなきゃ。

「じゃ、街でおみやげ買って行かなきゃダメですね。ちょうど良いから買っていきましょうよ?」

あたしと湯川さんは方針変更、急遽街で手みやげを買うことにした。
747 :LX [sage saga]:2011/03/06(日) 19:56:49.39 ID:h7ToXpIr0



机の内線電話が鳴る。

麦野がハンズフリーをタッチすると、出たのはサポートセンターの女性だった。

「あ、あの、麦野さんに外線ですが?」

「誰から?」

「それが……名乗らないのです」

「ちっ、電話勧誘かい、叩っ切りなさいよ、そんなの」

「いえ、それが、あの」

「歯切れが悪いわね、どうしたのさ?」

「あの、お嬢さんのことで話がしたいと言ってまして『は?』……録音してますし、逆探知も始めてますが?」

「………そう、わかった。それ続けて。あたしが出る」

「はい」

ホッとしたようなサポートセンターの女性の声。その直後。

「しずりさん?」

知らぬ声。そのわりには馴れ馴れしい感じがする、女の声。

「悪いけど、名前で呼びかけてくるほど仲の良いお友だちじゃないようだけど、どちらさま、あなた?」

用心深く、そしてなるべく時間を掛けさせるようにゆっくりと話す麦野。

「そういえば、直接お会いしたことが無いかもしれませんわね、『アイテム』の麦野さんとは」

「むっ?」
748 :LX [sage saga]:2011/03/06(日) 20:00:45.28 ID:h7ToXpIr0

久しく聞かなかったその名前。

ということは、相手は暗部。

暗部にいた中で、今も生きている可能性のある女……麦野の記憶の中で、未だ会話すらしたことのない女……

全く知らないのならともかく、可能性のあるのは……

いた。

思い出したくもないメルヘン野郎の仲間に。

「『スクール』か?」

「おお、あのヒントで当てるのは、さすがはレベル5。今なお現役で頑張っていらっしゃるだけのことはありますわ」

皮肉めいた言葉がカチンカチンと麦野のカンに触って行く。

だが、「不思議と」麦野は冷静だった。

もうすぐ逆探知出来る。

「お止めなさいな、探知など無駄ですから。わたしは下のホールにおりますから。お時間がございましたら下りてきて頂けると

とても助かるのですけれど?」

「くっ?」

予想外の言葉。

そしてスカウターにメールが入った合図が点滅する。たぶん逆探知出来たという知らせだろう。

「わかった、下のホールにあんた居るのね?」 

麦野は返事をする。どんなヤツかと。

「ええ、平和的にお話をしたいと思っておりますので、お待ちしますわ?」

人を食ったような調子は変わらず、その電話は切れた。

麦野は上着を羽織って部屋を出た。スカウターは置いたまま。
749 :LX [sage saga]:2011/03/06(日) 20:06:06.50 ID:h7ToXpIr0

下のホールに出ると、あまり普段見かけない私服のアンチスキルやらガードマンなどがゾロゾロ集まっている……のだが、

全くピリピリとした雰囲気がない。むしろこれからみんなで飲み会だぁ、というようなとても和んだ雰囲気が異様だった。

「お待ちしてましたわ、麦野沈利さん?」

ごく普通のスーツを着た女がやってきた。

「あんたか? あたしの娘に何の話が?」

事と次第によっては……と考えたのだが、そこで麦野は異変を感じた。原子崩し<メルトダウナー>の発動が出来ないのだ。

出来ないというよりは、「そう言う気が起きない」と言った方が正しいだろう。

「く、あんた、……」

「はい。わたしは心理定規<メジャーハート>。『スクール』の生き残り。

原子崩し<メルトダウナー>の、麦野沈利さんにお会いできて嬉しいです。

……ここで立ち話もなんですから、ちょっと出かけましょうか?」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「で、こんなとこまで連れてきたってわけ?」

心理定規<メジャーハート>がクルマを止めたので、ようやく麦野は口を開いた。

二人は多摩川の河原まで来ていた。

「ここならば、まぁ聞かれる可能性は相当低いですからね。読唇術ってのもありますが、まぁそれはクルマの中であれば大丈夫でしょう」

「随分と慎重なのね?」

「ええ、一方通行<アクセラレータ>なんかは筆談でしたしね」

そう言って心理定規<メジャーハート>は僅かに冷たい笑いを浮かべ、

「佐天利子(さてん としこ)さんをご存じですね?」

といきなり切り込んできた。
750 :LX [sage saga]:2011/03/06(日) 20:10:56.41 ID:h7ToXpIr0

もちろん麦野もそれくらいでは動じない。

(やはり、志津恵の方ではなかったか……)

「お嬢さんのこと」で電話をしてきた女、ということで、当然ながらそれくらいは予想の範囲の事だ。

「ええ、知ってるわよ。それで?」

「その子が先日、うちの学校に来ましてね、催眠療法とあたしの心理定規<メジャーハート>で、眠った彼女に呼びかけたんですよ」

思わせぶりに一旦言葉を切る。

「彼女、なんて言ったと思います? 

『あたしは、佐天じゃない。私は<りこ>で、佐天さんとは別人。ママは<しずり>だよ』って言ったんですね」

麦野の顔色が変わった。

(決まった!) 

心理定規<メジャーハート>はほくそ笑んだ。

(しずり、と言う名前は学園都市にはあなたしかいなかったからね。間違いなく、あんたがあの子の母親だったのね!)

「ふ……ふ」

「?}

「ふっざけるなぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!!!!」

いきなり麦野沈利が心理定規<メジャーハート>の襟首をひっつかみ、恐ろしい形相で締め上げる。

「あの子は二つで死んでるんだぁーっ!! くっだらねぇことで、このアタシを弄くるんじゃねぇーっ!!!

おまえ……ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね……」

麦野自身が薄青く発光し始める。
751 :LX [sage saga]:2011/03/06(日) 20:19:12.01 ID:h7ToXpIr0

(そ、そんな、バカな。実の娘の距離に合わせたのに、なんで殺気が溢れ出てくるわけ? 実の娘を殺す気なんて、そんな!)

「ま、待って、あたしは、あの子の父親が知りたかっただけ! それだけなんだから! 垣根、垣根帝督の子なんでしょ!!」


一瞬、麦野の手が緩む。

その隙に心理定規<メジャーハート>が麦野のあごにアッパーカットをくらわした。

「ぐふっ?」

 ――― ゴン ―――

「ぐ」 

麦野が頭をクルマの天井にぶつけ、崩れ落ちる。

「いったい、なんなのよ、あんたって人は!?」

心理定規<メジャーハート>はドアを開け、うなる麦野を引きずりだして思い切り放り出した。

土手の斜面を麦野が転がり落ちて行く。

それを途中まで見ていた心理定規<メジャーハート>はクルマに再び乗り込み、急発進させて逃げていった。



下に転げ落ちた麦野は、茫然として心理定規<メジャーハート>の言った言葉を反芻していた。

(あたしは、佐天じゃない。私は『りこ』で、佐天さんとは別人。ママは『しずり』だよ)………

(私は『りこ』、ママは『しずり』だよ)………

(私は『りこ』)………



そんな……バカな……

ありえない……

うそだ……

「うそよ……いまさら、そんなことって……どうして? あり得ないわよ」

青い空に、もくもくと聳える入道雲。

麦野沈利は放心状態のまま、、雲を見上げながらぶつぶつとつぶやいていた……。
752 :LX [sage saga]:2011/03/06(日) 20:31:46.09 ID:h7ToXpIr0
最後までお読み下さいました皆様、どうも有り難うございます。
>>1です。

ちょっぴりのつもりでしたが、結構進みました。750に来てしまいましたし。
場面のキリがよいところなのでスミマセンが、本日はここまでに致したく存じます。

次の場面だけでたぶん10レスくらい行きますが、その先の先が未完なので、
それを仕上げて投稿したいと思います。

それではお先に失礼致します。
ちょっとアタマ痛いです。空きっ腹に冷やの日本酒は効きます……
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 20:33:59.43 ID:O2LzI1fYo
乙、お大事に〜
むぎのんかわいい
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:27:17.43 ID:kJZriR17o
そうかこういう場面転換になるのかー。
せめて外だけはリコトシコの逃げ場であって欲しいと思っちゃうんよなー。
腰を据えて見守るしかなかんべえ。
755 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 10:07:42.29 ID:Z4co4nUm0
おはようございます。
>>1です。
地震に遭われ、亡くなられた方、被害を受けられた方、謹んでお悔やみ申し上げます。

かく言う当方も、部屋の中は足の踏み場もありません。
にもかかわらず今日昼間からパーティがあるということで、先ほど確認したら中止しないとのこと。
正直止めて欲しいです。工場が東北にあり、被害を受けているのは確実なので、酒なんか飲んでる
場合じゃないのですし。
今も余震続いてます。東北のみならず長野でも激しい地震があったようです。

本日、余裕があれば少しですが投稿出来ると思います。
取り急ぎ、生存報告でございました。
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 11:19:51.69 ID:bVN7Wmyqo
>>755
無事でよかった、無理はするなよ
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 11:35:41.04 ID:g4bLAhXho
生存報告乙
待てるから無理はしないで良いですよ
758 :LX [saga ]:2011/03/12(土) 20:15:39.36 ID:Z4co4nUm0
皆様こんばんは。
>>1です。

今も揺れています。
更に原発事故。
ううむ……。

たぶん月曜から大騒ぎになると思いますので、とりあえず今日明日、さしつかえない分を
投稿しちゃいます。それでは。
759 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 20:17:16.99 ID:Z4co4nUm0




あたしと湯川さんはプラプラと小さな街を歩いていた。

次のバスまで、結構な時間があったからだ。

とりあえず助けてくれたおじさん達への御礼は買ったので、あとは自分たちのおみやげの当たりをつけようかな? 

というところだった。



ふと。



あたしはどうして見つけたのだろう?

単に通り過ぎるはずだった商店街の1軒、結構年季の入った写真屋さん。

学園都市には全くないし、あたしの住んでいたところでもずっと少なくなってしまった写真屋さん。



あたしは、その中の1枚の写真に、目を留めた。留めてしまった。

どうして目に留まったのだろう?

見つけなければよかったのに。


760 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 20:19:13.28 ID:Z4co4nUm0


あたしは吸い寄せられるかのように、ショウウインドウの前に立った。



それは、若い母親と可愛い子供の、屈託のない笑いを浮かべている写真。

どうということはない、ある意味、ありふれた、写真。

幸せ一杯、という、見た人ならそう思うこと間違いなしの、明るい、人を微笑ませる写真。





でも、

あたしは、その写真を見た瞬間、息が止まった。

あたしは、稲妻に打たれたような、全身を走る衝撃を感じた。





誰に言われた訳でもない。

書いてあったわけでもない。

でも、あたしにはわかった。

「あたし」だ。

この子は、「あたし」だ。

あたしが、写っている。
       


761 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 20:23:48.02 ID:Z4co4nUm0



――― これ、………あたし、……だ、よ、ね? ―――



左目のちょっと下のほくろ……あった。

間違いない。

あたし、だ。



そんなことがあってたまるものか。



あたしは、佐天利子。さてん としこ、だ。

あたしの、大切なお母さんは、佐天涙子、さてん るいこだ。



しかし、そこにいるのは、

世界で一番幸せ、というほほえみを浮かべていたのは、

あたしを抱いて、わたしママですよーとっても幸せ〜、という表情を浮かべていたのは、



涙子母さんじゃなかった。



あたしに似ている、このひと、誰?

762 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 20:30:31.22 ID:Z4co4nUm0



「どうしたの?」 

湯川宏美が戻ってくる。

立ちすくみ、身じろぎしない佐天の様子を見た湯川は、その視線の先を見る。

「あら、佐天さんに似てるわぁ、このひと? あぁ可愛い赤ちゃんだねー♪」





いきなり、『あたし』が飛び出てきた。

(ママだ!!!)



あたしは驚いた。

(ママとあたしよ!)



冷静なはずの『あたし』が、いつもは沈着冷静なはずの『あたし』が。

(ママ! ママ!!)



あたしのアタマの中で、『あたし』が絶叫している。

(ママ! ママ!! ママーっ!!!!)



あたしは立っていられず、くたっとしゃがみ込む。


763 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 20:33:09.95 ID:Z4co4nUm0


「佐天さん!?」

湯川宏美が駆け寄ってくる。

だが、佐天利子は湯川宏美がそばにいることに全く気が付いていない。

湯川宏美は異常事態が起きつつあることを感じ取った。



(ママ、あたしを置いていかないで!)

(ママ、どこへ行くの!!)



あたしの脳裏に、今朝の、あの悪夢がよみがえる。

何回か見た、あの悪夢の意味が今わかった。



それは、『あたし』の記憶。



ぼやけていた顔が今はっきりと見える。

その顔は、この写真の顔。





(ママは、しずり……、むぎの しずり)

(わたしは……りこ……むぎの り……こ?)

ぼんやりとした思念が流れ込んでくる。
764 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 20:39:38.02 ID:Z4co4nUm0



むぎの……?

え?

あの、全身ビーム女が、この女……?

『あたし』の、

ママ?



ええええっ?



それって、それって……



『あたし』は、むぎの りこって、 それじゃぁ、



――― このあたしはいったい誰? ―――



さてんとしこである私って、

誰なの?



自己を根底から覆す驚愕の事態。

だが、混乱する佐天利子におかまいなく、麦野利子が暴走する。
765 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 20:44:17.08 ID:Z4co4nUm0

(ママが、涙を流してた……泣いてた)

(ママが、あたしに背を向けて走って行っちゃった……)

(あたしを置き去りにした?)

(あたしを、ママが捨てた?)

(あたしは、ママに捨てられた、子?)

(そんな、そんなの、うそ! うそよ!! うそでしょ? ママ!???)



「マ、マ ? …… うそよ、うそだ! うそだぁーっ!!!!!!!!!」

佐天利子が絶叫する。



「さ、佐天さん?」 

佐天利子のAIM拡散力場が暴走し始めたのを感じ取った湯川宏美が恐怖の色を浮かべ、一歩二歩と距離を取る。




「こ、これ……!!」

ここは800km近く遠く離れた小豆島。

滝壺改め浜面理后がびくっと震えた。
766 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 20:49:17.49 ID:Z4co4nUm0

彼女は突然、強力なAIM拡散力場を感じ取ったのだった。

「誰だっけ?」

記憶を元にチェックが始まる。  



  ――― いた。けど、えっ? ――― 



「これは…………でも、あの子、死んだはずじゃ? そんな馬鹿な?」

理后は携帯に飛びつき、ものすごい早さでメールを打ち始めた。

(ありえない。けど、私の『能力追跡』AIMストーカーに間違いは、ない)





(うそだぁーっ!!!!!!!!!!!)

「抑えろ、このバカヤロー!!!!!!!」

猛烈な感情の高ぶりとAIMジャマーの戦いにあたしは割り込んだ。

いつもとは全く逆だ。

冷静なはずの『あたし』が、暴走する。

あたしは、暴走する『あたし』のAIM拡散力場を押さえ込もうと必死。

いつものあたしならとっくに気絶しているはずだが、そんな余裕すらない。



このバカを止めなくちゃいけない!!

押さえ、込めるか? いやダメだ。

違う! 押さえ込むんだ、佐天利子!

767 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 20:52:37.75 ID:Z4co4nUm0



アームレットのAIMジャマーが二つとも割れて両腕から落ちる。

ネックレスのAIMジャマーは真っ赤になり高熱を発している。



「自分をコントロールするって、母さんに約束しただろーっ!!!!!!」

あたしは、暴走する『あたし』を全力で押さえ込む自分の姿を、自分の頭にイメージする。

恐ろしく暴れ、渦巻くAIM拡散力場の中心部が見える。

あたしはその渦を全身で抱き込んだ。



いける! このバカを押さえて、止める!!



「そうそう、いいわ、佐天利子、そうやって、ゆっくりとクールダウン、クールダウンよ……」



急激にAIM拡散力場が静まって行く。

『あたし』がすすり泣く声がどこか遠くに聞こえる。



(あたし、あたし……ママ、行っちゃいやだ……行かないで)


768 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 20:57:26.01 ID:Z4co4nUm0



「あー………押さえきった……死んだ、もう……」



あたしは、くたっとそこに両手をついた。



「さ、佐天さん!!?? だ、大丈夫なのっ!?」

湯川さんがあたしに飛び込んできて、あたしを抱き起こし、ぴたぴたとあたしのほっぺを軽く叩く。

「あはは、すみません……へへ、ちと、疲れました……」

   

        ――― どさ ―――  



「地面が冷たくて、気持ちいい……」

自分の能力の暴発を押さえ込む事に成功したことで、気が緩んだあたしは、ようやく、気絶することができた。



(ごめんなさい) 

あたしが気を失う直前、遠くで『あたし』が謝っていたような気が……





「さ、佐天さん! しっかりして!! だ、誰か、救急車を! 早く!」

湯川宏美の声が街に響いた。

769 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 21:06:26.04 ID:Z4co4nUm0



「ねぇ、佐天さん、利子ちゃんは夏休み帰ってくるわよね?」

上条詩菜が今日2回目になる質問を佐天涙子にしている。 



ここは佐天涙子の家。

上条詩菜は佐天の家に愚痴をこぼしに来ていたのだった。

「ええ、なんでも仲間と海に行ってから帰って来るっていってましたよ? まぁ、お友だちも出来ているようですから

口うるさい親のところより、気の置けないお友だちと一緒に騒いでいるほうがよっぽど楽しいでしょうからね」

まぁ、そんなもんでしょ、と言う感じで佐天涙子が答えを返す。

「そうかしら? 麻琴ちゃんは風紀委員<ジャッジメント>のお仕事があるからって、ずっと帰ってこないようなことを当麻さんは

言ってるのよ? ああ、もう年寄りなんかどうでもいいってことなのかしら。やっぱり息子より、娘の方が親を大事にしてくれるのねって、

本当に悔しいわ!」

(もう2周目なんだけどなぁ……、それに麻琴ちゃんは娘じゃないし、孫だってばさ)   と、密かに佐天涙子は突っ込む。

  

「そろそろ、お昼の支度でもしましょうか? おばさまは今日は何か?」

「私? そうね、……軽くそうめんなんかどうかしら?」
770 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 21:09:33.28 ID:Z4co4nUm0

「ああ、いいですね。この間頂いたヤツが残ってますから、それと昨日の残り物でちゃちゃっとやっちゃいましょうか?」

「あらあら、さすがね、佐天さんは。じゃぁお願いしても宜しいのかしら?」

「どうぞどうぞ。昨日は私がお世話になりましたし。せめて今日くらいは」



どれ、と佐天がキッチンに向かおうとしたそのとき。



   ――― ピンポーン ―――


インタホンのチャイムが鳴る。

「あら、なにかしら?」

「宅配便かなぁ? ………はーい?」

佐天がインタホンの子機を取る。



「……佐天さん? あたし、麦野です。 麦野沈利です」

「むぎの……ええええっ?」



未だかつて予想だにしない人の来訪。

ドタドタドタと佐天は玄関へ走り、扉をバンと開く。



「お久しぶりね。お元気そうで何より」



門のところに立っていたのは、まさしく麦野沈利だった。
771 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 21:16:28.54 ID:Z4co4nUm0

「お邪魔さまでした。あたし、ちょっと戻っているわね」

気を利かせて、上条詩菜が席を立ち、玄関へと去る。

「申し訳ございません。勝手に押しかけてしまいまして、大変失礼致しました」

麦野が上条詩菜に深々と頭を下げる。

「あらあら、およしになって下さいな? わたしは世間話をしに来てただけですから。

じゃ、佐天さんまたね? 利子ちゃん帰ってくる日がわかったら教えてね?」

ニコニコしながら見送っていた麦野の顔が、最後に「としこ」の名前が出たことで一瞬引き締まった。



「今の方は、どちらの方?」 

麦野が何気ないそぶりで佐天に問いただす。

「上条さん、上条詩菜(かみじょう しいな)さんですよ」

「上条? もしかして、あの?」

「そうですよ。幻想殺し<イマジンブレーカー>の上条当麻さんのお母様。上条美琴さんの、義理のお母様、お姑さんですよ」

「そうか、超電磁砲<レールガン>のお姑さんなのか、ってあなた、どういう関係なの?」

「わたしは、御坂、いえ上条美琴さんとは中一の時から存じ上げてました。まぁ遊び友達でした。

実は、わたしたち親娘は学園都市を退去して以来、ずっとあの上条詩菜さんにお世話になってました。部屋を借りてたこともあります。

わたしが再び働きだして、それであの子が小学校に上がってから、わたしが出張するときは上条さんに利子を預けて行ってました。

だから、あの上条さんは利子の育ての母の一人なんです」



「そう……あの子の育ての母……それは失礼しちゃったかもしれないわね」

麦野沈利はそう返事をすると、いったん黙った。
772 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 21:21:08.51 ID:Z4co4nUm0

「ごめんなさい、電話してから伺えば良かったんだけれど、ちょっと焦っていたので」

少したって、麦野は上条詩菜を追い出してしまったことについて佐天涙子に謝る。

「いえいえいえ、気にしないで下さい。

アハハ、そういえば、わたし、ちょっとこんな格好でごめんなさいね。家じゃいつもこんなものなので」

くたびれたジーンズにこれまたラフなTシャツ。

一方の麦野はサマースーツ姿。確かに落差がありすぎる格好である。



「そうそう、これ、おみやげよ。ドライアイス入れてありますけれど、冷蔵庫に入れておいて下さいね」

それは学園都市でも1・2を争う黒蜜堂の箱。

「うわ、またこれはこれは。わたし、ずっと行ってないんですよ……。

どうも有り難うございます! 有り難く頂戴します。

……今日も暑いですね。冷たい麦茶ですが、どうぞ?」

佐天が麦野に御礼を言いつつ黒蜜道の箱を冷蔵庫に入れ、代わりに冷えた麦茶のボトルを取りだし、氷を入れたグラスと一緒に

応接セットまで持ってきた。

「どうも有り難う。夏だからしょうがないけど、ホント暑いわね。……それで、よければ、先にお話ししたい事があるんだけど?」

「ええ。で、娘のこと、ですね?」

「さすがね。まぁ、それ以外で飛んでくることってまずないでしょうけれど……」



いったん区切った後、麦野は佐天の目を見て言い切った。

「単刀直入に言うわ。あなたの娘、佐天利子(さてん としこ)の中に、あたしの娘、麦野利子(むぎの りこ)が、まだ生きてる」



佐天涙子が硬直した。
773 :LX [sage saga ]:2011/03/12(土) 21:43:56.81 ID:Z4co4nUm0
最後までお読み下さいまして、どうも有り難うございました。
>>1です。

本日の投稿は以上です。

御支援のコメントは心の支えになっております。
毎回お送り頂きまして、本当に有り難うございます。

次回の投稿は、今、分岐点をある方向へ向かって走り始めたところでして、うまく流れるかどうか
がまだ見えておりません。
次の大ネタはずっと前に出来ており、そこに巧く繋げられればOKですし、巧く行かなければ
書き直しです(泣

それでは本日はこの辺で失礼致します。有り難うございました。
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 22:00:04.20 ID:sa204ucBo
>>773
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 22:03:35.87 ID:n81ugPUIO
乙です!
盛り上がってきたな
ずっと待ってるから納得できるところで投下してください
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 23:20:51.85 ID:HIML1sGOo
今読み終えた

すげー続きが気になるでござるの巻
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 00:56:57.12 ID:W+qKW4CHo
みんな幸せになってくれることを祈る
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 21:17:39.06 ID:3HAeRpbeo
麦野がどうするかどうしたいのかが気になるなー。
二人の利子の関係もあるし白い人もいるしどう動くんだろう。
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 21:31:50.10 ID:/EZ52tPAO
リコとトシコは単純な裏と表の関係じゃないんだよな
二人ともどうなれば不幸せかはハッキリしてるが、どうすれば幸せになれるのかわからん…

ふと思ったんだが佐天さん処女だよな。行き遅れってレベルじゃないが萌ゆる
780 :LX [saga ]:2011/03/16(水) 19:45:24.80 ID:PqwTyi1B0
皆様こんばんは。
>>1です。

今回もまたコメントを頂きまして有り難うございます。
呼んでいるうちに、これは今のうちに続きを投稿しておかないと、延々と期待させたあげくに
「なんだよ、こんな続きになるのかよ」と失望されそうなので、サクッと続きを投稿致します。
>>773で書いております通り、分岐前で止めたいと考えておりますので少量です。

それでは、これより投稿を始めさせて頂きます。
781 :LX [sage saga ]:2011/03/16(水) 19:53:35.61 ID:PqwTyi1B0

沈黙が支配する応接間。

サッシを通して、アブラゼミやニイニイゼミの大合唱が聞こえてくる。



「どういう、こと、でしょうか?」

ゆっくりと、佐天涙子が言葉を返す。

血の気がひき、緊張で強張った顔。

向かい合う麦野沈利も、少し苦しげな顔で答える。

「あたしも、何故、あの子が生きていたのかはわからないわ。想像もしていなかったことよ……

あの子は確かに一度、記憶を全部消されて、まっさらな状態であなたに引き渡され、あなたの下で佐天利子として新しい人生を歩み出した

はずなのよ。

……でも、麦野利子の心は生きていた、らしいの。

催眠療法で佐天さんに話しかけたら、佐天利子ではなく、『りこ』と名乗る人間が『あたしのママはしずり』と答えたらしいの」

「……誰、が、そんな、余計な、ことを?」

佐天涙子の頭が垂れ、下を向いたまま今にも消えそうな声で聞く。

「詳しいことは聞いてないわ。あまり信用できないヤツだったから。でもそいつ自身が、利子ちゃんに問うたところ、さっきの答えが

返ってきた、と言っていたの」

「……」

もはや佐天涙子には言葉もない。
782 :LX [sage saga ]:2011/03/16(水) 19:59:19.99 ID:PqwTyi1B0

「そして、あたしの昔の仲間が、昨日あたしに電話をしてきたの。昔の、麦野利子のAIM拡散力場を確認した、って。

そのひとの能力は『能力追跡』AIMストーカー。彼女の判定に間違いは、ないのよ」

麦野沈利も黙った。麦茶を飲む。

しばらく沈黙の時が流れた。



「麦野さんは、嬉しいんですか?」

佐天涙子は下を向いたまま、小さくつぶやいた。

「何?」

「あの子を、取り返したいんですか?」

「あのね……」

「……なんで、どうして今頃になって、私に、いったいどうしろっていうんですか?」

佐天涙子の悲痛な声が大きくなる。

「……あたしだって、あんたと全くおんなじなんだよ? あたしの言いたいのはそんな事じゃない。あの子の、敵のことだ」

麦野沈利は静かに佐天に答えた。

「!」

佐天涙子が、顔を上げて麦野沈利を見た。

「覚えてるわよね? あの子は死んだことで、追跡から逃れたのよ? それが生きていたとなったら? またあの子は襲われるかもしれない」

「でも、それは16年も前の……」

「たった、と言うべきよ。あたしたちは、結局敵のことを全く知らない。だから、解散してるのか残っているのかもわからない。

でも、あなた自身、16年とは言わないけれど、似た経験してるわよね?」

佐天涙子は愕然とした。
783 :LX [sage saga ]:2011/03/16(水) 20:04:20.97 ID:PqwTyi1B0

そう、彼女が引き起こした「暴走竜巻<トルネードボム>事件」の相手は、4年間も地下に潜って鳴りを潜め、彼女が大学を卒業した直後に

いきなり牙をむいて襲いかかったのだった。

「また、あの子は狙われるんですか?」

唇を震わせて佐天涙子が麦野沈利に問いかける。

「何もかもが杞憂だったら、あたしの取り越し苦労だったなら、あたしの被害妄想だったら、どんなに良いことかしらね……

でも、可能性はある、と考えておくべきでしょ。そう考えておいた方が、あの子の為にも、あなたの為にも良いと思う。

とりあえず、あの子が学園都市に帰ってきたら、せめてもの手段として、私は漣をあの子の警護に付けようと思ってる」

「それって、公私混同ではないのですか?」

「確かにね。でも、これは漣の訓練にもなるのよ。ターゲットに気づかれずに警護を行う、っていうこともあたしたちの部局の人間には

必要なことだしね。言っておくけど、漣はレベル4だからね? 頼りないところもあるけど、テレポーターとしては優秀よ。

……さて、と。あまり時間もないから、あたしは学園都市に戻るわ」

「え? それはちょっと急すぎませんか? せめてうちでお昼くらい食べて行って下さいよ!」

あわてて、佐天涙子は麦野沈利を引き留めようとする。



(もっと、話が、したい。一人に、なりたくない。話をしていないと不安に押しつぶされそう)



だが、麦野の返事は佐天の思いを打ち砕くものだった。

「有り難う。お気持ちだけ頂くわ。また今度ね」

「そうですか……」

佐天涙子がありありと落胆の色を見せた事に、麦野も気が付いた。
784 :LX [sage saga ]:2011/03/16(水) 20:08:28.39 ID:PqwTyi1B0

「……全部落ち着いたら、いつかみんなでお花見でもしたいわね」

少しでも気を紛らせるように、麦野沈利は話題を変えた。

「そうですよね。みんなでワイワイ騒いで、昔話で笑い飛ばしたいですね……」

「ごめんなさいね。言うだけいって、一方的に帰っちゃうなんて……でも、あたしは何があってもあの子を守るから。

あの子がここ(東京)へ帰ってきたときは、宜しくね。……そうそう、育ての母の上条さんにもどうぞ宜しくお伝え下さいな!」



……突然現れた麦野沈利は、再び忽然と去っていった。佐天涙子の胸に、思い切り重い鉛のような固まりを放り込んで……

(どうしよう……利子はまた、狙われてしまうの? いや、あの子の母親として、今度こそ私はあの子を守ってやらなければ。

ううん、でも、私に出来ることなんて、たかが知れてるじゃないの……。

あの時のように拉致されてしまうこともあるかもしれない。

残念だけれど、学園都市にいた方が、守ってくれる人がいるだけでも、ましなのかもしれない……

いや、それより、まずは今、あの子どうしてるか、だ……)

佐天涙子は娘、利子の携帯に電話を掛ける。しかし、

「おかけになった番号は、電源が入っていないか電波の届かないところにあるため、かかりません」

という通話不能案内が答えるだけだった。


*それは、彼女が海に落ちたとき、携帯も一緒に海に沈んだからであった。彼女は大里香織の念動力で引き上げられたが、

携帯はそのまま海の藻屑と消えたのだった。
785 :LX [sage saga ]:2011/03/16(水) 20:10:41.15 ID:PqwTyi1B0

しばらくたって掛け直してみたが、何度やっても同じ通話不能の案内が返ってくるだけだった。

(だめだ……連絡がつかない……海水浴に行くとは言ってたけれど。まさかあの子、もう拉致されたとかいうんじゃ……?)

不安が更にふくれあがってくる。

次に連絡を取ってみたのは上条麻琴。

「ハイハーイ! こんにちは!! おばちゃん元気してる? どしたの?」

明るい返事が返ってきて、佐天涙子はホッとした。

利子に何かあったら、麻琴がこんな明るい訳がない。利子と一緒にいてくれたら一番いいけれど。

「元気そうね、麻琴ちゃん。 あのね、うちの利子と連絡取りたいんだけれど、今連絡が付かないの。お友だちと海に行くって

言ってたんだけれど、あなた利子と一緒じゃないかしら?」

だが、一緒にいてくれたら、という涙子の希望はかなわなかった。

「えー? ホントですかー? いいなぁー、あたし、そんなこと聞いてないですよ? う〜ん、どうしたんだろ?  

ごめんね、おばちゃん。あたし風紀委員<ジャッジメント>の夏休み中特別巡回中なんです。別行動なの。

でも巡回が終わったら、ちょっとあたしの方でも連絡取ってみましょうか? 海に行ったと言うことは、外出届が出てるはずですし、

あたしはそれを見る事が出来ますから、誰とどこへ行ってるのかわかりますからね?」

「ごめんなさいね、忙しいのに。そんなにせっぱ詰まってる訳じゃないけれど、でもちょっと連絡取りたいので、もし繋がったら

あたしに連絡するように伝えて頂けるかしら?」

「お茶の子さいさいでーす! 上条麻琴、確かに承りましたっ! それでは吉報をお待ち下さい!」

ハイテンションのまま、上条麻琴との通話が終わる。

少し気が楽になったのは確かだった。
786 :LX [sage saga ]:2011/03/16(水) 20:16:02.08 ID:PqwTyi1B0

「え?」

あたしは目が覚めた。

どこ、ここ?

「利子ちゃん? 気が付いた? 私がわかる?」

美琴おばちゃん? あれ? なんで美琴おばちゃんがいるの?

「あ、リコが気が付いた!」

ちょ、さくら? あんた何あわててるのよ?  ……あ〜行っちゃった……

「佐天さんね、あなた、気を失ってたのよ。ここは、XX市の病院。 あなた、1日以上寝てたのよ?」

……1日以上?

そうか……道理で、おなかが減ってるわけだ。



  ――― ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ ――― 



      くっ……  orz........



また、病院か……。

あたし、どうしてこんなに病院に縁があるんだろう?

病弱な薄幸の少女、なら少女マンガの主人公だけど、あたしの場合は毎回ろくな理由じゃないしなぁ。

今回はなんだ? 

えっと……どうしたんだっけ……?

787 :LX [sage saga ]:2011/03/16(水) 20:18:32.76 ID:PqwTyi1B0


そういえば。

あれ、夢、だったんだろうか。

腕を見る。

何も、ない。



そうだ。あのとき、AIMジャマーであるアームレットは割れて落ちた。

やっぱり、夢じゃなかったんだ。


と、いうことは……だ。



本当なんだろうか?



「おばちゃん……?」

あたしは、美琴おばちゃんに話しかけた。他に誰もいなかったから。

「なぁに? どしたの?」

美琴おばちゃんの優しい笑顔。ほんと、おばちゃんは綺麗だ。いつも。

「あたし、わかんなくなっちゃった……」



その言葉を聞いた美琴の顔がかすかに動く。

「おばちゃん、あたしの言うこと、とりあえず聞いてくれる?」

「あら、どうしたの? そんなマジメくさって」

「マジメなの! そう、まじめな話なんです……」

佐天利子は真剣な顔で訴えかける。
788 :LX [sage saga ]:2011/03/16(水) 20:22:27.18 ID:PqwTyi1B0

上条美琴は、茶化しつつ彼女の話の内容を予想していた。

そして最悪の事態を想像していた。

(何を言い出すのかしらね、もしかして、自分のこと、それとも?)

「あたしの中にね、もう一人のあたしが、いるの。ずっと前からいたんだけど。去年くらいから、良くしゃべってくるようになったの。

……今日ね、あたしは、写真屋さんで、1枚の写真を見たの。

そしたら、もうひとりのあたしが、その写真を見て『ママだ!』って叫んで、もう後は……彼女は暴走しちゃったの。

なんとか、あたしを暴走させるのは止めることが出来て、その後、覚えてないんだけれど」

(やっぱり、利子ちゃん自身のことなのね……そうか、りこちゃんが暴走したのか……。

一方通行<アクセラレータ>の話の通り、利子ちゃんはりこちゃんのことを知ってはいたのね……そうか、でも肝心なところはまだか)

美琴は微笑を浮かべたまま、佐天利子の顔を見ながら、時折うなずいて話を聞いている。



「それで、もう一人のあたしがいうのは、あたしはむぎの りこで、ママはむぎの しずりだって言うの」

(!!!!! うわぁ、最悪だ !!!!!)

(バレた。ばれてしまった。ああ、知られてしまったのか……)

さすがの美琴も苦い表情を隠しきれなかったが、佐天利子は自分のことで精一杯で、美琴の顔を見ることはなかった。
789 :LX [sage saga ]:2011/03/16(水) 20:29:37.07 ID:PqwTyi1B0

「あたしのお母さんは、佐天涙子で、あたしは佐天利子、でしょ?

なのに、もう一人のあたしは、むぎの りこであって、ママはむぎの しずりだって言う。

どうなってるの? あたし、いったいどっちなの? あたし、いったい誰なの?」

泣きそうな顔で、佐天利子が上条美琴に問いかける。



彼女は答えられない。答えるわけには、いかない。答えては、いけない。

答えられるのは、佐天涙子、利子の母だけだ。 



「ごめんね、おばちゃん。変なこと聞いて。でもね、こんなこと、お母さんに聞けない……。絶対言えない。

怖い。

お母さんに、『お母さんはあたしのお母さんなの?』なんて、聞けないもの……」

最後の方は殆ど独り言になっていた。



黙ったまま、利子を見つめる上条美琴。

しばし沈黙の時が流れた。





ガーッという音と共に、扉が乱暴に開かれた。

「佐天さん、気が付いたんですって!?」

湯川宏美が青木桜子と一緒に飛び込んできた。
790 :LX [sage saga ]:2011/03/16(水) 20:32:14.73 ID:PqwTyi1B0

「こら、病院内で走ったらダメでしょ!」

上条美琴が注意する。

「すみません!」

湯川宏美が気をつけ!の態勢で直立した。

うしろにいた青木桜子もあわてて同じように直立した。

「あたし、ちょっと出てくるから、湯川さん、ちょっと利子ちゃんの様子見ててくれるかな?」

上条美琴はそう言って病室の外へ出た。

「どうして美琴おばちゃんが……」

という佐天利子に湯川宏美がニッコリ笑っていう。

「ゴメン、あたしが呼んだのよ」

「あなたがね、街でぶっ倒れた時、ホントどうしよう、最高にまずい、って思っちゃって。

あ、もちろん救急車は先に呼んでもらってたんだけれど。それで、思い出したのが上条さんだったわけ。

ホント、あのとき(九官鳥事件の表彰式)に紹介してもらってて助かった、かな。

正直、私もパニック状態だったから、上条さんも最初面食らってたみたいだったけどね……」



そうか、お母さんでなくてよかった……お母さんがここに居たら、あたし、またパニックになっちゃっていたかもしれない……

今、AIMジャマーはネックレスしかない。アームレットのAIMジャマーは壊れてしまって存在しない。

もし、また暴走したら大変なことに……あ!



「せ、先輩! あたしのアームレットはどうしました?」

「あるわよ、いくら動転しててもそれくらいは気が付きます。伊達に風紀委員<ジャッジメント>やってませんって」

そう言って、湯川先輩は軽く微笑んだ。
791 :LX [sage saga ]:2011/03/16(水) 20:43:30.31 ID:PqwTyi1B0
>>1です。

如何でしたでしょうか?今回は短くてすみません。

もう少し先まで出来ているのですが、そこまで投稿してしまうと中途半端なところになるので、
場面が変わるところで切りました。

なんとかずっと前に書いたネタに繋げそうですが、少しお時間頂戴致したく。
それではお先に失礼致します。
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/03/16(水) 21:09:16.02 ID:Cec7CSgAO
つづき、待ってるよ。
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/03/16(水) 21:35:44.52 ID:z67dsNfmo
自分は>>778のレスをしたんだけど100レスぐらい行けば見えるんじゃないかぐらいの気持ちだった。
このお話はミクロの楽しみというか一挙手一投足の連なりを楽しむものだと思うしじっくりやってくれー。
欠点というか、そのおかげで感想を書きづらい。
数回投下されて初めて枠やうねりが見えるからどうしても「待て」の状態になるww
794 :LX [sage saga ]:2011/03/17(木) 19:44:24.39 ID:w/Cjvzmz0
こんばんは。
>>1です。

本日の投稿はありません。
前回のもひっくるめまして、いろいろなコメントを頂きまして本当に有り難うございます。
貴重なアドバイスですので大切に致します。

なんとか最後の大ネタにはこのまま繋げそうです。そこからラストがまだ繋げられておりません。
ちなみに最後は既にほぼ完成しております。

当初考えていたラスは、ちょっとそぐわないのでボツにするつもりです。
ぶん投げる場合には使えるのですが(苦笑
スレッドが余ったときには、ボツ原稿ネタの余興という形で御披露目するかも知れませんけれど。

それでは頑張ります!
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/19(土) 11:11:47.02 ID:2XzR4tdto
>>794
乙です。
一方通行が利子を約束通り守る場面が見てみたいなぁ。
続きを楽しみにしているので頑張って下さい。
796 :LX [saga ]:2011/03/19(土) 20:32:38.72 ID:YtZjj4080
皆様こんばんは。
>>1です。

これより投稿を始めます。
宜しくお願い致します。
797 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 20:34:26.72 ID:YtZjj4080


佐天涙子はまんじりともせずに、静かに居間に座っていた。

もう夕方で、薄暗くなってきていたが、電気をつけることすら思いもしなかった。

連絡は、誰からも、ない。

不安が彼女の心を覆い尽くしていた。

携帯のマナーモードは解除。メールでも音声通話でも着信音は最大に設定。鳴ったら直ぐに出れるよう、直ぐそばに置いている。

もちろん、家の固定電話兼FAXも着信音は最大ボリューム。

テレビのチャンネルはケーブルTVの学園都市広報番組に合わせてある。何かが起きたときのためである。

もっとも、都合の悪い騒動なぞは全く流れないので、意味がないと言えばその通りなのだが。




突然大音量で携帯の着信音が鳴りだした。上条麻琴からだ。

「は、はい!」

「おばちゃん? 麻琴です。あのね、リコは日曜日から伊豆のXXに海水浴に行ってるの。期間は1週間ね。

で、湯川さんていうひとの家にいるらしいんだけれど、彼女の携帯、やっぱり出ないの。

お家の方に掛けてみたんだけど、こっちも留守電で、ダメ。いやんなっちゃうわ。

まぁ、夜になったら携帯はともかく家には誰かいると思うから、やってみるね! 大丈夫、リコは元気だと思うよ?

おばちゃん、心配しなくて良いよ?」

海に行くから帰るのはちょっとあとになる、と言っていた通りだった。

(便りの無いのは良い知らせ、とは言うけれど……)

「ありがとう、麻琴ちゃん。助かるわ……忙しいのに、有り難う」

「えへへ、なんか照れちゃうなあたし。じゃまた連絡します」

(伊豆か……、それも西伊豆か)

涙子は行ったことはない。きっと良いところなのだろう。新鮮な、美味しい魚をあの子は沢山食べているだろうか?
798 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 20:38:12.73 ID:YtZjj4080

PRRRRRRR! PRRRRRRR!

今度は家中に響く大音量で固定電話が鳴った。

涙子が飛びつく。

「は、はい! 佐天です!」

プー、という警告音が鳴る。公衆電話から? だれ? 

「良かった! 居てくれたわ!! あ、あの上条美琴です。佐天さん元気?」

「上条さん? いきなりどうしたんですか、公衆電話って、いったいどこからです?」

「あ、あのね、今、あたし、利子ちゃんと一緒なの。ここ、西伊豆の病院の前の公衆電話から掛けてる」

「びょ、病院ですか? あの子また何か!? 何があったんですかっ!?」

「昨日、利子ちゃんは能力を暴走させたらしいの。正確には未遂で、でも暴走を押さえるので全精力使い果たして担ぎ込まれた

ってところらしいの」

「な、なんてことを。しかも学園都市外で、あのバカ娘ったら!!!」

「佐天さん、落ち着いて。それで、ホントなら利子ちゃんは学園都市に戻らなければいけないんだけど、その前に一旦あなたの

ところに帰る必要があると思うの」

「何があったんですか?」

「うん………電話で話す事じゃないとあたし思う。まぁ、これはこっちの公衆電話だから、あなたの家に盗聴器でも無い限りは

話の内容は漏れないと思うけどね。携帯使わなかったのは用心の為。佐天さんもこれからは気をつけてね?

それでね、さっき利子ちゃんは意識を取り戻したの。かなり参ってる。あたしが付き添って、明日あなたの家に送り届けるから」

「いえ、あたし、そっち行きます! どこですか!?」

「ダメ!! ここでは大切な話が出来ないから! あなたの家で無いとダメなの!! 佐天さんは家で待ってて! あたしを信じて、お願い」

予想外の美琴の強い拒絶にあって、涙子は引き下がるしかなかった。

「……わかりました。それでは、私はここで待つことにします。利子を、宜しくお願いします……

そうだ、上条さん? 今いいですか? 私も上条さんにご相談したいことがあるんです。話にのってくれませんか?」

「いいわよ。明日聞いたげる」

「いえ、あの子が居る前ではちょっと出来ないんです……実は、麦野さんが、お昼にいらしたんです」
799 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 20:42:34.07 ID:YtZjj4080

美琴は愕然とした。

麦野が、麦野沈利が佐天涙子のところに行った? 学園都市を出てまで? どういうことだ……彼女も知ったのか? 

彼女の娘、麦野利子が佐天利子の中で生きていることを。

「それで、信じられないことを、麦野さんはあたしに……あたし、信じられません」



や・は・り・そうだった。彼女は知ったのだ。そして佐天涙子もまた。



「麦野さんは、また、狙われるっていうんです。またあの子は襲われるかもしれないって。どうしたらいいんですか、あたし」

「……難しい話は、そっちに帰って、利子ちゃんが寝た後で話しましょう。でもね、佐天さん? いい? 

利子ちゃんはね、レベル3なのよ。それで能力コントロールも以前よりはかなり上達してきたみたいだし。

今回の暴走も、ちゃんと彼女自身で収拾をつけたようだし、確実に前進してるのよ。もうすぐレベル4になると思う。

その点は、1年前と全然違っている事なのよ? あの時とは状況が違ってるのよ? 心配しすぎよ」

「そうでしょうか……わたし、今度こそあの子を守ってやらないと、もう親失格ですから」

「大丈夫。あなただけじゃないのよ? あたしもいるし、麦野さんもそうだし、あの一方通行<アクセラレータ>も、利子ちゃんの

味方だから?」

「え?……あ、あの、一方通行<アクセラレータ>さんって、確か以前、レベル5の第一位だったひとでしたっけ?」

「そうよ」

「どうして、また、そんな人が、利子のために?」

「それも話してあげるから。まぁ明日よ明日。病院出たら電話するから。でもそのときは難しい話は御法度だからね?」

「は、はい……」

「じゃ、あたしまた戻るから。なんかあったら連絡するわね」

美琴の電話は切れた。

(上条さん、利子の事、知ってたのかな……)
800 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 20:45:57.57 ID:YtZjj4080

しばし、時が流れた。



PRRRRRRR! PRRRRRRR!

再び大音量で電話が鳴る。

涙子はどきっとしたが、発信者名を見て安心した。

隣の隣、上条詩菜からだった。

「もしもし? 佐天さん? 晩ご飯どうしました?」

「す、すみません、お昼失礼しちゃいまして……」

「あらあら、いいのよ、佐天さんたら。

今、美琴さんから電話があって、明日、利子ちゃんと一緒に帰って来るって言ってたのね。

で、なんだかおかしなこと言っててね、あなたがたぶん晩ご飯の支度も出来てないはずだから、わたしにあなたのところに行って

一緒にごはん食べてきて下さいなんて言うのよ? 義母に向かってちょっとだわよねー、そう思いませんこと?」

「は、はぁ……」

「あら、佐天さんたら、聞いてるのかしら? ……あらあら、これじゃホントにあの子の言うとおりかもね。

じゃあ、今からそっちに行くわね?」

しばらくして、上条詩菜が押しかけてきた。ワインを2本、酒肴をランチボックスに詰め込んで。





「ほらほら、そんな陰気な顔してると、陰気な神様が取り憑いちゃうわよ〜? ほら、ぐいっともう一杯! 

さあさあ、るいこ〜! 行け〜! じゃんじゃん飲め〜!」

佐天涙子は、閉口しながらも上条美琴と上条詩菜に感謝した。

陰鬱な気は晴れなかったけれど、でも少しは気が紛れたからだった……
801 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 20:48:03.02 ID:YtZjj4080

金曜日の昼。



佐天涙子は、玄関でずっと待っていた。

クルマの音が聞こえるたび、腰が浮いた。でも、今までのは全部通り過ぎていっただけ。

携帯は手に。

朝に一度、上条美琴から電話がかかってきた。これから出ますと言うことだった。

家に近くなったらまた電話するから、と。

昨日のどんちゃん騒ぎでワインくさかった家の中は、全部窓を開け放ち、空気を入れ換え、簡単ではあるが掃除もした。

そうでもしないと、とても耐えられなさそうだったから。

(あ、利子の好きな苺のショートケーキ買ってきておけば良かったか……)と気が付いたがもう遅い。

携帯が鳴り、震えた。

「もうすぐ、あと30秒ほどで着きますから」と美琴の声。

涙子は立ち上がり、玄関を開け、門に駆け寄る。

タクシーがいた。伊豆ナンバー。病院からまっすぐ来たのだろう。

しばらく扉が開かない。

中でお金を払っているのだろう、ものすごく長い時間が経ったような気がした。

ドアが開き、上条美琴が出てくる。

そして、その後、娘、佐天利子が荷物を持ってタクシーを降りた。

「利子!」 

思わず、涙子は駆けだしていた。
802 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 20:49:51.65 ID:YtZjj4080

あたしは美琴おばさんとタクシーに乗っていた。

そういえば、学園都市から帰ってくるときは、必ず美琴おばさんがあたしのそばにいた。

そして、母も。

でも、今日はいない。

母は、きっと家の前で待っているに違いない。



怖い。家に帰るのが、怖い。



あたし、母さんの顔見れないかもしれない。

だって、母さんは、お母さんじゃないのかもしれない。

ううん、もし、もしそうだったとしても、あたしは、母さんに育ててもらった、涙子母さんに育てられた、佐天利子だ。

でも。

冷静な『あたし』は、自分を「むぎの りこ」だと言う。

じゃ、このあたしはいったい何者? さてん としこだと思っているこのあたしは本当は誰?



もう、何もかもがわからない。すごく怖い。

学園都市に、戻りたい。

家に、帰りたく、ない。
803 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 20:52:45.10 ID:YtZjj4080

「怖いよ、おばちゃん」

あたしは美琴おばさんにすがりついた。

美琴おばさんは、黙ってあたしをきゅっと抱きしめてくれていた。

(だいじょうぶ、だいじょうぶよ……)と小さな声であたしにささやきながら。


美琴おばさんが電話を掛けた。

「もうすぐ、あと30秒で着きますから」

いやだ。降りたくない。母さんに、会いたく、ない。

クルマが止まった。

ダメだ。

「カードでお願いします。あと、トランク開けて下さいね」

「ハイ……生体認証をお願いします……有り難うございました。お忘れ物ないですか? ドアとトランク開けますね?

降りる際は気をつけて下さい」

ああ、あたし、降りたく、ない。

「『としこ』ちゃん、さ、着いたわよ。降りてらっしゃい」



あたしは、せめてものの抵抗で、のろのろと、降りたくないという負のオーラ全開で、おそるおそる、降りた。

「利子!」

あ、お母さんの声だ。ちょっと緊張してるのかな?

でも、でも、あたし、顔を上げられない。上げたく、ない。
804 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 20:56:49.98 ID:YtZjj4080

「ほら、タクシー動くから」

美琴おばさんがあたしに注意する。

あたしは、よっぽどそのタクシーにまた乗り込んで、「学園都市まで」と言おうかと思った。

でも、そんな勇気もなかった。 

タクシーは行ってしまった。いくじなし、のあたし。ヘタレな、あたし。

「お帰り、利子。あんた、ちょっとまた背が伸びたのね?」

お母さんのサンダルがいつの間にか、すぐそばに来ていた。

「ほら、利子ちゃん? しゃんとしなさい!」

美琴おばさんのちょっと厳しい声と共に、あたしの顔が強引に上げられた。



母さんの、少し白髪が見える、ちょっとやつれた、どこかに泣いたような、ぎこちない笑った顔が、直ぐそばにあった。

(あ……ちょっとお母さん、老けたかも)

目が、合った。

その瞬間。



     ――― あたし、母さんを守らなきゃいけない ―――



ふいに、以前思ったあたしの決意が思い出された。

(そうだ……あたし、母さんを守らなきゃって……)

(ええい、何をめそめそしてるんだ、佐天利子! そんなことで母さんを守れるの? しゃんとしろ!)

あたしは気合いを入れた。不思議と、すっきりした。

いったい何だったんだろう、今までのあたし?

(よし!!)


「ただいま! お母さん、いろいろあって、また美琴おばちゃんに迷惑掛けてしまいました。ごめんなさい!」

そして、上条美琴に向かい、

「おばちゃん、すみませんでした。またやっちゃいました。ごめんなさい!」



あまりの豹変ぶりに、佐天涙子・上条美琴の二人はぽかんとして立ちすくんでいた。
805 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 20:59:41.19 ID:YtZjj4080

「それで、その傷なわけ?」

上条美琴が目を鋭くして、利子に尋ねる。

「う、うん。情けないことに……」

「利子、あんた気をつけなさいって、あれほど言ってたのに……、その大里さんに御礼しなければ……。

それから、手当してくださったそのおじさんにも御礼に行ってこなければ……利子、あなたちゃんと御礼してきたんでしょうね?」

母、涙子が娘・利子に突っ込む。

「そ、それが……」

「ちょっと、行ってないの? バカ! なんで直ぐ行かないの? 全くもう……住所とか名前聞いてるの?」

「……」

「あきれた……」

「だから、湯川先輩は知ってるんだけれど……あの騒ぎで……行く予定どころじゃなくなって……」

消えそうな声で答える利子の様子で美琴は気が付いた。問題の場面なのだ、と。それに、もう一つ。

むしろこっちの方こそヘタすると公に大事になりかねない、非常にまずい大問題にこの二人、気が付いてない!!

「佐天さん、ちょっとそこで止めて!」

「え?」

「いいから、そこで。で、利子ちゃん? 今のお話、ちょっと問題があるんだけど、わかってる? 知ってるよね?」
806 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:01:38.75 ID:YtZjj4080

「はい。大里さんが、あたしを助ける為に、能力を使っちゃったことです。湯川先輩から指摘されてます。

あたしと大里さんのケガの診断書をもらってますけれど……」

「……あのね、それはもちろんマズイことなんだけど、もうひとつあるんだなぁ。

あなた、学園都市外でケガをして、手当を受けたのよね? いいこと? 大里さんはレベル2、あなたはレベル3。

能力者である二人の血液のサンプルを取られちゃった、と言うことになるのよ。外部の人にね。

それは場合によっては、秘密漏洩になるのよ? 大問題になるかもしれないの!」

「……!」

「佐天さんも利子ちゃんに教えてなかったの? こんな重大なこと!」

「す、すみません……言ってませんでした」

「あー、ったくもう、どうしよう……で、その診断書はどうしたの?」

「湯川先輩が持ってます……」

「その子、風紀委員<ジャッジメント>よね、落第だわホント……利子ちゃん、湯川さん達はどうしてるの? まだ伊豆にいるのかしら?」

「いえ、たぶん、切り上げて、今日学園都市に戻ると思います。いろいろあったので……」

「そうか……時間無いわね。ゴメン、ちょっと考えさせてね」



数分間美琴はじっと物思いにふけっていた。



「決めた!」
807 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:04:53.56 ID:YtZjj4080

美琴おばさんは、そそくさと学園都市に戻っていった。

「ケリつけたらまたとんぼ返りするから、利子ちゃんと佐天さん、積もる話もあるでしょ。いっぱいお話ししてなさい?

佐天さん、戻ってきたらお話があるから、待っててね? 大丈夫。全部この上条美琴委員にまかせなさい!」

厳しい顔だったけれど、最後に少し笑ってそう言って。



部屋には母とあたし、2人だけ。

「お母さん、ごめんなさい」

「何が?」

「迷惑かけちゃったし、それに……」

「いまさら起きちゃったこと、グダグダ言ってても仕方ないでしょ? あなたのミスは上条さんが何とかしてくれるわよ。

あのひとが『まかせなさい』って言ってくれたんだから、大船に乗ったつもりで任せておけばいいの」

「でも……ずっと、あたし、おばちゃんに世話かけっぱなしで……」

「なら、あんたが大きくなって一人前になった時に、何でも良いから、少しで良いからお返しをすればいいのよ。

そういう母さんだって、ずっと上条さんには迷惑の掛けどおしだから、偉そうなこと言えた義理じゃないけどね。

……それより、利子? あなた、あたしに何か言うことあるんじゃない?」

あたしは思わず目を見張って、母を見た。



優しい顔。

あたしの、お母さん。

ちょっと、老けたけど、でも、やっぱりあたしの、お母さん、だ。



そうよ、『あたし』がなんと言おうと、あたしの、お母さんは……



涙子かあさんに決まってるじゃないの!!!!


「おかあさん……おかあさーん!!!」



利子が母・涙子に飛びついて号泣する。

(ホントにもう、いつまでも子供なんだから……わたしの利子……私もしっかりしなきゃ、ね)

涙子は黙って泣きじゃくる利子を抱きしめて、優しく髪を撫でていた。
808 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:10:54.63 ID:YtZjj4080

よっぽど疲れ果てていたのだろう。

泣きじゃくる利子が少し落ち着いたところで部屋に連れて行き、パジャマに着替えさせ、ベッドに寝かせると、あっという間に

利子は寝入ってしまった。

わたしの手をしっかりと握りしめたまま。

しばらくのあいだ、わたしは我が娘、利子の寝顔を見ていた。

気が付けば、娘の寝顔をこれだけ近くで見たのはかれこれ1年近く無かったような気がする。



笑った顔がとっても可愛かった利子。

でも、今、ここに眠っているのはすっかり大人の顔になってきた、一人の女性。

昔の面影はわずかに残っている。でも、昨日初めてやってきた麦野沈利の顔に、本当によく似ている、と思う。

(わたしが子供を産んでいたら、娘を産んでいたら、その子の顔は、わたしに似ていただろうか)

思わず、そんなことを想像した。



わたしは思い出していた。利子との16年間を。



未婚の母、シングルマザー、私生児を産んだ女として後ろ指を指され続けたこと。

3歳の子を1歳と偽らざるを得なかったため、どこでも不審の目で見られたこと。

正直、一番苦しかったとき、だ。 でも。



「おかぁちゃん」と初めて利子がわたしを呼んだ日のこと。

嬉しかった。涙が出るほど嬉しかった。

抱き上げて、高い高いをしてあげたら、あの子はうれしそうに声を上げて笑ってた。

「ママ」はあのひとが呼ばせてたから、わたしは意地でも「おかあさん」と呼ばせようとしたんだっけ……。

わたしは一人、心の中でガッツポーズを決めた。わたしは「お母さん」になれたんだって。
809 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:15:03.77 ID:YtZjj4080

毎週、綺麗な栗色の髪にコーティング剤を塗り、黒髪に染めていたこと。

小学校に上がるとき、文房具に「さてん としこ」と名前を書いてあげたっけ。

嬉しそうな顔をしてたわね……

黄色い帽子を被って、黄色いカバーを掛けた赤いランドセルをしょって、はしゃぎながら麻琴ちゃんといっしょに駆けだして行った、

利子の姿。

ようやくここまで、育て上げたか……と感慨深かったわね……



ごめん、利子。小学校に上がったときから、あたしはあんたを大おばさまに預けちゃったんだよね……。

恨んでるかな? でも、そうしないと、あたしたち食べていけなかったし。家も買えなかったし、ね。

父兄参観日に、どうしてお父さんがいないの?って聞かれて、困ったわねぇ、あの時は。

わたしの結婚式の写真を見たい、と言われたときは青くなったわよ。そんなことまで考えてもいなかったからね。

そういえば、アルバムって、ウチにはなかったんだよねー。今から思えば、失敗だったか。



小学校の卒業式。

そして、セーラー服を纏った中学生になった利子。

一気に大人びたのには正直驚いたけれど、年考えればそうだよね……
810 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:17:20.94 ID:YtZjj4080

学園都市に、憧れた利子。

わたしは利子を学園都市には行かせたくなかった。

学園都市は決して夢あふれる未来都市なんかじゃない。

でも、この子は、運命に導かれるように……



拉致されて、隠していた能力を引き出され、暴走させてしまって、また拉致されて、銃撃されて、ケガして、

そして。



能力者になってしまった、利子。



ほんと、大きくなったわ。利子。

佐天利子のままか、麦野利子に戻るのか、あたしにはわからないけれど、どちらにしても、だ。



――― この子は、もうすぐわたしのところから巣立っていく ―――



……よくやったわよね、佐天涙子。

あんた、ホントによくやったわよ、褒めてあげる。



麦野さんも、わたしに「ありがとう」くらい言って欲しいもんだわよねー ふふ。



佐天涙子のほほを涙が伝って、落ちた。
811 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:19:51.92 ID:YtZjj4080



利子は昼過ぎになってようやく起きてきた。

少しは落ち着いたようだ。



あきれるくらい、利子は食べた。

「あんた、いくら何でも食べ過ぎじゃないの?」

「え、そうかな? このくらい食べてたような気がするけど? 大丈夫よ、母さん、ちゃんとトレーニングするからさ!」

……何がトレーニングだか。 

食べた後、部屋に戻った利子がいつまで経っても降りてこないから見に行ったら、しっかり寝ていたくせに。

幸せそうな顔して。

寝る子は育つっていうけれど、あんた、それじゃおなかが育つだけだわよ?



夕方、上条美琴さんがうちにやってきた。

本当にとんぼ返りしてきたのだった。

「利子ちゃんは?」

「寝てます」

「そう、よかったわ」

「良くないですよ。あの子、起きてきたの1時ちょっと前ですよ? それで驚くくらいごはん食べて、2時過ぎに部屋に行ってみたら

また寝てましたからね? とんでもないぐうたら娘ですよ。こんなことやってたら直ぐデブになっちゃいますよ」

「本当? それはまた大物よねぇ……。で、佐天さん、今ちょっといいかな?」

「は、はい、あの子のことですか?」

「他にないわよ。それで、ね? 利子ちゃんには聞かれたくないから大きい声で言えないの。こっち来て?」

あたしは上条さんの傍に寄る。

あ、隈が少し出来てる?

「ちょっと、どこ見てるの佐天さんたら? そんなのどうだって良いでしょ?」

おっと、読まれたか? 上条さん、そう言うところは鋭いなぁ……

「いい、長点上機学園は知ってるわよね? で、そこに利子ちゃんが行った訳なんだけれど……」

上条さんの話が始まった。
812 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:22:08.79 ID:YtZjj4080


(あの子が、自分の中に麦野利子がいることを知っていたなんて!)

わたしは、上条さんの話にはかなり驚いた。

麦野さんのお嬢さん、利子(りこ)ちゃんが利子(としこ)の中で生きていた話は、既に麦野さんから聞いていたので驚く話ではなかった。

しかし、それを利子(としこ)も知ってしまったこと。

そして、自分が「むぎの りこ」であったことも知ってしまい、自分が誰なのかわからなくなり、非常に神経質になっていること。

特に、わたしが本当は育ての母なのではないのか? と思い始めていることにはかなりショックを受けた。

(そうか、あの過食はストレスの逃げ道だったの……?)

(帰ってきてずっと寝ているのは、わたしとなるべく会わないように逃げているのかも……)



かわいそうな、利子(としこ)。あの子も苦しんでいるのだ。

気が休まらないだろうに……



「で、佐天さん、どうする?」

「……そうですね……つらいですが、言いましょう、あたしが」

「……言ってしまって、大丈夫?」

「……わかりません。でも、あの子ももう、16ですから。それに、どうやら予期してるみたいですし。どれ、起こしてきます」

「ええええ? いきなり?」

「そうですよ。わたし、思い切りは早いんで」

わたしは、利子を起こしに応接間のドアを開けた。





ベタなドラマだと、ここに娘が青い顔で立っていたりするはずだ、が。
813 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:25:15.32 ID:YtZjj4080



いない。 よかった。





……ウチの利子は、しっかり自分のベッドで幸せそうな顔をして眠っていた。

よだれが少し垂れていた。



いやはや、我が娘、情けないねぇ……これじゃ彼も出来ないわよ?



ホッとするやら、情けないやら。

だんだん腹が立ってくる。

「こらぁ!!、いいかげんに起きなさぁーーーい!」

わたしは豪快に、ばぁさぁーっ……と利子のふとんをまくり上げた。

「ひゃぁ!!」

利子が弾かれたように、起きた。

「トレーニングはどうしたのよ!? それから、よだれ拭きなさい、恥ずかしい!!」
814 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:30:02.31 ID:YtZjj4080



「ケリ付けてきたわよ?」

「すみません」

「まぁね、利子ちゃん? ちゃんと注意してくれないとみんなに迷惑がかかるからね? 次はないから、覚悟しなさいよ?」

「……はい……」

上条美琴が怖い顔で、真剣な眼差しで佐天利子を睨む。

蛇に睨まれた、いや、レベル5・元学園都市第三位の超電磁砲<レールガン>に睨まれた利子は小さくなって畏まっている。

「で、どうしたかというと、診断書はバツ。アレ出したら、あなたと大里香織さんはどうなるかわかったものじゃないから。

あたしでも手に負えないかも知れないからね。

だから、単純に、あなたと大里さんがケンカして能力を使っちゃったことにしたわ」

ええっ? と言う顔で利子が美琴の顔を見る。

「それから、何があったんだか知らないけれど、他にも能力使っちゃった人がいたわね?」

利子は、そうだったかな? と言う顔でそらを見る。

「………………あ!」

「いたでしょ? えーと……」

そう言いながら美琴はスツールを出してピッピッとレポートを取り出す。

「えーと、あと4人だわ。斉藤美子、佐藤操、前島ゆかり、湯川宏美って、あんたら9人で出かけてたわよね? 

9人中6人が違反したってのはちょっとね、笑い事じゃないのよ?」



(AIMジャマーは効いてるのよね?)

佐天涙子は、いつ何時上条美琴が電撃を飛ばすかヒヤヒヤしながら、話を聞いていた。

ここが学園都市だったら、とっくの昔に上条さんは火花を飛ばしていたはずだ、と。



しかし、肝心の怒られている利子は、というと

(湯川先輩は地獄耳<ロンガウレス>だし、ミコ(斉藤美子)ちゃんは心理解読<インターブリット>でしょ、

ゆかりんは自動書記<オートセクレタリ>で、この3人はあの朝の時だからわかるけど……佐藤先輩はなんだったっけ?)

と、美琴の厳重注意もどこへやら、メンバーの使用能力のことをずっと考えていたのだった。
815 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:34:00.63 ID:YtZjj4080

「と・し・こ、ちゃん? 聞いてる?」

美琴は、肝心の利子が上の空状態なのに気が付き、ムカっとした顔そのままに問いただす。

(やばい、上条さん、すごく怒ってるってば……)

「こら! 利子! ちゃんと答えなさい!」

母・涙子もあわてて注意する。

「は、はいっ? す、すいませんでした!」

あわてて利子は頭を下げる。

「聞いてなかったわね、やっぱり……」

あきれた、という感じで美琴は絶句する。

(このバカ娘がぁっ! これは叱らなきゃダメだ!)

涙子は瞬間的に判断した。

「ですね……本当にすみません、出来の悪い娘でして、申し訳ありません」

そう言いながら、彼女は娘・利子の頭に一発、ゴツンと軽くげんこつをくらわした。

「いったーい!!」

利子が悲鳴を上げ、

「ちょっと、佐天さん、いくら娘だって、女の子にそんなことしちゃダメでしょ!」

美琴が、それは予想しなかった、やりすぎよ、という顔で涙子を怒る。

「これぐらいしないと、このバカ娘にはこたえませんから。上条さんだって、麻琴ちゃんに結構やってましたよ?」

「う」

確かに以前は、そう、最近では麻琴が勝手に利子を学園都市に連れ出した時、湾内絹保の勤める第1中央能力開発センターで、

美琴は娘麻琴を怒りにまかせてひっぱたいたのであった。
816 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:37:45.43 ID:YtZjj4080

「ま、そ、それはそうかもしれないけれど、拳固はダメ、拳固はね。ってそんなこと問題にしてるんじゃないのよ!」

「問題にしたのは上条さんですが?」

しらっと涙子が応える。

「あー、もう! 話を戻すわよ! 利子ちゃん、あなたへの処罰! 学園都市に戻った日から数えて90日、再出国は禁止!

わかった?」

「えーっ? 90日もですか?」

利子が不満そうに口をとがらせて言う。

「何言ってるの、ホントなら半年間は確実なのよ? 半分で済んだんだから有り難く思いなさいね? それとも奨学金没収がいいかしら?」

美琴は厳しい顔を崩さずに言い放つ。

「そ、それは困ります! 奨学金ゼロは悲しいですから!! ……わかりました。90日再出国禁止、ガマンします」

「利子、ガマンするって話じゃないのよ? あんた、ホントに反省してるの?」

「……反省してます……」

不承不承という感じで利子が頭を下げる。

「反抗期かしらね」

「反抗期ですね」

美琴と涙子が顔を見合わせてつぶやく。

それが利子にはおもしろくなかったらしい。

彼女の態度が豹変した。
817 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:39:48.31 ID:YtZjj4080

「なによ、母さんたら、あたしを子供扱いして! いいわよ。もう知らない! あたし、学園都市に戻る!

早く帰れば、その分、謹慎の解禁日だって早くなるんだし。お友だちにも申し訳ないことしちゃったから、早く帰って謝らなきゃ!

上条さん、済みませんでした。ご迷惑ばっかり掛けてしまって本当に申し訳ありません。骨折って頂いて有り難うございました。

以後、気を付けます!! 失礼します!」

所謂、逆ギレというヤツだろうか。

一気にまくし立てると、利子はバッと立ち上がり、ドアの前で美琴に頭を下げると、荒っぽくドアを開けて外へ出てドアを閉めた。

ダダダダダダと階段を荒っぽく駆け上がる音が響いた。

残された美琴と母・涙子はぽかんと口を開けていた。



「あちゃー……」

「弄り過ぎたかしら」

「年頃だしね……」

「まぁ、大丈夫ですよ、あの子は」

「……ちょっと、佐天さん? でもこんな状態で、あのこと、利子ちゃんに言うのは……」

「……そうですね。今日は止めておきます。あんな状態では聞く耳持たないでしょうし。まぁ本人が知っているのなら、わたしがあわてて

言うこともないでしょう」

「そう? なら良いんだけど……でも、珍しいわね、あんな利子ちゃんは……」

「あら、わたしとはしょっちゅうでしたよ? まぁ親娘ですからね」

自信たっぷりにいう涙子を、美琴は(へーっ)という顔で眺めていた。 
818 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:41:47.49 ID:YtZjj4080

(母さんのバカ! バカバカバカ!! なにが反抗期ですね、よ! ちょっと甘えてあげたらいい気になってさ!

もうずっと戻ってあげないから! あたし、学園都市にずっといてやるから!)

頭の中で憤然と文句をぶちまけながら、あたしは荷物を纏めてそーっと部屋を出た。音を立てずに階段を下りる。

(よし!)

靴を履き、そっと玄関の扉をあけ、外へ抜け出し、同じように扉をそっと閉めた。

(お母さんのバカ!! もう帰ってきてやるもんか!)

そう言い捨てて、門をそーっと抜けだし、元通りにそーっと閉めておいた。

母も美琴おばさんも出てこない。

(よし、脱出成功!! さーて、とっとと学園都市に戻るぞ!)

そう意気込んで振り向いたわたしは、一瞬息が止まった。



人が立っていたからだ。

「あらあら、利子ちゃん、どこへ行くのかしら? おばちゃん家には来てくれないのかな? せっかくの夏休みなのに?」

優しい笑顔を浮かべた上条詩菜大おばさまだった。
819 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:45:25.23 ID:YtZjj4080

結局、あたしは大おばさまを振り切れず、その日は上条家に泊まることになってしまった。

美琴おばさんが来たらどうしようか、とものすごくビビっていたのだが、幸いなことに、おばさんは戻ってこなかった。

晩ご飯の時にそれとなく詩菜大おばさまに聞いてみたら、美琴おばさんは朝に立ち寄って、忙しいのであたしの家に寄ったら

もうそのまま学園都市に帰る、と言っていたらしい。



久しぶりに、詩菜大おばさまとの晩ご飯。

よく考えれば、まだ半年も経っていないのに、すっごく長い時間、一緒にごはんを食べていなかったような気がする。



あたしは久方ぶりの大おばさまのご飯をばくばく食べながら、母に対する文句を全部大おばさまにぶちまけた。

大おばさまは「まぁ」「あらあら」「それは言い過ぎだわ」とか適度に相づちをうちながら、穏やかな顔のまま、ずーっとあたしの

話を聞いてくれた。

いい加減、文句を言うのにも疲れて、あたしは黙った。同じ話を2回しちゃったことに気が付いたし。

しばらく経って、大おばさまが優しく、あたしに言った。

「利子ちゃんね、あなたがずっと大きくなって、結婚して、子供が出来て、その子が大きくなった時にあなたもわかると思うんだけれどね。

あのね、親からすれば、子供は、いくつになっても、親から見れば子供なのよ。

おばちゃんだってね、当麻は今でもあたしから見たら子供なのよ。麻琴という娘が、16になる娘がいる父親でもね、あたしからすれば、

やっぱり子供なのよ。親だけに許された特権、とでもいうものかしら。

あなたからすれば、いつまで子供扱いするの、もう止めてよ! って思うでしょうけれど、そこは笑って許してあげて欲しいの。

……親から見れば、子供が一番可愛いのよ? そりゃ、孫は可愛いわよ? でもね、おばちゃんの一番可愛いのは、一番はやっぱり当麻なのよ。

だって、わたしの息子、わたしの子供なんだから」

820 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:48:59.32 ID:YtZjj4080

そういうもの、なんだろうか? あれだけ可愛がっていた麻琴より、当麻おじさんの方が詩菜大おばさまは一番可愛いと言う。

とてもそんなふうには見えないけれど……

母さんも、あたしが一番可愛いんだろうか……あれだけケンカしていても? 

まぁあたしも母さんが一番大切なのは間違いないけど。



はた、と思う。『あたし』のママ、麦野さんは、どうして『あたし』を捨てたのだろう?

よっぽど何かあったのだろうか。一番可愛いはずの、自分の娘を、何故?

……そうだ。あの写真を見る限り、間違いなく麦野さんは『あたし』を愛していた様に見える。

あんなに嬉しそうな、幸せそうな顔をしていたのに……

どこで、どうして『あたし』は佐天利子になったんだろう?



……おっと、これ以上深みに入ってまた暴走されては大変だ。止めよう。

(なによ? あたしは冷静だからね!) わ!!! 起きた!! お願い、静かにしてて!!

(ちょっと、もう一度言うからね? 『あたしは冷静ですから』、宜しく!)

はいはい。わかりました。よくわかりましたから!


「利子ちゃん? ところで学校はどう? 楽しい? 麻琴ちゃんとは会ってるの?」

おお、詩菜大おばさま、ナイスな話題ですね、助かります!

あたしは、お友だちとの話をした。麻琴と漣くんの話だけはちょっと省いて。

大おばさまは知らないのか、特に尋ねてくることもしなかったし。

はー、でもご飯美味しかったぁー。
821 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:50:26.11 ID:YtZjj4080



「あらあら、こんばんは。佐天さん」

「すみません、やっぱりそっち行きました?」

「ええ、来てますよ。もう寝ましたけれどね。良いタイミングで捕まえましたわ、ホントに」

「なんか言ってました?」

「ええ、たっぷりとあなたの悪口をね。でも羨ましいわ、なんだかんだ言って、利子ちゃんはあなたを信じてる、愛してることが

よくわかったわよ? あたしにも分けて欲しかったわ。あんなに可愛がってたのにね」

「あはは、そうですか。それはどうもすみません。でも親冥利に尽きますね、有り難うございます」

「あらあら、ごちそうさま。でも、親離れも少しずつ進んでるようだから、あんまり笑っていられないかもね。

佐天さん、耐えられるかしら?」

「んー、たぶん大丈夫でしょう」

「うふふ、そう言って案外ボロボロ泣くんじゃないの?」

「! ……まぁ、そのときはそのときで。その日が来るのを楽しみにしてて下さいよ」



佐天涙子と上条詩菜の電話はその後も続いた……
822 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 21:54:52.84 ID:YtZjj4080

「利子ちゃん? タクシー来たわよ?」

「あ、ハイ。すみませんでした」

「お母様に言わなくて、ホントにいいの?」

「いいんです。今、ケンカ中ですし。今顔見たら、また始めちゃいそうですから。すみませんけれど言わないで下さい」

「あらあら、大変ね(そうは言ってもクルマの音でわかっちゃうけど?)」

「じゃ、おばちゃん、行ってきます。昨日はあたしの相手してくれてどうも有り難う。母をお願いします」

そう言ってあたしは頭を下げ、タクシーに乗り込んだ。

「XX駅までお願いします」

「はい、ドア閉めて良いですか?」

「ハイ、お願いします」

あたしは運転手さんと会話したあと、窓を開ける。

「じゃ、おばちゃん、またしばらく帰れないけれど、元気でね?」

「はいはい。身体には気を付けるのよ」

「はーい」

タクシーが走り出した。



ウチの前。



母が立っていた。手を振って。

一瞬、目が合った。

(いってらっしゃい) そう言っていた。

あたしは複雑だった。

(ごめんなさい)という素直な気持ちと、(知るか、勝手に立ってろ)という突っ張った気持ちとが入り交じって。



どっちにしても、あたしは90日、ここへは帰って来れないのだ。

佐天利子、学園都市へ戻ります。

じゃあね、お母さん。
823 :LX [sage saga ]:2011/03/19(土) 22:00:18.25 ID:YtZjj4080
最後までお読み頂きました皆様、どうも有り難うございました。
>>1です。

本日の投稿、東京編は完了致しました。

さて、この後は最後のネタになります。前半は出来ておりますが、後半が私にとって
非常に難しい、苦手な部分になりますのでお時間を頂くことになると思います。
気長にお待ち頂けると幸いです。

それでは今日はこの辺で、お先に失礼させて頂きます。
有り難うございました。
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/03/19(土) 22:06:54.20 ID:P7coiRlAO
乙!!

いつもありがとう、気長に待ってるよ!!!
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/03/20(日) 12:53:37.27 ID:NtCpaArco
「いってらっしゃい」が全てを表してるなあ。
内側の利子にもその言葉を掛けてもらえる日が来るといいね。
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/21(月) 08:49:31.64 ID:H7Z17ajIO
乙です
なんか親の知らないところですげぇ成長してるんだな
しかし次が最後のネタ…その後は第三部か
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/03/22(火) 11:46:49.11 ID:wR++oBmC0
相変わらずいいな乙
828 :LX [saga ]:2011/03/25(金) 21:17:28.78 ID:TMbp+G1V0
皆様こんばんは。
>>1です。

当初は、>>823で記しましたように一気に最後まで投稿するつもりでおりましたが、
スレッドの残がもう850に近いところまで来ておりますし、一方自分は1000に納めたいと
考えておりますので、今回どれくらいスレを消費するかテストを兼ねて投稿してみます。

それではこれより本日分、投稿を始めます。
829 :LX [sage saga ]:2011/03/25(金) 21:19:29.27 ID:TMbp+G1V0





なんやかんやで初めての夏休みは終わった。

スタート直後は楽しかった。

が。

あ〜思い出したくもないことだらけ。

ろくなもんじゃなかった。

大半の寮生はさっさと帰省していて、ガラガラの寮内にいたのは、意図的に帰省を遅らせた人たちや、学園都市内に用事があるひと

(風紀委員<ジャッジメント>等)、そして………あたしを含めて問題を起こした6名。

戻った時、真っ先にあたしは湯川先輩のところへ行った。

めちゃくちゃドヤされることを覚悟して。

予想外に先輩は怒らなかった。

逆に、

「私もうっかりしてて、あなたと大里さんがケガして手当受けた事、自分たちからバラして大事にするところだったわ。

馬鹿なことしてごめんなさい。診断書なんかもらう必要無かったのよ。もらいに行かなかったら、佐天さんはあそこで能力の

暴走を引き起こさなかったかもしれないし。本当にごめんなさい。全部私の責任ですから」

とまで言われてしまった。

そういう見方も出来るのかも知れない。でも、そもそもは、あたしが海に落ちなければ全て起きなかった……であろうこと。

あたしの不注意から全ては始まったのだ。

「先輩、もう止めましょう。そもそもは私の不注意からなんですから。それより90日の出国禁止だけで済んだ事を感謝しないと」

「そうね。大覇星祭期間と独立記念日がその間に入っちゃうのは残念だけど、お正月は帰れるものね。割増奨学金没収とか

入ってたらホント悲しいことになってたしね……上条さんにはまたこれで頭が上がらないわね」

その通りだ。



でも、あたしはおばちゃんに……

830 :LX [sage saga ]:2011/03/25(金) 21:21:32.17 ID:TMbp+G1V0


今日は始業式。

あたしたちは朝のバスを待っていた。

こんがりと焼けて良い色している子も多い。久方ぶりにこのエントランスにも女子高生があふれている。



しかし。

「……湯川先輩、ところでバス、いつになったら来るんでしょう? 遅いと思いませんか?」

「そうね、もう8時15分だわ。今日からみんな学校始まるから、渋滞してるのかしら? まぁバスが遅れても遅刻にならないから

良いんだけど……あら?」

湯川さんが携帯を取り出す。

「はい、ええっ……なんですって!?」 

湯川さんの驚きの声が響き、周囲が一瞬静まりかえった。



「爆発、ですか? はい……はい、あたしたちの、はい、乗客は?……そうですね、確かにこの時間には……良かった……

そうですね、それは確かに不幸中の幸いかと……了解しました。……はい、学校から寮へは別に連絡はあるのでしょうか?

……はい。わかりました。では」 

湯川さんは電話を切ると、カバンから風紀委員<ジャッジメント>の腕章を取りだして左腕に着用し、左耳にイヤホンマイクを掛け、

4つ折りになっていたスピーカーパネルを取りだした。

爆弾? もしかしてあたしたちの乗るはずだったバスに? どうして通学バスに?

「風紀委員<ジャッジメント>の湯川です。皆さん、これから皆さんにお話があります!」

湯川さんは、本来バスが止まる場所に出て行き、スピーカーパネルをそこに敷いた。

「もう一度申し上げます」 

スピーカーパネルから湯川さんの声が拡声される。

「私は、風紀委員<ジャッジメント>77支部の湯川宏美です。これから皆さんに重要なお知らせを致します。

私たちが乗る8時10分発の通学バスが来ていないことにお気づきの方は多いと思います。

先ほど第7学区アンチスキルから第7学区風紀委員会<ジャッジメントステーツ>を通じて連絡がありましたが、そのバスは

高校からこちらへ戻る途中に、爆発炎上したとのことでした!」
831 :LX [sage saga ]:2011/03/25(金) 21:24:53.64 ID:TMbp+G1V0

どよめきが伝わる。

「リコ、怖いよ……」 

カオリんがあたしの腕をつかんできた。

「うん、帰り便で良かったと思うわ……」



「幸いなことに、戻りのバスだったために乗客はいなかったことが確認されており、人的被害は付近を走行中のクルマのドライバー数名と、

歩行者数名に軽傷者がいる模様ですが、重傷・死亡者はゼロ、との速報が入っています」

無人バスだから、運転手さんの被害はないわけだ。とばっちりを受けた人には本当にお気の毒としか言いようがない。

行きだったら大惨事になっていたわけだから、そう考えると、本当に不幸中の幸いだったと思う。

「アンチスキルからは、私たち教育大付属高校生徒に対して登校の一時見合わせを要望しているとの話で、現在高校では緊急会議を

開いているとのことです。すみませんが、ここにいる全員は一旦寮へ戻り、別途指示あるまで寮内での待機をお願い致します!」

みんなは不安そうな顔をしつつ、もしかしたら今日は休校かも? という期待を持って寮内へ引き上げてゆく。



「湯川先輩、これからどうするんですか?」

あたしは湯川さんにお手伝いすることありませんか?というニュアンスで問いかけた。

「あたしは、風紀委員<ジャッジメント>として、これから77支部に出かけます。支部員は全員集合だから。じゃね」

そう言いながら、湯川さんはスピーカーパネルをまた折りたたんでカバンにしまい込んでいた。

「あ、あの、何かお手伝いするようなことは……?」

あたしは今度ははっきりと聞いてみた。

すると湯川さんはニッコリ笑って

「ありがと。お気持ちだけ頂くわ。あなたは寮に残って、みんなの様子を見ていてくれるかな?」

そう言って、湯川さんは走っていった。

(あはは、体よく断られたわね)ちょ、いきなりなによ、あんた、こんな時に。

うるさーい! みんなを見てろって指示をもらったのよ!……って、違うよねぇ……お呼びでない、か。



結局、今日あたしたちの学校は休校となった。
832 :LX [sage saga ]:2011/03/25(金) 21:29:43.24 ID:TMbp+G1V0

既に登校していた人たちは、アンチスキルが用意した装甲車や輸送車などで帰寮してきた。

滅多に乗れない(乗るときはろくでもない場合、だ)クルマに堂々と乗れた、と喜んでいる子も多かった。

一斉に帰寮してきた人数が多かったので、さすがにゲートチェックはオフとされ、門で学校の先生と寮監のチェックでクラス毎に

点呼が行われて入寮した。

寮の前に赤灯をクルクル回した沢山の装甲車が止まり、その装甲車から制服姿の女子高生がぞろぞろ降りてくるという光景は

かなりシュールだった。

例によって学園都市内のマスコミも沢山押し寄せてきていて、2階で見ていたあたしは過去の経験を思い出し、憂鬱だった。

「リコのときもこんな感じだったの?」     カオリんがアタシの顔を見る。

「うん」      あたしは簡単に返事を返した。

「あ、ゆかりんだ。ゆかりーん!!!」     カオリんが手を振る。 下の方では、ゆかりんが手を振っている。

「カオリーん!」     お、さくらだ。

「さくらー! 無事でよかったねー!」  あたしはさくらに手を振ってあげる。

「りこちゃーん!」    さくらが跳ねていた。


夕方。

食堂は大混雑だった。

一応全員が座れる設計になっている、とはいえ、全員が食堂に集まることなどは普段はないことなので、あたしたちもその光景には

びっくりしていた。

食堂にスクリーンが展開されている。こんなものがあったとは知らなかった。

「こんなに人、いるんだね……」   カオリんがしみじみと言う。

「うーん、みんなじょしこーせーだねぇ」  あたしらだってそうだよ? あたりまえでしょ、ゆかりん?

「おなか減ったよー」   さくら、あんた正直だよ。あたしも一番それが不安。
833 :LX [sage saga ]:2011/03/25(金) 21:34:01.61 ID:TMbp+G1V0

寮監の赤垣さんがマイクを使って話し始めた。

「全員揃ったようなので、それでは説明会を行います。静粛に!! それでは第7学区アンチスキル第17グループリーダーの

秋山さんに説明をお願いします。全員、起立! 礼! こんにちは!」

「「「「「こんにちは!」」」」 

全員が一斉に挨拶すると、食堂のガラスがびりびりと震えた。



「みなさん、秋山です。早速ですが、今朝起きました『教育大学付属高校送迎バス爆破事件』についてご説明致します」

秋山さんが説明を始めた。

「爆発事故」ではないらしい。「爆破事件」と秋山さんは言った。 テロなんだろうか?

「発生時刻は本日午前7時58分13秒、発生場所は学園都市第7学区、エリア6の放射3号線、通称『あおば通り』の

内回りで、爆発地点は343の2です」

スクリーンに画像が映し出される。いつも帰りに通るところ、だ。

「放射3号線の監視カメラの映像です」

左からバスが走ってくる。確かに誰も乗っていない。不幸中の幸い、だ。

右に消える瞬間に炎が上がったのが見えた。

「今の?」
「そうかも」
「肝心なところは撮れてないんだね……」

ざわめきが食堂に広がる。

「次に車内の監視カメラです」

車内カメラだからか、ほんの僅か、ビビリ振動がある画像。

突然真ん中から床がふくれあがり閃光が走って画像が消える。

「ひゃぁっ!」
「キャッ!」
「わっ!」


その瞬間、食堂のあちこちで悲鳴が上がった。

「(乗ってたら)死んでるよね」
「怖いよ、もう乗れないよ……」
「やだ、あたし、夢に出る……」

あちこちでひそひそとしゃべり合う声が低周波音のように食堂を包み込む。
834 :LX [sage saga ]:2011/03/25(金) 21:37:13.18 ID:TMbp+G1V0

「お静かに!お静かに! ショッキングな画像でしたかもしれませんが、現実をよくお解り頂けたと思います」

秋山さんが説明を続ける。

「バスは中心部から後方にかけて大破しました。回送運転のため、運転者及び乗客がゼロで死傷者はバス自体にはありませんでした。

一方、この爆発の破片で後方を走っていた車2台に損害、対向車線に飛んだ破片が通りかかったクルマの窓ガラスを破壊、

さらに急ブレーキを踏んだこのクルマにその後のクルマが追突しました。

追突された、最初にバス部品で損傷したクルマの運転者は軽いむちうち症と擦過傷。追突したクルマの運転者は軽い打撲傷で済んでいます。

あと、この他、たまたまこの場所にいた歩行者3名が飛んできた部品で軽傷を負っています。

軽いやけどと打撲傷、打撲傷、擦過傷という内容です」

画像が切り替わる。

「これが、本日昼過ぎ、複数のマスコミ、アンチスキル、風紀委員会<ジャッジメントステーツ>に送られた犯行声明文です」

はー、まるで、アクション映画だ……



「これは あくまでもデモンストレーションにすぎない

われわれは 学生をはじめとするなかまたちの血が流れることをこのまない

それは おなじく 実験動物のように取り扱われている 学生 学童 児童にもいえる

警告する ただちに人権無視の能力開発を中止せよ

なかまたちの こどもたちの 血を流す冷酷無比の実験をただちに廃止せよ

これは 要望ではない 命令だ」



うーむ。なんとなく、理解できるような部分もある、テロ集団の声明文だ。

「現在、我々アンチスキルでは、この文書を調査中です。具体的には申し上げられませんが、犯人逮捕までは時間はかからないと

考えています」

「それは、どのような理由で、『時間がかからない』と判断されているのでしょうか?」  

おー、湯川さんが質問した!

「すみません、それについてはお答えできませんが、『時間がかからない』ことについては、我々は自信を持っています」

秋山さんが丁重に、でもなんの回答にもなっていない回答をした。まぁ捜査中だものね……。

「有り難うございました」

寮監・赤垣さんがアンチスキル秋山さんの話を終わらせた。
835 :LX [sage saga ]:2011/03/25(金) 21:40:24.65 ID:TMbp+G1V0

「次に、皆さんが一番気になっている明日のことですが」    赤垣さんが言葉を続ける。

「とりあえず、明日も学校は休校になります」

「やったー! 連休だぁー!」   ゆかりん、ソレ正直すぎるって!!!

どっと笑い声が巻き起こる。

「え、気持ちがわかるような合いの手でしたね?」   赤垣さんが苦笑する。

「ただし、外出も禁止です!」


「えー!!!」
「そんなのないよぅ!」
「意味無いじゃねー!」
「何よそれ〜」

悲鳴と不満のブーイングが食堂一杯に広がる。 

「静かに! 静かに!!」   赤垣さんが大きな声で静止を掛ける。

秋山さんが(まぁ仕方ねぇよなー)という顔で苦笑いをしている。

「各人の携帯に、学校からメールが届いているはずです。それが、明日の、皆さんの自主勉強の設定目標になっています。

寮内の移動は制限されていませんから、お友だちの部屋でやるも良し、会議室を使うも良し、天気が良ければ庭でやるも良し、

です。どこでもかまいません。ただし、外へは出られません」

あきらかにさっきより大きなブーイングと絶望の悲鳴が響き渡る。

「ケーキ食べながら勉強できるんなら、あたし、その方が良いなぁ」   あたしはつぶやいた。

「リコ、そんなの1週間続けたらあんた、絶望的な変化がウエストに起きてると思うな……」   カオリんが突っ込んできた。



「あの、あたし、風紀委員<ジャッジメント>なんですが、出られないのでしょうか?」   

湯川さんが質問する。

「風紀委員<ジャッジメント>の方は、こちらでも把握しています。後で委員の方はあらかじめ届けを出しておいて下さい。

出動要請はこちらでも把握できますが、出入りがあると思いますので、その際はIDカードチェッカーを使って下さい。

守衛室に用意します」

あたしは、ちょっと気になっていたことを訊いてみた。

「あの、犯人たちの目的からすると、目標<ターゲット>はあたしたちの学校だけじゃないのではないですか?」

秋山さんがマイクを持って答えてくれた。

「その通りです。禁足令は今回、学園都市全ての学校・幼稚園・保育園に適用されました」

食堂がどよめいた。
836 :LX [sage saga ]:2011/03/25(金) 21:54:45.94 ID:TMbp+G1V0


集会が終わった。

ぞろぞろとみんなが食堂から出てゆく。

ページングがかかる。滅多にないことだ。

「さてん、としこさん、佐天利子さん、面会の方がいらっしゃっています。正面玄関へお越し下さい」

ええっ? あたしの呼び出し?? それに、面会? こんな時間に? 誰だろう? あたしに面会なんて?

ふとあたしは携帯を見てみる。 

げ、着信が沢山! なんで気が付かなかったんだろ?

誰から? あ、麻琴からだ!

正面玄関に行くと

「リコ!!」

そこには上条麻琴が立っていた。

「マコ! 元気だった?」

「あったりまえよ〜♪」

あたしたち二人は、キャッキャッと声を上げながら跳ね回っていたが……… 



ふと気が付くと、寒い。

目一杯顰蹙を買っていたようだ。

「す、すみません……」
「失礼致しました……」

あたしたちはそそくさと面談ルームに待避した。

周りの寮生の視線が痛い。



麻琴が注目を浴びるのは、本人の顔立ちもさることながら、その制服。常盤台高校のものだからだ。

麻琴は柵川中学三年の時、年末の能力チェックで見事レベル3になっていた。

家族と相談の結果、常盤台高校へ進学することに決めたのだそうだ。

一番喜んだのは、実は学校法人常盤台学園らしい。中学三年生に進級する時点で上条麻琴は東京から学園都市に転入することに

なっていたが、その際にも常盤台学園は積極的にアプローチしてきていたという。

今や学園都市の顔、ともいえる上条美琴おばさん自身が卒業生であり、その娘ということなれば、例えタダでも、いやお金を払ってでも

迎え入れたい学生であることは間違いなかっただろう。
837 :LX [sage saga ]:2011/03/25(金) 21:58:48.18 ID:TMbp+G1V0

問題は2つあった。

1つは、彼女が当時は公称能力はレベル1であったこと。常盤台はレベル3以上でないと入学できないという規則があるのだ。

まぁ、あの時は学校自身がその規則をねじ曲げてでも入れたかったらしいけれど、高校入試時点では既にレベル3だったので、

学園都市転入時の時の問題は全くなくなっていた。

もう一つは、常盤台はお嬢様学校なのだが、麻琴はどう逆立ちしてもお嬢様には「リコ?どしたの?」

麻琴がアタシの顔をじっと見ていた。

「わ!?」

「リコ、戻ってきた? 相変わらず、どこかへ飛んで行くのね…… 非常時にそんなことじゃ生きて行けないよ?」

おいおい、ずいぶんだね、マコ。

「どうしたのよ、なんであなた、出歩いてるの?」

あたしは麻琴に訊いてみた。

「あのねー、あたし、風紀委員<ジャッジメント>なんだけど?」

「あ、そうだったよね? ゴメン、ピンと来なくてごめんね?」

麻琴はふくれてムスッとした顔になった。

「はいはい、いいんですよ。あたしなんか、どうせ忘れられてゆく存在なんだわ……」

おいおい、マコ、どうしたんだ? 何をそっぽ向いて拗ねてるんだ? あ、もしかしたら……そうか、わかった。

「マコ? なーに、拗ねてるのかなぁ? んー? ほーら、リコねえちゃんに言ってごらん?」

あたしは麻琴の隣に座り、頭を引き寄せ、胸に押しつけてさわさわと髪を撫でてやった。

「そ、そんなことで、あたし、ごまかされ、ふにゃ〜」 

果たせるかな麻琴はごろにゃーん、とゴキゲンになった。

もちろんあたしも癒されている。うん、ずーっと長いことこの感覚忘れてたなぁ……。
838 :LX [sage saga ]:2011/03/25(金) 22:02:07.82 ID:TMbp+G1V0

ブーンと麻琴の制服の胸ポケットが振動した。

「携帯……?」

あたしが優しく麻琴に教えてあげると、

「うん、今、大変だからね、リコ? いい、外に出たらダメだからね?」 

麻琴が残念そうにあたしから離れた。

彼女は胸ポケットから小型の携帯を取りだした。

「この制服はね、電撃能力者<エレクトロマスター>対応だからね、普通の携帯入れてても大丈夫なんだけど、重いのよ」

そう言いつつ麻琴はパチパチと携帯を細長く伸ばして片側を耳にひっかけた。

「はい、上条です……はい、今は教育大付属高校にいます……はい、では合流して、…………え? は、はい。では直ぐに!」

「頑張ってね?」

あたしは会話の様子から、麻琴が直ぐに出発するのだろうと予測した。

「有り難う、リコ。 安心してていいよ? もうすぐ決着しそうだから。じゃ、出かけるね? 落ち着いたらメールするね!

また一緒にケーキ食べに行こうね?」

麻琴は立ち上がる。

「うん! 楽しみにしてる。ケガしないようにね!」

あたしも一緒に立って、笑って部屋を出る。

「大丈夫。リコじゃないもーん!」 

グサ! あ、あんた、あたしが一番気にしてるところを〜(怒



玄関へ出ると湯川さんの他に4人、全員が風紀委員<ジャッジメント>の腕章を着けて立っていた。

「こんにちは、上条さん。ご苦労様です。うちの学校のメンバーを御紹介しますね」

湯川さんが挨拶する。

「あたしは、初めて、かな? 77支部の佐藤景子(さとう けいこ)です。馬場さんと同じ3年生です」

「あたしも初めてですね。57支部の平松唯(ひらまつ ゆい)です。1年生です」

「初めまして。57支部の舟橋静香(ふなはし しずか)です。3年生です」

「こんにちは。77支部、馬場夏美(ばば なつみ)です。当校の風紀委員<ジャッジメント>代表で、3年生です」

そうか、あたしたちの高校には風紀委員<ジャッジメント>が最低でも5人いるわけだ……。57と77,二つの支部に

固まっているみたい……

「こ、こんにちは! 177支部に所属します上条麻琴と申します。湯川さんにはいろいろとお世話になっています。1年生です。

宜しくお願いします!」 

麻琴がちょっとあがってる。がんばれ! マコ!!

「じゃ皆さん、早速行きましょう!」

2年生の湯川さんが号令してる……さすが、湯川さんだ……。

6人の女子高生が夕方の街に消えていくのをあたしは見送った。

839 :LX [sage saga ]:2011/03/25(金) 22:19:58.07 ID:TMbp+G1V0
>>1です。
最後までお読み頂きまして有り難うございました。

>スレッドの残がもう850に近いところまで
日本語がおかしいですね。スレッドのカウンターが、と書くべきでした。すみません。

えー、自分では沢山投稿したつもりだったのですが、わずか10ほどですので、これであれば
今後コメントを頂いても、第二部の登場人物紹介を入れても恐らく余裕で大丈夫だと思います。
お騒がせ致しました。

現在、前と後から、書きやすい方を選んで挟み撃ちの形でちびちび書いています。
書き進めていくうちに1人が鬱ルートに入り込んでしまい、その人の性格からすれば絶対に
書き上がっているラストシーンには繋がりっこないはず、ということで書き直すべきか
悩んでいます。困ったことに、鬱ルートの方が実際にはありそうなので余計にどうしたものかと。

それでは本日、失礼させて頂きます。どうも有り難うございました。
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/25(金) 23:56:40.03 ID:dsAJKThqo
乙!

もうすぐ終わっちゃうのかー
残念だわー
でも楽しみにしてる

欝ルートは別スレ立てて書いちゃえばいいんじゃないかなチラッチラッ
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/03/26(土) 11:55:01.70 ID:a3JSYHZio
おおう、次スレもあるのか、楽しみだ。
利子の話はこのスレでひとまずの終わりを迎えるのかな。
欝ルートは例えどんなに重くても納得できる話ならそれでもいいと思うよー。
842 :LX [saga ]:2011/04/03(日) 20:16:04.17 ID:eyIoQtLM0
皆様こんばんは。
>>1です。

次の投稿は最後まで一気に、と考えて前と後から書き進めておりましたが、
まだ時間がかかりそうなので自分にプレッシャーを与える意味も込めて、
本日、少しですが投稿致します。
宜しくお願い致します。
843 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 20:18:08.78 ID:eyIoQtLM0

「待って! 長坂くん!!」



目が覚めた。

その瞬間、目覚ましが鳴った。7時。

一瞬、あたしは自宅にいる気がした……が、窓を通して遠くに見える大きなプロペラが、ここは学園都市、ということを示していた。

「なんて夢、見たんだろ……」

あたしはちょっぴり悲しかった。

まだ1年くらいしか経っていないのに、ものすごく昔の話のように思えてしまう。あのときのあたしが、別人のように思える。

「あ、そうか、今日は自宅待機か……」

あたしは時計代わりにしているテレビをいつものようにつけた。

あれ? いつもの通りの番組だ……? 

ザッピングしてチャンネルを切り替えてみるが、みんな平和な番組をやっている。

いいんだろうか? 昨日はあれだけ大騒ぎになっているのに? テレビ局だってきていたのに?

(解決しちゃったのかな? まさか、休校取り消しなんてことはないよね?)

あたしはケータイを弄くって、自分の学校の連絡掲示板にアクセスしてみた。

「本日は都合により全ての授業は休講になります」となっている。昨日のままの状態だ。

(食堂に行ってみようか)

あたしはそう考えて顔を洗い、トレーナーに着替えて部屋から出た。

「おはようございます。佐天でーす」

あたしはいつものように隣の湯川さんのインターホンを押して挨拶してみたが……返事がない。

「まさか昨日から帰ってきてない……なんて、ね?」

まさかね。

でも、なんか嫌な予感。

あたしはパタパタとサンダルのまま食堂に向かった。
844 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 20:21:01.63 ID:eyIoQtLM0

食堂にはかなりの人がいた……が、雰囲気が暗い。

これから学校に行くのか……あーいやだ、という月曜日の朝の暗い雰囲気とは全く違うものだ。

あちらこちらでひそひそ話をしているのが目に付く。

まさか、湯川さんたち……そうだ、麻琴は?

いけない、携帯おいてきた!

あたしは部屋にとって返した。

オートロックチェッカーに手を当てるのももどかしく、あたしは部屋に飛び込んだ。

ケータイは? あ、あそこだ!



着信はない。

あたしは麻琴にまずメールしてみた。「大丈夫?」



……返事が来ない。メール出来ない状態なのだろうか?

いよいよ心配になってくる。どうしたんだろう? 麻琴がメール出来ない状態なら、湯川さんも同じかもしれない。

もう一度食堂に降りていってみようか……誰か知っているかもしれないし……。

と、着信! カオリんだ。

「リコ?起きてる?」 

スゴイせっぱ詰まったような声。

「カオリん、どうしたの?」

あたしはカオリんのその声に驚いた。何かが起きた?

「なんか、戦闘?があったらしくて、風紀委員<ジャッジメント>にもけが人が出てるって……。昨日の爆破テロなんかの一連の

騒ぎが大きくなってるみたいで、なんか大変みたいなの! 今どこ?部屋?」

カオリんが声を落としつつ、衝撃的な情報を送ってきた。

「あたしはさっき食堂に降りたんだけど、ケータイ取りに部屋に戻ったら、カオリんから電話が来たの! カオリんは?」

あたしもカオリんに合わせて声が低くなる。

「食堂にいる。さくらもゆかりんも、さえちゃんやミコもいるよ。良かったら降りてきて?」

「わかった。直ぐに降りるね」

あたしは部屋を出て、食堂に向かった。
845 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 20:24:03.89 ID:eyIoQtLM0

「リコ、こっちこっち!」

さくらが手を振っている。

「おはよ!」
「どもども」
「おはようございます」
「あ、お、おはようございます」

「リコ、とりあえずなんか食べるもの取って来なよ? あたしたちもこれからだし」

カオリんがビュッフェコーナーを指さして言う。

「うん!」

あたしはトマトジュースとハムサンドを3つ取って席に戻った。

あたしたちのクラスの仲間数人は食堂の一角に陣取った。

「どうなってるの?」 

あたしはさっきの話をもう一度聞きたかったので、カオリんに聞いてみた。

「まずね、テレビやFMじゃ全く何も報道してないのよ。異常だわね。」

カオリんがあきれたように言う。

「あたしの自動書記<オートセクレタリ>でね、寮監が電話してる声をそのまま書き取ってみた訳なの。

断片的なのは、相手の話まではあたしは聞き取れないからこういうふうになる、ってわけ」

おお、ゆかりん、そんなことも出来るんだ……。

”はい 20時17分頃 ええ 4名 いいえ頭領からは5名です はい それは知りません はい 確認します 

ジャッジメント中央病院に3名 瑞穂外科病院1名 1名は無事ということですね わかりました それで状況は

そうですね まだ詳しいことは言わない方が ですがいつまでも黙っていることは わかります でも帰ってこないことは

いずれわかりますから きちんと説明すれば 仕方ないですね もう一度確認します 現在潜伏逃走中と言うことですね

わかりました 警戒は引き続き厳重に致します お疲れ様です やってられねぇな ああ どうしたものか”



「ほぉ、自動書記<オートセクレタリ>ってこうなるのか……」

あたしはちょっと感心した。
846 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 20:28:34.98 ID:eyIoQtLM0

「そ、口述速記なんか、完璧だよ? 全然疲れないしさ」

ゆかりんがちょっと自慢げに言う。

「でもさ、喋った言葉をそのまま文字にしてゆくソフトなら随分昔からあったような気がするけど、それとどこか違うの?」

さえちゃん(遠藤冴子)が丸い目をさらにまんまるにしながらゆかりんに尋ねる。ソレきついかも?

「あー、そういうのもあったけど、結構間違いが多くて使い勝手悪かったらしいよ?」

ゆかりんがへっ、と言う感じで返す。

「この『頭領』ってなに? 『当寮』じゃないの?」

あら〜、ミコ(斉藤美子)がとどめを刺しちゃったよ…………

(いいんですよあたしはどうせ役に立ちませんよええそうですともなにさ感じ間違えたぐらいで)

ゆかりんの心の声が紙をはみ出してテーブルに書き付けられてゆく。

「ゆかりん、ちょっと、自動書記<オートセクレタリ>がダダ漏れよ!???」

カオリんが突っ伏しているゆかりんをゆさゆさと動かす。

「あんたまた漢字間違えてるわよ、『漢字』が『感じ』になってるよ!」 

あたしはゆかりんに誤字を指摘したけど……余計だったかな……余計だったかも……余計だったね……。

「そんな漫才やってる時じゃないでしょ!」

さくらがテーブルを叩いて立ち上がる。

周りが一瞬静かになる。

「し、しつれいしました……」

周りの視線を一手に集めてしまったさくらは小柄な身体を更に小さくして椅子に座った。

返す刀でさくらが切り込んでくる。

「全くもう! けが人が出てるってのに、あんたたちったら!」

ブンスカ怒っている。

あたしたちは小さくなって、さくらが電撃を飛ばさないよう必死になだめた……。

忘れてた。

この隙にサンドイッチ食べちゃえ……コーヒーぬるくなっちゃったけれど……

847 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 20:32:26.36 ID:eyIoQtLM0

「この文面だけで言うと」

カオリんが切り出す。

「要は、返り討ちにあって、ケガをして病院に担ぎ込まれている、ということだよね? うちのメンバーは」

「返り討ちかどうかはわからないんじゃないかな」

ゆかりんが否定的な見解を述べる。

「相討ちになっている可能性もあるわよね……」

ミコがゆかりんの意見を補強してみた。

「でも、それだったら、この事件の第1段階は解決したことになるのよ? とっくに禁足令は解除されてるはずよ?」

さえちゃんが鋭い意見を述べた。そうだ。

昨日の夜8時過ぎに担ぎ込まれているわけだから、犯人が逮捕されているのならば今日の授業は再開されていておかしくないのだ。

あたしは再び携帯で学校の掲示板を見てみる。

さっきと同じだ。

禁足令も「解除されました」のアナウンスがないことから継続中と考えるべき。

すなわち、危機状況に変化はない、ということなのだ。つまり……

「はえはん、ふふほいへ。ははひもほうほほふ……ふう、禁足令が解除されてない以上、犯人たちは捕まってないということよ」

あたしは最後のサンドイッチを口に押し込み、少しぬるくなったコーヒーで流し込み、のどに詰まったパンを食道から胃へ強引に

送り込んだ。う、のど痛い!! 強引すぎたかな?

「ものを食べながら喋るのはやめなさーい! って、リコ涙目よ? 高校生のくせに子供みたいなこと止めなさい!」

さくらがあきれかえりながらあたしに注意する。

「で、どうするのよ? あたしたちでやっつけるの?」 

ゆかりんが突然物騒なことを言い出す。

「ば、馬鹿なこというもんじゃありませんよ! あたし腕力のケンカは無理よ」

さえちゃんが両手をわたわたと振って拒否の仕草をする。
848 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 20:37:45.64 ID:eyIoQtLM0

「誰もあんたなんか頼りにしないわよ、温度変化<サーモコントローラ>のレベル1じゃね……」

ゆかりんがニヤと笑う。

カチンと来たのか、さえちゃんがゆかりんの手を取った。

「あっち――――――――ぃ!!!!!!」

ゆかりんが握られた手を振りほどこうとしてブンブン振り回しながら叫ぶ。

「ふん、たかが60℃くらいでなによ」

「熱い! 熱いったら、十分熱いわよ! 離しなさい!! 熱いよ!! さえー、厚いのは面の皮だけじゃないのねーっ!?」

「あんたら、いい加減にしろーぃ!」 

さくらが後からゆかりんとさえちゃんの肩にそれぞれ手を当てて、電撃を飛ばした!

「きゃぁ!」
「うほっ!!」 

二人が突っ伏した。

ちょっとかすかに、焦げるような臭いが二人から……

「これで静かになったわ、よし!」 

さくら、見かけに寄らずちょっと怖いかも……。

「リコ? ちょっとお願いあるんだけど?」

おっと、さくらの次の切っ先はあたしかい!?

「な、なぁに? ビリビリは勘弁してよ?」 

あたしはどうもアレは苦手だ。そうだ、麻琴どうしてるんだろう?

「あのね、情報取れないかな、上条さんと近しいんだよね? そのツテでなんとかならないかな?」

さくらのお願いは情報収集の依頼だった。
849 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 20:42:00.94 ID:eyIoQtLM0

「うーん、いいのかな、今てんてこ舞いのような気がするけど……」 

あたしはちょっと気がひけている。

「気にしないの、立ってるものは親でも使えっていうじゃなーい?」

さくら、黒いよあんた。

「電話じゃまずいかもしれないから、メールにしてみるわ」

あたしはあまり気乗りしないけど、とりあえず簡単にメールを送ってみた。

『佐天利子です。すみません、麻琴が昨日ウチの寮を風紀委員5人と出て行って以来、連絡が取れません。今どこにいるかご存じですか』

よし、送信!

………みんながあたしの携帯を見つめる。




来ない。

「来ないね」

「まさか……」

「どっちのまさかよ?」

「どっちって、どういうのとどういうの?」

みんなが口々にいろんなことを言いだした。

「忙しいんだよ、やっぱり……」 

あたしはケータイを閉じてテーブルの上に置いた。

「あー、頼みの綱の上条さんもダメか〜」

さくらがテーブルの上で組んだ腕にあごを載せてぼやいた。

「状況がわからないのって、ストレスたまるよね〜」 

うん、ミコはストレスの固まりだったりするからね……

「なによ? あたしがストレスの固まりだって?」 

し、しまった。そういえばミコは心理解読<インタープリット>だった……ってAIMジャマー外してるの?

「リコは直ぐに顔に出るからわかりやすいのよ。ジャマーしててもわかるわよ。すこしはポーカーフェイスの練習でもしたら?」

ミコが小さく笑いながらあたしを弄る。
850 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 20:46:04.32 ID:eyIoQtLM0

「あー、ここいても仕方ないから、寮監の言うとおりノルマさっさとやっちゃおーかなー」

ゆかりんがポテチをつまみつつぼやく。

あれ? そのポテチはどこから?

「朝からポテチはどうかと思うけどな」

ミコが突っ込む。

「このパリっという音と感覚が、あたしのインスピレーションを生み出すの。ほっといてよぅ」

「そんなもの食べないで、しっかりごはん食べなさいよ。ジャンクフードでおなかをふくらますのは、結局ウエストをふくらませる

ことなんだけどなぁ」 

カオリんが聞こえるようにつぶやく。

「うるさーい、いざとなったら下剤ダイエットだってあるわよ! 強力よ?」 

いや、それは自殺行為だと思うぞ、ゆかりん……。

「あたし、部屋に戻るわね」 

あたしはかかってこない携帯を閉じて言った。

「えー? ここで一緒にやらない? お菓子あるし。ポテチだけじゃないよ? こんにゃくゼリーでしょ、ぷちマシュマロでしょ? 

えびせんに麦チョコ……」

お店がどんどん増えてゆく。

「ゆかりん? あんた、いったいどれだけ持ってきてるわけぇ?」

ミコがあきれて聞く。

「ん? お部屋にはもっとあるけど? 1ヶ月は買い出ししないでもいいように在庫してるよ?」



あたしらはぶっとんだ。
851 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 20:56:06.24 ID:eyIoQtLM0


「あんなお店広げられて、勉強に集中できますかっての。ホントにもう……」

あたしはブツブツ独り言を言いながら部屋に戻ってきた。お昼には下へ降りてみんなとごはん食べる約束をして。

部屋に入ろうとしたときに携帯がブーンと唸った。

あわてて部屋に入りケータイを開くと美琴おばさんから電話だった。

「ごめんね! ちょっと何も出来なかったの! 今、ようやく一息ついたから! 

麻琴はね、あなたの行きつけのとこ<病院>に入ってるわ! アイツも向かってるから大丈夫よ。他に何かある?」

美琴おばさんは一気にまくし立てた。

「って、麻琴はケガしたんですか? どの程度ですか?」

「げんこつ1発やられて目をまわした、ってところらしいの。もっとも素手じゃないみたいで、空気の固まり?のようなもので

ぼかっとやられたらしいわ。軽い脳震盪って感じらしいの。まぁこの程度なら良い勉強、だわね」

おばちゃん、自分の娘がやられた、というのに随分と鷹揚な気がするけど……?

「まぁ、最近天狗になってたみたいだし、良い勉強でしょ。上には上がいるんだ、ってことがよくわかって、ね」

うわ、麻琴に厳しいなぁ……かわいそうに。

「そう……ですか。病院っていうから焦っちゃいました。で、今回の事件の犯人たちはどうなってるんでしょうか? 

麻琴を殴った連中は?」

あたしは本題に入った。

「んー、話すと長くなるんだなー。一応終わってる、とでもいうか。明日……は土曜日か。利子ちゃんのところはお休み?」 

おばちゃんの歯切れが悪い。取り逃がしたのだろうか? 

でもそれだったら禁足令は解けないような気がする。

禁足令が解かれるのなら、犯人が捕まったと言うことだろう。

『一応終わってる』どういう意味なんだろうか? わからない。
852 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 20:59:11.99 ID:eyIoQtLM0

「ハイ、休みです。今日も休校だったので4連休ですよ。でも、禁足令で出られないので自己履修のノルマ出ちゃってますので

うれしさ半分ってところですね」

「そうね、確かに今は全部の学校から保育園まで休校だもんね。お店の商売あがったりだ、って苦情も実際のところ来てるわ。

ま、学生がいないんでは街は困るわね。……今日の深夜には多分解除されると思うから、明日は出歩けると思うわ。

麻琴もケガの具合次第だけど、明日には退院できると思うけれど、あなた来れる?」

「ハイ!! もっちろん行きますよ!」

「じゃ、11時頃に来てくれるかな? 部屋はB−203って聞いてるけど念のため確認してね」

あしたは麻琴に会える。さーて、どうやって麻琴を弄ってやろうかしらん……



「えー、みんな来るの????」

「ゴメン、リコ。ちょっと話したらみんな行きたいってことになっちゃって……」

カオリんが申し訳なさそうに謝っている。

土曜日の朝。

美琴おばさんの言ったとおり、昨日深夜に禁足令は解除され、2日間閉じこめられていた学生や子供たちはその反動で一斉に活動を

開始していた。

昨日の夕飯の後、カオリんから今日の予定を尋ねるメールが入ったので、あたしは麻琴のお見舞いに行くことを彼女に伝えたのだが……。

「ねーねー、上条美琴さんって、おっかないタイプ?」 

ゆかりんがあっけらかんと聞いてくる。

「あたし、サイン帳持ってきたけれど、怒られるかな……?」

さ、さくら、あんたそんなミーハーだったの?

「お嬢さんって、おとといウチの学校に来た常盤台の子だよね? あの子、リコと同じ中学校だったんだって?」

ミコも聞いてくる。

「お母さんが超電磁砲<レールガン>でレベル5、お父さんが幻想殺し<イマジンブレーカー>でレベルゼロ。

で産まれた娘がやはり電気使い<エレクトロマスター> レベル3というのは出来すぎだよねー。

でも娘の能力発現には幻想殺しは効かなかったことになるのかな?」

さえちゃん、ひとのウチの分析はどうかと思うよ……

かくしてゾロゾロと、あたし、カオリん、さくら、ゆかりん、さえちゃん、ミコの6人がお見舞いに行くことになった。
853 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 21:03:03.22 ID:eyIoQtLM0



「ちょっと? 面会謝絶になってるよ? 話違わなく無い?」

ゆかりんが不満そうに言う。

「ホントだ……」

受付のところで見ると、面会不可の表示にB−203がしっかりと掲示されているのだった。

「でもリコ? 上条さんからはB−203って言われてるんだよね?」

さくらがあたしに確認する。

「理由は二つ考えられるわね。ひとつは、余計な人たちを入れさせないため。

面会不可にしておけば、許可証は出ないから患者サイドから呼んだ人以外は入れないのよ。

もう一つは、何かが起きたのよ、昨日のうちに。リコが電話したときはOKで、その後何かがあって今朝は不可になった。

このどちらかだと思うな」

うーむ。説得力あるなぁ、さすがさえちゃん先生だ。



「あなたには見覚えがあります、とミサカは1年前の記憶を遡り、自身の記憶とミサカネットワークの記録とを比較してみます」



不意に、右側からうざったい口調の独り言が聞こえてきた。この口調は……琴江さんだっけ?

「おはようございます、ミサカ……琴江さんでしたよね?」

あたしは記憶を呼び起こし、その答えに賭けた。

「ああ、ようやくあなたは私を間違えずに識別できるようになったのですね、とミサカは長い年月を思って涙を流します。

ところで、あなたは今の会話の結果を含めて計算するに98%の確率で『佐天利子』さんだと推測しますが、間違っていません

ね?とミサカは違いますという答えはさせない剣幕であなたに問いかけます」



……不幸だ。よりによって、ここでウザイ琴江さんに会うとは……

ふと周りをみると、なんだこの人という顔のみんながいた。いや、一人、真剣なまなざしで琴江さんを見つめる人がいた。

ミコちゃんだった。

「そうですが、あの、上条美琴おばさんから、部屋を聞いてまして、B−203にいる上条麻琴のお見舞いに来たのですが、

受付には『面会不可』になっていて、ちょっととまどっているのですが、琴江さんは事情を知りませんか?」

すると、ミサカ琴江(元検体番号13577号)さんは

「ミサカの質問に答えて頂けたので、ミサカもあなたの質問に答えなければいけないと考え、今現在の最適な答えを返します」

と一回区切った後で、

「B棟は検体番号10032号のテリトリーなので、このミサカは正確なことを知りませんが、それだけでは最適な答えにはほど遠い

と考え、ミサカは担当である10032号をここに呼ぶことにしましたので、以降は10032号が回答するようにミサカネットワークで

依頼をしておきました、とあなたに伝えてこの場所から離れます」

そう言うと、ミサカ琴江さんはすたすたと先に歩いて行ってしまった。
854 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 21:08:24.26 ID:eyIoQtLM0

「はー……」 

あたしは思わず安堵のため息をついてしまった。

すると、みんなもそうだったのか、一斉にあたしに向かって質問の嵐になった。



「今の人、上条さんそっくりなんだけど、どういう人?」 

さくらが聞く。

「検体番号って何? それにこのミサカって自分を呼んでるの、すごくヘンだし」

カオリんが聞く。

「あたし、よっぽど途中で『日本語でおk』って言おうかと思っちゃった……」

ゆかりん。

「リコ、前にも今の人に会ったことあるんだ? どういう人なの? ちょっと普通じゃないよね?」

さえちゃん。

「…………ダメだ。何も出てこない。そんなはずはないのに……」 

ミコちゃん、もしかして読もうとしてた?

というか、まずいような気もする。今の話だと、同じ顔をした人を同時に最低3人は見ることになるよねぇ……

あ、そう言っているうちに2人目が!



「お久しぶりですね、佐天さん? 今日はいつもと逆ですね? お見舞いだそうですね」 

みんなが驚愕している。ゆかりんはきょろきょろしている。そりゃ殆ど間をおかずに同じ顔見たらびっくりするわね。

えーと………このひと、麻美、さんだよね?

「やだな、麻美……さん、まるであたし、ここの常連みたいじゃないですか?」

あたしはおかしな方向に話が進むのを避けるつもりで、ミサカ麻美(元検体番号10032号)さんの問いかけを否定したが、

事態はさらに悪化する方向へ進むことになった。

「具体的に実績を述べることは、医療関係者に求められる個人情報の秘匿に違反しますので残念ながら申し上げられませんが、

あなたは『常連』と呼ばれるための条件のうち、いくつかはクリアしていたのですよ?」

と麻美さんはニヤリ、としたように見えた。
855 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 21:11:51.29 ID:eyIoQtLM0

みんなが一斉にあたしの顔をみる。 

(こらこらこら、みんな、アタシを見るなぁー!!!)

「それより、上条麻琴さんにお見舞いをしたいのですが……」

あたしは今度こそ話題転換をさせようと今日の本題をぶつけた。

「はい、お姉様<オリジナル>からお話は伺っております。ただ、いらっしゃるのは佐天利子さんお一人、というようなお話でしたが」

う、やはり、そうか、そうだよね、当たり前だよね。さて、どうしよう?

「すみません、あたしたち、教育大付属高校のもので、佐天さんのクラスメートなんですけれど、今回あたしたちの学校の

風紀委員<ジャッジメント>の人たちがケガして入院したものですから、みんなでお見舞いに行こうとしてたんですが、

佐天さんのお友だちも入院されている、ということで、一緒に廻りましょうということで……」

さすが、カオリん、こういうときは話がうまいねー。たいしたもんだ。

「わかりました。そう言うことであればあのひとか、お姉様<オリジナル>に報告して対応を聞いてきましょう。

ここでお待ち下さいね」

そういうと、ミサカ麻美さんはB棟へ歩いていった。



「あのひとと、さっきの人、双子かな?」 

ゆかりんが不思議そうに言う。「そっくりだよ、ねぇ?」

「二人ともどっかで見たような気がするんだよね……」

さくらが思い出そうとしているらしい。

「でもさ、今度の人の方が、まともだよね? 話がわかるもん」

さえちゃんがいう。

「……だめだ。どうしてなんだろう? さっきの人よりはるかに表情も感情も豊かに見えたのに……」

ミコちゃん、お願い、あたしの顔色は読まないでね! 

「わかってるって」



そのとき。
856 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 21:16:16.09 ID:eyIoQtLM0



いきなりあたしの直ぐ脇に男の人が現れた。

「ごめん!!」

「きゃぁ!!!」

10cmも離れていなかったと思う。驚いた結果、あたしのAIMジャマーが動作した。

「くぅ!!」 

あたしはうずくまる。

「ご、ごめん、普段、ここには人が立たないもので、すみません。大丈夫ですか??」

「ちょっと、女子高生の中に飛び込んでくるってどういうことよ!」

さくらが怒って帯電する。

「いや、ホントにごめんね! ところで、佐天さん、て言う子、この中にいる?」

このひと、大学生くらいの人だ。

あたしはズキズキする頭を押さえながら、「あたしが、佐天です」とその人に伝えた。

「やぁ、君だったのか。驚かしてごめん。僕は西都大学大学院にいる飛燕龍太(ひえん りゅうた)と言うんだけど、

僕も風紀委員<ジャッジメント>の一人なんで、怪しいものじゃないよ。

そうそう、上条さんからの連絡で、君を連れてきて欲しいと言われてるんで、ちょっと来て」

そう言うと、彼は私の手を取りテレポートした。









え?という間もなく、あたしは病室の中にいた。
857 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 21:18:46.25 ID:eyIoQtLM0

「じゃ、僕は仕事があるので。そうそう、『さてん』って名字は珍しいんだけどさ、君の親戚にもしかして『るいこ』っていう人、

いないかな?」

飛燕さんがあたしに小さい声で尋ねてきた。

「はい? 『涙子』は母ですけど、ご存じなんですか? 大学の講師もしてますけれど、その関係でしょうか?」 

母はここ学園都市で大学の講師で教えていたこともあるから、その関係かとあたしは思った。

しかし、飛燕さんの答えは全然違うものだった。

「いや、違うよ……じゃ、何かの時に伝えておいてくれるかな? 『37番は元気でやってます』ってね。それじゃ!」 

飛燕さんは姿を消した。

(誰かもこういう感じだったな……誰だったっけ? 番号を言われたような気がする。なんなんだろ、あの人。よくわからないな。

出席番号か何かだろうか?)



「だれ?……誰か……いるの、そこ?」

 

頭を包帯でグルグル巻かれた子がいた。湿布だろうか、顔のそこここに当てられた絆創膏で止められた

ガーゼが痛々しさを増幅している。

今の声って……

「マ……コ……?」

「リコ……? ホントに? やだな、こんな顔見られたくなかったのに……」

「何言ってるのよ、心配したんだから! 電話にも出ないし。あんたのことだから、大丈夫だとは思ってたけど……」

あたしはポロポロと涙をこぼしながら麻琴に駆け寄った。

「よかった……でも、無事で……?」

そう言った直後、あたしの足はすくんだ。
858 :LX [sage saga ]:2011/04/03(日) 21:34:21.52 ID:eyIoQtLM0
最後までお読み頂きまして有り難うございます。
>>1です。

本日の投稿はここまでです。
対決部分のおおよそのスジは固まりつつありますが、まだ書き出せておりません。
そこが出来れば完成なのですがw
今度の土日までに出来るかなぁ……と言ったところです。

それから、鬱ルートの話ですが、うまくまとまりました(と自分では思っています)ので
御安心下さい。
それではお先に失礼致します。
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/04/04(月) 01:34:19.76 ID:9c2FxPyAO

相変わらずうまいなあ

それにしても、空気の塊で殴られた…だと…?
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/04/04(月) 07:19:40.97 ID:wtsIW3PAO
おつかれさま。つづき楽しみに待ってます。
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/04(月) 12:45:21.83 ID:99nV3TfAO

続きが気になる…
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/04(月) 19:01:51.19 ID:AeVTL5xNo
ミコちゃんひどすぎだろww 近いうちにしょっぴかれるぞww
麦野と心理定規に関わる出来事なんだろなーこれ。
863 :LX [saga ]:2011/04/10(日) 20:43:28.41 ID:L6l/Hwqo0
皆様こんばんは。
>>1でございます。

>>858で、今度の土日までに、と書いたのですがやはり無理でした(泣
なんとか今月中にはめどを付けたいと考えているのですが、
前が進まず後ばかり膨らんで行きます。

ということで、引き続き自分にプレッシャーをかけるべく、極少量量ですが本日分をこのあと
投降致します。
ちびちびですみませんがご笑覧頂けると幸いです。
864 :LX [sage saga ]:2011/04/10(日) 20:48:15.73 ID:L6l/Hwqo0


右目、その眼帯 ……まさか?? それに、右腕も!

話が、違う……

「ちょっと、無事じゃなかったんだけど……痛たた……上には、上がいるってことよ……悔しいわ、全然歯が立たなかったの」

悔しそうに、そして苦しそうに息をつきながら麻琴が喋る。

「苦しいなら、無理に言わなくて言いから、ね、マコ。落ち着いて、ね?」

そういいながらあたしの心臓は早鐘のように打っていた。

「落ち着くのは、リコ…… あなたのほう……よ? ちょっと、やだ、泣かないでよ、泣かれるほど酷いのかって思っちゃうから……

右目、びっくりした?……ちょっと打撲でね、一時的に見えない、の。

もしかすると、直っても、視野狭窄や、弱視になる、かもしれないって。そうなったら、なったで、人工義眼もあるから、

オリジナルより性能いいから、それも、あり、かななんて、思ってるけど……」

麻琴、全然冗談に聞こえないってば……

「マコ……あんた……」

あたしはもう声が出なかった。

震えるあたしに出来るのは、麻琴の包帯だらけの頭に手をあてて、そっと少し撫でる事だけだった。

「やだな……、やっぱりちょっと、恥ずかしい……でもね、ちょっと楽になった、かも。

気持ちいい……やっぱり、リコは、すごいね。……あのね、お願いがあるんだけど、少し、あたしの頭、撫でてくれるかな……

気持ちよく眠れそうなの……」

麻琴は目を閉じた。

あたしはぼとぼと涙をこぼしながら、麻琴の包帯で覆われた頭を、彼女が眠るまで優しくゆっくりと撫でていた。

(許せない! 絶対許さない! マコをこんな目に遭わせた人たち、絶対に許さないから!!)

あたしは16年間生きてきた中で、かつて経験したことのないほど、強烈な怒りを覚えた。
865 :LX [sage saga ]:2011/04/10(日) 20:56:21.02 ID:L6l/Hwqo0

「眠ったのね……」

いつの間にか、そばに美琴おばさんが立っていた。

「利子ちゃんゴメンね。でもせっかく二人で幸せそうにいるみたいだから、邪魔するのもよくないなと思ったから。

麻琴も嬉しそうに寝たし。あなたたち二人、本当にいい関係よね……羨ましいわよ」

美琴おばさんの声は、僅かに悲痛の色を帯びていた。

「おばちゃん、外へ出てお話しましょう」

あたしはそう言って美琴おばさんと一緒に、麻琴の眠る病室から廊下へ出た。



「おばちゃん、麻琴は、全然、全然無事じゃないじゃないですか!! 

右目、危険なんでしょ? あんなに顔腫らして、そう言えばあたし、顔しか見てませんけれど、身体も問題あるんじゃないですか?」

あたしは、昨日の話とあまりにも違った麻琴の容態に興奮し、美琴おばさんにくってかかった。

美琴おばさんの顔が一瞬苦しそうにゆがんだ。でも直ぐに元に戻った。

一番辛く、悲しい、悔しいのは母親である美琴おばさんだろう。

でも、そのときのあたしには、そんなおばさんの心中をおもんばかるような余裕は全くなかった。

「情報が錯綜しててね……人違いだったのよ。軽い脳震盪だったのは麻琴じゃなかったの。

……麻琴のケガは、肋骨3本が折れて、他に右腕も上腕部が骨折してる。

顔面にはものが当たったらしくて、右目が打撲でいま絶対安静ってところ。重傷、だわね……

まぁ生命に別状無かったのがせめてもの救いかしら」

「それで、犯人は捕まってるんですか? どんな連中が、マコをこんな目に遭わせたんですかっ!!??」
866 :LX [sage saga ]:2011/04/10(日) 21:05:11.26 ID:L6l/Hwqo0


「まぁ雑魚は捕まってるんだけれど、ソイツらはどっちかというと最初から捕まる前提だった、というか、捜査を攪乱するための

陽動部隊みたいなもので、肝心の本体はまだ逃げているみたいね」

「……そうですか。わたし、絶対に許しません、マコをこんなにした人たちを、許せません!」

「利子ちゃん? 気持ちはわかるけれど、あなたは手出ししないでね。あなた一人じゃ何も出来ないのよ? 

……あたしも中学生のとき、イキがって不良退治とかやってたけれど、結局のところ、単なる自己満足でしかなかったわ。

目で見えるレベルの善悪なんて、意味無い場合もあるのよ」

美琴おばさんは、激するあたしを抑えるかのように、落ち着いた声であたしの質問に答えてくれている。

それが、逆にあたしのイライラをつのらせていく。

「そんな……おばちゃんは、どうしてそんな平然としてるんですか!?

どうして、そんなに第三者な言い方出来るんですかっ!?

おばちゃんは、自分の娘が、マコが、麻琴がこんなになってて、それでも平気なんですかっ!?」

「お黙りなさいっ!」

バシッと平手打ちがあたしの頬に飛んだ。

ぶ、ぶたれた……

あの、美琴おばさんが、あたしを……

「わかったような口、利かないでよっ!!! 子供が……自分の娘が痛めつけられて、平気な親がいると思ってるのっ!?」

今まで抑えていたのだろう、美琴おばさんの激情が一瞬ほとばしった。

……でも、それはほんの一瞬だった。

あ、しまった、という顔をした美琴おばさんは、直ぐにあたしに謝ってきた。

「ごめんね。利子ちゃん。ひっぱたいたのはごめんなさい。……でもね、あなたがむやみやたらに走り回っても解決にはならないのよ」
867 :LX [sage saga ]:2011/04/10(日) 21:08:46.67 ID:L6l/Hwqo0


おばちゃんに、謝られてしまった。



(どうして? なんで? 違う、そんなことを言って欲しいんじゃない!!)



あたしがいけないのに、と自分なりに反省していたあたしは、逆に美琴おばちゃんに謝られてしまったことで、

感情の収まりがつかなくなってしまった。

「あたしだって、何も、別に、あたしがそいつらをどうにかしようって思ってる訳じゃないですっ! 

でも、でもそれじゃマコが、マコがあまりにも無惨で、酷すぎます……そんなの……絶対に、おかしいですっ!!」

あたしは頭に血が上っていた。

何を言っているのかよくわからないほど混乱した状態で、病室を飛び出し、廊下を駆けて、階段を飛び降り、裏口の方から

あたしは外に出た。

美琴おばちゃんの「待ちなさい!! 利子ちゃん!」という声が遠くで聞こえたような……





ボロボロ流れ出る涙を手でぬぐいながら、それでも「あたし、変なこと言ってない!」と言い訳をしながら、

あたしはあてもなく道を小走りに歩いていた。



ふとあたしは気が付いた。

「ここ、前に歩いた気がする……」

そう、この道は………

1年半ほど前、あたしが中三だったとき、母さんが誘拐されたとき、犯人のメモに従って歩いた、その通路だった。

あの時、覆面をした男の人に……

「おい!」

いきなり肩を叩かれた。
868 :LX [sage saga ]:2011/04/10(日) 21:14:09.71 ID:L6l/Hwqo0

「きゃあっ!」

あたしは思わず叫び声を上げてしまった。



「ご、ごめんよ、驚かすつもり無かったんだよ! ゴメンよ!」

あ……、

「さ、漣さんですか……って、ちょっと、どうしてこんなところへ? 何してたんですかっ!?」

漣さんだとわかったあたしは安心すると同時に、その反動で思わず大きな声を出してしまった。

「……麻琴ちゃんのお見舞いに来たんだ。で、キミを見かけたので……」

漣さんは苦しそうな、悲しそうな顔で答えてきた。

「……そう」

「もう会ったの?」

その瞬間、病室にいる、無惨な麻琴の姿がまた脳裏に浮かんだ。

「……会ったわ……あんな……酷いよ、あたしのマコに……絶対にあたし、許さないから……」

あたしは、また溢れてきた涙をぬぐいながら、漣さんに聞こえるかどうかの小さな声で一人つぶやいた。

でも、しっかり聞かれたらしい。

「ホントは、言っちゃいけないんだけれど、ボクは……特殊任務委員なんだ」

「わかってました……あの時の様子から、漣さんは、普通の風紀委員<ジャッジメント>じゃないって」

そう、倉庫にあたしと母さんを助けに飛び込んできた、漣さんは明らかにただの風紀委員<ジャッジメント>ではなかった。

ここ、学園都市に来て、普通の風紀委員<ジャッジメント>の人たちを見て、よくわかった。

あのひとと同じ……
869 :LX [sage saga ]:2011/04/10(日) 21:18:45.22 ID:L6l/Hwqo0


「そうか……そりゃそうだ、ね。それで、実は、首謀者の数人は目星がついている」

「!」

あたしは、漣さんを見つめた。

「もうすぐ全員逮捕されるだろう。ボクもその捕り物に参加する予定だ。もうすぐ行ってくる」

その言葉を聞いて、あたしは自分でも思いがけない言葉をはいた。

「あの……あたし、一緒に行っちゃダメ?」

自分でも、どうしてそんなことを言ったのか、今となってはわからない。

でも、そのときのあたしは、どうしても行きたかったのだ。



一瞬、漣さんがあっけにとられたのを、あたしは見た。

でも、直ぐに厳しい顔でわたしに告げた。

「当たり前だろう! キミは言っちゃ何だけど、まだ自分の能力も十分にコントロール出来てないだろ? 

戦闘になる可能性が高いんだよ? そんな危険なところにどうして連れて行けるんだよ?

……あ〜、やっぱり言うんじゃなかった。スマン、忘れてくれ!」

そう言うと、漣さんはあたしに背を向けた。

あ、行ってしまう!

あたしは、漣さんの腕にしがみついて叫んだ。

「お願い、遠くで見るだけだから、あたし、どうしても、犯人が、マコをあんな目に遭わせた訳が知りたいの!」

「……」

「お願いします!」

あたしは、必死だった。
870 :LX [sage saga ]:2011/04/10(日) 21:26:30.49 ID:L6l/Hwqo0

「……わかった。見るだけだぞ。そしてこのことは絶対に黙ってろよ? 

……それから、危ないと思ったら、直ぐに逃げろ? いいな? 

そして、これは絶対に忘れちゃだめだ。もし、もしもだ、万が一、あいつらに捕まったら、ヘンに抵抗しちゃだめだ。

おとなしくして、反撃のチャンスを待つんだ。ガマンするんだ、いいね?」

「はい!」

あたしは嬉しかった。

漣さんが、あたしの言うことを聞いてくれた、と。

「じゃ、行くよ!」

漣さんが、あたしの手を取った。



次の瞬間、あたしたちはどこかの街灯の上にいた。

そしてビルの上、風力発電ユニットの上、とヒュン、ヒュン、と瞬間的に風景が変わって行く。久しぶりのテレポートだ。

でも、あたしはそんな風景もろくすっぽ見ていなかった。

あたしの頭にあるのは、痛々しい麻琴の姿だけだった。



ふいに、広々とした建物の中にあたしと漣さんは出た。

「ここは?」

あたしは漣さんに尋ねた。


「ごめんよ」



――― はい? ―――



次の瞬間、あたしは、何かの猛烈なエネルギーをくらい、吹き飛ばされ、意識を失った。


871 :LX [sage saga ]:2011/04/10(日) 21:42:50.19 ID:L6l/Hwqo0
>>1です。
お読み頂きまして有り難うございます。
毎回心強いコメントを頂き、励みになっております。どうも有り難うございます。

本日投稿分は以上です。
ホントに少しですみません。
毎回、次は最後まで一気に、と思ってはいるのですが、なかなか難しいです。

それではお先に失礼致します。
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/10(日) 21:45:56.23 ID:nlcFB/iMo
乙乙
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/10(日) 21:47:37.79 ID:WMV06EOfo
物語が動き始めた感じがしてドキドキする・・・
続きゆっくりとお待ちしております
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/11(月) 02:54:01.87 ID:cowYWGYAO

wwktkだぜ
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) [sage]:2011/04/11(月) 04:45:04.55 ID:j9o3OeqQo
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/11(月) 16:57:15.69 ID:pCw37iAgo
漣ェ…
さあ、後ろのほうをどんどん膨らませて2スレ目に突入するんだ!
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/12(火) 13:16:10.88 ID:6Ql4t2vI0
乙です。今追いついた
遅レスだし既出だったら申し訳ないが、>305の前田のセリフに「本来なら第一位と第二位だろうが」ってあるけど、
第一位と第二位の組み合わせで、という意味にとれるけどこの話の一方さんは百合子さんじゃないよな?オッサンって言われてるし
878 :LX [sage saga ]:2011/04/12(火) 20:33:29.57 ID:njglRoIU0
皆様こんばんは。
>>1です。

>>877さんの鋭いご質問がありましたのでお答え致します。

確かに、「本来なら第一位と第二位だろうが、」
これですと、一方x垣根の組み合わせ、と読むのが普通ですよね。
自分の頭では、
「第一位x女性、次に第二位x女性の組み合わせで、第一位は生殖能力が低く」という
解釈だったのですが、今読み返しますとあの表現は不適切でした。
あるいは、「第一位と第三位」と書いておけば問題がなかったかも知れません。

とはいうものの、第一部の時点では一方通行は登場させる予定がなく、ぶっちゃけ
第二部に取りかかった段階では一方通行は「鈴科百合子」で出すことにしておりまして、
事実、最初のうちは「おばさん」で書いておりました。
ところが、これだと巧く話が進まず、筆が止まっておりました。
しかし、アニメの風呂のシーンで「男だった」というようなコメントを見まして、
ああ、やはりそうだったか、ということで急遽オッサンに切り替えまして書き直しを
したところ、今度は筆が進み始めまして、そのまま今に至っています。

第一部は全部書きためた後で投稿しているので、わりと話のつじつまは合っている、とか
間違いは少ない、と自負していたのですが、やはりおかしな点がありました。
御指摘有り難うございました。

*第二部はその意味ではおかしなところが沢山ありますので、もう恥ずかしい次第です。

でも、お読み下さっている方がいらっしゃることに、とても嬉しく思います。
本当にどうも有り難うございます。

>>876さんが書いています「後ろ」ですが、ざっくり区切ってみたところ、28コマでした。
他に、この部分に入れるタイミングを失った日常風景?のようなところがおよそ6コマ、
というところです。

せっかくなので、続きを少しでも、と思いましたが、わずか3コマで場面切り替えになる
事と、その先は現在構築中になりますので今回は諦めます。
済みませんが今しばらくお待ち頂けると幸いです。それでは。
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/12(火) 21:21:10.23 ID:SijjUTHIO

つじつま合わないなんてSSではよくあるんじゃね
この話は丁寧な設定だと思う
次の投下楽しみにしてる
880 :877 [sage]:2011/04/12(火) 22:45:42.92 ID:6Ql4t2vI0
レスありがとう
納得した
一方さんの性別関係はまだ意見が分かれるところがあるんでちょっと気になったんだ
こんだけ人間関係複雑で複線の多い長編だとちゃんと計画立てても矛盾が出るときは出るから気にせず
じゃんじゃんやってほしい
待ってます
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/13(水) 09:38:21.51 ID:Sy+VMfXso
わざわざ丁寧な説明ありがとう
自分の中では勝手に、第一位と第「三」位と思って読み流してたわ

まあ、学園都市の技術なら男同士だろうと人工授精くらい簡単にできそうだけどな
べ、べつに孕メルヘンとか言いたいわけじゃないぞ
882 :LX [saga]:2011/04/22(金) 21:13:45.83 ID:3VrXxgcF0
皆様こんばんは。
>>1です。

とりあえず、柱は最後まで繋がりました。
現在肉付け中ですが、話がどんどん膨らんで行きますw
この期に及んでまだ登場人物が増えていくって何なのでしょうか。

最後まで一気、というのは量が多すぎるのと、まだ時間がかかるので
自分へのプレッシャーのために、本日分をこれより投稿致します。

それではどうぞ宜しくお願い致します。
883 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:15:48.43 ID:3VrXxgcF0

同じ頃、第十九学区のとあるビル、その一室。

そこには男女10名ほどが詰めており、口角泡を飛ばす激論が始まっていた。

「なんですって?」

「だから言っただろ? 投降しろって命令だよ!」

「なんだ、そりゃ……」

「それがわからないのよ! どうしてそんな事になるのよ? まだ、統括理事会から何も言ってきてないじゃない?

何も回答が出てないのよ? なのに投降? それじゃいったい、何の為の蜂起だったのよ? 超ふっざけるんじゃないわよ!」

小柄な女が激昂してリーダー格らしき男に詰め寄る。

「絹旗、よく考えてみろよ、俺らのやったことって、全く報道されてないんだぜ?

おかしいと思わないか? 檄文も出した。ネットにも投稿した。それも全部消されてる。

全く、『何もなかった』事になってるんだぜ? しかも、学校も会社も全部平常状態に戻っている。絶対におかしい」

リーダー格の男は、絹旗と呼びかけた女を諭すかのように静かに答える。

「負けたんだよ。学園都市に。全く相手にもされてない、ってことだよ。平常に戻った、ってことはもう、俺たちなんか

関係ないってことさ。……なんか疲れちまったな」

別の男は投げやりに言い放つ。

「いいわよ、投降したい人は勝手にしなさい。わたしは戦う。わたしは許さないから。例え死んでも許さない!」

絹旗、と呼ばれた女性は戦う、という意思をまだ見せていたが、他の人間達はありありと挫折の色を浮かべていた。

「俺は降りる。無駄だった。また、どこかでやり直すさ」

一人が立ち上がり、部屋を出て行く。

「なんだったんだよ」
「バカみちゃったわ。せっかく一泡吹かせられるかと思ってたのに」
「これからどうするんだよ……」

ぶつくさ言いながら、数人の男女が続いた。
884 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:18:09.75 ID:3VrXxgcF0

「……ったく、最近のヤツは根性無いんだから。だいたい、今さら出て行って、無事に済むわけないでしょうが……

全く、情けないにも程があるわよ。超情けないったらありゃしない、ホントに最近の若い連中は」

残った絹旗最愛が失望もあらわに、投降を決め、出て行った連中をののしる。

そう、彼らは今回の爆破・反乱事件の主要メンバー、であった。

どうやら首謀者は別にいたらしいのだが、彼らに対して、投降せよという指示が出たことで、彼らは命令に従って投降する

グループと、反乱を継続するグループに分裂したのだった。

しかし、残ったのは僅かに2人。より正確に言うと、どう見ても30代の女が2人、だけだった。



「絹旗さん? あんまり責めちゃだめよ。彼らは、あなたとは、いいえ、わたしもそうだから、『わたしたち』というべきかしらね。

そう、『わたしたち』とは違うのよ」

残ったもう一人の女が絹旗に話しかける。

「あなた、誰?」

(この女、今までいたかしら?)

彼女は疑念の目で女を見る。 

「わたし? あら、覚えてないの? わたしは心理定規<メジャーハート>」

どこかで聞いたことがあるような、いや会ったような気がする……どこかで……



――― 暗部!! ―――



絹旗の目が大きく開かれた。

「……あなた!、あの時の?」

瞬時に自身の能力、レベル4の窒素装甲<オフェンスアーマー>を展開……!

「思い出したようね。お久しぶり、絹旗最愛さん? そうそう、窒素装甲<オフェンスアーマー>は無駄。お止めなさいな」

「……ど、どうして?……何故?」

心理定規<メジャーハート>を吹っ飛ばそうとしたのだが、何故か攻撃を起こせないのだ。

「わたしの能力だから。……それに、ここで『わたしたち』が争っても学園都市が喜ぶだけ。わからない?」

「……超むかつきますけれど、あなたの言うことにも一理あるわね……どうするっての?」

攻撃できないと理解した絹旗は、とりあえず話を聞くことにした。さすがに10代の頃の無茶っぷりは影を潜めている。

「その前に、現状を教えてあげる。一言で言うと、あなたたちはピエロだったのよ」
885 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:20:07.63 ID:3VrXxgcF0

不愉快さMAXという顔で絹旗最愛は心理定規に言葉を返す。

「あのねぇ、言って良いことと悪いことがあるんだけれど」

「あら、事実なのよ? あなたたちは、単に利用されただけ。目的は別にあった。

投降の指示がでた、と言うことは、その目的が達成されたから、ということなのよ」

辻褄は合う。そうなのかもしれない。だが、何故?

「そんなことを何故あなたが知っているのよ?」

「わたしもその側の人間だったから」

さすがの絹旗も、この一言にはキレた。

「わたしもずいぶんとなめられたものね……ぶ・ち・こ・ろ・し・て・や・る・わ!!」

彼女は立ち上がり、テーブルをひっつかみ振り上げた。

しかし、心理定規<メジャーハート>は落ち着いたまま、皮肉っぽく笑って言葉を返す。

「それ、麦野さんの18番<おはこ>じゃなくって?」

絹旗の動きが止まる。

「あなた、彼女を知ってるの?」

落ち着いて考えれば、知っていて当然なのだが。

「もちろん。この間会ったわよ?」

テーブルを下ろした絹旗は、真剣な顔で心理定規<メジャーハート>を問いつめる。

「どこで? 何してるの、今?」




「風紀委員会<ジャッジメントステーツ> 特殊任務委員長よ」

心理定規<メジャーハート>が答える前に、違う声が絹旗の問いに答えた。

二人は反射的に部屋の入り口を振り返る。


「!!」

「む、むぎ……」

「あ〜ら、こんなとこに見覚えのあるのが二人も? 絹旗の他に、薄汚いノラネコがいたわぁ〜? 

……さぁて、あんたら、ここでなにをしてたのかにゃ〜ん?」
 
886 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:21:54.21 ID:3VrXxgcF0



倒れ伏している佐天利子に迫る影があった。



「ターゲット確認しました。確保に移ります」

「キャパシティダウナー展開急げ!」

「AIMストーカー、周囲に反応なし。ターゲットのAIM拡散力場、安定しています」

「生命反応異常なし」

2人が倒れている佐天利子にたどり着き、彼女の両腕にブレスレットをはめる。

「ターゲット確保、AIMコントローラー装着完了!」

「耐ショック移動担架、早く来い! 彼女に傷をつけるな!」

わらわらと対能力者用強化スーツを着た人間が佐天利子に群がっていく。



「あっけなかったわね。……まぁ、そんなものかしらね」

モニタースクリーンを見ていた女が小さく声を発した。

しばらく黙っていた彼女は独り言をつぶやいて、ホログラム・トランスファーへ向かう。

「さぁて、これであの子も御役御免だわね」



応接室のドアが開く。

ソファーに座って、ふてくされていた漣孝太郎が口を開いた。

「これでいいんだろ?」

「ああ、良くやったわね。十分よ」

答えるのは、先ほどモニターの前にいた女。

「これで、本当に母さんにはもう手出ししないんだな?」

顔を上げた漣が女を見すえる。
887 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:23:30.85 ID:3VrXxgcF0

「フフ、安心しなさいな。もともと私はそんな女など興味はなかった。いいえ、ボクにももはや興味はないわ。消えなさい」

あざ笑うかのように女が嘲笑を浴びせる。

「きさまこそ、二度とその顔を見せるな!」

そう叫んだ漣が鉄矢を女に向けて飛ばした。

「アハハハハ、そんなおもちゃなど役にたたないわよ、ボクちゃん? ママのところにおとなしく帰りなさい?」

漣の鉄矢は女の身体を通り抜け、むなしく床に小さな音を立てて転がった。

「くっ! 立体ホログラムかっ?」

「ほほほ、頭から湯気たててるボクちゃんの前に姿を見せるほど、わたしは気を許してなんかいないわよ? 

ほらほら、早く帰らないとママが心配するわよ?」

嘲るようにズバズバと口撃する女。

漣孝太郎は、女の顔をにらみつけて、消えた。




(ふ、お前の家庭を壊したのも私なのだがな。ま、今更言うこともあるまい。親子揃ってチョロいものだ。ハハッ、脇役はもはや不要)




*漣健太郎にハニートラップを仕掛け、健太郎と黒子の家庭を壊したのであった。しかも、わざわざ孝太郎が生まれるのを待ってから

仕掛けるという狡猾さであった。





(さあて、次はどうするか、と)

女は机の中からマーブルチョコレートを取りだした。

カラカラと振って、蓋を取り、最初に出てきた粒を見る。

「オレンジ、か」
888 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:27:49.54 ID:3VrXxgcF0



「ちょっと、ノラネコとは随分じゃないかしらね」

「ふぅん、こそこそ歩き回ってるとこなんか、ノラネコにぴったりじゃないかしら?」

心理定規<メジャーハート>と麦野沈利がお互いに挑発しあう。

「あ〜ら、そんなこと言っていいのかしら、あなたの娘さんが捕らえられたというのに?」



――― ブン ――― 



その瞬間、心理定規<メジャーハート>の頭上すれすれを高エネルギー線が通過した。

「あーら、少し手元が狂っちゃったかしらね、その減らず口が二度と叩けぬようにしてあげようかと思ったのに?

絹旗? ちょっとソイツ押さえてくれる?」

次の瞬間、絹旗最愛は心理定規<メジャーハート>の足にタックルし、二人は音を立てて床に転がった。

目に殺気をたたえ、全身にうっすらと青く光るエネルギーを纏いながら麦野沈利が二人に近寄る。

「Good job ね、さすがよ絹旗。ソイツから離れて良いわよ?」

絹旗にウインクをして褒めたあと、床に倒れている心理定規<メジャーハート>に左腕を向けながら麦野がしゃべる。

「い、生きてたんですね、麦野? あ、あの、お嬢さんが捕まったというのは?」

聞きようによってはとても無礼な絹旗の質問であるが、元暗部同士であるこの三人にとっては、最大限の賛辞でもあった。

「ああ、生きてたわよ。わたしがそう簡単にくたばるわけないでしょーが。

さーて、ところでアンタ、捕まったっていうのは志津恵のことかい?」

「わたしが追いかけてるのは、あの人、垣根帝督とアンタの間に産まれた子供の、麦野利子(むぎの りこ)に決まってるでしょ!」

「!」

絹旗が驚きの表情で麦野を見る。

「ふん、殺すなら殺しなさいよ! もうわたしなんか、わたしなんかどうだって良いんだから!

でもね、その前に教えて! 

あの子は、ホントに、あの子は垣根の子なの? 

あの人はあんたを抱いたの? 

あの人はあんたと一緒に生きてたの?

あの人はどうなったの? 生きてるの? 死んだの? 

何か言ってよ! 言いなさいよ!!」

麦野は唖然としながら、髪を振り乱して泣き叫ぶ心理定規<メジャーハート>を見つめていた。
889 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:31:26.87 ID:3VrXxgcF0

(アイツの女だった……のか? 知らないのか、あのメルヘン野郎がどうなったのか……)

原子崩し<メルトダウナー>はどうやらもう使わなくてもよさそうだ。

……わたしの身体から高エネルギー発光が消える。



わたしはしゃがんで、倒れている心理定規<メジャーハート>の顔に自分の顔を寄せた。

「む、麦野?」

絹旗が、大丈夫か、という意味で声を掛けてきた。

「ありがと、絹旗。大丈夫よ。……それで、あんた、それだけの為に生きてきたの?」

今までとは違った、穏やかな声で心理定規<メジャーハート>にわたしは問うた。

「さすがに、そこまで、じゃないわよ……忘れようとして、忘れてた、忘れたはずだったわ。この間までは。

……街で、あの子を見たのよ……垣根にそっくりだった。衝撃だったわよ。貴女だってわかってるでしょ? 

そして、あの子は、わたしがいる長点上機に来た。わたしはあの子と話をした、あの子の片割れは、貴女が母親だと言った。

よりによって、『アイテム』の貴女が、どうして垣根の子を産んだのよ? どうしてあたしじゃなかったの?

もう、ずっと忘れてたはずなのに……どうして思い出させたのよ!」

心理定規<メジャーハート>が顔を両手で覆う。



そうだったのか。それで………か。

そこにいたのは、一人の、哀しい女。



「麦野……」

絹旗が(本当なの?)という顔でわたしの顔を見てくる。

「……あんたにとって、満足な話じゃないかも知れないけど、それでもいいの? 聞く勇気、ある?」

手で顔を覆ったまま、彼女は頷いた。



「わたしは、学園都市に命令されて、父親が誰かを教えられぬまま、あの子を妊娠して、産んだ」
890 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:34:11.60 ID:3VrXxgcF0

絹旗の顔がひきつった。

心理定規<メジャーハート>の嗚咽も止まった。

わたしは話し続けた。

「あの子が2歳になったとき、学園都市はわたしの手からあの子を奪い取った。

だから、わたしはあの子を取り返す為に研究所に乗り込み、そこで研究者から初めて、目的を教えられたわ。

あの子は、学園都市の実験体として、レベル5同士の掛け合わせで『原石』を人の手で作り出す目的で、

この世に生を受けた子供たちの一人だと。

そのときに、初めて父親が、レベル5の第二位、垣根帝督だったことを教えられた。

彼はもはや、この世には生きていなかったわ。彼の精子だけが残されていたのよ。それを使ったのね」

「……」
「……」

「でも、あの子は、父親が誰であれ、わたしが腹を痛めて産んだ娘。あの子はわたしの娘。親として、わたしにはあの子を守る

義務がある。だから……あの子を『殺した』」

「うそ!?」
「そんな!?」

二人が殆ど同時に顔を上げてわたしを凝視してきた。

「わたしの娘、『麦野利子』はもういないのよ。『生まれ変わった』子がいるだけ」



最初、心理定規<メジャーハート>は、意味がわからない、と言う顔をした。

が、直ぐに意味を悟ったのだろう、なるほどと言う顔をした。さすが、あの子本人に会っているだけあって、飲み込みは早かった。

絹旗は……ダメなようだ。意味がわからない、と言う顔をしている。まぁ、仕方ないだろう。わかってもらわない方が助かるし。



「でも、わたしはその子も守らなければならない。さあ、話して。どういうことなの?」

わたしは、彼女に圧力をかけた。時間がもったいない。

心理定規<メジャーハート>は、つっかえながらも口を開いた。

「垣根は……やはり、死んでいた、のですね……」

「そういう、ことね」



少しの間、沈黙が支配した。

だが、彼女は振っ切れたのだろう、顔を上げて、はっきりとした口調でしゃべり出した。

「……わかりました。恥ずかしいところをお見せして、すみません……。今回のこの騒ぎは、あなたの娘である、『麦野利子』を

捕らえる為に、意図的に行われたものです。絹旗さんに言った『ピエロ』とは、そう言う意味です……」
891 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:37:37.15 ID:3VrXxgcF0

「そんな、馬鹿な……どうして?」

花園(旧姓:初春)飾利は驚愕していた。

絶対の自信を持っていたデータロガーもひっくるめて、「全部なくなっていた」のだ。

書庫<バンク>にあった「佐天利子」の項目が。

月に1回の、今日は彼女の定期巡回の日だった。



「まさか、まさかそっちも?」

ふるえる手で彼女はある言葉を打ってみた。

「む・ぎ・の、り・こ」

エラーは出なかった。



暫く経った後、出たのは" Forbidden"という言葉だった。

つまり、存在する、と言うことである。

「やられたかな……」

瞬間、彼女は悟った。しばらく時間がかかったのはアクセスルートを逆にたどられた可能性があることを。

自分も危険だと。

もちろん、彼女自身、今回もストレートにアクセスしているわけではないが、経験上、今の自分の位置づけは容易に理解出来た。

彼女は直ちに非常手段を用いた。

コーヒーを流し込んだのである。

バチと音を立ててPCの画面は消えた。コーヒーとショートの際の焦げくさい臭いがあたりに漂った。

次に彼女はビニール袋にPCを突っ込み、まず窓からソレを投げ落とした。

がしゃんという音が聞こえた。
 
更に彼女は階段を駆け下り、下に落ちていたそのビニール袋を持って駐車場へ走り、自分の車の前輪の前に置いた。

ふるえる手でメインスイッチボタンを押す。

だが何故か電源が入らない。

「入りなさい、早く! どうしてこんな時に!」

いつもなら何事もなく入るメインスイッチが、こういうときに御機嫌が悪い。

反射的にアクセルペダルを何度も踏み込み(EVでは全く意味がないのだが)、メインスイッチボタンをカチカチカチと何度も押す。

「お願い、入って、入ってよぉ−っ!」



……パッとメーター類に灯が灯り、かすかにウィーンと高周波音が聞こえた。

漸く電源が入った!

サイドブレーキを解除するのももどかしく、シフトレバーを前進に放り込み、フットブレーキから足を放す。

クィーンという音とバキグシャという音と共に、飾利の車はビニール袋を踏みつぶして飛び出した。

急ブレーキを踏み車をとめ、彼女はビニール袋を取りに車から降りた。



「花園、飾利さんですね?」

そこには、花園もよく知っているアンチスキル・サイバーパトロールの人間が3人、険しい顔で立っていた。
892 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:38:54.49 ID:3VrXxgcF0

                         
「花園さん、あなたともあろう人が……」

一人がどうして、という顔で話しかけた。

「余計なことをいうな。もう一度確認致しますが、花園飾利さん御本人で間違いありませんね?

貴女には、書庫<バンク>への不正アクセスの疑いが掛けられています。

よろしければ、素直に我々と御同行願えると大変助かるのですが」

隊長格の男が厳しい顔で花園に言う。

「なんのことだかわかりませんね? それではお話を伺いましょうか?」

青ざめた顔で、しかし、しっかりした声で花園飾利は応じ、2人に挟まれる形でサイバーパトロールの車に乗り込んだ。
                    


1名は飾利がふみつぶしたビニール袋を、恭しくゴム手袋をした手でつまみ上げ、静電気防止が施された専用の袋に

丁寧に入れて、サイバーパトロール車に戻った。

「それで、クルマはどうしましょう?」

「おう、いかんな。アレも証拠物件だ。現場保存処置をしておく必要がある。キミはすまんが残って、増援を待ってくれ。

部屋の中も同じだ。我々は先に彼女を保護しなければならないのでな。ほら見物人がもう出てきた」

「……そうですね、了解!」

何事か、と言う感じで数人の野次馬が遠巻きにサイバーパトロールの動きを見ている。

「すみません、アンチスキルですが、現場保護にご協力をお願いします!」



……花園を乗せたパトカーは駐車場を出て、走り去っていった。



「花園飾利の身柄を拘束しました」
「了解。直ちに収監願う」

アンチスキルの無線を傍受していた女がニヤリとする。

「ふふ、さすがアンチスキル。弱いものには強いな。昔と変わってないわね………これでこれも済んだ、と」

女は引き出しを開け、ケースに1コだけ入っていたオレンジ色のマーブルチョコを口に放り込む。

「じゃ次は……と?」

再びマーブルチョコの筒を振ると、出てきたのは黒。

「あら、わかりやすいわねー」
893 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:42:07.67 ID:3VrXxgcF0

漣孝太郎は、あてもなく、何を考えるでもなく、ふらふらと歩いていた。



(利子ちゃんを……なんてことを……オレは……オレは……くそっ、でも、母さんを、母さんを守るには仕方なかったじゃないか!)

(いや、だからといって、何の関係もない利子ちゃんを、オレは……、麻琴に会わせる顔がないじゃないか……)

(違う、それより麦野さんを裏切って、もしかしたら、あの人のホントの娘かもしれない利子ちゃんを……)

(ああ! オレは、風紀委員<ジャッジメント>たる、オレが、なんて事を!)



髪をかきむしりながらブツブツつぶやく漣を、すれ違う学生、子供、そして大人達でさえも、関わり合いを避けようとして

よけて通り過ぎて行くだけだった。



いつの間にか、彼は多摩川にかかる橋に出ていた。

学園都市のビル群を眺め、視線を下へ落とす。

多摩川の清らかな流れが見える。

しばらく彼はそのまま流れを見入っていた……





「ああーっ遅刻しちゃうかもーって、ミサカはちょっびっとだけスピードを出し過ぎてみる!」

「ッたく、お前が化粧に時間掛けすぎるからだろうがよォ」

「むぅ、お肌の曲がり角を余裕でクリアしたミサカにそう言う残酷なことをいうわけなのね? そうなのね?」

「あ〜やかましい、少し黙ってろ」

「お得意様限定バーゲンセールに遅れたらアウトなのよっ! ってミサカはクルマの運転をしないアナタに文句つけてみる!」

「チッ、わーったよ、わかりましたよ。……オラァ、前、ブレーキ踏んでるっての!! 前見ろ、前!!!!」」
894 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:44:11.39 ID:3VrXxgcF0

多摩川を渡る橋は渋滞していたところだった。

彼らの車は急ブレーキで危うく追突を免れた。

「ッたく、これだから女の運転はおっかねェんだよなァ……」

ゆるゆると彼らの車は進んで行く。

突然、ミサカ未来が叫んだ。

「……やめて!!」

「アン? いきなり何だァ?」

「今、人が橋にいたんだけど!」

「そりゃいることもあるだろが」

「いや、雰囲気がヘンだったのよう、ってミサカは理由を説明しているヒマはないからっ!」

そういうとミサカ未来はクルマを止め、いきなりドアを開けクルマを降り走り出した。

「打ち止めェ!! 対向車が走ってるのにやべェだろうがァァァァ!! 」

鈴科教授は怒鳴り、これまたクルマから降りる。杖を突き突き、ミサカ未来を追う。

後のクルマのドライバーが「こんなところでクルマ止めるんじゃねェよ!」と怒鳴る。

「チッ、うぜェんだよ、クソッタレが」

ホントにこれで大学の教授か、と思うような言葉を吐いて、鈴科教授はドライバーを睨み付ける。

「ひえーっ!」

急加速してそのクルマは逃げて行く。

「あ、あの人だよってミサカは男子学生らしき人を指さしてみる!」

ミサカ未来が叫ぶ。

「ケッ、飛び込んで死ぬとでも? そんなヤツなんざァさっさと消えちまえば」

鈴科教授の嘲りは最後まで続かなかった。

その学生らしき人間が橋から飛び降りたのだった。

「キャーッ!!」

「クソッタレ、ホントに落ちやがった!」

チョーカーのスイッチを「能力全開」に入れた鈴科教授は、一方通行<アクセラレータ>に変身した。
895 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:49:34.01 ID:3VrXxgcF0


多摩川の河原に止まっているミサカ未来のクルマ。

そこに3人はいた。

「オゥ、気が付いたかクソガキ?」

「あ、あなたは?」

「ミサカ未来(みく)だよって名乗ってみる。アナタはなんて言うのかな?」

「………」

「テメェ、助けてもらって何様のつもりだァ?」

「誰も、助けて欲しいなんて……」

「アン? ならここで死ぬかァ? クソッタレ、お望み通り愉快なオブジェにしてやンよ?」

「いいんです、ボクは、卑怯者だ……死んだ方がましだ……」

「冗談でもそんなこと言っちゃいけないのよ? 死神が取り憑くから」

「いンや、既に取り憑いてるようだなァ、このクソガキには」

鈴科教授とミサカ未来が顔を見合わせる。



そこへいきなり、ミサカネットワークに緊急信が入った。



【ついに】ヘンタイ百合タイーホ!!【やったか?】

1 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10090

お姉様<オリジナル>を悩ます変態百合女がアンチスキルに任意同行を求められました、とミサカは冷静に報告します!



2 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

10090号、あなた、どこにいるの?



3 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10090

ミサカはお姉様<オリジナル>の影として、第三学区の風紀委員会<ジャッジメントステーツ>統括総合本部にいます!

何故かマスコミが手際良く来ているのが不思議です、とミサカは疑念を差し挟みます。



「ちょっとミサカはテレビをつけてみる!!」

ミサカ未来が叫んで、コンソールのナビスイッチを弄くった。

たちまちフロントガラスの色が変わり、巨大なスクリーンに早変わりした。
896 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:52:05.99 ID:3VrXxgcF0

スピーカーから、アナウンサーの声が流れ出る。

「風紀委員<ジャッジメント>の不祥事が相次いでいます。

先ほど、風紀委員会<ジャッジメントステーツ>総合統括本部に勤務する白井黒子(しらい くろこ)、39歳が、

個人情報不正操作の疑いでアンチスキルに任意同行を求められ、あ、只今入りました続報です、同女が逮捕されました。

訂正して繰り返します、風紀委員会<ジャッジメントステーツ>総合統括本部に勤務する白井黒子、39歳は、

個人情報不正操作の疑いで只今緊急逮捕されました。これで、同事件についての逮捕者は、午前中に逮捕された風紀委員会

(ジャッジメントステーツ)サイバーパトロールに勤務していた花園飾利(はなぞの かざり)39歳に続いて2人目です。

本来、学園都市の治安維持を図る組織である風紀委員会<ジャッジメントステーツ>の職員による不祥事は、各方面に多大な

衝撃を与えています……」



「母さん!!! ……あのくそババァ、うそつきやがったな!! くそぉ、騙された!! うわぁぁぁぁ!!!!」



いきなり、男子学生、

 ――― 漣孝太郎 ――― 

が叫び、鈴科教授とミサカ未来がぎょっとして漣を見つめる。

「くそおっ! あのババァ、絶対許さねぇ!!」

だが、迸る激情が激しすぎ、漣はテレポート出来ない。

「くそっ、どうして、どうして、こういう時に限って!!」

「オマエ、あの女の息子か?」

「だったら何なんだ!」

「わめくなクソガキ! オマエが一人で騒いでもどうにもならねェだろが」

「ちょっと気になる言葉があったんだけど、『騙された』ってどういうことなのかな? 

わたしが想像するとねぇ、あの人、お母さんは逮捕されるはずじゃなかった、そしてあなたはその事をその『ババア』から

聞かされていた、なのにあなたのお母様は逮捕された、そういうことで良いのね?」

理路整然とミサカ未来が漣孝太郎に問いただす。

「……」
897 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 21:57:41.47 ID:3VrXxgcF0

「私たちは、風紀委員<ジャッジメント>でも、アンチスキルでもないわ。

でも、不正をするひとは嫌いだし、黙って見過ごすことも好きじゃないの。良かったら少し、お話ししてくれるかな?」



少しの間沈黙していた漣が、ぽつり、ぽつりと話し始めた。

「……ボクは、漣孝太郎……、風紀委員<ジャッジメント>。母親は、さっき逮捕された、白井黒子。

……ある日オマエの母親の命はわたしの一言でどうにでもなる、って言われて、無視していたら、仲間が行方不明になって……

そして、彼女も騒動鎮圧の時に大けがを負わされて……それで、仕方なくあのババァの言うとおり、ボクは、ボクは……」

「殺っちまった、のか?」

「アナタに聞いてないでしょ!」

「そんなことするくらいなら、死んでたよ!!! でも、同じだよ……ボクは、誘拐したんだ」

「誰?」

「友達だよ……彼女の親友だ……」

「そう……脅されていた、とはいえ、立派な犯罪を犯しちゃったのね、あなた。じゃ、その罪を償わなければいけないわね?」

「……はい」

「場所は?」

「第十八学区、TK精神病理学研究所、能力開発分析センター、第2実験エリア……でした」

「誰を連れて行ったのかな?」

「……」



一瞬、漣は躊躇した。

しかし、彼は、ミサカ未来の目をみて、正直に告白した。

「さてん……佐天、利子(さてん としこ)さんです……。学園都市教育大付属高校女子部1年の」



「オイオイオイオイオイ、どこかで聞いたことがある名前だなァ、えェ?」

「そうね、誰かさんが格好つけて『オレが守ってやンよ』とか言ってた気がするわねー?」

「ケッ、いきなりのお姫様危機一発ですってかァ? イイねイイねェ最ッ高だぜェ、打ち止め<ラストオーダー>、行くぞ! 

クソガキ、メソメソしてるんじゃねェぞ、オマエがヘタ打った分は、オマエ自身でケリつけろ!」

「……、は、はい!」

3人が乗り込み、ミサカ未来はクルマを第十八学区へ走らせる。 
898 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 22:05:12.35 ID:3VrXxgcF0


「AIMコントローラー、セット完了しました」

「AIMジャマー、全て撤去。全身スキャンの結果ですが、埋め込まれているものはありませんでした」

「非常用キャパシティダウナー、異常なし」

「生体反応データ、異常ありません。脳波異常なし、心電図異常なし。血圧、呼吸数、異常なし」

「生命維持装置異常なし、順調です」

そこは、とある研究施設のコントロールルーム。

捕らえられた佐天利子(さてん としこ)の状態を再確認する、注意呼称が飛び交っていた。





「結果が出たのか?」

執務室で背中を向けた金髪女性が質問を投げかける。

「は、はい!」

部長研究員の酒巻が直立不動で答える。

「DNA鑑定の結果です。レベル5 垣根帝督並びにレベル5 麦野沈利の子供である確立は99.9999%です」

「そう…………ご苦労さま」女性が答える。

「報告は以上です。木原会長、他に何かありますでしょうか?」

「いや、ない。下がって良い」

「はい!」

酒巻部長研究員は部屋を出て行く。





木原会長、テレスティーナ=木原=ライフラインは口を少しゆがめて「ふん」と小さく笑った。

「麦野、御坂……か。よく18年も隠してきたものね……子供の年齢をサバ読みするとは考えなかったわ。迂闊だったわ……。

見つからないはずよね、よくやった、と誉めてあげなきゃいけないわね。

でも、これでcomplete。

DNA解析データも手に入った。今となってはあんまり意味無いけど、気休めにはなるかしらね。

……

さて、それじゃぁ利子(りこ)ちゃんの能力を全部解析しましょうか、レベル6たるその素質を」
899 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 22:07:30.30 ID:3VrXxgcF0

「ありがと。よくわかったわ。それじゃ、あたしは娘のところに行く。

……あたしがどうこう言う筋合いじゃないだろうけど、あなた、もう一度全部忘れたほうが、いいえ、忘れるべきだわ。

……じゃぁ、さよなら」

背を向け、部屋から出て行こうとした麦野沈利に、絹旗最愛が恐る恐る声を掛けた。

「あ、あの、麦野、あたしも、付いていっていい?」

「……あたしの邪魔したら、許さないからね」

絹旗を振り返らずに、麦野は答え、そのまま部屋を出た。

「あ、待って、待ってよ、麦野!」

あわてながらも、絹旗は部屋に残る心理定規<メジャーハート>にぴょこんと頭を下げ、そして再び麦野を追いかけて消えた。



その仕草がおかしかったので、心理定規<メジャーハート>はふっと僅かに笑みを浮かべたが、直ぐに無表情に戻った。

(いいな……仲間がいて……)

(自分の子を守る義務……か、羨ましいよね、自分の血を分けた子がいるなんて……)

(わたしには、もう、何も残ってない、誰もいない……)

(帝督……あたし、寂しい……どうして、あなた、死んじゃったのよ……悔しいよ、バカ)

(全部忘れろって……全部失っちゃったわよ、あはは、情けないね……)



フラフラと立ち上がった心理定規<メジャーハート>は窓の方へ歩いて行く。



(なにが『俺の未元物質<ダークマター>に、その常識は通用しねえ』よ、死んじゃったら無意味じゃないのよ、バカっ!)



窓から外を眺める。



(あのバカ、横っ面はり倒してやらなきゃ)



薄く笑った彼女は、窓を開けた……。
900 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 22:11:55.08 ID:3VrXxgcF0



「……で、君は佐天さんを部屋まで送り届けたわけだ?」

アンチスキルが風紀委員<ジャッジメント>飛燕龍太に事情を聞いている。

「そうですが、その後直ぐにボクはセンター駅の誘導に出てしまったので、そこから後は知らないんですよ」

飛燕が困惑の表情もそのままに答えている。



不安そうな大里香織、興奮している青木桜子、必死に飛燕の顔色を読む斉藤美子、アンチスキルのクルマに張り付き、

記録を取る(盗る?)前島ゆかり、椅子に座って考え込む遠藤冴子がいるここは、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院。



佐天利子がいつまで経っても戻ってこないので、受付を通じて面会謝絶のB−203へいるはずの彼女に降りてくるよう

伝言を頼んだのだった。

しかし、部屋にいなかった、ということでやむなく、呼び出しページングをかけてもらったのだが、彼女は戻ってこない。

仕方ないので、玄関から携帯をかけてみたが、「おかけになった番号は、現在電波の届かない……」の案内が流れるだけ。

ここに至って、ついに遠藤冴子がアンチスキルに「佐天利子が行方不明になった」と連絡を取ったのだった。



遠藤冴子は必死に考えていた。目には、病院のB棟が写っている。

……ふいに、3階から人間が降ってきた。

1人、2人。

いや、もう1人。しかし、この人間は大きな荷物をぶら下げて、垂直な壁を何事もなかったように早足で降りてきた。

(ふーん、忍者っているんだー)

いずれも普通の服ではない。映画やサバイバルゲームで見たことがある戦闘服を着ている。

3人とも頭には大きなゴーグルを被っている。

最後の一人がぶら下げてきた荷物をばらし、全員に区分けした。その結果、3人全員が全く同じ格好になった。

1人が合図した直後、3人はあっという間に見えなくなってしまった。

ポケーっと見ていた遠藤冴子は、しばらくして我に返り、

「ねぇねぇ、さくら……今ね、」

と言いかけて絶句した。



「救急セットは準備したわね?」

「3セット持ち出しました。使わなければ良いのですが、お姉様<オリジナル>」



目の前を、全く同じ背格好の、

先ほど見たものと全く同じ戦闘服を着込んだ、

全く同じ顔をした二人が早足で駆け抜けていったのだった。

一人は、さっきの3人がしていたのと同じような、大きなゴーグルを頭につけていたけれど。



(今の、誰かに似てたわよね? えっとー……)

遠藤冴子は必死に思い出そうとしていた。
901 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 22:19:32.25 ID:3VrXxgcF0


「もしもし、18番?」

アンチスキルの事情聴取を終えた飛燕龍太が、スカウターで話をしている。

「あら、37番? 珍しいわね、いまどこ?」

何事なの? という声で話す相手は、麦野の養女(むすめ)、麦野志津恵だった。

「話はあと! あのね、誘拐事件なんだよっお姉ちゃん!! しかも、それ、佐天姉ちゃんの娘さんなんだよっ!」

「ええっ? うそっ!? それって、もしかして佐天利子ちゃんじゃないの?? その子、わたしの学校の子なのよ!!??

 そ、それで?」

「お姉ちゃんの力がいるんだ! 過去探索<イベントリバース>なら、彼女の行方がわかるんじゃないか?」

「そ、そうね! 出来るかもしれないわ! わたし、第八学区だけど、あなた直ぐ来れる?」

「わかった! 直ぐ着くさ。どこで待ち合わせる?」

「モノレールの、第八学区南駅前、ミニマートがいいわ! あたし、5分で行くから!」

「オッケー、頼んだよ!」

音声通話が切れた。

(な、なんてことなの! 母さんは知ってるんだろうか? 今は仕事中……だろうか?)

麦野志津恵はブルゾンをひっかけ、携帯端末をひっつかむとスニーカーを履くのももどかしく、家を飛び出した。







執務室にたたずむセレスティーヌ=木原=ライフライン。

「全ての準備が整いました! 被験者の状態は極めて良好です」

イヤホンマイクセットに酒巻部長の報告が入る。
902 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 22:24:03.90 ID:3VrXxgcF0

(18年経って、ようやくテスト、か。長かったな……

計測機器の性能は大幅に進歩し、薬も性能と安全性が向上した。結果的に良かったのか、悪かったのか……)

彼女の頭を、長かった刑務所でのこと、新たなるレベル6、「原石」創造計画の立案・実施に至るまでの苦労、そしてあえなく

消えてしまった、レベル5同士による「第二世代」の期待の子供たちのことがよぎる。



受精後、細胞分裂が順調に進まず死んでしまった受精卵が数個。

無事育ち、期待がかけられたものの、不注意で感染症にかかり不遇の死を遂げた男の子、2人。

そして、2歳を迎えようとしていた矢先、あろうことか「母親」である麦野沈利によって無惨に殺されてしまった双子の女の子。

そして、どちらかといえば、押さえとして扱われていた、「母親」麦野沈利に育てさせていた女の子、「麦野利子」。

彼女が唯一の、レベル5同士の掛け合わせによる「人造原石」となったのであった。

しかし、その子も死亡。

テレスティーヌは、よもや麦野が自分の子を、生き残った3人とも殺すとは想像していなかった。



その知らせを受けたとき、滅多に落ち込まない彼女も、がっくりと落胆した。

(だから、最初の案の通り、第三位を使えば良かったものを、理事会の差し金さえなければ……)

だが、彼女も伊達に歳を食っていた訳ではない。

念のため麦野には監視を付け、また偽装の可能性も考え、置き去り<チャイルドエラー>や、当時二歳前後の子供たちのデータを全て

洗い出し、捜索を行ったのであった。

しかし、麦野利子らしき子供は遂に発見できなかった。



レベル5の子供達は、その後に僅かだが今なお新たに誕生してきてはいる。

だが、何故かその両親はいずれも部外者であり、学園都市出身者同士の夫婦からは未だに誕生していない。

つまり、新たなレベル5のメンバーは、例え年齢は少年少女であってもやはり「第一世代」なのだ。

彼らの第二世代はまた15年、20年という時間(とき)を待たねばならない。



(そんな時間は、わたしにはもう残されていない……)

        ……

(さぁて、麦野利子ちゃん、あなたの能力、全部見せてもらうわよ? 良い夢を、ね?)

「テスト開始!」
903 :LX [sage saga ]:2011/04/22(金) 22:35:59.51 ID:3VrXxgcF0
>>1です。
本日分、投稿終了しました。

読み返して間違い1つ。

>>898
>よく18年も隠してきたものね

16年が正しいです。orz

それから、 以前の間違い発見。
>>683
>「そん時は、あたしが優しく起こしてあげるわよ、未来<みらい>?」

あーれー………
投稿前の最終チェックで(どっちだったっけ?)と不安になって確認したら………orz
お姉様<オリジナル>が、打ち止めの名前を間違っちゃいけませんよねー。


今回の投稿部分は、頻繁に場面が変わっていますが、これはほぼ同時並行で事態が進んでいる、
と言うことを狙って書いてみたものです。
読みにくいかも知れませんがどうか御了承下さいませ。

明日も投稿できると良いんですけれど。
それではお先に失礼致します。
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/22(金) 23:43:46.30 ID:1u+tM7keo
走りまくってるなあ。
今までが落ち着いた調子だっただけこのラッシュはゾクゾクした。
セレスはテレスとは別人なのかな。TelestinaかTherestinaかどっちかわからんからなあ。
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/04/22(金) 23:52:59.62 ID:O6vH6TYAO
すごく気になる。 続き待ってます。
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/04/23(土) 01:07:57.03 ID:bbdIP4EJ0
一気に最後まで読んだ
すごくおもしろいです
応援してます!
907 :LX [saga ]:2011/04/24(日) 20:10:20.52 ID:NP35TkeQ0
皆様こんばんは。
>>1です。

>>904さん、御指摘有り難うございました。
間違いです。やってしまいました。orz
お返事遅れてしまってすみません。

最初、「セレスティーナ」って間違って書いていたのです。それである時に気が付きまして
修正をかけたのですが、>>901の「セレスティーヌ」は見落としました……

おわびと言っては何ですが、極少量をこれより投稿致します。
それでは宜しくお願い致します。
908 :LX [sage saga ]:2011/04/24(日) 20:13:06.41 ID:NP35TkeQ0

「37番、ちょっと止まって!」

「うわおおっとぉ!!」

テレポートしようとした37番こと、飛燕龍太は演算を非常停止した。

「お姉ちゃん、勘弁してよ! 変なところで止められると、俺も姉ちゃんも死んじゃうよ!!!」

泣きそうな顔で、彼はお姉ちゃん<18番> の麦野志津恵にくってかかる。

「ご、ごめんね。でもここで行って帰ってきてるのよ! 方向が変わってる!」

「どういう事なんだよ?」

「37番ね、ちょっとこの発電機の上に上がれるかしら?」

志津恵が聳える風力発電機を見上げる。

「高いところに行きたいの?」

少し興奮が収まった飛燕が尋ねる。

「……あそこの、作業通路がいいかもね」

高く聳える塔に設けられている、作業通路を志津恵が指さす。

「よし!」



――― 二人は狭い通路に立っていた ――― 



「うわ、狭い!!」

「ちょっと、変なところ触らないで、バカ!」

「ご、ごめん! 風に煽られちゃったからさ、狙った訳じゃないよ!」

飛燕龍太の手は、麦野志津恵のお尻にタッチしていたのだった。

「狙ってやってたら落っことしてやるわよ!」

「……あのさ、お姉ちゃんさぁ、そんなことより、佐天さんはいったいどうしたってんだよ?」

「ちょっと待って………佐天さんは、向こうに行った後、再びここへ戻ってきた……この交差点を左折、直進、あそこの入り口から

学園高速に入った」

「え……なんだよ、陽動作戦か? 回りくどいことするなぁ……とにかくじゃぁ、高速入り口まで行こう!」

「あ、待って、ごめんね。その前に母さんにもう一度かけさせて。ダメだったらメールにするから」

麦野志津恵は携帯端末を弄くるが、やはり「母」麦野沈利は電話に出ない。

「ダメか……、ああ、やっぱり音声・文字同時通信機能付きにすべきだったなぁ」

ため息をついた彼女はカチカチカチと目にも留まらぬ早さでタイピングして行く。

「終わった!ごめん、龍太、行こう!」

「遅いよぅ!」

麦野志津恵が言うと、飛燕龍太は手を取り、

――― 二人の姿は、通路から消えた ―――
                
909 :LX [sage saga ]:2011/04/24(日) 20:15:11.03 ID:NP35TkeQ0

あたしは、物陰に隠れて、テロリストとアンチスキル・ジャッジメントとの戦いを見ていた。

麻琴が、一人のジャッジメントと組んで戦っていた。

相方の空気使い<エアロハンド>の能力で飛ばされてきたテロリストに、麻琴が電撃を浴びせて気絶させた。

(わぁっ、さっすが、マコ! カッコイイよっ! すごいすごい!)

あたしは戦闘中だというのに興奮して、麻琴の奮戦ぶりを見ていた。



テロリストの一人が、麻琴たちに向かって何かを投げつけた。

麻琴の相方はそれをエアロハンドで吹き飛ばしたが、それはビルに激突して爆発した。

コンクリの破片が飛び散り、大きなものが不規則にバウンドして、思いもかけない方向から麻琴に突っ込んだ!



………彼女は、風に煽られる木の葉のように宙を舞い……地面に叩きつけられた。 


         ――― 麻琴っ!! ―――


「マコーっ!!」

あたしは悲鳴を上げて麻琴に走り寄る。

「マコ、しっかりして、マコっ!」

……今まで、こんな酷い人間の姿を見たことがない。

助かりそうもない重傷だった。

右目はつぶれ、頭からは大量の血が流れている。

口からも血が垂れ、右腕はあらぬ方向に曲がり、裂けた傷口からは骨が見えている。破片が突き刺さっている服は血だらけだ。

「げふっ」と麻琴が血を吐いた。

「マコっ! マコ!! マコったら! だ、誰かっ! 誰か来て!!」

あたしは泣き叫ぶが、誰も気が付いてくれない。助けて、誰か!!!!

「リ……コ……?」

麻琴がかすかな声であたしを呼んだ。

「手を……にぎって……」

やめて、麻琴、しゃべらないで! だめ!

あたしは既に冷たい麻琴の手を思い切り握った。死ぬんじゃない、死んだらダメ! 麻琴!

(だめ、だ)

冷静な『あたし』がつぶやいた。

「ケーキ、また、食べに……」

麻琴の頭が、ぐらりと落ちた。



あ……… あ、あ ………、あああ……… 



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

次の瞬間、世界が白く、飛んだ。
910 :LX [sage saga ]:2011/04/24(日) 20:17:43.95 ID:NP35TkeQ0


「AIM拡散力場、最大値を計測しました」

「よし、一旦休息させろ。演算クリアだ。AIMコントローラを安静位置に」

佐天利子のAIM拡散力場の活動状況を示すグラフィックが、急激に縮小して行く。

「さっきのピーク状態でどれくらいだ?」

「およそ7〜8割と言うところかと思われます」

「あれでまだ8割か。既に破壊力では優にレベル5に匹敵するな……彼女はまだレベル3なのだろう?」

「それは書庫<バンク>のデータがおかしいんじゃないですかね?」

「そもそもいつのデータなんだ?」

「……今年の初春ですね……、2月24日の、高校の二次試験でのものです」

「それはおかしい。もう9月なのに、一度も更新されていないことになる」

そこへ1人の研究員が首をひねりつつやってくる。

「部長、異常データが出ました。……一瞬ですが、全く異なるAIM拡散力場が発現しています」

「なに? おい、もう少し詳しく!」

「ハイ、こちらを。……佐天利子の身柄確保時点でのAIM拡散力場パターンは、一昨年前に登録されたものと基本的に同じで、

特に異常はありませんでした。これが、彼女の波形です。……しかし、テスト開始15分22秒に」

研究員が酒巻部長研究員にモニターを指し示す。

「このような、全く違う波形のAIM拡散力場が……0.72秒ですが発現しています」

「多重能力、か?」

「……わかりません、ちょっと短すぎて……」

「その拡散力場のデータは取れているな?」

「はい。ですが短すぎて、チェック項目としては不十分かと。ノイズと区別できない可能性もあります」

「かまわん。時間はある。もし多重能力で、それが二番目のAIM拡散力場なら何回か出て来るだろうから、それを

集積しよう。おい! 各員、15分後にテスト再開する。各人休憩を取れ。10分前にはここへ戻れ!」

「「「「わかりました」」」」
911 :LX [sage saga ]:2011/04/24(日) 20:22:05.12 ID:NP35TkeQ0


「会長!」

「どうした?」

「予想通り、能力開発分析センター第2実験エリアに侵入者です」

「アハハ、本当に来たか、かわいい連中だ」

「第2実験エリアに来たのは、予想通り先ほどのテレポーターですが、もう一人、AIMストーカーによればレベル5です!」

「御坂か?」

「その事についてですが、外から侵入してきている別のグループがおりまして、こちらにもレベル5がいます! 

AIMストーカーのデータではこちらが超電磁砲<レールガン>及びそのクローンのようです」

「二人のレベル5か。片方は麦野か?」

「いえ、原子崩し<メルトダウナー>ではないようです」
                    
(まさか……、第一位? 第七位? どっちもありえんが……?)

「酒巻、テスト再開だ!」

テレスティーナは指示を出す。


再び、AIMコントローラーが作動を始める。

--------------


気が付くと、

あたしだけが、

たった一人、

そこに

立っていた。


あたしのまわりには、

「何もない」

風景が広がっていた。

「そ、そんな……」

あたしは幽霊の如く歩き、さっきまでバスがいた「はず」のところへたどりついた。

やっぱり、何も、なかった。
912 :LX [sage saga ]:2011/04/24(日) 20:28:02.29 ID:NP35TkeQ0

「さくら……?」

あどけない顔で笑うさくら、

「世界一のOLになれるわよ」 

自信たっぷりだったゆかりん、

まん丸な目がとっても可愛い、アタマの切れるさえちゃん、

自分の能力が嫌いで、いつも静かな、ミコちゃん、

地獄耳<ロンガウレス>の湯川先輩、

みんなどこへ、行ったの……?

『だから、言ったのに』

冷静なあたしが、ぽつりと言った。



-----

「出た! 出ました!」

研究員が叫ぶ。

------



(あたしが、殺したのね…… あたしが、みんなを消しちゃったのね?)



――― あなたは、自分を制御できない、とんでもないばけものになる ―――



母の声がよみがえる。

お母さん、ごめんなさい! 

あたし、ばけものになってしまった……、もう、だめ……

「う、うっ、お、おかぁぁぁぁぁぁぁぁさぁぁぁぁぁぁん!!!!!」



佐天利子の絶望の叫びが、残酷なほどに澄んだ学園都市の青空に響き渡った。
913 :LX [sage saga ]:2011/04/24(日) 20:37:17.47 ID:NP35TkeQ0



「むぎの、今、いいかな?」

「あら、滝壺? 手短に」

滝壺の名前が出たことで、うつらうつらしていた絹旗最愛がぱっと目を覚ます。

「むぎのの娘さんのAIM拡散力場を確認したの。断続的に出てるけれど、位置は変わっていない。問題はないかしら?」

「ありがと、大ありなのよ。助かる。ちょっと待って、自分の位置をまず特定するから」

麦野沈利は車を止める。

絹旗は期待を込めた顔で麦野と滝壺(浜面だが)の会話を聞いている。

「滝壺、いいわ。位置を教えて?」

「むぎののところから、北に向いて78度11分、水平距離は7268m。いい?」

「ちょっと待ってね……7,8,1,1,……7,2,6,8と……出た。TKLスポーツセンター? 

滝壺? もう一度聞くけれど今のあたしの位置から、北に向いて78度11分、水平距離7268mでいいのよね?」

(心理定規<メジャーハート>が教えてくれた場所と違う……でも、滝壺に間違いはない)

「そう。お嬢さん、また危ない目にあってるの?」

「そうらしい。あたしの養女(むすめ)からも同じ内容のメールが入ってた。取り返すわよ、絶対に」

「気をつけてね、むぎの。あたしはそんなむぎのを応援してる」

「ああ、ありがとう。また変化があったら連絡頂戴ね。じゃ「麦野、待って、電話貸して!!」あ、ちょっと待って?」

ああ、そうか、ほら、と言う感じで麦野がスカウターを絹旗に渡し、自分は目的地のTKLスポーツセンターをクルマのナビで

呼び出し、目的地とすべくセットを始めた。



「もしもしっ、た、滝壺さんなの? あたし、絹旗ですっ!! 無事なんですねっ?」

(きぬはた? きぬはたなのね! あ、あなた無事だったのね!!)

「うぅ、ち、超、無事、ですよ……無事に、決まってるじゃないですか……良かった……」



スカウターを抱きしめるように持ち、泣き出してしまった絹旗を優しい目で見た麦野は、クルマを再スタートさせる。



………今の彼女の顔には、再び捕らわれた娘を絶対に取り返すという強い意思が、阿修羅の如くはっきりと現れていた。
914 :LX [sage saga ]:2011/04/24(日) 20:41:46.34 ID:NP35TkeQ0
>>1です。お読み頂きまして誠に有り難うございます。
非常に短いのですが、本日分はここまでです。

同時並行で話を進めるもので、入れ替わったり話を追加したりで、この後はまだ柱に
肉付けをしなければならない未完成状態です。(そのあとは出来上がってますw)
なんとか今月中には、とは思っているのですが。

それではお先に失礼致します。
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/24(日) 20:44:50.83 ID:S8N3qgMKo
乙乙
テレスティーナは御坂LOVEなのかな?
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/24(日) 23:29:55.31 ID:THq6iquio
改めて読むとめちゃくちゃ年食ってるんだなー。
40代の一方通行とか絵面が想像できない。
そっちで世代ってのを感じるww
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/25(月) 01:13:57.05 ID:ENAyQJzAO
続きが超気になります!
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/25(月) 10:31:14.62 ID:+0+aGE8y0
乙です。
テレスたんktkr相変わらずむぎのんママこわかっこいい
どっちの利子にも救いがありますように…

>>916の40代の一方通行で気づいたけど
40代の一方さんは髪白いから実際の年より老けて見えるのか紫外線完全カットで驚くほど若い肌なのか
どっちでも楽しいからどっちでもいいけど
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/04/25(月) 12:08:27.95 ID:jOiKO3pAO
きっとその頃には
年齢:一方通行
って感じの見た目になってそうだ
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/25(月) 22:05:19.44 ID:+x6Qm8pf0
一方通行夫妻のところには子供はいないのか
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/26(火) 12:10:31.05 ID:hR+Psmmv0
>>920
このスレの一方さんは生殖能力が低いらしいからいないと思う
922 :LX [saga ]:2011/04/28(木) 19:50:08.74 ID:Z+wqmEdb0
皆様こんばんは。
>>1です。

ようやく佐天利子物語が出来上がりました。
最後まで一気に参ります。
本編は区切りにもよるのですが、およそ50コマ弱。
後日談というか、本編に組み込めなかった部分が10コマ弱、という感じです。
最後に第二部の登場人物紹介を入れようか?と考えています(出来てませんがw)

それでは、このあと投稿を始めます。最後までどうぞ宜しくお願い申し上げます。
923 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 19:55:48.49 ID:Z+wqmEdb0

漣と鈴科教授は、TK精神病理学研究所能力開発分析センターの第2実験エリア、佐天利子を連れてきた場所にいた。

「ンでクソガキ、お姫様はどこにいるンだってェ?」

「は、はい。ここで彼女は気絶させられて運ばれたはずです。どこかにいると思うんですが……」

「チッ、クソの役にもたたねェってかァ……」

その瞬間、強烈なエネルギーが鈴科教授、いや、一方通行<アクセラレータ>を襲った。

が。

       ――― ズドォォォォォム ―――


そのエネルギー弾は一方通行<アクセラレータ>から反射され、エネルギー発射システムに逆進しそれを破壊した。

「……ッたく、もうちっとマシな出迎えを考えろッてンだ、くっだらねェ……」

「す、すげぇ……」

漣はへたりこんでいる。

「アン? どうしたってんですかァ、オシッコちびっちゃったンですかァ? 甘ったれてんじゃねェぞ、クソガキ、おらァ、立て!」

「は、ハイ!」

そこへ、一人の戦闘服を着込んだ女性が飛び込んでくる。

「今の爆発は? あっ!!!」

彼を見た瞬間、彼女は金縛りにあったように立ちすくみ、ガスマシンガンを構えた手が下に落ちる。

「よぅ、久しぶり……だなァ、模造いや妹達<シスターズ>さんよォ」

「あ、あなた、は……一方、通行<アクセラ、レータ>……」

そこへ、今度はゴーグルをつけていない女性が飛び込んでくる。

「麻美、どうかした!? って…………あ、アンタ!」

上条美琴、だった。

「「「10032号!」」」

茫然としているミサカ麻美(元検体番号10032号)のまわりに、美琴に続いて飛び込んできたミサカ美子(元検体番号10039号)、

ミサカ琴江(元検体番号13577号)、ミサカ琴子(元検体番号19090号)の3人が、彼女を守るかのように立ちはだかる。
924 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:00:20.76 ID:Z+wqmEdb0

「美子、銃を下ろしなさい! とりあえず今は敵じゃないんだから」

上条美琴は先頭に立っているミサカ美子(元検体番号10039号)のガス・マシンガンに手をかけ、銃口を下へ強制的に向ける。

「なんで、アンタがここにいるのよ? ……って、そこにいるのは、もしかして、漣クン?」

「チッ、お姫様の代わりに見つけたのは三下おねェさま軍団ですってかァ、調子狂っちまうぜオイ」

「は、はい。漣、です」

「はぁ……なんでアンタとキミがここにいるのかってねぇ……」

「そりゃあオイ、こっちのセリフだっつーの。学園都市理事会メンバーが無断侵入たァ、ちょいとよろしくねェんじゃねェかァ?」

「アンタが心配しなくっても大丈夫だわよ、アタシにはいろいろと特権ってもんがあるのよ。詳しくは言えないけどね。

で、そう言うアンタこそどうなのよ?」

「あン? それはこのクソガキが風紀委員<ジャッジメント>特殊任務委員とかいう御大層な身分だからなァ、ちッとばかし

おこぼれに与らしてもらってるってとこだ」

そこへ突然、スピーカーから声が流れる。

「おしゃべり中にすまないね」

次の瞬間、上条美琴と妹達<シスターズ>の姿はふっと消えてしまった。

「!」

「! 座標移動<ムーヴポイント>か?」

「君ら二人はやはり無理だったわね。まぁ良いわ。君たちのお探しの女の子は既にここにはいないわ。従って、ここをぶち壊すのは

出来れば止めて欲しいものだけれど?」

テレスティーナ=木原=ライフラインの姿が浮かび出る。

「ここにはいない?」

「アハハハハ、お馬鹿さんたちが押しかけてくるのは百も承知。

漣? おまえがわたしを信用しなかったと同じく、わたしもお前を信用なんかしてなかったわ。

そこでだまって見てなさい。ハハハ」

テレスティーナの高笑いが反響して響く。

「クソババァ、上条さんたちをどこにやった!?」

漣が拳骨を握りしめて怒鳴る。

「あはは、安心しなさいな。丁重におもてなしせねばならないし、それに超電磁砲<レールガン>には積もる話もあるの。

邪魔が入らないところにお越し頂いたわ。冗談抜きで良い部屋よ? 君らは自由だから出来れば帰って欲しいんだけれど?」

「く……このクソババァ、出てこい、ぶん殴ってやる!」

「おお、怖い。ひとつ教えておくわ。ババァは殴るものじゃなくて、労るべきものよ? じゃぁね」

立体ホログラムのテレスティーナはかき消えた。
925 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:02:34.10 ID:Z+wqmEdb0



「AIM拡散力場が激しく揺れ動いています」

「さっきのはその後は出てこないな……」

「どうしましょう? 続けますか?」

「様子を見よう。……続けろ」

---------

『利子ちゃん? わたし、やってみようか?』

「え……?」

『わたし、まだ能力を半分も使っていないの。少し、イメージ出来るんだけれど、もし、それがホントなら、お友だちを

助けられるかもしれない』

-------------

「出ました! 第二のAIM拡散力場です! 今度は長いです!!」

「データ収集はやってるな!?」

「はい!」

「……彼女は二重人格……なのか?」

「……違います……ね。見て下さい。第二のAIM拡散力場が出ている間、元のAIM拡散力場は消えてますよ!」

「お……そうだな」

「さっきのは、極めて短時間だったので、元のAIM拡散力場が消えているのに気づかなかったんじゃないでしょうか?

あ、そこの君、すまん、さっきの実験の際の、彼女、佐天利子のオリジナルのAIM拡散力場の動き『だけ』をみてくれ、

タイムコントロールは……誤差もあるだろうから開始14分50秒くらいから15分30秒あたりまでだ。至急頼む」

「はい」

「君の言うとおりなら、多重能力<デュアルスキル>ではなく、多才能力<マルチスキル>か」

「レベル5同士から産まれた子でも、やはり多重能力<デュアルスキル>というのは無理なんですかねぇ」

「理論上否定されているからな。やはり正しいのか」
926 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:06:05.83 ID:Z+wqmEdb0

----------------------

「お願い、みんな、助かるなら、やってみてよ、お願い! あたし、あたしが……みんなを」

『うん。やってみる。でもそのためには、わたしがあなたから独立する必要があるの』

「え? どういうこと?」

『立場を入れ替えなければダメ。……あなたの能力は私の能力そのものなの。今まで、利子(としこ)ちゃんは、わたしの能力を

借りていたようなもの。でも、わたしの能力はもっと先がある……みたいなの。でもそれを使えるのは、たぶん、わたし自身だけ』

「そ、そうだったんだ……」

『わたしがあなたになる、ということは佐天利子が消え、麦野利子が現れることになるの。それは非常に危険なことでもあるの。

わたしの力は、あなたのパーソナルリアリティの元でコントロールされてきた。良きにせよ悪しきにせよ、ね。

でも、立場が変われば、もはやあなたのコントロールは及ばなくなる。そして、それは記憶され、最悪の場合、わたしの能力を

あなたは押さえきれなくなるかもしれない。』

「そう……でも、でもわたしはあなたが伊豆で暴走した時は押さえ込めたよ? だから、きっと大丈夫だよ!!

それよりも、早くみんなを助けて欲しいの!!」

『わかったわ……じゃ、まず最初に、この煩わしいコントローラを!』

いきなり、わたしの意識は消えた。

-----------------------


「打ち止めェ、オレだ、オマエどこにいる?」

鈴科教授から一方通行<アクセラレータ>へと戻った彼は、ミサカ未来こと打ち止め<ラストオーダー>へ連絡していた。

(今、第十五各区でお買い物中ってミサカは答えてみる?)

「良い身分だなァ、オイ。店の名前は? クソガキをこれからオマエのところへ迎えにやる! さっさと店の名前を言え!」

(ミシェル・ムートンだよって、アナタわかるのかしら? なーに、荷物持ちに来てくれるの?)

「……てめェの頭ン中はお花畑ですかァ? おい、クソガキ、ミシェル・ムートンって店、わかるか? 十五学区だ?」

「検索してます……出た。……場所、把握しました」

「ちと待ってろ、打ち止め。……それでだ、オマエ、打ち止めを連れて、長点上機のオレの研究室に行け。そこに、佐天利子と

麦野利子のAIM拡散力場の固有波形データが取ってある。それを使えば、オマエのAIMストーカーでも彼女の居場所がわかるはずだ。

時間が惜しい、クソガキ、先に行け! 場所がわかったらオレに連絡しろ。追いかけるからよォ、わかったな?」

「は、はいっ!」

漣がテレポートして姿を消す。

「さてと、捕らわれのお姫様をまた追いかけますかねェ、クソッタレの第三位が……妹達<シスターズ>まで連れてきやがって。

まぁ、アイツらだけでも十分出てこれるだろうけどなァ」
927 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:10:29.48 ID:Z+wqmEdb0

-----------------------------

上条美琴と妹達<シスターズ>は、モニタールームにいた。

ミサカ麻美<元検体番号10032号>は上条美琴にしがみついて震えている。

(無理ないわね……やっぱり直接顔見て、声を聞いたら、言葉をかけられたら、そりゃ怖いよね……今でも)

美琴は、ぶるぶると震え、はぁはぁと荒い息を吐く麻美をしっかりと抱きしめていた。

かつて、「絶対能力進化<レベル6シフト>計画」の実験台として死ぬことが目的であった妹達<シスターズ>の一人、

一方通行<アクセラレータ>によって死の淵にまで追いつめられた最後の一人、そしてそこから只一人生き残った10032号こと

ミサカ麻美は、その後数々の試練を乗り越え、いくつかの事件を経て20余年を生き抜いてきた。

感情が乏しかったと言われる妹達<シスターズ>であるが、20年という月日は立派に彼女たちを一人の人間に育ててきたのだった。

「「お姉様<オリジナル>、ここはどこでしょう?」」

ミサカ琴子<元検体番号19090号>とミサカ琴江<元検体番号13577号>がハモりながら疑問を口にする。

「ようこそ、観客席へ」

そこには、冷たい微笑みを浮かべたテレスティーナ=木原=ライフラインが立っていた。

反射的に妹達<シスターズ>の二人がガスマシンガンを構える。

「待ちなさい! それ、立体画像! 立体ホログラムよ!」

上条美琴が叫ぶ。

「さすが、レベル5、超電磁砲<レールガン>、御坂いや上条美琴だったわね。お久しぶりね? そう四半世紀ぶりになるのかしら」

「アンタもご無事なようで。まさかシャバに出てきてるとは思っても見なかったわよ」

かすかに美琴の髪が逆立つ。

「お止めなさいな、ここで電撃を飛ばしても、わたしには何も起きないわよ? モニターをぶち壊すだけ。

そしたらせっかくのイベントをあなたたちは見られなくなるけれど?」

「どういうことよ?」

「ふふ、見ていればわかるわよ?」

二人の(一人は立体ホログラムだが)やりとりにミサカ美子(元検体番号10039号)が割り込む。

「私たちをここへ飛ばしたのは、貴女の能力ですか? とミサカは確認します」

「そうよ?」

立体ホログラムのテレスティーナが、当然と言う顔をする。

「あら、アンタ、能力者だったんだ?」

美琴が少し驚いた声で突っ込む。

「ふふ、そうよ? わたしが以前、超電磁砲<レールガン>を撃ったこと、忘れてはいないわよね?」

「! ……で、でもあれは、わたしの能力を分析して、作り上げた只のエネルギー……」

美琴は言葉に詰まった。只の人工的な破壊エネルギーだったのかどうか、その証拠はないことに気が付いたからだった。

「あなたが、能力者だったら、どうしてキャパシティダウンに耐えられたのよ!?」

「ふふ、そーんなこと? いいこと? キャパシティダウナーは、わ・た・し・が作ったのよ? 自分用に対策をしないとでも?

……わたしと闘ったあなただから、特別に良いことを教えてあげましょうか。

何故、木原幻生が、『絶対能力進化<レベル6シフト>計画』の最初の検体にわたしを用いたかわかる? 

何故、レベル5の第六位が空白だったかわかる?」

「!!」

美琴の顔に驚きの色が浮かぶ。

「そう。わたしは、学園都市最初のレベル5、栄えある第1号。そして、元第六位」
928 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:14:39.71 ID:Z+wqmEdb0

「だ、第六位って、空白の……それがアンタ……」

「そう。レベル6を狙うんだから、そんじょそこらのチンケな能力者を使う訳がないでしょう? 少し考えればわかりそうなものだけど」

「……」

「ま、直ぐに一方通行<アクセラレータ>やら原子崩し<メルトダウナー>だの、そしてあなた、超電磁砲<レールガン>等々の

みなさんが現れてくれたおかげで、あたしはずっと順位が下がったけれどね。まぁ最初は悔しかったけれど、おかげで

わたしは陰に隠れることが出来て助かったわ。あなたもわかるでしょ? レベル5だ、第何位だともて囃される面倒臭さを」

「……アンタ、まだレベル6なんか考えてたの!? あの、悪魔のような……」

「フン、一緒にしないで欲しいものね。あんな馬鹿げたコストの高いプランなんかハナから相手にしていなかったわ。

わたしたちには既に300年に及ぶ試行錯誤のお手本があるっていうのにね。

競馬馬の世界を考えてみればわかるでしょう? 全ての馬の血統がコントロールされ、常に優秀なものと優秀なものとが掛け合わされ、

その中で更に優秀なものが子孫を残して行く」

「……それで、アンタは」

「そう」

「アンタだって女でしょうが! そんな、そんな……」

「ふふ、あたしが子供が産める身体だったら、真っ先にやっていたわ。素晴らしいことじゃない?

レベル6を生み出す母体になれていたら、ね」

「え……?」

「あのクソジジイの実験のおかげで、わたしは子供を作る能力を永久に失ったわ。

あの、忌々しい能力体結晶(ファーストサンプル)は、わたしの子、いつかわたしの子として産まれてきたであろう命と引き替えに、

この世に産み出された。いわば、あれは、わたしの子供みたいなものよ」

「アンタは、佐天さんから、まさか……」

「ふふ、安心しなさい。時は流れた。その点はお前や麦野に感謝せねばならないわね。今は新しい技術がある。彼女に影響は出ない。

貴重な原石を無駄遣いするようなことは、もはやない」

「……」

「……さてと、おしゃべりが長すぎたようね。ショウタイムは既に始まっている」

ホログラム像のテレスティーナが消える。

数多いモニター画面に画像が映る。

カプセルの中には若い女性の姿。

「と、利子ちゃん!!」
929 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:16:45.93 ID:Z+wqmEdb0

しかし、佐天利子(さてん としこ)、いや、麦野利子(むぎの りこ)の実験施設では大騒ぎになっていた。

「どういうことだ? 何が起きている!?」

「AIMコントローラが所定の動作をしません! 勝手に動いています!!」

「AIM拡散力場、一気に活動レベル上昇しました。波形は、第二のパターンです! ものすごい勢いです!」

「コントローラを自動から手動に切り替えろ! 手動で行え!」

「だめです、一切の外部からの指示を受け付けません!」

「仕方がない、AIMジャマーを動作させろ! 非常用キャパシティダウナーの安全ロック解除!」

酒巻部長研究員が叫ぶ。

「AIMジャマーも動作しません! 全部ダメです!! 暴走してます!! 危険です!!」

部下の研究員が悲鳴を上げる。

「やむをえんな……やり直しだ!」

酒巻部長研究員がキャパシティダウナーの動作ボタンのカバーをたたき割ろうとしたその瞬間、

   ――― バン ―――

電源が全て落ちた。


「どうした!」
「停電だ!」

直ぐに非常電源に切り替わったのか、再び明かりがついた。

その瞬間。



――― ボムボムボムボム ―――



壁をぶち抜いて、エネルギービームがコントロールルームに突き刺さった。

再び照明が落ち、非常灯の薄ぼんやりとした明かりが灯る。

「!」

一瞬、何事が起きたのか、茫然と立ちつくす研究員たち。


ゴンゴンメキメキという音と共に、機材搬出入口の鉄の扉がゆがんで行き、小柄な女性が飛び込んできた。

「なんだ、キミは? 勝手に入ってくるな!」

そう言いながら女性に向かった大柄な研究員は、その小柄な女性にあっけなく張り飛ばされ、宙を飛び、壁に叩きつけられた。

「の、能力者か?」
「誰だ、貴様?」

口々に叫ぶ研究者。

「誰でもいいじゃない。あんたらの『作品』の一つなだけだよ」

そう言うと、その女性はコントロールパネルに走り、パンチをパネルに食らわした。

鈍い音と共にパネルに大穴が開く。



その直後、再びエネルギービームが数本、コントロールルーム内を突き抜け、小規模な爆発が連続した。

「てめえらぁ、死にたくなかったら、全員頭を下げてろォォォ!!」

女の声が響き渡る。

研究員たちが振り返ると、溶けた壁を抜けて、薄く発光した女性がゆっくりと室内に入ってきたところだった。

「娘を返してもらうわよ」
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/28(木) 20:19:48.72 ID:G99uJV4Ao
打ち止めァな
931 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:20:12.33 ID:Z+wqmEdb0

「絹旗、利子(りこ)を捜して?」

女、麦野沈利が小柄な女性、絹旗最愛に指示する。

「勝手なことをするなっ!」

酒巻部長研究員が反射的に立ち上がり、絹旗の方へ走る。

「超死亡フラグ、ですね」

絹旗は、体を沈め、飛びかかってきた酒巻に軽くストレートを当てると、酒巻もまた宙を飛び机の上のモニターをなぎ倒して

床に転げ落ちた。

「ひいっ!」

逃げ出しかかった若い研究員の腕を絹旗はねじり上げ、

「さっさと教えて下さい。麦野は気が超短いんです。わたしは手加減出来ますけれど、麦野の原子崩し<メルトダウナー>は

手加減できませんよ? さ、娘さん、麦野利子さんはどこですか?」

冷たい微笑を浮かべ、無機質な声で研究員を脅す。

「わかった! 言うよ、言うから、腕を放して! 折れる、助けて!!」

涙を流しながら研究員が叫ぶ。

「腕の1本くらい、どうってことないですよ? 直りますからね。でも、脳みそを切り刻まれた、わたしの友達は死んだ」

ボキという鈍い音を立てて、研究員の腕はあらぬ方向に曲がり、ぎゃぁっという悲鳴と共に彼の身体はくずおれた。

「絹旗! 遊んでないの!! 時間がもったいない! 早く!」

原子崩し<メルトダウナー>のエネルギービームを四方八方に放ち、破壊していた麦野沈利が叫ぶ。

「やれやれ、それじゃ仕方ないですね」

そういうと、失禁して震えているもう一人の研究者に絹旗は近づいた。

「案内して頂けますね?」

そう言って絹旗は微笑んだ。
932 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:26:26.03 ID:Z+wqmEdb0

-----------------------

バッとエネルギービームが横殴りに走ったのが見えた。

いくつかのカメラが破壊されたのか、何台かのモニターからは画像が消えた。

「い、今のは……?」

「む、麦野さん……?」

「ようやくわかりました。佐天利子さんが似ているのが誰なのか。それはあの人だったのですね、とミサカはようやく胸につかえて

いた疑問が氷解したことをここに宣言します」

「ちょ、それはこの10039号のおはこです、と19090号にミサカは抗議します」


そこに、打ち止め<ラストオーダー>からの緊急信がMNW(ミサカネットワーク)に飛び込んできた。


【目標】第五学区、TKLスポーツセンターだよ!!【発見!】

1 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

佐天利子ちゃんと麦野利子ちゃんは第五学区のTKLスポーツセンターにいるよって、ミサカは報告する!!



【Misaka13577が退出しました】
【Misaka10032が退出しました】
【Misaka19090が退出しました】
【Misaka10039が退出しました】


2 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

ひ、ひっどーい!! みんな返事しないで落ちるなんて、あなたたちー! ってミサカは叫んで……って誰もいないんだよね。

ミサカは寂しいかもって、一人つぶやいてみる……

【Misaka20001が退出しました】


「お姉様<オリジナル>、謀られましたね、第五学区のTKLスポーツセンターだそうです!」

ミサカ琴子(元検体番号19090号)が畜生という顔で上条美琴に報告する。

「みんな、行くわよ! ……麻美、アンタ、無理しなくても良いわよ? どうする?」

どうする?と言う顔で、しがみついているミサカ麻美(元検体番号10032号)に優しく問いかける。

「失礼しました、お姉様<オリジナル>。お見苦しいところをお見せしました。大丈夫です。わたしは戦えますから」

そう言うと、彼女はしっかりと立ち上がり、ガスマシンガンをモニターに向けてぶっ放した。

モニターその他のコンソール機器が粉々に吹っ飛んで行く。

「……」
「……」
「……」
「……」

あっけにとられている上条美琴以下3名の顔を見ながら、かつてクールビューティとも言われた無表情のまま、麻美ははっきりと言った。

「彼女を助けに行きましょう! 他の皆と共に!」

5人の(殆ど)同じ顔をした女性軍は部屋を飛び出した。
933 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:30:55.96 ID:Z+wqmEdb0
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――― ごつん ―――

「いったーい!」

あたしは飛び起きた。

「ここ、どこ? あ、あなた誰っ?」

薄暗い非常灯がついている部屋、見知らぬ小柄な女の人が、あたしを見つめている。

「時間がありません。乱暴な起こし方をしてごめんなさい。わたしは絹旗最愛(きぬはた さいあい)、あなたのお母さん、

麦野沈利の友人です。あなたを救い出すのがわたしの役目。さ、行きましょう」

そういうと、彼女がわたしの手をひっぱって、カプセルから軽々と引き出した。

ええっ? 麦野さんって? わたしは反射的に答えた。

「わ、わたしは佐天利子(さてん としこ)ですっ、お母さんは佐天涙子(さてん るいこ)ですよっ?」

絹旗さんの動きが止まった。

「きさま、謀ったかっ!?」

そう言うと、彼女はぶるぶる震えている男の人の襟首をひっつかみ、前後に揺さぶった。ひどい、あれじゃむち打ちになるかも。

「う、うそ、じゃ、ない、その、子だ、その子、だよ!」

自分より遙かに大柄の男の人を振り回してる。すごい、怪力だ、このひと。

「あ、あの、わたしの中に、もう一人いるのが、『むぎの りこ』なんですっ!」

「はい?」

振り回していた男の人を放り出して、絹旗さんがわたしにまた走り寄る。あ、あのひと叩きつけられてのびちゃった……。

「どういうことなんですか? 超わかりませんが」

困った顔で聞かれてしまった。うう、どう言ったら良いんだろう?

「う、巧く説明できませんけれど、わたしは『麦野利子』でもあるんです! すいません、だから間違ってません!」

そう言われても、たぶんよくわからないよね……? あ、やっぱりわからない、って顔してる。

「うーん、佐天さんでもあり、麦野さんでもあるってこと? は……難しいんですね……とりあえず、麦野のところへ行きましょう!

 あ、あなたは裸足ですね?」

そう言うと、絹旗さんはわたしを軽々と抱き上げ、走り出した。

「あ、あの……重くないですか?」

わたしがそう言うと、絹旗さんは優しく微笑んで

「わたしの能力、窒素装甲<オフェンスアーマー>のおかげで、あなたの重さは殆ど感じませんから、超大丈夫ですよ」

そう言いながら軽やかに廊下を走り抜ける。

と、壊れたドアが先を塞いでいた。

「ちょっと下ろしますね」

そう言って、絹旗さんはわたしを下ろすや否や、「はっ!」と気合いと共にそのドアを蹴り飛ばした。

バン! という大きな音と主にそのドアは軽く吹っ飛び、5メートルほど先にズンと音を立てて倒れ込んだ。

ええええ? あれ、すごく分厚いドアじゃないの? す、すごすぎる……。

「行きましょう!」

再びわたしを抱き上げた絹旗さんが走り出し、ロビーらしきところに出た。

わたしは絹旗さんに下ろしてもらい、自分で立ち上がった。

「麦野!? 連れてきましたけど? どこにいるんですか?」

「さすが、絹旗ね、ありがとう。助かったわ。あたしは、後腐れないよう、いろいろぶっ壊してたの」

吹き抜けの上から女の人の声が響いた。
934 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:34:26.49 ID:Z+wqmEdb0

「逃げられちゃ困るんだな」

不意に目の前に駆動鎧(パワードスーツ)?を纏った女の人が現れた。テレポート?

そう思うまもなく、あたしはそのひとに腹に一発くらった。

「ぐふっ」

あたしは床に伏した……



「き、きさまぁーっ!」

絹旗が叫んで女に殴りかかった。

「やかましい」

女が右腕で絹旗を振り払うと、あっけなく絹旗は吹っ飛ばされ、ドンという音と共にロビーの壁にめり込んだ。

彼女は直接の打撲ではないものの、衝撃で動けなくなった。

「絹旗!!」

麦野が原子崩し<メルトダウナー>を逆噴射のように扱い、上から飛び降りてきた。

約10m程の距離を置いて、二人は向かい合う。

「元第四位、麦野沈利、原子崩し<メルトダウナー>、か」

「あら、自己紹介するのが省けたわね」

しかし、次の瞬間、彼女の顔は一気に緊張した。

駆動鎧<パワードスーツ>に書かれた文字、”Dark Matter ”を見たからだった。

「では、わたしも名乗ろうか。元第六位、テレスティーナ=木原=ライフライン。 能力複写<キャパシタアナリシス>」

麦野の顔色が変わった。

「く、空白の第六位……」

「もうひとつ、面白いことを教えてあげようか? 覚えているかな? 『こいつときたら!』」

「! あれはきさまだったかっ !!!」

麦野が怒りにまかせ、原子崩し<メルトダウナー>のエネルギービームを放つ。

だが、そのエネルギーは未元物質<ダークマター>を名に持つ駆動鎧<パワードスーツ>に吸収されてしまう。

「お前の原子崩し<メルトダウナー>はそんなものか? その程度でわたしの上、第四位に就いていたというのか……。くだらん」

そう言うと、テレスティーナは右腕からエネルギービームを、麦野のすぐ脇をかすめるように打ち込んだ。

「おまえの原子崩し<メルトダウナー>と同じものだ。わかるな?」

「……き、きさま……」

「これが、わたしの能力だ。なかなか楽しいものだぞ、いろいろな能力を使えるというのは。例えば」

再び、テレスティーナが高エネルギー弾を放つ。轟音と共にそのエネルギー弾は天井をぶち抜いて消えた。

麦野の顔に驚きが浮かぶ。

「ほう、わかるようだな。今のは第三位、御坂美琴の超電磁砲<レールガン>だ。……他にも?」

瞬時にテレスティーナは麦野の後へ飛び、思い切り彼女の背を蹴り飛ばした。

麦野の身体は吹っ飛び、彼女はロビーの床の上を数メートル転がりようやく止まった。

「お前の部下、漣の空間移動<テレポート>も出来る。ハハハハハハ。厳密な意味での多才能力<マルチスキル>ではないが、

まぁ似たようなものだ」
935 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:39:11.79 ID:Z+wqmEdb0

傷だらけになった麦野が立ち上がる。

「聞くけど、きさまが、人の手で原石を産み出そうとした、のか? わたしの、娘を、子供たちを、研究対象にした、のか?」

ゆっくりと、麦野が聞く。彼女の服は破れ、あちこちから血が垂れている。

「それは、違うな」

テレスティーナはあっさりと否定した。

「重大な勘違いをしているようだな。あの子は、あの子たちは、お前の意思で産んだものではない。忘れたか? 

お前は『仕事』として、単に腹を貸しただけだ。わたしは、いや、我々は借りただけだ。

その証拠に、お前は元第二位の垣根とセックスした訳ではあるまい? あの男の子を産みたいと思った訳ではあるまい? 

お前は、カネで、レベル5同士の交配の母体役を務めただけだ。

何を気に病むことがある? 楽になれ。胸を張れ。レベル6になる可能性を持った第二世代の母体となったことを!」

あざ笑うかのように、ボロボロの麦野を見つめるテレスティーナ。


「言い、たい、ことは、よく、わかった……」

麦野の身体が輝き始める。

「わたしから、きさまに言うことが、ある……」

「ふ、こいつときたら! さすが、第四位、と言っても良いな。その意気はかってやろう。

遺言としてずっと残してあげるから、さぁなんでも言ってごらん、んー?」

ケラケラと笑いながら馬鹿にした口調で麦野を嘲るテレスティーナ。

「きさまは、子を産んだことがない、だろう?」

「きさまは、腹を痛めた、我が子を思う、親の愛情を、思いを、願いを、知らないだろう……不幸な女だ……」

テレスティーナの顔色が変わった。

「随分と、そこらの母親みたいな口をきくな? 確かに、わたしは子はなさなかった。なせなかったのさ!

でもね、たかが借り腹のお前がそこまで言うのなら、わたしにも言い分がある! 

能力体結晶、そう『体晶』、あのファーストサンプルこそ、わたしの血をわけた、わたしの子供だ!!

てめえらが、滝壺理后が、使ったあの体晶は、わたしの子なんだ!」

憤怒の形相に変わったテレスティーナを麦野は見つめる。
 
「なるほど、ね。でも、わたしときさまと決定的に違うものがある……借り腹だろうが、なんだろうが、わたしには……

わたしの血を受け継いだ、あの子がいる、生きている」

「くっ……」

「そして、決定的に違うのは……きさまの、能力は、その名の通り、所詮は『複写<コピー>』だってことだ」

テレスティーナの顔がゆがむ。

「よかろう、コピーの力が、どれほどのものか、お前の身をもって知るがいい」

麦野もテレスティーナを睨み付ける。

「ああ、きさまに、本物の力がどれほどのものか、とっくりと教えてやろう。ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

麦野の身体が再び青く輝き出す。

「未元物質<ダークマター>の名前は伊達じゃない、ッてことを思い知るがいい!!!」

二人が向き合い、互いに高エネルギーのビーム、原子崩し<メルトダウナー>を放つ。
936 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:42:33.28 ID:Z+wqmEdb0

双方の高出力エネルギーはほぼ互角、だが、そこでテレスティーナの駆動鎧<パワードスーツ>から、6つの羽根が現れ、

エネルギーがぶつかる部分へ伸びた。

(垣根、帝督の、羽根かっ! 未元物質<ダークマター>の象徴!)

羽根がエネルギーを吸い取っているのか、徐々に麦野の方が負け始め、交点は少しずつ麦野のほうへ近づいて行く。

麦野が叫ぶ。

「絹旗! 利子を連れて逃げなさい! これが、わたしの最後の命令よ! わたしの、利子を守って、逃げなさい!!」」

「ハハハ、よかろう、逃げても良いぞ? だが、直ぐに追いついてみせる! 早く逃げろ、逃げおおせるものならな」

嘲るテレスティーナ。



ふらふらと歩く絹旗は見た。

麦野の身体が激しく輝くのを。

彼女はその意味を悟った。

「麦野、止めて! あなたまで吹き飛ぶわ! ダメよ!」

絹旗最愛が叫ぶ。

「あんたらがいたら、勝てないのよ!! わたしの、わたしの全力でコイツをつぶす!! 早く、利子(リコ)を!!!」

麦野が絶叫する。

「わかりました」

絹旗はつぶやき、うずくまっている佐天利子を引っ担ぎ、ロビーを走り抜けた。

(絹旗、ありがと。さよなら)


麦野の身体はいまや高熱を発し、輝きは彼女の全身を覆っていた。

麦野は聞いた。

一瞬、(ママ?)という娘の声を。

( 利子(りこ)? ごめんね、さよなら。あたしは、あんたの母親として、あなたを絶対に守ってみせるから。

そして、強く生きなさい。佐天利子として、あなたの新しい人生を!)

すでに服は燃え尽き、もはや自分の身体がどうなっているのかもわからなくなっていた。



(まだ、こいつのエネルギーはつきないのかっ? このエネルギー量はっ?? こ、これで第四位だというのかっ??

くっ、なんの! 未元物質<ダークマター>のパワーが負けるはずが!)

だが、テレスティーナは麦野の原子崩し<メルトダウナー>を全力で押し返しているので、未元物質<ダークマター>の

パワーは、彼女のAIM拡散力場からのエネルギーを受けられないことから駆動鎧<パワードスーツ>の原動力以上には上がらない。

さりとて、未元物質<ダークマター>へパワーを割けば、今もなお圧力が増大しつつある麦野本体の原子崩し<メルトダウナー>

の直撃をくらいかねない。

テレポートで逃げようにも、AIM拡散力場を切り替えたその瞬間、やはり原子崩し<メルトダウナー>の直撃をくらう。 


(逃げられ、ないのかっ!!??)


テレスティーナ=木原=ライフラインの顔に初めて恐怖の色が浮かんだ。


(こ・れ・が・わ・た・し・の・ぜ・ん・りょ・く・だぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!!!!!)

高エネルギー体と化した麦野沈利は、立ちはだかるダークマター<駆動鎧>に向かって、自ら原子崩し<メルトダウナー>

の固まりとなって突撃した。
937 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:49:06.57 ID:Z+wqmEdb0

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「ここ、どこ?」

無茶苦茶埃っぽい。

目に見えるのは、瓦礫の山。

(まさか、さっきの戦闘?)

そう思った瞬間、背中に柔らかい感触があった。

(人? まさか、麻琴?)

重いものがのしかかっている。

あたしはずりずりと這い出し、後を振り返る。

(誰? このひと?)

女の人が倒れ伏している。その上には、瓦礫がのしかかっている。

思わず、あたしはその人が押しつぶされていると思い、その悲惨な姿を思い浮かべてしまった。

「げぇ」

酸っぱいものが逆流し、瓦礫の陰にあたしは吐いた。

一通り吐いた後、あたしは恐る恐る立ち上がってみた。



あたり一帯はまるで爆撃を受けたかのような、瓦礫と化していた。

(な、なんなの、このありさま……まさか、あたしが『また』やっちゃったの?)

あたしは、茫然とし、へたへたと座り込んでしまった。

(あたしが……やったの?)

そのとき、ひとの声が聞こえた。

「おーい、誰かいないかーっ?」

「としこちゃーん、さてんさーん、いないのーっ」

(え? あたし?)

あたしは、またふらふらしながらも立ち上がり、

「ここにいます! さてんですーっ!」

と叫んでみた。でも、普段と違って、大きな声がでない。

ゲホッゲホッとあたしは思わず咳き込んでしまった。

「いたっ!」

「佐天さん!!」

………いきなり目の前に、男の人と、女の人が現れた。
938 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:51:54.57 ID:Z+wqmEdb0

テレポート、だ。

女の人は、会ったことがある人、だ。

あ、うちの学校の……麦野……なんて言ったっけ?

「あ……麦野……さんですよ、ね?」

「よかった、無事だったのね!!!」

麦野先生があたしをひしと抱きしめる。

「よかったぁー、無事で!」

男の人が嬉しそうな顔であたしにしゃべってくる。誰だっけ? あれ? どこかでお会いしてます……よね?

「おいおい、もう忘れちゃったの? やだなぁ、すごいショックだよー!」

あ、もしかして、病院で?

「そ、飛燕だよ、飛燕龍太! 頼むよ、覚えててくれよなぁ」

「ちょっと、37番、あんた、この子に何かしたの?」

麦野先生が立ち上がり、飛燕さんに詰め寄る。

「何もしてないよ、勘弁してよ、なんで今日、俺はこんなに怒られなきゃいけないんだよ?」

そのとき、あたしは思い出した。さっきの女の人!!

「あ、あの、そこに、女の人が……」

「えっ??」
「あっ!!」

麦野さんと飛燕さんが振り向き、叫んだ。

「あ、あたしをかばって……」

あたしは、またそこで気分が悪くなって、瓦礫の陰に走った。

「あれ? もしかして、つぶされてない……ような?」

「37番! このひと、テレポートできる?」

「やってみるよ!」

飛燕さんが、女の人をテレポートしたその瞬間、ゴンと重い音と地響きをたてて、瓦礫が崩れた。

「危なかったぁ……、あ、やっぱり……す……げぇよ、このひと、全然つぶれて、なかったよ……信じられねぇけどさ」

その言葉を聞いて、あたしは口を手でぬぐっただけで元の場所へ駆け戻った。

「どういうことなんですか……?」

「ヤバイ! このひと、息してない!! お姉ちゃん、俺、病院に連れていくから、利子ちゃん頼むよっ!」

飛燕さんがテレポートする直前、あたしはその女の人の顔を見た。



――― 記憶が、蘇った ―――



――― 絹旗! 利子を連れて逃げなさい! ―――



――― 私の、最後の命令よ ―――


(きぬはた……さん? 最後……の? むぎの……『ママーっ!!!!』さん?)

麦野利子が、目覚めた。
939 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:53:33.51 ID:Z+wqmEdb0

『ママーっ!!!!』

あたしの中にいる、もう一人の『あたし』、麦野利子が悲鳴を上げる。

『ママが消えちゃうなんて、死ぬなんて、いなくなるなんて、絶対に、絶対にあたしが認め、ないっ!!!!』

『あたしが、ママを、絶対に助けてみせる!! としこちゃん、ごめん、下がって頂戴! あたしの、あたしの一生のお願い!!』

(わかったわ、リコ、あんたの思った通りになさい!)

『うん、ごめんなさいね。ありがと』

(ううん。あたし、寝ればいいのね……確かに、ちょっと疲れたな……)

あたしの意識は深く沈んでゆく……。



『としこちゃん、ごめんなさい。でも、これはあたしがやるしかない、あたしのママだもの』

16年の時を経て、麦野利子は、佐天利子から身体を取り戻し「麦野利子」として立ち上がった。

『ママ、わたしが助けるから、待ってて』



「利子(としこ)ちゃん、どうしたの、大丈夫?」

麦野志津恵が声をかけた。

『ごめんなさい、わたしは佐天利子ではありません。彼女は今、眠ってもらっています』

「え?」

『わたしは、麦野利子、わたしを守ってくれたママの、麦野沈利の娘です』

「ええっ?」

『ママは、私を助けるために、守る為に敵をやっつけました。でも全力を出した為に、ママの身体は消えてしまいました』

「そ、そんな、『お母さん』が? 消えた? 死んだの? 死んじゃったの????」

愕然とした志津恵がつぶやく。

『だから、わたしは、これから、ママを取り戻します。わたしの全力をもって』

その凛とした表情は、直前までの佐天利子の顔とは全く違う顔だった。

彼女の気迫のこもった目は、志津恵がよく知っている、麦野沈利の目にうり二つだった。

(やっぱり……あなたは、『お母さん』の、娘だった、のね……)

志津恵は、ずっと昔、地下の研究施設で見た、幼かった彼女を一瞬思い出した。
940 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:55:43.74 ID:Z+wqmEdb0

「利子(りこ)ちゃん、でいいのよね? 私は、あなたの、『お母さん』の養女、麦野志津恵(むぎの しづえ)」

麦野利子に麦野志津恵が話しかける。

「私も、あなたとおなじ。『お母さん』を取り戻したいわ。でも、どうするの? 消えちゃったのよ?」

『わたしは、この世界にある全てのものを原子レベルまで分解することが出来、そしてそれを思った通りに再構築出来ます。

わたしはだから、分解されてしまったママを再び創り出すのです』

とんでもない話だ。もし、それが出来るのなら、それは、神の領域。

しかし、麦野志津恵は、彼女の自信に満ちた目を、顔を見つめた。

(この子は、神か悪魔? いえ、『お母さん』を取り戻せるのなら!)

志津恵は利子に話しかける。

「私の能力は、過去探索<イベントリバース>、私の、いえ、あなたの『お母さん』が消える直前のAIM拡散力場を頭の中で

再現できる。出来るかどうかわからないけれど、あなたならそこから実体を再構築できるかも?」

『それは、大変助かります。それならば、わたしはパーソナルリアリティをベースにより正確に再構築出来ます!

……ああっ!! で、でもっ、どうしよう?』

麦野利子が頭をかかえてうずくまってしまう。

「どうしたの!? 具合が悪いのっ?」

麦野志津恵がのぞき込む。

『問題があるんです! わたしは、わたしは自分で分解したものは再構築可能ですけれど、ママは自分で吹き飛んじゃったから

あたしの今の能力じゃ再構築できないの!!

ああっ、でもどうしたら、どうしたらあなたのそのイメージがあたし取り込めるんだろう? だめだ! このままじゃママは!』

麦野利子の声は悲鳴に近かった。



「利子(としこ)ちゃん!!」

そこに現れたのは、漣孝太郎だった。テレポートに次ぐテレポートで、ようやくここにたどり着いたのだった。

「ぶ、無事だったんだねっ!! ゴメン、本当にゴメンねっ! ボクを、ボクを許してくれっ!!」

『ごめんなさい、わたし、あなたが誰だかわからないんです』

「え……?」

唖然とする漣。

「記憶喪失なのか……? 勘弁してくれよ、誰か助けてくれよぉぉぉぉぉ!」

漣が叫ぶ。

その瞬間、麦野利子の脳裏に閃くものがあった。

(いつでもオレが助けてやンよ)

それは、長点上機学園の、鈴科教授の声、そしてその顔。

『す、鈴科先生! 先生!! どこにいるんですか!!?? お願いです!助けて下さい! 手伝って下さい!! 

あたし一人では出来ません!! 鈴科せんせーぃ!!』

いきなり叫びだした利子(りこ)に驚く漣であったが、「鈴科」という名前の人ならば。

「鈴科先生に会いたいのか? なら、これでわかるよ! 佐天さん、直ぐに見つかるから安心して!」

漣孝太郎がAIMストーカーを操作する。

「一方通行<アクセラレータ>さんのデータは入っているから……いた! 学校だ! 利子ちゃん待ってて、連れてくるよっ!!」

次の瞬間、漣はテレポートした。
941 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 20:58:16.86 ID:Z+wqmEdb0
---------------------------

「ああン、なにしに戻ってきたンだァ、オマエ? お姫様はいたのかァ?」

「は、はいっ! 佐天利子さんが、助けを求めています。一緒に来て下さい!お願いします! ボクが案内します!!」

「ケッ、勢いでくっだらねェ口約束なんかするもんじゃネェな、マジでめんどくせェことに巻き込まれちまったぜオイ。

それから、打ち止め<ラストオーダー>、演算能力をフルに使うかもしれねェ。妹達<シスターズ>に宜しくなァ」

「ミサカはしっかり頑張って!って、アナタを優しく送り出してみる!」

「ケッ、ちっとばっかし腹ごなししてくるわ。反射はオフにしたぜ、そこのクソガキ、さっさと案内しろボケ」

「は、はい!」

漣と、鈴科先生こと一方通行<アクセラレータ>がテレポートする。



「利子ちゃん、鈴科先生ですっ!!」

着くや否や、漣が叫ぶ。

座り込んでいた麦野利子と麦野志津恵が弾かれたように立ち上がった。

「よう、そこのガキ、生きてたか。オマエ、何がしたい?」

『お母さんを取り返します!』

「ああン? なんだってェ?」

『私の能力は、ある物体を原子にレベルまで分解して、それを思うとおりのものに再構築するものです。

でも、再構築できるものは自分で分解したものだけなんです。

ママは、あたし達を助ける為に最大出力でエネルギー波を使った為に、自分の身体も消えてしまいました。

志津恵さんは、その直前の姿をAIM拡散力場の流れから逆算できます。だから、そのパーソナルリアリティイメージを、あたしが

うまく取り込めれば、きっと再構築できるはずなんです。でも、どうやったらあたし、志津恵さんのイメージを取り込めるのか』

「ケッ、そんなことかァ、くっだらねェな、オマエ、そのイメージがあれば、吹き飛ンだお袋さんを取り戻せるッてか?」

『100%できるかはわかりません、でも可能性は十分あります!』

「フン、それができれば、オマエは神、または悪魔ってことになるんだろうなァ。正にそれはレベル6かもしれねェ。

消えた生命を復活させる訳だからなァ、ちっとばかりおっもしれェことになるぜェ?

………やってやろうぜ、忘れられていたレベル6への挑戦だァ」

「時間がないのです、お願いです、助けて下さい!!」

麦野志津恵が頭を下げる。

「ン?、そこのオマエか? 過去の姿をイメージするってェのは?」

「は、はい。姿をイメージというよりは、過去のAIM拡散力場を再現できるのです。ですから、そこから実体へは想像の世界になります」

「チッ、それじゃァちと話が違うなァ。……だが、やってみなければいつまでもゼロだ。

……つまり、オマエのパーソナルリアリティは脳のなかで電気信号化されている。それをオレが読みとって、増幅してあの利子っつー

ガキに与えてやる。まてよ、そこで変換が必要だろうなァ……。

つーことは、オレはアンプとコンバーターってことか。ケケッ、学園都市第一位さまを只のアンプ・コンバーターとは、高い買い物

だぜェ、しっかりやれよ、クソガキ」

「は、はい!」
942 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:01:26.74 ID:Z+wqmEdb0

「まずは、その前に変換を設定してやる必要があるな、クソガキ、オマエはイロハ48文字、全部わかってるな?」

『え?、今何でそんなことが?』

麦野利子が戸惑った顔をする。

「データベースだ、ボケ。その次はアルファベット26文字だ。大文字だぞわかるな?」

『は、ハイ』

一方通行<アクセラレータ>は次に麦野志津恵に向かう。

「そこのオマエ、まずイロハ48文字をカタカナで想定して暗唱しろ」

「ええ?」

麦野志津恵も一瞬戸惑う。

「時間がねェ、オレがオマエの頭に手を当ててデータを読みとるからオレが開始、つったら暗唱しろ、ゆっくりだ」

「……わかりました」

一方通行<アクセラレータ>は、自身のチョーカーのスイッチを「フル」に入れ、自分の左手を彼女の頭に優しく置く。

「開始!」

(イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネナラム……)

麦野志津恵が低い小さな声で暗唱し始めた。

<よーし、データ解析、分解OKだ>

「つぎ、クソガキ、おまえ、今度やれ。カタカナのイロハ48文字だ」

「は、はい」

彼は左手を麦野志津恵の頭から外し、麦野利子の頭に今度は右手を置く。

「開始!」

(イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネナラム……)

<解析、完了、分解、OK,項目相似性チェック開始……終了、変換式作成完了!)

「おし、次はアルファベット26文字」

……

そして、数字0〜9,九九、等基礎的なデータのすりあわせが行われ、大まかな変換式が出来た後で、いよいよ麦野志津恵が

失われた麦野沈利のAIM拡散力場を再現することになった。

『志津恵さん、お願いします!』

「は、はいっ!」

麦野志津恵の顔は緊張でひきつっている。

「緊張するな、っつっても無理だわな、ホレ」

ちょん、と一方通行<アクセラレータ>が麦野志津恵の首筋を触った。

「ひゃぅっ!」

ビクっとする志津恵。

「いくつかの神経のベクトルを操作させてもらった。ガチガチじゃ、うまくいかねェからなァ」

「あ、ありがとうございます。すごく、楽になりました」

「ンじゃ、スタートだ!」

再び一方通行<アクセラレータ>が左手を麦野志津恵の頭に当てる。

「はい!」

麦野志津恵が集中する。

”過去探索<イベントリバース> ” 過去のAIM拡散力場の流れを追う事の出来る能力。
943 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:04:01.41 ID:Z+wqmEdb0


(す、すごい、AIM拡散力場の流れが……)


少し離れて漣孝太郎がAIMストーカーでその流れを見ている。

「何見てんのよ?」

「わっ!」

上条美琴が直ぐ傍にいた。

「ちょ、ちょっと、上条さん、驚かさないで下さいっ!」

はぁはぁと漣が息をつく。

「ごめん、今着いたんだけど、あそこ、すごく真剣そうだったからさぁ、声かけるの躊躇っちゃってね」

「そ、そうです! 今、これから麦野さんを再生するんです」

「何それ? って、麦野さんがどうしたのよ?」

「い、いやボクもさっき着いたんですが、全部終わってて……」

「……」

「麦野さんとあのクソババァがどうも相討ちになっちゃったらしいんです」

「……」

「で、佐天さんじゃなくて、どうやら彼女は麦野さんらしいんですが、二人の能力で、麦野さんを復活させるって……」

「……あのさ、さっぱり意味がわかんないんだけど?」

「ボクもそうなんです……」

「仕方ない、見てるしかないわね。つーか、むしろあたし達は、余計な人間が入り込まないようにしてあげた方が良いんじゃない?」

「そ、そうですね!そうしましょう!」

「んじゃ、あたしは妹達<シスターズ>と一緒に監視役やるわ」

上条美琴は、離れて待っている妹達<シスターズ>の方へ走っていった。



(ママ、お願い、帰ってきて! わたしを見て! わたしに理由<わけ>を教えて!!)

一方通行<アクセラレータ>を経由して、母、麦野沈利のイメージが麦野利子に流れ込む。

全能力を投じて彼女は、その脳裏に、たった今消失してしまった母、麦野沈利の姿を「自分だけの現実」に投影する。

……今まではそこにある物体を原子にまで分解するところで止まっていた、いや止めていた彼女の能力。

しかし。



渦を巻いていたAIM拡散力場が一気に集中し麦野利子に流れ込む。

「う………うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
944 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:07:09.61 ID:Z+wqmEdb0


    ――― バッ ――― 


「あれは?」
「まさか」

彼女の背に6枚の羽根が開く。

一方通行<アクセラレータ>の手が麦野利子から外れると、彼女は立ち上がり、二、三歩歩くと彼女は今度はひざまずいた。

チョーカーのスイッチを切った一方通行<アクセラレータ>は、ぺたんと地面に腰を下ろし、大きく深呼吸する。

その隣に役目を終えた麦野志津恵も腰を下ろす。

「あー、さすがのオレもちっとばかり疲れたわ……ものすごいデータ量だったぜェ……」

やることは全部やった、と言う顔で彼が一人ごちる。

「……あ、ありがとう、ございます……」

麦野志津恵も、疲れたという顔だったが、隣の一方通行<アクセラレータ>に頭を下げた。

「まだ早い。アイツが成功してから」

言葉がとぎれた。


彼女の羽根が空中から何かをかき集めるかのように動き始め、彼女の手はなにかを支えるかのように固まった。

居合わせた人はもはや言葉を失い、ただ見つめるだけ。



そのうちに、何かが集まってきていることに皆は気が付いた。

最初は、埃か何か、そのうちに虫くらいの大きさに、そしてだんだんと、それははっきりと形あるもののような姿に。

「……」
「……」

誰もが見つめるだけ、言葉を発することの出来ない、その異様な光景を。

やがて、その姿は、二本足の……人間のような……形を作って行き……

「……」

作り上げた。

そこにあるのは、つい先ほど、原子崩し<メルトダウナー>を全身全霊の最大出力で放射し、消滅した麦野沈利の身体。

麦野利子の羽根は、その身体を丁寧にくるむように包み込み、そして地面に優しく横たえたのだった。

「見た……か?」
「か、神様……」
「う……そ、で……しょ?」


だが、それだけでは終わらなかった。
945 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:08:31.45 ID:Z+wqmEdb0

再び麦野利子は同じ事を行い始め、二体目の身体を作り上げた。

それは、他ならぬ元凶の、テレスティーナ=木原=ライフライン。



「オイオイオイオイ、マジですかァお姫様よォ……」

「な、なんでまたアイツまで……」

「わからないけれど、細かく選べないんじゃないだろうか? コイツはOK,コイツはバツ、っていうような選択が出来ないと」

「元は麦野志津恵さんの過去追跡<イベントリバース>でしょ? AIM拡散力場の流れを過去へ遡って行く能力だから、

彼女の段階で、麦野沈利さんのものだけ、とかある人だけ、と言う形で絞り込んでいたら出来たかも知れないわね。

でも、これって……一旦この世から消え去った人を復活させている訳でしょ……神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの……

レベル6って言っても良いのかな?」

「これから……彼女、どうなっちゃうんだろう? だって、神様みたいなもんだよ……?」



テレスティーナの身体を麦野の傍に寝かせると、麦野利子の羽根がふっと消えた。

「「あ!」」

そして、彼女は微笑み、ゆっくりとくずおれた。

「利子ちゃん!!」

「佐天さん!!」

「麻美! 救急ヘリ呼んで!! 早く!」

全員が三人の元へ駆け寄る。



麦野利子の顔には、『やったわ!!』という、全てをやり遂げた者が見せる達成感が溢れていた……。
946 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:14:54.34 ID:Z+wqmEdb0

---------------------------


麦野沈利は真っ白な空間を漂っていた。



「むぎの……むぎの……?」

誰かが自分を呼んでいる……?

不意に意識がはっきりした。その、声。懐かしい声? まさか?

「その声、もしかしてフレンダ?」



不意にその声の主が現れた。 かつての姿、そのままに。

「わーい♪ 覚えててくれたんだ麦野? で、どうしたの? 何しに来たの、ここへ?」

なぜ、フレンダが? ……そうか、あたしも死んだのか…… なら、いいか。

「ちょっとね。派手にやっちゃったのよ」

「相変わらず、ってこと? 先に言っておくとね、ここにはシャケ弁はないから」

「はぁ? そういうあんた、ここに来てまでもまだサバ缶食べてるの?」

「やだなぁ麦野、結局ここじゃそんなもの要らないって訳よ。あたしは死んだ人間だからね」

やっぱり。でも、あたしがあなたを殺したのに、なぜこんな普通の会話が出来るの、フレンダ?

あたしをどうして責めないの? 何故文句を言わないの?  

「そうか……改めて言うけど、ごめんなさい、フレンダ」

いつも、お墓の前で言ってるけれど、やっぱり本人の前で謝りたかった。もう、取り返しがつかないけれど。

「ちょ……そんなこと、いいって」

「いいってってあんた、そんな……やっぱり許してくれない、よね?」

「ううん、そうじゃないって。ここに来たら、ずっとずっと文句言い続けてやることにしてるんだけれどね、

結局麦野はまだここへ来る人じゃないって訳よ。まだあたしも呼んでないし。だから今は言わない。

ほら聞いてよ? 麦野のお友だちが呼んでるよ?」

「え?」

「戻ったら、滝壺や浜面に宜しくね? そうそう、さっき絹旗が来たけど思いっきり叱って帰しちゃったから。

面倒見てあげてよ? あの子、いまちょっと寂しいはずだからね。

でさ、思い出したんだけど、ここのところずっと、あたしのお墓、麦野来てくれてないでしょ? ちゃあんと見てるんだからね?

出来れば年に2回、お彼岸には来て欲しいかなって訳よ。それじゃね!」

いきなり目の前からフレンダが消えた。ちょっと待って! フレンダ!

「フレンダ!!」


……


目の前にまた顔が見えた。

「気が付いたわ!!!」


「………超電磁砲<レールガン>?」

それは、上条美琴の顔だった。
947 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:17:29.82 ID:Z+wqmEdb0

「あたしは娘に助けられたと……?」

「そう。もっと正確に言うと、ゼロからの創造、再生ね。いまだに見たことが信じられないけど。

利子ちゃんは神様だった、としか思えないわよ。

ごめんなさいね、正直、私、あなたが同じ麦野さんだとにわかには信じられないんだけれど……?」

「ありがとう。あたしはね、…………………あれ?」

「?」

「……あれ? うそ……まさか……えええ? ホントに……ちょっと………」

「どうしたの?」

「うるさい! なんでもないわよ。気にしなくて良いから!」

「そう? まぁいいけど? じゃ、あたし、佐天さん見てきますから」

「どっちの佐天?」

「と・し・こ・ちゃんよ? 涙子さんはまだ東京だもの。もうすぐ来るとは思うけど?」

「そう。あたしもあの子をちょっと……ぐは、だめだ!」

「ちょっと、麦野さん、あなた、絶対安静なんだから動いたらダメよ!」

「ち、ホント、あんた立派な小姑だよ」

麦野の捨てぜりふをはいはい、とばかり聞き流して上条美琴は病室を出て行った。

-----------------------

麦野沈利は動転していた。原子崩し<メルトダウナー>が起動しないのだ。



(なんで、どうして、ふざけるんじゃないわよ!)



そして気が付いた。

左腕の感覚が今までと違う。そう、この感じは……うそ、義腕じゃない? 

「痛っ!」

試しにちょっとツメをたててみたら、血が出てきた……。 なめてみたが、ホントに血だった。

どうして機械の腕が、血が通う本物の腕に……?

「もしかして?」

センサーが動かない。

どうやら右目も、義眼ではない、普通の、人間の眼のようだ。

(あの子……私を造り直した……のか?)

そこにあの医者が入ってきた。

「やあ、麦野くん、具合はどうかい? たぶんすっきりしてるとは思うけれど?」

「あ、あの……わたしの身体は……」
948 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:24:21.29 ID:Z+wqmEdb0

「そう、不思議なんだが元の人間の身体になっているよ? どうだい? 人間に戻った気分は?」

「いえ、何というか、その……」

「それと、重大な検査結果が出ているんだが、知りたいかね?」

「……能力が使えない、ということかしら?」

「おや、わかったのかい? そう、君のAIM拡散力場は消えてしまっている。ああ、ぼくが消した訳じゃないからね?

あの、『原子崩し<メルトダウナー>』だったかな? あれは今の君には宿っていない」

「……もう、戻らないってことですか?」

「かもしれない。ボクもまだよくわからないんだけれどね? 調べた結果、どうやら君の身体は基本的にまっさらの状態らしい。

でも記憶とかはその調子では全く問題ないようだね? そこが不思議なんだ。

あるところは白紙状態、あるところは昔の状態のまま、というまるで誰かが操作したみたいになっているんでね」

「……」

「だから、君の『原子崩し<メルトダウナー>』も、もしかするともう一度能力開発を行えば、復活するのかも知れないね。

ただ、人間としてもう壮年期にさしかかった君にそれを施すのは避けるべきだろう、というのがぼくの個人的な見解だ。

それに君自身、あのような能力を今なお欲するのかどうか、だしね」

しばらくの間、麦野沈利は沈黙した。


「……考えさせて下さい」



「そうだね、よく考えた方がいい、とぼくも思う。……そうそう、君はもう健康体だから、明日には退院できるよ?」

「あ、あの、佐天……利子ちゃんはここに?」

彼、カエル顔の医者は苦笑いを浮かべた。

「ああ、彼女はすっかりここの常連になってしまったね。ちっとも名誉な話じゃないんだけれどね、彼女の指定席はB−316だよ?」

そう言って、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>は部屋を出て行った。
949 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:29:51.45 ID:Z+wqmEdb0

(『原子崩し<メルトダウナー>』が消えた……のか)

ならば、風紀委員<ジャッジメント>の特殊任務委員は辞めるしかないだろうな、と思う。

まぁ、良い潮時だったのかもしれない。

自分ではいつまでも10代、20代のつもりだったけれど、現実には40歳、という年齢から来る衰えを明確に感じていたし。

認めたくはないけれど。

身体のあちこちは人工パーツに置き換えられていて、人間を超える性能や耐久力を持っていたけれど、そのアンバランスが

あたしの身体を逆に痛めつけていたのも事実だよねー。

やっぱりバランスが取れていないと、ダメね。

それが……全部戻っていたとは。

あたしは自分の身体を眺め、鏡を見た。

あれ?

まっさらとあの医者は言ったが、何故かどこも年齢相応なのは不思議。

あ〜あ、あの子も、どうせあたしを再生するのなら、せめて二十歳くらいのぴちぴちムチムチにしてくれればよかったのに。

目元のしわも、頬のシミも綺麗にすっきりして欲しかったな……何を贅沢なこと、言ってるのかしら。





(伊豆に行こうか……)

辞めても食っていけるだけのカネはとっくにある。

平和だったあの暮らし。あそこに行くのも良いかも知れない。利子と一緒に行けたらいいな……

そうだ、利子は!? あの子のところに行かなければ!



ロッカーを開けてみたが、服はなかった。

「仕方ない、あとで志津恵に頼まなければだめかしらね」

そう独り言をつぶやいて、麦野は立ち上がった。なんとか、ゆっくりであれば歩けそうだ。

「B−316、だったわね」



……佐天利子の部屋へ麦野沈利は向かった。
950 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:32:06.72 ID:Z+wqmEdb0

なんとか見とがめられずに、あたしはB−316までやってきた。

そっと扉を開けて、あたしは、おそるおそる利子(りこ)のそばへ行く。



利子はすうすうと寝息を立てて眠っていた。

あたしは、利子を起こさないように、そっと椅子を持ってきて利子の傍に置き、腰を下ろしてこの子の顔を眺める。

利子の顔をこんなそばで見るのは、あの時以来。まだあどけない2歳前の頃。

あたしの記憶の中にある、子供の面影は僅かに残っているけれど、親の欲目と笑えば笑え、20年前の若かりし頃のあたしに

間違いなく似ている。

あたしは思わずにんまりしてしまう。

なるほど、これならば、あたしら二人が並んだら、間違いなく親娘だと思われること間違いなし。

お揃いの服を着て、この娘と二人で街を歩いてみたい……。例え、親バカと指さされようとも。

それくらい許して欲しいものだ。



だが、遙か昔、あたしを叩きのめしたあのメルヘン野郎の面影も色濃く残っているのも事実だった。

(垣根にそっくりだった)

心理定規<メジャーハート>の悲痛な声が蘇る。

あの女は、垣根を愛していたのだろう。

男を愛した女とは結局結ばれず、敵対した女がその男の子供を産む……不条理な話だ。

「娘は父親に似る」

はからずも、その言い伝えは正しい事をあたしは改めて認識せざるを得なかった。



(利子……あたしを蘇らせてくれたんだってね……ありがとう)

あたしは小さくつぶやきながら、利子のほほをなで回す。

あの子は撫でられるのが大好きで、こうするといつも目を細めて良く笑ったものだ……そして、

……え?
951 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:34:52.19 ID:Z+wqmEdb0

「ママ……?」

起きた。

利子が目を細めて笑っている。そう、あの時のように? 

「リ……コ……?」

「ねえねぇ、ママ、ママだよね? ママなんだよね?」

大きく目を開けた利子が不安そうな顔であたしを見つめる。

その目は、佐天利子(さてん としこ)ではない、麦野利子(むぎの りこ)、あたしの利子だ。

あたしには、もう否定する気はなかった。ええい、言ってしまえ! もうどうにでもなれ!

「そう、ママよ、利子。あたしは麦野沈利、あなたを産んだ、あなたののママ。蘇らせてくれて、ありがとう」

「よかった……ママがいて……」

利子の顔がパアッと輝き、そして直ぐに泣きそうな顔に変わって、目尻から涙がつーっと流れ落ちる……

手で涙を拭いて利子が起きあがった。

「ママ? どうして、あたしを置いていったの?」

利子があたしを正面から見つめる。ボロボロと涙を流しながら。

「答えて、お願い、ママ」

うそ、これじゃ、まるでいつもの夢と同じじゃない。 

まさか、これも夢? 

いいや、違う!

これは、夢じゃない。

夢なものか。

目の前にいるのは、起きているのは正真正銘の、あたしの娘。

この子は、麦野利子だ。



「ごめんなさい!!」



あたしは、利子を力一杯抱きしめた。柔らかい身体。暖かい身体。よかった。やっぱり、夢じゃない。

あたしの、あたしの可愛い娘。

あたしの産んだ、一人娘。

あたしの、利子。

あたしの、二歳で手放さねばならなかった娘。



あたしは、夢の中では出来なかったことを、あれから16年経った今、ようやく出来た……
952 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:39:48.92 ID:Z+wqmEdb0


「やっとママに会えた……あたしの、大好きなママに」

利子があたしを柔らかく抱きしめてくれる。

あの子の心臓の鼓動が感じ取れる。

利子、あなたはこんなに大きくなったのね……。

「あたしだって、あたしだって、利子を忘れたことなんて、一度もないわ」

「ママ? お願い。ちゃんと教えて。あたしをどうして置いていったの?」

利子がまた同じ事を聞く。

わたしに捨てられた、と思っているのだろう。

かわいそうに。

どれほど悲しかっただろう、どれほど辛かったろう、どれほど苦しかったろう……。

「あなた、あたしの夢の中にまで出てきて、同じ事聞くのよ? そんなに知りたいの、利子?」

「うん。あたしは、どうしても聞きたいの」

「後悔しない? ちっとも明るい話じゃないのよ? それでもいいの?」

「うん、あたしは本当のことが知りたいの。『あたしはそのためにここにいるの』」

そう言うと、利子はあたしから腕を抜き、

あたしの腕の中で身体を回転させて、

あたしの胸にぽてと頭を預け、

あたしの顔を見上げて、

にっと嬉しそうに笑った。
953 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:44:00.82 ID:Z+wqmEdb0

それは、あたしが絵本を読んであげるときの、利子のおきまりのポーズだった。

あたし自身はすっかり忘れていた事だったけれど、次のおきまりは身体が覚えていた。

利子を後から抱きしめて、あたしのあごを利子のあたまにあててグリグリとしてあげたのだ。

「やーん、いたいよー」

利子が嬉しそうな声を上げてじゃれついてくる。



……あのころは、利子はすっぽりとあたしの身体に収まるくらいちっちゃかったけれど、今あたしが押さえているのはあの子の胸。

あたし同様、立派なものだ。さすが、我が娘。

「じゃ、話すわね」

「うん。おはなし、して?」

あたしは、あまり思い出したくない過去の話を利子に聞かせ始めた。




「……ということで、あなたは、麦野利子ではなく、佐天利子、としてここにいるわけなの」

あたしは、聞かせたくない残酷な部分は省いたけれど、全てを彼女に話した。

「ウソ偽りはないわ。全て事実よ」



……しばらく利子はじっと身じろぎもしなかった。

そして彼女は顔を上げて、ニッコリと笑ってあたしに言った。



「ママはあたしを捨てたんじゃなかったのね!!」



あたしは面食らった。どれほど厳しい言葉を投げつけられるだろうか、あたしをひっぱたくかもしれない、泣きわめくかもしれないと

覚悟していたのに……あたしが捨てたのかって、この子は……

「あんたを捨てられる訳がないでしょ! あんたはあたしの、あたしが生んだ娘なのよ?」

「あたしが嫌いで捨てたんじゃないのね? 本当なのね? あたしは捨て子じゃなかったのね?」

あたしは少し、あっけにとられつつも、

「誓って言うけれど、わたしは泣きの涙であんたを手放したのよ。誰が好きこのんでそんなことをするものかっ!」

と利子を強く抱きしめながらそう答えた。

利子はしばらくあたしに抱かれるままだった。



しばらくするとあの子はあたしの胸からすっと身体を放し、あたしに対する位置に移動し、ベッドにちょこんと腰掛ける形になった。

「ママ、本当のことを話してくれて有り難う。あたしのお父さんの事もわかったし。

ママがあたしを嫌いになって捨てたんじゃなかったってことがわかって、すっごく嬉しいの。

ママ? あたしを産んでくれてありがとう!」

そう言って利子があたまをぺこりと下げた。



そして、再び頭をあげた利子が小さく、本当にちいさくつぶやいた。

「良かった、終わったわ……、これで全部、済んだ」
954 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:46:32.59 ID:Z+wqmEdb0

「ちょっと、利子? なに?」

あたしは利子のその独り言を聞きとがめた。

全身を悪寒が走る。利子、それ、どういう、意味?



バツの悪そうな顔で利子があたしに向かって言う。

「ホントは、あたしはとっくの昔に消えていたはずなの。

でも、あたしは、ママがいきなりいなくなっちゃったことがずっと心に残っていて。 

なんであたしを置いていったのか、あたしを捨てていったのか、その理由を聞くまでは絶対に消えてやるものか、って思っていたの。

だから、あとから佐天利子ちゃんとしての記憶がどんどん入ってきた後も、あたしは一部分を勝手に占領してじっと身を潜めていたの。

でも、もうあたしが悩んでいたことは全部わかったから、もうあたしがここにいる必要はもうないの。

リコはもう消えなければ、あたしは佐天利子ちゃんに全部返さなければいけないの」



あたしは、途中から利子の話を落ち着いて聞いていることが出来なかった。

せっかく会えたのに。利子が、また利子がいなくなろうとしている。しかも、今度は、永遠に?

そ・ん・な! あなた、私に復讐する気なの??



「ダメよ、利子がいなくなるなんて、ママはいや! ママは許さないからねっ!」

「ママ、子供みたいな事言っちゃダメよ。 あたしが狙われる状況は18年前と変わっていないのよ?

あたしが2歳の時に、あたしを生かすためにみんなで考えたことは間違ってなかったのよ。

ホントならあたしはもういないはずだったでしょ?

たまたま、あたしがどうしてもママに聞きたいことがあったから、意地でも消えてやるもんか、って頑張ってたから

ここまで来ちゃったけれど。

それに、あたしが消えれば、パパとママから受け継ぎ開花したあたしの能力もまた消えるのよ。

佐天利子ちゃんはもう狙われることはないわ。東京にも戻れる」



……い・や・だ。

正直虫の良い話だろう、でも、今になってここまで生きてきたあんた、今度はあんたがあたしを置いていくのか?

利子、お願い、ママを置いていかないで!


しかし、あたしの身体は思うように動いてくれない。

そうしているうちに、利子は再び、もぞもぞとベッドに潜り込み、寝る姿勢になってしまった。
955 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 21:48:39.16 ID:Z+wqmEdb0

そして、あの子は右手を出してあたしの手を握って、またニコニコしながらしゃべり始めた。

「ママ? 大丈夫よ♪ 心配することなんか全然ないわ。安心して? 

今まで通りあたしはママの記憶の中に生き続けるから、いつまでもあたしはママと一緒にいるから。

夢でもう責めることはないから安心して? その代わり、うんと甘えちゃうからね。

そうそう、利子(としこ)ちゃんもママを産みの親だとちゃんと認識してるから、優しくしてね? 

涙子母さんにも、あたしがすっごく感謝してたって、ちゃんと言っておいてね? 

あたしは、優しいママと涙子母さんの2人に巡り会えて、とっても幸せ。じゃ、ママ、また夢の中でね!」



そ・ん・な……そんなバカな!! 

やめて! やめてよ、利子。

お願い、いかないで。親のあたしより先にいくなんて、絶対に許さないから! 



あたしはあの子の手を強く、強く握りしめた。

「利子! リコ!! だめ! いっちゃダメだったら!! 止めて!! ママの言うことを聞きなさい!!」

あんた、何でそんなに嬉しそうな顔してるのよ!?

利子の目が閉じられた。  ああ、いってしまう!!!



あたしの手を握る力が失せた。



あたしはなにも出来なかった……いってしまったのだ、あの子は。

あたしを、残して……。

あたしの、利子は………。


「リコーっ!!!!!!!」




「「麦野さん!?」」

部屋に入ってきた上条当麻・美琴と、東京から飛んできた母・佐天涙子が見たものは。



眠り続ける佐天利子と、その利子にしがみつき、声もなく全身を震わせて泣く麦野沈利の姿だった。

利子の右手を、両手でぎゅっと握りしめて。
  
956 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 22:04:15.40 ID:Z+wqmEdb0
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「リコ、やっぱり出ちゃうんだね?」

「あはは、やっぱりねぇ、お金続かないのよ。恥ずかしいけれど、奨学金が1/3になっちゃったからさ、

さすがにここにはいられないわよ。みっともない話だけど」

「リコ……ぐすん」

「こらこら、さくら、泣くなっての。別に学校辞める訳じゃないしさぁ、今生の別れじゃないんだし、ちょっと逆方向なだけよ?」

あたしは、退寮の為、荷物の整理をしていた。



もう一人の「あたし」、麦野利子(むぎの りこ)がいなくなってしまった。あたしのあの憂鬱な能力と一緒に。

つまり、あたしは「無能力者」になってしまったのだった。

正直、ものすごくホッとしたのは事実だ。

まわりのみんなは

「もったいない」

「レベル6確定目前でレベルゼロだなんて」

と言うけれど、もうジャマーなんてものも不要になったので、わたしの頭は今、ものすごくすっきりして爽快だ。

ただ一つ、予想外だったのは………「奨学金大幅減額」だった。

確かに良く読むと、「奨学金支払総額-授業料-諸経費=各人の口座に振り込まれる、いわゆる『奨学金』」だったのだ。

今までは、あたしはレベル3だったから、まずまずの支払い総額だったのがそれが一気に1/3になったことから、授業料がやっとで

とても寮費まで支払える財政事情ではなくなったのだ。

もちろん、学校側も冷たくはあしらわなかった……理由は、「麦野沈利さん」の力だった。

そして、あたしはその人の家に引っ越すことになったのだ。



「利子、ポケッとしてるんじゃないの! ほら、どうするのこの本?」

あたしの母、涙子母さんも今日はあたしの引っ越しを手伝ってくれている。

あたしの部屋へ初めて来た日が引っ越しの日、というのはちょっとアレだけれど、まぁそんなこともあるかもね。

「利子、あんた、本当にここで頑張るの? 大変よ? 東京へ戻っても良いのよ?」

ちょ、母さん、決意を鈍らせるようなこと言わないでよ!

あたしにだって、都合ってものがあるんだし、ここには友達だっているんだから!

あたしはここで頑張るんだから! お母さんのように!



「ちょっと、佐天さん? それって、あたしが利子ちゃんの保護者には相応しくないって事なのかしらねぇ?」

ぶっ! 

む、麦野さん……! いつの間に?
957 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 22:12:03.35 ID:Z+wqmEdb0

「に、似てる……?」

「え……この人、お母さんじゃ……ない、んだよ、ね?……」

カオリんとさくらが麦野さんを見て驚いている。

また、よりによって、麦野さんはあたしと同じような髪型にしているし……って、意図的……に?



「あら、麦野さん、こちらにいらしたんですか? 利子と一緒にご挨拶に伺おうとお電話しましたらご不在でしたもので……」

母が恐縮したように麦野さんに言い訳をする……が、あたしの名前を出したところが、母らしいわ。

あたしを取られるんじゃないかと心配しているのかな? えへへ。

「そりゃどうも。あたしも出歩いてる事が多いもんで……あ、それから、娘も呼びましたのでまぁこき使ってやって下さいね。

ほら、ちょっと、志津恵! ご挨拶しなさいよ」

麦野先生が、ニコニコしながら沈利さんの後から出てきた。

「こんにちは。麦野志津恵(むぎの しづえ)です。佐天のお姉さん、覚えてらっしゃいます? あたし、あの時の、『18番』です」

最初、母はぽかんとしていた。が、

「あら! ホントに18番なの? うわ、大きくなったわねぇ……見違えるほど綺麗になっちゃってるし。

そうなの? 麦野さんの娘さんになったの?」

「はい。とんでもない母親でしたけれども(笑」

「こら! くっだらない事言ってるヒマあったら手動かしなさいな、志津恵」

まぁ、とかキャー、とかこらぁ、とか母と麦野さん親娘が三人で盛り上がる(姦しいわ、ホント)のを見ながら、あたしは病院での騒ぎを

思い出していた。
958 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 22:15:37.57 ID:Z+wqmEdb0
---------------------------------

「リコーっ!!」

あたしを呼ぶ声が聞こえた。

うーん、もう少し寝かせてよ……あれ? 今の……お母さん……じゃないよね?

お母さんなら、としこって呼ぶから…… 

誰だろう……?

う、あたしの顔に生暖かい雫がポトポトと垂れている。

(うん? コレ、なんだろ?)

あたしは無理矢理に目を開けた。

「あ……」

「あ……」

知らない人の顔があった……いや? 見たことがある。えっと、誰だっけ?

そのひとは、あわててあたしから離れた。

「としこ!」

あ、お母さんの声だ。

「やぁ、気が付いたみたいだなぁ」

あ……マコの……上条さんだ……

「利子(としこ)、この人、わかる?」

母さんが、優しい顔で、隣にいる女の人のことを聞いてきた。

「どこかで……会ってますよね……どこかで……あ? あの! もしかして、その、あの……」

「こんな時に会うのもどうかと思ったけれど……」

あたしは身体を起こした。

「ちょ、ちょっと佐天さん、大丈夫なの?」

美琴おばちゃんがあわてる。お母さんもぐいと身を乗り出してきた。うわ、近いってばさ。
959 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 22:18:45.83 ID:Z+wqmEdb0

「麦野さん、でしたよね?」

ふっと麦野さんの緊張が解けたように見えた。

あたしは下を向いた。麦野さんなら、どうしても聞きたいことがある。でもさすがに顔を見ながらは聞けない……

「どうして、麦野さんは、みんな殺しちゃったんですか……?」

みんなが息をのんだのがわかった。

「誘拐犯だけど、あたしと母さんを誘拐した悪い人たちだったけど、何も、殺さなくたって、あんなにヒステリックになって……」

「利子、止めなさい!」

母さんが叫ぶ。

「いいのよ、佐天さん。その通りだから。

利子ちゃん? かつてのあたしはね、闇の掃除人だったのよ。昔の時代劇ドラマで必殺仕事人シリーズってあったの知らないかな?

知らなければ借りてみて? まさに、あの通りだったわ。

それでね、相手もプロで、生き残るのに必死なのよ。生半可に対応すると、反撃されて自分が危険なのよ。

あなた、前に撃たれたわよね? あれがまさに、その良い例だったわ」



上条美琴が思い切り鋭い目で麦野沈利をにらみつける。

(なにを余計なことしゃべってんのよ!) という顔で。

無視するかのように、麦野は次の言葉を、ため息と共に吐いた。

「もう、今はそれも出来なくなったけれどね」
960 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 22:21:30.53 ID:Z+wqmEdb0

「ええっ!?」
「麦野さん、それ、どういう意味!?」
「お、おい?」

みんなが驚いた。

もちろん、あたしも思わず顔を上げて、麦野さんの顔を見た。

「そう、あたしの利子(りこ)は、原子崩し<メルトダウナー>のない、まっさらの状態であたしを再生したのよ。

どういうつもりだったのか、わからないけれど。

あたしの身体も、サイボーグ化していたところは全部もとの人間の身体になっているわ」

あたしも、母さんも、美琴おばちゃんも、上条のおじさんも息をのんで聞いている。



意味がわからない。

もう一人の『あたし』のリコ? 

こら、あんた、あたしの寝てる間に、いったい何をしたの?



………あれ? 返事がない。

……こら、リコ、もう一人の『あたし』、返事しなさい!



……どうしたんだろう? 起きてこない、よ?



「冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>曰く、能力開発をもう一度やれば復活するかもしれない、とは言ったけれどね」

「そ、そんな、今更、(その歳で)またやる気なの?」

美琴おばちゃんがようよう口を開いた。

「まさか。やる気なんかないわよ、もう沢山。……そういうことで、原子崩し<メルトダウナー>の麦野沈利は消えちゃったの。

あの戦いで、死んだのよ。今は、ただのおばさんが一人いるだけってところよね」

よくわからないけれど、どうやら、麦野さんは一度、「死んだ」らしい。

それを、『あたし』が蘇らせた、ということなのだろうか?

うそだ。

それじゃ、『あたし』って、まるで神様だ。

そんな馬鹿な。

マンガだ。小説だ。SF物語だ。

「あ、あの、麦野さんは、その、<死んで、蘇った>というのですか?」

「ええ、三途の川まで行ったわよ。そこで知ってる人に追い返されたわ。友達が呼んでるって言われてね」

麦野はそこで美琴の顔に視線を送った。

美琴が一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに納得の色を見せた。
961 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 22:25:12.63 ID:Z+wqmEdb0

そうだ、もうひとつ、あたしは麦野さんに聞かなければならないことがあったんだ。

今、聞くしかない。

「……あの、麦野さんは……もう一人の『あたし』の、おかあさん……なんですよね……」

あたしはお母さんと麦野さんの顔を見ることが出来なかった。

でも、あたしは話を続けた。

「つまり、それって……あたしの……あたしを産んだひと……お母さんってこと、なんですよね?」

まわりの人が、息をのむのがあたしにもわかった。

「利子(としこ)ちゃん?」

麦野さんが優しい声を掛けてきた。 

あの、全身ビーム砲のひとが、こんな優しい声をかけてくれるなんて。

「わたしの娘、麦野利子(むぎの りこ)はもうあなたからは消えたの。あなたは、佐天利子(さてん としこ)ちゃんなのよ。

あの子は、わたしの中に帰ってきてるから、もう大丈夫。心配することは、もうないのよ」

リコが消えた? 

『わたし』がいなくなった、ですって?

……そうか……それで、返事がない、のか……って、ああ、もうよくわからない!



あたしは、顔を上げて、麦野さんの顔をはっきりと、見た。

あたしによく似た、いや、はっきりすべきだろう。

あたしを産んでくれた、ひと、だ。

麦野さん、緊張してる、よね?

視線を外すと、隣にはちょっとひきつった顔の、お母さん。

あたしが何を言うか、お母さん、心配してるの?

あたしは一瞬、ちょっと意地悪しちゃえ、というイタズラごころを出した。

「あの、お母さんって呼んでもいいんですか?」

あたしは麦野さんを見つめて言ってやった。

お母さん、どうする? って一瞬横目でちらりと見た。



真っ青だった。

その顔を見た瞬間、あたしはものすごく後悔した。

(ごめんなさい!)と本気で思った。
962 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 22:29:47.60 ID:Z+wqmEdb0

「と・し・こ・ちゃん? それは違うわよ?」

麦野さんが思いもかけないことを言い出した。

「言ったでしょ? わたしの娘はわたしの中に帰ってきたって。あなたは、佐天利子なんだって。意味わからないかな?」

そう言って、ほほえみを浮かべた。

(そうか……じゃぁ、いいんですね、麦野さん?) もう一度、視線を送る。

(いいのよ。ホラ、早く!) そういう返事の視線が返ってきた。

あたしは安心した。 決めた。
              


「ごめんね、おかあさん!!」

あたしは、お母さんの、涙子母さんの胸に飛び込んだ。



次の瞬間、あたしはいきなり、げんこつを頭にくらった。

「いったぁ〜い!!」

「こらっ、このバカ娘ったら、親を試すようなこと、言うなぁーっ!!」

そう言って、お母さんはあたしを思い切り抱きしめた……。



「もう、佐天さんたら、女の子にげんこつはダメって前にも言ったでしょ?」

「娘でも平手打ちしちゃう上条さんには注意されたくないです!」

「おいおい、美琴、お前、今でもそうなのか?」

「え、え、そ、そんなことしてないわよっ! あんた、全部平和に解決してから出てきた癖に、偉そうに言うんじゃないわよ!」

「ウソです。あたし、ついこの間、ひっぱたかれました」

「ちょっと? 超電磁砲<レールガン>、あんた、あたしの娘になんてことをするのよ?」

「あら、あなたのお嬢さんはあなたの中にいらっしゃるんじゃなかったかしら?」

「あれは、そのときの話の流れで言っただけよ。あたしの娘の美貌を傷つけるようなことするんじゃないわよ!」

「えぇぇぇぇぇ? あたし、やっぱり娘ですか?」

「ダメです! どさくさに紛れて何言ってるんですか? 麦野さんにはこの子は渡しませんから!」

なんかマズイ方向に話が流れてる。やばい。

(そうだ!)

あたしは思いついたことを恐る恐る言ってみた。

「あ、あのぅ、お母さんが二人いるってことでは、だめですか?」



一瞬、場が静まりかえった。



―――― 神様が通っていった ―――― 

963 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 22:33:12.86 ID:Z+wqmEdb0

母と麦野さんがお互いに顔を見合わせて……ぶっと吹き出し、笑い始めた。

「あははは、その通りでいいんじゃないですか?」

「そうよね、ベタな小説をまさに地で行くとは思わなかったわ、アハハハハハ」

二人が笑っている。



「原子崩し<メルトダウナー>が……麦野さんが、口開けて笑ってる……」

美琴おばちゃんは信じられないものを見ているような顔をしている。



「まぁ、良い具合に収まってくれたんじゃないかな? 利子ちゃん、別に、これでいいんだよね?」

上条さんがうんうんと頷きながらあたしに聞いてくる。

それを聞きとがめた美琴おばさんが真っ黒なオーラ全開で突っ込んできた。

「ア・ン・タ・ねぇ〜、あたしにさんざん駆け回らせておいて、何一つやらないで、それで最後の最後、美味しいとこだけ

オレが持っていこう、これにて一件落着、だなんて、ず・い・ぶ・ん・偉くなったものよね……」

「み、美琴さん?」

「ア・ン・タ・のねぇ……そんな幻想は、あ・た・し・が、ぶち殺してやるわぁーっ!!」

「美琴、それ、オレの決めゼリフだってのー! ああっ、やっぱり上条さんはふ・こ・う・だぁーっ!!」

上条さんが逃げ出し、美琴おばちゃんが追っかけて行く。

「待ちやがれ、このーっ! あの子のことだってそうだし、今日こそアンタ、お仕置きしてやるーっ!!!」

二人の声が遠ざかって行く。



「20年経っても、変わってないんだ……かみ、いや御坂さん……」
「そうなのか……」
「……」


残されたあたしたち3人はお互いに顔を見合わせ、また大笑いしたのだった。
964 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 22:38:02.23 ID:Z+wqmEdb0

-------------------------------

「ちょっと、リコ、リコってば?」

「は、はいっ?」

「またぁ……全くリコは……直ぐあっちの世界に行っちゃうんだから……」

カオリんがあたしをつついて、小さな声で聞く。

「麦野先生と一緒に住むんだ?」

「うん」

「ところでさ、あんたのほら、あの、お友だちのあの子、結局どうなったの?」

「マコのこと? ……目はやっぱりダメだったらしいの。自分の左目とバランスを取る必要があるから、性能を落とした義眼を

組み込んだらしいけど、それでもスゴイって、本人は喜んでたわよ? あたしはどうかと思うんだけど……」

「そうなんだ? 本人が喜んでるならいいけど……身体の方は?」

「もうリハビリ中だって。複雑骨折じゃなかったのが幸いしたらしいわ。

あの子ったらさ、あたし左利きだから右腕をパワーアームにしたらちょうど良かったかも、なんて脳天気なこと言ってたけどさ……

サイボーグにでもなるつもりかしらね」



……カオリんにはそう言ったけど、あたしにはわかっている。

麻琴はそんなこと望んでなんかいやしない。マコは、あたしを泣かせない為に道化を演じたのだ。

下手な芝居打っちゃって、全く。

リコ姉ちゃんを心配させる困った妹分だ。

姉貴分としては、常盤台高校に移ってたっぷり面倒を見てあげたいところだけれど、今のあたしはレベルゼロ。

無能力者では常盤台には転入できない。あ〜、世の中ってのはホントうまくいかないものだ。

まぁ、退院したら思い切り「ふにゃ〜」させてやるとしましょうか!
965 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 22:42:02.98 ID:Z+wqmEdb0






「行ってきま〜す」

「ちょっと待ってよ、利子(としこ)ちゃ〜ん」

「志津姉さん、遅刻しますよ〜!?」

ワイワイキャァキャァとおんな二人が玄関先で姦しく(1人足らない?)やっている。



「志津恵、あんたお姉さんなんだからしっかりしなさい!」

「は〜い」

「じゃ、改めて、行ってきま〜す、お母さん」

「ハイハイ、気をつけてね」

「お母さん、行ってきます」

「ああ、利子ちゃんの面倒しっかり見なよ?」

「も・ち・よ!」



出かけるのは、麦野志津恵と佐天利子。

見送るのは、麦野沈利と佐天涙子。

「「行ってらっしゃい」」



「あなた、来年の春のスケジュールはどうなってるのかな?」

二人を見送った麦野が佐天に聞く。

「は? あの……突然に、なんですか?」

「桜の時期よ。約束通り、花見やろう? 第三位も入れてさ」

「えー、ホントにやるんですか? そっか……どこでやります? ここで? だったら……例年だと4月1旬ですねぇ……

じゃこの辺はスケジュール空けておきますね。あ〜何年ぶりかな〜お花見なんて……」

すっかり佐天は来年の春を思い、心は花見へ飛んでいる。

966 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 22:43:46.60 ID:Z+wqmEdb0


(ママ? お花見って何?)


娘・利子(りこ)が呼びかけてきた気がして、麦野沈利は後を振り返った。

(はいはい、春になればわかるわよ。あんたも一緒に連れて行くから楽しみにしてなさい)

(やったー、ママとお出かけだねっ!)

誰もいないはずの場所。

でも、利子(りこ)が満面の笑みを浮かべてはしゃいでいた、ような気がして麦野は一人、微笑んだ。



「で、ところで今回の出張は、いつまで?」

麦野が佐天に尋ねる。

「もう戻ります。娘をよろしくお願いします。わたしは寂しがり屋の大おばさまの面倒みなければいけませんから」

携帯を取り出す佐天。



「くしゅ……誰?あたしをネタにしてるのは?」

上条詩菜が一人で寂しそうに居間にいる。

電話が鳴る。

「はいはい、誰かなぁ?」
967 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 22:46:53.51 ID:Z+wqmEdb0






……あたしの名前は佐天利子(さてん としこ)、学園都市教育大付属高校女子部に通う高校1年生。

あたしは、学園都市にこの4月から来た、新参者。

学園都市に来て超能力を発現して、そしてまた、学園都市でその超能力を失ってしまった。

今は、レベルゼロ、無能力者、だ。

つまり、元に戻った、わけだ。

この1年半の騒ぎはいったい何だったのだろうか。

でも正直、ほっとしてる。

「普通の女子高生」になったのだから。



もう一つ、大事件があった。

あたしに、お姉さんと、もう一人のお母さんが出来た。

その、もう一人のお母さんというのはあたしの「生みの母」。

だから「出来た」ではなくて「判明した」、というのが正しいだろう。

お姉さんは、その、あたしの生みの母の養女、だ。



「リコ〜!」
「りこちゃーん!」
「おはよー!」
「おお、来た来たぁ」
「新しいお家、どう?」
「あ、麦野先生も一緒なんだ?」



もちろん、お友だちもいっぱい。



佐天利子、学園都市で頑張ってますっ!






(学園都市第二世代物語 佐天利子編 終)


968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/04/28(木) 22:49:32.03 ID:D9zxbLdko
乙!
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/28(木) 22:51:16.38 ID:zrXgS+WMo
乙ww
970 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 22:52:03.52 ID:Z+wqmEdb0
皆様こんばんは。
>>1です。

最後までお読み頂きまして、本当にどうも有り難うございました。
皆様の暖かい励ましのコメントのおかげで、最後まで書き切る事が出来ました。
篤く御礼申し上げます。

少し休憩をとりまして、>>922に書きました付録というかおまけを投稿致します。
少しお待ち下さいませ。
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/28(木) 22:53:39.28 ID:G99uJV4Ao
.乙乙
楽しかったけど きさま が多くて不自然だった気がする
972 :LX [saga ]:2011/04/28(木) 23:18:27.98 ID:Z+wqmEdb0
>>1です。

それではおまけ分、これより投稿致します。
時間軸としては、>>956の翌日、というところなのですが、流れをぶち壊すと考えましたので
本編の中には入れませんでした。

それでは宜しくお願い致します。
973 :LX [saga ]:2011/04/28(木) 23:21:02.88 ID:Z+wqmEdb0

「とんでもないことになっちゃったわね……」

「うん……」



あたしは母と並んで歩いている。

そういえば、ここ学園都市で母と一緒に街を歩くって、もしかして初めて、かもしれない。

ぐるるるるるる……

「え?」

「……」

「そうか、もうお昼だもんね。相変わらず正確だねぇw 何か食べよっか?」

「うーん、がっちり食べたいかなぁ」

「そうね……利子、昔あたしがよく行ってたお店行こうか?」

「うん! 行ってみたい」

あたしたちはタクシーを止め、その「お店」に向かった。



そこは、センター駅にほど近い、でもちょっと裏通りに入ったところにあるこぢんまりとしたお店だった。

「こ・ん・に・ち・わ〜!」

”母さん、歳考えなさい”って、とたしなめたくなるようなテンションで母がドアを開ける。

「おぉー、いらっしゃい!」

「あら〜、懐かしい人がまた」

「こんにちは!」

昔は結構イケメンであったであろうご主人と、ちょっと年が離れてるような?奥さん、

そして、中学生であろう息子さん?が母の挨拶に答える。


ワンテンポ遅れて、奥から

「さーてんさんじゃないですかぁ!!」

という声がかかる。
974 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 23:24:47.61 ID:Z+wqmEdb0

「おぉー、誰かと思えば、う・い・は・る〜!」

「は・な・ぞ・の・ですってばぁ〜!」

この漫才、1年前と変わってないなぁ……



「初春、あんた、大変だったねー、ネットにもテレビにも出ちゃってさぁ? 歳までバレちゃうしね?」

「うう、せっかく忘れようとしてるのに……ひどいですよぅ、佐天さ〜ん……」

「おお、ゴメンゴメン、冗談にならなかったね、許してよね、ういはる?」

「る・い・こ、そこらへんで止めときなよ、可愛そうでしょ? 目出度い話じゃなかったんだからさー」

「そ、そうですよぅ、あたし、臭いメシ、食べるハメになっちゃったんですからねっ!」

「へー……ね、ねぇ、初春さぁ、ホントに臭かった?それ?」

「まさかー、フツーでしたよ? だいたい臭かったら食べられないじゃないですかー」

「……あのさ、食いものの店で、メシが臭いだの臭くないだのってちょっと勘弁してくれないかな?

てか、るいこ、そのお嬢さん? 早く紹介してよ? あたし、おなか空いてぶっ倒れますよって顔してるよ?」



さすが、ママさんだね、ようやくあたしの出番が来たよ……おなか減った、ああ、良いにおいだー!

「初めまして、娘の利子です!」

あたしはこのお店、初見参だから挨拶をする。

「本橋です。宜しくね? いやぁ〜しかしあの美女からまたまたこんな美少女が産まれるとは」

「相変わらずですね、マスター。まこちん、ちょっと注意しなさいよ?」

「アハハ、こいつはもう諦めてるわよ。息子にはこういう男になって欲しくないから今はこっちに注意してるね」

「お客さんの前で何言ってんだよ、カンベンしてくれよな、手伝うのやめるぞ?」

「いいわよ? そのかわりお小遣い減額だけどね?」

「くっ、それとこれは話が違うだろ?」

はぁ……羨ましいかな、こういう家族の姿見ちゃうと……

「そうそう、あたしは真子(まこ)、あなたのお母さんと中学の時の同級生。あら、ごめんなさいね、利子ちゃん?

お客さん立たせっぱなしだったわ。どうぞそちらの奥へ。狭くてごめんなさいね?

ほら、健一、おしぼりとお水! すいませんねぇ、この気の利かないのが息子の健一(けんいち)で今、中学2年生ってとこ」

「へいへい、オレはどうせ気が利かない中2ですよーだ」

そうか、健一くんか……。あたしは何の気なしに彼を目で追っていた。結構忙しい。

テーブルを拭き、おしぼりと水の入ったグラスをお盆に載せ、あたしたちのところへ持ってきて、

それからメニューを置き、元へ戻ると中で何やらごそごそと……

「あら、利子ちゃん、健一君が気に入った?」

花園さんが爆弾を投げ込んできた。
975 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 23:29:00.35 ID:Z+wqmEdb0

「な、何ですかいきなり!?」 

……前にもなんかこういうのあったなぁ、あたし、弄られやすいのかしら?

「あら、利子ちゃんたらずーっと目で追いかけてましたよ? そうか、女子高だと男の子珍しいよね?」

花園さんが、赤ちゃんと一緒に移ってきた。

「あたしの子も男の子で〜す! 名前は勇太でーす! 

えへへ、一人ではちょっとここ使えなかったけど、佐天さんたちがいるなら良いかなって……」

「マンマ」

と赤ちゃんがしゃべる。

「カワイイ〜!」

「でしょう? ほ〜ら、勇太? このおばちゃんピタピタしてやりなさい、ママのスカートをめくるヘンなおばちゃんをやっつけるんだー!

 行け〜!」

「う・い・は・る? 久しぶりに会った無二の親友を息子に紹介する挨拶にしてはちょっと過激過ぎないかなぁ?」

「ちょ……」

え? 母さんそんなコトしてたの・・?

確かに寝坊すると、母さんはあたしのふとんをまくり上げてたけど……。

う、そういえばあたしも麻琴のスカートまくったことがあったよね……?


「そりゃ、涙子はしょっちゅうやってたもんねーw 柵川中学の名物だったもん」

「ちょっとまこちん、なんて事いうのよ?」

「そうですよ、寮の前に始まって、駅にバス停、学校の中。あたしの純潔は佐天さんに汚されっぱなしだったんですからねっ!」

はー ………母さん、あの、ものすごーく旗色悪いよ?

マスターはニヤニヤ笑ってるし、健一君はあけすけなおばさん軍団になすすべもなし、と……

(あー、やってられねぇ)って顔であたしに助けを求めるような目で……

よっしゃ、このリコねーちゃんにまかせとけ!
976 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 23:31:50.62 ID:Z+wqmEdb0

「すいません、この『本日のパスタ』は何ですか?」

「いっけなーい、何も注文してなかったわね、あたしたち。ごめんなさいね?」

「今日はカルボナーラなんだけど。おいしいよ?」

「じゃ、あたしそれにします」

「サラダ、ランチだからついてるけれど、大丈夫よね?」

「頂きます!」

「いいねぇ、なんでも食べる子、おばちゃん大好き。育ち盛りはそうでなくっちゃ、ね?」

「まこちん、ヘンにおだてるの止めて? この子、底なしだから」

「ちょっと母さん、それは年頃の娘に言う言葉じゃないわよ!」

あたしはそう叫んだ瞬間、とってもいやな予感がした。



くうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぎゅるぎゅるぎゅる………


            orz


――― 天使がおか持ちを握りしめて飛んでいった ――― 


うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………


………

健一君が突っ伏してる。

声を殺して笑ってる。

そりゃ笑うよね、

あ〜あ、笑われちゃったよ、あたし……

花も恥じらう女子高生なのに。

「大盛りサービスしといたげるね♪」

おばさん、有り難う。嬉しいけれど、嬉しくない……不幸だ。
977 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 23:40:02.47 ID:Z+wqmEdb0

「涙子もお嬢さんと学園都市来るの初めてじゃない?」

真子おばさんが聞いてくる。

「んー、最初から一緒ってのはそうね、この子が小さかった頃を除くと……初めてかも」

「去年とおととし来てませんでしたっけ?」

ああ、花園さん、それ、余計です!

「一緒には来てないから、ノーカウント。そうよね、利子?」

「え、じゃ来てたんだ? もう、涙子ったら……来たら寄っていってよねー?」

「あはは、いやぁ時間があったらもちろん今日みたいに寄っていくんだけど、たまたま2回とも予定が詰まっててね」

「ま、あんたも忙しいひとだから。無理強い出来ないけど。

むーちゃんとアケミは出てっちゃったからさぁ、あの時の三人組で残ってるの、あたしだけだから」

「えー、あー、コホン。どなたかお忘れになってらっしゃいませんかしら?」

「あはは、そうね、飾利、あんたがいてくれたわよね」

「ひどーい、佐天さん、あたしに利子ちゃんのチェック押しつけたくせに、忘れてたんですか??」

はい? 何それ? えっ?

「え? ちょっと母さん、あたしのチェックって何よ?」

「あんたがあたしに黙って学園都市に出入りしないように、利子が入国したら知らせるように初春に頼んでたのよ。

あたしも知らなかったけれど、麦野さんもそのチェックが入るようになってたらしいんだけどさ」

「そりゃ、だってね、頼まれたらいやって言えないじゃないですか?」

「初春、ゴメン、そこまで!」

母があわてて止めにかかった。麦野さんのことはあんまり、ねぇ。

「はー、じゃあたしが中二の時、マコと一緒に入った事は」

「当然直ぐ初春から連絡あったわよ、夜中の1時にね」

「ひどいですよ、あたし、あの時ホント鼓膜が破れるかと思っちゃいましたよ、いきなり怒鳴るんですもん」

「あはは、ゴメンゴメン。でもさーレセプションでしこたま飲んでゴキゲンでさ、シャワー浴びてさぁて寝るかって時に電話じゃない?

何事か、って身構えるってばさー」

「はいはい、おまちどうさま! カルボナーラ大盛ね! 」



………なんですか、これ?


みんな、静かになった。

あたしの目の前には、エアーズロックのようなパスタの山が静かに湯気を上げて鎮座していた。

「ちょ……」
「利子ちゃん……」

ほほう、おもしろい。佐天利子、この勝負受けた!!

「いっただきまーすっ!!」
978 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 23:42:54.39 ID:Z+wqmEdb0
-------------------------

「また来てねー」

「まこちん、またねー」

「おー、あんたもがんばれなー」

「利子ちゃーん、ヒマだったらバイトにきてな! うちの息子も待ってるからさ!」

「ば、馬鹿オヤジ、変なこというんじゃねーよ!」

「馬鹿だな、あの子がここでバイトしてみろ? 目当ての客で毎日満員御礼だぞ?」

「ちょっと、あたしの大事な友達の一人娘で何良からぬ事企んでんのよ?」



あたしは黙って手を振るしかなかった。

なぜなら、口を開けたらパスタが逆流しかねなかったからだ。

「ったく、あんたってホント食い意地張ってるんだから……残せばいいでしょ?」

笑いながら母が文句を言う。

あの〜「ご飯を残してはいけません!」ってあたしを教育したのはどこの誰でしたっけか……?

「ま、しっかりしてね? あんたが不作法すると、あたしのしつけが出来てない、って麦野さんに思われちゃうからね!

あたしに恥かかせないでよ? お願いだからね」

(はいはい、わかりましたってばさー)

「そうそう、あんたを身をもって庇ってくれたひと、えっと……」

「絹旗さんよ?」 うっぷ、気持ち悪い! やっぱりしゃべるの、ダメかも。

「そうそう、その方にも御礼を言わなければね。どこにいらっしゃるんだったっけ?」

「アンチスキル総合病院だって言ってた」 き、きつい!

「それから、白井さんにも挨拶しておかなきゃね。あんたの騒ぎに巻き込まれて、とんでもないことになっちゃったんだから」

(そうだっけ……漣さんとはうまくいってるのかな……)

「まぁ、でもおかげで、息子さんとの関係も少し良くなったって上条さんも言ってたし、それは良かったこと、かもね」

(そうなんだ……災い転じて福となす、ってことなのかな)

あたしはふと、母の手を取った。暖かい。

「ちょ、ちょっとあんた……」

母は少し驚いたけれど、すぐにあたしの手を握り返してきた。

「ま、たまには、いいかもね」

母のにこやかな笑顔。

「いつまでも子供なんだから。……あたしなんかより、素敵な彼氏の手を握って歩くこと考えなさいよ?」

 ぶは! お母さん! なんてことを!!

「あはは、でも今日だけは母さんと歩いてみよっか?」

「うん」




青く、高い秋の空。

母、佐天涙子と娘、佐天利子は学園都市の道を二人並んで歩いていった。


(終)
979 :LX [sage saga ]:2011/04/28(木) 23:54:57.91 ID:Z+wqmEdb0
>>1です。
おまけ編、投稿完了致しました。お読み下さいましてどうも有り難うございました。

>>968さん、>>969さん、素早いカキコ有り難うございました。
>>971さん、そうでしたか。うーん、昨日書いて今日投稿、だと作者たる自分にちょっと冷静さが
足らなかったかもしれません。頭に血が上った麦野沈利なら言いそうだということで勝手に手が
動いてました。まとめwikiに入ったら修正するかもしれません。御指摘有り難うございます。

あとは、第二部の登場人物紹介を入れれば完成ですね。日付変わっての投稿になりそうです。
では。
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/29(金) 00:00:39.47 ID:/sJmuBpLo
いちおつ
俺のかーちゃん初春さんだったんか
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/04/29(金) 00:19:02.77 ID:7mwLLZJAO
ずーと読んできました。楽しかったです。お疲れさまでした。
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/04/29(金) 00:59:12.85 ID:mOqjiZSAO


ずっと読んできて本当に良かった!!改めてお疲れさまでした!!!
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/29(金) 01:57:42.87 ID:hOA4gbwdo
おつおつ
面白かったですよー
麦のんの欠損を麻琴が肩代わりしたことには何か意味があるのかしらん?
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/04/29(金) 02:44:31.65 ID:GX+WAG3AO
乙!
凄く面白かった!
985 :LX [saga ]:2011/04/29(金) 12:11:25.21 ID:K1FYB8N50
皆様おはようございます。
面白かったとのコメントを沢山頂き、とても嬉しいです。お読み頂きまして深く感謝申し上げます。

それでは以下、第二部の登場人物設定を投稿致します。

第二部 登場人物紹介

1)主人公及びそのまわり(主として東京組)

主人公 佐天利子(さてん としこ) 学園都市教育大学付属高校女子部1年生。
愛称リコ。第一部の中学三年生で能力発現、物質破壊型であるが詳細不明。現在レベル3。
                  戸籍上の母親は佐天涙子(さてん るいこ)、父親は不明となっている。
第一部で生みの母は麦野沈利(むぎの しずり)、父親は垣根帝督(かきね ていとく)で
                  あることが明かされているが、本人はまだ知らない設定でスタートする。
 
母   佐天涙子(さてん るいこ) 東京都在住、世界的にも著名な気象学者。
                  シングルマザーとなって佐天利子を育ててきた。
                  風使い(エアロマスター)系の能力者であったがある事件で捨てたことになっており、
                  そのいきさつは第二部で明らかになる設定。

詩菜大おばさま
  上条詩菜(かみじょう しいな) 東京都に住む。夫は上条刀夜(かみじょう とうや)で、息子が上条当麻(かみじょう とうま)
嫁が上条美琴(かみじょう みこと)。
                  息子当麻の依頼で、佐天涙子・利子親娘を一時期預かる。
                  後に自身の孫娘、上条麻琴(かみじょう まこと)も預かることになる。
                  その後、佐天涙子は1軒隣の家を購入し離れるが、出張の際は佐天利子を預かり、
                  彼女の幼年期は事実上母親役であった。
                  待望の女の子ということで実の孫である上条麻琴と分け隔て無く育ててきた。            

美琴おばさん
  上条美琴(かみじょう みこと) 学園都市第八学区在住。旧姓御坂、御坂美琴(みさか みこと)。
                  大学卒業後、22歳で上条当麻と結婚。学園都市教育大大学院生2年生、23歳で女児出産、
                  上条麻琴(かみじょう まこと)と名付ける。
                  現在、学園都市理事会広報担当委員。
                  レベル5 元第三位 能力 超電磁砲<レールガン>
      
上条のおじさま
  上条当麻(かみじょう とうま) 学園都市第八学区在住。24歳で御坂美琴(みさか みこと)と結婚。 
                  現在学園都市理事会メンバー(詳細不明)
                  レベル0 但し幻想殺し<イマジン・ブレイカー>を持つが、本編では使用するシーンなし。
                  特に第二部ではほぼ空気。

親友のマコ 
  上条麻琴(かみじょう まこと) 常盤台学園高等部1年生。上条当麻・美琴夫妻の一人娘。
                  例外的に寮ではなく、第八学区に両親と共に住む。  
                  風紀委員<ジャッジメント>、柵川中学から常盤台学園に進学したことから、所属支部も
                  当初の117支部から、オリジナル作品でおなじみの177支部へ詰め替えになっている。
                  左利き、電撃使い<エレクトロマスター>レベル3。 

上条家の主
  上条刀夜(かみじょう とうや) 東京都に住む。妻は上条詩菜(かみじょう しいな)、
                  息子が上条当麻(かみじょう とうま)
                  今なお、世界中を旅しており、いつの間にかいなくなり、いつのまにか帰ってくる。
                  いい加減詩菜からは愛想を尽かされつつある……。
御坂家の主
  御坂旅掛(みさか たびかけ)  御坂家の主、上条美琴の実父。妻は御坂美鈴(みさか みすず)。
                  第二部で一瞬だけ登場する。


浦辺(うらべ)家のおばさん     東京都の佐天涙子の家と、上条詩菜の家に挟まれて建っているのが浦辺家。
*オリキャラ                  
986 :LX [sage saga ]:2011/04/29(金) 12:16:11.75 ID:K1FYB8N50
2)中学校のクラスメート・佐天利子の回想シーンで登場(全員オリキャラ)

ケイちゃん
    三田桂子(みた けいこ)  中学三年生になって佐天利子と同じクラスになった、陸上部・走り高跳びの選手。スリム。
                    
ひろぴぃ
    加藤裕美(かとう ひろみ) 中学三年生になって佐天利子と同じクラスになった、陸上部・短距離の選手。
                  都大会出場経験もある。小柄でグラマー。ストーカー被害経験あり。  
                                            
長坂くん
    長坂 弘(ながさか ひろし)佐天・三田・加藤の「陸上かしまし娘」の隣のクラスにいる。
                  二年生の時は三田桂子と同じクラスだった。佐天利子にラブレターを渡した。
                  佐天利子もそれ以来意識しており、彼女の淡い初恋の相手。
                  *第二部でも、当初夢の中の回想シーンで登場する事になっていたのですが、
                  残りコマ数が不安になっておりましたのでばっさりカットしてしまいました。
                  まとめwikiに掲載されましたら復活させてみたいところです。

3)学園都市

カエル顔の医者  (カエル医者)  冥土返し<ヘヴンキャンセラー>。
                  基本的に原作のまま。年齢は上昇しましたが、今なお現役、と言うところでしょう。                           

妹達<シスターズ> (戸籍上の名前は当SSでのオリジナル設定です)

     ミサカ麻美(検体番号10032号) 御坂妹。現在も冥土返し<ヘヴンキャンセラー>の病院に勤める看護師。
                       言葉遣いは基本的には普通になっている。

     ミサカ美子(検体番号10039号) 現在、上条美琴の秘書。美琴が休暇を取る場合や出張する場合の代打ちを
                       勤めることが多い。言葉遣いはノーマルを基本。
                       上条当麻派で、言葉ではストレートに欲望を出すが、実際の行動は?

     ミサカ琴江(検体番号13577号) 現在、ミサカ麻美と同じく冥土返し<ヘブンキャンセラー>の病院に勤める
                       看護師。言葉遣いは昔のままで、今となっては珍しい?    
 
     ミサカ琴子(検体番号19090号) 上条美琴の第2秘書。美琴が出張や外出した場合、美子が代打ちになるため、
                       秘書が必要になるので、その役をやることが多い。

     *なお、4名全員が今でも戦闘態勢を取ることは可能である。
      妹達<シスターズ>同士は昔のまま、検体番号で呼び合っており、戸籍名で呼ぶことはない。
     

     ミサカ美英(検体番号13874号) 三重県在住。学園都市から佐天親娘が東京の自宅に戻る際に、ダミーとして三重県 
                       から呼ばれた。その時点では名前がなく、1BOXカーの中で美英(みえ)という 
                       名前が付けられた。
                       (正確には学園都市メンバーではありませんが、妹達<シスターズ>の1人なので
                       このグループに入れました) 

987 :LX [sage saga ]:2011/04/29(金) 12:17:55.98 ID:K1FYB8N50
(学園都市メンバー続き)

白井黒子 (しらい くろこ)  現在、学園都市在住。学園都市風紀委員会<ジャッジメントステーツ>統括総合本部勤務。
                1級看護師免状所持。                                                       
                弱冠20歳で、漣健介(さざなみ けんすけ)と結婚、漣黒子(さざなみ くろこ)となる。
翌年21歳で長男の漣孝太郎(さざなみ こうたろう)出産。
                但し23歳で夫婦生活は破綻し別居、27歳で離婚、旧姓の白井黒子に戻ったという設定。
                レベル4 能力 空間移動<テレポーター>  
                
漣孝太郎(さざなみ こうたろう)現在飛天昇竜学院高校3年生。風紀委員<ジャッジメント>特殊任務委員会メンバー。
*オリキャラ          漣健介(さざなみ けんすけ)と黒子との間に産まれた。
                2歳の時に両親である健介・黒子は別居、父健介に引き取られ、6歳の時に寮に
                入ったため、両親と過ごした時間は少ない。
                母、白井黒子の能力を受け継ぎ、テレポーター レベル4の能力を持つ。
第二部では、彼の人間関係の一部が明らかになる。

花園飾利 (はなぞの かざり) 学園都市第三学区在住。旧姓初春、初春飾利(ういはる かざり)
                学園都市風紀委員<ジャッジメント>情報部勤務。1級看護師免状所持。
                35歳でようやく結婚し長男が産まれた。息子の名前は勇太(ゆうた)。
                レベル1 能力 低温保存<サーマルハンド> 
                *<ゴールキーパー>は不滅です。

麦野沈利 (むぎの しずり)  現在、学園都市在住。学園都市風紀委員会<ジャッジメントステーツ>特殊任務委員長。
                1級看護師免状所持、身体の一部は機械に置き換えられているという設定です。
                学園都市理事会メンバーの命令で、人工授精の結果、25歳で長女麦野利子(むぎの りこ)
                を出産するが、利子が2歳になる直前に学園都市に連れ去られた。
                第一部で、自分の相手、麦野利子(むぎの りこ)の父親がレベル5の垣根帝督であることを
                教えられている。
                レベル5 元第四位 能力 原子崩し<メルトダウナー>

飛燕龍太 (ひえん りゅうた) 西都大学大学院生。風紀委員<ジャッジメント>。 
*オリキャラ          第一部で登場した、鮎原リサーチセンターに捕らわれていた置き去り(チャイルドエラー)37番。 
                同じ境遇だった18番(麦野志津恵:後述)を、今でも昔のまま「お姉ちゃん」と呼ぶ。
                レベル4 能力 空間移動<テレポーター>
988 :LX [sage saga ]:2011/04/29(金) 12:19:09.86 ID:K1FYB8N50
教育大付属高校女子部メンバー)当然ながら全員がオリキャラです。

クラスメート
青木桜子 (あおき さくらこ)  愛称さくら  結構気が強い。佐天利子に対して友人+αの感情が生まれ、少々脱線気味。
                 小柄で発育途上。
                 レベル2 能力 電撃使い<エレクトロマスター> 

遠藤冴子 (えんどう さえこ)  愛称さえちゃん(先生) 優等生タイプで頭の回転が速い。理屈っぽいのが玉に瑕。色白。  
                 レベル1 能力 温度変化<サーモコントローラ> 

大里香織 (おおさと かおり)  愛称カオリん 佐天利子が一番最初に仲良くなったクラスメート。中肉中背。
                 レベル2 能力 念動力<サイコキネシス>

斉藤美子 (さいとう よしこ)  愛称ミコ  自分の特異な能力の為、他人から距離を置いていたが本意ではなかった。
                 夏休みの旅行でその理由が明らかになる。
                 レベル3 能力 心理解読<インターブリット>      

前島ゆかり(まえしま ゆかり)  愛称ゆかりん ざっくばらんで開けっぴろげ。若干天然気味。佐天利子の仲間うちでは、
                 一番自分の能力行使に迷いがない。
                 レベル2 能力 自動書記<オートセクレタリ>
クラスメート外

平松唯  (ひらまつ ゆい)  1年生。風紀委員<ジャッジメント>、57支部所属。 詳細は未詳


先輩

湯川宏美 (ゆかわ ひろみ)  2年生。風紀委員<ジャッジメント> 77支部所属。寮では佐天利子の隣の部屋に住む。
                中学三年生の時点で、第一中央能力開発センターにおける高校入学前の能力調査にて佐天利子
                及び上条麻琴と同じグループに入っており既に顔を合わせていた。
                レベル3 能力 地獄耳<ロンガウレス>     

古賀祥子 (こが あきこ)   2年生。愛称アッコ 湯川宏美の同級生。夏休みの旅行で湯川宏美に誘われ、佐天利子たちと
                共に出かける。能力その他未詳

佐藤操  (さとう みさお)  2年生。湯川宏美の同級生。夏休みの旅行で湯川宏美に誘われ、佐天利子たちと共に出かける。
                レベル2 能力 透視能力<クレアボヤンス>であるが、作中では明らかにされない。 

佐藤景子 (さとう けいこ)  3年生。風紀委員<ジャッジメント> 77支部所属。佐天利子たちとは寮が異なる。
                詳細未詳。

舟橋静香 (ふなはし しずか) 3年生。風紀委員<ジャッジメント> 57支部所属。
                詳細未詳。

馬場夏美 (ばば なつみ)   3年生。風紀委員<ジャッジメント> 77支部所属。教育大付属高校女子部風紀委員代表。
                詳細未詳。

先生

麦野志津恵(むぎの しづえ)  第一部で登場した、鮎原リサーチセンターに捕らわれていた置き去り(チャイルドエラー)18番。
                彼女を麦野沈利が引き取り自分の養女にして、名前がついた。
                レベル4 能力 過去探索<イベントリバース>。

女子寮 寮監
赤垣 ? (あかがき ? )  *書いている時は男性のつもりでしたが、女性であるべき、でしょうか? 本編で見ると
                 女性でも問題なさそうですが。
                 ちなみに交代制なので、他にも寮監役の人がいます。
989 :LX [sage saga ]:2011/04/29(金) 12:22:09.69 ID:K1FYB8N50
風紀委員<ジャッジメント>77支部)こちらも全員オリキャラです。

打田疾風 (うちだ はやて)  77支部長代理を務める。正義感溢れる断崖大学2年生。
                詳細未詳。 

高橋勇次 (たかはし ゆうじ) 詳細未詳。 関西人。


Jack Clare (ジャック=クレア) 両親はニュージーランド人。日本生まれのため、中身は日本人。
                詳細未詳。

長点上機学園メンバー)   

鈴科教授 (すずしな ?)   もはや説明不要?
                レベル5 第一位、一方通行<アクセラレータ>。
                目出度く、打ち止めと結ばれている。

                *ちなみに、何故「元」が皆ついているのかというと、上条美琴がレベル5のランク付けを
                 学園都市理事会に廃止を諮ったところ何故か通ってしまった、という設定をしてました。
                 余裕のコマがあったら入れておきます。                  

ミサカ未来(みさか みく)   元検体番号20001号、打ち止め<ラストオーダー>。
                言葉遣いは、年相応になっている、一方通行の前ではまだ「ミサカは」のフレーズが出る。
                (さすがに『ミサカはミサカは』は年齢からみておかしいので止めています) 
                目出度く、一方通行の「ラブリー奥様」を射止めた。


心理定規<メジャーハート>   長点上機学園における心理学担当教授の1人。  
                佐天利子に、かつて愛した垣根帝督の面影を見いだしたことから、忘れようとしていた
                思いが蘇り、彼の行方を追い求めることになり、キーパーソンの佐天利子と麦野沈利を追う。
                
                *本名がオリジナル小説で明らかにされていないので、当SS作者としても困りました。
                 やむを得ず能力の通称をそのまま使っています。まさか「ドレスの女」とは書けませんし。


TK精神病理学研究所、能力開発分析センター 及び
TKLスポーツセンター)
                 *TK、TKLは「テレスティーナ=木原=ライフライン」の頭文字です。

絹旗最愛  (きぬはた さいあい)学園都市スポーツ大学 体術講師(という設定でしたが本編では説明場面がありませんでした)
                 置き去り(チャイルドエラー)を使った能力開発試験に強い嫌悪を持ち、九官鳥事件を
                 きっかけにした反乱に身を投じるが……。
                 レベル4 能力 窒素装甲(オフェンスアーマー)

浜面理后  (はまづら りこう) 旧姓滝壺。滝壺理后(たきつぼ りこう)
                 瀬戸内海の小豆島に住む。夫は浜面仕上(はまづら しあげ)子供は2人。
                 旧アイテムメンバーである麦野沈利及び絹旗最愛は、「浜面」の名で呼ぶことに抵抗がある
                 ため、今なお彼女を旧姓の「滝壺」で呼ぶが、彼女もそこは気にしていない。 
                 レベル4 能力追跡<AIMストーカー>

酒巻健吾  (さかまき けんご) TK精神病理学研究所、部長研究員。AIM拡散力場についての知見は豊富。 
*オリキャラ


テレスティーナ=木原=ライフライン  
(てれすてぃーな=きはら=らいふらいん)
                 旧MAR(Multi Active Rescue)時代に事件を起こし、一時的に拘置されるが最終的には
                 執行猶予となり、祖父の木原研究所を再興する。 
                 第二部の終盤で彼女の正体が明かされる。
                 *当SSでのオリジナル設定が存在します。

以上です。


思ったより登場人物の幅が狭いですね。内輪の世界の話になってしまった、ということなのでしょうか。

990 :LX [sage saga ]:2011/04/29(金) 12:56:27.43 ID:K1FYB8N50
>>1です。

>>980さん、コメント有り難うございます。すると勇太さんでいらっしゃいますか?

>>981さん、>>982さん、>>984さん、どうも有り難うございます。

>>983さん、鋭い御指摘ですね。言われてみるとその通りですね? その視点は考えても見ませんでした。

書いた順番では、麻琴の結果が先にありました。麦野沈利の人体復元はかなり後で急遽思いついたアイデアだったのです。
>>839で、鬱ルートと書きましたが、これが彼女の人体復活と原子崩し<メルトダウナー>喪失の部分を指していました。
麦野沈利にとって、原子崩し<メルトダウナー>の能力は正に自分そのもの、アイデンティティであったと思います。
それが消えた、と知った時、はたして彼女がどういう行動を取るだろうか?自分の存在価値を失うわけですから
誇り高い彼女は絶望するのではないか、死を選ぶのではないか、という懸念がありました。
しかし、そう言う方向へ行ってしまっては作者としては困るのです(笑)。ラストシーンはとっくに決まっていたのですから。
ということでしばらく止まっていたのですが、まぁなんとか自殺しない方向へ進める事が出来、無事母娘の対面に繋げることが
出来ましたけれど。

上条麻琴の結末をあのような形にしたのは勢いだけなのですが、さてそれが吉と出るか凶と出るか……、まぁサイボーグ化までは
していませんし、片目だけなのでそれほど影響はしないだろう、とたかをくくっていますけれど、大丈夫かな(汗

もう一つ。麦野利子の能力ですが、先般あるアニメ(だったと思います)の設定をたまたま見ていて驚愕しました。
全く同じだったからです。まぁわたしが思いつくくらいですから、当然出てきてもおかしくないのですけれど、正直落ち込みました。
どうしよう、と唸ってしまいました。

ま、良く読むと、あちらは「生命体を除く」全てのものを分解し、再構築する能力でしたので、当方の麦野利子とはその一点が
異なりましたが、当方の方はねぇ……途中まではなんとかありそうな話で進めてきて、それが肝心の所で「それはありえないだろうよ」
という噴飯ものの力ですからね……。「神様」にしちゃいましたけれど、このおかげで一気に話が嘘くさくなった気もします。
ご都合主義、といえばそれまでですが。
991 :LX [sage saga ]:2011/04/29(金) 14:09:15.47 ID:K1FYB8N50
残コマがまだありますので、もう少し戯れ言を語らせて下さい。

そもそも、この話を書こうと思ったのは、オリジナル作品にはまったく「親」の視点がないことからです。
根本の「学園都市」の成り立ちが親を排除してしまってますし。
アニメの「禁書目録」「超電磁砲」なんかそう言う意味ではひどいものです(苦笑
作品のターゲットが中学・高校生であり、彼らはまさに親離れしようとする世代なのですから、当然ながらウザイ「親」が出る訳もなく
(けいおん!なんか典型例ですね)全てが彼らの日常の中で完結してしまっています。

じゃぁ、親の視点で書いてみるか、あんまりそう言うジャンルはなさそうだし、ということで考え始めたのがこのSSでした。

主人公は、形の上では佐天利子・麦野利子となっていますが、実はわたしの頭の中における主人公は、麦野沈利であります。
麦野沈利の娘、麦野利子がどうして佐天利子になったか、彼女はどういう女の子か?という説明が第一部であり、まさに当時の
後書き>>343にある通り、長い人物説明でありました。

で、その娘が再び危険一杯の学園都市に戻ってきてしまったことから、母たる麦野はどうやって守るのか、というところを書いていこうと
したのですが、あえなく力尽きました。
当初の構想では、九官鳥事件の直後にバス爆破事件が起こり、佐天利子も巻き込まれて行きます。本編ではAIMコントローラで
見させられた夢、と言う形で使っていますが、当初は本物の能力暴走であり、テロリストのみならずクラスメートをも大勢殺し、
母・佐天涙子が危惧した通りの「ばけもの」となってしまい、その結果暗部落ち行方不明というルートに入り込んでしまいます。
(神レベルの復元能力はこの時点では未着想でした)
彼女が暗部に落ちたことで、母麦野沈利はヒマになり、その理由を知った彼女が娘を暗部から引きずり出そうとする……
おわらねーよ、こんな話、無理! ということで急遽取りやめ、のほほんとした平和な学園生活を過ごさせる方向に進んだのでした。
まぁ、母たる麦野の奮闘はこちらのスジのほうがはっきりしたと思うのですが、とてもわたしのおつむでは想像できませんでした。

ちなみに麦野沈利を主人公にして書いてみたい、と決めたきっかけは有名なSSの一つ、”麦野「美琴、私のものになりなよ”でした。
内容は自分のSSとは全く違うジャンルなのですが、影響を非常に強く受けた作品でした。

佐天涙子はある意味、ホトトギスの卵を託卵されたウグイスみたいなものですが、娘利子は最終的に「母」としては彼女を選択しましたし、
楽しい時期も苦しい時期も娘と過ごしたわけで、麦野沈利が逆立ちしても得ることの出来ない「思い出」を彼女は得ています。
おまけの最後、二人が手を繋いで歩いて行くシーンをもってその集大成としてみましたが、うまくいきましたかどうか。
992 :LX [sage saga ]:2011/04/29(金) 14:24:14.95 ID:K1FYB8N50
最後に。

(学園都市第二世代物語 佐天利子編 終)

としましたのは、一人、取り上げてみたいというか、設定してみたい第二世代がいるから
です。しかし、これまた難しい話になりそうです。

考えていなかったので仕方がないのですが、この主人公を設定するのであれば、
佐天利子物語の中でももう少しはっきりと伏線を張っておけば良かったな、と思います。

時間軸的には、前後のズレは若干ありますが、やはり同じ世界になります。
基本設定は同じです。
従って上条麻琴や佐天利子が出てくる可能性はあります。(まだそこまで考えてませんw)
ちなみに佐天利子物語には当然ながら当人は出てきておりません。

佐天利子物語は最初の作品でしたので第二部を必要としましたが、今度は1発で止めようと
考えています。
といいますか、ここまで長い作品にはならないだろうと思ってますが……
タイトルはたぶん、変えないと思います。
新シリーズですから「新・学園都市第二世代物語」とでもしましょうかw
全部出来てから投稿する予定ですので、いつになる事やら、ですが。


それでは皆様、またお目にかかる日まで、ごきげんよう。
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/04/29(金) 14:31:32.41 ID:7mwLLZJAO
お疲れさま。

いつか続き見れるのを楽しみにしています。
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/29(金) 14:35:05.10 ID:/sJmuBpLo
はい、勇太で正解ですww
次の話楽しみにしてます、乙でした
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/29(金) 14:42:35.45 ID:riKlAp9DO
オリキャラ多いからちょっとって思ってたけど読んでみたらよくできた話で楽しめたよ
乙でした
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/29(金) 15:41:56.35 ID:3KG3C4jAO
乙!
面白かったよ!
次作にも期待!
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/30(土) 02:12:49.86 ID:Q+fyuhLSO
うめ
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/30(土) 02:14:13.53 ID:Q+fyuhLSO
うめ
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/30(土) 02:16:00.73 ID:Q+fyuhLSO
うめ
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/30(土) 02:17:45.13 ID:Q+fyuhLSO
>>1000なら、作者死亡
1001 :1001 :Over 1000 Thread
 達 じ   |                           / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
 者 ゃ   l                     | ・ な 会 多
 で あ  /                          | ・ い う. 分
 な    く      ,.'"´ ̄ ̄``丶.        | ・ と. こ 皆
___/ヽ)     /           ゙、.       ! ・ お と に
           /             ',       | ・ も が は
          ノ      _    __   !     |    う   も
         ,レ^ヽ  ∠:::::::.\ ヽ・ ヽ |     |       う
         / ,ヘ   ⌒`ト、:::.ヽ  ̄  |   _ノ           |
          l い    _,,,L・`ヽ:ル ノィノ     ̄\_____/
         ヽ       ー─-  ‘ー1
          >‐‐'.        、__,ゝ ,′
         /     ',       `二' /
          /     `丶、     /
        ノ           ``ーr‐'゙
      /           \  |
    _∠_ __ _ ,,,、、、-──‐┴-、、
    厂 ー──'''"´ ̄ ,  ニ二二ニヽ\
   ,′         , イ       ̄``ヽ \
.  /          //  `)         ',  ヽ
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恋愛と結婚は別 @ 2011/04/30(土) 01:56:26.77 ID:pilI3GsAO
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人生に疲れた人が集まるスレ @ 2011/04/30(土) 00:56:07.80 ID:23Exbm1AO
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幼女「ゆーたっ!」「ぼくは魔法使いだよ」 @ 2011/04/30(土) 00:46:35.01 ID:QetZ2pS40
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女「ここが……異世界?」 #3 @ 2011/04/30(土) 00:27:29.19 ID:M6UJ5kd80
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掲示板上でなでなでとかやり取りしてる奴らがキモすぎてワロタw @ 2011/04/29(金) 23:19:10.85 ID:QsvZy5uOo
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嫁がウザいから安価メールする @ 2011/04/29(金) 23:08:35.15 ID:bwF5hhJho
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神奈川県民はカス @ 2011/04/29(金) 23:05:00.65 ID:LBSwCzTto
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僕の立てた糞スレが乗っ取られています、やめてください @ 2011/04/29(金) 22:49:56.31 ID:X0eswF54o
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