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俺の妹が身長180cmなわけはない - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/12(水) 22:48:20.04 ID:KZdJ5BByo
このスレは、
俺の妹がこんなに可愛いわけがないSSスレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294035994/
からアイデアを頂戴し派生したスレです

京介の妹がもし沙織だったら……という内容になっています
予定ではそんなに長くはなく、エロもありません
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713522243/

旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713353246/

木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1713351945/

いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713279251/

【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713277692/

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713183168/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/

2 : ◆5yGS6snSLSFg [sage]:2011/01/12(水) 22:51:42.86 ID:KZdJ5BByo
第一話

容姿端麗、成績優秀、有名なお嬢様学校に通う自慢の妹、それが沙織だ――
だがこいつには、他人には言えない秘密があった。

深夜、突然の平手打ちで起こされた俺は、暗闇の中、馬乗りになっている沙織の姿に驚いた。

「お兄さま、お話があるので沙織の部屋までお越しください」ノシッ
「がっ…はっ…!お前……重い…苦しい!」



妹がふすまを開けると、ツンとシンナーの匂いが鼻につく。
あれ?なにこの匂い。まさかやばいものに手を出してるんじゃないよね?

「さきほどまでエアブラシを使って塗装していたものですから…これは溶剤の匂いです」

エアブラシ?溶剤?なんのこっちゃ?
妹の部屋で見せられたのは、大量のプラモデルとガンダムグッズの山だった。

「お前、ガンヲタだったのかよ」
「そうなのです、キャスバル兄さん」
「……誰がキャスバル兄さんだ」

ぼとっ

「ん?なんか落ちたぞ?」

俺は転がり落ちたDVDケースを手に取った。

「ガンダム……ゼロゼロ?」
「ダブルオーです!」

うお!?いきなり大声だすんじゃない!

「それは一番最近放映されたTVシリーズですね。劇場版ありきのエンディングですが、
戦闘シーンもSEEDに比べてヌルヌル動きますし初心者が初めて見るにはにはおススメです」

なんだ初心者って。おまえはプロか?プロなのか?

「SEEDといえば世間では駄作と言われていますが……モデラー的には、いわゆる種ポーズを生み出した良作なのです。お手軽でかっこいいポーズといえば今まではカトキ立ち等がありましたが、あれでは物足りないと思うような方が……」

だ、誰か通訳を用意してくれ……。

それにしても押し入れの中は見事にガンダムグッズだらけだ。
あのヘルメットと仮面とか何に使うの?

「こっちの……これらは何なんだ?」
「それはDVDボックスですわ。こちらにあるのは全て特製ボックス仕様です」
「DVDボックス?特製ボックス仕様?」
3 : ◆5yGS6snSLSFg [sage]:2011/01/12(水) 22:52:14.81 ID:KZdJ5BByo
情けないがオウム返しに問い返すのが精一杯だ。

「そうですわ。本編に修正を加えたり、ボーナスディスク等が付属するんです。ふふふ、すごいでしょう?」
「その、ガンダム00とかも?」
「はい」

沙織のテンションは何故か上昇気味だった。

「こういうのって……結構高いんじゃねえの?」
「ええ、そうですわね。こちらが41,790円、これは55,000円。あ、プラモの方はお安くなってまして、最高でも20,000円くらいですわ」
「たっけえええええええ!」

どっからそんな金が出てくんの!?
中学生だろおまえ!なんで15歳にしてそんなに金もってんだよ!?

「それは……涙なしには語れないのですが……」
「え?」

やべ。この質問、もしかしたら地雷かもしれない。答え聞くのがすげー怖い。
いや、こいつに限ってそれはないだろうけど……。

「完成したガンプラをオクに出品していますの。もちろんお気に入りは手元に残しておきますが、置いておけるスペースがこの押し入れしかありませんので」
「え?あ、あぁ、確かにかさばりそうだもんな……」

押し入れ内のプラモ達は皆それぞれにアクションポーズをとっている。
……直立させておけばもっとスペースとか稼げるんじゃないの?
っていうか、そもそも作った後のプラモとか売れるの?
よくわからないけどプラモって自分で作るのが楽しいんじゃないのか?

「完成度の高いものはオクでも盛んに取引されます。住環境から塗装ができない、これだけのものを作る時間や腕前がない方等が買っていかれるんですよ?……できることなら手放したくはないのですけれど」

さりげなく自分の作品の完成度が高いと自慢している……。
沙織ってこんな性格だったっけ?

「だ、だいたいいくらくらいで売れるんだ?」
「そうですね元のキットにもよりますけど、マスターグレードならだいたい数万円くらいでしょうか?」
「嘘だろ!?」

なんでそんな高く売れるんだよ!
あれか?それだけこいつの作ったガンプラの完成度がやばいってことなのか?
……まじか。ほとんどプロじゃねえか。

はぁ……。俺は一息ついて気を取り直してから、こう言った。

「ところでさ、なんでおまえこんなにガンプラグッズ集めてんの?」
「……………………………」

お、おい……なぜそこで黙る?
4 : ◆5yGS6snSLSFg [sage]:2011/01/12(水) 22:52:41.37 ID:KZdJ5BByo
「……なぜだと思いますか?」
「さ、さぁ……なんでなんだろうな?」

ま、待て待て。なぜそこでうっとり頬を染める!?
なぜ四つん這いで這い寄ってくる!?

「なぜお逃げに?」
「に、逃げてねえよ」
「うそ、逃げてるじゃありませんか」
「それはおまえが……あ」

し、しまった。背中が壁にはりついてしまい、これ以上逃げられない。
俺を壁際に追い詰めた沙織は四つん這いで俺に覆いかぶさるようにして――
俺の鼻先にDVDを押し付けた。

「は?」
「このパッケージを見ていると、こう……胸の奥から何かこみあげてきませんか?」
「な、何言ってんのおまえ?」
「だからですね……すっごくかっこいいと思いませんか?この百式とかガブスレイとか!いえ、サザビーも捨てがたいですけれど!!最近のだとマスラオなんかも!!」
「な、なるほど」

要はあれか。こいつはガンダムが大好きで色んなグッズを集めてるってことか。
いや、集めてるのがガンダムグッズでよかったぜ。
妹もののエロゲを集めてるとかじゃなくてさ。

「わ、私はどうしたらいいのでしょうか?」

いつのまにか沙織はペタンと座り込んでいて目に涙を浮かべている。

「自分の趣味が普通の女の子とかけ離れているのはわかってるんです」

そりゃそうだろうな。まぁ、中にはそんな子もいるかもしれないけどさ。

「や、やっぱりお父様やお母様に話した方がいいのでしょうか?」
「駄目に決まって!……なくはないな。だって別に18禁のとかを持ってるわけじゃないんだろ?」
「はい、同人では18禁の本もあったりしますけど、私はそういうのには興味がありませんから……」
「じゃあ問題ないんじゃねぇかな?」

むしろ今まで何で親にまで隠してたんだ?

「そ、そうですわね。では今度の日曜日、お父様とお母様に話してみます!」
「おう、頑張れよ」

両親の許しが貰えればプラモを部屋の中にも飾れるし、飾れるスペースも増えるってもんだ。
その分沙織の収入は減るのかもしれないがそこまでは面倒見きれない。
俺にできるのは、こいつの友達が遊びに来たとき、

『あれはお兄様の趣味でお兄様の部屋に入り切らない分をここに飾ってるんです』

という言い訳を用意してやるくらいだ。
5 : ◆5yGS6snSLSFg [sage]:2011/01/12(水) 22:53:14.37 ID:KZdJ5BByo
「ではお兄様、本日の人生相談の締めとして『この気持ちまさしく愛だ!』と叫んで下さい」
「……おまえ一体何言い出してんの?」
「お気に召しませんか?『今日の私は阿修羅すら凌駕する存在だ!』でも構いませんよ?」
「いや、そういうことじゃなくてね」

結局、この後、俺は沙織のガンダム談義に付き合わされることになった。
それにしても……こんなに夢中になれるものがあるなんて、少し羨ましいよ。



きたる日曜日の夕方、俺が図書館から帰宅すると家の中が異様に静まりかえっていた。
テレビの音も話し声も、物音すらしない。……不自然すぎる。

「……ただ……いま……?」

リビングの中に入ると沙織と親父がテーブルを挟んでソファに座り対峙していた。
親父は超無表情なので何を考えているかまったく分からないが、沙織はガチガチに固くなって、しょんぼり項垂れているようだった。

あれ?何この状況?なんで沙織が怒られてるみたいな状況になってんの?
品行方正、容姿端麗で成績優秀、さらに御近所様にも受けが良い沙織が怒られてるとこなんて初めて見たぞ。

「京介、ちょっと、京介……」

扉を開けた状態で固まっている俺にお袋が声をかけてきた。
振り返ると、袖を掴んで引っ張られる。

「あんたは部屋に戻ってなさい」
「その……なにがあったんだ?」

お袋から帰ってきた返事は意外なものだった。

「私もよくわからないんだけど……なんでもシンナーがどうとか……」
「はぁ?」

シンナー?あいつが?
そういえば、最近その匂いをどこかで嗅いだような……。

「あ」

沙織がふすまを開けた時の匂いだ。確かあの時、俺はシンナーみたいな匂いだなと思ったんだっけ。

ここまで分かれば後は想像がつく。
親父に趣味のことを話した沙織。しかしそこにはシンナーの匂いが充満していて……
あとは親父のことだ。問答無用で説教モードだろう。
まぁ、警官の娘がシンナー吸ってるとなっちゃ洒落にもならんし、親父の気持ちもわからんでもないけどな。

「京介、あたしちょっとお酒買ってくるからあんたは部屋に戻ってなさいね」
「へいへい。…………ふぅ、どうなることやら」
6 : ◆5yGS6snSLSFg [sage]:2011/01/12(水) 22:54:03.51 ID:KZdJ5BByo
「さ、沙織……?」
「どいてください!」
「ちょ、待てって!」

バタン!

「ぶへっ!」

思いっきり顔面をドアに挟んじまう俺。
ふらつきながら外に出た時にはもう妹の姿は見えなくなっていた。

「くそっ!」

ぶんぶんとかぶりを振って気を取り直し、夕焼けの中、妹を探して当て所もなく駆け出す。

「くそっ、どこ行ったんだあいつは……」

闇雲に街を走り回ってみるがまったく見つからない。
美麗な上にやたらとでかくて目立つ妹の姿は、どこにもない。

「さっきのやたらでかい女の子すごかったな。30連勝だってよ」
「しかも大半パーフェクトだろ?とんでもねえな」

やたら……でかい……だと?

「ちょ、ちょっとその話詳しく教えて下さい!」



教えてもらったゲーセンに辿り着くと、対戦型ゲームの筐体に座った沙織が対戦相手をぼこぼこにしていた。
もちろんゲームでだぞ!
まるで相手の行動が全てわかっているような動きだ。おまえは超能力者か何かか?

「こら、何やってるんだ」
「お、お兄様!?」

俺の声に反応し、バッとこちらを振り向く沙織。
しかし、ゲームを操作する腕は止まらず、そのまま相手のロボットを爆散させる。
お、おまえ……エスパーか?

「と、とりあえず場所変えようぜ。おまえ目立ちすぎだろ」

実は俺が到着した時点で既にギャラリーに囲まれていて、声をかけるのも一苦労だったくらいだ。
7 : ◆5yGS6snSLSFg [sage]:2011/01/12(水) 22:54:45.17 ID:KZdJ5BByo



俺達は近くのスタバへと場所を変えた。
初夏とはいえそろそろ暗くなってくる時間。
客入りはそこそこで、大学生風のにーちゃんや、仕事帰りのサラリーマンがメインの客層。
そんな中、俺達はどう見えているのだろうか。
沙織は怒りのオーラを纏って、充血した目でずーっと俺を見ている。
やっぱりどう見ても、年上の彼女に浮気がばれて修羅場中のカップルだよな。

「なぁ、沙織。おまえはこれからどうするんだ?」
「……分かりません………………どうしたらいいと思いますか?」

沙織は悲しげな顔をしてコーヒーを一口飲みそう呟いた。

「そうだな……その前におまえに確認しておきたいことがある」
「なんでしょうか?」
「親父になんて言われたんだ?けっこう話し込んでたみたいだったけどよ」

俺の問いを聞いた瞬間。沙織は顔を真っ赤に染めて、全身をぶるぶると震わせ始めた。
片手で胸を押さえ、もう片手はテーブルの上で固く握りしめている。

「…………って言われたんです」
「な、なに?」

あまりにか細い声だったので聴き取ることができず問い返す。

「塗装は駄目だって言われたんです!」
「……………………え?」

沙織の言うことが理解できず、思わず、まばたきを高速で連射する。
え?なにが駄目だって?塗装?

「お、おまえのコレクションを捨てろって話じゃないの?」
「え?違いますけれど……なんて恐ろしい事を言うんですか、お兄様」

え、だっておまえ……今にも泣きそうな顔して飛び出してったじゃねえか。
俺はてっきりシンナー吸ってたと誤解されたとか、コレクション全部廃棄とかそういう話だと思ってたんだけど?

それが……なにこれ?モデラーにとって塗装ってそんなに大事なものなの?
っていうか親父も塗装くらい許してやれよ。
そもそも、なんでピンポイントに塗装だけが駄目なんだよ。わけわかんねえ。

「おまえ……そんな理由で飛び出したの?」
「そんな理由とはなんですか!?お兄様もモデラーを馬鹿にしてるんですね!?」
「し、してねえよ!落ち着け!!……おまえにとって塗装ってそんなに大事なもんなのか?」
「はい……」
8 : ◆5yGS6snSLSFg [sage]:2011/01/12(水) 22:56:07.49 ID:KZdJ5BByo
そっか。そうなのか。
相変わらず俺にはよくわからないけどさ、おまえにとってそれは泣いちまうほど大事なもんなんだな?
それだけは……俺にもわかったよ。

「沙織――俺に任せろ」



30分後俺はリビングの扉の前に立っていた。

「お、親父……話がある」
「沙織は見つかったのか?」
「ああ……話、してきたよ、あいつと」
「それで?」

俺に一瞥もくれずに、促してくる親父。
怒りが熟成されたせいか、元からの極道ヅラがさらにやばいことになっている。
く……この時点で超怖いがここで引くわけにはいかない。

「沙織の趣味を……認めてやって欲しい。親父は盛大な誤解をしてるんだ」
「誤解だと?……言ってみろ。話だけは聞いてやる」

ひいっ……お、恐ろしい。
威勢のいい口叩いたはいいけど言った本人はマジ泣き入ってるぜ。

「親父はあいつがシンナーでもやってんのかと勘違いしてんだろうが、そうじゃねえんだよ!
あれは溶剤の匂いで……確かにシンナーも成分としては入ってるが、あくまでもただの塗料で、親父が想像してるようなもんじゃねえんだ!」
「そんなことか……そんなものはよく知っている」
「え?」

あ、あれ?なんで知ってんの?
あ、ひょっとして沙織が説得してる時に話したとかかな?

「おまえは知らんかもしれんがな、あの匂いは本物のシンナーなど比べものにならん中毒性があるのだ。最初は窓を開けるなど換気に注意していても、気づけば自ら閉め切って塗装するようになる。娘をそのような奴にするわけにはいかん」

……なんでそんなに実感こもってんだよ。

「い、いや、だとしても全部駄目だってのはおかしいだろ!その匂いが発生しないやり方だってあるはずだ!!」
「……確かに方法がないこともない。水性塗料や筆塗りであればその匂いも比較的少ない。だがな、一度エアブラシに手を出したものはそれでは満足できんのだ」

親父超詳しいな!まるで自分のことみたいじゃねえか!

「そんなの窓開けてりゃいいだけだろうが!沙織が心配ってんなら俺が換気してるか責任もって確認するからさ!」
「単に窓を開けていればいいという話ではない。近隣の方たちへの迷惑も考えろ。それがしつけというものだ」

く……埒があかねえ。それに親父の言うこともたしかに正論っぽい。
だがな、俺はここで諦めるわけにはいかない。沙織に言ったんだよ、俺に任せろってな。
9 : ◆5yGS6snSLSFg [sage]:2011/01/12(水) 22:57:17.61 ID:KZdJ5BByo
そんな道理、俺の無理でこじ開けてやる!!

「よく聞けよ親父!あいつは家を飛び出して泣いてたんだ!……もちろん俺にゃあ、あいつの趣味はサッパリ理解できねえよ。できねえけど!夢中になるのってそんなに悪い事かよ!?そういうのってさ、大事なもんじゃねえのかよ!そんな簡単に捨てていいもんじゃねえだろ!いいか……!これでもあいつの趣味を認めねえってんほざくんなら……!沙織の代わりに俺が親父をぶっ飛ばすぜ!?」

親父は厳然と俺を見据えたまま、ほんのわずかに……目を見開いたようだった。
やがて感情をまじえない声で、こう返事が来た。

「…………おまえの言いたいことはわかった」
「ほ、本当か!?」
「同じことを言わせるな。だが、おまえにも協力してもらうぞ」
「え?」



「こ、これは塗装ブースではありませんか!」
「親父がこれ使えってよ。おまえが自分の部屋で、これ使って作業する分には許してくれるそうだ」

でも、なんでうちの親父はこんなのをすんなり用意できるんだ?

「ありがとうございますお兄様!あぁ、これで匂いを気にせず塗装ができるのですね!」

あまりの嬉しさに小躍りして喜ぶ沙織。

「はは、よかったな。後で親父にもお礼言っとけよ」
「はい!ふふふ、それでは早速塗装を始めるといたしましょう!」

まるで子供みたいだな。あんなに喜んじまって――
いやいや……みたいじゃなくて。沙織はまだ15歳じゃねえか。
あんだけ背が高いとついつい忘れがちになっちまうな。

「でも、この排気口……どこに繋がっているのでしょう?」
「……さあな。とりあえず家の外だろ」
「それもそうですね。あれ?お兄様はおでかけですか?」
「あぁ、近所のホームセンターまで――」

ちょっと消臭力買いに行ってくる。



第一話おわり
10 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/12(水) 22:59:25.09 ID:KZdJ5BByo
※今回は都合上、塗装の弊害を異常に誇張して書いてますが、実際はそんなことないです
ちなみに、塗装時に発生する匂いは消臭力ではどうにもなりませんのであしからず
11 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/12(水) 23:00:01.21 ID:KZdJ5BByo
第二話

季節は夏。期末テストを間近に控えた、とある七月の土曜日。
その日の俺は我が家で唯一クーラーのない部屋(つまり俺の部屋のことだ)に朝から引きこもり、必死の――――というより苦悶に近い形相で机に向かっていた。

「く……ぐぬ……」

高校2年生らしく、テスト勉強のため……というわけではもちろんなく。

「ぐぬ……ぬ……」

新作ガンプラ、HGFCノーベルガンダムを組み立てているのだ。

「……くっ!」

パチン!パチン!…………ガリガリ………………パチッ。

パーツを切り出した後、丹念に切断箇所の処理をしてから組み立てる俺。
机の上では頭部以外が完成したガンプラが、残された頭部の完成を今か今かと待っている。

「よし!」

ロボットにあるまじき長い髪の毛のようなパーツを取り付け、ついに頭部が完成した。

「あとは、これをくっつけて――」

先ほどの頭部と胴体とを組み合わせ、ようやく一つのガンプラが完成した。
妙な達成感に支配され、思わずガンプラに見とれてしまう。
それにしても……なんでこんな女の子みたいなデザインなの?

「はっ」

はたと、正気に立ち返る。催眠術から解き放たれたかのような気分で頭を抱える。
――お、俺はいったい、何をやっとるんだ……。
休日の朝っぱらから、部屋に閉じこもってガンプラ製作に没頭している17歳。
それが俺・高坂京介の現在の姿であった。
いやいや、違うんだって。これにはふかーいわけが……と言い訳しようかとも思ったが、これくらいは普通なんじゃなかろうか。
妹もののエロゲやってるんじゃあるまいし。

だが、俺がプラモをつくるようになるまでに、他人とは違う、ちょっとした事情があったのは確かだ。
なぜか俺は、あれからも、何度か妹に呼び止められ『人生相談』という名目で無理難題を押しつけられるという日々を送っていた。
つい先日も、この『HGFCノーベルガンダム』を手渡され、『まずは速攻で仮組みを終わらせて下さい。絶対ですよ?』みたいなことを言われたのだ。意味がわからない。
それで諾々と従っちまう俺も、情けないっちゃ情けないんだが……。

「ふぅ……やっと完成したな。休憩すっか」

渇いた喉を潤すべくリビングに降りると、件の妹が電話をしているところだった。
12 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/12(水) 23:01:31.02 ID:KZdJ5BByo
「はっはっはっは! そうなのでござるか? いやはや……」

相変わらず、すげえ変貌ぶりだな。
妹には表と裏の顔があって、相手によって使い分けているのだが、表情や喋り方で『どちらの友達』と喋っているか一目瞭然なのだ。

「把握したでござる! ではお待ちしておりますぞ!!」

快活な返事を返す妹を横目に、冷蔵庫から麦茶を取り出す。
グラスに注いで飲み干すと、涼やかなのど越しがたまらない。やっぱ夏はこれにかぎるなあ。

「お兄様?」

タイミングを見計らっていたのか、俺が一息ついたところで妹から声がかかる。

「どうした?」
「終わりました?」
「あー、終わった終わった。ちょうど今組み立て終わったところだ」
「さすがお兄様! で? 表面処理はいつごろ終わりそうですか?」
「は? 組み立てて終わりじゃないの?」

俺がそう答えると、沙織は失望のまなざしでこちらを見つめてくる。
ところで、表面処理ってなんですか?

「お兄様……まさか素組で終えられるつもりではありませんわよね?」

おい、またわからない単語が出てきたぞ。素組?

「…………いいですか?表面処理とは、ゲート処理に始まり、400番、600番、1000番の順にペーパーがけ。次いで、洗剤でパーツを洗浄し削りカスと油分を落とします。その後水洗いで洗剤を落とし、完全乾燥後、塗装に入ります。本来なら合わせ目消しの作業が必要なのですが、このキットは合わせ目が目立たないので今回は無視しちゃいましょう。塗装ですが、お兄様は初心者ですから、まずは筆塗りで各塗料の特性を覚えるといいでしょう。どの塗料ならどの塗料に上塗りできるなど、知っておくべきことは意外とあります。あぁ、言い忘れておりましたわ。塗装の前にサフを吹くべきでした。サフは本当ならエアブラシで吹くといいのですが、今回は筆塗りの勉強ですし、お手入れも大変なので今回はスプレーを使いましょう。塗装時における最大の注意点ですが――」

……おーけー、誰か通訳を呼んできてくれ。
っていうか、どうして俺がガンプラを作らなければならないんだ、説明しろ説明。
沙織のガンプラ講座をなんとか遮り、そういうようなことを尋ねてみたところ、

「理由ですか? この前も言ったではありませんか」

堂々と胸を張って、こんな答えが返ってきた。

「人生相談です」

うむ、相変わらずおっぱいでけえな。
だけど、これはどう考えても悩みの解決とは違うし、こういうのはオタク友達とやった方が楽しいんじゃないのか?
おまえにはもう桐乃と黒猫っていうオタク友達がいるだろうに。

「きりりんさんと黒猫さんはガンダムには興味がないようですから……」
13 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/12(水) 23:02:23.06 ID:KZdJ5BByo
あぁ……そうだったな。
桐乃ってやつは、メルルという子供向けアニメの大ファンにして妹もののエロゲ収集家。
黒猫ってやつは、マスケラという厨二アニメの信者にしてちょっと電波入ってる危ない子。
どちらも悪い奴ではないのだが、確かにガンダムとは縁遠そうだ。
補足しておくと、どちらも沙織に負けないくらいの超絶美人でもある。

「そうでした、それで思い出しましたわ」
「あん? まだ何かあんのか?」
「明日、家にきりりんさんと黒猫さんがいらっしゃいますから、お兄様も一緒に遊びませんか?」



翌日の日曜日。
昼食をすませ、リビングでだらだらテレビを眺めていると、ぴんぽーんとインターホンが鳴った。少し間をおいて、再び、ぴんぽーん。
誰も出る様子がない。
ちなみに親父は休日だってのに仕事。お袋は近所のおばさんたちとどっかに行った。
痺れを切らしたのか、訪問者は最終的にインターホンを連打する。ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴんぽーん。

「そんなに連打するんじゃねえ。聞こえてるよ」

仕方なく俺はソファから重い腰をあげようとしたのだが、そこで、どたどたどたっと階段を駆け下りてくる声が聞こえた。でもって、

「お待たせして申し訳ござらん!お待ちしておりました!!」

絶対俺には言わないようなござる口調が聞こえてきた。
今日の沙織の服装は、「オタク」と聞いて思い浮かべるイメージそのもの。
これがあの妹とはなかなか信じがたいものである。

そうか、今日は沙織の友達が遊びにくるんだったな。
沈ませかけた尻を再び持ち上げ、玄関に顔を出す。

「いらっしゃい」
「あ、地味兄貴」
「……っふ……よくぞここまでたどり着いたものね……褒めてあげるわ」

会うなりこれだ。こいつらは遠慮とか思いやりって言葉を知らないの?
黒猫に関してはそれ言いたかっただけだろ。たどり着いた側が何言ってんだ。

「それでは早速拙者の部屋に行きましょう!」

そういうと、桐乃と黒猫を引き連れて階段を上っていく沙織。
俺はがっくりと項垂れながら来客者御一行を見送る。

「もう既に疲れた。……こんなんで半日もつのか?」
14 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/12(水) 23:03:15.09 ID:KZdJ5BByo
俺がお茶とお菓子を持ってあがると、沙織達はなにやら俺の話題で盛り上がっていた。

「だから〜、あたしの理想の兄貴像は、優しくて頼りがいがあって……あ、当然超シスコンなのがデフォだから。でもそれをなかなか認めようとしなくて」
「あなたにしてはいい線行ってるわ。だけど少し現実を見なさい。そんな都合のいい兄がいるわけがないでしょう?」
「いやいや、そうとも限らんでござるよ黒猫氏。拙者のお兄様なんかは結構それに近いものが――」

なんつー会話してるんだ。なんだよ、理想の兄貴像って。
他に話すこと一杯あるだろうに。なんでよりにもよって兄貴談義に花を咲かせてるんだ。

「えー? それはないって。だって“あれ”だよ?」

桐乃はそういうと俺を指差した。
まぁ確かに俺は凡庸だし、顔だっておまえらに比べりゃ地味だけど……“あれ”はないんじゃないですかね?

「きりりん氏、拙者のお兄様を舐めてもらっては困りますな」
「「「えっ?」」」

俺達3人の声がハモる。

「ふっふっふ。何を隠そう、先日拙者が家を飛び出してしまった時、お兄様はあちこち走り回って探してくれましたし、拙者の趣味が奪われかけたなら、父上に説教かましてまで守ってくれたと聞きました。そしてそれ以来、人生相談にもたびたび乗っていただいております。お兄様のシスコンっぷりったらそれはもう――」

ぎゃああああああああ! それ以上俺の恥ずかしい過去を暴露するんじゃない!

「ご、誤解だ! お、俺はあくまで沙織の人生相談とやらを最後まで責任もって終わらせたかっただけで、他意はないんだよ!!」
「そして、この反応でござる。いかがかな? きりりん氏」

お願い! もう俺で遊ぶのはやめて!



結局、なんやかんやで時間は過ぎ、今日はお開きとなった。
まぁ、なんだ。楽しかったよ、意外と。時間が経つのを忘れるくらいには。

「……今日は沙織と遊んでくれて、ありがとな」

肩の力を抜いて、口の端を持ち上げる。
すると、黒猫はじっと俺の眼を覗きこみ、

「……いい機会だから聞いておくけれど、あなた、どうしてあんなに妹の世話を焼いているの?」

なんでだろうなぁ……俺にもわからん。

「……シスコン?」
「それだけは違う!」
「じゃあなに?」
15 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/12(水) 23:03:47.21 ID:KZdJ5BByo
首を傾げる黒猫。なんでかしらんが、この話題にえらくご執心らしい。

「…………兄妹だからじゃ、ねえの?」
「…………そう。分かった。……いいお兄さんね。とても羨ましいわ」

こちらの胸にじんわりと染み入るような、優しい口調。

「ふっふっふ。そうでござろう!なにしろ拙者自慢のお兄様ですからな!」

おまえはブラコンを隠そうともしないんだな。

気付けば、桐乃が唇をとがらせ、上目づかいでこちらを睨みつけている。
まるで欲しいものを買ってもらえなかった子供みたいな表情だ。

「ん? どうした?」
「…………」
「きりりん氏、そんなに見つめてもお兄様はあげられませんぞ?」

桐乃は、瞬間目を見開いたかと思うと、一転、眉間に皺を寄せ怒りを露わにする。

「だ、誰もこんなんいらないってば! つかキモいし、こっちの黒いのじゃないんだから!」
「――ハ、下らない勘違いをしないでちょうだい。……私だって、まるで好みじゃないわ。こんな男、こっちから願い下げよ」

ひでえ……なにもそこまで言わんでも……。
桐乃と黒猫は、俺への罵詈雑言をまき散らすや、勢いよく踵を返した。
そのまま早足で去っていく。俺はその背に向かってため息をついた。

「……はぁ」

すらりとした均整のとれた体に、ライトブラウンの流れるような長髪。
超居丈高で傲岸不遜。趣味はアニメにエロゲ。
かたや、真白な肌、日本人形のような黒髪。
無感情無愛想の上、口を開けば毒舌ばかり。
だけどな。

「ま、またね」
「――また来るわ」

たまに可愛いとこもある。

「はいよ」



第二話おわり
16 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/12(水) 23:05:45.22 ID:KZdJ5BByo
※ここまでは、>>1にあるスレで投下した内容
ここからは、書けたとこから投下していくことになるので投下ペースは遅くなります
17 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/12(水) 23:06:54.53 ID:KZdJ5BByo
第三話

とある日曜日の朝。
俺は数年ぶりに麻奈実を連れて自宅までやって来た。
スーパーで待ち合わせて買い物をしてきたので二人とも手には買い物袋を提げている。
今日は両親が出掛けるため、麻奈実がメシを作りに来てくれることになっていたのだ。

「よし、あがれよ」
「お、お邪魔しま〜す」

と、俺たちが靴を脱いで玄関に上がったところで――

ばったり沙織と出くわした。

「あら……」
「あ……」

リビングから出てきた沙織と、玄関に上がったばかりの麻奈実の眼がぴたり、と合う。
両者とも、いや、俺も含めた三人ともがぽかん口を開けて、目を丸くしている。
そりゃそうなるよ。沙織の恰好が、例のオタクファッションだったんだからな!
こ、これはまずいぜ……今の沙織はどこからどうみても変な子だ。
ど、どうなるんだこれ? 俺は自分が招いてしまった展開に恐れをなしたが、

「あ、沙織ちゃん……だよね? こんにちは。雰囲気変わったね〜」

一方、空気を読めない麻奈実は、ぱたぱた手をふり、とても友好的にあいさつをした。

「久しぶりだね。私のこと覚えてる? 昔はよく……」
「ひっ……」

沙織は、何かに怯えたような声を出したかと思うと、俺の襟首を引っ掴み、

「ちょっとこちらへ」
「ぐえ。んだ……お、おいっ」

俺は、妹に引っ張られるがまま麻奈実から引き離され、リビングの中に引きずり込まれてしまう。
ぐいぐいぐい――バタン! 沙織の手によりリビングの扉が閉まる。

「ど、どういうことでござる!? な、なんであの人が家に!?」
「……いや……俺が呼んだから……だけど……」
「聞いておりませんぞ!」
「そりゃ……言ってねーし」
「と、とにかく今日はまずいのです! 今はひとまずお引き取りを願いたい!!」
「そんなわけにいくか。ちょ、落ち着けって――」

俺は妹の勢いを押し止めるように片手を突き出し距離を取る。

「なんだってんだよ。……なに? ひょっとしておまえ、麻奈実が嫌いなの?」
「そうではありません! ですがこのままでは――」
18 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/12(水) 23:07:31.65 ID:KZdJ5BByo
ピンポーン。

唐突に鳴るインターホン。
ここに来てようやく気付いた。あぁ、沙織が焦ってたのは、ひょっとして“あいつら”が来るからなのか。沙織もあいつらと会うとき用の恰好だしな。
こんな簡単なこと、なんでもっと早く気付かなかったんだ。
恐らく沙織が異常に慌てていたせいだ。こいつがこんなに取り乱す所、久しぶりに見た気がする。

だが、仮にそうだとすると、どうしてもわからない疑問が湧いてくる。

「……あぁ…………もう手遅れ…………でござる」

全てを諦めたのか、がっくりと項垂れる沙織。
いったい何がそんなにまずいんだ? あいつらと麻奈実を会わせちゃいけない理由でもあるの?

ピンポーン。少し間を置いて再びチャイムが鳴った。

「あ、あのぉ……? お客さんだよぉ〜……?」

かちゃり、と音を立ててリビングの扉が開き麻奈実が顔を覗かせた。
えらく控えめに開けたところを見ると、俺たちが喧嘩でもしていると勘違いしていたのだろうか。

「お、おう。すぐ出るよ」
「あ! お兄様! せめて麻奈実さんをどこか――」

後ろから俺を呼びとめる声が聞こえたが、それを振りきり玄関へ向かう。
あいつらをこれ以上待たせたらどうなるかわかったもんじゃねえからな。

「悪い、待たせたな。いらっしゃい」
「ふん、出て来るの遅すぎ。ちゃんと玄関で待っとけっての」
「ふ……危なかったわね。出て来るのが後少し遅ければ――今頃この家は灰と化していたわ」

ほらな。すぐに出てきてよかったろ?

「ま、まぁとにかく上がれよ。沙織の部屋で待っててくれ。沙織もすぐ行くから」

そして俺は、桐乃と黒猫を我が家へと招き入れたのだが――

「あ、沙織ちゃんのお友達かな? きょうちゃんの幼馴染の田村麻奈実です。よろしくね?」

麻奈実を見た途端、桐乃の表情ががらりと変わった。
両目がクワッと吊り上り、鋭い視線が麻奈実を射抜く。
一方、黒猫はというと、

「クッ、出たわね……ベルフェゴール……」

と、わけのわからない事をのたまいながら戦慄の表情を浮かべている。
誰だよ、ベルフェゴールって。
19 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/12(水) 23:08:10.02 ID:KZdJ5BByo
「……おい、おまえら……おい、ちょっと耳貸せ」
「は? な、なに……?」
「……? な、なによ……?」

俺は、渋々近寄ってきた桐乃と黒猫の耳に口を寄せる。
リビングへと繋がる扉の脇できょとんとしている麻奈実の顔を、ちらっと一瞥してから

「えっと、もしかしておまえら……まさかとは思うけど…………麻奈実のこと嫌いなの?」
「「……………………別に」」

二人して同じ台詞を言いやがった。
なにこれどういうこと? おまえらと麻奈実との間に、接点なんてなにもねーじゃねーか。
そもそもおまえらと麻奈実は初対面だろうが。なんで揃いも揃って好感度マイナスからスタートすんだよ。

「お二人ともよくいらしてくれました! 早速、わた……いえ、拙者の部屋へ行きましょうぞ!!」

玄関の空気を察したのか、沙織がリビングから飛び出してきた。
ここら辺はさすが沙織だ。桐乃と黒猫の背中を押して、せっせと二階へと連れて行く。

「あ……ちょ、ちょっと」
「ま、待ちなさい」

二人はまだ何か言いたげにしていたが、沙織が有無を言わさず連れ去ってしまう。
結果、玄関には俺と麻奈実が取り残される形となった。

「……なんだったんだ?」

まぁ、いいか。

このときの俺は、あいつらが突然不機嫌になった理由も考えず麻奈実とのんびりすることを優先したんだ。
不機嫌なあいつらを放置することがどれだけ危険か、ちょっと考えりゃわかりそうなもんなのにな。
20 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/12(水) 23:09:56.61 ID:KZdJ5BByo
今日はここまで。続きはしばらくお待ちください
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 23:13:04.21 ID:ItAOa1Mho
乙。桐乃頑張れ
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 23:25:54.44 ID:Lrgy+vHS0
>>1乙!
期待支援
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 23:32:33.06 ID:peOxQaNc0
>>1乙!
京介からしたら桐乃は佳奈子の立ち位置なのかな
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 00:40:29.57 ID:xxG3OPRy0
期待
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 00:51:58.81 ID:g2Eu1G0AO
本スレからきますた
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 02:29:49.85 ID:ykvtRok+0
この気持ちまさしく乙だっ!
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 03:58:06.20 ID:4635i7S60
あいたかったぞ>>1乙!
楽しみにしてるよ〜
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 13:54:08.34 ID:LVGwZg1r0
キャラの立ち位置が変わっただけで話の流れは原作のまんま続ける予定なの?
29 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/13(木) 15:33:40.18 ID:Z9ITKrREo
基本的に話の流れは原作の通りです
が、それだけだと面白味にかけるので、原作とはちょっと違う方向に進めて行こうと思ってます
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 15:35:27.84 ID:ya+YVsBDO
京介と沙織の住んでる家は原作の高坂家なの?槙島家の豪邸なの?
前者なら沙織はお嬢さま設定じゃないし、後者なら京介も金持ちのボンボンのはずだよね
31 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/13(木) 16:05:29.52 ID:Z9ITKrREo
>>30
前者、つまり原作高坂家に住んでるものとして書いています。ご指摘の通りですが、
このスレの沙織は、原作桐乃とは違い、お嬢様学校に通っていることになっているので

お嬢様学校に通う→周囲の影響でお嬢様キャラに

とでも脳内補完して頂けると助かります。

ちなみに、沙織と桐乃は入れ替わったわけではなく、桐乃がお金持ちの家の子になったりはしてません
立ち位置が入れ替わったというより、押し出された格好になります
また、あやせ等の原作での桐乃の友人は、このスレでも桐乃の友人として扱おうかなと思ってます。出て来るかはわかりませんが。


32 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/13(木) 18:40:37.62 ID:Z9ITKrREo
俺と麻奈実がリビングでお茶を飲んでいると、ほどなくして二階からバタバタと騒がしい足音が響いてきた。
同時に誰かが何か叫んでいるようだが、聞き取れない。

「なにやってるんだ? あいつら」

今までは騒ぎこそすれ、ひとんちで走り回るなんてことはしなかったってのに。

「沙織ちゃんたち、楽しそうだね〜」
「……ああ、そうだな」

どうやらおばあちゃんは、子供たちが元気なのが嬉しいようだ。
その台詞、孫が遊びに来たときのおばあちゃんそのままだぞ。

「と、ところでね……きょうちゃん」

しばらく、バタバタとうるさい天井を見つめていた俺だったが、麻奈実に呼ばれ振り返る。
見れば麻奈実は、なにやらもじもじとしていた。

「どうした麻奈実? トイレならリビング出て真っ直ぐ行ってから右だぞ?」
「と、といれじゃないもんっ! きょうちゃんったら、でりかしーなさすぎっ!」
「そりゃ悪かった。で? じゃあなんだよ」
「その……きょ、きょうちゃんの部屋……見たいなぁ……なぁんて…………だめ?」
「あ? そりゃ構わんが……たいしたもんはねーぞ?」
「やった」

ぱん、と両掌を合わせて、嬉しそうにする麻奈実。
とまぁそんなわけで、俺は麻奈実を自分の部屋に招くことになったのだが――
なんだろう。この妙に居心地の悪い――落ち着かない感じ。
何かを忘れている気がする。俺の人生を左右しかねない、重要な何かを……。
くそっ、喉元まで出かかっているんだけどなあ。
33 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/13(木) 18:42:40.14 ID:Z9ITKrREo
麻奈実を自分の部屋に案内するため、リビングの扉を開ける。
すると、音を遮る障害物が消えたためか、今まで聞きとれなかった沙織たちの声がはっきりと聞こえてきた。

「いいじゃん、これくらいなら。あんただって内心はムカついてるんでしょ?」
「そ、それとこれとは話が別です!」
「あっはっはっは! 闇の力を思い知るがいいわ!!」
「ああっ、後生ですから、それだけはお許しを〜!! お兄様の趣味が疑われ――ええい、ここまでくれば一蓮托生でござる! もうどうにでもな〜れ」

…………あいつら、いったい何して遊んでるんだ? 悪代官ごっこでもやってんの?
騒ぐのはいいけど、あんまり俺の妹をいじめないでくれよ?

麻奈実がついてきたのを確認してから、ばたん、とリビングの扉を閉める。
二階に上がると、そそくさと沙織の部屋に引っ込む沙織たちの後ろ姿が見えた。
あれ? あいつら沙織の部屋で遊んでたんじゃなかったのか?
まぁ、細かいことは今はいいか。

「ここが俺の部屋な。……ま、入ってくれ」

がちゃり。ノブを回して扉を開けると、真正面にある机の上に目線がいき――

「うおおおおお!」

俺は思わず取り乱しながら学習机までダッシュし、HGFCノーベルガンダムを麻奈実の視界から隠した。
そうだった! 忘れてたよ、ちくしょう! さっきの落ち着かない感じの正体はこれか!!
昨日、表面処理しようと思って机の上に置いといたんだ!めんどくさくて結局やらなかったけどさ!!

落ち着け――落ち着いて考えるんだ京介!
男子の部屋にガンプラがあることは大した問題じゃない。むしろ、なんの問題もないと言える。
だが、ノーベルガンダムはまずい。ノーベルガンダムだけはまずい。
だって、どこからどうみてもセーラー服で新体操してる女の子なんだもの!
34 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/13(木) 18:43:43.72 ID:Z9ITKrREo
「ど、どうしたの……きょうちゃん……?」

額にじわりと冷や汗をにじませつつ振り返ると、部屋の入口のあたりで麻奈実がこちらを窺っていた。
俺の突然の奇行に、ぽかんと口を開けている。
ど、どうしたのと言われましても……。

「な、なんでもないっスよ?」
「……なんでもないって……言われても」

ですよね。

「いやっ! なんでもないんだってほんとに! いまのはちょっと……叫びながら走りたい衝動に襲われただけでな?」

しかしマズイな……。打開策が「ガンプラを窓から放り投げる」くらいしか出てこねえ。
なにか……なにかいいアイデアはないか? この状況から無事生還する打開策は!?

ピコーン! 頭上で、そんな音が聞こえた気がしたね。

「……待て! そうだよ……! これは……なんとかなるんじゃないか?」

追い詰められた俺は、学習机の一番大きな引出しを凝視した。
そう――タイムマシ……じゃなかった、単に引出しに突っ込めばいいのだ!
エロゲ起動中のPCじゃないんだから、ガンプラ程度なら引出しに簡単に隠すことができる。

というわけで――

「ふぅ〜〜」

手の甲で額を拭う。こ、これでOK……っ。
もはや俺の学習机は、凡庸学生の机そのものになっているはずだ。
俺は胸をなでおろしつつ振り返る。

「ハハ、驚かせて悪かったな!」

だが俺が爽やかな笑顔を向けた先では――

「……………………じい」
「麻奈実さん……どうして俺の机の上を見ていらっしゃるの……?」
35 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/13(木) 18:45:10.90 ID:Z9ITKrREo
俺はみるみるわき上がってきた嫌な予感に浸食され、妙な言葉遣いになっていた。
だって麻奈実、なんか赤面しちゃってるし……。
ハアハアと嫌な予感に息を荒げながらも、麻奈実の視線をたどると、その先には机の隣に置かれたCDラックがあった。

「なん……らるれ!?」

錯乱した悲鳴を上げる俺。
そこに静置されていたのは――
魔改造を施されたノーベルガンダム――らしきものだった。
どこかのフィギュアからパーツを持ってきて使ったのか、所々に人間の女の子のような肌が見えている。
というより、フィギュアにプラモのパーツをくっつけた、という方がしっくりくる。

「ぜんぜん大丈夫じゃねえ!? なんだありゃ!!」
「きょ、きょうちゃん……これ……って?」

ちょっ、どういうことだよ!? いったい誰が俺の部屋にこんなトラップを仕掛けていきやがったんだ!?
いやいやいや! 考えるまでもねえ――よ! あいつらだ! クソッ、誰が主犯格かは知らないけどさあ!!

麻奈実はしばし、何とも言えない微妙な声色で、赤面しつつ言いよどんでいたが……

「……そっかあ」

やがて、ほんわかと慈愛の微笑みを浮かべた。
そっかあ。
そっかあって何!
何に対してどんな納得をしたんだおまえは! 知りたいけど聞きたくねえ――!?

俺は今後、この日のことを忘れないだろう。

「……えっと……きょうちゃん……その……せーらー服っていくらくらいで買えるのかな?」

俺はその場で、まさに膝から崩れ落ちた。
36 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/13(木) 18:46:06.15 ID:Z9ITKrREo
本日分はこれだけ。おやすみ
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 18:55:20.73 ID:DttZASzR0
乙!
早く体調よくして、続きかいてください
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:35:55.16 ID:lKctX2S10
おつ
ノーベルガンダムがよく分からなくてググッたら、
リボンで舞っているガンダムが出てきたでござる

早く元気になるといいな
39 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/13(木) 20:13:05.66 ID:Z9ITKrREo
しまった、書き忘れた
これで第三話おわりです

読んでくれてありがとう!インフルはほぼ治ったので、これからは本スレ投下用と並行で書いてくよ!
そして今度こそおやすみ
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 21:18:30.32 ID:E7+urfyIO
このスレはガンダムのほうの話はできるの?
カトルの宇宙の心は彼ってなんだったの?
SS・小説スレは本日、移民大会議を行います。(板が新しくなります)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1279375638/

41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 21:29:51.49 ID:S6R8lvhVo
おつぱい
SS・小説スレは本日、移民大会議を行います。(板が新しくなります)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1279375638/

42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 22:15:50.87 ID:r0Id9Yivo
ん?
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:30:33.98 ID:/uxbsRZAO
http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

SS板 もしもし用?
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:31:16.66 ID:/uxbsRZAO
誤爆
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

45 :真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 23:06:29.32 ID:QQ2SkATs0
むむ?
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 23:20:13.97 ID:QQ2SkATso
サーバー移転したのか

>>1乙です
4話待ってます
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 06:15:49.37 ID:VUi/OkOY0
探したぜ...
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/14(金) 13:04:18.50 ID:etVYr0KAO
発見
上げておこう
50 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/14(金) 16:49:17.93 ID:oNsW6jabo
迷った人多かったのか
管理人さんが案内出すから大丈夫と仰ってたのでいいかなと思ったんだが、せめて一言いってからにすべきだった
ごめんなさい
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 17:21:11.76 ID:Nh3pDkcqo
あっち落とす前に誘導してればよかったんだろうな
まあ今更だけど
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 17:55:58.82 ID:9RATcbGN0
>>50それよりも続きをプリーズ!
53 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/14(金) 19:15:16.59 ID:oNsW6jabo
第四話

その日、俺は沙織にメールで呼び出され、秋葉原に来ていた。
なんでも先日のことを謝りたいとのことらしいのだが。

「……ったく、なんだってんだよ。こんなところまで人を呼び出しやがって……」

指定の場所へ向かって電気街を歩きながら不機嫌にぼやく。
こんなの、家で一言謝りゃ十分だろうに。

「……だめだ……どうにも気乗りしねえ……」

気分は依然として悪い。常より少し深い猫背になって、ポケットに両手を突っ込んで、足取り重くよたよた歩く。
なんで俺がこんなザマになっているのかといえば、先日沙織たちが仕掛けた罠によって、幼馴染にセーラー服フェチだと思われた事件が、まだあとを引いているのであった。

さすがに一週間も経てば、俺の心の傷も多少癒えてきてはいる。
だけど、一生ことあるごとに思い返しては、せつない後悔で胸が痛むんだろうな……なんてことを考えるとどうにも吹っ切れない。

「……っと、ここか?」

ふと足をとめ、俺が見上げたのはなんの変哲もないビルだ。

「レンタルルームねぇ……なんのことやら」

エレベーターで三階へ。エレベーターを降りると、すぐ右手に受付窓口があった。
左手には通路が延びており、幾つかの扉が見える。
なるほど、扉一つ一つがレンタルルームってわけね。
カラオケボックスよろしくまずは受付で部屋番を聞くのだろうが、そんなことをしなくても俺の目的地はすぐにわかった。
一番手前の扉のわきに、ちょうど冠婚葬祭の会場のような案内看板が置かれていたからだ。
54 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/14(金) 19:16:59.49 ID:oNsW6jabo
『みんなのお兄ちゃん高坂京介とその妹たちご一行様パーティー会場』

ハッハッハ! 誰だよ高坂京介って〜。
みんなのお兄ちゃん? ばっかじゃねーのコイツ? シスコンかよ。こっ恥ずかしいやつだなぁ。

「俺のフルネームだよくっそお〜〜〜!?」

誰だっ! こんな公衆の場で、俺の名を辱めている不届きものは!
――いや、ほんとに誰だよ。確かに俺は沙織の兄貴だが、なんで『みんなの』なんて単語がくっ付いてるんだ。
そのせいで変態っぽさが大幅にレベルアップしちまってるじゃねえか。

「はい、高坂京介さまですね。301番のお部屋になります」
「……ういっす」

俺は受付のお姉さんに力なく頷いて、『みんなのお兄ちゃん高坂京介とその妹たちご一行様パーティー会場』と書かれた看板のわきに立った。
目前の扉には何故か他の扉にはないネームプレートがくっついていた。
明らかに即席で付けたと分かる、不自然な形でだ。
そして、そのネームプレートにはこう書かれていた。

さおり
くろねこ
きりの

妙な胸騒ぎを覚えつつ扉を開く。

「お帰りなさい! お兄様!」

セーラー服を着た妹たちが、二人並んで俺を出迎えた
俺は見なかったことにして扉を閉めた。
55 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/14(金) 19:19:25.97 ID:oNsW6jabo
「………………な、なんだいまのは……?」

ごくっ……。生唾を飲み込み、額の汗をぬぐう。
すうはあと深呼吸してから、恐る恐る、再び扉を開ける。

「お、お帰り! あ、ああ……あに…………やっぱだめ! なんか恥ずかしいし無理!!」

扉を開けた瞬間、茶髪の妹が俺を出迎えたはいものの、唐突に何かを諦める。

「……お、おまえら……これは……どういう……?」

俺はおまえに兄貴と呼ばれる義理はないぞ?
それに、沙織はなんでいつものオタクファッションをしてないんだ?
俺は理解不能の展開に面喰いながらも、辛うじてそれだけ呟いた。

「ふふふ。どうやら、ばっちり驚いて頂けたご様子。私のセーラー服姿、萌えました?」
「いや、たしかに驚きはしたが……萌えてはいない」
「あら? おかしいですわね。お兄様はてっきりセーラー服萌えだと思いましたのに」
「なんの根拠があってそんなことを!?」

おい! これは俺に謝罪するための企画じゃなかったのか!?
俺になんの恨みがあってこんな傷口に塩を塗りこむような真似をする!
……もうこれ以上俺のトラウマを刺激するものはないだろうな。
俺は注意深く周囲を見回した。と――そこで気付く。
沙織と桐乃と――。
一人足りない。

「あれ? 黒猫は? きてねーの?」

表のネームプレートに名前があったし、てっきり三人一緒だと思ったんだが。

「ああ、黒猫さんでしたら――」

沙織はぐるりと背後を振り返り、部屋の隅っこを指さした。
そこには――

「あ」
「…………」

カーテンの裏に隠れて、セーラー服に身を包んだ黒猫が顔を覗かせていた。
56 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/14(金) 19:35:35.38 ID:oNsW6jabo
今日はここまで

今まで総合スレで短編ばっかり書いてたせいか、長編書くときの勝手がわからん
投下量少な目だけど許して
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 19:42:42.71 ID:9RATcbGN0
なん...だと?
...早く...戻ってきて...くれガクッ   o........rz
58 :VIPにかわりましてNEPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 20:45:33.00 ID:a0ZKSovH0

ここで切るとはなんとドSな…
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 22:35:53.17 ID:9yhZG490o

待ってるぞ
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 00:02:22.94 ID:KAJ1O3F00
セーラー黒猫の詳細を誰か早く
61 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/15(土) 00:16:12.53 ID:sKl065BRo
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1361115.jpg

「違うのよ」

黒猫は開口一番そう言った。
覚悟を決めたようにゴクリとつばを飲み込み、おずおずとカーテンの裏から進み出てきて――最初の台詞がこれである。

「ハハ、そのかっこも新鮮でいいじゃねーか」

目前で恥ずかしそうにむっつりうしている黒猫にそう声をかけた。
すると黒猫は、

「……莫迦じゃないの」

という捨て台詞と共に、ぷいっと向こうを向いてしまう。
どうやら機嫌をそこねてしまったらしい。
62 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/15(土) 00:17:16.53 ID:sKl065BRo
待ちきれない>>60のために1レス分だけ書いた。おやすみ
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 00:23:12.96 ID:OMMkodMT0
  ///\            //∧               
|/////≫=========:≪//////∧               
|///::::::::::::::::::::::::::::::::::::::               
∨:::::::::::::::::::::::∧:::::::::::::::::\                
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/:::::::|:::::::」::::::::」| |L:::::::」∠:」_|:::::::            
::::::::::L:::≫ミー'  ヽ'ーィ=≪ | ::::::: |           
i:::::::::i|〃 んiハ      んiハ 》:|:::::::i::|           
|:i::::::小  V)ソ      V)ソ . |:::::::i::|           
N:::::::::\::::::::.      .:::::::::.厶::::」┘               
ト-L八u    r   ´}   人´::::|               
|::/::::::个:..._   、   _ノ  イ:::::::::::::|               
i/ ::::::: i/⌒マ≧=‐≦〔::::i:::::::::: 八              
/::::::::_∠≫'7>ヘーヘ夾}ノ\::__::::::::::\           
:::::::r'/::{{-{{   ノJJJく::.\::.∨ ::::::|ヽ::ヽ            
|:::/::.::.::.::{{斗‐=ト--'/人)、::.::Yヘ::::::::| ):::)
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 00:30:39.54 ID:wHx3Ol9ko
>>61
ぺろぺろ(^ω^)
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 01:38:38.65 ID:JCtIwpWHo
             . ≦¨´  ̄ ̄ `ミ  .
           / . . :>: : . . . . . . . . . .  ` .
            /  : : : : : : : : : : : : : : : : : : : . \
          ,〃 . .    i!            ヽ    ヽ
        // . : : : :/: :/{:. : i、 . . . . . . . .ヽ ハ. .  ハ
      / ′: : / /:〃  ‘:. :{ \: : : : : : :// i: : : : . .      >>1
     .' j: : : : i .:' /   兄専用\: :_// :V,| : : : : :i           ■    ■■    ■
     |/|:. : : :|.::i廴___ 人{     `<: :/ヘ:|: : : : : |     ■ ■■■■■ ■■ ■■■■  ■ ■ ■ ■
     { ‘:.. : : {/|{__..zz≧ミ¨ヽ. 丶ーz.七`≦_}}: : : : .:’      ■     ■        ■   ■  ■ ■
     八 ‘:.. : :{爪´{っ;;(_iヾ  \´ァfチ;;てi`y リ: : : ..:/      ■      ■        ■   ■   ■
       ∧:. : i ‘, 乂..ツ      乂...ツ ノ'/ : : ;:イ       ■      ■        ■   ■   ■
        }:i:..∨:i:/:           ,. ., /.: ..ィ' リ       ■   ■■■■■   ■   ■
    __.. 彡:|:.`ト\       ′    /:i:/レ':./:.{.人 __.     ■  ■  ■   ■      ■
     `¨¨´ } |:.:人              ≦ ´ノ}:.:. |:.i`¨¨´     ■■  ■■   ■     ■■
         ノ.:|: :Vi:\     (_ヽ     /:.:′||
      ,/⌒ヽ: :マニ介:i  .     . イ:.:.:.:.:i: : :i!:.{
      〃    ‘,:マ≧ヒ}    ̄ ´  .小 :.:. | : :{:. ‘,
     .′      ‘,:マ= {乂_       {`廴fニ| : :|》 ┴ 、
     {  ___  小: :廴{{   `ヽ ァー一' 《/,|: i |》   ‘,
    /´ 一  ― ミ‘,マニミ 、   __    Y_}:. :|フ   __}_
   {/          小: i   ` 二´ - ミ 、 __匕}i :jフ-≦ 一 }
   ∨        { }:‘,    }   〉一≦j: :厂´/   /
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 02:20:02.93 ID:kfUkQV02o
>>65
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 02:29:56.72 ID:ziXBNs7to
>>65
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 03:14:54.34 ID:LLZTzCfho
>>65
このAAスゲー
しばらく気付かなかったww
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 03:15:11.90 ID:f+02Ha9F0
>>61本当に有難う御座いましたできれば待ちきれないのであと10レスお願いしまふぅ……
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 08:08:00.60 ID:f9f4LJ4DO
age
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 18:01:29.07 ID:OMMkodMT0
ふむふむ
72 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/15(土) 21:09:53.69 ID:sKl065BRo
しかしこの状況…………冷静に考えてみれば色々とつっこみどころ多すぎるだろ。
仕方ねえ。一つずつ消化していくか。

「まず、沙織。いつものオタクファッションはどうした」

おまえ、こいつらの前ではあのファッションで行くんじゃなかったの?

「今日はこのコスプレをするにあたってちょっと勇気を出してみたんです。あのぐるぐる眼鏡でセーラー服を着ても萌えませんでしょう?」
「安心しろ。おまえがどんな格好だろうと妹に萌えることはない」

だいたい、そのセーラー服だってどっから調達したんだ?

「あ、これはあたしの中学の制服なの」

沙織の隣にいた桐乃が解説する。
ああ、なるほど。どこかで見たような気がすると思ったら近所の中学の制服だ。
っていうか桐乃って意外と近くに住んでたんだな。

……いやいや、おかしいだろ。
なんで桐乃の中学の制服が沙織と黒猫の分まで用意されてるんだよ。
黒猫はどうか知らないが、沙織は中学の頃から例のお嬢様学校に通ってたんだから。
沙織の中学の制服はこんなんじゃなかったぞ?

「ふふふ、私と黒猫さんの分は自前ですわ。きりりんさんの制服を参考にして黒猫さんが作って下さいましたの。どうです? そっくりでしょう?」
「そうなのか? これが自前って……すげえなおまえ」

沙織と黒猫が着ている制服は、そう言われてみてようやく違いがわかるくらいの素晴らしい出来だった。
たしかに桐乃が着ている制服とは生地が少し異なっているようで、色合いがほんの少し違っている。
だが、見てわかる違いはそれくらいで、パッと見同じものにしか見えない。
73 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/15(土) 21:10:38.42 ID:sKl065BRo
「おまえ、超器用だったんだな」
「ふん、お世辞は結構よ」

先ほどよりもさらにふいっとそっぽを向く黒猫。もうほとんど後ろを向いてしまっている。
褒められるのが苦手なのか、こいつは褒められるとすぐに照れるな。
しかも照れ隠しがてらに毒を吐いて。そこがかわいいんだけどさ。
さて、まだ俺の突っ込みは終わってないぞ。まだ一番の謎が残っている。

「……セーラー服を着ている理由についてはもういい。あえて聞くまい。だが、表のあれは何だ?」

いったいなに? みんなのお兄ちゃんって?
あれのせいで俺が受付のお姉さんにどんな目で見られたことか。
今日は俺に謝罪がしたいんじゃなかったの? 今の所辱めしか受けてないぞ。

「あれは今回の裏テーマといったところです」
「裏テーマ?」

なんじゃそら。俺に謝る以外のテーマが存在するってこと?
……確かに、裏テーマでも無けりゃこんなところを借りてまで俺への謝罪を企てたりはしないか。
それこそ家や電話で一言言えば済む話だからな。
俺が妙に納得していると、いつのまにか黒猫が沙織と桐乃の所へ歩み寄り、三人が俺の前で勢ぞろいしている。
なんだ? 何か始まるのか? と、口に出そうと思った瞬間――

「「「この前はごめんなさいっ!」」」
「――――」

三人が並んで頭を下げた。
数秒の間があり、俺はようやく起こったことを理解する。
74 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/15(土) 21:11:25.81 ID:sKl065BRo
ああ、謝ってくれた……のか。えらく唐突だけど。

……おまえらの気持ちは伝わったよ。そうだな。もうこの件は水に流そう。
麻奈実に俺がセーラー服フェチだと誤解されたままなのはちょっと気にかかるが、ちゃんと説明すればわかってくれるだろう。
俺秘蔵のエロ本を見られてしまったわけじゃないし、眼鏡フェチだとばれたわけでもない。
俺も過ぎたことをいつまでも引きずって、ちょっと大人気なかったかもな。

「頭あげろよ。俺はもう怒ってないからさ。むしろ俺の方こそ悪かった。あれくらいの悪戯、笑って許してやればよかったな」

三人の顔がパッと明るくなる。
気付けば、体が勝手に沙織の頭を撫でていた。
懐かしいな。いつぶりだろうか、こいつの頭を撫でるのは。
こいつがあんまりでかくなるもんだから、頭を撫でた記憶がちっとも出てこない。
むしろ、撫でられた記憶が存在するから困る。

しかし、相変わらず笑顔のまま俺に撫でられている沙織とは対照的に、桐乃の表情は暗くなっていた。

「ん? どうした?」
「……なんでもない」

なんでもないわけないだろう。そんなもの欲しそうな顔しやがって。
いつぞやの時と同じく、まるで子供が欲しい物を買ってもらえなかったような表情でこちらを睨んでいる。

「ふふふ、きりりんさんも頭を撫でてほしいのでしょう?」

沙織、おまえなに言ってんだ。こいつに限ってそれはねえよ。
こいつ、年上に甘えるとかそんなのとは対極にいるようなやつじゃねえか。

「ちょ、ちょっと沙織!? 何言ってんの!?」

ほらな。そもそも俺に頭を撫でられたがる理由がわかんねえもん。
75 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/15(土) 21:12:27.39 ID:sKl065BRo
「いいではありませんか。お兄様は、今日はみんなのお兄様です。今日の頼まないともう機会はないかもしれませんよ?」
「う…………っ〜〜!」

沙織の言葉を聞き、意を決したかのようにおずおずと頭を差し出す桐乃。
え? なにこれ? 俺に撫でろってこと?
桐乃の意を図りかね、沙織に目線で助けを求める。
が、沙織は笑顔のままゆっくりと頷くだけだった。
ああ! もう、撫でればいいんだろ!? くそっ、どうなっても知らねえからな!

桐乃の頭にそろりと手を置く。
手を乗せた瞬間、ビクリと桐乃の体が跳ねるのがわかった。緊張しているためか、見てわかるほど肩に力が入っている。
しかし、ゆっくりと頭を撫でてやるにつれて、緊張が解けたのか肩の力も抜けていく。

ひとしきり撫で終わると桐乃は、心臓に手を当て、頬を紅潮させたまま、荒い息を吐いていた。
まるで重大な告白をした直後の女の子みたいな態度を前にして、俺は妙に気恥ずかしくなってしまい、顔が赤くなるのを感じていた。
忘れがちだけど、こいつってすごい美少女なんだよな。

「あ、ありがと……兄貴」

……………………………おい、ちょっと待て。今何て言った?

「え? ちょっと待て。沙織、一つ確認したいんだけどさ。ひょっとして裏テーマって…………あの看板の……」
「はい! 今日一日は私たちがお兄様の妹になってお兄様を元気づけようというテーマになっています!」

と、言うことは……

「にひひ、今日一日よろしくね兄貴」
「……っふ、覚悟することね、兄さん?」

ま、待て! 俺にそんな趣味はない! 
なにこの企画!? なんで妹が増えると俺が元気になることになってるんだ!!
お、俺は断じてシスコンなんかじゃないんだああああ!!



第四話おわり
76 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/15(土) 21:15:23.64 ID:sKl065BRo
>>65の桐乃のAAに感動した。すごいねこれ。
桐乃やっぱりかわいいなあ

投下してみると一話当たりの分量少ないな
今度はもうちょっと長く書きたい
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 21:35:09.39 ID:v/nI9Amoo
>>65のルイズ版知ってる人いないの?
これがゼネレーソンガップか
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 22:30:14.45 ID:Xh3Tzq2Y0
>>76
おお投下来てた、おつ
しかしこの調子で行くと沙織が偽彼氏を連れてくるのか
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 03:58:15.52 ID:ffx5obkf0
何このスレ








みんな可愛い
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 04:51:13.13 ID:LA/v+qt/o
>>77
ゼネレーソンガップだな
俺は最初に携帯でルイズ「好き」のAA見てたからPCで見たときにびっくりした
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 06:09:31.72 ID:O7g0zCqDO
>>75
くそ、沙織SSなのに桐乃に萌えたww
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 19:12:48.51 ID:Qb4Be3TG0
流れが原作と同じでちょっと飽きてきたんだけど
いつになったら原作とはちょっと違う方向に進むんだ?
83 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/16(日) 19:30:57.04 ID:8qBqPfgdo
次の話でちょっと違う方向へ行こうかと思ってます
が、中々話がまとまらない。申し訳ありませんが投下はもうちょっと待ってて下さい
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 19:49:21.14 ID:u1mc1WYW0
私、待つわ
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 20:59:38.13 ID:6rAwouDi0
いつまでも待つわ
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:42:44.86 ID:F/Fstz2y0
>84-85
あみんとか懐かし過ぎるw

>83
SS投下待ってます
87 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/16(日) 23:34:04.63 ID:8qBqPfgdo
第五話

俺はいま、桐乃に呼び出され、近所の公園へとやってきていた。
刻は夕暮れ。空は赤く染まり、足元の影法師が長く長く伸びている。
その先で、桐乃がベンチに座っていた。
俺の姿に気付くと彼女はそっと立ち上がる。

「…………遅い」
「すまん」

これでも急いで来たんだけどな。
そもそも『5時に公園で待ってる』というメールを、5時に送ってこられても間に合うわけないだろ。
俺はどこでもドアなんて持ってないぞ。

「う……そ、そっか。ごめんね」
「構わねえよ。どのみち暇してたからな」
「うん――ありがと」
88 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/16(日) 23:35:15.17 ID:8qBqPfgdo
そう言って、穏やかに微笑む桐乃。
最近――具体的にはこいつらが俺を元気づけるためにパーティーを開いてくれた日から、俺に対する口調が変わったような気がする。
桐乃は、ふぅ……と深呼吸をひとつしてから、話題を切り替える。

「で……あんた。用件はわかってる?」
「いや……あのメールでわかるわけないだろ」

おまえ、待ち合わせ場所と時間しか書いてなかったじゃねえか。

「ちっ……察しなさいよ」

桐乃は不機嫌に舌打ちをし、ライトブラウンの髪をかきあげる。
その流れるような長髪は、夕焼けに照らされて黄金色に輝いて見えた。

「あんたをここに呼んだのは……人生相談が……あるからなの」
「人生相談?」
「そう、人生相談。沙織が、あんたにしてるみたいな」

おまえが? 俺に? いったい何を相談するんだよ。
言っておくけど、それ、俺を都合よく動かすための合言葉じゃないからね。
これから自分の身にどんな厄介ごとが降りかかるのかを想像し、思わずげんなりしてしまう。

「……ちょっと、なにその顔。せっかくあたしが人生相談してあげようってのに、何が不満なわけ?」

なんで相談する側がそんな偉そうなんだよ。

「不満なんてねえよ。で? なんだ? 人生相談って」

半ば投げやり気味に続きを促す。
89 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/16(日) 23:35:53.22 ID:8qBqPfgdo
「………………」

が、桐乃は一向に答えない。
何かを言おうとして口を開いても結局言葉は出てこず、そのまま顔を背けてしまう。
なんだか妙に切羽詰まっている様子だった。
彼女の焦燥に釣られたのか、俺の胸はどきどきと鼓動を速めていた。

「あ、あのね」

意を決したのか、ようやく桐乃が言葉を紡ぎ始める。

「は、初めてあんたと会った時は……正直……地味で、冴えないやつだと……思ってた」

秘密を懺悔する少女のようにぽつりぽつりと、だがはっきりとした声で。

「でも、そうじゃなかった。頼りがいがあって優しいやつだった」

桐乃はまっすぐに俺を見つめてくる。
桐乃の顔が赤いのは夕焼けに照らされているからか……それとも……

「気づけば、ずっと……あんたを見てた。ずっとあんたと一緒にいれる沙織が羨ましかった!……だからっ!」

こ、この流れは……。
ま、まさか……まさか…………まさか!

「あたしのお兄ちゃんになって下さい!」
「………………………………………はい?」
90 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/16(日) 23:37:44.29 ID:8qBqPfgdo
今日はここまで。短くてごめんね
完全に見切発車。さて、これからどうしたもんか
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 23:40:43.11 ID:rzzY0bSM0
なん...だと?
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 02:52:23.04 ID:tVQUyvMW0
ワクテカが止まらない
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 04:13:56.16 ID:x7iRSL+AO
おいこらはやくしろこら寝んなこらはやく書けこら聞いてんのかry
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 06:34:43.37 ID:Wut1pMYIO
素晴らしいではないか、続けたまえ。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 10:01:47.67 ID:l7Cx8fnOo
問題ない、続けろ。

ていうか続けてください。面白い。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 10:04:44.80 ID:m1vUuS4AO
なかなかどうもこれはこれは
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 10:12:16.27 ID:RDZffGGAO
ふむふむいやはやまったく
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 10:14:53.17 ID:Bgf5ybDDO
エロゲー相談かと思ったら兄貴になれだと…
これは面白い
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 10:30:33.49 ID:VTT1MPtVo
実の兄貴じゃない分ちょっと素直なのか
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 16:15:11.66 ID:LxwXM0VR0
ほうほういいですなあ
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 23:06:55.07 ID:YyjlwKgy0
今日は来ないかな?
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 19:27:02.91 ID:0+heWqBe0
来るかな?
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/18(火) 19:36:01.64 ID:InMPK9Gi0
ネタに詰まってるのかもしれん、気長に待つか
104 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/18(火) 19:39:02.98 ID:v3X2Vw+Eo
「おまたせ兄貴っ、じゃあ……行こっか」

そういうと桐乃は自然に腕を絡めてくる。
ライトブラウンの髪の毛、両耳にはピアス、長くしなやかな脚、すらりと均整の取れた身体。
中学生には見えないくらい大人びた雰囲気。
この超垢抜けた女こそ、俺の愛すべき妹・桐乃である。

「……兄妹で腕を組むのっておかしくないか?」
「え? そんなことないって。普通じゃん?」

多分、それはエロゲの世界観が判断基準になってるからじゃないっすかね。
と言いかけて、のど元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
あの日、こいつにこっぴどく切り捨てられたことを俺は忘れちゃいなかったからだ。




「あたしのお兄ちゃんになって下さい!」
「………………………………………はい?」

ちょ、ちょっと待て。こいつはいきなり何を言ってるんだ? 
お兄ちゃん? 誰が? 誰の?
突然の告白に脳みそがついていかない。
あるいは愛の告白であれば、まだなんとかついて行けたかもしれないが事実はそうじゃなかった。
105 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/18(火) 19:40:28.08 ID:v3X2Vw+Eo
「ちょ、おま……意味が分からん。なんだお兄ちゃんって」

新手のプレイかなにかですか?

「お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょ。あんたそんなこともわかんないの?」
「……そういう意味じゃねえ」

なんでお兄ちゃんなのかってことだ。普通、今の流れだと「付き合って下さい」に続くもんだろ。
なんだよ「お兄ちゃんになって下さい」って。俺のどきどきを返せ。

「だからぁ……あたしはあんたみたいな兄貴が欲しかったってことじゃん。察し悪いなあ」

いや、だからってどこに兄貴になれと言っちゃうやつがいるんだよ。
そういうのって普通、胸の内に秘めておくもんなんじゃないの?

と、ここで一つの仮説が俺の脳裏に浮かぶ。
そういえば、こいつって妹もののエロゲ収集してるんだったな。俺もこいつに言われて何本かやらされたし。
ひょっとして、こいつの脳内では恋人=兄となっている――とは考えられないだろうか。
あまりに妹ものエロゲが大好きなもんだから、二次元と三次元の境界が曖昧になってしまっているのだ。
黒猫の邪気眼電波っぷりに近いものがあるかもしれない。

さすが俺。この難解なパズルをいとも簡単に解き明かしてしまった。
ふ……自分の才能が恐ろしいぜ。
106 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/18(火) 19:41:25.84 ID:v3X2Vw+Eo
「……キモ。ばかじゃん? 二次元と三次元を一緒にしないでよ。ゲームはゲーム、リアルはリアル、恋人は恋人、兄貴は兄貴なの。
大体さー、あんたを恋人にしたい人間なんているわけないでしょ?」

ばっさり。俺の仮説はいとも簡単に打ち砕かれた。
それにしてもひどい言われようである。
なにもそこまで言う必要なくね? 泣いちゃうぞ? 俺が。

「ま、まぁ、恋人としてはあれだけど……兄貴としてはいい感じだし? 頼りになりそうっていうか……お人好しっていうか…………最初は兄妹からっていうか」

最後らへんはぼそぼそ声になりすぎていてうまく聞き取れなかったが、どうやらフォローをしてくれているらしかった。
普段の言動のせいで勘違いしがちだが、ここらへん、こいつも優しいやつなのだ。
それにしてもなんで兄貴を欲しがったんだろう。
……一人っ子らしいし、ひょっとして家では寂しい思いしてんのかもな。

「いいぜ、わかったよ。兄妹――なってやろうじゃねえか」
「いいの!? ありがと兄貴っ!」

最初は兄貴になれとか言われてどうしようかと思ったが……
まぁ、なんだ。こんな笑顔を見せてくれるんなら、妹が一人増えるくらいなんでもないよ。

107 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/18(火) 19:44:40.23 ID:v3X2Vw+Eo
復活記念投下、今日はここまで。
ここから原作と離れていくはずなので、地の文のクオリティ低下するかもしれないけど許してね。

>>103
お察しの通りネタに詰まった。ペースはちょっと落ちるかも。
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 20:07:17.37 ID:0+heWqBe0
乙!キターーーと思ったらオワターーーー?
ネタに詰まったら別のSSも書き始めていいのよ(ちらっ
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/18(火) 20:22:10.30 ID:InMPK9Gi0
>>107
おつ
先の展開が気になるぜ

そもそも、◆5yGS6snSLSFg氏は数多くSSを書いてきたんだから
ネタに詰まるのも仕方ない。自分のペースでやればいいさ
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 02:19:28.78 ID:izCwu5l80
これは黒猫も対抗して妹になるべきだな
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 12:14:12.85 ID:Nrd7OtJ70
俺が妹だ
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 13:09:12.90 ID:yu7FqoRAO
>>111
誰だお前は
113 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/19(水) 16:45:26.56 ID:YxMhfA4Uo



妹が一人増えるくらいなんでもないよ。
――そう思っていた時期もありました。

「はあ? どこ行くかくらいちゃんと決めとけっての。……ったく。」
「そんなこと言われてもだな……」

会って早々に路上で俺を罵倒し始める桐乃。俺はもはや苦笑いを浮かべることしかできない。
なんでおまえの買い物とやらに付き合うのに、俺が出掛け先を決めておく必要があるんだ。むしろ逆だろ。
あれか? おまえんちでは兄貴ってのは召使いって意味なの?
あの日――兄妹の契りを交わした日から、おまえの俺に対する態度が、えらく横柄なものになってるのは俺の気のせいじゃないですよね?

「お、おい。目立つしさ、そろそろ落ち着けって」

周囲の視線が痛い。
せめて一言、「俺は召使いじゃねえぞ」と言ってやりたかったが、そこはほら、俺の優しさっつーか?
決してへたれたわけじゃないから勘違いしないでよね。

「買い物に付き合うのはいいが……何が欲しいんだ? 服とかか?」

どうにか桐乃をなだめすかし、こいつが行きたい場所の見当をつけるべく探りを入れる。
女の子の買い物って言ったら正直それくらいしか思い浮かばない。
こいつに限っては秋葉原という選択肢もあるのだが、秋葉原なら沙織や黒猫たちと行くだろうしな。
114 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/19(水) 16:48:18.66 ID:YxMhfA4Uo
「服はいいや。この間デザイナーさんから貰ったばっかりだし。今シーズンはもう買わないで、その分メルルのグッズに回すつもり」

ふーん。服ははずれか。
…………ん? デザイナーさん? 

「なに、おまえ。服のデザイナーとかに知り合いがいるの?」
「あれ? 言ってなかったっけ? あたし読モやってるから」

毒藻? 

「その顔……全然わかってないでしょ。読モ。読者モデル」
「はあ!? モデル!? おまえが!?」
「そっ。自慢じゃないけど、結構有名な雑誌。……あ、ちょっと待ってて」

そう言い残すと桐乃はコンビニへと走って行ってしう。
あいつがモデル? いや、確かに超スタイルいいし、顔もかわいいんだけど……
あの性格で仕事できるの? 超心配なんですけど。……ひょっとして仕事場では猫かぶってんのかな。
目を閉じ、猫を被った桐乃を想像する――

「あ、駄目だ。できねえ」
「何ができないの?」
「ひいっ!? すいません!」

いきなり声をかけるんじゃねえ! つい条件反射で謝っちまっただろうが!
段々と下僕精神が芽生え始めている自分が悲しい……。
俺の実妹が沙織でよかったぜ。こいつが実妹だったらどうなっていたことか。
きっとあれこれ振り回されて……沙織以上に手のかかる妹だったろうな。
まぁ、それでも――決して嫌なんかじゃあなかっただろうけどさ。
115 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/19(水) 16:49:50.20 ID:YxMhfA4Uo
「? まあいいや。はい、これ」
「雑誌?」

桐乃はコンビニで一冊の雑誌を買ってきたようだ。
女の子が読むようなファッション誌。俺でも名前を聞いたことがある有名雑誌だ。

「ここ。このページ」
「うお……まじだったのか」

雑誌には流行りものの服を着てポーズを決める桐乃の姿があった。
隣で一緒に写っている子は友達だろうか。とても仲がよさそうに笑っている。

「はあ……おまえ、すごいやつだったんだな」
「当たり前でしょ」

ふふん、と胸を張ったかと思うと素早く俺の腕を絡めとる桐乃。
確かにすごい。確かにすごいが……こいつにできるんなら、うちの沙織にもできるんじゃなかろうか。
そう考えるとそんなにすごくないような……そうだ、忘れてた。うちの妹もやたらハイスペックだったな。
成績優秀、スタイルと顔の良さはスーパーモデル級。意識して見ることなんてないから忘れがちだけど。

「いいのか? そんな読モ様が俺なんかと腕組んで歩いてて」

おまえ、有名人なんじゃねえの? いろいろと困ることもありそうなもんだが。
さっきから感じる視線も、単に美少女と歩く冴えない男を羨むものだけじゃないのかもしれんな。

「いいのいいの。兄貴と歩いてたって何も問題ないっしょ?」
「いや、兄貴って……」

それはおまえの中での話だろ? 世間ではこれをデートと呼ぶんじゃねえの?
……いかん。意識したら緊張してきちまった。
そして、さっきから左腕に感じる柔らかい感触のせいか、俺のリヴァイアサンが覚醒しかけている。
くそっ、鎮まれ……鎮まるんだ。
116 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/19(水) 17:03:25.79 ID:YxMhfA4Uo
今日はこれまで。五話以降が完全に五里霧中。

>>99
その通り。素直な桐乃ってかわいいよね。あの傲岸不遜っぷりもいいんだけど。

>>110
正直、黒猫どうするか困ってる。告白イベント桐乃で使っちゃったし。
いいネタがあれば使わせてもらうかも

ネタに詰まったら息抜きがてら本スレに短編投下するかも。このスレの進行遅くなるかもしれないが許してね
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 17:27:54.29 ID:+ufHqfkOo
素直な桐乃はかわいーよね
>……最初は兄妹からっていうか
そしてこれとかある意味歪みない

黒猫は長女だしその辺の心情を絡めるとか…?

桐乃方面はあやせがどう絡むか(出るのか)ちょっと楽しみなんだが
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 17:50:51.53 ID:rh3kEEeU0


じゃあ黒猫にはお姉さんになってもらえばいいんじゃね
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 17:58:34.99 ID:/bCzu4gSO
桐乃、黒猫と兄妹の盃を交わした後
囚われた沙織を助ける為に敵の事務所に三人で乗り込むのか…
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 18:00:14.68 ID:+ufHqfkOo
待て。私としては普段妹の世話をしている黒猫を甘えさせてあげるんだ。とな?
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 18:28:16.75 ID:LGRHQqaM0
桐乃、黒猫と兄妹の盃を交わした後
軍師に沙織を迎えて三国統一を目指すのか・・・
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 23:40:58.16 ID:P1itU58DO
これが世に言う俺妹三国志のはじまりである
123 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/20(木) 22:18:53.69 ID:M3uODPAto
「ほらほら。結局どこ連れてってくれんの?」

煩悩と必死に格闘している俺を桐乃がまくしたててくる。

「んー。そうだな……」

所詮建前でしかなかったのかも知れないが、『買い物に付き合う』という体裁はどこに行ったんだ?
兄貴になるとは言ったが、こういうのって兄貴じゃなくて恋人とするもんなんじゃねえの?
俺、沙織とだってろくに出かけたことないぞ。
かといって兄貴=恋人説は、他でもないこいつ自身にばっさり切り捨てられちまったし……。
…………俺にはおまえの目的がさっぱりわからねえよ。

「え、映画とかどうだ?」

苦し紛れに出た答えとしては、なかなか悪くないのではないだろうか。
映画ならばべたべたとくっつかれる心配もないし、長時間安定して時間がつぶせる。
その間に俺のリヴァイアサンの怒りも鎮まるってもんだ。
桐乃はしばらく考える素振りを見せてから、

「うーん……わかった。そこでいい」
「決まりだな」

ようやく目的地が決まった俺たちは、駅前の映画館へ向けて歩き出した。



「ただいま。あ〜〜疲れた」

ようやく桐乃から解放され、我が家へと辿り着く。
ようやく……と言っても現在の時刻は6時過ぎ。それほど遅くなったわけではない。
女性の買い物に付き合わされてぐったり……なんてのがあるだろ?
今の俺がまさにそれだ。
もはやこれ以上立っていることもままならず、玄関に腰をおろす。
124 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/20(木) 22:19:34.41 ID:M3uODPAto
結局、俺はあれから買い物に付き合わされる形となった。
映画以外の俺の提案はかたっぱしからNGを出されたため、それ以外の選択肢が消えてしまったからだ。
こんなことならもっと本気でプランを考えとくべきだったぜ。
ひょっとして、桐乃が最後まで『買い物に付き合う』という案を飲まなかったのも、俺がこうなるのって分かってたからか?
……いや、ないな。あいつに限ってそれはない。多分俺の思いすごしだ。

「おかえりなさい、お兄様」

玄関に座ってしばらく体を休めていると、沙織が出迎えてくれた。

「いたくお疲れのようですわね。今日はどこへお出かけに?」
「お、おう……ちょっとな」

別段隠す必要もないはずなのだが、なんとなくごまかしてしまう。

「そうですか。………………あら? それは?」
「ん? あ!」

沙織は俺の手元にあった雑誌をすばやく拾い上げる。

「お、お兄様? これは……いったい……?」

沙織が手に取ったのは、桐乃がくれたファッション誌だった。

「あたし、見本誌もらってて同じの家にあるし。これはあんたにあげる」

そう言われて半ば強引に押し付けられたのだ。
ちくしょう、そんならわざわざ買ってくんじゃねえよ。立ち読みで十分だったろうが。
おかげで沙織が愕然とした表情で俺を見つめているじゃねえか。
ここで俺が取るべき選択肢は……

1. 実は女装趣味に目覚めてな。
2. 実は桐乃にもらったんだよ。

2だ! 2に決まってんだろ!?
俺は提示された選択肢から迷うことなく2を選びとる。
125 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/20(木) 22:20:30.20 ID:M3uODPAto
「実は桐乃にもらったんだよ」
「え? きりりんさんからですか?」
「ああ。話せば長くなる。飯の後でいいか?」
「……ええ。詳しく聞かせてもらいますわ」



「…………では、今日は一日中きりりんさんと一緒にいてらしたんですね?」
「ああ、そうだ。おまえになんの相談もしなかったのは悪いと思ってる」

今、俺と沙織は俺の部屋にいる。先ほど約束した通り、一通りの説明を終えたところだ。
……だけど…………なんだ? この罪人とお奉行様みたいなポジション。
ここは俺の部屋だってのに、なんで俺は床に正座してるんだ。

「で……『あたしの兄貴になって下さい!』とは?」

ベッドに腰掛け、腕を組んで俺を見下ろす沙織。

「い、いや。俺にもよくわかんないんすけど……なんか…………あいつ、兄貴が欲しかったらしいっす」

本当は今日一日桐乃といたってことだけを伝えるつもりだったのだが、
沙織の予想外な高圧的な態度(それでも桐乃ほどではないが)にうっかり余計な事を口走ってしまったのだ。

「それで? 意気揚々ときりりんさんの兄になったと?」

やべー、沙織さん超こえー。こいつにこんな一面があったの? ……できれば知りたくなかったぜ。
126 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/20(木) 22:21:13.33 ID:M3uODPAto
「い、意気揚々とってほどでは……」

……いや。あの当時は意気揚々とだった気もする。今となっては少し後悔していなくもないが。
沙織の説教に耳を傾けながら、自分の置かれている状況を振り返る。
浮気が彼女にばれたみたいな感じか? 経験したことないけど、多分こんなだろ。
今回は、実妹に義妹(でいいのか?)ができたのがばれたっていうシチュエーションだけどな。
…………我ながら意味が分からん。誰かこの状況を上手く説明できるやつを連れてきてくれ。

「……なってしまったものは仕方ありません」

沙織が、はぁと大きく息を吐く。ようやく説教に終わりが見えた。
た、助かった。そろそろ足のほうも限界だったんだよ。

「ですが! 忘れないで下さいね。お兄様はきりりんさんの兄である前に私のお兄様なんですよ?」

そう言うと、沙織はぷいっとそっぽを向いてしまう。
だが、頬をわざとらしく膨らませているあたりそこまで怒っていないのかもしれない。
ひょっとしたら除け者にされたみたいなのが嫌で、ちょっと拗ねてるだけなのかもな。

痺れる足に力を込めて立ち上がり、沙織の顔に手を伸ばす。
沙織の顔を挟むようにして両手に力を込めると、ぷふーと、間抜けな音が漏れた。

「むぅ……なにふるんでふか」
「ふっ……そんな怒るなよ。大丈夫、俺の…………いや、俺は何があってもお前の兄貴だよ」

ははは。これじゃあ、なんだか本当に彼女に浮気がばれた彼氏みたいだな。
一人苦笑する俺を沙織が不思議そうに見つめていた。



第五話おわり
127 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/20(木) 22:22:18.73 ID:M3uODPAto
今日はここまで。
次回はきっと黒猫回。ネタはなくとも黒猫回
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 22:36:26.31 ID:nXGBvUqJo
メインのはずが、桐乃に喰われ始めた拗ねた沙織かわええ
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 23:07:16.73 ID:RmpE+MOwo
おつ

それが……いいんじゃあないか……
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 23:36:18.88 ID:3RIid//AO
乙なんだぜ
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 00:50:25.82 ID:Rb9PodU10
乙!
拗ね沙織とか最高だわ
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 02:17:13.03 ID:7JDyt0f90
沙織のぷふー参考画像を早くッ
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 04:05:01.80 ID:c1pzefmwo
黒猫は姐になるんですよね?
黒猫に絵本読んでもらうんですよね!?
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 05:34:12.75 ID:AIoCv9tDO
ぷふーとかモエモエキュンすぎる
135 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/21(金) 23:50:55.14 ID:ULFyYbAqo
次回は黒猫回と言ったなあれは嘘だ。どうやらあやせ回が先になりそう。

最近忙しくなってきてSS書く暇がねえ……
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 01:49:34.81 ID:9p1+JuC20
まぁどっちにしろワクテカするんですけどね
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 02:04:13.03 ID:bdzSzVqCo
まぁどっちにしろさっさと書けって話
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 03:11:36.92 ID:sYUi4VN7o
>>135
黒猫後回しとかてめぇちょっと屋上来いyくぁwwせdrftgyふじこl
139 :101 [sage]:2011/01/22(土) 11:51:36.73 ID:YM/ATvuS0
>>135
ラブリーマイエンジェルの魅力にやられたか…

楽しみにしてるぞ!
焦らなくていいから頑張ってくれ
140 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/23(日) 18:45:28.67 ID:NZgMtXqQo
第六話

「ばいばい、きょうちゃん」
「おう、また明日な」

一緒に下校していた麻奈実といつもの丁字路で別れ、ひとり自宅へと歩きだす。
時刻は夕暮れ。帰り道には下校途中と思われる学生がちらほらと見えている。
普段はこのまま帰宅して、しばらくだらだらして、その後ちょっとだけ勉強したりしなかったり……。
そんな予定だったのだが、

「ん?」

もう少しで自宅、というところでいつもとは違う光景が目に飛び込んできた。
自宅の前に誰かがいる。まだはっきりわからないが、女の子なのは間違いない。
遠目からでもスカートをはいているのが確認できた。

「沙織の友達か?」

……だとしたらなんで家の外で待ってるんだ?
少し不思議に思いつつも、自宅へと歩を進める。
距離が近くなるにつれて次第に少女の姿がはっきりしてくる。遠目から確認したスカートは学制服のものだった。
長い黒髪にすらりとした体格。セーラー服を纏う少女が醸し出す雰囲気は大人っぽく、一瞬高校生かとも思ったが、どうやら中学生であるようだ。
なぜ中学生だと判断できたのかというと、少女が着ている制服に見覚えがあったからだ。
あれ、たしか桐乃の中学の制服だよな。なんで桐乃の学校のやつがうちの前に立ってるんだ?
桐乃の紹介で沙織と友達になるべくやってきたのだろうか。とすると、あの子も何かしらのオタクだったりするのかね。

「ま、触らぬ神になんとやらだ」

横目で少女の動向を窺いつつ目の前を通り過ぎようとした瞬間、少女は予想外の言葉を発した。
141 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/23(日) 18:46:03.62 ID:NZgMtXqQo
「高坂……京介さんですね?」
「えっ?」

少女は未だ俯いており、顔は見えない。
え……お、俺に用があるの? いや、それ以前になんで俺の名前を?
頭の中にいろいろな疑念がうずまく。
ひょ、ひょっとして俺に一目ぼれしちゃった女の子が、告白しに来たとかそんなんですか?
うっひょー、なんという運命!

「高坂京介さんですよね」
妄想の世界にふけっていると、痺れを切らしたのか少女が同じ質問をくりかえした。
と、同時に少女がようやく顔をあげた。

そのとき、俺に電流走る。

比喩ではなく、わりとマジでだ。
この世にこんな美少女がいていいのだろうか。にこりと微笑む少女の顔はまさに天使のそれだった。

「あ、ああ。たた、たしかに俺が高坂京介だけど」

あまりの衝撃にろれつがまわらない。お、落ち着け俺!

「よかった。あなたが帰ってくるのを待ってたんです」

ふおおお! これが落ち着いていられるか! これなんてエロゲ!?
が次の瞬間、美少女はにっこりと微笑んだまま瞳の光彩を消失させた。

「ちょっとお話したいことがあります。そこの公園までついてきて下さい」

な、なんだこのプレッシャーは……。彼女の台詞は一応お願いの体を取ってはいるが、有無を言わさない迫力がある。
俺は、この時点で直感したよ。これは甘い話なんかじゃない。それどころか命の危険すらあるかもしれないってな。
142 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/23(日) 18:46:44.63 ID:NZgMtXqQo
今日はここまで。短くてごめんね
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 19:48:43.20 ID:aM51Ug1I0
生殺し...だと?悔しい...でも楽しみにしちゃう!

乙です
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 19:51:23.05 ID:+0J880tMo
端から見てるとキモイくらいにやにやしてたんだろうな、学校で
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 21:36:30.91 ID:tPeQ5ZIk0
端から見てる奴もニヤニヤしてるだろうからおあいこだな
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 23:16:09.39 ID:PJkmPlgDO
あやせちゅっちゅ
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 21:15:28.44 ID:r3ipmEXR0
乙!
あやせがどう絡んでくるのか気になるな
148 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/24(月) 21:36:19.86 ID:veRgJgB8o
少女の後に続き、近所の公園へと向かう。
歩くたびに揺れる少女の黒髪からは、かすかにシャンプーの香りが漂ってくる。

す−はー。無意識に深呼吸を一つ。

はっ!? い、いかん。俺はいったい何をしているんだ。
これじゃあまるで変態みたいじゃないか。
違うんだ。あくまでも、「いい匂いだな〜」とか思っただけで他意はないんだ。
ところで、この子、どっかで見かけた気がするんだよなあ。どこで見たんだろ。
べ、別にごまかしたわけじゃないぞ? ほんとだよ?



ほどなくして俺たちは公園に到着。
さすがにこの時間になると子供たちの姿はもうない。今この公園内には、俺と――この名も知らぬ美少女二人きりだ。
少女は交番の裏手あたりで立ち止まるとこちらに向き直った。
少女が歩みを止めるのに合わせて俺も足を止める。少女までの距離は5歩くらいか。
149 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/24(月) 21:38:13.40 ID:veRgJgB8o
「で、話ってなんだ?」

はやる気持ちを抑えきれず、自分から話を切り出す。
どきどきを鼓動が早まるのを感じる。
直感的に甘い話ではない感じている。感じてはいるが、未だに淡い期待を抱いている俺を誰が責められるだろうか。
こんな美少女に「ちょっとお話が……」なんて言われ、人気のない公園へと誘われる。
状況は完璧だ。これで『何か』を期待しない男などいるわけがない。
もしいるのであれば、そいつはガチホモか仙人くらいなもんだろうぜ。

「単刀直入にお聞きします。桐乃とはどういう関係ですか?」
「は? 桐乃? 桐乃ってあの桐乃?」

すると少女は、「どの方を指してそう言ってるのかは分かりませんが」と前置きして上で、

「眉目秀麗、スタイルファッションセンスともに抜群、学業優秀。部活でも輝かしい成績を残し、校外ではモデル活動もやってて、みんなから頼られ、誰からも好かれているあの桐乃です」

やだ、なにこの子。ちょっと怖いんだけど。
いくらなんでも褒めすぎじゃないか? どんだけ桐乃大好きなんだよ。
桐乃のことをあそこまで褒められるのは親友かストーカーくらいなもんだろ。そして、この子はきっと前者であるはずだ。そうであってほしい。
まあ、モデルやるような人間がそう何人もいるわけないから俺の思う桐乃とこの子が言う桐乃は同一人物で間違いないだろう。後半部分が正しいかどうかは疑問だけど。
150 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/24(月) 21:39:27.85 ID:veRgJgB8o
「どんな関係ですか?」

少女は再び同じ質問を繰り返した。
先ほどもそうだったが、どうやらこの子、人の返事を待てないというかちょっと落ち着きがない子みたいだ。
あるいはそれだけ切羽詰まっているということだろうか。

「どんな関係って言われてもなあ……確かに知り合いではあるが」

どうやら桐乃の知り合いという俺の予想は当たっていたようだ。

……桐乃との関係か。さて、どう説明したもんかな。
だが、趣味が趣味だけに、桐乃が自身の趣味を友達に話している可能性は低いだろう。両親にすら自分の趣味を秘密にしていた我が妹・沙織のように。
となると、おのずと話せる内容は限られてくる。

「……ただの友達だよ」

仕方なく無難な答えを返す。

「そうですか。じゃあどこで知り合ったんですか?」

矢継ぎ早に次の質問。
少女が発するプレッシャーと相まって、まるで尋問でもされているかのようだ。

「妹が桐乃の友達でさ。それで知り合ったんだ」

これくらいは大丈夫だよな。嘘も言ってないし。

「…………おかしい。桐乃に高坂なんて友達いたっけ?」

俺の返事を聞いた少女は、なにやらぶつぶつとひとり言を唱えている。
151 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/24(月) 21:41:56.26 ID:veRgJgB8o
「どうした?」
「えっ? あ……なんでもありません。……桐乃のことどう思ってますか?」
「は? なんでそんなこと聞くんだ?」

俺にはこの子の目的がさっぱりだ。
別に俺に気があるわけでもないみたいだし。悲しいけど。

「な、なんでもいいじゃないですか。早く答えてください」
「うーん……そうだなあ」

思わず答えに詰まってしまう。
どう思ってるか……か。
突拍子もない質問だ。答える義理だってない。だけど…………なぜか、どきりとした。
俺はあいつをどう思ってるんだ? ただの友達? それとも妹の友達? 
……ほんとうにそれだけか?

『あたしのお兄ちゃんになってください!』
『いいの!? ありがと兄貴っ!』

あの時の台詞と笑顔が、鮮明に脳裏に浮かぶ。

「……手のかかる妹みたいな感じかなぁ」

気付けばそう答えていた。

「……ほんとにですか?」
「ああ。ほんとだ」
「そうですか。……・……私の想い過ごしだったのかもしれませんね。桐乃にもしっかり聞いてみないと……あ、申し遅れました。私、新垣あやせって言います」
「新垣さんね」
「あはっ、あやせでいいですよ」

俺の返事に満足したからか、あやせはさっきまでの雰囲気を一変させた。
今は初めて見たときの、まるで天使のような笑顔を浮かべている。
152 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/24(月) 21:44:55.26 ID:veRgJgB8o
「あっ!」
「ひっ!? きゅ、急に大きな声出さないで下さい!?……どうしたんですか?」
「あ……すまん。なんでもないんだ」

この笑顔で思い出した! この子、桐乃にもらったファッション誌に桐乃と一緒に写ってた子だ!
道理でどこかで見た気がしてたわけだよ。正直、初めて見た時からちょっと気になってたんだよね。

あやせはしばらく頭に疑問符を浮かべていたが、やがてこう切り出した。

「ふふ、桐乃と腕を組んでるのを見た時はどうなることかと思いましたよ。……今日はいきなり押しかけちゃってすいませんでした」

そういうとあやせは、ぺこりとお辞儀をした。
なんだ、いい子じゃないか。一時は命の危険さえ感じたが、それこそ俺の想い過ごしかもしれないな。
まあ、思い込みが激しくて自己完結しがちな一面をもっているようだけど。
が、彼女が発した言葉に対して、ある疑問が俺の中に浮かんできた。

「…………ん? 腕を組んでるのを見た?」
「あっ!?」

俺が桐乃と腕を組んだのは、先日、桐乃の買い物に付き合わされた時だけだ。
なぜこの子がそのことを知っている? いや、知っているだけならまだしも、あやせは見たと言った。
ここまでスルーしていたが、なんで俺の名前を知っていたのかも疑問である。

「きょ、今日はここで失礼しますね! さようならお兄さん!」
「あ! ちょ、ちょっとま……」

俺の制止もむなしく、あやせはあっという間に走り去ってしまう。

「…………ひょっとするとストーカーの方だったかもしれん」

そして、去り際に残した『お兄さん』という言葉。
あやせの頭の中でいったいどういう結論が出たのか不思議でならない。
あの子、いい子だと思ったんだけどなあ……。俺の見当違いかな。

「ははは…………これ、沙織に話したらまた怒られそうだな」




第六話おわり
153 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/24(月) 21:47:53.71 ID:veRgJgB8o
今日はここまで。
1話から読み返してみると日本語おかしいところ多い……脳内補完よろしくお願いします。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 21:50:38.28 ID:DEVWCRHk0


沙織とあやせのガチバトルはまだか
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 22:24:35.33 ID:mJ9Hb2xJ0
乙!
あやせが出てきて嬉しいが
話としても絡みづらいからコレからどうなるか楽しみにしてるよ
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/25(火) 00:05:37.89 ID:hwc8n6Vg0


そういえばここの桐乃って名字は高坂じゃないんだな
とりあえず◆5yGS6snSLSFg氏、頑張ってくれ

157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 00:09:32.34 ID:zYe5Im6z0
>>153
乙!
あやせ可愛かったよww
お疲れ様
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 00:25:30.73 ID:TwyO/n4IO
桐乃・フロンタル
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 00:45:53.77 ID:37QonBw9o
ほとんど原作通りの流れだけど書いてて楽しいのか
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 10:14:21.88 ID:amWNvxVDO
あやせ結婚してくれ
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 11:08:06.34 ID:OpET467AO
桐野・アズナブル
桐野・レム・ダイクン
桐野・マス
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 21:36:27.13 ID:Rk10zvDDO
読んでて楽しい
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 22:11:41.79 ID:cTKLGj9o0
ブラコン沙織がカワイイ
あまり出番がないけど
164 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/26(水) 18:44:30.10 ID:0QsabWwEo
ネタに詰まった。黒猫マジ困った子
>>120がいいかなとも思ったけど、それは原作の『兄さん』呼ばわりとかで半分やっちゃってるしなあ……
投下は今しばらくお待ちください
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 20:26:11.46 ID:/iIY0NZp0
待つぜ待つぜ
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 20:47:15.50 ID:hcghm7wgo
ワタシマーツーワ
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 22:14:17.80 ID:7L2Sy/xT0
イツーマデーモマーツーワ
168 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/28(金) 18:31:57.84 ID:vV91Zi7Ao
第七話

「お? おまえ、出掛けんの?」

季節は巡り、ある冬の日曜日のもう昼になろうかという時間。
いつもより遅めに起きた俺は、玄関で今まさに出掛けようとしている沙織を見つけた。

「おや、おはようございますお兄様。遅い起床でござるな」
「ほっとけ」

こてこてのオタクファッションに身を包んだ沙織の口調は、いつものお嬢様口調ではなくいまどき時代劇にもでてこないようなござる口調。
この時点で誰とどこに出掛けるかってのは大体想像がつく。桐乃や黒猫と、大方秋葉原にでも出掛けるんだろうぜ。

「気を付けてな」
「はい! ありがとうございますお兄様! では、行ってくるでござる!」
「あいよ」

沙織が元気よく玄関を飛び出して行くのを見送り、キッチンへと足を運ぶ。
温かいお茶でも飲もうかと、お湯を沸かし始める。

「……くそ寒いってのによくやるよ」

こんなくそ寒い日の朝っぱらから出掛けて行くなんて、俺にはちょっと真似できない。
あいつらのバイタリティはどこから湧いてくるんだろうな。
……いや、考えるまでもないか。あいつらは大好きなアニメやゲーム、それにプラモなんかのためならこれくらいなんでもないいんだろうな。
169 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/28(金) 18:33:25.79 ID:vV91Zi7Ao
ところで、俺はずっと疑問に思っていたことがあるんだ。

「沙織のやつ、いつまであのファッション続けるんだろ」

オタクのコミュニティのリーダーとしてふさわしい恰好を――それがあいつがあのファッションを選んだ理由だった。
だけど、桐乃や黒猫と遊ぶ時なんかも沙織はずっとあのファッションなんだ。

「そろそろ、普段の恰好で会っても問題ないと思うんだけどな」

あの恰好……心を開いていないってわけじゃないけど、なんか壁を作っているみたいに思えて気になってたんだよね。
あいつのことだからそんなわけはないとわかっちゃいる。わかっちゃいるが頭で理解できても納得はできない――そんな感じだ。

ただ、そんな沙織が一度だけあいつらに素顔を見せた時があった。
セーラー服やら、『今日一日は私たちが妹』というシチュエーションまで用意して落ち込んでる俺を励まそうとしてくれた時だ。
あの時、沙織は「今日はこのコスプレをするにあたってちょっと勇気を出してみたんです」と言った。
この言葉を額面通りに受け取るなら、セーラー服を着るのに勇気を出したという意味なんだろうが、俺はそうじゃないと思っている。

「帰ってきたら聞いてみっか」

それに…………妹にへんてこな恰好で街をうろつかれるのはいろいろと困るってのもあるしな。




特に予定のない俺は結局14時くらいまでだらだらと過ごしていた。
テレビをザッピングしながらすでに読み終えた雑誌を何気なく眺める。
すると、テレビで流れたあるニュースが目に留まった。

「お、ほこ天復活したのか」

ちょっと前に事件があって以来、中止されていた秋葉原の歩行者天国。
今日がその復活の日だったらしく、テレビのレポーターが現地中継をしているところだった。
テレビの画面では奇抜な恰好したオタク連中がレポーターに質問されている。
170 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/28(金) 18:36:51.95 ID:vV91Zi7Ao
「しかし……テレビ局側もわざとへんてこな連中狙ってレポートしてやがるな。さっきからおかしな連中しか映ってねえじゃねえか」

さっきからテレビに映るやつらは、一様に何かのコスプレをしていたりしているやつらばかりだった。
……理由はわからないが、少しイライラとしてくる。
なんだろうなこの感じ。友達がさらし者にされてるみたいな……レポーターやコメンテーターの苦笑いや見下したような目つきがそうさせるのか。

少し前までの俺ならきっとこのレポーターと同じように苦笑いを浮かべていたに違いない。
なんだこいつら。こんなかっこして馬鹿じゃねえの――ってな。

「チッ……」

舌打ちをし、テレビのチャンネルを変えようとした時、俺の目にとんでもないもんが飛び込んできた。

「ちょ!? あいつらなにやってんの!?」

テレビの画面にはレポーターのインタビューを受ける沙織達の姿が写し出されていた。
桐乃が意気揚々とほこ天復活の嬉しさを語っていて、沙織もそれに続く。
黒猫は一際でかい沙織の陰に隠れ表に出てこようとしないが、毒を吐くのだけは忘れない。
まあ……テレビ局から見たら恰好のインタビュー相手だったんだろうな。
こてこてのオタクファッションに身を包んだ馬鹿でかい少女A、秋葉原とは一見縁遠そうに見えるオシャレな恰好をした少女B、そして、ゴスロリファッションに猫耳までついてる少女C。

「あ、あいつら……」

思わず顔が引きつる。公共の電波でなんて恥をさらしてるんだ。
でも、テレビの画面で嬉しそうにはしゃぐあいつらを見て、「ま、いいか」と思ってしまう。
こんな風に考えられるようになったのは、きっとあいつらの影響に違いなかった。
引きつった顔が次第に笑顔へと変わっていく。

「ふっ……悪くねえ」

誰に憚ることもない。決して自慢できるような趣味や恰好じゃないが、それでも。
あいつらの友情は憚らなきゃいけないようなもんじゃない。「どうだ、羨ましいだろ」胸を張ってそう自慢できる。そう思ったよ。
そして、気付けば俺はいつのまにか録画ボタンを押していたんだ。
171 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/28(金) 18:38:08.95 ID:vV91Zi7Ao
今日はここまで。相変わらず五里霧中状態
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 19:42:00.85 ID:kSzWgHMu0
乙です

沙織はともかく桐乃は流石にテレビでの顔ばれを気にするのかと思ったな
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 19:46:28.63 ID:CVYCXr0To
●RECワロタw
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 20:02:03.42 ID:+p6PnFTDO
あやせスイッチの音が聞こえてくるようだぜ
175 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/28(金) 20:41:10.71 ID:vV91Zi7Ao
>>172
あばば、桐乃はテンションがおかしかったってことでどうか……

>>174
あやせスイッチ書いてもいいんだが、それだと再び原作の焼き直しになっちゃうよなぁ
今考えてる流れに影響はなさげだから書けるんだけども
焼き直しでもいいからあやせ書けっていう声があればそっちも書くよ。極力まんま焼き直しにはしない方向で
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 21:03:28.50 ID:n2Rfko4K0
乙です
五(更瑠)璃夢中な俺
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 21:04:37.79 ID:8mGggNr2o
桐乃って原作でもオタ趣味隠す気が本気であるのか疑問な行動が
多々ありすぎるから、別に平気じゃないかな
1巻より前はわからんけど、黒猫紗織とつるむようになってからは正直酷い
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 21:13:15.16 ID:Li45W7xLo
京介のフォローがあるからって自制が緩くなってるんじゃないのか
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 22:54:04.22 ID:kSzWgHMu0
そう言えば、こちらの桐乃の名字は槇島になるのかな?

それとも別にほかの名字があるのかな
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 02:06:51.36 ID:TcaSD5h90
あやせもいいけど数少ない沙織スレだから沙織成分が欲しい
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 02:07:38.21 ID:4/7+jhATo
これ完結までに何カ月かかるんだ
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 02:28:43.55 ID:w8xLAQYAO
>>181
なにか不都合が?
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 07:15:31.16 ID:Wc5Q0QnDO
TVのせいでオタバレして加奈子とコスプレライブさせられる桐乃
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 09:59:34.64 ID:T8R/CMpRo
終わる目途は立ってるの?
185 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/29(土) 18:26:44.11 ID:hs3KcXH1o
目途というか、「最後はこのエピソードを書いて終わり」というのは考えてる
それを書けばいつでも終われるんだが、後はそれを書くまでにどれくらい寄り道するかを悩んでる

如何せん長編書くの初めてなもので、どれくらいの長さにすればいいのかわからん
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 23:17:21.83 ID:eIn2mbyr0
まあまあ
そんなに悩むなって

>>1の満足のいくように書けばいいんだから
俺はゆっくりと待ってるよ
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 23:56:35.70 ID:p1/0FVLpo
VIPと違ってスレ落ちするわけでもないしね
のんびり行きましょう
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 00:34:26.47 ID:ckvSYJAc0
夏コミの熱気にあてられた京介が、桐乃や沙織に助力を受け同人作家デビューする話とか...

売れないが、実力派の黒猫とサークル組んで、大手サークルと化したフェイトさんを打倒して
コミケでTopをとってそのまま黒猫とイチャラブになるというネタを思いついた...
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 00:36:37.42 ID:ckvSYJAc0
すいません、誤爆しました o........rz
190 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/30(日) 22:08:55.59 ID:zsC6SoaTo
「ただいまでござる!」

元気よく帰宅を告げる沙織の声が俺の部屋まで響いてきた。現在の時刻は門限の少し手前の6時。
ばたばたと階段を駆け上がる音がし、続いて隣の部屋の扉の音がした。
ふむ……あの声と足音から察するに、今日はいつも以上に楽しかったみたいだな。
沙織はがさがさと音を立てて、自室で何かしているようだったが、やがてその音が途切れた。
そして音が途切れてからしばらくすると、バン! と俺の部屋のドアが開いた。

「お兄様! お土産ですわ!」
「ひいいいいいいいいいいいい!?」

ドアが開くと同時に素早く身を翻し、桐乃に渡されたノートパソコンの画面を沙織の視界から隠す。

「あ……ごめんなさい、お兄様。なんか…………入ってはいけないタイミングだったみたいですわね」
「い、いやそうじゃない、おまえは勘違いをしている! あ、あくまでもちょっとびっくりしただけだ!」
「うふふ、ではそういうことにしておきますわ」

にこりと微笑んで、そそくさと退室しようとする沙織。

「5分後……いえ10分後くらいにまた来ますわ」
「だ、だから違うんだって! 誤解だ!」

そんなに時間かかんねえから! …………って何言わせんだ!
俺の言い訳もむなしく、無慈悲にもドアは閉じられた。
くそっ……あいつのノックを忘れる癖は間違いなくお袋からの遺伝だろうな。
……お袋は沙織と違って、忘れてるわけじゃなくわざとしてない疑惑もあるけども。
ぐったり項垂れながら、PCゲームのデータを保存し、ノートパソコンとシャットダウンする。
……そもそも桐乃がこんなものを押しつけてくるからいかんのだ。
191 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/30(日) 22:11:07.33 ID:zsC6SoaTo
けっこう前の話になるが、桐乃や黒猫と一緒に沙織の部屋遊んでいる時、沙織が席を外した隙を見計らって桐乃がこんなことを言い出したのだ。

「はいこれ、来週までにフルコンプしておくこと」
「はあ!? てめえ! 妹がいる兄貴になにやらそうとしてんだ!?」
「え? なにって……妹もののエロゲだけど」

きょとんとした表情で首を傾げる桐乃。何言ってんのこいつ? と、言わんばかりの態度だ。

「お、おま……これが家族に見つかったらどうなるかわって言ってんのか?」

間違いなく、親父にぼこぼこにされた上勘当されちまうわ!

「あんたの事情なんて知らないっての。で、やるの? やらないの?」
「ちょっとくらいは考慮しろ! …………まあ、俺はパソコン持ってないし土台無理な話だな」

落ち着いて考えればそうなのだ。
我が家でパソコンを持っているのは沙織だけである。まさかこいつも妹のパソコンで妹もののエロゲをやれなんていうとんでもないことは言い出すまい。

「そういうわけで諦めてくれ。すまんな、俺もやってやりたいのはやまやまなんだが」

いやー、なんにしても助かったぜ。

「はい、これも一緒に貸したげるから」

そういうと桐乃は一台のノートパソコンを俺に手渡してくきた。

「なんでそんなに用意がいいんだよ! おまえ、俺の部屋に入ったことねえだろ!?」

なんで俺がパソコン持ってないことを見越してんの!?

「っふ……それはね、邪眼の力よ」

驚愕する俺に声をかける黒猫。
邪眼で何をどうしたのかは知らないが、どうやらこいつが情報源であるようだ。
なんなのおまえら、そんなに俺に妹もののエロゲをやらせたいの?
192 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/30(日) 22:14:02.73 ID:zsC6SoaTo
「ほらほら、早く受け取らないと沙織が戻ってきちゃうけど?」
「いや、これは桐乃がもってきたものだと言えばわかってくれるだろ」

沙織は桐乃がこういうゲーム大好きなの知ってんじゃん。その脅迫は意味をなさないぞ?

「あなたがいきなり私たちの目の前でこれをプレイしようとした……というのはどうかしら」
「今すぐ俺の部屋に片付けてまいります! コ、コンプは来週まででいいんだな!?」




と、まあこんな具合に妹もののエロゲをやらされる羽目になってからというもの、桐乃は定期的に俺にエロゲを渡しその都度、

「来週までにコンプすること」

という無理難題を押しつけてくるのだった。くそっ……素人が一週間でコンプなんてできるわけねえだろ。よほど時間かけねえ限りはな。
そんなわけで、俺は健気にも桐乃の言いつけを守るべく、せっかくの休みに出掛けることもせずエロゲにいそしんでいたわけだ。
……それを沙織に見られちまったのは計算外だけどな。くそっ……超気まずいぜ。
193 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/01/30(日) 22:17:11.56 ID:zsC6SoaTo
今日はここまで

俺妹Pおもしれえ。あやせがかわいすぎる
そしてED曲いいね。桐乃かわいすぎだろ
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 23:14:27.72 ID:GFM8Qaeo0
>>193乙!
ゲームが楽しいのは激しく同意だが、あなたのSSも面白いから続きを楽しみにしてるよ!
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 23:29:12.23 ID:cHkKdTg00

ゲームは沙織が可愛すぎて叫んだ
エントリーシートも忘れて徹夜でやった
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 13:57:42.42 ID:C/n7tOgNo
そのゲームPSPのやつだよね、ヌルヌル動く?
197 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/01(火) 17:44:23.10 ID:+ArswgcOo
なんと言い訳したところで余計に泥沼にはまることは目に見えている。こういう時は全てをなかったことにしてしまうのが一番いい。
自分の部屋を出て、沙織の部屋のドアをノックする。

「おーい、沙織」

すると、すぐにドアが開き沙織が顔を出した。その顔は少し赤い。

「も、もうよろしいのですか?」
「ぐっ…………」

思わず「よくねえよ!」と突っ込んでしまいそうになるがギリギリのところでこらえる。
ここは話題を変えることが最優先だ。

「あ、あのさ、俺に用事……あったんじゃねえの?」
「そうでした! さ、入ってください」
「おう」

沙織に招かれて部屋の中へと入る。
相変わらずの女の子っぽい部屋。所々に見えるガンプラが、こいつがガンオタだということを再確認させてくれる。

「はい、お兄様。これ、秋葉のお土産です」

そういうと沙織は、俺に一つのガンプラを手渡してきた。

「……でるた……ぷらす?」

沙織の影響で多少ガンダムに詳しくなったという自負があったのだが、このプラモに関しては全く見覚えがなかった。
だが、よく見てみると、色こそ違えどその外見は沙織が大好きなあの金色のモビルスーツにそっくりだ。
たしか……百式とか言ったっけ?

「さすがお兄様! その通りですわ。その子はあの百式の親であり妹みたいなものなんです!」
「……わけがわからん」
198 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/01(火) 17:46:26.50 ID:+ArswgcOo
親はなんとなくわかるが、妹ってなんだ。そこは普通、兄弟機(という表現であってるかは知らない)とか、せめて子供とかじゃないの?
ガンダムのことはよく知らないけど、なんでわざわざ妹と指定する必要があるんだ?
そもそも、親であり妹でもあるってどんな状況だ。このプラモを俺だとすれば、沙織が親と妹を兼ねてるってことだろ? ぐぬぬ……なんというカオス。
まあ、沙織が言うからにはそれであってるんだろうけど。

「でも……なんで急にお土産を? 今日、おまえらが秋葉原に行ってたのは知ってるけどよ」
「えっ? なんで知ってるんですか? ……まさか、私のことが心配で後を――」
「つけてねえ。おまえら、秋葉原でテレビの取材受けてたろ。ばっちりお茶の間に流れてたぞ」

思わず録画しちまったなんて、恥ずかしくて絶対言えねえけど。
録画したDVDは俺のコレクションBOXに隠してあるからバレる心配はないだろう。
おまえ達らしい、なんとも微笑ましい光景だったな。パッと見じゃ、あの微笑ましさは理解できないだろうけどな。
奇妙な優越感を感じながら、俺はこう続けた。

「で、なんで急にお土産を?」
「…………………………」

すると沙織は急に黙り、うつむいてしまう。先ほどまで感じていた優越感は、一転して不安と焦燥へと変わる
あ、あれ? 俺、なにか変なこと言ったかな?

「さ、沙織?」
「…………」

沙織からの返事はない。

「す、すまん。俺、何か気に障ること言ったか?」
「…………最近、お兄様がずっときりりんさんのお願いを聞いているからです」
「……え?」

沙織が、絞り出すようにして発した言葉は俺には理解できなかった。
俺が? 桐乃のお願いを? なんのことだ? 
俺の表情を見て俺の考えていることを察したのか、沙織がご丁寧に解説を入れてくれる。

「だって……最近はずっときりりんさんから渡されたえっちなゲームばかりしているではありませんか」

くおおおおお! せっかく話題を変えたってのに! 
……どうやらこの話を避けて通ることは不可能なようだ。
腹をくくり、返事を返す。
199 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/01(火) 17:49:13.50 ID:+ArswgcOo
「あのな……あれはお願いじゃねえ。脅迫ってんだ」

エロゲをプレイしているのは、あくまでも桐乃にいわれたからで、決して自分の意思じゃない。
言葉の端にそういうニュアンスを漂わせる。明言を避けたのは、なんとなく言ってはいけない気になったからで深い意味はない。
もうこの論旨で行くしかない。ってか実際そうだしな。決して、嬉々としてプレイしてたわけじゃねえぞ。

「……同じことです。お断りにならなかったのでしょう?」
「う…………そう……だけどよ」
「……本当の妹は、私なんですよ?」

そうか。ここまで言われてようやく沙織の言いたいことがやっとわかってきた。
こいつは俺が桐乃ばっかり構ってるみたいで面白くなかったんだな。
たしかに最近は、エロゲばっかりやってたせいか、沙織と会話することが少なかった気がする。
もっと自分に構ってほしい。でも恥ずかしくて自分からは言い出せない。
だから、お土産にプラモを買って帰って、一緒に作って、構ってもらおう――そう思ったんだ。多分これで間違いない。
なにせ、こいつは超が付くくらいのブラコンだからな。

「すまん。時間見つけて作ってみるよ。今度は塗装のやり方教えてくれよな」

ぽん、と沙織の頭に手を置きそのまま撫でてやる。こんなに大きくなっちまって、お兄ちゃんは嬉しいぞ、ちくしょう。

「ありがとうございますお兄様! 愛していますわ!」
「うお!?」

大変なことを口走ったかと思うとそのまま俺に抱き着いてくる沙織。
ちょ……飛びついてくるんじゃない! や、柔らかいだろうが! 何がとは言わねえけど!

が、結論から言えば俺のリヴァイアサンが覚醒するようなことはなかった。
相手が妹だったから――というわけではない。

「ぐおお…………お、重いい」

堪え切れず、そのままベッドへと倒れこむ。そのまま、まるで沙織に押し倒されたみたいな恰好になる。

「あのなあ……抱き着くのはせめて心の準備が終わってからにしてくれ」
「うふふ、ごめんなさいお兄様」

苦笑いを浮かべる俺とは対照的に満面の笑みを浮かべる沙織。
こいつは本当にブラコンだな。ここまでブラコンの妹は他に存在するまい。
だから、俺は今なら胸を張ってこう思うことができる。つくづく俺はシスコンなんだなってな。
先ほどまでの苦笑いから、次第に純粋な笑顔へと変わっていくのが自分でもわかる。
だが、次の瞬間、俺の表情は凍りつくことになる。
200 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/01(火) 17:49:44.59 ID:+ArswgcOo
「沙織。つや消しが切れた。すまんが貸してく…………」

ドアは、用事を済ませたらすぐ出ていくつもりだったこともあり、開けっ放し。
俺に抱き着き倒れたはずみで、少し乱れた沙織の衣服。
何より、沙織にベッドの上に押し倒されたというこの状況。

「ち、違うんだ! こ、これには深いわけが!」

無駄だとわかってはいるが一応の説得を試みる。

「京介……今すぐ下に降りて来い。話がある」

殺意の波動を全身から迸らせ、親父はそう言い残し姿を消した。
なんで俺だけなんだよ!? はい終わった! 今、俺の人生終わったよ!? 

「お、お兄様……」

俺の上に乗った沙織が不安そうな声を出す。

「ふっ……俺にまかせろ」

だから、そんな泣きそうな顔をするんじゃない。
ばっちり誤解を解いてきてやるぜ。そんな意味をこめて、ぐっと自分の顔を親指で指さした。
ところで、おまえはいつまでそのままでいる気だ? そろそろズボンの中が苦しくなってきたんだけど?

201 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/01(火) 17:56:07.10 ID:+ArswgcOo
今日はここまで。ゲームも終わったし書くペース上がりそうな予感
だがプロバイダが変わってからネットの調子がよくない。やたら頻繁に切れる
これはなんとかならんのか。思うように投下できん

>>196
ヌルヌルってほどじゃないけど、とりあえず各キャラに悶えることはできる
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 20:26:00.51 ID:VyS6UkD9o
見える私にも死亡ENDが見えるぞ
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 21:13:09.47 ID:9OIHdVA10
沙織かわいいよ沙織
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 21:32:01.11 ID:Qlb2hPnu0
乙でした!

しかし、この沙織にはいつも2828してしまうま
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 00:50:47.38 ID:1/g/pz7T0
おやじに笑ったww
206 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/02(水) 19:55:57.05 ID:DsGORQ7xo
「あははははははははは!」
「ふふ………くくっ…………なんという………」

ぱんぱんと手をならし爆笑する桐乃と、腹を抱えて悶絶する黒猫。
俺の左頬に湿布が張られている理由を説明したことに対するリアクションがこれである。

ちなみに今日は俺の部屋で集まっている。
普段は沙織の部屋に集まるのだが、夜遅くまで作業をしていたせいで散らかっているらしく、俺の部屋を使うことになったのだ。

「おまえら、笑いすぎだろ」

こっちゃあ大変だったんだぞ。荒ぶる親父を鎮めるのにどれだけの労力が必要だったことか。

「はぁはぁ……ごめんなさい。でも、いくらなんでも間抜けすぎないかしら」
「そうそう。笑うなってほうが無理だって……ぷぷっ」

くっ……確かにそうだけどよ。

「ちっ……ほらよ、これ。フルコンプしといたぞ」

話題を変えるべく、桐乃にある物を手渡す。いつまでも笑われてちゃたまらねえからな。
俺が手渡したのは、以前桐乃に渡されたエロゲである。1週間で――とはいかなかったが、2週間ほどかけてようやくクリアしたのだ。

「随分遅かったじゃん。なんで1週間でクリアできないわけ? あ、言い忘れてたけど、あたしのノートパソコンくんかくんかしてないでしょうね」
「しねえよ! どんな変態だ! あのなぁ、俺だって暇じゃねえんだよ。そればっかりやってるわけにもいかないの」
「はあ? 1週間でも妥協してあげてる方なのに、その上言い訳まですんの?」
「妥協だろうがなんだろうが、俺にも都合ってもんがあるんだよ」
「都合? これより優先すべき都合なんてあんの?」

なんという傲岸不遜っぷり。なんでナチュラルに自分の頼みごとが最優先してもらえると思ってんだよ。
まあ、いい。俺の“力作”を見ればその考えも改まろうというもの。
207 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/02(水) 19:56:38.00 ID:DsGORQ7xo
「ふっ……実はな、最近はずっとあれ作ってたんだよ」

そう言って、俺の机の上に飾られたガンプラを指さす。そこには金色と灰色のガンプラが仲良く並んでいた。
ちなみに灰色の方が、俺が作ったガンプラだ。
なぜ金色の方も飾られているのかというと、沙織がこれも一緒に置いておいて下さいと言い出し、そのまま置いて行ったからだ。
なんでそんなこと言い出したかは知らねーけどさ。
それはさておき、

「見よ! この出来栄え!」
「へえ、思ったよりよくできてんじゃん」
「そうね。いつぞやのセーラー服着たガンプラとは見違えるようだわ」
「はっはっは! 当たり前でござる。今回は拙者が講師を務めましたからな」

そう。実はあれから5日ほどかけて沙織と一緒に作り上げたのだ。
今回は“合わせ目消し”と呼ばれる基本工作や、簡単にではあるが塗装も行っている。
そして、最後に“デカール”と呼ばれるシールのようなものを貼っつけて完成だ。
この“デカール”という代物、実に便利である。これを適当な場所に貼っただけですごく“それっぽい”雰囲気がでる。
沙織が言うにはなんでも「情報量」がどうのこうのらしいが、俺には難しいことはよくわからない。
手間がかかっているからか、単に組み上げただけのものとは愛着の湧き方が段違いだ。
褒められるとニヤニヤが止まらない。沙織がプラモに夢中になるのもちょっとわかるよ。

「しかし……実妹と義妹のお願いに挟まれて兄さんも大変ね」
「え?」

実は、『みんなのお兄ちゃん高坂京介とその妹たちご一行様パーティー』以来、こいつには「兄さん」と呼ばれ続けている。だから、俺が引っかかったのはそこではない。
ぎ、義妹? それが誰のことを指すのかはわかる。だけど……だけど、なぜこいつがそれを知っている!?

「なぜおまえがそれを知っている!?」
「あ、それ、あたしが話したから」

しれっと白状する桐乃。
208 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/02(水) 19:58:37.87 ID:DsGORQ7xo
「ちょ、なんで話しちゃうの!?」
「え? 駄目だったの?」
「いや、駄目というか……話してもおまえにメリットなんかねえだろ」
「は? それ、あんたが決めることじゃなくない?」

……そうっすね。
でも、いつ話したんだ? 沙織は俺が口をすべらせるまで知らなかったところを見ると、あの後すぐにってわけじゃなさそうだ。
沙織にだけ話してなかったってんなら話は別だが。

「兄さん? この子だけを特別扱いするのはよくないわ。こういう手合いは優しくすればつけあがるだけよ」

俺がしばし黙考していると黒猫が声をかけてきた。
相変わらず桐乃に対しては容赦なく毒を吐くな、おまえは。

「いや、特別扱いしてるつもりは……」
「してるじゃない。この際だから言わせてもらうけど……あなたはシスコンだから実妹の沙織はしかたないにしても、この子に対してはちょっと度が過ぎてるわ。
……それもこの子が義妹だから? 私も義妹になれば特別扱いしてもらえるのかしら?」

語気を強め、俺を詰問する黒猫。赤く、禍々しく燃える瞳は真っすぐに俺を見つめている。
な、なんでいきなり不機嫌っぽくなってるんだ?

「シスコンなのは認めるが、それとこれとは関係ないだろ。……それともなに? まさか、おまえも妹になりたいとか言い出すんじゃねえだろうな?」
「っ! …………」

びくっと体を震わせ、目を丸くしたまま固まる黒猫。
あ、あれ? 適当なこと言ってはぐらかしてしまおうと思っただけだったのに……この反応……ま、まさか…………。

「お、お兄様も黒猫氏もその辺にしておくでござる。その話はこれまで!」
「そ、そうだって! せっかく久しぶりに4人集まったんだし?」

慌ててフォローに入る沙織。驚いたことに、今日は桐乃まで一緒になってフォローに入っている。
いつもの桐乃なら黒猫に茶々いれるか、俺を蹴り飛ばすかのどっちかだと思ったんだが、一体どういう風の吹き回しだ?

ともあれ、この場で真実を追求するなんて真似はチキンな俺にはできそうもない。
ここは沙織たちの言う通りにこのまま打ち切るのが正解だろう。
怒らせたまま逃げるみたいで、黒猫にはちょっと申し訳ないけどな。

結局、それからはいつものようにアニメ見たりゲームやったりして時間は過ぎて行った。

「そろそろお暇するわ」
「ん? ……もうそんな時間か」

視線を時計へと移す。時計の針は5時を告げていた。

「げ!? もうすぐメルル始まっちゃうじゃん!」

桐乃が慌てたように帰り仕度を始める。
今日は5時半から、桐乃が愛してやまない『星くず☆うぃっちメルル』と、黒猫が愛してやまない『maschera〜堕天した獣の慟哭〜』が放送されるため、少し早いお開きである。
209 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/02(水) 19:59:29.43 ID:DsGORQ7xo
「じゃあまたね!」
「はいでござる! また会いましょうぞ!」

玄関まで見送ると、桐乃は勢いよく走りだす。陸上やってるだけあって、桐乃の姿はあっという間に小さくなっていく。

「おまえは焦んなくて大丈夫なのか?」

俺は立ち止まって桐乃の後ろ姿を見つめていた黒猫に声をかけた。

「大丈夫よ。あの子ほど遠くないから」
「そっか」

桐乃の姿が見えなくなるのを確認すると、黒猫はくるりとこちらに向き直った。

「どうした? 忘れもんか?」

しかし、黒猫からの返事はなく、押し黙ったまま俺を睨みつけている。
う……やっぱり、まだ怒ってんのかなこいつ。
しかし、時折視線をそらしたりする仕草が、単に怒っているだけではないことを窺わせた。
さて、どうしたもんかな。と、思案していると、黒猫が沙織には聞こえないような大きさで俺に囁いた。

「………………優柔不断なのも結構だけど、いつまでも気づかないふりをしていると取り返しのつかないことになるわよ。まあ……あなたのことだから、ふりではないのかもしれないけれど」
「えっ?」

俺の返事を聞くこともなく、黒猫はさっと踵を返し歩き出した。

「お兄様? どうされました?」
「あ、いや……なんでもない」

なんだ? 俺が何に気付いてないってんだ?
黒猫の言うことは、いつだって回りくどく分かりにくいが、今回はとりわけ意味不明だった。

「何が言いたかったんだ? あいつ。……ま、いいか」

この時の俺は、いつものように電波を受信しちゃっただけかもな……なんて思っていたんだ。
あいつが意味もなくそんなこと言うはずないって、ちょっと考えればわかりそうなもんなのにな。


第七話おわり
210 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/02(水) 20:01:22.92 ID:DsGORQ7xo
今日はここまで。相変わらずのノープランだけど気にしない
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 20:15:59.32 ID:Wp0YuTUDO
面白かったけどあやせはまだか…
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/02(水) 21:08:27.71 ID:I8p9ZG1B0
乙です!

このまま黒猫も妹化するのですね?というか、まだなってなかったのか
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 23:36:32.01 ID:H0w9QU4Xo
乙です!

黒猫含めて桃園の誓いクルー!?
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 00:38:27.79 ID:T9pOME+No
>>210
相変わらずのノーブラだけど気にしない

に、見えた
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 01:38:45.21 ID:GM46bnLLo
>>214
俺も見えた
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 04:01:06.44 ID:gd0xzADAO
作者はノーブラ派か
217 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/03(木) 18:12:36.90 ID:6tJTLwGKo
第八話

木枯らしの吹きすさぶ中、ポケットに手を突っ込んだ格好で家路を急ぐ。

「うあー、くそさみい……」

今朝の天気予報によると、大陸からの寒波がどうたらこうたららしいが、そんなことは俺には関係ない。
ただ、くそ寒いという現実があるだけだ。
帰ったらまずコーヒーでも淹れよう。そんなことを考えながら歩いていると、我が家の玄関先に人影が見えた。

「あれ? あの子は……」

我が家の玄関先に立っていたのは新垣あやせ。どうやら桐乃の友人らしい。
俺の中であやせ=ストーカー説が消えたわけじゃないが、女の子が女の子をストーキングするという状況はちょっと考えづらい。
かつて公園で俺を問い詰めた件だって、桐乃が知らない野郎と歩いていて心配になったからだろうと思っている。
今になって考えると、あの時俺が感じた視線って実はこいつのものなんじゃないかと思うんだよね。

さて、それはさておき――

「あやせ……こんなとこで何やってんだ?」
「おおお、遅いです……おに、お兄さん」

可愛そうに、この寒さのせいであやせはがくがくと震えてしまっている。呂律すらまわっていない。
かつての天使のような笑顔の面影はなく、唇は紫がかっているし顔色は悪い。
いや、これはこれでかわいいんだけどね。なんか嗜虐心をそそられるというか……。

まあ、俺の新たな趣味の開眼はひとまず置いておいて、

「お、おい……大丈夫か? 一体何してたんだよこんなとこで。まさか、また俺に用か?」
「は、ははい。そう……です」

依然としてあやせの震えが収まる気配はない。これじゃあ話もろくにできないだろう。
このまま公園で立ち話でもしたら凍死してしまいかねん。あやせのあまりの悲壮さに思わずこんな提案を持ちかける。

「話は公園でってわけにはいかなさそうだな。俺の家で暖まりがてら話さないか? 今日はお袋がいるはずだから、あまり聞かれたくない話なら俺の部屋でってことになっちまうけど」
「いいい、いいんですか? じゃあお願いします」
218 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/03(木) 18:13:29.55 ID:6tJTLwGKo
素直に提案を受け入れるあやせ。
この清純そうな天使のこと、ほぼ初対面の男の部屋に招かれるなんて普段なら絶対に拒否するところだろうが、あやせは自身の命を優先したらしい。
ふひひ、こればっかりは寒波とやらに感謝しないとな。
うおおおおお! 俺が暖めてあげるぜあやせたん!! ……一応断っておくが、変な意味じゃないからな。

「ただいま〜」
「お、お邪魔します」

おずおずと我が家へと入るあやせ。こういう何気ない仕草一つとってもかわいらしい。

「あ、ちょうどいいところに帰ってきた。京介、あんたちょっと買い物に……」
「げ!?」

ちょうど俺に買い物を頼むつもりだったらしいお袋と出くわした。こういうのを間が悪いって言うんだろうな。

「あら、京介。そちらのかわいい子はどちら様?」
「あはは、いや……こいつはな」

やばい……なんて言おう。よくよく考えれば、こいつのことまだ名前くらいしか知らないんだよね。
どうやら桐乃の知り合いだってのはわかってるんだけどさ。

「初めまして、新垣あやせです。お兄さんにはよく相談に乗ってもらってるんです」

おい、俺がおまえの相談に乗ってたなんて初耳だぞ。
前回のを相談と呼ぶなら問題ないが、俺の中ではあれ、尋問だからね。

「そうなの? あ〜あ〜、そんなに震えて……寒かったでしょ。ゆっくりしていって」
「はい、ありがとうございます」

何の疑問を持たずあやせを招き入れるお袋。このあやせという子、どうやら中々にしたたかな子のようだ。
そのまま階段を上り、俺の部屋へと案内する。暖房もつけたし、これであやせの震えも止まるだろう。

「コーヒーでも淹れてくるわ。砂糖とミルクはどうする?」
「え? あ……じゃあ、どっちも入れてください。…………お砂糖多めでお願いします」

あやせは、申し訳なさそうに少し俯いて上目使いでお願いしてくる。
やべえ、超かわいい。他に形容すべき言葉が出てこないくらいかわいい。
219 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/03(木) 18:14:11.76 ID:6tJTLwGKo
「う……ま、まだ寒かったら布団とか勝手に羽織るなりしといてくれていいからな」
「ありがとうございます、お兄さん」

自分の顔が赤くなるのを感じながら、自室を後にする。
しかし、あの子一体何の用があって俺んちにきたんだ? 俺に用があるのは間違いないんだが。
主観ではあるが、あやせの中での俺の印象は決して悪くないはずだ。
そして、大した用事でもないのにこんな気温の中いつ帰るともわからない相手を待ち続けるだろうか。
こりゃあ、ひょっとしたらひょっとするかもしれねえな。ふひひ。

リビングに降りると、どうやらお袋は買い物出掛けたようで一階には誰もいなかった。
いやあ、あやせが来てくれて助かったぜ。こんなくそ寒い中のお使いとか、まじ勘弁してほしい。
コーヒーを淹れようとキッチンの方へ移動しようとすると、テーブルの上の書置きが目に留まった。

「なんだこれ?」

『京介へ。ちょっと買い物に出掛けてきます』

ああ、やっぱり買い物に行ったんだな。でも、なんでわざわざ書置きを? いつも何も言わずに行ってるじゃねえか。

『追伸 避妊はきちんとすること』

俺は無言のまま書置きをびりびりと破り捨て、コーヒーを淹れてあやせの待つ俺の部屋へと戻る。

「おまたせ、あやせ」
「お帰りなさい、お兄さん…………って、なんでそんな無駄に爽やかな笑顔なんですか?」
「はっはっは。俺はいつでもこうだよ、あやせさん」

もうやだ! お袋に言われる「避妊はちゃんとしろ」がこんな破壊力だったなんて知らなかったし、知りたくなかったわ!
なんでうちのお袋はデリカシーのかけらもないの!?
220 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/03(木) 18:17:59.92 ID:6tJTLwGKo
今日はここまで。

>>214-216
なぜばれたし
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 18:36:32.75 ID:ml84ds9n0
ガクブルあやせたんカワイィな。不火火。
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 20:20:11.50 ID:T0jA9vUX0
乙!ふひひ

このあやせは黒いのかチョロいのか期待せざるにはいられない
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 03:04:47.53 ID:CzswL60Bo
きょうちゃんはきっと勢いに流されて避妊しない

乙乙
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 12:02:39.76 ID:PU3U/98DO
チアノーゼのあやせたんかわいい!
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 21:33:21.64 ID:z3+Dz0VGo
mdk
226 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/04(金) 23:45:11.10 ID:p73Hlf10o
「で、今日は何しに来たんだ?」

コーヒーを飲み、お互いに一息ついたところであやせの用件を聞き出しにかかる。
震えは止まり、顔色もすっかりよくなっていてるし、これならもう大丈夫だろうと判断したからだ。
あんまり遅くなると俺にとってまずいこともあるしね。

「用件の前にはっきりさせておきたいことがあるんです」
「はっきりさせたいこと?」

……なんだか猛烈に嫌な予感がする。
以前あやせから感じた謎のプレッシャーを俺は忘れてはいなかった。あのときあやせは瞳の光彩を消失させ、どす黒いオーラを発していた。
今度あんなの見せられたら泣かない自信がない。

「桐乃とは本当に付き合ってはないんですよね?」
「……ああ、そうだ」

にっこりと微笑みながら質問してくるあやせだったが、この場合笑顔であることが逆に恐い。
なんでこの子の話はいつも尋問じみてるの? 相変わらず超恐いんだけど。

「桐乃は『手のかかる妹』みたいなもので、それ以上でもそれ以下でもないと」
「……ああ、そう言ったな」
「わかりました。では用件を伝えますね。……もう桐乃に近づかないで下さい」
「は?」

俺の訝しげな表情を見てあやせの表情が曇る。

「そんな大したお願いじゃないですよ?」
「いやいや、大した話だろ! どうしていきなりそんな話になるんだよ!?」

俺が一体何したってんだ。
そもそも、近づくなって言われてもなあ……ストーカーに対する判決じゃあるまいし。
227 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/04(金) 23:46:43.31 ID:p73Hlf10o
「まあ、問答無用でってわけじゃないんです」
「え? そうなの?」
「はい。私はお兄さんのことを全然知りません。ですから、今はまだ迷ってる状態なんですよ」

結論を先延ばしにした、もったいぶった話し方。切羽詰まった感が前面に押し出されていた前回とはまるで違う。
まるで、こちらの反応を窺っているかのようだ。

「で? 迷ってて? 俺はどうしたらいいんだ? その言い方だと何か条件なりがあるんだろ?」
「……なにをそんなに焦ってるんですか?」

早くしないと沙織が帰ってきちゃうの! ちくしょう、後先考えず俺の部屋に連れ込んだのは失敗だったよ!
あわよくば……ふひひ、とか考えた俺の馬鹿!

兄の部屋からは何やら話し声。聞き耳を立ててみればどうやら女の子。そしてその子は俺のことをお兄さんと呼ぶ…………。
あいつにこんな状況を見られたら、それこそ問答無用でギルティ――有罪である。
特に最後のはやばい。お兄さんはやばい。あいつが嫉妬に狂うのが目に浮かぶようだ。

「い、いいから早く話の続きを……」
「えーと……どこまで話しましたっけ?」
「今はまだ迷ってるってところ!」
「そうでした。ですから、お兄さんのこともっと知りたいんです」
「俺のこと?」
「はい。私、桐乃のことが心配なんです。今年の春くらい付き合いが悪くなったりしてたんですけど、ここ数か月は様子もちょっとおかしくて……」

今年の春――そう聞いて俺には思い浮かぶことがあった。ちょうど沙織が桐乃や黒猫たちと知り合ったのがその頃だ。
俺たちと遊ぶ時間が増えたせいで、今までの友人たちとの時間が減ったのだろう。
だが、もう一方の方に心当たりは全くなかった。
数か月前ってなんかあったっけ? そういや、桐乃が義妹になったのもそのあたりか?
228 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/04(金) 23:48:33.86 ID:p73Hlf10o
「具体的にどう様子がおかしいんだ?」
「それはお兄さんには言えません」
「えっ? なんで?」
「なんでもです。とにかく、私は桐乃がおかしくなった原因はお兄さんにあると踏んでいるんです」
「い、いやいや、それはいくらなんでも言いがかりだって!」

あいつが付き合い悪いのは、あくまでも沙織たちと遊んでるからであって俺のせいじゃねえ! ……そりゃ俺も一緒になって遊んだりはするけどさ。

だが、なるほど。なんとなくだが話が見えてきた。
要は、あやせは桐乃が心配で、桐乃が変わってしまった原因を突き止めようって腹積もりらしい。
おそらく、こいつの中で最も疑わしいのが俺なんだろうな。悲しいことに。
沙織や黒猫と違い、俺は桐乃と一緒にいるところを(多分)一度見られている。しかも仲良さそうに腕を組んでいるところをだ(多分)。
こいつにしてみれば、親友が変な男に引っかかったんじゃないかって心配でたまらないんだろう。
ちょっと危ない雰囲気を出したりするのが気にかかるが、基本的には友達思いのいいやつなのかもしれない。
229 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/04(金) 23:49:41.05 ID:p73Hlf10o
今日はここまで。遅くなってごめんね
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 00:29:34.91 ID:bMk1TGtJ0


こっちのあやせは京介にとってはストーカーと変わんないよね...
それなのに自分の部屋に招く京介もあれだけどねw
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 02:30:50.40 ID:ELeD7e1AO
乙!

>>230
もしもストーカーだったとしてもそれがあやせたんなら当然招くだろ
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 03:09:17.18 ID:Wx7oOHlto
乙!


>>231
黒猫たんなら嫌がってても招くがあやせならスルー、あの女怖い
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 03:11:44.85 ID:UOXcJpIAo
2次元ストーカーのあやせなら別だろうけど、
リアルのストーカーはかわいくてもあり得ない。怖いよ
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 03:45:29.06 ID:lQA56T4DO
二次元と三次元は違う
つまりあやせたんはストーカーでもかわいい
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 04:59:55.29 ID:kh0DVI+l0
このスレでもあやせたんはまじ天使!でおk?
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 11:10:58.79 ID:KJvtoFcIO
左様
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 14:25:44.87 ID:IgpsGxLT0
このスレっていうか全宇宙共通の認識でしょうそれは
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 18:40:10.31 ID:vfpV94aD0
>>235
何を今更
239 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/05(土) 19:51:48.60 ID:VxOG8GUCo
「おまえの言いたいことは分かった。で、俺は自分の潔白を証明するためにはどうすればいいんだ?」
「……えらく乗り気ですね。ロリコンのお兄さん」
「おい、まさか桐乃と歩いてたってことだけでロリコン呼ばわりしてるんじゃあるまいな」

あるいは妹もののエロゲをやってたのがばれたとか? この子に限ってはそれがないとも言いきれないのが恐い。

ま、なにはともあれ、俺だって桐乃に会えなくなるのは寂しいからな。あいつはもう、沙織だけじゃなくて俺の友達でもあるんだよ。
今までのあやせの言動を整理すれば、俺にはまだ汚名返上のチャンスが残されているはずだ。
そして、あやせが俺に出す条件――というか、お願いにはなんとなく察しがついた。
それは――

「引き続き人生相談に乗ってもらえますか?」
「あれっ?」

俺が想像したものと違うんだけど?

「え……どうしたんですか?」
「あ、いや……ちょっと想像したものと違っただけだ」

首を傾げ、不思議そうな顔をするあやせ。
そして、いったい何を想像してたんですか? なんてことを聞いてきたもんだから俺は胸を張って言ってやった。

「私のお兄さんになって下さい」
「この変態! 通報しますよ!! なんで私がお兄さんの妹にならないといけないんですか!?」

あやせは怒鳴りながら、全力でこれを否定。
な、なにもそこまで嫌がることなくないか? 確かに俺たちは一回会ったことがあるだけでほぼ初対面だけどさ……でも、だからこそそこまで全力で否定することもないだろ。
なんで好感度がマイナスに振り切れてるみたいなリアクションなの?
240 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/05(土) 19:52:27.06 ID:VxOG8GUCo
「とにかく、それだけは絶対ありえませんから!」

あれえ? おかしいな。あの桐乃の友達だからきっとこうだと思ったんだけどなあ。
なんだよ、人生相談って。おまえは沙織か。
だいたい、なんでおまえがその言葉を知ってるんだ。まったくの偶然ということもありえなくはないが……。

「まったく、桐乃に聞いてたのと全然違うんだから…………。やっぱり自分で確かめに来てよかった」

ん? 桐乃に聞いてた?
ふむ、やっぱりこの子は桐乃の友達みたいだな。一時はストーカー説もあったが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。
初対面で俺の名前を知っていたり、人生相談という単語を知っていたのも桐乃に聞いたからだろう。

だが、それが分かったことで新たな不安が湧いてくる。
桐乃は、この子に対して俺のことを一体どう評していたのか。……あいつのことだから、俺のことをぼろくそに言っていた可能性が高い。
道理でこの子の俺に対する好感度がマイナスに振り切れてるわけだよ。これじゃあ、あやせ√は絶望的だ。
がっくりと項垂れながらも、俺の脳は一つの疑問を感じていた。

「でも……なんで人生相談なんだ?」
「えっ?」

こいつの目的は俺の為人を見極めて、桐乃に害を与える存在ならば消してしまおうというもののはずだ。
そして為人を見極めたいだけであれば、何も人生相談である必要はない。
むしろ人生相談という形であれば、俺はこいつのために少なからず力を尽くすだろうし、悪い面は自ずと見えにくくなる。
こいつの目的からすれば悪手でしかない。
だからこそ、こいつが人生相談を選んだ理由が俺にはさっぱりわからなかった。

「え……あ……そ、それはですね…………」

あやせはここにきて、今日初めての動揺を見せた。
な、なんだ? 俺、そんなに変な質問したか? 
……これは何かある。それはあやせ√へ繋がるフラグかもしれないし、あるいは俺死亡ENDに繋がるものかもしれない。
問い詰めるべきか、ここでこの話題を終わるか。
この選択一つで俺の人生が大きく変わる。漠然とだけど、そんな予感があったんだ。
241 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/05(土) 19:55:59.51 ID:VxOG8GUCo
今日はここまで。短くてごめんね

長編でノープランは苦しいということを今さら理解。ちょっと構成考えるか
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 20:00:54.31 ID:UOXcJpIAo
長編はプロット立てて、おおまかな話の全体の流れを作っておかないと
途中でしんどくなってきて、放置ってよくなるわ
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 20:36:11.51 ID:C0erWkldP
いざとなったら調教でいいよ
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 21:03:48.98 ID:7KCaI8rio
あやせなら俺の膝で寝てるよ
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 21:15:41.39 ID:DiNOJhKm0
乙です

わずかな出番でこの期待感は...あやせ無双の始まりか!
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 02:28:57.14 ID:JGfOsNav0

あやせ相変わらず天使

京介既にエロゲ脳なんだなwwww
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 17:14:45.74 ID:MRBTmAjJo
>>61を誰か再うpしてくれ、たのむ
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 17:22:06.67 ID:wZSelJbLo
http://skm.vip2ch.com/-/hirame/hira005738.jpg
249 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/06(日) 23:18:02.57 ID:XPSv6AKro
いままでしっかり構成とか考えたことないからちょっと手こずってる。思ったより時間かかるかも
申し訳ないけど、もうしばらくお待ちください
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 04:28:57.09 ID:PCVisgj70
250ゲット
>>249
無理に毎日書こうとしないで、時間をとって1話づつ完結させていった方がいいのではと思うよ
ここの読み手も無理に急かさないし、書きこみ止まっても生存報告しつつ
気軽にネタ提供なんか求めながら書いていけばいいんじゃないかな?
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 04:48:49.59 ID:JppOgPX3o
のんびりやればいいよ
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 14:31:45.67 ID:S0KlzY++o
>>248アリガト
253 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/08(火) 21:59:00.77 ID:mmUQ6MLKo
「…………まあ、いいや。何か言いにくそうだしな」

結局俺は、あやせが動揺した理由を追及しないことを選択した。
触らぬ神に祟りなし。藪をつついてなんとやら。俺だって命はおしい。
なんてもったいないことを――そんなことを言うやつもいるかもしれない。
だけどな、よく考えて欲しい。今のあやせの俺に対する好感度はマイナスに振り切れている上に、もし首尾よくあやせたん√に突入できたとしても……あのあやせだぜ?
一つの選択ミスが、文字通り命取りになる可能性だってある。
情けないようだが、俺はあのときの――瞳から光彩を消失させたあやせが頭から離れなかった。
びびってると笑わば笑うがいい! あの恐怖は実際に対峙した人間にしかわからないだろうぜ。

「で、用事はそれだけなのか?」
「はい。今日は、これからよろしくお願いします……ってことをお伝えに来ただけですから」

この発言から察するに、どうやらあやせの脳内では、『俺が人生相談に乗ることを断る』と言う状況はシミュレートされていなかったようだ。

「そういうわけですから、これからよろしくお願いしますね。お兄さん?」

そう言ってあやせはぺこりと頭を下げた。

「おう。わかったよ」
「あはっ、ありがとうございます! じゃあ……」

するとあやせは、ごそごそと自分の鞄を漁りだした。何かを探しているようだ。
いつでも逃げられるように、少し腰を浮かせておく。……いくらなんでもびびりすぎだろうか。
254 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/08(火) 22:00:21.52 ID:mmUQ6MLKo
「お兄さんのアドレス……教えてもらえますか?」

あやせが鞄から取り出したのは携帯だった。
ふぅ、と一息。あらかじめ少し浮かしておいた腰をそのまま持ち上げ、机から自分の携帯を回収する。

「…………これでよし」
「はい、こっちもおっけーです」

そう言ってにこりと微笑むあやせ。男なら思わず見惚れてしまうほどのかわいさだ。

「じゃあ、今日はこれでお暇しますね。急にお邪魔してすみませんでした」
「気にすんな。どのみち暇だったんだ」

ふぅ、どうやら沙織の帰宅までには間に合ったようだな。
あやせを玄関までエスコートし、そのまま手を振って見送った。

「冷静に考えると、あやせっていい子なんだよな」

かわいくて、友達思いで……
あとは、桐乃のことが心配なあまり発露してしまった一種の異常性さえ除けばまさに完璧と言えた。
そしてその異常性は、俺が桐乃に害がないとわかれば俺に向けられることはないだろう。
あんなかわいい子と繋がりを持てる機会などそうそう訪れまい。

「まあ、そうそう上手くいくとも思えないけどな」

言葉とは裏腹に、体は正直なもので顔がにやつくのを抑えられない。
だが、玄関扉を開け自宅に入った瞬間、甘い妄想は一瞬にして消え去った。

「……沙織の…………靴がある」

ただいまの声は聞こえなかったし、階段を上る足音も聞こえなかった。
いつだ? いつ帰ってきた?
まるで間男のような自問自答。

きっと俺はこれから怒られる。沙織が帰ってきたタイミングによっては俺の「お兄さんになって下さい」という莫迦な妄言まで聞かれている可能性がある。
ごくり。思わず喉を鳴らしつばを飲み込む。

「腹をくくるしかないか」

浮かれてしまって、一瞬忘れていたぜ。我が家にも怒らせると怖い妹がいるってことをな。




「…………は、判決は?」
「ギルティ――有罪です」

沙織はそう言い放ち、にこりと微笑んだのだった。



第八話おわり
255 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/08(火) 22:04:10.84 ID:mmUQ6MLKo
大まかな流れを決めたのでそれに従って書いていくよ。
>>250の言う通り、一話分書き溜めてから投下の方がよさげなのかな。その方が読みやすいだろうし。

あと、ネタに詰まったら募集するかも。その時はよろしく
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 22:29:46.88 ID:LSPSPwsao


俺も1話分ごとでお願いしたい
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 23:13:56.59 ID:oux1qHay0

今回もかわいかったんだぜ

その時は微力だろうけど手伝うよ
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 23:32:46.14 ID:JWsg3GIX0
貴重な沙織スレだから期待してる
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 00:07:10.08 ID:KxF7T4Pn0
おつでした!
次の話も期待してるよ
260 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/10(木) 21:09:19.04 ID:3XdfzXHco
総合スレ用にブリジット√書いてた。
こっちは週末には投下できるはず。もうしばらくお待ちください
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 23:23:11.90 ID:GB3/DA8B0
こっちにもブリジット出してくれていいのだぜ?
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 02:13:14.66 ID:K31USu/So
ク、ロ〜ネコ!
ク、ロ〜ネコ!
ク、ロ〜ネコ!
263 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/11(金) 22:12:48.83 ID:XdHsMWa0o
第九話

当たり前のことだが、冬の廊下は寒い。
吐く息は白く、暖かさを持たないフローリングの床は容赦なく俺から体温を奪っていく。目は半分涙目で、足の痺れもそろそろ限界だ。
俺はかれこれ30分ほど廊下で正座していた。それが俺に与えられた量刑である。

この判決を下した人物は、決して俺のことが憎くてやったわけじゃない。
そして、俺が涙目なのもその人物が怖かったからじゃない。決して。
俺のことが嫌いでやってるわけじゃないのはわかる。それはわかるが、いくらなんでもこれはひどい。
沙織がブラコンなのは今に始まったことではないが最近のあいつは少しおかしい。
なんというか、少し常軌を逸している。
年下の異性の友人が増えたくらいで、なぜ俺は罰せられなくてはいけないのか。

「……エロゲだと定番の嫉妬イベントなんだけどな」

そう言葉を漏らし、思わず苦笑する。いつから俺の脳はこんな思考を辿るようになってしまったのか。
これはきっと……いや、絶対にあいつのせいに違いなかった。

だがこれは現実で、妹ルートは存在しないし、妹にフラグは立たないし立ててはいけない。沙織だってそれはわかっているだろう。
桐乃が妹に云々の時は、てっきり自分が除け物にされたみたいで拗ねているのだと思った。
だから、あいつは単純に俺に構って欲しいんだと思ってたんだ。
俺はあれ以来、沙織との時間を意識的に多くとるようにしてきた。シスコンだと言われれば反論のしようもない。

だが、それでもあいつの嫉妬ともとれる異様さは、消え失せてはいなかった。
現にこうして刑に服している最中である。もはやヤンデレと言っても差支えないレベルだ。
もし俺の認識が間違っているとしたら、あるいは…………あるいは不安なのだろうか。
沙織は黒猫のように二次元と三次元の境界が曖昧なやつではない。
いくら沙織がブラコンで俺がシスコンであったとしても、いつかは独り立ちしなければならない。そんなことはわかっているはずだ。
でも……だからこそ、今、甘えることが許される間だけは、貪欲に兄を――俺を必要としてくれるのかもしれない。
264 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/11(金) 22:14:34.75 ID:XdHsMWa0o
「どうしたもんかな」

片手で頭をぼりぼりとかきむしりながら、途方に暮れる。
俺は以前沙織に向かって、『俺は何があってもお前の兄貴だよ』と言った。
その言葉に嘘はないし、これからも相談に乗ったり、一緒に遊んだりしたいと思っている。

でも兄だからこそフラグは立たないし、俺があれこれと世話をやいてやれる時間は限られている。
だから、あいつは兄貴離れをしなくてはならない。今すぐにする必要はないが、心の準備は必要だ。
沙織はきっとこれから恋をして、結婚をして、俺とすごした時間よりも長い時間を旦那と歩んでいくことだろう。
そう考えると胸が少しちくりと痛んだ。しかし、そこから目をそむけることはできない。

「俺がなんとかしないとな」

沙織が本格的にヤンデレ化する前に。
妹が道を外れようとしたとき、叱って道を正すのが親の役目ならば、そんなことしちゃダメだろ? と親には内緒でこっそり諭してやるのが兄の役目だと思っている。
もちろん怒られるときは道連れにされてしまうわけだけど。俺はそれでもかまわない。
俺はあいつの兄貴なんだよ。



『…………自業自得ね』
「いやいや、どこをどう考えたらそんな結論が出て来るんだよ」

刑期を満了し、晩飯を食べた後、沙織の脱ブラコンについてさっそく黒猫に相談をもちかけた。
ちなみに今の黒猫の言葉は、俺が犯した罪とそれに対する罰に対する感想である。

『ブラコンの妹がいるというのに、どこの馬の骨とも知らない女を自室に連れ込むなんて……あなた、死にたいの?』
「馬の骨って……あのなぁ、別に俺はそういうつもりじゃ――」
『関係ないわ』

一応の言い訳を試みるが、それを黒猫の言葉が遮った。

『あなたがどういうつもりかなんて関係ない。知らない女があなたの傍にいた。それだけで不快になるには十分よ』
「…………」

黒猫は強い口調で俺を攻め立てる。まるで沙織の気持ちを代弁するかのように。
……俺よりよっぽど沙織のことをわかってやれているみたいだ。
でも、どうしてそこまで沙織の気持ちがわかるんだ? 同じ性別だから? 親友だから?
色々考えてみるが、どれもピンとこない。
265 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/11(金) 22:16:03.05 ID:XdHsMWa0o
『聞けば、その女にお兄さんと呼ばせていたそうじゃない』
「なぜおまえがそれを知っている!?」
『沙織から聞いたのよ。チャットで怒りをぶちまけていたわ』

そういうことか。恐らく俺が正座している間にしていたのだろう。
黒猫が沙織の心情を理解できていたのは、きっとチャットでぶちまけていたのが怒りだけでなく自分の想いをもぶちまけていたからだ。

『知り合う女みんなに兄さんと呼ばせるなんてどんな変態なのかしら。シスコンもここまで来ると笑えないわ』
「ちょっと待て、俺は呼び方を強制したことなんて一度もないよ! 全員向こうが勝手に呼んでくるんだよ! そういうお前だってそうだろうが!」

降りかかる変態疑惑を全力で否定。
桐乃にしろ黒猫にしろあやせにしろ、勝手にそう呼びだしたんだから仕方ねえだろ!?

『………………………』

急に黒猫の返事が途絶えた。
あ……しまった。ちょっと強く言い過ぎたか? 今のはいくらなんでもひどかったかもしれん。

「く……黒猫? 俺は別におまえらに兄さんと呼ばれるのが嫌なわけじゃなくて……なんというか、言葉のあやというか」

しどろもどろになりながらも黒猫の機嫌を窺う。

『あ……気にしなくていいわ。ちょっと考え事をしていただけだから』
「そ、そうなのか?」

話し方から察するに、黒猫はどうやら本当に気にしていないみたいだった。
となると、どうしても気になってしまうのが人間の性というもの。

「考え事って?」
『あなたに言うとでも思っているの?』

ばっさり。
あまりにも綺麗に切られた場合、切られたことに気付かないことがあるという。今の俺はまさにそんな感じだった。

「え? あ……そ、そうか。…………すまん」

ここまであっさりと拒絶されるとは思わなかったぜ。なんだか、ちょっと寂しくなってしまう。
266 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/11(金) 22:17:39.44 ID:XdHsMWa0o
『あ……別にあなたが頼りにならないとかそういうわけではなくて』

すると、俺の気持ちを察したのか黒猫がフォローをしてくれた。普段つんけんしてはいても根は優しいやつだからな。
だから、俺は気にしていないよ、というニュアンスも込めてわざと意地悪に言ってやったんだ。

「じゃあ、是非教えてもらいたいもんだな。頼りにならないわけじゃないんだろう?」

数瞬の間が空く。うつむきがちになり視線をさまよわせて、言うかどうかを迷っている姿が容易に想像できる。
どうにもいたたまれなくなった俺が、言いづらいなら別にいいんだぜ? そう言おうと思った時のことだった。

『…………あなたにあんなことを言っておいて自分はどうなのか、と思ったの』

あんなこと?

「自業自得ってことか?」
『もっと前よ』

もっと前? 俺ってこいつに何か言われたっけ?

『私が言えるのはここまでよ。ところで――』

これ以上追及するなと言うように、黒猫は話題を変えた。

『さっきから鳴っているこの騒音はなんなのかしら』
「ああ、これな。沙織がプラモの塗装してるんだよ」

実はさきほどから、沙織の部屋からドルルルルという音が響いている。
学校でボールに空気入れる機械があったろ? ちょうどあれみたいな音だ。

『塗装って、要は色を塗るのでしょう? なのになんでこんな騒音が出るのよ。なにか妖しいことでもしているのではないの?』
「なんでもコンプレッサーとかいうやつの音らしいぞ。エアブラシってのを使うにはそれが必要なんだと」

俺も、以前沙織に教わって塗装に挑戦したことはあったが、その時は筆を使った塗装だった。
エアブラシについても多少教えてもらったが、如何せんめんどくさそうで、俺の性に合わなさそうだった。
エアブラシの方が綺麗に塗れるらしいが、俺は地道に筆で塗り塗りしている方が性に合っている。

ちなみに沙織が塗装している間は、俺の部屋の窓は全開にする必要がある。あいつが使う塗装ブースの排気口が俺の部屋に通じているせいだ。
一時期は消臭力を買い込んでみたりしてみたが、シンナー系の匂いの前には無力だった。
気付けば、コンプレッサーの音がするのと同時に窓を開けるのが習慣となっていた。

だが、最近はこの匂いもまんざらでもないような気がするから不思議だ。
これが親父が言っていた“本物のシンナーなど比べものにならん中毒性”というやつだろうか。
だとしたら、親父が塗装に反対していた理由もちょっとわかるよ。
267 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/11(金) 22:18:50.69 ID:XdHsMWa0o
『あなたも意外と苦労してるのね』
「慣れればそうでもないよ。あと、意外とは余計だ」

俺ってそんなにのんびり生きているように見えるんだろうか。

『まあ、いいわ。私の話はこれで終わり。おやすみなさい』

ピッ、と無機質な機械音をたて電話が切れた。

「私の話……ねえ」

あいつが“俺に言ったこと”は気になったが、どうにも思い出せないし、心当たりがない。
毒舌こそ日常茶飯事だが、何か悪口を言われた記憶もないし……あいつが悩むようなことあったっけ?

「だめだ、さっぱりわからねえ」

ぼやきながらベッドに仰向けで寝転がる。
ま、覚えてないってことはそんな大事なことじゃなかったってことだな、きっと。

「…………あいつにも相談してみようかな」

俺が思い浮かべたのは高坂桐乃。俺を兄貴と呼んで慕ってくれる女の子だ。黒
こう書けば聞こえはいいが、実際の所はわがまま放題の困ったやつ。
正直、まともな人生相談ができるとは思えない。だが、溺れる者は藁をも掴むというやつだ。
俺は意を決して、電話をかけた。他に聞きたいこともあったからな。

『……もしもし? 何か用?』

第一声から不機嫌な声。

「よ、よう。実はおまえに相談したいことがあってな」
『はあ? あたしがなんであんたの相談に乗らなくちゃいけないわけ? あたしは今からみやびちゃん攻略しないといけないんですけど』

イラッ。
お、抑えろ、抑えるんだ。
268 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/11(金) 22:19:59.92 ID:XdHsMWa0o
「ま、まあそう言うなって。沙織のことでちょっと相談があるんだ」
『沙織の?』

桐乃の機嫌が一変したのがわかった。こいつはこいつで友達思いであることは間違いないんだよな。
沙織がこいつらと知り合えて本当によかったと思う。

「おう。だが、それに関してまず確かめておきたいことがあってな」
『え? なに?』
「おまえ、あやせって子知ってるか?」
『はあ!? あんたあやせに何かしたんじゃないでしょうね! あやせになんかしたらぶっ殺すから!』
「お、俺は何もしてねえよ! お、落ち着けって!」

あやせの名前を出しただけですごいキレようである。どうやらあやせが桐乃の友人であることは間違いないようだ。
自分のストーカーを「なんかしたらぶっ殺す」とか言って擁護するやつはいないだろう。

『ちっ……セツメイ。早く』
「いや、実はな――」

そこから俺は、あやせに桐乃との関係を問いただされたこと、そのうち人生相談に乗ってくれと頼まれたことを説明した。
ちなみに、お兄さんと呼ばれていることは伏せておいた。

『まさか……あやせが…………』

桐乃はどうやらショックを受けているようだ。電話越しなので顔は見えないが、驚いている様がありありと伝わってくる。

『だから最近やたらと詮索を…………あやせってば一体どういうつもりで』

何やら一人で納得し、そのまま考え出す桐乃。

「おーい、俺にもわかるように説明してくれ」
『あんたはちょっと黙ってて』

ここでもばっさりと切られ、言葉を失う俺。

『…………まさかオタク趣味がバレた? でもそんな感じはしないし……じゃあなんでこいつに』

どうやら桐乃はあやせの目的がわからないようだった。

『あ〜っ、もう! わけわかんない! あんた何か知らないの?』
「そうだな……おまえのオタク趣味を探ると言うよりは、俺のことを調べに来たって感じだったな」
『は?』

これは決して自意識過剰なわけではない。なにせあやせ本人が言ったことだ。

「おまえ、俺たちと遊ぶようになってから学校の友達と付き合い悪くなったらしいじゃねえか。それを不審に思ったあやせが色々調べた結果俺に辿り着いたらしんだよ」

あえてあやせのストーキング行為については伝えることはしなかった。あいつはあいつで親友が心配で仕方なかっただけだろうからな。
俺たちのために時間を割いてくれるのは嬉しい事なんだけど、旧来の友達からすれば心配になるのもしょうがない。
269 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/11(金) 22:20:46.41 ID:XdHsMWa0o
『……あ』

それを聞いて桐乃はなにやら思うところがあったらしい。

「ったく……沙織や黒猫と遊んでくれるのは嬉しいけど、あんまり友達心配させないようにな」
『ちっ……大きなお世話だっての』

桐乃が今ここにいるならば、むくれてそっぽを向いていたことだろう。あるいは電話の向こうでもそうしているかもしれない。

『でも…………ありがと』
「あいよ」

顔が見えない分、今日の桐乃は少し素直なようだった。
素直な桐乃が微笑ましくて、にやけてしまうのが止められない。

『じゃあ、あたしもう寝るから』
「おう。またな、おやすみ」
『…………おやすみ』

ピッ。
あいつも、いつもこうだとかわいいんだけどなあ……。

「あ、沙織のこと相談するの忘れた」



第九話おわり
270 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/11(金) 22:21:47.11 ID:XdHsMWa0o
今日はここまで
なんだか文体が原作から離れて行ってる気がするけど気にしない
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 23:59:36.17 ID:hEejCd+m0
乙きたこれ!
沙織のブラコンぶりに2828が止まらん
...が肝心の沙織本人が出てこないぃ?
これが生殺しなのか
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 00:45:31.43 ID:v0gn4WLDO
桐乃も高坂の姓なのね
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 02:22:57.55 ID:/eqpdnvBo
ク、ロ〜ネコ!
ク、ロ〜ネコ!
ク、ロ〜ネコ!
274 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/12(土) 07:24:31.92 ID:tI0aGDSyo
>>272
あばばばば。なんというミス……ついつい高坂と書いてしまった
今まであえて伏せてきたというのに。見なかったことにして忘れてください
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 15:20:04.28 ID:hILiAOMU0
みんな可愛いなチクショウ
276 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/13(日) 15:14:25.17 ID:X2UNSSAFo
 ___
/ || ̄ ̄|| ∧_∧
|.....||__|| (     )  …………
| ̄ ̄\三⊂/ ̄ ̄ ̄/
|    | ( ./     /
 ___
/ || ̄ ̄|| ∧_∧
|.....||__|| ( ^ω^ )  ネタに詰まった。あやせ回にしたいのにネタが出てこないでござる
| ̄ ̄\三⊂/ ̄ ̄ ̄/
|    | ( ./     /
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 15:49:24.81 ID:bXza47St0
京介をめぐってヤンデレ化した沙織とあやせの修羅場とか
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 20:20:40.96 ID:O9WaJl5DO
あやせにラブコール→沙織激怒
279 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/13(日) 20:31:44.06 ID:X2UNSSAFo
>>278
そのネタもらった! 

>>277
せっかく考えてくれたのにごめんね
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 20:55:41.68 ID:YHkdWq+x0
おいおい修羅場とか誰が得するんだよ
俺が得するんだよ

wwktkして待ってます
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 22:52:59.17 ID:bXza47St0
>>279
>>278のネタ、楽しみに待ってる
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 23:34:16.63 ID:dveP3p6Do
ク、ロ〜ネコ!
ク、ロ〜ネコ!
ク、ロ〜ネコ!
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 23:45:51.76 ID:CEykYr1Ao
うざい。毎回毎回そればっかで芸がないね
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 02:24:58.12 ID:QOO88m5AO
>>283
ごめん、273は俺
ほかはしらん


ク、ロ〜ネコ!
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 09:04:16.66 ID:zXjarpaIO
十分芸が無いな
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 18:26:25.94 ID:uh2wGHoB0
ですの!
287 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/14(月) 21:55:07.90 ID:jopcByVxo
第十話前編

『お兄さん、人生相談があります。今から会えませんか?』

あやせからこんなメールが届いたのが一時間前。
既に日は暮れかかっていて、辺りは薄暗い。
今、俺は近所の公園にやってきていた。初めてあやせに会った時に連れてこられた公園だ。
ちなみにこの場所を指定したのは俺自身だ。未だに寒さが厳しい季節であるが、背に腹は変えられない。
あれから一週間しか経ってないってのに、また沙織に見つかったらえらいことだからな。こうやってあいつに黙ってこそこそとしてるのがいいこととは思わないが、聞く耳を持たないんだから仕方がない。
ふっ、さすが俺。同じ過ちは二度と繰り返さないぜ。

「くそっ、やpっぱりさみいな……」

あやせはまだ来ていない。あやせに返事をしてすぐに出てきたもんだから、予定の時間よりかなり早く着いてしまった。
これだけでも、いかに俺が浮かれているかわかってもらえるだろう。

ベンチに座って震えていると、あやせが小走りでやってくるのが見えた。

「ハアハア……こんにちは、お兄さん。……お待たせ……しました」

ここまで走ってきたのか、あやせは顔を上気させ肩で息をしている。
あやせのようなかわいい子のこんな表情を見て、邪な妄想が膨らむのを誰が責められるだろうか。

「よう、あやせ。そんなに急がなくてもよかったのに」
「で、でも……ハア……呼び出したのは……ハア……私ですから。急に呼び出してすいません」

息が上がっているのに喋るもんだから、一向に息が整う気配はない。

「とりあえず座れよ。息が整うまで待つからさ」

あやせは無言で頷き、俺のとなりに腰をおろした。
胸に手を当て、ふぅふぅと大きく息をしている。
まるで重大な告白を終えた後の女の子のように見え、どきりとしてしまう。

「ふぅ……お兄さん。早速ですが、相談に乗ってもらいたいことがあるんです」
「えっ!? あ、ああ。そうだったな」

そんなことを考えていたもんだから、急に声をかけられた俺は声が上ずってしまう。
妙な気恥ずかしさからあやせから顔を背け、続きを促した。
288 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/14(月) 21:56:17.88 ID:jopcByVxo
「で、相談ってなんなんだ?」
「はい、実は……あ、これは私の友達の話なんですけど――」

友達の話なんですけど――相談の常套句だな。あまりにも定番すぎて、逆にこの前置きを付ける方が本人のことだと疑われてしまうぐらいだ。

「……その子、気になる人がいるみたいなんです」

訳すと「私、気になる人がいるんです」となる。
ははっ、いかにも思春期らしい悩みじゃないか。

「なにい!? だ、誰なんだそれは!? お、俺も知ってるやつなのか!?」

あやせの方に身を乗り出し、握り拳を作ってわなわなと震わせる。

「ひっ……きゅ、急に大声出さないで下さい! っていうか落ち着いて下さい。眼が血走ってますよ!?」

これが落ち着いてなんぞいられるか! 誰だ! 俺のあやせたんをたぶらかした奴は!?
見つけたらぶっ飛ばしてやる!

「落ち着けっ!」
「へぶしっ!?」


いささか錯乱気味だった俺は、あやせに見事なビンタを頂戴したことでようやく正気に戻ることができた。

「す、すまん」

痛む頬をおさえながらあやせの方を向きなおす。

「もう……真面目に聞いて下さい。相談に乗る気あるんですか?」

あやせは、呆れたように半眼で俺を見ていた。いわゆるジト目ってやつだ。

「すまん、もう大丈夫だ。で、気になる人がいて? 埋めに行くのならいくらでも手伝ってやるぞ?」
「行きませんよ。いや、私としても埋めたいところなんですけどね。どうしてもというなら一人で樹海にでも行ってください」

ばっさり。
なんなの? なんで俺の周りには対応が冷たい子しかいないの? 
俺って自分で思ってるより人に嫌われてるのかなあ……。

「話を戻しますよ。その子はですね――」

涙目の俺を尻目に、あやせは淡々と事情を説明していく。
あやせが言うには、その子は自分で自分の気持ちがわからないらしい。
“気になる人”はいるものの、それが好きということなのか、憧れであるのか、あるいはそのどちらもなのか、はたまたその他の感情なのか。
それを理解できていないようだ、とのことだった。
傍から見ている側としては、見ていてとてもやきもきしてしまうらしい。
289 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/14(月) 21:57:40.56 ID:jopcByVxo
「どうしたらいいと思います?」

どうしたらいいと思います? それが、あやせが俺にしたい相談の内容だった。

「……俺、恋愛には疎いし、経験もないけどさ……そういうのって、周りがどうこう言うもんじゃないんじゃねえの?」

当たり障りのない答えを返す。ちくしょう、なんであやせと名も知らぬ野郎の仲を取り持つような真似をせにゃならんのだ。
だが、俺が答えた内容は俺の本心でもある。いくら名も知らぬ野郎が憎いからといって、それであやせの相談をないがしろにするわけにはいかない。

「それは……そうなんですけど」

どうやらあやせは納得がいかないようだ。不満が顔にも表れている。

「で、でもっ! 私の見立てだと、その子、きっと好きなんだと思うんです! 今までそういう経験がなかったから戸惑っているだけで……」

大きな声で訴えてくるあやせ。その表情は真剣そのものだ。

「……お兄さんはそんな曖昧な気持ちで告白されたら迷惑ですか?」

あやせは真っすぐに俺を見つめている。

「迷惑じゃあないさ。誰だって好意を向けられることは嬉しい。それに告白するぐらいってことは、大小の差はあるかもしれないが好きだって気持ちを持ってるってことだろ?」

あやせは、俺の言葉に無言で頷く。

「でも……なんでそれを俺に聞くんだ?」
「そ、それは……お兄さんに聞かないと意味がないから…………」

そう言ってあやせは、ぷいっと顔をそらしてしまった。心なしか頬が赤かったかも知れない。
こ、この言葉にこの反応……まさか…………まさか!?
フラグか!? これが所謂フラグというやつなのか!?
どきどきと胸の鼓動が早くなっていく。
い、いや、まだ俺の勘違いということもある。落ち着け、落ち着くんだ。
290 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/14(月) 21:58:29.51 ID:jopcByVxo
「……その子素直じゃなくって……あ、いや、もちろん私の前では素直ないい子なんですよ? でも“気になる人”のこととなると途端に素直じゃなくなるんです」

それを聞いて、一つのアイデアが浮かんだ。

「素直になれない……か…………それなら、電話なんかがお勧めだぞ?」
「電話……ですか?」
「そう、電話だ」

電話越しで顔が見えない分、素直になれた奴を俺は知っていた。
あの時の桐乃を思い出して、思わず頬が緩んでしまう。

「これは実体験なんだがな、意外と顔が見えない方が上手く言えることだってある」

あの桐乃が素直に礼を言ったくらいだからな。大概の人間ならばそれでうまくいくはずだ。

「そうなんですか?」
「おう。だから、もしその子の気持ちをどうしても確かめないといけない時がきたら電話で聞き出す方がいいかもしれん」

ま、あやせの言う“その子”というのが本当に存在するならば――だけどな。

「そうだ。それ、俺の妹にも相談してみていいか?」
「えっ? 妹さんですか?」
「ああ。俺の妹はでかいくせに人の心の機微というか、そういうのに敏感でな。きっといいアドバイスをもらえると思うんだ」

相変わらずの他力本願であるが、あいつならきっと素晴らしいアドバイスをくれるはず。
……そう思ったのだが、あやせはどうも乗り気でないようだ。口に手をあて、なにやら考え込んでいる様子だった。

「あー、やっぱり他の人に聞くのはまずいかな?」
「いえ……そういうわけではないんですけど……あなたの妹さんというのが問題なんです」
「なんだそりゃ」

あやせと沙織の間に接点なんてないはずだけどな。以前俺の家に来た時も、結局顔は合せなかったし。
沙織はあやせのことを存在は知っていても顔も知らない状態だしな。まあ、目の敵にしてる節はあるけれど。
我が妹ながら、大したブラコンっぷりである。

「じゃあ、名前は伏せて相談するってのはどうだ?」
「……ずいぶん妹さんを信用してるんですね」
「まあな。あいつは本当にできた妹だからな」

なにせ、あの桐乃と黒猫にはさまれ緩衝役をこなしても尚こんな顔ωして笑っていられるほどの人間だ。
あいつにとってはこのくらい朝飯前な気がする。

「はあ……聞いた通り、本当に重度のシスコンなんですね。それが一番の問題なのに……。わかりました。じゃあお願いします」
「おう、まかせろ」

ちょっと聞き捨てならないような言葉が聞こえたが、あえてスルーした。正直、否定できないからな。

「結果は後で電話する」
「はい、わかりました」

ふひひ、これで自然にあやせと電話できるぜ。ひょっとすると、これであやせの本音がきけるかもしれんな。
それはさておき、

「すっかり暗くなっちまったな。家まで送ってくよ」

気付けば、辺りはすっかり暗くなっていた。公園内の街灯がすでに灯っている。
291 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/14(月) 21:58:59.78 ID:jopcByVxo
「えっ? そんな、いいですよ」
「気にすんなって。なにかあっても困るからな」
「……じゃ、じゃあお願いします」

少し申し訳なさそうに上目使いでお願いされてしまった。
さすがあやせ。俺が変質者になってしまいかねないかわいさだ。

あやせの家は思ったより遠く、歩いて行くにはいささか離れていた。

「すまん。けっこう遠いって知ってたら、待ち合わせ場所ももっと考えたんだけど」
「いえ、気にしないで下さい。私もあの公園にしようと思ってましたから」
「そうなの? なんでまた?」
「あの公園、すぐ裏手に交番があるでしょう?」
「あー、そういえばあったな。でもそれが何の関係があるんだ?」

誰かに命を狙われているわけじゃあるまいし。

「だって、お兄さんと会うんですよ?」
「いやいや! その理屈はおかしくないっすか!?」

なんで!? 俺、あやせに嫌われるようなことした!? なんで俺が変態みたいな扱いなの!?
……まさか、桐乃か!? あいつが俺のあることないこと、あやせに吹き込んだのか!?
あやせは俺のことを桐乃から聞いているみたいだし、恐らくそうだろう。
ちくしょう、桐乃め。あやせたん√へのフラグをへし折りやがって……。



「お兄さん、今日はありがとうございました」

30分ほど歩いてようやくあやせの自宅へと辿り着いた。

「いや、ろくなアドバイスできなかったけどな」
「そんなことないですよ。十分です」
「妹にいいアドバイスもらえたら電話するよ」
「はいっ。お待ちしてます」

じゃあな、と言って我が家へと足を向ける。
手を振るあやせの表情が、迷いを吹っ切ったかのように晴れ晴れとしていたのが印象的だった。



第十話前編おわり
292 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/14(月) 22:04:39.43 ID:jopcByVxo
今日はここまで。きりがいい+少し長くなりそうだったので前後半で分割投下。

>>284
そういう賑やかしでも、意外と嬉しかったりする。
何も書き込まれてないよりは、見ててくれてる人がいるんだと思えてモチべ上がったりね。
でも>>283の言うこともわかるから難しい。
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 22:05:26.51 ID:nNSmWrZUo
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 22:10:10.96 ID:acuuGFMvo
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 22:14:06.62 ID:TwDIRduco
乙カレー

バジーナがかわいすぎて生きてるのがつらい
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 22:34:08.94 ID:EYl5o6090
乙よ〜

つぎは沙織無双ですね?楽しみにしてるよ
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 22:50:09.10 ID:eBMmk34y0
乙!

ところで「友達」って桐乃のことなのかあやせ本人のことなのかどっちなんだろう
続きが気になるんだぜ
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 23:07:49.92 ID:Q3wyNSGDO
乙っす


バジーナ無双か。
百式大活躍回になるんですね、超期待します。
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 00:43:07.78 ID:Pc2TZ1+AO
>>292
おつおつ
ブログやってるひともカウントが回るのが楽しみらしいもんな
毎日チェックしてるから頑張ってくれ
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 02:00:28.53 ID:RxBaw9Zd0
沙織「認めたくないものですね……、若さゆえの過ちというものは……………………ねぇお兄様?」
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 03:07:52.38 ID:H9sNqyPDO
あやせはかわいいなあ!
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 15:37:11.32 ID:++gdxg5AO
乙やら応援やらのレスもしたいけど、スレ消費するのも悪いし……というジレンマ

割とマジで毎日チェックしてる
無理しない程度に頑張ってください
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 17:12:46.26 ID:Pc2TZ1+AO
スレの消費など恐れていてはなにも出来ない
俺は叫ぶ、乙!!


ところでいまさらだけどスレタイの「わけは」を原作の「わけが」に合わせなかったのは何か意図あってのこと?
304 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/15(火) 18:35:10.98 ID:aE2P/uw6o
みんなありがとう、感動した!頑張って書いていくぜ

>>303
恥ずかしながらただのタイプミスです。あばば
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/16(水) 13:49:40.46 ID:Hk0WmYGk0
乙です
続き期待してます
306 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/16(水) 19:05:41.04 ID:axGrk5OPo
第十話後編

俺は、家に帰るとあやせとの約束を果たすべく、早速沙織の部屋へと向かった。
玄関には沙織の靴が置いてあったので、既に帰宅しているはずだ。
とんとん、と二回ノックをしてドア越しに沙織に声をかける。

「沙織〜、ちょっといいか?」

すると、すぐに沙織が顔を出した。

「あら、お兄様。どうしたんですか?」
「実は、沙織に相談があってさ」
「まあ! わかりました、少しお待ちいただけます?」

沙織はパッと顔を嬉しそうに輝かせたかと思うと、部屋に引っ込んでしまった。
そして、すぐさま再度顔を出した。

「あ、あの……私の部屋、今ちょっと散らかってて…………お兄様の部屋で窺ってもよろしいですか?」
「おう、当然だ」

こっちとしては相談に乗ってもらうわけだからな。本来ならお茶とお茶請けくらい用意してやりたいくらいだ。
残念ながら、今我が家にお菓子といえば、にぼしくらいしかないので不可能だけどな。

「ん? この匂い……また塗装でもしてたのか?」

俺がそう思ったのは、開かれた沙織の部屋からはシンナー臭が漂ってきたからだ。
ただ、いつもとは少し匂いの具合というか、匂いの系統が違う気がした。

「いえ、今日のは塗装ではなくて……これはパテの匂いですわ」
「パテ?」

なんじゃそりゃ。今まで何度か沙織のガンプラ講座を聞いた俺だったが、その単語は初耳だ。
っていうか、溶剤とはまた別の異臭の原因があることにびっくりだ。
ちゃんと換気してるんだろうな?

「パテは簡単に言えば紙粘土みたいなものです。こねて、成形して、好きな形に作り変えることができるんです」
「紙粘土ねえ……それで一体何ができるんだ?」

好きに作り変えることができるって言っても、売りものみたいな複雑な形ができるもんなの?
まさか、0からプラモデルを作り上げるわけじゃないだろうな。

「そうですね……中にはフルスクラッチをされる猛者もいらっしゃいますが、私はやるとしてもセミスクラッチどまりですから、パーツの手直しや延長などがメインの用途になります。最も簡単な用法ですと、肉抜き穴の穴埋めなんかに使われますわ。あ、一口にパテと言ってもエポキシパテやポリエステルパテなど種類があって、それぞれ特徴が――」

おーけー、久しぶりにこいつの言うことがわからないぜ。誰か通訳を呼んでくれ。
プラモって奥がふけえ……。
それにしても、こいつに限らず、オタクってのはどうして自分の分野だと饒舌になるんだろうな。
桐乃にしろ黒猫にしろ、自分の好きなことを話している時は目を爛々と輝かせていて――これがまた微笑ましい事このうえない。
早く終わんねーかなーなんて思っていたのがもったいないとさえ思える。
307 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/16(水) 19:07:08.76 ID:axGrk5OPo
ずっと聞いてやっててもいいんだが、残念なことに今の俺には先にやるべきことがある。

「沙織? 悪いんだが、その続きはまた今度でいいかな?」

沙織のプラモトークの間隙を縫って、するりと言葉を割り込ませる。沙織相手ならば、このくらいは楽勝だ。
桐乃や黒猫は、言葉を割り込ませたくらいでは止まりやしないが、沙織は俺の言うことを素直に聞いてくれるからな。本当にできた妹だ。

「あ……ご、ごめんなさい。私ったらまた……」
「いや、微笑ましいくらいだから気にすんな。相談が終わったらまた改めて聞かせてくれよ」
「はいっ」

満面の笑みを浮かべ、元気な返事をする沙織。
沙織が、ささっと、さしあたっての作業を終えるのを見届けて、ともに俺の部屋へ向かう。
沙織はベッドに腰掛け、俺は椅子に腰をおろした。

「実はな……」

ここまで、言って言葉が止まる。
……どうやって説明しよう。何も考えずに相談持ちかけちまったけど、これ、実はとっても厄介な相談事なんじゃなかろうか。

相談主を隠して相談する→当然、誰のことだと問い詰められる→沙織さんに嘘がつけるわけもなく→あやせとこっそり会っていた罪で有罪
最初から素直に白状して、あやせからの相談だと告げる→有罪

……逃げ道がねえ。そして、俺には自分のこととして相談するほどの度胸もない。
沙織は、不思議そうに首をかしげ、こちらを見つめている。
くっ……ど、どうすれば……。
冷や汗をたらしながら必死に脳を回転させ、出た答えは――

「これは友達の話なんだが……」

あやせとまったく同じ文言だった。
相談する側になってわかったけど、この手の話題はこう言うしかねーわ。変に回りくどく言い訳しても余計に怪しいしさ。
そもそも、定番となるほど使い古された言い訳なのだ。使い勝手はいいに決まっている。
それに嘘ってわけじゃないからな。

「はあ……お友達……ですか」

しかし、案の定沙織も俺と同じことを考えているようで、友達のことだと本気で信じてはいないようだ。
かと言って、ここで相談を止めるわけにはいかない。
この体で突き進むしかないよなぁ。
308 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/16(水) 19:08:48.98 ID:axGrk5OPo
「おう。その友達なんだがな――」

それから俺は、

・友人には気になるやつがいる
・友人は自分の気持ちがわからないみたい。だが、俺に言わせれば、そいつは素直になれないだけで、気になる人とやらが好きなはず
・俺としてはテコ入れをするべきか、否か

完結にこの三点を沙織に話し、

「どうしたらいいと思う?」

こう締めた。

・そんな曖昧な気持ちで告白された方は迷惑だろうか

という点は、あえて相談しなかった。
あの時、あやせは“俺に聞かないと意味がない”と言ったが、あれは、恐らく一般的な男子の意見が聞きたかっただけだろう。
俺の答えが重要だから――と思えるほど自惚れてはいない。
ま、とってもどきどきしちゃったのは事実だけどね。あやせみたいな美少女に、あんなこと言われてどきっとしない方がおかしいよ。
冷静になればありえないってことはわかるんだけども。
この分だと、あやせの言う“その子”も本当に存在するのかもな。どこの誰かは知らねーけどさ。

俺の相談に、しばらく考え込んでいた沙織だったが、やがてゆっくりと口を開いた。

「……その方が告白するならば、その方とお相手の方は、間違いなく上手くいくと思いますわ」

まるでやり手の占い師のように、上手くいくと言い切る沙織。
だが、決して俺を直視しようとはしない。不自然に俺から目を背けている。

「いや、それって何を根拠に……」

いくら人の心の機微に敏感だって言っても、会ったこともないやつのことまでわかるわけがない。
……まさか、これがニュータイプってやつなのか?
違う、そんなわけがあるか。あまりの驚きに、一瞬、黒猫みたいになっちまってたぜ。

「根拠はありません。私がそう思っただけですから。ただ……」
「ただ?」
「そのお二人が上手くいくことで悲しむ方も、少なからずいると思いますわ」

そりゃあ……そうだろうな。仮にあやせが誰かと付き合うことになったら、少なくとも俺は悲しむもん。
でも、それって当たり前のことじゃないの? わざわざ言うことだろうか。
誰かと誰かがくっ付けば、他の誰かとはくっ付けない。当たり前だ。
なんせ、あやせたんは一人だからな。

なんだろう。なんか、俺と沙織の会話が噛み合ってない気がする。
どうやら、沙織には俺には見えていないものが見えているようだ。オカルト的な意味じゃなくてね。
……もしくは何か勘違いしているのだろうか。
309 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/16(水) 19:09:22.57 ID:axGrk5OPo
うーん、これは困った。沙織に相談すればいいアドバイスをもらえると思ったんだが、今日の沙織は、黒猫よろしくちょっと電波入ってしまっている。
まさか、あやせに「告白すりゃうまくいくよ」なんて言えるわけがねえしな。
片手で頭を掻きながら、どうしたもんかな……と思案していると、ひっくひっくとしゃくりあげる声が聞こえてきた。
何事かと思って顔を上げると、泣いているのは沙織だった。

「沙織!?」

慌てて駆け寄り、床に膝をついて、見上げるようにして沙織の表情を窺う。

「お、おい。どうした? 大丈夫か?」

沙織が泣くときはいつだって、明確な理由があった。
こけて怪我した時、誕生日プレゼントを貰って感極まった時――
だけど、今、沙織が何で泣いているのか俺には皆目見当もつかなかった。

沙織は、昔っから手のかからない素直ないい子だった。親の前ではわがままも言わないし、泣くことだって滅多になかった。
そして、沙織が泣いてしまった時、あやすのはたいてい俺の役目だった。
だってのに、今沙織が泣いている理由が俺にはわからない。ダメな兄貴で申し訳ねえよ。

「す、すまん。俺、何か言ったか?」

沙織は無言で首を振るが、まったく泣きやみそうにない。恐らく、なんで泣いているのかと尋ねても答えてはくれないだろう。
沙織が泣いている理由がわからない以上、俺にできることは限られてくる。
俺は沙織の隣に座り腰をおろし、右手でゆっくりと頭を撫でてやった。

「よしよし」

昔っから、こうするとすぐ泣きやむんだよ、こいつは。これで、落ち着いて話を聞くことができそうだ。
だが、今日に限っては俺の経験もあてにならなかった。
しばらく撫でていても一向に泣き止む気配がない。
終いには、俺の胸元に半ばタックルするようにして俺に抱き着いてきた。そのままベッドに押し倒される。
沙織は顔をうずめながら、相変わらずひっくひっくとしゃくりあげている。そして、両手は俺のシャツをしっかりと握りしめていた。

お互いに一言も発することなく10分ほどが経った。
時間が経つにつれて、沙織の感情も平静をとりもどしつつあり、既に泣き止んではいた。
お互いにどう声をかければいいかわからないまま、時間だけが過ぎていく。

「沙織」

先に声をかけたのは俺だった。

「沙織、俺が悪かったよ」

その言葉を聞いた瞬間、沙織の身体がびくっと震えたのがわかった。
今回、俺は失言らしい失言をしていない。ならば、原因は相談内容そのものにあると考えるのが妥当だ。

「おまえが、何で泣き出したのかはわからない。だけど、俺がした相談はおまえにとってはきっと聞きたくない話だったんだな?」

沙織からの返事はない。そして、身じろぎひとつしない。
多分俺の考えで正解だ。

「悪かった。この相談はなしだ。今さらだけどな。俺はおまえの泣いてるところは見たくねえしさ」

沙織はシャツを握るその手に、ぎゅっと、より一層力を込めた。



第十話おわり
310 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/16(水) 19:10:42.68 ID:axGrk5OPo
今日はここまで。
そのネタ貰った! とかいいながらうまく使えず……申し訳ない。

どんどん文体が原作から離れていく……。ちょっと原作読み直さないと。
ちなみに、今全体の3/2くらいまで来たところなので、スレの消費とかは気にしなくてよさそうです。
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 19:24:40.04 ID:OBnTJHvFo
原作が最初と違うじゃねーかってパターンもよくあるけどね!乙
この話は沙織がメインだったんだと思いだした。
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 19:31:29.36 ID:UfEr2v4DO
沙織かわいい乙
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 19:49:58.26 ID:5M1LNe+DO
予定の1.5倍になってるんですね、わかりました
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/16(水) 19:51:01.05 ID:+e3QXAWg0
マジ乙!!
最後まで走り抜けるのだ主よ
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 20:53:27.23 ID:qiCiOAxY0

これから沙織のターン!
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 22:35:36.11 ID:5FIQ97o20
乙!
沙織氏...かわいいよ...
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 22:51:42.31 ID:aANMLD/f0
バジーナさんまじバジーナ
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 01:50:54.07 ID:SmUZbIsMo
3月2日だと…?

乙乙
319 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/17(木) 01:57:25.26 ID:sjOfLGUOo
いやあああ。凡ミス大い

×3/2
○2/3
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 13:57:56.83 ID:SmUZbIsMo
2月3日だと…?


乙乙wwwwww
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 16:51:08.49 ID:sBgzH1ZAO
>>320
ちょっとワロタ
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 00:27:25.70 ID:bLsmKpfDO
毎日このスレをチェックするのが仕事
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 20:01:34.51 ID:hgqziqiio
俺妹SSもっと読みたいな
324 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/19(土) 21:34:48.25 ID:2w3aStXco
最近忙しくてなかなか書けない。申し訳ないけど気長にお待ちください。
明日には投下できるかと思います。

総合スレに触りだけ書いたけど、バレンタイン編あやせ√の妄想が止まらない
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 04:05:16.66 ID:mIduusVR0
楽しみにしてるよん
326 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/20(日) 21:17:50.09 ID:FGAkotZNo
第十一話

「ああ……すまない。ちょっと色々あってな、アドバイスは貰えなかったよ」
『そうですか。分かりました』
「……えらくあっさりだな」

あやせの淡泊な返事に、肩すかしをくらったような気分になる。
もしかして、はなから期待してなかったってことだろうか?

『お兄さんに相談した日に、私の中で答えが出ましたから。妹さんの話は参考にこそすれ、絶対に聞きたいというわけではなかったので』
「えっ? そうなの?」
『はい。今電話したのも、お兄さんから一向に電話がかかってこないので、少し気になっただけです』

なんてこった。それならそうと言っといてくれよ。うちの妹は泣き損じゃないですか。
なんてことを思ってしまうのは、俺がもう取り返しのつかないくらいのシスコンだからなんだろうな。
もちろん口には出さないが。

『ところで、お兄さん。一つ伺いたいことがあるんですけど』
「なんだ? 言ってみ」
『なんでさっきから、声が震えてるんです?』

それは、私が凍えているからです。
当たり前のことだが、冬の廊下は寒い。
吐く息は白く、暖かさを持たないフローリングの床は容赦なく俺から体温を奪っていく。目は半分涙目で、足の痺れもそろそろ限界だ。
俺はかれこれ30分ほど廊下で正座していた。それが俺に与えられた量刑である。

「気のせいだ」
『まあ……別にいですけど』

妹に説教くらった挙句、廊下に正座させられているなんて言えるわけがねえ。



あの後――俺の相談のせいで泣き出してしまった沙織がようやく平静を取り戻した後のことだ。

「ごめんなさい、お兄様。……取り乱してしまって」
「気にすんなって。俺が悪かった」
「お、お兄様は悪くありませんっ! だから謝らないで下さい!」
「え……で、でもさ」

沙織の剣幕に押され、うまく言葉が出てこない。
なんでこいつはそんなところでムキになってるんだ? どう見たって悪いのは俺だと思うんだけど。
それとも、この思考そのものが逃れようのないシスコンの宿命だとでも言うのだろうか。

「謝らないで……下さい……」

そう言う沙織の顔は、今にも再び泣き出してしまいそうだった。
しかし、沙織はぶるぶると頭を振って必死に気を取り直そうとする。
それにしても……なんでこいつはそんなに謝られることを嫌うんだ?
まあ、思い返せば今までそんな節が全くなかったわけじゃない気もするが、今日のはちょっと度が過ぎている。

「今日だって……お兄様は悪くないのに……泣いてしまって……」

そう言って、沙織はぎゅっと手に力を込める。
327 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/20(日) 21:18:42.62 ID:FGAkotZNo
「もしお兄様に“重い”と思われたら一緒にいられなく……なって……」

最後の方は、もう声がかすれてしてしまっていた。
なんでおまえは、俺の彼女みたいな言い草なんだ。
なんだよ重いって。チャラ男が一途な女の子を振る時の台詞みてえな表現しやがって。
いくらなんでも兄を溺愛しすぎだろ。……これは決して俺の自意識過剰じゃないと思う。
しかし、半べそかいている妹を見てむくむくと邪な気持ちが湧きあがってきた俺の方こそ既に末期なのかもしれない。

「沙織?」

湧きあがる感情を抑え、沙織に声をかける。沙織は俺の声に反応して顔を上げた。
俺は沙織の眼を見つめ、頬を撫で、さながら彼女に向けてそうするかのように囁いた。

「沙織。おまえは俺の妹だ」

こいつのブラコンはもう絶対に治らない。
半ば確信にも似た感情がそこにはあった。

「だから、何も心配しなくてもいい」

沙織がこんなだから、俺もあえてシスコンを治そうとは思わない。……あくまでもあえてだぞ。

「前も言ったろ? 俺は何があってもおまえの兄貴だって。よそはどうか知らねえけど、高坂家の兄妹の縁ってのは切れねえようにできてるんだよ」

我ながら最高にアホな台詞だった。なんで俺は実の妹に向かって口説き文句みたいな台詞を発しているのか。
だけど、

「はいっ」

沙織の頬を撫でる俺の手を両手で捕まえ、嬉しそうに微笑む沙織の姿を見て、「ま、いいか」と思ってしまう。
俺は、妹を諭すのが兄の役割だと思っているが、たまには一緒に莫迦をやるのもいいだろう。シスコンの兄貴とブラコンの妹、相性が悪いはずがない。
328 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/20(日) 21:20:18.56 ID:FGAkotZNo
……ここで話が終わってくれるなら綺麗まとまってくれたのだが、ゲームとは違い現実は非道である。

「…………?」

先ほどまで微笑んでいた沙織が、その表情を曇らせた。
あれ? なんか……雲行きが怪しい。

「お兄様? 先ほどの台詞……」

あっ……ばれたかな?

「先日きりりんさんにおススメされたエロゲの台詞そのままではありませんか?」
「……申し開きもございません」



そんなこんなで、結局俺は説教をくらった挙句冬の廊下で正座をする羽目になったわけだ。
ただ、この程度で済んでいるのは、例の台詞が俺の本心であるとわかってくれているからだろう。

『それではお兄さん、おやすみなさい。また今度』
「……? お、おう。またな」

通話を切り、携帯をポケットに突っ込む。
また今度? またぞろ俺に人生相談でも持ちかける気なのだろうか。
少し疑問に思ったが、電話を切ってしまった以上、掛け直すのもばつが悪い。
と、ここで俺は右手の方から視線を感じそちらに視線を向ける。

「……じー」

そこでは、沙織が自分の部屋の扉を少しだけ開けてこんな感じで (´・ω| こちらを見ていた。

「や、やあ、沙織さん。一体どうされたんです?」
「あと10分追加です」

そう端的に伝え、ぴゃっと自室に引っ込んですまう。
お、俺は掛かってきた電話に出ただけだったのに……あんまりだ。がっくりと項垂れる俺。
329 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/20(日) 21:21:06.83 ID:FGAkotZNo
「……京介。おまえ、そんなところでなにやっとるんだ」

項垂れる俺の前に音もなく突然現れる親父。心臓が飛び出るかと思ったわ!
想像してみるがいい。あの極道面が音もなく忍び寄り、いきなり「そこでなにやってんだ」と声をかけてくるんだぜ。

「い、いやあ! ちょっとだらけた根性をひきしめなおそうかと思ってさ! あははは」

言えねえ! いくら親にでも、「妹に説教されて正座させられてます」なんて言えるわけがねえ!

「……ほどほどにしておけよ」

親父はそれだけ言うと、沙織の部屋に歩いていく。
何かあったのかな? 昔から親父が子供の部屋を訪ねてくるときは、説教くらうときと決まっていたけど……。
親父がノックすると、沙織が顔を出した。

「プラ板が切れた。すまんが貸してくれ。0.8mmくらいをな」

プラモ関係かよ! そういえば、前も塗料とか借りに来てたな!
そのとき誤解を招くようなシーンを見られたせいで俺はあらぬ疑いをかけられ、理不尽な理由で殴られたわけだが。ちくしょうなんだか左の頬がいてえ。
……しかし、沙織のプラモ好きは完全に親父の遺伝だよな。
となると、親父の腕前はいかほどのものなのだろうか。実は熟練の腕を持っていて、とんでもない作品を作り上げたりするのだろうか。

「似合わなさすぎる」

ただでさえ不器用そうだってのに、あんなちまちましたもの作れるのだろうか。
いや、完全にイメージだけどさ。親父の手先の器用さなんて知らねえもん。
沙織から目当ての物を受け取り、階段を下りていく。
今度は、はっきりと親父の足音が聞こえてきた。



第十一話おわり
330 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/20(日) 21:23:12.26 ID:FGAkotZNo
書いてて思ったが、これならここまでが十話でよかったな。短くて申し訳ない。
そろそろ物語の佳境に。
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 21:23:32.98 ID:A1SFmY2No
おっつ!
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 23:26:32.28 ID:1pMvxlR40
佳境だと……???

まだだ…まだ終わらんよ…っ!
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 02:29:19.50 ID:28nE3jypo
乙!
続きも待ってるよ!
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/21(月) 12:45:26.88 ID:9J+yVnqS0
おまえがガンダムだ
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 19:12:04.88 ID:gmXhjdWAO
沙織の口がωみたいになってるとか凄いな
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 16:07:20.87 ID:y+r+HeJAO
>>335
えっ
そこは原作通りじゃん
337 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/22(火) 21:48:55.08 ID:cP+LEIcwo
ひゃっはー!忙しさのピークは去った!これでがんがん書いて行ける。

……だが困ったことにネタに詰まった。桐乃と黒猫回にしたいんだけど、いいネタないかな?
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 22:20:29.76 ID:iY+G9AeMo
シスカリ大会でどっちがパートナーになるかとか
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 22:21:00.28 ID:+8YftVqIO
偶然見かけた、お嬢様モード全開の沙織にキュンキュン当てられる黒猫。とか
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 23:09:00.12 ID:MK9ZtajW0
二人で影で京介談義してるとか
非難してるかと思えばやっぱり褒めてる感じの
341 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/22(火) 23:11:43.25 ID:cP+LEIcwo
>>338,340
そのネタもらった! >>338は俺妹Pのネタと被るけど気にしない

>>339
せっかく考えてくれたのにごめんね
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 23:29:18.29 ID:NYSOrV1ro
桐乃だからクンカーなのか
妹だからクンカーなのか

後者ならば180cmのクンカーができあがる!
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 06:41:49.65 ID:J1Q6g+3DO
私男だけど好きな人のパンツ嗅いでいいって言われたら絶対嗅ぐ
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 13:56:24.44 ID:dAbekCFAo
>>343
バカヤロウ
公認公然の変態行為なんざ何が楽しいんだよ
バレたら確実にヤバいと思う状況でこっそりやるからこそいいんだろうが
俺は高3の時推薦の話が進んでるって状況でスク水盗んで帰ったぞ
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 14:37:54.51 ID:Gu+IPLXAO
>>344
うわぁ…
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 15:06:35.78 ID:tXW1zAkDO
犯罪者がおる
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 20:20:13.99 ID:YhPVQRSMo
自首しろ
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/23(水) 20:20:27.26 ID:0ytuov2y0
>>344
貴様は歪んでいる
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 21:32:11.48 ID:4Vg0+v/m0
だが…その歪、嫌いじゃないぜ…!


嘘。やっぱ自首しろ
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 22:33:44.31 ID:5aqyb7Ujo
>>344
その歪み、俺が修正するッ!!
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 01:57:05.95 ID:ZRvQOa3Ko
でもまぁ今更自首したところで逮捕にも、ましてや起訴にはならんだろうし(窃盗時効7年)
>>344は同級生に顔向けできなくなるし被害者の子は古傷をえぐられるだけだ…
ここはうpで勘弁してやろう、な?
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 05:08:56.24 ID:MOUWzdQDO
スレ違いは出てって、どうぞ
353 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/24(木) 19:22:36.53 ID:4wpeXllNo
第十二話

2月が過ぎようとしていて、日ごとに暖かくなっていくのを実感する。
来年の今頃は俺も受験で忙しくなっていることだろう。俺としても、残り少ない高校生活ってやつをを有意義に過ごしたい。
沙織たちと一緒にわいわい騒ぐのも決して嫌いじゃないし、むしろ楽しいのだが、やっぱりたまにはのんびり過ごす時間が欲しい。
そんなわけで、俺は休日の朝から幼馴染の家で日向ぼっこと洒落込んでした。
空には雲ひとつなく、気温はほんの少し肌寒いくらい。日向ぼっこには最適だ。
暖かい春の日差しの中の日向ぼっこも悪くないが、こんな季節の日向ぼっこの方が太陽の暖かさを感じることができて俺は好きだ。

「きょうちゃん」

縁側に座り、足を投げ出すような恰好で仰向けに寝転んでいた俺に、幼馴染が声をかけてきた。
ゆるい喋り方が特徴のこいつは田村麻奈実。俺の幼馴染にして、和菓子屋・田村屋の娘である。

「お茶入ったよ」
「さんきゅー。ちょうど喉が渇いてたんだよ」

急須と二つの湯呑が乗ったお盆を持ってきた麻奈実が俺の隣に腰を下ろす。そして、こぽこぽと湯呑にお茶を注いでくれた。
こいつが淹れてくれるお茶って妙に美味いんだよなあ。こいつの腕がいいのか、田村家のお茶葉が良質なのかは知らないけどさ。
身体を起こし、麻奈実から湯呑を受け取り、ずず……と音を立てて茶を飲む。

「……ふう」

本当に落ち着く。こんな時間がいつまでも続けばいいのにと思ってしまう。
と、俺はにこにこと笑う麻奈実に気が付いた。いや、こいつがにこにこしているのはいつものことなんだけど、ただのにやけ面とは違ったんだ。
多分、この違いがわかるのは世界で俺一人だろう。

「どうした?」
「んふふ〜。きょうちゃん、おじいちゃんみたいだなあって」
「……悪かったな、爺臭くて」

そういうお前は婆さんみたいなくせに。俺もおまえにだけは言われたくないよ。
今まで何度繰り返したかもわからないやりとり。だけど、だからこそ俺の最も落ち着く場所はここだと断言できる。
湯呑を一旦お盆に戻し、再び仰向けに寝転がる。
今日は昼まで日向ぼっこして、昼からは気温も上がるだろうし公園にでも散歩に出掛けて……
脳内で今日一日のんびり過ごすための予定を立てる。こんな平穏な休日は久しぶりだ。

『SECRET×2 OF MY HEART I SHOW YOU IT なう。 だ・か・ら 人生相談っ!ちゃんと 責任持って聞いてよね〜♪』

唐突に俺の携帯の着信メロディが流れる。
黒猫風に言うならばそれは、俺を平穏な休日から引きはがす悪魔の呼び声だった。
354 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/24(木) 19:23:35.46 ID:4wpeXllNo
「おまえら……そんなことで俺を呼んだの?」
「はあ? そんなことって何!? せっかくあんたも誘ってあげてんのに」
「まあまあ、きりりん氏。お兄様にも今日はご予定があったみたいですから」

怒り狂う桐乃を鎮める沙織。これはこれで何度繰り返されたかわからないやりとりだ。
だが、こっちは落ち着くといった雰囲気はかけらもない。
先ほどかかってきた電話は沙織からのものだったのだが、すぐさま桐乃が電話を取って代わり「今すぐ帰ってこい!」とだけ俺に告げると、そのまま電話を切ってしまった。

「大方、ベルフェゴールと一緒にうだうだしながら茶でも飲んでいたのでしょう? いいじゃない、暇だったのは間違いないのだから」
「ぐっ……」

……確かにそうだけどさ。俺には俺なりの休日の楽しみ方ってのがあるんだよ……。
こいつらに説明したところで理解してもらえないだろうから言わねーけど。

「申し訳ありませんお兄様、エントリーの受付が今日までだったもので……」

ぐるぐる眼鏡を装備し、オタクファッションに身を包んだ沙織が頭を下げた。
なんでも、こいつらが俺を呼びだしたのは、近々シスカリの大会があり、それのエントリーを済ませたいからとのことだった。

「なんでその大会に俺が参加する必要があるんだよ。おまえらだけじゃ駄目なのか?」

確かに、アーケード版とはいえあのゲームの大会に女の子だけで参加するってのは勇気がいるのかもしれないけどさ。
俺なんていたところで戦力的には何の役にも立たないぞ? この中で一番弱いのは間違いなく俺だしな。

「実はこの大会、タッグ戦なのでござる」
「タッグ戦だあ?」

どういうこと? タッグ機能なんてついてたっけこのゲーム?

「この大会だけの特別ルールよ。特設の筐体を使うらしいわ。ダメージこそないけれど、味方への当たり判定があるみたいだから、タッグを組む相手とのコンビネーションが重要になるわね」

俺の疑問に対してご丁寧に解説をしてくださる黒猫。
当たり判定――ゲームをしない人にとってはあまり聞き覚えのない言葉だろう。
まあ、おおざっぱに言えば味方にも自分の攻撃が当たるってことだ。攻撃が当たると、攻撃を受けたキャラは吹っ飛んだり、怯んでしまって動きが一瞬止まる。その結果、せっかくのコンボが途切れたりするってわけだ。
最悪の場合、仲間同士で足の引っ張り合いになってしまうってこともありうる。

「で? あんたは誰と組むの?」
「えっ?」
「そう、それこそがお呼びした理由なのです。お兄様」

そう言って、したり顔で俺の鼻っ面にずいっと指を突き出してくる沙織。

「先ほど黒猫氏が申した通り、今回は味方にも当たり判定が存在します。よってパーティー構成こそがこの大会において、最も重要な戦略となるのです! そして上位入賞のあかつきには、豪華賞品が贈られるのでござるよ!」
「……だったら余計俺が呼ばれた理由がわからんのだが」
「はて? どういうことですかな、お兄様」
「その豪華賞品? がなんなのかは知らないけどさ、勝ちに行くんならまずおまえらの中でチーム組んで、その後で俺とあまりで組めばよくねえ? こん中じゃ俺が一番下手くそなんだしさ。チーム構成考えるときに俺がいてもややこしくなるだけだと思うぞ」
355 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/24(木) 19:24:53.88 ID:4wpeXllNo
別に参加することが嫌なわけじゃない。要は一軍と二軍にわけようってことだ。
ま、黒猫がダントツで上手いのは今さら言うまでもないし、一軍の片翼は黒猫で決まりだろう。そしてもう一人は……沙織か?
以前、ネット対戦で桐乃をカモにしてるってのを聞いたことがあるしな。恐らく腕前的にはこの二人のペアがベストなはずだ。
相性的に桐乃と黒猫はまずそうだが、その点沙織ならばどんな相手がペアでもやっていけるだろう。桐乃と黒猫は仲はいいんだけど、ことゲームやアニメになるとすぐ熱くなっちゃうからなあ。

「ちっ……あんたが下手くそとか、今さら言われなくてもわかってるっての」
「下手くそのあなたを大事なパーティー編成の場に呼んだのは、もっと別の意味があるからよ」

別の意味? なんじゃそりゃ。今回は勝ちに行くのが目的じゃないってこと?

「じゃあ、その別の意味ってなんなんだ?」
「えっ!?……そ、それは」

急にまごつき、おろおろと慌てだす黒猫。これが漫画なら、「あわわ」という書き文字がついていたに違いない。
まあ、黒猫の表情を普段から観察してない人間には、このわずかなリアクションを感知することはできなかっただろうけどな。
しかし……この慌てよう。確かに何か裏があるみたいだな。

「お、お兄様! これには深いわけがありまして!」

沙織が慌てて助け舟を出す。

「じ……実は、拙者たちでも話し合ったのですが……話が平行線のまま一向に決まらなかったのです。ですから、ここはお兄様にパートナーを選んでいただこうということに……。決定後はお互いに文句は言わないという条約も取り決めております」

ここまで言われて俺はようやく気が付いた。
そりゃそうだ。誰も好き好んで下手くそと組みたくないわな。それこそ勝ちに行きたいなら当然の話だ。なんでそこまで頭が回らなかったのか。

「要は、不幸な人身御供を一人選べと。そういうことだな?」
「不幸? よくわかりませんが……まあ、そういうことでござる」

三人を見回してみれば、沙織は自分の指を絡ませながらなにやらもじもじとしている。
桐乃は桐乃でいつものように腕を組み不機嫌そうにそっぽを向いているし、今日は黒猫まで桐乃と同じポーズを取っている。向いてる方向は正反対だけど。
誰かを選べと言われてもな……。正直選びかねるよなあ。
俺が足を引っ張ることになるのが目に見えてて、いたたまれない。せめて俺にそれなりの腕前があれば話は違ったんだろうけどさ。
……いつまでも悩んでいても仕方ない。ベストな答えがない以上、ベターな答えを探すしかないだろう。
そして、こういうときは消去法にしてしまうのが一番いい。
356 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/24(木) 19:26:14.80 ID:4wpeXllNo
まず、沙織と組むのはない。俺が沙織と組んだ場合、必然的に桐乃と黒猫が組むことになるわけなのだが、それはまずい。
桐乃と黒猫は友達としては相性抜群なんだろうが、ゲーム中においては足の引っ張り合いになってしまうのは想像に難くない。
こいつらが昔モンハンやってたころ桐乃が「黒猫に嫌がらせプレイされた」って愚痴ってたくらいだからな。
そして俺と組んだ沙織も、俺が足を引っ張った結果、二組仲良く共倒れ。そんな未来しか見えない。

では、桐乃or黒猫と組んだ場合はどうか。
黒猫と組んだ場合、二組の力量は確かに釣り合いが取れたものになるだろう。あるいは、俺というハンデがあっても黒猫の方が上手かもしれない。
だが大会と銘打ったものである以上、腕に覚えのある猛者が続々と集まってくるはずだ。生半可な戦力では太刀打ちできないだろう。
黒猫はゲーマーで、なおかつゲームに関して妙なプライドを持っている節がある。なるべくゲーム中で最弱キャラを使って勝つ……だったか?
そして、せっかく大会に出る以上、俺と組むよりは沙織と組んで勝ちを狙いたいと思っているはずだ。
桐乃に関しては……なんというか、こいつ自身がプライドの塊みたいなやつだからなあ。
俺と組んで負けるのも嫌だろうし……かといって黒猫と組ませるのもなあ。
ああ、なんて厄介なやつらなんだ。

……なんで俺が監督業みたいなことをせにゃならんのだ。この中じゃ俺が一番門外漢だろうが。
まあ、オタク知識の薄い俺がいくら悩んでも仕方ない。実際、その大会がどの程度の規模なのかすら知らない有様だからな。
ここは素直に自身のフィーリングとやらを信じることにするか。

「じゃあ、桐乃と組むわ」

俺たち四人を一つのグループとして見て、勝ちにこだわるのならばこの配置以外ありえない。
まあ、理由はそれだけじゃないんだけどね。
……なんだか見てて危なっかしいんだよな、桐乃って。気を抜いたら自分の親や友人の前でオタクグッズをぶちまけちまいそうな感じがして。……あくまでもイメージだぞ。
沙織と黒猫は妙にしっかりしてるから、そんなこと感じないんだけどさ。沙織と黒猫は俺の二つ下だが、桐乃だけは三つ下ってことも関係しているんだろうか。
……俺がロリコンだとかそういう意味じゃないぞ、決して。

「えっ!?」

この決定に一番驚いたのは桐乃本人だった。
まあ、貧乏くじひかされたわけだからそういうリアクションとっちまうのもわかるけどさ。もうちょっとオブラートに包もうぜ。泣いちゃうぞ、俺が。
案の定、沙織と黒猫は桐乃を憐れむような目で見ている。

「桐乃、すまない」

桐乃の肩に両手を置き、謝罪する。
手を置いた瞬間びくっと体を震わせたかと思うと、俺の顔を見てぱくぱくと口を動かしている。
だが、言葉が上手くでてこないようで、何かを言うでもなくそのままぷいっと顔を背けてしまった。
言葉も出ないほどとは……恐らく、相当キレているに違いない。
俺は沙織たちの方に向き直り、こう続ける。

「上位入賞への水先案内人はこの高坂京介と桐乃が引き受けた! これは死ではない! 沙織たちが生きるための!」

完全に、いつものスイッチが入っている俺だった。
そんな俺を冷めた目で見つめる黒猫。沙織はぐるぐる眼鏡のせいで目元はよく見えないが、恐らく黒猫と一緒のリアクションをしていることだろう。
ちょ、そんなリアクションされるとこっちが恥ずかしいんだけど。
357 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/24(木) 19:27:42.99 ID:4wpeXllNo
大会当日。俺たちはシスカリ大会に参加するため、秋葉原に集まっていた。
ふっふっふ、俺だってこの一週間、ただ漫然と過ごしていたわけではない。実は、沙織や桐乃に教えてもらいながらシスカリの特訓をしていたのだ。
劇的に上達したってわけではないが、それでも幾分かはましになっているはずだ。
ちなみに黒猫にも講師をお願いしたのだが、レベルが違いすぎて全く参考にならなかった。

「そういえば、大会ってどこでやんの?」
「会場はso○map内のイベントフロアとなります。すぐそこですな」

沙織たちの後に続き、会場へと移動する。
会場は既にオタクたちで埋め尽くされており、イベントが始まるのを今か今かと待ち構えていた。

「……結構な人数来てんな」

まさか全員が参加者ってわけじゃないだろうが、それでもざっと見回して100人以上はいるように見える。
こいつらとやりあって勝てるんだろうか、黒猫たちはともかくとして。なにせ相手は沙織や桐乃、そして黒猫よろしく本気でこのゲームを愛しているような奴らなのだ。
俺、すっかり自信なくなってきたぜ。

「ちょっとなに冴えない顔してんの?」

俺の不安を見抜いたのか、桐乃が声をかけてきた。

「大丈夫だって、あんだけ練習したんだしさっ」

そして、ぱんっと背中を叩かれた。

「……そうだな。ありがとよ」

まったく、こいつは……。普段は横暴なくせに、たまに見せるこういうところがずるいと思う。
俺が礼を言うと、桐乃は「にひひ」とくすぐったそうに笑ったのだった。

結果から言うと、俺と桐乃は2回戦負けだった。
決してコンビネーションは悪くなく、むしろ良かったくらいなのだが、如何せん、付け焼刃の俺では地の力量に差がありすぎた。
俺が集中攻撃でKOされると、桐乃一人ではどうしようもなくあえなく敗退となった。
ちなみに黒猫と沙織はあれよあれよと勝ち進み、今から決勝戦が行われるところである。
沙織が相手の一人を足止めして、その間に黒猫がもう一人をぼこぼこにし、それから二人でもう一人を片付ける。二人はそんな戦法で順調に勝ち進んでいった。

「あいつらすげえな」
「黒いのもこういうのだけは上手いからね〜。人間、なにかしら一つくらいは才能があるってことじゃない?」

友達に向かってひどい言い草である。
これが額面通りの意味ならば一言言ってやらねばならないが、こいつらの関係においてはそうではない。
桐乃も黒猫もお互いに素直じゃねえからな。こいつはこれでも一応黒猫のことを褒めているのだ。
訳すなら、「さすが黒猫。やるじゃん」ってところだろうか。
当初こそ戸惑ったものの、こいつらのやりとりは端から見ていてとても微笑ましい。もっとも、沙織は初めからわかってたみたいだけどな。

「沙織、黒猫! 頑張れよ!」

素直になれない桐乃の分も合わせて、大声で声援を送る。
俺の声を聞いて、沙織はこちらに向かって手を振る。黒猫はちらりとこちらを一瞥して、そのままステージへと向かっていった。
358 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/24(木) 19:29:32.23 ID:4wpeXllNo
「おしかったな。あとちょっとだったのにさ」
「黒猫氏、申し訳ありません。拙者がもっとしっかりしていれば……」

しょぼーんと、項垂れる沙織。

「あなたのせいではないわ。私が相手を処理するのに手間取ったせいでもあるのだから」

決勝戦も今までの戦法で挑んだ二人だったのだが、さすがに決勝戦だけあって黒猫の相手も中々沈まなかった。
積極的に攻撃してこず、守りに比重を置いた相手を攻め崩すというのは黒猫の腕をもってしても難しいらしい。しかも決勝戦まで残るような腕前のやつが相手だ。
そしてついに沙織がこらえきれずKOされると、さしもの黒猫も2対1では厳しく、そのまま敗北と相成った。
いわば、今まで二人がやってきた戦法でやられたようなものだ。

「ま、賞品は手に入ったんだし。よく頑張ったよおまえらは」
「……そうですな。お目当ての物は手に入りましたし、早速戦利品の分配と行きましょう!」

沙織はそう言って、ごそごそと賞品の入った袋を漁りだす。
事前に確認したところ、3人のお目当ての賞品は被ることはなかった。ただ一つを除いては。

「……さて、問題のこれの処遇ですが…………」

沙織が最後に取り出したのは、3人が3人とも欲しいと言っていた、ゲーム内でキャラに着せることができるコスチュームのデータである。
悲しいことに、このデータを使用できるのは一人だけらしい。タッグ戦の大会のくせに、なんてもんを賞品にしとるんだと突っ込まずにはいられない。
沙織曰く、何人でも使えるようにすると希少価値が下がるとかなんとかって理由かららしい。
こりゃあ、盛大な争奪戦が勃発しちまうな……。そう思っていたのだが、一番意外な人物が真っ先にその争奪戦からドロップアウトした。

「あ、あたしはいいや」
「えっ!?」

真っ先に争奪戦を降りたのは桐乃だった。

「だって、それはあんたらが頑張って勝ち取って来たんだから、何もしてないあたしが貰うのは筋違いでしょ」

き、桐乃が至極まともなことを言っている!?

「いてえ!?」

露骨に“驚愕を禁じ得ない”という表情をしていたせいか、桐乃に脛を蹴られてしまう。

「ふんっ……ま、あたしはもっといいものもらったしね。それについてはあんたらで決めて」

そう言って桐乃はくるっと振り返り、上機嫌に歩いていく。
いいもの? ……他の賞品のことだろうか。
359 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/24(木) 19:30:52.28 ID:4wpeXllNo
「いてえ!?」

桐乃の言葉の意味を考えていると、黒猫にふくらはぎを蹴られ、沙織に脳天にチョップをかまされた。

「な、なんなのおまえら!? 俺に一体なんの恨みがあるの!?」 

黒猫はともかく沙織まで!
両人とも、びきびきとこめかみに力が入っているのがわかる。

「ああ、呪わしい。魔界に送ってやろうかしら」
「今日の正座は20分で許して差し上げますわ」

黒猫は何か変な電波を受信しちゃってるし、沙織はなにやらご立腹なようだ。沙織はなんでそんなに俺を正座させたいんだ。
あまりの怒りのためか、いつものお嬢様口調に戻っている。あるいは、俺を怒る時はその口調と決めているのだろうか。
丁寧な口調で怒られるのって怖いし、俺としてはござる口調で怒ってくれた方がいいんだけどな。

「あんたら何してんの? ほら、さっさと帰るよ!」

少し離れたところで俺たちがついてきていないことに気付いた桐乃が、大きな声で俺たちを呼んだのだった。



第十二話おわり
360 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/24(木) 19:32:08.78 ID:4wpeXllNo
今日はここまで。
自分は秋葉にもイベントにも全く詳しくないので、全部想像で書いてます。おかしいところがあったらごめんなさい。
秋葉には一回しか行ったことないからなあ……また行きたい。

文体が原作風に戻らない。もう諦めた。許してくれ
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 19:38:08.61 ID:Ht7pHo89P
ゆるした
続き楽しみ
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 21:36:25.70 ID:+I95RIgDO
絶対に許した
このまま最後までがんばってくれ
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/24(木) 22:34:35.64 ID:j6xWrc4j0
許可した
早く続きを書くんだ
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 22:11:56.08 ID:HEbSxc3P0
原文とか気にするな書きたいように書けばいいじゃない
京介が岡崎になろうとグラハムになろうと私は一向に構わん
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 23:02:53.20 ID:svNgrVz9o
>>364
敢えて言おう!それは別スレではないのか!?
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 03:06:43.48 ID:m6yTZGHuo
仲居 「小清水さんはあの大人気アニメ、エウレカセブンでアネモネを演じていました」
ぐっさん 「ああ、あの!うちの息子が大好きで一緒に見てましたよ!」
小清水 「応援ありがとうございます!」
仲居 「じゃあ、小清水さん」
小清水 「はい」
仲居 「お願いできますでしょうか?」
小清水 「はい!…もし、この戦いが終わっても、生きていいって言われたら…」
一同・観客 「っああ!」
小清水 「小さな鏡をひとつ買って、微笑む練習をしてみよう」
久本 「っは…んっ…んん」
観客 「哀しそうな声」「泣かないで」
仲居 「ぐっさん…」
ぐっさん 「ん…ぅん」
久本 「助けよう!」
ぐっさん 「うん!」
小清水 「何度も何度も練習しよう…もう一度会うために」
久本 「聞こえるよ!あなたの声!」
小清水 「もし、誰も傷付けずに生きていいと言われたら…風にそよぐ髪を束ね、大きな一歩を踏みしめて、胸を張って会いに行こう」
     「生きていたい…ありがとうを言うために」
     「生きていたい…沢山の気持ちをおくるために」
ぐっさん 「言えるよ!」
小清水 「生きていたい!気づかなきゃ良かった…こんな気持ち」
久本 「生きていいんだよ!生きちゃいけないなんて、誰も言ってないんだよ!」
小清水 「だって苦しいの!あの人がどこにもいないの!そんなの…そんなの!」
久本 「きっと伝わるよ、アネモネ」
小清水 「ううん、エウレカ…もう、伝えられるはずないじゃない」
小清水 「バスクドォォ…」
タモリ 「アネモネー!!」


このコピペ使うの久しぶりだわ
許すからどんどん書いてくれ
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 15:31:22.66 ID:u9rhdeEQo
ぐっさんとタモリで絶対笑うwwwwwwwwwwww
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 20:40:56.63 ID:qVdKaQzq0
シスカリのパートナー選びって個別√の分岐だよな。
ここから沙織ねらうともうアカギendしか見えんのだが・・・
369 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/26(土) 20:47:16.87 ID:c7N2qTP6o
そこだけは安価にしてもよかったかもしれないとちょっと後悔。
こうなったらいっそ全√書いちゃおうか。ここを分岐の起点にして。
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 22:34:27.53 ID:y0KWCTD10
お願いします!
書いてくださるのなら家の兄を好きにしていいですから
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 23:14:21.45 ID:W0KY4g240
俺の弟も差し出そう
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 05:48:46.84 ID:P+nw0xtAO
>>366
くそっ こんなので…
373 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/28(月) 22:02:56.57 ID:/rgor//go
第十三話

時は二月末日。
俺は、今までとんでもないことを忘れていた。それを思い出したのは何気なく見ていたテレビがきっかけだったんだ。

「……ろくな番組やってねーな」

リビングのソファに腰掛け、テレビを適当にザッピングしていく。結局、見たい番組も見当たらず適当なニュース番組にチャンネルを合わせる。
アナウンサーやレポーターの声をBGM替わりに、読み飽きた週刊誌を読み返す。
俺が平日の昼間からだらだらと過ごしているのにはわけがあった。つい先日ようやく期末試験が終了し、今は短縮授業となっているのだ。
もはや習慣となった麻奈実との勉強会のおかげもあり、そこそこの結果は残せたと自負している。

『続いて次のニュースです』

テレビでは依然としてアナウンサーが淡々とニュースを伝えている。

「ふあぁ……」

あくびのせいで目尻にたまった涙を手の甲で拭う。
再び視線を週刊誌に落とそうとした瞬間、急激な焦燥感が俺を襲った。財布を落としたことに気付いた瞬間みたいな、あのドキッとする感じだ。
なんだ……今の? 
ゆっくり周囲に目をやり、様子を窺う。

『本日、○○大学では合格発表が行われており、受験生の皆さんは緊張した表情で掲示板を見つめています』

テレビには、合格したらしい受験生が嬉々としてインタビューを受けている姿が映っていた。
この時期、別に何も珍しくない映像であるのだが、俺は映像から目が離せなくなる。
受験生……合格発表……。なんだ? ……ここまで出かかってるんだけどな。

「…………あっ。あああぁぁぁぁ!!?」

この時俺に電流走る。
比喩ではなく、割とマジでだ。あやせと初めて出会った時とはまた違う種類だけどな。
そのままリビングを飛び出し階段を一段飛ばしで駆け上がる。階段を上り切ると、俺の部屋をスルーし、ノックもせずバンッと沙織の部屋のドアを開く。

「さ、沙織! おまえ受験どうだったんだよ!?」

今まで家の中で受験のじゅの字も出なかったから完全に忘れていたが、俺と二つ違いの妹・沙織は、今年が高校受験の年だった。
しかし、俺の質問に答えが返ってくることはなかった。
今さら思い出した俺に怒っている……わけではなく、単純に沙織がいなかったからだ。
そういえば、あいつはまだ普通授業だったか。
この時点で、いかに俺が慌てていたかわかるだろう。
374 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/28(月) 22:04:14.71 ID:/rgor//go
「…………」

無言で腕を組みながら、せわしなく玄関をうろつく。かれこれ30分はそうしているだろうか。
さっきまで完全に忘れていたというのに、一度思い出してからは他のことがまったく手に着かない。いてもたってもおられず、なんとも落ち着かない気分だった。
チラッと時計を確認したところ、現在の時刻は12時40分。

「……うそ……だろ?」

なんと玄関をうろつき始めてから5分ほどしか経っていない。どこの精神と時の部屋だ。
沙織が帰ってくるのは、いつも18時ごろ。それまでずっとこうしてたら気がおかしくなっちまう。
くそっ、なんでもうちょっと早く気付かなかったんだ。せめて、今朝出掛ける前に気づいていれば……。
いや、そもそもこんな大事なこと忘れなきゃよかったんだけどさ。
言い訳させてもらうと、最近はシスカリの特訓やら麻奈実との勉強会やらで予定が立て込んでて大変だったんだよ。

大人しく両親に聞けばいいじゃねえかと言うやつもいるだろう。だが残念だったな。
親父は仕事、お袋は携帯をテーブルに置き忘れたままどこかへ出掛けた。親父はともかく、お袋はなんでいつもいつもこうも間が悪いのか。

「そうだ! あいつらなら知ってんじゃねえか?」

あいつらとは沙織のオタク友達である桐乃と黒猫のことである。
沙織と同様にまだ学校にいる可能性もあるので電話は避け、メールを作成し送信する。この時間は昼休みだろうから、メールくらいなら大丈夫だろう。
文面は「沙織の受験についてなんだが、なんか知らねえ?」としておいた。なんとも要領を得ない文章だが、今の俺にそんなことを考える余裕はない。
そして、ほんの1分もしないうちに携帯が鳴った。これは体感時間で1分ではなく、実際に1分だ。携帯の時刻表示を食い入るように見つめていたから間違いない。

『そんな〜優しくしないで。どんな顔すればいいの?♪』

「きたああああ!」

受信画面には桐乃と表示されている。さっすが桐乃、だてにギャルっぽい恰好してねえな!
カチカチと携帯を操作し、受信したメールを表示する。
そこには端的に――非常に簡潔に、こう書かれていた。

『黙れ、シスコン』

ちょ、なにこの本文!? ひどすぎるだろ! 俺が何したって言うんだ!?
心の中で桐乃に対して突っ込みをいれていると、続けざまにメールが届いた。

「おっ、黒猫か?」

しかし、携帯の画面に表示された名前は予想外のものだった。

「えっ? あやせ?」

なぜこのタイミングであやせからメールが届くのか。不思議に思いながらも、届いたメールを開こうとして――そのまま手が固まってしまった。
375 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/28(月) 22:06:03.74 ID:/rgor//go
件名:ぶち殺しますよ

ちょ、なにこの件名!? ひどすぎるだろ! 俺が何したって言うんだ!?
思わず桐乃の時と同じ突っ込みを入れてしまう。

「どうしよう……見たくねえ……」

ある意味とってもドキドキする件名だが、これは胸の高鳴りというよりは死の恐怖である。
だが見なかったら見なかったで、かえって命の危険が増すだけだ。
カチッ。意を決してメールを開くと、そこにはこう書かれていた。

『先ほど桐乃にメール送りましたよね? メールが届いた時は、桐乃すっごい嬉しそうだったのに、内容を見たら一転してすっごくがっかりした顔してました。どんなメールを送ったんです? 返答によっては……』

そこで、本文は途切れていた。この続きは言わなくてもわかるでしょう? ということだろう。
って言うか件名に用件全部書いちゃってるもんな。それが最優先で出てきて思わず件名に書いちまったんだろう。あやせはどんだけ俺を殺したいんだよ。
とはいえ、俺のメールに一体何を期待したんだ? 桐乃のやつ。他の誰かからのメールだと思ったら俺からでがっかりした……とかかな? 
でも、それだとあやせの『内容を見てがっかり』ってところに矛盾が生じる。まあ、メールだから多少の祖語があるのかもしれないが。
ひょっとして、桐乃は俺のことが好きで、意中の人からメールが来て喜んだがその内容は妹関連であり、シスコンっぷりが垣間見えてがっかり……ってことだろうか。

「…………これはねえな」

ないない。自分で考えておいてなんだが、あの桐乃に限ってそれはない。そんないじらしい感じとは無縁そうだしな。
大体、前提条件である“桐乃が俺のことを好き”というところからして無理がある。
どうやら、桐乃にやらされたエロゲによって俺の思考は徐々に侵略されているようだ。

「まったく……そんな簡単にフラグなんて立ってたまるか」

そりゃ、桐乃はさすがにモデルやってるだけあって顔はいいしスタイルも抜群だ。
性格はたしかにきついところもあるが、なかなか素直になれないところなんか可愛いと思うし、見えにくいだけで友達に対する優しさに溢れている。
そんな桐乃と付き合ったらどうなるか――なんて妄想をしたことがないわけじゃない。

「……」

くそっ、あやせのメールのせいでちょっとドキドキしてきちまったじゃねえか。ちなみに、このドキドキは死の恐怖ではなく胸の高鳴りの方な。
まさか、あやせはこうやって俺をからかうためにあんなメールを送ってきたんじゃあるまいな。
だけど……もし、万が一、俺の妄想が事実だとしたら? 

『そんな〜優しくしないで。どんな顔すればいいの?♪』

突然鳴った携帯が俺の思考を中断させた。
送信者は黒猫。そこにはやはり、端的に――非常に簡潔にこう書かれていた。

『黙りなさい、シスコン』

「…………あいつら息ピッタリすぎるだろ」
376 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/28(月) 22:06:58.95 ID:/rgor//go
結局、沙織が帰宅するまでの5時間近くの大半を玄関で過ごすことになった。
ガチャリ。ドアの模様を完全に暗記できるほど見つめた頃、ついに玄関の扉が開き沙織が帰宅した。

「ただいま帰りま……あら、お兄様。そんなところでどうなさったんですか?」

沙織は少し驚き、不思議そうな顔をして俺を見つめている。
電気もつけずに階段に座り込んでる兄貴を見れば当然の反応と言えるかもしれない。

「……おかえり」

さて、どう切り出したものか……。
しかし、なんと言ったところで俺が沙織の受験を忘れていた事実は変わらない。合否発表どころか試験日程すら知らない始末だ。
ブラコンの沙織のこと、忘れられてたと知ったら怒るだろうなあ。
考える時間だけは大量にあったにも関わらず未だに答えは出なかった。

「そこ、暗くありませんか?」

沙織は俺の前に立つと、俺の顔を覗き込んだ。

「すまなかったあああ!」

額を床にこすりつける勢いで、全力で土下座。

「ひっ! お、お兄様!?」
「すまなかった沙織! 俺はおまえのことをすっかり忘れて――」
「は、話が見えませんわ! あ、頭を上げてください!」

ちょっと大げさにすぎるだろうか。
いや、沙織が受けるショックを考えたらこれぐらいは……。

「俺、実は沙織の受験のこと完全に忘れてて……知らないうちに受験勉強の邪魔とかしてなかったか!? ちゃんと勉強できたのか!? 試験日は? 合否は?」

我ながらとんでもないシスコンっぷりである。ここまでくれば立派に変態のお仲間と言える。
だけど、仕方ねえだろ。俺は妹が――沙織が大好きなんだよ。
こればっかりは誰にも止められない。誰にも譲れない俺のアイデンティティだ。

「どっ……どうなんだ!?」
377 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/28(月) 22:07:51.51 ID:/rgor//go
当然、沙織は怒るだろう。俺はそう思っていた。
頬を膨らませて、また俺を正座させて……その後沙織の部屋に改めて謝りに行って……。
それでまた仲直りできる――そう思っていた。
なのに、

「そんなことですか。受験ならもう終わりましたわ」

しれっと告白する沙織。その言葉に怒気は感じられない。
単純に、呆れているような感じだった。

「えっ?」
「私の学校は中高一貫ですから。受験などあってないようなものです」

そ、そうなのか? で、でもそんなこと一言も聞いてないぞ?
お嬢様学校なのは知っていたが、まさか中高一貫校とは。

「それはそうでしょう。言ってませんもの」

一向に怒る気配を見せない沙織。
それが逆に恐ろしく、俺はたまらずこう聞いてしまう。

「お、怒ってないのか?」
「怒るって……なにをです?」

きょとんとした顔をする沙織。まるで本当に俺が何で謝っているのかがわからないというように。

「い、いや……だって、沙織の受験のこと忘れてたんだぜ?」

普段なら説教の一つや二つ飛んできてもおかしくない事態だ。
なのに、沙織は文句ひとつ言わない。

「……お兄様も忙しかったのでしょう? 別に、お兄様は悪くありませんわ。……お話はそれだけですか?」
「え……あ、ああ」

そのまま沙織は俺の横をするりとすり抜け、二階へと上がって行った。
必然的に、俺は階段下に取り残される形になる。
今のこの状況が、何か嫌な未来を予見しているように感じられたのだった。



第十三話おわり
378 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/02/28(月) 22:10:48.00 ID:/rgor//go
今日はここまで。ネタに詰まるとついついプラモネタに走りたくなってしまう癖をなんとかしたい
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 00:17:53.62 ID:HnAcP/xT0


くそっ沙織を愛でたいのにここの桐乃がやばすぎる
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 00:49:26.11 ID:/XAjXcuao
乙!
続きもまってるでござるよ〜
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 03:43:56.67 ID:brO4UaTIO
これはきりりんルートしか考えられん
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 06:21:08.66 ID:rJLgbaHDO
乙女な桐乃かわいいな…
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 14:24:08.10 ID:7fCxRwMd0
沙織…(´・ω・`)
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 15:29:19.96 ID:FJNpWUmIo
乙ッス

ガンダムネタでもいいじゃん、つか見たい俺ガイル


何が言いたいかってーと、ダブルオーライザーよりスサノオかマスラオのMG化
もしくはガデラーザのプラモ化マダーってこと
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 00:56:57.00 ID:klpuoWaV0
ガンプラ作ったことないけど、沙織のガンプラ講座が楽しみだったりする
目を輝かせて力説する沙織を想像するとキュンキュンするわ
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 01:16:17.02 ID:eg/cxxIYo
乙乙


なぁガンプラ好きなひとってのは戦艦とか他のアニメのとかのプラモも好きなモノなの?
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 03:38:42.71 ID:ZrByR2iDO
せっかく妹なのに沙織分が足りない
388 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/02(水) 05:28:52.09 ID:rZgOZofOo
第十四話

こんこんと手の甲でノックを二回。

「沙織ー、ちょっといいか?」

あれから――沙織の受験のことを忘れていたと白状してから三日が過ぎた。
あれから沙織は、怒るようなこともなくいつも通りに過ごしていた。
本来なら失態を穏便に解消できたと喜ぶべきなのだが、ただ一つ気にかかることがあった。あれ以来、沙織は明らかに俺との会話を避けている。
もちろん、話しかけても無視されるとかそんな露骨に避けられてるわけじゃない。
ただ、沙織から話しかけてくれることがほとんどなくなった。
たった三日で何を言っているんだと思うかもしれないが、俺にとっては非常事態である。
だってあの沙織だぜ? ことあるごとに、お兄様お兄様と騒がしかったあの沙織がだ。
そんなわけで、今俺は兄妹間のわだかまりを解消するため沙織の部屋へとやって来た所ってわけだ。

「なんでしょうか、お兄様」
「今ちょっといいかな、話がしたいんだけど」
「ええ、構いませんわ。私の部屋でよろしいんですか?」

意外とすんなり受け入れてくれる沙織。
あれ? そんなあっさりでいいの? せっかく気合入れてきたってのに、なんだか拍子抜けしちまうな。
沙織の部屋に入ると、そこには辺り一面にプラモが飾られていた。

「すげえな、どんどん増えてくな」

一年程前は押し入れに入る分だけだったってのにな。

「これもお兄様のおかげです」
「俺? 俺はなんもしてねえよ」
「そんなことありませんわ」

そう言うと沙織は俺の手を取り、なんとも幸せそうな笑顔で俺を見つめてくる。
沙織につられてこっちまで笑顔になってしまう。
しかし、同時に妙に気恥ずかしくもなってしまい、すぐに沙織から顔をそらした。
そして別の話題を探そうと辺りを見回してみて、あることに気が付いた。

「あれ? あのプラモ、ガンダムのじゃないよな。あんなガンプラ見たことないし」
389 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/02(水) 05:30:38.27 ID:rZgOZofOo
俺の目に留まったのは、緑の羽が生えた白いプラモデルと赤い羽根が生えた赤いプラモデルだった。
白い方はいかにも主人公が乗ってそうな、ヒロイックな感じが印象的だ。
一方、赤い方は左手に対して右手が異様に大きく、いかにも悪役といった異形さである。

「ああ、これですか。これはコードギアスというアニメにでてくるロボットのプラモデルなんです」
「コードギアス?」

これまた初めて聞く名前だな。

「実はこの間、黒猫さんにお勧めアニメとして教えていただきまして。確かここにお借りしたDVDが……」

ごそごそと押し入れを漁りだす沙織。

「ありましたわ――あうっ!?」

DVDを見つけた拍子に、押し入れの棚板にごちんと頭をぶつけてしまったようだ。

「うう……」
「おいおい、大丈夫か?」

そりゃ、そんな狭いスペースに収納したらおまえのでかさなら頭の一つや二つはぶつけちまうだろ。
妹のドジっぷりに少し呆れながらも、頭をさすってやる。

「も、もうお兄様! 私ももう子供ではないんですよ?」
「はは、すまんすまん」

いつものように会話ができている。いつもの沙織、いつもの俺たちの関係だ。
どういうことだ? 実はわだかまりなんてのは最初から存在してなくて、ずっと俺の独り相撲だったってことか?

「はいっ、これですわ。お兄様」

一人悩む俺に向かって、沙織が一つのDVDを差し出した。
そのパッケージを見て、一目でピンときた。

「ああ……いかにも黒猫が好きそうな感じ」

そこに写っていたのは、細身の、仮面をつけた主人公と思しき人物だった。
合わせて黒いマントも羽織っており、どことなくマスケラの主人公と同じ雰囲気を感じさせる。
390 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/02(水) 05:36:22.64 ID:rZgOZofOo
「これがですね、なんと主人公がお兄様そっくりなんです!」
「はあ?」

し、しまった! 沙織があんまり突拍子もないこと言い出すから、つい冷たい返事をしちまった!

「あ、もちろん外見の話ではありませんわ」

……そりゃそうでしょうとも。わざわざ言われなくてもわかってるよ。
だが、中身が俺に似た主人公? 自分で言うのもあれだけど、そんなへたれに主人公が務まるのだろうか。すごい不安だ。
このアニメ、アニメとしてちゃんと成立してるの?

「具体的にどんなところが似てるんだ?」

少しでも沙織との会話を弾ませるため、いつも聞かないようなところまで掘り下げる。
俺が感じたわだかまりが、俺の気のせいだと確定したわけじゃないからな。

「重度のシスコンなところです」
「主人公として一番似てはいけないところが似ちゃった!」

一体どんなアニメなんだよ!? 逆に興味が湧いてきたわ!
そのオサレっぽい主人公が重度のシスコンなの!?

「ああ、ちなみに先ほどのプラモですが、ガンプラと同じくバンダイが出しているので組み立ての手軽さも安定してますし、大量生産のため値段の方もお求めやすくなっております。ですが、コトブキヤがギアスのプラモを展開していれば今頃はきっとガウェインや蜃気楼のプラモも……。ROBOT魂も悪くはありませんが、やはり自分の手で組み立ててこそっ! 望むだけ無駄とはわかっておりますが……くっ、残念でなりません。そもそも、バンダイとコトブキヤのキットの大きな違いは――」

うんうん、この感じ。やっぱり沙織のプラモ講座はこうでないとな。誰か通訳を寄越してくれ。
プラモについて熱く語る沙織を、俺は終始にこやかな顔で見ていたのだが、突然沙織が自力で我に返った。

「はっ!?」
「あれ? どうした? 用事でも思い出したのか?」
「…………そうですわ……すっかり忘れておりました。ですからお兄様ももうお休みになられては?」
「え……沙織?」

先ほどまでののんびりとした空気が一変する。沙織は何か切羽詰まった表情をしている。
いやむしろ、何かを決意した表情と言った方がしっくりくるかもしれない。
結局俺は大した抵抗もできず、そのままぐいぐいと部屋の外まで押し出されてしまった。

「さ、沙織。ちょっと待てって」
「おやすみなさい、お兄様」

沙織の部屋の扉が閉じられる。
俺たち兄妹の間に存在するわだかまりがはっきりと見えた気がした。



391 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/02(水) 05:38:43.84 ID:rZgOZofOo
「黒猫、実は相談があるんだ」
「……わざわざ言わなくてもだいたい想像がついてしまうわね」

そう言って黒猫は目を細め、はあ、とため息を一つ。
ちなみに、俺たちは近所の公園に来ている。あやせと会ったあの公園だ。

「へえ、それも邪眼の力ってやつか?」

会ってそうそうのため息にちょっとムッとしてしまい、少しからかうような言い方をしてしまう。
しかし黒猫はそんなことを全く意に関せず、

「違うわ」

はっきりとそれを否定。

「わざわざ力を使うまでもないわ。あなたのことだからどうせ沙織がらみでしょう? ねえ、兄さん?」

黒猫は紅い瞳で俺を見据えている。その瞳はいつも以上に紅い。
この瞳を見ていると、全てを見透かされているような錯覚に陥る。まるで本当に闇の力が宿っているかのように。

「……なんでわかる?」
「あなた、この間、意味不明のメール送ってきたでしょう?」

黒猫がいうメールとは、この間俺が送った沙織の受験に関する相談のメールのことだろう。
でも、そんなに意味不明だったか?

「あんなメールの後ではね……。兄さんの性格から考えたら沙織関連しかありえないでしょう?」
「はは……」

それもそうか。

「……あんなメールを送ってきたってことは、大方沙織と喧嘩でもして本人に聞けなくなったってところでしょう?」
「いや、そうじゃない。そうじゃないんだが……」

俺のはっきりしない態度に、黒猫は頭上に?マークを浮かべている。
392 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/02(水) 05:39:47.03 ID:rZgOZofOo
「実はな……」

それから俺は、

・受験のことを忘れていたのに沙織が全然怒らなかったこと
・プラモ講座を自ら中断し、追い出すように部屋から閉め出したこと

を黒猫に告げた。

「おかしいと思わねえか? あの沙織が。……ひょっとしてあいつブラコンじゃなくなったのか? 黒猫、おまえなんか知ら――」

ここまで言って、黒猫の顔を見た瞬間俺は言葉を続けることができなかった。
黒猫は眉間にしわを寄せ、その大きい瞳をを目一杯細め、俺を睨みつけている。
丸みを帯びた頬は若干――いや、かなり引きつっている。

「く、黒猫?」
「……兄さんのシスコンがここまで重症だったなんて。完全に沙織以外見えてないわね」

黒猫は、じり……とそのまま半歩後ろへ下がる。完全にドン引きである。

「おいおい、失礼なこと言うなよ。誰が沙織のことしか見えてないって? 確かにシスコンなのは認めるが――」
「私の年齢を言ってみなさい」

黒猫はぴしゃりと俺の言葉を遮った。
おまえのとし? そんなもん言ってどうするんだ。言えって言うなら言うけどさ。

「そりゃ、沙織と同い年なんだから――」

ここまで言ってようやく気付いた。
続く言葉は一向に出てこない。発することができない。
ゆっくり、本当にゆっくりと黒猫と視線を合わせる。
首の骨がぎぎぎ、と軋む。

「私の年齢を言ってみろ」

黒猫は傲岸不遜な態度で腕を組み、虫を見るような目で俺を見ている。
おまえはどこのジャギ様だ――とはさすがに言えなかった。
もはや今の俺は秘孔を突かれたモヒカンも同然だ。あとは「ひでぶ!」なり、「たわば!」なりの断末魔をあげるだけである。
俺はもう死んでいる。
393 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/02(水) 05:41:38.99 ID:rZgOZofOo
「……すまん」

他にどうすることもできず、ただ謝るしかなかった。俺は確かに沙織しか見えていなかったのだから。
妹のことが心配なあまり、友人の受験の合否は全く無視。気にもかけていない。
あまつさえ、その友人に沙織の受験から派生した問題のことで相談を持ちかける。
我ながら、これはあんまりだ。

「ふん。……別にいいわ。相手が沙織では、私では勝負にならないのはわかっているから。あの女ならまだしもね……こちらももう手遅れかもしれないけれど」
「えっ?」

脈絡のない言葉に、脳がついていかない。
勝負? あの女? 沙織となんか勝負でもしてんのか?
なんでいつも含みのある言い方っつうか、遠回しな言い方をするんだこいつは。言いたいことの半分もわからない。
だが、なにはともあれ黒猫は俺を許してくれるらしい。

「で、沙織が怒らなくて? ブラコンじゃなくなってしまったのではないか、嫌われたのではないかと心配だと?」
「お、おう。そういうことだ」

嫌われたってのは少し飛躍しすぎだと思うが、大まかなところは外れていないから問題はない。
すると、黒猫は再び眉間にしわを寄せ、露骨に怪訝そうな顔をする。
あ、あれ? 許してくれたんじゃなかったの?

「あなた、この間は沙織のブラコンをなんとかしたいと相談してきていなかった?」

………………そうだった。完全に忘れていた。
そもそも俺は、沙織のブラコンをなんとかしなくては――そう思っていたはずだった。
なんでいつのまにか逆の立場になってるんだ?

「シスコンなのもいいけれど、大概にしておきなさいな。沙織はもう自分の考えを持って生きているし、あなたにいつまでも頼っているような子ではないの。あなたこそ早く妹離れしたらどうかしら」

黒猫の怒りをはらんだ強い言葉に、思わず気圧されてしまう。

「でないと……沙織も、あの女も可哀想だわ。そして私は惨めなだけ」

そのまま踵を返し、帰ろうとする黒猫。

「ま、まっ……」

結局、待ってくれという俺の心の声は言葉にはならず、黒猫の後ろ姿をただ見つめることしかできなかった。



第十四話おわり
394 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/02(水) 05:44:22.02 ID:rZgOZofOo
今日はここまで。へんぴな時間の投下になってしまったけど許して

>>384,385
意外と沙織のガンプラ講座好評なのかな?
わからない人からしたら面白くないかなとも思ってたんだけど、今後もくどくなり過ぎない程度に使わせてもらおうかな。ありがとう
スサノオはいつかブレイブあたりとニコイチして作る予定なので、個人的にはMGウイング0(TV版)を待ち望んでいる


>>386
人それぞれかなあ
少なくとも俺は他のアニメのメカも好きだよ。ガンプラ以外のプラモはあんまり作らないけど
予算的な意味で
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 07:03:51.07 ID:N9DwrTyyo
こんな時間からお疲れ様です

もっと黒猫に優しくするべき
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 07:41:16.88 ID:Fqat7FMEo
おつ
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 08:29:08.55 ID:O4gj0LOu0


クロネコたんかわいいですねぇ(*´□`*)
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 09:23:09.22 ID:6HmO9ZNro
へんぴの使い方おかしくね
399 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/02(水) 09:46:39.76 ID:rZgOZofOo
>>398
あばばば、ほんとだ。土地のことしか言わないんですね
ご指摘ありがとう
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 19:38:32.70 ID:27fRRdVDO
黒猫はもう一つフラグ立てたらデレかな
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 00:06:29.48 ID:d1awPCM90
黒猫京介の高校に来て盛り返してほしいなぁなんて
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 08:24:31.82 ID:1hKVIoP9o
全員分のルート書くよね?よね??
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 13:48:16.79 ID:m9qKw0ADO
沙織ならスパロボやA.C.E.手を出してそうだけど、京介にはやらせようとせんのかね?
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 19:26:25.31 ID:6PUdHOhAO
>>403
沙織「スパロボ?A.C.E?参戦作品を全部見てから、おやりになってください」
405 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/03(木) 21:51:26.06 ID:fh2Yys3do
第十五話

「シスコンなのもいいけれど、大概にしておきなさいな。沙織はもう自分の考えを持って生きているし、あなたにいつまでも頼っているような子ではないの。あなたこそ早く妹離れしたらどうかしら」
「でないと……沙織も、あの女も可哀想だわ。そして私は惨めなだけ」

黒猫に相談をもちかけてから数日が経ったが、黒猫の言葉が今も脳裏にこびりついて離れない。
黒猫は何故あんなに怒った? 沙織のブラコンをなんとかしたいと言ったと思えば、今度はブラコンじゃなくなってしまったんじゃないかと言い出すような優柔不断っぷりに嫌気がさしたのか? 
あの女って誰だ? 惨めなだけって、一体なにが惨めなんだよ?

「……くそっ、何がなんだかさっぱりだ」

自室のベッドに仰向けに寝転びながら呟く。
ちなみに黒猫は高校受験を既に済ませており、後は合格発表を待つのみということらしい。
黒猫本人に聞くのはなんとも気まずく、あの後沙織に聞いておいたのだ。
その際随分と怒られてしまった。自分の時は怒らなかったってのにな。どんだけ友達思いなんだ、こいつは。あるいは、沙織はほぼエスカレーター式に進学できるが黒猫はそうではないことが関係しているのだろうか。
そんなことを考えていると、ある考えに思い至った。

「……沙織の中での優先順位が変わったのか?」

あなたにいつまでも頼っているような子ではない。黒猫はそう言った。
始めはブラコンじゃなくなったという意味かと思ったが、冷静に考えれば唐突にブラコンじゃなくなることなんてありえるだろうか。ましてやあの沙織が。
実は唐突でもなんでもなくかなり前からブラコンではなくなっていたなら話は別だが、この際その線は置いておこう。
そう考えると別の意味が見えてくる。
沙織は何かしらやりたいことすべきこと大事なことを見つけて、そこでは俺の助けを必要としてなくて――
妹の自立。それはかつての俺が望み、今の俺が恐れたことだった。
黒猫から見れば、今の俺は沙織の自立を妨げる邪魔者に見えたことだろう。
妙な寂寥感が心を支配する。

「なにやってんだろうな、俺は」

ただ、何を考えてもそれは所詮推測でしかない。沙織や黒猫に直接尋ねる勇気もない。
一人暗い思考に囚われていた俺を救ったのは、突然鳴った携帯電話だった。
406 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/03(木) 21:53:34.71 ID:fh2Yys3do
「よう」

『明日、17時に公園まで来て』こんなメールに呼び出された俺は、既に到着していたらしい差出人に声をかけた。

「おそい」

メールの差出人・桐乃は少しふてくされたように頬を膨らませる。

「何言ってんだ、時間通りじゃねえか」

今の時刻は16時55分。約束の時間まではまだ5分ほどの余裕がある。
これで遅いと怒られたんじゃたまったもんじゃねえぞ。おまえは一体いつから待ってたんだ。

「今日はどうしたんだ?」

またぞろ人生相談と称した体のいいお願いに付き合うことになるのだろうか。
それもいいな。今はなんでもいいから体を動かして暗い思考を吹き飛ばした気分だしよ。

「……また人生相談か?」

桐乃が中々答えようとしないので先回りして尋ねてみた。
しかし、桐乃は黙ってふるふると首を横に振る。
人生相談じゃないのか。じゃあ一体なんだ? 人生相談以外の用事って言ったら……?
駄目だ。俺には一向に思いつかない。ここは大人しく桐乃の言葉を待つことにするかな。
桐乃は、ふぅ……と深呼吸をひとつしてから、ぽつりぽつりと話しだした。

「あんたをここに呼んだのは……人生相談が……あるからなの」
「はあ? さっき人生相談かって聞いたら違うって言ったじゃねえか」
「う、うう、うっさい! どっ、どうでもいいでしょそんなこと!」

桐乃は不機嫌に舌打ちをし、ライトブラウンの髪をかきあげる。
その流れるような長髪は、夕焼けに照らされて黄金色に輝いて見えた。
あれ、なんだこの既視感。この光景どっかで見たことあるぞ。デジャブってやつか?

「じゃあなんなんだ?」

俺の問いに桐乃は顔を赤くするだけで一向に答えない。
何かを言おうとして口を開いてもそのままもごもごとするだけで、結局言葉は出てこずそのまま顔を背けてしまう。
なんだか妙に切羽詰まっている様子だった。
彼女の焦燥に釣られたのか、俺の胸はどきどきと鼓動を速めていく。
407 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/03(木) 21:54:32.39 ID:fh2Yys3do
「あ、あのね」

意を決したのか、ようやく桐乃が言葉を紡ぎ始める。

「最初はあんたみたいな兄貴がいたらいいなって思ってた」

秘密を懺悔する少女のようにぽつりぽつりと、だがはっきりとした声で。

「でも、それだけじゃなかった。地味で冴えないくせに……ただひたすらに優しくて」

桐乃はまっすぐに俺を見つめてくる。
桐乃の顔が赤いのは夕焼けに照らされているからか……それとも……

「やっと気づいたの! 私は……沙織に負けないくらいあんたが好き! だからっ!」

こ、この流れは……。
ま、まさか……まさか…………まさか! 

「あたしと付き合って下さい!」

顎が落っこちるかと思った。開いた口は塞がらない。
桐乃の用事は、暗い思考を吹き飛ばしてくれるとかそんな生易しいものではなかった。
俺の思考をそれ一点に集め、他のことなど跡形もなく吹き飛ばしてしまう。

「……だ、だめ?」

そう声をかけられるまで、時間が止まっていた。
はっと我に返り、桐乃の顔を見る。
目にはうっすらと涙がにじんでいて、今にも泣きだしてしまいそうだ。
俺はどうすればいい? 俺と桐乃が付き合うことになったら沙織はどう思う? そもそもこのことを知っているのか?
そんな考えがぐるぐると頭の中で渦を巻く。
そんな中、先ほどまで俺の思考をとらえて離さなかった黒猫の言葉が脳裏をよぎった。

「あなたこそ早く妹離れしたらどうかしら」

そうだ。この後に及んで俺はなんで沙織のことを気にしているんだ。
大事なのは俺の気持ちじゃないのか。桐乃の告白を受けるにしろ断るにしろ、沙織を理由にするなんて桐乃に対しても沙織に対しても失礼極まりない。
まさかこれを見越して言ったわけじゃないだろうけどな。ありがとよ、黒猫。
408 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/03(木) 21:55:42.76 ID:fh2Yys3do
「桐乃」

桐乃は依然として涙を浮かべながら俺を見つめていて、その拳は痛々しいほどに強く握られている。
右手で桐乃の頬に触れ、今にも溢れ出しそうなその涙を親指の腹で拭ってやる。

「……俺もおまえが好きだ。これから、よろしくな」

その瞬間、桐乃が俺に抱き着いてきた。ぐりぐりと頭を俺の胸元に擦り付ける。
桐乃を抱きしめるべく両手を桐乃の後ろに回した瞬間、

「おめでとうでござる〜!」
「ちょっと沙織! まだ早いわ、これからがいいところなのに!」

人気のない公園に聞きなれた声が響いた。

「お、おまえら!? なんでここに? っていうか、何やってんだそんなところで!」

茂みの中から顔を出したのは、ぐるぐる眼鏡にオタクファッションに身を包んだ沙織とゴスロリファッションに猫耳装備の黒猫だった。
桐乃を見ると俺と同様にぽかんとしているので、どうやらこいつも知らなかったようだ。

「いやあ、お兄様もすみに置けませんなあ」

沙織はうりうりと肘で俺の腕をついてくる。

「……これでやっと一件落着というわけね。長かったわ。好きならばさっさと告白してしまえばいいものを、兄貴になれだのなんだのとわけのわからないことで先延ばしにするから――」

しみじみと感慨深そうに語る黒猫。

「ちょ、ちょっと何言っちゃってんの!?」

慌てて桐乃が止めに入った。
展開が唐突すぎて頭がついていかない。

「お、おまえら、なんでここにいんの?」

事態を把握するべく一つずつ質問していく。

「実は昨日きりりん氏から、今日お兄様に告白するということを言われまして」
「その女がフラれるのを見に来たのよ」

要は出歯亀かよ! 

「お、おまえら……」
409 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/03(木) 21:57:40.07 ID:fh2Yys3do
今回は告白が上手くいったからいいものの、もし桐乃がフラれてたらどうする気だったの?
……いや、こいつらは確信があったのかもしれない。俺と――桐乃が上手くいくという確信が。

「告白すると聞いた時は、正直『やっとか』と思ったものです」
「え、嘘でしょ?」

沙織の言葉に桐乃は目を丸くし驚きを隠せないでいる。

「嘘ではござらん。きりりん氏がお兄様のことを好きなのはもうバレバレというか、気づかない方がおかしいレベルでありましたから」

嘘だろ? 俺、全然気づかなかったんだけど。

「あなた、ずっと前からやれ『あいつが過保護すぎてうざい、荷物くらい持てるって』だの、『あいつってば腕組んだだけで顔赤くしちゃって、ぷぷっ。キモ〜い』だのと、のろけまくりだったじゃない」

それのろけてなくねえ? 俺の感性が変なの?

「う、うう、うっさい!」

だが、桐乃はわかりやすく動揺していた。桐乃の動揺を見るに、どうやら黒猫の言っていることは真実のようだ。
くそっ、なんてわかりにくい愛情表現なんだ。

「では、あとは若い者同士に任せると言うことで……」
「じゃあね、先輩」

そう言うと沙織は黒猫を連れてそそくさと帰っていった。
ほんとに何しに来たんだ……。完全に冷やかしじゃねえか。あと先輩ってなんだ。

「ぐえっ」

沙織と黒猫が公園から去るのを見送り二人の姿が視界から消えた時、どすっ、と胸に衝撃がきた。
感じた衝撃の正体は桐乃が抱き着いてきたものによるものだったらしい。
桐乃の背が高いせいで二人の顔はとても近い。桐乃の息遣いが直に感じられる。

「……好き」
「……ああ、俺もだ」

そして俺は今度こそ、愛すべき彼女を力いっぱい抱きしめたのだった。
410 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/03(木) 21:58:48.73 ID:fh2Yys3do
―――――――――

「黒猫氏、よかったのですか?」
「なんのことかしら」

私は、私の隣を歩く友人が心配で声をかけた。

「拙者が見るに黒猫氏もお兄様のことが……」
「……あの子は私以上にあなたのお兄さんを必要としていた。それにあなたのお兄さんを好きになったのはきっとあの子が先だから」
「だからといって――」

私の声を遮るようにして、友人が言葉を発する。

「そう、そこなのよ。私はそう思えてしまう。何が何でも手に入れたいとまでは……まだ思えない」
「黒猫氏……」
「そんな顔をしないでちょうだい。言ったでしょう? 順番よ。今回はあの子が先だった。いろいろとね。そして、あなたのお兄さんとあの子が駄目になったら今度は私の番よ。その時は沙織、あなたに遠慮はしない。もっとも他にいい男が現れなければ、だけどね。……あなたこそよかったの?」

友人はいつになく饒舌で、平静さを保っているとは言い難いようだ。

「拙者ですか?」
「ええ」

自問自答。そして告白。

「……私は今までお兄様に甘え過ぎていました。そのせいでお兄様の人生を制限してしまうのは耐えられませんわ」
「だから最近お兄さんに冷たかったの?」
「いやはや、ばれておりましたか」
「あなたのお兄さん、相当まいっていたわ。兄離れもいいけれどなにごとも急ぎ過ぎない方がいいわ。もうちょっとやり方を考えてあげなさい」
「そうだったのですか……ご忠告ありがとうございます」

そして、私と友人はお互いを励ますように笑いあったのだった。

―――――――――
411 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/03(木) 22:00:23.12 ID:fh2Yys3do
「ただいまー」

仕事を終え、疲れた体を引きずってようやく我が家へと辿り着く。

「おかえりなさいでござる!」

すると家の奥から元気な声が響いた。
続いて別の声が聞こえてくる。

「ござるじゃないでしょ。何度いったらわかるの?」

ばたばたと足音が響き、奥の部屋から愛する我が子と妻が揃って玄関まで出迎えてくれた。
そして駆け寄ってくる娘を、腰をかがめ抱き上げた。

「あんたからも言ってやってよ。その子、義姉さんのところに遊びに行くと毎回ござる口調になって帰ってくるんですケド」

いったい何をして遊んでるんだ沙織は。

「ま、いいじゃねえか。そのうち治るって」
「もう」

呆れたようにため息を吐く桐乃。
そして、

「……おかえりなさい、あなた」
「おう、ただいま」



俺の妹が身長180cmなわけがない桐乃√
おわり
412 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/03(木) 22:01:48.46 ID:fh2Yys3do
やっと終わった!
大まかな流れだけは決めておいたけど、感情の動きとかはその場その場で考えてたのでおかしいところがあったらごめんなさい。
次は黒猫√か沙織√かどっちにしよう……
ちなみ番外編で麻奈実√もあるよ。一瞬で終わるけど。
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 22:24:08.86 ID:AyoZNo6so
乙!
個人的には沙織は最後の締めにして欲しいです
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 22:27:07.13 ID:rxRRDgpU0


沙織√かと思ったら桐乃√だった
と思ったけどよく考えたら大会桐乃がパートナーだったの忘れてた
何が言いたいのかと言うと沙織√を書け下さい、お願いします
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 22:29:18.44 ID:zGcPvPyno
乙乙

黒猫黒猫
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 22:35:01.71 ID:QpKkQn02o
あやせ√は?
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 22:36:55.87 ID:RA85mHvdo
乙っす。


これで終わりかと思って、少しビビった。
まさかの伏兵は無いのかな?瀬菜ちぃとか
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 23:13:08.30 ID:BdC88qtvo
おつ

そして出てくる赤城ルート
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 23:31:03.99 ID:4WApK+4DO
桐乃があっさり告白したのはやっぱ兄妹の壁がないからか
他のルートも期待してるぜ
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 23:56:39.15 ID:1AM5yCmV0
沙織は締めにしてくらはい
421 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/04(金) 00:17:19.81 ID:gjvuPa8Io
せっかくの沙織スレだし沙織は締めってことで、とりあえず黒猫→沙織の順で書いてくよ。希望に添えなかった人ごめんなさい。
あやせとか瀬菜は展開とか全然考えてないので、書けないか書くとしても時間がかかるかも。申し訳ない。
あと、赤城√だけは完全に諦めてください。


あああ、桐乃を妹にしたいよおおおお
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 00:17:47.64 ID:6QglH41AO
>>412
乙!他の√も楽しみにしてる





あやせたん√は書き忘れただけで、ちゃんと考えてるよな?な?
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 00:26:21.28 ID:7El6q6tlo


あやせたん√は、今回の桐乃√の派生でいけそうな
振られて落ち込むきりりんに、あやせ覚醒とかなんとか
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 00:40:30.15 ID:eNXIowjAO
一旦乙
黒猫ルート期待
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 03:10:03.45 ID:gWzpwnILo
乙乙
黒猫ルートマダー?
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 03:15:07.61 ID:hB5788uio
一旦乙
桐乃かわいいなぁ
黒猫ルートにも期待
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 04:14:09.27 ID:aOle+eOvo
クロネコヤマトマダー?
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 05:36:28.72 ID:q3JfzkcAO
>>427
問い合わせろwwww
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 08:25:26.48 ID:cADVzSWDO
>>411
京介と桐乃が結婚した場合、桐乃から見た沙織は義理の妹になるんでない?

まぁ細かいことはどうでもいいか!
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 09:09:08.93 ID:nGRVrgtEo
兄の嫁だから義姉で合ってるんじゃない?
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 10:47:33.67 ID:A1UD7hEAO
桐乃は沙織の義姉
沙織は桐乃の義妹
になるだろうな

まあ、沙織の方が年上だし沙織が義姉でもいいんじゃね?
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 10:50:35.86 ID:RnXqPuzgo
いや合ってるって
兄の嫁なんだから義姉だって
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 11:41:30.32 ID:q3JfzkcAO
>>432
兄の嫁たるキリノが旦那の妹たるサオリを義姉、と表現するのはおかしいわな、戸籍上は
でも俺の親戚に同じ現象がおこってるところがあって、
呼称は歳の差を重視してるみたいよ
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 13:09:24.53 ID:Gb15r3EDO
京介が桐乃の彼氏になったことを聞いたあやせの反応キボン
435 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/06(日) 07:21:49.24 ID:ijSO94qlo
>>356の途中から
第十二話分岐

「じゃあ黒猫と組むわ」

目的を優勝ではなく豪華賞品の入手に絞るならば、この組み合わせが一番いいだろう。
どちらかに戦力を集中させて、もしそちらが一回戦で強敵とあたってしまったら元も子もない。

「わ、私でいいの?」

俺という貧乏くじをひかされたにしては意外な台詞だった。
しかしながら、案の定沙織と桐乃は黒猫を憐れむような目で見ている。

「黒猫、すまない」

黒猫の肩に両手を置き、謝罪する。ゲーマーであるこいつとしては本気で勝ちに行きたかったに違いないからな。
黒猫は、俺が手を置いた瞬間びくっと体を震わせたかと思うと、「莫迦じゃないの」という捨て台詞とともに、ぷいっと顔を背けてしまう。
俺は沙織たちの方に向き直り、こう続ける。

「賞品、絶対ゲットしようぜ!」

そんな俺を不機嫌そうな面で見つめる桐乃。沙織はぐるぐる眼鏡のせいで目元はよく見えないが、恐らく黒猫を憐れんでいることだろう。



大会当日。俺たちはシスカリ大会に参加するため、秋葉原に集まっていた。
ふっふっふ、俺だってこの一週間、ただ漫然と過ごしていたわけではない。実は、黒猫とマンツーマンでシスカリの特訓をしていたのだ。
今では黒猫には遠く及ばないものの、人並み以上の腕前になったと自負している。もしかすっと、俺って格ゲーの才能があったのかも……なんてな。

「そういえば、大会ってどこでやんの?」
「会場はso○map内のイベントフロアとなります。すぐそこですな」

沙織たちの後に続き、会場へと移動する。
会場は既にオタクたちで埋め尽くされており、イベントが始まるのを今か今かと待ち構えていた。

「……結構な人数来てんな」

まさか全員が参加者ってわけじゃないだろうが、それでもざっと見回して100人以上はいるように見える。
こいつらとやりあって勝てるんだろうか。なにせ相手は沙織や桐乃、そして黒猫よろしく本気でこのゲームを愛しているような奴らなのだ。
一週間程度の練習でどこまで通用するのか……俺、すっかり自信なくなってきたぜ。

「気後れする必要はないわ」

俺の不安を見抜いたのか、黒猫が声をかけてきた。

「卑屈すぎるのは鬱陶しいだけよ」

いつのまにか俺の隣にぴったりと寄り添うように並んでいる。その瞳は真っすぐと前を見据えていた。
こいつはこいつなりに気を遣ってくれたのだろう。今の言葉を翻訳すると、「自信を持って」となる。
俺が礼を言うと、黒猫は「ふん」とつまらなさそうに鼻をならしたのだった。
436 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/06(日) 07:22:48.28 ID:ijSO94qlo
結果から言うと、桐乃と沙織は2回戦負け。
そして俺と黒猫はというと……聞いて驚け! なんとこれから準決勝だ!
黒猫とばっかり特訓していたせいか、他のプレイヤーの動きがどこか鈍く見える。
俺の攻撃は面白いように当たるし、攻撃のタイミングも甘々だ。ましてや超必殺技を一つ一つパリングされるなんてこともない。
改めて黒猫の恐ろしさを思い知ったぜ。そして、その黒猫は味方なのだ。頼もしい事この上ねえな。
だが、さすがに準決勝ともなると相手のレベルも相当高く、今までのように楽に勝たせてはくれなかった。
じわじわと俺のライフを削られていく。
こりゃあ、俺も切り札を切るしかないかもな。くっ、できれば決勝戦までとっておきたかったんだが……致し方ない。
俺の切り札。それは、黒猫との特訓中に偶然見つけてしまった俺のオリジナルのコンボである。
ダメージ量こそそこまで大きくはないが、このコンボの重要なところはそこではない。実はこのコンボ、普通では考えられない技を起点とするため玄人ほど読みにくいのだ。まさに俺が素人ゆえの産物だった。
ただ、一度手の内がばれると簡単に対処されてしまうため、できることなら決勝で使うのが望ましかったのだがそうは言っていられない。
この大会はトーナメント戦であり、負けは許されないのだから。

今だ! 心の中で叫び、がちゃがちゃとレバーとボタンを操作する。
そして次の瞬間会場が一際大きな歓声に包まれた。
画面に映し出されるWINの文字。黒猫とまったくの同タイミングで相手の撃破に成功した。

「人呼んで、京介スペシャル!」

気付けば、右手をぐっと握りしめガッツポーズをしながら叫んでいた。



「いやあ、惜しかったですなあ。お兄様」

しょぼーんと、項垂れる俺。
決勝に進んだ俺たちは白熱した勝負を繰り広げていたのだが、勝負を焦った俺が”京介スペシャル”を発動。
しかし一度晒してしまった技が通用する相手ではなく、簡単にカウンターをくらってK.O。2対1ではさすがの黒猫もどうしようもなく、そのまま敗北してしまった。

「すまん、黒猫。俺が焦りさえしなければ」
「ええ、そうね。あなたがあそこで凡ミスしなければ勝てていたかもしれないわね」

黒猫のぐさっと言葉が突き刺さる。だが事実なので反論の余地はない。
や、やっぱり怒ってるみたいだな。
すかさず空気を読んだ沙織が話題の転換を試みる。

「まあまあお二人とも。賞品は手に入ったのですから、それでよしとしましょう。それでは早速戦利品の分配をば!」
「ひゃっほう! 待ってました!」

そして沙織がごそごそと賞品の入った袋を漁りだす。
事前に確認したところ、3人のお目当ての賞品は被ることはなかった。ただ一つを除いては。

「……さて、問題のこれの処遇ですが…………」

沙織が最後に取り出したのは、3人が3人とも欲しいと言っていた、ゲーム内でキャラに着せることができるコスチュームのデータである。
悲しいことに、このデータを使用できるのは一人だけらしい。タッグ戦の大会のくせに、なんてもんを賞品にしとるんだと突っ込まずにはいられない。
沙織曰く、何人でも使えるようにすると希少価値が下がるとかなんとかって理由かららしい。
こりゃあ、盛大な争奪戦が勃発しちまうな……。そう思っていたのだが、ある人物が真っ先にその争奪戦からドロップアウトした。
437 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/06(日) 07:23:44.00 ID:ijSO94qlo
「私は遠慮しておくわ」
「えっ?」

真っ先に争奪戦を降りたのは黒猫だった。

「で、でも……おまえあんなに欲しがってたじゃねえか」
「……気が変わったのよ」

気が変わったって……。
そんな理由で欲しくなくなるもんなのか? オタクってのはよくわからん。

「し、しかし、これを入手できたのは黒猫氏とお兄様のおかげなのですから……黒猫氏が欲しいと言えば拙者たちは降りようときりりん氏とも相談していたのですよ!?」

黒猫の気持ちがわからないのは俺だけではないようで、沙織も把握しかねているようだった。

「ふん……私はもう私の取り分以上のものをもらったわ。だからそれはあなた達で決めなさい」

そう言って黒猫はくるっと振り返り歩いていく。
振り返る瞬間、口元がにやりと半月型になっているのが見えた。黒猫の機嫌がいい証である。
あれ? あいつ、機嫌悪いんじゃなかったの?

「いてえ!?」

黒猫がいきなり上機嫌になった原因を考えていると、桐乃に脛を蹴られ、沙織に脳天にチョップをかまされた。

「な、なんなのおまえら!? 俺に一体なんの恨みがあるの!?」 

桐乃はともかく沙織まで!
両人とも、びきびきとこめかみに力が入っているのがわかる。

「……きもっ」
「今日の正座は20分で許して差し上げますわ」

俺が何をしたって言うんだ。
桐乃が何をそんなにキモがってるのかわからないし。沙織はなにやらご立腹なようだ。そもそも、沙織はなんでそんなに俺を正座させたいんだ。
あまりの怒りのためか、いつものお嬢様口調に戻っている。あるいは、俺を怒る時はその口調と決めているのだろうか。
丁寧な口調で怒られるのって怖いし、俺としてはござる口調で怒ってくれた方がいいんだけどな。
少し離れたところで俺たちがついてきていないことに気付いた黒猫は、立ち止まってこちらを楽しげに見つめていた。



第十二話おわり
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 07:28:16.13 ID:cLkMgwEro
黒猫かあいい
439 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/06(日) 07:29:01.83 ID:ijSO94qlo
今日はここまで。短くてごめんね
ちなみに桐乃√の最後の義姉か義妹かは、歳や戸籍上云々というより二人のイメージで決めました。わかりにくくてすいません

>>434
実は、桐乃の告白をけしかけたのはあやせだった……とかいう脳内設定があったり
なので、ここでは素直に喜んだという体になります
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 10:41:14.70 ID:52zbeHfIo


ルート分岐大会の相棒だったのかwwwwww
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 11:43:12.34 ID:K01ZgexE0
かなかなルートにはどう行くんです?
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:27:07.08 ID:TkWSXD+go
今思ったんだけどさ…
すごく年下の兄嫁の義姉って、よくないか?
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 16:13:51.09 ID:2FcW2w0AO
ロリ姉さんか……悪くない
444 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/07(月) 19:51:54.72 ID:dDa02ozjo
ネタにつまった。黒猫無双したいのにネタが出てこない

先に断っておくと、桐乃√だけのつもりで書いてきたから過去の話と矛盾する所とかでてくるかもしれないけど許してね
本編だと絶対にありえない桐乃との結婚後を書いてみたかったんだ……。
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/03/07(月) 20:48:08.52 ID:Dtup8K0So
このキャラの立ち位置変更は桐乃のためにあるようなもんだしね
枷がない分、ある程度素直に甘えられるから。血繋がってないし
黒猫なんか元との差がないから、むずいかもしれない
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 22:36:14.93 ID:E5pccY55o
のんびり待つぜ
無理なく頑張ってください
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 01:51:06.03 ID:h52cuZU7o
>>442-443
さっさと新スレ立てて移動しろ、誘導を忘れるなよ
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 04:43:45.86 ID:Vd4NFSVAO
>>428
今さらだがワロタwwwwww
449 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/08(火) 20:49:10.53 ID:s4+v7UlLo
第十三話(黒猫√)

「あのシスコンってば、ちょーキモい。あんなのが兄貴じゃなくてまじで助かった」
「その割にはえらく悔しそうな顔してるわね。っふ……まるで欲しい物を買ってもらえなかった子供みたいよ?」
「しっ、してないし! 何ばかなこと言っちゃてんの!?」

目の前のギャル風の少女は私の意見を慌てて否定し、さらにこれでもかとまくしたてる。
喫茶店での談笑。私たちくらいの歳の少女にはありがちで珍しくもない光景。
今日は私とこの子の二人だけで遊んでいる。沙織も誘ったのだけれど用事があるとかで来れなかったのだ。
でも、今日に限ってはその方がありがたかった。

「あんたこそ、あいつのこと兄さんとか呼んじゃってさ。なんなの? ブラコンなの?」
「最初に兄妹でもないのに兄貴と呼び出したのはあなたでしょう。私はそれを模倣しただけにすぎないわ」
「ぐぬぬ……」

ふふふ。この子は本当にからかいがいがある。口げんかが弱いにもほどがあるわ。
思ったことをそのまま口に出すからいけないのよ。もう少し考えて発言すればいいのに。
私は未だ歯軋りして悔しがっている親友に声をかけた。

「ところであなた、あのシスコンのこと好きなの?」
「はっ!? あああああ、あんた何言っちゃってんの!? ふっ、ふふ、ふざけんじゃないってば! 誰があんなの!」

虚を突かれ、呂律がまわらない様子。

「ふざけてなどいないわ」

声のトーンを落とし、真剣であることを相手に伝える。
それはちゃんと伝わったようで、先ほどまでの慌てまくって真っ赤になった顔が幾分かましになった。それでも依然として赤いけれど。

「あんた、どうしたの?」
「いいから答えなさい」

目を細めて、相手を見つめながら言葉を待つ。
いや、見つめるというよりは睨みつけるといった方がいいような顔をしているかもしれない。
それでも、私の親友は少しも臆することなく私を見つめ返してくる。

「……好き」
「……そう」
「うん」

少し、気が楽になった。先ほどまで力一杯握られ自分の意志では開くこともかなわなかった手の平も、今はもう自由に動かせる。
450 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/08(火) 20:49:49.08 ID:s4+v7UlLo
「……そう」

ふう、と息を吐いて天井を見上げる。照明が目に入り、思わずきゅっと目を閉じた。
モデルやっているだけあってかわいい顔しているのは認めざるをえないし、足だって長い。丸顔ではあるがそれが好きだって人もいるだろう。
それに下賤なことを言うようだけれど胸も私より大きいし……。
あの人も愚かな雄の例に漏れず大きい方が好みなのかしら。中には小さい方が好きという人もいるらしいけれど。
もしそうなら私にも勝ち目が出て来るのだろうか。
……なんてついつい莫迦な想像をしてしまう。それくらいにあの人のことが気になってしまっていた。
いつからかはわからない。特にきっかけがあったわけでもない。
でも、いつの間にかあの人は私の心に入り込んできた。そして今もその場に居座り続けている。

「いつから?」
「はあ? 何であんたにそこまで言わなくちゃならないわけ? あんたには関係なくない?」
「ふふ、いいじゃない。ここまで言ってしまったら後は一緒よ。それに関係なくはないもの」
「えっ?」

驚き、目を丸くする親友。

「ま、まさか……あんたも?」
「ええ、そのまさかよ」
「…………」

親友は言葉を失い、何も話せないでいる。
しばらくお互いに無言のままの時間が続く。そして、ようやく親友が口を開いた。

「そっか、あんたもか」
「……ええ」

私は力なく返事をすることしかできない。
451 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/08(火) 20:50:25.64 ID:s4+v7UlLo
「だからあれ以降も兄さんって呼び続けてたんだ」

ん?

「でも、ま、あんたも物好きだよね。あんなののどこがよかったの? 人のこと言えないけどさ」
「どこって……そうね…………優しい……ところ?」

一瞬感じた違和感はとりあえず脇に置いて、質問に答える。
自分でもわからない。あんなののどこがよかったのか。顔は地味だし、重度のシスコンだし。
でもこうなってしまったものは仕方がない。もうどうにもできない。
私は自分の気持ちに嘘をつけるほど器用ではないのだから。

「だよね。…………沙織が本当に羨ましい」

んん?
口をとがらせ、しょぼんとうなだれる親友。
しかし、今、私の思考は別のことに囚われていた。
口に出すのも恐ろしい。これを口に出してしまうとこいつに弱みを握られることになってしまう。
だけど、それでも確認せずにはいられない。

「あ、あなた…………ひょっとして……男性としてではなく、兄として好きだと言いだすんじゃないでしょうね?」
「は? そうだけど? ……あんた何だと思ってたの?」

ふ、不覚。まさかこの私がこんな凡ミスを犯してしまうなんて。
しばらくきょとんとした顔を私を見ていた親友だったが、私が犯してしまったミスに気付いてしまったようで、ぐにゃあとその口を歪める。
にやにやと下卑た笑みを浮かべている。「さて、今からどう料理してやろうか」というような顔に見えた。
……こんなことなら、普段この子をからかう回数を減らしておけばよかったわ。

「なに? あんた、あいつのことが好きなの? ……男として」

ぷくく、声が漏れた。申し訳程度に口を抑えてはいるようだが、それでも笑いをこらえきれないようだ。

「くっ……」

今の私はもはやまな板の上の鯉。あとは捌かれるのを待つことしかできない。

「ふ〜ん、そっかそっか。なるほどね」

腕を組み、顔を上下させてなにやら一人で納得している。
さて、ここからどんな風にいじられるのか……。あまり意味はないが気持ちの上だけでも身構えておく。
しかし、聞こえてきたのは意外な言葉だった。
452 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/08(火) 20:51:39.70 ID:s4+v7UlLo
「ま、いいんじゃない?」
「え?」
「だって、あいつ顔は地味だけど優しいのは間違いないし? 多分今まで彼女なんてできたことないだろうし、いざ彼女できたら大切にしてくれそうじゃん。地味子という対抗馬が気になるけど」

この子のことを少し誤解していたのかもしれない。この子は本気の相手を小馬鹿にするような人間ではなかった。
この子という人間をまた少し理解できた気がする。

「いや……一番の対抗馬は沙織? あれ? でも沙織が対抗馬になるなら私だってなっちゃうのかな? 同じ妹属性だし。…………ん? あんた、何笑ってんの?」

言われて初めて自分が笑顔になっていたことを自覚する。

「なんでもないわ」
「ま、いいけど。でも……ぷぷっ。まさかあんたがね〜。ちょー似合わないんですけどwww」

こ、このアマ……。どうやら前言撤回しなければいけないようね。
思わず頬が引きつってしまう。褒めた矢先にこれだもの。
でも本気で馬鹿にしているわけがない。だって、この子は私の親友だから。

「……あなたに言われたくはないわ」

だから私は、ふんと鼻をならし、ありふれた捨て台詞を吐くだけにとどめておいた。



第十三話(黒猫√)おわり
453 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/08(火) 20:53:39.66 ID:s4+v7UlLo
今日はここまで。ネタに困ったので今回は黒猫視点にしてみました

黒猫マジ難産。誰かネタを下さい
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 23:26:41.64 ID:cljwYQM4o
乙!
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 23:50:19.57 ID:L07/07vg0
乙!

黒猫ルートはまだ続くんだよね?
456 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/08(火) 23:57:04.68 ID:s4+v7UlLo
>>455
まだ続くよ。頑張ってネタをひり出してるからしばらくお待ちください。
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 03:25:45.87 ID:eavO7cge0
受験生な黒猫と図書館で勉強会ってのはどうだろうか

そして偶然遭遇した地味子に黒猫が宣戦布告するってのも面白そうだ
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 07:00:47.15 ID:SwuzvebDO
桐乃は身を引いたのか本当に兄として好きなだけなのか…
どっちだろうか…
前者なら諦め切れず爆発して黒猫と対峙とか面白いかな
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 20:11:34.21 ID:iIcSAdyZo
黒猫を思って身を引いたはいいが、やっぱり我慢が出来なくなってくんかくんかし始める桐乃か
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 18:51:51.51 ID:nCW5n+hA0
しえん
461 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/11(金) 01:04:55.17 ID:TnzDLdHjo
第十四話(黒猫√)

「で、どうだったんだ沙織?」
『…………』

待てども待てども電話の向こうの沙織から返事はない。
ま、まさか……そんな、嘘だろ?

「さ、沙織! 気をしっかりもて! い、今からそっちに――」
『てへっ。当然、受かっていましたわ』
「……おい、こんな時にふざけないでくれよ」

既に靴はいちゃっただろうが!
だが、なにはともあれこれで俺の一つ目の心配事は無事解決だ。
今の会話の概要を説明すると、受験の合格発表を見に行った沙織が合否を知らせる連絡を入れてきたって場面だ。
最初家の電話にかけたら誰もでなかったらしい。親父は仕事。お袋は家にいたはずだが……便所でも行ってたのかな。
そんな俺は気を紛らわせるため自室でヘッドフォンで音楽聞いてたもんだから電話に全く気がつかなかった。
その後、沙織が俺の携帯に電話してきたところでようやく気付いてやれたんだ。
ちなみに俺の方はもう春休みに突入していて暇だったんだ。決して妹の受験結果が心配で学校休んだわけじゃないからな。

「よかったな。おめでとう」
『ありがとうございます。でも――』

でも? なんか不満でもあるのか?

『お兄様は心配しすぎです。ほぼエスカレーター式だから心配ないって何度も言ったではありませんか』
「ぐっ……そうは言うがな」

兄貴が妹の心配して何が悪い。いいや、悪くないね! そうさ、なんせ俺はシスコンなんだからな!

「おまえだって、俺の受験の時朝からおろおろしてたじゃねえか」
『うっ……そ、それは今関係ありません!』
「懐かしいなあ。お茶ぶちまけたり、目玉焼きにいきなりふりかけをかけはじめたり――」
『ひっ、人の話を聞いて下さい!』

そう。だから俺が朝から目玉焼きに七味ふりかけちまったのも仕方ないことなんだよ。
ちくしょう、なんであんなところに七味がおいてあるんだ。お袋もちゃんと整理しといてくれよ。

「今から帰ってくるのか?」
『いえ、少し友人たちと談笑してから帰りますわ』
「そっか、わかった。お袋にも電話しといてやれよな」

こういうのは沙織から直接報告したほうがいいだろうからな。

『ええ、わかりました』

俺の意図を理解したのか、沙織は素直な返事を返してくれた。
電話を切ってから椅子を回転させ再び机に向き直る。
462 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/11(金) 01:08:02.45 ID:TnzDLdHjo
「やれやれだ」

さて、これで心配事が一つ片付いたわけだが、片付いたら片付いたで今度はもう一方の心配事の首尾が気にかかる。
あいつはあいつで結果がわかったら連絡くれるって言ってたんだけどな。



数日前。
俺たち4人が集まって遊んでいた時のことだ。

「そういえば、おまえも合格発表の日沙織と同じなんだよな」
「そういえば――ね。私はあくまで沙織のおまけというわけかしら」
「いやいや、そういうわけじゃねえよ。結果、わかったら教えてくれよな」

なんで会って早々いきなり不機嫌なんだろ? 俺なんかしたっけ?

「ああ、そういえばあんたも中三だっけ。あんたってちっこいからついつい年上だってこと忘れちゃうんだよね」
「……」

黒猫が何も言わないみたいなので、俺がかわりに突っ込んでやろう。おまえらがでかすぎるんだ。
黒猫だって160cmくらいあるんだぜ? 中三女子の平均身長がどのくらいかは知らないが、どう考えても小さいってことはありえない。
それに、学年が一年違うとはいえおまえも黒猫と大差ないじゃねえか。
しかし、黒猫は桐乃の言葉が相当ショックだったらしく、がっくりと下を向いてしまっている。
仕方ねえな。

「ちょっと言いすぎだ。黒猫、落ち込んじゃってるじゃねえか。そもそも黒猫って別に小さく――」
「誰も落ち込んでなどいないわ。勝手に話を進めないでちょうだい」
「ほらね。大丈夫なんだって……あっ、そうだ! 兄貴は小さい方が好きなの?」
「はあ? いきなりどうした?」
「いいから答えて」

どうしていきなりそんな話になる? ……関係ないけど、未だに兄貴って呼ばれるの慣れねえなあ。
桐乃に言われ、沙織、黒猫、桐乃を順に見回す。
でかい。小さい。中くらい。いや、黒猫が特別小さいってわけでなくて、あくまでこの中でってことね。

「そうだな……俺は特に気にしないけどなあ」
「はあ? 何その腑抜けた回答。そんなんで許すと思ってんの?」
「……そうね。ここまできたからにははっきりさせておくのもいいかも知れないわね」

じりじりと、にじりよってくる桐乃と黒猫。

「な、なんだおまえら。お、落ち着け! 俺をどうする気だ!?」

なんとかしてくれ沙織ぃ! という意味を込めて沙織に視線をやる。
が、先ほどまでいた場所に沙織の姿はなく――

「はっはー、捕まえましたぞお兄様!」

後ろからいきなりがっしと羽交い絞めにされた。
463 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/11(金) 01:10:41.66 ID:TnzDLdHjo
「沙織! てめえ裏切ったな!」
「すみませんお兄様。でも拙者も気になりますので、お兄様のこ・の・み」

その手を今すぐ離すんだ沙織! さもないと大変なことに――
くっそおおおお! やわらけえなあ、ちくしょう!! 妹なのに妹なのに!!

「さあ、兄さん」
「さっさと白状しなって」
「お兄様、心を解き放って?」

あーあー、何も考えられない。おっぱいおっぱい。

「お、俺はっ!」

こうなりゃもうやけくそだ。もうどうにでもなーれー。

「大きい方が好みだああああああ!!」

ぴたり。
はかったように同時に動きを止める桐乃と黒猫。
た、助かったのか?
そう思ったのもつかの間、黒猫は2,3歩よろけるようにして後ずさる。

「そうね。わかってはいたわ。でも夢は見ていたかった。ただあなたも所詮、数多いる雄の一人だったというだけ」
「く、黒猫?」

黒猫は両手をだらんとたれ下げて腰からがっくりと項垂れ、なにやら言葉を紡ぎ始めた。

「この半年いろいろと頑張ってみたけれどまるで駄目。いくら食べても大きくならないんですもの。しょうがないじゃない」
「な、なにを……言っているんだ?」

黒猫の雰囲気に飲まれ、沙織も桐乃も言葉を発せないでいる。
自分の、ごくりと唾を飲む音が聞こえるほど辺りは静まりかえっていた。
こ、こいつそんなに身長のこと気にしてたのか?

「そりゃあ、あなたたちはいいわ。でかいんですもの。でも、大きくなりたくても大きくなれないものはどうしたらいいの? あはははは! いっそ哀れだと笑うがいい!」
「お、落ち着いてくだされ黒猫氏!」
「ちょ、ちょっとなにとち狂っちゃってんの!? あんたのせいだかんね! なんとかしなさいって!」
「俺のせいなの!?」

話がさっぱり見えねえ! けど、黒猫が異常事態ってことは言われなくてもわかる。
こりゃあ、友達としてなんとかしないとな。そして、この状況が俺のせいだと言うならば、原因はあれで間違いないだろう。

「お、落ち着け黒猫! でかい方が好みと言ったが小さい方も嫌いじゃないぞ?」

ぴたり。
黒猫は高笑をやめ、こちらへゆっくりと視線を向ける。

「……ほんとうに?」
「ああ、本当だ」
464 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/11(金) 01:12:18.52 ID:TnzDLdHjo
そこには、いつもの大人びた黒猫ではなく、年相応のあどけない少女の顔があった。

「小さいには小さいなりのかわいさがあるって。思わずなでなでしたくなっちゃうくらいだぞ?」

その瞬間、右サイドから耳を引っ張られ、左サイドからは脇腹に拳がめりこんだ。

「お、おまえら……なにしやがる……」
「うっさい、変態! なでなでとか頭おかしいんじゃないの!? セクハラじゃん!!」
「お兄様がそんなセクハラ発言をするなんて……信じていましたのに」

セクハラ!? 俺がいつセクハラしたって言うんだ!?
ぎゃあぎゃあとまくしたてる二人をよそに、(こいつらに言わせると)セクハラをされたはずの黒猫はひとりまんざらでもないように笑っていた。
……苦笑いかもしれないけど。



「じゃあ、またね」
「また来るわ」

いつかと同じ台詞を残し、二人は帰って行った。
今は沙織と二人きりだ。

「それにしてもお兄様につるぺた属性があったとは驚きでござる」
「沙織さん? いったい誰がそんなことを言ってたのかな?」

ぐるぐる眼鏡をかけたままなので、ござる口調が抜けない沙織。
いや、ぐるぐる眼鏡をかけたままでもお嬢様口調になるときもあるから一概に眼鏡がスイッチとは言えないけどさ。

「はて? お兄様自身が仰ったのではありませんか。『小さいには小さいなりのかわいさがあるって。思わずなでなでしたくなっちゃうくらいだぞ?』と」
「はあ? どういうことだ? あれって身長の話だろ?」
「…………お兄様の鈍さを考慮し忘れた我々も悪いのかもしれません。そして運よく、いやこの場合運悪くですか――身長的に大中小が揃ってしまったのも悪かった」

なにがいいたいんだ? 他に大小の好みを比べるものなんてあるか?
と、考えている最中に沙織の“大きい”胸に目が行った。別に普段から常習的に見る癖がついてたわけじゃないからな。たまたまだぞ。
あれ? まさか……大きい小さいってそういう意味だったの?

「小さいなりのかわいさがあるはいいにしても、なでなではちょっと……我が兄ながら――ドン引きです」

なんてこった……これじゃあ俺、完全に変態じゃねえか。
なんだよ、なでなでしたいって。
うおあああああああ! 今すぐあの発言を取り消したい!
465 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/11(金) 01:14:09.52 ID:TnzDLdHjo
「まあ、黒猫氏も今度きちんと謝れば許してくださると思います。ところでお兄様、正座は30分ほどでよろしいですかな?」
「……はい」



こんなことがあったせいで、ここ最近黒猫に連絡しづらくなっていたのだ。
もちろん、すぐさま謝罪はした。したのだが、「はいはい、わかったわ」とあっさり流されてしまったのだ。
怒ってるはずの相手に謝罪をして、あっさり流されるってのはなかなかにおっかないぜ?
いっそ、怒ってくれた方がすっきりする。

「あいつ、連絡くれっかな?」

そんなことを考えながら、椅子に座ったまま床を蹴り、子供みたいに椅子と自身を一緒にくるくると回転させる。
ひとしきり回転した後、千鳥足になりながらも自分のベッドへとダイブする。

「好みねえ……」

考えたこともなかったな。大きい小さいの話じゃないぞ。女性像の話だ。
今までは、沙織がいて、麻奈実がいて、桐乃や黒猫と馬鹿やって、あやせとも知り合って――そんな中でも特別誰かを好きになるとかってのはついぞなかったしなあ。
そりゃあ、まわりは美少女ばっかりで、確かにかわいいとは思うんだけども、好きとは違う気がする。
ほら、よくあるだろ? 好きとまではいかないまでも、ちょっといいなと思うあの感じ。俺の気持ちはあれに近い。
俺の好みってどんなだっけ?
むくりと起き上がり、ごそごそとベッドの下の段ボールを漁る。
そして、そこに収められている我がお宝を見つめ、

「これは好みじゃなくてフェチだからなあ……あてにならん」

再び封をして奥へと押しやった。
自らの好みを聞かれてはっきりと答えられないことが、今までいかに流されて生きてきたかを物語っているかのようで、少し悲しく思えた。

「こればっかりは相談もできないしな」

ちょっぴりブルーな気分にひたっていると、机上の携帯が鳴った。
携帯のフリップを開く。その画面には“黒猫”と表示されていたのだった。



第十四話(黒猫√)おわり
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 01:16:55.84 ID:KTZeZNnVo
467 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/11(金) 01:17:05.15 ID:TnzDLdHjo
今日はここまで。ちょっと駆け足進行っぽいのは許してくれ

>>458-459
そのネタもらった!改変して使わせてもらうかも
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 02:30:49.64 ID:gqgzr36M0
京介が身長と勘違いしたことがわかって「大きいほうが好き=自分が好き?」とか考えて悶々してる沙織まで創造した
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 02:52:36.27 ID:7WSkUHnwo
おつおつ

黒猫って160もあんの!?
俺よりでかいんだけど…orz
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 07:55:01.89 ID:oJiqA30DO
黒にゃん可愛いにゃん
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 10:48:25.57 ID:ZnEt9B0DO
<<469
黒猫「小さいには小さいなりの可愛さがあるわ(笑)」
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 10:51:52.48 ID:ZnEt9B0DO
orz

×<<469

>>469
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 12:53:40.68 ID:9yXO3l1IO
大きい子ってかわいいよな
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 14:02:38.12 ID:CK11WNYIO
みんなかわいい
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 18:35:10.77 ID:7qHIdeNDO
俺妹のキャラの中では背が低めなせいか黒猫はちびに見られがちなのかなぁ。160といえば麻奈実と同じなのに
沙織の隣に並ぶから低く見えるのか
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 01:45:41.50 ID:3gyub3SHo
作者が地震でどうこうなってなきゃいいが…
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
477 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/12(土) 10:18:01.87 ID:ebqtahCto
とりあえず生存報告。地震の被害が大変なことになってる……
ちなみに自分が住んでいるところはまったく揺れなかったので大丈夫でした
引き続きちまちまと書き溜めていきます。みなさん余震には気を付けて
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 13:37:29.58 ID:Z1k2t/oDO
黒猫かわいい

盛岡の妹生きてた
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 21:15:27.98 ID:3gyub3SHo
生存報告乙、これで俺の知り合いの範囲では全員無事が確認された


>>478
お前の妹のほうが可愛い…かもしれない
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 02:16:55.11 ID:5TBXlVIbo
続きwwktk
481 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/15(火) 17:16:22.81 ID:Lj3urlD7o
第十五話(黒猫√)

「皆の物、グラスは持ちましたかな? それでは――かんぱーい!」
「「かんぱーい」」

各々がそれぞれの飲み物を口に運ぶ。使うのはグラスではなくて紙コップだけどな。
ここは秋葉原のレンタルルーム。無事受験を終え、高校に合格した沙織と黒猫のために簡単なお祝いパーティーを開いたというわけだ。
会の進行を務め、乾杯の音頭をとるのは案の定沙織。この4人で集まる時は、もはやそれが習慣となってしまっていた。
こんなときくらい俺が音頭とるべきだったかな。机を挟んで向かい側で黒猫と受験の苦労話を交わす沙織を見つめ、今さらではあるがそんなことを思う。

「ま、ここから頑張ればいいか」

頑張る、といっても何か考えがあるわけじゃない。俺が考えついたのは、このパーティーを開くことと、お祝いの品を渡すというごくありふれたものものだけだったからな。
更に言うなら、プレゼントに関しては俺だけの発案ではない。
実は、今日このパーティーを開くにあたって事前に桐乃と相談したところ、お互いに何かプレゼントをもちよって祝ってやろうということになったんだ。

「ねえねえ」

声をかけられると同時に服の裾をひっぱられ、そちらに向き直る。
声の主は桐乃だった。

「プレゼントいつ渡すの?」

沙織たちに聞こえないようにするためか、小さな声で耳打ちをしてくる。

「そうだな……べたに最後でいいだろ。別に急ぐ必要もないし」
「そっか、そうだよね」
「おふたりとも、いかがなされました?」

ひそひそ話をする俺たちを訝しんだのか、沙織が声をかけてきた。

「な、なんでもないぞ!」
「そ、そうだって! なんも企んでないってば!」

大慌てで返事する俺と桐乃。桐乃なんかは両手をぶんぶん振って否定しているくせに、その口はもはや半分げろってしまっている。
……サプライズがこんなにも難しいものとは思わなかったぜ。俺と桐乃に詐欺師の才能はねえな。

「ふふっ、左様でござるか」

沙織は口をωこんなふうにしてにやにやとこちらを見つめている。その目は例のぐるぐる眼鏡で見えないが、沙織が何を考えているかはわかる。
そう、あいつは全てわかった上で俺たちを泳がせているんだ。
ともあれ、今の所沙織と黒猫の反応は悪くない。素直にこのパーティーを楽しんでくれているようだ。
482 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/15(火) 17:20:40.08 ID:Lj3urlD7o
それから、俺たちはシスカリで対戦をしてみたり、黒猫が「コスプレの心得」と称して即席コスプレ講座を開いてみたり、みんなして沙織のガンプラ講座に聞き入ってみたり――要はいつも通りにすごした。
うーん、我ながらあんまりお祝いって感じじゃねーな。
もうちょっと真面目に企画立案すべきだったか? 真面目に考えたからと言って名案が出るとは限らないけどさ。

「このように、プラ板工作において重要なのは切り出したパーツの精度を確保することです。特に同じパーツを複数製作する場合においては、少しのずれが命取りになる場合が少なくないでござる。もっとも、切り出した直後ならやすりで簡単に調整可能ですからそこまで神経質になる必要はござらん。続いて、筋彫りについて説明させて頂きます。筋彫りとは、デザインナイフ、Pカッター、目立てヤスリ、ガイドテープ等の道具を用いて、プラモにモールドを彫る作業のことでござる。これもデカール同様、情報量を増すことでプラモをよりリアルに見せる手法となります。ちなみに、ディテールダウンしたい、情報量を少なくしたい、なんていう時には逆にパテ等でモールドを埋めてしまったりもします。モールドを彫る場所や形と筋彫りには意外とセンスが要求されるので注意されたい。ネットで同じキットを製作した人の筋彫りを参考にするのもいいでしょう。さて、筋彫りにを行うにあたって是非知っておいてもらいたい注意事項ですが、筋彫りはなにも無暗やたらと彫ればいいわけではありません。適当に彫っても確かに情報量は増えますが、それだけではいけません。何より愛がない。もし、この機体が実在したならば、ここの装甲の分割はこうなってるんじゃないか。逆にこの部分の装甲は一枚で生成されているべきではないかなど想像力を働かせることが重要となります。まあ、これは何も筋彫りに限ったことではありませんが――」

……な、長い。今日はいつにも増して長い。もはや通訳を用意したとしてもその全容を把握することは難しいだろう。
いつもの口頭での説明と違って今日はホワイトボードを使えるもんだから、沙織の方も熱が入ってやがる。
俺は普段から沙織のガンプラ講座を聞いているから、おぼろげながらではあるが沙織の言いたいことはわかる。
だが、桐乃や黒猫は完全に置いてきぼりだ。そろって目をしぱたかせ、口をこんなふう◇にして、頭の上に?マークを浮かべている。
プラモ初心者にいきなりそんな内容の話をするやつがあるか。まずは基本的な作り方から説明しようぜ。

「さ、沙織? もうちょっとわかりやすい話題の方がいいんじゃないか? 桐乃と黒猫が完全に置いてきぼりくらってるぞ?」

沙織の会話が途切れた瞬間を狙い、なんとか言葉を挟む。
はっと何かに気付いたようなリアクションをとる沙織。

「あ……も、申し訳ありませぬ。拙者、少しばかり浮かれすぎていたみたいでござる」

片手で頭を掻き、申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「いいっていいって、なんか楽しそうなのは伝わってきたし。それに今日はお祝いなんだし? 好きなだけ喋ってよね」
「そうね。新たなコスプレグッズ製作のヒントになるかもしれないし、私は構わないわ」

よくできた友達である。沙織の兄としてこいつらには頭が上がらねえよ。

「ありがとうございます。でも、きりもいいですし拙者の話はこれまでといたしましょう」

長かった沙織のガンプラ講座が終わり、沙織は文字がびっしり書き込まれたホワイトボードを綺麗にしていく。
壁に掛けられた時計を見て現在の時刻を確認すると、時計の針は15時30分を示していた。
この部屋のレンタル終了時刻が16時なので、プレゼントを渡すならちょうどいいタイミングだろう。

「沙織、黒猫。実は――いや、ばれてるかもしれねえけどおまえらにプレゼントがあるんだ」
「な、なんですと〜」

俺の言葉に、沙織はわざとらしく驚いて見せる。口が依然としてこんなωだったから、わざとなのは間違いないだろう。
目は口ほどに物を言うと言うが、コイツの場合文字通り口が全てを語ってくれる。
特に、バジーナ状態の時はそれが顕著だ。
一方、黒猫はというと無言でこちらを見つめていた。
そして、

「……あなたにプレゼントを貰ういわれが見当たらないのだけれど」
「いわれなんて『俺がそうしたかったから』で十分だ。それに、今日はおまえらの高校合格を祝うためのパーティーなんだぜ?」

プレゼントの一つや二つあったっておかしくないだろ?
そして、おまえらをお祝いしたいと思っているのは俺だけじゃない。さっきからエロティックにけつを突き出し、なにやらごそごそと自分の鞄を漁っている桐乃もその一人だった。
483 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/15(火) 17:21:46.53 ID:Lj3urlD7o
「ふぃ〜、よかった。入ってた」

どうやらプレゼントを探していたらしい。
俺も桐乃に習い、自分の鞄からプレゼントを取り出す。沙織へのプレゼントは少々かさばるので取り出すのも一苦労だ。そのため、今日俺はやたらでかい鞄を用意する羽目になってしまった。
これじゃあ、何か企んでますよ、と自白しているようなものだ。
自宅ならどこかに隠しておいて――ってのもできたんだろうが、今日はこの後に秋葉めぐりも一緒に行う予定だからな。自宅で集まるのは少々都合が悪い。
沙織のプレゼントに関しては、あげたあとも家に帰るまでは俺が持つつもりでいたし、多少かさばっても許してくれるだろう。

「はいこれ。受験合格おめでとう!」

桐乃が一足先に沙織にプレゼントを渡す。
「ここで開けても?」と沙織が一言断りを入れる。そして、桐乃が頷くと嬉しそうに開封し始めた。

「ほう! HG1/144デスティニーガンダムに……これはクレオスのメッキシルバーではないですか!」

沙織が驚くのも無理はない。このクレオスという会社のメッキシルバーというマーカーペン。
優れた発色と定着性を有しながら原材料の関係ですでに生産中止されており入手が困難となっているのだ。
ただ、これは後で知った話なのだが、近々同じクレオスという会社からメッキシルバーUなるものが発売される予定らしい。ただ、その性能がこのメッキシルバーと同等のものかどうかはわからないとのことなので、このプレゼントは無駄にはならないだろう。
桐乃がどうやってこのレアもののプレゼントを手に入れたかは後々説明しよう。

「じゃあ、次は俺な。合格おめでとう。それから、いつもありがとな」

そう言って、沙織にプレゼントを渡してやる。
子供みたいか顔をしてそれを受け取り、開封していく。

「こっ、これは!」

その先は言葉がでないようだった。
俺が選んだプレゼントは、SDガンダム0074黄金神スペリオルカイザー。
こちらも再生産がおこなわれていない所謂レアものだ。ガンプラファンにはたまらないものらしい。
ちなみに、桐乃とプレゼントの方向性が被ってしまったのは偶然ではない。実は、先日桐乃と一緒にプラモ屋巡りをしていたのだ。
こういう珍しいプラモやアイテムを手に入れる手段は、おおまかにわけて三つある。ネットオークションで落とすか、古い模型屋に残っていることを祈ってプラモ屋巡りをするか、またはそういう珍しい玩具を専門に扱う店を訪ねるかだ。
一つ目と三つ目に方法に関してはとにかく金がかかる。特に、俺が選んだ方のプレゼントは、組み立てた後のものですら定価の倍はくだらないという超レアものだ。
読モやってる桐乃はまだしも、一介の高校生である俺には二つ目の選択肢しかなかった。
今にも潰れてしまいそうな模型屋の奥にひっそりと(しかも定価で)置かれているのを見つけたときは、俺ですら小躍りしちまったくらいだ。
事前にレアプラモの知識を詰め込んでいかなかったら、俺も気づかなかっただろう。

「こ、これが夢にまで見た……ごくり」

プレゼントを受け取った沙織はハアハアと息を荒げ、まじまじと箱を見つめている。珍しいな、沙織がこんな状態になるなんて。
そこまで喜んでくれると俺も苦労した甲斐があったというものだ。あの日は、桐乃ともども足が棒のようだったからな。
484 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/15(火) 17:25:24.97 ID:Lj3urlD7o
「次はあんたね。はいこれ」

一人完全に自分の世界に入ってしまっている沙織を尻目にプレゼントの贈呈は進む。

「……開けてもいいのかしら?」
「当然でしょ。ふふーん、実はこのプレゼント、ちょー自信あるんだよね」

言葉の通り、いかにも自信あり気に胸を張る桐乃。
黒猫はがさがさと袋を開け、中身を取り出す。そこから現れたのは真っ白のワンピースだった。

「…………」
「どうどう? ちょーかわいくない? これ、絶対あんたに似合うと思ったんだよね」

普段の黒猫のイメージとは対極にあるような真っ白のワンピース。
それを着ている黒猫を脳内でイメージする。

「ほう……これは…………なかなかに」

悪くない気がする。いや、悪くない所かかなりかわいんじゃないだろうか。
これに麦わら帽子でもあれば完璧だ。……今度、こっそりプレゼントしようかな。

「さ、次は俺だな」

妄想もそこそこに、用意した黒猫へのプレゼントを手に取る。
沙織に関しては渡して喜んでくれそうなものが簡単に想像できたんだが、正直黒猫に関しては何をあげたらいいのかさっぱりだった。
初めは桐乃と相談しようと思ったんだが、「あんたが自分で考えろ。じゃないと意味ないから」と言われ突っぱねられてしまった。
それから昨日までの三日三晩うんうんと悩み続け、ようやく出た結論がこれだ。

「これは……」

俺が黒猫に渡したプレゼント。
それは、

「ネックレス……?」
「それを見た瞬間ビビッと来たんだよ」

このデザイン、黒猫が好きそうだな。これなら喜んでくれそうだって。
黒猫が金属アレルギーでないことは事前に桐乃を通して調べておいてもらったからその点に関しては問題ないはずだ。
ま、プレゼントとしては月並みだけどな。

「……ありがとう」
「おう」

黒猫はネックレスをまじまじと見つめ、掌の上で転がしている。
特別口には出さないが、喜んでくれているのはどうやら間違いないようだ。
口元が今にも緩みそうになっていてプルプルしている。こいつのことだから素直に喜ぶのが悔しいんだろうな。
485 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/15(火) 17:28:55.15 ID:Lj3urlD7o
「む? いつのまにやらプレゼント贈呈が終わっている様子」

先ほどまで夢中で箱の横にある商品写真を眺めたり、説明書を読みふけっていた沙織がようやく現実世界に戻ってきた。

「それでは今度はこちらのターンでござるな」
「は?」

なにそれ? 俺、何も聞いてないよ?
戸惑う俺をよそに、沙織と黒猫そしてなんと桐乃までもが俺と向かい合うようにして集合する。
そして、黒猫が一歩前へと踏み出した。

「……」
「ほら、さっさと言っちゃいなってば」
「拙者は――拙者はお兄様が幸せならそれで構わんでござる。ずばっとやってくだされ!」

黒猫に何かを促す二人。
どうやらこの二人はこれから起こることを知っているようだ。

「……私はこの春から高校生になるわ」
「あ、ああ。そうだな」

絞り出すようにして話し始める黒猫。

「あなたと同じ高校に進学するの」
「えっ? そうなの? なんだよ、それならそうともっと早くいってくれればよかったのに」
「なんでわざわざあなたに知らせなければならないのよ」
「なんでって……そりゃあ、やっぱり嬉しいじゃんか。そもそも、今自分から知らせたばかりのくせに何言ってんだ」

むぐ、と口をつむぐ黒猫。そして、眉間に皺を寄せ再度言葉を紡ぐ。

「だから、その…………」

言いにくそうに視線を彷徨わせてから、

「よろしくね、先輩」

黒猫はそう言った。

「おう!」
「私の話は以上よ」

一時は何事かと思ったが――いや、十分驚くことだったのは間違いないけどさ、沙織が「こちらのターン」とか言うからてっきりもっと大事かと思ったぜ。
だが、これで納得がいかない奴らがいた。

「ちょ、ちょっと! それで終わりって、なにへたれてんの!?」
「そうでござるぞ黒猫氏! 拙者だって断腸の思いで今日を迎えたというのに!」

いきなり黒猫に対して猛抗議を始める沙織と桐乃。

「お、おいおまえら落ち着け。なにキレてんだよ」
「お兄様は静かにしていてください!」

ひい! 沙織がおっかない! なんで俺が怒られてるの!?
しかし、当の黒猫は落ち着きはらった様子でこう答えた。
486 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/15(火) 17:33:34.41 ID:Lj3urlD7o
「今は――これでいいのよ。この鈍感は今言ったところでろくに返事もできそうにないから。……もっと時間をかけることにしたの」

なんだろう。黒猫の言っていることの意味はよくわからないが、なんとなく小馬鹿にされてる気がするぞ?

「ちっ。…………でも、それも一理あるかも。仕方ないか。あ、言い忘れてたけど、もしあんたらがうまくいっても兄貴のシャツくんかくんかくらいは許しなさいよね」
「…………あなた、自分が何を言っているかわかっているの?」
「はあ? あんたこそ何言ってんの? これくらい兄妹の間では常識じゃん」
「それはエロゲの世界での常識でしょう!」
「そんなことないって、ねえ沙織」
「そうですぞ黒猫氏。現に拙者だってたまにしておりますし」
「なん……ですって……」

俺を無視して会話を進める女性陣。
くんかくんかって何ですか? それを沙織もしているってどういうことかな?
どうやら、この記憶は抹消したほうがいいみたいだ。
目を閉じ、鼻頭を揉み今聞いた言葉が夢幻であることを願う。
すると、直後に「きゃっ」という悲鳴が聞こえ、一体何事かと、すぐさま目を見開く。
開かれた視界には黒猫の姿が映っていた。

「黒猫!」

前につんのめるようにして、俺の方によろけてくる黒猫をしっかりと抱きとめる。

「大丈夫か?」
「え、ええ」

沙織と桐乃が向こうでにやにやしているのが見える。
さてはおまえらの仕業か。ちょっと一言言ってやらなきゃ駄目だな。友達に何するんだ、とな。
そう思って、口を開こうとした瞬間。
俺の腕の中の黒猫がぴくりと反応した。そして、なんと俺の胸元に顔を近づけすんすんと匂いをかぎ始めた。

「……いい匂い。あなたの匂いがする。……私、あなたの匂い好きよ。落ち着くもの」

そう言って黒猫は妖艶な笑みを浮かべる。
直後、自分が何を口にしてしまったのかを自覚したのか途端に顔が真っ赤になった。
それにつられて俺も一緒に顔を赤くする。

「い、いつまでそうしているの、この変態!」

慌てて俺から離れると同時に罵倒を始める黒猫。
俺は何もしてないはずなのに、何で罵倒されなきゃならんのだ。
やれやれ、こいつの相手も楽じゃないな。
春からはこいつが俺の後輩になるわけか。こりゃあ、俺の高校生活も一層楽しくなりそうだ。



こいつが俺と同じ高校に入学してから少し経ったころ。
俺と黒猫に腐女子の友達ができたり、俺が厨二病を患った女の子に告白されたりするわけだがそれはまた別のお話。



俺の妹が身長180cmなわけがない黒猫√
おわり
487 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/15(火) 17:34:51.29 ID:Lj3urlD7o
黒猫編おわた。なんか当初の予定以上に駆け足だった
黒猫高校生編は原作とほぼ変わらない気がして断念
桐乃編に比べて踏み込んだ終わり方じゃないけど許して。そもそも原作が今現在黒猫√だもんで……

さて、次はみなさんお待ちかねの沙織√です
沙織√は近親√に持って行っていくかどうかが最大の焦点になるのかな
ネタに困ったら助けを求めるので、その際はどうかよろしくお願いします
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 20:36:02.58 ID:tnTkPfBCo
乙!
桐乃は実の兄妹でなくなった分、ブラコンの進行具合がヤバイなwwwwww
黒猫EDだと基本は原作通りに続いていくのかね?

そしてスペリオルカイザー懐かしいwwwwww
当時はあのデザインは衝撃だったわ
SDなのにリアル頭身だし、なのに頭だけSD仕様でバランスがちょっとおかしかったんだよな
大鋼とか超起動大将軍みたいに頭もリアルよりのデザインにすればよかったのに
そもそも黄金神話はスペリオルドラゴンが死ぬのがまずショックだった
しかも化身が暴竜として敵で出てきくるし、スペリオルドラゴンはもういないんだと落ち込んだもんだ
逆に歴代の主人公達が守護者として再登場したのは燃えたね
キングU世まで機兵に乗って出てきたのは驚いたけど、1人だけ乗ってないのもおかしいもんな
カードダスに妖精ジムスナイパーカスタムのカードもあるうんだけど、その文に懐かしい気配を感じるって見た時はグッと来たね
力がはじけた時、何十年経っていても騎士ガンダムのことを感じてくれたんだと
そういえばスペリオルカイザーのカードは後ろを剥がすとFinって書いてある最後のカードが出てくるんだよね

そんなことは置いといて
メインに行く前に>>412の麻奈実√も読みたいです
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/15(火) 20:36:31.69 ID:voWsihRo0
乙っした!
凄く後味の良い終わり方だった


沙織ルートは思うまま好きにやってくれ
期待してるゞ
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/16(水) 00:30:58.54 ID:uHnWk/lho
輝羅鋼シリーズほとんど持ってたけど数年前に全部捨てちゃった…
まさかロストテクノロジーになっていたとは
何事も生産中止になると途端に価値が上がるよな
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 08:29:41.02 ID:ejZR4ZHDO
かわいい乙
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/17(木) 00:28:41.16 ID:LRAV7I2Po
これプラモネタ分かる人は俺より数段楽しんでるんだろうな〜

乙乙
493 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/17(木) 13:53:11.85 ID:1PHjPp0ko
>>353からの分岐になります
第十二話(麻奈実√)

2月が過ぎようとしていて、日ごとに暖かくなっていくのを実感する。
来年の今頃は俺も受験で忙しくなっていることだろう。俺としても、残り少ない高校生活ってやつをを有意義に過ごしたい。
沙織たちと一緒にわいわい騒ぐのも決して嫌いじゃないし、むしろ楽しいのだが、やっぱりたまにはのんびり過ごす時間が欲しい。
そんなわけで、俺は休日の朝から幼馴染の家で日向ぼっこと洒落込んでした。
空には雲ひとつなく、気温はほんの少し肌寒いくらい。日向ぼっこには最適だ。
暖かい春の日差しの中の日向ぼっこも悪くないが、こんな季節の日向ぼっこの方が太陽の暖かさを感じることができて俺は好きだ。

「きょうちゃん」

縁側に座り、足を投げ出すような恰好で仰向けに寝転んでいた俺に、幼馴染が声をかけてきた。
ゆるい喋り方が特徴のこいつは田村麻奈実。俺の幼馴染にして、和菓子屋・田村屋の娘である。

「お茶入ったよ」
「さんきゅー。ちょうど喉が渇いてたんだよ」

急須と二つの湯呑が乗ったお盆を持ってきた麻奈実が俺の隣に腰を下ろす。そして、こぽこぽと湯呑にお茶を注いでくれた。
こいつが淹れてくれるお茶って妙に美味いんだよなあ。こいつの腕がいいのか、田村家のお茶葉が良質なのかは知らないけどさ。
身体を起こし、麻奈実から湯呑を受け取り、ずず……と音を立てて茶を飲む。

「……ふう」

本当に落ち着く。こんな時間がいつまでも続けばいいのにと思ってしまう。
と、俺はにこにこと笑う麻奈実に気が付いた。いや、こいつがにこにこしているのはいつものことなんだけど、ただのにやけ面とは違ったんだ。
多分、この違いがわかるのは世界で俺一人だろう。

「どうした?」
「んふふ〜。きょうちゃん、おじいちゃんみたいだなあって」
「……悪かったな、爺臭くて」

そういうお前は婆さんみたいなくせに。俺もおまえにだけは言われたくないよ。
今まで何度繰り返したかもわからないやりとり。だけど、だからこそ俺の最も落ち着く場所はここだと断言できる。
湯呑を一旦お盆に戻し、再び仰向けに寝転がる。
今日は昼まで日向ぼっこして、昼からは気温も上がるだろうし公園にでも散歩に出掛けて……
脳内で今日一日のんびり過ごすための予定を立てる。こんな平穏な休日は久しぶりだ。

『SECRET×2 OF MY HEART I SHOW YOU IT なう。 だ・か・ら 人生相談っ!ちゃんと 責任持って聞いてよね〜♪』

唐突に俺の携帯の着信メロディが流れる。
黒猫風に言うならばそれは、俺を平穏な休日から引きはがす悪魔の呼び声だった。



が、俺はそれを無視。そして、慌てず、静かに携帯の電源を切る。

「よかったの、きょうちゃん?」
「いいんだ。今日はゆっくりしたい気分だったからな」

あいつらとわいわい騒ぐのは嫌いじゃないが、俺にはやはりこんな風にほのぼの過ごすのが性に合っている。
ビバ凡庸、ビバ平穏な日常だ。
そして、隣にこいつがいてくれればもう何も言うことはない。

「?」

幼馴染は、俺の視線の意味を理解できず頭上に?マークを浮かべている。

「ふあぁ……ねみい」
「じゃあ、お昼寝しよっか」

そう言うと麻奈実はてきぱきとお茶を片付け、座敷から座布団を取り出し即席の枕を作る。
そのまま二人して横になり、会話もせず、ただひたすらにぼーっとする。
こいつといる限りずっとこんな日々が続くのだろう。それこそ一生な。

「それも、悪くないな」

暖かな日差しの下、俺はそんなことを考えながらそのまま眠りに落ちて行った。


俺の妹が身長180cmなわけがない麻奈実√
おわり
494 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/17(木) 14:00:46.93 ID:1PHjPp0ko
今日はここまで
麻奈実√はあくまでおまけなのですごい短いけど許してね

>>488
まさか語れる人がいるとは
先日、某スレのコンペ用に押し入れ漁ってたらスペリオルカイザー出てきてわろた

>>489,491
ありがとう。沙織√は構成0からだから少し時間かかるかも知れないけど気長に待っててくれると嬉しい

>>490
俺も大半もってたはずなのに今は一つしか残ってないよ。後悔先に立たず

>>492
プラモネタわからない人から見て今の頻度ってどうなんだろ?くどくないだろうか?
もう少し減らして別の話題で盛り上げた方がいいのかな?
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/17(木) 18:35:09.92 ID:YJL/u6sa0
おつ
ってことはおまけのあやせ√も……?
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/03/18(金) 13:13:45.99 ID:pGUM9Rpt0

麻奈実ルートが予想以上に短かったけど、何もないからこそだからな
よかったわ

プラモの部分はあくまでネタだし、このくらいでいいと思うよ
497 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/18(金) 23:57:18.85 ID:SuOMxSvNo
沙織回のネタが思いつかない。誰か助けて
あやせ√は申し訳ないけど無理っぽいなあ……そのうち総合スレにあやせ√投下するからそれで許してくれ

関係ないけど、明日は大学の卒業式。ぼっちの俺は胃が痛いです
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/19(土) 02:10:11.98 ID:DlZas/gU0
沙織ルートに関しては思うまま好きにやってほしいな
個人的にはハッピーエンドにさえなってくれれば何でもイケるb


ぼっちを卒業するんだと割りきれっwwwwwwwwwwwwwwww
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/19(土) 11:09:57.87 ID:OKTbsi3Lo
誕生日にゴニョゴニョ…とか?
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/19(土) 14:55:14.39 ID:IS4FDEuDO
あやせSSあるのか
超期待
沙織は正直思い付かんww
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/03/19(土) 17:47:52.00 ID:ruIbPRG2o
あやせ√ならネタは思いつくのだけど、沙織√はさっぱりだ
502 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/19(土) 17:57:47.62 ID:BTEDHaXWo
>>356から
第十二話分岐

「じゃあ、沙織と組むわ」


見方を変えれば、これはある種のチャンスと言えるのではないだろうか。
これを機に、桐乃と黒猫がもっと仲良く――いや、既に仲良しなのはわかっちゃいるが、更に仲を深めるチャンスだ。
もしかすると、ゲームでも奇跡的な相性の良さを見せるかもしれないしな。
幸い大会までは後一週間ある。こいつらだってその間にみっちり練習するだろうし、そうそう不甲斐ない結果にはならないはずだ。
ぶっちゃけると、こいつらと組むと俺の精神が持つ気がしないってのもあったけどな。

「……拙者で……よいのですか?」

俺が言ったことが信じられない、というように改めて俺の意思を確認する沙織。
どうでもいいけど、そのござる口調なんとかならないの? 普段の沙織を知っている人間からすると違和感が半端じゃない。
……まあ、今さら何言ってんだって感じではあるが。

「いいんだよ、俺がそう決めたんだ。確か決定後はお互いに文句は言わない約束なんだよな?」
「た、確かにそうでござるが……」

沙織は未だ納得がいかない様子。どうしてすんなり受け入れないんだろ。
そんなに桐乃と黒猫を組ませることが心配なのだろうか? ま、その気持ちはわからんでもないけどな。

「大丈夫だって。こいつらだって喧嘩するために参加するわけじゃないんだからさ」
「……うう、わかりました」

渋々ではあるが、ようやく折れてくれた。
ふう、ようやく納得してくれたか。それにしても心配しすぎだろ。
桐乃と黒猫の相性の良さを早々に見抜いたのは他ならぬ沙織、おまえなんだからもっと安心していいと思うんだけどな。
……ひょっとして俺と組むのが嫌だったってことはないよな? 
いや、ないな。あの沙織に限ってそれはないよな。…………多分。
503 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/19(土) 17:58:14.30 ID:BTEDHaXWo
大会当日。俺たちはシスカリ大会に参加するため、秋葉原に集まっていた。
この一週間、沙織はつきっきりで俺の特訓に付き合ってくれた。桐乃と黒猫も秘密特訓をしていたらしいが、果たしてその成果やいかに。

「そういえば、大会ってどこでやんの?」
「会場はso○map内のイベントフロアとなります。すぐそこですな」

沙織たちの後に続き、会場へと移動する。
会場は既にオタクたちで埋め尽くされており、イベントが始まるのを今か今かと待ち構えていた。

「……結構な人数来てんな」

まさか全員が参加者ってわけじゃないだろうが、それでもざっと見回して100人以上はいるように見える。
こいつらとやりあって勝てるんだろうか、黒猫たちはともかくとして。なにせ相手は沙織や桐乃、そして黒猫よろしく本気でこのゲームを愛しているような奴らなのだ。
俺、すっかり自信なくなってきたぜ。

「大丈夫です、お兄様。あれだけ特訓したのですから。それに、何事も参加することに意義があると申しますし」

自信喪失気味なのを見かねてか、沙織は快活な笑みを浮かべ俺を励ましてくれた。
ほんと、こいつには俺の考えることが筒抜けだな。

「ありがとな」

すると沙織は、いつも通りに口をこんなふうωにしてにま〜と笑ったのだった。

結果から言うと、俺と沙織は3回戦負けだった。
特訓の成果や組み合わせの運も重なり、1,2回戦を突破することに成功したのだが――
所詮は付け焼刃。自力の差が露呈し、敗北と相成った。
ちなみに、桐乃と黒猫は1回戦負けだった。
なんというか……案の定足の引っ張り合いを展開してしまった結果がこれである。
それでも試合終了後には

「あんたのせいだかんね!」
「ふん、あなたがのろまなのが悪いのよ」

と、いつもの二人の様子を見せてくれたので心配はいらないだろう。

「賞品、残念だったな」

あと2勝していればお目当ての賞品が手に入ったんだけどな。残念ながら手元にあるのは1回戦を突破したチームに与えられたストラップだけだ。
そして、まことに残念なことにこのストラップ。なんというかエロい。
描かれているキャラクターは半裸であり、しかもロリ属性ときたもんだ。
いや、エロゲが元なんだから当然なんだけどさ。これじゃあ携帯につけるわけにゃあいかないな。
普段使えないものを貰ってもなあ……。

「……きもっ。なにマジマジと見つめちゃってんの? この変態」
「ちっ、ちげーよ! そういう意味で見てたんじゃねえ!」
「あら、ならばどういう意味で見ていたのかしら? ロリコンでシスコンの兄さん?」
「黒猫、おまえまで!?」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ俺たちをよそに、沙織は手に入れたストラップをにこにこと見つめていた。



第十二話(沙織√)おわり
504 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/19(土) 18:02:53.43 ID:BTEDHaXWo
とりあえず分岐部分をば。また今日の夜に13話投下しに来ます

>>499
沙織って誕生日決まってたっけ?

>>501
ぜひ聞きたい。総合スレ投下用にあやせネタが欲しかったんだ
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/03/19(土) 18:14:20.12 ID:ruIbPRG2o
いや、桐乃√の派生で、
きりりん告白→きりりん玉砕→きりりん病む→きりりん何度もやってくる
→これは参った→よし偽恋人作って対処だ→助けてあやえもん!

ってのが閃いただけなんだがww
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/19(土) 18:21:29.26 ID:RZFloZHpo
それは・・・悪くない
507 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/19(土) 21:20:32.73 ID:BTEDHaXWo
第十三話(沙織√)

季節が巡るのは早いもので、外に出てみれば今はもう桜が舞っている。
それなりにのほほんできた春休みも明け、今日は始業式。今まで幾度も迎えた新学期の朝である。
めんどくせえなあという憂鬱な気分と、何かが起こるんじゃないかというわくわくを胸に階段を下りる。
そのままリビングへと続く扉を開き――そして、俺は言葉を失った。

「お兄様?」
「はっ!?」

沙織に呼び掛けられ、ようやく我に返る。

「大丈夫ですか?」
「あんた……始業式の朝から寝ぼけてる場合じゃないでしょ」
「たるんどるんじゃないのか?」

素直に心配してくれる沙織とは違い、辛辣――ってほどでもないが、厳しい言葉をくださる両親。
いやいや、親父にお袋もなんでそんなに落ち着いてられるんだ。
これはもしかして一大事なんじゃないのか? いったい何がどうしてこうなった?

「なんで……」
「?」

ようやく絞り出した声はかすれ、うまく言葉にならない。聞き取れなかった沙織が疑問の表情でこちらを見ている。
俺は、一呼吸おいて、すうと大きく息を吸い込んでからこう叫んだ。

「なんでおまえがその制服を着ているんだああああああああああ!」

沙織が着ているのは、我が高校の制服そのものであった。
どういうこと!? 沙織はお嬢様学校の高校へエスカレーター式に進学するんじゃなかったの!?
まさか、問題起こして放り出されたの!? いやいや、沙織に限ってそんなことあるわけないだろ! 
じゃあ、これはどういうことだ!? 何がどうしてこうなった!?
もはや俺の思考は滅茶苦茶だ。まとまる気配すらない。

「落ち着いて下さいお兄様」

沙織はまるで子供をあやすように優しい口調で語りかる。

「私がお父様とお母様に頼んだんです」
「……はい?」

どういうこと? まさか、沙織が自分から俺のいる高校へ行きたいと言い出したってこと?

「その通りですわ」
「いやいや、何でわざわざそんなことを」

沙織がブラコンなのは知ってたが、それで自分の進路を決めちまうほど愚かではないと思っている。
だから、何かやむにやまれぬ、特別な事情があったんだと思う。ではその事情っていったいなんだ?

「……何があったんだ?」
「それは登校の途中でお話します。今は朝ごはんを食べましょう? このままでは遅刻してしまいますから」
508 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/19(土) 21:22:54.09 ID:BTEDHaXWo
「で? 俺の高校に来た理由ってなんだ?」

いつもの登校路を沙織と連れだって歩く。見慣れた風景のはずなのに今日はえらく新鮮な気がするぜ。
単純に春休み明けってものあるんだろうけどさ。

「実はそんなに大したことではないんですけど……単純に遠かったからです」
「えっ? それだけ?」
「はい。今まで通っていた中学校とは少し違う場所に校舎があるものですから」
「ふーん」

はっきり言って拍子抜けだった。まさかそんな単純な理由だったなんて。
でも、本当にそれだけか? ……はっ!? まさかいじめにあっていたとかじゃないだろうな!?
進路を変えるという人生に大きな影響を与える事柄であるから、最低でも両親には話さざるを得ないが――
こいつのことだ、俺には無用の心配をかけまいと黙っているはず。
だとしたら俺はそんな沙織に今まで気づいてやれず――

「ふふっ、そんな顔しなくても大丈夫です。いじめが原因ではありませんよ?」
「ぐっ……」

どうやら、本当に俺の心は筒抜けらしい。それとも顔に出過ぎるのがいけないのか。

「で、でも、大学進学のことも考えたらあっちの方がよかったんじゃないのか?」

実際、うちの高校は平凡そのものの進学率だぞ? あるのは普通科だけで、理数科だったりの特別進学コースがあるわけでもないし。

「それはあちらでも同じですから。一貫の大学には行きたい学科はありませんし。ですから、大学受験を考えるならどちらでも一緒なんです。経済的にはこちらの方が圧倒的に安上がりですし」
「そうは言ってもな」

沙織の言うことはもっともだ。付属の大学に行きたい学科がないのなら、普通に考えてうちの高校に来るのが妥当だと言える。
だけど、なぜだろう。このもやもや。腑に落ちないというか、なんとも言えないこの感じ。

「それとも、私が一緒では迷惑でしたでしょうか?」

うるうると目をうるませ、しょんぼりと項垂れる沙織。

「そ、そんなことないぞ! 俺だって一緒の高校に行けて嬉しいって!」

まるで恋人同士の会話だな。俺はいつからこんなシスコンになってしまったのか。
自分が言った内容に呆れ、自嘲気味に笑う。
すると、どこからともなくこんな声が聞こえてきた。

「あの子、超かわいくね? でかいけど」
「どの子? うお、まじだ。超かわいい。 でかいけど」
509 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/19(土) 21:26:02.53 ID:BTEDHaXWo
途端に、さっきまで感じていたもやもやが急速に膨らんでいく。
この瞬間、はっきりと理解した。今までは沙織が通っているのが女子校だったもんだから、こんな気持ちを感じることはなかったんだな。
そう、これはいわゆる親心というやつだ。……おまえは兄貴だろという突っ込みはなしだぞ。
そこら辺の男が沙織に言い寄ってくるかもしれない。どこぞの馬の骨ともわからんやつが沙織をかっさらっていってしまう可能性がある。
そんなことを考えただけで、俺の心はかき乱され一向に落ち着かない。
沙織が彼氏なんて連れてきた日にゃ、俺はまだ見ぬそいつをきっとぶっ飛ばすだろう。
別にそいつが憎いわけじゃない。ただ、それぐらいやらんと気が済まないのだ。

先ほどの声のを発した男たちをじろりと睨み付け「手を出したらぶっ殺す」と、視線で威嚇。これは最上級生だからできる芸当だ。
……これから毎日こんな思いをして過ごさねばならないのか。とてもじゃないが身が持たねえ。
世間のシスコン様はこういうとき一体どうするんだ? いったいどうやって心を落ち着けるのだろうか。
あーあ、誰か近場にシスコンの兄貴がいねえもんかな。そうそういるもんじゃないってのはわかってるけどさ。

しばらく歩くと、いつもの場所で俺を待っている麻奈実が視界に入った。
ぱたぱたと鞄をせわしなく動かしている。

「あ、きょうちゃん、おは――」

いつもの間延びした挨拶をしようとしたところで、そのまま固まる麻奈実。
その目ははっきりと見開かれ俺の隣に立つ美少女を見据えている。

「よう、おはよう」
「おはようございます、麻奈実さん」
「えっ? あ、おお、おはようございます」

慌てて挨拶し返す麻奈実。なに慌ててんだ? おまえら初対面じゃねえだろ。
しかし、慌てていても麻奈実の綺麗なお辞儀の形は崩れない。

「きょうちゃん。え、え〜と、どちら様?」
「何言ってんだ、沙織だよ。妹の沙織」
「よろしくお願いいたします」
「ほ、ほんとに沙織ちゃん? あ、あれ〜、この前はこんな風じゃなかったよね?」

……忘れていた。前に会った時はたしかバジーナ状態の沙織だったな。
その前に会った時はまだ小さかったし、まさか沙織がこんな美少女に成長するとは思ってもいなかっただろう。

「あ〜なんだ。深くは詮索しないでやってくれ」
「う、うん。わかった。じゃあ、改めてよろしくね沙織ちゃん」
「はい。麻奈実さん」

そこからは3人で、他愛ない会話を交えながら、のんびりといつもの登校路を歩いていく。
某アニメには登校路がきつい坂道なのを愚痴っている高校生が登場するが、その点俺たちの学校は平地にあるからな。
そこに関しては千葉県gjと言わざるを得ない。
夏場とか大変だろ、あれ。しかも兵庫県下、特に北摂地域の高校は、そのほぼ全てが山の上に作られているらしい。
どうして兵庫県はあんなところに学校作っちゃうんだろうな。やめてやれよ。
と、実にどうでもいいことに考えを巡らせていると、少し先の道路を黒猫が横切った。
朝からなんて不吉な――という方の黒猫ではない。ましてや宅急便でもない。
510 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/19(土) 21:27:25.02 ID:BTEDHaXWo
「あ、あれ? 今のって……」
「黒猫さん――みたいですね」
「どうしたの? きょうちゃん、沙織ちゃん」

急いで黒猫らしき黒髪の少女を追いかける。どうやら向こうは俺たちに気付いていないようだ。

「く、黒猫?」

手が届くまであと少しの位置まで迫ったところで、その黒髪の少女に声をかけた。
その少女は上半身だけでこちらを振り返り、得意げにこう言った。

「おはようございます、先輩」
「く、黒猫……まさか、おまえも同じ高校だったのか」

黒猫が着ている制服は、見慣れた、俺の高校の制服だった。

「ええ、本当はもう少し黙っていようと思っていたのだけれどね。……あれ? おまえも?」

それまでにんまりとしていた黒猫が俺の言葉に違和感を感じとった時、後方から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

「お兄様、お待ちになって下さい」
「きょうちゃん待って〜」

はあはあ、と仲良く息をきらして沙織と麻奈実が追いついてくる。

「ひどいです、お兄様。私たちをほったらかして行ってしまうなんて」

沙織が俺を責め立て、その隣では麻奈実がうんうんとしきりに頷いている。

「すまんすまん。でもおかげで黒猫に追いつけたんだし、許してくれよ。なっ、黒猫」

同意を求めるべく黒猫の方に向き直ると、当の黒猫は目を丸くして棒立ちになっていた。

「な、なぜあなたが……こ、ここに、その暗黒聖闘士を纏って立っているの?」

いつから俺の高校の制服は暗黒聖闘士に衣替えしたんだ。
震える指で沙織を指さし、質問する黒猫。その表情には驚きの他に恐怖すら垣間見える。
まあ、こいつとしても沙織がここにいるのが不思議でしょうがないんだろう。俺だっててっきりエスカレーター式に進学すると思ってたからな。
とはいえ、俺が言えた義理ではないが、いくらなんでも驚きすぎだろ。なんでそんな何かにびびってるみたいなリアクションなんだよ。

「実は少し事情がありまして。詳しいことは後程」
「くっ……まあ、いいわ」

びびっていると思ったのもつかの間、あっというまにいつもの黒猫に戻ってしまった。

「黒猫さん――だっけ? おはよう〜」
「…………おはようございます」

麻奈実の挨拶に、一応返事を返す黒猫。……すっげー渋々だったけどな。
おまえはいつまで麻奈実を目の敵にしてるんだ。
ともあれ、今はそんなことを追求している場合ではない。

「やべ、ちょっとのんびりしすぎた。初日から遅刻しちゃまずいし、急ごうぜ」

そんな俺の言葉に対して三人は三者三様に頷いたのだった。



第十三話(沙織√)おわり
511 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/19(土) 21:31:30.45 ID:BTEDHaXWo
今日はここまで。さて、これからどうしてやろうか

>>505
おお、以前提案してもらったやつだね
実はそのネタ上手くオチを付けられる自信がなくて諦めたんだよね。力不足で申し訳ない
今日はこの後総合スレにあやせ√も投下してくからそっちもよろしく
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/19(土) 23:24:39.50 ID:pWbvGFtP0
乙っ

今から総合に張り付きます
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/20(日) 02:21:47.78 ID:fO+eKznV0
総合のあやせ√乙!

続けてくれ
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/21(月) 01:00:21.96 ID:LvDjby6AO
闘衣ではなく闘士を纏っているだと…
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/03/21(月) 02:42:34.45 ID:+01gReEco
つまり二人羽織
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/21(月) 10:03:56.33 ID:LvDjby6AO
二人沙織に見えた
517 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/21(月) 10:08:39.11 ID:wKKzmEQYo
俺もそう見えてわろた


盛大に失敗<×聖闘士○闘衣
やっぱり聞きかじりの知識で書くもんじゃないな。反省
実はロボット物しか詳しくないからなあ
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/21(月) 10:52:40.95 ID:LnlVdFrGo
早見沙織ちゃんが2人とかどこのパライソ
519 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/22(火) 18:01:04.56 ID:/jaFti/Vo
第十四話(沙織√)

始業式終了後、俺と沙織と黒猫の三人で改めて俺の家に集まることになった。
桐乃も誘ったのだが、部活があるとのことで残念ながらいつもの面子が勢ぞろいとはいかなかった。

「いやあ、黒猫氏の制服姿は新鮮でいいですなあ!」
「そういうあなたはなんでいつものござる口調なのよ」

いつものオタクファッションならいざ知らず、制服着た女子高生がぐるぐる眼鏡を装備してござる口調で喋るというのは……見るに堪えない。
なんというか、心のどこかが痛い。お願い沙織。せめてどちらかに統一して。

「う〜む、どうも不評なご様子。しからば着替えますゆえ、しばらく外でお待ちいただいても?」
「あいよ」

結局、いつものオタクファッションに落ち着くわけね。
すっくと立ち上がり、ドアを開けてそのまま沙織の部屋を出る。すると、なぜか黒猫も俺に続き部屋を出る。

「あれ? おまえも出るの?」
「私にのぞきの趣味はないのよ」

のぞきって……女の子同士で何言ってんだ? まさか、そっちの趣味があるんじゃないだろうな?
藪蛇になっても困るから深くは追及しないけどさ。

「沙織も言ってたけど、制服姿も新鮮でいいな」
「…………莫迦じゃないの?」

途端に、むすっと不機嫌になる黒猫。
あ、あれ? 沙織が言った時は何もなかったのに、何で俺が言うと不機嫌になっちゃうの?
女の子の、とくに黒猫の考えることはさっぱりわからん。

「お待たせいたしました!」

沙織の大きな声とともに勢いよく扉が開き、その勢いのまま扉が俺に打ち付けられる。

「っぐぐ……」

顔面を抑えうずくまる俺。ふっ、と鼻で嗤う黒猫。慌てて俺に駆け寄る沙織。
ここに桐乃がいれば、ぷっと吹きだしていたことだろう。



「そういえばさ」
「どうされました?」
「入学式の日、おまえその制服着てたっけ?」

ゲームやアニメの話題で盛り上がっていた最中の、唐突な話題の転換に沙織と黒猫は少し驚いたような顔をした。
別に今聞かなければならないようなことではないのだが、思わず口をついて出てしまったのだ。
俺の記憶によると、うちの学校で入学式が行われたはずの日、沙織は普段着だったと思うんだが。
出掛ける瞬間と帰ってきた瞬間を目撃したわけじゃないから、出掛ける寸前と帰ってきてすぐに着替えたってんならそれまでなんだけどさ。
520 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/22(火) 18:02:41.36 ID:/jaFti/Vo
「その通りです。ぎりぎりまで引っ張ってお兄様に盛大に驚いて頂こうと思いまして」
「……そうかい」

俺を驚かせるのがそんなに楽しいんだろうか?
そんな沙織の策略に見事にはまり、大声をあげて驚いてしまったことはまだ記憶に新しい。

「『なんでおまえがその制服を着ているんだあああああああ』ってな具合に、盛大に驚いておいででしたな」
「ぐっ……」

俺の恥ずかしい記憶を思い出させるんじゃない! しかも黒猫の前で!

「いや〜、お兄様のあのときの顔といったら。是非瑠璃ちゃんにも見せてあげたかったでござる」

何か言い返してやりたいのは山々だが、驚いてしまったのは事実なのでどうしようもない。
ちくしょう。何かしら反論の余地は――

「ん? 瑠璃ちゃん?」

誰それ。初めて聞く名前だけど。
沙織が黒猫とアイコンタクトを交わす。黒猫が頷くと、沙織は“瑠璃ちゃん”の正体について語ってくれた。

「五更瑠璃。黒猫氏のほんみょ――いや、人間界での仮の名前です。数字の五に夜が更けるの更、瑠璃色の瑠璃と書きます。ねっ、瑠璃ちゃん」
「……その名前で呼ぶのはやめてちょうだい」

五更瑠璃。それが黒猫の名前らしかった。
ふーん。なんというか……当たり前のことなんだけど、黒猫にも本名があったんだな。なんだか妙に感慨深い気分だ。

「これからも黒猫――でいいんだよな?」

呼び方について黒猫に確認をとる。
今さら呼び方を変えようとは思わないし、今となっては普通の名字よりも黒猫というHNで呼ぶ方がしっくりくる。
それに先ほど、その名前で呼ぶなと黒猫本人が言ったばかりだからな。

「…………ええ。そうしてちょうだい」

黒猫は端的にそう答えた。ちょっと間があったのが気になるけど、まあ本人がそうしてくれと言うんだから問題ないだろう。

「さてと、お茶とお菓子でも取ってくるわ」
「あっ、そういうことでしたら拙者が――」
「いいって。気にすんな」

一つの話題が終わったところで、せっかく我が家を訪ねてくれた友人にお茶を出し忘れているのに気付いた俺は、自分が行こうとする沙織を制してリビングへと向かった。





「京介、おまえに話がある。食事が終わったらわしの部屋まで来い」

始業式の日つまり黒猫の本名が判明したその日の夜。
夕食時、親父にいきなりこう切り出された。

「あ、ああ。わかった」

おふくろや沙織は何事かと目を丸くしている。
そして、親父が先に食事を終え自室に引っ込むとこぞって「何かあったのか」だの、「何かやらかしたのか」だのと聞いてきた。
何があったのかは俺が聞きてえくらいだよ。
沙織は単純に心配してくれてるだけだと思うが、おふくろは面白がってやがるな。さっきから顔が半笑いになってるぜ。
521 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/22(火) 18:03:37.70 ID:/jaFti/Vo
「ごちそうさま」

親父に続き俺も夕食を終え、親父の部屋へと向かう。
今にも胃に穴が開きそうだ。俺、なんかしたかな……。

「……失礼します」

意を決して、鬼の住まう場所に通じる扉を開く。
その瞬間、ツンと酒の匂いが鼻をついた。どうやら食後だというのにまだ飲んでいるようだ。

「まずはそこに座れ」

親父に促されるまま、ガラステーブルを挟んで親父の向かい側の椅子に腰を下ろす。
張り詰める緊張の中、かちかちと時計の針の音だけが響く。
なんだ……親父は俺に何の用事があるんだ。説教ならいっそ早くしてくれ。
まだ俺が部屋に入って1分も経っていないが、あんまり長引くと俺の胃がもたないぞ。
俺が部屋に入って5分ほど経ったころだろうか。ようやく、親父が口を開いた。

「京介、実はおまえに相談があるんだが」
「…………はい?」

それから約十分後。
親父の部屋を出ると、沙織が心配そうな顔をして俺を待っていた。

「あ、あの。いったい何があったのですか?」
「気にすんな。大したことじゃなかったよ」
「で、でもお兄様の怒鳴り声も聞こえましたし……」
「大丈夫だ。別に喧嘩してたわけじゃないからさ」

あまりにも馬鹿馬鹿しくて笑い話にもなりゃしねえ。

「大したことないのなら何があったか教えてください」
「それは駄目だ」

ぴしゃりとはねつけ、渋る沙織を強引に諦めさせる。
こればかりは沙織が泣いて頼んでも口を割るわけにはいかない。
なんせ、親父の沽券と威厳にかかわる話だからな。





「そういえば、おまえは部活とか入らねえの?」
「部活――ですか?」

沙織たちが俺の高校に入学してきてから一週間が経った頃。
夕食後に沙織の部屋で、かねてから気になっていた疑問を尋ねてみた。

「気になる部活もありませんし、今のところその予定はありませんが……なぜいきなり?」
「い、いや、別に他意はないんだ。ちょっと気になっただけでさ」
「そうですか」
522 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/22(火) 18:04:58.50 ID:/jaFti/Vo
そう、他意はないんだ。あくまでもちょっと気になっただけで。
別に親父から“沙織の学生生活に探りをいれ、野郎がいる部活に入ろうとしているならそれとなく別の部活に誘導するように頼まれた”わけじゃないぞ。
親父に頼まれたのは“近づくやつがいるなら容赦なくぶん殴れ”だ。
さすがにそれは駄目だろ! と、思わず突っ込んだのだが親父は至って真面目な顔で「傷害程度なら俺がもみ消してやる」とのたまった。
もはや犯罪じゃねえか! 職権乱用もいいとこだよ! 
親父のやつ、どんだけ娘を溺愛してるんだ……。
ともあれ、今の所沙織はなにかしらの部活に所属する気はないようだ。それですべてが安心ってわけじゃあないけどさ。

近づくやつがいるなら容赦なくぶん殴れ。
実に馬鹿馬鹿しい話ではあるが……俺としても親父の気持ちはわかる。俺だって、先日その気持ちを味わったところだからな。
どこぞの馬の骨ともわからん男に沙織はやれん。
この一点において、俺と親父の気持ちは完全に一致していた。
俺が卒業するまでの間、全力で沙織につく虫を排除する。俺はそう決めたんだ。

「黒猫はどこか入るって言ってたか? たしか同じクラスなんだろ?」
「黒猫さんも部活に入るつもりはないようですわ」
「そっか」

黒猫の方は、正直そうじゃないかと思ってはいた。
あいつのことだからクラスに馴染むのにも時間がかかると思う。あいつの性格はややこしいからなあ。
その点、沙織と同じクラスで本当によかったと思う。沙織ならばうまいことクラスの人間との橋渡し役になってくれることだろう。

「それに、部活に入ったらきりりんさんや黒猫さんと遊ぶために割ける時間が制限されてしまいますから」

なるほど。沙織らしい答えだ。
気になる部活がない。というのも確かに部活に入らないことの一因ではあるのだろうが、恐らく、こちらの方が主な原因であるはずだ。
まあ、部活に入ったからといって遊ぶ機会が劇的に減るなんてことにはならないとは思うけどな。
なんだかんだで寂しがりなんだなあ、こいつ。

「あと――」
「うん?」
「もちろんお兄様と私の時間も」

そう言って微笑みながら顔を寄せてくるもんだから不覚にもどきりとしてしまった。
……くそっ、その台詞と行動はちょっとずるい。そんなことはありえないと頭ではわかっていても、沙織の言葉はどうしてもあらぬ妄想を抱かせる。
多分沙織もそれをわかってやっているはずだ。
妹相手にこんな気持ちになってしまうとは……俺はシスコンを通り越して変態鬼畜兄貴になってしまったのだろうか。
……それもこれも全て桐乃が寄越したエロゲのせいに違いない。

「そういえば、今作ってるプラモのことで聞きたいことがあるんだが――」

逃げるように露骨に話題を変える。ここまでわかりやすい敗北宣言もなかなかないだろう。
ちくしょう。なぜ俺が実の妹に対して照れなくてはならんのだ。
依然として沙織はにやにやと、こんな口ωをしてこちらを見つめている。
……なんかこいつ性格悪くなってねえか? いや、人間として駄目な方向に向かっているって意味じゃないから別にいいんだけどさ。
これも桐乃や黒猫の影響だろうか。だとしたら恨み言の一つでも言ってやりたい気分だ。おまえらの影響で沙織が変わっちまったんだがどうしてくれるんだ、とな。

顔を赤くし、ともすれば今にも妹の冗談を真に受けてしまいそうな兄を、いかにも「満足しました」と言わんばかりの満面の笑みを浮かべながら見つめる沙織。
そんな妹様を見て俺はこう思ったのさ。
俺の妹が、こんなに意地悪なわけがない――ってな。



俺の妹が身長180cmなわけがない
おわり
523 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/22(火) 18:07:08.44 ID:/jaFti/Vo
終わった!

当初近親√も試みたが俺には無理だったんだ。どうしても三次妹の顔がちらついて……
そして急遽路線変更したために、オチに関してはこれが限界だった
そっち期待しては人には申し訳ない

貴重な意見やアドバイス、更には話のネタまでいただいたりと、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
気が向いたらまた総合スレの方に投下しに行くかもしれませんが、その時はよろしくお願いしますね。
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/22(火) 18:21:57.59 ID:mfxWBXeLo
とりあえず誤字があったので

俺の妹が身長180cmなわけがない
おわり ×
→ つづく ○


ひとまずお疲れ様です
沙織なら近親でもありかなと思っていましたが、
このままでもすっとした感じでしたね
別にこのまま瀬菜ちゃんとの絡みもあってもいいんだよ?
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/03/22(火) 18:23:45.83 ID:xM08QQ1Uo


メルルイベントの代わりにガンダムコスプレコンテストでもやるのかと思ったが、そんなことはなかったぜ
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/22(火) 23:31:31.77 ID:MGPBSxH40


沙織がいるなら黒猫の学園生活も超イージーモードでコンティニューだなwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/23(水) 00:14:35.17 ID:9D+iNbSq0


あやせの人生相談を受けるあやせ√もあるんですよね!?
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/23(水) 01:50:38.77 ID:TvS24s0io
あれ、父親ルートがまだなんだけど?
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/23(水) 02:46:59.90 ID:X2QEaqw/o
加奈子√とブリジット√と赤城√も
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/23(水) 16:29:18.15 ID:NJ6il+9f0
>>529
お兄ちゃんルートは重要ですよね!
フヒヒwwww
531 : ◆5yGS6snSLSFg [sage saga]:2011/03/23(水) 16:48:47.85 ID:9Opt5nWko
申し訳ないとは思いますが、続かんのです
余力があればあやせ√は書いてみたかったんだけども


長々と2か月近くもお付き合い頂きまして本当にありがとうございました
ちょっと休んだらまた総合スレに投下しに行くからよろしくね
あっちでもネタ援助して頂けると喜びます
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/03/23(水) 18:02:03.77 ID:AWwbwojAO
まだ地味子のおじいちゃんルートが…

しゃあないな、乙!
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/03/24(木) 14:31:35.98 ID:ChC7UAyIo
おつかれした!
面白かったよ!
また書いてね!
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