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槍使い「ヤバい…砲撃だ!伏せろ!」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 23:40:31.95 ID:xhWoooAO

ドォン!


「ぐわぁあああ!」

「ぎゃ、ぐ…ぁあああ…!?」


原理不明の砲撃は焼きレンガの防壁に直撃し、運の悪い民兵3人ほどを巻き込んだ。

この戦場で悲鳴なんか昨日の夜中からずっと聞き続けているものだが、近くで悲鳴を上げる奴がいると非常にうるさいものだ。

“ああ、緊迫した戦線がここまで来たのか”と、嫌でも実感させられる。



槍使い「…くっそ、刃物なら良いモンが沢山あるのにな…」


太陽が眩しい。

人間対魔族の開戦から一夜が明け、既に7時間は経過しただろうか。

火薬銃と砲撃の火力の違いが、俺たちの状況の悪さを分かりやすく表していた。
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 23:48:53.35 ID:xhWoooAO
ゴツッ


槍使い「ッたぁ!?…レンガの破片…さっきの砲撃で砕けたやつか」

せいぜいへそ辺りまでしか隠れないであろうレンガの防護壁の砕けた部分にそっと顔を近付け、向こう側を伺う。


敵も敵で、こちらの火薬銃を警戒してかまだ積極的には攻めて来ない様子だ。

開戦直後に走り寄ってきた敵歩兵の大群を銃で一斉に始末できたのはデカかったようだ。

火力に差はあれど、向こう側の損失もデカいだろう。


槍使い「…だが、困ったな…このまま銃と砲撃の力比べをしていては…」


このままでは全滅必至だ。
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 00:31:21.75 ID:a.TWar.o
支援
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 07:59:41.24 ID:0MPH3wAO
魔族「コー…ォオ……」


槍使い「…げ」


青い炎の塊の顔のように見えなくもない部分が、こちらに向いたような気がする。

それだけならばまだ良いのだが、ついでに奴はどう見ても腕にしか見えない部分までも、こちらに向けて突き出している。

奴と俺との距離はメートルにして60か70mといったところだろうか。

60?70?

弓矢ならまだ良い。この焼きレンガの壁に守られる。

でも奴の“砲撃”となれば話はかなり別だ。


槍使い(…この防護壁はもうダメだ…場所を変えよう!)
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 12:18:28.48 ID:0MPH3wAO
ドォン!


槍使い「うわっ!」

案の定、俺が先程まで居た場所は地面から粉々に砕け散ってしまった。

咄嗟に飛び退いて直撃は避けたが、爆風は強く俺の背中を押す。


槍使い「痛っ!…く、ぉお…!」


だが幸運だ。吹き飛ばされた所は新たな焼きレンガ防護壁の裏。

なんとか安全な場所に逃げおおせることができた。


槍使い(…火薬銃は…いくつか置いてあるな、よし)

自慢の槍を持っているとはいえ、槍では遠くの敵は倒せない。

使えない棒をいつまでも抱えるよりは、使ったことがなくとも銃や弓を手に取るべきだろう。


槍使い「……仕方ない、応戦だ」


俺は銃を手に取り、慣れない手つきで撃ち始めた。


のどかな郊外の朝。しがない俺の初陣は現在、泥沼と付け焼き刃で飾られている。
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 12:45:19.21 ID:0MPH3wAO
ドォン!

ドォン!


槍「爆音があちらこちらから聞こえて来やがる……分が悪いな…」

槍(…レンガ壁の上からちまちま撃ってはいるが、当たっているとは思えない)

槍(くっそー、良くないな…ただでさえ俺らは街の男と傭兵を集めただけの戦力だってのに…)


銃に火薬のチップと弾を充填する。

簡単な扱い方だけは昨日知り合った傭兵のおっさんが教えてくれたからわかるが、打ち方のほうはサッパリだ。

それでも槍よかマシだと、騙し騙し撃っていく他ないのだが。


槍(…さて、補充完了!撃つか…)


俺がレンガから顔を出したその時、


魔族「コー……」


槍「!」


例のデカい奴は、真直ぐこちらに腕を向けていた。
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 17:29:37.08 ID:0MPH3wAO
??「馬鹿、伏せろっ!」

槍「うお!?」


奴の身体に纏わる炎が腕に集まったのを見て死を覚悟した時、俺の左側から何者かが勢い良く飛び掛かってきたのでまた死を覚悟した。


ドォン!


額当てが砂利に食い込む音と同時に、すぐそこで爆音は響いた。


槍「いたた…あーもう、なんだよこの爆発は…」

??「おいお前、怪我はないか?無いならまずは礼の一言でもくれよ、助けたんだから」

槍「あ、おう…ありがとうな」

??「抜けた奴だな…まぁいい」
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 21:01:30.68 ID:.xih3Lo0
??「俺は飛脚をやってるモンだが、今ここでは指令の伝達役兼衛生兵だ」

槍「衛生兵か、そりゃあありがたい!」

??「あ、勘違いするなよ?死に損なってもお前は怪我してないからな、救助テントへは連れていかねえぞ」

槍「? 俺は別に行きたくないから大丈夫だ」

??「ほぉう?ここに残って闘う気力があるのかい?お前」

槍「ああ、まだ火薬銃の弾もあるしな」

??「へぇ〜…肝が据わってるな!俺に声かけられた他の民兵は皆、“テントへ連れていってくれ!”と泣いてたもんだが」

槍「……おいおい、みんなやる気ないなぁ」

??「仕方ねえよ」


ドゴォオオオン!


槍「っ…!こ、鼓膜が…」

??「…ふぅ〜…この状況じゃな、誰だって逃げだしたくもなるさ」

槍「まぁ不利っちゃ不利だからな…あ、俺よりもあそこで伸びてる奴が3人…ああダメだ、一人死んでるから2人、できればテントに連れていってやってくれ」

??「……ははは」

槍「ん?」

??「いや、面白い奴だなお前」
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 21:15:17.97 ID:.xih3Lo0


??「ほっ、よっこいせ……重いなこいつら!使えないくせに!」

槍「そう言うなって、こいつらも有志で来てるんだから」

??「…優しいねぇ、がたいは良いくせに」

槍「そうか?ははは」

??「おい、褒めてないぞ…さっきみたいに気を緩めるなよ?俺は一度テントに戻るし、まだまだやることがある」

槍「大丈夫さ、二回も命を助けてもらおうなんて思っちゃいないさ」

??「言ったな?聞いたぞ?」

槍「おう、ありがとうな」

??「……」


飛脚「…がんばれよ、俺は戦闘に参加できない…代わりに奴らをぶちのめしてくれ」

槍「任せろ!」

飛脚「死なないようになー!」


そう言って、細身な男は二人の男を抱えて足早に去って行った。

物影に隠れながらの素早い退避は見事なもので、俺は再び目の前の赤レンガに砲弾が当たるまで、その後ろ姿をぼーっと眺めていた。
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 21:25:17.64 ID:.xih3Lo0
槍「俺の町にも、あんな良い奴がいたんだな…まだまだ俺も自分の町をよく知らなかったって事か」

今度は素早く顔を壁から突き出し、すぐに引っ込めた。

一瞬だけしか見ていないが、先程のように炎の奴はこちらへ向いていないようだった。ならば丁度いい。


槍「よし、もう一度銃にチャレンジだ…」


今度は余裕をもって壁から頭をのぞかせる。ただし銃は素早く構え、炎の巨人の頭へと狙いを定める。

撃ってはたして効くのかわからないが、これしかない。撃つしかない。


槍(…まさか、鍛冶屋の俺が銃を使う事になるとはな…よし、ここだ)


引き金を引く。香ばしい火薬の煙と共に、おそらく弾は奴の頭部に着弾した。

でも相手は頭をぐらりと揺らしただけで、すぐに体勢を立て直しているではないか。


槍(……ちょっとちょっと、なんだよこれ、何で効いてないわけ?)


まさか現在のおされぎみの理由とはこれのことだろうか?

なるほど、逃げ出したくなる奴が現れるはずだ。


魔族「コーォオオォ……」


槍「……またか」
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 21:37:21.12 ID:.xih3Lo0
ドゴォン!

ドゴォン!


槍「うおっ……やめてやめて、やめろって」


どうやら炎の奴2匹から目をつけられたようだ。

火力に見合わない連射間隔が、急速に赤レンガの防壁を突き崩してゆく。


槍「く、こりゃたまらん…また移動か!」


どこもかしこも砂埃で曇って見える。

まさに激戦といった感じだ。緊張するしかなり怖い。


それでも俺は、最寄りの赤レンガの防護壁のもとへと到着することができた。

駆け込み、崩れるように背を持たれて着席する。


槍「はぁ、はぁ…参ったな…」


俺のいた赤レンガの壁はまたしてもオシャカになってしまった。

このままカニ移動をし続けていたら、もう二度と安全に右側へは戻れないかもしれない。

それはきっと戦力の分断を意味しているんだろうが、今さら分断されたところでという感じでもある。
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 21:38:40.50 ID:.xih3Lo0

槍「……それにしても銃が効かない…となるとなぁ」


槍はあるし剣も刀もあるのだが、この砲撃の嵐を掻い潜って向こう側まで到着できるのかどうか疑問だ。

こうなる前に俺らの軍も開戦直後に相手陣地に走り込めば良かったなぁ。



「おいマーシー、隣失礼するぞ」

槍「?」


素早く駆けよってきた小さな人影は、ぽすんとスマートな動きで俺の隣に腰を下ろした。


少女「遅れて済まないな、派遣された傭兵部隊の第二隊だ、戦況の報告を頼む…引き継ごう」

槍「? 傭…兵…?」

少女「第二隊だ、いの一番に到着したんだ、さっさと報告してくれ」

槍「え?……お前が傭兵?」

少女「ああ、言うと思ったがそうだ、私が傭兵だ」



冷静な口調で、グラブの紐を締め直しながら話しかけてきた栗色の髪の子供。


思えば、ここで俺とこの少女が出会えたのも運命だったのかもしれない。
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 21:46:50.29 ID:.xih3Lo0
少女「…第一部隊はもうほとんどが居ないだと?」

槍「ああ、奴らの砲撃を見るなり逃げ出したやつもいれば、小さな怪我をしただけでテントへすごすご退散した奴もいる」

少女「……なるほどな、期待以上に使えない奴らだ」

槍「あ、でも悪くは言わないでくれよ、こうして火薬銃を壁の裏に置いといてくれたんだ、役には立ってるから」

少女「…その寛大さは現代の魔族に見習わせたいところだな」

槍「?」

少女「…まあそんなことはどうでもいい」


少女「第一部隊はほぼ壊滅、残存して辛うじて相手を食いとめているのは町からの民兵…それういう事なんだな?」

槍「そうだ、状況はかなり悪い」

少女「…わかった」

槍「伝達役ありがとうな、お嬢ちゃん…さ、ここは危ないから早く戻って傭兵の部隊に伝えてくれ」

少女「それには及ばない」

槍「え?」

少女「私は伝達役ではない…そのままさ、傭兵としてここに来たのだからな」

槍「……」


槍(…これはもう、俺も、俺の町も終わったかもしれないな…)
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 23:15:17.40 ID:.xih3Lo0
ドゴォン!

また、背の壁を火球が叩いた。



槍「っ……お嬢ちゃんな、来てくれたのはありがたいけどな、俺らの町の命運はもう尽きたみたいだから」

少女「命運?」


間近で轟く爆音にも怯まず、まだ小さな背丈の少女は腰に備えた何かを取りだした。

ベージュ色のぼろ布に包まれたそれははたして剣か、火薬銃か。

なんて考えもしたが、どちらであっても同じだろう。この戦の結果が覆ることは無い。


槍「お嬢ちゃんの人生はまだまだ長い、いくら傭兵が金を稼げるからとはいえな、命は大事だぞ」

少女「ははは、人生か」

槍「真面目に聞け」

少女「真面目さ」

槍「…他の金に目がくらんだおじさん達はどうだっていいんだ、あいつらはもう直らない」


槍「だけどお嬢ちゃん、お前はまだ引き返せる…まだ危ない所へ身を投じるには早すぎる、今すぐ逃げるんだ」

少女「……ふ」

槍「真面目に聞いてくれってば」

少女「見たところ三十かそこら、といったところか」

槍「…?」

少女「マーシー…いや、お前は民兵か」


少女「よく見ておくんだルーキー、戦いを教えてやる」


人の話なんざ一ミリも聞いてないような不敵な笑みを浮かべた幼い少女の右手には、短い鉄製のメイスが握られている。
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/09(土) 23:46:53.12 ID:wPg732AO
ドォン!


槍「っ!」

少女「ふ……ペッ、防壁を壊そうとしているな…一度姿を見られたら最後、隠れた壁が消えて無くなるまで砲撃は続けられる」

槍「厄介な奴だよ、あのデカい魔族は…」

少女「奴の名は“シドノフ”、惨劇軍の中でも最も強力な魔族だ」

槍「……惨劇軍?」

少女「奴等の呼ばれ名さ」


ドゴォン!


槍「うわ…危ないぞ!伏せてろ!」

少女「シドノフの表面は硬い鱗と青い炎で覆われている…あの炎が一番の邪魔だ、あの火焔が集まり砲弾となる」

槍「……」

少女「お前も顔を出して見てみろ」
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/09(土) 23:52:37.84 ID:wPg732AO
ヒョコ

槍(…青い炎の巨人…あいつがシドノフか)

少女「あの炎には自身の鱗を強化する力がある…お前が使っている火薬銃の威力では、炎を纏った状態のシドノフに致命傷を負わせることはできないだろう」

槍「! そうなのか…あの炎にそんな力が…」

少女「おい伏せろルーキー」

槍「え?」

少女「ノロマが」グイッ


ドゴォン!


槍「ぐあ、痛…か、髪の毛が抜けたぞ、今の…」

少女「鼻と耳と髪の毛が吹っ飛んでも良かったならそのまま突っ立っていても良いんだぞ」

槍「…ありがとうございます」

少女「うむ、よろしい」


槍(…なんなんだよ、この子供は…)
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 00:00:30.28 ID:Ut9BjMAO
少女「ここの壁も長くは保ちそうにないな、狙ってきているシドノフを片付けてしまおう」

槍「…そんなの…やれるなら既にやってるさ」

少女「ほう?」

槍「今言ってたな、あの炎には守りを堅くする力があるって…その通りだよ、銃で奴の頭を撃っても駄目だった」

少女「だろうな」

槍「頭を撃っても駄目ならどこを撃っても駄目だろう?近付けず、銃は使えない…」

少女「だから勝ち目がない、とでも言いたいのか?」

槍「そうだよ」

少女「頭が固いな、工夫しろルーキー」

槍「…ルーキールーキーって…なんだよお前は」

少女「ベテランさ、少なくともお前よりはな」

槍「ベテランって…」

少女「信じられないなら見ていろ」
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 00:38:31.47 ID:vCWapuoo
面白いから期待してるんだけど寝るなら何か一言いってから落ちてもらえるとありがたいです
気になって寝られないw
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 19:34:10.91 ID:3km2H1E0
少女「…よしルーキー復習だ、奴…シドノフは砲撃を行う時、その身体にある変化が起こるが…その変化とはなんだ?」


少女がショートメイスを真っ直ぐ水平に、シドノフを指し示すように伸ばした。

指差されたシドノフはそれに気付いたのは、顔らしきその部分をこちら側へ向けてきた。お互いにお互いを確認したといった具合だ。


槍使い「えっと……ある変化?」


俺はまたぼーっとしていて砲撃を食らうのもいやなので、少しだけ顔を出すにとどめる。


少女「そうだ、ヒントは炎だな」

槍使い「炎…あっ」


奴が砲撃を放つ際に見せる変化。俺は自分が撃たれる瞬間までそれを見ていたので知っていた。



魔族「コーォ…ォオオ…」


シドノフという名の奴が、少女と同じく腕をこちら側へ向け…。

そして、奴の身体は段々とその青いオーラを失ってゆき…。


槍「…全身にあった青い炎が、砲撃を放つ腕にだけ集中する!」

少女「正解だ、“ステイボウ”」


シドノフの腕が光を放つよりも先に、少女のメイスが光った。
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 22:17:20.20 ID:3km2H1E0
魔族「ゴボッ……」


槍使い「あ!や、やった!」


杖の先端が光った瞬間を見たと思ったら、その一コマ先では長い鉄銛に頭部を貫かれたシドノフの姿が映っていた。

この少女が何かを詠唱し、何かを放ったのだ。


槍使い「…ま、魔術師か!これはすごい!」

少女「伏せろ」

槍使い「!」


音を立てて倒れる巨人を見ていた俺は、隣にいた少女が既に壁に持たれて座っている姿を見て冷や汗をかいた。

“伏せろ”。

そりゃ三度目ともなれば体も自然になれてくる。



ドゴォン!


槍使い「あ、危なかった…」

少女「注意散漫だな、よく今まで生き残れたものだ」

槍使い「自分でも不思議だよ…」

少女「二体が狙ってきていると言ったんだ、一体を倒してももう一体は砲撃を続けてくることくらいはわかるだろう」

槍使い「…すいません」

少女「ふ、まあいい」


……変に大人びた少女だった。
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 22:24:28.31 ID:3km2H1E0
少女「今見せた通り、シドノフは砲撃の瞬間に隙ができる、火薬銃でも多少は効くだろう、頭なら一発かもしれん」

槍使い「…砲撃の瞬間か…」

少女「タイミングはシビアだがそれしかない……まぁ、接近戦をしてくるヤハエやタイエンがいないだけマシな状況だ、砲撃に気をつければ問題ない」

槍使い「? ヤハエ?タイエン…?」

少女「ああ……それも奴らの名だ、まだ見ていないのか?3本の黒い爪を持った奴と、幅の広い剣のようなものを持った奴だ」

槍使い「あ、そいつらなら知ってるぞ、開幕直後は俺らの軍勢も大きかったからな、銃撃と弓で大体全て片付いたと思う」

少女「! 奴らは始末できたのか…だからシドノフだけは残っているのか、通りで姿を見ないと思ったら…」


ドゴォン!


槍「うおっ……」

少女「…長話をするほどレンガのバリケードは頑丈ではないようだな、あともう一体のシドノフは任せたぞ」

槍「え?おい、どこへ行くんだ」

少女「聞いて思っていたよりも状況は良いようだ、シドノフだけなら問題ない…別の場所で奴らを掃除してくる」
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 22:30:29.40 ID:3km2H1E0
槍「そ、そうか……俺が奴を倒すのか……」

少女「甘えるな、方法は教えたぞ、一体くらいは自分で倒して見せろ、でなければお前も役に立たないただのルーキーだ」

槍「…辛辣なお言葉で……でも、その通りだな」


俺は手に持った火薬銃に追加の火薬チップを込めた。

気付けば両手は緊張と興奮でじんわりと湿っている。


槍「……俺も大人だし男だ……お嬢ちゃんよりも戦績が悪いってんじゃ、ちと格好が付かないからな」

少女「ふ、お嬢ちゃんか…まあ良い、がんばれよルーキー」


槍「…おい」

少女「ん?私はもう行くぞ」

槍「…俺が3体以上あいつらを倒したら……今度は“ルーキー”じゃなくて、名前で呼んでくれるか?」

少女「3体、ほう…良いだろう、目標が高い事は良い事だ」

槍「ああ、これができたら俺のことはちゃんと名前で、“ホムラ”って呼んでくれよ」

少女「ホムラか、良いだろうルーキー」

槍「ははは、まだやっぱルーキーか」

少女「当たり前だ、お前の名を呼ぶのは3体倒した時だ…それとな、ルーキー」


少女「次に私と会う事があれば、私の事は“お嬢ちゃん”ではなく“ハープ”と呼べ」
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 22:38:28.05 ID:3km2H1E0
少女、いやハープはやけに印象に残る薄い笑みを見せて、駆け足で砂埃の中へ消えて行った。

何度も何度も鳴る爆音にも怯まない勇敢な後ろ姿だった。


槍(……ルーキーか…子供にルーキー呼ばわりなんて、かっこ悪いことだな)


火薬銃を握る。こいつには、あの少女の放った銛ほどの威力はないだろう。

だがいける。彼女自身が俺に言ってくれたのだ。これでも出来ることはあるのだと。


槍「……よし、目標は3体って言ったけど…やれるだけやってやろう!」


俺は素早くレンガの防壁から胴を出した。


黄土色の砂埃が2つの戦陣の間に吹き流れる。風は北、採石場の辺りから流れている。


魔族「コォー…ォオオ…」


土色に霞んだ遠景の中に、青白い炎の目立つ巨体が腕をこちらに向けたのを見た。


槍(……よく狙え、よく見定めろ、落ち着け…炎が腕に集まったらだ…集中しろ……)


自分に言い聞かせる。目を凝らす。

狙いは、奴の炎が腕に集まり、いざ砲撃を放たんと光る……その瞬間だ。



魔族「コォー……ォオ…!」

槍「!」


腕が光った。
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 22:44:08.79 ID:3km2H1E0
ドォン!


ザッ!


槍「はっ!はっ!はっ……!」


爆音がこちらの壁を叩いた音か?撃針が火薬を潰した音か?


極度の興奮と緊張の中に居た俺は、鳴り響いた音がどちらの攻撃なのかもわからないほどの思考回路になっていたようだ。

俺が引き金を引いたか、それとも相手が放ったか。どちらかはわからないが、俺は何かの後すぐに、こうして壁に背をもたれ、隠れたのである。

[ピーーー]か殺されないかの一瞬だった。これではまるで決闘だ。

……これが戦場か。


槍(やったか?やってないか?…どっちだ、覗き見るか?その間にまた砲撃がきたら………ん?)


俺は自分の右手が握る火薬銃を見た。


槍「……」


火薬銃の銃口からは、もくもくと細い煙が漏れ出ていた。

あの一瞬で俺だけが爆発音をとどろかせた事を示す、勝利の煙だ。
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 23:24:29.84 ID:3km2H1E0
槍「うっそ…嘘だマジか本当か?本当なのか!?」


ついつい興奮し、レンガの壁に乗り上げるようにして勢いよく顔を出した。

レンガに真新しい爆撃の痕は無い。それはつまり…。



魔族「……」

槍「!」


見えた。

身体から全く炎の出ていない、白い巨体。シドノフだ。


その死体が2つ。ひとつはハープと名乗った少女が倒したもの、そしてもうひとつこそが……。


槍「……俺が…倒した…!」


嬉しさのあまりに笑みが零れてしまう。

あれほど苦戦していたシドノフを、たった一発の弾丸で倒したのだ。この俺が。


槍「よし……よし!よしっ……!いける…いけるぞ…!」


俺は高鳴る鼓動を落ちつけるため、再び壁に背をもたれて銃の手入れを行う事にした。

しばらく、銃を扱う手は興奮で震えていた。
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/10(日) 23:35:09.09 ID:3km2H1E0
ダァン!

銃が弾を打ち出す軽快な炸裂音が鼓膜に心地いい。少なくとも腹の底を震わすような砲撃よりはずっとだ。


槍「……よし、二体目!」


そっと顔を出して確認する。

なんと俺は、二体目のシドノフを始末することができたのだ。


俺が倒した数なんてのは、まだ盤全体で見ればそうでもないだろうが、俺らかすればあからさまな火力差から圧倒的に不利だと感じた戦況は一転したのである。

絶対に倒せない。そう思っていた奴を倒す事ができたという希望は、俺ら民兵の軍にとってはあまりに大きなものだ。



槍「はっ…はっ…!」


レンガの壁からレンガの壁へ移動する。

この壁を急遽設置してくれた町の職人たちには感謝だ。これがなければ敵を食いとめられず町は滅んでいただろうし、こうして反撃し、撃退に漕ぎつけようとする一人の男の役に立っている。

町長はレンガ職人に名誉ある称号を贈るべきだ。


槍(よし…倒せる、倒せるぞ)


次に俺がする事は決まった。
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 23:29:09.61 ID:mlaaYUAO
民兵「はぁっ…ハァ…ッ…!」


ドゴォン!


民兵「ひぃいい!」

パラパラ…


民兵(こ…殺される…!このバリケードを出たら間違なく…いや、ここにとどまっていてもいつかは…!)


民兵(戦いが始まった当初は良かった…足場の悪い道でノロノロと走り寄ってくる奴等を撃ってなんとかなった…だけど今は…)

魔族「ゴォオオォ…!」

民兵「ひっ…!」

魔族「コォー…!」

民兵(やめてくれ…!撃たないで、撃たないでくれぇ…!)


ダァン!



槍「………よし」

民兵「……え…?」

槍「おう、怪我はないか?大丈夫か?」

民兵「あ、ああ…俺は大丈夫……でもあっちにいる奴は顔が酷く爛れて…」

槍「わかった…ありがとうな、良く持ち堪えた…そいつをテントまで運んでくれ、あとは任せろ」
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/12(火) 12:27:28.33 ID:nvIPTMAO
民兵「だ、だけど俺の持ち場はここで」

槍「そいつの治療が先だ、ここは俺がなんとかするから」

民兵「そんな事言っても……あんたにだって持ち場が」

槍「俺の持ち場は問題ないさ、片付けてきたからな」

民兵「なん…!本当かい!?」

槍「センセイにコツを教わったんだ、俺はそのコツを他の奴に広めなきゃいけない」


ドゴォン!


槍「…っ…あっぶね…!まだここを狙ってる奴がいたか…」

民兵「……倒せるのか!?あの炎の巨人達を!?」

槍「ああ、倒せるよ……今さっき倒したじゃないか、あれが記念すべき3体目だな」

民兵「………!」

槍「だからもう、敗北に怯え震えることはないんだ」


槍「…この戦、勝てるぞ」
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/12(火) 14:10:02.14 ID:PoROS9Ao
面白いな
期待
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/12(火) 22:47:15.32 ID:zH/41nU0
「コォォー…!」


飛脚「お!?」


青く強く燃える右腕が、遠くで自分を狙っていた。


衣服を湿らす程度の汗が一斉に噴き出す。

瞳孔が開く。


負傷者を探すため戦場を駆けている最中の無防備な前傾姿勢。

勢いに任せた身体が向く先は正面。その先に見えた、今すぐに砲弾を放たんとする白い巨人。


応急処置を行うための、それでも最低限と割り切った道具を詰め込んだだけの小さな皮の鞄が、今この一瞬ではひどく重く感じられた。

砲撃と真向かいの体勢の自分。今まさに腕からは、凝縮された炎の塊がこちらを撃ち抜こうと滾っている。
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/12(火) 22:49:05.70 ID:zH/41nU0
飛脚(伏せ、無理だ身体の勢いが前方向へ強すぎて倒れることができない)

飛脚(左右、同じく勢いが強い、十分な回避を行えるフットワークは至難)

飛脚(なら、)


極限の緊張が生む高速の思考。

身体が勝手に動く。


飛脚「――上だ!」

魔族「…ーォオオオ!!」


飛脚の男は前へ蹴り出るためのエネルギーを、一瞬の判断で真上へ飛ぶための力へ変換した。

前方へ全力で駆けていた彼が突然直角に飛びあがる様は、奇怪なものであったが美しかった。



飛脚「ふう!あぶねえあぶねえ!よそ見はいけねえ!」

魔族「……!」


笑う男の真下をスレスレに火炎の砲弾が過ぎ去ってゆく。
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/12(火) 23:51:00.96 ID:nvIPTMAO
タタタタ…


飛脚「おーい……ってあれ?あいつはここに居たはずだが」

飛脚「…ひでえな、レンガも半壊になってやがる……砲撃に耐えかねて場所を変えた、ってとこか」


飛脚(…右側のバリケードは殆ど駄目だな…向こう側の味方と合流するには1、2発を壁無しでなんとか避ける必要がありそうだ)

飛脚(てことはあいつ、やっぱ左へ行ったか…よし、探してやろうかね、奴が助けた二人は無事一命を取り留めた、ってな)



飛脚(………?)


飛脚の男はここでやっと異変に気付いた。



飛脚「…ここ…あのデカい魔族がいねぇ…な…?」
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/13(水) 14:55:24.55 ID:K7RU9rwo
面白い
寝オチしたのかな
気が向いたらつづき書いてくれ
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/13(水) 22:18:06.50 ID:JwVdOlw0
槍「よし、左!撃てるぞ!」

「おお!」

ダァン!


魔族「ブゴォ!」


またも命中。俺の弾では無かったが手柄なんて関係ない。

負けの匂いしか漂わなかった戦いに勝利の欠片を見出せたのだ。手柄なんて二の次も良い所だ。


今俺がやるべきことは3匹、5匹と自己のスコアを伸ばして功績を得る事などではない。

全ての力を結集して、俺らの町を守ることが最優先なのだ。


「ホムラ、すごいぞ!このタイミングなら奴に銃が効く!」

槍「ああ、俺らは左右に銃を構え、相手がどちらかに砲撃を放った時、狙われていない側の銃でその隙を突く……これなら撃ち手がガンマン紛いの事をするリスクもない」

「あいつらに銃は効かないもんだと半分諦めていたが、これなら…!」

槍(……皆の士気も戻って来たみたいだ、良かった)


槍(よし……よしよし、これなら順調にいける…油断さえしなければあいつらを全滅できる…)

槍(そうすれば……この戦争も終わりだ!町に平和が戻る…!)


飛脚「おい!おいおいなんだこれよぉ!?おい!」

槍「!」


俺の隣に、聞き覚えのある大きな声の男がスライディングで寄って来た。
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/13(水) 23:23:27.33 ID:l.gnKwAO
槍「あ、お前は飛脚の…」

飛脚「なんだよおい、怪我人置いてきて戻ってみりゃさ、やけに静かで、んでほらこんな状況だぜ?」

槍「な、なにを言いたいのかわからないぞ、落ち着けよ」

飛脚「落ち着けるかよお前ぇ!」


男はけらけら笑いながら、槍使いの彼の肩を強く叩いた。


飛脚「何時間も膠着状態だったのに、なんだってこんな状況に?あの巨人がバタバタと倒れるしさ、もう俺も何がなんだか…」

槍「それか、あいつらを倒す方法が見つかっただけだよ」

飛脚「うお?本当か!?すげぇじゃんか!みんな弾がきかねーきかねーって喚いてたのに」

槍「はは、なー、すごいよなぁ」


ダァン!


槍「……感謝しなくちゃな」

飛脚「?」
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/14(木) 06:03:56.70 ID:1tSP16AO
少女「さて、だいぶ数も減ってきた…砲撃音も聞こえない」

少女「……ホムラ、といったか」

少女「奴が“工夫”したのだろうな…ふ」

少女「私は教えただけだ…それ以上の事はしていない…」

少女「……ふ、甘いかな」

少女「だがこの辺鄙な町に再び平和を取り戻すには、勇気が必要だ」


少女「…シドノフ程度に怯えていてはいかんな」

少女「…大丈夫だろうが」
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/20(水) 21:57:21.11 ID:yvFlxQAO
槍「……勝った」


無音の戦場に俺は立っていた。

あと数発で弾が切れる火薬銃と全く役に立たなかった自慢の長槍とを両の手に抱え、ただただここに立ち尽くしていたのだ。


「………来ないのか?」

「敵は……?」


俺に続くようにして民兵達も壁の陰から出てくる。

遠くの草影を疑うように注意深く目を凝らしながら、次々と戦士達が姿を見せる。

俺はひょっこり出てきた頭の数の多さを見て初めて、沢山の仲間と共に戦ってきたのであると実感した。


槍「………」

「……」


民兵達と俺の、豆鉄砲を食らったような目が合う。


そして咳を切ったように、戦場は歓喜の叫びに包まれた。
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/20(水) 23:43:14.75 ID:yvFlxQAO
槍「……よっしゃぁああぁあッ!」


青い空に叫んだ。

戦場での高翌揚感も、達成感も、全てをまとめて吐き出したかったのだ。


緊迫した火薬の香りのする息を吐き出し切り、沢に近い緑の匂いのする空気を腹いっぱいに吸い込む。

いつも通りの、俺らの住む町の美味い空気だった。


槍「…戦争から守れたんだな…町を…バンホーを…」

「おいホムラ!やったじゃないか!」

槍「…ああ!計画を聞いて黙って実行してくれたみんなのおかげだよ、やった!」


気がつけば、俺の周りには人だかりができていた。
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 23:34:23.46 ID:poVEYUAO
「あんた鍛治屋なんだってな?いやぁ自警でもないのにすげえよ!」

「ホムラっていうのか、礼を言わせてくれ!」

「やったぁああぁああ!」


飛脚「…ほぉお…あいつ…ただぼーっとしてる奴かと思ってたが、やるじゃねぇか」

飛脚「あんなに囲まれちまってまぁ…ありゃりゃ、姿が見えねーや…」

飛脚「…じゃあ言葉だけでも……ありがとうよ、町を守ってくれてな」



飛脚はそのまま誰に対してでもなく手を振ると、怪我人を探しに歩きだしてしまった。


途中ですれ違った少女には気付いていない様子だ。
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/23(土) 02:08:05.19 ID:H3w3LkAO
ただでさえ慣れていない祝福の喝采を、多くの戦友から一斉に浴びている俺は一歩の身動きもできなかった。

祝勝会とは戦場でそのまま行われるものだったのだろうか?

とにかく俺は、なかなか冷めない興奮の渦中の中心で、実感のない手柄を称えられていたのだ。


少女「その様子だと、お前はホムラ、かな?」

槍「! あんたは」


人の渦の外で、薄く大人のように微笑む少女を見つけた。

彼女が纏う服にも靴にすらも、目立つ傷や汚れは見られない。
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/25(月) 00:15:42.86 ID:V84L.UAO
少女「あちこちにレンガの残骸が散らばっているな」

槍「砲撃が激しかったからな…バリケードとして使えるレンガはもう、いくらも残ってない」


俺と傭兵の少女……ハープは、一緒に戦場の傷跡をおさらいするかのように練り歩いていた。

勝ったは良いが、まだ怪我人や、…死体がある。

そいつらを残して勝利を祝うなんてできるわけがない。

早々に祝賀会は御開きとなり、皆四方へ探索しに散ったのである。


少女「もっと早く来れば良かったな」

槍「そんな、充分ハープさんは早かったさ」

少女「傭兵の第一陣で来ていれば少しはマシに片付いただろう、それは事実さ」

槍「…ハープさんのおかげで勝てた戦なんだ、何もハープは自責することはない」

少女「ふっ、そうかな…」


細かな瓦礫の上を、少女が小さな歩幅で進んでいた。
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/25(月) 23:10:18.70 ID:V84L.UAO
槍「…あ、ハープさん、聞きたい事が」

少女「ハープで良い」

槍「…ハープは傭兵の第二陣てして来たんだろう?その他の二陣の傭兵達は?」

少女「ん?ああ…奴等か、奴等は……ほら、あそこにいる」

槍「?」


ハープが指で示したのは町側の林。

枝葉と幹に邪魔されて良く見えはしなかったが、多くの人がそこで蠢いていることは理解できた。


槍「…あの人達が?もう着いてたのか…」

少女「終盤頃にな、相変わらず全く役に立たない奴等だ」

槍「……俺としては、来てくれただけでもありがたい」

少女「ほう…」
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/26(火) 20:39:50.75 ID:en2pTQAO
幼女「傭兵と衛生兵達が勝利を聞いて動きだしたな」


レンガの塀の上に立ち、辺りを見回しながらハープさんが呟いた。

長い黒髪は束ねられず、そのままさらさらと風に靡いている。


槍「……ハープさんは何歳なんだ?」

少女「お前も死体の片付けでも手伝いに行ったらどうだ?」

槍「あー、…うーん、死体かぁ」

少女「死体が怖いか?」

槍「そういうわけじゃないけど、俺の役目じゃないかなって」

少女「…お前の役目じゃない…?」


少女「……ホムラ、背中の“それら”はなんだ?いつから刀狩りを始めてた」

槍「ああ、見ての通り剣だ。落ちてる剣は拾って、一応また鍛えないと」

少女「…鍛える」

槍「行ってなかったっけ、俺町では鍛冶屋なんだけど」
44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/26(火) 22:58:52.66 ID:kb9ZpR20
少女「…刀剣の鍛え役か、戦果を見る限りでは銃も向いていると思うがな?」

槍「うーん、銃は苦手だなぁ、俺は槍の方が向いてるよ…ていうかそもそも、自警じゃないし」

少女「槍、か…ふ、確かに振り回す格好は良いだろうが、戦場では飛び道具こそ最も実用的だぞ」

槍「飛び道具ねぇ…」

少女「師を得て付け焼刃な術を習うよりは銃を扱った方が堅実だ、便利だからな」

槍「……んー、俺はハープさんみたいな傭兵になるつもりはないから…はは、良いよ、鍛冶屋で」

少女「……そうか、才能はあると思ったのだがな」

槍「ははは、ありがとうございますセンセイ…」


少女「……おお、そうだ忘れていた」

槍「? 何?」

少女「この町の長を訊ねたいんだが、どこにいる?地形や民兵の総数などの確認をしたい」

槍「地形?総数…?変わった用事だなぁ…」

少女「私の役目だ」

槍(もう戦は終わったのに、傭兵ってのは調べごともしなくちゃいけないのか……大変だな)


槍「うーん、そうだな、町の長か……わかった、テントにいるから案内するよ」

少女「ほう、ありがたい、頼んだぞ」
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 01:55:39.68 ID:0EYUUh6o
俺「ほう、面白いではないか。支援しよう」
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/27(水) 23:45:23.85 ID:Um6ZOwAO

―――――――


??「あなた方の意見も良くわかります、しかしこれはあらかじめ決められた事…」

民兵「あらかじめ決められた事、だけで済むかよ!」

??「契約の通りです」

民兵「ああそうだろうよ、確かにな、だがあの傭兵達ときたらもう、最悪だ!」

??「最悪」

民兵「ぁあ!一度目の砲撃に怖じ気付いて逃げ出した奴もいれば、レンガの破片で頬を切ったくらいで救急テントへ逃げおおせる奴までいる!他に民兵の重傷者がいるのにな!」

??「そういった彼らはギルドの契約違反として最低報酬無し、最高除名となりますから、問題はありません」

民兵「いいやあるね!やつらのせいで俺らバンホーの民は……」


「失礼する」


民兵「!」

??「どうぞ」
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/28(木) 23:54:38.98 ID:UBUJBa.0
パサッ


槍「あ、どうも裁判長さん、この嬢さんは…」

少女「傭兵の第2部隊のハープだ、お前がこの軍の責任者か?」

民兵「…おいホムラ、必要でない時以外はここに立ち入るなと最初に言っただろう」

槍「すまん、けど頼まれたから…」

裁判長「構いません話は聞きましょう…はい、私がこの民兵たちを率いる責任者です」

民兵「ちょっと、裁判長…!」

少女「何故裁判長が町の命運をかけた戦いの頂点に?町長はどうした」

裁判長「町長は魔族の軍勢がこの町にやってくると聞いた夜にどこかへ逃亡しました、なので私が代わりの責任者となっています」

少女「…なるほど、ではこれから指揮を執るのはお前」

裁判長「遅れましたカギルと申します、お嬢さん」

少女「これはすまない、私はハープだ、カギル裁判長」

民兵「……おいホムラ、誰だこの子供は」

槍「んー、わからん」
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/29(金) 00:21:16.93 ID:SqVYz6AO
裁「…それで、傭兵のハープさん、私に何か御用ですか?」

少女「構わないのであればまず一つ、周辺の起伏なども記したこの町…バンホー全体の地図を貸していただきたい」

槍(あ、本当に借りるんだ)

民兵「…おい、さっきから大人を馬鹿にするような喋り方をして…」

裁「それは構いません、…地図程度であれば…と言いたいのですが、いつまた魔族軍がやってくるかわかりませんので」

少女「“もし奪われ魔族の手に渡ったら”」

裁「それが一つ、そしてもう一つ、私はハープさん貴女を信用していません」

民兵「そうだ、第一子供が傭兵だと…」

裁「背丈見掛けはあえて問いませんが、信頼できない相手に我が町の地図は預けられません」

少女「……つまり私が傭兵であることの証を見せろということか」

裁「いいえ」

少女(……お)

槍(? …ハープさん…今笑ったか…?)
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 02:14:15.12 ID:nwfRHoAO
裁「私達はあの魔族の軍達が海さえ渡り、ついに我々の町バンホーを襲撃する所にまできたことを知り…」

裁「そしてハープさん、あなた方傭兵を雇いました」

民兵「決して少なくはない額でな」

少女「……」

槍「……」

裁「私達はあなた方傭兵に相応な期待を寄せていました」


裁「…しかし昨晩からの戦いではどういう事か、あなた方傭兵はあまりに…粗末」

民兵「そうだ、あんたら傭兵全てが悪いとは言わねぇが、だが大多数の傭兵達の様子はひどいもんだ!」

裁「聞くところでは、敵前逃亡はもちろんのこと、仮病まで使い戦線から離脱しようとする傭兵がいたとか」

少女(……なるほど…)

裁「あなた方はあまりに粗末だ、私達は過半数のあなた方を信用していない…」

少女(裁判長のカギル、か…冷静な判断はできるようだ)
裁「よって、地図は貸し出せません」
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/31(日) 01:35:16.20 ID:7OEohQAO
少女「……よし、わかった…地図を借りるのは諦めよう」

裁「ご理解ください」

少女「わかっている………だが持ち出しはせず、この場で地図を見る…そこは協力してくれるか?」

裁「外部に持ち出さないのであれば断る理由はありません」

少女「それはありがたい、地図はどこに?」

裁「地図は……ああ、こちらです、この紙が地図です」

少女「ふむ、かなり大きな用紙だな……一枚図か」



槍「………」

民兵「…おいホムラ」

槍「……なんだ」

民兵「いや、なんでもない…ただ、お前っていつも変なモンや人を連れてくるなぁってよ」

槍「なんだそれ…まぁ、あの子が結構変わってるっていうのは事実だけどさ」

民兵「…あ、裁判長が地図の高低差について説明し始めた…こりゃダメだ」

槍「ああ、そうだな…面倒臭そうだ、出よう」
51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 23:58:10.65 ID:7OEohQAO
パサッ


槍「……ふー…」

民兵「やれやれ、あのよくわからんガキもそうだが、裁判長のキッチリ癖に付き合うのも嫌なもんだ」

槍「あの子を疑っているのか?あの子は傭兵だぞ」

民兵「…最初から思ってた事だけど、お前どうしてあのガキを連れてきたんだ?傭兵には見えないがね」

槍「この目であの子が…ハープさんが戦うのを見たんだ、だから連れてきた」

民兵「さん、ね…どうしちゃんだかねホムラよ…おぞましい戦場を見て気でも違ったか…」

槍「おい俺はマトモだぞ、そんな言い方は無いんじゃないか」

民兵「正義感に高翌揚したガキを騙す奴とはな…戦は終わった、家でゆっくり休めよロリコン…」

槍「おいっ」


シュボッ…

ジジジ…


民兵「………ぶはー…うめぇ」

槍「……もういいよ、テントへ戻る」

民兵「はいよ」
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 00:17:03.08 ID:qVK9CgMo
ワッフルワッフルってペース遅すぎだろ
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 07:05:04.42 ID:5.nqzOwo
でも期待しちゃう!くやしい!
楽しみに待ってるよ!頑張って!

ペース上がったら嬉しい
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 12:09:22.26 ID:N6dd8kAO
槍(…たしかにハープさんは子供だ、どう見ても)

槍(そりゃ俺だって、姿を見ただけでは“何の冗談だ”ってなるさ、けどさ)


―――おい、ルーキー


槍(………)

槍(…ただの子供じゃないと思うけどな、俺は)


「おい、そこの赤髪!暇なら死体の片付け手伝え!」


槍「げ、死体か……オッケー、わかった!」


槍(…ふぅ、ハープさんの事を案じるよりもやる事があったんだったな……)


槍(……町の人…傭兵の人、勝ったとはいえ、死んだ人や負傷した人はそう少なくない)

槍(…弔ってやらなきゃな)
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 22:43:14.35 ID:N6dd8kAO
パサッ


少女(朱金の町バンホー…アカガネや鉄を豊富に蓄える低い山に囲まれた……他の町からは離れた田舎の町だ)

少女(近くに海はあるが断崖絶壁…そして山…港を作れないために産出された鉱物や金属は陸路で輸出しなければならない)


少女(……資源は豊富にあったから物流の不便さには困らなかったのだろう…孤立してはいるがそれなりの人口を持つ町だ)

少女(……だが今は全てにおいて最悪な状況にある)


少女(この海に面した断崖…そして周囲に助けを求められない孤立した町)

少女(惨劇軍は海を泳ぎ人間の棲む世界へ侵攻する……奴らは断崖絶壁だろうと執念で登ってくる)

少女(そんな奴らとこの小さい町は…ひとつの前線として立ち向かわなければならない宿命にある…)


少女(人間の棲む世界を守るには、なんとしても水際で…)
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 06:06:10.89 ID:LxmcJ6AO

ゴォオォ………ン…


少女「…?鐘?」

裁「…きっと弔いのために誰かが鳴らした鐘でしょう」

少女「…そうか…この町には寺か何かがあったのか、知らなかった」

裁「ですが昔と比べ、神にすがる人は減りました」


ゴォオォ………ン…


裁「」
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 21:10:29.97 ID:7CkFMSg0
ミス 途中投稿してしまった
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 21:37:00.66 ID:7CkFMSg0
裁「今は戦時中ですから、どの道神を崇める暇などないのですが…それも成るべくして成った事なのでしょう」

少女「…神か」

裁「緊迫した戦場でも教えの戒に縛られず、あらゆることを事を合理的に行えるので、まぁ、統括者の私としてはありがたい現代の宗教観です」

少女「……」

裁「…難しい話でしたね、それとも貴女に何らかの信仰があったのか、とにかく申し訳ございません」

少女「いや、構わない」


少女「…だが死者のために鐘を鳴らす事ができるのであれば良かった、まだ他人を思いやる心がここには残っている」

裁「?」

少女「死者を弔えなくなった町はじき滅びる」

裁「…誰の言葉か定説かは知りませんが、その土地の者が何を信仰するかにもよるでしょう」

少女「私の経験から来た言葉だよ」

裁「弔えなくとも町は動きます」

少女「そう思うか」


少女(そんな町や村は無かったがな)
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 21:56:18.98 ID:7CkFMSg0
少女「……うむ、ありがとう、カギル裁判長、細部までよく書きこまれた良い地図だった」

裁「そうですか、私の書いたものが貴女の何らかのお役に立てたなら幸いです」

少女「? これは自ら…?」

裁「はい、町の裁判長をやってはいますが常に出番がある訳ではないので、判子作りやこういった細かな仕事も兼ねています」

少女「…それはすごい、他の作品も是非見てみたいものだ」

裁「……ありがとうございます、いつか時間のある時にお見せしましょう」

少女「いつか…か、そうだな、この戦が完全に終わってからだな」

裁「そうですね、完全に……む」


裁「ハープさん、完全にとは?」

少女「言葉の通りだ、奴らは第二波、大三波と来る」

裁「……は、つみみですが…」

少女「? こんな海沿いの町、一度の進攻で済むはずが無いだろう」

裁「…聞いていません、今日までの戦いは相手の総戦力と呼べそうなほどの軍勢でしたよ、これで終わりではないのですか、奴らが再び来るという確証は」

少女「来るさ…それじゃ、私は傭兵の集合地点に戻るので話はここまでだ、地図ありがとう」

裁「! お待ちを…!」

パサッ


裁「……まだ終わっていない…?そんな、まさか…」
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 22:46:43.61 ID:7CkFMSg0
ゴォオォ………ン…


槍「…62回、これで全員分だな」

女「ありがとうございます…」

槍「…あいつは頑張りましたよ、最期まで」

女「……うっ…ううっ…」

槍「いつも俺に良い石を持ってきてくれる…本当に、本当に良い奴でした」

女「う…うわぁぁあ…」


槍(…62人、この町の規模からしたら多すぎる命だ)

槍(彼らの家族から稼ぎ頭が消えて…そして生活に困窮する町の人間は何人になる?)

槍(妻と一人の子供だけの家族だとしても、少なくとも更に124人のか弱い人々が不幸になる)

槍(…何故戦争なんて起きてしまったんだ、何故…)



「よっ、ホムラ大先生!」

槍「ん?」


飛脚「良い名前だなあんた、髪の色とピッタリだ」

槍「おお、あんたか…今日は良く会うなぁ」

飛脚「へへへ、偶然だねぇ……と言いたいところだが、あんたがここにいるって聞いたもんでな、それで来たんだ」

槍「どうしてわざわざ俺を?」

飛脚「まぁまぁ、待てよ」


パンッ

飛脚「……ナムナム」

槍「……」
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 22:54:58.58 ID:7CkFMSg0
飛脚「……仮設治療テントの中でも、怪我をした奴らの間ではあんたの話で持ちきりだったぜ、ホムラ」

槍「そうなのか?俺は何もしてないんだけど…」

飛脚「おいおい、何もしてねーはねーよ、それじゃアンタ以上に何かした奴がいるのかって話になっちまう」


飛脚「…誰もが噂してるよ、ホムラ、お前の軍師としての才能のすごさをな」

槍「……あ、俺がみんなに指示を出したって事か」

飛脚「それしかねーだろ」

槍「…うーん」

飛脚「すごいよあんた、マジで…あんたのおかげで、不謹慎だが」


槍「……」

飛脚「……この広場で不幸にも横たわっている……62人“だけ”で済んだんだ」

槍「…62人“も”死んだ」

飛脚「違うね、あんたが居たから62人“だけ”で済んだ、居なけりゃ奴らの攻略法もわからず全滅だっただろう」


飛脚「何を気に病んでるのか知らないけどな、アンタのおかげで俺ら町の奴らは生きてる、だから感謝はされど、あんたが悔いることはねえよ」

槍「……」


――ハープさんのおかげで勝てた戦なんだ、何もハープは自責することはない


槍「……そうだな、そう思っておこう」

飛脚「ああ、誇れ誇れ!ホムラ、あんたはヒーローだぞ!」
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 23:07:15.44 ID:7CkFMSg0
あいつはヒーローとか誇れとか言ってくれたが、俺自身は全くそんな浮ついた気持ちにはなれなかった。


俺がこうしてヒーロー呼ばわりされているのも、元はと言えばハープさんが俺に奴らの対処法を教えてくれたからで、俺自身が発見した事ではない。


それに多くの尊い命の上にどっかりと偉そうに座って祝杯を口にするなど、担がれても出来ることではない。



夕方になり、町が赤く染められる頃にはいくらかの人々が祝いの酒を交わしているようだったが、俺はその輪に混ざる事はできなかった。


それに近くを通れば強引に引き込まれて飲まされそうだし、賑やかそうな所には極力近づかないようにした。


俺にはやることがある。



槍「……あった、ここが傭兵達の仮設テントかな……?」


戦いを終え、弔いを終えた俺はそのまま、傭兵達の宿舎の前に赴いていた。

町の外れの今日の戦場に近い、割となだらかな場所に白い布は多く佇んでいる。
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 19:44:30.90 ID:RVRfdQDO
面白い
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 20:58:17.79 ID:9LP.BPQ0
「余りの仕事だから楽だろうなーって思ったら、案の定だったな」

「こんな具合で続けてれば金も良い感じに溜まっていく…このご時世ありがたいことだ」


槍(……テントの中から声が聞こえる…けど多分勝手に入っちゃいけないんだろうな)


「だけど俺らは二番手だったから良かったが、一番にここに来ていたらと思うと…」

「馬鹿野郎、運だよ、運…大金手にするもおっ死ぬのもみんな運の上さ」


槍(んー、男の話声ばかりだ…やっぱり女の傭兵なんて少ないんだろうな、戦場でも全然見なかったし…)



「黙れ小娘、期日は期日だ、我々は明日ここを発つ!」

槍(! な、なんだ?随分な大声だな)


「で、でも私、見たんです!聞いたんです!魔族達が集まって、またすぐに強襲をかけようって話しているのを…」

「そんな事知るものか!町の奴らは期日を“戦闘終了まで”として我々を派遣した!我々はその通りに帰還する!」


槍(……すぐここのテントからだ、怖そうな男と…小さな女の子の声がする)

槍(…さっきの声はまさかハープさん…?いや、それにしては雰囲気が違うな…)

槍(覗き見盗み聞きは趣味じゃないけど、俺らの町に関するトラブルみたいだ……少し聞いてみよう)
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 21:13:16.79 ID:9LP.BPQ0

少女「…それはあんまりではないですか隊長!?継続して任務についていれば、戦闘を行った後に町からは大きな謝礼が待っているのかもしれないのですよ!?」

隊長「ふん、口約束で人助けをするなど我々傭兵の流儀から外れている、わかっていないな小娘」

少女「……」

隊長「我々は書面の上での約束が全てだ、正式な契約無しに町の防衛などやっていられるか!」

少女「そんな…!」

隊長「それにお前は魔族の会話を聞いたと言っているが、我々二番隊が到着した頃には戦闘の終盤だっただろう?果たしていつその会話とやらを聞いたのか……んん?」

少女「そ、それは…この町へ到着する前の鉱山で耳にしました」

隊長「ッ……デタラメをごちゃごちゃぬかすな!いいか、俺がこの部隊の隊長だ!お前には何の権利も権限もない!」

少女「うっ…そ…そんなのひどい…!ひどすぎる!」

隊長「それとな、口の聞き方に気をつけろよ小娘、俺ら傭兵は金はもちろん、酒や女に飢えている馬鹿ばかりだ…お前のようなガキだって食っちまう輩は多い」

少女「!!」

隊長「あまり生意気な事を言っていると……よう?移動中の馬車の中でどっかの頭のネジが抜けた馬鹿に…」


バサッ


槍「おい、子供相手だろう、そこまでにしておけ」

少女「!」

隊長「! おい、なんだおめえ!」

槍「…町の人間だよ、民兵だ」


少女(……)

槍(…あれ、ハープさん?今までの声って…それもこの人が?)

隊長「民兵がここに何の用だ、あん?俺らはここの防衛に来たが、てめえらと慣れ合うつもりはねえぞ」

槍「…いや、戦場にあるあんたらが置いていった火薬銃の処理について聞きにきただけだよ、あんたが隊長なんだろ?」

隊長「ほう、なんだそんな事かよ…勝手にしろ、そいつの持ち主は俺らじゃねえ、死体だ」

槍「ん、そうか、わかった」
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 21:47:01.63 ID:9LP.BPQ0
隊長「おら、用が済んだらさっさと出てけ、酒がまずくなる」

槍「…ああ、わかったよ」

少女「……」

槍(ハープさん……だよな?まるでこの男に怯えているような顔してるけど…)


少女「…ひどい!見損なった!こんな人が隊長だなんて!」

槍(!? え!?いきなり何!?)

隊長「あぁん?俺がこの隊でのルールだ、規律だ…何よりも、これは俺だけのやり方じゃねえ、傭兵ならみんなそうするだろうよ、誰だってタダ働きしたかねえだろ?」

少女「…傭兵って本当に、お金がないと何もしないのね…!」

隊長「チッ……大人の世界をなんもわかっちゃいねえガキがよぉ…口だけはいっちょまえってかァ!?」

ジャキンッ


少女「ひっ…!」

槍「! おい!子供相手に剣なんか出すなよ!」

隊長「黙れ、お前には関係無い」

少女「…いいわ、あなたたちが予定通り帰るというのであれば、私だけでもここに残る!」

隊長「はっ、勝手な行動だな小娘?お前の報酬はパーになるばかりか、協会へ違約金を払う始末になるぜ」

少女「……それでも構わないわ、勝手にする、帰りたければさっさと帰ればいいのよ!」


バサッ


槍「あっ、おい待…」

隊長「全く、少し“お使い”ができるからって、協会もよくあんな小娘を派兵できたもんだ…」

槍「…おいあんた、あんな小さな子相手に何ムキになってるんだよ」

隊長「古く昔から言うだろう、女子供はうちに帰りな、ってな…俺ら傭兵はお遊びでやってるわけじゃねえ、わかったらお前もさっさと出ていけ」

槍「……ああ、わかった、今度こそ出て行くよ」


パサッ
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 22:07:20.91 ID:9LP.BPQ0
少女「……」

つかつかつか…


槍「おい、おーい」

少女「?」

槍「…いや、えっと…呼び止めてごめんな、おじさんも特に用があるってわけじゃないんだけどさ」

少女「…ふ、なんだそれは?下手に女にがっつく輩以上に怪しい呼び止め方だぞ」

槍「その喋り方!やっぱりハープさんじゃないか!」

少女「はっ、なんだ?私は着替えてもいないぞ、他にどう見間違える」

槍「そりゃそうだけど…見間違えるっていうか、確信が持てなかったというか、ハープさんって感じじゃなかったし…」

少女「“あんな喋り方はしない”と?」

槍「そう、それだ!それ!」

少女「私は私だ、見間違えるな」

槍「ははは…」

少女「で、お前は私に自分の趣味が非常に年下の女であることを伝えに来たのか、それとも他人の話を盗み聞きするのが趣味であることを伝えにきたのか、どっちだ?」

槍「ちょ……人聞き悪いな、どっちでもない」

少女「それともただ、あの使えない傭兵隊長に銃の件について聞きに来ただけか…」

槍「それもあったかもしれないけど、ハープさんに用があって来たんだ」

少女「? 私にか」

槍「ああ、お礼を言いたくて」

少女「……ふ」

槍「?」
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 22:46:57.13 ID:9LP.BPQ0

少女「何だそんなことか……聞いた話ではお前は何体ものシドノフを倒したんだろう?礼を言われるのはお前の方じゃないのか」

槍「それは全部ハープさんが俺に教えてくれた事だろ、全部ハープさんのおかげだよ」

少女「そんな事を言いにここまできたのか?」

槍「え?……あー、うん、そうだな、うん」

少女「ふ、律義な男だな」

槍「よく言われるよ」

少女「人の人生なんて短いものだ、出世はできる時にしておけよ」

槍「…ハープさんだってそうじゃないか」

少女「?」


槍「さっき、隊長の人と喧嘩してただろ」

少女「…ああ、あれか」
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 22:48:21.98 ID:9LP.BPQ0
槍「ハープさんは俺らじゃどうしようもなかった魔族達を何体も何体も倒して、この町の救った……本当はハープさんこそ脚光を浴びる、この町のヒーローになってるはずだろう?」

少女「ふ、ヒーローね」

槍「でも何故か俺がヒーローになっちまってるよ、おかしいだろ、それはハープさんが自分から自身の手柄を申し出なかったからだろ?」

少女「私にはそんな名誉、邪魔なだけだからな」

槍「なんで……」

少女「私は正義感に駆られてこの町へやってきた、“世間を知らない小娘傭兵”だからな」

槍「……それって」

少女「……」

槍「…ハープさん、さっきの…何のための演技だったんだ」

少女「…ふ、あれはただの確認作業だよ」

槍「え?」

少女「今日は疲れたな?ホムラ」

槍「ん、ええあー、そうだな?うん」

少女「この町に風呂付きの宿はあるか?」

槍「ん、え?あ、あるっちゃあるけど」

少女「よし、では案内してくれ」

槍「ちょ、ちょっとまってくれよハープさん!案内頼むなら先歩かないでくれって…」
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 00:11:29.31 ID:1eP8Vc2o
期待
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 22:46:15.13 ID:6dLlaQAO
『世界を統べるともなれば、力による統治だけでは完璧な王とは言えん』

『王たるもの、知識を活用して巧く世界を管理しなくてはならん』

『暴力や威圧だけでは完璧な支配はできん……民の意志、心まで掌握してこそ、真の王と呼ぶに相応しいのだ』

『…が、時に知識だけではどうにも打破できん障害が、この覇道には現われる…そう』

『言葉も心も通じぬ、頭の足らん力だけの馬鹿者だ』

『心を掌握できず、相手が戦意を保持し続ける…ともなれば、知識だけで世界を統べることは不可能だ』

『…だから覚悟しておけ、備えるのだ、忘れるな』

『王への道には、必ず戦わねばならぬ敵が現われる事を……』
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:34:13.53 ID:8OWSEBw0
カララ…ギギギ


俺の家の引き戸は途中で何かを噛んだように音が鈍く、重くなる。

でも俺はそれを不便に思った事はないし、祖母も特に気にしていないみたいなので放っておいている。


少女「ここがお前の家か、随分と小汚いな」

槍「ほっといてくれ…ただいま、ばあちゃんいるか?」


そっと半開きの戸から顔だけを出して窺う。

自分の家とは思えないほどの慎重な開け方だと、初めての奴からはよく言われる。最初だけね。



婆「ちぇいやぁあああああああああ!!」

槍「うおおおおっ!?」

少女「ん?」


齢八十を超えているとは思えない素早い動きで廊下を踏みこみ、切れ味最高の長刀の刃を俺に向かって突いてきた。

俺は足を地に付けながらも上半身を後方に折り曲げ倒すという、常人には考えられないだろうが昔から親しみ慣れた動きでその一撃必殺の突きを回避した。


半開きの戸を挟み向かい合う俺と祖母。

そして俺の隣には、ハープさんが何ともなさそうな顔でこのやり取りを眺めていた。


婆「……ほお!ホムラじゃないか、戦は終わったのか?」

槍「……終わったよ、町中響き渡る大きさで勝利宣言が叫ばれてただろ…」

婆「ふん、耳が遠いでな……魔族共がついにここまで押し寄せてきたものかと思ってしもうたわ」

槍(今日でなくても長刀は突き出すくせに…)
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:45:25.23 ID:8OWSEBw0
婆「ふむ、魔族との戦には勝ったのか…それはめでたいことじゃな………ん?んん…?」


ここでやっと長刀を引いてくれた祖母は、ずいっと前に出てきて、戸の陰に隠れていた背の低い少女を注視した。

まるで観察するかのようなべっとりした視線でハープさんの事を眺めている。


槍「ああ…この子は今日の戦」

婆「お前の嫁にしちゃ少し若過ぎんかのぅ?」

槍「ばあちゃん聞いて、この子は今日の戦でお世話になった…」

婆「じゃがまぁお前も良い歳だ、嫁が来てくれるだけでもありがたい事じゃな……うむ、あたしは構わんよ」

槍「うん分かった、とりあえずこの荷物を工場に持っていきたいからそこ通して」

婆「ほっほっほ、めでたいのおホムラ、ついにお前にもこの時がやってきたかぁ…」

槍「…あ、ハープさん、ばあちゃんの事は気にしないでくれ、俺はこの荷物置いてすぐ戻ってくるから」

少女「ふ、良い母じゃないか」

槍「祖母だよ…まあね、近頃のボケが治ってくれればいいんだけど…」

婆「? おいホムラ、嫁を置いてどこに行く気だ」

槍「……荷物置いてくるだけだよ、そしたらハープさんに宿の案内しなくちゃいけないからすぐ戻ってくるってば、じゃ」


キシッ、キシッ…


少女「…はは、嫁か……間違っても、というやつだな」

婆「ん?違うのかい?」

少女「ああ、歳の差があまりに離れているからな」

婆「ははは、そりゃそうじゃな!言われてみりゃ確かにそうだ」
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 00:55:11.54 ID:8OWSEBw0
少女(……) ヒョコ


少女「…板の間の廊下…襖もあるようだが、奥にある物々しい扉は…?」

婆「ああ、あれかい?ありゃあホムラの工房だ、あいつは鍛冶屋だからね」

少女「自分の家に工場を持っているのか、すごいな」

婆「あいつの父から継いだ工場だがね、その前はあたしの夫のモンだったよ」

少女「親子3代、か」

婆「いや、あたしの親父もそうだったから4代だね、祖父は知らんけどね」

少女「……なるほど、代々受け継がれての役職か…」

婆「んっふふ、ホムラはおっちょこちょいだが、先代達から受け継いだ技はしっかり持ってるよ…この町、いや!この国で一番の鍛冶屋だよ、アイツは」

少女「この国一番、スケールの大きな話だな」

婆「法螺じゃあないよ?あたしが保証する」

少女「……ふ、そう?じゃあ信じてみるか」

婆「はっはっは!信じな信じな!いつかあいつに何か頼んでみな、何だって作っちまうからね」

少女「ふふ、頼もしいな……いつか、ね…頼んでみるよ」

婆「おう、そうしなよ!」


キシッ、キシッ…


槍「あー、肩が痛い……さすがにあの本数の刀を一度に運ぶのは骨が折れるなぁ」

少女「刀…戦場で集めていたものか」

槍「そう、ダメになったやつは打ち直しするから」

少女「マメだな」

婆「ふふ、そういうやつさ」

少女「ははは、そうかもしれないな」

槍「? なんだよ二人して…」
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 01:08:32.75 ID:8OWSEBw0
婆「ホムラ、嫁じゃない子なら変な事するんじゃないよ!わかってるね!」

槍「何もしないっての!宿に案内するだけ…あーもう面倒臭い、いってくる」

婆「あんまり遅くなるんじゃないよー!」

槍「はいはーい」



少女「……ふふ、良い祖母と孫じゃないか」

槍「はー、ばあちゃんには困ったもんだ、最近はホント、ボケがひどい」

少女「………ふ、そうか…だが年寄りにはあまり辛く当たってやるなよ」

槍「そんなことしな……って、ハープさんに言われたくないな、そういうの」

少女「ああ、それもそうだな?」



すっかり暗くなった時分、石造りの町の道を照らす石灯が連なる先を遠目に眺め、溜まった一息を吐きだす。

息が白くなっても不思議ではないくらい、今日は疲れた。


俺がやるべきことはひとまず全てを済ませたはずだ。

戦って、刀剣の管理をして、仲間を……弔って。


槍「…戦って、辛いなぁ」

少女「ん?……そうだな、辛いものだ」


今日の俺は最善を尽くしたはずだ。肩の荷は全て降ろしたはずだ。

町を守った。期待通りの達成感は結構ある。……だが。


俺の愛する町の、そこに住む愛すべき住人が戦場で何人も斃れた。

それだけはどうしようもなく……やるせなく、胸に閊えて吐き出せない事実だった
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 21:02:25.41 ID:Vbi4VOIo
なんで槍使いなんだ
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/06(土) 22:03:51.31 ID:aZLfhAAO
http://imepita.jp/20101106/790710

惨劇のシドノフ、図体は他の種よりも大きく、見た目通りの火力もあるし、単体の頑丈さで見てもトップだろう。

身体に纏わる青い炎は自身を強化する力があるらしく、その状態では半端な攻撃は通用しない。

炎の鎧はシドノフが腕から火炎を打ち出す際に一瞬だけ消えるから、その時を狙うしかない。

放置しておくと厄介だ、戦場では真っ先に消してしまいたい。
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/07(日) 14:34:42.13 ID:jfbej5oo
これは期待
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/07(日) 21:50:14.29 ID:oxX16yE0
ガサガサ…


飛脚「へいへい、救護と連絡係は戦いが終わっても忙しいですよーっと…」

飛脚「俺もさっさと家に帰って寝ちまいたいが、まだまだ戦場の後片付けが残ってるからな…まったくしんどいぜ」

飛脚「とはいえまあ、こんなしんどい仕事も苦にならない体力馬鹿だけがこういう役職についているわけなんですがー…」


飛脚「……あーもう!どこだよ合わせ砥!このテントの箱にあるってのは嘘か!?」

ガサガサ…

飛脚「そもそもこんなノロマで精密な道具を最前線のテントに置いておくなんて、管理の奴らはあったまおかしいんじゃねえの?くそ、時間だけが無駄に過ぎていくぜ…」


兵士「……」

飛脚「待てよ、もしかして管理の奴らが俺に適当な事教えたってのもあるか…?本当はこのテントには置いてないとか…」

兵士「……」

飛脚「ある、大いにあるぞそれは……畜生、うろ覚えな記憶で俺に面倒な仕事を増やしやがって」

兵士「ゲホッ…」

飛脚「ん?」


ズリッ…ズズズッ…


飛脚「げ!?し、死体…!?」

兵士「はぁ…はっ………」

飛脚「…じゃない、生きてるのか!?お前!?」

兵士「は……そ、そうか、俺は…まだ、生きてるのか…ゲホッ」

飛脚「…!」
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/07(日) 22:43:18.48 ID:oxX16yE0
飛脚(! ひどいな、傷は浅いが全身ボロボロだ、出血も……)

兵士「はぁ、はぁ…く、目が…霞む…」

飛脚(…酷い、このテントに来るまでの這いずった痕が血でくっきりとわかる)


飛脚「…待ってろ、全然下手だし最悪腕とか壊死するかもしんねーが俺が止血する、救護班へ行くまでの応急処置だ」

兵士「く…す、すまないな…死んでりゃ、楽だったもんだが…」

飛脚「うっせー黙ってろ!今包帯探してるから…!確かさっきここに…」

ガサガサ…


飛脚「……あった!ここで物探ししていたのも損じゃなかったな!」

兵士「はぁ…は…うっ……」

飛脚「おい、持ちこたえろよ、大丈夫だ、すぐに救護班のテントまで運んでやるからな…」ギュッ

兵士「……俺はもう、はっ…傷が深い、間にあわないさ…」

飛脚「馬鹿野郎諦めんな!何もしてねーで諦める奴は、何もできずに死んじまうんだぞ!」

兵士「く、最期に…伝えなければ…はっ、聞いてくれっ…」


ギュッ

飛脚「よし!大雑把止血完了だ!最期かどうかはしらねーが救護班に運びながら聞いてやる!しっかりつかまってろよ!」グイッ

兵士「ダメだ、ここからでは…っ…遠すぎる…」

飛脚「おぶされ、俺の首絞め[ピーーー]くらいしっかり掴まれ!諦めるなよ!」
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/07(日) 22:57:04.76 ID:oxX16yE0
タタタタタタ…


兵士「…!…早……」

飛脚「へへへ!馬鹿野郎、バンホー最速の飛脚だぜ!?何か喋るってのは構わねえが、舌は噛むなよ!そんなんで死なれちゃたまったもんじゃねえからな!」

兵士「……わかった、遺言はやめよう、そのまま一兵士として聞いてくれ…」

飛脚「一兵士ね、へへ、伝達役兼衛生兵の俺で良いなら聞いてやるよ」


タタタタタ……


兵士「…“奴ら”は、撤退した」

飛脚「? 撤退だ?あいつらは能無しみてーに最初からガシガシ、俺らを攻めてたじゃねえか」

兵士「逃げるという知恵が、あった…ということだ…ゲホッ」

飛脚「……待てよ、俺らはもう奴らは微塵も残っちゃいねえ、そう思ってるが…」

兵士「…なんだ、俺らは…町は、勝ったのか…?あの白い巨人はどうした、奴らも退いたのか…?」

飛脚「勝ったさ、全員倒した……どっかの誰かさんの大活躍のおかげでな?まるで奇跡だったよ」

兵士「……」


兵士「俺は最前線…山を越え、奴らが渡って来た海を望める崖まで進入した」

兵士「その時は既に気分が高揚していた…そこへ到達するまでに数多の“奴ら”を殺していたからな…」

兵士「事実、敵の数も奥へ向かうほどに薄くなっていった…奥へ行けば崖だ、前線付近よりも数が少ないのは当然のことだったが…その“うかれ”を差し引いても、俺は数えきれないほどの“奴ら”を殺してきたんだ」


飛脚「……」

兵士「………だが、海を望める崖まで来たところで、俺はやられたんだ」


兵士「…崖の下に居た、大量の“奴ら”の軍勢に…!」
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/07(日) 23:05:58.71 ID:oxX16yE0
飛脚「!? 崖の下にもいるってのか!?あいつらが!」

兵士「おぞましい光景だった……顔を崖下に向けた瞬間、千の大群が一斉に火矢を放ってくるかのように、俺に火砲を浴びせてきた…」

兵士「崖の縁がどんどん削られ、下に落ちるかと思った……岩の破片が体中に突き刺さった、だがその痛みに耐えて俺は逃げてきた」

飛脚「……おいおいマジかよ、俺らの町は今頃勝利にうかれてやがるぞ…!」

兵士「駄目だ…それはいけないぞ、町中の人間が皆殺しにされる…」

飛脚「…くそったれ!何人も死んだってのに、それだけでも辛いってのによ…!これ以上まだ俺らの町は戦わなきゃいけねえってのかよ…!」

兵士「奴らは追ってきはしなかった…だからまだ来るつもりはないんだ……俺らが油断したその時、奴らはやってくるつもりなんだ…」

飛脚「〜!ああもう!畜生!ふざけやがって!」


飛脚「なんで戦なんかしなきゃならねーんだよ…!」


タタタタタ……
83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/09(火) 21:47:16.65 ID:X5JgJuI0
少女「うん、良い湯加減だ」

槍「……」コホーコホー

少女「すまないなホムラ、宿の案内だけでも良かったのに」

槍「いやいや、湯焚きくらいさせてくれ、恩義があるからさ」

少女「頼めば宿の者がやってくれるだろうに」

槍「ははは、そうなんだけどな」コホー


俺とハープさんは湯けむりの漏れる小窓越しに話していた。

先程のハープさんの言う通り本来は俺の湯焚きは必要なく、この宿の若い女主人にでも任せておけば良いものなのだが、そこは俺の性分というか頑固な親切の押し付けというか。

とにかく世話になったお礼を少しでも返したいと言う気持ちで、こうして俺自身が働いているのだ。

この湯焚きの手伝いの他ちょっとした雑用をすることでハープさんの賃料を減らしてくれるように主人にお願いしたら、「あんたそんな趣味があったのか」と冷ややかな目で見られたが、繰り返しでも言うが恩義があるのだから当然のことだと俺は思っている。

返せる恩は返せる時に返さなければならないと、俺の親父も言っていたから。


少女「火の扱いが上手いようだな?温度にムラが無い」

槍「そうか?ありがとう、まあ火を扱うのは本職だからな、こんくらいは扱えないと」

少女「…こんくらい、か、なかなか難しいがな?そこらの宿の人間にもこうは上手く沸かせないだろう」

槍「こら、ここの主人に聞こえるぞ」

少女「おっと、だが事実だ」

槍「気をつけてくれよハープさん、ここの女主人はポルよりも怒りやすいからな」

少女「はは、そうか、それはおっかない…よしておこう」
84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/10(水) 21:19:29.77 ID:KTOeqyY0
チャポ…


少女「……ふー、この町に来る前までは既に戦火で荒れ果てているだろうと思っていたが、無事で良かったな」

槍「町の奴らがみんなで守ってるからな、俺を含めて」コホーコホー

少女「そうだな、驚いたよ」

槍「?」

少女「町の中とはいえ、いつ奴らが押し寄せてくるかもわからないというのに、女も子供も老人も、みな慌ただしく戦いに備えていた」

槍「そりゃそうさ…力のある若い男だけじゃない、みんな朱金街を守りたいと思ってるから」

少女「誰も逃げ出そうとはしない……ふ、逃げたのは雇った傭兵だけだったか?」

槍「シドノフ…だっけ?あいつで切羽詰まった時はさすがに逃げ出したい奴もいただろうけどな」コホー

少女「ははは、それが普通なんだよ」チャポ


少女「ここへ来るまでにも私はいくつかの街や村を見てきた…ここはどちらかといえば、奴らの侵攻が遅い所だったからな」

槍「ああ、そうらしいな…他の街では制圧されてたり、」


槍「……皆殺しにされていたり、酷いありさまだと聞く」

少女「そう、まさに“惨劇”だ、準備も何もあったものではない…ここはその点、前もって備えることができて幸運だと言えるが」

槍「……」

少女「ふ、失言だと訂正はしないぞ、こればかりは幸運だとしか言えないのさ…渦の発生しやすい海岸に感謝しろ」

槍「…なぁ、ハープさん、聞きたい事があるんだ」

少女(……ち、教えたがりが、言われなくても私は答える)

槍「……ハープさん?」

少女「ああ、どうした、何でも“知りたいこと”があるなら私に聞け」

槍「? うん」
85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/10(水) 21:33:53.47 ID:KTOeqyY0
槍「さっきの、傭兵達のテントでの事なんだけど」

少女「うむ」チャポ


槍「……ハープさん言ってたよな、奴らが強襲を仕掛けてくる…とか」

少女「ああ、言った」

槍「! やつら魔族の軍勢がまたこの町へ攻めてくるってのか!?」

少女「当然だ」

槍「え……!な、なんでだよ、俺らはあいつらを全員…!」

少女「まだまだルーキーか?…ま、町民の寄せ集めの民兵軍団じゃ勝手というものも知らないか」


少女「ホムラ、考えてもみろ、奴ら“惨劇軍”は“一度だけ街を襲う”とでも宣言してここへ泳いでやってきたのか?」

槍「……」

少女「一発勝負で白黒を付けようとするほど奴らはお前のように律義じゃない、駄目だと諦めるまで奴らはここを大群で攻めたてる」

槍「…それっていつ攻めてくるんだ!?」

少女「ふ、私が知るか」

槍「私が知るかって……ハープさんテントでは相手の魔族から聞いたって言ってただろ!?」

少女「おい湯焚き、ヌルくなってるぞ」


槍「……」コホー、コホー

少女「うん、極楽」チャポ
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/10(水) 21:44:47.33 ID:KTOeqyY0
少女「テントで私が騙っていた話はデタラメだ」

槍「え?」

少女「本当は魔族達の会話など聞いてはいない、私の予想に適当な理由を付けた、まさに騙りさ……そもそも今日の戦場にいた魔族共は人語は使えないし」

槍「……なんでそんなことを、じゃあ魔族達はこの町を再び襲うなんて」

少女「それだけは残念だが事実になるだろうな、全ては傭兵達をこの町へ留まらせるための、まぁ“一応”の挑戦だった」

槍「……そんな」

少女「少しでも武器や囮が増えれば気持ちでもやりやすくはなるからな、保険のつもりだったが…帰ってしまうというのであればそれで構わんさ、どうせ役立たずだからな」

槍「…」


槍「…ハープさん!」

少女「ん?」

槍「……本当に奴らは再びここを攻めてくるのか、教えてくれ」

少女「来るだろうな、世界全土で海沿いの灯りある街を狙うように“惨劇軍”はやってきている」

槍「……」

少女「肩の荷が下りたと思ったか?まだまだ終わってはいないぞ、ルーキー」

槍「……ホムラだって」

少女「ははは、こだわるな?ホムラ」

槍「…くそ、いや、とにかく早くみんなにこれを伝えないと不味いな」

少女「焦る事は無い、昨日の今日で攻めてくるほど奴らも馬鹿じゃない……来るのは一通りの軍勢が揃ってからだろう」

槍「一通りの…軍勢」

少女「そうだ」
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/10(水) 22:03:29.24 ID:KTOeqyY0
ザパァアアア・・・


槍「!」

少女「ふう……奴らは今も備えているだろう…今度はシドノフ、タイエン、ヤハエだけでは済まないかもしれん…恐らくロッコイもやってくるはずだ」

槍「? たい…?ろっ…?」

少女「とても強い奴らが大勢でけしかけてくるという事だ」

槍「……うん、そりゃまずい」

少女「奴らが攻めてくる前に、…この町に気力が残っていればだが?戦いに備えるべきだろうな」

槍「……ああ、そうだな」

少女「タオルタオル……っと、……ホムラ、お前は戦えるんだな?」ゴシゴシ

槍「もちろん、奴らが来るっていうのなら俺はこの町を守るために戦う」

少女「そうか、偉い偉い……この町の人間全てがお前のように律義かはわからないがな?」

槍「……」

少女「後半に怒涛の攻めを見せて勝ったとはいえ、被害は大きかったそうじゃないか…その傷を癒している最中のこの町が、再び敵に立ち向かえるかどうか…」

槍「……む、むむむ…難しいかもしれない…みんな町を守ろうって気持ちは本当なんだけど」

少女「皆の勇気を奮い立たせる何かが必要だな?ふ……さて、私は着替えて出るぞ」

槍「! ああ、すまないな、壁ごしに長話しちゃって」

少女「構わん、良い湯だった」

槍「……ありがとうございます」

少女「ん?……はは、私に頭を下げて礼を言う男はなかなか見ないな、久しぶりだ」


やっぱりハープさんはどこか大人びた含み笑いをこぼしながら、壁越しの風呂場から気配を消した。


槍「……みんなに勇気を、か」


そしてここに問題と課題が残った。
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/11(木) 21:21:34.30 ID:guxtLCc0
少女「ああ、もう行ったようだな」

少女「そうだな、何か思いついたのか走って…」

少女「当然だろうよ、最初はそれだ」

少女「……その次、か…さあな、私は奴の事を何も知らん」

少女「別になんとも」

少女「…私か?そうだな、加わるだろうが」

少女「……あまり無い事だろう、ここまで自発的に、能動的になる町は」

少女「重油に水を注ぐようなことがあってはならないだろう?それさ、気が進まない」

少女「ああ、すぐ終わるだろうがな」


少女「…だが、子供は甘やかされるほどに努力を怠るものなんだよ、センジュ―――」
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/11(木) 23:10:02.33 ID:fqZtwoAO

────────


兵士「………」パチ


目を覚ます。白い布の天井は低い。

そこは負傷者を寝かせるためのテントの中だった。


兵士「っく…!生傷が痛む…」


今は何時で、ここはどこの救急テントなのか。

自分が助かったという感動や安心すべき事実を全て置き去りにして、白髪の男は起き上がろうとしていた。

だが胸や腕に負かれた大袈裟な包帯装束は、男の傷の深さを痛みで表している。


兵士(…周りには町の奴等が寝てる…テントの入口からは薄く日が差してるし…明るい)


きっと朝か昼だろうと男は推測した。

午前の5時程度だろうか。当たりである。


兵士「…!そうだ!奴等がまたやってくる事を伝えなければ…!」ズキン

兵士「ぐ!…ぅう……」


立ち上がろうとしても痛みが立ちはだかる。使命感に駆られる男の焦りが募る。
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/12(金) 23:50:37.12 ID:L2k4PS.0
それでも男は地面を這いずるようにして外へと出た。

救急班の人間がその場に居たなら考える間もなく一秒で止めてしまいそうなほどの痛ましい姿で、朝靄のかかる薄暗い道をあてもなく歩く。


兵士(誰か居ないか、どこかに誰か…!早く伝えなければならないんだ!)


辺りを見回す。朱色のレンガの町並みは、まだその形を保っている。遠目にも火や煙は上がっていない。まだ奴らは来ていない。

それでも油断のできない数の“伏兵”を目の当たりにしてしまった彼は、整っていながらも静かな町の中に人影を探そうとしていた。


兵士「誰か……!」


片足を引きずるようにして、息を切らし小走りに道の角を曲がってゆく。町の外れの慣れない道だ。

彼は更に焦る。どんなに仕事の無い閑古な日であろうと、どこかしらに人がいてもいいはずなのにと。


だが彼は、今この時はよほどの働き者でもない限りは活動していない早朝の時間であることに気付いていなかった。


昨日に疲弊し誰もが睡眠を貪っている町の中で、彼はしばらく一人不安に走りまわっていた。

ただ、男の不安も5分ほどで収まることになる。
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 00:44:35.49 ID:ZyxeD5k0
面白い
支援
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 22:59:13.99 ID:XaeaeTg0
兵士(! 人がいる!)


遠くでは二人の男が広場の石造りのベンチに座りながら何かを話していた。



民兵「レンガの防壁を作るために必要な土はある、職人もみんな生きてるし工場も動かせる」

飛脚「じゃあ急がないとそろそろヤバいんじゃねえか?」

民兵「ああ、製作は普通のレンガよりも質を落とせば倍以上の早さで作れるらしい」

飛脚「おお、良かった……ならなんとか間に合いそうか?」

民兵「いや、それがなぁ」

「おーい!」

飛脚「ん?」

民兵「! おい、あいつは」


男は片足を引きずりながらも走ってやってきた。


飛脚「お前!まだ怪我治ってないだろうが!出歩いてんじゃねえよっ!」

兵士「いつ奴らが攻めてくるかもわからん時に呑気に寝ていられるか!?今はどうなってる!」

飛脚「落ちつけ!とにかくまず座れ、傷が開くぞ!」

兵士「……ああ」


男はベンチではなく暖色のタイル張りの地面に腰を降ろした。
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 23:11:14.64 ID:XaeaeTg0
兵士「……っつ…」

飛脚「ほれ見ろ、無茶すっからだ……あんた、見張り台下の救急テントで寝てたよな?ここまでずっと歩いてきたのか?」

兵士「…治療を受ける前にお前の背で寝てしまったからな……起きてみれば外は明るい、焦るに決まってるだろう」

飛脚「ん、ん、……まぁ、だなぁ」

兵士「それで、一晩明けたんだろう、攻め込まれてはいないようだが…みんなはどうしてるんだ?」

飛脚「みんなまだ無事だよ、ぐっすり寝てる」

兵士「…それもあるがそうじゃない、お前は俺の話をみんなに知らせたのか?」

飛脚「そりゃ知らせたよ、ただ事じゃないからな…みんな大慌てさ」

兵士「…お前の話を皆信じていたか?」

民兵「最初はこいつの話もみんな、半信半疑で聞いていたよ…こいつが駐屯所で話してたのを俺もその場に居て聞いていたが、お世辞にも町の会議になるほどの信用はされてなかった」

飛脚「けっ……所詮俺は飛脚だからな」ボソ

兵士「最初は、とは?」

民兵「ああ、その後すぐに駐屯所のテントに二人がやってきてな、そいつらも同じことを口にしたんだ」


民兵「“奴らはまたやってくる”って口を揃えてな、こいつはともなく、“あの二人”が言うならみんな信じるしかなかったぜ」
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 23:24:04.08 ID:XaeaeTg0
パサッ


司令部のテントの入り口が開かれた。


「カギル裁判長!傭兵達が帰ったっていうのは本当なんですか!?」

裁「ん、おはようございます」

「奴らは結局何もしていないのに、これからまた戦が始まろうって噂は出回っているはずなのに!」

裁「おーはーよーう、ございます」

「…おはようございます!説明してくださいカギルさん!」

裁「ええ、傭兵達は帰りました、町が協会と結んだ契約の期間が終了しましたから」

「そんな…!」

裁「延滞手続きをしようと交渉をしましたが傭兵達自身が反対し帰還するというのであれば仕方のない事です…我々バンホー側ではどうすることもできません」

「くっ……!どうしてそこで一歩深く踏み込んで止めなかったんですか!金を積めばあいつらも留まってくれたでしょうに!」

裁「正式な契約でなければ危険です、私的に留まってくれるよう交渉しても逃げられてはそれこそドブに捨てるようなもの…次に傭兵達を雇う場合はもう一度協会に依頼を出すしかありません」

「それじゃあいつになるかわかったもんじゃない!」

裁「はい、だから傭兵達には何も手続きの書類は持たせませんでした……傭兵との契約はこれで最後となるかもしれませんね」

「…それでいいんですか!カギルさん!」

裁「は」

「あなたが聞いたんでしょう…!焦って下さいよ!きっちり正式契約結ぶその姿勢は嫌いじゃないが、傭兵に金を握らせてもそれは良かった!…カギルさん、あんたが言ったんでしょう!?“魔族軍が再びやってくる”と…!」

裁「……はい」
95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 23:33:29.53 ID:XaeaeTg0
カーン カーン カーン


鋼を鍛える音が工場に響く。

蒸し暑い空気の中で、半裸の男は黙々と金槌を振るっていた。


ガチャッ


そしてここでもまた、入り口は音を立てて勢いよく開いた。



「ホムラ!あんたがホムラだな!」

槍「おう、いらっしゃい…熱いから近づかない方がいいぞ」カン、カン

「実はあんたに頼みがあってな!難しいかもしれないが…」

槍「俺は銃は作れないぞー」

「……えっ?なんでわかったんだ?というより作れないのか?」

槍「あんたで朝から4人目だよ、全く……これ見てわかるだろ、俺はあんな細かいものは作れないよ」カンッ

「…いやぁ、昨日の戦ではホムラが銃で大活躍したって聞いたから、てっきり」

槍「だからー…あれは傭兵達が落としてった銃を使ってただけだよ」

「! え、じゃあ傭兵達の使ってたやつなら大丈夫ってことか!?」

槍「はいはい、そーだよー…まだ武器管理所に行けば“落し物”が残ってるんじゃねーの」

「おおお!ありがとうなホムラ、無駄足かと思っちまったぜ!」

槍「無駄足ってなお前……」カン、カン


槍「…あ、そうだ、今リーチの長い軽い剣を作ってるんだが使ってみたり…」

槍「って、居ねえし」


槍「……はー、ハープさんが言ってた奴らが来るって話、案外すぐにみんなに信用してもらったのは良かったが、俺の作る刀剣の方はさっぱりだな」カン、カン

槍「みんな銃ばっか頼りやがって……そりゃ俺も使ってたけどさ…」カン、カン
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 23:45:18.65 ID:XaeaeTg0
兵士「……昨日の“功労者”ホムラと、そして…カギルが?」

民兵「すごいだろ?今のところ戦場で最も信用できる男と、指揮系統で最も信用できる男が“来る”って言ったんだぜ」

飛脚「あーあー、すごかったぜ昨日のその対応の変わりようといったらな?俺の言葉じゃ半笑いだった奴らが二人の言葉ではマジ顔だ」

民兵「いやいや三人に言われりゃ信じるしかないよな?ははは」

飛脚「うっせ、てめーも信用してなかっただろ」

民兵「そんなことねーよ、はっは」


兵士「……そうか、あの二人が…」

飛脚「ああ、緊急で町の会議が開かれてな、厳戒態勢は継続されることになったよ、みんなものすごい顔をしてたが納得するしかなかったよ」

民兵「…勝利の余韻に浸っている最中だというのにな、みんなうなだれていたり…泣く奴もいた、だがカギルさんが言った事だ、嘘ではあるまいしよ」

兵士「そうか……では町の態勢に問題は無いんだな?」

民兵「一応見張りも立てたからな、問題は無い…ただし壊れたバリケードの修復、物品の再補給にはもうちょっとの時間がかかりそうだ」

飛脚「おう、さっきまでその話をしていたとこだぜ」

兵士「そうか、確かにそれは課題……」


兵士「……なあ待ってくれ、…お前」

飛脚「あん?名前で呼んでくれよ、俺は“ハヤテ”」

兵士「…ハヤテ、テントにホムラとカギルの二人が来て、同じ事を言ったと…」

飛脚「ああ、二人も“来る”って言ったよ」

兵士「お前が二人に話したのか?奴ら魔族軍が崖の下にいるということを…それとも、二人は俺と同じく崖の所まで…」

飛脚「……あー、それなんだけど、良くわかんねーんだよな」

民兵「ああ…うんうん、言ってたな」


飛脚「なんでも、ハープ…?だっけ?そいつが言ってたんだとか、なんとか」
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 23:59:37.32 ID:XaeaeTg0
兵士「ハープ…?聞いたことのない名前だな」

飛脚「ああ、昨日ホムラも言ってたが、傭兵さんなんだってよ」

兵士「傭兵!?…そんな奴の言う事を信用したのか!二人は!」

民兵「みんなそんな感じだったよ、特に俺も傭兵は嫌いだったからな、信じたくはなかった」

飛脚「だけど俺はこの町の自警であるあんたから聞いた話だ、そのハープっていう女が言っていたってのとは無関係だが、別の方向からの情報だ」

民兵「二つの別の切り口からの情報だ、それにカギルさんが信じた情報ともなればそれは信じるしかないだろう」

兵士「……ハープ、か」

飛脚「その女も会議に召喚しようと思ったが居なくてなぁ…ホムラが言うには“宿で見たのが最後だった”、だと」

民兵「とはいえ無視はできない危険性がある情報だからな…直接的な証人は無しだったが、厳戒態勢続行ってことで会議は終了したわけさ」

兵士「……そうか、そのハープという女については謎が残るが良かった」

飛脚「昨日の戦の傷跡も深い…今は寝てる奴が大半だが、いくらかの奴が今朝がた崖下の魔族軍の様子を確認してくるって言って出かけて行ったよ、それで自警さん、あんたの証言は証明されることになる」

兵士「ナガト」

飛脚「?」

長「俺の名だ、自警団のナガト」

飛脚「おう、名前か…よろしく、ナガトさん」

長「ああ」

民兵「よろしくな!…へへ、町の自警の人と知りあう機会は無かったが、ここで知り合えたのも何かの縁だな」

長「…はは、かもな」


長(……ハープ…流季の人間の名前ではないな…髪や肌の色を見ればわかるだろうか)

長(ハープはまだこの町にいるか……?直接話を聞いてみたいな)
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 01:02:27.89 ID:AtrIX420
こういうのすごく好きだわ
99 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/14(日) 21:39:57.34 ID:ObeNoo60
少女「余裕のない時だというのにわざわざすまない、世話になった」

女主人「おう、気にしないでよ、ここは戦争だろうが抗争だろうがいつでも開けてる…割高になっちまってるがね」

少女「ふふ、その分はホムラが取り返してくれただろうかな?」

女主人「あー?っははは、そうだねぇ、あいつの湯焚きで割高の分くらいにゃなるかねぇ…おっと、煙草失礼するよ」

少女「竹枕、といったか…珍しいものにも触れられたよ、またいつか機会があれば来る」

女主人「ああ、いつでも来なよお嬢ちゃん……ま、ドンパチやってる最中じゃ部屋の半分は怪我人の病室になっちまってるがね、部屋が開いてたら一番良いのに泊めたげる」プハー

少女「……ふふ、じゃ、失礼」


女主人「……あ〜〜、そうだアンタ」

少女「ん?」

女主人「ハープっていったかしら、間違いないなら町の男衆が皆、アンタのことを探してたわよ」

少女「…そうか」

女主人「なに、デカイ乳と良い尻にしか興味のないような男共だ、取って食おうなんて考えはないだろうから…暇があるなら男衆のところに寄ってあげたらどうだい」

少女「ふ…そうだな」

女主人「……」スパー


女主人「…ふぅ〜〜……ま、どっちでもいいな、呼びとめちゃってごめん…またね、綺麗なお嬢ちゃん」

少女「綺麗、か、……ふふ、じゃ、綺麗な女将さん」

女主人「あら」


カラララ・・・パタン


女主人「……」スパー

女主人「…ホムラといい村の衆といい、なんなんだかねぇ…あの子に気があるわけじゃないとは思うが…」
100 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/14(日) 21:54:20.12 ID:ObeNoo60
少女(……ふう、良く寝た……当分は寝ずに大丈夫だろう)

少女(“惨劇軍”も町の民間兵も膠着状態だが、どちらから来るかと言えば“惨劇”側だろうな)

少女(まぁ後手に回るのは悪くない…地形も攻め込むにはほぼ一直線で来るしかない起伏だ、籠城するには最適だろう)

少女(奴らが一斉に来たところをどう処理するか……下ごしらえの時間はそう長くは無いだろうが、民兵達には迎え撃つチャンスがある)

少女(さて、彼らはどう待ち伏せをするだろうか……)


「うおー!魔族軍の砲撃だあー!」


少女(……ん?子供の声?あの民家の曲がり角からか…まさか本物の砲撃が来たわけではあるまい、様子を見るか)


タタタタタタ・・・


「うるぉー!くらえ人間ー!」ブンッ

少女(……ボールか、まぁそんなものだろうな)

「ははーん!そんなどんくさい砲撃なんて簡単に避けてやるぜー!」ヒョイッ


ボンッ ボンッ


「あ、おい避けるなよ!自分で取れよな!」

「ばーか!人間がわざわざ武器を相手に返してやるかってーの!」

コロコロ・・・


パシッ

少女(うん、綺麗に紐が編まれている…見てくれよりは弾む良い球だ)

「あっ…どうしよ、お姉ちゃんくらいの子だよ、ボール当たってなかったかな…」

「……ごめんなさーい」

少女「……ふふっ、男の子ってみんな楽しそうでいいなぁ、はいっ」ポイッ

「…ありがと!」
101 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/14(日) 22:03:25.25 ID:ObeNoo60
パシッ

子供「…お姉ちゃん、バンホーの人じゃないよね?」

少女「ん、わかる?」

子供「うん、だってそんな砂漠の人みたいな色のケープ着てる人なんてここにはいないもん」

少女「良くわかったねぇ?うん、この服は砂漠の村で買った物なの」

子供「え、本当に!?すっげー!」

少年「さ……砂漠ってすっごく、すごく遠いんじゃ…?」

少女「うーん…そうよ、とっても遠いの、あっつーくて、なっが〜〜〜い砂漠を歩いてね、そこの村で売ってたものなの」

子供「へー…すっげぇ……触ってみて良い?」

少女「あら、ふふ、いいよー」

少年「…僕も!」


ゴワゴワ・・・


子供「……」

少年「…うわぁ、硬くて…なんだかやだなぁ」

子供「うん、でもなんか…砂漠って感じするかも」

少女「ふふっ……砂漠って感じ、かぁ……」

子供「…でもねーちゃん、これすごいオンボロだぜ?裾も袖もボロボロじゃん、綺麗なのに変えればいいのに」

少女「んー、私、これ気に入ってるから」

少年「……確かに汚いけど、なんだか良いなあ、こういうの……かっこいい」

子供「そうかぁ?」

少女「ふふっ」


少女(……この様子だと子供たちは皆元気だろうな、センソウゴッコをする余裕もあるし世界への興味もある)

少女(…なるほどな、ホムラ…お前らが必死になって守りたい気持ちもよくわかる、ここは平和で、実に良い町だ)
102 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/14(日) 22:47:04.03 ID:ObeNoo60
タタタタタタ・・・


飛脚「はぁ〜やれやれぇ、やっぱり俺は物運びとかそういう役回りなのねー…ったくよぅ、本業なだけに怒れねえこの立場!っかぁ〜」

飛脚「…しかもなんだよ、土を運ぶための台車が足りないって?だからってその台車の調達まで俺にさせるか?フツー」

飛脚「物を頼んでるんだったら他の使えない奴にでも取りにいかせろってんだよ、俺が運べばリアルだが三人力くらいにはなるってもんなんだから……」ブツブツ

飛脚「……っておいおい、俺もなんだってこの立場に落ちつこうとしちゃってるわけよ」


タタタタ・・・


子供「! あ、飛脚のあんちゃんだ!」

少年「わっ…」

飛脚「お?おお、なんだ彫金屋のガキじゃん、久しぶり」ザザッ

子供「相変わらずはっえー!また背中乗せてくれよ、暇だろ!」

飛脚「ああん?ばーか、俺は仕事があんの、ていうか今戦争中なんだぞ、暇であるはずがねえ、飛脚見くびんな」

子供「俺乗せながら仕事してよ」

飛脚「できるかっ!できるけど」

少年「……」

飛脚「お、そっちのガキは…おー!この前俺の背中に乗せてやったら気分悪くしてたあいつか」

子供「あっははは!ばっかだよなー!」

少年「こ、怖かったんだよ…しょうがないでしょ…」

飛脚「ははは、いやぁお前みたいな怖がってくれる奴がいるから飛脚冥利に尽きるって……おん?」


少女「……」

飛脚「…えーっと?お前は…」
103 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/14(日) 22:54:13.62 ID:ObeNoo60
子供「あ、このねーちゃんなー、砂漠から来たんだって!」

飛脚「砂漠……」ジィー

少女「あんまり、じっと見ないで欲しいなぁ」

飛脚「かかか、すまん」


飛脚(……ん?確か言ってたな、ホムラとカギルさんも…ほぼ黒髪で背丈も十なんぼかそこらの…こいつがウワサの“ハープ”って女か?)

少女「……ふふ、お兄さん、足が速いのね」

飛脚「ん、まあな!この町…や!世界最速の飛脚といやぁこの俺ってレベルだからな!」

子供「たとえが一気に飛んだな」

少女「…すっごーい……ねえねえ!さっき背中に乗ってー、とか言ってたでしょ?私も乗ってみたいなぁ」

少年「や、やめといた方がいいよ!本当に速いから…」

飛脚「えー、うーん……乗せてやりたいのはやまやまなんだが、大事な仕事の途中だしなぁ」

少女「少しだけで良いわ!ものすごく速いんでしょっ?」

飛脚「そりゃ速いに決まってるがよう…」

少女「嘘なの?」

飛脚「ぁあん?」

子供(げ)

少年(わ、ハヤテのお兄ちゃん、怒ってる…)
104 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/14(日) 23:01:35.31 ID:ObeNoo60
少女「…なんだ、期待して損しちゃった!」

飛脚「おい待てガキ、ちょっと待て、おい」

少女「……何?」

飛脚「俺が速くないだと?ほほう、そりゃあ面白れぇ…俺が速くなきゃこの世で速いのはたった一つ、光か音だけになっちまうってもんだぜ」

少女(これほど安い挑発で食いついてくる奴もそうそう居ないな、貴重な男だ)

飛脚「良いぜ、用事のついでだ、特別に乗せてやる……しかも俺の本気でな!」

子供「ほ、本気だって!いいなぁ!」

少年「死んじゃうよそれ!おねえちゃん、絶対にやめた方がいいって…!」

少女「本当?ありがとう!でも遅かったらこれから“ウソツキ”って呼ぶわよ?」

飛脚「フフン、上等だぜ……絶対に呼ばせはしねえ速さってもんを見せてやるぜ…さあ、乗れ!」

少女「へへ、楽しみっ」ダキッ


子供「あ、ねーちゃん!しっかりつかまってないと落ちるから気を付けなよ!」

少年「気持ち悪くなったらすぐに降りてね!」

飛脚「よおし、準備は良いか?」

少女「うん」

飛脚「ギャフンと言わせてやるぜー…いくぞ、3!2!1……」



ドゥンッ


少女(! 肉体強化…)

飛脚「スタートぉおおおおッ!」
105 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/14(日) 23:11:47.06 ID:ObeNoo60
ドドドドドド・・・


少女(! すごい、なんて速さだ…子供たちがもうあんな遠くに…そして、耳が風を切る音が…!)

飛脚「うおおおッ…どうだ!風は気持ちいいかよ!?これが飛脚のハヤテの本気ってやつだぜぇ!」

少女「…ああ!すごいな、肉体強化ができるのか!」

飛脚「おう!?難しい言葉知ってるじゃねーかお前ぇ!そうよ、人間の限界を超える秘訣がこれだ!」

少女「随分速いし…この速度からの蹴りはかなり強力だろう!?昨日の戦では使わなかったのか!?」

飛脚「!」

ザザッ


少女「むぐっ」


ザザザザ・・・ズザザ・・・


少女「……おい、止まるなら一言くらい言え」

飛脚「…おいおい、さっきもさっきでクソガキだったが、今のお前の喋り方には更にナマがかかってやがるぜ、どういう事だ?」

少女「子供たちの手前だ、そこだけは私もわきまえるのさ」

飛脚「……ほーう…?それに昨日の戦って、ねぇ?まるでその場にいたかのような口ぶりじゃねえのよお前」

少女「何故遠まわしに探るような聞き方をする?民兵の間では私が怪しい謎の人物として解釈されているのか?」

飛脚「! あんた……あんたが“ウワサ”のハープか!?」

少女「そうだ、……もういい、降ろしてくれ」

飛脚「……ああ」


飛脚(……おいおい、マジでこいつがハープかぁ?ホムラに…それとカギルさんはこんな子供の言う事を信用したってのかよ?)
106 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:43:55.98 ID:T.bVX.c0
少女「よっ、と…ふう」スタッ

飛脚「へぇ〜……あんたがハープ、ねぇ…」

少女「何だ」

飛脚「……別にぃ?生意気なガキはまぁまぁ許せても、ませたクソガキってのは可愛げがないもんだと思っただけだよ」

少女「歳なんて関係ないさ」

飛脚「お前がゆーなってのガキー」

少女「……ふふん」


飛脚「まあいいや、でもあんたがホムラやカギルさんの言ってたハープって人で間違いは無いんだな?」

少女「ん?そうだろうが…あの二人がどうかしたのか、私の事を言っていたとは?」

飛脚「…さあ、俺も二人の事は詳しくは知らねー、同じ町の人間とはいえ昨日の今日までは接点が無かったし」

少女「……ああ、あの二人に共通して言ったことといえばそうか、“魔族が再び来る”と伝えた、それの事を言っているのだろうか」

飛脚「そうそれ、それだよ、何でお前がそんなこと知ってんの」

少女「……さあ」
107 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 23:57:12.70 ID:T.bVX.c0
飛脚「おーーーいぃ、大人の言う事にはちゃんと答えろよ、町の外の人間だってもそこはしゃんとさせるぞ、俺は」

少女「…お前、子供が嫌いか?」

飛脚「素直な奴は好きだぜ、俺の子供も素直だからな」

少女(ん?若そうに見えるが、この年で子持ちか、大変だな)


少女「……ふーん、まあ良いか、教えてやる」

飛脚「本ッ当にさっきから可愛げないなお前」

少女「といっても教える事は無いがな……私は魔族が攻めてくるという情報を手にしたわけではないから」

飛脚「おん?」

少女「予想を二人に教えてやっただけだよ、私は」

飛脚「……よ、予想!?おいおい、そんなアナログでアバウトな情報をアドバイスしたのか!?」

少女「ああ、といってもほぼ確実な予そ―――」ガシッ


少女「おい髪が抜ける、おい離せ、痛いだろ」グワシグワシ

飛脚「てめー適当な情報で俺らの町を騒がしてんじゃねーーーよクソガキがーー」ガシガシ

少女「やめろと言ってるだろ、抜ける、おい」ガシガシ

飛脚「狼少女にはキツイお仕置きが必要なんだよばーか」パッ


少女「…ふん、確かに法螺かもしれんな、少女は実際に狼が群れをなしてやってくる像を見たわけではない」

飛脚「……」

少女「だが似たような光景ならばいくらでもこの目で見ているのだ……少女は羊飼い、狼の群れがいつ来るか、その予想は大体わかっているからな」

飛脚「……嘘だとか、俺はそう思っちゃいねえよ」

少女「ん?」

飛脚「俺はあんたの法螺だけだったら耳も貸さずに更にゲンコツひとつお見舞いしてやってるところだが、あんたの他にも同じように“狼がくるぞ”言う奴がいるんでな」


飛脚「…あんたがどーして狼が来るってのがわかるのか、それは知らないし聞くのも面倒臭いから聞かないけどよ、……だが狼少女の経験では来るってんだな?」

少女「ああ、奴らは来る」

飛脚「……へええ、参ったなぁ」
108 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/16(火) 01:54:30.32 ID:4P3cCZI0
追い付いた
ハープちゃんマジミステリアス
109 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 21:20:44.42 ID:Dbo5x6.0
飛脚「……ハープっつったか」

少女「ああ、だが狼少女でもどちらでも」

飛脚「かっこつけやがって、ハープでいいだろ……お前に言わなきゃいけないだろう事がひとつあってな」

少女「私にか?特に何も知りたいとは思っていないが」

飛脚「呑気なもんだなお前……傭兵の部隊だよ、あいつら今朝帰っていったぞ」

少女(傭兵……ああ、アレか)

飛脚「お前傭兵なんだろ?あいつらと一緒に帰っておかないとマズイんじゃねえの」

少女「別に、私がここに残っているのは私自身の意志だ」

飛脚「いちいちキザだなっ!?…格好つけは結構だけどな、歳も歳だからそんなもんだ、でもよ、報酬はどうなんだよ、そりゃマズイだろ」

少女「報酬なんていらないさ、ボランティアのようなものだからな」

飛脚「…タダ働きどころじゃすまないぞ、この町は戦のせいでしばらく鳥馬車は出さないからな……いざ帰りたいってなっても思うように帰れやしねーんだぞ」

少女「それではより一層、この町にいるしかないということだな」

飛脚(……何なんだよこいつ)


少女「閉鎖された町、迫る危機……そこに立ち向かう兵(コマ)がひとつ増えた、そう考えておけばお前らとしてもラッキーなものだろ?」

飛脚「ッ……俺はンな事言ってんじゃねえんだよ!」


飛脚「お前いくつだよ!親は!?いいや居ても居なくてもいいね、複雑な事情があってもどうでもいい、お前はまだ若い、もう何年かすれば美人にもなるだろうよ」

少女(何年か?ははん、変わらんさ)

飛脚「良いか、お前に帰る場所があっても無くてもな、お前にはまだまだ未来があるだろ!戦争で格好良く戦うってのも悪くはねえよ、俺も憧れるさ」

少女「……」

飛脚「けどなチビ、よう、いいかよく聞けよ、子供は戦場に居ちゃダメなんだよ、とっとと帰れ!」

少女「………ふふ、昔からの言い伝えで“栗色の髪の女は勝利を導く”と云うだろう」

飛脚「昔からかわかんねーけど、そりゃ“黒髪の女は勝利を導く”の間違えだ、自分に都合のいいように諺ねじ曲げんなっ」

少女「ん?違ったか」
110 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 21:36:50.87 ID:Dbo5x6.0
飛脚「ああもう、だから!そんなことはどうでもいいんだよ!」


飛脚「お前が仮に勝利に導く縁起の良い女だとしてもな、そんな、チビな?ガキな?奴はな、戦なんて知らなくていいんだよ」

少女「ふん」

飛脚「どうしてもセンソーしたいってんならせいぜい17過ぎてからだ、大人になるまでは絶対にやっちゃいけねえ」

少女「……ふふ、お前、私を気遣ってくれているのか」

飛脚「…そうだよ」

少女「ははは、そうか…素直じゃない子供は嫌いなんじゃないのか?」

飛脚「嫌いだけどほっとくわけにはいかねーだろ」


飛脚「馬鹿野郎…子供は色々覚えて、変わって大きくなってくんだからよ…嫌いって一言突っぱねていいもんじゃねえだろ」ブツブツ

少女(…優男だな、口は悪いが)


少女「ふ、ありがとう、お前のような男に育てられる子供はきっと幸せだ、良い子に育つ……えーっと、お前」

飛脚「俺はハヤテだよ……ったくホント喋りだけはませてんな…当たり前だろ、世界一の飛脚である俺の子だぞ」

少女「ふふ……でも私はここに残るからな、そこは諦めてくれ」

飛脚「は?おい、大人の言う事くらいな…」

少女「私は大人さ」

飛脚「馬鹿言え」

少女「ふふ、まぁなんにせよだな、戦場をろくに知らない奴に戦場を語られたくは無いな?」

飛脚「なっ、てめっ…!」

少女「良いんだ、子供はそれで良い」

飛脚(ああダメだ、こいつ子供だけど……子供だけど!顔を何発か殴りてぇ!)
111 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/16(火) 21:52:36.34 ID:Dbo5x6.0
少女「ま、諦めろ…このご時世、子供でも傭兵に志願すれば誰だって戦場に出れる時代だ」

飛脚「……そうなの?」

少女「私も適当に書類を済ませて……死んだ時のための物々しい契約書を書いて、ここに来たからな」

飛脚「…チッ、子供までこんな事しなきゃいけねえのか、今は」

少女「それほどまでに“惨劇軍”は人間の世界を侵攻しているのさ…倫理も道徳も崩れ始めようとしている」

飛脚「……」

少女「ルーキー、もしもこの町が、新たにやってきた魔族との戦いに破れて全滅したとする……」

飛脚「なっ!?さ、させねえぞ!」

少女「当然だ、たとえだよ」


少女「…滅ぼされたこの町だけで、奴らの侵攻は止まりはしない」

飛脚「! そうか、自分の町ばっか考えてて想像もしてなかった」

少女「ああ、この町が戦に……もしも千が一負けてしまうような事があれば、次は街道を進んだ隣の村だ、その次は町、そしてまた町へ」

飛脚「……」

少女「ハヤテ、確かに子供が戦争に駆り出されるのは倫理と道徳に反しているだろう、だが多くの町を、人の命を守るためであるならば仕方ないと妥協はできないか?」

飛脚「……腐ってンなぁ…魔族も人間もよう…」

少女「純粋に真っ直ぐであるのは構わないがな……だが現実は子供の手を借りて血に染めてでも、この町は奴らの侵攻を食い止める努力をしなければならない、わかるか」

飛脚「……チッ、わかりたくはないけどよ」

少女「うむ、ハヤテ、お前の考えが間違ってるわけじゃない、時代が時代で、場所が場所なだけだ」


少女「……そんな胸糞の悪い流れを食い止めるために、我々は尽力しなければならないのさ」

飛脚「…くっそ、お前の口車に乗せられたのかどうか勘ぐっちまってる俺もいるが、ここは納得しておこう…確かにそうだ、その通りだよ」

少女「ああ、そういうこと」


少女(…そう、この町で奴らを食い止めないと後々の戦も面倒だからな)
112 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/17(水) 22:53:45.55 ID:o4KneoAO
飛脚「…でも、絶対に危ない真似はするなよ」

少女「過保護だ」

飛脚「……傷だらけになった、あるいは死体になっちまった子供を運ぶのは俺なんだよ」

少女「ああ……衛生兵?」

飛脚「そうだよ、伝令・報告から運搬まで色々やらされてるけどな」

少女「…ふむ、そうだな…確かにお前の脚の速さなら適所か…」


飛脚「…あ!そうだよ忘れてた」

少女「?どうした」

飛脚「長々と話してる暇はなかったんだわ…さっさと台車を届けないと!」

少女「ああ、仕事の途中と言ってたものな」


飛脚「……またまだお前に話さなきゃならねー事は余りあるが、今はここまでだ…俺はガキが戦場に行くなんてのは意地でも認めたくないからな」

少女「優しさだけ漉して受け取ろう」

飛脚「……そこは丸ごと貰っとけ」


飛脚「………じゃ、俺は行く、何か話したい事があればいつでも…あー、時々は衛生兵のテントにいるからな」

少女「ふ、わかった……またなハヤテ、速くてスリルがあったよ」

飛脚「…へっ…じゃあな」
113 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/17(水) 23:09:51.30 ID:o4KneoAO
本当に今更だけど読みやすい?

あと期限のついていない携帯でも見られる画像アップロードサイトなどがあれば教えていただけると幸せます
114 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/17(水) 23:22:28.60 ID:83Fq9gQo
斧がいいんじゃ?
期限無いはずだし長持ちもする
確か携帯も行けたはず

http://www1.axfc.net/uploader/Img/
115 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/17(水) 23:24:10.70 ID:WXbDgEs0

読み易いよ
気にせず続けてくれ

http://myup.jp/
こことかどうだろうか
116 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/17(水) 23:31:33.03 ID:o4KneoAO
>>114
ありがとう 有名らしいけどなかなか使う機会とか使い方がわからなかったから今度使ってみる

>>115
http://myup.jp/m1XpEVMm
試し貼り 広告は多いけどこれはなかなか良いかもしれない
これからはこっちを使ってみようと思う
ありがとう
117 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 20:22:28.88 ID:/IXJSZ.0
裁(…私は間違っていたのでしょうか)


朝食のベーグルを手に持ったまま既に何分も経つ。男は机いっぱいに広げられた町の地図を眺めていた。

ぶれない瞳はまっすぐに町の中心点を見つめたまま動かない。


裁(間違ってはいない、私の決断は正しかった)

裁(“警備は配置しなくても良い、戦は終わった”……町の人々はそう思っているが、私はそれに流されるわけにはいかないのだ)

裁(少女は“来る”と言った…私はそれを信じた、いや、信じたい事ではなかったが信じるしかなかった)

裁(もしこれから帰ってくるであろう偵察役の者が“魔族なんていなかった”と言ったとしてもそれは変わらない……)

裁(…私は町を守るために、あの小さな子供の言葉を否応なく信じるしかなかったのだ)


男は左手のベーグルを一気に半分食いちぎり、勢いよく咀嚼し始めた。


裁(…私も、傭兵の言葉など信じたくはなかった)


地図に緻密に引かれた等高線を睨みながらの朝食は忙しい様子だ。
118 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:21:34.78 ID:/IXJSZ.0
カァァァ……ン

裁「!」


町のどこか遠くで鐘の音が響いた。

大きく振るった撞木と大きな鐘がぶつかり合う音は町中に響いたことだろう。

一度の音はその瞬間に、町へ緊張を走らせた。


裁(……海岸の偵察に向かわせた民兵たちが帰ってきたか……)


カギルとホムラ、そしてハヤテが伝えた敵残存と襲来の報告を受けた晩の明けから翌朝すぐに、彼は民兵の数人に魔族の軍が潜んでいるという崖の下を捜索するよう指示を出した。

この鐘の音はいわばその報告を知らせるものであった。


裁「……一突きで敵は無し…我々の勝利でこの町にはすぐに平和が戻ってくる…。」


真剣な面持ちでテントの隙間から零れるまばゆい朝日を睨む。

ベーグルのもう半分を頬張る。


裁「…二突きで……。」


長い間。音は鳴らない。ベーグルが口の中が渇かせてゆく。


裁「……鳴らないでくれ…私の判断……間違っていてくれ…。」


そして



カァァァァ……ン……。

裁「……!」


彼はこの日はじめて、生まれつきの冴えた決断力を呪った。
119 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 01:23:34.59 ID:qXQBRVYo
C
120 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 23:50:35.97 ID:n1hdsUAO
町の人々はすぐに鐘の鳴った物見台へと駆け込んだ。

2度鳴った鐘は“魔族軍の残存”を表すシグナルとして、あらかじめ打ち合わせされていた。

だが町の者はその不吉すぎる鐘の音を「もしかしたら間違いで鳴らしたのかも」と信じたかった。

偵察から帰った民兵達から直接確認をするために、彼らは大勢で小さな木造の物見台へと集まったのである。



民兵「………」


物見台にはうなだれるように柵に寄り掛かる、顔色の悪い民兵が居た。

物見台へやってきた町の人々は、彼を下から見上げ、そわそわと互いに話している。


「あいつはどうしたんだ」とか、「どうなんだ」とか。

偵察から帰った男はしばらく口を開かず黙っていたのだが、血の気の引いたその暗い表情は全てを語っていたのだ。

それでも偵察役の男は声に出し、集まった大勢の町民達に告げた。



民兵「…崖の下を見た……まるで、蟻の巣をかっさばいたようだった…恐ろしい光景だった…!」


その言葉に、集まった人々の多くは各々の叫びや悲鳴をあげた。その場に崩れる者もいた。
121 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 00:24:55.71 ID:rIVaFyE0
「やはりいたのですね、魔族軍は」

「!」

一人の男もまた、その場へと歩みやってきた。

赤と白の布を垂らした最高裁判長の派手な正装は、薄い鎧を纏う臨戦態勢の町人衆の中では非常に浮いている。


民兵「……カギル裁判長…」

裁「辛い役を任せてしまいましたね、申し訳ございません」

民兵「…良いんだ、これは俺が自ら望んで請け負った役割だから…」

裁「……あとの3人はどうしました?一緒に偵察に向かったでしょう」

「ま、まさか殺されて…!?」

民兵「あいつらならそれぞれ遠い持ち場で待機してる人達に“凶報”を伝えに行ったよ、みんな無事だ」

裁「良かった、無事で何よりです」

カギルは薄く微笑んだ。目は笑えなかったが。


民兵「……カギルさんが傭兵を言う事を信じた……俺はそれが許せなかったんだ」

裁「?」

民兵「あの飛脚の男はナガトも同じ事を言っていたという…ナガトは馬鹿正直な男だ、信用できる…だけど、それでも俺は信じたくはなかった…カギルさんの言う事であっても…」


柵に額を当て、陰鬱な息を大きく吐き出す。

民兵「傭兵の言う事を信じたくなかったというのもある…それに、何より、まだこの最悪な戦いがしばらく続くなんてのを認めたくなかったんだよ…俺は…」

裁「私も同じ気持ちです」

民兵「くそ……おぞましかった…軽い気持ちで崖の下を覗いたんだ…“どうせ何もいないにきまってる”って」

裁「でも、いたのですね」

民兵「…背筋が凍るってああいう事なんだろうな……下一面に、まるでフジツボのようにびっしりと白い肌の魔族が岩肌を覆っていたんだ…」

裁「……」

民兵「見た瞬間ひどい吐き気と立ちくらみがしてな……ショックだった…隣に居てくれた仲間が支えてくれなきゃそのまま崖下にふらっと落ちていたよ…」


顔面の半分を手で覆う男の弱々しい震える話声は、聞く者全てに恐ろしい情景をリアルに伝えていた。
122 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 00:39:45.85 ID:rIVaFyE0
裁「心に傷を負ったでしょうが、聞きたい事はいくつかあります」

民兵「ああ、何でも聞いてくれ……見てきたことでも感じたことでも、何でも話すよ…」

裁「おおよそで良いです、数で表すとしたら魔族の軍は何体程度に見えましたか?」

民兵「……数えきれない、おおよそもわからないな…水中にもぐっている奴もいるかもしれないから…」

裁「なるほど、では何体以上か、という訊き方ではどうでしょう」

民兵「そいつは見た限りでの最低数って意味かい?…そうだな、ざっと百はいるだろうな…」

裁「……百ですか」

民兵「ああ、顔を出した見たのは一瞬だったからじっと観察はできなかった…すまない」

裁「彼らはあなた方を捕えるまたは殺そうとしたりなどはしましたか?」

民兵「それは……砲撃はされた、あの大きな炎のやつだ、あいつの群れが一斉に撃ってきたよ…だが顔を引っ込めたあとはそのまま、追ってきたりもしなかった」

裁「……ふむ、怪我はありませんでしたか?」

民兵「石ころの破片が何個か頭にぶつかってコブがいくつかできた程度だよ、問題ない」

裁「……」


その場にいた全ての町人が沈黙した。

聞く限りは最悪の状況だ。誰も口を開く気にはなれなかったのだろう。

誰ひとり絶望に打ちひしがれパニックに陥る者がいなかったのは救いか。


裁「……わかりました…悪い知らせではありますが…とにかく敵はまだ残っており、こちらを攻め込む準備を整えているということに間違いはありません、そこに気付けたことは不幸中の幸いでしょう」


裁「この町はまた再び、戦の準備をしなくてはなりません…相手の戦闘方法は昨日の戦でだいたい把握できたので、今は効果的な待ち伏せをできる事を喜びましょう、皆さん」

「……そうだな!逆に考えよう、俺らは奴らの出方も全部わかってるんだ…!」

「昨日はやれたんだ、次いつかはしらねえが、いつ来ても大丈夫なように備えておけば……!」


カギルは怯えず、恐れず。そんなまっすぐな目と姿勢で、その場で俯き気味になっていた者達を励ました。
123 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 01:07:37.16 ID:rIVaFyE0
裁(傭兵は今から協力を要請しても時間がかかり過ぎる……何より民兵たちは彼らを望んではいない、民兵たちの和を崩し損ねない傭兵は論外だ)

裁(となると、今町にいる民兵たちで立ち向かわなければならないということになる…昨日の死者が…62名、男手はかなり減った)

裁(負傷もなく残存している男で戦場に駆りだせるのは500人前後といったところか、それをどう振り分けるかがカギとなるな…)

裁(偵察役の彼の話によると一見して確認できた勢力は百……とのことですが、それは崖の一角を見た数…実際は面している崖のそこらじゅうにいると思っても不思議ではない)

裁(…となると敵の数は千を超えるか…?馬鹿な、勝てるはずがない…倍違う勢力にどう足掻けばいい)

裁(崖を崩落させ、奴らを岩で押しつぶすか…?有効かもしれないが、誰がそんな危険な役回りを進んで引き受けるというのだろう、膨大な量の炸薬が必要にもなる…理想の攻めではあるが不確定要素とリスクが大きい)

裁(ならばレンガで防壁を多く築き、遠くから銃で確実に始末してゆくやり方が一番だろう…準備も早くできるし、不測の事態も起こりにくい…被害を最小限に留めることができる)

裁(昨日の戦では銃が全ての魔族達に効くことがわかった、未だ皆の士気は高いはず……そうだな、これが最善の戦法か…そうだ、きっとそうだろう)

裁(…こちらから攻めるのは得策ではない…奴らがいつ動き出すかもわからない……もしも民兵たちが出ている間に町が襲われでもしたら…最悪の事態だ)

裁(こちらから攻めるのは論外、籠城を覚悟で防衛に徹する……やはり今回もこれでいこう)


カギルは頭の中で慣れない戦のシミュレーションを行っていた。

周りでは町民が何を準備しようかと盛り上がっている最中だったが、彼は自分の世界に浸っている。


民兵「…カギルさん、ひとつ提案があるんだ、聞いてくれないか。」

裁「…ん!はい、なんでしょうか」


だが物見台の上の偵察役の男の呼び声で、一気に現実へと引き戻される。


民兵「カギルさんに情報を提供してくれた、ハープって傭兵の事についてなんだ」

裁「……ハープ、さん、ですか」


偵察役の男も気が進まないような表情はしていたし、その顔から言いたい事を汲み取ったカギルもまた、気の進まない表情をしてみせる。
124 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 17:25:45.49 ID:YXpmA.AO
…損ねない。日本語がおかしかった。
「損ねかねない」が正しいな。

出来上がったら一度全てを書き直す必要があるかもしれない。
125 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 23:40:01.22 ID:0IPH6Dwo
多少の誤字なら脳内補完できるからあまり深刻に受け止めなさんな
126 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 18:06:52.19 ID:w70.EwAO
裁「ハープさんを探す…?」

民兵「ハープがカギルさんに情報を流したんだろう?ナガトが命からがら手に入れた情報と同じものを」

裁「…ええ」

民兵「ナガトは瀕死になってまでそいつを知らせてくれた…何故ハープは知っていたのか?気にならないか」

裁(………)


裁(彼女が私にそれを告げたのは戦いの後、割とすぐにだった)

裁(…まさかあの時点で崖側まで行き、戻ってきた…とは考えにくい…それでは戦闘中もナガトさんと同じように、敵陣へ攻め込んでいなければならないはず)

裁(となると、彼女の勘?…だとすれば酷い話だ、信じてしまった私を含めて)

裁(だが…勘、だけではなかった、あの時の彼女の目には強い自信が宿っていた)


裁「……是非、ハープさんから話を伺いたいですね」
127 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 21:29:14.79 ID:C6xhizU0

槍「ふぃー、あっちいな…タオルタオル」

ゴシゴシ


槍「……うん、まぁこんなもんだな」


俺の手には一本の大きなヤジリが握られている。

傷付いたり切れ味が鈍くなった刀剣は少なかったので、武器の修理はすぐに終わった。というのも大破し欠けた刀剣なども多くあり、直せるもの直せないものが両極端だったのだ。


もう直しようのないほどの欠け、あるいは折れがある刀剣については熔かして再利用をするしかない。

ということで今はその鉄くずを使っての新たな武器を作っている最中なのだ。


槍「……うん、これも大丈夫だな」カランッ


詰まれたヤジリ達の山に手の中のそいつも投げ込んでおいた。最初は慣れない仕事だったが、もう既に何十本も完成させ手が感覚を覚えてきている。

量産しようと思えばこれからはもっと時間が短縮されるだろう。


槍「飛び道具がどれほど必要かってのがわかったからな…銃は作れなくても、こいつなら俺にだってできる」


俺は、最も効果的な自分の“やれること”を模索していた。
128 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:15:02.50 ID:C6xhizU0
カーン、カーン

槍(何百本と作っておかないと、…いや、それじゃ足りないかもしれないくらいだな)

カーン、カーン

槍(使い捨てにするにはちょっと燃費が悪いか…?んじゃ何作ればいいんだか…鎧はもう作ってあるし、分野もちょっと違うし)

カーン、カーン

少女「おーい、ホムラ」

槍(本当は一番効率の良い刀剣類を作りたい…欲を言うなら槍を作りたい、けどあいつらに近付ける隙なんてないし…ジレンマだよなぁ)

カーン、カーン

少女「おーい、打つのをやめろー」

槍(なんとか、なんだっけ…シドノフさえ全部倒すことができれば、懐に入って叩く事もできるんだけど)

カーン、カーン

少女「……そうか、そんなに叩きたければ手伝ってやる」パラッ

槍(そのためにはやっぱり投擲武器や銃も必要だし…)

少女「かなり細めの“スティ・エンジュ”」


ゴォン!
129 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:26:44.78 ID:C6xhizU0
槍「な、なな!なんだこりゃ!」

少女「手を休めてくれたか、お邪魔するぞルーキー」

槍「えっ、ハープさん!?いつからいたんだ!?」

少女「お前がそいつを打っている間から居たとも」

槍「…ぁああ、打ち始めたばかりだってのにジャベリンが……なんだよこの鉄柱、いきなり落として…」

少女「イヌエンジュの鉄製版、といってもわからないか…まあいい、そんな柔鉄を打つのは後回しにしろ」

槍「ん?」

少女「お前の叔母が“頼めば何でも”と言っていたのでな、こいつのために頭を下げにきてやったんだ」


ゴトッ

槍「メイス?」

少女「島国で買った割と頑丈で高いショートメイスだが、昨日の戦闘で先が歪んでしまったんだ、直してくれ」

槍「……ん、オッケー、大丈夫だ、これなら直せる」

少女「そうか、頼むぞ…先のバランスが悪いとどうも、放出する術が上手く真っ直ぐ飛ばなくなるからな」

槍「…でもこれハープさん、どうやったら変形したんだ?昨日はずっと術で…」

少女「奴ら(シドノフ)を殴っていたら歪んだ」

槍(…この人…あんなやつらに突っ込んだのか?)
130 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/22(月) 01:29:08.82 ID:2AssEcE0
ハープさんパねえwwww
131 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 21:37:30.47 ID:2lR3IH6o
読みたいけどどこら辺から面白くなる?参考までに
132 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 21:43:14.23 ID:iwI5o0E0
少女「あ、忙しそうなら表面はいくらか崩れていても良いからな、どうせ数ヶ月だけの使い捨てだ」

槍「うん、オッケイ…メイスは何度も扱ったことあるから問題ないよ」

少女「頼もしい、本当に武器なら何でも作れそうだな?」

槍「ははは、何でもってわけじゃないがさ……んじゃ、分解するからな」コン、コン

カランッ


少女「…ほうその鋲を抜いて分解するのか、使っていたが気付かなかった」

槍「フランジをネジバナ状に噛んで固定するタイプのメイスは珍しいからなー、使ってる人でも知らない人は多い」カラン、カランッ

少女「む……悪いな、恥ずかしながらあまりに込み入り過ぎた専門用語はわからない」

槍「はは、いや、それが普通だから」
133 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 22:24:39.04 ID:iwI5o0E0
槍「ネジバナ固定のメイスは根元でしっかり噛んで頑丈だし、分解もできるからゆがんだりして壊れた時の直しも容易、鍛冶屋や武器屋としちゃあかなりありがたい構造でさ」

少女「流石、詳しいな」

槍「おうよー……でも銃はサッパリだから、今この時ばかりは役立たずだけどな、ははは……」

少女「何も武器は銃ばかりではないだろう…」

槍「よし、この歪んだフランジか…このくらいなら根元に気をつければ低温でも大丈夫だな」


少女「……」キョロキョロ

少女(…ふむ、ソードや刀、シールドからバックルまで様々なものが乱雑に置いてある)

少女(が、銃は無い……さすがにそこまでの精密さは出せないか、専門外なんだろうな)


槍「あ、そうだハープさん」カチャ

少女「ん」

槍「これとは関係なくてさ、町の事なんだけど」

少女「ここでは私の存在が大きくなってしまっているようだな」

槍「そうそうそれだよ、昨日すごかったんだぜ」

少女「先程も外で会った民兵から聞いたよ…どうも私の信用は傭兵達だけでなく民兵側にも無いらしい」

槍「あー…みんな傭兵嫌いだからな…」
134 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/24(水) 21:25:28.09 ID:2O/ijmA0
槍「とはいえ、あの様子だときっとみんなハープさんに会いたがってると思うんだ」

少女「会ってどうするね」

槍「…さあ?会ってじかに聞きたいんじゃないか、どうして敵がまだいるって分かるのか、とか」

少女「くだらないな、私が何を言ったところで裏付けにはならないだろうに」

槍「…うーん」

少女「逆に、そもそも何の確証もなく兵を揚げて町を無防備にしてしまう方が可笑しいだろう。戦慣れしていないとはいえ、一陣を倒した程度で勝った気になってしまうという事の方が私は信じられんね」

槍「言われてみれば、うーん、確かに…」

カンカン、カンッ


槍「……うん、でもやっぱりハープさんはみんなに会ってくれた方が町のためになりそうだ」

少女「?」

槍「ほら、俺も含めてだけどさ、この町は戦なんて縁が無かったから…良いとこ魔獣や盗賊から町を守るための自警団が敷かれていたくらいでさ、今回については全くなんだよ」

少女「狙ってのことかは知らないが、塹壕を掘らず壁を建てた点では多少評価できるぞ」

槍「はは…何のことかよくわからないけどさ」カンッ


槍「きっとハープさんはスゴい。きっとハープさんなら、俺がやられそうになっていた時みたいにこの町のために良いアドバイスができる、そう思うんだよ、俺は」

少女「……アドバイス、ね」


カンカン、カンッ
135 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/24(水) 21:43:13.66 ID:2O/ijmA0
槍「…んー…あちゃあ、ちと曲げすぎたか……」コンコンコン

少女「私は教師ではない、どちらかといえば貪欲に学び、活発に行動してゆく原石のような生徒に近いだろう」

槍「んー?生徒?」コンコンッ

少女「それは自他、…“自々他”共に認めている、私は教えるのが上手いわけじゃない」

槍「そんなこと無かったけどな…こうして俺はあの戦場の死線だか弾道だかをなんとか掻い潜って生きてるわけだしさ」

少女「お前は運が良かったんだな」

槍「えー、運かよ」

少女「普通なら何匹もシドノフを殺している途中で自分が“無敵”だと勘違いして、つい一発でも奴らの砲撃を浴びて四散している……お前に慢心が無かったからたまたま生きていたんだよ」

槍「ひ、ひどいなその言い方……素質って言ってほしいな、そういうプラスな面はさ…」コンッ

少女「…熟練した教官が教えでもすれば気も引き締まり注意の仕方もよく身につくだろうし、少々油断してしまうような奴でもあの戦場を生き残す事ができる、だが私が教えたのではそこまで上手くはいかない……私の教えでは生兵法で何人も殺してしまうかもしれんのだよ」

槍「本職かそうじゃないかって話じゃないのか?そういうのって」


ジュゥゥゥゥウウ・・・

槍「…この鍛冶だってさ、謙遜はしないぜ?俺はそりゃあ自分でも認めるほど力のある鍛冶だ、そいつは数十年も積み重ねてきたもんだ…けどさ」

少女「……」

カランッ

槍「別に、完璧に鉄を直せなくても、硬度が無くてもさ…5、6年打ってきただけの奴にでも、腕の善し悪しはあれど鍛冶ってのはできるもんだからさ……はい、これ、熱くないから」

少女(……おお、歪みが直ってる)

槍「ハープさんが自分は完璧じゃないとかそう思っていてもさ、生兵法でも…今のこの町にはさ、どうしても戦の知恵が必要なんだ」

少女「……」

槍「頼む…って、頼りっぱなしにしてしまうのもなんだ、ハープさんが良ければで良い…ハープさんさえ良ければ、俺らを助けて欲しいんだ、生兵法だろうが、せめてその知恵だけでも」

少女「…ふむ」
136 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/24(水) 21:58:01.71 ID:2O/ijmA0
少女「……うん、まっすぐだ……良くあの湾曲具合からここまで元の形に戻せるものだな…」

槍「そう、それが俺の仕事」

少女「…“使い捨てで終わると思っていたが、うまく使えば長く善く使えるものだ”ということだな」

槍「?」

少女「一期一会という事だよ、ホムラ」

槍「? …?」

少女「ふふ、じゃあホムラ、私は組み立てまでは見ていない、こいつを元の形に戻してくれないか?」

槍「ああ!そうだった、オッケー」


カチャ、カチャ・・・

少女「…そうだな、力や知識を得ても慢心の無いお前であれば、私も断る理由は無い」

槍「! この町の手助けをしてくれるのか!?ハープさん!」

少女「まぁ、そもそも協力といえばそうだ、ここに残るつもりだったからな」

槍「…ありがとうハープさん、本当にありがとう」

少女(……本当は協力などといわず、独力で進軍を止めに来たんだが…まぁ、いいか)


『――回りくどいことだな、何も持たぬ何も思わぬ人形共を相手にわざわざ共闘をする必要などなかろうに、さっさと潰してしまえば良いのだ――』

少女(うるさい、私が決めたことだ)


槍「でもやっぱり危険だからさ、ハープさんはこの町の関係者でもないし……危ないと思ったらすぐに逃げ出しても良い」

少女「?」

槍「俺らのやるべきことだからさ、何かあって逃げ出したくなったらすぐに逃げて良い…ハープさんが俺らの危ない事に巻き込まれる筋はないからな」

少女「…ふ、どこぞの飛脚と同じでお前も優男だな…大丈夫だよ」

槍「?」
137 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/24(水) 22:11:47.04 ID:2O/ijmA0
カチャッ・・・

少女「……見た目は変わらないな」

フンッ

少女「ガタも無い」

槍「だろ?へへ」

少女「“イアニュス”」シュボッ!

槍「うおっ!?熱っ…!?」


ボボボボボ・・・

少女「…うむ、狙った鉄くずにしっかり炎が飛んだ、精度は良くなっているみたいだな」

槍「ハープさん…あのジャベリンに何か恨みでもあるのか?」

少女「鉄が真っ赤に熱を帯びたところを見るに、術の質も悪くない…うん、良い仕事だホムラ」

槍「あ、おう…ありがとう…ごめんなジャベリン…さすがの俺でももうお前は直せないぜ…」

少女「これほどの腕なら都会でも十分にやっていけると思うがな?そっちではこの町以上に戦争の空気が充満している、需要もあるはずだ」

槍「え?そうなのか?」

少女「…知らないのか…今はだいたいどこでも“惨劇軍”と交戦しているぞ…まぁこことは違って、人が多い場所では金もある、良い傭兵も雇えるし全く問題は無いんだがな」

槍「…へー…都会か…町出た事ないからわからないなぁ」

少女「世辞ではないがお前ほどの腕の奴は見たことが無い、向こうでも店を開けるだろうし繁盛するぞ」

槍「んー、興味無いから良いや」

少女「慢心も無ければ欲も無いときたか、なかなか居ない人間だな」

槍「バンホーはこういうモノを作るのが好きな奴らが集まってる町だからさ、俺にとっちゃここの方が仲間も多いし……なんつーか…住みやすい、ははは」

少女「ん、そうだな…お前がそう言うならその方が幸せだろう…何も幸せは人多い都会にあるわけではないから」

槍(相変わらず歳わからないなぁ、この人)
138 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/25(木) 21:12:21.91 ID:kW49a1g0
槍「…あー、ハープさんや、ちょっと気になってた事があったんだけどさ、もし急ぎとか無ければ良いかな、アドバイス」

少女「ふ、構わない、私が自信をもって答えられるものなら」

槍「おー、ありがとう。やっぱこういうのは素人が議論するよりも戦場に慣れてそうなハープさんに聞くべきかなって」

少女「それで何を訊きたいのか」


槍「これから魔族らがまた攻め込んでくるわけじゃないか」

少女「そうだな」

槍「えっと、シドノフってやつはどうしようもないと思うんだけど、他の奴らが相手なら槍とか剣でもイケるかな?と思ってさ」

少女「…そうだな?刃物でも奴らを殺す事は可能だ、理論上はだがね。シドノフでさえ条件が揃えば斬り殺す事もできるだろう」

槍「本当か?…昨日もシドノフってやつ以外もちらほらいたんだけど、近づいてくる前に弓と銃でなんとかなっちゃったからさ、よく分からなくて」

少女「ふむ、そうだな……これも町を勝利に導くための大事なアドバイスの一つだな」

槍「ああ、もしも俺の作ったエモノで戦えるのなら弾切れとかしないし、町のみんなもこういうのは慣れてるだろうし、良いと思うんだ」

少女「…ホムラ、この場で返答はできる。だが少し待ってくれないか」

槍「?」

少女「これは大事な話だからな、お前だけが食べるにはすこし栄養価が高すぎる情報とでも言おうか」

槍「! …えーっと?つまり、でっかいケーキはみんなで切り分けようっていう事か?」

少女「そうだ、町の者にも言っておかなくてはならない事も含むからな」

槍「…遠まわしだな」

少女「な 違う!うつってなどいない!」

槍「? ま、まぁわかった、皆の前で話しをするってことだな」

少女「……そうだ」

槍「そうか、そうだな……俺だけが知ってて良い事じゃないからな」


槍(ハープさんが町の皆の前に出るわけだな……みんなはどういう反応するんだろ、想像つかねえなー)
139 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/25(木) 22:35:52.75 ID:uRB.FAAO
http://myup.jp/LfXMdtYt

不幸のヤハエ、気持ち悪いだろう?サイズなども割と人に近いから、戦場でこいつの姿に嫌悪感を抱く奴は多い。

“惨劇軍”では地を走り数で攻めるいわば歩兵の役割を持つ。リーチのある武器を持たないように見えるが、こいつの武器は何より腕にある。

腕には関節が無く、突き出せば短い槍程度まで伸ばすことができ、なおかつ黒い爪には触れた部位を麻痺させる力がある。

爪で肌を切り裂かれた事に気付かず失血死、という事もあったな。とにかく腕とその間合いには気をつけながら、距離に余裕をもたせて片付けなければならない相手だ。
140 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 23:51:33.57 ID:.S9ML7wo
来てた!おつおつ
141 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/28(日) 00:33:02.75 ID:l5Fkeig0
「急げ急げ!いつ来るかわからないんだ!疲れてないなら走っておけ!」

槍「おっと」


俺のすぐ目の前を台車が横切った。木製の荷台には車輪が耐えられるかわからないほどの量のレンガが詰まれており、それはがたがたと重い音を立てながら足早に去ってゆく。


少女「忙しそうだな」

槍「敵襲に備えてるのかな?」

少女「この様子ならお前以外の奴も慢心はしてなさそうだ、安心したよ」


辺りを見回してみれば確かに、人々が慌ただしく走っているように見える。

しきりに物を運んだり、何らかの書簡を握りながら走っていたり。戦が始まる前の町の緊張感にそっくりだ。


槍「いやぁ、みんなのやる気があるみたいで安心だ、俺だけやる気があっても困る所だったから」

少女「違いない。“センセイ”としても教えがいがある」

槍「ああ、頼むよハープさん…とにかく総括してるカギルさんのいる所まで行かないと」

少女(カギル……あの男か)

槍「カギルも俺と同じで生粋のバンホーの民だから戦については全くだけどさ、家が家だから剣術や武術はやっててさ」

少女「ほう、健康的だ」

槍「まーとにかく、何を取っても頼もしいってんでさ、この町の命運を背負うリーダーになってもらったんだ、実際昨日の戦もカギルさんの指示であそこまで形にできたってのもあるし」

少女「ほう、昨日の戦は経験者全く無しで?配備も?」

槍「らしい。読んだ本を参考にしたとか言ってたな」

少女「……読んだ本を参考に、程度の奴をよく将軍にしたものだ。この町の人間は図太いのか?」

槍「ははは、いや、カギルさんはそれだけすごい人なんだよ」

少女(…信頼はされているんだな。よほどの人柄らしいな、奴は)
142 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/28(日) 22:44:44.17 ID:l5Fkeig0
俺とハープさんは慌ただしく人が行き交う中を呑気に歩いていた。

忙しそうにしてすれ違ってゆく町の人々の中には、俺とハープさんを見て一秒ほど動きを止めてしまう者もいた。

何か思う事があったのだろう。それでも各々は自分の役割を果たすために足早に去ってゆく。


普段なら呑気に町の職人たちが骨を休めるためだらだら歩いている昼間の町も、やはり戦時か。みんな働いているが、溌剌という言葉が出るほどは気持ちの良い雰囲気じゃあない。


少女「〜♪」


だがハープさんは呑気に知らない曲の鼻歌を上手に奏でながら、町の角の要所要所を飾る風車を楽しそうに眺め歩いているのであった。

人の、いいや、人々の気も知らないでといいたくなる観光気分なハープさんの姿だったが、慌てない彼女はどこか、俺の心にある平和な日常の落ちついた心を見せていてくれるようだった。


槍「ハープさん、まだ慌てなくてもいいんだっけ」

少女「うん?そうだな、でも予想だぞ、数日だけだ」

槍「…そうか、数日か」


でもやっぱり、骨休みをするには足りない日常のようだ。

今日は敵は来ないかもしれないが、明日は来るかもしれない。

だから休んでなどいられない。戦いの日に備えておかなければならない。


槍「…数日で俺も何かしなけりゃな」

少女「ん、そうだな」


町外れの大きなテントに、俺とハープさんは到着した。

テントの辺りに集まる大勢の民兵たちが、俺ら二人を見るなり退くように道をあけてゆく。
143 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/28(日) 22:52:04.17 ID:l5Fkeig0
「…もしかして」

「あの赤髪、ホムラだろ?…じゃあやっぱり」

槍「……」


一躍有名人になったものだと、皆の視線を背中で受けるのは少し恥ずかしかったが、俺はあまり気にしてないふりをしてテントの入り口を開けた。


槍「失礼しまーす……カギルさん、あ、居た」

裁「! ホムラ…さん…と、あなたは」

少女「……」

テントの中には数人の民兵と、何人かの町人がいた。

それぞれ机の上の紙やら地図やらを見て議論している最中であったようだ。

皆があっけにとられたような顔をして俺とハープさんを見ている。


槍「あーっと?もしかしてお邪魔だったかな」

裁「…ホムラさん、貴方を呼ぼうかと思っていたくらいです、わざわざ足を運んでくださってありがとうございます」

槍「ありゃ、そうでしたか、良かった良かった」

裁「それと……ハープさん、貴女も」


カギルさんの朱色の目が微笑むように細く、ハープさんを一瞥する。

ハープさんは表情を変えず、ませた風に「うむ」とでも言いたげに頷いただけだった。

……この二人はどことなく話が合いそうな気がする。
144 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/28(日) 22:58:33.75 ID:l5Fkeig0
「ハープ…!?おい、本当に子供かよ…」

「こんな子供が…」

テントの中に居た民兵たちはハープさんの姿を見て驚きを隠せない様子だった。

…カギルさんと俺が、こんな子供の言う事を信じた。その具体的なビジョンを見てしまったのだ、驚きもする。

俺も第三者だったら、こんな小さな子供の言う事を信じて指揮を執るカギルさんを責めたくもなるだろう。


「おい、今テントに入っていった子供って……!」

槍「うおっ」


テントの外側も慌ただしくなってきた。

入り口からは民兵達が入ってきて俺の背中を圧迫している。噂のハープさんをじっくり見ようと駆けつけたのだろう。


裁「……やれやれ、このテントもかなり大型ですが、これからの話をするにはもっと幅が必要なみたいですね」

槍「は、ははは…そうですね………おい、ちょっとみんな一旦出て、これ以上入れないから…」

「うお、本当に子供だ!」

「なんであんな子供を…」

少女「汗臭い」
145 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/28(日) 23:12:12.38 ID:l5Fkeig0
一斉に押し掛けてきた噂好きの民兵達に向かって、ハープさんは殺気立った目つきでメイスを振るうのだからこれも少し騒動となった。

だがまぁ、小さな女の子がメイスを振りかざしながら向かってくる姿に民兵達は皆気押されてテントから退散していったので、ある意味早く誘導が済んだのかもしれない。


裁「会場を設けるにも時間がかかるので、青空会議といきましょう、みなさん」


そんなこんなでテントにあった椅子、そこらにあった板材やら布やらを寄せ集めたものを皆の席とし、テントの外にはカギルさんを囲うように大きな人の輪ができていた。

民兵だけでなく職人や、騒ぎを聞いて様子を見に来た女や子供までいる。

……これが祭りの日なら、美味い酒を飲んで良い感じに騒げそうな井戸端の会場だ。


裁「…まず、皆さんが気になっている事からですが…私は知っていますが、貴女はハープさんで間違いはありませんね?」

少女「ああ」

槍「……」

輪の中で胡坐をかき、頬杖をつく猫背の少女のませた後ろ姿はちょっとシュールだった。


裁「先程、崖の偵察に向かった方々が報告をくれました…ハープさんの言った通り、魔族達はまだ大勢、崖の下に潜み、我々の町を襲う機会を狙っているようです」

槍「あ、偵察に行った人はもう帰って来てたのか…」

裁「…敵発見を知らせる鐘が鳴ったでしょう、ホムラさん」

槍「あ、はは、そうだっけ?作業場にいたから聞こえなかったのかも」

少女(……なるほど、町の騒々しさは偵察の結果を受けてのものなわけか)
146 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/29(月) 01:39:18.56 ID:PzATwUw0
いよいよ戦争か
147 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/29(月) 22:25:32.67 ID:daxU/zg0
裁「我々バンホーの人間は戦場に鬨が響いた時、戦の終わりを肌で感じました…肩の荷が下りるとはまさにこのことだったのかもしれません」

弓「そうね…一時はどうなるかと思ったけど、上手くいって良かったわ」

裁「ええ、私もここ数日の疲れが一気に押し寄せたような気持ちになったものです…全ての終わりを予感しました、少なくともしばらくは来ないだろうと安堵したのです…」

少女「……」

槍「……」

ハープさんの頬杖は揺れることなく安定していた。

裁「…さて…その夜、衛生兵のハヤテさんは戦場で瀕死のナガトさんを発見しました。彼は発見されるまでは行方不明…その生存は絶望的かと思われていましたが、彼は無事保護されすぐに処置を受けました」

衛生兵「かなりの失血だったがハヤテの応急処置でなんとか一命は取り留めた…もしあの場にハヤテが向かっていなければ大変な事態になっていただろう」

少女「それで?」

裁「はい。……実はナガトさんは、戦が一時的とはいえ我々の勝利で一旦の幕を降ろした後でも、戦場の奥へ奥へと進み、敵の掃討を続けていたそうなのですね」

少女「ほほう?馬鹿だが勇猛だな?」

「! おいガキ、ナガトさんを…」

槍「ま、まぁまぁ」


裁「…敵の掃討に夢中となり、森と山の奥へ、奥へと彼は進んでゆきまして…そしてたどり着いた場所が…東の海岸です」

少女「……ふむ?海岸は“惨劇軍”の陣地とも言える場所だが、そこまで掃討しに向かったのか?」

裁「はい……彼はそこで、海岸の底に魔族の大群が潜んでいるのを見たのです」

少女「ははは、そいつはそれで命を持って帰還できたのか?それは大したプロモーションだ。“ナイト”にでもしてやったらどうだ?」

槍「……」
148 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/29(月) 22:44:58.85 ID:daxU/zg0
民兵「……おい、傭兵のガキ」

ハープさんの右後方で立つ大柄の男が低い声を挙げた。子供に向けたものとは思えない威圧感の籠る声だ。

少女「ふふ、防衛戦にも関わらず一人敵陣へ乗り込み多くの首を取ろうとでもしたのかね?それとも彼は指揮官直々に奇襲命令を受けたのか…?」

民兵「お前……これ以上ナガトさんを愚弄するか?」

少女「愚かといえばそうだな。守るべき町があるというのに、一人持ち場を離れて敵陣へ突っ込む…いくら手柄をあげようがそれは愚か者の勇み足に変わりはない」

民兵「…」

男の眉間に一気に皺が集まる。


槍「…いかん」

民兵「離してくれ」

右腕が上がりそうになったのを見た俺はすぐ立ちあがり、男の肩をそっと手で抑える。

……だが彼の気持ちは分からないではない。同じ町の、同じ町を守る仲間である事に変わりはないのだ。それを愚かと言われれば、俺も少しかちんと来るものはある。


槍「なぁ、ハープさん…もうちょっと言葉を…」

少女「指揮官の指示を全うできない兵(コマ)など黒に成る歩兵も同じだ」

民兵「お前……!」

少女「結果としてそいつの働きは功を成しただろうがよ、町まで前線が押しやられた時に同じ褒め言葉はくれてやれないな。そう思うだろう?カギル」


微動だにせず胡坐をかく少女の目線は、きっと向かい座るカギルさんへと向いていた。


裁「……そうですね、確かに結果としてナガトさんは我々に危険を知らせてくれましたが…防衛戦から大きく離れ独断で行動したという事、それは関心できないことです」

民兵「……」

裁「成した功績は称賛されるべきです、彼はいち早く我々に危険を知らせて、先程の鐘として町に確かな方向を示してくれました…それとは別に、私の指示を無視して敵陣へと乗り込んだ、これはハープさんの言う通り、軽率であったと言えるでしょう」

槍(……公平だ)

裁「ですがナガトさんの性格を私は知っています。…彼は愚かではない、決して愚かではないのですよ、ハープさん」

少女「ふん」
149 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/29(月) 23:05:29.11 ID:daxU/zg0
民兵「……」

槍「……」


一時の沈黙は、立ちあがった者が着席するまで続いた。


裁「…さて、間をおいて魔族が再びこの町を攻めにやってくる…その予想は私にもありました」

槍「え」

裁「ですがここまで、数日中に第二波が寄せてくるほど早いものだとは予想だにしていなかったのです…ハープさんの言葉を聞いて悩みましたが、警戒するに越したことはないだろうと」

民兵「……勘、ですか?」

裁「保険ですかねぇ。信じるのは癪でしたが――」

少女「…」

裁「――失礼、信じ断ずるには尚早でしたが、誤った判断の奥に町の危険を据えてはいけないだろうと思っての決断だったのです」


ご理解ください、とカギルさんは周りに小さく頭を下げた。

周りの人々もそれに反応するようにおどおどと頭を下げる。


裁「……正直に明かしますと、私情を一片であろうと挟むのはいけないと分かってはいるのですが、私は傭兵が好きではないのです」

槍(カギルさんもかぁ……確かにキッチリしてる人はあまり肌に合わなそうな連中だし)

少女「まぁ、広く好かれる人種ではないな」

裁「…ですがハープさん、貴女はどうにも、違うように感じます…貴女はそこらの傭兵のように粗野でも無能でもないように窺える」

少女「ほう」

裁「貴女の言葉を聞いた時、私は“まさか”と思いました…半信半疑だった…ですがそれは現実となった、脅威は存在していた…」

裁「………ハープさん…私は貴女がどれほど何かを知っているのかは分かりません、ですが私にはこの町の指揮を執るのに慣れていない……正直、苦しい」

裁「どうか、この私に、…いえ、バンホーに、協力していただけないでしょうか」
150 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/29(月) 23:19:20.34 ID:daxU/zg0
カギルさんは深く頭を下げた。静かな会釈のようだった。


少女「…」

ハープさんは頬杖をついたまま動かない。そのままの表情で、そのままカギルさんを見ているだけだった。

民兵「……」

衛生兵「……」

俺を含めて、辺りに座る者達は皆、困惑していた。

カギルさんは深く頭を下げているが、ハープさんはそれに何も応えない。ここで流れが止まるとは誰が予想しただろう。誰かが予想しようとも、今ここにいる中の俺は最も予想外だった。


槍(おいおいおいー…ハープさん協力してくれるんじゃなかったのかー…?)

ハープさんもカギルさんも動かない。なんとも怖いシーンだ。どこかギスギスとした空気が淀み、ドロドロと流れているのがわかる。

カギルさんの下げた頭の行方はどこへゆくのだろう。そしてこの小さな傭兵は何を思っているのだろう。誰もがそんな事を考え、硬直しているに違いない。


民兵「……頼む」


だが沈黙は、ハープさんの後ろに座る男によって破られた。


民兵「…頼む、お願いだ…この町には戦を経験した奴なんか一人も居ない…俺ら自警ですら、何をどうすればいいのか、わからん…」

少女「……」


大男は地に膝を付き、両の手も付き、頭を深く、深くさげていた。猫背に腰を降ろしたハープさんよりも頭を低くした、傍からはみっともないようにも映る姿だ。


民兵「……頼む…あんたは、ホムラが言うには、昨日の戦のために貢献してくれていたのだとか…戦の仕方を俺らに教えてくれたのだとか…!頼む!」

民兵「…二度もこの町を助けてくれなんて、厚かましいとは分かっている…だが、あんたは戦を知っているんだろう!?俺らよりもずっと…だから…」

槍(……!)


大男を皮切りに、周囲の者も皆、ハープさんに頭を下げていた。

槍「……お、俺からもたのむ」

今さらだが、俺も頭を下げた。
151 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 21:40:19.79 ID:atdmciA0
少女(ホムラめ……何故自分の手柄にしなかった…面倒な事を)

弓「私からもお願いします、ハープさん」

衛生兵「どうかお願いします!…子供だからとか、そんなことは今は関係ない…どうか町のために、お願いします!」

少女(予定と違うぞ……本来なら私はこう、下から頼まれるのではなく横から茶々を入れる立場でサポートをだな…)

槍「……ハープさん?どうしたんだ?」ボソ

少女(……悪気はないんだろうがよ…はぁ、仕方ない)


少女「私は最初から協力するつもりでここに残っているんだ、頭を下げなくても力になる…そういうのはやめてくれないか」

槍(あ、もったいぶってたけどやっぱり協力するんだ、良かったぁ)

裁「わかりました、ではやめます、ありがとうございますハープさん」スッ

槍(わあ、カギルさん切り変え早えー)
152 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 22:07:24.84 ID:aAEXJoc0
物資を運ぶ台車が右往左往する中、物見台の真下の広い空間を占拠するように俺達は座り込んでいた。

雲は多少あれど日差しは眩しく、戦時でなければ散歩でもして欠伸をかきたいくらいの良い日和だ。

もちろん今は欠伸などかいていられない。ハープさんを囲うように集まる人々の面持ちは真剣だった。


少女「――なるほど、ここにいる者のほとんどは各役割の代表者、というわけか」

裁「はい。皆さんにはこの司令部のテントをベースとして集まっていただき、情報を報告、そして共有してもらっています」

民兵「俺はカギルが属する自警支部の支部長をやっている」

衛生兵「僕はこの町の医者をやっていたので、救護班などの担当で」

弓「私は弓術の道場を開いていたので、ここでは弓などの指南をしています」

槍「あ、じゃあ俺は武器の鍛錬担当…?」

裁「いいえ、申し訳ありませんが大体の武器は余るほど揃っていますので、ホムラさんは一般の兵士です」

槍「だよな、何も言われてなかったものな…」

裁「他に職人の方々もいますが、それを含めると数が膨大になってしまうので、主に我々が集まり各々の意見を総合して作戦などを立てていました…もちろんそれに関係する職人の方々の意見も聞きながら、ですが」

少女「……ハヤテは?」

裁「? ハヤテさん…ですか?」

弓「飛脚のハヤテさんの事?彼がどうかしたの?」

少女「奴は何らかの代表ではないのか、たとえば――運搬、連絡とか」

裁「代表とするには……大きな声では言えませんが、性格上の適性も加味して代表を選びました。ハヤテさんは何かの代表というわけではなかったはずですが」

少女「ん、そうか」
153 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 00:47:12.04 ID:9EHPMfw0
久々に自分の中でヒットした
支援してるぜ
154 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 22:05:09.12 ID:YhVyhp20
裁「我々は先程まで次の戦闘への備えについて会議していたのです」

槍「次の戦闘かー…今はどんな準備をしてるんですか?」

民兵「今はとにかくレンガの補充だな…昨日の戦いで身を隠すためのレンガ壁が大幅に減らされてしまった」

弓「まぁそれほどレンガの壁の防御性が有能であることが分かった、ということでもあるんですけどね、今は過剰生産って言ってもいいくらい、とにかく沢山作るようにしてます」

少女「そうだな、塹壕を掘るよりは有効な判断だ」

裁「……塹壕ですか」

少女「国家間で戦争をしていた時代においては、銃や魔術を扱って遠距離戦を挑むのであれば塹壕に身を隠す戦い方が堅実とされている…今この時の戦ではまた違うがね」

槍「穴掘って身を隠して撃つ、か……でもそっちのほうがレンガみたいに壊れる心配はないし…」

弓「……確かに、横一線に掘った塹壕を設ければ一方的に、安全に遠距離から攻撃できますね」

少女「いいや、シドノフの砲撃による爆風の影響がある…塹壕はかえって危ない」

裁「……シドノフ?」

槍「あ、大きな炎の魔族の呼び名らしいですよ」

民兵「シドノフ?初耳だな…」

弓「私もはじめて聞きました…傭兵の方々も名前で呼んではいなかったと思います」

少女「…ふむ、そうだな…まずは奴ら魔族についての話をしようか」

裁「……深くご存じですか?であれば、是非お願いします…」

少女「ああ、まずは敵を知ってもらわねばならないからな、曖昧な印象だけで挑んでは対峙した時に恐怖故の躊躇を生むだろう」

民兵「…頼む」
155 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 22:21:08.19 ID:YhVyhp20
少女「では、近くにあれば紙をくれ、大きめの白紙を頼む…あとできればペンも」

裁「紙ですか、白紙とまではいきませんが、裏面が白紙のものであればテントの中にあります」

民兵「俺が取ってこよう、えーっと何番目の引き出しだったか」

少女「いや、必要な書類の上にわざわざ書くのは悪い、やっぱり良いよ」

弓「あ、それでしたら物見台の方の倉庫を探せばあったような…」

槍「じゃあ俺も探してくる」

少女「気遣いありがとう、だが探すのが面倒なら構わない…“テブノマリア”、“ネブノマリア”」

パサッ
コロンッ

「「「…!!」」」

その場にいた一同が皆驚愕した。

ハープさんがよくわからない言葉を紡ぐいだかと思えば、その一瞬光った手元からは白い紙と、細いペンが現れたのだから。


裁「魔術…!」

民兵「……すごい、炎を出したり水を出したりだけではないのか…」

少女「魔術は良いぞ、様々な応用が利くしものによっては日常の生活にも役立つ…若くから勉強していなければ習得は苦労するがね」サラサラ

槍「…少し魔術を使いたくなってきたかも…今からでも使えるかな」

少女「ものによるな」


ハープさんはなめらかにペンを動かしはじめた。
156 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 22:29:40.02 ID:YhVyhp20
槍(……絵上手いなぁ)


ハープさんの手に握られたペンが淀みなく紙の上を焦げ茶色で満たしてゆく。

線だけで表現される緻密な陰影の濃淡は写実的だが、どこかにハープさん自身のセンスを混ぜたような独特な描き方というか、印象的な部分もあった。

その完成に着々と近づいてゆく人ならざる生物の絵を、みんな唾を飲みながら見守っていた。


少女「“テブノマリア”」パサッ

描き終わったのか、ハープさんはもう一枚の紙を手元から出現させた。

そしてまた焦げ茶色のインクを紙の上に丁寧に乗せてゆく。


裁「……上手ですね、写実的といいますか」

少女「絵が好きだったからな、描き初めてからかなり経つ…成長は遅かったがね」

弓「…………絵はどの程度描いていらしたんですか?」

少女「……さあ、結構」サラサラ


言葉を濁しながらも絵は鮮やかに仕上がっている。
157 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 22:42:01.73 ID:YhVyhp20
少女「さて、まずは代表的であろう4枚を仕上げた」


ハープさんの正面には4枚の魔族を描いた絵画が並べられている。


弓「…絵で見ても、グロテスクですね」


どれも人のような形をしているかもしれないが、人ならざる姿の異形の生命だった。

そして俺を含むみんなは、そいつらのうちのいくつかの姿を知っていた。


民兵「こいつだ!こいつが炎の…」

少女「そう、こいつが惨劇のシドノフ」サラサラ

ハープさんが絵の上に名前を書きこんでゆく。


裁「…惨劇の?シドノフ?」

少女「奴ら魔族軍は人々から忌み嫌われ“惨劇軍”と呼ばれている…その中でも代表的に強く、巨大であり恐怖の的…それがこの“シドノフ”だ」

槍「…絵で見ただけでも心臓が逸るな」

民兵「ああ…できればもう二度と、絵ですらもこいつの姿は拝みたくはなかった」


昨日の記憶がよみがえる。銃口を向けた自分と、腕を向けてくるシドノフの巨体。その間に生まれる緊張感…。


少女「惨劇軍が人間の世界に侵攻を始めたのは3年ほど前から…奴らはまず巨大な港町を襲った。用意も何も無かった港町はロクに抵抗することもできず壊滅、それが世界規模の惨劇の皮切りだった」
158 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 22:58:19.26 ID:YhVyhp20
サラサラ

“不幸のヤハエ”


どのような種か?何の目的があってのことか?人々は次々と町や都市が陥落しそうになりつつある中考えたが、答えはでなかった。

中には和平協定を結ぼうとする町もあったようだが、魔族達は全く聞き入れない。抵抗があろうともなかろうとも例外なく、狙われた地域は皆殺しに遭っている。


サラサラ

“災厄のタイエン”


人間への恨みか、支配権を取るためにきたか。惨劇軍侵攻の理由についての臆測は色々あったがただ一つ間違いない事に人間も気付いた。

奴らには言葉を聞きいれる知恵など無いという事。また命乞いなどせず、四肢を切り落とされようと人間を殺そうとする執念にも。

そう、とにかく悟ったのだ。奴らとは何であれ、殺されたくなければ戦うしかないということにな。たとえそれに理由がなくとも。


サラサラ

“凶兆のロッコイ”


惨劇軍の出現により傭兵達や自警団は都市部をはじめ様々な場所に拡散した。だが大規模に傭兵を雇う金の無い貧しい村や小さな町などは安い賃金で質の悪い傭兵達を雇うしかなかった。

その結果がじわじわと前線を押し込まれる現状だ。…全体でみれば都市部や城下町などの勢力は強い。最終的には人間の勝利に終わるだろう。

だがここのように小さな、しかも運悪く海岸沿いの町となると…町を防衛できるかどうか、かなり怪しいところだ。
159 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/02(木) 23:12:05.70 ID:YhVyhp20
コロン

ペンが地面に転がり、そしてふわっと煙がたなびくようにして消えてしまった。


少女「人は何百年も…いや、何千年も魔族と戦ってきた。ここ数百年は住み分けもできて落ちついていたが、惨劇軍が来てから状況はかなり変わってしまった」

槍「……」

裁「……」

少女「昔は人間の間でも多くの戦争があったからな…そうだな、その時は戦のための道具も数多く発明されたものだ」

弓「戦のための…」

少女「だが“何があったのかは知らないが”それらの発明の多くは歴史から姿を消した…“良く分からないがおそらく”戦が無くなり不要となったのだろう、あっても物騒なだけだからな?」

民兵「…なるほど…」

少女「……だがこいつらだ。惨劇軍の出現により、その平和ボケした現代は窮地に立たされている」


皆が4枚の絵を見る。グロテスクな造形の異形の魔族達。町の人間を何十人も殺した宿敵だ。

誰もがこの姿に嫌悪感と憎悪を覚えているだろう。俺ですらこいつらの事は許せそうにない。


少女「昔の戦争道具があれば戦いは楽に進むだろう…だが今はない。危機的状況だな?しかしこいつらに刃向かう事ができないか、といえばそんな事は決してない…勝算は十分にある」

裁「……勝てますか、生き残れますか、この町は」

少女「……“工夫の仕方”は教えてやる…実行するのは、この町の人間自身だ」


少女(そう…自分の身を自分で守る、それこそあるべき姿なのだから……私はあまり深くは介入したくはない)

少女(私が直接参戦して加勢しなければ勝てない程度の町であるならば――…まぁ、一時的に勝ったとしても、すぐに滅ぶだろう)
160 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 17:40:17.64 ID:IqfexEAO
えっ 512KBまでしか書けないの?
161 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:17:45.98 ID:y3mbNIE0
少女「…」ヒョコ

槍「ここが焼き煉瓦の工場、忙しそうだからあまり幅とって歩かないようにしてくれな」


俺はハープさんの案内役として一緒に煉瓦工場を訪れていた。

工場と言っても今は外で煉瓦を野焼きしてまでの大量生産を行っているので、作業工程の様子は工場に踏み入れる前から見ることができた。

人もいつもの数倍はいるだろうか。女や子供もせっせと働いている。…とはいえ、子供らは結構楽しみながら働いているように見える。戦が迫っているという緊張感はあまりないようだ。


少女「…大量生産でも焼き煉瓦は使うんだな?」

槍「うーん、最初に煉瓦のバリケードを作った時はさ、時間がないから日干しでいいんじゃないかってあったんだけどな…どうも職人は手を抜きたくはなかったみたいでさ」

少女「職人気質というやつか」

槍「すごい団結力だったよ…数日であの煉瓦を焼き上げたんだ」

少女「…ま、戦闘前に焼き上げられるなら構わないけどな…強度が高いに越したことはない」

槍「日干しだったらあの砲撃を耐えられたかどうか、いやぁ、とにかくこの工場の人には世話になったよ」

少女「……」


ハープさんは工場内を見回した。

土の匂いと火の匂いがそこらじゅうで燻っている。マスクでもしなければ咳でも出そうな室内だ。

見知らぬ少女の姿を見てこちらに気付いたのか、工場の奥から汗だくの作業着姿の男が近づいて来る。


煉瓦工「おっ?ホムラさんじゃないかい!なんだい、何か必要なモンでもあるのかい?」

槍「あ、どーもどーも、忙しいとこ来ちゃったみたいですんません」

煉瓦工「構わん構わん、うちの煉瓦が戦に使えるってんだからもうね、これに誇り持ってる俺もやる気十分!ってやつでねぇ、へへ」
162 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:34:34.68 ID:y3mbNIE0
煉瓦工「お?」

少女「…」

槍「あ、この人は俺のセンセイです」

煉瓦工「…センセイ?はっはっは、随分ちびっこな先生…」

少女「土は足りているのか?」

煉瓦工「おぅ?」


ハープさんは仏頂面で初対面の彼に質問を吐きかけた。

だが彼も大人で、ハープさんと目線を合わせるようにしゃがんで微笑んだ。


煉瓦工「土かー、土が足りないんだよなぁ。いいや、足りなくはねえ、そいつは違うな」

少女「?」

煉瓦工「いや、まさかここまで連日に渡り煉瓦が必要になるとは思わなかったからさぁ、原料は採石場の外れで採れるから問題ないとはいえ、そいつを採ってくるのに手間がかかっちまってるんだよ」

少女「…なるほど、運ぶのに時間がかかるということか」

煉瓦工「そそそ、一手間かかっちまうからな…それでも逐次土は運ばれてきているから、生産が途切れてるってわけじゃあねえ」

少女「あまり大きな問題では無い?」

煉瓦工「ん、そうだな!運ぶのはこっちの管轄じゃないからトラブんねぇか不安ってだけ!」

槍「バリケードの用意は万全だと思って良いってことか、良かったー…」


壁無しであいつらと戦う場面を想像してみると、おぞましいものだ。予想の中での俺は一分と戦場に立っていられない。


少女「よし…煉瓦は数あるに越したことはない、積めばそれだけいくらでも守りや戦術の幅を広くできる」

煉瓦工「お嬢ちゃん頭良さそうだな?はっはっは、こりゃ本当に先生かー!?」

槍(ははは、本当に先生だったりしてな…ただの傭兵ではないんだろうけど、俺には詳しく訊く勇気は無いや)
163 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 00:49:56.88 ID:y3mbNIE0
少女「……ん?これは」ジャラッ

煉瓦工「お、そいつか」

少女「えっ…と、この石は…なんだっけ、思い出せない、いや待て言うな、先に言うな思い出す」

槍「ああこれヒバシ石じゃないですか、こんなに沢山!?」

少女「……」

煉瓦工「鑢窯の良い燃料になるかなーって使ってみたんだが、どうも質がダメなやつのようでな、まとめて買ったはいいが上手く熱を持たないもんで…全部使い道が無くて困ってるんだ」

槍「うっわ…え?ここに積んである木箱も?全部ヒバシ?」

煉瓦工「いやー、倉庫から土を洗いざらい出した時に一緒に出てきたんだ、ひどいもんだろ、この量…ホムラさん買ってくれないか?安くするよ?はっはっは」

槍「えー…ははは、いやぁこんなに沢山は使わないかな…今は戦時中だし」

少女「……職人の会話は楽しそうで良いな、ホムラ」ボソ

槍「え?あ、ごめんハープさん、つい」

煉瓦工「…はっは、まぁなんだ、ヒバシ石っていうのは強く擦ると火花を出しながら熱を持つ石でな、窯の作業では時々使うんだ」

少女「…そうか、この国はヒバシ石の産出国だったな」

槍「俺も時々こいつを使って火を熾してるよ、着火だけだと摩耗しにくいからこんなには使わないけど」

煉瓦工「はっはっは、いやー邪魔だなこの木箱、戦争終わったら全部捨てるかなー…」

少女「商売の口出しはあまりしたくないが、使い道が無いのであれば売るなりした方が良いだろう…ともあれ今は戦いの時だ、今は煉瓦にだけ集中すればいい」

煉瓦工「はは、それもそうだなー」

槍(俺も刀剣類に集中した方がいいのかな?…いや、カギルさんに任されたし、ハープさんの案内が最優先か)
164 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 01:07:05.14 ID:y3mbNIE0
少女「自分が何をするべきか、迷っているのか?」

槍「! いや、迷っているわけじゃないんだけど」

少女「うむ」

槍「俺は、俺のできる事をしなくてもいいのかなと思ってさ」

少女「職人として働けないのは歯がゆいか?私を案内するのは面倒だろう」

槍「いやいやいや?そんなことはないって。ただ不安になっただけだから」

少女「…不安」

槍「ああ……カギルさんは武器は沢山あるって言ってたけどさ、その武器っていうのが俺からしてみれば、結構粗末なものが多いんだ」

少女「鍛冶屋として見たら、か」

槍「確かに刀剣類はこの戦じゃ使わないかもしれないけどさ、いざ戦ってる時に刃が欠けたり、折れたり、とんでもない奴だったら抜けたりとか。そんなことになったら困るだろ?」

少女「確かにあるかもしれないな?まだその武器とやらを見ていない身としてはなんとも言い難いが、お前が言うなら間違いは無さそうだ」

槍「切れ味も悪いだろうし……せめて調整するくらいはやりたいんだけどなぁ」

少女「…ホムラ、お前は私の案内役としてやっていればいい」

槍「え、……うん、まぁそうなんだけど、確かにそれは大事だってわかってる、この戦のアドバイザーであるハープさんには町の色々なところを見てもらいたい、その重要性は俺にも分かってるんだが――」

少女「ホムラ」

槍「……」

少女「…刀剣類の切れ味は、焼き煉瓦とはまた別の話だ、ホムラ」

槍「? …どういう事なんだ」

少女「まず圧倒的に……遠距離からの銃もしくは弓を主体として攻撃する、出番が少ないということがあるだろう」

槍「うん、それはなんとなくわかってる……だからこそさ、」

少女「切れ味や刃の欠けない頑丈さは重要ではないんだ。さっき会議している間に敵の話をしただろう?奴らの皮膚はやわらかく、鈍い包丁でも容易に傷つけることができるほどだ」

槍「……」

少女「お前にとっては納得いかないことかもしれないが、奴らを相手にする場合は……あまり刃物の質は重要ではないんだよ、ホムラ」
165 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 04:25:38.47 ID:EyPJP.Io
wktk
166 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/05(日) 19:57:10.53 ID:I9IISro0
少女「お前の作る武器が良い物だということは私もわかっている」

少女「だがそれらを作る以上に、お前には“やるべき価値のある事”があるんだ」

槍(……わかってる、刀剣は必要ないってことは重々承知だ)

少女「戦場で活躍したお前は有名人だ、見回る事で町の皆もやる気が出るだろう…これは大事なことだ」

槍「ああ、わかったよハープさん」

少女「…さあ、ここは大丈夫そうだ、次へ行こう。次は木材の工場が近いか」

槍「おう、木材だな…こっちだ、ついてきてくれ」

少女「頼もしいぞ」


少女(すまない、ホムラ)

少女(私の役割は“手助け”なのに、私のせいでしばらくお前には歯がゆい思いをさせてしまうだろう)

少女(お前も早く表舞台に立って活躍したいだろうに…すまない)


『――鍛冶屋の力など戦場では微々たるものだ、所詮は一人の兵と変わらんよ――』

少女(…言ってくれるな)
167 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/05(日) 22:34:27.90 ID:I9IISro0
なだらかな下り坂をハープさんと歩いてゆく。

斜面の脇に聳える岩壁に根付いた木々は、道をゆく俺らに日傘でも差してくれているかのように高く陽を受けていた。

まばらな木陰がのせいで陽の光が眩しい。


槍「なあ、ハープさん」

少女「どうしたホムラ」

槍「ハープさんはいつから傭兵を?」

少女「結構前から」

槍「…ハープさんの結構前っていつ頃なんだよ」

少女「ホムラにとってはいつ頃だ?」

槍「俺にとっての結構前?……うーん、そうだな」


いつが結構前なのだろう。人生の一区切り分か、二区切り分だろうか。では人生の一区切りとはどのくらいのものなのだろう?

人生の節目について、深く考えてみた。


槍「……俺の中ではそうだな、両親が死んだ日、ってところかな」

少女「両親が、か」

槍「ハープさんは……多分わからないと思うけど、両親が死ぬってかなり大きな事なんだ」

少女「……」

槍「婆ちゃんはいるから寂しくはなかったけど、それでもとても辛かった、命日には毎年泣いちまってたよ」

少女「そうか」

槍「……もう親の命日に泣かなくなってから大分経つ、それで顔もちょっとぼやけてる」


槍「どんな大事なことでも、ちょっと忘れはじめちまってる……そんくらいの前が“結構前”だと俺は思う」

少女「……私も」

槍「?」

少女「きっとそのくらいだ」

槍「……(はぐらかされたなぁ)」
168 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/05(日) 23:06:00.95 ID:I9IISro0
少女「……」

槍「……」


ハープさんは無口だ。無表情も相まって、何を見ているのかも何を思っているのかもわからない。

いや、むしろ普段彼女が喋っている時の方がわからないだろうか。ハープさんの考えを訊くたびに、彼女というものが何なのか更にわからなくなってくる。


少女「〜♪」


だが時々思いついたように吹き始める軽快な口笛の音が、ハープさんの人らしいあどけなさを表していた。

ハープさんは俺と同じ一人の人間であることを、時々かすれる高い音色が物語ってくれるのだ。

ちょっと人とは違うかもしれないが、ハープさんは俺と同じ人だ。

かなりミステリアスではあるけれどさ。


少女「? 私の顔に何が」

槍「ん?いいや、そういえばハープさんの服がボロボロだなーって」

少女「…ほっとけ」

槍「この町には腕の良い呉服屋があるんだぜ、後でそこも紹介するけど」

少女「戦が終わって、気が向いてたらな」

槍「……気に入ってるのか?それ」

少女「そうだよ」
169 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 21:55:17.26 ID:MBBe2EY0
飛脚「はあっ!はあっ!」

木材「ようハヤテ、早かったな。運んで欲しいのはまずこのゴシキ1本、モモヒシ2本…」

飛脚「や、っすませろ馬鹿野郎!何往復目だッ!」

木材「3往復?」

飛脚「2:1で休憩挟ませろ!訊いてねえぞ!」

木材「何がさ」

飛脚「採石場から煉瓦工房までの運搬ならまぁわかる、だが採石場からこの木材工房までってのは往復するにゃちとキツイ!」

木材「仕事だろ?全うしろよ。……で、あとは端由(ハユ)を2本…」

飛脚「うわあああああ端由はやめろおおおおお」



少女「む…建物が見えてきたが、木材工場は賑やかなようだな?」

槍「んー?確かに騒がしいなぁ…寡黙な工場長がやってるはずなんだけど」

少女「フル回転で稼働しているということだろう、良い事だ」

槍「どこも忙しいのか。まあ当然…なのかな……?」
170 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 20:34:12.57 ID:ylY.46k0
槍「あれ?飛脚のハヤテじゃないか」

飛脚「ふー、ふー……あえ?ホムラ!ようホムラ!昨日ぶりだな!」

槍「相変わらず勢いが良いな……その木材は?運ぶのか」

飛脚「そうそう、聞いてくれよホムラ…採石場の奴らもそうだが、この木材工房の奴らもひでえんだよ!重い木材ばっかり何往復も運ばせやがってさぁ……」

少女「それは災難だが、適材適所だと思うね」

飛脚「そう、それもまた悔しい事実……」


飛脚「……ってオイ!」

少女「?」

槍「あ、ハヤテにはまだ紹介してなかったか、この人が俺とカギルさんの言ってたハー」

飛脚「んなこと知ってらァ!さっき会って散々生意気な口きかれたわ!」

槍「会ったんだ?」

少女「ふ」

飛脚「ああ、いけすかねえ!そのかっこつけた笑い!辛い力仕事の上に不愉快を上乗せしやがって!余計に重くなる気分だぜ!」

槍「ははは…まぁ、こういう人だしさ」

少女「気分を害したならすまないが町の主要な工場を回っている最中なものでな、動き回るなら運が悪ければまた会う事もあるだろう」

飛脚「…ん?どういう事だよホムラ」

槍「あー、うん、色々あってなー…」
171 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 21:47:32.03 ID:ylY.46k0
飛脚「――はン、なるほどな。つまりお前の手助けってのは助言っつーことか」

少女「アドバイス、あくまで横から言葉を挟むだけに留めておくつもりではある」

槍「ハープさんは俺ら以上に戦に詳しい、きっと力になってくれるはずだ……確かに子供かもしれないが…」

飛脚「子供だからこそだろ、俺は良いと思うぜ」

槍「?」

飛脚「子供が戦場に立ちさえしなきゃ細かい事は気にしないってこった…まー?子供の指図受けるってのは釈然としねーけどよ?」

槍「はは、みんなもそのくらいの理解があればいいんだけどな、お前は寛大だな」

飛脚「そうそう、戦場に立って戦うのは大人の仕事!ガキはすっこんでろ〜」


少女「で、ハヤテ」

飛脚「呼び捨てかよ」

少女「ハヤテちゃんは救護や連絡を受け持っていると聞いたが、ハヤテちゃんの上司はどちらになるんだ?」

飛脚「ちゃんって何だよオイ!」

少女「細身だし女みたいな顔をしているから」

飛脚「男だクソガキ!“さん”か“様”に改めろ!」ガシガシ

少女「痛い、離せ、おい」

槍(あ、こんなに仲良かったんだ)
172 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 21:59:49.99 ID:ylY.46k0
飛脚「んでぇー、俺は基本連絡係中心に(運んでばっかりだけど)やってるから、俺の上は連絡係の統括さんだな」

少女「連絡か…救護ではないんだな?そして髪の毛が一本抜けたぞ、どうしてくれるんだ」サスサス

飛脚「知らねーよガキ。…救護は経験者の人しか主に就けないから俺は違う、救護の仕事も戦場での急患を引っ張って救急テントまで運ぶくらいだからな」

槍「連絡係の責任者って誰だっけ?」

飛脚「自警で鐘撞き担当のサナキさん、いつも夕方に鐘鳴らしてるおっちゃんだよ」

槍「あー、ってぇえ?あの人が?結構歳いってるだろ…」

飛脚「ああ見えて昔は都会の方でバリバリ働いてたらしいぜ?カギルさんが選んだんだから間違いはないだろー」

槍「……そうだな、カギルさんが選んだ人なら大丈夫だな」


少女「……ハヤテ」

飛脚「だから呼び捨てにするなっての…随分立ち話しちまったぜ、さっさと運ばないといけないから、またなホムラ」

槍「あ、おう、また会ったらな」


少女「お前は戦場に出たくはないのか?兵士として」

飛脚「!」


少女「……私――」

飛脚「急いでるんだ、話ならまた次会った時にしてくれ!」

タタタタタタ・・・ ガラガラガラ・・・


槍「うお、速いなあいつ…」

少女「……」
173 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/08(水) 00:05:18.58 ID:9L84x2AO
http://myup.jp/EIVdPdaR


災厄のタイエン、見た目は厄介そうだが、そこまでではない。

巨大な剣のような武器の柄を手の平に貫かせた人型の奴だ。
鎧のように見える外角は見た目の重厚さとは反して薄く、実はナイフで一凪ぎするだけで内部の肉体を傷付けられる。

ただし肉体は常に焼けたように熱く、血なまぐさい青の炎をゆらめかせている。斬るのは良いが、ナイフのような獲物では傷口から噴出す熱でやられる。

結局こいつも遠くから撃てば問題ないのだが、近くでやり合うつもりなら頭か脚を狙えば熱は出ない。

動きが身軽で素早いから注意する事だ。
174 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 01:03:06.31 ID:dsxfk6Eo
タイエンかっこいいな
175 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 04:51:25.84 ID:1wjacV6o
おもしろいので支援
176 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 12:36:40.98 ID:9L84x2AO
ちなみに暇だから書いとくんだけど>>170の「あえ?」は誤字じゃない
177 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 20:40:39.24 ID:tRU49WY0
土煙に紛れて坂の向こうに消えていったハヤテを見送ると、ハープさんが隣にいない事に気付く。

槍「あれ?」

少女「ふむ、ここもフル稼働か」

槍「もう中に入って……おーい、あまり勝手にうろついていると危ないぞー」

少女「危ないぞ」

槍「え?」


ハープさんの視線の先を追おうとした瞬間、俺の右顔面に丸太の断面が激突した。


木工「あ!大丈夫か!?怪我ないか!?」

槍「いだだだ……」

少女「本当に余所見の多い奴だな、戦場に出る前に死んでしまうんじゃないか?はは」


実に笑えない冗談だ。


木工「ひゅっと飛び出してきたお前も悪いんだからな、出入りはいいけども、気をつけて入ってくれよ」

槍「あだだー…すんません……どうですかね?この工場の作業は」

木工「ん?忙しいねぇ、いろんなところに小屋を仮設するらしいからね、材木を切って運んで大忙しさ」

少女「工程で詰まってはいないか?円滑か?」

木工「ん〜。全然平気、遠くへ運ぶのは色々な人が手伝ってくれるんでね、普段よりも一つの作業に集中できていいよ」

槍「……ここも大丈夫そうだな」

少女「ああ、問題はなさそうだ」
178 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 20:51:11.12 ID:tRU49WY0
木工「あんたらは何?自警の人?」

槍「ああ、はい…町の主要な工場とか、各拠点を回って作業状況の確認をしているんです」

木工「……ん?あんたはホムラさんか?」

槍「あ、わかります?」

木工「あー思い出した、親方のお得意さんじゃないか、忘れてたよ…すまんね」

槍「いやー、ははは…普段は滅多に工場から出ないもんですから…」


木工「そうか……俺は特に、忙しすぎて作業が手につかないなんて所の話は聞いてないなぁ」

槍「それなら一番良いんですけどね」

木工「まあねぇ…魔族の軍共がまたやってくるっていうんだろ?そんな時にどこか一つでも工場が止まったら、その準備に支障を来たしちまうだろうからね、そうなったら大事だ」

少女「採石とここ木材、主要であるこの二つは確認して問題は無かった」

槍「どっちも戦が始まる前からフル稼働だったから、事故とか起きてないかなーと心配だったけど、いや、良かったよ」

木材「ははは、石はわかんないけどここは安心していいよ、親方は鉄の男だから」

槍「確かに、ははは…」
179 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/08(水) 21:01:04.55 ID:tRU49WY0
槍「それじゃあそろそろ次に行くんで…親方によろしく言っておいてください」

木工「ああ、そっちも頑張ってくれな」

少女「先を急ごうホムラ、呑気に話をしている暇はない」

槍「わかってるって……えーっと、次はどこ回るんだっけ…」

木工「あ、ホムラさん、親方が前に言ってたけどね」

槍「ん?」

木工「“俺にできる事があるなら何でも言え!”ってさ、今張りきってるから、欲張りな注文するなら今だよ」

槍「……はは、暇になったらで」

木工「あっはっは、わかった、伝えとく」


少女「……次は?」

槍「んー、治療中の人を集めてるテントがすぐ近くにあるな、手折橋を渡ればすぐのところだ」

少女「病人か…それは大事だな、見にいこう」

槍「よし、こっちいってすぐだ、ついてきてくれハープさん」

少女「ああ」
180 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 22:46:49.87 ID:kFzowZA0
弓「……で、ですね。カギルさんのアイデアでこの二本の矢を使っていただくことになりました」

民兵「二本の矢…?」

弓「はい、こちらです」スッ


民兵「……先に色が付いてるな、矢文か?」

弓「はい、敵の襲来を察知したら鐘を鳴らす前にこの矢を、あちらにある町側の物見台に放ってください、見えますか?」

民兵「…お?大きな木の板が貼ってあるな」

弓「あそこをねらって矢を射ってください、色によって敵の襲来が瞬時に察知できますからね」

民兵「なるほど……その後に鐘を鳴らせばいいんだな?」

弓「はい……ですが大きな音に反応して敵がこの物見台へ砲撃を放とうとするかもしれません…危険だと思ったらこの矢だけでも構いません、放ってくれればそちらの物見台の鐘を鳴らしますので」

民兵「ああ、わかった了解だ、腕は覚えがあるから安心してくれ」

弓「頼みましたよ」


弓(…さて、次の物見台へも行って伝えなきゃ)

弓(それにしてもカギルさんはすごいなぁ、こんなアイデアまで本で学んでいるなんて…私も何か勉強しようかしら)
181 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 00:10:18.34 ID:UVvFFYA0
ギシッ、ギシッ・・・

弓(おっと…ふぅ、物見台ってどうしてハシゴなのかしら、らせん状にしてでも階段を付けてくれなきゃ疲れちゃうわ…)

子供「弓のおばちゃんおかえりー!遅かったね」

弓「あら?どうしたの、西手折橋の物見台には行ったの?」

子供「うん、頼まれた通り行ってきた」

弓「手紙はちゃんと届けてくれた?」

子供「もちろん!」

弓「うん、良くできましたー」ナデナデ

子供「へへ…ねぇねぇおばちゃん」

弓「んー?」

子供「俺、働いたよ!次戦になったら、俺も出たい!」

弓「……うーん」

子供「俺だってホムラのあんちゃんみたいに活躍したい!一緒に町守りたいよ、おばちゃん!」

弓「…ダメ、子供はダメって決まってるの、絶対にね」

子供「えー」

弓(……ハープ…あの子も駄目なんだけどね、本当は…うーん…でも力を借りないわけにはいかないしー…)
182 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/13(月) 22:36:50.34 ID:yCtj8YAO
川の流れが山の冷たい水と風を運んで来る。

架の低い手折橋を渡る俺ら二人の足元は、冬間の寒さを感じていた。


少女「ん、あれか」

槍「そう、テントが沢山並んでるだろ」


川の向こう側には白い大きなテントが林立し、救護のマークを示す旗がその頂点を飾っていた。

川辺で座りながら刃を研ぐ者、顔を洗う者、焚き火で川魚を焼く奴まで居た。

激しく動けない兵士達は、各々の範囲で暇を潰したり、楽しんだりしているように見えた。だが、


槍「…表情が…」

少女「暗いのは当たり前だ、戦で死にかけて、心が穏やかなはずは無い」


俺は結構、無感情に戦に臨んでいたのかもしれない。

死んで当然、死んだら仕方ない。

町のためだと。


少女「町を守りたい気持ちは彼らにもあるだろうが、全員に決死の覚悟を背負わせるのは現実、無理だ」

槍「……うん…」


確かにそうかもしれない。
183 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 15:41:55.82 ID:HX0zaaIo
支援!
続き気になるのよ!
184 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 23:32:36.14 ID:sBkDWHko
171のハヤテちゃんでクッソわろたwwwwwwwwwwwwww
魔法の素質や会得した性質のクセは肉体に反映されないのかね
185 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 00:51:26.84 ID:P.gW6WMo
やっと追いついた
なにこれ面白い
しかも画力も素晴らしいし
これから継続的に支援させていただく
186 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 20:04:39.23 ID:kpIFS3co
ひっそりとだが、確実に進むな・・・信頼できる人だ
187 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/15(水) 20:23:49.67 ID:VLtO9B20
救護「あら、“六つ指”のホムラさん」

槍「あ、どうも」


とりあえず救護班の統括テントの入り口に手をかけようとすると、その布の扉は向こうから開いてくれた。

長い黒髪の女性が俺に軽く頭をさげ、挨拶してくれた。俺も頭を下げる。


救護「何か用?また指を切っちゃった?ふふ」

槍「いやー、あれはもう勘弁です…二度としませんよセンセイ」

救護「あら?」


先生の細い目が下に向く。

仏頂面な少女と目があったようだ。


救護「綺麗なコね?もしかしてあなたが怪我しちゃったの?」

少女「別件だ、ここの事情を把握しに来た」

槍(うわっ、せっかく救護さんが屈んで目線まで合わせて喋ってくれてるのに、すげー淡白な返しだ)
188 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 03:08:53.40 ID:P5/kR9Mo

惨劇軍の四つのうち見れないものを再うぷキボんぬ
189 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/16(木) 07:53:00.35 ID:uXQNLsAO
http://myup.jp/b4LV2mGm


惨劇のシドノフ、図体は他の種よりも大きく、見た目通りの火力もあるし、単体の頑丈さで見てもトップだろう。

身体に纏わる青い炎は自身を強化する力があるらしく、その状態では半端な攻撃は通用しない。

炎の鎧はシドノフが腕から火炎を打ち出す際に一瞬だけ消えるから、その時を狙うしかない。

放置しておくと厄介だ、戦場では真っ先に消してしまいたい。
190 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 14:20:42.60 ID:ert13VUo
なんという焦らし上手
間違いなくコイツは腕の立つ奴
191 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 18:04:57.37 ID:P5/kR9Mo
>>189
dクス!!!
本当に絵も上手いな
天は一物だけでなく二物も与えるんだな
いちもつ
192 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 00:09:43.53 ID:JjY8H520
救護「事情?……ホムラさん、あなたの子?」

槍「いやいやいや、違います、俺は独身です」

少女「私は傭兵だよ」

救護「傭兵さん?……随分と若いわね」

少女「あなたは救護班の人間?」

救護「え?うん、そうよ、私の名前はマモリ。救護班の責任者よ」

少女「ん、私の名前はハープだ、よろしく。マモリ」

救護「ハープ……?あれ、もしかして」

槍「ああ、マモリさん――」

少女「“その”ハープだ」

槍「…」

救護「あら!男達が噂してた事って本当だったの!じゃあ貴女がこの町のために頑張ってくれたのねー」ダキッ

少女「むぐ、…そうだ、ここへは現場の視察に来た…問題があればそれを改善するためにな。患者は多そうだが問題ないか?」

救護「ませてる〜可愛い〜」ナデナデ

少女「おい、こいつを剥がせホムラ」

槍「え、なんで俺が…」

少女「こいつは恐らく嫌よ嫌よも好きと解釈する面倒なタイプだ、剥がしてくれ」ナデナデ

槍「ははは、マモリさんね…あってるかもしれない」

グイッ
193 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 00:31:43.83 ID:pss5V1Uo
クセ者は多いが際立って面倒そうな奴が出てきたなwwwwww
194 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 08:15:21.66 ID:SVD9Suso
昨晩も乙なんだぜ
見守ってまっせ〜
195 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 21:33:08.74 ID:JjY8H520
救護「怪我人の多さもさることながらね、重傷を負った人も多くて困っているのよ」

槍「結構余裕そうに見えたけど」

救護「いやぁーねぇ、息抜きは必要よ?ホムラさん」

少女「治療が追いついていないということか?救護に当たれる人間は足りているのか」

救護「うーん、正直ちょっち少ないかな。町の女の人で手の空いてる人には手伝ってもらってるけど、実際に治療を施せる町医者はさすがに少ないから、ね」

少女「…ふむ」

救護「ま、重症患者や早くしないと後遺症が出そうな人から先に治療するようにして対応してるわ、患者さんも辛いだろうけどこれしかないって感じね」

少女「……傷口をふさぐくらいの応急処置なら私にもできる。気が向いたらになるが…手伝える時はこちらへ来るようにしよう」

救護「あらっ!止血できるの?すごーい!ありがとー!」

少女「…それよりもまずはここの人員を増やす事を考えよう、素人の付け焼刃でも止血程度はできるように教えなければな」

救護「あ、それなら私が教えているわよ、まだ形にしかなってないけど…次の患者さんが来た時には対応できると思う」

少女「ん?そうか、ならば安心だな」

槍「怪我をするかもしれない俺としても安心できる言葉だな」

救護「ふっふ、任せなさいよ、私はプロなんだから」
196 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 21:44:33.26 ID:JjY8H520
「落ちついてください!また傷が開きますよ!」

「煩い黙れ!さっきここらへんを歩いていたと聞いたんだ!今この時以外にいつがある!」

「誰かこの人とめて!押さえてー!」



槍「……なんか外が騒がしいな」

少女「薬の幻覚を見てパニックになっているんだろう、戦場ではよくある」

救護「この声……ナガトさんかしら、また床から抜けだしたのね」

槍「え、ナガトさん?…ナガトさんって自警団の?」

少女(ナガト、昨日の戦で一人で突っ込んでいった馬鹿のことか)

救護「ものすごい傷の深さとその数だったけど、タフだったのね、死ななくて良かったわー彼」

槍「…ええっと、ナガトさんは何か心に傷でも?なんであんな取り乱したみたいな大声上げて…」

救護「さあ?特に精神に異常を来たすような薬をあげたつもりはなかったけど…」

少女「元々蛮勇を好む性格だったんだろう?常に暴れ回っていないと気が済まないんだろうよ」

槍「…そうだとしたら怖い人だな」


「ここに入っていったんだな!?」

「あ、ああ、見たには見たが…お前寝てた方が良いんじゃないか」

「ちょ、ちょっとマモリさんに用があるなら安静に…!」


救護「…声がもう、すぐそこから聞こえるわね」

槍「え、大丈夫なんですかあの人…」

救護「さあー、あんまり動かないで欲しいんだけどね…あの人すぐ出歩いたりしてるから、手に負えないわ」
197 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 21:56:06.06 ID:JjY8H520
バサッ


長「傭兵のハープは居るかッ!?」

槍「うわっ、びっくりした」

救護「自分のテントでゆっくり休まないと駄目でしょ、戻ってなさいよナガトさん」

長「それどころじゃ……!」


少女(こいつがナガトか、血の気が多く気の短そうな顔だ)

長「…本当に子供か、お前」

槍「えーっと…ナガト?さん?ハープさんに何か用があったのか?」

長「……さん?傭兵に“さん”を付けるか……あんたは誰だ、ホムラか」

槍「あ、うん、まぁ」

長「……まぁ、あんたは良い」

槍「え」


少女「…」

長「一度お前と会って話がしたくてな、ハープ」

救護「あら?うふふ」

少女「お前が噂に聞くナガトか」

長「…ああ、そうだ、俺は自警団のナガトだ」

少女「…くく、なるほど、向こう見ず考えずな行動、私の想像していた通りの人間だな」

長「……あ?」
198 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 22:08:07.28 ID:JjY8H520
少女「聞くところによればお前、指揮官(カギル)の作戦などもろくに聞かずに敵陣へ斬り込んでいったと云うじゃないか?」

長「…ああ、敵の本拠地まで相手を掃討しにな、孤軍奮闘とはまさにあのことだろうよ……それがどうした?」

少女「なんだ、反省も何も無しか?」

槍(うっわ、空気悪いな…やめてくれよ二人とも…)


長「ふん、俺はあんたら傭兵のように、他の使えない奴とは違うんでな…多くの敵を凪ぎ払って何が悪い?」

少女「おっとその通り、正しい返しだ……しかし結果論だな、もしもお前が隊列を乱したせいで敵の軍勢が自陣(バンホー)へ到達した時、同じ言葉を言えるかな」

長「それは…お前もそうだろう?ハープ」

少女「? 言っている意味がわからないな」

長「そのままだ、お前も俺と同じ、“次なる敵の勢力”を見たはずだぞ」

少女「……ああ」

長「お前も崖の側まで進んだんだろう?お前は俺と同じで、また敵が来ることを知っていた…見たはずだぞ?崖の下に…」

少女「おいおい、勘違いするな…私のはただの“予想”だ」

長「……!」

少女「私は必要以上に持ち場を離れてはいない…常に前線で“木偶の棒”を潰していたよ」

長「…お前…予想なんて、そんなもので…!?」

少女「ふん、確信に近い予想だ」
199 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 22:17:18.07 ID:JjY8H520
長「…ホムラっ!言え!なぜこんなガキの言う事を信用した!?」

槍「え、俺にくるかよ…!?」

長「当然だ、わけのわからない胡散臭い傭兵のガキの言う事だぞ、妄言だと疑わなかったのか!?」

槍「いや……うん、ホントっぽかったから」

長「…」

槍「俺は確証はなかったけど、用心するに越したことはないだろうなって思ったから、夜の会議ではみんなに伝えておいた」

長「……」

少女「一度返り打ちにしただけで二度と来ないと言い切れるこの町の風潮にこそ、私は驚きだがね?」

長「…ふん、わかった、もういい…失礼する」


救護「あら、戻るの?ちゃんと安静にしてなさいよ」

長「わかってる、“気は済んだ”」パサッ


槍「……なんだったんだ、あの人」

少女「さあな」

救護「ほんと、あの人には困っちゃうわー…面倒ったらもう、ね」
200 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/19(日) 22:52:43.93 ID:hY53IWMo
全て"計画通り"・・・なのか?
見切り発車的でもお気楽にやってそうで安心した
201 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 20:13:31.06 ID:RCrftIEo
乙なんだぜ
楽しみ楽しみ
202 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 20:37:37.55 ID:eLZb5HAo
もっさりしてんのに内容薄いし遅いし糞なんだけどファンタジーものが少ないから呼んでしまう
203 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 21:09:23.72 ID:09d78UAO
〜〜〜〜〜〜



救護「……うん、倉庫に今までの蓄えが沢山あったから、救命物資が不足するって事はないわねー」

少女「全て?」

救護「包帯から箇所専用の副木までね」

少女「…よし、なら救護班については問題無いか。次へ行こう、ホムラ」

槍「わかった」

救護「あ、待って待って座って、言い忘れがあった」

少女「?」

キシッ


救護「…この町には着床師がいないのよ」

少女「……ん〜、そうだった、着床師だ…忘れていたな…」

槍「え?この町って着床師いないんですか?義足や義手の工房もあった気がするんだけど」

救護「義肢を作る工房はあっても、それをくっつける着床師自体は隣町まで行かなきゃ居ないのよね…」

槍「…うっわ!いきなり怪我が怖くなってきたなそれ…おいおい、本当なのか…」

少女「…大怪我を負った兵にとっては辛いものがあるな、皆は知ってるのだろうか」

救護「ん〜…脚をやっちゃった兵士さんがいたけど、その人は知らなかったわね…」

槍「うわぁ…怪我してから知らされたくない事実だな…」

救護「隣町から戦場のここまで来てもらうわけにはいかないしね…それだけかな、本当に困った事は…」
204 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 08:25:04.95 ID:dve0Dawo
来てたな
乙なんだぜ
205 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 17:54:58.70 ID:UtllIzco
ジャンル指定の判断に困るが
だがそれがいい!支援
206 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/21(火) 21:08:37.59 ID:Dhs4PlM0
救護「それじゃあ、またね、ハープちゃん、ホムラさん」

槍「忙しい中、わざわざありがとうございました、先生」

少女「状況は芳しくないが仕方ない、兵たちには怪我しないよう工夫してもらう」

救護「うふふ、そうね、怪我なんてしないのがイチバンよ」


救護「ね?ホムラさん」

槍「ええ…ははは、そうですね…」

少女「急いでいるからな、次に機会があればまたここに寄るよ、マモリ」

救護「きゅーん、いつでも来てっ!お茶淹れて待ってるからねー!」

少女「…次に行こう、急いで」パサッ

槍「そうだな、結構長居をしちまったしな…行こうか」

救護「じゃあねー!」


少女「……ホムラ」

槍「?」

少女「“六つ指”とは何だ」

槍「……いやー、痛いよ?」

少女「…そうか、なんとなくわかった…」

槍「あれはもう、言葉にならない悲鳴が出そうなくらい…」


「ぐぃぁああぁぁあああ!」

槍「……」

少女「…今みたいな感じだろうか?」

槍「あー…近いかな?」

少女「何が起きたのか気になるな、行ってみよう」

槍「…うん、そうだな」
207 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 01:39:19.31 ID:x3CN9SMo
俺も気になるっす!
208 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 04:09:43.06 ID:Xr3V3FQo
僕も気になりますっ!
209 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 13:20:54.16 ID:PWHk.mIo
俺「六つ指とは何だ」
210 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 18:03:38.87 ID:2wfeyO2o
刃物使ってて指を縦に真っ二つにしたとか
211 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 19:00:56.67 ID:x3CN9SMo
>>210
おれもそうおもった
212 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 20:01:37.16 ID:6kShT.AO
布団)*=∀=)zzz ムニャムニャ…
213 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/23(木) 22:32:44.38 ID:TxtXPrc0
兵士「ふ、おっ、おおおぉおお……」


川辺に男が倒れていた。いや、地面に寝ながら脚の出血を抑えていた。

痛みによるうめき声を漏らしながら、痛みと出血に耐えているようだった。

槍「おーい…!っておい、どうしたんだその傷!」

少女「!」

兵士「ぐぅっ…た、助けてくれ」

槍「どうしてこんなになったんだ…!大怪我だぞ!?」

兵士「傷口が開いた…薪割りをしていたんだ…」

男は近くに転げている木片に目をやった。小さな手斧と薪がそこにある。


少女「……これか、怪我人が無茶をしたもんだ」カランッ

槍「大きな傷だ、血が溢れ出る大きさだ…こりゃまずい…!ハープさん!マモリさんを呼んでくれ!」

少女「必要ない、私が治療する」

槍「治療ったって…」

少女「おい、気はあるか」

兵士「は、早く…頼む、血が止まらない…」

少女「止めてやる、その代わりにお前の髪の毛を一本だけいただくぞ」

兵士「はっ…はっ……え…?」フツッ

少女「よし、これでいい」

槍(髪の毛……?)

ハープさんはおもむろに、民兵の髪の毛を一本だけ毟り取り…


少女「Chrasscatedcleyduwhelle」


その時、何かを唱えた。
214 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 13:01:45.69 ID:r5Z.hVgo
メリークリスマス、槍使いのホムラ、謎の少女ハープ
215 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/26(日) 22:44:47.54 ID:f5.beQ.0
斧で怪我をしたか、傷口が開いたか。

大きな裂傷の痛みに苦しむ患者の正面に屈むハープさんは、その男の長い髪の毛を一本だけ摘まんでいた。

男の傷口からは血が流れている。血の出かたを見るに深い傷だろう。いち早く処理しなければならない出血量だ。


少女「落ちつけホムラ、戦場で味方が負傷してもその様となっては困るぞ」

槍「!」

俺は自身の手が何を掴むでも触るでもなく、患者と俺の中間をただただ無意味に泳いでいることに気付いた。そして、


少女「まずは可能であれば傷口を塞ぐこと、でなければ患部を圧迫して止血すること」

槍「……?」

ハープさんの右手には針のようにまっすぐ張った髪の毛が握られている。

…ハープさんが摘まんでいた髪の毛は、重力に負けてゆるく下を向いていたはずだったが…。


槍「…ハープさん、それは…?」

少女「…紐、糸、植物の蔦、動物の毛……力を込めれば太めの鎖、荒縄…ひも状の物であれば何でも好きな形、好きな強度にできる」


ハープさんの手に握られていた針のような髪の毛がらせん状に形を変える。


少女「私が独自に覚えた実に便利な術だが、お前には無理だろうな」

糸が、患者の皮膚を静かに刺した。
216 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 23:57:12.56 ID:zXiRol2o
期待してます!
217 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/27(月) 22:48:58.20 ID:PLbvhsAO
「…先生、これ…できますか?」

護「……無理ね、絶対に」

「先生でもですか?」

護「似たような処置を施す事ならできるし、ある程度うま〜くやる自信もあるわ」

「……」

護「だけどこれは…」


タタタタタ…

パサッ


衛生兵「マモリさん!重傷患者の傷口が開いてしまったと…!」

「あ、救護長…」

衛生兵「マモリさん、処置はどうなりまし…」

護「…これ」

衛生兵「え?」

護「見てくださいよ、これを」

衛生兵「これって…患者さんを…?」

護「失血によるショックで眠っています、命に別状は無いです」

衛生兵「……マモリさん、まさかとは思いますが、この…髪の毛の縫合は貴女が?」

護「…止血の縫合はできますけどねー…私」


護「……お裁縫と、お刺繍はね〜…」
218 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/29(水) 23:58:10.49 ID:nyxQjswo
ハープさんかわゆすなあ
219 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 01:08:23.45 ID:c1H//two
はっぴーにゅーはーぷさん
220 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 01:27:22.35 ID:jwrJHQ2o
あはっぴにゅいやん
今年しっかり書いてなー
221 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 18:45:08.99 ID:iqJl0sAO
(餅*・∀・)(もち) モグモグ…
222 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 12:34:13.92 ID:q1IS6sQ0
そうだ、雑煮を作ろう
223 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [saga]:2011/01/04(火) 17:59:46.47 ID:IGFFRZo0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


女工「……はい、綿の在庫が沢山あったのでガーゼから何まで問題なく生産できています」

少女「素晴らしい、この町は総じて準備が良いな」

女工「あはは、そ、そうですか…ありがとうございます…」

少女「大抵の町では売れない品はとことん薄く、いざという時にてんてこ舞いになるものだがな、この分ならどこを見ても安心だろうか」

槍「……」

少女「ホムラ?自分の指に何か付いているのか」

槍「いやいや、何でもない」

少女「ここももう見る必要はない、出るぞ」

槍「…ああ、そうだな、忙しいとこすんません、ありがとうございました」

女工「いえいえ〜」

少女「では、失礼」

女工「は、は〜い…(この子おじいちゃんみたいで怖いなぁー…)」
224 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [saga]:2011/01/04(火) 18:13:18.48 ID:IGFFRZo0
少女「亀甲織といったか?あれは良いな、直に見たのは今日が初めてだったが手触りも、何より見た目も美しい」

槍「んー、ここじゃあそこまで珍しくないからなんとも」ゴソゴソ

少女「町を歩き回る度に驚くことが多い、ここはお前が思っている以上に素晴らしい町だぞ?」

槍「うーん」ゴソゴソ


少女「……その髪の毛で魔術の真似事でもする気か?」

槍「!」

少女「“ばれた?”じゃない、お前には無理だ」

槍「……だってさ、あんなの目の前で見せられたら使ってみたくなるじゃないか」

少女「Chrasscatedcleyduwhelle?」

槍「なんつってるのか良くわからないけどそれ、使えたら便利だ」

少女「はは、織り手なら分かるが。お前は鍛冶屋だろう、わざわざ血のにじむような努力をしてまで会得するものでもない」

槍「むむむ…」

少女「いくら自分の髪の毛を睨んでいても曲がりもせんさ、魔力を扱うには理論が分かっていなくては」

槍「…くっそ、やっぱり金槌馬鹿には無理かっ」ポイッ

少女「得手不得手だよ、自分の得意なことに槌を打ち込めばいい」

槍「あー…肉体の強化ならできるんだがなー…」

少女「……」
225 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [saga]:2011/01/04(火) 18:29:14.71 ID:IGFFRZo0
少女「じゃあ、そろそろ…戻ろうか」

槍「ん?どこに?」

少女「本部とやらだ、最初に集まった所へ戻り横槍…指示を出す」

槍「もう見て回らなくてもいいのかい?ハープさん」

少女「重要な施設は回ったから十分だ、これ以上は時間の無駄だろう…見るとしても、残りの武器の把握といったところだな」

槍「そうか…で、ハープさん、この町はどうだった?感想があるとしたら」

少女「うむ」


少女「人々は活気に溢れ、品も良く、色合いも鮮やかな町だな」

槍「じゃなくて、この町が魔族と戦えるかっていう話」

少女「苦戦の末に大変な被害を被るだろが滅ぶ事はない」

槍「…嬉しいけど大惨事は防げないってことか」

少女「やり方一つさ、土地を上手く使えば人命の被害は最小にとどめることもできる」

槍「本当か!?」

少女「何もせず考えなしに戦っていれば人への被害も相当になるだろうけどな、方法は教えるさ」

槍「…よっし」

少女「皆の協力がなければできないことだから、そこはお前にも頑張ってもらいたいところだな、ホムラ」

槍「おう、まかせろ!よしよし、俄然やる気出てきたぜ」

少女「ふ」
226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/05(水) 13:49:44.08 ID:d0NNHvUo
きたきた
更新嬉しいぞC
227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/05(水) 20:57:06.99 ID:o2PRQyg0
飛脚「ぐへぇー…重いっ!」ブンッ


ドゴッ


工兵「の割にゃまだまだ勢いは衰えるところを知らないみたいだな?ハヤテさんよう」

飛脚「馬鹿言え、いっぱいいっぱいだ!さっさと帰ってガキの面拝みたいぜ!」

工兵「ああ、娘がいたんだっけなアンタ?」

飛脚「…へへー、まあな、いっちょまえに“とーさん”、なんてよー!」

工兵「おうおう、親に似て可愛く育ちそうだ」ガラガラ・・・

飛脚「だろ?だろ?マイワイフの黒髪を見習ってよ、髪も濃くなっていって欲しいもんだぜ?鳶色の髪の女なんざ自分で云うのもアレだがやっぱ黒くなきゃ…」ブツブツ

工兵「あー、カミさんもそうだったな、べっぴんだったなー」ガラガラ

飛脚「えー?」


工兵「……よし、こんなもんだ、もう良いだろうハヤテさん」

飛脚「お、やっと仕舞いか!」

工兵「手伝ってくれてありがとうな、あんたやっぱ力持ちだわ」

飛脚「だろ!?物運ぶ時にはいつでも呼べ!光と音の次くらいに戸を叩きに来てやるよ」

工兵「そいつぁ心強い、木材(こっち)の仕事が忙しい時にはその運搬を頼もうかね」

飛脚「はっは!まぁ、戦が明けたらな!」

工兵「ははは、当然」


工兵「じゃ、あんたも疲れただろう、本部の共同テントに戻って一休みするといい」

飛脚「おいよー」
228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/05(水) 23:07:46.47 ID:IA/2uj60
ハヤテに死亡フラグが…
229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/05(水) 23:35:49.76 ID:bUwCskAO
飛脚「よっ、お疲れ〜」

民兵「お、ハヤテじゃんか、お前もテントに?」

飛脚「おうよ、今日はもう木ィばっかし運んでさ、肩も腰も…全く勘弁してほしいぜ」

民兵「あ〜〜…特に重い木材も多かったからなぁ。なんだっけ?名前には詳しくないもんで……ゴシキ?カッチュウ?」

飛脚「あんなもん端由(ハユ)に比べりゃスカスカだ…エンボウ4本と一緒に担がされた時にはもう死ぬかと…」

民兵「はは…いつ惨劇軍が来るかもわからないからな、束の間だろうが、今日はゆっくり身体を休ませておけ」

飛脚「おう……ん?惨劇軍?」

民兵「カギルさんがそう呼んでたぜ?」

飛脚「…ふーん、そんな呼び名があったのか。まぁ呼び方がわからないよかマシってなもんだな」

民兵「今まではずっと“奴ら”とか“魔族共”だったからな、コレ一つって呼び名があれば便利には違いない」

飛脚「シンプルに“魔族軍”でも良い気はすっけどな」

民兵「はは、一等。…でもなんだ、カギルさんが言ってるんだ、何かちゃんとした由来があって付いた名なんだろう」

飛脚「む〜ん」
230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/06(木) 00:00:19.33 ID:2MjELkAO

飛脚(……“惨劇軍”ね。ま、間違ってはいねぇな…奴らは町の平和を脅かす惨劇でしかねぇ)

飛脚(俺のガキはまだまだ目を離せねぇ歳だ…戦が長引いて妻(あいつ)にだけ負担を強いたくはない…)

飛脚(かといって俺が町を守らないわけにはいかねえ!この町は俺が育った町だ、それを守らなくちゃあ男じゃねえ)


飛脚(…けど…こんなチマチマした物運びだけで…町を守るなんざよ)

飛脚(武器も、弓のひとつもなんも持たずに戦場の連絡と救護…それだけでよ)

飛脚(…そんなんで…俺は町を守ってるって、でっかくなった娘に言えるのかな…俺は)


――お前は戦場に出たくはないのか?兵士として


飛脚(…チッ…!クソガキが…!出たいに決まってるだろうが…!)

飛脚(でも…でも、もしも戦場で俺が死んじまったら…残った家族はどうするんだ!?)

飛脚(それだけじゃねえ、これはカギルさんが決めた配置なんだ……一度も間違った判断を下した事の無いカギルさんが与えた俺の役割…)


飛脚(…やりたくてもやれねぇんだよ、ナマガキ…チクショウっ)
231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/07(金) 21:35:52.11 ID:jqNEewg0

夕時、本部テントの周辺は灼灯の灯りで昼間のように明るかった。

蜂蜜色の光は夕日と混ざり、場を更に赤く染め、近くで走り回り遊ぶ子供たちの肌の色は黄金のように輝いているようにも見えた。

そんな無邪気に、能天気に走り回る子供達の姿を見つけた母親達は、息を切らしながらもしっかりと子供達を叱りつけて、各々は自らの家へと退いてゆく。

夕時を過ぎ夜ともなれば、町のおもてに残るのは男や一部の女達だけとなるだろう。


未だ戦の硝煙の香りがする町はずれから背の低い影達が次々に去っていく。

どこからか流れてきた最後の温い空気に、屋根の上の風車が力なくからからと回る。

飛脚のハヤテは、そんな本部テントに戻ってきた。



飛脚「ふー…今夜は冷えそうだな」

弓「あ、ハヤテさん、お疲れ様です」

飛脚「お?ツガエの姐さん!おつかれーす、わざわざ俺のお出迎え?へへへ」

弓「うふふ、まさかー、男衆がちゃんと時間通りに本部に戻ってきているか、帳簿に記しているんですよ」サラサラ

飛脚「味気ない答えだなぁつまんねえ、はっはっはっ!」

弓「ハヤテさんは奥さんがいらっしゃるんですよね、私みたいなオバサンにうつつぬかしていると、愛想尽かされますよー?」

飛脚「げ、そいつはいけねえ、へへ…」

弓「婦人の方々が大鍋で美味しい“ぼたん”を作ってくれてますから、ハヤテさんも食べたらどうです?美味しかったですよ」

飛脚「なんだと!?そいつは食わずにはいらねれえ!いってくる!」タタタ・・・

弓「いってらっしゃ〜い……あらら、やっぱり足が速いなぁ、もうあんなところに…」

「ぅいー疲れたー…」

弓「あ、お疲れ様でーす」サラサラ
232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/07(金) 21:38:02.28 ID:jqNEewg0
Q.個人名を持つキャラクターについて、名前を漢字一文字に略して表記しても良いですか?

A.
233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 22:06:27.21 ID:UiobTB2o
1回の投下が大して多くないのに何言ってんの君
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 22:58:10.94 ID:wnlHWBEo
オッケーイ!投下スピードが上がるならガンガンやっちゃってくれていいッス!
むしろ自分のペースにもっていってめちゃめちゃにしちゃいなよYou!
235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 23:30:46.99 ID:xSpLOUwo
俺としてはときどきキャラの名前わすれて「ハープって少女のことでいいんだよな…」とか思ったりするんでいいとおもう
236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 23:31:22.21 ID:xSpLOUwo
ageてしまった・・・
申し訳ない
237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/07(金) 23:46:32.25 ID:jqNEewg0
文殊多数決により今までのからスタイル変更 いつか名前書きなおして焼き直ししなきゃならないね


槍→焔

飛脚→疾

裁→限

少女→ハープ

弓→番

長→長(何故かこれだけ途中から変更してた)

救護→護


ごっちゃになって過去の呼び方がうっかり出るかもしれないけどなるべくそうならないように頑張ろうと思います。
238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:00:15.35 ID:mttbGGM0
疾「うひゃー!こりゃまた、でかい鍋だな!どっから持ってきたんだ!?」

「お、ハヤテか!さっさと取らないと肉が無くなるぜー」

疾「よう、おつかれ!そいつはいけねえな、さっさと食っちまわないと…皿はどこだー?」


ガヤガヤ・・・




長「……」ジャキッ、ジャキッ

限「ナガトさん、食事時くらいは武器の手入れはせずとも良いと思いますが」

長「! カギルさん」

限「とはいえ凄まじい人だかりですから、ある程度待たなくてはならないですね」

長「…そうやって待っていれば、肉は全て食われてしまうぜ、カギルさん」ジャッ・・・

限「ええ、そうかもしれませんね」

長「食える時に肉は食って置くんだ…大事なことは先にやっておかなきゃ駄目だ、後悔は先には立たない」

限「…戦は好きですか、ナガトさん」

長「俺の勝手な行動を責めるかい、カギルさん」

限「…さて、どうでしょうか」

長「戦が好きなわけじゃあ…ない、といえば嘘になるけどな」


長「……つい、頭がカッと、まるで脳が茹って燃えるみたいになるんだ…奴らの姿を見ていると」

限「……」

長「奴らを見ていると…つい、恨みや憎しみが暴走しちまうんだよ、カギルさん」
239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:13:50.62 ID:mttbGGM0
「おらおらおら!ハヤテ様のお通りだ!さっさとそのくっせぇ肉を5切れほど皿に盛ってもらおうか!」

「ばかやろてめ、列に並べ飛脚風情が!」



長「最初に来たのは剣と、黒い爪を携えた魔族の歩兵たちだった」

長「俺らの準備は万全だったな…素人の扱いとはいえ、弩弓と火薬銃はたちまちにやつらを蹴散らしていった…」

長「列を成して、竹槍の伸びる地面に足をひっかけて、もたつく奴らを撃ち抜く様はなんとも…興奮したよ。勝利を確信したりもした。“いける”ってな」

長「俺の手投げ槍も近づく奴らを次々に貫いていった…血の出ないあいつらを傷つけることは、不思議と心も痛まない、順調だった」


長「…だが、奴らの死体の山の奥から、青い炎に燃え盛る“あいつ”の姿を見た時…全ての状況は変わってしまった」

長「標的がデカイから楽だろうなーって思ったぜ?皆さ、動きも遅かったしな…誰もその丸腰の巨体を気に留めもしなかった」


限「……青い炎を纏う魔族…“惨劇のシドノフ”、ですね」

長「…ふん、そう呼ばれているらしいな、奴は」


長「……そうだな、惨劇でしかなかったよ……余裕こいて壁から体丸出しで獲物撃ってた俺らに、火の玉が直撃するまではな」

限「そうですね、あのような魔族がいるとは私も予想していませんでした」

長「銃も、弓も効かない…みんな恐れ慄いて、気がつく頃には俺らは逃げ腰で、防戦一方となっていた」

限「ええ、非常に緊迫していました」

長「壁に隠れて、砲撃に恐怖する仲間がどんどん、次々に奴らによって殺されていった」


長「…俺の隣の壁にいたあいつも、震える声で“ナガト、助けて”と言ったんだ」

長「……あいつは、“助けて”の“て”を言い切る前に顔が吹き飛んじまった」
240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:27:30.50 ID:mttbGGM0

限「……」

長「怒りに震えるって言葉の意味を初めて理解したぜ、カギルさん…あれはな、本当に目の前が真っ赤になるんだ、文字通り“カーッ”となっちまうんだ」


長「何の目的かも知らねえが、この町をめちゃめちゃにしやがる魔族共が憎い…旧くからの俺の親友を殺したシドノフが憎い…」

長「あいつらの姿を見るなり、さっさと逃げ帰りやがった傭兵達にもムカっ腹が立つ、何もできずに怯えるだけのつかえねえ民兵にさえも多少怒りを覚えた」


長「…なあカギルさん、抑えられねえんだよ、この怒り、わかってくれよ、俺は元々短気だ」

限「……」

長「今この話をしただけでも俺の右手は無意識にジャベリンを握って、目はこの本陣に“敵影”を探しちまう」

限「…ナガトさん、あなたは少し休まれるべきです」

長「だろうよ俺もそう思う、だが無理だ、今すぐにでも奴らの塒を攻めようとする自分を抑えられない…クソ」ジャッ、ジャッ、ジャッ・・・


長「…調子が狂いっぱなしなんだよ、俺はもう…どんな些細なことにでもすぐ頭に血が上って…クソっ、鬱陶しい…視界が赤ェよ…」ジャッ、ジャッ・・・

限「…どうか休まれてください、ナガトさん…軍人にはよく、そういった精神の病に蝕まれると聞きます」

長「……」

限「十分に空腹を満たしてゆっくり睡眠をとって下さい、お願いします」

長「…すまない、カギルさん…本当にすまない…クソ…」

限「……」


限(…彼は随分と参っている……いや、他にも心を病んでいる者は多い…困った)

限(これもまた、どうにかしなければ…どうにかしなければ。山積みだ、本当に困った)
241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:39:39.56 ID:mttbGGM0
疾「ふんふんふーん…♪良い匂いだ…ボタンなんていつでも食えるわけじゃねえよなぁ、贅沢なもんだぜ」

疾「よし、早速この分厚い肉を…いただきまー…」


ハープ「ほう、ポルの肉だな?癖の強い匂いですぐにわかった」

疾「ぶふっ!?」

ハープ「多少筋張ってはいるが、その野生的な風味を好む者は多い…私も好物ではある」

疾「…おいガキ、いきなり後ろから出てくるな、お前の保護者はホムラだろ、さっさと親んとこ帰れ!シッシッ」

ハープ「ふ、奴は肉を取りに行って、人だまりでもみくちゃにされているだろうよ」

疾「あいつもか…あのボンヤリした性格で鍋の懐まで行けるかねー…?」

ハープ「行けないだろうな、先を譲り、譲り、そのまま皿には何も盛れずに終いだろう」

疾「はっはっは!あり得るな!…ちったぁ何か、菜っ葉くらいは盛ってくると思うけどな?」

ハープ「どうかな」

疾「さすがに戦のヒーローだぜ?ちったあ優遇されて、案外豪華な皿になってるかもしれねえぜ」モグモグ

ハープ「ふふん、賭けられるか?」

疾「ああ、俺が勝ったらさっさとホムラにくっついてどっかいってくれ」

ハープ「私が勝ったら…そうだな、その肉を一片だけいただこうかな」

疾「はっはっは、いやぁ、マセガキがいなくなって清々してメシが食えるぜ〜」モグモグ

ハープ「……お、噂をすればバカが来たぞ」


タッタッタッタッ・・・


焔「くっそ、駄目だった…列に並んでも全然前に進まないぜ、あれ…」

疾「……」

ハープ「いただきます」ヒョイ
242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/09(日) 00:44:18.40 ID:LUBx2sAO
ハープ「………」モグモグ


疾「ホムラ、お前は戦における才能はあるかも知れねえ」

焔「はあ…」

疾「だがよ、何かにぶつかってく度胸ってのがお前には足りねえんだよな」

焔「ぶつかるっつってもなぁ」

疾「欲しいものがあんなら周りを押し退けてでも掴み取る!って気概よ」

焔「そうまでして欲しいものは無いしな…」

疾「こっれっだっかっら職人は…もっとハングリーになれよ!お前はよっ!」バシバシ

焔「叩くなよ」

ハープ「ふん、肉ごとき、1つ取られたくらいでムキになるな」

疾「ばっ…そういうんじゃねえ!」
243 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 17:39:33.23 ID:jwzAUYlAO
疾「で?ハープ、町についてはどうだったよ」

ハープ「モグモグ…おむ?」

疾「バンホーを見て回ったんだろ?」

ハープ「…」ゴクン


ハープ「特に問題は無いな。粗を探せば、人体接合が可能な着床師が一人もいないという事くらいか」

疾「げ、いねぇのかよ?」

焔「驚くよな」

ハープ「この町には居ないらしいな?良い技を持った職人が多い割には以外だが…まぁ、町の防衛とは直接関係のない事だ」

疾「…腕や脚が吹っ飛んだら、戦が終わるまでは治療おあずけだろ?そいつは知りたくなかった事実だなオイ…」

ハープ「重傷を負えば復帰はできないという事だが、一度苦痛を覚えた新兵がすぐに戦場に戻れるかといえば、NOだ」


ハープ「着床師の有無はこの町の民兵達にとってはあまり関係ないだろう、問題ない」

疾「…問題無しってわけじゃねえだろ」

ハープ「あとは町で不足している物資だが…全体的にそこまで困窮していないようだから、余所へ調達する手間をかける必要は無いだろう」
244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 18:01:48.52 ID:jwzAUYlAO
焔「ハヤテは随分と忙しそうにしてたな?日中」

疾「あ、そーなんだよ…マジ大変だったんだぜ?木材の運搬がよ…」

焔「ははは、お疲れだな」

疾「戦が小休止しようが、俺にゃ休みなんてものはねーわけだよ…重い木材ばかり運ばせるしな」

焔「採石場に持っていったよな?何に使うんだか」

疾「さあな…色々な用途があるんだろうよ…足場にしたりとか」

焔「ほー…」

疾「…というかホムラてめぇ!俺が町を駆け回っている間に何してた!」

焔「え?……案内」

ハープ「のどかな散歩だったな」

疾「老けろ」

焔「いやぁ充分これから老けるんで」
245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/11(火) 22:54:14.89 ID:cRJJpArAO
ハープ「私だって無意味に散歩していた訳ではないさ…それなりに苦労したとも」

焔(果たしてそうだったかな…)

疾「いいや、絶対に俺のが苦労してるねー…流した汗の量がもう違ぇよ」

ハープ「ふん、頭が疲れたんだよ、あ・た・ま」

焔(あ、今のは子供っぽかった)

疾「やっぱり生意気だコイツ…俺のガキがお前みたいに育ったら間違なく後頭部からひっぱたいてるぜ…」

ハープ「ふん」

疾「………」



疾「……はぁ、まあ良いや…ひとまず今は休戦状態、まだまだ俺の仕事も平穏なもんだ、良い事だ」

焔「そうだな…次の敵襲に備えて準備をしちゃあいるが、みんな疲れてるもんな」

ハープ「ああ、交代で見張りや夜番を継続させておく必要はあるが、ひとまず休める時には体を休める事は大切だな」

疾「俺は昼番だからいつも通り〜」

焔「おー、俺と同じだな」

疾「昼間見たんだから当然だろ」
246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/12(水) 20:50:17.63 ID:TYh2S5AR0
ハープ「聞いた話では、民兵は昼夜の2つに分けているらしいな?」

疾「気の抜けない状況だからなー…物見台なんかは人を多く使って、何回も交替で見張りを立ててるぜ」

焔「へぇー」


タタタタタ・・・


「おーぅい、ホムラさんよぉーい」

ハープ「誰か来たぞ」

疾「誰だあの人、知り合いかホムラ?」

焔「? あ、石屋のおっちゃん…どうもーお疲れ様です」

「おうおう、お疲れよーぅ…今の俺は“そるじゃー”だけどな!はっはっは」

焔「あははは…」

「聞いたぜホムラさんよー、戦で凄かったんだってぇ?」

焔「あはは…いや別に、俺は大したことはしてないんすけどね…」


疾「…やっぱりヒーローだな」ボソ

ハープ「手柄を鼻にかけず謙虚な分、逆に皆からの評価は高いようだな」ボソ


「ほれほれ、ボタンの肉!取ってきたからわけてやるよー、食いな食いな!」

焔「え?本当ですか…うわーありがとう、おっちゃん…すごい食いたかったんだこれ」

「どうってことねえよぅ、あんたこの町の救世主なんだからな、もっと食ってくれよー」

焔「…ありがとうございます!いただきます!」モグモグ

「よしよし…ははは、うめーだろぉ」

焔「ふはいへふ…」モグモグ

疾「腹減ってたんだなあんた」

ハープ(…あ、腹が鳴りそう)
247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 08:19:15.98 ID:3XF9iOIDO
一日一レスか


頑張って下さい
248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 22:30:23.03 ID:WAGYSyeQ0
焔「もぐもぐ…むがむが、噛み切れね…」モグモグ

疾「根性だ、根性、お前ならできるぞ」

焔「おう…」モグモグ



「誰か手ぇ空いてる人ー!皿ー!皿追加でもってきてー!」

「ちょっとまっててー!こっちも忙しいのー!」


遠くで婦人の方々が忙しく動き、大きな声をあげている。

戦に備えているこの本部は町の女がいるからこそ成り立っていると言っても過言ではない。


男以上にまめに働き、こんな遅くまで炊事に精を出しているのだ。

俺なんかはハープさんに町を案内しただけで疲れているというのに、まったくタフだなと思う。



ハープ「…人手が足りないようだな、行ってくる」

焔「え?ハープさんが」

疾「やめとけやめとけ〜、足手まといだぞ、はっはっは」

ハープ「なに、ここの裏方の様子も見ておきたいからな」


濃い栗色の長髪を翻して、ハープさんは一度だけ薄い微笑みで俺らに振り向いた。

そしてそのままくるりと再び翻り、女衆が集う湯気濛々の煮炊きテントへと駆けて行く。


彼女も彼女で、小さいのにすごいパワーだと感心させられる。

知識量にしても物事の経験の度合いにしても、俺のような職人一筋でやってきたような人間を軽く上回っている風なオーラがハープさんからは感じられるのだ。


疑問を口に出す事は極力今まで控えていたのだが、一体彼女は何者なんだか。


焔「…まぁ、町を一緒に守ってくれようとしてるんだ。良い人に違いない」ボソ

疾「あん?」

焔「あ、なんでもない」モグモグ
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:31:25.31 ID:xGLODwywo
大移動です
依頼してきてください
■ 【必読】 SS・ノベル・やる夫板は移転しました 【案内処】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294924033/
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250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 22:39:11.57 ID:WAGYSyeQ0
ふーん。
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

251 :真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 22:51:34.33 ID:f5aE8pKE0
さて、急遽新たな場所からの再開となったが、今まで鈍行なこのスレを読んでいた希少な方々はここへ辿りつけるのだろうか。ちょっと、突然の大移動に驚いてる。

って思ったけど別に誰が見てるからって早くなるわけでも遅くなるわけでもないから、今まで通りナメたペースで続けていくので今まで読んでいた人はご安心を。

新たに読もうって人も今まで読んでいた人もそうだけど、ペースの遅さのあまりにすぐに読みが追いついてしまうので、スレを開く頻度を月単位にする事を推薦。ただしある日いきなり一日50レス投稿しても驚かないこと。

何が言いたいかって、今までと変わらないってこと。
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:55:51.19 ID:0GLuD0dqo
応援してるよ! 移動後も支援!
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:57:22.68 ID:ovJleNz3o
支援
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 03:12:05.56 ID:qK3BFkrIO
新板でも支援さ
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 23:36:04.69 ID:yOPUHuXv0
疾「…なぁホムラよー」

焔「ん?なんだ」モグモグ


ぼやーっとしている間に手持ちの皿の上の猪肉は冷えてきたようで、白い油を帯び始めた。

不味そうな見た目にならないうちに食ってしまおう。


疾「俺は救護であり連絡係じゃんかよ」

焔「ああ、そうらしいな?」

疾「そうなんだよ」


疾「まぁ言っちまえば非戦闘員なわけだよな?」

槍「そうだな、もう誰が見ても完璧な裏方役職だな…適任だと思うけど」

疾「…いやな、非戦闘員といえどもさ、近くに敵がやってきた来た時はどうしようもないと思うんだよな、俺」

槍「あー…でも非戦闘員とはいえ、護身用の携帯武器はいくつかもらってるんだろ?」

疾「……こいつのことか?」ガチャッ


ハヤテは服の裾を捲り上げ、腰のベルトに括りつけられた鉈を見せた。

皮のホルダーに収まった短めで肉厚な刃は、主要な獲物として扱うにはあまりにも鈍臭く感じる。


焔「えー?護身用に配られたのってそれかよ…それってキコリやマタギがよく山入る時に持ってくアレじゃないか?」

疾「な?ひでーだろ?こんな短い鉈じゃあ振り被ってる間に死んじまうよ…または、こんなもの扱って戦うくらいなら逃げた方が十分の護身になるぜ…非戦闘員とはいえよ、こんな獲物じゃあんまりだと思わねえ!?」

焔「うーむ、確かにな…これは」
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 23:55:23.04 ID:yOPUHuXv0
焔「ちょっと失礼」

疾「ん」


疾風の腰のホルダーから鉈を抜き取る。

鋼が絡んじまえば、皿に残った脂身の多い肉の事などもう後回しだ。


焔「んー、普通すぎるな、普通に鉄だ」


朱金を混ぜてあるのだろう、純度の低い鉄を打ったものだ。

確かに鉄に朱金を混ぜれば溶けやすく加工もし易くなるのだが、代わりに鋼の硬さは大半が失われてしまうという欠点がある。


焔「ほっ!」ブンッ

ドカッ


やや力を入れて近くの切り株に振り下ろすと、刃は数センチまで刺さった。…だが鉈にしてはあまりにも鈍くさい威力だ。


焔「んー、切り株を割れとまでは言わないけどなぁ…やっぱ鉈としての形も、材質も悪いな」

疾「うんうん」

焔「…確かに素人にも作りやすいだろうし量産はできるだろうが、これで命を繋げっていうのは酷かもな」

疾「だろ!?あんたもそう思うだろ!?」

焔「ああ、二級…いいや、こんなんじゃ三級品だな、いやぁ酷い」

疾「…だからさホムラ!もうちっと良い獲物を俺のために作っ」

焔「鋼の専門家としちゃあ見逃せない軍備品だ、カギルさんに提案してみるよ」

疾「……え?」

焔「だから、こんな粗末なもんをみんなが持ってたら大変だからさ、カギルさんに変えてもらうよう提案するって」

疾「………ああ、そうか」ボソ

焔「?」

疾「そうだな!是非そうしてくれ!このままじゃあ敵がおっかなくて仕方ねえよ、へへ」
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 07:59:54.82 ID:YWyIr4sIO
疾×焔ですね,おつかれさまです
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 17:55:01.05 ID:x2PKWHss0
腹も適度に満たし終えた俺らは本部をぶらぶらと歩いていた。

適当に本部の様子を窺いながらカギルさんを探しているといった具合だ。


「火薬のチップは新たに町の花火職人が作ってくれているらしいぜ」

「そうなのか、後で貰いに行こうかね」

「爆薬は貴重品だから少ししかくれないけどな」


本部にいる民兵達は皆、思っていたよりも疲弊していないようだ。

人によっては隅の方で静かにしているが、半分以上はいつも通りといった具合のように明るくやってくれている。


…聞くところによれば、身内や友を前の戦で失った奴はだいたい心をやられているようだ。

何年も、何十年も付き合っていた友人や兄弟を一瞬で失ってしまうのだ。確かに穏やかなはずもない。


焔(…俺も、何人か知り合いを失った)


仕事での付き合いをしていた奴ばかりだったからなのだろうか。俺自身に問いかけても、そこまで心に傷を負っていないらしい。

知り合いが死んでも涙一つ出ないってのはおかしい。

やっぱり俺はドライな人間なのだろうか。ちょっと心配になってきた。冷徹な人間だとは思われたくないし、なりたくないなぁ…。


疾「風呂入りてーなぁ、頭が痒ぃ」ボリボリ

焔「…そうだな」


汗ばんだ体を洗って、戦に関係ない雑念も一緒に水に流してしまいたい。

本部の近くに風呂は無いもんだろうか。うーん。
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 18:16:12.04 ID:x2PKWHss0
疾「突貫で小さな小屋を作っちまえるんだから、本部も屋外じゃなくて全テントにしたって良いと思うんだけどな」

焔「確かに、外ってのは何だか落ちつかないな…けどこんな広さを全部屋根で覆うって難しいと思うぞ?屋外でないと大鍋も使えないだろうしさ」

疾「むむむ」

焔「まぁまぁ、居住するスペースとか重要なところはテントが連なってできてるんだし、これで我慢しておこうぜ、何も中央までテントにする必要もないだろう」

疾「…むーん…」


本部は白い大きなテントでO字型を形成し、それらにはカギルさんがいる作戦を統括する会議室のようなものであったり、俺ら民兵が寝るための寝台が設けられているものなどがある。

その中央は屋根のない広場で、大きな焚き火がごうごうと燃えていたり鍋が美味そうな湯気をたなびかせていたりしている。

テントの外側には急遽建設された木造の物置や緊急のための治療施設があり、きっと武器課なんかはここにあるのだろう。


男も女も皆集まっているので、いつもは静かな町の外れではあるが、祭りのように随分と賑やかな雰囲気に包まれている。


焔「前はたまにここを通る事もあったけどさ、こう賑やかだと本当に俺らの町か?って思っちまうな」

疾「なー、ここが一つの町なんじゃねえかってくらい賑やかだぜ」


テントの布に背中を預けて休んでいる民兵の伸びた足に躓かないよう、慎重に歩く。

そうして進んでいると、見覚えのある顔をした男に出くわした。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 18:38:01.89 ID:x2PKWHss0
長「…」ジャキッ


テントの布に腰を預ける男は、物凄く悪い目つきでジャベリンの刃先を研いでいた。

俺らの存在に気付いたようで、こちらを浅く睨むように見ている。


疾「あ、おめー…またかよ!安静にしてろって言っただろ!」

長「じっとなんかしていられるか」

焔「ナガトさんか、怪我は大丈夫なのか?」

長「ナガトで良い……怪我はマモリが治療してくれた、走らなければ問題はないさ…」


その割には表情に生気がない。怪我の痛みのせいかはわからないが、険しい顔だ。


長「ハープはどうした、一緒ではないのか」

焔「あの人は炊事の方の手伝いに言ったよ、まったく元気な子供だよ」

疾「いやぁー生意気なのがいなくなって静かでいいや、はっはっは」

焔(お前も年下なのに生意気だけどな)
長(お前も年下なのに生意気だけどな)


焔「…ハープさんは、人が本部に集まってきたら、それぞれの代表者に対して提案をするらしい」

疾「意見や提案だけは出すっつってたな、そういや」

長「ハープ“さん”か……あんな子供に指揮の一端を任せるとは、この町の未来は暗いな」ジャキッ

焔「…ナガトは傭兵を嫌ってるから嫌なんだろうけどさ…あの人は凄い人だぜ」
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 18:52:34.51 ID:x2PKWHss0
焔「シドノフの砲撃が止まなくて“死ぬかなー”って思ってたらいきなりハープさんが現れてよ」

焔「“これが傭兵か”って絶望してたらさ、あっという間だよ、彼女が魔術でシドノフを倒したんだ」


長「…ふん」

焔「戦い方も教わったしさ、そのおかげで戦況をひっくり返す事が出来た」

長「…」

焔「ハープさんのおかげで町がまだ存在できてるようなもんだよ…それを考えたら、ナガトもちっとは彼女を信頼したって良いんじゃないか?」

長「いけ好かないがな」

疾「うんうん」


ジャッ・・・ジャッ・・・


長「…まぁ、感謝はしておこう…俺も大人げなかったな」

焔「あれ?思っていたよりも素直だなあんた」

長「熱しやすい性格なんだ、どうしてもこう荒れた状況だと…」ジャッジャッ・・・


ナガトが焚き火の灯りを短いジャベリンに反射させ、刃先を覗き込んだ。


長「はっ!」ドカッ、ドカッ

そして、それを傍らに置いてあった薪に突き立てる。二度の突きで、薪は両断された。


長「ふぅ…どうも、何も考えられなくなっちまうっていうのか」

焔「…そうか」


彼は頑固で一徹していそうな見た目とは別に、ナイーブな性格の持ち主らしい。
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 19:03:44.06 ID:x2PKWHss0
焔「まぁ、怪我人なんだ、無茶はしないでくれよ」

ナガトが使っていた砥石を手に取る。砥石は自警団で使っていたものなのだろうか、面に年季が入っている。


長「カギルさんにも休むように言われたよ…だがじっとしてられないんだ」

疾「あのなぁ、傷口が開いたら元も子も無いだろ?せっかく助けてやったんだ、もちっと自分の命を大事に扱って欲しいぜ」

長「…ああ、そうだな、そうしたい」


空に向けて大きな息を吐いた。大げさなアクションだが、そうでもしないと彼は心を制御できないのだろうか。


焔「ああそうだ、俺らは今カギルさんを探しているんだ、どこにいったか知らないか?」

長「カギルさんか…どこに行ったっけな…やっぱり統括本部じゃないのか?そっちに歩いて行った気がする」

焔「そうか、ありがとう…あまり武器の手入れに集中し過ぎない方がいいぞ、ちゃんと床に入って休んでくれよ」


ナガトの手からジャベリンを取り上げる。

金属面を見るに材質は若干違うようだが、ついこの間俺が生産していたジャベリンと同じ形だ。

俺は手にした砥石を地面に置き、ジャベリンの両刃を両面とも一回ずつだけ研いた。


焔「ほらよ、じゃあ俺らはカギルさんのところにいってくるか……またな、ナガト」

疾「またな!休めよ!」

長「…ああ」
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 19:12:09.44 ID:x2PKWHss0
長「……」


ホムラから手渡されたジャベリンを見る。

荒っぽく片手でざっと研かれたかに思えた刃は、意外と綺麗に整っているように感じた。

だが先程の研き方はどう見ても雑だ。切れ味は落ちたかもしれない。


長「…あいつは鍛冶屋だったか…この町にも鍛冶屋はいくつかあったな」


武器を保管する蔵を整理していた時の事を思い出す。

大量に保管された、非戦闘員のほぼ全員に支給された携帯用の鉈の刀身が脳裏に浮かぶ。

あの鉈を思い出すたび、この町の鍛冶屋には雑な奴が多いと考えてしまう。

自分が扱うジャベリンはある程度上手くできてるので文句は言わないが…。


長「職人の町といえど、腕の悪い分野もひとつはあっても可笑しくないか…」


新たな薪を立てて置く。ジャベリンを強く握る。


長「はっ!」


そして、刃を振り下ろす。


長「!」


薪は白樺の箸を折った程度の小さな音を立てて、静かに真っ二つに割れた。
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/17(月) 20:03:50.69 ID:HtErXyPm0
それは数分前のこと。


番「…休息を取る民兵の方々は全員、この本部に戻ってきたようですね」パサッ

民兵達の名前が羅列した数枚の紙が男の前に差し出される。


限「ご苦労さまですツガエさん、貴女も是非休まれてください」

男は口だけ微笑んで書類を受け取った。


本部の作戦会議室には臨時の町長となったカギルが上座に腰を降ろしていた。

軽めの夕食を終えた彼はこれから指揮を別の人間に預けて浅い眠りにつく。名簿の確認作業は今日の最後の仕事である。

誰もトラブルに巻き込まれていないようであるし、逃げ出しても勝手に出歩いてもいない。カギルが胸を撫で下ろした瞬間だ。


番「そうですね、私も疲れてしまいましたから、うふふ…普段の稽古よりも大変で、もう歳なのでしょうかね?」

限「何を言いますかツガエさん、それを言うなら私の方が歳ですとも」

番「あら」


カギルは苦笑いしながら自分の腰をとんとんと叩いた。普段よりも休みなく忙しかったためか、腰にきているらしい。

しかし温和に笑いあえる程度の負担は、逆に話題となって二人にとっては喜ばしい事であっただろう。


「カギル裁判長はいるか、いるならば失礼する」

番「あら、この声は…」


穏やかに些細な歳取り体調不良自慢を始める二人の会話を、一人の来訪者が横に割った。
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/17(月) 20:16:47.05 ID:HtErXyPm0
ハープ「お邪魔だったかな」

限「いいえそんなことは。こんばんは、ハープさん」

ハープ「こんばんは」

番「こんばんは、外は寒かったでしょう?お茶でも淹れましょうか?ふふ」

ハープ「いいや構わないよ、先程美味しい鍋を頂いたからね」

限「町の方ではありませんが、太陽橋の近くに小屋を立てている猟師さんが獲ってくださったポルの肉を譲ってくれましてね」

ハープ「それは随分と気前が良い猟師だ…魔族を恐れて普通は森には踏み込めないものだが」

番「うふふ、ええ、感謝と共に危ないのでもうしばらくは入らないようにと言っておきました」

限「とはいえ彼も血気盛んでしてね、なかなか聞かないのです」

ハープ「ははは…まぁ、太陽橋か。あの辺りならよほど東へ向かわない限りは安全だろうが…」


限「でハープさん、こちらへはどのような用件で」

ハープ「おっといけない、忘れてしまうところだった…まず話しておかなければならないのが着床師の件かな」

限「? 着床師ですか」

ハープ「ああ、実は――」
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/17(月) 20:21:50.84 ID:HtErXyPm0
―――――

(ヾ*・∀・)ノ゙ いつも使うタイミングを逃してしまう便利な合間

―――――
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/17(月) 20:33:14.99 ID:HtErXyPm0
限「――なるほど、盲点でした…」

番「うーん…まさか一人も居ないなんて…予想外ですね」

ハープ「担当してる本人が戦中はどうしても着床師は望めないと言っていたからな、諦めるしかないだろう」


限「……」

ハープ「かといってこれはわざわざ民兵達に伝えておく情報ではないだろう、失ったのであればそこまでだ」

番「…え?それって酷くありませんか」

限「…私もそう思います、この情報はなるべく控えておきましょう」

番「ええっ?」

ハープ「民兵達が着床師が居ないことを知ったところで、無駄に戦意を喪失させるだけにしかならないからね」

番「それはわかるのですけど、民兵の方々を騙しているみたいで…」

ハープ「元々いないのだから仕方がないさ、肢を失った者には戦が終わるまで痛みに耐えてもらうしかない」

番「うーん」

限「私は彼らの不安を煽りたくはありませんし、彼らが怪我をすれば可能な限り即時に治療を施します、私は現状を維持しておくのが最善だと思います」

番「…そうですね、カギルさんやハープさんの言うとおりですね、わかりました」

ハープ「極力、士気を下げるような情報は最低限に留め控えておくようにお願いしたい。民兵を捨て駒にするつもりはない事をわかって欲しい」

番「ええ、わかっています」
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/19(水) 20:35:07.58 ID:o1CDFlCb0
ハープ「二つ目は防衛前線の構造についての提案。強化しなくてはならない箇所がいくつかある」

限「強化しなくてはならない箇所ですか、補強という意味でしょうか」

ハープ「近しい。煉瓦を積むだけでは不十分な箇所も出てくるだろう」

限「…地図で示していただけますか」

ハープ「もちろん図を見ながら」

番「こちらですね」パサッ


ハープ「例えばこの物見台、爆風により崩れないよう足元をレンガで固めること、今のままでは火砲直撃で運良くて2発で沈むだろう」

限「! …ええ、必要な事ですね、ありがとうございます」

番「確かにそうですね、遠くを見るためだけのものと軽視してました…」

ハープ「それと最前線の煉瓦の壁に限り、敵側に向かって反るようにして追加して施設して……」

限「ふむふむ…」

ハープ「敵はシドノフだけではないのだから、後方に構える弓で雑魚を減らさなければならないだろう、位置は守りの堅いこちらと、こちらに重きを…」

番(…凄い)

ハープ「楔土嚢の上は油で満たしておけばいざという時は役に立つだろう、辺りの木は更に伐採する必要があるが…」

番(戦争経験がある傭兵とはいえ子供だからって、ちょっと侮っていたけど……この子って結構すごいのかも)

ハープ「聞いてる?」

番「は、はい!」


ハープ「ざっとこんなところか、ざっとだが」

限「ありがとうございます、またひとつ大きな勉強になりました」
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/19(水) 20:53:48.20 ID:o1CDFlCb0
ハープ「本当ならもっと多くの炸薬や油があれば良いのだがそうもいかないな」

限「? 何故油を?」

番「…ハープさん、お茶淹れますよ?やはり一緒に飲んでいっては…」

ハープ「構わない、すぐ出るから」


コポポポ・・・


ハープ「油というのはつまり…奴らは火に弱いんだ」

限「火に?」

番「それって可笑しな話じゃないですか?」コトッ

ハープ「奴らは炎を纏っているから、か?」

限「はい」

ハープ「まったくもってその通りだ、シドノフは…いや、一時的にはタイエンもか。奴らは自ら青い炎を纏う」


ハープ「しかし奴らが耐性を持つのはその特殊な青い炎のみで、実際は奴らは熱に非常に弱い…高温の炎に触れれば、皮膚は紙のように容易く燃える」

限「……実に、貴重な情報ですね?」

ハープ「しかし普通の炎では到底燃えない、そこまでの壁が熱いとでも言おうか……皮膚が燃えない温度と、急速に熱に弱くなる温度の境界がはっきりしていると言えるな、融点とでも喩えるか?」

限「……」

ハープ「奴らを焼くのであれば、油を大量に撒いた地点であったり…」


「すいませーん、カギルさんいますかー…?」


ハープ「…おっと?新たな客だな」

限「この声は彼ですかね、…どうぞ、中へ入って下さい」
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/19(水) 23:36:29.46 ID:o1CDFlCb0
焔「あれ?ハープさん居たのか」

燃えるような紅の髪をした、煤の汚れが清潔感のなさを際立たせる呑気な男。


疾「ァあん?ハープまたてめーかよっ」

細く流れるような鳶色の髪をした、女のように細いが威勢の良い若い男。


限「こんばんは、ホムラさん、ハヤテさん、用件は何でしょうか」

綺麗に切り整えられた茶褐色の短髪をした、厳格そうな背の高い男。



ハープ「……ふうん」



予感がした。

過去にも何度かこの掌に掴んだ覚えのある感触が確かに過ぎった。


細すぎて見えない糸が、両の手の五指に強く絡みつくような感覚。

荒れた山の道に落ちる二百本の木の枝のひとつひとつが、糸によって形を作ってゆくような感覚だ。


伝わるだろうか?いいや、自分だけが分かっていればいい。


『――何かを手繰り寄せたか?――』

ハープ(ああ、何かに触れた気がする)
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 07:46:01.81 ID:b5t7bTdIO
日曜の投下も月曜の投下も読んでる。
VIP落ちて乙を書けなかったが、
完結まで見守っているから
支援C
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/20(木) 19:38:34.34 ID:mPgdQo/X0
番「こんばんは、二人とも…さあさ、お茶です、どうぞ」コトッ

疾「お!ツガエ姐さんサンキュ〜」

限「長くなるようでしたらどうぞ、お掛け下さい」

焔「ああ、すいません」

キシッ


ハープ「ふふ、どうした、お前らも横槍か?」

焔「“も”って…ハープさんは料理の方の手伝いをしてたんじゃなかったのか」

ハープ「細かい事など気にするなよ」

疾「茶美味ぇー」ゴクゴク


焔「…」

限「…」


焔「……あ!そうだった、ぼんやりしてた、鉈について相談しに来たんだった」ゴソゴソ

疾「忘れんの早すぎだろ」

限「ナタですか?」

ハープ(鉈?武器についてか)

焔(ハープさんからはあまり武器の切れ味は重要じゃないって言われてたけど、やっぱり譲れないところはある…言うべきところでは言わなきゃな)ゴソゴソ


ゴトン
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/20(木) 20:06:42.74 ID:mPgdQo/X0
限「ナタ」

番「鉈ですね?確かこれは非戦闘の民兵の方々が携行しているものでしたね」

焔「はい、救護班や連絡兵に配られたとか」

限「そうですね、鍛冶屋の方の一人が、この鉈を大量に余らせているということなので使わせていただきました」

ハープ「ほう、どれどれ?」カチャッ

疾「あ、それ俺のだからな!勝手に触るなよ」


ハープ「……ふむ」ツツツ

番「…短いですよね?普通の鉈よりは」

ハープ(刃が驚くほど鈍い…そしてこの材質…質量……薪を割るにも苦労しそうだ)

焔「ええ、携帯するには良いサイズだとは思いますけどね」

限「このナタに問題があるのですか?正直、非戦闘員への支給武器なので使う機会はほとんどないと予想されます、質が最高のものであるとは考えていません」

焔「これが最高だなんて言ったらお笑いモンですよ、俺にとってはたまに使うのでも御免な品です」

ハープ(……あれ?)

疾(ん?)

限「…どういう事でしょうか、詳しくお聞かせ下さい」

焔「まずは見てください、ここ!ここですカギルさん、見えますかココ!」ズイッ

限「み、えます、そんなに近づけなくても焦点は合っています」

焔「これは刃の腹の辺りはまだ未使用のものだと持ち主のハヤテからは聞きましたけど、現時点で見てくださいよこれ、刃が光ってる」

限「ええ…」

焔「これはいけない。ところどころ深く厚く光っているし、横から見れば引っ掻いたような筋も入ってる…これじゃあまるで鋳品だ、切れ味も何もあったもんじゃない、ただの板ですよ、板」

疾(こいつ…なんか勢い増してないかぁ〜…?)

ハープ(…自分の領分では饒舌なのか…)
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/20(木) 20:23:56.55 ID:mPgdQo/X0
焔「というかあり得ない!なんだこの打ち方!そもそも打ったのかも怪しい!ただの朱金だってのにこの腕の悪さ!こんな粗悪品を生みだす輩がよくバンホーで飯を食ってけるもんだ!」

限「あの」

焔「比率で言ったら鉄を3、朱金を7ってところか…鉄が入ってると聞けばちっとは朱金が入っても大丈夫だろうと考える人も多いがそれは違う!7割も朱金が入ってたら鋼はもうボロボロだ、これを造った奴は何もわかっちゃいない!」

限「ホムラさ」

焔「1割だけでも鉄の酸化を10倍早めるって言われてる朱金を7割も入れるなんて…ンならいっそ朱金だけでナタ造れって話だ!クズ鉄だかなんだか知らないが貴重な鉄をこんなもんに混ぜたって申し訳にもなんねえよ!」

限「すいませ」

焔「形はまあ良いよ別に、ていうか形なんて二の次だ、こいつがそのままの材質で一等良い型のナタになったとしても高が知れてるし、クズモンだって事実は何も変わらない」カチャ

限「わかりましたので…」

焔「おらァ!」ブンッ!

ドカッ!


限「うおっ」

ハープ(えー)

番「ちょ、ちょっとホムラさん!?」

疾「おいおい何してんだよアンタ!それ木椅子だろ!薪じゃねーよ!」

焔「見てくれよこれカギルさん!こいつは本気で振りおろしても椅子さえもほとんど切れやしない!椅子も割れないで鉈って言えると思うか!?」

ハープ(口調、口調)

限「いや……鉈で椅子を斬った事などないので…なんとも…」

焔「こんな粗末な鉄切れを使うならまだクラブでも握ってた方がマシってもんだ!非戦闘員ったってだよ!」

限「…」

焔「救護班や連絡係だって戦場にいりゃ敵と対峙することだってある、その時に持ってたのが馬鹿職人のこさえた錆びた鉄片でしたなんてよぉ、そんなねぇだろ、そんなのよぉ……」


焔「……あ」

限「……」

番「……」

疾「……」

ハープ「……」
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/20(木) 20:37:22.99 ID:mPgdQo/X0
焔「……ごめんなさい、本当にごめんなさい…」

疾「怖ーっ…こいつ怖ーっ…」

番「あ、あはは…大丈夫ですから、とりあえず落ち着きましょう?あはは……」コポポポ

ハープ「椅子が真っ二つにならなくて良かったな」

限「……」

カチャッ


限「…ふむ、私も剣を扱ったことはあります、刃の質などでしたらわかります…良いものとは言えませんね…」

焔「……」

疾「…救護と連絡やってる当人としてもさぁカギルさん、窮地に陥った時にそいつで切りぬけろって言われたら、結構焦っちまいますよ?ホント」

限「ふむ…」ブンッ

ハープ「武器としてのナタは扱った事がないな」

限「…私もです」ゴトッ


限「そうですね、確かに鍛冶屋のホムラさんがわざわざ直々に言うくらいです…専門家のあなたが言うのですから、何理かあるでしょうね」

疾「! じゃ、じゃあこいつを取っかえてくれるのか!?」

限「ええ、今の…パフォーマンスといいますかね?はは、いえ失礼…武器としての鈍さは伝わりましたからね、是非とも早急に検討させていただきたいところです」

焔「本当ですか、ありがとうございます」

限「ですが」

焔「?」


限「このナタの代わりになる携帯武器を用意しなくてはなりません」
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 06:51:23.32 ID:ZZOHMYKho
こういう系統大好き
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 08:54:08.54 ID:u1mwvwjIO
好きな事にはついつい饒舌になるもんだよな
乙乙
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/22(土) 20:19:21.52 ID:J3HFVfhd0
焔「……代わりとなる武器」

限「確かにこのナタは切れ味も悪く質も低いかもしれません、ですが武器として最低限活用することはできます、紛いなりにも握れる柄があり、鋭角を持った、質量の高い金属ですからね」

焔「…じゃあ、このナタモドキよりも武器として扱いやすいものであれば良いんですね?カギルさん」

限「はい、ただし可能な限り質が一定であることが求められます…まぁ、これは贅沢でしょうかね、やはりそれはいいです」


限「何にせよ必要なのは予備も含めて150本の携帯可能な護身用の刃物です」

疾「ひ、150!?多すぎだろ!」

限「予備も含めてです、実際に扱うの方は100人程度でしょう、しかし非戦闘員は町全体で見た場合は女性も含めればかなりの人数となります、予備は多ければ多いほど良いのです」

焔「……」

限「鍛冶屋のホムラさん、このナタの質は悪い、…が、だからといって何も持たずに捨て置くにはこの町の現状においては、余裕の無いものがあります、つまり――」

焔「これよりも質の良い武器が150本ほどあればいいってことですか?」

限「はい、まさしくその通りです」


番「……鍛冶屋さんとはいっても、150本も同じ…携帯できるような武器を在庫として持っているものなのでしょうか?」ヒソヒソ

ハープ「……さあな」ヒソヒソ

疾「無理だろ…そりゃ“ヒゴガミ”程度の長さのナイフならそりゃあ使いでもあるし売れるだろうが…」

限「このナタと同じようなサイズであることが望ましいですね、かなり……中途半端なサイズです」

ハープ「ナタとしては帯に短し、剣としては襷に長しといったところかな」

限「何に分類すべきか私もよくわからないサイズの武器です、それを今夜中に用意することは可能ですか?」

焔「……うーむ」

限「一夜にして何百も打つことはできないでしょう…現実的ではない、非常に難しい事だと思います」

疾「……」
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/22(土) 20:46:55.42 ID:J3HFVfhd0
番(武器屋なら在庫としてそういった中くらいの刃物を大量に置いているのはわかるけど…)

疾(鍛冶屋は直すのが本職だろ…)

ハープ(以前工房の中を見た時にはいくつも武器が置いてあったが、何百までいくほどの量の同じ品はなかった筈だ)


焔「……うーん」

疾「…なぁ焔、なんとかなんねーのか?」

限「武器として長さはもちろんですが、質が均一であることが望ましいですね、不平不満を防ぐことができますし、同じ武器を携行することで一体感も生まれます」

焔「……」

限「やはり、難しいでしょうか」

疾「なんとか……駄目か、ホムラ…」

焔「いいや」

疾「?」


焔「ククリ、カルド、カタール…短剣つっても色々な種類があるから、どれにしようか悩んでるんだ」

限「…それは、ひとつの種類が150本にまでのぼらないということでしょうか」

焔「ん?はは、まさか、そんなわけないじゃないですか…一種につきン百本なんて当然のようにありますよ」

限「え」

疾「マジで?」


焔「最高級品質とまでは言えないけど、先代からの力作が何百と蔵に置いてあるから、まぁ大丈夫かな」
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/22(土) 21:01:07.42 ID:J3HFVfhd0
ハープ「…自分の蔵から短刀を引っ張ってくると言っていたが、何百の短刀をどうやって運んでくるのやら」

番「ふふ、きっとハヤテさんが頑張って台車でも引っ張ってくるのではないでしょうか」

ハープ「ああそうか、奴がいたか…なら戻ってくるのも早そうだな」


コポポポ・・・

コトッ

ハープ「ん?」

番「お茶です、温まりますよ?」

ハープ「だから要らないって」

番「まぁまぁ美味しいお茶ですから、そうぞ、ふふ」

ハープ「……わかったよ、いただこう」ズズズ


ハープ(…苦いの苦手なんだって)

番「ハープさんは兵法にお詳しいですね?傭兵さんってみんなそうなんですか?」

ハープ「ん?……さあ、知っている奴は知ってるし、興味の無い奴はからきしなんじゃないか」

番「そうですか…じゃあハープさんは沢山勉強したんですねぇ」

ハープ「ああ、特別に物覚えが良いわけではないのだが“おかげさまで”何度も復習したよ、本当に何度もね」

番「?そうですか」


限「……スゥー…スゥー…」

番「…ふふ、カギルさんたら机に突っ伏して…ここ最近の疲れが溜まっているんですね」

ハープ「無理もない、元はただの裁判長だったのだろう?一般人が町一つの指揮を執るなど、並みの精神力ではできんことさ」

番「確かにそうですね…カギルさんは凄い方です」

ハープ「惚れてる?」

番「いえいえ、私は旦那さんがいるので、うふふ」

ハープ「おっと、それは失礼」
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/22(土) 21:25:28.40 ID:J3HFVfhd0
番「もしかしたら既に聞いたかもしれませんが、この町の町長さんが雲隠れしてしまいまして」

ハープ「ああ、聞いたよ、それで代わりにカギルが町の代表になったとか」

番「はい。…町長さんはなんというか、独善的と言いましょうか、務めていた時からも非常に勝手にやっていた人間だったのですが…まさか私たちも戦になるとわかった途端に逃げ出すとは予想もしてなくて…」

ハープ「逃げ出したのは頭だけか、ははは、情けないな」

番「…でも、彼の気持ちもわからなくはないんですね」

ハープ「ん?」


番「だって、今は確かに要塞のように武装していますけれど…ここはただの町なんですよ」

ハープ「ああ」

番「一介の小さな町が、戦なんてしたこともないような職人だらけの町が、凶悪な魔族の軍勢と戦うなんて…」

ハープ「ふん、まあ確かに絶望的な話ではある」


番「…本当なら、これは国がやるべきことだと私は思うんですよ」

ハープ「…ああ」

番「可笑しいですもの、町人が民兵として戦ったり、町が民間の傭兵を雇って戦うなんて…もっと国も何かしてくれたっていいのに」

ハープ「…さあ、国も防衛するところが多すぎて手が回らないんじゃないのか」

番「……そうなのでしょうか」

ハープ「だとしたら仕方ないじゃない」

番「…うん、そうですけど…はい、そうですね」

ハープ「国の規模でみれば不満もあるだろうが、今は町でなんとかするしかないんだよ」

番「はい…ハープさんの言うとおりですね、今こんな弱音を吐いても何にもなりませんね、ふふ」
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 21:24:40.35 ID:VHr+jBRIO
投下は嬉しいんだず
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 21:45:26.14 ID:7ikQk4Ea0
ハープ「そうだ、今は下向きに傾げている暇なんて無い。射手なら上向きに仰げ」

番「……ふふ、言われちゃうなぁ」


番「……」


番「…ねえハープさん、貴女って本当に子供――」

「おーい!ハヤテ様が戻ってきたぞぉー!言った通り本!150本以上だ!すげぇぞこれ!」


番「――あら」

ハープ「! 馬鹿二人が戻ってきたようだ、迎えてやろうか」

番「…そうですね、ふふふ、やっぱりハヤテさんは脚が早いなぁー」

ハープ「おいカギル起きろ、二人が戻って来たぞ」

限「起きていますよ」

番「あれ!?いつの間に…もしかして寝たふりしてました?」

限「そんなことよりも問題の武器を見ましょうか、どれどれ外へ…」パサッ

ハープ(あ、頬に涎付いてる)
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 23:05:43.85 ID:TrXTtjxIO
今夜も乙
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 23:21:34.39 ID:8ULxufGAO
焔「ショートブルメラ、つまりククリタイプの鉈のような剣っていうのかな、使い勝手は保証しますよ」

疾「いやぁー台車さえあればこの量でも楽勝だな!」

限「これは……すごい」


微笑むカギルさんの眼下には、台車いっぱいに短剣が積まれていた。

程よく湾曲した刀身を振るえば、薪だろうが竹だろうが力一つでスパッと鮮やかに切れるだろう。


限「どれ中身を拝見………おお」シャッ

焔「小振りだから携帯しやすいし、不慣れな人でも扱えると思いますよ」

番「わぁ、面白い形の剣」

ハープ(…ブルメラか…振って良し、投げて良しだな)


限「…素晴らしい品質ですねホムラさん、見ただけでわかります」

焔「いやぁ、ありがとうございます」

疾「運んだのは俺だぜ!」

限「…本数もかなりある、良いでしょう助かりました…是非この短剣を使わせていただきたいです、よろしいでしょうか?」

焔「もちろん喜んで!」

限「ありがとうございます、ホムラさん」

焔「こちらこそ、俺や先代らの技が町のためになるのなら」

疾「おーい、俺はホムラも台車に乗せて運んでやったんだぞ…蔵から運び出したりも…」

番「ふふっ」

疾「笑ったな!ツガエ姐さん!」

番「え?そう?」
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/25(火) 21:51:21.94 ID:NQgEqJRy0
限「……ふぁああぁ」

焔「あ」


気が抜けたのか、カギルさんは大口を開けて欠伸を零した。


限「! すみません、つい」

疾「へえ、カギルさんでも欠伸するんだ」

番「こらっ、ハヤテさん失礼ですよ」


カギルさんは照れ隠しなのか、小さく咳払いをする。


限「…しばらく睡眠時間を削ってばかりでしたからね、そろそろ仮眠を取らなくてはなりません」

焔(ああ、カギルさんずっと頑張ってたのか)

疾「んー、そうだなぁ……俺もさっさと寝ようかな?眠いし」

ハープ「ホムラも寝ておけ、仮眠だけでもしておかなければ、いざという時に行動力が下がるからな」

焔「……そうだな、じゃあ俺らも一休みとしようか…」



昨日の昼に戦があったというのに、その疲れは今の夜にまで残っているように感じた。

肩や脚がどことなくだるい。


限「先程、ナガトさんとも話をしましたが…」

疾「おう、俺らも会ったよカギルさん」

限「そうですか?でしたら彼の様子を見てわかるはずです、つかの間でも休みは取った方が良い」

番「ですね、敵がまた攻め込んでくるかもわかりませんけど…休む時はゆっくり休むようにしなくては駄目ですね」

焔「はい、ゆっくり寝ときます」


その前に体がベトベトだ。風呂に入りたいもんだ。

近くに共同浴場があったような…。
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 00:07:33.73 ID:hIW7MstAO
http://myup.jp/5aFlfnvA


ブルメラ。…これはショート、ブルメラか。

刃に向かって強く「く」の字に湾曲した刀身が特長の剣。

振るえば大抵のモノならば容易に断ち切る事ができ、短いタイプのブルメラであれば初心者にも扱い易いだろう。

ブルメラは大昔から山の民の間で使われていた、生活の上では欠かせない短剣だったらしい。

刃先は潰されているが針のように尖っているため、劣化を気にすることなく、鎧や甲殻に突き刺す使い方もできる。

また、投げた時の殺傷力は格別だ。


289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 00:34:49.39 ID:iV0YxD1So
設定画ひさびさ乙あんどお風呂にやにや
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 02:40:37.93 ID:h8lh4n9fo
丁寧に作り込まれてるよね。更新チェックが楽しみでたまらん
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 08:20:12.21 ID:+F6Rx4rIO
禿同
おつなんだな
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 15:44:27.63 ID:sQJnFuiDO
実家に昔あったなブルメラ
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 20:01:19.69 ID:BvzEyQFg0
かぽーん


疾「うぃぇええぃ…」ザバァ

疾「…ふぉー、あったけえ…良いねぇ夜のこの時間じゃ人もいねえ…まさかこんな時間も開いてるなんてなぁ、戦のせいかね」

疾「これじゃまるで温泉を独り占めしてる気分だぜ、はっはっはっ」



カラララ・・・

ペタペタ・・・


焔「うわっ寒…やっぱり夜だなぁ、さっさと湯船に浸かろう…湯船湯船…あれ?」

疾「〜♪」

焔「…って、ぇええ?」

疾「ん?おお!やっと来たかホムラ!あったけぇぞ!」ジャバジャバ

焔「なんだハヤテか、びっくりした」

疾「は?なんだよどうした…あ!湯船入る前に股間洗えよ!」

焔「言われなくても洗うっての…つーかハヤテそれ、髪の毛括るなよ、下ろしとけ」

疾「そンままだと湯にだらーんて藻みてぇになっちまうだろ、これでいーんだよ」

焔「…」ザバァー


焔「お、温かい…」

疾「しかも今だけ俺ら独占だしな!得した気分だよなー」

焔「だな、広くて気分が良さそうだ……さっさとそっち入ろ、かけ湯だけじゃ寒すぎる」


ザパァァ・・・
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 20:24:51.91 ID:BvzEyQFg0
焔「あ゙〜〜〜〜…」

疾「い゙〜〜〜ねぇ…」

焔「…ジジ臭いな、お前いくつだっけ」

疾「22、…そういうあんたは?ジジって歳でもないだろ」

焔「30」

疾「なんでぇ8つ違うだけじゃねえかよ、俺はむしろもっと歳食ってるのかと思ってたぜ」

焔「もっと歳取ってたとしてもその口ぶりなんだな…」

疾「はっはっは!歳の差なんて気にすんなよ、気楽にやってこうぜ!」

焔「俺の台詞なソレ」


ジャバッ


疾「あー、人がいねぇと脚も気にせず伸ばせていいわぁ…」

焔「そうだなぁ…」チャポ


疾「…戦が長引いてよ、町のやつらが少しずつ消えていったら……本当に誰も来なくなるかもなぁ」

焔「馬鹿言え、そんな風にさせないために俺らがいるんだろ」

疾「俺ら、ね…」

焔「?」


疾「…俺は戦場に出て、アンタみてぇに暴れ回れないから頑張りようっての?そういうのが見えなくてよ」

焔「…そりゃそうだが」

疾「…だからアンタが代わりに…俺にできないことをやってくれよ」

焔「……」

疾「あんたのおかげで良い短剣を握れた…ありがとうな」


疾「でもよ、それでも俺には銃も、弓も、槍も握ることはできないんだ、救護と連絡係だしな…へへ」
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/26(水) 20:46:39.10 ID:BvzEyQFg0
焔「お前、戦場に出たかったのか」

疾「それでもカギルさんの言ってることは正しいんだよ」


疾「…俺だってそう思う、救護と連絡係…脚の速さなら誰にも負けねぇ自信がある俺にはもうピッタリの役職じゃねえか」

焔「……」

疾「駆け足で怪我人拾って、サッと風のように退避させる…んで要り用とあれば即行で伝令だってやる…これほど俺にハマった役もねえ」

焔「でもお前は戦場に出たいんだろ?なんでカギルさんに言わなかったんだ」

疾「……さあ、流されちまったのかな……いいや、俺自身も納得してたしよ、俺の分野だってんでさ」


疾「…でもホント、もどかしいな?適材適所っつってもやれることは運んだり伝えたりだけでよ」チャポ

焔「……」

疾「友達が苦しい顔して戦ってるってのに、俺はそれを走り回ってみてるだけで……隣で手を貸してやることができないんだぜ」

焔「簡単に言う事かもしれないけどさ、そこまで思いつめるのならカギルさんに役を変えてもらうよう相談してみれば良いんじゃないか?」


疾「…馬鹿言えェ、駄目って言うに決まってる」チャポ・・・ブクブク

焔「子供みたいな事言って子供みたいな事すんなよ」

疾「だって“あの”カギルさんだぜ?相談しても“規定事項です”とかなんとか言われて突っぱねられそうだよ」

焔「そこまで厳しい人じゃな……どうだろう、そうかもしれない」

疾「あ〜〜もどかしい!できれば俺も戦の時には参戦してぇ!」


焔「…そうだなぁ」

疾「?」

焔「次何かあった時に、何でも良い…手柄を立ててみれば良いんじゃないか?」

疾「手柄?」

焔「おう、囲まれた窮地の民兵をよ、颯爽と駆けつけて敵達をズバッと」

疾「……あの短剣で?」

焔「…おう」

疾「…さぁーて!これからも衛生兵頑張るかぁー!」

焔「……」
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/27(木) 19:29:25.18 ID:gMwLFRke0
戦っている時は夢中だったし、自分の生死もかかっていて全く気が付かなかった。

俺と同じように、敵と真正面から現状に抗いたいという奴も、町の中にはいるのだ。


死と隣り合わせの戦なんてそれだけ聞いたら俺だって御免だが、この戦には家族が、いや皆が住む町の命運がかかっている。

恐ろしい、それでも戦いたい、戦わなきゃならないという思いは大なれ小なれ、皆にあるのだ。


…しかし、ハヤテのように運悪く、真っ向から敵と対峙できない奴もいる。

だから俺ら一般兵達はそいつらの思いも背負って、いつか来る戦場に立たなければならないのかもしれない。


死んだ町の人々の魂やら、何やら。


まだまだ数日の経験だが、戦ってのは歩くたびに荷物が増えるもんだなぁと実感する。



槍「…あー、擦り傷が沁みるなぁ…」チャポ

疾「だなぁー」


敵の軍勢は再び町にやってくる。

できればどうかあと二日くらいは、ゆっくり風呂に入らせて欲しい。
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 19:40:23.91 ID:NZldc3NIO
キテタネ乙
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/27(木) 22:46:12.44 ID:gMwLFRke0
焔「……」


白い布の低い天井を見上げながら、温かい毛布の中で考える。

何を考えてるかって訊かれたら、まあ、眠くてまともに何も考えられやしてないんだが、それでも俺の頭の中では様々な事が旋回していた。


町をめぐって、皆の活気と想いを見た。

ハヤテのような非戦闘員の想いも垣間見ることができた。

怪我人、職人、非戦闘員。それら全ての人々の想いが、俺ら一般兵には相当の重圧がのしかかっている事を肌で感じた一日だった。


確かにこの重圧は精神的にはちと辛いものがある。

だが考えてみれば、むしろ良い傾向だ。まだ誰もこの町を諦めておらず、絶望に打ちひしがれてもいない。

…ナガトさんのように精神がやられ制御が効きにくくなってしまった人はいても、現実から逃げ出そうとする人はほとんど居ないように感じた。

きっと良い事だ。良い現状に違いない。



焔「あとは次の戦に備えて…そこからだ」


天井に呟きかける。

初戦では随分とボロボロにされてしまったが、戦い方がわかった以上、さらに万全な状態であれば負ける要素などどこにもない。

それに…ハープさんもいる。


彼女が何者なのか未だに全くわからないが、心強い存在であることは違いない。心から尊敬できる、まさにセンセイのような人だ。

だが町を守るのは彼女ではない。俺ら町人だ。


焔(…民兵達が全員団結すれば、いけるさ……)



俺は愛するこの町の皆を信じている。


それぞれの笑顔を思い浮かべながら、俺の意識は闇の深くに沈んでいった。
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 07:48:29.43 ID:vH3aChxIO
乙乙なんだぜ
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 21:32:30.00 ID:biR3oamL0
――――――――――


カラララ

『この棚に砥石、ムクノハ、トクサ…』

『……』

カラララ

『こっちは鎚だ、木槌から歯振り…』

『じいちゃん』

『? なんだホムラ』

『飽きた、外でボール蹴って遊びたい』

『外で遊ぶのは一日一時間と約束しただろう』

『えぇー、足りない、もっと遊びたい』

『お前はそれより先にやらなきゃならんことがある』

『刃物の勉強?だから飽きたってば』

『これで遊ぶんだよ、ホムラ』

『えー…?』


ゴトッ

『いいか、石を触るんだ、平たいものでな、そいつを色々なものを用意して…例えばこれらだな』

カチャカチャ・・・

『それ、砥石じゃん』

『うむ、この石の粗さを手触りだけで当てるんだ、どうだ?』

『…それ楽しいの?』

『もちろんだとも!俺も昔ァよく親父にやってもらったもんだ、さあ、目ェ瞑ってやってみろ!』

『本当に面白いのかなこれー…』


サスサス




――――――――――
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 22:53:55.88 ID:vH3aChxIO
おつん
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/30(日) 19:42:20.92 ID:+Z/if+4AO


『駒の配置、なかなか上手くなったではないか』

ハープ(お前は私が駒遊びをするのには反対だったんじゃないのか?)

『能率が悪いのでな、しかしたまにはこういったやり方も悪くない』

ハープ(……ふん)



女の子「すー……すー……」

ナデナデ

ハープ(…私単騎で奴等を潰すのも悪くはない、結果は同じだ。しかし世の人がそれに甘えるようでは、世直しの意味が無い)

『今回の侵攻など滅多に無い事だ、次を気にするほどか?』

ハープ(…どうだろうかな)

『良いがな。たまには趣向を変えて見るのも気分転換になる』

ハープ(…そういう言い方、好きじゃないな)



『……おい、まだ眠るな』

ハープ(? なんだよ)

『聞きそびれだ。…お前、惨劇軍の魔族共の説明に何故“アレ”を抜いた?』

ハープ(…“アレ”は全ての軍勢に混じっているわけじゃないだろ…希な存在さ)

『この町には来ないと高を括っているのか?』

ハープ(いるかどうかもわからない存在を教えて、無駄に士気を下げたくもないのでな…居たら居たで、布陣も変えなければならないし)

『“アレ”が混じっていないことを祈っておけよ』

ハープ(……ふん…)


ハープ(居たら居たで……潰してやる)
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 19:45:51.31 ID:dvswuY5Po
もしかして紙に召喚された魔王の続編?
ちょっと読んでURL紛失して悶々してるんだが…
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/30(日) 20:53:07.18 ID:ENOemRMa0
鋭利にそそり立つ断崖絶壁を、そろりそろりと白い影達が移動する。

黒い爪を、あるいは鋭利な鱗を、剣を、棘を。存在する全ての鋭利な部位を用いて、白い影達が岩肌を移動する。



「ォオン?」



黄色い隻眼を光らせる一体の魔族が、岩を踏み外した。

がらりと音を立てて崩れ落ちる脆い壁面と一緒に、一体のヤハエは風を切って静かに落下してゆく。



「グギッ」


詰まるような小さな悲鳴は壁を這う軍勢達にまで届かなかったし、軍勢達は落ちていった一体の兵など気にも留めなかった。

落ちれば剣山のような壁面に叩きつけられる決死の大移動。既に何体もの魔族兵が落下し、突き刺され息絶えている。

しかし恐怖を持ち合わせない魔族達は気にせずひたすら移動を続けた。


目指すは朱金の町、バンホーの採石場。

平たい地面に降りた時こそ、新たな惨劇の始まり。




「――おら、さっさと進め雑兵共。我らが魔族王様と俺の名を汚してくれるなよ。――」



時折白銀の月光を遮るように旋回する蝙蝠の翼は、どの目から見ても禍々しい。

物見台に立つ、彼からも。





民兵「……! な、なんだアレは……!」
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 22:28:56.42 ID:+Z/if+4AO
>>303
確かにその話も書いたことがある

でも続編と思って読むほど地続きな話ではないから、悶々としたままで全く問題ない
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 22:34:18.28 ID:dvswuY5Po
いやいや
あの魔王の奴の続きも読みたくて悶々としてるんだ
どのまとめサイトだったかも覚えてないのさ…
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 22:44:31.44 ID:+Z/if+4AO
>>306
…あの話のスレを全て読んでないってこと?

なら…うーむ…

http://nanabatu.web.fc2.com/new_genre/youjo_maousann_ha_yoihitodesu.html

…はい。
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 22:47:46.58 ID:dvswuY5Po
ありがとう!
これですっきりできるぜ!
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 22:08:04.88 ID:MJ2JnbqR0
「おーい、ホムラー…」


ガシッ

サスサス・・・


焔(……滑らかな表面…何千だろう…万いくかなこれ……)

焔(細かいな…こんな石があったらどれだけ滑らかな刃が研げるだろう…)


疾「……」

焔「うーむ…しかし仕上げに使うにはちょっと細かすぎる…」サスサス

疾「…おーい…」

焔「鏡面を出すつってもこりゃあやりすぎだな…むにゃ…」

疾「…起きる気ないなら手ェ離せ鍛冶馬鹿!」


ベシッ


焔「いて」
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/31(月) 22:26:12.27 ID:MJ2JnbqR0

蛍羽虫が月明かりを反射するテントの白におびきよせられているためか、本部のテント群は淡くも温かな光に包まれ、明るかった。


懐かしいようなそうでもないような夢の中を泳いでいる最中を俺をハヤテは何を思ったが平手で起こしやがったので、今俺は仕方なくテントの外で寒さに震えている。


疾「まあまあ、いいからいいから!来いって!」

焔「ふぁああ…何が良いんだよ良くねえよ眠いんだよ…」


人気のない真夜中のテントの脇を、誘われるがままそろりそろりと付いてゆく。


疾「トイレに行く最中に偶然見たんだ、ほら、アレだ」

焔「ん?」


疾風がテントと木造家屋の僅かな隙間から覗ける向こう側を指差した。

そこを覗けということなのだろうか。


焔「女湯くらいのもん見れなかったら怒るぞ、ハヤテ」

疾「へへ、そこまで上等なもんかは知らねえけど、珍しいもんだよ」


自分の歳も置かれている状況も忘れて、俺は童心に帰り隙間に片目を合わせた。



焔「……ん?」
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/01(火) 21:25:43.32 ID:a/aJN3RB0
限「ッ…… ッ……!」



隙間の奥には、割と見慣れた男性の姿が見えた。

両の手に小振りの剣を握り、美しい演武を舞っているカギルさんだった。



焔「…カギルさん、こんな遅くに何やってんだ」

疾「さーなぁ?でもよ、カギルさんが剣握ってる所なんて新鮮だろ?」

焔「……剣のすっげー使い手だってことは知ってたが、実際に見たのは初めてだ…」


顔から汗を迸らせ、滑らかな動作で剣を振るい踊る様は、カギルさんが剣術の達人であることを瞬時に理解させた。


焔「すげぇな、見たことのない動きだけど、ありゃ本当に達人だ」

疾「そうなのか?…まぁかっこ良い動きだし」

焔「……」


深い夜の闇の中で映える赤と白の衣。

カギルさんは常に本部の席に座していなければならない、指令役をもった人だ。

この人もまた、ハヤテのように戦場に出られないもどかしさを感じているのだろうか。



疾「うーん、でもやっぱ素人目にはわかんねぇな」

焔「……」


ハヤテがわざわざ夜中に俺を叩き起こしてこの光景を見せたのには、そういった意味もあるんだろうか。

それとも特に深い意味なんて無いんだろうか。無いのかもしれない。俺が言うのもなんだが、こいつ馬鹿そうだし。


俺らはしばらくの間、カギルさんの演武をこっそりと拝ませてもらった。
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/01(火) 21:58:14.55 ID:a/aJN3RB0
焔「あー、完璧に目が冴えた」

疾「悪い悪い」

焔「悪びれた風も無い顔してんなお前」

疾「んなことねえよ!へっへっへ」


大きな焚き火に焦がされる一歩手前になりながら、俺らは地にだらりと体を預けていた。

テントに戻って毛布に包まれていた方が体には良いんだろうが、どうも今だけは、暗く人も多い陰気な寝室には戻る気になれなかったのだ。

もちろん、カギルさんの舞いを見て気分が高揚したというのもある。



焔「…剣、かぁ」

疾「あん?なんだよいきなり」

焔「なんでもね」

疾「言えよー」

焔「…」


焔「ハープさんに言われたことなんだけどな」

疾「また“さん”付けかよ」

焔「…彼女が言うには、剣や刀や…槍なんてものは、この戦じゃあんまり使えないんだそうだ」

疾「なに?あのガキ、お前にそんなこと言ってやがったのか?」

焔「まぁ…鍛冶屋としてはかなーーーり悔しい所も、俺もあったさ」


焔「だけどハープさんの言う事は正しいって俺自信思ってるから何も言えないんだ」

疾「……」


ハヤテも何も言わなかった。

一度、あの戦場を見ればわかる事だ。刃物を握って近づこうなど砲撃の的。

まさに自殺行為だし、運良く懐に入れたところで敵の首ひとつでも取れる気も全くしない。

じゃあどうすりゃいいのかって、



焔「はぁ…銃なんだよなぁ〜…」

疾「ガキの言う事だが、否めねぇなあ…」


ハヤテの腰に括られた一本のブルメラが俺の目に悲しく映っていた。
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/01(火) 22:11:15.46 ID:a/aJN3RB0
ぱちぱちと音を立てる炎の奥には、小さな物見台が見えた。

丁度良くこの位置からは遮蔽物が無いらしく、かなり遠くの採石場辺りにあるはずの物見台の頭がちらりと覗ける。

額当てを上手く下げて無駄な光を減らしてみると、その影はさらにくっきりと見られた。



焔「…煉瓦の壁の生産、みんな頑張ってたなぁ……」

疾「だろ?その“頑張ってた”の中には俺も入ってることを忘れるなよ?」

焔「はいはい、よく頑張ったよ…」

疾「なんだそれ!もっと褒めろ!」

焔「お前な、もっと謙虚になれないのか」

疾「はっはん、世界一の飛脚が謙虚になる理由なんざどこにも無いぜホムラ!」


俺も随分と面倒臭い奴に絡まれたもんだ。


焔「世界一ってなぁお前、簡単に言うけどよ…世界ってのは多分そんな甘いもんじゃねえからな…」

疾「ああん?まるで世界を見てきたかのような口ぶりじゃねえか」

焔「別に見ちゃあいないが……井の中のなんとかってことだよ、この町は海じゃないのさ」


きっと世界には俺以上の鍛冶屋が何百人、下手すれば何千人もいるのだろう。

俺も自分の腕に自信が無いわけではないが……。




焔「……ん?」

疾「どうだかなー?少なくともこの町と、隣町じゃあ俺より脚の早い奴の話は聞いたことが無いぜ?俺ァよ」

焔「…おいおい、可笑しいな、さっきまで見えてたのに」

疾「……なにしてんのお前」



額当てを上げ下げして、目に入る光を調節する。


だが、いくら目を細めても、眺めても、遠くにわずか見えていたはずの物見台が、もう見えないのだ。
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 16:31:47.07 ID:q++7D/ugo
物陰から応援してます!
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 21:23:00.08 ID:1grC/U+z0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「やっちまえ」


空に浮かぶ蝙蝠が一言高い声で命じると、周囲の魔族達は一斉に林の中を駆けだした。

傾斜が強く足場の悪い山道に苦戦しつつも、魔族達は一直線にその場所を目指す。





民兵「やばい……やばいやべぇ!何か向かってきてやがる…!?」


採石場前の物見台には一人の男がいた。そして恐怖している。

無理もないだろう、彼は高い視点から見下ろす山道の中に、多数の光る目を見てしまったのだから。


民兵「くそっ…!岩肌に何かうごめいてると思ったらこれだ…!」


幸い採石場は町とは距離がある。こうして見張り役の自分が気付けた事は町にとっては幸いだ。

男は振るえる手で素早く弓を持ち、特製の矢をつがえ、汗ばむ手が滑らないよう、慎重に構えた。



民兵「……頼むぜバンホー…ツガエ先生…この一矢だけは絶対に外さないでくれ…!」


狙いは町に立つ、ここから最寄りの物見台。


民兵「……っ!」ドヒュッ

多少の距離はあるが物見台のどこかに当たれば良いのだ。男は覚悟を決めて、矢を放った。



民兵「……よし…!」


狙った物見台の足の部分に、放った矢の花火の明りが煌々と光っているのを確認する。敵襲来の連絡はひとまずこれで完了だ。

光る矢を放ち、敵襲を町側の物見台に知らせることで、この物見台が敵に目立つ鐘の音を鳴らさずに済む。

見張り役一人の命も尊ぶ作戦のひとつだった。



民兵(あとは俺は町に走って退避…!俺自身も敵の襲来を知らせなければ…!)


男はすぐにハシゴに足をかけて、二段飛ばしで降り始めた。

こちらへ迫りくる眼光の移動速度はかなりのものだった。山道で足を取られていたとしてもそう時間はない。

ここから早く逃げなければ、敵の襲来を知らせただけで殺されてしまうかもしれない。

見張りとしての責務を全うしたとはいえ、ついでに死ぬのはやはり御免である。だが……




「キキキ、なんだぁ逃げ腰の野郎がいやがるぜ」

民兵「は――――!」


物見台の根元に向かって飛び込んできた青い火球を見て、男は死を悟った。
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 21:43:27.18 ID:1grC/U+z0
民兵「…やべぇ…」


土煙と共に崩れ落ちた物見台。

男は落下し柱の下敷きとなったが、辛うじて生きている。額当てが無ければ頭蓋が割れていたかもしれない。


痛みは無かった。

先程まで興奮していたからだろうか。


民兵「くそ、はやく…逃げ……!」


血まみれの掌で覆いかぶさる木材をどけようとした時、その上に腰をかけた存在に汗を噴き出した。



蝙蝠「逃げるなよ人間、犬じゃねえんだから」

民兵「…っ!ぁ…ぁああ…!?」


一言で姿を表すならば“コウモリ”が妥当だが、手と足が長くサイズも人間ほどある、架空の生き物で言うところの“悪魔”のような風貌。


オレンジ色の眼光は笑むように三日月形に歪み、地に伏した男の真上で悠々と足を組んでいる。


蝙蝠「…ん?なんだその格好は、随分と軽装だな、惨劇軍も舐められたもんだぜ」

民兵「や…やめてくれ…!くそ、やめろ…!」

蝙蝠「ハァ?人語なんざわかんねーんだよ猿、恐れ慄くなら俺の使ってる言葉でビビれっての」

民兵「何をする…!くそ!殺せ!やるなら一思いに殺してくれ!」

蝙蝠「お?それならわかるぜ!“ナミダ”ってやつだろ!それならビビッてんのもよくわかる!ハッハッハァ!」



――グシャ


男の顔面は鋭い鉤爪によって深く引き裂かれ、彼の意識はそこですぐ途絶えた。


蝙蝠「……全ての人間に“惨劇”を!」


「「「ォオオオォオオォオォオオオ!!」」」




林から続々と現れる、白い肌の魔族達。

生命の本能を怯えさせる邪悪な咆哮が岩場に木霊した。


彼らの次なる標的は、町だ。
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 22:01:04.19 ID:GBgMXIGb0

カァァァン・・・ カァァァン・・・・


町中の物見台が、音叉のように次々に警鐘を鳴らし始めた。

その中でもより速く音を刻む物見台こそ、異常を発見した方角の物見台だ。


眠っている民兵達にとってはさぞ心臓に悪いことだろう。

何せ、自分らの陣地に一番近い物見台から金がけたたましく鳴っているのだから。



「採石場近くの物見台辺りから煙が上がっているーッ!採石場の辺りから敵が来るぞーッ!」


人が叫び、迫る危機を知らせる。跳び起きたであろう男達の表情には余裕が無い。

いつかくるであろうとは思っていても、あまりに早すぎる夜襲に、誰もが恐怖し、恐慌した。


疾「ふぅー…起きててよかったなホムラ!」

焔「ああ、着替える手間が省けたのが良い方向に転んでくれりゃ良いんだが…!」


もちろん、俺自身にも恐怖はあった。


だが、どれだけ絶望できる状況なのかを掴めなければ、俺は絶望なんてしている暇は無い。

早とちりして落胆するよりも先にやることがある。
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 22:34:24.03 ID:GBgMXIGb0
限「集まりましたか、みなさん」


広場には鐘の音で叩き起こされた何十人かの民兵が集まっていた。

燃え盛る大きな焚き火を背に、額に薄く汗をにじませたカギルさんが俺らをまとめている最中だ。


「カギルさん、警鐘が…!」

限「ええ、のんびりしている時間は無いので急ぎます、我々は採石場方面からやってくるであろう敵を迎え撃つための準備に取り掛かります」


長「何故採石場に奴らがいる?そこへ行くには町と繋がっている坂道を登る必要があるはずだぞ」

「鐘を鳴らす方角を間違えたんだ!もしかしたら正面から来てるのかも……」

焔「それはない、俺はこの目で採石場の物見台が崩れ落ちるのを見たんだ、あそこで何かあったことは間違いないよ」

限「その通りです、採石場付近の物見台から放たれた花火矢の色は…間違いなく、採石場からの異常を伝えるものでした」

「じゃあどうして採石場が……」

「そんなこと考えている場合か!?今にも敵は迫ってるんだろうが!」

「早く持ち場に行かないと…」

「採石場から敵が来るなんて知らねえぞ!?持ち場ってどこだ!?」

限「……」

「カギルさん!どうすれば良いんだ!?」

「カギルさん!」

焔「……」


兵たちは焦りの色を隠せなかった。

かくいう俺も隠せない。何故なら、採石場の辺りから敵が来るなんて事は誰も想定していなかったからだ。


あの辺りは剣山のように鋭い石が立ち並ぶおっかない場所で、道なんてものは一切ない、まさに剣山地獄のような所だ。

そこから敵がやってくるなんて、地と垂直に切り立つ岩壁を伝い渡るなんて命がけの事をしない限りは…。


…命がけで…岩肌を伝い、裏のルートから奇襲を仕掛けてきたってのか?


焔「……!くそ、あいつら、まさか……なんて奴らだ!?」

限(……どうする…)
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/04(金) 22:43:07.85 ID:Xz/HJxQ10
長「テメェら、ヘタってんじゃねえ!」

焔(うわ)


隣にいたナガトが突然大声を出したので、この場に居る皆は一瞬肩を竦めた。

至近距離の俺だけはあまりの声量に違う意味で驚いた。


長「今にも敵は攻めてくる、敵がやってくるルートはわかった、ならば奴らとぶつかる意外に手はねぇだろ」

「ぶつかるったって、どうやって…!」

長「敵が来てるんだろ?なら俺らも敵の方へ行けばいいだろうが」

焔「まぁ確かに」

疾「…んー、だよなぁ、敵が町まで来るってんなら、町に着く前に行って戦うしかねえな…当たり前だけど」


限「…防壁無しで魔族と挑むとなると…かなり苦戦を強いられそうですが、採石場からのルートでは防壁もありませんね、連携でカバーするしかないでしょう」

焔「防壁無しか…」


最初の戦では煉瓦の壁のおかげで何度も命を守られたが、今回はその準備が整っていない場所での戦いとなる。

敵の主力と言っても過言ではない、青い炎の巨人“シドノフ”。

あいつの腕から放たれる砲撃を果たして、壁無しで対処できるのだろうか…。



ハープ「木を盾にして戦うしかあるまい」

焔「! ハープさん、居たのか」

限「木を盾に、ですか…なるほど、採石場までの緩い坂道の脇は林、両サイドから坂を挟むようにして火線を斜め前方に向けるようにして戦えば…」

長「時間が無い、それでいくぞ」


突然現れた背の低い少女の提案の合理性を考える暇も無く、ナガトは先陣を切って走り始めてしまった。


「お、おい!一人でいくな!危険だぞ!」

「独断の行動は…!」

焔「俺も行くぞ、独断どうこう言ってられるほど余裕のある状況じゃないからな」

限「急ですが仕方ありません、ですが向こうでは可能な限り連携が取れる状態にしてください」

「なっ…」

疾「俺も行くぜ!大丈夫だお前ら、怪我をしたら俺が連れ戻してやるからよ!」

焔「皆も準備が整ったら向かうんだ、坂道は使わずその脇の林を移動して、会えたらそこで落ち合おう」


俺は腰に銃がしっかり備わっていることを確認すると、すぐさまナガトの後を追った。
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 22:58:28.91 ID:SflQru6jo
ありがたやありがたや
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/04(金) 23:21:56.90 ID:Xz/HJxQ10
ダッダッダッダッ・・・


焔「はっ…はっ…暗いな…!」


前方をゆくナガトの靡く後ろ髪を目印に夜道を全力疾走する。

夜の山から降りてきた生臭い冷えた空気は肺を凍てつかせるようだ。



疾「とりあえず敵の規模や、配置は把握しておかないとな!」


対して俺の隣を併走するハヤテは余裕そうな表情だ。スタミナは俺より遥かに上回っているのだろう。


焔「ああ、さすがに銃…っ…一丁で、敵全員とガチンコするつもりは無いぜ…しばらくは敵と味方を待つ形になるだろうな…っ」

疾「味方を待つか……お?後ろからも続々と、兵たちがやってきてるぞ!問題なさそうだ!」

焔「そうか、…じゃ、陣を展開すればすぐ戦えるってことかっ」

疾「多分な!……そうだっ」

焔「?」

疾「おらよっとォ!」ガシッ

焔「おい!?」


走っている最中、ハヤテは通り過ぎざまに道に刺し立てられた長い松明を引っこ抜いた。

長さは2mほどもある、大きなトーチだ。


疾「こいつを目印にするぜ!おーい!後ろ走ってるお前らー!こっちだー!」ブンブンッ

焔「…なっ…なんでこの状態で叫べるんだっ…!?」


ハヤテが後ろ向きに俺と同じ速度で走りながら松明を振るい、後方の味方に向けて叫ぶという荒技をやってのけている間に、そろそろ件の坂に到達しそうである。


焔「……ハヤテ、気をつけろよ、敵が近いかもしれねえっ…」

疾「おうよ!」


坂道に入ると同時に、俺とハヤテは脇の木々の合間へと潜り始めた。



焔(夜の山道での戦闘…考えただけでも恐ろしいな)
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/04(金) 23:40:34.47 ID:Xz/HJxQ10
「「「ォォオオオオォォォオォォオオォオオ!!」」」


長「…〜!!」ビリビリ

ォォオオォオオォオ・・・



長「…全軍で一斉に吠えて…威嚇のつもりか、おもしれぇ…!」ザザッ


長(今の方向で奴らとの大体の距離はわかった…まだそう近くは無い、だが近づいてきているとすれば油断はできない距離…)


焔「ナガト、来たぞっ…!」

長「ホムラか、…声は抑えとけ、奴らに悟られるかもしれん」

焔「いっ…言われなくても…もうっ、声出ない…はぁっ……!」

疾「あれ、じゃあこれ持ってこない方が良かったか?」

焔「……あ」


疾風の右手にはごうごうと炎を燃やし続ける松明が握られていた。山の闇の中で、炎は眩い光を放っている。


長「…今はまだ味方の目印になるかもな、持っておけ…敵に遭遇したら捨てれば良いだけの話だ」

疾「俺、これずっと持ってんの?」

焔「引っこ抜いた責任はちゃんと取れよ…」チャキ


銃を取り外し構える。

火薬チップは十分に補充されているので、残弾は問題ないはずだ。


経験上は一発で小さめの奴なら倒せる…シドノフは…しっかり当てることができるだろうか。



タッタッタッタッ・・・

「来たぞ!どうすればいい!」

長「林の中で2、3人一組で散れ、間隔を開けて広がれば侵攻をカバーできるはずだ」


そうこう考えている間に、後続の民兵達も次々に到着している。


気付けば坂道脇の林には、大勢の民兵が展開されていた。



長「ふん、口では臆病だが、やればできるじゃねえか」

ナガトも鎖付きの手持ちジャベリンを手に握った。


今まさに、戦いが始まろうとしている。
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/06(日) 15:11:53.48 ID:F7mJ0S4d0

限「…隊列はそれで以上です、先に向かった民兵達に知らせて誘導し整えてください」

「はい!」

限「私も指揮として後でそちらへ向かいます」

「了解!向こうでお待ちします!」


タッタッタッタッ・・・


限「…武器は」

「今、蔵から7割くらいのものを積みだして、今すぐにでも向こうへ運び出せます!」

限「よし…わかりましたすぐに戦場へ届けてください」

「わかりました!」

限「次に…」

ハープ「町の守りもある程度固めておけよ」

限「! ハープさん……はい、わかっています」

ハープ「失態だったかもな?向こうの物見台の真下の防壁、築き忘れていただろう」

限「…はい。慢心です…大きな失態です」

ハープ「落ち込むな、私が見張りの安否でも確認しにいってやろうか?」

限「…及びません。責任は戦が終わった時私が全て受けます」


限「この時だけはまだ私は汗を拭ってはいけないのです」

ハープ「…良い心構えだ、誰であれ、お前の下につく奴は本望だろう」

限「…」

ハープ「さて、私も様子見に行ってこようかな」

限「危険ですよ」

ハープ「奴らほどじゃないさ」


タッタッタッタッタッ・・・



限「…」

弓「短弓隊の装備が整いました」

限「…はい、では煉瓦壁のエリアで待機させてください、警戒は十二時と十時です」

弓「了解しました、カギルさん」


限(……私も行かなければ)
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/06(日) 15:28:38.26 ID:F7mJ0S4d0


蝙蝠「お?…面白いねぇ…こうも早く布陣を固めてくるとは」


蝙蝠のような顔をした魔族は、魔族の軍勢の前に立ち、遠くを眺めていた。

かなり遠方には街明りが見え、その手前には小さな炎の群れが存在している。


蝙蝠「あれを目印に陣を敷いていると見た。…そこらにいる兵どもを全員殺せば、シドノフの砲撃が町へ届く距離まで近づけるな」


邪悪に笑む。


蝙蝠「主砲(シドノフ)一体でも近くに野放しにできりゃあ、あとは撃ちまくるだけだな…この程度の町なら簡単に潰せる」

「ォオオオオン!」

蝙蝠「うるせえ下級種(ヤハエ)、てめえらは捨て石だ、さっさと行ってさっさと死ね」

「コォオオオ…」

蝙蝠「…チッ、思ったよりも辿りつけたシドノフの数は少ないな…堅い岩肌もシドノフの巨体は支えきれなかったか。まぁいい」



蝙蝠「…よーしクズ共、この俺、ダマ様が命じてやる!シドノフは可能な限り早く敵陣を突破して町をブチ壊せ!」


「「「ォオオオオオオォオオ!」」」


ダマ「他のカス共はシドノフを護って、人間共を殺して、あとは勝手に死ぬまで暴れてろ!」


「「「ォオオオオオオォオオ!」」」



ダマ「……」

「「「…………」」」


ダマ「…特攻!」

「「「ォオオオオオオォオオ!」」」



重い足音の群れが散り、町に向かって前進を始めた。
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/06(日) 15:39:58.42 ID:F7mJ0S4d0

「「「ォオオオオオオォオオ!」」」

ドドドドド・・・




長「…来るぞ」

焔「わかってる、距離はあるだろうってのに足音が聞こえてくるからな」

長「まさか奴ら、一点集中で来ないだろうな」

焔「来られたら開いた陣形のほぼ中心にいる俺らが大変だな」

長「何十体の群れとか、想像以上の集団で来られても逃げるなよ」

焔「逃げねえって、ナガトこそ逃げるなよ」

長「笑わせてくれる」チャキッ


長「…ジャベリンの調子が良い、礼を言うぜ」

焔「お?そうか?」

長「これが終わったら一本、俺の専用ジャベリンを打ってもらおうかね」

焔「金取るぜ?」

長「終わったらだ」



ダッダッダッダッ・・・!



疾「! 足音、すぐそこじゃねえか!」

長「チッ、深緑が邪魔で近づかれないと見えないな」

焔「言ってられねえよ、迎え撃つぞ!」


ガササッ


魔族「ォオオォオオン!」
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2011/02/06(日) 15:55:16.40 ID:d7/UFHoAO
http://myup.jp/QFfqVmjo


危難のダマ、惨劇軍の上位種だ。

両腕には繋がった長いフィルム状の組織を持ち、その形を自在に操る事ができ、翼にもできるようだ。

柔らかそうに見えるが衝撃には強く、非常に鋭いらしい。

上位種は高い知能と力を持つ。出会ったら逃げろ。
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 16:39:23.14 ID:ub8tE+c4o
焦らすのがうまいおつ
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/06(日) 18:09:52.12 ID:F7mJ0S4d0
焔「来た!」

魔族「ォオン!」


間合い十数メートルといったところで初めて敵の姿を視認できた。

勢いの良い左右のステップで柔らかい地面を突き刺しながら、木々の合間を縫うようにして人型のそいつは現れた。


前にも戦に姿を現したことのある人型の魔族、ハープさんの説明にもあった“ヤハエ”である。



魔族「フッ!」ジャリッ

焔(速っ…!)


鎧のような足先は安定しないこの山道でも上手く走ることができるらしい。

一体のヤハエは俺のすぐ目の前にまできていた。
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/06(日) 19:34:12.06 ID:F7mJ0S4d0
焔(間に合え…!)チャキッ


手にした火薬銃を白い影に向ける。

激しい左右の動きに戸惑う暇も狙い澄ます暇も無く、ただただ引き金を二度引いた。


ドォン!ドォン!!


緊張が走る爆音が二度、鼓膜を殴る。

銃口から漏れる火薬の光は夜の闇に映え、胴体に二つの穴を開けた魔族の姿を瞬時にくっきりと映し出した。二発とも命中したようだ。


ヤハエ「ォン……!」


魔族の体が大きくよろめいた。

倒れ地面に落ちるかと思いきや、だが敵は強く地面を踏み、留まった。



ヤハエ「…ォオオオオッ!」

焔「くっ」


大きく開けた気味の悪い口が咆哮する。そして振り絞られた長い二本の腕が、黒い爪を剥き出しにする。



長「あまり弾を無駄にするな」ヒュッ

焔「!」


ドスッ


背後から俺の脇を抜けるようにして、“何か”が目にも止まらぬ速さで飛び出した。


ヤハエ「……!」

黄色く光るヤハエの目玉らしき部分を一本のジャベリンが抉り、後頭部にまで貫けている。


長「まだ来るぞ、注意しろ」

焔「…!お、おう!」


さすが敵陣の最深部にまで一人で攻め込んだ男だ。武器の取り回しも慣れたものだ。
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/06(日) 21:32:06.02 ID:F7mJ0S4d0
「ォオオオオ!」


長「! ぼーっとするな!左前方から来るぞ!」

焔「ぼーっとすんなっつっても!」


指示された場所とは反対方向に2歩飛び退く。俺みたいな素人が銃を近距離で扱うのはマズいのだ。


疾「やっぱこれ俺の松明のせい!?どっかに置いとくか!?」

長「こんな場所じゃ投げ捨てるわけにもいかないだろ!」



そんなコントをしている間に、向こうから青い炎の明りがうっすらと見えてきた。



タイエン「ボォオオォオォ…!」ブンッ

焔「げっ、なんだこいつ…!タイエンか!」


こいつもハープさんの描いた絵の中にいた魔族だ。

説明と絵の通り、ちゃんと巨大な重量感ある剣を両手に突き刺している。


大剣を緩慢な動きで振り被り、侵攻を妨げる木々を何度か切りつけて凪ぎ払いながら進んで来る。



長「…あいつは動きが遅い!銃で倒してくれ!俺は素早い爪の奴を殺る!」

焔「おっけ、任せろ!」ダァン!

疾「…持ってるのもなんだしここに突き刺しといていいか?」

長「勝手にやってろ!」ドヒュッ


次々に前方から現れてくる歩兵たち。

昼間の戦闘では遠くから弓と銃で狙い撃ちの的にできたが、こうも狭い場所ではある程度の距離にならなければ敵の姿を見ることすらできない。




焔(くそ、やっぱり銃は使い慣れないな…!)ドゥンッ!

タイエン「ブボォッ…!」



敵の数は何体か?

敵はどこまで展開しているのか?


様々な不安を抱えながらも、俺らはこの場所を食いとめるだけでも精いっぱいだった。
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/06(日) 21:43:10.41 ID:F7mJ0S4d0
タイエン「ボォオオオ…ッ!」ザッ


長「! またタイエンが現れたな…こいつは動きが鈍いからやりやすいぜ」チャキッ

焔「…他にはもう、ひとまず後続は来なさそうだな…発砲音や叫び声が遠くからも聞こえる、敵は広く浅くって風に展開してるみたいだぜ」

長「…どこかしらが突破されていたらマズイな…」

疾「おい、よそ見はするなよ!少しずつ近づいてるぞ!」

長「大丈夫だ、こいつは手にした剣の重みを支えるので精いっぱい…」

タイエン「…ボォォォオオッッ!」メラッ・・・


ナガトが余裕の表情を見せたその時だった。

向こうの木々の狭間に立っていた鎧姿の魔族、タイエンの様子が変化している。


タイエン「ォオオオオッ……!」メラメラッ・・・

長「…!?なんだあれは…!」

焔「あの炎は…」



タイエンが低い姿勢で剣を構えると、その体は腕伝いに青い炎が伝わってゆき、数秒も経たぬうちに全身が眩しい青い炎に包まれていた。


焔「! あれはやばいぞナガト!右に跳び避けろ!」

長「!!」

タイエン「ボォァァアアァアァッ!!」

ダンッ



先程まで鈍くさく緩慢だった動きのタイエンが、突然だ。

鎧の隙間から勢いよく青い炎を吹き出しながら、大剣を真上に振り被って、俺らのすぐ真上にまで跳躍してきたのだ。
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/06(日) 21:51:50.73 ID:F7mJ0S4d0
ズガァンッ!


長「ぐあっ…!?」

焔「!」


地面は叩き割れ、剣は地中に半分ほど埋まっていた。



長「……あぶねぇっ…!」

疾「大丈夫か!?」

長「…あとコンマ2くらい俺がトロけりゃお前が要りようだったな…!」


ナガトは剣が脳天を突き刺す寸前のところで横へ回避できたらしく、タイエンから十分な距離を開けてジャベリンを構えている。


タイエン「ボォオオォォオオッ…!」グググ・・・

焔「! 剣を抜こうとしてるぞ!さっきの速さでまたこられたらマズい!」

長「わかってる!」ヒュッ


ナガトが短いジャベリンを強く握り、敵へ向けた左手とは反対方向にそれを振り被り、体のバネを振り絞った。


長「でぃやぁあ!」ビュッ

タイエン「ボォオ!」ズボッ


ジャベリンを放たれたのと剣が地面から抜かれたのはほぼ同時だった。
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/06(日) 22:11:14.29 ID:F7mJ0S4d0
タイエン「……」ドシャァッ

長「…はーっ!はーっ…!」

焔「……危なかったな」


横たわる鎧騎士の魔族の体。もう青い炎は出ていないようだ。

頭部にはジャベリンが深く突き刺さり、半分まで貫いているという実に痛ましい姿だった。


長「なんだ、さっきのあの機動力は…チッ、焦った」ズポッ

疾「それ何度も使うのか?」

長「もちろんだ、だから鎖を繋げてる」


焔「ナガト、さっきのタイエンから出た青い炎、初めて見たか?」

長「いいや…初めてではないが、前はああなる前に有無を言わさず倒してたからな」

焔「…すげえ」

長「何度か身体から炎が噴き出すのは見たことがあったが、スピードと力が高まるものだとは…さっき初めて知ったよ」

焔「そういやハープさんも“タイエンの青い炎に気をつけろ”とか言ってたような…次からは注意だな」

長「デカい奴とは違って硬くはならないらしい、まぁ問題ないだろう」

焔「……ああ…」



辺りを見回す。

銃撃の音と声は、相変わらず聞こえてくる。だがこの付近では特に敵の姿は見えなかった。



長「……加勢しにいくぞ、今回は持ち場どうこう言ってられるほどの余裕は無いぞ」

焔「今回は賛成だ、行こう」

疾「よし、じゃあ松明も持ってくか」

焔「…怪我人を見つけたら本当にそれ捨てて、救護の務めをしろよ?」

疾「わかってるって」


俺ら三人は他の民兵達の戦いを援護することにした。

もしかしたら既に敵のいくらかは突破しているのかもしれないが…仲間が戦っている中で引き返して待ち伏せるのも気持ちが良くないからな。



タッタッタッ・・・


長「もう誰も殺させねえぞ…!」

焔「…ああ、当然」
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 20:36:05.03 ID:NWLgelwj0
民兵「うおおおッ!」ダァン!

硝煙が炸裂する光を浴びて夜闇に白く濁る。


ヤハエ「オッ…!」

弾丸が怪物の額を貫き、後頭部から形容しがたい色の体液を勢いよく噴き出させた。



民兵「大丈夫か!?」

「ああ、なんとか掠り傷……いや、な、なんだこれ」

民兵「! お前それ……腕がパックリじゃねえか…!」

「な…なんだこれ、くそぉ、なんだよこれ…痛みは無いのに血が…血が止まらねぇ…!」ドクドク


周囲の戦闘音が焦燥感を更に駆り立てる。

山道は味方の銃声と敵の方向が入れ混じり、誰がどこにいるのかもわからない混戦状態となっていた。


民兵「しゃがめ、応急処置だ…包帯だけでも巻いておくぞ」シュルッ

「す、すまない…ああ、寒いな…」

民兵「しっかりしろ、大丈夫だ」シュルシュルッ



――ドォンッ!


民兵「!」

「!」


聞き覚えのある爆発音が近くに轟いた。丁度仲間のために包帯を巻いている男の背後からだ。

大きな音と共に、熱い余波が二人に息を吹きかけるようにして駆け抜けてゆく。

焼けるほどでは無く、獣の涎のような生ぬるさのある風だった。



民兵「……やべえ」

「逃げろ!俺を置いていけ!間にあわない!」

民兵「馬鹿野郎、そんなことできるか!」ジャキッ


介抱していた男はさっと身を翻し、火薬銃を背後に向ける。
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 20:53:42.11 ID:NWLgelwj0
忘れもしない、民兵達にとっての恐怖の対象が林の奥にいた。

暗がりでもわかる青く妖しげに光を放つ炎と巨体。


民兵「…惨劇のシドノフッ…!」


名は既に民兵達の間で広まっていた。

当初は「デカイの」や「大きな炎の」などのようなで曖昧さで通っていたが、固有名詞が手に入った事で怒りと恐怖ははっきりとした形で言葉に現れるようになったのである。



シドノフ「コォオオォ…」

「おい、やるつもりならまだ……」

民兵「ああ、まだ撃たない…わかってるさ、ホムラって奴が言ってたように、敵が炎を集めたら、だろ?」


引き金を絞る手に汗が滲む。

照準は頭ではなく、シドノフの大きな腹に向けられていた。頭部に一発を当てる自信が彼になかったからである。

だが引き金を連打して、数発の弾を一気に撃ちだす覚悟は彼にあった。

不安定な一撃よりも確実な数撃を狙っているのである。



シドノフ「コォオオォオオ…!」メラッ・・・

民兵(! 来る…っ!)カチッ


巨人の体に纏わりつく青い炎が、前に伸ばされた腕へと集まってゆく。山の暗闇の中では遠目からでも炎の収束は確認できた。

そして炎の過半数が腕へと凝縮された時、男の指は覚悟を決めた。


民兵「今だ喰らえッ!!」ドゥンドゥンドンッ!


しかし完璧なタイミングであるとほくそ笑んだ男から放たれた弾丸は、思惑とは別に


ゴッ ガッ ガキッ


民兵「えっ…」


想定外の鈍すぎる3回の音と、そしてカウンターであると言わんばかりに颯爽を木々の間を穿つ火球となって、男ら二人へと帰ってきた。


ドゴォン!


男が最期に見たのは目の前に迫る火球と、シドノフの前を一瞬だけ遮った、暗い影であった。
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 21:09:21.99 ID:0oezgzWAO
http://myup.jp/RfRWjDO0


凶兆のロッコイ、両腕に巨大な甲殻の盾を備えた魔族だ。

他の種とは違い単純な防御能力が高い、厄介な奴だ。

細い脚だけでなく、“眼”以外の頭部も硬いために、弓や銃でもなかなかダメージは通らない。

弱点は眼、そして胴体や腕などの内部だ。爆弾を足下に投げ込めれば楽に倒せるのだが、そう上手く事は運ばない。各々が工夫するしかないな。

ロッコイは味方を守るという多少高度な思考回路を持つためか、知能は他よりもやや高い。油断するな。
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 00:07:19.85 ID:jzYKTUoLo
おつ
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 00:34:54.73 ID:5O3qN+JLo
毎度魔族の設定がしっかりしてて、解説が楽しみ
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 20:38:04.82 ID:/uXI2kaW0
ダマ「最初にはいなかったロッコイを動員してある、奴らも新たな種族に戸惑ってる事だろうな、キキキ」

バッサバッサ


坂道沿いの森の真上に巨大な蝙蝠がホバリングしていた。

目と額が妖しく光を放つ、人型の不気味な蝙蝠だ。


天女の羽衣のような組織を翼のように動かし飛ぶ様は、この世のあらゆる生物に形容し難い。



ダマ(キキ、展開範囲も疎らで良い感じだ)


夜の空から見下ろされる戦場の様相は決して簡単に視認できるものではないが、シドノフが放った砲撃により立ち上った煙が、自勢力の拡散の度合いを示している。

町の人間にとってはあまり喜ばしい事ではないが、魔族軍の側にとっては目的の成就に近づきつつある希望の印だった。



ダマ(よしよし、このまま部分で迎撃網を突破しちまえば町まですぐに火の手が伸び………!?)


余裕から来る高見の見物。だが一瞬、森から見えた発光に体に緊張が走った。


――ヒュ

ダマ(クソが、避けられねえ)



愚かにも堂々と空を舞っていた蝙蝠の魔族めがけて、一本の鉄銛が隼の狩りの如く一直線に接近してきた。

視認できた頃には既にこの魔族も退避が不可能であることを悟ったらしく、



――ガァンッ!

ダマ「チィっ!サル風情がやりやがったな…!」


羽衣の翼を盾に身を守ることはできたが、そのまま飛行能力を失い山道へと落ちていった。
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2011/02/08(火) 22:56:34.61 ID:4JxE+PwAO
ガササッ………

タッ


ダマ「…翼で防いだと同時に飛び道具も消えた…魔術か、小賢しいサルが居やがるな?」


蝙蝠は森に落下したが傷は負っていなかった。

盾にした翼も傷ひとつなく、全くダメージは無いように見える。



ダマ(俯瞰で戦況を占いたいところだが、再び対空で攻めてこられても困る…仕方ない、同じ目線でも充分だ)
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/09(水) 20:34:10.40 ID:TuWTjxqk0
「ほう、やはり“上位種”が居たか」

ダマ「!」


遠方の茂みから足音が姿を見せる。

魔族の光る目は、暗がりからこちらへ近付く影の姿を確認した。


ダマ「…砂漠民のケープに…表情を完全に覆うボロ布」

「上位種は皆知っているようだな、前に会った奴にも同じ事を言われたよ」

ダマ「キキキ、“生まれた時からな”。ただ伝説か何かだと思っていたぜ、まさか実在するとはな」



蝙蝠の魔族の正面に姿を現したのは、砂漠色のケープに身を包んだ背の低い人間だった。

顔などの表情は全て隠しているが、ハープである。



少女「伝説とまでいくか。ならばその伝説がお前にすることは解っているな?」

顔を覆うベージュの切れ端をほんの少しだけ下げる。睨む左の眼光だけが露出した。右手に握った短いメイスが地面と水平に持ちあげられる。


ダマ「殺れるもんなら殺ってみろ人間(サル)、俺は危難のダマだ、死ぬ間際にド忘れしねぇようにそのボロ布にでもメモしとけ」


羽衣が繋がる両腕と連動し、空を切って構えられる。肉弾の構えと共に翻る羽衣は戦旗の如き勇猛さを以て、蝙蝠の翼へと姿を変えた。


ダマ「血でな」

少女「はん、お前の?」


互いの獲物が振られた。
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ていうか名前が少女に戻ってしまってた。やっちまったね]:2011/02/09(水) 21:07:16.05 ID:TuWTjxqk0
互いは既に、ほぼゼロ距離にまで詰め寄っていた。

片方はメイスを握り、片方は体を半ひねりさせている。


ダマ「キヒャハハッ」ブンッ


魔族の羽衣は空を切る硬質な翼となって、今まさにハープを斬りかかろうとしていた。体のあと半ひねりで翼の刃は真に肉薄する。


ハープ「やっぱり飾りではないか、形を自在に変えられる」ヒュッ

ダマ「!」ゴッ


胴を真っ二つにしようと振られた刃は、下から振り上げられたメイスによって殴り上げられた。

だが非力一撃は翼を折るにも、振りの勢いを殺すまでにも至らず、ただ少女の小さな体を、刃の死線を潜らせるだけの勢いとしかならなかった。


しかしハープにとってはそれだけで良かった。


ハープ「辛くであろうと敵の一撃を凌げば次は自分の手番、盤上でも机上でも」ブンッ

ダマ「やっぱおめぇ速いな」


メイスは既に振られていた。

普通であれば防戦一方の流れに持ち込まれる強力な一撃の後だというのに、彼女はそれに怯んでいなかったのだ。


――メリ

ダマ「グ、ギッ……!」


乱暴に振られた鉄片が細い腰に食い込む。

華奢な少女が振るったメイスを受ける細身の魔族。一見して迫力を感じさせない一撃だが、その威力は早くも歪み始めたメイスのフランジが軋み声で物語る。


――ドゥンッ!


ダマ「っ!」ズザザッ・・・



地面に爪を刺した両足すら、山道に数メートルの傷跡を残した。ハープの一振りの威力はあまりにも大きかったのだ。



ハープ「お前のせいで民兵の布陣が狂った、まさに“盤”狂わせだ、不愉快極まりない、死ね」

ダマ「…キキキッ!こっちこそ計画が狂った!“惨劇狩り”がこのエリアにいるとは想像もしてなかったぜ!?」

ハープ「こちらも上位種がいるとはな、まさかだ、“これだから慢心は良かんのだ”と嘲笑される始末、ああ思い出しただけで不愉快だ」


ボロ布の隙間から覗ける少女の表情は嫌悪と怒りで満ちている。
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/09(水) 21:43:21.04 ID:TuWTjxqk0
ハープ「さて、お前を殺す前にひとつ訊いておくか」ヒュンッ


メイスを振り上げる。振り下ろしか、術の発動か。どちらとも取れる構え。

魔族のダマも思わず固く身構える。


ハープ「お前らの頭はいつまでこの“コマ遊び”を続けるつもりだ?」

ダマ「コマは我が君の命ずるままにだ、我が君が惨劇軍を生み続ける限り、永遠さ」

ハープ「下らん王だ、共存共栄の次に馬鹿馬鹿しい、いつまで引きずるつもりだ?」

ダマ「サルには解らぬさ、そのように我々の言語を扱え理解できたとしてもな!それもまた永遠だ!キキキキキキキィィィ!」


蝙蝠は高い声で狂ったように笑った。ひとしきり高い声で笑うと落ちついたのか、含み笑いとなった。


ダマ「テメェが何者かは知らない、何が目的かもな、キキキ…だが俺らが行う事は何ら変わらない、人間への惨劇だ」

ハープ「今さら貴様ら能無しに和解など求めんよ、言葉も通じぬ馬鹿に付ける薬はただ一つだ、死ね」


メイスを大きく振るう。恐らくどうしようもなく避けられない術が、魔族に襲いかかるだろう。しかしダマは笑った。


ダマ「――キキキ、サル如きが調子に乗るなよ」

ハープ「…!(まずい)」




――ドゴォン!!



二人とも巻き込む位置から、火球は突如として飛んできた。シドノフの砲撃が二人の間に割って入ったのである。

爆煙を貫き、翼を生やしたダマが夜空へ飛翔する。



ハープ(くそ、手下に合図を出していたか、逃げられた…!)

ダマ「キキキィ!我が君に栄光あれ!ハッハッハッハァーッ!」


けたたましい笑い声と共に、恐ろしい蝙蝠の姿は海岸へと舞い戻っていった。
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 23:21:47.93 ID:JU5hW+uLo
おつ
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/11(金) 19:45:56.09 ID:GqHK/gDj0
戦いの傷跡が今だ残るレンガ壁の防衛線。

弓や銃を構えた者達が整然と陣を連ね待機している。


兵達の激しい動きは無い、静かな持ち場。

しかし兵達が身構える向こう側の林の暗黒からは、叫び声や爆音が絶え間なく響いている。



「…音が鳴りやまないぞ」

「こっちには来ないんじゃないのか」

「俺らは本当にここで良いのか?」

番「お願いします、待機していてください…どうか堪えてください」


一部、民兵の中にはあまりに静かでもどかしい時間に押しつぶされそうになっている者もいた。

待てど待てど、敵は来ない。

しかし自分達の仲間は、林の奥で命を削り戦っている。



番「ここをガラ空きにしてしまっては、それこそ町の存命に関わります…今敵が見えなくても、決して動いてはならないのです」

「坂道に敵の勢力全てが集中していたら?」

「というより、この様子だと…本当にそうかもしれん…」

番「…それでも、お願いします、カギルさんを信じて待機してください…陣形を崩してはいけません」


彼女も唇を噛みしめて断腸の思いを抱えていた。

時折遠くから聞こえてくる民兵の悲鳴はさすがに心を揺さぶるのだ。



「…これで最後まで敵が来ることなく町が壊滅してたら……まさに町長と似たものだな」ボソ

「おい」

「…へいへい」

番「……」


唇から血がにじむ。
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 18:05:00.05 ID:3IMGTbHM0
焔「せっかくシドノフを見つけたってのに…!」ドゥン!ドゥン!


火薬銃を撃つ。

弾は蒼炎を纏う巨人に当たるかと思いきや、割って入るように飛び込んできた魔族の盾によって防がれてしまった。


銃弾を受けた盾は岩壁のように破片を飛び散らせながらも、その形を崩すには至らない。分厚い盾だ。



ロッコイ「……ホォオオ…」

シドノフ「……」

ズシン、ズシン・・・


長「…やばいな、俺のジャベリンもあの盾には通用しないぞ」

焔「多分、凶兆のロッコイって奴だな…シドノフとセットになって現れてきたか」

疾「おいどうするんだよ、あのでっかい奴、どんどん前線を押し出してきてるぞ」

長「…どうすりゃいい…なんとか進軍を止めなくては」

焔「町まで押し切られるとマズイな」


盾持ちによって守られているシドノフは時折、俺らのような邪魔な民兵に向かって砲撃を放ちつつ、ゆっくりと町側へと歩を進めていた。

そしてその進軍を、巨大な二枚の盾を持った魔族、ロッコイが護っている。


焔「あの盾、驚くほど死角がないぞ。シドノフには一発も当たる気がしない」

長「俺もだ、銃以上に遅いこの武器ではとても奴に突き刺すことはできん」


かなり悪い状況だった。

歩兵として襲いかかってくるタイエンやヤハエは処理できるが、鉄壁の防御によって守られる奴らを食いとめる手段は、今はなかった。



疾「…一旦で良い、後退しねえか?大砲でも引っ張ってくりゃ盾を壊せるかもしれねえ」

長「前線を自分から引き下げるわけにはいかない」

焔「いや、一度下がろう…カギルさんにも報告しなきゃ駄目だ、このまま無駄に攻撃しても、砲撃でうっかり俺らがやられちまうかもしれない」

疾「そゆこと」

長「…わかった、退ろう…しかし諦めるわけじゃ」

焔「わかってるって」
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/13(日) 21:52:15.44 ID:bLYKyixg0


「ツガエさんの方からは報告がありませんな」

限「となると敵はまだ、ある程度離散しながらも正面から押し寄せていると考えるべきでしょうか」

「そうでしょうな、しかし油断はできませんぞ、何せ」


――ドゴォンッ!


「……ふぅ〜…やかましい音が、鳴りやまないのですからな」

限「…ええ、食い止めにかかった民兵方が心配です…こちらも水際である程度の用意はしているのですが…間に合うかどうか」


限(火砲、弩砲…配備が間にあったとしても、それだけで大丈夫とは思えない…民兵が今苦戦しているように、きっとそれだけでは足りない)

限(そろそろ周りの者も気付くだろう…爆音は次第に近づいてきている。敵の進軍を止めなければならないのだ)

限(しかし何故民兵達は手こずっているのだろうか、他人事のように言うのは好きでは無いが、ここまで押されるのには何か訳が……)



タタタタタタ・・・



疾「カギルさーん!」タタタ・・・

限「! ハヤテさんご無事で、ホムラさん方は?」

疾「あいつらもすぐに来る!報告にしにきた…!ハッ、ハッ…!」

限「深呼吸してください」

疾「……必要ねッ!」

限「なんと」


疾「それより大変だ!敵の中にえーっとなんだっけ、ロッコイって奴がいた!盾の!」

限「ハープさんの話にあった魔族ですね、それで」

疾「思いのほかそいつの動きが機敏でよ、青い炎の巨人ってタイエンだっけか?そいつをずっと守るもんだから、今どうしようもない感じになってんだ」

限「青い炎の巨人……はシドノフですね」

疾「そうだそれだ!」

限「攻撃を防がれるという意味なのですか?」

疾「ああ、守りが鉄壁でよ、どうやっても攻撃がシドノフに当てらんねーんだ、何とかならねえかな?指示を仰ぎに戻ってきたんだが」

限「…考えさせて下さい、10秒だけ」

疾「10秒?」
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 23:44:10.84 ID:kn9isZCao
10秒で投下だったらかっこよかったな
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/14(月) 12:24:01.65 ID:Apdx+2/AO
限「………」

疾「………」


〜10時間後〜


限「………」

疾「町滅んだ」
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 17:52:41.36 ID:+/KJHf3Bo
うわあああああ((((;゚Д゚)))))))ああああ!
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 19:15:22.44 ID:TFBgoyWj0
限(常に味方を守る事が可能な敏捷性に銃を防ぎきる防御性能の対処を完璧に施す事ができれば九割勝利)
限(しかし火薬銃の威力は弩と比べても大差なくそうした場合それを超える遠距離兵器は数機の錐砲と大砲のみ)
限(落ちつけ、こちらから砲撃を当てられるという事は敵からもこちらに砲撃を浴びせることが可能という事、それでは大型の兵器はまさに水際でしか配備できず数が足りない)
限(要所に配置したとして錐砲は敵を狙う正確性は無いし大砲も発射まで若干のラグがある、それらに完璧に依存することはできない)
限(やはり現実的なのは水際で兵器を使うよりも民兵方が林の中で倒すというのが現実的だ、しかし現状ではロッコイの防御力により困難、これを歩兵の装備を変えるなどしてなんとかできるかどうかだ)
限(思いつく限りでは敵の盾を打ち砕く携帯装備としてはスリングが妥当だが狭い場所では扱いにくい武器だと訊く、いやそもそも接近戦は困難を極めるか)
限(であれば一撃で敵を倒すほどの投擲武器さえあれば良いのだがそのような威力の投擲武器といえば爆弾を手投げで扱うしか方法は…)




――奴らは火に弱いんだ



限(いや待てよ)



――奴らが耐性を持つのはその特殊な青い炎のみで、実際は奴らは熱に非常に弱い

――高温の炎に触れれば、皮膚は紙のように容易く燃える



限(ハープさんの話が正しければ…)



――奴らを焼くのであれば、油を大量に撒いた地点であったり…



限「……あります。必要とあれば広範囲をカバーすることができる撃退法が」

疾「九びょ……ええ!?マジですか!?」

限「何数えてるんですかハヤテさん」

疾「すげえよカギルさん!作戦思いついたのか!!どんな方法なんだ!?」

限「…それは…」



タタタタタ・・・



焔「はっ…はあっ…!」

長「ふっ、は、はっ……!」


限「……二人もきましたか、今から説明しましょう…準備さえできるかどうかはわかりませんし、不確定要素の多すぎる策ですが」
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/16(水) 22:45:30.31 ID:bt4/3ZkP0

…………


長「…油を撒いて火の壁を作る、ね」

限「はい。油を撒いた地点に火を放ちます、厚い火の壁を作りだす事ができれば、その地点を完璧に防御することができるはずです」

焔「おいおい待ってくれよカギルさん」

限「はい」

焔「奴らが炎に弱いってのは初耳のような…」

疾「俺も」

長「俺もだ」

限「…ああ、ハープさんが教えてくださったのですよ」

長「…皆に言えばいいものを、勿体ぶってやがるのか」

焔「まぁまぁ」


焔「…ハープさんが効くっつったのなら間違いないと思って大丈夫だろうな、信用してやってみる他無いだろう」

限「はい、そうなのですがしかし火が弱点というのは聞きましたが、半端な炎では燃えないということなのです」

疾「? 松明の炎くらいだったら効くのか?」

限「全くわかりません、実践していないので」

長「…マジかよ、そんな不確かな事をやるってのか」

焔「他に方法が無いんだ、どこまで効くかわからなくとも俺は良いと思うけどな」

疾「んー、確かに油敷いて燃やすだけだし効率は良さそうだなー」

限「不確定要素は非常に多いですけれどね、まずはよく燃える油の確保から入らなければなりません」

長「アテは?それすらも無いとなると」

限「ありますよ、最近大量に油を溜めた所が」

長「……?」

限「楔土嚢というものがありましてね。ハープさんの指示でそこに油を溜めていましたので、活用させていただきましょう」
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/17(木) 20:03:52.98 ID:+R4M04ru0
疾「クサビドノー…って何だ?ホムラ」

焔「俺も知らない、なんですかそれ」

限「端的に言えば貯水ボックスを積み重ねて作った土嚢ですね、地面に楔型の脚を突き刺すことで土嚢としての安定性を得つつ貯水の重量で更にアイゼンとしての機能を…」

長「あー、それに油を入れていると?」

限「端から大半を折って言えばそういうことです、およそ全ての楔土嚢には油を溜めてあるので、量の心配は無いかと思われます」

疾「そういや所々に変なバケツの壁があったような気がすんな」

焔「…その楔土嚢はどこに?敵は坂から攻めてくるんですけど、正直攻めてくる範囲は予想できませんよ」

限「かなり広域ですか」

焔「下手したら太陽橋の方からも来るかも」

長「……迂回してくる可能性は否定できないな」

疾「ほぼ町の横側にまで行くってのかよ?あいつらにそんな体力あるのかねー」

限「あり得ないことではないですね、そこにも炎の防壁を敷きたい……が、困りましたねそれは」

疾「え?」

限「木材工場までの壁面付近には楔土嚢が一定間隔で設置してありますが、太陽橋付近には楔土嚢が無いのです」

長「なに」

限「木材工場までの範囲はなんとか人を集めて迅速に行う事はできるかもしれませんが、太陽橋までとなると結構な量の楔土嚢を他所から運ばなければなりませんね」

焔「油を運ぶ必要があるってことか」

限「そういうことです、台車を使ってでも迅速に、大量の油を運ばなくてはなりません」

長「…木材工場から太陽橋?かなりの距離があるだろう、どれだけの油を撒くのか想像もできないぞ」

限「足りなければ更に撒くしかありませんね、太陽橋まで打ち水ならぬ打ち油です」

焔「油を撒いて着火か……タイミング良く火を放てば、敵をそのまま焼き殺すこともできるかもしれないな」

限「民兵達を退かせて油を敷く準備に回しましょう、急がなければ」
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/18(金) 20:17:30.19 ID:vcfOEXUr0

――カァン、カァン、カァン

――カァン、カァン、カァン



「撤退の鐘だ!一旦町に戻るぞ!」

「撤退!?そんなこと出来るか!このまま逃げ帰ったところで…」



――ドゴォン!!


「…っ!言ってる場合か!このままだと犬死には明らかだぞ!」

「く…!くそお…!」


タッタッタッタッタッ・・・




ハープ「撤退か…懸命だな、高度な命令を与えられた魔族らに対抗するには現状では難」ドゴォン!


ハープ「…うるさ、私らもさっさと戻るか。本部が何か閃いたのかもしれん」

『―名案であることを祈りたいものだな―』

ハープ「愚策であれば私が入れ知恵をするか…私自らが魔族共を処理するかだな」

『―心配か―』

ハープ「ふふ、杞憂になる。これは慢心じゃない」

『―どうだかな―』

ハープ「賭ける?」

『―……―』

ハープ「なんだ、そっちも期待してるんじゃないか」
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/19(土) 20:25:03.25 ID:pZB//o0AO
報告することでもないが酔った勢いにて
酔ったので明日書く

また何やら都合があるようで本格的な春となる前に終わらせたいなと思ってはいる
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 21:34:09.59 ID:c9j2KeWDO
お疲れ
ゲロるなよ
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/20(日) 21:44:29.23 ID:HQuWETB10
「火攻めか…!」

限「我々の住む町が見えない程度の距離に火線を敷きます、可能な限り森を焼かない範囲で、太陽橋まで」

「おしわかった!楔土嚢に油が入ってるんだな!?」

限「いくつかの分担で…4台としましょう、4台の車を出し、油による線を引いてください」


限「…それとまだ心配はある。楔土嚢にある油は確かに引火性も火力も高いですが、それだけで相手を食いとめられるだけのものとなるかはわかりません、何せ量を使います」

「うむ」

限「村の者を集めて、使えそうな油はあるだけ出しましょう、いざとなれば敵にかけて燃やすこともできるはずですから」

「了解……!今すぐ人を集めて運ばせる!」タタタ・・・


「兵は集まったか!?撤退率は!?」

「半分以上は確認した!後も続々とこちらに向かってる!」

「来た奴はすぐに作業に回そう!急ぐぜぇ!」




焔「慌ただしくなってきた、俺らも何かしなくちゃな」

限「ではホムラさん方には太陽橋まで行っていただけますか」

焔「俺らが?」

限「腕の見せ所ですよ」

疾「! よ、よし!任せろ!いや任せてください!くれ!」

焔「…なるほど、わかりました、一番離れているところに俺らが、ですね」

限「はい、一番油の供給が遅くなるであろう場所です…いち早く向こうに楔土嚢を届けなくてはなりません」

長「だろうな」


限「…ハヤテさん、あなたは飛脚と聞きます」

疾「ぇい」

焔(なんだその返事)

限「それも優秀であるとか…なのでしたら、大量の油を台車に積み、そこの人を乗せつつも、安全にそれを運ぶことができるはず」

疾「当然、どれだけ積もうが俺に不可能はないっすよ!カギルさん!」

限「肉体強化はできますか?」

疾「はっはっは!もちろん!」

限「…心強い」


限「ではすぐに頼みます、火急です!太陽橋まで、火を!」

疾「まかせろッ!てくださいッ!」

焔「じゃー行こうか」
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 01:43:17.39 ID:ylRC3WXDO
ハヤテ…死ぬなよ……
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/21(月) 21:16:39.52 ID:ok2ty6gd0
慌ただしい夜だ。

いち早く俺らに用意された台車は、興奮するハヤテが言うにはかなりの高級品らしいが、台車の質なんて俺はよくわからない。

だが本人はカギルさんに頼まれたのもあってか俄然やる気十分らしく、先程からその場で素早い足踏みをしてたり「邪魔くせえ」とか喚きながら上着をその場に投げ置いたりと、完全な走り体勢を整えている最中だ。


焔「とりあえずまずは油のバケツを台車に詰め込まないといけないな」

長「可能な限りは取っていきたいところだ…足りないでは済まない」

焔「そうだな、後悔の無いよう余分に多く積んでもいいかもな」


俺とナガトはこれからハヤテが引く台車の荷台に乗っている。俺らの役目は油を荷台に積み、太陽橋までそれを撒くこと。

“火の壁”を広域にまで展開するには、太陽橋までダッシュで油を運ぶ飛脚と、同時に油を撒く俺らが必要という事だ。


長「…俺らは一番遠く、楔土嚢の無いエリアに油を撒く…他のエリアの奴らとは違って、再びと油を取りに戻ることはできない、わかってるな?ハヤテ」

疾「あん?わかってら」タタタッ

焔(まだ足踏み…体を暖めてんのか)

長「本当に解ってんのか?つまり、無理だとしても大量の油をこの荷台に乗せちまうってことだぞ」

疾「それがなんだってんだよ」タタタタッ

焔「つまり重量オーバー限界、下手すれば荷台が壊れるほど積むっていうことだろ」

長「そういうことだ、俺ら二人も乗せているんだ、普段の荷運びとは訳が違う…」

疾「へぇ」タタタタタタタ・・・

焔(ん?だんだん足踏み早くなってないか…)

疾「俺が重くて台車引けねーって心配してくれてるわけ?へぇー、そうかいそうかいへぇへえ」
タタタタタタタタタタタタタタ

長「…!」


ダンッ!

細いはずの両の脚が、目にも止まらぬ準備運動を終えて突き刺すように地面へとハの字に配置された。


疾「俺の脚の心配してくれるのは良いけどよぉ!先に荷台に油を積む遅さの心配をするべきだろおがよぉ!ああ!?」

焔「…おうよ!任せろ!」

長「若造が…言ってくれるじゃねえか」


台車の取っ手を掴んだ時の疾の表情は確かに笑ってた。俺らも不敵に笑ってた。町の危機だってのにな。
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/22(火) 20:05:52.22 ID:1nDsHIBY0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ダマ「…退いたは良いが、骨を折られた。やっぱり強化してやがる」


わき腹を抑えながら林道を歩く魔族がいた。

途中までは翼で逃げ帰っていたものの、激痛に耐えかねて飛行が不安定になり、徒歩での撤退を余儀なくされたのだ。


ダマ「まさかこんな場所にまで“惨劇狩り”が居たとは…しかも噂に違わない力の持ち主…ッ!」


いくらかに砕かれた肋骨が肉を刺す。高位の魔族といえど痛みは激しいらしい。


ダマ「キィイィッ…本来なら第一波で町を壊滅できたはずだというのになんという…失態!」

ダマ「兵を無駄に使ってしまった…これでは我が君に合わせる顔が無い…」


ダマ「……」

ダマ「…キキキィ…だがいい…俺は司令塔としての役目を果たせなかったが、奴らには既に指示を出した」

ダマ「俺が出す指示は絶対だ…奴らは肉体の限界を超えて死ぬまでその通りに動き続けるコマ…奴らは遂行する」

ダマ「…キキキ、“惨劇狩り”…お前が何者であろうと、広域に散開したシドノフは止められないぞ…」


片足を引きずるように、海岸へ歩いてゆく。



ダマ「キ…キキキキ…惨劇あれ…人間どもに、惨劇あれ…!」
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 21:33:19.72 ID:kTPDngJ5o
ダマって参考イラストあったっけ
ドラクエのシルバーデビルみたいな感じで想像していいのだろうか
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/22(火) 21:53:55.80 ID:SDXk9dgAO
ダマ参考画像>>326
シルバーデビル…割と似てる

関係ないけどロッコイを友達二人に見せたらなんか「FFの炎のやつ」だかなんだかに似てるって二人から言われてちょっとショックだった
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 23:52:59.08 ID:jHSKOpdDO
>>1ちゃん元気出して!
私はかっこいいと思うよ!
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 01:17:37.89 ID:Ik2txtZRo
イフリートのことか……
けど、俺も>>1の絵は好きだ
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 02:35:47.45 ID:rCcVpu/6o
>>362
おお、見落としてたか、ありがとう!
>>1の書くイラストも普通にうまくてかっこいいから好きだ
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 11:12:58.53 ID:dKZQt3lBo
pixivでふとシドノフを検索してみたら、1件見つけてしまった。
でもまだロッコイとかはいなくって、シドノフしかなかったの。
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/23(水) 11:54:38.93 ID:4fIsQHyAO
あばっばばばばっばば

何故探したし
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/23(水) 19:54:02.21 ID:6raanIMc0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



疾「準備運動はオッケーだ!ソッコーで行くぜ!」


と言い終えた瞬間には馬車は既に発進していた。


焔「うおっ!?」

長「ぐっ!」


予想以上の初速に、俺もナガトもよろめいた。取っ手を掴んでいなければその場に置き去りにされていたかもしれない。


焔「う、うおお、さすがだな!ブルメラを運んでた時より速い…!」

疾「馬鹿野郎あんなもん平常運行も甚だしいぜ!これが本気の速達ってやつよォ!」ダダダダダ

長「す…すげえ…正直見くびっていたぞ」


真横の風景が目まぐるしく変わり、前方の道がぶつかってくるように後方へ流れる。

風は耳を切り、髪をよく洗う。口は覆っていなければまともに息もできなかった。



疾「へいへい置いてくぞ!もっと気合い出せやァ!」

民兵「げっ!?ハヤテ!?」


前を走っていたはずの台車を一瞬で抜き去った。爽快だ。



焔「すごい…この速さなら太陽橋まですぐに着くな!」

疾「ぁあ!?当たり前だろ!俺にかかりゃあ太陽橋だろうが街道だろうが変わりねぇ!」

長「おいおい、速いは良いが目的を見失うなよ!まず太陽橋の前に油を積むんだからな!」

疾「へいへい了解してますよォ〜っと!」ダダダダダ


今にでも町には魔族の軍勢が迫っているが、ハヤテの脚の速さはそのような危機感を忘れさせるものがあった。






ハープ「あれ?ハヤテじゃないか、おーい――」


バヒュンッ ガラガラガラガラ・・・


ハープ「……いってしまった、速いな」

ハープ「先程から騒がしく何かを運んでいるようだった…奴もそれだろうか」

ハープ「…まぁいいや、とりあえずカギルの所まで戻ろう」
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/23(水) 22:09:16.72 ID:6raanIMc0
ガラガラガラ・・・


焔「ハヤテ!楔土嚢のあるポイントは覚えているんだろうな!」

疾「ぁああん!?ったぼーよ!町の飛脚の土地勘を舐めてもらっちゃ困るぜオイ!」ダダダダ

長「お前の脚を信頼してやる!ありったけ油を積むからな!」

疾「はっはっは!望むところだぜオイ!」ダダダ

焔「いや待て!一つのポイントから積んだんじゃあマズい!地点での油の不足が無いよう、3つからまんべんなく拝借しよう!」

疾「ぽちぽち止まるってことか!?」ダダダ

長「ああそれがいいな!盲目だった!そうしよう!」

疾「いちいち止まるのは面倒だが仕方ねぇ……了解ィ!」ダダダダ


焔「……!おい、あそこに積んである箱みたいなのがもしかして…」

疾「おうよ、楔土嚢ってやつだな!急停止するから一気に降りて積めよ!?」

長「任せろ!お前も手伝えよ!」

疾「あったぼぉ!」

焔「y…!舌噛んだ」

疾「よーし、到着ッ!」


キキキィ・・・ザザザザ・・・
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 22:14:36.99 ID:dKZQt3lBo
おぉぉう、ごめん、なんとなく暇だったからいろいろ検索かけて遊んでたんだ。
それで惨劇軍の絵が1体しかなかったから、もし他の誰かが勝手に載せちゃってたりしてたらアレだなぁ、と思って…
本人だったか、迷惑かけちゃったらごめんち;
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/23(水) 22:23:44.92 ID:4fIsQHyAO
いや、ひっそりと倉庫がわりのようにしていたピクシブに投稿した絵を、まさか嗅ぎ付けてくるとは思わなくて、びっくりしただけ
あれ一枚しかないのは、本当は一気に投下しようと思ったんだけど5分おきじゃなきゃダメだってなって「待ってらんね」ってなったから

申しわけない
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/24(木) 20:40:37.13 ID:AtLd1DDO0
走り出す時も一瞬だったが、停止も一瞬だった。

発進時には急な勢いを味わったのでよろめき戸惑いはしなかったが、急停止の勢いは体にガクッと伝わってきた。


長「一度に二つだ!山積みにするぞ!」ダンッ

焔「おう!」ダンッ


停止とほぼ同時に荷台から飛び降りて、楔土嚢と思わしきブロックが積み上げられただけのような壁面へと走る。

ここに積まれている多くの油バケツを、ある程度まで荷台に移さなければならない。重労働になりそうだ。



疾「うおおおお!1分で積んでさっさと次行くぜえええ!」

長「げ!?」


ハヤテは先に走り出した俺やナガトをすぐに追い越し、さっさと土嚢の壁面へと向かっていった。やる気充分なようだ。



疾「おら二人ともさっさと体動かせよ!まだ二か所で給油ストップしなきゃいけねえんだからな!」タポタポ

長「わかってる!…む、なかなか重いな…!」タポッ

焔「おお、やっぱり油臭いな」タポタポ

疾「俺らが首尾よくやんねーと魔族共が押し寄せて…」


――ドゴォン!


長「…!」

疾「遠くで砲撃があったみてえだな…おい!120パー振り絞って運べ!間にあわねえ!」

長「わかってるさ…!」

焔「間にあえ間にあえ…!」



どこか遠くで鳴り響いた爆発音が俺らの体を急かす。

音は遠かったが油断はしていられない。じっと何分か立ち止まって呆けていれば、奴らはこの町へ到着してしまうのだから。


焔(太陽橋まではかなり遠い…間にあうか…!?)


今は一心不乱に油を運ぶ。
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/24(木) 21:09:39.65 ID:AtLd1DDO0
――ドゴォン!


――ドゴォン!!



ゴトッ


焔「はぁ、はぁ…よし!二つ目のエリアの油はこれくらいでいいか!」

長「あ、ああ…!次へ行くぞ!」

疾「おう…ッ…!はあッ…!」



爆音が響く中、既に油を大量に載積した台車は2つ目の土嚢を発とうとしていた。

次の土嚢から油を回収した後、太陽橋に行く丁度中間辺りから油を撒き始める事になっている。


だが俺らのスタミナというのも、急ぎの重労働にはかなり堪えてきているらしく、先程から脚やら腕やらがとてつもなく痛い。

肉体労働は苦手でもなくむしろ得意な部類だったので自然体で構えていたが、実際に“本気の速さで重労働”となると、肉体はあっさりと悲鳴を上げてしまうのだ。


疾「はっ…はあ…よ、し…!次に行くぞッ…!…ペッ」


糸を引く唾を暗がりの路傍に吐き捨てて、ハヤテは再び台車の取っ手を握った。体は小刻みに震えていた。


無理も無い。こいつは本気で走り、本気で重い荷を積み…それを数秒の休息も無く続けているのだから。



長「…!行くぞ!急ぐぞ!」

焔「…ああ、…ハヤテ、俺らより速く走れるか?」

疾「はぁあ…なにいって、んだよ…!ばかやろう…!」ガタンッ・・ガラガラ・・・


俺が問うと、ハヤテは再び地面を蹴り、台車を走らせ始めた。

強い踏み込み、さほど整備されていない荒れた地面。積まれた油の水面が慌ただしく揺れる。

俺とナガトは楔土嚢が零れてしまわないように体で覆いこむので精いっぱいだ。


焔(……くそ)


俺は、多分ナガトもだが。満身創痍のハヤテに“代わるぞ”とはいえなかった。

ハヤテは誰より辛そうにしていても、今この場においてこの荷物を最も速く運べる奴はハヤテしかいなかったからだ。


大事が一刻を争うが故に、今にも倒れてしまいそうなハヤテの身を案じることはできない。そのもどかしさに、戦場の残酷な匂いの片鱗を感じた。
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/24(木) 22:09:59.71 ID:wcVMTz6AO
http://myup.jp/znCpRn1h


額当て。

バンホーの民兵らが装備しているヘルムの一種だ。額当ては様々な地方で点々と見られるため、珍しい防具ではないだろう。

ただ、この地方では金属ではなく木製のものを使っているようだな?
さほど性能は高くないだろうが…ま、重く邪魔になるよりはマシか。

バンホーの男らは長髪が多いから、それを纏める役割も担っているのだろう。
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 22:57:40.88 ID:wcVMTz6AO
人物系のイラストが下手で申しわけない
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 23:01:32.43 ID:E/hEuv56o
この荒々しさがむしろいい
本文も絵も引き続きwktkしてお待ちしております
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 01:25:35.38 ID:rU2stq7Eo
いや、普通にいいと思うんだが
このヘルム被ってる男は作中の誰々って設定はあるの?
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/25(金) 06:43:12.70 ID:dG/xz3OAO
一応ホムラのつもりで描いたけど誤差が±35%くらいありそう
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 03:55:56.16 ID:kgqwY7hOo
思ってたより渋かった
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/26(土) 23:09:33.41 ID:+EwLNKhb0
「これで良いか!?荷車を出すぞ!」

「駄目だ足りない!あと10は積むぞ!」

「重すぎる!早くは運べない!」

「く…小分けにしてでも運べ!往復する!急げ!」

「わかった…!」

ガタガタッ ゴトンッ


――ドゴォン!


「……!早く車を出せ!そろそろ撒かないとマズい!」

「重々承知だってえの!」

ゴトン、ゴトトトン


ハープ「…慌ただしいな、楔土嚢を運び…そうか、油を撒き火あぶりにする算段か」

「! おい子供はここに…」

「まて、その人は確か…えーっと」

ハープ「カギル裁判長はどこだ?」

「今は時間が無いから案内はできん、あっちにいる」

ハープ「わかった。急げ、時間が無い」タッタッタッ・・・



「……あのガキが?話にだけは聞いていたが」

「いくぞ、あいつが言ってるように時間が無い」

「…おう!」
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/27(日) 22:07:22.52 ID:18yBttZX0
――ドゴォン…


「俺らがすることは何だ?台車は出さんのか?」

「もう車は出れるだけ行って、人も乗せられるだけ乗せていっちまったよ」

「…じゃあ何すりゃいい、火を放つんだろ。まさか俺らの役割が着火だけってこたないだろうな」

「かもしれない」

「…もどかしすぎる」


限(…火線は全て繋がるように、途切れなく油を撒くように指示はした。火も各自が放てるようにしてあるが、さて)

限(全て上手くいったとしよう、油を十分に撒ききり、敵が町へ砲弾を放つ前に火の壁を作れたとしよう)

限(だが果たして、それだけで魔族達を撃退することができるのだろうか…ハープさんからは火に弱いとは聞いたが、不安だ)

限(もし十分に撒いた油の火力を以てしても対処できなかった場合…背水の陣とも言えないお粗末な防衛戦となるだろう、町の半壊以上を覚悟するべきだな)

限(…どうなんだ?楔土嚢に湛えた油は爆蕾から抽出した一際火力の高い油を混ぜた特製のものだが…)



タッタッタッタッ・・・


ハープ「カギル裁判長」

限「…おや、ハープさんご無事でしたか」

ハープ「ああ、まあ、他の奴はわからないが」


限「ハープさん、聞きたい事があります」

ハープ「あ、 ――あー、はい、何を“知りたい”んだ?」

限「ハープさんの提案により楔土嚢に油を湛えたのですが…」

ハープ「あれか。今展開している作戦だな?良い手際だ」

限「はい。大量にある油を撒き、それによる炎の壁で魔族を退けたいと考えているのですが…果たして可能なのでしょうか」

ハープ「できるかも解らずにやっているのか?」

限「…はい。…可能なのでしょうか」

ハープ「ふ、安心しろ、蝋燭の火じゃあないんだ。あれくらいならば十分に効くとも」

限「! …良かった!ありがとうございます!」ガシッ

ハープ「! ちょ、痛い、手が折れる」

限「、すみません」パッ


限「…感謝してもしきれないです、ありがとうございますハープさん、本当に」

ハープ「礼は要らないし、勝った気でいるのも早いだろう」


ハープ「敵の前線はかなり迫っているんだ。間に合うかどうかは怪しいラインの上で振れているぞ」

限「…それでも私は、町の人々をあらゆる意味で信じています」


限「彼らなら必ずやってくれる、と」
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/28(月) 21:01:35.14 ID:xwKxr0a90
ハープ「ふふふ、そうだな、私も信じよう…希望は無くてはならないからね」

限「……」

ハープ「そうだ、私の方も用があって来たんだ」

限「? 何でしょうか」

ハープ「ん…現状、奇襲され町側が押されているのは私の責任でもある…後悔ではないが、それにより伝えておかなければならない用件が見つかった」

限「…すみません、仰っている意味がよくわからないのですが」

ハープ「私も順を追って解りやすく説明したいが、それだと説明に百数年はかかるだろうな…よしわかった、端折って伝えよう」

限「重要な案件ですか?お願いします」



ハープ(…町人にとっては知る由もなかった事とはいえ、夜襲を受けたのは“居ないだろう”と高をくくっていた私に責任がある、正直に言おう)



ハープ「まず、奴らの中に時折存在する“上位種”についてだな」

限「は、上位種?」

ハープ「戦闘能力が高く、知能もある…惨劇軍の司令塔として君臨する魔族の事だ」

限「…貴女から聞かされる敵性魔族の情報は全て目新しいものですが、それもまた新鮮な情報ですね…それはシドノフやロッコイなどを指す言葉ですか?」

ハープ「そのどちらでもない。上位種は更に強く、人間の様な個性を持っている…個別に名前もあるらしい」

限「…その上位種が、敵勢の中にいると…?」

ハープ「上位種が軍隊に混じっている事は稀なんだ、だから私もあえて皆に伝えはしなかったのだが…今夜の奇襲で上位種の姿を確認した」

限「良い話ではないという事ですか」

ハープ「かなり。司令塔が存在することによって、敵の攻め方は他とは比べようもなく一気に戦略的になるからな」

限「…このまさか夜襲もその、上位種とやらが噛んでいるのですか」

ハープ「間違いないだろう、普通なら夜襲にせよ正面から突撃してくるのが奴らだからな」

限「…」

ハープ「…すまない、私が慢心せず全て伝えていれば事前にあらゆる対策も講じる事ができたのだが」

限「いいえ、そんな……ハープさんがいなくてはこの町はそもそも、今こうして現存できていたかどうかわからないのです、お気になさることはありません」

ハープ「……」

限「しかし参りましたね。上位種、ですか…」

ハープ「その対策も全て、火攻めが成功したらの話ではあるがね」

限「……ええ、わかっています」


限(一難……去ってもいないのに、また一難来るとは…)
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/01(火) 19:53:43.35 ID:Yz9u7l8/0


ゴトッ


疾「……くぁっ……腕…攣りそ…」

焔「無理すんな!ここの油を積んで最後なんだ!それ以上は支障が出るぞ!」

疾「問題ねっ…!」ゴトッ

長「…問題が無いならやらせてやる!だが運びに支障を出してくれるなよ!」

疾「へっ…何を馬鹿言ってやがる…」



ついに3つ目の土嚢のところまで来た。

あとは走り、途中から太陽橋まで油を垂れ流すだけだ。


慎重に油の川を描き、途切れなくかつ幅を広く持たせて撒く。

無駄に垂らしすぎないように慎重にやらなくてはならない。



疾「ラストスパートだぁッ!いくぜ!」

長「おおうよ!」


――ドゴォン!


長「……やばい、急げ!」

疾「言われ、なくても!」ダッ



焔(高速で走る台車から油を撒く……一定の量を途切れなく!ナガトと俺で互いになって線をつなぎ続ける…!難しいのはこっからだ!)

焔(臭いからしてこの油は合フゲン油か合麗油のどちらか…爆発力と火力はただのモノとは違うはずだが、だからといって範囲が範囲だ。量をケチるには不安もある…)


――ドゴォン!


焔「!」


――ドゴォン!





焔「……!くそ、ケチなんて考える暇はないってか…!?」
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/03(木) 22:30:50.22 ID:2fDZJ5br0
かなりの速さで荷車は町の外れを沿うように走っていた。

町とは離れた整備の行き届いていない荒めの地面の上を、超重量の車輪が跡をつけるように踏みつぶしてゆく。



焔「1、2、3!」バシャッ

長「おう1、2、3!」バシャッ



一定間隔で途切れなく当分の油を撒くための掛け声だけが、けたたましく吠える車輪の声と共にある音だった。

鳴り響き近づいてくる爆音をかき消すために、声量は大きく。調子を狂わさぬようにタイミングも測り。



焔「1、2、3!」バシャッ

カランカランッ


尽きた土嚢の缶はその場で投げ捨てる。繰り返し使える物なんだろうが、わざわざ荷台に戻す暇などはなかった。

油を撒いたら即捨てる。そして急いで次の油を手に取り、油の線を絶やさぬよう備える。

それをひたすら交互に繰り返す。


油の線の間に多少の間隔くらいならば引火時の爆発力でなんとか燃え移ってくれるだろうが、あまりに大きな間を開けては燃え移らずに失敗となってしまう。となれば炎の壁に穴を作ってしまい、取り返しのつかない事態に発展してしまうしかない。

俺とナガトはただただ撒くことのみに集中していた。

揺れる荷台の上でバランスを崩さぬよう、しかし垂らす量に狂いは出さないように。



焔「よし、順調だ…!あともう少しで太陽橋だぞ…!」

疾「はっ…はっ…!おおう!軽くなったおかげで体力も回復してきたぜえ!」


…こいつはこいつで本当に底なしのスタミナを持っていやがる。

走っている間に休憩でもしてたみたいな口ぶりだ。



長「ともあれ、まだ前方には敵の姿は見えないんだな!?太陽橋も見えてきた。ならば火線は間に合ったということか…!」

焔「そう考えて良いだろうな!他の奴らのエリアがどうかは知らないが…太陽橋まで撒けばひとまず安心だろう!」

疾「ああ、そうだ……な………!?」


焔「――どうした」

長「――…」


ハヤテの語尾に緊張感が乗せられたのを、前方に背を向けていた俺とナガトも感じ取った。

以心伝心でもないし透視でもなんでもないが、確かに緊張感のようなものが脳に直接差し込まれたのだ。



シドノフ「――コォォ」

ロッコイ「――ホォォ」



俺らは知らずして、悪寒にて確信する。きっとハヤテは、この荷車の延長線上に何かを見たに違いないと。
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/04(金) 19:43:03.77 ID:BdwK0tXE0


疾「敵だ!」


疾風が叫ぶが、なんとなく解っていた。本当になんとなくではあるが。これが慣れというものなんだろうか。


疾「降りて隠れろッ!」

焔「おうよ!お前もな!」


促される前に既に俺らは馬車から飛び降りていた。


長「ちっ、奴らめついに来たか!」

焔「間に合わなかったのか…!?」


走る荷台から飛び降りる行為は、敵という恐怖の塊ほどには至らなかったようで、俺らは躊躇なく素早い避難をすることができた。



…だがハヤテはそうもいかないだろう!


焔「…ハヤテ!?大丈夫か!」


着地の衝撃も構わず、台車の往く先に振り返る。
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 00:12:10.98 ID:N2UCpxmw0

疾(……死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ!)


シドノフ「コォオオ……!」


疾(荷車はなんとか退避させた…!だが俺自身が勢いを殺し忘れちまった…!)

疾(全速力の走りの勢いは簡単には止められねえ!このままじゃ前方の奴らに突っ込むなんて暴挙に…!)


シドノフ「コォオ……」スッ

ロッコイ「ホォオオ…」


疾(! おいマジかよ、腕までこっちに向けてやがる…それと盾持ちまで一緒ときた…)

疾(最強の盾と矛に疲労困憊の衛生兵が突っ込むってかあ!?冗談じゃねえぜまだ家にはキレーな嫁と娘が俺の帰りを…)


――とーさ!とーさ!

――あなた、気をつけていってらっしゃいね


疾(…おいやめろマジやめろ!今だけは顔とか言葉とか浮かんでくるか!このままじゃ俺が死ぬみてえじゃねえか!)

疾(馬鹿野郎まだ死ねねえよ!まだやってねえ事が沢山……!)



シドノフ「……!」ボォオッ…
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:56:15.34 ID:GaLNYQRgo
今日もおつかれさまー
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 02:36:18.74 ID:6dO606SGo
そのまま突っ込めハヤテー!
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 23:19:59.90 ID:N2UCpxmw0


――随分速いし…この速度からの蹴りはかなり強力だろう


疾(!)

止めかけていた脚の勢いを殺さず、そのまま走り続ける。

酔狂な事だ。今にも前方の魔族はこちらに向けて砲撃を放とうとしているというのに。ハヤテはそのまま、高出力を火砲を構えた敵へと走っているのだ。


疾(俺だってホントならやりたくねえ)ダダダダ

疾(やりたくねーけどよぉおおー…男ならやるしかねえ時が一生にいっぺんでもあるとしたらよお!そいつぁ今しかねえだろうがよ!)ダンッ


ヒュ


シドノフ「!?」

疾「なんだなんだオイィ!全速力で近づいてみりゃなんだ!?ケッコー撃つの遅いじゃねえか!」


全力を振り絞った接近からの渾身の踏み込みは、ハヤテの脚がシドノフの頭部を狙える位置にまで到達するほどの跳躍となった。

火炎を腕に集めた巨人は、無防備な地肌を蹴りの前に晒している。



焔(ハヤテが跳んだ!)

長(速…!)




疾「こうなりゃヤケだぜ!そのマツボックリみてえな顔面、全力で蹴っ飛ばしてやる!」ブンッ

ロッコイ「ホォオオオッ!」ドガッ



目にも留まらぬ速さで繰り出された空中蹴りは、同じく高速で割り込んできた岩壁の様な盾によって防がれた。

しかし、間一髪で防ぐだけでハヤテの蹴りは終わらなかった。



――ドンッ!


ロッコイ「…ッ!?」ブワッ


盾を割り込ませた魔族が、小さくではあるが勢いを殺しきれずに吹き飛ばされたのである。
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/08(火) 19:46:09.20 ID:+CEQtE7R0
疾(……え、これマジか)


空中で脚を振り切った体勢のハヤテは一人唖然としていた。

着地するまではこの状況が飲みこめなかった。



ロッコイ「ホ…ホォオ…!」

シドノフ「…!」



疾(二体とも地面に転がってる…俺の蹴りで?)

疾(嘘だろ、普段の蹴りだってここまで威力は…無い?いや、どうだろう、こんくらいの力はもしかしたらあったのかも……)


焔「ハヤテ!大丈夫か!」タタタッ

疾「え!?…ああ、ぼーっとしてた」

焔「注意しろよ俺じゃないんだから…あいつらまた起き上がってくるぞ」


タタタッ

チャキ

長「奴らは地面でおねんねしてやがる、今がチャンスだ、仕留めよう……感謝するぞハヤテ」

疾「ははは、どーってこと…」


シドノフ「コォオオォォオオッ!」



疾「うわ、起きるの早っ…」

焔「どうやら、生きてる喜びを分かち合う暇はくれないらしいな」

長「そんなものは後回しだ、俺ら三人が死んででもこいつらはここで殺す」

焔「縁起でもないな、勝つ気でいこうぜ」チャキッ

長「当たり前だ」ジャラッ


疾「……」

疾(俺の蹴りだけであんだけふっ飛ばせるなら……俺にだって)
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 06:16:56.20 ID:QMbFkFkco
フラグ立ってるな…
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/10(木) 20:36:11.94 ID:1Y3CwFtL0
ロッコイ「……!」ジタジタ



焔「! ナガト、こりゃ本当にチャンスだぞ。盾の野郎は腕の重みで起き上れないみたいだ」

長「ははっ、まるでカニだな」


シドノフ「ボォオオ…」メラッ


長「…二手に分かれて奴の注意を逸らす、敵が砲撃を撃ったらどちらか一方が頭を狙うぞ」タタッ

焔「おう、…一発外したらすまん」

長「狙いを澄ませばいける、撃つ直前でもいい、機会は二度は来ないと思え」

焔「厳しいな…けどまそういうもんだよな…了解」


シドノフ「コォオ……」

長「……」



シドノフから距離を置いて、回り込むようにしてにじり歩く。

ナガトはジャベリン片手に、俺は火薬銃片手に。

獲物を狙う狼のようにシドノフの周囲を囲んだ。



長「さあ……俺か、ホムラか…どっちを狙う…?狙うなら、殺されたくない武器を持ってる方を狙うんだな……」ザッザッ

シドノフ「……!」キョロキョロ

焔「いきなり現れた時は驚いたが、単体になっちまえば何も恐れる事はないな?砲撃してこようが、さすがにこの距離なら避けるのも反撃するのも容易い」ザッザッ

疾「…」ザッザッ

焔「……どさくさにまぎれてお前も囲んでるのな」

疾「二人で囲うよりも三人の方がいーだろ?」チャ

長(…? あれはブルメラか?)


焔「まあ良いけどな、お前が狙われても避けられそうだし」

疾「そうそう、もっと俺を頼れよ二人共よ」

長「十分すぎるほど頼ったさ、既に感謝してもしきれないくらいにな」

疾「……!」


疾(なんか、いいなこれ…戦場で頼りになる男…)
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 22:58:34.82 ID:qbZycRrEo
やばい!ハヤテが旗建ててる!
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/11(金) 17:23:19.86 ID:urUJeP4AO
((*・・∀・・*))キャー
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 00:56:54.79 ID:eLgwhrEmo
ええい>>1は無事なのか!?
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 20:59:47.09 ID:/8cy99Kro
心配なんだぜ
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/15(火) 22:04:45.64 ID:wNx9vF+fo
>>1大丈夫かな…超心配;
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/03/15(火) 23:13:56.25 ID:ZU7UjSVvo
>>1がジェミニの人なら無事なはず!
みんなでのんびり待っとこう
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/03/16(水) 12:09:07.49 ID:f8XwbJBAO
ジェミジェミ…
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/03/16(水) 12:45:30.04 ID:f8XwbJBAO
今回の地震や津波の被害にあった方々に追悼のry

俺は東京だが、現在まだ何か起こるかもしれないと静かに様子見をしている。
今はまだ再開はせず、心身ともに備えて万全を整える期間としたい。

世情が落ち着いた時にまた再開するので心配する必要はないよ。
@geminer
↑いつ何時、どこで何が起こるかわからない。このTwitterアカウントが生きていれば大丈夫だと思ってほしい。
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/03/16(水) 15:34:33.26 ID:s4RdSIy5o
やってたぜ、やっぱり>>1は無事だった!
まあTwitter見てたんですけどね…
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 08:27:37.75 ID:cmiVuiEuo
こんなキャラだったのか>>1
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/15(金) 23:20:32.87 ID:PntU/CUY0

長「言っておくがなデカイの!俺のジャベリンは!てめえの硬い体をも貫く必殺の槍だ!」ヒュッ

焔「!」


ナガトが素早い動作でジャベリンを振り被ったと思えば、ジャベリンを構える片手には木製の引っかかりのついた棒が添えられていた。

手投げでもジャベリンを強く打ち出すための、専用の道具だ。


シドノフ「コォ……!」ユラ

焔「! 殴りかかってくるぞ!一旦回避だナガト!」

長「やられる前にやろうってか!だが頭をブチ抜けば問題ない!」


一昨日の戦とは違い、今のここは遮蔽物も命中を曖昧にする遠距離もない。何らかの攻撃を発すれば相手に当たる、先手必勝の決闘場だ。

シドノフは巨体のせいもあってか、確かに動きは鈍い。だがこの魔族の頭をジャベリンで貫通させるほどぶち破ったからといって、いざ殴り掛かろうと前方に勢いをつけたこいつが止まるかといえば、それはわからない。


焔(無茶だナガト!仮にその距離で奴を仕留めたとしても、シドノフの巨体に倒れ込まれれば…!)


シドノフ「コォオオオ!」

長「死n疾「死ねえええええええ!」


ビュン


風を強く切る音がその間合いを横切った。


シドノフ「ゴッ…!」


安定して回転する刀身は目にも止まらぬ早さで素直な軌道を描き、刃先の十センチほどを巨人の腹に埋め込んだ。


疾「いよっしゃ命中!隙ありだぜマツボックリ!」

長「でかした!トドメを刺す!」

焔(これは…ハヤテの投げたブルメラか!短剣の勢いで敵の身体が大きく後退してる!チャンスだ!)ドゥンッ


俺もここぞとばかりに銃を構えて、よろめいたシドノフの頭部をめがけ発砲する。


シドノフ「ッ…コッ…ォッ…!」


弾はこの距離で貫きはしなかったが、奴の鱗の様な表面には明らかなダメージを与えている。

近距離な分、威力も効いているようだ。



長「万事休すか!?追い打ちをかけるようですまんな!化け物!」

シドノフ「…コ」ドガンッ



刃物が刺さったとは思えない豪快な破壊音と共に、青い炎の巨体は荒れた地面に伏した。
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/04/16(土) 18:59:02.47 ID:dRSajiomo
来てたー!
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/17(日) 01:58:15.96 ID:b7OiSLc70

長「一丁上がりだ!見たか!」

疾「ひゅー!」

焔「盛り上がってる場合じゃないぞ!“盾”がまだ残ってる!」

疾「はっ、忘れてたぜ」



ロッコイ「……!」ジタジタ


長「…こいつ自力で起き上れないんじゃないか?」

焔「だとしても放っておくわけにはいかないだろ、俺が銃でトドメを刺す」チャキッ

長「確実だ、頼む」

疾「敵が現れた時はどうなるかと思ったが、なんとかなったな……時間を取られちまった、早く油を撒かねえとまずいな」

焔「ああ、手っ取り早く終わらせよう」




ロッコイ「ホォ…!」ジタジタ

焔(まぁ、この距離から顔面に当たりゃさすがに死ぬだろ)チャキッ



ドゥンッ! ――ガィンッ




ロッコイ「…ホォオオ…!」

焔「……」

疾「この期に及んでまだガードするかこいつは」
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/17(日) 08:22:51.06 ID:/qgyrFPso
頑張るな盾蟹…ww
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/17(日) 09:44:14.25 ID:VUchcuNgo
来てた!
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/17(日) 20:28:05.83 ID:b7OiSLc70

焔「そおいっ!」バシャッ

ロッコイ「…ホ!?」

長「もう一杯ッ!」バシャァッ

ロッコイ「ホォッ!?」



疾「カニに油はかけ終わったかー!?」

焔「ああ、ばっちりだ!出して良いぞ」

疾「おっけー、さっさと太陽橋まで走るぜ!」ダンッ


ガラガラ・・・ガラララ・・・



焔「…しかし我ながら残忍な事しちまった…なっ!」バシャッ

長「奴らにはそれくらいの殺し方が似合いだ……油の線に火が灯された時、奴は大火に見舞われて死ぬ事になるだろう…なッ!」バシャッ

疾「話は良いが、油は撒いてるかー!?」

焔「大丈夫だ、抜かりはないー!」バシャッ



長(……もうすぐ太陽橋か。炎の壁の作戦が上手くいけば、夜襲はなんとか凌いだことになる)


焔(もしも、やすやすと炎の壁を突破されたら…)


疾(……)



ガラララララ・・・
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/18(月) 00:09:19.33 ID:JJVXmXMD0

「カギルさーん!」タタタ・・・

限「準備の方は」

「3つ目までの地点までは完了の連絡が取れました!準備完了です!」

限「…よし、整ったか…これでいつでも火を放ち、進軍を止めることができる」

「しかしカギルさん、太陽橋の方は……」

限「問題ありません」

「? 何故ですか、連絡は取れてませんよ?それっぽい信号も、多分あがってないし…」

限「彼らなら大丈夫だと信じています」

「……んん、だが仮にまだ油を撒いている最中だとしたら油の線に引火して…最悪の場合荷車に火が移って、燃え上がってしまうんじゃ…」

限「……」

「…いや、わかりますよ?そんなことも言ってられない状況です」

限「私は彼らを見捨てたつもりはありませんよ」

「……」


限「確かに危険ですね、まだ油を撒いている最中だとすれば…着火された油の線は炎の壁を作りだし…それに巻き込まれる危険性がある」

「はい」

限「杞憂ですよ。彼らはそんな迂闊な死に方はしません」

「はあ……」



限(……あとは機を待つのみ…そう、油を撒いた位置…そこで私の思惑通りに奴らが立ち止れば)
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/19(火) 00:01:23.41 ID:82A0/SOu0

シドノフ「コォオオ……」

ズシン、ズシン・・・


ロッコイ「ホォオ…」

ズシン、ズシン・・・




「…見えた、微かに青い炎だ」

「本当だ、あそこだろう?木陰の」

「そうあれ、……俺らから見えるってことはつまり、もう奴らにも俺らが見えていてもおかしくないってことだよな?」

「だろうな、しかし俺らは完璧に草影に隠れている…そう簡単に見つかるとは思わんよ」

「魔族の考えてる事ってなよく解らんからなぁ、人間と違って小さな人影でも見つけちまいそうな気がして心配でならねえよ」

「考え過ぎだぞ」

「へへ、そうか」



「…ま、俺らの姿を見つけられていようが見つけられていまいが、大して変わらんさ」

「くっくっく、まさしくな、魔族共も可哀そうに」

「奴らの砲撃を阻害する林道を抜ければ、そこは多少は景色の開けた空間…だがさすがに町は見えんがね」

「それでも奴らは景色の中に人間を探す…それは一瞬だが、確かに奴らは止まる」

「俺らが着火役の奴らに合図を送って、火が放たれるまでは…その間さえあれば十分ってことだ」

「……よし」



「………“壁際”着火!」
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/04/19(火) 23:18:07.06 ID:H/UY3ZwAO
宵闇の中に一際青く輝く巨人は、ついに町の外周部まで踏み込んできた。



ロッコイ「ホォオォ……」


その背後には巨大な二枚の盾を備えた魔族が控えており、開けた場所とはいえど、その守りは堅い。

現にこの2体は、林道での民兵からの集中放火を受けても傷ひとつ負っていない。

生半可な遅い攻撃は全て、ロッコイの盾によって防がれるのだ。



――ピチャ


シドノフ「………?」


足下から水音が聞こえた。

なにやら細い水溜まりのようなものがあるらしく、シドノフの頭部は地続きの長い水溜まりの行方を追った。




シドノフ「……!!」


そして見る。

突風のように早く、竜のように地を削り駆け寄ってくる、炎の塊の姿を。
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/20(水) 00:08:13.92 ID:SojWMt9Co
燃やしたれー!
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/20(水) 01:17:48.57 ID:ns6eHU+Po
なにこれすごいおもしろい
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/04/21(木) 00:05:57.41 ID:p+gYPqYAO

シドノフ「コォ…!」


迫り来る業火の勢いは、シドノフの巨体に退避させる間も与えず目の前に迫った。


ロッコイ「ホォオォオオ!」


だがシドノフの代わりに動いたのは、巨大な盾を持つロッコイ。

機敏な脚はすぐさまシドノフを庇う位置へと立ち回り、岩壁のように重厚な盾を迫り来る炎へ向けて構える。


ロッコイ「………!?」


だが彼はすぐさま、自分が判断を誤った事に気付く。

炎へ盾を構える。それは良かった。

だが、それだけでは駄目だったのだ。



ロッコイ「ボッ…ォオォオオ!?」ゴオッ

シドノフ「ォオォオオオォ!?」ゴオッ


火炎の壁は地面を走り盾の真下をすり抜け、二体の魔族の全身を飲み込んだ。

爆発にも似た凄まじい火力が、ジリジリと二体を焦がす。


シドノフの青い炎は消え、身体を覆う鱗は一瞬で焼け尽くし、見る間に巨体を黒く縮めていく。

ロッコイは両の腕の盾を繋ぎ止める組織が焼き切れ、もはや何の目的を与えられた魔族かもわからない、丸腰で軟弱な姿へと成り下がっていた。



シドノフ「………」

ロッコイ「………」


火炎の壁が魔族を焼き殺すのには、数十秒もかからなかった。

415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/21(木) 00:17:43.75 ID:naULH9m+o
焼肉パーティーだ
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/21(木) 00:21:00.89 ID:Tyhlfzgzo
ひゃっはー汚物は消毒だぜ
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/04/21(木) 01:32:11.07 ID:/fNEd9mDo
汚物は消毒だー
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/04/22(金) 06:04:56.92 ID:1FPOVs6AO

「よし、合図が来たぞ……せーのっ!」ブンッ

「おりゃあっ!」ブンッ


松明は、一瞬だけ佇んだ魔族らに向けて投げられた。


ロッコイ「ホォオォ!」


煌々と輝くオレンジの炎が円を描きながら飛んでくるが、ロッコイは慌てずに立ちはだかり、盾を構えた。


ロッコイ「……!」

「かかったな!」


だが所詮はそこまでだった。




松明は立ちはだかる盾の手前に地に落ち、火は地面共々魔族らを強く焼いた。



「いよっしゃあぁあああ!」

「よっし、次いこう次!ちょろいもんだ!」
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/23(土) 02:24:59.52 ID:VgePkL3M0

ゴォオ・・・



限(……夜のバンホーの暗い空が、今日は赤を帯びている)

限(ハープさんがいなければ、仄かに染められたこの空の色が、自ら焚いた炎でなかったという事もあり得た)

限(今日の火は、町を焼く火ではない…魔族を、惨劇軍を焼く、我々正義の火)


ハープ「どれどれ…おお、随分と良い煙が上がっているじゃないか」

限「外からはバンホーが大火に包まれているように見えてしまうほどの煙でしょうね」

ハープ「そうだな、微かに明るくなるほどの炎だ」



タタタタタ・・・


「カギルさん、炎、効いています!」

限「! 本当ですか」

「はい!奴ら、そりゃもう紙屑みたいに燃えていくんですよ」

限「…良かった、本当に火が弱点だったのですね」

ハープ「壁を越えてきた敵はいるか?」

「は、はぁ…今のところはいないかと」

ハープ「間に合ったか、よし」

「あ、しかし太陽橋の方まではまだわかりません、そこと連絡を取るにはもう少し掛かりそうです…向かわせてはいるんですけど」


限(太陽橋……ホムラさんやハヤテさんが向かった場所か)

ハープ(やつらがヘマをして、一体でも魔族を取りこぼしていたり、はたまた突破されていたりすれば全ては水泡だが…ふ、大丈夫か)

限「……」

ハープ「さて、夜襲の結末はどのようにほつれていくかな」
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/23(土) 20:12:19.76 ID:VgePkL3M0

ゴォオオ・・・


焔「えーっと、つまり爆蕾の赤い灰をベースにフゲンの胞子やマンドラの種を混ぜたものがフゲン油や合麗油の基本となってな」

疾「ほー…」

焔「魔獣の脂から抽出した液や鉱物油にそれらをちょっとだけ混ぜる、と」

疾「ふーん…」

焔「そうすると、火花が着火しただけで爆発を起こし、長時間よく燃え続けるような油になるわけだ」

疾「んな危なっかしいモンをよくここまで溜めこめたもんだ」

焔「この町でなら色々と使い道もあったんだろうな」

長「採石場での作業とかな」

疾「俺らからしてみりゃ良い迷惑だぜ、まったくよぉ……」



疾「魔族共をふっ飛ばしてくれたのはありがたいが、爆風で俺らまでふっ飛ばされちまうんだぜ?」

焔「しかも台車ごとな…林の茂みに叩きつけられてなけりゃ、一生残る擦り傷でもできていたところだよ」

長「積荷に油が残っていたらと想像すると恐ろしいもんだ…」

疾「…使い切ってなかったらどうなってたんだろうな」

焔「爆風で飛んできた火の粉が積荷の油に引火して、太陽橋が半壊してたな」

長「…」

疾「おいやめろ、足が震えて立てねえだろ」

焔「大丈夫、俺もしばらく鈍痛で立てないから」

長「俺もだ」



疾「……でさ、ホムラ、ナガト」

焔「ん」

長「なんだ」

疾「…これさ……戦いは終わったのかよ」

焔「…多分な」
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/23(土) 21:31:29.11 ID:VgePkL3M0

長い夜の戦いは、茂みで寝そべっている間に終わった。

俺らの反撃の狼煙は濃紺の中にうっすら白く、高くまで登っていた。


満身創痍の全身打撲で動くのが億劫だった俺らは、駆けつけてくれた民兵の人力車によって本部へ帰還。

「よくやってくれました」と手厚く感謝するカギルさんの傍らを「おつかれ、寝ておけ」とだけ言って通り過ぎたハープさんの薄い笑みを窺うに、多分俺達は褒められたのだと思う。


結局炎の壁を越えてきた魔族は一匹もいなかったらしく、物見台の兵が言うには「敵のほとんどは炎の壁に向かって歩いて自滅していた」との事だ。

意表をついた夜襲をしてくる割に、随分と考えなしで情けない死に方をするもんだと聞かされて思ったが、魔族の考える事なんて人間の俺にはわからない。

カギルさんは何か大事なことでも伝えようと口を開きかけていたが、皆疲れているからということで明日の楽しみに取っておくことになった。


結局自分の寝床に着いたのは明け方も近い頃合いだった。



焔(……やばい、二秒で寝れる…)



今日この夜に死んでしまった民兵達の事を想いながら、勝利の白い幽霊のような狼煙を思い出して、俺は久々の深い眠りについた。

腕が痛みでさえ心地の良い夜だった。
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/23(土) 23:50:11.19 ID:VgePkL3M0

『――危うくメイトをかけられる所だったな――』

ハープ「そこまで切迫はしていなかった」

『――お前とて、一人では広範囲に散った奴らを潰す事はできんだろう――』

ハープ「どんなに大きな掌であろうと、雨粒は指の隙間から取りこぼすものだ、絶対なんて無い」

『――ふん、まあ良い、どの道些細な事だ――』

ハープ「……」


『――奴は“危難のダマ”と名乗ったな――』

ハープ「…上位種」

『――腕に備えた羽衣を変形させていた……主な用途は攻防一体の近接武器と見た――』

ハープ「分割して飛ばせるかもしれないぞ」

『――遠距離も兼ねる可能性があると…化け猫め、面倒な駒を造ってくれたものだ――』

ハープ「なに、虱潰しさ…大元が頭を掻くなら、私はそのフケを払い、虱を捨てるだけ」

『――こうもテーブルゲームが長引くと、元凶の掻く頭を消してしまいたいところだがな――』

ハープ「……ふん、前にも言った、私は危険な事はしない」


ハープ「…地道にやっていく」
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/24(日) 17:18:46.48 ID:UXHuTe+80

『どうだホムラ、鉄の見分け方はわかってきたか』

『うん、数は多いけど結構わかってきたよ…これが青銅、赤銅…で、こっちは錫…鉛…』

『うむうむ』

『…あ、でもじいちゃん、棚にあったんだけどさ』

『ん?』

『こいつだけわかんなかったんだ、こいつ』ゴトッ

『…!』

『これなんていう――』

『ホムラ』

『?』

『仕舞え』

『え?これを?』

『ああ、んで、二度とそいつを出すんじゃねえぞ』

『なんでさ?』

『……いつか話す、今はそいつのこたぁ何も知らんでいい』

『? …うん、わかったよ』
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/24(日) 17:44:09.39 ID:UXHuTe+80

「ホムラさーん」

焔「むぅむぅ……」

「ホームラさーん」

焔「ぐかー…ぐかー…」

「……」


グッ


焔「いでででででっ!?」

護「おはようホムラさん、怪我の調子はどうですかー?」

焔「うぁああぁ…っつぁ…」

護「やっぱりまだ打った所は痛むみたいね」

焔「…マモリさんか、ていうか怪我は今まさにあなたが押し」

護「カギルさんがみんなを集めて、今から会議を開くんだって…昨日の事も含めて話があるみたい」

焔「……え?会議?今から?」

護「もう朝よ…あ、むしろ昼よりの朝?っていうべきかしら」

焔「…!」

ガバッ


焔「寝すぎた…!会議か、早く行かないと…!」

護「上着ていかずに?」

焔「…着替えてから」
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 17:49:01.24 ID:QBoYCEJvo
焔さんほむほむ
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/24(日) 18:03:15.62 ID:UXHuTe+80

体をしっかりと休めるため、と言えば聞こえは良いが、町の現状を考えれば健康的にぐっすり休んでいるわけにもいかない。

そりゃあ昨日、あれだけの戦いが突然起ったのだ。明けの朝に何も無いはずがない。

そんなことも解らなかった俺は寝坊した頭を焦りで覚醒させて、素早く着替えて自分のテントから足早に出ていったのだった。


パサッ


焔「すいません、遅れました」

限「ホムラさん」

衛生兵「遅れました、か、まぁ確かに会議はもう始まってはいますが」

焔「あれ、会議?…といってもこの人数…?」

ハープ「各部門の長だけの少数の会議だから、お前はお呼びじゃないんだよ」

焔「…あ」


そうだった、忘れていた。

俺はただの一端の民兵だったんだ。


番「ま、まぁまぁ、ホムラさんはもうこの町の一般の民兵とは言い切れない存在ですし…」

「ワシらだって元々ただの町人、長の境い目など無いようなもんじゃ」

限「という事です、どうぞホムラさん、席にお掛け下さい」

焔「え、良いんですかカギルさん」

限「はい。…元々この空席はホムラさんのために用意していたので」

焔「ありがとうございます…ん」


差し出された木椅子には、鈍い刃物を打ちつけたような真新しい大きな傷跡が残っていた。

視界の端ではツガエさんが苦笑を浮かべている。

俺も苦笑いを浮かべてそこに腰かけた。
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/24(日) 18:21:33.82 ID:UXHuTe+80

限「…さて先程も話しました通り、…いやその前にホムラさんのために話しておかなければなりませんね」

衛生兵「死者7人、重傷11人」

焔「!」

衛生兵「昨日の夜襲での、バンホー側の被害です」

焔「……」


やはり死者が出ていた。怪我人も。

昨晩の戦いの最中に聞こえてきた木霊する悲鳴が未だ鮮明に思い出される。


限「採石場近くの物見台にいた自警の方を含めた数ですね」

番「…私の教え子でした」

鐸「あいつぁ、ワシの部下でもあった」

焔「……」

限「敵が採石場から迫ってきたことを知らせてくれたのは彼でした」

番「目の前に大勢の魔族がいたのに、彼はそれでも町へ信号の矢を放って…」

衛生兵「ツガエさん、落ちついて。……話を進めましょう」

限「はい」
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/24(日) 19:46:40.29 ID:UXHuTe+80

限「まず先程話していた案件ですね、昨晩の奇襲によりバンホーは人にも、物にも痛手を負いました」

焔「はい」

限「が、それ以上に民兵の方々への精神的な傷跡が心配です」

ハープ「突然の襲撃に委縮し戦意を喪失する者もいれば、夜に恐怖し眠れなくなる者も出てくるだろう」

限「また再び奇襲される事自体まずいのですが、夜寝ておくべき時に安心して眠れないというのは一番まずいですね、これは平時にも響く事です」

鐸「うむうむ」

限「ですので、これから我々は昨晩の方面からの再びの奇襲に耐え得る策を打っておかなければなりません」

番「はい」


ハープ「あともう一つ、それに付随する事だが…」

限「……」

ハープ「カギル裁判長から話してもらうか」

限「はい」

焔「?」


限「…実は昨晩の戦い、魔族の軍勢の奇襲によって思わぬ損害を被りました…敵ながら不謹慎ではありますが、非常に知的な攻めだったと言えるでしょう」

番「……」

限「敵の惨劇軍は開けた山間を通ることなく、わざわざほぼ直角まで反り立った岩壁を這うように迂回して採石場まで進入してきたわけですが」

焔(確かに無茶な進軍だが、こっちも手痛い目に遭った)


限「…ハープさんの話によりますと、その進軍を指揮した魔族が居るらしいのです」

焔「!?」

番「えっ!?」
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 20:49:28.73 ID:6G9LWgDSO
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/24(日) 22:18:01.54 ID:UXHuTe+80
衛生兵「指揮って、つまりリーダーのようなものですよね、そういうの居なかったんですか?」

焔「指揮…いや、なんとなく思っていた事だが…あいつらって作戦の指示を出せるほど頭が良かったんですか」

限「頭の良い魔族と悪い魔族がいます」

番「…味方を守る能力がある、盾の…ロッコイという魔族ですか?」

限「いえ…私を含めてですが、皆さま方にはハープさんが描いてくださった4種類の魔族が知れていると思うのですが」

鐸「……」


限「そのうちのどれでもありません、新しい種類の魔族、だということです」

焔「新しい種類の……魔族」

ハープ「その名を“危難のダマ”という」

番「ダマ…」

ハープ「魔族の姿を確認したのは私だ。今現在町を攻めている惨劇軍の中に一体だけ、そいつが指揮を取っている」

限「ハープさんも昨晩の戦いの最中、林道に潜っていたらしく…そこで遭遇したと」

ハープ「ああ」


焔「頭の良い、魔族……」

鐸「そんな奴がいたとは迂闊だったなァ…てっきり真っ向から量で来る奴らだとばかり思っとったが」

ハープ「惨劇軍の大概はそんなものだよ、指揮を取れる魔族…奴らの“上位種”が混じっていることは稀なんだ」

限「昨日の奇襲もつまり、そういうことです」

ハープ「…上位種がいないものと情報を伝えていなかった私のせいだ、すまない」

番「…いえ、ハープさんは何も」

鐸「考えてみりゃ、わしらも敵のやって来る方向を限定しすぎていたのだろうな、わしらの過失でもある」

限「責の話は後にしましょう、会議の内容を戻します」
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/24(日) 22:36:10.30 ID:UXHuTe+80
限「我々は辛くも一旦は撃退に成功しました、しかし兵の方々は疲弊しきっています」

焔「ですね」

限「矛盾した話ではありますが、町の人々を休めながらも次なる魔族の侵攻に備えなければならないのです」

職人「……うーむ、備えるってな、一体どういった具合にですかね」

限「はい」


限「まず油が足りない」

焔「あ」

限「昨晩の侵攻を撃退できたのは、町の要所に配置した油によるものが大きいです」

ハープ「奴らは火や熱が最大の弱点だからな」

限「いつかまた再び必要になるかもしれません、…が、もうこの町に火力の強い油はありません」

職人「…ああ、俺の所からも集められてたな…フゲン油はそのために集めてたのか」

焔「あ、フゲン油の方だったか…合麗油かとも思ったんだけど」

職人「お?わかってるねぇアンタ、色も匂いが似てるからね」

焔「だよな、暗い所で見たんじゃ正直俺もどっちがどっちだか」

番「ごほんっ」

焔「!」

限「…油を再び精製するにはかなりの時間が入り用になりますので、代替物として他の燃料を探さなくてはなりません」

ハープ「火薬でもなんでも構わないのだが、とにかく火力があれば惨劇軍の処理は楽になる」

限「町の守りは土嚢や煉瓦ですが、攻めには銃…そして火、または熱が必要なのです」


限「…疲弊した民兵の方々には、しばらく休んでいただき…そういったもののアイデアを考え出していただきたいと思っています」
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/24(日) 22:55:30.87 ID:UXHuTe+80
職人「え、アイデア…って言われてもなぁ、パッと浮かぶもんでもないし」

鐸「それよか、休んでいる間なんてあるのかい、カギルさんや」

衛生兵「敵はまたいつやって来るかわからないのでしょう」

限「それについては問題ないそうです」

ハープ「心細いかもしれないが私が保証する」

番「い、いえ、そんなことは…」

焔「何故、奴らは攻めてこないと?」

ハープ「うむ」


ハープ「昨晩の惨劇軍は採石場から周り道をして、大挙してここへ押し寄せようと仕掛けてきた」

鐸「ふむ」

ハープ「魔族の考えていることが良く分からないとはいえ、奴らは昨晩の攻めに勢力を全て投入してきたものと私は思っている」

番「え?ていう事はもう惨劇軍は来ない…?」

ハープ「そういうわけじゃない、あいつらは今もなお海を渡り次々に海岸へと泳ぎ着いているからね」

番「そ、そうだったんだ…」


ハープ「しかし泳ぎ着いた先から単騎で攻めてくるわけじゃない……ある程度数が集まってから、隊となって攻めてくる」

焔「昨日の攻めによって、今はやつらの数が少なくなっているという事ですね」

ハープ「ああ。二、三日は数も集まらないだろうよ」

ハープ(…昨日の一撃で、司令塔の方も身体を休めなくてはならないだろうしな)

限「連日の攻撃で精神的に下降している民兵もいるでしょうし、当然肉体的にも休まなければならない方もいます」


限「いわば彼らから“火のアイデア”を募るというのは口実にすぎません…ただ、相手が炎に脆く、様々な方法で対処ができるという事を皆さんに知っていただき、同時に希望を失わないでいただきたいという事なのです」

番「…なるほど、しばらくの休養にもなりますからね」

限「はい」

焔「……火か…」

職人「火ねえ」

限「まあ案はあってもなくても構わないのです、無いに越したことはないというだけで…安心して休んでいただきたいというのが本音です」


限「その間に民兵以外の方々には、敵襲への備えをしていただくという訳ですね」
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/24(日) 23:29:32.99 ID:w75Vrgwoo
わくわくてかてか
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/25(月) 19:56:01.84 ID:Tsh6qcRI0

焔(さーて、どうしたんもんかな)


飛び入り参加の会議が終わり外に出てみると、眩しい日差しが俺を迎え入れてくれた。


焔「ん〜〜〜っ」


少し遅い覚醒ということで伸びをしてみる。

深呼吸をしてみると、やや乾いた空気が肺を満たした。

そういえば最近は雨も降っていないな。


護「あらホムラさん、ごきげんよう」

焔「ああ、マモリさん、おはようございます」

護「うふふ、ホムラさんの方が年上なんだから敬語なんて使わなくてもいいのよ?」

焔「いやぁ、マモリさんはセンセイですから」

護「意味がわからないわよ、ふふふ」


口元を押さえて上品に笑う様は美人だが、この人は色々とわからない面が多い。


焔「マモリさんはどうしてここに?カギルさんに用ですか?あ、医療の部門長の方を待ってたり…」

護「どっちでもないわよー」

焔「じゃあ俺の回診とかですか」

護「ううん、ハープちゃん」

焔「え?ハープさんがなにか怪我でも?」

護「違うわよぉ、ちょっと抱きしめに来たの」

焔「……さいですか」

護「じゃあまたねホムラさん、夕方ごろにまた怪我の様子見ますからね、できるだけ肉体労働はせずに安静にしててくださいねー」

焔「あー、はい、わかりました」

護「うふふ、ハープちゃーん」パサッ


「うわ、出た」

「ハープちゃんいますかー?回診の時間ですよー」

「ちょっとマモリさん、回診は救急テントに戻ってからのが先ですよ」

「えー、少しだけお願いしますよー」

「当人の許可は取らないのか」



焔「……平和だ」


焔「…どうせ今日は暇だし…とりあえず町の様子を見て回るか」
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/25(月) 20:18:17.98 ID:Tsh6qcRI0
ギュルルル・・

焔「……腹減ったな」


あてもなくテント群の間を歩いているが、昨日のように大鍋が良い匂いをくゆらせては居ないらしい。

誘われる香りが全く無いため、俺の足も行き場を失っていた。


焔「起きた時間が中途半端すぎたか…どこかに食いに出かけようかな…あ、というより今って呑気に店やってんのかな」


どこかまだ疲れた顔をしている民兵達の立ち話を華麗に避けつつ、とりあえずは外へ。

…そうだ、風呂も入りたいな。昨日の夜そのまま寝ちまったんだった。



「! おーい、そこの髭の人」

焔「え?」

「あ、一発で振り向いた」

「他にも髭いるだろうに、もっと呼び方あんだろ」
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/26(火) 19:35:29.97 ID:VaJA/AYA0
「呼び方って言ったってなぁ?間違えだったらどうすんよ」

「小心者め」

焔「…え?俺に何か用?」

「ああ、すまんね…あんたホムラだろ?クレナイの鍛冶屋の」

焔「おう、そのホムラだ」


一体この町に何人のホムラがいるのか疑問だ。

俺を呼びとめた4人組みの男達はどれも暇を持て余した、なおかつ怪我も病みも無さそうな涼しい顔をしている。

井戸端会議でもしていたのだろうか。


「いやー、名前からして炎に詳しそうなあんただ、ちょっとお知恵を拝借しようかと思ってさ」

焔「名前でって…まぁ専門だけども」

「よしきた」

「ほら俺の思った通り」

焔「俺に何を聞きたいんだ?」

「うむ。…さっき連絡の部門長のサナキさんからちらっと聞いた話なんだがな」

「なんでも俺らに“炎や熱を出すアイデア”を募っているらしいじゃねえのよ」

焔「ああ……」


本当にこういうウワサが広まるのは早い。もう既に民兵達はやる気満々のようだ。
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/26(火) 20:08:41.43 ID:VaJA/AYA0

焔「…うーむ、炎ねぇ…熱ねぇ…」

「鍛冶屋なんだろホムラ、何かそういうのに適したものとか無いのかよ」

焔「そりゃあ沢山あるとも」

「え!?」

焔「だけど昨晩みたいにこの町を覆ったりとか、長持ちするとか…まず絶対的にそんなに量が無いってのが一番のネックだよな」

「俺らと同じ袋小路じゃねーか」

焔「え、なんかすまん」

「そうなんだよなー…よく燃えるものはあっても、量がなー」

「薪だってそこまでねえし、石炭っぽいのとかはようわかんねーし」

「あ、石炭みたいな燃料はどうなんだい?ホムラ」

焔「イマイチだな、少なくとも今の町の状況に合うもんじゃあない」

「むーん」

「もう油は無いんだよな」

焔「昨日さんざん撒いちまったからな…かといって撒きすぎ、だとか言える状況でもなかったし」

「湯水のごとくだったよなー」

焔「量が豊富で火力があって長持ちするものがあれば良いんだけどな」


うーん。と唸る俺を含む男達。

結局というか当然というか、答えは出なかったが日なたで良い気分にはなれた。
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/26(火) 22:30:45.44 ID:VaJA/AYA0


焔「…奴らを倒せる炎…熱…」


虫のようにうるさく鳴く腹を抑えながら町を歩く。

離れた所に佇む物見台の真下は、土嚢とレンガでこれでもかというほど補強されていた。昨晩の教訓なのだろう。


焔「……あんなに補強しなけりゃ防げない、惨劇軍の火力…理不尽だ」


ついつい口に出てしまう不満。

俺自身も魔族達の砲撃を味わっているので、その威力はよくわかっている。最新兵器の銃はおろか、大砲ですら太刀打ちできるかわからない威力を秘めている。

敵はそれを続けざまに撃つのだから手に負えない。こちらにも同じような武器があればいいんだが。



鐸「なァにを迷ってる、青年」

焔「あ」


突っ立ったまま物見台を眺めている俺の後ろから、乾いた老人の声が聞こえた。


焔「サナキさん、どうも…青年って歳じゃないですよ」

鐸「わしから見たら青年、ふっふ」

焔「はは……サナキさんも忙しそうですね、連絡の部門長やってたり…今朝も早くから会議に出たり」

鐸「ん、普段から毎朝、町の鐘を撞いてる身だ、苦にはならんよ」

焔「あ、そっか」

鐸「…一等に堪えるのは、若いもんが先に逝く事さ」

焔「……」


サナキさんは遠い眼で、採石場の辺りを眺めていた。
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/26(火) 22:53:29.30 ID:VaJA/AYA0

鐸「悪いな、付き合わせて」モグモグ

焔「いえいえ、俺も腹減ってたとこで…」ガツガツ


俺はサナキさんに連れられて、今でもやっているという麦飯屋に連れられてきた。

戦時中だというのに店主が頑固らしく、なんでも“40年続けてきたここを1日も途絶えさせるか”と一層やる気になって平常運行を続けているのだとか。


焔「……(ゴクン」


さすが頑固一徹なじいさんの作る飯だ。その意志が篭っているのか、美味い。



鐸「カギルさんはよくやってくれるよ、ワシより若いってのに」

焔「モグ………そうですね、あの人は本当にすごい」ガツガツ

鐸「町長が逃げ出してすぐに、町のみんなが次の町長にってカギルさんを支持した」

焔「カギルさんも特に悩まず“町長という肩書きは正式に手続きを踏んでからですが、責任者ということならやりましょう”って二つ返事ですもんね」

鐸「あん人にはそれがここの最善だって、わかってんだろうな」

焔「でしょうね…すごい人ですよ」ガツガツ


カギルさんがいなけりゃとっくにこの町は荒野になっていただろうな。
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/26(火) 23:16:54.67 ID:VaJA/AYA0

鐸「しかし青年、知ってたか?カギルさんが町長になるのを快く思ってないやつも、町の中には少なからずいたのさ」

焔「え?そうだったんですか」


満場一致で決まったものだと今まで思ってた。


鐸「いるんだよ、年下のやつが偉そうにしてるのを良く思わない、まぁ情けねぇジジイがな」

焔「ああ……」

鐸「いつだっているもんさ、こんな状況でも足を引っ張りだす老いぼれがよ…老い先短いのはお前だけなんだから、邪魔すんなってのにな?はは」

焔「はは…」


といってもサナキさんも結構なお歳を召していらっしゃるからなんとも苦笑いしかできない。


鐸「…なあ、ホムラさんよ」

焔「?」

鐸「今朝のお嬢ちゃん…なんだっけな……ハープさんとかいったっけ」

焔「はい」

鐸「あの子なんて特にそうだ、あの子は優秀だよ……少なくともこの町の誰よりも、戦争について詳しい」

焔「…俺もそう思います」


どんな壮絶な人生を送っているのか知らないが、間違いないと俺は確信できる。


鐸「しかしあの歳だ、若い…若すぎる…快く思わない野郎は、もっと多いだろう」

焔「……」

鐸「だがそれに潰されちゃいけねえのさ、絶対によ…ここは職人の町だ、それは良い……だがやたらと変な意地とかプライドが多くて参っちまう」

焔(…確かに)

鐸「人の野太い声に負けて、誤った道に進ませないようによ…あの小さな策士さんを、どうかあんたが支えてやっていて欲しいんだ」

焔「…でも俺がそんなこと」

鐸「なに、今のホムラさん、あんたはこの町の救世主みたいなもんだ…発言力は結構あるぞ」

焔「そ、そうだったんですか」

鐸「ふっふ、そうさ……それに昔から言ったもんだよ、“栗色の髪の女は勝利を導く”ってな、縁起の良いこった」

焔「ああ……あれ?それって“黒髪の女は勝利を導く”じゃありませんか」

鐸「ん?黒髪?いやいや違ぇよ、そりゃ間違いだな、俺は祖父さんから“栗色の髪”って訊いたからな」

焔「……おお…そりゃあ本当にハープさんすごいな…」

鐸「んっふっふ、まあ、後は頼んだよ、青年」ガタッ


薄く笑うとサナキさんは席を立ち、俺の分の代金まで店主さんに渡して去っていった。

サナキさんは米粒一つ残さず完食していたので、俺もそれに倣って茶碗の掃除をし始めた。
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/27(水) 12:33:17.65 ID:BrcaQ+hPo
だから主人公の名前が焔だったのかーと
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/27(水) 21:21:31.32 ID:IoRItA4Z0

焔(……髪がガッサガサだな…)


腹も程よく膨れたところで、今度はひとっ風呂入りたくなってきた。

髪を指で梳いてみると、ググっと絡む。身体からは汗の匂いがする。これでは気持ち悪い。


こんな物騒で、人も死んでいる時勢とはいえ、風呂は風呂だ。俺だって一日に一度はちゃんと熱い湯を被りたいさ。

それに万が一、頭の痒さに気を取られている間に砲撃を浴びて殺されてしまう、なんてこともあるかもしれない。

いざという時にアクシデントを起こさないよう、出来る身支度は完璧にしておかなければならないのだ。と、言い聞かせておこう…。

俺みたいなボケーっとした奴が何言ってるんだか。



そういうことで、俺はフジの実の連なる暖簾を潜り、湿度の高い風呂屋へと踏み入った。


ジャラララ・・・

焔「今の時間、空いてます?」

番台「んー、まぁまぁさね」

焔「よしゃ、んじゃ入らせてもらいます」

番台「おう ……あ、ホムラさんっつったね」

焔「? ええまあハイ、鍛冶屋のホムラです」

番台「宿屋のイコイ姐さんから訊いたんだけど、あなた結構、お湯加減をいじるの得意なんだってね?」

焔「いやいや沸かしませんよ、俺客ですから」

番台「はっはっは、それもそうか、暇になったらぜひ一度頼むよ」

焔「いやー勘弁してください」


すっかり俺の名前も広まったもんだ。

これは良いのか悪いのか。有名ってのは悪い気はしないが、知らない人から名前を呼ばれるのはなんとも歯痒い…。
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/27(水) 22:34:54.59 ID:IoRItA4Z0
長「お?」

焔「んお、ナガトか」

長「お前も風呂か」チャポ

焔「昨日戻ってからそのまま寝ちまったからな」ザパァー

長「俺もだ、朝起きてみれば匂いから不衛生で、かなわん」


露天風呂には湯気に隠れて何人かの先客がいた。

それぞれ腰を降ろしたり、岩に背を預けていたりと、思い思いにリラックスできているようだ。


焔「どれどれ……おお、こりゃいい」ザパァ

長「つかの間の休息だがな。一通り洗った後すぐに町の手伝いをしなくては…」

焔「民兵は休んでろってカギルさんが言ってたぜ」

長「少しでも余裕のある奴が手伝わないでどうする、俺はやるぞ」

焔「…まぁ、また調子悪くしないようにな、ハープさんにまた何か言われるぞ」

長「ふん、あんな奴に何を言われても…」ジャパッ


ナガトは両手で湯を掬い、顔を洗った。


長「…そうだホムラ、またジャベリンの切れ味を見てくれないか。どうも切れ味が落ちやすいんだが」

焔「あー、それは仕方ない、あの使い方だしな」

長「そうか…まあ、よろしく頼む。いや、できればいっその事、良いジャベリンでもあれば売ってもらいたい」

焔「おお、買ってくれるのか、まいどあり」

長「現物を見て決めるからな」
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/28(木) 14:52:21.00 ID:hHcAJeNNo
仲良くなってる かわいい
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [酔っ払いにつき書けません]:2011/04/28(木) 21:00:04.55 ID:i/jwWYhX0
長「ところで俺のジャベリンを見てくれないか」

焔「…!」
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/04/28(木) 21:22:05.95 ID:k8HgXRD/o
>>445
おい
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/29(金) 02:05:24.59 ID:KVrhnatJo
>>445わろた
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/29(金) 19:56:43.13 ID:GHEcCv1Z0

長「…昨日見て気になっていたことがあるんだが」

焔「お?」

長「ハヤテにブルメラをやったの、お前だろ」

焔「あれ、わかった?」

長「ハヤテだけじゃない、今朝方町をうろついていたら、民兵の何人もが同じようなブルメラを腰に携えていたからな」

焔(もう非戦闘員への支給は終わったのか、早いなあ)

長「ブルメラなんて剣はそこらへんの並程度の職人に造れるもんじゃないからな」

焔「ははは、俺だけが造ったもんじゃないんだけどな…俺の父や祖父…先祖代々から蔵に溜めこんでた習作を、この機会に一気に出したわけ」

長「先祖まで遡るのか…」

焔「クレナイの家は代々、鍛冶一筋だからな」

長「…流石だ。一層お前の造ったジャベリンを使ってみたくなった」


焔「んー、ジャベリンは別に構わないが」チャポ

長「?」

焔「何故ナガトはそこまでジャベリンにこだわる?銃だってあるだろ?まぁジャベリンも肉体強化と物質への強化をしているんだろうけどさ」

長「それだ、ジャベリン強化と肉体の強化があれば、手投げだろうが銃とは遜色の無い戦果を発揮できる」

焔「ジャベリンが好きなんだな」

長「昔から使っていた武器でな……身体に染みついた武器、身体の一部と言っても良い…強化をすれば刃こぼれすることも無い、威力もある…何より弾切れを起こさない」

焔「うーん、だろうけど射程距離ってもんが…」

長「…それは言うな、鎖付きの宿命だ」

焔(ああ、だから敵陣に潜らなきゃいけないわけか、納得……)



焔「……ん?」

長「?」
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/29(金) 20:03:14.66 ID:GHEcCv1Z0
焔「……」

長「どうした、黙りこくって」

焔「……ちょっと出るわ」ザパァ

長「? 短い風呂だな」

焔「おう…」

長「…ジャベリンの件は頼んだぞ、金は払うから一等のものを用意してくれ」チャポ

焔「おう…」ペタペタ


長(…なんだあいつは、上の空で出ていって…大丈夫か?)


ユラァ・・・


長「……! げ!?湯の中に血が…!?」

長「ぐ、ぐおぉ……き、傷口が開いたか!くそ、忘れていた…!」
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/29(金) 20:35:17.02 ID:hRZ3WD91o
専用武器でも閃いたのか……?いつもながら続きが気になる
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/29(金) 20:48:01.07 ID:GHEcCv1Z0
焔(…弾切れを起こさない武器……そう、弾切れを起こさなければ油を撒くだとか、量のことは考えなくて良い)

焔(ナガトはジャベリンを繰り返し使う…そして、肉体強化と武器への物質強化によって、惨劇軍を貫くほどのポテンシャルを生みだしている…)

焔(結果として、繰り返し使える必殺の武器になっているわけだ)


風呂上がりの俺は髪も拭かずに町を徘徊していたが、思考を練る度に足は自然と昨晩の採石場への坂道へ向かって歩を進めていた。


焔(…そりゃあ民兵のみんながそんな武器を使えれば良いけど、それはナガトに肉体強化ができるからこそ可能になる技術だ)


肉体強化。

魔力による身体能力と防御能力の増幅。


焔(俺も肉体強化はできる…肉体強化をできる奴に持たせる武器、か…そうすればナガトのジャベリンのような…)


しかし肉体強化してジャベリンを思いっきり投げたところで、青い炎を纏ったシドノフを突き刺すことはできるだろうか?

おそらくそれは不可能だろう。

ナガトの場合は肉体の強化と同時に、武器のジャベリンの強化をしているからできるのであって。

肉体強化だけでなく物質を強固にする物質強化の技術も無くてはならないし、そっちの方は誰でもできるわけではないからだ。かくいう俺も、物質の強化はとても苦手だ。



焔(せめて肉体強化だよな…肉体強化した人が使ってギリギリ炎を纏ったシドノフを倒すことができる、繰り返し使える…)

焔(……)



俺の脚が止まった。



焔「………炎と……熱か」
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/29(金) 21:24:01.55 ID:GHEcCv1Z0

疾「はぁ……いやぁー、昨日は死ぬかと思ったが、こうして生きて帰ってこれてよぅ…」ゴトッ

工兵「へえ…」

疾「嫁と娘の顔を拝めるってのがやっぱ、人生最高の瞬間ってもんだよなぁ…娘の頭を撫でてやって、心配そうな顔をしてる嫁を優しく抱きしめてやったりさ…」

工兵「はー…」

疾「死ぬほど幸せってのはそういうのをいうんだろうな?きっと……死んでも良いって思えるっつーかさ…」ゴトン

工兵「ほー…」

疾「かといって死んだらあいつらを守ってやれないからさ、死ぬ気で頑張れるっての?「休んでろ」ってお達しがきても町のために働く意欲が泉の如く湧き出てくるってよう」

工兵「へえへえ……まあいいから、うん、こっちの仕事の手伝いはもういいぜ、うん」

疾「ん?もう良いのか?まだまだ働…」

工兵「いやホントもうこっち大丈夫だから、別のところ手伝ってくれよ、ここの仕事はレンガを積んで運ぶだけなもんだし」

疾「運ぶのは俺の十八番だぜ?」

工兵「人手が有り余ってるから大丈夫、大丈夫だから余所でその力を振るってくれ。ください、お願いしますハヤテさん」

疾「? そうか…わかった、まあお前もがんばれよ」

工兵「うん、こっちは大丈夫だから」



疾「……お役御免か…他の所を手伝えといっても、どこを手伝えばいいんだか……やっぱり連絡と救護か?向いてるわけじゃないんだけど仕方ないかねえ…」


ザッザッザ・・・


疾「……ん、あいつは…」

焔「…」

疾「おおー、ホムラじゃねえか、よっす」

焔「! ハヤテか」
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/29(金) 21:32:11.49 ID:GHEcCv1Z0

疾「採石場(こっち)側に何か用か?採石場の家屋施設は壊されていたが、石の方は無事らしいぜ」

焔「それも知りたかったけど、今はそれどころじゃないんだ」

疾「ん?」

焔「煉瓦工房…よし、やってるみたいだな…お前こそこっちに何の用だよ」

疾「用って、そりゃてめー手伝いに決まってるだろ、ホムラこそ手伝いでもする気か?」

焔「いいや…、……そうだハヤテ、暇か?」

疾「暇…だけど?」

焔「ちょっと俺を手伝ってくれないか」

疾「?」



俺のちっぽけな頭に湧き登ってきたアイディアの火。

駄目で元々、理論上は可能…まずは試してみる価値がある。
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/29(金) 21:49:57.66 ID:GHEcCv1Z0
煉瓦工「お?ホムラさんか、いらっしゃァい!」

焔「やあどーも、煉瓦の生産はどんな具合ですか?」

煉瓦工「昨日もゴタゴタはあったが問題はねえ、煉瓦壁も壊されなかったみたいだしな!生産続きで町中をレンガで囲えるくらいには出来上がってるぜ!」

焔「げ、すごいな…」

疾「今はもう焼きあがったレンガを運び出してる最中だ、土嚢と一緒で色々な場所に置かれて始めてる」

煉瓦工「…お?今日はちっこい嬢ちゃんはいないんだな」

焔「あーハープさんか、今日はいないですよ、どこに居るんだか…」

煉瓦工「じゃあ今日は何かを聞きに来たわけじゃないのかい?」

焔「…ええ、まあなんていうか、相談が…」

煉瓦工「相談?水臭いねえ、ホムラさんの悩みだったらなんでも聞くぜ?」

疾「俺だって聞くぜ!暇だしな!」

焔「……あー、やっぱり相談じゃなくて」



焔「商談に来ました、って言った方がいいか」

煉瓦工「!」

疾(! 焔の目が…なんか本気だ)


煉瓦工「商談…?つったってこの工場にあるのは土と煉瓦と…ってなもんだが…いや、何かを買ってくれるのは嬉しい事なんだけど、ホムラさんの欲しがるようなものは無いと思うぜ」

焔「どーーーーしても作りたい武器があるんですよ」

煉瓦工「…なおの事だ、すまないがこの工場に金属なんてものは無いよ、ホムラさん」

焔「金属でなくても、金属に熔かすことができるモノがここにはあるんですよ」

疾「?」

煉瓦工「!」

焔「多分ここにあるそいつは一種類だけ…それをありったけ、買いにきました」


煉瓦工「……金属に唯一熔かす事ができる非金属……“魔石”…ヒバシ石か」

焔「はい」
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/29(金) 22:02:35.26 ID:GHEcCv1Z0
疾「魔石?ヒバシ石…?…あー、なんかカチカチやって火をおこすアレ?」

煉瓦工「ああ、そのヒバシ石だ…この国ならどこの雑貨屋でも大体売ってる石だが、一応魔石の一種だ」

焔「摩擦によって火を起こし、熱を帯びる魔石…」

煉瓦工「なるほどなホムラさん……わかるぜ、あんたの考えてる事がよ、わかったよ…」

疾「…あ、もしかしてホムラお前」

煉瓦工「そのヒバシ石を使って、炎と熱を熾そうって魂胆だな?」

焔「そういうことです」

煉瓦工「…確かに魔石は金属に熔ける…ホムラさんよ、しかし魔石だってただの金属に熔けるわけじゃねえ…ヒバシ石は魔法金属にしか熔けねえシロモノだ、扱いは難しい」

焔「わかってます」

煉瓦工「それに前にもちょっとだけ言ったけど、あっちに積まれてる木箱…あれは全てヒバシ石だが、あいつらはほとんど純度の低い低級品ばかりだ、不純物は圧倒的に多い」

焔「そこはなんとかします」

煉瓦工「なんとかしますって……」

焔「……」


煉瓦工「……ホムラさんその目、やっぱり親父さんそっくりだなァ」

焔「え、そうですかね」

煉瓦工「…ハッハッハ!あいよ、わかった…俺には熔かすだとか熔かさないってのはよくわからん!ホムラさんの自由だ、任せるよ」

焔「じゃあヒバシ石…」

煉瓦工「どうせこっちも持て余していたブツだ、全部ホムラさんにプレゼントするよ!」

焔「! ありがとうございます!」

煉瓦工「いいってことよ、工場のスペースも広がるってもんだからな!」

疾「……? …まあ、よく分からないが良かったな、ホムラ」

焔「おう……あ、ヒバシ石運ぶの手伝ってくれ」

疾「え」

焔「手伝ってくれって言っただろ?」

疾「……おう」
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/04/30(土) 22:29:33.66 ID:Bi9WEad3o
wktk
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/05/01(日) 06:09:26.91 ID:rY32lsGAO
番(カギルさんはお休みになってる…だから今は、私がこの町の指揮を執らなきゃいけない…)

番(今はまだ魔族が攻めてくることはないって言われてはいるけど……)

番「うう、カギルさん…やっぱり私には荷が重そうですよ…」

ガララ…ガラララ…


番「…?あら、向こうで走ってる荷車…木箱を沢山積んでるけど、なんだろう…あんなものの運搬って必要だったかしら…?」



「ひい、ひい…ホムラァ!なにどさくさに紛れて荷台に乗ってんだよ!」

「あ、バレたか」



番「………」クスッ

番「ま、いっかぁ……私もみんなと一緒に頑張らなきゃ…!」
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/01(日) 22:06:05.62 ID:89hbJJDq0
ゴトン


疾「ふー、着いた着いた…あっちいなオイ…」

焔「悪いなハヤテ、一緒に木箱を運ぶのも手伝ってくれるか?」

疾「…こいつを全部か…あれだよな?昨日入ってった工場に運べや良いんだよな?」

焔「おう、全部な」

疾「乗りかかった船だぜ、任せろ!」ゴトッ


暖かい日差しの下、俺の家の前には大きな荷車が停まっていた。

石を詰め込んだ大きな木箱をいくつも重ねた、見てくれはまるで商人の馬車のような大荷物。

しかしこいつは全て、“武器”の原料だ。



疾「よいしょ、よいしょ…ここ勝手に開けて入ってもいいんだよなー?」

焔「おう……あ!やめろ!開けるな!」

疾「えー?」カラララ・・・ギギギ・・・

婆「ちぇいやぁああぁぁあああっ!」ビュッ

疾「のうぉわああああ!?」サッ


開かれた戸の奥からは、すかさず祖母がナギナタを突き出してきた。

鋭利な切っ先を咄嗟の判断でひらりと半身を翻して避けたハヤテの反射神経の良さには脱帽ものである。



焔「ばあちゃん!それは客にだけはやるなっていってるだろ!」

婆「おう?……なんじゃ、人間か、魔族かと思ったわい」

疾「う、うわあ…うわあ怖ぇえ…心臓止まるかと思った…あれ?今俺の止まってる…?」

焔「胸に手当てなくても動いてるから大丈夫だハヤテ、言うのが遅れてすまん」
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/01(日) 22:18:13.90 ID:89hbJJDq0
婆「で、なんじゃいホムラ、戦は終わったのか?」

焔「終わってないよばあちゃん、まだまだかかりそうだ…」

婆「ふーむ」

焔「といっても、そう簡単に町の中に魔族が入って来るってことは無いと思うから、そんなに玄関前で待機してなくても…」

婆「ん…?んんん〜…?」ズイッ

疾「え?な、なんですか、俺?」


婆「……ほう、嫁か!」

疾「えっ」

焔「ちげーよ」

婆「よくやったよホムラ!やっと見つかったのかい!」

焔「…悪いなハヤテ、ばあちゃんボケが酷くてな…」

疾「あ、ああ」

婆「うむうむ、祭りや戦!こういう時にこそ女ってのはものにするもんさ…わかってるじゃないかホムラ、あんたもついに…」

焔「…あー、これから工場で作業するから、危ないからあんまり立ち入らないようにしてくれよ」

疾(…変な家だ……)

焔「じゃ、運ぶぞ」

疾「…おう」
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/05/02(月) 00:34:48.38 ID:qT/5DTJko
まさかの焔×疾
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/02(月) 00:44:56.73 ID:2IPd3QvDO
おいおい嫁に切り掛かって一言も無しか
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/05(木) 00:12:29.57 ID:Z68hftgJ0
ゴトッ


焔「……ふー、これで全部運べたな」

疾「あっつー…なんだよこの部屋…」

焔「作業場だからなー…換気は良いんだけど、それでもやっぱりって感じだよな…どれどれ」


ガパッ

焔「…よし、ちゃんと全部ヒバシ石だな」

疾「へぇー……なるほどねぇ、ヒバシ石か…」

焔「摩擦によって熱を放出する魔石だ、これで武器を作れば魔族達に対抗できるかもしれん」

疾「ん〜…まぁなんとなくわかるけど…武器ってなんだよ、武器って」

焔「?」

疾「こいつは摩擦がなきゃ熱を出さないんだろ?こいつを武器にするっつってもなぁ…一体どんな武器になるってんだよ」

焔「さあ」

疾「さッ…さあって、おい」

焔「まぁ、色々と試してみてから考えるつもりだよ、量はあるからな」

疾「はー…運んだ労力を無駄にしないでくれよ、頼むから」

焔「まかせろ」
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/06(金) 23:00:07.05 ID:SUdjgNWQ0
【統括テント】


限「……」スゥスゥ

ハープ(…連日、ろくに休まず指揮を取っていたからな…無理もない)


ハープ(しかし、どうせ寝るのであればこのテントでなくとも良いだろうに、わざわざ中に布団を敷くほどか)

『――今は指揮権を他人に渡してはいるが、この場を離れる事までは性格が許さなかったのだろう――』

ハープ(“きっちり症”か、誰かと良く似ている)

『――ふん――』



パラッ


ハープ「…それよりも今は貴重な思考時間だ…敵が戦力を蓄える前に、迎撃策を考えておかなければ」

『――地図か――』

ハープ「昨晩の奇襲は見事だ。多少強引ではあるが不可能ではないルートで攻め込んできた…敵に知将が紛れていたと気付けていたとして、私が対策できていたかは疑問だ」

『――同じ過ちを繰り返してはならん、攻められうる場所を全て洗うのだ――』

ハープ「ああ、例えばここなんかは……」



限(…ん…むむ……ん…?ハープさんの声…?)


ハープ「……あらかじめ封じておく必要があるやもしれん」


限(?……誰と話している…?)
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/07(土) 22:17:08.37 ID:wGEdDDwZ0
ハープ「沿岸部を守りきることができれば、惨劇軍の侵攻も止まるだろう…それまでは根気よくやっていくばかりだ」

『随分と気長な話だ…気長な寿命だが無駄が多い人生は考えものだぞ』

ハープ「時間があるからこそ根気よく手をかけるのさ」

『ふん、かえって逆効果だとも思うがな、イレギュラーなど自身の手で手早く摘む事が良い』

ハープ「お前が私にやったことと同じだろう?センジュよ…駒は動かすものだ」

『引かせるもの』

ハープ「“引かせる”か、ふ、そうだったな…でも同じ意味だろ?」

『…まあいい、だがここばかりに気を使いすぎるなよ、深く情をかけるな』

ハープ「さすがにもう情なんて働かないよ」

『どうかな、無いと思い込んでいるだけかもしれんぞ』

ハープ「“先輩のアドバイス”?」

『……』

ハープ「ふふっ、黙るなよ」

『…必ず惨劇軍を滅ぼすのだ…奴らは憎悪に囚われ、生命の槻から大きく脱している』

ハープ「くどいな、言われなくてもそうするさ」

『手早く、確実に行え』



ハープ「ふん……まったく…魔族王がお前だけなら楽だったのに」




限「……!」
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/05/08(日) 11:25:15.36 ID:WrzMPdO1o
ΩΩΩ<な、なんだってー!!
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/08(日) 23:05:20.77 ID:rQNIdIih0

焔「武器にするにはとにかく、まずはヒバシ石そのものの性能を高める必要がある」

疾「性能を高める?」

焔「ああ、このまま武器として何らかの加工をしたところで、せいぜい火花が散って熱い程度のモンにしかならないからな」

疾「なんだ、そういう武器になるのかと思ってたぜ」

焔「…まーそう思われても仕方ないか」


コロコロ・・・

焔「ヒバシ石は今でこそ火打石の強いもの、という認識しかされちゃあいない魔石だが…そいつの原因はヒバシ石の魔石としての成分が疎らで少ないことにある」

疾「?」

焔「いわば鉄にアカガネを9割9分くらい混ぜたような、ほとんどの成分が鉄ではない、というべきか」

疾「それもう鉄じゃないだろ」

焔「魔石は特殊だからな、どんなに少なく熔けていようとも、混ざっていればそいつは魔石」


ガサッ・・・ゴロゴロゴロ


焔「だがどうせ刀を打つのであれば、アカガネではなく鉄で打ちたい…そういうことでな、このほとんどが砂や礫で構成されているヒバシ石から、純粋なヒバシ石だけを取り除こうと思う」

疾「おお!そういうことか!」

焔「どんなものかは俺も知らないが、きっと純粋なヒバシ石ともなれば相当な火力を見せるはずだ…そいつをどう使うかは後にして、とにかくこいつらからヒバシを抽出する」

疾「……どうやってだ?」

焔「まぁ見てろ…というより、手伝え」

疾「げ、まだ手伝うのか」
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/09(月) 21:24:39.07 ID:ovSYmd5/0
ゴゴゴ・・・ゴゴゴゴ・・・


焔「どっ…こいせぇっ!」

ゴゴッ


焔「……ふー!足元が錆ついてやがる、動きが悪いな」

疾「これまた随分と大きな道具を持ってきたな……臼か?それ」

焔「お、良くわかったな…まぁそうだな、臼に近いか…だがここを開けると、随分違うのがわかるはずだ」ガパンッ


疾「…違うのはわかるが、なんだこりゃ」

焔「鑢窯(ヤスリガマ)っつー器具でな、ヒバシ石を使った火熾し機…とでも言おうか」

疾「あーあー、俺は職人じゃねえからわかんねえよ、ただの飛脚にセンモンヨーゴ言われても困るっつの」

焔「まだ専門の域にも入っちゃいないが…まぁつまりだな、このヒバシ石たちを」

コロンコロン・・・ゴロゴロゴロ・・・


焔「…鑢窯の空洞の中に入れる、で、上から更に専用の棒を差し込んで、と」スー・・・

ゴトン

焔「これで鑢窯にはヒバシ石がセットされ、金属の棒によって上から押し付けて固定されたことになる」

疾「ん、だなぁ」

焔「普通ならこのまま窯のここについてるハンドルを回せば、こっちの穴からヒバシ石の炎がちょろちょろと出る、ってわけ」

疾「へー…ちょろちょろ、ねぇ」

焔「特に燃料もいらず煙もあまり出ないから、昔の職人によっちゃ随分と重宝してた器具なんだぞ……今ではあんまり使ってないが」

疾「…ここのヤスリガマも埃まみれだな」

焔「……かくいう俺もあまり使ってない」

疾「……ひどく時代遅れな道具ってことはわかったぜ」
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/10(火) 19:36:17.14 ID:osvpAyVq0
ゴリッ・・ゴリゴリゴリ・・・


焔「こうして、どんどん回していくわけだ」

疾「音だけ聞いてると臼だな」

焔「挽いてるのは石だけどなー」ゴリゴリ


疾「……ん?おいホムラ、それってヒバシ石を使って火を熾す道具なんだろ」

焔「ああ?そうだよ?」ゴリゴリ

疾「火がつくだけじゃないのか、それ」

焔「その通り」


ゴリゴリ・・・


焔「…だがこうして熱を加え続けていけば、次第にこの鑢窯自体が高温の坩堝に変わる」ボウッ

疾「お、火が出た」

焔「普通の窯であれば途中で耐えきれずに壊れちまうが、俺がもってるこの鑢窯は特製だ、ヒバシ石が熔けて抽出されるくらいまでは保ってくれるはず…!」ゴリゴリ

疾「おい、熱いぞ!熱風が…」

焔「肉体強化で我慢しろー!」ゴリゴリ

疾「疲れンだよあれ!」


ゴリゴリ・・・ゴリゴリゴリゴリ・・・
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/10(火) 22:36:37.26 ID:/jN3FOs2o
俺もゴリゴリしながらまっつる!
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/10(火) 22:45:42.30 ID:h+zmnOyjo
じゃあ俺はその隣で眺めてる!
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/10(火) 22:48:08.54 ID:/jN3FOs2o
いやそこは手伝えよ俺のゴリゴリを(´・ω・` )
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/10(火) 22:49:09.31 ID:h+zmnOyjo
やだよ熱いもん
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/12(木) 20:02:10.73 ID:XynIBKDv0
ゴォオオ・・・


疾「うっ…す、すげえ炎…本当にこいつ、熱に耐えきれるのかよ?」

焔「…四千度までなら大丈夫って、じいちゃんは言ってたが…!」ゴリゴリゴリ

疾「よんせ……」

ゴォオオオ!


疾「うふぉっ、ちょっと洒落にならねえ熱風だ……後ろから見てるだけでも身体を強化してなきゃ火傷しちまう…!」

焔「ついでに交代してくれるか!思ったよりも挽き続けるのは骨なんだが!」ゴリゴリ

疾「な、冗談言え、そこまでするかよ!昨日の“水撒き”で全身筋肉痛でズタボロだってのに…」

焔「頼むって、あとひと押しなんだから!」

疾「…く…」

焔「わかった、これ手伝ってくれたら完成した武器をひとつやるから!」

疾「! その言葉を待っていたぜ!」


ガシッ

焔「え?ちょ、おい、二人じゃさすがに回せない…」

疾「どけどけェ!この臼が熔けきるまで挽き続けてやんよォ!」

焔「うわ、なんか知らないけどすげーやる気になった」



ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ・・・

ゴォオオ・・・


焔(…やっぱ、俺みたいな素人とは肉体強化の質が違う…全身を高熱から守れるほど強固に、しかもそいつを安定して持続し続ける……)

疾「うおおおおお!」ゴゴゴゴゴゴッ

焔(さすが、自称とはいえ火の国最速の飛脚だ)


ゴォオオオ・・・ドロッ


疾「!」

焔「お!」
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/12(木) 20:21:13.32 ID:XynIBKDv0
疾「な、なんだこりゃ!何か出てきたぞホムラ!これがヒバシ石か!」ゴリゴリゴリ

焔「…いや!違う!これはヒバシよりも先に熔け出した不純物だ!」

疾「なんだよ期待させやがってちくしょー!」ゴリゴリゴリ

焔(やばい、不純物を除けないとヒバシまた混じってしまう…)ササッ


ゴォオオ・・・!


焔「…この音…炎…そろそろ熔け出しても良い温度になったはずなんだが」

疾「あ!また何か出てる…!」ゴリゴリゴリ

焔「何!?」


ドロォ・・・


疾「な、なんだこの液体!?」ゴリゴリ

焔「…!炎を出しながら熔け出る液体…間違いない、ヒバシだ!」

疾「もう休んで良い!?」ゴリゴリゴリ

焔「あと少しだけ!ヒバシ石が全部熔けるまで!」

疾「うぉおおぉおおお!さっさと熔けろぉおお!」ゴリゴリゴリ


ボゥッ・・ボォオッ・・・


焔(…液体になった高純度のヒバシ石…!こいつがあれば…!)
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/12(木) 20:22:32.00 ID:8IJexoRio
しえん
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/12(木) 20:27:50.80 ID:/Y92qBgDO
あついな
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/12(木) 21:02:48.93 ID:XynIBKDv0

焔「えー、というわけではい、ここに100%とはいかないまでも、かなり高純度のヒバシ石があります」

疾「はぁっ…はっ…ぐッ…ぁっ…」

焔「さすがに型に入れる時間もそんな耐熱性の高い型自体も用意できなかったので、受け皿の形になってしまったのは少し残念なところではありますが…」

疾「…んはっ…はっ…」

焔「まぁでも、形が気に入らないならまた鑢窯に入れて熔かせばいいか?」

疾「ぅおいっ!人間の労働力をなんだと思ってやがる!」

焔「すまん」

疾「くそ…想像以上のしんどさだぜ…絶対に俺専用の武器を作ってもらうからな…」ブツブツ

焔「わかってるって…まあまあ、とにかく今はこっちだぜ」


カランッ


疾「……見た目は、ただの赤っぽい薄い石って感じだな」

焔「ああ…見た感じではな…」ガチッ


疾「…持っても大丈夫なのか?」

焔「んー?さすがに純度が高いっつってもハシで取ったくらいじゃ発熱もしないだろう」

疾「さっきまでそれがゴウゴウ燃えてたんだよな…魔石ってな不思議だ…」

焔「ちょっと床で擦ってみるか」

疾「お!やってみやってみ」

焔「うい」


カリカリカリ・・・

ボッ


焔「うお!?」

疾「わ、炎だ」


焔「……少し地面に擦ったくらいだってのに、小さいとはいえ炎が出るとは…」

疾「おお〜…おいおいホムラ、お前もしかして、すげえもん発見しちまったんじゃねえのか?」

焔「…かもしれない」

疾「やべえよ、例えばこの石を地面にめいっぱい擦りつけた後によ、魔族共にそれを叩きつけてやれば…」

焔「…そうだな、直接的な武器として使うのが一番効率が良さそうだ」

カリカリ・・カリリリッ・・・ボボボ


パキッ


焔「あ」

疾「あ」


焔「…割れた」

疾「……むむむ、火は出るけど代わりに脆いってやつか…」

焔「火力にせよ脆さにせよ、扱いの難しい材料になりそうだな…」
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/12(木) 21:27:26.68 ID:RGZBtTPTo
剣身に薄くコーティングすると斬った時に燃え立つ剣に…なるかどうか
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/13(金) 22:15:13.21 ID:7Mqwvl4o0
焔「うーむ、何度か擦ってはみたが、やはり少しの衝撃で折れてしまうようだな」

疾「これだけじゃ使いものになんねえよ…粉末にして火薬にするか?」

焔「うーん、悪くは無いだろうけど…使い捨てにするほど豊富にある材料でもないしなぁ」


ジャリッ・・・ボウッ


焔「…細かい破片は掬い取ろうとしただけで火が点きやがるし」

疾「おっかねえ」

焔「なんとか細かくならないような状態を保たないと、武器としての運用は難しいだろうな…」

疾「固めて剣でも作ってみたらどうだ?」

焔「…剣」

疾「振っただけで折れるかもしれないけどな!はっはっは」

焔「そうだな、俺もせっかく鍛冶屋だ…刀剣を作ってみるか」

疾「…え?本当に作るのか?使いものにならないだろ?」

焔「なる、はず」


焔「…魔石が様々な物質に混ざる性質を利用して、ヒバシ石を金属に熔かしてみようと思う」

疾「なるほど!他の何か固いものと混ぜれば良いってことだな!」

焔「そういうことー」


ジャリッ、サラサラ・・・カランカラン


疾「…え?なんでその粉末をまた窯に…?」

焔「また熔かすからに決まってるだろ」

疾「…」
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/14(土) 01:16:44.82 ID:OKkWkbK10
ガチャンッ


焔「…と、まぁ合成に使えそうな金属はこんなところだ」

疾「おお…色とりどりだ」

焔「鉄、銅、錫、朱金、……とにかく保管してあった塊を大体集めてきた」

疾「……え?」

焔「ん?」

疾「これって…」ゴトッ

焔「そいつは金だよ」

疾「ひい、恐ろしい!」コト

焔「金はそれしかないけどな」

疾「初めて延べ棒ってやつを見たぜ…すげえな、クレナイ家…」

焔「道具や材料は先代からの財産なのさ」


焔「……んー、まずは無難にズクにヒバシを熔かしてみようか」コトッ

疾「ズク…」

焔「まぁ鉄だよ、こいつで打てりゃ俺も慣れたもんで楽だしな」

疾「鉄か、オッケー任せとけ」

焔「鑢窯の熱と重さは辛いだろうが、頼んだぞー」
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/14(土) 19:23:46.95 ID:Pu6FN/Ibo
> 魔石だってただの金属に熔けるわけじゃねえ…ヒバシ石は魔法金属にしか熔けねえシロモノだ
さあ、鉄には溶けるのか。wktk
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/05/14(土) 21:40:42.43 ID:BkSXtCbAO
矛盾を先に解かれた責任は俺の筆の遅さ
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/14(土) 22:53:58.36 ID:anOf5VBko
ほこたて!
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/14(土) 23:01:48.97 ID:OKkWkbK10
本部のテント外には暇を持て余した兵たちが数人で集まり、それら小さな会議の輪の姿は付近にいくつも見られた。彼らは油について熱く語っているようである。

というのも、朝カギルから発せられた「熱や炎を出すアイデア」を考えるようにという、一風変わってはいるが案を出してみるとこれまた面白い課題にみな没頭していたのであった。


昼食を終えた民兵達はわざわざカギルの指示を無視してまで単純な労働に精を出したくはないらしく、半数以上の兵は特に工兵のような作業はせずにこうして語り合っているのだ。



「濠を作ってはどうだろう、浅く水はけをできなくするように木板を底に仕込んで、有事は油を流して昨晩の様な火の壁を作りだす…」

「なるほど…濠に流し込むことにより油を最低限の量で、確実に町を覆うことができるというわけか」

「いや、どうなのだ?今お前は“木板”と言ったが、それでは板が燃えて、再びは使えないぞ?」

「む」

「それに、木だって水はけが良いわけじゃあないからな」

「では陶器などで…」

「そんな時間あるものか、逆に陶器を焼くためのその燃料がもったいない」

「…うーむ、難しいな」


衛生兵、工兵、一般兵、誰もが自由に案を出し合っていた。

職人の集まるバンホーでは各々の考え出す“熱と炎”のアイデアが多種多様で、そういった新鮮な専門外の刺激がまた話し合いに勢いを与えている。


そこに、一人の男が通りかかった。



鍛冶屋「……ん?」


薄汚れた服を纏った一般兵の装いをした男は、会議中の衛生兵の腰に見慣れぬものを見た。


鍛冶屋「おい、そこの衛生兵さんよ、ひとついいか」

「ん?なんだ、あんたも話しに加わるかい」

鍛冶屋「いいや遠慮しとく…その、腰に下げた剣は…」

「ああ、これ?新しく支給された携帯用の護身武器さ」

鍛冶屋「……なに」

「いや、前のナタは俺もしっくりこないと思っていたんだ…気持ちだけだが、こいつに変わってくれて少し安心してるよ」

鍛冶屋「…なるほどな」

「あんたも衛生兵?今ならツガエさんのところに行けばもらえるんじゃないか」

鍛冶屋「後で貰うとしよう、だが少しそいつを見せてくれないか」

「? …ああ、良いけど」スッ

鍛冶屋「すまんな」ジャキンッ

「自分で自分のもの取りに行けばいいのに」

鍛冶屋(銘は…銘はどこだ……)


鍛冶屋「!」


“紅”


鍛冶屋(…ンの野郎の息子か…クソが)
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/14(土) 23:38:32.41 ID:OKkWkbK10
鍛冶屋「ふぅーむ?見たところこいつはククリ…いや?ブルメラか?ほほう…」

「試しにそれで薪割りしてみたんだが、いやあ良い切れ味でね」

鍛冶屋「…ほう」

「前にもらった茶けたナタとは全く別物だよ、はっは」

「ああ!あれな、俺も支給されたよ…あれは確かに、コンパクトなだけだな」

鍛冶屋(…なんだその態度は…俺は無料で何百も提供してやったんだぞ、貰えるだけありがたいと思え)

「ともあれ安心さ…何せ、あのホムラが打った剣なんだからな」

「知り合いじゃないが、その通りだな」

鍛冶屋(素人が…!くそっ)


鍛冶屋「ありがとう、悪いね…じゃあ俺は、行くべきところがあるから」

「そうか、じゃあな」

鍛冶屋「ああ」



鍛冶屋(…おもしろくもねえ、商売敵が死んだと思ったら、今度はその息子までもが俺の邪魔をするってのか?)

鍛冶屋(せっかく俺の名を町中に広めようと…まぁゴミみたいな売れ残りの品だが、ナタを提供してやったというのに)


鍛冶屋「…クレナイのひよっ子め…“バンホーの鍛冶”の看板は俺のものだ、好きにはさせん」
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/16(月) 22:28:05.22 ID:VYtRz9Up0
疾「……ふーっ!あー疲れた!もうだめだ!休憩!」


ハヤテは赤く熱せられた金属の水たまりが冷えるのを待つ前に、固い床の上にごろりと倒れ込んだ。

やはり鑢窯を動かすのは相当な骨のようだ。


焔「お疲れ、悪いな任せちまって…どれどれ」


皿の上で冷えかかった塊を、念のためとハシでかき混ぜる。

灼色は段々と乱暴な光を失いはじめ、それはついにひとつの物体となって姿を現した。



焔「…やっぱりか」


皿の上で色を見せたのは、くすんだ灰色と褐色の汚いマーブル模様だった。

それぞれの石と金属が溶けあっていない。これでは駄目なのだ。

確かに鉄を纏うという意味では強度が上がったと言えるかもしれない。しかしヒバシ石と鉄が分離したこのままでは、少しの衝撃を与えただけで石は砕け、結局のところバラバラに分かれてしまうだろう。それではいけない。


疾「どーしたー…成功かー…」

焔「…駄目だ、やっぱり鉄には熔けないらしい」

疾「無駄足?」

焔「失敗が解ったってことだ、一歩近づいてはいるさ……」


とはいえ苦しい結果だった。

知識で知っていたとはいえ、これで本当にヒバシ石は普通の金属とは混じらないことが判明して、俺はややショックを受けている。


普通の金属に熔けないということは、魔法金属には熔けるということだ。

しかし魔法金属というものはモノによって価値がピンキリで、地面を蹴れば転がった小石にもあるようなアカガネもあれば、手に入れるために町が滅びかけると云われるコアまで、様々なものがある。


当然安いものは質が酷く、ヒバシ石を練り込めたとして活用できるかは非常に怪しいところだ。



焔(しかも必要な材料は、魔法金属の融点にも是非は関わってくる……せめて鉄くらいは保ってくれればいいんだが)


しかもヒバシ石の発熱に耐え得る金属でなくてはならない。かなり特殊な条件付きだ。


焔「うーむ」

疾「まだ休んでていいか」

焔「ああ…」


候補を選ぶだけでも時間がかかりそうである。
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/16(月) 22:42:09.28 ID:VYtRz9Up0
焔(…まず摩擦だ、ヒバシ石を摩擦することができる形状でなくてはいけない)


ヒバシ石は摩擦によって火と熱を熾す。摩擦を繰り返す事で熱は飛躍的に上がっていくだろう。

それが純度の高いヒバシで、しかも魔法金属の伝導をもってすればあっという間に高温へと達するはずだ。


まず最初に思いつくのは、摩擦に最も適した形状。円形だ。いわばチャクラム。

だがそれはあまりにも特異な形であるし、取り回しも面倒だ。色々な武器をいじってきた俺にだってどう扱ったもんか、想像もできない。


焔(となるとやっぱり…ブルメラのような湾曲した形状か?)


昨晩、町へ献上したショートブルメラの姿が思い起こされる。あそこまで湾曲していると叩き斬る武器だ。それに摩擦が加わる部分が手元に近いというのはいけないだろう。熱によって手が焼けてしまう。

だとすれば一番効率の良い姿は…。


焔「…刀」


もう少し湾曲したタイプの刀剣も当然ある。しかしそれではどうしても刀身が細くなりがちで、熱が上手く発生するかわかったものではない。

一番のベストはおそらく刀だろう。


切っ先を地面に擦りつけながら走り、敵に近づけばあとはそれを振るうだけ。

上手くいけば、規格外の熱風と火炎が敵を襲うだろう。



焔(……やばい、見てみたいな)


完成した刀剣の姿をイメージした途端に、どっと製作意欲が湧いて来た。こうしてはいられない。


焔「よし!ハヤテ、ちょっと魔法金属をありったけ漁って来るからな、それをもってきたら再開だ!」

疾「うげ、まじか」
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/17(火) 21:26:06.75 ID:HWT6F+er0
疾「……これまた、すげぇ量」

焔「内心無理だろうなと思う素材まで引っ張ってきた、実際使えるかもしれないのは半分以下ってとこだろうな」

疾「それでも“ゲーッ”だぜ」

焔「…大丈夫、先に有力候補から当たっていくつもりだからな」

疾「そうしてくれよ、わざわざ駄目だとわかっているモノを汗かいて熔かすのは、こっちも嫌になるからな」


パサッ


疾「……その本は?」

焔「んー、魔金について書かれた資料ってとこか…これは親父が島国で買ってきたもんだったっけな?」

疾「ひえー、ベンキョウってやつかぁ、嫌だねェそいつは…昔を思い出す」

焔「嫌いだったか?まぁ苦い顔することはないよ、前もって一つ一つの素材の性質を確認するだけさ」パラパラ

疾「ばーか、そういうことを含めて嫌いなんだよ」


パラパラ・・・


【朱金】(すきん)
またの名をアカガネ。
あらゆる金属と混合できる魔金の一種だが豊富かつ廉価。
純度の高いアカガネは赤い金色の輝きを放つが、非常に錆びやすいため短時間で鈍く赤黒くなり輝きが失われる。


疾「…朱金、アカガネ、かぁ」

焔「……俺らの町、バンホーを象徴する金属だ」

疾「錆びやすい、ねぇ…短時間で赤黒く、輝きが失われるんだとさ」

焔「縁起でもないよな」パラパラ

疾「町の金属とはいえ、ちょっと御免な素材だな、はっはっは」
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/18(水) 22:01:14.64 ID:MML+x3Ix0
【八浜緑】(はまろく)
極々限定された地域の活断層に見られる希少な魔金。
鉄にのみ熔けるが、一部の魔石とも融和する。
熔けた物質によって表面に浮かぶ碧の紋様が多様に変化し、美しいものは高値で取引される。

【鎧奇稲】(よろいきしな)
またの名をダークスチール。
ごく一部の魔石や魔法金属以外とは混ざらず、白の熱と衝撃に対する耐性を飛躍的に上げる、稀有な魔金。
魔力によって形を変形させるため、魔力を含まないエネルギーでは破壊することは不可能。


疾「…これとか、ここにある?」

焔「ハマロクならあるぜ、クズみたいなもんだけど」

疾「いくらで売れるんだ」

焔「この前の傭兵を1人だけ、1日くらいなら雇えるくらいにはなるかな」

疾「駄目駄目、そんなんじゃ良い武器なんざ作れねーよ」

焔「値段かよ」

疾「希少価値ってのはスゲーってことだろ?」パラパラ・・・

焔「そりゃそうだが」


パラララ・・・


【食土】(はんど)

疾「…変な名前」


ごく一部の地域のごく一部の凶暴な魔獣の関節部から微量取ることができる、非常に珍しい鉱物。
粘り気が強く、ほぼあらゆる金属と魔石、魔金に熔ける。食土の粉をひとつまみ熔かした鋼で打った刀剣は最高級品とされる。
魔力を帯びた際に結合を強くしあらゆるものに強固となるため、鎧の素材などにも好まれる。


疾「おお!なんだかうってつけみてえなモンらしいぜ!」

焔「ああ……ハンドね」

疾「これがあればいけるんじゃないか!?」

焔「ひとつまみいくらするか知ってるか?」

疾「え?ひとつまみ…」

焔「そいつをとりあえずナマクラ鋼に熔かしてやれば、どんな刀剣でも貴族の財宝のひとつに仲間入りできるほどの材料だからな」

疾「…」
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/18(水) 22:05:12.64 ID:usZF9K+xo
金より間違いなく高そうだなハンド……
壊れないダークスティールで何かを思い出した
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/19(木) 22:06:30.05 ID:bS81KYWM0
【物見台跡】


長(……また仲間が減った)


男が立つのは、昨晩の一撃にて崩れ去った物見台の傍ら。

木製のガレキの中から殉職者は引き上げられ、こびりついた黒い血以外にはもう、この場には何も残されてはいない。


しかしナガトはあえてこの場で、かの勇気ある者を弔っていた。


長(こいつが危険を知らせてくれていなければ、バンホーは滅んでいたかもしれない)

長(だがもしもその間にこいつがわが身を大事に思って逃げていれば…こいつは、助かっていたのかもしれない)


長(…何を今さら…あいつは死んだ、町のために闘って死んだ…町を見捨てて逃げる仮定など死者に無礼極まりないだろう、馬鹿か)


腰に携えた短いジャベリンを引き抜き、ガレキの山の前に突き立てて、固く手を結び、祈る。


長(お前の意志は無駄にはならない…お前が命を捨てたのだから、俺も惜しみなく命を捨てよう)

「骸の無い墓場に誰かと思えば、お前さんが来ておったか」

長「!」


ナガトが振り向けば、そこには一人の見慣れた老人が立っていた。

自警団の一員であり、鐘突き役として長年町を支え続けてきた、鐸(サナキ)である。


長「…サナキさん」

鐸「ここ最近は来る日も来る日も、町は祈ってばかり……のう、哀しいのう」

長「……」

鐸「戦での死は名誉の死、と云うが…こうして祈られる様を見ていると、ホマレではなくアワレなのかもしれんな」

長「…浮かばれない事を言わないでください」

鐸「ワシは人間の霊などは信じとりはせん、ワシの言葉はお前に向けておる」

長「…」

鐸「急ぐなよ、ナガト…友人の後を追うな」

長「…」

鐸「お前の人生はまだまだ長いだろう」

長「……無駄に、後を追いはしませんとも」

鐸「……ふむ」


ナガトの頑固な性格を知ってたサナキは、それ以上は何も言わなかった。

ただ両手を一度だけ合わせて、すぐにそこから離れていった。
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/22(日) 00:29:44.76 ID:ns9CJaIi0
時間はあっという間に流れていった。

緊迫した時というものは無情なほど長く感じるが、地道に積み重ねている最中の時というのは、これもまた無情なほど早く過ぎ去ってしまう。


焔「……やっぱり、並大抵の魔金じゃあヒバシの熱に耐えられない」

疾「……ぁー」


ハヤテは上着をぐっしょりに濡らして床に倒れていた。流石に何時間も臼を挽いたのだ、堪えたのだろう。仰向けのまま、荒い息を静かにしている最中のようだ。


焔「…もう夕方か?くそ…」

額の汗を拭う。なんだかんだで、当然ではあるが俺も臼を挽いていた。腕は痛いし、腰も痛い。何より肉体強化による加護が弱まってきたためか、炎が熱く感じられてきた。それが一番キツい。


焔「…結局、様々な魔金にヒバシを混ぜてみたはいいものの…どれも駄目…」


床に乱雑に置かれた失敗作を見やる。

それはナガトがもっていたショートジャベリンのような中途半端な長さの、武器に見えなくもない形の金属片である。

俺の理想の武器は、摩擦されることによって炎と熱を生みだし、そのまま形を維持できるという物だ。

ヒバシを魔金に混ぜれば、ある程度の魔金ならばどれでも簡単に作れるのだろうと思っていた俺だったが、その余裕は間違だった。



摩擦されることによって熱を生みだすヒバシと魔金自体が想像を絶するほどの高熱を帯びるらしく、今までの金属は全て熔けてしまったのだ。


焔(……色を見る限りでは……今までの失敗作が出してきた熱は三千度を超える)


三千度の熱に耐え得るほどの魔金は、俺の工場の蔵にはなかった。


鍛冶屋だというのに。満足な材料も無い。


焔「……はっ」


失敗作続きの現状を眺めながら俺は悔しさに自嘲した。お笑いだ。

何が鍛冶だ。町の危機に何も力になれず、何が鍛冶だ。

やったことといえば、非戦闘員に先祖代々より備蓄されてきたショートブルメラの献上だけ。

俺個人が鍛冶としてやったことはなんだろう?何もあるまい。


焔(…モノが無ければ役立たず。それが鍛冶屋、か…)
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/23(月) 19:35:55.99 ID:2mMIdS7K0
ガンガン


疾「ん?」

焔「…ばあちゃんか、入っていいよ」


ギィイ・・・

婆「おや、二人とも精が出るねェ……昼メシと冷たい水を持ってきたよ、休憩しな」

疾「おおお!ありがてえ!」

婆「ほれ、一気に飲んだら腹悪くするから、ゆっくり飲むんだよ」

疾「…」ゴッゴッゴッ

焔「全快じゃねーか」

婆「さあホムラ、あんたも食べな、力出ないよ」

焔「ああ、ありがとう」


モグモグ・・・


焔(……美味い、家の飯が久々に感じる…)

婆「で、いま何やってんだい、随分賑やかな音が鳴ってたけど」

焔「ん?ああ…ちょっと、刀作りをね」

婆「刀?初心に戻ったのか…でもまたどうして今さら刀を?」

焔「んー…」モグモグ


焔「…刀で、敵を倒せるかもしれない、から」


言って恥ずかしくなった。

文字通り、大砲相手に刃物で対抗するようなものだ。


婆「ほお!そうなのかい!いやぁそりゃすごい!楽しみだねえ!」

疾「……」

焔「…」


だけど婆ちゃんは優しく、心底嬉しそうに笑った。

くしゃくしゃな笑顔。久しく見ていない、祖母の笑顔だった。

初めて刀剣を打って、褒めてもらった時のことを思い出す。
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/24(火) 20:52:10.12 ID:dhbpzU0l0
焔「……」


ばあちゃんの笑みを見て、何故か俺はじいちゃんの顔を思い出した。

よく俺に笑いかけてくれる優しいじいちゃんだった。

けれど、何度か真剣で、冷たい視線を俺に向けて、叱ったりもしたものだ。



――こいつは、食土(はんど)

――遠く田食土(でんはんど)で暮らす友人から貰った、我がクレナイの家宝だ

――決して熔かそうとも、削ろうとも思うな

――この鉄を使う時、それはお前がクレナイを守る時だ

――いいや、クレナイだけではない…バンホーだ、町を危機から守る時だ

――その時にこそ、この鉄を使え、ホムラ

――どのような使い方であっても、こいつはあらゆる惨劇からお前を救ってくれるはずだ





焔「…思い出した」

疾「?」

婆「?」


今では滅多に開かない、古い砥石の詰まった戸棚。

石でごった返す木箱の底の隅に…。


焔「……まさかな」



そんなことがあり得るのだろうか。

一度だけ見たそれは、明らかに…大人の掌の上にでさえ、大きく余るサイズだったのだが…。
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/24(火) 21:22:11.94 ID:cbKySE5Ro
一摘みでさえガラクタが財宝に化けるほどの……一塊……?
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/24(火) 23:31:18.30 ID:QPl7RzEao
これは期待せざるを得ない展開
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/25(水) 21:15:01.79 ID:uD/C3odn0
焔「……」


ああ…。

絶句。まさにそれだ。めまいがする。

なんだってこの家にこんな…町で起っている惨状を一瞬でも忘れてしまいそうだ。


疾「お、また新しい金属か?今度はそいつを熔かすってか、へへ」


腹も膨れたからいくらでも動けるぜ、とハヤテは意気揚々と腕を見せた。しかし俺の腹の方はまだ決まっていない。

色々な意味で、この鉄塊は俺の手の上に余るのだ。


焔(…ヨモギの紋が刻まれている…町のシンボルだろうか)


とりあえずは鉄塊を持ちだして、書物の傍らに。

ページを乱暴にめくった先には、魔法金属・食土が記されていた。指はそこで止まる。


焔「……田食土(でんはんど)…ヨモギは町を治める領主の家紋か、なるほどな…」

婆「……ホムラ」

焔「ん」


顔を上げれば、珍しく神妙な面持ちの祖母が俺の目をまっすぐに見据えていた。


婆「そいつは、あたしの夫が取り扱いを深く禁じたもんなんだがねえ」

疾「?」

焔「…ああ、俺もいつだったか、じいちゃんに言われたよ」


その意味も今ならばわかる。

この鉄塊は巨万の富と言っても、全く過言ではない品だ。いいや、それ以上であるかもしれない。

今言いたい事ではないが、こいつを売り払えば都市部で戦っている傭兵達を寄せ集めて、一国並みの軍隊でさえも揃えることさえでき得るだろう。


使い方を誤ることのできない、大いなる金属。


婆「お前のじいちゃんが、隣国の親しき友から授かった家宝だ…」

焔「……」

婆「…なあに、使うなとは言わんさ…あんたはもう立派な大人で、鍛冶屋だよ…金に欲目が向く事がないのは私も知ってる」


婆「じいちゃんの代わりに私が許すよ…あんたの思うがまま、使いな」

焔「…!」
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/26(木) 21:24:02.71 ID:wGOYghlDO
イカスぜばあちゃんwktk
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/26(木) 21:30:49.10 ID:gBpKxxFp0
パサッ

番「カギルさん、起きていますか?」


限「! ツガエさん、どうかしましたか」

番「はい、レンガ壁について新たな案が出されまして…あ、もしかして起こしてしまいましたか?」

限「先程目が覚めました、もう夕方ですから構いません…そして新たな案とは?」

番「えっと、煉瓦壁の正面に可能な限り土嚢を積んでみてはどうか、という意見なのですが…」

限「土嚢で防御力の補強ですか、なるほど…良いでしょう、煉瓦の破片が爆風で飛散するのも防げそうです」

番「採用しますか?」

限「大丈夫でしょう、他の場所でも応用できるのであれば使いたいくらいです」

番「わかりました!」

パサッ


限「…ツガエさんお待ちを!」

番「え?」


限「……」

番「えっと、何か…」

限「…いえ、やはりなんでもありません、どうぞお気になさらず」

番「…はい、では失礼します」

番(…カギルさんが、躊躇するなんて)

パサッ


限(…ハープさんの事を話して…どうするというのか、私自身の確証は無いのに)
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/26(木) 21:43:59.61 ID:gBpKxxFp0
とぼとぼ

番(……はあ、カギルさん、私になんて声をかけてくれたんだろう、気になる…)

番(カギルさんが言葉に閊えるくらいの事…え、うそやだ、まさかそれって…馬鹿、そんなわけないじゃない…)


ガララララ・・・


番(…あ、前から荷車が…材木を運んでいるのかしら)

民兵(! …ち、胸糞悪い女に出会った)


番「こんにちは、お疲れ様で…」

民兵「身体を動かしているのは俺ら職人だ、軽々しく声をかけるな」

番「…え」

民兵「死ぬのは先兵、生き残るのはいつも椅子に腰掛ける役立たずだ、俺らとお前が同じだと思うなよ」

番「…承知しています、けれど命令系統は必ず必要なのです…」

民兵「口上だけで真実の傷を分かち合えるとでも?ふん…戦の前からそうだったな、町を支配し、絞るだけ絞り取って…」

番「!ち、父と私は関係ありません!」

「おい、足を止めるなよ、さっさと運びに行こう」

民兵「ああ、そうだな」


民兵「全く、無駄なおしゃべりで足を止めないでもらいたいな」ガラララ・・・


番(……くっ…)
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/28(土) 21:42:35.24 ID:fKNyC1UE0
――カァン

一振りは町のために。

――カァン

一振りは先祖のために。

――カァン

一振りは死んでいった者達のために。

――カァン

一振りは今を共に闘う仲間のために。

――カァン

一振りは全ての希望のために。


憎き敵がそこに居らずとも、勝利へと肉薄する刃となれ。

たとえ身を守る鎧でないとしても、弱き民の心を護る刃となれ。


その一振りは勝利のために。


――カァン
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/29(日) 22:17:23.84 ID:FZGPHNgl0
長(今を生きる仲間の命こそ最も尊い、それは俺もわかっている。だが無念にも惨劇に倒れていった仲間の意志は?守るだけが、彼らの意志なのか?死者は口を開かないからと、心の耳までも貸すのをやめて良いのだろうか?)


護(単なる町医者の娘だとしても、できることはある。肢を失い絶望する患者が大量に押し寄せてこようとも、轟音がすぐそばで轟こうとも、私だけは逃げてはいけない、逃げない)


限(誰を頼り、どう指示を下すか、私は考えなければならない。私しかいないのだとすれば、他ならぬ私自身が)


番(私の父は確かに町を裏切った、いいえ、町長としてもずっと、この町から技術者を逃さぬように上手く根回しを続け、寄生虫のように巣食ってきた。けれど私は違う、私の命に替えてでもそれを証明してみせたい)


疾(あと一人は子供がほしい)




この戦にかける思いは誰もが違うものをもっている。

戦の最中、戦の後、そのどちらでもない、別の思惑…様々な考えがあって、みんなが挑んでいる壁だ。


そのすべてを俺は掴むことはできないし、預かり知らぬ所にある考えは多くあるだろう。

だとしても俺は、あらゆる想いをこめてこの鎚を振るう。

一回一回に祈りを込めて鋼を伸ばす。

あらゆる祈りをまとめるようにして鋼を折る。

そうしてまた祈りを打ちつける。


俺が造りあげる祈りはバラバラなものではない。

全てが一体となり、全てが同じ目的を願うもの。刀。

希望。

勝利。



焔「…」カァンッ


静かな猛火が、暗い一室をゆらゆらと照らす。



ハープ(……)



その焔が希望を形作るように、俺は信じる。
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/05/30(月) 00:10:10.10 ID:r8ybQUHbo
ハヤテェ…
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/30(月) 19:23:00.86 ID:3gxnyBhw0
赤というよりは褐色に近いだろうか。

見た目の色はまさに、錆びかけのアカガネそのもの。

表面は鏡の如く滑らかであるにも関わらず、一条の光も返さない艶の無い刀身。

木のような温かみは無く、鉄のような冷たさも感じさせない、どこまでも平坦な質感。

一応はと波紋を付けようと泥を塗ったであろう刃にさえも、紋様どころか光すら浮かんでいない。

なだらかに反った形状はまさに刀で間違いない。

だが、家宝を何割かも含ませて仕上げた逸品の外見は、まさに見るも無残。

王家の財宝であると耳打ちされてこれを眺めようと思っても、あまりの無機質さ、それゆえのつまらなさに、十秒も目を向けていたくない。


たとえるなら、褐色をした刀、の形をした、竹光。

…赤い板きれ。剣の練習用の道具。展示された品であれば、そう指差されてもおかしくはないモノが、ここに出来上がった。



疾「なにこれ」

焔「……」


使った物が物なだけに、仕上がりをかつてない名刀と信じてやまなかった俺は、現実とのあまりの落差になんとなく打ちひしがれていた。

…いや、仕上がりはしたのだが。


ただ……むなしい…。


疾「え?戦場でこれ使うの?」ヒョイ


言いかえしたかったが、ハヤテが軽々と手に持ったそれは子供のチャンバラ用のおもちゃと同列の品と見なされてもおかしくない質素さであった。
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/31(火) 19:38:04.44 ID:INKx+x+F0
焔「……さて、耐熱、耐衝撃の柄があってひとまずは良かった、というところか…」チャキ


手に握った赤い刀にはそれらしい重量感があったが、鋼のものよりかは格段に軽かった。

耐熱性のある柄と鍔は、私用で偶然持っていた作業用のものであったが幸いした。

色々と不格好ではあるが、これならば特に訓練していない者にでも振るえるかもしれない。まあ、ハヤテの身体能力の前には大剣ほどの重量でも問題ないだろうが。


疾「…握ってみると、やっぱ緊張すんな、武器って」

焔「まだそいつの丈夫さは解らない、武器になるかは試験してみてからだな」

疾「試験?」

焔「ちゃんと摩擦で炎が出るのか、とか…折れたりしないか、とか。当然切れ味も見ておく必要がある」

疾「試し切りってやつだな!?やらせてくれ!」

焔「だーめだ、ちゃんとした使い手がやらなきゃ意味ないの、試験は俺がやるから……」ゴソゴソ


焔「…はい、お前はしばらくこっちの普通の刀で練習でもしてろ」

疾「赤いのは俺のじゃねーのかよ」

焔「勢いよく燃えるかもしれない刀を素人にいきなり持たせられるかよ、いいからこっち」

疾「へいへい…」チャキ


焔「……さて、試験はとりあえず外でやるから、とりあえずは納刀して…」チャキッ・・・

シュボッ


焔「うわっっちいい!?鞘が燃えた!?」

疾「うわああ!水!誰か水ー!」
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/31(火) 20:44:17.49 ID:Mg6gMaoIO
一掴みでいいのに
何割か使っちゃったのか
量産は難しいな
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/01(水) 00:36:20.02 ID:pPajsr9To
ハヤテの為に多目に使っただけで量産型には少量とかだったら燃える
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/01(水) 20:09:17.32 ID:IFtS/iVN0
焔「専用の鞘はいつか作るとして、とりあえずは実験開始だ」

疾「というかさっきのでもう成功してんじゃね」

焔「確かに納刀だけで鞘が全焼したりはしたが、まだまだわからないぞ…戦場では耐久性も重要視されるからな」

疾「それで竹で試し切りってことか」

焔「そういうこと」ザクッ


焔「…ここに刺した青竹くらいはさっと切れてもらわないと、切れ味としては合格点はやれないな」

疾「……え?刀って竹斬れるの?」

焔「斬れる斬れる、余裕だな…まあ、俺の鍛冶屋にある刀なら、だけど…他の刀は知らないね」

フンフンッ

チャキッ


焔「…よし、切ってみるか」

疾「すげえ、構え方がそれっぽい」

焔「ぽい、じゃなくてまさにそれだからな……うおりゃッ!」ヒュッ


ス・・・

焔(あれ?切っ先がするりと…)

シュボッ・・

焔(! しかも炎が…!)

ボオオォォオオッ!


疾「うお!?」

焔「うわあっちぃ!?」ボゥッ


カランカラン・・・


焔(…竹は真っ二つ…斬っただけで剣が炎を帯びて…)

疾「…炎が伸びた…炎が伸びたぞ…」ブツブツ

焔(竹の切り口が白くなってら…一瞬の斬りでまさか、こうも熱を帯びるとは…)


焔(…おいおい、なんだかまずそうなものができちゃったなぁ…)
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/01(水) 20:48:09.87 ID:xR7+RDqto
これヒバシ石の純度に問題あるんじゃね……?高すぎっていう
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/01(水) 21:43:16.53 ID:LkHKXMWHo
ほむほむファイアーハンドソード!
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/02(木) 01:53:33.10 ID:2RVVSjIxo
後のフレイムたんであった
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/02(木) 21:43:13.04 ID:68ZlxD9I0
疾「……おりゃっ!」ブンッ

焔「そうそう、筋がブレないようにな」

疾「てい!とうっ!」フン、フンッ

焔「飲みこみが早いな?まーこんなところで大丈夫だろう」

疾「え!?もう終わり!?」

焔「んー、剣術の指南ができるほど俺も物納めちゃいないからな、それにそいつは使い方が全く異なってくるだろうし」

疾「お前以外に刀使える奴なんて知らねーぞ?俺より上手いんだから教えてくれたって良いじゃないかよ」

焔「そんな暇もねーの」

疾「ぐぬぬ」


焔「…まずそいつ…ヒバシ石を混ぜた食土の刀…名は“ヒバナとしようか”」

疾「ヒバナ?…なんかかっこ良いな!」

焔「そいつは植物だろうが地面の土だろうが、擦れたり斬ったりするだけで炎を出す危険物だ、その扱いに慣れなくちゃ駄目だな」

疾「わかってるって、肉体強化だろ?」

焔「んー、まあ魔力によって自分の身体の安定性を高める…そうすれば確かに熱や炎から身を守れるし、刀の振りもフットワークも切れるようにはなる」


焔「だがあまりにもそいつを熱しすぎると…おそらく、そいつは平気で1000度は超えるはずだ」

疾「せ…」

焔「ちょっとした小火くらいなら肉体強化でも“ぬるい”程度で涼しい顔もできるだろうが、お前でも1000度となると無理だろう?」

疾「わかんねー…多分駄目だろうな…」

焔「ヒバナ自体は耐熱性に優れているし、柄も熱を通さない造りだ…連続して斬るのは構わない、んだけど、使う本人が熱に耐えられないって事になってくる」

疾「呪いみたいだなそれ、魔剣かよ!」

焔「魔法金属で造られた刀だからな、そういっても過言じゃないはずだ…何にせよ扱いには気をつけろよ?」

疾「わーってるわーってる」

焔「うっかり手を滑らせて町の建物全焼、なんて笑いごとにもならないからな」

疾「…お、おう!わかってるって!」

焔「……心配だ…とにかく、変に扱わないようにな」
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/03(金) 17:48:18.89 ID:VSaGE0LIO
フレイムたん燃えー
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/03(金) 19:26:33.65 ID:G2gQOCjc0
予想以上に取り扱いの難しい刀を注意と釘付きでハヤテに託すと、奴は果たして注意を聞いていたのか、るんるんといった上機嫌で刀を振り回しながら帰っていった。

実践で使えるレベルかどうかは正直わからない。

火力は当然あるにせよ、炎が暴発するリスクを考えるとどうしても尻込みしてしまう。誤れば戦の前に町が全焼する悲劇も…あり得なくはない。

何が起こるか予測不能の武器だが、油を用いた作戦には参加させるべきじゃあないだろう。


焔「…使えない武器よりはマシか」


と心配はしてみても、確かな手ごたえ。

刀剣で戦が変わる。リスクが高いのは承知だが、それでも鍛冶屋としての俺の心は期待に高鳴るばかりである。

炎を出す剣。実践でどうなるかなど、想像しても全くわからない。だからこそ臨んでみたくなる。



焔「……」


俺は工房に戻っていた。

蒸し暑い熱気とそこらに転がっている石の破片。


そして、まだ残りがある魔金、食土。



焔「……刀だけで満足できるかよ」


久々に己のうちに燃えてくるものが出来た気がする。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/04(土) 00:54:45.02 ID:+5eOeEBIO
こ、ここはハープさんにスペシャルな
○○・エンジュを作って上げようぜ!
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/04(土) 20:25:28.21 ID:tWxxBWDTo
ナガトさん専用武器か…胸熱
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/04(土) 20:40:54.82 ID:KcuhzQ58o
もしかして剣の先の方にヒバシ石はめ込むだけでもよかったりはしないか
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/04(土) 20:47:05.83 ID:4R+VOSQZ0
武器を造る。

にしても、問題があった。


焔「リーチの短い武器だと火傷するな…」


ブルメラのような短剣に属するような武器を合金で造っても、燃え盛る刀身のすぐ近くで柄を握る手。ひとたび扱いを間違えれば、砲撃を食らう間もなく自滅できるだろう。

先程の刀…ヒバナのように、長い刀身の中辺りほどで対象を斬れば手への負担は軽く済む。必然的にリーチの長い武器が候補に残るというわけだ。

とはいっても、ヒバナだって万能ではない。

敵やら物やらを斬って熱を高め続けていれば、それが切っ先でのものであろうといずれは熱が刀身全てに伝わる。

耐熱の柄があるにせよ、手元の近くで超高熱が常在していては肉体強化込みでも手が耐えられない。


つまり、どういうものが最適かというと…。



焔「……槍だ」


長いリーチ。熱を伝えない棒状のものを用いれば、槍先の合金が文字通り思う存分に炎を吐ける。

どこまで相手を突き刺そうが、斬ろうが、叩こうが、熱せられた先端は身体からは遠い。

槍術としての動きは多少限定されるが、これ以上ない素晴らしくマッチした武器といえよう。

奇遇なことに俺は槍が好きだ。そうだ、槍を造ろう。


焔「槍だけじゃない、なんだって作れる…モーニングスター、ロングメイス…リーチが長ければ戦闘面でのデメリットもいくらかマシになるが、あえて小回りのきくショートソードで、剣の先端にのみ合金を使っても良い…」


想像が膨らむ。頭の中では幾つもの褐色をした武器の図案が浮かび、ぐるぐると回りながら最適な形を求めて変形し続ける。


焔「おお…!今何時だ!?今日寝れるか俺!?」


早速俺は貫徹を覚悟し、作業へと取りかかった。

夕方に近い時のことである。
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/05(日) 01:15:27.88 ID:4Jv5dArMo
焔のワクワクが伝わってくる
wktk
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/05(日) 08:54:28.31 ID:sSLHO7WAo
いいね、乗ってきたね
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/05(日) 22:27:29.81 ID:suj6Xbx90

――崖の下


遥か南の死地より、魔族の王の一体、キキが己の身から生みだした惨劇軍。

破壊力の高い砲撃、堅牢の如き盾、強烈な毒爪、鉄さえ断ち得る大剣。

世界を憎悪の暴力で飲みこまんとするそれら惨劇の兵士達には、稀に一体の“指揮官”がつく。


ダマ「よし、大体揃ってきたか」バサッバサツ



羽衣の翼を大きくはためかせて月夜に浮かぶ姿はさながら悪魔のよう。派手ではないのに“毒”を連想させる赤に近い色合いの表皮は宵闇に目立つ。その色は他の野生生物に警鐘を鳴らしているのか。

――それとも、憎悪の色か。


ダマ「惨劇狩りが待ち構え…そして、一度ならず二度までも敗北を味わう事になるとは…我々の恥さらしも良い所だな」


翼の振幅が緩やかになると共に、赤い身体は崖下へとゆっくり降下を始めた。

下へ下へと降りてゆくと、そこには岩場――と見紛うであろう、ロッコイの盾による疑似海岸が形成されていた。

海を渡る惨劇軍の魔族は、一日で海岸を増やしてしまうほどの大群となってしまっていたのだ。

ダマは盾の地に腰を下ろし、羽衣を休めた。



ダマ「あと一日だ、明日も“待ち”…惨劇狩りを相手に急ぐなど、さすがのオレでも愚かだと理解できるからな、キキキ…」

高い蝙蝠の笑い声が小さく響く。


ダマ「…二日後が攻めの時…人間どもが賢い策を練ろうとも、…司令塔としては認めたくはないが?キキキッ…無情にも、数の暴力というものはあらゆる策を易々と破壊してしまうものだ…」

ダマ「かといって、増援を呼ばれるのも厄介だ…現存の敵に休まれても困る、ククク…ま、匙加減だな……」


岩の上で胡坐をかき、巨大な蝙蝠は瞑想に耽った。
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/05(日) 22:38:28.66 ID:fO9WvApyo
楽しみやねん
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/05(日) 22:48:19.10 ID:u98zTSuIO
リアルに2日は空けんでくれよ…
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/05(日) 22:54:37.30 ID:suj6Xbx90

『人間同士であろうが、魔族とのものであろうが、戦はあらゆる技術を発達させる』

ハープ「……」

『確かに魔族側を倒そうとお前が力を振るうことで、奴らの敗北はより近き道となり…“脅威”への歩みはやや緩やかになるだろう』

ハープ「その通り」

『ところがそれは力を直接敵に振るった場合だ。間接的に人間へ助力し、討ち滅ぼす…上手くいけば速やかで悪くは無い、だが技術の発展は並行して進むことを忘れるな』

ハープ「わかっている、あくまで早めに決するつもりだ」

『そして何よりも最後は…わかるな?あまり目立ちすぎてはならん』

ハープ「…当然」

『よろしい…今がハープ…前はセン…さて次は…』

ハープ「その時になったら決めるさ、今はこれでいい」

『ふ、そうだな…替え時までにはまだ時間がある…またセンに戻すのも良いだろう』

ハープ「それじゃあバレる、せめてもう一つは欲しい所だろう?」

『うむ、もう一つはな…』

ハープ「……」

525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/06(月) 12:49:14.59 ID:WQlJ46PIO
日が空いても待つ
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/06(月) 20:11:17.55 ID:zUF+Y2Yr0
護「一応は大丈夫だけど、包帯は毎日替えるようにしてくださいね?じゃないと腕が腐り落ちちゃいますからね、ふふ」

「あ、ありがとうございます…先生」

護「お勤め頑張って下さいね、怪我をしたら私が治しますから」

「…はい、その時はまたよろしくお願いします」

護「ええ」

「では」


護(…ふう、今日一日で何人も復帰したなぁ…生命力があるのか、無理してるのか…)


きっと無理しているんだろうな、と思いつつ、マモリはテントから出た。

治療のために設けられた大きめのテントは中も清潔で治療も滞りなく不快感も無く続けられたが、同じ場所というのはそれだけで息苦しい。


布の扉を開けた向こうにはいつも通りの民家と、その屋根の上へ突き出すように伸びる錐砲の頂点が見えた。

町の中にも配備された投擲兵器と夜空の組み合わせは、直接目にして初めて不安を覚える物々しい光景である。


護「…また戦いは続くのね…また誰かが怪我をするのか…」


医者は治すのが仕事。とはいえ、町の者が傷付く姿など好んで見たくはない。かといって“町から逃げれば良いのに”とは口が裂けても言えない。

ただただ、最小限の犠牲で勝利を掴んでほしい。そう願うばかりだ。



――ゴォッ


護「…ん!?」


なんともなくに夜の藍色を眺めていたマモリの目に、小さなオレンジの閃光が映った。

視界の隅に一瞬だけ現れた光。昨日の事もあっていつも以上に張りつめた夜の雰囲気が、彼女に嫌な予感を示す。

“敵の攻撃?”

恐れる前にマモリは、オレンジの光が上がった所へと駆け向かっていた。

歩きにくい靴をカタカタと高く鳴らし、小さな橋を渡って民家の煉瓦の角をなぞるように曲がり、光の上がった地点を追いつめる。


そして次の路地を曲がろうとした時、光は再び現れた。


ゴォオオオッ!


護「きゃっ…!?」


今度は小さな光ではない。

大きなオレンジの光…――いや、炎が、マモリのすぐ目の前で尾を引いて空を泳いでいたのである。


護「……え?」


一瞬、絶対に魔族だと自身の直感を疑わなかったマモリであったが、炎の渦の中心に目を向けた時に疑念は晴れた。



疾「ふッ……!」ブンッ・・・カリリリリ

ゴォオオオオ!



そこでは一人の民兵が、ラクダ色の壁面を相手に火炎を帯びた刀剣を振り回してたのだ。
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/06(月) 23:07:17.60 ID:6shJ11wBo
wwktktk!
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/06(月) 23:08:08.14 ID:6shJ11wBo
wwktktk!
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/08(水) 22:13:52.93 ID:UNchHaNU0
護「…ちょっと?あなたハヤテさんよね」

疾「うおりゃ…って、ん?」ゴォオ・・・


ハヤテは早速慣れた取り回しで刀を頭上で振り回し、業火を宙に放ち消すとともに、やっとマモリの方へ目を向けた。


疾「おお、町医者だ、すげえだろ?これ」

護「“マモリさん”って呼んでよ。…なにそれ?魔族が襲来してきたのかと思ってびっくりしたわぁ」

疾「これか?へっへっへ、いいだろー」

護「良いとか悪いとかそういうんじゃなくて…どうしたの?それ、燃えてるの?」


屈託の無い笑顔で真っ赤な刀を見つめていたハヤテが、いかにも話したそうにこちらへ顔を向ける。


疾「おうとも!燃えてるんだ、そりゃもう鉄をも溶かしかねないくらいによ、そういう刀!」

護「え……」


まさか本当に燃えるのか。信じられないといった風に、刀へ疑いの目をやる。


――艶の無い赤い刀身…。


護「嘘おっしゃい」

疾「早ッ!?ちょっと見ただけで決めつけねえで欲しいな!」

護「表面に油か何かを塗ってるんでしょ?…もしくは、さっきまでカマドに入れていたとか…」

疾「そ、そこまで疑うか!?これはちゃんとホムラが俺のためにって作ってくれた大傑作なんだぞ!」

護「……え?ホムラさんが?」


先ほどとは一転して信じきった表情を見せたマモリには、ハヤテも思わずため息をついた。


疾(俺の言ってる事って大体信用されねえんだよな…)
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 23:28:36.92 ID:bRMJXN+IO
ハヤテェ……
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 00:26:20.65 ID:kNxzUsZIO
紙の魔王もこれも良作
ハープさん可愛かったんだのう
>>1の過去作を色々読んで見るぜい
ちょっとずつでも投下あると嬉しい
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/09(木) 11:51:02.79 ID:0YQG9chHo
ハヤテかわいいよ
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/09(木) 22:59:09.10 ID:lqXZg81w0
護「――へぇ…ヒバシ石を金属に熔かしてかぁ…」

疾「うっすい刀の割に頑丈だし、軽めだし…何より炎が出る!これがもうすげえのなんの」

護「…ふふ、そうね、本当にホムラさんはすごいなぁ」

疾「聞いてはいるだろ?魔族共の弱点は炎だってよ」

護「聞いてるわ、惨劇軍でしょ?町中その話で持ちきりなんだってね」

疾「おう、皆どうやって奴らを火だるまにしてやろうか頭をひねってる所だろうよ、まぁそれも無駄ってことだ」

チャキッ

ブンッ


疾「こいつさえありゃあ、火薬だの油だのが無くたって問題ねえ」

護「…そんなに上手くいくの?相手は腕から大砲を撃ったりしてくるんでしょ?」

疾「…だからこうやって刀の練習してるんだよ」ブンッ、ブンッ

護「あっはっは、変な振り!ハヤテさんて刀握った事ないでしょ」

疾「うるせー!だから練習してんの!火傷するからあっちいってろ!」ブンッブンッ

護「はいはい…小火だけは起こさないようにね、ただでさえみんなピリピリしてるんだから…」

疾「わーってるって!」ブンッ

護「…あ、そうだ…剣術ならカギルさんやナガトさんに教えてもらったら?カギルさんは忙しいかもしれないけど、ナガトさんなら暇だろうし、腕も確からしいわよ」

疾「ぁあ?ナガト?」ブンッ


疾「…ナガトか、教えてもらうかなぁ」

護「ま、魔族じゃなくて安心したわ…私帰るわね。じゃ、おやすみなさ〜い」

疾「…おー」


疾(ナガト…まぁ駄目元で聞いてみるか?あいつどこにいるんだろ)
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 08:17:12.44 ID:HblJ1voIO
キテター
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 11:29:18.94 ID:HblJ1voIO
そうそう、じぇみに 素敵な話だった
けっこう泣けた
>>1の作品好きだぜ///
酉つけ無いのはなぜかな?
536 :1◇1pwI6k86kA :2011/06/10(金) 12:13:40.56 ID:Ct9fK3WAO
読んでくれてありがとう
(*・∀・*)っ(礼*・∀・)

荒れるかなぁって思ってつけてなかったけど、そろそろ皆忘れてるだろうから付けようかなとも思ってる

武器の参考画像描かなくちゃ
537 : ◆1pwI6k86kA :2011/06/10(金) 12:32:54.77 ID:Ct9fK3WAO
酉の付け方忘れるとか馬鹿の諸行だった
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 16:24:13.70 ID:HblJ1voIO
>>12
じぇみにも好きだが、ハープさんペロペロしたいw
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 16:25:10.41 ID:HblJ1voIO
なんだこの意味不明の安価…orz
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/10(金) 19:59:46.77 ID:K369+fxg0
民兵「ふぅー…いやー、非番だってのに手伝い張り切りすぎたなぁ」

「ははは、そいんくらいでなきゃ男は上げらんねーよ」

民兵「おいおい厳しいな?男ってのは、はっは」

カラララ・・・


番台「いらっしゃい、民兵さんだね?無料だからゆっくりしてきな」

民兵「サンキュー、風呂は混んでるかい?」

番台「この時間だからねぇ…あ、でもさっきぞろぞろと集団で出ていったから、今は空いてるかもねぇ」

民兵「お?やった、じゃあ早速入らせてもら、へへ」

「ラッキーだったな、めいっぱい足広げようかね」

民兵「ああ、それに尽きる…そうだ!酒を一杯おくれよ!金は払うから!」

番台「酒?良いよ、徳利75YENだ」

民兵「高ッ!なんだそれ」

番台「ここは酒屋じゃねーってこと、湯の中で吐かれる悪夢を考えたら100でもいいところさ」

「ははは、違いないな」

民兵「ちぇっ…ま、いいか」ジャラジャラ

番台「まいど、ほどほどにね」

民兵「良く言うぜぇ」
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/10(金) 20:06:52.58 ID:K369+fxg0
かぽーん


民兵「うー、寒っ」ペタペタ

「さっさと湯船に浸かりたいねぇ」

民兵「早く酒を煽りたいぜぇー…うぶぶぶ」

「…おー、番台の言ってた通りだ、誰もいねぇじゃん」

民兵「どうしたどうした、さすがに人っ子一人いねえのは可笑しいだろ…誰かクソでも漏らしたか?」

「汚ねっ、酒不味くなんぞ」

民兵「いけるいける、言葉なんて酒の前じゃ全部軽いもん…」


チャプ


限「……」

長「……」



民兵(…うわっ、なにこの、無言の息苦しさ)

(なんだこれ、居辛すぎる)


かぽーん


限「……」

長「……」


民兵(…せめて…)

(風呂の両端で険しい顔するのはやめてくれ…)





民兵「……出るか」ザパッ

「…ああ、温まったからな」チャポッ
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/12(日) 22:47:08.99 ID:8DaPm/0M0
チャプ・・・


限(…久々に肩まで浸かったな、癒される…疲れも緊迫感も一緒に流されてしまいそうだ)

長「…カギルさん」

限「ん…ああ、ナガトさん、どうもこんばんは」

長「どうも。…町の準備はうまく進んでいるようで」

限「そうですね、守りの方はですが…」

長「…カギルさん、せっかくの休みの時だというのにこんな話で申し訳ない…」

限「構いません、役目ですから」


長「…守りは完璧だと俺も思う、しかし守るだけではいつか食料も無くなり…この町は滅びる」

限「バンホーは農作に特化した町ではありませんからね、一応食料は傭兵の協会へ支援要請を出してあるのですが」

長「このご時世だ、メシを食うにも値が張る…いつまで続けていられるか…」

限「ここが陥落すれば次の標的は遠く隣町です、そこの援助も受けています」

長「……」

限「ただ根本的に問題がありまして」

長「?」

限「籠城のための物資はある、食料もある……ただ、人がいない」

長「…」

限「お金にある程度の余裕はありますが、傭兵を恒久的に雇うほどの資金はありませんし信用もありません」

長「…確かに、二度と奴らとつるむのは御免だ」

限「しかしこのままでは町の方々が戦によって命を落とし続ける…町を守るための人々がいなくなってしまうのです」


限「だから我々は考え模索しています、少ない人数でも魔族達を…惨劇軍を撃退するための方法を」

長「…」

限「そう、難しいのです、ナガトさん…あなたの言う通り、守るだけというわけにもいかない」


限「しかし、攻めの手段がどうにも……浮かばない、歯痒いです」
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/13(月) 07:27:46.77 ID:gufQpLWIO
つC
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/13(月) 22:16:26.32 ID:rcMx1OsAO
「ふぃ〜、疲れた〜…風呂、風呂っとぉ…」ペタペタ


長「確かに錐砲の威力は高い、曲射もできるから敵の砲撃からは狙われまいでしょうが」

限「有能な砲手はいませんからね、それは仕方ないことです」

「? 誰か話してんな…まぁいいや、さっさと浸かろ」チャプ


長「素人に錐砲の扱いなど出来ることでは…」

限「だからこその向きと重さの固定なのです、これなら誰にでも扱えますよ」

長「…ピンポイントすぎる」

限「町からの火力支援はこれしかないのですよ」

長「むむ……」


「…ん?おお、その声はナガトとカギルさんじゃねえか」

長「?その声…」

限「ああ、ハヤテさんいらしてたので…」


疾「おっす」

長「おん!?」

限「!? !?」

疾「え?何?」
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/06/13(月) 22:27:03.17 ID:jX6BLZaKo
女!?
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) :2011/06/13(月) 23:28:31.52 ID:YxxDHiYUo
全裸待機
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/14(火) 01:20:00.12 ID:8UBZ+uuXo
じゃあ>>546の背中にハチミツを塗って待機
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/14(火) 13:32:52.40 ID:z8eLLSKIO
スルメにマヨとハチミツはありだと思うから>>546の背中にはマヨも塗って待機
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 17:22:19.95 ID:+awdRkhAO
え?それってマヨ+ハチミツってこと?
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/14(火) 20:29:26.87 ID:6mXi+OSw0
長「ハヤテか」

限「ハヤテさんですか」

疾「どうみたら誰に見えるんだよ」

長(女だろ)

限(女性でしょう)


長「…ハヤテ、髪を結わいている紐を外せ、面倒だ」

疾「は?なんでだよ、毛先を湯船に沈めたくねーんだよ」

長「いいからさっさとほどけ」

疾「…ホムラといい、なんなんだ…」ブツブツ

シュルッ

長「それでいい」

限(なるほど、興味深い)


疾「で、さっきまで色々と口論してたみたいだけど、一体何を?つっても二人が話す共通の事といったら戦のことか」

長「当然だ、今この時他に何を話す必要がある」

疾「息抜きに他の事を話していてもバチは当たんねーだろ?」

限「惨劇軍を撃退するための攻め…つまるところ、こちらの主要な戦力について話していました」

疾「戦力…」

長「守るだけではすり減るばかりだ、こちらから効果的に敵を始末する方法を考えなくてはならない」

疾「……へっへへ」ニヤ

長「? 何がおかしい」

疾「いやいや、丁度いいぜナガト、丁度良いモンが手に入ったんだよ」
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) :2011/06/16(木) 03:43:45.08 ID:PwBbg+kAo
だれだよオレの背中をぺろぺろなめてんの
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/16(木) 16:16:12.94 ID:2epE8aulo
俺だよ俺俺
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/16(木) 22:13:13.54 ID:8K8JjamC0
ブンブンッ

フンフンフンッ


チャキッ


疾「どう?」

長「木刀」

限「鮮やかな模造刀ですね」

疾「ちげーって!これ凄いんだって!」

長「話はそれだけか?ハヤテ」

疾「なにその可哀そうなものを見る目!上等だ!今から度肝抜いてやるから見ておけよ!腰抜かすなよ!」

長「腰も肝も何に驚けと…」カリカリカリッ


ボウッ!

限「!?」

長「うおっ!」

疾(自分の周りの足元の地面に円を描くようにして擦ってから…)カリリリッ

疾(一気に上へ突きあげるッ!)ボォオオッ


長「……炎が出た」

限「…空へ飛ばしたのですか?これはまさか魔道具…」

疾「へへ、魔道具ってのよくわかんねーけど、そんな難しいもんじゃないと思うぜ…これ、ホムラに作ってもらったんだ」

長「なに、ホムラにだと?」

限「…お待ちを、ハヤテさん、これはまず一体何なのですか?」

長「そ、そうだ、炎を出す魔剣だと?まるでおとぎ話のようだ」

疾「ふっふっふ、良いだろう聞かせてやろう」
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/17(金) 20:30:51.63 ID:5lIUvnCM0
長「…ヒバシ石を精錬か…考えてもみなかったことだが、確かにあれならば可能か?」

限「ヒバシ石は魔石に分類されます、普通の火打石とは比べ物にならない火力を持っている事は知っていましたが…なるほど、まさかヒバシ石を原料とするとは、見過ごしていた」

疾「く、詳しいなカギルさん」

限「…ハヤテさん、その刀…」

疾「あ、これ“ヒバナ”っていうの」

限「……ヒバナを貸していただけますか」

疾「ほい、すぐに炎出るから気をつけて」


限「……ふむ、よくよく見てみると不思議な色合い…」

長「確かに、キメは細かいのに艶が全く無い」

限「…この色合いはともかくとして…?この質感…硬度といい、名刀だが…?材質は一体…?」

疾「あー材質ね、確か変な金属をヒバシ石と混ぜてたなぁ…それが何なのかは教えてくれなかったけど」

長「鍛冶屋の企業秘密ってやつか」

限(……まてよ、刀身に魔力を込めてみたらどうだ)スッ


限(鍔から先へ、左手で刀身を撫でるようにして…魔力で“強化”する…!)ツツツ・・・


限「…」

疾「どうだいカギルさん、なかなか良い刀だろ?へへ…あ、でもいくらカギルさんだからってあげないからな!」

長「馬鹿が」

限(…魔力がほぼ完ぺきに馴染んだ、間違いない、この材質のほとんどを占める金属は…魔法金属、しかも極々上等なものとみた)


限「ふむ、大事に扱うといいでしょう、お返しします」スッ

疾「おう、……でさ、カギルさん、お願いがあんだけど」

限「? 何か」

疾「…そのな、俺な…」
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/18(土) 02:41:23.23 ID:w2psrDvIO
一気にここまで読んだ
面白い!
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/18(土) 09:33:33.19 ID:F+4Zq7qIO
同意
いつもC
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/19(日) 16:25:23.08 ID:hYYZKJRK0

―――――――――


限「……」

疾「……」

長「自分の言っている事の意味がわかっているんだろうな」

疾「わかってるさ」

長「お前には家族がいるんだったな?しかもまだ小さな子供まで」

疾「だからこそ戦いてぇんだよ!衛生兵や連絡係でもない、一般の兵として!」

限「ふむ、わかりました」

長「良いのか?カギルさん」

限「本人が自身の意志で仰っているんです、良しとし何ら問題はありません」

疾「ありがとうございます!」

限「しかし確認はしなくてはなりません、もしも貴方が死んだらどうするのですか?」

疾「死なないように頑張ります」

長「アホか」

限「人間は魔族の砲撃ひとつでも、剣の一振りでも、ひょっとすれば爪の一掻きでも死に至りますよ」

長「残された家族がどうなるか考えているのか?幼い子供を一人で養う女の気持を…」

疾「絶ッ対に!俺は死なない!」


長「……はー、馬鹿が…まぁいい、カギルさんが良っつってんなら俺は何も言わねえ」

疾「へへん」


限「……」
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/19(日) 21:38:16.50 ID:BJluTmmKo
フラグ…
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/19(日) 23:01:35.41 ID:6UQ8g3eMo
>>558
やめてくれぇぇぇええええぇぇ!
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/20(月) 12:15:13.13 ID:3XhYfQfIO
(´;ω;`)ブワッ
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/20(月) 19:18:47.57 ID:9emIvRDy0
なんやかんやあって。


焔「寝ときゃよかったかも…」


さて晩飯だと工場から出てみたら、窓から明るい日差しが差し込んでいた。

コダマ鳥がケロケロと気持ちよさそうに鳴いてはいるが、今の俺は逆にそのまま布団に潜ってしまいたい気分である。


焔「ふぁぁぁあ…やべえさっきから欠伸がとまんねえ…」


日が明けたということは一日が経ったということだ。

戦時中に夜更かしとは肝の据わった男だと褒めてもらいに今日もまたテント群へと足を進めよう。

もしかしたらそこで朝食でも頂けるかもしれない。



俺は文字通りふらついた足取りで町をすりすりと歩き、前線に近いテント群の目の前までやってきた。


民兵「…?」

焔「あ」


今さらの後の祭りだが、作業着のまま来てしまった。

しかも鎚持って。


…今日はテントの様子をちらりと見たら早々に帰って寝てしまった方が良いのかもしれない。
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/21(火) 19:38:58.95 ID:vD2BKw9F0
「職人仕事お疲れさまー」

焔「間違ってはないけどさ…」


通りすがりの知り合い全てが俺の姿を見て茶化してゆく。

いたたまれないのでさっさと確認だけとってもらって帰りたい。



番「あら?……あ、ホムラさんだった、おはようございます」

焔「お、いいところに…おはようございます、ツガエさん」


早く帰りたいと願った途端に彼女が現れた。幸先の良い朝だ。


番「鍛冶の作業をしていたしたんですか?…うわあ、煤だらけですね」

焔「いやー着替え忘れちゃって、すみません」

番「え?朝からお仕事ですか、大変ですね」

焔「いえ、夕方からです」

番「え?」


数秒置いてから、ツガエさんの目がより一層開かれた。


番「…一体何をしていたんですか…無茶して身体を壊してはいけませんよ?」

焔「まー、ちょっとした武器の鍛造をですね…ははは」

番「ホムラさんの作る剣はすごい切れ味だって早くも評判ですからねー…はい、とりあえず安否確認はおっけーっと…」

焔「どもども…じゃ、着替えてからまた戻って来て寝たいと思いますんで」

番「あ、はーい」


思いの外手続きがスムーズに終わった。着替えたらとりあえず夕時までは眠っておこう。



番「……あれ?ホムラさん、背中のそれ…」

焔「ん?背中?……あ」


しまった。馬鹿か。一緒に持ってきてしまっていたようだ。
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/21(火) 21:32:42.55 ID:53O8PU7DO
完成か!?wktk
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/22(水) 00:01:50.51 ID:6Euz1WVIO
不完全なハヤテ死亡フラグでない事を……
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/22(水) 21:08:55.00 ID:5/3t9fxv0
番「なんだかそれ…ハヤテさんが持っていたものと似てる気がします、色が」

焔「…あー、まぁハヤテにあげたのも俺ですからね」

番「やっぱり、でもどうしてそんな色をしてるんですか?思ったんですけど、模造刀ですよねぇ…?」

焔「模造刀っていうか…まあ見せた方が早いのかな」


背中から刀剣を降ろし、そっと丁重な手つきで地面に並べる。

別にこれらが壊れやすいというわけではないが、厳重に。ガラス細工を扱うようにゆっくりと。


番「…繊細なものなんですか?」

焔「むしろ逆ですね、岩壁に刃を叩きつけても刃こぼれするかどうか…」

番「ええ、それはさすがにオーバーな…」


実際にはオーバーでもなんでもなく、普通に刃こぼれしないだろう。

食土に関してそこまで知識を持っているわけがないが、このクラスの魔金が岩如き相手に欠けるはずも潰れるはずもない。


番「…えっと、…双剣、ジャベリン…あとこれは…槍の先ですか?」

焔「お、よくわかりますね」

番「やった、正解でした」

焔「双剣とジャベリンは完成したんですけど、槍だけはどうも柄が作れなくて参ってるんですよね…素材がなくて」

番「はあ…そうですか…でもどうして今このようなものを?どれも近距離のものばかりですよね」

焔「何か俺も力になれないかなと思いましてね」

番「?」

焔「…そうだ、ついでにこいつらを届けておくか…習作だけど」
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/22(水) 21:11:09.35 ID:WmJpVuPSo
双剣とは…!
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/23(木) 19:35:06.59 ID:18s3ppxc0
焔「おー、居た居た…珍しいなナガト、テントにいるなんて」

長「ん?ホムラか…昨日の疲れを取っているところだ、戦は近いからな」

焔「うん、無茶して働くよりもそれが良い」

長「…そんなお前はすごい格好をしている訳だが…」

焔「ああ、貫徹で鍛造してたからな」

長(そっちの方が無茶してないか?)

焔「今日はちょっと渡したいものがあってな」ゴソゴソ


コトッ

長「ああ、ジャベリ……!」

焔「ご注文の品だぜ、ショートではないけど」

長「…ハヤテにも似たようなものを渡したな?」

焔「あれ?知ってたか…あいつさては、色々な奴に見せびらかしたな」

長「ハヤテがそうしているかは知らないが、俺カギルさんには見せたぞ」

焔「カギルさんにもかー…」


長「…触ってもいいか?」

焔「ああ、金は後払いでいい」


焔(かなり原価割れしないと多分誰も買えないだろうけど)
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) :2011/06/23(木) 22:07:48.14 ID:8N/W3aFJo
作った武器に名前とか付けたらかっこ良さそう(;´Д`)
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/06/23(木) 22:13:06.42 ID:EDCwWk8vo
>>568
厨二病乙
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/23(木) 23:29:36.74 ID:mw0Qda6so
>>569
SSの世界くらいみんなで厨二病にかかろうぜ
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/24(金) 00:13:51.26 ID:R1m+RVlio
というか既についてるしな名前。カタナ『ヒバナ』って
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/24(金) 02:16:18.70 ID:yy7BE5t0o
更新がいつも楽しみ
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/24(金) 13:22:22.30 ID:K03M8K8IO
いろいろ読んだ
あんた最高だ
紙の魔王から記者まで連なる世界観
ずっと根気よく書き続けてきた事実
だから、支援
バンホーを書き切って欲しい
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/25(土) 00:39:33.73 ID:TF7XmgEyo
超超高級金属だと知ったときの顔が見たい
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/25(土) 10:30:48.56 ID:F2cBujt+0
カチャッ

長(リーチの割には若干軽いか…)

焔「銘は“トビヒ”。ハヤテにやった“ヒバナ”と同じで、摩擦によって炎と熱を出すジャベリンだ」

長「おお、ここに鎖も取りつけられるんだな」

焔「一応付けられはするけどおススメはしないな」

長「?」

焔「ナガトはジャベリンを鎖で戻して繰り返し使うんだろ?」

長「そうだ、ほかにも鎖の利用方法はいくらでもあるが、主な目的はそうだな」

焔「そいつの場合は取りこぼしでうっかり刃に手を触れた…とか、鎖に刀身が触れすぎた…とか、そういうミスは許されない」

長「…なるほどな、高熱のジャベリン…相性は良くないか」

焔「せめてもの改善ということで主に刃先にだけヒバシ石を集中して練り込んであるから、一瞬で鉄の鎖を焼き切るほど刀身が発熱する事はないとは思うが、まぁ気をつけてくれ」

長「わかった」

焔「刃先に込めてあるから、一発目で樹に思いっきり突きたてれば幹の内部が焦げる…二度突きたてれば煙が出る、三度くらい差せばジャベリンも熱を持って、樹を燃やすくらいにはなると思う」

長「投げる方向にも注意しなくてはならないわけか」

焔「…正直それは失敗作だ、作ってから気付いた不都合があまりに多い…誤れば町を大火に包み込む恐れがある」

長「くく、あまり俺を舐めてもらっちゃこまるな、ホムラ」

焔「え?」

長「こいつは燃えようが欠けようがジャベリンだ…ジャベリンなら、俺は当然のように使いこなしてやる」

焔「…よし、信用するぞ」

長「ああ、感謝するぞホムラ」


長「…ああそうだホムラ、これはどうやって砥げば…」

焔「間違っても砥ぐなよ!?」

長「あ、ああ」
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/25(土) 13:32:08.07 ID:Zzajc0T+o
そりゃ砥げないわなww多分砥ぐ必要すらないほどの武器なんだろうけど
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/25(土) 18:15:14.17 ID:ivQdY9Eso
死因:うっかり砥いでしまったため焼死
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/25(土) 18:47:00.04 ID:mSNgQuAIO
死因:うっかり砥いでしまったため焼死
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/25(土) 20:03:40.54 ID:Z4nrn5a6o
。180℃よかった
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/26(日) 11:16:00.65 ID:4CJelAZa0
焔(ナガトには渡したし釘も刺しておいたおいたから…次はカギルさんだな)

焔(本部にいればいいんだけど、そう何日も連続で統括にいるだろうか…休みじゃなければいいんだが…)


焔「失礼します」

「どうぞ」

焔(お、居た)

パサッ


限「ホム……ラさんですね、おはようございます」

焔「おはようございます、連日ご苦労さまで」

限「先程まで鍛冶の方にいらしたのですか」

焔「ええまあ、着替え忘れてしまいまして」

限「寝ていませんね」

焔「へへ、わかりますか…」

限「くまが物凄い事になっていますからね」

焔「ほんとですか、後で見てみよう…ってそうじゃないか、今はこの用で来たんです」

限「何でしょうか」


コトッ コトッ


限「……これは、もしや」

焔「ハヤテから聞いたんでしたら多分知ってるかと思うんですけど」

限「…昨晩、ハヤテさんと偶然会いまして、この剣を直に見ることができましたが…なるほど、双剣もあるとは」

焔「工場で火急に作ったんですよ」

限「……しかしホムラさん、何故双剣なのですか」

焔「え?」

限「何故私が双剣を扱えることを?それとも、これはそういった意味で私に託したものではない…?」

焔「ああ…まぎれも無くカギルさんへの贈り物です、カギルさんは剣の達人だとか」

限「…私に剣をですか」

焔「ちょっと前に、テントの外で剣舞を舞っていたカギルさんの姿を見たので、…それを見てすぐに解りましたよ、カギルさんは達人だって」

限「……」

焔「俺も槍を扱えるんですけど、職業柄他の獲物の扱いも心得てるんで、いやぁ驚きました」
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/26(日) 11:31:34.22 ID:4CJelAZa0
チャキッ・・・


限「……双剣の割には反りはなく、長く、しかし軽い」

焔「ハヤテの刀と同じで、刃先がちょっと掠るだけでも炎を出します…それを繰り返せば剣は高温になるので、肉体強化が必須になってきます」

限「斬ればきるほど炎を帯びる、と」

焔「ええ、肉体の強化の度合いによって取り回しの範囲も変わってきます」

限「…ハヤテさんのものよりもどうやら、見た目に重点を置いているようですね」

焔「あ、わかります?」

限「鍔の彫りが美しいです」

焔「良いものがあったんで、せっかくだからあしらっておいたんです…カギルさんはこの町の司令塔なんで、見た目にも拘っておかなきゃなーって思ったし」

限「…なるほど」


ブンッ、ブンッ


限(……手になじむ)

焔「銘は“ヒバシ”、ヒバシ石で作った剣の代表って意味でもありますけど、単純に“箸”みたいだからってのもあります」

限「……“火箸”、ですか…なるほど」

焔「こいつだけは剣と剣を擦り合わせることによっても熱を発せるのでわざわざ斬ってボルテージを上げる必要もないんで、魔族相手には結構有効なものだと思いますよ」

限「リーチ以外は、ですね」

焔「ははは…まあ炎でなんとかカバーしてください…」

限「……」


限「…素晴らしい贈り物です、ホムラさん…しかし私は司令塔、町の統括者です」

焔「はい」

限「剣を持って最前線で戦う事など、できることではないのです」

焔「……はい、わかってます」


焔「でもなんていうか、あの夜に見たカギルさんの舞いは、…うーん、なんて言えばいいのか…自分も戦場に出たがっているような、そんなものを感じたんです」

限「…」

焔「あ、すいません、過ぎた真似にもほどがありますね…でもまぁ、飾りってだけでも持っておいてください、見た目は良いんで」

限「はい、ありがたく」

焔「では俺はこれで…そろそろ眠いんで、着替えに帰ります…じゃあ失礼しました」


パサッ


限「……」
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/27(月) 19:03:57.90 ID:2doRzBzR0
しばらく参考資料を手掛けるのでおあずけ
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/27(月) 21:45:29.37 ID:RFeBEV1Uo
>>1のいじわる!ビクンビクン
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/27(月) 22:52:04.79 ID:BYlX5Yxro
>>1matteru
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/27(月) 22:52:42.19 ID:BYlX5Yxro
>>1matteru
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/27(月) 22:54:07.07 ID:G59t35zIO
>>1matteru
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/27(月) 23:00:14.63 ID:fl+wt12oo
>>1matteru
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/27(月) 23:01:36.85 ID:fl+wt12oo
>>1matteru
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga ]:2011/06/27(月) 23:23:40.19 ID:qL+GRLTAO
http://myup.jp/AWOZ7Ijl


蔵を探している最中に古い図面を見つけた。

ホムラが描いたと思われる、最初の武器達のスケッチのようだ。

お父様が継承した原型はこれかしら。

ということは、私もいつかこれを…?

…嫌だ。お父様まで、私より先にいなくなってしまうなんて…。

この資料のことは忘れよう。

590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/06/28(火) 02:00:41.74 ID:gYPrR5nco
相変わらずかっこいいイラストで胸が躍ったけどハナビって?
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/28(火) 20:44:17.14 ID:IbvG4+gi0
職人「……で、ここなんですが…聞いてます?」

限「! はい、続けてください」

職人「こっちの錐砲はどうにも使い道はわからないんですけど、こっちです、こっちの弩砲であれば改良の余地があるんです」

限「はい」

職人「弓でも火矢ってあるじゃないですか、弩砲でもそれを使う訳です、弾の先に油を仕込むなりすればですね…」

限「なるほど、だとしたら弾の火力は最低限に留めて油を抑え気味にしたいところでしょうか」

職人「質の悪い火薬でしたら沢山あるんでそっちを使うのもありだと思うんですね、どうでしょ」

限「難しいかと思われます、弾に火薬を仕込むほどの複雑な機構を設けるのは容易ではないでしょうし、着弾して熱を与える能力に調整するのもまた至難でしょう」

職人「うーん、わかりました、油を使いましょう」

限「弩砲も錐砲も防衛のための最終兵器として運用する事になるでしょうから、主力はやはり銃器ですね…ギルドに速達で武器の要請を出しましたが、今の時世で貸してくれるかどうか…」

パサッ


石工「失礼します、カギルさん、内部に使うっていう日干し煉瓦の質についてなんですけど…」

職人「後にしてくれよ、今はこっちだ」

石工「へいへい」

限「すみませんね」

石工「いやいや!まったく!」

パサッ


職人「…多忙ですねぇ」

限「明日から敵の襲来があるかもしれませんからね、町の装備も大詰めです」

職人「本当に今日も来ないんで?他のみんなもそうだと思うんですけど、俺も内心じゃあ心配でなりませんよ」

限「…ハープさんからの情報です、信じましょう」

職人「そんなにあの子供が信頼できるんですか?俺はちょっと、って感じですけど」

限「……」


限(…彼女はただの子供ではない)

限(いや、ひょっとしたら彼女は、人間ですらないのかも…)
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/29(水) 21:50:59.43 ID:fnrvvhSF0
パサッ


疾「こんちわっす」

職人「ハハハ、ほんと多忙だ」

疾「?」

限「こちらの話です、なんでしょうかハヤテさん」

疾「いやー、カギルさん今暇かなーって思って」

職人「ここの書類の山を見ての通り、大忙しだよ」

疾「ちぇっ、やっぱりか……カギルさんにでも剣を習おうかと思ったんだけどなぁ」

限「私に剣をですか」

職人「あーだめだめ、カギルさんは忙しいからな…あ、でも確かカギルさんって剣の扱い上手かったような…」


職人「お?そういやカギルさんの剣新しくなってますね」

疾「!」

限「これですか、これはホムラさんからいただいたもので…」

職人「へぇー、飾りも多くてカギルさんにゃぴったりだ、良いと思う」

限「どうも…まあ、私が剣を振るう事などありませんが」


限「そういうことです、ハヤテさん…すみません」

疾「ちぇー、まー仕方ないか、他をあたろうっと」パサッ



職人「…最近の若者はこれだから駄目ですなー」

限「あれくらいがいいものなのですよ」

職人「ぶは、御冗談を」

限「そういうものですよ、私はそういう生き方ができずに、少し後悔していますからね」
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/30(木) 21:53:25.34 ID:4GR9yInv0
疾「あーあ、そろそろ魔族が来るかもしれねーってのに、良い剣もあるのによー…このままじゃ宝の持ち腐れだぜ…」


民兵「おー、ハヤテじゃんか」

疾「よう!そっちは順調か」

民兵「順調だけどこれでいいのかなーって焦りはあるわな」

疾「ああ、やっぱなー…指示された事をこなしちゃいるが、それだけでいいのか?ってのは思うわ確かに」

民兵「カギルさんからアイデア出すように言われてはいるけどな」

疾「…炎ね、炎…」ニヘラ

民兵「何その笑顔」

疾「い、いや?なんでも」ニヤニヤ


疾「というかそれ、なにしてんだよ…広場にかまどなんか作りやがって」

民兵「ああこれ?」ジュゥゥウウ・・・

疾「…それ、農業で使う鋤ってやつか」

民兵「スキ、そうそう」ジュゥゥウ

疾「なんで焼いてるんだよ、先真っ赤だぞ」

民兵「まぁまぁ、ここにほれ、さっき猟師さんにもらった生肉を乗っけてだな」ジュゥゥウ

疾「うおお!良い匂い!」

民兵「はっはっは!即席の鉄板焼きだ!一緒に食うか?」

疾「良いのか!?おっしゃ!喰うぞ!景気付けだ!がっつり頂く!」
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/01(金) 01:13:24.40 ID:j3QpQYbYo
しえん!
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/01(金) 17:23:24.59 ID:ACM2YnOIO
がっつり頂いた!
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/01(金) 19:41:54.76 ID:gPoyF6KSO
世界観がしっかりしてんな
話の展開も面白いなぁ
本にしてもそれなりに売れると思う
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/01(金) 20:26:15.18 ID:kX3XyVsQ0
疾「もむ…もぐもぐ…」

民兵「燃料は高けぇもんは使えないから薪で火を熾してみたんだが、肉を喰うにゃやっぱ薪が一番だな」

疾「ほむほむ…ん、そうだな!欲を言えば炭が良いけどな」

民兵「炭作る暇なんてねーんだよな…っておい、そこ上手い部分だけ喰ってんじゃねーよ!」

疾「うっせー早いもん勝ちだ」

民兵「あのな」


ザッザッ・・・


鍛冶屋「美味い匂いがすると思ったら、これか」

疾「ん?なんだおっさん、あんたも食いたいのか」モグモグ

民兵「…食いたいなら一切れくらい良いぞ」

鍛冶屋「ああ、お言葉に甘えていただこうか」ヒョイ

疾「お、手掴み熱くねーの?」

鍛冶屋「なに、仕事柄この程度…!」

疾「? 何見てんだよ」


鍛冶屋(…腰に下げているものは…刀か、支給されたものではないな…)

鍛冶屋「いや、さすが焼きたては美味いな」

民兵「だろ」

鍛冶屋「酒もあればこう、感無量死んでも食いなしってとこだがね」

民兵「ははは!用意すりゃ持ってこれるが、こんな時だ、呑みはいけねえ」

鍛冶屋「そうか、そうだな」


疾「もちっと塩気が欲しいな」モグモグ

民兵「まだ言うか」

鍛冶屋(…クレナイの息子が打った刀か?…くそ、面白くない)
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/01(金) 21:26:33.01 ID:j3QpQYbYo
ほむほむ!
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/01(金) 22:10:05.96 ID:O77cZ3B2o
ほむほむって、おい
おいw
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/03(日) 21:41:42.11 ID:yrMKhIv80
疾(荷物の運搬でも手伝おうかなー…あ、でも連絡係から降りたから今は刀の扱いをちゃんとしないと…)


鍛冶屋「……」コソッ

鍛冶屋(呑気に歩いている…あいつは確か救護だったな?なのに帯刀とは…持ち場の変更があったということか)

鍛冶屋(聞くところによれば、誰かがカギルに非戦闘員の携帯武器を変えてくれと直々に頼んだとか…)


鍛冶屋(その直々の申し込み、確かこいつだったような…)



疾(また人気のない場所でヒバナの練習でもしてるかー)タッタッタ


鍛冶屋(! 動いた…さて、どこへ行く気やら)

鍛冶屋(携帯武器の件も含め、こいつには少し問い詰めておく必要があるな)


鍛冶屋(俺のナタはそりゃあ質は低かっただろうが…お前のような素人にとやかく言われるほどではないはずなんだ)
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/04(月) 10:06:51.21 ID:WhA1Kp+9o
切っても切れない鉈とか誰も得しないから
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/04(月) 16:27:37.64 ID:Yt/f1FZIO
切っても切っても
切れないもの
なあ〜んだ

こたえ 鍛冶屋の鉈
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/07/04(月) 19:19:30.08 ID:9PAGBwFDo
実際に命の掛かった戦場で使うのはその素人達なのに……
武器がどういう使われ方をするか全くわかってないダメ鍛冶屋の見本みたいなやつだな
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/04(月) 21:34:40.17 ID:nvjYPoOM0
疾「…はっ!」ジャキンッ

ッボォゥ


鍛冶屋(!?)


疾「よし…最初の抜刀から炎は纏えるみたいだな、これを上手く操って…」ブンブンッ、ボウッ

鍛冶屋(な、なんだ!?こんな人気のない所に来て刀の練習でもするのかと思っていたら…!?)

疾「はっ!ほっ!」シャッ

鍛冶屋(なんだあの刀は!?抜いた瞬間から炎…まさか魔道具!魔剣!?こんな町にそんな高価なものが…)

疾「とりゃあっ!…ってうわあち、あちち」ボウッ

鍛冶屋(まさかあれをクレナイの息子が…!ふざけるな、確かめてやる!)


タタタッ


鍛冶屋「おい、飛脚」

疾「っ!?あ、ああさっきのおっさんか…」

鍛冶屋「火柱が上がっているから何事かと来てみれば、なんだそれは」

疾「あ…あ〜これ?これは〜…刀だけど」

鍛冶屋「刀が火を吹くなら鍛冶屋も大助かりなんだがね」

疾「うっ…あんた鍛冶屋か…」

鍛冶屋「俺に見られたのが運のつきってやつだ、そいつの事を話してもらおう」
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/04(月) 21:45:19.41 ID:Kl2MPN30o
こいつなら平気で盗みはたらきそうだな
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/05(火) 21:45:34.55 ID:Gxzu97zy0




鍛冶屋「―――これがそのヒバシ石を混ぜた刀、ってわけか…」チャキッ

疾「やらねーからな!売らないし」

鍛冶屋「心配しなくとも、こういうものは自分で作ってなんぼと思っているんでね」


鍛冶屋(艶が無いのはヒバシの影響か…?それともベースにした金属か…まさか俺の知らない金属というわけでもあるまい)


鍛冶屋「これは丈夫か?」

疾「んー、だと思うけど」

鍛冶屋「少し擦ってみるが、いいな?」

疾「えー…」

鍛冶屋「俺は専門家だぞ、悪いようにはしない」

疾「…まあ壊したり傷つけなきゃいいけどさ」

鍛冶屋「すまんな、興味が尽きないもんでね」ヒュッ


ガリリリッ! ボォオオッ


鍛冶屋(熱っ…!しかも、地面のタイルに全く負けなかっただと…!?)

疾「おいおい!?今の“少し”の振りか!?」

鍛冶屋「……ふん、少しさ、ここを見てみろ」ヒュッ


疾「……あれ、今のでも傷ついてねーのか」

鍛冶屋「刃で地面を斬ってみたが、抉れたのは焼きタイル…刃は欠けも潰れさえもしていない」

疾「おお〜…」

鍛冶屋「うむ、荒っぽく使って悪かったな、満足したから返そう」スッ

疾「お、もういいのか」

鍛冶屋「ああ、どんなものだかわかればそれでいいのさ」

疾「?」

鍛冶屋「じゃ、練習頑張れよ」

疾「おお!そっちもな!」



鍛冶屋(……さて、火を熾す刀剣か…これを造れば、俺の地位も復活するだろうな…くくく)
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/07/05(火) 22:04:29.82 ID:ELEeNafeo
おお、その辺はちゃんと職人なんだなぁ
まあでも、うん…がんばってね。あなたの倉庫にもいい金属があるといいよね…
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/06(水) 00:00:07.03 ID:AMcHUF0IO
簡単にとっておき手渡しちゃうハヤテちゃんマジ疾
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/07/06(水) 00:28:03.70 ID:kXdRbpWeo
鍛冶屋はアイデアと腕と材料さえあれば・・・
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/06(水) 00:35:51.81 ID:7W4P2Wlpo
はやてぇ…
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/06(水) 20:18:12.87 ID:cV3/TAcD0
キィィィ・・・バタン


鍛冶屋「……さて、今日はまだ一般兵の自由行動ができる日だったな」

鍛冶屋「つまり、今日は自分の工房で好きに出来る……というわけだ」


鍛冶屋「くくく…まだまだ半人前なクレナイの息子よ、悪いがお前のアイデアを少し拝借させてもらう」

鍛冶屋「うちの蔵には常に量産体制を整えられるように様々な材料がたっぷり詰み込んである、もちろんヒバシ石だって例外じゃない…ま、こんな形で使うことになるとは思わなかったがね」


鍛冶屋(とくれば早速ヒバシ石を熔かして刀を作ってみるか…確かあれは鉄などの白には熔けない魔石の一種…つまり魔金に溶かさねばならない)

鍛冶屋(…いや、その前にヒバシの純度を上げる必要があるか…?少し骨が折れそうだな、まあいい)


鍛冶屋(蔵からありったけの魔金を取り出して、お前の刀を越える武器を作ってやる…名実ともに、ってやつだ)

鍛冶屋(時間はあるし材料もある…くくく、楽しくなってきた!)
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/07/06(水) 21:30:17.43 ID:d6JqQ6Dwo
でもさすがにああまで言われた食土の在庫はないよな……
とはいえ、それより劣る魔金であっても量産が利くなら確かにこの鍛冶屋は真っ当に評価されるべき
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/07(木) 00:28:22.80 ID:ML4qConIO
鍛冶屋の結果が楽しみだ
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/07(木) 00:40:15.67 ID:atGhb0mFo
皆に誉められていい子になる鍛治屋
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/07(木) 00:58:31.74 ID:uVcCU9ZPo
鍛冶屋の歳は焔の父親くらい何だろ?子供っぽいな
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/07(木) 20:10:22.49 ID:MFV9/laH0
焔「着替えてきた!」

「お、職人おわったか」

焔「ああ、職人はやめだ、こっちで働いてやるぞ」

「カギルさんからは炎なんちゃらって言われて休みを指示されるだけだがな」

焔「安心しろ、すぐに寝るからな、もう今すぐぶっ倒れそうだ」

「…おう、おやすみな」

焔「はっはっは、あー眠い眠い」トボトボ

(ハイになってんなー…)



パサッ

焔「あーやっと眠れる…石のベッドでも2秒で寝れる……」フラフラ

ボスッ


焔「あ〜頑張りすぎた…いやどうなんだろ…役に立ってなきゃ頑張ってもな…」

焔(ナガトとカギルさんにあげて…ハヤテが上手く使ってくれりゃいいんだけどな…)

焔(ていうかいきなり実践投入する武器って…うーん…まぁ頑丈だし大丈夫だろ……)


焔「……ぐかー」
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/08(金) 22:31:40.58 ID:T8z5JP+/0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



疾「なぁホムラ、聞いてくれよ」

焔「ん?なんだよいきなり」

疾「いや、これだけはお前には言わなきゃいけねえのかなって」

焔「普段とは驚くくらい水臭いな、何があったんだ」

疾「…実は」

焔「おう」


疾「……俺、女なんだ!」バァーン

焔「ええー!?」

疾「今まで騙してて悪かったー!」

焔「お前男湯入ってただろー!?」

疾「ホムラと入りたかったからー!」バァーン

焔「ええー!?」

疾「ホムラ、好きだー!結婚してくれー!」

焔「ええー!?お前既婚者だろー!?」

疾「いまのとは別れるからー!」

焔「ええー!?」

疾「うおおおおお!ホムラァアァアア!」ガバッ

焔「うわぁあぁぁああ!」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/08(金) 22:37:32.25 ID:T8z5JP+/0
むくり


焔「……」

民兵「おう、どうしたホムラ、すごいうなされてたぞ」

焔「…ああ…ちょっと……色々とあってな」

民兵「? 顔色悪いな、どこか調子悪いんならマモリさんのとこにいってこいよ、癒されるぞ」

焔「そうだな…ちょっとの頭の調子を診てもらうか…」フラフラ

民兵「なんだそりゃ」


パサッ



焔「…あれ?俺何の夢見てたんだっけ…なんか、ものすごい夢を見てたような気が…」

焔「んーまぁ、思い出せないなら大したもんじゃないか」


焔「……」

焔(そういえば槍の“ハナビ”はまだ完成してないんだったな…適した棒が見つからなかったんだっけな)

焔(金具の方はなんとかなりそうだが、棒なぁ…ジャベリンみたいにある程度短けりゃいいんだが、そうもいかないし…)


焔「…木材の工房に行って良いものを探してくるか。そのくらいの外出ならツガエさんに報告すれば許してくれるだろーな」
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/09(土) 03:40:37.30 ID:XR6Pi6Wbo
正夢でも構わんのよ?
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/09(土) 15:11:26.98 ID:DpaMnn6I0
なんて夢みてんだよww
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/09(土) 18:15:03.36 ID:Vhap327mo
ホムラ×ハヤテですね
わかりますん!
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/10(日) 23:49:06.51 ID:We1mGwUfo
僕もわかりますん
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/11(月) 21:26:42.93 ID:to0tyvRh0

相変わらず木くずの香ばしい臭いが立ち込める、木工の工場の前。

普段は割と清潔にされている工場だが、今日は大忙しのようだ。建物の前にも大量の太い丸太が並べられ、男達はそれらを運ぶなりして作業にあたっている。


焔「こんにちはー、ちょっといいですかね」

木工「はいはい……おお、ホムラさんじゃないか、どうもーお疲れ様で」

焔「いやーどうもどうも、お忙しいみたいですんません」

木工「なんでも錐砲っていう巨大な木の…カタパルトっていうのかな。そういうのを作っているらしくて、大忙しなわけですよ」

焔「錐砲?」

木工「詳しくは俺もわからないけど、重りを…えっと、落として…?まぁとにかく、重さとテコだかを利用した投擲機らしくて」

焔「…あー?ここに来るまでにもそれっぽいの見たかもしれない…」


そういえば木製の塔のようなものがいくつも立ち並んでいたが、あれがそうだろうか。

またカギルさんか、それともハープさんのどちらかが考えたんだろう。



木工「今日は錐砲のことで?じゃないか」

焔「あ、はい。私用といえば私用でなんですけど、親方さんいます?」

木工「親方…ああはいはい、ちょっと待ってて…」

焔「すいませんねわざわざ」

木工「なに、ホムラさんが来たとなれば親方は飛んでくるから、ははは」


木工「おやかたー、ホムラさんがお見えですよー」

焔「……」


タッタッタッタッタッ


親方「うおおお!ホムラ!よく来たな!さあさあ中に入れ!いや粉っぽいからな、裏が良いか!?さあ来てくれ、用件を聞こう!」グイグイ

焔「えーちょ、親方そんな急ぎじゃないっすよちょっと」ズルズル

木工「はっはっは」
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/12(火) 21:18:48.50 ID:qJGvsRRR0
親方「……ん?木材を探してるって?」

焔「槍の柄に使うものなんですけど、良いのありますかね」



客間で小さなテーブルを挟んで、親方と商売談義。親方は大柄なので、真正面から見るととても威圧感がある。

まぁ、それも見た目だけで内は優しい良い人なんだけども。


親方「槍について詳しくはねえが、俺の知ってる限りで言や普通はゴシキだろうな、もしくはカッチュウ…」

焔「ゴシキ…カッチュウ…うーん、そういう軽い木じゃないと思うんだけどなぁ…あれは…」

親方「といってもホムラよー、槍材といやゴシキ!カッチュウ!こりゃ俺の世界でも常ってもんだぜ」


ゴシキ。薄い紅色の花を咲かせる木だ。軽く加工もしやすいので槍の材料としては好まれる。それはカッチュウも同じようなものだ。

しかし今回は、そういった普通な材料ではいけない気がする。


何せ燃える槍を作ろうというのだ。当然、普通の木ではいけない。



親方「……これはどうだ、高いもんだが出せないもんでもない」ゴトッ

焔「…これは…端由(ハユ)ですか」

親方「重いがその分だけ頑丈な材料だぞ、重いから槍向きじゃあないけどな」

焔「端由か…」


目の前に置かれた木片を触ってみる。

黒っぽい色合いの艶やかな表面は、確かに槍用とは違う雰囲気がある。家具などに使うべきものだろう。



親方「そいつが気に入ったならこっちのヤスラギ、エンボウなんかもおススメだ」ゴト、ゴトッ

焔「…うーん…」


重くて頑丈な木材達だが、耐火性の程は期待できなさそうだ。


焔「うーん………炎や熱に強い木材って…ないですよね」

親方「あるぜ」

焔「えっ」
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/07/12(火) 21:42:43.48 ID:Yz/3C0AKo
最初から用途を話せばいいのに焔たん
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/12(火) 22:36:26.22 ID:yTR0CFzHo
「えっ」に萌えた
ほむらたんちゅっちゅ
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/15(金) 22:26:58.78 ID:eEiY1ji/0
ガラン


親方「こいつだ、細いものしかないのは勘弁してくれよ」

焔「…」


まるで槍の柄のために作られたかのような、棒状の長い木材。

淡い褐色のそれはアカガネの原石たる路傍の赤石をイメージさせるが、きめ細かな縦の繊維模様が植物であると物語っている。



親方「この国の最も巨大な火山に生息する爆麗の魔獣の管だ」

焔「! マンダラの道管か!」


マンダラといえば、溶岩地帯に根を張る巨大な植物の魔族だ。

大きな大輪の花の中心から幹の管を通して溶岩の塊を勢いよく射出して身を守る、世界広し魔族多しといえどもなんとも珍奇な生態をもつ植物。


親方「溶岩の温度までならそいつはもつはずだぜ?ホムラさん」

焔「なんていうか、最高の品です、しかしこれ相当高価なものじゃないですか?」

親方「んー?仕入れも難しいからな?何よりここまで真っ直ぐなものとなれば値も張る」

焔「でしょうね、危険な魔族だと聞きます」

親方「といっても、そこまで需要もないんだな、こいつには。あるとしたら都市の施設か…まぁタダみたいなもんさ、これで良いなら使ってやってくれ」

焔「…ありがとうございます、多分俺が求めている中では最も相応しい材料です」


棒を手に取る。

中には細い空洞があったが気にならないほど丈夫そうで、軽くもちやすい。


親方「にしてもホムラさんよぉ、一体そんなもの、何に使うんでえ?」

焔「んー、良いものですかね」

親方「ほほぉ」
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/15(金) 22:49:59.58 ID:eEiY1ji/0
確かに槍を作ると言っておきながら耐火性とは、よくわからない話だとは思う。

町の人々も、炎が出る槍なんてすぐに信じてくれるだろうか。そりゃまぁ目の前で見てくれれば信じるほかないものだけど、実戦に登用する前に民兵達に刀剣を見せるべきなのかもしれない。


なんて思いもしたけど、今は俺の槍、“ハナビ”を完成させることが急務だ。

細かい事は後で考えよう。一等の素材が手に入った今、もう何をする間も惜しい。今すぐ鉄を打ちたい。



焔「…はー」


粉っぽい匂いの工房を出て深呼吸する。青空。快晴だ。

いつもなら何も考えずに見上げていた綺麗な空なのに、全く環境の変化というのは恐ろしい。空がひどく呑気に見えて恨めしいもんだ。


焔(……バンバン砲撃してくるやつら相手に刀剣打ってる俺の方が呑気かもな、ははは)


さて、俺の呑気はどんなふうに転がってゆくのやら。

町の存亡をかけた戦いの場を試し切りの土壇場にしようとは、我ながら良い鍛冶屋魂をもっているぜ。
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/15(金) 23:32:52.83 ID:I/YLF8Kao
ktkr!
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/16(土) 21:58:40.03 ID:pB7xeaje0
鍛冶屋「……なぜだ」


おびただしい量の汗が滝のように流れ落ちる。

老いてなお辛うじて使える肉体強化を全力をもって駆使してもなお感じる熱風にはまだ耐えられた。

火傷も辞さない石で道具を操った。


細かく丹念に砕きに砕いて選別した純粋なヒバシ石から、ヒバシであろうその発熱成分を取り出して、そこまでは良かった。


鍛冶屋「…くそっ!どうしても魔金が溶ける…!たった十数回の斬りでッ!」


煤で汚れた金属の机を強く叩く。

机上には多くの金属に関する資料が積まれており、そこからも彼の努力は見て取れた。

それでも届かない場所があった。


鍛冶屋「…蔵にある魔金はすべて使った…少量の魔石を混ぜて変質させもした…それでもくそっ…これでもまだ駄目だってのか!?」



ヒバシの塊を床に投げ捨てると、それは赤い火花を散らしながら砕けて散っていった。


鍛冶屋「一体…クレナイのガキはどうやって…何をつかってあそこまでの耐久性を出したというんだ…」
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/07/16(土) 22:02:43.59 ID:gb9BYgaXo
性根が腐ってるだけで腕は悪くないんだな……
というかあっさり食土を持ち出したホムラたんがチートに見える
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/16(土) 22:16:59.01 ID:3u3QgcJzo
鍛冶屋が悪いことしませんように。
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/07/16(土) 22:34:38.07 ID:VmoxuxZAO
※数百年後には一部の用語や詠唱の文法が変わる場合がある事に注意。よってそれらに表記ミスがあるということはない。
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/19(火) 21:36:26.71 ID:2o0Egqtp0
魔法金属が詳しくまとめられている本を開いてみたが、そこには各々の魔金の“さわり”部分の知識しか記されておらず、耐熱という点を見るには少々不足したものだった。

結局、鍛冶屋の彼は数限りない量の本の山から、魔金それぞれの本を漁ることにした。


鍛冶屋(諦めてなるものか)


本の量は膨大とはいえ、見るべき個所は限られている。

注目すべきは魔石に溶けるものであることと、融点だ。それも物質と混ざった際の融点が記されているものが好ましい。

情報をピンポイントに絞って、本をまさぐってゆく。


鍛冶屋(ちがう…ちがう、こんな安物では無理だ…これも無理だ、不可能だ)


調べれば調べるほど、自らの目指しているものが実現に程遠いものであると実感させられる。

有名どころや普遍的な魔金のほとんどはヒバシと融和させるのもおこがましい融点であるし、逆に希少な魔金はいくらでも耐えられそうではあるが、それだけに値段が冗談にもなっていない。


頭打ち。だが同時に、彼の頭にはひとつの確信に近い疑念が生まれた。



鍛冶屋(……とんでもない魔金を使ってやがるな?あのガキめ)


目を通した書物のいくつかの魔金が有用であると判明した。

そのどれもこれもが、国宝、至宝として扱われておかしくない物質だ。それらをヒバシと混ぜたとしか考えられないのだ。


鍛冶屋(特殊な魔石を混ぜればある程度アレンジを加えることもできるだろうが、奴にそこまでの技術があるとは思えん…)

鍛冶屋(やつめ、何を使った!?)
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/21(木) 19:43:26.89 ID:SvvG10VU0
焔(…ついにヒバナも完成か)


植物の道管とは思えないほど強靭な木材だったがなんとか形も整え切り詰め、槍の柄にすることができた。

色は地味だが頑丈だししなやかさも併せ持っている、素晴らしい素材だと言える。


焔(でもこれって本当に燃えないんだろうな……)


親方は大丈夫だとはいってくれたが、さてどうなのだろうか。

魔族や魔獣の一部と言えど、時間が経てば特性が薄れる品というものだって存在する。保管していた期間が長ければこれだって使いものにならない可能性は高いだろう。


焔「…試しに動かしてみるか」


棒を握って構える。軽めだ。

食土が割と軽いってのもあるが、この柄も十分軽い。肉体強化がなくても存分に振り回せる重量だろう。



焔「せいっ」ブンッ


とりあえず振り回して折れるということはないみたいで良かった。


焔「はっ」シュッ


うーむ、突きも良い感じだ。幅の広い槍先に仕上げたのが不安だったが、バランス良く仕上げられてはいたようだ。

取扱いに不具合はない。


焔「…で、一番大切な火力は…っと」


火加減と棒の耐火性を見なければどうしようもない。この二つがクリアできなければ普通の槍になってしまう。

まぁこのまま普通の槍として使っても申し分ないシロモノではあると思うけど。

どうせなら熱くなってもらいたいところだ。



焔「…お…りゃぁッ!」ブンッ

カッ


かすめるようにして床を擦る。
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/07/21(木) 23:18:30.29 ID:57fuktJAO
ヒバナじゃなくてハナビでした
名前似すぎ
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/22(金) 01:37:33.84 ID:+IehSirIO
もともと槍使いって名前だったんだし、発揮する場がないだけで割と戦闘もガリガリいける子なんかな?
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/22(金) 17:50:08.31 ID:MgcRtH3IO
四円してる
伝説の武器がこれでそろったな
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/07/22(金) 20:16:47.49 ID:bEU79Gxho
正直これだけの素材使ったら本当に伝説に残るぐらいの価値と性能はありそう
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/22(金) 23:59:39.99 ID:GNL5z3Pk0
土砂崩れのように山の斜面を滑り降りる。

顔を掠め得る枝葉を全てメイスで叩き降り、勢いを殺さずに。

決して緩やかではない赤混じりの土の斜面を下り、標的を視界に射とめた。



ハープ「まぬけな偵察だ、“ステイボウ”」ヒュ

シドノフ「!」


滑り落ちる少女は、真横で過ぎ去ろうとしていた魔族の頭部めがけて術を放った。

流れる景色の中で敵を見つけ、メイスを正確に構え、狂いなく術を放つその精度たるや、熟練のものであると認めざるを得ない。


決して高等ではない鉄の術一発で、強力な魔族のうちの一体は断末魔をあげることなく土の上に倒れ、ごろごろと斜面を転げていった。



ハープ「目立つんだよ、白は」

『――砂色とどちらが目立つかな――』

ハープ「4,6分で私の方が優秀だね」



ここはバンホーから離れた、海岸に近い山中。

ふたつの山の合間に出来た谷の道よりも少し上に位置する道なき道。魔獣の通り道とも言うべき鬱蒼と木々が生い茂る場所だった。


昼の太陽は輝けど、高い木々の春の枝に阻まれて光は多くは届かない。

魔族の白い体は暗い森では目立っていたのだった。



『――まだ攻めに転じる気はなかっただろうが、斥候だろう。潰しておくに越したことはない――』

ハープ「それだけじゃない、さっきから強い魔力も感じている」

『――うむ、惨劇軍の駒如きに出せる魔力ではないな…近づいているがダマかもしれん、用心だ――』

ハープ「自分から直々に来てくれればありがた…、…!」


微かに頬に当たる風が魔力を運んできた。

魔力は風に流れる事はない。それでも少女は異変を感じ取った。



シュッ

ハープ「ッ!」


咄嗟に踏みこんだ右足を軸に、左足で土を蹴り、右へと飛んだ。

簡単な半身を移動させるだけの、重心移動にも近いフットワークだった。


ハープ(良い狙いだ)


それでも飛んできた鋭利な何かを回避するには十分な動きであった。

鋭利な何かは後方の木の幹の中心に深く突き刺さっている。それが何かなど目を向ける隙は見せられない。


敵がいるのだから。
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/23(土) 00:34:11.76 ID:+WlDssULo
wktk
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/23(土) 02:17:56.68 ID:QxtiBSevo
ktkr
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/23(土) 21:51:28.74 ID:2Avo34/+0
『“ジック・マガンブリューメ”!』

ハープ(まずい!)


木々の合間から伸びてくる魔法陣の閃光を前に、メイスを構える。


ハープ「“スティヘイムの盾”!」


あまりに特徴的な詠唱の使用は避けたかったが緊急の事態である。止むを得なかった。

少女の前には高さゆうに3mはあろう鉄の盾が現れ、その後すぐに銅鑼のような衝撃音が響いた。


衝撃と同時に盾は微動だにしなかったが、全面鉄製の盾の中央は裏側まで真っ赤に熱せられている。熱線をもろに受けた跡である。人であれば大惨事になっていたに違いない。


ハープ「“アーキュ”」


敵の奇襲を防いでも油断はしない。第二波に備えるか、反撃に移らなくてはならない。

少女は再びメイスを、今度は自分を守る盾の裏面に構えて詠唱した。


――バシャッ


それは水を生みだす初等魔術。

杖の先からは一瞬にして多量の水が爆ぜるように湧き出て、それは熱せられた盾の裏面に当たると文字通り水蒸気となって爆ぜた。

水煙が少女を、そして盾を覆うようにして辺りに立ちこめる。




『…目くらましか、逃がさんぞ』

ハープ「逃げなどしないさ」

『!』


水の煙幕に気を取られていたその者は、横から突撃してくる少女への対応が遅れてしまった。

相手は逃げると思っていたから。



ハープ「“Chrasscatedcleyduwhelle”――」

攻めに転ずる余裕ができた。詠唱にノイズを混ぜて、露わになった敵に手を向ける。メイスは使わない。

相手は岩でできた簡素なゴーレムだった。

何者かが操っているのだろう、頭部には紋章のようなものが描かれていたが、それを読み解く暇はないし興味だってない。



ハープ「“DierailemmentToruck”!」

644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/23(土) 23:26:03.40 ID:5Z9J51gfo
ハープちゃんかっこいい!!
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/07/24(日) 11:11:56.45 ID:CnZlFKlYo
ハープちゃん厨二かっこいい
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/24(日) 15:19:46.41 ID:KbGpqcDj0
掌の先に小さな魔法陣が浮かんだ。

魔法陣の光は輝きを増し、先程の熱線のような帯となって放射状に伸びる。


そして一瞬で収束した光の帯の中から、黒光りする無骨な金属の塊が現れ出でた。


『トロッコだと!?』


目の前に展開された魔法陣から飛び出した金属の正体は、その特徴的な頭部からすぐに明らかとなった。

硬質な金属を産出する鉱山内部にのみ生息する巨大な金属の龍。

山を掘り進み鉱物を食らう、悪名高き魔獣、通称トロッコ。


ハープ「一瞬だが十分だろう?」

『…!』


目にも止まらぬ早さで飛びかかる龍。

螺旋状に身体を捻りながら、岩石のゴーレムへと一直線に突進してくる。人ならば粉々、岩ならば粉々、鉄ならば粉々にできる程の破壊力を、この魔獣はもっている。


――ガッ


龍の巨大な口がゴーレムの腹部を捉えた。ゴーレムは咄嗟に身を捩ったが不十分である。


『なるほど、予想以上の使い手だな、惨劇狩りッ…!』


現れた龍はほんの数メートルだけ進んで消滅した。元いた場所へと送還されたのである。

召喚時間の短い強制召喚だが、それでもゴーレムの腹部の半分以上は無残に削れ、大きな丸い穴ができていた。

激しく動けば中心からぽっきりと折れてしまいそうな、もはやそこまでの胴しか残されてはいない。
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/24(日) 15:22:01.08 ID:KbGpqcDj0
メイスを使うまでもなく、一度でも転ばせることができれば少女の勝ちは見えていた。

ゴーレムは地に膝と手をついている。敵にもそう戦う気力等は残っていない。



ハープ「昔に色々あってね、まぁトロッコはなかなか重宝しているのさ」


表情はらくだ色のフードで隠されていたが、笑っている。


ゴーレムを動かす者にとってはその笑みが不快だった。

一度ならず二度までも打ち負けたのだから。


ハープ「しかしまさか、上位種がゴーレムを操りしかもそれを意志で動かすほどの技術を持っていたとは、驚きだな」

『“ジック・マガンブリューメ”!』

ハープ「くどい!」


岩石の頭部の紋章の眼と思わしき部分が閃光を放つ前に、少女のメイスは風を切っていた。


――ゴ

鈍い音と共に、十分な強化のもと振るわれた鋼鉄のメイスはゴーレムの頭を粉砕した。


『――終わらんぞ、人間』ガララッ

ハープ「ふん」


後に残ったのはゴーレムの抜けがら。動かぬ岩石の塊だけ。

術者はもうここに宿ってはいない。


ハープ(もう既に敵は前線を探り始めている…町の防衛は間に合うだろうか)

『――気になるなら敵の前線を消してやってはどうだ?敵の大将でもよかろう――』

ハープ(…あくまで私も探るだけだ、それ以上のことはしたくない)

『――ふっ――』
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/25(月) 15:31:07.23 ID:QxAEd6FAO
ロードロ……トロッコだっ!!
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/25(月) 19:42:34.49 ID:7WXuMn5q0
ハープ「しかし驚いたな、これはまさにゴーレムだ」カラン


岩石の破片の一部を拾い上げる。

表面に付着している石灰化したフジツボを見るに、海岸の適当な岩石を削って作られたゴーレムなのだろう。


先程熱線を放とうとした眼のような紋様が特徴的な破片だった。


『――ゴーレムを通じて借り物の術、“ジック・マガンブリューメ”を詠唱するとは、我としても予想外だ――』

ハープ「術を二重で中継して発動するとはな」


欠片を放り捨てると、無残にも粉々と散っていった。赤めの土の上で、白っぽい岩石はよく目立つ。



『――“クレイドル”は構わんが、“スティヘイムの盾”を見られた――』

ハープ「ますます、奴を生かしてはおけないな?」

『――瞬発的に発動できる防御術を敵に知られるのは不味い、一刻も早く消す必要があるだろう――』

ハープ「ああ……しかしまあ、それも町の民兵が攻める時に便乗してだがね」

650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/25(月) 22:02:00.87 ID:E0G5vTUDO
C安定の面白さ&wktk
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [age]:2011/07/26(火) 01:24:40.81 ID:JdwiaPWTo
いやほんと面白い。変に輩な読者増えると困るけどageさせてくれ。今一番期待してるSSだわ。
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/26(火) 01:46:26.18 ID:eQ1AfDfno
C
>>1のレスの時だけ上がれば十分だろ…
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/26(火) 20:40:42.41 ID:+ox+bIyS0
不安を誘う夕暮れ時。

数日は攻められないとの保証がついていたが、それもそろそろ切れる頃合いだ。

嘘のように平和だった平穏の数日が落陽と共に終わりを告げて、それ以上に嘘のような戦が始まろうとしている。


今日の夜か、それとも明日か。


限「今日だけは勘弁願いたいところですね」

熱い焙じ茶を一口。陽が暮れても忙しい彼は、地に触れそうな茜色の輝きを見守っていた。


珍しい事に彼は今テントにはおらず、外に出て休憩をとっている。用あるものは引っ切り無しに訪れるのでテントを留守にはできないが、その役目もツガエに預けてある。

本当ならもう一人は指揮する人物が欲しかったところだが、なかなか全般を万能に、しかも安心して任せられる者はいないのだった。



限(おっと…来たようだ)


しばらく茶を啜りながら空を眺めていると、約束の時間通りにそれはやってきた。

2頭の馬鳥を前に従えた簡素な荷馬車である。


荷馬車がカギルの近くで止まると、御者が降りて恭しく会釈をした。


御者「バンホーの代表、カギルさまで?」

限「協会の方ですか?」

御者「ええ、もちろんですとも…注文された銃の方をお持ちしました」

限「積荷の運搬はこちらで行いましょう…ああ、検品もこちらで」

御者「それがよろしいですな、最近の悪質なギルドは平気で数をちょろまかす」


男が辺りを忙しなく見回す。


限「町に戦の痕が見えませんか」

御者「! へえ、なんでも既に戦は始まっているのだとか」

限「ここは前線の反対側ですからね…といっても、町はまだ無傷です」

御者「おおー、そりゃあ良かった…うちのギルドも、前線の町には無償で傭兵を出してやれば良いのに、なんだかすまないね」

限「いえいえ」



654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/26(火) 20:49:08.89 ID:w8pfVtqIO
C
>>652に同意
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/26(火) 21:30:09.64 ID:tRFEFx1IO
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/07/26(火) 21:31:05.29 ID:tGzssBleo
ああ、色々なところで状況が動いてるからその全ての先が楽しみで仕方ない
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/07/28(木) 07:10:04.91 ID:SOb51iVAO
8、9、10のうち一つ、好きな数字を選んで。
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/28(木) 14:43:41.57 ID:E+dh68nho
9!
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/07/28(木) 15:05:20.06 ID:SOb51iVAO
じゃあ9月中までに完結させよう。
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/28(木) 17:41:37.21 ID:E+dh68nho
うおおお月のことかあああ!!!
10にしなくてよかったばい
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/28(木) 22:32:04.79 ID:kjlTprHF0
御者「ふむ…はい、確かにバンホーの調印いただきました」

限「お疲れ様です、ありがとうございます……確かに千丁、いただきました」

御者「火薬と弾もあるけど気をつけておくんなせ、これ見る限りじゃあきっと、銃の数に見合った弾や火薬はねえですから」

限「お気遣いありがとうございます、それらはこちらで用意するので問題はありません」

御者「用意するって…銃は規格通りの弾でないと」

限「問題はないのです」


限「ここはバンホー、職人の町です。この程度のものであれば、我が町の職人は一日も足らずに作ってしまうことでしょう」

御者「ほおお……」

限「では、お疲れさまでした。引き続き救援物資の方をお願いします」

御者「! へ、へえ」


間の抜けた返事を残して、馬鳥に引かれる荷馬車は町から去っていった。

何もない街道沿いに、馬車は向こう側へと霞んで見えなくなった。



限「次は銃の配布、か」


戦いに向けてやるべきことは、やりきれぬほどに沢山ある。

急いで最善を尽くし続けなければ。
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 00:39:34.37 ID:/WxoKoqIO
>>660
お前、そこは10にしなかったことを悔やむとこだろ…
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/29(金) 01:16:26.59 ID:CNgqzXH4o
>>662
同意

CC
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/29(金) 01:25:04.39 ID:VEKnmlG3o
>>662
最初ハープちゃんの見た目年齢かと思ったの…
そしていまさらよく考えたら確かに10のが長く楽しめた\(^o^)/
ごめんね…
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) :2011/07/29(金) 12:45:24.02 ID:xc/OJSdPo
いやまて今年とは限らないぞ…
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/07/29(金) 14:22:45.73 ID:nvoCBuCAO
『――今年中を約束しよう――』
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/29(金) 22:20:46.36 ID:oB1OP6nE0
各々が各々のするべき事をし終えた夕暮れ。

陽が沈み、向こう側からは藍色が近づいてくる。


赤い火は青い火に飲み込まれることなくこの地に安住できるのだろうか。

それとも青い火に呑まれ、成すすべなく死ぬか。


空を見上げた者たちの漠然とした不安はしとしとと募ってゆく。



「俺たちは町を守っても良い。だが家族だけでも、隣町に逃がしてやりてえよ」


テント内で「せめても」と働く妻の姿を見やる男は呟いた。


「町だって家族だろ?」


同じテントの中で働く女を眺める男が返した。


疾「あー、やっぱ駄目だな、長ズボンじゃ動きづらくて仕方ねーや、変えてもらお」


そんな二人の男らの後ろを横切るようにして、若者は歩いていった。

この町の雰囲気の中で気だるそうに長ズボンのポケットに手を突っ込み、ゆらゆらと揺れながら歩く様はどこか人の心を逆なでするものがあった。

しかし誰も彼に言葉などはかけない。

何せいつものことだったからだ。



疾「ん、そろそろカギルさんから具体的な配置の発表があるんだっけ…本部に戻ってようかな?」

鳶色の長いまつげに乗った小さな埃を払い、踵を90度捻って小走りで進む。

彼の小走りは、大人の全力疾走にも近いスピードがあった。


急いでる風に見える彼の走りを見た、彼と同じ理由で本部に行こうと歩を進めていた者たちは、「急がなくてはならないのか」と勘違いし始め、結局のところ大人数が走って本部へ向かっていったという。

ただし、常に先頭を走っていたハヤテに背後のちょっとした騒ぎは感知されなかった。
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 23:56:54.19 ID:otzUFb3IO
>>666
本編は年内、だろ?
外伝とかアフターとか…な?
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/30(土) 16:33:29.69 ID:NQU4fbLI0
この作品が終わっても
またここで何かか来てくれるよな……
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/07/30(土) 19:05:33.51 ID:xQDCIG9zo
この世界設定がバンホーの街だけで終わってしまうのはあまりに勿体無い
今はこの物語を楽しむ。だが終わっても更に人類と惨劇軍の戦いの歴史を見たい
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/07/30(土) 23:04:55.60 ID:+zVz+Tojo
作者さんの作品はどれもリンクしてるから面白いよね
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/30(土) 23:18:56.10 ID:HpiOyhpIO
>>671
他のを教えてくりゃれ?
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 01:28:16.16 ID:LL+4qJuIO
>>672
それは>>537の酉でだいたいの作品書いてるからググれks
ただし全てではない。後は探す努力
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/07/31(日) 08:54:29.53 ID:/QoAIO7No
いきなりカスとか言う人はシドノフに吹っ飛ばされればいいと思うの
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/31(日) 10:15:55.21 ID:gbhQ11YMo
>>674
ちょっwwwwwwwwおまいゆとりか?
教えてやった上でまずググるのがマナーだと言っているのに揚げ足取りすんなwwwwww
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/31(日) 13:57:20.33 ID:Vblrc9wRo
とりあえず肉まんでも食って落ち着け
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 16:12:11.74 ID:/Cmi0Odjo
>>676
この時期に肉まんだとッ
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/07/31(日) 22:04:37.39 ID:hZtabjRQo
伸びてると思ったら作者の書き込みが一つもなかったでござる、
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 22:11:28.15 ID:PQJxBpyIO
ググっても出ないorz
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/07/31(日) 22:49:29.05 ID:0Rimy2wxo
この話終わってからみたほうが良いよ
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/01(月) 07:38:54.64 ID:n+t4ylXIO
>>674
>>674
>>674
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/01(月) 21:20:31.83 ID:Ya97MfbN0
藍色が大半を占めた空の下、いつも以上に寒気のする風がテントの群れの中を通り抜けていった。

今夜は寒さ以上に身震いする者は少なくない。


集まるテントの中央で辺りをオレンジに染める大きな焚き火だけが、皆の心の安らぎでもあり、温かな場所でもあった。



限「ハープさんの話では、そろそろ敵が動き始めても可笑しくない頃合いです」


背中に赤い火の光を受けて、カギルは言った。広場に集まった民兵の誰もが、カギルの言葉を一言一句聞き逃がさまいと顔を向けている。

ある者は当人であるハープという名の少女を探すが、辺りには居ない。


限「惨劇軍はいずれも夜に攻めてきた…次もまた、と考えて損はないでしょう。そう、今夜にでもです」


わかりやすい緊張が走った。誰もが薄々と覚悟していた事を、カギルは容赦なく目の前に叩きつけてやったのだ。


限「恐ろしいですね、みなさん。私も恐ろしい」

番「……」

限「しかし皆さん、今ひとたび、町を見回してみてください、どうでしょうか、怖いでしょうか」



誰もが立ち上がって周囲を見た。

巨人のように立ちつくす錐砲。補強された町。

壁、土嚢、弩砲、火薬、銃。


あらゆる武器と弾薬、弓だってある。

ハープと名乗る謎の少女が提示した基本的な町の防衛策をもとに、町の職人らが考えたアイデアがあらゆる場所、あらゆる物に詰まっていた。



限「…私も頭に敵の姿を思い浮かべるのは、とても恐ろしい。しかし町を見渡せば不思議と、そんな恐れも消えてしまうように思えるのです」

疾「ああ!そうだぜ!白いノッペラボー如きに、俺らの町が壊されるもんかよ!」

長「その通りだ、奴らの手にかかって死ぬなど(他の奴は知らないが)、俺はあり得ない」

番「ふふ」



限「私たちは試行錯誤し技を鍛える職人」

限「敵はただ攻めるだけの動物、…みなさん」

限「…私達が負ける理由が、いったいどこにありましょうか」
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/02(火) 20:31:45.05 ID:OsVHfFAw0


――ウォオオオオオオオ


焔「……おー、なんか盛りあがってるな」


蛍で仄かに照らされた道すがらで鬨は聞こえた。

ちょっと作業に没頭しすぎていたか。もう少し早めに向こうへ到着していればよかったなと、今さらながらに後悔した。



焔「つっても言うだけ遅いか…せめて小走りでも、早めに行こう」


今夜はまた再び、平常通りテントに民兵を集める予定だったのだ。

いつ来るかもわからない敵の来襲に備えるため、前線には常に人を配置される。

ここからは臨戦態勢なのだ。


焔(……いや、しかし敵の大将を討ちとれば話は早いか?)



ハープさんが言っていた希少種の話を思い出す。

知能が高く、人を欺くほどの戦術を展開できる策士。魔族に命令を出し、まとめあげる…。

本当にその希少種が命令を下しているのであれば、そいつを叩けば敵は愚かにも正面突撃しかできない軍勢へと成り下がるのだろうか。


一番最初に会敵し、夜が明け朝まで縺れ込んだ死闘の記憶が呼び覚まされる。

正面から突撃をしてくる惨劇軍達。

コツさえ知ってしまえばどうにでも対処できる相手だ。



焔「うーむ…」


司令塔がいるならば、そいつを叩く事ができれば。

それさえできれば。



「……おまえ…」

焔「ん?」


良い所まで及びついた思考の雲を、道の脇より現れた声がかき消した。
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/03(水) 05:57:13.28 ID:x7AZKh69o
ktkr
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/03(水) 21:55:32.35 ID:dVWLGDmS0

鍛冶屋「…クレナイのガキ…」

焔「……」



こいつの顔をよく知っている。

町のためと一致団結する時であるとわかっていても、俺の顔はいらだちで引き攣った。


生きていれば俺の親父もこのくらいの歳だっただろう。

白髪の多い頭だけを見る限りではわからないが、奴の鍛冶への心は野心と金。金欲にまみれている。


俺の家系、紅の鍛冶屋とは何十年も、下手すれば百年以上前から商売で争っている“鎬”(シノギ)の家の鍛冶だ。

苗字は鎬ということは覚えてはいるが、名前は知らない。シノギ家の人。それだけで十分な認識の相手だと、昔から思っている。



焔「…あんただろ、町にナタを献上したのって」

鎬「……」

焔「どうなんだ、そうだろ?」

鎬「…おまえだろ」

焔「はあ?」


じいさんの表情は暗い。というよりも、何か心ここにあらずというような顔だ。

服は煤で汚れ、顔は脂汗で光っている。


鎬「…お前が作ったんだろ…一体どうやってだ」

焔「え?何を…」

鎬「お前は一体何を使ったんだッ…!?」


カラン、カラン


俺の目の前に乱雑に投げ捨てられたのは、一振りの剣。


焔「…!」


地面に捨てられたそれが地面にふれた瞬間、沢山の火花を散らした。

そして、折れた。
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/04(木) 21:11:45.89 ID:lPrstTae0
茶けた色の剣である。

よく見ればそれは刃らしい刃はなく、剣の形を模しているだけの棒だった。


それが地面に放られた瞬間に折れ、鉄がレンガを擦るにはあまりに大げさなスパークを振りまいたのだ。

醜い刀剣の華美な散り際を見て、俺は瞬時にそいつの正体を悟った。



普段の事であれば俺は久々にというか初めてというか、そのくらいの怒りに身を任せて“猿真似もいい加減にしろよ!シノギ!”とでも叫んでいたかもしれない。


当然だ。こいつが今俺の足下に投げた剣は、つい最近俺が考案したばかりの火炎剣そのものなのだ。

どこで見聞きして知ったのかはわからない。大方、ナガトやハヤテが素振りしている姿でも見たのかもしれない。


こんな時勢だ、アイデアを流用するのは構わない。町のためなら良いだろうと俺は思う。

だが俺は知っている。民兵の非戦闘員に携帯用の短刀を渡したのがこのシノギ家のじいさんであることを。

あんな手抜きで、ゴミのような品をくれる程度であるのに胸を張って“献上した”とのたまうのは、シノギ家のこのじいさんしかいないのだから。


そんな奴が“町のために”と、善意で俺の考え出した剣を盗作するか。

否。こいつは間違いなく“この町で名を広めるために”その一点だけで、俺の考えた剣を盗作するのだ。

俺は怒りに身を任せたかった。



だが、できない。


地面に転がった、見るも無残な折れた棒剣。

俺はその剣を見ては“鍛冶屋の風上にもおけない奴だ”とは罵れなかった。

俺は知っているのだ。ヒバシを混ぜた金属を、ここまで剣に近い形に仕上げるのは難しい事を。

何よりもそれ以前に、この形にたどり着くまでに想像を絶する熱に耐えねばならないということを。



鎬「…うちにある何を使っても失敗だ、思わず昔を思い出したもんだがな」


それはこのじいさんの、額の汗と、腕に残るいくつもの小さな火傷痕達も物語っている。

本気で、この剣と…ヒバシ石と戦った痕なのだ。


鎬「それなりに値の張る魔金も使ってはみたがそれすら容易に熔かされたとも……三月分の売り上げはトんだかね」

焔「……」

鎬「俺は鍛冶だが商売人でもある…奇稲で櫛を作るのは損ってのは明白だと解るとも」


シノギのじいさんのただでさえ鋭い細目が、俺を強く睨む。

だがその目の震えは同時に、俺に対して恐怖を感じているような弱々しさも湛えていた。



鎬「一体何を使えば、あの剣のように仕上がるというんだ…!」


一人の鍛冶屋の顔が、かつて俺が何度も味わったであろう挫折の壁を前にして強張っている。

おそらく長らく味わっていなかったであろう苦悩、苦節。難題に屈し欠けている、そんな顔だった。


そこには普段のシノギのずる賢さなど微塵もない。
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/08/04(木) 21:28:52.78 ID:p+UTOndWo
昨日から読み始めたが、面白かったから一気に読んじまったよ
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/05(金) 20:33:38.42 ID:7N/O1iIP0
焔「…」


俺は黙って足元の錆びれた剣を拾い上げた。

ヒバシの錬られた、おそらくアカガネと少量の与銀の混合であろう茶けた刀身。


耐久性はどうあれ扱いやすいアカガネと、魔金に強度と鈍い暗みを与える与銀との相性は良い。

しかしヒバシを混ぜるということが何よりのネックなのだ。常温の刀剣であればそれでも問題はなかったが、ヒバシだけは話が変わる。


内部からの急激な温度上昇と火炎。それだけでも十分な劣化をもたらすが、何より温度の高さだ。

魔金の融点を上回る高温が発生し得る。それがヒバシ合金の特製だ。


この強くもあるが厄介すぎる特性をいかにして打破するのか。

当然、魔金の合金を使って…そう技術面で工夫することで解決する方法も、おそらくあるだろう。

だがそんな解決策は俺には浮かばないし、数多ある種類の魔金の中からベストな組み合わせと比率をはじき出すなど、考える事も憚られる。



焔「…シノギのじいさん、俺の作った物を見たんだな?」

鎬「ああ、一体あれは何でできているんだ…?あの鈍すぎる光沢…いや、光沢が全く無いと言っても良い…あれは何だ…」

焔「…知りたいか」

鎬「教えてくれ、俺の知らない魔金なのか?配合なのか!?」

焔「……」


まず謝らせようかとも思ったが、必死に乞うてくる相手にそんなことを促す気にはなれなかった。

だから俺は背中に斜めに担いだ長槍を静かに引き抜き、それを無言で差し出す。

まっすぐに伸びた簡素な柄、分厚く幅の広い槍先。


光沢の無い槍を見てシノギのじいさんの眼の色は変わった。


鎬「これだっ!…そうか、槍まで作ったというのか…あの刀の一振りは偶然の産物ではない、つまりお前は工法を知っているということだな…!」

焔「工法、ね…そんな大したもんじゃない」

鎬「なに?では素材か?何と何をかけ合わせた?」

焔「いいや、魔金は単一…そいつとヒバシだけで打った」

鎬「なんと…!配合せずに作ったというのか!?これを…!」

焔「作りたいのか?あんたも」

鎬「……」


シノギの表情がこわばる。


鎬「…勝手に模造品を作ってすまないと思っている…工法を知っても製造はしない、それは誓う…だから頼む、教えてくれ」

焔「……」


真摯な態度だ。だがそれだけに、告げる俺の口は重い。

どう間違っても模倣し製造なんかはできない。絶対に越えられない壁の存在を彼に告げなければならないのだ。
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/06(土) 00:41:16.58 ID:03aIctPJo
よし!今だ!そいつを持ち逃げすれば一生豊かに暮らせるぞ!
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/08/06(土) 11:52:18.41 ID:IZmvWYHAO
焔「…これさえあれば…もっと良い町で…もっと良い工場でやり直せる…」

限「……!?」
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/08(月) 00:54:11.77 ID:wkeKHg/y0
鎬「っ……ばかな」

焔「!」


苦しげな声と共にうずくまったものだから、発作か何かを引き起こしてしまったのかと思ってしまう。

片膝をつき、片手をつき、シノギのじいさんは文字通りに打ちひしがれてしまった。


鎬「ありえん、食土など…まさに伝説の鉱物だ」

焔「話すのなら歩いて話そう、町のみんなは既に集まっている」

鎬「……ああ」


ゆらゆらと起きあがり、既に先行く俺の後をつけて歩き始めた。

生臭い夕の空気だ。



鎬「…個人のものだ、なにも言わん」

焔「……」

鎬「使い方はお前が決めることだからな」



多くを語らないその言葉の真意を、俺はしっかりと解っているつもりだ。

俺のものの使い方は俺が決める。俺次第だ。


だがこれほどまでに巨大な、大いなる力のあるものを手にして、それすらも所有物であると言えるのか。そういうことだろう。


シノギのじいさんは、それでも俺のものだということで深くは言わなかったに違いない。

それに自身のやった事の手前、人を咎めることもできないだろう。それでも言葉は端に出た。



焔(……打った俺としては、間違っていなかったと信じたいんだけどな)
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/08(月) 01:20:31.72 ID:MsDzSheRo
意外に悪い奴ではないんだな
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/08(月) 07:20:32.92 ID:XHlgBrqIO
目から塩水が…(´;ω;`)ブワッ
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/08(月) 19:29:48.85 ID:wkeKHg/y0
焔(遅れたのは悪いと思ってるけど、こっそりとみんなの中に混じっちまおう)


姿勢低くしながら民兵の集まる輪の中へと入り込む。

熱気で沸いている皆の中に紛れるのはたやすいことだった。



限「おっと、ホムラさん、良い所に」

焔「! お、遅れてすいません!」


さすがカギルさんだ。隠れながら入って来た俺を見逃してくれない。


「なんだなんだ、遅刻かホムラー?」

「はっはっは!なんだ寝てたか!?だらしねえな!」

焔「すいませんした、いやほんとすいません」


年下も年上もいる男達へ頭を下げる。

どっちを向いても人なので色々な方向にお辞儀をする。男らを取り巻く女衆から見れば、随分と情けない男に映っているんだろうな。

情けないのはいつも通りの事実だから気にしないけどさ。



焔「カギルさん、それで良い所というのは?」

限「今から話しましょう、ハヤテさんやナガトさんにも話はしたので、あとはホムラさんだけですね」

焔「…?」

限「ではみなさん!これからの時間を受け持つ方々はそれぞれの配置へとついてください!」

番「打ち上げられる信号花火の色について覚えられないという方はこちらにメモの用意あります!何枚でもどうぞ、お受け取りください!」

「あいよー」

焔「わ、すげえ準備いい」


テントの内に来てみれば、そこはもう既に立派な前線基地だ。

戦への本格的な備えが始まったことを再確認できる、ピリピリとした緊張感で満ちている。



集合していた民兵達はそれぞれ持ち場へ向かうなりして、広場から姿を消してゆく。



疾「よー、ホムラ」

長「おう」


去りゆく群衆の中で、焚き火の光に顔を赤く照らされた二人が残った。

褐色のジャベリンに、褐色の刀。


限「ではこちらはこちらで話をしましょう」


そして褐色の剣。


焔(話か、なんだろな)


褐色の槍。
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/09(火) 03:01:27.71 ID:YREXCmyIO
しえん
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/09(火) 07:33:19.35 ID:+LzYqLLIO
揺るぎないなC
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/09(火) 22:03:40.73 ID:DKXWer760
限「私たちの町はこのたびの補強を経て、ちょっとした要塞と化しました」

長「ああ、立派な要塞だ」

疾「すっげー変わり様だよなぁ、どこもかしこも物見台、いや、矢倉ってのか?」

焔「…でも、要塞じゃ敵を殲滅することはできない」

限「その通りです」


焚き火に向き合い、裾の長い裁判長の衣を俺らに向ける。

作りは質素ながら、質素白と赤の鮮やかな染色の衣。材質は極々上質で、丈夫だと繊維工房のおっちゃんから聞いたことがある。


限「…私たちバンホーの民の最大の目的は、町を守る事です」

長「ああ、その通り。誰一人として死んで構わない奴等居ないんだ」

疾「もちろんだとも、家族は絶対に守らなくちゃいけねえ」

焔「受け継いだ技術だってそうだ、バンホーには技と…長年培ってきた知識、それがあらゆる道具に込められている」

限「その意味ではバンホーを要塞として敵の砲撃や侵入から町を守るのは当然の事です、ハープさんもこれは必須だとおっしゃっていますし、誰もがこれを疑うはずもありません」


再び裾が翻り、威厳ある裁定者の能面が俺ら三人を見た。


限「しかし、ただ守るだけでは消耗の果てに消え去ることは明らかです」

焔(…!)


決意ある顔。裁判官が尤もで明瞭な刑を言い渡す時のそれとは違った、深すぎる葛藤を潜りぬけた時の人間の顔である。


限「民兵の中から少数の…有能な方々を選出し、敵勢力を束ねる司令塔、惨劇軍の知将であるという敵………危難のダマを討伐します」

疾「ダマってなんだっけ」
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/10(水) 01:14:26.18 ID:+UOT+96Uo
ダマってほらアレだよ・・・
ホットケーキとか作る時の天敵、粉の塊
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/10(水) 01:44:03.31 ID:PvbpVynAo
いn…尤も
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/10(水) 02:23:04.80 ID:95Dhu24IO
いま一気に最初から読み切ったけどハヤテきゅん•••
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/08/10(水) 18:49:22.36 ID:UUZHlV4Vo
それはないだろハヤテ……もうヒロイン枠で街で帰りを待つ役になっちゃえ
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/10(水) 22:18:12.56 ID:cCAWSBzb0
限「……えー」

長「危難のダマ?すまないが俺も失念していたようだ、教えてくれないか」

焔「あ!カギルさんあれだ、朝の会議の時に出た事だから…」

限「! 失礼しました、みなさんには話し損ねていましたね」


俺の中では町のみんなが希少種のダマについて知っている認識だったが、そうだった、こいつの存在は伏せられていたんだった。


限「…民兵の方々には伏せていますが、危難のダマという種類の惨劇軍が一体、敵の軍勢にはいるらしいのです」

長「そいつが知将、と?」

焔「ああ、ハープさんが言ってたんだ」

疾「またハープさんハープさんか」

限「確かな情報に違いありません」

疾「か、カギルさんがそー言うなら」

焔(おお、カギルさんが断言した)


限「ホムラさんがくださったこの炎の武器達…もさることながら、私の眼にはみなさんがそれらを最もうまく扱える達人であると映っています」

長「…そういってもらるのは嬉しいんだがカギルさんよ?達人どころか素人と呼ぶにもおこがましい奴がいるとは思うんだが」

疾「なっ!?シロートはねえだろ?数時間は練習した!」

焔「数時間か……」

限「ハヤテさんは刀でしたね。実際に刀の取り回しが解らなくとも、あなたの身体能力はその穴を塞ぎ切るに値するものだと私は思っています」

疾「……」

限「炎が出る剣、それだけでもう普通の武器とは扱い方が異なるのです、変に癖が無い分、逆に向いているとも考えられます」

疾「…ホムラ!俺今褒められてる!?」

焔「…」


限「ナガトさんは言わずもがな、ホムラさんだって…その獲物、扱いは非常に上手いものであると私は確信していますよ」

焔「わかりますか」

限「私の舞いから技量をはかれる程です、疑いようもない域にはあるかと」

焔「ははは、参りました」
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/11(木) 19:18:07.76 ID:Mw4Nlr3Qo
オラわくわくしてきたぞ
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/12(金) 23:03:53.45 ID:i8WOuTB/0
長「しかしカギルさんよ、そういうことなら俺は大賛成だ。アグレッシブに敵へ攻め込むのは望むところだ。しかしカギルさん自身が行くのは危険だ」

限「そうですね」

長「俺ならまだいい、捨て石として扱われるのが本望だ…カギルさんはそうじゃないだろう」

焔「……」

疾「……」

長「お前らも何か言え、カギルさんはまずいだろう、他の奴らも黙っちゃいないぞ」


長「仮にカギルさんが征伐に出たきり死んでみろ、誰がこの町を束ねるというんだ、そこらの偉ぶった老人共には任せられないぞ」

限「ツガエさんがいます、もちろん彼女だけでは不足なので他に補佐する方が必要ですが」

長「あの人は!…だめだ、町の奴らが…」

限「何がですか」

長「……」

焔(ああ、ツガエさんか…)


長「…彼女が有能なのはある程度は解ってるつもりだ、適任ではあるだろうがそれでもあまりに役目が重い」


長「それに俺が言えたことではないが、あの人は若すぎる。人がついてこないだろう」

限「若いのはある程度は私も同じです…人がついてこない理由は他にあります」

長「それは」

限「町長の娘。…それだけの事だというのに、町の方々は彼女を責める」

長「……」

限「事実町長は一人逃げました、あまりに身勝手。彼が逃げたと発覚した時には、町は混乱に陥りました、酷いものです」


限「…しかしツガエさんは逃げなかった。一人残った。これから“町長の娘”と責められると知りながら…」

長「……」

限「健気。…そして、相応しくある」
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/15(月) 00:01:19.77 ID:L95VGlCu0
焔「もしもの時はツガエさんに一任するってことですか」

限「もしもの時は、です」

長「…彼女がやってくれるんだな」

限「信じています」



長「……では後の事は心配無しとしておくとして?果たして俺らだけでその司令塔を潰す事ができるのか」

限「勝算がなくてはライブラリは引けません、しかし演習は必要です」

疾「エンシュウ?」

焔「演習って…」

限「まだ皆さん、ホムラさんから受け取った武器については扱い方もよく掴めてはいないでしょう、まだ慣れる必要がありますし、様々な場面を想定しておかなくては」

長「…ホムラの打った武器をえらく信用しているな。俺も多少振り回してみて脅威はわかったが、それほどまでにかい?」

限「可能性がある限りは、希望を持てると言えます」

焔「……」

限「というのも、私もこの双剣を扱ってみて得た自信からです。皆さんが演習にて実感していただけないのであれば、無理にとはいいません」


限「しかし我々はいつか攻めに転じる必要がある。篭り守るだけでは勝てないのは事実なのです…そこをご理解ください」
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/15(月) 01:30:25.97 ID:Y0F/cZrEo
紫炎
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/15(月) 15:45:03.00 ID:4kvyYxeao
ジェミニの人じゃないか!
どっかでもう書かないって聞いたから書かないのかと思ってた
青の国とか未完で落ちた奴の話は書かないのかしら?
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/15(月) 15:54:33.20 ID:Ka0t5o7IO
>>707
未完のヤツもあるが、結構完結した短編もあるから、ググったり調べてみればいいと思うよ。
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/15(月) 16:18:53.36 ID:4kvyYxeao
>>708
わざわざありがとう!
色々増えてて今から読み漁るのが楽しみだ
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/15(月) 17:38:05.07 ID:L95VGlCu0
ちなみにコレ関連のマトモに完結したのは21本のみ
同じくらいの量の未完が転がってるからうーん もはやそれらを仕上げて書くのもめんどくさい
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/15(月) 18:51:33.64 ID:7g72fIe1o
>>710
作者みずから全てリンクまとめたりしたら素敵だなあwwwwww妄想ですがwwwwwwwwww

21本て事は幾つか見てないな
探してみる
紅髪も記者もメイドもみんな好きだ
ずっと応援してるぜC
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/15(月) 18:52:14.30 ID:7g72fIe1o
>>710
この話はしっかり頼むな乙
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/16(火) 00:37:50.51 ID:NPC7ZIxt0

――これから行われる会議で代表者の方々に話は通しておきます

――先に外れの旧採石場で待っていてください



焔(旧採石場か…俺がガキの頃からあるよなぁここ…)


灯りも少ない荒れた岩場で、俺とハヤテとナガトは待機を命じられた。

カギルさんは調整があるので後から来るそうだ。俺らはちょっとした書類を書いただけだったのだが、あれで大丈夫なのだろうか。

面倒な仕事は全てカギルさんが肩代わりしているような気がする。



疾「…戦う役目が欲しいとは思ってたが…」

焔「ん?」

疾「まさかこんな大役で回って来るとはなぁ」


木の額当てを掻く。大役といえば俺だってそうだ。最初はただの民兵だったが、期待の上に期待が乗っかって、いつのまにかここにまで担がれた。


全ては。



焔「ハープさんだよなぁ」

疾「あん?」

焔「ハープさんが何者かって話。あの人に全て動かされて、ここまで上手くいってる…当然カギルさんやみんなの頑張りもある」

長「……」

焔「けど、あの人がいなかったら俺は初日で死んでたよ、間違いなく」

疾「おっと!その前に俺がいなくちゃあホムラは死んでたぜ?感謝するにはまず俺を通してからだ!」

焔「…あー」

長「経由する意味がわからん」


そういえば一度助けられてた。なんだかんだでハヤテは命の恩人だったな。



長「ふん、俺も奴…ハープがただの子供とは思わない。これまでの短い人生、奴がどれほど密度の濃い修羅場を潜りぬけてきたのか、想像もできん」

疾「とんでもねえ人生さ、ガキが戦なんざよ」

長「生まれて物ごころついた頃より傭兵や…血なまぐさい環境で育ったのだろうよ」

焔「…それは、子供が歩む人生じゃないな」

疾「そう、子供は遊んで、何も考えなくて良い!ただ遊べばいい、そういう生き物だぜ」

焔「ああ」


そう、子供は遊ぶもの。戦だ争いだ、考えなくて良い。好きな事をして、平和に暮らすべきだ。

…だがハープさんは子供なのだろうか。


薄暗い思考を巡らしているうちに、カギルさんはやってきた。法衣のままで。
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/08/16(火) 21:10:03.34 ID:bBMGE2PUo
おい…フラグ建てたままだぞハヤテ…
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/16(火) 21:40:57.84 ID:boe0NxTIO
いつもwktk
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/17(水) 22:34:08.11 ID:BE7fw1m10
森の闇から一人の生還者が姿を現した。

片手にショートメイスを握り、ラクダ色のケープに身を包んだ怪しい者。


拓けた山道は通らず、あえて人眼につかない獣道を通る。

灯りは一切付けず、木の影から木の影へと飛び移るような素早さで町へ戻ろうとしていた。


彼女なりの、他人へ気を遣わせない配慮である。


『――4体、まずまずな戦績だな――』

ハープ「…ふう…ゴーレムも数に入れろ、センジュ」

『では5体だ、褒めてやろう』

ハープ「そういう言い方、好きじゃないね」

『何が不満だというのだ、素直に受け取るがいい』



林の中を更に迂回、斜面に近い道を強引にゆく。

右へ回り込むと採石場にかち当り、警備の人目につくかもしれない。なので、彼女は左を選んだ。


それでも警備が全くいないわけではなく、増設された簡易な物見台は二、三ほど高くそびえ、そこから民兵がこちら側を窺っているのだ。

それらも全てかいくぐり、町へとたどり着かなくてはならない。見つかれば民兵は不審な影を敵だと認識し、すぐさま鐘を鳴らすだろう。

となると面倒なことになってしまう。町のためにも、それだけは避けなければならない。



『だから大手を振って正面から帰還しろと助言したのだ』

ハープ「うるさい」



彼女の面子のためにも、意地を通して踏破しなくてはならない道なのだった。
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/17(水) 23:28:01.17 ID:Y8pB1kyFo
C
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/18(木) 05:02:38.82 ID:ztK+P0r+o
乙した
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/18(木) 15:48:00.25 ID:oYu8/2Kao
楽しんでます
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/18(木) 22:15:58.69 ID:AgMKGqDV0

番(カギルさん、私に指揮のほとんどを任せるって言っていたけれど…一体どうしたんだろ…)

番(みんなをまとめ上げるなんてそんなこと、私にできるのかな…でもカギルさんが私に頼むってことは、私を信頼して…)

番(わ、私カギルさんに認めてもらえたってことなのかな!?)


ガサガサッ


番「ひっ!?な、何!?茂み!?魔族!?」

「あー、なんでもない、私」


ガサッ・・・


ハープ「ふー、ただいま戻った」

番「…ハープさん、なんでそんな茂みから…?」

ハープ「ちょっと、山菜摘みにね」

番(変な子だ…)


ハープ「カギル裁判長は?というよりも、今の町の状況は?」

番「あ、はい、カギルさんは私に指揮を任せてどこかへ出かけてます…町は先程から警備の強化を再開しました」

ハープ「ふむ、そっか」

番(服に汚れが付いてる…洗ってあげたいなぁ…)

ハープ「ホムラやナガトの場所は知ってる?彼らの持ち場を知っておきたい、念のためにね」

番「…あ、二人とハヤテさんはなにやら、別の所に配属になったらしいです、さっきカギルさんが言ってました」

ハープ「別のところ?補給や連絡ではないでしょ」

番「斥候、だったかな…私もさきほど聞いたばかりなので詳しくはわからないです、ごめんなさい」

ハープ「…斥候ね、わかった、ありがとう」


顔を渋らせる。不完全な情報ほど持て余すものはない。

戦いを急いで火傷しなければ良いのだが。
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/19(金) 22:09:59.02 ID:MCKeh+dO0
ハープ「とりあえず統括のテントに入らせてもらおう、いい?」

番「あ、どうぞどうぞ!お茶出しますよ」

ハープ「緑茶はちょっと」

番「ではスーチオンなどは?」

ハープ「砂糖は…」

番「もちろんありますよ!」

ハープ「ん、ありがとう、ツガエ」


背の高いツガエが先に歩き、客人のハープのために布を上げる。

少女は不遜にも頭を軽く傾げることもなくそのままテント内へ入ったが、ツガエはその姿をほほえましく見守っているので、特に摩擦は起こらない。

接点が少ないながらも、二人の相性は悪くないのだろう。



番「ささ、どうぞ座って下さい、まだまともにお礼もしてなかったですから」

ハープ「あー…服が汚れてる、これはさすがに」

番「ううん、構いませんよ、ここも一応戦場なんですからね」

ハープ「それなら」


木椅子を軋ませて腰を降ろす。
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/22(月) 22:19:08.56 ID:14PoHhnA0
ハープ「ああ、やっぱり甘い紅茶が一番だ」


久しくしていなかった安らぎの吐息。一仕事終えた後の一服はやはり良い。

おばさんみたいだなーとか思いながらその仕草を見ていたツガエも、とりあえず急須に余った紅茶を自分の分の茶碗に注いで砂糖石をひとかけらだけ入れた。


匙で掻きまわす間に訊ねる。


番「山菜は取れましたか?籠はないみたいですけど…」


少女の姿を見ても籠や大きな入れ物は見えない。腰に付けた小さなポーチに入っているようにも思えない。


ハープ「…ちょっと早めの、ならず者な野草が茂っていたもんだから、詰み取っていたのさ」

番「…!」


ここでようやくツガエも、小さなこの傭兵の少女が山中で何をしていたのかを察知する。

服の汚れが心なしか生々しく見え、奥のテントの支柱に立てかけたメイスの汚れにも目が移る。


ハープ「カギルも斥候を出すと言っていたね?相手は既に、…といってもまだまだ自陣の少し先といったところだが、斥候を投入してきているみたい」

番「そ、そんな…それじゃあカギルさん達が危ないんじゃ」

ハープ「敵の斥候は私が摘んだから大丈夫。というか、カギルらもそう簡単には戦場へ踏み入らないと思うよ」

番「…私はどうすればいんでしょう、敵がもう動き出しているって、皆さんに伝えればいいのでしょうか…」

ハープ「だね、本格的に攻め入るまでにはもうちょっと掛かるとは思うけど、辺境の警備の担当には注意を喚起しておくべきかな」


番「…」

ハープ「カギルがいないと心配か?」

番「は、はい…だって、カギルさんが全て考えて、動いて…私はその補佐でしたから…やっぱり難しいです」

ハープ「あの男はすごいよね、迷いなく判断して皆に指示を出せる、軍属経験があるんじゃないかって程だよ」

番「ハープさんは軍に…?」

ハープ「……」

番「…ってあはは、そんなわけないですよね、私何訊いてるんだろ」
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/08/22(月) 22:23:43.53 ID:LwCRuVpjo
ハープさんってどういうジャンルに入るんだ
ロリ婆?
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/08/23(火) 00:45:21.83 ID:+0jJtKyIo
違うロリでプリティな魔法少女や
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/23(火) 02:02:48.06 ID:JYMiW73wo
マスコット使い魔的ポジションは魔王様か
通常攻撃は物理で殴る
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/23(火) 03:01:47.47 ID:7i1+V5Ebo
個人的にはステプリの機族かな
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/24(水) 00:14:00.09 ID:rrgaJHx80

ハープ「……んん、美味しい」

番「……」


静かに啜る音が話の間を埋めて、そんな間にも話題は切り換えられる。


ハープ「人を動かすのって難しいね」

番「…そうですね、最近はひしひしと感じます」


紅茶の底に視線が落ちる。


番「カギルさんはもう、才能としか言いようがないのかもしれません。でもホムラさんや、ハープさんは実力や功績でみんなをまとめたり…発言したりできる」

ハープ「……」

番「でも私には、才能も実力も、…功績も何もないから、あ、言い訳がましいですねこれは、ごめんなさい」

ハープ「……」

番「…カギルさんのために、もっと役に立ちたいのにな…」ズズ

ハープ「ツガエだって頑張っているさ、そう目立ちはしていないから町の者も気付きにくいだろうが…」

番「それに…」

ハープ「もともと何かしらの先入観もあるのやもしれん、それが何かまでは知らないけど」

番「……」


ハープ「大丈夫。奴隷じゃないんだ、人の役に立つことは認められる」

番「…そうでしょうか」

ハープ「ああ、いつか必ず報われるよ、後の歴史にだって大きく名を残すかもしれない」

番「だといいんですけど…あはは、でも名を残すなんて」

ハープ「ふふ」


二人ともまた紅茶を口にする。

それなりに香り高く、程良く温かい。口の中に入れたまま香りを楽しみ、しばらくリラックスできそうな飲み心地だ。




ハープ「カギルとは歳の差は二十か」

番「ぶッ…ちょ、ちょっとハープさん!そういうわけじゃっ」

ハープ「ふー、甘い」ズズズ
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 12:40:44.34 ID:ieYiJRiIO
wktk
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/24(水) 22:08:12.73 ID:Ei8gbxFXo
甘すぎるぜ・・・
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/25(木) 20:12:17.23 ID:B20LlM2A0
惨劇軍の希少種、危難のダマは、無いはらわたが煮えくり返っていた。

斥候に出した自身のゴーレムが、またしてもどこからか現れた“惨劇狩り”によって破壊されたのだ。


主、魔族王から借りた邪眼の術“ジック・マガンブリューメ”をゴーレムの頭部に式として備えさせたにも関わらず、――それを二度も使用したのにも関わらず。

惨劇狩りと通称されるあの人間は、数十秒の間にゴーレムをいなしてしまったのである。


二度も負けるなどあってはならない。しかも、主の尊き術を使った上でともなれば、なおさら。



ダマ「次は殺す」


海岸の洞窟内。粗雑に削れ上がった空洞の壁面に向かい、静かに企てる。

狭き闇での思案は冴える。岩壁の模様が山地の地図にも見えてくるのだ。



ダマ「奴が唱えた術、まず属性の術だ、鉄と水は見た、そして文法が属性術とも似ていたが“スティヘイムノタテ”、あれは独自のものに違いない」


何よりあんな術は知らない。魔族王から受け継いだ一部の知識にも無い。何者が編み出したかは知らないが、独自のローカルなものであろう。


ダマ「詠唱にエニグマをかけていた…カスケードホイールとでも呼ぶか、あの術を起点に奴は鉱龍トロッコを召喚し、ゴーレムに致命傷を与えた」


対象の意志を無視して強制召喚したとはいえ、トロッコのような魔獣を召喚できるほどの精神力を内包しているのは脅威に他ならない。

凶暴極まりない魔獣と契約を交わせたものだと感心するが、脅威の大きさを前にして拍手などはできない。対処法を考えなくては。


トロッコを強制召喚し、それでも有り余る魔力。よほどの精神力ではない。消耗戦だけはしてはならないだろう。

魔術を特に用いない接近戦でも相手は強かった。肉体強化の性能にも目を見張るものがあるが、体捌き。熟練した戦人のような動き。狂戦士ぶりの思い切りの良さ。魔術戦以上に勝てる気がしない。



ダマ「諦めも折れもしねぇ、踏み込めても斥候しか潰せねえってんなら、いくらでも送り続けてやろうじゃねえか…斥候を」


勝利を急ぐことはない。着実に勝つ。小出しに派兵し続け、相手を消耗させるのだ。

まずはそこから始まる。本調子を奪うことから全てが動き始める。
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/27(土) 01:01:10.18 ID:Wxocffhz0

ダマ「いくらでも潰しに来るがいい、惨劇狩り!だが所詮は単なるヒトの身だ!広大な山岳を止まらず全力で踏破はできねえだろ!?」


赤びた両腕を広げる。指と一体化した同色の鋭い爪にも血管が浮かび上がる。

血液らしきものの脈動は、血管らしきものを通じて身体中を駆け巡り体温を跳ね上げた。今のダマの肉体温度は、常人が触れれば火傷しかねないものだろう。


ある程度の熱に対する耐性。惨劇軍の希少種が他の魔族と一線を画すひとつの証であると言っても良い。


ダマ(奴が全力きってノンストップでダッシュしようが間にあわねえ、そんな広範囲に斥候を構えてやる)


腕と腕の繋ぐ薄い羽衣にも脈動は伝わる。長い布のような組織は脈動を受けて姿を変える。指で押さえているわけでもないのに折れ目が形成され、曲がり、合わさり、形成される。


背中当たりで合わさった羽衣は細長い蝙蝠の翼へと姿を変えていた。

はためく翼は薄さに見合わぬ強靭さで、空気の壁をなんともせず羽ばたきを繰り返し、しばらくしてダマの身体は浮かんだ。


ダマ「キーッキッキッキ!我慢比べといこうか人間!果たして多方向から襲ってくる我が兵を止められるかな!?」



空に浮くに最も最適な撓りでその場に滞空した後に、一気に羽ばたいて洞窟を抜けだす。

冷たい海風が全身を掠める。塩気のある空気はさほど好きではないが仕方ない。


人間の土地を陥落させるまでしばらくの我慢。


ダマは岩壁に沿って駆け昇り、崖の淵へと降り立った。




ダマ「………出撃、命令通りに動け、死んだら止まって良い」



高音の号令と共に、ついに敵軍は陣形の端を切り離した。
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/28(日) 07:55:43.20 ID:JpE2/RW8o
盛り上がってまいりましたC
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/29(月) 01:28:40.67 ID:8VSvWz0io
4日前から読み出してやっと追いついた
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/29(月) 20:42:47.17 ID:6bhlrIvR0
民兵「なあ、カギルさんの腰にあった剣、見たか?」

「ああ見たよ、あの人が武器差してんの初めて見たよ」

民兵「様になってるよなぁ、双剣っていうのかなあれ」

「そういや、他にも変な剣持ってる奴は見かけたな」

民兵「ハヤテだろ?」

「そうそう、そいつだ。飛脚如きが何、刃物持って浮かれてるんだってな、ははは」

民兵「自慢して回ってたよアイツ、でもまあそれだけなら何でもないんだけど」

「ん?」

民兵「その刀、錆びてやんの」

「マジで?鞘に入ってたから気付かんかった」

民兵「こんな時期に誰が売りつけたものか知らないが、浮かれて買う方も買う方だよな」

「あっはっは、言えるな、でも強くは言ってやるなよ、本人は満足してるんだろ?」

民兵「まあな」

「所詮は飛脚だ、気にしなくてもいいさ」
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 00:12:18.07 ID:R9QhNq9IO
風評なんてみかえしてやれ!
あと、できれば死ぬな…
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/08/30(火) 18:46:07.87 ID:tq6ujo460
(布団)*・∀・)話しあい終わるまでキュウケイ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/01(木) 02:34:05.34 ID:2wJHxbE+o
ちくしょう・・・ちくしょぅおおおおおおおおおおおお!!!!
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/02(金) 07:49:14.80 ID:Jx885FjIO
書き溜めはしておいてください!C


自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/04(日) 01:38:16.50 ID:iEkXXzrIO
見てる



自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/04(日) 01:59:48.83 ID:VaLQHJBto
こんだけ更新がないのも珍しいな
風邪か?

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/04(日) 02:01:34.50 ID:J4802Mbao
今月中に終わっちゃうんだよな…
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/09/04(日) 02:24:26.06 ID:RzmJhL1Yo
恐らく下のこれが消えたら投下する予定なんだと思う


自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/04(日) 21:15:50.73 ID:WK/wt5Tx0
1日1レスじゃ今月中にはおわらないね
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/04(日) 22:10:59.12 ID:WK/wt5Tx0
「あれ?あの人影って…魔族じゃないよなぁ」


物見台の男は目を見張ったが、それが無害なものであるとはすぐに判断できた。

4人の人影。その中の一人は町の中でもただでさえ目立つ服だったからだ。



「あ、こっちに手を振ってる…カギルさん、あんなところで何をしてたんだ」


色々不可解なところもあったが、見張りの男はこちらへ向かう人影に手を挙げて応えた。






限「こちらに応答してくれました、これで弓や銃で誤射されることはないです」

疾「あー疲れた…さっさと戻って風呂だ、風呂!」

長「気を抜くな、もういつ戦いが始まっても…」

焔「まぁまぁ、俺らはとりあえず行動時間一緒なんだから、休む時は休んでおこうぜ、俺も疲れたしな」


カギルさんを先頭にして町へと戻る。

当然周り道などはせず、正面からの帰還だ。

テントに戻ったら仮眠でも休憩でもいい、とにかく運動で疲労した身体を休めておかなければならない。



焔(今夜のこれが役立てば…いや、役にたたないはずはない)

焔(そのためには万全なコンディションを常に維持しておかなきゃだめだな)

745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 00:22:17.10 ID:3kPgykTIO
お、きたきた!
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/09/05(月) 01:12:23.65 ID:exxppg/yo
IDみて気づいたけどこの作者って長編スレ同時進行させてたんだな

747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/05(月) 23:22:26.96 ID:kCvpyrPN0
昼の番担当と夜の番担当はだいたい割合でいえば六対四ほどで分けられている。

そりゃあ当然夜の方が危険は高いが、かといって半数以上にあまりに不規則な生活を強いることはできない。


昼に活動している方が町の手伝いもしやすいという事で、その折り合いをつけて六対四という割合になったわけだ。



焔「いてて、擦り傷に染みるな」


そういった分担のおかげで俺らは今こうして入浴できるというものなのだ。

夜の担当には本当に感謝だ。暗い中で精神を尖らせて監視するなんて真似、気の長くない俺にできることとは思えない。


長「お前、そんな顔してるが槍の技術は本物なんだな」

焔「そんな顔って、ハヤテじゃあるまいし」

本人に失礼だけど。

長「ハヤテもそうだけどお前もだ、使えるとは聞いていたがまさかあそこまでのものとはな」
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/06(火) 00:36:55.87 ID:D4W5niAVo
>>746
マジか
どこや
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/09/06(火) 00:50:02.62 ID:iU/anPu7o
>>748
((( *・∀・)ミィミィ
こいつがヒントだ
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/06(火) 01:27:42.25 ID:RPwLiOS2o
IDとかで検索しつつ探って行くといいよ
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/06(火) 03:20:08.43 ID:HL/MyOLDO
砂糖ラーメンなつかしい
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/06(火) 22:05:46.44 ID:5SWnLF7F0
焔「ナガトのジャベリンの正確さだって驚いたぞ、本当に性格無比なんだな」

長「鍛練は欠かしていないからな、俺ならばあれくらいは当然だ」

焔「謙虚なのかそれ」

長「ただの事実だ」

焔「どっちとも取れるあたりがオイシイな」

長「何が美味いというんだ」


湯で顔を濯ぐ。

そろそろ髭もうっとおしいくらいには伸びてきたが、どうしたものだろうか。

切るのは半端だし剃るのも面倒だなぁ。しかしさっきすれ違った婦人がたから“薄汚い”とか聞こえてきた気もする。

人に不快感を与えるものならすぐにでも剃るんだが…。


疾「はぁぁぁあ、いいねぇ、風呂」ジャポ

長(こいつ、また髪括ってやがる)

焔「ハヤテ、俺の髭についてどう思う?」

疾「は?いきなりなんだそれ」

焔「伸びてきたし」

疾「最初から伸びてただろ?どうもこうも思わないけど」

長「何故いきなりヒゲの話が始まる」

焔「いやー、この髭、汚らしく見えてないかなって」

長「そう思うなら剃ればいいだろう」

疾「…まーある意味男らしいし、そのままでも俺はいいとは思うけどな…」
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/06(火) 23:18:07.48 ID:5SWnLF7F0
焔「ふーむ」


首元まで浸かり考えてみる。

そういえば見知りではない民兵の男達から“髭の人”って呼ばれてたっけ。

俺の印象って髭なんじゃなかろうか?だとしたら剃るのは不味いのだろうか。


でもそれってつまり不潔な顔した奴が俺、という認識が広まっているという…?


焔「うわぁ、なんかやだなぁ」

疾「?」


早々に顔のことについては考えることをやめた。

見た目なんて気にしたって仕方ない。町のことや戦のことを考えよう。


…カギルさんが招集した俺ら3人。

この3人ならばそれぞれの持ち味を活かした攻め方ができるはずだ。


カギルさんや俺の場合はともかく、ハヤテとナガトの二人は今日の調子を見るに実に心強い戦力となってくれるだろう。


シドノフの砲撃に気を付ければ、敵の軍勢を相手に立ちまわるのもそう難しくはない事なのかもしれない。
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/07(水) 21:53:04.55 ID:3vLs++I70
焔「…」


テントの中で静かに天井を見上げる。

白い天井は考え事を描きだすのに最適で、それゆえになかなか寝付けなかった。


ここには欠伸をかく呑気な奴もいれば、俺のように無言で布の空を見上げている奴もいるだろう。

緊張する奴しない奴。普通に眠れない俺のような奴。


仕方ないとはいえ、ここからはもう戦うしかないのだ。

寝ても起きてもそこは戦場を忘れることのできない最前線。


タダ風呂やタダ飯があろうが日常ではない戦場。

いつ血なまぐさい戦いの場に駆りだされてもおかしくない。


家で平和な自分の時間を謳歌する事も、日中に家族と触れあうことも、あまり叶わない。


一時が普段と変わらぬ平穏であっても、今は一時の油断が町の死を招く非常事態なのだ。


このテントの下にいる民兵も、俺と同じような覚悟を抱いているんだろうか。


そんな難しいことを考えているうちに、まぶたがゆっくりと下がってきた。

眠い。


どうか目覚めが鐘の音でありませんように…。



「おい、ホムラ」

焔「んあ……」


鐘ではなかったが、目覚めはやってきた。


755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/08(木) 22:32:10.44 ID:dFGLWUKEo
くそぅ…焦らされてる感じがして…悔しいのに感じちゃう…///
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/08(木) 23:34:51.39 ID:Ca1my84n0
ハープ「睡眠時間は長いほど良いが、事の寸前まで寝られても困るだろう」

焔「…んぁああぁ…ハープさんか、なんか懐かしい…」

ハープ「寝ぼけてるな」

焔「いや、だってまぁ夜だし…」


少しの間だけ気を失っていたらしい。パッと頭が覚醒しない。

どれくらいの時間眠っていたんだろうか?意識としては一瞬のような気がする。


ハープ「カギルは不在だったがメモは渡しておいた…一応、お前にもこれは説明するべきかと思って立ち寄ったんだが」

焔「俺に?何を?」

ハープ「まぁ起きると良い、ここでは声も出せない」


寝ぼけた頭を起こして周囲を見やる。なるほど、民兵の仲間達はお眠りの最中のようだ。

起こしちゃあ悪いな。


そろりそろりと身体を起こし、ハープさんに連れられてテントの外へと出た。

空はまだまだ暗いし肌寒い。夜中の真ん中といったところだろう。

このまま何も起こらなければいいんだが。


焔「ハープさんは今までどこに?」

ハープ「斥候だよ、前へ前へと偵察に出ていた」

焔「なんだって!?そんな危ない事を」

ハープ「敵にも遭遇したがね、なに、返り討ちにしてやったさ」

焔「…相変わらず、なんて言うか…なぁ」

ハープ「ふ、独断の行動はご法度だが、お前もそのくらいに活躍できるようになればな?」

焔「俺だって最近は日夜、頑張ってたさ」

ハープ「ほう?どんなことを?」



焔「この町の人のためになる仕事さ」

ハープ「ほう…良い事だ、結果を期待してる」
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 08:01:30.10 ID:Japr4JDIO
しえんぬ
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 12:56:58.69 ID:iyM10syIO
みてるー
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 17:43:29.80 ID:quTZy3jIO
ワクテクC
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/13(火) 20:08:34.20 ID:W9OYbMos0
焔「敵の斥候」

ハープ「そうだ、危難のダマが操作するゴーレムも確認した」

焔「ゴーレムだって?魔術師が作るあの?」

ハープ「人間だけじゃない、理論上は魔力持つものであれば何者にでも作れるさ、ゴーレムは」

焔「そうなのか…」

ハープ「喋り、術も扱う高度なゴーレムだった、油断はできない相手だぞ」


ハープ「…ま、ゴーレムはひとまず良い…かなり少数ではあるが偵察役の斥候を出していた」


ハープ「数が少ないのは目立たないようにするためだろう、広範囲に散らしていたようだがそれはアダだったがね」

焔「広範囲にって…じゃあ何体かはもうこっちに!?」

ハープ「それはない、全て始末したよ…駒を思いのままに動かす能力は便利だが、配置が等間隔なのはいただけないね、無駄に走り回る手間が省ける」

焔「すごいなぁ…相変わらず」

ハープ「なに、運も絡むさ、取りこぼしがないのは僥倖だ」


焔「…敵はもう動き出してるってことか」

ハープ「自身もゴーレムで乗り出す程だ、相当に頭に血が上っているだろうし、近々に攻めてきても可笑しくは無い」

焔「……来るのか、やっぱり」

ハープ「その時、私は町を守ってやれはしないぞ、あくまで敵の元締めを叩く」

焔(つまり危難のダマを直接倒すということか…)


焔(…俺と同じってことなのかな)

ハープ「どうした?」

焔「あ、いやなんでも」


焔(俺がそんなところに突っ込むなんて言ったら、ハープさん怒るだろうな…まだ言うのはやめとこう)
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/14(水) 22:19:27.02 ID:mA+Gemau0
ハープ「…お、良い匂いがする」

焔「うん?あ、ほんとだ、鍋かな」

ハープ「夜番の兵たちへの食事のようだな、うむ…どれどれ、動きすぎて丁度腹が減った所だ、腹ごなしにでも行こうかな」

焔「あ」


背中を見せて向かおうとするハープさんの背は土で汚れていた。

暗がりではあまり目立たない汚れだが、月明かりに晒されるとよく映える。


焔「…あー俺も、ちょっと腹減ったな、寝る前に食うか」

ハープ「睡眠も重要だぞ」

焔「こんな美味そうな匂い嗅いだらなぁ?」

ハープ「ははは、それもそうだ」

焔「これ匂いからしてなんだろ、ぼたんじゃないな」

ハープ「蓋を開けてのお楽しみかな」

焔「爬虫類系は苦手だから勘弁したいところだけど」

ハープ「そんな顔してるもんな、ホムラ」

焔「む」



微かに灯る行灯と匂いを道しるべに歩く。
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/09/14(水) 22:47:06.08 ID:InFTRENDo

この調子で今月中に終わるの・・・?いや終わって欲しくないけど
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/09/14(水) 23:08:50.61 ID:EX3KH30AO
終わらせる

旅行とかがあって色々予定はあるけど、夏休みのラストスパートみたいに大量更新してでも終わらせるよ

いつもみたいに手抜きエンドにはなるべくしないから安心していいよ
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/15(木) 00:02:09.00 ID:7Cr23ttIO
しえんC
手抜きエンドするぐらいなら、来月でもいいから頼んます。
作者の描くラストが見たい。
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/15(木) 00:57:00.67 ID:UneoNrnbo
上に同じく
しえん!
766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/15(木) 17:00:10.01 ID:lPxkjZEIO
ゆっくり書いてくれー
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/16(金) 21:22:12.64 ID:Le44HvfV0
金属の椀に盛られた肉と濃い口のスープ。

夜の冷え込みで湯気がもうもうと立ちこめ、じんわりと脂汗をかいた顔を湿らせる。


さすがに夕時ほどの喧噪はないし、警戒状態で人もまばらだったが、広場には人が多かった。


ハープ「ごしき鍋だ、わからんもんだな」

焔「予想が全部外れるとはな、でも御馳走でよかった」

ハープ「ああ、いただこうか」


二人で啜り食う鍋は美味かった。

隣でちょこんと座り、膝に皿を乗せて食べるハープさんはまるで俺の娘かなにかのように見えてしまったりもした。

しかし見た目の年齢的にはそんなものだろう。


およそ二回りほど離れていて可笑しくは無いのだから。


焔「ハープさんの故郷って、やっぱりこっちの方なのか?」

ハープ「ん?なんだ、いきなり」

焔「いや、つい気になって…髪の色はそれっぽいし」

ハープ「流季だけどここじゃない、鉄の国のちんけな工業都市さ」

焔「へー…鉄の国にも流季の人っているんだな」

ハープ「色の割には血は遠いがね」

焔「俺らはその逆ってところか」

ハープ「そうなるだろうね、まぁでも、人種なんざ些細なものだよ」
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/17(土) 19:11:30.22 ID:TUDQNakdo
相変わらず世界観が作り込まれていると感じさせられるな
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/18(日) 22:05:15.40 ID:Xd3v06CIO
揺るぎないクオリティにC
770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/09/19(月) 01:58:28.86 ID:dDSAacgk0
焔「些細かぁ……」


肌の色、髪の色、顔だち。人種による違いは大きくある。

この町バンホーも、髪に朱みのかかった者が流された事から始まった町であるといってもいいだろう。


それ故に、色合いの取れた町になったのだろうけど、そんな由来があって出来た町というのはやはりさみしいものがある。


焔「ホムラ=クレナイ…」


紅家。バンホーの始まりより、ずっと鉄を打ち続けてきた一族だ。

最初から仕事に誇りをもっていたということはないだろう。最初のうちは生きるために、町を存続させるために嫌々と熱い金属を打っていたに違いない。

いつからかその仕事に意義を見出して、俺まで続いたのだ。


俺の名に明るい由来は無い。


焔「ハープさんの家名は?」

ハープ「私の?聞いてどうするんだ」

焔「自分の名前について考えたら、気になって」

ハープ「…………トウゲ」


峠、だろうか。


ハープ「ハープ=トウゲ、だ」
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/21(水) 22:41:49.82 ID:he1mH1lh0
峠って、どんな意味があるのだろうか。

地主だったのか、それとも昔山を駆っていた一族だったのか…。


焔「確かに、聞いてもどうしようもないことだったな」

ハープ「ふ、なんだそれは」


汁をすする。旨味の沁みた味が喉を通る。

考えても無駄なことだ。名前の由来など考えてもどうしようもない。


今さら家名に負い目を感じてどうするんだか。

バンホーに自信を無くしてしまっては、これからそれを守れるはずもないというのに。


焔「ごめんな、ハープさんってあんまりこういうこと、聞かれたくないんだろうに」

ハープ「いいさ、傭兵は夜に集まれば家族と伴侶、そして故郷について語らいたくなるものだからな」

焔「ははは、そういうものか…傭兵かぁ、傭兵も楽しそうだな」

ハープ「鍛冶だろ?」

焔「片手間で傭兵ってのをやってみるのも悪くはなさそう…あ、これ町の人には絶対に言わないでくれよ、ほんとに」

ハープ「ははははっ」
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/23(金) 00:16:34.72 ID:KGjiVThn0
じゃあこれ、ちょっと明日に。今日は無しで。
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/23(金) 15:53:11.80 ID:KGjiVThn0
ハープ「…そうだホムラ、そろそろお前もその格好では辛いのではないか?」

焔「ん?」


スープの最後の一口であたりでハープさんは訊ねてきた。


ハープ「作業着だろう?それでは戦場で動くには余りに固すぎる」

焔「……」


確かに。肘を曲げてみても、肩を回してみても、随分と固い。

作業着の中でも一番動きやすいものを選んだつもりだが、身体の大きな動きを許すではない。


ハープ「炎を扱うにせよ、とりあえずローブを着込むべきだろうと私は思うね」

焔「ローブ?逆に燃えちゃわないか、裾とか」

ハープ「そうだとも、火が移れば燃えるだろう…だが作業服であれ軍服であれ、燃え移れば火だるまには変わりないさ」


ハープ「お前は肉体強化ができるはずだろう、何を着込んでいようと服も一緒に強化されるんだ、火の粉が飛ぶ程度では燃えはしない」

焔「そういうもんか……うーん、ローブねえ」

ハープ「魔道士だけのものではないのさ、裾に気を付ければ動きやすいし、応用のきく防護もできる」

焔「考えてみるよ」

ハープ「是非ともな」


彼女が言うなら間違いなさそうだ。
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/23(金) 16:43:57.93 ID:KGjiVThn0
焔「でも俺にローブって似合うのかな」

ハープ「ん?…どうだろう」

焔「だよな」

ハープ「髪と同じで暖色にすればいいかもしれん」

焔「そもそもガタイがローブに合うかどうか」

ハープ「そこまで言われると弱いが、なりふり構うのが戦ではない」


ハープ「…のだが、多少は気にするべくところもあるだろう…士気に及ぶ事もある」

焔「ほ…ふむふむ」


ハープ「…そうだな…改善すべきは…」

焔「……」


ハープ「ヒゲ」

焔「!?」

ハープ「顎と口ひげを剃れ、全部な。おそらくその髭はローブに似合わないだろう」

焔「全部か…」

ハープ「ああ、髭面の男にローブなどただの浮浪者だ」

焔「ひどい」

ハープ「誰の心の目にも明らかな姿だ、いや、見た目か。案外と大事なものだ、よく聞いてくれたぞホムラ、ただちに髭を剃れ」

焔「…まあ、近々剃っちまおうかなとは思ってたんだけどね…よし、こいつともお別れか…」

ハープ「一回りほど老けて見えるからな、早めに剃っておくと良い」

焔「ほ、本当にズバズバ言う…」
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/23(金) 17:41:13.90 ID:EFy537xAO
http://myup.jp/Cu4UIx4g

急に描きたくなったので、フラグ立てまくりなハヤテのために
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/23(金) 17:46:26.01 ID:s3G35vuso
え、え、ハヤテきゅんまじきゃわわ
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/23(金) 18:18:21.50 ID://ehYbcao
わくてかC
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/23(金) 23:54:30.09 ID:wWhzeoqBo
>>774
ほむほむ言いかけてる
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/26(月) 23:50:20.84 ID:oymINoUp0
焔「……」


眠気を堪え、足を引きずってやってきたのが風呂場だ。

とりあえず浴場の礼儀という事で裸にはなりつつも、木桶の中には自前のカミソリなど。


そう、髭だ。髭を剃りに来たんだ。


焔「……ぬぬぬ」


カミソリを持つ手が震える。疎らに伸びた暖色の髭。

汚らしいと言ってしまえばそれまでだが、幾年もの時間を共に過ごしてきた髭だ。


辛い時も、哀しい時も。この髭は、俺の汗も涙も受け止め続けてきた。

刀の刃に泥に付け忘れて大変なことになった時も、間違えて可燃性の油に浸して芸術的な剣を作ってしまった時も、この髭はずっと一緒だった。



焔「今日でお別れ…か、お前とも」

「なぁ、あんた身体に湯もかけずにそこでずっと何してるんだい」

焔「待って、今考え中なんだ、もうちょっと考えさせてくれ」
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/27(火) 00:25:33.60 ID:tEjSA7wX0
「ぁああ…!」

背筋が凍るとはまさにこのことだ。


彼は民兵。数時間だけ物見台の上に経ち、夜の番をする役目を担う男である。

敵を間近に見た事は無いが、遠目から窺う事は多々あった。いわゆる後方支援や、連絡系の役割を多く持っていた。

職人の多い朱金町での彼の仕事は、物資の管理。蔵の番だ。

バンホーにはいる原料や過去品、食料品の種類や重さを再調査し、記帳する仕事をしていた。

肉体労働とは言い難い職が、彼を戦場における後方支援に回させたのだろう。


それも彼が時々見張りに立つ矢倉は真正面ではなく、かなり南側に近い辺鄙な所だ。

ほぼ敵が来ることを想定していない位置の矢倉。民兵の彼もそう呑気に捉え、欠伸混じりに夜の漆黒をぼんやりと眺めていたのだが。



「ああ、なんてこった」



青い行灯が見えてしまった。

遥か遠方に見える青い灯りが、人魂のように妖しく揺れている。


一度は目を擦り、町の者が熾した火であろうと疑ってかかったものだ。

だが明らかすぎる青の発色が、彼に現実逃避を許さなかった。


「こ、こういう時は、ああっと、くそ」


脚が震える。

今すぐにでも逃げ出してやりたいが、きっと何もせずに逃げだせば、後々に重大な責任に押しつぶされることになるだろう。

家族の事もある。そこはなんとか堪えた。



番「調子はどうですか?」

「!」


恐慌状態に陥っていたその時、彼女はハシゴを登ってやってきた。
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 07:12:57.72 ID:/ftisJ6IO
みているぞ
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/27(火) 22:50:58.71 ID:tEjSA7wX0
番「すごい汗!顔色も悪いですよ、大丈夫ですか!?」


事情を知らないツガエは男の体調を案じたが、男は手で制した。

自分よりも町の方が大事であるし、相手が相手だからだ。


(町長の娘!冗談じゃない、こんな奴に)


緊急事態であると解っていても、反射的な嫌悪は表情に浮き出る。


番「…私では満足いかないかもしれませんが、それでも私の役目なんですよ」


その顔色を汲み取っても、それでもツガエは自分のすべきことを曲げたりはしないのだ。

不調を訴えるものがいれば介抱する。たとえ自分や自分の父を毛嫌いする者でも、決して区別はしないだろう。

彼女の公平と正義の限りに。


番「すごい冷や汗…大丈夫ですか?一度テントに戻られては…」

「…敵だ」

番「えっ!?」


ハンカチを持とうとしたツガエの手が止まる。


「向こうだ、かなり遠いがあそこ…見えるだろう…!?」

番「…あ…!」


民兵の体調不良どころでは済まされない事態に直面しつつあることにツガエも気付いた。
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/27(火) 23:02:08.61 ID:tEjSA7wX0
番「あ、青い炎!」

「間違いない、惨劇軍共だ…!俺も先程気付いたばかりだが、いち早く知らせなければ…」

番「…すぐに矢を放ちましょう、花火付きの、えっと、色は…これです!」


矢倉の隅に立てかけられた矢を取り上げると、それを男に差し出した。

かなり緩い楕円を描く柄の矢だ。


「一大事だ…くそっ」


男は乱暴に矢を奪い取り、弓を構え弦を引き絞った。

すぐにでも矢を放ち、敵襲を知らせなくてはならない。文字通り、矢の如き早さで。


「…!」

番「!」


正確に放たなければ。そう集中し重圧を感じる度に、忌まわしい手の震えがヤジリの先を迷わせる。

誰にも見せたくない無様な弓の構えだった。



「くそ…震えるな、一発で良い!小さい的を、鹿を射るわけではないんだ…!」

番「…大丈夫」

「!」


ツガエの手が、男の矢を構える手の上に乗せられた。震えの無い温かな手だ。


番「心で狙った矢は当たります…焦っていても、その危機感をいちはやく届けたい、自分の心に素直に集中すればいいんです」

「……」

番「ほら、もう震えてない」

「…くっそ、口車の滑らかさは父親譲りだ」



矢は射られた。
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/27(火) 23:17:38.46 ID:tEjSA7wX0
焔「……いや、まてよ」

焔「おっさんぽく見えるのはこの口周りだけってのはあるかもな」

焔「口ひげだけ剃って顎は残せば、それでも十分若く見えるはず…」

焔「いや、どの道俺は髭の人になるのか?それでも…」

焔「いやいやでも顎髭を残すことには大きな意義があるだろ…」

焔「なんたって何年も一緒の時間を共に歩んできた相棒だ…んな一瞬のジョリだけで消されちゃたまったもんじゃねえ」

焔「…でもハープさんは剃った方が良いと言ってたしなあ」

焔「うーん、一体どうすれば…」


――カァン、カァン

――カァン、カァン


焔「えっ」
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 23:31:29.81 ID:GDZbBoW5o
早く剃れwwwwwwww
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 23:33:01.19 ID:s6g6IHtIO
焔ったらwwwwww
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/27(火) 23:42:09.72 ID:tEjSA7wX0
物騒な鐘の音を前にしてはヒゲなんかどうでも良い事この上ない存在だ。

むしろ何もせずに髭をさすりながら曇った鏡を眺め続けているだけの自分がとても罪深いものだと思えてくる。

何してるんだろう俺は。ちょっと緊張感が足りないのではないか。


敵が今まさに、ここへ攻め入ろうとしているのに!




「カギルさんはまだか」

「信号は青の花火だ、敵はまだ遠い…時間はある、矢倉からあと1回は報告を聞けるはずだぞ」

「そんなことよりどこから!?」

「聞いてねえんかアホウ、南じゃ」

「北からも信号がきたって言ってたぞ!?」

「なに!?囲まれてるのか!?」


歩く間にも交錯した情報が耳を掠める。

どれも立ち止まって問い詰めたいものが多いが、広場に集合してカギルさんから直接指示を仰ぐのが賢明だ。


俺は急ぎ足で向かった。

背に赤茶けた槍を預けながら。
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/27(火) 23:59:56.60 ID:tEjSA7wX0
鐘の一発目で飛び起きた。

そりゃ当然だ。俺の妻と可愛い娘の居場所を脅かそうとしている奴らが近づく足音だ。

この俺、ハヤテが気付かねえはずもねえ。


疾「どけどけ、俺が一番乗りだ!ただの集合だろうが、もう戦は始まってるんだぜぇ!」


荷物と刀を抱えて、広場へ走る。

慌てふためく人と人の間を駆け抜けている間に、そいつらの背中でも平手打ちして気合いをいれてやろうかとも迷ったが、入れてやらないことにした。

檄は自分で飛ばすことだな!



「うおっ」

疾「おっとあぶね、悪いな!急ぎだからよ!」


ぶつかりそうになってもお構いなしだ。とにかく急ぐぜ。




「飛脚ごときが、刀持って何になるってんだ」

疾「!」


自分でも驚くくらいに、俺の耳は呟き声がした方向と距離を正確に察知し、顔もそちらへ向いた。

ぶつくさ文句しか言えねえ輩のふてぶてしい顔が視界に入る。性の悪い野郎だ。

睨みのついでに拳のひとつほども掲げそうになったが、それは何者かによって止められた。


長「油を売るな」

疾「…わり!ついカッとな」


俺の腕を掴んだのはナガトだった。仏頂面の生真面目そうな奴だが、嫌いじゃない。



長「そこまで急く必要もない、歩いて向かうぞ」

疾「あいあい、わかったわかった、一緒にいくかー」



俺は刀を、ナガトはジャベリンを片手に、広場へ向かった。
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/28(水) 23:30:43.86 ID:FrzA+6Ps0

限「みなさん静粛に、敵の予想到達時刻までまだまだ余裕があります」

「んなこと言ったって…」

限「錐砲や弩砲を備えた今、我が町では叩くに適した距離というものがあります」

「そのために敵がこっちへ来るのを黙って見てるっていうのは、ちっと」

限「遠くの敵をわざわざ叩きに皆さんを出しても効率は悪いです、兵器の援護も受けられないでしょう」



番「あまり森の深い所へは錐砲も有効に働きませんからね…遅れてすみません」

限「どうもツガエさん、皆さんの人数確認をお願いします」

番「はい」


限「一定の人数が集まり次第、各々の持ち場の振り分けをします…矢の信号によれば敵は多方向から町へ接近しているようです」

長「多方向、多勢か?」

限「報告を聞く限りでは無茶なルートも構わずに通っているように見受けられます」

長「…ふむ」

限「それでも一定数はこちらへ到達していると見ていいでしょう」

疾「ひえー、じゃあ四面楚歌ってやつか?」

限「どうでしょうか、町の装備を一新したバンホーの力の見せ所です」

疾「んな余裕な…」

限「辛いかもしれませんが無理ではありません」


限「町を要塞化させた私と、ハープさんの理論が間違っていなければね」
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/29(木) 07:05:54.47 ID:zHiylhDIO
しえんC
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/29(木) 22:38:57.82 ID:9DwPiycr0
(*・∀・*)今月中に終わるわけねーだろばーーーーか!!!!
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/29(木) 23:16:03.02 ID:MqEnZdlDO
みんな思ってたよ
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/29(木) 23:35:42.80 ID:9DwPiycr0
前に緊急の召集があった時以上の人だかりが広場にあった。

だが混乱しているわけではなく、皆整然と中央に座り、小声で話している。


中央にはカギルさんの姿が認められ、矢継ぎにくる報告者たちに左耳を傾けながら、口は止まらず皆へ向けた言葉を紡いでいた。

器用な人だ。何かしながら、別の事も同じくらいにこなす。俺には到底そんな真似はできないだろうな。


限「おっとホムラさんお待ちしておりました、どうぞこちらへ」

焔「あ、ハイ」


報告人を通すために開けられた道を通り、カギルさんの近くに座った。

特別扱いされるのもそろそろ慣れてきた頃だ。



限「さて…とはいえ、是非とも要塞の運用をハープさんに聞きたいところですね、私一人では荷が重い」

番「ホムラさん、ハープさんを知りませんか?」

焔「いや保護者じゃないんでちょっとわかんな」ゴスッ


言い切る前に、何か硬いものが脳天にぶつかった。


ハープ「何故保護者という言葉を使うね、ホムラ」

焔「すんませんごめんなさい」


ハープさんのメイスだった。物凄く痛い。
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/30(金) 01:50:38.60 ID:306FHT8oo
なんか、最近みんな可愛くなってないか?
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/30(金) 07:52:24.60 ID:lpocGnCIO
おまおれ
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/30(金) 14:40:22.60 ID:N5fJbU97o
おれおれ
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/09/30(金) 22:31:11.57 ID:hJli1Wc80
限「お疲れ様です、ハープさん」

ハープ「なに、些細だ、で?私への用とは何かな」

限「貪欲な訊き方をしますがズバリ、敵は何を狙って攻めてきているのか」

ハープ「うむ」

限「そして、それに対する我々の最善の対処法を是非とも教えていただきたい」

焔(全部だ…まぁそりゃそうか)

ハープ「敵の狙いね…一口に言うには難しいな、私にも敵の攻め方が全て把握できているわけでもないし」


ハープ「だがここにいる全員のために言っておこう、しばらくは敵が大群で一か所を猛攻することはない」


その一言だけで群衆からは安堵の囁き声がこぼれた。


ハープ「安心していいのはそこだけだ、後は何が来るかもわからん」

焔「何がって…」

ハープ「次にどうとでも指せるからな」

限「隊列を束ねるも良し、回り込み薄い箇所を叩くも良し、と」

ハープ「ま、敵もまずは多勢を散りばめ、薄い箇所なりを探ってくるだろう」

疾「…それって時間の問題ってことなんじゃ?」

ハープ「時間の問題だよ、手を打たねばね」
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 23:34:37.53 ID:Og92FFHIO
がんばってくだしあ
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 07:11:00.00 ID:K9a8/DYIO
しえんぬC
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/03(月) 08:14:50.66 ID:sCe8d7Fmo
オリゴ糖
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/03(月) 22:45:39.43 ID:lty6xok50
ハープさんは地面に腰を降ろし、メイスを包む布をほどいた。

何か術でも使うつもりなのだろうか。

以前修理したものなので、フランジの調子はいいはずだ。


ハープ「さて、ここが現在地、テントの集合地帯とする」

焔(って、地面に絵を描くだけか)


ハープ「ここがタオリバシ、ニシタオリバシ、タイヨウバシ、第一矢倉、第二、第三…」


次々に書かれていく町のおおまかな地図。

おおまかだ。しかしそれでも、この町に住む何人の人間が、空でここまでのものを描けるだろう。

淡々と仕上がる町の全景には、未だハープさんを小馬鹿にする民兵の皆も息を呑むばかりだ。



ハープ「錐砲はこことここ、ほぼ町の外周部近くに集中して設置されている…ここにある錐砲はあらゆる箇所へのカバーも容易だ、遠方の相手も狙いやすい」

限「錐砲を主体として扱っていくわけですか」

ハープ「敵がやってくる方向が明確にわかれば、そこへ向けて集中的に放つのがいいだろう、接敵されてからでは遅い」


ハープ「中距離は弩砲を扱えるが、相手にも砲撃のシドノフや守りのロッコイがいることを考えると難しい…弩砲は最初から着火させて撃つのを忘れては駄目だ、せめて“盾”だけでも砕かねばならんからな」

長「…それでは民兵の大部分が余るだろう、どうするんだ」

ハープ「レンガ壁に隠れて中距離からの応戦だ、箇所に敵が集中してきた場合を想定して、一部の民兵はここに控えさせるのが良い…で?町の外周部も既に要塞のようになっているのだろう?」

限「濠から壁まで突貫ではありますが大体は」

ハープ「僥倖、ある程度敵が集中して攻撃してこようとも、堅い守りの前ではそう容易く陥落することなどあり得ない」

疾「なんでえ、結局守りの一手じゃねえか?それも時間の問題なんだろ」

ハープ「なに」


ハープ「…町の動きは防衛、だが一部は決死隊として、敵の頭を叩きにいく」

限「!」
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 07:30:03.90 ID:8apd1nVIO
ついに激突かwktk
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/04(火) 22:58:19.87 ID:95Es8kd10
疾「お、て、てぇことはあれか!少数精鋭でいくと!」

ハープ「解りが良くて助かる、そう…一人につき銃を三挺は持って、私についてきてもらう」

限「銃」

ハープ「そう、銃」


手にしたメイスを掲げ、天を仰ぎ、


ハープ「“スティ・ボウ”」


詠唱した。ごくごく小さな閃光と共にメイスの先から何かが放たれ、それは鋭く風を切りながら空へと舞い上がった。



「魔術…」

「ああ、魔術だ…」

限「…」


やがて数秒の後に、今度は空から何かが降ってきた。

ものすごい速さで。ハープさんの頭上に。


焔「あぶなッ…」

ハープ「ふん」パシ


思わず手を伸べそうになったが、いらぬ心配だったようだ。

何事もなかったかのようにその手に収まった。


それは黒光りする、立派な鋼鉄の銛だった。



ハープ「敵の司令塔は飛行能力を持っている…ある程度の肉体強化もできるはずだ、それを貫くには銃では心許ないのでな」

限「討ち取るのはハープさん、ということですか」

ハープ「銃は“危難のダマ”の周囲を警護している奴らを蹴散らすために必要だ。私が集中して術を放つための時間もいる」

焔「あくまで援護なわけか」

ハープ「ナガトの持つジャベリンでも構わないのだがね、まぁ、雑魚を掃除するための要員だ、遠距離武器なら何でもいいのさ」

長「ふん」

焔(あいつらを雑魚扱いって…)


ハープ「…? ナガト、ジャベリンを変えたか?」

長「む」


ナガトの腰に括られた二本のジャベリンに気付いたようだ。

さすがハープさん、目の付けどころが良い。俺が打ったジャベリンに気付くとは。


ハープ「不格好なジャベリンだな、錆びてるぞ…悪い事は言わん、前のに変えておけ」

長「……」

焔「……」


それはもう、ゴミを見るような目つきだった。
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/10/04(火) 23:30:13.01 ID:PJwbcAGMo
ワロタ
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/10/04(火) 23:59:35.57 ID:NOywPvHpo
涙目wwww
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/05(水) 00:19:42.18 ID:qN3VjGRIO
焔が男泣きwww
今夜もC
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/05(水) 00:45:31.58 ID:N6D+gbQzo
どんまいほむほむ
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/05(水) 02:34:40.40 ID:dhZ3G2kMo
メッキ加工すれば使用するまでカッコイイ見た目を保てる
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/05(水) 22:03:35.49 ID:cz1LLVqy0
ハープ「そういうわけで、私は敵の指揮官を潰しに行くぞ、ついてくる気のある者はいるか?」


メイスを掲げた彼女に続く者はなかなか現れなかった。

俺を含め、カギルさんやナガト、意気込んでいたハヤテも手をあげようかと決めかねているようだ。


心の準備ができていないというのもあるだろう。それ以上に、ハープさんがいう“遠距離武器ならなんでもいい”という要求に沿えない事が、全てを躊躇わせている。

皆、一応出撃準備は万全なのだが。


ハープ「気が進まない皆の胸を前押しすると、そうだな、敵の真っ只中に突っ込むから、全員無傷での帰還はできないだろう」


一層に場がざわめく。


ハープ「私が求めるのはおよそ4人だ、あまりに大勢でも目立つからな、うち3人以上は死ぬかもしれないし全員死ぬことも大いにある」

疾「“決死”ね」

ハープ「死ぬ覚悟がなければ困る」


誰もが何かを言いかえしてやりたい顔をしていた。それでも何も言えなかった。

ハープさんも同じ場所に行こうというのだ。

彼女と共に行くということは、彼女と同じくらいの覚悟で町を守ろうということ。

踏ん切りがつかない臆病者でも、彼女に「捨て駒なんて」とは言えないのだ。

駒の内には彼女もいるのだから。



ハープ「おいおい、時間がないぞ。誰も名乗り出ないのであれば私一人ででも行くが?ま、撃退はできても討伐までは難しいかもしれないがね」

焔「……」


挑発するような小生意気な黒い目に諦めの色が浮かぶ前に、俺は手を挙げた。
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/06(木) 00:21:00.97 ID:gLJRvoDG0
ハープ「おっと、ようやく一人か」


その割には待っていました、といわんばかりに喜の色のある表情だったが、今はそんなこと言わない。


「ホムラ、本当にお前いくのかよ」

焔「大丈夫だって、俺には妻子もいないしよ」


加えて死ぬつもりも更々ないけど。


ハープ「調子に乗るなよホムラ、歴戦の勇者も戦場では一瞬で命を落とす」

焔「ああ、よく本でそういうの見る」

ハープ「出会った時のお前は注意散漫、隙だらけだったな?今まで生き残れた偶然は幸運と呼ぶほかあるまい、自覚はしているな?」

焔「戦の女神とやらに感謝しなくちゃな」

ハープ「…くく、面白い。時に蛮勇は、脚の竦む勇者より役に立つ。いいだろう、だが覚悟はしておけよ」

焔「わかってるよ」


焔「…ただ、銃は良いんだけど、もひとついいかな」

疾「…」

長「…」

限「…」

ハープ「?」

焔「…邪魔にはしないから、こいつを持っていきたいんだ」

ハープ「…」


やや幻滅したような眼だ。

それでも。それでもこいつを持っていきたいのだ。

不格好なこの槍を。
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/06(木) 00:40:44.56 ID:1VGeALVho
やっと焔の槍が登場か!
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/10/06(木) 00:48:16.40 ID:MdB3MJ8No
期待C
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/06(木) 09:10:51.32 ID:YxO4MXUIO
いつもC
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/10/06(木) 18:57:15.00 ID:aGZv/glfo
というか全部食土が悪いんじゃなかろうか……性能はいいんだけど
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/06(木) 22:31:11.01 ID:gLJRvoDG0
疾「おいおい、ホムラが行くってんなら俺も行くぜ!」

長「俺もだ、ジャベリンも、銃も扱える、不足は無いだろう?」


二人も名乗りを上げた。

ハヤテを嘲笑する者もみんなの中にはいたが、ハープさん自身は笑おうとはしなかった。


ハープ「ハヤテ、お前は子持ちだったな」

疾「おうよ、この町で一等に可愛い妻子持ちの幸せモンだ」

ハープ「早くに親を亡くした子の気持ちがお前にわかるか?」

疾「へっへ、相手にビビってへっぴり腰で生き伸びた親を持つ気持ちもわからねーな?」

ハープ「私も咄嗟にお前を守れはしないぞ」

疾「ガキにお守される大人なんざ、俺の子供も見たかねーさ」ガシガシ

ハープ「おいやめろ、髪が抜けると何度言ったら…」


こんな時でもハヤテはハープさんを子供扱いする。なかなか、あやかりたいものだが見習おうにも図太すぎる精神力だ。


疾「ま、俺が今夜に死んだとしても…俺の娘は将来、そのことを誇りに思う時が来るだろうさ」

ハープ「後悔はいつだって先には立たないぞ」


軽い態度を咎めるように忠告するが、


疾「全力で走ってる時に振り向く余裕はねえよ」


ハヤテは至って真面目な顔で、そう応えた。

これにはハープさんも折れたのか、あるいは拒む気もなかったのか、小さく頷いてみせる。


ハープ「……いいだろう、馬鹿がもう二人追加だ、さあ、あと一人は?誰かいないか?」

長「俺も馬鹿か」
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/07(金) 00:59:55.50 ID:wRzQujVIO
いつもこれを見て寝るのが楽しみ
そしてハヤテのフラグがどうなるのか気が気じゃない…
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/07(金) 02:19:33.82 ID:WPjhitnCo
俺「俺も馬鹿だぜ」
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/10/07(金) 06:52:06.51 ID:1/XnidqLo
俺「俺も俺も」
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/08(土) 16:21:53.14 ID:Y4I/PbVAO
長「そんな事よりおれのジャベリンを見てくれ。コイツをどう思う?」
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/10/08(土) 16:37:25.81 ID:uD9bd8Vyo
焔「すごく…バンホーです…」
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/08(土) 17:03:21.05 ID:Vc24KNQko
お前ら誰得
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/12(水) 20:06:47.31 ID:mxANe81T0
「そんなこと言われてもなぁ、こう、荷が重いというか、あんまりにも…」

「…俺はそこまで銃の腕に自信はないし…」

ハープ「他に死にたい奴はいないようだな?予想を下回って残念だ」


挑発的な言葉の前に、誰も文句を挙げようとはしない。

声を荒げ抗議でもしてみれば、きっとこの不遜な少女は自分に対して、名指しで質問をしてくるに違いなかったからだ。

“お前はこの3人と同じ勇気を持っているか?”と。


彼は自らの立場上、そうして町の皆が消沈していく時を見計らっていたのかもしれない。


ハープ「時間が無いな、数は少ないが仕方な――」

限「そうです仕方ないですね、私が出ましょう」


抑揚のない百科辞典のような声と共に小さく手を挙げた男の姿に、誰もが一瞬言葉を失い、その後に驚嘆した。

町の代表。現在のバンホーの統括者。全てを取り仕切るべき人間。カギルさんが、町で最も危ない役職に就こうというのだから。



まあ、既に手を挙げた俺らからしてみれば、“なーにが仕方無いだよ”といった感じなのだが。



番「えっ…え!?カギルさん!?」

ハープ「――ふ、“クイーンを動かすのは嫌いじゃない”」

限「やっとのことで自陣から這い出し、二歩だけ前に進んだだけのことです」

ハープ「謙遜するな、まあいい、これで良い、駒の数は揃ったぞ、これでやっと始められるというものだ、よしよし」
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/12(水) 21:03:49.53 ID:l9JxTXueo
> ハープ「――ふ、“クイーンを動かすのは嫌いじゃない”」

この台詞ってどっかの棋士がチェスについて批判した内容からとってるん?
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/12(水) 21:13:09.53 ID:KCp+BTg3o
ハープさんに罵られたい
割とガチで
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/13(木) 20:15:34.22 ID:8G5scXmb0
「だが、カギル無しでは…そもそも町の統率を取れるのか、どうか…」

「今まで取り仕切っておきながら、今こんな時に役を変えるなど…」

限「ならば代わりに貴方にお願いしましょう」

「なっ…冗談はよしてくれ」

限「どちらでも構いません、町の総指揮でも、決死隊でも」

「…いいや、遠慮する」

「……」


ハープ「t限「ならばツガエさん、町の指揮の役目は貴女に託しましょう」

番「ええ!?わ、私ですか」

限「ツガエさんこそが最も相応しいと私は思っています」

番「…そんな…私は…私なんてそんな」

限「私が仮の代表となった時、私は真っ先に貴女の能力を見切り、見込みました」

番「カギルさん…」


いつも一緒に居るからまさかとは思っていたが、今この時のカギルさんとツガエさんの間に漂う空気。これはまさに、ちょっと甘ったるいものだった。

薄暗くて見えないが、頬をわずかに赤くしているであろうツガエさんの目はまさに、恋する女性の目といったところだ。


信頼し合う仮町長と仮副町長、良い雰囲気であったが、この場はすぐに騒がしくなった。


徐々に、沈黙を虫食うようにして広がる小声の輪が広場を包む。

陰気なことに、本人を目の前にして陰口を叩いているのだ。


「――町長の娘だからな」

「前々から目をつけていた――」

「町の財産――」


限「静粛に」


「見栄えだけは良い――」

「――やはり変人なんだろう」


ハープ「…」


青筋を浮かべたハープさんが薄く口を開ける瞬間を、俺は見た。

メイスを握った手には力がこめられており、その動きにも細心の注意を払っていた。


けどそんな動きは些細なものだった。



――バゴンッ!



限「静粛に」


砕け散った地面に片足を5cmほどもめり込ませたカギルさんが、いつも通りの表情で場を鎮めたのだ。
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/14(金) 00:13:17.85 ID:nstBnJhbo
限さんぱねぇ
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/10/14(金) 02:53:28.68 ID:Fk+reAw0o
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/14(金) 08:16:07.86 ID:NKxLKIQIO
かぎるん△
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/14(金) 19:50:00.61 ID:Mamn9oFv0
ハープ「……」

「……」

「……」

疾(怖っ…)


誰もが口を閉ざした。刹那の間でも、魔族の存在すら忘れていたのかもしれない。



限「法廷ではありませんが是非とも、私語を慎んでいただければ」


片足から昇る土煙りを見ても、再び口を開こうとする愚か者はいないだろう。即実刑執行の軍法会議が始まっても不思議じゃなかった。


限「…火急の事態です、呑気に語る事などありませんが、ひとつだけ言わせていただきます」


歩を進め、歩いてゆく。紅と白の衣が夜風に翻る。


限「私はあなた方よりも、この町が好きでしょう」


その言葉の意味はよくわからなかった。

ただその一言で、この場にいる者たちの何かは変わった。
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/15(土) 02:42:34.65 ID:8oJ9pf/Co
なぜここで切るし…
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/15(土) 17:39:32.39 ID:gIC4G6IIO
どSだからさ(フッ
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/10/15(土) 23:51:30.41 ID:NS38fuVJo
もう一年続いてるんだよなあ
久しぶりに最初から読み直したらやっぱりおもしろいC
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/16(日) 00:31:26.32 ID:/Lhy3ByAO
酒に酔ったらレスポンス
そうか、もう1年経っちゃったか…なにダラダラしてんだか

仕事から帰って1レス書く の繰り返しでも完結には近づけている 良いことだ

まとめも兼ねて、何か不明瞭な点、質問あるならどうぞ
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 12:07:52.23 ID:mCJwCVuGo
>>833
作者殿乙!
あんたの作品は未完も含めてほぼ読んでるぜ。本当にファンだ。ずっとファンだC

仕事から帰って1レス書く でも進んでるのは嬉しい。投下途切れて数ヶ月とかのSSも多くて。
継続は力なり。独特の世界観を醸し出すお話をいつも楽しみにしています。

質問と言うか、各作品の時系列や相関図があるなら見たい。
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/16(日) 14:00:15.27 ID:/Lhy3ByAO
休日のよいどれ

作品の時系列は80行では書けないのであくまで今回の「槍使い」を基点に見た場合

約200年前に山奥に囚われた奴隷が脱走する

約800年後に魔術師関連の暗殺事件が多発する
その時既に、「紅髪」は巨大ギルドを結成済み
その二年後には国境付近の火山が噴火
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 16:49:46.86 ID:NMdByZGPo
未完結もぜひかいてほしい、記者とか青の国とか
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/16(日) 18:12:46.27 ID:/Lhy3ByAO
\両方未完のままに終わります/
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/16(日) 18:32:13.55 ID:BolQElQWo
せめて青の国・・・青の国だけでも・・・ッ
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/10/16(日) 18:47:07.32 ID:/Lhy3ByAO
【青の国】あおのくに
・各所で一番思わせ振りにしてるのに一番終わらない話

(布団)´・ω・`)2、3回落ちちゃったからもうやだよ
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 22:21:41.99 ID:mCJwCVuGo
>>839
青の国はここで書けば落ちないさ
この話終わったら再投下しながら書き溜めればいい

あと、時系列ありがとうございました
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/18(火) 21:09:11.61 ID:xoMWzAKL0
ハープ(人より町が好きだと思っているのか、町の者よりも町を大事に思っているのか…)

『――どちらでも町を守る事には変わらぬことだ――』

ハープ(……カギルは、本気で人を嫌いにはならないとは思うが)

『――些細であるし杞憂でもある、振り払え――』

ハープ(すまない)



ハープ「…では決まりだ、町の采配はツガエに任せる」

番「…はい、私にお任せ下さい」

ハープ「私と4人は町を離れて遊撃だ、死体は持ちかえってやらんからな?」

長「望むところだ」

焔「死ぬつもりはないけどさ」

疾「へっへ、まあ俺も死なねえよ、なるべくはな」


「遊撃はわかった、けど錐砲や弩砲の範囲に潜りこむってことだろ?大丈夫なのか?」

焔「あ」

ハープ「構わん、どうせ当たらんさ…構わず撃てば良い」

焔「えっ」

「わかった、当たっても恨まないでくれよ」


ハープ「よし、他になければ配置へついてもらうぞ」

番「……」

ハープ「…できるね?」

番「は、はい!」
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/19(水) 03:17:51.22 ID:O+s3wE8DO
焔作の武器を使った時のハープさんのリアクションが楽しみであ〜る
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/19(水) 03:19:24.40 ID:JDIzz4Nno
ぎゃふんと言わせたいわ
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/19(水) 23:03:41.20 ID:QU2dFbUz0
風車が回っている。風は海側から吹いているらしい。

それでも潮臭くはない。風は森で洗われているようだ。


5人の影は遠くの火で薄く延ばされ、人々の騒がしい声は微かにしか聞こえない。



疾「一人につき銃が4挺かぁ」

長「いざこうして頭数を並べてみると、心細いものだな」

限「銃だけではありませんよ、もっと心強いものはあります」

焔「心強いものかぁ…」



背中に槍。

腰に刀。

両脇に剣。

腿にジャベリン。


ハープ「……」


手にメイス。


焔「まあ、心強いよな」
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/20(木) 07:28:47.79 ID:meS/83bIO
俺「ぎゃふん」
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/20(木) 20:36:05.37 ID:uE6+n1lC0
いざ行こうと足を踏み出した時、


「ほ、ホムラさん!ちょっと!」


慌てた声が俺を止めた。


護「はあ、はあ…あー間に合った、行く前で良かった…」

焔「マモリさん、どうしたんですか?そんな息乱して」

護「い、いやあほんとっ、命知らずの患者さんほど手にかかるものはないわっ…」


ずずい、と俺の眼前3cmに差し出される白い何か。近すぎて見えないので、一度手に取ってから確認する。


焔「包帯」

護「ふー……それは予備のね、危険だから」

焔「いやあ、わざわざすいません、ありがとうございます」

護「良いの良いの……あ、じゃあ3人にも、これ受け取って」

長「え?あ、ああ」

限「ありがたく、使わせていただきます」

疾「あざーっす」


マモリさんは木箱の中から次々に医療品を掻きだしては、それらを各々に突きつけていった。

ハヤテには何故か副木だけだった。


疾「ちょっとなんだこれ!これだけじゃただの木くずだろーが!」

護「みんな…頑張ってね、私は町の中で祈っているしかないんだけど…」

ハープ「それぞれがそれぞれのベストを尽くせばいい、気に病む事などないよ」

護「…うふふ、ハープちゃん…ありがとね」

焔(なるほど、本命の目的はこっちか)
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/21(金) 12:29:04.64 ID:5vC+v/vIO
しえんぬC
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/22(土) 23:39:52.31 ID:SZKHGViHo
お医者さんの移植した腕は>>139のやつだよね
800年ずっと魔族はいるもんなんだな
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/24(月) 20:50:58.93 ID:O3kuOGN40
マモリさんとも別れを告げ、寂寥の道を歩む。

ハープさんを先頭に、カギルさん、ナガト、俺、ハヤテという並びだ。

彼女に先頭歩かせるのは絵面として気の引ける所はあったが、本質は皆解っていたので誰も言及していない。


ハープ「気を緩めるなよ。思わぬ時間を食ってしまったんだ、敵は近い」

疾「へ、へへ!何を!俺ぁいつでも臨戦態勢だぜ!」

ハープ「どうかな…」


風が吹いた。やはり海からの風だ。

ただの風のはずなのに、向いから吹く生ぬるい風は緊迫した空気を運んできた。


ハープ「…そろそろ林に潜ろう、“危難のダマ”を探す」

長「了解だ」


ついに俺ら決死隊は、深い緑の中へと紛れた。

ここからは、ヘタをすればもう人の整備した道を歩くことはできない。

死ぬ時が訪れたらそれは、獣道で息絶え、取り残される。そんな死にざまが待っているだろう。

決死隊は誰からも骨を拾ってもらえない。最後のチャンスだ。覚悟を決めなくては。



焔「…気を引き締めていこう、ちょっとでも油断禁物だ」

限「ええ」


下草を蹴りつつ、ひとまずは前へ前へ進む。

中央を進んだ先に、安易にキングが居座っている可能性を信じて。
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 07:59:48.82 ID:d3gBdXUIO
安定感が揺るぎない作品だ
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 11:14:29.48 ID:gVFrsneIO
(^-^)/
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/25(火) 16:42:18.33 ID:532k8lQuo
)^o^(
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/25(火) 20:35:14.07 ID:FZLRgHRU0
悠然と歩き去った雄姿を見送りきる前に、声を出した。


番「…さあ!私達も負けてはいられませんよ!」


二度の大きな手拍子で、呆けた全員の目を覚まさせる。


番「ハープさん達の動きはあくまで遊撃、本格的に迎撃するのは我々の役目!他人事じゃないんですよ!」

鐸「その通り!町を守るのは、何よりもわしらだ!」


自分の言葉の勢いに乗ってくれた老人に多少驚いたが、ここで畳み込まなくてはならない。

皆を動かすのはもうカギルではない。自分なのだ。


カギルが認めてくれた自分がやらずして、どうするのだ。



番「敵が四方八方から攻めてこようとも、今のバンホーは中途半端な古城よりも堅牢です!」

「…カギルさん無しで本当に…」

番「カギルさんが居ないからって何ですか?実際にこの町を守りぬいて来たのは、決してカギルさん一人だけではないはずです」


番「バンホーを実際に守ってきたのは、いつだって他ならぬ私たちではないですか!」



「……元町長の娘、ツガエ…あんたは、逃げないだろうな」

番「絶対に逃げません」

「カギルのように、うまく指揮をとれるんだろうな」

番「絶対にうまくやれます」


自信を前面に押し出して、しかし真心のまま正直に答えた。

絶対に逃げない。絶対に守って見せる。品定めするような皆の目がこちらの様子を窺っている。

だから私は言ってやるのだ。



番「絶対に、バンホーを守り抜きます」
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 20:43:32.06 ID:EKBh789go
番△
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/25(火) 21:44:01.26 ID:532k8lQuo
三勇士っていうけどみんな頑張ったんだよね
・・・あれ、三・・・?
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/26(水) 03:22:35.08 ID:pobTIXwdo
ハヤテー!!!!( ;´Д`)
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 07:43:27.17 ID:1AW9JvmIO
>>855
それは言っちゃあかん▽
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/26(水) 20:36:00.43 ID:Rr0TEEs50
鐸(カギルさん、それがあんたの真心なんだな)


華奢な声を張り上げて指示を回すツガエを遠目に、誰にも知られず頷く。

町長に対しては取り去れぬ遺恨を持っていたし、少し前まではツガエに対しても勝手な想像として、その面影を投影していた時もあった。

もちろん、ツガエには町長の面影など欠片もないことは、彼女に会ってすぐにわかったことだった。


彼女は嫌味も打算もない、素直で無垢な心を持っている。

下心の塊のような町長が彼女の爪の垢を舐めれば、拒絶反応でも起こしかねないほどに、あの親子は似ていない。

だが町の人間は、彼女の顔の目もとと鼻の形だけを見て、町長の醜悪の全てを見透かした気でいるのだ。

良い青年が、良い老人が、こぞって彼女を貶めようとする様のなんと惨いことだろう。



番「サナキさーん、連絡本部は町中央に移しますから、荷物を運ぶ準備してくださーい!」

鐸「んー?おお、まかせときい、若いもんの2倍は運んじゃる」


それでもカギルさんだけは彼女の本質を見つめ続け、正当な評価を与え続けてきた。

カギルさんがいなければ、彼女は一体どうなっていたのだろう。今こうして、溌剌とした顔で壁を乗り越えられていただろうか。


鐸(ふっふ、馬鹿なこと考えてる場合じゃないか)

鐸(皆がいて、そこがバンホーだ。必要のない釘なんて、ひとつもないに決まってる)
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/26(水) 23:34:12.77 ID:Vu/CFc22o
>必要のない釘なんて、ひとつもないに決まってる

名言入りまーすC
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/27(木) 00:05:24.83 ID:0+Dw4qM+o
よく組み立て式の小さい棚とかかうと数本余分についてkげふんげふん
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/27(木) 06:58:19.94 ID:kSrHw1y+o
予備と言う、大事な役目を果たしているわけで
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/27(木) 08:06:45.16 ID:sMFBBgyIO
とにかくクオリティ高いしえんぬC
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/30(日) 19:45:51.29 ID:4FLRIHT00
狭い間隔を保ち、5人組の決死隊は林をゆく。

道など無いので草木を掻き分けて進む。先頭のハープさんがメイスで枝を払ってくれるので、後続はわりと歩きやすい。


もう何分も急ぎで歩き、慎重に進んでいるが、敵と遭遇していないわけではない。



ハープ「…」スッ

カギル「!」


またハープさんが敵の姿を見つけたようだ。

沈黙する彼女がメイスで指し示す先には、ほんの小さく青い光が灯っているように見える。


長「…くそ、こちらに気付いていない敵を見つけても、先手を取れないとは…」

焔「仕方ないさ、雑兵相手に暴れて気付かれでもしたら、敵も逃げるだろ?」

限「その通り、我々の目標は“危難のダマ”のみですからね」

疾「ってもよぉ、本当にこの先にいるのかぁ?あのガキ、いない確率の方がわずかに高いーとか抜かしてたぞ」

ハープ「敵が近い、喋るな」

疾「…」


色々と不満や疑念もあるが、行動だけは俺らは素直なものだった。

今はハープさんの予想…と、勘を信じてみよう。



ハープ「…!そろそろ、まずいな…」


だがこの時既に、俺らの進行方向には、鶴翼にも似た炎の行灯が見えていたのだ。
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/10/31(月) 22:02:45.64 ID:PwtnUqR50
ハープ「…一旦止まれ、静かに前方を見ろ」

長「これは…不味い、事になっているな」


歩き通しの疲れも癒えない休憩が訪れた。

このまま歩き続ければ、広く展開した敵と嫌でも対峙してしまうだろう。


蒼炎を直接見ることができないが、この葉の隙間から洩れるわずかな灯りが、禍々しい存在を強調している。



焔「…迂回して避けてみますかね」

長「…相手が気付いていないとはいえ、この距離からでは難しいな…変に動けば気配を悟られる、得策とはいえんだろう」

限「目の前の敵に対して横の移動、嫌でも目立ちますからね」


ハープ「…攻めが堅いのか、守りが堅いのか」

疾「ん?」

ハープ「前衛を先捌又、後衛を横一文字に並べて進めるとは、なかなか見れない盤でね」

焔「?」

ハープ「とにかくはっきりしない並びなんだ、普通は先捌又でも後衛は蕪に構えて、いつでも左右に分けられるようにするものだ」

長「?」

ハープ「捌又に横一文字…遊撃を読み、指揮官の場所を悟らせないための“面”での後衛…?それとも気を取らせて時間稼ぎ…」

限「?」

ハープ「…6、秒…くれ」
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/01(火) 00:14:36.62 ID:Li9hy+iIO
⊥←な感じか?
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/01(火) 13:40:06.04 ID:xVWrTcNIO
6秒ってやっぱ凄いなハープ嬢

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867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/01(火) 16:17:32.50 ID:+R6Jbjkqo
ソープ嬢みたくいうな

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868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/01(火) 22:34:28.73 ID:l5VD9u840

―――――――――――――――


『詰まっているようだな、人の子よ。我を頼るとは』

ハープ「…欲しいものは助言だけだ」

『それこそ我の力だろうに、まあその椅子に掛けるといい』

ハープ「……」

キシッ


『今は、テーブルに紅茶はいらないだろう?』

ハープ「…そのポットはココアだ」

『ほう、だが消させてもらおう…かわりに』シュンッ


『…チェス盤を』ゴトッ


ハープ「我々がこちら」カッ

『敵は此方に』カッ


ハープ「わかっているだけでは左右に敵が捌又を組み、前には一文字」カッ、カッ

『敵の“網”に囚われた形か、猟師を食らう魚としては好ましい形ではあるが、網の形はよろしくない』

ハープ「網の狭まる所を進んだ先に猟師の手はあるものだが、これではまるでわからんな」

『正面に座を構える可能性は残っているが、ここまで特殊な陣となれば早計は危険と見るべきか』

ハープ「危難だな」

『一部のみを切り取り考えるならば、我ならばこの陣を囮とする』

ハープ「遊撃を読み、なお逃げ道を封じたと」

『袋小路と気付く頃には退却せざるを得ない網、撒くならば複数だろう』

ハープ「我々は知略で既に敗北したと?」

『それはない、これはあくまでひとつの道筋のひとつに過ぎぬ、敵の目的が“網”のみとは限らぬ』

ハープ「で、あれば…?」

『……ふむ』


『…“戦車”』

ハープ「…!」

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869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/02(水) 22:55:39.25 ID:Sjfw4vyt0
『一個の存在であるならば、それにはもはや陣を組む必要など無く、配置などは微々たるものだ』

ハープ「この並びがひとつの完成であると」

『ひとつの戦車が単騎で進む時、そこには陣としての概念などは不要』


『発想せよ、そして発想を拘るな、発想し続け可能性を塗りつぶせ』

ハープ「…」

『角をつきつめることが全ての思考ではない、あらゆるピースを空白の海に投ずる事こそ』
ハープ「うるさい」

『……』

ハープ「……」



ハープ「…ひどい可能性を発想した」

『とは』

ハープ「……――――」

『正答である可能性は高い』

ハープ「当たっていたとしたら、私はちょっとまぬけだな」

『表での6秒だ、部屋から出て行くが良い』

ハープ「お邪魔したね、すまない…また近いうちに来ることもあるな」

『知を求める者を、我は拒まぬ、いつでも来ると良い』
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/11/03(木) 00:27:04.57 ID:frfOHURio
ハープさんに踏まれたい
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 03:03:50.02 ID:GDpS65hlo
奇遇だな俺もだ
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/03(木) 11:34:52.86 ID:p0VSbNIAo
追いついちまったよ……
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/04(金) 08:13:33.51 ID:SO83PRrIO
ハープさんは任せた!
ホムホムはオレの嫁!
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/04(金) 19:45:01.46 ID:K+W3hwFB0
疾「ろー」

ハープ「待たせたな」

疾「」

限「相手の目論見について何かわかりましたか」

長「目の前に敵が迫ってる、それが先だ」

ハープ「落ちつけ…相手の進軍はさほど急ぎではない、説明する余裕はある」


ハープ「まず…我々決死隊は中央を選んで正解だったということか」

疾「おっ?マジか」

焔「敵の大将さんが居るんだな?」

ハープ「この暗さ、邪魔な枝葉…目を引く蒼い炎のおかげで視認はできないがね、間違いない」

限「…次に、今この状況をどう乗り切るか」

ハープ「……それについてだが」


長「…どうしようもない、か?」

疾「っ!」

ハープ「有り体にいえばそうだが、来た道を急ぎ足で…悟られないように退却するという手もある」

焔「難しくないっすか、それ」

ハープ「さあね?まあ、クリアしなければならない関門は多いとは思うがな」

ハープ「敵の懐でほぼ同じ歩幅で行軍し、」

ハープ「町に近い拓けた場所に出たら砲撃の嵐の中を背中を見せるように駆け抜け、」

ハープ「味方の錐砲の弾と、数多の銃弾を避けることができれば可能ではあるというだけのことだ」

疾「ははは、目の前の敵に突っ込んだ方がまだ希望はあんな」


疾「……あっ?」

ハープ「中央だけでなく、右でも左でも好きな方で構わないけれどね」

限「囮覚悟で来たのです、今さら躊躇うこともありません」

ハープ「…そう言ってくれると、打ち手としてはありがたいね」


ハープ「目指すは、できるだけ正面…可能な限り派手に蹴散らすといい」

焔「その隙にハープさんは敵の大将まで一直線…ってことだな?」

ハープ「……」

焔「?」
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/04(金) 22:08:49.06 ID:9ZE8qStIO
しえんぬ
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(栃木県) [sage]:2011/11/04(金) 23:10:11.47 ID:FC4V9u8to
+(0゚・∀・) + ワクテカ +
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/05(土) 17:37:26.86 ID:6CnsOGgCo
過去作やら見てきたけど、>>853の通りだとするとおかしくね?
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/05(土) 17:42:39.47 ID:6CnsOGgCo
安価ミスってた>>835
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/05(土) 17:56:15.84 ID:hHd6DgUIO
どの辺りがおかしいのか分からん
おせーて
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/05(土) 19:26:50.91 ID:6CnsOGgCo
>>879
このSSのほむら達は少なくとも紅のギルド結成から1000年はたってるはずだよね?
でも、別のSSでたぶんこのほむら達の後の話があったんだけど、それを読むとあれ?って思ったんだけど、俺の勘違い?
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/11/05(土) 20:30:41.59 ID:lxtqNje1o
え、そのずーっと昔の話でしょ?
ギルド結成の時は成長ハープさんも出てきてたし
ハープさんじゅっさいに踏まれたい
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/05(土) 20:37:17.26 ID:iqPRI91IO
作者でないがこれは言い切れる
このSS(バンホー襲撃)は紅ギルド結成以前
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/05(土) 21:21:24.91 ID:6CnsOGgCo
いや、俺もそうだと思うんだけどさ
>>835によると、槍使いのこのSSを基点として200年前、800年前って書いてるじゃん?これって槍使いの話の200年前、800年前ってことじゃないの?
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/05(土) 21:36:18.18 ID:6CnsOGgCo
うおーー
読み違えてた!!!
800年後か!!
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関東・甲信越) :2011/11/05(土) 21:45:24.59 ID:J+Uy+jBAO
ノハープ−゚)…
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 15:12:10.78 ID:PWhp36PIO
>>884
まあ落ち着けwwww
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/07(月) 20:15:16.39 ID:cBWsOma+0
銃撃が始まった。

粋を揃えて一斉に放たれた弾丸は、前方で固まる標的へ襲いかかる。

突然の一斉射撃に、魔族の一群は成すすべなく斃れるだろう。


ダマ「! そこか」


前方に敵がいる。それは間違いない。

だが大将はいなかった。


それでも決死隊は、目の前の先に慌てふためく総大将がいることを願い、猛攻を続けるのだ。




ダマ「ィィィィィィィ――……」


人間の耳では聞き取れない高周波の号令が、木々の狭間を抜けて辺りの魔族に届く。

指示座標の標的から特定距離にいる全ての惨劇軍に通達。総員にて見晴らし良く殲滅せよ。人間の言語でいえばそういった内容だ。


ダマには敵の居場所がわかっていた。

銃声しか鳴らない森の中でも、的確に相手の位置を掴み取ることができていた。


それは翼ある者にしか許されない、俯瞰での戦況把握。

蒼い炎の灯りを囮とした、梢の真上すれすれの闇に溶け込む司令塔。


敵の動き少しでも感じ取れれば、いつでも指示を出せる絶好の位置。


危難のダマの居場所、それはハープ達の真上だった。



――ダンッ


ダマ「正面突破なんざ阿呆のするこった、キキキ…左右からの挟み打ちで死んでもらうぜ、マヌケめ」


――ダンッ



ハープ「マヌケっ面に言われたくはないね」

ダマ「あ?」



幹を2度だけ蹴り、枝葉を貫き、ダマの眼前にまで接近したのは、左拳を強く握りしめた少女の姿。
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(熊本県) [sage]:2011/11/07(月) 22:44:15.13 ID:DEIUzkljo
期待期待
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 08:58:35.69 ID:6J7iDwp5o
wkktk!!!
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/08(火) 21:09:50.19 ID:0LiHWZT50
前方に特攻した決死隊は予定通りの囮。

騒ぎを立てて、少しでも注意を引きつけるための時間稼ぎ。

“嵌めてやった”と踏ん反りかえっている司令塔など、居場所さえわかれば、叩くのは容易だ。

だからハープはあえて初撃にメイスを使わず、左の拳を握った。

隙だらけの相手、防がれはしても、まず外すことはない。魔力で強化したメイスで一撃を与えるのもアリだが、一旦強化した杖で魔術を扱うには多少のロスが生まれる。


ハープ(ならばまず左手で殴り―――)ヒュ


重い拳がダマの顔面を捉えた。


ダマ「ぐッ!させるか!」


だが寸でのところでダマの腕に阻まれる。それでも充分に強化された拳の威力を殺すことはできず、


――ゴンッ!



鈍い音を立てて、ダマは緩やかに森へと突き落とされた。

ハープは殴った直後も、落下予想地点を見逃さない。


ハープ(煩い口を潰しておきたかったが…まあいい、すかさず魔術で追撃する)



決死隊の暴れる方向とは逆に落ちて行ったので、彼らが巻き込まれることはないだろう。

存分に強い、範囲の広い魔術を行使することができる。


まずは視界の悪い木々、これらをなんとかできる術でなくてはならない。風や水の術では生ぬるいだろう。

咄嗟に思い浮かんだのは火の術だが、その選択肢はすぐに取り払われた。



「“ジック・ジャガンボルッカ”ァァアァア!」


メイスを向けた先の風景が、文字通り歪んだためである。

局地的高熱によるかげろうが、森の一角を円形にゆがめている。あの熱が向かう先は?考えるまでもなく、術は編み上げられた。


ハープ「“スティヘイムの盾!”」


杖の先から魔力が展開され、瞬時に巨大な鋼鉄製カイトシールドが現れる。

盾は宙には浮かないが、留まっている間だけでも術者を守れればそれでいい。運が良ければ自由落下も微笑んでくれるだろう。


ハープ「っ!」


盾だけでなく、左手からも無詠唱にて術を展開する。

無詠唱による燃費の悪さと中級の術であることも相まって、舌打ちしたくなる程度の魔力が浪費されてしまったが悪態つく暇もない。

左手からは多量の水と冷気が放出され、盾の裏面を覆い尽くすように氷が張られた。
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/08(火) 21:22:56.93 ID:7bSPsS7Ro
それでそれで!
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 22:07:41.29 ID:6J7iDwp5o
熱いぜ
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 00:13:06.54 ID:sNo4txXIO
wktk
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/09(水) 20:21:30.34 ID:mTAmGnuo0
氷が盾を覆う直前に、膨張する熱波は幹の破片を吹きながら押し寄せてきた。


ハープ(熱線ではなく爆風か!)


銃声も掻き消える爆音が赤い風と共に疾走し、盾の元へと駆ける。

大きな盾は爆風を防ぎ、氷は強い加熱を抑えた。

それでも吹きつける熱い空気と森の破片は盾を押しやり、延長上のメイスを握る少女に衝撃を与えた。


ハープ( 、ぐ)


右手とメイスを強化。先端の盾だけが頼りだ。

盾を頼らず肉体強化により防ぐ手もあるが、辺りの熱量を量るに消費される魔力の量は盤をひっくり返しかねない。


ハープ(だが落下まで、相手に好き勝手させるわけにはいかない!)


イニシアチブを取られたままで戦えるはずがない。

後手に回り続ける奴はルーキーか、敗者だけだ。



ハープ「“ステルス・グースカル・カールグスタフ”!」


風の中・上級術。式を編み上げ、媒体の中央から強力な突風を発生させる。

反対方向にも風を巻き起こすために反動は無い。風の術の中では珍しい、術者に風の影響をほとんど及ぼさない術である。



メイスから放たれる風は螺旋を描き、カイトシールドの裏側を叩きつけられる。

裏面に残ったわずかな氷が弾け飛ばされ、熱風の余波に解かされ蒸発した。


ハープ「まずはこの蒸し暑い風をお返しする」


盾は追い風と共に、熱風吹きつける方向へとゆっくりと押し込まれる。




ダマ「…キキキキ…!来ると思っていたぞ惨劇狩りィィイ…!」


魔方陣を描く額の眼で弧を描き、魔族は笑った。

次第に、周囲の銃声も聞こえるようになってきた。
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/09(水) 21:47:50.36 ID:mTAmGnuo0
――ダンッ


ハープ(盾はすんでのところで落下したか、どうせなら一発ぶつけてやりたかったが)


すっかり下草も掃われた大事に降り立ち、すぐ走りだす。

メイスに故障は無いし、魔力消費もまだ割にさえ届かない。余裕はある。


空へ向けて放たれた熱風により、森は抉られるように一角を焼け野原とした。

視界が開けたのは結果オーライにせよ、相手がこちらの奇襲を読んでいたかのような対応の早さには、まだ一枚上手を乗せられている嫌悪感が拭えない。


ハープ(掌の上で踊るのは私か、お前か)


相手は知将だ。その手は策を握っているはずだ。

それでもメイスは離さない。


敵の足下に飛びこむのもひとつの戦いなのだ。

飛び込み、手中の策を零させるのも、また戦いだ。

策士が策に溺れることもあるというのであれば、無心に敵を叩く強引さも、決して無力なはずがない。


全身に肉体強化を施し、誰よりも早く敵の元へ駆ける。

土煙りで見えないその場所に敵はいる。まずはそこを叩く。


ハープ「“スティ・アンク”!」


乱回転する鋼鉄のイカリが、煙の中へ投じられた。

イカリが敵を押しつぶす可能性など度外視。再びメイスを握りしめる。
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 23:36:57.12 ID:uwx6FRTIO
二投下もktkr!!!
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/10(木) 20:58:22.47 ID:IAw5o+yC0
やかましい轟音。イカリが落下した音だろう。

音と同時に敵は既に煙を脱し、こちらへ走っていた。


姿勢は低く、腕を広げ、後方には羽衣が風を斬り蠢いている。羽衣が様々な形状に変化する事は、前々回の戦闘で発覚している。超硬度の刃に変形することも可能だと考えて損は無い。


ハープ(大振りの攻撃をまともに受けてくれるほど易しくはないか…なら)


俯き加減に顎を引き、上目遣いに。口元は砂漠色の布により隠された。


ハープ「―“――”―…!」

ダマ(くそ、聞こえねえな…だが構うか)



二人の距離が縮まる。互いに思惑がある。

ハープは仄かに輝くメイスを後方に構え、ダマは羽衣を揺らめかせている。

どちらが先に、どんなアクションを起こすか。

二人とも後手に回るつもりはなかったが、思慮深い相手を前にしては、出方を探るのも悪手ではないと考えていた。


ダマ「…キキキ」

ハープ「!」


だが一方は、待ちを許しはしなかった。




シドノフ「…コォオオォ」


視界の端に捉えた強く光る青の影が凶兆を告げている。

目の前には怨敵が迫るが、それより先に攻撃はやってくるだろう。
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 10:21:13.59 ID:lq305Tnpo
ワクワクC
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/14(月) 19:58:05.70 ID:9RvJavl+0
ハープは考えた。

目の前にダマ、横からは砲撃手が既にこちらへ狙いをつけている。


絶体絶命かといえば、実はそうでもなかった。

現状を回避する手段が残されていないということはなく、ただ“してやられた”一手であるという、それだけだ。挽回はいくらでもできる。



@術によって打ち出される鉄柱をシドノフに放ち、ダマの攻撃をメイスでいなす。

A術による鉄柱をダマの攻撃地点に落とし、シドノフの砲撃をその鉄柱によりなんとか防ぐ。

B術を解消し肉体強化へ切り替え、ダマを蹴り砲撃の射程から離脱する。

C術を解消し肉体強化へ切り替え、ダマを盾にするように砲撃から逃れる位置へ跳ぶ。


大まかに4パターンあるここから取捨選択し、アレンジを加えて行くのは容易い。

だが目の前のダマがどう反応するかによって決まる部分が多いので、相手にダメージを与えることはできないがAを選ぶことが最良のように思えた。



ハープ(決まり、予定通り“スティ・エンジュ”を…)


横目でシドノフを見やる。

最終確認として、砲撃の向きを復習しておきたかったのだ。



ダマ(!?)

ハープ(なに…?)


両者とも、決闘を左右するシドノフの姿を見て、一瞬のうちに思考が固まったようだ。

ハープには何が起きているのかわからなかったし、ダマにも何が起こっているのか、理解できなかった。



気付けば赤く燃える炎は、あちらこちらで眩く夜を照らしており、

ハープを狙っていたシドノフは、一際目立って赤く燃えていた。
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 20:07:34.03 ID:4+8bNUgzo
イイヨーイイヨー
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 20:22:49.83 ID:UOweFjMJo
フレイムたんキターーー!
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(熊本県) [sage]:2011/11/14(月) 20:39:35.50 ID:12IuPBsYo
これは期待ww
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(埼玉県) [sage]:2011/11/14(月) 20:45:48.97 ID:UfEg/GZlo
出た!ハープが馬鹿にしてた錆びた武器ww
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/15(火) 01:05:22.21 ID:f9g0Q++eo
もりあがっがががが
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 05:25:25.47 ID:jLTtDvwQo
これは燃える
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 18:31:48.13 ID:2KT8A83IO
前作のURL誰かください
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 18:58:50.44 ID:Ynd/xRuzo
過去作品は多数あるし散らばってるから、自力で探してみるしかないな

この作品の前作は「まおうさんは良い人」でググりな

作者さん勝手に紹介失礼しました
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/16(水) 20:47:54.67 ID:YfoRniT90

ハープ(山火事だと…いや違う!良く見れば燃えているのは敵の雑魚だけ…!)



煌々と滾る炎が視界を広げる。

人には希望の、魔族側にとってみれば絶望の光景だ。



ダマ「くっ…!よくもッ!」ヒュ

ハープ「!」


振られた羽衣の刃をメイスで受け止める。

重い一撃だが、強化された鉄棒を断つほどの威力はなかった。


不意に先手を取られたハープは連続して放たれる羽衣の刃に暫し防戦するが、口では詠唱を開始する。

先に詠唱だけ済ませて、魔力による強化を解くと同時に一気に式を完成させて術を放つ。ある程度の技量が必要なテクニックだが、不可能はない。



ハープ「“イアス”!」


炎の初等術。ほぼ近距離でしか効果を成さず、火を発生させるだけの術だが、火力の程は術者で決まる。

メイスの先から噴き出る炎は、大きな鞭のように撓りながら目の前を飲みこんだ。


ハープ「!」


だが炎が掻き消えてもそこに消し炭はなく、敵は後方へと距離を取っていた。素早い判断だけでは説明できない、あらかじめこちらの動きを予測しての位置取りだ。



ダマ「そう易々と殺せるとは思わなかったが、残念だ!しかしてめぇを足止めする目的はほぼ達成された!」


羽衣は蝙蝠の翼へと形を変え、魔族は高笑いと共に空へ駆けあがってゆく。


このまま再び捜索するとなれば、かなり手間取るだろう。空を飛ぶ相手を再び見つけるのは至難の業だ。



ハープ「逃がすものか…!“スティ・”…」

「貴様が“危難のダマ”!友の敵だ!殺してやる!」



少女が術を放つより先に、火炎の弾丸が飛んでゆく。
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/11/16(水) 23:07:14.14 ID:oatU+X2AO
前スレ一覧


まどか(変な人がいる…) 焔「ここは一体…」

疾「さっさと帰って寝てろ!クソガキ!」 ナギ「なんだとぉ!?」

長「ここはどこだ!?答えろ!?」 キョン「ど、どこと聞かれても部室としか…」
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/16(水) 23:29:24.70 ID:XQV6fmU+o
ながと△
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 23:44:53.29 ID:b6w+DmRyo
>>907
それの続きはどれさ!
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/16(水) 23:46:23.50 ID:YfoRniT90
赤い火の粉の軌跡を残し、炎に包まれた物体は真っ直ぐ空へ伸びてゆく。


ダマ(クソが!魔術を扱える奴が複数いたとは!)


空へ離脱しかけた彼も、接近する異変に気付いた。

赤く赤く燃える火の玉。まるで、シドノフの砲撃のような攻撃である。



意表を突かれた為に回避はできない。それでも防御はできる。


とはいえ、今羽衣は“翼”を成している。この場で翼を解けば、地上に落下してしまうだろう。

そうなれば敵の思う壺、再び“惨劇狩り”と戦うことは必至だ。それだけはなんとしても避けなければならなかった。


ダマ(多少のダメージは上等だ下等生物め!腕で止めてやる!)



惨劇軍の大半は熱、それも炎に弱い。

ダマのような希少種に関してはある程度例外ではあるが、それでも炎という高エネルギーをその身で受けて平気であるはずはない。


強化した左腕を延べ、高速で接近する炎の弾丸を受け止める。


――ドッ



ダマ「――はッ…ぁあああ!?」



炎の弾。炎の塊。爆炎を孕む砲弾。

彼がイメージするそれら全てを凌駕する激痛と損傷が、左手を襲った。


ダマ「ギャァアァアアァッ!?」



手の甲を貫き、深々と広げられた傷口。そこから伸びる、白熱の刃。


爆炎の塊などという生易しいものでは決してなかった。当たれば消えるような軟弱な魔術ではない、遥かに凶悪かつ、強烈な一撃だ。

ジャベリンの刃全てが白熱し、刀身は造られた肉体を、それも傷口の内部から焦げ付かせる

。もはやジャベリンは、肉体強化のみで防ぐことできるの熱を遥かに上回っていた。



ハープ(なんだ…今のは)



腕が焦げ尽きてしまう前に、ジャベリンは強引に引き抜かれた。

余裕なくジャベリンを放り捨て、ダマはわずかに炎をこぼし続ける左手を抑えながらも、不安定に飛び去っていった。


それは命からがらといった、無様な姿でもあった。
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 00:19:00.22 ID:/VRPLEJlo
おつんつん!
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 06:10:24.65 ID:Z5Nwg0n/o
何と言う熱い上に火傷しそうな展開
しかも2投下C

>>911
それの続編がこのスレ。
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 12:43:03.17 ID:redsAThm0
ながとさんかっけー
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 14:14:24.71 ID:XKe6mAbDO


おつww

おもわずニヤニヤしたww
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/17(木) 20:07:30.63 ID:TUbHrnLy0
「逃げられたか、追いかけるぞ」

ハープ「!」


自然と、空を舞う火花の軌跡を目で追っていた。

振り向けば、そこには炎を背にして立つナガトの姿があった。


長「魔術は便利だが、取り回しの良さはさほどでもないようだな」


紐のように細い鎖を強く手繰り、一息でジャベリンは右手に戻ってきた。茶褐色の刀身の先は熱で赤く光っている。

血を払うように刃を振ると、眩しい火の粉が土の上に落ちた。



ハープ「…その獲物は、術ではないと?」

長「“トビヒ”」

ハープ「なに?」

長「こいつの名だ、戦いが終わった後にゆっくり、ホムラ本人にでも聞くんだな」

ハープ「ホムラ…」


「いやぁー、こええこええ、走ってねーと自分で出した炎が追っかけてくるからよー」

「スピードに乗せる斬りの有効性は高いですが、ハヤテさんの動きにはまだまだ課題がありますね」


ハープ達のもとに、他の者も集まって来た。

3人とも服に煤がついてはいるが怪我はないらしい。どうやら、自ら生み出した炎による汚れのようだった。


ハープ「お前ら…」

疾「特攻って一度攻めたきり死ぬもんだと思ったけど、いやー全然だな?銃から刀に持ち替えてからは、死ぬ気というか、怪我する気すらしねえや」

限「もう少し緊張感も持つべきですね」

焔「山火事になってないよな…大丈夫だよな…?」


ハープ(あのわずかな間に、ここ一帯を包囲していた魔族全てを討伐したとでもいうのか)


それぞれが握る赤熱の刃を見て、ハープは驚きを隠そうともしなかった。

敵の逃げた先にすら、しばらく目もくれないほどに。
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 20:21:51.90 ID:/VRPLEJlo
>>914
マジか…
ちょくちょく出てくるから
記者みたいに他にもあるかと思ってたぜ…
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/17(木) 21:16:16.04 ID:pbMxqmvxo
もえあがっがががが
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 23:02:10.55 ID:2FgfJqRDO
これをwktkと謂わずしてなんとしよう!!
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(埼玉県) [sage]:2011/11/17(木) 23:38:27.29 ID:bh4xSLlOo
盛り上がって来たー!
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) [sage]:2011/11/18(金) 00:19:18.81 ID:RHP1tyHXo
盛り上がってきたところだけどそろそろスレが限界
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/11/18(金) 00:40:54.44 ID:6/Vnn2xLo
わーい次スレだ次スレだ
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/18(金) 00:48:34.15 ID:f/AkXkhvo
投下スピード遅いから、あと1週間くらいは持つかもな
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/18(金) 11:30:04.02 ID:z21t62QIO
炎だけに熱い展開wwwwww
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/18(金) 11:32:44.38 ID:NjtPbsIGo
たぶんこの人、次スレとか考えてないから、完結まで>>1以外書き込みひかえようぜ
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/18(金) 20:20:54.48 ID:Us0FtVvD0
4人全員が怪我もしていないというのは、さすがの俺の予想外だった。

そもそも近接武器で奴ら相手に圧勝してしまったという事自体がおかしいのだが、実際にヒバシ石の武器を使ってみれば、そんなものは当然の結果だ、とも思えてしまうから仕方ない。


すぐに高熱を発生させるヒバシ。

そして熱に弱い惨劇軍。敵にとっては相性最悪な武器と言えるだろう。


なにせ熱く燃えた槍を横に凪いでやっただけで、ロッコイとやらの大きな岩のような盾を引き裂いてしまったのだから。



ハープ「……」

焔「あ」


ハープさんは複雑な表情で俺の事を見ていた。

一瞬だけ俺の手に握られた槍の見て、またすぐに俺の方を見る。

この武器について色々と突っ込みたいところがあるのだろう。



ハープ「ふん、使えるものなら使えるものと、早く言え」

焔「あー…まあ…うん」


前からハープさんは刀剣類に対して厳しい評価をしていたので、なんとなく言えなかったのだ。

言う機会もあまりなかった、というのもあるのだが。



ハープ「原理を詳しく訊く暇はないが、銃は必要なさそうだな?」

疾「おうよ、この刀、銃よかよっぽど効くぜ!」

長「むしろ銃で突撃した当初は押され気味だったくらいだな」

ハープ「…そうか」


首元のゆるい布を口へ引っ張り、表情を隠す。


ハープ「なに、使えるものはどんどん使っていこう…新たな課題が出来たからな、再び対策を立て直すぞ」


でも彼女はきっと微笑んでいるに違いない。
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/18(金) 20:23:43.98 ID:ijSaopeKo
ハープサン萌え
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/18(金) 23:10:11.03 ID:ox/uSZwIO
ロッコイ盾が豆腐wwww
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/21(月) 19:35:15.48 ID:Q4WY8sY60
ちょっと、しばらく数日は仕事から帰ったら静養生活に
さすがにこのスレだけじゃ終わらないので次スレは立てるつもり
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/21(月) 20:02:07.86 ID:Viikovfeo
次スレきたー
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/21(月) 20:17:18.39 ID:sJMxQ5DIO
体調管理しっかりなー!
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 17:58:14.91 ID:aD4QSiPIO
埋める前に次スレの誘導をして欲しいから、みんな埋めんなよ!
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 23:09:22.29 ID:QcXHMvLIO
早く元気になってな〜C
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/11/24(木) 17:41:17.84 ID:5n6MMCwAO
症状がわかったので、今日から平常運行に戻る
ただし早寝は必要なので、早めに書くことにする
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/24(木) 18:46:34.27 ID:cwfFdqoIO
楽しみにしてるよ
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/24(木) 20:15:31.46 ID:Q+n3qWdR0
ハープ「敵は太陽橋の方向へ飛んでいったな、私はそっちへ行くが…敵に逃げられた今、もはや全員で向かうメリットはない」

疾「なんでだよ、数で蹴散らしてやろうじゃんか」

ハープ「大勢で向かえば逃げられるだけだ、少数で奴に“勝てる”と思わせなければ」

焔「それって結構危険なんじゃ…」

ハープ「私以外は危険だな」

長「……」


限「つまり、ハープさんが相手に一騎打ちを仕掛けると?」

ハープ「空中の奴とまともに対抗できるのは私だけだからな、相手が乗るかは怪しい所ではあるが…」


ハープ「上位種といえども惨劇軍、所詮は“駒”だ」

ハープ「与えられた命令通り、奴は町を破壊する、諦めはしない」

ハープ(そして、私の抹殺も同等の優先度のはずだ)


長「分かれて行動する、と?」

疾「決死隊の役目終わり?」

ハープ「帰ってもいいぞ、今ならまだ辛うじて開戦前かもしれん」


――ドゴォォ……ン


焔「あ」

ハープ「…どこかで戦いが始まったようだ、もはや引き返せなくなってしまった」

限「我々はここで前線で戦う?」

ハープ「町へ攻め込む前に、叩けるだけ叩く」

焔「……」


どうやら、更なる戦いの渦中へと身を投じなければならないようだ。
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/25(金) 21:37:35.28 ID:dSZBdI1g0
ハープ「…お前らの手にしている不可思議な魔具についてとやかく言うつもりはないが――」

限「魔具ではないそうです」

ハープ「……ともかく、その得物に自信が持てるというのであれば、私からは何も言わん」

疾「シドノフだろうがロッコイだろうが、あんなトロい野郎共ならいくらだって倒せるぜ」

長「俺も、今のところ敵は無いな」

ハープ「…カギル、ホムラ」

限「可はあり不可は無しといったところですか」

焔「俺はまあ、この調子なら大丈夫なのかな…ふとした拍子に死んでるかもしれないけど」


気が付いたら背後から砲撃浴びて四散、ってのもあり得なくはない。

俺の不注意なら現実味はもっと強まるだろう。


疾「おいおい、縁起でもねーこと言うなよ…」

ハープ「縁起も兆もないさ、戦場で人が死ぬなど当たり前、日常だろう」


ハープ「全員戦意はあり、生き残る算段はあるということだな?ならば各々が分かれ、より広範囲で敵の足止めを行うこととする」

ハープ「私は太陽橋へ向かいダマを蹴散らすが、一人は一緒に来て陽動役を務めてもらう」

ハープ「陽動が雑魚を潰し、ダマを怒らせ――そうして痺れを切らしアクションを起こしたダマを、私が刈り取る」

ハープ「もちろん、陽動がなくとも私は見つけ次第戦いを挑むつもりだ」


限「陽動一人以外は散開…いいでしょう、裏方の役目を果たします」

長「俺が陽動に行きたいところだが…」

ハープ「ナガトは先程の一撃を警戒されているだろう、ダマが逃げるかもしれん」

長「適役ではないか…まあいい、一矢報いただけでも俺は最高に幸せだ…雑兵の相手を請け負おう」

疾「おっしゃ、じゃあ俺が…」

ハープ「足が早かったな、太陽橋とは反対側へ行ってもらおう」

疾「…っしゃあ」


焔「…となる、と」

ハープ「一緒に来い」

焔「わかった、俺が陽動になる…隙だらけならなおのこと、適役だろうしな」
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 23:07:38.40 ID:D584LmWBo
今夜もきてたー!
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/26(土) 20:53:20.82 ID:iSfRHWmS0
別行動が始まる。

ここから先、ヘタを踏めば一瞬でお陀仏になるだろう。

爆死か圧死か斬死かも、選ぶことさえできないだろう。

油断が即、死へと繋がる。誰もサポートなどしてくれない孤独な戦いが始まるのだ。


そういえば初日にはナガトも一人でそんな戦いをしていたんだっけ。思い起こすほどにすごい人間だなと思う。まるで修羅だ。ジャベリンでよくそこまで戦えるもんだ。


ナガトが歩んだであろう修羅の道を踏襲するように、先にハープさんが。そのあとを俺が進む。

槍の先を前に向け、枝葉に掠らないよう細心の注意を払う。


俺とハープさんの二人は太陽橋を目指し、整備されていない林を駆けていた。



ハープ「急げよ、手負いのダマがまだここに残っているんだ、奴は今回の襲撃で町を落とすつもりに違いない」

焔「! 決戦っていうことか」

ハープ「また逃げられれば話は変わるだろうが、片腕をやられてもこの執着、自棄ともいえる…そう尻尾を向けることもあるまいな」

焔「…頼んだぜ、ハープさん」

ハープ「頼むのはこっちの方だ、お前がミスしないかどうかに全ての命運が――」

焔「いやいや」

ハープ「?」

焔「ハープさん、この町のためにありがとう…そして、これからも、頼む」

ハープ「……」

焔「ハープさんの一手に危難のダマを倒せるかどうかが、そして町を守れるかどうかが大きく関わっているんだ…だから、改めて」

ハープ「…律義だよ、お前は」


ハープ「……“危難のダマ”を討伐すれば勝利も同じだ、乗り切るぞ、この戦いを」

焔「ああ」


小さな背中が、亡き祖父のように頼もしい。

栗色の髪の女が勝利へと導いてくれる。言葉の由来は、そっちの方で、やっぱり正しいのかもしれない。
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 22:00:22.50 ID:eViWG1tWo
ほむほむ△
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/26(土) 23:37:17.72 ID:iSfRHWmS0
いつも以上に身体が軽い。

走り慣れていない最悪なコンディションの地面でも、脚が勝手に最善の場所を選び、踏みしめてゆく。


疾(ありがとよ、ホムラ)


普段は人を躓かせるだけの根っこも、今では都合の良い加速装置だ。

仕事時の倍の肉体強化を込めた脚だと砕けてしまいそうになるが、構いやしない。疾さこそが全てだ。


疾(お前がくれた刀のおかげで、俺はこの手で家族を守ってやれる)


行く手を遮る葉も、草も、全て無視。

薄い強化の膜が軽い鎧になり、全ての障害物を感触なく弾いてくれる。


疾(学はねえ、不器用で職人にもなれねえ、できるのは身体の強化だけ…だが今ここにもうひとつ!人に誇れるもんができたぜ!)


勢いよく土を蹴る。

身体は大きく浮き上がり、そのまま小さな崖を放り抜けた。


体が風を掻き分け先へと進む。今までにない、最高の気分。最高のスピードだ。

もう何も怖くない。



疾「―――」



高く浮き上がり、落下を待つだけの体。

おそらく着地地点であろうその先には、無骨な金属の大剣を握りしめた魔族共が6体、固まって歩いていた。


疾「こりゃあ随分、大所帯で…」

タイエン「……―――」



6つの青い目が、翼の折れた空中の鴨に目をくれる。

低く構えられた剣。落とした腰。そして、鎧のような体表の隙間からこぼれ始める、青い炎。



疾「俺の武勇伝にされてえってか!?」


上等だ。刀の煤にしてやるぜ。
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/11/27(日) 00:00:26.93 ID:HVfFu0Ono
おいおいおいおいおいおい
体軽い、もうなにも怖くないはやめろとあれほどおいおおおおおォォォォォ
南無阿弥陀仏・・・
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) [sage]:2011/11/27(日) 00:33:33.18 ID:B79iS8x9o
無茶しやがって…
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 00:37:10.50 ID:WyQIM23jo
もう何も怖くない・・・か
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/27(日) 00:40:44.52 ID:cV8Ho0wp0
光を反射しない、素焼きのような刃が飛んでゆく。

枝分かれした狭間を通り、蜘蛛の巣を蹴散らし、真っ直ぐ、標的のもとへ。


この暗さでは、当たったかどうかを知るには近づかなくてはならないだろう。

しかしそれには及ばない。



「ホォオオオッ!?」


俺が闇に投じたジャベリンが、遠方の魔族に当たった。

命中した場所は盾のようだ。刃は深く突き刺さり、わずかに赤熱している。


赤い光が、着弾点の辺りを照らす。浮かび上がる取り巻きの魔族達の姿。



長(シドノフ、シドノフ、ヤハエそしてロッコイ…なるほどな、気付かれると厄介だ)


薄ら暗い敵影を瞬時に確認し、勢いよく鎖を引き抜く。

瞬間的に引き抜いた摩擦によって、ロッコイの盾は更に燃えた。

刺された箇所からは炎が立ち込める。敵の集団が慌てふためき始めると同時に、ジャベリンは俺の手元へと戻った。


長(敵に明りが灯った…場所を変えるか)


ジャベリンを振り、火の粉と共に熱を払う。

敵はまだこちらに気付いていない。
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(栃木県) [sage]:2011/11/27(日) 00:41:02.67 ID:p8/nNgu1o
頭かじられちゃうん?
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 07:04:47.59 ID:hmHlbFjQo
3投下もきたああぁぁ!
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/27(日) 09:45:39.14 ID:wDVF0asZo
刺さったときの摩擦と抜いたときの摩擦
加えて使用者に炎の危険がない
ジャベリンはヒバシ武器に最適ね
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(熊本県) [sage]:2011/11/27(日) 18:23:05.90 ID:KNVnvjGjo
長門と疾にフラグビンビン・・・
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/27(日) 21:37:07.80 ID:cV8Ho0wp0
突如として自慢の大盾が燃え、混乱するロッコイ。

危険な熱を纏う防御役を見て、対処に戸惑う取り巻き達。



長(怖いか、火が)


総大将に一矢報いた後でも、ナガトの復讐心が鎮火することはない。

位置を変え、直線上に敵を据える物陰でジャベリンを構える。


長(力に侵される恐怖を、お前らも感じ取れるのか)


刃の先端は未だに熱を帯び、赤く光っていた。

掠るだけでも洒落になれない火傷を負うだろう。刺さり、さらに刃が熱を得れば、傷口がどうなるか。見るに堪えない光景が広がることだろう。


長(ならば、お前らも恐怖しろ!)


柄頭に指の先を構え、掌で柄を包み込む。

力を込めるのは指。腕全体のバネ。捻られる腰。

そして、それら全てを最善のタイミングで解き放ち、芸術的なほど正確に長い直線を描きながら、ジャベリンは赤い尾を引き飛んでゆく。


――ドッ


赤い尾の終着点で、一際明るい火花が散った。


シドノフ「コォッ…!?」


より鮮明に照らされた場所には、腹部に深くジャベリンを刺し込まれた巨体が見えた。

身体に纏う青い炎は赤い炎に侵され、瞬く間に内側から焦がされてゆく。


ヤハエ「…!」


ここにきて魔族達は、遠方からの刺客の存在を悟ったが、全ては遅かった。

二投目のジャベリンが、もう一体のシドノフの頭を狙っていたから。
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/27(日) 21:53:20.14 ID:cV8Ho0wp0
上の方に「そろそろ次スレを建てないと書き込みができなくなりますよ」って出てるから次スレだけでも立てておこうかな。

槍使い「ヤバい…砲撃だ!伏せろ!」弐
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1322398234/

ということで次のスレはこっち。そう早く50レスくらいが埋まるとは思えないけど、まぁ一応。
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(埼玉県) [sage]:2011/11/27(日) 22:14:01.02 ID:oyi3rB3+o
更に続くと思うと楽しみでたまりません。期待しております
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 22:42:04.36 ID:hmHlbFjQo
いつもwktkなんだぜ
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/28(月) 20:15:14.00 ID:m1ADrVoD0
――ジャラ


細く、しかし強い鎖がわずかに垂れる。

伸びる二本の鎖の先には、炎に包まれた巨人が悶えていた。



シドノフ「コォオオッ…!」

赤い炎が全身に回り切り、異臭を放つ者。


ロッコイ「ホォッ…ホォオオオ!」

盾一面に炎が広がってしまい、それでもなんとかもみ消そうと暴れ回る者。


ヤハエ「…!」


唯一無傷で残されたのは、他の魔族の炎を消す術を持たない、今はただ鋭い爪を持つ“だけ”のヤハエ1体のみ。

2体のシドノフを突き刺す2本の鎖に挟まれるようにして、ただただ、ヤハエはうろたえるしかなかった。それでも。


ヤハエ「ッ…ルォォオオオオオッ!」


それでも、さすがに気付くのだ。

突然飛んできた鎖の先に潜む、刺客の存在に。怨敵、人間の存在に。

魔族の長、キキに仇をなす、人間の存在に。


ヤハエは同胞の“消滅”を決め込んで走り出した。

燃え上がるシドノフも、ロッコイも自分以上に有用な駒だ。しかしもはや使いものにはなるまい。そう判断したのだ。


彼の頭の中で一つの目的が決定された。

この伸びた鎖の先に存在する人間を殺すこと。まずはそれを遂行しなくてはならない。

シドノフを2体、ロッコイを1体片づける人間だ。優先度は高い。



長「……」


ヤハエの眼が人間の姿を認めた。手元には細い鎖が認められる。同時に、これが危険な人間であると断定した。

キチン質の鎧に包まれた両足で土を蹴り、素早く標的に接近する。

ヤハエの腕は伸びるため、人間が一般的に扱う近接武器では彼に先手を打つことは不可能だ。


ナガトとの距離が十分に縮まり、ヤハエは繰り出そうと身構える右腕に勝利を確信する。




長「“延”…!」

ヤハエ「!」


交差し、勢いよく引かれる、両端の鎖。

二本のロープの交点はナガトの目の前で火花を散らし、それはヤハエの突入を阻むかのように、凶暴な音を上げ続ける。


鎖の巻き取りは、恐ろしく早かった。ヤハエが全力で駆け、それでも間に合わない。


熱せられ、火の玉のような形相となったジャベリンはナガトのもとへと飛び――

その寸前で、ヤハエの両脇を削り取った。
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/28(月) 20:44:52.61 ID:2FAMM18wo
熱いC
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/29(火) 18:46:30.05 ID:6Gxo3NqT0


ヤハエ「……ル、ォオォン…」


――ジャラッ



鎖は戻り、2本の煌めくジャベリンは手元に収まった。

目の前に呆然と立つものは、もはや背骨らしき部分しか残っていない魔族。


灼けたジャベリンを勢いよく引き戻し、彼の腹部を大きく削いだのである。


わずかな焦げ香と炎を上げて、魔族の亡骸は土の上に倒れ伏した。

遠方で苦しみにもがいていた大型の盾や砲台も、静まり火花を吹いている。



長「…まだまだ、弔いは終わらせないぞ…!」

長「お前らの命、全てを貫くまでは!」


甦った怒りの衝動のままに、男は森の中へと突き進んでいった。
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/11/30(水) 20:54:09.86 ID:NaD3g9m10

地と垂直に構える二本の剣。

左右対称に、燭台のようにして静止されている。

中央で静かに口を噤む男の表情は穏やかで、正面よりやや下方に目線が突き抜けている。


彼の構えが剣技の構えであるとするならば、それはとても静かで、ある意味とても美しいものである。

動かず、揺るぎもしない左右対称の構え。脚すら広げず、踵同士を付けた、不動の体現ともいえる姿。


ヤハエ「……」

タイエン「……」


演武であれば美しい立ち姿だ。

演武であれば、舞いの間だけは強く映るであろう、凛々しい姿が見られたかもしれない。

しかし彼の周囲に立つ4体の歩兵は、適度な間合いを取り、それぞれの凶器を最善の位置に据え、隙を窺っていた。


彼らが一斉に飛びかかれば、いかに流麗な演武の最中であっても、狙われた者は殺されるに違いない。

数の暴力とは言ったもので、彼の闘い結末は、そういった味気ない当たり前によって、幕切れされるかと思われた。
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/01(木) 13:16:56.94 ID:t6XIiw5ro
限ターン!
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/12/01(木) 20:58:18.40 ID:ojJFSZb00


魔族が咆哮を上げると同時に、双剣が揺れ動いた。

1時50分か10時10分かのどちらかを示すように交差する。


限「…」


無意味な動作だと嘲笑う黒い爪が、背後からカギルの首に迫った。

巨大な剣は、法衣ごと胴を叩き斬らんと、大振りに溜められた。


それら全ての攻撃は同時に行われたものだったが、金属の擦れ合う音が一際目立って長鳴りした時、それら暴力は届くことなく、無力化された。



強く弾いた双剣が、まずは手始めと炎の唸りをあげ。振り回され、他者の爪や剣を斬る度に、“火箸”はその火力を限りなく増してゆく。

回りながら振るわれ続けるヒバシは、剣の範囲よりも遥か外へ炎を吐き出し、踊り続けた。



限「……さて、次に」


演武が終わった後に残ったのは、焦げ、無数に切り刻まれた亡骸だけであった。
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:30:18.51 ID:tAEMlb1vo
金曜はお休みだったか。残念
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 19:22:13.29 ID:6ZzUOXoIO
>>918
いまさら申し訳ない
>>907の後に
幼女「今日は良い陽気です」
があってこの作品のようだ

したり顔で間違ってたとか氏にたいwwww
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 01:46:59.13 ID:6CRL1LE3o
>>962
早速よんでみるぜ
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/12/05(月) 23:02:55.39 ID:uMuIll+00



「錐砲、順調に稼働してるぜ!」

「威力は上々、シドノフの砲撃よりも射程は長い!爽快だぜ!」


巨大な組み木の塔から、てこの原理で岩石が放たれる。

戦闘によって崩れた煉瓦壁の破片を固めた、質量重視の砲丸。

油を染み込ませた布で包み、着火した後すぐに放たれる。


番「弩砲は!?」

「ああ、問題ない!上方に傾ければ随分と当たる!」


大きな反動を設置した地面へ逃がし、駆動する機械が巨大な矢を放つ。

要塞化されたバンホー。鳴り響く戦闘音はその夜、家でこもっていた子供たちの耳にも届いた。


番(現在確認されている敵の出現位置はここ、ここ…あとは…)


地図に赤丸を記し、弩砲と箇所および高さと見比べる。


番「…ここです!人員を増強して、連絡係も一人つけてください!西側の敵の横を叩けるかもしれません」

「あいあいさぁー!」


指示ひとつで、屈強な男達は急ぎ足で散ってゆく。

全能感は無い。


番(…失敗はできない!)
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 23:33:01.17 ID:pilN/eUIO
つがたん萌
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/12/06(火) 20:48:42.74 ID:Aw7wgiFi0



鐸「大変だぞ、ツガエさん!」

老いも忘れて飛び入ってきた彼の手には、一枚の紙が握られている。

地図だ。ツガエはすぐに察した。


鐸「例の崖だ!あっちから、今度は多勢でやってきやがった!」

番「数は…!」

鐸「青行灯が十はある!ロッコイとかいう野郎も、多分同じくらいだ!幸いここはまだ遠くだが…!」

職人「あっちには錐砲も弩砲もあるが、位置が悪い…相手には高さがある」

番「…錐砲はまだしも、弩砲は届かない」

鐸「それに横ならともかくとして、錐砲だって高く調整し直すには時間が足りないらしい、どうすりゃいい!?」

番「…す、錐砲…高さ調節は難しいとなると…」

鐸「奴らに先手を打たれちまえば終わりだ、まして、錐砲を狙い撃ちにでもされたら…」



鎬「……弾だ、形を整えて、軽くしな」


番「! それだ、弾自体の重さを減らしましょう!あと形も…!それなら飛距離がある程度までは伸びるかも…」

鐸「おお!そりゃいい!」

番「あと一発は坂に放って、燃やしてみましょう!正面から来る相手を足止めできるかもしれません!」

鐸「わかった!それでいってみる!」


老人は再び地図を握り、駆けていった。


番「……あっ」


同時に、横からアドバイスをいれた老人も消えていた。
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) [sage]:2011/12/06(火) 21:11:51.21 ID:3Rz6Vp/Bo
シノギのおっさんもやっぱ職人なんだよなぁ
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 21:42:52.39 ID:COxgI8YIO
番の姐さん張り切ってきたじゃない
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [saga]:2011/12/07(水) 23:12:12.43 ID:qm2I9wQA0

道中で運悪く対峙した惨劇軍は仕方がない。逃げようもないので、舌打ちするハープさんが魔術で片づける。

中距離から、魔族がこちらを見つけてくる場合もある。そういった時は無視を決め込むのだが、追いかけてくる奴もいる。しぶとい手合いは後方の俺が槍で一突きにする。


遠距離に見える青い炎は当然のように無視するのだが、そいつら全てが町へ向かうのだと思うと、気が気でない。

とはいえ俺には俺の役目がある。俺にしかできない事があるのだ。


ハープ「よそ見をするな」

焔「!」

ハープ「こちらの目的はダマ一体のみ、町の心配は二の次とする」

焔「わかってる、もう大丈夫」

ハープ「お前だって二の次だ、もう最初の時のように守る余裕はない」

焔「大丈夫だって、そんなヘマはこかないからな」

ハープ「死ぬなよ」

焔「自分の始末は自分でつけるって…あっ」


足を止める。

商売物だらけの凹凸の激しい道で、偶然にも斜めへずれた視界に入った異物。

暗くも色を残す世界に垣間見えた、闇に消えそうな赤。


焔「…ハープさん」

ハープ「!」


あっち。対象物を指で示す。

ハープさんは口角だけ吊りあげて、小さく頷いてくれた。
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/08(木) 00:27:56.06 ID:jDDWcI6io
うむ
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 01:15:12.67 ID:4B9XCyFzo
ついに補足かC
972 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/08(木) 19:07:27.58 ID:xNskpXwE0

周囲にシドノフの姿は見当たらないので、誘っているわけではなさそうだ。

となれば今のダマは無防備そのもの。傷を癒すために休んでいるとすれば、絶好のチャンスだ。


ハープ(近くの魔族と交戦しろ、長引かせてな…計画通り、私がそこを突く)


布で口を隠す。それきり、ハープさんは俺の反応を待たずに走り去っていった。

彼女はダマに現れる致命的な隙を突けるポイントへと向かったのだろう。


焔(…そして、俺は)


今までよりも急斜面。足を挫いて転倒すれば、頭を打ちながら落ちて行くに違いない。それほどの斜面だ。

不安定な足場だが、飛行できるダマにとっては急速にうってつけの場所かもしれない。

いざ俺が手下の魔族を相手に暴れようとも、空をテリトリーにできるダマには有利な地形。いざという時の逃げには、余裕もあるだろう。


――その慢心を、ハープさんが突くのだ。



焔(俺はダマの目の前で暴れて回る、馬鹿なエサだ…奴が直々に俺を殺しにくるかもしれない)

焔(…運悪く死んでも、構わない…それはつまり、ハープさんが確実にダマを殺すということだから)


斜面の上にへばりつくロッコイを見つけた。その向こうには、木の影に隠れるハープさんが。

遠くて表情は読めないが、きっといつも通りの無愛想に違いない。


焔(……)


彼女にはどういう意味であれ、いつでも微笑んでいてほしいなと思った。


焔(よし、やるか)
973 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/10(土) 00:25:21.97 ID:qk4exa3F0
広めの大きな槍。

銘は“ハナビ”。ヒバシ石と食土で打たれた、発火と発熱を性質とする槍。


余ったヒバシ石と食土をふんだんに使った、他の得物よりも遥かに火力の高い槍だ。

一突きすれば、モノによっては対象は内側から爆散し得る、危険極まりない兵器となってしまった。

この槍を扱う場合には、常に槍を自分の視界に収まる範囲に構えて御するか、槍を後ろに構えて炎に焼かれる前に走り続けるか、どちらかしかないだろう。



焔「おらぁああぁあぁああッ!」



斜面を横に駆ける。標的は前方、無防備なことに単体で歩いているロッコイだ。

幅のある槍先は後ろに、地面に擦るようにして垂らし、そのまま走る。

樹の根にひっかかる度、その火力を増す槍よりも早く走る。焔が俺を追いかけてくる。



爆炎を背に走り寄る俺は、奴の眼には鬼神の如き姿に映っているだろう。

ああとも、死を覚悟した戦士だ。狂戦士は当然、鬼神のようでなくちゃいけない。


今ならば、たとえシドノフが遠距離からこちらを狙っていようとも、躊躇なくそいつに突撃することができるだろう。

左右に踏みこみ、槍を軸に跳ね、砲撃を避けるのだ。

無謀にも巨体な魔族との距離を己から詰め、この刃を突き立ててやるだろう。



ロッコイ「ホォ…!」

焔「はァ!!」


背から取り回し、槍を前へ向ける。

吹きすさぶ炎。翻る熱風のマント。敵の盾を瞬時に焦がすこいつはおまけに過ぎない。


本命の槍は、音も立てず、いとも簡単にロッコイの胴体へと突き刺さる。いや、刺さった感覚は無い。

もはやロッコイは燃え尽き、槍は手ごたえもなく空を切った。



――ボン



爆風が槍の軌跡を追うようにして、辺りに渦巻く。


暖かすぎる夜の風が、俺の闘争心の火種を鼓舞し燃え上がらせるように、森へ拡散していった。
974 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 06:01:51.59 ID:MWWas2j5o
慎重にしてたら余って最後は豪快にってあるある!
ハナビ贅沢だなwwwwwwwwC
975 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 06:31:05.20 ID:IQT1LqsEo
汚い花火来たな
976 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 22:33:00.26 ID:oYOTaaFIO
今日は無しか…
体調管理しっかりな!
977 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/12(月) 19:21:25.57 ID:mY+adnYA0
一連の流れを見ていた。

激しい火傷に痛む腕を抑えながら、馬鹿な敵兵の戦いの様を見ていようと。


ダマは戦慄した。真新しい傷の残る腕が激しく疼いた。


敵は“惨劇狩り”一体だけでないことは、先程の不意打ちで解ったのだ。

炎の弾を打ち出す術。恐ろしく威力の高い魔術を操ることのできる使い手がいる。


ならばと。魔術士の傾向として強い“身体能力の低さ”を抑えるために、ダマは軟弱な人間の踏み入り難いであろう山の斜面へと逃げてきたのだ。



誤算であった。

敵の魔術師は“惨劇狩り”一人のみで、その他遊撃に加わった者たちは皆、一般的な人間だった。

彼らの扱う武器が、あまりにも常軌を逸していたのだ。



ダマ(あの武器は危険すぎる…!)


眼下で繰り広げられた、あまりにも一方的すぎる一対一。

摩擦により法外な熱を発する槍。先程自分を襲った刃もこの類に間違いないだろう。


上位種である自分が強化した腕で防ぎきれなかった武器だ。

いかに防御に優れた下位種であろうとも、あの一撃を防ぐなど不可能と断ずるにいささかの躊躇もいらなかった。


ダマ(雑魚共集まれ!消さなければならない標的が、ここにいる!)



高音による命令が森を伝う。全てを割くことはできないが、生半可な兵数で太刀打ちできる相手ではない。


ダマ(!!)


そこまで思考して気付く。

炎を操る奴がここにいるということ。それを警戒して、自分が命令を発信するというごく自然な流れ。その意味。



ダマは無意識に後ろへ向き返った。
978 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 19:25:34.75 ID:XHBCbGCco
ダマも結構できる奴だよな
979 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 04:36:25.76 ID:LDjG13qro
ダマたあぁぁぁあん
980 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/13(火) 21:02:12.27 ID:APcnP6Z+0
羽衣を広げ、死角となるであろう左右を斬る。枝葉が散る。


ハープ「“stenj”」


網膜は想像通りの光景を焼き付けた。

こちらの反応が相手にとっては早いものだったのか、物理打撃に用いようとしたメイスを空で振るう。

己の頭上に現れる金属の柱。エニグマの詠唱であれ、視界外からの攻撃であれ、相手がやってきそうなことには大方の予想はつく。


ダマ「―――」


左右に振り抜いた羽衣の中央の“捩じれ”が“輪”となり、それは腕を鳥の翼の如き形に振るうことによって、ダマの頭上へと弾かれた。

勢いよく半回転した赤色の羽衣が頭上の鉄柱を切り裂き、形を損ねた魔術の結晶は消滅する。


垣間見えた少女の「ほう」とでも言うような見下す笑みをついでに斬り裂こうと、ダマの両腕はそのまま前方へと交差して突き出された。

捩じれた“輪”は元に戻り、U字の巨大なギロチンとなって、少女が存在していた空間を見事に裂く。ギロチンはその範囲に存在していた植物を切り抜いた。


身体を打ちつける風。無詠唱による初等術はダマを吹き飛ばすには至らなかったが、少女のか細い体を空中で後退させるには十分な風力だったらしい。


ハープ「“eigzmm”」

ダマ「―――」


空中からの追撃はなおも続く。杖の先からの雷光。威力よりも出の速さに賭けた初等術。

羽衣は振られた。ならば、ジックを詠唱する時間を与えない術を放てばよい。

少女は相手が身体強化をしようとも、防戦一方を余儀なくさせる連打によって勝負を転がす手を選択した。



真下に降りた、U字の羽衣。

その鋭利な先端が樹の幹の半分にまで食い込んだ時、


ハープ「!」


腕を真横へ広げたダマが急降下した。

雷撃が空を焼く。

下方から伸びる鋭利な“刃”が、ハープの腕へ伸びる。
981 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/13(火) 22:58:18.05 ID:APcnP6Z+0

――カラン



双方共に、樹上にて距離を置き、太い枝の上に着地する。


ハープ(形状変幻自在の羽衣…まさか樹木に突き刺し、ロープ代わりに扱い攻撃を回避するとは…思っていた以上に厄介だ)


右手に持ったメイスだったものを見やる。

鉄製だったはずのそれは、頭の棍が鮮やかな切り口にて消え去っていた。


ダマが繰り出した羽衣の斬りつけにより、メイスはあっさりと断たれてしまったのである。

ただの鉄棒。もはや、メイスとして扱うのは困難な形状だ。



――ドォン!


ハープ「!」


爆音が轟いた。

目を真下に向けると、斜面に煙が立ち上っていた。


ダマ「俺の兵が増援にきたようだな…キキキ、下で馬鹿みてえな陽動してた人間は、これでオシマイだ…キキキキ!」

ハープ「奴など知ったことか。それよりも、お前は自分の命の心配をするべきだな」

ダマ「強がるなよ、焦りが見えるぞ?キキキキキ…」

ハープ「……」


ダマ「知ってるぞ、惨劇狩り…魔道士は杖を失ってもなお、魔術を行使できる…だが、杖を用いずに術を行使する際、魔力の変換効率は著しく落ちる!」

ハープ「親元から聞いたか?勉強熱心な魔族だ」

ダマ「キキキ、魔族語を理解できる貴様が言えたことか…さあ、まだ決着はついてねえ!おしゃべりは終いにして、そろそろ続きといこうじゃないか!?」


両腕で繋がる一条の羽衣を再び翻す。

天女の如き舞い。環状にまわる鋭利な赤が、二人の間を瞬く間に切り裂いてゆく。

範囲の読めない羽衣から隠れることは決して叶わない。


ダマ「ハッハッハァー!」


踊る凶器が、障害物を排しながら接近する。
982 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 06:03:32.73 ID:YfzWbdOIo
やるなダマ
983 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 15:29:42.28 ID:icyXmvMAO
どうなる…
984 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 18:18:38.23 ID:iBxOB8ZIO
そろそろ新スレ使おうず
985 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 18:44:56.23 ID:XyDutS9ko
そろそろヒバシが飛んでくる予感…という謎の安心感
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/14(水) 19:04:57.38 ID:NU80pz7Ro
さすがに予測はやめようず
987 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 19:33:00.75 ID:embNSFRZ0
シュッ!グサッ!


ダマ「ぎゃぁああああああああああ!」バタッ

焔「危なかったなハープさん!だがもう大丈夫だ!俺がトドメをさしたぞ!」

ハープ「ホムラ!ありがとう!」

長「おっしゃあああ!!雑魚敵は全て片づけたぜ!」

疾「死んだかなって思ったけどそんなことはなかったぜ!」

番「私、町長になります!」

限「結婚しよう!」

番「カギルさん!」

ハープ「これで町の平和は守られたんだな…良かった!本当によかった!」


おわり
988 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 19:35:37.48 ID:d/GOItg2o
ネタでも気持ち悪い
そういうのいらないから
989 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/14(水) 19:45:48.49 ID:embNSFRZ0
(*・∀・)読み方いちらん
焔 ホムラ
疾 ハヤテ
限 カギル
長 ナガト
番 ツガエ
護 マモリ
鐸 サナキ
鎬 シノギ
憩 イコイ


シドノフ(砲のやつ)
http://myup.jp/b4LV2mGm

ロッコイ(盾のやつ)
http://myup.jp/RfRWjDO0

タイエン(剣のやつ)
http://myup.jp/EIVdPdaR

ヤハエ(爪のやつ)
http://myup.jp/LfXMdtYt

ダマ(上位種のやつ)
http://myup.jp/QFfqVmjo



そろそろ次のスレにいってしまおうか?
990 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 20:24:14.79 ID:d/GOItg2o
本人だったのかよwwww
変なのがわいたのかと思った 
申し訳ない
991 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 20:26:16.44 ID:EC1oF8QAO
(*;∀;)キニシテナイヨ…
992 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 20:49:15.70 ID:aZRBE5Slo
ちょっとVIPのころ思い出してクスッとした
993 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 20:56:01.35 ID:YfzWbdOIo
作者も辛いことあって一瞬投げやりになったんじゃないのか?wwwwww
994 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 01:46:28.33 ID:I5227H3no
スピアマスターホムラ的な
995 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 06:41:57.97 ID:VIWqtiaAO

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ガタガタッ ガタッ


男「げほっ、げほっ!…ひぃ〜、なんて埃だ…」

女「ちゃんと探しなさい、時間が押してるのよ」

男「つってもよお嬢、長時間この姿勢だと腰が…」

女「あら、歳?なら新しい人材を見つけなきゃ駄目ね」

男「だぁもう探すって!わかりましたよハイ!」

女「それでこそね」


ガサガサ…


男「ん……お嬢、この帳面なんかはどうかね、目当てのもんかい?」

女「えーどれ? …!」

男「お、脈有り?」

女「ナイス!良くやったわ」
996 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 12:08:22.22 ID:VIWqtiaAO
女「題を見る限り、大当たりみたいだけど…」

パラッ… ボロ


女「げ、朽ちかけてる」

男「そっと開けば」

女「無茶は駄目、素人が下手に扱うものではないわ」

男「じゃあどうすんだい?そいつ」

女「今度お会いする学者さんらに、一緒に見てもらうつもりよ」

男「だからって蔵の整理してまで…」

女「どうせなら一度に見てもらった方が良いでしょう?」

男「まーそうだが…しかしなにもお嬢自ら家の蔵を漁るこたないだろ、忙しいのによ」

女「ギルドにも家臣にも任せたくないの、一応私の蔵なんだから」

男「ふーん…キシシ、探せばお嬢縁の品とか出てくるのかね?」

ゴンッ

男「ったぁ!?」
997 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 12:13:43.05 ID:D7RtW3I9P
なんじゃいコレは
998 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 12:16:42.24 ID:XatRtu3Go
ギルドの話が出てて、お嬢様ってところから考えると……
いや分からんけど
999 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 12:21:40.72 ID:VIWqtiaAO

女「……ふ〜…なんとか関係ありそうな書物は全部出せたわね」

男「し…しんどっ…」

女「ちょっと、しっかりしなさいよ…これから馬車に積み込むんだから」

男「それこそ家臣を…」

女「家臣が忙しいからお庭番に任せてるんじゃない」

男「お庭番ってなによ……」

女「はいはい、さっさと働く」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
1000 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/15(木) 12:26:40.85 ID:VIWqtiaAO
(栓*・∀・)-з ムギュッ
1001 :1001 :Over 1000 Thread
                   、..:ヽ::.i::::i:::..:/::,                  .:.:.:.: .
                 、:.:.'.;.:.}:.|:.:.|:.:/:.:.:./             .: : : : :::... 、::::::v:.....:v...     .0::。::゚..
.           .:.:.:.: ._:.:.:.\ヽ:.:.|:.:.!/:.:/:/               ∴∵。o∞o.。 、ヾ:::::゙::|::::|::::::/:::/::., O*、。! o'x*
         .: : : : ::===:.:\:.|:.:|://:.==             ∴∵o゚     、\::丶:*|::::|*/://。 =-o::○。=ニ
       ∴∵。o∞o.。三三二:::.:*::::二三三 . ...::*:::*..... *   .::::8 ::::::::::::::ー-::ヽx※::.:::.::※*::::/-' . :O:゚ 0 o゙::。
     ∴∵o゚       ゚:===.:./:i:.:i:.\:::::::*:.:.:*:.:.:.i: :i : :/:.... *::∴゚o..   .三ニ*※::::::::::::※=:ニ:三" ..:~....:::|:::.....
.    ::::8      8: ´./:.:.:.:|:.:.|:.:.:.:\.::゙:\:.:ヽ:.:|:.:|:.:/:.:/::::..∵∴:゚:::∞ ゚--―"'※:::::::::※゙*ー--z \...:*::::::*../:.
.      ∵∴゚o     o゚.::´./:/゚:|:.:.|:.::丶*ー- .。::゚::: ::゚:::o:. -― * :: ∵ : : :゙彡/*/:*i:::i゙\\`::、ミ _*,:::'"゚゙':::* ―
        ∵∴゚ ∞ ゚∴∵。':/:.:.:i.:.:.i.:.:ヽ:*ー--o::::::::::::::::::::::o--―*  "゚ ¨ ゚"",;:"/::::::川::',::ヽ*\:゙  :::.:*'::,:.....:,:':*ー:
        ∵ : : : ∵           *--―o::::::::::::::::::::::o:―--*        "'':://:::|:!:::',::::ヾ゙     /::*":::゙*::\::
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄_ノ乙(、ン、)_          i m_\ <みんな終わってしまった     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                ノr'" _<00       / ,' 3  `ヽーっ
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この歳になってできた兄を姉と奪い合い3 @ 2011/12/15(木) 07:05:28.19 ID:Ir9XpXvGo
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府市統合本部、最高顧問は堺屋太一起用の方針 顧問に就任[ @ 2011/12/15(木) 05:09:03.44
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バンド名を和訳・英訳して当てる。 @ 2011/12/15(木) 03:29:38.87 ID:iEWUmR0IO
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POL IS CENAUTS ポリアイエスノーツ @ 2011/12/15(木) 02:06:30.42 ID:LlXsONSoo
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