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唯「ボディがお留守だよ!」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/17(水) 22:45:21.31 ID:cDQlZeEo
前スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1284640005/
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713353246/

木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1713351945/

いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713279251/

【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713277692/

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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エルヴィン「ボーナスを支給する!」 @ 2024/04/14(日) 11:41:07.59 ID:o/ZidldvO
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2 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 22:49:07.29 ID:pLHrGkUo
どうして>>1が凝ったスレタイを考えてる可能性を考慮しなかったのか
3 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 23:00:49.06 ID:cDQlZeEo
>>2
ごめん残り少なかったから勢いで立てちゃった
4 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 23:14:45.46 ID:7mHqgQAO
まぁ『!』を一個増やすくらいしか考えてなかったし万事オッケーさ
何はともあれ>>1
5 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 23:17:02.72 ID:99uBb32o
>>1>>1
>>4に前スレ乙
6 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 00:10:14.77 ID:5P0visAO
おっと注意書き忘れてた

KOFと思った人はごめんなさい
天上天下とか一騎当千とかをごちゃ雑ぜにした感じの厨二ssです
もう少年の心は忘れたという人は背中が痒くなると思う
7 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 00:13:38.05 ID:...2UIAO
8 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/18(木) 01:35:30.96 ID:HYscQ6AO
乙!楽しみだ
9 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 01:49:25.24 ID:sbCdQ36o
>澪「まぁ、やってやれない事は無いだろうな」

>和「どういう事?」

> 和の問いに対し、澪はどこか遠い目をして答えた。

>澪「完全ステルス能力。あの子は誰であろうと絶対に視覚出来ないからだよ」



失禁した過去を思い出してワロタ
10 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 05:03:18.13 ID:exKef2.o
>>4
乙!

南極にステルス潜入とかワクテカ過ぎる
11 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 07:46:21.49 ID:c.EsqIAO
まさかのメタルギアしずか
12 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/18(木) 12:41:52.32 ID:u/Y9RADO
>>7
なんかIDすげー

>>1
13 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 00:33:26.98 ID:RKrRBKUo
続きをば
14 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 21:34:37.98 ID:2uVMO.AO
姫子「うーん……。やっぱり肉弾戦は不向きみたいだね」

 潰れたボーリング場もとい『星の観測者』の拠点にて、梓とエリが組み手を取っている。
部屋の隅では姫子が座っており、二人の動作に変化があると逐一メモ帳に何かを書き込んでいた。
その様子を三花とアカネが興味深そうに覗き込んでいる。

エリ「ほいっほいっ」

梓「くっ……」

 梓は懸命に突きや蹴りを放つがそれは傍から見ても素人に毛が生えた程度の拙い技である事が分かる。
銃器を取り上げられれば序列四十九位のエリにさえも劣ってしまう。これではこれから先の戦いについてこれないだろう。
15 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 21:35:17.49 ID:2uVMO.AO
姫子「弱ったなぁ……。まるっきりセンスが無いわけじゃないんだけど」

 しかし近接戦闘におけるノウハウを完璧に叩き込むにはあまりにも時間が少な過ぎる。
或いは曽我部 恵ならばこの状況を打破出来るのかもしれないが、姫子が彼女と接点を持っている筈も無く、それは叶わぬ理想となる。

三花「大丈夫? 何だか顔色悪いよ」

 難しい顔をしている姫子を見て心配に思ったのか、三花は姫子の顔を覗き込んだ。

姫子「うん、私は大丈夫だよ」

 気丈に振る舞ってはいるものの、滲み出た疲労の色はそう容易く隠せるものではない。
姫子の強がりはかえって三花とアカネを心配にさせただけだった。
16 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 21:36:07.94 ID:2uVMO.AO
 いちごの掌中で良いように弄ばれていたとはいえ唯を手にかけてしまった事。
その贖罪の為に友を危険に晒す道を選んでしまった事。
それらは確実に姫子の心を蝕み、疲労させていた。
 しずかの単独潜入を可決したのは昨日の事にも関わらず、その苦悩を隠して梓の指導もこなせるのは偏にその強靱な精神の賜だろう。

姫子「止めて良いよ、二人とも」

 姫子の一声で梓とエリはぴたりと動きを止めた。
そして梓は崩れるように床に寝転んだ。

エリ「ふいーちかれたぁ。休憩休憩」

 エリはじんわりと汗はかいているもののまだ余裕はあるようで、跳ねるように部屋の隅に置いてあった鞄を取りに行くとそのまま中身を漁り始めた。
17 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 21:37:17.25 ID:2uVMO.AO
姫子「どうしたもんかなぁ……」

 姫子はぼんやりと溜め息をつき、目の前にいる三花の髪の毛をそっと撫でた。
照れたようにはにかむ三花の表情は果てしなく無垢だった。

姫子「ねぇ、梓ちゃんの闘気の色は分かる?」

三花「んー?」

 三花は首だけ梓の方に向け、目を細めてじっと見据えた。

三花「分かりづらいなぁこれ。青……、いや緑かなぁ」

 瞼を忙しなくぱちぱちと動かしては時折首を傾げる。

三花「うーん、暫定緑だね」

姫子「そっか、ありがとね」

 御安い御用だよ、と三花は得意げに鼻を鳴らした。
18 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 21:38:16.70 ID:2uVMO.AO
 若干気怠そうに姫子は立ち上がった。
そして寝転ぶ梓の元に寄り、身を屈める。

梓「え?」

 喋るよりも速く掌で口を塞がれる。
そしてもう片方の手は胸に添えられた。
姫子の髪の毛は垂れ下がり、梓の額をくすぐる。

姫子「ごめんね、ちょっと苦しいかも」

梓「っ!?」

 言い終えると同時に梓の身体を悍ましい何かが包み込んだ。
一瞬にして呼吸は乱れ、心臓は跳ね上がり、全身の毛穴から汗が吹き出る。

梓「〜〜っ! 〜〜っ!?」

 迫り来る恐怖から逃れる為に身体を捩らせるが胸を抑えられているので意味が無い。
叫び声を上げる事も出来やしない。
19 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 21:39:05.49 ID:2uVMO.AO
 梓は姫子の腕を掴み、振りほどこうとする。
細い腕に爪が食い込み血が滲むが、姫子はそれをものともしない。

エリ「あわわ……。何やってんのあの人」

アカネ「やだ……。何か虫が這ってるみたい……」

 露骨に嫌悪感を示す二人。
三花を盾にする形で身を丸めているのだが、当の三花は吹き付ける風を直視してうっとりと溜め息をついていた。

三花「わぁっ、すっごく綺麗だね!」

 三花の目には深緑の花が咲き乱れる光景が映っていた。
大気、風を操る姫子の緑色の闘気。
だがそれは力無き者にとっては毒でしかない。
アカネ、エリ。そして梓とて例外ではないのだ。
20 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 21:40:18.67 ID:2uVMO.AO
 姫子は自分が放出している闘気に反発しているものを感じ取っていた。

姫子「…………」

 それは煮え滾るマグマの中に垂らした一滴の水のように些細なものだが、確かにそこにある。
今までは垂れ流すだけだった梓の闘気が、梓の苦痛に呼応して一瞬だけ意志を持ったのだ。

姫子「……良い風だね」

 渦を巻くように流れていた風が一瞬だけ舞い上がった。
 姫子はそれに負けじと更に闘気を流し込む。

梓「ぁ……っ! んっ!」

 僅かに漏れた声は苦痛を越えてどこか艶めいていた。
 『絶対の彼方』
 固く閉ざされた力の門の鍵には亀裂が走る。
21 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 21:41:56.27 ID:2uVMO.AO
姫子「クルーシオ!」
梓「ぬわーーーーっ!」

そんなノリ
22 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 21:44:04.72 ID:5sqMxA.o
あずにゃん接近戦か…乙
23 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 21:54:41.31 ID:eDwmi.Io
なるほど絶対の壁を超えるにはオーガズムが必要なんだな!
24 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 23:00:58.93 ID:2saOowQo
ハンターハンターの塔で念能力覚える時にやってた念を当てて無理矢理起こすアレだよな
25 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 01:27:49.12 ID:vIIQyg2o
やっぱり梓は念弾の為に指切断コースか…。

*     +    巛 ヽ
            〒 !   +    。     +    。     *     。
      +    。  |  |    
   *     +   / /   イヤッッホォォォオオォオウ!
       ∧_∧ / /    
      (´∀` / / +    。     +    。   *     。
      ,-     f
      / ュヘ    | *     +    。     +   。 +
     〈_} )   |
        /    ! +    。     +    +     *
       ./  ,ヘ  |
 ガタン ||| j  / |  | |||
――――――――――――
26 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 10:07:54.07 ID:LCeMO1go
梓「れいがーん!!」
姫子「ただし、1日1発しか撃てない」

そんなノリ
27 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 21:51:11.18 ID:LtR.OUEo
乙です。

右手を切り落としてロックバスターですね。わかります。
28 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 18:03:25.58 ID:llMizsDO
ここは左手にサイコガンだろ
29 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 18:26:56.89 ID:YYipiIwo
ロックバスターって、太陽のエネルギー使ってんじゃなかったっけ?
30 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 19:36:22.81 ID:4/vY3x.o
ここはあえて空気砲だろJK
31 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 19:43:45.86 ID:is4ADxoo
誰一人としてあずにゃんが五体満足でいる事を期待していない件…



俺もだけど…。

えっとあずにゃんは本体の触覚で他者に寄生するようになるんだっけ?
32 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 22:44:56.92 ID:W4JY.ADO
あずにゃんにサイコガンとか最高じゃなイカ
33 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 00:02:06.04 ID:Hz0qeSoo
そこはガン・デル・ソルだろ
もちろんゾクタイ仕様で
34 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 01:12:12.58 ID:0bwT0lwo
あずにゃんはボーグ化でいいよね。
強くなるし、増えるし…。
35 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 01:22:49.03 ID:fLRolgoo
我々は中野だ。
お前たちを同化する。
抵抗は無意味だ。
36 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 01:28:11.44 ID:WDR9BIAO
そんなことしなくてもオーラを電気に変換してレールガン(笑)で充分
37 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 03:22:26.05 ID:PA1NJd.o
>>26に戻って以下ループwww


俺的には消しゴムの切れ端を指弾で飛ばすスナイパーで是非。
38 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 03:29:18.12 ID:1YsyE6AO
ふと思ったのだが

猛スピードのあずにゃんがカサカサッという音と共に触角を揺らして黒光りする物を構えて身を隠しながら接近してくるわけだ

技がなくてもこれだけで精神的には大ダメージじゃないか
39 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 09:59:34.70 ID:fLRolgoo
もう闘気でコインを飛ばすレールガンでおk
40 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 13:23:53.94 ID:P7B.wyoo
至高の魔弾ですねわかりません。
41 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 21:27:18.75 ID:wzSWq6oo
まだか
42 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 22:31:48.32 ID:b8.nP6AO
梓「いやっ……! はなし……」

 梓の中に宿った闘気は反発を続ける。
その度に梓の小さな体躯はびくりと跳ね上がっていた。

エリ「なんか……。見てて恥ずかしくなってきたよ」

アカネ「私もう無理……」

 アカネは口元を抑えてそのまま外へ去ろうとする。
闘気が奔流する過酷な状況で、更に梓の喘ぎ声にも似た苦悶の呻きはアカネの思い出したくない過去を刺激していた。
紬との闘いの爪痕は根深く残っていたのだ。
 アカネが扉に手をかけようとしたその時、ドアノブが捻られて勢い良く扉が開く。

しずか「ちょっ、姫子!?」
43 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 22:32:26.45 ID:b8.nP6AO
 しずかの叫びが姫子を我に返らせた。
それに少し遅れて、しずかに着いて来ていたキミ子とよしみが姫子に飛び掛かってゆく。

キミ子「しっかりしてよリーダー」

よしみ「それ以上はダメ、絶対」

 金属同士が触れ合う冷たい音色が聞こえた。
目にも止まらぬ速度で鎖は姫子の身体を拘束しようとする。

姫子「っ!」

 だが姫子は鎖を乱暴に引っ張り、そのまま床に叩き付けた。
鎖の持ち主であるキミ子とよしみの身体が大きくふらつく。

姫子「ふぅ……」

 じんわりと額に滲んだ汗を拭い、姫子は大きく深呼吸をした。
44 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 22:33:05.70 ID:b8.nP6AO
姫子「ごめんね。ちょっと意識が飛んでたよ」

しずか「謝るなら梓ちゃんに謝らなきゃ。ほらほら」

 姫子の言葉を聞く前にしずかは仰向けの梓の元へ駆け寄っていた。
ブレザーのポケットからハンカチを取り出して梓の汗を拭う。

梓「うぅ……」

しずか「起きれる? ほら掴まって」

 梓の腕を自分の首の後ろに回し、そのまま身体を引き上げる。
その拍子に噎せた梓は血混じりの唾を吐き出した。

しずか「見てないで手伝って!」

姫子「う、うん……」

 姫子は促されるままに梓の背中を擦る。
しずかは続けて鞄の中からペットボトルの紅茶を取り出し、梓に手渡した。
45 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 22:33:40.36 ID:b8.nP6AO
しずか「自分で飲める?」

梓「大丈夫……です。どうも……」

 顔色はあまりよくはないものの、不自由無く意思疎通が出来るところまでには回復していた。
それを確認するとしずかは安堵の息をつく。

姫子「……ごめんね梓ちゃん」

 姫子が頭を撫でようと伸ばした手に反応し、梓の身体がびくりと跳ねる。
姫子はそれ以上何もせず、伸ばした手をしまった。

エリ「うーん、何かレベルが違い過ぎて何がヤバいのかお姉さん分かんなーい、って感じなんだけど……」

 のんびり歩み寄ってきたエリは梓の掌を握り締めた。
46 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 22:34:26.31 ID:b8.nP6AO
エリ「ちょっと休んだら? 姫子がしっかりしてくれないと私達は二束三文のガラクタなんだからさ」

姫子「うん……」

 物憂げに目を伏せ、姫子はよろめきながら立ち上がった。
梓はその様子をぼんやりとしたまなざしで追っている。
それに気付くと姫子はもう一度ごめんね、と呟いた。
引き摺るような足跡が、扉が閉まると同時に消え失せる。

エリ「姫子も困ったもんだ。ねぇしずか」

 エリは呆れつつしずかの方へと目を移した。

エリ「あれ?」

 そこに居た筈のしずかは影も残さず消え去っていた。
エリはキミ子とよしみに目配せをしたが、二人も首を傾げるだけだった。
47 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 22:34:59.96 ID:b8.nP6AO
 桜高から少し離れたところにある河川敷。
姫子はそこの堤でごろりと横たわっていた。
川の水面は夕日に照らされて星屑をちりばめたように瞬いており、柔らかい風は幻想のような世界を優しく撫でる。

姫子「…………」

 姫子は風が吹く方を遠く見据えた。
川の流れは視界の更に奥の方まで果てしなく続く。
風に乗ってあの流れの向こうへ旅立ってみようか、そこまで思い付いたところで姫子は考えるのを止めた。

姫子「柄にもないよね」

しずか「ほんとにね」

 不意に聞こえたしずかの声に驚き、姫子は尾を踏まれた猫のように飛び起きた。
48 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 22:35:50.29 ID:b8.nP6AO
しずか「声に出てたよ。姫子ってもっとリアリストなのかなぁって思ってたのに、なんか意外」

 普段は幼く見えていたしずかが妙に大人びていて、逆に姫子はしどろもどろになる。

姫子「私だってまだ高校生だもん。たまには乙女チックな事考えたりするよ」

しずか「甘えたり、我儘言ったりもする?」

姫子「そりゃするよ」

 しずかはふぅんと溜め息混じりにぼやき、鞄の中からチョコレートを取り出した。

しずか「あーん」

姫子「ん……」

 一口大のチョコレートを噛み締めると中からいちごのシロップが溢れてきた。
甘酸っぱい香りが姫子の鼻腔を突き抜ける。
49 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 22:36:35.30 ID:b8.nP6AO
姫子「何か恥ずかしいね、こういうの」

しずか「姫子は自分を取り繕いすぎなんだよ」

 照れたようにはにかんでいた姫子だが、不意に上目遣いで見つめられてぎょっとする。

しずか「そりゃ姫子だって私達と同い年だもん。まだ大人じゃないし、子供なとこだってあるよね」

 そこで言葉を区切ったしずかは表情に憂いを灯した。

しずか「でも私達は姫子のそんな一面なんて全く知らないよ?」

 姫子は何も返す事が出来なかった。
それもその筈だろう。
決して自分を良く見せようとしていたわけではない。
だが自分でも気付かないうちに、姫子は周りを支える為に大人であり続けていたのだ。
50 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 22:37:23.39 ID:b8.nP6AO
しずか「もっとよく周りを見てみなよ。私達ってそんなに頼りない?」

姫子「そんなこと……」

 無いとは言えない。
平沢姉妹を取り巻く事件に介入する為の勢力、『星の観測者』は悪く言えば個々の力も強くはない所謂烏合の衆である。
 不安定な勢力を束ねる精神的負担は姫子を着実に蝕んでいた。

姫子「あ……」

 姫子の目に溜まっていたものが表面張力の限界を迎え、零れ落ちた。

しずか「ごめんね、今まで気付いてあげられなくて」

 核心を突くしずかの言葉は姫子の双肩に積み重なった荷を解いてゆく。
51 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 22:38:02.66 ID:b8.nP6AO
姫子「私の方こそ、ごめん。しずかが、っそんなに強くなってたなんて……全然知らなかったよ……っ」

 嗚咽混じりに言葉を紡ぐ姫子の姿は、年相応の少女のものだった。

しずか「もう、いつまでも泣き虫じゃないんだからね」

 姫子の頭をそっと撫でるしずか。
少なくとも今の彼女はかつてその存在を否定されていた弱い彼女ではないのだろう。
小さな体躯に宿した強靱な意志は、姫子の胸を強く叩いた。

姫子「そうだよね。しずかならきっと、大丈夫だよね」

 自分の選択は間違ってなどいなかった。
姫子は初めてそう思えた。
52 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 22:38:53.14 ID:b8.nP6AO
 今のしずかならばきっと南極の単独調査をこなして、無事に帰って来てくれるだろう。

姫子「木下 しずか一世一代の大仕事だよ。聞いてくれる?」

しずか「もちろん!」
 弾けたようなしずかの笑みは、今の姫子にとって世界で一番愛しいものだった。
 姫子が紬の家に行き、軽音部勢に単独調査を提案した時の事。
 自分の頭の中にある潜入プラン、日程、方針。
 そして結果としてしずかを投げ出す形になってしまった自分の苦悩。
 それらをつらつらと語る姫子の隣で、しずかはその弾けたような笑顔を絶やさずにいた。
53 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 22:42:47.89 ID:b8.nP6AO
姫子「らふめーいか! じょーだーんじゃない!! こんなーもん呼んだおぼーえはない!」

しずか「あんたの泣き顔笑えるぞ」

そんなノリ、最近自分のノリが分からない。
何で俺はラブコメ書いてんだ……
54 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 23:01:47.48 ID:r9T26xQo

久しぶりだな
55 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 23:04:33.01 ID:1YsyE6AO

なにこのしずかかっこいい
56 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 23:38:06.14 ID:WDR9BIAO
>>無事に帰って来てくれるだろう


あれ?死亡フラグじゃね?
57 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 23:49:43.56 ID:Q.9CnCMo
>>56
ちょばかおまえ言うなって
58 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 00:07:54.88 ID:cQ0bYoAO
屍拾いめ・・・・・・アカネに一生モンのトラウマを・・・・・・
59 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 11:47:34.80 ID:dwhqX7Eo
正直







姫子
以外の顔がわからない
誰か参考画像くれ
60 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 11:54:11.59 ID:i79kEA2o
ttp://vip.20ch.net/s/vip20ch1147.jpg
61 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 13:41:45.71 ID:PgvSDsAO
死亡フラグか、言われてみればそうだな
じゃあしずかには死んでもらう方向で考え直してみよう
62 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 15:56:35.81 ID:uiu6sEDO
らめえええぇぇぇ!
63 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 16:26:44.30 ID:XLGDy.2o
>>60
d
こういう分かりやすいのを待ってた
64 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/25(木) 09:33:18.54 ID:KvG.AgAO
唯のせいでしずかがバレる
唯の目の前でしずかが殺される
唯発狂して暴走


こんなノリでおねがいします
65 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/25(木) 09:45:33.50 ID:G.4mgQSO
>>64お前がここに書かなければそんなノリもあったかもな
66 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 14:16:57.37 ID:KvG.AgAO
>>65
なんだ…と…………
67 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 15:25:40.62 ID:OQGYooAO
ということはありとあらゆる死亡フラグを書き込めば
しずかは生きる事ができるんだな
68 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 17:21:22.93 ID:WGxzyIAO
冗談はおよしよ
69 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/25(木) 18:11:16.95 ID:3ToTc6DO
俺もサイコガン何て書かなければ…
70 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 22:18:48.66 ID:Ogx/ocEo
ここでフラグブレイカーのコーラサワーさんが一言↓
71 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 02:01:56.74 ID:G2NwJ/Ao
あずにゃんは五体満足で新たな能力に目覚めて、潜入工作したしずかは無事帰ってくるよ!!
72 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 05:53:44.44 ID:ywEtfMAO
あずにゃん『私の戦闘力は53万です』
73 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 22:55:25.14 ID:dqucisAO
エリ「お、起きた?」

 梓が目を覚ますと視界には天井ではなく、エリの顔が映っていた。

梓「私……寝てたんですか?」

 そこで梓は自分の視界の異変に気付く。 
エリの身体を覆うように、黄色の蒸気のようなものが浮かんでいた。

梓「え……?」

エリ「どったのあずにゃん?」

 エリは唯が梓を呼ぶ渾名を使い、軽くおどけてみせた。
だがそれはあっさり無視され、妙な羞恥心を駆り立てられる羽目になる。

梓「…………」

 慌てて辺りを一瞥する。
よしみ、キミ子、三花。そして部屋の隅でうなだれるアカネ。
各々が違った色の何かを纏っているではないか。
74 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 22:56:07.49 ID:dqucisAO
 意識を手放す前まではあれだけ辛かったのに、何故か今は身体が風のように軽い。
猜疑心が恐れに変わるのには時間はかからなかった。

梓「私、どうなったんですか……?」

三花「闘気の発現、だね」

 梓が振り返ると三花が這うように擦り寄ってきていた。

梓「闘気……」

 闘気を観測し、自在に操れる者を『絶対の彼方』を越えた者とする。
和が語っていた強者の定義、梓はまさか自分がこうもあっさりその枠に当て嵌まってしまうとは思っていなかった。

三花「でもまだ駄目だね。全然綺麗じゃないもん」
75 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 22:56:45.91 ID:dqucisAO
 三花は眉を八の字にして残念そうに言った。

梓「……あなたにもこれが見えるんですか?」

三花「見えるよー。色は緑、でも黒っぽいのが煤けてるね」

 言われてよく見ると、確かに自分の肌にも闘気が纏わりついているのが見えた。
不純物を混ぜたような澱んだ緑だった。

梓「…………」

 闘気の奔流を目の当たりにした事が無いわけではない。
和や純が何かしらの技を以て攻めに転じる時、確かに似たような何かを感じていた。
だからこそ分かる。
今の自分はあの二人と比べてどれほど未熟なのかを。

三花「でも大丈夫だよ。私がその力、引き上げてあげるから」

梓「っ!?」
76 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 22:57:16.78 ID:dqucisAO
 その瞬間、梓の身体が宙を舞った。
梓自身それが三花に蹴り上げられたからだと気付いたのは自分の身体が床に転がってからだった。

梓「っ! 何なんですかいきなり!」

 梓は即座にホルスターから銃を抜き取り、銃口を三花に定めた。
だが弾が射出されるよりも速く、三花は銃口に指を突っ込む。

三花「撃ってごらん? 自分の腕を犠牲にする覚悟があるのならね」

梓「…………」

 野獣の如く鍛えられた三花の身体を貫ける自信など梓には無かった。
引き金を引けば行き場を失った銃弾は暴発し、両者ともただでは済まないだろう。
77 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 22:57:48.52 ID:dqucisAO
三花「なーんてね、嘘だよ。流石にこんな意地悪はしないよ」

 三花は銃口から手を離し、けたけたと笑った。

三花「でも全力で手は抜いてあげるから、全力でかかっておいでよ」

 言葉はそれだけで充分だった。
三花はあくまで闘いではなく指南、梓のポテンシャルの引き上げを望んでいる。
それはつまり、『獣王』が『射手』に狩られる事など断じて無いという驕りの現れ。
ならばと梓が思う事は一つだけだった。

梓「……やってやろうじゃないですか!」

 瞬時にマガジンを入れ替える。
金属同士が噛み合う小気味の良い音と共に、二つの鉛玉が射出された。
78 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 22:58:17.70 ID:dqucisAO
三花「ふふん」

 三花は鼻歌混じりで片手を薙いだ。
二つの銃弾はまるで刀で切られたかのように真っ二つになる。

梓「これは……」

 反撃の手に備え、大きく後退しながらも梓は観測する。
三花の指の爪が鋭利な刃物のように長く伸びているのを。

三花「ぼーっとしてると串刺しにしちゃうよ!」

 三花は梓が作った隔たりを一瞬で詰めた。
その動きはまるでしなやかなバネの力を開放させたかのように素早い。

梓「っ!」

 梓は爪の槍を咄嗟に身を屈めて避ける。
そしてがら空きになった二の腕に向けて一発。
コンマの差でそれを追うようにもう一つの弾丸を射出した。
79 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 22:58:57.08 ID:dqucisAO
 左右の腕の伸び具合、角度、弾の速度。
それらを計算し尽くして放たれた弾丸はぶつかり合い、Yの字に軌道を逸す。

三花「うおっとと……」

 三花は二の腕と顔面に向かって飛んでくる銃弾を身を大きく反る事によって回避する。
そして左脚を軸にして回転しながら上体を起こし、回転の力を殺さぬまま蹴りを放った。

梓「はや──っ!?」

 二つの銃のグリップを足に向け、盾代わりにする。
だが蹴りの勢いはそんなチープな壁では殺せない。
梓は襲い来る手の痺れに銃を手放してしまった。

三花「えいっ!!」

 三花は軸にしていた左脚を浮かせ、その足で宙に浮く形で蹴りを放った。
80 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 22:59:48.91 ID:dqucisAO
梓「きゃっ!?」

 不安定な体勢にも関わらずその蹴りは速く、そして鋭い。
梓は銃を捨てて咄嗟に後退して、鼻先を掠めながらも何とかそれを躱す。

梓「──っ!」

 それ以上の追撃は無かった。
動作のキレ、破壊力共に申し分ないがその動き自体は酷く単調なものだった。
 まるで獣を相手にしているようだ。梓は直感でそう感じた。
 ならばと、梓は策を練る。
獣を相手にするなら自分のような射撃手がやるべき事は一つ。

エリ「やばっ!?」

 梓の目論みに一番最初に気付いたのは遠目に見ていたエリだった。
エリは即座にキミ子とよしみの手を引き、扉を蹴破った。
81 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 23:00:38.93 ID:dqucisAO
 なだれ込むように部屋の外へ飛び出したエリ達。
丁度それと同時に眩い光と爆音がエリ達の背後を包む。

エリ「やだーっ! まだ死にたくないよー!!」

キミ子「ちょっ、もう離してよ!」

よしみ「……くるしい」

アカネ「何やってんのアンタ達……」

 部屋の外で壁にもたれていたアカネが呆れたような表情でエリ達を見た。
目は垂れ下がっており、顔色はあまり良いとは言えない。

エリ「ありゃ?」

 エリは爆風に身を焼かれてしまうと思い込んでいた。
それもその筈だ。あの闘いの最中でエリは見たのだ。
梓の制服の袖口から金属製の球体、爆弾らしきものが零れるのを。

エリ「じゃああれは……?」
82 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 23:01:36.46 ID:dqucisAO
梓「スタングレネード」

三花「うっ……うぅ……」

 二丁の銃を構える梓と膝を折って目を塞ぐ三花。
二人の間には狙撃手が絶対的に有利になるだけの隔たりがあった。

梓「流石にこれは視覚と聴覚を鍛えてどうこうなるものじゃないでしょう? まぁ音に関しては近接戦闘を想定して作ったものだから大した威力は無いでしょうけど……」

 スタングレネード。それは強烈な音と光で対象の平衡感覚を狂わせる兵器だ。
それ自体に殺傷能力は殆ど無いものの、並の人間が不意打ちで使われるとその衝撃は計り知れないものとなる。
83 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 23:02:19.85 ID:dqucisAO
三花「眼がっ! 眼があああっ!!」

 獣に近い身体能力を誇る三花。
視覚と聴覚も同じように発達している三花にはその効果が顕著に現れた。
 網膜を焼き尽くされてゆくような錯覚。三半規管を掻き乱される感覚。
それらは三花の世界を大きく揺らがせる。

梓「チェックメイトです」

 後は念には念を入れ、跳弾を利用した変則射撃で急所以外の箇所に弾丸を浴びせる。
それで勝敗は決する、筈だったのだが。

三花「なーんちゃって」

 梓には両手で表情を隠した三花が舌を出すのが見えた。
だが時既に遅し。三花の肩を狙って放った弾丸は身体を伏せた三花の頭上を通り過ぎ、コンクリートの壁を砕いただけだった。
84 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 23:03:09.49 ID:dqucisAO
梓「な……。なんで……?」

 背後から首筋に鋭利な何かを突き付けられる。
梓の身体は目に見えこそしないものの、確かに震えていた。

三花「視覚と聴覚は確かにぐちゃぐちゃだよ。ぶっちゃけこうして立ってるのも辛いかな」

 ならどうして、と尋ねる前に三花は言葉を続けた。

三花「でも感覚は視覚と聴覚だけじゃないよね。普通の人間ならそれを潰せば暫くは動けないだろうけど、多分梓ちゃんは私と闘ってる時に思った筈だよ?」

 まるで獣のようだと。

梓「まさか──」

 梓の脳内でほんの数分前に思った言葉が過ぎった。
85 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 23:03:48.37 ID:dqucisAO
三花「そう、嗅覚だね」

 この狭い空間で目と耳を塞いで梓を認識する事など、三花にとっては児戯に等しかった。

梓「そんな……っ! 火薬の匂い、それにさっきまでいたエリ先輩達の匂いも紛れてる中で私の匂いだけ嗅ぎ分けたっていうんですか!?」

 犬でもそんな芸当真似出来るだろうか。
梓にはその事実が俄かには信じられなかった。

三花「だって私『獣王』だもん」

 梓は首に爪を突き付けられた感覚が消え、身体が引き寄せられるのを感じた。

梓「や……ぁっ……」

 梓の小振りな乳房が制服の上から揉みしだかれる。
86 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 23:04:37.53 ID:dqucisAO
三花「質量、材質を一瞬で判断出来る触覚」

 首筋を今度は鋭利な爪ではなく、湿った舌がなぞる。
征服感が三花の本能を駆り立て、恐怖感が梓の理性を狂わせてゆく。

三花「脳内分泌物を大量に撒き散らす強欲な味覚」

 舌の動きは上へと向かい、三花は梓の耳朶を甘噛みした。

梓「んっ……。やだよぅ……」

 背筋はこれ以上無いほどに伸び、爪先に力が込められた。
本能的な力の動きすら許さないように、三花は梓の耳元に息を吹き掛ける。

三花「梓ちゃんは、どんな味がするのかなぁ?」

梓「ひっ──!?」

 じわりと下着が濡れるのを感じたが梓に下腹部を確認する余裕など無かった。
87 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 23:05:44.20 ID:dqucisAO
 染み出す愛液が自分の中に眠る僅かな被虐の性を露にするが、それを情けないと思う事すらままならなかった。

三花「本日三度目のなーんちゃって!」

 弾けたような声と共に三花は梓の背中を押した。
梓はそのまま前のめりに倒れ伏す。

三花「折角闘気に触れたんだからもう少し有効に使ってあげないとね。次からはそこんとこもビシビシいくから!」

梓「…………」

 梓は呆れて物も言えなかった。
ただ力無く振り返った視界に映る三花の得意げな顔がどことなく唯に似ているような気がして、梓は一瞬頬を弛める。

梓「……よろしくお願いします、三花先輩」

三花「うむ、任せられたよあずにゃん」

 あずにゃんは止めて下さい。
梓のそんな呟きの後に、部屋の外からは数人の笑い声が零れた。
88 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/26(金) 23:06:58.02 ID:dqucisAO
三花「三分待ってやろう!」
梓「バルスッ!!」
そんなノリ

えっちいのが好きになってきました
89 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 23:11:52.31 ID:sesPjqk0

私もえっちいの好きです
90 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 23:14:09.70 ID:8NHURkAO
えっちなのはいけないと思います!


だが問題ない
>>1
91 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 00:25:37.39 ID:ekOWa9Eo
モブ共がかわいいいいいいいいいいいいいいいい
92 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 00:27:26.05 ID:lkHRgNEo

えっちぃの大好きです
93 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 00:27:52.85 ID:hBYxLHoo
これで五体満足で触覚が生えたり冷蔵庫の下に潜り込んだりしないあずにゃん√か…。
94 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 01:22:31.00 ID:oKcah.AO
いちいち戦闘シーンだってのに劣情を駆り立ててくれるなあ

一番興奮したのは澪vsしずかだけどね
95 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 01:25:32.09 ID:4x6OS6AO
首と身体が分離して髪の毛を手足のように操るあずにゃんルート
96 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 14:55:25.88 ID:zIa.T2DO
赤いボディースーツに身を包み
葉巻が似合うハードボイルドなあずにゃんルート
97 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 15:01:44.51 ID:1IVfOMMo
背広に帽子がトレードマーク
ヘビースモーカーの硬派なあずにゃんルート
98 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 20:30:15.99 ID:kIjdsZco
そんな事より担当者は至急>>1のとこへ原稿取りに行ってくるんだ!!

菓子折り持ってくの忘れるな!!
99 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 09:48:47.24 ID:BwXgYQSO
あとチョコレートも
もしかしたら原稿先伸ばしにするために買いに走らされるかも
100 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:02:58.96 ID:Ecp6hAAO
 梓の覚醒の翌日。
 まだ朝日も昇っておらず薄暗い早朝の雑木林を澪は歩いていた。
 抜き身のまま刀を携えており、その刀身にはどす黒い血が付着して輝いている。

澪「出て来い」

 唐突な呟きと共に木々が揺れた。
それに遅れて渇いた銃声が数発。
放たれた鉛玉は澪の元に届く手前で失速する。
空間が水面のような波紋を浮かべて揺らぎ、銃弾がみるみるうちに凍り付いてゆく。

澪「……そこか」

 澪は銃弾が飛んできた方を見て、刀を地面に深々と刺し込んだ。
刀を中心に氷柱が四方に飛び交い、木々の向こうへと収束してゆく。
101 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:03:42.81 ID:Ecp6hAAO
 数人の男の短い悲鳴が聞こえた。
それでも健在な者は居たようで、黒スーツに身を包んだ三人の男がそれぞれ澪を囲むように直進していく。

「オラァッ!!」

 野太い声を響かせながら刀を持った男が澪に切り掛かる。
技を一切捨てた乱雑な一撃。
澪はそれを技で受け流そうともせず、ただ力任せに刀身を刀で切り付けた。
甲高い金属音が鳴り響き、男の持つ刀は真ん中から真っ二つに折れる。

澪「一人目」

「ぐっ──!?」

 人指し指で軽く男の胸を突く。
その瞬間男の身体を巡る全ての水分が波打った。
男が膝を折る事すら澪は許さない。
男の顔面をサッカーボールと同じ要領で蹴り上げると、男の身体はその後ろで構えていた男とぶつかる。
102 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:04:15.01 ID:Ecp6hAAO
 後ろで構えていた男はその拍子に持っていた得物を手放してしまった。
澪という絶対的な強者を前にしてそんな隙を見せるという事は死に直結する。

「ひっ──!?」

 短い悲鳴の後に、男の身体が肩口から胸にかけてざっくりと切り付けられる。
運が悪ければショック死を引き起こしてしまいそうな切り傷だが、それは決して深くはない。
致命傷たり得ないその傷が男に甚大なダメージを与えたのは次の瞬間だった。

「ひっ、ひぃやああああっ!?」

 傷口を中心に冷気が拡がり、男の身体を凍らせてゆく。
出血は一瞬で止まり、代わりに重度の凍傷が男を蝕んだ。
103 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:05:10.44 ID:Ecp6hAAO
澪「いつだってそうだ」

 男の悲鳴にかき消されてしまうほどのか細い声で澪は呟く。
そして振り向きざまに刀を薙いだ。

「え──」

 刃と化した水が刀身から迸り、最後の刺客の右手の甲から先を奪い去った。
舞い散る血飛沫。鉄が地面と触れ合う音。狂乱した叫び。
その全てが澪の神経を逆撫でる。

澪「勝ちの目なんてこれっぽちも無い事を自覚しながら、害虫みたいにわらわら沸いてくる」

 澪が地面を蹴ると、地表から現れた氷柱が男二人を串刺しにした。
急所は外れており、貫かれた箇所は一瞬で止血される。後に残るのは痺れと痛みだけだ。
104 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:05:48.75 ID:Ecp6hAAO
澪「そして最後には思考停止。自爆を謀って殉職者気取り」

 地面を転がる鉄の塊が小型の爆弾である事を、澪は振り向かずとも察知していた。
それは本来の役割を果たすことなく、ただ虚しく転がっている。

澪「自分から死ぬ勇気があるんなら、その意地でしっかり生きててよ……」

 右手を失いながらもそれ以外は健在な男。
澪はそこで初めてその男の方へと向き直った。

「な……。何で……?」

 男は困惑した。
悪鬼羅刹が如き残虐な戦い振りを見せていた少女が、その冷淡な瞳を滲ませて顔を伏せたからだ。
105 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:06:46.81 ID:Ecp6hAAO
澪「ばか……」

 震える声で涙目になりながら呟く澪は、どこから見ても年相応の少女だった。
 力を手に入れ、揺るがない意志を持った。
 情を捨て去り、どこまでも非情になれた。
 だが優しさと甘さは違う。
どれだけ強くなったところで澪は自分の優しさだけは捨て去る事が出来なかった。

「…………」

 身も凍る冷気で痛みすら麻痺していた。
だが男は思った。捨て駒としての価値しかない自分だが、ただ一言この少女に謝りたいと。
 口を開きかけたその時、男の側頭部に衝撃が走る。
辛うじて保たれていた男の意識はそこで途切れた。
106 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:07:32.03 ID:Ecp6hAAO
澪「んっ……」

 目を擦って何度か瞬きをすると、澪は刀を鞘へと収めた。
そして大きく伸びをして、血に染まって黒くなったパーカーを脱ぎ捨てる。
腰の手前まで伸びた艶やかな黒髪を払い、悠然と歩くその様からは先程の少女の一面は見られない。
 一寸の猶予も与えられぬまま叩き潰された三人の男が横たわり、呻き声を漏らしていた。
各々が目も当てられないほどの重傷を負っているが、誰も澪を恨むことは無かった。
 痛い。だがそれ故に生きている。
髪の毛一本も残さずにこの世から抹消する事も出来たのにそれをしなかった澪に、三人は感謝の意すら覚えていた。
107 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:08:24.38 ID:Ecp6hAAO
 電車の路線をなぞるように移動する事十分。
澪が敵襲を迎撃した地点から三駅分ほど離れたところに琴吹財閥の格納庫があった。

和「遅かったわね」

澪「ごめん、どうも向こうの動きが活発みたいでね」

 澪は身体中に飛び散った血飛沫を和に見せ、大きく溜め息をついた。

澪「で、肝心の木下さんはまだ来てないの?」

和「さっき立花さんと来たけど二人でどっか行っちゃったわよ。私が水を差すのも悪いし、ね?」

 ふぅん、とあまり興味なさげに呟く澪。
彼女の興味はこの格納庫に鎮座している鉄の塊に向いていた。
108 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:09:13.46 ID:Ecp6hAAO
澪「それにしても凄いな。財閥の長までになると自家用ジェットなんかも買えるのか……」

 流線型のフォルムに白を基調としたボディ。
軍用兵器や機械に疎い澪にはそのジェット機の価値は分からないものの、自分では一生掛かっても買える代物ではないとは直感していた。

紬「あ、おはよう澪ちゃん」

 格納庫の扉が開かれる。 
そこには盆の上にティーカップを乗せて運ぶ紬が居た。

澪「こんな時まで気を使わなくても良いのに……」

紬「こんな時だからこそよ。私にはこれくらいしか出来ないもの」

 琥珀色の液体が注がれたティーカップを澪と和に手渡す。
109 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:09:58.66 ID:Ecp6hAAO
 澪は紅茶を啜り、ほっと一息ついた。
朝方の冷たい風に晒されて冷えた身体がすっと溶けてゆくのを感じた。

和「それにしても遅いわねあの子達。ムギが見た時はどうだった?」

紬「二人で何か話してたみたいだけど……」

 紬が言いかけたところで格納庫の扉が開いた。
昇り始めた朝日が部屋の中に差し込む。

しずか「ごめん、待たせたね。もう準備は出来たから」

 誇らしげな表情を浮かべるしずか。
そしてその後ろで温かく見守るような笑みを浮かべる姫子が居た。
姫子の頬にはうっすらと涙が伝った後があるが、その笑顔は作り物ではない。
誰もがそれを理解していた。
110 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:10:33.52 ID:Ecp6hAAO
しずか「出発までどれくらいかかる?」

紬「操縦はオートマティックだから乗り込み次第飛び立てるわ」

 そう、と短く呟いてしずかはジェット機のドアを開いた。

和「随分あっさりね」

しずか「あまり長居してると怖くなっちゃうからね」

 しずかは落ち着いた様子で笑みを浮かべた。
それが作り物か否かは、しずか以外には分からない。

澪「木下さん」

 機内に乗り込もうとしずかが身を屈めたその時、澪が呼び止めた。

しずか「……何?」

 怪訝そうな表情を浮かべて振り返るしずか。
澪は残った紅茶を一気に飲み干すと口を開いた。
111 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:11:20.64 ID:Ecp6hAAO
澪「危なくなったら逃げて。そして隠れて。例えこの潜入が無駄になったとしても、木下さんが無事帰ってきてくれればそれで良いから……」

 澪は言葉を区切り、一息つくと再び口を開いた。

澪「逃げる事を臆病だなんて思わないで。命さえ残っていれば、後は万事どうとでもなるからね」

 たとえ状況が悪化したとしても、その時の尻拭いは自分がしよう。
それが出来る力を自分は持っている筈だ。
澪はそう心に決めた。

しずか「……ありがとう」

 眉尻を下げてはにかみ、しずかは機内に乗り込んでゆく。

和「何か言わなくて言いの?」

 和が姫子に言葉を促す。
だが姫子はそれに対して首を振るだけだった。
112 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:11:59.42 ID:Ecp6hAAO
姫子「私は大丈夫だよ。言いたい事はあの子が『帰ってきて』言うから」

 無事帰ってこれる保証などない。
そんな事は嫌というほど理解している。
だがここで別れを惜しんだらしずかは永遠に帰って来ない。
姫子はそんな予感を感じ取ってきた。

姫子「だからしずかは大丈夫だよ」

 誰に言うでもなく姫子は呟いた。
 格納庫の扉が完全に開き、封鎖されて滑走路と化した道路がジェット機の行く末を示している。

和「そうね」

 エンジンに火が点り、機体の駆動音が鳴り響く。
それに遅れて機体はゆっくりと走り始めた。
113 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:12:42.12 ID:Ecp6hAAO
 機体の動きは徐々に加速していき、道路を走る。
首の部分が上を向き、前輪が収納されるその時、一陣の風が吹き荒れた。

姫子「良い風だね」

 モカブラウンの髪の毛がはためくのを抑え、姫子は空を飛ぶ鉄の鳥を見送った。
 今の姫子が何を考え、何を思っているのか。
それを知る術を持つ者は姫子以外に居なかった。
だが要らぬ詮索はするまいと澪達は思う。
そう思えるほどに姫子の表情は明るかった。

澪「そうだね」

 綺麗な思い出は綺麗なままで。
この二人の語らいに水を差すような真似はせずに、澪は一言呟いたのだった。
114 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 23:15:06.26 ID:Ecp6hAAO
澪「危なくなったら逃げろ。そんで隠れろ。運が良ければ隙を突いてぶっ殺せ。それさえ守れば、後は万事どうとでもなる」

姫子「この野郎順調に死亡フラグ立てやがってェェェェエエッ!!」
そんなノリ
115 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 23:17:08.67 ID:EMilqsAO
乙!
116 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 01:34:28.18 ID:9kiF/2AO

しずかマジ頑張れ!
117 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 03:27:30.69 ID:XKwnGp6o
澪「危なくなったら逃げろ。そんで隠れろ。あとは私が何とかする」

しずか「うっせー雑魚」
そんなノリ
118 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 04:36:50.04 ID:6rEZT..o
澪「今、誰か私を笑ったか?」
紬「我が友シ・ズーカ!!」

そんなノリ
119 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 11:12:26.41 ID:YHHx6cwo
乙!

次週号は巻頭カラーですね、わかります。
120 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 11:17:41.26 ID:xqAzSTYo
「モカブラウンの髪の毛」とかオシャレな言い回しだよな。
俺も今度、自分のSSで闇雲に使ってみよう。
121 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 20:57:48.99 ID:POl6LwAO
 飛び立ってからどれくらいの時が経っただろうか。
そんな事を考えながらしずかは機内に備えられていた耐寒スーツに着替えていた。

しずか「ひゃっ……」

 首元まで覆うタイツのような生地のそれは地肌と擦れ合い、妙な刺激をもたらす。

しずか「このまま外に出ても大丈夫って言うんだから、科学の力って凄いよねぇ……」

 ぼんやりと呟いてはみるものの、それに答えるものは居ない。

しずか「…………」

 着替えが入ったジェラルミンケースの中には弛めのパンツとダウンジャケット、それに白色のマフラーと耳当てが入っていた。
122 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 20:58:21.62 ID:POl6LwAO
 少し考えるように腕を組み、しずかは脱ぎ散らかした制服を手に取った。

しずか「やっぱりこっちの方が良いや」

 耐寒スーツの上からスカートを履き、ブラウスに袖を通す。
しずかはブラウスのボタンを下から一つずつ止める毎に、気持ちが引き締まってゆく感覚を覚えた。
 着古して少し緩んだカーディガンのボタンを止め終える頃にはしずかの表情は険しくなっていた。

しずか「よっし!」

 軽く頬を叩き、備え付の電子ポットの中のホットチョコレートを紙コップに注ぐ。
嗅ぐだけで心が休まりそうな甘い香りが機内に満ちた。
123 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 20:58:57.18 ID:POl6LwAO
 だがしずかの表情は決して緩まない。
紙コップに口をつけ、数枚に分けられた今回の計画書に目を通す。

しずか「…………」

 その内容は決して用意なものではない。
そもそも南極への潜入自体が過酷なのだ。
たとえ日本から離れた南極に本部構えていたとしても、用心深いいちごがセキュリティを甘くする道理は無い。
張り巡らされた膨大なセキュリティの網が上空にまで及んでいる事は火を見るより明らかだ。
 つまり潜入のチャンスは一度きり。
ジェットが本部上空を駆け抜けるその一瞬のうちに飛び降りなくてはならないのだ。
124 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 20:59:35.64 ID:POl6LwAO
しずか「やっぱりきっついなぁ……」

 それが出来なければ進路を予めプログラムされている機体はたちまち日本へと帰還してしまう。
それで済めば御の字だろう。
最悪の場合、セキュリティに引っ掛かった機体は想定し得ない何らかの迎撃システムによってたちまち破壊される。
それはつまり、しずかの死に直結する。

しずか「──っ!」

 突如として機内に警報が鳴り響く。
敵に存在を悟られたわけではない。
この警報音は、機体が若王子機関本部の上空の到達した知らせだった。

しずか「よっし!」

 飲みかけのホットチョコレートを投げ捨て、食料を詰め込んだパラシュート付きのリュックを速やかに背負う。
125 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 21:00:08.04 ID:POl6LwAO
 警報音が鳴り止んでから三秒。それがしずかに残された時間だ。

しずか「『詐欺師』木下 しずか──」

 ドアをこじあけると常人では耐えられぬほどの風圧がしずかを襲った。
だがしずかはその脅威にすら気圧されない。

しずか「行きます!」

 直後に警報音が鳴り止んだ。
しずかの身体は物理法則に逆らう事なく、急速に落下速度を増してゆく。
目を開けているのも辛い状況の中で、しずかは空を駆る機体を見送った。
ジェットはあくまで機械的にしずかを手放し、突き放すように飛びさってゆく。
 氷雪で覆われた大地がしずかの眼前に迫ってくる。
しずかはそっとパラシュートに手をかけた。
126 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 21:01:17.35 ID:POl6LwAO
いちご「この警報は……?」

斎藤「侵入許可を出していない機体が上空を過ぎ去ったようです」

 巨大なモニターと何台ものコンピュータが設置された場所にいちごと斎藤、そして片目を覆う長い黒髪を気障な動作で弄る青年が居た。

いちご「直ぐにその様子を再生して」

斎藤「はい」

 斎藤がリモコンのようなものを弄ると、林檎の木を映し出していたモニターが空へと切り替わる。

「ふぅん、見たところほんとに通り過ぎただけみたいですね」

 気障な男がさも興味なさげに呟いた。

いちご「通り過ぎた機体を拡大してもう一度再生して」
127 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 21:02:14.84 ID:POl6LwAO
 男の言い分に少しも耳を貸さずにいちごが言った。
再び斎藤がリモコンを弄ると、ピント調節された先の映像が流れる。

「あぁ? 何だありゃ故障か? ドアが開いちまってるじゃねーか」

 男が若干声を荒らげるのを聞いて、いちごは眉を顰めた。

斎藤「機体から何かが落ちた形跡はありませんね。しかし用心の為注意を促しておきますか?」

いちご「いや……」

 唇に指を添え、少し考え込むといちごは斎藤らの方へ振り返った。

いちご「従者衆全員に命令を下すわ。各々のスキルを全力で発揮し、施設内の警備に当たる事。一般作業員には悟られないように」
128 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 21:03:21.07 ID:POl6LwAO
「あぁ!? なんだってそんな──」

斎藤「よせ、後藤」

 斎藤はいちごに食ってかかる後藤を片手で制した。
黒のサングラス越しの表情は誰にも分からない。

斎藤「何で、だって、しかし、でも。我ら従者衆が口にして良い言葉ではないな。主人の命令に対する返事は一つだけの筈だ」

 斎藤はちらりといちごの方を見たが、当のいちごは背を向けてパソコンのキーボードをタイプしている。

後藤「ちっ……。了解です」

 後藤は悪態をつきながらスーツのポケットに手を突っ込み、踵を返して去って行った。
129 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 21:04:12.11 ID:POl6LwAO
斎藤「見苦しいところをお見せしました」

いちご「気にしてないよ。それよりあなたには私の護衛を任せるから、今から一時間自由時間をあげる」

 いちごはそれだけ言うと、再び振り返る事は無かった。
部屋を出る時斎藤は妙な猜疑心に駆られたが、特に気にせずそのまま部屋を後にした。

いちご「まずいね……」

 いちごは誰も居ない空間の中でぽつりと呟いた。
表情は険しく歪んでおり、うっすらと汗をかいている。
 先の映像を見て、いちごは全てを理解していたのだ。
あの機体は琴吹財閥が仕向けたもの。そしてあれに乗っていた人物が木下 しずかであるという事も。
 全て分かっているからこそ分かる。
事態は深刻な方向に進んでいる事が。
130 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 21:05:15.77 ID:POl6LwAO
 仮にしずかが『タナトス』の情報。そして『エデンシステム』に触れたとしたらその被害は甚大なものになるだろう。
それを考えるといちごは気が気ではなかった。
 『沼』の策士たるいちごがこの事態を想定し得なかったかと問えば、その答えはノーだ。
だが結束力の強い桜高の面子がステルス能力以外に取り柄が無いしずかをこんな危険に曝すとは思っていなかったのだ。
いや、思っていなかったという表現には語弊がある。
正確には今の状況に陥る可能性を微弱なものと判断し、効率を重視したのだ。

いちご「それでも……」

 いちごは天井を仰ぎ、うわ言のように呟く。
口調は弱々しいものの、その瞳には強靱な意志が宿っていた。

いちご「真っ向から不意打ってあげるわ」

 詐欺師の見えざる手が智略の沼に潜り込まんとしていた。
131 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 21:07:31.72 ID:POl6LwAO
斎藤「俺たちはSeeDです。命令には従います」

後藤「やってやろうぜサイトー!」

そんなノリ
132 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 21:31:30.97 ID:WendPOYo
俺「ああ…そんなにがんばらないで…」

てことか。
133 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 23:04:32.75 ID:zax0EkMo
いちごが子荻ちゃんwwwwww
134 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 17:23:40.87 ID:NuOjW/Io
乙です!!

しずかちゃんが雪に埋れてしまわないか心配で心配で・・・・(´・ω・`)
135 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 04:48:15.28 ID:ah2GssAO
しずか「犬神家ッ!」

こうですねわかります
136 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 21:54:56.50 ID:iwSXPoDO
ちょっと手遅れっぽいけど女帝降臨させて見た、

http://imepita.jp/20101205/778960
和「ガァァァベラストレェェェト!!」

そんなノリ、

手持ちの刀が1/144菊一文字しか無いので。
137 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/06(月) 10:26:43.34 ID:wwzvQPo0
>>136
すげえええええかっけえええええええ
138 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 17:59:45.18 ID:54W/icgo
139 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 23:54:02.83 ID:hgoUAG2o
>>136

乙!

澪は?澪は居ないの??

アズにゃんが1番難しそう
140 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 00:58:00.80 ID:eJqprYDO
澪は同じ刀で良いならすぐ出来る、
梓はみくるか屍姫が無いと完全再現は無理、手持ちのマシが100ミリとザクマシと80マシ、ハンドガンは壊滅状態、せめてケルディムかサバーニャが有れば……
141 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 01:04:24.95 ID:BoSKSJQo
ガーベラだと流石に鞘がゴツすぎてなんか違うなぁって感じがする
Az-nyangはこのサイズのライフルあったっけかなぁ
142 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 01:07:13.18 ID:HccVGl6o
プロの模型班はスレのためだけにプラモを1つ買ってくる
143 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 03:48:00.61 ID:pwbaZZMo
>>140
ハルコルネン2で宜しく。
144 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 08:02:27.01 ID:eJqprYDO
3〜4日くれ、田舎に住んでるからAmazon無しでは最近出たガンプラしか調達出来ないんだ。
145 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 20:54:05.37 ID:j2W2KYAO
 一方桜高の生徒会室には軽音部、『星の観測者』、生徒会の面々が集っていた。
和はデスクトップのパソコンをタイプしており、その様子を他の面子が後ろから眺めている。

律「何やってんのかさっぱり分かんねーや。私にも分かるように説明してよ」

澪「そうやってかれこれ三回は説明したじゃないか。もう黙って見てろよ」

 律が拗ねたように唇を尖らせ、澪は呆れたように溜め息をつく。

和「あんた達いつまでそうしてるつもり? 気が散って集中出来ないんだけど」

 和は片手を振って煩わしさを露にする。
和の言葉を境に純以外の面々は散開していった。
146 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 20:54:39.00 ID:j2W2KYAO
和「なに?」

純「お気になさらずー」

 純は隣の席に腰掛け、パソコンを立ち上げる。
和が横目でディスプレイを見ると、そこには見覚えがある盤面が映し出されていた。

和「……呆れた」

純「あーあ、いきなり不可予知出ちゃった」

 ぴりぴりとした空気が漂う室内で呑気にマインスイーパーが出来る辺り、純のメンタルは強いというより捻子曲がっているのだろう。

律「で、結局何やってんの?」

澪「だから何回も言ってるだろ。木下さんから送られてくる情報の解析準備をしてるんだよ」

 いまいち理解を得ないような律の反応に澪は再び溜め息をついた。
その後ろで紬がいそいそと茶を淹れている。
147 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 20:55:17.02 ID:j2W2KYAO
紬「どうぞ」

和「ありがと、悪いわね」

 この時世にしては珍しく古めかしい造りの湯呑みを和に手渡す。だが和は注がれたお茶には手をつけず、脇に置いてそのまま作業に没頭した。

姫子「大変そうだね」

アカネ「どうする? 時間がかかりそうなら戻って梓ちゃんの訓練でも……」

 アカネが言い終える前に姫子は首を振った。

姫子「ごめん、私は止めとくよ」

 理由など詮索するまでもなかった。
むしろアカネは今の姫子にそんな提案してしまった事に後悔した。

エリ「じゃあ私達は行こっかあずにゃん」

梓「あ、はい……」
148 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 20:55:52.12 ID:j2W2KYAO
 後ろ髪引かれながらも梓は生徒会室を後にした。
部屋を出る手前で一度振り返り何を思ったか、今では梓自身にも思い出せない。

梓「…………」

 校門を通り抜け、前日通った道と同じ道を歩く。

アカネ「…………」

 夕焼けの空では雲が日に溶け込み、滲んでゆく。

エリ「…………」

 面々の足取りは重く、通夜を思わせる清閑さがあった。

梓「あの……」

 無音の世界に終止符を打ったのは梓だった。
梓の呟きを機にアカネとエリは一斉に梓の方を向く。
無言の圧力にたじろいでしまうが、それでも梓は口を閉ざなかった。
149 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 20:56:40.90 ID:j2W2KYAO
梓「しずか先輩はきっと帰ってきます。だからそんな顔しないでください」

 梓の言葉は清閑なる空気を払拭するものとは成り得なかった。
そうだね、と力無く呟くアカネとエリの背中には悲愴が漂う。

梓「…………」

 澱んだ感情は周囲にも伝染するもので、何とか場を和ませようとしていた梓の頭も自然と下がっていった。

エリ「ほんとにこれで良かったのかな……」

アカネ「今更何言ってんのよ」

 ふと弱音を漏らすエリをアカネが窘める。

エリ「だって……。しずかは確かに私達と比べたら桁違いに強いかもしんないけどさ……」

アカネ「やめてよ……」
150 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 20:57:24.66 ID:j2W2KYAO
エリ「それがあの子が無事に帰ってこれる理由になるのかな……」

アカネ「やめてったら!」

 アカネの叫びはエリには届かない。
遂にエリの足は止まり、手に持っていたバッグを手放す。

エリ「どうしよう……。私達、しずかを見殺しにしちゃったよ……っ!」

 眼に力が入っているのが傍から見ていても分かる。
だがその力みとは裏腹に、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。

アカネ「だったらどうしろっていうのよ! 何の策も無しに突っ込んで皆で死ねとでも言うの!?」

 アカネは憤りに身を任せ、ガードレールを殴り付けた。
鉄製であるにも関わらずレールは紙のようにひしゃげる。
151 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 20:58:14.56 ID:j2W2KYAO
エリ「そんなの、分かんないよ……」

 振り絞るように呟き、エリは閉口する。

アカネ「……結局誰かがやらなきゃいけないの。それが出来ない私達には悔やむ権利なんて無いわ」

 エリに背を向けてアカネは再び歩き始めた。

梓「…………」

 もの言わぬアカネの背中から悲痛の叫びが聞こえてくるような気がして、梓は眼を逸した。
視線を逸した先には俯くエリ。
その顔を上げて言葉をかけてやる事すら出来ない自分が、堪らなく嫌になる。
 今になって思うと、姫子が学校に残ったのも気が急いてしまったがゆえなのだろう。
 戦いは始まったばかりなのに、士気は壊滅的に低下してしまっていた。
152 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 20:59:14.98 ID:j2W2KYAO
 刺すような鋭い風が吹き荒れ、雪を運ぶ。
風が吹いているのか雪が吹いているのか分からなくなる過酷な状況下で、木下 しずかは着実に歩を進めていた。

しずか「ううぅ……」

 身体自体は琴吹財閥製の耐寒スーツのお陰で常温を保ってはいるものの、首から上の外気に触れる部分は悲惨だった。
髪の毛や睫毛は凍り、元の面影は殆ど見られない。

しずか「冷たいよぅ……」

 服が湿る事も厭わずにどっかりと雪の上に座り込む。
だが氷雪は尚も降り注いできて、しずかの英気を殺いでゆく。
 このままではもたないと判断したしずかはそこで小休止を取ることにした。
153 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 21:00:02.40 ID:j2W2KYAO
しずか「お腹空いたなぁ……」

 肩にかけたリュックの中から真空パックに入った粘土のような携帯食料を取り出し、張り付けられていたシールを剥がす。
すると真空パックはたちまち熱を持ち蒸気を放った。

しずか「あちちっ……」

 雪の中にそれを突っ込み、温度を調節するとしずかはチューブの蓋を開けた。
チューブを吸い上げると味が薄くお世辞にも美味とは言えない流動食が口内に広がる。
味は粗末なものでも、この過酷な環境下で自分はまだ生きているという実感は自然としずかの頬を綻ばせた。
154 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 21:01:00.71 ID:j2W2KYAO
斎藤「どうしたものか……」

 娯楽など何一つ無い名ばかりの談話室にて、斎藤は煙草を咥えてぼんやりと宙を眺めていた。

「身に余る悪巧みはその身を滅ぼすぜ?」

 背後で聞こえた粘っこい声色に斎藤は眉をしかめた。

斎藤「なんだ、後藤か」

後藤「なんだとは何ですかい。忠実な部下をないがしろにしてる内は三流止まりですよ」

 自分で言っていれば世話は無い、と軽くあしらい、斎藤は煙草を灰皿で揉み消した。

後藤「全くあのお嬢も人使いが荒い。あそこまで用心深いと生きるのも息苦しいだろうに」

斎藤「目的の為ならどこまでも用意周到になれる。それこそが成功者の条件だと思うがな」
155 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 21:02:05.61 ID:j2W2KYAO
 斎藤の言葉を鼻で笑い、後藤は胸ポケットからシガレットケースを取り出して煙草を咥えた。
煙草の先端に一人手に火が点る。

後藤「はっ、堅苦しい生き方だな。俺には真似出来ねーや」

斎藤「人の生き方に水を差すのは感心しないな」

 後藤が吐き出した紫煙を斎藤は軽く手で扇いだ。
それを一瞥すると後藤はにやりと口角を歪める。

後藤「そいつぁ失敬。俺はある程度の資金を稼がせてもらったらこんなところからはおさらばさせてもらうさ。そんでバイクで世界を旅する。人生を楽しまないのは罪だぜ?」

 その言葉はいちごに向けられているのか、はたまた自分に向けられているのか。
斎藤には分からなかった。
156 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 21:02:58.17 ID:j2W2KYAO
斎藤「好きにしろ。与えられた仕事をこなしていれば私は何も言わんさ」

後藤「……やっぱつまんねーな、斎藤の旦那は」

 くるりと踵を返して後藤は歩み始めた。

後藤「さてと、俺は夢の為に狐狩りに出掛けますかね」

 人指し指で短くなった煙草を弾く。
炎の赤は放物線を描いて、床に落ちる前に大きく燃え盛った。
それはほんの一瞬の出来事で、煙草の吸い殻は既に灰の一片すら残っていない。

斎藤「……私にも夢はあるさ。年甲斐もなく無様に追い続ける下らない夢がな」

 誰も居ない空間で斎藤は自嘲気味に微笑む。

斎藤「私が仕える主君に、全てを捧げ続ける事……」

 泡沫のように舞った言葉は誰にも聞かれることなく弾けた。
157 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 21:06:18.78 ID:j2W2KYAO
後藤「我が問いに 空言人は 皆燃える」

しずか「ぐ、グレートハイカー!?」
そんなノリ

フィギュア班はちゃんと所持金と相談しようね!
お兄さんとの約束だゾっ☆
158 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 21:36:22.92 ID:Y3uFndgo
159 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 21:41:19.29 ID:bErN0O.o
最近のノリが本編とずれてきててわろち
160 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 23:12:03.81 ID:Rjdwjnwo
乙乙!
161 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 00:10:16.18 ID:pZvCUEAO
乙乙乙!!
162 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 16:01:46.47 ID:756jcgSO

自分用メモ しおり

――――――――――――――――――――――――――
         ここまで読んだ
――――――――――――――――――――――――――

・しずか南極 ・梓緑修行 ・澪氷優 ・斎藤後藤火 ・三花獣

 
163 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 23:17:51.65 ID:aFYzNAAO
 凍て付く氷雪に覆われ、あらゆる存在を拒む建造物。
しずかは遂にそれを眼前に見据えるところまで来ていた。

しずか「…………」

 腕に巻き付けた時計型のカメラを起動する。
音も無く、光も無く、しずかが撮った光景は自動的に桜高へと送られる。

しずか「よっし!」

 両頬を叩き、気を引き締める。
ここから先は一言も口を開く事すら出来ない。
それを頭の中に刻み込み、高く反り立つ塀をよじ登ってゆく。
常人ならば一通りの道具が無ければ登れないであろう垂直な壁だが、そこはやはり流石桜高の生徒と言ったところか、階段でも登るかのようにスムーズに登ってゆく。
164 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 23:18:31.13 ID:aFYzNAAO
 猫のようにしなやかな動作で塀から降り立つ。
ふと振り返り、足跡の心配をしたがそれは杞憂だと気付いた。
視覚されない。触る事すら出来ないしずかが唯一残した足跡は降り注ぐ雪に瞬く間に覆われてゆく。
少しだけ頬を緩めて歩きだそうとしたその瞬間、しずかの真横を赤い何かが通り抜ける。

しずか「──っ!?」

 心臓が跳ね上がり、一瞬にして呼吸が乱れる。
通り過ぎたものが炎だと気付いたのはそれが雪を溶かして作り上げた一本道を視覚してからだった。

「かったりぃなぁおい」

 調子はずれで緊張感の無い声が響く。
165 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 23:19:18.00 ID:aFYzNAAO
 黒いスーツを身に纏った男は咥え煙草のまま降り注ぐ氷雪の中を悠然と歩いている。
三流ホストのような伸ばしっ放しの黒髪は片目を完全に覆っており、隠れていない右目は野獣のように鋭い。

後藤「……うん?」

 雪解けの道を歩いていると後藤はふと眉をしかめた。
確信があるわけではない。だが何かが這っているような、或いは何者かに見られているような不快な感覚を覚える。

しずか「っ! ──っ!」

 意味が無い事を知っていながらしずかは両手で口を覆った。
胸で激しく脈打つ心臓の鼓動でさえ気取られ殺される。
そんな錯覚を感じさせるほどのモノをこの男は持っている。
166 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 23:20:05.55 ID:aFYzNAAO
後藤「気のせい、だよなぁ?」

 後藤は訝しげな目付きで辺りを見回した。その視線が通り過ぎる度、しずかの心臓は激しく暴れ狂う。
極寒の地のど真ん中にいるのにしずかのスーツの中の肌はぐっしょりと濡れていた。

後藤「まぁいいや」

 後藤は雪が降り注ぐ空を見上げ、不機嫌そうに舌打ちした。
そして片手を眼前に翳し、眼を閉じる。
 その瞬間翳した手の先から血のような赤色をした炎は迸った。
轟音を上げる炎は後藤の行く末に道を作り上げる。

後藤「ったく……。こんだけ雪が積もってると靴が汚れてならねーや」

 しずかに背を向ける形で後藤は呟く。
167 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 23:20:52.17 ID:aFYzNAAO
 だが後藤の首から上がゆっくりとしずかの方へと向き始めた。
断腸の思いで神に祈るしずかだが、後藤の動きは止まらない。

後藤「お前もそう思うだろ?」

 ここまで下卑た笑みを浮かべられる人間が他に居るだろうか。
しずかは眼を見開き、呆然と立ち尽くしていた。
理性は早急にこの場から離れるよう警告しているが、本能は既に生きる事を諦めて終息へと向かっている。

しずか「────」

 しずかは言葉を紡ぐ事が出来なかった。
叫び声を上げることも、呻き声で訴えることも出来ない。

後藤「…………」

 後藤はにやにやと笑みを浮かべるだけで何もしてこない。
168 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 23:21:51.31 ID:aFYzNAAO
しずか「──っ!」

 しずかは閉ざした唇を強く噛んだ。
身体を縛り付けていた恐怖が一瞬だけ和らぐ。
だがしずかが後退ろうとしたその時、後藤は思いがけない行動に出た。

後藤「こんだけカマかけて出てこねーってことは……。やっぱ気のせいかぁ?」

 どこか不満げな表情を作り、後藤は視覚していないしずかの顔へと手を伸ばした。

しずか「……っ」

 安堵の溜め息を吐くべきか歓喜の雄叫びを上げるべきか、取り敢えずは一命を取り留めた喜び故にしずかの呼吸は再び乱れた。
 視覚されないとは言えど些か不安に思ったしずかはそろりと身を屈めて後藤の手を躱す。
169 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 23:22:45.26 ID:aFYzNAAO
 後藤がおかしいなぁ、などと呟いている脇でしずかは手を合わせてひたすら祈った。
 早く行け、足を止めるな、振り返るな。
呪詛の言葉のように心の中で呟き続けるしずかの思いが伝わったのか、後藤は振り向くことなく歩き始めた。

後藤「っかしーなぁ。俺もそろそろ年かぁ?」

 煙草を咥えて指先に火を灯す。
吐き出した紫煙は寒空の元で吐き出る白い息と混ざり合い、残り香を置いて言った。

しずか「良かった……」

 捻った言葉や感想などは要らない。
しずかは生きているという実感を味わう為、小声ながらもそう呟いた。
170 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 23:23:47.91 ID:aFYzNAAO
 腕時計型のカメラを後藤に向けてピントを調節し、シャッターを切る。
音も光も発することは無い。つまりこの行為がばれる事は無いのだが、しずかの手は小刻みに震えていた。

しずか「ふぅー……」

 これで一つ大きな仕事をこなしたかのような疲労感があるものの、その実やるべき事はまだ何一つとしてこなしていない。
 やれやれだね、としずかは呟き、後藤が作った道を避けて歩き始めた。
 もし後藤が自分の能力を熟知していれば。
邂逅した相手が後藤よりも用心深い者だったら。
無限に存在するIfの中のどれかが成立していれば自分の命は無かった。
この時点ではしずかは神に愛されていたのだろう。
そんな事を考えながらしずかはそっと溜め息を吐いた。
171 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 23:25:13.40 ID:aFYzNAAO
後藤「まずは挨拶代わりだ!」

しずか「こんなもん初見で勝てるかあああああっ!!」

そんなノリ
172 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 00:07:16.53 ID:qn6FNIYo
おつー
173 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 00:12:47.54 ID:dq9UsUU0
てす
174 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 00:44:40.17 ID:gu0xrADO
乙、
今日は澪
http://imepita.jp/20101209/003370

http://imepita.jp/20101209/005770

http://imepita.jp/20101209/004440

http://imepita.jp/20101209/004070
オマケ、和のボツ写真
http://imepita.jp/20101209/007000
後ハルコネン無理、
ハルコネンってセラスたんの得物で良いんだよな?でもあれ固定式フィギュアの上に1,5諭吉もしやがる、
よって代わりの対戦車ライフルを2丁ほど発注したんだが土日までかかりそうな感じだ。
175 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/09(木) 00:48:09.89 ID:dq9UsUU0
>>174澪がデビルかっけえ!!
176 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 01:16:13.23 ID:2JJCp1Ao
>>171
乙です!

>この時点ではしずかは神に愛されていたのだろう。

おい!wwwしずかが心配で眠れなくなるだろwwwww

せっかく無事に着地出来たというのに!

>>174

こちらも乙!
やっぱ想像していたのをこの目に出来るのは感慨深いな〜
177 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 02:57:56.59 ID:HI9vsyYo
>>174
ハルコンネンだった… .. .: ∬ ::::: ::: :::::: :::::::::::: : :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
        ∧_∧ . |||.: : : ::: : :: ::::::::: :::::::::::::::::::::::::::::
  ストン   /:彡ミ゛ヽ;)ー、 . . .: : : :::::: :::::::::::::::::::::::::::::::::
    ||| / :::/:: ヽ、ヽ、 ::i . .:: :.: ::: . :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
      / :::/;;:   ヽ ヽ ::l . :. :. .:: : :: :: :::::::: : ::::::::::::::::::
 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄
大丈夫、俺たちはおまいさんを信じてるよ!!

ところでフィギュアが1.5諭吉?元ネタが1.5諭吉?
178 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 06:24:17.51 ID:gu0xrADO
フィギュアの方だぜ。
179 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 12:57:38.95 ID:HI9vsyYo
>>178
 . .... ..: : :: :: ::: :::::: ::::::::::: * 。+ ゚ + ・
        ∧ ∧.  _::::。・._、_ ゚ ・    
       /:彡ミ゛ヽ;)(m,_)‐-(<_,` )-、 *
      / :::/:: ヽ、ヽ、 ::iー-、     .i ゚ +
      / :::/;;:   ヽ ヽ ::l  ゝ ,n _i  l
 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ ̄E_ )__ノ ̄
よし、なら元ネタの方のデン○ロビウムを買うんだ!!縮尺合う気しないけど…。
180 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/09(木) 16:50:17.78 ID:YW8nVIAO
>>174
紫のパーカーが必要だな
181 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 01:17:23.02 ID:e714xwAO
乙!!

キャラの戦闘力が知りたいな。
182 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 08:17:44.10 ID:j/uE9QDO
今日はりっちゃん、
律「おぉっと、おいおい、いきなりかよ」

http://imepita.jp/20101210/028460
律「バーン!、はい死んだー」

http://imepita.jp/20101210/028870
律「迅さを一点に集中させればどんな分厚い塊でも砕け散る!!」

http://imepita.jp/20101210/029640
http://imepita.jp/20101210/030030
みたいなノリ、
>>179>>180
すまん、勘弁してくれ、流石にそんなスキルは無いぞ。
183 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:13:03.92 ID:ehA7zoAO
和「あら?」

 パソコンのディスプレイが点滅し、受信音を鳴らす。
本日二度目のしずかからの受信に一同は和の元へ駆け寄る。
純はマインスイーパーに飽きたのか、既にソリティアに移行していた。

律「さっき入口の写真が届いたばかりだろ? 幸先良いなぁ」

和「人、かしら? 見づらいわね……」

 送られてきた映像に映る人影にカーソルを合わせ、マウスを二回クリックする。

紬「後藤……」

 紬は片手で口を覆い、悲しそうに眼を伏せた。

律「後藤って、あのなんとか衆ってのの……」

澪「従者衆だろ」

 そうそれ! と律は指を弾きながら紬の方へと振り返った。
184 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:13:42.71 ID:ehA7zoAO
 だが振り返った先にあった紬の辛そうな表情を見て、律は自分の軽率さを改めた。

律「……ごめんな。やっぱムギにとっちゃキツいよね」

紬「いいのよりっちゃん。覚悟は出来てるから」

 強がって笑っているのは誰の目から見ても明らかだった。
だが律は紬のそんないたいけな努力を汲んで、それ以上は言及しようとしなかった。

紬「唯ちゃんの方が大切だもんね」

 心の平静を求めるように自分に言い聞かせる。
だがそれは欺瞞だと紬は心の何処かで理解していた。
たとえ裏切り者だとしても、ディスプレイに映る後藤、そして従者衆と唯を天秤にかけて選ぶ事など出来やしないのだ。
 遠い目で紬は天井を仰ぎ、幼い日の事を思い返す。
185 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:14:23.17 ID:ehA7zoAO
後藤「今日から貴女の身の回りの世話をさせていただく後藤です。至らない点もあるでしょうが、その際は何卒ご教示下さい」

 たどたどしくはあるものの、丁寧な言葉遣いだった。

紬「こちらこそよろしくおねがいします」

 幼い紬は少し弾んだ声で礼を返した。
その声とは裏腹に紬は思っていた。
また要らない置物が増える。自分が一人になれる時間が減ってしまうと。
 この頃の紬は小学校三年生だった。
その年の子供は往々にして人との繋がりを求めるものなのだが、幼い頃より置かれた環境が紬の繋がる心を荒ませていたのだ。
186 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:15:14.48 ID:ehA7zoAO
斎藤「家庭教師の方が体調不良でお見えにならないので今日は今から二時間は自習です。何かあれば後藤に言いつけて下さい」

紬「分かりました」

 紬の二つ返事を聞くと斎藤は音も無く去ってしまう。
残された二人が口を開く事はなく、静寂が部屋を包み込んだ。

紬「…………」

 鉛筆が紙の上を滑る音が断続的に聞こえる。
後藤はその音を聞きながら、年のわりにはやけに大人びた紬の後ろ姿を眺めていた。

後藤「すげーなぁ。この年から机に向かってお勉強なんて俺だったら五分も持たねーや」

 静寂が一時間ほど続いたあたりだろうか、後藤は従者とは思えない軽率な言葉遣いで呟いた。
187 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:15:50.69 ID:ehA7zoAO
 鉛筆を握る紬の手に力が込められる。
お前に何が分かる? 出来るのではなくやらなければならない環境に置かれた自分の心中を、少しでも想像した事があるのか。
沸き上がる苛立ちをそのままこの軽率な男にぶつけたい衝動に駆られたが、父の期待を考えるとそれは出来なかった。

紬「……お茶を貰えますか?」

後藤「はあ? んなもん給仕係にでもやらせろよ。何で俺が小学生に茶なんざ汲まなきゃなんねーんだよ」

紬「え?」

 沸き上がった怒りが急速に冷めてゆくのを感じる。
はたして今まで生きてきた中で自分にこんな汚い口を利く者がいただろうか。
未知なる人種との邂逅に紬は恐怖すら感じつつあった。
188 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:16:39.94 ID:ehA7zoAO
後藤「ったく、斎藤の旦那も人がわりーよな。初日から令嬢の目付け役なんて荷が重過ぎるっつーの」

 がしがしと頭を掻きながら後藤はシガレットケースを取り出す。

後藤「っと、流石に煙草はマズいよな。失敬失敬」

 苦笑いしながら後藤は胸ポケットにそれをしまう。
この時点で普通は解雇に値している。
それを知ってか知らずか後藤は我が物顔でずかずかと紬に歩み寄ってきた。

紬「な、なんですか……?」

後藤「ははっ、そうびくびくしなさんなって。ちょっくら俺の退屈凌ぎに協力してもらうだけさ」

 後藤は机の上に広がったノートを取り上げ、ぐしゃぐしゃに引き千切った。
189 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:17:27.98 ID:ehA7zoAO
紬「っ!?」

 散らばる紙屑を見て、紬は呆然とするしかなかった。

後藤「この年から机にかじりついてっとろくな大人になんねーぞ。折角誰も見てねーんだからガキらしく遊ぼうぜ」

 後藤は人の悪そうな卑しい笑みを浮かべた。
だが紬は不思議とそれを不快には思わなかった。
突拍子も無い新人従者の提案にただただ驚くだけだったのだ。

紬「…………」

 思えば物心がついた時からまともに笑った記憶が無い。
しかしどうしてだろうか。
この男となら今まで笑えなかった分まで笑えるような気がする。
紬はそんな淡い期待を抱きつつあった。
190 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:18:18.93 ID:ehA7zoAO
後藤「さて、と……。意気込んだは良いものの最近の子供の遊びはよく分かんねーんだよな。何かやりたい事無いのか?」

 普通の子供ならばここであれをやりたい、これをやりたい、と騒ぎ立てるものなのだが、この時の紬は違った。
胸の前で両手を組んでしゅんとうなだれたのだ。

紬「私、今まで遊び道具なんて貰ったことないです……」

 口ごもりながら紬は言った。
後藤はばつが悪そうな顔をして頭を掻いたが、それはほんの一瞬で、再び下卑た笑みを浮かべてずいっと紬に詰め寄った。

後藤「最近の子供は道具がなきゃ遊べないのか? こんな時に頭使う為にお勉強してんじゃねーのかよ、んん?」
191 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:18:50.00 ID:ehA7zoAO
 乱暴な物言いに紬は思わずたじろいだ。
そして後藤は紬の反論を待たずに閃いたぜ! と叫びながら部屋を飛び出してゆく。

紬「…………」

 一から十まで何一つとして理解出来ない人間だ。
紬は幼いながらも後藤の人格の突拍子の無さを悟った。
まるで条件反射で喋り、動いている。
それは自分では真似出来ない。いや、真似しようとも思わない。
けれどもどこか羨ましさすら感じてしまう気持ちの良い生き方だった。

後藤「おっまたせーい!!」

 かちゃかちゃと音を響かせながら、後藤が再び戻ってきた、
右手には盆に乗せられた十数個程のグラス。
そして左手には水が入ったピッチャーがあった。
192 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:19:24.75 ID:ehA7zoAO
後藤「日曜に早起きした甲斐があったぜ。まさかこんなところで役に立つとはな」

 紬には何の事を言っているのかさっぱり分からなかった。
困惑する紬を余所に後藤はてきぱきと机を片付けてグラスを置いてゆく。

紬「…………」

 作業が進むにつれて紬は後藤がやらんとしている事を理解した。
机の上には異なる量の水を注がれた八つのグラス。
後藤は鉛筆を手に取り、横一列に並んだグラスを順に叩いた。

紬「わあっ!」

 グラスは澄んだ音で音階を奏でる。
紬の表情は年相応の少女のそれと同じように綻んだ。
 後藤は器用に音を刻み、ばらばらの音を繋いで歌を作る。
193 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:20:16.21 ID:ehA7zoAO
後藤「と、こんなもんか」

 後藤は満足げな笑みを浮かべて鉛筆を紬に手渡した。
やってみろと手で合図をするが、紬はもじもじして顔を伏せている。

紬「でも私、こんなのやった事無いから……」

後藤「はっ、よっぽどの暇人じゃなきゃこんな事やんねーよ。こんなもんピアノと一緒だって」

 強引に鉛筆を握らせると後藤は更に強く促す。

紬「…………」

 そろりとグラスを叩いてみる。
澄んだ音が鳴り響くと紬の顔は更に綻んだ。
今度は後藤の手ではなく自分の手で音を紡ぐ事が出来た。
他の子供にとっては何でもない事が、紬の心に温かい何かを染み渡らせる。
194 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:20:49.51 ID:ehA7zoAO
 紬は顔を両手で覆い、肩を震わせた。
小さな指の間から一粒の涙が零れ落ちる。

後藤「なぁにめそめそしてんだよ」

 後藤は肩を竦め、紬の頭を乱暴に、優しく撫でた。
それを口火に塞き止められた水が決壊したかのように紬の中から何かが溢れ出た。

紬「こういう事するのが……。ずっとずっと夢だったんです。私……私……っ!」

 後藤は困ったように頭を掻く。
だが人の悪そうな表情の中には、確かな優しさがあった。

後藤「……社長令嬢だからって無理に気負うこたねーよ。寂しくなったら俺や斎藤の旦那が一緒に遊んでやるからさ」
195 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:21:34.70 ID:ehA7zoAO
 まぁ斎藤の旦那は年食い過ぎってから厳しいかもな、と喉を鳴らして笑うと、後藤は紬の両手を取った。
涙でくしゃくしゃになった紬の顔が露になる。

後藤「そうだ。俺の夢はバイクで世界中旅する事なんだけどよ、お前がこれくらい大きくなったら後ろに乗っけてやんよ」

 紬の頭上で手をひらひらと振り、後藤は笑った。
その笑顔は今日一番、そして紬が今まで見た笑顔の中で最も人間らしい笑顔だった。

紬「うん!」

 紬はくしゃくしゃになった顔に年相応の無邪気な笑顔を浮かべた。
196 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:22:27.42 ID:ehA7zoAO
 それから後藤と紬は紬の父や厳しい従者達の目を盗んで色んな事をした。
温室育ちの紬にとってそれらは新鮮で、人格に大きな影響を与える。
 多くの習い事の中で特にピアノに熱心に打ち込んだのもその日の出来事がきっかけだ。
今でも時に見せる向こう見ずな好奇心も、かつて紬が後藤のそんな人格に憧れた事が影響なのだろう。
 彼女が何か楽しい事を経験した時に常套句のように口走る「するのが夢だったの」という決まり文句はその日から始まった事は、今となっては彼女自身も覚えていない。

紬「…………」

 きっと語られる事は無い。
紬はそんな泡沫のような思い出を愛でるように思い返す。
197 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:23:14.48 ID:ehA7zoAO
 あの時後藤が示した身長に到達する事は出来ただろうか。
そんな自問自答を最後に紬は考えるのを止めた。

紬「その写真に写ってるのは従者衆の一人、後藤よ」

律「…………」

 鬼気迫る紬の物言いに律は思わず押し黙った。

紬「昔手品と称して火を操るのを見た事があるわ。闘気の事なんて知らなかった私にもはっきり見えたから──」

和「少なくとも私や立花さんと同等、或いはそれ以上の使い手ってわけね」

 紬の言葉を和が代弁する。
紬は肯定の意を込めて強く頷いた。

紬「私の事は気にしなくていいの。私も全力でやるから皆も──」

 紬の口から紡がれた言葉は冷たく、それでいた燃え盛る火のような思いが込められていた。

紬「従者衆を、皆殺しにするつもりでいて」
198 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/10(金) 22:25:03.73 ID:ehA7zoAO
ロリムギ「口笛は何故遠くまで聞こえるの?」

後藤「それはねツムギ、アルプスは空気がとても綺麗だからだよ」

そんなノリ
199 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 22:26:30.13 ID:tk4q0MAO
後藤△
200 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 22:38:50.48 ID:j/uE9QDO
残りの3人もきっと強烈なキャラに違い無い。
201 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 22:48:21.14 ID:ehA7zoAO
多分>>181みたいな人が他にも居そうだからお粗末ながらも強さ順に並べてみた

ウイさん>>>何かよく分からんが凄い壁>>>澪>姦通式の壁>>>斎藤≧後藤>和≧恵>純≧姫子≧対姫子戦唯(?)>>>絶対の彼方>>>三花>>通常唯>律>しずか>信代>文恵>紬>風子>>>トップランカーの壁>>>梓(銃器持ち)>>>上位ランカーの壁>>>キミ子≧よしみ>>エリ>アカネ>>純にボコられた不良>>>中堅の壁>>>吹奏楽部部長>>梓(銃器無し)>>いちご>>>>>>>>物語に参加出来るか否かの壁>>>>>>>>>>>>>>冒頭の不良、憂の闘気に当てられて自殺した不良、聡etc.

ぶっちゃけ即興だからあてにならない(つーかあてになったら興が殺がれる、よな?)けど大まかに言うとこんな感じ。
取り敢えずクソねもいのでフィギュア班に感謝しつつ僕は寝ます。
202 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 23:14:49.04 ID:KaFEyjgo
憂がスゴイのはわかったが
澪もそこまで強いんだな
203 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 23:27:30.10 ID:YEKnOcAO
>>201
元序列1位のさわこはどの辺なんだ?
204 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 23:30:01.18 ID:ehA7zoAO
>>203
忘れてた、後藤とほぼ同列かちょい下。
まぁその辺をさ迷ってる感じで
205 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 00:38:56.05 ID:STgC50so
つーか紬と律は修行せんでいいのか
206 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 01:01:34.18 ID:Tj5HvcDO
今日はムギちゃん、

紬「よいしょ」グワッ

http://imepita.jp/20101211/021500

紬「えい!」ブン

ビターン!!

http://imepita.jp/20101211/022000

紬「レコアさんとサラちゃんは私が頂いて行きますね」

http://imepita.jp/20101211/022360
そんなノリ、
律紬はスレチ気味な画ばっかでスマン、でも劇中の速さとパワフルさをなんとかして表現したかったんだ、明日はムギの究極真拳を繰り出す予定、
最後に明日の夜には射手梓を御披露目出来ると思う、
>>205俺もそう思ってた所だ、勿論>>1は何かしらの手は用意してるんだよな?
207 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 03:12:33.05 ID:FgRKw32o
>>1
乙!回想パートって素敵やん

>>206
その写真だと修行必要無いぐらいパワフルwwwwwww


ちょっと待て、その強さ序列に姦通式の壁ってあるがまさかそれってこの先りっちゃ・・・・・ゴクリ
208 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 06:55:09.76 ID:/Ln566DO
>>206
フィギュア組おつかれ
律の突きに関して細かいこと言うと右手で殴るときは右足は後ろだぞ
サウスポーでジャブ打ったってなら分かるが
209 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 01:43:05.16 ID:Kw/cWYDO
くそっ、仕事が遅れて不在通知の洗礼を受けてしまったぜ、
というわけで射手は明日だ、
今夜は宣言通りムギの究極神拳を魅せてやるぜ!

http://imepita.jp/20101212/025960
http://imepita.jp/20101212/030030
http://imepita.jp/20101212/030540
チキンをな俺は究極神拳とか言っときながらこの程度です、
百合以上は恐くて揚げれん、
>>208
アドバイスサンクス、次以降参考にさせて貰うぜ。
210 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 03:34:12.93 ID:J7Df6AAO
これはひどいwwww
211 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/13(月) 01:09:04.27 ID:GutVnoDO
ふう、やっと射手にゃん出来たぜ、
まずはガンにゃん

http://imepita.jp/20101213/035340

次は砂にゃん

http://imepita.jp/20101213/036140

最後にマシにゃん

http://imepita.jp/20101213/034090

各武装でのアクションは次回、
次からは話が進む毎に少しずつ貼るようにするよ、
後ハルコルネンの代わりはちゃんと用意したから安心してくれ。
212 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 02:48:14.13 ID:Z39gDjso
>>211
おぉ!今までで一番完成度高いな!!
乙です。

しかし背景を何とかしないともったいない!!

ヒーターの前で戦ったらアズにゃん干からびちゃうwwww
213 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 08:28:11.76 ID:oKlAs1Io
>>211
あずにゃんを這い蹲らせるんじゃねぇ!!
黒い髪が触角にみえてまるでgkb…。
カサカサカサ


…おっと誰か来たみたいだ。
214 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/13(月) 16:53:17.38 ID:FqWnLgAO
>>211
はやく憂のフィグマを入手しなければな
215 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:36:18.83 ID:1Qi/e2AO
 後藤との不吉な邂逅の後、しずかは順調に敵陣の奥深くまで潜り込んでいた。
先程の緊張などまるで無かったかのように、しずかの表情からはうっすらと笑みが漏れている。

しずか(いける……っ!)

 声には出さないものの徹底的に自身を鼓舞した。
そのお陰かどうかは定かではないが、しずかの動作は時間が経つ毎に機敏になってゆく。

しずか「っとと……」

 一瞬だけ声を漏らしてしまい、思わず身を震わせる。
だがしずかの目に止まったものはしずかを動揺させるには充分過ぎるものだった。

しずか「…………」

 他の扉とは明らかに室が違う鋼鉄製の扉。
そこには『披験体収容室』と刻まれていた。
216 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:37:18.94 ID:1Qi/e2AO
 心臓が脈打つ音が一際大きくしずかの頭に響く。
確証があるわけではないが確信はあった。
自分達が助けるべきクラスメイト、平沢 唯はこの扉の向こうにいる。
 しずかは恐る恐る扉に手を伸ばしてみた。
自分の完全ステルス能力は生半可なセキュリティには認識すらされない。
その自信すら揺らがされる何かがこの扉にはあったのだ。

しずか「……っ」

 やはりというべきか、扉にはロックがかけられており、ぴくりとも動かなかった。
だがしずかの本能が鳴らした警鐘は杞憂に終わり、何事も無かったかのように空気が流れてゆく。
217 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:38:06.00 ID:1Qi/e2AO
 しずかは腕時計型のカメラを起動する。
これで丁度三十枚目か、などと考えてそっと一息ついていたその時、それは起きた。

しずか「うぐ……っ!?」

 肩口に指すような激痛。
たまらず痛みの発信部を抑えると、何か固く鋭いものが手に当たった。
それが何か確認する為に振り返ったしずかは自分の選択を悔いる。

「駄目じゃない狐さん。狼から逃げようと思うんなら、その卑しい匂いをどうにかしなきゃね」

 針金が組み込まれた強化ガラスの窓の縁に、妖艶な雰囲気を漂わせる女が腰掛けていた。

「従者衆が一人、江藤よ。よろしくね」
218 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:38:45.63 ID:1Qi/e2AO
 毒々しいまでに艶めいた黒髪はアップで纏められており、黒縁眼鏡の向こうの瞳はしずかを咀嚼するように見つめている。
黒のジャケットと丈の短いキュロットスカートに包まれた肢体はそれらの衣服をはちきらせんばかりに起伏の存在を主張していた。

しずか「くっ……」

 身体が思うように動かない。
まるで全身の血の巡りを止められたかのように身体が痺れている。

江藤「後藤くんと加藤さんは何してるのかしら? こんな女狐一匹見つけられないようじゃ従者衆失格ね」

 女狐と称された事に怒りを覚え、しずかは江藤をきつく睨み付けた。
219 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:39:23.19 ID:1Qi/e2AO
江藤「うふふっ、怖い顔しちゃって。でも駄目よ、全身が痺れて動かないでしょう?」

 にやにやとせせら笑いながら、江藤はしずかに歩み寄る。

しずか「はな……れてっ!」

 拒絶の言葉とは裏腹に、しずかはがくりと膝を折ってしまう。

江藤「ふふっ、興奮しちゃうわ。即効性の毒を盛られてもまだそんなに元気に喋れるの?」

 江藤はしずかの顎を持ち上げ、長い舌をちろちろと動かした。
頬はうっすらと高揚しており、西洋人形のように整った顔は妖艶に歪む。そして……。

しずか「〜〜っ!?」

 江藤の長い舌がしずかの口内に捩じ込まれた。
220 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:40:01.13 ID:1Qi/e2AO
 口内を侵す舌を噛み千切ってやる事も出来ない。

しずか「んっ……んー……っ!」

 ぴちゃぴちゃと卑しい音が鳴り、しずかの背徳感を煽る。
江藤の細い指がしずかの唇を撫で、舌と舌が絡まり合ってねっとりとした唾液が二人の口内を行き来した。

しずか「──ぷはっ!」

江藤「うふふっ、ご馳走さま」

 不意に唇が離されて、しずかは大きく肩で息をする。
だがそんなものではしずかの身体を蝕むものは払拭されない。
唇を犯された背徳感。そして全身を縛り付ける悪寒。
何故痛みを感じた時点で逃げなかったのかとしずかはひたすらに悔いる。
221 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:40:43.04 ID:1Qi/e2AO
江藤「さぁて狐ちゃん、次はどんな遊びが良いかしら? あっ、安心してね。私が満足するまでは殺さないであげるから」

 冗談じゃない。しずかは思った。
この女は自分の身体を骨の髄まで貪り尽くした挙げ句、残飯のように捨て去るつもりだ。
その末路を想像すると自然としずかの目から涙が零れ落ちた。

しずか「やめて……よぉっ……。こんなの……」

江藤「敵陣の真ん中でそんなお願いが通じると思ってるの? 本気で言ってるなら抱き締めたくなるような可愛い子ね」

 趣味、嗜好の歪みがそのまま具現化したような残虐な笑みを浮かべたまま、江藤はしずかの細い首に手をかけた。
222 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:41:08.65 ID:1Qi/e2AO
江藤「こういうのも最高じゃない?」

 じわじわと首を掴む手に力が入ってゆく。
いたいけな少女を手中に収めた征服感に、江藤は恍惚の表情を浮かべた。

しずか「あがっ……!」

 押し倒された拍子に肩口に刺さった刃物が更に肉を貫き、めり込んでゆく。
だがその痛みにしずかは一縷の希望を見出した。
全身を襲う悪寒が、痛みのお陰で一瞬だけ緩和されたのだ。

しずか「くっ……」

 即効性の毒がどんなものなのかはしずかには分からない。
だがその効力が痛みによって誤魔化せる程度のものならば、そんなものは知る必要すら無い。
223 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:41:37.76 ID:1Qi/e2AO
 しずかは震える手で肩口に刺さった刃物を掴み、そして。

しずか「──っ!」

 渾身の力を込めて引き抜いた。
その痛みは刃が刺さった時のそれとは比べ物にならない痛みで、それはしずかの身体を覚醒させる。

江藤「きゃっ!?」

 意表を突いたしずかの一撃は江藤の元に届く事は無かった。
だがしずかが引き抜いたナイフに塗られた毒を恐れてか、江藤は大きく身体を逸す。
その隙に身体を捻って拘束から逃れたしずかはそのまま脱兎の如く駆け出した。

江藤「あらあら狐さん。そっちに行くなら狼に噛まれた方がマシだと思うんだけどな……」

 取り残された江藤は尻餅をつく形でしずかの背中を眺め、それを追う事は無かった。
224 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:42:09.34 ID:1Qi/e2AO
しずか「はぁ……はぁっ……」

 息遣いは荒く、ステルスなどとうに解除されていた。
 闘気を探られれば一瞬で居場所を突き止められるとはいえ、それ以外に欠点は無いステルス能力の解除方法は声を出す事だ。
その事さえ忘れて、しずかは呻き声を混じらせながら息を荒らげる。

しずか「ひゃ──っ!?」

 足をもつらせて盛大に転ぶ。
何でも無い痛みが今では全身打撲の重傷を負ったような錯覚に陥らせる。
 痛みを堪えて背後を振り返ると、自分をこの状況に叩き込んだ張本人は既に追って来ていない事に気付いた。
225 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:42:47.55 ID:1Qi/e2AO
しずか「…………」

 安堵感から意識が遠のいてゆく。
だがここで寝てしまえば命は無いだろう。
諦めと執着、二極化した感情が責めぎ合う。
 寝そべって葛藤していると、冷たい床を伝って一人分の足音が聞こえてきた。
 しずかは痛みに耐え、よろよろと身体を起こそうとした。
だが、その生への執着は突如として発せられた禍々しい闘気の奔流によって叩き折られる。

「──人間道」

 しずかの視線の向こうから厳かな声が響いた。
その瞬間しずかの身体は冷たい床に叩き付けられた。

しずか「かっ……はっ……!?」
226 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:43:25.91 ID:1Qi/e2AO
 まるでこの空間だけ重力が何倍にも増幅しているような圧力がしずかを襲う。
空気に身体を穿たれ、骨が軋み、臓物が圧縮される。

「侵入者よ、貴様の退路はここで絶たれた」

 霞みゆくしずかの視界に男が現れる。
黒のスーツを身に纏い、表情は黒のサングラスで隠されている。

斎藤「私は従者衆が一人、斎藤だ。来い、貴様の意志を以て活路を見出してみろ」

 厳かな声はそう言った。
体勢は丸腰で棒立ち。傍から見ればある程度武の心がある者ならば一瞬で首を刈り取る事が出来そうにも見える。
だが視覚がそう認識していても本能、第六感は真逆に働く。
227 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:43:57.83 ID:1Qi/e2AO
 どれだけ修練を積んだところで埋めようが無い力量の差。
自分の無力にしずかは再び涙を流した。
歯は震え、耐寒スーツは最早意味を成さず、悪寒がひたすらしずかを襲う。
その様子を暫く無言で眺めていた斎藤だが、痺れを切らしたのか遂にしずかを一喝する。

斎藤「立て! 単身でここに乗り込んで来た覚悟はそんなものだったのか!?」

 怒号の後に斎藤は床をだんっ、と鳴らした。
更に強い重圧がしずかを襲う。

しずか「────っ!」

 最早口を開く事すら出来なかった。
しずかは確信し、諦めた。
ここで自分が命を落とす事は自明の理であると。
228 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:44:31.56 ID:1Qi/e2AO
 この諦めが必然だとすれば、それは偶然だったのだろうか。
どちらにせよ、人はそれを奇跡と呼ぶのだろう。
ぶちりと、しずかの頭の中で何かが切れた音がした。

しずか「────」

 声にならない声を上げながら、しずかは見えざる圧力を突破して立ち上がる。
それを見て斎藤は満足げに口角を弛めた。

斎藤「……それで良い」

 責めぎ合ってくるのは自分のそれとは相反する闘気。
その色はどんな深い森よりも深く緑に染まっていた。
室内であるにも関わらず一陣の風が廊下を突き抜ける。
斎藤はその時一瞬だけ瞬きをしていた。
その刹那の間に、しずかは斎藤の懐に潜り込んでいたのだ。
229 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:45:10.05 ID:1Qi/e2AO
斎藤「っ!?」

 認識出来たのは鋭く輝く銀色のナイフだった。
斎藤は咄嗟に手を翳し、刃を素手で受け止める。

しずか「くっ……」

 空いた片手でがっちりと身体を掴まれ、身動きが取れない。
逃れようと身体を捩らせるが、それも無意味に終わる。

斎藤「もういい」

 不意に斎藤が呟いた。

斎藤「貴様の戦士としての誇り、存分に見せてもらった」

 斎藤は刃が突き刺さった手に力を込め、乱暴に引き抜く。
一瞬だけ鮮血が舞い、直ぐに治まった。

斎藤「その決意に敬意を払おう。一瞬でケリをつけてやる」

 刹那、空間そのものが歪んでゆくような膨大な闘気が溢れ出す。
230 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:45:42.54 ID:1Qi/e2AO
 土壇場で手にした『絶対の彼方』を越える力。
それを以てしても埋まらない力の差に、しずかの心は燃え尽きた。
だが不思議と絶望は無い。
たとえ自分がここで死んだとしても、それは仲間達にここに巣くう脅威を知らせる警告となるのだ。
何一つとして無駄な事などない。

しずか「姫子……」

 最期にしずかは思う。
しずかの死を知ってあの風の申し子はどんな顔をするだろうか。
眉を顰め、身を震わせて涙を流す姫子の姿が頭を過ぎった。

しずか「ごめん──」

 地獄のような孤独の檻の中から救ってくれた貴女に、私は少しでも恩返しが出来たでしょうか。
231 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:46:29.78 ID:1Qi/e2AO
 心の中で自分に問うて、しずかは笑みを零した。
世界が終わりを迎える。
だが姫子と姫子を取り巻く全てのものの世界はまだ終わらない。
きっと穏やかな道を切り開いてくれる。
そう思うとしずかの心はこれまでに無いほどに晴れ渡ってゆく。

しずか「大好きだよ……。姫子!」

 フェードアウトなどでは無い。
しずかの意識は走馬灯を映すこともなく、一瞬で途切れた。

斎藤「……私よりも強いのだな、貴様は」

 斎藤はしずかを掴んでいた手を離した。
何の抵抗も無くしずかの身体は床に転がり、ぴくりとも動かなかった。
232 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/13(月) 20:47:55.90 ID:1Qi/e2AO
しずか「木の葉の意志は途絶えんさ……」

姫子「火影のじいちゃん……!」

そんなノリ
233 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 20:50:47.87 ID:5tPvicko
人 合掌
234 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 21:31:51.23 ID:qDVGX2AO
……
235 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/13(月) 21:42:47.87 ID:FqWnLgAO
…………
236 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 21:43:20.78 ID:Z7pNl/wo
この世界の女は皆レズなんか
237 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 21:47:58.58 ID:oKlAs1Io
>>683
レズじゃない女の子っているのか?
238 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 22:19:46.66 ID:BPO8IfsP
未来に生きてやがる
239 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage 乙です。]:2010/12/13(月) 22:53:05.34 ID:Z39gDjso
     / ̄⌒⌒ヽ
      | / ̄ ̄ ̄ヽ
      | |   /  \|
    .| |    ´ ` |
     (6    つ /   ちくしょう・・・
    .|   / /⌒⌒ヽ
      |    \  ̄ ノ
     |     / ̄

  __,冖__ ,、  __冖__   / //      ,. - ―- 、
 `,-. -、'ヽ' └ァ --'、 〔/ /   _/        ヽ
 ヽ_'_ノ)_ノ    `r=_ノ    / /      ,.フ^''''ー- j
  __,冖__ ,、   ,へ    /  ,ィ     /      \
 `,-. -、'ヽ'   く <´   7_//     /     _/^  、`、
 ヽ_'_ノ)_ノ    \>     /       /   /  _ 、,.;j ヽ|
   n     「 |      /.      |     -'''" =-{_ヽ{
   ll     || .,ヘ   /   ,-、  |   ,r' / ̄''''‐-..,フ!
   ll     ヽ二ノ__  {  / ハ `l/   i' i    _   `ヽ
   l|         _| ゙っ  ̄フ.rソ     i' l  r' ,..二''ァ ,ノ
   |l        (,・_,゙>  / { ' ノ     l  /''"´ 〈/ /
   ll     __,冖__ ,、  >  >-'     ;: |  !    i {
   l|     `,-. -、'ヽ'  \ l   l     ;. l |     | !
   |l     ヽ_'_ノ)_ノ   トー-.   !.    ; |. | ,. -、,...、| :l
   ll     __,冖__ ,、 |\/    l    ; l i   i  | l
   ll     `,-. -、'ヽ' iヾ  l     l   ;: l |  { j {
   |l     ヽ_'_ノ)_ノ  {   |.      ゝ  ;:i' `''''ー‐-' }
. n. n. n        l  |   ::.   \ ヽ、__     ノ
  |!  |!  |!         l  |    ::.     `ー-`ニ''ブ
  o  o  o      ,へ l      :.         |
           /   ヽ      :
240 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 00:40:20.70 ID:ZQ2zfIUo
↑今の俺
241 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 00:44:19.78 ID:GRpuTcAO
いくら死亡フラグがビンビンだったとはいえ……。
この子には幸せになって欲しかったぜちくしょう。

最後に七つの球的なものを集めて、
龍的なものを召喚して生き返るんだよな?

な?
242 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 02:02:16.38 ID:I6vvt2Mo
>>241
憂さんの近くに置けば生命力に当てられてなんとかなるんじゃない?
243 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/14(火) 02:26:43.76 ID:rYMieADO
>>212
OK、もう少しこだわって見る、
今日の分は撮り貯めだから無理だけど、
というわけで今日は
マシにゃん(アクション編)をお送りします、
>>211梓初登場時のマガジン盗られて負けたシーン

地上で連射

http://imepita.jp/20101214/074290
後ろに飛び退きながら弾幕

http://imepita.jp/20101214/083990
http://imepita.jp/20101214/074030
>>214
甘いわ!!

http://imepita.jp/20101214/072820
というわけで純早く出して下さいお願いします。
244 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 14:42:07.98 ID:xZ8dm6Uo
しずかあああああああああああああああああああああああああああああああああ
245 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 18:44:04.42 ID:sagDDgAO
>>243
和も憂も限定発売のはずなのに持ってるとは流石だな…
246 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:14:28.53 ID:oJ2QukAO
 目が痛くなるような真っ白な部屋で、唯は苦痛に耐えていた。

唯「うっ……。ぐぅ……」

 その痛みは何の前触れも無く突然訪れた。
脳の奥を刺す鋭い痛み。そして全身の血が沸騰してきそうな妙な高揚感。
苦痛の中で見え隠れしているのは、貪欲に戦いだけを求める『龍』の本能だった。
 唯の中に巣くう彼女はひたすら呼び掛ける。
『こっちに来い』と。

唯「やだ……っ。やだよ……っ!」

 半ば狂乱気味になりながら唯は頭を抑えた。
だがその苦行は意味を成さず、頭に響いた硝子が割れるような音と共に唯の意識は砕けていった。
247 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:15:05.95 ID:oJ2QukAO
 先程までいた真っ白な部屋とは対照的に、その部屋は仄暗かった。
部屋と呼ぶには語弊があるかもしれない。
その場所にはあらゆる境界を取り払う純然たる闇と、仰々しく悪趣味な模様が刻まれた門だけがあった。

唯「…………」

 唯は目の前の光景を目の当たりにして唇を噛み締めた。
自分と同じ顔、背丈の少女がその目に虚構を映して立ち尽くしていたのだ。

『我が主がお待ちです。どうぞ中へ』

 その少女は唯を確認すると門の蝶番に手を触れた。
次の瞬間その少女の身体が燃え盛り、一瞬で血のような赤色に包まれる。
248 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:15:36.12 ID:oJ2QukAO
 肉を焼き、骨を焦がし、魂を蹂躙する。
地獄の業火に焼かれて灰と化した少女は更に細かな粉となって門に付着した。

唯「──っ!?」

 恐らくそれが鍵だったのだろう。
常人では動かす事も出来なさそうな巨大な門が音を立てて開いた。
 その先には更に濃い闇が口を開けて佇んでいた。
黒に黒を重ねて黒で固めたような黒。
唯は少しだけ身震いしたが、勢いよく闇の中へと飛び込んでいった。
 仮にこの世界が自分の内面を映したものだとして、こんな禍々しいものを飼っている自分は果たして人間を名乗っても良いのだろうか。
そんな自虐に満ちた自分への問いに対して答えが返ってきたような気がした。
たった一言、『笑わせるな』と。
249 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:16:07.92 ID:oJ2QukAO
 一分。或いは一時間、はたまた永遠か。
刹那とも永劫ともとれる時を落下し続けた後に、唯の足はようやく地に着いた。

唯「…………」

 舞い降りた視線の先へと無言でにじり寄る。
だが視界の先の少女は唯に背を向けたまま揚々と挨拶した。

『よう、宿主』

 その少女は唯に背を向けて胡座を掻いていた。
両手には何かを抱えていて、顔をその何かに埋めている。

唯「そんなの……」

 少女が抱えているものが何なのか、唯は直ぐに理解した。
その瞬間強烈な吐き気と目眩に襲われる。
250 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:16:51.10 ID:oJ2QukAO
『どうしたぁ? 化物でも見たみたいな顔しやがって』

 彼女は振り返った。
 本来は白かったであろう歯はてらてらと赤く光り、血が滴り落ちている。
歯だけではない。
口元、両手、髪の毛。制服から露出している部分の大半は赤黒い血がこびりついていた。

唯「そんなの……。見せないで!」

 唯の悲痛の叫びに呼応して彼女はけらけらと笑った。
そして両手に抱えていたものを乱暴に投げ捨てる。

唯「ひっ!?」

 転がったのは一糸纏わぬ少女だった。
華奢な身体付きで発展途上の凹凸、本来は茶色がかった癖毛だったであろう毛髪は黒く染まり、固まっている。
251 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:17:30.77 ID:oJ2QukAO
 そしてその少女の眼や鼻がついている位置、つまり顔面は見るも無残な状況になっていた。
まるで西瓜の皮だけを綺麗に剥き取り、現れた赤い表面を乱雑に掻き毟ったかのような肉のクレーターが出来ている。
こぽこぽと間抜けな音を立てて滲み出す血は少女の無念を晴らすことなく、無残に零れるだけだった。

『要らなくなったものを美味しく頂いてるだけじゃねーか。そんな怖い顔するなよ』

唯「悪趣味過ぎるよ!」

 だんっ、と闇を踏み締めて威嚇する。
だが彼女はそんな唯の憤りさえも楽しんでいた。

『要らなくなった思い出。捨てたのはお前自身なんだぜ?』
252 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:18:24.06 ID:oJ2QukAO
 そしてその少女の眼や鼻がついている位置、つまり顔面は見るも無残な状況になっていた。
まるで西瓜の皮だけを綺麗に剥き取り、現れた赤い表面を乱雑に掻き毟ったかのような肉のクレーターが出来ている。
こぽこぽと間抜けな音を立てて滲み出す血は少女の無念を晴らすことなく、無残に零れるだけだった。

『要らなくなったものを美味しく頂いてるだけじゃねーか。そんな怖い顔するなよ』

唯「悪趣味過ぎるよ!」

 だんっ、と闇を踏み締めて威嚇する。
だが彼女はそんな唯の憤りさえも楽しんでいた。

『要らなくなった思い出。捨てたのはお前自身なんだぜ?』
253 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:20:16.99 ID:oJ2QukAO
唯「え?」

『日常の中で忘れられてゆくお前はこうして私の餌になる。まさか被害者面する気じゃねーだろうな』

 目を細めてせせら笑いながら、彼女は唯の元へと歩み寄ってゆく。

『今のお前もいつかこうなるだろうさ。その時のお前はどんな顔して私に食われるんだろうな? ひゃっははははっ』

 彼女は唯の首筋に舌を這わせ、無垢な柔肌に唯の血を擦り込む。
嫌悪感だけが先走るばかりで、唯は身体を震わせる事すら出来なかった。

『それもこれも全てお前が選択した結果だ。他の全てを忘れてもこれだけは忘れるんじゃねーぞ?』
254 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga >>252は無しで]:2010/12/14(火) 23:20:16.30 ID:oJ2QukAO
唯「え?」

『日常の中で忘れられてゆくお前はこうして私の餌になる。まさか被害者面する気じゃねーだろうな』

 目を細めてせせら笑いながら、彼女は唯の元へと歩み寄ってゆく。

『今のお前もいつかこうなるだろうさ。その時のお前はどんな顔して私に食われるんだろうな? ひゃっははははっ』

 彼女は唯の首筋に舌を這わせ、無垢な柔肌に唯の血を擦り込む。
嫌悪感だけが先走るばかりで、唯は身体を震わせる事すら出来なかった。

『それもこれも全てお前が選択した結果だ。他の全てを忘れてもこれだけは忘れるんじゃねーぞ?』
255 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga >>254も]:2010/12/14(火) 23:21:40.39 ID:oJ2QukAO
 一呼吸置くように唯の耳を甘噛みして息を吹き掛けると、彼女は言った。

『私はいつだってお前の事を一番に考え、お前の味方であり続ける。たとえお前が私を拒んだとしてもなぁ!』

唯「うぐっ──!?」

 刹那、雷光が轟く。
何よりも強く鋭い雷が唯の身体に纏わりついた。

『アッハハはははハハッ!!』

 唯の視界にノイズが走り、五感全てが揺さぶられる。
それでも彼女の壊れたような笑い声は悲しい程に唯の身体に染み渡った。
256 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:22:22.22 ID:oJ2QukAO
『まぁさかもうお手上げなんて言わないよなぁ? まだ言いたい事も言ってねーのによぉ』

 ポイズン、と呟いて一人笑い転げる彼女の様子など、唯の目には殆ど映っていなかった。

唯「言いたいこと……?」

 漆黒の闇に身を任せて倒れ伏した体勢のまま、唯は呟いた。

『おおっ、笑い過ぎて忘れるところだったよ。今日はお前に説教しに来たんだ、いや呼んだんだっけ? まぁどっちでも良いや』

 彼女は唯の首を片手で掴み上げ、空いた手の指を鳴らした。
世界が渦巻き、捩じれ、崩壊してゆく。
 不意に手を離されて身体がすとんと落ちる。
257 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:23:01.69 ID:oJ2QukAO
『終点、桜高軽音部部室でーす。ぎゃっはははっ』

 唯はいつも自分が座っていた椅子に腰掛けていた。
机の上で胡座を掻いている彼女はおどけながら指を鳴らす。
紬が持ってきたティーカップが二つ、宙を舞って机に落ちた。

唯「言いたいことって……。何なの?」

『まぁ大した事じゃないんだけどな。お前があの巻き毛女といちゃいちゃしてる間にお前の友達が傷付いてんぞってこった』

 大した前置きもなく彼女が言い放った。
その言葉に唯は眉を顰め、露骨に嫌悪感を示す。

唯「いちごちゃんを悪く言わないで!」

 机を叩き、身を乗り出す。
彼女はそれをとても冷めた目で見ていた。
258 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:23:41.44 ID:oJ2QukAO
『大事なお友達を悪く言われて大層ご立腹ってかぁ? お前は零から唯まで全部ずれてやがんな』

 まぁ何も持たない私よりかはましかな、と呟き、彼女は冷めて目付きのまま唯に顔を近付ける。

『ずれっぱなしのド天然のお前にも分かるように簡単に道を示してやんよ』

唯「……っ」

『今お前の為に血反吐吐きながら戦ってる奴等は、お前の友達じゃないんかよ?』

 それはシンプル過ぎる教示だった。
手に届く位置に居たいちごだけを盲信し、友の想いに盲目になっていた自分を戒める言葉。

唯「きみは……一体……?」

『今はまだ知らなくても良いよ。お前と私の間にある因果はこんなちっぽけな諍いじゃあ片付けきれねーからな』
259 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:24:16.30 ID:oJ2QukAO
 唯の問いに答えないまま、彼女はそっと唯の額に触れた。

唯「まっ、待って……!」

 手を伸ばせば届く距離の筈なのにその距離は彼女にとっては数寸で、唯にとっては無限となっていた。
 身体が徐々に闇に溶け、落ちてゆく感覚に陥る。
滲む視界の先に居る彼女の表情は、今までの残虐なものとはどこか違っていた。

『近いうちにまた会おう。もしかしたらそれは明日かもしんねーな』

 下卑た笑い声が空間に鳴り響き、その声は遠のく唯の意識を包む子守歌となっていた。
遥かな深み、或いは高みへと落ちてゆく。
ずっと────。
ずっと──。
ずっと。
260 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:24:54.00 ID:oJ2QukAO
唯「くぅっ……」

 白い部屋に戻ってきた唯は考える前に身体を動かしていた。
あの黒い場所に居た時とは異なり、胸の痛みはまだ完全には癒えていない。
精神面が穏やかである時は幾分かましにはなっているが、今は痛みのあまり全身から冷や汗が吹き出ている。

唯「うぅ……開かないよぉ……っ」

 閉ざされた扉を押し引きするがびくともしない。
身体の痛みに耐えて力任せに扉を殴るが、それさえも無意に終わる。

唯「いちごちゃん……どうして?」

 押し付けた拳からは血が流れる。
唯はそのまま力無く膝を折り、啜り泣いた。
261 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/14(火) 23:27:18.44 ID:oJ2QukAO
『人肉迅速サイコホラー』

唯「最期の晩餐なんて楽しめないよぅ……」

そんなノリ
262 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 23:32:18.78 ID:YSUpFoAO
おつ
263 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 00:55:32.82 ID:oOi7ibAo
おつおつ
264 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/15(水) 06:56:57.30 ID:aF5EpADO
>>1乙、
砂にゃんとアズコンネンに夢中で龍神 平沢 唯まで撮影出来なかった、
というわけで今日は
ガンにゃん(アクション偏)

http://imepita.jp/20101215/244930
http://imepita.jp/20101215/245250

梓「唯先輩、いえ、唯、あなたをもう一度、私の女にします!!」

梓「トランザム!!」
そんなノリ、
スレチ全開でスマソ
龍唯と魔王憂選手は
可能な限り狂暴な画を目指す積もりだ。
265 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 00:39:09.01 ID:l4oi156o
1もおっつー
266 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 02:11:19.64 ID:wc/RJAAO
 桜高生徒会室では室内であるにも関わらず爆風が吹き荒れていた。
その風は主の悲痛の想いを具現化したように悲しく哭く。

澪「そんなんじゃあの子が報われないよ」

姫子「ごほっ……」

 姫子は腹部を抑えて嗚咽を漏らしている。
そんな彼女を取り押さえるように澪は長い茶髪を乱暴に引き上げていた。

律「…………」

 報われないのはどちらの方だろう。
律は完全なる力を行使する澪を見て、そんな事を考えていた。
 死と同義である一夜を乗り越えて手にしたその力。
何故そんなものの代償に、こんな冷めた目しか出来なくなってしまったのか。
267 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 02:12:00.12 ID:wc/RJAAO
 時は十数分前に遡る。
それはしずかの死がほぼ断定された時だった。

和「……良くて捕虜、けどほぼ確実に殺されてるでしょうね」

 淡々とした口調ではあるが、机の下で握られた拳からは血が滴り落ちていた。

姫子「…………」

 俯いた姫子の表情を伺う事は出来ない。
 脇では紬が目頭を押さえて啜り泣き、律は肩を震わせながらも平静を保つように大きく息を吐く。
 順調に送り込まれていた情報が急に途絶えた時点で全員はある程度予感していた。
和の言葉によってたちまち現実味を帯びてゆく絶望。
それは姫子の身体をつき動かす。
268 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 02:13:01.53 ID:wc/RJAAO
姫子「…………」

 姫子は俯いたまま歩き出した。

和「どこに行くの?」

姫子「決まってる、しずかの仇討ちに行かなきゃ。今から一台出せるかな?」

 姫子は和を通り越して紬に問う。
平静を装ってはいるものの、今直ぐに泣き、震え、叫び、暴れ出してしまいそうな危うい雰囲気を醸し出していた。

純「待ってください」

 存在そのものが地雷と化した今の姫子に何の躊躇もなく警告するのは純だった。

姫子「……大丈夫だよ。しずかを送り出したのは私なんだから、その尻拭いもちゃんと私がするからさ」

 姫子は笑えない瞳のまま無理に笑ってみせた。
そして純の肩を軽く叩き、過ぎ去ろうとする。
269 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 02:13:55.34 ID:wc/RJAAO
純「何の対策も練らずに行くつもりですか? それじゃああの人、まるで犬死にじゃないですか」

 純はあくまで冷静に、姫子を諭すつもりだった。
だがしずかの死という単語が姫子の逆鱗に触れる。
次の瞬間、純の身体は壁に叩き付けられていた。

純「──っ!?」

 前に闘った時とは段違いに闘気が膨れ上がっている。
そんな驚愕を抱いている間に追撃が迫ってきた。
視覚可能なまでに凝縮された風の刃が現れる。

純「うわっとと……」

 流石と言うべきか、刹那の間に駆け抜ける風の刃を純は紙一重で躱した。
270 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 02:15:10.36 ID:wc/RJAAO
 だが姫子の目的は純を屈伏させることではない。
まるで何事も無かったかのように死地へと赴こうとする彼女の背には、自暴自棄でネガティブな感情が渦巻いていた。

澪「待って」

 そんな姫子を澪は黙って見てはいなかった。
敵さえも生かす彼女が仲間が無意の死を遂げる事など許す筈もない。
 待てというたった一言の警告を姫子は無視した。
それがいけなかった。次の瞬間姫子が手にかけた扉は凍り付いた。

姫子「──」

 何か言おうとした姫子はそれさえもかなわずに床に吸い寄せられた。
痛みも無ければ苦しみも無い。
それが澪に足を引っ掛けられたと気付いたのは、仰向けになって天井を見据えてから数秒後だった。
271 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 02:16:36.70 ID:wc/RJAAO
 澪は感慨もなく姫子の腹部に片足を捩じ込む。
反作用の力さえも押さえ込み、踏みつぶすその圧力に姫子は声にならない声を上げた。

澪「私が言いたい事は分かるよね。分からないならもう一発いっとくけど」

 姫子の反骨心はまだ絶えない。
噎せ返りながらも瞳には憎悪を宿しており、身体には風を纏っている。

姫子「……退いてよ。私は行かなきゃいけないんだか──」

澪「うるさい」

 澪は姫子の言葉を待たずに刀を鞘に収めたまま振り下ろした。
姫子の側頭部から潰れたトマトのような鮮血が噴き出る。

澪「無意味に死ぬ事に価値なんてあるの?」
272 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 02:18:31.87 ID:wc/RJAAO
 その答えは分かりきっている。
それでも姫子は、友を危険の渦中に送り出した自責の念を払拭する償いが欲しかったのだ。

澪「あるわけないよね。無意味なんだから」

 甘えるなとでも言いたげな絶氷の仮面を顔に張り付けたまま、澪は淡々と言い放つ。

姫子「分かんないよ……。じゃあ私は……」

 世迷い言のようにぶつぶつと辛みを吐き出す姫子を見兼ねたのか、澪は乱暴に茶髪を引っ張り上げた。

澪「死にたい人間を引き止めるつもりは無いけどさ、そうやって自分を美化してあの子を侮辱するのは止めてよ」

 駄目押しに、澪は姫子の頬を思い切りひっぱたいた。
273 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 02:19:25.07 ID:wc/RJAAO
 こうして時系列は元に戻る。
殺意無き悲しい風は主を置き去りにしていた。
 律には風が示す悲しみが姫子ではなく澪の内面を映しているような気がしてならなかった。

律「澪……」

 律は縋るように澪の名を呼ぶが、当の澪はどこか遠い目をしている。
 律は悟った。
 今の澪を止められるのは自分しかいないという事を。
 たとえどこまで高みに登り詰めたとしても、気難しくて臆病な澪はそこに居る。
その澪は既に死んでしまったというなら叩き起こせば良い。
 儚さすら醸し出す青の少女を見据えながら、律は思った。
274 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 02:20:30.14 ID:wc/RJAAO
憂「あなたは一体何なんですか?」

 荒んだ空気に満ちた個室で一人、憂は空虚に話し掛けていた。

『私は貴女ですよ。それ以上でも以下でもありません』

 どこからともなく、憂と同じ声が響いた。

『敢えて私を記号化するならば龍、でしょうね。そういう風に創られたのだから』

憂「創られた……?」

 一体誰に創られたのか。そんな憂の思考を先読みしていたかのように声の主は即答する。

『神様にですよ。もっとも、強くなり過ぎたが故に今はこんな有様ですが……』

 言葉を濁して咳払いすると、彼女は数秒の間押し黙った。
275 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 02:21:24.29 ID:wc/RJAAO
『お姉ちゃん』

 沈黙の後に紡がれたその単語は憂の身体を跳ね上がらせた。

憂「……お姉ちゃんが何処に居るか分かるんですか?」

 自分と名乗る空虚にすら縋りつく自分を、情けないと思う余裕は憂には無かった。

『それを伝える為に私は貴女に話し掛けたのですよ』

 次の瞬間宙に光の粒が舞った。
一つ一つは小さく儚いそれは、数万数億と折り重なって形を成してゆく。

『貴女の気持ちはよく分かります。私にも大好きなお姉ちゃんがいましたから』

憂「…………」

 光を映さない憂の両目に映ったのは自分自身だった。
276 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 02:22:46.07 ID:wc/RJAAO
『いつだって自信満々で、自由奔放で、たまに手がつけられなくなったりしてたけど……。それでも大好きなお姉ちゃんでした』

 まるで自分の事のように誇らしげに語る彼女の表情は限り無く健やかだ。

『でも神様はお姉ちゃんは何も与えてくれませんでした。どれだけお姉ちゃんが頑張っても、何をしても報われなくて……』

 この少女は一体何を抱えて今まで在り続けたのだろうか。
思案するにつれて深みにはまってゆく自分の意識を憂はすんでのところで引き上げた。

『だから貴女のお姉ちゃんにはそうなって欲しくないんです。だから一緒に行きましょう?』

 差し出された優しい光に対して、憂はただ一言『はい』と呟いた。
277 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/16(木) 02:24:40.06 ID:wc/RJAAO
憂「私はここに居ても良いんだ!」

『おめでとう』

そんなノリ
278 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 04:47:34.47 ID:WoleI.Qo
唯と憂が出会ったらロンギヌスの槍でも防げないセカンドインパクト起きそう。
279 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 07:00:59.35 ID:UXxW2gDO
ああ間違いなく起きるな。
280 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:31:07.43 ID:aVo07sAO
 やたらと鼻につく甘ったるいルームスプレーの香りが充満した個室に彼女は居た。
アンティーク調の腰掛けに身を委ね、上品に紅茶を啜る姿は中世の貴婦人を思わせる。
 そんな高貴なる彼女のティータイムはノックの音によって中断させられた。

江藤「どうぞ」

 江藤の応対の後に扉は開かれる。
扉の先にいたのは斎藤だった。

斎藤「休憩中のところ悪いな」

 言葉とは裏腹に大して悪びれもせず、斎藤はずかずかと部屋の中に入ってゆく。

江藤「どうしたんですか? 私用ってわけでも無さそうだけれど……」
281 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:31:54.94 ID:aVo07sAO
 ちらりと斎藤の方を見て江藤は大体の事を把握した。
斎藤は平静を装ってはいるものの、よく見れば肩で息をしており、額にはうっすらと汗が滲んでいる。

江藤「うふふっ、油断しちゃ駄目じゃないですか斎藤さん。狐にも牙はあるんですよ」

斎藤「牙はあっても毒は無い筈なのだがな」

 悪態をつきながら斎藤は空いた腰掛けに座り込んだ。

江藤「それは災難でしたね。でもまだこうして立っているという事は、もしかして斎藤さんって悪運は強い方だったりします?」

斎藤「御託は良い。解毒薬はあるんだろうな」

 有無を言わせぬ斎藤の圧力に江藤は肩を竦めた。
282 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:32:34.33 ID:aVo07sAO
江藤「ご心配なく。その毒は神経系を狂わせる強力な毒だけど、それで死ぬ事はありませんから」

 脇に置いてあった小瓶と注射器を取り、斎藤に投げ渡す。

江藤「それできっちり一人分。それを打って安静にしていれば今日中には良くなる筈ですよ」

 江藤の説明を受けると斎藤は直ぐに立ち上がり、部屋を後にしようとする。

江藤「あ、そうそう」

 急な呼び止めを煩わしく思いながらも斎藤は振り返った。
江藤はそんな斎藤の心情を察しながらも不敵に笑う。

江藤「毒の効力自体に殺傷能力は無いけど、そんなに血を流してたら早くしないと合併症状で衰弱死しちゃうかも」
283 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:33:16.46 ID:aVo07sAO
斎藤「……それを先に言え」

 斎藤はぎりぎりと歯を食いしばりながら江藤を睨み付けた。
数秒の沈黙の後に、やや取り乱した動作で斎藤は部屋を後にする。

江藤「斎藤さんに傷を負わせるなんて……。私も少し遊んどけば良かったなぁ」

 ぐっと伸びをして江藤は立ち上がった。
そして個室に備わったシャワールームへと歩を進める。
 上着を脱ぎ捨てスカートのファスナーをそっと引き下ろすと、瞬く間に彼女の姿は扇情的なものとなった。
鼻歌混じりに纏った下着を脱いでゆく彼女の顔には意味深な笑みが張り付けられていたが、それが何を意味するのかは彼女にしか分からない。
284 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:33:52.61 ID:aVo07sAO
 姫子と澪の諍いの次の日。
完全下校を知らせるチャイムが鳴り響くグラウンドの中央に和達は集っていた。

和「送られた情報の解析が終わったわ。今配った紙を見てくれる?」

 和の一声の後に紙が擦れ合う音が重なった。

澪「凄いな……。三十枚の写真からあの建物の構造の殆どが割り出せてる」

和「あくまで推測よ。実物との差異にはその都度臨機応変に対応してもらうわ」

 事務的に物を言う和には厳格な雰囲気が漂っていた。
彼女が桜高を束ねる事に誰も異論を唱えないのも頷けるだろう。
285 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:34:23.48 ID:aVo07sAO
梓「臨機応変、ですか……。便利な言葉ですね」

 梓は苦笑いを浮かべておどけて見せるも、動揺は隠し切れていなかった。
もしかしたらこの中で一番足を引っ張るのは自分かもしれない。
そう考えると梓は気が気ではなかった。

純「あれぇ? 梓ってばもしかしてビビってるぅ?」

 梓は横でけらけらと笑う純の肩を軽く小突いた。
だが煩わしくは感じない。むしろ日常を思わせるその軽いやり取りは梓の心の波を静めてゆく。

和「黙って聞きなさい!」

 和の一喝と共に残撃によって生み出された不可視の刃が駆け抜ける。
純はそれを咄嗟に屈んで躱し、事なきを得た。
286 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:35:00.46 ID:aVo07sAO
純「だぁから! そろそろ私も本気で怒りますよ!? 何ですかそれ! せめて真っ当な人間扱いして下さいよ!!」

 ぎゃあぎゃあと喚く純を完全にスルーしつつ、和は説明を続ける。

和「出来る事なら全員連れて行きたいんだけど不透明な点が多過ぎるのよね。取り敢えず勝手に突入の面子を組ませてもらったわ。異論も受け付けます」

律「あるわけねーだろ。なんたって和の判断なんだからな!」

 両の拳をぶつけながら律は意気揚々と答えた。
彼女も彼女で思うところはあるのだろうがその影を落とす事は一切無い。
 軽音部の部長としての器量には申し分なかった。
287 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:35:47.71 ID:aVo07sAO
 和は他の面子にも目配せした。
全員が申し合わせたかのように首を縦に振るのを見て、和は少しむず痒くなる。

和「プレッシャーかかるわね……。それじゃ言うわよ」

 少し間を空けて和は一人目を呼んだ。

和「ムギ」

紬「どんと来いです!」

 一人目に彼女が選ばれたのは必然だ。
この作戦は紬無しでは機能し得ない。
そして従者衆にも精通しているという点ではデメリットも多少あるが、それ以上のメリットもあるだろう。

和「澪」

澪「うん」

 澪は地図から目を切らずにそっけなく答えた。
この二人だけで作戦は成功してしまうかもしれない。
そう思わせるだけの力を手にした彼女は、言わば桜高の最終兵器と言ったところか。
288 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:36:25.67 ID:aVo07sAO
和「次に私ね」

 憶する事もなく自分を推すその自信は流石は『女帝』と言うべきだろう。
今の澪には大きく劣るものの、彼女の強さも常識で計り得るものではない。

和「立花さん」

姫子「……」

 無言で頷くだけだった。
だがその瞳には捨身の覚悟が宿っていた。
或いはその覚悟こそが、最大の武器になるのかもしれない。

和「佐伯さん」

三花「うなー」

 自分で選んだもののこの子はどう動くだろうか。
一抹の不安を抱える和とは裏腹に当の本人はゆらゆらと頭を振るばかりだった。
289 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:37:14.46 ID:aVo07sAO
和「律」

律「うっし!」

 律は拳と平手を作って打ち鳴らす。
 仮に全体の統率が取れなくなった場合、自分以上に場を纏めるスキルを持っているのは律だ。
力よりも大切な強さ。
そんな期待を抱きながら和は律を選んだのだ。

和「中野さん」

梓「は、はい!」

 裏返った声から緊張している事は直ぐに分かった。
だが軽音部の覚醒していない三人の中で一番初めに力を手にするのは彼女だろう。
少し前とは違う梓の闘気を感じ取った和はそんな予感を抱いていた。
290 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:38:04.80 ID:aVo07sAO
和「作戦決行は明日。以上の八人を潜入メンバーとするわ。一応聞いておくけど何か異論のある人は?」

 聞くまでもないだろうと言わん許りに一人を除いて皆沈黙を返した。
 選ばれなかったエリ、アカネ、そしてキミ子とよしみもそれは同じだった。

純「いやいや……」

 そんな中純はぼそりと呟く。

純「いやいやいやいやいやいや! これって突っ込むところですよね!? 一応聞いときますけど私は入ってないんですか!?」

 喚き散らす純から鬱陶しそうに逸しつつ、和は手に持った書類を再確認した。

和「ああ忘れてたわ。あんたも入ってるわよ」

 桜高のグラウンドにぶちん、と何かが切れる音が響いた。
291 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 00:42:05.65 ID:aVo07sAO
純「和和和忘れ物〜♪」

和「話し掛けるな。アホの鈴木がうつる」

そんなノリ
年の瀬なのに存外仕事が少ないというジレンマ
292 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 01:15:26.03 ID:VLCwSwAO
乙〜!
ちなみに物語はどのくらいまで進んでる感じ?

まだ3分の2とか?
293 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 01:19:06.29 ID:1wFhakDO
>>1

すまん憂のキャラ思いっ切り見誤ってた、
選手じゃ無いんだね……
という訳でこうなりました

憂「今日の所はお引き取り願えませんか?」

http://imepita.jp/20101217/026270
http://imepita.jp/20101217/026630
http://imepita.jp/20101217/026850
http://imepita.jp/20101217/027160
昨日の分も含めてもう一つ、
純の代理で律が飛燕連脚を繰り出した様です
http://imepita.jp/20101217/029470 http://imepita.jp/20101217/029790
確かこんなだったよね?
>>292
俺はまだ半分も行って無いと思う。
294 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 01:30:45.26 ID:aVo07sAO
ジャスト半分ってとこかなぁ
まぁ次の章をどれだけ濃厚に書くかによって大部変わるんだけど
多分そこが一番の盛り場だから熱が入り過ぎて間延びする可能性大
295 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 03:19:19.81 ID:4NahUIAO
まっ、好きなようにやってくれたらいいんですけどねっ!
296 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 06:56:05.90 ID:og.TlkYo
>>294
乙です!
濃厚でもドンと来いです!!
でも何より気兼ねせず頑張って下さい!!!

>>293
も乙です!
背景のお陰で見やすくなったよ〜ありがとう!!
フィギュア持ってない人には嬉しいね、参考になります
297 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 22:27:06.30 ID:aVo07sAO
唯「出して! 出してよぉっ!!」

 発狂気味に叫びながら彼女は叫び続ける。
殴打し続けた扉は大きく陥没してはいるものの開く気配は無い。
赤子のように泣き喚いても差し伸ばされる手は無い。
 やがて泣き疲れたのか、唯はベッドに顔を埋めて押し黙った。
時折聞こえる嗚咽を漏らす音は虚しく響く。

唯「うぅ……。ギー太ぁ……」

 シーツに埋めた顔を起こすとスタンドに立て掛けられたギターが目に入った。
 買った当初より少しネックが反ってしまっただろうか、適切なメンテナンスは殆ど施されてないので若干古ぼけてしまっている。
298 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 22:27:42.93 ID:aVo07sAO
 唯は何かに取り憑かれたようにふらふらとギターに手を伸ばし、それを弾くわけでもなくただそっと抱き締めた。

唯「誰か、誰か助けてよ……」

 ぼそりと呟いたその時、それは起きた。

唯「ひっ──!?」

 床、天井、壁。あらゆる場所から白い蒸気のようなものが噴出される。
たちまち煙に覆われてゆく部屋の外から放送の音が聞こえてきた。

「披験体をエデンシステム内に搬送します。関係しているクルーは速やかに持ち場に待機、該当しないクルーは収容区域から速やかに退出してください」

 放送の直後に外が急に慌ただしくなった。
299 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 22:28:16.15 ID:aVo07sAO
唯「うっ……ごほっ、ごほっ」

 催眠ガスの類のものなのだろう。
ぼんやりと滲んでゆく意識の中で唯は思考する。
 披験体。
 エデンシステム。
 搬送。
 収容区域。
 それらの単語から辿り着く答えは……。

唯「私……。死んじゃうのかな……?」

 これからどれ程の苦汁を飲まされるのだろうか。
もしかしたら全身を捌かれて中を掻き乱されるのかもしれない。
或いは全身の血を一滴残らず搾り取られるのかもしれない。
 絶望のヴィジョンだけが頭を過ぎる。

唯「いやだ、よ……。死にたくないよ……」

 唯の意識はフェードアウトしていった。
300 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 22:28:47.65 ID:aVo07sAO
斎藤「……催眠効果が作用したようですね」

いちご「まだ安心は出来ないわ。後三十分放出を続けて」

 慌ただしく駆け回るクルー達がいちごの一声で更に動きを早める。

斎藤「しかしよろしいのでしょうか。プランを早めるとエデンシステムは正確に起動しない恐れが……」

いちご「背に腹は代えられないの。今は時間が無いからね」

 事態がますます深刻化してゆく事にいちごはひたすら憤っていた。
しずかの潜入はそれほどの被害を及ぼしていたのだ。

いちご「こっちにはタナトスもあるし、最悪あちら側に対抗出来る力さえ出来ればそれで良いわ」
301 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 22:29:18.36 ID:aVo07sAO
 ひたすら後手に回り続ける。
それはいちごが今まで経験した事の無い状況だ。
桜高でトップランカーに登り詰めるまでに彼女は一度も敵に傷を負わされたことはない。 それは彼女の闘いが相手の千手先を読んで事前に策を仕掛ける計算ずくの詰め将棋だったからだ。

いちご「大丈夫……。大丈夫だから」

 うわ言のように呟く彼女の額にはうっすらと汗が滲んでいた。
 何から何までイレギュラーばかりだ。
自分の居場所がこれほど早く特定されるとは思わなかった。
しずかが単身でここへ乗り込んでくるとは思わなかった。
302 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 22:29:54.15 ID:aVo07sAO
 だがそれも仕方ないと言ってしまえばそれまでだ。
彼女は澪がかつての憂と同等のレベルまで昇華している事も知らなかった。
それでは主君に絶対的な忠誠を誓う従者衆が一人、伊藤が恐怖のあまり自白してしまう事も予測出来ない。
そこまで観察する為の労力は全て憂に牽制をかける事によって使い果たしていたのだから。

いちご「…………」

 唾を飲み込んでいちごは立ち上がった。
先程まで狼狽していた頼りない表情は影を潜めている。

いちご「あの子から抽出するエネルギーの内の五パーセントをタナトスに回して」

斎藤「……はい」
303 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 22:30:29.34 ID:aVo07sAO
いちご「そして四十五パーセントをエデンシステムに投入」

斎藤「…………」

 斎藤は顔にこそ出さなかったものの、その数字に疑問を覚えた。
残りの半分を温存する意味は何なのだろうか。
その考えは直後に放たれたいちごの言葉によって払拭された。

いちご「残りの半分はエデンシステムを介して私が貰うから」

 その言葉の意味を斎藤は直ぐに理解した。
そして同時にいちごの強靱なる精神を触れる。
 唯から抽出する『龍』の闘気の内の半分を身体に宿すという事は人外の者へと堕落してしまうという事だ。
304 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 22:31:12.24 ID:aVo07sAO
 その決断をこうも容易く下してしまうという事は自分の命を軽く見ている事と同義。
普通ならば褒められたものではないが斎藤は違った。
 むしろあらゆる犠牲を払ってでも目的を成さんとするいちごに畏敬の念すら覚える。

いちご「何してるの? 早くして」

斎藤「は、はい……」

 この少女ならば或いは……。
制御すら困難な『龍』の力すら涼しい顔で手駒としてしまうかもしれない。
斎藤は少し遅れて、堂々と歩むいちごの背後を恐縮するようにおずおずと着いて行った。
305 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/17(金) 22:32:44.43 ID:aVo07sAO
やっとだ!!! やっとちゃんとした闘いが書ける!!!!!
今日はこれでおしまい
306 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 23:35:43.90 ID:dc2IaUYo

戦いwwktk
307 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 00:39:16.75 ID:cHHRlkAO
唯「いやっ!外に出して!外に出してよぉっ!!」

唯「外で出してって言ったのに…」グスッ

そんなノリ
308 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/18(土) 01:13:21.01 ID:E8GuTgDO
>>296
サンクス、凄く助かる、梓の撮り貯めでまだ前の背景が混じってるやつがあるけど許して、今日は遊び無しで再現度を高めてみた

http://imepita.jp/20101218/027410
http://imepita.jp/20101218/027780
憂と和に付いてた表情が猛威を振るうぜ!

http://imepita.jp/20101218/028030
http://imepita.jp/20101218/028320
http://imepita.jp/20101218/028610
http://imepita.jp/20101218/028840
>>1
俺の理性を破壊する気か(笑)
ガチのエロシーンは同人誌で補完という事でヨロシク、
さて、いよいよ戦争の始まりだなぁ……
期待してるぜ。
309 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 01:19:50.71 ID:cY3ZyQAo
唯「いやっ!外に出して!外に出してよぉっ!!」
唯龍「落ち着けハマーD」


そんなノリ
310 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 01:40:17.78 ID:qkyq0Foo
>>305
ぶっちゃけ過ぎワロタwwww
乙です!

目一杯暴れちゃって下せぇ!!

>>308
表情を使い回すとはやるね!乙です!
この際だし、ジオラマ建てちゃえよ!wwwww
311 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 05:08:10.98 ID:Sl2YicAO
憂は強いんだろうけど危うい強さだな
鑢七実みたいな
312 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 22:03:45.43 ID:3bRG/kAO
>>311 憂だけに危“うい”ってか
313 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/19(日) 03:14:56.58 ID:Tm3.R3Yo
>>312
【審議中】
    |∧∧|       (( ) )   (( ) )  ((⌒ )
 __(;゚Д゚)___   (( ) )   (( ⌒ )  (( ) )
 | ⊂l     l⊃|    ノ火.,、   ノ人., 、  ノ人.,、
  ̄ ̄|.|.  .|| ̄ ̄   γノ)::)  γノ)::)   γノ)::) 
    |.|=.=.||       ゝ人ノ  ゝ火ノ   ゝ人ノ
    |∪∪|        ||∧,,∧ ||∧,,∧  ||  ボォオ
    |    |      ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
    |    |      ( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
   ~~~~~~~~     | U (  ´・) (・`  ). .と ノ
              u-u (    ) (   ノ u-u
                  `u-u'. `u-u'
314 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 22:53:37.27 ID:PtZOfMAO
 一昨日しずかが通った軌道と同じ空を一台のジェットが走る。
機内に不快な揺れは無く、各々が迫る戦いの時に備えて集中力を高めていた。

律「なぁ澪」

澪「うん?」

 不意な呼び掛けに澪は刀を手入れする手を止めた。

律「仮にさ、あちらさんの中に『絶対の彼方』を越えた人間が百人居たとする。お前ならその内何人倒せる自信がある?」

 澪は口を噤んで質問の意図を探ってみたが、今まで律が深い考えを以て何かを言った事があっただろうかと考えると馬鹿らしくなり、率直に答える。

澪「百人居るなら百人倒せるだろうな。多分五百人でも千人でもそれは変わらないよ」
315 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 22:54:09.49 ID:PtZOfMAO
律「そっか……。そりゃ頼もしいな」

 律の曖昧な返事に澪は違和感を覚えた。
だがそれはそこまでの話で、澪はその違和感を胸にしまったまま再び刀の手入れへと戻る。
 再び静寂が機内に満ちた。
中にはタオルケットを被って眠りについている者もいるのでそれは当然なのだろう。
 離陸してからどれくらい時間が経っただろうか。
かつてしずかがこの機内でそう感じたように、律と澪もそんな事をぼんやりと考えていた。
 その時──

澪「っ!」

 けたたましい警報音が機内に鳴り響いた。
その音に遅れて仮眠を取っていた者も次々に飛び起きる。
316 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 22:54:42.77 ID:PtZOfMAO
和「皆落ち着いて。飛び降りるのは警報が鳴り止んでからだか──」

 和はそう言いかけて言葉を止めた。
ぞわりと首筋を這う感覚が和の思考を一瞬だけ掻き乱す。

澪「飛べ!」

 喉が張り裂けんばかりに叫び、澪は鞘で機内の壁を突いて。
動作の見た目とは裏腹に、機体に大きな風穴が空く。

紬「えっ!? なんなの──」

 律と紬だけが事態を把握していなかった。
痺れを切らした純が二人の首を掴み、躊躇いなく外へ飛ぶ。

律「のおおおおおおおっ!?」

 律の叫び声が空に響いた。
317 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 22:55:22.40 ID:PtZOfMAO
 続けて三花、梓、姫子、、和の順に飛び降りる。
最後に澪が飛び降りようとしたその時、それは起きた。

澪「くっ……!」

 機体が外からひしゃげてゆき、黒い何かが突き出て来る。
機体の外に出る事を諦めた澪は咄嗟に身を屈めて刀を床に突き立てた。
機体はみるみるうちに崩壊し、飛散してただの鉄屑となり、今の状況が露になる。
 澪を囲むように突き出した何かは黒い牙で、鉄屑が流れ込む先には深い闇が広がっていた。

澪「食べられる一歩手前ってとこか……」

 このまま停滞を続けていればいつか牙にその身を砕かれる。
だがこの闇の中に身を投じても無事で済まないのは同じ事だろう。
318 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 22:55:56.76 ID:PtZOfMAO
律「な……」

 律は目の前の光景に息を飲む。
今までの自分の人生も普通とは言い難かったが、これはあまりにも現実離れし過ぎだ。

律「なんじゃこりゃああああああああっ!?」

 律の眼前には鉄の竜がジェット機を食い荒らす光景が広がっていた。
 全長一キロはあろうか、最早その漆黒の身体の全貌を視界に収める事など出来はしない。
瞳を象った水晶体は赤くてらてらと輝いている。

純「ちょっと大人しくして下さいって!」

 この巨竜を相手にする前に乗り越えるべき壁がある。
遥か上空から飛び降りた純達は必然、このままだと地上に叩き付けられてしまうのだ。
319 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 22:56:33.24 ID:PtZOfMAO
 どうしたものかと純はちらりと姫子の方を見た。

姫子「しっかり掴まっててね」

三花「はーい」

 姫子は三花を腰から抱き抱え、螺旋を描くように落下している。
吹き荒れる風を上手く制御して滑空しているのだろう。
表情に焦りの色は一切無い。

純「なるほど……」

 純もそれに倣って闘気を緑に切り替え、二人を抱えたまま滑空する。
始めは不安定だったものの、風の制御を繰り返しているうちにその軌道は安定してきた。

梓「どうするんですか!? このままだと私達死んじゃいますよ!!」

和「うろたえないの。これくらい今の澪と比べれば大した問題じゃないわ」
320 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 22:57:12.35 ID:PtZOfMAO
 和は涼しい顔で刀を鞘から抜き、地上に向けた。
凍土から吸い寄せられるように光が集ってゆき、巨大な剣を形成する。

和「しっかり掴まってなさい。まぁ肩の脱臼は避けられないだろうけど、それくらいなら我慢出来るわよね?」

 和の言葉で梓はこれから彼女が何をしようとしているかを悟った。
無謀過ぎるとは思ったものの他にこの状況を打破出来る策は無い。

梓「…………」

 無言で頷き、差し出された和の手を取ると、温もりが梓の手を覆った。
 刃が風を裂き、雪を切り、落下の速度が段違いに上がる。
地表に激突する直前でも、梓は目を逸らさなかった。
321 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 22:57:57.39 ID:PtZOfMAO
和「うぐっ───」

 光の刃が雪に突き刺さり、とてつもない衝撃が走る。
鈍く嫌な音が二人の肩から聞こえた。
高度五十メートル、およそ学校の校舎ほどの高さだろうか。
一度だらりと刀の柄にぶらさがると二人はそこから飛び降りた。

梓「大丈夫ですか……?」

和「わりと平気ね。ちょっと待ってて、直ぐに肩入れてあげるから」

 むくりと立ち上がり、和はだらしなく垂れた右腕を無理矢理矯正する。
その様子をひとしきり眺めると、梓は空を覆う黒い影に視線を移した。

梓「澪先輩……」

 澪を助けたい想いと自分ではどうにもならないと思う理性が梓の中で葛藤していた。
322 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 22:58:39.31 ID:PtZOfMAO
 不気味な呻き声を上げて空を泳ぐ巨影の名はタナトス。
 ただそこに在る命を情緒も無く、配慮も無く、躊躇も無く刈り取る。ただそれだけの為に造られた兵器だ。
長い胴とは裏腹に歪に膨れ上がった腹部は鯨のようにも見える。

和「大丈夫よ」

 いつの間にか肩の矯正を終えた和が梓に呼び掛けた。

和「あれがどういったものなのかは分からない。けど澪の方が怖いもの」

梓「怖い……?」

 顔に疑問の色を張り付けて梓は復唱した。
和はふっ、と微笑むと梓の首元に手をかける。

和「怖い、という表現がそれであってるのかも分からないわ。そうね……あなたは憂を一言で表現する時、どんな言葉を使う?」
323 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 22:59:32.83 ID:PtZOfMAO
 投げ掛けられた質問に対する明確な答えを、梓は持ち合わせていなかった。

梓「……それは」

和「怖い、黒い、歪、醜い。私ですらそう揶揄される事があったわ。けど今の澪はそんな私さえも遥かに凌駕してるの」

 究極の更に奥。
人知を越えた力を人が目の当たりにした時、その口から紡がれる言葉は讃辞や尊敬の言葉ではない。
酷いほどに冷たく、悲しいほどに黒い言葉だ。

梓「つっ……」

 肩に鈍い音が走り、思案に更けていた梓の意識は引き戻される。

和「あの黒いのには私から一言、怖いという言葉を送れるわ。でも澪は……」
324 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 23:00:17.45 ID:PtZOfMAO
 和はそこで言葉を区切り、歩き始めた。

和「行くわよ。他の皆とも合流しなきゃ」

 指を弾くと雪原に突き刺さっていた光の刃が散り、刀だけが吸い寄せられるように和の手元に舞い込んだ。

梓「…………」

 また一瞬だけ空を見上げ、梓は和がつけた足跡を辿ってゆく。
その途中で一際大きな爆発音が鳴り響いたが、それでも梓は振り返らない。
 今はただ自分に出来る、やるべき事を成し遂げよう。
せめて今自分の側にいてくれる和の足を引っ張らないように。
 梓はそんな想いを抱き、歩き続ける。
325 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 23:01:01.13 ID:PtZOfMAO
澪「なんて力だ……!」

 澪はタナトスの口内で必死に耐えていた。
上顎と下顎の圧力は鋼鉄さえも一瞬で砕く威力を持っている。
そんな過酷な状況下を刀のつっかえ棒のみで耐えている澪の力もまた言うまでもないだろう。

澪「……っ!」

 喉の奥から不気味な呻き声が鳴り響き、何かがせり上がってくる。
それが砲台だと気付いた澪は瞬時の判断で刀を引き、視覚不可能の速度で後退した。

澪「うわっ──!?」

 空へと身を投げ出される直前で下顎の装甲の節目に指を引っ掛けると、手元に強烈な熱が伝わってきた。
326 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 23:01:40.97 ID:PtZOfMAO
 爆発音を轟かせながら射出されたそれは極太のレーザーだ。
雲を、雪を焼き払い、地平線の彼方まで突き進むとそれは消えた。

澪「レーザー……なんてちゃちなものじゃなさそうだな。となると……」

 自分の目でさえ射出の瞬間を見切れなかった。
となるとこの光線は限り無く光速に近い速度で放たれている。

澪「荷電粒子砲か……。まさか実物を生きてるうちに見られるなんてね」

 それは再現可能な理論はあってもそれを起動する為の電力が膨大である為、実用化されなかった架空兵器だ。
 タナトスは澪を嘲笑うように不気味な呻き声を漏らしている。
策士の知略、財閥の科学力を総結集して造られた究極の兵器が澪に牙を剥いた。
327 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/20(月) 23:04:18.32 ID:PtZOfMAO
律「誰の仕業だ!?」

澪「決まってる。勘で荷電粒子砲ぶっ放してくる奴なんざ一人しかいねぇだろ……!」

律「レイヴン……!」

そんなノリ
328 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 23:45:44.17 ID:qLitfcAO
乙!
また盛り上がっきたな
329 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 03:20:53.41 ID:Dn78jIEo
乙!
330 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/21(火) 08:04:31.16 ID:16o4d2DO
乙、

今日は着地後の和と梓

http://imepita.jp/20101221/044440 http://imepita.jp/20101221/044790 http://imepita.jp/20101221/045100 http://imepita.jp/20101221/045370 http://imepita.jp/20101221/045580 http://imepita.jp/20101221/055780

梓の鞄とギターケースには武装が満載されてるってことにしといて。
331 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 20:32:42.23 ID:x6DF/wAO
澪「この……! 暴れるなったら!」

 澪はタナトスの腹の部分にしがみつき、振り落とされないよう必死に耐えていた。
 タナトスは耳を劈く咆哮を発しながら空中を縦横無尽に旋回している。

澪「まずいな……」

 先程から掌を介して冷気を送り続けているのだが一切手応えが無かった。
この過酷な状況下で自由に飛行しているのだ。過度の冷気に対する何らかの防御法は持ち合わせているのだろう。
 それだけならまだ良かった。
水氷、冷気を操る力だけが澪の強さではない。
 圧倒的な身体能力から放たれる鉄を穿ち、大地を裂く斬撃。
その他にも勝負出来るカードは幾らでもあった。
332 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 20:33:14.74 ID:x6DF/wAO
 澪は刀を握る左手に力を込め、装甲の節目の部分を突いた。

澪「やっぱり駄目か……」

 まるで暖簾を突いたような不快な手応えが腕に伝わる。
試しに刀をしまい、素手で殴り付けてもそれは同じだった。

澪「うわっ──!?」

 タナトスの巨体が急激に揺れ始める。
ドリルのような激しい回転で澪を弾き飛ばそうとしているようだ。
 最初の数回転は何とか耐えていた澪だが、片手の、しかも人指し指と中指だけでしがみついていた身体は呆気なく空に投げ出された。

澪「…………」

 狼狽することなく意識を研ぎ澄まし、両腕を横に広げる。
すると澪の身体を受け止めるように地上からわき出た水の柱が澪を守った。
333 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 20:33:50.12 ID:x6DF/wAO
 水の柱は緩やかに噴出を抑え、澪を地上へと送り届ける。
タナトスは残虐な意志が込められた赤い瞳でその様子を見つめていた。

澪「…………」

 向こうに追撃の意志が無いことを悟ると澪は即座にその思考をフルスロットルで回転させる。
 敵の全長は一キロメートル強。
 その装甲には何らかの防御システム、所謂不可視のバリアのようなものが張られており、こちらの攻撃は完全に防がれる。
 攻撃用兵器には荷電粒子砲。或いはそれ以上の兵器が搭載されているかもしれない。

澪「……不透明な点が多過ぎるな」

 勝負出来るカードは今のところ一枚も無い。
決着を急ぐのはまだ早計だと判断した澪は暫く見の姿勢を取ることにした。
334 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 20:34:33.07 ID:x6DF/wAO
斎藤「完全自律型駆動兵器タナトス。想像以上の猛威を振るっていますね」

いちご「秋山 澪があそこまでの力を手にしているのも想定外だけどね。まぁそれを踏まえても中々の出来でしょ」

 若王子機関本部の中枢。生命の実がなる禁断の樹の元。
そこに斎藤といちごが居た。
十メートル足らずほどの高さの樹の上部には鉄の杭で胸を穿たれた唯がはりつけられている。
 その根元で蔦に絡まっているいちごは外の様子を映像化しているモニターを見てくすりと笑った。

いちご「まぁ三十分持てば良い方かな」

斎藤「では標的を殲滅し次第タナトスをこちらに戻しますか?」
335 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 20:35:08.74 ID:x6DF/wAO
いちご「いや……」

 いちごは言葉を区切り、身体を捩らせた。
頬をうっすらと赤く色付いており、はだけた衣服の間から見える柔肌には汗が伝っている。

いちご「タナトスじゃああの子は食い止められないよ。多分あのアンチエネルギーフィールドの穴も見破られるだろうし」

斎藤「し、しかし……。あれの穴を看破したところで破る手段など……」

いちご「成るように成るんじゃない? どの道あれは試作品だし、大した愛着も無いよ」

 狼狽する斎藤に対していちごはぴしゃりと言い放った。
肩を震わせながら甘い吐息を漏らし、糸が切れた人形のように頭を下げた。
336 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 20:35:42.36 ID:x6DF/wAO
いちご「分かったら……席を外して貰える? 持ち場は、んっ……第五研究室で良いから」

 いちごは苦しそうではあるもののどこか恍惚とした表情を浮かべている。

斎藤「しかしエネルギーの抽出が終わるまでは此所ががら空きに……」

いちご「良いから」

 有無を言わせぬきつい目付きに斎藤は思わずたじろいだ。

斎藤「…………」

いちご「早く行って。恥ずかしいよ……」

 絡まる蔦が身体を這い、その度に甘い声を漏らすその姿は、いたいけな少女が凌辱されているようにも見える。
 後藤がこの場に居ればきっと目を細めて下卑た笑みを浮かべるだろう。
そんな事を考えながら斎藤は部屋を後にした。
337 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 20:36:20.45 ID:x6DF/wAO
いちご「んっ……」

 眉を顰め、襲い来る快楽の並に耐えていたいちごだが斎藤が去った事によってその理性は崩壊した。
全身から汗がどっと吹き出て、漏れる嬌声の音も大きくなる。

いちご「やっ……あんっ……そこは……っ」

 身体を締め付ける蔦の力が強くなり、一層激しく動く蔦は遂にはいちごの秘部に潜り込もうとしていた。
 膝ががくがく震え、下腹部がじんわり熱くなる。

いちご「駄目……だよ……おかしくなっちゃう……っ!」

 歪に歪んでゆくいちごの頭上で唯は安らかに眠っていた。
いちごの太股を伝って零れた愛液に、穿たれた唯の胸から滴り落ちた血が交ざり合う。
338 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 20:36:59.63 ID:x6DF/wAO
 和と梓はひたすら駆けていた。
後ろを振り返ることなく、ただ眼前に迫る敵の本拠地に向かって。

和「多分皆もあそこに向かってる筈よ。先に入口を突破して中を掻き乱すわよ」

梓「はい!」

 走りながら制服の袖口、首から下を覆う耐寒スーツの下から銃器の部品を取り出し、即座に組み立ててゆく。
その一連の動作に一切の無駄は無い。
その道を知る者ならばそれを見てただ溜め息をつくだろう。
 和はそれを横目で捉えて薄く微笑むと、桜花を勢い良く鞘から抜いた。
339 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 20:37:35.43 ID:x6DF/wAO
 桜花に光が収束し、巨大な剣を形成する。
目標は数十歩先の反り立つ塀。
和は渾身の力を込めて光の刃を塀に叩き付けた。

梓「凄い……!」

 梓は感嘆し、頬を弛める。
ほんの一瞬だけ気を緩めた梓の首を和が掴みあげた。

和「油断しないの!」

 そのまま大きく跳躍し、瓦礫と化した塀を飛び越える。
目まぐるしく動く視界の中で梓が見たのは、つい先程まで自分達が居た場所に放たれた一筋の炎だった。
 炎は一瞬で雪を溶かし、熱風を撒き散らして辺りの風を食い荒らす。
340 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 20:38:34.38 ID:x6DF/wAO
「つーかよぉ……」

 やけに間延びした声が和達の前方から聞こえた。
粉塵と雪が入り交じって視界が混濁しているが、何かが来ている事は分かる。

「もうすぐ一生働かずに旅する資金が貯まるってのに、どうしてこうも面倒事が多いかね?」

 粉塵の先の男が腕を振るうと、熱風が粉塵を吹き飛ばした。

和「後藤……?」

 和は今対峙している男が先日画像で見た男とその容姿が一致している事に気付く。

後藤「気安く呼び捨てにしてんじゃねーぞ。後藤『様』だ、豚が」

 後藤が翳した掌に赤い光が収束してゆく。
341 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 20:39:23.91 ID:x6DF/wAO
 何か来る。
それを肌で感じた和は梓を突き飛ばして自分も大きく転がった。
そのすぐ隣を真紅の炎が駆け抜けてゆく。

後藤「へぇ。そっちのロリな嬢ちゃんはぼんくらだが、お前は中々楽しめそうじゃん?」

 後藤は無言の怒りを込めて放たれた梓の弾丸をまるでピーナッツでもキャッチするかのように掴み取る。

和「……女帝の前で道化となって媚びるのは誰なのかしらね」

後藤「おー怖いねぇ……。媚びたところで一切容赦しねーのが女王様なんだろ?」

 目を細め、下卑た笑みを浮かべる後藤。
 対峙する敵をゴミ屑のように見下す和。
 そしてその和に寄り添い、明確な意志を胸に抱いた梓。
 たった今、一つの戦いの火蓋は切られた。
342 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 20:40:50.29 ID:x6DF/wAO
後藤「馬鹿な女だ。シズカって奴もよぉ」

和「死者を愚弄するのはやめろ、マグニス……!」

そんなノリ
343 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/21(火) 20:45:06.88 ID:D/87zYAO
乙!
今のところ 澪VSタナトス
和・梓VS後藤って感じか。

344 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 20:47:38.45 ID:Dn78jIEo
乙!
2日続けて読めるとかラッキーだわ、ありがとう!!
345 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 21:00:54.80 ID:Is.TYcAO
従者衆ってのはけいおんに実際に出てくるの?
346 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 21:05:35.19 ID:x6DF/wAO
>>345
出ないよ、斎藤さんは名前だけ出るけど
敵の名前が執事Aとかだったら締まりが無いから斎藤さんから妄想膨らませて勝手に作った
347 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 22:38:21.46 ID:aGV3JJ2o
あずにゃーん(⌒▽⌒)
348 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 23:37:53.81 ID:PlNn/wAO
>>346 オリキャラなのに、一人ひとりのキャラがよく作り込まれてるのはさすがです。
349 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/22(水) 01:11:20.72 ID:QT5RFwAO
後藤ってスターオーシャン2のミカエルみたいだな

350 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 01:42:12.69 ID:d1gBVcAO
>>330
ギターケースに武器を入れてると某映画が浮かぶな
351 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/22(水) 02:49:12.16 ID:kYwH.gDO
>>1は相変わらず良い意味で予想を上回って来るな、
今のところ誰もツッコんで無いから一応言っておくぞ、

折角治したのにまた串刺しかい!!

という訳で俺が予め用意した動力として組み込まれた唯には杭は刺さって無い、
よって刺してみた、

http://imepita.jp/20101222/088950
前から見たらこんな感じ

http://imepita.jp/20101222/089270
四角い木しか無かった……Orz
許して、
勿体無いから捕縛唯カプセルバージョンも貼る
http://imepita.jp/20101222/089720 http://imepita.jp/20101222/090310 http://imepita.jp/20101222/090000
実際こんな感じ
http://imepita.jp/20101222/096530 半透明のケースに入れて撮影するだけの簡単調理(笑)
>>350
自分のイメージではガンスリンガーあずにゃんって感じ、
アズニャエッタが活躍したらケースの中から銃が出て来るよ。
352 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 03:04:17.93 ID:bFDf0Cwo
>>351
二枚目と最後でシュール過ぎて吹いたwwwww

せっかくそれっぽく撮れてるのに、何で自分でネタバラしてんだwwwwww

乙!
353 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 03:11:30.69 ID:VFT1wQAO
いちごちゃんマジ禁断の果実
354 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/24(金) 00:38:02.19 ID:0mUThYAO
 例えば同じ力同士がぶつかりあったとする。
責めぎ合う二つの力の優劣を決めるのは、均衡を崩すのは一体何だろうか。
相殺することもなく責めぎ合う二つの力が完全に同じものだとしても、その均衡は永遠に続く筈も無い。

澪「はぁ……はぁっ……」

 雪原で暴れ回るタナトスの体躯を擦り抜けるように、澪はひたすら駆け回っていた。
どんな技や力を以てしても傷一つつけられないタナトスの防御力に、澪は成す術がなかった。

澪「きゃっ──」

 雪に足を取られて盛大に転ぶ。
幸いタナトスがその隙を突くことは無かったが、自分の体力が確実に削られてきていることが澪を焦燥感に駆らせた。
355 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/24(金) 00:38:40.38 ID:0mUThYAO
 澪の攻撃がタナトスに通用しないのと同じように、タナトスの攻撃も澪には通用しない。
 大き過ぎる身体から繰り出される攻撃は範囲こそ広いが動作が緩慢だ。
最悪被弾したところで闘気を纏っておけば死にはしない。
唯一殺傷能力があるのは荷電粒子砲だが、それもエネルギーの収束を察知すれば容易く躱せる。

澪「…………」

 しかしそれはあくまで澪が健全な状態を保つ事が出来ればの話だ。
どれだけ鍛えたところで人間の身体は永劫機関ではない。
ましてや足に纏わりつく雪、視界を遮る吹雪。
この場は体力の減少を促す条件に満ち溢れた環境なのだ。
356 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/24(金) 00:39:18.11 ID:0mUThYAO
 再びタナトスの口内から砲台がせり上がり、光が集束してゆく。
澪は咄嗟にタナトスの顎の下へと潜り込み、荷電粒子砲の攻撃範囲外へ身を潜めた。

澪「う……ぐぅ……!」

 大気中を流れる水分を一点に集めて瞬時に凝固させるが、砲台のほぼ真下という位置に襲い来る余波は尋常なものではない。
氷の壁が音を立てて崩れると同時に、澪は衝撃を殺す意味も兼ねて大仰に飛び退いた。

澪「……?」

 何かがおかしい。
地球の磁場の影響を受けて軌道を曲げてゆく粒子砲を眺めながら、澪は思った。
 何もおかしくなどない筈なのに、そもそも自分が今こうして苦戦している事すら何かおかしく思える。
357 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/24(金) 00:39:53.95 ID:0mUThYAO
澪「はっ!」

 下半身に力を込め、身体全体を上手く利用した一閃を宙に放つ。
するとその直後、その剣撃に呼応したかのように降り積もった大量の雪が舞い上がり、雪崩と化してタナトスを飲み込んでゆく。
全長一キロメートル強、その気になれば空母ですら易々と食い尽くしてしまうであろう巨体が自然の猛威に飲み込まれていった。

澪「一点集中型の荷電粒子砲……。全身を覆う不可視のバリア……」

 雪崩がタナトスを覆い、雪山を作り上げた。
山の内部に閉じ込められたタナトスはぴくりとも動かない。
 吹き荒れる吹雪の音だけが響く清閑としたその場所の中央で、澪はうわ言のように何かを呟いていた。
358 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/24(金) 00:40:28.67 ID:0mUThYAO
澪「……こいつ。私を殺す気が無いのか?」

 得体も知れない猜疑心は澪の思考を本来ならば辿り着かないような答へと導いた。
 殺す気が無い、という表現には語弊がある。
 ただ荷電粒子砲という空想科学兵器を現実のものとしたその攻撃力を持ちながら、何故この竜には他にもっと手っ取り早い、例えば広範囲を巻き込む爆弾の類のものを搭載していないのか。
そんな疑問が殺す気が無いという判断を暫定的に下させたのだ。

澪「……っ!」

 澪が思案に更けている間に雪原が大きく揺れ始めた。
まだ終わりではない。
黒い夢、タナトスは標的を殲滅するまではその純然たる殺意を絶やしたりはしないのだ。
359 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/24(金) 00:41:03.71 ID:0mUThYAO
 耳を劈く咆哮と共に大気が震える。
殺戮の権化は大量の雪と純然たる殺意を撒き散らした。

澪「……確率は五分五分。もう一つくらい確証が欲しいところだな」

 その殺意に物怖じすることなく悠然と立ち向かうのは水氷の女王。
 澪は見の姿勢を取り続けて洞察したタナトスの動向から、その鉄壁の致命的な穴を見出したのだ。

澪「他にそれらしいところ……。尚且つ私が斬ってないところは……」

 大きく後ろに跳躍し、タナトスの全体を見渡す。
そして該当する箇所を瞬時に把握した澪は、刀の柄を握る力を強めた。
 読みが外れていれば十中八九即死だろう。
それでも澪は、見出した一縷の活路を強く見据えた。
360 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/24(金) 00:41:39.20 ID:0mUThYAO
後藤「はっはーっ! 甘い甘いぜぇっ!!」

 繰り出される後藤の裏拳を和はすんでのところで受け止めた。
闘気を纏っているにも関わらずその威力を完全に殺す事は出来ない。

後藤「だから甘ぇっつってんだろーが!!」

 ぎりぎりと押しつけられる右手の指がぱちりと鳴った。
その瞬間紅蓮の炎が和の髪の毛先を僅かに焼き、その背後を駆け抜けてゆく。

和「しまっ──!?」

 振り返ったその先には反応すら出来ずに棒立ちでいる梓。
和は咄嗟に桜花を積もった雪に突き刺し、闘気を操る。

梓「きゃっ!?」

 梓の足元から筒状の岩がせり上がり、その小さな体躯を空中へと投げ出す。
361 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/24(金) 00:42:17.50 ID:0mUThYAO
 梓はそのお陰で何とか事なきを得たが、無防備となった和は鳩尾を思い切り殴りつけられる。

後藤「ボディがお留守だぜっ……と!」

 更に追撃の蹴り上げが同じ箇所を捉えた。
僅かに吐血しながらも和は耐える。
宙に浮いた不安定な体勢で後藤の首筋目掛けて一閃を放った。
 その一閃すらも見切って和の懐に潜り込もうとしていた後藤だが、頭上から降り注ぐ弾丸の気配を察して大きく後退する。

後藤「ちっ……。ちょこまかうざってぇ鼠だなぁおい!」

 後藤は更に後転して和から距離を取るが、絶好のチャンスを格下に潰された事に苛立ちを隠せていなかった。
362 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/24(金) 00:44:33.54 ID:0mUThYAO
和「助かったわ……。ありがと」

梓「いえ……。元々私のせいですから」

 互いにフォローし合い、二人が格上の後藤相手に大した負傷も無く渡り合っているのは奇跡と言えるだろう。
 高度な連携だけでは説明出来ない、俗に言う運さえも二人の味方をしていた。

後藤「ちっくしょお……苛々すんぜ。この俺を差し置いて仲良く女子高生やってんじゃねーぞ三下ぁ!」

 長い黒髪、スーツに纏わりついた雪を払うと後藤は地団駄を踏んだ。
 和と梓は更なる後藤の猛攻に備え、腰を低く落として身構える。
だが後藤の口から紡がれた言葉は二人の闘志を著しく殺ぐものだった。
363 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/24(金) 00:45:08.48 ID:0mUThYAO
後藤「てめぇこのスーツ上下合わせて八十万すんだぞ!? 八十万だ! お前ら女子高生を何回抱ける値段だよ!? ちゃんとそこんとこ分かってんのかこら!!」

 憤る後藤とは対照的に二人の目は明らかに冷めていた。

梓「馬鹿ですね……」

和「ええ、馬鹿ね」

 後藤と対峙してから今に至るまで、二人はこれと全く同じ掛け合いを四回繰り返していた。
後藤の方もそれでやる気が殺がれた隙を狙うなどという阿漕な真似はしないので、それが余計に対処に困っている。
364 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/24(金) 00:45:48.46 ID:0mUThYAO
和「ねぇ……。これから私がする事を何も言わないで見ててくれる?」

梓「え? あ、はい……」

 ありがとう、と呟くと和は後藤の方へ数歩前に寄った。

後藤「なぁにコソコソやってんだよ?」

 露骨に不機嫌な顔をしながらもいきなり攻撃してくることは無い。
この人はどこまで律義なんだろうか、梓は呆れつつそう思っていた。

和「後藤『さん』」

 しゃりしゃりと雪を踏み鳴らして歩きながら、和は桜花を鞘に収めた。

梓「──っ!?」

 無謀過ぎる。
 空いた口が塞がらない梓は口を金魚のようにぱくぱくさせていた。
 だが和が次に紡いだ言葉は、そんな行動よりも更に梓を驚愕させた。

和「私達、降伏します」
365 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/24(金) 00:46:36.38 ID:0mUThYAO
後藤「燃えたろ?」

和「そして死ねぇ!」

そんなノリ
366 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/24(金) 00:54:34.24 ID:GVNRkf.o
スレタイktkrと思ったら後藤だった
367 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/24(金) 02:07:07.86 ID:OWTVDzo0
5103愉快な人だなww
368 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/24(金) 03:56:49.24 ID:0RDjZX.o
乙です!
タナトスの討伐依頼を受注したい!!
369 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 13:24:47.30 ID:WInOGMMo
タナトス「背中かゆい…」
370 :Are you enjoying the time of eve? :2010/12/24(クリスマスイブ) 23:30:48.66 ID:AjfV3ADO
荷電粒子砲か、ならばコイツの出番だな

http://imepita.jp/20101224/828890

という訳で彼がタナトスの代理です、

http://imepita.jp/20101224/829250

取り敢えず登らせてみた

http://imepita.jp/20101224/829940 http://imepita.jp/20101224/830180 http://imepita.jp/20101224/830800

今梓頑張ってるからアズコンネンも貼っちまうぜ!

http://imepita.jp/20101224/831600
対艦ライフルで許して、サイズ的にはいい線行ってる筈、


オマケ、憂「この辺ですか?」ボリボリ

死竜「うん、そこそこ、そこが痒くて死にそうだったんだ」

http://imepita.jp/20101224/831930
>>369
こんな感じでどうだろうか?

>>352
こういうのは早めにバラしておいた方が良いと思ったんだ。
371 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/25(土) 00:03:53.45 ID:opVrRxQo
一気に澪が勝てる姿を想像出来なくなったでござる
372 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/25(土) 00:49:12.87 ID:c4ecEAIo
どう考えても澪が消し炭にしかならない…。
373 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 20:35:02.67 ID:U/o8jkDO
失禁して動けn(ry
374 :クリスマス終了のお知らせ [sage]:2010/12/26(日) 00:34:35.64 ID:JO72E2DO
皆落ち着くんだ!
よく見ろ、コイツはバトスト版の死竜だ、
今の澪なら充分、いや余裕で勝てる相手だ。
375 :クリスマス終了のお知らせ [sage]:2010/12/26(日) 01:19:04.94 ID:r0ksUdwo
>>370を許すかどうか審議中】
    |∧∧|       (( ) )   (( ) )  ((⌒ )
 __(;゚Д゚)___   (( ) )   (( ⌒ )  (( ) )
 | ⊂l     l⊃|    ノ火.,、   ノ人., 、  ノ人.,、
  ̄ ̄|.|.  .|| ̄ ̄   γノ)::)  γノ)::)   γノ)::) 
    |.|=.=.||       ゝ人ノ  ゝ火ノ   ゝ人ノ
    |∪∪|        ||∧,,∧ ||∧,,∧  ||  ボォオ
    |    |      ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
    |    |      ( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
   ~~~~~~~~     | U (  ´・) (・`  ). .と ノ
              u-u (    ) (   ノ u-u
                  `u-u'. `u-u'
376 :クリスマス終了のお知らせ [sage]:2010/12/26(日) 01:23:09.26 ID:r0ksUdwo
>>374
折衷案を取って、澪は勝つ事を想像してたけど余裕で消し炭になって死竜が勝ったでどうだろうか?
377 :クリスマス終了のお知らせ [sage]:2010/12/26(日) 02:15:00.38 ID:PclQvEAO
仕事が忙しくなってきたので年明けの三が日が過ぎるまでは投下は厳しいかも、という報告
378 :クリスマス終了のお知らせ [sage]:2010/12/26(日) 03:14:10.46 ID:JO72E2DO
>>1
了解、俺はその間に武装を提供してもらったケルとヅダを完成させるか、

正直、死竜の攻撃がここの澪に当たるシーンが想像出来ないんだが、
更に死竜の脳天はガラス張り、そしてそこにコックピットがある、
更にバトスト版死竜の身長はゴジュラスとほぼ同じ、今の澪なら一瞬で登れるだろう、

最後に和の膝の上でヨダレを垂らして爆睡中の唯
http://imepita.jp/20101226/097190 http://imepita.jp/20101226/114430
379 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 15:59:28.17 ID:0G4UPUDO
死龍に排熱用のファンがあれば勝てる
380 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 22:05:28.23 ID:r0ksUdwo
>>379
ファンは荷電粒子コンバーターに変更済みじゃない?きっと
381 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 14:30:11.19 ID:kMRtTwAO
ずいぶん長い間更新が無いと感じていたけど、
まだ前回から3日しか経っていないのか。

それだけこの作品が面白い、って事かな。
382 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 12:10:15.29 ID:97UEZa60
年末だし忙しいのかねえ
383 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 22:44:47.20 ID:yPA163Ao
しえんだ
384 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 12:24:16.55 ID:gNXv9Dk0
製作は保守いらねえよ
385 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 02:16:57.73 ID:bldWPO.0
あけおめええええええ!!!
386 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/04(火) 15:28:49.59 ID:NjbMHcAO
今年も>>1さんお願いしやす
387 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/05(水) 14:11:36.93 ID:PRAKtcSO
自分用メモ しおり

――――――――――――――――――――――――――
         ここまで読んだ
――――――――――――――――――――――――――

・澪vsタナ ・梓&和vs後藤 ・江藤レズ毒 ・唯憂龍 ・いちごエロ ・強さ>>201 後藤≧さわ子
388 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/05(水) 15:47:18.74 ID:9n9gXwAO
やっと仕事に区切りがついたから明日投下出来ると思う
389 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/05(水) 15:51:26.25 ID:Hq7/VHQo
wktk
390 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/05(水) 18:26:41.18 ID:6uhDiEDO
>>1
期待してるぜ、
こっちも何枚か撮り貯めたし、ケルディムとヅダも作ったから準備万端だ。
391 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:50:15.60 ID:JtPSIUAO
後藤「降伏、だぁ……?」 

和「ええ、まぁ正確には取引といったところかしら」

 普段の和とは違い、のんびりとした話口調だった。

後藤「……聞くだけなら聞いてやんよ」

 後藤は(本人曰く)八十万のスーツが濡れることも厭わずにどっかりと雪の上に座り込み、シガレットケースを取り出した。

和「…………」

後藤「どうした、取引するんじゃねーのかよ?」

 後藤は訝しげな表情を浮かべて和の顔を見上げた。
和はその視線に気付いて我に返ったかのように肩を震わせる。

梓「……?」

 梓には何が何だか全く理解出来なかった。
というより、理解する気にもなれなかった。
392 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:50:52.20 ID:JtPSIUAO
 闘いの場であるにも関わらず和は得物を鞘に収め、後藤は丸腰で座り込んでいる。
互いにその状態から臨戦態勢に移るのには一秒と掛からないだろう。だがそれは守りにおいても同じ事だ。

梓「意味分かんないよ……」

 仏頂面で銃を構えてその銃口を後藤に向けてみたが、後藤はそれをちらと見るだけで何事も無かったかのように煙草に火を点けた。

和「単刀直入に言います。私達に協力してくれませんか?」

 梓は今度は腰を抜かしそうになった。

後藤「は、ははっ……」

 後藤も後藤でその提案は予想していなかったのだろう。
頬をひくつかせながら苦笑いを浮かべている。
393 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:51:26.51 ID:JtPSIUAO
後藤「……聞いといてやるが、お前らに協力して俺に何かメリットでもあんのか?」

和「あるわ」 

 和は即答する。
彼女が何を以てこうも自信満々に取引をしているのか、後ろで見ていた梓にはさっぱり分からなかった。

和「私達に協力してくれるなら、貴方が望む願いを一つだけ叶えてあげます」

 和の提案は後藤を揺らがせるには充分過ぎるものだった。
しかしそこは流石プロと言うべきか、暴れ狂う心臓の鼓動を潜めて後藤は静かにほくそ笑んだ。

後藤「……へぇ、まさかこんなとこにシェンロンが居たとはなぁ」

 蛇のような視線が和に突き刺さる。
394 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:52:07.86 ID:JtPSIUAO
 後藤の願い、夢は一流のバイクで一流の自分が一流の世界を見て、学び、旅する事だ。
言うまでもなくそれには莫大な資金が掛かる。

後藤「…………」

 和の目を舐めるように見つめる後藤は思考をひたすら働かせた。
 目の前で不敵に立ち尽くすこの女のパトロンは琴吹財閥だ。
確かにこの女の言う通り、自分の願いを叶える事などほんの些事でしかないのかもしれない。
 だが少し待て、と後藤はそんな自分の解釈を改めた。
 こうもあからさまに敵意が無い事を示されると逆に勘ぐりたくもなる。
 取引の隙を突いての攻撃、或いは抱えた策の為の時間稼ぎ。
疑い始めればその意図は枚挙に暇が無い。
395 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:52:44.09 ID:JtPSIUAO
 和の意図を読み取る上で何か確証めいたものが欲しい。
そう思っていた矢先だった。

和「そうね……。五分、五分だけ考える時間をあげます。それまで私達は貴方の視界ぎりぎりのところに居ますから」

後藤「──っ!」

 今の後藤にとっては千載一偶と称しても足りないような発言だった。
思わずポーカーフェイスを装っていた表情が緩む。

和「……? 別に逃げたりするつもりはないから。どの道逃げたところで無駄でしょうしね」

後藤「くくっ、ちげーねぇや」

 渾身の皮肉を込めて後藤はそう返した。
そして警戒しながらもゆっくりと遠ざかってゆく和をにやにやと見つめる。
396 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:53:18.89 ID:JtPSIUAO
 語りかけるには遠過ぎるがその気になれば一瞬で詰め寄ることが出来る。
和と後藤の間にある隔たりはそんなものだった。

後藤「さて、と……」

 シガレットケースから再び煙草を取り出し、火を点ける。
吐き出した紫煙が後藤の笑みを覆った。

後藤「ガキにしちゃあ賢い、というか賢しい策だがな……」

 子供の幻想を打ち崩すかのように鼻で笑う。
 こうも嗜虐に駆られたのは幼い紬にサンタクロースは居ないと断言した時以来だろうか。
そんな下らない事を考える余裕が、今の後藤にはあった。
 それもその筈だ。
 和が提案した取引は蓋を開ければ刃が飛び出すチープトリック。自分はその事に気付いたというアドバンテージを有しているのだから。
397 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:53:55.78 ID:JtPSIUAO
 恐らく時間さえ稼げばどうにかなるあてがあるのだろう。
だからこそ一刻を争うこの状況下でも、五分という明確な区切りをつけてきたのだ。
つまりその五分を後藤が反故にしてしまえば……。

後藤「やっぱ詰めが甘いな。五分ってのは禁句なんだよ……」

 それならば、と後藤は考える。
今から五分の間の何時に奇襲を仕掛ければ確実に二人を潰せるか。

後藤「一、二……。三……」

 残り三十秒となればあちらの気も引き締まってしまうだろう。
ならば最後の一分に入る直前。

後藤「残り三分と三秒か……」

 三分五十九秒。
 それが後藤が決めた殺戮の時間だった。
398 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:54:37.01 ID:JtPSIUAO
和「やれるわね?」

梓「……はい」

 無謀過ぎる。
 和が梓に打ち明けた策はそう評しても足りないくらいに無謀な策だった。
 十全に事が上手く運ぶ可能性など皆無に等しい。
たとえ相手が和の意図の通りに動いたとしても、はたして自分の力量がその無理を通すまでに至っているかは疑わしいものだ。
 だが梓が心中で渦巻くそんな疑念を吐露することは無かった。

梓「私がやらなきゃ、ですよね」

和「よく分かってるじゃない。その通りよ」

 そう言って固く結んだ口、険しく吊り上がった両目。
普通ならば物怖じしてしまう気迫を前にして、梓は何故か安心すら出来ていた。
399 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:55:11.35 ID:JtPSIUAO
 あんなに遠くにあった筈の絶対を越えた力。
それが何故か今は朧気ながらも感じ取れて、手を伸ばせば届いてしまいそうな距離にある気がした。

和「大丈夫。きっと上手くいくから」

 和は左手をそっと梓の方へと差し出した。
何の確証も無い気休めのようなその言葉はこれ以上にない程梓の心を鼓舞する。

梓「…………」

 梓は差し出された手を握り返し、視界の奥で佇む後藤をきつく睨んだ。
 立ち憚るは紅蓮の徒。
 全てを焦土と化す炎の意志が立ち込めるこの空間に、吹雪と共に一際強い一陣の風が駆け抜けた。
400 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:55:52.33 ID:JtPSIUAO
後藤「ひゃは──」

 短く嬌声を発すると、後藤は指の骨をばきばきと鳴らす。
距離を置いてから後数秒で四分になる。その瞬間だった。

後藤「──」

 一瞬の煌めきと共に後藤の右腕が発光、発火する。
 そしてその腕をそのまま地面へと叩き付け、凍土を焼き払いながら和達の元へと加速した。

後藤「甘ぇ甘ぇ甘ェ!! 何から何まで甘ぇつってんだよおおおおおっ!!」

 後藤と和達の間にあった距離はみるみるうちに縮められてゆく。
後藤の右腕に纏わりついた炎は膨れ上がり、一つの形を成していた。
401 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:56:30.99 ID:JtPSIUAO
梓「鳥……?」

 空すらも覆い尽くさんとする紅蓮の鳳凰がそこにいた。
 熱風が吹き荒れ、極光が迸り、爆炎が飛来する。
 始めから和が持ち掛けた交渉など意味を成していなかったのだ。
そしてそれは、和自身が一番分かっていた。

和「これが私のありったけよ」

 梓の手を握る左手に力を込め、右手で素早く抜刀した桜花を雪の中に突き刺す。

後藤「なっ──!?」

 その瞬間、凍土が跳ね上がった。
 まるで地面そのものを強大な何かが下から持ち上げたかのように。
和の爪先からほんの数寸先が山と化したのだ。
402 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:57:09.12 ID:JtPSIUAO
和「さしずめ山崩し、いや……」

 天を衝かんとする氷山を見てほくそ笑み、和は訂正する。

和「『天崩し』ってとこかしら」

 四分、実際には三分弱という短い時間の中で和は自身が持ち得る闘気のその殆どを練り上げ、奥義へと昇華させた。
 大地そのものが呻き声を上げて鳳凰を掬い上げ、搦めとる。

梓「これが……」

 大地を流れるエネルギーと術者の闘気を呼応させ、意のままに操る黄色の闘気使いの究極の技、世界が軋み、崩れてゆく。
 だがそれでも、舞い上がる炎が絶えることは無かった。

後藤「だぁらあああああああああっ!!」
403 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:57:50.30 ID:JtPSIUAO
 起伏した凍土がみるみるうちに溶けてゆく。
後藤がその右腕に宿した鳳凰は絶えずその命を燃やし、肥大した。

後藤「それがてめーの奥の手かぁ!? ちゃんちゃらおかしいったらないぜ!!」

 天を衝く山々が崩れ落ち、鳳凰が再び翼をはためかせる。

後藤「知ってっかぁ!? 鳳凰ってのは何度でも蘇るんだよ! ゾンビみてぇになぁっ!!」

 夢の為に、そしてそれの為に捨て去ったモノの為に、後藤は何度打たれようと立ち上がる。

後藤「俺は鳳凰だ! 刮目しろっ! そして死ね! その名が最強である事を此所に証明してやらぁっ!!」
404 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:58:28.96 ID:JtPSIUAO
 天崩しが破られたというのに、何故か和の表情は何かを成し遂げたかのような安堵感を滲み出していた。
突き立てた刃から手を離し、未だ握ったままの梓の手を更に強く握り締めた。

和「強がったところで結果は決まってるのよ。不滅なんて存在しない、そんな幻想は私達が殺してあげる」

 全力をぶつけた。
それで駄目ならば後は託せば良い、自分と肩を並べる仲間に。

和「後は任せたわよ?」

梓「はいっ!」

 力強く答える梓の右手に握られているのは殺戮、力の象徴。
込められた弾丸の数は零だ。
空の銃口から打ち出されるのは一つの弾丸が織り成す物語。
405 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:59:07.41 ID:JtPSIUAO
 静粛に、厳粛に、けれども力強く、梓はその鍵語を呟いた。

梓「エピソード」

 刹那、撃ち出されたのは風の咆哮だった。
不可視の銃弾が不可視の速度で駆け抜け、それが後藤の胸を貫くのにはコンマ一秒も掛からなかった。

後藤「あ──?」

 相手の持ち得る究極の力を打ち破った筈なのに、自分が持ち得る究極の力を発現させた筈なのに。

後藤「な──。何が──」

 胸に残る異物感と共に崩れてゆく自分の身体。
それでも後藤は自分の身に何が起きているのか分からなかった。
406 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 21:59:50.49 ID:JtPSIUAO
 否、分かりたくなかっただけなのかもしれない。
ぼんくらだと評した無力な少女の手によって、自分が地に膝をつけられているという事を。
 大きな咳が漏れる。
精神力だけで溜め込んでいた血液がそれと同時に噴き出した。

和「撃ち出される軌跡の物語、エピソード……か」

 後藤は朦朧とした意識の中で、和がそう呟くのを聞いた。

和「この胸糞悪い話を終わらせる鍵となれば良いのだけどね」

 ざまぁねぇな、と後藤は心中で呟いた。
 和が身も蓋も無い案を持ち掛けてから天崩しを発動するまでの一連の流れ。それは後藤を欺く為のフェイクでしかなかった。
407 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 22:00:28.97 ID:JtPSIUAO
 勝って兜の緒を締めろ。古い人間はよく言ったものだ。
 どれだけ鍛練を積んでも自分の勝利を確信した瞬間の気の緩みを払拭することは難しい。
その一瞬の隙を、和は欲していたのだ。

後藤「くくっ……。くははははっ……!」

 エピソード。何と皮肉な命名だろうか。
 有って無いような一瞬の隙が命取りとなって、自分の理想は遥か遠くの夢物語になってしまった。

後藤「……お前の勝ちだよ、ロリな嬢ちゃん。俺を負かしたからには、俺みたいな屑な大人になんじゃねーぞ?」

 胸に残る強烈な痛みに耐えながら、後藤はしたり顔でそう言ってみせた。
408 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 22:01:11.71 ID:JtPSIUAO
梓「屑な大人……。はたしてそうでしょうか?」

 主君を裏切り自分の利益を優先した後藤を、何故か梓は罵倒する事が出来なかった。

梓「ムギ先輩が貴方達従者衆の名前を呼ぶ時、とても悲しそうな顔してました」

 自分の想いを押し殺してかつての従者の殲滅を決意した彼女の表情が梓の頭を過ぎる。

後藤「…………」

梓「せめて最期だけは、道を見誤らないでください」

 そうだ。俺の夢はバイクで世界を旅する事なんだけどよ、お前がこのくらい大きくなったら後ろに乗っけてやんよ。
 かつての言葉が後藤の頭に響いた。
込み上げる何かを抑え切れなくなって、後藤は寝転んで顔を手で覆う。
409 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 22:01:51.43 ID:JtPSIUAO
後藤「なんてザマだよ……。なぁ俺……ふざけてんじゃねぇよ……!」

 求めていたものは近くにあった筈だった。
壮大な夢を語る後藤の真の望みは、籠の中の鳥に世界を見せてあげたかっただけなのだ。
 側にある朧気な理想を見限ったのは、他でもない自分自身だった。

後藤「……俺はどうすりゃいい? どうすりゃ許されるんだ?」

梓「そんなの……」

 神に懺悔するかのように狼狽する後藤に梓が下した言葉は、何よりも厳しく、しかし真理である言葉だった。

梓「自分で考えてください」

 後藤の物語の意味は後藤にしか分からない。
消えゆく意識の中で彼が何か一つでも見出せたのなら、物語に意味はあったのだろう。
410 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 22:02:32.49 ID:JtPSIUAO
 荒い息遣いを背にして梓は和の元へと戻ってゆく。

梓「…………」

 一つの意志をこの手で刈り取ってしまった。
それは途方もなく罪深く、愚かな行為なのかもしれない。

和「やれば出来るじゃない、とでも言っておこうかしら」

梓「私一人じゃあれは撃てませんでしたよ。意外と意地悪な人なんですね」

 妖しく微笑む彼女の雰囲気は、その小さな体躯とは正反対なものだった。
 梓は決意する。
 信頼する者の為ならどんな咎も背負おう。
 そして自分の物語が終わる時、そんな自分を盛大に誇ろうではないか。

 全ての『オチ』がつく頃に。
411 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/06(木) 22:03:47.64 ID:JtPSIUAO
和「その幻想をぶち殺す!」

後藤「吠えてんじゃねーぞ三下ァ!」

そんなノリ
412 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 22:51:05.28 ID:8DAQA.AO
413 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 23:01:38.38 ID:/FwyO..o
梓「レールガンって知ってる?別名、超電磁砲」

そんなノリ
414 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 23:54:59.66 ID:06Vq08oo
あけましておめでとうございます!!
新年初投下乙です!
今年も宜しくお願いしますm(_ _)m

そして、まさかのそげぶwwwwwww

2万体の憂に期待www
415 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 00:19:40.62 ID:.g38y.AO
和の闘気を使って打ったって感じでおk?
416 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 01:28:09.31 ID:Hj4KKmso
>>415
あ、それ俺も最初わからなかったんだけど、よく読んだらアズにゃん風使いで空気弾を射出したみたいだよ!
417 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 02:41:54.41 ID:.g38y.AO
>>416 さんくす!
そして>>1乙!&あけましておめでとう。
今年も楽しましてもらいます。
418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 02:49:02.37 ID:tT8c5IDO
>>1後藤の声が神奈延年で脳内再生された、
更に00の罠が流れ出しちまった、



最高でした。
419 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 03:54:29.32 ID:jO7SKDM0
420 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 10:14:51.20 ID:rzWj5m6o
おお…
421 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/07(金) 10:14:56.50 ID:tT8c5IDO
こちらフィグマ班、宣言通り狙い撃つ!!

http://imepita.jp/20110107/347910
http://imepita.jp/20110107/348320
http://imepita.jp/20110107/348690
http://imepita.jp/20110107/349070
http://imepita.jp/20110107/349560
http://imepita.jp/20110107/349850
http://imepita.jp/20110107/350240
カオス背景で砂ライなのは大分前に撮り貯めたやつなので許して、
後藤……惜しい奴を亡くしたな……良いキャラしてたのに……。
422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 11:45:22.01 ID:Gp478AAO
後藤のキャラが良かっただけに、こんなに早くお亡くなりになったのは残念
423 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 00:57:45.19 ID:O0wkGQAO
ゴッドゥーザ様が死ぬなんてありえない
424 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 09:58:02.78 ID:muKFgYAO
フィグマの画像マジいらねぇ
425 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りしますVID(Tes):2ocFn0DO [sage]:2011/01/09(日) 16:34:21.25 ID:wZGS2ADO
>>424
俺もそれ思ってた
426 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りしますVID(Tes):bWw/rwGo [sage]:2011/01/09(日) 16:38:24.64 ID:yD3f/kgo
みんな気を遣って黙ってたのに
427 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 18:17:32.87 ID:WLLo9GDDO
一部にはウケてるみたいだし>>1も禁止してないから、温かい目で見てやると良いさ
まぁなかなか言い出しにくい事を言ってくれたのは嬉しい事だが変な議論で無駄に消化していくのは多くの人が避けたい事だろうし
428 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 16:59:48.72 ID:Tb15Mm0AO
 地を穿つは漆黒の爪。
 天を裂くは破滅の咆哮。
 永久凍土に舞い降りた死を纏う龍は終焉の鎮魂歌を奏でていた。
 真っ白なステージの上で終焉の舞を踊るのは澪。
時に荒々しく、時に優雅に刻まれてゆく剣閃は人の域を越えた者にしか出せない閃きだ。

澪「……っ!」

 腹部に力を込めて唐竹割りを放つ。
刃はタナトスの尾の付根に衝突したかと思うと、暖簾を打ったかのようにぬるりと擦り抜けた。
 その瞬間を狙っていたかのように黒塗りの腕が澪の身体を薙ぎ払わんとする。

澪「滅陣──」

 水の輪が澪の身体を囲み、その中に無数の閃きが走る。
その一つ一つは澪の腕から放たれる神速の残撃。それは一粒の雨粒、空気中の僅かな塵の侵入すら許さない。
429 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:00:28.24 ID:Tb15Mm0AO
澪「くっ……!」

 言わば難攻不落の要塞であるその領域の中に、タナトスの爪はあっさりと侵入してきた。
澪は咄嗟に刀を盾にし、それを中心に氷の壁を形成する。
だがそれでも澪の身体の数十倍はある爪の勢いは消えず、力任せに大きく押し出された。

澪「うっ……ぐうぅうっ……!」

 爪の表面は研磨された鑢のような質感になっており、数十メートルと押し出されてゆく間に澪の身体はずたずたに引き裂かれていった。
 運動エネルギーが減少していき、身体が静止すると澪はふらふらと刀を地に突き立てる。
430 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:01:05.04 ID:Tb15Mm0AO
澪「はっ……はっ……」

 餌をねだる犬のような息遣いは次第にその声色を変える。

澪「ははっ……はははっ!」

 避けた服から覗く白い肌は血で汚れており、長めの横髪は俯いた表情を黒く覆っている。
傍から見れば気でも触れてしまったかのような狂乱具合だが、澪の心はまだ折れてなどいなかった。

澪「…………」

 胸元から滲み出た血を指で掬い取り、恍惚とした表情でそれを舐めた。
悩ましげに髪を掻き上げるその姿は一介の女子高生では決して出せない妖艶な雰囲気を醸し出している。

澪「……やっと確信が持てた」
431 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:01:44.20 ID:Tb15Mm0AO
 地に突き立てた刀を引き抜き、タナトスにその切っ先を向ける。
タナトスはそれをじろりと見つめると、耳を劈く咆哮を上げた。

澪「負け犬の遠吠え、だな」

 喉を鳴らして笑うと澪は両目を細めた。
 死という残酷な運命を撒き散らす龍と対峙して全く気圧されていない。

澪「私が負ける運命ならそこを退け。私が通るからな」

 その瞬間、澪の身体は誰にも認識されない速度で移動を開始した。
 たちまち切り付けられてゆくタナトスの両腕。
だが言うまでもなくその残撃に効力など無い。

澪「よっと……」

 澪は腕から肩を駆け上がり、牙を乗り越えてタナトスの鼻先に足をかけた。
432 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:02:19.55 ID:Tb15Mm0AO
 不安定な足場はタナトスの身震いによって更に不安定となる。
やがて呻き声を上げたタナトスは首を大きく震わせ、澪の身体を宙に投げ出した。
 赤い瞳が妖しく輝く。
 大きく開いた口からは巨大な砲台がせり上がってきた。

澪「…………」

 空中に投げ出された澪にそれを察知する事は出来ても、それから逃げる術は無い。
どれだけ鍛練を積んだところで、二段ジャンプが出来る人間など居る筈が無いのだ。
 それなのに……。

澪「……それを待っていた」

 澪が放った一言は、まるで自分がこのシチュエーションを作り上げたかのような発言だった。
433 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:02:58.46 ID:Tb15Mm0AO
 その身に風を纏い、敵の牙城を駆け抜ける。
立花 姫子と佐伯 三花は順調にその歩を進めていた。

姫子「待って。そこは右に曲がって」

三花「うわっとと……」

 三花は突き抜けようとした三叉路を重心を傾けつつ右に曲がった。
後ろを走っていた姫子が自身の真横に到達すると、感心したように見上げる。

三花「初めて来た場所なのによく道が分かるね?」

姫子「来る前に地図貰ったじゃん。私じゃなくても分かるってば」

 地図の内容はおろか、それを貰った事すら忘れていた三花はほえー、と間抜けな息を漏らす。
434 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:05:35.79 ID:Tb15Mm0AO
姫子「……っ!」

 そうこうしている内に視界の奥で数名の人影が蠢き出した。
それぞれの手には重々しい銃器がある。

三花「卑怯だよねぇ。いたいけな女子高生に大の大人が武器持ち込むなんて」

 走る速度を上げ、姫子より前に躍り出た三花は両腕を広げた。
若干長い爪が飛躍的に成長して鋭利な刃物になるのは、銃弾の雨が降り注ぐのと同時だった。

三花「えいっ!」

 筋肉のバネを利用して床を蹴ると三花の身体は天井に向かう。
更に天井を蹴り、壁、床、壁、とまるで制御不能のバネ細工のような動きで銃弾の雨を掻い潜る。
435 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:06:39.48 ID:Tb15Mm0AO
 怒号を上げてトリガーを絞る男達が一人、また一人と倒れてゆく。
鋭利な爪が貫くのは足、手の甲、どれも急所ではなく、しかし動きを抑制するには充分な箇所だった。

三花「しかも歯応え無いし──」

 無いしさ、と呟こうとした時、不意に何処からともなく断続的な電子音が鳴り響いた。
三花がそれが今し方倒れた男達から発せられている事に気付いた頃、姫子は脇目も振らずに三花に飛び掛かっていた。

三花「へ──?」

 直後にポップコーンが弾けたような小規模な爆発が巻き起こる。
大した威力こそ無いものの、それは周りにあるものを吹き飛ばす程度の威力はあった。
436 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:07:34.30 ID:Tb15Mm0AO
 爆発音、男達の悲鳴、飛び散る血が阿鼻叫喚の地獄絵図を造り上げる。
 抱き合うように倒れ込んだ姫子と三花はその光景に思わず身震いした。

三花「なに……これ……」

姫子「…………」

 防衛に当たった男達が真っ向に闘って姫子達に傷を負わせる事など不可能だ。
ならば狙うのは意識の穴を突いた一撃。
警備に当たった者一人一人に小型の爆弾を埋め込み、何かの契機に発動させる。
恐らく本人達にも知らされていなかったのだろう。それは先程の悲鳴が物語っている。

姫子「人を将棋の駒とでも思ってんのかな……」

 姫子は奥歯をぎりぎりと噛み締めた。
437 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:08:27.92 ID:Tb15Mm0AO
 大方本人達に知らされてなかったのは自爆ありきの特攻でそれを悟られないようにする為だろう。
 十個の歩兵で一個の金将を落とす。
姫子はまるで将棋盤の上に立たされているような感覚に陥った。

姫子「直ぐ此所から離れるよ」

三花「え? どうし──きゃっ!?」

 姫子は口を開こうとした三花の腕を掴み、来た道を引き返した。
次の瞬間更に大きな爆風が二人の背後に巻き起こる。

三花「…………」

 何で分かったのかと言いたげな顔をしている三花に姫子は答えた。

姫子「そりゃ二年とちょっと同じ学校に居たんだもん。それくらいは分かるよ」
438 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:09:16.75 ID:Tb15Mm0AO
 相手がどのシチュエーションでどんな行動を取るか、いちごにはそれが全て分かっている。
 例えば桜高の全校生徒が購買を利用するとして、彼女にかかればその全員が何を買うかも分かるだろう。
極端な話、いちごは姫子達の眼球の動きすら把握出来るのだ。

姫子「胸糞悪過ぎるよ……!」

 姫子は奥歯をぎりぎりと噛み締めた。
 無残に爆ぜてゆく男達を見て足を止める事を予測、そしてその地点に本命の爆弾を仕掛ける。
戦いをゲーム感覚で楽しむ者がやりそうな事だ。

三花「でもどうするの? このままじゃまた入口に戻っちゃうよ」

姫子「…………」

 三花の言葉を無視し、姫子は三叉路で足を足を止めた。
439 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:10:06.76 ID:Tb15Mm0AO
姫子「ねぇ、小銭かメダルとか持ってない?」

三花「小銭?」

 突然の問い掛けに三花は訝しげに首を傾げた。

姫子「いや、この際平たくて裏表があるものなら何でも良いや。何か無いかな?」

三花「んー……」

 眉を顰めつつも三花は一応ブレザーのポケットをまさぐってみた。
そして手に当たったものを見て思わず苦笑する。

三花「おやつに食べたクッキーの残りが……」

姫子「それで良いよ、貰うね」

 おずおずと袋に包まれたクッキーを差し出す三花。
姫子はやけに冷めた目で、特に感慨も無くそれを受け取った。
440 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:10:46.17 ID:Tb15Mm0AO
三花「そんなので何するの?」

姫子「こうするんだよ」

 クッキーを壊れない程度に優しく指で弾き、手の甲で受け止める。

姫子「右に行くよ」

 クッキーに描かれた模様を確認すると姫子は即座に移動を開始した。
三花も慌ててそれに着いてゆく。
 それから姫子は道が別れる度に同じ事を繰り返した。
二回目にそれをした時には三花も姫子の意図に気付いたのだろう。
表情を曇らせながらもどこか納得したように頷いていた。
 こちらの意図が見透かされているなら自分の行動を天に任せれば良い。
そう思ってのコイントスならぬクッキートスだったのだ。
441 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:11:40.15 ID:Tb15Mm0AO
 こちらの行動が全て見抜かれているのならばその動きを運否天賦に任せれば良い。
無論行く手全てに罠を仕掛けられている可能性もあるが、何もしないよりかはマシだろう。

姫子「良い目が出てると良いけどね……」

 クジ運が良いかと言われると自覚出来るほど良いとは言えない。しかしこのまま自分の意志に任せて進むにはあまりにも心許無かった。

三花「行き止まり……」

姫子「…………」

 最悪だった。
 数あるパターンの中で最も引きたくなかったのがこのパターンだった。

「おやお嬢さん方、こんなところでどうなさいましたか?」
442 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:12:16.29 ID:Tb15Mm0AO
 二人の背後から大仰に背伸びしたような声が響いた。

姫子「……っ!」

 振り向くとそこに居たのは、眼鏡をかけた少し背の低い、初老の男だった。

「ふぅむ……。やはり良いものですねぇ現役の女子高生は」

 放たれた言葉はこの場にはあまりにも不釣り合いなものだった。

「お二方が履いているのはタイツですか。こうやって見るとなかなか良いものですねぇ、黒は脚線を美しく彩ってくれます。まぁ……私個人としては太股は露出してくれた方が嬉しいのですが」

 つらつらと語る男を尻目に三花と姫子は顔を見合わせ、ぽかんと口を開けた。
443 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:12:54.40 ID:Tb15Mm0AO
「おっとそうだ、大事な事を聞き忘れていました。失礼ですが……お二方は処女ですか?」

姫子「〜〜っ!」

 三花は一瞬だけ顔を歪ませて一歩身を引いただけだったが、姫子はその問いに対して露骨に動揺した。

「ほぅ、なかなか遊んでいそうな容姿なのにそっちはまだですか。良いですね良いですねぇ、勃起に値しますよ。提案があるのですがどうでしょう、私の子を孕んでみてはどうですか?」

 姫子の頭の中で何かが切れる音がした。
そのまま男に飛び掛かろうとしたその時、男は片手を翳してそれを制する。

「申し遅れました。私は従者衆が一人、加藤と申します」

 英国紳士のような大仰なお辞儀をすると、加藤は醜く目を細めた。

加藤「以後お見知りおきを」
444 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 17:14:24.30 ID:Tb15Mm0AO
姫子「今まで何人の女子高生を孕ませてきたんですか?」

加藤「良い質問ですねぇ!」

そんなノリ
445 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 17:43:08.67 ID:ImDJnpqmo
頭の中で加藤さんの容姿が池上彰になってしまった
446 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 18:24:50.49 ID:r4oHDQEDO
なんかまた凄いの出て来た!!
まさか二人目の変態とは、意表を突かれっぱなしだぜ、
純ちゃんの活躍を願い今まで繰り出した技で再現出来た物を投下する、
http://imepita.jp/20110110/637990 http://imepita.jp/20110110/637390

オマケ、叫ぶ和
http://imepita.jp/20110110/637990

>>424 >>425 >>426 >>427あんまり需要無いの分かってたけど良い機会だから次から自重するわ、
凄過ぎて再現出来ないシーンが増えそうだしな、
という訳でこれからはもう少し普通に>>1を応援するよ。
447 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 23:10:46.75 ID:+OcXD86AO

陵辱シーンギリギリのやつお願いします


>>446
まあ結構楽しかったよ
448 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 23:50:27.18 ID:kyhIb0EHo
登場早々なんですが、加藤さんのキャラが大好きです
449 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 01:44:12.35 ID:f77aLfHk0
乙。
もしよければあずにゃんドMよりドSのが好みなんで
憂にゃんを攻めちゃってるのがえちぃの見てみたい。
とりあえず、100レス以内に、姫子がしにそう
450 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 05:13:27.74 ID:841DEKUno
>>1乙です。

加藤さーーーーんンンッ!!!!

唯ちゃんの拷問を優先しろと、いちご様が言ってましたよォォォ!!!!


451 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 08:14:09.03 ID:gXzmYHDAO
>>446乙 俺もフィギュア欲しくなってきた


加藤と聞いて加藤鷹さんを思い出した
452 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 09:39:38.11 ID:vdgOPfUAO
 終末の舞はその幕を降ろそうとしていた。宙に投げ出された澪とそれを駆逐せんと最終兵器を以て対峙するタナトスは、その刹那の間見つめ合っていた。
 黒曜石とガーネットがきらりと瞬く。
 宙で逆さになった澪を受け止めるように、氷の礫が寄り合って足場を形成した。

澪「さて、と……」

 手の内で器用に刀を回しつつ、慣れた様子で氷に着地して受け身を取る。
空中に居る人間が二段で跳躍出来ないのならば、空中に足場を作れば良い。
そんな当たり前だが実現不可能な事を、澪は無感動にあっさりと実現してしまう。
453 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 09:40:10.33 ID:vdgOPfUAO
 落ちゆく氷の足場からタナトスの砲台が完全にせり上がったのを確認すると、澪は良い頃合だと心中で呟いた。

澪「楽しかったよ。次に生まれる時はお互い普通だと良いな」

 澪はそのまま一気にタナトスの砲台へと跳躍した。
 死と対峙して澪は一つだけ気付いた事があった。
それはタナトスが完全な機械などではなく、何かをベースに造られた『生命体』だという事だ。
 赤く輝く瞳の色がまるで感情を持っているかのようにころころと変化している事がそれを証明している。
 ただ終焉を彩る為だけに生み出された運命がどれ程辛いのか。
間違った力を手にしてしまった澪には少なからずそれが分かった。
454 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 09:40:43.86 ID:vdgOPfUAO
 能動的に力を手にしたのと受動的に力を手にしたのではその罪深さの度合いは比べるまでも無いのだが、『存在そのものが危うい』という点で共通しているタナトスを澪はひたすらに憐れんだ。

澪「お疲れ様」

 そんな在り来たりな労いの言葉をかけて、澪は目の前に迫る砲台の穴に刃を突き立てた。
それにおくれて砲台内部から眩い光が漏れ始める。
だがそれすらも包み込む青色が砲台の先から広がった。
 タナトスの呻き声が咆哮に変わり、そして悲鳴となる。
455 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 09:41:16.64 ID:vdgOPfUAO
 全ての力をシャットアウトするアンチエネルギーフィールドの唯一の穴。
それは自身の体内で作り出したエネルギーの通り道となる砲台だったのだ。
 それが分かれば後は早い。
その穴からタナトスの内部へと、溢れんばかりの力を注いでやるだけだ。

澪「暴れるなったら! お前はもう終わってるんだよ……!」

 打ち上げられた魚のように暴れ狂うタナトスにしがみつき、澪はありったけの闘気を冷気に変えて注ぎ込む。
 そして遂に……。タナトスの身体が爆ぜた。
 肉片と化した胴から済し崩しに身体のパーツが爆ぜてゆく。
456 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 09:41:57.80 ID:vdgOPfUAO
 崩れ落ちる肉片、飛び散る血、弾ける臓物。
目に映る全てのものが落下してゆく中で、澪は悲しい光を放つ紫を見た。

澪「唯……?」

 それは瞬きをする毎に目の前に近付いてきて、掛け替えの無い友の面影を映し出してゆく。
 薄く発光している掌がそっと澪の頬を撫でた。
澪は何となく、それの真似をして目の前の光に手を翳してみたが、血に塗れた手は虚しく宙を掴む。

「……アリガトウ、澪チャン」

 頭の中に直接語りかけてくるのは唯の声だった。
だがその言葉を覚えたばかりの赤児のような片言は、唯の声ではあるものの唯のものではない。

澪「唯……じゃない。お前まさか……!?」
457 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 09:42:34.65 ID:vdgOPfUAO
 ふと下を見ると大地が迫って来るのが見えた。
澪は止まっていた時間が動きだしたかのような錯覚に陥る。

澪「おい待て! 待ってくれ!」

 冷静な思考能力が欠如してしまい、無駄だと分かっているのに身体を捩らせて足掻いてしまう。
無情にも光は遠ざかってゆき、吹雪と共に消えていった。
 澪がそれを見届けると同時に、地面に激突しかけた身体を水が受け止める。

澪「何で最期に、そんなこと言うんだよ……」

 決して理解などし合える筈が無いと思っていた。
それなのに、死を纏う龍は最期に告げたのだ。
まるで人の心を持ったかのように、ありがとうと。
458 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 09:43:09.95 ID:vdgOPfUAO
 それなのに自分は歩み寄れた筈の存在を斬り捨ててしまった。

澪「ふざけるなよ……。感謝なんてされたって気分が悪いだけだ……!」

 言葉とは裏腹に、唯の姿を模した光を追う自分がもどかしかった。
 刀を手放し、両腕を空に翳す。
耐寒スーツの裂け目から入り込む冷気が身体を舐めても、澪は虚ろに空を仰ぐだけだった。

澪「…………」

 翳した手を覆う黒い生地の向こうで肌が透けて見えるのが、生きている実感を与えた……のだが。

澪「つっ……」

 ピンポイントに狙ったかのように、手首に細い針のようなものが突き刺さった。
459 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 09:43:47.89 ID:vdgOPfUAO
 澪は首だけを針が飛んできた方に向ける。

江藤「初めまして」

 その豊富な起伏を持つ身体を包むにはやや窮屈な正装を身に纏った女が居た。
 従者衆が一人、江藤。
毒を以て実質しずかを死に追いやった張本人だ。

澪「一難去ってまた一難か……。まったく、一息入れる暇も無いな」

 気怠くも身体を起こそうとした。
そして澪は自分の身体を蝕む異変に気付く。

江藤「ふふっ、安心して。一息どころか何時間でも付き合ってあげるわよ、リラックスしてちょうだい」

 獲物を狙う蛇のように静かに、だが着々と江藤は澪に近寄ってゆく。
460 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 09:44:23.65 ID:vdgOPfUAO
 澪の腹に跨がり、少しだけ腰を捩らせて衣越しに秘部を擦りつけると、江藤は澪の耳朶に舌を這わせて囁いた。

江藤「天国に連れてってあ げ る か ら」


 細い指で澪の顎を掬い取るように持ち上げ、妖艶な瞳で澪を居抜く。
それに対して澪の眼光は不気味なまでに冷たかった。

澪「参ったな……。身体が動かない、というか動かそうとするのも億劫だ」

江藤「あはっ、そーゆーお薬だからね。だってこうでもしないと皆素直にならないんだもの」

 澪は試しに目の前で卑しい笑みを浮かべている江藤の顔面に拳を捩じ込んでやろうと試みた。
腕は痙攣しながらも何とか自分の意志で動かせたが、それだけだった。
461 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 09:45:04.73 ID:vdgOPfUAO
江藤「うふふっ、きれーな身体してるのにこんなに汚しちゃって。直ぐに綺麗にしてあげるわ」

 江藤は避けた衣服の胸の部分を大きく広げ、現れた豊満な双丘に滲む赤色に舌を這わせてゆく。

江藤「良いわ……。澪ちゃんの味とっても美味しいわよ」

澪「……どうして私の名前を?」

 普通ならば激しい嫌悪感に身を悶えさせるのだが、澪は自室で音楽を聴いている時のような落ち着きを払っていた。
それを見た江藤は僅かに苛立ちを覚えた。
そしてそれと同時に嗜虐本能をふつふつと駆り立てられる。

江藤「……そんな事どうだって良いじゃない。貴女はこれから死ぬまでの間ずっと私に犯され続けるんだから」
462 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 09:46:01.09 ID:vdgOPfUAO
 冷たく蹴落とすような物言いだった。
だがそれでも澪の瞳は冷めたままだ。

澪「…………」

 澪は特に感慨も無さげに閉口する。
このままではつまらないと判断したのだろう。
江藤はスカートのポケットから一本の注射器を取り出した。

江藤「ねぇ、これが何か分かる?」

 澪の眼に針先を突き付け、江藤は口角を醜く歪めた。

江藤「ふふっ、簡単に言えば超強力な媚薬なの。これ打つとね、どんなに強情な子でもすっごく可愛くなっちゃうのよ」

 猫撫で声で恐怖心を煽る。
だが澪は全く物怖じしない。それどころか深く溜め息を吐いて。

澪「だったらやってみろよ色情魔」

 不敵に微笑んでみせたのだった。
463 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 09:46:39.20 ID:vdgOPfUAO
江藤「…………」

 江藤は驚きのあまり目を大きく見開いてしまっていた。
だがその驚きは数秒と待たずに憎悪へと変わっていく。

江藤「……後悔しても遅いわよ」

 そう言うと澪の首筋に針を刺し、中の液体を躊躇なく注ぎ込んだ。

澪「つっ……」

 澪は僅かな痛みの後に身体の中を何か得体の知れない物が駆け巡るのを感じた。
 瞼が重くなり、全身が蕩けてゆく。
下腹部がじんわりと疼き始め、まるで身体中を虫が這っているような気分だ。

江藤「どこからして欲しい? 壊れるまで責めてあげるわよ」

 大股を開いてよがり狂いたい気分であるにも関わらず、澪はそれでも声を潜めていた。
 そんな彼女の抵抗をそっと振りほどくように澪の口内に江藤の舌が潜り込んできた。
 塗り潰すように深く、深く──。
464 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 09:47:37.67 ID:vdgOPfUAO
寝ますおやすみ
465 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 11:53:47.09 ID:/g2N38JRo
こんな時間に珍しい!
乙です。

江藤はムギちゃんの百合師匠なの?

こんな護衛を側に置くなんてムギちゃんが食べられてないのか心配だwwww
466 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 17:35:20.89 ID:GW2dWBlAO
え、どんなノリ?

>>465 んな事言ったら加藤のほうが恐いwwww
467 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 19:03:28.58 ID:sPuD5olAO


ムギの家の従者変なやつ大杉だなwwwwwwwwwwww
468 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 17:07:49.46 ID:5tM2lL8AO
そんなノリ
なかったな


ところで移転するの?
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

469 :真真真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 00:22:08.40 ID:IXd3gOqDO
>>1移転乙です、

今回は再現出来たよ、

http://imepita.jp/20110115/004100 http://imepita.jp/20110115/004590
澪が真上に飛ばされてた場合、
http://imepita.jp/20110115/005120 http://imepita.jp/20110115/005420
>>451サンクス!

>>468多分限界だったんだろうな。
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/18(火) 03:22:29.10 ID:p2VfEvmAO
まだか
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 00:57:01.99 ID:DPyb3v/AO
俺は寝る
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 02:03:49.76 ID:I/cm9DI60
報告
仕事が良い方向に急転しはじめたから糞忙しくなった
それに伴って投下ペースも極端に遅くなりそう。というわけで少し短い月刊誌でも見る気持ちで待っててくれたらありがたいです。
目処は立ってないからいつになるか分からないけど落ち着き次第元のペースに戻すよ。
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 09:26:52.55 ID:k6QDul+6o
>報告乙
楽しみにしてるぜ
仕事もがんばれよー
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 10:49:35.42 ID:EAHPXNkSO
このご時世に好転とは
うらやま
把握
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 15:44:49.05 ID:IKfnT1Zqo
さぁ、みんなで>>1が暇になる呪いでもかけようか
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 15:59:47.67 ID:Ml9s3GfAO
わかりました。
忙しいうちはこのスレの事は気にせず、仕事がんばってください。
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 00:21:12.03 ID:U0xCdW6DO
>>1
了解。
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:30:46.94 ID:uD4DeO0AO
律「うわああああっ! 無理無理ムリ!!」

 弾丸の雨を掻い潜り、斬撃の嵐を押し退ける。
無鉄砲に単独で突っ込んでいった律はまだ闘気をコントロール出来るまでに至っていない。
 律のスタイルが一対多数で相手を掻き乱す事に特化しているとはいえ、蟻のように群がる戦闘員を前にしては些か肝を冷やしていた。

律「やっべ──!」

 跳躍して着地したところで足を捻ってしまう。
刀を持った男がその隙を突いて切りかからんとした時、歪な体勢のまま盛大に吹き飛んだ。

紬「気持ちは分かるけど、ね?」

 紬は律の気持ちを鎮めるように微笑んだ。
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:31:21.96 ID:uD4DeO0AO
 律の気持ちが急いてしまうのは嫉妬心、或いは焦燥感のせいだった。

純「さぁて、どうしたもんですかね」

 後ろから優雅に歩いてくるのは純だった。
道中で敵から奪った粗末な刀を玩具のようにくるくると弄びながら、溜め息混じりに敵達を見据える。
 自分達より一つ下の純が悟ったように落ち着いているのが律の負けん気を煽っていたのだ。

律「…………」

純「ああ、ちょっと避けてた方が良いですよ。こういうのは慣れないから巻き込んじゃうかも」

 律のそんな気も知らずに純は府抜けた声で呼び掛けた。
そして刀を腰の辺りで構え、居合いの要領で振り抜く。
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 01:32:08.21 ID:GPBmCbgqo
きたwwwwww
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:32:09.90 ID:uD4DeO0AO
純「七閃──!」

 刹那、爆風が螺旋状に吹き荒れた。
それをなぞるように七つの閃きが扇状に床を這う。
目にも鮮やかな淡い緑が駆け抜けた。

純「っと……」

 刀を振り抜いてから元に戻す頃にはずたずたに引き裂かれた再起不能の人間の山が築かれていた。

純「行きましょうか」

 純は何事も無かったかのように再び歩き出す。
その後ろを律が舌打ち混じりで不機嫌そうに追い、紬はそんな律を慮るように見据えていた。

紬「りっちゃん……」

律「分かってるよ。それくらい馬鹿な私でも分かる」

 恐らく純のペースに合わせる事が今出来る最善なのだろう。
しかしそんな理性と責めぎ合う感情があった。
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:32:49.42 ID:uD4DeO0AO
律「でもよ──っ!」

 報われない自分の努力と、溢れる才覚を飄々とした言動で打ち消している純の態度が律の感情を煽り続ける。

律「お前さっきからやる気あんのかよ!? のうのうと歩いてる場合じゃないだろ!」

 目を険しく細めて純の背中を睨み付ける。
背後からの声にそっと振り向いた純はその眼圧を受けてなお、気怠そうに溜め息を吐いた。

純「ここまで来てまだ分かんないんですか?」

律「は?」

 純の諭すような口調は律の思考を一瞬だけ掻き乱した。
 律が本気で自分の意図、否和の意図を理解していない事に純は歯痒そうに頭を掻く。
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:33:46.47 ID:uD4DeO0AO
純「あー……なんて言えば良いのかな。まぁ要は私達は遊撃隊みたいなもんなんですよ」

紬「遊撃?」

純「そう、遊撃です。あくまで私が勝手に先輩の意図を読んだ仮の話ですけどね」

 くるくる刀を回してそれを軽々しくナイフでも投げるように放った。
刃物が肉に刺さる鈍い音と共に律の背後で男が倒れる。

純「はなっから澪先輩ありきの潜入なんですよこれは。唯先輩を救出するのも此所を壊すのも、全部澪先輩に任せて私達は目の前の敵を相手にだらだらしてれば良いんです」

 律と紬には純の言い分に対する反論は幾らでも有った。
しかし彼女達は口を開かない。
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:34:21.33 ID:uD4DeO0AO
純「そうですねぇ、現状は『沼』の罠も見越して迂闊にでしゃばらないようにってとこかなー」

律「でも澪は……」

純「あの化物に喰われたとでも? それは幾ら何でも今のあの人を見くびり過ぎですよ。ぶっちゃけると今の澪先輩は憂よりも怖いですから」

 純の言葉を聞いて律は思わず息を飲んだ。
 想像してしまう事すら罪深い平沢 憂という少女の羅刹のような力。
今の澪はそれすらも凌駕しているのだ。
 身に纏う闘気は森羅万象を凍て付かせ、放つ閃きは有象無象を虚構に還す。
 その彼女こそがこの戦いにおける桜高サイドの切札なのだ。
切札がナンバーカードに負ける事など断じて無い。
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:34:53.23 ID:uD4DeO0AO
「なるほどな。彼女がそちら側の切札という事か」

紬「っ!?」

 背後から響いた声に紬は胸を跳ねさせた。
条件反射で振り向くもそんな事に意味などない。
それは振り返った先に居る者が視覚される前に姿を眩ましたとか、その容姿を隠す為に仮面を被っていたなどという小難しい理由じゃない。
ただ単純に、振り向く前に解ってしまったから。

紬「……斎藤」

 仮に他の従者衆全員と対峙する事になっても、彼とだけは戦いたくなかった。
 だがかつての従者、慕っていた男は紬から目を逸らさずに立ち尽くしている。
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:35:23.41 ID:uD4DeO0AO
斎藤「しかしそれならば事を起こすにはあまりにも早過ぎたな。いや、遅過ぎたとも言えるか……」

 ぶつぶつと独り言を呟きながら、斎藤は一歩一歩踏み締めるように全身してゆく。

律「……先ずは中ボスか。やってやんよ!」

 自身を鼓舞し、勇んで地を蹴ったのは律だった。
力量の差は痛い程に理解していた。だが彼女には先陣を切らなければならない理由があったのだ。

斎藤「…………」

 律は真っ向から突っ込むような真似はせず、狭い廊下の壁や天井を使って縦横無尽に駆け巡った。
だが斎藤はそれを目の前を飛び交う蚊を見るような目で見ている。
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:35:54.12 ID:uD4DeO0AO
 やはり子供騙しの生半可なスピードでは相手にならないのだろうか。律は心中で毒づきながら紬の方を見た。
 皆殺しにするとは言ったもののやはりかつて慕っていた男と対峙するには精神が幼過ぎたのだろう。
敵前であるにも拘らず、ただ拳を作って目を伏せていた。
ならば頼れるのは彼女しかいない──。

律「だぁらああああっ!」

 背後に回っての頸椎を狙った足刀が炸裂する。
意外にも斎藤はそれに対して何のリアクションも起こさなかった。
蹴りがクリーンヒットした時の心地良い痺れが律の足に伝わる。

律「やっちまえ!」

 だが律はあくまで布石でしかない。
見ると純が滑り込むように斎藤の懐に入っていた。
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:36:25.45 ID:uD4DeO0AO
純「刹那──」

 二つの眼でしっかりと標的を捉え、錬磨した闘気から打ち出されるのは全てを打ち砕く打撃。

純「五月雨打ち──!」

 刃は零れ、斬る事よりも殴打する事に特化した刀からは幾千、幾万もの暴力が放たれる。

斎藤「甘い!」

 殴打の嵐を掻い潜るなどという女々しい策は使わない。
斎藤はただ力任せに純の鳩尾を殴りつけた。

純「んぐっ──!?」

 衝撃に耐えようと思ったのはほんの一瞬だった。
次の瞬間には既に得物は手から離れ、その身は宙に投げ出された。
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:37:00.90 ID:uD4DeO0AO
斎藤「ふん、貴様クラスの者にでしゃばられると厄介なのでな。だから……」

 斎藤がそう呟いている内に純は空中で身を翻し、追撃を放たんとしていた。

斎藤「跪け」

 不屈の闘志を折ったのは、そのたった一言だった。

純「──っ!」

 斎藤が直接手を下すまでもなく純の身体は床に叩き付けられる。
まるで膨大な重力の力場が一瞬で発現したかのように、理不尽の鉄鎚が純を捉えた。

斎藤「……どれだけ鍛練を積んだところで人の域を外れる事など出来やしない。それはあの龍の片割れも、青の闘気の女も例外ではない」
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:37:31.19 ID:uD4DeO0AO
 斎藤は床に吸いつけられている純をサングラス越しに冷淡な瞳で見下し、おもむろに片足を上げた。

斎藤「だがそれは恥ずべき事ではない。人の身から人の身を持って生まれたのなら、せめて人のまま死ね」

 斎藤の革靴の底が何故か純には大きく見えた。
このままいけばまるで熟れたトマトを踏みつぶすように、純の頭部は粉々に粉砕されるだろう。

律「ちっ……!」

 その傍ら、斎藤の背後で律は顔を引きつらせていた。
今動かなければ純は死ぬ。それはつまりここに居る三人のゲームオーバーを意味する。
頭では解っているのに、それでも律の身体は動かない。
 たとえどれだけ速く動ける身体を持っていても、零から一歩目を踏み出す速さには限界があるのだ。
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:38:06.93 ID:uD4DeO0AO
 二人が半ば諦めていた時、絶望を照らすように彼女の金色の髪の毛が舞った。

紬「止めてっ!!」

 倒れ伏す純を横切り、紬は力任せに、単調に、握り締めた拳を斎藤の鳩尾に捩じ込んだ。

斎藤「ぐっ……」

 ただでさえ強烈な威力を持つ紬の拳を片足立ちの不安定な体勢で受けたのだ。
たとえ闘気を纏っていたとしても、その力は容易に緩和出来るものではない。
 一瞬だけ身を浮かせ、両の足でしっかり床を踏み締めるも、そのまま大きく後退してしまう。

律「余計な心配だったな……」

 のけ反る斎藤を背後で迎え撃つは律。
彼女は少し微笑みながらそう呟いた。
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:38:35.60 ID:uD4DeO0AO
 斎藤と対峙した時、恐らく紬は使い物にならないだろうと律は踏んでいた。
 ならば先陣を切って低下した士気を底上げしてやるのが軽音部部長の自分の役目だろう。
先の特攻はそう思っての策だった。

律「さぁて、人の心配してる場合じゃないなっ──」

 腰を落とし、右腕を振りかぶる。
放たれるのは速さの限界を越えた一万の拳だ。

斎藤「っ──」

 振り返って衝撃に耐えようとした顔面が無理矢理押し返される。
サングラスは一瞬で粉微塵になり、斎藤の視界を遮った。

純「なーんか三日ぶりに身体動かす気分です。一瞬どうなるかと思いましたよ……」

 腰を落としつつ、斎藤の懐に潜り込む。
両腕は真横に広げており、平手を作っていた。
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:39:02.04 ID:uD4DeO0AO
 軽音部対他の部活の抗争の際に彼女が颯爽と現れ、まるで大仰な顔見せのように放った技。
それの上位互換となる技が放たれんとしていた。

純「暴飲暴食──」

 一喰い─イーティング・ワン─。
 ただの平手打ちであるその技はそれ故に強い。
極限まで追及した単純動作は他の追随を許さない破壊力を持つのだ。
 そして暴飲暴食は一喰いを両の腕から放つ技。
何千トンもの圧力を持つ掌に挟まれると、赤児ならばその存在自体が消えて無くなる。
 だが暴飲暴食に対して斎藤が取った行動は、その場において最も適したものだった。
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:39:29.27 ID:uD4DeO0AO
斎藤「ぐぅ……っ!」

 脇を固めて両腕を盾にし、暴飲暴食を真っ向から受け止める。

多大な衝撃を受けた手首からは噴水のように血が噴き出した。
 斎藤はそのまま力なく膝を折り、両手を床につける。

純「土下座したって許してあげませんよーだ!」

 純はサッカーボールを蹴り上げる要領で爪先を斎藤の頭に捩じ込もうとしていた。だが……。

純「うっ……?」

 斎藤は夥しい量の血を流す手でその蹴りを受け止めた。
そしてのっそりと立ち上がり、純達より頭二つ分程高い目線から言う。

斎藤「……これで満足か?」
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 01:41:57.42 ID:uD4DeO0AO
斎藤「偉大なる俺と対峙する事を許そう」

純「これが言葉の重み…!」

そんなノリ
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 02:15:54.72 ID:3oZ4UTxAO
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 02:55:01.69 ID:ZS62MDdno
切なさ乱れ打ちってそんな技だったか
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 04:52:37.08 ID:q0XdFyiko
斉藤「俺は天の道を往き、総てを司る男」
純「おばあちゃんは言っていた…」

そんなノリ
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 06:05:46.72 ID:0p4cjefAO
斉藤さんかっけえな
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 18:56:30.69 ID:aRWqUjpDO
凄過ぎてもうフィグマじゃあ再現できねぇ。
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 12:59:06.59 ID:SfSAEUVbo
乙です!

何か斎藤さんがパワーアップしてる?
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 13:39:56.20 ID:KXjpglero
>>502
斉藤「斉藤を超えた斉藤を超えた斉藤…スーパー斉藤人3ってとこか…」
紬「問題です。今の一言に”斉藤”は何回言われたでしょう♪」

そんなノリ
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 18:10:56.06 ID:yYVkNG9po
斎藤さん、突如次元の裂け目から現れた憂さんにぬっ殺されそうな雰囲気…。
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 22:29:20.20 ID:g4Tf1mjAO
ていうか澪はマジで憂ほどの実力があるのだろうか
今の憂じゃないよな……今はもう存在してるだけで周りを塵と化すレベルだからな……
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 01:59:02.71 ID:xb8/4d5Q0
>>505
澪の実力は姫子対唯の時の憂と同じ。
作中で今の憂の実力を知ってる人が居ないから便宜上憂と同等と書いてるだけだね。
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 09:01:58.98 ID:uS/k1vIAO
だよな
今の憂が動き出したら誰にも止められない
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 09:18:12.00 ID:Ja1kf7tAO
 例えば人としての個体を持ちながらにして人の域を越えるとする。
この際の『人の域を越える』事の定義は曖昧なままで良い。
学問、武術、芸術。その他諸々において何か一つでも神域まで到達したとしよう。
 人という器に注がれた神の叡智はそれに収まる筈もない。
ならばキャパシティーの限界を越えて力を垂れ流し続けるその個体は、神を名乗ることなど出来るのだろうか。
或いは、人を名乗る事すらおこがましいのかもしれない。

斎藤「神の真似事をした事はあるか?」

 夥しい量の血を流し、傍から見れば既に満身創痍にしか見えない。
それでも斎藤ははっきりとそう口にした。
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 09:18:45.55 ID:Ja1kf7tAO
 だが三人に斎藤の問いの意図など分かる筈も無い。
この世に存在しないものを理解する事など出来やしないのにそれの真似事と言われて明確な答など出せない。

斎藤「辛酸を舐め、血の雨を浴び、渇きで飢えを誤魔化したその先に見えるもの。私はそれこそが神の力だと信じていた」

 つらつらと語る斎藤を横目に純は舌打ちした。
たとえ相手が敵でなくとも、純はこの手の人間が嫌いだったのだ。

斎藤「肉親をこの手で屠り、修羅の時を駆け抜けてようやくそれを手にした私は罰を受けた」

 純の苛立ちを知ってか知らずか、斎藤は声色を変えずに語り続ける。
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 09:19:21.45 ID:Ja1kf7tAO
斎藤「振り返った先には何も無かった、罪深い人生だったよ。手にした力は神を模した紛い物で、上ばかり見続けた私は何も掴めなかった」

純「で、何が言いたいんですか?」

 痺れを切らした純が遂に斎藤に食って掛かった。
逆にここまで何もせずに居ただけでも彼女にしては辛抱強かった方だろう。
相容れない思考を持つ人間と妥協しながら対話する事など純には出来ない。

斎藤「…………」

純「いろいろムカつくんですよね。そうやって悟ったみたいに自分が選んだ道を悲観する人って」

 愚か者だ、と純は腹の中で斎藤を一蹴した。 
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 09:20:01.80 ID:Ja1kf7tAO
純「強くなるのに理由なんて要らないのに、カチカチの頭で自分の首を絞めて『私は苦労してきました』って言いたいんですか? そういうのって逃げでしかないと思うんですよね」

 片足で強く床を踏み付け、体内を流れる闘気の色を切り替える。
次の瞬間、舞い上がったのは赤色の闘気だった。

斎藤「逃げ、か……。確かにそうかもしれない。神域から逃げて紛い物の神の力を使う私は真の意味で人を辞めた者から見れば弱いのかもな」

 自嘲染みた笑みを浮かべると斎藤は純の闘気に合わせるように右手を翳した。
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 09:20:45.32 ID:Ja1kf7tAO
斎藤「だがこれだけは覚えておけ。理由無き強さに意味など無い。人は誰かの為に闘う時、本当の意味で強くなれるのだ」

 斎藤は横目でかつての主人を一瞥し、厳かな口調で呟いた。

斎藤「修羅道──」

純「──っ!?」

 何の前触れもなく、純の身体の至るところから血が噴き出した。首から上の外気に触れる部分には無数の切り傷が出来ていることから、耐寒スーツの下の肌も引き裂かれているのが分かる。

純「なん……で……?」

 有り得る筈が無い。
斎藤の身体は指一本とて純に触れてはいなかった。
先の不可思議な圧力攻撃の事もあって彼女は斎藤の闘気の動きに目を光らせていた。それなのに──。
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 09:21:24.97 ID:Ja1kf7tAO
 闘気の動きは一切観測していない。
つまりこんな不可思議な現象は起こせる筈が無いのだ。人間である限りは。
 純はまともに立つ事すらままならず、ふらふらと膝を折り、額から床に顔を伏せた。

純「が……はっ……!?」

 解らない。それがどれだけ恐ろしいかを純はこの時身を以て実感した。
傷口自体はそう深くはないものの、痛みは精神的苦痛も相俟って増大してゆく。
手足は震え、全身の毛穴からは嫌な汗が噴き出した。

斎藤「緑から赤……。闘気の色を塗り替えられるのか?」

 訝しげに目を細めつつ、斎藤は純の髪の毛を乱暴に掴み上げた。
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 09:22:20.04 ID:Ja1kf7tAO
律「やめとけ」

 苦痛に歪む純の顔をしげしげと見つめていた斎藤。
その背後で怒気を含んだ律の声が鳴った。

律「そいつは確かにムカつくやつだけどよ。それでも唯を助ける為に来てくれた仲間を放っておくほど……」

 避けようと思えば楽に避けられた。
だが斎藤は静かにほくそ笑むだけでその場から動こうとしない。

律「人間出来ちゃいないんだよ──!!」

 渾身の力で拳を振り抜く。
たったそれだけの事を容易にはさせない空気を醸し出す斎藤の覇気を、律は見事越えて見せた。
 律の拳から腕を伝ってくる確かな手応えは、彼女の勇気の賜なのだろう。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 09:23:26.75 ID:Ja1kf7tAO
斎藤「良い拳だ」

 だが斎藤は崩れない。
 衝撃を受けて血が吹き出る側頭部を庇おうともせずに律の足首引っ掴み、身体を軽々しく振り回した後に頭から床に叩き付ける。

律「〜〜っ!?」

 律は悶絶するしかなかった。
しかし斎藤の追撃、破壊が目の前に迫って来ている。

斎藤「誰よりも正しくあれ。そうすれば自ずと力はつく」

 純の頭から手を離し、斎藤は律の足首に手を掛けた。

律「──おい! まさか……!?」

 自分の右脚に掛かる力の動きから律は斎藤が何をしようとしているのか悟った。
だがどうする事も出来ない。身体を動かそうにも足首を固定されているので抗う術など無かった。
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 09:24:03.82 ID:Ja1kf7tAO
律「やめっ、止めろ──っ!!」

 ぼきり──。
 律だけでなくその場に居た全員にはっきりとその嫌な音が聞こえた。
それに遅れて声にならない悲鳴が斎藤の耳を劈く。

斎藤「今は邪魔だ。そのまま寝てろ」

律「はっ……はっ……」

 目に涙を滲ませ、右足を庇いながら這いずる律を見下し、斎藤は躊躇無く彼女の左足を踏み砕いた。
 律は短い悲鳴を上げると床に顔を埋め、静かに唸る。

斎藤「さて……。途中だったな」

 斎藤の目からは律への関心の色は消え失せており、視線は倒れ伏す純の方へと向かっていた。
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 09:24:43.52 ID:Ja1kf7tAO
斎藤「さしずめマルチタイプと言ったところか……。確かに便利な力だが、容量を削ってやれば何と言うことも無いな」

 戦意を叩き折られて瞳を濁らせた純の頭を掴みあげ、眉間にそっと指を当てる。

斎藤「餓鬼道──」

 一瞬だけ純の身体は跳ね、そのまま動かなくなった。
目は虚ろ。口はだらしなく開かれており、涎が垂れている。
 少しふらつきながら立ち上がり、斎藤はスーツのポケットから煙草を取り出して火を点けた。

斎藤「威勢が良いのは最初だけですか? 紬お嬢様」

 紫煙を吐き出し、傍らで立ち尽くす紬の方を見る。
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 09:25:19.09 ID:Ja1kf7tAO
紬「…………」

 紬は何も答えない。肩を震わせて俯き、斎藤と目を合わせようとすらしなかった。

斎藤「仲間の危機を目の当たりにしながら指を咥えるような子に育てた憶えはありませんがね……」

 斎藤は明らかな失望の色を隠そうともしなかった。
煙草の火はじりじりと葉を焦がしてゆく。

紬「……どうして貴方と闘わなきゃいけないの?」

斎藤「私は貴女の敵だからです」

 斎藤は紬が絞り出した言葉に被せるように即答する。
そして短くなった煙草を大きく吸い、指で弾いた。
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 09:26:26.96 ID:Ja1kf7tAO
紬「解らない……。どれだけ憎んでも憎み足りないくらいなのに……」

 固く握り締めた拳からは血が滴り落ち、頬を伝った涙が顎先から床に吸い込まれてゆく。

紬「闘いたくないの……!」

 仲間を捻り潰された恨みと未だに根付く斎藤への敬愛の想いが紬の中で責めぎ合う。

斎藤「……及第点には達していませんでしたか。ならば致し方ありませんね」

 斎藤はスーツを脱ぎ捨て、詰襟のシャツの第一ボタンを外した。

斎藤「再教育です」

 袖をたくし上げ、露になった太い腕を二、三度回す。

紬「…………」

 紬はそれをただ虚ろな瞳で見つめていた。

斎藤「六回死になさい。六道を巡ればその府抜けた根性も少しはまともになるでしょう」

 かつて死の淵に力を見出し、六道を統べる力を手にした男がかつての主君に牙を剥く。
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 09:35:24.86 ID:Ja1kf7tAO
忘れてた

斎藤「まずは君からだ。アルコバレーノ」

律「うがーっ! 幾らなんでもあんなに小さくねえよ!!」

そんなノリ
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 12:13:21.57 ID:uS/k1vIAO
紬覚醒来るか!!
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 14:18:22.80 ID:dtvD6obgo
乙です!何か忙しそうなのにありがとね!!

>>521待て、その前に律だろ!!
俺の律っちゃんがこんなに噛ませ犬な訳がないwww
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 20:08:10.04 ID:HWD8OsAAO
六ww道ww骸wwww
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 09:40:23.35 ID:QY+kj8YAO
>>522
特攻かけてからの活躍具合じゃ、ムギと律は同程度だしな
次に目醒めるとしたらどちらか……のハズ!
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 14:38:16.11 ID:OjNOpGWvo
紬「行くわよ…」
斉藤「これは…沢庵道奥義の構え…」

そんなノリ
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 19:56:03.45 ID:YRz+mxHAO
加藤「良い攻撃ですねぇっ!」

 加藤は老いた見た目とは裏腹に機敏な動作で相手の技を捌いてゆく。
それだけでこの男がかなりの達人である事が解る。
何故ならば今現在加藤の相手をしているのが姫子だからだ。

姫子「苛々するなぁもう──っ!」

 加藤が少しは真面目に対峙していれば姫子はここまで苛立つ事も無かっただろう。
飄々とした態度とは裏腹に加藤の動きには一切の無駄、澱みがなく、その道に聡い者ならば数秒打ち合うだけで敬意を抱かせるほどの凄味があった。

加藤「なかなかどうしてしつこいですね。そろそろ無駄だという事に気付きませんか?」

姫子「うるさいっ!」
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 19:56:33.01 ID:YRz+mxHAO
 姫子は加藤の態度が先の変態発言を抜きにしても気に食わなかった。
 力を持ちながらにして努力を怠る者、真面目に取り組まない人間こそが彼女が嫌悪する対象だからだ。
 初対面で純の事を嫌いだと言い切ったのもその根本からきている。

加藤「ふぅむ……。あまり強がらない方が自分の為だと思うんですがねぇ。その方が孕んだ後の自己嫌悪も少なくて済みますし」

 冗談じゃない。姫子は腹の中でそう毒づいた。

三花「ねぇ、やっぱり私も手伝った方が……」

姫子「駄目!」

 傍らで退屈そうに欠伸をする三花を一蹴し、姫子は更に眉間に皺を寄せた。
 汚ならしい小男に自身が努力と慎ましい生活からこつこつと培ってきたプライドを足蹴にされたと思うと、それだけで姫子の中から何か熱いものが込み上げてくるのだ。
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 19:57:05.51 ID:YRz+mxHAO
姫子「この──っ!」

 軸足を捻り、腰の回転を乗せたしなやかかつ強靱なる上段回し蹴りを放つ。
それは加藤の首筋を打ち、一撃の元に沈める威力を持っていた、だが。

加藤「あぁ……たまりませんねぇ。この程よい肉付き、曲線。見ているだけでリビドーに呑まれてしまいそうだ」

 蹴りが来る事を予め予測していたかのように、それが放たれる頃には加藤の首筋には掌という盾が添えられていた。
言わずもがな姫子の足は加藤の手にがっしりと掴まれる羽目となった。

加藤「爪先から内腿まで丹念に垢を舐めてあげましょうか。ああ、もう想像しただけで──っ!」
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 19:57:36.40 ID:YRz+mxHAO
 加藤は口を半開きにして身体を震わせた。
その身悶えは排尿の直後に来るそれとよく似ていた。

姫子「ひっ──!?」

 姫子は短い悲鳴を上げると、固定された足首を無理矢理振りほどいて大きく後退した。

加藤「ふふっ、これは失礼」

 加藤はインテリの貴婦人のような仕種で眼鏡をかけ直し、長い舌で唇を舐めた。

加藤「少々……。先走り過ぎたようですね」

 加藤の下腹部には服越しに見ても中の状態が直ぐに分かる膨みが出来ていた。
雄々しく聳え立つそれが、今の姫子の目にはこれ以上なく汚らわしいものに映る。
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 19:58:06.96 ID:YRz+mxHAO
姫子「あの人……。気持ち悪過ぎだよ……」

 口元を抑え、込み上げる吐き気を堪える。
直接脳内に最悪のイメージを浮かばせる加藤の発言、言動は目には見え難いものの、確実に姫子の精神を摩耗させてゆく。

三花「だったら私が……」

姫子「それだけは駄目!」

 守らねばならない。
観点を変えれば只のエゴとも取れるその思いが姫子をつき動かしていた。
 人とは違う体質を持つというだけで蓋を開けてみれば闘気の扱いもままならない少女である三花をこの男とぶつけてはならない。
姫子の判断は理に適っていると言えば確かにそうなのだろう。
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 19:58:36.33 ID:YRz+mxHAO
 先の打ち合いで観測した限りでも加藤は要所要所で闘気をコントロールしている節があった。
回避、防御に当てられている闘気は勿論攻めに転じる事も出来る。
そうなれば三花程度の実力者では歯が立たないだろう。

姫子「…………」

 そしてその先に待っている結末。
それは死すら生温いと思える地獄の折檻だ。
 姫子はがちがち震える奥歯を無理矢理噛み締める。
だが女にとって最も苦痛な仕打ちをイメージしてしまった姫子に最早自分を鼓舞する事は出来なかった。

加藤「怖いのなら逃げても構いませんよ?」

 姫子の胸の内を見透かすように加藤がほくそ笑む。
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 19:59:06.29 ID:YRz+mxHAO
姫子「…………」

 そんな発想は最初から無かった。
無事生きて帰れる補償は無いと知りながらここまで来たのだ。逃げ出してしまえばそれこそ本末転倒な話だ。

加藤「イメージしましたね? 敗北、逃走、絶望。その他ネガティブな末路を」

 図星だった。
しかしそれは今姫子が最も見透かされたくなかった感情だ。
まるで取り繕うように姫子は目を細め、眉をつり上げて敵意をむき出しにする。

加藤「ふふっ、今更そうやって敵意を取り繕わなくてもよろしい。私には貴女の感情が手に取るように分かる、何故なら──」

 とん、と床を蹴る音と同時に加藤の姿が姫子の視界から消える。
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 19:59:36.39 ID:YRz+mxHAO
加藤「私は貴女の全てを知っている」

 ぞわりと姫子の背筋に虫が這った。
傍らで棒立ちになっていた三花は勿論の事、背後に回り込まれていた姫子でさえも隙を突かれたと気付いたのは、なまめかしい手つきで胸を揉みしだかれてからだった。

姫子「────」

 思考回路が一瞬でショートする。
本能的に汚れた手を振り払おうと裏拳を放つが、それも鼻歌混じりで躱された。

三花「姫子──っ!」

 遅れて反応した三花が瞬時に爪を伸ばし、下卑た笑みを浮かべる加藤に飛び掛かる。

加藤「ちっ……!」

 今まで関与していなかった三花からの反撃に反応が遅れたのだろう。
加藤は咄嗟に腕を交差して腰を沈めた。
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 20:00:21.52 ID:YRz+mxHAO
加藤「……興ざめですねぇ。『何も考えていない』女は嫌いなんですよ──!」

 深々と腕に食い込んだ爪は肉の繊維の一つ一つをずたずたに引き裂く。

加藤「この……! 離せ! 離せっ! 股座にゴキブリを詰めてやろうか!」

 加藤は執拗に三花の鳩尾に膝を捩じ込む。
だが三花の爪は抜けず、それどころか肉と骨、血管の壁を抉りながら暴れ狂う。
 流石にこれ以上は不味いと悟ったのか、加藤は無事な方の手に闘気を込めた。

三花「──っ!」

加藤「離せえぇぇええっ!!」

 加藤は闘気を込めた殺人的な握力を秘めた手で三花の手首を躊躇なく握り締めた。
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 20:00:50.43 ID:YRz+mxHAO
 熟れたトマトを潰すかのように三花の手首から先が爆ぜた。
赤い花火が鳴り終えると同時に三花に襲いかかるのは気が遠くなるような痛み。
 右手から伝わる痛みに全身が痺れを以て応える地獄のような苦しみの中で、三花は悲鳴を上げるでもなく仲間を鼓舞した。

三花「立って、姫子!!」

 だが姫子は涙ぐみつつ、床に座り込んで胸を抑えている。

姫子「やだ……。やだ……」

 思考回路はパニックを起こしており、うわ言のように否定、拒絶の言葉を呟いている。
寒くもないのに姫子の身体の震えは止まらず、それどころか更に酷くなっていった。
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 20:01:21.19 ID:YRz+mxHAO
 『貴女の全てを知っている』
 先のこの囁きが姫子の胸に纏わりついて離れなかった。
それだけ聞けばただの戯言染みたはったりにしか聞こえない言葉なのだが、姫子にはこの言葉が真実であるという確信があった。

姫子「やだ……。見ないで……!」

 実を言えば姫子はその少し前に猜疑心を抱えていた。
それは渾身の蹴りをぴしゃりと受け止められた時だ。
 たとえ闘気を発現させている者でも姫子の技を完璧に見切る事は難しい。
条件反射の助けを受けて漸く避ける事が出来る。姫子のスピードはそのレベルにまで昇華しているのだ。
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 20:02:02.86 ID:YRz+mxHAO
 だが加藤は初撃を交えてから一度も被弾していない。それに加えてあの時の見切り。
 『加藤はもしかしたら自分の思考を読めるのではないか?』
 一度そう思ってしまってからの全てを知っているという発言。
言動の不気味さも相俟って姫子の心はあっさりと、硝子のように砕けてしまった。

姫子「触らないで……! 乱暴しないでよぅ……」

 加藤は今三花の方に意識を向けており、誰も姫子に干渉はしていない。
しかし姫子には見えていた。
泣きじゃくる無力な自分に舌を這わせ、暴力で身体を征服せんとする何かが。
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 20:02:35.29 ID:YRz+mxHAO
加藤「ふふふっ……」

 盛大に壊れてゆく姫子を横目で見ると加藤は満足げに笑った。

三花「この……っ!」

 三花はそこにすかさず切り込んでゆくも、逆にがっちりと首筋を取られてしまう。

加藤「紳士の嗜みを邪魔するのは頂けませんなぁ」

 三花の鳩尾に掌底が捩じ込まれる。
直後に三花の身体に広がったのは痛みと、波だった。

三花「〜〜っ!?」

 波が痛みを乗せて身体中を無差別に犯し尽くす。
 三花には直接見る機会は無かったが、それは闘気を発現させたばかりの澪が純との小競り合いの際に放った技とよく似ていた。
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 20:03:06.29 ID:YRz+mxHAO
加藤「どうですかぁ全身の血を掻き乱される感覚は!」

 三花の滲む視界に映る加藤の身には青色が纏わりついていた。
 これ以上は不味い、そう思いつつも三花は自分の身体が思うように動かない事に苛立ちを覚えた。
この痛みの種は分かっているのにそれに対応する気力は痛みに殺がれていたのだ。

三花「水流……操作……?」

加藤「よく出来ましたねぇ! ご褒美に後でたっぷりと注いで差し上げますよ!」

 駄目押しに更に一発。
再び襲い来る痛みの波に三花はとうとう床に伏せた。
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 20:03:43.43 ID:YRz+mxHAO
 水流操作。それは青色の闘気を持つ者の大半が得意とする技術だ。
達人の域に立つ者ならば更に凝縮、気化といった水の状態変化を任意に起こす事も出来る。
 加藤はその域には達していないものの、打ち込む全ての技に水流操作を組み込むという事はそれだけで術者の戦闘能力を増幅させる事を意味する。

三花「かっ……はっ、はっ……」

 掌底を介して対象の中を巡る水、つまり血液を震わせてやる。
数発で生身の人間ならば致命的なダメージを負うだろう。
 一切の規律を乱す事無く動いている人間の身体はそれを乱されると悲しいほどに脆いものなのだ。
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 20:04:12.85 ID:YRz+mxHAO
 姫子の精神を壊し、三花の肉体を壊した。
二つの征服感が加藤の汚れたリビドーをたぎらせる。

加藤「さて、後は私のモノが無ければ生きていけないように、じっくりと調教してあげましょうか」

 強者の悦び。今までそうして来たようにその余韻に浸ろうではないか。
加藤の脳内は今やメフィストフェレスと契約する際のファウストさながらに心躍らせていた。
 僅かに頬を紅潮させながら座り込む姫子に擦り寄ってゆく。

姫子「やだ……。何でもするから……中だけは……」

 うわ言のように呟き続ける姫子の頬は濡れており、瞳は最早黒以外映していなかった。
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 20:04:46.19 ID:YRz+mxHAO
加藤「くくっ、気が早いですねぇ」

 爪先で軽く腹を蹴ってやると、姫子の身体は人形のように仰向けに倒れた。
すかさずそれに覆い被さると、女性特有の淡い香りが加藤の鼻孔を突き抜ける。

加藤「覚えておきなさい。『言葉』を軽んずる者の末路には崩壊しか待っていない事を」

 無秩序に無遠慮に無責任に、無我夢中で姫子の衣類を毟り取ってゆく。
ブレザーの釦は弾き飛び、ブラウスと耐寒スーツもぼろ切れのように引き裂かれ、下着に包まれた程よい膨みが露になった。

姫子「何で……? どうして意地悪するのぉ……?」

 呂律の回らない口調は姫子の壊れ具合を顕著に現していた。
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 20:05:19.75 ID:YRz+mxHAO
加藤「ふふっ、言葉弄び『チープトリック』がここまで効いた方は貴女が初めてですよ。余程辛いものを抱えていたんでしょうねぇ……」

 加藤は栗色の長い髪を一束手に取り、咀嚼するように香りを楽しんだ。
 言葉弄り『チープトリック』
 その単語が何を意味するのか考える余裕など姫子には無い。
絶望のイメージによって自らが誇大化していった加藤の暴力に耐え、せめて行為が早く終わるように祈るばかりだ。

三花「姫子……」

 傍らには身体を壊された少女。
そして彼女もその精神を壊されるのだろうと予感していた。
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 20:05:56.20 ID:YRz+mxHAO
加藤「私は女性の身体の部位で一番太股が好きでしてね。先ずは肉が蕩けるまでそのけしからん脚を頂きま──」

 加藤が下卑た笑みを浮かべて唾液を含んだ舌を垂らしていたその時、室内であるにも拘らず一際大きな風が吹く。

加藤「む?」

 事に不信感を抱いた加藤は顔を上げ、皺が刻まれた眉間を更に皺寄せた。
刹那、まるでそれを見計らったかのように鈍色の光が加藤の頬を掠めた。

加藤「な……何が──」

「動かないで」

 加藤の自分の顎の下、つまり首筋で冷たい金属音が鳴るのを聞いた。
頬に出来た真新しい傷口から血が滴り、汗と混じって床を濡らす。
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 20:07:21.32 ID:YRz+mxHAO
加藤「ドリイィィイイムチャアアァァアアンスッ!!」

姫子「何なのこの番組! もう警察呼びますよ!?」

そんなノリ
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 22:33:47.48 ID:lCsTMFzIO
風使い?誰だ??
とりあえず乙
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 22:53:41.14 ID:nMFVUaKAO
最初から読み直せタコ
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 23:02:29.78 ID:ZXI2z8Fzo
乙です!

チープトリックwww
まさか、この加藤さん背中を見せずに戦ってるのかとwwww
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 19:08:11.55 ID:D49++shAO
やはり加藤はヤバい奴だったな
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 13:12:47.18 ID:ReaOzq5ko
んじゃ、伊藤さんはバッグの中から現れたりするんだろうなww
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 19:54:13.63 ID:dUiGYi2AO
江藤「ほぉら見てごらん。タイツ越しでも分かる程濡れてるわよ?」

澪「うぅ……ぐっ……」

 極寒の地での情事はまだ続く。
胸から腹部にかけて執拗に愛撫を続けていた江藤はとうとう澪の秘部に手をかけようとしていた。

澪「やめ──」

 澪は止めてと口走ろうとした自分に喝を入れた。
唇を噛み締め、拳を握り締める。

澪「いっ……!?」

 片方の手に鋭い痛みが走った。
意識が飛んでしまいそうな快楽のせいで忘れていたが、澪の手には神経毒を仕込んだ針が刺さっているのだ。

江藤「どうしたのぉ澪ちゃん?」
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 19:54:42.68 ID:dUiGYi2AO
 眠たそうにも見える蕩けた目付きは澪の顔を舐めた。
その間にも抜かり無く澪の乳房の突起を弄ぶ。

澪「……下手くそ過ぎて痛いんだよ、オバサン」

 眉を顰めつつ放った言葉は傍から見ても強がりである事が分かる。
それでも心の芯を保つにはそんな下らない強がりこそが重要なのだ。
 身体中を色に染めらられ、犯し続けられても澪の心は純潔、己の意志を映す深い青で満たされている。

江藤「……不細工なしたり顔してんじゃないわよ!」

 ヒステリック気味な金切声を上げると江藤は澪のスカートを引きずり下ろした。
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 19:55:09.89 ID:dUiGYi2AO
 江藤が澪の秘部に触れようとしたその時、澪は遂に行動に出た。

澪「調子に乗るな……っ!」

 力が入らない腕に鞭を打ち、手に刺さった針を乱暴に引き抜く。
鋭い痛みはほんの少しだけ薬がもたらした脱力感を緩和した。
 そして澪は血の糸を引いててらてらと輝く針を江藤の首筋目掛けて突き立てんとする。

江藤「あら残念。動きまでとろとろになってるわよ?」

 とは言ったものの咄嗟の反応だったのだろう。
致命傷には至らなかったものの針は澪と同じように掌に深々と刺さった。

澪「……言ってろ。その針の毒がこれほどの効力を持ってるんなら、お前だってただじゃ済まない筈だ!」
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 19:55:40.73 ID:dUiGYi2AO
 澪の狙いはそこにあった。
運良く首筋に刺されば儲け物、本命は針に仕込まれた即効性の毒だ。

江藤「…………」

 江藤は突き刺さった針をまじまじと見つめた。そして大きく溜め息をつく。

江藤「ふぅん……。少しは考えたみたいだけど何か忘れてない?」

 まるで痛覚など無いかのように乱暴に針を引き抜き、江藤は澪の方に自身の血を擦り突けた。

澪「何を──」

江藤「貴女にこの毒を盛ったのは私なのよ?」

 下着の中に手を入れ、湿り気の元を指でなぞり、指先に付着したモノを舐める。
そして澪の耳元に息を吹き込むように囁いた。
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 19:56:09.02 ID:dUiGYi2AO
江藤「毒の使い手が自分の毒にやられちゃ笑い話にもならないでしょ? 勿論何千種類もの毒に対する抗体は作ってあるわ」

 澪の顔が一瞬で青褪めた。

江藤「正確には打ち込んである、かしら。紬お嬢様に仕えてた時は専属の医者をやっててね、こういう事には詳しいのよ」

 目を細めて笑い、袖を捲って露になった手首を澪の眼前に突き付ける。
そこには数えるのも億劫になるような無数の注射痕があった。

澪「じゃあこの毒は……」

江藤「勿論坑剤摂取済みでぇす。残念でした、可哀相な澪ちゃんはこれから『下手くそなオバサン』によがり狂わされるのでした!」
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 19:56:37.17 ID:dUiGYi2AO
 短く笑い、再び秘部をなぞる。
いや、なぞるというよりは擦っていると言うべきか、今までの愛撫は序の口だと言わんばかりに指の動きを早めた。

澪「あっ……やっ…だめ……っ」

 掌の痛みは再び麻痺してゆく。
代わりに押し寄せるのは今までの比ではない快楽の波。
遂に澪の声色に艶めきが混じる。

江藤「良いわぁ、今の澪ちゃんすごく女の子してると思うの。もっと素直になったら?」

 肉と肉が愛液というクッション越しに触れ合う音が次第に大きくなる。
自然と澪の腰は浮き、爪先に力が込められた。

澪「もう駄目……っ! これ以上は…やめっ……」
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 19:57:05.52 ID:dUiGYi2AO
江藤「素直になったら考えてあげる。言ってごらん、此所が気持ち良いの?」

 二本の指で中を責めながら親指で突起をなぞる。

澪「いい……です…っ。だから……これ以上……っ」

 言いながらも澪の腕は覆い被さる江藤の背中に回されており、股はだらしなく開かれている。
女性の身体の扱いに慣れている江藤がそれに気付かぬ筈が無かった。
江藤は卑しく口角を歪め、澪の口元に近付ける。

江藤「しないで欲しいの? 今澪ちゃんが本当にしたい事してごらん。いっぱい応えてあげるから」

 澪の吐息が江藤の鼻先を濡らす。
そして江藤の後頭部に澪の細い指が這ってきた。
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 19:57:33.75 ID:dUiGYi2AO
江藤「んっ……」

 そっと澪の首が浮き、二人の唇が重なる。
口内に入ってくる舌を江藤は我が子のように愛しく受け止めた。

澪「んっ……ふっ……」

 深く閉じた澪の瞼は時折ひくついており、快楽の色が滲み出ていた。
対する江藤も澪に負けじと舌を絡ませて澪の口内に捩じ込んでゆく。
 その瞬間澪の舌が急に引っ込んだ。

江藤「〜〜っ!?」

 舌先に突き刺さった強烈な痛みに江藤は目を見開いた。
だが時すでに遅し、頭部に絡み付いた澪の腕は江藤の離脱を許さない。

澪「んっ……」

 澪は江藤の舌から滲む血を丁寧に舐めとりながらそっと歯を江藤の唇にあてがった。そして……

江藤「い"っ……!?」

 唇の肉を噛み砕かんばかりの勢いで食らいつく。
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 19:58:01.63 ID:dUiGYi2AO
 澪の口内に鉄の味が広がった。
本来ならば嫌悪すべき対象である赤い液体を音を立てて舐め取ってゆく。

江藤「このっ! はなひなさい……!」

 江藤は呂律の回らない間抜けな声で叫ぶ。
筋肉が緩み切った状態で江藤の全力の抵抗に適う筈もなく、澪の身体はそのまま二、三度横転した。
 雪に沈む澪の視界に入ってきたのは一振りの刀だった。

澪「…………」

 血に塗れた口元を拭い、刀を杖にして立ち上がる。
手足が震え、腰が立たない状態でも澪は諦めなかった。

江藤「…………」

 今まで取り乱しこそしたものの圧倒的優位を保っていた江藤は、この時初めて恐怖した。
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 19:58:27.80 ID:dUiGYi2AO
 本来ならばこの状況は有り得ないのだ。
最初に打ち込んだ毒はしずかに打ったものよりも数倍強力な毒であり、その時点で普通の人間ならば指一本動かせない。

江藤「ありえないわ……」

 その毒だけならば澪の気力が上回ったという、苦しいながらも理由は出来る。
だが問題は二本目の薬だった。
 あの薬の本来の効力は人間のあらゆる感覚を研ぎ澄ますものだった。
それには性的刺激は勿論、毒の苦痛も含まれる。

澪「はぁっ……はぁっ……」

 澪は怖じ気づいてへたりこんでいる江藤の元へ一歩ずつ迫っている。
刀を振るう力など残されてはいないのに。
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 19:58:56.78 ID:dUiGYi2AO
江藤「駄目よ……来ないで! 来ちゃ駄目!」

 血混じりの唾を飛ばしながら江藤は叫んだ。
目の前の人外に直接手を下す事は恐怖が許さない。
代わりに江藤は祈った。
恐怖、狂気を孕んだ厄災が目の前から過ぎ去るのを。

江藤「死んで! お願いだから……! 早く死になさいよ!」

 面と向かって投げ掛けられる呪詛の言葉を聞いて澪は大きく口角を歪めた。

澪「ははっ……酷い話だな。もう一回『愛して』くれ──」

 今まで地を這っていた視線が上がり、江藤を捉える。

江藤「ひっ……!?」

 時間が止まった気がした。
眼球の動きさえ気取られて殺される。そんな征服の時が……。

澪「よ──」

 音を立てて終わった。
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 19:59:25.82 ID:dUiGYi2AO
江藤「へ……?」

 江藤は間抜けな声を上げて目を見開いた。
そして目の前で繰り広げられた現実をゆっくりと脳で処理する。そして悟った。

江藤「あはっ」

 ざまぁみろ、可愛げの無い女だ。
過ぎ去った厄災に抱く感情は恐怖ではない。

江藤「あははははははっ!!」

 雪に沈む澪の身体はぴくりとも動かなかった。

江藤「ホント、ゴキブリみたいにしぶといんだから。でも残念、力だけじゃあ知恵ある人間には適わないってわけよねぇっ!」

 爛々とステップを踏みながら澪の元へ詰め寄ってゆく。
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 19:59:53.44 ID:dUiGYi2AO
 江藤はそのまま置物のようになってしまった澪の頭を踏み下した。
そうする事で厄災を征した達成感を得られる気がしたからだ。

江藤「最っ高ねぇ! 澪ちゃん、今どんな気持ち? お姉さんに教えてくれない?」

 親の敵を目の当たりにしたかのように半ば狂乱気味に、江藤は澪を何度も踏みつける。
されるがまま微動だにしない澪の身体は江藤の脚が突き刺さる度に跳ねた。

江藤「あんな無茶しなきゃもう少し長生き出来たでしょうにねぇっ! あっははははは!!」

 ぶつり──。
 何かが何かに刺さったような鈍い音が江藤の笑い声を遮った。
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 20:00:22.27 ID:dUiGYi2AO
江藤「は?」

 身体の何処かが痛いわけではない。厳密に言えば澪に噛み切られた唇が痛むがそれは今はどうでも良い。
 問題なのは何故自分の顔に血が舞ってきたのか、ということだ。

澪「……最高の気分だよ」

 長い黒髪を垂らしてまま澪が顔を上げた。
その手には鈍色に輝く刀。その刀身の半ばまでが澪の太股に突き刺さっていた。

澪「うっぐ……!」

 一切の躊躇なくそれを引き抜く。
湧き水のように溢れ出す赤色の血は雪を溶かし、澪の周りを彩る。
 血の流れがある程度緩くなるまでそれを眺めていると、不意に澪は見下ろす江藤と目を合わせた。
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 20:00:51.38 ID:dUiGYi2AO
澪「ははっ……。やっぱ痛いな、これ」

江藤「〜〜っ!?」

 江藤は言葉が出なかった。
事もあろうか澪は自分に刃を突き立て、更に敵に向かって微笑んでみせたのだ。
 常人ならば、いや常人でなくとも今の研ぎ澄まされた感覚の状態で刃を突き立てられればショック死は免れない。
 なのに何故笑える。何故笑う気になれるのか。
 江藤の脳内で疑問と否定が入り交じった。

澪「悪い血が抜けたからかな。何となくだけど頭だけはスッキリしてるんだ」

 顔面は蒼白、いつ倒れてもおかしくない状況下で澪はこの時、生きる事を諦めていなかった。
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 20:01:18.52 ID:dUiGYi2AO
 そっと出血部分に掌をあてがう。
すると傷口が白い蒸気を上げて凍り付いていった。

澪「テスト前日で徹夜してる時に手の甲にシャーペン刺してたの思い出してさ……。やっぱり気怠さの一番の薬は痛みだよな」

 刺した太股を庇うように座り込んだ姿勢のまま、澪はそっと手を翳す。

江藤「ひっ──!?」

 澪と江藤を取り囲むように水の円が現れた。そして円の向こうには無数の氷柱が浮かぶ。

澪「さっきはよくもやってくれたな。私だって痛いものは痛いんだゾ?」

 力を手にして以来一度も見られなかった純真無垢な笑みを浮かべ、澪はそっと指を鳴らした。
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 20:01:46.88 ID:dUiGYi2AO
 ────。
 結論から言うと江藤はまだ生きていた。厳密には生かされたというべきか。
 全身を氷で穿たれてなお、彼女は死ぬ事を許されてはいなかった。

江藤「うぐっ──!」

 脇に刺さった氷柱が乱暴に引き抜かれ、江藤の身体がびくりと跳ねる。
出来たばかりの真新しい傷口にすかさず澪が覆い被さった。

澪「んっ……」

 赤い湧き水に唇をあてがい、外気に触れる前に少しずつ飲み下してゆく。
 傷口を舐められるむず痒さと全身を貫く痛みが相俟って、江藤の精神は着々と摩耗していった。

江藤「おっ……おに……!」
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 20:02:20.16 ID:dUiGYi2AO
澪「大丈夫だよ。死なない程度の血は残しておいてあげるから」

 口元に塗れた血を拭い、手の甲を伝った血に舌を這わせる。
瞳はどす黒く濁り、かつての面影があるとすればその冷たさだけだった。

江藤「やだっ……! はやくごろじで……っ!」

澪「ははっ、そんなに死に急ぐなよ。命が勿体ないだろ」

 江藤の嘆願を一蹴して澪は再び傷口に顔を埋めた。
江藤の血に宿った抗体を求めて澪は血を啜り続ける。
他人の血に宿ったワクチンが効力を持つかどうかは疑わしかったが、今の澪には関係無かった。
 死にたくても死にきれない。死よりも辛い絶望を振り撒く醜悪なる鬼。
 『活人鬼』が此所に産声を上げた時だった。
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 20:03:31.89 ID:dUiGYi2AO
澪「それじゃ、零崎を始めるとしよう」

律「なぁにわけわかんねー戯言言ってんだ」

そんなノリ
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 20:59:22.41 ID:mXnDk00Xo
乙です!

いはやは、澪ちゃんエロカッコイイな。

この澪ちゃんから「ときめきシュガー」みたいなピュアピュアな歌詞が出てくる事は二度と無いんだろなぁ
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 03:26:21.67 ID:vcHD50fAO
澪「新しく歌詞書いたんだけど見てくれるかな…?タイトルは恋の血清って言うんだけど…」

律「却下だ」

こんなノリ
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 19:23:29.78 ID:XUViu1yYo
>>571

澪「ペンギンさんとダンス!ダンス!!ダンス!!!!」クワッ


江藤「やだっ……! はやくごろじで……っ!」

むしろこんなノリ?
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:16:34.84 ID:50xr3sjAO
 過去は変えられないが未来は変えられる。大切なのはこれから何をすべきかだ。
 政治家も芸術家も学者も皆が口を揃えてそう言う。
 だが過去を斬り捨ててまで守りたい未来は果たして存在するのだろうか。
 紬は考える。もう過去の主従関係には戻れないのか、少しだけ、ほんの少しだけ過去に甘えられればどれ程気が楽になるだろうかと。

斎藤「現実から目を背けたところで何も解決しませんよ。望めば思い通りになった昔とは違うのですから」

 目を背けたくなるような現実は地に伏せた紬を踏み躙る。

紬「あぐっ……!」

 鈍痛が骨の髄まで響き渡り、紬は胃の中のものをぶち撒けそうになった。
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:17:40.42 ID:50xr3sjAO
斎藤「何故私を憎まない? 友を傷付け、金に目が眩んで貴女を裏切った私にかける情がどこから沸いてくるのですか?」

 奥歯を噛み締めて眉間に皺を寄せる。
懺悔にも似た斎藤の言葉とは裏腹に、彼の表情は怒りに満ちていた。

紬「……解らない。でも……」

 口元を手で覆い、涙目になりながらも紬は答える。

紬「それでもまだ……貴方達の事が大好きなの」

 紬が出した答は斎藤が望むものとは真逆だった。
斎藤の表情はこれ以上に無いほどの怒りと、哀しさを滲み出していた。

斎藤「……下らない。未来を行くよりも過去に縋る事を選ぶのですか」
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:19:51.48 ID:50xr3sjAO
 下らない、その一言で自分の想いを一蹴された事に紬は更に心を痛める。

紬「過去に縋る事は、いけない事ですか?」

 無機質な床の冷たさに身を委ね、紬はつらつらとわき出る想いを吐き出してゆく。

紬「今の私がこうやって未来を共にゆく友達と巡り逢えたのは、きっと過去に私と一緒に居てくれた貴方達のお陰だと思うの」

斎藤「…………」

 斎藤はそっと紬の身体から足を退けた。
紬の言葉を引き金に、斎藤の脳裏には紬を見守り続けた十八年間が走馬燈のように駆け巡る。
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:20:22.07 ID:50xr3sjAO
紬「両親が忙しくて学校行事に来てくれなかった時、いつだって伊藤が代わりに来てくれました」

 その場に不似合いな黒スーツを皺くちゃにして父兄に混じる男が頭を過ぎる。

紬「武術の稽古で怪我しちゃった時、江藤は泣いてる私を抱き締めてくれました」

 自分も将来こんな優しい女性になれるだろうか。そんな憧れを江藤に抱いていた事を思い出す。

紬「加藤はどんな悩みでも親身になって聞いてくれました。誰にも言えないような悩みも、あの人になら何でも話せた」

 寂しさに押し潰されそうな時に加藤が何も言わずに淹れてくれた紅茶の味は、今となっては紬の目標だ。
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:20:57.43 ID:50xr3sjAO
紬「後藤は私がお父様に怒られる時、いつも一緒に怒られてくれました。たまに大人気ないところもあったけど、そんなところも大好きです」

 怖いものなど一つも無かった。
いつも自信に満ち溢れた後藤と居ると、何だって出来る気がした。

斎藤「何を世迷い言を……。貴女は現実を知らないだけだ!」

 無垢な少女の思い出である従者衆も蓋を開けてみれば醜いものだ。
 加藤、江藤は異常な性癖の持ち主。伊藤は琴吹家に仕えるまでは浮浪者だった。
 それに後藤が一緒に怒られていたのは紬に悪戯を唆すのが決まって彼だったから。
正しく訂正するならば『後藤が紬に一緒に怒られてもらっていた』が正解だ。
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:21:30.67 ID:50xr3sjAO
斎藤「私を含めてどうしようもない人間だ。一つの事に特化するばかりで他は欠陥だらけだった……!」

紬「ううん、そんなことないよ」

 普段の彼女からは決して出ない、甘えたような柔らかい口調だった。

紬「少なくとも……。私の中の貴方達はいつだって大きかったよ?」

斎藤「だから貴女には現実が見えていないんだ! 貴女が望むような大人などこの世には居やしないんだよ……っ!」

 冷たい床を力任せに殴り付ける。
固いものが爆ぜる音が虚しく響いた。

紬「それは違うわ。私が望んだ、私がなりたい大人は……」

 ぼろぼろになりながらも紬の表情は何処か晴れやかだった。
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:22:01.89 ID:50xr3sjAO
紬「こうやって、子供の為に涙を流してくれるような人なの」

 斎藤の頬を熱いものが濡らして、零れ落ちた。
今更馴れ合う気は無い。
自分の目的を果たす為ならば修羅にでも畜生にでもなろう。そう決めた筈なのに。
 訳も無く斎藤の目から溢れ出たのは悲しみでも妬みでもなく、愛だった。

斎藤「紬お嬢様……っ!」

紬「一緒に帰ろう? この世の中取り返しのつかない事なんて殆ど無いんだから」

 堪えても堪えても尽きる事なく溢れるものを斎藤は鬱陶しく感じた。
幾つになっても情は枯れるものではない。斎藤はこの年で初めてそれを実感した。しかし……。

斎藤「……それでも私は、貴女の敵を止めません」
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:22:33.51 ID:50xr3sjAO
 斎藤の胸の中で何かが蠢いた。
それは中から宿主を突き破らんとし、痛みを伴う猛威を振るい……。

斎藤「ぐっ……!?」

 溢れ出た。
 口の中に広がる鉄の味、鼻孔を突き抜ける生臭さ、全身から吹き出る嫌な汗、歪む視界、震える肢体。
 様々な症状が重なり合い、直結して死に結び付く。

紬「何を……?」

斎藤「……私には時間が無い。お願いですから……」

 突発的な痛みの波と共に斎藤は吐血した。
床にぶつかって跳ねた赤の滴が紬の頬を濡らす。

斎藤「私を憎まなくてもいい……。だがせめてこの老いぼれを、貴女の手で葬って下さい」
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:23:01.31 ID:50xr3sjAO
紬「何で……っ!? 患った事なんて一度も無かったじゃない!」

 紬は鈍痛で軋む身体に鞭を打ち、斎藤の肩に触れようとした。だがその手は非情な意志を以て払われる。

斎藤「狐に噛まれましてね……。あの子を此所の監視の目から遠ざけるにはこうするしか無かった」

 斎藤は江藤に貰った『一人分』の薬を思い出した。

紬「あの子……?」

斎藤「時間が無い。貴女が嫌だと言ってもやらせてもらいます」

 震える手でそっと紬の双肩を抑える。

斎藤「今から私は貴女を殺す気で六道の術を放ちます。どうか耐えて下さい、そして乗り越えて下さい」
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:23:31.02 ID:50xr3sjAO
 紬が口を開く前に鍵語は呟かれた。

斎藤「修羅道──」

 紬の中で無数の刃物が暴れ回った。
目には見えない、だが確かに存在するそれは一つ一つの威力は低いものの着々と紬を傷付ける。

紬「──っ!」

 逃げ出す事は容易だった。
だがそれでも紬は身体を裂かれるような痛みに耐えた。
斎藤の言葉を繋ぎ合わせても彼女には今の状況は解らない。
それでも……。

斎藤「人間道──」

 斎藤は何も変わってはいなかった。その事だけは分かった。
たとえこの身が押し潰されようとも、昔と同じ斎藤を信じてみよう。
紬はそう思ったのだ。
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:23:59.38 ID:50xr3sjAO
斎藤「畜生道──」

 鍵語と共に肩を抑える力が強くなった。
その力はやがて紬の肉体の耐久力をあっさりと越え、白い肌を挽き肉のように握り潰す。

紬「ひっ──!?」

 制服が肩から袖にかけて一瞬で湿ってゆく。
痛みで一瞬視界が混濁したが、それでも紬は前を、斎藤を見続けた。

斎藤「……餓鬼道」

 痛みに耐えていた気力が削られてゆくのが分かった。
それだけでは無い。全ての生き物が本来持つ筈の闘気、生命力そのものが削られているのだ。

紬「────」

 何か言いかけて紬は斎藤の肩に顔を埋めた。
身体の何処にも力は入っておらず、爆ぜた肩の部分が時折震えている。
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:24:30.16 ID:50xr3sjAO
斎藤「これが最期です。私にとっても貴女にとっても……」

 斎藤は紬の肩からそっと手を離した。
そして無機質の床に両の掌を添える。

斎藤「私達を乗り越えて下さい。それが貴女を我が子のように思ってきた『親』の望みです」

 床に怪しげな幾何学模様の陣が展開された。
血のような深い赤色に輝くそれは甲高い音を立てながら更に強く発光してゆく。

斎藤「地獄道」

 次の瞬間、空間は音もなく崩れ去った。
世界を取り巻くあらゆるモノが硝子細工のように散っては爆ぜ、やがて肉体という器は意味を成さなくなり、そこには剥き出しの精神力だけが残った。
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:25:27.30 ID:50xr3sjAO
 底の無い闇に沈んでゆくような、或いはただあても無く浮かんでいるような奇妙な感覚。
痛みという枷から開放された紬はこの世では無い此所で一人の男が歩んだ世界を見た。

紬「こんなのって……」

 目を背けたくなるような現実、消えゆく理想、終わる世界と残る痛み。
言葉の限界を越えた感覚は紬に何かを与える。

『乗り越えて下さい』

 心に染み渡る声に紬は静かに頷いた。

紬「天界道」

 漆黒の空間に星達が瞬く。
 目が眩む光を放つ星々は砕け、音を立てて墜ちてゆく。
 負の因果を終わらせる光が目に映る全てのものが白く塗りつぶされた。
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:26:06.46 ID:50xr3sjAO
 がちゃん──。
 紬の意識が引き戻されたのは重々しい音が鳴り響いた時だった。

紬「ここは……?」

 紬の前に広がった光景。それは見慣れた軽音部の部室だった。
何となく戸棚に収まったティーカップを眺めていると、突如それらが一人でに動き出した。

『はじめまして』

 幼さを含んだ可愛らしい声が紬の背後で響く。

紬「唯……ちゃん?」

 紬が振り返った先に居たのは唯だった。
柔らかそうな栗色の髪の毛。お世辞にもあまり上手とは言えない手入れがされた眉。円らな瞳。柔和な口元。
 彼女を唯と断定する要素は幾らでもあったが、紬は得も知れない不信感を駆り立てた。
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:26:43.13 ID:50xr3sjAO
『残念ながらお前らが大好きな唯ちゃんじゃないんだな。「何処かの誰かさん」とでも呼んでね!』

 ぎゃは──。と汚い笑い声を上げると彼女は我が物顔でソファの上で胡座を掻いた。

紬「はぁ、そうですか……」

 唐突な事に紬の意識が混濁し始める。
或いは今も混濁した意識を彷徨っているのだろうか、そこまで考えたところで紬はそれを無駄だと判断した。

紬「何処かの誰かさん、此所は一体何処なんでしょうか?」

 紬の問いに対して彼女は目を細め、首を伸ばして紬の顔を覗き込んだ。

『ひゃはっ、お前ら揃いも揃って同じ事聞きやがんのな。同じ事を繰り返してると心が荒むんだぜ? 何千年もだらだらしてる私が言うんだから間違いない』
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:27:14.19 ID:50xr3sjAO
 腕を組んで一人納得したように首を縦に振る彼女を紬は少し滑稽に思った。

『と、質問に対する返事は答えであってしかるべし、だな。お前の質問に答えてやるよ』

 宙を漂って彼女の手元にやってきたティーカップを掴み、彼女は自分の首に爪を立てた。
 噴水のように血が噴き出し、ティーカップに赤い液体が注がれてゆく。
彼女はそれを躊躇する事なく一口で飲み干した。

『此所は全てと繋がる場所。お前ん家でもあり、唯ん家でもあり、学校でもある。全ては此所であり、此所は全て』

 彼女は空になったティーカップを放り投げて両手を広げ、天井を仰ぐ。
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:28:02.40 ID:50xr3sjAO
『まぁそんなところだ』

紬「……どんなところでしょう?」

 理解されようとすらしていない彼女の口振りに紬は更に不信感を覚えた。
鸚鵡返しのように再び投げ掛けた質問は彼女の逆鱗に触れる。

『あぁ? お前理解する気あんのかよ? 折角私が質問に答えてやったのに理解出来なかっただと!?』

 突如まくし立てた彼女の剣幕に紬は思わず気圧された。

『禁忌に触れてここに来たお前に折角優しくしてやったのに! 本来なら問答無用で引き裂いてやるところなんだぞ!?』

紬「ごっ、ごめんなさい……」
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:28:44.25 ID:50xr3sjAO
 禁忌に触れたという言葉の意味を理解出来なかった紬には、彼女がそこまで怒り狂う理由が分からなかった。 何度か紬の制服の襟首を揺すると満足したのか彼女は紬から手を離して大きく息を吐く。

『ふぅーっ、何でお前が怒られてんのか分かるか?』

紬「いえ、全然」

 彼女は再び目を血走らせた。

『……っ、まぁ良いや。じゃあ優しい私が教えてやるから理解しろよ?』

紬「はぁ……」

 眉を八の字にして頬を掻く紬の鳩尾を彼女は乱暴に殴り付けた。

『お前が天界道と銘打って放った技。ありゃこの世界においての反則技なんだよ』
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:29:24.62 ID:50xr3sjAO
紬「うぐっ……」

 痛みに苦しむより先に紬は狼狽した。
斎藤が命を投げ捨ててこの身に教えてくれた六道術、それがそれほど罪深いものとは思わなかったのだ。

『あれのメカニズムは自分の闘気じゃなくてこの星の闘気を引き出すものでね。こう言えば分かるか? 人の物を勝手に使ってんじゃねーよってこった』

 そこまで言って彼女は大きく溜め息を吐いた。

『そういや三十年くらい前にもこんな愚かもんが居たな。私は神域に立ちたいなんて言ってたっけ?』

 目を細めて放った彼女の言葉に紬が食いついた。

紬「それって……。斎藤の事ですか?」
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:29:56.86 ID:50xr3sjAO
『そんな名前だっけな。その時私はあいつをボコって言ってやったよ。「一生自分が作った神に縋ってろ」ってな。ぎゃははははっ!!』

 どの琴線に触れればそれほど笑えるのだろうか。
そう思えるほどに彼女の笑い声は狂っていた。

『まぁ良いや。私も最近は色々と忙しいから今の一発で許してやるよ。ボディがお留守だよ! ってな、きゃはっ──』

紬「…………」

 これ以上何か口走って殴られるのは御免だ。紬はそう思って口を閉ざした。

『今日のお説教のまとめ。過ぎた力を使うんならそれなりの覚悟を以て使う事、お姉さんとの約束だよ?』

 下卑た笑い声を上げて彼女は紬の額をつついた。
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:30:37.04 ID:50xr3sjAO
紬「あ……」

 麻酔を打たれたように意識がまどろんでゆく。
視界の端の黒い部分が徐々に触手を伸ばして……。

『もしかしたらまた直ぐに会えるかもしんねーな。ま、そんときは宜しく頼むわ』

 脳内に響く彼女の声はどこか楽しげだった。

『今はもうおやすみ。目が醒めれば嫌な事も良い事も全部元通りだから』

 親が子をあやすような口調で彼女は言う。
それが何故か心地良く思えて、紬は静かにはい、とだけ呟いた。
 起きたらまた頑張ろう。
許してくれた何処かの誰かさんへの感謝も忘れずに。
 ゆっくり墜ちてゆく。
何処までも、或いは此所までも。
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:31:21.68 ID:50xr3sjAO
紬「──っ」

 浮遊感が無くなったのを感じて紬は目を開いた。
 彼女が言った通り、良い事も悪い事も元通りだった。

律「ムギ……。勝ったのか……?」

 傍らで倒れていた律が足を庇うようにして立ち上がる。
そこから少し離れたところで純が膝を立てて寝転んでいた。

紬「ええ、勝ったわ」

 床に顔を伏せた斎藤を一瞥し、紬が立ち上がる。
 ありがとう、過去の自分を守ってくれた人達。
 ありがとう、共に未来を歩いてくれる人達。
 両腕で新たに手にした力を抱きながら紬は目を閉じる。

紬「ホントに……。ありがとうございました……っ!」

訳も無く紬の目から溢れ出たのは悲しみでも妬みでもなく、愛だった。
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 18:33:24.13 ID:50xr3sjAO
紬「クソお世話になりました……っ!」

律「おーいムギ、そんな事より飯はまだか?」

そんなノリ
忙しい仕事も慣れればそうでもない事に気付きました
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 19:34:27.76 ID:T1qvVAnso
あとは超えてないのは律だけか
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 19:35:11.45 ID:qtdm8K+DO
乙、無理すんなよ。
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 20:07:36.96 ID:5yDc497AO
「向こう側」にいるのはいつも唯なんだな
てっきり「向こう側」を覗いた本人の姿がイメージとして出てくるだけかと思ってたんだが……
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 21:47:17.19 ID:rEddkHlro
律「もってかれたーーーーーー」
紬「返してよ!たった一人の部長なのよ!!」

そんなノリ
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 01:43:34.32 ID:e5gyXldFo
乙です!

トンちゃんは音楽室で水槽の壁に頭をぶつけて皆が帰って来るのを待ち侘び叫んでいる訳ですね、わかります。
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 08:46:34.57 ID:8QBOCGYSO

自分用メモ しおり

――――――――――――――――――――――――――
         ここまで読んだ
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・和梓後藤倒 梓強 ・澪タナ江藤エロ殺 ・vs加藤 姫三花ピンチ ・純弱 斎藤倒 ムギ覚醒

  
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 13:29:23.56 ID:gnpIRyYAO
って事は、あの子は無事なのか……。

斎藤さん……
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/05(土) 21:18:36.23 ID:tyHtWWkAO
 彼女は護る為に傷付ける覚悟を決めた。
 どれだけ鍛練を積もうと弱冠十七、十八歳の少女が人を殺める覚悟を決めるのは容易ではない。
 それでも彼女にはやらなければならない理由があった。
死の淵から自分を救ってくれた先人の為に、これからを共に歩く仲間の為に、絶望を切り裂いて光を見出す。

しずか「動いたら刺す。喋っても刺す。私の反感を買ってもその瞬間刺す。」

 それだけを矜持として彼女はナイフの柄を絞った。
加藤の首筋に赤い線が出来る。

しずか「私の質問にイエスかノーかだけで答えて。イエスなら右手を前に、ノーなら左手を前に、それ以外の行動は認めないから」
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/05(土) 21:19:06.06 ID:tyHtWWkAO
加藤「…………」

 女子高生の戦闘集団の中にこれほどえげつない伏竜が潜んでいたとは思わなかったのだろう。
加藤は身震いを抑える事に必死だった。
 奇襲の手際、気配の隠蔽、どれをとっても超一流の使い手である事は直ぐ分かる。
だがそれよりも加藤が恐れたのは、自分の後ろに居る人間は自分にかける情など一欠片も持ち合わせていない事だった。

しずか「貴方は従者衆の加藤、それは間違ない?」

 加藤の右手が浮く。
それと同時に加藤の首の辺りで何かが蠢いた。

しずか「次、姫子がこんなになってるのは貴方の言葉弄り『チープトリック』のせい?」

加藤「……っ!」
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/05(土) 21:19:33.84 ID:tyHtWWkAO
 表情、動作には現れなかったものの後藤は驚愕した。
自身の青の闘気を操る力の裏に隠していた切札が筒抜けになっている。
それは自分の敗北を意味していた。

加藤「…………」

 右手を浮かせ、膝の上に降ろす。
その動作は一回目よりも鈍く、ぎこちなかった。

しずか「……この状況で私に言葉弄り『チープトリック』を仕掛けられる?」

 加藤は左手を上げかけてそれをためらった。
 質問に正直に答えるならば左手を上げる、つまりノーだ。
だがそれで良いのか、相手は言葉弄りの効果は知っているもののそれの本質自体は把握していない。
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/05(土) 21:20:01.97 ID:tyHtWWkAO
 この質問に対する答えによって加藤がしずかに与えるものは大きく変わる。
 右手を上げてしずかに与えるのは信用。
自分がしずかにとって取るに足らない相手である事を吐露する事と同義なのだ。
 左手を上げてしずかに与えるのは恐怖。
忍ばせた毒は確実に敵を殺す引き金になるだろう。
 与えられているのは数秒にも満たない僅かな時間、その中で加藤が選んだ答えは……。

しずか「…………」

 浮いた加藤の左手をしずかはじろりと見据えた。
そして思考する。この男をこの場で殺めるべきか、利用価値を見出して生かしておくべきかを。
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/05(土) 21:20:30.24 ID:tyHtWWkAO
 姫子を想うと今直ぐ加藤を殺してやりたい衝動に駆られる。
 唯を想うと最善を追おうとする理性が働く。

しずか「何で……」

 俯いた彼女の目は煤けて広がった前髪に覆われる。

しずか「何で……。こんな酷い事が出来るの……っ?」

 自分と加藤の前で仰向けに倒れている姫子は両腕で肩を抱き、静かに震えていた。
何をすればあれだけ強かった彼女がここまで壊れる事が出来るのだろうか。
そのイメージはしずかの心をそっと押し上げた。

しずか「……これで最期だよ。貴方はこれから先生き残れたとして、改心する気持ちはある?」
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/05(土) 21:20:56.96 ID:tyHtWWkAO
加藤「…………」

 加藤は口角を歪めて目を細め、舌を出して微笑んだ。
その醜悪な笑みはしずかには見えない。
それが滑稽に思えて加藤は更に顔を歪める。
 恐怖が無いからこそ格下の敵を見逃そうとする余裕が生まれる。
自分の選択が正しかった事を確信した加藤の脳内は既に歪んだ色欲に溢れていた。
 自分の目覚めと共に奉仕を開始させ、自分の排泄、食事の際は自慰を強要、自分が床につく時は全身を拘束して玩具で弄ぶ。
飽きれば男を募って輪姦するのも一興だろう。
最低でも一日に百回は中に注いでやる。
壊れて壊れて、更に壊れるまでは発言権も与えない。
そして完璧に壊れた頃に山にでも棄ててやるのだ。
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/05(土) 21:21:24.58 ID:tyHtWWkAO
 腕を震わせながら右手を上げる。
そして加藤は遂に口を開いた。

加藤「……すまなかったと思っています」

 首筋に突き付けられたナイフは離れなかったが刺さりもしない。

加藤「こうして自分が命の危機に立たされて、ようやく自分の過ちに気付けました。おこがましいと分かってはいますが、一つ教えていただけますか?」

しずか「なに……?」

 しずかの声色が最初よりも穏やかになっている事に気付いた加藤は自分の勝利を確信した。
口が開ける、言葉を使えるならば後は言葉弄りの独壇場、文字通りしずかの心を壊す事も容易い。
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/05(土) 21:21:53.08 ID:tyHtWWkAO
加藤「どうすれば……。私は罪を償えるのでしょうか?」

 そっと頭を後ろに逸らすと童顔の可愛らしい少女が加藤の視界に映った。
少女は固く結んだ唇を緩ませ、そっと目尻を下げて微笑む。

しずか「死ね」

加藤「え──」

 肉を貫く鈍い音がした。
不思議と加藤は痛みに悶えたりはしなかった。
 その代わり彼は目の前で微笑む少女をひたすらに憎んだ。
 何故あんな質問をした。何故生半可な希望を持たせた。何故ためらうふりをした。
 何故────。
 何故──。
 何故、何故! 何故!?

しずか「私が貴方を逃がすと思った? そんなの絶対あり得ないよ」
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/05(土) 21:22:22.73 ID:tyHtWWkAO
 しずかの頬に涙が伝い、加藤の額に落ちた。

しずか「女狐、人でなし、鬼畜生、好きなように呼んで良いよ。だって私は……」

 加藤の視界からしずかの姿が消えた。
超スピード、幻覚、そんな陳腐なものではなく、言葉通りその場から消え去ったのだ。

「詐欺師だから」

 加藤は首から顎にかけて刃が動くのを感じた。
視界が赤く染まりぼやけてゆく。

加藤「か──ひゅ──」

 呪詛の言葉を吐き捨てようにも喉を切り裂かれて言葉を紡げない。
その代わり加藤は心の中でしずかに呪いを投げ掛ける。

『孕ませろ』

 加藤の人生で最期の言葉弄り『チープトリック』
それはあまりにも乱暴で、単純で、陳腐なものだった。
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/05(土) 21:22:51.21 ID:tyHtWWkAO
しずか「姫子……」

 しずかは変わり果てた姫子の横に座り込んだ。
そっと明るい髪の毛を撫でると姫子はびくりと跳ね上がった。

姫子「ひっ──!? やだよ……いじめないで……」

 しずかの手を払い除けて耳を塞ぐ。
しずか以外の人間が今の姫子を見れば彼女が姫子である事さえも疑うだろう。
 だがしずかは知っていた。
姫子だって誰かに甘えたい時もある。
たまに空を見上げて深呼吸をする事は誰にだって必要なのだ。

しずか「一人で抱えちゃ駄目って言ったじゃない」

 怯える姫子を抱え上げ、強く抱き締める。
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/05(土) 21:23:32.35 ID:tyHtWWkAO
 高く塗り固めた壁が弱点となる事もある。
それは風使いの少女も雪の女王も同じだ。
或いはその強さこそが強者の唯一の弱点なのかもしれない。

しずか「我慢しないでね。これからはずっと一緒だよ?」

 君が弱いところを見せたくないなら私がそこを埋めてあげるから。
 無くしたものが恋しいなら私が見つけてあげるから。
 そうして胸の中で言葉を連ねている内に姫子を抱く力が強くなっていった。
しずかの肩に頬を預ける姫子の目に光が宿ってゆく。

姫子「しずか……怖かったよ……」

 姫子も強くしずかを抱いた。
よしよし、と溜め息を吐きながらしずかは姫子の頭を撫でる。
 傍らで見ていた三花が朦朧とした意識の中でぼそりと呟いた。

三花「私重傷なんですけど……」
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/05(土) 21:25:47.08 ID:tyHtWWkAO
しずか「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースにも休息は必要だ」

姫子「……何?」

そんなノリ
若干駆け足になったけど反省しない
本当に書きたいのはここからだ
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 23:42:48.40 ID:v6vXpYmto
ここでしずかか
てっきりあずにゃんが来たと思ってた
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 00:42:50.74 ID:++TGouM6o
やべぇ、しずかの「詐欺師だから」にシビれたwww

まさかこんなカッコ良くカムバックするなんて!!

作中二番目に好きなシーンになりそうwww

乙です!
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 01:12:58.79 ID:nUHuidaAO
しずかぁぁぁああぁぁああぁぁああぁあぁあぁぁあ
生きててよかったよー!!!!!!!
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 10:25:43.22 ID:dI4uA6mIO
しずか「ブ・チ・コ・ロ・シ・カ・ク・テ
・イ・ネ」

加藤「ひぃ!?」
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:09:08.14 ID:ozbtqDoAO
 各所で繰り広げられていた激戦が終わりを迎えた時、彼女等は敵の牙城の最奥部まで辿り着いていた。

和「大丈夫?」

梓「はい、なんとか……」

 強がってはいるものの梓の顔色は悪い。
 後藤を屠った一撃はあくまで和の闘気を自身の身体に無理矢理接続して放っただけであり、それは彼女のキャパシティの限界を遥かに上回っていたのだ。
 過ぎた力は身を滅ぼす。それはこの状況とて例外ではない。


和「…………」

 この先の戦いに梓を連れてゆくべきか否か、和はここで苦渋の選択を強いられていた。
 本人の意志を尊重するならばこのまま進めば良い。
だがそれが正しい選択とは思えなかったのだ。
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:09:35.75 ID:ozbtqDoAO
梓「今更待ってろなんて言わないで下さいね?」

 和の意図に気付いた梓は呆れたように言い放った。

梓「ここで退いたら私は一生自分を許せなくなると思います。だから……私にも唯先輩を救わせて下さい」

和「…………」

 和は何も答えなかった。
その代わり静かに微笑む。そして改めて認識したのだった。
此所に集まった者全員の唯を想う気持ちを。

和「ホント……幸せ者よね、あの子は」

 緩んだ頬を引き締めて目の前に映る扉を見据える。
何を模索するでもなく二人には分かっていた。
この先に唯が、そして自分達を阻む者が居る事を。
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:10:04.35 ID:ozbtqDoAO
梓「いきます……っ!」

 腰の部分に忍ばせた耐火パッドから球状の爆弾を取り出す。
そしてピンを引き抜き、扉に投げつけた。

和「何があっても敵の殲滅を優先する事、良いわね?」

 和が言い終えると眩い光と共に轟音が鳴り響いた。
 瓦礫片、鉄屑が飛散し、粉塵が巻き起こる。
濁った視界を駆け抜けた先には大木があった。

いちご「三十秒遅かったね。此所に来るのにためらうような事でもあった?」

 やる気の無さげな冷たい声が響いた。
 大木の元の部分には蔦や根が絡み合って出来た玉座。
そこに腰掛けているのは全ての元凶、若王子 いちごだった。
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:10:31.21 ID:ozbtqDoAO
和「…………っ」

 考える事など一つも無い。
先ずは目の前の敵を力で叩き潰すだけだ。
 不安定に溢れ出る闘気を瞬時に凝縮、錬磨する。
鞘から抜いた刀の切っ先から光線状の刃が発現した。

いちご「…………」

 対するいちごは特に変わったリアクションは見せていない。
蔦で出来た肘掛けに肘を置いて頬杖をつき、遊び飽きた玩具を見るような目で和の闘気を見つめていた。

いちご「何て言うか……芸が無いよね」

 そっと溜め息を吐き、右手を目の前に翳す。
迎え撃つわけでもなく、彼女は振り下ろされた闘気の刃をまるで差し出された棒きれを掴むように受け止めた。
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:11:00.47 ID:ozbtqDoAO
梓「唯先輩……っ!?」

 和の背後で怯えたような声が響いた。
短く舌打ちすると和は即座に追撃を打ち切り、梓のフォローに回ろうとする。
その一瞬、いちごは薄く微笑んだ。

和「ぐっ──!?」

梓「い"っ……!?」

 二人は纏めて見えない何かに横殴りに吹き飛ばされた。
巨人に槌で殴られたような鈍い痛みに襲われながら二人の身体は広い部屋の宙を舞う。

和「──っ!」

 目まぐるしく動く視界の中で和はいちごの姿を捉えた。
彼女は未だ玉座に腰掛けたまま、人差し指を伸ばして右手首をくるくると回している。
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:11:29.27 ID:ozbtqDoAO
いちご「墜ちて」

 抵抗する時間など無い。
二人の身体は紡がれた言葉のまま床に叩き付けられる。
床の冷たさ、痛みを感じるよりも速く右に上に下に左に、見えない何かはその手の中で二人を弄んだ。

梓「なに……これ……」

 梓は身体中の骨が熱を放っているような気がしていた。
この分だとあちらこちらの骨が砕けているのだろう。運が悪ければ内蔵も傷付いているかもしれない。

梓「唯……せんぱ……い」

 いちごの頭上で大木に穿たれた唯を見て、梓は自分の力の無さを強く憎んだ。
 死装束のような真っ白い衣を纏った彼女は安らかな顔をしている。

梓「何で……そんな顔するんですか……」
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:11:57.04 ID:ozbtqDoAO
「何へこたれてんだよ、なーかのっ」

 聞き馴染んだ声が頭上から聞こえて、梓は顔を上げた。

梓「律先輩……」

 純に背負われた律が見ていて眩しくなるような笑顔を浮かべていた。
此所に来る途中で負傷した足には長めの銃が添え木代わりにくくり付けられており、見るからに痛々しい。

律「あんなになってても唯は唯だ。一緒にあいつを助けるんだろ? だったら諦めんなよ」

純「人におぶさっといて何言ってんですか。これじゃかっこよさも半分ですよ」

律「んなろーっ! 降ろしやがれっ!!」

 律は純の髪の毛をぐいぐいと引っ張った。
反動で二人共倒れたのは言うまでもない。
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:12:24.80 ID:ozbtqDoAO
いちご「…………」

 敵を目の前にして小競り合いを始めた純と律にいちごは苛立ちを覚えた。

いちご「……もう良い?」

 ぼそりと話し掛けるも当の二人は大声で喚き散らしているのでいちごの声は届かない。
せめて真っ当に戦わせてやろうと思っていたいちごだが、その僅かな情けを苛立ちが飲み込んでいった。
 梓と和にしたように手を翳す。
そして不可視の槌を叩き付けようとしたその時、いちごの手首を白い手が掴んだ。

いちご「あの人達どうにかならない?」

紬「ふふっ、私ピンチをチャンスに変えるのが夢だったの〜」

 朗らかな笑顔を浮かべたまま紬は拳を握った。
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:13:01.61 ID:ozbtqDoAO
 どんな強固な鎧をも打ち抜く拳をいちごの顔面目掛けて振り抜く。

いちご「──っ!」

 呻き声すら漏れなかった。
鼻の骨は砕け、広がる衝撃は頭蓋骨を粉々にするまでに至る。
眼球が飛び出し、骨の欠片は皮膚を突き破り、内部でペースト状になった脳が弾け飛んだ。

紬「私だって、怒る時は怒るもん!」

 肉塊となったいちごの顔から拳を引き抜く。
様々な体液が混じった汁が糸を引いた。

律「あ?」

純「え?」

 律と純が胴だけになったいちごを視界に映した時だった。
身体を動かす司令塔である脳が無いにもかかわらず、いちごの腕が動いたのだ。
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:13:31.44 ID:ozbtqDoAO
紬「え──」

 いちごの腕は紬の胴を切るように払われた。
大砲でも打ち込まれたかのような衝撃と共に紬は吹き飛ぶ。

いちご「……痛い」

 いつからそうなっていたのかは誰にも解らない。
潰れた頭が元に戻っており、紬の拳の痕は辺りに飛び散った肉片しか無かった。

 現状を目の当たりにした律と純はお互いの肩を掴む形で見つめ合う。

純「律先輩、『けいおん!』て漫画知ってますか?」

律「ああ、あの軽音部の女子高生がキャッキャウフフするほのぼの漫画だろ? 良いよなぁ、ああいう世界に住んでみたいよ」

純「はは、奇遇ですね。私もそう思います。じゃあ逆に聞きますけど絶対に行きたくない漫画やゲームの世界ってありますか?」
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:14:07.42 ID:ozbtqDoAO
律「そうだな、デッドラとかバイオみたいなパニックホラーは好きだけどあんな世界には行きたくないな。あれはやっぱり画面の中だからこそ楽しめるもんだと思うよ」

純「ですよねー。私も零シリーズとかやりますけどあんなのが現実に居たら卒倒しちゃいますよ」

律「…………」

純「…………」

 二人の間に沈黙が流れた。

律「ゾンビだああああああああっ!!」

純「お化けだああああああああっ!!」

 二人はいちごに背を向け、脱兎のような勢いで駆け出した。
純はともかく、律は足が折れているにもかかわらずとんでもないスピードで逃げている。
人体の限界を越えた人間が一人誕生した瞬間だった。
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:14:38.07 ID:ozbtqDoAO
いちご「……っ!」

 鉄仮面を張り付けたようないちごの冷たい表情が険しくなった。

いちご「……どれだけ人の神経を逆撫でれば気が済むの?」

 樹木の玉座から立ち上がり、普段は丁寧にケアしている艶やかな髪の毛を掻き毟る。

いちご「こっちに来なさい」

 怒気を含んだ唸るような声で呟いた。

純「あ?」

律「はい?」

 走る二人の身体が硬直、そして瞬間移動と錯覚してしまうような速度でいちごの元へと引き寄せられる。

いちご「……っ」

 律達を見下ろすいちごは肩を震わせていた。
二人の場違いな前置きは完璧にいちごの逆鱗に触れてしまっていたのだ。
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:15:11.07 ID:ozbtqDoAO
 今度こそ前座は終わりだ。
此所にいる全員を殲滅するにはたった一言、死ねと告げるだけで良い。
エデンシステムから取り込んだエネルギーは宿主の意志をその膨大な力が及ぶ範囲ならば口にするだけで実現してしまう。

いちご「死ん──」

 滅びの鍵語を呟こうとしたその時、いちごは首に異物感を覚えた。

しずか「身の周りには気を配らないとね。まぁ、そうしたところで私は絶対に見つからないんだけど」

 しずかはいちごの首に突き立てたナイフを引き抜いた。
そしてまた突き立て、引き抜き、突き立て、引き抜き──。
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:15:45.55 ID:ozbtqDoAO
 動きとしてはドアをノックする時の動きと似ているだろうか。
 血が撒き散ろうがいちごが悶えようがお構いなしにしずかはナイフを同じ箇所に刺し続ける。

いちご「あっ……やっ…だ……っ、いっ……つっ……」

しずか「どうせ死ねないんでしょ? だったら壊れるまで壊し続けるだけだよ」

 しずかは既にいちごを人として見ていなかった。
彼女は紬がいちごの頭を砕いた辺りから息を潜めて見ていたのだ。
 蘇りをあっさりと実現したいちごを人間と見られる筈も無かった。
鈍色の刃は『肉塊をほぐし、解体してゆく』。
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:16:17.80 ID:ozbtqDoAO
しずか「姫子!」

 いちごの首と胴が分かれた瞬間、しずかは仲間の名を呼んだ。

姫子「おっけ」

 短い返事と共に一陣の風が流れる。
颯爽と風を哭かせながら現れた姫子はいちごの胴を乱暴に掴む。

姫子「こんな事になったのは悲しい事だけど……。仕方ないんだよね?」

 答えないいちごの身体に問い掛け、虚無が返ってきたのを確認すると姫子は両手に闘気を集めた。

姫子「どれだけ辛くても目を逸らしたりはしないよ。それが星の観測者の在り方だから……」

 鋭利な風は物質を越えた究極の刃となり、いちごの身を刻んでゆく。
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:16:46.64 ID:ozbtqDoAO
 肉塊は挽き肉となり、塵となる。
いちごの胴体はこの世から抹消された。
そして残されたいちごの頭は……。

「言われなくても目を逸らさせたりなんかしないよ。貴女達には最期まで絶望してもらうから」

 ぐちゃり──。
 生々しい音がだだっ広い部屋に鳴り響いた。

姫子「そんな……。原形すら残してなかったのに……」

 転がった古い頭を踏み潰し、いちごは姫子の肩に手をかける。

いちご「終わらない、終わらせないよ。こんなのじゃ」

 いちごの手を介して姫子の身体にとてつもない衝撃が流れ込んだ。
姫子は前にも一度この感覚を味わった事があった。
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:17:19.40 ID:ozbtqDoAO
姫子「唯──っ!?」

 痺れを伴う鋭い痛み、それは身体に流れ込む紫電がもたらすものだ。
かつて姫子と唯が対峙した時の悪夢が蘇る。

姫子「あ──がっ──」

 いちごの手から逃れようにもがっちりと掴まれていてそれは適わない。
だが成す術なく悶える姫子を、仲間が見過ごす筈もなかった。

三花「離して──っ!」

 部屋に集まった人間の間を縫うように三花が躍り出た。
無事な方の腕を引き、肉を切り裂く爪を生やす。

いちご「どうして苦しい死に方を選ぼうとするの……?」

 だが前方から迫ってくる三花、後方で密かに狙いを定めるしずか。二人の動きはいちごには筒抜けだった。
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:17:57.65 ID:ozbtqDoAO
 姫子を三花に放り投げ、たった一言命じる。

いちご「平伏しなさい」

 斎藤が純にそうしたように、絶対尊守の言葉を投げ掛けた。
 刹那、部屋に存在する全ての人間に襲い来るのは神の重圧。
不可視のエネルギーがしずか達を平等に押し潰す。

「────」

 誰も口を開けなかった。
 理由など無い。ただいちごの力は存在そのものが森羅万象を従わせる強大なものだったから。

いちご「これが私の力、偉大なる名前『ラスト・ネーム』だよ」

 強大なる力に偉大なる名を。いちごは静かにほくそ笑んだ。
 その後ろで穿たれた唯の手が少し、ほんの少しだけ動いた事は誰にも分からなかった。
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 19:18:47.55 ID:ozbtqDoAO
紬「唯我独尊!」

いちご「百鬼夜行……」

そんなノリ
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 20:39:28.98 ID:neyZnicDO
乙っす。
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 21:14:47.30 ID:VKfkONHFo
強すぎ乙
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 21:38:36.40 ID:hmAeUmubo
憂「私、忘れられてない…?」
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 23:17:21.92 ID:YVradchJo
壮吉「撃って良いのは、撃たれる覚悟のある奴だけだぜ?レディ」
梓「これが…ハードボイルド…」

そんなノリ
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 00:59:54.43 ID:zzEYUqaZo
乙です!

ムギが顔を潰したシーンで盛大に噴いたwwww

そして、それをちゃんとフォローする律と純ちゃんにまた噴いたwww
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 08:38:58.21 ID:f/iUggfAO
この若王子はどうやったら倒せるの?
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 18:16:15.00 ID:cOLilSdAO
>>643
本命 憂
大穴 伊藤リオン
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 18:35:34.59 ID:Kr6EIhmAO
そういや残る従者衆は伊藤か
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 21:09:22.06 ID:pMiWu87AO
>>645
伊藤は潜入前に澪に捕まったよ
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 20:47:48.20 ID:qH7PcVuTo
あとは

工藤
衛藤
加藤
仁藤
遠藤
木藤
佐藤
谷藤
海藤
江藤
三藤
ガトー

ってとこか?
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 21:17:46.86 ID:M+VaL0tVo
亀頭っていなかった?
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:16:28.40 ID:1/mKrnEAO
『よう、お前はいつまで寝てるつもりなんだ?』

 何処から聞こえたのかは分からない。もしかしたらその声は初めから鳴ってすらないかもしれない。
でもその声は確かに、私の胸の上の方を掴んで離さなかった。

「私も分かんない。何も見えない、真っ暗なの。どうしたら良いのかな」

 有りのまま、私が感じたものを伝えた。
するとその子は笑った。笑ったような気がした。

『暗いのは怖いか? 何も見えないのは苦しいか?』

「うん、とっても」

 口に出すとその気持ちは更に大きくなったような気がする。
自然と身体が震えてきて、私は暴れ回って、はいない。
 あれ──?
 身体ってどうやって動かすのかな。
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:16:59.85 ID:1/mKrnEAO
「怖いんだ。こうしてる間に一つずつ何かを無くしてるような気がするの」

 私の大切なもの、それは──。

「澪ちゃん、りっちゃん、ムギちゃん、あずにゃん。それに和ちゃんに憂、他にもいっぱいいるの」

『お前は幸せだな』

「うん、とっても幸せだよ」

 幸せ、幸せなんだと思う。
でも幸せだった事が何故か今はとても辛くて、此所じゃない何処かに逃げたくなる。

『じゃあ何でお前は幸福から目を逸らそうとしてるんだ?』

「それは……」

 答えられなかった。答えが分からなかったんじゃなくて、それを口に出すのは私の我儘だと思ったから。
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:17:28.34 ID:1/mKrnEAO
『不幸になるのが怖いから』

 その子は言った。
隠したかった想いが見透かされたのが怖かった。
だけどそんな気持ちを包んでくれるように誰かが私を抱き締めた。

『見えない世界は怖かっただろ? 何も無い世界は恐かっただろ? だったら開いちまえよ、お前の臆病な目ん玉をさ』

「…………」

 何も答えずに私は目を開こうとした。
でも私の身体はやけに強情で、仲良しな私の瞼は離れたくはないみたい。

『大丈夫。安心しろ、期待しろ。世界は目を逸らすほど汚いもんじゃねーからよ』

 胸の中を何かが透り抜けていった。
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:18:01.96 ID:1/mKrnEAO
『どうしてもどうしようもない現実にぶつかったんなら、そん時は私が何とかしてやる』

「……うん」

 身体が軽い。
 頭もすっきり。
 大丈夫。今ならやれる。私にも出来る。

「ありがと、何処かの誰かさん」

 あれだけ重たかった瞼が今は嘘みたい。
私の目にちくちく刺さってくる光のせいで少しぼんやりしてるけど、世界はとっても明るくて、優しくて、愛しくて……。

「──っ!?」

 とっても、辛かった。
 何で、何でどうして、どうして──。
 りっちゃんも、ムギちゃんも、あずにゃんも、和ちゃんも純ちゃんも姫子ちゃんもしずかちゃんも三花ちゃんも──。
 ────。
 ──。
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:18:32.03 ID:1/mKrnEAO
唯「何で──っ!?」

 悲痛の叫びは広い部屋の中で木霊した。
楔に身を縛られた自分と地に伏せた仲間達、その間にある隔たりは唯の心を狂わせようとする。

いちご「……?」

 返り血を浴びたいちごは訝しげな表情で声がした方へ振り返った。

いちご「……何で生きてるの?」

 疑問だった。
 不死の力を人間に与えるエデン・システム、その原理は唯の肉体に宿った龍の力を搾取する事にある。
 その為には唯の精神を乱し、感情の高ぶりから漏れ出たエネルギーを随時抽出する必要があった。

いちご「…………」
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:19:00.61 ID:1/mKrnEAO
 だがそれは初期段階の話。
エデン・システム完成を目前としていちごはエネルギー不足に頭を悩ませた。
精神の歪みから抽出出来るエネルギーは脆弱なもので、精々タナトスを起動させるのが関の山だったのだ。
 博打に出たいちごは唯をエデン・システムに一番近いところで殺した。
そして死んだ肉体を強制的に蘇生させ、仮死状態に止めたのだ。
 そうする事で精神から乖離された肉体には龍の力だけが残る。そしていちごは龍の力を自在に抽出する事に成功した。

いちご「あなたの精神はとっくに死んでる筈……。何で?」

 いちごの問いは虚しく宙を舞った。
今の唯に会話をする余裕などある筈もなかったのだ。
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:19:29.81 ID:1/mKrnEAO
唯「こんなの……やだよぅ……っ!」

 目の前で倒れている仲間の元に駆け付ける事も出来ない。
胸に穿たれた楔が恨めしい。
 涙目で楔を見つめると意を決したのか、唯は遂にそれに手をかけた。

唯「ひっ……ぐっ……!」

 楔は少しずつ唯の胸から抜けようとする。
何のリスクも無い筈が無かった。
死んだ方がマシと思えるような激痛が唯の胸に走る。

いちご「…………」

 いちごは歯痒さから爪を噛んだ。
このままいけば楔が取れる前に唯が力尽きるか、楔を抜いた際の出血で死に至るか、二つに一つだ。
 だがいちごはその二つとも善しとはしていない。
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:20:00.89 ID:1/mKrnEAO
 龍の力は未だ解明されていない部分が多々ある。
その解析が終わるまでは唯を死なせるわけにはいかない。

いちご「……止めて」

唯「止めない……もんっ……!」

 どうすれば良い?
 偉大なる名前を使えば唯を無傷で解放する事など児戯に等しい。
楔の消失、肉体の復元、意識の抹消、これらを口にするだけで仕事は終わりだ。

いちご「…………っ!」

 だが唯の身体に残る力の残滓が龍の力を受けて何らかの影響を及ぼしてしまったら、そう考えると無闇に力は使えない。
 最悪のパターンを踏まえた上で敢えて効率を重視するのがいちごの芯なのだが、龍の力が絡めば例外だ。
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:20:28.53 ID:1/mKrnEAO
 考えろ、思考を止めるな、使える知恵は全て駆使しろ。
そんな自己暗示は虚しく、唯の楔は着々と緩んでゆく。鮮血を垂れ流しながら。

唯「────っ」

 唯は言葉にならない言葉を上げた。
それは断末魔のように悍ましく、いちごにはそれが世界の終わりを告げる警鐘のように思えた。

いちご「……っ、空間を凍結!」

 いちごの力が行使されたのは楔が唯の身体から抜けたのと同時だった。
いちごが指定した空間はまるでそこだけ切り取られたように動きを止める。
唯の身体は空中で停止、吹き出る筈の血は唯の胸元で止まっており、大気の流れすらそこには無かった。
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:20:57.32 ID:1/mKrnEAO
 唯の動きが停止したのを確認するといちごは安堵の溜め息を吐き、一瞬だけ唯から目を逸した。彼女の口元が何故か緩んでいる事にも気付けずに。

「ありゃま、こいつぁひでぇや」

いちご「──っ!?」

 聞こえる筈のない声が聞こえた。
全ての理すら封じ込めて凍結した筈なのに、何故彼女は理不尽に存在しているのか。

唯「両足ポッキリ、つぅか粉々か。内蔵も何個かいっちゃってるなぁ」

 血に濡れた白装束を纏う彼女は先程いちごが叩き潰した律の身体をぺたぺた触っている。

唯「ふぅん、見た感じじゃ皆同じような壊れ方だな」

 床に流れる血を掬い取り、掌を広げてそれを舐め取る。
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:21:39.19 ID:1/mKrnEAO
いちご「あなた……一体……」

唯「誰なんですか、何て言わせねーぜ? お前が私を欲しがったように、私もお前に会いたかったんだからな」

 彼女は素足のまま血溜まりを通り、律達が倒れている箇所の丁度中心部分に立ち尽くした。

唯「……取り敢えずは傷の手当て、霊魂の定着、闘気の回復ってとこか、頼むぜ」

 一人ごちて彼女は血に染まった床を強く叩いた。
それに反応して床に淡い光を放つ幾何学模様の陣が広がる。

いちご「──っ!」

 目の前の彼女が何であるのかは分からない。
ただ一つわかる事は唯ではない者が何かをしようとしている。
それをいちごが見逃す筈も無かった。
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:22:17.60 ID:1/mKrnEAO
いちご「彼女の周囲に一億の槍を展開、軌道は追尾、対象の命尽きるまで追いなさい!」

 言霊と共に現れる未元物質の槍、その数は一億。
鉄が彼女の視界を覆った。

唯「囀るな」

 彼女は槍の向こうにいるいちごを睨み付ける。
それと同時に闘気ではなく、それに似た遥か高位と思しき何かが空間を駆け巡った。

いちご「ひっ──!?」

 いちごは未だかつてない戦慄を覚えた。
無音で鳴り響く破滅の旋律は幻想の槍を打ち砕き、空虚に帰す。
再びいちごの視界に映った陣は一際大きな光を放ち、跡形もなく消えた。

唯「こういうの何て言うんだっけな……。ちょい昔のドラマであったな」
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:22:50.86 ID:1/mKrnEAO
 彼女は血に塗れた手で頭を掻く。
そして何か思い出したように両手を合わせるとあはっ、と笑ってみせた。

唯「うんたんパワー注入! なーんつって」

 左手を腰にあて、右手でVサインを作ると彼女は邪気を含んだ笑い声を上げる。

いちご「…………」

 目の前の茶番をいちごは黙って見ているしかなかった。
ようやく気付いた自分は触れてはならない禁忌に触れてしまったのだと。
 いちごの気を知ってか知らずか笑い転げる彼女の足元で、屍体同然だった律達がのそりと動き出す。

律「唯……?」

唯「んあ?」

 彼女は笑うのを止めて足元を見下ろすと、再び口角を上げた。
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:23:21.53 ID:1/mKrnEAO
唯「おーおー目が覚めたかい? 初めましてだねぇりっちゃん」

 腰を下ろし、律の顎を持ち上げると彼女はずいっ、と顔を寄せた。

律「唯? 唯なのか……?」

唯「なに死にそうな声出してんだよ、折角私が治してやったのに。そんなにしんどいならちゅーでもしてやろうか?」

律「っ! 馬鹿やめろっ!」

 急いで身を退いた律は自分が身を退けた事に驚いた。
意識が戻る前の最期の記憶、それは見えない何かに身体を押し潰される苦痛だった。
確かに壊れてゆくのを感じた身体が何故か少しは痛むものの、言う事は聞いてくれる。
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:23:52.40 ID:1/mKrnEAO
紬「つっ……」

 遅れて紬、そして他の者も顔を上げた。
皆状況の理解に苦しんでいるのか、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

唯「皆してノロノロ動きやがって、これじゃあ私の治癒が下手くそみてーじゃんかよ。そりゃ熾天使格の連中には負けるけどよ」

 普段の唯とは似ても似つかない乱暴で男勝りな口調、気怠そうな動作。
皆が困惑する中で姫子と紬は胸を締め付けられるような不安感に駆られていた。

姫子「…………」

 恐れていた事が現実になってしまった。
姫子は震える手で肩を抑えて押し黙る。
かつて見た恐怖の片鱗、その全てが具現化してしまった。
それは姫子の心を叩き折るには充分な出来事だった。
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:24:30.76 ID:1/mKrnEAO
紬「何処かの誰かさん……?」

 彼女は近い内にまた会うだろうと言っていたが、紬はまさかこんなに早く見える事になるとは思わなかった。
かつてあの全てを混ぜ合わせたような空間で斎藤の心を折った者が此所に居る。
考えなくとも紬は本能で察知した。
これは不味い、必ず悪い事が起こる。救いなど一つもない、凄惨なる清算が。

唯「……どーも歓迎されてないみたいね。折角どうしようもない現実をどうこうしてやろうってのに」

 彼女は頬を膨らませて鼻を鳴らした。
そして赤く染められた白装束の帯を締め直し、唯のトレードマークとも言える青のヘアピンを放り投げる。
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:25:06.51 ID:1/mKrnEAO
唯「だったら勝手にやらせて貰うぜ。他の誰が望んでなくても、唯は望んでるんだからな」

 唯の身体を纏うように紫電が現れた。
赤、青、黄、緑、その四色の闘気のどれにも属さない殺意の波動が空間を駆け巡る。

いちご「──っ!?」

 相対していちごの身体はぴくりとも動かなくなった。
喉が焼けるように熱い、目の奥が渇き、呼吸の方法さえも忘れてしまう。

唯「んじゃ、やろっか」

 あはっ、と笑うと彼女は悠然と一歩ずついちごに詰め寄ってゆく。
血塗れの素足が床に触れる度にぴちゃ、と嫌な音が鳴る。
完全なる破壊へのカウントダウン、一秒刻みで聞こえる嫌な音はいちごの精神を征服しようとした。
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:25:35.83 ID:1/mKrnEAO
 見えない鎖がいちごを縛り付ける。
偉大なる名前を紡ぐ事すら適わない。
 動け────。
 動け──。
 動け!
 上辺でどれだけ自分の心に鞭を打っても芯が凍り付いたように動かない。

唯「だんまりか? んじゃ私から行くぜ」

 紫電の筋だけを残して彼女はいちごの視界から消える。
直後、いちごは自分の頭に何かが添えられるのを感じた。

唯「ビリビリすっから歯ぁ食いしばれよ?」

 彼女が言い終える前にいちごは全身を駆け巡る衝撃に悶えた。
理不尽な暴力が肉を焦がし、骨を震わせ、脳髄を焼き尽くす。
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:26:13.09 ID:1/mKrnEAO
いちご「ひっ──ぎっ──!?」

 意識を手放す事は許されない。
焼かれた身体は時間を遡るように修復され、再び焼かれる。
いちごは絶える事の無い苦痛のループに叩き落とされた。

唯「我ながら厄介な身体だよなぁ……。殺す手段は無きにしも非ず、けど面倒だし……」

 眉を顰めて空いた手で頭を掻く。

唯「それにあいつも望んでないしなっ!」

 紫電を放つ手を離したかと思うと彼女はいちごの懐に潜り込み身を翻すと、再生したばかりの顎に踵を捩じ込んだ。

いちご「あっ……」

 がくんと脳を揺らす衝撃の後にいちごの身体は天井を突き破り、巨大な穴を作って空高くまで浮上した。
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:26:43.81 ID:1/mKrnEAO
 そして恐怖に恐怖を重ねて萎縮した感覚が麻痺している事に気付く。
今ならやれる。
偉大なる名前を以て龍に一泡吹かせられる。

いちご「……私と龍の位置を変換、此所を水で満たした後に液体を硫酸に転換」

 言霊を一瞬のタイムラグも無く実行される。
宙に浮いていた筈のいちごが地に足をつき、地に足がついていた筈の彼女が空に投げ出された。

唯「へ?」

 素頓狂な声を上げると共に彼女の身体は現れた水泡に閉じ込められる。
続けて彼女に襲いかかるのは……。

唯「にっ、ぎゃああああああああっ!?」

 雷に撃たれるよりも遥かに辛い苦痛が彼女の身を焼く。
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:27:17.58 ID:1/mKrnEAO
 硫酸の水泡は彼女の身体を濡らす水と反応して牙を剥く。
衣を溶かし、爛れた皮膚を焼き続け、眼球を壊し、喉から流れ込む酸は臓器を焼く。

姫子「逃げよう……。今直ぐ此所から」

 現状の理解に苦しみ、ただただ戦慄する皆の中で姫子が水を差すように言った。

梓「っ! 何言ってるんですか!? それじゃあ唯先輩は──」

姫子「私達が此所に居て何が変わるの?」

 真っ先に食ってかかった梓を一蹴する。
他に姫子の意見に反論出来る者は居なかった。

いちご「逃がさないよ、せめてあなた達だけでも道連れに──」

唯「逃がすんだよ、この巻き糞ツインテール」
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:27:47.82 ID:1/mKrnEAO
 ぞわりといちごの背筋に何かが這った。
彼女はまるで慣れ親しんだ友人にそうするように、いちごの背中から覆い被さって腕を回す。

和「唯、じゃないのよね……?」

 幼少時から唯を見続けた和には今の唯が唯じゃない事に薄々気付いていた。
恐る恐る彼女に尋ねると彼女は気怠そうに顔を上げる。

唯「それは追々説明するからさ、取り敢えず今はそっちのギャル崩れの言う通り逃げとけ」

姫子「ギャッ──!?」

 辛辣な一言に姫子は顔をしかめた。

唯「なーんかこう首の後ろんとこがちりちりすんだよ。最後に会ったのは何千年前だっけな」
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:28:13.63 ID:1/mKrnEAO
 震えるいちごの頬をなぞりながら彼女は巨大な空洞が出来た天井から空を仰ぐ。
不気味なほどに黒く曇った空から舞い散る雪は美しい幻想を創り上げていた。

いちご「…………」

 つられて見上げた空に突如歪みが現れた。
何も無い空間に走った一筋の亀裂はたちまち拡がってゆく。

律「何じゃこりゃあああああっ!?」

 律が指差した先、空間の亀裂から黒い稲妻が放出された。
無尽蔵に溢れ出す稲妻は一つの巨大な影を造ってゆく。

いちご「龍の……片割れ……?」

 漆黒の稲妻で形成された悍ましい龍、その頭部には桜高の制服に身を包んだ、唯と同じ容姿の少女が立っていた。
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:28:48.94 ID:1/mKrnEAO
憂「お姉ちゃん」

 凜とした声が響いた。
憂の周囲の空間は蜃気楼に覆われたようにぼやけている。
空間という概念すら憂の闘気の前には自壊するしかないのだ。

唯「病んでんな……」

 いちごの髪の毛を弄りながら憂を見つめると彼女は呟いた。
深い闇に塗り潰された憂の瞳に何を見たのか、それは彼女にしか分からない。

憂「そこを離れて。そいつ殺せない」

 刹那、黒い靄がかかった禍々しい波動が空に拡がった。

唯「やなこった」

 彼女はんべっ、と声に出して舌を出すと下卑た笑みを憂に向ける。

いちご「…………」

 彼女に抱かれたいちごは密かにほくそ笑んだ。
『あれ』を使うなら今しか無い、世界の終わりを終わらせる最終兵器を。
 一対の龍の威圧と禁忌に触れた人間の思惑が交差しようとしていた。
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:29:53.31 ID:1/mKrnEAO
いちご「当然。我が黄金錬成に不可能は無い」

唯「はいはい、そげぶそげぶ」

そんなノリ
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 01:44:08.59 ID:uUB+htcAO


唯「SI 俺たちはいつでも2人で1つだった」

憂「お姉ちゃん大好き♪」

こんなノリ
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 02:02:53.62 ID:7mMXAdeho
憂さんはやっぱり天を割ってやってきたか…まるでバキシムだな。
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 02:05:20.37 ID:QQlQyTbFo
乙です!

この唯ちゃん無敵だけど、どおやって硫酸ボールから抜け出したの?
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 02:45:14.47 ID:RSNXGKdAO
唯が圧倒的に強いから、で片付けても良いんだけど敢えて言うなら
・一億の槍を叩き落としたように覇気(暫定)のようなもので硫酸ボールを無力化
・いちごの再生能力は元々龍の力だから唯も同じ事が可能
・硫酸の無力化、再生後に超スピードでいちごの背後に移動

って感じかな。
段々説明不足になってるのが自分でも分かるしそろそろヤバいな。
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 03:20:34.83 ID:iJWI8HVyo
いきなり背後を取られる演出なんだからそんな野暮な事聞くなよwwww

まぁでも、解説が予想どうりで安心した!!

忙しいなら焦らずともじっくり執筆してくだせぇ。
楽しみは伸びるほど嬉しいもんです。
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/13(日) 16:51:04.31 ID:IdRyy2aAO
物語はまだまだ終わらないよね?
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 17:34:15.88 ID:MEgrpYCxo
唯「ちょっとくすぐったいぞ」
いちご「え?」
憂『ファイナルアタックライド…リュリュリュリュウキ!!』

そんなノリ
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:01:47.52 ID:wY4Ppo0AO
 この世界が始まって以来これ程の力を宿す者が一同に会する事はほぼ無かっただろう。
 人知れず世界に在り続けた一対の龍。そしてその龍の力を掌握せんとする者。
決して滅びる事の無い三人がぶつかり合った時に何が起こるのか、それは三人にも解らない。

憂「どうして言う事聞いてくれないの? お姉ちゃん私の事嫌いになっちゃったの?」

 眉を八の字にして悲しそうに顔を伏せる憂の足元には禍々しい黒龍。
あまりにも不釣り合いなその対比は不気味なほどに様になっていた。

唯「お姉ちゃんはどうか知らねーけど私はお前みたいな奴が大嫌いだね」
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:02:17.61 ID:wY4Ppo0AO
 彼女は鼻を鳴らして床を蹴った。
途端に律達の足元に光が浮かび上がり、床が爆ぜる。

律「なっ──!?」

 全員が大きく後退して距離を取った。
飛散して積み重なった瓦礫の山が傍観者と闘う者を明確に区切る。

唯「存在ごと消し飛ばされたくなかったらとっとと失せな。死ぬのとはわけが違うからな」

 冷たい瞳で律達を見据えると彼女は再び空を仰いだ。

憂「やっぱりお姉ちゃんは優しいね。でもどうして私の事嫌いになっちゃったの? 私何かお姉ちゃんにいけない事した?」

 黒龍が雲散してゆき、黒い霧になる。
空に放り出された憂は二、三度回転しつつ音も無く着地した。
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:02:59.91 ID:wY4Ppo0AO
憂「私謝るよ。きっとお姉ちゃんは私がいけない子だから怒ってくれてるんだよね? ごめんね、お姉ちゃんも辛いよね。本心じゃないのに仕方なく怒ってるのは私には分かるから、だから私はそれでお姉ちゃんの事嫌いになったりなんかしないよ。だって私はちゃんとごめんなさいが言える子だもん。早くその女を殺して家に帰ろう? お姉ちゃんの為にお姉ちゃんの好物いっぱい作るから。あっ、勿論今日はアイスも好きなだけ食べて良いよ。お腹冷やしてお腹壊さないように私がずーっと温めてあげるから──」

唯「気持ち悪い、黙れ」

 抱いたいちごの胸に爪を立て、彼女は憂を一蹴した。
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:03:34.35 ID:wY4Ppo0AO
唯「唯はお前の所有物じゃない。笑ったり、泣いたりもするし怒ったりもする、れっきとした人間だ」

憂「知ってるよ。お姉ちゃんの泣き顔も怒った顔も一番知ってるのは私だもん。お姉ちゃんの事はなんでも──」

唯「知ってるなら何で分かんねーんだよ。怒ったり泣いたり出来る人間は人間の思い通りになんかならねー事をさ」

 お前にも言える事だけどな、と付け加えて彼女はいちごの頬に舌を這わせた。
いちごは一瞬だけ身を捩らせると険しく眉を顰める。

いちご「……思い通りにならない事なんて何も無いよ。世界はそんなに楽しくないもの」
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:04:03.79 ID:wY4Ppo0AO
 ぎりぎりと歯噛みすると、いちごは淡々と口を開いた。

いちご「私は生まれたと同時に人生の攻略本を渡されたの。先が見えたイベント、気が遠くなるような単純な作業の繰り返し。簡単過ぎて退屈で……」

 語り始めは淡々としていたものの、声には怒気が含まれてゆく。

いちご「こんな簡単な世界相手に皆四苦八苦してるの。私にはそれが見てられない。だから……」

 刹那、床から純白の光線が幾筋も空に舞い上がる。

いちご「考える時間をいっぱいあげるの。世界を解き明かす為の時間をね」

 空に伸びた光の筋から白い羽根が舞い散る。
小さな羽根は敵を貫く光の槍と化して降り注いだ。
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:04:33.06 ID:wY4Ppo0AO
唯「──違うだろっ!」

 彼女はいちごを強く抱き締めた。
全身の骨が砕け、内臓を押し潰すといちごは血の泡を吹く。

いちご「痛覚の抹消。敵の周囲空間を固定、力の属性を永劫に変換」

 降り注ぐ光の雨が憂の元に集束してゆく。
唯「零から唯までズレまくりだっつーの! そんなのが通用するわきゃねーだろ!!」

 彼女はぼろ雑巾同然の姿になったいちごを放り、憂を狙う光の元へ跳躍した。
 陳腐な紛い物の力で迂闊に憂を刺激してはならない。
そんな思いはかえって裏目に出る羽目となる。

憂「やっと退いてくれたねお姉ちゃん」
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:05:00.16 ID:wY4Ppo0AO
唯「あ……」

 この時彼女は初めて動揺した。
どうにかしてやると約束した、その決意が揺らぐ。
 憂が右手を翳すとそこを中心に幾何学模様の陣が広がった。
黒い光が集束し、白い光を飲み込もうとしている。

憂「此所に居る皆が邪魔だから照れてそんな事言ってるんだよね? そんなお姉ちゃんも可愛いよ」

 奔流する力の流れから彼女は悟った。
憂は防衛の為の力を展開しているのではない。
目に映る全てのものを駆逐せんとしているのだ。

唯「だあらああああっ!!」

 彼女は吠えた。
唯の大切なものを傷付けない為に。
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:05:27.42 ID:wY4Ppo0AO
 憂が展開した陣と真反対の模様が刻まれた陣が憂の手に重なるように拡がる。
 力と力は反発し合い、崩れてゆく。
大気すら震わせる力の奔流は白い光と共に緩やかな風となって鎮まった。

憂「つっ──!?」

 憂は衝撃から手を引いた。
だが真っ向から手を突っ込ませた彼女の腕は内部から風船のように膨らんでゆき……。

唯「いってええええっ!?」

 血の花を咲かせた。弾け飛んだ肘から先の肉塊が放物線を描いて律達の方へ飛んでゆく。

梓「ひっ──!?」

 目の前で生々しい音を立てて床に衝突した肉塊を見て梓は身を引いた。
中枢から離れた肉塊は意志を持っているかのようにうねっている。
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:05:56.18 ID:wY4Ppo0AO
和「離れましょう。私達が居たら足を引っ張るだけよ」

 皆が無言で頷く中で梓だけが肩を震わせて押し黙っていた。

律「梓!」

梓「行くんなら勝手にして下さい! 私は絶対に嫌です!!」

 癇癪気味に梓が叫んだ。
そして太股に吊ったホルスターから銃を抜き、マガジンを入れ替える。

梓「覚悟は出来てる、なんて宣いながら結局それですか。そんな生き方しか出来ないなら死んだ方がマシですよ!」

 床を蹴って前に躍り出ようとする梓の襟首を純が引っ掴んだ。

純「梓、ごめん!」

 そのまま力任せに床に叩き付ける。
梓は直ぐに立ち上がろうとしたが、その半ばで気を失った。
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:06:25.79 ID:wY4Ppo0AO
律「……私達の覚悟って、何だったんだろうな」

 律は拳を作って掌に爪を食い込ませた。
細い指を伝う血はここに居る全員の無念を具現化するように流れ出て、床に落ちた。

紬「……せめて私達に出来る事をやろう?」

 横になった梓の髪をそっと撫でて、紬は梓を背負った。

和「出来る事?」

 鸚鵡返しのように反復する和に紬は直ぐ切り返した。

紬「ええ。唯ちゃんは長い間此所に閉じ込められてたでしょ? きっと寂しい思いしてたと思うの」

 何が言いたいのか解らない。
和はそう口に出す代わりに目を細めた。
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:06:55.21 ID:wY4Ppo0AO
紬「唯ちゃんって人懐っこいでしょ。だから独りで寂しい思いしてるときっとわんわん泣いちゃうと思うの。そして次に……」

和「寂しさを紛らわせる何かを見つけようとする。まぁそんなところかしら」

 背負った梓の太股の辺りをしっかり支えつつ紬は頷いた。

紬「アテは無いけどきっとこの施設の中にあると思うの。せめて唯ちゃんが無事戻ってきた時の為に、私はその何かを探したい」

 全員異論は無かった。
せめて何も出来なかった自分達の贖罪に。
皆の想いは一つに重なる。

律「此所も何時までもつか解らないしな。そうと決まれば早く行こう!」

 だんっ、と床を蹴る音と共に律達は散開した。
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:07:31.96 ID:wY4Ppo0AO
唯「くそ、いってぇ……」

 弾け飛んだ右腕は大方修復されてはいるもののまだ完全ではない。
無傷の右腕の内部では肉が修復されて蠢く。
それには激しい痛みが伴った。

憂「あ……あ……」

 憂の顔面蒼白で、よろよろと彼女に近付く。

憂「ごめんなさい! 私お姉ちゃんに酷い事……」

 黒塗りの瞳から大粒の液体がぽろぽろ零れ落ちる。

いちご「…………」

 狂っている。
 彼女等を見たいちごの感想は実に率直的だった。
芯となる部分、つまりこの二人の明確な目的がいちごには掴めないのだ。
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:08:03.96 ID:wY4Ppo0AO
 憂はいちごを殺すと宣言しておきながら自分で姉を傷付けて狼狽している。
 名前の分からない彼女はいちごに明確な敵意をぶつけて敵対しておきながら決定打を与えようとはしない。

いちご「やれる……」

 その中で一つだけ分かる事は彼女が憂の味方ではないという事だ。
憂の方は歩み寄ろうとしている節があるが空回りしている。
 つまり調和しない二人が触れ合っている今が好機。

いちご「指定座標に聳え立つ壁を。高さは一キロメートル!」

 二人を包むように筒型の壁が空へ伸びた。

いちご「指定空間の存在する物質の時間を逆行」
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:08:34.10 ID:wY4Ppo0AO
 服の襟に手を添え、小型のチップの様なものを取り外す。
この物体は先程彼女に電撃を浴びせられた際に破壊されていたのだが、その痕は無かった。
 チップの中央の小さな突起を押す。
それに遅れていちごの口角は醜く歪んだ。

いちご「滅龍槍『ブリューナク』」

 内側から聳え立つ壁を打つ音が鳴る。
どっちが鳴らしているのだろうかと考えたがいちごは直ぐにその思考を破棄した。
そんなものはほんの些事でしかない。
 勝利は確約された。
 人が造り出した神の裁きによって。
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:09:04.40 ID:wY4Ppo0AO
 壁が内側から発光する。
それから数秒のタイムラグがあっただろうか。
空を貫く塔が崩れ、宙を舞う瓦礫は地に着く前に雲散し、消え失せた。
 視界を遮る粉塵の奥には二つの影。
あれだけの衝撃を受けていながら立ち尽くしている。

いちご「無力の感想はどう? 何も持ってないのってどんな気持ち?」

 冷笑を浮かべるいちごの声色に先のような恐怖は無い。
畏怖の対象だった一対の龍は掌中の虫のような存在と化す。
 滅龍槍『ブリューナク』。
 舞い落ちたこの光の裁きこそが世界の終わりを終わらせる最終兵器なのだ。
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:09:49.02 ID:wY4Ppo0AO
唯「……そんな感覚、何千年と味わい尽くしたさ」

いちご「私が聞きたいのはそんな下らない精神論の話じゃないの」

 鼻で笑って彼女を一蹴するといちごは悠然と歩み寄ってゆく。

いちご「あなた達の存在そのものと言っても過言ではない龍の力。それを奪われた感覚はどう?」

唯「…………」

 彼女は胸の奥で暴れ狂いたい衝動に駆られた。
憂に気を取られている隙に閉じ込められ、状況を把握する間もなく謎の光を浴びせられた。
目立った外傷は無いものの、いちごの言う通り力が全く湧いてこない。
身体の中枢の蛇口を止められたような気分だった。
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:10:19.06 ID:wY4Ppo0AO
唯「……分かってねーな」

 彼女は修復途中だった腕を抑え、現在持ち得る最大の力を放出した。
しかし滅龍槍の効力は彼女の想像以上に及んでおり、僅かに発光する程度の紫電しか現れない。

憂「何? 何なの? 力が全く湧いてこないよ……。お姉ちゃん怖いよ……助けて……」

 彼女の後ろで憂が蹲った。
歯はがたがた震えており、大粒の涙が頬を濡らしている。

唯「てめーは引っ込んでろ。間違っても私の邪魔はするんじゃねーぞ」

憂「分かったよ。だから私の事嫌いにならないで……。お願いだから、お姉ちゃんがいないと私──」

 呆れたように溜め息を吐くと彼女はいちごと相対する。
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:10:52.15 ID:wY4Ppo0AO
唯「少しは考えたみたいだが、それでも私には及ばないな」

 不敵に口角を歪めると彼女は続けた。

唯「龍の力を抑制する光線、大体のところまで解析出来たのは褒めてやる。だけど私のは一筋縄ではいかねーんだよ」

 腕の痛みに耐え、全身の力を振り絞って紫電の勢いを高める。
それでも溢れた力はほんの少しだった。

唯「どうする? これ以上私を暴れさせるつもりかよ?」

 嘘八百、舌先三寸の猿芝居だった。
徐々に高めていった残り少ない力は果たしていちごの目にはどのように映ったのか。
彼女の心臓はそれを考えると激しく脈打った。
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:11:26.89 ID:wY4Ppo0AO
いちご「…………」

 いちごは唇に指を添え、考え込むように彼女を見据える。

いちご「知ってる? 状況の優劣によって人に見えてくるものは変わるの」

唯「…………」

 彼女の頬に一筋の汗が流れた。

いちご「早口、流暢な喋りは嘘を吐く人の典型的なミス。それに集中してるのかな? 気付いてないだろうけど瞳孔が若干開いてるよ」

 化物染みている。
 彼女は人がここまでの境地に達する事が出来るのかと驚いた。

いちご「……神懸かってると言って欲しいな。さっきから不自然な程手が動いてないのはそこに意識が働いているから。嘘を吐く時に声と表情の次に意識が向くのは手だからね」
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:12:10.42 ID:wY4Ppo0AO
 いちごは悪戯を隠す子供を見て呆れる母親のように、穏やかにほくそ笑んだ。

いちご「決定的なのは一言喋るのにあれだけ大仰な手振りをしてたあなたが今は直立不動な事」

唯「……マジかよ」

 穏やかな笑みは消え失せ、動揺する彼女を見据えるいちごの視線は矢のように鋭くなる。

いちご「小癪に人間の真似をしないで。虫酸が走るの」

 右手を真横に伸ばす。
するといちごの腕から視覚可能な力が溢れ出した。
霧のようなそれは徐々に連なり、重なってゆき、鱗に覆われた龍の腕となる。

いちご「あなたよりそっちの龍の方が扱いやすそうだし、心置きなく死んで良いよ」
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:12:45.08 ID:wY4Ppo0AO
唯「──っ!」

 彼女は薙ぎ払われた腕を真っ向から受け止めた。
力の残滓を振り絞ってその全てを防御に回すも、彼女の身は大きくのけ反る。

いちご「効力は一時的なものか……。まだまだ改良の余地がありそうだね。最期まで親切にありがとう」

 伸びた腕を鞭のようにしならせ、頭上から彼女を叩き潰そうとする。
振り下ろされた腕が彼女を蹂躙する直前、それは起こった。

いちご「──え?」

 痛覚を抹消しているので痛みは無い。だが違和感はあった。
 いちごの腕がフリスビーのように弧を描き、宙を舞っている。
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:13:23.87 ID:wY4Ppo0AO
「状況が理解出来ないんだけど……」

 か細く呟かれた声は冷たかった。
いちごは振り返った先に居る人物を見て思わず息を飲んだ。

いちご「…………」

 彼女の身に何があったのか。それはいちごにも解らない。
ただ彼女を決定的に壊す何かがあった事は確実だろう。
ボロ切れ同然となった制服。その隙間から見える血で滲んだ肌。
そして渇いた血がこびりついた唇と氷のような瞳。

澪「まぁ、どうでも良いや」

 澪は笑った。周囲に悪寒を伴う冷風を撒き散らしながら。
 絶対なる強者に唯一赦された感情、それは途方もなく狂気染みた狂気だった。
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 16:15:26.71 ID:wY4Ppo0AO
憂「お姉ちゃん、子供は何人欲しい(ry

唯「うん、そうだな!」

そんなノリ

>>679
まだまだ続くよ!
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 17:09:59.63 ID:lI6F4OcMo
そろそろ唯出さないと駄目だな。今のままだったら作者の鏡像の「俺」が主人公のハーレム系[田島「チ○コ破裂するっ!」]小説にしかならんし。
とある説法ライトノベル並にレベルが落ちてきたな。
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 17:34:04.33 ID:vwUKNLQo0
お前は何者なんだよwwwwww
普通におもろい。禁書は好きじゃないけど
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/14(月) 19:00:38.72 ID:RNBE4N1AO
う〜ん、僕から言わせてもらうと文章の方はまあまあだ。だけどイマイチ投下のスピードが遅いかな。まあできたら速くしてくれたまえ。他は及第点だね。
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 23:19:06.62 ID:Ze6xeoNNo
上から目線のてんこ盛りーwww
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 23:25:30.65 ID:M+acGXcAO
てか唯普通にでてね?
戦ってはいないけどさ
そういう展開なだけじゃね?
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 22:52:16.19 ID:k8mo5HtIO
いちご「外野は黙れ」
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 02:10:00.90 ID:k6y0riJAO
確かに劣化は自覚出来る程進んでるね
投下頻度にしてもまぁ申し訳ないとしか。
でも俺のスタンス的に書いていく中で直すしかないから長い目で見てくれたら嬉しいな
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/16(水) 02:19:56.11 ID:1gUA+CoAO
俺は最高だと思ってる。 毎日チェックしてるからな
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 06:23:01.45 ID:E7xEcPKvo
>>704
いつのまにか検閲入って言葉狩りされてるw
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 08:58:46.31 ID:rZTAjibAO
俺もぶっちゃけこのSSがすごく楽しみ。
今の俺にとっては、公式の惰性でやろうとしてる映画・原作再開・アニメ3期より、
むしろこっちのほうがけいおん!本編って気分。

外野を気にせずじっくり構想練って、良いもの投下してくだせえ。
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 09:06:44.62 ID:8abkvBEcP
このSSは面白いしスレ立て時から追ってるけどオリキャラのオリ話として読んでる

>>713
公式を引き合いに出して「本編って気分」とか信者じみたこと言わない方がいいよ荒れるから
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 09:38:14.31 ID:dnJTONrDO
あと公式は惰性でやってるんじゃなくて
CDとかグッズとか買っちゃうにわかから金搾るためにやってんだよ
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 09:59:45.64 ID:rZTAjibAO
あ〜、ほんっっっっとお前ら2ch系の住民はいちいちうっせえな。
たかだか一読者の作者に対するレスに過ぎないってのに、どうして俺の書き込みはいつもこう食いつかれるのかねww
スルーがお前らチャネラーの常識なんじゃねぇのかよwwwwwwww
ま、そんだけ俺が魅力的な人間だってこったwwwwwwww

>>714 悪かったな。一個人としての素直な感想だ。

>>715 だよな。わかってる。似たようなもんだろ。
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 10:03:36.56 ID:ZUHWHZJuo
こういうゴミってどっから流れてくるの?
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 10:47:31.02 ID:uVCjEdjAO
>>1さん
>>716に対して一言お願いします
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 14:50:26.67 ID:DG0GOAQQ0
リアル厨房なんだろ
察してやれよ
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 15:18:06.66 ID:uVCjEdjAO
>>719
お前のIDなんかいいな
GOGOとか
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 15:40:13.03 ID:Uva9ZKnIo
唯「作者がお留守だよ!」
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/16(水) 15:57:11.62 ID:1gUA+CoAO
まぁ十人十色って事で解決しよーぜwwwwww
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 19:23:06.61 ID:bwvj73QIO
なんだよ進んでるのかと思ったら
ゴミレスのオンパレードかよ
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/17(木) 17:53:02.10 ID:F6+q0nXAO
まあもっと投下スピードを早めてくれたまえ
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 18:14:21.78 ID:iK6Kl9Vxo
読むスピードを落としたら、相対的に投下速度が上がることにならない?
これ名案だわ、名案だこれ
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 19:33:57.37 ID:k59IQM4AO
投下スピードを上げろと急かしたせいで
クオリティが下がったらどうしてくれる?

まぁ、さすがに何ヶ月も放置されてはたまったものではないが、
ここの>>1さんはちゃんと数日置きに投下してくれてるんじゃないか。

スピードを気にせず良いものを作れる。
ここはそういう場所だろ?

みんなもっと冷静になれよ。
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/17(木) 21:29:52.26 ID:kwqXDthAO
その通りだと思う

ゆっくり待つから楽しみが増えるだろ?
まぁもうやめて>>1を待とうぜ
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/18(金) 23:22:48.07 ID:LMFHcBkDO
投下速度を上げてクオリティが落ちるどころか最初の頃に比べて投下速度も落ちてクオリティも落ちたけどね
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 23:23:26.98 ID:xaoyeULAO
荒らしに反応する方も荒らしだよ!


俺のりっちゃんの覚醒を待っていたのに……気付いたらギャグ要員になっていたでござる………
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 23:52:33.76 ID:xqMXIqaAO
まぁそんなに投下速度だのクオリティだの気になるなら
自分で書けばいいんじゃないかな

と思うよ!
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:25:19.75 ID:oz+HebRAO
 人知を越えた力の闘いに介入した氷の女王。
かつての彼女の面影は一片も残っておらず、その身に宿しているのは理由無き力、暴力だけだった。

澪「次は左腕を貰う」

いちご「──っ!」

 向けられた殺気を感じ取り、即座に闘気の障壁を展開する。
だがあらゆる力を捩じ伏せる不可視の壁は一瞬で破られた。
宣言通りいちごの左腕は宙を舞う。

澪「……? 痛くないの?」

 両腕を切り落とされたにも関わらず平然としているいちごを見て澪は首を傾げた。
だがそこに恐怖は一片も無い。
 チャンネルを変えるとお気に入りの番組がある筈なのに特番が組まれていた時のような、気に留める必要も無いような疑問だった。
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:25:57.67 ID:oz+HebRAO
いちご「……退いて。あなた如きが介入していい場じゃないの」

 不機嫌そうに舌打ちをしつついちごは切られた両腕を再生させた。
コンマ一秒にも満たない僅かな瞬き、その間に澪の姿はいちごの視界から消える。

澪「なるほど、そういう身体か」

 耳元で囁く冷たい声、胸を貫く血塗られた刃。
いちごがそれらを認識するよりも速く、体内から皮膚を食い破り、氷の華が咲く。
白い華に赤き蜜を。纏わりついた肉塊の上に羽化した蝶のように無傷のいちごが降り立つ。

いちご「対象の全感覚神経を破か──」

 偉大なる名前は紡がれず、床を突き破って襲いかかる氷柱に首から上を貫かれる。
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:26:33.04 ID:oz+HebRAO
澪「脆いな」

 刀を真一文字に薙ぐ。
無数の斬撃、全次元を断つ光の刃が飛び交った。

いちご「……っ!」

 いちごは半分だけ残った頭を修復し、両手を交差して斬撃に備える。

澪「悪手だ。そうじゃないだろ」

 澪がかつん、と軽く床を蹴ると斬撃によって生まれた空間の亀裂が更に拡がった。
いちごの周囲に展開される無数の穴、そこから黒い霧のような腕が伸びる。
それはいちごの四肢を掴み、腕をもぎ取り、足を引き千切り、虚構に引き摺り込んだ。

いちご「…………」

 喉が焼けるように熱い。
吐き気、目眩が脳を揺さぶる。
空間が割れてからのほんの数瞬でいちごは観測し得ないイレギュラーを再認識した。
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:27:06.11 ID:oz+HebRAO
いちご「なに……これ……」

 解らないものなど一つも無かった。
だが今はその逆、自分は何一つ知らない矮小な『人間』だという事を痛感する。
瞬く間にもぎ取られた両手、右脚、それらを再生するといちごは崩れるようにしゃがみ込んだ。

唯「おお……」

 彼女は目の前で猛威を振るう化物染みた人間に戦慄し、期待した。

唯「……すげーぞ澪ちゃん。熾天使格、或いはそれ以上か……?」

 失われた力は徐々に回復の兆しを見せていた。
首筋を伝うか細い紫電ははっきり視覚出来るようになっており、死人のように青褪めていた表情には生気が宿ってる。
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:27:41.64 ID:oz+HebRAO
唯「頑張れ澪ちゃんっ!」

 今は無力である彼女は一縷の希望を託して澪に声援を贈った。
それは人外たる彼女にはあまりにも不釣り合いな、人情に溢れる言葉だった。

澪「頑張れ、か。随分簡単に言ってくれるよね」

 澪は刀を肩にかけて颯爽と歩く。
表情は氷のように無表情から動じておらず、一寸の同情もそこには存在しない。
どうやっていちごを倒すか、澪の思考はそれに尽きる。

いちご「……秋山さん」

 顔を上げたいちごの眼には涙が溜まっていた。
それはやがて表面張力の限界を越えて零れ落ちる。
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:28:21.37 ID:oz+HebRAO
澪「なに?」

 いちごの胸に刃を突き立て、ぐりぐりと内臓と肉を抉りつつ澪は答えた。
痛みは無い。だが全身を刺す恐怖にいちごは嗚咽を漏らす。

いちご「おねがい……もう止めて。これ以上やったら死んじゃうよ。私まだ死にたくないよ……」

 大粒の涙がいちごの頬を濡らす。
涙が一粒床に落ちると同時に澪の手が止まった。

澪「……殺したりなんかしないよ。私は別に殺人鬼になりたいわけじゃないし」

 再び刀の柄を絞り、手持ち無沙汰にいちごの身体をなぞる。
薄皮を裂き、生々しい切り傷が出来ては癒えていった。

澪「でもさ、そうやって生きたいと思った人が何人居たのかな? こんなろくでもない研究のせいで死んだ人達の中に」
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:28:53.77 ID:oz+HebRAO
 滑らかにいちごの首を跳ね、宙に浮いた生首が床に着く前に三等分に裂く。
互いが無傷であるにも関わらず、辺りに散らばった赤黒い肉片は血腥い香りを漂わせていた。

いちご「もう悪い事はしないから……。もう止めて、あの怖いのは出さないで……!」


澪「はあ……」

 困ったように頭を掻き、澪は名前の無い彼女を見た。
彼女も事があまりにも拍子抜け過ぎて、少しばつが悪そうに頬を掻く。

澪「……じゃあこうしよう。これからどんな苦痛が伴っても、挫けずに罪を償うって誓える? それが出来るなら生かしてあげる」
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:29:27.09 ID:oz+HebRAO
 澪が下した条件にいちごは何度も首を縦に振った。
澪の足に縋りつき、生まれたての小鹿のように震えるいちごに最早一片の悪意など残っていなかった。

澪「よし、じゃあ刑の執行だ」

 いちごが纏わりついた足を振るい、蹴り上げる。
そして宙に浮いたいちごの真下を真一文字に薙払った。

いちご「え──?」

 空間が割れ、いちごの手足を連れ去った黒い腕が現れる。
今度はいちごの全身を搦めとり、次元の裂け目に飲み込もうとした。

いちご「やだよおぉぉおおおっ──!!」

 一瞬だけ安堵から緩んでいた表情は崩壊する。
泣き叫ぶいちごを見て澪は満足げに微笑んだ。
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:30:00.51 ID:oz+HebRAO
いちご「もう止めて! もうやめてよぉっ! もう怖いの見せないで!!」

 絡み付く腕を振り払うも身体は徐々に裂け目に飲まれてゆく。

澪「そんな身体なら死にはしないよ。約束しただろ? 殺しはしないって」

 澪は無数の腕の中心、いちごの元へ歩み寄ってゆく。
腕は術者である澪すら取り込もうとするが、澪の身体に触れる直前で飛散し、消え失せた。

澪「その代わり未来永劫消滅と再生を繰り返す事になるけどね。そこに一寸の猶予も無い、ただそこに居るだけ」

いちご「あっ……。やだっ助けてっ、助けて!!」

 取り乱し、狼狽し、狂乱するいちごに抱く感情など今の澪には無い。
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:30:41.05 ID:oz+HebRAO
澪「良かったじゃないか。次元の狭間に居る限りたとえこの星が滅んでも生き残れるよ。まぁ羨ましくはないけどさ」

 頬を伝ういちごの涙を拭い、耳元で囁く。
 冗談じゃない。永遠の苦しみなんか望んでない。
心の中でそう毒づき、いちごは澪の腕を掴んで必死に堪える。

いちご「嘘吐き! こんなの酷いよ! はやくたすけてよぉっ!」

澪「非道いのはどっちだよ外道」

 いちごの下唇を指先でなぞり、澪は諭すような口調でいちごに語りかける。

澪「特別な自分は裁きを受けなくて良いと思った? 大義名文があれば罪は赦されるとでも思った?」
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:31:18.23 ID:oz+HebRAO
 抜き身の刀をそっと振るい、自分の腕を掴むいちごの手を切断した。
いちごは黒い腕の力に抗えずにみるみるうちに引き摺られてゆく。

澪「甘いよ」

 生きながらにして地獄に落とされる。
その感覚を澪は考えすらしなかった。
弱者は苦しみ、自分は苦しまない。それが世界の真理であるから。
 褪せた葉が冬の風に流されるように、燻る火がやがて消えゆくように、ただ当たり前のものとして弱者の苦しみを観測する。

いちご「──っ! ──」

 黒い腕は言葉を紡ごうとするいちごの口内にも潜り込み、一切の猶予すら与えない。
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:31:47.85 ID:oz+HebRAO
 黒の中から伸びた白い手、今にも霞んで消えてしまいそうなそれに何かが飛び付いた。

澪「唯──っ!?」

 救うべき者が自分が生み出した闇に躊躇なく飛び込んでいった。
澪は焦躁と共に激しい憤りに駆られる。

澪「その手を離せ! 何でお前が飛び込むんだよ!?」

 自然と口調は荒くなる。怒号と共に澪は引き摺られる唯の肩を掴んだ。

唯「こんなの駄目だよ! いちごちゃんも澪ちゃんも、皆笑えてないと駄目なんだよ……!」

 眼は真っ赤に充血しており、顔面は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
それでもなりふり構わない。
『唯』は『唯』らしく、ただ自分が望むままに動いた。
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:32:19.28 ID:oz+HebRAO
 纏わりつく黒が守りたかったものすら飲み込んでゆくのを見て、澪は一瞬息を飲んだ。

澪「唯っ!!」

 咄嗟に我に返り、引き千切らんばかりの勢いで唯の肩を引く。
肉の繊維がぶちぶちと裂ける嫌な音が鳴り響き、二人分の影が宙を舞った。
 自らの下半身に別れを告げ、臓物と血肉を撒き散らすいちご、そして見ただけで嗚咽を漏らしてしまいそうなそんな彼女を強く抱き締める唯。二人を逃すまいと黒い腕が鞭のようにしなり、伸びてゆく。

澪「この……っ! 閉じろ!!」

 澪は腕の束の中に刀を突っ込んで次元の割れ目に青の闘気を注ぎ込んだ。
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:32:55.34 ID:oz+HebRAO
 やがて黒い腕は絶命寸前の芋虫のようにのたうち回り、氷の華となって飛散する。
それを待っていたのか、次元の裂け目は眠気に委ねた瞼のように閉じていった。

澪「なんでだよ唯……」

 崩れるように床に激突し悶える二人。
澪は彼女等に背を向けたまま呟いた。

澪「……そいつが唯に何したか全く知らないわけじゃないだろ。なのになんでそんな事が出来るの?」

唯「…………」

 いちごの下半身が再生してゆく。
だが彼女の瞳は澱んでおり、闘うどころか生きる意志すら感じられない。
人形のようになってしまったいちごの頬を撫で、唯は無言で肩を抱いた。
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:33:30.10 ID:oz+HebRAO
澪「そんなんじゃ私達何の為にここまでやってきたのか分からないよ……。なぁ唯」

 くるりと踵を返して唯と向き合う。
眼を合わせた唯は怯えたような、しかしそれでいてどこか恨めしそうな表情を浮かべていた。

澪「……何でそんな悲しい顔してるんだよ!」

 澪の怒号が鳴り響き、吹き抜けの天井から空へと流れて消えた。

唯「澪ちゃんじゃない……」

 悲しそうに目を伏せ、澪を視界の中から外す。
伸びっ放しでなんの留め具もしていない唯の髪は表情を覆い隠した。

唯「澪ちゃんじゃないよ……。私が知ってる澪ちゃんはこんな酷い事しない、こんな怖い顔しない」
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:34:06.46 ID:oz+HebRAO
澪「…………」

唯「真面目でしっかりしてて、でも実は怖いものが苦手で……」

 澪もつらつらと語る唯から目を逸らした。
蓋をしていた臭いものに顔を突っ込まれたような感覚に陥る。

唯「たまに厳しかったりもするけど実は皆と離れるのが怖い甘えんぼさんで……」

澪「──っ! 止めろ!」

 澪はまるで親の敵でも見るような眼で唯を睨み付け、髪の毛を掻き毟る。

澪「いつまでもそうやって甘えられるわけないだろ! 現実が非情なんだから……。異常になるしかないんだ!」

 刀を床に当てて打ち鳴らす。
直後、幾重にも重なって氷柱が床を食い破って突き出してきた。
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:34:39.51 ID:oz+HebRAO
唯「そんなのやだよ──」

 大きく首を振って反論しようとした唯の真横を何か熱いものが通り抜けた。
咄嗟に振り返ると頑強な壁に精密にくり抜いたような穴が空いている。

澪「え──?」

 澪が振り返った先で憂が黒い靄を纏い、もがき苦しんでいた。

憂「お姉──ちゃん──っ!」

 しゃがみ込んで頭を抱えており、その表情を鑑みる事は出来ない。
声色から滲み出ているのがつい先程まで放っていた威圧ではなく、純粋な恐怖だった。

憂「熱い……っ! 熱いよ……!」

 何かにのし掛かられているようなぎこちない四つん這いの体勢になり、憂は姉の元へと手を伸ばす。
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:35:10.37 ID:oz+HebRAO
 唯はいちごを床に寝かせ、一目散に憂の元へと駆け出した。だが……。

唯「つっ……!?」

 後ほんの数歩で憂に届くような距離、そこで唯の手は不可視の壁に遮られた。
手が触れた空間には水のような波紋が浮かんでおり、黒い稲妻が走っている。

唯「あつっ……!」

 憂の身体から発せられる鬼火のような光が唯の肩を掠めていった。

澪「離れて!」

 行き交う鬼火を掻い潜りつつ、澪は不可視の壁に向けて刀を薙ぐ。
力と力が責めぎ合い、光が集っていった。

澪「────っ!」

 破れないものなど無い、斬れぬものなどない。
そう自負していた彼女の心が初めて揺らいだ。
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:35:45.78 ID:oz+HebRAO
 何故斬れないのか、それが単純に自分の力量不足である事を瞬時に悟る。
目にも止まらぬ速度で飛び交う鬼火が澪にはやけに遅く見えた。
一際大きな光が憂の身体から放出され、それは最悪の軌道を描きながら肥大してゆく。

澪「──唯!」

 唯はそれに全く反応出来ていない。
光が自分に向かっている事も分からずに呆然と立ち尽くしている。
 たとえ全闘気を防御に回したところで致命傷は免れないだろう。
澪の目に映る唯は何の色も纏っていない状態だ。
言うなれば猟奇的な通り魔の前に放置された裸の赤児のようなもの。

澪「────っ!」

 咄嗟に澪の身体が動く。
極限状態で彼女が見た世界は静止しており、ただ光だけが無情に迫ってきていた。
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 02:37:13.72 ID:oz+HebRAO
澪『でもその甘さ、嫌いじゃないぜ』

いちご「これほどの過負荷とは……」

そんなノリ
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 02:49:27.82 ID:zeXcct6SO
澪さんこえぇ
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 03:11:02.69 ID:0vENAaaAO
澪さんヤバすぎ濡れた
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 10:51:28.28 ID:TQ1Ws+yko
乙です!

アツイ•••ッ!アツイヨ•••!> orz
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 13:29:21.96 ID:FSc1FsLAO
澪強くなりすぎだろ
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 22:06:20.86 ID:xAEiGijDO
失禁したからな
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 18:32:19.63 ID:dIkND8xAO
正直何が何だか分からねぇ
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 19:34:33.15 ID:y+22e9lSO
ここでポルナレフのAA
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 21:23:24.63 ID:9jkYYEsAO
分からないところがあれば答えられる範囲で答えるしスレ汚しとか思わずに聞いて欲しいな
なんじゃこりゃ展開意味不過ぎってのなら文章力不足だね、すいません
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 01:18:32.80 ID:H95UULmAO
気にせず書いてくれ

応援してる
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 18:25:36.49 ID:zaUyTH6DO
大丈夫、ちゃんと画が見えて来るから気にしないでくれ。
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:31:56.03 ID:Dar58s6AO
律「と、私は思うんだよ」

純「はぁ、そうですか……」

 人外の闘いの場から散開した律達は各々が唯のメンターを探し求めて施設内を闊歩していた。
その中で律と純は行動を共にしており、純は気絶した梓を背負っている。

律「それでさ……」

 散開してから律はずっとこの調子だった。
明らかに場にそぐわない取るに足らないような話をしきりに続けたがる。
 純はそれが不愉快だとは思わないものの、キャビアと称したランプフィッシュの卵を食べさせられたような不信感を覚えた。

純「……珍しくよく喋りますね」

 純は足を止めて静かに呟いた。
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:32:27.42 ID:Dar58s6AO
律「え?」

純「私の事嫌いだと思ってたんですけどね。そうじゃないなら良かったんですけど、違いますよね?」

 少しだけ哀しげな表情を一瞬だけ浮かべて純はいつもの気が抜けたような表情に戻った。
律も足を止め、眉を顰める。

律「……別に嫌いってわけじゃないよ。そりゃたまに空気読めよって思う事はあるけど」

純「ホントにそうですか?」

 純は覗き込むような上目遣いで律を見つめた。
心の中を見透かされているような悪寒に律は思わず身を退く。

律「…………」

 たとえこの心の中の蟠りを説明したところで何かが変わるわけでもない。むしろ虚しくなるだけだ。
そう思った律は閉口した。
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:33:01.98 ID:Dar58s6AO
純「私が軽音部の外から見てた律先輩はそんなに大人しい人じゃなかったですけどね」

律「……どういう事?」

 肩からずれ下がってきた梓をもう一度背負い直し、純は呆れたような溜め息を吐いた。

純「惚けないでください。心配なんでしょ? 澪先輩の事が」

 律の自分の心臓の上の方が締め付けられるのを感じた。
自然と震える指先を拳を握って誤魔化すが、瞳に擦り込まれた悲哀は隠せない。

律「……言っても仕方ないよ。もう最近のあいつは私じゃさっぱり分かんねーし」

純「私は大丈夫と思いますけど。まぁ心配したところで今のあの人は私達がどうこう出来る次元じゃないですし」
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:33:33.21 ID:Dar58s6AO
 純の発言は一瞬だけ律の琴線に触れたようで、彼女は僅かに眉を顰めた。

律「だからだよ。もしあの場に澪が来たら、あの化け物にも勝っちまいそうな気がするんだ」

純「? なら良いじゃないですか。私は元からそのつもりでしたけど……」

 律の意図が分からずに純は難しい表情を浮かべた。
対する律の表情は見るに堪えない。
普段の彼女なら何があっても見せない辛さを全面に押し出したような歪な表情。
純は思わず気圧され、生唾を飲んだ。

律「……あれに勝っちまったらもう澪はお終いだ。あいつは多分人を傷付ける事を何とも思わない人間になっちまう」
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:34:10.21 ID:Dar58s6AO
 澪が絶対の彼方を越えてから律は密かに独り悩んでいたのだ。
今まで変わらずに側にいてくれた人が終わってしまう。
闇に墜ちてゆく自覚も無いまま、何処で間違ったのかも分からぬまま。
それを見ている事しか出来ない自分が恨めしく、妬ましい。

律「かと言って負ける事も出来ないよ。仮に生きてたとしても駄目だ、あいつは壊れる。そんでただ強くなる事しか考えなくなるんだ」

 終わるか壊れるか。
 その苦渋の選択は当事者ではなく周りを苦しめる。
たとえどちらを選んだとしても。

純「必ずしもそうなるとは……」

律「なる」

 律は即答した。
766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:34:38.41 ID:Dar58s6AO
律「なんでかな。分からないけど解っちまうんだ」

 解らなけりゃ良かったのにな、そう呟いて律は痛々しく微笑んだ。

純「…………」

 足手まといだと思った事が無かったと言えば嘘になる。
何故この人はこんなに弱いのだろうか。
生まれ持ったセンスのみで強くなった純には凡人の葛藤など理解出来なかったのだ。
 だが自己の慢心にも似たその感情はこの瞬間崩れ去った。
 田井中 律は強い。
軽音部の、桜高の他の誰よりも。

純「……私いろいろ勘違いしてたみたいですね」

律「へ?」

 純は額を掌で押さえつつ、照れたようにはにかんだ。
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:35:09.00 ID:Dar58s6AO
純「大丈夫です。私馬鹿だから上手には言えませんけど……。律先輩が居れば何とかなりますよ」

 きっとこの先何が起きてもぶれる事は無いのだろう。
恐らくこの先律が手にする真直ぐな力に敬意を払い、純は力強く頷いて駆け出した。

律「はあ? ちょい待てよ、何の根拠があって言ってんだよ!」

純「あははっ、分からないけどなんとなく解るんですよ!」

 後を追うように律も駆け出した。
 ほんの少しだけ分かり合えたような気がして、彼女は胸の奥がほぐれてゆくのを感じる。

律「……ありがとな」

 律の呟きは誰に届くでもなく、宙を舞って消えた。
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:35:44.49 ID:Dar58s6AO
 鉄壁。完全生命体。氷の女王。活人鬼。絶対無敵。天下無双。
 彼女の強さ、恐ろしさを表す単語を挙げるとするならば枚挙に暇が無い。
だがそれらの言葉の大半が強さの最上級を表す事から、彼女の強さが途方もない領域に達しているのは分かるだろう。いや、強さという凡人の物差しで彼女を測ろうとする事自体おこがましいのかもしれない。

澪「あ……ぁ……」

 その彼女、秋山 澪は今この瞬間、生まれてこの方一度も味わったことのない絶大な恐怖に怯えていた。
 彼女の左腕は唯を庇うように真横に伸びている。
その手に握っているのは多くの血を啜り続けた愛刀、だったもの。
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:36:10.64 ID:Dar58s6AO
 刀身の半ばから真っ二つに折れているそれは既に輝きを失い、ただの鉄屑と化していた。
 剣士の誇りを折られた澪を奮い立たせるものなど何も無い。

憂「折れちゃいましたね、刀」

 四つん這いの姿勢のまま呟き、憂は後ろで結わえた髪を解いた。

唯「うい……?」

 左手は胸に、右手は口元に添えて唯は憂を見据えた。
その動作から不安が滲み出ているのはその道に聡くない者でも一目で分かるだろう。

憂「怖がらなくても良いですよ。今は殺しません、貴女達が何もしないならね」

 操り人形のような歪な動作で立ち上がり、憂は二人を見据えた。
770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:36:53.62 ID:Dar58s6AO
憂「初めまして、秋山 澪さん。平沢 唯さん」

 唯と瓜二つの容姿でも憂から放たれる禍々しいものはあまりにも唯とかけ離れていた。
だがそれが唯の中に居る彼女のものと似ているわけではない。
禍々しいという点のみで共通し、それ以外はむしろ真裏、対極に位置すると言っても良いだろう。

澪「来るな……!」

 一歩踏み出そうとした憂を制し、澪は折れた刀を出鱈目に振り回した。
その光景が滑稽に映ったのか、憂は唇に指を添えて控え目に微笑む。

憂「貴女には何もしません。だから私を恐れないで下さい、邪魔をしないで下さい」
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:37:24.84 ID:Dar58s6AO
 澪はすっとのし掛かっていた重圧が取れたのを感じた。
その一瞬の気の緩みの間に、憂は澪の真横に立っていた。

憂「どれだけ強いフリをしようが貴女は世界から見ればどうでもいい人間なんですから」

 嘲るように鼻で笑い、憂は唯の頬に手を伸ばす。
憂の視線が自分から唯に移ってゆく光景が澪にはやけにスローに見えた。
 強さ、冷たさこそが今の自分のアイデンティティー。
それを否定されるという事はそれ即ち、存在を否定されるという事だ。

澪「ふっ──」

 自己の否定。存在の揺らぎ、心の崩壊。
澪を支えていた芯は脆く崩れ去った。

澪「ふざけるなあああああああっ!!」
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:37:55.34 ID:Dar58s6AO
 憂の足元が煌めき、巨大な氷柱が空を衝くように伸びる。
巻き込まれた憂はそのまま成す術なく空に投げ出された。

澪「私がどうでも良いだと? 私が強いフリをしてるだと?」

 ぎりぎりと歯を食いしばり、鬼のような形相で憂を見据える。
澪は不思議と堪忍袋の緒が切れかかっているのが分かった。

澪「……もう一度言ってみろ! 言ってみろ!! 言ってみろ!! その薄汚い口を引き裂いて次元の狭間の藻屑にしてやる!!」

 かつての澪の面影も無ければ先までの洗練された強さも無い。
ただ赤児が我を通す為に駄々をこねるように、目に付く全ての空間を破壊せんと澪は折れた刃を振るった。
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:38:25.67 ID:Dar58s6AO
 空間が裂け、斬撃が飛び交い、氷柱が飛散する。
だが怒りのままに振るった刃が憂に到達する筈もなく、逆に澪の視界を濁らせるだけだった。

憂「何度でも言いましょう」

澪「っ!?」

 自分の背後で響いた声に咄嗟に反応し、澪は振り向かずに刀を後ろに突き立てた。
無論手応えなどある筈もなく、折れた鉄屑は宙を刺す。

憂「どうでも良いんですよ貴女なんて。何でそうまでして苦しい道を選んで強くなろうとするんですか?」

 瞬きの間に憂は澪の眼前に移動していた。
そして澪の顎を掴んで耳を自分の口元に引き寄せて言った。
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:38:56.68 ID:Dar58s6AO
憂「死んじゃえば?」

 空いた手で澪の胸を円を描く様になぞった。

澪「んぐっ──!?」

 澪は身体が一瞬で熱くなるのを感じた。
見るとなぞられた胸の辺りが歪に膨れ上がっている。
人体がゴム風船のように膨れ上がる光景、ましてやそれが自分の身体なのだ。
怒りに満ちていた澪の顔が一瞬で青褪める。

澪「ひっ──!?」

 終わる。
 そう感じたと同時に温かい感触が澪の背を押した。
そして前のめりになる澪を唯が横切る。

唯「ぎりっ……ぎり、セェーフ……!」

 唯、いや彼女は息を荒らげながらがっしりと憂の手首を掴んだ。
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:39:25.07 ID:Dar58s6AO
憂「お姉ちゃん……?」

 漆黒の瞳で彼女を見つめ、驚きの表情を浮かべる憂。

唯「……おうよ、原初を駆ける黒龍。その姉は世界中の何処探したって私しかいねーだろうが……よっ!」

 振りかぶった拳を中心に幾何学模様の陣が発生する。
彼女は紫電を纏ったその拳を憂の頬に捩じ込んだ。

憂「つっ……!」

 憂は何とか踏み止どまろうとするも衝撃が強過ぎて大きく後退してしまう。
それと同時に彼女は振り抜いた拳をしまわずにそのまま地に膝をついた。

唯「やっべ……。MPゼロだ。HPも三ミクロンぐらいしか残ってねぇ……」
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:40:08.11 ID:Dar58s6AO
 肩で息をする彼女は傍から見ていても辛いものがあった。

澪「唯……?」

 胸の歪な膨みが消えたのを確認すると澪は彼女の肩に手をかける。

憂「お姉ちゃん……? 本当にお姉ちゃんなんですか!?」

 殴られた頬を撫でながら憂は叫んだ。

唯「……あんまぁい声で叫びやがって。頭に響くんだよコンチクショウが……」

 四つん這いの体勢で悪態を吐き、彼女は粘っこい唾を吐き出した。
十七歳の少女には似合わないその動作を見て憂は眼を輝かせる。

憂「……お姉ちゃん? お姉ちゃん! お姉ちゃんだ!! 良かった……。ずっと会いたかったんだよ?」
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:40:39.33 ID:Dar58s6AO
 俯いた状態で彼女は大きく舌打ちをした。

唯「私は会いたくなかったよ……」

憂「お姉ちゃん! 私とっても良い事思い付いたの! きっとお姉ちゃんも喜んでくれるよ!」

唯「聞いてねーし……」

 話が噛み合わない事に彼女は更に苛立ちを覚えた。
本来ならば憂の顔面に一発捩じ込むところなのだろうが、彼女を襲う悪寒と倦怠感がそれを邪魔する。

澪「なにこれ……。どうなってるの?」

 一瞬で当事者から傍観者に成り果てた澪。いや、最初から相手になどされていなかったのだろう。
 信じていた力を否定された澪はその象徴である折れた刀を遂に手放す。
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:41:20.05 ID:Dar58s6AO
 拠り所を求める矮小の現れなのか、澪は彼女の肩を更に強く掴む。

澪「唯? お前は唯じゃないのか!?」

 滑稽な事は重々理解していた。
だが澪は知りたかった。触れたかった。守られたかった。
その感情の根源、それは澪が久しく感じていなかった恐怖という感情だった。

澪「いやこの際誰でも良い! 教えてよっ、何でこんな──」

唯「やかましい! 耳元でキーキー喚くな!!」

 彼女は澪を一蹴し、手を払い除けた。
澪の瞳に絶望の色が滲み出す。

憂「あははっ、人間風情がお姉ちゃんとまともに会話する事自体おこがましいんですよ!」
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:41:53.61 ID:Dar58s6AO
 両手を広げ、憂はつかつかと歩み寄ってゆく。
青褪めた顔を上げると彼女は憂をきつく睨み付けた。

唯「……テメーが出張る理由は何だ」

 重々しい彼女の呟きに憂は首を傾げた。


憂「決まってるよ。お姉ちゃんから全てを奪ったこの世界を壊すんだ」

 声に抑揚は無く、事務的に喋っているようにも聞こえる。
だが澪と彼女にはひしひしと伝わっていた。
憂、否、憂の中に眠っていた原初を駆ける黒龍が抱く世界に対する強い恨みが。

憂「やっとだよ、永かった。もう永遠にこの時はこないと思ってた。辛かった。苦しかった。妬ましかった。悲しかった……」
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:42:27.09 ID:Dar58s6AO
 人形のような歪で色が無い表情が悲哀の色に変わる。

憂「でももうそれもお終い。この器には私の力を受け入れるだけの容量があるからね」

 黒い稲妻が瞬く。
その光が止むと憂の背後に見るも悍ましい黒塗りの門が現れた。
一対の龍が輪になる様を象った蝶番がしゃらんと鳴る。

唯「まだ復讐だのなんだの言ってんのかよ……。私がこうなったのは私が望んだからだ、誰のせいでもないよ」

 彼女は震える膝を抑えながら立ち上がった。

唯「私達が育てた人間が今こうして生きてる、それだけで充分だろ? 中には真直ぐ生きてくれてる奴もいる、万々歳じゃねーか」
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:43:00.09 ID:Dar58s6AO
 力を使い果たした彼女には虚勢を張る余裕も無い。
穏やかに聞こえる口調の中には弱々しさが入り交じっていた。

唯「そんな感情に縛られるのはもう止めてくれよ……。お姉ちゃんは復讐なんて望んでないからさ」

憂「…………」

 吹けば消し飛んでしまいそうな脆弱な意志の炎を、憂は無言で見つめていた。
火の光の方へ進むか、光に背を向けて別の道を行くか。
世界を巻き込むその選択肢で憂は……。

憂「やだ」

 闇を選び取った。
彼女は拳を強く握り締め、肩を震わせながら顔を伏せる。

唯「…………」

憂「お姉ちゃんは優し過ぎるからそんな事言えるんだよ。そうやって自分を押し殺して、お姉ちゃんだけが傷付く世界がどれだけ続いたの?」
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:43:35.77 ID:Dar58s6AO
 再び蝶番が鳴り、重々しい門が勢い良く開いた。
扉の奥に拡がっているのは黒い稲妻が満ちた色の無い空間だった。

憂「今直ぐ滅ぼしたりはしないよ。お姉ちゃんが味わった苦痛を世界にも教えてあげて、じっくりじっくり壊すんだ」

 色の無い空間から黒い腕が伸びる。
憂はそれに身を委ね、虚無の中に片足を入れた。

憂「終わってみればきっと解るよ。お姉ちゃんは少し『つかれてた』だけで、幸せなのは滅んだ世界なんだって」

 虚無の中に消えゆく憂を彼女は引き止めなかった。
嫌な汗で濡れた前髪のせいでその表情を鑑みる事は出来ない。

憂「大好きだよ、お姉ちゃん」

 黒塗りの門は姿を消した。
残ったのは憂が最期に放ったその言葉の残響だけだった。

唯「…………」

 彼女は両手で自身の双肩を抱き、何かに怯えるように屈み込む。
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:44:16.52 ID:Dar58s6AO
唯「澪ちゃん……」

 しばしの沈黙の後に彼女は口を開いた。
まさか自分の名が呼ばれるとは思っておらず、澪は一瞬肩を跳ねさせた。

澪「……なに?」

 恐る恐る彼女の顔を覗き込んで、澪は更に驚いた。

唯「私じゃ駄目みたいだ。あいつの事は何でも知ってるつもりだったのに……。あいつは私の事は何でも知ってるつもりだったのに……」

 彼女は泣いていた。
大粒の涙を零して、可愛らしい顔をくしゃくしゃにして。
 澪には彼女の震える肩を抱く事しか出来なかった。

唯「お願いします……。私達を……助けて下さい……っ!」
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:46:02.96 ID:Dar58s6AO
 全てを駆逐する力を持ちながらにして。
 全てを抹消する力を持ちながらにして。
 全てを蹂躙する力を持ちながらにして。
 彼女は何も持たない赤児が欲しがるように、希望だけを求めた。

唯「この世界まで無くなっちまったら、私は──」

 何か言いかけて彼女は糸が切れた操り人形のように澪の胸に倒れ込んだ。

澪「…………」

 彼女は一瞬だけ眉を顰めると安らかな寝息を立て始める。

澪「分かんないよ……」

 いっそ全て投げ出してしまえば楽になれるのだろうか。
そんな考えが澪の脳裏を過ぎった。
 本能が奮い立たせる彼女を救おうとする心と、理性が囁く自棄の心に苛まれ、澪は強く彼女の肩を握る。
 これで全て元鞘に収まると思っていた。
だが現実は何も終わっていない、始まってすらいなかったのだ。
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 00:48:14.50 ID:Dar58s6AO
アキヤマ[世「もう一度言ってみろ! 言ってみろ! 言ってみろ!」

憂「何回でも言ってやるよ、人形遊びは終わりだアキヤマ」

そんなノリ
これにて第二章終わりってとこかな
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 01:01:20.68 ID:1OF6nYXAO
おつ
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 01:24:59.01 ID:u/heFRnAO
第二章終了か…いったいどこまでインフレすることやら
>>1
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 02:53:17.16 ID:88vveKaZo
乙です!

素晴らしい締めだった。
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 03:09:03.96 ID:C/x57at90
乙です!
ところで信代さんの圧倒的な復活はありますか?
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 00:14:59.07 ID:/xGInNBDO
乙!!

澪第三形態に変身ですかね
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 23:59:16.32 ID:Y1LBngkAO
りっちゃんがヒロイン枠とは……予想外だぜ
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/08(火) 21:48:31.55 ID:yccrO4bo0
これ好きだ
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:05:48.63 ID:/gE6O3zAO
 闘いの爪痕は大きい。
それぞれの想い、覚悟はいとも容易く崩れ去った。
彼女らが唯を取り返した代償として胸に刻まれたのは、自分の無力、矮小さだったのだ。

梓「私はそれでも良いと思ってるんです」

 消毒液の匂いがつんと香る病室。
梓は果物ナイフを器用に操り、林檎の皮を剥きながらそう呟いた。

梓「どうぞ」

唯「ありがと、あずにゃん」

 綺麗に八等分された林檎の一つを頬張り、唯は顔を綻ばせる。
その無垢な笑顔を見る度に梓は少し自分の心が救われたような気がした。

梓「ホント、脳天気ですよね。ちゃんとギターの練習もして下さいよ?」

唯「あはは……。私達全然軽音やってないもんね」
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:06:17.46 ID:/gE6O3zAO
唯「で、何の話してたんだっけ?」

梓「もう! しっかり聞いて下さいよ。南極から帰ってきてからの一週間の近況報告です!」

 目を三角にして怒る梓の剣幕に唯は思わずたじろいだ。
喉に詰まった林檎を汲んであった麦茶で流し込むと彼女はほっと一息吐く。

唯「そんなに怒らないでよぉ。あずにゃん分補給するのだってずっと我慢してるんだから」

梓「当たり前です、此所は病院なんですから!」

唯「でもここ個室だし。誰も見てないし良いでしょ? お願いだよ」

 上目遣いで見つめてくる唯に一瞬だけどぎまぎした梓だが、そこは流石手慣れているというべきか、腰を上げようとする唯をそっと制した。
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:06:48.30 ID:/gE6O3zAO
唯「ちぇー、あずにゃんのいけず」

 口を尖らせて横になる唯を見て梓は悟られぬように微笑んだ。
 日常の何気ない会話でころころ変化する唯の表情は梓の心の拠り所となっていたのだ。
 時に悲しむ表情ですら愛しい。
唯が唯のまま自分の元に戻ってきてくれた。
それだけで中野 梓はどんな苦難な試練にぶつかっても頑張る事が出来る。
それは梓だけではない。
少なくとも軽音部の他の部員もその気持ちは同じだ。

唯「あ、そうそう。ところで何話してたんだっけ?」

梓「もう知りません!」

 前言撤回。梓は踵を返してそそくさと部屋から出ていった。
ドアが強くしまる耳障りな音だけが病室に残る。
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:07:19.62 ID:/gE6O3zAO
唯「…………」

 唯はドアからスタンドに立て掛けられたチェリーサンバーストのギターに視線を移した。
ここ最近ろくなメンテナンスも出来ていないせいか、ネックの傷は目立っており、ピックアップ部分の隙間には埃が溜まっている。
 ごめんねギー太、唯はそう呟いて深く溜め息を吐いた。

唯「あずにゃんも、ホントにごめん。我儘だとは思うけど……」

 自分が惚けたふりをして現実から目を逸らす事が彼女の望むだったのだろうか。
無論そんな事は考える事すら馬鹿らしい、火を見るよりも明らかだ。
それでも唯は自責の念を駆り立て、自分を苛める事しか出来ない。
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:07:53.74 ID:/gE6O3zAO
唯「私……何も考えたくないよ……」

 逃げたかった。目を逸らしたかった。破棄したかった。忘れたかった。
 ──壊れてしまいたかった。

唯「ごめんね……。私、全部覚えてるんだ……っ」

 名前の無い彼女が唯の身体を依り代として降臨した際、唯の人格は覚醒したままだったのだ。
だのに身体は自分の言う事を聞かない、人知を越えた力を行使して猛威を振るう。
そうして自分が人の身から離れてゆくのを唯は指を咥えて見ている事しか出来なかった。

唯「誰か助けてよ……っ!」

 彼女が澪にそう嘆願したように、唯は独りの部屋で声を振り絞った。
応える者は居ない。
自分の胸の中で皮肉な笑みを浮かべて佇んでいる彼女も、この時は痛いほどに静かだった。
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:08:26.20 ID:/gE6O3zAO
梓「──っ」

 病院から外に出た梓は瞳を刺す夕日の輝きに目を伏せた。
本来ならば院内の独特な香りから解放されてほっと一息吐くところだがそうはいかない。
梓、そして桜高のトップランカー達はある問題に苛まれているのだ。

梓「下剋上、か……」

 梓は赤々と輝く夕日をどこか恨めしそうに見つめた。
 人類が生まれる前から絶えず同じ動きを繰り返してきたあの太陽のように、ありがたみすら感じなくなるような平凡で平坦な日々を送る事が出来ればどれ程楽だろうか。
 考えても詮無き事だと知りつつも梓は悩む。
そして南極から帰ってきて今に至るまでの出来事に思いを馳せた。
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:08:54.83 ID:/gE6O3zAO
エリ「ごめんね、私達が不甲斐無いせいで……」

和「いや、気にしなくて良いわ。私の判断ミスよ」

 生徒会室では重苦しい空気が漂っていた。
会長席に腰掛ける和と長机を挟んで立ち尽くすエリとアカネ。
その光景は上司から叱責を受ける部下のようだった。

梓「…………」

 申し訳なさそうに顔を伏せるアカネとエリを見て梓はいたたまれない気持ちになった。
純に誘われたので何となく、物見遊山程度の気持ちで生徒会室を覗いてみたのだがそれは失敗だったのだろう。
梓を誘った当の純は机に突っ伏して寝息を立てている。
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:09:24.38 ID:/gE6O3zAO
和「一筋縄ではいかない人ばかりだもの。やっぱり統率力を持つ人間を一人残しておくべきだったわ」

 黄ばんだパソコンのディスプレイと睨み合いをしつつ、和は自身の短髪をがしがしと掻いた。

アカネ「これからどうしよう……。多分また此所が無法地帯になるのかも」

和「法なんて有って無いようなものだったけどね」

 和は二、三度マウスをクリックしてディスプレイから目を切った。
 状況が理解出来ていない梓は自分が蚊帳の外に居るような気がして、何か発言しようと口をもごもごさせている。

梓「あの……。何か問題でもあるんですか?」
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:09:58.17 ID:/gE6O3zAO
 室内の空気が水を打ったように変わった。
エリ、アカネ、和の三人が一斉に梓の方を見たので梓はたちまち萎縮してしまう。

梓「あ……ご、ごめんなさい」

和「…………」

 和の視線が槍となって梓に突き刺さる。
何かタブーにでも触れたのだろうか。
動転してしまった思考回路で何が悪かったのかを考えるが思考の糸は縺れてゆくだけだ。

和「あらごめんね。別に怒ってるわけじゃないから。そうね……」

 細い指を口元に添え、和は何か考え込むように目を細めた。

和「まぁ良いわ。取り敢えず状況を説明するわ」

 椅子に座り直し、空いていた席に座るよう梓に呼び掛ける。
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:10:35.63 ID:/gE6O3zAO
和「単刀直入に言うと今この学校は荒れてるの。個人の力じゃ収拾がつかないほどにね」

 荒れているのはいつもの事だろう。
梓は内心そう思ったが口には出さなかった。

和「生徒全体の出席率は半分を切ってるし生徒間の諍いがかなり増えたわ。そして極めつけなのが上位ランカーの行動の活性化ね」

梓「活性化……?」

 鸚鵡返しのように返した言葉の語尾は上がり調子だった。

和「ええ、一年と少しこの学校で過ごしたのなら薄々気付いてはいるだろうけど」

 和は頬杖をついてマウスを弄り、ディスプレイに図表を映し出した。
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:11:04.60 ID:/gE6O3zAO
和「群雄割拠のこの学校で起こる争いは統計的に予測する事が出来るの。群雄割拠なのによ? 面白いと思わない?」

 梓に視線をディスプレイに送るよう促し、図表を拡大する。
そこには何本かの横線と無数の黒い点が映っていた。

梓「分布図……ですか?」

和「まぁ簡単に言えばそうね。戦闘を引き起こした生徒が特定出来次第逐一記録してるの。上から下に行くにつれて序列が下がるわ」

 一定間隔で区切られた横線は序列五十位ずつを隔てていた。
戦闘を引き起こした生徒を表す黒い点は下にゆくにつれて増えており、最下層は黒じゃないところの方が少ない。
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:11:33.45 ID:/gE6O3zAO
梓「トップランカー辺りは大人しいんですね。気付きませんでした」

和「大人しい、というには少し語弊があるわね。これを見て」

 キーボードを叩き、別の図を開いた。
そのグラフは先程のグラフとは対照的に上位の方が黒い点に覆われている。

梓「これは?」

和「さっきと逆で戦闘による被害を被った人よ。端的に言えば喧嘩を売られた側、この中には返り討ちにした分も含まれるわ」

 梓は頭の中で二つの図から導き出されるこの学校の状況を整理した。
序列の低い者が高い序列の者に闘いを挑み、のし上がってゆく風潮は……。

梓「まるで下剋上ですね」

和「まさにその通りよ」
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:12:05.69 ID:/gE6O3zAO
 和は湯飲みに注がれた渋い茶を飲み干し、深く溜め息を吐いた。

和「そういう風に出来てるのよ。誰に教えられるでもなくこの学校はそうやって回ってきたの」

 傍から見れば気を休める暇も無いような下剋上の風潮。
それは桜高の歴史に歪な平穏をもたらしてきたのだ。
その最たる理由とは……。

和「まぁ当然よね。格下がトップランカーに挑んだところで勝ちの目は薄いもの。それに気付けずに擦り込まれたように上を目指す人間が絶えない。それが今までの安定の理由よ」

 確かにそうやって格下が挑み続けて薄い勝ちの目を掴んだとしてもそのランクの変動などほんの些事でしかない。
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:12:40.15 ID:/gE6O3zAO
梓「何だか、質の悪い詐欺に引っ掛かってた気分です……」

和「そこの二人も同じ事言ってたわね。分かってる側からしたら滑稽だったけど」

 種明かしをする奇術師のような大仰な動作で掌を振り、ほくそ笑んだ。
梓がジト目で見つめるとエリとアカネは二人揃って苦笑いを浮かべた。

梓「これまでの状況は分かりました。じゃあ今はどういう風に荒れてるんですか?」

和「はい」

 和は待っていたと言わんばかりに強くキーボードを叩いた。
続けて映し出された図には黒い点が不規則に、そして先程見た図とは比べ物にならないくらい点在している。
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:13:25.74 ID:/gE6O3zAO
梓「……群雄割拠、なんてレベルじゃないですね」

和「無法地帯ね。上位ランカーが下位の生徒を無差別に襲ってるのが目立つわ。元々トップランカーだった二人が絶対の彼方を越えたのが原因よ」

 和はパソコンのディスプレイに向き直り、両手でタイピングした。
ディスプレイを中心で二分割するように二人の生徒の顔写真が映し出される。
その瞬間後ろで立っていたエリとアカネの肩が跳ねた。

梓「この人達って……」

和「ええ、二人ともトップランカーに名を連ねる生徒よ。辻斬りと死神、確かにこの二人が絶対の彼方を越えたとあっては貴女達じゃあ役不足かもね」
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:13:58.44 ID:/gE6O3zAO
 桜高生徒序列八位。『辻斬り』木村 文恵。
 二つ結びにしてある赤茶けたセミロングの髪と花飾り、そして見る者を朗らかな気持ちにさせる温厚な微笑みがトレードマークの生徒だ。
 澪が絶対の彼方を越えるまでは実質桜高の剣術使いのナンバーツーだった。

梓「噂だけは聞いてました。理由無く人を刺し、躊躇無く人を斬り……」

和「容赦無く人を[ピーーー]。この子が辻斬りと呼ばれる所以ね。可愛い顔してるけどやってる事はある意味沼よりもエグいわよ」

 貴女の心臓が見たいから斬らせてね。
そんな事を言いながら文恵が自分に切りかかってきた事を思い出して和は眉を顰めた。
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:14:31.62 ID:/gE6O3zAO
和「こっちも聞き覚えがあるんじゃない? 死神、高橋 風子よ」

梓「ええ、デスサイズ使いなんてこの学校にこの人しか居ないでしょうし……。でも確か生徒会とも繋がってませんでした?」

 風子は和と行動を共にする事がちらほらあった。
人の上にルールを置くその根っからの役員気質から生徒会の仕事の手伝いを引き受けていたのだ。

和「そうね……。悪い子じゃないんだけど少し頭が硬くてね、大方前の抗争の時みたいに唆されたんでしょ」

 高橋 風子があの抗争に参加していた事は直接彼女を屠った純と一部の人間しか知らない。
無論梓がそれを知る筈も無く、要領を得ずに首を傾げるだけだった。
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:15:01.50 ID:/gE6O3zAO
和「さてと、説明はこれぐらいにして折り入って頼みがあるのよね」

 眼鏡の縁を軽く指で持ち上げ、和は蛇のようなまなざしを梓に送った。
文字通り蛇に睨まれた蛙のように梓は畏縮する。

梓「……なんですか?」

 嫌な予感しかしなかった。
しかしここまで踏み入って聞いてしまった以上、頼みを簡単に足蹴にする事など出来ない。

和「貴女の手でこの二人を倒して欲しいのよね。なんならそこで寝てるモップも使って良いし」

 和は何食わぬ顔でお茶が注がれていた湯飲みを手に取り、机に突っ伏した純の頭目掛けて投げた。
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:15:35.94 ID:/gE6O3zAO
純「ぎにゃ──っ!?」

 尻尾を踏まれた猫のような悲鳴が上がる。
時折梓は思う。この人は前世で純に親でも殺されたのだろうかと。
 こんなやり取りもコミカルに見える事もあれば可哀相に思える事もある。
しかし梓がそれを考えたところで詮無き事なのだが……。

梓「でもそれって私じゃなくても他のトップランカーの先輩方の方が適任なんじゃないですか?」

和「在るべき姿を思い出させる。そういう意味も兼ねているのよ。貴女の下剋上で再生の先陣を切る、これ以上の適任は居ないでしょう?」

 梓が断るとは塵ほども思っていないのだろう。
和は不敵に微笑んでみせた。
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:16:14.13 ID:/gE6O3zAO
 はあそうですか、と二つ返事をした後に梓は何の手柄も残せないまま今に至る。

梓「澪先輩はふらふら出回ってるし律先輩は学校に来ないし……」

 なるべく普段通りに、何かが歪んでしまう前のまま振る舞っては見るものの何かが違う。
 居なくなった人間、消えてしまった感情を埋めるものが何なのかは梓には分からない。

梓「人が一生懸命やってるってのにわけ分かんない仕事押し付けるし……っ!」

 胸を痛めて悲しみに耽りたいわけではない。
誰かに頭を撫でて欲しいわけではない。
だが彼女はこの単純な苛立ちを吐き出さずにはいられなかった。

梓「こんなんじゃ駄目ですーっ!!」

 金切声が黄昏の景色に溶けていった。
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 01:16:42.90 ID:/gE6O3zAO
 力を使い果たした彼女には虚勢を張る余裕も無い。
穏やかに聞こえる口調の中には弱々しさが入り交じっていた。

唯「そんな感情に縛られるのはもう止めてくれよ……。お姉ちゃんは復讐なんて望んでないからさ」

憂「…………」

 吹けば消し飛んでしまいそうな脆弱な意志の炎を、憂は無言で見つめていた。
火の光の方へ進むか、光に背を向けて別の道を行くか。
世界を巻き込むその選択肢で憂は……。

憂「やだ」

 闇を選び取った。
彼女は拳を強く握り締め、肩を震わせながら顔を伏せる。

唯「…………」

憂「お姉ちゃんは優し過ぎるからそんな事言えるんだよ。そうやって自分を押し殺して、お姉ちゃんだけが傷付く世界がどれだけ続いたの?」
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/10(木) 01:19:00.04 ID:/gE6O3zAO
和「生徒会長やってない自分……てのはちょっと想像出来ないかなぁ」カチャカチャターンッ

梓(うぜぇ……)

そんなノリ
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 01:24:23.73 ID:/gE6O3zAO
saga忘れてた
>>808の訂正

 桜高生徒序列八位。『辻斬り』木村 文恵。
 二つ結びにしてある赤茶けたセミロングの髪と花飾り、そして見る者を朗らかな気持ちにさせる温厚な微笑みがトレードマークの生徒だ。
 澪が絶対の彼方を越えるまでは実質桜高の剣術使いのナンバーツーだった。

梓「噂だけは聞いてました。理由無く人を刺し、躊躇無く人を斬り……」

和「容赦無く人を[ピーーー]。この子が辻斬りと呼ばれる所以ね。可愛い顔してるけどやってる事はある意味沼よりもエグいわよ」

 貴女の心臓が見たいから斬らせてね。
そんな事を言いながら文恵が自分に切りかかってきた事を思い出して和は眉を顰めた。
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 02:06:01.77 ID:0MN/yudAO
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 02:52:19.84 ID:OIgvnaZCo

>>813はコピペミス?
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 02:55:29.12 ID:/gE6O3zAO
だね、無かった事にして
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 03:07:50.96 ID:OIgvnaZCo
野暮な事聞いてゴメンwwwww
なんせ新章スタートwktkなんで頑張って下さい!!
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 09:02:52.72 ID:QMuyJraAO
乙!
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 12:01:22.30 ID:4dv0uFAeo
乙!

和と純のからみが、なぜだかイチャついてるように見えてしまう……
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 00:51:48.58 ID:ane1z6Nh0
乙!
熱い展開になってきて楽しみ!
3年2組のほかの面々の実力も気になるな
あと信代カムバック
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 01:10:50.55 ID:D9p84ZPSO
被災してないか?
リアルな生存報告を頼む
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 01:23:50.62 ID:+AMpQhWu0
阪神淡路の時と七年前くらいの福岡の地震に巻き込まれた運の無い俺だけど今回は大丈夫だよ@福岡
でも読んでた人の中に被災者がいるかと思うと気が気じゃないな

地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 07:19:10.12 ID:cXNFsSWIO
何回やってもsaga忘れちゃう>>1かわいい
とりあえず乙
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 11:31:39.84 ID:D9p84ZPSO
無事で何より…
現時点で死者不明者1200超だもんな…
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 05:57:11.71 ID:IBuQKLmSO

自分用メモ しおり

――――――――――――――――――――――――――
         ここまで読んだ
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・皆生きて帰還 ・いちごと唯龍は長門ハルヒ ・強さのインフレ ・ラスボス憂龍 ・新章、文恵風子下剋上   

  
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:33:31.52 ID:kmI1NNMAO
律「ゆいー、入るぞー?」

 夕日が差し込む病室に活発な声が響いた。
部屋の主は入ってきた律を見ると目を点にして肩を震わせる。

律「なんだぁ? くしゃみでもしたそうな顔して──」

唯「りっちゃあああんっ!」

 唯は大仰な動作でベッドから身を乗り出し、両手で宙を掻いた。

律「はいはい、おっこちるぞ」

唯「あう……」

 律が嘆息し、唯の鼻を軽く小突くと唯は照れたようにはにかみながら身を引いた。
目が合って二人は含み笑いを浮かべ、やがてそれは軽快な笑い声に変わる。
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:34:23.87 ID:kmI1NNMAO
律「ゆいー、入るぞー?」

 夕日が差し込む病室に活発な声が響いた。
部屋の主は入ってきた律を見ると目を点にして肩を震わせる。

律「なんだぁ? くしゃみでもしたそうな顔して──」

唯「りっちゃあああんっ!」

 唯は大仰な動作でベッドから身を乗り出し、両手で宙を掻いた。

律「はいはい、おっこちるぞ」

唯「あう……」

 律が嘆息し、唯の鼻を軽く小突くと唯は照れたようにはにかみながら身を引いた。
目が合って二人は含み笑いを浮かべ、やがてそれは軽快な笑い声に変わる。
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:35:07.11 ID:kmI1NNMAO
律「ちゃんと戻ってきてくれたんだな……。やっと実感が湧いてきたよ」

唯「えへへ……。お騒がせしました」

 律がベッドの横に置かれた椅子に腰掛け、唯の栗色の髪を撫でると彼女は子犬のように目を細めた。

律「お見舞い行けなくてごめんな。その代わり今日は良いもの持ってきてやったぞー」

唯「ははーっ! 光栄であります、りっちゃん隊員」

律はしたり顔で持参した手提げ袋を漁りつつ、面を上げい、などと茶化した。

唯「あ」

 袋の中から姿を表した赤い球体を見て唯は思わず声を漏らす。
律の好意を無駄にするまいと咄嗟に口を塞いだ唯だが、律はあざとくそれを見抜いた。
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:35:50.35 ID:kmI1NNMAO
律「ん、もしかして林檎嫌いだったか? でも前にムギが持ってきたアップルパイ食べてたよな?」

唯「嫌いじゃない、嫌いじゃないよ! 食べたら歯茎から血が出たりなんかしないよ!」

 慌ててフォローするも言っている事はちぐはぐだ。
無論律が唯に対して歯周病の有無を聞いているわけではない。

律「はいはい、大方こんなとこだろうよ」

 律が約一メートル四方の戸棚を開くと、そこには可愛らしいデザインのバスケットがあった。
中に盛られているのは綺麗な赤色を放つ林檎。先日梓が持ってきたものだ。

律「怪我人が余計な気ぃ遣うなって。他に何か食べたいものないの? まだ時間もあるし買ってくるよ」
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:36:23.49 ID:kmI1NNMAO
唯「良いよ! 私林檎好きだからこれぐらい食べられるよ」

律「だから気ぃ遣わなくて良いって。ちょっくら行ってくるよ」

 律は呆れたような笑みを浮かべて立ち上がろうとした。
しかし唯が彼女の袖を掴んでそれを遮る。

律「ん?」

 訝しげに唯を見ると何やら頬を赤らめている事に気付いた。

唯「何も買わなくて良いからさ……。うさぎさんの形に切って欲しいな。あずにゃんには馬鹿にされちゃったし」

律「…………」

 律は馬鹿にしようなどとは微塵も思わなかった。
だが少し、ほんの少しだけ引いた。

唯「あ、あれ……?」
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:37:02.64 ID:kmI1NNMAO
 一瞬にして静まり返った空気が自分の発言が生み出したものとは気付けない。
唯は不安そうに首を傾げるだけだった。

律「あのー……。つかぬ事をお聞きしますが平沢さんは現在お幾つでしたっけ?」

唯「華の十七歳でっす!」

 ふんすと擬音が聞こえてきそうなほどに何故か誇らしげに胸を張る唯。
律の心中から『慮る』という単語が消し飛んだ。

律「くっ……くく……」

唯「……?」

 唯が顔を伏せる律を訝しげに覗き込んだと同時に何かが切れた。

律「あっははははっ!! うさぎさんって! 高校三年生にもなってうさぎさん……っ。はははははっ!」

 唯の表情がみるみるうちに陰っていった。
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:37:35.93 ID:kmI1NNMAO
律「いきなり飛び掛かってくるこたねぇじゃん……」

唯「……りっちゃんの馬鹿」

 数分の一悶着の後、律は嘆息しつつ林檎を剥いていた。
器用な手捌きから赤い兎が量産されてゆく。
唯は唇を尖らせて目を線にしている。

律「まぁそれだけ元気なら身体の方は大丈夫そうだな」

 律は苦笑いを浮かべて微かに痛む後頭部を掻いた。
まさか唯にひっぱたかれる日が来るとは夢にも思わなかったのだろう。
驚きの中に新鮮さから来る奇妙な喜びが入り交じっていた。

律「ほい、出来上がり」

 紙皿の上に兎が円を描くように並べられた。
今の今まで不機嫌そうな顔をしていた唯がぱぁっと目を見開いた。
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:38:17.33 ID:kmI1NNMAO
唯「ん〜、おいひ〜」

 噛んだ瞬間に口内を満たす蜜の香りに唯は再び目を細める。
鼻孔を突き抜ける爽やかな風味からそこらのスーパーに陳列されているような安物では無い事は唯にも分かった。

律「…………」

 律は扱い易いやつだな、と心中で呟いた。
無論言葉には出さない。

律「んで、退院はいつになんの?」

唯「一週間後だよ! 明日からは外出許可も出るんだ」

 そう言う唯の表情はどこか晴れやかだった。
南極に拉致されて以来自由に行動する事など皆無に等しかった。
行きたい場所ややりたい事も山のようにあるのだろう。
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:38:54.71 ID:kmI1NNMAO
律「そっか。退院しても身体には気をつけろよ?」

唯「そんなお別れの前みたいな事言わないでよ。学校も一週間後からはちゃんと行くし」

 林檎を囓りながら悠長に笑う唯を、律はどことなくばつが悪そうに見ていた。

律「いや、その事なんだけどさ……」

唯「ほぇ?」

 意を決して律は切り出した。
今日此所に来た本当の理由を伝える為に。

律「私明日からちょいと北海道に行かなきゃいけないんだ。ほら、親の都合とかでさ」

 囓りかけの林檎が唯の手から落ちた。

唯「……え?」

 唯の表情がみるみるうちに強張ってゆく。
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:39:40.67 ID:kmI1NNMAO
律「あっ、別に転校するとかじゃないんだ。目処は立ってないけどそんなに長くは居ないからさ」

唯「……なーんだ。びっくりさせないでよ」

 一瞬だけ過ぎった別れのヴィジョンは否定され、唯はそっと胸を撫で下ろす。

律「はは、悪いな。そういうわけだから唯が退院した後まで長引くかもしれないんだ。私の留守を任せたぞ唯隊員!」

唯「分かりましたりっちゃん隊員!」

 気取った動作で互いに敬礼し、顔を合わせると二人は笑った。

律「うっし! 伝える事も伝えたし、そろそろ帰るとしますか」

 唯の言葉、動作を待たずに律は逃げるように去って行った。
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:40:19.16 ID:kmI1NNMAO
律「取り敢えず誤魔化せたかな……」

 逃げ出すように後にした部屋を背に、律はそっと胸を撫で下ろした。
 要らぬ心配はかけたくない。
そんな思いやりから生み出されたのは優しい嘘だった。
律には唯に隠している事が二つあった。

律「……筋違いなのは分かってるけどさ。尻拭いくらいはしてもらうよ」

 そう呟いて律の脳裏に過ぎったのは親友が変わり果ててしまう引き金を引いた張本人。
 親の都合などでは無い。
自分の意志で、自分の足で律はもう一つの戦場に赴くのだ。
そして二つ目の秘密は……。

律「必ず……。必ずそこから出してやるからな」

 誰かが力だけを矜持としたように、自分に言い聞かせるよう律は呟いた。
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:41:00.00 ID:kmI1NNMAO
 木下 しずかは青白く輝く月を仰ぎ、憂いを含んだ溜め息を吐いた。
時計の三本の針が丁度真上で重なりあった頃、彼女は何故か桜高校舎の屋上に居る。

しずか「…………」

 呼吸を抑え、眼前で佇む少女をきつく睨むと手に持っていたナイフを逆手に構え、振りかぶった。
 しずかの眼前に居る少女はそれに気付いていない、いや気付けないのだろうか。
鼻歌混じりに月を見上げて二つ結びの赤茶けた髪を撫でるだけだ。

しずか「──っ」

 最期まで呼吸を乱さず、しずかは振り上げた刃を少女の背中に向けて振り下ろした。
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:41:43.42 ID:kmI1NNMAO
しずか「えっ!?」

 直後、驚きのあまり声を漏らす。
瞬きすらしていなかった今の一瞬で、しずかが標的としていた少女が目の前から消えていたのだ。

「このままやれると思った? こっちは笑い堪えるのに必死だったんだから。あなたがここに来た時から気付いてたよ」

 宙を切ったナイフをしまい損ね、バランスを崩したしずかの首に冷たいものが突き付けられた。

「ジャスト一分、良いユメは見れた?」

 しずかは僅かに首をずらし、月明りに照らされた少女を見た。
煤けたような赤い髪が青白い月光と対比を生み出している。
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:42:22.97 ID:kmI1NNMAO
 首筋に添えられた刃はただそこにあるだけでしずかの動きを制限する。
一発必中の辻斬りの刃。
彼女、木村 文恵の刃が生き血を啜るのは一度きりだ。

文恵「一度はあなたに負けた私だけど今回は私の勝ちね。そして次は無いよ、何故なら……」

しずか「…………」

 文恵の勝ち誇ったような笑みが露になる。
妖しげな光を放つ刀の柄を絞り、彼女は一息溜めて喜々とした声を上げた。

文恵「今日で五体満足な日々とはお別れだからよ!」

 刹那、目が痛くなるような血の色の闘気が文恵の身体から流れ出る。
属性は爆炎、全てを飲み込む破砕の力だ。
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:43:00.46 ID:kmI1NNMAO
 辺り一帯を細い筋のような炎が舐めた。
熱が空間を焼くその光景がしずかにはやけにスローで、滑稽に見えた。

しずか「……おちおち夢なんか見てたら詐欺師は名乗れないよ。悪夢『ユメ』を与える人間はどこまでも現実主義じゃないといけないんだから」

 小さな体躯、中学生にも見える童顔とは不釣り合いな気取った台詞を吐く。

文恵「あら、とてもじゃないけど現実と向き合ってる人間の言葉とは思えないね。これから自分がどうなるか分かってるの?」

しずか「分かってる、解ってるよ。だけどその未来が私にとって不都合なものとは思えないんだ」
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:43:38.81 ID:kmI1NNMAO
文恵「…………っ!」

 文恵は醜く歯ぎしりをした。
誰がどう見てもこの状況はチェックメイト。
どちらが勝つか賭けたとしても百人中百人が文恵が勝つ方に賭けるだろう。
それなのにしずかは不敵に微笑む。まるで今までのやり取りが茶番であったとでも言いたげに。

しずか「……そろそろだね」

文恵「っ! 次喋ったら真っ二つにするわ!」

 言いつつ文恵はしずかから目を逸らさないよう意識を集中させた。
間違いない、この女はこの状況をひっくり返す何かを持っている。
 文恵はそう感じてしまったが故に首を跳ねる一瞬の動作すらためらってしまった。
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:44:14.51 ID:kmI1NNMAO
しずか「ジャスト一分、悪夢『ユメ』は見れたかな?」

文恵「……っ!」

 文恵を引き止めていた何かが消え失せた。
彼女は全神経をしずかの首に突き付けた刀の切っ先に集中させる。
だが肉と密着した刃が始動するまでのほんの一瞬、彼女に約束された勝利という幻想は打ち砕かれる。

キミ子「見てるこっちが……」

よしみ「……ヒヤヒヤする」

 炎が照らしていた闇の更に奥。
塗り潰された闇の向こうから二人が躍り出た。
 二人は丁度文恵を挟むように位置を取り、互いの手を結ぶ屈強な鎖で文恵の刀を縛り付けていた。
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:44:55.39 ID:kmI1NNMAO
文恵「……っ! 嵌めたわね!!」

 詐欺師に向かって嵌めたわね、とは酷く滑稽な捨て台詞だ。
しずかは内心ほくそ笑みつつ、この場に来たるべき切り札を迎えようと立ち上がった。

しずか「今のところ計画通り。やっぱり成るように成るもんだね」

 文恵の方へと向き直り、勝ち誇った顔で呟く。
それが自分に向けられた言葉だと思った文恵は反射的に食ってかかろうとしたが……。

文恵「んぐ……っ!?」

 背後、いや頭上から降り注いだ途方もない衝撃に文恵は成す術なく倒れ伏す。

姫子「ども、私達『星の観測者』でっす」

 柄にもなく羽目を外しつつ、姫子が文恵の背中を踏み下した。
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/16(水) 19:47:08.32 ID:kmI1NNMAO
しずか「私達は奪還率ほぼ百パーセント」

姫子「無敵の奪還屋『ゲットバッカーズ』!」

そんなノリ

>>829は無しの方向で一つ
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) :2011/03/16(水) 19:59:06.21 ID:P7DJa55w0
けいおん厨キモイッス
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 22:35:45.95 ID:JAxqfdZSO
>>847
何故わざわざけいおんスレを開いたのか
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/03/17(木) 02:35:32.90 ID:p0KXrLWH0
乙!
文恵は姫子達にやられちゃうのかな?
となるとあずにゃん達は風子と当たるのか
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/17(木) 15:26:37.30 ID:A466EBYDo
乙です!

律ちゃんが病室を出たのとしずか達の戦闘は時系列どおなってるの?
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/03/17(木) 16:03:18.28 ID:b1ZSkMJAO
>>850
律がお見舞いに行った日の夜。一応次で分かるように書いとくつもり
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/17(木) 16:40:21.82 ID:A466EBYDo
>>851
ありがとう!
俺が勘違いしてただけだから気にしないで下さい!!

楽しみにしてます!
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/24(木) 18:41:55.48 ID:m4eBLp9AO
えっまだ……?待ってるんだけど……
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/03/24(木) 23:28:02.52 ID:gDxxwcVh0
今日、遅くとも明日にはいけるかな
B型インフルで死んでた
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:44:52.52 ID:CgKSQ36AO
 辺りを照らす帯のような炎は一陣の強い風に流されて消えた。
青白い月の光が闇に差し込む中、彼女の長い髪は艶めいて栄える。

姫子「話は色々聞いてるよ。私達が居ない間に随分好き勝手やってくれたみたいだね」

 文恵の首を掴み、そのまま海老反りになるように引き上げる。
背骨に掛かる負荷に文恵は顔を歪めた。

文恵「……っ。私はこの学校の在り方に従ったまでだけど? それとも……あなたは今まで一人も傷つけずに今の序列に立てたの?」

姫子「…………」

 姫子は対した反応も示さずに、ただ文恵を掴む手に力を込めた。
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:45:28.29 ID:CgKSQ36AO
姫子「序列一桁のトップランカーが下位の生徒に手を下すのが此所のやり方なのかな? 弱い者いじめにしてはやり過ぎだよ」

 骨が軋む音が強くなる。
あとほんの少し力を加えれば文恵の背骨は真っ二つになるだろう。

文恵「力を衒うのはスマートじゃないとでも? 誇る為の力、使う為の力じゃない。あなたもこっち側の人間なら分かるでしょ?」

 超えようと考える事すら馬鹿らしく思える力の壁。
その先に見出だされるものは必ずしも正しい道ではない。
格下のしずかに敗れた後に掴んだその力はこれから頭角を現すであろう才気の芽を摘む為に使われていたのだ。
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:45:56.41 ID:CgKSQ36AO
文恵「それよりもそれだけの力を持ちながら何故あなたが三位という序列に甘んじてるのか、その方が理解に苦しむよ。この力さえあれば後はやり方次第でこの学校の頂点にだって立てるのに……」

姫子「悪いけど興味ないよ。私如きに止められてる人間がどうやって頂点に立つのかは少し気になるけどね」

 姫子は皮肉混じりにほくそ笑んでみせた。
文恵に頂点に立つ器量は無い。
それどころか自分すら打ち破れない事を確信しているから故の笑みだった。

文恵「やり方次第、だよね」

 文恵は姫子に背を向けた体勢のまま、彼女と同じようにほくそ笑んだ。
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:46:28.67 ID:CgKSQ36AO
しずか「っ! 姫子後ろ!!」

姫子「っ!?」

 塗り潰された闇からその刃は忍び寄っていた。
黒に溶け込む黒いそれはまさに死神の鎌。気付いた時には既に遅い。
姫子の肩口から背中にかけて死神の裁きが駆け抜ける。

風子「流石……速いね」

 一瞬の瞬きの間に姫子は屋上の隅の手摺に寄り掛かっていた。
姫子が居た場所には夥しい量の血痕が残っている。

姫子「やるねぇ……」

 斬られた背中をなぞると痛みとは別の感覚が走る。
姫子は関節の節々がやけに重たくなってゆくのを感じた。

風子「強がって笑ってられるのも後せいぜい四、五分よ」
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:46:56.02 ID:CgKSQ36AO
 鎌の先から滴る血を甘美の表情で見つめながら、風子はずれかけた眼鏡の縁を持ち上げた。

風子「こちら側の人間でも毒には抗えない事は解ってるわ。何だかんだ言っても人間だもんね」

しずか「毒……?」

 しずかは恐る恐る文恵達から姫子の方へと視線を移し、風子の言葉の意味を悟った。
ほんの数十秒前まで普通だった姫子の顔色が今こうしている間にもみるみるうちに青褪めていっているではないか。

文恵「ダーメダメでしょ? 倒れてない敵から目を逸らすなんて」

しずか「──っ!」

 声がした方へと向き直るが遅かった。
文恵の袈裟斬りがしずかの目の前まで迫っている。
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:47:23.49 ID:CgKSQ36AO
文恵「……またまた面倒な事して」

 文恵の刀に絡み付いた鎖はちょっとやそっとでは断ち切れない。
捕縛という一点に置いて二人の力は澪さえも上回る。

キミ子「……私達じゃあどう足掻いても勝てないけど、こうやって時間稼ぎするくらいは出来るからね」

よしみ「…………」

 キミ子が目配せするとよしみは無言で、だが力強く頷いた。
 袈裟斬りの目標地点に居たしずかの姿は跡形も無く消えている。視覚、聴覚による察知は適わない。

風子「探れる?」

文恵「集中して一分てとこかな……。こっちは任せるよ」

 文恵が鎖に絡めとられた刀を手放すと間を入れずに風子が二人の間合いに割って入る。
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:47:51.96 ID:CgKSQ36AO
しずか「…………」

 しずかは息を顰め、奥歯を噛み締めた。
自分達の考えがどれ程浅はかだったか、それを考えると彼女は途方もない悔しさに苛まれた。
 ここ最近目に余る暴走を続ける二人の生徒。それがかつて拳を交えた事があった生徒だとしても、安易に首を突っ込むには早計過ぎたのだ。
 行動を起こすにはそれに相応しい理由、動機が必要だ。
この二人にとってのそれが闘気の発現だったと、何故想定出来なかったのか。

キミ子「危ない!」

 キミ子が鎖を乱暴に手繰り寄せるとよしみの身体が宙を舞う。
それに遅れてよしみが居た地点に風子の大鎌が突き刺さった。
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:48:22.55 ID:CgKSQ36AO
しずか(どうする……?)

 ステルス能力を用いて貯水タンクの上に身を顰め、しずかは自分が成し得る策を探す。
だが思考のピースは噛み合うどころか疑念の糸に絡み取られてゆく。

文恵「完全な迷彩能力なんて無いのよ。生きてる限りは何らかの形跡を残すものなんだから」

 文恵は丁度しずかに背を向ける形でそう呟いた。
確かにしずかは自身の能力に文恵の言葉を否定出来るだけの自信は持っていない。
ステルス能力の基因がどういうものなのかはしずか自身にも解らない。
だがこれだけは解っていた。
全ての生物に宿るエネルギー、即ち闘気だけは消す事が出来ないのだ。
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:48:50.35 ID:CgKSQ36AO
しずか(このままじゃやられる……)

 今はできる限り気を鎮めて闘気を抑えているもののそれが零になるわけではない。
文恵がその微量の闘気を気取った瞬間、事はお終いだ。
 ならばどうする?
 自分に問い掛けたところで返って来る答えは否定、或いは不鮮明。
唯一めぼしいやり方であろう手はまだ感付かれていない今の内に文恵にとどめを刺す事ぐらいなのだが。

しずか「…………」

 果たしてそんな安直な考えをあちらが見越していないだろうか。
それを考えるとしずかは足を動かす事が出来なかった。
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:49:16.25 ID:CgKSQ36AO
 絶対安心だと解ってはいても脈打つ心臓の鼓動を気取られそうで不安に駆られる。
そしてその不安は更に鼓動のテンポを早める。最悪の循環だ。

しずか「──っ!」

 乱れた呼吸のせいで喉が震え、顎から一粒の汗が流れた。

文恵「みーつけた」

 文恵が言い終える前に本能でステルスは無駄だと悟ったしずかは即座に緑の闘気を纏い、応戦体勢を取る。
 闘気の相性は最悪。だが同じこちら側の人間ならば差し違える事くらいは可能だろう。
しずかがそう考えた矢先に、彼女は現れた。
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:49:47.16 ID:CgKSQ36AO
「こんな時間に何してるの?」

 凜と鳴る鈴の音のような声の後に冷たい風が吹き抜けた。
その場に居た全員が声の主の正体を察知する前に無数の氷柱が降り注ぐ。

文恵「……真打ち登場ってわけね。そうまでして私達を潰したいのかな?」

 苦笑いを浮かべつつも文恵は右手から豪火を発し、降り注ぐ氷柱を全て溶かしていた。
そして直ぐに仄かにかかった白い靄の向こうの人物を睨み付ける。

澪「知らないよ。たまたま通り掛かっただけだし……」

 澪は困ったように目を伏せ、トップ付近で一つ結びにした髪を撫でた。
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:50:15.15 ID:CgKSQ36AO
澪「んー……」

 まじまじと辺りの光景を眺め、澪は状況を整理する。
 鎖を伸ばして風子と対峙しているキミ子とよしみ。
手摺にもたれて苦しそうに俯く姫子。
そして血気盛んに噛み付いてくる文恵と意気消沈したしずか。
 澪はそれらから自分がすべき行動を悟る。

澪「手、貸そうか?」

しずか「お願い!」

 しずかは間を置かずに腹の底から叫んだ。
此所に澪が来たのは偶然なのだろうが利用しない手は無い。
 しずかの頬が次第に緩んでゆく。
何処を探しても澪ほど仲間に回って手放しに安心出来る者は居ないだろう。
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:50:56.75 ID:CgKSQ36AO
澪「じゃあ立花さんをお願い。そうだな……終わるまでグラウンドで待ってて」

 しずかは力強く頷き、貯水タンクから飛び降りた。

澪「あ、ちょっと待って。ついでにこれも……」

 澪は控え目に持っていたレジ袋をしずかに投げ渡そうとしたが、その手を直前で引き止めた。

しずか「……? どうしたの?」

澪「いや、何でもない。行っていいよ」

 しずかは訝しげに首を傾げると変なの、と呟いて姫子の元へと駆け寄って行った。
彼女の足取りは軽い。放っておけば鼻歌混じりにスキップでも踏むだろう。
意気消沈していた彼女がここまで安心しきっているのも、偏に澪の強さのお陰だと言える。
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:51:26.39 ID:CgKSQ36AO
文恵「逃がすと思う?」

澪「逃げてもいいよ。個人的な恨みがあるわけでもないし、むしろそっちの方が助かるな」

 安い挑発に文恵が澪をきつく睨むと、死神の鎌が這い寄った。
背後から迫る黒鎌と前方から迫る豪火に澪は全神経を集中させる。

澪「避けるのは無理か……」

 右手でレジ袋を強く握り締め、左手の指を鳴らす。
刹那、コンクリートの足場が煌めき、それを食い破って幾つか巨大な氷柱が伸びた。
澪を周囲を取り囲み、守るように現れたそれは背後から迫る黒鎌を防ぎ、燃え盛る豪火を遮る盾となる。
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:52:02.17 ID:CgKSQ36AO
 氷が急速に溶けてゆき、文恵の視界を埋め尽くさんばかりに白い靄が広がる。
自分の掌すら視覚出来ないほどに靄が広がるまでにそれほど時間は掛からなかった。

文恵「…………」

 文恵は冷静に最善を選択しようと考える。
 迂闊にこの場を離れようものならば直ぐに存在を気取られるだろう。
視界不安定のこの状況では二対一という数の利は機動力という一点で逆転される。

文恵「……やる事は一つ、だよね」

 文恵は声に出したかも怪しいほど小さな声で呟いた。
 目が利かないという点ではあくまで公平。
ならばこの靄がかかる前に澪が居たポイントから今のポイントを推測し……。
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:52:33.14 ID:CgKSQ36AO
文恵「進む!」

 退くのではなく進む。
たとえ攻撃が当たらずともそれは敵の動きを抑制する枷となる。
だがそれはあくまで視界不安定という条件が平等ならばの話だった。
 文恵が思考を始めて結論を弾き出すまでに要した時間は三秒足らず。
行動にはそれからほぼノータイムで移した。
だがそれよりも速く、澪の掌底が文恵の腹を捉える。

文恵「あ?」

 そう声を出した頃には文恵の身体は宙を舞い、靄を抜けた先の貯水タンクに叩き付けられていた。
それに続けて煌めく硝子片のようなものが文恵の制服の袖やスカートに穿たれる。
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:53:01.54 ID:CgKSQ36AO
文恵「氷……?」

 鏡のように煌めく鋭利なそれは触れずとも分かるほど冷気を放っていた。
氷ならば溶かせる、そう思って炎で溶かそうとしたその時、耳障りな音が靄の奥から響いた。
 肉を殴打する音が断続的に鳴り、それと付属で風子の短い悲鳴が聞こえる。

文恵「ちょっと……。風子?」

 自然と顔が強張る。
一際大きな音が鳴った後、靄の奥から風子の身体が投げ出された。

文恵「──っ!?」

 文恵は言葉を出せなかった。
成す術なく床と激突した風子の身体はこの短い時間の間にぼろぼろになっており、微かに痙攣している。
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:53:32.47 ID:CgKSQ36AO
 血が溜まっていたのだろうか、風子は大きく咳き込むと吐血した。
四つん這いの体勢になり、呼吸を整えている彼女の真横に靄の中から飛んできた鎌が突き刺さる。

澪「大人しく逃げてれば追いかけもしないのにさ」

 靄の中から澪の声が聞こえた直後、見えざる手に振り払われたかのように靄が消える。 再び文恵の前に現れた澪は呆れたように溜め息を吐いた。
普段着のショートパンツとシャツ、その上に羽織った薄手のカーディガンには乱れた形跡すら無い。

文恵「何で……」

 越えられない筈の壁を越えた自分が二人がかりでも尚圧倒されている。
その事実は驚愕から憤りを生む。
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:54:03.05 ID:CgKSQ36AO
文恵「何で倒れてないの!? トップランカーにも立てない格下なんかに……私達が負ける筈無いじゃない!」

澪「…………」

 澪は再び困ったような顔をして頬を掻く。
既に澪の意識は文恵達よりもこの間一度も手放さなかったレジ袋の中身にあり、しずか達を助けようとする気持ちよりも早く終わらせて家に帰りたいという気持ちが先行していた。

澪「……越える前の私でも流石にこの状況なら良い勝負出来るよ。一番得意なシチュエーションだしな」

 そう言って目の下を指で抑え、邪気を含んだ笑みを浮かべる。
文恵はそれを見てようやく、澪が入学当初から持っていた眼力を思い出した。
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:54:33.52 ID:CgKSQ36AO
文恵「……覚えてて。今は退くけど必ず、必ずその首取ってやるから」

澪「そんなに値打ちのある首でもないけどなぁ。建前上序列も二桁だし……」

 どうでも良さそうに欠伸をする澪に更なる憤りを覚えたが、文恵は辛酸を嘗める想いでその怒りを噛み殺した。
 文恵が赤の闘気を放つ前に氷は澪の意志に呼応したかのように溶けてゆく。

文恵「風子、立てる?」

風子「う……うぅ……」

 呼び掛けられて立とうと踏ん張るが身体がついて来ない。
みかねた文恵は少し乱暴に風子を背負い、既に背を向けて月を仰いでいる澪を睨み付けた。
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:55:01.47 ID:CgKSQ36AO
澪「忘れ物しないようにね。じゃあまた明日、学校で」

 文恵を見ないまま落ちていた刀を拾い上げ、そのまま放り投げる。
素直に受け取ってしまえば自分がどこまでも惨めに思えてきそうで、文恵はそれを受け取るのをためらった。

文恵「うるさい!」

 捨て台詞を吐いて引きかけた手を伸ばし、宙を舞う刀を掴む。
それとほぼ同時に二人の姿は消えた。

澪「……ふぅ」

 大きく溜め息を吐くと澪はレジ袋の中身を確認し、少しだけ顔を綻ばせた。
中に入っていたのはカフェオレとプリン。
澪が終始これを手放さずに持っていたのは何かの拍子でプリンが型崩れするのが嫌だったからだ。
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:55:50.36 ID:CgKSQ36AO
 しずかに渡すよりも端に置いておくよりも、二人を相手にする自分が持っていた方が良いという判断は文恵が知れば直ぐに引き返して怒り狂うようなものだろう。
 だがそれを実現する力が澪にはある。
絶対の彼方を越えた武人を二人相手にする事など、今の澪にとっては昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わりは無いのだ。

澪「アフターケアまでしたくないんだけどな……」

 のっぺりとした動作で手摺から身を乗り出し、グラウンドの中央で姫子を抱き抱えるしずかを見る。
 首突っ込んだのは私だしな、澪はそう呟いて屋上から飛び降りる。
 彼女の姿は闇に溶けてゆき、その軌跡に冷たい光の粒が舞った。
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/25(金) 00:57:19.26 ID:CgKSQ36AO
澪「私の質問に答えろ」

風子「気をつけろ。奴は他人の念を盗む」

文恵「…………」

そんなノリ
インフルエンザには気をつけよう
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/25(金) 01:11:25.07 ID:k2xdnAx/o
団長乙
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/25(金) 01:19:04.10 ID:X+osA5ySO
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/03/25(金) 16:41:09.73 ID:hAKZk7y+o
澪「お気に入りのうさ〜ちゃん〜出した〜し♪」
律「ポポポポーン♪」
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/26(土) 23:56:45.11 ID:f1pqPdPAO
乙!
ぬきふら!
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/27(日) 01:00:04.75 ID:X9RayEWDO
おもしろいんだけど、必要以上の澪ヨイショが気持ち悪い
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/03/27(日) 10:47:31.77 ID:ZBB+LqW0o
澪が完全にオリジナルキャラ(笑)になってて笑える。
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/28(月) 04:09:07.89 ID:WFgCWqcro
遅ばせながら乙!

りっちゃんが通りかかるのかと思ったら澪でござった•••
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/28(月) 12:11:05.17 ID:RUE/3oNDO
作者は澪あんま好きじゃないんじゃなかった?
ここまで持ち上げてるのはまた叩き落とすためじゃないの?
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/03/28(月) 12:27:21.08 ID:S2L+WCUk0
>>885
半分くらい正解。そこに気付くとは、やはり天才か……
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/03/28(月) 13:51:42.33 ID:d1AS7GIOo
戦隊物の追加メンバーが、最初は超強いけど段々ヘタレ化していくようなもんだろww
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/28(月) 14:28:56.78 ID:7atuRPRAO
>>887 より厳密に言うなら
ヘタレ化もしくは死亡
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:02:32.61 ID:HS1jkPFAO
 夜の病室に月の光が差し込む。
部屋の主は窓から望む月に何を思うのか、憂いを含んだ笑みを浮かべていた。
 ここに運ばれてきた時には煤けていた長い黒髪も今では艶を取り戻しており、傷だらけの身体も回復の兆しを見せている。

「こんな時間にお見舞いなんてちょっと非常識じゃない?」

 彼女は扉に目を映し、皮肉混じりに溜め息を吐いた。
それと同時に扉が勢い良く開く。

「それとも親しき仲にも礼儀ありって習わなかったのかな?」

澪「親しい? 流石の私でも寒気がするよ」

 露骨に機嫌が悪そうな顔をした澪がそのまま中に入って来た。
その後を追うように姫子を抱えたしずかが入って来た。
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:03:07.97 ID:HS1jkPFAO
しずか「っ!?」

 しずかはベッドの上に佇む者を見て思わず抱えていた姫子を落としかけた。
 毒に犯された姫子の身体を癒せる人が居る。
そう聞いて澪に着いて行った先に居たのは……。

江藤「あら狐ちゃんまで居るじゃない。嬉しいわ、ずっと一人で退屈だったの」

 従者衆が一人、江藤。
彼女は獲物を物色する蛇のような目でしずかを見た。

しずか「……知り合い、だったの?」

 しずかは助けを求めるような視線を澪に送った。
不機嫌な表情を貼り付けたままの澪が何か言おうとしたのを江藤が遮る。

江藤「知り合いどころか吹雪の中で身体を重ね合った仲よ。ねぇ澪ちゃん?」
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:03:35.62 ID:HS1jkPFAO
 それを聞いて澪は更に眉間に皺を寄せた。

澪「法にお前を縛る力があるなら直ぐにでも訴えるよ。それともまさかあれが互いの同意の上の行為だったとでも言うのか?」

江藤「あら、私の全身に濃ゆ〜いキスマークつけたのは誰だったかしら?」

 江藤は胸元をはだけさせ、包帯の端から見え隠れする生々しい傷を見せつけた。

澪「……あれが良かったんならまたしてあげようか?」

江藤「……遠慮しとくわ。これでもまだ夢に出てくるんだから」

 江藤は両手で肩を抱き、大きく身震いした。
澪はまだ不機嫌な顔をしたまま、カフェオレを取り出す。
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:04:06.16 ID:HS1jkPFAO
江藤「と、そんな事よりも……」

 江藤は咳払いをしてしずかを、正確にはしずかが抱えている姫子を見た。

江藤「用があってここに来たんでしょ? 大方そこで寝てる子絡みかしら?」

澪「話が早くて助かるよ。どうも毒にやられたみたいでさ、何とか治療出来ないかな?」

 ようやく澪の仏頂面が変化を見せた。
だが間に挟まれたしずかは気が気ではない。
親友の身体をかつての敵に委ねる決断など、ほんの数分で下せる筈もないのだ。

しずか「私……普通のお医者さん探すよ。その人だけは信用したくない」

澪「…………」

 澪の表情が一瞬だけ曇った。
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:04:32.28 ID:HS1jkPFAO
江藤「賢明な判断ね」

 艶めいた黒髪を弄りながら江藤は言った。
半分は澪に対する呆れ、半分はしずかに対する感心を込めて溜め息を吐く。

江藤「昨日の敵は今日の友、なんて言うけれどそんなのよっぽど稀有な例よ。手放しに私を信用するなんて正気の沙汰じゃないわ」

 江藤は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、澪の頬に手を伸ばす。

澪「……また私とやり合うつもりか?」

江藤「まさか。どうせ勝敗が決まってところで殺してくれないんでしょ? あんな苦痛はもうまっぴら御免だわ」

 官能的な動きで細い指を這わせ、澪の下唇をなぞる。
二、三秒それが続いたところで澪は江藤の手を払った。
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:05:00.08 ID:HS1jkPFAO
澪「結局お前はどうしたいんだ? この子を助けてくれるのかくれないのか、どっちなんだ」

江藤「あら、助けないとは一言も言ってないわよ? 狐ちゃんが認めるなら直ぐにその子を治してあげる。ただこれだけは頭に入れておいて」

 少し間を置いて江藤は舌を出した。
南極で澪に噛み千切られかけた舌は若干歪な形になっている。

江藤「私は世界で誰よりも、貴女の事を憎んでるわ。出来ることならその両目を抉り取って臓物を引き摺り出したい。それくらいにね」

 口角は上がって微笑んでいるようにも見えるが眼は笑っていない。
彼女の澱んだ瞳に映る澪は殺意と憎悪の対象でしかなかった。
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:05:35.99 ID:HS1jkPFAO
江藤「ケダモノみたいな闘気に充てられて全身に穴を開けられて……。生きたまま血を啜られる感覚、あの時の痛みは足の先までも思い出せるわ」

しずか「…………」

 しずかの胃の中を冷たいものが通り抜けた。
僅かに震えて怯える江藤も、得体の知れない何かを孕む澪も、今の彼女には直視出来なかった。

澪「……自分だけが被害者みたいに言うなよ。あの時は私だって──」

江藤「いいえ。私は被害者で貴女は加害者、他の誰が何と言っても変わらないわ」

 先程までの誘うような目付きとは一変し、彼女の眼光が鋭くなった。
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:06:03.95 ID:HS1jkPFAO
澪「……痛いのも苦しいのも、全部引っ括めて闘うって事じゃないのかな。私は……」

 予測していなかった江藤の反応に澪は口ごもった。
その様子は、彼女が江藤に対して萎縮しているようにも見える。

江藤「人間みたいな態度取らないで。分かってるわ、貴女何も感じてないんでしょう?」

 更に追い討ちをかけるように糾弾する。澪は……。

澪「…………」

 何も答えなかった。
無言でカフェオレにストローを刺し、啜りながら席を離れる。
この場所には何の興味も無いとでも言いたげに、澪は部屋を後にしようとする。
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:06:30.23 ID:HS1jkPFAO
澪「表で待ってるから」

 勝手に話をつけてくれという事なのだろう。
澪はしずかとすれ違いざまに、冷たく呟いて部屋を後にした。
叩き付けるように閉めた扉の音だけが残った。

しずか「…………」

江藤「…………」

 重々しい空気が流れる。
江藤にはこの空気を打破する事が出来ないのか、或いはするつもりがないのか。
外方を向くように外を眺めている。

しずか「…………」

 何も言えないのはしずかも同じで、彼女はただこの居心地の悪い時間をやり過ごそうと押し黙った。
 そうして数十秒、数分が経ってようやく、沈黙は崩される。
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:06:56.12 ID:HS1jkPFAO
江藤「で、どうするの?」

 外方を向いたまま江藤が呟いた。
それでもなお数秒ほど押し黙り、しずかはようやく口を開く。

しずか「正直あなたは信頼出来ないけど……。秋山さんを恐れるあなたは、信用しようと思う」

江藤「…………」

 ゆったりとした動作で江藤は身を起こす。そしてしずかの方へと向き直った。

しずか「この子を……。姫子を治してあげてください」

 長い前髪が顔を完全に隠してしまうほどに、彼女は深々と頭を下げた。
彼女の小さな背中にしがみつく姫子は苦しそうな呼吸を繰り返している。
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:07:23.45 ID:HS1jkPFAO
江藤「良いわよ」

しずか「えっ……?」

 江藤が大した間も置かずに即答した事にしずかは思わず肩を揺らした。

江藤「えっ、て……。そのつもりで頭下げたんじゃないの?」

しずか「……そうだけど」

 未だにためらうような態度のしずかに痺れを切らしたのか、江藤の目付きが自然と鋭くなってゆく。

江藤「だったら早くしなさい。どんな毒か解らない以上処置は早いに越した事は無いわ」

 まだ癒えてない身体を労るようにそっとベッドから降りると、江藤は再度しずかを見据えて言った。

江藤「あの子を恐れる私を信用するんでしょう? 多分正解よ、もう一度言うわ。早くしなさい」
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:07:49.28 ID:HS1jkPFAO
 治療過程は語るものでもなかった。
姫子の顔色、傷口、痙攣などの症状から彼女に盛られた毒をほんの数分で見抜くと、江藤は一本の血清を打った。
ただそれだけだった。

しずか「すごい……。お医者さんみたい」

江藤「元お医者さんだもの。これくらいは出来て当然よ」

 姫子の顔色は呼吸の音が重なる毎に生気を取り戻してゆき、今では安らかな寝息を立てるほどにまで回復した。

江藤「まぁほっといても一日も立たない内に回復するんだけどね。これで少し仮眠を摂らせれば良くなってるでしょ」

しずか「え? 大した毒じゃなかったの?」

 拍子抜けしたしずかはぽっかりと口を開いた。
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:08:17.13 ID:HS1jkPFAO
江藤「……毒を扱うには多くの知識と経験が必要なのよ。それこそ貴女達の本分の武術と同じようにね」

 腕を捲り、無数の注射痕をしずかに見せる。
そして彼女は物憂げな面持ちで溜め息を吐いた。

江藤「でもその知識と経験を積んだ私達従者衆は壊滅。二人は死んで一人は捕虜、まともに生き残ったのは私の他に一人だけ」

しずか「…………」

 彼女とてその道のプロだったのだ。戦場で肩を並べる者が居なくなる事は覚悟していた。
そんな彼女を苛ませるのは仲間を失った後悔ではなく……。

江藤「結局のところ、力と比例するものは努力じゃなくて才能なのかもね」

 積み上げたものが壊される喪失感だった。
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:08:45.91 ID:HS1jkPFAO
しずか「……才能の違いが秋山さんを怖がる理由なの?」

江藤「才能? あの子と私の差を才能の差と称するのは少し違うわね」

 江藤は自嘲染みた笑みを零して口元を手で覆った。

江藤「そうね……。たとえば貴女は空を飛べないけれど鳥は空を飛べる。それを才能の違いって言うかしら?」

 何とも突飛な例えだ。
しずかは一瞬だけそう感じたがすぐに納得した。
 彼女の強さに向かう視線は恵まれた才能に対する羨望などではない。
もっと根本的な、無理に対する妬みに近いものがある。

しずか「そうだね……。正直私もあの子を敵に回したら同じ事考える気がする」
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:09:18.53 ID:HS1jkPFAO
 物憂げに顔を伏せ、ベッドに横たわる姫子の頬をそっと撫でるとしずかは大きく溜め息を吐いた。

江藤「ふふっ」

 その様子を見て江藤は含み笑いを漏らす。

しずか「何がおかしいの?」

江藤「いや、随分的外れな事言ってるなと思って」

 やたらと機嫌の良さそうな、それでいて少し皮肉めいた面持ちのまま窓から外を眺める。
江藤の視線の先には手持ち無沙汰に立ち尽くす澪の姿があった。

江藤「誰が敵とか味方とか……そんなの関係無いのよ。結局のところあの子の行動理念は自分が楽しめるか否かに帰結する。そう感じるわ」
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:09:49.53 ID:HS1jkPFAO
 言いながら江藤は服の下の包帯を器用に解いてゆく。
少し変色したそれが床にかさ張ってゆくのを見てしずかは眉を顰めた。

江藤「自分を死の近くに置いてそれを打破する事に喜びを感じるのか。敵を生かさず殺さず、自分の手の内で弄んで悦びを感じるのか。付き合いも無い以上深くは知らないけれど……」

しずか「ひっ……」

 江藤は釦を毟るように上着を開き、下着だけを付けた上半身を露にする。
彼女の身に刻まれた凄惨な刻印からしずかは目を逸らした。

江藤「今の立場に甘んじてると、明日こうなるのは貴女かもしれないわよ?」
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:10:25.71 ID:HS1jkPFAO
 生々しい傷は果たして痕を残さず消え去るのだろうか。
その答えはしずかにも江藤にも解らない。だが二人ともこれだけは理解している。
弱者の証として刻まれたその刻印には背負う者を一生苛ませる力があるという事を。
たとえ、その傷が消えたとしても。

しずか「可哀相、だね……」

 しずかは思ったまま呟いた。
江藤はそれに対して憤るでもなく、むしろ心地良さそうに目を閉じている。

江藤「ええ、可哀相でしょ? 自分から首を突っ込んで痛い目に遭った私が」

 釦を二つほど締め直し、胸の辺りだけを隠す。
それから再び短い沈黙が訪れた。
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:10:59.23 ID:HS1jkPFAO
しずか「…………」

 恐らく次の一言が自分と江藤が交わす最期の言葉となるだろう。
理屈ではなく本能がそれを察し、しずかはそれを聞き逃すまいと意識を集中させた。
江藤はまるで死にゆく武人のように力強く、どこか安らかな目をしずかに向ける。

江藤「ふふ、こうして身を以て貴女にあの子の怖さを教える事が、私の物語のエピローグなのかもしれないわね」

 いつか物語の因果を越えて笑い合える日が来るだろうか。
 強い人も、弱い人も。
 善い人も、悪い人も。
 人も、人外も。
 そんな渇望にも似た感情を、しずかは噛み殺した。

江藤「どうか気をつけて。それが無力なオブザーバーの最期の言葉よ」
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:12:34.57 ID:HS1jkPFAO
澪「遅かったね」

 姫子を背負って病院から出て来たしずかに澪は優しく微笑みかけた。
先の江藤との会話が原因だろうか、今のしずかにはその邪気一つ感じられない笑顔が不気味に思えた。

しずか「……うん。ごめんね、こんなに待たせちゃって」

澪「良いよ。それより私が背負おうか? そろそろ疲れてきたんじゃない?」

 ごくごく自然な動作で姫子を指差し、上目遣いでしずかを見る。
気に留める必要も無い動作の一つ一つが全てうさん臭く感じて、しずかは言い様の無い不安感に駆られた。

しずか「ううん。姫子は私が連れて帰るから、秋山さんは先に帰ってて。色々ありがとね」
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:13:03.71 ID:HS1jkPFAO
 しずかのよそよそしい反応に気付いたのか、澪は人の良さそうな笑みを貼り付けたまま僅かに首を傾げた。

しずか「ごめんね。今ちょっと頭の中がぐるぐるしてて……。一人に、なりたいんだ……」

 遮二無二に頭を振り、しずかは澪の側を横切った。
澪の斜め後ろ三十センチほどの僅かな距離。
彼女は澪に一縷の望みを賭けて囁く。

しずか「あなたは……。私達の敵になんかならないよね?」

 その言葉に澪は振り向く。
しずかの眼を見る彼女の眼は、底の方から笑っているようにも見えた。

澪「勿論さ。むしろ守りたい、そう思うよ」
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:13:34.69 ID:HS1jkPFAO
 一陣の風が流れた。
しずかは何も答えなかったし、澪も何か言及する事も無い。
 重たい足音が風の彼方に消え去るまで、澪は何をするでもなく立ち尽くしていた。

澪「……っ!」

 澪は突如苦しそうに胸を抑える。
痛みに耐えるというよりは込み上げる何かを抑えようとするその動作は悩ましげで扇情的だ。
 服ごと乳房を引き千切ってしまうのではと思えるほどに手に力を込め、そのままやや内股気味に座り込む。

澪「馬鹿……! 何考えてるんだよ私は……」

 全身が焼けるように熱く、よがり狂ってしまいそうになる。
湧き上がる醜い欲望を抑えようとした澪は遂に暴挙に打って出た。
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:14:05.17 ID:HS1jkPFAO
 翳した左手の内で氷のナイフを生み出す。
そして彼女はそれを自分の右手の甲に突き刺した。

澪「止まれ……。止まれ……!」

 何度も何度も突き刺す。
その度に肉が裂かれ、押し潰される不快な音が木霊した。

澪「はぁ……っ。はぁ……」

 ナイフで刺すだけでは足りなくなったようで、今度は出来たばかりの真新しい傷口に爪を突っ込む。
中で肉を掻き毟る度に鮮血が零れ落ちてゆく。

澪「よし……良い子だ。もう出て来るんじゃないぞ……」

 自分の胸に血塗れの手を添え、深く息を吐きながら呟く。
 敵味方など関係無い。
 衝動的な殺意に向けて。
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/03/31(木) 02:15:14.10 ID:HS1jkPFAO
しずか「戯言だよ」

澪「傑作だろ?」

そんなノリ
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/31(木) 02:50:52.46 ID:zBil4q6Co
乙です!

澪ちゃん淫獣化しちゃうのか••••
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/03/31(木) 22:44:56.22 ID:R4/veOwAO
邪気眼…
914 :今日は4/1 [sage]:2011/04/01(金) 02:34:15.05 ID:Tn41i2igo
いやあ素晴らしいSSだ。
915 :きょうはしがつついたち [sage]:2011/04/01(金) 09:35:15.35 ID:w4ggNfXDO
>>914
俺も思った。
まさに神SSだなこれは
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/01(金) 12:49:29.06 ID:D6Crgk8no
澪「よし……良い子だ。もう出て来るんじゃないぞ……」
律「中の人がー!中の人がー!!」
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/01(金) 16:56:55.19 ID:BWR4XPODO
>>916
吹いたじゃねえか
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:14:58.69 ID:d/AIbhsAO
紬「こんにちは。唯ちゃん」

唯「わおっ。今日はムギちゃんだー」

 日が沈みかけた頃に紬は唯の病室に訪れた。
日付は律が此所を訪れた次の日、そして澪達と文恵らが刃を交えた次の日でもある。

紬「ふふっ、今日は唯ちゃんが好きなお菓子持ってきたのよ」

 朗らかな笑みを浮かべつつ、紬はそれだけで高そうなGODIVAの紙袋から魔法瓶を取り出す。

唯「ムギちゃん、もしかしてそれって……」

紬「ストレートティーだけどね」

 紬の含み笑いを見て唯の表情が弾けたように明るくなる。
もう何日紬のお茶を飲んでなかっただろうか、それを考えただけで唯の心が満たされた。

唯「ティータイムだーっ!」
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:15:25.75 ID:d/AIbhsAO
 両手を上げて眼をきらきら輝かせる。

紬「喜んでくれて嬉しいわ。本当は部室で五人一緒が良かったんだけどね」

唯「入院ティータイムもまたおつなものですよ。なかなか粋な計らいですなぁ」

 したり顔で揉み手をしつつ身を乗り出すと、鼻孔を甘い香りが突き抜けた。

唯「んー。良い匂いだねぇ、今日のおやつはなっにかな〜」

 紙袋の中には可愛らしいリボンで包装された容器があった。
手に取るとそれはほんのりと温かく、つんとした何とも言えない甘い香りを漂わせていた。
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:15:56.76 ID:d/AIbhsAO
唯「開けても良い?」

紬「うん、一緒に食べよ」

 紬が言い終える前に唯は既に包装に手をかけている。
紬は苦笑いしながらも、そんな唯を愛しくすら思っていた。
 たとえ周りがどれだけ苦しい思いをしても彼女は決してぶれない。
だがそれは決して悪い事ではない。むしろ唯のその揺るがない優しさ、明るさは多くの人間を勇気づける。
 紬自身、自分も唯に惹かれている事に気付いていた。

紬「それって……。とても凄いことなのよね」

唯「ほぇ?」

 優しい瞳と無垢な瞳が向き合う。
唯はそれに気付くと少し照れたようにはにかんだ。
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:16:24.75 ID:d/AIbhsAO
唯「えへへ……。ずっと見られたら恥ずかしいよぉ」

 ずっとこの笑顔が見たいから。
紬にとっての闘う理由はそれだけで充分だった。
だからこそ紬は唯を奪還した今となっても決して気を抜かない。
あの現世とも常世とも言えない曖昧な空間の中で出会った彼女が、未だに頭の片隅に巣くっているから。

紬「ゆーいちゃん」

唯「なあに?」

紬「ふふっ、呼んでみただけ」

 仔犬のように無垢な心を持ち続けた唯はきっとこれから色んな物を見て、色んな事を聞いて、色んな決断を下して学んでゆくのだろう。
そんな純粋なる種を見捨てる事は人を殺す事よりも罪深い。
親心にも似た感情を、紬は抱くのだった。
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:16:53.18 ID:d/AIbhsAO
唯「変なムギちゃん」

 怪訝な言葉を吐きながらも唯はとても嬉しそうだった。
紬が唯に他の者には無い癒しを感じるように、唯も紬に対して同じ感情を抱いていた。

紬「ごめんね、じゃあお菓子食べよっか」

唯「うん!」

 待てを解かれた犬のように一目散に箱に手をかけると、唯はその隙間から漏れるシナモンの香りに顔を綻ばせた。

唯「う〜ん、良い匂い……」

 言いかけて箱の中身を見た瞬間唯の表情が一変する。
箱の中には二人でようやく食べ切れるかどうか分からないほど大きなアップルパイが入っていた。

唯「林檎……」

 紬の朗らかな笑みが今の唯には心苦しかった。
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:17:25.19 ID:d/AIbhsAO
純「ようはこの二人を片付ければ良いんでしょ? サクッとやっちゃおうよ」

 純はからからと笑い、紙コップに入ったオレンジジュースを啜った。

梓「もうっ、そうやって油断してると足元掬われるよ?」

 じとりとした眼で純を一瞥し、梓は控え目にハンバーガーを囓る。
 時刻は午後八時。部活帰りの学生や柄の悪い若者達の喧騒に満ちたファストフード店にて、純と梓は和から頼まれた上位ランカー二名の殲滅について話し合っていた。

純「……この二人が、かぁ。イマイチピンとこないんだよね」

 純はテーブルの上に並べられた二枚の写真を穴が開くほど見つめる。
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:17:58.61 ID:d/AIbhsAO
梓「純はそういうのに疎いからね。こっちの人は使う武器が同じだけあって澪先輩も一目置いてたみたいだよ?」

 文恵の写真を指でなぞり、額の部分を小突く。

純「今となっては、って感じだけどね」

 純は空になった紙コップを咥え、退屈そうに椅子に背を預けた。
かつてこの二人が純に倒された事を知らない梓は純の態度が持ち前の物臭から来ているものだと思い、呆れたように溜め息を吐く。

梓「それにしても私達二人で、なんて理由が分からな過ぎるよ。序列が下でも良いなら澪先輩やムギ先輩でも良いわけだし……」

純「よく分かんないや。そーゆー事考えるのはパスね」
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:18:41.02 ID:d/AIbhsAO
 取り留めの無い会話が数分続いた頃だろうか。
彼女は何の前兆も無く、あまりにも自然な形で現れた。

純「っ!」

梓「っ!?」

 二人して息を飲む。
店の自動ドアが開くと同時に入って来たのは、二人が標的とする人物の片割れだった。

梓「……噂をすれば、だね」

 テーブルに置いた顔写真を回収し、梓は出来る限り平静を装った。
この喧騒の中で自分の僅かな気の乱れさえも察知されそうな恐怖がそこにある。

純「…………」

梓「純?」

 なるべく眼を合わせないよう心掛ける梓とは対照的に、純は口をぽっかりと開けて標的の木村 文恵を眺めていた。
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:19:23.38 ID:d/AIbhsAO
純「あはは……。凄い、凄いよ梓。何であの人あんなになってるの?」

 戦慄と歓喜が入り交じった複雑な表情。
一人で受付に注文する文恵の後ろ姿を見ながら、純は拳を震わせた。

純「正直センス無いと思ってたよ。でも凄いや、なんかビリビリ来る」

梓「……なに? どうしたの!?」

 平静を保つ事など出来なかった。
それは文恵が目の前に現れたからではない。
物臭でことなかれ主義の友人が、突如状況を大きく揺るがす起爆剤と化してから。

純「ねぇ梓。今から私がする事、何も言わずに見ててくれない?」

梓「っ! 絶対駄目! 一歩でも動いたら絶交だから!!」
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:20:03.27 ID:d/AIbhsAO
 純は間違いなくこの場で闘いを始めるつもりだ。
瞬きの瞬間にこちらに背を向けている文恵に一発しかける事すら辞さないだろう。
 梓はそれを何としてでも避けたかった。
闘気という概念をまだ朧気にしか把握していない彼女でも分かる。
何の考えも無しに文恵に挑むのは余りにも早計過ぎる事を。

梓「ちゃんと考えてよ! 自分勝手な事してちゃんと後で責任取れるの!?」

純「その時はその時だよ。だから言ってるじゃん、考えるのはパスだって」

 次の瞬間、中身が氷だけとなった紙コップが純の手から離れ、綺麗な放物線を描いていった。
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:20:33.70 ID:d/AIbhsAO
梓「あ……」

 外れろ──。
 その一瞬の間に何度心の中で呟いたことだろうか。
しかし現実は無情にも梓の願いは聞き入れず、紙コップの中の氷は丁度文恵の頭上で撒き散らされた。

純「……ナイスキャッチ」

 投げた純自身、ここまで上手く命中するとは思ってなかっただろう。
氷が文恵の頭を濡らし、筒状の紙コップはまるで帽子のように文恵の頭に被さった。
 茹るような喧騒が一瞬にして静まり返る。
文恵は何も言わずに赤白の縞模様の帽子を手に取り、握り潰した。

文恵「……喧嘩売ってるの?」

純「日頃のご愛闘に感謝して九十パーセントオフとなっておりまぁす」
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:21:01.70 ID:d/AIbhsAO
 純の砕けた口調に眉一つ動かさない。
文恵は純と梓を暫く見つめると、レジに向き直った。

「こ、こちら……三点で六百三十円になります」

 顔を引きつらせた店員が恐る恐るトレイを持って来ると、文恵は何事も無かったかのように千円札を取り出す。

文恵「ありがとうございます。お釣りは募金箱に入れといて下さい」

 愛想の良い笑みを浮かべて両手で札を渡すと、文恵は即座に視点を切り替えて純達の元へ向かった。

梓「こっち来てるよ……。どうするの?」

 梓は条件反射で太股に吊ったホルスターに手をかけ、一秒以内に発砲出来る体勢を整えた。
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:21:29.97 ID:d/AIbhsAO
文恵「ここ、良いかな?」

純「どうぞ」

 文恵の呼び掛けに純は椅子を引き、文恵の方に向けた。

梓「…………」

 あまりにも自然な、ハンバーガーショップで『親しい友人』と会ったような二人の態度に梓は違和感を覚えながら固唾を飲んだ。

文恵「久し振りだね。軽音部殲滅戦以来かな?」

純「そんな事もありましたっけ。印象に残るほど強い人もいなかったし、よく覚えてないです」

 空気が固まって、再び平静に流れ始めた。
安い挑発に乗る気は無いという事だろう。
文恵は純から目を逸らし、黙々とハンバーガーを囓る。
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:21:58.63 ID:d/AIbhsAO
 梓は間近で木村 文恵という人間を観察してみて、『辻斬り』という通り名はあまりにも不釣り合いだと思った。
 体格に恵まれているわけでもなく、容姿も辻斬りを連想させるような恐ろしさは無い。
二つ結びにしてある赤茶けた髪と幼い容姿が相俟って、むしろとても可愛らしく見える。

文恵「……私の顔に何かついてる?」

 あまりに熱心に見つめていたせいか、文恵は訝しげに梓に訪ねた。

梓「いや……」

 当り障りの無い言葉を探したがそれ以上の言葉は出なかった。
いつ血が流れてもおかしくない一触即発の空気。
梓はそれが流れ過ぎてゆくのをただひたすら待つしか出来なかった。
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:22:28.04 ID:d/AIbhsAO
純「…………」

 純は忙しなく身体を動かし、しきりにテーブルを指で小突いている。
 いつでも来い。
 そんな純の心の声は梓にも伝わった。
小さな口で少しずつハンバーガーを胃に詰めている文恵にはどう伝わったのだろうか。

文恵「…………」

 文恵は静かに腰に差した長刀を鞘ごと抜いた。
梓と純はそれに呼応して身構える。
だが次に文恵が取った行動は、二人の予想の真裏を行くものだった。

文恵「そんなにピリピリしないでよ。なんだか緊張しちゃうじゃん」
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:23:23.11 ID:d/AIbhsAO
純「え?」

梓「はい?」

 文恵は刀を鞘ごと壁に立て掛けた。
つまり二人に対する武装、敵意を破棄したという事だ。
 二人揃って狐に化かされたような顔をした。
紡ぐべき言葉が見付からずに口を開閉させているのを余所に、文恵は変わらぬペースで食事を続けている。

文恵「何? そんなに見つめないでってば」

梓「あの……。えっとぉ……」

 梓がしどろもどろになっている内に文恵は何か納得したように手を叩き、呆れたような笑みを浮かべた。

文恵「もしかして先輩からたかろうって思った? 勘弁してよ、持ち合わせ少ないんだからさ」
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:23:55.89 ID:d/AIbhsAO
 さっき釣り銭丸ごと募金してただろうに、純はそう思ったが口を閉ざした。

梓「純、ちょっとトイレ行かない?」

純「っ! 行こう! 直ぐ行こう今直ぐ行こう!!」

 ナイスタイミングと言わんばかりに勢い良く立ち上がると、純は逃げるようにその場を後にした。
それに遅れて梓も立ち上がる。
歩き始める直前に文恵と目が合ったが、彼女は温厚な笑みを浮かべて手を振るだけだった。

梓「…………」

 梓も無言で頭を下げる。
テーブルからトイレまでの短い距離の間、梓はしきりに太股のホルスターを触っていた。
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:24:32.53 ID:d/AIbhsAO
純「何あれ?」

梓「私が知りたいよ。ていうか純は後先考えずに動き過ぎ」

 トイレのドアを閉めると同時に純が口を開き、梓はいつもの呆れた調子で答える。
互いに鏡に映った自分の顔を見るが酷いものだった。
無実の罪で一週間ほど監禁されたかのように精神的な疲れが顔に出ている。

梓「前評判とも全然違うし、何だかすっかり毒気抜かれちゃったよ……」

純「私も……。でもさ、むしろああだからこそ思う事があるんだよね。何だと思う?」

梓「奇遇だね。私も思う事があるんだ。せーので同時に言ってみようよ」

 間延びした掛け声の後に二人の声が狭いトイレに木霊した。

「目茶苦茶怖いよ!!」
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/05(火) 00:26:06.66 ID:d/AIbhsAO
ねもい何も浮かばない
そんなノリ
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 00:44:34.69 ID:i1fcaMEJo
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/05(火) 02:29:29.57 ID:u57pUX+mo
乙ー
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(秋田県) [sage]:2011/04/05(火) 04:37:08.07 ID:JO3pNSWFo
本編打ち切りで今はサイドストーリーで繋いでるんだっけ?
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/05(火) 12:37:51.96 ID:hk5+waNho
>>936
乙!

この文惠は何事なのか非常に楽しみ
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/05(火) 14:41:05.17 ID:fr0pNscCo
文恵「中の人が!中の人がー!!」
純&梓「目茶苦茶怖いよ!!」

そんなノリ
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:32:58.25 ID:DuwF8WnAO
 二人でトイレに引き籠もって十分ほど過ぎただろうか。
未だに状況は何も進展していない。

純「なんかお腹痛くなってきた……」

梓「トイレ行ってきたら? ……ってここがトイレか」

 梓は結わえていた髪を解き、手櫛で梳いている。
何かしていないと落ち着かないのだろう。
鏡と向き合う頻度は時間を重ねる毎に増えていた。

純「梓だったらどう? 出会い頭に物投げ付けられてニコニコ出来る?」

梓「怒るに決まってるじゃん」

純「ですよねー……」

 漠然とした恐れはあるのだが恐れる対象が何なのかが分からない。
 解らないから怖い。
五里霧中の中彷徨い歩くような状況は精神に響いていた。
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:33:25.87 ID:DuwF8WnAO
 一人取り残された文恵はハンバーガーを食べ終え、携帯電話で通話していた。

文恵「出会い頭に水かけられたよ。正直殺してやろうかと思った」

 空いた片手で器用に紙ナプキンを折っている。
少し歪な形ではあるものの、それは徐々に鶴の形に近付いていた。

文恵「あははっ、大丈夫だって。そこまで見境なく見える?」

 からからと笑いながら翼が萎れている紙ナプキンの鶴を指で愛でる。
電話越しの人物がまくし立てているのだろうか、甲高い声が僅かに漏れた。

文恵「分かってるよ。だからこの私が我慢してるんじゃない。それにしてもあの二人が真鍋さんが送ってきた刺客とはねぇ……」
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:34:11.75 ID:DuwF8WnAO
 文恵は鶴を翳して汚い天井を仰ぎ、目を細めた。
背もたれに身を任せるその姿には微塵の覇気も感じられない。

文恵「うん。そっちもはやく身体治してね。待ては出来るけど餌を見過ごすほどお利口さんには躾られてないんだから」

 もう一度からからと笑い、携帯電話をしまった。
文恵の細い指先から落ちた鶴は宙を舞いながら音も無く燃え、目に見えぬほどの塵となって消える。

文恵「待っててよね。必ず全員八つ裂きにしてあげるんだから」

 恋人の肩を抱くように立て掛けておいた刀に手をかけた。
頬は微かに赤く染まっており、息遣いは若干乱れている。
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:34:37.34 ID:DuwF8WnAO
 見据えた天井の先に思い描くのは先日見えた澪の姿。
 正しく、強く在ろうとした末に残った力への飢え、勝利への渇きを宿した貪欲なる瞳が文恵の脳裏を過ぎる。

文恵「……絶対、殺してやる」

 力を求めて貪欲に食らい続けて今ここに居る自分と澪の姿が、文恵には鏡越しの自分同士に思えた。
瓜二つ、同位体、擬似体。
そんなチープな言葉では表せない自分と澪の限りなく浅く、深い関係。
その絆は同じ価値観を共有しているという事だった。
 鏡の中の自分に打ち勝ち、誰にも邪魔される事のない平坦な景色を造る。
その為に文恵は辻斬りという自身の本質を捨てて此所に居る。
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:35:05.35 ID:DuwF8WnAO
梓「あの……」

 背後から肩を叩かれて文恵は我に返った。
物思いに更けて本来の自分を出してしまいそうになった事に対して心の中で悪態をつく。

文恵「あっ……。遅かったね? もしかして私邪魔だったかな?」

純「邪魔も何もうっぷ──」

 喋ろうとした純の口を梓が無理矢理塞ぐ。

梓「……純は馬鹿なんだから喋らない方が良いよ」

 文恵には届かないようにそっと囁き、梓は純の口から手を離した。

梓「いえ、邪魔なんてとんでもないです。ただちょっとビックリしちゃって……」

 控え目にお辞儀をし、自分の分と純の分の荷物を椅子からひったくるとそそくさと距離を置く。
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:37:44.01 ID:DuwF8WnAO
梓「じゃあ私達これから用事あるんで……。お先に失礼します!」

 若干顔を引きつらせ、梓は文恵から逃げるように駆けていった。

純「ちょっ!? 待ってよー!」

 二、三度出口と文恵の間を行き来して、純も梓の後を追う。
去り際に文恵を訝しげに見つめるも、文恵は梓にそうしたように優しく微笑むだけだった。

文恵「あちゃー、避けられちゃったかな?」

 二人の姿が完全に消えた事を確認し、文恵も重い腰を上げた。
彼女の身体には不釣り合いな長刀を一度しゃらん、と鳴らすと、喧騒が一瞬だけ鎮まる。
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:38:25.35 ID:DuwF8WnAO
 梓は息を切らしながら夜の街を駆けた。
心臓が破れるまで、全てを風に変えて、まるで自分がメロスにでもなったかのように。

梓「……つか……れた」

 有り余った運動エネルギーが地に足を着いても収まりきれず、なお梓の身体を全身させようとする。
梓は爪先を浮かせて踵に力を込め、ブレーキをかけるように自身の身体を制した。

純「ちょっ、速いって……!」

 民家の屋根から猫のように無音で着地し、純は梓の肩をがっしりと捕まえた。
額には汗で濡れた前髪が張り付いている。

梓「純……」

 ゆっくり息を整えている内に梓は違和感を覚えた。
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:38:56.16 ID:DuwF8WnAO
梓「……何でバテてるの?」

 自分と純では身体能力という点では天と地の差がある。ある筈だった。
闘気という概念を理解している者とそうでない者とではそうなる事は必然だ。

純「何でって……。梓が思い切り走るから……」

 南極で一瞬だけ闘気を扱ったが自在に使いこなせているわけではない。
本当ならばここまで来る途中で純に追いつかれている筈なのだ。

梓「純の百メートルのタイムって幾らだっけ?」

純「一秒三二だけど……」

 梓の百メートル走のベストは六秒台、自堕落な純が体力測定で全力を出す事は無いのを考えると彼女の全力は恐らく一秒を切るだろう。
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:39:28.82 ID:DuwF8WnAO
純「あ……」

 考え込む梓を見てようやく純も気付いたようだ。
目に見える異常な身体能力の向上。梓の完全な闘気の発現が近付いている事に。

梓「これって……」

 感覚を確かめるように拳を握り、解いた。
微弱ではあるものの小さな風の渦が流れる。
先程までの疲れは嘘だったかのように梓の頬が綻んでいった。

梓「やった! やったよ純! これで私も先輩達みたいに強くなれるんだよね!?」

 普段の妙に斜に構えたような冷静さは無い。
新しい玩具を与えられた赤児のように、梓は身体を跳ねさせた。
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:39:57.96 ID:DuwF8WnAO
純「…………」

 逆に純は呆れたような笑みを浮かべて溜め息を吐いた。
 文恵を見た瞬間血がたぎるような高揚感を味わえたかと思えば、その文恵の態度に気味悪さを感じて恐怖を味わった。
 そして今、蟻のように矮小な力しか持たなかった友が自分と同じ場所に立とうとしている事に小さな喜びを感じている。

純「……何か今日は疲れちゃった。もう私帰るね」

梓「あ、うん……」

 踵を返して来た道を引き返す純の後ろ姿を、梓はふと冷静になって見据えた。

純「先走っちゃってごめんね。次からはあんな事しないから」
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:40:27.99 ID:DuwF8WnAO
梓「純……?」

 梓に背を向けたまま手を振り、調子外れな鼻歌混じりで純は去って行った。
つるみだして以来ここまで聞き分けが良い純を見た事があるだろうか。
それを考えると梓の心に妙な靄がかかってゆく。

梓「まぁいっか。お腹痛いのが治ってないだけだよね」

 考えても解らない事は考えても詮無き事。
梓も純に倣い、帰路に着こうとした。その時だった。

梓「…………」

 ぞわりと、梓の首筋を何かが這い巡った。
何かが居る。そう確信した梓はホルスターから銃を抜き、震える手を制する。
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:40:56.26 ID:DuwF8WnAO
 近くに街灯は無い離れの道。
それなのに背後から火を灯されているような奇妙な明るさがあった。
振り向かずともその存在を認識出来る明りはかつかつと音を立てて歩み寄って来る。
 一瞬とも、永劫とも思える時間が過ぎ去った。
数歩分の距離を置いて光の足跡は鳴り止む。

梓「……っ」

 振り向いて引き金を引かなければ。
その想いが実現される事は無かった。

梓「え?」

 銃口を忍び寄る者の眉間に突き付けたつもりだった。
だが梓の目の前に広がるのは光一つ無い空虚。

「こっちだよ」

 直後に声の主は梓を背後から抱き締めた。
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:41:26.74 ID:DuwF8WnAO
梓「に"ゃっ!?」

 猫のような悲鳴を上げてしまい、梓は思わず赤面する。
 細い指、華奢な腕、物腰穏やかな声。
梓を抱き締めた人物は先程まで一緒に居た文恵だった。

文恵「ふふっ、猫みたいだね」

梓「ちょっ、離して下さい!」

 小さな体躯を振るわせて文恵の手を振りほどく。
文恵の方は対した抵抗もせず、誘うような上目遣いで梓を見るだけだった。

文恵「そんなに露骨に避けられたらちょっと傷付いちゃうよ。もしかして私の事嫌い?」

 文恵は指で下唇を抑え、小動物のような円らな瞳を滲ませた。
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:41:57.60 ID:DuwF8WnAO
梓「嫌いじゃないです。でも……っ」

 目の前で可愛らしい仕種を見せる文恵は辻斬りだ。
 理由無く、躊躇無く、遠慮無く弱き者に刃を振るう危険人物に好意を抱けというのも無理な話だろう。

梓「辻斬りなんか……」

 見る限り一切の敵意を向けていない文恵に言っていいのか、梓はそう考えて一瞬だけ口ごもった。
しかし吐き出しかけた言葉は逆戻りする事はなく、無情にも言霊となって羽ばたく。

梓「辻斬りなんか信用出来ません!」

 嫌いじゃない。だが信用出来ない。
二極化された感情に板挟みにされ、梓は心の底から同様した。
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:42:28.70 ID:DuwF8WnAO
文恵「…………」

 文恵は一瞬だけ面食らったような顔をしたが、直ぐに温厚な笑顔を浮かべる。

梓「貴女がここ最近でどれだけの事をしてきたかは知ってます。弱い者苛めが過ぎる人にトップランカーでもない私が言い寄るわけないじゃないですか!」

 銃口を文恵に向け、引き金を絞る。
だが引けなかった。
うっすらと微笑む文恵の頬に、一筋の涙が伝っていたから。

梓「え……?」

 その涙の理由が梓には分からなかった。
こうして会い見えるまで、血も涙も無いような人間だと思っていた。
 何故泣く? 何故悲しい?
 考えたところで分かりはしない。
理屈で語れる涙など存在しないのだから。
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:43:06.62 ID:DuwF8WnAO
文恵「そう……だよね。今までいっぱい悪い事しちゃったもんね」

 大粒の涙が堰を切ったように溢れ出す。
涙の数と比例して増大してゆく胸を締め付けられるような感覚が梓を苛ませる。

文恵「言い訳になるけどさ……。だって仕方ないじゃん! どんなに我慢しても、身体が勝手に動いちゃうんだよ?」

 文恵は神に懺悔する罪人のように、胸の上で両手を結ぶ。

文恵「傷付けたくなんかないのに、いつも気付いたら誰かが倒れてる……。私だってこんなのもうやだよ……」

梓「…………」

 文恵は忌み嫌うように腰に差した長刀を放り投げた。
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:43:37.36 ID:DuwF8WnAO
梓「……今までしてきた事が自分の意志じゃなかったって事ですか?」

 訝しげに文恵を睨み付けたまま梓は問うた。
握りしめた銃は未だに文恵に向けたままだ。

文恵「都合が良過ぎるよね……。でも嘘じゃないの、信じてくれる?」

 文恵の本質である辻斬りがアンコントローラブルなものだとしたら。
 何かの拍子に目覚めた辻斬りの人格が自分の周りの人を傷付け、自分自身はそれをどうする事も出来ない。
文恵の話が本当ならば、それはとても悲しい事なのだろう。だが……。

梓「それでも信用出来ません」

 心に掛かる靄を振り払うように、梓はきっぱりと言った。
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:44:13.45 ID:DuwF8WnAO
梓「それが本当だとして。今日会ったばかりなのに何で私に話すんですか? 普段の貴女が真っ当な人格だとしたらそういう話も私の耳に入る筈です」

 まくし立てるように、梓は更に言葉の追い討ちをかける。

梓「でもそんな話は無かった。トップランカーの貴女の噂は常に残虐なものばかり。全身の骨を折られてごみ捨て場に捨てられた人、見せしめのように一昼夜屋上から吊るされた人、まだ聞きます? 全部貴女がやった事ですよ?」

 糾弾は止まらない。
思慮深さが目立つ梓に疑わしきは罰せずなどといった生温い心は存在しない。
自分が悪と認識した悪は何処までも悪、絶対悪なのだ。
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:44:47.39 ID:DuwF8WnAO
梓「一応聞いておきます。何が目的なんですか? 私を籠絡しようたってそうはいきませんよ」

文恵「…………」

 明らかな敵意を向けられ、文恵は梓から目を逸らした。
そして躊躇するように怖々と口を開く。

文恵「……こんな私でも、好きな人と笑ってみたかったんだ」

 弱々しく吐き出された言葉に梓は眉を顰めた。

文恵「手を繋いで街を歩きたかった。二人きりになってキスしてみたかった。こんな私でも、全部解った上で愛してほしかった」

 ぽつりぽつりと吐露されてゆく想いは何という事もない、年頃の女子なら誰でも抱く恋心だった。
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:45:22.56 ID:DuwF8WnAO
 だからこそ梓には解せなかった。
それならば尚更、何故自分にそんな事を言うのか。

梓「恋愛なら余所でやって──」

文恵「だから貴女に否定されるくらいなら、いっそその引き金を引いて下さい」

 文恵は澄んだ瞳で梓を見据えた。
二人の間の時が止まったかのように、一瞬だけ静寂が空間を支配した。

梓「それって……」

 梓の頬に汗が流れる。
文恵は強がったような笑みを浮かべた。

文恵「中野 梓ちゃん、ずっと前から見てました。貴女の事が大好きです」

 文恵に向けた銃口が、ここに来て初めて揺らいだ。
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/10(日) 01:46:14.05 ID:DuwF8WnAO
タレ梓「メロスッ!!!!」

文恵「面白い方だ」クスッ

そんなノリ
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(秋田県) [sage]:2011/04/10(日) 05:00:56.32 ID:EhikFrb/o
武器持ちはOSR値が高いなww
内容は鰤化してってるけど。
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/10(日) 10:56:00.16 ID:Rixibpkao
乙です。

恋に復讐にと忙しい10代だなwwwww

血で血を洗う学園の青春活劇
そんなノリも素敵
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/10(日) 23:59:33.98 ID:4x9Zs6USO
百合ごち
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 19:56:55.85 ID:mPJmYbgAO
 文恵の告白の翌日。
カーテンを閉め切った仄暗い空き教室で二人は佇んでいた。

風子「で、返事は何だって?」

文恵「さぁね。面食らったような顔して逃げちゃったよ」

 黒板に落書きしては消してを繰り返す風子と、六十八点と何とも評価し辛い点数が書かれたテスト用紙を折っている文恵。
会話こそ成立しているものの互いに目を合わそうとはせず、深いコミュニケーションは求めていない事が分かる。

文恵「……そっちの具合はどう?」

風子「死ぬほど手抜きされてたみたいね。外傷らしい外傷は打ち身だけ。二、三日で良くなるよ」
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 19:57:21.30 ID:mPJmYbgAO
文恵「そっか」

風子「うん」

 それきり二人は黙り込んだ。
チョークがかつかつと黒板と触れ合う音、紙擦れの音がやけに大きく聞こえる。

文恵「でーきた」

 テスト用紙を折って作った紙飛行機を見て、文恵は無邪気に微笑んだ。
それは直ぐに文恵の手元から離れ、緩やかに宙を滑ってゆく。
翼の部分に点いた小さな火種が燃え広がり、夢を書いていないテスト用紙は塵となって消えた。

風子「証拠湮滅?」

文恵「そんなに悪い点取ってませんよーだ。風子は何点だったの?」

風子「九十点」

 文恵は居心地の悪そうな顔をして黙り込んだ。
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 19:57:48.74 ID:mPJmYbgAO
 風子は落書きに飽きたのだろうか、粉がついた手をはたくと教卓に座り込んだ。
文恵も文恵でやる事が無いようで、手持ち無沙汰に髪の毛を弄っている。

文恵「……暇だね。もっとこうスカッとするような方法は無いの?」

風子「スカッとやられたいなら好きなだけ暴れれば? 貴女も見たでしょ、秋山さんの力を」

 苦虫を噛み潰したような顔をして、文恵はそのまま机に突っ伏した。

文恵「にしても今のやり方だって付け焼き刃で考えた方法でしょ? そもそもあの二人が私達を狙ってるなんて情報もうさん臭いし」

 刀を親指だけで器用に抜き差しする。
かちゃかちゃと小気味の良い音が鳴り響く。
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 19:58:16.88 ID:mPJmYbgAO
風子「それに関しては間違いないよ。情報ソースは他でもない生徒会役員なんだから」

文恵「ガセネタ掴まされて骨折り損でしたー、って事は考えられない?」

 つまらない現状に納得がいかない文恵の意見は自然と否定的になる。

風子「そんな事するメリットなんか無いでしょ。下手に警戒心を煽るよりもこないだみたいに予告無しで来られた方が、こっちとしては厄介なんだから」

 文恵を諭す事にもうんざりしてきたのだろう。
風子の口調が次第に投げやりになっていった。

文恵「あの会長さんがこんな大事な事を、それこそ私達に密告するような末端の人間に喋るかな」
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 19:58:52.63 ID:mPJmYbgAO
風子「さっきからやけに否定的ね。喧嘩売ってるの?」

文恵「買ってくれるの? らっきー、売ってみるもんだね」

 文恵は勢い良く起き上がり、長刀の柄を握った。
爛々と輝かせた瞳に映る風子は人ではなく、餌だった。

風子「残念、高い喧嘩を買うほど馬鹿じゃないの」

 馬鹿、という単語を強調し、風子は片手を翳して文恵を制した。
露骨に苛立った表情を浮かべ、背もたれに身を預ける。

風子「……さっき言った密告者の件だけど、その子は決して末端なんかじゃないわ。あの生徒会長が両手を上げて信頼を預ける人間よ」
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 19:59:18.37 ID:mPJmYbgAO
 風子の言葉には話半分でしか耳を傾けていなかった文恵だが、その言葉を聞いて彼女は妖しくと笑った。

文恵「へぇ、煮ても焼いても食えそうにない人だけどね。そんな人が居るんだ」

 生徒会の中の主要人物。
そして尚且つ和の信頼を勝ち取るに足る力を持つ人間。
 文恵は決して察しが良いタイプの人間ではないが、その文恵でも内通者のヴィジョンは容易に想像出来た。

風子「いちごちゃんには及ばないけど、私のやり方もなかなかでしょ?」

文恵「ゴキゲンだね。それなら恋愛ごっこもまだ我慢出来そうだよ」

 控え目に膨らむ自分の胸に手をかけ、文恵は悶えるように身震いした。
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 19:59:52.29 ID:mPJmYbgAO
 軽音部と他の面々が南極に赴き、各々が違った成長を遂げた。
 漠然とした出口の無い霧の中で力への糸口を見つけた者。
 過去の自分と決別し、人としての情を捨てて鬼となった者。
 心を預けるに足る友と、再び相見える事が出来た者。
 闇に沈んでゆく想い人を正しい道に引き摺りあげる決意を固めた者。
 それぞれの葛藤、進歩、経験を全てあげようものならばそれこそ枚挙に暇が無い。
 その中で一人、抜きんでて成長した者が居る。
彼女は六道輪廻を司る神の叡智に限り無く近い力を、かつての師の死を乗り越えて掴み取った。
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 20:00:19.60 ID:mPJmYbgAO
和「で、私にその力を見定めて欲しいと」

紬「忙しいのにごめんね? 最近皆バラバラだから他に頼める人がいないの」

 桜高校舎の屋上にて二人は対峙していた。
二人を取り囲むように一般生徒が凡そ一クラス分が固唾を飲んで立ち尽くしている。

和「まぁ最近の事務仕事は下の子達に任せてるから良いんだけど……。ちょっとギャラリーが多過ぎるんじゃない?」

 呆れたように嘆息しつつ、和は辺りを一瞥した。
だがギャラリーは誰一人としてこの場を離れようとはしない。
『鬼殺し』琴吹 紬が『女帝』真鍋 和と衝突する。
誰もがその瞬間を見届けたいと望んでいるのだ。
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 20:00:48.20 ID:mPJmYbgAO
和「にしてもこれで負けちゃったら笑えないわね。ムギは一気に序列暫定トップじゃない」

 暫定トップ、という単語を聞いて誰もが憂の姿を思い浮かべた。
一部の生徒の軽音部殲滅作戦以来忽然と姿を消した彼女の名前は自然と桜高のタブーとなって風化していった。
もっとも、和達の間で今まで彼女について触れていないのは恐怖からではない。
 幼い頃から憂と寄り添い続けた唯の事を憂いての事だった。

和「……こんな時だからこそ湿っぽいのはナシよね」

 一人ごちて和は腰に差した刀を抜く。
刀身に桜の花びらが彫られた桜高生徒会に代々伝わる銘刀『桜花』。
歴戦の血と誇りを帯びた輝きが紬に向けられる。
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 20:01:29.09 ID:mPJmYbgAO
和「見定めてあげる。今まで何をして、何を得てきたのかを」

 対峙する二人。
周囲を取り巻く空気が震える。
和を桜高の王たらしめる膨大な闘気が溢れ出した。

紬「……行きますっ!」

 聖母のように朗らかな微笑みを浮かべていた紬の表情が一変し、意志を刃に変えた鋭い顔付きになる。
 その場で重心を低くし、右手を大きく薙ぐと疾風の刃が飛び交った。

和「風……じゃないわね」

 和は大気の振動、違和感だけを感じ取って不可視の刃をいなしてゆく。
一瞬で全ての刃を見抜く事は難しいが、躱さなければならない急所などは上手く避けていた。
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 20:03:16.47 ID:mPJmYbgAO
紬「まだまだ!」

 右手、左手と紬は立て続けに宙を掻いた。
六道の一つである修羅道。
その無限の剣閃は標的を切り刻むまで現れ続ける。
 対する和もいつまでも防戦一方ではない。
念じ、現れるのは桜花を媒体とした巨大な闘気の霊刀。
一振りで修羅の刃を巻き込み、蹂躙してゆく。

和「あら、こんなものだったの?」

 光の刃が鞭のようにしなる。
その規模の大きさから巻き込まれる事を恐れた一般生徒達は散り散りとなって離れていった。
伸縮自在の刃が鉄の手摺を砕き、コンクリートの床を削りながら紬に襲いかかる。
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 20:04:00.01 ID:mPJmYbgAO
 しかし自分が持っている知識だけではあの力に説明がつかない事に和は歯噛みした。

和「どこから来てるのよあの力は……」

 本来闘気を扱う者がその力を攻撃に用いる時、闘気の性質を表す色が見られる。
だが先の紬の技からはどの色も見受けられなかった。
それだけではない。生物ならば皆大小は異なれど備わっている筈の闘気、その存在すらも紬からは発せられていない。

和「…………」

 まるで死人のようだ。
和は心の中でそう揶揄した。
生気を持たず、人知を越えた力で敵を食らう力。

和「あの世にでも行ってきたのかしら……」
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 20:04:33.02 ID:mPJmYbgAO
 皮肉混じりにそう呟くと同時に和の首筋を何か冷たいものが這った。

和「っ!?」

 即座に刀を構えて空を仰ぐ。
和の視線の先には冷笑を浮かべて落ちてくる紬の姿があった。

紬「畜生道──」

 鍵語と共に紬の身体が落下速度を増す。
和は瞬時に察した。あれと正面にぶつかってはならないと。
身構えて腰を落としていた身体を無理矢理捩らせ、半ば転がり回るようにその場を離れる。
それに遅れて耳を劈く轟音と共に大量の土砂が舞った。
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 20:05:52.65 ID:mPJmYbgAO
和「闘気でもなければ生身の力でもない。凄い力ね……」

紬「大切な人から貰った力だもの。弱いなんて思われてたら申し訳が立たないわ」

 紬は地面に深くめり込んだ腕を引き抜き、砂埃を払う。
彼女を中心に出来たクレーターは凡そ百メートルにまで及んでいた。

和「……大したものよ。でもそんな馬鹿正直な攻撃じゃ私は捉えられないわよ?」

 全身のバネを用いて地面を蹴る。
刹那、紬と和の間にあった隔りは一瞬で縮められた。

紬「っ!」

 紬は僅かに見えた袈裟斬りの軌道から身を逸らし、一歩後退する。
だが瞬きした瞬間和の姿は目の前から消えていた。
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 20:06:22.94 ID:mPJmYbgAO
和「こっちよ」

 振り向いて体勢を整える余裕など無い。
風を斬り、襲い来るは無情なる背中刺す刃。
それでも紬は動じなかった。

紬「人間道──」

 指も触れず、敵意さえも向けず、ただ周りに在るものを地に平伏させる力。
六道が一つ、人間道の不可視の圧力が和を襲う。

和「──っ!?」

 息が詰まり、言葉を紡ぐ事が出来ない。
和が地に膝をつけた瞬間ギャラリーのざわめきが大きくなった。
 片足を軸に紬の身体が回転する。
その勢いを殺さぬまま、岩をも容易く砕く回し蹴りが和の眼前に迫った。
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 20:06:51.07 ID:mPJmYbgAO
 躱そうにも和の身体は鉛がのしかかったかのように重く、びくともしない。
ギャラリーの息を飲む音と紬の足が和の頬を捉えた音が同時に鳴った。
人間道によって縛られた和は衝撃に身を委ねる事すら許されず、その意識を切り離されかける。
だが……。

和「温いわよ!」

 鉛のような腕を動かすのは女帝としての意地。
桜花は妖しく輝き、紬の両足を刈り取らんとする。

紬「くっ……」

 紬は表情を歪め、大きく後退した。
その瞬間和を縛る圧力は消え失せ、女帝の力が解放される。
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 20:08:26.00 ID:mPJmYbgAO
紬「凄いわ。ノーガードであれを受けてまだ動けるなんて……」

和「羽根生やしたばかりのひよこには負けられないわよ。そこは経験の差よね」

 和は立ち上がり、軽くおどけてから口の中に溜まった血を吐いた。

和「畜生道、人間道。……大方六道の名を冠した技術かしら? まぁ多く見積もってもその手品は七つ八つ辺りで打ち止めね」

 ひび割れ、歪んでしまった赤縁の眼鏡を投げ捨てる。
その直後、彼女の頬が不気味に綻んだ。

紬「…………」

和「先ずは二つ、貴女の力は見切ったわ。次はどんな手品を見せてくれるのかしら?」

 闘いは始まったばかりだ。
その場に居た全員が一同に心の中で呟いた。
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [saga]:2011/04/13(水) 20:10:11.78 ID:mPJmYbgAO
和「羽根生えたばかりのひよこがいきがってんじゃねーよ」

唯「えあとれっく!」

そんなノリ
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/04/13(水) 20:18:57.70 ID:mPJmYbgAO
次の投下はこのスレじゃあ無理っぽいな
続きは次スレで
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/04/13(水) 20:24:58.65 ID:r9I8qNHAO
本ネタの天上天下読んでみたら1巻で鬱になったんでやめました
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/13(水) 21:38:15.96 ID:OAjxf3oDO
乙。
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/13(水) 21:50:57.21 ID:JfH3hZvSO
うめ
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/13(水) 22:11:50.41 ID:ozjX+K5zo
乙です!


>夢を書いていないテスト用紙は塵となって消えた。


まさかの19wwww
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/14(木) 01:31:38.45 ID:DON1DPRso
和「羽根生えたばかりのひよこがいきがってんじゃねーよ」

唯「天使ちゃんマジ天使!」

そんなノリ
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/14(木) 07:25:05.20 ID:5NWVzAWz0
二人の手合わせで校舎がヤバイ
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/04/14(木) 10:09:05.25 ID:xXhEFgN+0
埋めていい?
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/14(木) 10:54:43.48 ID:voel/zpRo
埋めましょうか、お疲れ様でした。
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/04/14(木) 12:57:15.97 ID:CzU1f4JFo
次スレも期待
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/14(木) 20:35:09.73 ID:EBKIYbUDO
うめうめ
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/04/15(金) 00:44:18.74 ID:ufsL59nAO
埋めがてらにさらっと強さ序列

憂(黒龍憑依状態)>>唯(何処かの誰かさん憑依状態)>澪>>作者贔屓の壁>>いちご>憂>>>和=紬>>姫子=しずか=文恵≧純≧風子=唯>>梓=三花>>律>>>>>エリ=アカネ>>キミ子=よしみ

主要キャラだけでざっとこんな感じかな
どうせ直ぐに入れ替わるだろうからアテにもならないし展開予想にも使えないだろうけど
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/04/15(金) 00:49:28.67 ID:ufsL59nAO
と、誰か前スレとここのpc用のurlを貼って代理スレ立てしてくれないかな
スレタイはそのままで
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/15(金) 01:22:22.57 ID:/BRmE3hNo
>>996
立てました!
次スレも頑張って下せぇ
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/04/15(金) 01:24:01.12 ID:ufsL59nAO
ありがと、助かった
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/15(金) 01:31:29.29 ID:/BRmE3hNo
いえいえ、そんな訳で埋め
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/15(金) 01:33:38.44 ID:/BRmE3hNo
つづく
1001 :1001 :Over 1000 Thread
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     /        __/__  └---   l,イ´  /`ヽ.   /  -─‐
    /         /   , ヽ        l.  /   丿 /   ヽ、
  /        r‐-、 /   /  l    '  /   '´ /      `
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ヽ.                    /               .  ,. --、   /
  \                /                  /   ト. /
   ヽ、_             /                  /`ヽ、_/ l /、
       ̄ ̄``ヽ、      /                /'     // i
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             ``ヽ./          ___./     //    l      SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
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1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
唯「ボディがお留守だよ!」 @ 2011/04/15(金) 01:20:08.50 ID:/BRmE3hNo
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上条「とある聖衣(クロス)と禁書目録?」 @ 2011/04/15(金) 01:10:04.72 ID:Yjs4SNqk0
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唯「デカ尻澪ちゃん!」 @ 2011/04/14(木) 23:20:50.23 ID:Z4WtxoHAO
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死にたい @ 2011/04/14(木) 23:17:35.62
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からふるくっきー 2nd style @ 2011/04/14(木) 23:01:13.89 ID:uELfWEKuo
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ミルキィティーは如何です? @ 2011/04/14(木) 22:58:10.12 ID:LSNg+XZho
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けいおんSS 雑談スレ Part.48 @ 2011/04/14(木) 22:29:24.51 ID:EpfbiqWgo
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唯「おっぱい企画!」 @ 2011/04/14(木) 21:35:43.08 ID:vBWQ+/FZo
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