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番外個体「――ただいま、帰ったよ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/22(月) 22:47:37.02 ID:JdEVyyA0
「――ただいま、帰ったよ」

そう言って帰ってきた彼女の足取りは軽く、しかし声はどこか弱々しい。




はじめましてこんにちは。番外通行のSSになります。
ほんっの少しだけ性描写もあるんで苦手な方はお気を付け下さい。
あとSS初めてだからレスの区切り、キャラとか変かもしれない、何かあったら一報よろしく。
更新は毎日は無理だけどなるべく早めにする予定。

では、どうぞお付き合い下さい。
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 22:51:00.16 ID:.XVZZwDO
よろしい、期待だ
3 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/22(月) 22:53:06.29 ID:JdEVyyA0
11月26日、午後11時を少し回った頃。
がちゃり、とリビングのドアが開いて、番外個体が帰ってきた。

「……おォ、帰ったか」

その気配に応じるようにして、ソファの上に横になっていた一方通行が起き上がり、ガシガシと頭をかく。
テレビがつきっぱなしになっている所を見ると、どうやら観ながら寝てしまっていたらしい。

第三次世界大戦。先月末に終結を向かえたばかりのそれからまだ一ヶ月も経っていないというのに、世界は日常を取り戻し、何事もなかったかのように動いていた。
そして彼ら――一方通行と番外個体も例外ではなく、戦争中にあれだけ学園都市への反逆行為を行ったのにも関わらず、やはり何事もなかったかの様に暮らしている。
変わったこと、といえば、こうして二人が共に暮らしていることだろう。

あの日。『凱旋』と称して輸送ヘリを乗っ取り、番外個体と打ち止めを救い出した一方通行はこうして忌々しい学園都市へと戻ってきた。
最初の頃は学園都市そのものから抹殺されないかと警戒していたが、それはアレイスターの『プラン』にとっては不利益なのか、いつになっても行われる気配はない。
もしかすると油断させてから仕留める、という作戦であることも否定できないし、今でもそういう事情には敏感な一方通行だが、番外個体は特に気にしていない様だ。

戻ってきた彼らだが、打ち止めは別として、残る二人はどこに身を寄せるか。
黄泉川達なら快く引き受けてくれるのだろうが、甘えるわけにもいかないし、最近は活動していないものの一方通行だってまだ立派な暗部の人間だ。
そんなこんなでどうしよう、どうしようと思案しているうちに、2DKのマンションで一緒に暮らすことになっていた。
4 :間隔とか読みにくかったら教えて ◆3vMMlAilaQ :2010/11/22(月) 22:58:01.44 ID:JdEVyyA0
「今日はどォだった?」

一方通行がコートを脱ぐ番外個体にぶっきらぼうに問いかけた。
番外個体はコートを掛け、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
そしてボトルに口を付けながら、彼女の特等席となっているテレビの前に腰を下ろした。

「まーたテレビ観ながら寝てたの? さっすが無防備な第一位様だ、反射が適用するわけでもないのにねぇ。うひゃひゃ」

日課のようになった一方通行の問いかけには答えずに憎まれ口を叩く彼女をみて、
今日は駄目だったのか、と一方通行は勝手に予想をつけた。
彼女は良いことがあれば帰ってきて直ぐいうクセに、気分が沈んでいるときはこうして何も言わないのだ。

「あーあ、つっまんない番組だなぁ。ミサカこういうの嫌い。なんかイライラするんだよね」

「深夜にやってるバラエティなンてまだ少しはマシな方じゃねェの。
 ゴールデンにやってるのなンざ、ウザすぎて観てらンねェし。ベギラゴン? だったか、馬鹿なクイズ番組」

「おやまぁ、こいつ、すっかりこのダラダラな生活を楽しんでるみたいだけど。
 少しはミサカを見習ったら? ま、その貧弱な身体じゃあ無理かも知れないけどさ」

「うるせェよ。いちいち俺の癇に障るンじゃねェっつの」
5 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/22(月) 23:06:01.61 ID:JdEVyyA0
彼女に対してそう返した一方通行だったが、実は内心、最近少しそう思うようになっていた。
というのは、最近番外個体がバイトをし始めたからだ。
この時間帯に帰ってくるのもその為で、夕方から働いている。


「こっちは暗部の仕事だってあるし、大体この俺が『いらっしゃいませェ』とか言ってたら客来なくなるのが目に見えンだろォが」

「うひゃひゃ、よーくわかってんじゃん。ていうかさ、それはどうにでもなるとして」

「なンねェよ」

「暗部って、最近『グループ』での活動もしてないみたいだし、実質あなたは抜けたようなもんでしょ?」


そう、確かにロシアから帰ってきたから、一方通行は一度もグループの仕事に出ていないし、誰とも連絡を取っていない。
帰ってきた最初の頃はグループのメンバーから携帯へ連絡が来ていたものの、それも無視していたら次第にこなくなった。


「もォ戻らなくて良いンじゃねェの? ま、反逆者の俺がいたらあっちもやりにくいだろォし、雑用なンぞ元から気にくわねェっつーか」

「ふーん。ミサカはどうでも良いけどさ。でも女の子に働かせといて自分だけのんびりしちゃって、なっさけないねぇ」


一方通行はそれを無視する。
彼女の憎まれ口いつものことだし、番外個体が本気で働けと言っている訳でないことも分かるからだ。
会話が途切れ、番外個体が買ってきたクッキーを貪る音だけが小さく聞こえてくる。


(貯金は借金返済に取られなかった分がまだ一千万だけだが残ってるし、暫くはそれでやってけるだろ)


自堕落な生活を送っていると、駄目な人間になりがちである。

『駄目な人間』に最近なってしまったかどうかは別にして。
6 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/22(月) 23:17:34.87 ID:JdEVyyA0
つまらないことを言って馬鹿笑いする芸人をくだらなそうに観ながら、番外個体がぽつりと呟く。


「今日は、だめだった」


小さなそれは、テレビから流れる雑音にかき消されてしまいそうで。
しかし、一方通行はそれを聞き逃さない。


「何だァいきなり? ……って、あァ、あのことか」


そう返して番外個体の方をみると、彼女は目を伏せて、手に持ったペットボトルのラベルを弄っていた。
爪とラベルが耳障りな音を鳴らす。


「あーあ。ま、明日もバイトだしね。そうだ、ミサカ明日は早めに帰ってくるからラビオリ食べたい。第一位でニートなんだし余裕でしょ?」

「ハァ? ンなモン作れねーっつの。しかも明日のメニューはもォ決まってますゥ」

「ちぇ、ケチだなぁ。ミサカの事、もっと労ってよね。他の妹達に言われれば、」

「するかっつの」

「つっまんないにゃーん。ミサカ、お風呂入ってくるから[田島「チ○コ破裂するっ!」]でもするんだったらその間にしときなよ。
 あ、それともミサカのバイト中にでもしてるのかな? そっちの方が……って分かったって、だから銃しまってよね。冗談なのに扱い悪いなぁ」
7 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/22(月) 23:24:53.93 ID:JdEVyyA0
バタン。風呂場の戸が閉まったのを確認すると、一方通行は銃を降ろして溜息をつく。
それから、彼女の『悩み』について考えた。


自分の問いかけに答えなかった番外個体。上手くいかなかった日の癖。

そして、目を伏せて呟いたか細い言葉。「今日は、だめだった」

明日もバイトだしね、と、前向きな意味が込められたその言葉は、その意味とは裏腹に小さく声が震えていなかったか。


番外個体は強い。

レベル4の大能力者で、しかもその能力は応用が利く。

精神面だって、ロシアでの一方通行との戦闘の際、あれだけのことをされながら、しかし今はこうして共に生活している位だ。
そこら辺を歩いているような一般人だったら恐怖でトラウマにでもなりかねないことだが、彼女は平気で一方通行に応じて、悪態だってつく。


『クローンだから』

そう言われればそれまでかもしれないが、それでも並以上には強い子なのだ。


そんな番外個体の最近できた弱み。
彼女らしくない、でも正真正銘の女の子らしい悩み。



番外個体は、

恋をしていた。
8 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/22(月) 23:43:29.14 ID:9hNrgpQ0
番外通行だとおおおおおおおおおおお

応援してますヘ(゚∀゚ヘ)
9 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 23:44:34.49 ID:PE2jV7o0
支援
文章上手いね 応援します
10 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 23:49:30.87 ID:7Ut7Y260
番外通行やったあああ!待ってた!続きも楽しみにしてます!
11 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/22(月) 23:55:05.52 ID:JdEVyyA0
風呂から上がった番外個体が、ピンクのパジャマを着て戻ってきた。
意外なピンク好きは、オリジナルの遺伝子が関係しているのかも知れない。
湿った髪ををタオルで適当にわしゃわしゃとしながら、いつもの様な憎まれ口を叩く。


「あー、良いお湯だった。風呂は心の洗濯ってね。ミサカの心がもっと白くなった感じだよ。
 あなたまだでしょ? 入ってきなよ、そんでその心洗ってくればぁ? うけけけ」

「何が心の洗濯だァ、テメェの心はまだ真っ黒じゃねェか」

「えー、ミサカ何のことかさっぱりわっかんにゃーい☆」

「……お前なァ、バイト先でもそンな風にやってるンじゃねェよなァ……?」


一方通行が溜息をついてそう言うと、番外個体は邪悪な笑みを浮かべて言う。


「残念、ミサカはあのファミレスではアイドル的存在なんだよねぇ。
 良い子だ良い子だって言われて毎日毎日良い気分、ってねーうひゃひゃ」

「そォですかァ猫かぶりとはまァ大層なご苦労ですことォ」

「うっわキモ。主夫が主婦みたいな口調で喋らない方が良いんじゃない?」


そォいうつもりじゃねェしつゥか主夫でもねェっつの。

そう返そうとした一方通行だったが、わずかな差で口を開いた番外個体によって遮られる。
12 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 23:59:15.67 ID:HQ0MYFIo
おもしろい、超期待
13 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/23(火) 00:01:37.00 ID:ptaw6rI0
「……ミサカは猫かぶりなんかしてないんだけどねぇ」

「は? ……そりゃ、あれか。好きな人の前じゃ何とかっていう」


一瞬何を言い出すかと思った一方通行だが、番外個体はこの手の話をする際はいつもこうなので気にしない。
恐らく本人も、気恥ずかしさがあるのだろう。
瞬時に一方通行は何を言いたいかを理解して、先手を打ってやる。
一応これは、人付き合いが苦手な彼なりの気遣いでもあった。


「ん、まぁそんな感じ。緊張するんだよね」


番外個体はそう言った後、思い切り不快そうな顔を作って、


「何か居心地わるーい。ミサカこういうの苦手なんだよね。もっと悪意のある方が好きだよ? 
 その方が壊し甲斐だってあるしね」

「そりゃあ人としてどォかと思うけどな」

「でもあなたもそうじゃない? なんていうか、今までミサカは悪意にまみれていたから。
 今もそうって言われればそうかもだけどさ、この手の話って何かね」

「ま、人から優しくされったりってなァ今も昔も居心地悪ィのは確かだが」

「うひゃひゃ。そう考えるとミサカ達って随分可哀想な人種じゃない?
 ……あーあ、それにしても。あなたにこんな話をするなんて、ミサカも堕ちたなぁ。
 さ、今日は疲れたしもう寝るけど……寝込みを襲うのはNGなんだからねってミサカは ミサカは警告してみたり☆」

「だァれが襲うかってンだよ。つーかあのガキの真似すンな気色わりィ」

「けけっ。じゃ、おやすみ」

「ン」
14 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/23(火) 00:06:10.87 ID:ptaw6rI0
番外個体が自室へと帰っていく。
一方通行は暫く何の気も無しにテレビを眺めていたが、番外個体の言うようにつまらなかったので電源を切った。

自分も風呂に入ってそろそろ寝るか。

そう考えたとき、ふと頭に浮かんできたのは一人の男。
真面目そうな雰囲気の長身の男だ。
番外個体からは失礼なことにファミレス呼ばわりされているが、実は穴場だったりする、とあるレストランで働いている。


――そして、番外個体が恋をしている男でもあった。
それに関連して浮かぶのは、番外個体の姿。


目を輝かせながら。
『真面目っつってもさー、堅い訳じゃないんだよねぇ。あなたと違って冗談も分かる人だし』

頬を、わずかに染めながら。
『気遣いができる人で、ミサカに色々教えてくれんだよね』

バイト先で撮った、店員が全員でピースしている写真を見せながら。
『ほらこれこれ、この人。悪意の塊みたいなこのミサカには似合わないかな?』


彼に相談や報告をする彼女は、彼の全く知らない彼女でもあって。


『ミサカ、最近おかしいのかもしれない。……いつも? あれでも普通のつもりだけど何か気にくわない? ひゃひゃ。
 ま、良いけどさ。本当に最近、ミサカはミサカじゃ無いみたいなんだよね』

そして、

その度に、心臓が締め付けられる様な。

とある無能力者や木原数多に殴られたときとも、垣根帝督に反射を破られたときとも違う、感じたことの無い痛み。

一方通行にとってそれは、とても居心地の悪い――隠してしまいたくなるような、そんな痛み。


「……クソッたれが」
15 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/23(火) 00:24:30.95 ID:ptaw6rI0
今回はとりあえずキリの良いところで
こんな時間にこんなスレを開いてくれた人、支援などしてくれた人ありがとう
凄い嬉しいし励みになる

では、近いうちにまた
16 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 00:25:26.27 ID:DWa74MEo
うおおおおおおおおおおお



寝るか
17 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 00:27:24.97 ID:9vxkEd2o
>>1おつ!
できるだけはやく投下するんだ!間に合わなくなっても知らんぞ!



じゃ 寝るわ
18 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 00:30:33.99 ID:zecKOGo0
くそっ。こんな切ない状態からスタートかッ!

頑張って。
19 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 01:28:26.51 ID:w/1Q5IAO
いいな
なんていうかいいな
20 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 01:58:31.08 ID:wvDerVY0
一通さんが嫉妬だと・・・?
新しいな
文章面白いし期待
21 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 10:40:42.86 ID:xaxIL2DO
>>14読んだとき彼女の浮気発覚したときの軽く息苦しくなる感覚に陥ったぜww
軽くトラウマすぎる
22 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 12:12:15.34 ID:oD9IwhIo
>>21
俺もwwww
23 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 18:23:08.96 ID:xMC54bAo
>>21>>22
バカだなァお前ら。相手はちゃンと選べよ。
おれの彼女は絶対浮気なンてしねェぞ。
なかなか画面から出てきてくれねェよォな恥ずかしがりやさンだけどなァ。
さァて今日もチュッチュするぞォ!
24 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/23(火) 22:14:53.46 ID:Xd8AHF.0
「一方通行」


番外個体がバイトへ行き、一方通行がコンビニにコーヒーを買いに行こうとマンションを出たときだった。


「……チッ、土御門か」

「久しぶりだにゃー」


ふざけた口調でそう挨拶したのは土御門 元春。彼もグループの一員だ。
サングラスの奥に瞳が隠されてしまっているため何を考えているかが掴みきれない男で、
仕事中はシリアスになることも珍しくないのだが――。


「まったく、ロシアから帰ってきたと思ったらクールなお姉さんと同棲しやがって。
 お前も案外隅に置けないぜよ。それより幼女趣味はもう時代が終わったのかにゃー?」

「テメェに用はねェンだ、消えろ」

「質問に答えて欲しいんだけどにゃー」


一方通行は鬱陶しそうに土御門を一瞥すると、彼を無視して自分のペースで歩き出す。
そんな態度に腹を立てる様子もなく、土御門はヘラヘラしながら一方通行の横に並んだ。


「番外個体、だったかにゃー? どうだ、楽しいか?」

「別に。テメェにゃ関係ねェだろォが」

「あーあ、折角お前とは年下趣味って所だけ話が合うと思ってたのににゃー」

「気持ちわりィンだよ。つーかにゃーにゃーうぜェ。良いから早く用件を言え」

「そう急かすなって。こっちはまだまだ聞きたいことが山ほどあるんだにゃー。ま、いいや。率直に聞くにゃー。
 ……一方通行、『グループ』に戻る気はあるか?」
25 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/23(火) 22:17:23.77 ID:Xd8AHF.0
雰囲気がガラリと変わった土御門の言葉に、やはりそう来るか、と一方通行は溜息をつく。
土御門と数分前に出会ったときから、いや、『グループ』の連中から頻繁に連絡があった頃から薄々勘付いてはいたが。


「……『グループ』への復帰。それをして俺に利益はあンのか? しなかった場合はどォなる?
 テメェ等のオトモダチ意識に付き合えってンなら、答えなくても分かるよなァ?」


学園都市の、深く深く深い、ドロドロとした、汚い闇の世界。
そこに再び戻れと言うのか。一度はまってしまった底なしの沼から抜け出すことは、最早不可能なのか。
……折角。折角、今の生活でこのクソッたれの自分もほんの少しながら変われてきていると思っていたのに。

唇を噛む一方通行に土御門が言う。


「何か勘違いしてないか?
 お前の代わりに補充するようなクソ野郎はたくさん居る。
 お前が戻ってこないならとっとと補充しときたいから一応確認しただけだ」


土御門は笑って、いつもの様にヘラヘラと笑って、


「確かにお前を失うのは戦力に欠けるがやっていけない訳じゃない。
 ……だからお前はクールでビューティーなお姉さんとイチャイチャしやがれってんですたい。
 ちくしょー、羨ましいにゃー」
26 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/23(火) 22:22:13.09 ID:Xd8AHF.0
一方通行には、土御門が何を言っているのかいまいち分からない。
訝しげな眼差しで土御門をみると、サングラスの奥に微かに見える瞳が心なしか少し細く――。
そう、微笑むような。


「……テメェ、何言ってやがる?」

「そのまんまだにゃー。学園都市にとっちゃお前はプラスにもマイナスにもなる。
 今回はそのマイナスの面を考慮しての決断だろうよ。
 無理に引き戻してまた暴れられると学園都市にとっても不利益になるからにゃー」


ただし、と土御門は付け加えて、


「これは『グループ』を抜ける、とは少し意味合いが違ってくるし、勿論学園都市の闇から抜け出せたわけでもない。
 つまりまぁ、手に負えない第一位様に見えない首輪をつけて放し飼いしてやるってことですたい」

「テメェは戻ってこなくて良いから大人しくしといてくださいってかァ?
 ハッ、どォせその首輪ってなァ妹達や黄泉川、芳川のことだろォが」

「ま、そんなところだとは思うにゃー。だがそれが学園都市のやり方ってのはお前が一番理解してるだろうが。
 殺さず、無理に暗部に引き戻さず。時々利用されてやれば今の生活を保障して貰えるってんだ、贅沢なくらいだにゃー」


土御門は気楽そうに言うが、一方通行からしてみれば不愉快でならない。
つまりそれは、結局は学園都市に生かされているのと同じなのだ。
27 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/23(火) 22:30:29.94 ID:Xd8AHF.0
「『グループ』での仕事は正直面倒臭ェし、まァそれに関しては学園都市の皆様に感謝、感謝ってかァ?」

「余計なお世話かにゃー?」

「べっつにィ? 
 しかし相変わらず気にくわねェなァこの街は。どンだけ上から目線で俺を『生かしといてあげましょう』なンてほざいてンだっつーの」

「けっ、一人だけ楽できる癖に文句ばっかり言いやがって。
 俺はこれからも『グループ』で学園都市を出し抜くために動く。お前だってまだ出し抜けたわけじゃない。
 だから必要な時はお互いに協力し合っていこうぜ第一位」

「『利用し合って』の間違いじゃねェの」

「そこに気づくとはさすがだにゃー」


土御門はそれだけ言うと、「可愛いメイドさん発見だにゃー」等と言って何処かへ走り去ってしまった。
一方通行も歩を進める。
このまま終わらせるつもりはない。
いつか、学園都市を出し抜くために、自分を放し飼いしていたことを後悔させるために。


「さァって、手始めに何すりゃ良いンだか。
 俺が『アイツ』の言うよォな料理上手の主夫になりゃ、『プラン』とやらに歪みが生じたりしないのかねェ?」


雑踏にまみれる学園都市。
高くそびえるビルとビルの間に覗く空は、いつの間にか、真っ赤に染まっていた。
それは純粋な夕陽の赤なのか。それとも汚い血の紅なのか。
どちらが学園都市にふさわしいのか、一方通行には分からない。
28 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/23(火) 22:33:58.24 ID:Xd8AHF.0
短いけどとりあえずこの位で
一応これは一方通行と暗部の関係の補足的な感じで書いたから
番外通行を期待していた人、すみません。次回こそ

それにしても書きためてる時は分かんないけど投稿すると意外と短くて焦った
それから沢山のレスありがとう、思わずにやてしまったwwww
29 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 22:35:50.30 ID:KUx8EGg0
乙!
30 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 22:44:07.88 ID:W3ssUoAO
なんか…良い
31 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 22:44:57.94 ID:dgydDW20

ゾクゾクするね
32 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 23:00:15.37 ID:zt.U57Qo
これで当分平穏……なのか?
33 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 00:01:58.68 ID:NcVf5sw0
次にも期待しているぜぇ

ちなみに一方さんの二人称は「テメェ」じゃなくて「オマエ」だよ
34 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 01:28:56.38 ID:EOs.7MQ0
番外通行とか俺得すぎワロス
35 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 01:38:34.86 ID:gT.GocAO
>>1乙!!
期待してる
36 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/24(水) 19:04:13.07 ID:h4vnxJg0
>>33
マジかありがとう、にしても恥ずかしい


レスくれたり読んでくれたり超有り難うございます
また超書き溜めてできれば今週中に投稿できるように超がんばりますんでしばしお待ちを
37 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 19:08:38.52 ID:gEOowaQ0
アニメじゃ「テメェ」っつってるし、普通に有りっしょ
応援してます
38 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 20:45:45.34 ID:EfPOqD60

今、現行まで読みました。

今俺が書いてる番外通行の話と時系列の設定が似てるwwwwww
申し訳ないがスレッドたった時は温かく見守ってくれ。すまん。
39 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/24(水) 22:55:08.43 ID:h4vnxJg0
>>38
時系列とかなら全然良いと思う
内容がほとんど一緒とかだったらちょっとアレかもしれないけど
>>38がすまんとか言うようなことじゃねぇってことです

番外通行が増えるのはむしろ嬉しいことだし応援してる
40 :38 [sage]:2010/11/25(木) 00:09:39.11 ID:Wd3e0O20
助かります。ありがとう
41 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 08:15:27.61 ID:3i2JdQAO
なにこのスレ…暖かい。
42 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 16:41:21.13 ID:C28ajwAO
ヌクモリティが溢れているのに切ないSSとはこれ如何に
しかし面白いな
期待期待
43 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 18:22:58.88 ID:v7mhILA0
せつない一通さん良いね 
44 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 18:56:53.68 ID:gTCVlzM0
こんな番外通行が書きたかった…
超期待
45 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 19:12:09.68 ID:95UV5lwo
>>44
こんなとこで何やってんすかwwwwww
46 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/25(木) 21:31:05.95 ID:3kXSpeA0
うはwwww
みなさまこんばんは、毎度ながらレスしてくれたり有り難う

書き溜めが区切りが良いところまで来たのでそろそろ明日には投下できるかと

番外個体の口調が思ったより難しい
違和感などあったら教えてくだしあ。ではおやすみなさい
47 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 21:49:51.05 ID:UTckwgko
次の投下期待してる

>>44
その気持ちが消えないうちに書き始めるんだ
48 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 17:12:18.52 ID:d2RFUMMo
早く書けビーム
49 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 17:41:42.76 ID:coB3R9Y0
>>47
既存の書き手さんのようだ
記憶喪失の番外個体って言えば…分かるな

>>1マダー?
50 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/26(金) 17:54:53.82 ID:LW2CtNo0
何か知らんけどばーちゃんちで夜ご飯食べることなったwwww
というわけで待っててくれてる人達には本当に悪いんだけどちょっと行ってきます

帰ってきてヤツらが静かになったら投下します、今日中に
51 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/26(金) 22:28:02.94 ID:LW2CtNo0
家に帰って、玄関で靴を脱ぐ。
一人で学生寮に暮らしていた頃は適当に脱ぎ散らかしていたが、今となってはしっかり揃えておく癖がついてしまった。
番外個体が意外と神経質で、揃えておかないとみっともない等と言うせいだ。
自分らしくないと一方通行は顔をしかめる。

リビングに入ると、テーブルの上に置きっぱなしになっていた携帯電話がピカピカを点滅しているのに気がついた。

珍しく、番外個体からの帰宅を知らせるメール。
15分程分前に届いたもので、これから帰宅、という本文の下に、画像が添付してあった。
小さな三毛猫の写真。周りの風景から、駅の近くか、と一方通行は適当に予想をつける。
何処かで見たことのあるような、ないような。
そんな感じの三毛猫が、カメラ目線で写っていた。


「たっだいっま帰ったよーん」


やはり、何処かで見た猫だ。何処だったか……
そう考えていた一方通行の耳に入ってきたのは、普段の数倍も明るい番外個体の声だった。
リビングへ走ってくるのが、ドタバタという足音で分かる。
直ぐにバタン、と五月蠅くドアが開けられて、いかにも「上機嫌です」な番外個体が入ってきた。


「いやー今日も疲れたにゃーん」

「そォ言うわりにはテンションいつもの数倍増しだけどな。つーか下の人に迷惑だからデカイ音出してンじゃねェよ」

「あなたの口からそんな言葉が聞けるなんて驚きだね。ま、今日のミサカはそれくらい気分が良いって事で勘弁してよ」
52 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/26(金) 22:32:14.07 ID:LW2CtNo0
「にしても今日は随分と早かったじゃねェか」

「昨日言ったじゃん、早く帰るからラビオリってさ……ぐしゅ。
 店長が今日から家族旅行らしくてさ。普通なら土日も店は開いてんだけど明日明後日は休み」

「そォいやンな事言ってた気もするなァ。今日は簡単にオムレツだけどよ」

「……あなた、本当に最近主夫っぽくなってきてる気がするけど」


若干引き気味に言う番外個体だが、依然として全身から何とも言えない嬉嬉とした雰囲気を放っている。
そんな番外個体は一方通行の携帯を指さして、


「あ、そうだ。メール見た? あ、のネ、コ……ふぇっくしゅ! ……うぁー」


思い切り、くしゃみをした。
ずるずると鼻をすすり、ティッシュティッシュ、等とキョロキョロしているが一方通行からすると堪ったものじゃない。
割と至近距離にいたからモロに彼女の――これ以上は流石の第一位でも少々辛い。


「お、オマエマジで何してくれやがるンですかァ!?
 うっわァ、何かねばーってしてンぞオイコレどォすンだよ」

「うひゃひゃ! 何それ何それどういうこと!? きったねぇええええ!」

「……、」


極めて不快な笑い声をあげる番外個体をぶん殴ってやろうかと意気込んだ一方通行だが、しかし今の彼女を殴るのは少し気が引けた。
いつもの一方通行なら躊躇わなかったかもしれないが、それをさせる程に今日の番外個体は上機嫌なのだ。
何だか負けたような感じが少し悔しいが、小さく舌打ちをしつつもチョーカーに掛けかけた手を下ろす。
53 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/26(金) 22:46:56.05 ID:LW2CtNo0
とりあえず番外個体から浴びせられたモノをティッシュで拭き取る一方通行。
番外個体はそんな一方通行を横目に見てニヤニヤと笑いながら、彼の携帯を勝手に開いた。

同じ機種を使っているわけでもないのに器用に操作すると、自分が送った画像を一方通行に見せつける。


「この猫、可愛くない? 駅前で見つけたんだけどさ、三毛猫っていうの、ミサカ初めて見たよ」

「あっそォですかァ。つーかオマエ自分で拭けっつの」

「反応悪いなぁつまんにゃーい。しかもさ、この飼い主。白いシスターだった。
 ミサカコスプレしてる人も初めてだったよ、いるんだねぇあんな痛いの」


白いシスター、という単語を聞いて、一方通行の動作が一瞬止まる。
修道服の少女と三毛猫。
そうだ、いつか飯を奢らせられたクソガキだったと思い出す。


「にしてもこのミサカ、どうも猫アレルギーらしいんだよね。ミサカ猫好きなのに。
 さっきまで鼻水ぐしゅぐしゅの涙ボロボロで参っちゃったよ。ねぇ、これってあなたの能力でなんとかなったりしない?」

「多分、つーか絶対無理だろォな」

「こうさ、アレルゲンのベクトル操作とかしてさ。……けけっ、所詮第一位っつってもその程度ってことかぁ」


いちいち癇に障る野郎だと思いつつ、拭き終えたティッシュを丸めて電極のスイッチをスライドさせる。

能力使用モード。
以前は自由にこの能力を操って『妹達』を殺戮していたというのに、今となっては一々立ち上がる手間を省くお役立ち要素満載の便利道具になっている。
しかもその『妹達』の一人で、彼女たちの刺客でもあった番外個体と同棲とは一体どこをどう間違ったのか。


ふとそんなことが頭に浮かんで、一方通行は微かに自嘲的な笑みを浮かべる。


丸まったティッシュを軽く放り投げてやると、綺麗な軌道を描いてゴミ箱に入った。
そのことを確認して、再びスイッチをスライドさせる。


「うわー能力をそんな無駄な所で使うなんて、ミサカへの当て付けか何か?」


顔をしかめる番外個体を見て、そォいえばコイツも当初に比べて随分と丸くなったな、と思った。


「さァ? 何のことだかわっかンねェなァ。つーか何でオマエ今日はそンなにテンション高ェンだよ。
 人様の猫の写真撮ってきたりよォ」
54 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/26(金) 23:02:09.74 ID:LW2CtNo0

「まぁ猫は元から好きだったし。ていうか、そう。そのこと。
 あなたに報告しなきゃいけないことがあるってことすっかり忘れてたよ」


番外個体の声が上擦る。
顔には普段、人を罵ったり、悪意丸出しの態度をとったり(それからくしゃみを人にかけたり)してくることが多い彼女からは想像しにくいような純粋な笑みを浮かべて。


……一方通行は聞きたくない。
何となく分かってしまう。彼女がどんなことを伝えたいのか。


何故、彼女はこんなに上機嫌に帰ってきて、
何故、彼女は昨日とは比べものにならないくらい明るく話すのか。



「ミサカ、明日あの人と一緒に出かけることになったんだ」



番外個体は一方通行を真っ直ぐ見据えて、



「ミサカはこれがチャンスだと思ってる。だから明日、


 ――思いを、伝えてくるよ」



一方通行が今、何を思い、何を感じているのか知らないまま。
そして番外個体からの視線を受け止めることができないでいることでさえ気付かずに。

無邪気に、残酷に。


一方通行の心臓を、不可解な痛みが締め付ける。
55 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/26(金) 23:04:16.35 ID:LW2CtNo0

相談に乗るなんてらしくないこと、しなければ良かったとさえ思った。


もし、最初の頃に諦めてしまえとそう言っていれば。
もし、以前彼女が諦める、と言い出したときに励ましてなどいなかったら。


ドロドロとした思いが頭の中で渦を巻く。
恐ろしく不快で、理由の分からないこの感情のコントロールを操作する術を一方通行は知らない。
原因不明の胸の痛みと、この感情が何であるかすら分からない。理解ができない。



――隠していたからか。

今に始まったわけではないこの痛みを、感情を。

――嘘で塗り固めていたからか。



(隠すだの嘘だの、違ェ、そンなンじゃねェ。ともかく――)


最悪だ、と思った。馬鹿馬鹿しいとも。自分自身に嫌気が差す。
番外個体の嬉しそうな顔を見て、話を聞いて。
本来ならば、クソッたれだってクソッたれなりに祝ってやらなければいけない。そうではなかったのか。


「……そォか」


いつもの様に、平然と。


「ずる賢いオマエの事だから上手くやるとは思うけどよォ、くしゃみぶっかけたりすると引かれる事くらい頭ン中に入れとけ」


このドロドロとした思いを悟られないように。押し込めるように。


「そんなのミサカだって分かってるよ、まだ根に持ってんの? 第一位は器が小さいねぇ。
 ま、『有り難い』お言葉どうもって一応言っとくけどさ、あーりーがーたーい、お言葉ね、うひゃひゃ」
56 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 23:04:27.00 ID:u8qGvJ.0
心が折れそうになるな。
57 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/26(金) 23:06:00.71 ID:LW2CtNo0

気がつけば、いつも通りだった。

いつものように憎まれ口を叩き合い、番外個体がシャワーを浴びている間に主夫ならぬ一方通行が夕食を作る。
形が悪いだの味がまぁまぁだの文句を言いながらも番外個体が結局卵4つ分もオムレツを食べたり、1つ残った冷凍の唐翌揚げを巡って争ったり。
9時からのシリアスな雰囲気のドラマを見て番外個体が笑い転げたり。

気がつけば、いつも通りだった。

これで良い、と一方通行は思う。


時々感じるあの痛みは忘れてしまえ。
いつも通りに。いつも通りに。



「あ、そういえばさ」


不意に聞こえた番外個体の声で、思わず身体が強張った。


「ぎゃはは、なにビビってんのダサいって。明日さ、ミサカ5時に家出るんだけど」

「午後のだよなァ?」

「このミサカに早朝から家を出て行けいと?」

「ま、オマエに早起きはできねェだろォな」

「そういう問題じゃなくない? まぁ良いけど、明日、3時頃なったらお客さん来るから」

「ハァ!? なァンで今言うンだっつの」

「うひゃひゃひゃ、だっていきなり言われると困るでしょ? ミサカの友達なんだから丁重にお迎えしてよね」


相変わらずムカつく奴、と一方通行は溜息をつきながら、浮かんだ疑問を思わず口にしてしまう。


「……オマエ、友達とかいンのかァ?」
58 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/26(金) 23:08:24.94 ID:LW2CtNo0

「……あなたの基準で物事を考えないで欲しいものだけど。ミサカはあなたと違って働いてるからそれだけ人と話すこともあるしね」

「あっそォですかァすいませンでしたァ。……で? その友達って誰だ、海原とかだったらぶっ[ピーーー]」


正体が不鮮明なとある男を思い浮かべる一方通行を番外個体は怪訝な顔で見ながら、


「誰それ? ミサカその人のこと知らないけどさ、まぁ普通に面白い人だから楽しみにしときなよ」

「あァ? ンだァ思わせ振りなこと言いやがって」


番外個体は人の悪い笑みで一方通行に応えると、そのまま立ち上がって冷蔵庫からアイスを取り出してきた。
チョコとバニラが2層になった、棒付きのアイスが2本。1本を一方通行に渡すと、いつもの定位置に戻ってくる。


「そんなに知りたいのかにゃーん? 確かにコミュニケーション能力ゼロのあなたにはちょっとキツイかもしんないけどさぁ! ぎゃはは!
 ……ん、この時期に暖房効かせて食べるアイスってのも中々美味しいもんだねぇ」


番外個体はそう言ってアイスを満喫しているようだが、甘い物が好きでない一方通行は包装紙を開けるのを躊躇っていた。


「ったくよォ、コーヒーでも持ってくりゃ良かったのに」

「人の好意を否定するなんてあなたちょっとその性格矯正しなよ。
 ほらほら、早くしないと溶けちゃうよ? それともドロドロした方がお好み? けけっ」

「うっせェよ」


バニラとチョコとか一番クドい組み合わせじゃねェのかコレ。

そう呟きつつも包装紙を開ける一方通行を見て、番外個体が満足げな顔をする。
59 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/26(金) 23:12:36.85 ID:LW2CtNo0

「そういえばさぁ、ミサカは今こうして棒付きアイスを食べてるわけだけど」


番外個体がアイスを咥えたまま一方通行に話を振る。
そして上目遣いに、


「ふぇら? っていうのも、こうやるんだよねぇ?」


ぶっ飛んだ事をさらりと。


「……ッ!? フェ、って、ハァ!? 何言ってやがるマジでオマエハァ!?」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ! ふつーそこまで狼狽える!? ぎゃはは、アイス垂れてるって、イヤらしくダラダラとさぁ!」


目尻に涙さえ浮かべて笑い転げる番外個体を割と本気で殺してやりたくなる。
にしてもどォしてこンなに下品なンだか、と、他人に言うにあまりふさわしくない一方通行が頭を悩ませていると、番外個体がまたも何かを言い出した。


「でもさぁ、実際ミサカも彼氏ができたら、その、こういう事……するのかねぇ!?」

「オマエ何言って……ってマジで顔赤くしてンじゃねェよテンションおかしくなってるっつの!」



近所迷惑も甚だしくぎゃあぎゃあと騒ぐ。

いつも通りに、いつもと何も変わらずに、時間が過ぎていく。音も立てずに過ぎ去っていく。


「……明日は、どんな日になるのかな」


そんな中で、番外個体がポツリと呟いた。
60 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/26(金) 23:19:44.60 ID:LW2CtNo0
訂正。恥ずかふぃ
>>57
×「このミサカに――出てけいと?」
○「このミサカに――出ていけと?」

とりあえず毎度ながら短いけど一応区切りで
明日はまた書きために戻ります。じゃおやすみー
61 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 23:54:28.83 ID:/7Z4YKso
一方通行が早く行動してくれないと俺の胃と心臓が二重螺旋構造を造りだしそう
62 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 00:18:55.56 ID:vb6/TwEo
うおおおおお見ていて切ないいいいいいい

とりあえず乙!!
63 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 00:22:09.35 ID:f94P1wU0
駄目だ、心が押しつぶされる。
誰か薬くれよ。
64 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 00:24:14.30 ID:bekjp.AO
一方さん…
65 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 00:25:10.29 ID:I9eOLH2o
乙です
やっぱり番外通行は良いな

>>49
あれの書き手さんだったのか
失礼した
66 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 01:32:26.27 ID:gjl6Za20
自ら下ネタ振って赤面する番外個体か……ふぅ
67 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/27(土) 08:23:39.61 ID:y1ZgU1o0
あれの書き手さん・・・ンだとォ!?
68 :VIP [sage]:2010/11/27(土) 10:21:16.61 ID:IAAX22AO
ワーストたんの上目づかいフェラ…‥‥ハァハァハァ うっ ドピュドピュ
ワーストたんにイマラチオさしてやる‥‥‥
69 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 12:13:40.90 ID:e3ukz.s0
>>61
ごめん、ちょっと見てみたい
70 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 23:18:18.72 ID:qf9O8Fo0
>>65
なん…だと…?
71 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/27(土) 23:20:27.58 ID:uQ0Vqko0
寝る前に投下します
誤爆には注意ですぜ

もうちょっとで日曜日か……
では少々お付き合いください
72 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/27(土) 23:23:00.62 ID:uQ0Vqko0

11月最後の土曜日。
澄んだ天気に恵まれた今日、番外個体は朝から落ち着かない様子だった。


「ちったァ落ち着けっつの。まだ昼じゃねェか」

「ミサカはいつも通り冷静だけど何か?」

「……そォ言いつつ漏電してンぞ」

「あーはいはいミサカは優秀な、ゆーうーしゅーうな第一位様と違って不出来なんだっつーのお!」


パチパチと線香花火の様に紫電を散らす番外個体。
緊張からか、どうも無意識のうちにビリビリが漏れてしまっているらしい。
今からこんなザマでいざ本番となったらどうなってしまうか少々心配な一方通行は、


「オマエそンなンじゃ周りに迷惑かけるどころじゃなくなるンじゃねェの?
 ロシアでも言ったがよ、俺の戦い方を見て能力制御法を分析すればこンな時にも安定すると思うンだが」

「まぁそれも名案だとは思うけれど。『暗闇の五月計画』もそんなんだったと思うし。
 ……にしても上から目線ちょーうぜぇええええ! あなたは何の講師よ一体」


普段に増して気性が荒い番外個体はそう言ってそのままソファに倒れ込んだ。
傍に落ちていたリモコンを拾い、テレビをつける。
チャンネルを学園都市で放送されている教育番組に切り替えて、寝っ転がりながらそれを眺める番外個体。
少しすると落ち着いてきたのか、周りを散っていた紫電が静かになっている。


「何ていうか、この手の番組ってミサカに唯一の安らぎを与えてくれるんだよね」

「……その妙なガキっぽさは誰譲りだァ?」

『こんにちはー! 良い子のみんなー! 元気かなー!?」

「はーい! ……って、別に毎回やってるわけじゃないからここ重要」

「……、」
73 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/27(土) 23:25:13.18 ID:uQ0Vqko0

番外個体はテレビを観ながら寝てしまった。
5時に家を出ると言っていたのでまだ時間はあるからと、一方通行は彼女はそのままに、テレビは消して洗い物をすることにする。

焦げが付いてしまったフライパンやボウル、それから食器。
朝食の残骸である。
番外個体がバイト先の人気メニューであるというパンケーキを見よう見真似で作った所、焦げ焦げの無惨なパンケーキが出来てしまったのだ。

朝から二人で不味いを連呼しながら食べた朝食の風景が頭をよぎる。


(にしても、『妹達』には一般人と同じ位には家事をこなせるよォに学習装置でインストールされてる筈だが……どォしてコイツはこンなに家事ができねェンだっつの)


ゴシゴシと、華奢な腕でフライパンを擦る。


焦げが中々落ちない。
その黒い汚れは洗剤を更にかけても落ちない。落ちない。


いっそのこと漂白剤でもぶっかけて誤魔化してしまおうか等と常識外れのことを考えた一方通行だが、やはりそれはどうかと考え直して――


「クソッたれが」


思わず、口に出していた。

何故だか落ちにくい黒い汚れや漂白剤などは、昨夜の不可解な心臓の痛みや、一瞬頭に浮かんだ、彼にとって見当外れ以外の何者でもない思いを思い出させる。

無性に苛立って、一刻も早く洗い物を終わらせようと電極に手を伸ばしたところで――


ピンポーン。間抜けな音が、室内に響いた。
74 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/27(土) 23:26:29.57 ID:uQ0Vqko0

ぴたり、と一方通行の動きが止まる。
伸ばしかけた手をそのまま蛇口に持っていって水を止めると、手で水を弾いてからインターホンを押して――。気付いた。


番外個体が友達が来るなどと言っていなかったか。


だとしたら、自分が出るのはいかがなものか。
元々その友達とやらが来たら自分は自室にでも居ようと考えていたこともあり、頭を悩ませる一方通行。
今すぐ番外個体を起こそうと思って、


「……あ、」


しかし、振り返って時計を見るとまだ2時少し前だった。
彼女の言っていた時間は3時だから、セールスかお届け物か。
そんな所だろうと目星を付けて、妙に安心した一方通行はインターホンに向かいなおす。


「どちらですかァ? セールスなら間に合ってるンですけど」

「えーと。ミサカじゃないの?」

「…………」



沈黙。



一方通行はそろりと後退して、番外個体を叩き起こす。
75 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/27(土) 23:28:06.91 ID:uQ0Vqko0

「……ふぇああ? あれ、テレビが消えてる……って痛いっつーのぉおおおお!
 起きてるから叩かないでその貧弱な腕でもミサカはちゃんと起きるんだってば!」


バシバシと言葉通りに叩き起こされた寝起き最悪な番外個体はむくりと上半身を起こす。


「いいから早く出ろっつーのォ! 客来てンだよオマエの友達だろォが!」

「そのくらいあなたが出れば良いんじゃないの!? ミサカをそんなに乱暴に起こさなくてもさぁ!」

「ハァ!? だァかァらァ、オマエの、『番外個体』の友達だろっつてンだ!」

「普通に出るくらいしてくれても良いでしょうがあなたは第一位なのにそんなこともできないの!?」


再びチャイムの音がなって、ぎゃあぎゃあ言い合いを始めた二人を鎮める。


「……ミサカは寝起きで髪もぐしゃぐしゃなんだよう。あなたが出てくれれば恥かかなくても済むのに」


番外個体がやや本気でしょんぼりと沈みそうになってしまったので、一方通行は仕方なく出ざるを得ない。


「だァもォ、『ま、間違いましたー』とか言って帰られても知らねェからな」

「大丈夫、そんな人じゃないし」


番外個体はそう言って何やら意味深にいつもの人の悪い笑みを浮かべると、髪を梳かしだす。

もう一度チャイムが鳴って、しかも今度はドンドンと外から叩くような音まで聞こえてきたので、一方通行が気怠げに玄関に向かった。
76 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/27(土) 23:29:22.36 ID:uQ0Vqko0

結論からいうと、最悪。この一言につきる。



「ぎゃはは! 同棲中のひょろっちぃ男ってのは第一位様だったわけぇ!?
 てっきりミサカに釣られたオタクっぽいのかと思ってたけどそれ以上に傑作だわぁ」

「さっきなんかさぁ、自分が出るの嫌だからってミサカのこと叩き起こしたんだよ?
 ありえない位なっさけないよねぇ」

「あぁだから出てくるの遅かったわけね。思わずドア蹴破りそうになっちゃたにゃーん。
 やっと出てきたら男でさ、×××焼いてやろうかしらと思ったら最強の第一位様じゃない!」



明るい色の、薄手の秋物コート。ストッキングに覆われた足。小さな整った顔を覆うようにしている栗色のふわふわした髪。

……に加えて、それらに似合わぬ下品な言葉。


麦野沈利。『アイテム』をまとめる、学園都市に7人しかいないレベル5の一人。
その女が、一歩間違えば今此処で一戦交わってもおかしくないような暗部で活躍する女が、
何故だか番外個体と楽しそうにお喋りして、しかも散々汚い言葉を投げかけてくる。


(意味が分っかンねェぞオイ。つーかコイツだな番外個体に変な知識吹き込ンでやがるのは)


何故かお茶を出したりを全て一任させられた為、自室に退避することも許されない一方通行は時間を計っているタイマーを見つめながら溜息をついた。

数分前、玄関で相対した事を思い出す。
77 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/27(土) 23:31:22.04 ID:uQ0Vqko0

『あーっと、ここってミサカの家……で良いんですか?』


片手に紙袋をぶら下げて立っていた彼女のあの態度は、今考えると絶対演技だった。
ドアを開ける直前までドンドン蹴りを入れる様な女がこんなににっこり笑って丁寧に尋ねてくるわけがない。


『アイツなら中に居る……って、オマエどっかで見た事あるなァ……?』

『あ? いきなりオマエ呼ばわりとは上等じゃねぇか人を散々待たしておいてこのモヤシ……っていうのは冗談うふふ。
 ……でもうん、確かに見覚えがある様な気がしないでも……』


互いに少し考えて、先に口を開いたのは麦野だった。
先程までの取り繕った(といっても既にボロはでていたが)態度が一転し、一方通行から一歩距離を置くと、


『テメェ、第一位だなぁ!?』


一方通行が電極に手をやったのと麦野が彼に向かって手をかざしたのはほぼ同時だった。
真っ白な不健康的な光が一方通行に襲いかかり、しかし彼の体はそれを反射する。
真っ白な光は麦野の横をすり抜けて、マンションの向かいにあった看板を溶解させてしまった。


『その能力、オマエは第四位かァ!? クソッたれがァ、遂に暗部が動き出したってことかよ!?』

『テメェは何ワケ分かんないこと言ってんだぁ!? それよりミサカに押しかけてレイプでも目論んでたわけじゃねぇだろうなぁ!?』

『ハァ!? 人聞きの悪ィこと言ってンじゃねェぞご近所さンに変な誤解されンだろォが!』
78 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/27(土) 23:34:07.20 ID:uQ0Vqko0

二人が争っている所に目を擦りながらやってきたのは、当然ながら番外個体だった。
麦野から放たれる不健康そうな白い光に顔をしかめながら、呑気に『早かったじゃん』と。


『ミサカ、あんたなんで此処にコイツが居るのよ!? 何もされてない!?』

『だから何もしてねェしオマエが勝手に勘違いしてるンだろォが!』

『あれ、言ってなかったっけ? これがミサカの同居人なんだけど』

『……は?』


ぼーぜん。

麦野が一方通行と番外個体の顔を見合わせて、わずかに顔を赤らめた。
勘違いしたことを恥じてでもいるのだろうか、と彼が思っていると、


『な、ならレイプとかじゃなくてお互いの同意の元でヤっていたってわけね……。悪かったわ』

『そういうプレイっていうのもあり得るってことも考慮した方が良いんじゃないかにゃーん? ぎゃは』


下品な会話をしながら笑う彼女たちを見て戦慄する一方通行を無視し、番外個体が麦野に上がるように言う。

家に上がり込んだ麦野が待ちぼうけで寒かった、ああ寒い寒いどうしてこんなに寒いのか等散々言うせいで紅茶をいれる羽目になったのだが――



「……っと、こンなモンかァ?」


ピピピ、という3分経ったことを知らせる電子音がなって、我に返る一方通行。
カップを2つと紅茶の入ったティーポットを両手に持って彼女たちのもとへ持っていく。
79 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 23:34:13.30 ID:Sj7TR5oo
まさかの麦のんwwww
80 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/27(土) 23:36:06.71 ID:uQ0Vqko0

「……でさぁ、新メニュー候補の試食をしたんだけどそれがもう不味くて」

「確かにパンケーキにお刺身乗せるのはおかしくない? しかもパンケーキってあそこの名物じゃない、看板メニューにそんなことして良いの?」

「うーん、マスターもちょっと変わり者だしね……っと、紅茶が出来たみたいだよん」


意外と普通の会話をしていた二人の前にカップを置く一方通行。
紅茶を注ぎながら、もしかして麦野は番外個体のバイト先の常連か何かなのかも知れないと思った。


「お。お客の前で注いでくれるなんてさっすが第一位、キザな演出してくれてまーす!
 ……そう睨まないで欲しいものだけど。ミサカはこれでも褒めたつもりなんだけどなぁ」

「カフェとか行くとこうしてくれる所あるわよね。……あ、でもこの紅茶ティーバッグでしょ? やっすい香りがする」

「あァもォオマエらうるせェよ、ごちゃごちゃ言うンだったら自分でしろっつの。こちとら普段紅茶なンぞ飲まねェンだから仕方ねェだろォが」

「へぇ、第一位様はロクに紅茶もいれれないの? 私はコーヒー紅茶、抹茶もいけるし、あとは――」


ペラペラと教養を自慢しだした麦野を鬱陶しそうに一瞥した一方通行は空になったティーポットを持ってキッチンへ引き返す。
まだ終わっていない洗い物をするためだ。
対面式のキッチンでゴシゴシとフライパンを、今度は能力を使用しながら洗っていると、番外個体達の会話が聞こえてくる。
81 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/27(土) 23:38:49.83 ID:uQ0Vqko0

「その服可愛いわね」

「そうかなぁ? ミサカそういうのよく分かんないからあんまり考えないで着てるんだけど。普段は動きやすさ重視だし」

「だからいっつもカジュアルな格好してるのね。雑誌とか読んだりしない? 結構可愛い服とかあるわよ」

「んー、あれって色々種類があってイマイチ分からないし」

「あー分かる分かる。私も毎月4冊くらい買ってるし。今度持ってきてあげる。そうだ、スカートとか穿かないの?」

「けけっ、ミサカには絶対似合わないでしょーが。麦のんはそういうの似合うよねぇ」


むぎのん? と一方通行は眉をひそめる。

今は落ち着いているが、テンションが上がったりすると出てしまうと思われるあの下品な彼女には似合わない様な気がしなくもない。
しかもそれ以上に、番外個体がこうして『むぎのん』と誰かの名前を普通に呼んで普通の会話をしていることが意外だった。


(やっぱ外に出ると性格も変わるモンなのかァ?)


疑問に思いつつ、フライパンを洗い終えた一方通行は能力使用モードを解除して皿などを洗い出す。
いつも家でダラダラしているくせに、食洗機が欲しいな、と思った。


「穿いてみないと分からないわよ。ま、あなたがそう言うと思って色々持ってきてあげたから……ミサカの部屋大丈夫?」


麦野がそう言って傍に置いてあった紙袋を引き寄せる。


「わーお、ありがと。んー、ミサカの部屋粗末だけどオッケー?」

「全然。じゃ、ファッションショーしましょうか」
82 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/27(土) 23:43:41.90 ID:uQ0Vqko0

番外個体と麦野が番外個体の部屋へ移動したため、すっかり静かになったリビングで一方通行は一人ソファの上であお向けになっていた。
頭の後ろで腕を組んで漂白されたように真っ白な天井を見上げる。

開け放たれたリビングのドアの向こうから、楽しそうな番外個体達の声が微かに聞こえてきた。


「あ、意外とピンクのものとか好きだったりするの?」

「うっさいなぁ、本能的に選んじゃうんだよねぇ」


それはやっぱりオリジナルの遺伝子が大きく影響しているからだろう。
ピンクの携帯にも可愛いらしいストラップなんかがついていることを一方通行は思い出す。


「……にしても、ファッションショー、ねェ……」


何のためにしているかは明白だった。


あの男のため。番外個体が恋をする、同じ職場の。


彼女は今、何を思っているんだろう、と自然に考える。
番外個体は頭の中にあの男の姿を思い浮かべて、どんな格好をすれば喜んでもらえるか、気に入って貰えるか。
そんなことを考えながら洋服を選んでいるのだろうか。


……そう思うと、やはり心臓が苦しくなる。
その息苦しさに無性に苛ついて、耐えられなくて、気分を紛らわすためにソファの脇のテーブルに置いてあった缶コーヒーを開けた。



「ムリムリムリ、絶対無理だって!」

「ちょ、こんな所でビリビリやってんじゃないわよ! だーオリジナルに似て往生際が悪いわね! 良いから脱げ! そして着ろっつーんだよォおおお!」



一際大きく聞こえてきた叫び声の様なものを聞いて、一方通行は呆れたように溜息をついた。
83 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/27(土) 23:46:58.53 ID:uQ0Vqko0
とりあえずここらで
麦のんは良いお姉さんになってくれそう欲しいよ麦のん

麦のんアイテムはーとか麦のん体大丈夫ーとかは次回に
ていうか展開遅いかな?
気付いたことがあったらバシバシ指摘してくれると嬉しいんだよ!
84 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 23:49:12.28 ID:spthb/Ao
俺の切なさがアクセラレィト!
85 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 00:01:26.97 ID:DRgkW9Yo
くれそう欲しいよ?
86 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 00:45:45.68 ID:F5MJvcDO

麦のんがかわいすぎて胸が苦しい
87 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/28(日) 15:47:04.28 ID:1BiOBAA0
>>85
ありゃりゃ、「麦のんは良いお姉さんになってくれそう、あー欲しいよー」
的なことが言いたかったんだ、変な日本語ですまんかった


それから今更ですがレスなどありがとうです
一昨日の投下のあともレスが沢山あって嬉しかった、超励みになります

今日はこれからほんの少しだけ投下したあと神社に行くんだよ!
というわけで後でもう一度投下できたらと思いつつ、とりあえず少しだけお付き合い下さい
88 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/28(日) 15:49:30.91 ID:1BiOBAA0

一方通行は寝転がっていたソファの上でうっすらと目を開けた。小さく舌打ちする。
どうやら寝てしまっていたらしいが、微かに聞こえてくる番外個体と麦野の声で目が覚めたのだろう。
寝ていた時間は30分もなかっただろうが、それでも自分の無警戒さには腹が立つ。
常時反射が使えなくなった今、居眠りなんかしていると何時襲われるか分からない。


(……第四位はまだ番外個体の部屋か? ったく、気が抜けすぎだクソ馬鹿)


麦野だって暗部の人間だ。
一方通行は彼女を信用しているわけではないし、番外個体の友達でなければ関わろうとも思わない。
ああして番外個体と仲良くしているところをみると何か裏があるという事はなさそうだが、それでもやはり警戒するに越したことはないのだ。

体を起こして、頭をガシガシと掻く。

と、そこへ番外個体達の声が先程より鮮明に聞こえてきた。
どうやら部屋から廊下に出たらしい。


「はい、じゃちょっとくるーっと回ってちょうだい」

「こう?」

「……うん、最高。にしても憎らしいわ、そのスタイル。ま、私に感謝ってとこかしら? あとはメイクすれば完璧ね」


何だ何だ、と思って一方通行が開けっ放しになっていたリビングのドアから廊下を覗こうとすると、丁度彼女達が入ってきたところだった。

前を歩く麦野の後ろから、番外個体が顔を覗かせる。


「……お披露目。今まで応援してくれてたあなたにも一応意見聞きたいからしっかり考えてよね」
89 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/28(日) 15:52:32.14 ID:1BiOBAA0

直ぐに言葉は出なかった。

本当は、彼女が戻ってきたらいつもと違う、と普段の様に軽い憎まれ口を叩いたり、且つ何か適当に褒め言葉でも言ってやろうと思っていたけれど。


何かいつものオマエと違うなァ――言葉が出ない。

まァ良いンじゃねェの――言葉が出ない。


「……、」


番外個体がきょとんとした顔でこちらを見ていて、麦野も麦野で何やらじーっと一方通行を観察するかの様に眺めている。

その視線を受けて、何か言わないと。そう思うのに、けれどそれができない。



ただ心臓が


ドキドキと、おかしくなってしまいそうな



「……ほら、やっぱりミサカにはこの格好は似合わないってこの人も無言で語ってるんだけど」


妙な静寂の中、小さくそう言ったのは番外個体だった。
90 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/28(日) 15:54:30.41 ID:1BiOBAA0

麦野ははぁ、と小さく溜息をつくと、一方通行をチラッと一瞥して番外個体に向き直る。


「そうかしら? 私にはすっごく似合って見えるけど。
 ほら、第一位なんて人付き合いもロクに出来ない奴だから何て言えば良いか分からないのよ」

「でもミサカもやっぱりあの人の反応で我に返っちゃった感じなんだけど」

「そんなことないってば。あんたは結構何でも似合うんだから自信持ちなさい。
 ……ね? そうでしょ気の利かない第一位」


麦野は今度は一方通行の方に振り返ると、片目をつぶってそう言う。
番外個体の発言の後から何も言えなかったことを後悔していた一方通行は、むかつく野郎だと思いつつも素直にその好意に甘えることにした。


「ン、正直いつもと全く雰囲気違ってビビったけどよォ、なンつーか、その――」



すっげェ似合ってる、だからまァ心配すンな。



と。

小さな声でそう呟かれた彼の言葉を聞いて、不機嫌モードだった番外個体の表情が軟らかくなる。


「……あなたにそんなこと言われるとは想定外だったかな。
 ミサカ的にはやっぱりいまいち納得できない所もあるけどたまには人を信じてみても良いかもね」


一方通行はというと、自分の口をついて出た言葉に死ぬほど羞恥心を煽られていたのだが、それも番外個体の言葉で大分マシになった。


……これで良いのだと思う。自分は彼女を支えて、彼女を応援している。
そんな立場でこれからも、変わることなく。
91 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/28(日) 15:58:04.74 ID:1BiOBAA0

「あー第一位からこんな言葉が飛び出すなんてちょっと気分が……。
 あ、そうだ。この服私が貸してあげてるし、お礼としてちょっと喋らせて貰うわね」


麦野はそう言うとペラペラと話し出した。
少し前の教養自慢といい、彼女はどうも饒舌らしい。


「まず、ミサカの洋服。このワンピ、可愛いでしょ? 秋冬の新作デザインなんだから。
 シャツをレイヤードしてる感じのデザインとチェックの2柄使い、あとはそうね、こうやって腰巻きを前で巻いて……っと」


いきなりよく分からないことを言い出した麦野に、一方通行と着ている本人の番外個体もついて行けない。
一方通行は一応ファッションについてはそれなりの知識はあったつもりだが、女物となるとこうしてポカンとすることしかできないのだ。

麦野はそんな二人にお構いなしに、番外個体が羽織るようにしていたチェックのワンピースの後ろに巻かれていた腰巻きを前で結び直す。


「あら、こっちの方が良いかもしれないわね。ミサカの好みにおまかせするけど、どう?」

「え、えーっとそうだなぁ、ていうかミサカよくわかんないんだってば。もう前で良いよ」

「うん、じゃそうしましょうか。そっちの方が……よし。で、このレギンスはちょっとセクシーにダメージ入りね。
 本当はレギンスなしが私的には良いかなと思うんだけどそれは抵抗あるらしいし、今回は仕方ないか。
 ブーツはミサカので良いのがあったし、あとバッグは……そうねぇ、ワンピがレッド系だから……」


一人で色々悩んだりしている麦野を横目に、一方通行と番外個体はコソコソと会話する。


「……オイなンだコイツ? すっかり自分の世界じゃねェか」

「ミサカもついてけなくて困ったよ。部屋では着せ替え人形させられるし。ほんとはさぁ、ミニスカート穿かされるとこだったし」

「……で、メイクは元が良いからナチュラルに……ってオイ聞いてんの!? この私の話を無視するなんて良い度胸じゃない、あぁ!?」
92 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 18:39:10.19 ID:peveuQAO
麦のん可愛いよ麦のん
93 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 19:29:15.66 ID:798byOc0
麦野と番外やばいね。
94 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 20:07:14.79 ID:jzl2YwSO
下品同盟で一通さんの胃腸がやばい
95 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 20:32:42.56 ID:6wG.wsAO
言葉だけで人を殺せそうな三人組ですね
96 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/28(日) 21:55:56.51 ID:GMbi0ss0

PM4:50、玄関にて。


「……よし、メイクもOK、髪も大丈夫だし、……こんなもんかしら? 髪とかメイクは崩れてきたらちゃんと直しなさいよ」

「普段しないことをいきなりやれって言われてもなぁ」

「今日は天気も良いし大丈夫だとは思うけど。教えた通りにやっときゃ何とかなるわ」


淡くメイクを施された番外個体が苦い顔をする。


「そういう顔しないの。大丈夫、きっと上手くいくから。……下着だって可愛いの選んだじゃない」

「麦のんの変態ぶりには困ったもんだよ、ぎゃは」

「人に言えないでしょうが」

「えー? ミサカはすっごいお上品なんだけど? ……あ、そろそろ時間だ。じゃあ……行ってくる」

「がつんとね! 勇気だせ!」


今まで黙って会話を聞いていた一方通行も彼女に彼なりの言葉をかけて送り出す。


「……鍵、掛けねェでおくから。あと泊まってくるなら一応連絡しろ」

「ん、お言葉どうもありがとう、って感じかにゃーん?」


番外個体は下まで送ろうかという麦野を断り、外に出る。
緊張を上手く隠しているつもりなのかひらひらと手を振っているが、歩く姿がどうもぎこちない。
やがてその姿も廊下の角を曲がり、見えなくなってしまう。
97 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/28(日) 21:57:59.24 ID:GMbi0ss0
家の中に引き返してきて、てっきり麦野も帰るかと思いきや、何故か彼女は座り直した。


「……何ちゃっかり座ってやがる。オマエはどォして帰ンねェンだよ」

「あんた、ミサカのこと好きでしょ」

「……答えになってねェな。高い教養のある第四位は質問も答えれねェ程頭がイカれてンのかァ?」

「じゃ、夜ご飯食べて帰りたいからってことにしておいて貰うわ。どうせ一人なんだし良いじゃない。余り物で良いから鍋でもしましょ。
 ……はい、私は質問に答えた。だからテメェの答えも聞かせろクソッたれな第一位」

「意味が分っかンねェ。俺が? この俺が番外個体を好きな訳――」


投げやりな態度でそう答えかけた一方通行を、麦野が遮る。


「じゃあ好きじゃないって言える? 本当はミサカのことが好き、だけどあの子は別の男を見てる。
 応援してて、相談に乗ってて辛くない? 私にはそんなことできない」

「オマエの勝手な考えを肯定するわけじゃねェが、オマエに何が分かる? この俺を知った気になってそンな自分に溺れてるだけじゃねェの」

「そう思うなら勝手に思っとけば? けどこんなクソッたれな私にだって好きな人がいる。
 ソイツは馬鹿で役立たずだけど、でも私を認めてくれた。救ってくれた。……自分には既に大切な人がいるってのに」


麦野は目を伏せて続ける。


「私は最悪な人間だし、しかもソイツとソイツの大切な人を何度も殺そうとした。
 そんな許されちゃいけない私を許してくれた男が、好きな男が、……自分以外を見てるのは結構キツイのよ」

「……オマエの自分語りなンぞ聞いてもぶっちゃけよく分かンねェっつの」

「そりゃそうだけど。でもチラシの裏に書くっていうのは寂しいし。
 ……要するに、私はそういうのには耐えらんないのよ。あんたは苦しくない?」

「苦しいも何も俺は――」


そこまで言いかけて、一方通行は口をつぐんだ。



俺は、なんだ?
98 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/28(日) 21:59:14.77 ID:GMbi0ss0

例えば。どうして上手くいかないんだろう、そう嘆いた彼女を励ましたとき。
例えば。今日は沢山話せた、そう喜ぶ彼女に同調して良かったじゃねェかと言ったとき。


そういった全部は、自分の本心だったか?
励ましたり、喜んだり、果たして自分は心の底から番外個体を応援できていたか?


――無意識のうちに、嘘をついてはいなかったか。

相談に乗らなければ良かったと思った事もあるし、諦めてしまえと言っていれば、励ましの言葉なんて掛けていなければと思った事もある。

――無意識のうちに、そのドロドロとした真っ黒な思いを、心のずっと奥に押し込めて漂白して隠してはいなかったか。


時々感じる心臓を締め付けるようなあの痛みを、無理に忘れようとした。
いつも通りを装うことで、全て綺麗さっぱり忘却できると思っていた。


けれど、その先にあったものは、そんなものの先に待っていたものは、


苦しみと、辛さと、切なさと、悔しさと、妬ましさと、虚しさ。


そんな醜い感情が、汚い感情が、今更たくさんたくさん、


溢れてくる。


足りない、と思った。漂白剤が足りない。はやく、はやく真っ白にしないといけないのに、溢れきて追いつかない。


ドロドロとして粘つくその感情は何処へ閉じこめればいい?
99 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/28(日) 22:01:04.82 ID:GMbi0ss0

深くて不快な底なしの闇に沈みかけたとき、それを阻んだのは麦野だった。


「我慢する事なんて、ないでしょうが」


黙り込んだ一方通行に、麦野が語りかける。
落ち着いて、ゆっくりと、まるで子供をあやすかの様に。


「……気付いてたんでしょ? それでいて、自分の気持ちを誤魔化して、殺していたんでしょ?」


一方通行が短く息を吐く音が聞こえた。
忌々しげに舌打ちをする姿がどこか弱々しい。


「……それで、それで俺にどォしろってンだよ。番外個体にとって重荷にしかならない『ソレ』をどォしろと?」


小さく小さく、独り言の様に。
それは、第一位が見せた弱みで、第一位が求めた救いだった。

自分の中にあるドロドロした感情の中に飲み込まれるのが嫌で、それなのに、麦野の言葉を否定することができない。
情けないと思いつつも、しかし溢れてくるソレを全て押し込めることは不可能で、ただ何もできないことを、何もしない方が互いのためであるということを主張する。

その言葉が、番外個体に対する感情が何であるかを浮き彫りにしていることさえ気付かずに。


「その独りよがりな感情を押しつけて何になる? あの馬鹿のことだ、結局はそれを無理してでも受け入れよォとするに決まってるだろォが」


彼女にそれをさせるのは酷だろうと一方通行は思う。
番外個体は口を開けば憎まれ口ばかり叩く様なやつだけど、それでも彼女はきっと、一方通行を拒まない。
だからこそ、彼女に甘えてはいけないのだ。
100 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/28(日) 22:02:21.21 ID:GMbi0ss0

しかし麦野は、彼の考えを悟っていても尚、追求してくる。


「結局逃げてるだけじゃない。認めると関係が壊れちゃうのが怖いんでしょうが。
 それをそうやって言い訳して、嘘重ねてるだけでしょ。……違う?」

「そンなンじゃねェ。大体俺は――」

「大体俺は、何? ミサカのことなんかどうとも思っていませんって? 
 あんたが言う『独りよがりの感情』ってじゃあ何? 結局は好きっていうことでしょ?」

「そンなンじゃねェっつてンだろ!」

「なら何なの? 答えてみろよこの根性なしの弱虫野郎。いい加減自分に正直に、真っ正面から向き合ってみろっつの。
 ……あーもうイライラする。私はこんな愚図相手に何してんだか」


麦野はそう言って立ち上がると、大きく伸びをした。


「……なんつーか、私も今ちょっと馬鹿になってるから。本当は目上の第一位様に向かって偉そうなこと言える様な人間じゃないのよ」

「……、」

「怒ってる? ふふん、ま、図星って所だったのかしら? 自分の気持ちに鈍感――ってオイ電極に手を持っていかんでよろしい!」


一方通行は溜息をつくと、手を静かに下ろす。


「……で? オマエはこの根性なしで弱虫野郎で愚図な目上の第一位様の家で鍋を食ってくンだっけか?」
101 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/28(日) 22:09:38.94 ID:GMbi0ss0
ぐつぐつと煮える鍋を、箸を握りしめながらきらきら輝く目で見つめる麦野。


「鍋鍋! いやー今年初かにゃーん? あ、でも今年つっても1月ら辺にやったっけ? この場合なんて言うべき? 今年度?」

「ンなモン自分で考えろ」

「知らないだけのくせに。あーそれにしてもまさかシャケがあったなんて最高だわぁ。
 ……あ、あの会話を鍋でお茶を濁したことは忘れてねぇからな」

「あっそォ。つーか時々言動がすっげェ悪くなったりすンの押さえたほうが良いンじゃね?」

「えー? 何のことー? ていうかもう良いよね、いただきます!」


冷蔵庫の中にあったシャケの切り身や、白菜ならぬキャベツ、人参などとりあえず何でも入れちゃえ的なノリで作ったな鍋を麦野が突っつきだす。


「うま。つーか第一位様と鍋してるってなんか面白いわね。アレイスターはこの状況も想定内かしら?」

「知るか。……レトルトのカレーあるけど食うか? 俺は食うけど」

「え? うんこ? そんなもん食えねーっつーの。くはは」

「……、」


一方通行は苛立った表情で麦野を睨みつつ、何となく食欲が失せてしまったのでカレーは次の機会に持ち越すことにする。

それから暫くして、〆の雑炊もきっちり食べてダラダラとテレビを見ていた麦野が立ち上がった。


「そろそろ帰るわ。このままミサカを待とうと思ったけどやっぱ辞めにした、帰ってくるか分かんないものね」

「送ってけとかってか弱い女の子じみた事言うンじゃねェぞ」

「ん、近くにアイテムの子の家あるって話だし寄らせてもらうからオッケー」

「……そォいやアイテムって、」

「再結成。私のしたことは許されないけど、でもあいつらは馬鹿みてぇに優しいから。
 それからもう一つ。実はこの麦のん、片目・片腕は作り物です。気付いてたかしら? 
 学園都市も捨てたモンじゃねーってのがよく分かる例よね。本当は火傷の後とかも酷いのに。
 ……あ、あとテメェは自分の気持ちにちゃんと蹴りつけろ」


一方通行が何か言う前に、麦野はそう言うと勝手に出て行ってしまう。
ポツンと一人になった一方通行の声が、虚しく響いた。


「……ったく。お邪魔しましたが言えねェ辺り、常識が欠如してンだっつの」
102 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/28(日) 22:15:58.52 ID:GMbi0ss0
とりあえず今日は終わりです
何か心情とかって凄い難しい、力不足が露呈しちゃってて恥ずかしい限りです
ごちゃごちゃだばーかは十分承知。あと麦のん口調も案外難しいなorz

それから>>92からのレスで不覚にもww
次回はちょっと指向を買えて、番外編・とある隣人の壁に耳あり障子に目あり をお送りします。
では、皆様に感謝しつつ、おやすみなさい
103 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 22:35:19.89 ID:qfEx0HIo
おつおつ
切なくもあたたかいお話が素敵です
104 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 23:03:09.54 ID:5GEsgG2o
全俺が泣いたわ

第一位保護してくる
105 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 00:03:33.22 ID:TqfhQ560
おつです。
しかし、心にくるな。
106 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/29(月) 00:13:17.41 ID:0yxUUqg0
もうむぎのんと一方通行がくっつけばいいよ
107 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 00:16:54.64 ID:.CSKOIDO

麦のんのかわいさに俺のいろんなところが原子崩し
108 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 00:17:37.40 ID:PxrvrWko
このスレの一方通行さんは人間らしすぎるな



良いと思う
109 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 00:46:21.11 ID:ckobsjk0
>>104
その任務俺がやろう

>>106
是非スレ建てて書いてくれ
110 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 06:32:06.93 ID:6zZT3sAO
乙!
一方通行がかわいすぎる
111 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 15:15:29.81 ID:2Qh7nQDO
>>106
だよな
番外個体は嫉妬しないのか気になるな
112 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 22:51:38.31 ID:ItsZUoAO
この段階で番外個体が嫉妬するかどうかは展開次第だな

しかしこのSSのキャラはみんな可愛いな!
おかげで俺の一方通行がいろんな意味でヤバい
113 : ◆3vMMlAilaQ :2010/11/30(火) 21:13:19.87 ID:KQczxLQ0
こんばんは、毎回レスが嬉しくてにやけてしまうwwww本当にありがとう

ネタバレとかじゃないけどご存じの通り番外個体は今意中の人とハッピータイムだからなぁ
嫉妬とかは……さてどうでしょ?

それから番外編になりますが、明日投下できそうです
未読でも本編には影響ないと思うけど暇な時にでも眺めてくれると嬉しいんだよ!

こんな超駄文に付き合って貰って超恐縮です、おかげでこれからも超頑張れそうです
では、ぐっない
114 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 01:56:37.33 ID:edqzrIAO
ハッピータイムと聞くと性的な意味にしか聞こえないのは俺が馬鹿だからなんだろうな
楽しみにしてる
115 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 03:25:16.44 ID:Slsijzko
>>114
大丈夫。
馬鹿なんじゃなくて、エロいだけさ
116 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 10:46:00.53 ID:edqzrIAO
>>115
じゃあここにいるやつら全員の共通認識なんだな、安心した
117 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 11:17:47.01 ID:THz9nTg0
むぎのんのかっこよさに全俺が惜しみなき拍手を送る
118 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/01(水) 22:15:22.84 ID:H8Drabs0
レスありがとう、毎度お馴染みにやけ面でお送りします


『番外編/とある隣人の壁に耳あり障子に目あり』
・だらだらぐだぐだな感じでとある方々が駄弁る短い番外編です
・未読でも本編は十分理解可能かと思われます
・へたっぴなのはご愛敬

では、余興として暇つぶし程度にお楽しみ頂ければ幸いです
119 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/01(水) 22:17:06.89 ID:H8Drabs0

番外編・とある隣人の壁に耳あり障子に目あり



ピンポーン、となんだか間抜けなチャイムがなった。
時刻は午後8時少し前くらいか。
壊れてしまった時計の針は4時20分を指してだいぶ前から進んでいないけれど、鍛え上げた体内時計と付けっぱなしのテレビの番組で予想する。


「はいはーい、今でます」


セキュリティの為にとわざわざ購入したモニタを確認することもなく、12歳くらいの小柄な少女が無警戒に対応した。
彼女の職業柄、扉を開けたらいきなり鉛弾、なんてことも十分にあり得るのだが、
それに対する危機感のなさは来客が誰か予想がついていることと、それから彼女の能力にあるだろう。


がちゃり、とドアを開けると、冷たい風が吹き込んできた。
そして目の前にいたのは、やはり予想通り――

ストッキングに覆われた足。小さな整った顔を覆うようにしている栗色のふわふわした髪。
片手には秋物の薄手のコートをかけ、大きめの紙袋まで持っている。

小さな少女の所属する組織、『アイテム』をまとめる学園都市第四位の麦野沈利がそこにいた。


「はぁい、絹旗。4日ぶり、かしら?」

「超正確には最後の任務が超完了したのが午前0時をまわっていたので、3日ぶりが超適切ですけどね。さ、超寒いんで上がってください」


ややおかしな話し方をする、絹旗と呼ばれた少女が麦野を招き入れる。


「超近くまで来た、とか言ってましたけど」

「あなたの家がここら辺って前に聞いたことあったしね。……超近く、とは言ってないけど、でもまぁ、確かにそうだったわ」


実を言うと、一方通行の部屋を出て直ぐに絹旗に電話したところ、彼女の部屋がなんと一方通行の部屋のお隣だったのだが、敢えてそれを伏せる麦野。
これでお互いを知ってしまうとご近所付き合いに支障が発生しかねないし、と麦野が一人思案を巡らせた結果である。


「そうそう、麦野、超聞いてくださいよ。絹旗最愛、最近の超マイブームってやつなんですけどね……」


粉末状のココアにお湯を注ぎながら、絹旗が言う。
甘ったるい臭いがして、暗部の人間といえどもやっぱり絹旗は超子供だわ、と麦野はうっすら微笑んだ。
120 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/01(水) 22:18:46.20 ID:H8Drabs0

「うちってほら、見ての通り超普通のマンションじゃないですか」

「そうね、ちょっと狭いくらいじゃない? あなたならもっと高いところも余裕そうだけど。……ん、いただきます」

「む。狭いとは超心外ですけど。ま、私にはこの位が超落ち着くんですけどね。
 それより、マンションみたいな集合住宅に超付きものの欠点、知ってます?」

「前の人の怨念、とか?」

「どうして超そっち系なんですか、この学園都市ではそんなオカルトは超あり得ませんって。
 まぁ色々あるんですけどね、強いて言えば騒音とか」

「あぁ、上の人が五月蠅いとか、隣人の音楽が五月蠅い、とかね」


麦野がそう言うと、自分のココアをくるくるとかき混ぜていた絹旗がパッと顔を上げた。
……ニターっと、ちょっと怪しい笑みが浮かんでいる。


「うちの場合、そっち側の隣人が超! 五月蠅いんですよ」


絹旗がそう言って指さしたのは、よりにもよって、一方通行達住む部屋だ。
絹旗は麦野が微妙に困った表情になったのに気付かずに、壁際に移動すると、壁にぴったりと耳をくっつける。


「ちょっとテレビの音下げて貰えます? ……あ、超オッケーです。
 ……あー、超残念ですけど今は超一人みたいです。テレビの音位しか超聞こえませんし」

「……あんた、いっつもそんなに悪趣味なことしてるんじゃないわよねぇ?」

「悪趣味とは超失礼な。いやぁ、どうも男女が超同棲してるみたいなんですけどね、超生活音が聞こえてくるんですよコレが」
121 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/01(水) 22:20:00.65 ID:H8Drabs0

「……ふぅん」

「あ、その顔は超興味ある顔ですね。ふふーん。聞きたいですか?」


べっつにー? と答えた麦野だが、彼女の性格上、あの二人が日々どんな暮らしをしているのかが徐々に気になってくる。
あんなことやこんなことしてんじゃないでしょうねぇ? なんて、本人達が知ったら憤慨しそうなことを想像しつつ、


「聞いてあげるわ、悪趣味に付き合うのは気が引けるけど」

「麦野も超素直じゃありませんね。ま、そこが超可愛いんですけど。
 で、ですね。実は隣人、超下品で聞いてるこっちが超赤面モノなんですよ。まず放送禁止ワードを超用いた会話に始まって……」


絹旗が超下品です、なんて語り出す。何故か自分が言われているような気になって、麦野は妙に苛立ってしまう。


「……そんくらい普通じゃなぁい? あの位の歳だとさ」

「あの位の歳、って、麦野、超知ったかぶりですか? まぁ超高校生っぽいですけど。
 あとは時々、超五月蠅く廊下を走ったり超凄い勢いでドアを閉めたり、どうも気分に超ムラがあるみたいですね」


気分に超ムラがある、というのも、どうも麦野の癇にさわる。


「……そりゃ人だから仕方ないでしょうが」

「そうですかねぇ? で、そうそう、こっからが超重要なんですけどね、その超下品野郎共に今日、超超! 下品な客が来てたんです」
122 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/01(水) 22:22:56.68 ID:H8Drabs0

絹旗はテンションが上がっているようで、一人でマシンガンの如く話し続ける。


「その超お下品最低女! 玄関前でレ、レレ……ともかく、超下品で超最悪な、レで始まってプで終わる言葉を超五月蠅く叫んだんです!
 おまけに超ケンカっぽいこと始める始末ですし」

「……、それわた」

「超あり得なくないですか!? しかもその後は隣が何時にも増して超五月蠅かったですし、さっき外に出た時会ったご近所さんも超迷惑がってました。
 そうそう、これは超関係ない気がしますが、その後正面の看板が――」


そこで絹旗の言葉が途切れた。麦野の様子がおかしい事に気がついたのだ。


「? 麦野、どうかしましたか? ……あ、もしかして超不快な話だったので超気分が悪くなっちゃいました?」

「……絹旗、よぉく考えてみなさい。あなたに電話した後、どうして私がこんなに早く来れたと思う?
 それからその溶けてた看板、あんたが超超! 知ってる能力で溶けた様に見えなかったかしらねぇ?」


絹旗は少し考えて、それから気付いてしまったらしく、ひっ、と息を呑んだ。その顔からささーっと血が引いて行く。


「む、麦野、ここここれはこれはですねそのそのえっと……超ごめんなさぁああああい!」


彼女が土下座モードに移行した時には既に遅く。
麦野は青筋を立てていて、しかしそれでいて顔に満面の笑みを浮かべていた。


――オ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね


その後すさまじい叫び声がマンション中に響き渡り、彼女の隣に住む二人組みの他に新たにご近所さんのヒソヒソ対象が増えたこと、
真っ白な隣人がうるせェな、と一人呟いたことはまだ誰も知らない。

123 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/01(水) 22:31:24.97 ID:H8Drabs0
宣言通り短く終了です

それより改めまして、読んでくれてる方々どうもありがとうスペシャルサンクス
次回からまた本編投下に帰還しますので、よろしくお願いします

……次回こそ、番外通行好きなみんなが…………ってなるような展開に持ち込みたい
HOWもしくはWHOなんでもあり、不幸になったり幸せになったりかは想像におまかせします
分かりにくくてすまんだけど

書き溜めが間に合う様に頑張らせてもらうんだよ! では、おやすみなさい
124 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 22:52:50.02 ID:2DrbtEAO
き/ぬはたェ……
125 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 22:58:28.28 ID:brAB.cwo
え?HOMOだって?
126 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 23:20:10.12 ID:riH6m/6o
いよいよ番外通行のターンか
超期待してます
127 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 00:03:41.79 ID:c12j6Ik0
番外編噴いたwwww

一通さんと絹旗いいよね
128 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 00:13:53.34 ID:M12rsd6o
もう絹旗とくっついちゃえよ
129 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/02(木) 00:30:02.04 ID:9niZfsY0
番外編って番外(個体)編かと思ってた…
普通に面白かったけど、早く本編も読みたいよぅ
130 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/03(金) 23:21:45.09 ID:hB/1Rgw0
こんばんは
風が強いーもうすぐ雪降るのかな

レスありがとう、少し投下。10レスくらいかな
その先も少し溜めてるけど一応みんなの意見聞こうと思ってるんでよろしく
では、少々お付き合いください
131 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/03(金) 23:28:09.08 ID:hB/1Rgw0

「……あ、このケーキおいしい」

「ここのスイーツは人気だからね。テイクアウトできるみたいだし、後で見てく?」


好きな人が目の前に座っていて、自分と一緒にフレンチを食べていて、そして自分と会話している。
夢でもおかしくないし、それでも十分すぎるこの状況を番外個体は楽しんでいた。

最近出来た最新のプラネタリウムでは星座を教えて貰い、ビルのフロアを丸々一階分使ったアクアリウムでは泳いでいる魚を初めて見た。
最初こそがちがちに緊張していた身体も、今こうして何気ない会話ができる位までリラックスできている。

番外個体はそういえば此処に入って直ぐの所にケーキなどが並ぶショーケースがあったことを思い出しつつ、


「……確か、コーヒー豆もあったはず……」

「コーヒー派なの?」

「あ、ミサカじゃなくて、その……知り合い、かなぁ、まぁソイツがコーヒー中毒で」


曖昧に答えつつ、番外個体はふと違和感を覚える。


(知り合いねぇ……何とも微妙な言葉というか。にしてもこのミサカとあの人ってよく考えると凄い組み合わせだよねぇ)


ぼんやりとそんなことを考えている番外個体に、目の前の男が話し掛ける。


「10時なりそうだけど、大丈夫? 水族館でゆっくりしすぎたかな。そろそろ出ようか」

「あ、凄い美味しかったです……っと、話があるので、外出たら聞いて貰えるかな?」


緊張で敬語が混ざったおかしな口調になりつつ、でも、言えた。



思いを、伝えよう。
132 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/03(金) 23:30:55.15 ID:hB/1Rgw0

時刻は午後10時45分といったところか。

麦野が帰ってからずっと付けっぱなしのテレビは、先程から新しくできたとかいうプラネタリウムの特集を放送している。
デートコースにおすすめなんて言っているけれど、デートにこんな所を選ぶ男はとんだメルヘンチックなキザ野郎だと一方通行は思いつつ、
光熱費とか大丈夫か、と今更気になってテレビを消した。

最近『家計』という、少し前の彼だったら一生縁の無かったような言葉を気にするようになった一方通行。


(ハッ、この俺が光熱費気にしてちまちま節約なンざ、笑えねェ)


少しズレた所で人間味が増した、と一方通行は自嘲した。


テレビの消えたリビングが静けさに包まれる。
基本的にテレビのボリュームが高め(と思うと突然低くなったり)で、時折壁にごん、
と何かぶつかる様な音や、そうそう今日は絶叫などと生活音が少し気になる隣人も、今日はもう寝静まったのか物音ひとつしない。


静寂の中、頭の中で反響するのは麦野の言葉。



「あんた、ミサカのこと好きでしょ」
133 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/03(金) 23:33:39.55 ID:hB/1Rgw0

『好き』という感情を、一方通行は知らない。分からない。


好き。物事や人が気に入って心が強く引かれる思い。
対義語、嫌い。その物事や人がいやで、関わりたくないこと。


学園都市最高の頭脳を用いても、そんな当たり前の、誰でも知っているようなことしか出てこない。

そしてその情報と照らし合わせると、確かに自分は番外通行が『好き』で間違いはないだろうと一方通行は思う。
その対義語である『嫌い』だとしたら一つ屋根の下で一緒に暮らしたりなんかしないし、
やはりそれをしているとなると、『好き』を意味する『気に入って』いないと共同生活なんてできたものでない。

……グループの連中や憎たらしい第2位、木原数多なんかとは死んでも同じ釜の飯を食べたくないし。


けれど、だけど、でも、しかし。

ただそれだけの『好き』だとしたら、どうして、


「…………クソったれ第四位、言うだけ言って食うだけ食って例も無しに帰りやがって」


ふと、床の上に乱雑に置かれた週刊誌が目にとまる。
『熱愛発覚!? LIKEじゃなくてLOVEだった!』、表紙に書かれたそんな見出しが気に入らなくて、思い切り踏みつけた。


「likeだのloveだの、考えンのもめんどくせェ」


そうは言いつつも、


……分かってンだよ、オマエの言いてェ『好き』がL××Eじゃねェって事くらい


ひしげた雑誌を睨みながら、とある超能力者へ声を殺して。


…………俺は、




がちゃり。
聞き慣れた音が微かに聞こえた。
鍵を掛けないでおいたドアが、開いた音だった。
134 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/03(金) 23:38:19.42 ID:hB/1Rgw0

そろりといった感じで、番外個体がリビングに入ってきた。
手には紙袋とコンビニの袋を持っている。


「……静かだったからいつもみたく寝てるのかと思ったよ。うひゃひゃ、[田島「チ○コ破裂するっ!」]中だったなんて、ごめんごめん」


ソファの上にいる一方通行を見て番外個体はニヤニヤしながらそう言うと、袋を2つ、テーブルの上に置く。
ごとん、と鈍い音がした。
何も言わずに俯く一方通行を、番外個体が不思議そうな顔で見る。


「どうしたの? 何かいつものイカれた感じのテンションがどっかに行っちゃってるけど。
 ……あ、もしかして一発出した後、」

「別に。それと[田島「チ○コ破裂するっ!」]とかしてねェしつーかオマエは俺をいつもイカれた感じとか思ってやがったのかァ?」


番外個体をロクに見れなかったことを誤魔化す様に口早に言う一方通行。
実を言うと、麦野との思い返すと反吐がでそうな会話の応酬や、後になってみると恐ろしく羞恥に悶えたくなるようなことを
割と真面目に考えていた為に、彼女の突然の帰宅に対応できなかったというところだろうか。




……俺は、…………


答えはまだ、出ていない。
135 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/03(金) 23:42:11.76 ID:hB/1Rgw0

「つーかオマエ、」
「コンビニで」


番外個体と言葉が被る。


「……お酒、買ってきたから飲もうよ。ミサカのおごりだよーん?」

「……そンなら冷蔵庫にまだ少しあっただろォが」


番外個体に答えながら、彼女ががよく分からないと一方通行は思った。
彼女は今、喜んでいるのか泣いているのか笑っているのか。表面だけの情報では掴みきれない。

帰宅そうそう下ネタをかまして、下らない憎まれ口を叩く番外個体はいつもと何ら変わりない。
上手くいかなかった日の様に沈んだ様子も一切なく、……どちらかといえば、何か良いことがあった日の様な振る舞いな気がしなくもない。

思いを伝えて、それを受け入れてもらったか。はたまた、先手を打たれたか。

いずれにしても、一方通行の心臓が不可解な痛みをいつも以上に訴えてくる。
それに耐えられなくて、コンビニの袋の中から適当に缶を一本掴んでプルタブを開けて液体を呷った。


「……ンだァこれ、甘っめェ」

「あなたは酎ハイ嫌いだって前言ってたじゃん。ミサカは日本酒とか飲めないしこっちの方が……って、ちょっとぉおおお!?」


番外個体が一方通行の握る缶を見て叫び声をあげる。
136 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/03(金) 23:49:26.38 ID:hB/1Rgw0

「それミサカが一番飲みたかったやつだっつーのぉおおお! 絶対わざとでしょ!?」

「あァ!? ならもっと早く出しとけよオマエのお楽しみなンて知ったこっちゃありませェン……ってオイやめろ零れるっつのォ!」


ぐいぐいと缶を引っ張る番外個体。ちゃぽんちゃぽんと、缶の中で液体が揺れる音がして零れないかと一方通行を不安にさせる。


「分かったからまずオマエも手ェ放せ! 零れたら面倒だろォが」


渋々といった様子で手を放す番外個体。一方通行は争いから一時的に離脱した缶をテーブルの上に置く。
番外個体はそれをすぐさま手の中に納めると、缶の中を覗き込んで、


「期間・数量限定のスペシャルミックス。……もう半分しかないんだけど。あなたミサカのこと他の妹達より粗末に扱ってない?」

「悪かったってマジで。買って返しますっつえば良いンだろ?」

「……ミサカ、誠意の無い謝罪に色んな所が勃っちゃいそう」


番外個体は顔を歪めてそう言いつつ、……ピンクの派手な缶を口元へ、そして直ぐにぐいっと。


「……ば、オマ、……!」

「ん、あっれぇ? もしかして第一位様は間接きっすで照れちゃうような童貞クンだったのぉ? ぎゃは、こりゃ全ミサカに配信決定かねぇ!?」

「ハァ!? 何勘違いしちゃってるンですかァ!? オマエはアレか、頭の中が花畑のおめでたい馬鹿かっつの!」


『どーてい! どーてい!』と番外個体がはやし立てる。
そういったやりとりがご近所さん(主に隣人)の噂のタネにされていることも知らずに、深夜の宴はどんどんヒートアップしていく。
137 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 23:55:01.53 ID:IYNX6dco
超どーていなんですね!
138 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/03(金) 23:55:24.54 ID:hB/1Rgw0

気付くと、辺りに酎ハイの缶やらつまみとして食べた菓子類の袋が散らばっていた。
時刻を確認すると1時。番外個体とひたすら馬鹿な会話をしながらハイテンションで飲みまくって、いつの間にか寝ていたらしい。


「……クソが、飲み過ぎたか。つゥか一応学生の身でこンな事して通報されたら面倒だよなァ。
 大体番外個体だって酒買える歳じゃねェのに何しやがってンだか。
 ……あの格好だと店員の目は誤魔化せるかもしンねェが、今日のお相手は何やってやがる? ちゃンと此処まで送って来たンだろォな?」


一方通行は一人で呟きながら、傍に転がっていた番外個体を起こしにかかる。


「オイ、起きろ。寝るンなら自分の部屋で寝ろっつの。あとその服オマエのじゃねェンだから汚すンじゃねェぞ」


身体を軽く揺すっても効果が出ないため、軽く頬を叩いてみる。
結果。上に同じ。


「面倒臭ェ……ったく手間のかかる野郎だ。……っと、重いンだよオマエ!」


仕方なく番外個体を運ぼうとした一方通行だが、彼の細い手足では痩せている番外個体すら運べそうになかった。
彼女が聞いたら問答無用で攻撃してきそうな暴言を吐きつつ、電極のスイッチを能力使用モードに切り替える。

今度は軽々と持ち上げることができた。
丁度お姫様抱っこの様に持ち上げられた番外個体は、それでも起きる気配はない。

彼女の部屋まで運び、静かにベットに降ろすとそそくさと退散する一方通行。
滅多に彼女の部屋には入らないが、仄かに甘い香りが漂うシンプルな、それでいてやはり『女の部屋』である此処はどうも落ち着かない。


リビングまで戻ってきてミネラルウォーターを飲もうと冷蔵庫を開けようとして、


「……何だこりゃあ」


……酔った勢いとは恐ろしい。
最近購入したばかりの小型の白い冷蔵庫には『第二位垣根提督! 俺のダークマターに常識は通用しねぇ』の文字が。ご丁寧に油性マジックででかでかと。
139 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/04(土) 00:02:18.36 ID:hWvG/zw0

酔いを醒ますことと、新しい冷蔵庫に不謹慎な落書きがあったこと(しかも恐らくお手製)
を出来れば忘れ去りたいという願いを込めてシャワーを浴びた一方通行。
それでも酔いは完璧には醒めていないし、冷蔵庫もやはりそのまんまで盛大に溜息をついた。

寝巻きにしているジャージに着替えて自分もそろそろ寝ようと思い、番外個体が吐いたりしていないかと一応覗きに行く。


番外個体が寝ていたとき、廊下の灯りで彼女が目覚めないように配慮しつつドアを少しだけ開けて、



番外個体が、膝を抱えてベットの上に顔を伏せて座っていた。



廊下から差し込んだ一筋の光に番外個体の頭が照らされる。
それでこちらに気がついたのか、顔を上げた番外個体の目は、真っ赤に充血していた。


「……どォした。オマエ、」


泣いてンのか。

戸惑いながらもそう言おうとして、しかし彼の言葉は声になる前に消えてしまう。


「……××、さん?」


番外個体の消えてしまいそうな小さな一言。何かを堪えるような、震える声。
しかし、それでも深く深く、一方通行に突き刺さる。


「遅いよ××さん。ミサカは待ってたのにさ」


とろんとした、番外個体の目。
酔いが醒めていない目だった。発せられる声もどこか舌足らずで、子供のようだ。
コイツは酔ってる、そう分かっているのに。


……そんなにも、あの男が恋しいか。


ズキズキと、お馴染みの痛みに嘖まれながらも、静かに彼女の部屋を後にしようとして。



「……××さん、何処行くの?」
140 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/04(土) 00:10:42.04 ID:hWvG/zw0

「……っ、」


さびしいよ。そう呟かれて、一方通行の身体が強張る。
柔らかな音がしたと思ってゆっくりゆっくり振り返ると、番外個体がベットに再び横になっていた。


「……俺は、」


出ない。
言葉が出てこない。


俺は、オマエが求めてるヤツじゃねェンだよ
俺は、きっとソイツの代わりにはなれねェンだよ

俺は、俺は、俺は、


廊下の冷たい空気がひやりと喉を干上がらせる。
視界の端に映るのは、どろどろに溶けたアロマキャンドルの残骸。
普段焚いているのか、部屋の中は微かに甘い香りが漂っている。

しん、と雑音が一切消えた、気温の低い空間の中で、ふたり。



理性はあったか。
感情を抑制することはできていたか。
己が過ちを犯そうとしていることには気付いていたか。


頭の片隅に浮かぶのは、崩壊の二文字。
一歩、彼女に歩み寄る度に、これ以上進むとどうにかなってしまうと警笛がなっているにも関わらず。

しかし、歯止めが利かない。
141 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/04(土) 00:17:10.81 ID:hWvG/zw0
スイーツ(笑)

今日の投下は以上です、スイーツ()は××さんのご愛敬

と、ここで読んでくれてる人に聞きたいんだけど、この後どうすべきか
というのは一応先は少し溜めてるんだけど、でも性描写をいれても大丈夫かな?
モロにとかじゃなくてさらーって感じに軽くなんだけど、入れちゃっても……良いよね?
142 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 00:19:14.15 ID:u6ABkMAO
濃くても大丈夫だ、問題無い
143 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 00:32:51.87 ID:SF7qaYQo
一向に構わん
144 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 00:41:37.83 ID:ZpxHnYwo
GO
145 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 00:45:15.61 ID:Mlh1RUIo
はやくしろよ、風邪ひくだろ
146 : ◆3vMMlAilaQ :2010/12/04(土) 01:18:30.67 ID:hWvG/zw0
書きためしてたけど寝ることにする
おやすみー、あと軽くだから過度な期待は風邪のもとです
147 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 01:30:08.33 ID:gGHBjNQo
おあずけだと?

なめてやがる、余程愉快な死体に云々
148 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 03:19:02.19 ID:Io7hsI2o
脳内補完してるが>>133でちょっとクスリときて>>134でやられた

メ欄にsagaでオナニーとか置き変わらなくなるぞ
149 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 09:57:00.14 ID:rZAoi.AO
粉雪

っていい歌だよね
150 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 11:16:19.17 ID:6.eP6YAO
やはり、切ないな。
いや、そんな経験したことないけど。
151 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 21:47:30.66 ID:RmNriEAO
一方さんは強がって泣いたりしないだろ?
だから俺が代わりに泣いてやるんだよ、とミサカは強い口調で語ります。グスン
152 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 09:11:56.17 ID:oTe6aHUo
こないぃぃぃぃあぁぁぁ
153 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 11:12:17.20 ID:/haQp.AO
こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
154 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 19:58:58.49 ID:5fY6JHw0
待っていてくれる人がいるっていうのが凄い嬉しくて申し訳ない
これから投下します

ただ性描写はホントにそのまんま「性描写」って感じの素っ気ないものだから恐らく物足りないかもw
なかなか難しいし書いてて恥ずかしいww

>>148
ありがと、sagaしようとは思ってたんだけど頭の容量が足りてなかった
日頃から入れておけば良いということに気付いた

粉雪は確かに良い曲だww

では、少々お付き合いくだしあ
155 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:01:02.43 ID:5fY6JHw0

真っ暗な部屋の中、静かに静かに、絡み合う。
聞こえてくるのは微かな水音と、ふたり分の吐息。


「……っ、ぁあ、ふぅっ、」


熱を帯びた番外個体が小さく声をあげて、身体を反応させた。

艶めかしいそれが、彼女の全てが、一方通行をかき乱す。

ぐちゃぐちゃに、ドロドロに、乱れて乱れて乱されて、それでも冷静を装って。



「…………大丈夫か?」


拒絶しない番外個体をみて、一方通行は彼女の髪を壊れ物でも扱うかのように撫でた。


「……痛かったらすぐやめるから言え」



――引き返すならば最後の機会を、一方通行は蹴り捨てて、



初めて感じるその痛みに、番外個体が僅かに顔を歪ませる。
それでも何も言わなかったのは、単に快感を欲する為か、声を出すことすら億劫な為か。



それとも



「××、さん、っぁ」


涙を零しながら、そこには居ない誰かを求めて、そして別の誰かをその人に重ねている為か。


それだけで一方通行の頭の中は一瞬真っ赤になって、それから真っ白になって、ちかちかと視界が点滅しているような気がしてきて、



……口づけなど、できる筈がなかった。
156 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:02:17.72 ID:5fY6JHw0

……重い。

腹の上に何か重量を感じて、一方通行はうっすらと目を開けた。


「……、あ?」


見ると、番外個体の片足が腹の上を横断している。
成る程、どうも圧迫感があったわけだ。


……番外個体の片足?


何故自分はこんな所で番外個体の隣で寝ているのか。
どうして番外個体は足を晒しだしていて、タオルケットからは肩が剥き出しに見えていて、更には服が辺りに――

ぼんやりとする頭でそこまで考えて、一方通行の頭は一気に冴えた。


「…………っ、!」


どうするどうする夢だったら早く醒めろ醒めろ


昨夜の乱行を思い出し、頭を抱えたくなる一方通行。
焦って動揺して真っ白になりかけの頭を必死に働かせて、取り敢えず番外個体の足をどかして起き上がった。

彼女を起こさない様に部屋を出てリビングに避難する。
途中で冷蔵庫にぶつかったりコードに足を引っかけたりしつつ、なんとかいつものソファに沈み込んだ。
157 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:03:51.03 ID:5fY6JHw0

「……クソッたれが」


弱々しい声で呟くが、どうにもならない。
できるものなら得意のベクトル操作で時間の流れを巻き戻したいが、そんなことができるならとっくの昔にしている。
既成事項を覆すことは不可能なのだ。


自分は何てことをしでかしたのか。
あの時は番外個体もそれを望んでいたが、それは酔いによって思考がおかしくなっていたからで――


(そンな番外個体に手ェ出したの最低のクズ野郎は何処のどいつだ? それじゃァ第四位の言うレイプと変わりねェだろォが)


しかも当たり前だが番外個体は初めてで、それを不本意に奪われるということは不愉快に決まっている。

涙を零してとある男の名前を呼びながら艶やかな声をあげる番外個体を思い出して、一方通行の心臓が、思考が、おかしくなってしまいそうになった。



確かに、酔いは醒めきっていなかった。
シャワーを浴びても頭の中は酒の影響でぼんやりと判断力などといったものが鈍っていたし、下らないドラマでも酔った勢いで、というのは結構ある。

けれど、理性はあった。
あの空気に呑まれてしまいそうになって、結果抗えなかったけれど、しかしそれでも理性は少し頭の中に残っていて、警笛を鳴らしていた。

酔った勢い、なんて言葉は逃げでしかない。
158 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:05:03.33 ID:5fY6JHw0

己の愚行を思い出して、一方通行は恐怖する。

ロシアで番外個体と対峙した時よりも恐ろしい、逃げ出してしまいたくなるような。


彼が一番恐れていたことは、番外個体との関係が崩壊してしまうことだった。


一方通行を精神的にボロボロにした番外個体と、番外個体を肉体的に破壊した一方通行。
本来なら憎しみあって、未来永劫分分かち合うなんて出来ないような二人が、それでも一つ屋根の下で一緒に暮らして築き上げてきた『何か』。


世間一般では絆などと称されるそれを、今更断ち切られてしまうことが、何よりも恐ろしくて、不安でならない。


早朝の静けさの中で、天井を仰ぐ。
後悔と後ろめたさに押しつぶされそうになりながら、呟いた。

例え、番外個体との関係が崩壊して、彼女が自分の前から姿を消したとしても。


「……馬鹿が。自業自得だろォが」



やるせない表情でちらりと横を見やると、視界の端に散々踏みつけられてひしゃげてしまった雑誌が映る。
昨夜一方通行を苛立たせた表紙の見出しが、何故だか今日はとてもおかしくて堪らない。

一方通行は自嘲的に唇の端を歪ませて、理解する。



あァそォか。



「俺は、俺には、」



番外個体が必要なンだよ、ちくしょうが。
159 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:05:59.20 ID:5fY6JHw0

「……だるい」


一方通行がニュースを見つつ缶コーヒーを飲んでいると、番外個体が起きてきた。
のろのろと歩いてきて、テレビ近くの定位置に座り、テーブルに突っ伏す。
朝に弱い番外個体のいつもの行動だった。

起きるなり事態を悟った番外個体に叫ばれて殴る蹴る罵倒の嵐かと考えていた一方通行は、予想外の事態に戸惑う。


「……、」


ぐだーっとしている番外個体に何と声を掛けて良いのか分からず、少しの間彼女を見ていると、


「…………ミサカは、初めてだったのに」


不意に彼女が口を開いた。
一方通行の体温が一瞬にして奪われて、胸が早鐘を打つ。


「……初めては、好きな人とって決めてたのに。このミサカがそんなこと言っても笑われるだけかもしれないけど」


番外個体が矢継ぎ早に言葉を放つ。


「そこまで最低なクズ野郎だと思ってなかったし、正直、……信頼は、してたんだけどね」


言葉一つで正確に一方通行の胸をえぐってくる。


「……結局あなたは、何も変わっていない」


顔を上げた番外個体は、うっすらと瞳を濡らして、鋭い眼光で一方通行を真っ直ぐ睨んでいた。
そして、静かに静かに、低い声で呪うように。



――妹達を惨殺してた時から何ひとつ。
160 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:07:51.29 ID:5fY6JHw0

「…………悪かった」


一方通行がやっとの思いで口を開く。
言い訳する気など更更なく、許されようとも思わない。


「俺はオマエの言うよォに最低なクズ野郎だし、オマエがしたいならどンな事されても構わねェ。
 勿論そンなことで許されようとは思ってねェし、ただ……本当に、悪かった」


馬鹿だなと思った。
最初からこうやって、彼女が起きてきたらすぐ土下座でもすれば良かった。

利己的だとは思うけれど、……それでも、彼女の口からあんなことを聞く前にそうしていれば、少しは何か、変わっていたのだろうか。



「……本当に、どんな事でも?」

「あァ」

「……ミサカが殴っても、電撃放っても、反射しない? 死ねっつったら死んでくれる?」

「当たり前だろォが」

「……ミサカが出て行けっていたら出て行く?」

「……出て行く」


つまり彼女は、それを望んでいるのだということを、
悟ってはいたものの、それでもやはり、辛い


「…………じゃあさ、ミサカがラビオリ食べたいって言ったら作ってくれる?」

「作る……、ラビオリ?」


不意に出てきたそんな単語に、一方通行が眉をひそめた。
番外個体はそれを見て、



「ぶっひゃ」



顔を、思い切り歪ませる。
161 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:09:02.37 ID:5fY6JHw0

「あひゃひゃひゃひゃひゃ! なんだそりゃあ!? ふっざけんじゃねぇええー!」

「……は?」


いきなりテンションが切り替わった番外個体を前に、一方通行はどうしたら良いか分からない。
ただ、あまりのショックでもしかして精神崩壊してしまったのだろうか、と本気で心配する。


「オマエ、どォした? 落ち着け、マジで大丈夫か?」

「その言葉そっくりそのままお返ししたいんだけどぉおお!  つーかすげぇ! 馬鹿の真顔ちょーすげぇえええ!」


両足をジタバタしながら、目尻に涙まで浮かべて腹を抱えながら笑い転げる番外個体。


「ふ、あひゃ、……当たり前だろォが。だって……ぶはぁっ、ひゃひゃひゃ、ひゃぁっ……あれ、横隔膜おかしく、ひゃ、なったかな?」


番外個体はごろごろ転がるのを止めて、上半身を起こ――そうとして、丁度真上にきていたテーブルに頭を強かにに打ち付ける。


「あでっ。……こほん。……あなたが出てったら、死んだら、ミサカは生きてけない」

「……オマエ、何言ってンだよ。俺は、」

「ふひゃひゃ、ちょっとイジメすぎちゃったぁ? 
 そんなしおらしいツラ見せられたらミサカでも罪悪感感じちゃうんだけど。あぁんっ、ってこれは別の感じるか、ぎゃは」


ニヤニヤとする番外個体を見て、一方通行がやっと悟る。
いつもの様に溜息をついて、



「……オマエ、担いだなァ?」
162 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:11:11.20 ID:5fY6JHw0

「何のことかなぁ?」


そっぽを向いてとぼける番外個体。ご丁寧に下手くそな口笛つきだ。


「だってミサカの初めて奪ったのは誰かにゃーん? まぁミサカも酔ってたから人に言えないけどね」


番外個体は人の悪い笑みを浮かべつつ、


「ぎゃは、終始笑い堪えるのに必死だったよ。目薬までしたし、びっくりした?
 どんな事でもするって、まさかあなたの口からそんな言葉が出てくるなんてねぇ」

「うるせェよ。つーかオマエも俺がいないと生きてけないとかほざいてたじゃねェか」

「んー? ご飯とか家事とかそういう面から言ったんだけどぉ? けけっ、第一位様は童貞卒業しても思考がお子ちゃまだわぁ」

「……、」

「まぁこれでおあいこってことで。あ、ラビオリはよろしく頼んだから。
 ……にしてもコイツ、年収どのくらいなんだろ? 下手な演技するだけで良いご身分だよね」


番外個体はそう言って綺麗にまとめたつもりなのか、ニュースに映る芸能人に対してしみじみと嫌みを言っている。

けれど、一方通行は腑に落ちない。

こんなことで、自分が番外個体にしたことが許されるなんて、思ってはいけないと思う。


……番外個体には好きな男だって居るのだから。
163 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:12:22.08 ID:5fY6JHw0

そんな表情をする一方通行を見て番外個体は何かを悟ったのか、


「……あと、昨日の時点で気づいてたと思うけどさ。ミサカふられちゃったから、あんまりシケたツラしないで欲しいんだけど」


あーミサカがフォローしてるよ偉い偉い。
照れ隠しのつもりなのか、番外個体はそんな事を言いながら続ける。


「それでヤケ酒してたんだけど、二日酔いでまだ少し頭痛いし」


番外個体はそう言うと立ち上がる。
どうやら冷蔵庫にお目当てのモノがあるようで、そちらから『何この落書き?』と驚く声が聞こえてきた。


彼女の居たところを見ながら、一方通行は考える。


最悪だ、と思った。
番外個体は振る舞いこそ明るいが本当は辛い筈だ。……なのに、自分は、



何を、安心している?
164 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:13:54.66 ID:5fY6JHw0
番外個体が戻ってきた。
二日酔いと言っていたのでてっきりミネラルウォーターかと思いきや、手には昨日の残りの酎ハイが握られている。しかも2本。


「ん、あなたも飲むでしょ? つーかあの意味分かんない落書き何?」

「いらねェし知らねェ。しかし朝から酒たァ、昨日の二の舞になっても知らねェぞ」

「男の性欲って怖ーい。それこそ勃っちゃいそう☆ ってヤツ?」

「そォいう発言控えろ」


一方通行は溜息をつきながら、飲みかけの缶コーヒーを呷る。


「ぎゃはは、麦のんといるとどうもね」

「それ以前からオマエは下品だった気がするけどな」

「……ミサカの処女」

「……悪かったって。けどオマエ絶対根に持ってンだろ」

「別にぃ? 処女膜再生手術なんてそこら辺で出来るしどうせミサカは人権もクソもないクローンだしねぇ、けけけ」


番外個体はそう言うと、酎ハイを開ける。ぷしゅっという音が響いた。


「自分を卑下してンじゃねェよ」

「おうおう言ってくれるねぇ。でも『妹達』を出来損ない乱造品って言ったのは何処の誰だったかにゃーん?」


番外個体が下品に笑う。
こんなのがコミュニケーションの一つなのだから、自分たちの関係はどこか歪だな、と一方通行は思った。
165 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:14:58.15 ID:5fY6JHw0

「……あーにしてもムカつくなぁあの男、思い出すだけでイライラしてくる」

「オイオイ逆恨みですかァ?」


一方通行は呆れたように言いつつ、それでも聞いてやることにする。


「ミサカはさぁ、頑張って、思いを伝えたよ」

「ン」

「けどさぁ、それに対する答えが……うん、どうもね」

「もったいぶってンじゃねェよ」

「…………『僕にはママがいるから付き合ったりはちょっと』」

「……は?」

「……」


黙り込む番外個体。
ヤケ酒の延長か、早くも2本目の酎ハイに手を掛けた。


「……つまり、アレか。俗に言うマザコン」

「……ミサカに見る目が無いって言いたいんでしょうが、分かってるっつーのぉおお!」

「まァこっぴどく振られたとかよりマシじゃねェの? 納得はいかねェだろォが」


二人揃って溜息。
今まで散々悩んだり、麦野を呼んで服を考えたり。その結果がこれか、という落胆の表れだった。
166 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:16:01.89 ID:5fY6JHw0

「だから、もうやめた。ミサカはあの人の事が本当に好きだったけど、まぁ仕方ないかな。
 これ以上思われても迷惑にしかならないだろうしね」

「……、そォか」

「ん。……あーバイト行きづらいなぁ」


やめた、というのは果たして彼女の本意なのだろうか、と一方通行は疑問に思う。
昨日の夜(といっても正確には今日)は例のマザコンの名前を切なげに呼んでいたし、……ただ、それを今問うのは酷だろうか。

番外個体が自分から言い出してこない限り、こちらから言及するのは控えておくことにする。


「あ、そういえば麦のんの服、洗濯して返さないとね」

「あァいうのって普通に洗って良いモンなのか?」

「んー、ミサカそういうの疎いからなぁ。クリーニング出せば一番確実だよねぇ、ちょっと行ってこよっかな」


番外個体はそう言うと、よっこらしょ、というかけ声のもと立ち上がる。


「ついでにミサカのシーツとかも出してこようかな。
 行為の名残がちょっと生々しい感じだし、後先考えないでぐちょぐちょのドロドロにしてたからねぇ」

「……オマエなァ、流石にちょっと引くっつの」

「けけっ、ミサカのお腹に出したあなたがよく言うよ」

「ちゃんと拭きましたァ。大体中に出すわけねェだろォが」

「どうもシーツに少し零れていた感じだったけどね」
167 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:19:05.28 ID:5fY6JHw0
下品な会話の応酬を終えると、番外個体は大きめのエコバッグを取り出してきた。


「これに全部入るよね。……あ、それから昨日持ってきたその紙袋」


番外個体はテーブルの上に置きっぱなしになっていた紙袋を指さす。
昨日の夜、コンビニの袋と共に持ってきたものだ。


「すっかり忘れてた、中マカロンなんだけど大丈夫かなぁ?」

「要冷蔵って書いてあるけどな」

「まぁ夜は暖房も入れてないし十分冷蔵されてたよね。……あ、これはミサカのマカロンだからね」

「分かってるっつの、誰がンな甘ェモン食うか」

「美味しいらしいよ、××さ、……もといマザコンのお薦めだし。……あの時はマザコンの片鱗もなかったのに……」


番外個体は若干不機嫌そうな顔つきになってブツブツと呟く。
暫くこの話題はタブーか、と一方通行は今後の方針を固めた。


「で、あなたにはこれ」


番外個体が不機嫌さを払拭し、明るい声で何かを差し出してきた。


「コーヒー豆なんだけど、あなたの為にミサカがわざわざ買ってきてあげたんだからね?」

「すげェ良い香りじゃねェかコレ。……けどよォ、非常に言いにくいンだが」

「何?」

「うちにはコーヒーミルやらドリッパーやらそォいうモンがねェンだわ」

「……、そういえば見たこと無かったけれど。ていうかじゃああなたは一端にコーヒー好きをやってたわけ?」

「違ェよ。面倒じゃねェかいちいち。それに比べて缶コーヒーは偉大だよなァ。安くて手軽、よくぞここまで進化してきたっつーか」


番外個体はコーヒーを褒め称える一方通行を、何か残念なものでも見るような目で見てから、


「……なんかちょっと怖いよあなた。じゃ、ミサカ行ってくるから」


と袋をぶら下げ、途中で番外個体は彼女の部屋に立ち寄って物を詰め込んだ後、ばたんと玄関のドアを閉めて出て行った。
168 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:22:15.84 ID:5fY6JHw0


とあるクリーニング店。
番外個体達が住むマンションから一番近いこの店は、学園都市に似合わない一昔前の店構えだ。
番外個体的には少し離れた最新設備のクリーニング店でも良かったのだが、どうも此処は丁寧に洗ってくれると評判らしいので利用してみる。

カウンターの後ろには沢山の洋服が掛けられていて、『外』では当たり前なこの風景も、番外個体からすれば新鮮だ。
こんなんじゃ受け渡しの時不便そうだし、大人しく他と同じくバーコード的なので処理すれば良いのにな、と思いつつ店内を見渡していると、


「あいよー」


古い店の奥から出てきたのは、見た目50代の男性だった。


「クリーニングね、んーと、全部出して貰える?」

「あ、はい」


言われた通りにエコバッグの中から全部出す番外個体。
一応畳んではきたものの、シーツも服もしわくちゃだった。
それを見て、店員(多分店長)の目が険しくなる。


「……君、男がいるでしょ?」

「はい? ……それって、昨日ふられたばっかのミサカへの当て付け?」


いきなりプライベートなことを聞かれ、番外個体の目つきも男同様険しいものに。


「へぇ、ふられた。ふーん、ふられたのぉ。ほぉん、そりゃそうでしょ、君みたいなビッチ」

「……はぁ?」


番外個体の前髪からバチンと紫電が散る。
169 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:23:58.71 ID:5fY6JHw0

「ちょっとお客さん、うちはそこらの科学かぶれと違って対能力者対策してないんだからやめて貰えます?」

「科学かぶれとか言うんなら学園都市から出ていきなよ。ていうかそっちが意味分かんない事言ってるし、ミサカは客なんだけど?」

「やだねぇ最近の若者は。っていっても君みたいなのは滅多に見ないけど。……で? ヤったんでしょ? ねぇ?」

「はぁ?」

「だってねぇ、この服のシワのつき具合は脱ぎ散らかしたものだしねぇ、シーツからも体液の臭いがねぇ」

「……しないけど」

「おじさんには分かるよぉ。……んー、よく見ると君可愛いねぇ。ふられたんだっけ? ヤリ逃げされたでしょ?」

「……、」

「おじさんが慰めてあげようか、なんて……あ、何処行くのー?」




「…………ていう事があったんだけど」

「何だァそりゃ」


番外個体がマカロンを頬張りながら、缶コーヒーを持って訝しげな目をする一方通行に報告する。


「あのジジイ、とんだセクハラ野郎だよ。ぎゃは、麦のんにチクったら潰しといてくれるって」


暗部の力をそこで使うか、と呆れたとある昼下がり。
11月がそろそろ終わりの今日も、空は青く澄んでいる。
170 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 20:31:11.29 ID:5fY6JHw0
んー、どうも支離滅裂な気がww何かあったら脳内補完を推奨します

ちなみに最後2レスは完璧にどうでも良い部分です、ちょっとした練習のつもりで書いたので
あと下品なこと書いてしまって申し訳ない、投下前に注意書きをすっかり忘れてた…

もう少しで次回分の書き溜めができそうなので、でき次第投下したいと思います
ちょっとだけ言うと夜に……なんだよ! 期待しないで待ってて欲しい
いつも読んでくれたりレスくれたり、本当にありがとう。じゃ
171 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 20:32:38.33 ID:.l0JLYgo
なんか××さんが誰なのかなってずっと悶々してたらあっさり退場めされた・・・ww
うーむ、二人の関係が未だにもどかしい……どうなっちゃうんだろ?
172 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 20:33:43.78 ID:Xf.4pUAO
乙!

次回も楽しみにしてます!
173 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 20:37:45.02 ID:ymxK.nko
乙、このミサワいい女過ぎ。

ジーンズとタバコが似合うね。
174 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 21:01:49.08 ID:v2dbzm2o
ちょっとクリーニング屋行ってくる……
175 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 21:08:17.66 ID:U9YdzGIo
欝展開かと思ってワクワクしてしまった自分にorz

しかしこれはこれで十二分に面白いっす。
ミサワさんいい女過ぎ。
そして一方さんの童貞臭がパネェw
176 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/05(日) 21:25:22.90 ID:IOzMZHQ0
おっつー

結局ミサワは酔ってるフリして一方通行を誘ったのか?
理解力低い俺に解説plz
177 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sagesaga]:2010/12/05(日) 21:54:40.63 ID:yHfq9c60
>>176
それを自力で理解出来れば君はフラグマスターになれるぞ
がんばれ
178 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 22:02:26.14 ID:JTZVa1Yo
なんか切ない気持ちになったのは俺だけか

番外個体がクリーニングおっさんに色々される本を探しに学園都市行ってくる
179 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 22:06:05.19 ID:U0DoEq2o
そんなものはない
180 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/05(日) 22:08:23.61 ID:5fY6JHw0
レスありがとう

××さんはあんまり関係ない人は出さない方が良しかなーと思って
此処で上条さんとか出てきたらうーんな人も居るだろうしww

>>176
次までまっち、敢えてイエスともノーとも言わないでおく

鬱展開は自分も好きなんだけどね、読んでくれた人には悪いけど『良い意味』で裏切れたなら嬉しいなー
ってことで分からないところは現時点で出来る範囲で答えるから無遠慮にどぞ
取り敢えず今日はおやすみー
181 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 22:30:07.62 ID:/haQp.AO
>>177
理解しすぎると都合のいい相談相手になれるぜ…ハハ
182 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 22:55:53.62 ID:ksm7pJo0


相変わらず切ないがそれが良い

麦のんより先にクリーニング屋行ってこようかな
183 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 01:26:59.28 ID:eI3kKsDO
>>181
実体験乙ww
184 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 01:37:10.80 ID:fIu8xYAO
違う男の名を呼ばれての行為か……


一方さん……
185 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 01:54:02.82 ID:VxUpP2Mo
やめろ…俺まで悲しくなる
186 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 05:39:37.51 ID:3pzFXAQo
おいジジイ自重しろwwwwww

一方通行と番外個体、失われてしまうかと思われた絆がちゃんと続いてくれてよかった
その絆が形を変えていく、のかな?楽しみww
187 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 12:51:28.82 ID:GJdoDxEo
よかった・・・
NTRは回避された
188 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 16:38:43.74 ID:rg1xkOs0
ちょっとクリーニング屋に用事が出来たので行ってきますね。
189 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 16:48:22.18 ID:6mNEFNQo
奇遇だな、俺も行こうと思ってたんだ
190 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 18:12:37.83 ID:WwAmEx.o
おいおいクリーニング屋にいったら、俺がいっぱいいるじゃねえか
191 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 18:31:30.89 ID:d8htADIo
>>182>>188-190

ズバァ!! 光線の雨──。

真っ白で不健康的な光の筋が、クリーニング屋を紙くずの様に吹き飛ばした。
192 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 20:42:41.02 ID:f5UY.Qso
巻き添えになった方々のご冥福をお祈りいたします
193 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 22:14:45.17 ID:uyV0/vQ0
>>181
それなんておれェ…
194 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 01:11:18.06 ID:Ldtn..AO
>>191
1/8/8「クリーニング屋の野郎が[ピーーー]ば巻き添えになっても本望だな」
195 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 13:38:05.29 ID:/Ifw/oAO
>>181おい止めろ泣くぞ
196 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 15:35:39.11 ID:vPmbMQAO
>>195
おい!なにを我慢している?
お前は今泣いていい!泣いていいんだ!
197 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/07(火) 16:36:09.62 ID:biOKwJIo
この頃ガチで一方通行が好きになってきた…
俺は番外個体ぞっこんの筈なのに
198 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 21:16:49.35 ID:JnW1gjw0
クリーニング屋の後始末はやっとくよ
坊さんに金積んで死者に鞭打つ名前にしてヤンよ
199 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 21:35:49.70 ID:mjhIDv.o
           .: + ...:.    ..:...:.. :. +
           . ..: .. .   + .. : .. .
      ☆彡  ..  +   ..:.  ..  ..
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  \\    ノノリ从从〉 ※从|: |从 /
   \\  ソ(lリ゚ ー゚ノリニ二二二二Σ>
     \\ムi,ミ彡i>  / ,_|; |,_,,  \    死ぬまで叩く!死んでも叩く!
_,,__,_,,   \\l. T l! //:;:;;;;::::;;;,\ .\
    '、    ̄ |__l_jバシーン!バシーン!
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200 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/08(水) 21:58:49.06 ID:Wb2qfG60
うはwwレス楽しく読ませて貰った、ありがとうありがとう
にしても>>181みたいな体験してる人意外と多いんだな…

投下は明日の夜にはできると思う
展開がのんびりな気がしなくもないけど何かあったら教えてくだしあ

どうでも良いけどごま団子と焼きりんごは超おすすめ。おやすみー
201 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 22:07:24.94 ID:jtJLmywo
>>200
おぉ!期待してる!
おやすみなさいby一方信者
202 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:16:41.13 ID:JQ0q84U0
こんばんは、投下します。いつもよりは少し多めかな

クリーニング屋でセクハラにあって、はあんまり関係ないけど
取り敢えずそれから数日経ったとある日常をお送りします
一方さんを少し動かしたいと思って書いてたけど色々大幅に直したから少しおかしくなった気がw
では、お付き合い下さい
203 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:18:27.56 ID:JQ0q84U0

12月1日、午前1時18分。


番外個体が告白して、ふられて、その挙げ句一方通行と思わず、……とまぁ色々あった11月28日(加えて29日深夜)から数日。

最新設備のクリーニング店で綺麗にして貰った服は麦野に返したし、それからコタツも衝動買いしたしで、一方通行と番外個体は来たる師走を迎えていた。


今週中には雪が降るという予報も出ているし、最近は冷え込みが激しい。
そんな中、冷たい空気とは裏腹に、ぬくぬくとしたベットの中で一方通行は目を覚ました。
就寝前の寒さからか、毛布にくるまるようにして寝ていた一方通行。
当然ながら、毛布の外は見えないのだが――


(誰だ? 部屋の中に――複数ではねェな)


常時反射が使えなくなったこともあり、以前のように何時襲撃されても大丈夫で無くなった一方通行は、最近は少しの事で目を覚ます。
それだけ警戒していないと、簡単に死んでしまうのだから。

そして今日、今現在。
彼の部屋に、侵入者が居る。


(はっ、そンな無様な第一位が番外個体と無防備に朝まで眠りこけてたなンてなァ)


自嘲しつつも、なるべく音を立てない様に電極のスイッチを入れる。


(……ン? 番外、個体……。そォだ、アイツはどォしてる!? まさか先に……ッ!?)


思わず飛び起きそうになった所を食い止めて、冷静になるように努める。


(暗部の連中か? ……いや、土御門の話を信用するわけじゃねェが、それだと辻褄が合わねェ。
 ……だとしたら他に俺に恨みのあるヤツ、つってもオイオイ居すぎで分っかンねェぞ。 ただ番外個体の叫び声は聞こえなかったし……叫ぶ暇も無かった、は考え過ぎか?)


情報が足りなさすぎる。そう考えたときだった。
204 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:20:04.45 ID:JQ0q84U0

「一方通行、」

「……っ!?」


聞き慣れた声。

毛布を剥がして起き上がると、番外個体がそこにいた。
一方通行が気の抜けた声を出す。
いつもなら寝起き後暫く頭がぼんやりする彼も、今日はすっかり冴えてしまった。


「オマエか、……だァクソ、取り越し苦労しちまった。で? どォした」

「眠れないんだよね」


番外個体はそう言いつつ、


「寒いから足入れさせて」


仲良く二人してベッドに足を入れる。
と、ぱちん、と小さく音がして、一方通行の視界の隅で何かが光った。


「……オマエ、漏電してンぞ」

「失礼な、漏電じゃないし。……暗いところでこうやると落ち着くんだよね」


暗闇の中で、線香花火の様にぱちぱちと弾ける紫電。

掛け布団の中で、冷えた番外個体の足とすっかり暖まった一方通行の足が一瞬触れ合う。


「あなたの足あったかい……あの日は冷たかった気がするけれど」

「あの日って、……あァ、オマエはあっつかったけどな」

「お酒飲むと暖まるよね。薬用養命酒みたいな」

「それとはちょっと違うンじゃねェの? どォする、外にでも出てみるか?」

「それ良いね。ミサカ夜って大好き」
205 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:22:25.29 ID:JQ0q84U0
12月の空気は澄んでいて、星がよく見える。
高層ビルに囲まれる学園都市でも星が見えることに一方通行は初めて気付いた。

寒さ対策にと、パーカーとの下にセーターというもこもこと動きづらそうな服の上に更にロングコートを着込み、
マフラーを巻いて完全防寒の番外個体と真っ白な冬服を纏った一方通行が、行くあてもなく並んで歩く。


「オマエそンな格好で動きづらくねェのかよ?」

「でもミサカ寒いの苦手だし。ロシアではあの戦闘服のお陰でどうにかなったけどさ、今はおこたが恋しいよ」

「まァ確かにこたつってなァ初めてだったが案外良いモンだよなァ」


二人でしみじみ語りながら、ゆっくりと夜の学園都市を歩いていく。
この時間帯ではすれ違う人もいない。


「……一方通行」


番外個体が一方通行の名前を呼ぶ。
番外個体の方を見ると、彼女は俯きながら、


「……なんていうか。ありがとう」

「……、どォした急に」

「ミサカの相談に乗ってくれたり、まぁあなたには色々として貰ったしね」


番外個体は長めのマフラーの両端をそれぞれ掴んで振り回しながら、


「……正直、こんなミサカなんて見捨てられるオチかと思ってた」
206 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:23:54.61 ID:JQ0q84U0

「ミサカはあなたに酷いことしたし。ロシアではあなただけでなく上位個体まで殺そうとして、その上トラウマ刺激したりさ」


番外個体はちらりと一方通行を横目で見て、尚も続ける。


「なのにあなたはミサカを殺さなかった。ミサカの相談に乗ってくれた。そしてミサカと一緒に暮らしてくれてる」


番外個体の吐く息が白い。


「つまり、ミサカを受け入れてくれてありがとうって事なんだけど、うーん」

「……らしくねェな」

「だよね。ミサカもちょっと意外かな。悪意にまみれていたこのミサカがこんな事言うなんて、ドキュメンタリー番組作って放送したいくらい」

「悪意にまみれた少女の軌跡ってところだな」

「ぎゃはは、センスねぇええっ!」
207 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:27:16.08 ID:JQ0q84U0

番外個体がゲラゲラと笑うけれど、その姿はどこか弱々しくて、一方通行を不安にさせる。
何か言い淀んでいるような、無理しているような。そんな気がしてならないのだ。

そんな心配をする一方通行にはお構いなしに番外個体はというと、


「寒いからコンビニおでんっていうの食べたいにゃーん」


と。
一方通行は少々呆れつつも、


「いきなりそォくるか。つーかよォ、コンビニのおでンってどォも信用なンねェ部分があるンだが」

「いいじゃんいいじゃん。ほら、丁度そこにおでんの旗がはためいてないコンビニが見えてることだしさ」


というわけで深夜にコンビニに入店してきた男女二人組みを、店員は少々怪しむような目で見つつ気怠げにいらっしゃいませぇと声を出す。

レジのすぐ前に、セルフサービスとなっているおでんが湯気を立てている。


「こーんな時間までご苦労さんだよねぇまったく。……と、あったあった、おでん!
 へぇ、おでんも培養器に入ってんの? ちょっと食欲失せる演出だね」

「それが仕事だから良いンじゃねェの? つーか培養器じゃねェぞこれ。オマエの頭って結構すかすかなのな」

「あなたは家で暇してるから働くことの大変さが分かってないだけでしょうが。んー、ミサカ餅巾着食べたい」

「おでンっつったらたまごと牛すじだろォが」


適当に容器に詰め込み、つゆをいれることも怠らない。

ついでにプリンやらゼリーやらを番外個体が買い込んで、会計を済ます。


ありがとうございましたぁ、というやっぱりやる気のない声を背中に、コンビニを出た。
208 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:30:40.69 ID:JQ0q84U0
「さっむー。おでんおでん」


コンビニから少し歩いたところにある公園のベンチに、番外個体と一方通行は並んで座っていた。
二人の間に置かれたおでんの容器からもくもくと湯気が上がっている。


「ん、……凄い! 美味しいんだけど。コンビニも侮れないねぇ」

「こンくらいのレベルなら家でも作れそォだな。大根と卵は前の日から煮込ンでおいて……」

「うっわぁキモいんですけど。主夫力発揮しすぎじゃない?」

「うるせェよ、つーかこのおでンはレベル3未満だな」


番外個体は一方通行を無視して餅巾着を頬張る。
あっつ! と顔をしかめながらもきゅもきゅと咀嚼して、


「んぐ!?」


いきなりじたばたと喉を押さえて暴れ出す。
どうやら餅が喉に詰まったらしく、げほげほと咳き込んでいるが効果は出ないようだ。
一方通行はそんな番外個体を見てあわてふためると、


「どォした餅かァ!? ふっざけンな、何が汁だくおでンですかァ!? オイちょっと口開け!」


番外個体の口の中に細い指を突っ込んだ。番外個体が一層激しく暴れ出す。


「んぎゅぐぅ!?」

「馬鹿オイ暴れンな!」

「んえ、……おぇえ」

「……、人に向かってゲロ吐いてンじゃねェよ!」


餅巾着と一緒に吐き出された夕食の残骸などを指さす一方通行。
番外個体はむせながら、顔を赤くして目尻には生理的な涙まで浮かべつつ、


「痛ってェ!?」


問答無用で一方通行の横腹を蹴り飛ばす。
209 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:31:54.31 ID:JQ0q84U0

「……死ぬかと思ったんだけど」

「そりゃ餅喉に詰まらせて死ぬ老人は沢山、っ痛ェ!」


番外個体は再び一方通行を蹴り飛ばしてまくし立てる。


「あなたが! いきなり指なんていれるから! あのおっそろしい不快感! うえーってなったつーの!」

「ハァ!? じゃァオマエはあのままぽっくり死ンじまうのがお望みだったのかよ!?」

「んなわけないでしょおが! あなたお得意のベクトル操作とかあったでしょって話だっつーのぉおお!」


そォかそれがあったか、と今更気付いた一方通行。
番外個体はそんな彼を思いきり睨み付けて、


「ほんっとにあなたは人を助けることが下手くそっていうかさぁ。ていうか今更天然キャラ? 需要ないんだけど」

「あァ? オマエ、ナニサマ? 少しは礼ぐれェ言っても良いンじゃねェの?」

「うーるーさぁあああい! まずミサカに謝罪を要求、……ねぇ、あなたの後ろにいる女……誰?」


不意に。番外個体が顔をしかめて、一方通行の後ろを指さすものだから。


「……女?」


一方通行が急に声をひそめる。
後ろにいると言われているのに、振り返ることを拒むかのように体中にじっとりとした気持ちの悪い汗がまとわりつく。
210 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:33:22.93 ID:JQ0q84U0

「なンだよ女って。気配も無かったし『死角移動』でもねェ限り背中をとられるなンて事は、」


一方通行がそう言いながら後ろをゆっくり振り向こうとしたとき、


「ぎゃぁああああ! 血まみれでうらめしやーって言ってるぅうううううう! 取り殺されるぅうううう!」


番外個体が絶叫。


「この気配の無い感じはそォかと思っていたけどやっぱりそォくるか!?」


一方通行は一瞬番外個体の凄まじい絶叫にびくりと身体を強張らせた後、電極のスイッチをオンにして前方にダッシュ。


「こォいうのマジヤバいンだっつの、オマエもちゃンと掴まっとけ!」


番外個体を引っ張るようにして一緒に退散しようとしたところで、


「なーんてうっそでしたぁ。きゃは☆」

「…………、ハァ?」


ぽかん、と衝撃の告白に第一位らしからぬ顔を思わずしてしまう。
番外個体はゲラゲラと下品に笑いながらも、


「ぎゃはは、『こォいうのマジヤバいンだっつの』だってぇ! ちょーウケる! 何々何なの第一位様はお化けとか怖いクチぃ?」

211 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:34:55.76 ID:JQ0q84U0

「……オマエって本当悪意の塊だよな」


公園を出て二人で帰路に就く。
一方通行が拗ねた子供のように番外個体を非難するが、番外個体はそれをものともせずに受け流す。


「本気で怒るなんてさぁらしくないよ? ……けけけ、それ程お化けが怖かった?」

「別にそォいうンじゃねェし第一そンな非現実的なもン存在しねェし」

「んー、でもあなたのアレはノリには見えなかった気が……って分かったから怖い目しないでよいつも以上にヤバイってそれ」


一方通行は溜息をつきながら、


「ガキの頃暮らしてた施設になァ、暗い……確か水流操作系の能力者がいたンだわ。いっつも独りでよォ、あァそォだ、キムチってあだ名だった」

「いきなり自分語り……やっぱりいつものあなたらしくない」

「ソイツが実験途中に死ンだンだよ」

「オウ、唐突だね。まぁ置き去りなんてそんな扱いだろうし」

「それからさァ、毎晩毎晩聞こえるンだわ、『どォして僕を無視したの、一緒に遊びたかったのに』って声がな」

「……、それは本当の幽霊が、」


反応に困る番外個体を横目で見つつ、一方通行は忌々しげに呟く。


「キムチくンの野郎、ガキだった俺に余計な恐怖を与えてくれやがったぜクソッたれが」

「……恐ろしい話をどうも。ミサカ的にはどうしてキムチなのかが気になるところだけど。……あ、こんばんはー」
212 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:37:26.68 ID:JQ0q84U0

気がつけばマンションに到着していたので、オートロックを解除してマンションの中に入っていく。
部屋まで歩いている途中で番外個体が挨拶したのだが、


「……オイ、オマエ今誰に挨拶しやがった?」

「え? ……そこに男の人が……ってあれ?」


うーんと首を傾げる番外個体。
一方通行は思い切り不快そうな顔で、


「オマエ、マジでタチ悪ィぞ。
 俺がオマエの喉に不作法にお邪魔したことは謝ったしオマエが意味分かンねェ絶叫したりでチャラになったンじゃねェのかよ」

「でも本当に居たって! あなたこそミサカの事信じないでさぁ何なの?」

「あっそォですかァ、つーかオマエが妹達じゃなかったらオマエのこと殴り飛ばしてたぞ」


一方通行が何気なく放った言葉に、しかし番外個体の言葉は鋭さが増す。


「……なにそれ。ミサカがクローンじゃなければ、って話?」

「オマエ等は守るって決めてるし、これからもそれは変わンねェけどよ、もしもオマエがそこら辺のクソ女だったら、」


「もう良いよ」


ぴしゃりと。
静かで抑揚の無い、それでいて一方通行に次の言葉を与えさせない迫力を伴った声。

番外個体は戸惑う一方通行をそのままに、早足で部屋の中に入っていってしまう。
213 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:40:16.14 ID:JQ0q84U0

「……番外個体」


てっきりチェーンでも掛けられているかと思ったがそれもなく、すんなりと開いた玄関。
靴を脱いで真っ先に向かったのは、番外個体の部屋だった。
しかし中に入ることはせずに、彼女の部屋のドアに背中を預けて、


「番外個体」


もう一度、扉越しに番外個体の名前を呼ぶ。
返事の代わりに、ぐずぐずと、洟をすする音が小さく聞こえた。


「……悪かった、なンか嫌なこと言っちまったか?」


以前の自分からは想像できないような謝罪の言葉と気遣いの言葉がすらすらと、誰に強要されるわけでもなくでてくる。

番外個体の、何かを堪えるような、苦しそうな息遣いが聞こえてきて、一方通行は息を呑んだ。
罪悪感に嘖まれながらも、問いかける。


「……どォした、なンで泣いてる?」


守ると、決めたのに。


「泣いて、ない」


自分が彼女を泣かせてどうする?


「泣いてンじゃねェか」

「泣いてないってば」


それは、否定にして拒絶。
ずるずると、一方通行はその場にしゃがみ込む。
214 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:42:38.39 ID:JQ0q84U0

静かな静寂が訪れて、どれくらい経ったか分からない。
一方通行には1分にも1時間にも感じられ、おかしくなった時間の感覚は何の役にも立たなかった。


「……一方通行」


そんな中、弱々しい番外個体の声が響く。


「……一方、通行……」


名前を呼ばれる。
たったそれだけだったのに、そもそも『名前』なんて言って良いのか分からないような、ただの記号の様なものなのに。


「……ちゃンと此処に居ンぞ」


なのに、それだけで、身体中が暑くなる。
火照って、頭の中が真っ赤になった様な気がして、胸の鼓動が早くなる。

ふわふわして危なげな、そんな感覚。

おかしくなってしまいそうだと思ったし、それ以前に、自分は既にどこかネジが緩んでしまっているのだとも思う。


けれど、それで良い。そのままで、もう塗りつぶそうとは思わない。


以前は認めたくなくて、ただその感情に嫌悪感しか抱くことができなかったし、
自分がそんな事を考えるのは間違っているとも思っていたし、自分の本心に逆らってきたけれど、


そろそろ自分に正直に向き合ってみて、嘘をつくことを止めて、そして番外個体に向き合いたい。


一方通行の中で、生まれて初めての感情が芽生える。
守ると決めた打ち止めや黄泉川、芳川の様な人達へ向ける感情とは違う、
自分には絶対縁が無いと思っていた感情、考えただけで虫唾の走ったあの感情。



「………好きってことなンだよ、クソッたれが……」



掠れた小さな声は、冷たい空気に紛れて、たったドア一枚に隔たれた番外個体にすら届かない。
215 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:44:24.31 ID:JQ0q84U0

「……やっぱり、ミサカがクローンだったからかな」


微かな振動と共に、番外個体の声が直ぐ近くから聞こえた。
番外個体がドアの向こう側に、一方通行と同じ体勢にで座ったらしい。
扉越しで、ほんの数センチの厚さしか隔たりはないというのに、それの壁はいつか無くなるのだろうか、と一方通行は微かに思う。


「……クローンだから一緒には居られない、クローンだから好きになることはできない」


すらすらと滑らかに、歌うように。


「結局みんなそうなんだよね。クローンだから。
 あなたがそういうつもりで『妹達じゃなかったら』って言った訳じゃないのも、
 ミサカみたいなクローンを否定する意味合いで言った訳じゃないのも分かってる。まぁ、八つ当たり、だったんだけど」

「……そォか。でも、悪かった」

「けけけ、あなたにはなるべく隠し事はしないようにしてたけどさぁ、ミサカは嘘とか大好きだから、嘘付いた。
 ……ほんとはさ、」


彼女は今、どんな表情をしているのだろうか。
悟られないように装っているだけで、扉の向こうでは涙を流しているのだろうか。


「ママが一番だから。……変な理由だけど、そっちの方がマシだったかもね。
 ……クローンだから、なんて、まさかあの人の口から出ると思わなかったんだけどなぁ。ミサカが馬鹿だったのかな」

「……、」

「全部言わないとって、思いを伝える前に言わないとって、そう思ってた。けど、」


この場にまったく不釣り合いな明るい声で、


「ミサカがクローンでなかったら、何か変わっていたのかな」
216 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:45:51.65 ID:JQ0q84U0

何と答えて良いか分からなかった。


「別に、あなたのせいで第三次製造計画が立案、結果としてこのミサカが作られた事を恨んでるわけじゃない。
 むしろ、それが無ければミサカは今こうして此処にいないしね」


……だから、ありがとう


「さっきも聞いた」

「そうだっけ……あ、そういえばさ」


扉越しに、番外個体がいつもの声で。
無理に明るく振る舞うようなあの弱くて小さな声とは異なった、素の声で、イタズラを公表するときの様に。


「……あの日、あの夜。あなただって、知ってたよ」


一方通行が番外個体を抱いた、あの夜。


「……あァ? だってオマエは酒に酔って、」


××さんと、そこには居ない男の名前を呼んだではないか。


「自分でも、嫌なヤツだとは思うよ。多分、あなたも良い気分じゃ無かっただろうし。
 まぁ結局は酔ってたっていうのが一番大きいんだけどさ、でも、……あの時は誰かに近くに居て欲しかった」


ごめん、と番外個体が謝る。


「ま、実は最中の事はよく覚えてないんだけどね」

「初めてだったのに災難なこった」

「それはお互い様でしょ?」

「まァ他の男の名前を聞きながらするセックスってのは良いモンじゃねェな」
217 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:49:22.10 ID:JQ0q84U0

「ねぇ、こっち、来て」


番外個体の声がして、ドアが開かれる。
見覚えのある充血した目をした番外個体がいた。


「……独りじゃ寂しいってさぁ、初めて思ったんだ、あの夜。ミサカには不似合いだけど」

「……それで良いンじゃねェの」

「けけっ、あーさっむい……あなたよくこんな廊下に座ってたね」


番外個体がシングルのベットに、半分スペースを空けて横になる。


「男の性欲ってのは半端ないし一応言っとくけどさぁ、変な期待はしないでよね。
 ……ただ、寒くて、今独りになるのは嫌なだけだし」

「知ってるっつーの」


互いに背中合わせに横になる。
狭いベットの上で触れあう背中。

何も面白い事なんて無かったはずなのに、番外個体が小さく笑い声を漏らした。


「……あのさぁ、時々思うんだけど」

「ン?」

「なぁんかミサカ達って不思議だよね。普通だったら気まずくなったりするくない?」

「……それだけ歪ってことじゃねェの」

「けけっ、歪ねえ。まぁ確かに殺し合ったりしたのに敵でもなければ同棲して身体まで繋がっちゃったっていうのに付き合ってるわけでもないし。
 ……いつかは歪みが無くなればいいのに……おかしいけど、そう思うんだよね。
 悪意まみれのミサカには無理かもしれないけどさ」

「……そォだな」


空がうっすらと明るくなってきたことを窓から察しながら、番外個体がやがて寝息をたて始めた事を確認して一方通行も眠りに就く。

番外個体の、隣で
218 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/09(木) 22:54:04.41 ID:JQ0q84U0
今日は以上です、自分でも書いてて戸惑ったりしたから分かりにくかったらごめん
何かあったら教えてくれると嬉しいな!
質問等もあったら答えられる範囲で答えるのでお気軽にどぞ

さて、やっと自分の気持ちに気付いたっぽい一方さんです
展開が遅いかもしれないけどこれからもお付き合い頂けると嬉しい
次回は二人で〜とか出来そうだったらやってみようかなと

では、おやすみなさいー。明日も寒いぜ
219 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/09(木) 23:03:56.18 ID:5TpoDc60
FOOOOOOOOO!
220 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 23:04:07.70 ID:AvMiBeIo
うああああああああ、初々しいよおおおおおお
かわいすぎるぜ二人とも・・・
221 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 23:04:27.97 ID:CZks7fEo
ちょっとスイーツ君ぶっ殺してくる
222 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/09(木) 23:04:37.92 ID:FJxFlEAO
あれ、おかしいな

あそこから涙が
223 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 23:42:26.55 ID:tuwi8c.o
おー、ちょいとクソな男消してくるわー
224 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 23:43:46.63 ID:smpYx020
じゃあ俺は>>221がぶっ[ピーーー]前にスイーツ君を社会的に抹殺しとく
簡単に楽にしてたまるか畜生め

あとキムチ君の冥福をお祈りします
225 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 01:23:47.80 ID:U3KRL6DO
いいねぇ。番外個体はかわいいねぇ。
226 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 01:32:23.20 ID:2Y0Zr.Q0
××はむぎのんに粛清されるべき
ガチで心が痛くなっちまった……

それはともかく、続き楽しみにしてるよ〜
227 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 11:18:19.48 ID:tuA98ak0
XXさんはイケメンでマザコンだっただけだ。
ワーストが喰われなかっただけ紳士というものだろう。
228 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 11:33:13.86 ID:0j2A..AO
マザコンは嘘だったんだろ
229 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 18:42:34.14 ID:KDjGa2AO
マザコンってのはミサワの嘘だったんだろ
せめてもの自尊心、アイデンティティで、一方さんには『クローンだから』って拒絶されたくなかったってことじゃね?
230 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 01:18:11.41 ID:QmccwEw0
つーことはミサワがクローンってことはバイト先で公表なのか?
231 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 01:31:40.26 ID:PZE.wkAo
学園中で知られてんじゃない?
232 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 02:35:34.75 ID:qFMZMNIo
俺の同級生は知らなかったよ
233 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 02:47:40.08 ID:X7t2iKo0
>「全部言わないとって、思いを伝える前に言わないとって、そう思ってた。けど、」

好きですっつうまえにカミングアウトしたんでしょ
234 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/11(土) 23:07:32.05 ID:/JaNQvQ0
こんばわーレスありがとう

うーん、前回のいつにも増して分かりにくかった様でごめん
>>229とか>>233みたいに解釈してくれれば問題ないかも
にしてもアイデンティティってなんか良いよね

できれば今晩中に投下したいと思ってる
明日の1時までにこれなかったら明日の朝10時前に投下するんで、ではまた直ぐに〜
半端にならなきゃ良いんだけど
235 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 23:15:55.20 ID:p33E.UAO
把握
俺はクローンである妹達だからこそアイデンティティを持ってほしいと思うよ
236 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/12(日) 00:44:58.63 ID:.bi4mLg0

どしん、という背中への衝撃とそれに続く全身への痛みで一方通行の意識が呼び戻された。

無意識に電極に手を掛けつつ、寝起きではっきりしない頭は襲撃とかそれ以前に鈍い痛みだけを訴えている。
不機嫌な表情をしつつ、うっすらと目を開けると、見慣れない天井が視界に飛び込んできた。


「……」


がしがしと頭を掻きながら体を起こして、ベットから落ちた――正確には蹴り落とされた事を悟る。
ついさっきまで寝ていた筈のベットは、今や番外個体の独擅場となっていて、規則正しく寝息を立てていた。


「……なンつー寝相の悪さ。そォいや前もコイツの寝相の悪さに起こされたよォな」


番外個体のシンプルな部屋にあったテーブルに乗っていた小さなデジタル時計を見ると、まだ8時前。
遅寝遅起きが日常である彼ら二人にとっては早朝の範囲だ。

取り敢えず、布団の中でぬくぬくとしている番外個体はもう寒くないだろうし、
寝ていては寂しさなんて皆無に等しいだろうだから、これ以上此処で寝る理由はない。
リビングのこたつでもう一眠りするか、と立ち上がって伸びをした時、


「……一方通行……?」


不意に名前を呼ばれて、びくりと身体が強張った。
心臓がどきどきと大きく脈打って、頭がまるで酸欠状態の様になる。

自称低血圧のせいで朝に弱い番外個体はそんな一方通行の様子には気付かずに、気の抜けた、呂律の怪しい声で問いかけてくる。


「……おあよー……んにゃ、どっか行くの?」

「……オマエに落とされたからな、こたつで寝るンだわ。……オマエに落とされたから」

「へぇ……」


番外個体から落とされたことを強調して言ったつもりだったのだが、番外個体は布団から覗いていた顔を眠たそうに擦っただけだった。
くわ、と欠伸する姿は猫みたいで、目の端に涙を浮かべてぼけーっとしている。
237 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/12(日) 00:46:34.57 ID:.bi4mLg0

「ンじゃ、リビングいっから。……もォ寒くも寂しくもねェな?」

「……んー」


へらーっと、眠そうに普段と少し違った笑顔を浮かべた番外個体は、もう一度欠伸をすると目を閉じた。
睡眠時間も短かっただろうし、深夜に騒ぎすぎたせいもあるのだろう、おなかすいたと呟きつつも直ぐに寝息を立て始める。

そんな番外個体に、


……触れたい



気付くと、手は無意識に彼女の口元に伸びていた。
震える指先は薄くて柔らかい唇に軽く触れて、その感触にびくりと一際大きく震える。
くすぐったかったのか番外個体は身体の向きを横に変えるも、むにゃむにゃと気持ちよさそうに寝たまま起きる気配もない。

一方通行は図太いヤツだ、と呆れながらも、


「……なァにやってンだか」


感触がまだ微かに残る指先と眠る番外個体を見比べて、彼女の部屋をあとにする。
238 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/12(日) 00:47:54.72 ID:.bi4mLg0


「今日予約いっぱいなんだよねぇ」


カジュアルな服を着た番外個体が、こたつでみかんという季節感丸出しの行動をとりながら言う。

いつにも増して遅い正午近くになってやっと起きた二人は、特にすることもなくただこたつに入ってテレビを観たりしていた。
こたつを買ってから、こうやってぬくぬくとだらけていることが増えた気がする。


「つーかオマエ、例の男とはどォなンだ? なンかイジメられたりしてねェだろォな」


自分がクローンであることを理由にふられた番外個体。
あれからもバイトは続けているけれど、クローンということが知れた彼女の扱いがどんなものか一方通行は気がかりだった。


「そんなこと気にしてんの? ぎゃはは、親御さんみたいだね。あれからその人とは喋ってない事以外変化無し」

「オマエに関する噂とか流されたりは?」

「ノー。っていうかその人はそんなことする様な人じゃないって。ミサカをふった理由だって当たり前の反応でしょ?
 あっちは気まずそうな感じだけどそれ意外は何にもないよん」


当たり前の反応、という言葉には引っ掛かりを覚えるが、それが番外個体の考え方だ。
自分がクローンである点において、どこまでも自分を卑下するような。


「何かあったら直ぐ言うこと」

「えぇーミサカのこと子供扱いしないで欲しいものだけど」

「オマエはまだ生後数ヶ月のお子様ですゥ」

「あーあー聞こえないーロリコンの言葉聞こえないー」


こつん、と一方通行に頭を小突かれつつも、実はこうして気遣って貰えることは悪くない、と番外個体は密かに思う。


(死んでも口には出さないけどね)
239 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/12(日) 00:50:37.92 ID:.bi4mLg0

Viewpoint of MISAKA_Worst(the first speech)


「クローンだから」


実に良い響きだ。ミサカ好みの嫌な感じが凝縮されてるよ。

クローンだから付き合えません。クローンだから仲良くできません。クローンだから、クローンだから……。

ミサカとの付き合いにおいて、この言葉ってスゲェ便利な切り札じゃない? 嫌になるくらいにさ。
しかも何回でも使用可能、効果抜群に加えて正論なんだからタチ悪いよねぇ。


ていうかクローンって、何なの?


人間、では無いと思う。少なくともこのミサカは人間じゃない。
だって普通の人間だったらネットワークで情報の共有ができたりなんかしないしさ。
だから道を歩けば好奇の目で見られて、聞こえてることも気付かないお馬鹿さん達がヒソヒソと言葉を交わすに違いない。
まったく、こっちは見せ物じゃねっつーの。

……正直、そういうのは疲れるかなぁ。

そういえばあの人と歩いててこっちの方を指さされた時、あの人は凄い怒ってたけれど。
あれって直ぐ近くでやってた何かの撮影を指してたよねぇ、どう見ても。
そいつら人気アイドルの名前叫びながら手ぇ振ってたし。


それは別として、好奇の目で見られたりする事を当たり前の反応って思ってる自分が悲しいけれど。

でも実際ミサカみたいなクローン、『妹達』を受け入れてくれてるのはお姉様とあの不幸な少年、あとはあの人の保護者みたいな女二人。
それから麦のん。ミサカのお姉さんみたいだし。歳は大して変わらないけれど。
これくらいだよねぇ。……あ、あの人のこと忘れてた。ぎゃは。
240 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/12(日) 00:55:21.16 ID:.bi4mLg0

世間一般からジロジロ見られるミサカ達だけど、このミサカはまだ良い方だ。
他の妹達より見た目が年上だから、お姉様を知っている人からすればお姉様のお姉さんにでも見えるわけだし。……なんかややこしいな。

だけど他の子達は相当肩身の狭い思いをしてるって、誰だっけ……、そうそう、カエルみたいな医者が言ってた。

あ、この医者も一応受け入れてくれてるって事で良いのかなぁ。

それで良いや、で、特に学園都市組。同じ顔した子達があの狭い都市で生きていくのは大変なんだってさ。

ま、このミサカにとっては風紀委員のツインテールがここ最近の一番の驚異なんだけど。
よく考えるとあのツインテはモロ受け入れるって感じだよねぇ。
お姉様、このわたくしに突っ込んでくださいまし! みたいな。……流石にそれは言わないか。



それにしても、クローンだからってだけで大分損してる気がするんですけど。
どっかのヒーローの言葉を借りれば「不幸だぁあああ」って感じだよねぇ。
ミサカにとってはヒーローでも何でもないけど、『妹達』の中ではそんな扱いなツンツン頭。

ま、クローンとして作られたお陰であの人に出会えたって所だけは数少ない救いとでもいっておきますか。


…………ミサカを拒まずに受け入れてくれてるし、寂しくて寒いときも……ね。

241 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/12(日) 00:58:44.14 ID:.bi4mLg0



番外個体がバイトに行った15分後。

来客があった。


「よぉ、クソ第一位。……ミサカは? いないの?」

「……、」


その容貌とは裏腹な汚い言葉を放つその女は、学園都市の裏側で暗躍する小組織を率いる第四位、麦野沈利だった。
以前と同じ薄手のコートに、今日はTシャツにジーンズという軽めの格好をしている。


「……アイツならバイトだ。オマエも知ってンだろォが」

「あれー? 休みって言ってなかった?」

「いや、予約いっぱいで怠そォにしてたぞ」

「……それって嘘つかれてんじゃないの?」


麦野が訝しむ様に言う。


「ハァ? 何の為にだよ、意味分っかンねェ」

「うーん、メールで確かに……」


そう言うと、コートのポケットから携帯を取り出して確認する麦野。
片手に持っていた袋がガサガサと音を立てる。


「何だァそれ? まァた服でも持ってきたのか?」

「んー、これはアレよ、ミサカと食べようと……っと、あ、ほんとだ。来週の月火が休みなのね」

「そォいう事なンで、じゃ」


ばたん、とドアを閉めようとしたところに、麦野がつま先を挟み込んでくる。


「オマエなンなンだよ!? 新聞の押し売りみてェなことすンな!」

「テメェこそ何だぁ!? この私が遊びに来てやってんだっつーのに帰れっていうの!?」
242 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/12(日) 00:59:54.10 ID:.bi4mLg0

結局一方通行が負けて、渋々ながら家の中に入れてやった。
麦野は自分の家の様にずかずかと上がり込んで買ってきたというケーキを食べている。


「ねぇ何か飲み物無いのー?」

「自分でどォぞ。……つーか番外個体に会いにきたンじゃねェのかよ」

「ミサカと話したりしたかったんだけどね。……あの子、ふられたんでしょ?」


適当に返事をしながら、麦野は何処まで知っているのかと一方通行は考える。
下品なことが大好きな麦野のこの様子からして、番外個体と一方通行の事は知らないとは思うが……


「服返して貰ったときも忙しくてさぁ、そのことは電話でしか話せてないのよ。あ、クリーニングのエロオヤジは社会的に抹殺しといたから」


麦野はもぐもぐとケーキを頬張りつつ、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべて、


「あんた、ミサカとヤっちゃったんでしょー?」

「……ンなっ!?」


一方通行の反応を見て麦野はさぞかし楽しそうに続ける。


「やっぱり!? うわー、鎌掛けてみたんだけど……ふふっ、ミサカの様子からそうかなーなーんて思ってたんだけど」

「オマエなァ、マジそォいうのあンまり当人に向かって言うなっつの。こっちだって罪悪感っつーモンがあるンだからよ」

「合意の上のクセによく言うわ。……私が思うにどっちかが酔って……いや、酔って意識がおかしくなってたフリね」

「……まァそンな感じだけどよォ」


そう答えるしかない一方通行だが、にしてもこの第四位、どうしてこんなに勘が鋭いのだろうか。


「ふっふーん、女の勘って侮れないでしょーん? つーかコイツと話しても面白くねぇな、ちょっと出掛けない?」

「これから飯食うンだわ、つーことではい帰った帰った」

「んじゃあミサカの店にでも行ってみましょ」

「……ハァ?」
243 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/12(日) 01:02:34.76 ID:.bi4mLg0

「いらっしゃいませー。あ、麦野さん、今日は彼氏連れですかぁ?」

「冗談じゃ無いわよー、こんな貧弱な男は直ぐに果てちゃうし」


下品に笑う麦野と苦笑する若い店員。
露骨に嫌な顔をしない辺り、常連の麦野の扱いには慣れているのだろうか。

一方通行はそんなやりとりに呆れつつ、店内を見渡した。
番外個体は見あたらないが、シックな雰囲気の店は予想以上に落ち着く。
彼女はファミレスなんて安い言葉を使うけれど、それ以上の十分に立派な店だ。


「あ、そうだ、こいつミサカの知り合いなんだけど」


麦野が尋ねると、どうやら番外個体は『ミサカ』で通っているようで、


「え? ミサカさんの!? あ、彼女今厨房いますけど、呼んできます?」

「……別に大丈夫なンで」


無愛想に答えたせいかさりげなく麦野に足を踏まれたが、店員は気にする素振りも見せずに店の奥の方にある二人掛けの席に二人を誘導する。

ごゆっくりどうぞ、というお決まりの文句を残して店員が去った後、向かい合って座った麦野から蹴られた。


「ちょっと、あの子はすっげぇ良い子なんだから雑に扱わないでよ」

「ハァ? つゥかオマエは人を踏んだり蹴ったりで随分ご立派じゃねェか」

「あっれー? この麦野様が恋愛相談に乗ってやろうと思ってたんだけどそんな口聞いて良いのかにゃーん?」

「恋愛相談とか聞いてねェしどォでも良いっつの。別に来たくて来たわけじゃねェし」


麦野はそんな一方通行に構わずに店員を呼びつけてしまう。
いつもの、とよく分からないことを店員に言いつけて、メニューを見る暇を与えられなかった一方通行の分は勝手に麦野おすすめを注文された。
244 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/12(日) 01:04:29.29 ID:.bi4mLg0

「『いつもの』とかってマジで言うンかよ」

「何? 文句ある?」

「べっつにィ? つーかオマエのおすすめっつーのが気になるンだが」

「あれは本当におすすめ。ていうかこのお店の看板メニューみたいなものかしら」


ふゥン、と適当に返事してやると、頬杖をついた麦野がニヤニヤとこっちを見ていた。
相変わらずの良からぬ事を考えている顔に一方通行は眉をひそめて、


「……ンだよ、気色悪ィ」

「だってあんたさっきからすっげぇきょろきょろしてんだもん。ふふっ、お目当てのミサカたんは厨房の方に居るって言ってたのにねぇ」

「別にきょろきょろしてねェし。……そォだ、オマエ好きなヤツ居るって言ってたよな、それはどォなった?」

「んー? 別にー? あれあれ気になるのー? っていうかあんた話逸らしてるつもりだろうけど自分からそういう話振ってる事に気付いてる?」

「……別にそォいうつもりで言ったンじゃねェよ」

「まぁ聞いて欲しそうだから聞いてあげる、結局あんたにとってのミサカって?」


唐突で無遠慮、無配慮な質問。
あんな話題を振ってしまった、数十秒前の浅はかな自分を恨みつつ、


「……、」


少しの沈黙。
麦野は最初の方こそコツコツと指でテーブルを叩いていたのだが、短気な彼女にはこの沈黙が耐えられなかったらしい。
245 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/12(日) 01:06:01.69 ID:.bi4mLg0

煽るように。


「なぁんでもできちゃう第一位様だもの、三つ数えるうちに言えるわよねぇ?」


急かすように。


「さんにーいち……ばしゃ」
「……だ」


麦野のカウントがゼロになるのと一方通行が何か呟いたのはほぼ同時だった。
麦野は水をかけるつもりだったのか、お冷やを片手に持ってゆるくコップを回している。
そして意地の悪い笑みを浮かべると、


「んー? 聞こえなーい。ていうか今危うくばしゃーんするとこだったわ」

「……で、もォ一度言えと?」

「ごめんごめん、大きい声で言ってくれるとありがたいわぁ」


溜息をつく一方通行。
楽しそうな麦野をつくづく嫌なヤツだとひと睨みして、恐らく言い逃れはできないことを悟る。


「ったく、オマエってマジむかつくのな」

「私にそういう男も珍しいんだけどにゃーん?」

「そォいう所だっつの」

「で? 早くしやがってくれないかしら?」

「……もォ言い直さねェからな」

「おっけーおっけー」




「……好きだ」



246 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/12(日) 01:07:39.49 ID:.bi4mLg0

「……そっか」


ぼそりと呟いた一方通行を、麦野は馬鹿になどしなかった。
やっと自覚したその気持ちを口にした一方通行に対して、麦野はただうっすらと微笑んでいた。


「それなら良し。……つーか、他に好きな女がいたとかだったら殺してたかもしれないわ」

「そりゃァ物騒な」

「……何かあったら言いなさい、さっきも言ったけど相談にも乗るし協力も……してやらないことはないわ」

「オマエがそォいう慈善活動たァ恐ろしい、裏がありそォな気がしてなンねェぞ」

「ありゃーんバレた? 実はいっつも行列のケーキ屋さんで第一位様のコネを使えないかなーと」

「なァンでそンなメルヘンチックなお店なンだっつの、ケーキなンざ縁ねェわ」

「チッ、使えねぇな。……ていうか顔赤いけどー?」

「うるせェよつーか赤くねェし」


とその時、おまたせーと声が直ぐ後ろから聞こえた。
振り返ると、家を出たときと同様のカジュアルな格好と、頭にバンダナを巻いた番外個体が片手に皿を持って立っている。


「白い男の人と麦のんが来たって聞いてたけど、なんで居るの? あ、はい麦のんのでしょ、これ」

「わーおありがと。んー、ミサカと遊ぼうと思ってミサカんち行ったけどバイトだって言うからさぁ、遊びに来ちゃったわ」

「あひゃひゃ、麦のんってばお馬鹿だねぇ。……あ、あなたの分はもうちょい待ってね」

「ン」
247 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/12(日) 01:09:47.89 ID:.bi4mLg0
「先に食べちゃうけど黙って見といてねー」


そう言って、運ばれてきたベーグルサンドを頬張る麦野。
どうやらこれが彼女の『いつもの』らしい。


「オマエさっきもケーキ食ってたのによく入ンなァ」

「良いのよ、昨日の夜も仕事で大暴れしたし。あ、見て見て、丁度このトマトみたいに赤いさぁ――」

「だァアア食事中にキモイ事言ってンじゃねェよ!」

「アンタだってハイになってるときは相当イカれてるらしいけどねぇ? ていうかさっきミサカのことちゃんと見れなかったでしょ?
 働いてる彼女……輝いてる! 直視できませン! ってかぁ?」

「うっせ。つーか制服とかじゃねェンだな」

「個人経営らしいしね、ここ。……あ、きたよん」


先程同様、番外個体が皿を乗せて持ってくる。
一応礼でも言っておこうと考えたところで、


「……なンだァこりゃ」

「む、失礼な。ミサカが作ったパンケーキだけど文句ある?」


大有りです。という言葉を飲み込んで、ぶんぶんと首を振るも、……ホイップクリームに果物沢山のパンケーキは絶対食べ切れないと思う。


「あなた注文したのってこれじゃなかった……はないよね、じゃどうぞごゆっくりー。
 あ、そうだ終わったら一緒に帰ろ、コンビニ寄りたいけど財布持ってくんの忘れちゃってさぁ」

「お、おォ……じゃァ此処で待ってるけどよ……」


さー、最後の予約のお客さんだーと番外個体は腕まくりしながら足早に去っていく。
一方通行はパンケーキと麦野を交互に見比べつつ、


「オマエ責任とれンだろォな?」

「えー流石にキツイかにゃーん? つーかミサカ手作りらしいし食えよ」

「……アイツは料理できねェし盛りつけ担当って前言ってたけどな」


傍を通った店員にコーヒーと紅茶をそれぞれ追加で注文しつつ、一方通行はこのパンケーキと闘う事を決意する。
248 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/12(日) 01:12:38.07 ID:.bi4mLg0
今日の投下は以上です、もっとテンポ良く進めたいのに……orz
次回は休日過ごしたりなんだり。できればいいな

あといきなり番外個体視点入れて正直すまんかった、分かりにくかったかな
何かあればばんばんお願いします。では

>>235
格好いいこと言ってくれるじゃねぇの……ッ!
249 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 01:15:14.43 ID:ZuChjpwo
ゆっくりと穏やかに流れるこのスローな時間がなんだか優しげで心地いいな
このテンポはこのテンポで好きだ
250 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 01:21:51.53 ID:bByPFJYo
なんだか切ないよう…

おつかれ
251 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 07:20:03.32 ID:eIpaywDO
乙麦のんかわいい
252 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 09:31:46.82 ID:twA3/YAO
乙であった
253 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 12:42:28.91 ID:nI.89R.0
番外視点の「ぎゃは。」がすげぇ切ねぇ


初恋は実らないもの。そういう意味ではよかった……のか?
254 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 18:19:39.86 ID:q11m0sAO
ちょっと出てきた店員がミサワを振った男かな?
255 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 10:07:15.73 ID:iVhC8TEo
おもしろいよこれ
麦のんの立ち位置が新しい
256 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/13(月) 22:20:15.08 ID:yCsWrHs0
こんばんは、レス有り難う。お褒めの言葉もすげぇうれしいのです

番外視点のことなんだけど、>>239みたいなのって正直どうなんだろ? 読みにくくないかな?
反対意見がなければ時々入れたい所があるんだけど、何も無い様ならその形をとろうと思ってる
投下は遅くても木曜までにはできそうなのでその時は生暖かく見守ってくれると嬉しいな!

>>254
あれは女の子として書いたつもりなんだなww
でも読み返したらそういう表現が無かったことに気付いた…
スイーツ店員については次回少し触れたい。ともかくもっと上手くなるよう頑張ります

では、近いうちにまたー
257 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 22:31:19.71 ID:XHtKQ2DO
番外個体視点は特に気にならなかったから俺はいいと思う
258 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 22:37:33.08 ID:s6e2yMc0
>>239みたいなのは個人的には大好物
ひとり悶々と思考がめぐってたりする描写には堪らない魅力があると思ってる
259 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 22:43:09.57 ID:PgjcoHc0
番外個体視点は普通にありだと思うよ。全然読みにくくなかったし
つか、俺もあの店員はなんとなく男ってイメージがあったww
260 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/14(火) 19:33:11.95 ID:f5PTP6c0
続きかけええええええええええ
261 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage ]:2010/12/14(火) 19:45:34.00 ID:tnjBK0I0

俺の中ではあの店員さんは普通に女ってなってたけどな

 ミサカ視点、俺としてはおおーみたいな感じだったから、
自由にやっちゃってくださいb

 一挙にここまで読み進めてきちまったけど、
なんでこんな魅力的な話書けるんだろうつまり一乙です
262 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 20:36:04.95 ID:f47CLUAO
>>260
お前は一度デリヘルを呼んでみるといい
どれだけ待たされるかとか、待ってる間のワクワク感とか
半端無いんだからな!
263 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 20:47:58.69 ID:nH5UOa.o
番外個体「やっほうお客さん☆サービスしに来たよ」

こんな感じか
264 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 21:03:37.19 ID:L1zW4X6o
どんな感じだよw
265 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 21:12:47.75 ID:95tdoYAO
ミサワさんにサービスされたいwwww
266 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 02:29:23.46 ID:2LzGve.o
>>263
やめろ

読みたくなる
267 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 20:47:35.91 ID:Tt3pZ3co
ああ、どっかで聞いたことあると思ったらダッチミサカだった
268 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 22:58:15.23 ID:TPx3qeoo
>>267
あれは名作だった
269 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/15(水) 23:48:52.97 ID:NRAbPZA0
こんばんは、レスありがとう。べりーうれしい
ミサワさんは悪徳嬢って感じがするなあなんとなく

今書いてるんだけど、いつも通りの支離滅裂な感じが否めないんだぜ
今回は番外個体の心情にちょっと力を入れてみたんだけど、何となく不安
取り敢えずもう少し投下数を増やしたいんで、明日投下します
待っててくれる人にはごめんです。深夜にはならないと思う、8時9時かな

というわけでその時はよろしくなんだよ!
おやすみー、雪がずんずん降っとる
270 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 23:55:21.48 ID:PxGQDAAO
了解
楽しみにしてるけど切ない気持ちになるからヤだなって気持ちもあるんだよな、このスレ
そうか、これが恋か
271 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 01:11:23.47 ID:F66WzRE0
おぅふ…良いスレだ
272 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 21:47:46.40 ID:maVBo6U0
こんばんは、今から投下します
15レス程度。

前回までのをさらーっと確認
番外個体のバイト先に一通さんと麦のんが凸してパンケーキうぇーってなった後からです
では、少々お付き合いくださいまし
273 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 21:49:57.29 ID:maVBo6U0

「じゃ麦のんは帰っちゃったんだね。ミサカ話したいこといっぱいあったのに」


夜の道を二人で並んで歩く。
冷たい空気が気持ちいい、と働いてきた番外個体は言うが、ただ座って食べていただけの一方通行からすると少し寒い気さえする。


「ン、食ってる途中で電話あってキレながら帰ってったから仕事でも入ったンじゃねェの?
 あァそォだ、今度遊ぼうとか言ってたぞ。……うっぷ、気持ち悪ィ……」

「まーだそんなこと言ってんの? ちょっと失礼だよ? 作った本人が此処にいるってのにさぁ。
 ……にしてもあなたがクリームたっぷりのパンケーキ食べてるところ……ぎゃはは、スゲェやばかったんだけど!」

「うるせェよ、つーかオマエは盛りつけただけだろォが」

「い、いいの! ミサカはまだ新入りだし。それにしても今日は……××さん、いなくて良かった」


番外個体が少し言いにくそうにとある男の名前を出す。
××、というその名前は、一言口に出すだけで空気を淀ませる事ができる大変便利な言葉で、
そしてそれは特に一方通行に効果抜群なために案の定彼は露骨に顔をしかめた。


「……ソイツがどォかしたンかよ。確かに見あたらなかったが」

「そんなに怖い顔しないでほしいものだけど。だってさ、……居たらきっとあなたは今以上に怖い顔するでしょうが」

「……俺がどンな顔しよォがオマエに関係ねェだろ」

「やだよ。ミサカのせいであなたにそんな顔させたくないし。……けけっ、そんな顔してたらお客さんも減っちゃうかもしれないしね」

「そりゃァどォも」


素っ気なく答えるも、実は番外個体の言葉が地味に効いていたりする一方通行。
一言余計な番外個体だが、それでも彼女が時折見せる優しさの片鱗にはどうも戸惑ってしまう。


(……コイツ、本当にイイ性格をしていやがる。俺を困らせることに関しちゃァずば抜けてンぞ)
274 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 21:51:33.79 ID:maVBo6U0

「おっでん、おっでん、おっでっんー」


番外個体の所望通りにコンビニに寄って帰ることに。
通りに面した、彼らのマンションからも近いこの店は客も多いし活気もある。
彼女は余程コンビニおでんに惚れてしまったのか、今日もおでんを食べるようだ。


「餅巾着……憎し憎し、いらないね。これは法律でも作って禁止すべきじゃないのかねぇ?」

「オマエの勝手な都合で法律いじってンじゃねェよ。……あ、肉まん下さァい」

「よし、今日はおこたに入って食べるとするかな。ていうかあなた、おでん作れるんじゃなかったの?
 おこたの上に鍋置いて……っていうのをミサカは楽しみにしてるんだけど」

「ン、じゃァオマエのバイトがねェ日にゆっくりやりますかァ」


一方通行の提案に番外個体は嬉しそうな反応を返しつつ、じゃあ来週だ、と確約を取り付けてくる。
マンションはコンビニから直ぐなので、帰ってこたつに足を突っ込みつつ、まだ湯気を立てるおでんの蓋を開けた。


「おぉ、此処のおでんは前のとちょっとダシが違う気がするよ。奥が深いねぇ。あ、ミサカにも肉まん取って」

「あァ? ……ひとつしかねェンだけど」

「えっ?」

「えっ?」

「……それはえーっと。つまり、ミサカの分は買っていないと?」

「だってオマエおでン食うンじゃねェのかよ。……ってオイ何涙目なってンですかァ、はいはい分かったって、半分こな」

「……大きい方ね」

「食い意地張りすぎだボケ」


仕方なく肉まんを半分にして二人で分け合うことに。
どうして麦野にしろ番外個体にしろ、こうもガツガツものを食べるのかと内心溜息をつきつつ、
それでも彼女が喜ぶなら、と自分に言い聞かせて。


暗い顔より、笑っている顔の方が良いに決まっているから。
275 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 21:52:44.25 ID:maVBo6U0

朝起きたら、一方通行がいなかった。
内容は薄れてしまったけれど、なんだかグロテスクで後味の悪い夢を見たことも手伝って、
番外個体は不機嫌な顔で以前の落書きがそのまま消えていない小型の冷蔵庫を蹴りつける。



「今日はミサカの買い物に付き合うって言ったクセに……あーもう、荷物持ちがいなくてどうすんだっつの」



番外個体は今週の月曜と火曜のバイトが休みなため、買い物に行こうと話していたのだが。


玄関のドアはチェーンが外されていて、一方通行の靴が無くて、それから真っ白な上着も無くなっていた。
唯一あったのはリビングのテーブルの上に置かれた書き置きが一枚。


仕事が入った。飯は冷凍のオムレツでも温めて食え。なるべく早く買える。


簡単に書かれたそれを何気なく裏返してみると、裏面はとあるランジェリーショップのチラシとなっていた。


「……、何を考えてるか知んないけどさぁ、とんだ変態悪趣味嘘つき野郎だよ」


ぶつぶつと呟きながらそのチラシをよく見てみると、思いのほか好みの品がある。
これで落とし前付けて貰おう。あの人はこんな店に入るの嫌がるだろうな、などと考えると思わずにやけてしまった。


「おっといけない。ミサカ今絶対悪い顔してたよ。反省反省」


誰も居ないリビングにその声は意外と大きく響いて、なんだか虚しくなる。
いつもだったら真っ白な誰かさんが突っ込んでくれるのに、と考えると少し寂しい様な気もして、『仕事』とやらが恨めしい。

と、そこで何か引っ掛かりを覚える。


扱いにくいからと暗部から首輪を付けられて放し飼いにされている真っ白な少年は、一体どこの誰だっけ?
276 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 21:55:25.94 ID:maVBo6U0

「……で、私と会おうと思ったわけね」


夕方のとあるファミレス。
……にもかかわらず、シャケ弁を平気で食べる麦野とドリンクバーだけで居座ろうとしている番外個体。


「麦のんとは明日遊べたら良いなーって思ってたんだけどさ、一人って結構暇なんだよねぇ。
 いきなりごめん、しかも仕事だったんでしょ?」

「ま、ぱーっと散らしてきちゃってこっちも暇してたしね。……浜面は可愛い滝壺ちゃんといちゃつきやがるしよ。
 ていうかミサカんとこの第一位もそうかと思ってたんだけど」

「そなの?」

「『グループ』だっけ? そっちのことはよく知らないけどさ、でも電話の女が言うには結構な数の召集があったらしいし、
 同じ仕事内容だったんじゃないかなーって思うんだけど。大袈裟な割に大したことなかったけどね。
 でもそれは午前のうちには解決してんのよね、私が知らないところで残党がまだ居たのかもしれないけど」

「へぇ……。電話しても繋がらないし。夜どうするんだろ、おでんだって言ったのに」

「心配? 気になる?」


麦野がいきなりそんなことを聞いてくるから、思わずストローでちゅーちゅーと飲んでいたレモンスカッシュを逆流させてしまう。
ぶくぶくと液体が下品な音をたてた。


「ぎゃははっ、麦のん何言ってるの!? まぁ確かに気になるけどさぁ、それは麦のんが多分言いたいだろう事とは違うんだよねぇ。
 分っかるかなー? 大体ミサカはふられたばっかだしさ。あ、その事なんだけどさ――」

「この麦野お姉様に何でも言っちゃいなさい。そうそうミサカ、ヤったんでしょ?」

「え? ……今のはこのミサカでも流石にドキッときたけどさぁ、ひゃひゃ、妊娠しちゃいましたーって感じかなぁ!?」

「ぎゃはは! マジで!? じゃあ名前どうするよ!?」


公共のファミレスで繰り広げられる麗しい淑女の会話は、周りが露骨に迷惑そうな顔をしても遠慮することを知らない。
277 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 21:56:21.26 ID:JBgeIewo
>「餅巾着……憎し憎し、いらないね。これは法律でも作って禁止すべきじゃないのかねぇ?」

同意
278 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 21:56:46.57 ID:maVBo6U0

「……やっぱり帰ってないし」


麦野と喋って喋って、帰ってきたのは9時頃だったというのに、それでも一方通行は家に帰っていなかった。
といっても、ファミレスを出てから一度電話してみて彼が出なかった時点で予想はしていたのだが。


「……ムカつく。何なの? 馬鹿なの? 死ぬの? ぎゃは、ていうかもしかして死んでたりする?」


イライラしながら、冷蔵庫から取り出した一方通行の缶コーヒーを飲んでみる。

……苦くて美味しくない。

牛乳でも入れたらカフェオレになるのかと小さいサイズの牛乳パックを取り出すも、
この家では需要のないそれの賞味期限は切れていて、本日二回目の蹴りを冷蔵庫にかますと牛乳を流しに捨てる。


乱暴に携帯を操作してもう一度電話するも、やはりでなかったのでメールを打つことにしてみた。



何処にいんの死んだりしてないよね?
他の女と一緒にいるの?
今頃ベットでギシアンってか?お幸せに。
おなかすいた。ねむい。しね。



「……ミサカは何してんだか。ばっかじゃねぇの? うひゃひゃ、支離滅裂にもほどがあるよねぇ」



特に真ん中あたり。
あの人が何処で誰と何してようがあの人の勝手なのにさ。
でもミサカ、実は一番頼りにしてるんですけど。ごはん、結構おいしいし。

そんな事を考えながら、真ん中の2行を消した。
結局送信なんてしないで携帯を握りしめたまま、こたつの上に突っ伏してうとうとと眠ってしまう。
279 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 21:58:22.50 ID:maVBo6U0

夢だ。
気付くことは簡単だった。



――バイト先の店長がいた。その横に立っている長身の男、自分がずっと憧れていたその人は、真っ赤に塗りつぶされて顔が分からない。

なのに、どうしてか口の動きだけははっきりと、声を伴って。


「あなたは、クローンだから」



――白衣の女性と手を繋いだ、こちらに向けた後ろ姿が自分とよく似た小さな少女。
ゆっくりと振り返ったその顔は、しかし幼い少女のものとは全く違う、とある研究者だった。
番外個体を培養器から放り出して、第一位と打ち止めの抹殺というオーダーの行方がどうなろうとオマエは痛みの中で死ぬと彼女に教えた初老の男。

ニヤニヤと下品な笑みを浮かべて、黄色い歯を剥き出しにして。


「クローンだからなぁ」


そうだ、あの研究所は狂ったヤツらでいっぱいだった、と思い出す。



――明るいコートを着た女の人。綺麗だと女の自分でも思う。傍に行こうと一歩踏み出そうとして、しかしそれは叶わない。

蔑むような眼で。


「……ミサカは、クローンなんだから」
280 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 22:02:16.46 ID:maVBo6U0

浅いようで深い眠り。深いようで浅い眠り。
夢の中で出てきては消える人々からは決まって同じような言葉が発せられる。
最初の方で夢だ、と気付いたものの、夢は醒めずに延々と同じような事を繰り返す。


そしてそれは残酷にも、こんな形で邂逅したくはなかった少年さえ、映し出す。



――ロシアでの戦闘。雪原で自分の腕を折った……もやもやとした、鮮明としない少年。
ただ真っ赤な双眸だけが妙にはっきりと見える。



この人も、何か言うのだろうかと思った。


…………聞きたくない。この人が言葉を発する前に、



はやく。はやく。こんなゆめ、



「……ト」


微かな声


夢の中でふわふわしていた意識が一気に呼び戻された。
一瞬夢と現実との区別がつかなくなる。


「……ワースト」


もう一度、確かに自分を呼ぶ声


ワースト、なんてあまり良い言葉じゃないけれど、それでもしっかり番外個体の耳を通って身体の中心まで響いた。
うっすらと目を開けて。
少しの希望を抱いている自分は馬鹿だと感じながら、それでも伏せていた顔を上げてしまう。
点けっぱなしだった部屋の電気が眩しくて、そして。



「風邪引くと面倒だろォが、ちゃンと布団掛けて部屋で寝ろ」
281 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 22:07:15.86 ID:wThsG0Uo
>>277
表出ろ、講座開くから
282 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 22:10:54.95 ID:maVBo6U0
「……あ、……え?」


視界に入ってきたのは、一日中、声を聞くだけでも良いからと願った少年。
呆けた顔でぱちり、と瞬きして、夢を見ながら自分が涙を流していたことに気付いて戸惑った。
そしてそれとは別に、暖かい涙が頬を伝う。


「悪ィ、遅くなった。……どォした?」


恐らく涙のことを言っているのだろう。
見ていた夢は覚えているが、けれどそれを伝えるのは気が引けた。
一方通行はとても疲れたような顔をしているし、自分が涙を零したことが何だか悔しいから。

けれど、悔しくて、遅い馬鹿と罵ってやりたいのに、顔が自然と綻んでしまうのはどうしてだろう。


「……なんか悲しい夢でも見てたのかも。よく覚えてないけどさ、時々ない?」


そう言って大きく伸びをする番外個体。
するとこたつの上に置かれていた彼女の開きっぱなしの携帯が小さく音を立てて落ちた。
それを見て一方通行は思い出したように、


「そォいえば腹ァ減ってンのか? そンな感じのメール打ちかけてたみてェだし、なンなら冷蔵庫に――」

「見たのぉおおお!?」


慌てたように落ちた携帯を拾い上げる番外個体。作成途中になっているメールを確認して、


「……消したんだった。あ、別に変なこと書いたわけじゃないし!? あなたが何処で女たぶらかしてようがミサカに関係ないしね!」

「女だァ? 何言ってンだオマエ」

「まぁたまたー。あなた顔良いし? 女の子にちょろっと声掛ければホイホイ釣れんじゃないのぉ?」

「何の嫌みだそりゃ。つーかマジで女とか何言ってンだっつの」

「む。童貞卒業で余裕が出てきたのかねぇこりゃ。つまんにゃーい。
 ……だって麦のんは午前中に『仕事』終わったって言ってたし、大体あなたは今そういうの関係ないんじゃなかったの?」


一方通行は番外個体の言うことに眉をひそめて、


「あのなァ、オマエがどンな勘違いしてるか分っかンねェけどよ、多分オマエが思ってるよォなことは一切ねェぞ。
 まァ確かに暗部とは距離おいてるが、どォも今回の『仕事』は相手が厄介だったらしくてよ、朝っぱらから電話きて仕方なく行ってきたンだわ」
283 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 22:12:26.97 ID:maVBo6U0

「……冷蔵庫蹴ったら痛かった」

「ハァ? ……まァ遅くなったことは悪かった。
 オマエと第四位の言う『仕事』のあとに幾つか残業もしたし……あァそォだよ、サービス残業だクソッたれ」


番外個体が冷やかすように口を挟んで、それに対して忌々しげに呟く一方通行。
なんだかんだでお人好しだよね、と番外個体に言われて、彼女を軽く小突いた。


「つーか悪ィ、携帯充電切れてたし……オマエ何回も電、」

「かけてないし」

「あっそォ。で、アレだ、『グループ』のクソ女ンとこと黄泉川ン家行ってた。……あ、女ってそォいうのも入ンのか」

「は? ……ミサカがおでん食べたくて食べたくて食べたくて食べたくて……あー食べたいよー」


そんなに腹が減っているのだろうか、と一方通行は何処ぞの暴食シスターを思い出しつつ、


「仕方ねェだろ、ショタコンは最近PSPのなンかにハマっちまったらしくて改造してくれとか言い出すしよォ、
 黄泉川ンとこはテレビがぶっ壊れたとか言うし。結構昔の型だったから逆に面倒だったンだわ」

「けけっ、学園都市第一位の頭脳だからって何だぁそりゃあ? 女に囲まれて一体何処のヒーローさんですかってーの」

「……オマエなンか機嫌悪くねェか? なンならおでン今からでも、」

「うざーい死ねー」


番外個体は不機嫌にそう言ったあと、急にいつもの人の悪い笑顔を取り戻して、


「……まぁ今日する予定だったことを明日してくれるなら良いけどさ。おでんと、それから買い物」

「まァそれはこっちも考えてたしな、ンじゃァ明日は少し早めに起きて……」
284 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 22:15:05.08 ID:maVBo6U0


Viewpoint of MISAKA_Worst(the second speech)


寒くて、寂しくて、とても独りじゃ眠れないような夜を越えた朝も、
バイトで上手くいかなかった次の日も、好きだった人にふられた次の日も、
嫌な夢をみて泣きながら目覚めた時も、


目が覚めると、あの人が居る。



一方通行。
本人は認めていないけど、第一位のクセにお化けが怖くて、真っ白で、ぶっ飛んでる感じ。
……そして、『妹達』を1万人以上虐殺してきたという褒められない経歴の持ち主。

上位個体・打ち止め曰く、エロスにしてタナトス、だっけ。
エロスってなんだエロスって。なんだかミサカ好みの響きだけれど。今度麦のんにも教えてあげよう。
え? タナトス……、も知らないけどそっちは何となくどうでも良いって感じかなぁ。何でだろ。



ミサカはあの人が嫌いだ。…………った。
今は信頼してるよ、これでもさ。


このミサカ、ミサカネットワークから負の感情を拾いやすいように脳を調整されてるせいか憎悪で溢れてた。
だからロシアでもありったけの苦しみを与えてやろうと思ってたし。
別にミサカは9000人程の『妹達』に同情している訳じゃなかったけれど、それでも虐殺を行ってきたあの人がムカついて堪らなくて。
今は『妹達』にも、個性っていうの? それが出てきた感じで時々出会うと面白いし嫌いじゃないよ。
お姉様は一回会ったきりだけど、それだけでも良い人なんだ、って思えたかな。
誰にでも分け隔て無く接するところとか、正直戸惑うところもあるんだけれど。


さて、このミサカ。

あの人を殺そうが、逆に殺されようが。はたまた、和解しようが、結局は死ぬ個体だったんだよねぇ。
ぎゃはは、クローンの命は有効利用できすぎじゃなあい? センス良すぎ。
今になってみると笑い話だけどさ、あの人に勝ってたらあの狂った研究者に嬲り殺されてたんだろうねぇ。
久しぶりに夢で邂逅して思い出したよ、あの忌々しいツラ。


そういえば『番外個体』、ミサカワーストなんて名前付けたのもあいつだったか。
統括理事会は何より第一位と打ち止めの抹殺が最優先で名前なんてどうでも良かっただろうし、なんなら無名でもさ。
そんなミサカにわざわざこーんな、『ワースト』なんて名前付けたあいつ、ほんとに嫌なヤツだ。

だからミサカはこの名前? でいいのかな、まぁそれが嫌い。
名付けたクソ野郎も大嫌いだし、良い言葉ではないし、……そんな名前に自分がぴったりって事が面白すぎて逆に笑えない所もムカつく。
285 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 22:19:17.40 ID:maVBo6U0

ワースト、ってbadの最上級だしさぁ、つまり最悪ってことでしょ?
あ、不規則変化ですココ重要ってミサカはミサカは己の博識を披露してみたり! ……あーこれってチビっこだから通用するんだよねぇ。

ていうかおかしいよ、末っ子ミサカはワーストじゃなくてEndとかそういうのもあった筈じゃないの?
ミサカエンド、なんておかしいけどさぁ。エンドーさんになった気分だよ。エンドーさんって誰だっつの。



でも。


あの人から呼ばれると、安心する。



不覚にも涙が零れちゃうくらいにね。だって女の子だもん。てへ☆


なーんて、分かりにくいかにゃーん?

皮肉なんかじゃなくなくなくなくなくなくなーいって感じなんスけどぉ。


なぁんて言葉使ってみたけど、んー。そこら辺のケバい女が使っている様な言葉はどうもこのミサカには合わないらしい。
何だか大変な事になってる感じ。何が言いたいかもさっぱりだし。

……多分考察してみても、答えなんかでないんだろうけど。



そういえば、あの人。誰か好きな人いるのかな。
今日の話からすると、意外と女に頼られてたりするのかもねぇ。うひゃ、まさかのフラグ乱立とか?
麦のんと仲良しみたいだけどどうなんだか。そういえば麦のんの恋、ミサカにも何か出来ないかな。
そういうの、苦手だけれど。麦のんは数少ない頼れる人だしね。


……あの人がもし誰かと付き合ったりしたら、ミサカも住む場所探さないとなぁ。

ご飯も自分で作って、おやすみもおはようも独りで、だから起きてきても勿論独りで……、なんか、嫌だ。
このミサカは思ってる以上の面倒くさがり屋なのかもねぇ、ひゃひゃ。


そうそう、あの人。『仕事』やらできっと、人を殺したんだ。
露骨に怠そうな顔して、でもそんな時どうすれば良いかなんてこのミサカには分からない。
……ミサカなんかがなんにもしなくたって、きっとあの人は直ぐにいつも通りになるんだろうけど。
286 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 22:19:56.84 ID:F66WzRE0
>>ショタコンは最近PSPのなンかにハマっちまったらしくて改造してくれとか言い出すしよォ
おい




おい
287 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 22:20:51.50 ID:maVBo6U0


「明日は10時前に起きてみせる」

そう意気込んで就寝した番外個体だったが、結局起きたのは11時頃だった。
相変わらずの寝ぼけ眼でふらふらとリビングにやってきて、いつも通りぐだーっとテーブルの上に突っ伏す。


「うえーねむー」

「オマエ早起きするンじゃなかったのか」


声がした方を首だけ捻ってみてみると、一方通行はキッチンに立って朝から何か作業している。


「何してんのー? 主夫さんに質問たーいむ」

「昨日黄泉川から大根貰ってきたし、卵もあるし。今のうちから煮込ンどきゃァ良い感じに味も染みンだろ」

「だいこん……たまご……あ、そっか。今日はおでんだった! イエス、ウィーアーおでーん」

「ウィーはおでンじゃありませン。おら、買い物行くンだろォが。さっさと顔洗って着替えてきやがれ」


んー、と番外個体は一応素直に返事をすると部屋に戻っていく。
いつもなら何かと突っかかってくるが、寝起きだと思考が鈍っているというか子供じみているというか。
あの状態の彼女は何とも扱いやすくて助かると一方通行は大根に隠し包丁を入れるという主夫スキルを発揮しつつ考える。



下ごしらえを終えてソファに座りながら、お昼の番組の『今日のクッキング!』コーナーを眺める一方通行。
実はこれが結構役に立ったりするのだが、


「……その手の番組を毎日観てあなたはお料理スキルを磨いていたんだね……」

「別に毎日観てるわけじゃねェよ!」


後ろから聞こえた、眠気を感じさせない番外個体の言葉に訂正を入れつつ、振り返る。


「どうかにゃーん? 新しいのおろしてみたんだけど」
288 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 22:23:22.06 ID:maVBo6U0
普段のカジュアルな格好とは趣を変えた、ガーリーな服装。
ファー付きのハーフコートに、ニットワンピースをデニムのスキニーパンツと合わせて着ている。


「昨日麦のんに見繕ってもらったんだけど、やっぱりこういうのは変かなぁ」

「いや、変じゃねェ、……けど、なンつーか新鮮だなァ」

「うん、ミサカもそう思う。いっつも軽めのかっこだし、こういう感じのは初めてかも」


番外個体は少し違和感があるのか、ひらひらとニットワンピースをめくりながら、


「じゃそろそろ行かない? もうお昼だし」

「そォだな。つーかひらひらさせンなみっともねェ」



ブーツを履いた番外個体といつもの上着を着た一方通行は、とりあえずセブンスミストを見て回った後、再び外に出てきていた。
12月も中旬に入り、店内との気温差に驚きつつも、キャンピングカーを改造したような現代風な屋台で買ったクレープを食べながら歩く。
甘い物が好きでない一方通行はチーズとツナサラダのクレープを食べつつ、番外個体が美味しそうにかぶりつく
クリームたっぷりの甘ったるそうなクレープをみて顔をしかめた。


「ふぇー疲れるなぁあの人の多さは。まぁこれ買えたしね」


番外個体が機嫌良く手に持って振る『Seventh mist』とロゴの入った袋の中には、
コーヒーミルなどのコーヒーを豆から淹れる為に必要な道具が入っている。
以前番外個体が買ってきたコーヒー豆は封も開けられないままだったが、これでどうにか飲めるねと彼女は笑う。

セブンスミストには服などの他にもこうした日用雑貨も売っているのだが、


「うひゃひゃ、商品お買い上げのお客様に配られてたゲコ太ストラップ! こりゃお姉様に自慢できるね」

「オマエそれが目当てだろォが絶対。ったく、それってガキ対象じゃねェのかよ。変な所ばっか遺伝しやがって」

「今のは聞き捨てならないんだけど。大体同じ遺伝子なのにこのミサカは他のミサカより胸が大きいんだからね」

「そりゃァ設定年齢の違いじゃねェのか」

「うっさい変態。……あ、変態といえば……」


番外個体は人の悪い笑みを浮かべて、


「変態なあなたと行くべきお店、すっごく良さそうなところだからどんどん行っちゃおうか」
289 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 22:28:51.52 ID:maVBo6U0


「オイ……マジで此処入ンのかよ……」


番外個体御一行がやってきたのは、とあるランジェリーショップだ。
番外個体は店舗前で嘆く一方通行に一言低い声で、


「昨日は嫌な夢みたんだよねぇ。……独りでお腹空かせてさ」


と告げて店内に入っていく。
ちなみに此処に来るまでの道のりで彼女が「書き置きが――」「チラシが――」などと言っていたが、一方通行にはよく分からなかった。


「いらっしゃいませ、?」


若い女の店員が、番外個体のあとに続いて気まずそうに入ってくる一方通行を見てきょとんとした顔をする。
しかし番外個体から質問されると完璧な営業スマイルを取り戻してにこにこと、


「えーっと、もしかして此処って男ダメとかあるのかな?」

「いえ、カップルで来られるお客様も時々おりますので、どうぞごゆっくりなさってください」


それを聞いてげんなりする一方通行だが、幸いなのは店内に他の客がいないことだろうか。
平日で良かった、と思いつつ、なんとなく目のやり場に困ってしまう。そんな彼の様子を察したのか、番外個体は意地悪く、


「ねえあなたぁ、ミサカにこぉんなのどうかにゃーん?」

「オイ馬鹿やめろ! ンなモン堂々と付けてるンじゃねェよ!」

「えーじゃあこれはー?」

「もはや下着としての役割が放棄されてンぞソレ!?」


黒くてレースがひらひらだったりすけすけみるみるだったり紐! だったりと忙しく一方通行をからかう番外個体だったが、



「おふぇ……っ! 大きいお姉様……ッ!?」



イヤナモノを見た。
290 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 22:36:25.25 ID:maVBo6U0


――それは、道路に面したガラス張りのウィンドウの向こうにびたーんと張り付いて目を爛々と輝かせていた。
『妹達』の中で最も恐れられるツインテールの少女が、恐ろしい形相でこちらを見ている。


番外個体はダラダラと零れる涎でガラスを汚すソレを発見し、ぶるりと大きく震えた後、一呼吸遅れて



「ぎゃぁあああでたぁああああ!!」



まるで幽霊でも見たかの様な形相で服の上から纏ったブラジャーも気にせず絶叫。

ハァハァと息を荒げて店内に入ってくるツインテ少女と、彼女から少しでも離れようと店の奥に逃げるブラ装着の『大きいお姉様』。


そして少し遅れてやってきた、番外個体によくにた顔つきの少女は一方通行の顔を見るなり、



「な、ななな、なんでアンタがこんなとこにいんのよぉおおおおおお!?」



真性の変態が、服の上から嫌らしいブラジャーという傍目には変態チックな女を追いかけ、
その女によく似た少女がランジェリーショップにとても似つかないような風貌の男を見て絶叫する。


まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
店員の若い女がオロオロと、何のためか取り敢えずマネキンを撤去した。
291 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 22:38:49.05 ID:maVBo6U0


「ハァハァお姉様、大きい大きいお姉様ぁん、グヘヘお姉様よりもお胸が大きいですわうへへ」

「ちょっとやーめーろっつのぉおお! ミサカあんたは苦手なの! ちょ、やぁっ、何処触ってんだ変態ぃい!」


店内で危ない雰囲気を醸し出す二人を差し措いて、店の隅で一方通行と『お姉様』こと御坂美琴は向かい合っていた。
ちなみにこの隅っこ、下着ではなくアクセサリーコーナーであることを重視したうえで互いに取り決めた場所である。


「……なるほど、それでアンタがあの子と一緒にいるわけね。……こんな店に」

「ンな目で見てンじゃねェよ、こっちだって来たくて来てンじゃねェンだからよォ」

「にしてもアンタがねぇ。打ち止めといい、番外個体といい」

「……悪ィな、オマエからすりゃァ気にくわねェかもしンねェが」


――俺はアイツらを守るって決めてンだ。


「……、別にね、私は今更『実験』のことをどうとか言うつもりはないわ。確かにアンタを憎いと思ってた時もあったけど、
 今のアンタを見てるとそんな事言えたような立場じゃないのよ、私はね」

「……、」

「そうだ! あの子だって一応『妹達』だし、ってことは私の遺伝子……ふふっ」


何やら不穏なオーラを醸し出す美琴。
と、そこへ番外個体が助けを求めてやってくる。


「呑気にお喋りしてないで助けて欲しいものだけど! この変態、ガキのくせに生意気なっ!」

「あぁん! もっと! もっと罵ってくださいまし! はっ! そうですわ、試着してみませんこと? 黒子がお手伝いいたし……きゃんっ」

「くーろーこー? いい加減にしなさい」


美琴に割と本気で頭を叩かれてうずくまる白井黒子。
番外個体はその隙に美琴の後ろに回り込んで、


「久しぶり、お姉様。ロシアから戻ってきて一回会った時以来だよね? ていうかこの変態ちゃんと躾しておいて欲しいものだけど」
292 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 22:39:17.59 ID:W/u2rg60
>店員の若い女がオロオロと、何のためか取り敢えずマネキンを撤去した。
萌えた
293 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 22:40:47.32 ID:BsfKCRgo
まさかこのSSに美琴さんが出るとは思ってなかった
294 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 22:41:04.58 ID:maVBo6U0

「それができないから困ってんのよ……そうだ、ねぇちょっとその下着さ――」

「……このミサカは着せ替え人形じゃないんだけれど」

「良いじゃない、そうすれば将来の美琴ビジョンが……ってアンタ、私より胸でかくない? え、もしかして将来的には私も!?」

「ぎゃはは、ないない! このミサカは育成途中にイソフラボンを多めに――」

「ちょっとソレ本当!? 凄い怪しいんだけど!」

「お姉様同士がお胸について語り合っておられるなんて黒子は黒子は……あらいけませんわ、涎が」

「……なーンなンですかァコイツら」


仲良く、と言って良いのかは微妙だが、姉妹が少しおかしな会話をしていて、それを眺める変態。
ただでさえ居心地が悪いこの店から早く出たいと思う一方通行は、


「ハァハァ、……はっ、気付くと黒子の隣には殿方が。このようなお店で、な、何をするおつもりですの!?」

「……今更かよ。つーか俺はオマエの言う『大きいお姉様』から無理に、」

「ジャッジメントですの! 大人しくお縄にかかってくださいまし、この変態さんが!」

「……聞いてねェし」


厄介な変態に変態呼ばわりされ、自尊心が砕けるところだったと後々思う。




「じゃあ、またね。……アンタ、この子に変なことしないでよね」

「大きいお姉様、近いうちにぐへぐへへ」


少女達が店の前で手を振って別れる。
やっとの思いで店を出た一方通行は、久しぶりの外の空気を大きく吸い込む。……美味しい。


「結局あの変態ツインテのせいで下着買えなかったけれど……これ、ありがとね」


そう言って番外個体が見せるのは、小さな紙袋だ。
中には帰り際に一方通行が買ってやったネックレスが入っている。


「あなたが一緒に選んでくれたこのネックレス、暫くは大事にするからさ。ひゃひゃ」
295 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/16(木) 22:49:13.77 ID:maVBo6U0
今日の投下は以上でっす
改行規制に手こずった、ほぼ即興な感じの所もあるけどご愛敬ってことで

何で美琴と変態さんだしたんだろ……余計なことすンじゃねェ! ってなった方ごめんです
まぁ少し明るめにいこうぜクリスマスなんだもの

途中でレスくれた皆さん、読んでくれた皆さんありがとう
餅巾着は油揚げがなければ美味しいと思う
いつも通り質問にはできる範囲で答えるし、でもまぁ今日はおやすみー
次回は雪が降ったりなんだり
296 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 22:56:13.01 ID:W/u2rg60
おつー
ワーストかわええなぁ…
297 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 23:01:02.33 ID:Bm8iWb6o
デレたミサワを見たい
298 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 23:01:38.86 ID:u4pzUzso


>アンタ、この子に変なことしないでよね
既に貫通済みです、ありがとうございました
299 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 23:02:25.12 ID:We/kcz6o
ツンからデレへの移行期こそ至高
300 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 23:11:43.45 ID:bsP6krUo
オイオイ、オリジナルにヘンなストラップ自慢すンの忘れてますよォ?
301 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 23:32:07.98 ID:DLpFEwAO
ミサワさんが可愛すぎていろいろやばい
302 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 23:34:43.88 ID:eSwYX56o
おつ

いいタイミングでこの二人出したなw
303 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 00:46:36.64 ID:tmBbr2AO
乙であった!
1日待った甲斐があったぜ
304 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 00:53:44.24 ID:T9u86zAo
いいね
実にいいね
305 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 00:58:10.94 ID:QEMotcEo
何故かエプロン装備でおでんの仕込みしている一方さん幻視した
306 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 01:53:25.50 ID:ySoymXQ0
あわきん何やってんだww

ワーストが一方通行の気持ちに気づく時が楽しみだ
307 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 02:00:33.60 ID:jBTJIsk0
いいね、いいねェェェ
308 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 08:02:00.73 ID:vgkPY6AO
番外通行がこんなに良いものだとは
309 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 11:24:10.65 ID:3QBQrsAO
>>305
裸エプロンがどうしたって?
310 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 19:37:22.53 ID:iem0qEAO
今回のMVPは店員
311 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/19(日) 20:33:58.88 ID:gGN4w6s0
餅巾着は当たり外れがやたら大きい気がするぜ
個人的には自家製が一番美味い
312 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/19(日) 22:20:37.37 ID:UkKN9Lc0
こんばんはー、レスが沢山あって嬉しいな! 楽しく読ませて貰ってる
読んでくれた人も本当にありがとうなんだよ!

えーっと、今のところ構成はまとまってるんだけど書きためがまだ足りない感じかなぁ
半分くらいできてるから、投下できるのはもう少しってところです。できれば火、水までは…
待っててくれる人は遅くなってごめんだけど、投下時はぬるく見守ってくだしあ

では報告とお礼だけで今日は失礼しまっす。ていうか餅巾着って家で作れるのか、すごいな
ではありがとーそしておやすみー
313 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 01:53:25.29 ID:6u7hxcAO
暖かくして寝ろよ
314 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 02:00:53.99 ID:47aJVEAO
歯ぁ磨けよ
315 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 02:16:05.13 ID:rpdVXADO
風邪引くなよ
316 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 02:47:45.70 ID:A6cWccYo
なんだこのばばんば ばんばんばんな流れは
317 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 02:59:07.39 ID:6SOR0aco
オイーッス
318 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 03:20:02.33 ID:mIHMBlAo
御揚げの中にベビースターやチキンラーメンいれて爪楊枝で蓋して煮物やおでんにいれると美味い
319 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 15:25:27.22 ID:DA.HCmE0
おでんより鍋に入れるとボリュームのあるおかずっぽく食べられる
しっかり煮込むならお揚げに餅だけでも旨みを吸ってくれるから美味いよ
320 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 03:02:21.35 ID:nus/dMUo
まだ途中までしか読んでないけど何ですかこれは!
何でこんなに俺の近況とシンクロしやがるんですか!?

…ああ、違うか。向こうはハナっから彼氏持ちだったしなァ…
321 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 08:23:14.32 ID:VbgPeADO
>>320
キモいんだよ
スレ汚してんじゃねーよ
322 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 10:00:37.03 ID:xhhv3vIo
>>320
氏ねカスが、クリスマス近いからってそんな事いって自分を慰めてんじゃねえよ
323 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 15:28:15.35 ID:WzM4TqA0
>>320
流石にスレチ
324 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 19:29:35.04 ID:b./QCIAO
>>320
ここはお前の日記じゃねぇぞ
325 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 19:37:43.93 ID:kJxnkAAO
>>320
黙れよマジで
お前は一人じゃねぇからもうレスすんな
326 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 19:39:45.62 ID:5hvjkBgo
        まあまあ
           落ち着いて
                , -─-、
               /     \
               l彡  ミ   |  + +
         + +   |  l     |  +
           +   | r──ァ  l +
             +  | l__ノ  /         nnn
  nnn          ヽ____ノ       | | | |n
 .n| | | |          _ノ   ヽ_     ,、| - l
  ! - レヽ       /         \   ヽ ヽ _ノ
  ヽ / /      /            ヽ  ./  /
   \  \    /   /l        |\  \/  /
     \  \  /   / .|       .|  \    /
      \  ヽ/  /  l          l   \_/
       \   /    |       |
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                  \|   |
                   ノ| , -‐-、
                  (_{(____)
327 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 20:26:09.67 ID:WN/GThg0
>>321-325
なんだが知らんが凄い嫉妬パゥワーを見た

変な事って貫通済みだったじゃないか
328 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 14:46:16.40 ID:qn0Km5s0
>>327
悪いんだが意味がさっぱり判らん
329 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 20:40:57.85 ID:E0rFKXYo
この時期になると皆ぴりぴりすんだよ
330 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 21:34:25.17 ID:R0fjPuso
ビリビリされたい
331 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/22(水) 22:47:44.91 ID:sbYhuik0
こんばーんは。なんかレスいっぱいあってびくっりしたけど嬉しいんだよ!ありがとう
おでんの具とか変わりネタおもしろいwおいしそう

遅くなったけど、
これから風呂入ったりなんだりして、最後にもう一回読み直して大丈夫だったら今夜中に投下します
というわけでもうちょい待ってくだしあ。雪が降るんだよ!
アヤブレアちゃんかわいいよ
332 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/23(木) 01:59:23.87 ID:proJgmo0
クリスマス一週間前。雪が降った。


「雪だよういやっほーう!」


窓から外を眺めて、うっすらとアスファルトの上に積もっていく雪に興奮を隠せない様子の番外個体。
数日前に一方通行から買って貰った、雪の結晶をかたどったネックレス。
シンプルなそれは何処かに行くわけでもないのに首に下げられていて、それが少し嬉しいと一方通行は素直に思う。
ちなみにその日の夜はおでんだったのだが、餅巾着が憎いと言っていたくせに餅巾着がないと喚いた電撃使いがいたとかいないとか。


「……ンなモン、ロシアで嫌っつゥほど見てきただろォが」


とある電撃使いは一方通行の呆れた様な言葉を聞いても、


「あれは雪っていうかもはや地面だったしね。それに学園都市で雪が見れるなんてさぁ。あのチビっこ最終信号もはしゃいでるかもね」


相変わらず窓にぴたりとおでこをくっつけて冬を満喫している。


「ホワイトクリスマス、だっけ? なるかなぁ」


そんな番外個体に対して、調子が狂う、と顔をしかめる一方通行。
……もしかして、メルヘンとは伝染するものなのだろうか。
だとしたら、忌々しい名前がでかでかと書かれた冷蔵庫と日常を共にしているせいで、
番外個体の頭の中もメルヘンチックなお花畑になってしまったのかもしれない。

一方通行は本気でそれを心配しつつ、


「クリスマスだァ? どォ考えても商略だろォが」

「ぎゃはは、あいっかわらずの捻くれた考え方だねぇ。ミサカそういうの嫌いじゃないけど。見て、これ」


そう言って番外個体が投げ渡してきたのは彼女の携帯。画像が表示されているそれは、


「……ンだァこれ」

「ツリーだよ、クリスマスツリー。ミサカのバイト先で飾ってきたんだけどさぁ、綺麗じゃない?」

「どォだか。つーか写真が逆光っぽくてよく分っかンねェわ」

「そりゃあどうも失礼しましたあ。ミサカ、カメラとかいらないかなぁって思ってこのケータイにしたからなぁ。
 でもでも、やっぱりこの綺麗な感じはミサカみたいに純粋なのじゃないと分かんないみたいだねぇ、うひゃひゃ」
333 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/23(木) 02:00:07.84 ID:proJgmo0

でね、と、番外個体は窓を背にしてこちらを向いたまま、


「うちにもツリー飾ろうよ」

「ハァ? なァに言ってンだ、うちにはそンなでかいモン飾る場所ねっつの」

「つれないなぁ、良いじゃん良いじゃん。最近は色んな種類も大きさもあるんだしさ。
 たまにはそういうの見て気分リフレッシュ爽やかなあなたに生まれ変わりましょう!」


番外個体はそう言っても渋る一方通行を見て、


「お願い! このミサカがここまでしてるんだから、ね?」


こたつに入って頬杖をつく一方通行の元まで窓辺からはいはいで寄っていくと、彼の顔を覗き込む様にして小首を傾げた。
首から下がるネックレスが番外個体の胸元を離れ、不安定に揺れる。
ふわりと彼女から微かに香る甘い香りに、一方通行の心臓がどきりと跳ねた。


「だめなの?」

「……っ、もォ勝手にしろ」


真摯に紅い瞳を見つめられて、思わず視線を逸らすと同時に承諾してしまう。
番外個体は途端に笑顔を咲かせると、


「ほんと!? さっすが第一位様、見直しちゃったよ! うひゃひゃ、麦のんにも自慢してやろ」


よほど嬉しいのか、立ち上がってくるくると回る。一緒にネックレスも遠心力でぶんぶんと回った。

もとから感情を率直にというか露骨にというか、ばんばん出してくるところがある番外個体。
出会ったばかりの頃は主に悪意に用いられていたそれは、今ではその他に、こうして喜びなどの『プラスの感情』を表現するのにも使われている。

そういえば出会った当初は目立ったあの不健康そうな目の下の隈も、今では徹夜した次の日以外は見ることもなくなった。

そう考えると大した変わり様だと、くるくる回る番外個体を見て一方通行はしみじみ感じる。
ちなみに、彼自身も以前に比べて大分変わったのだが、どうも本人にその自覚はあまりないらしい。
334 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/23(木) 02:09:39.07 ID:proJgmo0
所々にイルミネーションが施され、『HAPPY Xmas』の広告が目立つ学園都市。
サンタの格好をしたバイトが風船を配っていたり、ラッピングを頼む学生があちこちにみられる。
クリスマスイブまであと2日。

定番のクリスマスソングが何処からか聞こえてくる道を歩く番外個体は、ぶるりと身体を震わせた。
大きな明るい色の袋を抱える様に持っていて、トレンチコートにマフラーとブーツで防寒に力を入れているのだが、12月下旬はやはり寒い。
昨夜から降り続けている雪の影響からか、気温も2、3日前に比べると一気に低くなった気がする。

番外個体はもう一度身体を震わせると小さくくしゃみをして、


「くしゅ。……さむー、やっぱり手袋も欲しいところかなぁ。……にしてもあー重い」


抱えていた袋を一旦地面に置いて、体操でもするかの様に腕を軽く振る。
袋の中身が箱であるそれは、直立したまま風に揺れることもせずにどっしり構えていた。

こういう時に空間移動系の力が使えれば便利かもしれないと思いつつ、嫌な知り合いの顔が浮かんで顔をしかめる。
……それにしても。


「こーんな重いものだとは思ってなかったよ……。ちったぁ自分で歩けっつの」


一度置いてしまうと袋もとい箱を持ち直す気力がすっかり無くなってしまい、
折角時間をかけて選んだソレを完全なる責任転嫁と逆ギレで思わず箱を蹴り飛ばそうとしたところで、


「サンタさんだーサンタさーん!」


ちびっ子に絡まれた。
5、6歳ほどの男児は番外個体が今まさに暴力行為を行おうとしたいた袋を覗き込んで、


「わぁ、お姉ちゃんサンタさんのお手伝いさんなの? でっかい荷物だねぇ」

「はぁ? 何言ってんのこのガキ。ていうかミサカこういうの苦手なんだけど。それにさぁ、サンタさんなんて、」


いないに決まってんじゃん。

そう言いかけて、しかし口をつぐんだ。折角のクリスマスだしね、と心の中で呟いて、


「ん、まぁミサカはそんなところかな。あなたの所にもきっと行くからね……おぇー、吐きそう」

「ほんとう!? じゃあ僕は――」


欲しいものを喋る男児の純粋な反応に苦笑しつつ、自分にとっての初めてのクリスマスはなかなか良いな、と改めて思う。
335 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/23(木) 02:11:28.60 ID:proJgmo0

「たっだいみゃー」


浮つく様な番外個体の声と、彼女の足音と共に聞こえるずるずると何かを引きずるような音。
直ぐにがちゃりとリビングのドアがあいて、微かに水滴のついたコートとマフラーを着込んだ番外個体が入ってきた。


「んあー疲れた。……ひゃひゃ、なにその眠そうなツラ。第一位様はのんびりお昼寝ってかあ?」


テレビをぼけーっと眺めつつ、うとうとしていた一方通行はごしごしと目の下を擦る。
そんな彼をにまにまと面白そうに眺めつつ、番外個体は洟をすすって、


「外寒かったぁ、……ぐしゅ、風邪ひいたかなぁ。やっぱ手袋は必須かもねぇ。あ、ほら、ちゃんと買ってきたよ」


運んできた袋を掲げてみせる。


「ねっみィ……。ボロボロじゃねェか」

「予想以上に重くて大きいしさぁ、持って歩くの恥ずかしかったよ。
 そんなか弱いミサカには引きずる以外に選択肢が、ってあなたを呼べば良かったのか」


番外個体はぼやきつつ、所々がすり切れた袋から箱を取り出す。
袋に比べて傷もない、明るくデザインされた120センチほどの箱には、『Xmas Tree』の文字。


「あなたも一緒に飾り付けしようよ」

「めんどくせェ」


箱を眺めながら満足げに笑みを浮かべている番外個体は一方通行に誘いを蹴られるも、どうやら答えは予想していたようで、
気にする素振りも見せずに箱からツリー本体やオーナメント、電飾を取り出していく。
それを見ていた一方通行は、


「へェ、白いヤツか?」

「そ。ミサカこっちが好きなんだよね、普通のより。雪積もってるみたいじゃない? 
 本当はファイバーツリーが良かったんだけど、売り切れだってさ。この時期だもんねぇ」


番外個体の言葉を聞いて、彼女はよほど雪が好きなのかと思う一方通行。
彼女の首に今日も下がる雪の結晶のネックレスが反射してきらりと光った。
336 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/23(木) 02:15:32.74 ID:proJgmo0
「よし、こんな感じかにゃーん?」

立ち膝で飾り付けをしていた番外個体が、終了の合図と共に華やかになったツリーを窓際に移動させる。
そんな彼女を眺めていた一方通行が何か足りないと思っていると、


「はい、最後に星飾るくらいあなたもやってくれて良いんじゃない?」


番外個体がツリーの一番上に飾る星を押しつけてきた。
立体的なそれを見て、足りていなかったものがこれだと気づいた一方通行は、


「あァ? オマエ、やンなくていいのかよ。こォいうのって醍醐味っつーか、そォいうのじゃねェの?」


聞いてみるが、番外個体はそれを無視。ソファに座っていた彼を立たせると背中を押してツリーの前まで連れていく。


「……ミサカと、それから、……あなたのクリスマスだから。
 だからあなたも……か、かじゃらなきゃダメでしょうがそんくらい理解しろっつの!」


何が『かじゃる』だ噛ンでンじゃねェか、と心の中だけで番外個体の醜態を批判しつつ彼女の方を見てみると、彼女はしかめっ面で目をそらして


「……早くしてよね、ミサカは点灯がすっげぇ楽しみなんだから」

「分かってるっつの」


これが彼女のオリジナルだったら顔を真っ赤にしたりするのだろうが、どうやら番外個体にそんな機能は備わっていないらしい。

ツリーの飾り付けという、今まで生きてきて初めてのその行為は、予想以上に緊張するものだった。
一方通行はなんとなく気まずい雰囲気を感じつつ、恐る恐るといった様子で星を飾り付ける。

そしてツリーのてっぺんに君臨した、透明な星。

ツリーの点灯スイッチは一方通行のすぐ傍にあったので、それをオンにしてやると、


「わーお、すごい、綺麗! ちっさいけどすごいねぇ、クリスマスだ」

「そォだな」


夕暮れで薄暗い部屋の中、輝くツリーを見つめてもう一度。


「……クリスマスだ」
337 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/23(木) 02:17:23.94 ID:proJgmo0


番外個体がバイトに行ったあと、一方通行は頭を悩ませていた。
視界の隅にきらきら輝くツリーを感じつつ、


(クリスマスっつったらアレだよなァ、プレゼント。アイツはどォもクリスマスで頭ン中がボケちまってるみてェだし、
 つーかそォだ、あのクソガキにも用意しなきゃなンねェな)


今まで誰かにプレゼントをあげたこともなければ、そんなことを考えたこともなかった一方通行。
取り敢えずガキの方は何でも喜びそうだと楽観視できるが、問題はクリスマス大好きな番外個体である。


(ガキならともかく、あンくらいの女っつーのは妙にこだわりみてェなのがあるからなァ)


近くにあったチラシを手繰り寄せ、裏が白いものを一枚適当に選んで裏返すと候補をペンでさらさらと書いていく。


(アクセサリー……はこの前買ってやったしなァ)


アクセサリーの文字の上から横線。


(かといって香水とかもどォなンだか。臭いの好き嫌いもあンだろォし)


これにも横線。


(この期に及んでゲ……ゲロ野郎? じゃねェ、ゲロ太だゲロ太。そォいうガキっぽいのはねェよなァ)


御坂美琴やその遺伝子から生まれた少女達が聞くと憤慨しそうな間違いを犯しつつ、これはメモすることもなく頭の中で除外。


「あー分っかンねェ。……つーかこの俺がこンなことで悩ンでるなンざ、どこで間違えたンだか。笑えねェ」
338 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/23(木) 02:21:41.70 ID:proJgmo0
そんな事を考えつつ、視界に入ったのは自分の携帯。
実は以前麦野と番外個体の働く店に行ったとき、彼女から半ば押しつけられる様にアドレスと電話番号を貰っていたのだった。

女で、しかも番外個体とも仲の良い麦野。
彼女から何か聞けないだろうかと、あまり乗り気ではないのだが仕方なく電話する。

4コール目で繋がった。


「麦野か? 俺だ」

『第一位が何の用かしらぁ? おら、テメェはどうして欲しいのかにゃーん? 恋の相談所は現在混み合って、
 っと、ぎゃははは、いい歳してチビっちゃってなっさけねぇわねぇ!?』

「……、」


どうやら仕事中らしい麦野の興奮した声は、一方通行と電話の向こうの哀れな誰かを同時に相手しているようで話しにくい。
完全にタイミングを間違ったと思う一方通行だが、かけ直すのが面倒なので続けることにする。
銃声や叫び声、何かを焼き尽くすような音だったり溶けるような音だったりという
破壊音に混じって時々聞こえる、麦野の口から発せられる下品な言葉。
それを耳障りに感じつつ、


「今クリスマスだのなンだのってあちこちで騒いでンじゃねェか、そのことなンだけどよ」

『あぁ!? 続けんのかよクソ野郎、こっちは今すっげぇ盛り上がってきてんだけど!? ほら絹旗、そっちいったよ超潰せ!』

「番外個体もどォやら頭がボケちまったらしくてよォ、ンで、なンつーか……アイツにも何かプレゼントやらやりてェンだが、」

『ほーら、ぐっちゃぐちゃとめっちゃめちゃ、どっちがお好みかしら? ふふっ、いずれにしても目ん玉ブチ抜いてやるけどねぇ!』
『う、あ、かか金、金ならあふ、あ、あるから、なっ何でも、しましゅから、ひぃっ、』
『あれー? ……命乞いすんなら噛まずに喋れっつーんだよこのクソ豚がぁ! だから社会的にも死んでるんじゃねぇのぉおおお!?
 テメェが死んだところでパチンコ屋の兄ちゃんも悲しまねぇしハッピーエンドだろうが! 
 大人しく家でネットの世界に浸ってれば誰にも迷惑かけねぇのに!! なぁんでこっちの仕事増やしてくれちゃうのかなぁ!?』


麦野の罵声の直後に、何かが弾けるような音。一方通行は耳から携帯を離して顔をしかめながら、


「……、女のオマエなら分かンだろ、何が良いと思う?」

『きったねぇ血浴びせてくれちゃってほんっとムカつくからそっちのテメェもブチ殺して、……あー、そんくらい自分で考えなさいよ』

「あァ? それが無理だからオマエに嫌々電話してるンだっつの」

『あのねぇ、クソムカつくけどこっちから番号教えた手前教えてあげる。……渡す人、つまりアンタが選ぶから意味があんのよボケ』


それだけ口早に言うと、麦野は一方的に電話を切ってしまう。
相手が居なくなって単調な電子音をはき出すだけの携帯に向けて、一方通行は舌打ちした。
339 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/23(木) 02:23:12.69 ID:proJgmo0

12月23日。
イブ前日で、日本では祝日とされるその日、学園都市では明日から一歩早い冬休みを迎える学生で溢れていた。
学園都市では終業式を終えて浮かれ気分でクリスマスプレゼントを購入、という流れが恒例となりつつある。
それは今年も例外でなく、ショッピングモールには制服姿の学生が多く見られる。

そして近寄りがたい異様な雰囲気を放つ、真っ白な能力者も一人。


「あァ? ……オマエらの事情なンか知るかっつの。いちいちンなことで電話してるンじゃねェよ。
 あのクソ女がどォした、……ハァ? ゲームだァ? 意味分っかンねェ、ともかくクソ女がいないせいで俺に面倒が回ってきてンだろ。
 だったらそのゲームぶっ壊すだのしてでも『仕事』させろっつの、こっちが迷惑なンだよクソッたれが」


着信に低い声くてイライラとした声で応じるその人物は、学園都市第一位の能力を誇る一方通行だった。
彼は相手が依然としてにゃーにゃー喚いているのも気にせず、通話を勝手に終えてしまう。


……暗部組織『グループ』の構成員の一人、とあるレベル4の空間移動系能力者が私的な事情に夢中で『仕事』を疎かにしているらしい。


「ハッ、祝日まで『仕事』たァご苦労様ってところかァ?」


一方通行はそう呟くが、重要な戦力となる女がいないからといって自分が愛想良く出て行くなどという発想は微塵もない。

第一、番外個体へのプレゼントはまだ何も決まっていない状態なのだ。

そんなことを最優先事項にしてしまう自分がクリスマスなどと言って浮かれているヤツらを馬鹿にできない事を痛感しつつ、
取り敢えず適当に大型のショッピングモールを歩いて何を買うかを決める。


麦野曰く。渡す人、つまりアンタが選ぶから意味があんのよボケ


そんなことを言われても、やはり貰って嬉しいものは嬉しいだろうが、その逆だって十分あり得るわけで。
電話を一方的に切った麦野は殺戮の繰り広げられるあの状況下で、良いこと言った、
などと満足しながらあの後も虐殺を行っていたのだろうが、一方通行からしてみるとそれは自己満足ではないのかと思うばかりである。

そしてやはり、彼女の有り難いお言葉『渡す人云々』も渡す人の自己満足にならないだろうかと不安になるのだ。
340 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/23(木) 02:25:39.34 ID:proJgmo0

一方通行がいるショッピングモールは様々な年代を対象として作られているため、多様なショップが入っている。
そして番外個体のような年代をターゲットとしたショップというのは、


「これちょー可愛いんですけどぉ」
「ねぇこれとか似合うかなー?」
「……これは。とても華やか。個性が滲みでている」

「、入りづれェ……」


制服姿の女学生が和気藹々と買い物を楽しんでいる。

数日前に番外個体に連れて行かれたランジェリーショップに入ったときの店員の反応を思い出して苦い顔をしつつ、
暫くうろうろと店の前を行ったり来たりしていた一方通行だったが、カップルらしい男女が店に入っていくのをみて意を決した。


(正直明らかに居心地悪そォなこンな店は入りたくねェが、仕方ねェ、こいつらの男の方だって普通に入ってくし)


店内に入ってみると、甘ったるい臭いが鼻につく意外はさほど普通だ。
唯一あった出来事といえば、「あの人ってビジュアル系のバンドとかしてんのかな?」
という小さな疑問の声を聞いて壁でも蹴り飛ばしたくなったことくらいだろうか。


取り敢えず店内を一巡。


ファッション小物から生活雑貨まで女性向けの様々なものが売っていて、打ち止めの好きそうなものは幾つか見つけられた。
青地に白の水玉模様のポーチ、マグカップ。こんなので良いんだろうかと悩みつつ、次は番外個体へのプレゼントを吟味する。

チラシの裏にメモしてみた香水やアクセサリーなども一応見てみるが、やはり少し違う気がする。


きらきらふわふわぴかぴかじゃらじゃらピリリリリ。
一方通行からするとそんな雰囲気の店内で頭をくらくらさせつつ、……ピリリリリ?


「携帯か。……クソッたれ、また土御門とかだったら今度は電源切ってやるしかねェな」


ごそごそと上着のポケットから乱暴に携帯を取り出して、


「オマエも諦め悪ィなァ、クソ女はまだグダグダしてやがンのかァ!? こっちは今忙しいんだよ、」

『あのー。ミサカだけど』

「……、はい?」
341 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/23(木) 02:28:58.92 ID:proJgmo0
店内での電話は良いものではないだろうから、声を潜めて応じる一方通行。
といっても最初に怒鳴り散らした時点で辺りからおかしな目で見られているのだが、


『お決まりの今大丈夫? って聞こうと思ったけど、忙しいの? ていうか、ひゃひゃ、頭が大丈夫?』

「……うるせェよ。で? 用件は何だ」

『忙しいんじゃなかったの? つーかスゲェ五月蠅いんだけど。もしかして外いる? あ、デート中とか? ぎゃは、お邪魔しましたー』

「ちげェよ、だから何だっつの」


何か勘違いされたまま通話が終わりそうだったのでそれを制しつつ、


『……まぁあなたが誰と居ようがミサカには関係ないことだしねぇ。そうそう、本題。あなた、クリスマス空いてる?』

「……空いてる、けどよ」


クリスマスはいつも通り家で過ごそうと思っていた一方通行。
番外個体もツリーの飾り付けに興じていたりで家にいるつもりかと思っていたのだが、彼女は何か別に考えがあるのだろうか。


『そっか、じゃあ……。てんちょー、お言葉に甘えて休み貰おっかなぁ。あ、てことで休み貰ったよ、クリスマスだし』

「まだバイト中かよ。つーか最初っから家でだらだら過ごすつもりだったンじゃねェのか?」

『だっててっきりあなたは別の誰かさんと。……うひゃひゃ、可愛い女の子とかー?』

「とンだ嫌みだなァオイ。ンなわけねェだろォが」


……オマエが、好きなンだから

言ってしまえば何か、変わるだろうか。
この曖昧な関係が。それでも決して居心地は悪くないそれが。


『じゃあ、仕事とか入れたらミサカ怒るからね? ミサカにとって初めてのクリスマス、独りぼっちとかは流石に寂しいでしょ。
 それから料理にも期待してるよー?』

「……飲食店で働く誰かさンも是非キッチンに立てるよォになっとけ」

『ミサカは厨房担当じゃないからそれは叶いそうにないなぁ、ぎゃはは!』


番外個体と話しつつ、店内を見渡して

とある商品が目に留まる。
342 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/23(木) 02:33:27.99 ID:proJgmo0
すっかり暗くなった町並みを一方通行は歩いていく。
結局打ち止めにはポーチとマグカップの他に、小さな長靴に入った菓子を買った。
そして番外個体にはというと、


(ガキはガキらしく甘ェ菓子でも食っときゃ良いだろ。アイツは――)

「……知らねェ。つーか何だァあの店、くっそ疲れるっつの。二度と行きたくねェな」


正直不安でもあるのだが、開き直ってしまうことにする。
恐らく彼女はいつものように悪態をつくだろうし、それはそれで気が楽だ。
そんなことを考えながらスーパーの前を通りかかった時、そういえば料理を一任されたことを思い出して顔をしかめた。


すっかり家事担当に収まっていて、番外個体好みの味付け、好みの風呂の温度を把握していて、『仕事』は呼ばれる方が異常であって。
昼のテレビ番組を見て微睡んだり、おでんを作ったり、プレゼントを買ったり。


それらのことを日常として受け入れてしまっているのは、恐ろしい事だと一方通行は思う。

その日常は脆く儚いものであると、自分はよく知っている筈なのに。



例えば、いつかの様に『学園都市』が番外個体や打ち止めのような一方通行の大切な人を利用しようと、奪おうとした時。

例えば、今の場所から元の場所へ、引きずり戻された時。泥沼の底へ、還る時。



日常が犯される理由は考えれば簡単に出てくるのに、それでも。


この日常を続けようと、この日常に、――彼女に。
縋ろうとしている自分は、どれだけ愚かで馬鹿なのだろう。


そんなことをしたって、終わるものは終わるし、消えるものは消えるのに。
自分が縋ろうとしているものは、簡単にも、崩れて、壊れて。崩されて、壊されて。崩して、壊して。
目の前から、消え去ってしまうのではなかったか。
幾らでも考えられる『消え去る』理由は、先に挙げた他にも沢山あって、


そう。例えば、番外個体に全て吐きだしてまった時には、

この日常は、この毎日は、…………



だから、だから、だから、
343 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/23(木) 02:35:56.46 ID:proJgmo0


Viewpoint of UNKNOWN(a shriek , a cry , an ache)








気付かれないままずっと。

この気持ちに、可笑しくて可笑しくてたまらない、この気持ちに。

そうすれば、きっと、       。


だから、その為にも。

自分のこの気持ちには気付かないで、気付かないフリでもいいから、だから隣で黙って笑ってろ。







344 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/23(木) 02:41:51.20 ID:proJgmo0
一週間かけてこれだけだけど、以上です。
いつも通り分かりづらいとこあればどぞー

補足がてら
いっつもはミサワさん視点のViewpointは今回は正体不明さんですってことで、まぁ一応

で、ちょっと聞きたいんだけど、クリスマスって24日か25日か。どっちにやってる?
これで次の内容の日にち決めようかなと。自分が当たり前に思ってることがズレてたら恥ずかしいしねww

てことで、おやすみー。読んでくれた人ありがとうなんだよ!
345 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/23(木) 02:45:19.42 ID:ANC8k3g0
リアルタイムで読んでたぜ!!
マジ乙!!!
346 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 03:23:55.27 ID:a2FD/EDO

プレゼントに思い悩む第一位とかかわいすぎんだろ
そして麦のんかわいい

一般的に盛り上がるのは24日じゃないかな
347 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 03:25:50.96 ID:wh3qRro0
アヤブレアかわいいよね
開始2時間半でシャワーシーン見れちゃったのはビックリだぜ

クリスマスは24日だと思う
348 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 03:27:45.51 ID:ogO2reEo
24日に馬鹿みたいに盛り上がって
25日は燃え尽きてるイメージ
349 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 03:36:30.82 ID:wGOohWoo
25日は消化試合だよね
350 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 04:44:22.85 ID:f9.OhMAO
理由はわからないけど
24日の方が街が盛り上がってるイメージ


あとゲロ太ワロタww
351 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 09:45:34.16 ID:hMVVAkAO
24日の夜から日付かわるぐらいまでが
一番盛り上がるんじゃね
ベタだけどな
352 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 23:03:31.32 ID:gd9qCMAO
今年は25日が土曜で休日のとこが多いからまたいでまったりするカップルが多いんじゃねえかな、知らんが
正直皆あれだろ?今年のクリスマスはこのじれったいカップルをソワソワしながら見守るんだろ?俺もだよ
353 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 23:06:22.43 ID:yY3Yz3.o
何もいうな。
俺もだよ。
354 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 16:14:11.22 ID:L.2sUi.o
分かってるよ。
俺もだよ。
355 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/24(クリスマスイブ) 21:24:56.55 ID:Ery2ZDw0
何でだよ!!
サンタはヒーローだろォが!
『クリスマス』を存在ひとつで幸せにしてくれるほどのヒーローなンだろォが!!

あークリスマスにあわせて投下したかったんだけどなぁ、足りねぇぜ
24日が一般らしくて良かった、みんな有り難う
取り敢えず年内にあと2回は投下したいとこ。この土日に1回くるんでその時はよろしくお願いします

さ、今日は早めに寝てサタンを待つことにしましょうねっと。おやすみー

>>347
シャワーシーンってなんだよ…リーパーってなんだよ…クリスマスにゲームってなんだよ……
356 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 21:35:57.37 ID:UOWfkgAO
悪魔のサンタクロース自重
357 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 23:30:08.51 ID:aU6WeQAO
さァて、今年もサンタさン狩るかァ
358 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 09:10:42.84 ID:gLNkDWco
>>357
コンビニサンタやってるけど一人むなしくケーキを買いませんかって叫ぶ俺をdisってんの?
みんなスルーすんだぜ?昼10時から夜10時までひたすら叫ぶだけだぜ?男一人でサンタしたって誰が買うんだよ!!!
サンタじゃなくてカップル狩れよバカやろう!!!!!
359 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 14:05:03.24 ID:jsBEMLUo
いきなり自分語りしはじめるなよ気持ち悪い
360 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/26(日) 09:09:42.50 ID:GEdsxms0
うんこ
361 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 20:29:17.08 ID:FDyGJ6A0
こんばんは、気付いたらクリスマス終わってた……
これから投下します
いつもより多めになる予定。少し遅いけどクリスマスの話。12月24日です

>>360
IDクリスマスだwww


えーと、前回はクリスマス準備期間だったと思います多分
二人でクリスマス過ごすことになって云々
先に述べた通りいつもより少しだけ多めなので、のんびり付き合って下しあ。ではどぞー
362 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 20:31:47.20 ID:FDyGJ6A0
「メーリクリッスマース!」

「近所迷惑だァ!」


12月24日、午前0時ちょうど。


「クリスマス! 正確にはイブだけど! ミサカは今すっごい機嫌よし!」

「だァから夜中に騒いでンじゃねェよ」

「だってクリスマスじゃん。あなたもほらテンション上がるでしょ!? サンタさーん!」

「いいから落ち着け、馬鹿みてェだぞ」


風呂からあがった番外個体はピンクのパジャマを着て、降り続ける雪を窓から眺めている。
今にも小躍りしだしそうな雰囲気を撒き散らしつつ、窓枠に手を掛けてぴょんぴょん跳ねる彼女を落ち着かせようと座らせて、


「なーんか隣室と共有してる壁がちょー五月蠅いんだけど」

「……隣からバンバン壁叩かれてるしこりゃ謝ンなきゃなンねェンじゃねェの? めんどくせェ」

「そんなの今度会ったらで良いじゃん、隣どんなヤツか知んないけどさぁ。つーかホテルじゃないっつの。ムカつくなぁ」

「騒いでたオマエが言えたことじゃねェだろ、マンションなンだからこォいうのはしっかりしねェと」

「……親御さん」


ぼそりと呟く番外個体。
クリスマスフィーバーは取り敢えず彼女の内側に押しとどめることに成功したからか、隣からの攻撃も止む。


「早くケーキ食べたいなぁ」

「ケーキだァ? ンな甘ェモン食うとふと……ってオマエ目が怖ェよ」

「うっさいなぁ。普通そんなこと言う? ミサカはそういうのを気にしちゃう可愛い純粋な女の子なんけど」

「あーハイハイそォですね。つーかケーキとかオマエに任せるけどよ、間に合うのか? 予約とかあるンじゃねェの?」

「それはもうばっちしオッケー。ていうか逆にあなたの料理が気掛かりなくらい」


番外個体は薄い胸を張ると、


「ミサカのお店で今日予約してきたしね。拍手!」
363 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 20:32:06.67 ID:X12uOkAO
期待
364 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 20:34:23.95 ID:FDyGJ6A0

というわけで、二人して番外個体が普段バイトしている店までケーキを取りにきたのだが。
ランチが終わった頃で客の少ない店の入り口辺りで番外個体が軽く頭を押さえつつ、


「むぅ。頭痛い……」

「夜中騒ぎすぎたせいじゃねェの? 風呂上がりだったし、つーか鼻声だぞ」

「ツリー買いに行った日寒かったしその日から風邪気味だったからなぁ。なんか怠い感じ。
 まぁいいや、ていうか今日、……居るけど、あなた此処で待ってる?」

「あァ? 居るって誰が……、あァ、アイツか」


番外個体の言いたいことを悟ると顔を険しくさせる一方通行。
そんな彼を見て番外個体は視線を落として、


「……、ごめん」


小さく謝罪の言葉を口に出す。
その理由が一方通行には分からなくて、


「何でオマエが謝ンだよ」

「ミサカのせいだ。あなたがそんな顔するのはミサカのせい。嫌になっちゃうよ、まったくさぁ。どうして、」


顔を上げた番外個体は乾いた笑みを貼り付けていて、
なのにその表情はどこか不安定で、そう、泣き出しそうな。


「どうして、こんなふうになっちゃうんだろう」
365 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 20:35:44.63 ID:FDyGJ6A0

『こんなふう』とは、どんなふうなのか。
番外個体はそれ以上のことを明かさないまま、ただ一言。もう一度。


「……ごめんね」


何も悪いことなどしていない筈なのに。


「……なンだよ、オマエは、俺が、」


何を言うべきなのか。何が言いたいのか。曖昧に、単語だけが文にならないまま。


「あなたは、何も悪くない」


それはオマエの方だろう


「……ごめ、ん」


一方通行の言いたいことは声にならなくて、だから伝わらない。
番外個体は震える声で尚も謝りながら、その場にしゃがみ込んでしまう。
抱えた膝に表情は隠れて、そして身体は小刻みに震えている。


「番外個体!」

「……ミサカ、の、同居人って言えば、分かってもらえるかな。だから、ごめん、ケーキ取ってきて、もらえるかな?」

「構わねェけど、オマエ大丈夫なのかよ!?」


彼女の異変を案じて声を大きくする一方通行だが、番外個体は彼とは対照的に、


「大丈夫。ミサカは、大丈夫だから」


大丈夫なわけがないのに、穏やかな声を努めようと。
366 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 20:37:01.43 ID:FDyGJ6A0

こんにちは、お一人様でしょうか。

そんな定型的な挨拶をしてきたのは、以前麦野と此処を訪れたときにも自分たちに応じた女の店員だった。

一方通行の見た目が特異的だからか、彼と一緒に来た常連らしき麦野のあの性格故か、それとも此処で働く番外個体の知り合いだからか。
理由は幾つか考えられるが、とにかくその店員は一方通行のことを覚えていたらしい。


「あ、この前はどうもー」


などと友好的に接してくるが、慣れていない一方通行はどうしても不愛想になってしまう。


「……アイツがケーキ予約してたと思うンだが」

「あぁ、ミサカさんですね。少々お待ち下さい」


店員がそう言って店の奥の方へ駆けていく。

店内を見渡しながら、しかし周りの風景など目に入らずに、頭の中ではぐるぐると。


『……俺がどンな顔しよォがオマエに関係ねェだろ』
『やだよ。ミサカのせいであなたにそんな顔させたくないし』


一方通行と番外個体のいつかのやりとり。

××さん、例の人、あの男。
呼び方が違っても、更には数分前の様に名前が挙がらなくたって。

番外個体がかつて惚れ、そんな彼女をふったその男の話題になったときに顔を歪ませるのは、無性に苛立ってしまうのは。
自然な流れというか、無意識だった。

けれど無意識でもそれは確実に、自分のせいで一方通行にそんな顔をさせたくないと言った、言ってくれた少女をえぐっていたに違いない。


「クソッたれが」


だから、自分は早く。
番外個体の元に戻って。


ケーキを取りに行った店員が待ち遠しくて彼女が駆けていった方を見たとき、ふと目があったのは――
367 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 20:40:00.75 ID:FDyGJ6A0

――客が居なくなったテーブルから皿を下げようとしている男だった。


一方通行と目があって、驚いたような表情を浮かべるその男は、まさに番外個体が惚れていたその人。


長身で、大学生だと番外個体が言っていた。自分達よりも年上だ。
写真を見たときの第一印象は真面目そうで誠実、なんとなく完璧そうな、つまり自分とは真逆の人間だと思ったが、
『クローンだから』という理由で彼女をふった事実を把握している今、その男に対する印象も全く別物になっている。


その男は一方通行の元まで、トレイに皿とグラスを載せて寄ってきた。


「……あなた、ミサカさんの、ですよね。この前来てたって同僚から聞きました。
 ……へぇ、彼女、同棲してたなんて。一言も言いませんでしたが。僕にふられて直ぐですか?」

「……オマエに何の関係がある?」


その男は、何処かふざけたような、小馬鹿にするような。そんな調子でへらへらと話し掛けてくる。
番外個体は『真面目』といった。一方通行も勝手にそう思っていたし、良さそうな人間だとも思っていた。
けれど、違う。直感的に、この男はそんな人間ではなくて、もっと下劣な――


「いやぁ、お互いに良い気分じゃないじゃないですか。僕に告白しておきながら直ぐ乗り換えですか?
 あなただって都合の良いように、」

「うるせェよ、テメェのクソくっだらねェ話に共感するところなンぞひとつもねェンだわ」


一方通行に語りかけてくるその男の話は、しかし彼の低く抑えた声で遮られた。
真っ赤な双眸は鋭く男の目を睨み付けて、その男がそれ以上続けることを許さない。
しかしそれが気にくわなかったのか、男はわざとらしい笑みを浮かべて、嫌みったらしく。


「ミサカさんと同居している人がどんな人かと思ってましたけど、あなたなら納得です」
368 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 20:42:02.25 ID:FDyGJ6A0

「で? それは褒め言葉として受け取っても良いンだよなァ? つーか目障りだから早く消えてくンねェか」

「……こんな風に常識のない乱暴そうな人だったらクローンなんて気にしないでしょうしね、所詮彼女の身体目当てとかでしょう?」


普通そうでもないと気味が悪い、と男は続ける。
一方通行が何も言わないからか、調子に乗ってペラペラと。
彼が静かに、クローンなんて、という言葉に憤りを感じていて、それでいて敢えて男の話を止めないでいる事に気付かずに。


「僕はクローンなんてまっぴらごめんですけど、あなたみたいな人にはそんな常識関係ないんでしょうね。
 あ、安心してください。彼女のことを他に公言するつもりはないですから。だってそんなことが広まったらこのお店潰れちゃいますし」


クローンは世間からはなかなか受け入れられない。
家畜のクローンでさえあまり良く思われていないのだ。ましてや国際法に抵触するようなヒトのクローンがすんなり受け入れる筈がない。
そのことは重重承知している。

しかも、番外個体のような『妹達』は寿命も一般に比べて短いらしいし、それを改善する為には定期的に検査や治療を受ける必要がある。
オマケにミサカネットワークなどというトンデモ機能も備わっていて、そんな彼女達を拒むのは普通の反応といっても過言ではないかもしれない。

だから、その男の言うことは、


「クローンなんかと一緒に暮らすあなたもクローン同様、人間じゃないみたいだ」


大して特別なことなどでなく、『人間らしい』どろどろとした、当たり前の――


「普通の人間だったら、クロ――がぁッ!?」


それを理解していて、そうだそれは間違った反応ではないことも否定できない。

しかし、一方通行の理性を失った身体は学園都市第一位の頭脳とも言われるアタマより先に動いていた。


ぐしゃり。


生々しい音と感触が一方通行の拳をとらえる。
369 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 20:46:09.06 ID:FDyGJ6A0
能力に頼ることもなく。何の力も借りずに。
よく貧弱だ、華奢だ、などと言われる彼だが、それでも誰かを想う拳には一人の男を倒すだけの威力は十分にあった。


直後、男の身体が床に打ち付けられて鈍い音が響く。
彼が手に持っていた食器も割れて、重く低いその音とは対照的に耳障りな甲高い音を派手に鳴らした。
砕けて辺りに散らばったその破片は一方通行の頬を浅く切り裂いて、一筋の紅い線が白い頬に浮かぶ。


それでも一方通行の血走った双眸は男以外に向くことはない。
獲物を仕留める蛇の如く睨み付けながら馬乗りになって、胸倉を掴んでまくし立てる。
ぐらぐらと男の頭が揺れて堅い床に打ちつけられる度に、散らばった食器の破片が頭の下でじゃりじゃりと危機感を煽るような音を鳴らした。


「あァそォだ、オマエがどンなつもりで人間じゃないみたいだだの言ったか知らねェが確かに俺は化け物みてェなヤツだ!
 よっぽどオマエみてェな考え方のヤツの方が人間らしいだろォよ!」


二人の近くで食事をしていた二人組みが悲鳴を上げて立ち上がる。
激しく揺さぶられてうめき声をあげている男には先程までの余裕など見られなく、後頭部からは流血。
このままでは危険だというのは誰の目からも察することができて、しかし一方通行は止まらない。自制が効かない。


「返せよ!! アイツの気持ち全部だ! 全部返せ!!」


そのことを番外個体は望まない筈だ。この男がどんなヤツか知っても、きっと、彼女はそれが出来ないだろうし、しようとしないだろう。
だからそれは自己中心的な考えで、単なる自己満足にしか繋がらなくて、独りよがりなエゴでしかない。

そんなことは分かっている。


「オマエに、オマエごときにアイツの何が分かる!? 知ったよォな口利くンじゃねェ! 都合が良いだァ!? ふっざけンじゃねェぞ!!」


――自分の口から飛び出るその言葉は、怒鳴り散らす本人の胸の奥までも正確に突いて。

本当は自分だってこうして人に言える立場ではないこと。
逆に自分にアイツの何が分かるかと訊かれたとき、それを答えるに値する権利などないこと。

それらのことが怖くて悔しくて情けないと一方通行は思う。

だから、それを誤魔化すように。八つ当たりでもするかのように。

もう一度拳を振り上げて、


「お客様!」


店の奥からすっ飛んできた店員に押さえつけられた。
370 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 20:50:52.49 ID:FDyGJ6A0

頭も目の前も、真っ赤に染まってから冷静を失うのは直ぐだった。

駆けつけてきた店員はそんな彼が冷静を取り戻すのには時間が掛かるかと警戒していたようだが、
振り上げた腕を抑えられると容易にも一方通行の身体から力も気力も失せてしまった。

一度高く振りかざした腕は、砕けたガラスや陶器の破片の中にどうしようもなく振り下ろされる。
ざりざり、ぐしゃぐしゃと、破片が更に細かく砕ける不快な音が響いた。
2回、3回と立て続けに堅く握られた拳は振り下ろされて、その場に小さな血溜まりを成していく。


自慰にも満たない自傷行為。

それが分かっていても尚、止めることができない。


いつから居たのか、ケーキの箱を持った女の店員はその光景を見て息を飲み、
止めに入った若い男の方の店員はどうして良いか分からないといった様子で狼狽している。
一方通行に馬乗りになられてガンガンと頭と床を仲良くさせていた男は虚ろな目で、意識が朦朧としているようだった。

そんな男を介抱したり、破片を片付けたりなどとしなければならない事は山積している筈なのに、少しの間、店内に動きはなかった。
場違いなBGMだけが賑やかに鳴り響いて、それが異様な雰囲気を醸し出す。


「あのー……。その人、ヤバイんじゃ……」


そんな中、おどおどと声を出したのは客の一人だった。
意識朦朧な男を指さして、それにより店内に動きが戻る。
あたふたと周りにいた野次馬や店員が動き出して、一方通行にも声が掛けられる。


「お客様、あの、と、取り敢えずこちらに……」


店員に殴りかかって食器も割った一方通行を咎めるのではなく、恐れを抱くような調子。
それは、『一方通行』という一人の人物に対してとられる当たり前の態度で、すっかり慣れてしまったそれに彼は何も反応しない。


冷めた。
覚めた。
醒めた。
褪めた。


すぐ傍でおどおどする店員を見ても、倒れているクソ野郎を見ても、割れた食器を見ても、周りで囁き合う野次馬を見ても。


何も感じない。
怒りも、痛みも、罪悪感も何もなく、ただ、空虚だった。
371 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 20:53:38.35 ID:FDyGJ6A0

「通報すンなら好きにしろ、あとこの割れた皿とかも弁償する」


辺りに散らばった破片を踏みつけながら立ち上がって、一方通行は起伏のない声で言う。

通報されても学園都市の闇にもみ消される。割れた食器や店内だって今に暗部のヤツらがやってきて片付けるだろう。

そんな冷めた思考で、財布の中にあった札を全て抜き出すと適当に投げた。ひらひらと中を舞い、やがて床に落ちる。


右腕から流れて衣服を汚す血液が鬱陶しいが、恐らく止血しなくても命には関わらないだろうから放置する。
店から立ち去ろうとして視界の隅に映ったのは、相変わらずケーキの入った箱を持って戸惑う様子の女だった。


ケーキ。クリスマスの。番外個体が楽しみにしている、クリスマス。


「番外、個体……ッ!」


店内にいた時間は長いように感じられたが、時間を確認すると実質は15分ほどしか経っていないようだった。
しかし、あの状態の番外個体にとっては辛いはずだ。
一刻も早く彼女の元へ行こうと店の入り口に向かいかけ、しかし振り向くとその店員の手からケーキを奪った。

どんなに顰蹙を買っても構わないが、彼女の顔から笑顔が失われることは自己満足であろうとさせたくない。
そういえばこの店員は麦野とも仲が良いみたいだし、番外個体にも良くしてやっているようだったと思い出した。


「……悪ィな。金はさっき出したので足りなかったらアイツの携帯にでも連絡しろ。あと店長にも謝っといてくれ」

「え? あ、え?」


戸惑う店員を無視して、今度こそ彼女の元へ。
372 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 20:55:31.71 ID:FDyGJ6A0

番外個体は最初と変わらない場所でしゃがみ込んで、身体を小刻みに震わせていた。
一方通行の気配を感じ取ったのか、顔を上げる。
血色の悪い、青紫の唇。しかし顔はどこか赤みを帯びている。
そんな彼女はうっすらと微笑んで、


「遅かった、けれど。ちゃんと良い子で、とってこれたかにゃん?」

「……あァ。つーかオマエ、」


明らかに番外個体はおかしい。
不安定なその姿は、一方通行の危機感を煽る。
一方通行はしゃがみ込んで目線を合わせると、流血のない左腕で番外個体の額に触れようとする。
普段なら触るな馬鹿とでも言ってきそうなのにすんなりと受け入れられた。


「……ン、こりゃ熱あンな。あっちィし。……悪ィ、俺が遅かったせいだ」

「ひゃひゃ、そうだよ、あなた遅いからさぁ」


いつも通りの悪態なのに、それは酷く弱々しい。
それでも彼女は一方通行の頬や右腕を見て、他人の心配しかしない。


「血、でてる。どうしたの? 痛い?」

「……痛くねェし、別にどォもしてねェよ。それより立てるか? ……いや、タクシー呼ぶか」

「嘘だよ、何かあったんだ。ミサカの知らないところで。ねぇ、どうしたの? あの人と会ったんでしょう? ミサカは、」


立ち上がってタクシーを呼ぼうと携帯を開く一方通行に、番外個体が食いついてくる。
声を大きくして彼女も立ち上がろうとしたところで、


「――っ……、」


ぐらり、と番外個体の身体が傾いた。

芯を失った彼女は一方通行にそのまま倒れ込んできて、彼に身を預けるようにしてもたれ掛かる。
力の抜けた冷え切った身体は相変わらず小刻みに震えていて、しかし耳元に掛かる彼女の吐息は熱を帯び、こんな時なのに一方通行の身体をぞくりと駆け抜ける。
番外個体の身体を支えるようにして彼女の背中に手を回して撫でつつ、やはりこれは歩いて帰れないなとタクシーを呼ぶことにした。
373 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 20:58:29.42 ID:FDyGJ6A0

「ほら、乗っかれ」


タクシーでマンションの前まで帰ってくると、番外個体をおんぶして部屋まで連れて行く。
番外個体が首に回した腕でチョーカーのスイッチが切り替わらないように配慮しつつ、彼らの部屋がある5階でエレベーターをおりた。

……入れ違いでエレベーターに乗ってきた、同じ階の住人と思われる中学生か小学校高学年くらいの少女に、
思い切り冷たい視線をぶつけられて少しへこんだ、というのは一方通行しか知る由がない。


「……ミサカが軽くて、良かったねぇ」


部屋に入って番外個体の部屋に直行すると、彼女のベットの上に静かに降ろした。
それから体温計を出してきて、番外個体に渡す。


「ハッ、能力使わねェと運べない程度に軽くて大助かりだったなァ」

「うるさ、い」


喋るのも辛そうに番外個体は顔を歪める。
その時、小さな電子音をならして体温計の計測終了の合図がなった。
そこに表示される数字をみて、一方通行は顔をしかめる。


「38度ちょい。……こりゃあクリスマスどころじゃねェな」

「そんなことないよ。ミサカならぜんぜん大丈夫」

「ぜンっぜン大丈夫そォには見えねェけどなァ? 歩くのもロクにできねェンだから寝とけ」

「やだやだ! ミサカ凄く楽しみだったんだもん! ケーキだって腐っちゃうしあなたのクリスマスでぃなーも少し楽しみにしてたのに!」


子供のようにじたばたと、ベットの中で駄々をこねる番外個体。
瞳には非難の色さえ浮かべて、しかしそれでいて縋るように一方通行を見つめてくる。


「……あのなァ、ケーキは明日でも腐ンねェし料理だってちゃンと作ってやっから。
 無理してゲロったら元も子もねェだろォが。それに本来なら25がクリスマスなンだろ? なら明日で良いだろォが」

「屁理屈」

「じゃねェよ正論だボケ。まず寝ろ、なンなら病院行くか?」

「……ミサカ病院嫌いだし」
374 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 21:00:24.40 ID:FDyGJ6A0

いじけたように反対側を向いてしまう番外個体。
ガキじゃないんだからと一方通行は溜息をつく。


「明日熱が下がったら一日中クリスマスやってやっから、な?」

「……、絶対だからね」

「あァ、約束する」


と言いつつ、一日中なんて言ったことを早くも後悔する一方通行。
今から少し訂正をいれよ


「じゃあ一日中パーティで妥協しようかな」

「……、あー……熱が下がったらっつゥこと忘れンじゃねェぞ」

「下げるし。クリスマスに間に合わなかったら大変だもんね」


番外個体はすっかりその気になってしまったらしい。
一日中なんてちょっと元気がでてきた、などと言っているが、準備するのは主に一方通行なので気が重い。


「まァ期待はすンな。それとこれから買い物行くけど何か買ってきて欲しいものあるか?」

「んー特にないかな」


元気が出てきたと言うが、それでもまだまだ気怠げな声の番外個体。
毛布を掛けているのに寒気がするらしいし、何しろ38度もあるのだから明日までに熱は下がらないかもしれない。


「そォいや冷却シートとかねェな、それも買ってくるからそれまでタオルでものせとけ」
375 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 21:02:35.73 ID:FDyGJ6A0

番外個体の頭を冷やすために薄手のタオルを冷水で濡らす。

右手の血は既に止まっていたが、水に酷く染みて、思わず手を引いてしまった。
しかも衣服も汚れてしまったし、もしかすると番外個体の服も汚してしまったかもしれない。
そう考えるとあの時能力を使って血流操作しておけば良かったと後悔しつつ、舌打ちして痛みに耐えながらタオルを絞る。

と、携帯が鳴った。

手で水滴を払いつつ、ジーンズのポケットに入れたままだった携帯を取り出す。
画面に表示された土御門の文字に一方通行は露骨に顔をしかめて、通話のボタンを押した。


「……何か用か」

『いやぁやってくれたにゃー一方通行。公共の場で暴れるなんて下手すりゃ逮捕モノですたい』

「……何処で聞いた。アレか? 暗部代表としてボクタチが後始末しましたーってか?」

『それは下っ端の仕事だにゃー。ま、オマエだったから上手く揉み消したみたいだけどな。
 あとはオマエの同居人、まだ仕事続ける気だったら続けて良いって言ってたぞ? 普通だったらお役ごめんだぜぃ』

「……知るかンなモン」


そうは答えるも、実は冷静になってみるとそれは懸念事項のひとつだった。

番外個体の同居人が店員を殴った。食器も割れた。

だからといって番外個体を辞めさせるには理不尽だろう。
土御門が言うにはそれには至らなかったらしいが、それでも彼女があの店で肩身の狭い思いをするのは必至だ。
番外個体はあの仕事を何だかんだいって楽しんでいたようだし、それを壊したのは自分であることは明らかで、彼女に謝らなければならないと思う。


「で? 話ってなァそれだけか」

『そんなとこですたい。ま、今後は気をつけろ。頭をガラスの上でガンガンなんて病院おく』


土御門はまだ何か言っていたが、どうやら用件は済んだらしいので切ってしまう。
扱いが悪い気がするにゃー、などと携帯の向こうで土御門が嘆いたことを彼は知らない。
376 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 21:04:53.16 ID:FDyGJ6A0

『――特に変わったことはない、風邪の症状なんだろう?』

「あァ、少し前からそれっぽかったらしいし、一応脳内の電気信号を確認してみたがウィルスとかでもねェと思う」

『こっちにいる妹達にも確認してみたけれど、ネットワーク上でも以上は発見されないね。
 もしかすると疲れからくるのもあるかもしれないね? ただこの時期だ、君も風邪には十分気をつけるんだよ?』

「オマエは馬鹿か、誰に向かってモノ言ってやがる」

『そうそう、風邪に効く薬といえばカエル印の会社の薬が医者としておすすめだよ?
 それから患者は汗をかくだろうけど放っておくとよくないからね? 病人は繊細だ、気をつけるんだよ?』

「……いちいちうるせェな、分かってるっつの」


商店街を歩く買い物帰りの一方通行は、電話をしながら歩いていた。

電話は好きではないが、最近その機会が増えてきたと思いつつ、掛けた相手はカエル顔の医者だ。
うさんくさい喋り方をする老人に一応番外個体の症状を伝えたのだが、この時期にはよくある風邪だろうとのこと。

ついでに良く効く薬なども教えて貰い、途中でドラッグストアに立ち寄って冷却シートと医者おすすめの風邪薬、ついでにゼリーも買う。

会計の際、スーパーでもドラッグストア、どちらの店員も彼の傷ついた右手をみてぎょっとしたような顔をしたのが印象的だった。


……袋を持って歩く家までの道のりが、やけに長く感じられる。

正直、番外個体にどんな顔を向ければいいのか、どんな態度で接して良いか、分からない。
彼女が好きだった人を殴り、彼女が好きな店を荒らし。
それを知った彼女は、どんな反応をみせるのだろうか。

男に放った言葉は、そっくりそのまま自分に跳ね返ってきた。


俺は番外個体の何を知っている。
俺は番外個体の気持ちを汲んでやっているか。
俺は番外個体の近くで生活しているだけなのに、何か勘違いをしていないか。


改めて感じたその疑問は一方通行にまとわりついて、彼の足取りを重くさせる。
377 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 21:07:47.95 ID:FDyGJ6A0

家に帰ると、番外個体は毛布にくるまって眠っていた。
額にのせたタオルは既に存在意義を失ってぬるくなっていて、番外個体の額に手をあててみると、依然として熱いままだ。

折角冷却シートを買ってきたのでそれを貼らせようかと思ったが、起こすのは何となく気が引けて、夕食時まで番外個体をそのまま寝かせることにした。

取り敢えずタオルをもう一度濡らしてきて額にのせてやるも、彼女は起きることもなく眠り続ける。


熱があることが原因か、あまり安らかとはいえない番外個体の寝顔。

『ごめん』という彼女の口から放たれた謝罪の言葉が、不意に脳内で蘇って再生された。


「ちくしょうが……」


悲しそうだった。苦しそうだった。どうしようもないと悲観し、諦めた様な顔だった。普段は見せない表情だった。


(何でコイツが……どォして俺は、コイツにそンな顔させることしかできねェ。クソッたれ、とことン最低のゲス野郎だ)


もぞもぞとベットの中で小さく体勢を変えた番外個体の髪にそっと触れる。


――そうだ。自分はいつも、番外個体を前にすると、触れたいなどと身の程知らずな願望を醜くも抱いてしまう。


一万人以上の『妹達』を殺し、番外個体を傷つけ。守るどころか、これからも傷つけかねないというのに。

番外個体の長い睫毛を、すっとした鼻筋を、僅かに赤らむ頬を、艶やかな唇を。


全部欲しい。全てに触れたい。


愚かな願い。叶うはずのない、願い。
378 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 21:13:43.68 ID:FDyGJ6A0

熱があると悪夢をみる、というのはよくあるが、今日の番外個体はまさしくそれだった。
気持ちが悪くて、後味の良くない夢。以前コンビニで興味本位で立ち読みしたホラーコミックと似たような内容だった。
それに続いて、今度は見知らぬ男に思い切り刺し殺されそうに――なる直前で、はっと目が覚めた。

びっくりして勢いよく身体を起こすと、じっとりと嫌な汗で着ていた服が皮膚に張り付く。

そして、


「――っうぇい!?」


悲鳴にならない悲鳴をあげた。
目の前に一方通行がいて、彼も自分と同じく驚いたようにおかしな声をあげる。


「あ、あああくせら、れったーん、」

「いきなり跳ね起きるとかすっげェビビったぞオイ!?」

「こっちの台詞だっつーのぉおおお! うえー刺し殺されるかと思った……あ、そっちの意味じゃないからね挿すっていっても」

「意味分かンねェよ、そっちの意味ってどォいうことだ。つーかオマエ大丈夫なのか? 飯食うかと思って呼びにきたンだが」

「んー、大分マシにはなったけど、まだ頭痛いかなぁ。歩いたりはもう大丈夫、力も入るし。……ってもう9時なの!?」

「まァオマエ熟睡してたしなァ、今さっきまでうなされてたみてェだけど」

「……、ミサカはもう怖い漫画読まないしサスペンスドラマも馬鹿にしないことにしたんだ」


先程からよく分からないことを口走る番外個体に不信感を抱きつつ、お粥くらいなら食べれそうだと言うので作ることにする。
ゼリーもあると言ったら喜んで、ケーキも食べたいなどと言ったからしっかり駄目だと言っておく。

寒い廊下を二人でリビングまで歩きつつ、どうやら番外個体の服には一方通行の血がついていないようで密かに安心した。


「冬なのに汗かいちゃったよ」

「まァ熱あるときはそれが良いらしいけどな。つーかあの医者が言ってたけどよ、汗かいたらちゃンと処理しねェと治るモンも治ンねェぞ」

「分かってるよ。うー、確かに気持ち悪いしお風呂入ってこようかなぁ」

「そォしとけ、これから作るンだし。あとあがってからちゃンと身体拭いて髪も乾かすこと。じゃねェと湯冷めすっから」

「ひゃひゃ、分かりました親御さん」

「あ、あと熱測ってから行け」

「ハイハイ分かってるー」
379 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 21:17:28.36 ID:FDyGJ6A0

鍋でお粥を煮ていると、番外個体が風呂から上がったらしい。バタンと浴室の扉を閉める音がした。

いつもは着替えて髪も乾かさずにリビングにやってくる彼女だが、今日は一方通行の言いつけをしっかり守っているようでドライヤーの音が聞こえてくる。
いつもこうすれば毎朝寝癖で悩まなくても良いのではないかと思うのだが、どうやらクセのつきやすい髪質らしい。

丁度お粥もできそうな頃合いなので、最後に溶き卵を入れて仕上げる。


「うっわ味薄いぞオイ。……まァ病人だしなァ、そォいや入院したときもこンなンだった気がするし。
 いや、もっと濃かったよォな……でも塩分取りすぎっつゥのは良くねェよな、こンなモンか。俺は食いたくねェけど」


かなり無責任で他人事な発言をすると、火を止めて、もう一方のコンロでお湯を沸かす。
一方通行の今日の夕食は番外個体がお粥な状態なので、手を抜いてカップ麺である。

丁度お湯が沸く頃、番外個体がリビングにパジャマ姿でやってきた。


「なーんか頭がぼーっとするなぁ……もう完全復活できるかと思ったんだけど……」

「ンなわけねェだろ、さっきだってまだ37.9度だったし。少しは良くなったけどまたぶり返すかもしンねェンだからよ」

「折角のクリスマスなのにねぇ、ミサカってばお馬鹿さーん☆ ぎゃは」


口調こそふざけているが、彼女は本気で残念ならしく、窓際で光るツリーを寂しそうに眺めている。


「明日が本番だろォが、ほら、食え食え食って寝て直せ」

「……うん、そうだね。けけっ、蟻が十匹だよ。いただきまーす……って味うっす! これ何の嫌がらせ!?」

「あァ? お粥ってなァそォいうモンだろォが。……っと、そろそろ3分だな」

「……ミサカお粥って初めて食べるけど、あなたはミサカに今後一切お粥を食べないことを誓わせる程のトラウマ植えつけてくれたよ。
 つーか自分は味の濃い焼きそばですってかあ!? ふっざけんじゃねぇええええ!」
380 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 21:19:04.60 ID:FDyGJ6A0

結局番外個体はゼリーを食べると機嫌を直してくれた。
何だかんだ言いつつ、お粥も塩で味を調節しながら完食。……したのだが。


「んー……さっきより怠いかも……やっぱり今日は寝ておけばよかったかなぁ」

「騒ぎすぎだ馬鹿、取り敢えずもっかい熱測って寝とけ」


どうやら再び熱が上がってきたらしく、体温計も38度代を示す。
番外個体は一方通行が買ってきた冷却シート、通称『冷え冷えくん』を額にぺたりと貼り付けていて、その姿は何だか間抜けだ。


「俺ももォ寝っかな、明日はなるべく早く起きてェし」


リビングで一方通行お手製の梅干し茶とかいう、よく分からないものを飲まされていた番外個体が一方通行の言葉に反応して顔を上げた。
ちなみにこの梅干し茶、風邪に効くと一方通行が何処からか探し出してきた情報を元に作られたのだが、凄くまずいと番外個体は素直に思う。


「……なら、ミサカと一緒に寝てほしいな」

「……はァ? 何言ってンだオマエ――」


いつものように人をからかっているのかと一方通行が番外個体を見て。
……どうやら彼女は真面目に言っているらしい。


「……あのなァ、男女が一緒に寝るってどォいうことか分かって言ってンのかァ? 
 俺がオマエに襲いかかるとか、ちったァそォいうの考えねェのかよ。一応こっちだって男だし、つーか今更こンなこと言ってもアレだけどな」


いつかの夜を思い出しながら一方通行が自虐気味に言う。


「分かってるよ、でもあなたはそんなことしないでしょう? ミサカが嫌がることなんかなんにもできないくせにさ。
 ……ねぇ、クリスマスのプレゼントなんていらないよ。明日だって、美味しいもの作ってなんてわがまま言わない。
 だから、今日は一緒に寝て欲しい。前みたいに背中合わせなんかじゃなくて、ミサカと向き合って、それで少しあなたと話がしたい」

「オマエ、熱でどォか、してンじゃねェの」


番外個体に真摯に見つめられて。
一方通行の声が、震えた。
381 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 21:21:17.69 ID:FDyGJ6A0

くすり、と番外個体が小さく笑う声が暗闇の中で漏れる。
何が可笑しいのか、楽しそうに。


「ちっとも眠くなんないし、寝過ぎちゃったせいかなぁ」

「熟睡してたからなァ」


本来一人で寝るためのシングルベットは、二人で向き合って寝るには少々狭い。
身体の何処かが何度か触れあって、その度に二人して大袈裟にびくりと身体を震わせた。
それが面白くて、番外個体はくすくすと、一方通行は呆れたように、笑い合う。


「――この傷、どうしたのかな」


そんな中、不意に。
番外個体の指先が、一方通行の頬に走る一筋の傷に触れる。
微かに震えるその指先は、繊細なものでも扱うかのようにして一方通行の頬に添えられた。


「それに、手だって傷だらけだし」


一方通行の頬を離れた番外個体の手は、今度は両手で一方通行の右手を優しく包み込む。
ひやりと冷たい一方通行の手と番外個体の熱を帯びた手。
その体温差を埋めるように、互いの体温が混じり合う。

収まっていた右手の痛みが、微かに疼く。


「お人好しのあなたのことだから、きっと――会った、のかな」

「――ッ、」


誰とまでは言わないが、番外個体の言うことは把握できる。
だから、番外個体から視線を逸らしてしまう。
いずれ話して謝らなければならないとは思っていたけれど、いざとなると、どうしても。
そんな彼を見て番外個体は、


「やっぱり、そうなんだ。ミサカが行けば、良かったね。……あなたは意外と、直ぐに感情的になっちゃうところがあるから。ひゃひゃ」


小さく笑って。
382 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 21:23:34.61 ID:FDyGJ6A0

「嬉しいって、いうのかなぁ。ミサカそこら辺は専門外だけどさ。
 ミサカの為にあなたがこうして、怒ってくれる。だけど、それであなたが傷ついちゃったらだめなんだ。……それ、痛かったでしょ?」


それは、番外個体の優しさで。
風邪で苦しいはずだし、本当は自分が一番傷ついて、悩んで、苦しんできたはずなのに、それでも。
不器用ながらに一方通行を包容しようとする。

けれど、一方通行はそれに甘んじてはいけないと思う。

いつか黄泉川に拳銃を取り上げられた時のように流されてしまっては、
殺された10031人と、殺される順番を待っていた9969人の『妹達』や打ち止め、番外個体に申し訳がない。

だから。


「自分のこと棚に上げてンじゃねェよ。オマエは人に傷つくなとか言っときながら、影では辛い思いして傷ついてンじゃねェか。
 それでも何にも言わねェで、人の心配ばっかしてンじゃねェか。
 俺なンかはどォでもいいンだっつの、だけどオマエ等がこれ以上傷つくってのはそれこそ絶対あっちゃなンねェンだよ」

「……、」


一方通行の言葉に、しばらく番外個体は何も言わずに一方通行の瞳を覗き込んでいた。
揺らぐことのない視線は、しっかりとぶつかり合う。


「…………うるさいクソ馬鹿。ミサカはどうでも良いんだもん」


やがて番外個体はそう言うと、誤魔化すように一方通行の胸元に顔をうずめた。
身体を小さく丸めて子犬のようにすんすんと鼻をひくつかせる。
唐突な彼女の行動に勿論ながら一方通行は戸惑って、心臓がどくどくと活発になった。


「あなたの臭いがする。ミサカ、この臭いすごく落ち着くんだけど」

「……あっそォ、つーかもっと離れろボケ。冬だからってあっちィっつの」

「うひゃひゃ、心臓がどきんどきんいってるのが聞こえちゃうから? 
 大丈夫、もう十分拝聴させてもらってるからさぁ。耐性がないって辛いねぇ」

「な……っうるせェよ!」
383 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 21:26:06.31 ID:FDyGJ6A0


番外個体はしばらくの間、そうしてじっと瞳を閉じていた。

窓から差し込む微かな灯りで僅かに浮き彫りになったその顔は穏やかで、ただ額の冷却シートがやっぱり間抜けだ。


「つーか風邪うつったらどォしてくれンだよ」

「けけっ、そしたらミサカがうっすいお粥作ってあげるから安心しなよ」


ぱちりと目を開けて、番外個体が皮肉混じりに言う。
そんなに今日のお粥はお気に召さなかったらしい。
失礼なヤツだと思いつつ、しかし作った本人も自分で食べたくないと言うくらいだから仕方ないかもしれない。


「……寝れない。落ち着くけど、さっき寝過ぎたせいかなぁ」


番外個体はそう呟くと、再び一方通行の胸元で目を閉じた。


『よーし、じゃあ、とんとんしてやるじゃん』


番外個体の熱を感じつつ、一方通行の頭に浮かんできたのは黄泉川の言葉だった。
ロシアから戻ってきた直後、数日間黄泉川宅で世話になっていたのだが、眠れないという打ち止めに対して黄泉川がそう言っていた。


一方通行は少し考えて、それから番外個体の背中に手を回す。
番外個体が驚いたように目を開いて、上目遣いに彼を見た。


とん、とん。


ゆっくりとしたテンポで番外個体の背中を優しく叩いてやると、彼女は一方通行の意図を汲み取ったのか、目を閉じる。

とん、とん。

優しげなそれは、番外個体をひどく落ち着かせて。

とん、とん。

やがて彼女が寝付いた後も、しばらくの間、柔らかに。
384 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/26(日) 21:30:08.23 ID:FDyGJ6A0
今日は以上です、結局クリスマスが終わらなかったorz
それとスイーツ(笑)な店員の扱いが悪いかなぁ、まぁ誰って訳でもないし良いよね!

ぐだーっとしてて申し訳ないのですが、後半戦は次回持ち越しということで
やり残したことが沢山あるし、それ+新年か今年最後に番外編みたいなの書こうか考えてるとこ

いつも通り何かあったらばんばんどぞ
それでは読んでくれたみなさま、どうも有り難う。
385 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 21:38:32.98 ID:X12uOkAO
乙ー!
不憫な隣人絹旗にちょっとワロタwwwwww
386 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 22:04:00.12 ID:Wpnk9cDO
スイーツ(笑)店員ざまぁwwww


話の流れに無理が無いのがいいな

この調子で頑張って下さいな
387 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 22:15:18.14 ID:UjFwPOE0
>>1 GJ(ID的な意味で)
正直スイーツ(笑)にはもっと酷い目にあってもらってもよかったんじゃないかな
……血液逆流とか
388 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 22:24:11.25 ID:hO6v/5go
>>387
俺暗部の下っ端だけどガラスの掃除やらの時どさくさにまぎれて倒れてた店員けっとばしといたよ
389 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 23:13:42.25 ID:afqsX6AO
>>1
乙!

>>387
どうせ[ピーーー]なら血液逆流より黒翼(今は白翼なのかな?)で粉々にした方が...ww
390 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 00:46:14.46 ID:eqUPKgAO
お前ら生ぬるい
99何号だったか見たいに体を生きたまま意識のあるまま超バラバラにしてやってもお釣りがくるレベル
>>1乙であった!
391 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 00:49:59.44 ID:71.P8RYo
お店に冷蔵庫が一台増えたよ。

第二位的な意味で。
392 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 00:54:59.59 ID:LFItxaYo
>>388
マジかよ
俺もどさくさにまぎれて足首踏んだんだけど
393 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 01:20:19.08 ID:.w40fT60
>>389
粉々だとスイーツ(笑)が苦しむ間もなく終わっちゃうじゃマイカ
394 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 02:06:15.69 ID:T1Eet.Mo
俺医者だけどついうっかり医療ミスしてタマ潰しちゃったよテヘッ
395 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 18:25:21.79 ID:42fnb6DO
なんつーかお前らガキだな
396 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 19:08:31.89 ID:D5R6QWgo
ガキですよ
永遠の17歳ですもの
397 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 19:19:49.86 ID:Oa.LCu.0
でもこの流れは嫌いじゃない
398 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 02:30:28.73 ID:sjL7w860
クローンに理解がないだけでわりと好青年なのかと思ってたら
まさかのクソゲロドグサレ野朗でしたww 学園都市第一位にケンカ売ったことを
知って絶望に震え上がるがいいww
399 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 21:46:06.84 ID:r6ejGgY0
スイーツ(笑)の姿が海原で再生された俺はちょっと金星の光浴びてくる
400 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/28(火) 23:13:17.01 ID:R5ARufg0
こんばんは、レス沢山ありがとうなんだよ!
スイーツ()への批判が多くてワロタwww
取り敢えず生体電気弄ってやれば面白いことになると思うんだ。よく知らんけど
ていうか新約ってどういうこった…

大分遅くなったけど、明日の夜にはクリスマス完結させたいなー
ミサワには次回も頑張って貰います
毎度毎度gdgdで申し訳ないけど、その時はお付き合いくだしあ。おやすみー
401 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 23:30:40.52 ID:evU25sAO
ええい!舞ってるから出来るだけ早く長く投下するんだぞ!
402 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 02:23:41.87 ID:sexV1sAO
>>1楽しみにしてる

俺も新約には驚いたわ
上条さんは大丈夫なのかな
403 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 04:54:07.87 ID:4t1PCHg0
>>401
よっ人間国宝!
404 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 21:38:04.16 ID:.3gwsiU0
スイーツ(笑)は7日くらいかけて空気をたっぷり含んだ桃色のムース状にしても誰も胸が痛まないだろうな
405 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 22:00:59.63 ID:rViqN4A0
こんばんはー。風呂からあがったら投下したいと思います。やっとクリスマスが終わります
取り敢えず某国民的アニメにあてて前回の確認と予告を
尚、国民的アニメを此処で大々的に出すわけにはいかないので規制という形で自粛させてもらうんだよ!


ちびま○こちゃん、はじまるよー

クリスマスイブだというのに体調不良のま○こ
一方、胃腸が弱くて流されやすい○根くんは彼女のバイト先の店で暴行をはたらいてしまう
そんな波乱の性夜は、二人仲良くベッドインで更けていく――翌日、ま○こが頬を濡らすことになるとも知らずに

後半へ続く
406 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 22:03:57.48 ID:PeNd7Nwo
ま○こって伏字の仕方に意図を感じる
407 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 22:33:10.01 ID:xNlts2AO
おいさらっと不安になる煽り混ぜんなwwwwwwwwww
408 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 22:43:11.57 ID:rViqN4A0

「燃えてるぞー! マンションから火が出てる、早くこっちへ!」
「助けてってミサカはミサカは絶叫してみる! 煙が大変なことになってるの!」
「打ち止め、今行くじゃん!」
わーわーぎゃーぎゃーよしかわがいないー
「一方通行、あなた料理してる場合じゃないでしょうがぁあああ! ミサカまで死んじゃう!」
「この肉高かったンだぞ!? このままにしたら勿体ねェだろォが!」
「じゃあ早く食べようよ。クリスマスだもん、乾杯しなきゃつまんないからグラスも出して!」


…………
……



「――あっちィ」


あと数日で今年も終わり、外はしんしんと雪が降っているというのに、暑さで目が覚めた。
掛けていた分厚い毛布もはだけて、身体を起こしてみると、薄手のタオルケットは足下でぐしゃぐしゃになっている。


「にしてもなンつー夢だ……」


その暑さ故か、家事でマンションが燃えるという夢をみていた。
黄泉川達と自分たちが同じマンションに住んでいて、しかも自分たちは火事だというのに食事しようとしていて。
一方通行も番外個体も、頭の足りていない様な残念な雰囲気がぷんぷん漂っていた。

隣を見ると、当然ながら番外個体。
暑苦しかったのと熱、恐らく両方の理由で汗をかいている。
額に貼ってあった冷却シートは剥がれかけていたので、一方通行はそれをとると番外個体の額に手をあてる。

昨日よりは大分よくなったが、平熱以上はあるかもしれない。

と、『触れられている』という違和感を感じ取ったのか、番外個体がうっすらと目を開けた。
409 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 22:45:44.86 ID:rViqN4A0

「……おはよう。ミサカの熱、下がったかな」

「ン、昨日よりはマシだな。もォ38度はねェよ」


一方通行がそう教えてやると彼女はにへら、と朝特有の笑みを漏らして、


「そっか、良かった。どうりでちょっと楽なはずだ」

「俺は起きて色々準備すっけど、オマエはまだ寝とけ。ちゃンと布団も掛けて、あと今頭に貼ンの新しいヤツ持ってくっから」

「うん。あ、そうそう、午後で良いんだけど、ミサカ最終信号に用事あるー」


一方通行が彼女に布団を掛け直していると、番外個体がそんなことを言い出した。


「用事? ミサカネットワークでどォにかなンねェのか? つーか無理すンな、俺が代わりに行くかァ?」

「ううん、直接会いたいかな。……実はあなたを出し抜く感じで悪いけどさぁ、あの子にプレゼント買ってあるからね」

「あー、それ俺も買ってあるンだが」


きょとん、とした顔で一方通行を見返しつつ、番外個体はワンテンポ遅れて


「うぇ、折角ミサカの好感度上げようと思ったんだけど、あなたも買ってたなんてねぇ。じゃあ一緒にサンタさんになろうよ」

「オマエの体調が良くなってたらな」

「うん、ミサカがんばる」


何を頑張るのだろう、と一方通行は疑問に思うも、まだ眠そうな番外個体とは会話を成立させるのは困難だと結論づけて部屋を後にする。
410 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 22:47:25.43 ID:rViqN4A0

「クリスマスだからってなァンでこォ特別意識があるンだか。日本なんて宗教もクソもねェよォな国なのによォ」


ぶつぶつと呟きながら、携帯で検索したレシピを見ながらキッチンに立つ一方通行。
しかしそうは言いつつも、やはり彼も何だかんだでクリスマスを満喫しつつあるのかもしれない。
半ば強制的だったがツリーの飾り付けもしたし、プレゼントも選んだ。何だかんだ言って料理まで作っている。
奮発してちょっと高めの鶏肉を買ってみたくらいだ。


そして何より、番外個体が喜ぶ姿を見れるのは嬉しい。


昨日はお世辞にも良い日とは言い難かったのだが、クリスマスは今日だしと割り切ることにする。


「っと、次は……生クリーム……動物性で良いのかァ? 適当に高い方選ンだけど関係ねェか」


ちなみに今日のメニューはというと、定番のチキン、クラムチャウダー、サーモンのマリネ、そして昨日のケーキである。
番外個体の所望は『クリスマスっぽく特別な感じ』と曖昧だったので少し悩んだが、簡単且つ普段はあまり作らないものにした。


(肉は昨日のうちから準備してあっから焼くだけだし、あとは飯炊いて……飲み物は酒、は駄目だな、アイツ風邪だし。
 クリスマスっていえばシャンパンとか言い出しそォだが病人は梅干し茶で良いな。俺は絶対飲まねェけど)


最先端の科学技術を誇る学園都市。学生が人口のほとんどを占めることもあり、和食よりも洋食が親しまれている。
つまり梅干も食わず嫌いが多く、一方通行もその一人なわけだが、自分が食べないものを人には食べさせるあたりが昨夜のお粥同様、無責任で他人事だ。

そんな彼の心中やこの街独特の風潮を、番外個体と何処かの聖人が知ったらそれぞれ別の理由で憤りそうである。
411 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 22:49:28.23 ID:rViqN4A0

料理の下ごしらえも一段落ついたところで時計を見ると、12時をまわったところだ。
番外個体の容体を確認ついでに昼食の有無を聞こうと彼女の部屋へ。


「番外個体、入ンぞ」


彼女に声を掛けつつ、ドアを開けて――


「――っ!? ぁ、あ……、や、でてけぇ変態!」

「あァ!?」


一方通行の視線に飛び込んできたのは、脱ぎ散らかされたパジャマの上下と、


……ベットに腰掛け、ブラを付けようと格闘している最中の番外個体。


「こっち見んなっつの! つーか出てけ! なぁんでノックしないんだよう!?」

「入るぞ、っ痛、モノ投げンな! 入るぞっつっただろォが!」

「返事の前にドア開けたよ絶対そうだワザとでしょ!?」


互いの身体を求め合った仲だというのに、番外個体は毛布を引き寄せて己の身体を隠しながら手近なものを投げつけてくる。


「早く出てけって言ってんでしょうがぁああああああ!」


挙げ句の果てにビリビリと紫電を散らし始めたので、一方通行は慌てて撤退することに。
412 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 22:51:53.47 ID:rViqN4A0

「……ったく、痛ってェな。なンだァアイツ」


小さなデジタル時計が当たった肩をさすりつつ、ソファの上で脱力する一方通行。

……正直、彼女の格好や普段とは少し違った取り乱したような反応には驚いたし、思い返すとこっちまで顔が火照っ


「一方通行」

「ッ!?」


不意に後ろから響いた番外個体の尖った声。
パーカーにジーンズというラフな格好で現れた番外個体は、いつもの定位置に膝を抱えてちょこんと座る。


「…………」

「…………、」

「………………見た?」

「……みた? ……あァ、昨日のテレビなら観てねェぞ。大体同じ時間に寝たじゃ」

「違うくて! その、さっき、――うぅぅ」


いつもより二回りほども小さく見える番外個体は、噛み合わない会話が煩わしそうに唸る。


「ミサカの下着、見たかって聞いてんの――ッ」


番外個体が頬を紅く染め、瞳を若干潤ませているのは熱がまだ引いていないからだろうか。


……それとも。


そう考えると、一方通行の嗜虐心に火がついた。



「あァ、モロ見えたわ。ピンクのヤツな」
413 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 22:58:38.44 ID:rViqN4A0

「――〜〜っ」


一方通行に色まで的確に言われ、一層赤みを増す番外個体の純粋な反応が面白い。
普段は強気で、一方通行を煽ってくることも多い番外個体。
そんな彼女の滅多に見れない表情に、ぞくぞくと一方通行の身体を可笑しな感覚が駆け抜ける。

その姿を目にして久しぶりに感情を高ぶらせ、頬を緩めてしまう自分は末期かもしれないと思いつつ、
同時に、羞恥に顔を紅くする番外個体はオリジナルに似ているとも思った。


「女ってアレか、上下揃えて着ンのか」

「……ぁ、う……きょう、は、たまたま……いっつもな訳じゃ、ないし」

「へェ、たまたまねェ。クリスマスだからって興奮しちゃったンですかァ? 
なンつーか、やらしいよなァ。あの時のオマエの格好っつたら、こう――」

「もう喋んないでよ馬鹿ぁ……」


調子に乗って番外個体を責めていると、彼女の小さな声に遮られた。
いつもの威勢のよさは何処へいったのか。
一方通行が彼女のそんな声に驚いていると、


「ふっ……うぇ、しねクソ第一位……ふ、うぅ」


手のひらで目をごしごしと擦って、か細い声をあげているではないか。
それでも外へぽろぽろと零れる液体が何なのかはいくら一方通行でも直ぐに分かって、


「……オイ、番外個体」

「折角、熱も大分下がったから、ひぅ、クリスマス、できると、ふっ、え」


途切れ途切れに話す番外個体を見て、調子に乗りすぎだクソ野郎と今更ながら自分のタチの悪さを非難する。
あれでは酔っぱらったエロ親父同然だ。
414 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 23:01:06.65 ID:rViqN4A0

「み、番外個体、悪かったって、な? しかも本当は見てねェよ」

「嘘つけ。ピンクでお揃いって言ったじゃん」


自分で言いつつ、頬をうっすら染める番外個体。
ごしごしと乱暴に擦られた目元は赤くなっている。
そんな彼女の当を得たツッコミに、う、と一方通行は言葉を詰まらせた。
学園都市第一位にしては浅はかな嘘だった。

一方通行の反応を見てやはり嘘だったと見抜いた番外個体は、更にごしごしと目元を擦りながら洟をすする。


『ちょっと男子ぃ何ミサカのこと泣かせてんのぉ? 先生に言うからー』
と、麦野ガキverが浮かんできて、ムカついたから頭から追い払った。


「あー、悪かったって。やらしいとか嘘だしからかっただけだから気にしねェで、泣くな、な?」

「泣いてない」


嗚咽を漏らすまいとする番外個体は、そう言い切ると目をぱちりと大きく開いて一方通行の顔を見る。
どうやらそれで泣いていないことを証明しようとしたらしいが、


「……ふうぅ」

「……あー……」


一方通行の顔を見ると再び涙が零れ落ちてしまうらしい。
軽くトラウマ扱いされて、盛大に後悔する一方通行だった。
415 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 23:02:34.12 ID:rViqN4A0

「ほら、イルミネーション綺麗だなァ。年内で終わりらしいからちゃンと見ねェと損すっぞ」

「…………」

「そォだ、コンビニ寄るかァ? おでン買ってって黄泉川ンちで食おォぜ」

「…………」

「もう少しで卯年かァ。そォいや赤目のウサギって死ぬと目の色変わるンだと」

「…………」

「あー……オマエそォいやガキに何買ったンだ?」

「…………」


泣き虫番外個体から怒りんぼ番外個体に移行した番外個体は、普段より5割増しくらいで話し掛けてくる一方通行を完全スルー。
熱がほぼ平熱まで下がったらしいので、打ち止めにプレゼントを渡そうと二人で黄泉川宅へ向かっているのだが。

番外個体が早足で歩き、それを少し後ろから一方通行が追う。


「……つーかよ、何で今更ンなこと気にしてンだよ。昨日だって一緒に寝たし、大体それ以前に――」

「うっさい黙れくそばか。つまんない話してる暇あったら死ねるんじゃないの?」


一方通行がふと抱いたそんな疑問に対して、久しぶりに口を開いた番外個体。
かなり不機嫌そうな、低くて鋭利な声だ。
彼女の足が足下に転がっていた雪の塊を蹴り飛ばすと、再び沈黙を決め込む。


「…………」


一方通行からは番外個体の背中しか見えないが、きっと苛立ちで顔を歪めているに違いない。

微妙な空気になってしまい、ご機嫌取りにと慣れないことを話そうとしていた一方通行はそれを断念するしかなくなる。
ウサギの話は少し場違いだったかと、見当外れな反省をした。
416 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 23:04:36.93 ID:rViqN4A0

ざくざくと地面を乱暴に踏みつける番外個体。


「なァ、マジで悪かったって。だから機嫌なおせよ」


黄泉川の家に着くまでにこの状況を打破しようと、前を歩く番外個体に追いつこうと駆け足で2歩、3歩と踏み出したところで。


「おう!?」


ずるっ。と、一方通行の身体が前のめりに転けた。
普通のスニーカーで雪道を歩いているというのに、少し油断しすぎたか。
全く予想外の事態に一方通行の両手は虚空を描き、そしてその片手は番外個体のコートのフードを――


「ひゃあ!?」


一方通行に巻き込まれて番外個体も一緒に転んで尻餅をつく。


「痛ってェ……」

「じゃねー! ミサカまで巻き込むってなんで!? ……って、後ろから面倒なのが来てるような」


番外個体が地面にしゃがみつつ、後ろの方を見て眉をひそめる。
一方通行もその視線の先を見ようとしたとき、



「不純異性交遊じゃん! 往来でその行為に及ぶとは見せつけてくれるじゃん!」

「おーもしかして番外個体とあなたはそういう関係なのってミサカはミサカは見ちゃいけないモノを見ちゃった気分!」



整った顔立ち、豊満な胸、一本にまとめた黒い髪。しかし色気が感じられないのは緑色のジャージのせいか。
そしてその女の隣でぴょこぴょこ跳ねるのは、番外個体を幼くしたようなアホ毛の少女。


「久しぶりだねーってミサカはミサカは道路に座り込んでいる二人に駆け寄ってみる!」
417 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 23:07:04.15 ID:rViqN4A0

「ま、ココアでも飲んで暖まるじゃん。一方通行はコーヒーか?」


丁度買い物帰りだったらしい黄泉川と打ち止め。
今から向かおうとしていたことを伝えると、どうぞどうぞと家に通された。
リビングではぐでーっと芳川がテーブルに突っ伏していて、黄泉川が邪魔くさそうに溜息をつくとバツが悪そうに苦笑する。

ロシアから帰った直後はここで生活していたこともあり、番外個体も彼女たちに違和感なく溶け込んでいた。
眠そうに斑目になっている芳川を面白そうに突っつく彼女は、差し出されたココアをふーふーと冷ましつつ、


「……警備員の黄泉川だからこそ相談するね。この人、猥褻的なことばっかりしてくるから逮捕してほしいんだけど」


突然の暴露。げほげほとコーヒーを咽せる一方通行は目を丸くしている。
そんな彼をざまぁみろ、といった表情で見るのは勿論番外個体で、しかしその表情はいたずらっ子のようでもある。


「あなた達もさっき見たでしょ、ミサカが押し倒されるところ! 今日なんかさぁ、ミサカの着替、」

「ストップストップ! ってミサカはミサカは止めてみる! これってもしかして子供には有害かも、ミサカは聞かない方が良いのかな!? 
 ってミサカはミサカは心配してみるんだけど……」

「うるせェよ! そンな疚しいことしてねェっつの!」

「あっれー? ミサカのこと言葉責めして恍惚の表情浮かべてたのは誰だっけかにゃーん?」

「こ、こと、言葉責め!? 一方通行、本当だったら異常じゃん!」


何故か顔を赤らめる黄泉川と、ジトーっとした視線を投げかけてくる打ち止め、芳川。
非難めいた視線を受けて、一方通行の精神が削り取られていく。
418 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 23:08:49.65 ID:rViqN4A0

「――それで、結局二人は何が目的で来たのかしら?」


しばらくの間侮蔑の視線に晒されて衰弱した一方通行を差し措いて、芳川が番外個体に問いかける。
一方通行がぐったりしているのを見れてご機嫌な番外個体はお茶請けのドーナツを皿の上に戻すと、


「最終信号! 今日、12月25日は何の日かな分かるかな?」

「えーっと、クリスマスだよってミサカはミサカは答えてみる。今日の朝起きたら枕元にプレゼントがあったんだ!」

「せいかーい。ひゃひゃ、そんなあなたにミサカサンタがプレゼント持ってきてあげたよー?」


番外個体がそう言ってバックの中から包装された袋を取り出す。
ピンクの袋はリボンで結ばれていて、それを見た打ち止めが目を丸くした。


「え? 本当!? びっくり箱とかじゃないよねってミサカはミサカは確認してみる」

「人聞き悪いなぁ、ほら、開けてみなよ」


苦笑する番外個体に促され、打ち止めはがさがさと袋を開ける。
中に入っていたものをみて、顔を綻ばせた。


「わぁ、帽子と手袋! みてみて似合うかなってミサカはミサカは早速装備してたり!」


もこもこしたニット帽と小さな手袋をつけて飛び跳ねる打ち止め。
どうやらお気に召したようで、番外個体としてはなによりである。可愛いなぁ、と目を細めた。
419 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 23:12:24.01 ID:rViqN4A0
「良かったじゃん打ち止め。手袋、片方無くしてたところじゃん」

「これは絶対無くさないってミサカはミサカはここに宣言!」

「へェ、やっぱ女が選ぶのはセンスあンなァ」

「そうだねってミサ……あなた生きてたの?」


いきなり会話に入ってきた一方通行に驚く打ち止め。さらりと酷いことを口に出す。


「なンですかァその言い様は。オマエ等、このガキにどォいう教育してンだよ。つーかほら、俺からもやンよ」


ふわり、と打ち止めに放物線を描いて投げられる一方通行からのプレゼント。
打ち止めは少し危な気にそれを受け取ると、


「あなたから、プレゼント……」

「オイオイ何顔赤くしてやがるンだっつのマセガキ。これから男にモノ貰う機会なンて増えるンだから慣れとけ」

「ひゃひゃ、あなたが言うとやらしく聞こえるのはミサカだけ?」

「多分オマエだけだな」


すっかりいつも通りの二人や保護者とニートを差し措いて、打ち止めは廊下の方にとてとてと走っていく。


「ありゃあ自分の部屋でこっそり開けるつもりじゃん?」

「ミサカと一方通行の差が気になるんだけど……」

「お年頃じゃん? それより二人とも、ご飯食べてくか?」

「ン、家帰ったら今日はクリスマスしなきゃなンねェンだわ」

「へぇ、そっちは今日か。うちは昨日やったじゃん。……あ、これ持ってくじゃん」


黄泉川がキッチンの方から何やら出してくる。袋の中に大量に入っているのはレトルト食品で、


「……オマエ等、いっつもこれ食ってンのか」

「誤解しないでほしいじゃん、うちには炊飯器もあるし。桔梗のヤツが間違って大量に注文しちゃったじゃんよ」


あのチラシは分かりにくいわ、と芳川が呟いた。
420 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 23:14:38.43 ID:rViqN4A0



「…………、」


同日20時13分。
『クリスマスパーティ』と称して、いつもとはひと味違った料理を堪能した後。
一方通行と番外個体は、とある『物体』ならぬ『残骸』を凝視していた。言葉を失った二人の間に、微妙な空気が流れる。


「…………これは、何かなぁ?」


番外個体が首を傾げる。
分かっているのにわざわざ言うなと言いたい一方通行。


「……、何って、ケーキじゃねェか」

「ミサカはチョコレートケーキを注文したはずなんだけど……ケーキを」


番外個体曰く。
箱の中で崩壊しているこれは、自分の注文したはずのものと違う。
自分が注文したものは綺麗で可愛くてともかくケーキだった。


「仕方ねェだろ、お前のことおンぶしながら持ってたしィ。女の店員からも結構乱暴に奪っちまったしィ。苛ついてたしィ」


そう弁解するも、番外個体はそれで納得してくれるはずもなく。


「あなたの料理はさぁ、流石主夫って感じで、あ、これ褒め言葉ね、で、美味しかったよ?
 けどさぁ、ケーキがこれって……。ぎゃは、なーんかミサカ達みたーい」

「どォいうことだそれ」

「さーてどういうことでしょーう? ……あ、味はチョコケーキだ。おいしいよこれ」


番外個体は意外そうな顔をしてケーキを頬張る。
見た目は良くないが、それでも実質は一緒だ。一方通行にも勧めてくるのだが、


「甘くて食えたもンじゃねェよ」

「つまんねーヤツ」
421 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 23:17:58.01 ID:rViqN4A0

「と、ここであなたにサプライズがありまーす」


ケーキを食べながらココアを飲んでいた番外個体が唐突にそう言って立ち上がる。
よくもまぁチョコケーキにココアなどと甘ったるい組み合わせが平気なものだと、ある意味感心していた一方通行。
自室の方へと駆けていく番外個体を目で追いつつ、テーブルの上に置かれたケーキを一口食べてみる。

……予想外に苦みのあるビターな味で、それがなんとなく悔しい。



少しすると、リビングのドアが開く音と番外個体の声が同時に聞こえた。


「こっち見ちゃ駄目だからね」


番外個体のどこか楽しそうな声。
彼女が近付いてくるのを背中で感じ取る。
そして、


ふわり


一方通行の首に、何か暖かいものが巻き付けられた。
驚いて後ろを振り返ると、番外個体はそっぽを向いてしまう。


「……マフラー。一応手編みなんだけど」


手編みという割にはしっかりしていて丈夫そうな、さわり心地の良い黒のマフラー。
上手いし、そして何より嬉しいと一方通行は素直に思う。


「すげェ、ありがとな」

「あなたには色々わがまま聞いて貰ったしね。まぁ手編みっていっても麦のんの知り合いのおっとりした子に教えて貰ったんだけどさ」


面と向かって礼を言われて照れでもしたのか、番外個体はバンバンと一方通行の背中を叩く。


「黒と白で迷ったんだけど、その子が白は汚れが目立つかもって言うから。
 ひゃひゃ、ただの毛糸の塊、しかも一ヶ月で急いで仕上げたヤツだけど、たまには使ってくれても良いんじゃない?」

「ン、有り難く毎日使わせてもらうわ」

「……それ、たまにじゃないし」
422 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 23:22:44.46 ID:rViqN4A0
「そォいや俺からもオマエに買ってあっから、取ってくるか」


自分が編んだマフラーに気に入らないところでもあったのか、マフラーと睨み合っていた番外個体がきょとんとした顔をした。
一方通行が立ち上がると彼女は慌てたようにして、


「ちょ、待ってよ! 買ってあるって、え?」

「まァ、オマエの言葉を借りればサプライズっつーか、クリスマスなンだろ。
 まさかあのガキには買っといてオマエには何にもありませン、とか考えてたンじゃねェよなァ?」


考えてたに決まってんじゃん、と番外個体は心の中で毒づく。

打ち止めに対しては、サンタクロースを楽しみに寝る子供の枕元に親がプレゼントを置く、そんな感覚で渡していたのだろうと思う。
現に一方通行は打ち止めを『家族』として大切に扱うし、それ以外に恋愛感情があるなら少し危ない人だ。


(でも、ミサカはサンタさんを馬鹿正直に信じて手紙を書くような子供じゃない。
 あの人を殺そうとはしたけれど、最終信号みたいに最初っから懐いて癒やして認めて。そんなことをしたわけでもない)


だから正直、期待などしていなかった。しようとも思わなければ、望みすらも持たなかった。

人でなしで、けれど守ってくれて、認めてくれて、自分の為に立ち上がってくれる。

“そんな”優しいあの人が。

いつも悪態ばかりついていて、役立たずで、欠陥まみれで、わがままな。

“こんな”出来損ないの自分に。

プレゼント、なんて。
考えただけで可笑しくて、あり得ないと笑い飛ばした。

なのに、なのに。


「……馬鹿だよ、あなた」

「ン、何か言ったか?」

「何でもない。ミサカも一緒に行くー」


あり得ないと笑い飛ばすのではなく、
今日だけは、クリスマスだけは。

心の何処かではひっそり望んでいたかもしれないその事を、
素直に喜んで、そして笑おう。
423 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 23:25:08.33 ID:rViqN4A0

「あなたの部屋って、すっごいあなたの臭いがする。なんとなく落ち着くなぁ」


番外個体がきょろきょろと一方通行の部屋を見渡して言う。
自分の臭い、と言われてもいまいちピンとこないのは、自宅の臭いが自分では分からないのと一緒だろう。

……にしても、何故番外個体はベットの下やクローゼットの後ろをしきりに詮索しているのか。


「人の部屋でうろちょろしてンじゃねェよ」

「良いじゃん気にすんなって。けけっ、エロ本の一冊でもあるかと思ったけど、何処にあるのかにゃーん?」

「ンなもンねェよ。っと、ほら」


呆れたように溜息をつく一方通行がクローゼットから取り出したのは、綺麗に包装された、


「ほら、オマエにな。昨日渡す予定だったけどまァ良いだろ」

「……ありが、と。包装までしてもらって、あなたも恥ずかしかったでしょ? ……開けても良いかな?」


一方通行のベットに腰掛けた番外個体は少し戸惑ったような調子で確認を取ると、慎重に包装紙を剥がしていく。


「ビリーっとひと思いにいっちまえよ。どォせ捨てるンだしよォ」


そんな風に促されても、番外個体は丁寧に丁寧に、破かないように。

そして。


「――エプロンだ。どうしよう、ミサカ、」


中から出てきたそれを見て、顔を綻ばせる。
胸にエプロンを抱き、目の前に経つ一方通行を見上げて、


「すっごく嬉しいんだけど」
424 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 23:29:29.16 ID:rViqN4A0
きらきらーという擬態語がぴったりな表情で笑みを向けてくる番外個体。
彼女が得意とする『人の悪い笑み』とは掛け離れた、滅多に見られない表情だ。
昼の羞恥に耐える顔や泣き顔に並んで、今日はレアなシーンを随分と見た気がする。


「ミサカこれ着て毎日お手伝いする! 2号店でのバイトもこれでやる!」


そんなことを言って立ち上がると、エプロンを握りしめたまま、


「み、番外個体……ッ!?」


一方通行に、ぎゅーっと。


「あなたがこんなに気が利くとは予想外だったけど、ありがとね。
 正直今日はあなたを変態と割り切って付き合っていこうと決めた日でもあったんだけど、もうミサカそんなのどうでも良いよ」

「酷い事を決めてやがるンだなオマエ……」


番外個体の慎まし、じゃなくて遠慮がちな胸が当たって、
それを介して心臓の動きが伝わってしまうのではないかというくらい一方通行の鼓動が高まった。


「ミサカに似合うかな? 新開店のお店も制服制じゃないし、着ても感じ良いよね?」


番外個体はそんな一方通行の気も知れず、彼から離れるとエプロンを宛がう。
ナチュラルな雰囲気のそれは彼女によく似合っていて、うんうん新しく開くとかいう店で着ても客受けは悪くないはず――


「って、2号店だの新開店だの何言ってやがるンだァ?」

「いやぁ、色々あったから? 店長の気遣いで来週オープンの第5学区店舗に行くか、って」


『色々』という単語に思い当たる所がありすぎる一方通行。昨日の出来事を思い出し、酷い罪悪感と嫌悪を感じる。
番外個体が目の前にいるというのに、あの男に対して殺意さえ抱いてしまう自分がいかに醜いかを改めて思い知った。


「……、悪ィな」

「ほんとだよ。新しい店員さんに手取足取り教えるのはミサカなんだからさぁ。
 でもまぁ、第5学区っていえばランク高い店も多いしやり甲斐ありそう。成人向けのお店も多いらしいけどねぇ、ひゃひゃ」


いつもの調子でそう言う番外個体は、シャンパンが飲みたいなどと言い出して。
そんな言葉を聞いた一方通行は、梅干し茶をいれてやろうと考えていたことを思い出した。
425 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2010/12/29(水) 23:36:50.72 ID:rViqN4A0
今日の投下は以上です
>>405で敢えて不安要素を仄めかしてみたけど、全然大したことなかったんだよ!

そろそろミサワをデレさせたいなぁ
ていうかちょっとヤンデレっぽいものを書いてみたいと最近思う。ミサワはにも十分要素ある気がするんだけど

というわけで、今回も付き合ってくれた皆様ありがとう
レスも楽しく読ませて貰ってるー
分かりにくいところは答えるんで、どんどんどぞー。ということでおやすみー
426 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 23:41:48.51 ID:cdB2yUAO
乙です
デレ期待
427 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 00:12:24.15 ID:DlIzxUAO
乙でし
ミサワさんかわいすぎやばい
428 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/30(木) 00:17:46.58 ID:W4eqc2AO
プレゼントの包装紙をその場でびりびり破くのはアメリカやヨーロッパなど

より印象に残るようにするためらしい



ってテレビでやってたけどどうでもいいですね
429 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 00:27:22.29 ID:i8myk.AO
これはいかんな、只でさえ糖尿気味なのにミサワが出れたらティウンティウンしてしまう
乙であった!
430 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 00:35:47.06 ID:ky7RPwAO
普段悪態ついてるだけに
ちょっとしたデレでもかなり来るな
ともあれ乙
431 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 00:36:22.39 ID:j1irmq.o
いいじゃんどんどんデレデレするじゃん!
432 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 02:29:06.14 ID:c.yCCsDO
>>428
朝の情報番組ですね

>>1乙!ミサワさんは可愛いなあ。個人的には少しヤンデレ位が好み
433 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 02:43:28.69 ID:.iF4FsDO
下着見られて泣くミサワさんと普段の五割増しで喋る一方さんが可愛すぎて悶えた
二人とも丸くなったなぁ
434 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 03:18:35.40 ID:PQRFhVc0
ふぅ・・・
435 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 03:45:37.92 ID:I6.DCgAo
垣根くんは胃腸が弱くて流されやすいのか
436 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 15:24:35.93 ID:fIH1OG60
ちょっともう終わり!?
2時に出掛けるつもりだったのに…
437 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 09:03:09.79 ID:t2xyI0E0
明けましておめでとうございます
今年は番外個体に素敵な恋が訪れることを心からお祈り申し上げます
438 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/01(正月) 23:30:43.05 ID:acFZ6S.0

Welcome_The_New Year



『今年も残すところあと1分となり、第七学区の広場にはご覧のように多くの人がクラッカーを持って集まって――』


年末の特番で、学園都市の中心部である広場から中継しているアナウンサーがやや興奮気味に言う。
新年のカウントダウンを表示する電光掲示板を背景に各家庭に届けられるその映像は、観る者の感情までもを高ぶらせる。



「――3」


そして、男も女も、大人も子供も関係無しに。


「――2」


学園都市に住む学生が、教師が、学者が、業者が。


「――1」


日本中で暮らす1億2千万人の誰もが、新しい年を迎える。



「「あけまして、おめでとう!」」
439 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/01(正月) 23:33:15.76 ID:acFZ6S.0

「はーい打ち止め、お年玉じゃん」

「ありがとうヨミカワってミサカはミサカはお礼を言ってみる。今年もよろしくねって、ミサカはミサカは二人に抱きついてみたり!」

「愛穂、私にも勿論、」

「あるわけないじゃん! 今年こそ働いて貰うじゃん!」



お年玉という文化を満喫する者。



「はーまずらぁ、年越し蕎麦はまだかにゃーん?」

「ていうかもう超年明けてますけどね。それより浜面、お年玉はまだですか? 私としてはそっちの方が超気掛かりなんですけど」

「ちょっと待てちょっと! 水入れすぎてべちょべちょなってんだよ!」

「……大丈夫、わたしは新年もぱしりなはまづらが大好きだから」




「とうまとうまー! ジャパニーズ・オセチはまだかな? お餅もお蕎麦もまだまだ足りないんだよ!」

「餅はもう徳用を食い尽くしたじゃねぇか! って痛ぇ! 新年早々不幸だああああああ!」



多種多様に正月を味わう者。
440 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/01(正月) 23:35:56.04 ID:acFZ6S.0

「お姉様ぁ、今年こそ黒子とあんなことやこんなことを、」

「うっさい! だぁれがアンタなんかと、ってくっつくなぁ!」

「あぁんお姉様、今年はお胸も大きく成長なされば……ひゃんっ!」



いかがわしい願望を抱く者。



「結標ちゃん、あけましておめでとうなのですよー。今年もよろしくなのです」

「よろし、く!? っと、あぁどうしよう死んじゃう!」

「……、結標ちゃんの今年の目標は何ですか? 先生はタバコを減らしたいのですよー」

「今ちょっと待っ、あ! もうコイツを7分以内に撃破で良いわよ! ぶっ殺してやるわ!」

「…………先生は結標ちゃんをそんな風に育てた覚えはないのですよ……」



今年の抱負を語る者。
441 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/01(正月) 23:41:11.33 ID:acFZ6S.0
そして。


「……2011年かぁ」


とあるマンションで年を越した、彼らの歩んできた道を知る者ならば一緒に居ることを不自然に思うようなひと組の男女は。


「あなたと出会ってまだ2ヶ月なんだよ? なんかミサカ、ちょっと不思議かも」

「たった2ヶ月かァ。長ェよォでたったそれだけなンだな」

「色々あったねぇ」

「あったなァ」


すっかり日常に欠かせないものとなったこたつでぬくぬく、しみじみと。
深夜12時すぎということもあり、どこか眠そうな停滞した空気の中。


「まずさぁ、ミサカが恋とか思い出しただけで死にたくなるね。うわーって」


本当はそんなこと思っていないくせに、と一方通行は心の中で毒づく。
番外個体が偽っているのは丸分かりで、本人は無意識なのだろうが、その寂しげな表情は少し痛々しい。


「……どォも自堕落な生活だった気がすンなァ」

「勢い余って、ヤっちゃったしねぇ。ぎゃは」

「……、そォいうこととか下ネタとかは普通に言うのに何で下着くらいで泣くンだよ」


訝しげな目をする一方通行の足をこたつの中で蹴り飛ばす番外個体。
どうやらこの話題は彼女の中では御法度らしい。


「ロシアであなたが助けに来てくれたとき、嬉しかったなぁ」

「思い出語りですかァ? ババアみてェだな」

「一緒に暮らしてくれることになったときも、ミサカの為に何かしてくれたときも、プレゼントくれたときも」

「ハッ、随分良いヤツだなァオマエン中の俺っつーのは」

「すっごい嬉しかったし、これからも嬉しいこといっぱいあるのかな。けけっ、このミサカには勿体なすぎかもしんないけどさ」

「……そォだな。オマエは何も心配すンな」
442 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/01(正月) 23:46:15.73 ID:acFZ6S.0

「……ミサカは今年、何か変われたのかなぁ」


番外個体がこたつに突っ伏して呟く。
時刻は既に2時過ぎで、年を越してからは下らない番組を観ながら飲んだり食ったりと健康的とは言えない時間を送っていた。

彼女の眠たそうな声は、呂律が少し怪しい。
眠気に加え、正月だからと未成年のクセして調子に乗って手を出した日本酒が回ったのもあるだろう。


「変わったンじゃねェの。つーか変わった」

「へぇーどんなとこー?」

「なンつーか、丸くなったみてェな。ともかくスゲェ変わり様だろ、バイトも始めたし、他人の事まで気ィ遣えるし。
 あとあれだ、ロシアの時より可愛くなったなァ」

「ひゃひゃ、そーんなあなたも大分格好いいと思うんだけどにゃーん。よ、色男!」


冷静な頭ならば今自分たちがどんなことを言っているか理解できたのだろうが、生憎と二人の頭は只今絶賛鈍重中だ。
普段の自分たちが聞いたら赤面必須なセリフを恋人の如く平然と囁きあう。


「ヤベェ、オマエマジで可愛いわ」

「うんにゃありがとー」


へらへらーっと番外個体が気の抜けた笑みを浮かべ、そんな彼女の背中に、移動した一方通行が抱きつく。
言動のひとつひとつが普段の彼らからは想像のつかない代物で、いやはや、酒というのは恐ろしい。


「ん……っ。変なトコに手ぇ当たってるんだけどぅ。ひぁ、くすぐったい」


そのままごろごろと二人して絨毯の上に転がって、ふわふわとした気分のまま、
暖房も電気もテレビも点けっぱなしにやがて眠りに落ちてしまう。



――未知なる新たな年に、期待や抱負、そして僅かな不安を抱いて。

それぞれがそれぞれの2011年を迎える。
443 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/01(正月) 23:51:45.27 ID:acFZ6S.0
改めまして、あけましておめでとうございます
昨年は本当にありがとうございました、皆が大きな支えになってくれたんだよ!

今投下した分は正月用にと少し書いたものだから小ネタ程度と考えて貰えると嬉しいかも
元旦に間に合って良かった良かった

本線の方も近いうちに投下したい、クリスマスも終わったし新年です
というわけで、今年もよろしくです。おやすみー
444 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 23:56:06.67 ID:IGq7okDO
あけおめ!
新年最初の番外通行頂きましたァ!!
445 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 00:04:01.74 ID:.IVlwIYo
ああもう・・・なんか・・・ああいいなこの空気
446 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 01:29:12.05 ID:nP7UcYAO
ああ…もう俺今年最高の一年になるわ…
乙であった!
447 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 01:57:49.96 ID:ufGx/LUo
>暖房も電気もテレビも点けっぱなしにやがて眠りに落ちてしまう。
この一文に不安を感じるのは恐らく学園都市の外だけなんだろうなww
448 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 03:04:28.82 ID:/Ezf3kDO

乙!

>>1のおかげで今年も頑張れそうです
449 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [saga sage]:2011/01/02(日) 11:59:59.97 ID:OoqYXps0
こういうの本当に大好きだ
もちろん>>1も大好きだ
450 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 14:29:21.00 ID:UEq5mU.o
おつおつ。今年も良い年にならんことを
ちなみに元旦てのは初日の出の時間帯のことを言うんだってさ
451 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 02:56:58.62 ID:/Jc/rIk0
>>1最高!!

最後にはあんなクソゴミうんこ野郎の事なんか吹っ切って2人で幸せになって欲しいわ。


番外個体はあんなボケミジンコクソ虫なんかよりずっと前から一方通行に抱いていた気持ちがあった事をようやく気づき初めているんだよね・・・
452 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/06(木) 10:13:50.98 ID:X/R/9h20
ミサワは普段がアレなだけにちょっとデレるだけで破壊力パネェな
453 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/06(木) 12:17:52.75 ID:q05chTk0
番外個体かわいいよ番外個体
454 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 16:07:53.14 ID:Lj5UK120
ゴミ野郎はむぎのんに任せればいい
455 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 18:24:35.81 ID:Q2CJXww0
こんばんは、お久しぶりです
色んな事が取り敢えず一段落ついたので、今日の夜に投下します

ていうかどうもR15くらいの描写が入りそうなんだけど大丈夫でしょうか
特に何もなければそのままで行きたいと思います


>>450
そうなのかorz
ありがとう、勉強になったんだよ!

今年もよろしくです
456 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 18:27:08.14 ID:b.vda.co
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
457 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 18:30:30.55 ID:ZZlf32AO
さぁて全裸待機だな
458 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 18:55:23.58 ID:Lj5UK120
R-18でも構わんぞ
一向に構わんぞ
459 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 19:22:16.10 ID:auSCsYAO
待ってたぜー
460 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/07(金) 19:34:11.38 ID:mBvVwZoo
wkwktktk
461 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 20:42:36.84 ID:01umxEAO
センターまで後1週間だというのに…
そんなこと言われたら見るしかないじゃないですかぁぁぁぁぁぁ!
462 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 20:52:36.90 ID:NNufHGMo
>>461
センターまでたった一週間だろ
さあそのもしもしは押入れの奥に放り込んで勉強売るんだ
463 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 21:08:42.82 ID:LHCnPEAO
>>461
とっとと勉強売れよ
464 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 21:29:05.35 ID:Q2CJXww0
早速のレスありがとう!
これから投下するけど、期待はしないで欲しいかも
R15描写はさらーっと数レスで終わるし、暖かくしてお付き合いくだしあ
…なんだか何時にも増して浅い文になった感が否めないんだけど、ご容赦ください

>>461
あと一週間しかないんだからやることやりなさい!
そこまでして読んで貰ったってアンタが落ちちゃったら嬉しくなんかないんだからっ
465 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 21:31:32.27 ID:Q2CJXww0


「は、ぁ……っ、んぅ……、」


ベッドの上で、身体をよじらせて。
艶めかしい嬌声が、冷気漂う部屋に響く。



新年を迎え、正月モードから抜けきれていない学生は冬休みの課題終わってねーと慌てふためくめく。
そんな光景は一方通行と番外個体には全く関係がないのだが、果たしてそれは幸か不幸か。
元日深夜の記憶が抜け落ちるくらい日本酒を呷ったりなどと馬鹿なことをしたものの、彼らだって一応年齢的には学生なのに。


そんな二人の生活は年が明けても変わることが無く、昼間は家でだらだら、番外個体が夕方からバイト。
そんな風に非常に有意義な生活を送っています。と家に来た麦野に言ったら、『くっそつまらない人生』と高評価を頂いた。
ちなみに番外個体は数日前にオープンした、以前居た店の第5学区店で働いている。
新人には彼女が指導するとかで、不器用なくせに年上からも先輩と崇められているとか豪語していた。




「ひ、ぁあっ、ん、ふぅ」


微かな水音と、自分のものとは思えないような声。
それが嫌で堪らないのに、そう思えば思うほど、その音を、声を、聞けば聞くほど。
身体が更なる刺激を求めて疼く。欲求に逆うことができない。
聴覚が、触覚が、脳が。犯されて、薬物のようにどろどろに溶かされていく。


――思えば、今日は朝から、もっと正確にはその前日からおかしかったのかもしれない。
466 : ◆3vMMlAilaQ :2011/01/07(金) 21:36:32.57 ID:Q2CJXww0


昨夜はバイトが急遽休みになって、それなら丁度暇だったし、と麦野が家に遊びに来た。
彼女が買ってきたロールケーキを食べつつ、同じく彼女が持ってきたファッション雑誌を二人でめくっていたのだが。


「これさ、うちのアホ面が隠し持ってたのを拝借してきたんだけど。読んでみない?」


麦野が取り出したのは表紙からして『いかにも』な成人向け雑誌で。
妖しい笑みを浮かべる麦野に悪ノリして読んでみたそれは[ピーーー]で[ピーーー]な、ついでに[らめぇぇっ!]な内容だった。


ばっかじゃねぇの、と二人で笑ったその内容は夢にまで出てきて、朝起きてからもずっと、身体が火照るような、何か物足りないような。
そんなおかしな感覚にとらわれていた。


何が何だか分からなくて、番外個体の頭をよぎったのは病気という嫌な予感。
取り敢えず、横になりたい。
そう思うのだが、一方通行に心配を掛けるわけにもいかず。


「コーヒー買うついでに買い物行ってくるわ」


だから正直、一方通行がそう言ったときには安堵した。
玄関まで見送り、そのまままっすぐ自室へ入るとベッドに潜り込む。


――そして、


「は、ぁっ……、やっ、ん……」


自分しかいない家で、初めての感覚に身体を支配されている。


「こんな、つもりじゃ、ぁ、なかったのに――」


番外個体の悲痛な声は弱々しく漏れて、しかし何の効果ももたらさない。

そう、こんなことをするつもりではなかったのだ。
一度寝て、おかしくなってしまった身体が回復すればそれで良かったのに。

けれど、そんな自分の意思とは無関係に。
ベッドに身体をあずけた途端、昨夜の雑誌の内容が流れ込んできて。

気が付くと、ショーツの中――秘所へと、手が伸びていた。
467 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 21:38:52.07 ID:Q2CJXww0

「な、んでぇ……、あっ、ふぇ、やだ、ぁ」


陰核を指で弄るだけの、子供じみた自慰行為。
ただそれだけなのに、ぎこちない指の動きは番外個体をおかしくさせて。
ぐちょぐちょに、どろどろに、彼女を破壊していく。


性欲。


くだらないそれに人はとらわれていて、けれどクローンである自分には関係のないもの。馬鹿馬鹿しいもの。
番外個体にとっての認識はその程度で、よく口に出す下品な言葉も人を茶化すようなものでしかなかった。


けれど、今自分はその欲求に逆らえなくて、だらしなく快感に声をあげている。


番外個体にとって、その感覚はほぼ初めて感じるものだから、ということもあるかもしれない。
今までこんなことをしようとも思わなかったし、一方通行と身体を重ねたことはあるものの、
初めての痛みや酒に酔っていたこともあって正直よく覚えていないのだ。


『あの人とヤった』、『最初は痛かった』、『何となく気持ちよかった気がする』、そんな『事実』だけが曖昧なまま。


「ひゃ、あ、あ、」


番外個体の指の動きが次第に速さを増す。
ぬるぬると往復するぬめった指はいとも簡単に摩擦を生み、とろとろと更に彼女を辱める。

犯されているのに嬌声をあげる女。男の性器を口に咥えさせられている女。縛られて放置されている女。

昨日読んだ雑誌の内容が頭の中を犯していく。番外個体を掻き乱して、崩していく。


そして何故か、その男女が自分と一方通行に重なって――


「やだぁ、あぁっ、んっ、ぁ、ひゃっ、イッちゃ――」


一際大きく身体を痙攣させ、涙をぽろぽろと零しながら、片手でシーツをぎゅっと握りしめて。

困惑、罪悪感、嫌悪感、恐怖、快楽。

様々なものがざわついて、押し寄せてくるなか。

番外個体は、果てた。
468 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 21:43:54.56 ID:Q2CJXww0
――身体も頭も何もかもが重くて、沈み込むようなぼやけた感覚。


そのまま身体を委ねてしまおうか。
そう思って瞼を閉じたとき、がちゃりと。玄関の鍵が開く音が、やけに鮮明に聞こえてきた。


一方通行が帰ってきた。


鈍重な頭は、それでいてその事実を正確に伝達する。
どくどくと、番外個体の心臓が先程の行為とは違った意味で激しく脈打った。いやな緊張感。脱力した身体が強張る。

一方通行の足音は番外個体の部屋を通り過ぎ、リビングに彼女が居ないことに気付いたのか、再びこちらへと向かってきている。


「番外個体? 居ンのか?」

「ん、……ちょっと、寝てた」


一方通行がドアを隔てた直ぐそこに居る。わずか数メートルの距離に、先程まで脳内で自分を犯していたその人が。

未だテンポ良く脈打つ心臓と不快な緊張感のなか、出た声は本当に寝起きのような、気の抜けた声だった。
一方通行はそんな番外個体の言葉をそのまま鵜呑みにしたのか、二言三言、言葉を交わすと立ち去っていく。


「……タイミングが悪いんだっつの」


そんな彼に毒突きながら身体を起こそうとして、


「……力、全然入んなぁ……」


倦怠感が身体中にまとわりつき、起き上がることすらままならない。
喉も渇いたし、シャワーを浴びて気持ちの悪い汗や下着の中まで全部洗い流したいのに、脱力しきった身体は酷く重かった。

シーツの中に手を突っ込んでみると、熱を帯びたそこは案の定ぐちょぐちょに濡れている。
数分前はそれだけておかしくなって蕩けてしまいそうだったそれも、今では不快感しか生み出さない。


顔を歪めて、吐き捨てる。


「ありえねー……。何やってんだか、このミサカは」


後に残るのは、嫌悪感。
指先のぬめった感触に、ぞわりと鳥肌がたった。
469 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 21:45:05.51 ID:Q2CJXww0



「おゥ、シャワー浴びてきたのか」

「う、うん。二度寝したし、目覚まそうと思ってさ。……あ、おかえり」


バスタオルを頭から被ってリビングに入ってきた番外個体。
話し掛けられると頬を微かに赤らめ、目を逸らすその姿は一方通行の目には当然怪しく映るわけで。


「……どォした? オイ、顔赤ェし、もしかしてまた熱でもあるンじゃねェよなァ?」

「ひうっ!?」


立ち上がった一方通行の手がぴたりと額にあてられて、動揺からおかしな声が飛び出てしまう。
その挙げ句、思わずその手を払いのけてしまった。

あたふたと、言い訳のように番外個体が言葉を紡ぐ。


「あ、あー……ミサカ今、何ていうか、へん? だから、その、うん……ごめん」

「変だァ?」


思い切り訝しげな視線をぶつけてくる一方通行。
疑っているのがひしひしと伝わってくる。


「うん、へん。あははは、へんだぞー、みたいな」

「……、変、なのか。そォだな、変、だなァ?」

「でしょ? うひゃひゃ、へんだから、はは」

「そォですかァ。……でェ? なァにを誤魔化そうとしてるンですかァ番外個体さァン?」

「……ッ! ……え、何のことかなぁ? ミサカ全然分かんない」

「いや、一瞬すっげェ動揺してたよなァ今」

「うるさい、べべ別に何もないし。本気と書いてマジと読むんだけど」


結局一方通行の目は誤魔化しきれなかったようで、彼に掴まる前に番外個体は自室へと逃げ込んでいく。
後ろから一方通行の呆れたような溜息が聞こえてきた。

470 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 21:47:25.33 ID:Q2CJXww0

「……っ」


ばたんと勢いよく部屋のドアを閉めて、そのままずるずると座り込む。
心臓がばくばくと大きく鳴っていて、顔が熱い。
小さなテーブルの上に置かれた開きっぱなしの折りたたみの鏡に映った自分の顔は紅く染まっていて、
それが嫌で感情にまかせて鏡を投げつけてしまった。
壁にぶつかったそれは鈍い音を響かせて床に落ちる。
結構お気に入りだったのに、もしかすると罅が入ったかもしれない。


「くそばか」


一方通行を前にして、いつものように振る舞うことができなかった。
気持ち悪いくらいに意識してしまって、意味の分からないことを口走って、焦って。


身体を重ねただけで、手も繋いだこともないし、ましてやキスもしていない。大体それ以前に付き合ってもいない、単なる同棲相手なのだ。
端から見れば、お互いに性欲を解消しあう為だけの冷めた男女関係とでも揶揄されるかもしれない。
けれどそれは、恐らく一方通行が気遣ってくれているからこそ成り立つもので。


なのに、自分は、あろうことか。


「あー……オカズってやつだよねぇ、ぎゃは」


いくら一緒に暮らしていて、下らない話で盛り上がるような一番身近な異性が一方通行であったとしても、自分のしたことはあんまりだと番外個体は思う。


そこら辺のほとんどが一生に幾度とするであろうその行為。
しかし番外個体にとっては重大な事件の一つであるかのように、想定外のダメージをもたらした。
できればこんな事実を葬ってしまいたいのだが、それが簡単にできれば苦労しない。
カエル顔の医者にでも真剣に記憶の改竄をお願いしようかな、と半ば本気で思う。


「……エロ本なんかもう死んでも読んでやんねー」


ぺちぺちと、活を入れるように今も僅かに熱を持つ頬を叩いた。


まずは、あの人の顔をいつものように真っ直ぐ見れるように。
471 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 21:49:34.29 ID:Q2CJXww0


『一方通行、仕事です』


「……は、ァ? え?」


電話の向こうから告げられたその一言に、一方通行は思わず頓狂な声を出してしまった。
『黄泉川』と表示された携帯の画面を一度確認して、顔をしかめる。

……割り込まれた。


『聞こえませんでしたか? 仕事です。来週土曜の午前9時30分厳守で、』

「オマエ、何言ってンの? 土御門くンの携帯ならこの番号じゃありませンけど」

『こちらはあなたに用があるのですが、彼経由がご希望ですか?』


久しぶりに聞く、聞き慣れた電話の声が何時にもなく不愉快だ。
姿が見えない故の安心からか、いつもこちらの都合など気に掛けずに指示を飛ばしてくる、肉声か機械かも、女か男かも何も分からない声。


「そォいう問題じゃねェ。俺はオマエ等が大変な時に駆けつけるよォなヒーローでも何でもねェンだわ」

『ヒーローですか』


くつくつと喉の奥で小馬鹿にしたような含み笑いがうざったい。


「……殺されてェか」


本気でコイツの居場所や素性を割ってやろうかと声を低くする一方通行。
どこか海原と話しているような錯覚にとらわれて、顔をしかめた。
どうもこの手の人間は得意じゃないというか、虫唾が走る。


『そう向きにならないでいただきたいものです。早速仕事の内容ですが――……』

472 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 21:51:43.14 ID:Q2CJXww0


ぴりぴりとした、妙な緊張感を含む静寂。
胃が痛んで、おかしな動悸に襲われて、身体が震えて、ついでに口をぽかんと開けて間抜けヅラを無意識のうちに作り上げてしまう。

それ程までに、2分前に部屋に響いた一言は絶大な破壊力を秘めていた。


「……、そんなに固まるようなこと言ったつもりないんだけどなぁ。
 ていうか、うん。もう一回言うけど、ごはん作るから、今日はミサカが」

「…………、」

「ほらどいたどいた、すっげぇ邪魔だから。んーと、包丁は何処かにゃーん?」

「…………包丁は駄目だろォがァ!」

「ひっ!?」


誰かさんに買って貰ったリネンのエプロンを纏ってやる気いっぱい! 
そんな番外個体が危なっかしく包丁を持つと、やる気はいとも簡単に殺る気に変質しかねない。


番外個体が包丁を握るときは何かを壊すとき。


頭の中で勝手にそんなことを決めつけていた一方通行。不器用に定評のある番外個体に刃物を握らせるわけにはいかないのだ。
そんな彼女から包丁を奪い取る彼も彼で、包丁を勢いよく取り上げたせいで番外個体の脇腹すれすれを鋭利なそれが通過する。


「びやややあっぶねぇー! 殺す気かよ! あなたが持つと殺る気いっぱいに見えるんですけど!」

「それはこっちのセリフだっつの!」


つい数時間前までろくに一方通行の顔も見ずにバイトに行った番外個体。
何かしてしまったのかと実は結構一人で考えたのだが、あれはこの前兆だったのかもしれない。


『ごはん作る』から始まった、22時の騒動はお料理教室へと発展していく。
473 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 21:54:47.45 ID:Q2CJXww0

……番外個体はご立腹です。


「……ミサカだって飲食店でバイトしてるんだから料理くらいできるのに」

「はいはいそォですねェ。……って嘘つけ」

「でもさぁ、トマトくらい切らせてくれても良くない? なんか草ちぎっただけな気がするんだけど」

「あと鶏肉焼いたじゃねェか」

「……フライパンの上に乗せただけ」


俗に言う『ぶーたれてみる』と表現するにぴったりな顔でサラダを盛りつける番外個体。
番外個体曰く、草らしい。……間違ってはいないのだが、その草にも一応ベビーリーフという名前がある。
隣では一方通行が美味しそうな音と臭いを漂わせる肉の焼き加減を見たりひっくり返したりしていて、
番外個体から投げかけられる羨望4、今日のご飯への期待6の視線には気付きそうにない。

そういえば少し冷静になって時間を挟んでみると、一方通行とも平常心で接することができている。
昼間の行為を思い出すと相変わらず身悶えしたくなるのだが、


「――うぇー……あーあーあー」

「どォした……っと、そろそろ良いか。皿出して準備しとけ」


したくなる、というよりした。
ぶんぶんと頭を振って、


「お、オマエ何やってンのォ!?」


思い切り蛇口をひねって、勢いよく流れ出す冷水に頭を突っ込んだ。


「もうミサカは修行してこの身を清めるしかあばばばば」


襟元から背中へと水が入ったのか、ぽたぽた水滴を垂らしながら番外個体が身体を起こしてじたばたと暴れる。
ずぶ濡れになった猫宜しくぶるりと身体を震わせるという一連の奇行をやってのけて、
正直そんな番外個体から得体の知れない恐怖を感じた、というのは一方通行の本音である。

474 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 21:59:27.43 ID:Q2CJXww0


「昼過ぎには帰ってきて飯も作るつもりだけどよ、どォしても腹減ったらさっきも言ったけど冷凍の……、ってこりゃ何言っても駄目だな」

「ん、おーるおっけー。ラザニアはレンジで19分ってやつでしょ」

「……、5分30秒だ。一応メモっといたのリビングにあっから、っつっても分っかンねェか。まず何かあったら電話しろ」


理解できているのかできていないのか、恐らく後者であろう気の抜けた返事をする番外個体はもちろん寝起きで。
パジャマ姿のまま、『仕事』のために朝から家を出る一方通行を送るために玄関までやってきていた。
眠そうに目をごしごし擦るその姿を見て、起こさない方が良かっただろうかと今更思うも、書き置きだけだと後が怖いし。
首に巻いた番外個体産のマフラーを巻き直しつつ、


「ンじゃァ、寒くねェよォにしとけよ。あと蜜柑は2つまでだからな」

「らじゃ。行ってらっしゃーい」


気の抜けた声と共に背中を押された。
案外力強かったその勢いに負けて、開いていた玄関のドアの外へと半ば強制的に追い出される。

……いくら開けっ放しが寒いからってあンまりじゃねェの? という一方通行の心があげる悲鳴は届くこともなく、
番外個体は再びぬくぬくと眠りにつくことだろう。それこそ猫みたいに。



1月の第2土曜日、午前9時。
普段なら当たり前に寝ている時間だ。
なのに滅多に使わない大音量目覚ましで無理矢理目を覚まして、その轟音故か朝から隣に壁を叩かれまくった。
お隣さんには迷惑を掛けてばかりで申し訳ないと思う反面、時々そっちだって夜中に帰ってきて一人熱唱しだしたりなど中々うるさいと言ってやりたい。

で、どうして自堕落生活において早朝扱いされるこんな時間から町を歩いているかというと。


『一方通行、仕事です』


きっかけは、そんなクソ忌々しい一言だった。

475 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 22:02:18.78 ID:Q2CJXww0


『――というわけで、来週土曜の午前9時30分厳守でお願いします』

「いやちょっと待てさっぱり意味が分かンねェ」

『これ以上伝達すべきことはありませんよ、場所もそれほど遠くありませんし』

「そォいう問題じゃねェンだよ! 中学で講演会してくれだァ? ンなモン他のヤツらが居るじゃねェか」

『……?』

「きょとンとしてるよォな雰囲気醸しても可愛くねェンだよクソが」

『べ、別にアンタのためにこういうことしてるわけじゃ、』

「…………、」


握りしめた携帯を折るかと思った。
ていうか電話の声ってこんなキャラだったか、声が肉声じゃないだけで向こうにいるヤツは全く別の誰かなんじゃないかと本気で思う。
何より気色悪い。死ねる。


『では、そういうことでよろしくお願いしますよ。柵川中学に9時30分です。第一位の講演会を子供達が楽しみに待っていますから』

「だから意味が分かンねェ」

『「明るみの五月計画」、とでも命じましょうか。
 あなたの演算パターンはこれから伸びる中学生の参考にもなるでしょうし、真っ当なボランティア活動です』

「ハッ、裏があるとしか思えねェなァ」

『素質がある生徒がいましてね。中々珍しい能力です。っと、お喋りが過ぎました。それでは一方通行、くれぐれも時間厳守で』


476 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 22:04:24.30 ID:Q2CJXww0


胸糞悪い電話を思い返しつつ、公立中学校で講演会をするためにしっかりきっちり9時30分にやってきた。
なんでも、体育館で45分から開演だそうで、未来輝くガキ共の為にボイコットもできない一方通行である。


応接室に通されて、人の良さそうな教頭と打ち合わせも兼ねて少し話をする。


「いやー、第一位に会えるなんて子供達も喜びますよ。今日はよろしくお願いします」

「どォもォ。つーか調べた限りじゃどォも底辺っぽい感じがするが、ここはレベルの低いヤツを集めてンのかァ?」

「」


教頭先生、絶句。
無遠慮な一方通行はそんな彼の様子にも気付かずに、


「常盤台みてェに在学条件がレベル3以上とかあると思うンだが、そこら辺はどォなってる? ……オイ聞いてンのか」

「…………はっ! え、えーと、そうですね、うちは生徒がのびのびと、」

「ンなモンどォでも良いンだよ、レベル0から4までそれぞれどンくらい居る?」

「レベル0が3割、レベル1が4割でレベル2が3割くらいです。レベル3は数人しか」


はぁ、と一方通行が溜息をつくと、教頭はびくりと身体を強張らせる。
すみませんすみませんと悪くもないのに心の中で謝りまくった。
一方通行はというと顔をしかめていて、


(何が『明るみの五月計画』だっつの、面白くも何ともねェンだよクソが。
 つーか低すぎだろこの中学、内容も合わせて少し変えた方が良いよなァ。……めんどくせェ)


非常に失礼なことを考えている。
数日掛けて話す内容をまとめてはいたものの、聞く限りの学力だと理解できないかもしれない。


「帰っちゃダメなンすかねェ」

「そ、それはちょっと……」

477 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 22:09:36.31 ID:Q2CJXww0


「えェと今日は俺の演算パターンを教えっからそれをいかに応用するかっつーのが、」

「やっぱり第一位さんだったんですかぁ!?」


拍手で迎え入れられた一方通行を遮ったのは、飴玉を転がすような甘ったるい声だった。
静かだった体育館がざわざわとどよめく。
声をした方を見ると、一年生がお行儀良く座る中、その声の主だけは立ち上がって驚愕の表情を浮かべていた。

黒いショートヘアの小柄な少女。
頭に載せた花の髪飾りが特徴的で、同じような頭がずらーっと並んでいる中では少し異様だ。

そんな彼女の周りから笑いが漏れる。
やがてそれは全校に広がっていって、立っていた少女はステージの上からでも分かるくらい顔を真っ赤にして座った。
周りの生徒から頭や背中を撫でられながら声を掛けられているところを見ると、可愛がられているのかもしれない。

そして、一方通行にはその奇抜な少女に見覚えがあった。
数字にコンプレックスを抱いていた学園都市の第二位に足蹴にされて、それでも小さなアホ毛の少女を守ろうとした風紀委員。
そういえばその第二位、噂では工場のように『未元物質』を吐き出すだけの塊になっているとかいないとか。


(あの時の花畑か……めんどくさそォなヤツだな)


スルースルー、と講演会を再開。
何となくあの少女は苦手というか、多分自分とは違う種類の人間なのだと思う。
若干空気の和んだ体育館で、講演会は滞りなく進んでいく。

478 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 22:15:47.76 ID:Q2CJXww0
「第一位さん!」


講演会を終えて学校を出ようとしたとき、あの甘ったるい声に呼び止められた。番外個体に連絡しておこうと開きかけた携帯を閉じる。


「ちょ、っと、ちょっと待って、くださいぃ」


ぜえぜえと息を切らす少女は、数メートル後ろから膝に手をついてこちらを見上げていた。
一方通行が立ち止まって後ろを振り返ったのをみると、よたよたと駆けてくる。
厄介なのに掴まった、と一方通行は密かに舌打ちするも、少女は気付かないようでふにゃりとした笑みを浮かべていた。


「あの、あの、私、初春飾利って、言います、ふはぁ、よいしょっと」


低い気温の中、初春と名乗った少女の顔は上気していて、暑そうにぱたぱたと制服の襟元で風を送り込んでいる。一方通行の前まで来ると、重そうに鞄を持ち直した。


「えへ、ごめんなさい。みっともないってよく言われるんですけど、佐天さんみたいにスカートバサバサやるよりはマシですよね」

「……何か用か」

「えーっと、以前チンピラみたいな人から助けて貰ったんですけど……、あれってあなたですよね?」

「……、知らねェなァ」


白々しくとぼける一方通行。
あからさまに苛立った雰囲気もついでに醸し出されていて、しかし初春は怯むことを知らないかのように。


「いーえ、絶対そうですよー。あの時は、本当に有り難う御座いました!」


深々と、頭を下げた。


「あの時は、私何にも出来なくて、怖くて……。あ、あの、今日の講演会もすっごくためになりました!」

「……あっそォ」

「あ、否定しないって事はやっぱりあの時の人ですかぁ」

「うるせェよクソガキが。つーか学校は?」

「午前中で終わりです。うちのクラスは帰りの学活が短いんで、終わってすぐ飛び出してきちゃいました」


えへへ、と笑う初春に、そこまでして礼が言いたかったのだろうかと一方通行は半ば呆れる。
479 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 22:19:02.38 ID:Q2CJXww0


「あ、待ってくださーい!」

「あァ? まだ何かあるンかよ」


終始気の抜けたような笑顔で警戒することをまるで知らない初春は、再び歩き出した一方通行を追いかけてきた。
うんざりした表情で振り返ってやると、捨てられた子犬みたいな顔をする。


「あのぉ、迷惑だと思うんですけど、もっとお話が聞きたくて……。今日の講演会は興味あることばっかりで、」

「……めんどくせェ」

「う。私、低能力者なんです。でも中々珍しい能力らしいんですよ。
 使い方次第では役立つみたいで、レベルが上がればの話なんですけど……あの、先生のお世辞、かもしれないんですけど、うぅ」

「もっとはっきり話してくれねェと意味が分かンねェ」


裏を返せば、話は聞いてやる。
溜息と一緒にはき出されたそんな言葉を耳にして、初春の顔が綻んだ。
おどおどとしていた態度が一変して、声に活気が戻る。


「それで、少しでもレベルを上げるためにはどうしたら良いか、とか、もう少し詳しく知りたくて。
 私の親友は、その……能力、使えなくて、自信なくしちゃってるその子にも教えてあげたいんです」


思いやりとか、親友とか。
そういったものは一方通行には殆ど分からないが、それでも後ろを歩く少女の思いは伝わってくる。
だからこういうガキは苦手だ、と顔をしかめながら、しかし立ち止まって、


「まァ話は大体理解できた。でもこれからどっか寄ってオマエに話聞かせてやる時間もねェし、
 あーめんどくせェな、なンなら家に来るか?」

「良いんですかぁ!? 行きます! あ、じゃあついでにプログラミングについても教えて下さい! 今日少し触れたやつ!」


即答。
テンション一気に右上がりで、嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねている。
やっぱり今から突き返すか、と少し思った。
480 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 22:23:18.66 ID:Q2CJXww0

「お邪魔しまぁす……、第一位の家! って感じはしませんねぇ」

「なら帰るかァ? つーか帰れ」

「あ、すみません別に悪気はないんですよー! ほら、学舎の園とかっていかにも『お嬢様』なのでここも『第一位』! なのかなぁと」


単にお嬢様とかレベル5とかに憧れているだけっぽい初春は、一方通行の後ろきょろきょろしながら付いていく。
と、リビングのドアを開けかけた一方通行が後ろを振り向いて、


「あー。アレだ、同居人居るけど気にすンな」

「同居人さんですかぁ?」

「ン、今寝てるみてェだけど」


一方通行に続いてリビングに入ると、確かに同居人らしい、こたつに入ってぐでーっと突っ伏している茶髪さんが目に入った。
何故か既視感を感じる。顔は反対側を向いているものの、あの後頭部にはやはり見覚えがあった。

食べかけなのか、4分の1ほどになった蜜柑と別の蜜柑の皮がこたつの上に転がっている。


「適当に座っとけ、今飯作るからよ」

「あ、はい。失礼しまぁす」


初春の脳裏をよぎるのは、とある電撃使い。
こたつで気持ちよさそうな寝息をたてる彼女と同じようなヘアスタイルの、頼れる先輩だ。


「でも、そんなわけないですよね……」


声に出して否定する。
その頼れる常盤台のお嬢様が第一位と同居しているなんて聞いたこともないし、大体常盤台は全寮制だ。
しかし、好奇心旺盛な初春としてはどうしても気になって、顔を――


「んあーあっつう」

「ひぃえぇえ!?」


少し覗いてみようとしたら、寝ていた茶髪さんが顔を上げてうーんと伸びを。
タイミングが良いのか悪いのか、危うく頭と頭をぶつけそうになった。
481 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 22:25:29.17 ID:Q2CJXww0

「あ、すみませんすみませ、……って、御坂さん……? じゃない、えぇ?」

「んー、別に気にしてない……って、はぁあ? 誰? え、はぁ?」

「あ、初春っていいます、お邪魔してます」

「初春さん? こっちはミサ、……って違うっつのぉおお! ちょっとうちの主夫は何処行った!? 不法侵入かコラ!?」

「え、主婦ですか? 何のこと、あ、でも不法侵入じゃないですよ! 第一位さんならそこに、」

「ちょっとぉおおおおお! なになになんなのこれ!? なんか花畑が居るんですけど!」


あわあわとする初春を差し措いて、いつもの数倍早く頭の中まで覚醒した番外個体が対面式のキッチンにいる一方通行に詰め寄る。
文にすると感嘆符乱用だけど実際はヒソヒソ小声です、という器用な事をやってみせた。
ホールトマトやチーズをどばーっと入れたリゾットを作っていた一方通行はそんな彼女とは対照的に冷静で、


「オマエなァ、こたつで寝るなって何回も言ってる、」

「はぁ!? そんなのどうでも良いの、あのガキ誰!? もしかしてミサカにしか見えないの!?」

「あァ、何か今日講習会終わったあと付いてきたンだよ。めンどくせェけど教えて欲しいことあるらしいし」


そう教えてやると、番外個体から思い切り冷たい視線を浴びせられた。


「へぇ、やっぱりあなたってロリコンとかそっちの人だったの? 気持ち悪ーい」

「オマエ何言ってンだっつの、ただの中学生じゃねェか」

「アレはどう見てもつい最近までランドセルしょってたね! あーもうマジありえない」

482 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 22:31:25.61 ID:Q2CJXww0

番外個体は何やら相当苛立っているようで、露骨に嫌そうな顔をしている。
頭をわしゃわしゃと掻きつつ一方通行と後ろの方できょとんとしている初春を見比べて、


「……ミサカご飯いらないから。外で食べるし」


むっすー、という言葉がよく似合う表情を作り出すために思い切り顔を歪めた。


「何ですかァいきなり。苛々してどォしたンだよ、しかもオマエの好きなチーズ入りなのによォ。もしかして生理、」

「うっさい! ……リゾットは夜食べるから残しておいてよ。今日バイト休みだから」

「あァ? ちょっと待て、つーかバイト休みなのか、」

「初春さん! この人ロリコンだからすっげぇ気をつけた方が良いんじゃないかなぁ」


ぴしゃりとはね除けるように一方通行の言葉を遮って、番外個体が初春に忠告する。
ただしその声は親切からくる優しいものでなく、皮肉めいた刺々しい声だ。

二人の間の不穏な空気と自分に向けられる敵意らしきものを感じ取ったのか、初春はあうあうと困っている。
一方通行は何が何だか分からないというか、戸惑った様な表情を浮かべていて、番外個体はそれが無性に苛立つ。
だから乱暴にコートを掴み取って、行く充てもないのに冷たい冬の街へと飛び出した。



「あのぅ、追いかけなくて良いんですか?」


番外個体が出て行った部屋で、怖ず怖ずと初春に聞かれた。


「彼女さんなんか怒ってましたし……」

「……彼女とか、そォいうンじゃねェンだよ、アイツ」


追いかけて良いのであれば、追いかける。
しかし番外個体はそれを望むのかが分からなくて、その疑問は自分の中で妙なブレーキとなった。


「ちくしょう、クソッたれが……」
483 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/07(金) 22:36:44.48 ID:Q2CJXww0
今日は以上です、この先も投下する予定で書いてたんだけど長くなっちゃうので一区切り
R15に関しては変な期待をさせちゃってたらごめん。でもまだ濃くとかそういう段階じゃないのだよ

今日も稚拙な自分にお付き合い頂き、ありがとうございました
読んでくれたみんなには本当に感謝なんだよ!
3連休のうちにもう一回来るんだよ! 
寒いから身体に気をつけてくだしあ。おやすみー
484 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 22:55:05.50 ID:bY0z/.AO
おつ

いきなり喘ぎ声だったから焦ったwwwww
485 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 23:01:30.09 ID:u4iza3k0


あの電話はなんなんだよww
486 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 23:05:11.75 ID:eVQRBUDO
乙!

やれやれ後一週間で人生二度目のセンター試験が始まるってのに……続きが気になって勉強に手が付かないじゃないですか
487 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 00:07:25.66 ID:4ArZJa.o


>>486
二度ある事は三度あると言ってだな
488 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 00:43:35.14 ID:ksLtA.AO
俺は人生初のセンターを華々しく飾るわ
つーわけで、皆と>>1の忠告通りもしもしとは暫くお別れだよ!
>>1乙であった!
489 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 00:48:44.50 ID:M4zzpGso
12時間勉強してからのスレをリロードする瞬間はたまりません。
490 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 01:01:36.51 ID:4QaxwlIo
馬鹿野郎!
このSSをリアルタイムで読むには今しかないんだぞ!
センターなんか毎年あるだろ!
どっちが大切かなんてわかってるはずだ!
始めようぜ!浪人!

>>1
俺のるいこはまだかね
491 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 19:27:10.18 ID:T9KqOkAO
shitミサワさんかわいいよかわいいよshitミサワさん
492 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 00:39:03.90 ID:wILlekY80
正月だからってお餅焼くミサワ可愛いよミサワ
493 : [saga]:2011/01/10(月) 01:30:15.73 ID:dpbVRjUy0
こんばんはー、レス有り難う。すごく励みになります
センターの人達意外と多いんだね、大変だろうけど頑張ってくだしあ

今書いてる分はもう少しで終わりそうなので、また後で来ます。取り敢えず寝るー

>>490
LUIKOさんは出るのかなぁ……初春だけでも無理矢理感が否めない気がするしwww


>>466ちょっと訂正。日本語拙くてごめんね
>昨夜はバイトが急遽休みになって――、『急遽』よりは、急にとか突然、いきなりの方が適切かなぁと

脳内補完よろしくです
バクマンの声優陣豪華だよねってことでおやすみー
494 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 22:45:49.92 ID:EP09QV20o
wwktk待機
495 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/10(月) 23:44:12.46 ID:YRTDuV/h0
間に合わねぇええええええ
もう少しで終わるとか言っときながら終わらなかったorz もう少しかかりそう
待機してくれていた方、本当にごめんです。明日の夜遅くならないうちに来ます
ぐずでごめんなさいごめんなさい……
496 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:00:02.40 ID:R0IJ1bzC0
>>495
明日でいいからがんばってくれ
大丈夫。そんな>>1を、私は応援してる
497 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 01:02:09.47 ID:2zT5wQAbo
私 まーつーわ
498 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:13:32.77 ID:a8FA/90so
いつまでもまーつーや
499 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 12:37:23.66 ID:ZOFUkZMAO
たとえ牛丼390円でもー
500 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 14:17:15.08 ID:OB5ai2ah0
まーつやまつーや
お隣はすーきーや
501 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 16:23:28.62 ID:1khvbyA40
たとえなか卯ーが値下げしてくれなくーてーもー
502 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 20:38:58.56 ID:tgBG9EVDO
おまえらwwwwww
503 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/11(火) 23:41:22.98 ID:Pz6QQEtj0
こんばんはー、遅くなったけど投下する
前回の投下に一気にいこうとして多くなりそうで挫折したものなんで、そんなに多くないはず
ミサワさんが出て行っちゃったあとからでふ

牛丼値下げきたね!
504 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/11(火) 23:45:14.90 ID:Pz6QQEtj0

銀色の引き締まった美しいボディライン。力強い眼。しかし内に秘めた桜色の身は軟らかくほぐれて――


「はぁ……シャケってもはや美学に値するわ……」


とあるデパ地下の食材売り場に横たわるまるごと一本の鮭を見て感嘆の息をつく女は、言うまでもなく学園都市第四位、麦野沈利だった。
そんな彼女の元に鮮魚コーナーのおっちゃんが寄ってきて、嬉嬉と語り出す。
対する麦野も打ち解けて、話が分かりそうなおっちゃんに薄い笑みを返した。鮭の魅力が分かる人に悪人はいないのだ。多分。


「おうおう姉ちゃん、見る目があるねぇ」

「ありがと、シャケに関しては学園都市第一位を名乗れる自信があるわ。……このシャケ、凄く美しいのね」

「今朝揚がってきたんだ、綺麗だろ」

「アートよ……。溜息が出るわ。ねぇ、これって食べきるのにどのくらい掛かるかしら? 一人暮らしじゃキツい?」

「一人暮らしだと腐らせちまうかもしれねえなぁ。冷凍すればなんとかなるかもしんねえが、新鮮なうちが華だ」


分かってはいたものの、それでもがっくりと肩を落とす麦野。
一日3食を鮭にすることは容易だが、それでも食べきるのに時間は掛かる。
おっちゃんの言うように冷凍保存は利くが、それで鮮度を落としてしまうより、
数日以内で食べきれるような家庭に連れて帰られる方が鮭も幸せだろう。

人思いならぬ鮭思いな麦野はすぐ隣に並ぶパックを吟味して、


「……そうね、じゃあこっちの切り身で我慢するわ」


後ろ髪を引かれる思いで大きな鮭と決別する。
一人暮らしをする今の自分に無理でも、いつか家庭を持ったとき。子供を産んで――


(子供は女の子と男の子、一人ずつ欲しいわね。浜面似……ってダメダメ、アイツには滝壺が居るじゃない。
 家族であのシャケを美味しくいただく為に朝は無難に焼きジャケ、昼はムニエルも良いな、夜は石狩鍋ってとこかしら)


まだ見ぬ未来によからぬ目論見を企てる。
真摯に自分を見つめてきた鮭の表情が頭から離れなくて悩ましい。

切ない気持ちを切り替えようと贔屓にしている惣菜屋を覗こうとしたとき、鞄の中で着信を告げるメロディーが鳴った。
一瞬『仕事』の二文字が頭に浮かぶも、画面に表示された名前を見ると険しい表情が一転して柔らかいものとなる。


「ミサカ? どうしたの?」
505 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/11(火) 23:46:16.70 ID:Pz6QQEtj0

「えっと、ミサカお腹空いてるからなぁ。ケーキ食べよっかな」

「んーと私は……あ、この期間限定シャケソテー美味しそう」


昼下がりのとあるファミレス。
ちらほらと学生も目立つそこの窓際の席に、番外個体と麦野は向き合って座っていた。
店員にそれぞれ注文して、ドリンクバーから持ってきたココアをちびちび飲みながら、


「で、どしたの? さっき電話くれたとき声も震えてたし泣いてるかと思ったけど」

「にゃはは、泣いてないよ。つーか外寒いんだもん、ガクブルだよ」

「なら良いんだけどさ。付き合ってあげてんだから、ご飯食べてはい解散じゃ済まさないわよ? ちゃんと話してくれないと。
 まぁミサカが怒ったり泣いたりってのは一緒に暮らしてる第一位関連のことだと思うけど、まさか嫌なことされたんじゃないでしょうね」


妙に鋭い麦野がそう言うと、番外個体は苦笑する。
正直、自分でもあの時どうしてあそこまで苛立っていたのかよく分からない。思い出すと馬鹿みたいで、反吐がでる。

――そして同時に、寒風が身体の芯まで吹き付ける様な、どこか物寂しい焦燥感。


「……んー、なんだろ。麦のんに会いたくなっちゃってさぁ」

「ぎゃは、じゃあこれからホテルでも行っちゃうかにゃーん?」

「麦のんのお手並み拝見だねぇ、ひゃひゃ」


ひときしり下品でろくでもないことで笑ったあと、麦野が今までの傍若無人な態度を一変させて優しく問いかけてくる。
柔らかく、けれども確かに番外個体を解きほぐしていく様に。


「どうした、ミサカ。言ってみなさい。この麦のんに何でも吐いちゃいなよ」

「……、……花畑が居た」


麦のんも、いつもこんな風に綺麗で包容力のあるお姉さんだったら良いのに勿体ないなぁ、などと考えつつ、番外個体が小さいで答えた。
直後頭の中にへらーっとした空気を纏う花畑少女が浮かび、くるくる回りだす。……やはりどこか癪に障る。
506 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/11(火) 23:50:07.37 ID:Pz6QQEtj0

「起きたらさぁ、頭がお花畑な女が居たんだよね。あのクソ第一位がミサカが寝てる間に連れ込んだらしくて」

「花畑ぇ?」


麦野が疑念の声をあげるも、比喩でも嫌みでも何でもなく、本当に花畑なのだから他に言い様がない。


「中学生なりたてのメスガキ。ほら、あの人って元からロリコン気質があるからさぁ。もう頭も名前も春がきてるって感じ」

「へぇ、新しいタイプね、花畑。で、ミサカはそれにキレたっと……、ん? あっれー?」


と、麦野がわざとらしく「あれーおっかしーなー」などと言ってにやけだした。
人の悪い笑みは彼女の顔を歪めて、しかしそれでいて良く似合っているのはどうかと思う。
にしても、こうなってしまった麦野は酒に酔った親戚の叔父の様にタチが悪く、


「もしかしてミサカちゃんはぁ、嫉妬してるのかにゃーん?」


番外個体を弄ぶように、意地悪く。
彼女の反応を伺う麦野は元々嗜虐的なこともあり楽しそうだ。
しかし番外個体の返した答えは、麦野も、口に出した本人すらも予想外のもので。


「……そうだよ。ミサカ、嫉妬してるんだ」


何を言ってるんだろう、と馬鹿馬鹿しくなって、けれど堰を切るように言葉が溢れてくる。
伏せて視界の狭くなった目の端に、目を丸くした麦野が一瞬映った。


「だってさ、ミサカはあの人のことを知ってて、あの人もミサカのこと分かってくれて、それだけで良いじゃん。
 なのにどうして? 何で今更部外者が首突っ込んで、ほんっとムカつく。あの人も花畑もこのミサカもばっかじゃねぇの」


平然と初春を家に招き入れた一方通行も、
どこかふわふわとしたような初春飾利も、
そしてそんな二人を見て無性に苛立った自分も。

最近は遠ざかっていた真っ黒な負の感情が番外個体の中で渦巻いて、不安定なカタチを作って身体の内側から溢れてくる。


生ぬるい、酷く不快な液体が頬を伝って、ぽたりと零れ落ちた。

507 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/11(火) 23:54:52.31 ID:Pz6QQEtj0

「ミサカ……? ご、ごめん、嫌だったよね? 無理しなくて良いから、ね? どうしよどうしよ、えっと、移動する?」


急に泣き出した番外個体に、麦野が態度を一変させてあわあわと動揺してた仕草を見せる。
いつもの頼れるお姉さん麦のんは何処へやら、彼女をよく知っている者であれば思わず笑みを漏らしてしまいそうな変貌っぷりだ。


「おまたせいたしました。季節の野菜と鮭のソテーと……、」


丁度料理を運んできた店員が不思議そうな顔をして、それでもマニュアル通りに業務をこなしていった。
常套句のイントネーションからも困惑の色が見受けられた店員の後ろ姿を愛想笑いで見送りつつ、
えぐえぐと泣いている番外個体に取り敢えず何か飲み物でも、と麦野が腰を上げかけたとき、


「…………う」

「え? あ、ホットミルクが良いかな、えっと、」

「……どうしよう、あの人が、取られちゃう……」


賑やかなBGM、楽しそうな学生の声、騒がしい喧騒の中。
か細くて小さな、消え入りそうな声で番外個体の本心が露見した。


番外個体にとって好きになれそうもない、寧ろ嫌いな、血液を原料とするらしい液体は呼吸を狂わせながら彼女の頬を濡らしていく。
ぱたぱたとファミレスの堅いテーブルの上に雫が落ちて、形を崩す。


そんな彼女を見た麦野の表情が、戸惑いから優しいものに変わった。
目を細めて、まるで母親の様な顔つきのまま、ぐずる番外個体を宥めようと彼女の隣に移動する。


「……ミサカ、泣かなくても大丈夫だから」


麦野がハンカチを取り出して、番外個体の頬を優しく拭っていく。
頭をぽんぽんと撫でてやると、嗚咽を堪えるように苦しそうな呼吸が漏れた。


「第一位も花畑もそんなんじゃないって。それに第一位が誰よりもミサカのこと考えてくれてるの、分かるでしょう?」


こくこくと首を縦に振る番外個体。
508 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/11(火) 23:58:55.57 ID:Pz6QQEtj0

そう、分かっている。

いつも番外個体のことを優先してくれて、些細なことでも気に掛けてくれて、下手くそなマフラーを使ってくれて。
悪態をついてばかりで家事も碌にできなくて、そんな番外個体と一緒に寝てくれるし、そんな番外個体の為に怒ってくれる。

だからこそ、一方通行が見ず知らずな他の誰かと仲良くなって、自分のことを忘れてしまわないかと不安で堪らない。


一方通行を失うのが、怖かった。


自己中心的な考えだと言われれば、否定することなどできない。
一方通行とその大切な人を殺そうとしたのは紛れもなくこの『番外個体』だし、
少し前まで好きな人ができた、などと騒いでいたくせして彼が他人と居ると馬鹿馬鹿しい嫉妬に支配される。
どこまでも利己的で都合の良いバカ女だと自分でも思う。


何より一方通行の善意は『妹達』に対する贖罪の為だということも承知しているつもりで、だから決して自惚れてはいけないのだ。


けれど、それでも。
その優しさに、偽りかも、上辺だけかもしれないそれに触れて、少しでもこの劣悪な自分が変わることができたかもしれないから。


一方通行が“取られて”しまったらと考えると。
尚更、不安で、怖くて、苦しくて、どうして良いか分からなくなる。



「ミサカはさ。第一位のこと、どう思ってるの? 好き?」

「……どうなんだろ、分かんない」



麦野からの問いかけへの答えは正直な気持ちだった。
本当に分からなくて、それがもどかしい。好きだけれど、それは麦野の言う好きとは一致しない気がした。
顔をごしごしと拭ると、涙が通った道筋がベタベタしていて気持ち悪い。
不快なベタつきに顔をしかめながら、片手ですっかり冷めてしまったココアを口元に運ぶ。

甘ったるいものの、それでいて酷く落ち着かせてくれた。
509 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:00:07.02 ID:lMTN03X50

「麦のんはさっき好きなのって言ったけどさ、好きって、なんだろうねぇ」

「落ち着いたと思ったらいきなり哲学? ……ん、シャケ美味しい」

「ごめんね、ミサカのせいで冷めちゃってるでしょ?」

「大丈夫、ていうかミサカ……、前のお店の人好きだったでしょ?」


麦野が言葉を選びながら確認してくる。
どうも番外個体の周りでは、彼女が告白した例の人関連の話題を避けたがる傾向があるようだ。
無理に気を使って貰わなくても全然構わないのに、嗜虐的な性格をしたレベル5達はおかしな所で優しくなる。


「……よく分かんなくなっちゃってさぁ。憧れだったって言われればそんな気もするし、でも好きだったって言われれば……。
 ぎゃは、このミサカって都合良すぎだよねぇ、ほんっとウザい」

「そんなことないと思うけど。まぁミサカはこれからでしょうし、色々と。……ふふっ、花畑に嫉妬なんて可愛いじゃなーい」

「うるさいなぁ、……ミサカは多分、独占欲が強いんだと思う。でも、このままじゃ駄目、なんだよね」


最後には、麦野に言うのではなく。自分自身に聞かせるように、ぽつりと。


「……こんな自分勝手な考えじゃ、駄目なんだ」
510 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:01:56.02 ID:lMTN03X50

一方通行は番外個体に惹かれていて、
番外個体は一方通行を必要としている。


互いに想い合い、求め合い。
一見仲の良い恋人同士やその一歩手前の様に見えるそれは、しかしどこか歪で、
少し覗き込んでみると、小さな小さなすれ違いや履き違いが見えてくる。


「……難しいわね」


冷たくなった両手を擦り合わせながら、麦野は一人帰路に就いていた。
吐く息が白く、まだ5時過ぎだというのに空は暗い。
ここ数日は天気が良く、このまま春を迎えることになるだろうか、などと思っていたが、その予想は見事に外れた。
ファミレスを出た頃には重たそうな雪の結晶が空から落ちてきていて、この調子だと直ぐに積もりそうだ。


コツコツとブーツを鳴らして家路を急ぐ。
数分前に別れたばかりの番外個体が気掛かりだ。

謝る、と言っていた。
一方通行にも、初春飾利にも。


(……ったく、あのクソ第一位のヤツは何考えてんだか。
 ミサカのこと好きとか恥ずかしいこと言っときながら女連れ込むなんてバカじゃねぇの? 肝心な所で鈍感よねぇ)


基本的に鈍感な一方通行に呆れつつ、携帯を開くとそんな彼から幾度も着信が入っていた。


(はっ、馬鹿みたいに電話しやがって。んー、気付いてたけど途中からマナーモードにしてたからにゃーん)


熱心に自分にかけてくるくらいなら番外個体にかけてやれば良いのに、と思うも、
そういえば麦野に電話した直後に充電が切れたとか言っていたと思い出す。


(出てやっても良かったけど、あんまり私が出しゃばってもよくないだろうし、ね)


ぱたんと携帯を閉じて、歩くペースを少し速める。
番外個体の様に自分の帰りを待つ人もいない、それでいて無駄に広くて冷たいマンションの一室。
そんな寂しい家でも、そこが麦野の帰る場所なのだ。
511 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:05:54.30 ID:lMTN03X50

雪は好きだけれど、寒いのは苦手だ。

湿り気を帯びた重たそうなぼたん雪が舞い降りる中、番外個体は改めて自分が寒さに弱いことを実感していた。
普段はマフラーと最近買った手袋で完全防寒しているものの、今日は飛び出してきたせいでコートを着ているだけだ。
それに加え、玄関でブーツを履いている様な時間もなかったから足下も寒い。


(ロシアで着てたのを引っ張り出してこようかなぁ)


服装やメイクに力を入れる麦野から怒られそうな白い戦闘用のスーツを思い浮かべる。
女としてはどうかと思うが、内部に好きなだけ詰め物もできるし暖かいし、意外と便利な代物だ。

コートの襟を立ててビル風を防ぎながら夕方の薄暗い空を見上げると、落ちてくる雪に吸い込まれてしまいそうな、不思議な感覚にとらわれた。
天気が良いとは言い難い曇天に、気持ちまでもつられて沈み込みそうになる。


(気持ち、なんて。……このミサカにあるかは甚だ疑問なんだけどね、けけっ)


麦野と別れる際、『一緒に乗り込んであげようか』と心強くもあり恐ろしくもある提案を持ちかけられたものの、お断りしていた。
あの花畑と麦野が対峙した場合麦野が何をしでかすか分からないというのもあるが、彼女に頼りっぱなしというのは甘えだと虚勢を張ったのだ。
ちなみに花畑と麦野のツーショットを、それはそれで見たい気がすると思ってしまうのは番外個体が好奇心旺盛だから、ということにしておく。


「寒う……」


風が頬を撫でていく。
冷たいというよりは鋭いそれに、耳や頬がじんじんと痛んだ。
こたつが酷く恋しくなって、けれど今、自分の居場所は残っているか、あの花畑がぬくぬくとしているのだろうか、などと考えるとやるせなさに襲われた。

爪先が冷たいのも手伝って、足取りが重く感じる。まるで家に帰るのを拒むかの様だった。
そしてどことなく不安定な少女は雪が降りしきる中、遂に、のろのろと歩くことさえ止めてしまう。



――追いかけてなんてこないことも探しに来てくれないことも明白で
――それを望む権利すら自分に無いことも、嫌というほど承知していた



なのに。どうして。



「――どうして、あなたが居るの」


驚きや戸惑いを隠せない視線の先には、雪の如く真っ白な、学園都市の第一位。
512 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:08:46.33 ID:lMTN03X50


「ミサカ……ワー、スト、」


走って走って走って、途中から雪が降ってきて一層気温も下がって、でも走って。走って。
『走る』、といっても杖をついていることもあり、随分と無様な姿を晒しながら。
能力に頼り切って生きてきた線の細い少年の肩は遠目にも分かるくらい大きく上下していて、首に巻かれた黒いマフラーが白によく映える。


距離にして、およそ70メートル。
暗闇の中で、泥沼の中で。もがき続けてきた二人の視線が確かに交わる。


真っ白な超能力者は途切れ途切れに大切な人の名前を紡ぐ。
しかし、勿論のこと冷たい風に弄ばれて流された。


――ならば。
声を張って、叫べばいい。
今度こそ、しっかりと届くように。



「ミサカワーストォオオオオオ!」

513 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:12:15.22 ID:lMTN03X50


辺りにいた人々がぎょっとして叫ぶ一方通行を見た。
名前とは言い難いような、どちらかと言えば識別の為のコードや記号に近いような単語。
そんな名前でも、嫌いなこの名前でも。


じわり、と番外個体の瞳に涙が満ちた。
ただしそれは頬を伝わずにゆるゆると眼球を沈め、視界を濁らせる。


憎悪でも苦しみでも悲しみでもなく、安堵、喜悦、安らぎ。
居心地が良くてくすぐったいようなそんな感情が、番外個体を包み込んだ。


「……なんで、そう馬鹿みたいなこと、するのかなぁ」


周りで訝しげな顔をする通りすがりを見て、呆れたように呟いた。
けれどそんな言葉とは裏腹に、自然と頬が緩んで、声が上擦って。
カツカツといつもより早足で寄ってくる男の元へと、気付いたときには駆けだしていた。


雪が溶けかけてシャーベット状になったぬかるみに足をとられた。
防水加工も何も施されていないスニーカーの中まで浸水して、コートの裾にも濁った水が飛び跳ねる。


それでも、減速しない。
自分を呼んでくれた。それだけで、あの人の元へと走る理由になる。


あと、数メートル。
瞳に貯まっていた涙が風に晒されて、ひやりとした刺激を生み出した。


「一方通行ァッ!」


もう、手は届く。

514 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:17:29.05 ID:lMTN03X50

抱きつくというよりは飛びつくという方が適切だ。

駆けてくる番外個体を見て心臓を鳴らしていたのも束の間、一方通行は鈍重な痛みを感じながら強くそう思う。

こちとら杖をつかなければ歩行もままならないというのに、番外個体はタックルをかますかの如く『飛び込んで』きた。
勢いそのままにその行為に及ぶ番外個体を受け止めつつ、ぐらりと身体が後ろの方に倒れかけて、杖を持つ腕に力を込める。

ガリガリとアスファルトと杖の先が擦れあう音がして、杖を持つ細い腕が悲鳴をあげた。


あ、これヤベェ……死ぬ……


このまま後ろにぶっ倒れて後頭部強打、なんて痛そうな恐るべき未来が一方通行の頭をよぎる。

しかし、大切な人を探して学園都市を駆けた男は強くなっていた。
ぬかるみで滑って転けて、生意気そうなガキに笑われた。麦野なら平気でマナーモードとか嘘をつきそうだが、着信拒否にもあった。
精神的苦痛とも言えるそんな試練を乗り越えて、“あくまで精神的に”、少しだけ。


「クソッたれがァ……コイツも碌に支えられねェで、何が学園都市最強だってンだよォ……ッ!」


ぎりぎりと歯を食いしばり、現代的なデザインの杖に更に力を込める。
空いた片手はしっかりと番外個体の背中に回して、やっと見つけた彼女を逃がさないように。

倒れかけた身体を起こし、体勢を立て直す。


おーっ! と、周りがどよめいた。
端からは感動的な再会を果たしたカップルとでも勘違いされているのか、近くにいた女学生二人組からパチパチと拍手が広がっていく
仕舞いにはあんな恋愛してみたいよね、などと理想の恋愛像を語りだす始末だ。


「なンのくだらねェドラマ撮影だっつの、ボケ」


こつん、と飛び込んできた番外個体の頭を小突いた。

515 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:18:40.25 ID:lMTN03X50

ヒロインこと番外個体は、暫くの間ぐずぐずと彼の肩あたりに顔を埋めていた。

泣いているのか、怒っているのか、笑っているのか。
顔は見えないが、上着を着ていない一方通行の薄いシャツを介して左肩の辺りにじんわりと湿り気が伝わってきたことで、彼女が今どんな表情をしているかは分かった。

泣き顔をうずめて、声を殺しているに違いない。


「……オイ番外個体、人の服に涎染みこませてンじゃねェぞ」


割と泣き虫なくせして、泣き顔を見られることを嫌う番外個体に茶化す様にそう言ってやる。
一応気を遣ってみたつもりなのだが、反応無し。これでは只の寒い人だ。ていうか上着を着ていないだけあって寒い。


「ごめんなさ、い」

「あァ? ……どォした」


とんとんと番外個体の背中を軽く叩きつつ、一方通行は彼女の漏らす声を聞き逃さないように気を配る。
と、冷たい風に吹き晒されて、番外個体の身体が震えているのに気が付いた。
以前の様に風邪をひかないだろうかと心配になって、大丈夫かと聞く。微妙な感じに首を縦に動かしたのが伝わってきた。


「……っと、どォすっかな……」


さて、どうしたものかと考える。
番外個体は最初と同じくまたぐずぐずいってるし、正直、先程の謝罪の意味も何のことかよく分からなかった。
寧ろこちらから謝った方が良いのかと考えていたので面食らったというか。

……何よりも、公衆の面前で抱き合う公害男女への視線が若干痛いものへとなってきている。
516 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:21:09.96 ID:lMTN03X50

「……あーっと、……寒ィなァ」


何をして良いか分からなくて取り敢えず同意を求めてみるも、首を横に振ってNOのサイン。あ、そォですか……と食い下がる。
陽が暮れると共に気温も下がり、つーか番外個体の身体だって震えてるのにと思う。


「みさ、」

「初春さんと、の、邪魔してごめんね。ミサカ、勝手に、」

「あァ? ……ういはる、……って、あのガキか」


溶けたような鼻声で声を震わせる番外個体。
一方通行の肩のあたりが本格的にじわじわ濡れてきて、けれどその理由が分からずに戸惑う。


「初春さんがいるっていうのは分かる、けど、ミサカのとこから、いなくならないで。忘れないでよ。
 ……あなたをよく知ってるのは、このミサカだよ。ねぇ、『妹達』に贖罪するんでしょう?
 だったら最期まで完遂してよ。偽りでも良いから、ミサカのことも見てよ」


無理矢理に搾り出すような声。
背後に回された番外個体の爪がぎちぎちと、逃がさないとでもいうかの如く骨張った背中に食い込んできた。
家から上着も着ずに出てきたことが仇となって、薄いシャツの上から痛みを生み出す。

そして、それとは別の部分までもがずきずきと痛みを訴えてくる。


贖罪、?

違う、違う、全然違う



ロシアで凱旋を果たし。同棲を始め。一緒に食事をし、買い物をし、
寒い夜は二人でベッドに入り、寂然とした夜は互いを埋め合う為の虚しくなるようなセックスに溺れた。
クリスマスという似合わないイベントも二人で過ごして、プレゼントを渡し渡され。


それが、全て、贖罪行為だと。
まるで死刑宣告でも受けたかの様に、一方通行の身体が凍りついた。
517 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:23:04.15 ID:lMTN03X50


番外個体が好きだ。家族として、知人として、友人として、――女として。
けれど、その好意や善意に基づいて『らしくない』ことをしたって、結局は贖罪行為としかみなされず、偽善としか受け取って貰えないのか。

番外個体が好きだから。

それだけでは、一方通行が番外個体を想い行動する理由には足らないのか。彼女と一緒に居ても良い理由にはならないのか。


――ならばいっそのこと、自分に似合わぬ感情などかなぐり捨てて。蹴り飛ばして。押し込めて。
ただひたすらに『贖罪』行為を繰り返せば、それだけに留めてしまえば。きっと、楽になる。苦しみも消え失せる。

もう良いじゃないかと、一方通行の中で諦めの声が木霊した。
所詮自分は何の罪もない少女を何百何千何万と殺してきた殺人者で、生き残りの少女に対する筋違いな思いやりを施す偽善者で、

だったらもう――


「……巫山戯ンな」


けれど、一方通行の出した答えは、



「……贖罪だァ? 勘違いするンじゃねェぞ」
518 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:24:33.61 ID:lMTN03X50


「え、」


番外個体から気の抜けた、間抜けな声が漏れた。
彼女の指先が相変わらずぎちぎちと食い込んで痛い。


「違ェよ、贖罪でも同情でもねェってことがどォして分かンねェ」


だから、それに負けないように強く強く番外個体を抱きしめる。
互いに互いを縛り合い、縫い止め合い。


「だ、って。だって、ミサカ何にもできないし、じゃあどうして、」

「オマエが、必要、なンだよ。一緒に居たいからに決まってンじゃねェか」


とんだ喜劇だと、一方通行の中の妙に冷静な部分が冷ややかに突っ込んでくる。何処の爽やかボーイだ。
言った傍から頭を掻きむしりたくなる様な感覚に襲われる、プロポーズにでも使われそうな臭いセリフに、しかし番外個体は嬉しそうに


「オマエが、ひつよう……いっしょにいたい……」


えへえへとリピート。
わざとこっちの羞恥心を煽っていやがんのかコラと言いたい衝動に駆られるも、一方通行はクールにポーカーフェースを決め込む。
、というのは彼の中だけでの認識で、実のところ真っ白な顔を珍しく赤くしているのだが。


「ほんとに、そう思ってる?」

「当たり前だろォが」

「……そっか。ミサカもだよ」
519 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:26:25.10 ID:lMTN03X50


互いに互いを『必要』としている。
けれどきっと、両者の思い描く『必要』とは、互いに食い違ったもので。

それが分かっていても、一方通行は番外個体を離さない。


「そォだよなァ、俺が居ねェと碌に飯も食えねェもンなァ」


彼の『必要』が意味することを、番外個体は知らなくても良い。
何も知らないからこそ、気付かないからこそ、今のままで現状を保ち、
そして彼女がそこに自分を『必要』としてくれるのであれば、それで良い。それだけで良い。


「……うん。でも、できるように頑張る」


鼻声で抱負を語る少女を救うのは、一方通行が言った一言で十分だった。それでもお釣りが来るくらいだった。
自分と一緒に居てくれることが彼の本意だと気付かされて、同情や罪悪感からの使命的な贖罪行為でなかったことが何よりの救いとなって、嬉しかった。


「ほら、そろそろ本格的に寒ィから家のこたつであったまンねェと。風邪ひかれたらこっちが困るンだよ」

「……あなたこそ、下手くそなマフラー巻くよりコート着てくれば良かったのに」


なかなか適切な返しは見事にスルーされる。
それでも、自然と笑みが零れた。

520 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:29:43.95 ID:lMTN03X50

降りしきる雪は暫くやみそうにない。
暗くなった町並みを照らす電灯が落ちてくる結晶を輝かせていて、なんだか幻想的だ。
その中を並んで歩く一方通行と番外個体は、彼らを知らない人でも恋人同士と言われればすんなりと受け入れられそうだ。


「初春さんはどうしたのかにゃーん?」


泣きやんで、それでも鼻声の番外個体が穏やかな声で一方通行に尋ねた。
そこには躊躇いも、怒りも、怯えも、一切無く。
一方通行が番外個体に言ってくれたことは彼女を酷く安堵させ、その顔をあどけなく演出するのにも一役買っていた。
安心しきった番外個体はまるで子供みたいで、妙に庇護心をくすぐってくる。


「オマエが出てった後直ぐ帰した」

「オウ、それは随分とまた……。そんなことしなくたってミサカはガキじゃないのにさぁ。過保護だよねぇ、親御さん」


強がってみたら一方通行に鼻で嗤われて、それが少し悔しい番外個体。
でもやっぱり嬉しくて、にやにやと笑ってしまう。


「あーあ、どっかの泣き虫は街ン中探してもなかなか見つからねェしよォ」

「ちょっと、泣き虫って誰かなぁ? ていうか麦のんに電話しようとか考えなかったの?」

「あー……アレだ、マナーモードだァ」


着信拒否されました、とは第一位のプライドが邪魔して言えなかった。
なンか気持ち悪いからと一時着信拒否にしていた海原光貴にごめンなさいしないといけない。
今更道徳的なことを学んだ気になっている一方通行。やはり人間は、幼いうちにしっかりと団体生活を体験すべきです。


「……でも、ごめんね。折角にゃんにゃんできそうだったのに、ミサカが邪魔しちゃってさ。初春さんにも悪いことしたなぁ」

「あのなァ、オマエがどンな勘違いしてるか知ンねェけどよ、あのガキはマジでただの生徒さンですゥ。
 ……にゃンにゃン?」

「うん。にゃんにゃん」

「にゃンにゃン」


最近の言葉はよく分っかンねェなァとか、それとも番外個体は猫好きらしいから造語でもしたのだろうかなどと考えつつ何となく繰り返す。
にしてもこの悪人面でにゃんにゃん言われると少し怖い。

聞き慣れない言葉に一方通行は首を傾げつつ、けれど『にゅうにゃあ』だの『んでんで』
だの言っている番外個体は、そのまァアレだ、可愛いから良しとする。
521 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:31:45.96 ID:lMTN03X50

Viewpoint of MISAKA_Worst(think back)


苦しかった

分からなかった

何処かが痛んだ

泣きたくなった

でも、嬉しかった

最近で一番寒かった

なのにあの人はあったかかった

やっぱり落ち着く良い匂いがした


此処に居たいって思った

此処に居ても良いんだって、思えた



あと、どきどきした

522 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 00:38:27.41 ID:Q7L4QFawo
今日は終わりなのかな?
更新押しすぎてコメントするひまがなかったぜ・・・
523 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/12(水) 00:42:42.23 ID:lMTN03X50
今日は以上です。読んでくれた方、どうもありがとう
稚拙でダメダメだこんにゃろーとかそこら辺は見逃してくれると嬉しいんだよ……もっと頑張りまふ

取り敢えず何かあったらばっしばっし言ってくだしあ
それとミサワさんはもっとツンツンな方が良いのだろうか。最近甘えてきて困っちゃう

それではおやすみー。寒いから暖かくしましょうねっと
524 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 00:46:01.23 ID:Utix2DgQ0
甘酸っぱすぎて歯が溶けるかと思ったぞ
どうしてくれんだよGJすぎるぞ
525 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 00:50:33.24 ID:KyiVneLDO
コメント()
526 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 01:06:41.74 ID:fGxRegKDO
ツンモードとデレモードの割合がまさに黄金比と言える
最高だと思うぜ>>1
527 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 01:14:46.69 ID:Seu3U0jHo
ふう  乙
528 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 01:47:10.65 ID:65cPpJ0jo
こっから、こっからなのか!
こっからなのか!!
こっからもっと砂糖なのか!?

おつ
529 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 02:00:25.44 ID:aBj3dplIO
あぁ、もう最高だわ。おやすみ
530 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 13:12:36.28 ID:kHCeVel90
んでんでんでwwwwww
531 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 16:59:05.24 ID:/AIG6neIO
にゃーんでwwww
532 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 20:06:40.11 ID:qeAgISgHo
かまってかまってほしいのwwwwwwwwwwww
533 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 20:15:59.31 ID:kHCeVel90
イイ子じゃない時のミサカwwwwwwww
534 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 21:25:02.11 ID:EOG4Pvq80
初めてSS読んでキョドったわww
とられちゃう、のあたりでどうしようどうしようって本気でパニクった
何が言いたいかというと期待を遥かに超えて最高だった
535 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 02:44:00.13 ID:bdcFEfRB0
やっと追いついた・・・
gjすぐる
536 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:48:29.91 ID:L2uWDCjWo
まさかの引っ越し騒動
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

537 :以下、名無しにかわりましてVIPサービスがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 20:14:06.70 ID:So8wRGlK0
>>1です

取り敢えず引っ越しの依頼だしてきます
移転後も覗いてやってくれると嬉しいんだよ!
それでは後日改めてー
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

538 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 20:34:17.01 ID:aWPWDaVbo
おー
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

539 :真真真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 22:25:14.08 ID:YKrwqn6zo
おお、移転してる
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 03:29:14.55 ID:Ppby7ZgHo
ふう
無事辿り着いた
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:58:41.59 ID:IEDwMZbD0
ブックマークでエラーでてビビったww
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 02:17:01.79 ID:fg2wg6kco
wwktkwwktk
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 22:33:04.67 ID:ZGJn8KEd0
にゃンにゃン
打ち止め「ぷっww」
一方さん「(カチッ)」
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/20(木) 03:51:19.49 ID:kFXTKc0o0
>>1
更新がんばって
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 04:56:55.30 ID:xnumlCcuo
今日テストなのにここまで一気に読んでしまった・・・
このスレが面白すぎるのが悪い(キリッ
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 18:50:37.57 ID:ZNjKZERf0
wktkwktk
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 21:24:50.68 ID:ng93W6kG0
>>546
そんな言い訳なんて幻想ぶち壊してやんよ(キリッ
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 22:30:24.19 ID:fUnL+MG8o
始めようぜ!浪人!
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 23:03:03.78 ID:kFXTKc0o0
>>548
ふじこ
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 09:39:30.49 ID:eyzVsqgDO
(キリッ って煽るために使うもんじゃないの?
最近自分のレスに付けて叩かれないための免罪符みたいに使う奴がいるけど
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 09:55:37.89 ID:j//5uLmAO
キリッ ってかっこいい顔してるときの擬音だからこれって使い方はなくね?
ギコ先生のAAはいつでも使えるだろ?それと一緒だ
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 10:09:26.40 ID:r025vktDO
かっこいい顔の擬音とかwwwwwwwwwwwwそれはないわwwwwww

ギコ先生のAAはいつでも使えるだろ?それと一緒だ(キリッ






こうじゃないんですか?
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 13:01:29.63 ID:WdH2ZTOto
パターン1:決め台詞に使う
パターン2:決め台詞を言ったヤツを煽る(嘲笑する)ために使う
パターン3:>>551が言ってた感じ

台詞なしで(キリッとかされてもウザさが良い感じにでて有りな気がする
まあ使い方は色々あるなぁ
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 15:49:11.42 ID:VOd91vAAO
実際は決まってもないしうまい事も言ってないのに
あたかも決まったように見せるために
(キリッってつける、要は自虐ネタだと思ってたんだが違うのか
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 16:11:00.56 ID:hGjAe+SQo
ちょっと伸びてるから>>1が来たのかと思ったのにお前らにはがっかりだよ
これはどや顔で偉そうに語ってるような文に使うもんだろ分からねぇのかそんなことも(キリッ

まあ >>551免罪符みたいに使う奴いるけど(キリリッ
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 16:30:24.55 ID:wgQ76SqJo
変な流れにしちゃってごめんなさい
558 :1 ◆3vMMlAilaQ [sage]:2011/01/21(金) 17:01:33.44 ID:t405Q4S+0
なんだか今週忙しいので、もう少しお待ちくだしあ
取り敢えずそれだけ報告って事でごめんなさいなんだよ

あと沢山のレスありがとう、楽しく読んでる
近いうちに来るから、その時はお付き合い下さい
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 21:20:29.79 ID:/FxjGDyF0
楽しみに待ってるよ
最近は欠陥電気の続きが来たり超修行が再開したりここの番外個体デレたりで幸せだわ
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:23:03.60 ID:ebnrLFgAO
無茶しなくても、>>1のペースでいいんだぜ
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 00:20:49.29 ID:Jf80eiKAO
>>599欠陥電気?
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 00:22:52.68 ID:iIMgc3PY0
(キリッ(キリリッ(サラニキリッ
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 00:49:41.23 ID:zveSy4DAO
>>562
イラッ☆
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 01:01:08.18 ID:Yg5QpUHIO
>>559
超修行再開kwsk
スレタイ変わってる?
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 01:07:50.55 ID:RD5A7lJfo
>>564 再開はしたが移転してない
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 01:54:27.43 ID:1Lq+VBTj0
>>561
総合の前スレで一回来た
>>559
同じくkwsk
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 06:03:43.16 ID:+pZP4rLAO
やっと追いついた
番外個体がかわいすぎて生きるのが辛い
568 :559 [sage]:2011/01/24(月) 17:21:29.43 ID:W5gT7Lnf0
スレチだったなと思いつつ言うが欠陥電気は前スレ総合に一回続きが来てたはず
超修行は一回更新したけどまだ移転してない
……この内容で良いんだよな?

にしても>>1まだかな〜番外個体がどう変わるかわくわくしすぎて発光しそうな勢いだよ俺は
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 17:07:32.56 ID:Rtk7FEM+0
>わくわくしすぎて発光しそうな勢いだよ俺は

見たい
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 19:12:21.64 ID:wQpE6FjR0
こんばんは、お久しぶりんぐ

前回投下から2週間経ってしまったorz
待っていてくれた皆様、本当にすぺしゃるさんくす
今夜中に投下できそうなので、あまり期待せずに待っていて貰えれば嬉しいかも

571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 19:19:24.64 ID:wSwPx7Cco
ひゃっはー
待ち遠しいぜ
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 19:23:29.49 ID:w3MUJzwAO
キタ―――――
全裸待機
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 23:00:15.25 ID:DDYJ4bu3o
コテついてないが・・・本物かな
574 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/25(火) 23:18:46.15 ID:wQpE6FjR0
酉つけてsagaにしたつもりだったのにな……
前回から時間が空いたのでなんとなく流れの確認とテストも兼ねて

色々誤解したミサワさんが一方さんと和解してみたいなそんな感じで前回終わったと思います
その次の日からーってことでこれから投下ー
内容・量共に薄いものですがお付き合いくだしあ
575 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/25(火) 23:20:59.17 ID:wQpE6FjR0


22時20分。この時間帯は、とある夜行性二人暮らしが活発になる。
……はずだったのだが。
白いのは、只今絶賛寝かされ中である。


「だァからァ、別に熱があるわけじゃねェンだよ!」

「んーん、ほら寝て寝て。……今お粥持ってくるからね、絶対食べてよ」


低い声で『お粥』という不穏なワードを残していった番外個体に戦慄しつつ、どォしてこォなった、
と一方通行は無理矢理ベッドに寝かしつけられるという醜態に至った理由を思い返す。


『あー喉痛ェし風邪ひいたかもしンねェ』


といっても思い当たる節はこれしかなく。
少し喉が痛い程度のことを何の気無しに番外個体に漏らしたら、半ば強制的にベッドイン! させられた。
やはり昨日、番外個体を探して薄着で雪の中を走り回ったのが良くなかったのだと思う。
しかしたかが喉の痛み、最新の科学技術を誇る学園都市では1日なくたって市販の薬で十分に完治が期待できるのだ。些か大袈裟な対応といえる。


「肉食いてェ……」


暖房がよく効いて、というか少し暑いくらいに感じる部屋で呟く。

彼ら二人の夕食は遅い。
夜10時すぎ、時には11時を回った頃にいただきますをすることもあり、それはに番外個体のバイトが大きく関係している。
簡潔に言うと彼女が帰ってきてから夕食を作るから、ということなのだが、
一方通行がその時間までまともな食事をとらないでだらだらしていられるのは以前からの不規則生活の賜といえる。

しかし実際は番外個体への色々な思いがそれをさせている、というのが一番大きかったりして、
けれどそれを自覚して受け入れられるほど第一位は素直ではない。


そんなこんなで今日も元気にバイトから帰ってきた番外個体さんにうっかり口を滑らしてしまい、
本日のメインディッシュになるはずだった肉にありつけないまま空腹と闘っているのだ。
576 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/25(火) 23:22:51.34 ID:wQpE6FjR0

細身なくせして肉好きな一方通行は、のそのそと起き上がる。
暑いのに加え、大したこともないのにこうして寝ているというのはどうも落ち着かない。


しかも番外個体がお粥を作れるわけがない! これは大変だ!


ということで脳内で警報もなり響き、いそいそと部屋を出ようとしたところで、


「あっれー? 何処に行く気かにゃーん? ……逃げるとか無しだよ、ひゃひゃ」


運悪く両手で鍋を抱えた番外個体と鉢合わせた。
凶悪な顔でそれでいて楽しそうに笑い、そんな彼女に行く手を阻まれる。


「逃げるって……オマエは何をしてェンだよ……」

「いやぁ、ミサカが前風邪ひいたときに食べたお粥の味が忘れられなくてさぁ。うん、あれには衝撃を受けたよ、けけけっ!」

「アレはマジで病人のことを思って薄くしたンだっつのォ! つーか結局完食したじゃねェか!」

「はいはい、ご近所迷惑でちゅよーん? ママが作ったレトルトお粥、おいちーでちゅからねー」

「ちっくしょォおおおお!」


よいしょとベッドの脇に置かれたガラステーブルに鍋を置いた番外個体にベッドに押し戻される。
ガキ扱いが非常に気にくわないし、大体レトルトなんて作ったうちに入るのか。
577 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/25(火) 23:24:49.92 ID:wQpE6FjR0

「ぎゃっは、病人さんなっさけないねぇ」


白い湯気をあげるお粥をよそいつつ、ベッドに入って上半身を起こす一方通行を番外個体が薄ら笑いを浮かべて見てくる。
寂しいくらい真っ白なお粥(多分)が見え隠れして一方通行の不安感を煽った。味、するのかな……
そんな一方通行の気も知らず、番外個体はというと、


「おかわりもあるからね。……おいしょ」

「は? え、ちょ、オマ、……ハァア!?」


ベッドの上に登ってきた。
布団の下に伸ばされた一方通行の足に跨るようにして座ると、


「はい、あーん」


れんげで掬ったお粥を口元へと。
事態を把握できずに口をぱくぱくさせて間抜け面する一方通行を見て、準備OKの合図だとでも勘違いしたのか、


「うあっちィ!? ちょォ、っつゥ!」


ぐりぐりと突っ込まれた。
熱い。クソ熱い。でもって味がしない。熱い。


「なンなンですかァオイィ!? あっちィンだよつーか自分で食えるっつの!」

「ぎゃは、鯉みたいにお口ぱくぱくしてたからさぁ、焦っちゃったにゃーん。ていうか泣くなよぅ。
 ミサカだって別にあなたが憎くて熱いの食べさせたわけじゃないんだって」

「泣いてねェし! つーかマジで味、」

「美味しくない? ……風邪、ミサカのこと探してくれたせいだろうし、そのお詫びのつもりで作ったんだけど。
 美味しくなかったかなぁ。あっつくて味見できなかったからなぁ」


反発しつつも目尻に涙を浮かべる学園都市の第一位は、しかしそれでいてミサカと名の付くものに弱いのだ。
クリスマス前夜に彼が作ったお粥の復讐を受けるかと心構えていて、実際食べさせられてキタコレヤバイと思っていたのだが、
それは番外個体の不器用さのせいだったりとかお詫びのつもりだったりとか知ってしまうと、突っぱねることなど余計出来るはずがない。

578 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/25(火) 23:27:26.98 ID:wQpE6FjR0

何となく味はする。
美味しいとはお世辞にも言い難い感じだが、


「不味くは、ねェ……かも。ほら、食うからそれ寄こせ」

「あ、ダメダメ! 病人は大人しくしてなきゃさぁ」

「だってそれクッソあっちィじゃねェかよォ」


ごもっともでございます。
的確に指摘されて言葉を詰まらせる番外個体。
昨日の自分勝手な行動で一方通行が大変なこと(番外個体vision)になってしまったというのに、結局何の力にもなれない。
自分の無力さにいい加減うんざりしつつ、一方通行にお碗とれんげを渡そうとして、


「……あ」


閃いた。

先程まで『あの人の力に……』とか考えてたくせに、第一位ちょっと困らせてやろうぜ的な悪戯心が芽生える。
陶器(だから尚更熱くなる)をぎゅっと握り直して、


「……すいませェン。一体何をしやがってンですかァ?」


一方通行を敬語にさせた。
目を丸くして呆けているところを見ると、相当驚いているようだ。
番外個体はそんな彼が伸ばした足の上に乗っかったまま、上目遣いでその間抜け面をにやにやと悪い顔をして、


「何って冷ましてあげてるんだけど」


ふーふーと。

そういや黄泉川が打ち止めにやってるの見たことあるなァとか、何処の過保護ババァだよとか。
そんなことを考えるも、口には出ない。ていうか出せない。


「ひゃひゃひゃ! 何だぁそのツラァ!?」


一方通行の困った顔を見れて満足なのか、何だか凄く楽しそうな番外個体。
ここ最近は様々な感情を表現力豊かに表していているようで非常に宜しいと思っていたものの、それでも本質は変わっていないらしい。


「いやだけど本質以前にオマエのキャラじゃねェだろソレふーふーって」

「はぁ? 何言ってんの?」
579 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/25(火) 23:29:27.41 ID:wQpE6FjR0

「はい、今度はちゃんと冷ましたから……あーん」


ずいっとれんげが差し出される。

一方通行の心臓が不快なくらいばくばくと鳴って、ちくしょうと心中で毒づいた。
こんなことで馬鹿みたいに胸を鳴らしている自分が嫌で、それでも嬉しさとかそんなものが勝ってしまうのだ。

そして、一方通行は逆らわない。逆らえないのではなく、逆らわない。
嫌悪に驚喜が勝ろうとも、逆らわずに、そこにそのまま身を預けてしまう。


クソッたれ。何処まで堕ちりゃァ気が済む。少しは抗え。散々ガキ共ぶっ殺してきておいてこンなンじゃ、テメェは本当にクソ野郎だ。


内側で罵っても、矛盾を覆すことなど出来なかった。


「ちょ、照れないでよ。顔赤いって。……ミサカまで恥ずかしくなるじゃんか」

「うっせェよ、照れてねェし」


顔が赤いと指摘されて、羞恥とそんな自分への嫌悪を誤魔化すように言い返した。
そんな一方通行の反応を見た番外個体まで自分の行為が如何に恥ずかしいものか自覚したのか微かに頬を紅くしだす。
何とも言えない微妙な空気になってしまって、


「……、行くよ?」

「ン、ばっちこい」


一方通行は横に目を逸らし、番外個体は顔を俯かせる。
少し場違いな気がしなくもない合図を取り合って、


「……あっつく、ない?」

「お、おゥ。丁度良いわ」
580 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/25(火) 23:31:25.82 ID:wQpE6FjR0

暖房の稼働音、時折響く、かちゃかちゃと食器が触れあう音と微かな息遣い。

会話は、ない。

ただ黙黙と食わせ食わされの男女の絵は、それだけみれば少し異様な雰囲気かもしれない。
しかし、互いに頬を紅く染めて、正面――相手の顔を見れないでいる姿は初々しくて、どこか微笑ましいものでもあった。
学園都市の闇そのものと言っても過言ではないような二人でも、『表』の世界で暮らしていれば年頃の高校生であることに違いはないのだ。


「あ、そうだ。タオルとか、いるかな? 身体、拭くでしょ? ミサカが持ってくる」


ふーふーしてあーんなどという、恥ずかしながらも世の男が憧れる様なことをやってのけた番外個体の顔は酷く紅い。
一方通行を少しからかってやるのが目的だったのに、もしかすると、
少しの照れでも簡単に分かってしまう真っ白な彼よりも羞恥の色をはっきりと表しているかもしれない。
そしてそれを誤魔化すように、彼女の方から沈黙を破った。



――こいつは、俺という男に対してもこんな表情をするのか。


一旦器を小脇に置き、俯いたままシーツを弄る番外個体をぼんやりと眺める一方通行。
さらさらとした細い茶髪の間に見え隠れする耳まで赤くして、自爆とでも言うのだろうか、自分からやり出したくせに滑稽だ。
今何を考えているのだろうか。それが妙に、気になった。


「……ン、じゃァ頼むわ」


大人しく番外個体の提案を受け入れる。
どうせシャワーを浴びると言おうが自分で取りに行くと言おうが、
たかが風邪の初期症状を大事の様に捉えている番外個体はそれをさせないだろう。


「うん。ちょっと待ってて」


立ち上がった番外個体は、お粥の入った、未だに湯気を上げる保温効果抜群の鍋を持ち上げると碌にこちらも見ずに部屋を出て行ってしまう。
それを見届けて、一方通行は小さく息をついた。
学園都市第一位と言えど、緊張するときだってある。自分の想う女が相手であれば尚更だ。

番外個体がドアを開けたことで廊下から流れ込んできた冷気が程よく室温と混じり合い、そんな空気の中でベッドに横になった。
暖かな温度、良い子は寝ている時間帯、食後、緊張から脱した安堵。
様々な条件が重なったことで眠気が誘発される。


――気付くと、睡魔に逆らえずにうとうとと微睡んでいた。
決して悪い気持ちなどではなく、寧ろ心地の良い、そんな気分の中で眠りに落ちていく。


そして、そんな日こそ。そんな日に限って。
581 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/25(火) 23:33:17.51 ID:wQpE6FjR0




……――し




………――と……ろし




ひと……し




ひとごろし

ヒトゴロシ




人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺しヒとゴロシ人殺し人殺し人殺し人殺し
人殺し人殺し人殺し人殺し人殺しひとごろし人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し
人殺し人殺し殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し
ヒトゴロシ人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し
人殺し人殺しひとゴろ死人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し
人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺しヒトゴロシ人殺し人殺し人殺し人殺し




人殺し



582 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/25(火) 23:36:00.13 ID:wQpE6FjR0


妹達。超電磁砲。打ち止め。黄泉川愛穂。芳川桔梗。麦野沈利。冥土帰し。上条当麻。土御門元春。
得体の知れない電話の声。初春飾利。海原光貴。結標淡希。白井黒子。修道服の少女。浜面仕上。滝壺理后。

声、声、声、今まで関わってきた人間の、声。
ヒトゴロシ、と、尤もな言葉で自分を罵る言葉。



――暗い
目をハッと開いて覚醒したはずなのに、暗い
夢の続きなのか、現実なのか――



人殺し。


鮮明に残っているその響き。
そう呼ばれ、目が覚めるのは初めてではなかった。
慣れてきたつもりだったし、どうして自分がこんな悪夢に、などとお門違いに嘆いたりはしない。
当然の報いで、たかが悪夢、己がやってきた事に比べれば全然軽い、軽すぎる。一人分にも満たないだろう。


ただ、今日に限って、というのが正直なところであった。
自分のしてきた行いを鑑みず、浮かれていたからか。寝る前のアレに対する戒めかもしれないと、一方通行は暗闇の中で考える。
583 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/25(火) 23:38:19.73 ID:wQpE6FjR0

眠りにつく前は明るかった筈の部屋の電気と暑すぎたくらいの暖房は消えていた。
窓から入ってくる、救急車だか警備員の高速車両だかの赤色灯の光に、目の奥がちかちかと点灯する。


一度目を閉じ、息を吐く。
ああいった夢を見た後は簡単には寝付けない。
明け方近くになって微睡んだところにまた悪夢をみるのが常で、だからといって起きるのも怠い。
このまま黙って目を閉じているかと考えて、肌寒い室温から逃れるために毛布を引っ張ったとき、


「……んう」


ベッドの端から、声がした。
もぞもぞと寝返りを打つ様な効果音と一緒に、かけ直そうとしていた毛布が反対側に引っ張られる。


「あァ? ……オイ、」


ふと、微かな甘い香りが一方通行の鼻腔をくすぐった。
何故か人のベッドに入り込み、こちらに背を向けて寝ている少女が気に入って使っているシャンプーの香りだ。
その匂いに誘われる様にして、静かにその髪に手を伸ばす。
乾ききっていないそれはしっとりと濡れて冷たくなっていた。


――人殺し


そういえば、あの夢の中に彼女の声は無かった。
自分の無意識下でそれを望み、都合に合わせて脳が勝手に幻想を生み出しただけかもしれないし、そうであるのが一番納得がいく。
それでも何故か、それが嬉しくて、それと同時に思うのだ。見当違いな感情を、願望を、抱いてしまうのだ。


『失いたくない』


ガキみたいに温々とした体温を、抱き寄せた。
番外個体の方を向くようにして体勢を変えると、ピンクのもこもこ冬仕様パジャマの腹あたりに手を回す。


「んー、……あくせられー、た?」

「風呂から上がったらちゃンと髪乾かせっつっただろォが。それともアレか、濡らしたまま人のベッド潜り込ンできて誘ってやがンのかァ?」


抵抗がこないのを良いことに、意地悪くそう言って髪を撫でる。するすると指の間を滑り落ちていった。
今は何時か分からないが、番外個体はどうやら寝付いてそれ程時間が経っていないようだ。
寝起きは寝起きでも、毎朝の鈍重な彼女とは違い、いつもの様に笑い声を漏らす。

584 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/25(火) 23:41:21.27 ID:wQpE6FjR0


「ひゃひゃ、そーんなことしないって。だってタオル持ってきたらあなた寝てたし、お風呂から上がっても寝てたから」

「だからって此処で寝る理由にはねらねェだろォが。あとマジで髪乾かさねェと痛むぞ」

「眠くてさぁ、廊下寒いから出たくなかったし。……ねぇ、ミサカは抱き枕でもダッチワイフでもないんだけど」

「…………離れンな……」


耳元で、掠れた声で囁かれた。ひゅうひゅうと、一方通行の喉が鳴る。
番外個体は一瞬きょとんとした表情を作った後、顔が火照っていくのを自覚する。
こういう台詞を何の気なしに吐いてしまう、後ろの男が恨めしい。何処かのフラグ乱立男もこんな感じなんだろうか。


とくとくと、胸の鼓動が小さく、それでも確かに加速する。


今の状況、寝る前の小さな出来心、そしていつかの自慰行為。一方通行の匂い、体温、声。
全部が全部ごちゃごちゃに混ざって、つい先程までは気にならなかった筈の、回された腕を妙に意識してしまう。
心臓が脈打つ微かな音や振動が伝わってしまわないかと心配になった。

それでも平然を装って、


「どうしたのかにゃーん? もしかして甘えたいお年頃だったりすんのぉ?」

「うっせェよ……」


なのに、一方通行がいつもよりトーン低めに弱く呟くから、ぎゅっと胸が締め付けられる。
うるさいとか言っておきながら尚もそのままの異性に、今更緊張しつつも不覚ながらに可愛いと思ってしまう。


(あーもう、幼児退行でもしてんのかよう。なんつーか、いつもより可愛げあるんですけど)
585 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/25(火) 23:47:14.87 ID:wQpE6FjR0


幼児退行などと普段からは想像できない、少し気味の悪い疑いを持たれている一方通行だが、実のところ不安だったのだ。
知り合いの声で『人殺し』と丸丸当てはまる言葉で呼ばれ、そんな自分のもとから番外個体が消えてしまわないかとひたすらに。


殺される側だった『妹達』からすれば、許し難く都合の良い話かもしれない。
一万人以上の少女を虐殺してきたバケモノがどの面下げて、何をぬかしているんだと思われたっておかしくない。

それでも、いくら利己的で自己中心的なことだと分かっていても、


「…………離れンな……」


抱き寄せて、そう言わずにはいられなかった。
彼女の体温を直に感じて確かめずにはいられなかった。

好意の押しつけ、好意での拘束。
拒まれないと分かっていてそれをするのは卑怯なやり方だと自覚していて、
それでも敢えてそれをした自分はとことんクソ野郎だと思った。


「ほんとにさぁ、なーんか変だよ? ぎゃっは、もしかして怖い夢でも見たとか?」

「馬鹿にしてンのか。……別に、夢なンてみてねェよ」


一方通行のその言葉をどう捉えたのか、番外個体はくすりと小さく笑う。


「けけっ、なんだよういきなり抱きついてきたくせにさぁ。……ねぇ、ミサカは」


少しだけ、静かに目を瞑って間をおく。
浮かんでくるのは二人で過ごした数ヶ月で、たったそれだけの期間に色々あったと振り返る。
とくんとくんと心臓が鳴った。後ろに感じる暖かさが心地良い。


「――ミサカは、絶対に、自分から離れていったりなんてしないよ。あなただって、分かるでしょう? だからさ、変なこと考えなくて良いんだよ」

「……、あァ、そォだな」

「そうだよ。……ね、ちょっと体勢変えたいんだけど。そっち向いて良い?」

「ン、……つーかアレだな、オマエ少し太っ」


鈍感な第一位が放った空気を無視したデリカシーのない一言に、直後ビリビリと紫電が散ったというのは言うまでもなく。
それから暫く口を利いてくれなかった番外個体、もといレディにダイエットとかスタイル云々の深刻な悩みを植え付けた。
586 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/25(火) 23:49:55.82 ID:wQpE6FjR0

どうもこんばんは、時間が空いたけどお付き合い頂きありがとうです
次回投下はもう少し早くこれるよう頑張ります
ていうか時間かけてこれだけって……毎日沢山投下している方凄く尊敬です

サッカー勝てると良いなぁ
それではおやすみなさいー
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 23:51:21.56 ID:Xrz4ixh/0


一方さんェ…最後の最後で台なし
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 23:52:39.78 ID:xJj79NG0o
一方さんェ…
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 23:54:40.05 ID:AomsA/seo
最後の一行がステイルにみえた
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 23:54:48.98 ID:5l7XCT0uo
相変わらずのクオリティだぜぇー!
二人とも可愛すぎて切なすぎて黒翼生えそう

おつおつ
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 00:13:11.82 ID:OQ3oHAnd0
頭の上の輪っかとれないんだけどどうしてくれんの

おつ
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 00:22:06.72 ID:2m55cDKJ0
おつ
いいなこの二人
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 00:24:31.72 ID:IacQub0lo
このスレの更新が一番楽しみだわ
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 05:03:06.80 ID:PlMfPlLE0
黒翼が白くなってきたんだけど
どうゆうこっちゃい

おつ
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 07:47:25.12 ID:5csO779AO
ヤバいこいつらかわいすぎてもげろとか言えない
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 11:02:33.16 ID:sdsSvpoAO
少し太ってる方が抱き心地も良くていいというのにこのアーたんはちっとも分かってない…
乙であった!
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 13:21:13.09 ID:QNHDjQza0
一方さんェ…照れ隠しだと信じたい
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 00:01:09.23 ID:kFwQHBvDO
初春ですら出てきたのに
ていとくんェ・・・
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 00:17:00.29 ID:9S+2V8k20
満足そうに寝てる自分が下にいるんだけどどうしてくれるの?
乙乙
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 15:39:25.76 ID:58V2CtNG0
超乙
サテンも出してくれ
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 18:45:40.68 ID:DMWyXKJAO
もう登場人物は増えなくてもいい
幸せな番外通行が見れればそれでいい
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 00:13:34.66 ID:hac9OvkAO
>>601
お前良いこと言った。
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 01:07:35.61 ID:5BHRWPjSo
>>601
異論なし
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 01:24:38.45 ID:oMBShTwi0
>>601
ですよねー
あと、痛甘さも番外通行の真髄だと思う
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 00:18:20.15 ID:GAg2ISZ10
>>601
言いたいこと全部言ってくれた
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 00:53:38.63 ID:vCw+I+tDO
>>601が全てを語っている
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 12:26:18.12 ID:6iuFyCyAO
>>601
お前がヒーローだ




サッカー勝ったよおおおおおおおおおおお
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 20:50:18.61 ID:qA6HIRLNo
しかし>>601の所為で>>1が新キャラ出しづらくなったな
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 21:00:35.84 ID:N8jPWNO3o
まあ最終的には>>1の好きに書いてくれるのが一番でしょ
610 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/01/30(日) 21:41:23.97 ID:qxR3hXKo0
サッカー優勝だぁあああああああああ

>>601の人気に嫉妬ww
新キャラだけど、文中に仄めかす程度にはでるかもだけど直には出さない予定
ていうか元から必要最低限に留めようとしてたんだけどどうしてこうなった

あと痛甘さっていうのがあったけど、どんな感じだろ。このままでも大丈夫かな?
何かあったらばっしばし言ってくれると非常に参考になったりする

いつもお付き合い、本当にありがとう。とっても励みになってるんだよ!
次の投下はもう少しお待ちくだしあ。なるべく早く頑張るー
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 22:10:09.84 ID:p35ZWNKAO
>>610
萌えと同じで言葉にはできんが、>>604の言いたいことは心で理解した
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/31(月) 02:26:55.61 ID:uJEnVXG60
>>610
このままで大丈夫と思う
痛甘さと言えば…放課後プレイ2のアレって言ったらわかりやすいのかな?
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 17:50:24.82 ID:gOcAv6q00
>>610
自己嫌悪(切なさ乱れ撃ち)だな
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/01(火) 20:54:44.16 ID:4OjsY6RAO
長友がインテルはいってる

これが現実になろうとは…
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 14:10:05.93 ID:mWVT+jNI0
>>614
ここでする話じゃなかとよ
616 :600 :2011/02/03(木) 15:52:46.85 ID:7Jr4h4tF0
601が人気なのは俺のおかげ
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 16:15:25.09 ID:huLrv+s4o
続きまだー
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 19:24:53.78 ID:EY3zbyqY0
まだー?
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/03(木) 19:25:10.04 ID:iOzSaLwAO
>>615
すまんかった
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 19:29:57.04 ID:ulFDTdit0
>>619
わかればそれでいいのよ

…あと>>617-618は忍耐力つけような
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 01:21:29.01 ID:KyraH5uio
>>610
今のままどんどんがんばってくれーそんな>>1を俺は応援してる
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/04(金) 22:57:56.47 ID:Ij3QS2F80
新約あらすじ来たな
番外さんが一通さんサイドにちゃんと入ってるようで安心した
623 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/04(金) 23:04:17.04 ID:b3cgIlGS0
こんばんはー
投下はこの土日でなんとかできそう

新約のあらすじってみんな何処から見つけてくるんだろ
取り敢えず嫁が一方さんといちゃいちゃしてくれれば申し分ないんだけど色々気になるところがあったなあ
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 23:18:23.36 ID:EvToGCEno
>>623
電撃メールマガジンというものがあってだな
月一回送られてくるブートレッグというメールに、新刊情報が乗ってるんだ
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 23:30:07.09 ID:qwfU6Qsqo
番外が表で生きられるとは・・・言葉で表現できない嬉しさがあるな・・・ウウッ
そげぶさんは光になって消えました
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 00:03:26.90 ID:AO6GHlDAO
新約どんなあらすじ?
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 00:18:44.58 ID:eppmDrcxo
>>626
皆そこそこ平和に過ごしてるよー
でも暗部に新顔が現れてちょっと荒れるかもー
上条さんどこー

ググれば出てくる
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 00:28:41.90 ID:AO6GHlDAO
>>627
ググってみたんだけど、これ?

◆新約 とある魔術の禁書目録
上条当麻の消失後、全世界に安息の日々が訪れていた。学園都市では、一方通行
が騒がしい日常を取り戻し、浜面仕上は新生『アイテム』としての活動を行い……。
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 00:48:22.50 ID:zXIwVYDXo
>>628
気になったのでかまちースレ行って探してみた
それより詳しいあらすじが発表された模様

ttp://kamome.2ch.net/test/read.cgi/magazin/1296822204/ の9にのってる
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 02:51:40.92 ID:IDw3bG0AO
番外通行が公式になるだと…!?
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 06:57:29.94 ID:AO6GHlDAO
>>629
thx
番外通行が公式で見れるとか嬉しすぎるわー
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 16:55:36.62 ID:6puzR0Kto
今日は来るのかしらん
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 23:57:05.36 ID:roFqY4lv0
>>629
まじか
番外通行見られるとか夢のようだ
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:26:16.17 ID:CbHZHRC/0
最高すぎてやばい
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 18:35:02.44 ID:PNEA7ypd0
番外通行公式化とか胸熱だな

これによってさらにSSが増える、と
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 18:59:55.45 ID:378dyXnto
そして俺らが元気になる

それを見て作者がもっと頑張る、と
好循環だな
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 19:34:48.14 ID:PNEA7ypd0
でもはいむらーは過労していく、と

あk…好循環だな
638 : ◆3vMMlAilaQ [sage]:2011/02/06(日) 22:09:37.02 ID:3wCZGTLdo

      






 「いいよ、あなたがこのミサカを太ったって言うんなら、


                         ――まずは、その脂肪をぶち[ピーーー]!」








投下してくー
639 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:12:02.66 ID:3wCZGTLdo

「ヤバイよヤバイ、これは大変だよう」


電気ストーブで暖めてもまだ少し肌寒い脱衣所で、寒さだけでない別の理由から青ざめた顔で嘆くのは番外個体だ。
大雑把に拭いただけの、まだしっとりと湿度を保つ身体をバスタオル一枚で隠すその姿は妙に艶めかしい。
すらりと伸びた白く細い生足は同性から見ても目を惹かれるもので、男からすれば尚更だ。
湿った身体にまとわりつくバスタオルは身体のラインを浮き彫りにして彼女のスタイルの良さを主張しているのだが、
しかしそれは足下のごく普通な体重計によって半減している。


「此処に来てから1.5キロかぁ……あの人の言うこともあながち間違ってないのかも」


がっくしと肩を落とす番外個体。
数日前、女心の分からない、しかも女の自分から見ても細くて羨ましいとさえ思ってしまう男から放たれた衝撃的な一言。
その言葉の真理を確かめるのは非常に恐ろしく、けれど今日、意を決して1ヶ月ぶりくらいに体重計に乗ってみた。

……乙女のプライバシーを守るために公開は控えさせていただくが、それにしたって十分痩せていると言って良い数字だ。
そこら辺で『ミサカ最近太っちゃった☆』とか言ったら世の女性達から睨まれそうなくらいに。

しかし、そんな世間の事情と自分のプロポーションの良さを自覚していない少女は心ない一言でいとも簡単に打ちのめされた。
何度でも言う、『一方通行』というあの男は女心をこれっぽっちも分かっちゃいない。


ひとつ溜息をついてから、パジャマを着ていく番外個体。
髪はしっかり乾かせとデリカシーの欠片もない男から口うるさく言われているが、もう少し乾いてからすることにする。
取り敢えず適当にタオルで水気を除いて髪を梳かすと、換気扇を回してから脱衣所を後にした。

『ダイエット』という単語を頭の中に浮かべながらリビングに足を踏み入れて、


「ねぇ、ミサカ痩せるために、……何やってんの?」

「おゥ、プリン作ってンだよ。オマエが牛乳飲まねェから腐らせちまう所だしよォ、卵も賞味期限前だしな。
 今から第二位仕様のていとうこくンに頑張ってもらって、そォだな、30分ででかしてやるよ」

「あ、あぅ……プリ、ン……?」

「オマエ甘ェの好きだろ? ……って、どォした」

「だって……だってしょうがないじゃん……新メニューの試食だってしてるしさぁ、あなたの料理は美味しいからさぁ……」


直後、わんわんと子供顔負けの泣き声が夜のマンション中に響き渡り。

甘い誘惑を前にして、乙女の心は粉砕された。

640 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:13:56.79 ID:3wCZGTLdo

「今日は昨日より寒くねェなァ」

「このまま春になるのかねぇ。……あ、ねこ」


『ダイエットの為のウォーキング』と称した『お散歩』。
ここ最近、昼間だったり夜中だったりと、時間こそバラバラだが二人はこうして並んで歩くことが日課になりつつあった。
これが結構面白くて、キャンピングカーを改造したような屋台で食べれるクレープやコーヒーが密かに楽しみだったりする。
番外個体は生クリームとかチョコソースとかそういった単語に非常に弱く、頻繁に釣られているのだが、
それではダイエットの意味が……、というツッコミは野暮というものだ。


頬にクリームを付けて美味しそうにクレープを囓る番外個体は幼げで。
しかし時々こちらを見上げる表情は何処か大人びた女の顔だったりする。
そのギャップに一々一方通行の心臓は大きく反応してしまうのだが、毎回毎回その調子では早死にしてしまいそうだ。


「おい、クリーム付いてンぞ」

「ふえ? ど、どこ?」


動揺する番外個体を見て呆れたように溜息をつくと、紙ナプキンで頬を拭いてやる。
子供みたいなその扱いが恥ずかしかったのか、彼女は僅かに顔を赤らめた。
そんな二人は周りから微笑ましいカップルみたいに見られていたりするのだが、当の本人達は知る由もない。


「そういえば来週かぁ、劇場版ゲコ太の大冒険が公開されるの」


食べ終えたクレープの包み紙を小さく畳みながら、番外個体が上を見上げて呟く。
一方通行がその視線の先を追うと、学園都市でも1、2を争う大規模なシアターの壁面に設置された画面で番外個体の言う映画が宣伝されていた。
どう見ても子供向けの2本立てアニメなのだが、彼女の『お姉様』に当たる御坂美琴を始めとした『ミサカ』と名の付く少女達は、これの熱狂的なファンだったりする。


「ケロヨン可愛いよう。でもやっぱりゲコ太がこのミサカ的には一番好きなんだよねぇ」

「どれも同じに見えるけどな。つーかいい加減卒業した方良いンじゃねェの?」

「……、あなた、今すっごく聞き捨てならないことを言ったけれど。ていうかあなたも一回観るべきだよ。
 ほら、あれがケロヨンでさぁ、今回の劇場版はゲコ太が――」


それから少しの間番外個体が熱弁をふるったのだが、何しろ一方通行はゲコ太とか言われてもさっぱりなのだ。
よく分からないまま彼女の興味は別のものに移って、なんだか忙しいヤツだなと思っていながら歩いていく。

学生達の待ち合わせの際によく利用される広場を通りかかった時、二人の目に偶然留まったのは、十数人ほどの小さな人集りだった。
641 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:18:54.37 ID:3wCZGTLdo


学園都市内では普通の全国放送に加え、ローカル番組に似た、独自で作成したテレビ番組が放送されている。
といっても学園都市はあくまで教育を目的とした都市――あくまで表面だけでしかないのだが――であるため、俗に言う『教育番組』のようなものが殆どだ。
何のユーモアもないそれは人口の8割近くを学生が占めるこの土地では視聴率も低迷気味で、
有名人が出演している全国放送の番組の方が断然人気だったりするのだが。

そんなあまり意義のないような番組の撮影は時としてスタジオから屋外に出張してくるため、稀にその撮影風景を目撃できることがある。
二人もその事実を知っていたから、少なくとも一方通行は恐らくそんなところだろうと人集りの横をスルーしようとして、


「あ、そこのおふたりさーん」


人集りの中心から明るくて張りのある声に呼び止められた。
不意打ちに対し、ビクゥ! と大仰に身体を反応させる番外個体。


「あァ?」

「なかなか顔出しオッケーな方が居なくて困ってたところだったんですけど良かった良かった。
 ……やっぱり学園都市っていう限定された狭い範囲なのがいけないのかな……編集部はこの苦労分かってないですよね……」

「いやいやいや、意味分かンねェ。勝手に自己完結してンじゃねェよ。何か残念な臭いがプンプンするババァだなオイ」


後半は殆ど愚痴っぽくなった女を横目に、一方通行は眉をひそめる。
何だかよく分からないこの女を見て、学園都市にはこの手のおかしな人間が多い気がすると半ば呆れるのだが、自分も十分その一人であるという自覚はないらしい。

一方、番外個体はあわあわと。どうも悪徳商法の類と勘違いしているらしい。
バイト先のとある女の子が以前被害に遭っているため知識も警戒心も豊富なようで、しかし猜疑心丸出しのそれを素直に褒めて良いものか。


「な、何返事してんのさこのど阿呆! キャッチセールスの怖さ知らないのかなあ第一位様は!?」

「あはは、キャッチセールスとかそういう怪しいものじゃありません。私、こういう雑誌の……、うーん、カメラマンで良いのかな」


やや自信なさげにカメラマンと自称し雑誌を差し出してきた女は、成る程確かに、首からカメラを提げている。
最近発売されたもので、そういえば黄泉川が続きもしないアルバムを作成するために欲しいとほざいていた。
学園都市最先端の技術を注ぎ込んで開発され、撮って直ぐに写真を手にすることが可能ということで注目を浴びているのだが、何しろそれ相応の値段は少々手を出しにくい。
642 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:20:04.03 ID:3wCZGTLdo


「あ、これミサカも読んだことある。麦のんがよく読んでるヤツだった気がするけど」


女が渡してきた雑誌をペラペラと流しつつ、それによって警戒を和らげた番外個体が意外そうな声をあげた。
実は学園都市でそこそこ名の知れている代物だったりするのだ。


「で、それがどォした。こっちのガキはバイトもあンだよ、何の用もねェなら、」

「ミサカはガキじゃないし! それに今日は観たいテレビあったから別の子と代わって貰ったんだよね」

「あァ!? 何だそれ聞いてねェぞオイ! だったら買い物しねェと駄目じゃねェか! 
 クソッたれがァ、この時間帯は混むンだっつーことをちったァ考えろ!」

「何だか良く分からないけど、直ぐに終わりますよ。ちょっとした写真撮影です」

「そんなのミサカの知った事じゃないしぃ? このミサカはいっつもお仕事頑張ってるんだもん、ひゃひゃ、此処はぐーたら主夫の腕の見せ所でしょ?」

「……よし、カメラもばっちし。貴方たちなら『学園都市☆路上カップル☆ラブラブさん激写しちゃうゾ〜in 第7学区〜』の名に恥じない被写体になりそうです」


危険な男女二人組はぎゃあぎゃあと喚き、そんな二人にお構いなしのマイペース(ズレているともいう)カメラマン。
ギャラリーはそんな光景を見てやれやれという表情を浮かべるが、ここを立ち去る気はないらしい。
恋仲の二人が睦まじく、時にはいちゃいちゃと、あるいは照れながら写真に撮られる姿は見ていて案外面白かったりする。

――って、


「「…………、カップル?」」


この時間帯の食品の鮮度とかタイムセールとか今日のメニューとか。
そんなことで騒いでいた二人がぽかんと、和音よろしく声を合わせた。

643 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:22:11.58 ID:3wCZGTLdo


「いやだから、はァ? カップルだァ? そォいうンじゃねェよ!」

「えーとじゃあ、そこに立ってもらって……、ふふふ、漲ってきたきたぁ!」

「話聞けやこのクソアマがァ! つーか協力するなンて言ってねェよ!」


マイペースを通り越して自分の世界に入り込んでしまっている女は、一方通行の抗議が聞こえているのかいないのか、むふふと一人怪しく笑っている。
こういう世界ではこれくらいの人間でなければやっていけないのかもしれない。
そんな女に訝しげな視線を浴びせながら、番外個体もあまり乗り気ではないようで。


「これって学園都市に出回るからなぁ。ちょっとヤバくない?」

「協力してくれたおふたりにはセブンスミストのギフトカードを差し上げていますけど」

「やりますやります! さぁどんとこい!」

「おいィ!」


『ギフトカード』の一言でころっと意見を翻した番外個体に、一方通行がびしびしとチョップを喰らわす。割と本気で。


「オマエなァ、釣られてンじゃねェよ。大体オマエのバイト先のヤツだって見てるかもしれねェし、」


と、ここで暗部の『仮眠室』を思い出す。
この手の雑誌が常備されていて、そういえばこの女が言うタイトルがついたものがあった気がしなくもない。記憶力には自信がある。
そうだ、『グループ』の紅一点がいつも読んでいるではないか。

もしも。

『学園都市☆路上カップル☆ラブラブさん激写しちゃうゾ〜in 第7学区〜』などという長ったらしく気味の悪い特集ページに掲載されたら。

もしも。

それを結標淡希が、土御門元春が、海原光貴が見たら。

そんなの、容易に想像できる。
結標は嫌みったらしい視線をぶつけ、土御門はニヤニヤしながら『羨ましいぜい』などとほざき、海原に至ってはそのページをスクラップにしかねない。
しかしそんな一方通行の懸念とは裏腹に、


「にゃはは、良いじゃん良いじゃん。あっれえ、それとも第一位様は女の子と写真も撮れないような腰抜け野郎なのかにゃーん?」

「――言ってくれンじゃねェか1歳にも満たねェマセガキがァ。やってやンよォ!」

「はい、じゃあ手、繋いでもらって良いですか? 一応このページの売りなんですけど」


「…………はぁ?」


今度こそ、本当の本当に。
二人が同時に凍りついた。
644 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:24:45.11 ID:3wCZGTLdo

「手、だァ?」

「はい。あ、もしかしてまだそこまで進んでませんかぁ?」


ならこの機会にどうぞどうぞとでも言わんばかりのその言い草に、一方通行は気取られない程度に眉をひそめた。

身体の関係を持ったことがあるのに対し、キスはおろか、手を繋いだことすらない。
優先順位というか、明らかに順番が狂っている。
ましてや、ただの同居人。順番云々以前に、身体を重ねてしまったことすら過ちで。

そんな可笑しくて曖昧、少し掻き回せば呆気なくぐちゃぐちゃになってしまう様な関係。
それを第三者から改めて思い知らされると、酷くどうしようもない思いにさせられる。

手を繋ぐという行為は、女からしてみれば少なくとも憧れくらいにはなる、意外に重大で重要な行為ではないかと一方通行は考える。
そしてそれは番外個体だって同であろうことで、ましてやこの歳だ。
実年齢と精神年齢は幼いが、それでも実際、恋愛事情に一喜一憂したことだってある。
何処かのクソガキがふらふらと歩き回り、挙げ句の果てに迷子になったり攫われたりを防止する為に手を握るのとはわけが違う。


「ね、そんなに怖い顔しないでよ。ひゃひゃ、確かにまぁ、ミサカ達が手繋ぐってのは、うん、滑稽だよね。
 ……ギフトカードはちょっと惜しいけれど。あなたが嫌だって言うんならミサカは強制できないし」

「別に嫌だなンて一言も言ってねェじゃねェか。大体、オマエはどォなンだよ。好きでもない男とそォいうことするの」

「……そうやってあなたはいっつもオマエオマエって言うけどさぁ。ミサカは別に壊れ物でもなんでもないし、ていうか寧ろその逆だし。
 だから、」


左手を、とられる。指がするすると絡め取られた。
番外個体の手は気温故か冷えていて、おっかなびっくりとでも言うのだろうか、微かに震え、ぎこちなく。

……こっちだって、壊れ物でもなんでもないというのに。

何となく雰囲気的に真面目臭くなってしまっているのだが、実際に互いの手を握るというのは、やはり。


「手繋ぐだけだしねぇ、うんうん、ロシアでも握手したしぃ!?」

「だ、だよなァ。丁度寒ィと思ってた所だし、懐炉いらずで地球にも優しいじゃねェか!」

「ぎゃっは、地球の自転ベクトルどかーんとやっちゃったヤツがそれ言うわけ? ていうかあなたの手冷たくて死人みたーい☆」

「オマエだって血ィ通ってっかァって聞きたくなるけどなァ」


HAHAHAといつもとは少し違ったテンションで無理に盛り上げる。
異性と手を繋ぐという慣れない行為は、まだまだお子様な二人には少々刺激が大きかったかもしれない。
645 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:26:09.58 ID:3wCZGTLdo

「それじゃ、撮りますよー。自然な感じでお願いします」


半ば強制的に手を繋がせておいて、『自然な感じ』とはどういうことだ。
そんな突っ込みを自粛して、一方通行は相変わらずの仏頂面で立つ。
その横の番外個体はというと微かに口角を上げ、写真スマイルを浮かべている。
端から見ると、付き合って間もない恋人同士のできあがりだ。

白いフラッシュが焚かれ、始まりが遅かった撮影は簡単に終わりを迎える。
目の奥に焼き付いた光がチカチカと二人の視界を悪くした。


「はい、お疲れ様です。協力有り難う御座いました」


じじじ、と微かな機械音を鳴らしながら、カメラから写真が吐き出される。
それと一緒に包装されたギフトカードが差し出され、


「ぎゃは、あなたもっと愛想良くできなかったの? なーんか睨まれてる感じがするけど」

「うるせェよ、この俺がニヤニヤ笑ってたらホラーだろォが」


番外個体から写真を奪い取る。

……不機嫌そうな表情、鋭い眼光。これで雑誌なんかに載せられるのだろうかと疑問に思う。


「……、慣れてねェンだっつの」

「はーいスマイルの練習痛ぁっ!」


顔を覗き込みながら茶化してくる番外個体のやわらかい頬をむにーっと抓ってみると、
彼女は間抜けな顔をしながら突然の攻撃に目を白黒させた。


「何するんだよういきなり! しかも自分はしたり顔っていうのがすっごいムカつくんだけど」

「買い物して帰るか。今日は準備とか面倒臭ェから簡単にパスタだなァ。異議は認めねェ」

「うん、ミサカパスタ大好き。クリームが良いな」


笑っているのはコイツだけで十分だ、と一方通行は思う。
隣を歩くこの少女がただただ呑気に笑っていれば、それで良い。不足はないし、それ以上の贅沢は望まない。

行き場と温もりを失った左手は宙ぶらりんで、どこか寂しげに虚空を描く。
646 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:27:58.81 ID:3wCZGTLdo


マンションの近く、贔屓にしているとあるスーパー。
カゴとエコバックを手にし、陳列棚に並べられた商品を眺め、目当ての商品は手にとって品質を見極める。
パスタの太さは無難に1.7o。今は隣にいない少女が所望したクリームソースは、レトルトでなく生クリームを使った濃厚なものにすることにした。

料理はしてみると中々奥が深いと、最近一方通行は考えるようになった。
レシピ、分量を忠実に再現しただけでは完璧すぎて、何かに欠けてしまう。
だから研究、アレンジし、改良を重ねていく。自分の好き嫌いだけでなく、生活の中で自然と理解した少女の好みまで考慮する。

そんな過程と、主に番外個体なのだが、食べた者が零す感想を聞くという、所謂結果が面白いのだ。


「……、トマトを厭らしい目つきで視姦している最中に申し訳ないんだけど」

「うお!?」

「これも一緒に買ってくんないかにゃーん?」


一方通行の返事を待たずに、菓子コーナーから帰ってきた番外個体がカゴに放り込んだのは食玩付きのラムネ菓子だ。
その食玩というのは勿論のこと、緑のあの生き物をモチーフとしたストラップで、


「……ガキだなァ食玩に釣られるなンざァ……」

「んなぁっ!? ト、トマトに劣情を催してるあなたに言われたって痛くも痒くもねーし! ミサカがガキならあなたは変態だ!」

「してねェよ! 誤解を招くよォな発言してンじゃねェ!」


しっかりと番外個体の発言を否定しつつ、手に取ったカクテルトマトをあった場所に戻し、代わりに隣にあったごく普通のトマトをカゴに入れた。
食玩付き菓子は妙に値段が高いのだ。カクテルトマトを諦め、ワンランク下げた比較的安価なものにすることで倹約する。

それから朝食のブレッドをきらしていたことを思い出し、二人並んで最近ブームになっている商品をカゴへ。


「っと、こンなモンかァ? 卵……、はまだあったはずだな」

「冷蔵庫に3つ。……ねぇ、ミサカ達ってやっぱりさぁ、こうしてると周りからは付き合ってる様に見えるのかねぇ?」


ふと、番外個体が疑問を口にする。
今まで意識したことはなかったものの、今日勘違いされてからその可能性を初めて考慮しだしたのだ。
あまりにも自然に暮らしていたから気付かなかっただけで、実はすれ違った時、外食したとき。
自分たちはそのように捉えられていたのかもしれない。


「ドンパチやった仲なのにね、ひゃはは」


本当に、全く。
人生とは何が起きるか全然分かったものじゃない。
647 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:30:02.00 ID:3wCZGTLdo


「『桔梗のヤツが暇してるだろうからPS3繋いでやってほしいじゃん。何かよく分からないじゃん』……だと」

「黄泉川からじゃん?」

「あァ、面倒臭ェこと頼ンできやがった」

「ていうかこの前wii買ってたじゃん」

「公務員の給料は削減の方向じゃなかったンかよって話だな」


自前のエコバックに買った物を詰め、もう少しで自宅、というとき。
一方通行の携帯が受信したのは、黄泉川からのお願いメールだった。
渋渋といった様子で「仕方ねェな、クソニート」と呟く一方通行。
しかし口調ほど嫌そうでもないところを見ると、やはりあの家の人間を放っておくことはできない性分らしい。


「悪ィな、ちょっと行ってくるわ。オマエも一緒に行くかァ?」

「ん、ミサカ今日は観たいテレビあるから行かない。少しお腹空いたから蜜柑食べてるね」


そういえば、その為にバイトも代わって貰ったとか言っていたことを思い出す。
何が観たいのかは知らないが、そんな彼女にエコバックを持たせると、気をつけて帰れと過保護っぷりを発揮した。
マンションまでは残り数十メートルしかないのだが。



さて、仕事も家事もしないで自由気ままな生活を送る元研究者は今日、どれくらいカロリーを消費しただろうか。
そんな予想をしながら、さほど離れていないファミリーマンションへと歩を進める。
648 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:33:18.30 ID:3wCZGTLdo


「キミは相変わらず失礼なことを言うのね。わたしは毎日wii fitで運動しているわ」

「呆れたなァ、前までは研究室に閉じこもって何やら熱心だった研究者サマがよ。
 寝て起きたら誰も居なかったなンて、オマエ愛想尽かされたンじゃねェの?」

「慰労期間とでも言って欲しいわね。……本当に愛穂ったら、帰りが遅くなるみたいだし。二人で楽しんでるのよ、このわたしを差し置いて」


ダイニングキッチンに立つ一方通行が、そんな芳川に侮蔑の視線を投げかける。
いつも食事を提供してくれる家主がチビっ子と一緒に出掛けてしまった今日、耐え難い空腹を訴えてきたこのニート。
冷蔵庫にあった冷やご飯を利用して、何故だか一方通行がチャーハンを作ってやっている。


「オラ、食え。10万円な」

「愛穂につけておいてもらえるかしら。……いただきます」


何処までも他人任せでだらしない女に心底呆れつつ、一方通行は依頼されたことを成す為に大画面の液晶テレビの前に座る。
背後で芳川が頬張るチャーハンの香りが鼻腔をくすぐり、空腹を誘われた。

帰宅してからパスタをなるべく早く食べられるように、此処を出る前に番外個体に湯を湧かしておいてもらうか。


「……キミは今日も、酷い顔をしているわね」

「……、それが飯作ったり何だりしてやった俺に対する言葉かよ」

「語弊を招く言い方だったかしら。つまり、キミはいつも浮かない顔をしているということを言いたかったのだけど。
 そうね、原因を敢えて言うのであれば――罪悪感、とか」


芳川に背を向けながら、一方通行は顔をしかめる。
妙なところで鋭いこの女。今、芳川桔梗に視線を合わせれば、全てを覗かれかねない。だから振り向くことが出来ず、作業に集中しているふりをする。


「抱きたいと、思う? あの子のこと。掻き乱して、突き上げて、注ぎ込んで。
 喘ぐ声も笑う顔も蕩けた顔も、全部を全部、手の内に入れたいと思ったりするのかしら」

「――何を馬鹿なことぬかして、」

「思うのよね、思ったことがあるのよね。でもキミは、それを表に出さない。自分でも認めようとしない。
 何故ならあの子に、あの子達に、罪悪感を抱いているから。自分にはあの子を思う権利すらないと、そう考えてしまうから」

649 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:34:28.31 ID:3wCZGTLdo


一方通行の手が止まった。
ゲーム機を繋ぎ、初期設定を終わらせるなど難しいことではない。
仕事を終えた指先は誤魔化しと紛らわしの術を失い、小刻みに震える。


「そんな罪悪感から逃れる方法を教えてあげましょうか。一時的に楽になれる『とっておき』。
 ……『借金』の返済はとても簡単。A社に返せなくなったらB社から借りて返せばいい。B社が無理になったらC社から借りる。
 勿論その分後々の返済は厳しくなるでしょうけど、死ぬまで繰り返すことだってできる」

「何が、言いてェ」


遠回しなどせずに、早く答えを、『とっておき』の術をよこせ。
そんな酷く情けない、逃避。


「キミ、比喩は好きじゃないのかしら。
 答えは簡単、いたってシンプル。


 ――他の女を、抱いてしまえば良いのよ。例えば、このわたし、とか」



生涯プラン、今ならたったの10万円。
あなたの高級チャーハンとでプラスマイナス丁度ゼロ。



囁くようなその甘美な誘惑に、喉がひうと声にならない空気を漏らした。
650 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:35:39.19 ID:3wCZGTLdo



――液晶テレビの真正面。

そこが番外個体の、誰にも譲れない特等席である。
さて、今は共同生活を送る一方通行も居らず。
いつもなら一緒にこたつに入ってだらだらするのだが、今日は一人彼の帰宅を待ちながら、先週からCMを観て楽しみにしていた番組を観ている。

その名も、『マンションであった怖い話』。

時々やっている特番で、テーマがその時によってマンションだったり学校だったりと変わる、
視聴者からよせられた体験談を映像で再現したオムニバス形式のオカルト番組である。
科学技術の最高峰を誇る学園都市でオカルトなどと言われてもいまいちピンとこないというか、胡散臭いというか。
それでも意外なことに高視聴率の人気番組なのだ。


画面の中で少女が一人、暗い部屋の中で錯乱している。
この物語もそろそろクライマックスだ。


『……だって、だっておかしいじゃない! こんなことって……、ど、どうして。何なのよ、何なの!?』


「知るかっつのぉおおおお!」


暖房のよく効いた部屋に加え、こたつに入っているお陰でぽかぽかと暖かい筈なのだが、番外個体は身体を震わせて画面の向こうに叫ぶ。
最近人気が出てきた少女はお世辞にも演技が上手いとは言えないのだが、その微妙な下手糞加減が妙にしっくりきている。


『誰か居るのぉおおっ!? ……、え? あ、あ、あぁ、』

「…………っ」


真っ暗な部屋の中、自分以外の誰かの気配を感じ取った少女は恐る恐る後ろを振り返る。
止めておけば良いのに、さっさと電気を点けてしまえば良いのに。
そんなことを思いながらも、番外個体も固唾を呑んで画面を凝視する。


観たくない、観ない方が良い。けれどやっぱり観たい――っ!

651 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:38:10.41 ID:3wCZGTLdo



                     γ⌒/^^/^-
                     ,ゝ`/~ /~ /~  /⌒ 
                    〈(_|  | |~  |~  /^ )
                  (/~ /~ /~ /~ ~ /~ /^\
                 ()/)/~ /~ |~    .|~ |~ |~ /)
                 へ^〈,|,,、,,|,,、,,,,,|~,,,,、〈~,, 〈~ /⌒|)\
                   ,iiiiiiiiiiiiiii'' ゛  ゛    `iiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii,
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                iiiiiiiiiiiiii!.|;,'“●●・∵|.「∴●●.゜,;」`!i!iiiiiiiiii
                iiiiiiiiiii!!..|:,..;●●゙;;.;ノ.i,.;:,,●●;;.,..,i  !!iiiiiiiii
                 iiiiiiiiii|!'...\∵;,o,;:/ \;,,o,;:..,/  '!iiiiiiiii
                 iiiiiiiiii|⌒\ ̄ ̄( ○ ,:○)  ̄ /⌒..'iiiiiiiii
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                   iiiiiiiiiii'i、ヽ 匚匚匚匚匚匚匚i / ,!iiiiiiiiiii!
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                 iiiiiiiiiiiiiiil\ \匚匚匚匚匚l/ /llliiiiiiiiiii!
                  iiiiiiiiiiiiiiiillllii\:.. ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/lllllllliiiiiiiiiiiii!
                 iiiiiiiiiiiiiiiillii;;;:: `ー-..............-‐´illlllllllllliiiiiiiiiiii!
                iiiiiiiiiiiiiiiilli;;;:: :           :;;illllllllllliiiiiiiiiiii!
                iiiiiiiiiiiiiiiilli;;:::: :           ::;;;illllllllliiiiiiiiiiiii!
                    _,,..iiiiiiiiiiiiiiilli;;::::: : :        ::::;;;;illllllliiiiiiiiiiiiiii!.,,_
           _,,i-i‐'''"~  iiiiiiiiiiiiiiili;;:::::: : :        ::::::;;;;;illllliiiiiiiiiiiiiiiii!  ~i~i'‐-..,,_
     _,,..-''''~   i i  ''''--iiiiiiiiiiiiiiili;;::::::: : :       ::::::;;;;;;;illiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!  i i     ~"-.,
    ,r'"       i i    ,iiiiiiiiiiiiiiii!'''''''''''―:::..  ..:::―''''''''''iiiiiiiiiiiiiiiiiiiii! i i        ヽ



               この部屋ぁ、私の部屋だったのにぃいいいイいい
         どぉして私が死ななきゃならなかったのよぉおおおぅううおぁあああ


652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 22:38:59.21 ID:eYSv3mY3o
キテレツすぎるだろwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
653 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:39:59.24 ID:3wCZGTLdo




「んぎゃああああああああああああああああああああばばばばば!!」



これぞ正に、絶叫。
同時に紫電が漏れて、ばちんという不吉な音が聞こえた直後。


つい先程までのドラマよろしく、家の家電の、ありとあらゆる電源が落ちた。



654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 22:41:41.91 ID:uNrc8SxAO
あれ ヤバくね?
655 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:44:17.20 ID:3wCZGTLdo


どれくらい時間が経っただろうか。
10分か、1時間か。否、実際はそれ程経っていない。ものの2、3分。一方通行の思考が呼吸が感情が。狂い、乱されてからまだそれしか経っていないのだ。


ぴぴぴ、という電子音がキッチンの方から聞こえてきたとき、我に返った。
コーヒーを飲もうとしてお湯を沸かしていたことを思い出す。
長いようでほんの数分の、重く、呼吸のしかたを忘れてしまいそうだった時間。
もしもそれに呑まれてしまっていたら、自分はどんな答えをだしていたのだろう。

僅かに掠れた声を誤魔化すように、ぎこちなく口角を上げる。


「――ハッ、誰が、オマエに手ェ出すか」

「それはわたしがわたしだから、かしら」


一方通行にとって芳川桔梗とは、番外個体や打ち止め同様、そこらの女とは全く違った特別な人間である。
簡単に言うならば守るべき人間であり、口には出さないものの、大切な人間でもあるのだ。
家系図上では赤の他人でも、相関図上では強く結びついている、そんな人間。
だから抱かないのか。芳川はそれを問うているのだろう。


「違ェよ。俺はオマエであろォがなかォが、ンなくっだらねェことはしねェ。
 自分の罪悪感だとか寂寥感だとか、そンなモンを誤魔化すために女ァ食い物にするなンざ下種野郎のすることだ」


自分に言い聞かせるかの様に言う。
深呼吸し、そんな一方通行の己が揺らぐことは、紅い瞳から内側を覗かれることは、恐らくもう簡単にはいかない。彼がそれを許さない。


「……予測は大当たり、ね。研究者だもの、シミュレートは得意分野なのよ。ほら、こっちを向きなさいな」


促され、振り返る。芳川桔梗は、笑っていた。薄く薄く、微笑みを浮かべていた。
一人の男を誘っておいて、結局動揺したのは誘われた自分だけ。
これが大人の余裕というものなのだろうかと一方通行は呆れ半分に感心する。

それがあくまで『保護者』である芳川が虚勢を張って繕い、敢えて彼にそんな感想を抱かせよう努めているのは彼女以外の誰も知ることが無く。
一方通行とはもう大分前から付き合ってきたが、彼が鈍感であることをこれ程までに感謝したのは恐らく今日が初めてだろう。


「と、そろそろ帰るか。こっちはもォ電源入れりゃァ動くだろ。何かあったらメールなり電話なりしろ。
 あとオマエも身体持て余してるからって変な男に引っかかるンじゃねェぞ」


鈍感すぎるというのも癪に障るのだけれど。


「……、折角お湯も沸いたのに、コーヒーは飲んでいかないの?」

「あのガキが腹空かせて待ってンだ。それに、」


つい数秒前に、ジーンズのポケットの中で震えた携帯を一瞥し。
恐らく本人に自覚はないのだろうが、目を細め、愛おしそうに僅かに頬を緩めるのだ。


「間抜けだよなァ、作り物観て怖くなるなンてよォ」
656 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:46:34.15 ID:3wCZGTLdo


誰かがいなくなってしまったあとの静寂とは形容し難い物悲しさがある。
働け働けと口を酸っぱくして言う黄泉川愛穂もいなければ、屈託なく笑う最終信号もいない。

そして、真っ白な少年までも。


「……あの子の為に言ったんじゃない。本当に、何処までも自分に甘い人間だわ」


『何か』を誤魔化すために、形だけでもと縋ったのは、そう、自分だったのだ。
甘美に巧みに誘惑したのは、何者でもなく自分の為だったのだ。


「振られてしまったのね、わたし」


それも、あの子の気付かないうちに、あの子の無意識で。

芳川桔梗とは、十分に魅力のある女だ。そろそろ三十路だというのに化粧っ気もなく、それでいて色気がある。
そんな彼女だから周りの男だって放っておかなかったし、恋愛経験だってそれなりにあるものの。

今感じるこの痛みだけは、きっとこれからも、慣れる事なんてなく。


「あ、もしもし愛穂? 飲みに行きましょう」

『何言ってるじゃん、いきなり。それより今打ち止めとファミレスいるからもう少し帰り遅くなるじゃん。
 コンビニで何か買ってくから安心するじゃん』

「……、」


何だか無性に、泣きたくなってきた。
657 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:52:02.57 ID:3wCZGTLdo



「何か焦げ臭ェぞ」

「一方通行!」


妙な臭いに眉を顰めながら帰宅した一方通行。
電撃使いが暮らす家では時々あることだが、それにしてもこれは換気を推奨するレベルである。
リビングに入って上着を脱ぐと、番外個体がこたつから出て駆け寄ってきた。ちらりとテレビを一瞥し、びくりと身体を震わせる。


「おそ、遅いよう! 途中でブレーカーは落ちるしもう最悪だったんだけど。んぎゃあ!? いきなり後ろからは反則でしょうがあ!」

「くっだらねェ、こンなンでぎゃァぎゃァ喚いてやがったのかァ?」


画面に映る血塗れの女を観て喚く番外個体を、一方通行が鼻で笑いながら換気をするために窓へと近付く。
その動きに合わせて番外個体もついてくるところをみると、余程この番組が怖かったのかもしれない。
にしても画面に映ったこの女、リアリティー云々は置いておいてもかなりの迫力である。
PTAあたりから苦情がきたりしないのだろうか。

最近のガキはこォいうのが好きなのか、などと考えながら窓を開け放つと、冷たい夜風が頬を撫でて部屋の中に吹き込み、室温を僅かに下げた。


「何さぁ、あなただってこういうの苦手なくせに」

「その考えを改めやがれ。こンなの、どォ見たって人間じゃねェか。オマエが送ってきたメールの方が怖かったっつの。
 『怖い死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ』ってなァ」

「そりゃそうだけどさぁ。……あのシーンは本当に死ぬかと思ったし。ミサカ、これ程までに自分の能力を呪ったことはないね」

「対電撃使いのブレーカーカバーでも買った方が良いのかねェ。
 ほら、飯作っから離れやがれ。それともアレかァ、怖くて一人じゃ観てられませンってかァ? そォいやァそれで帰ってこいってメールしてきたンだったっけかなァ?」

「なっ!? だ、だからあの時はぁ……っ!」


顔を赤くしてバシバシと叩いてくる番外個体。
実はさりげなく一方通行の袖口をちょこんと掴んでいたのだが、それも同時に放される。
拗ねた子供のようにそっぽを向いてこたつに入り直す少女が堪らなく愛おしく。


「……罪悪感、ねェ。そンなに酷ェ顔してるンなら、たまには笑ってやろォか」


誰にも聞こえぬ小さな声で、呟いた。
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 22:53:25.03 ID:0DyZn0fRo
びっくりしただろこの野郎wwwwwwwwww
659 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 22:56:04.45 ID:3wCZGTLdo


「あっくーん、ミサカのブラがないよー」

「オイオイどォした」


起きてきていつものようにぐでーっとソファに沈み込んだ番外個体。
あっくんとかブラとか、朝から斜め上を行っている。
にしても昨夜は自分の部屋が怖いだの寒いだの寝れないだの喚いていたが、しっかり眠ったのだろうか。
寝る前に作った、ブランデーで香り付けしたホットミルクを飲ませてからは大人しくなったから放っておいたものの、それでは少し非人情だったかと反省する。


「ブラはいつもンとこに入ってるだろォが。つーかあっくンって何だあっくンって」

「んう、水色の、ミサカが最近買ったヤツ」

「それなら洗濯ローテーション待機中かもなァ。見てきてやるから、こたつ入ってパーカー着て寒くねェよォにしとけ」


暖房のお陰でリビングは快適な室温であるものも、パジャマ一枚では少し肌寒いだろう。
此処までくるのが寒かったからか、部屋から毛布と一緒にお化けみたいにやってきた彼女は大人しく一方通行の言いつけに従う。



「――あァ、これか。……こォいうのって余所では誰が洗濯してンだァ? 自分でやるンかねェ」


ふと浮かんだ疑問を呟きつつ、脱衣所からリビングにいる寝惚けた番外個体へと、


「番外個体ォ! これから洗濯するから今日は無理だァ!」


………………。



「無視……だとォ……?」

660 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 23:00:14.95 ID:3wCZGTLdo


取り敢えず洗濯機を回してからリビングに戻る。
今日は番外個体がいつもより早く起きてきたため、いつもなら必要のない朝食を準備する必要がある。
といっても何とも言えない微妙な時間帯であるため、重いものにすると昼食が食べられなくなったり時間が遅くなったりしかねない。
そうすると今度は夕食が、となってしまうので、何か小腹を満たす程度のもの、


「クレープとかならアイツも喜ぶかァ? そォいや昨日の残りの生クリームもあるし、チーズもあったか」


クレープ生地というのは何にでも合うものだ。小麦粉と牛乳、卵があれば簡単にできるので、何かと重宝する。
番外個体に教えておけば、一方通行が留守の時にも作って食べることができるかもしれない。
何も料理が出来ないのは将来的に困るだろうから、これを機会に少しずつ練習させるか。


「番外個体、やっぱりまだ洗濯して――」


寝ていた。


「ったく。寝るンならどォして早く起きてきたンだっつの」


こたつで寝てしまう、というのはこの気持ちよさを知っている者であれば分かるだろうが、よくあることである。
しかし実は風邪をひいたりしやすいため、部屋に一旦退却させるべく、起こそうと試みるも。
頭から毛布を被ってこたつに突っ伏すその寝顔は穏やかで、その気を完璧に封じ込まれた。
あまり暑いと寝にくいだろうからとこたつの設定温度を低くし、何気なく窓の外に目を向ける。


申し分のない快晴。
柔らかい日差しは雪を溶かし、春を迎えるのもそう遠くはないかもしれない。
661 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 23:03:54.47 ID:3wCZGTLdo


少女の意識はゆめうつつ。
夢か、それとも現実か。はっきりしないまま、曖昧にその狭間を彷徨う。


「何か焦げ臭ェぞ」


浅い浅い眠りは、夢と現実をごちゃ混ぜにして。


「一方通行!」


まるで昨夜の出来事を録画しておいたような一連の流れを映し出す。
しかし、それもそこまで。


夢の中の少女は、上着を脱いだ白い少年に抱きついていく。
ぼんやりとした意識は夢の中でしか素直になれず、お帰りなさい、ずっと待ってたんだよ。怖かった。そんな言葉を口にした。


――本当はこうして、彼の体温と香りを感じたかったのかもしれない。

――夜だって一人になるのは怖かった。一緒に寝させて欲しいと言えたらどんなに心強かっただろう。



あくせられーた。



無意識に、呟いていた。
しかし呼ばれた白い少年は既に彼女の近くには居らず、返事などあるわけがない。

そして直後、ぎにゃあ! と、尻尾を踏まれた猫のような叫び。
突っ伏していたこたつからずり落ちて、しかもその挙げ句、落下地点にあった箱ティッシュの角に頭を打ち付けた。
驚いて開いた瞳はみるみるうちに涙の膜に覆われていき、目覚めの一撃は効果抜群。


「何やってンだ、大丈夫か」


何が起きたか状況をいまいち掴めないで目をぱちくりとさせる少女に、夢でも何でもなく、声が掛けられた。
呆れと心配が入り交じったその声の主は対面式のキッチンからこちらを見ていて、手には白のコーヒーカップ。

少女がいつか買ってきたコーヒー豆は、毎日こうやって消費されていることを知り。
しかしまだ、好物のクレープがフライパンの上で優しい色合いを描いていることには気付かない。



何でもないよ。ただ、夢をみてただけ。
覚めちゃったのは少し惜しい気もするけど。……にゃーんてね。



そんな風に返してから、暖かな日差しを浴びて、眩しそうに目を細めた。

662 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/06(日) 23:07:02.88 ID:3wCZGTLdo
投下おわり
付き合ってくれた方、どうもありがとう

新約では巻頭絵でミサワさんのお色気がくるに決まってるよね

……べ、別に>>651をやるために専ブラ入れたとかじゃねーし!
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 23:08:52.81 ID:TgI7aeHr0
ぐああああああああ
ワーストかわいいいいいいいいいいい

1乙杉…
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 23:11:11.47 ID:uNrc8SxAO
>>662 超乙!
ソレばっかりはな…
一方さんの凶悪な顔の可能性もあるし

>>651 は色々ヤバかったww怖い…
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 23:13:03.19 ID:pUk7oKI0o
おつである。
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 23:16:21.22 ID:WMaE7tIFo
AAでクッソワロタwww


おつおつ
番外個体が可愛過ぎてやばい
それでもあえて芳川さんを応援させてもらうぜ!
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 23:23:53.05 ID:lPnvuY+AO
番外通行やべええぇぇぇぇぇーー!!!!!
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 23:41:38.77 ID:Ciu3NscAO
>>1乙!
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 00:39:22.37 ID:lBENlKfZ0
>>1乙!
番外通行超やべえ。可愛すぎるこいつら

え、これで完結って意味じゃないよね…?
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 00:45:46.95 ID:rhTD5/HAO
よかったぜ
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 00:56:09.09 ID:FTWnXziDO
芳川さんの色気と番外個体の可愛さに色々ヤバい
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 01:04:29.28 ID:4tFGfeh80
ミサカワースト可愛過ぎるよおおお
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 01:20:45.05 ID:9OydDlvvo
まさかAAで小便漏らすと思った時が来るとは
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 01:54:08.99 ID:ZFhLQ+96o
最近うしおととらの衾で耐性が付いた俺に隙はなかった
・・・一瞬で衾の事連想しちゃって今現在gkbr状態なんですけどね!
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 02:52:42.77 ID:QRS+Rf80o

芳川やっぱりエロいな
芳川は某化物とのクロスSSで幸せになってくれ

676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 09:27:16.71 ID:tDOGq5PAO
>>674
お前………窓の外…………
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 18:06:11.81 ID:2XDKJHqv0
>>1
GJ
まだお話は続くよね?
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/08(火) 23:19:38.12 ID:e/a8g1Iu0
これで終わりだっていうのか
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 23:20:18.58 ID:e/a8g1Iu0
これで終わりだって言うのか
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 23:30:51.54 ID:p5RAtZVAO
どこに最終回ってあったよ
なんなんだよ最近のこの多発具合はよ
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 00:53:57.61 ID:elk1mRkd0
すまない
好きなスレだとどうしても一抹の不安を覚えてしまうのだよ
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:39:50.88 ID:6hMYyNRl0
スレ主文章力ありすぎおつ
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 17:21:40.98 ID:klTlCn720
残念だったな
最終回というものがあったとしよう…
しかし、その後にも話を書く方法があるのだよ

そう、番外編だ

…あとはわかるな?
684 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/09(水) 17:27:41.67 ID:PKWCfLJK0
最終回
違う

毎回ながら、沢山のレスありがとう。これを励みに頑張らせて頂きます
まだもう少しお付き合い頂ければ嬉しいかも
次の投下はまだ未定だけどなるべく早めに頑張ります
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 17:35:49.04 ID:WENCtsVko
さぁ・・俺をwwktkさせてくれ!
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 20:16:19.89 ID:CV4RWJMwo
7スレ位はいくんじゃないか?

ここの>>1は出来る子
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 17:28:47.84 ID:bECPvMoo0
やっぱ番外通行スレで屈指の出来だわ
デレ期に入る前も入った後もレベル高すぎる
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/13(日) 00:24:13.40 ID:o5dld/Os0


――2月某日、とある昼下がりのファミレスにて


「麦のん、バレンタインはどうすんの? 例の人に渡す?」

「例の人……、って、あぁ、あのアホね。渡すっつったら渡すけど、アイテムの連中には全員渡すつもりだし。あとはミサカくらいかにゃーん?
 フランスかベルギー辺りから取り寄せるつもりだから期待してくれて良いわよ」

「これが、アイテム……」

「ミサカは第一位に何かあげるの?」

「んー。一応お世話になってるのもあるし作ろうかなって。あ、義理だよ義理チョコ。
 ひゃひゃ、唐辛子でも入れて驚かせてやろうかと思ってるとこ」

「と言いながらも第一位の為に一生懸命手作りしてしまう不器用ミサカなのでした」

「はあぁ!? 何言ってんの、手作りするのは唐辛子入れるためだし! 別に練習とかもしないもん!」

「練習なんて一言も言ってないんだけど。で? 何作るの? あの第一位のことだから、おっぱいチョコでも作ってやればむしゃぶりつくかもねぇ」

「お、おっぱいちょこなんてこのミサカには無理だよう。麦のんみたいに大きいならともかく、素が素なだけにさ。
 しかも吸い付かれたりしたら……、み、ミサカじゃ対応しきれないって」

「いやいや、そういうんじゃないっつの。ほら売ってるじゃない、形取ったやつ。チョコの他にプリンとかさ」

「あ、あぁそっち!? ミサカてっきり自分の胸にチョコかけてとかそういうのだと思ってたんだけど」

「アホか。つーか自分で言うのもアレだけど、デカくてもあんまり良いことないわよ。ジロジロ見られるし、肩凝るし。
 で、チョコだけど。簡単なもので定番っていえばトリュフよね。勿論簡単なの作るんでしょ?」

「トリュフとかは在り来たりだし、何かひとつどーん! 的なものを」

「……え? ごめん、もう一回」

「だから、どーん! とさぁ、何て言うか、ケーキ……? みたいな。ちまちましてるのは好きじゃないし」

689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/13(日) 00:29:12.14 ID:o5dld/Os0


「…………、」

「それにレシピ見ても超簡単とか書いてるし、ミサカはこれでも飲食店勤務だからさ」

「……関係ねえよ!! カァンケイねェェんだよォォォ!! 何が『好きじゃないし』だ、何が『超簡単』だ!!
 テメェみてぇな料理スキルレベル0なんざ、指一本動かすだけで100回失敗して怪我した挙げ句キッチン破壊するんだろうがぁッ!!」

「」ビクゥッ

「大体いい歳して料理も碌にできねぇってか!? 第三位(※体細胞クローンです)の名が泣くぞォッ!!」

「な、泣きたいのは名じゃなくてミサカの方なんだけど……」

「……はっ! ご、ごめん、でもミサカがあんまりにも身の程知らず、じゃなくてそうよねあれは天然! 天然な発言をしたものだからつい……」

「でも学園都市製のオーブンがあれb「スポンジの焦げる匂いでも嗅ぎながらオナニーしてるんだね」」

「……うぅ、だってあの人、甘いの好きじゃないし、だからチーズケーキ辺りならって思ったんだけど。
 どうせ渡すんなら食べれるものの方が、ほら無駄もないし。別にあの人の為にじゃないよ、ミサカチーズケーキ好きだってこと知ってるでしょ」

「……!」ズキューン

「でもやっぱりこのミサカにそんな技量はないよねぇ」

「あ、諦めるなんて駄目よ! これをきっかけに料理を始めればいいじゃない。流石に言い過ぎたわ。ごめんね、ミサカのこと見くびってたのよ。
 そうよね、トリュフなんてウサギの糞みてぇなもん貰うよりもケーキとかの方が嬉しいに決まってるし」

「む、麦のん……!」

「この私が色々教えてあげるから、一回練習でもしましょうか」

「……失敗したのを渡して無理矢理食べさせるっていうのも面白そうだけど、うん、お願いします」




「それはそうとミサカ、唐辛子入れるとか言ってたんじゃなかったかにゃーん?」ニヤニヤ

「す、ストロベリーソースに見せかけてタバスコかけるし」
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/13(日) 00:33:33.95 ID:o5dld/Os0
何してるんだろ……
本編にバレンタインは間に合いそうにありませんってことで何となく
近日中にもう一回くるから見掛けたらぬるく見守って欲しいかも

禁書の予告で一方さんが流血してたぁああああああああああ
楽しみすぐる
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/13(日) 00:42:37.51 ID:Ggz3j9RD0
なに この かわいい いきもの
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 00:44:52.08 ID:5LdG70YAO
取りあえず服は脱いだぞ
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 00:46:53.87 ID:P2T+sPR10
2レスで超萌えた

2期のここ2話は超良かった、特に一通さんの「打ち止めァ!」が聞けたこと

次回放映も投下も超楽しみだ
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 01:50:55.14 ID:F7fVZp0DO
>>692
まだ早い。風邪引くぞ
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 08:32:23.86 ID:MxrHb6GAO
かわいすぎんだろなにこれ
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 08:36:02.29 ID:Tpy5CP9Lo
ここまで一気に読んで小一時間寄生あげて悶えてた
朝っぱらから何やってんだ俺
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 14:50:06.27 ID:IMuvWASI0
ミサカがかわいすぎてやばい
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 15:54:11.68 ID:j7IWEPR60
番外個体マジ電気

可愛いよおおお
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 19:22:01.83 ID:3KNLfw530
可愛すぎるだろ本当に
つかすげぇ会話だなこれ
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 16:43:59.72 ID:/5IQrC+F0
番外個体のおっぱい…ゴクリ

セロリめっちゃ許すまじ!
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 19:09:26.06 ID:We8FbaXE0
>>700
えっ
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 21:41:32.63 ID:Yel3kqAZo
>>700

えっ      えっ
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/15(火) 00:26:45.90 ID:/k/vetWv0
>>700


えっ    えっ   えっ
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 00:35:50.60 ID:W2JAS6X30
>>700


えっ     えっ    えっ えっ
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 02:09:56.00 ID:Rw1okEd/0
>>700の人気に嫉妬wwww
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 13:43:37.38 ID:nS4rXEXAO
おっぱいにチョコ塗って舐められて
「オイオイ、下からもチョコが溢れてるぜェ?」
とか言われるわけですねわかります
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 17:42:34.64 ID:wzE0kj1do
>>706
何故か中尾彬で再生された
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/16(水) 19:35:03.64 ID:LdQaXC620
>>707
お前のせいで俺の頭でも再生された・・・orz
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 21:10:07.83 ID:U8mcnqCAO
>>708
大人のバレンタインですねわかります
710 :1 ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/16(水) 22:38:39.32 ID:vAIeVZSD0
レスありがとう、励みにがんばらせてもらいます

本家の番外個体を読み返すとやっぱり格が違うっていうかもうヤバイ
新約に期待だけどロリフレンダっぽいのが気になるかも

今週末に投下します。遅くなってるけど読んでくれてる方、本当にどうもありがとう
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 22:59:16.00 ID:QgONOMtIO
わたしまーつーわ
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 23:04:38.17 ID:BceYYZaMo
いつまでもいーつーわ
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/16(水) 23:12:08.33 ID:Fgyw2Mpdo
いーつまーでもまつわー
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 23:23:46.60 ID:U8mcnqCAO
待つわ/ミサワ
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 13:33:09.94 ID:0xcJ8ecL0
本家の番外通行が待ち遠い
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 21:47:58.22 ID:7zfAVvxio
じゃあ俺は元祖
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 05:57:20.92 ID:m/SfH2ZJ0
TENGAの方が届くのが速いか次の投下のが速いか...

は、はちきれるー
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 13:57:49.91 ID:cerjnfUfo
>>717
なにやっTENGA
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 20:47:57.71 ID:zuinyg7DO
>>718
いやお前がなに言っTENGA
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 20:53:29.34 ID:1z7L7i7Qo
下らんこと言っTENGAねーよwwww
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 21:43:50.66 ID:nFvgoUf1o
>>717
ネット上に汚TENGA残るぞー
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 00:35:38.89 ID:zUEN/k6AO
論TENGAずれてきてるぞ
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 09:42:25.59 ID:T/YL0j4DO
そろそろ二人の仲の進TENGA見たい
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 11:44:28.00 ID:xOye2CwPo
バカジャネーノ
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 15:40:24.81 ID:bz+oaudT0
そら言われるわ
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 15:28:42.30 ID:lk4P2qe90
ごもっとも
727 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/20(日) 21:50:28.85 ID:geff6/jb0
週末に投下するって言ったのに! この役立たずが!
ごめんなさい、明日の夜投下します

このお話ももう少しで完結できそうです
それまでお付き合い頂ければ幸いなんだよ!

>>723
了解了解
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 21:50:56.67 ID:36XJN4MBo
えー 終わっちゃうのー
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 22:19:14.14 ID:vDAzYVri0
やだー
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 23:43:06.02 ID:bfmbyt1to
完結して綺麗に泣きたい気持ちもある
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 00:04:59.93 ID:sOe4kG0AO
まだ続いてほしい気持ちもある
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 01:34:09.65 ID:TJVZdz1s0
このジレンマどうすればいいんだ
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 02:08:05.32 ID:LWjNENDao
始めようぜ!スレ立て!
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 16:46:28.23 ID:qd372NgO0
―――ここまでテンプレ―――
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 17:12:21.51 ID:17GdMYI1o
―――――これがナンプレ―――――

┏━┯━┯━┳━┯━┯━┳━┯━┯━┓
┃  │ 9│  ┃6 │ 3│  ┃  │7 │  ┃
┠─┼─┼─╂─┼─┼─╂─┼─┼─┨
┃  │ 6│  ┃  │4 │7 ┃  │5 │  ┃
┠─┼─┼─╂─┼─┼─╂─┼─┼─┨
┃ 7│ 4│ 3┃  │  │  ┃6 │ 1│8 ┃
┣━┿━┿━╋━┿━┿━╋━┿━┿━┫
┃  │  │  ┃ 4│  │6 ┃  │  │  ┃
┠─┼─┼─╂─┼─┼─╂─┼─┼─┨
┃ 4│  │ 6┃ 7│  │ 3┃  │  │1 ┃
┠─┼─┼─╂─┼─┼─╂─┼─┼─┨
┃  │ 3│  ┃  │  │  ┃  │6 │  ┃
┣━┿━┿━╋━┿━┿━╋━┿━┿━┫
┃  │  │ 8┃3 │7 │  ┃ 5│ 4│  ┃
┠─┼─┼─╂─┼─┼─╂─┼─┼─┨
┃ 3│  │4 ┃  │ 6│  ┃1 │  │7 ┃
┠─┼─┼─╂─┼─┼─╂─┼─┼─┨
┃  │ 7│  ┃  │2 │4 ┃  │3 │  ┃
┗━┷━┷━┻━┷━┷━┻━┷━┷━┛

736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 20:55:42.62 ID:P2ZOpCtso
アンサ―――

895 631 274
261 847 359
743 295 618

952 416 783
486 753 921
137 982 465

618 379 542
324 568 197
579 124 836
737 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:44:03.50 ID:drd2jubno


こんな人にも、血が通っているのだと思った。
殺されてきた『妹達』と同じように、この自分と同じように、普遍なそこらの人間共、ともすれば善人と同じように。


ロシアで、生まれてはじめて他人の手をとったとき。
一方通行の手を、握ったとき。


戦闘用の白いスーツ越しに伝わってきた熱い体温は、確かに彼に血が通っていることを示し。
一方通行が、人間に他ならないことを物語っていた。



笑いもするし、怒りもする。そして時には――泣いたりも、するのかもしれない。


(そんな、弱い人なんだ、あの人は)


なのに、自分を守ってくれて、自分なりの甘えにも応えてくれて。
本人に言っても苦い顔をされそうだが、その優しさが馬鹿みたいに心地良いのだ。


とくん、と。


番外個体には形容出来ない様な、不可解な痛みが身体を締め付けた。
内側から訴えられるちくちくとした痛みは、まるで見えない所を怪我でもしてしまったかの様で。

一度その痛みに気付いてしまうと、もう知らぬふりをする術など何処にも見つからない。

真っ白で線が細く、そしてそれとは対照的な血の如く緋い双眸を持つ学園都市の第一位。声が、表情が、身体が、体温が。
鮮明に浮かび上がって、その度に胸をざわつかせていく。


間接キス。
重なる身体。
直ぐ近くに感じる暖かみ。
握った手。


全部全部、あの人の、一方通行の、


738 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:45:16.62 ID:drd2jubno







がしゃん






739 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:46:45.03 ID:drd2jubno


「あ、」


手にしていた皿が砕け散る。
余計な絵柄の無いシンプルな白い皿は手からするりと滑り落ち、次の瞬間には不快な音を立てて無惨な残骸へと成り果てていた。
やってしまったとしゃがみ込み、十分な凶器にもなりうる鋭利な破片を拾い集める。
ノーブランドで何の変哲もない普通の皿で良かったものの、店の備品であることに変わりはない。
あとでマスターに謝りに行こうと思いつつ、皿を拭くという作業中にこの自分は何を考えていたのだろうと呆れ半分に溜息をついた。


皿が派手に割れるその時まで呆けるくらいに、一体、誰のことを。


「っ痛ぁ」


と、ざくりとした嫌な感触。
眉を寄せて痛みの走った右手を見ると、白く細い中指の先から中節にかけて、中々グロテスクな傷が走っている。
そこでやっと素手は良くないと気がついて、集中力の欠片もない自分を胸の内で罵った。

取り敢えず一度深呼吸をしようと思ったとき、音を聞きつけたのかバイトの少女が寄ってきた。
手には箒と塵取り。割れた白の皿の上にぽたぽたと点描の如く滴る血液を見て目を丸くする。


「うわ、ミサカさん大丈夫? 何か今日ずっとぼーっとしてたからどうしたのかなって思ってたんだけど……、それ、消毒した方が良いかもね」

「ありがと、こっちは絆創膏があれば大丈夫だと思うけど。救急箱、奥にあったかな」

「スタッフルームにあったよ。……ね、ミサカさんやっぱり変だよ。顔赤いし、熱でもあるんじゃない?」

「そ、そうかなぁ」


顔が赤い、と指摘されて不覚にも戸惑った。どうしてだろうと疑問に思う反面、少し前まで考えていたとある人物が脳裏をよぎる。


「うん、もしかして風邪引いてる? 熱あるかも。今日は週初めでお客さんもそんなにいないし、もうあがっちゃったら?」


ていうか正直なところ……、彼女はそう付け加えて、


「ミサカさんが居ないと結構困るんだよね、みんな何かとミサカさんから教えて貰いながらやってるし。
 だから今日はゆっくり身体休ませて、明日も元気に頑張ろう、みたいな。予約も無いし、たまには楽しちゃっても良いんじゃないかな」

740 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:48:35.00 ID:drd2jubno


というわけで、早退である。
右手中指には不格好な絆創膏。利き手でない左手での治療と染みそうだという理由で消毒はしていない。
店先の屋根の下で絆創膏のせいで動かしにくい中指を何となく眺めつつ、


「暫くやみそうにないし、仕方ないなぁ」


久しぶりの雨。
雪から変わったそれは、暦上ではもう数日ほど前に春を迎えているというのに酷く冷たく、何処からか聞こえる雷鳴と共に街を濡らしていた。

タクシーを呼ぶという手もあるし、近くのコンビニでビニールの安い傘を買うという手もある。
しかしどうもそんな気にはならず、何を血迷ったか雨の中を傘もないままに歩いて帰ることにした。

この悪天候と最終下校時刻を告げる音楽が数十分ほど前に鳴り響いたことが原因で、街を歩く学生の姿はほとんど見られない。
道沿いに並ぶ学生寮には灯りが点り、自炊派であろう何処かの学生の部屋から食欲をそそる良い匂いが漂ってきた。

時折路地裏から聞こえる怒号や下品な笑い声に興味を惹かれつつ、予想外の雨の冷たさから逃れるために家路を急ぐ。


あっという間に濡れ鼠になった、というのは言うまでもない。
髪はシャワーを浴びたかの如く水を滴らせ、服の中にまで水気が侵入してくる。べたべたと肌にまとわりつくそれが不快だ。


いつもより早い帰宅に一方通行は驚くだろうか。
ずぶ濡れのまま抱きついてやれば良い嫌がらせになるかもしれない。
そんな良からぬ悪戯を企てつつ、学生ばかりのこの街では少し珍しいクリーム色のマンションを見上げる。


雨天の中ではいつもの倍くらい遠く感じた、番外個体が帰ることのできる、唯一の場所。


エレベーターで5階を目指しながら、今朝チェックしてきた番組表を思い浮かべる。
この時間帯ならいつもは観れないゴールデンのバラエティーが放映されている筈だ。
今日はあの人と一緒に調子に乗っている芸人を冷やかして、それからどろどろした9時からの恋愛ドラマで笑って――

そんなことを考えながらたどり着いた部屋のドアを、


「……あれ?」


開かなかった。

741 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:49:59.40 ID:drd2jubno


「さっむう……」


家にいるはずの一方通行がいなかったせいで、ドアの前に閉め出される形でかれこれ10分程震えているのは勿論のこと番外個体である。
此処に越してきた一番最初の日に合鍵を作っていたものの、合鍵とは持ち歩かなければただの金属で。
詰まるところ、番外個体は合鍵を持ち歩く癖など持ち合わせていなかった。
しかも、


「こんな日に限って家に携帯置き忘れってか。ドジっ子キャラは可愛い子じゃないと寒いだけなんだっつの」


家を出る直前にでも玄関に置き忘れたのか、一方通行に連絡を入れる度に初期設定のままの着信音がドアの向こうから微かに聞こえてくるのである。


「……いや、可愛くない……わけでもないけど……、白いし、細いし、」

「だァれが白くて細いってェ?」

「んにゃあ!?」

「よォ濡れ鼠」


独りブツブツと言いながら首を傾げていところで、不意に頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でられた。
思わずおかしな声を出して頭上を見上げると、いつの間に戻ってきたのか片手に袋をぶら提げた真っ白な男が呆れたように見下ろしている。


「え、ちょ、えぇ!? ぜぜぜんぜん気付かなかったんだけど! ていうかあた頭ぐちゃぐちゃなるじゃんちょっとは考えろし!」


顔を僅かに赤くして抗議する番外個体を見て、まさかまた風邪でもひいたのかと少し不安を抱く一方通行。
しかし、しゃがんだまま器用にゲシゲシと弁慶の泣き所を集中的に攻めてくるところを見ると、どうやらそういうわけでもないらしい。


「いってェよボケ! つーかもォ十分ぐちゃぐちゃじゃねェか」

「うるさいうるさいそういう問題じゃねーし! っくしゅ!」

「ったく、鍵持って歩かねェと駄目だろォが。……悪ィな、コンビニ行ってたわ。いつから待ってた?」


部屋の中に足を踏み入れながら、一方通行がすまなさそうに言う。
番外個体は浸水したブーツを乾かす為に手で持って上がりつつ、


「そんなんでもないけど。10分くらいじゃないかなあ」

「この雨ン中歩いて帰ってきたのか。……あァそォだ、タオル取って風呂沸かしてから行くからヒーターつけてこたつ入っとけ」

「えー、ミサカ別に寒くないんだけど。おこたに入ってるだけで大丈夫だって」

「そンなンじゃ全然駄目だ。さっきもくしゃみしてたし、現に水も滴るイイ女になってンじゃねェか」

「あひゃひゃ、でしょでしょ?」

「つーことでお湯が溜まり次第風呂な」

「あーい」


けらけらと楽しそうに笑いながら、上手い具合に丸め込まれたことに彼女が気付くのはもう少し後になる。

742 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:51:32.99 ID:drd2jubno

こたつに入って久しぶりに身体を暖めていると、バスルームの方から遅れてやってきた一方通行の小言が聞こえてきた。
自分が携帯を玄関に置き忘れていったという失態をまるで無かったかのように、


「ったく、どォして傘もねェのに歩いてくるンだよ。雨をシャワーか何かと勘違いしてねェか。
 つーか早かったな、電話でもよこせば迎えに行ったのによォ」

「ん、何かね、風邪っぽいって言われてさあ。あ、それはただ相手が気遣ってくれただけっていうか、何ともないんだけど。
 ただ、ちょっとドジ踏んじゃって――」


と、そこで番外個体が口を噤む。
言えるわけがない。


(あーあーあー! なになに、あなたのこと考えるのに夢中になって皿割りましたってかぁああ!?
 言えない言えない、つーかそんなんじゃないし! だぁもう、何なんだよう)


ぶんぶんと頭を振って、うっかり口から飛び出しそうになった戯れ言を水滴と共に振り払う。
そうだ、こんなのは彼女のキャラではない。
一方通行を困らせて、その姿を見て腹をよじらせる。彼の嫌がることなら熟知しているし、それくらい楽勝だ。
だったら本来の自分を見せつけてやろうじゃないか。

これぞ『第三次製造計画』、番外個体の本気――ッ!


「ふにゅ」


――ものの一秒もしないうちに玉砕した。
だって仕方がないのだ、突如として真っ白でふわふわしたバスタオルに視界を奪われてしまっては、驚くことしかできまい。
743 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:53:06.66 ID:drd2jubno


何処からか拾ってきたずぶ濡れの子猫をふいてやるように、優しく、丁寧に。

一方通行がこうして番外個体に触れるときは大概そうだ。
傷付けぬように、壊さぬように。
それは第一位という大きすぎる力を持つが故、そして彼が大切にしているものを守るため。


子供扱いはあまり気に食わないな、と番外個体は思う。
打ち止めと呼ばれる少女に対する一方通行の扱いは正にそれで、あのくらいのお子様と自分が同じ様に扱われるのはいまいち腑に落ちない。
しかし反面、たまにはそれも良いものだと思ってしまうのも事実。
親に愛された経験はないものの、恵まれた子供はきっと、毎日こんな風にされているのだろう。正直少し、妬ましい。


濡れた髪の毛の水気はバスタオルに吸い取られて、

――詰まるところ、一方通行に劣らぬ白さのバスタオルでわしゃわしゃと髪を拭かれていた。


柔らかなバスタオルから香る、柔軟剤の香り。確かお日様の香りと一方通行が言っていた気がする。
いらぬ蘊蓄披露でダニの死骸の臭いなどと聞くこともあるが、それでも番外個体はこの優しい香りが好きだった。

けれど、そんな中で。
後ろの一方通行の匂いを妙に意識し、はっきりと感じ取ってしまうのだ。
頭に被せられたバスタオル越しに、意識せずとも。
何の香りだろうと番外個体はいつも思う。すれ違ったとき、近くに寄ったとき。ふわりと感じるそれは優しく甘く、彼女を落ち着かせる。

そして同時に、酷く切なくさせるのだ。


「番外個体」

「……ふえ」

「どォした、さっきから随分な気の抜けっぷりじゃねェか。
 ……つーかやっぱり早めに身体温めた方が良いかもな。つってもまだ風呂沸かねェし、あー……ココアとミルク、どっちが良い」

「……ん、ココア」


一方通行の気遣いに甘んじる。迷惑だとは分かっているが、それでも彼が嫌な顔ひとつしないものだから。
泥沼に足を突っ込んだかの如く、ずぶずぶ、ずるずると沈み込んでしまう。
そんな自分への不甲斐なさ、そして先程感じた切なさと息苦しさを誤魔化すために。
子供じみた要望。苦いのなら、不快に感じるくらいに、べたつくくらいに、


「甘くしてほしいな」

「相変わらずのお子様嗜好だなオマエ」


一方通行はそう言って唇の端を歪めると立ち上がる。
バスタオルを頭から被せられたままその場に残された番外個体は、拾われてきた猫みたいに身体を小さくしてぐしゅぐしゅ洟をすすった。



ミルクパンで沸々とココアを温める。
砂糖が一切入っていない純ココアは殆ど苦みしかなく、それに砂糖とコアントローで甘みと香りをつけていく。
カップに注いで泡立てたミルクをラテのように浮かべれば、それだけで世のガキ共も大喜びだ。
流石に番外個体はそれに釣られたりはしないだろうけれど。

そう思っていた時期が、一方通行にもありました。

744 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:54:04.55 ID:drd2jubno


「何これ、いつもよりすっげぇ豪華なんだけど! 凄い凄い、家でこんなのできるの!?」

「牛乳エアロチーノにかけりゃァ簡単だろォが……、って聞いちゃいねェ」


「えー、感覚共有? 良いけど味覚まではしてやれないなあ。ぎゃは、せいぜい指加咥えて無駄にクオリティの高いココア眺めてなよ!」


……何処ぞの名探偵と対照的に、見た目は大人でも中身はまだまだ生後数ヶ月だということを忘れてはいけない。此処は見逃してやるのが情けというものである。
そんな彼女はどうやらミサカネットワークに垂れ流すくらいの感銘を受けたらしい。
にしても無駄にクオリティが高いとは何事か。


『味覚の共有ないなら最初から感覚共有してんじゃねー自慢したいだけだろボケ野郎』

『なんとも出来の悪い妹です。たまには姉孝行ができないものでしょうか』

「な、なんだよう」


妹達から受ける負の感情に頭を少しくらつかせながら、番外個体はまだ熱いココアをちびちびと口にする。
ミルクの泡の層とココアの温度差に若干舌を火傷しながらも、冷えた身体はじんわりと暖まっていく。
所望通りの甘さと微かなオレンジの香り。


「……むう。美味しいけどこれじゃあミサカのメンツがないじゃんか。ミサカ何にも料理できないのにさあ」

「今のうちなら心配ねェだろォけどな。将来考えるとやっぱ女は料理のひとつくらいはできた方が良いだろォし、まァ少しずつ教えてやンよ」

「……うん」


けれど、たったこれっぽっちの甘さなんて。


「このミサカ、あなたが思ってる以上に甘党なのかもね」

745 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:55:18.06 ID:drd2jubno


雨に打たれてじっとりと湿った服を洗濯機に投げ入れ、バスルームへ足を踏み入れる。
シャワーでざっと身体を流してから、ゆっくりと湯船に浸かった。
ラベンダーの香りがする白いお湯が心地良くて、思わず目を細めてしまう。
足を伸ばすには少し狭いバスタブの中でぎりぎりまで沈み込むと、茶色の柔らかい髪が水面に浮かび、時折頬をくすぐった。
くわ、とあくびする。適温とラベンダーの香りが身体をほぐし、脱力しきった身体を動かすことすら酷く億劫だ。


『番外個体』

「にゃに……?」


ドアの向こうから自分を呼ぶ声。
気の抜けた間抜け声で何となく返事をしてから、その声の主が一方通行以外に考えられないことに気が付いた。
何故だかわたわたと焦って、妙にはっきり冴えた頭でお湯が大分ぬるくなっていることを知る。
どうやら知らぬ間に、うとうと微睡んでいたみたいだ。


「な、何? 今お風呂入ってるんだけど。裸だよ裸。ひゃひゃ、もしかして性欲持て余しちゃったクチかにゃーん?」


自分で言っておきながら、いつかの自慰行為を思い出して顔をしかめる。
そういえばあの時、果てる瞬間に浮かんだのは直ぐそこに確かに居る同居人だった。

なるべく考えないようにしていたことを不覚にも思い出してしまい、急に羞恥心が沸き起こる。


「あうぅ……」

『着替え、此処に置いておくからな。もォパジャマで良いだろ。あと風呂ン中で寝るンじゃねェぞ、最悪死ぬからよォ』

「わ、分かってるし。ミサカそんなに間抜けじゃないもんね」

『どォだか。さっきも怪しかった気がするけどなァ』


一方通行が喉の奥で笑っているのが分かる。見透かされているようで少し悔しいが、それでいて誰かに心配してもらえることは素直に嬉しい。
そう思えるようになったことは番外個体にとって大きな進歩といって良いだろう。
以前の彼女であれば、心配という名の愛情をヘドが出ると嫌悪し、自己満足だと嘲笑し、余計なお世話だと受け入れる以前に踏みにじっていただろうから。


「あーもう。ミサカも焼きが回ったなあ」

『何一人でブツブツ言ってンだ』

「独り言に突っ込むのは野暮ってやつだよ。……あ。雨、やんだ?」

『まだ暫くやみそうにねェな。明日も雨だと。あくまで予報だから当たる保証はねェけど』


湿気が多いと過ごしにくいったらねェなと一方通行が続けてぼやく。
何となく気になって聞いてみた問いの答えは、期待していたものとは正反対のものだった。
柄にもなく、晴天が見たいなどと思っていたのだが。


「そうだね。雨、早くやめば良いのにな」

746 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:56:17.31 ID:drd2jubno


「ふんふーんふん」


喋る相手がいなくなってしまった。
仕方なしに鼻歌を歌ってみたものの、CMで少し聴いただけで碌に知らない歌では面白みに欠ける。


「あーあ……」


なにが「あーあ」なんだろうと自分でも疑問に思う。
とにかくつまらないのだ。イライラするような、息苦しいような。それに加えて、憂鬱な倦怠感。
そんな気持ちの悪く不可解な感覚は、番外個体を酷く困惑させる。

将来。

一方通行が先程少し触れたその場所に、多分、自分は。


「あぁもう。あの人が変なこと言うからだよ。何が将来だっつの、ミサカ達にそんな明るいものはちっとも似合わないのにさ」


少しずつでも、一方通行が料理を教えてくれると言ってくれたのは嬉しかった。
彼の言うように、料理のひとつはできるようになっておいた方が身のためだろう。
けれど、それは。


(あくまで、どうなるかも分からない『将来』のため。あの人に甘んじなくとも、暮らしていけるようにするため)


つまりは、あまり考えたことのなかった一方通行との決別を表す。
それはまだずっと先のことかもしれないし、もしかすると一週間後かもしれないだけで、恐らく必然的にやってくる筈だ。

どうしたことか。
それはちっとも面白くなくて、できることなら、


(できることなら――、?)


長くぬるま湯に浸かっていたせいかもしれない。
すっかり逆上せてしまった頭では、自分が何を望んでいるのかすら分からなかった。

747 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:56:51.24 ID:drd2jubno


「ん、う……。さむう」


何故だろう。

暦上では疾うに春を迎えているとは言え、まだ2月も中旬、
体感的にはまだ冬だということをひしひしと感じるくらいに部屋が冷えていたからだろうか。
それとも前日の夜、睡魔に逆らえずにいつもより数時間早く床に就いたからだろうか。


それとも。
今日が、『今日』だからだろうか。


理由はともあれ、枕元を探って携帯を手繰り寄せ、時間を確かめるとまだ5時半。
いつもならまだどっぷりと眠りに浸かっている時間帯だが、今日は随分と早く目が覚めてしまった。
頭もはっきりしていて、人一倍朝に弱い番外個体にしては実に珍しい。
とにかく今日はもう眠れそうにない。髪を手櫛で整えつつ、身体を起こした。
彼女自身にあまり自覚はないのだが、同居人お墨付きの寝相の悪さでベッドの下に落とされた薄手の毛布を拾ってくるまる。


「さあって今日は……。何の日、だったかにゃーん?」


ガラステーブルの上に置かれた卓上カレンダー、本日の日付には赤いペンで丸印が控え目に。

748 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:57:45.21 ID:drd2jubno


(やっぱりなんか調子が狂ってるんだよねぇ。せめて『今日』はもっと、何ていうか、こう)


寝起きだから、というのは理由にならないだろう。

もやもやして、何かすっきりしなくて、時々妙に息苦しくなる。
ここ数日間はずっとそんな感じで、寝起きであろうがバイト中であろうが何ら変わりはないのだ。
自分のことなのに分からない。そんなもどかしさが番外個体を苛立たせ、陰鬱な気分にさせている。

しかし、かと思えば日常のありふれた些細なこと、


――例えば、『あの人』からおかえりと声をかけられた時。

――例えば、『あの人』と一緒にキッチンに立ったり、リビングでだらだらしている時。


そんな一時だけは、その全てを忘れて。陰鬱な気分など一転する。
楽しいのだ。彼と過ごすのは、時間の流れなどなくなってしまえば良いと思うくらいに。
けれどそれが過ぎてしまった後に残るのは、お馴染みになりつつある不可解な苦しさ。

そして。


(まただ。またどきどきしてる。やだなあ、あんまり良い気分じゃないんだよね、これ)


通常とは大分違う、やけに活発に鼓動する心臓。
胸がつまるような、息苦しさ。


(なんかの病気だったら面倒臭いなあ。でもまあ、此処には凄腕の医者もいるし)


一人でうんうんと頷いて、


「……暇」

749 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:58:34.38 ID:drd2jubno


外はうっすらと明るくなってきているものの、この街全体を見渡しても起きている者は少ないだろう。
普段は番外個体より早く起きている一方通行だって、早起きして学校に通う学生からみれば羨ましいご身分、つまりはまだまだ起きてはこない筈だ。


(もし起きてるとしたら随分な老体だよね。つーか今日顔合わせたら気付かれるかも)


基本的に鈍感な彼のことだから、恐らくそれは杞憂で終わるだろう。
けれど『今日』だけは、へまをするわけにはいかないのだ。
そのことを再確認してから、特に目的もなくミサカネットワークに繋いでみる。
少し暇を潰せればそれで良い。


(――と、ミサカ10039号は報告します)

(またですか、とミサカ14333号は呆れつつ、あの少年らしいと納得してしまいます)


どうやら早朝でもこのネットワークは盛況であるらしい。
どの『妹達』が何処にいるか。完全に把握しているわけではないが、少なくとも彼女達の大半は日本在住ではないようだ。


(なになに、何の話?)

(おや、あなたがこの時間に起きているとは珍しいですね、とミサカ18820号は驚きを露にします。
 日本ではまだ日も上っていない時間帯だったと思いますが)

(あなたもご存知でしょう、上条当麻の話をしていたのですよ、とミサカ11899号は新参の末っ子に教えてあげます)

(簡潔に言うとあの少年がラッキースケベのおまけ付きで道端で人助け、
 つまりはまたフラグを立てたのです、とミサカ10039号は昨日目撃した光景を懇切丁寧に説明します)


ちっとも懇切丁寧でない説明を受けつつ、そういえば妹達の中では例のツンツン頭が大の人気であることを思い出す。
あの少年は彼女達にとってヒーローであり、そして彼に特別な想いを寄せている個体だって少なくないはずだ。

その特別な想いとはどんなものなのだろう。定義などなくて、酷く曖昧で、輪郭がはっきりしない。
大切な人、一緒にいたい人、悲しまないでほしい人。
そんな相手に抱くものなのだろうか。

だとしたら、番外個体にとっての『あの人』とは。
彼女に何か特別な想いを抱かせているのは間違いないし、それは別におかしなことではないだろう。
殺し合って、一緒に暮らして、身体を重ねて、手を繋いで、そんな相手は最早ただの知り合いでないのは明白だ。

それでは。特別な想いの、本質とは。


(――それよりも皆さん、とミサカは話題を逸らします)

答えを探ろうとしてまた、もやもやと釈然としない思いに思考を邪魔されていたとき。
学園都市在住の早起き組、検体番号10039号の言葉が頭の中に響いた。


(『今日』が何の日か覚えていますね、とミサカ10039号は数日前の会話を確認します)

(もちろんです。『アレ』ですね、とミサカ10050号は勿体振ります)

(ええ、ミサカ達が初めて経験する聖なる日です)

(こちらの国ではその様な文化はあまり馴染みがありませんが、このミサカも数日前から楽しみにしていたと、ミサカ10063号は胸中を明かします)

(遠距離のライバル達を内心で笑いつつ、ここは敢えて発送の準備はできていますか、とミサカ10039号は問いましょう。


 ――今日、2月14日はバレンタインデーですよ、とミサカ10039号はやや緊張した面持ちで宣言します)
750 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:59:11.37 ID:drd2jubno


――――――――


「それじゃあ、行ってくるけど」

「おう、帰りとか何かあったら呼べよ。昼は――」

「大丈夫だってば」


玄関前で過保護っぷりを発揮する一方通行に、呆れ半分に返す。
現在、10時少し過ぎ。普段なら番外個体は疎か、一方通行だって寝ている時間だ。
何故そんな二人がこの時間に玄関前で会話しているかというと、


「しっかし、丸一日バイトなンざ大丈夫なのかよ。ずっと立ちっぱだろォ?」


と、まあ“表上は”こんな感じである。
実際は午前からバイトどころか普段通りである午後のバイトすらないのだが。


(ひゃひゃ、後からネタバレするにしてもミサカの良心が泣いてるよ。
 だから起きなくて良いって言ったのに。そしたら騙されてるこの人見て笑ってやったのにさ)


そう、一方通行には悪いが、もう少し騙されて頂く。

2月14日、バレンタイン。

この日、番外個体は小さなサプライズを用意していた。
そのことに勘づかれるわけにはいかないのだ。
しかし、少しだけ。相手が鈍感だからこそ。


「ね、今日ってバレンタインらしいけど」

「そォいやァ煩くやってたなァそこら辺でも」

「……チョコとか欲しい? ひゃひゃ、人間関係に疎いあなたのことだから貰えたとしても黄泉川周辺くらいだとは思うけど」

「いらねェよ、甘ェモン貰ったところで好きじゃねェし」

「可愛くないヤツ。じゃ、帰ってくるのはいつもより早い予定だから」


そう告げて歩き出す。
いやらしくそわそわと女の子からのチョコレートを待つような人でなかったことは喜ぶべきか。
そうでなければサプライズの存在に気付かれていたかもしれない。
けれど気掛かりなのは、日本では恒例となった行事を否定したこである。


(いらないなんてホント嫌なヤツ。折角このミサカが手作りしてやるのにさあ。何なら死ぬほど甘くしてやろうかにゃーん)


一方通行のことだから、食べて欲しいと言えば無理にでも食べるだろう。
ならば本気で砂糖まみれ、拷問紛いの糖分地獄を味あわせてやるのも面白いかもしれない。

――なんていうのは、所詮ただの強がりに過ぎず。


「……どうするかなあ」


実のところ、迷いが生じていた。
本日のサプライズ、その下準備の段階で既に暗雲が垂れ込める。
小さく溜息をついたとき、


「ミサカ、おはよう。ちゃんと起きてるかしら?」


人生の大先輩、原子崩しこと麦野沈利の声が後ろから聞こえてきた。
751 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 22:59:42.50 ID:drd2jubno


「いらねェよ、だよ? 敢えて聞いてやったのにさあ。いくら鈍感っていっても少しは何か思う筈だよ普通」

「男なんてそんなモンでしょ。第一位なんて特にそれっぽいっていうか、基本そういうことに興味なさそうじゃない」


陳列棚に並べられた商品を手にとって吟味する麦野。
そんな彼女の後ろをついて歩くのは、お世話にも明るいとは言い難い表情をしている番外個体だ。
麦野御用達だという、普段は縁のなさそうなランクの高いスーパーに連れてきて貰ったものの、カゴを両手で持って何とも苦い顔をしている。


「んー、やっぱり質の良い材料使った方が出来も良いだろうけど。ミサカにお任せするわ。
 そうそう、ラッピングも買わなきゃね。……聞いてる? アンタもさ、」


何故朝から二人で買い物してしるかというと、麦野の言葉からわかるようにこれから『お菓子作り』をするためである。
実はサプライズとはこのことで、在り来たりかもしれないが


「世の恋する乙女同様バレンタインのお菓子作り頑張るんでしょ? テンション上げてかないと」


……在り来たりかもしれないが、バレンタインということで手作りの菓子を渡す予定なのだ。
相手は勿論一方通行。麦野が先ほど言った言葉に殆ど間違いはないのだが、


「恋する乙女同様っていうのは当てはまらないけれど。
 ミサカはただ、ミサカでもそれくらい出来るっていうことを証明してやるのと、1割くらいはお世話になってる感謝の気持ちだし」


どうやら番外個体的には納得いかない部分があったらしい。
それ以前に、と付け加えて、


「……あの人に渡したところで喜んで貰えるかどうか」

「ミサカって意外とネガティブ? 喜ばないはずないでしょ、ミサカが一生懸命作るんだもの。練習だってしたじゃない」


喜ぶを通り越して興奮しちゃうかもね、と言いたいところだがぐっと堪える。
番外個体に対する一方通行の気持ちを知っている身としては、そのことを明かし、彼女が抱いているであろう懸念事項は杞憂だと教えてやりたいのも山々だ。

しかし、それは麦野の役ではない。


(そんなことしたって、きっとこの子も第一位も納得しない。第三者が出しゃばるところじゃないのよね。……あーもどかしい)


他人のことながら彼女達の微妙な関係に歯痒い思いをする麦野であった。

752 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 23:00:26.94 ID:drd2jubno


いらねェよを撤回させてやろう!

いつの間にかそんなノリになっていた。

作るつもりで少し前から練習していたチーズケーキは、諄くないように甘さ控え目な、さっぱりしたものにするつもりだ。
そうすれば甘いものを食べない一方通行でもすんなり食べられるかもしれないという、番外個体も似合わないと自覚している気遣い。
しかし、まだまだそれには程遠く。
キッチン設備が充実している麦野のマンションに、番外個体の叫び声が響く。


「うぁあ!? 一気にどばっと入れちゃったあ! どどどうしよう麦のん、これってヤバい!?」

「大丈夫だから焦んな。二次災害が起きるでしょうが」


もう嫌だとか、何でレシピ通りにいかないのボウルのせいだとか。ともかく泣き言が多い。
しかも実は一度分量で致命的なミスを犯したが為にこれが二度目の挑戦だったりもする。
それにしては一度目の失敗を活かせていない気がしなくもないのだが、そんな番外個体の表情は、朝とは打って変わって明るいものだ。


『じゃあ、「いらない」って言ったのを取り消させるように頑張りましょう』


そんな麦野の言葉に、怪しいくらいあっさり乗った番外個体。
半ばヤケクソ、そして残り半分は“無理”や“空元気”とでもいったところか。


迷惑がられないだろうか、受け取って貰えるだろうかという懸念。
そして、最近感じることが多くなった苦しさ、胸の痛み。原因不明なそれに対する不快感。


本当は、今こうして騒がしくしている間もずっと。
誤魔化せているようで、けれどちっともそんなことはなかった。
せめて、外からは気付かれないように、普段通りに。
753 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 23:00:53.17 ID:drd2jubno


「……認めちゃえば少しは楽になるんじゃない?」

「……、え?」


だから、やっとオーブンに入れたチーズケーキが焼けるのを心待ちにしていたとき、麦野にそう言われたのは驚いた。

楽になる。

麦野がそう言うということは、外の目すら誤魔化せなかったということだろうか。
だとしたら自分に女優の素質はないな、と場違いなことが頭に浮かぶ。


「分かんないなあ。認める? 何を?」


誤魔化して、装って。

笑ってみる。
ここ数ヶ月で自然な笑顔を浮かべられるようになったはずだったのに。一方通行からも大分変わったと言われた筈なのに。
……久しぶりに、人を不快にする歪んだものになっていたかもしれない。


「別にミサカは何にも――。楽になる、認める以前に心当たりが全然ないし」

「そのわりには随分と強張った顔していたけどね。もう少し自分に素直になれば良いのに。そんなに気になるの? ……第一位のこと」


第一位。白く白く、どこまでも真っ白な。
暗闇の中で傷ついて、それでも自分達を守ってくれる。
そんな男のことを考えると、胸の辺りがまた、ぎゅうぎゅうと締め付けられるのだ。

754 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 23:01:25.39 ID:drd2jubno


暫しの沈黙。
麦野が淹れた紅茶から立ち上がる湯気がゆらゆらと、番外個体の心情を映し出すかのように揺れながら、空気に混ざっていく。

やがてぽつりと呟かれた声は、弱く、震え、消え入ってしまいそうな。番外個体の本心だった。


「……、本当に分からないんだよね。ミサカが感じるこの痛みも、苦しみも、何もかも」


分からない。
だからこそ、辛い。


「麦のんは認めてしまえば楽になるって言うけれど。……確かにその通り、なのかなぁ。感覚的には何となく分かるんだよね。
 ……でも、何を認めれば良いのか分からない」


何を認めるか。形の無いモノをどうやって。
未知の感覚に囚われる少女の瞳が不安げに揺れ、それを見た麦野が口を開く。


「認めるっていうのは、――」


755 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 23:02:15.88 ID:drd2jubno


――結局、分からなかった。
あの後、一瞬何かを言いかけた麦野は慌てたように口を噤み、


「すっきりしないなぁ……」


結果、こうして番外個体を消化不良に陥れていた。
丁度学生の下校時刻と重なっているせいか、昼間より賑わう帰り道を頭を捻りながら一人で歩く。
初めてにしては上出来と麦野から評価を貰ったチーズケーキは、ケーキ屋で買ったときと同じように箱に入って両手で抱えられている。


これを、一方通行に渡すのだ。
柄にもなく、バレンタインだから頑張りましたとでも言えばいいのか。
それとも、あなたの為に甘さ控えめなものをわざわざ練習期間を設けてまで作りましたとでも。


(どうしようどうしよう、もういっそのこと渡さないで食べちゃうっていうのも手だよねぇ)


折角の努力を自らの腹の内に納めようと一瞬本気で考える。
大勢で食べるわけではないことと素人の手作りであることを考慮して、5号と少し小さめにしたチーズケーキが入った箱に視線を落とし、
どうやって渡すか、それとも先程浮かんだ名案を実行に移すかということを悩んでいるうちに、


「……もう此処まで来ちゃったなんて……」


目の前に聳え立つ住み慣れたマンション。
魔王の潜むダンジョンに挑む勇者は、こんな思いで足を踏み入れるのだろうか。

756 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 23:02:55.17 ID:drd2jubno


(どうする!? 全然思い付かないし!
 投げつけて……、面白そうだけどそれじゃあバラエティーになっちゃうって)


のろのろと、わざわざ住みはじめてから初めて使う階段を登り、
部屋のある5階に着いてからは二歩進んで一歩下がるするという面倒かつ奇怪なことをしたにも関わらず。
結局名案は何一つとして浮かばず、やけに威圧感を感じる、辿り着いてしまった表札のないドアの前で番外個体は唸っていた。


「うーん、えっと……。あげる、で良いかなぁ? いやいやそれじゃあ……」


時間が刻々と過ぎていく。
同じ階に住む住人に不思議そうな顔をされたりしているうちに、


「ええいもうどうでもいい! ばかばか第一位のインポ早漏野郎!」


……こういうのを何というのだろう。
逆ギレか、ヤケクソか、緊張と焦りによって正常な思考回路がショートしたのかもしれない。
しかし問題はそこではなくて、


「ふっざけンなクソボケェェェエエエエエ!」


ご近所さんへの配慮が全く感じられない怒号とばたばたという足音と共に、ものの五秒も待たないで鬼のような形相をした一方通行が飛び出してきた。


757 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 23:03:29.68 ID:drd2jubno


――――――――


「な、泣くなよう。大丈夫、事実じゃないのはこのミサカが一番知ってるもん」

「もォお天道様のもとに出らンねェ……」

「ごめんって。常にギンギンの長距離選手だかもんねyour sonは」

「フォローのつもりなら培養機ン中から出直してきやがれ。
 つーか俺の生殖器がどォこォって問題じゃねェンだよ! 後ろ指を指されンだろォよ今まで以上によォ!」

「せ、生殖器とかやめてよ生々しい。何か卑猥だよ?」

「オマエが言うかよ……」


すっかり意気消沈した一方通行。
ちなみに彼の名誉のために言っておくと、番外個体の放った言葉は全くの事実無根である。
ともあれ、ケーキを渡すタイミングを完璧に逃してしまった。
未だに後ろ手で寂しい思いをしているそれと携帯で不動産サイトを漁っている一方通行を交互に見比べ、


「……本当にごめんね、引っ越し費用ならミサカが出すからさあ」


結構本気で後悔、へこんでいるらしい。


「あー……」


となると肩身が狭い気になってくるのは一方通行の方である。
相変わらず突っ立ったままの番外個体を見ていると何だかもうどうでもよくなってきて、


「まァあれだ、気にしてねェよ。仮にも第一位だ、ンなこと痛くも痒くもねェし。
 ほら、働きっぱなしで疲れるだろォから座ってコーヒーでも飲もうぜ」

「あ、待って!」

立ち上がろと腰を上げた一方通行を引き留める。
今の今まで普通に話せていたのに、いざとなると顔を見るどころかまともに言葉を発することすらままならない。

「あ、あのバレ、バレンタ、」

「何言ってンだァ?」


顔が火照ってくるのがよく分かる。
一方通行が怪訝な顔でこちらを見ていて、どくどくと心臓が脈打った。
まともな判断ができなくなる。考えて、しかし纏まらなかった案が吹っ飛んでいく。

758 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 23:04:34.04 ID:drd2jubno


「――ッ、これ、」


ずいっと、見かけもなにも考えられないままに。
片手で差し出してから、折角渡すのだから両手でしっかり渡せば良かったと後悔の波が押し寄せてきた。


「……あァ?」

「ば、ばれんたいんのなんだけど。……それくらい気付いても良いんじゃないかなあ!?」


依然としてきょとんとした顔付きの一方通行。相変わらず鈍いというか、疎いというか。
しかしそのお陰か緊張も少し薄れて、


「ね、開けてみて」


一方通行とこたつを挟み、箱を開く彼の白い指を見つめる。
緊張。練習までしたそれは、彼のお気に召すだろうか。


「――へェ、チーズケーキか」

「うん。ミサカが作ったんだよ」

「……、はァア?」

「だからね、このミサカが――」

759 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 23:05:38.54 ID:drd2jubno


「なン……だと? オイオイ、どォなってやがる」


一方通行がチーズケーキをまじまじと見据えて、その驚く様は予想はできていたがそれでも失礼というか。


「その反応はムカつくなぁ。労りの言葉が出てきても良さそうなものだけど。……あのねね、チーズケーキってコーヒーとも合うんだって」

「そりゃァ有能なヤツじゃねェか。ンじゃあちょとコーヒー淹れてェ、オマエは切り分けるくらいならできンだろ」

「え? い、今食べるの? ……ていうか、食べてくれるんだね。無理なんてしなくても良いんだけど。
 ミサカ的には頑張っちゃうあなたを見るのも面白そうだとは思うけどさ、ひゃひゃ」


精一杯の虚勢を張る。
本当は、こんなことが言いたいのではないのに。痛いくらいの優しさでも何でも良いから、食べると言ってくれただけで十分だったのに。
そうやって肩を落としているところへ、


「あいたぁっ!」


デコピンされた。
たかがデコピン、然れどデコピン。学園都市の第一位から食らったそれは、序列相応の威力を秘めていた。
番外個体は想定外の襲撃に目を丸くしておでこを押さえつつ、


「な、何すんだマジで!」

「あァごめェン、手が滑ったわァ」

「白々しいよ馬鹿じゃない? あー痛い、ちょー痛いなあ」

「うるせェよ、良いから黙って切り分けやがれってンだ。オマエが作ったンだろ? 食わねェわけにはいかねェだろォが」


ここに来てようやく、番外個体はデコピンの意味を理解した。
義理立てのためでも、苦しくなるだけの優しさとも違って、食べたいから食べるのだ。
口下手な一方通行が、それでも伝えるために行為に表したそのことを、


(嬉しくないはず、ないじゃん)



心臓が、脈打った。

760 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 23:06:11.93 ID:drd2jubno


正直なところ、コーヒーの良さというのが番外個体にはよく分からない。
だから口に含んだ最初の一口をどうにかして飲み込んでから、


「うっへぇ、にがあ! なんか泥水飲んでるみたいなんだけど」


豆を挽いてまでして淹れた本人の目の前で、思い切り顔をしかめてみせた。


「だァから牛乳と砂糖入れてカフェオレにしてやるかって聞いたじゃねェかよ!」

「だ、だってこんなのとは……、あなたがいっつも飲んでるから余程のものかと期待してたんだけどなぁ」


失礼極まりない番外個体はスティックシュガーを2本さらさらと投入する。
その間に、彼女手作りのケーキが乗った小皿を一方通行が持ち上げ、


「あぁ!?」


何の躊躇いもなしに、フォークで口へと運んでしまった。
わなわなと番外個体が震える。
うまくコーヒーの方へ意識を逸らすことができたと思っていたのだが、一方通行はそんなことお構いなしに。
もう少し前振りや何かがあっても良いのではないかと思うのと同時に、どんなことを言われるのだろうかと考えると緊張で喉が干上がった。


「……ン、」

「ど、どう……、かなぁ?」


声が震えて、心臓が喧しくて、自分でも気づかないうちに泣きそうな表情になって、


「……うめェ。すげェよ、やればできンじゃねェか」

「うぇ、ほんと……?」


一方通行の言葉を聞いたとき、不覚にも。

761 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 23:07:46.68 ID:drd2jubno


「な、泣いてンじゃねェよオイ!」

「泣いて、ないし……っ! コーヒーが苦すぎなんだよう、ミサカは、別に、」


ぽろぽろと涙を零す番外個体を見て、一方通行が狼狽する。
まさか何処ぞの料理レポーターのように、比喩でも用いてもっと気の利いたことを言えば良かったのだろうか。
本当に美味しかった。この一言に尽きるのだが、彼女がそれを望むというのなら。


「マジで旨かった、脱帽だわ。えェと、あれだ。なンつーかすっげェ、」

「……ひゃひゃ、ぶっひゃ」

「チーズがァ……、あァ?」

「あひゃひゃひゃひゃ! もう良いよ、下手くそなことをあなたが言っても似合わない!
 そんなことはプロに任せておきなよ。ミサカあなたが味の玉手箱とか言っちゃうの想像しただけで死んじゃいそう、ぎゃはは!」


涙を零しながら、それでも番外個体は笑っていた。
嬉しくて、必死に上手いことを言おうとする一方通行が滑稽で、そして。



誤魔化していたモノに、気付いてしまったのだ。
旨いと言って表情を緩めた一方通行を見て、確信してしまったのだ。
今まで彼と過ごしてきた日々と今日まで常に感じていた優しさを思い出し、ああ、と。


、、、、
認めてしまったのだ。



今まであり得ないと一蹴してきたそのことを。
面白すぎて、似合わなすぎて、筋違いすぎて笑えてくる。



(ああ、このミサカは――、)


762 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/02/21(月) 23:08:36.50 ID:drd2jubno





あなたのことが、好きなんだね。

この苦しみも、心臓がぎゅうぎゅう痛くなって速さが増すのも、花畑に嫉妬したのも、あなたと居られる嬉しさも。

全部全部、あなたのことが大好きだからなんだ。





763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 23:11:37.94 ID:drd2jubn0
取り敢えず凄く駆け足投下
誤字脱字あったらごめん

嬉しいレスたくさんありがとう、凄く嬉しい
次回投下は次こそ早くこれるようにがんばるーおやすみ
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 23:12:17.15 ID:PFAHNMaMo
おつ
で良いのかどうか分からんが乙
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 23:17:32.02 ID:Nmmi8/mzo
おつ
で多分良いとおもうよ乙
766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 23:19:57.32 ID:LWjNENDao
うおおおおおおつうううつ!!
二人が可愛過ぎてつらい
恋する乙女の描写うますぎだろ
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 23:28:22.75 ID:qjclUpA20
おつ!そろそろ終わりそうで悲しくなってきた…
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [you.m1@miyazaki-catv.ne.jp]:2011/02/21(月) 23:53:03.86 ID:9F8mZufe0
乙!もう胸がものすごいしめつけられるわ…
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 00:07:32.63 ID:u0shrQFk0
おつ
会話の流れと憎まれ口がほんと素敵
770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 00:14:58.80 ID:dP4GRDvV0
乙!!
ミサワの反応かわいすぎだろ
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 01:27:37.56 ID:VD10kgeR0
おつ
でいいんだよね超乙

ミサカ可愛い…! やばい。ミサワ株がストップ高やで。キュンキュン来る
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/22(火) 01:42:18.80 ID:qhftDdlz0
可愛すぎてもう死にそう
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 01:46:25.66 ID:67Iw1HpAO
あっちでもこっちでも番外通行可愛いようわぁあああぁぁぁぁぁ乙であったぁぁぁぁぁぁ!
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/22(火) 02:02:15.74 ID:q9q99V2/0
死ぬわもう可愛すぎて
俺のことを萌え[ピーーー]気だなスレ主は
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 09:02:56.03 ID:q6gp1CSAO
インポ早漏野郎かわいいよおおおお


……そういやこいつらのお隣さん絹旗だったよな。
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 16:12:59.46 ID:FdZH+Laeo
いつから番外個体は下ネタいうキャラが定着したんだ。むぎのんと被ってるぞ
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 16:21:25.66 ID:SlHEdwbso
ド汚ねェ言葉をどンどンソフトにしてってたら下ネタになってったンじゃねェの?
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 21:49:50.50 ID:91K2I1hk0
はぁやばすぎる。乙過ぎる。番外個体がかわいすぎて息するのが辛い。
そういや隣が絹旗とか、俺は絹旗派とか、そんなのどうでもいい。もう俺と結婚してくれ>>1
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 00:33:15.55 ID:AvM1/5zZo
キュンッてなった

780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 01:42:21.01 ID:RSZMhhaIO
>>1おつおつ。
なんだなんだよなんですかーこの絶妙な距離感は
確かに言われて見れば駆け足な気もするけど読み応え半端なかったですの
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 08:45:43.99 ID:MTCqQ53AO
おつ!
今回の投下にはやられた
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 12:40:36.67 ID:e5XjzPlDO
時々語尾が、〜よう。ってなるのが可愛いよな
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 01:38:20.95 ID:xBOrEG62o
おつ!切なさで泣けてくる
ここに来るたび触発されて番外SS書きたくなるわ
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 08:13:24.46 ID:4YvzTiYQ0
おつ!
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/27(日) 19:58:05.65 ID:Mf9n2afX0
>>783
書いてみりゃァいいじゃねェか、全力で応援してやっからよォ
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 20:52:16.27 ID:86KZkUBAO
来たのかと思った
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/28(月) 00:12:35.09 ID:FllVfUs70
来てないな
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 00:24:54.80 ID:9ryUoEoDO
>>776
「ミサカ、理不尽な状況にいろんな所が勃っちゃいそう!」←公式台詞
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 23:16:31.13 ID:LluMYAjn0
>>783
youスレ立てちゃいなyou
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 02:10:57.21 ID:gVh4/WGDO
>>1来ないな
これぐらい遅いのってよくあること?
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 08:04:12.64 ID:Xr1pmZwDO
一週間程度ならよくある事
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/01(火) 20:56:53.99 ID:lWoh7to80
>>790
あんま急かすとワーストさんにこの早漏インポ野郎☆って笑われちゃうZE☆
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 21:00:09.55 ID:gVh4/WGDO
OKずっとまってる
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 00:33:43.85 ID:0tzYS4Llo
>>792
むしろもっと言ってくれハァハァ
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 18:38:02.80 ID:JJ0HQLRA0
ロマン溢れること閃いたから聞いてくれ
まず御坂妹を用意するじゃん?
んで色々罵ったりして負の感情与えまくるじゃん?
これで口調も合わせたら簡単にワーストさん作れんじゃね?
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 18:50:29.34 ID:WaIcHvpTo
なるほどわからん
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 19:30:55.99 ID:G8onYq7i0
>>795
そうすると風斬みたいなワーストができるとみた
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 20:14:05.32 ID:fgI2U6jv0
10033号みたいになる可能性もある

まぁそれで疑似ワースト作ったところでお前には靡かないけどな
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 01:53:05.79 ID:UwpI6H17o
>>795
>ロマン溢れること閃いたから聞いてくれ
>まず御坂妹を用意するじゃん?
>んで色々罵ったりして負の感情与えまくるじゃん?

打ち止め経由で白い悪魔に報告が行きました
ご愁傷さまです
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 03:55:36.11 ID:mq5IAYsb0
>>799
ハハッそんなジョークry…おや…誰か来たようだ
801 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 00:33:19.09 ID:kgKpUzPQo

こんばんは
沢山のレスありがとう、遅くなって申し訳ない

期待に添えるかは分かりませんが、投下してくよー
802 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 00:36:05.57 ID:kgKpUzPQo

(これはアレか、避けられてるってヤツなのか)


本日の名前頭文字占い。
能力名、『アクセラレータ』のあ行はというと、


(ビリ。何もかも上手くいかねェ日。怖ェ顔してっとラッキーも逃げていきまァす。
 たまには思い切り笑ってみよう、……舐めてンのかクソボケ)


思い出しただけで胸糞が悪くなる。
おまけにラッキーアイテムとやらブドウ糖ときたものだ。こまでして自分を否定するのか。
糖分を致死量級に飲み込んでニコニコ笑いながら死ねとでも。


「だーちくしょう」


目の前にあるものを蹴り飛ばしてやりたい気分。
このむかっ腹を収めるには、八つ当たりという野蛮な行為が一番効果的なのだろう。しかし彼が現在いる場所が場所だ。


「ご試食どうぞー」


『毎日が特売』。
そんなコンセプトのもと、赤字覚悟で営業している神聖な場所を誰か汚すことができよう。
そんな無礼者は、度々現れては試食品を食い荒らしていく白いシスターだけで十分だ。

話が逸れてしまったが、一方通行は釈然としない思いでいた。
といっても先程挙げた占いに対してではない。
これはあくまでオプションにすぎず、全く信じていない占いというものが微妙な感じで当たっていたから余計にムカつくのだ。

例えば、ラッキーが逃げていく。とか。


……なんとなく。
番外個体という、一緒に暮らす少女に避けられている気がする。


(まァ占いどォこォの話じゃねェな、別に今日始まったわけじゃねェ)


そう、占いに当てはまる部分があると言えなくもないのだが、今日いきなり態度が変わったというわけではない。
考えてみると、一週間くらい前か。
丁度バレンタインが過ぎた辺りからだったと思う。
他人行儀というか、以前に比べて会話も少なくなった。
今日みたいに買い物に来るときだってそうだ。
バイトまで余裕があるときはぴょこぴょこと着いてきたりもしていたが、最近はそれもなくなった。

それが本来在るべき二人の姿。
そう言われてしまうと反撃することもできないし、寧ろ妥当なのかもしれないとさえ思ってしまう。


仕方がないのだ。
結局この思いなど、一方通行でしかないのだから。

803 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 00:37:32.40 ID:kgKpUzPQo


「あ、たまごかな」


一方通行がスーパーに買い物に行っている間、番外個体はバイトの準備をしていた。
エプロンなど必要なものを詰め込んだバイト用のトートバッグを除き込み、忘れ物がないことを確認。
それからバイト中に腹が空かないようにと、自覚なしの親切を施していった一方通行が準備したサンドイッチを頬張る。
一口サイズの可愛らしいそれは、この家ではすっかり馴染みの深い一品だ。


「買い物、明日は一緒に行こうかな」


それ以前に明日も彼は自分を誘ってくれるだろうか。
そんな疑問が頭に浮かぶ。
そう思うのは理由があるからで、


(最近あの人とまともに喋ってないからなあ。けけけ、いつも以上に感じ悪くみられてるかもね)


……直視も何も、できたもんじゃない。
必然的にというか、そうなってしまうことを回避できないというか。
結果、避けるような形になってしまっていた。


(だって、だって、)


番外個体は下唇を噛む。


好き、だから。気付いてしまい、認めてしまったから。


少し前まで感じていた釈然としない感情の正体は正しくそれで。
解らないことに対する苛立ちも苦しみも、それなりに緩和された。
しかし、だからといってあとは問題無し、ただ突っ走れば良いだけかと聞かれれば、



――違う。

804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/05(土) 00:39:19.38 ID:Zr0OYT4so
見てます
805 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 00:39:21.71 ID:kgKpUzPQo

依然として胸は締め付けられて、心臓はどくどくと早鐘を打ち、醜い独占欲に身体を支配されて堪らなくなるのだ。
一方通行のことを考えると、いつも。
痛くて苦しくて、どうしたら良いか分からない。


「……駄目だ」


そう呟いて、ゆるゆると首を横に振った。
考えれば考えるほど、尚更苦しくなる。
これが希望のある想いだったら、――恋だったら。どれほど良かっただろう。


もしも、この自分が『第三次製造計画』でなく、打ち止めのように愛嬌のある純粋な少女であったら。
もしも、最初の出会いがあんな血みどろのものでなかったら。


もしももしもと考えたって、そんなことは所詮己のみを中心に置いた薄汚い願望にすぎないことは明白で。


「ひゃひゃ、嫌になっちゃうなあ。××さんの時はこんなこと考えなかったのに。こりゃもう末期かねぇ」


それにしても笑えてくる。
バイト先のとある男に惹かれていた時も思ったものだが、他人のことが好きだなんて、一体身体のどの部分がそう感じているのだろう。
心と呼ばれるところだろうか。
だとしたら自分が抱いている想いは偽物だ。
だってこの心は、『好意という信じられないモノ』を抱いているそれは、


「十万そこらで買えてしまうような、作れてしまうような。カリモノのココロなのに、ね」

806 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 00:41:03.55 ID:kgKpUzPQo


――――
――


「……クソッたれが。やっぱビニールは駄目だな。手に食い込ンでダリィ」


エコバッグを忘れた故、これは地球からの罰なのだ。魂の叫びなのだ。
そう自分を戒めながらも、ぐいぐいと食い込んでくるビニール袋を持ち直して一方通行は舌打ちしていた。
人よりやや貧弱な彼からしてみると、少しでも楽に持てるに越したことはない。
といっても、それもあと数メートルの辛抱である。
何故なら彼は今、住居のエレベーターに乗っていて、そうこうしているうちに目的の5階に――


「あ、」


静かに開いた扉の向こうにいたのは、携帯をいじる番外個体だった。
視線が交わり、固定されたまま数秒。
両者ともほぼ同じタイミングでそれは左右に逸らされた。
どことなく気まずく、居心地の悪い微妙な空気が後に残る。


「あー……。もォ、行くのか?」


先に口を開いたのは一方通行だった。
番外個体のバイトは大きな予約でもない限り、時間にはまだ余裕があるはずだ。
そんな彼女は俯いてブーツの先でコンクリートに小さな円を描いている。
手にしていた携帯は用済みになったのか、あるいは一方通行の前ではいじりたくないのか。
今は薄手のコートのポケットに収められている。

807 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 00:41:58.49 ID:kgKpUzPQo

エレベーターの扉がそんな二人を遮断するように閉まりかけ、しかし人の気配を感じ取ったのか、途中でがこんと音をたてて再び開き直した。
その動きに顔をしかめて、一方通行はエレベーターの外に一歩踏み出す。
番外個体も合わせて2、3歩と後ろに下がった。


「……今日は、ちょっと早めに行こうと思って。だからあなたにメールしようとしてたんだけどさ」

「そォか。……まァアレだ、頑張ってこいよ」

「う、うん。じゃあ、行くね」


二言、三言。たったそれだけ交わして、二人はすれ違う。
番外個体は扉を閉めたまま停止していたエレベーターに乗り込み、


「……あのさ、」

「あァ?」

「明日は一緒に――」


買い物に、行こうかな。


そう言おうとしたのに。
非情にも、扉はいとも簡単に二人を隔てた。

808 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 00:46:37.75 ID:kgKpUzPQo


不機嫌なのだろうか。それとも体調不良か、あるいは単に眠いだけなのか。
幾つかの可能性を頭の中に浮かべ、番外個体は考えていた。
いつもと同じようにバイトから帰ってきて、ご飯を食べて。
ぼーっとテレビを観ている間に一方通行はシャワーを浴び終えてきて。
リビングに立ち寄って缶コーヒーを手にしたあと、早々と自室に籠ってしまった理由を悶悶と。


(何か怒ってるとか? だったら早めにごめんなさいした方が良いよねぇ。ていうか、)


――これが例えば、一週間前だったら。


リビングで下らない会話に笑い、テレビを眺めて悪態をつき。
日常のワンシーンは些細なことながらに、それでいて番外個体の生活の中では大きなものだった。
今更それに気が付いたのだ。
一方通行という、彼女の生活の中心に居たと言える、そんな男を欠いてから。


「もしかして嫌われちゃってるのかなぁ、このミサかは」


面白くも何ともない、寧ろ不快感すら抱くようなバラエティーを眺めながら番外個体は呟く。
思い当たる節がありすぎるというのが何とも言えない。


(今日エレベーター前でも素っ気なかったかもしれないし。この前は玄関で変なこと叫んじゃったし。
 大体ロシアのこととか考えると……こうなるのはまあ、当たり前なんだろうけど)


しかもここ数日は会話らしい会話もしていないし、そもそも碌に顔を合わせてすらいない。
おまけに避けてしまうというか、まともに向き合えないのも事実。
普段も決して良いとは言えないかもしれないが、それ以上に感じか悪いと見られても仕方がなかっただろう。
とすると、


(このミサかに愛想尽かせたってのが可能性としては一番かな。ぎゃは、あの人もそれを露骨にやってくるとは良いセンスしてるね)


しかし、と番外個体の脳裏に浮かぶ別の可能性。
先程から考えていたあり得る可能性の中でも、一番気に掛かっていたものだ。
万が一にも、一方通行が体調を崩しているとしたら。


(あの人、ミサカのそういうのにはうるさいくせに自分のこととなると知らないふりだからなあ。
 心配かけないようにってのも考えられるのかねぇ?)


些か自分に都合の良い考えかもしれないが、確かにそれは十分あり得る。
さて、それではどうするか。


(……確かめるのは少し怖いけれど。あの人とこのまま気まずくなるのは嫌だしね。
 この際ここですぱっと白黒つけちゃって、もしそれで風邪でもひいてたら嗤ってやろう)
809 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 00:48:37.70 ID:kgKpUzPQo


「……一方通行?」


そろり、と。
まるで夜這いでもするかの如く、番外個体は彼の部屋のドアを開けた。
電気は点いている。暖房も同様で、少し暑いくらいだ。微かに聞こえてくるのは、携帯かのワンセグか何かか。
お目当ての一方通行は珍しいことに、どうやらベッドの上でそれを観ながら、


「ぴやあ!?」


寝間着にしているスエットのファスナーを真ん中辺りまで引き下げ、胸元をはだけさせて寝てしまったらしい。
何だか妙に妖艶な雰囲気を醸し出すその姿は番外個体を物凄く動揺させて、


「え、ちょ、うあ!? っ痛ぁ!」


足を縺れさせて、盛大に転んだ。
先程の奇声と間抜けな転倒の音で一方通行はうっすらと目を開ける。


「……何してンだ……夜にデカイ音出してンじゃねェよ」

「だ、だって! それより前! 閉めなよ、は、は、破廉恥だっつの!」

「あァ? ……ン、これか。つーかよォ、」


身体を起こした一方通行がファスナーを閉めながら唇の端を釣り上げた。
意地悪に細められた眼は番外個体を見据えて、


「オマエはアレか、変態か。人の肌見て興奮してンじゃねェよ」

「してないし! そんな貧弱なモン見てもなんとも思わねー」


赤い顔で否定というのも中々説得力に欠けるものだ。
ばくばくと高鳴る心臓はどうしたら鎮まってくれるのだろう。


「そりゃどォも。で? 何かあったのか。悪ィな、寝ちまってたわ。つーかこの部屋暑ィ」

「暖房ガンガンだもん。ムカムカしてくるよ」

810 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 00:51:21.65 ID:kgKpUzPQo


久しぶりのそれらしい会話。
話している間は平常心を保つことができていたのに、一度冷静になってみると急に身体が熱くなってきた。
何より、彼の香りでいっぱいなこの部屋にいると頭がくらくらおかしくなってしまいそうだ。
自分は今、どんな顔をしているのだろう。赤くなっているに違いない。
そんなことを考えれば考えるほど一方通行を意識してしまって、一緒に居たいのに逃げ出してしまいたいというジレンマに陥る。
しかし、ここで逃げるわけにはいかないのだ。


「ねぇ、あなた」


番外個体はベッドに腰掛ける。
できるだけ自然に、いつも通りに。


「このミサカのこと、嫌になっちゃったのかにゃーん? ぎゃっは、今更そんな態度に表されても困るんですけど」


そう振る舞おうと努めたはずなのに、小さな声は掠れた上に震えたものになってしまった。
憎まれ口も勢いがなく、けれどこれが彼女にできる精一杯の虚勢。
そしてそれは、長くは持たなかった。
見せ掛けの強さは簡単に崩される。仮面を被る程度では隠しきれない。だから、弱さが明るみに出てしまう。

はぐらかしたりなどしない。できない。
口汚く嘲たりもしない。できない。
本音が露呈し、少女の想いが形を持って表れ始める。


「あァ? 何言ってンだ」

「ミ、ミサカはあなたのこと……そんなに嫌じゃ、ない。
 でもどうしても悪態ついちゃうし、揚げ足取っちゃうし、……最近は、それ以上にやな感じだったかもしれないけれど」

811 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 00:57:29.97 ID:kgKpUzPQo


最近は、それ以上にやな感じだったかもしれないけれど。


番外個体がそう言うということは、


(やっぱり避けられてたってことかァ?)


一方通行が感じていたそれは、やはり確かなものだったようだ。
大体、彼が今日こうして早々と部屋に引いたのもそのためだ。
番外個体を気遣ったつもりなのだが、彼女がこうして此処まで赴いてきたところを見ると、嫌われているとかそういう理由ではないらしい。
それよりも寧ろ、何故か彼女の方が一方通行に嫌われているのではないかと思っているようで、彼としては混乱するばかりである。


「嫌いになってなンか、ねェよ」


遠慮がちに座る番外個体は酷く儚げに見え、今にも泣き出してしまわないかと一方通行を不安にさせる。
普段は口が悪く人を困らせるのが得意な番外個体でも、実は寂しがりやで泣き虫な一面を隠し持っているのだ。
本人は頑として認めようとしないのだが。


「オマエが何を不安に思ってるのかはよく分かっンねェ。けどよ、嫌い云々の前に俺は絶対オマエを見放さねェし突き落とさねェ。絶対にだ」


自己満足、押し付けがましい独善行為。
何と言われようが、一方通行はこの少女を護りたいと、護ってみせると。
いずれかが息絶えるか、番外個体という泣き虫を護るに適役な、堂々と彼女の隣に立てるような男が現れるその時まで。

せめて、上辺だけでも彼女のヒーローに。


「……ひゃひゃ、流石第一位。言うことが違うねえ」


番外個体が小馬鹿にしたように、しかし先程よりは遙かに明るい表情で笑って、一方通行を安心させる。
これで良い。あんな表情よりも笑っている方が比にならないくらい良いに決まっているのだと。


「うるせェよ、せいぜい黙ってその位置利用しとけ」

「とことん利用して喰い尽くすっていうのも魅力的だけど。
 そのご厚意にミサカが甘える方があなたへのダメージは大きいんじゃないかにゃーん? そういうの苦手でしょ?」

「はっ、そンなモン、猫の一匹でも拾ってきたと思えば楽勝なンだよ」

812 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 00:59:38.18 ID:kgKpUzPQo

「ねこかあ……」

にゃあ、と番外個体がそのままの声で呟いた。
猫の様に、素直に甘えられたなら。

好きだと。

たったそれだけのことを伝えることができたなら。


「んー」

「どォした、難しいツラしてよォ」

「なんでも……ふあぁ……ない」


座っていた一方通行のベッドの上にくたりと身体を預けてみる。
今日のバイトはいつもより忙しかったからか、彼の言葉に安堵して気が抜けたたからか。
恐らくその両方が重なって、どっと眠気が押し寄せてきた。
立って缶コーヒーを呷っていた一方通行が何か喋っているようだったが、その応答に頭を働かすことすら億劫だ。


「……オイ、此処はオマエの領域じゃねェンだぞ」


青いタヌキみたいなロボットが出てくる、某国民的アニメの主人公張りの速さで夢の国へと旅立ってしまった番外個体。
寝具を提供する側の一方通行としては特に問題はないのだが、女の子的にはどうなんだろう。
なんかよく分からないまま寝付いて、起きたら異性の部屋でした。……あまり良い目覚めとは言えない気がする。
無警戒な顔を晒す彼女を起こすのは何となく後ろめたい気がしなくもないが、心を普段以上に鬼にしてぺちぺちと額を叩いてみる。


「……んうう」


意識が覚醒しているのか否か、唸り声としかめツラと共にそっぽを向かれた。
一方通行は溜め息をついてガシガシと頭を掻く。


「……ったく、ガキみてェなヤツ」

「あくせら……れぇ、た」

「ン? つーか今日はこっちで寝るってことで良いンかよ」


半分以上寝てます的な声で、顔を背けたままの番外個体に名前を呼ばれた。
恐らく答えはイエスだろうが、一応確認をとっておく。
彼女はこのまま此処で寝せ、自分はリビングのソファで寝るつもりだった。
返事はあまり期待できなさそうなので、取り敢えず暖房をおやすみモードに切り替えて毛布をかけ直し、その場を立ち去ろうと背中を向けた、正にその時。




「すきだよ」




舌足らずな声が一方通行の呼吸を確かに一瞬止め、身体を凍らせた。

813 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 01:01:15.08 ID:kgKpUzPQo




――どうしてこんなにミサカ好みの良い匂いがするんだろう。


番外個体が一方通行のベッドの上に横になったとき、一番に浮かんだのがそれだった。
甘くはない。けれど優しい香り。落ち着く香り。
それでいて、男らしいといえば何だか獣臭さを感じるかもしれないが、官能的な色っぽい香り。

くらくらする。
媚薬を間違って口にしてしまったかの様に、身体の内側から侵食されていく。
眠気とその不思議な作用が混じりあって、意識は曖昧なものへ。
身体は完全に寝ているのに、頭は半分だけ、ぼんやりと覚めていた。


――ぺちぺちと、おでこに軽い衝撃。
しかし完全な覚醒を促すには至らず、ぼんやりした頭の中に、


「……ったく――キみて――ツ」


朧気に一方通行の声が響いた。

ああ、そこに居るのだと。
一方通行。変わった名前。けれどその響きは子守唄みたいで、


「あくせら……れぇ、た」

「ン? つー……はこっちで寝るって――かよ」


何を言っているのかよく分からない。
頭はこの状況を、どうやら夢であると判断したらしい。
途切れ途切れにしか聞こえてこないのも夢だから仕方がないかと、番外個体は妙に納得していた。


そして少女は、夢の中だけで素直になれる。
まるで覚醒時とは別人のように。



好きだ。
やっぱりこの人が好きで、好きで、大好きで。



不意に。ふわりと、身体の上に微かな重みと暖かさを感じた。
……夢じゃない。あの人は確かに直ぐそばにいて、確かにそれは現実で、なのに。
まだ、依然として意識はぼやけたまま、



「すきだよ」



――あれ。

このミサかは今、何を言った?
814 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 01:03:59.60 ID:kgKpUzPQo


「……はァ?」


一方通行は後ろをゆっくりと振り替える。
何に対しての言葉か。先程名前を呼んだ男――つまり彼に宛てたのか。
いずれにしても意中の少女の口から飛び出た、予想外にして衝撃的な言葉だ。
一方通行の拍動を速めるのには十分すぎる。

一方、番外個体はというと、何ら変わらない姿勢であちら側を向いている。
そう、髪の間に覗かせた耳を真っ赤に染めていることを除けば何も変わらないまま。


「み、ミサカ……今、何て言った……?」


そんな彼女は完璧に目が覚めたらしい。
自分がしでかしたことに驚いているような声で、硬直したまま尋ねてくる。
いやはや、寝惚けとは恐ろしい。


「えーと、」


しどろもどろになりながら、壁側にやった視線を泳がせる番外個体。
今この状況で一方通行の方を見るなど無理に等しい。
それは最早、無謀な蛮勇というものだ。

何か適当に誤魔化せば済みそうなのに、醸される焦燥感と空白の数秒間が余計に気まずさを増加させていく。


「……、コーヒー飲み終わっちまったから部屋に戻ってンな」


そんな空気に先に負けたのは一方通行だった。
空になったブラックの缶を掲げてみせて、そそくさと退陣を計る。
番外個体は依然として隠れるように毛布にくるまっている為に表情がよく伺えないものの、それでいたってそちらを直視はできなかった。
ぎこちない動きでドアの方へと踏み出そうとして、


「か、勘違いして逃げ出そうとしてんじゃねーし。ミサかは、ミサかはあなたのことが好きって言ったわけじゃないもん」

815 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 01:05:30.17 ID:kgKpUzPQo


立ち止まって、一方通行は小さく溜め息をついた。
別に期待が裏切られるような言葉が後ろから聞こえてきたからではない。
大体、最初から期待などしていなかったのだ。
だからその溜め息も、分かりきっていることを敢えて弁明してくる番外個体の念の入れように思わず呆れてしまったからに他ならず、


「……分かってるっつの。大体なァ、」

「ち、ちがう!」


が、悲痛な声をあげた番外個体に遮られた。
しかしそれではつい先程自分が言ったことを自分で否定する形になってしまうことに気付いているのだろうか。
背を向けて人のベッドに寝転がっていた彼女は起き上がり、


「違うよ……」


酷く切なげに、顔を歪めた。


「……あァ? つーかそれじゃァ言ってること矛盾してンぞ」


分からない。
一方通行には、何故この少女が今にも泣き出しそうな表情で唇を噛むのか、理解できない。


「何か夢でもみてたンだろ。オマエ寝起き良くねェし、寝言のひとつくらい日常茶飯事なンじゃねェの?」

「……っ、」

816 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 01:07:58.62 ID:kgKpUzPQo


違う。違う。違うと否定したいのに、番外個体の喉は干上がってしまったかのように役に立たなかった。
ただ、薄い笑みと呆れたような表情を共に浮かべる一方通行を見て、


(痛いよ)


ずきずきと突き刺すような。
ぐちぐちと鋭利なもので抉られ、掻き乱されるような。
鈍く鋭く冷たく熱い。
そんな痛みに、目には見えないせいで有無を確かめることすら困難な、『心』と呼ばれる迷信的な部分が悲鳴をあげた気がした。


……多分。
これ以上深みに嵌まってしまうと、自分は自分でなくなる。
どう変わってしまうのかは分からないし、もしかするともう変わってしまった後なのかもしれない。
けれど砂糖菓子をじりじりと炎でいたぶったかの如く、原型を留められない程どろどろになりかねないような。

漠然とした危機感。



――それでも、問うてみよう。



『己も日常も想いも、何もかもが破綻する危険を犯してまで。

 気持ちを伝え、情けなく喚く覚悟はあるのか』



(あるに、決まってる)



番外個体は決意する。その意思を再確認する。
想いを告げるチャンスにして、明日さえ危ういものにしかねない危険なゲーム。それを存分に利用してやろう。

多分今この時を逃してしまうと、この先もずっと想いを伝えられない気がするのだ。
焦っているのではないかと言われれば、否定はできない。
ただ、減速することを知らない恋心を押し込め、知らぬフリを貫き通すことなど最早番外個体には不可能だった。

817 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 01:08:56.65 ID:kgKpUzPQo



――密かに抱く想いを。今言ってしまえば、このもどかしさから解放される。

それは、一種の『逃避』。



――結果によっては笑うことも泣くことも哀しむことも振り切ることもできる。

それは、一種の『賭け』。




そして。




「……一方通行。笑わないで聴いてほしいんだけど」



それは、悪意にまみれていた少女の、

『前進』

だった。



一方通行、と。
いつになく真剣な声色の番外個体がそんなにおかしかったのか、ぽかんとしている男の名前を呼び。
818 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 01:10:29.90 ID:kgKpUzPQo






「み、ミサカと――


               、 、
         ミサカと、結婚しよっ」





819 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/05(土) 01:12:50.38 ID:kgKpUzPQo

取り敢えず今日の分は終わり
なんていうかごめんなさいっていうか、クオリティーに関しては目を瞑って欲しいかも

一応次回で最終回を考えてる
見苦しい点は沢山あると思うけど、もう少し付き合っていただければ嬉しいです
おやすみー
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 01:13:26.83 ID:Hge3R09DO
乙〜
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 01:14:04.46 ID:Zr0OYT4so
いきなり結婚発言か、こりゃどうなるか
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 01:14:59.54 ID:JlODHZxa0
おつ
今日から30分刻み更新しなきゃ
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 01:26:19.89 ID:W2NFQ30DO
結婚か・・・
それは大人のすることだが、ある意味、幼い知識と拙い気持ちで表現できる、
最大級の愛の象徴なのかなぁ
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 01:28:53.88 ID:XDKggpwqo
おつ
次で終わると思うとなんか寂しいな
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 01:30:32.52 ID:AZDaOINIO
中身は赤子だもんな

しかしあれだな、胸が熱くなる、というのはこのことを言うんだな
恋心の描写が好きだわ
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 03:33:58.22 ID:PVcb2gB/o
最高
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 04:27:34.89 ID:+fiijYKMo
ああああああああああああミサカワーストォオオオオ!!最っ高だぜェえああああああああくせられーたああああオアああああああああああああああああああああ

おつ
読んでる間になんか、いろんなものが爆発しそうになったけどなんとか平静を保って言わせてもらう

最高です
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 04:54:56.76 ID:f1nP1KgDO
子供にとっちゃ好き=結婚したいだもんなぁ
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 05:28:29.66 ID:mjpef6pAO
いきなり結婚と来たかwwww
まじかわいい
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 07:38:12.86 ID:ZYGTrxTAO
あああああああ来てたあああああああなたか屋鉈亜なあmg.atgajamka
俺と結構してええええあああああワーストたんかわいいよおおおおおぁぁおおうぁ

次の更新楽しみにしてます!
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/05(土) 09:01:04.48 ID:zpIpjTgAO
>せめて、上辺だけでも彼女のヒーローに。

ッヒィィィィィィロォォォォォォォオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 09:09:24.95 ID:DBkRmO1Jo
まさかの結婚しよう発言wwwwwwww
可愛過ぎてお持ち帰りしたいwwwwwwwwwwww
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 12:14:12.77 ID:c4dbuIok0
えんだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 12:30:43.67 ID:oG9rV82n0
いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 13:07:00.11 ID:f50xTr0V0
きーてーたー
・・・最高だァ・・・
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 15:20:52.08 ID:Nvnsv5yzo
いいなァ……最ッ高だァ……
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/05(土) 16:22:20.04 ID:2EsyKG9K0
ふざけんなボケ甘酸っぱすぎるぞ
30分くらいベッドの上でごろごろ悶え苦しんだわ
最高です最後まで期待してます
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 16:31:38.07 ID:mjpef6pAO
あ〜の〜日あ〜の〜時あ〜の場〜所〜で
き〜み〜に会〜え〜なかァ〜った〜ら〜
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 16:53:17.56 ID:CgIGAFSu0
いきなり結婚www
きたあああああああああああ
もっといちゃいちゃしたら最高ですん
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 17:14:42.59 ID:woMo4Rsl0
ちっすしーんがみたい!!!!!
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 17:35:06.75 ID:0Z2fnaon0
もちろん最終回の後にはエピローグがあって
番外通行のあまあまエロエロ展開が待っているんですよね
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 18:38:28.12 ID:JXr+8zaAO
レスを消費したくない気持ちと
レスをして叫びたい気持ちと



えんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 23:41:13.44 ID:jP6fc9Pw0
嫌ぁああああああああああっ!!
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/06(日) 10:58:14.21 ID:uKn0kDHLo
うぃるおーるうぇーいずらあああああああぶゆううううううううううううううぅぅうううううううううううう!!!!!!!!!!!
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 12:25:07.30 ID:/3k0fC2w0
>>844
初春オルウェルはぁまづらーぶって書いたのかと
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 16:12:56.37 ID:e97bUMhG0
最高を通り越して至高だああああ
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 18:47:53.74 ID:6PKmUYiK0
なんていうかありがとう
最高すぎる
死ぬ
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 21:07:18.28 ID:evYO3L2zo
いきなり結婚か・・・
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:01:20.03 ID:JpCpECCT0
追いついた。
イイね、イイねェ…、さっいこうだね〜。
告白すっ飛ばして婚約来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ。

そういやこのSS読んで思ったんだが、同じ電撃文庫の「とらドラ!」に所々似てるな…。
と思ったのは俺だけか?

850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 04:02:58.49 ID:+t7lN9uw0
何故だ、何故俺は完結するより先にこのスレを見つけてしまったんだ……!
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 07:03:53.02 ID:TPnhFedAO
これはよい
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 17:26:24.44 ID:EpEntUls0
たまらんな〜
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 19:32:12.88 ID:Ik07xftIO
>>1乙ぅぅぅ
エッエーイ☆
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 17:54:26.57 ID:xfm5+VVDO
>>853
お前ニコ動のこの木何の木?見ただろ?
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 18:48:16.11 ID:WWgr05Izo
ニコ厨氏ね
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/09(水) 18:49:53.82 ID:5HwkbK0Ko
SIP終わってなかった
ニコ動()とかくせえからしね
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 20:16:20.89 ID:4NmvoAMs0
煽るのも止めろ空気が悪くなるだろ
俺は何も提供できない側だからせめて>>1に嫌な思いさせたくないんだ

とりあえず他所のネタ持ち込むのと煽るの止めてくれ
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/09(水) 20:29:27.14 ID:5HwkbK0Ko
煽るの意味間違えてまっせ嫌な思いさせたくない自治厨さん
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/09(水) 20:30:14.22 ID:5HwkbK0Ko
あ、これは煽りだね^^;
ごめ^^;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 21:08:26.56 ID:EwbKo45Vo
いいからsageろよ…
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 22:18:46.36 ID:4NmvoAMs0
そいつはご丁寧にどうも
でもsageような
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 00:14:05.22 ID:EcE7s+U/o
sageるのは変なのが沸かない対策
もう沸いてるんでーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 00:23:24.13 ID:v9TBT6Az0
キモッ
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 00:25:40.23 ID:EcE7s+U/o
新参氏ね
古参も氏ね
俺は厨三なんちってwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 00:29:49.75 ID:tYfcOg3AO
何だ誰かと思ったらKAGEROUの作者さんでしたか
つまらないギャグが今日も素敵ですね
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 00:30:48.57 ID:EcE7s+U/o
でしょでしょー?
そうだとおもったわー
でしょー????????
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 00:31:20.39 ID:EcE7s+U/o
うざ
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 00:31:25.12 ID:xHQimQrNo
相手しないで大人しく運用のあぼーん依頼池
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 00:31:57.60 ID:EcE7s+U/o
お前もスルーしてあぼーん依頼池
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 11:32:02.98 ID:kWIaR2bAO
追いついた…クライマックスだな
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 18:57:33.00 ID:JABQmSRF0
新訳の影響で番外通行が増えることに期待しておとなしく待つか…
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 19:01:20.12 ID:9qZxKo+K0
うおおおおおおおおおおおおおお
>>1は俺の髪の毛を一本残らず消し去るつもりかあああああ
萌えすぎて毛根が死滅するかと思ったわ
責任とれ!!
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 19:55:36.76 ID:kWIaR2bAO
新約の49ページが番外通行
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 22:25:35.98 ID:nMQpUtNU0
新約の番外可愛すぎる、反則だあれは
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/10(木) 22:38:26.78 ID:VURav1tz0
新約の番外個体やべえわ
これは…かわいい…かわいすぎる…
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 22:42:30.70 ID:G5kfhHq5o
konozamaでいまだに新約届いていない・・・いろんなところでネタバレされてくやしい・・・でもっ・・・ビクンビクン
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 00:04:12.53 ID:3OkZ+MJB0
新約に番外通行があってかなりうれしい
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 00:15:55.17 ID:RZi16IDuo
みっ、ミサカが、ミサカが一緒にお買い物に行ってあげるぅぅぅうううううう
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 00:40:18.24 ID:/AJw4PZDO
MNWの司令塔である打ち止めの体調が快復した今、番外個体の負の感情は物凄く少女じみてくる訳か
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/11(金) 04:05:12.10 ID:f29SL3gZ0
新約ほしぃ(;_;)
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/11(金) 04:26:42.60 ID:qgtr8NP3o
           ミ\                      /彡
           ミ  \                   /  彡
            ミ  \               /  彡
             ミ   \            /   彡
              ミ   \         /   彡
               ミ    \      /   彡
                \    \   /   /
    ミ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\  |  |  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄彡
     ミ____        \  |.  .| /        ____彡
           / ̄ ̄\|´ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄`i|/ ̄ ̄\
          /   / ̄|               || ̄\.   \
        /   /   |〕   帝凍庫クン   .||   ´\   \
       /    │   ..|      脱臭炭入り ||    |     \
     /    /│    |___________j|    |\.     \
     彡   /  │  ./..|   -―- 、__,        |ト、  | ´\    ミ
      彡/   │ ../ |   '叨¨ヽ   `ー-、  || \ |    \ ミ
            │ / ..|〕   ` ー    /叨¨)  ..||   \|     
    r、       |/   !         ヽ,     || \  \      ,、
     ) `ー''"´ ̄ ̄   / |    `ヽ.___´,      j.| ミ \   ̄` ー‐'´ (_
  とニ二ゝソ____/ 彡..|       `ニ´      i|  ミ |\____(、,二つ
             |  彡...|´ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄`i| ミ |
             \彡 |               .|| ミ/
                       |〕 悪臭は発生しねぇ  ||
                  |             ..||
                  |___________j|
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/11(金) 05:29:09.15 ID:yPdGZVSX0
新約により番外通行のSSも増えるわけか…
良いことだ
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 06:47:07.24 ID:StSWZ2aD0
>>1
無事か
大丈夫か
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 17:34:03.00 ID:z/1iT28DO
>>1よ帰ってこい!!
続きが気になりすぎて毎日を悶々と過ごしてる
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 10:24:48.88 ID:4jt9gdFA0
番外通行ぉ最高ぉぉぉ!!!!
>>1乙!
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 10:44:10.38 ID:pF8zVhF10
>>1

地震の被害は大丈夫か?
887 : ◆3vMMlAilaQ [sage]:2011/03/13(日) 14:41:39.74 ID:tnFNIIre0
みんな大丈夫? 地震もあったので一応生存報告を

酷い揺れだったけど、こっちは電気も復旧、余震も少なくなってきた
でもまたいつ停電になるか分からないそうなので、投下はもう少し落ち着いてきたらになりそう
なるべく近いうちに来れたらいいなとは思ってる

それと沢山のレスありがとう。新約はすごくよかったです
まだまだ油断できない状況だからみんなも気をつけてね。では
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 15:44:13.34 ID:9ry92Wg+o
生きてたかッ
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 16:54:37.29 ID:0mKAo4je0
良かった無事だったか
本当に良かった
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 17:09:02.43 ID:TBh+Gm3DO
無事で何より
続き待ってるよ!
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 17:55:55.02 ID:0Eh//8Ui0
無事で安心しました...
投下を待ってます!
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 00:16:28.06 ID:yeXar75AO
良かった無事か…
無理すんなよ
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 23:41:42.11 ID:z+7J5nSDO
続き読みてぇぇえ
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 09:45:06.45 ID:p3VS+df30
まだか...まだなのか...早く来てくれ...!
でないと手遅れになるぞ...!
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 23:52:02.05 ID:KuXdTi3DO
待ち遠しすぎて禿げそう
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/03/16(水) 11:08:45.61 ID:NRG/qUML0
番外個体がかわいすぎて[ピーーー]る
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/16(水) 11:52:36.29 ID:OtJHcdkf0
どうせ死ぬなら死ぬ前に読みたいとか気弱になってる場合じゃねーよなぁ
放射線浴びて死ぬとか、死の中でも相当苦しい部類だから勘弁してほしい
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/03/16(水) 13:14:18.19 ID:hUq4BH0n0
早くしてくれ

899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 14:02:00.67 ID:I6meYRfl0
sageろよ
来たと思ったじゃねえか
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/16(水) 14:11:08.32 ID:aq5cdZqV0
来たと思ったじゃねーか…バカヤロウ
901 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/16(水) 19:45:25.39 ID:6VW5dIgR0
こんばんは
日本も未だごたごたしている感じですが、皆様無事でしょうか

投下は明日にはできそうな感じ
遅くとも金曜日にはできるかと

期待に応えられるかは分からないけど、最後お付き合い頂ければ嬉しいかも
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 20:12:29.07 ID:gv55OE6DO
うおおおおお待ってたぞ!!
明日が楽しみで仕方がないぜ
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/03/16(水) 22:43:06.97 ID:NRG/qUML0
きたあああああああああああああああああああああああ
wktk
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/03/16(水) 23:17:41.80 ID:1u2Jl88co
wwktk
このスレのせいで俺の中の番外通行止めの立ち位置が
打ち止め→モヤシの妹or娘
番外個体→モヤシの嫁
で固定されてしまったどうしてくれる
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/03/17(木) 01:07:30.57 ID:2PBkcIkF0
>>904
全力で同意
もうね、このスレのおかげで新約がよりいっそう楽しめたわ
夫婦がいちゃついてるようにしか見えなかったでござる

早く続き読みたいぜ
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/03/17(木) 07:38:54.70 ID:AuCH8uwAO
最後か…寂しいな
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(佐賀県) [sage]:2011/03/17(木) 08:00:50.52 ID:WA1hUJyAo
新訳が近所の何処にも売ってねえよちくしょう・・・
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/03/17(木) 11:33:56.36 ID:XwikFRBko
地震の影響で店が開いてなくて買えにぃ・・・;;
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/03/17(木) 12:08:34.82 ID:081nTPWAO
俺だよ
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/03/17(木) 21:00:10.77 ID:6dKp7roao
>>908
栃木市や小山は開いてるとこ多いよ
911 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/17(木) 22:21:02.35 ID:Fv9lL+Pq0
明日の午前中に来ます…
ごめん、あと12時間ほど待ってくれると嬉しいかも

ちと激しいような気がしなくもない描写入って大丈夫かな?
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/03/17(木) 22:28:29.86 ID:xA0vwfXAO
大丈夫だ問題ない
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) [sage]:2011/03/17(木) 22:35:21.79 ID:5z2OMG1Co
大歓迎だ
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/03/17(木) 23:25:01.55 ID:OIQ5Uh1c0
構わないむしろ早く来てくれ
風邪をひいてしまう
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 00:36:53.12 ID:oxej56XDO
ゆっくり急ぐんだ
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/18(金) 08:16:17.55 ID:K9KmliB40
超楽しみにしてるぜ
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/03/18(金) 11:11:06.03 ID:xZPks9Rd0
支援
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(USA) [sage]:2011/03/18(金) 11:58:48.16 ID:9pysd1VO0
大きい御坂さんは渡しません
919 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:39:26.74 ID:SMLw9DYPo
んと、少し遅くなったけど最後の投下してきます

一方さんが若干変態じみていたり、
ワーストたん(嫁)が苛められていたり、
そのせいでちょっと可笑しくなっちゃたり、
無駄な描写が多いような気がしたり、そういうのは全て愛故なのです

投下量が少し多めなので、ゆっくりとお付き合いくだしあ
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/03/18(金) 13:40:37.91 ID:AbyktRxAO
更新したらジャストタイミングだった
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/03/18(金) 13:40:38.23 ID:87VXpHHuo
くださいがくだしあになったと見た
922 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:41:05.45 ID:SMLw9DYPo






「み、ミサカと――


               
         ミサカと、結婚しよっ」






923 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:42:26.22 ID:SMLw9DYPo

「はァ? 結婚、だァ?」


一方通行の素っ頓狂な声が響いた。
本人も予想していた以上のボリュームにはっと我に返り、声を潜めて怪訝な表情を作る。


「何突拍子もねェこと言ってやがンだ?」

「……あ、あう、」


顔を桜色に染めた番外個体がふるふる震えだす。


「大体よォ、今日のオマエはおかしいと思ってたンだよ」


「うー……」


間もなくその震えはふるふるからぶるぶるへと、濁点と唸り声を伴って移行し、


「つまりは俗に言うドッキリってヤツだったンだな。そォじゃなきゃ食中り――」

「ふ、ふざけんなあああ! この鈍感! こんなので第一位だなんて超笑える!」

「あァ!? ってオイ!」


一方通行が一言放つ毎にぶるぶると震えを大きくしていた番外個体がとうとう痺れを切らしたらしい。
バリバリバチバチ! と紫電が辺りに漏れた。


「ミサかは至って本気だし!」

「本気で結婚ってかァ? いきなり何なンですか、着いてけねェ。順序立てて説明してみろ」

「だ、だからぁ……っ」


順序立てて説明なんて一体どんな羞恥プレイだと、番外個体は心中で毒づく。
大層な決意をしたのは良いものの、好きの二文字は言えていないし、咄嗟に結婚などと大それたことを口走ってしまっていた。

正直なところ、後悔は少し、している。

こんな醜態を晒すことになるのなら、もっと落ち着いているときにすれば良かったのだ。いや、それ以前に気持ちを伝えようというそのものが間違いだったのかもしれない。
何もしなくたって、寧ろ何もしなければ、これから先もまずっと一緒に居られたかもしれないのに。

一度決心したはずの気持ちが揺らぎ出す。
思考のどつぼに嵌まってしまった番外個体はというと、



「好きなんだってば! 何でこの流れで分かんないかなあ!?」



逆ギレた。
ついでに重大な二文字も滑り落ち。
言い終えてからはっと我に返り、羞恥と後悔に身を悶えさせる。
924 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:43:06.95 ID:SMLw9DYPo

(色々ともう駄目だ……おわた)


たった二文字から成る言葉。日常で知らず知らずのうちに使っているかもしれない言葉。
それなのに、言いたくて、でも言えなくて。言おうとしてもやはり言えない。
猫や甘い物、……あの男に対しては口にすることができたのに。
そんな不思議な言葉は半ばやけくそ気味のように叫ばなくとも、もう少し大切にしたかった。
早くも傷心気味の番外個体に関係なくわたわたと慌てているのは一方通行で、


「す、すきって、ハァア!?」

「うるさいうるさい! 掘り返すなあ! ていうか顔赤くしてんじゃねー!」

「なってねェし! そりゃオマエの方だろォが!」

「ち、ちが、ミサカはそんなことないもん」


ぎゃあぎゃあと下らない争いを繰り広げる二人だが、両者の言うことは至って的を射ている。
事実、一方通行も番外個体も、真っ赤に染めた顔は隠しようがない。

925 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:44:11.79 ID:SMLw9DYPo

「取り敢えず落ち着け……、良いか、深呼吸だ」

「わ、分かった。あなたはムカつくけどそれが一番効果的だろうしね」


吸ってー吐いてーとラジオ体操のような典型的深呼吸をするのが一方通行で、


「しっ深呼吸深呼吸! ……ひっひっふー、ひっひっふー」


何かを産み落とそうとしている馬鹿は番外個体だ。
一方通行に頭をはたかれて、


「なァにを出産するつもりかなァ番外個体ォ!?」

「あいたぁっ! だだだって、芳川に教えてもらった呼吸法なんだもん! 研究者が言うんだから間違いないよ」

「あンのクソアマがァ……」


何だかうっすらと悪意的なものを感じるのは気のせいだろうか。
しかし、そのお陰というのもおかしいかもしれないが一度冷静になることができた。
隣で未だに深呼吸している番外個体をちらりと横目で見、


(つーかどォすりゃ良いンだこれ)


好意という感情そのものに慣れていないし、況してや真正面からそれをぶつけられるなど初めて。
当然ながら、一方通行は戸惑っていた。
好きとはどういうことなのか。
恋人同士が確認を取り合い、囁きあうような、そんな好きだと受け取って良いのだろうか。


「そ、それで……。あなたはミサカの言いたいこと、分かってくれたのかなあ」


そんなことを考えて頭を捻っていると、番外個体の控え目な声が聞こえてきた。
どうやらある程度の平常は取り戻したようだが、やはりまだ顔は紅い。
いじいじと毛布の端を弄るその姿は、見る人が見れば彼女の素体、お姉様こと御坂美琴にそっくりだと思うだろう。
926 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:44:47.46 ID:SMLw9DYPo



「……それに関しては――、スゲェ、嬉しい」


強く惹かれている相手から、『好き』と言われて喜ばない者はないだろう。
そしてそれは、一方通行だって例外でない。
今も心臓はヤバいんじゃないかと思うくらい働き者になっているし、頭の隅では夢ではないかと疑っていたりもする。

ここで番外個体を受け入れれば、きっとハッピーエンド。
望んだことだったではないか。
彼女が他の男に目を向けているとき、ずきずきとした痛みによく悩まされたものだ。
それ程彼女のことを強く思っているし、受け入れる――つまり自分も好きだと言えば、言ってしまえば、その痛みに嘖まれることもゼロに等しくなるのだろう。


しかし。


「……けどよォ、」


一方通行は思うのだ。
この自分は、その綺麗な想いを与えられるような人間ではない、と。

927 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:45:59.59 ID:SMLw9DYPo

「……この俺がこンなこと言うと笑い話に聞こえるかもしれねェが、『好意』ってなァ色ンな種類がある」


一方通行は行儀悪くガラステーブルに腰掛けて、静かに言う。
未だに桜色の顔を俯かせ、ベッドにちょこんと座っている番外個体の肩が微かに震えたような気がした。

多分、傷付ける。
そして彼女は泣くのだろう。誰も居ないところで、独りぼっちで、泣くのだろう。そのくせいつもの様に、笑ってみせるのだろう。
けれどそれでも、一方通行は言わなければならない。
番外個体の為に、その気持ちを無下にしなければならない。


「羨望、友誼、丹心、尊敬。何も恋愛感情だけが『好き』ってわけじゃねェだろォが」

「知ってるよ」


即答だった。
やはり泣くかもしれないとか、そういった一方通行の懸念を振り切って。


「それを踏まえた上で、やっぱりミサカはあなたのことが好きなんだ」

「……恋愛対象としての好きって、『あの男』に抱いてたよォなモンだろ。俺にそれを向けるのは違うンじゃねェの?」

「……違ってたのは、寧ろそっちの方だったのかもしれないね」


バイト先で出会った一人の男。
どうにかして近付こうと、彼に会うときは服装だって色々悩んだし、一方通行や麦野に相談を持ち掛けたことも一度や二度ではない。
話すと楽しかったし、何より仲良くなりたかった。だから、それが恋だと思い込んでいた。

しかし。
今一方通行に抱いているものと比べれば、それはとてもとてもちっぽけなものに思えてきて。
これ程までに胸がどきどきするのは初めてで、これ程までに切なくなるのは初めてで、これ程までに一緒に居たいと思うのは初めてだったのだ。


「これが、ミサカが今抱いているこの想いが、誰かに恋をすることなんだ」

928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/03/18(金) 13:48:46.25 ID:AbyktRxAO
期待を裏切らないクオリティ
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/03/18(金) 13:49:11.36 ID:o7ApDMgmo
読んでてムズムズするww
930 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:50:07.94 ID:SMLw9DYPo

「俺に好意を抱くってことは、裏を返せば俺をよく思ってねェヤツ等の敵意を買うってことになる。
 ……それがどれだけのモンか、分かってンのか」

「うん。まぁ、こうしてあなたと暮らしている時点で覚悟はできてるよ」

「……本気か」

「地獄の底まで付いていくよん」

「…………本当に、オマエってヤツは……」


一方通行が呆れを隠そうともせずに溜息をついた。
本当に、呆れてしまう。
真っ直ぐすぎる番外個体にも、その覚悟に呆れを装っているに関わらず、内心嬉しく感じている自身にも。


「馬鹿じゃねェのか。何が地獄の底だっつの。……オマエが行き着くべき場所じゃねェだろォが」


彼女は強い。素直にそう思う。
気持ちに言い訳をつけて何もしなかった自分よりよっぽど強いではないか。

気持ちを伝えることで日常は質を変えるかもしれないし、一方通行に好意を抱くとはどういうことかは先程言い聞かせたのに。


……それでも答えは決して揺るぐことは無かったのだが。


その意思と覚悟には、呆れを通り越して感服する。


「――俺から、言えれば良かったンだけどな」

931 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:51:16.29 ID:SMLw9DYPo

ぼそりと吐き出された言葉の意味が、番外個体にはよく分からなかったらしい。
きょとんとした表情を浮かべるそんな彼女から、ヘタレと言われようがチキンと言われようが、これでは否定することなどできやしない。
番外個体から言われなければ、一方通行が抱える想いは封印されたままであっただろうことは明白で。
格好がつかないこともまた然り。
それでも、チャンスはここに存在している。


「……一回しか言わねェからな」


立ち上がって、ベッドに座る番外個体をしっかりと見据え。


「な、何?」


番外個体自身でも嗤ってしまうような惚れ込みっぶりだが、緋い緋い瞳から射止められると、それだけで彼女は蕩けてしまいそうになる。
だから正直なところ、その視線に耐えきる自信ははあまり無かったものの、それでも彼女はしっかりと受け止めた。
端正な顔立ちと細身の身体は女の自分から見ても羨ましいと、場違いながらにも嫉妬する。

両者の視線は揺るがない。
互いを射抜くかの如く、真っ直ぐに。

932 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:52:45.26 ID:SMLw9DYPo




――もう、これで十分ではないか。しっかりと自分を見てくれるのだから。



(ミサカを見てくれる。ちゃんと、誤魔化さないで見てくれる。お釣りあげても良いくらいに十分過ぎだよ)


番外個体はこれ以上を望むほど贅沢者でも身の程知らずでもない。
だから本当に、もう他のものは譲ってしまっても文句はないと、これ以上は望むまいと。
自身に言い聞かせ、納得させたのに。


なのに、なのに、なのに。


どうやら神様は、そしてこの人は。
こんな自分にも、もう少しだけ、とびきりの幸せを与えてくれるらしい。


933 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:53:40.75 ID:SMLw9DYPo






「好きだ、番外個体」





934 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:56:07.03 ID:SMLw9DYPo

「ふ、にゃあ……」


その瞬間。                    、、、
好きだと告げられたその瞬間、番外個体は溶けた。
座っていたベッドの上にもう一度転がり、毛布に顔を埋めて悶え出す。
じたばたと振り回される足がさりげなく男性の急所を蹴り上げたりしたのだが、そんなことに気が付くような余裕はないらしい。
予想外の襲撃に悶絶する一方通行を差し置いて、


「ほほほ本気で言ってんの!? わけが分からないよ。うん、マジで」

「な……、ンだとコラァ! オ、オマエ、今更ドッキリでしたァとか言われても知らねェからな!」


血が乱れた高波を立てて一方通行の心臓をどくどくと出入りする。
暑い、と感じた。
暖房は消したはずなのにそう感じるのは、余程自分の身体が火照っているからだろうか。
その熱さの中で毛布に顔を埋める番外個体の根性は見上げたものだ。
紅潮を誤魔化すように呆れた表情を作り、平静を装う。
本当は目覚めがてらに番外個体を視界に捉えた時からずっと、心拍数は上がりっぱなしなのだが。


「オイ、暑くねェのか」

「……とう?」

「ン?」

「本当に? ミサカのこと、その、……すき、っていうの。信じても、良いのかな」


心臓が跳ねた。
一際大きく跳躍し、正に『射抜かれた』。
潤んだ瞳の上目遣いに、ほんのりピンクの頬。不安げに毛布を抓まむその姿は、


(ちくしょう、何だよガキみてェに小さくなりやがって。……可愛いじゃねェかクソッたれ)


破壊力抜群、一方通行の心を見事に抉り取ったのだった。


「ンなこと、冗談で言うと思ってンのか」

「だ、だって……ふえぇ」

「泣くな泣くな。ったく、オマエは何歳児だっつの」

「うるさい。……泣いて、ないもん。あ、あなただって顔赤いし」

「あァ!? し、仕方ねェだろ。あれだ、暑いンだよこの――」


言い訳がましい一方通行の言葉が途切れる。

番外個体に抱きつかれたと気付き、一瞬心臓が止まるまで数秒かかった。
935 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:57:00.31 ID:SMLw9DYPo


「大好き」

「……あァ」

「この場所も、あなたも。……全部全部、ミサカのものだ」


素直に気持ちをぶつけてくる彼女が羨ましいと一方通行は思う。
別に、ぎゅうぎゅうと押し付けられる柔らかいモノを無駄に意識していたりするわけではない、断じて違う。
本当に、羨ましいと思ったのだ。
こうも素直に想いを言えたならばどんなに良いか。
彼の性格故、それが可能になるまではもう少し時間を必要としそうだが、何も想いを伝える術は言葉だけではない。


「んう、ちょっと苦しいんだけど。そんなにミサカの胸の感触がお気に召したのかにゃん?」

「るせェ、オマエは少し黙ってろ」


そう、行動でだって表せる。
温かく柔らかな身体を、しっかりと、放さぬように、抱き留めてやれば良い。

936 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:57:59.08 ID:SMLw9DYPo

番外個体はというと、先程までの遠慮がちな態度とは打って変わり、いつもの調子を取り戻しつつあるらしい。
少ししおらしくしていた方が可愛いンじねェの、と苛めてやりたい衝動に駆られるが、多分泣かれるので止めておく。


(それにやっぱり平常運転が一番……その、何だ。落ち着くとか思ってるわけじゃねェ)

「ね、もう一回」

「……ン、あ、あァ?」

「ひゃひゃ、らしくなく好きだって言ってみてよ。キリッ! てさあ」

「……、絶対言わねェ」

「み、ミサカのことは好きじゃないって言うのねっ!」

「なァンでそォなるンだよ!?」


一方通行の肩の辺りに顔を埋める番外個体が脅迫紛いの要求をしてくる。
何だか泣き出しそうな空気まで醸し出されて、学園都市の第一位と謳われる男はというと、


「……分かった分かりましたよ、だからぐずってンじゃねェ」


溜め息を漏らし、しかし簡単に折れてしまった。
丁度良い機会といえば、そうかもしれない。
自分から言うのはなかなか難しいだろうし、だったら言える時に言ってしまおうではないか。
すう、と空気を吸い込んで、覚悟を決める。
耳元で、囁くように。



「好きだ。……あァちくしょう、そンなンじゃ足りねェよ。……愛してる」


937 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 13:59:12.31 ID:SMLw9DYPo


その時、番外個体の身体が微かに震えたことに一方通行は気が付いた。
ぴくんという小さな振動が伝わってきて、そして、


「ひにゃう」


という、『どっからその声出してるの?』的な変な声。
当の本人はまるでそれらの事実を隠蔽するかの如く、


「……うん」

「何が『うン』だオイ」


何だか拍子抜けしたというか、緊張や、『愛してる』などと思い返せば偉く恥ずかしいことを言ってしまった羞恥が若干緩んだ一方通行。
ひにゃうって何だひにゃうって、と内心突っ込みたいのだが、番外個体の方はそうも気楽に構えていられないらしい。

彼女の茶髪の間に覗く耳が赤くなっているところを見ると、恐らく顔の方も朱に染めていることだろう。
羞じらうように大人しくなった番外個体を見て、一方通行は予想する。


「……オマエ、もしかして耳弱ェンだろ」


面白いことを見つけたと言わんばかりの調子でもう一度、囁きかけた。
番外個体の耳のすぐ傍で低く放たれた言葉は、彼女の背中をぞくぞくと這う。


「あ……っ、そ、そんなことない! 全然平気だし」

「へェ。ならどこまで耐えられるか、試してみよォか」


一方通行が引き裂かれたような、悪戯な笑みを浮かべた。
938 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:00:57.95 ID:SMLw9DYPo

どうやら番外個体の弱点の露呈は、一方通行の嗜虐心に火を点けてしまったらしい。
そのことを悟った番外個体は焦ったように身を捩るも、


「やめ……、ひぁあっ!?」


ちろり、と。
耳の輪郭をなぞるような、温度を有するこそばゆい刺激。
頭の中で微かに、それでいて鮮明に響く水音。


「な、何して……っ、ぅあ、」


何を、されている?


「あ、やめ……、くすぐった、ぁっ、ん、」


身体が熱い。
体温が馬鹿みたいに上昇していくのが分かる。
ここでやっと、耳を舐められていることを理解した。
何をされているかが分かってしまった今、羞恥心が更に何倍にもなって沸き上がってくる。


「もう、やだあ……っ」


恥ずかしい。
たかが耳を舐められるだけでこんなに乱れてしまうなんて。
一方通行にも当て嵌まることだが、完全無菌培養、つまり『外部刺激がないまま』ここまで大きくなった番外個体は、他人に比べて敏感だ。
それに加え、元からの体質もあるかもしれない。
ともかく、彼女はどうやら『感じやすい』ようで、悔しいことながら、現に身体に走る刺激に支配されつつあった。

このままでは理性がぶっ飛んでしまいかねない。
そう危惧しての「もう嫌だ」という意思表示だったのだが、


「オイオイ、もォギブですかァ? 全然平気だなンてどの口が言ったンだっけかなァ。
 まァ、平気っつゥ割には随分とはしたねェ声洩らしてるしィ? 可笑しいとは思ってたンだけどよォ」

「うるさ、い。っ、」


楽しそうに、楽しそうに。一方通行は遊戯を止めることをしない。
そのうち唐突に首筋を舐め上げられて、番外個体はびくりと大仰に身体を反応させた。
それが彼の思惑通りだったようで、悪戯に成功した子供のように、無邪気な残酷さを含んだ笑みを浮かべる。


「ハッ、ちと敏感すぎンじねェの?」

「あなたに、んっ、言われたくない」


そんな男の背中に爪を立てた。
段々と足に力が入らなくなってきて、けれど大人しく身体を預けるのは何だか癪で。
番外個体なりのせめてもの抵抗だったのだが、意味を成さない。


「……良い度胸じゃねェか」


熱を帯びた吐息を感じた。
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/03/18(金) 14:02:08.33 ID:Xu/tn0Mg0
あまいー
あーまーいー
あああーーまあああーいーーーーー!
940 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:02:19.39 ID:SMLw9DYPo

それにすら、身体は反応する。

頭の中が、身体の芯が。熱く熱く、融解してしまいそうになる。
恥ずかしい筈なのに、止めて欲しかった筈なのに。
一方通行に意地悪をされていることに身体は悦んでいるようで。
胸の奥では今の状況に歓喜し、更なる刺激とサディスティックな彼を欲しているようで。


「一方通行、一方通行ぁ……っ」


ぎちぎちと彼の背中に爪を食い込ませたまま、うわごとのように求める。


「どォしてほしい?」

「わ、分かんない、よ」


ふるふると首を左右に降る番外個体は、とうとう泣き出してしまった。
ぐずぐず、えぐえぐと嗚咽が漏れる。

どうしてほしいかと聞かれても分からない。
ただただ一方通行が、彼そのものが、欲しくて欲しくて堪らないのだ。
それを彼女自身の口から言わせようとする一方通行の意地の悪さ、襲い掛かる刺激と欲求への困惑、僅かに残る理性が訴え掛けてくる羞恥。

全てがぐちゃぐちゃに溶け合い、錯乱し、番外個体の瞳を濡らす。

葛藤、迷い。
ほんの少しの理性――虚勢に似たそれと、どろどろに溶けきった自身がせめぎあう。
しかしそれも、長くは保たず。


「ひゃうっ」


不意打ちで耳たぶを甘噛みされ、ぴりぴりとした静電気みたいな感覚が身体中に走り回り、遂に。

決壊する。


「あ、あなたが欲しいっ! これだけじゃ、我慢できないんだよう!」


身体が火照り、瞼を固く閉じても、涙がぽろぽろと溢れてくる。
痴情に支配されているという自覚があるからこそ、沸き起こる羞恥に耐えることが難しい。
理性など、全て棄ててしまえば楽なのに。

941 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:04:38.91 ID:SMLw9DYPo

彼女が吐露した心中に、一方通行は驚いていた。
まさかこうもストレートな言葉をぶつけられるとは思っていなかった。


『あなたが欲しい』


そう言ってくれた少女を前にして居た堪れなくなり、ブラウンの髪を優しく撫でる。
艶やかなそれは微かなシャンプーの甘い香りを伴いながら、一方通行の指の間を滑っていく。
彼の肩の辺りに顔を埋める番外個体は泣き出してしまっていて、少し苛めすぎたかと今更ながら彼に反省を促した。
普段活発で、得意分野が一方通行を困らせることという番外個体。
そんな彼女が控え目にこちらを気にしてきたり、弱みを露にしたりすると、どうも嗜虐的な部分が疼いてしまうのは悪い癖だ。
そういえばクリスマス前日にも、言葉で苛めてやったら泣かれてしまったことを思い出す。

なるべく声を漏らさないように堪えている番外個体の背中を擦りながら、


「……ふ、うぇ……」

「ン、よく言えました。ほら、顔上げてみろ」

「……んぇ、ひっく、」

「人の着てるモンに拭うのかよ……」


一方通行が着ているスエットに、ごしごしと主に目元を擦り付ける番外個体。
それから怖ず怖ずといった様子で、ゆっくりと顔を上げた。
一方通行より頭ひとつ分ほど背の低い番外個体は、軽く彼を見上げる形になる。
充血し、濡れた瞳の上目遣いはどこか色っぽく、彼の心臓を鷲掴みにした。


「……瞼、腫れンぞ。つーか案外すぐ泣くのな、オマエ」

「うるさい。あなたの、せいだ」


――このミサカがおかしくなっちゃうのも、全部。


そう付け足して、番外個体は口を噤む。
静まり返った部屋の中、心臓の音だけは妙にはっきりとそれぞれの頭に響いてくる。
至近距離にいる相手に聞かれるのは何だか気恥ずかしくて、聞こえていないだろうかと気掛かりだ。



「……待ってた」



その中で、呟いたのはどちらだったか。

942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/03/18(金) 14:06:06.53 ID:sgEuP9P9o
えんだあああああああああああぁぁぁぁ
943 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:06:29.79 ID:SMLw9DYPo

『……待ってた』


こうして抱き合い、見つめ合うことを。
素直な気持ちを伝えることを。


孤独に折れて、人肌に逃げた夜もあった。
お互い殆ど言葉を発せずに黙黙と行った、暗闇の中での淫らな行為。
後悔も自責も言い訳もした。

恋人でもないのに、それをはじめとして一緒に寝たし手も繋いだ。
順番は明らかにおかしくて、それでもひとつだけ、決して一線は越えなかったことがある。
それこそ一番、強く待ち望んでいたもので。


「……番外個体」

「うん」


一方通行の両手が、番外個体の頬を包み込むようにして添えられる。
熱を持った皮膚は柔らかで、触れていて気持ちが良い。
まだうっすらと残る涙の後を親指で拭うと、それが心地良かったのか彼女は目を細めた。


そんな番外個体が酷く愛おしい。

彼女の細めた瞳は何時しか閉じられ、


「……やっと掴ンだンだ。他には渡さねェ、渡して堪るか」


小さな小さな、少女にだけ届く程度の一方通行の呟きの直後。
守り通してきた一線が、遂に越えられる。


もう我慢する必要も躊躇う必要もなくなった。
正当な関係で、正当な理由を持って。


ちゅ、と微かな音。
聞き取れるか否か、それくらいの小さな音を立てて。

二つの唇が、重なった。
944 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:07:32.51 ID:SMLw9DYPo

今まで大切に大切に、これだけは自分が奪ってはならないと一方通行が考えていたもの。
理性を失っていたセックスの際でさえ、及ばなかったもの。
……自分には資格すらないと一蹴していたものの、もしかすると何処かでは、心の片隅では望んでいたかもしれないもの。
まさかこうしてすることになるとは思いもしなかったもの。


キス。
初めての。


……といっても外人が挨拶するときのような、至って健全なものである。
互いの唇が触れ合っていた時間はほんの数秒間、最早一瞬といっても過言ではないかもしれない。
キスか『ちゅー』か、どちらかといえば後者寄りだ。
その行為を終えた一方通行からしてみると、


「……しょっぺェ」

「な、なな、初めてのち……、……ちゅう! した第一声がそれえ!? 
 み、ミサカはこんなにどきどきしてるのに、あなたはあなたは……うぅ……」

「いやいやそこ泣くとこじゃねェだろ、オマエが駄目とか言ってるわけじゃねェし。……なンつーか、涙の味がしたンだよ」


赤くした顔を不安げに歪め、自分に何か不足があったのだろうかと懸念する番外個体とフォローに回る一方通行。
一見すると一方通行の方は冷静に感じるかもしれないが、そんなことはない。
番外個体同様に、今までで一番といって良いくらい顔を朱に染めているし、


「じゃあ、あなたも……その、どきどきとかした?」

「随分と恥ずかしい質問だなオイ。それに答えろってどンな罰ゲームだよ……」
945 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:08:33.60 ID:SMLw9DYPo


どきどき。
心臓がぎゅっと締め付けられて、呼吸するのが苦しくなる。
けれど不思議なことに、今感じるそれは嫌じゃない。


「……してるよ。ちくしょう、スゲェばくばくいってやがンだ。オマエと居ると馬鹿かってくらいに」


一方通行が苦い顔をして忌々しそうに言った。
番外個体の方は対照的に、


「うにゃあ」


さも嬉しそうに、彼の胸にすりすりと。
暫くはそれで甘えん坊モードの彼女だったが、やがて何か思い出したように、


「そういえばさ、あなたって意外とヘタレだよねえ。ひゃひゃ、何だよあの『ちゅう』。
 ミサカもっとディープなのを想像してたんだけど、あれじゃあ今時マセガキにも馬鹿にされちゃうよ?」

「オマエも十分マセガキだボケ。つーかよォ、初めてでいきなりそれは流石にねェだろ」

「マセガキ相手にこんなことやあんなことしてるあなたはロリコンかにゃーん? 大体ミサカ達は今更ちゅうごときでって感じじゃない?」

「それを言っちまうとなァ……」

「あーあ、ミサカがっかりだなあ。なーんていうか、恋人っていうの? 
 そういうのより親御さんみたいなちゅうだったよね。別にあなたに期待していたわけじゃないけど」


些か大袈裟な、演技臭い物言いをする番外個体。

その『ちゅう』で、彼女がどんな表情を浮かべていたか。
それ以前に、自ら『どきどきした』などと言っていなかったか。

しかしそれを言ってやるのは少々野暮というものだ。

946 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:09:39.07 ID:SMLw9DYPo

「ナニ? オマエはこの俺を挑発して何がしてェわけ? ――って、あァ、そォいうことか」


眉根を寄せて番外個体の話を聞いていた一方通行だったが、その口角が釣り上がる。
意地悪で凶悪で残酷な、それでいて無邪気な、そんな笑み。


「あなたが欲しい、これだけじゃ我慢できない――、だったか。へーえ、そォかそォか」


ニヤニヤと、いたぶるように。


「身体が疼いて? もっと大きな刺激が、快感が欲しくなった? 
 だから舌ァ絡め合ってどろっどろに溶けちまうよォな、そォいうのを求めてたンだろ」

「……っ」


普段の調子を取り戻しつつあったように見えた番外個体が、言葉を詰まらせて目を逸らした。
そんな彼女を小馬鹿するように、一方通行は唇を歪める。


「ハッ、顔赤くして図星ってかァ?」


彼が揶揄するように、淫靡な行為を焦がれていたかと聞かれれば――完全に否定することは出来ない。
それなりの覚悟はあったし、熱い身体はそれを密かに期待していた。

そして今も、身体の熱は冷めきっていない。
奥深くで燃え、じんじんと訴えかけてくるのだ。


「……なァ、言ってみろよ。具体的に、何を望むのか。それが上手にできたら――」


ご褒美をくれてやっても良い。


「……あ、ぅ」


低く響く、番外個体だけに囁きかけられる甘美な誘惑。
『ご褒美』という単語に身体が震えた。


――欲しい。
947 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:10:48.48 ID:SMLw9DYPo

一方通行とは、普段はそれなりに優しい人だと番外個体は考えている。
本人にそう言ってやるのは最高の嫌がらせになるだろうし、彼女の自惚れかもしれないが、
思い返してみると常に一方通行は自分を優先して考えてくれていた。
しかし、彼はそればかりでないのも事実。
言ってしまうと、『S』なのだった。


「……意地悪、しないでよう」

「それとは違うンだよなァ、無理強いしてるわけじゃねェし」


そんな男に嬲られている。
恥ずかしいし悔しいし、それなのに――少しだけ、本当に少しだけ、嬉しい。


……嬉しい?
喜んでいるなんて、普通じゃない。どうかしている。


そう分かっているのに、頭の中ではそう認識できているのに。


「言えねェの? 満たしてェンだろ? ……まァ、さっきも言ったけど無理強いしてるわけじゃねェ。もォ今日は――」

「……て」

「あァ?」

「もう一回……して……」


流れに身を任せ、逆らわず。
身体はだらしなく求め、懇願し、自ら溺れることを望んでしまう。

948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 14:11:41.35 ID:vxXfbCfvo
ふあああぁぁぁ
949 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:11:47.88 ID:SMLw9DYPo


「も、もう一回、……ちゅうして欲しい。今度は、うぅ、あなたがさっき言ったみたいに……」

「さっき言ったみたいにって言われてもなァ、詳しく言ってくンねェとよォ」


分かっているくせにわざわざ番外個体の口から言わせようとする一方通行。
そのたちの悪さに、番外個体は瞳に涙を浮かべながらも縋り付く。


「舌つかって、もっとしてほしい……っ」

「ン、及第点」


主導権を握っていたのは明らかに一方通行だが、実のところ、逸る気持ちを抑えるのは中々に困難を要していた。
想い続けていた少女からの想定外の告白もといプロポーズ、キス、そして今の状況を考えれば当然だろう。
そんなわけで、涙目の番外個体から上目遣いに懇願された後はそれ以上焦らすことなど最早不可能だった。

だから合格通知が彼女の鼓膜に届いたのとほぼ同時。

抑えられなくなった『ご褒美』を、落とす。


「ん……っ」


熱くて淫らなディープキスは、二人の身体に火を点けた。

950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/03/18(金) 14:13:17.56 ID:Xu/tn0Mg0
えんだあああああああああああああああああ!
951 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:14:31.03 ID:SMLw9DYPo

「ん、っふ、」


最初はゆっくりと慣らすように、時間をかけて、丁寧に。
互いの唇を味わい、探るように舌を突っつき合う。
つんつんと先端を触れ合わせるだけで、ぴりぴりとした刺激が駆け回った。
それだけで力が抜けてしまいそうになるのを何とか堪える。

ただやはり少し辛かったのか、番外個体は一方通行の腰の辺りに添えていた腕を彼の首に回した。
身体を彼に任せ、行為と快楽に沈み込んでいく。


「んむ、……あ、んんぅ、」


接吻は徐々に激しさを増していく。
それに伴って呼吸は弾み、喘ぎ声も一層大きく艶やかに。


「んぁっ、ふぅっ……、ンッ、」


魂や精気といったものを喰らい尽くすかの如く、とことん貪欲に相手を求め、貪り合う。

いつしか番外個体は一方通行に顎を持ち上げられ、ただただ彼を受け止めることしか出来なくなっていた。
唇から舌の裏側まで、口内をくちゅくちゅと卑猥な音をたてて這いずる舌の動きに犯される。


「はぁっ、んふぅ、」


普段あまり意識することはないかもしれないが、舌とは立派な性感帯のひとつだ。
そんな部分を集中的に攻められれば、敏感な人にとってはかなりの快感に繋がる。
勿論番外個体もそれで先程から声を漏らしているのだが、遂に限界を来したらしい。


「っあ!?」


かくんと膝が折れて、一方通行の首の後ろに回していた手が解けた。
支えを失った身体は力の抜けた頼りない足ではバランスを保ちきれず、丁度後ろのベッドに沈む。
ふたつの唇から唾液が銀色の線を引いて、切れた。


「はっ、はぁっ、一方通行ぁ……」


奪われた酸素を取り戻そうと肩を上下させる番外個体は、ぐずぐずに溶けた声と物欲しげな顔、とろんとした瞳で見つめてくる。
ぬらぬらと妖艶な光沢を放つ彼女の唇、その端からつ、と線を描いて零れる唾液。


「……すっげェエロいことなってンぞ」


その姿を見て自制を利かせることなど、どこの男が出来よう。
かの旗男だってこんな表情をされては、遂に一人、コイツを選ぶだろうと一方通行は彼女贔屓に考える。
そして間抜けなことに、それにすら嫉妬した。
952 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:16:36.10 ID:SMLw9DYPo

(ちくしょう、馬鹿じゃねェのか。自分で考えておいてこれかよ、笑えねェ……)


他の男に番外個体を奪われるなど、考えるのもおぞましい。
馬鹿で醜い独占欲や嫉妬だということは分かっていても、堪らなく不安になる。


己の気持ちや欲求、その全てを素直に呑み込み、番外個体の気持ちに応えることを決めた今だからこそ。
彼女無しの生活は一体どんなものに成り下がるのだろう、と。


そんな不安を振り切るように、彼女が零した唾液を舌で掬い上げた。
そしてそのまま、ベッドに押し倒す。


「ひゃあ!? ちょ、なぁっ!?」


それには虚を衝かれたのか、思考がうっとり鈍り気味だった番外個体も目を丸くした。
覆い被さるようにして一方通行が上に在るものだから、普通に正面、つまり天井を仰ぐだけでも彼とばっちり目が合ってしまうことになる。
先程まで口吻を合わせていたにも関わらず、番外個体は緊張に視線を逸らす。


「は、恥ずかしいんだけど……。この体勢とか、なんていうかもうね」

「『そォいう行為』を思い浮かべちまう時点でオマエの方がよっぽど恥ずかしいヤツだよ」

「べっ、別にそういうわけじゃ――ぁっ、」


一方通行の指摘を焦ったように否定した番外個体だったが、不意に感じた首筋への甘い刺激に身を跳ねさせた。
そしてそれは一度に留まらず、首筋、耳、鎖骨と口付けが落とされる。
すべすべした肌に印されていく赤い痕。


「ひうぅ、ちょ、あぁっ、ミサカそこら辺、だめなん、だってばぁ……!」


特に鎖骨となれば、心臓にも胸にも近いわけで。
鼓動が聞かれてしまわないかとか、その振動が伝わってしまわないかとか。更には、


「み、ミサカTシャツの下に何にも着てないし着けてもいないんだよう!」


見えてしまわないか、とか。

帰ってきてから家着にしているTシャツに着替えたせいで、窮屈なキャミソールやブラジャーといった類のものは疾うに洗濯機に投げ込まれていたのであった。
953 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:18:03.32 ID:SMLw9DYPo

それを聞いた一方通行の動きが止まる。
番外個体が羞恥のあまりぎゅっと閉じていた瞳を恐る恐る開くと、


「な、何? 何か目線が若干下のになってるけど」

「い、いやァ、だからその、何つーか。……それで透けてンのかなァと」

「ッ!?」


衝撃の事実を告げられて、番外個体が狼狽する。
身体を起こす暇も惜しんで音速並みの速さで顎を引き、

……『お母様』譲りの豊かな膨らみのトップは、確かに勃ち上がって存在を主張していた。


「や、これはちが、う、ふぇぇ……毛布、取って」


今日だけで何度目か、じわじわと番外個体の瞳に涙の膜が浮かぶ。
羞恥のあまりこのまま消えてしまいたいとさえ考えて、しかし頭上からの声で掻き乱された。


「……ったく。目ェ赤く潤ませて泣きそォなツラしてよォ、逆効果ってのが何で分っかンねェかなァ」


昂ぶった声は番外個体の中に巡る血を凍らせ。
それでもぞくぞくと、彼女の身体は歓喜に震えてしまう。
954 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:19:37.56 ID:SMLw9DYPo

「つーかオマエ、やらしいよなァ。キスだけでこンなにしちまってよォ」

「な、何言って――ぁあんっ!?」


びくん、と。
今までで例をみないくらい大きく身体が飛び跳ねて、背は海老のように反った。


「大体よォ、男と暮らしてるってのにこれはねェンじゃねェの? 誘ってるよォにしか思えねェンだけど」

「誘ってなんかぁ……っ、やぁっ、ひぁんっ」


Tシャツの上から。
片方は指で、もう片方は一方通行の口内で。
小さな突起物は優しく優しく転がされ、押し潰され、吸われ、そして不意に甘噛みされる。
薄い布に染み込んだ唾液の湿った温度と変化する刺激、そこから生まれる快感。


「おーおースゲェな、硬くして上向かせて。服の上からでもびンびンになってンのが丸分かりじゃねェか。こォやって弄られて悦んでンのか?」

「だって、きもちよくてぇっ、あぁっ、頭、おかしくなっちゃ、ん、はぁっ」


きもちいい。
ただそれだけが思考を埋め尽くし、もっともっとと、更なる快楽を求めて疼く。


「ココ、自分で弄ったりは?」


番外個体はふるふると首を左右に振って否定する。
自慰は一度だけしたことがあるものの、その一度で胸は触りもしなかった。


「じゃァ現在進行形で開発中ってワケか。これが終わったら今度は自分でやってみるのも楽しいかもなァ?」


ぼやけた頭に響いた声。
言葉で責められ、辱められているという事実にぞくぞくとよく分からないモノが駆け上がる。

955 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:21:48.21 ID:SMLw9DYPo



「あ、あぁっ、ちょ、やめ、」


と、今まで本気の抵抗をしなかった番外個体がじたばたと暴れ始めた。
身体を捩り、逃れようと躍起になる。
しかし力は殆ど抜けきっているし、挙げ句胸を愛撫されていては残った僅かな力も思うように扱えない。


「オイオイ、今更我に返ったってかァ?」

「お願いだからぁっ、このままじゃ、んぁっ、」


――絶頂に、達してしまう。


一方通行はそんな彼女の胸の内を何となく察したのだろう。
しかしだからといって、お願いを素直に聞き入れてやるほど彼は優しくできてはいなかった。


「理由も無しに言われてもなァ」


片方、指で弄っていた方だけでそれを続け、一旦顔を上げる。
ロゴの入ったサーモンピンクのTシャツはそこの部分だけ濃く染まり、水気を含んだ布はぴったりと肌に張り付いて形を浮き彫りにした。

突起の周りをくるくると円を描いてやりながら、番外個体自ら口を割るのを待つ。
それで大分襲い掛かる快感は軽減された筈だが、それでも彼女の呼吸は乱れたまま、肩を上下させていた。


「うぁ、なんかそれやだぁ……っ。むずむずして、ふぅっ、ん、」


止めてほしい。自ら望み、懇願したことだったはずだ。

だが。
完全に無くなったわけではないが、突如として少なく、弱くなった一方通行から与えられる快感に、番外個体は目尻に涙を浮かべて困惑していた。
何だか焦らされているようで、口と指の両方で弄くられていた時よりも、触れてほしい、気持ちよくなりたいという欲求は一層高まる。


しかし、そうすると今度こそ――

956 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:23:02.93 ID:SMLw9DYPo


「こォやって周りだけ弄られっと物足りねェなァって思うだろ?」


こくこくと、番外個体は素直に肯定する。


「でもそれじゃァ矛盾してるンだよなァ。あのまま続けられるのはオマエにとって不都合だったみてェだし」


そう言いながら一方通行は、恐らく欲求と理性の狭間で葛藤しているであろう少女の膨らみのトップを、


「ひあぁん!?」


指の腹で、ひと撫で。
たったそれだけ、布の上から少し触れられただけで、焦らされ続けた番外個体の身体は大仰に悦んだ。
しかしそれも一度きり。
一方通行の指は再び焦らすように円を描く。


それでもう、駄目だった。
プライドも理性も崩れ落ち、残ったものは淫らな欲求。


「あ、も、もう、もう無理だようっ、んぁ、イきたいのっ、イかせて――っ!」

「ならイっちまえ。こォして見ててやるから、だらしなく達してみろよ」


直後、指先でずっと焦らされていた乳首を軽く噛まれて。

腰が浮いて、一際厭らしい声が漏れて、涙が溢れて力が抜けて。

一方通行の前で、果てた。
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/03/18(金) 14:26:05.01 ID:o7ApDMgmo
こんな恥ずかしいの読んでらんねぇ。ちょっと死んで来る
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/03/18(金) 14:26:43.73 ID:Xu/tn0Mg0
なんで読んでて顔真っ赤になってんの俺…
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/03/18(金) 14:27:24.53 ID:AbyktRxAO
何か恥ずかしい
一人で見てるのに
960 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:27:56.53 ID:SMLw9DYPo


「……ふあぁ、ねむー……だるー……」


以前、生まれて初めて自慰をしたときもだったが、絶頂に達するというのは中々疲労するものだ。
百メートルを全力疾走したときのそれに似ている。
そこに至るまでの過程にもよるだろうが呼吸は可笑しくなるし、身体も熱く赤く火照る。
発汗だってするし、それだけではなく、


(うぅ……結構お気に入りのショーツだったんだけどなぁ……気持ち悪い)


『行為』中は興奮を誘うのに一役買っていたぬらぬらとした液体が、途端に不快なものに変わったりもする。
といっても、あの後暫くしてから



『た、立てない……、……立ちたくない』

『腰抜けたか? っつってももォ20分は前だぞ、それでもまだ力入りそォにないか?』

『それもあるけど……ず、ズボンにまで染みてきちゃったんだよね……あ、あはは』

『おゥ……、そンなに良かったンかよ。着替えた方が良いなこりゃ。つーことはパンツの方は……っ痛ェ!』

『うるさいっ! 別に気持ちよくなんか……っ、気持ち、よかった、けど……。き、着替えてくる』

『一人で歩けるかァ?』

『無理でもやってやるッ。……そしたら、また来るから。一緒に寝ようね』



というやり取りがあり、現在は着替えもして心機一転な筈だったのだが。
どうやらまだ何となく行為の名残に身体は浸っているようで、思い出す度に火照ってきてしまうのだった。
961 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:29:07.44 ID:SMLw9DYPo


「んぁ……!」

「どォした」

「な、何でもない」


体勢を少し変えようとして太ももが擦れたとき、くちゅりという微かな水音を確かに聞いた。
隣の一方通行に聞こえていなかっただろうかと横目でその表情を盗み見るも、彼も彼で濃い数時間に疲れているのか、
うとうと早めに店終いのシャッターを下ろそうとしている瞼と格闘しているようだった。

こんなことを言えば彼は怒るかも知れないが、その姿は子供を彷彿させる。
つい数十分ほど前までは絶妙な技術で自分に快感を与えていたとは思えないくらいに。
瞼が閉じて、はっとしたように目を見開く光景は何だか微笑ましい。


「……ね、一方通行」


それでも呼びかければ、こちらを向いてくれる。
二人でごろごろするには少し狭いシングルベッドで、互いに向き合った。
数十分前の行為がフラッシュバックして顔が熱くなるも、何とか平常を努める。
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2011/03/18(金) 14:31:22.42 ID:EsZbnuPGo
やべええええええええええええええええええええ
ワーストたン可愛すぎンだろォが!
963 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:32:54.05 ID:SMLw9DYPo


「式は、神社で挙げたいな。神前式だっけ? 十二単とか着ちゃってさ、純和風に。
 ……でもチャペルウエディングも憧れるんだよね。ウエディングドレスは女の子の憧れだし」

「そりゃあまた、金のかかりそォなお望みで」

「ひゃひゃ、負債者にはちょっとキツいかな? 
 でもでもミサカ、本当はあなたさえ居てくれれば十分なのよ、にゃーんて。ありゃん、顔が赤いよーう?」

「うるせェ。電気消せそンでもって早く寝ろォ。……挨拶回り、しねェといけねェのかァ?」

「あなたはお姉様に蹴られる覚悟くらいはしておいた方が良いかもね。……許してくれるとは思うけどさ、ミサカ達のこと。
 それとは別に今日苛められたことチクってやるもんね。麦のんにも言ってやる」

「オイ馬鹿やめろ洒落になンねェよ……」

「嫌だったらお詫びのちゅうを要求するよ、なんて言ってみただけ――んっ、ふっ、んん、」

「――ン、……あくまで詫びだァ」

「ふ、ふにゃ……じゃ、じゃあ腕を折られた時の分と、あとは――」

964 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:35:50.16 ID:SMLw9DYPo


過去を忘れたわけではない。
過去をどれだけ悔いて反省しようと、その事実は覆されない。

未来が確立されているわけではない。
未来とはこの二人が似合わないと嘲笑い、同時に恐れていたものでしかない。

けれど、今がある。
取り返しのつかない過去も、幾多に枝分かれした推測不可能な未来も、関係無しに今がある。
しっかりとここに存在している。
過去を償うことは今しか出来ないし、未来を創りあげていくことも今しか出来ない。



「ミサカはあなたの過去も全部全部受け止めて、未来を怖がらないで、今をあなたと歩いていきたいな。
 だからあなたも、ミサカの過去も今も明日も、受け入れろとは言わないけれど、せめて、」

「今更泣きそうな声出してンじゃねェよ。そンなモン、言われるまでもねェ。全部受け入れて、オマエとして認めてやる」

「……うん。ありがとう。……大好き」

「おう」



幼く弱い二人は、決してゴールしたわけでなく。
寧ろ今、スタートラインに立ったに過ぎない。
未来を勝ち取る為に、過去を受け止め今を駆けていく。



「――ところでよォ」

「何? これから本番とかはちょっとキツイよん?」

「オマエの喘ぎ声、薄ィ壁一枚で遮音できてたのか。もしもの事考えっと、何かすっげェ外歩きにくくなるンだが」

「…………、これは、何て言うか。すっごく不幸でびりびりしたくなってくるね……」




おしまい
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/03/18(金) 14:38:16.81 ID:AbyktRxAO
え?もうちょいいけるよな?
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/03/18(金) 14:38:50.20 ID:o7ApDMgmo
いやいやただの冗談だろう
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/18(金) 14:39:20.16 ID:MMRibb+30
スタートラインっつってんだろ?
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage saga]:2011/03/18(金) 14:39:27.49 ID:WNuF8dHyo
おい全身から綿菓子が噴き出してんぞ謝罪と賠償を要求するニダ

一通さん若いんだから抜かずの四発くらいいけるだろ?
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/03/18(金) 14:39:33.75 ID:Xu/tn0Mg0
いやいや終わらせてやれよ
っていうかこれ以上続けられると恥ずかしさと甘さで悶死するぞ俺ら
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/18(金) 14:40:31.69 ID:MMRibb+30
それならそれで構わない
むしろそれで死ぬなら本望
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 14:40:36.57 ID:OCQ+xan00
これから次スレに行くんですね分かります。
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/03/18(金) 14:41:04.24 ID:AbyktRxAO
残りのレス数を見るに後日談くらいいけるよな?
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 14:42:23.05 ID:iN+cWQ8Z0
後・日・談!!後・日・談!!
974 : ◆3vMMlAilaQ [saga]:2011/03/18(金) 14:42:25.77 ID:SMLw9DYPo
長い間gdgdにお付き合い頂いた皆様、本当に有り難う
お疲れ様でした

後日談的なのを後で少しだけ投下するつもり



敢えて触れなかったけど、次スレっていうか何ていうかさ……

一方通行「飯も風呂もできてンぞ」番外個体「それじゃあ、あなたで」

みたいな感じで建てようかなと。やり残したことが結構あるから
こっちを読んでない人でも分かりやすくやっていくつもり
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/18(金) 14:43:17.71 ID:MMRibb+30
さすが>>1痺れる憧れるゥ!
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/03/18(金) 14:43:43.54 ID:o7ApDMgmo
問題ない、好きにやりたまえ。
全力で支援しよう
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/03/18(金) 14:44:32.36 ID:Xu/tn0Mg0
ヒャッホーーーーイ!!
立ったらそっちも見せてもらうよ!

最初から読ませてもらってたけどマジでよかったです
お疲れ様でした、そしてありがとう
番外通行に幸あらんことを
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/03/18(金) 14:45:24.77 ID:AbyktRxAO
おおおありがとう
この作品は自分が読んだ番外通行で最高の出来でした
次の作品にも期待
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 14:45:38.47 ID:iN+cWQ8Z0
>>1は我らの期待を一度たりとも裏切ったことはない
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/18(金) 14:47:13.61 ID:fq8Rfxc50
おまえら>>1乙するのも大事だけど後日談投下できるレス数は残しておけよ
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/03/18(金) 14:48:49.44 ID:NSqFXk0AO
お前のやることなら全部支援だ
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 14:51:59.10 ID:j02+6pJqo

        /≦三三三三三ミト、          .  ―― .
       《 二二二二二フノ/`ヽ       /       \
       | l  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ∨{ミvヘ      /      ,   !l ヽ
       ト==   ==彡 》=《:ヽ     ′ ―‐ァ!l / ̄}
         /≧ァ 7¨7: :ァ.┬‐くミV!ハ    |    (__   _ノ    |
       ′: /: イ: /': :/ |:リ  ヽ }i! : .     |  _j_   ツ    |
      i. /: il7エ:/ }:/ ≦仁ミ ト:.i|: i|   |    d   __ 、、   |
      |:i|: :l爪jカV′´八ツソ Vミ :l|   |   ノ  − ノ    |
      |小f} `   ,    ´  ji }} : .{    {   ┌.  ー ´    }
       }小    _      ,ムイ|: :∧    .    |/   ヨ
       //:込  └`   /| : :i i : :.∧   、  o   ―┐!l /
        /:小:i: :> .    .イ _L__|:| :li {∧   \    __ノ /
.      /′|从 :|l : i :爪/´. - 、 〈ト |ト:ト :'.   /       く
            N V 「{´ /   ヽ{ハ|   `\ /        ヽ
           | }人ノ/   li  V    _.′贈  惜  と  '
       i´ }    //} i′′ ハ 、|   `ヽ.   り   し  ミ   !
       { {     〃ノ {l l!  } :  {     }  ま  み  サ  |
   rー‐'⌒ヽ  ,イ   i{| |   i      |  す  な  カ
   〉一 '   ∨n     ∨   ′  ハ      |      い. は  }
   `r‐‐ ´   V    |       |      !      称     ′
    ‘r‐‐ ´    \   }/i⌒ヽ   {      .      賛    /
      `¨¨` ー .、  ` < ` |    `ト、 }     ヽ     を
         }}\      ̄ `ヽ ト ソ      \     /
         ノi  \        } }         ` ―‐ ´
          //     > .     | ノ
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/03/18(金) 14:54:00.25 ID:xZPks9Rd0
>>1

ムッハァァァ!!
最っ高!最っっ高だねェ!!
後日談も大いに期待してるぜ!
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/18(金) 15:20:34.59 ID:Bwfxb01K0
もう最近番外通行多すぎて俺得すぎる
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/18(金) 15:31:15.62 ID:zuz6vobAO
凄まじい「>>1乙」の嵐で
後日談の投下スペースがなくなった件について

次スレ誕生の瞬間は 近い…!
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/18(金) 15:46:35.87 ID:/DpfLnnlo
 | 三_二 / ト⊥-((`⌒)、_i  | |
 〉―_,. -‐='\ '‐<'´\/´、ヲ _/、 |
 |,.ノ_, '´,.-ニ三-_\ヽ 川 〉レ'>/ ノ 
〈´//´| `'t-t_ゥ=、i |:: :::,.-‐'''ノヘ|
. r´`ヽ /   `"""`j/ | |くゞ'フ/i/       構わん今後も続けろください
. |〈:ヽ, Y      ::::: ,. ┴:〉:  |/
. \ヾ( l        ヾ::::ノ  |、
 j .>,、l      _,-ニ-ニ、,  |))
 ! >ニ<:|      、;;;;;;;;;;;;;,. /|       ___,. -、
 |  |  !、           .| |       ( ヽ-ゝ _i,.>-t--、
ヽ|  |  ヽ\    _,..:::::::. / .|       `''''フく _,. -ゝ┴-r-、
..|.|  |    :::::ヽ<::::::::::::::::>゛ |_   _,.-''"´ / ̄,./´ ゝ_'ヲ
..| |  |    _;;;;;;;_ ̄ ̄   |   ̄ ̄ / _,. く  / ゝ_/ ̄|
:.ヽ‐!-‐"´::::::::::::::::: ̄ ̄`~‐-、_    / にニ'/,.、-t‐┴―''ヽ
  \_:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\ /  /  .(_ヽ-'__,.⊥--t-⊥,,_
\    ̄\―-- 、 _::::::::::::::::::::__::/  /  /   ̄   )  ノ__'-ノ
  \    \::::::::::::::`‐--‐´::::::::::/  / / / ̄ rt‐ラ' ̄ ̄ヽ ヽ
ヽ  ヽ\   \:::::::::::::::::::::::::::::::::::::/      /    ゝニ--‐、‐   |
 l   ヽヽ   \:::::::::::::::::::::::::::::::/           /‐<_   ヽ  |ヽ
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/18(金) 16:36:11.45 ID:1pNSPnH60
乙乙乙
番外通行多くて嬉しいー
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/03/18(金) 16:41:37.25 ID:UtfJx2wto
残しておきたいんだけど、後日談は次スレになっちゃうのかも。

>>1

最高
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 16:49:31.85 ID:ta8XgHbQo
オリジナルは酷い出来なのにミサワはなんでこんなにかわいいんだろ。
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/03/18(金) 17:27:01.10 ID:EsZbnuPGo
一方通行に構って欲しくて嫌がらせとか下ネタ連発するけど
いざ反撃されたらビクビクしたり真っ赤になって照れちゃって、
美琴と違ってそこから開き直っちゃうミサワマジ可愛い

なにが言いたいかっていうと>>1
991 :ミサカ20000号 [sage]:2011/03/18(金) 17:32:32.21 ID:aKQ4xRaL0
番外個体オオオオオオォォォォォォ!!羨ましいじゃねえかセロリたんに耳たぶと乳首をいじってもらえるなんて〜〜〜〜!!

もうセロリたんから身引くわ、末永く爆発しろ!

と代弁してみる

とにかくGJ!
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/18(金) 17:40:40.76 ID:K9KmliB40
>>1は俺にとって神上同然
極上だった
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/18(金) 18:35:40.53 ID:re3UkOnPo
番外個体が豊作で嬉しい
>>1
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/18(金) 18:37:11.96 ID:d+9KDWCd0
もうなんというか>>1
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/03/18(金) 18:38:16.54 ID:PVqsQqMAO
>>1のせいで期末全く勉強できなかったぜ
赤点なかったからいいけど
後日談期待してます
ただ、新約だと一方さん借金チャラになったんじゃ…
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 18:39:26.04 ID:D/wfW21yo
>>1乙乙
番外通行最高!!次スレも楽しみに待ってるよ
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 19:13:16.90 ID:h998bZhDO
後日談も期待するぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!


ところで番外個体はロシアに行けば会えますか?
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/03/18(金) 19:16:10.54 ID:PXTrCrNT0
よかった間に合った
>>1超乙
番外通行ss良作大杉
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/18(金) 19:19:02.75 ID:E3ACOyuAO
面白かったぜ!!
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/18(金) 19:19:09.67 ID:K9KmliB40
>>1000なら未来永劫番外通行には幸せいっぱい
1001 :1001 :Over 1000 Thread
 _,,..i'"':,  @    @   @
|\`、: i'、   @   @
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1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
そろそろワナビスレ立っててもええと思うねん @ 2011/03/18(金) 19:11:47.23 ID:7Rgn0SXMP
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1300443107/

上条「まんこ」 @ 2011/03/18(金) 18:45:40.91 ID:JZ0YH8PAO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1300441540/

【被災地の皆】ガンダムバトル開催 ゾロ目でMS発掘439機目【頑張れ】 @ 2011/03/18(金) 18:44:49.45 ID:kafjHjpjo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1300441489/

びんびんびんちゃん @ 2011/03/18(金) 18:39:50.45 ID:fQujqrN/o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1300441190/

【命有る限り】妹に告白された!!!22【精一杯】 @ 2011/03/18(金) 18:26:08.91 ID:jjxo/dpT0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1300440368/

【避難所】VIPSPo2iファンタシースターポータブル2インフィニティ @ 2011/03/18(金) 18:02:34.78 ID:FqDsWWhFo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1300438954/

准尉「今日も元気に国境警備!」 伍長「二人だけですけどね」 @ 2011/03/18(金) 17:41:21.16 ID:dp5+7aH40
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1300437680/

SSまとめサイトについて語れ @ 2011/03/18(金) 17:01:49.79 ID:BG1/FdWG0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1300435309/


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