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とある夏雲の座標殺し(ブルーブラッド) - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 23:59:52.24 ID:WVhYFwAO
※吸血殺し(姫神秋沙)×座標移動(結標淡希)です。

※時間軸は第三次世界大戦から本編終了後の世界観です。

※百合要素が苦手な方はご遠慮下さい。

※投下は非常にマイペースです。ご了承下さい。
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 00:02:40.50 ID:afA5KsAO
結標「――貴女、名前は?」

姫神「――秋沙。姫神秋沙。貴女は?」

結標「――淡希、結標淡希」

姫神「淡い希(のぞみ)だなんて。幸が薄そう」

結標「秋(あい)の沙(すな)だなんて不毛な名前よりマシよ」

小夜時雨が降りしきる夜に、私が居候している部屋に駆け込んで来た一人の少女。

何でも、彼女もかつて月詠小萌を家主としたこの部屋に転がり込んで来たらしい。言わば居候の先輩である。

名乗り合った後は、お定まりの自己紹介。聞けば彼女は私より一つ年下で、特別留学扱いとして籍だけ置いている霧ヶ丘女学院に通っていたらしい事もわかった。つまり私の後輩に当たる。

姫神「雨が止んだら。寮に帰るから」

結標「好きにしたら?私だって居候なんだし、元々貴女の方が先輩なんでしょう?小萌だってそろそろ帰って来るでしょうし、ゆっくりしていったら?」

ゴシゴシと手渡したタオルで墨黒を流したような艶やかな髪を拭く。
その煉乳を溶かし込んだような肌と、この上なく整っていながら表情というものに乏しい横顔を私は卓袱台に頬杖をつきながら見やった。

結標「(変わった娘ね…この娘といい私といい、変わり者ばっかり拾って来るあんたも相当変わってるわよ、小萌)」

目を切って閉ざした瞼に浮かぶのは年齢不詳はおろか歩く年齢詐称とも言うべき家主の姿。
今日もあの小さな身体で生徒のために駆け回っているのだろうななどと思う。
学校には『窓のないビル』の『案内人』を務めてより通っていない。
もし小萌のような教師が担任だったならそれはそれで退屈しないだろうなとも。
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 00:03:39.58 ID:afA5KsAO
結標「(…コーヒーくらい淹れてあげるべきかしらね。雨に当たっちゃったみたいだし)」

などと考えながら瞼を開く、するとそこには―――

姫神「………………」

結標「…何かしら?私の顔に何かついてる?」

卓袱台を挟んで何処へと視線を向けていた姫神が、身を乗り出してその微睡みの彼方を透かし見るような眼差しを向けて来た。
やっぱりお茶の一つも出さなかった事に腹を立てているのだろうかと訝ってみたが…

姫神「髪。赤い。地毛?」

結標「地毛よ。それがどうかした?」

姫神の目線は二つに結わえられた私の髪に注がれている。別段染めている訳でもさほど目立っているとも思えない。
普段仕事で顔を突き合わせている男など若くして総白髪であるし、昔『案内』したゲストに至っては髪が青かった。

姫神「まるで。血の色――」

一房、髪に触れられた。一瞬喧嘩を売られているのかと思った。
女にとって同じ女に髪を断りもなく触れられると言う事は、男同士で肩がぶつかるのと同じ意味を持つ。

姫神「私と。同じ――」

その一人言ちるような抑揚のない声音と、平坦な表情が何故か強く焼き付けられた。同時に、剣呑な毒気も抜かれた気がした。

結標「――やっぱり変わってるわ、貴女」

――これが私と、姫神秋沙の最初の出会いだった――
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 00:06:16.10 ID:afA5KsAO
〜数ヶ月後…第七学区・窓のないビル跡地〜

結標「兵共が夢の跡…って言うのかしらね?こういうの」

海原「この国ではこういうのを“形ある物はいつか壊れる”って言うんじゃないですか?」

土御門「まるで墓石だな…おんやー?一方通行はどこ行ったんだにゃー?」

結標「あなた達…いつまでそのキャラ通すつもりなの?」

海原「この顔が気に入っているもので」

土御門「どっちかつかずで自分でも困ってるんだぜい」

第三次世界大戦の後…いくつかの抗争を経て最終戦争を迎えた学園都市。
私達『グループ』は瓦礫の山と化した『窓のないビル』の跡地にいた。
が、内一名は欠席である。このビルを破壊した『四人の男達』の中でも一際目立つホワイトヘアーの男…

『後はテメェらでなンとかしろ。俺はまだ後始末が残ってンだ』

学園都市最強の第一位はそう言い捨てて姿を消した。右手に杖、左手に少女の手をそれぞれ携えながら。

結標「どうすんのかしらね…これから」

海原「“命ある所に希望はある”という諺もありますよ。僕は一度国に帰りたいと思います」

土御門「俺も一度イギリスに渡る。その後は…まあ、また戻ってくる事もあるだろう。お前はどうするんだ?」
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 00:07:15.08 ID:afA5KsAO
結標「どうする…って」

上層部に囚われていたかつての仲間達は既に少年院の特別房より自由の身となった。
同時に結標の負っていた肩の荷も降り、言わば軽い虚脱と大きな安堵の狭間に揺られていた。

結標「案内人は廃業、暗部も解散、私根無し草になっちゃったばっかりなのよ?まだ身の振り方なんて考えられない…」

土御門「そうか。まあ学園都市そのものがなくなった訳じゃない。頭と首がすげ代わっただけだ…長い人生時には休息も必要だにゃー」

そうカラカラと笑いながら、土御門は瓦礫の山に取り残され砕け散ったビーカーの残骸を見やりながら…一羽の折り鶴を手向けた。

土御門「お前もそう思うだろう?――――――・―――――よ」

かつてその中でホムンクルス(フラスコの中の小人)のように科学と、魔術と、世界の全てを見通していた『人間』への餞のように。

土御門「…さて…湿っぽい別れを惜しむのは俺達には似合わない」

そして土御門は海原と結標に向き直る。笑顔という名のポーカーフェイスを貼り付けた海原と、未だ戸惑いの抜けきらない結標へと。

土御門「“グループ”はこれで解散だ」
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 00:09:40.80 ID:afA5KsAO
〜第七学区・とあるファーストフード店〜

結標「本当にこれからどうするのよ…」

解散後、結標淡希は一人ファーストフード店にて注目の出来上がりを待つ列に並んでいた。
最終戦争後のゴタゴタで散り散りとなった学生達も、学園都市再建計画の目処が立つと同時に疎らに戻って来た。
戻って来たというより…外の世界に彼等の受け皿となる教育機関や教育施設がない事が要因である。

結標「あ〜〜〜んっ〜〜〜もう!!!」

しかしそれ以上に結標淡希は苦悩していた。懊悩していた。
資金は奨学金と暗部で稼いだ蓄えが十二分にある。しかし寄る辺がない。
かつての仲間達が手にした自由を再び闇の底に落とす事も気が引けた。
学園都市の先端技術や遺産を外部に売り渡すビジネスも、強いバックボーン無しには盗人の横流し以上の対価は得られない。それに――

結標「…どうしようかしらね、これから。どこぞの第四位みたくハッピーリタイアかしら」

念願であった仲間達の解放、悲願であった目標の達成は結標を軽いバーンアウトへと陥らせていた。
しばらくの間壊滅した上層部の間では生き残った人間同士の魑魅魍魎の権力闘争があるだろう。
しかし今更そのいざこざに加わるにはもう目指すべき地点も野心もない。
一言で言えば…結標淡希という人間は際限なく繰り返される暗闘に疲れ果てていたのだ。

結標「…取り敢えずなんか食べよう…」

そして店員からトレイに乗せられたフレッシュネスバーガーのセットを受け取ると結標はくたびれた表情で席を探す。そこで―――
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 00:10:36.14 ID:afA5KsAO
結標「―――貴女」

山のように堆く積み上げられたハンバーガーの包装紙、一人ドリンクバー状態のテーブルに…顔を突っ伏している少女が一人。

結標「…何やってるのよ。こんな所で」

?「―――食い倒れ」

天鵞絨のように艶めかしい黒髪がテーブルからはみ出し揺れている。
起こした顔は整っていながら平坦な表情で、上げた視線は寝起きの猫のようで。

結標「…相席、いい?」

?「構わない」

纏うはこの科学万能を謳う学園都市にあって稀有な巫女服。
その首筋から胸元にかけて微かに見え隠れする奇異な十字架。
神棚と仏壇が同じくする部屋以上の違和感を見る者に覚えさせながら、そのどこかミスマッチさが一つのアクセントとして機能していた。

結標「…細い見た目より入る質なのね」

?「やけ食い。貴女はそれで足りるの?」

結標「やけ食いしたくても入らないの。喉が通ってくれないのよ…ねえ?ええっと」

一度出会い、一回顔を合わせ、一辺言葉を交わしたに過ぎない人間。
縁と言う縁でもない。だが、いつか誰かかが言っていた。

『一度会えば偶然で、二度逢えば必然だ』と

結標「姫神――秋沙さん」

姫神「結標。淡希さん」

吸血殺し(ディープブラッド)と座標移動(ムーブポイント)が交差する時、物語は始まる――
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 00:12:32.78 ID:afA5KsAO
〜第七学区・ファーストフード店〜

結標「女子寮を追い出された?」

姫神「追い出されたと言うより。焼け出された」

何とか減退した食欲を振り絞り、フレッシュネスバーガーを平らげた結標淡希はアイスティーを啜りながら姫神秋沙の言葉に形良い眉を顰めた。

姫神「この間の。戦争で」

結標「…そうだったのね」

学園都市全土を巻き込んだ有象無象の科学サイドと魔術サイドと第三勢力の激突。
内部抗争と言うより最終戦争とも言うべき規模で起きたそれは結果として統括理事長の消息不明、及び学園都市上層部の完全壊滅という結果にて幕を下ろした。

後に引けない魔術サイド、前に進むしかない科学サイド、その双方を打ち砕くべく相手取った第三勢力。
その先陣を切った『四人の男達』の内、金髪の男が出した避難勧告と避難誘導により奇跡的に無関係な学生達は誰一人命を落とす事はなかった。

しかし、戦闘の中心地とも言うべき第七学区は激戦地と化し、今こうしてハンバーガーにありつける事すら一人一人の死に物狂いの働きによって支えられている一つの奇跡なのだ。
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 00:13:42.54 ID:afA5KsAO
姫神「もう。小萌の。小萌先生の世話にはなれない。私の他にも。焼け出されて行く所がないクラスメートが頼ってる。これ以上迷惑はかけられない。だから」

だからやけ食いしていたのだと言う。幸い他の学区は戦火がほとんどなかったため食料や物資の搬入や流通には滞りはないが、住宅事情や避難所はパンク寸前の有り様だ。

結標「…他の学区に移るなり、ほとぼりが冷めるまで実家に帰る手はないの?」

姫神「ない。私には帰る場所も。待っていてくれる人も。もういないから」

その声音は、悲痛を遥か彼方に通り越し、置き去りにし、終ぞ透徹な響きすら感じられた。
同情を買おうだとか、憐憫を抱かれようなどと言う地点を通り過ぎた感情の極北。

結標「(帰る場所…か)」

最終戦争が起きた際、結標は混乱に乗じて仲間を救い出すのに手一杯だったため戦闘の中心を知らない。
伝え聞くには金髪の男が全学生を率いて戦火より大移動して逃がし、赤髪の男が魔術サイドを、白髪の男こと一方通行が科学サイドをそれぞれ圧倒し、黒髪の男が全てを終わらせたと言う話を土御門から聞いたに過ぎない。

結標自身も第三次世界大戦後、小萌の家から独り立ちしていた。
故に彼女達の窮状を知らずにいたのである。救い出した仲間を学園都市の外に精一杯であり手一杯だったために。
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 00:14:31.37 ID:afA5KsAO
結標「――もし、行く所がないんだったら」

柄でもない。らしくもない。我が事ながらありえないとも思う。しかし

結標「私の余ってる部屋、使う?」

一人助けるも二人救うももう関係ない。そう思えた。

姫神「待って。私と貴女は。会って話すのはこれで二度目。私はそんなつもりじゃ」

結標「…変な言い方だけど、貴女小萌に拾われたんでしょう?」

言うなれば置き去りにされた犬を、捨てられた猫を拾って帰るそれに似ていた。
善意と呼ぶには不確かな覚悟で、気紛れと言うには確かな思いで…

結標「小萌は変な娘は連れて帰って来るけど、悪い娘は拾ってこないだろうから」

私は悪い子だけどね、と付け加えた。小萌は手のかかる子ほどその熱情を燃え上がらせ注ぎ込む質だとも理解している。
短い付き合いの中でも、時にそれを疎ましく思えても、喧嘩して飛び出した事は結局一度もなかったから。

姫神「貴女も。変な娘」

結標「お互い様よ。私だけ変みたいに言わないで頂戴。で?どうするの?来るの?来ないの?私そろそろ帰って寝たいんだけども?」

今ならほんの僅か、ほんの微かに…小萌の気持ちが分かったように感じられた。

姫神「私は」

答えはもう、決まっていた。
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 00:16:43.84 ID:afA5KsAO
>>1です。
本日の投下はこれにて終了となります。ユルユルとしたペースになりますがよろしくお願いいたします。

では失礼いたします。おやすみなさいませ…
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 00:23:35.92 ID:SyHoyEDO
百合作品にはあまり期待してないがとりあえず支援
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 00:32:51.20 ID:.JJjbUAO
俺得すぎて息するのが辛い
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 00:42:45.86 ID:omFzX6so
わっふるわっふる乙
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 01:05:36.75 ID:n2zJ4GYo
これは期待せざるを得ない
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 01:13:58.94 ID:7WD39hQo


同居か
某スレと展開が似てるな
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 01:27:13.76 ID:3L7CJW2o
お、スレ立ったんだな!支援!
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 02:15:04.00 ID:JKiGy0E0
粛々と進む雰囲気!次回投下楽しみにしてます!
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:04:47.19 ID:afA5KsAO
>>1です。本日の投下をさせていただきます。
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:05:40.12 ID:afA5KsAO
〜第十八学区・結標淡希の部屋〜

姫神「お世話になります」

昼下がりのファーストフード店から出た後、姫神秋沙は身の回りの物一式を詰め込んだトランクケースを引きずってやって来た。結標淡希の導きによって。

結標「ええ。荷物はそこらへんに転がしておいて。貴女の部屋になる所少し片付けるから」

姫神「でも」

結標「冷蔵庫の中の飲み物でも飲んで適当に待ってて。疲れたでしょ?終わったらお風呂沸かすから」

第七学区は路面や車道はおろか路線から何から何まで壊滅的な有り様だったために、所々で座標移動を繰り返しながらも到着したのは既に夕方であった。
季節は初夏を迎え、第七学区を出るまでは汗だくになりながら歩いて来たのだ。
お冷やの一杯やシャワーでもなければとてもやっていられたものではない。

姫神「…ありがとう。飲み物は小萌ルールでいい?」

結標「そうして」

白と黒を基調に纏められた家具や部屋を見渡しながら姫神は冷蔵庫を開く。
食べ物はヨーグルトやパンに塗るブルーベリージャムやピーナッツバター、一口大にカットされたチーズが小皿に盛られてラッピングされているものしかない。
後はせいぜいがバター、ケチャップ、マヨネーズである。

姫神「(不健康。野菜も卵も入ってない。お米も置いてない)」

飲み物は清涼飲料水と野菜ジュースとお茶。牛乳は入っていない。
思わず嘆息する。小萌ルールを発動する以前の問題かも知れないと姫神は考える。

姫神「(私の最初の仕事。食生活の改善)」

時期こそ異なれど同じ小萌(かま)の飯を食べた者だと言うのにこの体たらくぶりはひどい。

姫神「(小萌。貴女の遺志は。私が引き継ぐ)」

草葉の蔭で小萌が泣いているに違いない。そう決意を固めた握り拳に誓う。
当然の事ながら小萌は存命ではあるが…
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:06:35.56 ID:afA5KsAO
〜結標淡希の部屋・空き部屋〜

結標「うわっぷ…熱こもってる…雨戸開けなきゃ…暑い!」

一方、結標淡希は露出度が高い割に服持ちなのか丸々衣裳部屋代わりに使っていた部屋の窓を開け放つ。
閉ざしっ放しだった部屋には初夏の熱気がこもり、開け放てば開け放つで夕陽に目を焼かれる。

結標「んもーう!服多過ぎ!どこしまえばいいのよ!」

“服なンて上等なもンいつ着てンだァ?ほとンどまっぱのクセによォ”

と言う同僚の罵りが聞こえて来そうな量の春物、秋物、冬物の山をひとまず自分の部屋へ座標移動・座標移動・座標移動。能力の無駄使いここに極まれりである。

買った良いが捨てられない。もうこのシリーズは再販しないと思うと売りにも出せない。
女の服と下着はとかく始末に困るのだ。レベルがいくつであろうとも。

結標「マズいわ…私他の布団なんて持ってない…今使ってる肌掛け布団しか」

はたと気づく。もう色々と足りていない。残っているのは冬用の毛布のみ。
当然ながらベッドも一つ。早急に何とかせねばならない。

結標「あああ〜私のバカバカバカ…こんなのダメダメじゃない」

スペースを作ろうとして散らかり放題になってしまった己を嘆く。
同時に思う。小萌は出来る女であったと。さながら親元から離れて知る母親の偉大さのように。
学園都市に来てから当然一人暮らしではあるが。

ゴロッ…ゴロゴロゴロ!

結標「ああー!」

挙げ句、座標移動させた服の山がクローゼットから溢れかえり転げ落ちる。
その上ささやかな乙女の恥じらいである隠していたカップラーメンやインスタント食品のストックまで雪崩のように。
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:07:54.53 ID:afA5KsAO
結標「もうヤダ」

別段、上げた事はないが男を部屋に招く訳でもないのだから肩肘を張る必要はない。
小萌の時だってお互いにそうだった。だが同年代で、後輩で、ほぼ初対面の人間にくらい良く見られたいではないか。

結標「はあっ…取り敢えず、今夜は私の部屋で寝てもらおう。そうしましょう」

再びの座標移動でひとまず部屋に何もない状態にした。
今日はもう色々とくたびれた。射し込む西日を遮るようにYVES SAINT LAURENTのカーテンを閉める。

結標「明日は買い出しね…晩御飯…もういいわデリバリーで」

長生きの秘訣は適度に自分を許す事、などと一人言ちて結標は部屋を後にした。
仕事は兎も角、プライベートは良い塩梅にいい加減なダメ人間。それが後の姫神による結標の評価である。
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:10:24.01 ID:afA5KsAO
〜結標淡希の部屋・リビング〜

結標「姫神さん?ごめんね部屋なんだけど今日一日だけ待って…」

後にした部屋からリビングに向かう。空は何時の間にかヴァイオレットブルーに色を変え、そよそよと微風が吹いていた。

姫神「――――――」

ソファーの肘掛けにもたれ掛かるようにして船を漕ぐ姫神秋沙の黒髪を揺らして。

結標「待っ…て」

しどけない寝姿を晒しながら、ソファーの背面に位置する窓辺よりはためくカーテン。
夕闇と夜闇の狭間で微睡む寝顔に、声を掛けようとして言葉が出て来ない。

結標「(余程疲れてたのね。今まで寝る所どうしてたんだろう)」

テーブルの上には飲みかけの清涼飲料水の缶が汗をかいていた。
結標自体も経験があるが、寝る場所腰を据える場所がコロコロ変わるのは見えない疲労が澱のように溜まる。
猫ですら気ままに見えて己のパーソナルエリアには気を使うのだから。

結標「(少し寝かせてあげましょうか。ピザなんて起きてから頼めば良いわ)」

フッとその寝顔を覗き込む。ほぼ初対面の人間の部屋で寝るなどなかなか太い神経の持ち主などと思いながら。

結標「(睫毛長いわねー…量は私の方が多いけれど)」

よくよく見れば肌のキメも細やかだ。髪の手入れはどうしているのだろうかとしげしげと観察する。
常ならばそんな事はしないのだが、物珍しい巫女服を纏っているのも目を引いた理由の一つだ。

結標「(彼氏…は今いなさそうね。いたらわざわざ私の家に転がり込んで来る理由、ないもの)」

姫神は言った。帰る場所も待っている人もいないと。
それは、結標の心を強く打った。いつもならば口に出す以上の同情などしないはずなのに。

結標「貴女も、私も、変な娘ね」

仲間達の解放とグループの解散。名に反して今や標(しるべ)を持たぬ自分。
それが歪んだ鏡合わせのように、姫神秋沙と言う少女を映し取ったのか。
それとも月詠小萌との生活や、同じ性別であった事が要因か。はたまたそれら全てか。

結標「さーてと…今の内にシャワー浴びちゃおっと」

眠る姫神を残し、バスルームへと向かう。ここは誰に憚る事もない自分の家だ。
そう思いながら結標はシュルッと結わえた二つ結びの髪留め紐を抜き取りながら去って行った。
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:11:21.95 ID:afA5KsAO
〜結標淡希の部屋・リビング2〜

結標「貴女も、私も、変な娘ね」

夢現の中で聞いた、夏風のように涼やかな声音の在処に私は耳をそばだてる。
閉ざした目蓋の中に広がる闇でその声の主の姿形を浮かび上がらせる。

姫神「(私は。変な子)」

クラスメートの女の子ともどこか違う、氷が肌を滑るような優しいクールさ。
最初は取っ付きにくい野良猫のような雰囲気だった。しかし

姫神「(貴女は。優しい子)」

迷い猫のようになってしまった自分に、歩み寄ってくれた野良猫。
何故ここまでしてくれるのだろう。この恩をどのような形で返していけば良いのだろう。

姫神「(どんな娘なんだろう。小萌から。小萌先生から聞いておけば良かった)」

むずかゆいような浮ついた気分、くすぐったいような好意。
学校が再開されるまで、新たな住居が確保されるまで上手くやりたい。
出来る事ならば仲良くありたい。しかし、出会った時に微かに香った――

姫神「(どうして。血の匂いがしたの)」

血液を司る能力を持つ姫神にとっては、同時に染み付いた血の匂いにも敏感になる。望む望まないに限らずに。
月のものとも違う、何人かの人間の血が入り混じった匂いが結標からした。

街中を歩いていても時折そんな匂いのする人間とすれ違う。
普通の人間なら汗の匂いほども気に留めないそれが姫神にはわかるから。

姫神「(何を。している娘なんだろう)」

かつて所属していた霧ヶ丘女学館でも結標を見かけた記憶がない。
学年が違うのだから当たり前なのだが、あんな血を連想させる髪の色をしていれば自分の記憶の片隅にでも残るだろうと。
どういった経緯で小萌に拾われたのか、それすら姫神にはわからない。

姫神「(これから)」

全てはこれからだと…そう姫神は考えた。そして次の瞬間にはどんなピザにしてもらおうかと頭が切り替わっていた。
図太い、と結標が姫神に抱いた印象は実のところそんなにかけ離れていなかったのである。
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:13:30.77 ID:afA5KsAO
〜結標淡希の部屋・バスルーム〜

結標「あー…そう言えばあの娘の巫女服って普通の洗濯機で大丈夫なのかしら?なに洗いでやればいいのよ」

肌に叩き付けるように勢い良く出るシャワーを浴びながら結標淡希は詮無い事を考えていた。

結標「あんな着るのも脱ぐのも面倒臭そうな服良く着てられるわね」

浴びせられる熱を持った飛沫を瑞々しい素肌が弾いて行く。
成人男性の片腕で容易く包み込めそうな細身ながら、伸びやかな四肢は緊張感を纏い安易に触れさせる事を見る者に躊躇わせる。

結標「ふー…どうかしてるわ今日の私…」

自分の身体を抱くようにしながら浴びるシャワーに二つ結びしていた赤い髪が白い肌に張り付く。
いつの頃からかバスルームでその日一日を振り返る癖がついた。
キュッと絞り口を締めシャワーを止める。きめ細かい泡と今日一日の汗を洗い流し、後ろ髪の水気を指先で細かく扱いて切る。

結標「戦争が終わって…腑抜けてるのかしら」

何となく放っておけずに連れ帰ってしまった新たな同居人…否、初めてのルームメイト。
思ったより図太そうとは感じられたが、どこか浮き世離れした儚い雰囲気を姫神から感じられたからである。
あまり接する機会がない小萌以外の『表の世界の人間』だからか、単に弱気になって人寂しくうら寂しい気持ちになってしまったからか。

結標「あら…これが最後…んもーう足りない物ばっかりじゃないの」

蜂蜜パックに使っている千年蜜のストックまで切れてしまった。
暗部で活動している間は家など服を取りに行き寝に帰るだけだった。
故に日持ちしない食べ物など冷蔵庫には入れなかった。いつ帰るかも不定期だったから。
そして小萌の家から独立してからはやたらめったら服を買い漁った。
誰に憚る事なく自分の好きなように出来るから。
それが…今また帰りを待ってくれる人間が出来たのは奇妙な感情であった。

結標「いいわ!なるようになる!」

投げられた賽の目を悩んでも仕方ない。なるようになる。
小萌が拾って来た事のある人間だ。姫神の事がわからずとも、その一点だけが取っ掛かりであった。
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:15:44.00 ID:afA5KsAO
〜結標淡希の部屋・リビング3〜

結標「サッパリしたー…ん?おはよー」

姫神「おはよう」

結標がバスルームから出ると姫神は既に目を覚ましていた。
外は既に群青色。壁掛けられた時計の針は18:20分を指し示していた。

結標「どうする?ピザ頼もうと思ってるんだけど、その前に貴女もシャワー浴びる?それとも後にする?」

姫神「先に。シャワー浴びて来いよ」

結標「上がったって言ってるじゃない。誰よその物真似」

姫神「じゃあ食べ終わってからにする。私も半分出すから」

結標「そう?じゃあピザは貴女が選んで。サイドメニューは私が選ぶから」

別にピザくらい構わないんだけどな同性だし、と思わなくもないが姫神もお客様のままでは心苦しいのかも知れないと髪をタオルで拭きながら向かいのソファーに腰掛ける。
すると風呂上がりの結標の姿を、手渡されたピザのチラシから視線を上げた姫神が見やり、口を開いた。

姫神「貴女はS?それともM?」

結標「えっ!?」

思わずキャミソールの上から自分の身体を抱き締める。
いやこれだけではダメだとホットパンツから伸びる脚も抱え込む。
いきなり座ったはずのソファーから逃げ出したくなる結標を前に姫神は間に挟まれたテーブルに手をつき身を乗り出す。

姫神「どうして引くの。当たり前の事を聞いただけなのに」

結標「あ、あっ、当たり前ってななな何言ってるのよ!私達知り合ったばかりでしょ!?」

姫神「?。初めても何も。最初に聞いておきたかった。貴女はS?それともM?」

結標「し、しっ、知る訳ないでしょうそんな事!なによいきなり!?なんなのよ貴女は!!」

姫神「どうして。自分の事なのに」

結標「そ、そのどっちかしかないの?」

姫神「私の都合もある。だからはっきりさせて欲しい。Sなのか。Mなのか」
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:16:40.70 ID:afA5KsAO
いきなりの言葉に結標はお風呂上がりと言う事を差し引いても耳まで赤くなった。
確かに外見からすれば遊んでいるように見られるかも知れないが、自分のストライクゾーンの関係上誰彼構わずと言う訳ではない。ましてや…

結標「わっ、私達女同士じゃない…いきなり言われても…困るわよ」

姫神「女同士だからこそ。人目は気にならない。答えて。私はもう。我慢出来ない」

ズイッと姫神が乗り出した身から結標を指差す。それを直視出来ない結標は火照らせた顔をそっぽ向かせながら

結標「…M…かも知れない…かも」

姫神「聞こえない」

結標「えっ、Mよ!かも知れないってだけよ!!何言わせるのよ貴女は!!!」

思いっきり叫んだ。勢いをつかせなければ言葉に出せなかった。
しかし決死の思いで吐き出した言葉に対し、姫神は―――

姫神「そう。じゃあMサイズ。私も昼間たくさん食べたからLは無理だった。あまり入らないから助かる」
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:17:37.12 ID:afA5KsAO
………………


結標「えっ」

姫神「えっ」

通り過ぎて言った沈黙の天使に笑われそうな相互理解の不一致が結標をフリーズさせた。

結標「SとMの話じゃないの?」

姫神「だから。SとMのサイズの話。ピザの」

結標「イジメる方とイジメられる方の話じゃないの?」

姫神「なにそれこわい」

結標「人目が気にならないって!我慢出来ないって言ったじゃない!」

姫神「女二人だから別にサイズで悩まない。我慢出来ないのは空いた小腹」

結標「〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

ソファーに顔を埋めばた足のように身悶えする結標。聞かれていたのはSサイズかMサイズの話。
しかし答えたのはSサイドかMサイドの話。そしてまさかのM告白。
恥ずかしさのあまり今すぐこの場から座標移動したくなるも演算すらかなわない。

姫神「結標さん」

そんなバタ足金魚状態の結標から目を切りピザのチラシに再び目を落としながら姫神はつぶやいた。

姫神「貴女は。心が汚れている」

結標「バカーーーーーー!!!」

その後、クッションやクレーンゲームの景品のぬいぐるみを座標移動しまくり、姫神目掛けて手当たり次第にぶつける初めての喧嘩を初日にしてやらかしてしまった。
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:19:59.50 ID:afA5KsAO
〜結標淡希の部屋・リビング4〜

姫神「どうして。オリーブばかり私に押し付けるの」

結標「貴女とオリーブが嫌いだからよ!」

姫神「ひどい。オリーブと同じ扱い」

結標「なんならタバスコも飛ばすわよ」

姫神「私は。ペッパー派」

その後、しっちゃかめっちゃかになったリビングを一緒に片付け、デリバリーピザが届いたのは20:05分であった。
未だに憤懣やるかたない結標がピザに乗ったブラックオリーブを姫神のピザに座標移動させて溜飲を下げていた。

結標「もうっ…初日で私のイメージがた落ちじゃない…どうしてくれるのよ」

姫神「Mな所?」

結標「引っ張らないで!忘れてちょうだい!」

姫神「私は。多分S」

結標「でしょうね…って聞いてないわよ!むしろ私の話を聞いて!」

狙ってやったならば手に余り、天然ならば始末に負えない。
そう思いながら伸びたチーズを噛み切る結標。土御門とはまた違ったタイプのいじり方にペースが狂わされ調子が外れる。
黙々と骨付きチキンを頬張る姫神はどこ吹く風とばかりに
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:20:58.66 ID:afA5KsAO
姫神「でも」

結標「?」

姫神「ホッとした。本当にクールな人だったら。どうして良いか少し困ったかも知れないから」

結標「………………」

言われてみれば結標もそれは同じかも知れなかった。
昼間フレッシュネスバーガーを完食するのも辛かったのに、今は二人で分けているとは言えピザまで食べている。

結標「(もしかすると…楽にしてもらってるのは私の方なのかしら)」

少し精神状態が安定しているのかも知れない。なんだかんだ言って座標移動の演算に狂いはない。
それ以上に…初めて自分の家に客を招いたにも関わらずさほど息苦しくない。
それは気兼ねしない同性だからか、はたまた姫神自身が空気のように溶け込めるからか。

結標「えっと…姫神さ――」

姫神「しまった」

結標の唇が言葉を紡ぐより早く、姫神の言葉がそれを遮った。
落とされた彼女の視線…それは巫女服の胸元に落ちたピザソース。

姫神「もう服がこれしかないのに」

結標「(うわー)」

手のかかる子供かと結標は胸中で一人言ちた。
かつて同じ感想を小萌に持たれたともつゆ知らずに。
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:23:25.28 ID:afA5KsAO
〜結標淡希の部屋・バスルーム2〜

結標「姫神さーん?替えの服ここに置いておくからねー?」

姫神「ありがとう。ごめんなさい。貴女には迷惑をかけ通し」

結標淡希はひとまずさっきひっくり返しまくった服の中から姫神に合いそうな部屋着をチョイスし、バスルームの脱衣籠に畳んで置いた。
その間に姫神のトランクの中の衣類を洗濯機に放り込む。
巫女服はクリーニングに出す他ないと言う。本当に終戦の後の苦労が伺えた。

結標「気にしてもらわなくても結構よ。こっちだってそんなに大した事してる訳じゃないしね」

姫神「なら。せめて後でマッサージさせて。私の気が済まない」

結標「ん〜…じゃあ、お願い」

磨り硝子を隔てて交わされる会話。身を清める姫神に衣類を洗う結標。ゴウンゴウンと音が五月蠅い。

さっきの喧嘩が結果として互いの緊張を良い方向に解きほぐしたのか、満腹感によるリラックスかはわからないが

結標「(なんか不思議な感じ…そう言えば私にこういう風に接したり出来る女の子なんて今までいたかしら)」

気づいた時には暗部で活動し、上層部を相手に地位も年嵩も遥か上の人間と接して来た結標にとっては――

結標「(いないわね。いなかった)」

こうした事すらほとんど初めてかも知れない。
仲間達やグループとは違った角度の、同性の知り合い。
終ぞ通う事すら稀だった霧ヶ丘女学院にすら当然ながらいなかった。

ゴウンゴウンと音を立てて回る洗濯機に片手を突きながら結標は思う。
僅かながら満たされ、微かながら充たされる何かを――
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:24:24.48 ID:afA5KsAO
姫神「結標さん」

結標「きゃっ!?」

そんな物思いに耽っていた結標の肩を、バスルームから半身出していた姫神がトントンと指で叩く。
考え事をしていたのと洗濯機の音で姫神の呼びかけに気づけず狼狽した結標は慌ててそれに振り返って

姫神「トランクの中から。トリートメントを取って欲しい」

結標「あっ?えっ?う、うん」

トランクから姫神のトリートメントを取り出し、それを手渡す際に…ついつい凝視してしまう。姫神の肢体。

結標「(くっ…ま、まあ出る所は私より出てるんじゃない?細さなら私の方が上だけど?なによ年下のクセに。生意気ね)」

処女雪でも圧し固めたような肌に張り付く黒髪が水気を帯びて生々しいまでに艶めかしく見えた。
大事な部分は当然タオルに守られているが、シャワーを帯びて微かに赤みの差した胸元を滑る水滴につい目がいく。そしてそれ以上に――

姫神「エッチ」

結標「うっ、うるさい!いつまでそんな格好のまま出てるのよ!早く戻りなさい!」

手渡したトリートメントと、姫神の細い指先が僅かに触れた。
一瞬だけドキッとしたが、その手はすぐに磨り硝子の向こうに消えて行った。

結標「(…なんなのかしら、あれ…)」

ついつい見入ってしまったのは同じ女として対抗意識を燃やされる肢体ばかりではなく、シャワーだと言うのに

結標「(巫女さんなのにクリスチャンなのかしら?)」

肌身離さずその首筋にかかっていた、十字架のペンダントがやけに強く印象に残った。
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:26:57.40 ID:afA5KsAO
〜結標淡希の部屋・リビング5〜

結標「あっ…ひ…めがみ…さっ…ん!」

姫神「ここがいいの?初めてなのに」

結標「はっ、初…めて…痛っ…いぃ」

姫神「いいの?痛いの?どっち?ここはどう?」

結標「あっ…!くっ…ふぅ!ああっ…あぁっ…そこは…そこはやめて!お願いだからやめてぇ姫神さん!」

姫神「止めない。だって」

グググ…グリグリグリ

結標「痛い痛い痛い痛い〜〜〜!!!」

姫神「足ツボマッサージとは。痛いもの」

誤解を招きかねない声音を上げながら、姫神の足ツボマッサージに泣きが入った結標である。
お風呂上がりに姫神の洗濯物を乾燥機で回し、お風呂を借りた恩は見事に仇で返された。
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:28:14.56 ID:afA5KsAO
結標「ひっ、いぃぃ!?痛い痛いの!貴女本当は下手なんじゃない!?」

姫神「かっちーん」ググッ

結標「ふああぁぁん!?ひたいぃ!ひゅるひてえぇ!」

姫神「結標淡希。貴女が。泣くまで。マッサージを止めない」

ソファーの上で涙を滲ませ口元から濡れ光る唾液も構わず身悶えする結標。
無表情ながらもどこか瞳を妖しく輝かせる姫神。
そして終わった頃には結標は凌辱された乙女に息を荒げ胸を上下させていた。

結標「はあっ…はっ…ああっ…」

姫神「私の指で。こんなに感じてくれて。いやらしい。じゃない。嬉しい」

結標「いやらしいのは貴女の言い方でしょ!!!」

姫神「さあ。貴女の罪を数えろ」ググッ

結標「い゛い゛い゛ぃぃぃっ!?」

駄目押しの一撃を喰らいグッタリする結標を尻目に姫神は壁掛けの時計を見上げる。
時刻はいつの間にか23:15分を指し示していた。

姫神「結標さん。そろそろ寝にいかない?今日は。疲れた」

結標「はー…はー…そうね…貴女を…永眠させてやるわ…」

姫神「いい加減。学びなさい」ググッ

結標「はうっ!」

短いようで長かった1日が終わりつつあった。
昨夜まで結標淡希も姫神秋沙も思ってはいなかったし考えていなかった。
巡り合わせは奇なもので、星の巡りは異なものだと思わなくもなかった。互いに。
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:30:34.86 ID:afA5KsAO
〜結標淡希の部屋・寝室〜

姫神「良い香り。なんの匂い?」

結標「ブルーローズ。ほら、青い薔薇の形してるでしょう?」

姫神「うん。名前は?このキャンドルの」

結標「ブルーブラッド。“高貴なる血統”って意味らしいわ」

寝室へと移動した二人…寝る支度を整える姫神の傍ら、結標はある物を焚いていた。
それは…間接照明のように青白い炎を揺らめかせる青い薔薇のアロマキャンドル。
寝る前にこうするとリラックスするのだと結標は語り、その炎に照らされた姫神も口を開く。

姫神「青い薔薇。花言葉は。“不可能”」

結標「詳しいのね」

姫神「もう一つは。“神の祝福”」

血統、血筋、血脈。…皮肉なものだと姫神秋沙は熱を感じさせない思考に耽る。

姫神「(呪われた血。不可能。嫌な符号が重なり過ぎていて。少し憂鬱…)」

今はあの修道服の少女から授けられた十字架がこの忌まわしい能力を押さえてくれている。
しかしそれでも消し去る事は文字通り不可能だった。
その可能性を持っていたかも知れない人間…果たされる事のなかった志の果てに倒れた“あの男”も既にいない。

高貴な血統などと上等なものではない。神の祝福など受けられはしない。
何を考えているのだと冷え切った心に射した暗い影に…姫神は静謐な眼差しを向ける他なかった。

結標「少女趣味なのね?見た目通り」

姫神「そういう貴女も。眠る前にアロマキャンドルだなんて。見た目に似合わず乙女チック」

結標「い、良いじゃない別に!もう!消すわね!?」
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:31:32.61 ID:afA5KsAO
フッと青白い炎が吹き消される。濃厚な甘い香りが漂う中…結標はピンクを基調としたベッドに身を投げた。
そして向かって右側を結標が寝そべり、空いた左側をポンポンと叩きながら姫神を誘う。

結標「ごめんなさいね。布団とか他になくって…狭いけど我慢してくれない?」

姫神「私こそ。至れり尽くせりでごめんなさい。借りは必ず返して行くから」

結標「まだ良いわよ。そんな初日から張り切られたからこっちの肩が凝るわ」

姫神「マッサージなら。任せて」

結標「もう良いわマッサージは…んっ…こっち空いたわよ」

姫神「お邪魔します」

ベッドの大きさは普通くらいだが、細身の女二人ならば手狭さ感じられない。
なんとなく背を向けて寝るのも素っ気ないなと結標は思い、互いに見つめ合うような体勢になってしまう。
赤い結標の髪と、黒い姫神の髪が僅かに重なる。

結標「赤と黒だなんて…スタンダールみたい」

そう結標が呟くと、姫神が乗って来た。

姫神「あれは聖職者の赤と。軍人の黒」

結標「あら…あんな救いのない話読むなんて貴女ずいぶんひねくれてるのね?」

姫神「貴女こそ。キャラに合ってない」

結標「言ってくれるじゃない。別に好きで読んだ訳じゃないわ。ただの暇潰しよ」

身の内に流れる赤い血によって黒より暗い闇を見つめてしまった姫神秋沙。

この学園都市の影より暗い闇の中を生き、少なからず赤い血を目にして来た結標淡希。

奇妙にねじれ、歪み、重なる相似形を描く二人が出会ってしまった事が如何なる意味を持つのか…それはまだ、誰も知らない。

姫神「おやすみなさい。今日はありがとう」

結標「おやすみなさい。明日もよろしく」

天より他に知る者もなく。
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 21:34:46.57 ID:afA5KsAO
>>1です。本日の投下はこれにて終了です。
初めてのスレ立てでしたが、たくさんのレスをいただき心より感謝いたします。
何よりの勇気と元気のもとです。

それでは同居生活初日はこれにて了です。失礼いたします。
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 21:37:05.21 ID:.JJjbUAO
ヤバい、何がヤバいのか分からないけど興奮しすぎて身震いが
おつおつ
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 22:09:21.72 ID:auSCsYAO
乙です

姫神のSM質問のとこはほんとにああいう感じで聞きそうww
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 22:52:18.18 ID:omFzX6so
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 00:21:38.54 ID:laSeOaIo
とりあえずこのスレが一番の楽しみになったことだけは間違いない。乙。
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 00:56:58.07 ID:Tg/FYcDO
BLUE BLOODがX JAPANの曲に因んでいるのかと思った
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 02:44:51.67 ID:X2Ty5k20
BLUE BLOODがスノボのウェアブランドに因んでるのかと思った

実際の商品の名前が出るとリアリティが増していいぜェ!さいこォだぜェ!
44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 11:32:52.27 ID:/Hjv8cAO
>>1です。休日なのでこの時間ですが投下させていただきます。
同居生活二日目です。
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 11:35:01.57 ID:/Hjv8cAO
〜第十八学区・結標淡希の部屋〜

結標淡希は後ろ手に紐のような物で縛られ床に転がされていた。
いつも通りの桜色のサラシを胸に巻き、短めのスカートに霧ヶ丘女学院の制服を羽織っただけの姿のまま。

結標『ちょっと姫神さん!?どういう事なのこれは!今すぐこれを解きなさい!』

何故だか座標移動が出来ない。演算が働かない。
そんな虜囚も同然の結標を、姫神秋沙は温度を感じさせない眼差しで見下ろしてくる。
ピンクを基調としたベッドに腰掛けながら足を組んで。

姫神『駄目。こうしないと。貴女は私から離れて行く。本当は鎖に繋ぎたかった。けれど貴女の肌を傷つけたくはないから』

這い蹲う結標の元に膝をつき、クッとその白魚のような指先を結標の顎に添えて上向かせる。
愛玩動物を慈しむように、屈辱に歯噛みする結標をなぶるように。

結標『貴女っ…!何を言ってっ…!!』

姫神『私は。鎖も。他の物も。自分で使ってすら貴女を傷つけるのが許せない』

結標のシャープな輪郭を猫の喉でもくすぐるような手つきで撫でる。
その滑らかな指先に一瞬、嫌悪感とは異なる鳥肌が結標を泡立たせる。

姫神『だから。私が貴女を壊すの。綺麗なまま。硝子細工は砕けた方がより光を輝かせるから』

結標『巫山戯けないで!いい加減にしないと本当に怒るわよ!!』

姫神『無駄。私が縛っているのは。貴女の心。これは魔法の縄。貴女が心の底から望まない限り。決して解ける事はない』

姫神の指先が結標の頬から首筋を伝ってサラシの巻かれた胸元まで優しく滑り…そして乱暴に、引き裂くように毟り取る。

結標『やっ、やめて!やめて姫神さん!どうしてこんな事するのよ!どうして!』

姫神『キツく締めすぎ。大きさに合ってない。でも…とても。綺麗』

肌蹴られた胸元に姫神の手指が、叫ぶ口元に姫神の唇がそれぞれ迫る。
違う。自分は同性愛者でも被虐嗜好の持ち主でも何でもない。なのに

結標『ひ、姫神さん!』

姫神『無駄。貴女にかかった魔法は決して解けない。何故なら』

逆らう心が、抗う魂が、それすら姫神の手の上で転がされているような

姫神『――私は魔法使いだから――』

そして、姫神の唇が結標に重なって―――
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 11:37:53.76 ID:/Hjv8cAO
〜第十八学区・結標淡希の部屋2〜

姫神「痛い」

結標「!?」

そこで結標淡希は跳ね起きた。カーテンの隙間から射し込む初夏の陽射しに照らされたベッドの上で。

結標「えっ!?えっ?!」

姫神「痛いから。下りて欲しい」

結標「ご、ごめんなさい!」

気づけば跳ね起きた際に姫神の黒髪に思いっ切り手をついて下敷きにしてしまっていた事に気づく。

姫神「おはよう」

結標「おっ…おはっ、よう」

慌てて手をどけると姫神は手櫛で乱れた黒髪を直して行く。
眠たそうな顔立ちに似合わず、小萌並みの目覚ましいらずの体質なのか起き抜けといった素振りすら見せない。しかしそれよりも先に思い当たるのは…先程の

結標「(なんて夢見てるのよ私は!会ったばかりの!!それも女の子の!!!)」

昨夜SだのMだの話をした影響が夢にまで出たかと思うと、髪の手入れを始めた姫神とは対照的に頭をかきむしらずにはいられない。
それを姫神はポカンとした顔付きでこちらを見やり、結標はその口元をついつい見やってしまう。

姫神「どうして。そんな特殊な性癖が暴露された性犯罪者のような顔をしているの」

結標「貴女と会ったのこれで二回目のはずよね!!?」

その手合いの嗜好品は全てクローゼットの中に座標移動させたはずだ。
そうだ。読心能力者や透視能力者でもない限りバレるはずは―――

ガタンッ!バサバサ…ドサッ

結標「」

昨日の二の舞。絶好のタイミングで限界を迎えたクローゼットから再び飛び出す、未だ年端の行かぬ美少年が睦み合う表紙の本が飛び出し床に散乱する。
そして隠していたインスタント食品も転げ落ち、結標は考えるのを止めた。

姫神「新発見。また一つ。貴女という人間を知る事が出来た」

ベッドから下り、結標の夢が詰まった本を拾い上げられ、パラパラとページを手繰られ、綺麗に纏められ、テーブルに置かれるまで十秒と経っていないのに、それが永遠のように長く感じられた。

姫神「朝ご飯。緑のタヌキ」

そして姫神は結標と一度も目を合わせる事無く部屋を後にした。
声を殺して泣く結標を置き去りにして、インスタント食品を回収して行って。
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 11:40:41.91 ID:/Hjv8cAO
〜結標淡希の部屋・リビング〜

結標「………………」

姫神「何か。食べる?」

結標「食欲ないわ…」

姫神「吹寄さんからもらったルイボスティー。淹れてくる。それなら。飲める?」

結標「わからないけどお願い…」

初夏の晴天広がる窓辺を見上げながら結標の表情は梅雨入りのように曇っている。
頬杖をつきながらキッチンでお湯を沸かし直す姫神の背中を見やりながら。
自分の着ている服を他人が着ている後ろ姿は何とも言えない気持ちにさせられる。

結標「テレビつけよ…もうニュース終わっちゃってるかしら」

時刻は8:20分と微妙な時間だ。座標移動でリモコンを手にしチャンネルを回す。
単純に気を紛らわす音が欲しかっただけだ。

『第七学区の復興状況は未だ…』

『大規模な戦闘のため倒壊した建築物の撤去作業が…』

『全学連は学生、能力者によるボランティアを募っており、発起人でありリーダーを務めるレベル5第七位、通称“ナンバーセブン”削板軍覇君の懸命な…』

『――などが多発しており、これに対し風紀委員活動第一七七支部は注意を呼び掛けており…』
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 11:41:31.37 ID:/Hjv8cAO
結標「(第七学区…ね。昨日入ったファーストフードもほとんど難民の炊き出しみたいだったもの)」

右から左に受け流すようにボンヤリとテレビを見つめている結標。
未だ実感は沸かないが、あの夜確かに起きた戦闘…いや戦争はまさに死力を尽くした総力戦であり…
学園都市全体の機能は兎も角、激戦地となった第七学区の復興の目処は未だ立たない。

姫神「お茶。熱いから。気をつけて」

結標「あっ、ありがとうね」

少し考え込んでしまった結標の後ろから、更に思い詰めて見える姫神がお茶を出してくれた。
その香る湯気を見つめながら、結標は姫神の胸中に思いを巡らせる。
どんな思いでこのニュースを見つめているのか、無事だと言うが小萌は今どうしているのか…

結標「ねえ…姫神さん…今日、どうしようかしら?」

本当なら買い出しを予定していた。自分一人ならまだしも、姫神も共になると足りない物はまだまだあると昨日実感した。
女は女で色々と物入りなのだ。だが今結標が問い掛けたのは“質問”ではなく“確認”

姫神「小萌先生を。安心させてあげたい。私はもう。大丈夫だって」

結標「…決まりね!」

出会ってまだ一日足らずだと言うのに、呼吸がピッタリだ。
そして結標は一気にお茶を呷り、席を立ち上がった。
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 11:43:03.46 ID:/Hjv8cAO
〜第七学区・とある高校跡地〜

小萌「結標ちゃん!姫神ちゃん!」

姫神「小萌先生。3日ぶり」

結標「久しぶりね小萌。いつぶりかしら」

小萌「結標ちゃんはメールばかりでちっとも顔を出してくれないのですー。でも良かったのですよー姫神ちゃんを助けてくれてー…先生の力が足りないばかりに」

瓦礫の山、いくつものテント、何とか無傷の体育館には長蛇の列。
座標移動を繰り返し辿り着いた姫神の通う高校のグラウンドで三人は顔を合わせた。
これだけの生々しい破壊の痕がありながら、一人の学生も死なせる事なく避難させた『第三勢力』の金髪の男…名は確か…『浜面仕上』だったと結標は伝え聞いた。

結標「そんなに痩せちゃうまで頑張っといて何言ってるのよ…」

小萌「ダイエットなのですー!結標ちゃんは細すぎだからもっとお肉をつけなきゃダメなのですよー」

結標「…そうね。落ち着いたらまた焼肉しましょう…私が奢るから」

同時に、流石の小萌もやつれて見えた。それでも気負いを見せないその笑顔に、結標は“大人”というものを感じた。
今の結標ではまだ持てない、能力とは関係ない、能力では手に入らない“強さ”を

姫神「ありがとう。小萌先生…そうだ。“上条くん”は。まだ?」

小萌「上条ちゃんはまだ行方不明なのですよ…ただ、シスターちゃんが“とうまは絶対帰ってくるんだよ!”って笑って、神父さんが“僕が塵や灰にした訳でもないのにあの男が死ぬはずがない”って言ってたから大丈夫なのですー」
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 11:44:06.68 ID:/Hjv8cAO
小萌の安否を確認し、姫神と話し込み始めたのを見届けると目を切りもう一度辺りを見渡すと――

結標「(本当に…なんなのかしらね)」

見渡す限りの瓦礫の山。これが自分が暗躍していた学園都市なのかと思うと何とも言えない気持ちになる。
良い思い出より悪い記憶の方が比重は高いし、そもそもそんな事を考える事すらなかった。ゆとりも余裕も暇も。

結標「(こんなセンチメンタルな気分になるなんて)」

ならこの胸を締め付ける寂寥は、寂寞は何処から来るのだろうか…そう思っていると

?「あら?貴女は…」

結標「!!貴女は…」

背後からかかった声に、聞き覚えがあった。思わず振り返る。

?「お久しぶりですわね…ですが、わたくしここで貴女と“旧交”を温めるつもりはございませんの」

その年の割に大人びた声、お嬢様らしい口調。

結標「そう…初めて気が合ったわね。私も今そういう気分じゃないのよ」

特徴的なリボンにツインテール、結標が所属する霧ヶ丘女学院と対を為す常盤台中学の制服。

?「お話が早くて助かりますわ。結標淡希さん」

そして何より――その腕に取り付けられた『風紀委員活動第一七七支部 JUDGMENT』の腕章。

白井「ジャッジメントですの――と名乗る必要はございませんこと?」

風紀委員活動第一七七支部、JUDGMENT 177 BRANCH OFFICE所属…『空間移動』白井黒子であった。
51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 11:46:51.17 ID:/Hjv8cAO
〜第七学区・とある高校グラウンド〜

結標「風紀委員の巡回ね…こんな何もかもメチャクチャになってる時にご苦労様だ事」

白井「こんな時だからこそ、ですの」

結標淡希と白井黒子はひしゃげたグラウンドの金網に並んで腰掛けていた。
『残骸』事件以来だったか?などとその邂逅を結標はどこか他人事のように感じていた。
自分に能力で一太刀浴びせ、言葉で一矢報いた同じレベル4、同じ空間移動能力者…にも関わらず

白井「学園都市の機能は未だ回復していない事はご存じですわね?それにかこつけて能力者を狙う外部の輩が彼方此方で見受けられますの…治安維持に注ぐ力は以前とは比べ物になりませんの。責務も激務も」

白井黒子に敵意を向けられない自分が自分で信じられないのだ。
それはこの瓦礫の山と化した街並みを目の当たりにしたからか、その瓦礫の山の中にあってすら己の身を投じる白井の真摯な横顔を見たからか。

白井「そしてよからぬ輩を全てふん捕まえ、学園都市の治安を回復させた暁にはお姉さんの控えめなお胸に飛び込み、思いの丈をぶつける事もやぶさかではございませんの!その日までわたくしは戦い続けますの!うっふっふ、えっへっへっあっはーっ!!」

結標「(…こんな娘にこの私が追い込まれただなんて…)」

軽い頭痛を指先でほぐし目を瞑りながら結標は嘆息した。
同時にはたと気づく。この白井黒子が居るならば、もう一人の姿在るべき人間の姿が見受けられない事に。

結標「超電磁砲(レールガン)…第三位…御坂美琴は一緒じゃないのね」

白井「お姉様はこの第七学区全域の電力を賄う仕事に従事しておりますの。七人…いえ、今は『八人』しかいないレベル5ですから…これをノブレス・オブ・リージュ(高貴なる者の責務)と人は言いますのね…」
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 11:48:13.53 ID:/Hjv8cAO
やや寂しそうに、しかし我が事のように誇らしそうに白井は語る。
この第七学区全ての電力から電気系統全てを掌握しその能力を行使するなど確かにレベル5でなくては務まらない仕事であろう。

結標「(レベル5ね…最も近いレベル4だなんて言われてたのはいつの話だったかしら)」

だが、今はそんな事すらどうでも良いとすら思える。
かつて白井と交わした舌戦、少年院での戦いを経て乗り越えたトラウマ、それが結標の中のいくつかの部分を占めているのだから。

白井「他のレベル5の面々も駆り出されているようでしてよ?行方不明だった第六位(ロストナンバー)まで姿を表したとかなんとか…あら?失礼しますの」

そこで区切ると白井はいやに前衛的なデザインの携帯電話を取り出し話し始める。
漏れ聞こえた『初春』という単語が聞き取れたがなんの事かはわからなかった。

結標「お仕事かしら?」

白井「一度戻りますの。貴女は――どうしますの?」

結標「どうする…って――」

白井「“この後”どうするかではありませんの。“この先”どうするかですの」

金網から空間移動で飛び降りた白井がこちらを見上げてくる。
その眼差しは問い掛けていた。真摯な光を称えた、迷う事を知らない瞳。

――結標と戦った時と同じ、あの眼差しだ――
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 11:49:30.03 ID:/Hjv8cAO
〜第七学区・とある高校グラウンド2〜

白井「結標さん。わたくしは貴女を認めた訳ではありませんの。あの時申し上げたように」

結標「………………」

白井「ですが、もしわたくしに貴女のような力があったなら…と同じ能力者として思いますの。特に今のような状況であればあるほど」

この眼差しだ。この言葉だ。身体にコルク抜きを、鉄矢を突き立てらるより何より――
白井黒子の迷いのない光が、どんな痛みより激しく心を殴りつけてくる。

白井「あと数メートル長く飛べ駆けつけられたなら、あと数キロ重く人を抱えられたならと…ふふっ、自分のいたらなさを棚に上げて無い物ねだりだなんて…わたくしも疲れてますのね」

結標「相変わらず言いたい放題ね…人の事情も知らない癖に」

結標淡希は思う。こんな目を自分も持てたら少し羨ましいのにと。

白井「そうですわね…これではあの類人猿…いえ殿方のようですわ。失礼いたしましたわ」

白井黒子は想う。あんな力を自分も持てたら少しでも多くの人を救えるのにと。

白井「…学生、能力者によるボランティア募集、御存知ですの?」

結標「…例のナンバーセブンがやってるアレの事?ならニュースで見たわ」

金網から見下ろす結標、地面より見上げる白井。
しかし――もし何か一つ選ぶ道が、嵌る歯車が合えば、二人は同じ場所を対等の目線で見れただろうか。

白井「…そろそろ行きますの。貴女もお達者で。結標淡希さん」

結標「…私も戻らなくちゃ。貴女こそ元気でね。白井黒子さん」

結標・白井「「お互いに」」

そして二人は同時に空間移動した。本来交わる事のなかった道から、再び各々の歩む場所へと帰って行くように。

分かたれた光と影の双生児のように
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 11:51:33.09 ID:/Hjv8cAO
〜第十八学区行きモノレール内〜

結標「小萌、思ったよりやつれてたわね」

姫神「うん。随分と無理していた」

第七学区のモノレールは完全に壊滅していたため、小萌と別れた後の二人は再び座標移動を繰り返して一度第八学区まで出、そこから乗り直し帰路についていた。
時刻は昼過ぎ、昨日二人が出会ったのと同じ時間帯であった。

姫神「私達は。子供だね」

結標「…そうね」

車内は閑散としていた。目的地までノンストップの特別便のため、乗り込んで来る乗客も下りて行く乗客もいない。
だからこそ姫神の短い言葉が、自分の声音が、ことのほか響く気がする。

姫神「小萌。一緒に住んでた時はいっぱいビールも飲んでいたし。たくさんタバコも吸っていた」

結標「私が転がり込む前からああだったのね…なんだか懐かしいわ」

姫神「正直な気持ちで言えば。少しだらしないなって。思った時もあった。でも」

結標「でも…今日、初めて小萌が大きく思えたわ」

姫神「うん。大きい。私達より。ずっと」

出会ってまだたったの二日。知り合ってまだたったの二日。
住んでいた世界すら異なり性格も違う二人の共通の話題はまだ少ない。
しかし…月詠小萌という一人の人間が、二人を結び付けた。

姫神「だから。今日から少しでも大きくなりたい。背伸びじゃなくて。大きく」

スッ…と結標の身体が姫神の腕で、肩に寄せられた。
姫神は結標と白井の会話を知らない。確執も因縁も遺恨も知らない。
しかし戻って来た結標の様子がひどく疲れて見えた事は感じられた。だから。

姫神「着いたら。起こすから」

結標「…そうしてちょうだい。能力を使い過ぎて疲れたわ」

この程度のテレポートの連発でくたびれるほど弱くない。
修羅場鉄火場を潜り抜けて来た身体はこの程度で疲れるほど脆くない。
だが…その心は、預けた頭を受け止める肩から離れてくれなかった。

結標「(焼きが回ったものね。私も)」

そして結標淡希は姫神秋沙の肩で少し眠った。

今度は、夢を見なかった。
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 11:53:54.58 ID:/Hjv8cAO
以上で今回の投下は終了となります。皆様からいただけるレスが私の原動力です。
本当にありがとうございます…とても嬉しいです。

それでは失礼いたします。
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 11:59:01.59 ID:uO1n3.AO
うおーきてたっ
今一番気になるSSだぜ!
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 12:20:57.90 ID:laSeOaIo
乙ですの!

まさかこのスレで大好きなイケメン黒子に会えるなんて。
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 13:34:36.42 ID:X2Ty5k20
壊れた学園都市=AKIRAの大東京帝国的な都市を想像している。

ともあれ雰囲気がいい!最高です
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 14:05:15.66 ID:X9F86Uso
おつー
どれくらい百合になるとかは秘密な感じですか?
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 03:35:22.94 ID:La.PNzEo
おうふ・・・
カプこそ違えど、百合だったり雰囲気やら設定やらが似てたりで、俺が今書いてるのとダダ被りしてるぜ・・・

何が言いたいのかというと、ここの1とはうまい酒が飲めそうだということだ
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:27:28.42 ID:tHYuMQAO
>>1です。休日なのでこの時間ですが投下させていただきます。
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:30:01.56 ID:tHYuMQAO
〜第十八学区行きモノレール・車内〜

姫神「(今の私に。出来る事)」

姫神秋沙は自らの肩口に眠る結標淡希を預けさせながら流れ行く景色を見送っていた。
かかる重みはほとんどない。自らのツヤツヤした黒髪とは違う、サラサラした赤髪が触れる感触があるだけだ。

姫神「(結標さんの所で。少し落ち着いたら。小萌先生の。みんなの手伝いに)」

一種独立国のような、自治特区の気風がある学園都市は日本国政府からの救援活動のほとんどを拒否している。
介入の見返りに対して引き出される、外部より20年も30年も先行く先端技術を奪われまいとして。

外部からの手助けを受けて学園都市の持つ優位性を損なう事は上層部は決して許さない。
こんな時まで既得権益だ最高機密だのと、統括理事長の行方不明と前上層部の壊滅の後新たにその座を巡る権力者達の闘争など…
学園都市で生きる学生達には関係ないのにと月詠小萌と黄泉川愛穂が交わしていた会話を姫神は思い出していた。

姫神「(私に。何が出来るかわからない。でも。何かせずにはいられない)」

自分のどこからこんな前向きな気持ちが湧いてくるのかわからない。
希薄であり微弱であったこの感情の細波が、何故かくもうねりを描くのか。

姫神「(きっと。上条くんのせい)」

姫神「(多分。小萌先生の影響)」

姫神「(そして。結標さんのおかげ)」

ほんの少しだけ、彼の気持ちがわかったような…そんな気がした。
そしてそれも、昨日の事とは言え衣食住の確保が結標と出会えた所に拠る部分が大きい。
先立つ物がなければ、寄る辺が無ければ、他人はおろか自分を気遣う事すら出来ないのだから。
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:31:25.06 ID:tHYuMQAO
姫神「(結標さん。本当に軽くて細い。きっとちゃんとした物をちゃんと食べていないから)」

寄りかかる結標は姫神の細い肩にすら羽のような重みしか与えない。
姫神とて普段はあまり意識しないが、人並みに自分のプロポーションに自信はある。
しかし出る所が出ているより結標のようなシャープなスレンダーさが羨ましかった。

姫神「(爪もとても綺麗。脚も長い。憎たらしい。じゃない。羨ましい。肥えさせてしまおう。私の料理で。そうだ。どんな食べ物が好きかまだ聞いてない。作れたら作ろう)」

まだ昼過ぎだ。結標が起きて少しでも元気を取り戻していたなら気分転換に買い物に連れて行こう。
第七学区のクラスメート達を思うと、申し訳ない気持ちも確かにあるが。

〜第十八学区・とあるデパート〜

姫神「結標さん。よくもやってくれた」

結標「本当にごめんなさい…やっちゃった」

霧ヶ丘女学院と結標淡希の部屋がある第十八学区に降り立った二人は連れ立ってデパートにいた。
そして姫神が言うのは、眠っていた結標が無意識に肩口に涎を垂らした事である。
対する結標もまた顔を赤くして肩身狭そうに俯いていた。
今朝どころか昨日から失点の連続だと穴があったら入りたい心持ちである。

姫神「つまり私は。結標さんにとって。生唾物の獲物。女同士でなんてインモラル」

結標「だから謝ってるじゃないの!貴女だってあるでしょそういう時!私疲れてたの!」

姫神「年下趣味の他に。そう言う性癖まで兼ね備えているユーティリティプレイヤーの貴女が眩しくて見えない」

結標「私の話をちゃんと聞いてちょうだい!私の目を見て話して!どうして視線を外すのよ!」
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:32:45.47 ID:tHYuMQAO
顔を背け軽く握った拳を口元に当てながら笑いを噛み[ピーーー]姫神、いじられながらもガンガン突っ込む結標。
その足取りに淀みはない。元から十八学区が庭である結標と、かつて通っていた姫神のコンビなのだから。

姫神「だから。寝袋か小さな布団を買いに来たの。フリースの膝掛け一つでは。貴女から貞操を守れそうにもないから」

結標「わっ、私はノーマルだって言ってるでしょ!ドSよ!貴女本物のサディストだわ!」

姫神「身の危険を感じた。会ったばかりの私に。あんな無防備な寝顔を晒して。身体を預ける貴女が。犯さないとも限らない過ちを甘んじて受ける訳にはいかない」

結標「誤解を招くような事言わないでぇぇぇ!」

辿り着いた先は寝具や日用品の置かれたインテリアショップであった。
買い物なら第十五学区などの方が品揃えは良いのだが、その日の内に使うならこのデパートで事足りたからだ。
とうの姫神はカーペットに敷けそうでかつスペースを取らず、持ち運びの出来そうな小さな布団のチョイスに忙しい。
まだ一日目だがいつまでも添い寝は結標に申し訳ないし、かと言って一時的な仮住まいが故にすぐ持ち運べるものが望ましい。

結標「(さっき眠ったのにもう疲れちゃったわ…それに朝昼抜いちゃったからちょっとお腹も空いたし)」

結標は結標でボケといじりの姫神の相手に疲れ果てていた。
チューニングのずれたラジオと話しているような感覚。
しかし、モノレール内で姫神の肩を借りて得た眠りは結標を立ち直らせた。

結標「あら…このクッション良い感じね。昼寝用に買おうかしら」

少し充電し、ボーっと待っていてもお腹が減った事ばかり頭を過ぎるので結標も店内を見て回った。
寝具のみならず、調度品や小物もなかなかの品揃えである。
するとその中の一点に結標の目を引く物があった。

結標「これ、可愛い」

それはホタルブクロが連なった形の硝子細工のランプシェードであった。
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:35:39.61 ID:tHYuMQAO
結標とて暗部の任務についている時以外は一人の十代の女の子である。
人並みに可愛い物や美しい物を穿った見方をせず愛でる事くらいする。
手を触れる事は躊躇われたが、薄く溶かしたような妖しい紫暗の硝子細工に目を奪われていた。するとそこへ――

姫神「それ。買うの?」

結標「!もう終わったの?」

姫神「うん。今日の夕方には届けてもらえるって。でも。貴女のマンションの住所がまだわからない」

結標「ああ…そうね、そうよね。送り先は――」

もう買い物を済ませてしまったのか、姫神が結標の背後に立っていた。
もう精算を済ませ、残す所は結標の部屋の住所を伝えるのみであるようだ。
結標はそれを姫神に教え、姫神は手にしていた記入用紙に書き留めて行く。
しかし、送り先を書き終えると姫神はもう一度結標が見つめていたランプシェードへ視線を戻す。

姫神「ホタルブクロ。花言葉は。“熱心にやり遂げる”」

結標「本当に少女趣味ね…なあに?まさか買ってくれるとか?」

そう冗談めかして言ってみる。しかし姫神はそれを幾分真面目な様子で

姫神「いい。私からの。お近づきの印に」

結標「えっ!?いいわよいいわよ別に!そんなに気使わないで?本当にちょっと見てただけだし…」

姫神「もう一つの。花言葉は」

それは姫神なりの不器用な感謝の表し方でもあり、もう一つは出会った時から少し沈んでいた結標への慰めでもあったのかも知れない。

姫神「―――“悲しい時の君が大好き”」

結標「――!!」
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:36:32.71 ID:tHYuMQAO
姫神「店員さん。これも一緒に」

ただでさえ心許ない懐が更に寂しくなってしまうが、別に構わないと姫神は思った。
それは互いに見えない硝子を隔てての手探りのような焦れったさともどかしさを見る者に与える。

結標「(こ、これって告白!!?違うわよね?そうよ…またピザの時みたいな私の勘違いよ!花言葉詳しかったし!)」

もちろん結標の思う通り、姫神も出会って二日で同性に恋に落ちるなどと豊かな感性は持ち合わせていない。
天然でそれをやってのけるあたり、もしかすると姫神も『上条当麻』の影響を受けているのかも知れない。

結標「あ、ありがとう…姫川…さん」

姫神「誰。それ。私は秋沙。姫神秋沙。ランプ。大事にしてくれると。嬉しい。もちろん。私も」

結標「嫁をもらった覚えまではないわ…嫁…嫁…そうだ!姫神さん、貴女料理って得意??」

姫神「その言葉が聞きたかった」

結標「えっ」

チグハグな会話、デコボコな外見。なのに不思議と意思を通わせられるのは如何なる導き手の振るう采配なのか。

能力があろうとなかろうと他者を傷つけてしまう『人間』であると思い知らされた結標淡希。

本人に意思があろうとなかろうと他者を巻き込んでしまう『能力』に運命を歪められた姫神秋沙。

それはジクソーパズルのピースに似ていた。歪に形が違い、色もまるで異なり一見当てはまるように見えずとも最後は一枚の絵になるように。

そんな二人を決定的に結びつけるマスターピースの行方は、まだ誰も知らない。
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:39:05.64 ID:tHYuMQAO
〜第十八学区・とあるデパート地下食品街〜

姫神「嫌いなもの。あったら教えて。オリーブ以外で」

結標「普通そこは好きなものって言う所なんじゃないの??まあ…骨の多い魚とか、豚の脂身とか、辛い獅子唐とか」

姫神「嫌いなものまで微妙。もっとわかりやすく」

結標「嫌いなものが出たら貴女にあげるわ」

姫神「貴女。遠足の時。お弁当のおかず。嫌いなものしか友達にあげないタイプだった?」

結標「貴女って本当に失礼ね!」

二人は食品街で手押しのカート一つで回っていた。中身は主に米や野菜や生物で、姫神は結標のわびしい食生活を改善すべく気合いを入れていた。
しかし結標は食べる事に人並みぐらいの執着しか持てないのか、姫神に任せっきりであった。

姫神「好き嫌い。お残しは許しまへん。したら玉子かけご飯の刑」

結標「?ご飯抜きじゃないならいいじゃない」

姫神「違う。醤油抜きの。本当に卵をかけただけのご飯。貴女は醤油抜きの玉子かけご飯の恐ろしさをまだ知らない」

結標「普通の人は一生知らないわよ…ねえ、オニオンサワークリームリング入れてもいい?」

姫神「おやつは。500円まで。バナナは」

結標「引っ張るわね遠足ネタ…ところで、これ晩ご飯になるんでしょ?何作るの?」

姫神「」

そこで姫神の言葉と押していたカートが止まる。
同時に結標の歩みも止まる。まさか…という気まずい思いが頭が過ぎるも…
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:40:14.50 ID:tHYuMQAO
「ねえねえ×××!今日はみんなとなに食べるの?教えて欲しいんだよ!」

「今日は石狩鍋よん。学生なんて大鍋でガツガツ食わせりゃ好きなだけがっつくわ。腹を空かした豚みたいにねぇ?」チラッ

「それって私の事?だったら許さないかも!×××!」ウガー!

「噛みついたらもうご飯食べさせないって前に言ったわよねクソガキ?さっさと買って帰るわよ。旦那の留守を守んのもいい女の条件よ。覚えときなさい」

「うん!でもとうまのクラスのみんながいるからちょっぴり食べる量減らすんだよ」

「食糧問題だけ解決されてるのが不幸中の幸いねー…他の学区の支援物資がなきゃこんなのほほんとしてられないわ…あの根性バカが頑張ってくれてるおかげかしら」

「みんな頑張ってるんだよ!×××も!こもえも!短髪も!とうまも!」

「私はお金出してるだけ。してる事と言ったらこんなイイ女ほったらかして、男ばっかで飛び出していったバカな旦那の帰りを待つばかり…ってね。帰ってきたらオ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね」

姫神「」ピクッ

どこからか聞こえて来た声音に姫神の耳がピクリと動いたのが結標にもわかった。
同時に何を言い出すのかも容易く予想出来た。

姫神「今日は。鍋に(ry」

結標「貴女今思いついたでしょ!?」
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:42:04.50 ID:tHYuMQAO
〜第十八学区・結標淡希の部屋〜

姫神「良かった。お鍋にも使えるホットプレートがあって。さすがは。学園都市」

結標「そんなの外にだって売ってるし小萌の家にもあったでしょうに…ところでこの鍋はなんて言うの?」

姫神「石狩鍋」

クツクツと煮込まれる鮭、豆腐、玉ねぎ、キャベツ、大根、椎茸、人参、長ネギをバターを隠し味にした味噌仕立ての汁で煮込む姫神。
時刻は18:40分。デパートから帰って来た後結標は姫神が使う部屋を今度こそ掃除し、姫神は石狩鍋の仕込みをしている内にこの時間となったのだ。
布団とランプシェードも届き、ようやく生活空間が整った形である。

結標「へえ…そうなの。一人暮らししてるとお鍋なんてしないから」

姫神「嘘。さっき学校で小萌先生から聞いた。貴女は野菜炒めすら(ry」

結標「小萌ぇぇぇ!」

キッチンに立った姫神にはすぐさま見て取れた。調理器具のほとんどが使用された形跡がない事を。
焼き肉が好きな小萌からの引っ越し祝いと思しきホットプレートも箱から出されはしたが取り扱い説明書が入ったまま。
そもそも塩、砂糖、醤油、ケチャップ、マヨネーズしか調味料がない時点で小萌に確認を取るまでもなく自炊能力は非常に疑わしい。
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:43:06.18 ID:tHYuMQAO
結標「だ、誰にだって苦手な分野や不得手な領域があるじゃないの!わ…私はそれがたまたま料理だったってだけで…」

開け放たれた窓辺から吹き込んでくる涼風がテーブルに立ち込める湯気を晴らして行き、結標は頬杖をついたままそっぽを向いていた。

姫神「大丈夫。これからは私が。貴女に食べる喜びを教える」

結標「えっ?」

姫神「部屋を間借りさせてもらうのだから。せめて。それくらいさせて欲しい。洗濯も掃除も。人並みに出来る。私に自由になるお金は少ない」

結標「(そうだ…この娘、霧ヶ丘を辞めてるんだった)」

霧ヶ丘女学院と結標淡希の部屋がある第十八学区は独自の奨学金制度がある。
結標は姫神の能力も、三沢塾の事件も、退学の経緯も何一つ知らない。
帰る場所もなく、頼る人間は既に他の生徒で手一杯、そして蓄えも乏しい。それを今更ながら再確認する。

姫神「貴女のこの部屋の家賃の半分も出せないかも知れない。だから。家事の一切を私にさせて欲しい。私にはそれしか出来ない。ごめんなさい」

結標「…何馬鹿な事言ってるの。“先輩”が“後輩”からお金もらう訳に行かないでしょう?」

姫神「!」

結標「それに、貴女からお金取ったなんて小萌に知れたら怒られちゃうわ…ふふふ」

結標自身金銭面に際して不安は一切ない。逆に、苦手な家事を全て姫神が行ってくれるならそれはそれで悪くない。
それ以上に…姫神の境遇に絆される部分がなくもなかったからだ。

結標「ねえ?それより食べないの?なんかグツグツいってるけど」

姫神「…ありがとう。おさんどんは任せて。はい。山椒」

結標「これかけて食べるの?変わった匂い…」

姫神「そしてご飯。玄関開けたら二分でご飯。素晴らしき哉。学園都市」

行き場がない姫神、先行きのわからない結標。ある一面から見て取れば二人ともベクトルは同じなのだから。
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:45:09.33 ID:tHYuMQAO
〜結標淡希の部屋・リビング〜

結標「慣れると結構いけるわね。これ」

姫神「うん。最初は焼き肉も考えた。けれど焼き肉をする時は。小萌先生も一緒」

結標「うん…そうね…うん。その時は私の奢り…あーでもなんかちょっと…」

姫神「?」

結標「飲みたくなって来ない?なんかこうやってると小萌が焼き肉やってる時の事思い出しちゃって」

姫神「貴女とは。美味い酒が飲めそう」

19:25分。二人は石狩鍋に舌鼓を打ちながら箸をつつき、くだらないバラエティーを笑ったり突っ込んだり。
結標も姫神も、自分で信じられないほど空気があった。
そんな食の進む晩餐の最中、ふとアルコールが欲しくなるのも十代の学生の常である。

姫神「“姫神ちゃんは未成年だからアルコールはダメなのですー!”って」

結標「あははちょっと似てる!それで小萌が寝ちゃったりした後ちょっと残ったの飲んだりしなかった?」

姫神「した。でも泡が抜けてて。正直不味かった」

結標「んー…ビールかー」

学園都市で起こった最終戦争も、二人が抱える過去も、それを一時とは言え忘れて話に華を咲かせる。
そこで結標はすっくと立ち上がり、窓辺へ歩を進めた。

結標「ちょっと買ってくるわ。貴女は鍋見ててくれない?」

姫神「でも。IDが」

結標「成人用の持ってんのよ。偽造だけどね。それに貴女売ってるコンビニ知らないでしょ?」

姫神「…わかった。でも早く帰ってこないと。雑炊しちゃう」

学園都市内でアルコールを入手するのは意外に手間である。
何せ人口のほとんどが学生であるがゆえ、アルコールを置いているコンビニは外の世界でアルコールを置いていないコンビニを探す程度に難しい。
教職員の集中する第八学区などは比較的容易だが、霧ヶ丘女学院・長点上機学園など進学校の集中するこの学区では結標ですら数ヶ所しか知らないのだから。

結標「じゃあ、全部食べられちゃう前に戻って来るわ」

そして結標から窓辺から身を投げた。落下しながら座標移動して。
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:45:53.55 ID:tHYuMQAO
〜第十八学区・とあるコンビニ〜

店員「ありがとうございましたー」

結標「これで良かったのかしら?」

取り敢えず数本、銘柄がわからないなりに適当にアルコールを詰め込んで結標はコンビニを出た。
『アンカースティーム』という銘柄らしいが、そもそも気が向いた時しか飲まないのだから仕方ない。

結標「こんな事してて良いのかしらね…良くないに決まってるけど」

初夏の夜風に二つ結びを揺らされながら結標はコンビニの車止めに腰を下ろす。
食べてすぐ座標移動を繰り返して少しもたれた気がしたからだ。

結標「――どうしようかしらね本当――」

何度目になるかわからない溜め息と問い掛け。この2日間こればかりだ。
この街並みの遙か先は戦禍のあった瓦礫の山…そう考えると自分達のささやかな夕食にすら罪悪感を抱いてしまいそうだ。
白井黒子が“うらやましい”と言った能力もこんな事に使ってしまったりと

結標「(ボランティア…ね)」

白井の言葉が時折脳裏に蘇る。自分はどうしたいのだろう。
小萌達の助けになりたいのか…いずれにせよ中途半端な気持ちのままで向かって良い場所でない事はわかっている。

結標「(暗部にいた私に…そんな事出来ないわよ)」

引け目や負い目の問題ではない。自分がこれまで戦ってこれたのは仲間の命がかかっていたからだ。
暗部から切り離され、組織を離れた一個人としての結標淡希がどうして良いかがわからない。
目指すべき頂に登り詰めた時、結標淡希には結標淡希しか残らなかった。

結標「もう…誰か教えてよ…」

キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!

結標「!?」

その時、結標の腰掛けたコンビニの向かいの道路から悲鳴が上がった。
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:49:10.44 ID:tHYuMQAO
〜第十八学区・車道〜

黒服A「ちっ…騒ぐんじゃねえよ!おい!麻酔銃貸せ!」

霧ヶ丘女学院生徒「離して!離して下さい!止めて離して!うっ…」

黒服B「おい。いくら能力者(バケモノ)だからって大事な商品だろうが。ほら、量間違うなよ」

黒服C「ついてるぜ。霧ヶ丘、常盤台、長点上機はランクAだ。特に霧ヶ丘はレア物が多いんだろ?」

黒服D「ここんとこカス当たりばっかりだったからな。お釣りがくるぜ。能力者たってガキなんてチョロいもんさ。それより飛ばせ飛ばせ。向こうはお待ちかねだ」

黒塗りのスモークバンが十八学区の道路をひた走る。
霧ヶ丘女学院の生徒の一人を拉致し、麻酔銃を打ち込んで能力と意識を封じ込めて。
それを行った男達は上々の気分であった。彼等の雇い主が『能力者』『原石』という存在を研究用の素体として欲していたから。

黒服A「戦争があったって聞いたけどよ?まるで誘ってるみたいに隙だらけだなあこの学園都市(まち)はよお?」

黒服B「前はこうはいかなかった。何があったが知らないが、火事場泥棒はガメつくいくのが良いって事よ」

黒服C「違いねえや!ハッハッハ!」

昼間はアンチスキルだジャッジメントを名乗る自警団か警察のような連中に…
ツインテールの女学生に横槍を入れられたがどうやら運が向いてきたようだ。
今日はこのまま街の外に連れ出して、落ち合う予定の出迎え役に引き渡しておしまいだ。そうタカをくくっていた。

黒服D「おい前向いて運転し…」

笑いながら前方を見やる…するとそこに…
黒服D「なんだありゃ!!!?」

ハイウェイの前方の空間が歪んで、うねって、渦巻くようにその萼を開いて――

ドガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:50:43.35 ID:tHYuMQAO
〜第十八学区・炎上する車道〜

黒服D「ゲッ…ボォッ…」

気がついた時には、いきなり目の前にテレポーテーションで姿を現したかのような大型車によってスモークバンは大破させられていた。
思いもよらぬ対向車に激突し、衝突したスモークバンは引火し、爆発し、赤々と燃え上がる道路上に投げ出されて地べたを舐めていた。

黒服D「ゴブッ…何が…起きて」

有り得ない。進行方向は一車線だったはずだ。対向車など有り得ない。
だとすれば…あの虚空から突如現れたあの大型車は一体――

?「あら?まだ息があったのね」

黒服D「!?」

すると…どこからか声が降って来た。怜悧な女の声音、鋭利な口調。
さっき連れ去った女生徒とは異なる…熱く火照る傷すら底冷えさせるような声質。

?「やっぱり1000キロ以上は身体に堪えるわ…あの娘の下手くそなマッサージよりマシだけど」

動かせない身体の中で眼球だけ何とか動かすと…そこには、女生徒を抱えて佇む…二つ結びの女の立ち姿。
声こそ女生徒と同じくらい若いが、纏う雰囲気がまるで異質だ。
その表情は背後で引火した炎の逆光と夜闇の暗さでわからないが…嘲笑を湛えた眼差しと冷笑を湛えた口元が見えた気がした。

黒服D「だ…れだ…おま…え…何…者」

?「それが貴方に関係あるの?これから死ぬ貴方に?私が手を下しても下さなくても、その様子じゃ長く保たない事もわからないの?」

炎風に吹き上がり揺らめくは炎のように赤く、血のように朱く、まるで美しい死神が舞い降りたようだった。
抱えた女生徒をアスファルトに下ろし、女は手に携えた何かを向けてくる。

黒服D「(警棒!?軍用の懐中電灯か!?)」

あの大型車はなんだ。その棒状の物体はなんだ。

?「でも残念ね…貴方のせいで折角のビールが台無しになっちゃった。今私、すごくイライラしてるの…殺しは好きじゃないし、自分の手を汚すのは嫌いなんだけど」


――お前は――何者なんだ――


?「さ  よ  う  な  ら」

そして、軍用懐中電灯が死神の大鎌のように振り下ろされ――
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:53:13.45 ID:tHYuMQAO
〜第十八学区・結標淡希の部屋〜

姫神「少し。遅い」

20:00分。姫神秋沙は鍋の火を止めて壁掛け時計を見上げながら呟いた。
結標淡希の帰りが予想より遅いのだ。徒歩ならばいざ知らず、姫神にもよくわからないが空間移動能力を持つ彼女にしてはやや遅いと感じられた。

姫神「そんなに遠いコンビニなら。我慢したのに。それとも。何かあった?」

さっきまで二人で見ていたバラエティーも、一人で待ちながら見ていたらさっきまで何が面白かったのかと冷めてしまった。

姫神「もしかして。偽IDがバレた?」

なんとなくつまらない。面白くない。そんなに人恋しがる質ではないのにと姫神は憮然とした。
やはり女の子一人では危なかったかと思う。今朝のニュースにもあった。能力者が誘拐されかけたり行方不明になる事件が終戦後増えていると。

姫神「まさか」

そこで姫神はある考えに思い当たった。そう、それは結標と初めてあった時――

結標「ただいまー」

姫神「!!!」

声は窓辺からした。出て行った時と同じ…柔らかな夜風に二つ結びを揺らしながら。
手に、『コロナビール』の瓶の入ったコンビニ服を下げて。

姫神「おかえりなさい。ビックリした」

結標「ごめんなさい。悪い癖ね玄関使わないで帰ってきちゃうの…はい。ビール!」

姫神「ありがとう。雑炊三割増しでお出迎え」

結標「やった♪外から帰って来たからもう一回手洗ってくるわねー」

結標がキッチンへと駆けて行く。だが姫神の予感は、先程までの考えは当たっていた。

姫神「(また。血の匂い)」

結標「ふんふふん♪ふんふふん♪ふんふんふーん♪」

調子外れな鼻歌と、パシャパシャと水の弾ける音に、何故だか姫神は微かに胸を締め付けられた。
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:54:11.75 ID:tHYuMQAO
〜結標淡希の寝室〜

結標「キレイね…なんか良いわこういうの」

結標淡希は石狩鍋の後姫神とコロナビールを飲んで少し騒いだ後、先にお風呂へ入った後寝室でホタルブクロのランプシェードの光を見つめていた。

結標「本当に…キレイ」

寝室に漂う芳醇な青薔薇の香りに包まれながら、硝子細工のランプシェードを愛でる。
姫神の花言葉を少女趣味と笑えないな、とアルコールの残った微苦笑を浮かべながら。

〜姫神秋沙の寝室〜

姫神「また。あの薔薇の匂い」

結標が寝室で焚いているであろうブルーローズのアロマキャンドルの香りが、姫神の部屋としてあてがわれた空間にも届いた。

姫神「(結標さん。そんな事をしても。血の匂いは。消せない)」

結標が何をしているのかはわからない。出会って未だ二日目で、互いを知る事など出来ない。
そしてそれ以上に…互いに抱えた闇の底など自分ですら持て余すのに。

姫神「(貴女は。優しい娘。そうでしょう?)」

今日届いた布団。今日与えられた部屋。なのに…何故だか無性にもどかしくなって――
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 09:55:20.26 ID:tHYuMQAO
〜結標淡希の寝室〜

結標「もしかして…姫神さんって結構寂しがり屋さん?」

姫神「どうして。そんな事を言うの」

結標「だって…“一緒に。寝ない?”なんて布団持ってこられたら私じゃなくたってそう思うわよ」

姫神「似てない。それに違う。貴女が寂しがるといけないと思って」

結標「は!?わ、私が寂しい訳ないじゃない…生意気ねっ」

ベッドに結標、床に姫神とそれぞれ布団にくるまりホタルブクロのランプの光を見つめながらそんな憎まれ口を叩く。
二人だけのパジャマパーティー、というには互いを知らなすぎるが。

姫神「安心して。夜伽は家事とは別オプション」

結標「よとっ…ちょっと!どこで覚えてくんのよそういう単語!」

姫神「そういうあわきんこそ。どこでそういう単語を覚えたの。今朝の本?」

姫神「違う違う違う違うわよ!だいたいなんなのあわきんって!?今朝の事はもう忘れてってば!」

結標は語らない。数時間前の出来事など。
姫神は聞かない。数時間前の出来事など。
互いに知らない。自分だけの秘密を抱えて。

結標「…ねえ、こっち来て話さない?なんか上から見下ろして話すのって…ちょっとね」

姫神「良い。今度は髪を踏まないで欲しい」

そして二人は少し話し込み、そしてどちらからともなく眠りについた。

そしてその日、結標の頭の中には救った少女の顔も殺めた男達の顔も浮かんではこなかった。

ただの一度も。
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 10:01:27.13 ID:tHYuMQAO
以上で今回の投下は終了です。皆さんのレス一つ一つが、最大の原動力です。
ありがとうございます。日曜日の朝からテンションが高くなってしまいました。心から感謝いたします。


>>59さん
このSSはいつもノープランの一発書きなので、実はどう転んで行くのか自分が彼女達に聞きたいくらいです。

>>60さん
つ【姫神の石狩鍋】【あわきんのビール】
貴方とは美味い(ry

それでは失礼いたします。
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 10:33:24.05 ID:flHukQ2o
乙!

>>60
せめてカプだけでも教えてくれぇぇ
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 10:45:16.66 ID:ajREvIAO
姫神マジ女神
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 10:48:46.97 ID:E/fqDi6o
乙!
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 12:12:09.38 ID:4dP8JwDO
支援


今となってはどうでもいいことかもしれないけど
ノブレス・オブリージュ
であって
ノブレス・オブ・リージュ
ではない
83 :The Door into Summer1 :2011/01/09(日) 15:48:33.25 ID:tHYuMQAO
〜第十八学区・結標淡希の部屋〜

姫神「(迂闊。寝てしまった)」

6:40分。姫神秋沙は結標淡希のベッドで目を覚ました。

姫神「(小萌先生に似てきたのかも知れない。アラーム無しでも起きれるだなんて)」

むくりと身体を起こす。最終戦争が勃発するまで送っていた規則正しい学校生活は姫神の体内時計を正確に刻ませた。
はたと傍らを見やる。そこにはスウスウと小さな寝息を立て体を丸めて眠る結標淡希の寝姿があった。

姫神「(おへそが見えてる。やっぱり細い。本当にこの中に内臓が入っているのか。人体の不思議。女体の神秘)」

肩紐の外れた丈の短いキャミソール姿の結標の白く括れた細腰を見つめる。
もしかしたらウエストは五十台半ばかそれより僅かに細いか。
あまりの華奢さに同じ女として面白くないが、同時に興味が湧いた。

姫神「(恋人は。いるのかしら。抱き締めたら。壊れてしまいそう)」

何を食べればこんな硝子細工のような曲線の肢体が生まれるのか。
今の所結標から異性の存在を匂わせるものは何者も存在しない。
あのクローゼットの中の嗜好品の内容を鑑みれば無理からぬ話ではあるが。

姫神「(よし。今朝はサーモントーストサンド。略して。S・T・S)」

一瞬、結標の安らかな寝顔にキスしたくなって、止めた。
色気より食い気。石狩鍋に使った鮭の残りを使ったレシピが姫神の脳内を占めていた。
84 :The Door into Summer2 :2011/01/09(日) 15:49:32.42 ID:tHYuMQAO
〜結標淡希の部屋・寝室〜

結標「んっ…姫神…さん?」

11:02分。結標淡希の意識は昼近くなってから覚醒へと向かった。
初夏の熱気が微かに寝汗に混じって汗を滲ませ、寝苦しくなって肌掛け布団を蹴飛ばす。

結標「…行っちゃったのかしら…」

姫神秋沙の姿はベッドから凝らした結標の目から見て影も形もなかった。
どこへ行ってしまったのだろうと僅かに訝り…そこでお酒を飲んだ翌日の寝ぼけた頭が働き始めた。

結標「そうだった…学校に手伝いに行ったんだったわ」

昨夜、眠る前に二人が交わした会話。それは姫神の側からの提案であった。
午前中の間に一切の家事を済ませておくから、家を空けたいと。
夕方には帰って来るから洗濯物も取り込まずにそのままでも構わないとも。

結標「…流石にそんな何でもかんでも押し付けられないわよ…馬鹿ねえ」

サアーッとカーテンを開け放ち窓辺より空を仰ぐ。天気は晴天そのものだ。
もう少ししたら蝉が鳴き出すかも知れない。今年の夏も熱くなりそうだと。
ただ、最終戦争で壊滅した第七学区では流石に常盤台中学の盛夏祭はないだろうし、第十五学区の織女星祭も開催は危ぶまれるかも知れないなとボンヤリ思う。

結標「みんな生きて行くのと自分の事で他の事になんて手が回らないわよ…ん?」

外れた肩紐を直しながらリビングに向かい冷蔵庫から飲み物を取り出そうとすると…ラップのかかったトーストと書き置きが置いてあった。

『お寝坊さんのあわきんへ。A・H』

結標「やだなにこの娘可愛い」

図太くズケズケ言う割に変な所で家庭的で細やかだ。
将来良いお嫁さんになるだろうな、などと思いながら結標はラップされたサーモントーストサンドを取り出し、かじった。
85 :The Door into Summer3 :2011/01/09(日) 15:50:39.84 ID:tHYuMQAO
結標「イケる」

恐らく残り物だろうに良くここまで作れる物だと驚嘆に値する。
野菜炒めすら満足に作れない結標からすればまるでお抱えのシェフのようだ。

結標「喉渇いたわね…あった、ジンジャーエール」

昨日の鍋パーティーの最中、買って来た最初のアンカースティームは駄目になってしまったため、買い直したコロナと一緒にしたジンジャーエール。
すると姫神はビールとジンジャーエールを割って飲んでいた。
なんでもシャンディー・ガフというらしい。月詠小萌がそうしていたのを見たと。

結標「ん〜…ジカジカする」

一気に呷り、寝起きの渇いた身体を潤す。寝覚めには持ってこいだった。
見やった窓辺の向こうには入道雲と、青空と、瓦礫の王国となった第七学区が遠くに霞んで見えた。

結標「そう言えばコレ飲む猫が出てくる小説なんて言ったっけ」

スタンダールの『赤と黒』の話を振っても理解した姫神なら知っているだろうかと…
結標は吹き込んでくる涼風にはためくカーテンから見上げる景色に思う。
今年はどんな夏になるのだろうと。

結標「そうだ、夏への扉」

ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』だとふと思い出した。
壊れかけた街、変わらぬ夏、自分達は今夏休みの子供のようだと詮無い考えが胸をよぎった。

結標「今日も…暑くなりそうね」

結標淡希と姫神秋沙の奇妙な同居生活、三日目の事である。
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 15:55:18.01 ID:ajREvIAO
姫神が。かわいい。
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 15:56:31.14 ID:tHYuMQAO
>>1です。
レスをくださった方々、ありがとうございます。
ノブレス〜のくだりをご指摘いただきありがとうございます。間違って覚えていました。

本編二日目と三日目のちょっとした境目のお話です。
あわきんと姫神ってタイプの違った猫っぽさがあるなと思いつき、ボツネタの一つを投下させていただきました。

では失礼いたします。
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 22:35:06.91 ID:kPfhojzDO
まるで中の人が弄られてるみたいだな沙耶っぽい
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 23:22:28.33 ID:CCbuoc4AO
>>1です。本編三日目を投下させていただきます。
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 23:24:37.25 ID:CCbuoc4AO
〜第七学区・旧学舎の園大通り〜

姫神「暑い」

マンションを出た姫神秋沙はモノレールで一度第八学区に降り立ち、そこから徒歩で自ら通う高校を目指していた。
学園都市の中心部に当たる第七学区は今や交通網の全てがズタズタであり、重機はおろか道によってはタクシーすら走れないほど破壊的な様相を晒しているからだ。

姫神「えっと。確かこっち。本当に困った。地図が当てにならない。何度来ても真っ直ぐ行けない」

捲れ上がりひび割れたアスファルトが歩みを阻み、倒壊寸前のビルディング群を避けて通り、至る所で光る剥き出しの鉄骨に制服を引っ掛けないようにする。
破れた水道管からスプリンクラーのように赤錆の水が吹き出している。
目印となる建物や施設が軒並み崩壊し、一日経てば廃墟と残骸の墓標が崩落して昨日通れたルートが塞がっている事など珍しくも何ともないのだ。

姫神「私にも。結標さんみたいな能力が。あったら良かったのに」

迂回を続け、人っ子一人いない旧学舎の園の大通りを行く。
何せ柵川中学と風紀委員第一七七支部、常盤台中学と警備員第七三活動支部も全壊しているのだ。
並んでいたお嬢様向けの店のほとんどから用品は姿を消していた。
生きて行くには仕方ないとは言え、さながらスラム街のようだ。

姫神「とりあえず。向こうに着いたら。避難所の手伝い」

第七学区のほとんどの学校が壊滅しており、今や姫神の通う高校は避難所の中核を為している。
当然生徒達も他の学区に移る者、保護者が迎えに来る者、いずれでもなく残る者と混迷を極めている。

姫神「吹寄さん。どうしているだろう。あれから。顔を合わせてない」

姫神の属するクラスでは上条当麻が行方不明に、土御門元春はイギリスに渡ったと小萌から聞いた。昨日だか一昨日、いきなりだったようだ。
青髪ピアスは何やら学園都市側の迎えの者が来たようでそちらにかかりっきりであると。
その事情は避難所で姫神のクラスを束ねている吹寄制理から聞いた。
結標に淹れたルイボスティーは健康志向の彼女が分けてくれた物だ。

姫神「着いた」

そしてあちこちで増え始めた声音を頼りに着いた先…そこは姫神達の通う高校である。
正面から見て校舎の右側が爆撃でも受けたように抉れて消失し、左側は今にも倒壊しそうに傾いでいる。
これが、今の学園都市の現実であり、現状であり。現在である。
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 23:25:31.46 ID:CCbuoc4AO
〜とある高校・警備員・風紀委員仮本営〜

黄泉川「わかったじゃんよ。じゃあ2クラス72名そっちの受け入れ体制が整い次第連れて行くじゃん」

小萌「はい、はい、ではこちらにいらっしゃる前にもう一度御一報下さい。今各地で倒壊の危機がありますので、ご家族の方々は一度第八学区まで…」

初春「し、白井さん!またA―32ブロックの炊事場で乱闘騒ぎが!」

白井「またですの!?ああ衣食住足りて礼を知るとはこの事ですの!」

固法「次から次へと舞い込んでくるわね…白井さん、初春さん、次は私が」

喧々囂々の有り様である。教職員は軒並み疲労困憊、風紀委員は過労死寸前である。
残された生徒達に親元が迎えに来るまで、他の学区に受け入れ体制が整うまでとは言え交代要員すら慢性的に不足している。
『ナンバーセブン』ことレベル5第七位削板軍覇率いる全学連のボランティアがいなければ衣食住すら回らない状態である。

白井「申し訳ありません固法先輩お願いいたしますの!初春!今の内に食べてしまいますわよ!」

初春「は、はい!じゃあ私はオニギリを!白井さんはバナナを!」

白井「(先輩が、お姉様が、あの第五位が、初春の懸想する殿方まで奔走しておりますの。腹が減っては戦がなんとやらですの)」

固法美偉は自分達の昼食を取る僅かな時間を作るために自分達以上に疲れているにも関わらず飛び出していった。
レベル5第三位御坂美琴は第七学区の電力全てをほとんど不眠不休で回している。
レベル5第五位『心理掌握』は持てる全ての力を注ぎながら暴発寸前の学生達を押さえ、宥め、空かし、束ねている。
レベル5第二位垣根帝督はその持ち得る能力を用いて各地の倒壊を最小限に防ぎ、流通のパイプラインとライフラインの開拓に最大限勤めているのだから。

白井「(啖呵を切った以上、わたくしに半端はございませんの)」

結標に切った啖呵、それはそのまま白井黒子自身への啖呵でもある。
共に歩む御坂美琴に、渡り合った結標淡希に、そして何より自分自身に――白井黒子は負けたくなかった。
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 23:28:01.30 ID:CCbuoc4AO
〜とある高校・体育館兼避難所〜

生徒A「すいませーん!姫神さん来てませんか!?向こうで割れたガラスで腕切っちゃった奴が…医者の先生みんな埋まっちゃっててー!」

姫神「待ってほしい。今。行く」

吹寄「助かるわ姫神さん。ありがとう、本当に戻って来てくれて」

姫神「私こそ。ありがとう。吹寄さん。吹寄さんが。口を利いてくれたから。私にも出来る事が見つかった」

そして、この少女…姫神秋沙も大勢の中の一人である。
『吸血殺し』の副産物である応急処置の手練手管は医者や医療機関、医療物資の不足の中にあって非常に有為であった。

結標淡希の部屋に転がり込むまで避難所からあぶれ各地を転々として腰を据えられずにいたが、腹を決めた姫神の行動は素早かった。
何せ学生達の数が数である。一回の食事、一回の洗濯、需要は莫大であり供給は膨大である。
一人でも多くの手が必要であった。物的資源もさる事ながら人的資源も同様に。

姫神「(みんな。頑張ってる。私も。頑張りたい。一緒に。頑張る)」

大きな能力が使える訳でも、特別な権限がある訳でもない。
でも何もせずにはいられなかった。近い言葉ならそれは衝動であった。
もうハンバーガーをやけ食いしている訳には行かないのだ。

生徒B「ツバつけてりゃ治るってこんな傷…痛たたた!?」

姫神「治らない。ちゃんと。腕を出して欲しい」

生徒C「はいはーい!次オレ!オレ!」

吹寄「並びなさい!それにあなたは擦り傷でしょう!これは遊びでも文化祭でもないのよ!」

姫神秋沙の戦いを始めるために
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 23:29:15.26 ID:CCbuoc4AO
〜第七学区・三九号線木の葉通り〜

結標「結局来ちゃったわ…」

一方、結標淡希も朝昼を兼ねた食事を済ませると第七学区まで来てしまった。
座標移動を持つ彼女は遅く起きたにも関わらず、ほとんど姫神が高校に着いたのと同じ時間には辿り着いていた。

結標「馬鹿ね…私に何が出来るって言うの」

昨夜の能力者狩りの現場を目の当たりにし姫神の安否が気になった事、白井の言葉、小萌の笑顔を、姫神の決心に引きずられるように来てしまったが…

結標「私に…何か出来るだなんて思えないわ」

大通りの行く手を阻む横倒しになったビルの瓦礫に腰掛ける。
こんな戦災と天災が一度に暴虐の猛威を振るったかのような場所に…
陽の当たる場所に、暗部にいた自分に何が出来るのかと…

キキィィィー…

「オーライオーライ…はいストップストップー!もうこっからは無理だー!」

「マジかよ…昨日は通れたじゃねえかよ…おーいこの荷物どうすんだー?」

結標「(トレーラー?)」

するとそこへ…瓦礫の山を前にして立ち往生しかけている超大型トレーラーが停車した。
どうやらコンテナを見る限り戦災復興支援の物資のようだ。

「回り道ねえぞ!退かそうにも重機も入らねえ!八方塞がりだ!」

「どうすんだよこれ…このルート以外はタクシーも入らねえのに!ちくしょーあとちょっとなのに」

何棟ものビルがドミノ倒しのように大通りを塞いでいるのだ。
未だに日本国政府からの救援活動を拒否している学園都市にあっては空路すら選べない。
それを結標は見やり…嘆息した。無理だ。
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 23:30:26.40 ID:CCbuoc4AO
結標「こんなの無理よ…私の力だけじゃどうにもならない…ねえ!そこの作業員の人!」

ボランティアA「ん?なんだお嬢ちゃん。道なら聞かないでくれよ今それどころじゃないんだ」

こんな瓦礫の山をちまちま座標移動させてもきりがないし、何より20トン越えのコンテナもトレーラーも飛ばせない。しかし。

結標「貴方達は能力者じゃないの?私はレベル4なんだけど…なんとかコレ、ならないかしら?」

ボランティアA「悪い…オレ風力系のレベル2なんだ。コイツはレベル0」

作業員B「クソーこんな時まで役立たずか…くそったれ」

結標「…力を合わせて…って無理よね」

三人して瓦礫の山の前で立ち往生する。照りつける初夏の陽射しが、割れたアスファルトを溶かすように降り注ぐ…するとそこへ…

?「為せば成る!為さねば成らぬ何事も!ようは根性だ!!まだ諦める所じゃない!」

結標「!!?」

瓦礫の街に立ち上る逃げ水の向こうから…腹の底から響くような声音でのっしのし歩いて来る…

?「そこで見てろ!オレの根性見せてやる!!」

純白を基調とした学ランを特攻服のように改造し、日章旗をアクセントに仕立てたハチマキ姿の男…

?「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!」

結標「まさか…コイツ…!」

恐らく、今や学園都市広告塔たる御坂美琴と互角の知名度を誇る超能力者(レベル5)
その無軌道かつ非常識が服を歩いているような力の全てを戦災復興支援に費やしていると言われる男…その名は

削板「念  動  砲  弾  (  す  ご  い  パ  ー  ン  チ  )!  !  !」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

ボランティアA「削板さぁぁぁぁぁぁん!!!」

ボランティアB「軍覇さぁぁぁぁぁぁん!!!」

結標「なにこの空気」

ミサイルでも叩き込んだような爆発と威力に極彩色の爆煙と共に、行く手を阻む瓦礫の山と廃ビルの林を木っ端微塵に粉砕したその男の名は

削板「諦めは“言”の“帝”だ!!なら言葉より行動と根性だ!!そうだろう!?」

愛と根性をこよなく愛する嵐を呼ぶ漢…レベル5第七位『ナンバーセブン』…削板軍覇であった。
95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 23:33:56.12 ID:CCbuoc4AO
ボランティアA「ありがとうございます削板さん!ご苦労様ッス!」

ボランティアB「ごっつぁんでした軍覇さん!お疲れ様ッス!」

削板「よし行けお前ら!物資を頼んだぞ!!気合い入れてけ!根性出せ!」

結標「(…何よこのノリ…)」

削板がコンクリートとアスファルトを豆腐をハンマーど横殴りするように切り開いた道を、トレーラーが走って行く。呆然とする結標と、フンフンと三三七拍子で見送る削板を残して。

結標「ねえ貴方…さっきのアレなに?」

削板「?なにを言ってるんだ。根性に決まってるだろう」

結標「根性でどうにかなるレベルじゃないわよ!?」

削板「一応レベル5だからな!後は根性と根性と根性だ」

結標「貴方根性って入れないと話せないの!?何回根性って言ってるのよ?!」

削板「8回だ。撤去作業にかかる費用と人員を学園都市が外部の人間を借り入れてまですると思うか?国庫からの支援すら拒否するに違いないぞ。時間も機材も足らんのらなら根性しかないだろう。自分達でどうにかせにゃならん!」

結標「意外に理知的!?」

姫神といい削板というある種『原石』とは皆天然なのかと結標は突っ込みが追いつかない相手に溜め息をついた。
馬鹿ではない。しかし利口ではない。今まで会って来た男達のどれとも違う。

削板「自己紹介がまだだったな!俺は軍覇、削板軍覇だ!握手!」

結標「あ、淡希…結標淡希よ…よっ、よろしく」

意外に求められた握手は普通だった。あれだけの破壊をやってのけながら。そんな感想を結標が抱いた時、削板はまた違った印象を抱いたようで。

削板「そうか!ところでお前はこんな所で何をしてるんだ?避難民の学生か?それともボランティアのメンバーか?」

結標「わ、私は…」

なんと伝えれば良いのだ。焼け出された学生でもなければボランティアにもなれない。それどころか何をして良いかすらわからない元暗部…そんな結標の迷いを

削板「お前、能力とレベルは?」

結標「空間移動…レベル4」

削板「そうか!ならちょうどいい!手伝って欲しい事があるんだが聞いてくれ!」

結標「えっ!?ちょっ、ちょっと!」

削板「時間ばかりは根性じゃどうにもならんから歩きながら話す!うおおおー!」

削板軍覇は見抜いていた。そして握手した手をそのままに結標を引っ張って行った。
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 23:34:50.81 ID:CCbuoc4AO
〜とある高校・ボランティア詰め所〜

削板「という訳だ!!今日からお前には“案内人”になってもらいたい!!」

姫神「これは。どういう事」

結標「私に聞かないで…この人、人の話聞かないのよ」

小萌「結標ちゃん…先生からもお願いしたいのですよー…ボランティア(自主性)の主旨から少し離れてしまうのですけど」

結標は引っ張って行かれた先であるボランティア詰め所で打ち合わせしていた小萌と姫神と再会した。
そこで紹介がてら任命されたのは…未だ各所で崩落の危険性のある第七学区から、学生達を安全な第八学区へと誘導する『案内人』である。

削板「いや。コイツはここ(第七学区)まで自分の足で来た。誰に言われた訳でもなく!迷いながらも自分の出来る事を探して迷っていた目だ!!それにコイツは――根性が、ありそうだ」

結標「………………」

削板の眼力は正しかった。結標自身迷いの最中にあり、悩みながらも第七学区まで来た。
そして…ある意味ではレベル5として、学園都市の闇を見てきた。そして結標からその匂いを感じ取った上で…連れて来たのだ。

白井『“この後”どうするかではありませんの。“この先”どうするかですの』

結標は反芻する。白井黒子の言葉を。

白井『あと数メートル長く飛べ駆けつけられたなら、あと数キロ重く人を抱えられたならと…』

結標は想起する。白井黒子の表情を。

結標「(ふー…)」

小萌は大人として戦い、姫神は子供として闘い、削板はレベル5として。

結標「(もう疲れたわ…ウジウジウジウジウジウジ悩むのに)」

ならば――結標淡希は何を為すべきか。その力で。レベル4座標移動の能力で。

結標「(もうウンザリなのよ…あなた達みたいに眩しい人達の中にいるのが)」

瓦礫の山はもう見飽きた。闇の底はもう見飽きた。


――歩き出そう。座標移動ではない自分の足で――


結標「私は―――」

答えはもう、決まっていた。
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 23:38:55.42 ID:CCbuoc4AO
これにて今回の投下は終了です。

一日目は姫神秋沙と、二日目は白井黒子と、三日目は削板軍覇と出会えました。

それでは失礼いたします…
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 23:47:04.50 ID:m5KMh7Vmo
削板さん格好いいです
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 00:01:29.54 ID:hzU99Z9Xo
すごくいい
モヤモヤして眠れなくなる
100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 00:31:02.63 ID:PhSg7rZuo
すごパに気合を入れられるようになったんだな
101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 00:49:57.91 ID:7y094QtLo
なんといいSS
キャラの描き方がみんなすごくいい、続きが楽しみ
102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 01:28:14.67 ID:eHo4z5Bao
乙!

自分のペースで百合百合してってくれ
いきなり百合で入ったスレや3日間の描写だけで1000いったスレもあるんだし
103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 02:22:40.54 ID:IpshWVgDO
すごい楽しい。結締も姫神も可愛いし生きてていいね
続き待ってます
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 12:58:08.72 ID:AWUUvrsAO
>>1です。本編三日目後半の投下をさせていただきます。
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 13:00:04.45 ID:AWUUvrsAO
〜第七学区・とある高校グラウンド〜

結標「ゼー…ハー…ヒー…ヒー…」

姫神「お疲れ様。吹寄さんから。ルイボスティーと青汁の。差し入れ」

結標「ルイボスティーだけにして頂戴…いま青汁なんて飲んだら戻しちゃうわ」

17:58分。結標淡希は今日最後の疎開組となる学生グループの引率を終え仮設テントのパイプ椅子に腰掛けていた。
初夏という事も未だ夕陽も沈み切らないグラウンドを見やりながら、姫神は冷たいルイボスティーを結標に手渡す。

姫神「あの白ランの人が。誉めてた。俺の目に狂いはなかった。女とは思えない根性だ。って」

結標「狂ってんのはあのムチャクチャ男の頭でしょ…昼間から何回座標移動させるのよ…私じゃなかったら脳が焼き切れてるわ」

結標は目にアイピロー、額に氷嚢を当てて脱力しきっていた。姫神の処置である。
無理もない。半日以上演算しっ放しで何百人という学生達を小分けに第八学区まで送り届け続けたのだ。
下手すると暗部以上にハードで、これでボランティア(無給)なのだから笑う気力も残されていない。

姫神「―――でも」

結標「…?」

姫神「みんな。貴女に感謝していたはず。違う?」

結標「…フンッ…」

姫神の指摘通りだった。我が子の無事に咽び泣く両親、夜も眠れない不安に苛まれて子供、その再会が叶った時…

結標「この私をただ働きさせるだなんて…高くつくわよ」

まるで神か、救世主のように迎えられた。もちろん学園都市の不手際を罵倒する家庭も当然あった。
それでも結標はどこか満たされた気分である自分をむず痒く居心地悪く感じていた。
姫神はそんな結標の手を…ソッと重ねる事で応える。

姫神「胸を張って。結標さん」

姫神は結標から自分と似た不器用さを感じ取っていた。
他者の好意を上手く受け止められず持て余す不器用さを。

姫神「――私からも。ありがとう」

それを結標はアイピローの中でパチクリと目を見開き…そして…笑った。

結標「…ごめん、もう一度肩貸して。今度は涎垂らさないから」

姫神「うん」

少なくとも、不器用ではあっても素直な娘なのかも知れないと姫神は肩を貸しながら思った。
そして姫神自身も慣れない仕事の連続に疲れ切り、いつしか微睡み始めていた。
106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 13:00:48.52 ID:AWUUvrsAO
〜とある高校・炊事場兼炊き出し場〜

麦野「オラァァァ!屠殺場の豚みてえにブーブー喚いてんじゃねえ!文句抜かす奴ァ前に出ろ!×××ジュージュー焼かれて鍋の材料にされてぇか!?」

禁書「しずり!しずり!早く注いで欲しいんだよ!もう我慢出来ないんだよ!」

ステイル「いつまで僕はこんな事をさせられるんだ…インデックス、豚肉をオマケしておいたよ」

長蛇の列と黒山の人集りの中、魔女の釜のような豚汁大鍋を掻き回す麦野沈利と器を持ったインデックス。そして火をくべるのはステイル=マグヌスである。
とある事件で知り合った間柄ではあるが、それは本編とは関係ないまた別の話である。

垣根「はっ、エプロン姿で吠えても迫力ねえぜ第四位。飾利、お前はああなるなよ」

初春「かっ、垣根さん聞こえちゃいますって…ああ!」

麦野「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」ギラッ

垣根「おい止めろ!飾利に当たるだろうが!」

フレンダ「結局、旦那が帰ってこないのがイライラの元って訳よ…あら?」

雲川「ねえ、さっきからずっと待ってるんだけど?おあずけは好きじゃないんだけど」

フレンダ「てへっ☆お詫びに鯖入り豚汁にしてあげるって訳よ!」

吹寄「青髪!どこをほっつき歩いていたの!?朝からいないと思えばご飯の時だけ帰ってくるなんて!こら待ちなさい!働かざる者食うべからずよ!」

青髪「(今の今まで第六位の仕事やってましたなんて誰にも言えるわけないのに〜!カミやんやないけど不幸や〜!)」

18:50分。夕食そのものは18:00からなのだが兎に角人数が多く、配膳から片付けから目が回る忙しさのあまりこの時間まで途切れないでいるのだ。

婚后「湾内さん!やっておしまいなさい!」

湾内「ズ ギュルギュル しゅごー」

皿洗いにその真価を発揮する者もいれば

芳川「まだ味つけが甘いわ…私は自分に甘いけど」

仕込みに従事する者もいる。

小萌「あっ、そこの金髪さーん!神父さーん!姫神ちゃんと結標ちゃんの分もお願いするのですよー!疲れて寝ちゃってるのですー」

取り分ける事に勤しむ者もいれば

寮監「(今日も無事に、誰一人大怪我をせずに良かった…それだけが救いだ…どうか明日も…皆無事であって欲しい)」

夕食の折、手を合わせる際見えぬ先行きを祈る者もいる。

――彼等は、生きているのだ――
107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 13:02:53.16 ID:AWUUvrsAO
〜とある高校・体育館兼避難所、屋根〜

結標「ちょっと甘くない?この豚汁」

姫神「それは。貴女が飛び回って汗をかいているから。身体が。塩気を求めている。この鯖食べる?」

結標「どうして豚汁に鯖入ってるのよ…うわっ!なんでカレーの味するの!?」

二人は体育館の屋根部分に腰を下ろしながら小萌に取っておいてもらった豚汁を食べていた。
時刻は19:28分。それなりの時間を眠ってしまったらしく、起きた時にはダウンして眠っていた風紀委員の面々がテントに転がっていた。
故に二人は疲れ果てた彼女達を起こさぬようにこんな場所まで座標移動して来たのだ。一眠りした事でかなり回復したようだ。

姫神「遅くなって。疲れてたら。木山先生って人が。車で送ってくれるって小萌先生が」

結標「大丈夫よ。鍛え方が違うわ。後で大丈夫って伝えておく。貴女はどうする?」

姫神「私も。貴女と帰る。体育館に寝る場所はないから。いっぱい」

結標「今日あんなに連れ出したのに…先が遠過ぎて眩暈がするわ」

事実、今日だけで数百人を第八学区まで送り届けて結標はわかった。
未だにあちらこちらで倒壊や崩落の危機は可能性として起こり得るし、昨夜のような能力者狩りの連中がいないとも限らない。
物資の搬入にも結標の座標移動は非常に有効だった。肉体強化の能力者にやっと楽が出来そうだとも言われた。

姫神「うん。でも。少し不謹慎だけれど」

結標「………………」

姫神「誰かの役に立てて。私は嬉しい」

季節は初夏。加えて避難所生活。ほんの些細な傷も雑菌が入れば事だ。
ことさら水回りから衛生面からなにから…姫神の力で応急処置に関してはかなりの腕前である。
こういう状況下では感染症を防ぐためにも応急処置とは決して馬鹿に出来ないのだとカエル顔の医者に言われた。
108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 13:03:52.60 ID:AWUUvrsAO
結標「…貴女が」

姫神「?」

結標「貴女が居てくれたから、私も自分の気持ちに仕切り直しが出来たのよ」

そして同時に…姫神が学校に行かなければ結標も後を追いはしなかった。
それがなければ削板と会う事はなかったし、白井の言葉に後押しされる事ももっと遅かったはずだ。
そして今も…肩を貸して眠らせてくれ、一緒に豚汁を食べてくれている。そんな微々たる触れ合いが、くすぐったかった。

結標「ありがとう。朝のあのサーモントーストサンド、おいしかったわよ」

姫神「………………」

結標「………………あっ」

その時、結標は信じられないものを見た気がした。

姫神「…ありがとう」

結標「(この娘…笑えるんじゃない)」

二人が居る体育館の屋根に降り注ぐ月明かりを背に…今、姫神は確かに笑った。
笑ったのだ。とても柔らかく、優しく、穏やかに。

結標「(うわっ…うわっー…うわー…)」

何故だか顔が赤くなる。それはドキッとするほど綺麗な微笑みだった。
何故だかもう二度と見れないような錯覚を呼び起こさせるような…儚い月のような

姫神「ブイv」

人間とは、こんなに美しく笑えるのかと…そう思わざるを得ない笑顔が、結標の胸に強く焼き付いた。
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 13:06:14.44 ID:AWUUvrsAO
〜とある高校・校門〜

御坂妹『21時10分前です。消灯の用意をお願いします、とミサカはアナウンスを通じて一日の終わりを告げます』

削板「ふんならばぁっ!むおおおぉぉぉ!根性ぉぉぉ!」

雲川「お前、少しは前を隠したらどうなの。丸見えなんだけど」

一方…戦火の後も生々しい校舎の屋上に、削板軍覇と雲川芹亜はいた。
削板は子供用のビニールプールで水浴びをしていたる…手にはレモン石鹸とたわしという出で立ちで、雲川は屋上のフェンスに寄りかかりながら月を見上げていた。

削板「ん!?なんだ!浴びるならもう少し待ってくれ!」

雲川「入るか!私は消灯時間になっても戻って来ないお前の様子見に来ただけなんだけど」

削板軍覇はレモン石鹸の泡でモコモコの顔を雲川に向けたが、雲川自体は全裸の削板を前に平然と腕組みしながら口火を切った。

雲川「今日お前が引き入れたあの“案内人”…レベル4『座標移動』結標淡希は“ツリーダイヤグラム”の残骸を外部に横流ししようとしていた前科があるんだけど?」

削板「それがどうした?」

雲川「何かあったらどうするつもりかを聞いてるんだけど?」

クスクスと試すような笑みを浮かべる雲川がカチューシャでまとめられた髪をいじりながら削板をつついた。
雲川は知っている。結標の傍らにいる姫神が削板と同じ『原石』である事も。
同時に削板も『原石』を巡る一件でオッレルスと拳を交えている。
雲川が指摘する部分はそこなのである。さも愉快そうに。

雲川「能力者狩りや原石狩りが横行しつつある中…あの女が外部組織と結託してまた掻き回さないとも限らないんだけど?そんな前科者を親元まで導く“案内人”のポジションに就かせるだなんて正気の沙汰と思えないんだけど」

削板「羊達を束ねる役目の牧羊犬が、いつ野良犬根性に立ち返るかわからん、そう言いたいのか?」

雲川「お前やっぱり頭悪くないでしょう?」

ザバーッと頭から冷水をかぶり、犬が水気を切るようにブルブルと頭を振る。
ポタポタと落ちる雫がその鍛え抜かれた身体を濡らし…ザッと黒髪をかき上げながら削板は答えた。
110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 13:08:02.76 ID:AWUUvrsAO
削板「お前が見たのは“書庫”のデータだろう?お前が聞いたのは暗部の情報だろう?だがオレは見たぞ!アイツの目を。お前は見たか?アイツの目を?ナマで」

タオルくれ、と手を伸ばした削板に雲川はそれを放り投げた。
ガッシガッシと身体を拭きながら削板はさも当然そうに語って見せる。

削板「アイツには根性がある。負け犬根性の染み付いた自分を変えたいって目をしていた!オレにはそう見えた!だから俺は信じるぞ!暗部とやらで入ったアイツの筋金入りの根性を」

無論、雲川とて本気で結標を危険視している訳ではない。それは信頼ではなく方法論の問題だ。
能力者や原石の横流しをさせないために打っている手はごまんとあるのだ。
先ほどアナウンスをしていた御坂妹…シスターズがここを影から守っているのも一つの防衛装置。
それ以外にも…万に一つでも結標が翻意を抱いて暴挙に出ても、五分とかからず無力化する術がこの少女の頭の中にはあるのだから。

雲川「お前は馬鹿じゃないが利口ではないな。まあ…そんな所が見ていて刺激的で飽きないんだけど」

削板「ん?オレの裸をか!?」

雲川「やっぱりお前は馬鹿だ!!!」

削板「――ありがとうよ、みんなの心配をしてくれて」

雲川「!!…馬鹿なお山の大将が頭を使ってくれないからこっちは知恵熱が出そうなんだけど」

削板「根性でカバーしてくれ!頼りにしているぞ副リーダー!」

今、雲川芹亜は学園都市上層部と削板率いる全学連復興支援委員会とその他の勢力のブレーンも努めている。
力と器の削板、知と策の雲川という最終戦争前には有り得ない取り合わせで。

雲川「頼りにされても困るんだけど?お山の馬鹿大将(リーダー)」

そして三日目が終わる…夜空に座す月だけが、それぞれの営みを照らし出しながら。

明日へと続く、月明かりの道標を描いて。
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/10(月) 13:14:06.75 ID:AWUUvrsAO
>>1です。今回の投下はこれにて終了です。
レスを下さる皆様、読んで下さる方々、本当にありがとうございます…
いつもノープランのためどう転がるかわかりませんが、どうかよろしくお願いいたします。

そして一カ所訂正が…削板と雲川先輩がいるのは校門ではなく正しくは屋上です。失礼いたしました…

では失礼いたします。
112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 13:18:39.39 ID:jbH8btDuo
相変わらず削板が格好良すぎる。
頭の悪くないパワーファイターは大好物だ。
113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 14:03:10.13 ID:5pvZj6dio
夢のようなオールスターだな・・・
そんな中上条さんだけが行方不明なのか
ここの本編とは直接関係のない脇キャラとはいえ気になる所ではあるね
未登場の中で気になるキャラも沢山いるが、あわきんと姫神の仲もゆっくり進行しているようでどっちも先が見たいわ
114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 15:01:04.70 ID:irf1r6NAO
面白いよかわいいよ頑張れ
115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 21:48:26.56 ID:egsrMpHao
すごパに気合を入れられるようになったんだな
116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 21:56:17.56 ID:egsrMpHao
びやあ前回のレスが何故か残ってて書き込んでしまった

麦のんが炊き出しとは・・・お残しなんぞした日にはgkbr
117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 00:56:41.92 ID:hD1GJacAO
フレ/ンダが離婚してない……?
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:10:12.46 ID:wCjv+xKAO
>>1です。三連休も終わりですね…という訳で寝る前に投下させていただきます。
119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 01:11:49.04 ID:DXsL81qW0
俺も復興支援したい!
120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:12:41.92 ID:wCjv+xKAO
〜とある高校・全学連復興支援委員会詰め所〜

服部「今日の割り振りを発表するぞ。結標さん、フレンダさん、十四学区まで頼む。郭は…」

フレンダ「(グループと!?)」

結標「(アイテムと?!)」

四日目…AM8:16分。水先案内人として加わった結標淡希は眠い目をこすりながら姫神秋沙に伴われて詰め所へやって来た。
しかしその眠気すら吹き飛ばすような配車を言い渡されたのだ。それは何と…

フレンダ「(結局、グループは解散した訳よね?4日前の情報だと)」

結標「(やりづらいったらないわね…これなら私一人の方がまだ気が楽だったわ)」

グループの結標、アイテムのフレンダという異色どころか暗部同士という劇薬ものの組み合わせである。
互いに目配せし、気取られぬように嘆息する。何とも言えない気まずさが二人を取り巻いた。

黄泉川「お願いするじゃんよ。人数は五人なんだが何せ距離が距離なんだ。それにそっちは留学生じゃん?土地勘もありそうだから適任かと思ったんだけど…」

フレンダ「(アンチスキルの前でまさか発破の方が得意だなんて言えるはずない訳よ)はーい。よろしくって訳よおさげさん」

結標「…ええ、よろしく…金髪さん」

フレンダは元来『案内人』ではない。そもそも本来復興支援委員会のメンバーですらないのだ。
当然、暗部である事も表向き知られていない。しかし
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:14:49.31 ID:wCjv+xKAO
フレンダ「(結局、リーダー二人とレベル5二人に言われたら断り切れないって訳よ)」

アイテム『元リーダー』にしてレベル5の麦野沈利、『現リーダー』の絹旗最愛、そして『八人目のレベル5』となった滝壺理后からの突き上げを食らったのである。

麦野『フーレンダー…ってな訳で話振られたから今回はアンタが出なさい』

絹旗『私超多忙なんで超お願いします。まだゴタゴタしてるんで』

滝壺『大丈夫。私はそんな土地勘溢れるふれんだを応援している』

フレンダ「(結局、浜面がいないしわ寄せが全部こっちに回ってくる訳よ)」

現在、レベル5として麦野は避難所への資金提供を。絹旗は『窒素装甲』を用いた瓦礫の撤去作業と道路の整備と舗装に。
滝壺はAIM拡散力場の観測と共に学園都市全体の能力者を監視、外部からの『能力者狩り』に目を光らせているからだ。

フレンダ「(帰って来たら覚えてろって訳よ浜面)」

上条当麻、一方通行、そして浜面仕上と『もう一人』の四人は現在行方不明である。
そのため、フレンダはぶしぶ結標と組む事になったのだ。嫌々ながら。
122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:17:04.72 ID:wCjv+xKAO
〜とある高校・プール兼洗濯場〜

姫神「今日は。随分と遠くまで行くのね」

結標「今回は留学生なの…だから一度第十四学区まで送り届けて、本国に帰る算段をつけるんですって。能力者狩りもポツポツあるみたいだし…ほとんど護衛ね」

一方、姫神秋沙は水流操作の能力者達が一つのプールを丸ごと洗濯機のように回している洗濯場を手伝っていた。
何千、下手をすると万という人間の衣類の洗濯など手も水も洗剤も馬鹿にならないのだ。一日中かかっても終わらない。
姫神はシーツを干す作業に従事しながら、傍らでぼやく結標を見つめた。

姫神「警備員も風紀委員も。他の護送でいっぱいいっぱい?」

結標「そう。それは仕方無いんだけど組まされる相手がね…あの第四位の推薦だって言うから嫌な予感はしたんだけど…」

姫神「嫌いなの?苦手な人?」

結標「話した事もないけど、聞いた事はある人。まあ仕事はキッチリやるわよ」

そろそろ結標に割り当てられた学生達がグラウンドに集まっている頃だろうと結標は腰を上げた。
フレンダとは未だ打ち合わせすらしていない。本当はこんな風に愚痴を言っている暇はないのだが…

姫神「お弁当。作ったの持っていって」

結標「ありがとう。いただいて行くわね…ふふっ、何だかお嫁さんもらったみたい」

姫神「そういう貴女は。男っぽいから旦那さん?」

結標「ずーっと男所帯(グループ含め)ばかり居たからね…って私は女よ!なによ、ちょっと料理が出来ないくらいで女扱いもされないの?」

姫神「ちょっとってレベルじゃない。料理音痴までレベル4」

軽く拗ねながらも弁当箱を受け取る結標、そんな結標の頭をポンポン撫でる姫神。
弦を張り詰めさせる前の、緩める相手との僅かな時間ではあるが日常を感じたかったのかも知れないと結標は思った。

姫神「無事に。帰って来て。私のお願いは。それだけ」

結標「勝手に死亡フラグ立てないでよね…はいはいわかってるわよ。心配性の姫神さん」

そうして結標は姫神の肩をポンポン叩いて去って行った。
それをシーツをギュッと抱き締めて見送る姫神を残して。一度も振り返る事なく。
青空に吹く初夏の風が、無数のシーツはためく洗濯場と二人の間を駆けて行った。
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:17:47.14 ID:wCjv+xKAO
〜とある高校・校門〜

結標「確認だけれど、私が前衛、貴女が後衛で構わない?」

フレンダ「結局、私のやり方の関係上それしかないって訳よ」

結標「(能力を明かしもしないクセに)さっきも言ったけど、人命優先、殺人御法度よ。大丈夫?」

フレンダ「時と場合によって臨機応変…って言う暗部(わたしたち)の流儀って訳にはいかない?」

結標「(私だって出来ればそうしたいわよ)」

二人は校門前で連れ出す留学生達を待ちながら簡単に打ち合わせていた。
しかし結標は不安に、フレンダは不信に凝り固まっていた。
同じ世界の、異なる組織の人間。どちらも相手の言い分に唯々諾々と従う義理など本来はないのだから自然とそうなる。

フレンダ「(結局、同じ穴の狢って訳よ)」

結標「(蛇蝎って言葉通り、同じ毒を持った者同士ね…どっちが蛇でどっちが蠍なんだか)」

足並みを揃えようにも歩み寄りの余地がほとんどないのだ。
その微妙な距離感を間違えれば激突しかねない危うい均衡を湛えた緊張感。

フレンダ「よろしくね、二つ結びさん」

結標「よろしくね、金髪さん」

二人は互いに名乗る事さえしていないのだから。
124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:21:21.31 ID:wCjv+xKAO
〜第七学区・瓦礫の王国〜

留学生A「ガイドさ〜んまだつかないんですか〜?」

留学生B「うおー暑い…アスファルトがねちょねちょしてらあ」

結標「第八学区までの辛抱よ。男の子なんだから我慢我慢」

留学生C「滑るっ」

留学生D「この街も終わりだなあ本当…国帰れるのかな私達」

留学生E「ねえねえお姉さんはどこの国出身?わたしユーロ」

フレンダ「結局、ボーイスカウトの延長って訳よ」

帰国を控えた留学生5人を引き連れて結標は行き、殿(しんがり)をフレンダが務める。
至る所に半壊したビル群が聳え立ち、まるで渓谷のような地割れまで入っている。火災などはとっくの昔に収まっているが、誰が燃したのか焚き火が放置されている。

留学生A「でもまだ信じられねえよ…なあガイドさん、なんで戦争なんて起きたんだ?自分の国でもこんな経験しねーよ」

結標「廃墟マニアでない限りまず目にする事ないわよね。私もそうだけど」

留学生B「だよな。この国のアニメの世紀末救世主伝か、少年よ神話になれって新世紀な感じだぜー」

フレンダ「(素人の学生五人、女が二人、私が狙うなら今しかないって訳よ)」

結標「(瓦礫の山なんて市街戦なら格好の隠れ蓑よね)」

油断なく辺りを見回す結標、後ろや周囲を振り返りつつ着いてくるフレンダ。
互いに思考は暗部での活動がベースとなっており、そういう意味ではバランスが取れていた。なまじ能力任せのド素人と組まされる方が結果として衝突を招いたかも知れない。

結標「(気温は30度前後…風はほんの僅か。歩く道は見通しが良い。つまり)」

フレンダ「(陽を背負わない方向からなら狙撃し放題って訳よ…結局――)」

ゾワリ…!

結標・フレンダ「「(来るなら今(って訳よ!))」」

留学生CDE「「「?」」」

不意に立ち止まる二人に、留学生達が釣られて足を止めた。

結標「みんな!!」

フレンダ「伏せて!!」

その時、一発の銃声が―――

ズギュウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:22:08.77 ID:wCjv+xKAO
〜第七学区・元セブンスミスト屋上〜

傭兵A「消えた!?」

傭兵B「なんだ今のは?!」

『能力者狩り』に雇われた傭兵達は打ち捨てられたビルの屋上で瞠目していた。
距離にして600メートル、真っ平らな瓦礫の山を行く五人の学生らしき集団とその前後についていた二人の女が、引き金を引いた瞬間スコープから消えていたのだ。

傭兵A「訳がわからん!おい!もう一度見渡せ!こっちにはいないぞ!」

傭兵は焦っていた。この学園都市において傭兵稼業を営む者で知らない者はいないという狙撃者『砂皿緻密』が倒れたという噂を思い出したから。

傭兵A「右はいないぞ!おい左はどうなんだ!おい!」

二日前、第十八学区のハイウェイで同じく能力者狩りに派遣された先遣隊がタンクローリーの下敷きにされ全滅したという報まで思い出す。
退却すべきか体勢を立て直すべきは傭兵は一瞬逡巡した。

?「残念。貴方のお友達はもう口も利きたくないそうよ?」

傭兵A「!?」

その可愛らしい、まだ幼いと言って良い甘ったるい声音が、耳に届いた時には傭兵は悟ってしまった。

?「結局、ライオンの狩り場(がくえんとし)に首突っ込んで来たハイエナ(しんにゅうしゃ)はこうなる運命って訳よ」

?「あんな馬鹿みたいにデカい音出る銃でしかも外すだなんてたかが知れるわ。ハイエナは強いもの」

振り返れない。覗き込んだスコープの先には誰もいないのに。
振り向けない。自分の背後で何かがグチャリと鉄塊で潰される音…相棒である傭兵Bの首が落ちる音がしたのに。

?「狙撃に使うなら結局、磁力狙撃砲が一番って訳よ!電磁石でスチール製の弾丸を飛ばす学園都市謹製の一品!音も反動もない優れものって訳よ!…でなきゃバレなかったのにね?」

?「距離600メートルの腕前じゃ宝の持ち腐れよ。でもね…私昔から鬼ごっこに混ぜてもらえなかったのよ。この力のせいで…だから少しは楽しめたわ…いっぺん言ってみたかったの」

傭兵A「あ…ああ…あああ」

背後にいる――二匹の『鬼』が見れない。

?「「  鬼  さ  ん  捕  ま  ー  え  た  」」
126 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:23:59.93 ID:wCjv+xKAO
〜第七学区・瓦礫の王国〜

留学生A「えっ?えっ?」

留学生B「俺達なんでこんな所いんだ?」

留学生C「ガイドさんは?ガイドさんどこ行ったの?」

一方、結標とフレンダに引率されていた留学生達は混乱していた。
いきなり伏せろと言われた瞬間、景色が切り替わり自分達は阿呆のように破壊された噴水広場に居たのだ。
水先案内人と、自分達と同じ異国の血を引く少女の姿を見失ったまま…

ズズ…ズウウウウウゥゥゥゥゥン…

留学生D「あっ、向こうのビル崩れた。あそこセブンスミストあったビルじゃない?」

そして…遠くには崩れ行くビル。今や見慣れてしまった光景と轟音。
しかし…五人は知らない。それが『自壊』ではなく『爆破』による者だと。

結標「やり過ぎよ馬鹿!御法度だって言ったじゃない!」

フレンダ「結局、私もスカッとしたかった訳よ…みんなお待たせー!」

そこへ、気がつけば見失ったはずの二人が戻って来ていた。
まるで、女の子同士でトイレに行った帰りのような気軽さで。

留学生E「どこ行ってたんですかー!困るんですよ本当にもー!」

そして留学生の一人が怒って見せると…フレンダと結標は顔を見合わせ…そして同時に笑った。
互いを嘲り笑うような、欠片の温かみもない冷めた笑顔で。

結標・フレンダ「「お花摘んで来てたの(って訳よ)」」
127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:25:57.18 ID:wCjv+xKAO
〜第七学区・家庭科調理室〜

御坂妹『学園都市ラジオ“レディオノイズ”が13時をお知らせします、とミサカは並ぶ者のいない美声でお送りいたします』

舞夏『そしてラジオの前の大きいお兄ちゃん達にお知らせだぞー!今日の夕食はなんとシ・チ・ュ・ー・なんだぞー!』

御坂妹『第十五学区から新鮮な夏野菜が支援物資として送られてきた事に感謝しましょうと、ミサカは人数が捌ける煮物ばかりの現状にワガママを言ってみせます』

黒妻『食えるだけめっけもんだぜ!さて次は夏のヒットチャートと洒落込むぜ!リクエストはペンネーム…おっ…I LOVE ムサシノ牛乳さんから“No Buts”だ!』

姫神「去年流行った曲。時の流れは速い」

御坂「暑ーい!ごめんなんか飲み物ないー?」

姫神「お疲れ様。サイダーしかないけど。それでも良ければ」

御坂「ありがとう!発電所暑くって熱くってさ…はあ〜生き返る〜」

一方、姫神秋沙は調理室で校内放送ラジオを聞きつつ昼食の準備に追われていた。
応急処置の技術やら炊事の手際の良さを買われてあちらこちらに呼び声をかけられ、今も火にかけた油を見ている最中である。
そこへやって来たのが第三位『超電磁砲』こと、御坂美琴である。

姫神「風力発電のほとんどが。使えない今。貴女のおかげでみんなが助かってる。ありがとう」

御坂「私の力だけじゃないってば…今は“妹達”にちょっと代わってもらってるの…流石の御坂センセーもちょっとバテる」

食事の時だけしか姿を現す事の出来ない発電所にかかりきりの毎日である。
シスターズのサポートこそあれど、第七学区の電力全てを賄うなどと常識外れにもほどがある功績はレベル5でなくして成し得ない。

御坂「ねえ…アイツは…まだ?」

姫神「まだ。みたい。残りの三人も。詳しい事は。私にもわからない」
128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:27:01.74 ID:wCjv+xKAO
御坂「そうなんだ…」

生きている事だけは時折インデックスにかかって来る電話でのみわかり、こちらからはなかなか繋がらないらしい。
御坂は机にグデーっと伸び、ヒンヤリした表面に頬をつけながら物憂げに呟いた。
それが微かに、姫神の胸に針を刺すような痛みを覚えた。

姫神「(諦めの悪い自分が。少し嫌になる。あの人はもう)」

御坂「あっ…そうだ。さっき聞いたんだけど…姫神さーん?」

姫神「!」カチッ

そこではたと我に帰る。同時に油にかけた火元を締める。
そんな姫神の様子を怪訝そうに見やる御坂に姫神は向き直る。するとそこで。

御坂「あっ、ごめんなさい…姫神さんの友達…結標さんって言ったっけ…水先案内人になったって本当?」

姫神「うん。今も他の学区に学生を送ってる。でも。どうして?」

御坂「うーん…ちょっと知ってる人だから、少し気になっちゃって…そっか、水先案内人かあ…そうかあ」

姫神「(知っている?でも。友達という感じではなさそう。なに)」

姫神は知らない。かつて結標と御坂が残骸(レムナント)を巡って交戦した事を。
だが姫神にはそれが上条当麻を思う時と同じように、御坂の口から出た結標淡希の名を想うと…

姫神「(この気持ちは。なに?)」

何故か、針で刺したような痛みが胸を震わせた。
出会ってからまだたった四日、知らない事の方が知っている事より遥かに多くて当たり前なのに…

姫神「(どうして。こんな気持ちになるの)」

他人の口から語られる、自分の知らない『結標淡希』の過去を匂わされると何故こんな気持ちになるのかが、姫神にはわからなかった。

何故時折血の匂いがするのか、学校に行っている様子がないのは何故か?
知りたくても聞けない。聞きたくても話せない。
あの華奢な背中が、どこかで引いた一線が血のように赤く見えるから。

――この感情に、どう名前をつけて良いかわからないから――
129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:28:58.55 ID:wCjv+xKAO
〜第八学区行き・地下鉄〜

フレンダ「え〜ファミレス行きたい涼んで行きたい〜…結局、ただ働きは性に合わないって訳よ!」

結標「はあ…予定時間ギリギリなのわかってるでしょう?サボってたら貴女を委員会に推薦した第四位からペナルティを受けるんじゃないの?」

フレンダ「麦野は前あんなんじゃなかったのに…結局、全部アイツのせいな訳よ」

13:05分。二人は第十四学区へ留学生達を送り届け、申し送りを済ませた後地下鉄に乗り込み帰路へついていた。
ただしフレンダは帰り道お茶の一杯でもしたかったのかやや拗ねていた。
地下鉄は暗く、乗客はそれなりだった。今第九学区を過ぎた辺りか。

結標「(暗いわね…地下鉄だから当たり前なんだけど)」

時折掠める明かりを見やりながら結標は腕を組んで目を瞑る。すると

フレンダ「ねえ、結局いつからな訳よ?」

結標「…何がよ…」

フレンダ「慈善事業(こんなこと)してるの」

フレンダから話し掛けてくる。結標は目を開けない。
目を開いても閉じても暗闇なら、目を閉じていた方がマシだと思えるから。

フレンダ「…結局、暗部(わたしたち)に免罪符なんて存在しない訳よ」

結標「………………」

フレンダ「こんな事しても、結局私達のしてきた生き方が変わる訳じゃないって訳よ。さっきのでわかってるでしょう?」

結標「…御法度破ったのは貴女でしょ」

フレンダ「貴女が手汚さないからでしょ!!!」
130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:30:36.56 ID:wCjv+xKAO
ザワッ…とフレンダの怒鳴り声が響き渡り、乗客達がどよめく。
しかしフレンダの声は止まない。かなりイライラしているだった。
やりたくもない仕事を、無給でやらされてかなり腹を立てているらしかったのはわかっていたが。

フレンダ「お綺麗な生き方に逃げてるだけでしょ!汚れた自分と向き合いたくないから!誰かのためにって言い訳が自分に欲しいだけ!誉められて罪悪感を忘れたいだけ!気持ち良いよね自分の能力(ちから)を大義名分(ボランティア)に使えるのは!」

結標「貴女に私の何がわかるのよ!!!」

それは結標も同じであった。互いに互いの胸倉を掴んでの視殺と舌戦である。
最初からわだかまりがあった。それは引火直前、爆発寸前のガソリンのように危険なそれだった。

フレンダ「わかるわよ!自分だけ可哀想な子にしないで!私だけ悪い子にしないで!結局、同じ――人殺し(あんぶ)のクセに!!」

結標「―――!!!」

フレンダの言う事に何故腹が立つのか、それだけが真実でなくとも、事実の一端であるから。
結標の顔色はフレンダへの怒りと、自分への絶望で真っ青であった。

『第八学区駅ー第八学区駅ーお下りの際にはお足元にご注意下さい――』

無情なアナウンスだけが、虚しく響き渡る。

――この光射さぬ地下鉄が、まるで結標の未来を暗示しているように――
131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:33:32.10 ID:wCjv+xKAO
〜第七学区・とある高校中庭〜

結標「ごめん姫神さん、忙し過ぎてお弁当食べられなかった…ごめん」

姫神「…いい。顔。真っ青」

16:47分。結標淡希はその後一言もフレンダと言葉を交わす事なく高校に戻った。
その後の水先案内人の仕事をこなし終え、姫神も昼からかかった夕食の仕込みを終えて一休みに入っていた。
二人は中庭のベンチで落ち合い、結標は中身の入ったままのお弁当箱を姫神に返していた。

結標「あははは。ちょっと演算し過ぎて疲れちゃったのかもね、赤い髪に青い顔だなんて…変なの――」

姫神「(何かあった。おかしい)」

冗談にキレがない。話し声の抑揚が滅茶苦茶だ。
昼間聞いていたラジオのチューニングがズレた時のような…
ノイズと歪みが内側から結標を狂わせているような

結標「大丈夫よ。このくらいなんともないって、姫神さんは本当に心配性ね――ぐっ…うう」

しかし、それが結標の限界だった。

姫神「…ならどうして。そんな泣きそうな顔で笑うの」

結標「馬鹿ね…馬鹿ねえ…そんなはず…ないじゃ…ウプッ…!ウォゲェ…!」

姫神は見た。口元を押さえ、胸元を掴んで、背を丸めて、真っ青な顔をした結標が限界を迎える瞬間を

姫神「馬鹿」

その瞬間、結標は吐いた。
132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:34:56.93 ID:wCjv+xKAO
〜中庭・結標淡希〜

腹の底からせり上がる感触が喉を焼いて、私は戻した。

結標「オ゛ェッ、ぐっ…がふ…う゛ぐぇえ゛ぇ…」

吐き出した吐瀉物は胃液だけだった。当たり前だ。何も食べられなかったのだから。
胃液しか吐けない辛さは知っている。精神的な重圧が重なると私の食欲は大きく減退するから。

人差し指でも中指でも足りない。拳骨当たりの骨まで突っ込まないと、楽に吐けない。でもそれすら出来ない突発的な嘔吐。

結標「ぐっ…うっ…うっ…ああ…あああ…うああぁぁぁ…」

胸が締め付けられる。目眩が収まらない。嗚咽が、涙が、鼻水が止まらない。

能力者だろうがただの人間だろうが、精神的な負荷がかかり過ぎた時に取るアクションなど大差ないと、もう一人の冷めた自分が見下ろしている。

結標「…見…な…いで…汚い…から」

惨めで、無様で、醜く吐瀉物を吐き散らす自分を…見られたくなかった。

そして何より…吐き出した吐瀉物より汚い…自分を見られたくなかった。


――なのに――


姫神「馬鹿」
133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:35:49.27 ID:wCjv+xKAO
〜〜中庭・姫神秋沙〜〜

姫神「馬鹿」

私は貴女が何をしている人か知らない。
私は貴女に何があったかを知らない。
私は貴女の過去の一つも知らない。

姫神「貴女は馬鹿。貴女は――汚くなんてない」

それでもわかる。苦しんでいるのが。
それでもわかる。悲しんでいるのが。
それでもわかる。泣いているのが――

結標「見ないで…見ないでよぉ!!」

私は決めた。貴女を見つめると。
私は決めた。貴女を見据えると。
私は決めた。貴女を見離さないと――

結標「わからないわよ…貴女みたいな綺麗な子に…私みたいな汚い人間の――」

姫神「――貴女に私の何がわかるの!!!」

それは奇しくも、フレンダに対し結標が放った言葉。

姫神「自分だけが。汚いだなんて思わないで」

それは奇しくも、結標淡希に対する姫神秋沙が放った最初の怒声。

姫神「――綺麗なだけの。私を見るのは止めて」

手を伸ばすだけじゃ届かない。
抱き締めるだけじゃ掴めない。
証明してみせる。貴女は汚くなんてないと――

姫神「私の目を見て―――淡希」
134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:38:13.56 ID:wCjv+xKAO
〜中庭・フレンダ〜

フレンダ「な…な…結局、なんな訳よ」

フレンダは委員会の詰め所から結標淡希の居場所を聞き出していた。
昼間の一件を一言だけ謝るために。一言だけだ。あんな死にそうな顔を、夜まで引き摺るのはごめんだったから。

フレンダ「きっ、きっ、きっ――」

それがどうだ。探し回ったはずの当の本人は…地面に戻しているではないか。
いや、それどころではない。今自分が見ているのは――

麦野「フレンダ。そこまで」

フレンダ「んにゅっ?麦野――」

麦野「――空気くらい読め。この馬鹿。後でオ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね」

そして私は麦野に目隠しされ、中庭の入口から引きずり出されてしまった。

麦野「――私の時は血の味がしたわね…まっ、これもありでしょ」

その目に焼き付いたもの、それは――

麦野「…いいじゃない。こんな世の中、ゲロの味がするキスが一つくらいあったってさ」

姫神秋沙が、結標淡希の唇を奪った瞬間だった。
135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 01:45:49.65 ID:wCjv+xKAO
>>1です。今回もたくさんのレスをありがとうございます…おかげで書くのが楽しくて仕方ありません。皆様ありがとうございます…これにて本編四日目は終了となります。

いただいたレスの中で、現時点でキチンとお答え出来るのはフレンダが存命であるという事です。

一日目…姫神秋沙
二日目…白井黒子
三日目…削板軍覇、雲川芹亜
四日目…フレンダ

になりました。五日目は誰が来るのか来ないのかは私にもわかりませんが、次回もよろしくお願いいたします。失礼いたします。
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 01:56:39.95 ID:7KKwODLzo
おおお乙!!いいところで区切りがー!
この先どうなるのか気になります!
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 02:35:50.23 ID:7GlLl0Opo
キャラひとりひとりちゃんと描写されててなんという良SS
麦のんも此処も永久保存確定。いつか>>1の書いた魔術サイドも見てみたい
乙でした
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 08:38:10.82 ID:MSH9K/6AO
黒妻さんなにやってんだww
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 20:19:07.26 ID:wCjv+xKAO
>>1です。
四日目と五日目の狭間の話を投下させていただきます。
140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 20:21:04.75 ID:wCjv+xKAO
〜とある高校・全学連復興支援委員会詰め所〜

小萌「はい、はい…わかったのですよーゆっくりお休みするのですー!では姫神ちゃん、結標ちゃんをお願いするのですー…あっちょっと待って下さいねー?木山先生ー!すいませーん!ちょっとお願いが…」

ステイル「インデックス…いつまで鍋を舐めているんだい…洗えないじゃないか」

禁書「のこりものにはふくがあるんだよすている!こもえ…あいさ、なんて言ってたの?」

四日目、18:33分。土御門舞夏手製によるシチューを平らげたインデックスの声音がテント内に木霊した。
その問い掛け先には携帯電話での通話終了ボタンを切った月詠小萌の姿があり、同じく残り物をかき集めた大鍋を持って来たステイルもそちらを向いている。

小萌「今日はもう水先案内人にお仕事はないから結標ちゃんを連れて帰る、という事なのです!結標ちゃんもほとんど二日間ぶっ通しで力を使っていたから…」

中庭での一件より…姫神は結標を連れ帰る事にしたのだ。
肉体的な疲労より精神的な磨耗の方が遥かに激しく、とてもではないが…という事である。

ステイル「女性には女性の都合というものもあるだろう…例えそれが能力者であろうとなかろうとと言う事か…ふむ」

雲川「英国紳士だこと。まあ、私には関係ない事なんだけど」

禁書「!」
141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 20:21:54.59 ID:wCjv+xKAO
そこに姿を現すは…カチューシャに髪を束ねた、姫神と同じ制服を纏う女学生…雲川芹亜の姿があった。
手には今注がれて来たのかホカホカと湯気の立ったシチューの皿があり、インデックスもつられるようにそちらを振り返った。

雲川「うん、今日も美味しい…私としてはもう少しお肉が欲しいところなんだけど…まあいいわ。先生に申し送りがあるんだけど」

小萌「なんですかー?」

物欲しそうにするインデックスから隠すようにスプーンを手繰りながら雲川が小萌に呼び掛けた。
ステイルが自分の分のシチューをわけつつそれをどうどうとなだめる。
ある意味、束の間の平和を感じさせるいつも通りの夕べ…かに見えたが。

雲川「数日中に、正式な“水先案内人”がもう一人来れそうなんだけど…良いかしら?元は腕の良い“運び屋”って聞いたんだけど。ああ、スポンサーはついてるから悪しからず」

ステイル「運び屋…?」

何となくステイルはその単語にどうしても嫌な想像をしてしまう。
思い出すのも忌々しい、散々自分達を引っ掻き回してくれた“とある女”の顔がよぎってしまうから。

雲川「そう。どちらかと言えば、そっち(魔術側)の方で名が知られてるんじゃない?私にはわからないけど」

どこまで知り、どこまで知らないフリをしているのかは雲川芹亜を除いて誰も知り得ない。
しかし、ふっと…雲川は思い出す。どこかで聞いたその単語を。


――世界に足りない物なーんだ、と――
142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 20:24:09.01 ID:wCjv+xKAO
〜第十八学区・結標&姫神の部屋〜

結標「い、いいわよ!一人で食べられるから!」

姫神「ダメ。一人にしたら。また食べないかも知れない」

結標「恥ずかしいの!子供じゃないんだから――」

21:34分。二人は部屋に戻っていた。中庭での一件の後、姫神は結標に肩を貸しながら第七学区を出て家へ連れ帰ろうとしていた。そこへ――

木山『君達が月詠先生が言っていた生徒かな?私は木山春生だ、君達を第八学区まで送ろう』

ランボルギーニ・ガヤルドのガルウイングを開きながら、その教職員とも科学者とも取れる女性は二人を拾い連れ帰った。
そして今二人は…結標はベッドに仰向け寝になり、姫神はその傍らでさくらんぼゼリー片手にスプーンを差し出していた。
しかし結標はそんな子供扱いは嫌だと首を縦に振ろうとはしなかったが――

姫神「何を今更。貴女の恥ずかしい所なんて。もういっぱい見てる」

結標「…ッ…言い方がいやらしいの!」

姫神「早く口を開けないと。次は口移し。私はやると言ったら本当にやる。貴女はもうそれを。身体でわかっているはず」

結標「…ばかっ」

パクッと姫神が差し出したゼリーを口に含む。ゼリーはさくらんぼなのに会話がストロベリーなのはいつもの事である。
しかしいつもと違う点は…結標の顔が風邪でもないのに赤い所である。

結標「(…初めてキスしちゃった…女の子同士なのに…私あんなだったのに)」

姫神「アクエリアス。取って来る。冷たいと内臓に悪いから。ぬるめに」

結標「う、うん…お願い」

思わず自分の唇を指先でなぞる。いつまで経っても姫神の唇の感触が消えない。
キッチンに消えて行く姫神の背中。それはこの四日間一度も変わらない立ち姿。
さっきの出来事などまるで感じさせない佇まいに、結標は戸惑った。
143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 20:26:44.67 ID:wCjv+xKAO
結標「(馬鹿みたい…私一人気にして…)」

元々平坦な表情と抑揚にかける話し方が輪をかけて姫神の本心を窺い知れぬものにしている。

同時に、姫神の言葉が甦る。自分だけを汚いと思わないで、綺麗なだけの私を見ないで、ちゃんと私を見てと言われた事を。

結標「(貴女に…何があったの?)」

あの月すら霞むほどの美しい微笑みを湛えた姫神が抱える闇。

あの夕焼けが褪せるほど激しい怒りを湛えた姫神が秘めた過去とは一体なんなのか、そして何故――


結標「(どうして…私にキスしたの?)」


呼べば振り返って来る距離が、たまらなく遠く感じられた。
144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 20:28:23.44 ID:wCjv+xKAO
〜結標、姫神の部屋・キッチン〜

姫神「(どうして。私はキスしたのだろう)」

一方、結標に背を向けアクエリアスを電子レンジでぬるく温めていた姫神も顔を僅かに朱に染めていた。
決して姫神とて平静ではなかった。そう装っているだけで内心は結標と大差ない。

姫神「(わからない。ああする以外どうすれば良かったか。どうしよう。嫌われたかも知れない。気まずい)」

手で触れれば傷つけてしまいそうだった。腕で抱き締めれば壊れてしまいそうだった
あの時の結標はまるで、彼女の部屋に飾られた自分の贈ったランプシェードのようで。
それは致命的な罅の入った硝子細工そのものに姫神には見えた。だから。

姫神「(結標さんは。初めてだったのかな。だとすれば。とても悪い事をしてしまった)」

浴びるような血を浴びて来た結標、血も残さず滅ぼして来た姫神。
互いに歩んで来た血の斑道。二人の違いは、自らの意思で選んだか、自らの意志とは関係なく選ばざるを得なかったの違い。

姫神「(初めてが私だったら。ごめんなさい。結標さん)」

クールに見えて気さくで、サバサバしているのに純情で、迷いやすくありながら踏み切る強さを持っていて…
何から何まで自分とは対照的な結標が、こうして自分と近くにいるのはただの成り行きだとわかっているのに。
吹寄らクラスメートとは違った角度と距離で結標に接している自分が…

チンッ!ピロリロピロロ〜

姫神「あったまった」

レンジが告げる電子音に、姫神はややもするとネガティブに転げ落ちる思考を打ち切った。
145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 20:31:34.76 ID:wCjv+xKAO
〜寝室・結標淡希〜

結標「(何してるんだろう…私)」

1:04分。結標淡希は姫神秋沙の寝室に居た。何となく一人で寝つけず、姫神と一緒に寝る事にしたのだ。
一人になって目蓋を閉じると昼間のフレンダの言葉が甦るから。
この4日間、互いに別々の部屋に眠ったのは3日目だけだった。

結標「(私はノーマル…私はノーマル…私はノーマル…)」

今、結標は姫神を胸に抱いている。抱かれるのは自分が弱っている事を認めるようで嫌だった。
ただ姫神に抱かれて床に入るのは、ねじ曲がった負けず嫌いさとひん曲がった気の強さが許しはしなかった。
穏やかな姫神の寝息と、早鐘を打つ結標の鼓動が重なる。

結標「(でも…この子は私のなんなんだろう…後輩?友達?ルームメイト?)」

そのいずれにもこんな事をするのはおかしい事くらいわかっている。
それでも結標はあやふやな関係性に、曖昧な大義名分が欲しかった。
拒んで欲しかった。気持ち悪いという拒絶が欲しかった。
なのに姫神はイエスもノーも言わずに自分に身を預けた。それが結標は苦しかった。

結標「(なによ…変態みたいじゃないこんなの…跳ねつけて欲しいだなんて)」

艶々した黒髪の感触、真新しい布団に混じって姫神の甘い香りがする。
こんな無防備な姿をいつも晒しているのかと疑いたくなる。
同時にこうも思う。姫神は男を知っているのかと
146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 20:32:25.18 ID:wCjv+xKAO
結標「(何でだろう…ものすごくイライラしてきたわ)」

姫神に彼氏が居ようが居まいが出来ようが出来まいが本来自分の立ち位置からすれば関係ないはずだった。
なのに何故こうもお門違いの苛立ちと見当違いの不快感が募るのか。

結標「(唇まで綺麗…荒れた所もひび割れもない…良いなあ)」

思わず、姫神の唇を人差し指でなぞる。今日自分に触れた、初めての唇。
理解はしている。この距離感はおかしい。こんな事をすべきではないとわかっているのに…

結標「………………」

姫神の寝顔と、瑞々しい唇が結標を狂わせて行く。初日に見たはずの、もう三度以上見たはずの寝姿のはずなのに…

ゾクリ…

結標「(止まれ…止まれ…止まって…!)」

寄せていく唇が止まらない。こんな事をしてはいけない。
姫神は自分に同情してくれただけだ。優しさと呼んでしまう事さえ憚られるそれにつけ込んではならないと…わかっているのに…

ズクッ…

結標「(ダメ…あの夢みたいになっちゃう…)」

下腹部が疼いた。どうしようもなく。始まった訳でもないのに、どうしようもなくドロドロと熱を孕んで溶けて行く痺れに抗えない。

結標「(こんな…こんな…!)」

そして結標は…重なりかけた唇を噛んでそれに耐えた。
唇を重ねてしまったら、もう引き返せない予感が、確信がある。
きっと一線を越えるどころか踏みにじってしまう。姫神を引き裂いてしまう。

結標「最低よ…私」

心が弱っている事をたてに、姫神のぬくもりに逃げ込んでいる自分の浅ましさに。
滲む涙すら今は流す資格なんてない――そう結標は声を殺して泣いた。
147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 20:33:18.58 ID:wCjv+xKAO
〜寝室・姫神秋沙〜

姫神「(私は。最低)」

声を殺して泣く結標を、寝たふりをしながら姫神は薄目で見ていた。
理解している。結標が姫神に何を迫ろうとしていたのか、その全てを。

姫神「(こんな時すら。何も出来ない私は。ううん。しない私は…最低)」

拒むでもなく、ただ身を任せる事を優しさとは呼ばない。
それは時にどんな言葉や行動より残酷なのだと今知った。
今や姫神は、結標に手を差し伸べる資格すら失ってしまった気がした。

姫神「(もし。迫られたら。私はどうしたのだろう)」

受け入れただろうか、体を開いただろうか。
友情と呼ぶには歪んでいて、愛情と言うには欠落している。
首から下げた十字架の冷たさが、呪われた血の流れる自分の身体の熱さを思い知らせる。

姫神「(私も。女。綺麗なだけじゃいられない)」

何故かよぎる上条当麻の笑顔。目に見えずともわかる結標淡希の泣き顔。
乗せてはならない量りに、二人を乗せてしまう自分の卑しさが恨めしかった。だから

姫神「――――――」

何も言わずに、結標を抱き寄せる。それは優しさではなく、罰欲しさの罪悪感。
ここで姫神が手を出せば、結標は可哀想な“憐れまれるべき被害者”になれるから。
自分は罰せられるべき“唾棄すべき加害者”になれるから。
ロクな恋愛経験すらないのに、こんな駆け引きが頭に浮かぶ自分は確かに『女』なのだと思い知らされる。しかし――

結標「…ごめんなさい…」

結標は結局、最後までそれ以上の事をして来なかった。
それは自制する強さであり、エゴイズムを振りかざせない結標の優しさだった。

姫神「(私達って。救われない)」

もしこの感情に、愛情という名前をつけるなら…愛情とはなんて歪に歪んでいるのだろうと…二人は今度こそ眠りについた。
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/11(火) 20:36:24.95 ID:wCjv+xKAO
>>1です。本日の投下はこれにて終了いたします。
黒妻はなんとなくDJが似合いそうなのでラジオに出演していただきました。

それでは失礼いたします。
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 20:43:32.01 ID:7KKwODLzo
あああああ今回もリアルタイムで投下に立ち会えた…だと…
色々言いたいのに乙しか言えない
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 21:01:38.18 ID:DXsL81qW0
乙。ぱねぇ
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 22:14:17.93 ID:7GlLl0Opo
なんだこれ。超乙。なんだこれすげェ。>>1よありがとう。そしてオリアナ姐さんwwktk
152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 17:56:53.38 ID:2FgXUFGAO
>>1です。定時に上がれたのでこの時間ですが投下させていただきます。
153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 17:58:01.55 ID:2FgXUFGAO
〜第七学区・とある高校避難所前〜

生徒A「急げ急げー!昼飯までに終わらせっぞー!」

生徒B「はあっ…はあっ…オレもうダメだ…腹減って力出ねえよ…」

生徒C「サボんなよ!災誤にドヤされんぞ!あーちくしょう腰痛てえ!!」

五日目、10:56分。避難所前は多くの男子学生らが人海戦術で駆り出されていた。
その手にはまるでバナナの投げ売りのように大量の土嚢があった。それもそのはず、今日の天気予報によれば正午より大雨が降るとの事だった。

広大でこそあれ一般的な体育館同様、平屋建てである。
第七学区のアスファルトからコンクリートから何から何まで割れ砕かれたクッキーのように破壊し尽くされ、水捌けは最悪。
故に土嚢を敷き詰め浸水に対象せねば避難所は水浸しになってしまうのだ。しかし…

災誤「気合いィィィィィィ!!!」

削板「根性ォォォォォォ!!!」

絹旗「超ファイト一ァァァァァァ発!!!」

生徒ABC(((化け物かアイツら)))

結標「(…私の座標移動より多く運べるってどうなのよ…)」

落石すら受け止めた伝説を持つ災誤、服を着た歩く非常識こと削板軍覇、乗用車すら軽々と投げ飛ばす絹旗最愛、そしてテレポーターである結標淡希の即席四重奏(インスタント・カルテット)
154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 17:58:47.67 ID:2FgXUFGAO
次々と土嚢のバリケードを築き上げて行くその凄まじさは校舎の入口という入口を塞いで行く。
一学年くらいは手伝いに申し出た学生達の四倍速をたった四人で成し遂げるのだ。
その一角を担う結標もまた何かを振り切るかのように打ち込んで行く。

結標「(…仕事に打ち込んでんだか作業に逃げ込んでんだか…)」

タールを流し込んだかのような曇天を仰ぎ見ながら結標は自嘲する。
精神的な揺れやブレがある時こそ暗部にいた頃のような足運びや、軍用懐中電灯を振るう動作のひとつひとつが平常心を取り戻させて行く。
思考を演算に預け、動作を身体に任せ、感情を抑制する。
プロフェッショナルとはおしなべてそういうものだと理解しているから。しかし

結標「(結局…朝から一度も顔を合わせないわ…何してるんだろう…私達)」

次々と積み上がる土嚢の堤防をテレポートさせる。螻蟻の一穴すら許さない、まさしく水も漏らさぬバリケードが出来上がった。
だが結標の中の千丈の堤は、姫神という蟻穴によって今にも溢れ出してしまいそうだった。
確かに夢の中の姫神の言葉は真実だった。

姫神『――私は。魔法使いだから――』

結標「…お姫様になんてなれない私が、キスで目覚めるだなんてありえないのよ」

姫神のキスから、魔法をかけられてしまったかのように結標は思い煩っていた。
フレンダの言葉に苛まれるよりも、甘い毒リンゴをかじってしまったかのように。
155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:00:47.60 ID:2FgXUFGAO
〜避難所・体育館屋根裏〜

姫神「(結局。朝から一度も口を利いていない。何してるんだろう。私達)」

服部「すまん、その一番デカい釘取ってくれ」

垣根「おらよっ。縦割れしてるとこは未元物質で塞ぐか…つかオッサン釘打ち下手過ぎんだろ」

坂島「いやぁ、ハサミ以外この何年も握ってなくてね。こういう日曜大工みたいなのした事ないんだ実は」

一方、姫神秋沙は破れたカーテンを繕う針仕事、服部半蔵、垣根帝督、坂島道端は穴の空いた天井から雨漏りしないように修繕していた。
かたや女子高生、スキルアウトのリーダー、学園都市第二位、理容師と立場も年齢も異なるのもこの避難所では珍しくもなかった。

姫神「いくつになっても。新しい事は学べるもの」

坂島「これは一本取られたなあ…真面目に覚えて店を立て直せたら金がかからなくていいんだけどなあ」

垣根「嬢ちゃんの言う通りだぜ。この前は飾利の髪切ってくれてありがとよ。ほらあの頭に花飾りつけてる女だよ」

服部「なあ、あの頭の花(ry」

垣根「それは聞いちゃいけねえんだ…」

姫神もまた、結標との一件を忘れようとするように自分に出来る仕事を探し、人の輪の中にいた。
朝起きた時、結標はもういなかった。何度か見かけたが、声はかけられなかった。
身体が近いのに、心が遠いというアンバランスさがひどく答えて。

服部「でも避難所に美容師がいてこんな助かると思わなかったもんな。こういうのも経験して見なきゃわからんもんだ」

坂島「ははは…満足出来る道具がないのはプロとして歯痒いばかりさ」

垣根「冗談じゃねえこんな経験二度としたかねえぜ…嬢ちゃんもそう思うだろ?」

姫神「えっ」
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:01:44.26 ID:2FgXUFGAO
そこではたと我に返る。折り返しにかかっていた手を止めると、そこには熱い目をした顔の服部と、ニヤニヤした垣根と、眼鏡を光らせる坂島が三者三様に姫神を見つめていた。

垣根「なんだなんだ嬢ちゃん?好きな男の事でも考えてたか?残念だがオレってのは無しだ。飾利がキレる」

姫神「違う。そんな人いない(言えない。男じゃなくて女だなんて。これも違う。そう言う好きじゃ)」

服部「ちくしょお…なんで美人はみんなこうなんだ…浜面の野郎もそうだ…」

坂島「よく見れば君は珍しい黒髪ロングだね…久しぶりにやる気になってきた。ぜひカットモデルに」

姫神「ま。待って。一度にしゃべらないで」

聖徳太子状態でいじり倒される姫神。
平時ならば言葉を交わすどころか顔を合わせる事の人間が膝を交えるというのも今までの姫神の世界にはなかったものだ。
それに戸惑いを覚えながら、姫神は一時胸患いを忘れた。そこへ

佐天「皆さーん!そろそろお昼ですよー!あと女の子をイジメちゃいけないんですよー。特に垣根さん。初春に言いつけちゃいますよ?」カンカンカン!

天井桟敷に姿を表すは佐天涙子。鍋の蓋をお玉で銅鑼を鳴らすようにして昼食の時間を告げに来たのだ。

垣根「もうメシの時間かよ?飾利は相変わらず仕事の虫か?」

佐天「パンツめくろうにも机から立ってくれなくて」

服部「くそお…今度は別の女の子かよ…これだからイケメンは」

坂島「君も整えればそれなりになるんじゃないかい?どころで今日のメニューは?」

佐天「今日はビーフカレーですよ!牛肉と豚肉と鶏肉ちゃんぽんですけど」

姫神「そう。じゃあ降りないと。彼女(インデックス)に食べ尽くされる前に」

佐天「急いで下さいね!」

垣根「おい、飯食い終わったら天気次第だがルート開通の続き、行くぞ」

服部「ああ。俺達(スキルアウト)は腕自慢力自慢が揃ってるからな。第六学区も――」

姫神は思う。結標はちゃんと食べているのだろうか。昨日はゼリーしか食べていないはずだ。
今朝だってヨーグルトを開けた形跡すらなかった。
豚肉の脂身が苦手と言っていた彼女が、ビーフカレーのような重いものが果たして食べられるのか。

姫神「(食事は。私の仕事)」

そして姫神秋沙は天井桟敷から降りると…体育館から歩み出して――

――曇天より、雨が降ってきた――
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:04:08.65 ID:2FgXUFGAO
〜とある高校・図書室〜

結標「昨日は送ってもらってありがとうございます…えっと…木山…先生?」

木山「木山で構わない。君は私の教え子という訳ではないからね。そうかしこまらないでもらえるとこちらもありがたい」

結標淡希は図書室にいた。今日は案内人の仕事がないため、土嚢積みの仕事を終えた後腰を落ちつけるために来たのだ。
そこで昨夜二人を車で途中まで送ってくれた木山春生とばったり出会ったのである。

木山「ふむ、今日はビーフカレーか…一人で食べきれるかわからんな。君もどうだ?」

結標「ごめんなさい、今食べれなくて」

木山「昨日の今日ではそれもそうか…だが何も口に入れないのは無理矢理詰め込むよりも身体に障るよ」

窓を打つ、夏特有の激しい大雨を見やりながら頬杖をつく結標にビーフカレーを勧めるも、結標は首を横に振った。
水分だけはなんとか取れるが、とてもそんな気分にはなれなかったのだ。
木山もそれ以上無理に押し付ける事はしなかったが

木山「…昨夜一緒にいた子は今日は居ないのかい?」

結標「…喧嘩…じゃないですけど…ちょっと色々あって」

ピクッと肩を跳ね上げ、思わず木山を凝視してしまった。
その時改めてマジマジと見つめる。昨日までのフォーマルなスーツ姿と違った白衣である。

結標「木山さんは…お医者さん?」

木山「いや――ただの科学者崩れだ。今は教師とこの避難所でカウンセリングの真似事をさせてもらっている。二足の草鞋という奴だ」

結標「カウンセリング…」

木山「もっとも…名前は忘れたが、常盤台の第五位と、ドレスを着た少女らにそのお株を奪われかけているがね」
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:04:57.44 ID:2FgXUFGAO
不意に、誰かに話してしまいたい衝動に駆られた。
それは木山の人となりを知る訳ではなく、またカウンセラーとして信頼した訳ではない。もっと利己的で…醜く汚い思考法。

結標「………………」

人間は抱えた物の重さや種類によっては、親しい人間が相手になるほど話せなくなる時がある。結標にとっては小萌などだ。
逆に、全く知らない初対面の人間だからこそ――洗いざらい無責任にぶちまける事もあるのだ。

結標「…聞いてもらえないかしら?」

木山「ん?」

結標は理解している。これはただの逃げだ。誰でも良いから吐き出して楽になりたいだけ。
木山が取るリアクションによっては座標移動で逃げてしまえば良い。
そして二度と顔を合わせぬように避けて逃げ続ければ良い。今姫神から逃げ回っているように。

木山「私で良ければ、聞く事は出来るが」

結標「良いんです。聞いてくれるだけで」

名前しか知らない相手だからさらけ出せる。相手に対して自分が失う物がないから。
結標は自嘲した。絶望的なまでに。こういう女特有のねちっこさを嫌悪すらしていたはずなのに。

結標「――私、病気なんです」

なんで嫌な女なんだろうと、結標淡希は結標淡希を嘲笑った。
159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:07:06.26 ID:2FgXUFGAO
〜とある高校・図書室〜

どれほど長い間しゃべっていただろうか。
窓を打つ雨足がゆっくりとなり、所々で雲間から光が射し込む頃に…結標淡希は洗いざらいをぶちまけた。
まるで溜め込んでいた汚辱と、汚濁と、汚泥を吐き出すように。

結標「(…言っちゃった、言ってやったわ…いよいよ救えないわね…私も)」

出会って一週間も経っていない少女の一挙手一投足に心の多くを占められている事。
木山に送ってもらった夜、その少女の優しさにつけ込んで一線を越えかけた事。
どう考えたって病気だ。これが病気でなければ何が正常なのだと。
今の自分の異常性に結標はほとほと呆れ果てていた。疲れ果てていた。

木山「………………」

結標「(引くわよね…私だってこんな話いきなり聞かされたら知り合いだってドン引きだわ)」

どんな言葉が出るか見物だった。

御為ごかしの一般論?

肩透かしの常識論?

見当違いの否定論?

木山「ふむ」

そこで木山は晴れ始めた窓辺を見やりながら、呟くように言った。



木山「―――恋の病だな」



結標「はあっ!?」

結論は、明後日の方向だった。
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:08:10.70 ID:2FgXUFGAO
〜とある高校・図書室〜

木山「結論から言えばだね、これは私の専門外だ。私の専攻していた大脳生理学でもっともらしく説いた所で、君を納得させるには至らないだろう」

結標「い、医者が患者を前にして匙投げるなんてどうなのよ!?」

木山「私は医者ではない。昔は科学者崩れで今は教師とカウンセリングの真似事をしている、自分の足元も覚束無い二足の草鞋だ。無責任と言われればそれまでだが、君に対して責任を持った言葉で返さなければそれこそ無責任だろう」

結標「(な、なんなのよこの人!?)」

さっきまでとは違った意味で話した事を結標は後悔し始めていた。
何故自分の周りにはかくも変人ばかり集まるのかと問い詰めたくなる。
しかし木山は雨に濡れたガラスが日の光で輝く様子を見つめながら。

木山「私自身そう言った経験がないからわからない。こんな起伏の乏しい身体に劣情を催す男性もいないだろうしな…伝え聞くに恋の病は不治だ。成就するなり失恋するなり冷めるまで解決しない悪性のインフルエンザのようなものだ。人によっては恋愛なんて精神病の一種だとも」

結標「だっ、だって!こんなのおかしいじゃない!気になるのが同じ女の子だなんて!そんなの絶対おかしい!!!」

先ほどまでの寡黙さはどこに行ったのかと聞きたいほど立て板に水を流すように語る木山を遮る。
こうでもしなければ自分も相手も収まりがつかない。しかし木山は

木山「私はさっきも言ったように大脳生理学を専攻していた。一通りの医学書も読みかじって来たつもりだ。だがしかし…君のように、例えそれが同性に惹かれる事であろうと――」

窓の外にて未だ名残を見せる、光に包まれた天気雨から視線を結標へと向き直り…言い切った。



木山「――人を愛する事を“病気”などと、どの医学書にも一行たりとも書かれてなどいないよ――」
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:09:16.18 ID:2FgXUFGAO
結標「―――!!!」

木山「なんだだったら今ここで医学書を漁ってみるかね?お誂え向きにここは図書室だ。医学書の一冊や二冊は…」

結標は衝撃のあまり二の句を継げずにいた。まさしく絶句だった。
科学者としての推論でも、教師としての見解でも、カウンセラーとしての助言ですらない。
掛け値無しの『木山春生』の言葉で、心を殴られたかのように…

結標「…じゃあ…じゃあ…私は…!」

病気ですらないなら、治せないではないか。どこも悪くないのだから。
病気の人間には手術が必要だが、健康な人間が手術を受ける事は出来ないのだから。
つまり結標はなにも変わらない…変わらなくて良いと言われたようなものだ。

木山「――その問いの答えは、君“達”で探したまえ――」

結標「ちょっ、ちょっ――」

そう言うと木山は空になったトレー片手に立ち上がり…図書室の出口へ向かって行った。


木山「――そうだろう?そこの君」


結標「!!?」

そう…木山が向かった出口…そこに立っていたのは…他の誰でもない――


姫神「――うん。ありがとう」


木山「うむ」

去り行く木山春生と入れ違いに姿を現した…姫神秋沙だった。
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:12:36.49 ID:2FgXUFGAO
〜とある高校・図書室〜

姫神「結標さん。探した」

結標「ひめ…がみ…さん」

窓辺まで下がる結標、出口から歩み寄る姫神。
逃げたいのに、こんな時に限って座標移動の演算が働いてくれない。

姫神「探した。貴女のせいで。私までお昼ご飯を食べ損ねた」

結標「…携帯鳴らせば良かったじゃない…そもそも…なんでわざわざ探しになんて来たのよ」

姫神「どんなに遠回りしても。信じてた。――絶対に貴女を見つけられるって」

結標「ッ!」

姫神の足取りはゆっくりと静かだった。獲物は逃げないと高を括っている猟師のように、結標には見えた。
そうでなくとも、そう受け取ってしまったのだ。

結標「素敵な口説き文句ね?そんな殺し文句で迫られたらどんなの男の子もイチコロだわ」

姫神「貴女は女。性格は男っぽいけど」

結標「――貴女だって女でしょう!!」

思わず軍用懐中電灯を抜き出し、姫神に突きつける。
これ以上近寄るな、これ以上惑わすな、――これ以上期待させるなという、警告。

姫神「そう。私達は女。だから。何?」

結標「――私がどうでも、貴女は違うでしょ!!」
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:13:36.25 ID:2FgXUFGAO
結標だってわかってなどいない。姫神に向ける思いの正体に。だが自分がどうであれ、姫神は違う。
姫神は女の自分を――好きになったりなどしない。するはずがない。それが当たり前だ。

姫神「何を。脅えているの。結標さん」

姫神が歩を進める。彼我の距離はもう5メートルとない。

結標「来ないで!これ以上来たら!本気で――」

姫神「好きにすれば。私も好きにする。本気で」

本の一つでもぶつけてやれば、軍用懐中電灯で一度でも打ち据えてやれば、平手打ちの一回でもお見舞いしてやれば――

結標「――このっ…馬鹿っ!!!」

してやれば――良かったのに

姫神「そう。でも貴女もたいがい。私達って本当に馬鹿。私達って本当に」

軍用懐中電灯を握る手首を捕まえられる。強くも弱くもない、ただ握られているだけ。

結標「はっ、離し――イヤっ」

振り解こうと思えば、いつだって振り解けたはずだったのに



姫神「私達って本当――救われない」



重ねられた唇に、全てを奪われた。

今度こそ、全てを
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:16:40.62 ID:2FgXUFGAO
〜とある高校・プール兼洗濯場〜

結標「………………」ボケー

麦野「おいおい。あとつかえてんだからどんどん取り込んでくれない?」

15:04分。結標淡希は姫神秋沙と別れた後、案内人の仕事もないので洗濯場となったプールにいた。
先ほどまでの天気雨は嘘のように澄み渡った青空に取って代わり、彼方に虹がかかっている。
爽やかな風が吹く夏の午後、第四位麦野沈利と共に洗濯物に取り込みながら。

麦野「ったく…こっからだと図書室丸見えなんだよ売女」

結標「!?」

その一言にトロンとしていた瞳は光を取り戻し、半開きだった唇を真一文字に結び直す。
しかし対照的に麦野はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながらシーツを取り込んで

麦野「二日続けてこっ恥ずかしいラブシーン見せつけてくれちゃってんじゃないっての。見せびらかすのはその無様なローアングルだけにしてくれない?」

結標「どっ、どっ、どどど!?」

麦野「はぁん?どこからだって?テメエの色ボケしてネジの緩んだ頭がゆらゆら揺れて、髪ほどかれて――その先も言ってほしい?アンタ、そんなナリして言葉責めされたいマゾ子ちゃん?」

麦野の言葉に結標の顔が先ほど結わえ直した赤毛より真っ赤になった。
暗部にその名を轟かせた最恐の第四位、最狂の女王と謳われた原子崩し(メルトダウナー)麦野沈利…
直接言葉を交わすのはこれが初めてだったが、同時に終わりだと思った。

結標「(さっ…最悪だわ…最低よ…)」

その美貌と家柄を台無しにして余りある性格破綻者と人格破綻者ぶりは『アイテム』を引退してからも違った意味で有名である。
そんな女として絶対に敵に回したくない女に…姫神との間に起きた事を見られていたなどと――
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:17:54.37 ID:2FgXUFGAO
麦野「…まっ、どうでもいいし、別に言いふらしたりしないわよ――昨日はウチのフレンダが悪い事したわね」

結標「………………」

麦野「それで、チャラにしてくれない?あの子も、アンタに謝りたかったって気にしてた」

結標「交換条件だなんてどれだけ上から目線で安く足元見てるのよ?…別に良いわ。もういい」

麦野「譲歩よ。馴れ合いは嫌いなの。そっちの端持って」

結標「気が合うわね。私も貴女みたいなタイプ、絶対友達に持ちたくないわ」

一枚の大きなシーツの両端を二人で持ち、左右に揺さぶり、中央で合わせる。
結標から受け取った端を持ち、それを指先で折り返しながらパタパタと畳む。
完全な女王様タイプなのに、手付きが妙に家庭的だ。引退して丸くなったという噂は本当のようだった。
聞けば、他人を使い捨ての道具くらいにしか見ていない利己的かつ自己中心的な性格だと言う前評判だったが…それがどうだ。
どの女のグループにも一人はいる、そんなタイプではないか。

結標「…晴れたわね本当。ただの天気雨ならあんなに土嚢積む事なかったわ」

麦野「この街の天気予報なんて一年近く前から当てに出来ないの知ってるでしょ。おかげで洗濯物がよく乾く」

もう天気予報があてにならないのは『残骸』の件を通して結標もわかっている。
ある意味その中心に立っていたようなものなのだから。
見上げた雨上がりの虹の空は、とても澄んで見えた。一年前の空はどうだったかなどと詮無い考えを呼び起こさせるほどに。
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:19:04.38 ID:2FgXUFGAO
結標「んっ…このカーテンまだ湿ってる。もう少し干しておかなきゃダメね」

麦野「あれー?畳み方私と違わない?あれー?」

結標「私はこっちで慣れてるの。小姑さん」

麦野「オバサン呼ばわりしたらプールに突き落とすぞ…あっ、そうそう思い出した」

お互いの臑を蹴り合うようなやりとりをかわしながら麦野が人差し指を頬に当てた。
麦野「チャラ男(垣根)達がさっき第六学区開通させたって」

結標「良かったじゃない!これでちょっとは楽に――」

麦野「で」

麦野が言うには、水道下水道の整備も第六学区から引き直したそうだ。
避難所では生活用水からトイレから風呂にいたるまで慢性的に不足しがちであり、それを解消出来たのはひとえに垣根帝督の尽力によるものだ。
同時に通行ルートの開拓もやってのけたのだから第二位の持つ豊潤な資金と人脈と実力による。意外に事業に向いているのかも知れない、などと考えていると。

麦野「ガキ共(学生)連れてアルカディア行くわよ。仕事ないなら護衛について」

結標「わかったわ。それだって案内人の仕事だから。でもアルカディアって…入り切るの?」

麦野「学園都市最大なんて看板掲げてんだから大丈夫でしょ。向こうは潤う、私達はあったかいお風呂に入れる。誰も損しない」

アルカディア…第六学区に存在する学園都市最大のスパ&総合アミューズメントである。
避難所暮らしではシャワーや清拭などが当たり前である。
あたたかいお風呂はそこに住まう人間にとって非常に切実な問題なのだ。
その第六学区までのルートが開けた事により、問題の一端は解決されそうだと。

麦野「あと…さっき本部についた…“運び屋”も護衛につくらしいから」

結標「“運び屋”…?」

麦野「…詳しい事情だなんて私は知らないけどね…こんな時に外部からわざわざ金払って呼ぶんだからなんかあるんじゃないの?“裏”が」

結標「…忙しくなりそうね…それで?その運び屋はなんて名前?」

一難去ってまた一難…束の間の安らぎすら矢継ぎ早に舞い込む案件は結標を休ませない。

麦野「えっと…確か――」
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:21:15.66 ID:2FgXUFGAO
〜数時間前・学園都市上空〜

?『以上が今回の要項ですので。貴女ならば学園都市の土地勘も多少あるでしょうし、表向き水先案内人として務めてもらう事も先方の希望の一つですので』

?「うーん…これって“運び屋”の範疇に入れていいのかしら?お姉さんベッドの上ではどんなプレイも大歓迎だけれど、お仕事は別よ?」

?『卑猥な発言は控えて下さい。これもまた迷える仔羊達を安寧の地へと“運ぶ”、神より下された聖務ですので』

?「耳元で囁かれるとたまらなくなっちゃうのよ。リトヴィアのエッチー」

一人の女が一機の超音速機に乗ってやって来る。豪奢なブロンドを巻き、その抜群のプロポーションを惜しげもなく晒す露出度の高いファッションに身を包んで。

?『…では細かい摺り合わせはわかりしだいまた後ほど…依頼人たる“あの四人”となかなか連絡が密に取れませんので。しかしこれは共通の排除すべき神敵を打つべく敷かれた共同戦線(ごえつどうしゅう)ですので』

?「お仕事はキチンとやり遂げるわ…お姉さんも、“間違った基準点”を歩まされるのは嫌よ?強引なのは嫌いじゃないけど、相手に思いやりのない独り善がりは嫌いだもの」

形良い耳に挟まれた単語帳の1ページのような通信術式で何者かとの会話を交わす。
窓の外は雨雲。これから担う任務の先行きを暗示させるかのような怪しい雲行き。
この通信の向こうにいるであろう修道女ならばその“困難”すら乗り越えるべき障害としてより燃え上がるだろう、そう思いながら

リトヴィア『それでは任務の成功を祈ります。オリアナ=トムソン。貴女の道行きに神の加護が多からん事を願って』
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 18:23:58.29 ID:2FgXUFGAO
超音速機がその高度を下げ始める。雨雲を切り裂いて…かつて上条当麻、ステイル=マグヌス、土御門元春と鎬を削ったかの地…学園都市第二十三学区へと降り立つために

オリアナ「任せてといて。お姉さんのスゴい所見せてあげる♪」

目指す先は学園都市第七学区。仕事に取り掛かる前に自分の中の優先順位を再確認する。
『告解の火曜』リドヴィア=ロレンツェッティから因果を含めれた3つのワード

『神に忘れられた者達(異端宗派)』

『アウレオルス=イザードの遺産』

『吸血殺し(ディープブラッド)』

機長「間もなく本機は学園都市第二十三学区へと着陸いたします。着陸に際してはシートベルトを――」

そして降り立つは…魔術サイドの人間たる

『追跡封じ(ルートディスターブ)』


『Basis104(礎を担いし者)』


『運び屋』


オリアナ「あはん…ベルトの締め付けきっつーい」


――オリアナ・トムソン…来日――
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 18:30:43.11 ID:2FgXUFGAO
>>1です。読んで下さる方、レスをありがとうございます。
皆様のレスからいただける刺激が私の原動力です。
復興支援五日目前半はこれにて終了となります。
現時点で結標が深く絡んで来た人間のリストです。

一日目…姫神秋沙
二日目…白井黒子
三日目…削板軍覇、雲川芹亜
四日目…フレンダ
五日目…木山春生

そしてようやくオリアナ=トムソン来日です。これからもよろしくお願いいたします。

あわきんは強気受け。それでは失礼いたします。
170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 18:35:16.55 ID:tp6wlHSXo
乙!
まさかのリドヴィアまで登場で俺歓喜。
続きが気になり過ぎて胃が痛くなってきた。
171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 18:58:57.29 ID:TPwPqH/AO
乙です!
毎日の楽しみにしてます
172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 19:03:52.31 ID:zpSmoy9AO
やべー…もうwktkが止まらない
吸血移動が毎日の楽しみだ
173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 22:12:08.93 ID:2FgXUFGAO
>>1です。五日目前半と五日目後半の狭間の物語を投下させていただきます。

結標、姫神はこの話には出ません。出るのは雲川芹亜、オリアナ=トムソン、月詠小萌、ステイル=マグヌスです。

よろしい方だけどうぞお願いいたします。
174 :インターミッション1 :2011/01/12(水) 22:14:52.42 ID:2FgXUFGAO
〜第七学区・とある高校応接室〜

雲川「ビジネスライクな事ね。予定より二日早いじゃない。まあ別に遅れるより良いんだけど」

オリアナ「これでも遅かったくらいよ。お姉さん焦らすのは好きなんだけど、せっかちなのと人混みに慣れてなくてついね」

小萌「(し、神父さん…!新しい“水先案内人”さんってあの時の恐い顔した女の人なのですかー?)」

ステイル「(どうやらそうらしい…クソッ、あの女狐め…なんて厄ネタを送り込んでくれるんだ!)」

16:06分。オリアナ=トムソンは復興支援委員会の仮本営と化しているとある高校へと到着し、雲川芹亜と面会していた。
テーブルを挟んで右手に雲川、ステイル、小萌。左手にオリアナである。

小萌「(で、でもっ…でもっ…前に、あの女の人に姫神ちゃんが…)」

ステイル「(僕も詳しい事情は何もわからないんだ…大食らい女狐共め、コイツと組めだと?一体何を考えているんだ?)」

おろおろとする小萌の脳裏には、大覇星祭の折に勘違いとは言えオリアナの手によって血に染められた姫神の姿が今も強くよぎる。
しかしそれでも席を立たないのはひとえに教師として教え子達の事を考えてだ。しかしステイルは…

ステイル「(いくら第三次世界大戦と最終戦争で魔術サイドが疲弊したとは言え…ローマ正教とイギリス清教が再び結び付くとはね)」

ステイルが最終戦争後も学園都市に残っている理由は2つある。
一つは今現在行方不明である『上条当麻』に代わってインデックスのパートナー兼ボディーガードを務める事。
もう一つは『最大主教』ローラ・スチュアートからの命…『告解の火曜』リトヴィア=ロレンツェッティから派遣される人材と組めというそれだ。

オリアナ「じゃあ表向きは水先案内人って事でいいのね?代理人のお嬢ちゃん?」

雲川「本来の仕事が来るまでブラブラしててもらってて構わないんだけど、その辺りの裁量はお前達に一任したいんだけど」

子供扱いのオリアナ、上から目線の雲川、キュッと拳を握る教職員代表の小萌、イギリス清教のエージェントたるステイル。
彼等が一同に介している理由…それは共通の事情、利害の一致にある。

雲川「グノーシズム(異端宗派)と、能力者狩りに雇われた連中が結託するだなんていよいよ世も末だと思わなくもないんだけど」
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 22:16:05.27 ID:2FgXUFGAO
〜間奏〜

事の始まりは最終戦争後、科学サイドと魔術サイドのほとんど共倒れのような状況につけ込んでの各勢力による暗躍である。

消耗した科学サイドに対しては各国の研究機関がこぞって『能力者』『原石』『最先端技術』を狙うがそれを学園都市に阻まれる。

磨耗した魔術サイドに対しては、ローマ・イギリス・ロシアに属する十字教の中で最初期から存在する異端宗派…かつてローマ正教の『隠秘記録官』の責を担っていたアウレオルス=イザードが属していた『グノーシズム』の台頭がある。

彼等は手を結んだのだ。技術を集める軍隊達と、信仰を求める異端宗派の二つが。
姫神と結標がかつて話題にしたスタンダールの赤(聖職者)と黒(軍人)のように。

それだけならば本来相容れぬ科学と魔術の交差は起こり得なかった。
しかしそれらを結び付けるに足る『ある物』が崩壊した学園都市から発見されたのである。

それはかつて、あまりに悲しい結末を迎えた錬金術師…
姫神秋沙と繋がりのあった、アウレオルス=イザードの残した『負の遺産』である。

それが如何なる意味を持つかは、これからおいおい明かされる次第である。しかし現時点で言えるとするならば…

アウレオルス=イザードが『インデックス』のために使おうとした力を…
ただ貪欲に異端宗派が地位を向上させ十字教三大派閥を駆逐するために用いれば?
ただ強欲に各国が最先端技術を求め他国を引き離すために用いたとすれば?

結果は、火を見るより明らかである。

それを食い止めるために。この四人は膝を交えているのだ。
本来なら肩を並べる事すら厭うであろう四人が。

雲川芹亜は現学園都市上層部より最先端技術の死守を持ちかけられたために。

月詠小萌は魔術の一端に触れ、また学生達を『能力者狩り』から守るために。

ステイル=マグヌス属するイギリス清教はグノーシズム(異端宗派)の台頭と内輪もめを潰すために。

オリアナ=トムソンが雇われたローマ正教はかつて属していた背教者アウレオルス=イザードの尻拭いのために。

そして今この場にいない『上条当麻』『一方通行』『浜面仕上』と残る『もう一人の男』もそれらを回避するために。

かつてたった一人の少女のために人生の全てを懸け『死んだ』殉難者アウレオルス=イザードの意志と意思と遺志が未だ生きているかのように――
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/12(水) 22:18:18.69 ID:2FgXUFGAO
以上、インターミッションを終了させていただきます。それでは失礼いたします。
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/13(木) 00:19:05.01 ID:CHog34710
追いついた。
続きを楽しみにしてる
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 02:28:43.22 ID:KmLo4dBAO
どきどき
179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:40:32.22 ID:ujConfWAO
>>1です。本日の投下をさせていただきます。五日目後半になります
180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:42:15.93 ID:ujConfWAO
〜第六学区・アルカディア〜

姫神「………………」

結標「(気まずいわね…昼間とはまた違った具合に)」

17:16分。結標淡希は水先案内人として、姫神秋沙は避難所の学生達に混じって学園都市最大のスパリゾート兼総合アミューズメントパーク『アルカディア』に来ていた。
二人は今、ほとんど貸し切りも同然の薔薇の花片が揺蕩うローズバスにて一日の汗を流していた。しかし…

結標「(無理もないわね…あんな事があった後にあんなのに会っちゃ…)」

常日頃に増して姫神が寡黙なのは他でもない…新たな水先案内人として外部より雇い入れられたオリアナ=トムソンの存在に拠る所が大きい。
途中、月詠小萌の取りなしとオリアナ本人からの謝罪があったとは言え…
間違いで標的にされ勘違いで血塗れにされた相手に顔を合わせて平然としている方がおかしいのだから。

結標「(…こんな時まで外さないだなんて…よっぽど大切な物なのかしら)」

初日からチラつく胸元に下げられた十字架…インデックスより譲り受けられた『歩く教会』の一部であるそれが姫神の吸血殺し(ディープブラッド)を抑制するために必要な霊装である事を結標は知らない。
もちろん海原、土御門、そして最終戦争を通して魔術と魔術師の存在はそれなりに理解している。
他ならぬオリアナ自身も魔術師であるとも引き合わされた時に紹介された。しかし

チャプッ…

姫神「………………」

結標「(ひゃっ…くっついてるくっついてる…すっ…すごく…近い)」

湯船の中でポニーテールに結い上げた姫神が結標の鎖骨辺りにそののぼせたようにほんのり赤い美貌を寄り添わせていた。
細い二の腕が、華奢な二の足が、あたたかなお湯と共に結標の身体にぴったり貼りつく。
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:43:00.54 ID:ujConfWAO
結標「ど、どうしたの?の、のぼせたのなら上がる?」

姫神「…いい。このままで。いて」

ようやく発した声音は、響く浴場である事を鑑みても硬質で強かった。
まるで“黙って肩を貸せ”と言われたように感じて結標はビクッと身を震わせた。

結標「(なっ、何よ…年下のクセにそんな言い方ないじゃない…心配して損したわ)」

そう内心で思いつつも身体を預けて来る姫神の、ローズバスに濡れ光る肢体をつい見やってしまう。
うっすら汗ばんだ項と、流麗な鎖骨が見て取れた。
腰の細さならば自分の方が勝っていると言う自分があったが、肩のか細さならば姫神の方が小さかった。

結標「(この娘の身体…初日にちょっと見たけど…やっぱり綺麗よね)」

姫神「結標さん。そんなに見られると。落ち着かない」

結標「へっ!?」

そんな結標の視線を不躾なものと受け取ったのか、姫神がやや尖った声音で告げる。
パチャッ…と薔薇の花片の一つをお湯と一緒にすくって、零して。

姫神「私ばかり見られるのは。とても嫌なもの」

結標「ごっ、ごめんなさい…」

姫神が苛々して見えたのはこれが初めてである。
この五日間、そんな素振りはどんなに疲れていても見せなかったのに…それが本来強気で勝ち気な結標の気勢を削いだ。
怒鳴られた事すら結標が自分自身を追い込んでしまったあの中庭の一件以来だった。

結標「(昼間は…あんなに優しくしてくれたのに)」

年下に主導権を握られ振り回されるのは歯痒った。
しかしそれ以上に――結標は姫神に嫌われる事にどこかで怯えている自分を自覚していた。

結標「(なにか…なにか話題…そうだ)」

だからつい、重い空気を振り払おうと、話題を変えようとして口を開いてしまったのだ…姫神の触れざる領域へと

結標「そのクロス(十字架)いつもつけてるわよね…ちょっと貸してもらってもいい?」
182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:45:26.28 ID:ujConfWAO
〜ローズバス・姫神秋沙〜

柄でもない情念の熾火を姫神秋沙は自覚していた。
それはオリアナ=トムソンとの邂逅によって蘇る流血の記憶。
それに連鎖して甦る家族を、隣人を、村落を全滅させた自身の身体に流れる忌まわしい血が呪わしいから。

姫神「(このお風呂は。まるで血風呂)」

浴場に揺蕩う薔薇の花片がまるで血のようにすら見える。
しかしそれらを結標に告げるつもりはなかった。
死に絶えたはずの感情が、結標に八つ当たりのように向かっている今は特に。

姫神「(結標さんの身体。少し傷がある。綺麗なのに。可哀想)」

姫神は知らない、白井黒子の鉄矢や自らのコルク抜きが突き刺さった痕。
こうやってマジマジと裸の付き合いをしているといっそうその華奢な肢体が描く曲線を意識せざるを得ない。
昼間、図書室で結標を抱き締めた時腕で感じた細さを目で確認するように。

姫神「(指で押せば。埋まってしまいそう)」

湯気の中にも少し斜めに視線を漂わせる結標の相貌が近く見える。
卵形の自分とは異なる凛々しくシャープな輪郭と、昼間自分が奪った唇が。
そして肌から伝わってくる柔らかくスベスベした感触も。

姫神「(手を伸ばせば。届く距離)」

不意に、結標に触れてみたくなって見た。肩に身体を預けているだけはまるで物足りない。
指先で、手の平で、確かめてみたくなった。
オリアナと再会し蘇る流血の記憶、流血の記憶から連鎖して甦る…脳裏に焼き付いて離れない、あの日の惨劇から目を逸らしたくて…なのに――

結標「そのクロス(十字架)いつもつけてるわよね…ちょっと貸してもらってもいい?」

それは、女同士ならばなんの事はない他愛のないやり取りだったはずだった。
いつもの姫神ならば『大事な物だからダメ』の一言でやり過ごせたハズだった。しかし――


その一言が、揺り戻しかけていた姫神の針を振り切らせた
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:46:26.98 ID:ujConfWAO
〜ローズバス・結標淡希〜

結標「ひ、姫神さん?」

姫神「………………」

結標が十字架の事について言及すると、いつの間にか姫神が自分の方へ向き直っていた。
熱を持たぬ黒曜石の瞳が、どこか底冷えするような暗い光を湛えて。

姫神「どうしたのよ一体!?私、なにか貴女を怒らせるような事した?なら言ってよ!黙ってられたらわからないじゃない!」

結標もまたそんな姫神の態度に苛立ちを覚えていた。そんなに大事な物(クロス)ならば言えば良いではないかと。
表情が読み取りにくい、口数が少ない、何を考えているかわからない。
普段ならば気に止めないそれらの要素すら今は腹立たしく思えて――

姫神「淡希」

結標「…!」

ゾッとするほどひび割れた声音で名前を呼ばれ、結標は蛇に睨まれた蛙のように竦み上がった。苛立ちすら忘れて。
姫神の指先が結標の両頬に這うように添えられる。あたたかいお風呂の中のハズなのに、冷たく感じられる声音。

姫神「舌を出して」

結標「…やめてよ…ここどこだと思ってるのよ…」

姫神「淡希」

結標「やめて…やめてよ姫神さん…誰か入ってきたら…んっ…」

冷たい唇が重なった。初めての時とは違う、さっきの時ともまるで違う冷たいキス。
ヌルリッ…と冷たい唾液と冷たい舌の感触。舌から逃げようとして…噛まれる。
ゆっくりと味わうように、ねっとりと絡めるように。

結標「(やめて…やめてよ…どうしてこんな事するの…)」

添えた指先で上向かされ、艶消しの黒真珠のような視線が見下ろしてくる。
姫神はキスの時目を閉じない。涙を滲ませる結標をいたぶるように。
ネチャッ、ヌチャッと深く冷たいキスが続く。ひとかけらの愛情もひとつまみの温もりも伝えない、巧みな舌使いと残酷な口づけ。
184 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:47:20.82 ID:ujConfWAO
姫神「綺麗…」

ツッ…と輝く架け橋が切れるのを見送る事さえせず、姫神は泣き濡れて潤んだ結標の瞳を見下ろす。
拒もうとする手が震える。逆らえば何をされるかわからない怖さが今の姫神にはあった。

結標「もう…やめてよ…姫神さん…もう…止めてよ!!」

バチャンッ!とお湯を叩いて結標は小さく叫んだ。
その飛沫が姫神の目元まで飛ぶ。しかし姫神は構う事なく。



姫神「――私達。友達でしょう?」




氷水を浴びせるような一言。その一言にもう結標は何も言い返せない。
友達だと言う大義名分を振りかざされては、そうでないと反論すれば認めてしまうような物だ。
今日、木山春生との対話で朧気ながら自覚してしまった感情を。

――結標淡希が、姫神秋沙に対して芽生え始めている思いを――
185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:49:50.33 ID:ujConfWAO
〜ローズバス・姫神秋沙2〜

姫神「――私達。友達でしょう?」

姫神秋沙は震えていた。自分は何を言っている?なぜこんなにも結標を苛み、苦しめるとわかっている言葉の刃を突きつけるのか。
自分自身に向かう冷えた怒りが滲み出て、関係ない結標まで矛先を向けて、傷つけて。

姫神「(おかしい。私もおかしい。謝らなきゃ。謝らなくちゃ)」

家に上げてくれた優しい結標、ご飯を美味しいと喜んでくれた結標。
つまらない事で怒る結標。自分自身に悲しんでいた結標。自分の肩で眠っていた結標――
その結標をまるで弱い者いじめをするような暗い喜びに酔うままに虐げた。

姫神「(どうして。どうしてこんな事をしたの。私は)」

謝らなくてはいけない。許してもらえなくてもひっぱたかれても。
家から追い出されても同じことかそれ以上にやり返されても…謝らなくては――



――うん。そうだよね姫神さん…私達、友達だよね――
186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:51:01.85 ID:ujConfWAO
〜ローズバス・結標淡希2〜

結標「うん。そうだよね姫神さん…私達、友達だよね」

結標淡希は、泣き顔をこらえて精一杯の笑顔で見下ろしてくる姫神を見上げた。
その様子に、まるで姫神は絶望したように目を見開いて言葉を失っていた。

結標「(わかるわよ…わかってる…貴女、震えてるじゃない)」

結標には今姫神が何を考えているかはわからない。
姫神が過去の惨劇にその神経をささくれ立たせている事も伺い知れない。
それでもわかる。姫神の手が震えている事は。

結標「(そうよね。気持ち悪いわよね。女の子が女の子を好きになったかも知れないなんて気持ち悪いわよね。だからこれは、私に対する罰なんでしょ?)」

姫神の震えを、結標はそう受け取った。当の姫神は、謝る機会を失った瞬間に呆然としている事も知らずに。

結標「(でも、友達ならいいんでしょう?友達でなら側に居させてくれるって、そう言ってくれてるんだよね?姫神さんは優しいものね)」

結標は知らない。今自分が姫神に向けている精一杯明るい笑顔が、瞳が、姫神の暗さを黒く塗り潰すほど冥い事を。

結標「(最初にキスしたのは私に気を使って、二度目にキスしたのは私が泣きそうだったから…今キスしたのは、調子に乗った私への…罰なのよね?)」
187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:52:02.29 ID:ujConfWAO
〜ローズバス・二人〜

結標「うん。そうだよね姫神さん…私達、友達だよね」

その一言は姫神の中に渦巻いて黒い炎など容易く飲み込むほど昏い洞穴のような声だった。
友達だから大丈夫、好きと言っていないから安全圏、そんな両者互いに抱えきれない思いが生んだ、最悪の逃げ道――

姫神「…そう」

互いに無自覚の中で、無意識の奧で、互いに惹かれ始めていた事を認められずにいた。
二人にとっての『最善』の道を模索するより、『最悪』から逃げ回る分水嶺を選んでしまった事を姫神は感じとっていた。

姫神「私達は。友達」

結標「そうよねー涎垂らすわ吐いちゃうわ…キスまでしちゃう大親友だもの」

薔薇の花片が貼りつく、互いの身体を抱き締め合いながら…結標淡希は心の中で叫んだ。

ごめんね木山さん。

私、やっぱりダメだったみたい。

ねえ小萌

私、友達出来たのよ。もしかして初めての

それもね、親友。一緒に暮らしてるの。まだ一週間も経ってないんだけど。

野菜炒めも作れない私と違って、料理がスッゴく美味しいの。太っちゃいそう。

ねえ、復興支援が落ち着いたらさ、三人で焼き肉しようね?約束通り!私、奢るよ。

小萌と


私と


姫神さんの


三人で
188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:54:06.02 ID:ujConfWAO
〜第六学区・アルカディア内ゲームセンター〜

姫神「まっ。待って結標さん。早っ。くて。ついていけな」

結標「遅い遅いわ!貴女には速さが足りないのよ!ほら私に合わせて!」

御坂「あの二人仲良いわねー」

白井「…見ていられませんの…」

18:09分。結標淡希と姫神秋沙はスパリゾート兼総合アミューズメント施設『アルカディア』内のゲームセンターにいた。
水先案内人としての護衛・護送の仕事は他のボランティアが交代で引き継いでくれたからだ。

御坂「確かにあれはないわねー。なんかもうイチャイチャアツアツ過ぎて見てらんないって言うか(アイツとあんな事してみたかったなー…って何考えてんだろ私)」

白井「(わたくしもお姉様とあんな風に…って違いますの)…そういう事ではありませんの…」

学園都市謹製のダンレボでAvril Lavigneの『Girlfriend』のミュージックに合わせて踊る二人。
手と手と繋ぎ、指と指を絡ませて、身体と身体を合わせて学園都市限定協力プレイに興じる。
正確なステップだがスローな姫神を、大雑把なステップだがスピーディーな結標が補う様は確かに『女友達』同士の息の合ったそれだった。しかし

白井「(わたくしにはわかりますのよ。結標さん)」

一見、ガールフレンド(彼女)同士のように振る舞ってみせても、無理をしているのが白井には見て取れた。
女同士とはそういうものだ。水面下で何があろうと表面上では明るく仲良く振る舞う。
白井とて彼女らと同じ『女』なのだから。しかし

御坂「私達もあの娘(結標)と色々あったけど…人って変わるもんねーホント」

白井「(あの類人猿…ではありませんわ殿方の鈍さがお姉様に移ってますの)」

発電所での仕事を一時シスターズが肩代わりすると言ってくれたので御坂美琴もまた『アルカディア』に気分転換に来たのだ。

しかし白井黒子もまた気付けずにいた。御坂美琴の変化に。
189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:55:00.63 ID:ujConfWAO
〜ゲームセンター・御坂美琴〜

御坂「(次はLady GagaのPokerface?馬鹿ね。素直に泣いちゃえばいいのに)」

『残骸』事件以来となる目視での結標淡希の姿に御坂美琴の胸中は複雑であった。
『シスターズ』が肩代わりを申し出てくれるまでに個性や感情に芽生えてくれる事は嬉しくもある。
しかし御坂は未だ行方不明の『一方通行』を許すつもりはないし、その元凶となったツリーダイアグラムの『残骸』を用いようとした結標に対しても胸裡は混迷を極める。しかし

御坂「(選曲でいちいち気持ち伝えるくらいなら、はっきり言っちゃえばいいのよ…私みたくならない内に)」

『一方通行』『浜面仕上』『もう一人の男』と共に未だ行方不明の『上条当麻』への思いを自覚した時、御坂は少し大人の女になれた気がした。
少なくとも顔で笑って心で泣く結標淡希の、笑顔という名のポーカーフェイスが透けて見えるぐらいには。

御坂「…黒子!私達もやるわよ!そこの二人!勝った方がジュースよ!」

黒子「はっ、はいですのお姉様!それはもうお互いを知り尽くしたわたくし達が負けるはずございませんの!」

結標「いいわよ?私達が買ったらジュース?そんな甘い罰ゲームなんてつまらないわ。どうする姫神さん?」

姫神「貴女達が負けたら。吹寄さんオススメの青汁。ゆっくり飲ませる。一口ずつ」

御坂・白井「「一気じゃなくてなぶり殺し!?(ですの!?)」」

少なくとも、何かを忘れたい気持ちは
190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:57:39.95 ID:ujConfWAO
〜アルカディア内・ロビー〜

生徒A「(マスクメロン…)」

生徒B「(スイカップ…)」

生徒C「(オレ貧乳スキーなんだよな…)」

オリアナ「ああん♪サウナより熱い視線にお姉さん汗以外のが出ちゃいそう」

ステイル「そんなに熱いのが好きなら手を貸すが?」

一方、オリアナ=トムソンとステイル=マグヌスは『アルカディア』のロビーにいた。
こちらに熱視線を向けてくる男子学生らを含めた『能力者』達を護送するために。

オリアナ「あら?貴方の恋人みたいに子供っぽいが方がお好み?ならお姉さん出る幕ないわぁ…」

ステイル「どっちの事だ!違う!!何の話だ!!物見遊山に来たならもう一度処刑塔にぶち込まれに帰れ!!」

イライラと煙草のフィルターを噛み潰すステイル。ケラケラと笑うオリアナ。
『刺突杭剣』絡みでの一件が未だにステイルの尾を引いているのか空気は一方的に最悪である。
しかしオリアナは油断なく生徒達を見渡しながら

オリアナ「うふふっ…お姉さんだってプロの端くれだよ…この間のも含めて、もう来るまでに学園都市のほとんどの地理は頭に入れて来たわ」

ステイル「当然さ…追跡封じ(ルートディスターブ)が今更名前負けだなんて笑えない冗談だ」

オリアナの頭の中には地図が役立たなくなった第七学区すらしっかり入っている。
生徒達を逃がす逃走経路、能力者狩りの連中が来るであろう侵入経路、いざとなれば避難所の全員を救う避難経路に至るまでに。

逃走のプロとは言い換えれば『どこをどう行けばどうなるか』を知り尽くしている事に他ならない。
既に絵図に起こされたそれらは『彼等』に手渡されている。そう――
191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:58:47.15 ID:ujConfWAO
〜第七学区・崩落の小径〜

フレンダ「麦野ー!結局、なんか聞き出せちゃったりした訳?」

麦野「ああ?ゲロす前にくたばりやがった。手応え無さ過ぎて笑えてくるわ。こんなのしかいないのかっての!プチプチプチプチスライム潰しにわざわざ私が出張ってくるまでもなかったわね」

絹旗「話すも何も、頭と内臓以外残ってないじゃないですか。麦野昔より殺し方超グロくなってませんか?前に浜面と見に行った超C級スプラッターみたいです」

フレンダ「結局、また麦野と一緒に仕事がしたかったって訳よ!ああ良い匂い…麦野香水変わんないね…これフラゴナールのオードゥボヌール?」スリスリ

麦野「きーぬはたぁー。今はアンタがリーダーなんだから敬語止めなよ。あとフレンダ、くっつくな返り血つくよ」

一つは『アイテム』である。オリアナが起こしたハザードマップを元に、その暴虐とも言うべき戦闘力で侵入者を屠ったのは今し方の話である。
もう一つは『スクール』であり、彼等は避難所の防衛に当たっている。
夕闇に乗じて何人少数精鋭のアリ(傭兵や魔術師)を送り込もうが、単独の軍隊相手に渡り合えるゾウ(レベル5)には無駄だと言わんばかりに。

フレンダ「結局、学園都市の防衛機構が復活するまでの勝負な訳よ!あーでももうただ働きは嫌な訳よ…夏の新作バック買えなーい!」

絹旗「超久しぶりで超鈍っちゃいました。って言うか超力加減間違えて超グチャグチャです。アルカディア超行きたかったのにー…麦野とまたサウナ対決超したかったです」

麦野「絹旗、超超テンション高過ぎ。フレンダははしゃぎ過ぎ。変わんないわねーアンタ達…なんだか私だけ老け込んだみたいでちょっと憂鬱ね」
192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 19:59:55.47 ID:ujConfWAO
『能力者狩り』も学園都市の防衛機構も戦火の痛手から立ち直れば直に止む。止まざるを得なくなる。
今ですら行方不明だった第六位(ロストナンバー)と『八人目のレベル5』となった滝壺理后が学園都市全域を監視しているのだ。
避難民に紛れてスパイを送り込もうにも『心理掌握』の目を盗む事は出来ないし、今更ハッキングしても御坂美琴の目を欺く事は出来ないのだから。

フレンダ「結局、この死体どうする訳よ?絹旗、刻む?」

絹旗「超埋めます!夏場なんで匂うと嫌ですから。麦野は?」

麦野「焼く。欠片の肉も一滴の血も一掴みの灰も残さずに。さっ、とっととゴミ片付けて帰りましょ…今夜はお昼のビーフカレーの残りにするか」

絹旗「あれだけ超殺しまくっといてよくお肉食べれますね麦野…さすが肉食系女子。フレンダは?」

フレンダ「もちろん!サバカレーな訳よ!」

麦野「滝壺にもなんか食べさせてあげるおやつ探しに行く?他の学区に」

絹旗「麦野、服服。服変えてからいきましょうよ。滝壺さん何超好きでしたっけ?」

フレンダ「麦野麦野!私にもなんか買って欲しい訳よ!」

『殺し』は『アイテム』と『スクール』が担当し、それ以外は各々の領分で戦う。
一方通行を除けど、レベル5全員が集結するこの第七学区は難攻不落の要所となっているのだ。そして麦野も

麦野「(殺し方がグロくなったぁ?引退したからって舐めてかかる肥溜め共をドブさらいするときゃガッツリ[ピーーー]わよん)」

暗部としての仕事は一年近いブランクがあったが、殺しそのもののスパンは一週間と空いていない。
引退して腑抜けた訳でも、避難所での嫌いな馴れ合いで日和った訳でもない。
愛した男に腰砕けにされ骨抜きにされた部分は否定し切れないが。

麦野「(だから…早く帰ってきてね)」

狩りはメスライオンの仕事。そう麦野沈利は割り切っている。
そういう意味で結標が麦野に抱いた『丸くなった』という印象は間違いだった。
ただ無駄な贅肉を削ぎ落とした、シンプルな殺し(こうどうようしき)に切り替わっただけ。

この日傭兵が14人、魔術師が8人狩り殺された。
『アイテム』というメスライオンの群れによる爪と牙で。
193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 20:02:54.32 ID:ujConfWAO
〜第六学区・『アルカディア』ゲームセンター〜

結標「ゼー…ゼー…」

姫神「ハー。ハー」

御坂・白井「「 」」

御坂美琴・白井黒子コンビは罰ゲームの青汁でダウン。
勝者たる結標淡希・姫神秋沙チームは協力プレイから対戦プレイへ移行していた。
結標は青息、姫神は吐息、負けず嫌いな二人のダンレボ対決は互いに五勝五敗。
しかしその意地の張り合いも次のゲームで幕を下ろされるだろう。

結標「選曲、Janne Da Arcの“ヴァンパイア”」ポチッ

姫神「選曲。ジャンヌダルクの“mysterious”」カチッ

ローズバスでの出来事から互いに目を逸らす。今はただ体を動かして発散したかった。
互いを傷つけるような愛撫が、心を蝕む痛みを思い出させるから。
友達より近くて恋人より遠く、親友より遠くて他人より近い二人の距離。

結標「(絶対許さない…貴女だけは、貴女だけは)」

拒めなかった自分も悪い。逆らえなかった自分も悪い。抗えなかった自分も悪い。
そう思いながら結標はステップを踏む。

姫神「(良くも。この私を壊してくれたわね)」

傷つけるようなキス、痛めつけるような抱擁、投げつけるような言葉でなぶった自分が悪い。
そう思いながら姫神はタッチを伸ばす。

結標・姫神「「((貴女がいなければ私はまだどうにでもなったのに))」」
194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 20:03:55.50 ID:ujConfWAO
相手への罪悪感と自分への内罰感が渦巻き、愛情と友情と憎しみと悲しみが逆巻く。
女同士の恋愛は、時に男女同士の恋愛よりも遥かに凄惨で救いのない物だと二人は知らない。
未だ入口で足踏みする二人ですら、その入口はひどく厚く高い扉に思えた。

結標「姫神さん」

姫神「結標さん」

どちらが悪くどちらが正しいなどと言う二元論はどのような恋愛であれ存在しない。
あるのは1(罪)と0(罰)の二進法が織り成す、共犯者同士の罪罰だけ。



結標・姫神「「――私達友達だよね――」」



それは肉体的な共依存による精神的な共倒れにも似ていた。
美しくなどなく、清くなどなく、正しくなどなく…二人は危うい針の上でダンスを刻む。

道化師(ジェスター)のような泣き笑いを心に秘めた結標淡希。

道化師(クラウン)のような笑い泣きすら出来ない姫神秋沙。

道化師(ピエロ)のような交わらない長針と短針で互いを見つめ合う二人。

二人の日付は、まだ変わらない。
195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 20:10:34.14 ID:ujConfWAO
>>1です。本日の投下は以上で終了です。読んでくださった方、レスをくださった方、オススメに紹介してくださった方、皆さんありがとうございます。

そして、前作まで読んで下さった方がいらっしゃるようなので、小ネタを仕込まさせていただきました。

本日は少し黒百合気味になってしまいました。年下攻めは至高。では失礼いたします。
196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 20:25:35.83 ID:TlRW9JsAO
乙です!
Sな姫神いいなww
この2人のやり取りが能登さんボイスと櫻井さんボイスで脳内再生されるwwww
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 20:44:39.54 ID:z3ja4yqJo
乙!
姫神さんがこんなに心理描写満載で描かれてる上に百合であわきんとかどれだけ俺のツボを抑えてんですかね。
198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 21:10:56.21 ID:QJNpivFQ0
乙。その一言だけ言えればいい。
SS・小説スレは本日、移民大会議を行います。(板が新しくなります)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1279375638/

199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 23:25:38.21 ID:z3ja4yqJo
>>1
移転だそうなので。スレすっ飛ばし依頼をする時は。此処で。
■ 【必読】 SS・ノベル・やる夫板は移転しました 【案内処】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294924033/



SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 23:41:56.60 ID:ujConfWAO
>>l99

姫神さんありがとうございます。依頼して来ました。これで良かったのでしょうか…
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

201 :真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 23:47:41.87 ID:ze/nAJAlo
>>200
無事に。移転したみたい。乙。
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 23:53:00.03 ID:mIdphONAO
ありがとうございます…でもまだ新しい感じに慣れませんね…今まで通りに投下出来れば良いんですが
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 00:08:16.61 ID:CbMWOZPO0
前から読んでてて気になってたんだけど前作って何?
是非とも教えて貰いたいですねぇ
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 00:15:27.77 ID:O7/cTsSAO
はい。とある星座の偽善使い(フォックスワード)という上条×麦野の初SSです。
とは言ってもこちらの二作目のSS、姫神×結標の関係に関わりはありません。手前味噌で申し訳ありません…
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 00:26:16.52 ID:CbMWOZPO0
えっ?関係無いの?
垣根が初春と恋仲だったり、麦野がインデックスと仲よかったりしてたから、てっきり前作と繋がってるのかと早合点
いずれにせよ読ませていただくけどね
ありがと
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 00:31:22.35 ID:O7/cTsSAO
あっ、その部分では関係があります。ただ姫神と結標の関係性のみ、前作と関係がないだけで。

垣根×初春、フレンダ存命、麦野アイテム引退などは前作からです。
このSSではほんの味付けぐらいに考えていただければ幸いです。主役は女の子二人ですので。

それでは明日の投下もよろしくお願いいたします。管理人さんお疲れ様でした。
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 01:39:39.57 ID:X8weSpwro
偽善使いの人だったのか!!
あれ何日か前に初めて見つけて一気読みした。すげえ面白かったよ。
なるほど、あれ書いた人ならこのクォリティの高さも納得だわ……
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/14(金) 20:47:35.22 ID:O7/cTsSAO
>>1です。新しく板が移転しましたがこれからもよろしくお願いいたします。
今夜はインターミッションのみとなります。
結標・姫神が帰宅途中の裏幕話です。
210 :インターミッション2 :2011/01/14(金) 20:49:49.59 ID:O7/cTsSAO
〜第十二学区・忘れられた教会〜

「四日前、第十八学区でエージェント5人がタンクローリーにより圧死」

「昨日は第七学区で雇い入れた私兵が2人、ビル爆破により圧死」

「数時間前、同じく第七学区で私兵14人、我等が同志が8人消息を断った」

「これは由々しき事態である。未だリストアップされた3人は誰一人たなどころにない」

五日目…20時54分。第十二学区。高崎大学を筆頭として、オカルト的な観点からでなく科学的な観念からアプローチする神学校が集中する学区。
その打ち捨てられた教会内に蠢く人影…夜会のように集うその姿形は漆黒のローブに身を包んだ…まさに『魔術師』そのものであった。

「リストナンバー3、上条当麻は今現在行方不明」

「リストナンバー2、削板軍覇は我々の力では御する事は能わぬ」

「リストナンバー1、姫神秋沙は第七学区と第十八学区を行き来している。現在、女学生1名と共にモノレールにて第八学区より第十学区を移動中」

「Tempestas369(毒杯注ぎし晩餐者)よ、手段は問わぬ。必ずや手中に納めよ」

結標淡希、フレンダ、そしてアイテムに『能力者狩り』を阻まれた首謀者達は苛立ちを隠せない。
万全の囲いを敷いた城から漏れ出した獲物にすらありつけない現状に。
学園都市が防衛機構を復活させ、十字教三大宗派が力を取り戻した暁には自分達が狩られる番だと理解しているから。

魔術師A「身命に代えましても」

その言葉に一人の魔術師が『ソソルの錫杖』を手に立ち上がる。
それは魔術文書『パウロの術』に記載されし風を司る天蝎宮の天使『ソソル』の奇蹟の一端を、人間用魔術に変換し調整された力として奮う魔術師。
魔法名『Tempestas369(毒杯注ぎし晩餐者)』はターゲットの顔写真を頭に入れ直す。

魔術師A「目標、吸血殺し(ディープブラッド)」

それはかつてアウレオルス=イザードが『吸血鬼』の持つ無尽蔵の力をインデックスのために求めたそれとは異なる。
徹底して私利私欲のために『吸血鬼』をおびき寄せ手にするための撒き餌として姫神秋沙を欲しているのだから。

魔術師A「第十学区か」

標的は姫神秋沙のみ。側に女学生が一人居ようがものの数ではない。
標的一人のために多勢を巻き込む事すら厭わない指向性こそが、『嵐』と『暗殺』と言う矛盾した魔法名の由来。

――科学と魔術が交差する時、物語は始まる――
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/14(金) 20:55:14.22 ID:O7/cTsSAO
>>1です。
この魔術師の魔法名は自作ですが、あくまでただの敵モブの一人とお考えいただければ幸いです。
ただし天使や魔術文書は実際にあるものからいただきました。

因みにモノレールは上側に吊られているモノではなく下側についているタイプです。

それでは次回もよろしくお願いいたします。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 20:58:46.95 ID:JN4H+TzAO
いちおつ
結標さん守ってあげてええええ
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 22:40:55.45 ID:QrAG0QUro
モブ無駄にかっけー乙ww
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:15:22.79 ID:+7uvNRsAO
>>1です。休日なのでこの時間ですが投下させていただきます。
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:17:41.38 ID:+7uvNRsAO
〜第十二学区・モノレール内〜

姫神「今日も。水先案内人のお仕事。お疲れ様」

結標「どういたしまして。と言っても今日はほとんど仕事なかったけれどね。せいぜいが土嚢詰みとアルカディアまでの警護だけ」

姫神「それだって。大切なお仕事。誰にでも出来る訳じゃない」

五日目…21:34分。結標淡希と姫神秋沙は帰りのモノレールに並んで揺られていた。
アルヴェーグ式跨座式モノレールの車内はほぼ無人で連なる車両などにまばらに他の乗客の姿が伺えるだけであった。
窓の外には皓々と輝く銀月が結標を照らし、開け放たれた窓から心地良い夜風が姫神の髪を揺らす。

結標「私にはコレ(座標移動)しかないから…姫神さんみたいに何でもオールマイティーには出来ないわ。特に炊事なんて頼まれたってね」

姫神「またの名を。器用貧乏」

ローズバスでの一件を互いに口にする事はない。
例えそれが空々しい暗黙の了解で、寒々しい自己欺瞞であろうとも。
故に二人の会話は口づけを交わす前のように和やかで、穏やかで…虚しかった。

結標「(水先案内人ね…成り行きで巻き込まれてしまったけれど…悪くないわ)」

ガタンガタンと規則正しい揺れ幅のモノレール。
完全下校時間は既に回っているが、結標は結標なりにこの仕事に心地良い充足感を覚えていた。
この十二学区を過ぎれば終点の第十八学区までノンストップだ。一眠りしても良い。

姫神「(今日も。ありがとうと。言ってもらえた。私には。何も出来ないのに)」

炊事洗濯雑務全般をオールマイティーをこなせる姫神、水先案内人という専門的な仕事を担う結標。
結標は暗部に堕ちて以来、姫神は学園都市に来て以来初めて、自分の存在に対して徐々にではあるが…肯定的になり始めていた。
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:18:42.35 ID:+7uvNRsAO
結標・姫神「(明日はどんな一日になるのかしら(なるんだろう))

誰かのためにと言う自分のため、自分のためにと言う誰かのため。
巡り行く状況の中で自分なりの取捨選択を経て二人は僅かずつでは歩み始める。
一ヶ月前までは想像すらしていなかった自分達の姿に対する気恥ずかしさと誇らしさ。

――しかし――

結標「(………………)」

その時ふと誰かに見られているような、つけられているような感覚を覚えた。
四人掛けの座席に腰掛けながら結標は意識を集中させる。

結標「(一人…いえ…二人?)」

それは、暗部に身を置きその中で生きて来た結標だからこそ感知しえた視線…
数は一人ないし二人…どこだ?自分達しかいない車両で…別の車両か?と結標が周囲を見渡すと――

ガッシャアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァン!!!
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:19:45.42 ID:+7uvNRsAO
〜第十八学区行きモノレール内〜

結標「!?」

姫神「?!」

ガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャン!!!

最初は爆発物が炸裂したかのような衝撃波が車内を駆け巡り次々と車窓が砕け散って行った。
それも二人がいる車両まで後部より追跡して来るように。
それに対し真っ先に反応したのは――

結標「姫神さんっ!!!」

ガッシャアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァン!!!

雨霰と降り注ぐ硝子と蛍光灯の破片から、座席の姫神を引きずり込むように結標は覆い被さった。
障子紙より呆気なく突き破られた車窓から暴風のような旋風が渦巻き車内に吹き荒れて行く。

姫神「なっ。なに」

結標「動かないで!」

姫神を身体の下に庇い立てしながら結標は真っ暗闇の車内を月明かりを頼りに低い体勢から見渡す。
既に得物である軍用懐中電灯は手の内にある。
時速60キロで走るモノレールは止まらない。破壊されたのは車窓ばかりで煙はおろか火薬の匂いすら鼻につかない。

結標「(なんなの?どうなってるの?いえ違うわ…どうする!?)」

懐中電灯は照らさない。標的が自分達であろうがなかろうが狙い撃ちの的だ。
ガタンゴトンガタンゴトンというモノレールのほとんどしない振動を意識から切り離して耳を澄ませる…すると

ジャリッ…バリンッ…ザリッ…ガリンッ

足音がする。硝子と蛍光灯の破片を踏みしめる音と共に。
結標はそちらへ耳を側立てる。自分達以外はいなかったはずの車両に、扉を開閉する音もなく…まるで
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:20:37.64 ID:+7uvNRsAO
魔術師A「吸血殺し(ディープブラッド)を確認。これより確保する」

この吹き荒れる風が連れてきたように…月明かりに照らされた影…
それはモノレールの外に広がる闇夜が人の形をしたような漆黒のローブ姿…
かつてアウレオルス=イザードが属していた異端宗派(グノーシズム)の使者。

魔術師A「魔法名…Tempestas369(毒杯注ぎし晩餐者)」

結標「(魔術師…!?)」

シャンッ、シャンッ、シャンッと魔術師は手にした錫杖についた銀の輪をかき鳴らす。
まるで冥界から来る亡霊のような出で立ちで何事かを呪詛のように呟いている。それが魔術の術式を唱えていると二人には聞き取れないほど小声で。

魔術師「同時に目撃者を確認。排除する」

轟ッッ!と魔術師を中心にまるでモノレール車内に台風でも放り込んだような嵐が巻き起こる。
自動車くらいなら木の葉のように吹き飛ばす風力。それらが魔術師の錫杖に収束して行き――

結標「(マズい!!!)」

それに対し結標が軍用懐中電灯を振るうのと同時に――

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:23:31.87 ID:+7uvNRsAO
〜第十八学区行きモノレール車上〜

魔術師A「!?」

魔術師の放った暴風の一撃が闇夜を疾走するモノレール車上で炸裂した。
結標を狙って放たれたそれは目標を失って爆裂し通り過ぎるビル群のガラスと建ち並ぶ電柱を薙ぎ払って終息する。
それもそのはず――

魔術師A「何だ今のは」

魔術師はモノレールの車上に『座標移動』させられていたのだ。
しかし魔術師にはそれがわからない。いきなり視点と景色がズラされ、一気に時速60キロで走るモノレール車上で対流をもろに浴びる。

魔術師A「クッ…」

結標「悪いけど」

ひた走るモノレール車上に結標もテレポートして来た。
姫神は依然として車内。原理は不明だがレベル4に匹敵する風力を車内で炸裂させ姫神を巻き込む訳にはいかないからだ。

結標「デートのお誘いならもう少しスマートにしてくれないかしら?」

結標も片膝をつき片手をモノレールについて突風に耐える。
気を抜けば振り落とされてしまいそうだ。時速60キロとモノレールにしてはゆっくりだが、吹いてくる風が半端ではないのだ。

魔術師A「生存確認。排除する」

結標「口説き文句の一つもないんじゃね!気の利かない男は途中下車してもらうしかないわ!」

ブンッ!と横薙ぎに軍用懐中電灯を振るう。瞬間、魔術師の姿が

魔術師A「むっ!?」

モノレール車上から路線上から外れた虚空へと放り出される。
重量4000キロ弱、射程にして800メートル近い結標からすれば空き缶を投げ捨てるようなものだ。
ただし絶えず走り続けるモノレールのせいで座標演算が若干タイムラグはあるが、それは挑発的な言葉の間に済ませる。しかし
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:25:01.86 ID:+7uvNRsAO
魔術師A「まだっ…!」

シャン!と錫杖を振るうと夜空に投げ出された魔術師の足元に小型の竜巻とも言うべき旋風が巻き起こり――

ダンッ!!!

竜巻を足場に再びモノレール車上に降り立つ。初めて目にする座標移動に面食らいはしたものの…振り落としただけでは何度でも戻って来る!!

結標「その上しつこいようね!嫌われるわよそういう男は!」

思わず歯噛みする。こんな自殺同然のスタントまでやってのける相手…それも魔術師なる相手と出会すなどと。

結標「(風力からすればレベル4。目的はわからないけど目標は姫神さん。なら――ここで!)」

街中を駆けるモノレールの上、吹き付ける風に体を持っていかれそうになる、足場は最悪、向こうは魔術師。
つくづく厄日だと思わないでもない。しかし水先案内人の仕事が少なかったおかげでコンディションは悪くない。

結標「悪いけれど…こっちは“友達”の命が懸かってるのよ!!」

そうだ。友達だ。もう友達なのだ。姫神秋沙は。
残酷で、優しくて、それ以上手を伸ばせない『友達』という関係。でもそれで構わない。

――姫神秋沙(ともだち)を守るためならば――
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:26:02.47 ID:+7uvNRsAO
〜第十八学区行きモノレール車内・姫神秋沙〜

姫神「なにが。起こっているの」

一方、姫神秋沙は結標淡希に押し込まれた向かい合わせの四人掛けの座席の下に身を潜めていた。
ゴゴンゴゴンゴゴンゴゴンとモノレールはひた走る。
そこに時折、頭上から破壊音が響き渡り、過ぎ行くビル街のガラスが砕け散る音がする。

姫神「結標さん。どうして…!」

咄嗟に自分を庇った時の身のこなし、辺りを探る目配りを見て姫神は以前からの不信を確信に変える。
結標淡希はプロ(暗部)だ。自分にはわからない世界で生きている人間だと。
今まで香った血の匂いの理由…それはあんな動きが自然と身につくような世界に身を投じていたからだと。だが――

姫神「逃げて…!」

そんな事はもうどうでも良かった。以前、上条当麻とのハンバーガー店での出会いを思い返す。
自分のために誰かが戦って傷つくのはもう嫌だ。あたりはついている。狙いは自分の吸血殺し(ディープブラッド)だ。
その背景に何があるのか姫神は知らないしどうでも良い。問題は――

姫神「逃げて――淡希!!」

まるで恋人の身を案じる乙女のように、暴風吹きすさぶモノレールを見下ろす月に。
姫神は叫ぶ。誰にも届かない祈りを口にして、ただ無事を願う事しか出来ない自分がこんなに無力に感じた事はなかった。


――――だから――――
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:28:17.48 ID:+7uvNRsAO
〜第十八学区行きモノレール車上2〜

魔術師A「ハッ!」

紐解くは魔術文書『パウロの術』、引き出すは天蝎宮の風の天使、打ち鳴らすは『ソソルの錫杖』。
向かい風すら切り裂いて幾つもの真空波をモノレール車上の結標に対して撃ち放つ!
結標「しつこい!」

それらを上空へと飛び上がり座標移動でテレポート、やり過ごした真空波が流れ行くビルの看板を真っ二つに切り飛ばす。
しかし結標は闇夜を月面宙返りしながら軍用懐中電灯を振り下ろし――

ドンッ!

切り飛ばされるビル看板を即座に空間移動させ魔術師目掛けて投げつける。
追い風を受けて飛来するビル看板、それに目を見開いた魔術師は再び錫杖を掲げ――

魔術師A「叩き落とせ!!」

轟ッッ!と渦巻く真空の盾が魔術師に激突せんとしていた看板を弾き飛ばした。
一瞬の静寂、見上げる魔術師…しかしその先に結標は――

結標「口説きに来たくせに余所見してんじゃないわよ!」

ガッ!といつの間にか魔術師の背後に座標移動し、警棒にもなる軍用懐中電灯を思いっきり魔術師の後頭部へと振り抜いた!

魔術師A「ガッ…!」

結標「いい加減…墜ちなさい!!」

看板による攻撃は目くらまし。本命は座標移動しての背面攻撃。
その痛恨の一打に魔術師がよろめく。さらにそこへ結標の前蹴りが魔術師を吹き飛ばす。
だがいつ振り落とされるかわからない不安定な足場を庇いながらでは引き離す事しか出来ない。

魔術師A「クソッ…」

魔術師はアウレオルス=イザードが所属していたグノーシズム(異端宗派)でもまず一流と言って良い魔術師だった。
それがどうだ。こんな小娘一人仕留め切れずにいる。だが同時にこうも思う。

魔術師A「やるか…」

得体の知れない能力を差し引いて尚手に余るのは相手もまた影と闇の領域に住まう『同類』だから。ならば…!

バキッ!

結標「…!?」

魔術師A「終わりだ。吸血殺しを引き渡せ…さもなければ」

その魔術師は…手にした錫杖を真っ二つに叩き折った。
魔術師の命とも言うべき霊装・媒介を捨ててまで…そしてそれが意味する所は――


魔術師A「このモノレールを街中に“墜とす”。乗客住民みな道連れにしてだ」
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:30:16.36 ID:+7uvNRsAO
〜第十八学区行きモノレール車上3〜

結標「!?」

魔術師A「五月蝿くて聞こえんか?吸血殺し(ディープブラッド)を引き渡さなければこのモノレールをオレの『嵐』で街中へ突き落とす。そろそろ第十五学区に差し掛かる…この意味はわかるな?」

結標「本気で…言って!」

魔術師の魔法名…Tempestas369(毒杯注ぎし晩餐者)とはラテン後で『嵐』を意味する。
手にした『ソソルの錫杖』をヘシ折り、霊装に内包する力場を自らの命と引き換えに制御を放棄し、指向性を持たぬ暴走を持って瞬間的に『嵐』を凌駕する暴風を生み出す道連れの魔術。
例を出すなら常盤台中学の婚后光子が12トンはあると思しきトラックを空力で噴射させる原理を一極化させた竜巻の魔術。

魔術師A「もうそろそろ第十五学区だ。オレでは貴様は倒せん。だが倒さなくて良い。この車両以外の車両を『嵐』で落とす。吸血殺しが手に入るならば我等グノーシズム(異端宗派)は…」

魔術師の力では命と引き換えでもモノレールの一両を吹き飛ばすのが精一杯だ。
しかしそれを街中を走るモノレールで、学園都市最大の繁華街を有する第十五学区の中心部に落とせば?
…まさに毒杯を煽って信じる神に身を捧げんと最後の晩餐を迎える信者にも似た自爆テロ。

結標「(頭おかしい連中はそれなりに見て来たけれど…輪にかけてひどいのは久しぶりだわ)」

一方通行が見れば絶殺しかねないテロリズム剥き出しのやり口だが、この頭のおかしいローブ姿の幽霊のような魔術師にはそれが唯一無二の取り引きであり解決法なのだろう。
ハッタリでない事は言葉が通じない目を見ればわかる。
何故なら理性的に話しているようで目に宿っているのは非理性的な光。それは狂人のそれだ

魔術師A「選べ。一人助けて無辜の命を捧げるか、大勢の命と引き換えに我等の崇高な使命に――」

結標「――――――」
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:31:41.42 ID:+7uvNRsAO
その時、結標淡希は初めてかつての敵の言葉の意味がわかった気がした。


『ああ私はムカついてるわよ!私利私欲で!完璧すぎて馬鹿馬鹿しい後輩と、それを傷つけやがった目の前のクズ女と、何よりこの最悪な状況を作り上げた自分自身に!!』


結標「(…気にいらないわ…)」

軍用懐中電灯を握り締める。奥歯が砕けそうなほど歯噛みする。

こんな時に、こんな場所で、こんな相手に手が出し切れない自分が

結標「(…気にいらないのよ…!)」

吹き荒ぶ風

流れ行く街の灯火

自分の足元で車両で震えているだろう姫神秋沙

狂った論理を振りかざす魔術師

そして…何より気にいらないのは――


――あの時の御坂美琴(レールガン)の気持ちがわかる自分が…気にいらない!!!――
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:33:45.84 ID:+7uvNRsAO
〜第十八学区行きモノレール車上4〜

魔術師が向き直る…もう第十五学区に差し掛かる頃合いだ。
その幽霊のように虚ろな眼差しを向け、車上を吹き抜けて行く突風にローブをはためかせて。

魔術師A「さあ…答えろ!」

魔術師の手には吹き荒ぶ突風すら微風に思えるほどの魔術の暴風を渦巻いている。
発動した瞬間絶命するとわかっていながらその声音には一切の淀みも、我が身への迷いも、他者を巻き込む躊躇いすら感じられ――

結標「…ええ私はムカついているわ」

魔術師A「!?」

…なかったはずの魔術師が思わず言いよどむ…向かい風に二つ結びを揺らす赤髪の少女の言葉が理解出来ないとばかりに

結標「私利私欲で!」

結標「こんな私を見捨てられない優しすぎる姫神秋沙(ともだち)と!」

結標「それを傷つけようとする目の前のイカレ魔術師と!」

結標「何よりこの最悪な状況に何も出来ない自分自身に!!」

それは無力な言葉だった。怒るだけで、叫ぶだけで、今ここにある現実など何一つ止める術も力もない『ただの言葉』だったはずだ。

魔術師A「馬鹿め…!」

負け犬の捨て台詞、そう魔術師が受け取るのは無理からぬはずだった。
自分の勝ちは動かない、揺るがない、この状況を覆す方法など――――


キキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!


結標「!?」

魔術師A「?!」

なかったはずだった。

結標にとっても

魔術師にとっても…


――なかったはずだった――
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:34:38.70 ID:+7uvNRsAO
〜第十八学区行きモノレール・運転席〜

姫神「止めて!もっと強く!!もっと強く!!!」

運転手「わかった!わかった!だからそんな怒鳴らないでくれお嬢ちゃん!ふんぬー!!!」

姫神秋沙が駆け込んだ先、それは電子制御された運行に、欠伸をしながらダラダラとくつろいでいた運転手の居る運転席だった。
二人で非常用緊急ブレーキレバーを押して、押して、押して行く。力一杯。
もちろん姫神は魔術師の道連れの魔術も、結標淡希の怒号も知らない。ただこの戦いを止めたい一心だった。

キキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!

姫神「止まって。止まって…止まって!!!」

姫神秋沙には戦う力がない。今は護身用のスタンガン付き警棒すら手元にない。

吸血殺し(ディープブラッド)は吸血鬼にしか意味がない。他の能力などない。

結標淡希のようなプロの身のこなしも出来ない。彼女を手助けする事など出来ない…だが

姫神「淡希…!」

姫神は姫神秋沙の戦いを始めると決めたのだ。
月詠小萌の笑顔を見てから、避難所で手伝いをすると決めてから。
どんなか弱い手でも、か細い腕でも、姫神秋沙の闘いはもう…始まっていたのだ。

姫神「淡希ぃぃぃぃぃぃ!!!」


――あの、野菜炒めの一つも作れないレベル4(どうきょにん)と出会ってから――

キキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ…イ…イ…イ…!!!

そして…モノレールが停車した。
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:36:56.95 ID:+7uvNRsAO
〜第十八学区行きモノレール車上5〜

結標「あっはっはっはっはっはっはっはっ、あはははははははははははははははははははははははは!!!」

魔術師A「馬鹿…な」

あらかじめ姫神のいた車両に人払いの術をかけていたはずだ。
だから誰もこの異常事態を気にも留めないはずだった。僅かな乗客も、運転手も。
そう…姫神秋沙が人払いの術の効果範囲から飛び出し、まさかブレーキを止めにいったなどと…想像すら魔術師は出来ない。

結標「あははははははあはははあっはははっはあはははあっはっははっはっはああははは!!!」

結標淡希は止まらない高笑いを上げていた。見えずともわかる。人払いの術など知らずともわかる。
これを止めたのが姫神秋沙だと。第十五学区、繁華街に突入する直前でこのモノレールを止めたのが彼女だと…直感で。

結標「はあっ…笑ったわ…笑い過ぎてお腹痛い…こんなに笑ったのいつぶりかしらね…もう思い出せないくらい久しぶり」

結標は軍用懐中電灯を握り直す。停車したモノレールの上、止んだ突風、夜空に浮かぶ銀月、そして姫神秋沙。全てが最高で――最悪の気分だった。

魔術師A「あ…あ…あ!」

第十五学区に突入する前に停車したのではモノレールを落としても意味がない。
大勢の人間を巻き込むからこその効果的な脅迫。その有利の全てが…失われてしまったのだから。

結標「それから…こんなに頭に来たのも久しぶり。よくもこの私を怒らせてくれたわね?」

今なら一方通行の気持ちもわかりそうだ。気にいらないヤツの顔面に、思いっきりキツい一発をお見舞いしてやるのは…実に清々するだろうと。

魔術師A「ぐっ…うう…!」

もう術を発動させる意味もない。ここでやっても犬死にだと…教理に染まり切った頭でも理解だと。同時に――もう逃げられないとも。

結標「どうぞ、ご自由に?尻尾を巻いて逃げるも、恥を捨てて、みっともなく這いつくばって許しを乞うなり…そこまでやって初めておあいこよ…この…!」

そして白井黒子の気持ちもわかる気がした。最悪の気分で、最低の気分で、同時に――最高の気分だ。

結標「こ  の  ク  ズ  野  郎  !  !  !」

バキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!

魔術師A「グボッ…!」

思いっきり、軍用懐中電灯で鼻っ柱をブッ飛ばしてやるのは。
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:39:55.97 ID:+7uvNRsAO
〜第十五学区・プラットフォーム〜

「おいなんだこれ!?ガラス滅茶苦茶じゃねえか!爆弾か?」

「電車いつ動くんだよ!帰れないじゃないか!」

「うわーなんだこの黒づくめ…前歯全部折れて伸びてやがる…アンチスキル呼べアンチスキル」

「アンチスキルより救急車だろ…うわひでーゴリラに殴られたみてえだ」

22:26分…第十五学区のプラットフォームにゆっくりと到着したモノレールは辺りは騒然となっていた。
黒山の人だかりに、早く運行を再開させろと詰め寄られあたふたする運転手、怒る乗客達…そして

結標「はあっ…もう歩いて帰るしかないわね…この様子じゃタクシーは全部出払っちゃってるだろうし」

姫神「結標さん。パンツ。見えてる。今日は。ピンク」

結標「えっ!?やだっ」

結標淡希と姫神秋沙。騒動の渦中にあった二人はいち早く座標移動で抜け出し、姿をくらませて階段を上っていた。
表向きは爆弾騒ぎかなにかで落ち着くだろうと思いながら先行く結標がミニスカートを慌てて抑え、それを姫神が指差して。

姫神「前から思っていたけど。そんな愉快にケツ振って歩かれたら。誘ってるのかと思われる」

結標「貴女アイツ(一方通行)に会ってないわよね!?」

結標淡希がわかった事。それは姫神秋沙が希少な能力を持つ『原石』でありそれらを狙う勢力がある事。
姫神秋沙がわかった事。それは結標淡希がある種のプロフェッショナルであり、自分を救ったという事。
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:41:29.65 ID:+7uvNRsAO
姫神「姉ちゃん。ええケツ。しとるやないか」サワッ

結標「ちょっ!コラ!やめなさい姫神さん!貴女そんなキャラだった!?」

乗客に怪我人は無し、結標にも姫神にも怪我はなく、いるのは前歯全部と頸椎と鼻骨をヘシ折られた哀れな魔術師が一人。
同時に結標淡希は強く思う。再び暗闘の予感がすると。
そしてその中心にいるのはこの…姫神秋沙(ともだち)だとも。

結標「はあっ…今夜は家に帰るの良しましょう…鴨撃ちの的だわ。でももう学校に戻る上り列車ないし…困ったわね…多分ビジネスホテルもこの時間じゃ…」

姫神「第十五学区は繁華街。ラブホテルもたくさんある。そこに泊まれば」

結標「え、え、え!?ら、ら、ラブホテルって…私達女同士よ!?」

姫神「女同士で。入れる所もある。もしくは。無人フロントのタッチパネル式。替えの下着は。中でも売ってる」

結標「貴女どうしてそんな詳しいのよ!?」

姫神「綺麗なだけの。私を見ないで(キリッ」

結標「無表情でどや顔しないで!!」

姫神「ウブなあわきんには。俗っぽ過ぎて耐えられない」

結標「あわきんって呼ばないでって言ったじゃない!馬鹿!!」

そして二人は第十五学区の駅から出る。どちらともなく、気がつけば手をつないでいた。
それは夜遊びに出た仲の良い女友達同士の悪ふざけにも、姉妹のようにも見えた。
ともあれ二人は乗り越えた。乗り切ったのだ。今日という長い一日を。

姫神「今夜は貴女を。帰さない」

結標「帰さないんじゃなくて帰れないの間違いでしょう?」

姫神「今夜は貴女を。寝かさない」

結標「寝かせて!?」

互いの手を、離す事なく
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 11:45:28.18 ID:+7uvNRsAO
>>1です。今回の投下は以上で終了です。

疾走する列車バトルは以前から書いてみたかったので少しホッとしました。レス下さった方々、ありがとうございました。皆様のおかげです。

それでは失礼いたします。
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 11:47:03.78 ID:RXT4ocB2o
乙!何だコイツら…イチャイチャしやがってけしからんもっとやれ
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 12:08:39.11 ID:VyL+0XJAO
乙ん。

さて、まさかラブホに入って何もしないなんてことはあるまいな?
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 15:15:00.40 ID:8VmR3o+AO
今夜は。お楽しみですね。
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 12:02:37.58 ID:ApwUhMxAO
お休み?
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:25:37.69 ID:ulLJ5UIAO
>>1です。五日目と六日目の狭間の物語です。成り行きでラブホテルに泊まってしまった結標と姫神のお話です。
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:27:27.56 ID:ulLJ5UIAO
〜第七学区・とある高校避難所〜

垣根「………………」

五日目…22:42分。垣根帝督はグラウンドの片隅にテントを張り、その中で寝そべりながら携帯端末を操作していた。
第十五学区にて能力者狩りの一派と思しき魔術師1人が再起不能で拿捕された事、つい数時間前に『アイテム』が傭兵14人魔術師8人を始末した情報などを整理して行く。

垣根「ムカついた。その気もねえ相手に夜這い(侵入)かけられる事ほどうっとうしいもんはねえな」

その猛禽類を思わせる眼光は剣呑であり、目にする情報は彼の機嫌を斜めにしていた。
避難所外部は狩りを担当するメスライオン(アイテム)、避難所内部の群れを守るのはオスライオン(スクール)と言った具合の分業制。
その顔立ちは一方通行と交戦した時と同じ表情に取って変わっていた。

初春「かっ、垣根さーん…まだ起きてますか?」

垣根「夜這いに来るたあ随分大胆になったもんだな飾利。入れよ。お前ならいつでも大歓迎だ」

初春「ちょっとお話に来ただけです!よ、夜這いだなんて…私、風紀委員です…白井さんに怒られちゃいます」

初春飾利が訪れるまでは――
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:28:31.53 ID:ulLJ5UIAO
〜垣根帝督の未元物質テント〜

初春「わー…フカフカです」

垣根「個室サロンとまでは行かねえが悪かねえだろ?」

真っ白な羽毛でも敷き詰めたかのような垣根のテントに寝間着代わりに使っているジャージ姿の初春はいた。
初春にはわからないが、防寒、耐熱、防弾、防水、防風、防音、防毒を完璧なものにする未元物質で構成されたテントである。
本来垣根はホテル住まいであるが、初春の身を守るためにこの避難所にいるのである。
こんな伊達や酔狂で未元物質テントを作ってしまう程度に楽しみながら。

垣根「で…そんな折り目正しい風紀委員サマがなんだって忍び込んで来たんだ?消灯時間は過ぎてんじゃねえのか?」

初春「そ、それは…その」

意地の悪い笑顔を浮かべる垣根、人差し指同士を合わせながら何故か正座で俯く。
寝る時くらい花飾りを外せば良いものを、以前それを指摘したら

初春『何のことですかそれ?』

と笑顔で返されて以来垣根ですら怖くて聞けない。
しかし初春はジャージの裾を握り込みながら蚊の鳴くような声で。

初春「何だか、寝つけなくて…それでちょっとでも垣根さんとお話出来たら眠れるかなあ…って。めっ…迷惑…でしたか?」

垣根「いいや。ちょうど俺も寝つけなかった所だ。どれ、いっちょ面白い話聞かせてやるよ」
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:29:21.58 ID:ulLJ5UIAO
一方通行との交戦に際して最悪の出会い方をして以来、いくつかの事件を経て初春は垣根の妹分のようになっていた。
同時に、垣根帝督を『人間としての死』から救ったのも初春である。

初春「はっ…はい!どんなお話ですか?前に聞いた“コーヒー中毒の真っ白モヤシ”みたいな笑い話ですか?それとも“学園都市第一位は実はロリコンだった”みたいな噂話ですか?」

垣根「違うな。これからの季節にピッタリな――怪談話だ」

初春「!?やっ、やめてくださいよぅ!余計眠れなくなっちゃいますっ…」

垣根「まあ聞けよ。これは俺が泊まった第十五学区のホテルであった話なんだがな――」

それ以来、垣根は初春を文字通り花を愛でるように扱って来た。
少なくとも手を繋ぐ事や時にキスの真似事をする程度。
さすがに未成年者略取でアンチスキルのお世話になるのは嫌だったし、ジャッジメントの白井は絶えず目を光らせているし、そもそも初春が中学生を卒業するまで手出しするつもりもなかった。

垣根「(…ライオンの狩り場に呑気に遊びに来るようなバンビは喰えねえだろうが流石に…そんくらいの常識はある)」

しかし、初春が帰り辛くなる程度に怪談話で怯えさせ、テントから出さないなどと企みを胸に秘めた自分も大概だと垣根は苦笑した。

垣根「(あのクソ野郎を笑えねえな、まったくよ)」

そうして夜はふけて行き――
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:32:03.86 ID:ulLJ5UIAO
〜第十五学区・ラブホテル〜

結標「いっ、意外と綺麗なのね…」

姫神「もっと。場末のモーテルみたいな所の方が。燃えるタチ?」

結標「初めてだからよ!人を遊んでる子みたいに言わないでちょうだい!」

姫神「そう。私はてっきり。あのクローゼットの中の本みたいな(ry」

結標「言わせないわよ!?」

同時刻。二人は最終チェックイン十五分前に駆け込みでラブホテルに辿り着いた。
制服のまま堂々と、途中コンビニに寄って弁当まで買い込んだ姫神。
そしてただ寝泊まりするだけなのにタッチパネルの各部屋案内をしげしげと見つめ、それに気づいて顔を真っ赤にした結標。
どちらが年上でどちらが年下かわからぬ有り様であった。

姫神「電子レンジはないみたいだから。冷めない内に。チキン南蛮食べて。それから。この時間になると。ルームサービスもおにぎりとカップラーメンしかない」

結標「…貴女、なんだかやけに詳しくない?遊んでるのは貴女の方なんじゃないかしら?」

部屋につくなり姫神は部屋の空調をいじり、お湯を張り、あらかじめ温めてもらった弁当を出したりと実にスムーズだった。
その手慣れた流れに結標がジト目で睨みながらもささやかな反撃を試みるも――

姫神「霧ヶ丘を追い出されてから。小萌先生の部屋に厄介になるまで。女子寮を焼け出されてから。貴女の部屋に転がり込むまで。色んな所で寝泊まりしたから」

結標「あっ…」

その企みは呆気なく打ち崩されたばかりか、姫神の苦労を偲ばされ結標はシュンとうなだれた。
なんて馬鹿な事を考えたのだろうと自己嫌悪に陥った。しかしそんな結標の――

姫神「貴女は」ポンポン

結標「…姫神さん…」

猫の頭を撫でるように優しく優しく撫でながら…姫神は言った

姫神「心が汚れている」

結標「」

姫神「悔い改めるべき」プイッ

今日もまた、この年下の姫神に勝てなかった。
そう思いながらかきこんだチキン南蛮は、甘めのタレなのに涙でしょっぱかった。
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:32:56.76 ID:ulLJ5UIAO
第十五学区・ラブホテル2〜

結標「これカラオケセット…ここで歌うのかしら?これ」

姫神「ラブホテルにカラオケセット。酢豚にパイナップルくらい。いらない」

結標「パイナップルはいるでしょう!取り消しなさい!」ガタッ

姫神「いつか貴女とは。こんな日が来ると思っていた」ガタッ

チキン南蛮とカルビ弁当をそれぞれ平らげた後、結標は興味深そうなに部屋の中を探索し始めた。
対する姫神は今更と言った感じであったが酢豚にパイナップルはいるかいらないかで席を蹴って喧嘩し始める有り様である。

結標「でも…案外こざっぱりしてるのね。もっと汚いイメージだったわ。ビジネスホテルと変わらないじゃない」

姫神「こざっぱりしてるのは。やる事がひとつしかないから」

結標「貴女ね!!」

姫神「?。お湯。湧いたみたい。見てくる」

結標「あっ、私も見たい見たい!」

天然なのか狙っているのかわからない姫神に振り回されながらも結標はその後について行く。
浴室そのものも浴槽そのものも一番良い部屋を選んだだけあって広い。だがそこで結標は顔を赤くしながら

結標「〜〜〜すけすけじゃないの!ガラスの意味ないじゃない!」

姫神「前に見たのは鏡張りだった。イヤン(棒読み)」

結標「…もう突っ込むのにも疲れたわ…」

姫神「?。ついてるの?突っ込むモノ」

結標「ついてる訳ないでしょ!女なんだから!!」

姫神「?。なにが?」

結標「ナニの話よ!!」

姫神「えっ」

結標「えっ」

姫神「なにそれ。怖い」

先程までのローズバスでのわだかまりは既にない。
もしかするとあのモノレールでの戦いを通して何か昇華されたのかも知れない、と二人は思った。

姫神「どっちが。先に入る?」

結標「私からで構わないかしら?さっきのでちょっと汗かいちゃったのよ」

姫神「先にシャワー。浴びてこいよ」

結標「だから似てないって。今汗かいたから先に入るって言ったばかりでしょう?」

姫神「また。汗かくのに?」

結標「馬鹿!出てって!!」ブンッ

姫神「あ」ドサッ

そして結標は座標移動で姫神を浴室から追い出した。
しかしそれが仇になるとはこの時結標は思ってもいなかったのである…
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:35:32.12 ID:ulLJ5UIAO
〜第十五学区・ラブホテル3〜

結標「わあ…なにかしらこのマット…えっ、やだっ…エッチな絵が描いてる…」

姫神を座標移動で飛ばした後、結標淡希はシャワーを浴びつつ浴室を見渡すと…
そこには何やら卑猥な絵のかかれた何に使われるかわからないマットが立てかけられていた。

結標「プールボート…じゃないわよね…これ…どうやって使うのかしら…」

姫神「それは。主に二人で使うもの」

結標「ふーん?二人でね…って貴女!」

そこにはいつの間にか、タオルを巻いて浴室の入口に入って来た姫神の姿があった。
慌ててタオルで身体を隠す結標を、やや不機嫌そうに。

姫神「さっきはよくも飛ばしてくれた。おかげで尻餅をついた。とても痛い」

結標「あっ…ご、ごめんなさい姫神さん…」

姫神「だから。復讐」

姫神の手には何やらピンク色のボトルが握られていた。
このホテル備え付けのシャンプーだろうか?などと小首を傾げる結標目掛けて――

ビチャーン!
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:36:53.75 ID:ulLJ5UIAO
結標「冷たっ!?なっ、なにこれぇっ!!」

姫神「ローション。ストロベリー味。お肌に優しい学園都市製」

ボトルキャップを投げ捨て一本丸ごと結標の身体目掛けてローションをぶっかけたのである。
今までにないヌルヌルした感触に結標は怯え惑い、シャワーで洗い流そうとするも――

結標「やだっ!やだっ!嫌ぁっ!これ滑る!スッゴく滑る!」

姫神「半端なお湯は。ローションを広げて馴染ませるだけ。復讐するは。我にあり」

結標「ヌルヌルするぅ〜!気持ち悪い気持ち悪い…ひゃあっ!」

ねっとりと結標の華奢でいながら出る所が出ている肢体に絡みつく半透明のローション。
粘り着く液体が途切れる事なく糸を引き、浴室内の照明を受けて官能的なまでに濡れ光る。
まるで全身が舐め上げられているようだと姫神は表情に出さずゾクゾクと愉悦に浸る。

姫神「(まるで。生まれたての小鹿。手を貸してあげたいけれど。パニックになる貴女を見ていると。たまらない)」

結標「みっ、見てないで助けてよ!助けなさい!はっ、早くう!!」

姫神「小鹿は。自分で立ち上がるもの」

湯気に当てられてほんのり紅潮した困り顔、必死に伸ばされる震える手。
あまりみない二つ結びの赤髪が下ろされガラリと変わる印象。
あられもない姿はまるで誘っているような錯覚を姫神に与え、それがたまらなくて――

結標「あうっ!」ドサッ

姫神「スッキリ」

結標が尻餅をつくまで楽しんだ後、ようやく姫神は助け舟を出したのだった。
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:38:56.59 ID:ulLJ5UIAO
〜第十五学区・ラブホテル4〜

結標「のぼせた…」

姫神「貴女が。意地を張るから」

結標「貴女がムキになるからでしょこの負けず嫌い!」

0:03分。ラブローション騒動の後、怒り狂った結標は姫神に対し水掛け論ならぬお湯かけ合戦へと移行し、最終的に結標がダウンして姫神の判定勝ちであった。
現在二人はラウンドベッドにバスローブ姿で横たわり、結標は姫神の膝の上に頭を乗せて休んでいる。

結標「(膝枕なんて子供の時以来…なのにどうしてかしら、とても落ち着くわ)」

姫神の膝は結標にとってちょうど良い高さにあり、ふんわりと受け止めてくれる心地良さがあった。
流れ落ちて来る艶やかな黒髪を指先で弄びながら結標は脱力していた。自分が年上で相手が年下という意識もどこへやら。しかし――

姫神「(無防備過ぎる。貴女は自分で自分がわかっていない。こんな所を男の子に見られたら。間違い無く襲われる)」

そんな結標を膝枕している姫神は僅かに身を固くしていた。
二つ結びの赤髪を下ろすだけで途端に姫神以上に幼く見える結標。
本人は意識せずとも、姫神の毛先を弄る表情は良く言えばリラックスしており、悪く言えば無防備過ぎた。
モノレールでの張り詰めた横顔、研ぎ澄まされた眼差しを見た後は尚更そう思う。

姫神「(これが。あの三人が言っていた。ギャップ萌え?)」

結標「(あったかいわねえ…女同士でも膝枕って気持ち良いものなのね)」
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:41:06.72 ID:ulLJ5UIAO
バスローブ姿の正反対のタイプの美少女二人が膝枕している絵面は見る者に妖しい関係を匂わせるに足りた。
しかし同年代の友達付き合いが皆無であった結標は『女同士なんてこんなものじゃないの?』というズレた認識だった。

姫神もまた、このあらゆる意味で猫っぽい少女を弄るのがお気に入りだった。白井黒子やフレンダ辺りが見れば『我々の業界ではご褒美です』状態である。

シト…シト…シト…サアアアアアアアアアアアアアアア…

姫神「…雨。また降って来た。昼間一度降って来て。晴れたのに」

結標「夏がそろそろ近いから降りやすいのかも知れないわね。ふふっ…思い出さない?私と姫神さんが初めて話したのもこんな雨の日だったの、覚えてる?」

窓を打つ小夜時雨から目を切り、クルンと寝かせた頭を姫神の方へ向き直らせながら結標は笑って言った。
名乗り合った名前を互いに貶し合った事、お互いに変わり者だと思った事。
あの出会いから数ヶ月経って、今こうして『友達』になれた事。そして――

結標「――こんな事なら、私達もっと早く出逢えていれば良かったわね――」

ズキッ…
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:43:53.46 ID:ulLJ5UIAO
〜ラブホテル・姫神秋沙〜

ズキッ…ズキッ…ズキッ…

姫神「(…何?この胸の。痛みは)」

膝の上の無防備な結標淡希の笑顔。眼下より上がって来る無邪気な言葉。
それは鋭角さを持たぬ丸みを帯びた刃として姫神秋沙の胸を切り裂いた。

姫神「(もっと早く。出逢えていれば?)」

それはアウレオレス=イザードと出会う前?それとも上条当麻と引き合う前?もしくは自分と結標淡希の巡り合うのがもっと早ければ?

姫神「(違う。どれが欠けても。何が欠けても。誰が欠けても。私達は出逢っていない)」

結標「でも良かったわ宿が取れて。こんな雨降りの夜に女二人で野宿だなんて笑えない冗談だもの。貴女もそう思わないかしら?」

眼下より伸びる結標の指先が姫神の黒髪から左頬に触れる。
あの抜き身の刃のような結標淡希、今のような無防備な寝姿を晒す結標淡希。
二重の鏡写し、二つの鏡合わせ、どちらが本当の結標淡希なのか、どちらも本当の結標淡希なのか知りたくなった。

結標「…?どうかした?黙り込んじゃって」

姫神「…貴女が重くて。足が痺れた」

結標「あっ…ごめん…って重いって何よ!」

私を助けて家に住まわせてくれた結標淡希。私を救って敵と戦ってくれた結標淡希。

――ああ。そうだ。私は。惹かれている――

――血の色の髪をした結標淡希(かのじょ)に。血の匂いがする彼女(むすじめあわき)に――
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:44:51.39 ID:ulLJ5UIAO
〜ラブホテル・結標淡希〜

結標「重いだなんて失礼しちゃうわね…自慢じゃないけど、私はウエスト55より上回った事ないのよ?驚いた?」

姫神「貴女は細すぎる。私のお肉をわけて上げたい。でもわけてあげられないから。かわりにつねる」ムギュッ

結標「痛っ!」

雨が降って来てから少し姫神さんの口数が減ったように思ったけれど、杞憂だったみたい。
まあ空が落ちて来るんじゃなくて雨が降って来てるんだけど。
ふふっ、雨が嫌いだなんて猫みたい。よく見れば髪も真っ黒だから黒猫かな?

結標「もうっ…でもだいぶ楽になったわ。ありがとう。貴女のせいだけど、貴女のおかげね」

姫神「どういたしまして。次はこっち」

結標「ええっ…しょうがないわね」

今度は立てた膝の間に呼ばれた。私はぬいぐるみじゃないんだけど?
まあ…貴女なら仕方無いか。本当に黒猫みたい。人に懐かないくせにたまにすり寄ってくる。
これでもう少し口数が多くて、もっと表情が豊かなら私がかなわないかも知れないくらい綺麗なのに。

姫神「テレビをつけたい。いい?」

結標「良いんじゃない?こんな時間の深夜番組なんてくだらないのしか――」

姫神「言質は取った」ピッ

結標「!!?」

いきなり切り替わるチャンネル…そこには…その…男の人2人が…女の子1人を…あわわわわ…あわわわわ
あれ、どこに入ってるの?あんなの、入るの?えっ?えっ?えっ?
なにあれ?あんなの見た事ない!私の本にあんなの描いてなかった!

姫神「ここはラブホテル。これくらい当たり前」

結標「聞いた事ないわよそんな当たり前!消して!消して姫神さん!チャンネル変えて!!私達未成年でしょ!?」

姫神「偽IDで。ビールまで買って飲んだのに。お子ちゃま。私より。年上なのに」

結標「(イラッ)ばっ、馬鹿な事言わないでくれない?単純にこういうムキムキマッチョが暑苦しくて見てられないだけよ!」

馬鹿にして!年上だってわかってるならもう少し口の利き方気をつけなさいよね!
なによ。いっつもお澄まし顔で何があっても平気でございみたいなポーズ取って。
うわあ…大丈夫なのあれ…ああ…なんかもう一人増えちゃってる…ああ…
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:49:03.28 ID:ulLJ5UIAO
姫神「そう。結標さんは。御稚児趣味?」

結標「夜伽とか御稚児趣味とか貴女どこからそんな単語拾ってくるのよ!それにこんなの平気で見て!貴女の方がエッチじゃないの!!」

ついつい私もボルテージが上がる。こうやって人を鼠みたいにいたぶって。
確かに貴女はサディストね。一方通行みたいな強面ばっかりがそういうタイプだと思ってたけど良い勉強になったわ。人は見かけによらないって。
でも私はマゾヒストなんかじゃない!あんな…あんなテレビに映ってる女の子みたいな事されたら…絶対壊れちゃう…

姫神「そう。結標さんはあまり大人の男の人には。興味がないのね」

結標「そ、そうね!暑苦しそうだしむさ苦しそうだし汗臭そうなのはごめんね!」

姫神「なら。女の子は?」

結標「!!!」

姫神「………………」

結標「………………」

不意に会話が途絶える。窓を打つ雨垂れの音と、荒々しい息遣いの男3人のあえぎ声と、泣き声のような女の子のよがり声だけが響いてる。
何よ…どうしてそんな事を聞くのよ。どうして急に黙り込んだりするのよ。根比べのつもり?ああもう埒が開かない!

結標「なっ、ないわよ…私、これでもノーマルのつもりなんだけれど?そ、それは確かに好みのタイプは年下だけど…」

姫神「本当に?」

スッ…と後ろから私を抱える姫神さんの手が…私のバスローブの中に入って来た。
小さな手、整った爪先、冷たい指先、細くて長くて白い指先が…私の肌を滑るようにかすめて行く。

結標「っ…!」

姫神「こんな事をされても。ドキドキしない?」

結標「すっ…るわけ…ない…じゃ…な…い…くすぐっ…たい」

姫神「――――淡希」

結標「…!」
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:50:10.33 ID:ulLJ5UIAO
ドクンと心臓が飛び上がる。ビクンと肩が竦み上がる。ゾワリと背筋が震え上がる。
耳元で、いつもより少し低い声音で、低い声量で、吐息を感じられるほど近くで名前を呼ばれるだけで。

姫神「嘘吐き」

結標「………………」

姫神「ドキドキ。してるじゃない。心臓に近いから。バレバレ」

結標「あっ…」

鷲掴まれる。包み込むように。毛穴が開いて鳥肌が泡立って寒気に似た何かが走る。
持ち上げられて確かめられてる。きっとそれは手触りだったり肌触りだったりするのかも知れない。
でも本当はそれすら違って…確かめられているのは、私の反応。私の顔色。私の表情…そして、私の感じる場所。

姫神「こうしていると―――淡希の命を。掴んでいるみたい」

指先が沈み込んでくる。私は身を丸めてそれに耐えようとする。
背中の姫神さんの顔が見えないのにわかる気がする…きっと彼女は笑ってるに違いない。
どうやっていたぶろうかと鼠を前に思案している猫のように。

姫神「嫌がらないのね」

結標「あっ、貴女が離してくれないから――っ…はっ…あっ…」

姫神「口答えしないで。淡希」カリッ

結標「うぅんっ…あぁっ!」

爪を立てられるみたいに、私の甘やかな部分を姫神さんは起こしてくる。
耳元にかかる吐息が熱いのに、耳朶に触れる濡れた舌が冷たい。
耳朶の輪郭から滑って、這って、絡んで、カリッと耳たぶと耳の裏を噛まれて――

ブツンッ…

結標「!?」

姫神「?!」

その時、部屋の電気が消えた。
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:50:52.85 ID:ulLJ5UIAO
〜ラブホテル・結標&姫神〜

姫神「てっ。停電!?」

結標「てっ、敵襲?!」

カチッとベッドサイドに備えていた軍用懐中電灯を手探りでつける。
テレビが、空調が、照明が、ブレーカーが落ちている。
自家発電に切り替わらない。思わず姫神を庇うように身を挺する結標。

結標「(これも…魔術師の仕業!?)姫神さん!こっち!!」

一旦電灯を切る。窓際から離れるべく姫神の手を引き寄せる。
もし敵の狙いが狙撃なら良い的だ。最悪姫神だけでも座標移動で…と思ったが姫神の腕は動いてくれる様子はない。

結標「姫神さん!腰抜かしてる場合じゃないわよ!立って!ここから出なきゃ!姫神さん!?」

グイグイと姫神の手を引っ張る。しかし姫神の手は重石でもつけたように動かない。
それに、なんだかいつもより若干腕が太いような感触を結標に感じさせた。

――腕が太い?――

姫神「むっ。結標さん」

姫神の声が真横からではなく前方から聞こえてくる。
おかしい。だとすればこの腕はなんだと言うのだ?
この部屋には自分達の二人しかいない。そう結標が振り向き直ってもう一度軍用懐中電灯を点けると――


姫神「貴女…誰の手を。引いているの?」


――そこには…血塗れの手首を晒した、小太り気味の中年女性の恨めしそうな無表情が――

結標「いっ…いっ…いっ!」

ニマァ…とその中年女性の顔が…この上無く歪んで笑ったのが、結標の見た最後の光景だった。

結標「いやああああああああああああああああああああ!!!」
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:53:07.43 ID:ulLJ5UIAO
〜ラブホテル・姫神秋沙2〜

結標「おっ、お化け!お化けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

姫神「落ち着いて結標さん。もういない。いなくなった。もう怖くない」

結標が数秒間気絶している間にブレーカーは復旧された。
各地を渡り歩いている時に耳にした事があった噂を姫神は思い出す。
第十五学区のどこかのホテルで、生徒との不倫を思い詰め無理心中をはかった中年女教師の霊が出ると。
まさかこのホテルがそれだったとは流石の姫神も思い当たらなかった。

結標「嫌ぁ…ここから出たい…帰りたい…部屋変えてよぉ…」

姫神「今からだと。それも難しいと。思う。つらいだろうけど。我慢して」

デジタル時計は既に0:36分を示している。ナイトマネージャーや深夜スタッフは起きているだろうが、呼べば学生だとバレてしまう。
そうならないために無人フロントのタッチパネル方式の部屋を選んだのだから。

結標「いやぁ…いやよぅ…いやよぉ…」

姫神「大丈夫。私がついてる。側にいる。安心して」

先程までの凛々しさ勇ましさ頼もしさはどこへやら。
泣きじゃくり愚図りながら姫神の胸元に顔を埋めて結標はイヤイヤしていた。
この学園都市で幽霊騒ぎなど笑い話にもならないが、意外にこういうお化け絡みが苦手な質なのかも知れない。

姫神「(少し。危なかった)」

この幽霊騒動が無ければ、結標を押し倒して事に及んでしまったかも知れない。
もしかして幽霊はそんな自分達が憎々しくて邪魔しに来たのかも知れないと姫神は思った。
今も結標の感触が手に残っている。結標は知らない。表情に出ないだけで姫神もまた鼓動の高鳴りに苛まれていた事を。

姫神「(この娘はダメ。無防備過ぎて。イジメたくなってしまう)」

戦闘と今のギャップが酷過ぎる。あまりの落差に理性が乖離してしまう。
意識的に誘われているなら我慢も出来る。無意識に誘っているように感じられるからたまらなくなる。
嫌がる癖に上げる声音が艶めかしくて、歯止めが聞かなくなりそうな自分が恐ろしい。

姫神「(焦ってはいけない。今は。落ち着かせないと)」

しかしそういう気分も雲散霧消してしまった。とてもそんな気にはなれない。
幽霊騒ぎで震えている今そんな事をしたら完全に極悪人だ。
自分がどれだけ結標を追い込む言葉責めを繰り返したかを棚に上げて姫神秋沙は一人言ちた。
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:54:00.09 ID:ulLJ5UIAO
〜ラブホテル・結標&姫神2〜

結標「は、離れないで!」

姫神「それを言うなら。離さないでの間違い」

結標「どっちでもいいから!」

姫神秋沙は悶々とし、結標淡希は恐々としていた。
二人は今間接照明を落としてベッドに入っていた。
結標は姫神の身体を抱き足を絡めまるでコアラのようにぴったりとくっついている。寝返りを打とうと離れたら怒るのだからやっていられない。

姫神「(そんなにくっつかないで。貴女。誘ってるの?)」

結標「(お化けなんていないお化けなんていないお化けなんていない…)」

肌が擦れ合い、吐息がかかり、シャンプーとボディーソープの香りが拷問のように姫神を苛んでいた。
逆に今手を出したら抵抗される事なく籠絡させられるんじゃないかと邪な考えさえ浮かぶ。

姫神「子供じゃないんだから。そういう事されると困る」

結標「貴女がさっきトイレの電気消すからでしょう!怖いのよ暗いと!」

さっきはさっきでトイレまでついてきてと寝入り端を起こされ、姫神は腹立ち紛れに結標の入ったトイレの電気を消したらまた泣き出したのだ。
正直勘弁してもらいたい。いつまで消えた幽霊に怯えているのかと溜め息が出る。

結標「本当に怖かったんだから…最低よ貴女…貴女なんて嫌いよ」

姫神「そう。おやすみ」ゴロン

結標「こっち向いてぇ!」

しまいにはうつらうつらとした矢先に『起きてる?』『いる?』と話し掛けられたり。
自分が男ならもう十回は襲っている。わざとやってるなら大した焦らし上手だ。そういう風に仕向けているならば。

姫神「いい加減にして。もう2時。これ以上騒ぐなら。無理矢理寝かしつける」

結標「うう…」

向かい合わせの結標が抗議するように手をギュッと握って来る。
頼りなく弱々しい手つき。とてもあんな大立ち回りした同一人物とは思えなくて――
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:56:46.71 ID:ulLJ5UIAO
〜ラブホテル・結標淡希2〜

何よ…そんなに怒らなくたっていいじゃない…貴女だって同じ物見たのにどうしてそんなに平気でいられるのよ。
やっぱりあれかしら?巫女さんの格好してたから霊感あるとか?慣れてるとか?
離さないでよ。離れないでよ。貴女がいるから私は辛うじて我慢出来ているのだから。

姫神「貴女が。こんなに甘えん坊だったなんて。思っても見なかった」

結標「またそうやって馬鹿にする…貴女には怖い物がないって言うの?」

姫神「無くはないけれど。貴女ほど騒がない」

年下の癖に…髪引っ張ってあげようかしら?でもそんな事して本当に怒らせたら…
はあっ…こんな事ならネットカフェみたいなスペースか、個室サロンみたいな所を探せば良かったかしら?

結標「(怖い物…ね)」

今私が怖い物…それは貴女が離れて行く事よ姫神さん。
この雨が私達を引き合わせたというなら、いつか離れる日もそうなの?

結標「(復興支援の目処がついたら…貴女は私の部屋から出て行くんでしょう?)」

キスをされても、抱き締められても、貴女が遠くて、貴女の心が見えない。
きっと部屋から貴女が消えても、私達はまた外でお茶したり、たまに遊びに出掛けたり、つまらない事でメールしたり、そんな事でも繋がりは保てて行ける。けれど。

結標「(けれど、それだけ)」

本来交わる事のなかった私達の世界。私は闇の底にいて、貴女もきっと闇の底にいたはず。
何故貴女があんなイカレ魔術師に名指しで追われているのかすら私は聞けずにいる。
それを聞いたら、貴女が消えてしまいそうで。今日見たあの虹のように。気がつけばいなくなってしまう予感。
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:57:40.36 ID:ulLJ5UIAO
結標「(吸血殺しって…何よ)」

私は躊躇っている。明日貴女を学校に連れて行く事さえ。
あんな平然と他人を巻き込めるような連中を呼び込む火種になりかねないと危ぶんでいる。
けれど私一人で貴女を守り切れる自信がない。今日だって守るはずだった貴女に助けられたような物。

結標「(私が守りたかったものって…なんなんだったのかしらね)」

一方通行は最終信号(打ち止め)を、海原は御坂美琴の世界を、土御門はわからないけど何かを抱えていた。
私はかつての仲間。見失った目標の後に現れた貴女を戦いの理由にするだなんて貴女が良い面の皮だ。
『友達』だから?違う。私達は互いに互いをさらけ出せないから『友達』というポジショニングに逃げ込んでいるだけだ。

結標「(もし…貴女がいなくなってしまったら?)」

私はまた気ままな一人暮らしだ。快適で、自由で、そして――また、一人になる。
それを思うと握る手に力がこもる。それは私が孤独を恐れているからじゃない。


――姫神秋沙(あなた)がいなくなるのが怖いから――
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:58:39.41 ID:ulLJ5UIAO
〜ラブホテル・結標&姫神3〜

姫神「もう。仕方無い」

くるんと姫神秋沙は寝返りを打って結標淡希へと向き直る。
自分の手を握る指先が震えているのがわかるから。
今度は姫神から結標の手に指を絡ませて行く。まるで恋人繋ぎのように。

結標「え…?」

姫神「貴女が眠るまで。こうしている。それで。いい?」

結標「…私が起きるまで、そうしてて」

姫神「甘えん坊」

姫神が二人の出会いを思い悩めば、結標は二人の別れを思い煩う。
姫神は幽霊に怯えていると勘違いし、結標は姫神が消える未来を想像した。
姫神は年上なのに手がかかる娘だと思い、結標は年下なのに手がかからない娘だと思っていた。

結標「こんな所、他人に見られたら恥ずかしくて死んじゃいそうよ」

姫神「私も。貴女とこんな事してるって。吹寄さんや。小萌先生に見られたら。恥ずかしくて表を歩けない」

結標「…ねえ、姫神さん…」

姫神「…おやすみのキスでも。して欲しい?」

結標「…………ええ」

どちらともなく身体を抱き寄せる。どうしようもなく歪に歪んだ自分達。
結標は姫神が二つ合わせの鏡写しに映ったもう一人の自分のように感じられ、姫神は結標が二重写しの鏡合わせに映った自分の影のように感じられた。

硝子を挟んだ互いを見つめる、虚ろな眼差しをした二体のカタン・ドールのようだと。


――そうして夜はふけていき――
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 22:01:36.48 ID:ulLJ5UIAO
>>1です。投下がマイペース過ぎて申し訳ございません。レスを下さった方々、お待たせいたしましたが今回の投下はこれにて終了です。
いつもありがとうございます。感謝、感謝です。



本当にラブホテルのカラオケセットは必要なんでしょうか?それでは失礼いたします…
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 22:07:42.60 ID:45ZKTqVLo
URYYYYYY!!さすが>>1!俺たちにできないことを平然と(ry
そうかそうか、俺は吸血鬼だったんだな。だからこのスレに入り浸りなんだ。
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 22:09:15.13 ID:b1RPVF9AO
>>1おつ
Mじめさんがかわいすぎるよ
もちろんSがみさんもいいとおもいます
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 03:49:25.75 ID:qVvPxytdo
ちょっくらあの幽霊祓ってくるわ
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:09:42.57 ID:1DtFyEeAO
>>1です。本日の投下をさせていただきます。同居生活六日目スタートです。
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:12:44.24 ID:1DtFyEeAO
〜第十五学区・カフェ『サンクトゥス』第十五学区店〜

結標「ええ…そう。襲われたわ。今朝のニュース見たでしょう?あのモノレール爆破テロ事件はそれ絡みよ。何とか逃げられたけどね。私はどうしたら良い?」

小萌『そ、そんな!結標ちゃんは!?姫神ちゃんは大丈夫なのですか!?』

結標「大丈夫。二人とも無事よ。姫神さんは今小倉トースト食べてシナモンティーお代わりしてるわ。見てるだけでお腹一杯」

小萌『よっ、良かったのです…先生は…先生は…心配で…ふえぇ』

六日目、8:25分。結標淡希と姫神秋沙の二人はそうそうにチェックアウトを済ませて繁華街のカフェにいた。
結標は今現在トイレの個室で月詠小萌と昨夜のあらましを話しながら――小銃の手入れをしていた。
『グループ』として活動していた際、コインロッカーに分散させていた仕事道具の一つである。

小萌『わかりました。黄泉川先生と相談して人を迎えに行ってもらうのです!だから結標ちゃん…もう危ない事をしないって先生と約束して下さいなのです…何かあったら戦ったりしないで、逃げて欲しいのです…!』

結標「安心して小萌。こっちはか弱い女二人だもの。はなからそのつもり」

銃は好きじゃない。抜けば撃つしかなくなる。誰かを傷つけるしかなくなる。嫌な思い出もある。
小萌は結標が暗部であるとは知らないし、結標も小萌に明かすつもりはない。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:13:49.97 ID:1DtFyEeAO
本来なら連絡もしたくなかったがかかっているのは姫神の命だ。
そして――逃げ回ると会話しながら、手が勝手に武器をかき集めて分解し、クリーニングし、組み立て直す淀みない流れがひどく滑稽に思えた。
そう自嘲しながらも小萌と二、三打合せて黄泉川愛穂を通じてアンチスキルの施設に匿ってもらう運びとなった。

結標「じゃあ、また後で」

通話を切る。個室を出る。ガンオイルに濡れた手を洗面台で洗う。
自分一人で姫神を連れて逃げ回りながら敵を探り出して叩くなど無理だ。
遅かれ早かれこうするしかなかったと結標は手に次いで顔を洗いながら言い聞かせる。

結標「…やるしか…ないのね…」

信じるしかない。あの避難所と委員会に集ったレベル5達の力を。
他力本願だと思わなくもない。みすみす火種を持ち込まざるを得ない自分の無力さが呪わしい。
一方通行も、海原も、土御門も、こんな時いてくれたらどれだけ心強い戦力かと思う。だが。

結標「遊びじゃないのよ結標淡希…しっかりやりなさい」

顔を拭きながら洗面台の中の自分を叱咤する。自分のケツは自分で拭う。それが暗部(じぶんたち)の戒律であったと。
先ずは食べ終わったらアンチスキルの詰め所にでも行き、迎えが来るまで姫神を保護してもらう。それが最も安全だと信じて。
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:14:40.75 ID:1DtFyEeAO
〜サンクトゥス第十五学区店・姫神秋沙〜

姫神「………………」

姫神秋沙はカフェの2人掛けのテーブルにいた。小倉トーストを、茹で卵を、シナモンティーを、サラダを、モーニングセットを平らげながら結標を待つ。

結標『やっぱり貴女って図太いわ…よく食べられるわねそんなに』

姫神「(そういう貴女は。線が細すぎる。スタイルもメンタルも)」

共に行動するようになってからわかった事。結標は精神的な負荷や重圧がかかると食事をほとんど取らなくなる。
昨日のチキン南蛮弁当だって半分しか食べていなかった。
それだって自分を守るため、体力を維持するために無理矢理食べていた事くらい姫神にもわかった。

姫神「(私の。この能力が。また周りの誰かを。巻き込んでしまう)」

吸血殺し(ディープブラッド)…それが引き寄せるのは何も吸血鬼ばかりではない。その吸血鬼目当ての『人間の欲望』までおびき寄せる。
今までこうならなかった事自体が一種の幸運だったのだ。
この学園都市の防衛機構や、上条当麻の右手に守られて。でももはやその加護は受けられないのだから。

姫神「(消えてしまいたい。消してしまいたい)」

ある種、忌むべき象徴たる吸血鬼以上に忌まわしい自らの身体に流れる血。
同時に、昨日何故結標に対しあんな事をしたのかという自分の中の真実まで姫神は浮き彫りにする。
朝の光が照らすのは美しい世界ばかりではなく、醜い自分の姿もそこに含まれる。

姫神「(彼女が。女性だから?)」
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:15:57.97 ID:1DtFyEeAO
この年頃にありがちな、友情以上の疑似恋愛などではない『女』の本能としての打算。
姫神秋沙は原石だ。やがて将来伴侶を得、子を為した時…もし自分と同じ吸血殺しの血を引いていたら?
それは自らの血が両親の、隣人の、村落の人々全ての命を奪った地獄を我が子に繰り返させる事になる惨劇の可能性がないとは言えないからだ。

姫神「(私は汚い。私は汚れている。私のエゴが。いつか取り返しのつかない事に。なりそうで)」

心惹かれた上条当麻には既に帰りを待つ『パートナー』がいる。
まるで寂しさを埋めるために結標を欲しているかのような自分がいる。
以前、結標に求められた時上条と結標を乗せてはならない秤に乗せたように。

姫神「(現に。もう結標さんを。巻き込んでいる)」

結標が、子を為す必要がない相手(おんな)だから恋愛対象として見ているかも知れないという打算的なもう一人の自分。

姫神「(私はもう。殺したくない。結標さんを。これ以上巻き込むくらいなら。私は自分を――)」

それは相手にとってどれだけ侮辱的だろう。屈辱的だろう。考えるまでもない。

姫神「(地獄に堕ちるのは。私一人で十分)」

結標が側から離れた途端、死んだはずの心からワインの澱のように舞い上がるネガティブ思考が――

結標「お待たせ!」

トイレから戻って来た結標淡希の言葉によって中断させられた。
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:18:36.09 ID:1DtFyEeAO
〜カフェ『サンクトゥス』・禁煙席〜

結標「…という訳で、迎えが来るまで一旦アンチスキルの詰め所に匿ってもらうわ。もちろん私も一緒に」

姫神「わかった。ごめんなさい。貴女に任せっきりで」

結標「気にしないで。貴女の得意分野が料理なら、私の専門分野は荒事って話なだけよ」

9:01分。結標淡希はアールグレイを、姫神秋沙はシナモンティーをそれぞれ頼みながら今後を話し合った。
昨日の自爆テロも厭わないような連中がまだ後に控えているならば、交通機関を使って帰るのは二の轍を踏む事になりかねない。
しかし街中に隠れ潜むのもいざ交戦の段になった際、周囲を平然と巻き込む手口の二の舞にもなりかねない。
ならばいっそのこと、アンチスキルの庇護を受けるほうがいざという時二の足を踏まずとも良いから、と結標は語った。

姫神「料理と言えば。私はまだ貴女に。石狩鍋と。サーモントーストサンドしか。作ってあげられていない」

結標「お互い避難所での食事がメインになっちゃったものね…って言うかあの避難所煮物ばっかりじゃない?」

姫神「煮物と。つまみ物は。人数が捌ける。融通が利く」

結標は思う。少し水先案内人の仕事を減らして姫神の側に置かせてもらおうかと。
せっかく任された仕事なだけに残念だが、姫神を狙う魔の手が止むまではそうするべきかと。

姫神「…また。貴女に料理を。食べてもらいたい。今度は。貴女の好きなものを」

結標「へえ?ようやくルームメイトらしくなって来たじゃない?感心感心」

姫神は思う。一昨日はさくらんぼゼリーしか、昨夜はチキン南蛮弁当を半分足らずしか結標は口にしていないし今はアールグレイのみ。
このままではいつか倒れてしまう。身体を壊してしまうかも知れない。いくら強くても同じ人間で、同じ女の子なのだから。


結標「この馬鹿げたハロウィン・パーティーが終わったらお願いね?」

結標は姫神を守りたいと願い、姫神は結標を護りたいと望んだ。
全ての災厄から、災難から、災禍から――
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:19:36.63 ID:1DtFyEeAO
〜第十五学区・繁華街大通り〜

結標「人通りが多いわね…酔いそう」

姫神「本当に。戦争があったなんて。思えないくらい。第七学区とは。大違い」

9:20分。二人はカフェを出ると保護を求めるべくアンチスキル第十五学区支部を目指し大通りを歩いていた。
支部は繁華街を有する十五学区と流通や産業の要所たる第十六学区を繋ぐ大桟橋の川沿いにあるらしかった。
外部でも警察機構の訓練所などは川沿いに置かれる事が多いが、それと同じ理由なのかも知れないと結標はぼんやり考えた。

結標「まったくね…こちとら毎日毎日まーいにち…ガイドとポストガールやってるって言うのに」

姫神「ポストガール?」

結標「外部の親元からの物資や、学生達が親元に出す手紙の配達よ。第七学区は電力不足な上、携帯もつながらない所が多いからアナログなツールに頼るしかないんじゃないかしら?」

姫神「郵便屋さんは?」

結標「あの瓦礫の山じゃ途中までしか来てくれないのよ」

雨上がりに濡れた朝の街を、二人は手を繋いで歩く。結標はいつでも姫神を連れて逃げられるように。姫神は僅かに心温めるためにそうしている。
二人が眠ってから朝目覚めるまでの五時間は記録的な集中豪雨に切り替わったらしく、大通りのアスファルトにいくつもの水溜まりを残していた。

姫神「本当に。この学区みたいに。元に戻るのかしら」

結標「…どうでしょうね。再開発するのか放棄するのか…安心して、行き場がなくなったら好きなだけ私の家にいてくれて構わないから」

姫神「でも。それは」

結標「一緒に暮らさない?私達」

姫神「!」

結標「今みたいな仮住まいじゃなくて」

そこで姫神の足が止まる。水溜まりの中でも気にせずに。
対する結標も行き交う人混みの雑踏の中、姫神を見つめた。
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:21:15.49 ID:1DtFyEeAO
結標「貴女とは、上手くやっていけそうだから」

姫神「…でも。私は――」

結標「言わないで」

姫神の胸中を知ってか知らずか、結標はキッパリとそう言い放った。
正反対のタイプの美少女二人が手を繋ぎながら一緒に暮らす暮らさないの会話をしているなどと妖しい雰囲気に意も介さず。

結標「貴女が何者でも、私が何者でも――私達、友達でしょう?」

姫神「(貴女は。どこまで気づいているの)」

結標は考える。夜には大胆不敵で、朝には曖昧模糊としているこのルームメイトは一度手を離せば消えかねない儚い雰囲気が最初から漂っていた。
初日から含めてこの6日間ずっと消えずに。だから切り出したのだ。勇気を振り絞って。

姫神「私達。出会ったばっかりで。私は。」

結標「――嫌?」

姫神「…嫌。じゃない」

昨夜姫神に責められるままだった姿は、幽霊騒ぎに脅えた影は微塵もない。
それどころか迷う姫神の手を引こうとしている。しかし結標は――

結標「………………」スッ

姫神「あっ」

姫神の手を一度解き――そして、もう一度差し伸べた。
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:23:13.89 ID:1DtFyEeAO
結標「イエスなら手を取って…一度きりよ。同じ勇気は二度出せないわ」

姫神「結標…さん」

結標「私と一緒に来るなら、この手を掴んで」

姫神は思う。

卑怯だ。

姑息だ。

不埒だ。

そんな風に言われて、手を取れないだなんて――出来るはずがないのに。

姫神「…ズルい」

結標「そうよ。私って実は性格悪いの。貴女には負けるけどね」

姫神「私は。性格悪くない」

結標「人の身体をオモチャにするようなサディストが何言ってるの」

朝焼けの光を浴びて燦々と輝く雨上がりの街。
徐々に鳴き始める蝉の声。
夏の始まりに差し掛かった季節に吹く風が二人の髪を揺らした。

結標「イエスなら優しく連れて行く。ノーなら乱暴にさらって行く。選んで。好きな方を」

姫神「…――って」

結標「聞こえないわ。ハッキリ言いなさい」

行き交う人々、立ち尽くす二人。
風車が回り、飛行船が夏の朝空を行く。
サディストはどっちだ。どっちを選んだって…私を逃がしてくれないクセにと――姫神は

姫神「――さらって…!――」

その手を、取った。
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:24:57.91 ID:1DtFyEeAO
〜第十五学区・裏通り〜

魔術師B「標的、発見セリ。指示ヲ仰グ」

「mare256(葦の海渡りし青銅の蛇)よ。確実に仕留めよ。Tempestas369(毒杯注ぎし晩餐者)のような漏れは万に一つも許さん。死を賭して望め」

魔術師B「了解」

そんな二人の様子を、薄暗い路地裏に溶け込むように佇む漆黒のローブを纏う幽鬼…
アウレオルス=イザードがかつて属していたグノーシズム(異端宗派)所属の魔術師『mare256(葦の海渡りし青銅の蛇)』は監視していた。
雨上がりの街にいくつも生まれた水溜まりの一つに結標と姫神の姿をリアルタイムの索敵・探知・監視の魔術を水鏡で写し出して。

魔術師B「アンチスキルニ逃コマレルト厄介ダ。先手ヲ打タセテモラウゾ」

その手に握るは刀剣ほどの大きさがある十字架の先端に青銅の蛇が絡みついた偶像崇拝の霊装『モーセのクルツ』のレプリカ。

モーセが葦の海(紅海)を断ち割り迷える民衆を導き、神の使わせた炎の蛇すら退けた青銅の蛇の旗竿を手にした魔術師の魔術は『水』を司る。
モーセとは元来『水から引き上げる』という意味である『マーシャ』から取られた字である。

魔術師B「アノ出来損ナイトハ一味違ウゾ…我等ガ神ニ唾スル者タチヨ」

幸いにも大雨の後、アンチスキルの支部の側には河が流れている。媒介に用いる『水』には事欠かない。

そして万に一つの脱出口すら逃がすつもりはない。そう考えながら魔術師は水鏡の魔術を解除し歩み出した。

魔術師B「1タス1ハ…2。2ヒク1ハ…1」

結標淡希の殺害と、姫神秋沙の拿捕のために――
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:26:49.11 ID:1DtFyEeAO
〜第十五学区・アンチスキル第十五学区支部〜

結標「着いたわ」

姫神「ここ?」

結標「ええ」

10:40分。二人は繁華街を抜け、追跡や監視や尾行しながら迂回し、遠回りし、足跡を掴ませぬよう時間をかけて『座標移動』しながら河川側にあるアンチスキルの支部へとやって来た。
辺りは見晴らしよく遮るものの無い土手。警察組織の訓練所などが置かれやすい理由の一端がわからなくもなかった。

姫神「ここで。匿ってもらうの?」

結標「そうね。出来るだけ警備員のお世話にはなりたくなかったんだけれど、そうも言ってられないから」

施設そのものはそれこそ警察組織の支部ほどの規模で、グラウンドほどの練兵場も見渡せた。
結標達は施設前の門扉まで飛び移ると、結標は門番とも言うべき警備員を探す…しかし

姫神「…?。誰も。出て来ない」

結標「妙ね…一人残らず出払ってるだなんて」

門扉の前には誰もいない…それどころか入口でチェックをする者すらいない。
側で河川の荒れ狂う濁流が耳障りだ。物音一つ中から聞こえてこないせいか尚更そう思う。

結標「(何か変ね)」

一瞬、座標移動で施設内に入ろうとして結標は躊躇った。些細だが見落とせない違和感、微細だが見逃せない異物感。
学園都市の言わば法治組織とも言うべき場所に似つかわしくない、何か――

姫神「――――がする」

結標「え?」

ドッ、ドッ、ドッと昨夜の降雨を受けて増水した川の流れが五月蝿くて結標は思わず問い返した。
すると姫神は無表情の中にも僅かに表情筋を強張らせ――言った。

姫神「――血の匂いがする――」

結標「!!?」

その直後だった。

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

河川が堰を切ったように、増水した『水』の全てが津波のように土手を乗り越え、二人の視界一杯に埋め尽くして――

結標「姫神さん!!!」
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:27:31.66 ID:1DtFyEeAO
〜第十五学区・アンチスキル詰め所〜

迫り来る濁流の津波に呑まれる直前、結標は姫神を抱えて聳え立つ門扉の上へと座標移動した。

結標「ぷはっ!大丈夫!?」

姫神「だっ。大丈夫」

一瞬の事だった。鉄砲水などでは常識的に考えられないほどの河川の津波が施設もろとも押し流すほどの勢いで殺到したのだ。
すでに門扉の頂上よりした濁流の海だ。ありえないほどの水量がこの施設一体を文字通り水没させたのだから。

結標「(なによこれは…常識じゃ考えられないわ…街中の水道管が破裂したってこうはならないわ)」

濁流の一部は被ったものの、飲み込まれる寸前にテレポート出来たのは暗部で培われた危機察知と養われた危険回避の賜物だ。
結標はびしょ濡れになった赤髪をかきあげて辺りを見渡す。すると――

魔術師B「mare256(葦の海渡りし青銅の蛇)」

結標「魔術師…!」

荒れ狂う時化の海のような水面に立つ、十字架を背負ったローブ姿の亡霊…
モノレールで交戦したあの魔術師と同じ気配の人間が、目だしさえ隠れたフードからこちらを覗いていた。

結標「(どうして先回りされたの!?あんなに警戒していたのに!)」

結標は知らない。土御門元春が大覇星祭の際に使っていたような探索魔術で今朝から監視されていた事を。
言わばアンチスキルを頼るという『最善の道』を選んでしまったがために魔術師を呼び込み『最悪の方向』に進んでしまったのだと。

姫神「(さっきの血の匂い。あれは中の…!)」

姫神は知らない。魔術師がこれだけの水量を操るには、ステイル=マグヌスのルーンのように局地限定的な『結界』の中でのみ有効だと。
故に魔術師は先回りし、アンチスキルの施設及び河川を結界の術式を組み込むためだけに警備員を皆殺しにしたのだ。

魔術師B「1タス1ハ…2」

魔術師は聳え立つ門扉の上の姫神をまず指差し…ついで結標を指差して――

魔術師B「2ヒク1ハ…1」

結標の首を掻き切るようなジェスチャーを送り…水底へと沈んで行き――

魔術師B「  シ  ネ  」

――戦闘が開始した――
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:29:52.64 ID:1DtFyEeAO
〜第十五学区・アンチスキル練兵場〜

結標「チッ!」

姫神「…っ」

濁流の中から次々と飛来する水の刃が結標を狙う。
結標はそれを練兵場のライトスタンドを飛び石伝いに座標移動しながらかわす。
片腕に姫神を抱えながら飛んで、跳んで、翔んで!

ガン!ガン!!ガンガンガンガン!!!

無数に飛び出した水の刃が次々とライトを破壊し、ポールを切断し、グラウンドの鉄条網を引き裂いて行く。
高さにしてビル四階分に相当する高所まで飛来するウォーターカッター。
ウォーターカッターそのものでさえ研磨剤と出力を調整すればダイヤモンドから鉄鋼まで両断するのだ。
生身の肉体を掠めただけで大怪我は免れない。その上――

結標「頭も出ないんじゃモグラ叩きにもならないわよ!」

魔術師は濁流の中に沈み込み水中から一方的に攻撃して来る。
対する結標は常備しているコルク抜きを叩き込もうにも相手の所在が目視出来ない。

それどころかマシンガン並の水を魔術で練り上げた弾雨から、暴動鎮圧用の放水器が如雨露の水に思える勢いの鉄砲水、膨れ上がった水球を爆弾のように破裂までさせてくる。

結標「何でもありなのね魔術師って!!水芸やりたきゃサーカスから始めたらどう!?」

『後方のアックア』の足元にすら及ばずとも、局地限定的な結界魔術の地の利、昨夜が時雨から一時的な豪雨となり増水した天の利を得て水の魔術師は二人を狙う。

結標はそれを座標移動で掻き回し、一カ所に止まらず狙いを付けさせない逃げの一手でそれをかわすしかないのだから。

姫神「(私がいるから。結標さんが戦えない)」
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:31:14.69 ID:1DtFyEeAO
飛び石伝いにしか動けない。眼下で渦巻く濁流の海に落ちれば間違い無く引きずり込まれる。

結標一人なら水中に飛び込んでも座標移動を繰り返して脱出は容易いだろう。

しかし姫神を抱え、庇い、守りながらではそれすら望むべくもない。

自分さえ枷にならなければ、結標ならば勝なりと逃げるなり活路を切り開けるのに。

結標「(残る手は…そう多くないわね)」

電柱ほどの高さと太さのある、アンチスキルのシンボルが描かれたフラッグポールの上に座標移動する。

こんな八艘飛びをいつまでも繰り返していられない…そう結標淡希は腹を括る。

結標「…姫神さん…」

姫神「…なに」

足元では二階建ての建物まで浸水させるような多量の水が魔術によって渦巻いている。
チャンスは恐らく一度…これで仕留め損なえばますます敵は遠くなる。
結標は姫神を両腕で抱えあげながら静かに…しかしハッキリと姫神に囁いた。

結標「――て」

姫神「…!?」

結標「――これしかないの。私を――信じて頂戴」
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:32:31.00 ID:1DtFyEeAO
〜第十五学区・アンチスキル練兵場、水中〜

魔術師B「止マッタ。モウ逃ゲ場ナイ。2ヒク1ハ1」

魔術師は勝利を確信していた。高所にある着地点はもうあのポール一本のみ。

次の攻撃で終わる。赤毛の女に当たれば黒髪の女が手に入る。

当たらなくてもポールを壊せば二人とも水に落ちてやはり手には入る。

どちらに転んでも自分の優位は動かない。だから――

魔術師B「2ヒク1ハ…」

次の形は槍に、矢に、錐にしよう。あの髪の毛と同じ真っ赤にしてやる。

水はどんなものにも形を変えどこにでもある最高の媒介だ。これに霊装『モーセのクルツ』が加われば――

魔術師B「1!!!」

ドン!とありったけの水の穂先を結標に、ポール目掛けて放つ。
当たれば死ぬ、かわしても落ち――

姫神「結標さん。下。私達の足元!!」

魔術師B「!?」

その瞬間…ずっとお荷物で抱えられていたばかりだった姫神が…射出した流水の穂先を見据えながら…叫ぶと

フッ…

魔術師B「ナニ!!?」

結標達が…水中の視界から消えたと思えば――

結標「当たれええええええええええええええええええ!!!」

代わって、結標達の立っていた、電柱並みのフラッグポールが魔術師の目の前に突如として現れ――
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:35:43.05 ID:1DtFyEeAO
〜第十五学区・アンチスキル練兵場、水中2〜

グシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!!

魔術師B「…ガッ…ァ!!」

結標の叫びと共に…水中に突如として現出したフラッグが魔術師の腹部を刺し貫いた。
完全に身体の中心を穿ち抜き、刺すというよりそのままフラッグポールが身体に『生えた』ような風穴を開けて。

魔術師B「ソン…ナ」

魔術師が水の魔法を放つまで…結標は狙いを絞らせるためにその場に止まり回避するために演算に集中。

腕の中の姫神が射出の瞬間、攻撃の入射角、一撃の方向を見据えて位置を教えたのだ。

攻撃の発動と同時に回避し、攻撃の瞬間を見切ってのフラッグポールの一撃…

姫神が目の代わりとなり、結標が演算に集中し、最後は演算を終えた結標が手を下したのだ。

魔術師B「1ヒク…1…ハ」

魔術師の腹に突き刺さるは座標移動で転送されたフラッグポール…

それは背負った『モーセのクルツ』と相俟って十字架にかけられ磔刑に処された邪教徒そのものだった。

皮肉にも、魔術師の肉体的に死によって濁流の海も真っ二つに割れ引いていった。

魔術師B「ゼ…ロ…」

魔法名…mare256(葦の海渡りし青銅の蛇)の名に相応しく、串刺しにされた蛇のように。
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:37:54.53 ID:1DtFyEeAO
〜第十五学区・アンチスキル練兵場3〜

結標「…助かったわ…貴女のおかげでね」

姫神「………………」

魔術師の死により戻って行く赤に染まった濁流の波が引いて行くのを姫神秋沙は見やっていた。
磔刑のようにされ息絶えた魔術師の死体が、水が引いて行く事で殺害されたアンチスキルの遺体が漂流物のように河川敷の石砂利に流れつくのを。

結標「…警備員を皆殺しにしたのはあの魔術師よ…そしてその魔術師に手を下したのは私…貴女が気に病むのはお門違いよ」

姫神「………………」

姫神はどうして良いかわからなかった。自分が保護を求めたためにアンチスキルの支部の一つが、人命が失われた。
結標に手を汚させた。血に塗れさせた。戦う力がない事を言い訳に、結標に人を殺めさせた。それが姫神の心を漂白していた。

姫神「こんな。こんな事が…」

結標「………………」

姫神「…いつまで。続くの」

結標「…わからないわ…」

もう姫神は自分で自分の命を断つ自由すら失った気がした。
ここで姫神が命を絶てば、それこそ命懸けで戦ってくれた結標の全てが無駄になる。
吸血鬼を求める人間が全て息絶えるまで、原石を求める人種が全て死に絶えるまで終わらないと言うのか。この血で描かれた斑道は

姫神「………………」

結標「…帰ろう…私達の場所に…」

結標淡希は思う。自分は姫神の命を守れる程度には力があって…その死に絶えた心まで守れるほどの力がないと。
人を殺めた。吐き気がする。自分だって泣き出して壊れたい。でもそれだけは出来ない。姫神がいる今は。

姫神「どこへ。行けばいいの」
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:39:10.42 ID:1DtFyEeAO
吸血殺しの力を消すために来た学園都市は今壊れている。

その可能性があったかも知れないアウレオルス=イザードは『死んだ』。

このままではいつか結標も命を落としてしまう。迫り来る追っ手が止まない限り。

姫神「教えて。私は。私はどこへ――」

結標「――――――」

姫神の周りには流れついた遺体と血に染まった濁流が纏わりつき、結標はそんな姫神を何も言わずに背中から抱き締めた。

結標「(…この娘…泣いて…)」

背後から抱き締める結標にはそれがひっかぶった水滴の名残なのか、はたまた姫神の双眸から溢れる涙なのかわからない。しかし――

結標「――言ったでしょう?さらいに行くわ。貴女がどこへ行こうともね――」

一人くらい、地獄までの道行きがいないと寂しいだろうと結標は思った。

結標「(ああ――そっか)」

同時に、芽生えかけていた想いが花開いた。この血の海を養分にするようにして咲く徒花が。




――私…この娘の事が好きなんだ――
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 21:46:31.63 ID:1DtFyEeAO
本日の投下は以上です。レスを下さった方感想くださった方ありがとうございます。

読み返してみると、あわきんがまるでプロポーズのようですね。それでは失礼いたします…
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/17(月) 22:33:51.40 ID:Kc5Ay6ao0
このスレが楽しみで毎日pcを起動している。
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 23:32:01.12 ID:OPdtomHDO
深いな……
あわきんかわいい
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 00:37:00.92 ID:AZGGSNIIo
乙。>>1好きだ。
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/18(火) 20:25:15.35 ID:FGMfZPTAO
>>1です。繋がっている内に今日の投下をさせていただきます。
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/18(火) 20:26:02.44 ID:FGMfZPTAO
〜第十五学区・大桟橋〜

黄泉川「………………」

12:05分。黄泉川愛穂は封鎖された大桟橋より欄干に身体をもたれかからせながら目を瞑っていた。
全ての警備員の遺体が収容・搬送され、それを無言の内に見送る黙祷のように。

黄泉川「(――――――)」

遠くでも近くでも赤色灯の瞬きがまるで葬列の篝火のように並んでいる。
遺体の状態は最悪だった。切り刻まれた者、擦り潰された者、見るに耐えない形相のまま溺死させられた者…
支部内の監視カメラに映ったのは、まるで悪夢の中からそのまま這い出して来たかのような濁流がそのまま所内を水没させたブラックアウトの映像。

黄泉川「…殉職者21名…」

通信が途絶された異変が各支部にスクランブルで伝えられた後…
駆けつけた警備員達が見たのは21名という夥しい人命の亡骸…
黄泉川はそれを『死亡者』と言いたくなかった。
彼等は『被害者』であって欲しくなかった。最後まで生徒や治安を守るために戦った『殉職者』であって欲しかったから。

――そして――

黄泉川「…生存者2名…」

その中でへたり込む…黄泉川が教諭を務める高校の学生で、同僚たる月詠小萌の生徒である『姫神秋沙』。
そして茫然自失とする姫神に霧ヶ丘女学院のブレザーを羽織らせ傍らにいた『結標淡希』。
共に第七学区の避難所でボランティア活動に勤しんでいる女学生2人。

ガンッ!

黄泉川「…大した…戦果じゃん…!」

押さえきれず、振り上げた拳を欄干に叩き付ける。
命は軽く、死は重いものだと過去に味わった認識が今更ながら込み上げて来る。
犯人と思しき…昨夜も拿捕された『魔術師』なる容疑者はアンチスキルの旗印を掲げるフラッグポールによって串刺しにされていた。

結標『わからないわ。私達が保護を求めた時はもう、こうだったもの』

記録映像が全て浸水によってブラックアウトしていた以上、誰が手を下したかもわからない。
出来る事なら自分が犯人を捕らえ、然るべき場に引き立て法の裁きを与えてやりたかった。
せめてものの救いは…2人の学生が無事であった事。その一点だけがささやかな慰めであった。

黄泉川「…帰るじゃん…なあ――」

そうして黄泉川は大型特殊装甲車へと向かう。
保護された結標淡希と、姫神秋沙を乗せて避難所へと帰るべく――
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/18(火) 20:27:16.50 ID:FGMfZPTAO
〜護送車内・結標&姫神+黄泉川〜

結標「………………」

姫神「――――――」

黄泉川「やっと眠ったじゃん」

結標淡希と姫神秋沙は、鉄装綴里の運転する大型特殊装甲車にて護送されていた。
姫神は結標のブレザーをかけられながらその肩に寄りかかって眠っている。
極度の緊張と精神的な磨耗が姫神に眠りを必要とさせていた。
今までとはまるで逆の形ね、と結標は姫神を抱き寄せながら思った。

結標「ちょっとやそっとじゃ起きないわ。いえ、起きれないわね」

黄泉川「その通りじゃん。眠れるだけまだその子には“生きる力”があるじゃん」

姫神が起きないように互いに小声で会話を交わす。
精神的な蓄積疲労が折り重なれば人間は時に眠る事すら出来なくなる。
今、姫神が深い眠りを必要としているのは眠る事で少しでも精神的な負担を軽減させようとしている『本能』からに他ならない。
そして…傍らに結標がいなければ姫神は安心して眠る事も出来なかったろう。

結標「(…にしても、警備員が目の前にいるとやりにくくて仕方ないわ…あの時の電話の声が、よりによってこの女だっただなんて)」

『残骸』事件を通して互いに顔を知らぬとは言え奇妙な因縁だと思わざるを得ない。
月詠小萌には結標は空間移動能力者で、モノレール事件や今回の件はその力を駆使して逃げ回っていただけだとボカしておいた。
黄泉川にもそう伝わっているだろうが、どこまで見透かされどこから見逃されているのかはわからない。

黄泉川「…二日続けてまたぞろビックトラブルに巻き込まれてるのにずいぶん落ち着いてるじゃん?」

結標「(来たわね)いいえ。本当は怖くて恐くてたまらないわ。姫神さんがいてくれるから気を張っていられるだけで、私一人だったら震えて腰が抜けてるわ」
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/18(火) 20:29:35.81 ID:FGMfZPTAO
少ししゃべり過ぎたか?と思いつつさりげなく黄泉川から視線をずらして姫神の寝顔を見やる。
疲れ切った様子で、顔色も朝より悪い。無理もないと結標は思った。

結標「先生だって怖くない?私は恐いわ。能力者って言うだけで訳のわからない連中に追い回されて逃げ回っていただけ…先生はどうして警備員になったの?」

出来るだけ一般的な女学生のように振る舞いつつ矛先を逸らせる。
やはりこう言った口先は土御門に比べればまだまだだと思う。饒舌過ぎる。
だが証拠は一つも残していない。いらぬ疑いを持ち続けられるのは後味が悪い。そう思いながら。

黄泉川「守りたいものがあるからじゃん」

結標「守りたいもの?」

黄泉川「そうじゃん」

一言。そのたった一言にどれだけの思いが乗せられているかは黄泉川愛穂と言う人間を知らない結標には伝わり切らない。
しかしそれが確固たる信念に基づいている事だけは伝わって来た。

結標「(…守りたいもの…)」

自分はどうしたいのだろうかと結標は思う。たかが出会って六日。
情が移るには充分で、命を懸けるには不足で、恋に落ちるには早過ぎる時間。
しかし結標はもう自覚してしまった。目覚めてしまった。

結標「(女の子だから好きになったんじゃないわね…きっとこの娘だから、私はこんなにも放っておけないのよ)」

初めて出会った時は変わった子だと思った。

一日目には図々しくて図太い子、二日目にはウマの合う子、三日目には笑顔の綺麗な子、四日目には優しい子、五日目には大切な子…そして今は――六日目は愛しい子。

一週間と持たず陥落させられてしまった気がする。あの中庭でのキスから始まった気がする。
我ながら自分がこんなに単純な人間だと思わなかった。姫神の少女趣味を笑えない。

それは暗部から開放され、仲間達を解放させられたタイミングもあったのかも知れない。
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/18(火) 20:31:02.50 ID:FGMfZPTAO
心寂しく人淋しい、いきなり等身大の自分と向き合わさたからかも知れない。

一目しか見ていない微笑みが美しくて、二回しか食べていないご飯が美味しくて、三度交わしたキスがあたたかくて…

天然でいながらしたたかで、年下でありながら抜け目なく、言葉で弄んで手指で戯れて…どれか一つが原因とも言えないし全てが要因とも言えない。

ただ、決定的だったのは…あの屍山血河の中で見せた、初めて見せた姫神秋沙の虚ろな素顔。そして見えない涙。それを見た時結標は思った。この子を守りたいと。

結標「(貴女達ほどご大層なものではないけれど、ほんの少しだけわかるわ。今なら)」

全てを失ったような、何も残っていないような姫神の背中を見せられた時…結標はその身体を抱き締めた。
これが友情なのか愛情なのか、人間として好きなのかはたまた母性なのかも未分化な感情、衝動、そして本能。

結標「(私はきっと、この娘を一人にしたくないんでしょうね)」

どれほどの地獄を心に宿せば、これほどまでに虚ろな感情の極北を瞳に宿せるのか…それを思うと、抱き寄せずにはいられなかったのだ。

黄泉川「………………」

そして黄泉川はそんな2人を見やると…ゆっくり目を瞑った。

黄泉川「(これが)」

同僚達を失った悲しみも、やり場のない魔術師への怒りも、結標への疑いも全てを飲み込んで――1つも表に出さなかった。

黄泉川「(私の)」

ただの一言も、ただの一度もなく…伸ばした背筋に全てを背負って。

黄泉川「(仕事じゃん)」

連れて帰らねばならない。生き残った命と、散って行った同僚達の魂を。
一人残らず、一人漏らさず、一人欠けさせず…連れて帰らねばならない。

黄泉川「(これが――私の仕事じゃん)」

それが自分の仕事だと――黄泉川愛穂は装甲車の小窓から差し込む光を受けた。
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/18(火) 20:34:00.42 ID:FGMfZPTAO
〜第七学区・全学連復興支援委員会〜

雲川「無事保護されたみたいなんだけど。今こっちに向かってるって」

小萌「よっ、良かったのです…!良かったのですよぉ…うえええぇぇぇん」

ステイル「(退けたと言うのか。魔術師二人を相手取って)」

結標・姫神両名が黄泉川に保護されたと言う報に月詠小萌は泣きじゃくった。
今朝から生きた心地がしなかった緊張から解かれたためか溢れる涙は留める術を持たない。
避難所のテント内の空気が弛緩する。しかしステイル=マグヌスの表情は硬い。

ステイル「思ったより早く君の“出番”が回って来そうじゃないかオリアナ=トムソン」

オリアナ「そうかも知れないわえ?着いて一日でこんなに状況が悪化してるだなんてさすがに経験豊富なお姉さんでもなかなかね…頑張り過ぎちゃってダウンしちゃいそう」

ステイル「卑猥な物言いを織り交ぜないと会話も成り立たないのか!!」

テント内のパイプ椅子に身を投げ出しながらオリアナ=トムソンは伸びていた。
今朝からずっとグノーシズム(異端宗派)の本拠地の逆探知の魔術を繰り返していたが一向に埒が開かない。
敵は十字教最初期から存在し今日まで生き長らえて来た異端宗派である。その足取りを掴ませない結界魔術に秀でている可能性は高い。

ステイル「(せめてもの救いは神の右席、隻眼のオティヌス、北欧玉座のオッレルス、アウレオルス=イザード級の魔術師が見当たらない事くらいか)」

雲川「(思ったより面倒臭そうなんだけど。まあ、刺激があるから人生は楽しいんだけど)」

そんなステイルを泣きじゃくる小萌の傍らにいながら見やった雲川芹亜は胸中で独り言ちた。
同時に手を打っておいて良かったとも思う。『水先案内人』としてのオリアナ=トムソンを。
それは学園都市内での『水先案内人』などではない。彼女に求められる役割は――
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/18(火) 20:35:41.97 ID:FGMfZPTAO
〜悪夢〜

姫神秋沙は悪夢を見ていた。

生まれ育った村落が全滅した時の悪夢を。

自ら手掛かりを求め三沢塾に監禁されていた時の悪夢を。

悪夢を見る事は、精神の安定と調整をはかるための自己防衛機能だと聞いた。その根幹を為す物は罪悪感の発露であるとも。

走馬灯のように現れては過ぎ行く記憶。走馬灯は死に際し、これまでの人生の中で『生きる術』を探すべく辞書を紐解くような行為に似ているとも。

姫神「んっ…」

血と肉と骨で彩られ象られた赤の記憶すら、雪と灰の空白の白に塗り潰されて行く。

失われた人間の命、喪われた吸血鬼の魂、背負った罪、背負わされた死に、何度潰されかけただろう。しかし姫神秋沙と言う人間は潰れなかった。何故ならば

心が半ば死に絶えていたから。死人は二度死を迎える事は出来ない。
それでも自分は食事を採り、睡眠を取り、学校に通い、生活を営む。
吸血殺し(ディープブラッド)の力を打ち消す、それだけのために歩く死人のようになってまで。

姫神「ううっ」

誰に祈れば良い。それは全てを見通しながら何一つ手を差し伸べてくれない神か?姫神のために命を落とした全ての人々か?それとも抗う事も逃れる事も許さない運命にか?

贖罪も天罰も下してくれない無慈悲な空。迷えど迷えど手を引く者などいない――ずっとそう思って来た。

上条当麻と出会ってから。

上条当麻と別れてから。


――そして――



結標『私と一緒に来るなら、この手を掴んで』



――結標淡希と出会ってから――
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/18(火) 20:37:06.69 ID:FGMfZPTAO
〜悪夢2〜

不意に蘇る結標の声音。駄目だ。もうそれすらしてはいけない。考えてはならない。
その差し伸べられた手すら、姫神の中に流れる血は許しはしない。このねじくれ曲がった運命が赦しはない。

地獄の底まで連れて行きたくなどない。出会ってしまったから。知り合ってしまったから。だから結標の手を再び取る事なんて――

結標『イエスなら優しく連れて行く。ノーなら乱暴にさらって行く。選んで。好きな方を』

しかし――夢の中の自分(ひめがみあいさ)が、現実の姫神秋沙(じぶん)が結標の手を取ったのを幻視する。

思えば貴女は最初からそうだった。住処を失った野良猫のような私を家に連れ帰った。

何も出来ない私にご飯と、寝床と、それ以外の様々なものを私に与えてくれた。

一緒にボランティアにもなってくれた。弱い所も汚い所も見せてくれた。

命懸けで戦い、二度も救い、二回も守ってくれた。

これをどうやって返して行けば良いのかわからない。

私には何もない。この忌まわしく呪わしい血以外には何もない。だから――

姫神「貴女に求められたら。私はきっと。拒めない――」

私が求めたように貴女に求められたら、拒絶する事が出来なくなるかも知れない。

この血に塗れた身体を差し出してしまうかも知れない。この穢れきった肢体を捧げてしまうかも知れない。

だからお願い。夢の中にまで出て来ないで。これ以上私を惑わさないで。



――結標淡希(あなた)を、私の悪夢(ゆめ)の一部にしたくないから――



289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/18(火) 20:42:41.30 ID:FGMfZPTAO
>>1です。本日の投下はここまでとなります。六日目までにあわきんと関わった人々のまとめです。

1日目…姫神秋沙
2日目…白井黒子
3日目…削板軍覇・雲川芹亜
4日目…フレンダ
5日目…木山春生
6日目…黄泉川愛穂

レスを下さった方々、感想いただける方々、毎日ありがとうございます。
こちらこそ感謝しております。非常にゆっくりな物語ですが、何卒よろしくお願いいたします。
それでは失礼いたします…
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 20:51:38.86 ID:M3ZyRcFuo
さりげなく織り交ぜられた buts!の歌詞に感動したが、
直後の回想で前回のあわきんの台詞はこれを踏まえてたのかと気づき、感動を通り越して動揺した。
うまいな……
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 19:32:22.96 ID:FvYJWgcQo
面白い乙!
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:07:06.04 ID:X/aMWTGAO
>>1です。ようやく板が復活したようでなによりです。それでは本日の投下をさせていただきます。
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:10:02.80 ID:X/aMWTGAO
〜とある高校・保健室〜

姫神「………………」

14:19分。姫神秋沙は保健室のベッドの上にいた。
第十五学区での戦闘の後、混濁した意識を支えきれず昏睡のように眠りに落ちた後、運び込まれて来たのだ。
記憶があるのは結標のブレザーを羽織らされ、その腕に抱かれてへたり込んでしまった所まで。

姫神「…悪夢(ゆめ)…」

避難所にあって清潔なシーツと寝具の上にて身体を起こす。
服が着替えさせているのがわかった。それは姫神の通う高校の体操服だったから。

結標「お目覚めかしら?」

そしてずっと傍らに付き添っていてくれたのか、揺れる赤髪の二つ結びの少女…結標淡希の声音が響き渡った。
たった今まで夢にまで見ていた少女が目覚めたばかりの視界にいる事が、ひどく居心地悪く姫神には思えた。

姫神「結標さん…」

結標「まだ寝てたら?さっきよりマシだけれど、そんなに顔色良くないわよ」

姫神「もう。大丈夫」

姫神はベッドの上に手をついてもぞもぞと足を引き寄せる。
ダメだ。自分の顔色が今どんなものかわからないがきっとひどい顔をしているに違いない。
最悪の寝覚めで最低の寝起きだ。顔の一つも洗いたくなる。

姫神「………………」バシャバシャ

鏡を見る。ひどい顔だと自分でも思う。眠ったはずなのに朝にはなかった目元の黒ずみ。
肌を叩く水、冷え切った心、凍り付いた感情。
何かを言おうとして言葉にならない。何かを考えようとして思考にならない。
そんな自分を心配するような結標の顔が鏡越しに見えた。
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:12:01.40 ID:X/aMWTGAO
姫神「ずっと。側にいてくれたの」

結標「そうね。ずっとと言っても一時間くらいよ。寝てる所悪かったけど、服は変えせてもらったわ。あのままじゃきっと風邪を引いてしまっていたでしょうから」

『ありがとう』の一言が、『ごめんなさい』の一声が出て来ない。
それどころか、結標の言葉を、声音を、今どこか疎ましく思っている自分がいる。
目を見れない。顔を合わせられない。声をかけられない。

結標「…十字架には触ってないから安心して…」

姫神「…ッ。」

結標「貴女の大切なものなんでしょう?この前は、ごめんなさいね」

思わず歯噛みしたくなる。唇を噛んでしまう。
吸血殺し(ディープブラッド)を封印するための加護の十字架。
しかしあんな悪夢を見せつけられた後では、それが姫神の背負った十字架であるようにすら感じられる。
見当違いの被害妄想と、血迷った被害者意識が脳裏を過ぎる。

姫神「いい。私も。あの時イライラしていた。貴女に。八つ当たりしてしまって」

結標「もういいわ。わかってるから」

胸中が切迫している、心中が圧迫している、精神が逼迫している。
出しっ放しの蛇口を締める。置かれたタオルで顔を拭う。
ちっともサッパリしない。少しもスッキリしない。そんな気分。

結標「――今もそうなんじゃないかしら?あの時と同じ目をしてるわよ、貴女」

姫神「そんな事。ない」

思わずキッと鏡越しから肩越しに結標を振り返る。
冷静な話し方が、まるで自分を責めているように感じられて。
しかし結標は両腕を胸の下で支えるよう組みながらこちらを見やっていた。

結標「ベッドに戻って。姫神さん」

姫神「いい。私はもう。大丈夫だと言ったはず」

結標「貴女の様子を見て大丈夫だなんて思える奴がいたらそいつは眼科に罹った方が良いわね」

姫神「なら。貴女が診てもらえば良い」

結標「悪態がつける程度には元気になったのね?なら――」スッ

その時、結標が軍用懐中電灯を指揮者がタクトを振るうように払ったかと思えば――
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:13:01.40 ID:X/aMWTGAO
ボフンッ!

姫神「!?」

結標「遠慮なしね」

いきなりベッドの上に放り出された。それが結標の『座標移動』の仕業だと、姫神は少し経ってから気付いた。

姫神「…何を。するの」

結標「貴女が私の言う事を聞かないからよ。眼科より耳鼻科に罹りたい?」

姫神「どうして。私に構うの」

自分でも不機嫌さが滲み出た剣呑な声音が出たと思った。
しかしこちらを見下ろして来る結標はどこ吹く風とばかりに平然と、悪びれた風も無く言った。

結標「どうして?ハッ。貴女いま自分がどれだけ酷い顔してるかまだわからない?――まるで使い古しのボロ雑巾よ?」

姫神「…五月蝿い。少し黙って」

結標「…あんなに苦しそうにうなされて、辛そうなうわごと聞かされて、はいそうですかって出歩かせると思う?」

姫神「…貴女に。私の何がわかるの」

結標「じゃあ貴女は私の何を知ってるの?」

姫神「…中庭の。仕返しのつもり?」

結標「…知らないわよね。だって私達お互いの事何も知らないんですもの」

ギシッと結標が片手片足をベッドに乗せて来た。仰向けに倒された姫神を見下ろすように。

結標「――吸血殺し(ディープブラッド)ってなに?――」

姫神「!!!」

結標「それが貴女の能力?それが貴女が追われる原因?」

姫神「………………」

結標「大事な時にだんまりされるのは好きじゃないの。答えて」

結標が姫神の手に自分の手を重ね、指を絡めて押さえつける。
逃がすまいとするように。見下ろしてくる眼差しは――

結標「――訳もわからないまま命を張り続けるだなんてもう私には出来ないのよ!!」

姫神「…!」

零れ落ちそうな涙を必死に落とすまいとしながら…叫ぶような悲痛な声だった。
ギュッと姫神の手にかかる握りの力に強さが加わる。
振り解こうにも振り解けない、痛いくらいの力だった。
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:15:18.96 ID:X/aMWTGAO
〜保健室・結標淡希〜

分岐路を、分岐点を、分水嶺を、一足跳びに超えてしまった。
もう後戻りは出来ない、そう結標淡希は思った。だが後悔はなかった。

結標「こんな傷ついてる貴女を見て!あんなイカレた連中を見て!そんな見てるだけしか出来ない自分がもう嫌なのよ私は!!」

姫神の立つ彼岸、結標の立つ此岸、二人の間に隔たる不帰の河(ルビコンの川)。
足踏みしていた。手を拱いていた。口に出せずにいた。目を背けていた。だがしかし
結標「私はそんなに頼りない?見損ないで!見下さないで!見くびらないで!ちゃんと私を見てよ!!」

結標がいなければ既に二度、姫神はこの場にいなかった。
姫神にも抱えた理由が、背負った事情がある事くらいわかっている。
わかっているから――あえて結標は切り込んだ。

姫神「違う。違う…そうじゃない。私は。貴女に――」

結標「傷ついて欲しくない、巻き込みたくない、戦わせたくない…だなんて言うつもり?」

姫神「――わかって。いるなら…!」

結標「わかりたくもないわ!!!」

ギリッと姫神の手を押さえつける。姫神の顔が痛苦に歪む。
しかし結標は離さない。爪痕を刻もうが、手形を残そうが――絶対に離さない。

結標「戦う事より、傷つく事より、死ぬ事より――私が恐ろしいのは…貴女よ姫神さん」

手を離せば姫神は消える。自分達にこれ以上危害を加えさせないために敵に投降するかも知れない。
能力を悪用され吸血鬼達をこれ以上殺める事になるくらいなら自ら命を断つなりするだろう。
結標にはそこまで姫神が思い詰めているであろう事も知らない。わからない。
しかし姫神が――


結標「――貴女が消えてなくなるより怖いものなんてない!!!!!!」


姫神秋沙が消えてしまう事だけは、わかるから――
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:17:08.84 ID:X/aMWTGAO
姫神「…ッ…!」

姫神が歯を食いしばる。

生半可な言葉で

中途半端な言い訳で

切り抜けられる場面でない事がわかるからこそ――

姫神「…元々。私がここ(学園都市)でどんな扱いをされていたか聞く?」

真実を語るのに感情はいらない。

姫神秋沙は表情の全てを白紙に変える。

姫神「何のためにこんな十字架を肌身離さず身に付けているのかとか」

事実を語るのに感情はいらない。

姫神秋沙は瞳の色全てを黒く塗り潰す。

姫神「きっと貴女は――耐えられない」

現実を語るのに感情はいらない。

姫神秋沙は記憶の中の真紅を見据える。

姫神「私は            」
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:18:51.21 ID:X/aMWTGAO
〜保健室・姫神秋沙〜

結標「………………」

姫神「これが。私の全て」

姫神秋沙は語った。生まれ育った山村で起きた惨劇を。
それが自らの体内に流れる血…『吸血殺し』が引き起こした絶望を。
それを打ち消すために学園都市を、霧ヶ丘女学院を、三沢塾を、各地を転々としながら巻き起こした災禍を。

姫神「貴女が。私を守ってくれた事は。嬉しかった。これは本当」

だからこそ…姫神はもう誰も殺したくなかった。
もうこれ以上は耐えられない。自分の中に流れる血が招く『死』に誰かが命を落とす事が。

姫神「だから。もう。――私を助けようと。救おうとしないで」

それが『人間』であろうと、『吸血鬼』であろうと、『結標淡希』であろうと…
最後に迎える『死』は、他ならぬ『姫神秋沙』で終わりにしたいから。

姫神「貴女を――貴女の死(いのち)を。私は――背負いたくない」

それが同居人(ともだち)だから。それは結標淡希(ともだち)だから。
大切だから手放す、愛しいから手離す。失いたくないからこそその手を取れない。

姫神「もう――貴女の手を。私は――私は。取る事が出来ない。だから。ここで――」

それがどれほどあたたかく、力強く、自分をさらってくれる手であろうと――



結標「ふざけないで…」



姫神「?!」

それまで自分の手を押さえつけていた結標の手の平が、手の指が小刻みに震えて…
ポタ…ポタと、真っ白になるまで噛み締めた唇から、血が滴り落ちるほど食いしばって…

結標「――次は、私の番ね?――」

真っ直ぐ、姫神を見下ろした。
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:21:04.04 ID:X/aMWTGAO
〜保健室・結標淡希2〜

衝撃だった。

自慢するつもりひけらかすつもりがないが、自分だって裏の世界の人間で、そこを生きて来たつもりだった。

人を傷つけた事、殺めた事、地獄の閻魔が呆れ果て、地獄の魔王が苦笑いするような連中のいる闇の世界の住人の一人のつもりだった。

でもこれは違う。そんな次元の話ではない。人間が恐ろしくなる。姫神秋沙という人間が怖くなる。

結標「(こんなになっても、人間はまだ生きていられるというの?)」

こんな絶望を、こんな地獄を、こんな惨劇を味わって尚…『人間』は生きていける事に恐怖すら覚える。

自分なら耐えられない。命を断つという覚悟した姫神のようにすらなれない。
その前に心が壊れてしまう。自分が能力の有る無しに関わらず他人を傷つける『人間』だと思い知らされた時以上に。

結標「(この子は、ただ姫神秋沙として存在する事すら――許されていない)」

殺意を持たずとも、悪意を持たずとも、敵意を持たずとも自分に関わる有象無象の命全てを巻き込む能力など…
姫神秋沙(じぶん)が自分(ひめがみあいさ)として生きている限り続く生き地獄だ。

結標「(何が表の世界の人間よ…なにが…なにが)」

思い知らされる。姫神が何故自分を拒むのかを。
どれほどの重い荷を背負って、それでも生きて来たのかを。

結標「(なにが…なにが!)」

思い知らされる。自分に姫神を救う言葉など持てるはずがないと。
他人に預ける事はおろか、自分で下ろす事すら出来ない荷の重さを。



――しかし――



結標「ふざけないで…!」



――結標淡希は語った。暗部(じぶん)の事を――
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:23:13.29 ID:X/aMWTGAO
〜保健室・結標&姫神〜

姫神「………………」

姫神秋沙は愕然としていた。

結標淡希の口から語られた、結標淡希の真実を。

この学園都市(まち)で陽の当たる場所を歩く自分達と似て非なる…

街の影で

街の闇で

絶対に勝てないゲームに挑んでいた事を。

姫神「(だから。血の匂いが)」

同時に得心も言った。あの身のこなし、あの目の配り、越えて来た修羅場鉄火場の数、潜り抜けて来た激戦と死線。

自分と一つ違いの少女が生きて来たもう一つの世界。

自分のいる世界が表なら、少女のいる世界は裏。

合わせて一枚のコインの世界を生きてきた――姫神秋沙(表)と結標淡希(裏)

結標「…わかった?姫神さん…私はね――」

そこで結標は…ソッと姫神に跨りながらその滑らかな頬を、艶やかな黒髪ごと添えて…

触れて…


撫でて…


愛でて…


慈しんで…



結標「貴  女  と  不  幸  自  慢  し  あ  う  つ  も  り  は  な  い  の  よ」


301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:25:29.77 ID:X/aMWTGAO
〜保健室・二人〜

姫神「――――――」

思わず、姫神は目を見開く。しかし、結標はいつもと変わらぬ風にその二つ結びを払い、言った。

結標「貴女と傷の舐め合いをするならそれも悪くないわ。けれどね――私は、貴女を見捨てるつもりは毛頭ないの。貴女がどんな過去を持っていたってね――」

その両手で姫神の両頬を挟んで顔を寄せる。目を逸らせる事はおろか瞬きすら許さないとでも言うように。
姫神はそれに抗えない。逆らえない。言い返せない。はねのけられない。

結標「それが貴女の現在(いのち)を!!貴女の未来(いま)を!!否定し(あきらめ)て良い理由になんかならない!!!」

姫神「…貴女。何を。言って」

窓辺から初夏の涼風が吹き込み、保健室のカーテンを、姫神の黒髪を、結標の赤髪を揺らして行く。
ただ結標の手だけが姫神を離さない。この風に姫神が消えてしまわぬよう、さらわれてしまわぬよう。

結標「滅茶苦茶な事言ってるのはわかってるわ。私は貴女を言葉で救えるだなんて思い上がってもいないし、私も貴女の背負っているものを軽く見ているつもりもない…けれどね」

これを乗り越えねば見えてこない。こんなに人間としての心を、無慈悲な神(うんめい)にボロボロにされながらも…
それでも尚、結標を巻き込み(殺し)たくない少女の、本当の姿が。

結標「それが姫神秋沙(あなた)の全てなんかじゃない!それが私が貴女を見捨てる理由になんてならない!!!」
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:27:04.06 ID:X/aMWTGAO
流した血の量と、背負った死の数だけで、姫神と自分を比べたくなかった。

見捨てられない、見離せない。見つめたいから、見据えたいから。

どんなに絶望的な世界でも、助けに来てくれる英雄(ヒーロー)のいない世界でも。

無様でも、無惨でも、無理矢理でも、無茶苦茶でも――

結標「貴女がさらわれたら、貴女が自分で自分の命を断ってしまったら――私は貴女と同じになるのよ!?私が貴女を守れなくても!見捨てても!私は一生悔やむ!一生自分を呪って生きる!!今の貴女のように!!!」

なだめてでも、透かしてでも、極論でも、暴論でも、感情論でも、何でもいい。

結標「貴女のいない世界(へや)で…ずっと一人で生きていく(くらしていく)のは…嫌なのよ…!」

血に塗れた身体(ひめがみ)を、血の河(かえらずのかわ)を越えて、血に汚れた手でも良いから掴みたい。

結標「――言ってよ!!!助かりたいって!救われたいって!生きたいって!死にたくないって!一度で良いから!自分の言葉で叫んでよ!!!」

一人で地獄(敵の手)になんて堕とさせない。
生きて掴みたい。生を、光を、明日を、希望を掴みたい。
この世界にまだ…姫神秋沙の世界にはまだ救いがあると――


結標「言ってよ―――秋沙!!!!!!」
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:29:21.97 ID:X/aMWTGAO
〜保健室〜

姫神「――どうして――」

姫神秋沙の声はひび割れていた。軋んでいた。震えていた。

あれだけ救いのない自分の中の真実を語り、事実を告げ、現実を諭して尚…

今はもういないあの少年(上条当麻)のように。

血を吐きながら泣き叫ぶようにこちらを見下ろしてくる少女(結標淡希)に。

姫神「――貴女は――」

窓の外には入道雲、積み上げられた瓦礫の山、鳴き出し始めた蝉の声。

目の前には風に揺れる赤い二つ結び、怜悧な美貌をクシャクシャにして、涙声で震える結標淡希。

姫神「――私に――」

避難所の人々の声、ボランティアの人々の声、学生達の声、教師達の声。

そんな世界の中の、小さな結標淡希と姫神秋沙の世界。

姫神「――そこまでしてくれるの――」

それは脆く、儚く、淡い、夏の幻想のはずだったはずだ。

この世界に救いなんてない。私達に救いなんてない。この世界は私達に優しくなんて―――




結標「貴女が――好きだからよ」



304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:30:53.82 ID:X/aMWTGAO
〜秋沙と淡希〜

お似合いだと思った。血に塗れたと姫神、血に汚れた自分とが。

いつか二人で話したスタンダールの『赤と黒』を思い出す。

血(赤)に染まった過去を持つ姫神。

暗部(黒)に染まった過去を持つ結標。

赤(血)と黒(死)の交わりに救いなんてない。

それが呪わしく思える自分がいる。

自分が男だったならこれは王子様(ヒーロー)とお姫様(ヒロイン)の切ない恋愛劇だったろう。でも違う…違うのだ。

ここにあるのは血に染まったボロ雑巾(ひめがみ)と

泥に塗れたボロ雑巾(むすじめ)の傷の舐め合い。

『太陽』を意味する姫神は何一つ闇を照らせず

『道標』を意味する結標はその標(しるべ)を闇の中に見出せずにいた。

姫神秋沙は思う。この世界にヒーロー(上条当麻)はいないと。

結標淡希は想う。この世界にヒーロー(救い手)などいないと。


―――それでも―――


結標「貴女が――好きだからよ。秋沙」
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 21:33:25.46 ID:X/aMWTGAO
>>1です。本日の投下はここまでです。板が落ちている中レスくださった方、読んでくださった方、ありがとうございます。

覗いて見てホッとして、そして活力をいただきました。感謝感激です。

それでは失礼いたします。
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 21:34:44.74 ID:TQ0KIARAO
きっ、きましたわー!!!!!!
展開にニヤニヤしすぎる自分がキモいよ
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 00:53:18.72 ID:T2ym9qkio
あの鯖が不安定な中真っ先に確認したのはこのスレだ。乙。
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 01:00:52.27 ID:L21W7+CSO
泣きそうになりながらニヤニヤしてる俺きめえwwwwwwwwwwwwww
続き楽しみにしてますぜ、全裸ネクタイで。
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 04:27:19.71 ID:gLFTdyPQ0
乙!
続きが気になるぜぇ!
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 07:04:10.08 ID:TUUGA5kDO
こんな雰囲気
ttp://www.youtube.com/watch?v=DD7y1MrkXNU
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/20(木) 20:04:26.82 ID:OVOg5acAO
>>1です。>>310さんの楽曲が良い雰囲気だったので多少テイストを加えさせていただきました。

それでは本日の投下をさせていただきます。
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/20(木) 20:06:05.85 ID:OVOg5acAO
〜秋沙と淡希2〜

友達だって、言ったじゃない。

いつか別れる『恋人』じゃなくて。

ずっといられる『友達』だって。

――私達、『友達』だって――

結標「答えて。私はもう後戻りを捨てたの…貴女が答えてやっとイーブンよ、秋沙」

やめて、そんなに真っ直ぐな目で見るのはやめて。

逸らした目線を許さないように、『秋沙』と名前で耳に呼び掛けないで。

右を向いても、左を向いても、淡希(あなた)から逃げられる気がしないから――

結標「私はね秋沙…誰でも彼でも助けようだなんて出来ると思ってもいないし、善意だけで人を救えるヒーローになったつもりもないわ」

シーツと私達の擦れる音、カーテンが風にはためく音。
保健室の消毒液の匂い、結標さんがつけているクロエの香り。
窓辺から射し込む光が、私達に落とす影を深くする。

結標「ただの友達だなんて替えの利く物、あんな風に身体を張ってまで守れはしないわ。貴女、まさか私が優しい人間だなんて思ってた?私が、善意だけで人に手を差し伸べるような、そんなお綺麗な人間に見えでもしたかしら?」

偽悪的な笑みが張り付いた、形良く瑞々しい唇。皮肉っぽく歪められている頬すら様になって見える。
結標さんの手が一房、私の髪をすくい上げてサラサラと流して行く。その手触りを確かめるように。
女にとって、同じ女に自分の髪をこんな風に触られるのは男同士で肩をぶつけられるのと同じ。なのに。

結標「――逆よ、秋沙――」

ギシッと、私の脚の間に結標さんの膝が置かれた。
顔の側に手を突かれた。見下ろされる。もう逃げられない。いや違う。
身体が、手足が、意識が、女としての本能が――私から逃げようとする力を奪う。

結標「下心の一つもなく、ボランティア(無償の愛)で貴女の側にいられるほど私の手は綺麗じゃないの」

クロエの甘い香りが下りて来る。血を想わせる赤髪の二つ結びが触れる。
拒まなくてはいけない。受け入れてはいけない。
跳ね付けて、跳ね除けて、跳ね起きなければいけないのに――



結標「――好きよ、秋沙――」



見入ってしまったから。魅入ってしまったから。

逆らう気力が湧かないほどに、抗う言葉の行方を見失うほどに。

―ただ、結標淡希(あなた)が綺麗だったから―
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/20(木) 20:08:35.70 ID:OVOg5acAO
〜秋沙と淡希3〜

わかってる。恋だ愛だで救われるほど、私達の背負っているものは軽くないと。

わかってる。何か一つ歯車が狂えば止まってしまう時計が、新しい歯車を加えた所でその針を進める訳ではないと。

わかってる。こんな弱味に漬け込むような形で想いを告げるだなんて卑怯だって事くらい言われるまでもないと。

姫神「――どうして。私なの」

結標「おかしな事聞くわね――貴女だからよ」

綺麗なだけの手でこの娘が守れないなら、喜んで差し出そう。
この汚れた手で、血に濡れた手で、何度だって。差し伸べるから。

姫神「私達。女なのに?」

結標「私だってそっちの気なんてないわ。クローゼットの中身見たでしょう?」

素肌に絡むシーツ、脱ぎっぱなしの服、こうしていると、私の香りが移ってしまうわね。

姫神「――なら。どうして?」

結標「口数と一緒にボキャブラリーまで減っちゃった?こんな時に“どうして”ばっかり聞かないで」

全てを無くした貴女、何も持っていない私、お互いに持ち寄れるのは、お互いをあたためる事も出来ない低く冷たい体温だけ。
お似合いだわ。私の形に合わせて歪んでいる貴女、貴女の形に合わせて歪(ひず)んでいる私。

姫神「“なぜ”」

結標「貴女が、私にキスしたのと同じ理由――姫神秋沙(あなた)が貴女(ひめがみあいさ)だからよ」

姫神「答えに。なってない」

結標「頭で考えるものでもないでしょ?こういうの」

鍵の下ろされた扉、引かれたカーテン、こんな所を小萌に見られたら卒倒するわねと笑う私、こんな所を吹寄さんに見られたら気絶されると無表情の貴女。
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/20(木) 20:10:08.42 ID:OVOg5acAO
姫神「淡希のくせに。生意気」

結標「貴女ね…私の方が年上なの忘れていないかしら?」

ねえ、私は貴女が好き。同時に思う。貴女は本物のサディストだって。
こんな時すら『好き』とすら言ってくれない貴女。嘘ですら『愛してる』とは言ってくれない貴女。

その一言で、私はいくらでも血を流せるのに。敵であろうと自分であろうと。安っぽく、誇らしげに。
きっと私はマゾヒストで、ナルシストで、ペシミストなんでしょうね。
自分ではもっとリアリストだと思っていたのに。

姫神「そんな顔も。出来るのね」

結標「…誰がそうさせてるのよ」

貴女は残酷(やさしい)ね秋沙。どうしてここまで言って、ここまでして、貴女に届かないの。
貴女を守りたいのは私なのに、まるで私が貴女に護られているみたいじゃない。
泣きたくなるじゃない。一番泣きたいのは貴女のはずなのに。

姫神「私以外の。誰にもそんな顔しないで」

結標「誰にでも尻尾振る犬みたいに言わないでくれない?」

姫神「そう。貴女は猫っぽい。人に懐かない野良猫」

結標「私を餌付けしたつもり?引っ掻くわよ」

姫神「石狩鍋も。猫っぽい貴女に合うと思ったから。骨の多い魚は。嫌いだと言っていたから」

わかってる。貴女の心に開いた冥い穴は、貴女自身が感情にも言葉にも表現出来ないほど大きい事が。
けれど、それほど大きな穴なら…私にも入り込む余地はあるかしら?
隙間を作っておくほど広くもない私の心に、いつしか貴女の居場所が生まれたように。
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/20(木) 20:11:42.16 ID:OVOg5acAO
結標「猫は首輪じゃ繋げないわよ。束縛されるのが大嫌いなんだから」

姫神「餌付けもダメ。首輪もダメ。なら。なにならいいの」

サラサラの私の赤髪、ツヤツヤの貴女の黒髪。まとわりついてくすぐったくて、少し心地良い。
切ないくらい静かな初夏の昼下がりが、酷く耳について離れない。

結標「…一緒に寝てくれるだけでいいわ。貴女の側で、私の側で」

姫神「いい」

吊り橋効果という言葉がある。ハリウッド映画にありがちな、ピンチに陥った男女が危機的状況に覚える胸の高鳴りを恋だと錯覚するそれだ。
見る人間が見れば、今の私達だってそんなものだ。それに唾を飛ばして反論出来るほど私達は綺麗でもなんでもない。
それくらいの分別はつくし、それぐらいのわきまえはある。

結標「この先も、ずっと一緒にいて」

姫神「猫は。死期を悟ると姿を消すもの。違う?」

結標「…こんな時くらい、嘘ついてよ。秋沙」

でもそれは言葉だ。ここには運命(ロメオ)に見放されたロザラインと、運命(ロミオ)に見離されたジュリエットしかいない。
あの時、避難所の屋根から見上げた月にでも誓えば良かったと思わなくもない。

姫神「私も。貴女と。一緒にいたかった」

結標「…どうせつくならもっと上手く騙して。心がこもってない」

姫神「どうしたら。信じてくれる?」

結標「そうね…」

ねえ神様。そこで見てるなら聞いて。

貴方が助けてくれないなら、私が勝手にこの子を助ける。

貴方が救ってくれないなら、私が勝手に救われてやる。

貴方が守ってくれないなら、勝手に手出ししないで。だから



結標「…キスして…」



――だから最期の未来(バッドエンド)くらい、私達(じぶんたち)で選ばせて――
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/20(木) 20:14:40.43 ID:OVOg5acAO
〜姫神秋沙〜

女の子同士でするキスは、傍目で見るほど当人達にとって特別な感慨を持たない。

あるとすれば、それは疑似恋愛の代償物か、男女の行為の代替品。

そしてそんな行為に耽る自分達の、マゾヒスティックな呪われた性を自分で嘲うようなそれ。

けれど、それも構わないかなと姫神秋沙は思った。

結標淡希は寂しさのジレンマから心の扉の鍵をかけ忘れた。自分はその中に転がり込んでしまった。

自分は過去のトラウマから心の扉の錠前を壊してしまった。結標淡希はその中に飛び込んできてしまった。

姫神「(まるで。鏡の迷宮)」

そこに見えるのに触れられない。何が実像(ほんとう)で何が鏡像(うそ)かもわからない。
地図も持たず、入口から間違え、出口すら見えない私達はまるで迷子のようだと思う。

姫神「(好きなだけで。いられたら良かったのに)」

この吸血殺し(ディープブラッド)がなければ。何度そう思っただろう。
歪みとは、目に見えた形ばかりに現れるものでもないとも思い知らされた。

手に、額に、頬に、瞼に、首に、唇に、キスを落とす度に思う。
この壊れてしまった学園都市(せかい)で、壊れてしまった学校で、保健室で、締め切ったカーテンの中でこうしている自分。

暗がりに逃げ込む事すら出来ずに、夏の青空が広がる中で、退廃的な傷の舐め合いをしている自分達が酷く自虐趣味に感じられて、自傷行為にも似たキスを繰り返している。

姫神「(私達って。救われない。けど)」

小萌から盗み飲みして、結標が偽造IDで買って来たビールを思い出す。
苦くて、不味いだけなのに酔ってしまう。恋愛すら、上条当麻への秘めた思いを一度抱いたきりなのに――
もう心中を間近に控えた男女の心待ちがわかってしまう自分が嫌になる。しかし――

姫神「(最期は。私が)」

この笑劇に、喜劇に、無言劇に、悲劇に、幕を下ろす。
終わらせる。バッドエンドが来る前に、自分の手で幕を下ろす。



――逃れ得ぬ死が、二人を分かつ前に――
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/20(木) 20:16:26.52 ID:OVOg5acAO
〜とある高校・保健室前〜

リトヴィア『状況はよくわかりました。では私からイギリス清教に働きかけます。こちらは私に任せて。貴女は貴女の聖務を果たしていただいて結構ですので』

オリアナ「来日してたった一日でこれよー?流石のお姉さんもどぎまぎしちゃったわ。いきなりシャワールームに踏み込まれちゃったみたいに」

リトヴィア『卑猥な発言は控えて下さいオリアナ=トムソン。イギリス清教からも――』

オリアナ=トムソンは嘆息していた。能力者や原石の『水先案内人』を1日していてわかった事…
それはこの街が外部勢力から下着姿で寝室へ誘う女のように無防備である事。
そして『持ち出されて危険な原石』は三つ。

一つは『幻想殺し』の上条当麻。しかし彼は今現在行方不明であり、代理人たる雲川芹亜をして原石に含めるべきではないと言う事。
さらに彼と手合わせしたオリアナ自身がわかっている。彼ならば問題ない。

二つは『世界最高の原石』削板軍覇。彼の戦力は絶大かつ強大であり、戦力的に今現在のグノーシズム(異端宗派)では手に負えず手に余る事。アウレオルス=イザードが『死んだ』今、グノーシズムですらおいそれと手は出せない。

問題は三つ目…不老不死にして無尽蔵の力を秘めた『吸血鬼』を呼び寄せる姫神秋沙だ。彼女は他の二人と違って戦力がない。
加えて魔術サイドの禁忌もへったくれもない異端宗派が吸血鬼を利用すれば十字教に多大なダメージを与えかねない。戦力的に魔術サイドが虫の息の今ならば瓦解の可能性がある。

オリアナ「うう〜ん…以前の事があるから顔を出せた義理じゃないけど、お姉さんもお仕事なのよね」
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/20(木) 20:19:37.70 ID:OVOg5acAO
何とか魔術師二人から辛くも逃れたようだがそれすら時間の問題だろう。

ならば最も入手難易度が低く、かつ十字教に壊滅的ダメージを与える吸血鬼を呼び寄せる吸血殺し(ディープブラッド)を保護するにはどうするか?答えは一つだ。

コンコン

オリアナ「はぁい?しどけない寝姿を晒してないなら入っていいかしら?」

姫神「いい。もう開いてる。けれど静かに」

オリアナ「うふふ…それじゃあ失礼させてもらうわね?」

室内には体操着の姫神と、ベッドで眠り込んでいる結標…そこでオリアナはふと思う。
眠っているのは姫神秋沙ではなかったのかと。しかし――

オリアナ「お姉さん、大事なお話があるんだけれど…二人っきりで話せないかしら?(あら?この香りクロエ?)」

この時、オリアナの目は適度な余裕とゆとりを保っていながらも『運び屋』のそれだった。

姫神「わかった。表で」

その時、姫神の目は何かを『決意』したそれだった。

もう自分を血塗れにした相手に怯えていない。それは確かに『決意』だった。

奇しくも、その十数分後…互いの利益が一致した事を知らない



結標「…秋沙…」



結標淡希の無邪気な寝顔だけを残して――
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/20(木) 20:25:56.23 ID:OVOg5acAO
>>1です。今回の投下はこれにて終了です。たくさんのレスありがとうございます。

移転したり鯖落ちしたりと不安もありましたが、やはりいただけるレスは励みになります。とても現金だなと自分でも思います。本当にありがとうございます。

そして>>310さんの楽曲も助けになりました。普段はJanne Da Arcかヴィジュアル系ばかり聞いているので新しい刺激になりました。

それでは失礼いたします。
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 21:17:21.58 ID:T2ym9qkio
乙!主役二人はもちろんだが、オリアナがこんなに出てきて嬉しい限り。イギリス清教勢も出てくるのかな。wktk
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 21:30:18.50 ID:ItL6kEAAO
乙でした。どんどん引き込まれていくな…
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 22:57:29.72 ID:hcBtaWFoo
悲しくて切ないな
互いに想い合ってる筈なのに
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 06:24:32.71 ID:2azTGb3DO


多少変えたテイストの前と後の違いを教えてください
ネタバレになるのなら最後にでもお願いします


324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 19:06:04.66 ID:bE8YRmTAO
>>323さんへ。>>1ですが、本当に雰囲気を曲に合わせてみただけですので、特に内容に変更点はございません。
毎回先の事もエンディングも決めていない常に一発書きのノープランSSですので…

今夜の投下は21時頃になります。お品書きは…

・とある高校の夕食風景(ステイル視点、オールキャスト、絹旗&フレンダ多め)

・とある苦悩の螺旋階段(姫神視点)

・とある運び屋の職業倫理(オリアナ視点)

です。また後ほど…それでは失礼いたします。
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 20:58:46.84 ID:bE8YRmTAO
〜とある高校・全学連復興支援委員会詰め所〜

カチンッ…パチン。カチンッ…パチン。

ステイル「(嗚呼…煙草が吸いたい)」

17:15分。ステイル=マグヌスはベースキャンプと化しているサーカステントの中でライオンハートのジッポーをいじっていた。
兎にも角にも口寂しいのである。しかし吸えない。スタンド灰皿が目の前にあるにも関わらずに、だ。
表面に刻印された“ハウル”が恨めしそうにステイルを睨んでいる。そして当のステイルはと言うと…

小萌「………………」キュッ

ステイル「(嗚呼…とても吸える雰囲気じゃない。ニコチンのない世界以上の地獄だ)」

唇を噛み締めスカートの裾を握り締めてパイプ椅子に座っている月詠小萌を見やって嘆息する。
『運び屋』オリアナ=トムソンが仮初めの『水先案内人』ではなく『本業』に乗り出してからこうだ。
無理からぬ話ではない、とステイルは推察する。

ステイル「(噛み煙草も切らしてるな…水煙草なんて持って来てすらいない…嗚呼、この灰皿の中の吸い殻に手を突っ込んでしまいそうだ)」

昨夜から今朝にかけての事件、オリアナの判断とステイルの決断、それを覆すだけの力が優秀ではあっても一教師である彼女にはないのだから。
それは彼女が無能だからでも無力だからでもない。これは『魔術サイド』の問題だからだ。

ステイル「(それにつけても…)」チラッ

削板「ふんならばあああぁぁぁ!!さあ運ぶぞ!武士は食わねど根性だ!だが補給と情報を蔑ろにするヤツに戦は出来ん!行くぞおおおぉぉぉ!!」

雲川「前に言ってた三点バーストマグナムまだ持ってない?あのバカ大将を撃ってやりたいんだけど」

服部「ありゃダメだ痛がるだけで効かねえ。それに机に座ってあれこれ指示を出すのに向いてない。あんたがリーダー張れば良かったんじゃねえのか?」

雲川「私、黒幕でいたいんだけど」

避難所に運び込まれてくる、食材の入ったドラム缶をブルドーザーのように次々と運び込んでくる削板軍覇。
それを復興支援委員会副委員長席で冗談に聞こえない声音で睨む雲川芹亜。
呆れ顔でそれを見やりながらも米俵を両肩に抱えてついて行く服部半蔵の姿が見えた。
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 20:59:33.76 ID:bE8YRmTAO
ステイル「そろそろ夕食だ。並びにいかなくていいのかい?」

小萌「…姫神ちゃん達がどうなるか、それを聞いてから先生は行くのですよー!」

前半はやや重いトーンであったが、尻上がり気味にテンションを上げてステイルを振り返る小萌。
その様子にステイルは僅かな安堵と微かな心痛を覚える。
身長こそ小萌が二人分でステイル一人分だが、年齢はステイル二人分で小萌一人分である。

ステイル「それは構わないんだが…はたして彼女が貴女の分まで残してくれるかな?」チラッ

禁書「離して!離すんだよ短髪!今日はトルコライスなんだよ!この匂いはもはや暴力かも!」ダッ

御坂「その短髪って言うのやめてよね!ってなにフライングしてんのよ順番守りなさいよゴラアアアァァァ!!!」バッ

寮監「列を乱すな馬鹿者共!!」ゴキャッ

御坂妹『そこの女生徒、キリキリ千切りに勤しんで下さい、とミサカは働かざる者食うべからずの精神でアナウンスします』キーン

言わずと知れた食欲魔人インデックスと、それを止めようとして吶喊して行く御坂美琴、更に二人を軽く捻る寮監、そして放送席の窓からスピーカー片手に呼び掛ける御坂妹。
その声音の行く末は今や戦争さながらの調理場と炊事場である――

フレンダ「結局、千切りとみじん切りの違いってなんな訳よ!?うあっ痛っ!」

絹旗「口より超手動かして下さいフレンダ!あがぁぁ手首が!肘が超痛いです!」

滝壺「大丈夫。わたしはそんなキャベツも刻めないふれんだときぬはたを応援している」トントントントン

麦野「使えないわねーアンタ達。滝壺を見習いなさい。ってアンタ身体大丈夫なの?今日もだったんでしょ」タンタンタンタン

滝壺「ありがとうむぎの。もう“体晶”を使わなくもいいから大丈夫。仕事も観測だけだから第六位にばとんたっち」ザザー

麦野「…そ。ってそこの二人ー。伸びてたらアンタら刻むよ。嫌なら働きな」ギランッ

フレンダ・絹旗「(超)なんな(訳)よそのキャベツの山盛り!!?」

麦野・滝壺「旦那持ち(待ち)を舐めんな(ないで)」

『アイテム』勢である。指を切ったフレンダ、腱鞘炎状態の絹旗最愛の16倍の速度で32倍のキャベツを刻みながらも手を休めない麦野沈利と滝壺理后。
料理スキルまでレベル5かと一緒に落ち込む二人の脇を――
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 21:02:11.45 ID:bE8YRmTAO
佐天「お、重い〜」

初春「さ、佐天さん!そっちもう少し上げて下さーい!」

学生A「お、おれ持つよ!」

学生B「いやオレが!!」

学生C「いやいや俺が!!!」

学生A・B「「どうぞどうぞ」」

学生C「えっ!?」

介旅「ああ…」

工山「うう…」

スキルアウトA「なにやってんだアイツら…キャッキャウフフしやがって」

スキルアウトB「…俺らもあんなのしたかったよな…ボーイミーツガール」

スキルアウトC「言うなよ…悲しくなるから…はあっ」

郭「コラー!」

スキルアウトABC「「「げえっ、郭!!!」」」

吹寄「つまみ食いは禁止だと言ったろう!待ちなさい!コラ!待て!!」

青髪「(第八位が丸投げするからこの時間までオマンマ食い上げなんて言えるかいな!僕お腹空いてんねんてホンマに!)」

絶対等速「ムショから出たと思えば…ううっ、シャバの飯があったかくて美味ぇ」

配膳から料飲へ駆け回る学生達。学生もスキルアウトも刑務所帰りも囲む卓も食べる物も同じである。
同時に、夕餉にありつく者もいれば、その影でその場を守っている者達も――

黄泉川「わかったじゃん。そういう事なら23学区まで警護につくじゃん…今朝の事もあるじゃん…」

手塩「私も、付こう。量は質に、質は量に、数の論理は、そのまま、当てはまる」

固法「今日はなんだか、動きがなさ過ぎて少し不気味だわ」

白井「…嵐の前の静けさ…ですの?」

警備員(アンチスキル)と風紀委員(ジャッジメント)である。
和やかかつ騒がしい夕餉とは対照的に、こちらはやや不穏な気配にピリピリした空気を醸し出しているのがわかる。

そして学園都市の“表”を守る者がいれば、同時に“裏”を担う者もいる。例えば――
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 21:02:58.70 ID:bE8YRmTAO
垣根「今日の鼠捕りは何匹かかった?」

心理定規「0。私、鉄網、心理掌握(メンタルアウト)合わせてね。昨日は二人は紛れ込んでいたのにパッタリ」

垣根「…臭えな。ネズミがぶら下げたエサからケツまくるのは泥船から逃げる時か集団自殺(レミングス)の時くらいのもんだって決まってる。匂うぜ」

心理定規「貴方、また目が昔に戻ってるわよ?可愛い花飾りのお姫様の前じゃダメよそんな顔しちゃ」

垣根「五月蠅え。で、顔見せんのも恥ずかしがるシャイな女王様はなんつってた?」

心理定規「レベル5の仕事と、自分の派閥以外は興味がないって」

垣根「ハッ!同じ中坊でも飾利と違って可愛げがねえな。あ?もう中坊じゃねえのか?まあいい。あんなクソ女にマジでムカついても仕方ねえ、メシ食うぞメシ」

心理定規「食事の前にケツだのクソだの言わないで…ノワール小説の主人公みたいよ」

垣根「悪かねえがあんな品のないもんと一緒にすんじゃねえよ。どうせなら悪漢(ピカレスク)にしろ馬鹿野郎。…飾利ー!一緒にメシ食おうぜー!」

心理定規「(…心の距離どころか貴方と距離を置きたいわ…)」

避難所内の住民を装って侵入してきたスパイの心の中を見通し、炙り出して処刑するのは『スクール』。
避難所外の侵入者を始末する『アイテム』の分業体制である。群れを守るオスライオン(垣根帝督)と狩りに出るメスライオン(麦野沈利)の双璧という最終戦争前には有り得ない布陣だ。

心理掌握『………………』

『心理掌握』は現学園都市上層部の意向を受けた代理人でもある雲川芹亜に引っ張り込まれて来た。
望むと望まないに関わらず。そして行き場を無くした派閥の女生徒達の面倒を見るために。
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 21:04:04.26 ID:bE8YRmTAO
フレンダ「結局、リタイアって訳よ!痛たたた!?もっと優しくして欲しい訳よ!」

芳川「自分に甘い子ね…それに私は元研究者であって医者じゃ…」

絹旗「超ドロップして来ました!元リーダー超おっかな…あああ超痛いです超痛いです超強く巻き過ぎです!」

木山「すまない。私は元科学者崩れのカウンセラーもどきであって医者では…(ふむ…また隈が広がってしまった…睡眠不足か…今日はここに泊まるか)」

冥土帰し「ふむ?今日は姫神君はおやすみのようだね?これくらいなら彼女の方が上手いんだがね?」

救護所に駆け込んで(逃げ込んで)きたフレンダ達を手当てするのは芳川桔梗。
彼女は以前からの知り合いと8月31日の事件が縁で冥土帰しの元で働いている。

木山春生も今は意識を取り戻した子供達の教師、『置き去り』の子供達の養母、この避難所では戦災後の学生達のカウンセラーとして各地を巡っている。

冥土帰しは魔術・科学サイド、第三勢力の関係なしに負傷者達を救った後も第七学区に残り医師として尽力している。
それはひとえに彼が患者のいる所ならば戦地でも向かうような性分もある。しかし

冥土帰し「(見えるかい旧き友よ?…人々の日々の営みが。君が作り、君が壊し、君が残したこの学園都市が――)」
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 21:04:45.27 ID:bE8YRmTAO
最終戦争後、行方不明ながらも生存が確認されているのは『上条当麻』『一方通行』『浜面仕上』『××××××××』の四人。

フレンダ「結局、絹旗が現リーダーなんだからビシッと麦野に言ってやれば良い訳よ!元リーダーでちょっとキャベツが刻めるくらいでどや顔すんなって!」

絹旗「キャベツも刻めない現リーダーって超馬鹿にされるに決まってます…なんですかいっつもシャケ弁ばっかりなのにあの超理スキル…」

フレンダ「結局、旦那の帰りを待ちつつ大飯食らいを養ってるから必然的に腕も上がるって訳よ!」

絹旗「滝壺さんも浜面の帰り超待ってますもんね…あんなに可愛い彼女ほったらかして飛び出して行くとか超女心わかってないです!帰ってきたら超お仕置きです浜面」

フレンダ「…結局、前から思ってたんだけどアイテムって職場恋愛OKだったけ?そこんとこどういう訳よ現リーダー」

絹旗「元リーダーが寿退社みたいなもんじゃないですか!!超示しつきませんよ!!」ギャーギャー

だが生死不明となり、未だ遺体も目撃証言もない…冥土帰しと袂を分かった旧友であり、それでも見捨てられない患者の帰りを冥土帰しは待っている。

冥土帰し「(見えるかい?――アレイスター・クロウリー…)」

人々の営みの中を、静かに――待っているのだ。そして――
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 21:06:50.61 ID:bE8YRmTAO
〜とある高校・螺旋階段踊場〜

“アウレオルス=イザード”

その名前は、もう思い出す事も少なくなってしまったけれど

それでも、私にとって決して忘れる事の出来ない名前。

私を救い出そうとした手で、私を葬り去ろうとした男。

私が手を結ぼうとした手で、私と手を切った男。

その名前が今、何故、どうして――目の前の女の人から口から出て来るのかわからなかった。最初は

オリアナ「お姉さんも、まさかこんなに貴女にラブコールが寄せられてるだなんて最初は思ってなかったの。けれど今は違うわ」

豪奢な金糸の髪を巻いた、同じ女としても敗北と嫉妬を覚える者もいるであろう曲線の持ち主はやや微苦笑を浮かべていた。
私では望むべくもない多彩な感情表現が、確かに異国の人間なのだなとその場に相応しくない感想を持ったりした。

オリアナ「貴女という果実に群がる悪〜い虫から貴女を遠ざけなくてはいけないの。リンゴの収穫って知ってるかしら?虫や鳥を避けるために布をかぶせ、時に嵐から守るためにより分ける事も必要なのよ」

身振り手振りを交えながら流暢な日本語を話し、私に伝えようとする意図。
アウレオルスがかつて所属していたグノーシズム(異端宗派)なる一派が私を狙っている事。
この半壊した学園都市ではもう私を守り切れない事。
かつて私を血塗れにしたこの女性が『運び屋』である事――

オリアナ「貴女は甘〜い蜜の滴る禁断の果実…彼等にとっての黄金の林檎…お姉さんのお仕事は、貴女というゴールデンアップルを安全地帯まで無事“運ぶ”事なの…花開いた貴女を誰にも手折られないように」

所々、淫猥な比喩や表現を織り交ぜて語られたその言葉の数々を私は吟味する。
運び屋、安全地帯、そして私。ここまで言われれば私にだってわかる。
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 21:07:42.92 ID:bE8YRmTAO
姫神「私は。どこへ行けば良いの。貴女は。私をどこまで連れて行ってくれるの」

オリアナ「…イギリス、ロンドンよ…」

その女性は言った。私の吸血殺し(ディープブラッド)を封印するための十字架がイギリス清教の物であると。
大覇星祭の際の間違いと諍いの元になったというこの十字架…それを首から下げているという事はイギリス清教の保護を受けられるという事らしい。

オリアナ「お姉さんも噂でしか知らないけど、元ローマ正教のシスターはそうしてイギリス清教の加護を受けたそうよ?お姉さんの服の脱がせ方より強引な理屈ね…けど、それはこの際どうでも良いと思わない?」

女性は続ける。十字教の異端宗派がクーデターを起こすのには吸血鬼を呼び寄せる私の血が必要なのだと。
そうされる前に先手を打って私を保護・回収したいのだと。
勝手な理屈とも思った。保護された先で私がどんな扱いをされるだなんて誰にも保証出来ない。けれど。

姫神「わかった」

オリアナ「…お姉さん、あんまり物分かりよくスムーズに行くより少しくらい焦らされたり拒まれると思ったんだけど?」

姫神「もう。構わない。貴女が。敵だろうと味方だろうと。ここから連れ出してくれるなら」

渡りに船だと思った。捨て鉢でやけっぱちな気持ちもなくもなかった。
もう私は麻痺していた。だからこそ、かつてこの私を血塗れにした相手の言葉に唯々諾々と従った。
この女性が味方だと信じるも敵だと疑うもなかった。
多少、相手を軽んじるような発言をしてしまったけれど。

姫神「(――淡希――)」
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 21:08:44.67 ID:bE8YRmTAO
その女性が言う。出発時刻、同伴するステイル=マグヌスという魔術師、小萌先生の名前で私は反応したけれど――

姫神「小萌先生には。会っていかない。泣いてしまうかも知れないから」

オリアナ「………………」

姫神「ただ。伝言だけ。伝えて欲しい」

私の頭の中は冷たく、胸は冷えていた。他人事の事務処理のように淡々と告げる。
自分の身の安全も、先行きも、絵空事のように聞き、話した。
現実感がまるでない。まるで抜け殻か操り人形のような私を、その女性は辛そうに見つめていた。

オリアナ「…最後に、お別れを告げたい人はいるかしら?しばらく日本に帰ってこれないでしょうから、お姉さん今夜中に出られさえすれば――」

姫神「…なら。一人だけ。最後に過ごしたい人がいる。でも。お別れはいわない。きっと。止めるだろうから」

思う。小萌先生とは違う、ただ1人の同居人の寝顔を。
命より先に死に絶えてしまった私の心は、彼女の元に置いて行きたい。
もう二度と、学園都市の土を踏めなくなっても良いように。

姫神「(ごめんなさい。淡希)」

荷物は置いて行く。身体一つで海を渡る。あの家に取りに帰る時間があれば、それだけ彼女と過ごす時間が薄まる。
とんとん拍子で進む摺り合わせと打ち合わせが、ひどく虚しく覚えた。そして

姫神「(もう。ご飯を作ってあげられない)」

安堵があった。私はもう淡希にご飯を作ってあげられない。
一緒に寝てあげる事も、キスしてあげる事も、何一つ出来なくなる。
だから、これは守られっぱなしだった私に出来る、たった一つの冴えたやり方。それが私の安堵。

姫神「(もう。一緒にいられない)」
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 21:09:42.23 ID:bE8YRmTAO
このままだと、遅かれ早かれ淡希は私のために命を落とす。
手足を失うような取り返しのつかない怪我もするかも知れない。
しかし私が命を絶てば淡希の戦い全てを否定する。それを無駄にしないためには離れて生きれば良い。
もう十分だ。この一週間に満たない共同生活だけで、私は生きていける。たった一人でも。

姫神「(ありがとう。淡希)」

私は嘘をついた。ずっと一緒にいると、離れないと言ったのに。
けれど、あの時の気持ちは嘘じゃない。信じてもらえないだろうけど。
本当は、本当に、本心から――

オリアナ「…使ってちょうだい…せっかくの美人が台無しよ?」

そこで、その女性がハンカチを差し出して来た。
わかっている。けれど受け取れない。この頬を伝う物を拭ってしまいたくなかった。
受け取れば、置いて行く淡希でなく、離れて行く自分を慰めるような物だから―――
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 21:11:31.37 ID:bE8YRmTAO
〜螺旋階段踊場・オリアナ=トムソン〜

オリアナ本来の仕事…それは吸血殺し(ディープブラッド)を英国まで護送する事。
人手不足のローマ正教から雇われ、手を結んだイギリス清教の勢力圏まで『運ぶ』事。

『水先案内人』は、学園都市の様子を見ながらもう少し脱出計画を練り上げるための仮初めの姿。
復興支援委員会に手渡したハザードマップはそのほんの一端。
これはオリアナの、ほんのささやかな善意であったが――

オリアナ「(お姉さんも人が悪くなっちゃったわあ…夜の駆け引きは嫌いじゃないけど、騙す悪女みたいにしちゃって)」

結果として、来日した翌日にはもう姫神を連れて帰国せねばならなくなってしまった。
モノレール襲撃事件、アンチスキルの1支部を壊滅させる手口からグノーシズム(異端宗派)にはなりふり構っていられない余裕の無さを感じ取ったが故である。

オリアナ「(イギリス清教の本拠地なら、どんなに必死にがっついても夜這いはかけられないわよ?乙女のカーテンは影は透けても分厚いものなの)」

必要悪の教会(ネセサリウス)本部ならば天草式十字凄教、アニェーゼ部隊、そして『聖人』神裂火織を初めとする腕利きの魔術師がごまんといる。
魔術に対する防衛知識も皆無に等しく、防衛機能もがた落ちしている現在の学園都市に匿うより何倍も安全だ。

オリアナ「(…お姉さんだって、これがエゴイズムと思わくもないけど)」

姫神をイギリス清教・ローマ正教が人手不足の中匿うのは慈善事業でも宗教的支援でもなんでもない。
小規模とは言えグノーシズム(異端宗派)に吸血鬼を呼ばれ、魔術的な軍事目的に使われてクーデターを起こされるのを未然に防ぐためだ。
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 21:12:23.86 ID:bE8YRmTAO
だが、オリアナもその建て前(エゴイズム)を断罪するほど子供でもない。
どれだけ軽い物言いであろうと、彼女はプロなのだから。

オリアナ「(さーて…お姉さんのお仕事、始めさせてもらおうかしら?)」

まずはイギリス清教側のエージェントたるステイル=マグヌスとの打ち合わせだ。
ローマ正教はイギリス清教を、イギリス清教はローマ正教を、それぞれ手を結びながらも互いに監視を怠らない。
ステイルは協力者でもあるし同時にお目付役であり、ステイルからすればオリアナもそうだ。

オリアナ「(その前に…彼女の担任の先生にも伝えなくっちゃね。プラス、ラブメッセージ付きで)」

姫神秋沙には身寄りがない。それが国外に連れ出すにあたりこの際好都合だった。
月詠小萌は最後まで反対し続けたが、姫神と、生徒達と、避難所の人間の安全を引き合いに出して折れてもらった。
最後には童女のように姫神(せいと)の一人も守れない自分を嘆いていたが…

オリアナ「(…ごめんなさいね…)」

それは小萌が無力でも無能だからでも無知だからでもない。
魔術サイドという、住んでいる世界そのものの違いだからだ。
そう胸で呟きながら、オリアナ=トムソンは螺旋階段を下り姫神と別れた。

オリアナ「(長い夜になりそうねー…ふふっ、お姉さんも何かお腹に入れてこなくっちゃ)」

個人としての善なるオリアナがどれだけ少女の行方に胸を痛めても、『運び屋』のオリアナは冷静にプロとして動かなくてはならない。そう決めている。


――それこそがオリアナ=トムソンの中の、担うべき礎(ルール)なのだから――


337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/21(金) 21:15:32.74 ID:bE8YRmTAO
>>1です。本日の投下はこれにて終了となります。
レスを下さる方、読んで下さる方、ありがとうございます。
私の少ない引き出しに色んなネタを下さるのは他ならぬ皆様です。いつも良い刺激をありがとうございます。

それでは失礼いたします。今まで通りノープランですが、これからもお付き合いいただければ幸いです…
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 21:25:38.01 ID:PrBKuk54o
いつも思ってるが、これがノープランってまじかよ…。乙です。

ともあれイギリス清教ロンドン女子寮wwktk
べっ…別にシェリーを出して欲しいなんて思ってなんかないんだからっ!
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 21:36:54.59 ID:Jn24+8XAO
乙です!
何気にイコスピさん出ててワロタwwww
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 22:29:38.73 ID:6UmYyY7Oo
原作近刊読んでないんだけど、
「××××」っては原作由来?
このSSの設定?
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:07:10.55 ID:5kLSKF8AO
乙!!
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 02:57:51.42 ID:ij3fgAvqo
色々ゲストキャラ出てくるなぁ
行方不明の四人は多分この話には出てこないだろうし詳細が明かされる事も無いのだろうけど気になるなww
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 10:01:07.60 ID:/vYDdzNU0
BGMには『奈落の花』がよく似合う
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 11:11:19.81 ID:Mh2TFhzSO
旦那を待つ主婦な麦のん可愛いのぅ。
昨日久々に偽善使い読んだから尚更だぜ。
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 16:54:29.25 ID:zpEVZyvAO
>>1です。たくさんのレスをありがとうございます。今日は休日出勤ですので投下はいつも通り21時頃になります。

いただいたレスの中から、今回は『奈落の花』をアクセントに微調整させてもらう物になると思います。

それでは今夜のお品書きになります。

・トルコライスの女
・ニューシネマパラダイス
・月は無慈悲な夜の女王
・ムーブポイント〜反逆のあわきん〜
・髪留め

それでは後ほどよろしくお願いいたします。
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 20:53:04.75 ID:zpEVZyvAO
〜とある高校・保健室〜

結標「あらっ…秋沙、こっちのと交換してもらえないかしら?豚の脂身苦手なのよ」ヒョイ

姫神「ダメ。私ももう。豚カツを食べてしまったから交換出来ない。代わりに。サラダを」ポイッポイッ

結標「ミニトマトばっかり押し付けるのやめてもらえないかしら?ってなんなのよこのサラダの量」ムシャムシャ

姫神「わからない。キャベツの量が。ご飯より多い」モシャモシャ

18:37分。二人は午後から入り浸っている保健室にて夕食を取っていた。
二人揃って窓辺に腰掛け、夜空に揺蕩う満月を見上げながら素足を投げ出して。
その手には豚カツ・サフランピラフ・ナポリタン・夏野菜サラダの乗った長崎風トルコライスである。

姫神「煮物ばかりだって。放送室のアナウンサーが愚痴ったら。献立を仕切ってる人が怒って。今夜はこれになった。私は大阪風の方が。好きなのに」

結標「ああ…貴女確か関西出身だったかしら…その割に話し方にイントネーションとかクセがないのね(ボソボソしゃべるから関係ないのかしら)」

姫神「そう。私は京女。そして貴女は今。とても失礼な事を考えた」

結標「(ギクッ)京女って何よその新しいキャラ付け…今朝だって小倉トースト食べてたじゃない。あれ名古屋じゃないの?」

姫神「食べ物に。国境はない(キリッ」

結標「国境じゃなくて県境でしょうそれを言うなら!」

柔らかく爽やかに吹き込む夜風が二人の前髪を揺らして行く。
グラウンドでは座り込んでだべる者、未だに光の落ちないテント、ドラム缶にゴミを放り込んだ焚き火をする発火系能力者もいる。
二人は放り出した素足をプラプラ揺らしながら他愛もない話題に華を咲かせていた。
それこそ本当に、気の合う十代の女友達のように。
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 20:54:11.75 ID:zpEVZyvAO
結標「大阪風トルコライスって…これとは全然違うの?たこ焼きとかお好み焼きが乗っているだとか?」

姫神「全然違う。まず。ライスがサフランじゃなくてチキンライス。そこに卵焼きを敷いて。豚カツを乗せて。デミグラスをかけて。出来上がり」

結標「ふーん…美味しそうね。今度作ってくれるかしら?」

姫神「………………」コクッ

その問いに、姫神は無言で首肯した。同時に思う。もっと色んなものを食べさせてあげたかった。
好き嫌いはあまりなさそうだが貧しい食生活を送る結標が、自分が消えてしまった後果たして大丈夫なのかと。

姫神「(料理を教えたり。してあげられたら良かったのに)」

年上なのにそういう事にてんで無関心で無頓着。
野菜炒めの一つも作れなくてご飯をよく抜く。
結標の華奢さは他ならぬ姫神自身が一番良く知っている。もしかすれば本人以上に。

姫神「(私がいなくなったら。きっとこの娘は泣く。けれど。淡希はもう大丈夫)」

避難所での水先案内人をする内に、色んな人達と知り合ったり話し始めたりしているのは姫神にもわかった。
我が事ながら無責任だと思わなくもない。しかし月詠小萌もいる。
吹寄制理にも結標を紹介したかった。『彼女』とは言えないから『友達』として。

姫神「(まるで。私が。お母さんみたい)」

生活力の低い年上の恋人、そう内心で姫神は苦笑する。
戦う時の凛々しい横顔が、どうすれば目も当てられないほど溶けてしまうかを姫神はもう知っているから。
しかし、そんな姫神の内心を知ってか知らずか――

結標「秋沙。ミートソースついてるわよ」ペロッ

姫神「…大胆。人に見られたらどうするの」

結標「あら?貴女の困った顔だなんてレアな物が見れるなら安いものだわ。人に見られるくらい」

姫神「…お仕置き」サワッ

結標「!?ちょっ…止めて…そこっ…秋沙ダメッ」
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 20:55:11.11 ID:zpEVZyvAO
クスクスと意地の悪い笑みを浮かべて戯れて来る結標。当人同士にしかわからない制裁を加える姫神。

一見すると年上で動の結標、年下で静の姫神に見えるが、実際の力関係は姫神が主導権を握っている。

結標「秋沙の馬鹿ぁ…誰かに見られたらどうするのよ」クター

姫神「そんな露出の多い格好をしてるから。前から思っていた。貴女は肌を出し過ぎ」

結標「へえ…心配してくれてるの?人をこんなにしといてどの口が言うのかしら。保健室で良かったわ。絆創膏がいっぱいあって」チラッ

姫神「淡希が。つけてつけてって言うから」

結標「…欲しかったから…秋沙の…」ゴニョゴニョ

姫神「M。」

結標「五月蝿い!!」

呼び方が下の名前になって、並んで座る距離が近くなって、意地こそ張れど最後には素直に寄りかかってくる。

それが愛らしく思える。手放したくないと思えるほどに。

恐らく『私と一緒に来て』の一言で結標は姫神についてくるだろう。だが

姫神「(だから。ダメ)」

愛しいからこそ側に置きたがる結標、愛しいからこそ側から離す姫神。

愛情には様々な形がある。それは誕生日のように一人一人違い、同時に全て正しくて全て間違っているとも言えた。そこに――
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 20:57:40.95 ID:zpEVZyvAO
御坂妹『全学連復興支援委員会よりお知らせです。本日19:00より避難所・体育館に於いて上映会を執り行います、とミサカは…あっ』

絹旗『提供は超C映画愛好家、絹旗最愛が超オススメする、超C級ラブストーリー“とある星座の偽善使い(フォックスワード)”!この春上映されたばっかりなのにもう製品化された超ガッカリ具合の――』

御坂妹『放送ジャックしないで下さい、とミサカは奪われたアナウンスマイクを取り返すべく実力行使に出ます…あっ』

フレンダ『結局、娯楽が必要な訳よ!って訳でポップコーンもコーラもないけど暇な人は見に来て欲しい訳よ!』

黒妻『ハッハッハ!オレのブースが占領されちまった!もうどうにでもなれー!』

舞夏『これ兄貴と観に行ったぞー!』

結標「…上映会?」

姫神「そうみたい」

その時、校内放送による入るアナウンス。どうやら体育館で映画の上映会をするらしい。
確かにプロジェクターは生きているし、キャパシティにも今ならゆとりがある。
結標は知らなかったが、週に二度ほどそういう事をやっているらしい。
娯楽の少ない避難所生活の一イベントと言って良いだろう。

結標「…行きましょう秋沙!」グイッ

姫神「えっ。今から?」

結標「今からに決まってるじゃない。それとも食べ過ぎで動けない?」

姫神「(イラッ)」

結標が食べ終えたトルコライスの紙皿をゴミ箱に捨て立ち上がる。姫神の手を引いて。
そこではたと姫神は思う。今夜は最後の夜になる。
なら最後くらい…二人で映画を見た思い出があっても良いではないかと。

姫神「…行こう。淡希。良い場所を。知ってる」

結標「ええ!」

デートもしたかった。ショッピングもしたかった。旅行にも行きたかった。
クリスマスや、バレンタインや、二人だけの記念日を祝ったりしたかった。
けれどもう出来ないから。もう二度と叶わないから。ならせめて――

姫神「(優しい時間を…少しだけ)」

二人の記憶が、思い出に変わる前に。

姫神「(最後は。私が終わらせる)」

その為に打った策は、もう手の中にあるから。
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 20:59:00.70 ID:zpEVZyvAO
〜避難所兼体育館・上映会〜

『私と!テメエの!住んでる世界が!立ってる場所が!どれだけ違うか能天気にぬくぬく生きてるテメエが考えた事が一度でもあるのか上××麻ァァッ!』

『住んでる世界?お前は世界を見て回った事あるのかよ?立ってる場所?――周りを見ろよ!今ここに立ってるだろうが!お前も!!オレも!!!』

結標「(何でかしら…この口と性格の悪いヒロインどっかで見た気がするわ)」

姫神「(どうしてだろう。この俳優。あの人に。良く似てる)」

20:00分。姫神と結標は学生達に混じって体育館での上映会に見入っていた。
なんとか立ち見に回らず、二階部分の渡り通路の手摺り近くに座りながら。
暗がりの中、プロジェクターで踊る閃光や爆音に互いの相貌が照らされる。

結標「………………」キュッ

姫神「(甘えん坊)」

暗がりの中、結標が姫神に自分の手を重ねて握る。
皆、スクリーンに視線を向けている中とは言え大胆だなと思わなくもない。
ただの友達なら気にしなかったが、今なら少しは気になるから。

結標「(あっ…キスした。血の味がするファーストキスかあ…思えば私達の初めてって、私の…ああああああ)」

姫神「(救いの物語。私にはありえないもの)」

映画の内容そのものは、非常にありふれたストーリーだった。
裏社会で生きる年上の女性が、表の世界で生きる男子高校生と出会い恋に落ちるというシナリオ。
最後は、神がスティールメイトした悲劇のチェス盤を、そのまま力技で引っくり返すようなラストだった。
姫神は思う。自分達にこんなラスト(結末)はありえないと。

結標「…ねえ、秋沙?」

姫神「上映中は。お静かに」

結標「静かにさせてみたら?」

姫神「馬鹿」
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 20:59:54.32 ID:zpEVZyvAO
暗闇の中、結標の手を引き暗幕の中へ引き込む。
皆、終盤に差し掛かった物語に目を奪われ誰もこちらを向いていない。
最後だから、大胆にもなれる。もう、これが最後だから。

結標「っ…キス…だけって…!」

姫神「淡希が。声を出さなければいい」

首筋の絆創膏を乱暴に剥がす。もう一度口をつける。してはいけない事を、してはならない場所で、見られてはいけない人目を盗んでする。
ひどく爛れたやり取りだと姫神は思う。もし、別れを人知れず決意しなければ、乱れた共同生活を続けていたかも知れないと。

結標「赤く…なっちゃ…うっ」

姫神「…脚を開いて。淡希」

暗闇の中で抱き合い、暗幕の内で口づける。まるで奈落の底だと姫神は韜晦する。
光の射さない、陽の当たらない、隠花植物のような自分達。
でもそれで良い。全ての花が、太陽の祝福を受けられるハズがないのだから。

結標「…っ…秋…沙…痛い…」

姫神「こういう時。貴女の服装は便利。脱がさなくて済むから」

花は咲いても実は結ばない関係。蕾のまま枯れるくらいなら、咲き乱れて散りたい。
神に摘まれるまでに、運命に踏みにじられる前に。
狂い咲きのような、一つの季節すら越える力も持たない自分達。

結標「―――ッ…!」

姫神「…暗くて。良かったね」

ハッピーエンドは、バッドエンドに向き合う事の出来ない人間の逃げ道だと姫神は思った。
ハッピーエンドを目指す力が自分達にはない。バッドエンドから逃げ回るだけ。
スタッフロールの余韻すら残らない、幕そのものが落ちる…そんな悲劇。

姫神「綺麗にして。淡希」

結標「……んっ……」

指先に這う舌が熱い。指の指紋まで舐めとるような舌使い。
指の股まで零れ落ちてくる唾液。一度落ちてしまって、付け直したクロエの香り。
忘れないでおこう。そう新たに姫神は思い直す。

姫神「いい子」

映画が終わったようで、遠くからエンディングテーマが聞こえて来る。
まばらにパイプ椅子から立つ音が耳につく。時刻は消灯時間を過ぎた21:30分。
映画の内容はあまり頭に入って来なかった。それだけが少し、残念に姫神には思えた。
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 21:01:55.05 ID:zpEVZyvAO
〜とある高校・保健室〜

21:45分。二人はこの一日で根城のようにしてしまった保健室へ戻っていた。
僅かに火照りの余韻を残した結標と、表面上は平然としている姫神の二人きり。
辺りも次第に消灯時間を迎えて話し声や物音のボリュームが下がって行く。

姫神「映画。どうだった?」

結標「う〜ん…キャストやロケ地にばっかりお金かけて中身はスカスカだったような気がするわ。典型的な邦画の失敗作って感じかしら」

姫神「そして。恋愛もののはずなのにアクションシーンがやたらと多かった。あと挿入歌が四本は多すぎる」

この第七学区はほとんど壊滅状態にあるため夜は明かりに乏しく、先程も見上げた蒼白い月が目映いほどであった。
窓辺から見える、第七学区を除く他の学区は戦争前と変わらぬネオンと光に包まれまるでホタルの群れのようで。

結標「けれど、ラストはまあまあで良かったんじゃないかしら?映画って最後はやっぱりハッピーエンドじゃなくっちゃ」

姫神「そう?」

結標「だって後味悪いと思わない?作り物の中でくらい、無責任なくらいのハッピーエンドがあったって良いと思わないかしら?現実なんてバッドエンドより質が悪いわ。だって終わらないんですもの」

爽やかな夜風が残り少なくなってしまった木々を揺らし青葉を散らして行く。
今日は星が見えないが、月だけが淡く妖しく輝き天上に座している。
姫神の切りそろえられた前髪を揺らし、結標も翻る二つ結びを押さえながら微笑んだ。

姫神「(綺麗)」

一種、幻想的な趣さえあった。窓際で満月を背負って、月明かりを後光のように浴びる結標淡希の立ち姿が。
普段はサバサバして見えて、ふとした瞬間目を見張るほど魅入られてしまう一瞬が結標にはあった。
これが惚れた弱みか、と姫神は内心でそうごちた。だが――

結標「私達も――そうでしょう?秋沙」

ビュウッ…という一際強い風が、二人の間を通り過ぎて行く。

姫神「…うん。そう」

ザワザワザワと木々の葉が鳴る音が響き渡る。姫神の制服のスカートを揺らして行く。

結標「ええ――そうよね」

そして結標は風に揺れる二つ結びを押さえる手を離して――



結標「こ  の  嘘  つ  き」



その手で、姫神の頬を張った。
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 21:02:51.36 ID:zpEVZyvAO
〜保健室・結標淡希〜

思ったより、大きく渇いた音が出て自分でも内心驚く。
手加減しようとしても、湧き上がる自分の中の怒りがそれを許さなかった。

姫神「―――…!?」

結標「――謝らないわよ?」

打たれた頬を押さえる秋沙を見つめる。なるほど、そう言う顔も出来るのかと新しい発見をした気分だ。場違いにも。

結標「言ったでしょう?餌付けしようが首輪をしようが…調子に乗ったら引っ掻くって」

美味しいご飯を与えてくれても、身も心もさらわれてしまいそうな愛を与えてくれても――譲れない想いが、私にもある。

結標「言ったわよね?私を飼い慣らしたければ、ただ一緒に眠ってくれるだけで構わない…そう言ったはずよ、秋沙」

貴女が望むならどんな辱めだって甘んじて受けてあげる。
貴女が命じるなら跪いて足だって舐めてあげる。
けれどそれでも聞けない頼みが、私にもある。

結標「騙すなら、上手に嘘をついてとも言ったわよね?秋沙」

姫神「なん…。どう。して…」

信じられないって目をしてる。初めて貴女に勝てた気さえするわ。
けれど達成感も優越感も爽快感も何もない。今この胸にあるのは、どうしても許せない怒りだけ。

結標「何をコソコソ企んでいるんだか、何を自分一人で悲劇のヒロインに酔ってるんだか知らないけれど…酔い醒ましには持って来いの一発だったでしょう?秋沙」

目を見ればわかる。暗部でも何度か目にして来た目だ。
生死を問わずに腹を括った人間の目くらい見抜ける。
暗部での経験がこういう形で生きるとは思っていなかったけれど。
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 21:03:59.37 ID:zpEVZyvAO
結標「――行くんでしょう。私を置いて。捨て猫が可哀想だと思わない?置き去りにされた野良猫が可哀相だと思わない?」

姫神「!!!!!!」

結標「私を手込めにするのは一学年差だからまだ許してあげる…けれど手玉に取ろうだなんて十年早いのよ!!」

私の叫びに、秋沙の肩と背中がビクンと震える。けれどそれを見ても愉悦も喜悦も湧いて来ない。
秋沙の言う通り私はマゾヒストなのかも知れない。
貴女を責め立てるように問い詰めても、ただ泣きたくなるばかりだ。サディストの素養は薄そうだ。

結標「口で何度言ってもわからないなら、身体にわからせてあげるわ。貴女が忌み嫌う血を流させてでも」

軍用懐中電灯を取り出す。それを突き付ける。図書室の時と違って今度は止めない。
そして今度こそ止めてみせる。全て一人で抱え込んで私から去り行く貴女を。


結標「――私の座標移動(ムーブポイント)から逃げられると思わないで!!!」


力ずくでも――止めてみせる。
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 21:07:32.36 ID:zpEVZyvAO
〜保健室・姫神秋沙〜

最初に感じたのは、痛みではなく熱さ。そして痺れが後からやって来た。
そして、信じられない思いだった…淡希が私に手を上げるだなんて。

結標「どうしてバレたか教えて欲しい?わかるものなのよ。今にも消えてしまいそうな貴女の身体にすがりついていた私だからこそ」

座標移動で物をぶつけられたり、放り出された事は何度かあった。
それを掛け値なしの真っ向から、平手打ちを食らうだなんて想像だにしなかった。

結標「残念ね…悪いけれど家出は認められないわ。鎖で縛り付けてでも行かせない。貴女を監禁して家で飼ってあげるわ」

淡希を甘く見ていたと思わざるを得ない。同じ女の勘を舐めていた。

結標「しばらくはハードに愛してあげる…私の腹の虫がおさまるまで。“ごめんなさい”だなんて言わさない。“許して下さい”なんて言わせない」

淡希は怒っている。正真正銘の怒髪天。女の本当の怒りとは、マグマではなくドライアイスのような冷たい激怒であると今更ながら思い知らされる。

結標「“側にいさせて下さい”って、声が枯れるまで私の名前を呼ばせるわ。何もわからなくなって、逃げ出す気さえ起きなくなるくらい可愛がってあげる」

淡く柔らかな輝きを放つ月は既に無慈悲な夜の女王。
姫神秋沙は知らない。今の結標淡希がかつて白井黒子と初めて対峙した時と同じ目をしていると。

結標「断っておくけれど、私は正気をなくしてる訳でもなんでもないわ。当然、本気だって事もわかるわね?」

淡希が一歩前に出る。キュッと唇を結んで私は耐える。
後退る事はしない。淡希に背を向ける事はしても、逃げたくはなかったから。だって

姫神「…狂ってる」

結標「そう?人を好きになって、愛して、マトモでいられる人間なんているのかしら。それを教えてくれたのは貴女よ。秋沙」

姫神「――そう。私が。貴女を壊したから」

さっきまで雑談し、映画を見て笑っていた淡希は、私の腕の中で、手の上で、指の先で喘いでいた淡希はもういない。
淡希の目はもう戦う時と同じ目をしていた。だから私は逃げない。
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 21:09:52.35 ID:zpEVZyvAO
結標「そうよ。今ここで、座標移動で貴女の服だけテレポートさせて欲しい?逃げられないように」

姫神「――――――」

淡希が私の手首を掴んで頬から引き剥がす。これが最後になる。
だから――私を好きにさせてあげたかった。淡希が望むように。してあげたかったけれど――

姫神「……――のクセに」

結標「…なんですって?」

姫神「聞こえなかった?なら。わかるように。言ってあげる」



――イジメられて喜ぶ。マゾのクセに――


結標「―――!!!」

姫神「してみたら。出来るのなら」

強引に抱き寄せられた。形ばかり抵抗する。

強引に口づけられた。形ばかり顔を背ける。

強引に舌を入れられた。形ばかり歯を閉じる。

強引に手を入れてきた。形ばかり身体をよじる。

強引に指を這わせて来た。形ばかり手を押さえる。

強引に首筋に噛みついて来た。形ばかり押し返す。

強引にベッドに突き飛ばされた。形ばかり小さな悲鳴を上げる。

姫神「…貴女に。出来るの?」

結標「簡単な事よ…貴女が私にしたようにしてやるの」

姫神「…貴女に。出来るの?“結標さん”」

結標「―――ッ!!!」
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 21:11:29.75 ID:zpEVZyvAO
鼻で笑った頬を張られた。黒髪が流れてかぶさる。同じ所を二度打たれるとより痛い。
声を出さずに、呻く。静かに、仰け反る。構わない。これでいい。
貴女を傷つけたのは私だから。貴女にも私を傷つける権利がある。
貴女が私を憎むまで、そうさせてあげたかった。けれど


姫神「――ごめんなさい。淡希――」


もう時間がなかった。でもこれで良いと思った。
後ろ髪引かれて名残りを惜しむより、傷つけあって別れたい。
猫の兄弟や親子が巣立ちの時を迎えるように。


姫神「――本当に。ごめんなさい――」


カチッ、と壁掛け時計の針が22:30分を指し示す。約束の時間。
『運び屋』オリアナ=トムソンとのタイムリミット。


姫神「――ここで。お別れ――」


結標「!?貴女何を―――」

最後くらい、負けてあげたかった。貴女を、勝たせてあげたかった。ふふ、私って最後まで上から目線。
保健室全体に、見た事のない光が満ち充ちて行く。魔術の光。終わりの光。


姫神「――私。魔法使い――」


魔法使いに憧れて、それでも魔法なんて使えない私に出来る、最後の魔法。
淡希の頬に触れる、光の中で驚いた顔の淡希。涙で濡れた瞳。


姫神「――さようなら。淡希――」


最後まで。優しかった。貴女へ――
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 21:13:32.34 ID:zpEVZyvAO
〜保健室〜

姫神「…もういい。入って来て」

オリアナ「………………」

22:38分。姫神秋沙は寝乱れた髪を直しながら、乱れた制服を整えながら、至極冷静な声音で入って来たオリアナを見やった。

オリアナ「んー…っと、悪いんだけど、お姉さん全部聞こえてきちゃって…ちょーっと気まずくってなかなか入ってこれなくって」

姫神「ごめんなさい。聞かせてしまって」

姫神の傍ら…そこにはオリアナの『速記原典』の中から選ばれた、意識と身体の自由を奪う魔術により眠らされた結標の姿があった。
22:30分になったら保健室に来て、その時居る自分以外の人間を傷をつけずに昏倒させて欲しいと螺旋階段の時から打ち合わせていた。

結標が感づいたのは想定外だったが、最後まで側にいるのは想定内だったから。
いつ襲撃があっても対応出来るよう…片時も側を離れようとしなかった結標の思いを逆手にとったのだ。
それを思うと、一生憎まれても仕方無いと姫神は胸を痛めた。

オリアナ「お姉さんも色々経験豊富だからそう言う偏見はないわ。ただし、この術式は一時間しか持たないから急いでね」

姫神「…女同士で。気持ち悪いと。思わないの?」

オリアナ「男でも女でも――同じ人間でしょう?お姉さんはそう思うわ」

そう微笑みながらオリアナは再び退室した。これがステイルならば狼狽えるか、無駄に煙草の本数が増えるかだろう。
そして再び取り残された姫神は――横たわる結標へと手を伸ばした。

姫神「結標さん。貴女は一生。私を恨んで。憎んで。呪ってくれて。構わないから」

シュルッ…と結標の二つ結びを縛る髪紐を抜き取る。
最後の最後まで、自分は最低の卑怯者だと心の中の自分を殴りつけながら。

姫神「だから――私を忘れて欲しい」

その髪紐を形見分けのように手にして…もう一度だけ、唇を寄せる。

姫神「さようなら――淡希――」

止め処なく零れ落ちる涙流れるままに交わした最後の口づけ。
唇が震える。頬が熱い。喉が痛い。手が戦慄く。これが本当に――最後なのだから。

姫神「――愛してる――」


その言葉を最後に――姫神秋沙は保健室から去っていった。

振り返って、駆け戻りたくなる自分を、髪紐を握り締める事で耐えながら。
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 21:19:11.83 ID:zpEVZyvAO
>>1です。本日の投下はこれにて終了です。レスを下さった方々、朝起きてたくさんついていて驚いてしまいました。

一つ一つ、大切にちょうだいしております。皆様のレスの中からいただける刺激が内容に反映出来ていつも感謝しております。

展開についての質問は申し訳ありません。ネタバレしようにもノープランなのでお答え出来ません。
いつも手が進むまま、ネタが動くままに書いているので先行きは私にもわかりません。ごめんなさい。

読んで下さる全ての皆様に、ありがとうございます。それでは失礼いたします。
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 21:32:53.61 ID:IGsZfWYko
「月は無慈悲な夜の女王」ときいて、てっきり
「タンスターフル(無料の昼食はない)」
ネタでインさん辺りが弄られると思ってたら、そんなことはなかったぜ。

お姫様を助ける騎士が登場するのか。
それともお姫様をお姫様が助けるのか。楽しみです。
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 08:27:40.29 ID:ScLD0fzAO
>>1です…何気なく休日出勤前読み返してみたら、もっとキャッキャウフフで無軌道な百合百合生活したかったのにどうしてこうなった…ピザとSMの話の頃が懐かしい…

…疲れてますねごめんなさい。行ってきます。
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 17:26:00.35 ID:ScLD0fzAO
〜第七学区・とある高校裏門〜

ステイル「ふー…」

22:45分。ステイル=マグヌスは上条当麻らが通う高校の裏手で煙草をくゆらせていた。
数時間ぶりの一服は待機時間も合わせて一本、また一本と本数を増し、気がつけば片手を超える吸い殻が足元に転がっていた。

ステイル「………………」

立ち上る紫煙につられて見上げる月は蒼白く、どこか病的な輝きがあった。
思えばインデックスを追跡していた時もこんな夜だったかと懐古する。

苦々しく、そして彼女の記憶が奪われずに済んだ数日間の出来事…
思えばそこで上条当麻と縁を持った事がケチのつき始めだと思わなくもなかった。同時に――

ステイル「まさか再びあの吸血殺し(ディープブラッド)と関わる羽目になるとはね…仕事とは言え僕もツキがない」

一度目はアウレオルス=イザードが絡んだ三沢塾での一件。
二度目は『刺突杭剣』絡みでの大覇星祭にてオリアナ=トムソンが誤って姫神秋沙に重傷を負わせた一件。
そして三度目の正直とも言うべき今回は…

ステイル「(あまり愉快な巡り合わせでない事は確かだ。あの女狐め…今度は何を企んでいる)」

アウレオルス=イザードがかつて属していたグノーシズム(異端宗派)から姫神秋沙を守りつつ、かつて刃を交えたオリアナ=トムソンと組んでロンドンまで連れ帰るというこの任務。
あの最終戦争でローラ・スチュアートが命を落とさなかった事が悔やまれる。
組織の存続を安堵すると共に、半ば本気でステイルはそう思っているのだ。

黄泉川「そろそろじゃん。いざという時は私がオフェンス、そっちはディフェンスで良いじゃん?」

手塩「私達は、構わない。優先、されるべきは、安全度と、能率だ」

そして警備員(アンチスキル)のメンバーも姫神を護送するための特殊装甲車の前で最終確認に入っている。
物々しい限りだ、しかし魔術師達を相手にこの護送団でも十分過ぎるとは言えない。
そうステイルが七本目の煙草を吸い終えると――

オリアナ「はぁいお待たせ…皆さんお揃い?」

姫神「………………」

ステイル「(…来たか…)」

対象(パッケージ)のお出ましだ、とステイルは歩を進めた。
インデックスはある人物の所へ預けている。上条当麻が不在の今、実務的な信頼は置けずとも信用には足る人物の元へ――
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 17:26:43.40 ID:ScLD0fzAO
〜とある高校・保健室〜

小萌「…結標ちゃん…」

禁書「(…あいさ…)」

23:12分。月詠小萌とインデックスは保健室にいた。
小萌は姫神秋沙からオリアナ=トムソンへ言伝られた『伝言』に導かれて保健室へ、インデックスはステイル=マグヌスからこの避難所に残るように言われての事だ。

禁書「(こもえにはわからないけど、これは魔術なんだよ。多分、効力の薄い時限式の魔術かも)」

横たわる結標の額に手を当て目を瞑りながらインデックスは思案する。
僅かながら力の残滓が場の空気に残されている事、結標の身体が通常よりも穏やかな脈拍、低い体温と言ったまるで仮死か冬眠に近い状態からそれを推察する。

小萌「し、シスターちゃん…結標ちゃんは大丈夫なのですかー?」

禁書「大丈夫なんだよ。じきに目を覚ますはずなんだよ」

小萌「…先生は、先生は力のない自分が悔しくって、悔しくって仕方無いのですっ…!」

小萌は歯噛みする。自分にもっと力があれば、強さがあれば、姫神秋沙や能力者狩りに晒される学生達を守れるのに、望まぬ疎開をただ見送る事などさせないのにと。
姫神は別れが辛くなるからと、吹寄を始めとするクラスメートに別れを告げなかった。
小萌にも感謝の言葉を捧げるも、顔を合わせれば気持ちが挫けてしまうと『伝言』のみを願った。
生徒をそうさせてしまう自分に、小萌は教育者として胸を痛めた。

禁書「それは…私も同じかも」

友人として姫神秋沙を見送れなかった。ステイル達のように護送につく事は出来なかった。
10万3000冊の魔導書を保管する『図書館』たるインデックスの所在がグノーシズム(異端宗派)に割れれば、その矛先がどう向かうかわからないからだ。
今は上条当麻も側にいない。神裂火織も側にいない。身を守る術はただ一つ――

禁書「(とうま…今どこにいるの?)」

鳴らない携帯電話。ようやくメールを少しずつ打てるようになってきたのに。
もう電子レンジを壊さなくなってしばらく経つのに、それを伝えたい上条当麻はいない。
こんな時、上条当麻ならどうするだろうか…それは完全記憶能力を持つインデックスをして、未だ紐解けない命題であった。
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 17:29:46.16 ID:ScLD0fzAO
〜第七学区・発電所〜

御坂「!?」

23:17分。第七学区の電力のほとんどを賄う発電所にて御坂美琴は目を見開いた。

ほとんどの風力発電を戦禍によって望めなくなり、絶対的に不足している電力を補うべく力全てを注ぎ込んでいたレベル5第三位『超電磁砲(レールガン)』のレーダーに引っ掛かるものがあったのだ。

御坂「初春さん!全チャンネル開いて!何かおかしいわ!」

初春「はっ、はい!回線616から666、最大望遠でモニタリングします!」

傍らにて生き残っている監視衛星、監視カメラを開くべくキーボードを叩く初春飾利。

就寝時間はとうに過ぎ去っているが、朝から晩まで必要最低限以外は決して離れない御坂のサポートに回るためにこの時間まで起きていたのだ。しかしそれが――

御坂「…なによこれ!?」

御坂の『超電磁砲』は派手な攻撃にばかり目を奪われがちだが、自身を中心とし微弱な電磁波の反射でソナーのように周囲の状況や死角を拾える。

初春「372…1618…4257…まだです!まだ出て来ます!?」

その御坂の警戒網に『突如として』引っ掛かた『ソレ』の数…

今の今まで影も形も感知出来なかった『ソレ』が『忽然と』降って湧いてくる様子が…初春が操作するパソコンの画面に映し出される。

御坂「これは―――?!」
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 17:31:06.21 ID:ScLD0fzAO
〜第七学区・とある高校〜

白井「鎧の騎士!?」

御坂『嘘みたいだけど本当なの!夢でも寝ぼけてる訳でもないわよ!初春さん!黒子の携帯にリンク出来る!?』

初春『でっ、出来ます!白井さん!今送りますから通話を切らないで見て下さい!』

23:19分。白井黒子は瞠目していた。交代時間を迎え、これより就寝しようかと思った矢先のエマージェンシーコール。

それは相変わらずほとんど不眠不休で発電所に詰めている御坂美琴からの緊急通信。
その切迫した声色からただならぬ異変を察知した白井は言われるままに耳から携帯を離し画面に目を落とす…するとそこには

白井「…お化けが出て来るにはまだ早い季節ですの。まして足が二本ありますの」

時空を越え中世から抜け出して来たかのような…白銀色に輝く甲冑の騎士団が映り込んでいた。

画面左端には初春がつけくわえたのか、カウンターまでついている、
その数6859…信じられない思いであった。それがこの避難所へ向かうルートを辿っているのだから…!

白井「(ありえませんの!これだけの人数が!大部隊が!誰にも気付かれずにこの学区までやってこれるハズが…!?)」

何もない虚空からいきなり現れでもしない限り、ここまで誰の目にも触れずに侵攻してこれるはずがない。
しかも中世的な甲冑の騎士団はそれぞれ刀剣のみならず、銃器などの近代兵器まで携えている。

その足並みは軍勢である事を差し引いても一糸乱れず、あるで統率された操り人形のような――

白井「固法先輩――!」
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 17:32:00.23 ID:ScLD0fzAO
〜とある高校・放送室〜

御坂妹「わかりましたお姉様。直ちに避難勧告を発令させます、とミサカはメタルイーターを組み直しながらスピーカーをオンにします」

23:23分。御坂妹は鉄鋼破り(メタルイーター)を担ぎながら放送室のコンソール全てをオンにしながら御坂美琴と通話していた。

御坂『危ない事は絶対にしないで!もしもの時は逃げて!もしかしたら、もしかしたら…相手は人間じゃないかも知れない!』

御坂妹「…?人間でないとはどういう意味ですか?とミサカはお姉様の言葉に疑問を差し挟みます」

御坂『わからないわよ!ただ、生体電力だとか磁場だとかが全然感じられないの!中身の入ってない人形が歩いてるみたいな感じで!!』

御坂妹「人形…」

場違いに『人形』という言葉という単語に御坂妹は反応する。
それはかつて実験動物として扱われ、唯々諾々と『絶対能力進化計画』に携わっていた頃の自分を思い出すから。

御坂『いい!?約束よ!何があっても!絶対に死――』

御坂妹「わかりました。姉妹の約束ですね、とミサカは電話越しに小指を差し出します」

それを思い返せるだけ、御坂妹にも自我や感情が芽生え始めていた。
少なくとも『姉』に対し、安心させるために軽口を叩ける程度には。
そして無表情ながらもその言葉に嘘はない。『もう一人だって』欠けてやる訳には行かないから。

御坂妹「それでは避難勧告を発令するので通話を終了します、とミサカは礼儀正しく一礼しながら電話を切ります」ピッ

いつだったか、この避難所でのボランティア活動の中で『置き去り』の子供達に読み聞かせた『ピノキオ』の話を思い出す。
木彫り人形であったピノキオが『良心』を手に入れて人間になると言う話のあらましを。

御坂妹「女達の聖戦(ジハード)です、とミサカはアナウンスマイクの調子を確かめながら弾を込め直します」

『お前は世界に一人しかいない』と言ってくれた少年(ヒーロー)はもういない。
だが彼はどこかで生きている。その彼が帰って来る場所を、御坂美琴の世界を、そこで暮らす人々の営みを守るために。
御坂妹は戦う。そう、それはシンプルで――ひどく人間くさい感情。

御坂妹『皆さん―――』

彼女を『人間』にしてくれた、少年の背中が忘れられないがため――
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 17:33:49.47 ID:ScLD0fzAO
〜第七学区・瓦礫の王国〜

魔術師C「おいおい!バレんの早いな!やっぱガチャガチャ鳴っから起こしちまったか!?」

兵士「さっ、さあ…私には…」

魔術師C「かーっ!夜這いの基本は抜き足差し足忍び足ってか!ま!いーや!」

とある高校に白銀の騎士団が侵攻する様をモニタリングしていた、数百名から成るグノーシズム(異端宗派)の中の魔術師が高らかな声で歌うように言った。
黒衣の魔術師達の中にあって純白のローブを身に纏った、声が大きいというより『音が外れている』ような話し方で。
御坂妹が出した避難勧告にも眉一つ潜める事なく。

魔術師C「お前らも油売ってねえで行けオラ!ブリキの兵隊(ポーン)ばっかじゃチェスにならねえだろうが!吸血殺し(クイーン)が詰めねえってなあ!」

兵士「は、はい!」

調子っ外れの声音、子供が目を輝かせるような眼差し、そして手にした興奮剤をザラザラとおやつ代わりに食らう。
――誰が信じられよう?この路地裏でくだを巻いている薬物中毒者のようなこの男が…
今や万に届こうかと言う白銀の騎士団を『操って』いる魔術師そのものだと。

魔術師C「ハッ!アウレオルスの野郎もハナからこうしてりゃ良かったんだよ!まっ!いいや!面白いおもちゃをありがとう!気が向きゃガキ共のもいだ首土産に地獄に遊びにいってやるよ!」

それは壊滅した三沢塾から回収したアウレオルス=イザードの黄金錬成(アルス・マグナ)の魔術理論体系を簒奪し…
グノーシズム(異端宗派)の構成員を偽・聖歌隊に仕立て上げ、彼がインデックスを救うために全身全霊を傾けた理論を非常にねじくれ歪んだ形で横取りした魔術

魔術師C「さあて!白銀錬成(テルス=マグナ)のお目見えだ!お代は命で払えクソムシ共があああ!!」

黄金錬成のデッドコピー、下位変換とも言うべき不完全な魔術。
グノーシズム(異端宗派)が目指す、『完全な存在』からすら外れた存在。
だが魔術師にとってはそれで構わない。劣化粗悪の力であろうとこれほどの力を引き出せるならばと
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 17:36:05.61 ID:ScLD0fzAO
〜第七学区・瓦礫の王国2〜

本来、アウレオルス=イザードが組み上げた黄金錬成(アルス=マグナ)とは世界の全てをシミュレーションし、呪文で変換し、それを詠唱完了することで神や悪魔が如く力を奮う錬金術の到達点である。

しかしこの魔術師が行使する白銀錬成(テルス=マグナ)は三沢塾から回収した微々たる研究資料、魔術師の独自解釈、口伝にすら劣るねじ曲がった伝言ゲーム、それを異端宗派の構成員を聖歌隊として詠唱させ無理矢理魔術の形にしているに過ぎない。

当然、アウレオルスのように『記憶の忘却』『生命活動の操作』『空間を移動する』などといった生命や意思を持つ人間や生物などには何一つ働きかけられない。
出来る事と言えば無機物…それこそラテン語でテルス(地球・土)からなる物質を操る事だけである。
無から有を生み出すアルス(創造)など望むべくもない。だが

魔術師C「面倒臭え面倒臭え!ノック代わりに一発ぶち込んでやれ!」

命を持たず死を恐れない白銀の騎士団(マリオット)を創製し、チェスゲームの駒のように操る事は出来る。
命令に必ず従い、決して死を厭わず、近代兵器で強化し、魔術の力と聖歌隊の生命が続く限り万に匹敵する不死身の軍勢をどこにでも『錬成』出来るのだ。

御坂美琴のレーダーに突如として触れたのは、文字通り一瞬で『錬成』された軍勢が現れたからだ。
アウレオルス=イザードが『我が名誉は世界の為に』と唱えたなら、それを最低最悪なまでに歪曲した不完全な魔術、それが白銀錬成(テルス=マグナ)

魔術師C「早くしろ早くしろぉ!おっ勃ったもんが萎えちまうだろうよぉ!」

もちろん、発動にはアウレオルスのように『言葉』にせねばならず、それが現実になるには数秒から数分のタイムラグがあるため即応に難がある。
加えてアウレオルスが『鍼』で自らを奮い立たせたそれとは異なり、この魔術師は即効性のある興奮剤を発動の度に服用せねばならない。
異常なまでのハイテンションはその副次作用であり、溶けかけた脳はただの魔術を吐き出すための装置に成り下がっている。

魔術師C「ロケットランチャー!射出数は全弾!対象は…目の前だあああ!!!」

間もなく鳴き出す蝉より縮めた命を、ただ力を得るためだけに捧げた魔術師。
その命を受けて意思無き白銀の騎士達が錬成された近代兵器を構え――
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 17:37:18.75 ID:ScLD0fzAO
〜とある高校・保健室〜

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

小萌「シスターちゃん!」

禁書「わぷっ!!」

23:38分。白銀錬成(テルス=マグナ)の一斉掃射を受け校舎が激しい破壊音が包む。
地鳴りのような揺れが腹の底まで突き動かすような衝撃、そして一瞬ではあれど闇夜が赤い閃光に塗り替えられる。

小萌「大丈夫ですか!?」

禁書「こほっこほっ…だ、大丈夫なんだよ!」

着弾の瞬間、小萌はその小さな身体を盾にしてインデックスとベッドの結標淡希を庇った。
衝撃に保健室の薬品棚が倒壊し、吊り下げられていた蛍光灯が全て砕け散る。

小萌「(逃げなくちゃ…!)」

また戦争だと月詠小萌は肩を震わせた。手を震わせた。足を震わせた。しかし

小萌「――シスターちゃん!手を貸して下さい!!」

禁書「!!」

歯は決して震わせない。唇を噛んでそれに耐える。
恐怖がある。不安がある。絶望がある。出来るならへたり込んでしまいたくなる。
それでも――月詠小萌は

小萌「結標ちゃんを!連れて逃げるんです!」

禁書「わ、わかったんだよ!!」

二人で未だ目覚めない結標淡希を、インデックスと共に左右より肩を貸すように引きずり下ろす。
このままでは全員の命がない。しかし小萌は小さな身体で、必死に結標を連れて出口を目指そうとする。

小萌「(もう…もう嫌なのです!)」

月詠小萌は逃げ出したくなる『人間』である前に、逃げ出さない『教師』だった。
生徒を後ろに庇えば、戦車の前にだって立ちふさがる。そういう人間だった。

小萌「(嫌なのです!!)」

自分が死を迎える事以上に、生徒が命を落とす事を恐れる…それが、月詠小萌の最大の武器にして信念だった。


そして――


370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 17:39:40.53 ID:ScLD0fzAO
〜第七学区・瓦礫の王国3〜

魔術師C「撃ち方止め撃ち方止め!弾幕で見えねーだろうが馬鹿野郎!!」

一方、露払いの一斉掃射を叩き込んだ魔術師は爆炎と土煙に吹き荒れた映像ばかり流すモニターを叩いて怒鳴っていた。

自分で白銀錬成(テルス=マグナ)を叩き込んだにも関わらずに、だ。

魔術師C「オラオラオラ!藁の家だろうが土壁の家だろうがレンガの家だろうが狼から逃げらんねえぞクソ豚共!尻尾出せ!噛み切ってやっから!」

興奮気味にモニターを足蹴にしながら魔術師は高らかに笑った。

警告と挨拶代わりに校舎の一つも吹き飛ばせば流石に吸血殺し(ディープブラッド)を引っ張り出せるだろうと。

もちろん、残りの能力者達も残らず回収するつもりではあるが――

兵士「映像、回復します!」

傍らの兵士がモニタリングの解析度を上げる。何割か死んだら死んだらでそれはそれ。

残った死体だって切り刻めば金になる。十字教徒にあるまじき発想である。しかし――


魔術師C「…ああー!?」



その時、モニターに映り込んだのは――
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 17:41:35.20 ID:ScLD0fzAO
土煙が晴れて行く。


爆炎が引いて行く。


旋風が巻き起こる。


画面が正常に戻る。


熱狂が冷めていく。


魔術師C「オイオイオイ!オイオイオイ!なんだなんだなんなんだコイツはよぉ!?」


闇夜の中にも瀟洒なスーツ姿


アクセントとして鈍く輝くガボールのチェーン


洒脱さと剣呑さと皮肉っぽさを湛えた甘いマスク


それでいて視線で心臓を握り潰すかのような鋭く獰猛な眼差し


そしてなにより目立つのは――背負った月すら霞むほど真白き三対六枚の――


バサアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!


「中身空っぽのダッチワイフが夜這いだあ?なんの冗談だクソッタレが」


天空を埋め尽くすかのような羽を舞い散らせて降り立つその男――


月明かりの下、闇夜の深きより出でし暗部の皇帝


所属――『スクール』リーダー


序列――『レベル5』『第二位』


能力――『未元物質(ダークマター)』


「悪いが今夜はそういう気分じゃねえんだよ。寝入り端叩き起こしやがって…マジでムカついたぜクソ野郎共が」


名前――『帝督』




垣根「絶  望  し  ろ  テ  メ  エ  ら」




――レベル5第二位『未元物質』垣根帝督、降り立つ――
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 17:46:20.14 ID:ScLD0fzAO
>>1です。本日の投下は以上になります。
お読みいただけた方、レスを下さった方、いつもありがとうございます。


魔術師Cで最後の敵モブです。白銀錬成は戦闘にしか使えないような劣化黄金錬成と思っていただけば幸いです。

それでは失礼いたします。
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 18:07:55.44 ID:c/0O80hKo
垣根△!!
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 19:41:53.18 ID:F9kl9Svpo
ていとくーーーーん!!!
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 22:53:44.36 ID:cpJvaE9AO
乙ん。
戦闘は次で終わりなのかしら? それともローラさん絡みで何かあるのかしら?

二人に幸あれ!
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 23:25:43.28 ID:pb6+9/Qx0
原作では冷蔵庫なのに、二次だとまばゆいばかりの光りを放つていとくん
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 18:33:10.12 ID:kAy517YAO
>>1です。本日の投下をさせていただきます。ひめがみ×あわきんの同居生活六日目最終です。
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 18:35:32.34 ID:kAy517YAO
〜とある高校・グラウンド〜

魔術師C「ひゃっひゃっひゃひゃっひゃっひゃっ!質の悪い冗談だ!おい見ろよ!オレ薬のやり過ぎか!?メルヘンな天使サマが見えんぞオイ!」

兵士A「(…なんだ…アレは)」

兵士B「(…ミサイルランチャーとロケットランチャーの一斉掃射だぞ…百や二百じゃきかないんだぞ)」

兵士C「(…それを…)」

とある高校から遠く離れた瓦礫の王国より、モニタリングの前でゲラゲラと溶けた歯を剥き出しにしながら腹を抱えて笑う魔術師。
その画面に映し出された光景にそれぞれ唖然・愕然・呆然とする近衛兵達

垣根「………………」

降り立つ垣根帝督。その後方に聳え立つとある高校の校舎は…元々脆く、崩れかけていた箇所を除いては―――

兵士ABC「「「(無傷で!?)」」」

そう、校舎の表面には一発も痕跡が刻まれていないのだ。
着弾した衝撃こそ校舎を揺るがせたものの、炸裂の威力を完全に遮断して…!

垣根「俺の未元物質(ダークマター)に常識は通用しねえ」

既にこの高等学校の敷地は垣根帝督が生み出した対衝撃・対高熱・対爆発に特化した『未元物質』の制圧下にある。
それこそ、核ミサイルでも叩き込まれない限り垣根に揺らぎは有り得ない。

垣根「テメエらみてえなドブ臭えネズミ如きの歯が立つほど、レベル5の看板は安かねえんだよ」

轟ッッ!と竜巻をも凌駕する暴風を生み出しながら垣根は眼下を埋め尽くし、今にもグラウンドに突入して来そうな一万弱はあろうかと言う大軍団を前に一歩も引かない。

魔術師C『おーおー格好いいねえ優男(ロメオ)!ジュリエットとのお楽しみでも邪魔されたか?ああ!?』

それを一体の白銀の騎士を通して吠える魔術師。
実力が未知数であろうと過小評価しない。自分の実力も過大評価しない。
それに垣根帝督の舞い散る六花のような白き翼が――

垣根「前半は多いに認める所だが――」

カッ!と背負った満月よりの月灯りを『回折』し、それを岩をも溶かす殺人光線に変えて放つ!
かつて一方通行に放ったそれとは比べ物にならない、正真正銘の殺人光線。

魔術師C『!』

垣根「後半はいただけねえなドブネズミ。ムカついた」

光の硫酸とも言うべき月灯りを受けて瞬く間に溶解して行く白銀の騎士団。
万を越す錬金術の騎士達の一部が飴細工よりも煮詰められたように溶け落ちて行く。しかし――
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 18:36:18.30 ID:kAy517YAO
魔術師C『錬成する。現出はチャレンジャー2、対象は翼の男、弾丸は全弾発射』

次の瞬間――垣根の眼下に最新鋭のイギリス軍戦車、チャレンジャー2が何十台と『錬成』される!

垣根「!?」

さしものの垣根もこれには目を剥いた。それは戦車にではなく、いきなり虚空から現出された現象に対してだ。
同時に理解する。この声の主が用いる力は自分と同じ、常識の通用しない力…
それは垣根の未元物質(かがく)に対する白銀錬成(まじゅつ)!

ドン!ドン!ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!

轟音と共に横一列から放たれる砲撃。それは垣根・校舎・避難所を含めた全て!

垣根「通すか馬鹿野郎!!!」

それを舞い散る羽の嵐に宿した未元物質でまとめて撃墜して行く。
半ばで撃ち落とされて行く砲弾が爆裂し、夜空を赤く染める爆炎の華が次々に狂い裂く。
熱風が吹き荒れ業火が燃え盛る。大気中の酸素全てを焼き尽くすような炎の蜃気楼。

魔術師C『錬成する。現出は“六枚羽”、対象は翼の男。数は――20!!!』

ブウン!と今度は夜空に白銀のアパッチ戦闘機が『錬成』される。
それはかの浜面仕上を追跡し、絹旗最愛に撃墜された学園都市最新鋭の無人攻撃ヘリ。通称『六枚羽』…それが20機も創製される!

垣根「芸達者な野郎だ。もちっとこじんまりやりゃあパーティーで受けるぜ。ガキにな」

魔術師C『この学園都市を調べる内に気に入っちまったんだ…コイツは格好いいってな!』

垣根「いい歳こいてラジコン遊びかクソ野郎!クリスマスにでも売れ!!」

20機もの戦闘ヘリが猛禽類のように垣根目掛けて空中突進してくる!
垣根は自らの翼を未元物質に変え、熱さ数ミクロンの分子レベルで分断する刃に変える。
疾風のように襲いかかる白銀錬成の六枚羽、閃光のように夜空を旋回しながら一機、二機、三機四機と切り飛ばし宙を舞う垣根!

垣根「(なるほどな。こりゃレベル5以下は相手にならねえ)」

切り飛ばし、吹き飛ばしながらも『解析』と『逆算』を試みながら垣根は戦闘機そのもののように降下し、地面スレスレで白銀錬成の戦車を撃破、誘爆させながら思考する。

垣根「(物質が普通のものと違え。得体の知れねえ何かでねじ曲がってやがる。生成を止めんのは無理だ)」
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 18:38:46.38 ID:kAy517YAO
白銀の騎士、白銀の戦車、白銀の六枚羽、みな通常の鉄鋼などの物質に混じって垣根には理解出来ない力…
『魔術の力場』に歪められ、物理的に破壊する事は出来ても生成そのものを止める手立てがない。

垣根「(質量保存の法則もへったくれもねえ。生成を止めようにも潰すアタマが見当たらねえ。消耗戦か、持久戦か、長期戦か)」

鼓膜を震わせる爆音、皮膚をあぶる業火、巻き起こるグラウンドの土埃、熱を帯びて吹き上がる風。垣根帝督1人対白銀の騎士団10413体という絶望的な兵数差。

魔術師C『どうしたどうしたぁ?オレを絶望させるんだろ?なあさせてくれよ…早くしろよおおおおおお!!!』

一方通行を除いて、御坂美琴ですら捌き切れないかも知れない戦況を互角以上に渡り合っているのはひとえに彼の絶対的戦力による。
しかも垣根の背後には学生達が未だ避難しきれていないのだ。
無辜の避難民へ一つの火の粉も飛ばさず、一万の侵略者を一つも討ち漏らせない。

垣根「慌てんじゃねえよ早漏野郎。こちとら一晩に女四人相手にした事はあるが、男相手じゃ気分が乗らねえんだよ」

だが垣根はそんな神経が焼き切れそうなプレッシャーを前にして笑う。笑いが勝手に出てしまうのだ。
敷地全体を覆う未元物質全ての演算、多数の避難民、一万体の敵兵、最低の人海戦術、最悪の物量作戦を前にして、だ。

魔術師C『出せよおおお…吸血殺し(ディープブラッド)を!姫神秋沙を!あの女を出せえええ!』

垣根「ああ?ああ…あの屋根修理の時いた嬢ちゃんか…お断りだクソ野郎。ツラがあんなら洗って出直せ」

魔術師C『?!』

かつて一方通行と交戦した時を思い出す。垣根にとって憎悪に近い敵愾心を持って挑んだ男との戦いはこんなものではなかった。
一方通行は、垣根と戦ってすら周囲に一切の被害も出さなかった。それに比べればこんなものは戦いと呼ぶに値しない。
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 18:41:14.24 ID:kAy517YAO
垣根「(あのクソ野郎(第一位)に出来て…この俺に!垣根帝督に出来ねえ訳がねえだろうが!!)」

友誼や目標などでは断じてない。それは帝(みかど)の字を背負う者の矜持

いずれ倒すあの男以外の誰にも負けてなどやらないという山より高いプライド。

目の前の一万を越す敵より、ただ一つ敗北を喫しただ一人敗れ去った一(いち)の字を持つ男に対する、意地であった。

垣根「女口説くのにツラも出せねえチキン野郎が。数でゴリ押しゃ勝てると思ったか?馬鹿が。お人形遊びやりたきゃテメエの右手で一人遊びしてろ」

魔術師C『チ…キン!!?』

垣根「図星突かれてトサカに来たかチキン野郎?ポーンを(白銀兵)進めようが、ルーク(戦車)を出そうが――キング(帝督)詰ますにゃあテメエじゃ役者不足だ。こそこそ隠れるしか能のねえビショップ(魔術師)に…クイーン(女共)を守るナイト(騎士)はやれねえんだよ!!」

垣根帝督の翼が巨大に、長大に広がる。一方通行との戦いで掴んだ覚醒と進化の力。その力の全てを…今解き放つ。


全てを薙払う右の翼を羽ばたかせ


垣根「(今なら認めてやるクソ野郎(一方通行)…テメエが何を守りたかったかなんざ知ったこっちゃねえ。知りたくもねえ。けどな)」


全てを薙ぎ倒す左の翼をはためかせ


垣根「(――俺にもあんだよ!!譲れねえもんがよ!!!!!!)」


――目蓋をよぎる、花飾りの少女の笑顔―

垣根「お待ちかねだ…もういっぺん絶望しろ」


そして…極限にまで膨れ上がった力の力場…振り上げた翼成る剣が…!


魔術師C『―――!!!』


凱嵐の奔流となって振り下ろされる――!!


垣根「チェックメイトだ――クソ野郎!!!」


その瞬間、白い闇が全ての銀の兵団を『粉砕』した
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 18:43:58.29 ID:kAy517YAO
〜とある高校・校舎内〜

白井「皆さんお急ぎになって!荷物は捨てて!第六学区まで駆け足ですの!!」

初春「押さないで下さい!押さないで下さい!小さい子から先に出して上げて下さい!!」

固法「こっちよ!裏門から!裏門から出て!早く!!」

未元物質と白銀錬成の激突の最中、風紀委員(ジャッジメント)は校舎内に取り残された学生達を避難誘導していた。
体育館に残された避難民は心理掌握(メンタルアウト)がただ一つ、『第六学区の第二避難所まで逃げよ』という命令を下している。
心理操作など誉められたものではないが、恐惶状態となり暴動に等しいそれらを統率するにはそれが最も適しているからだ。

初春「(垣根さん…!)」

幼い子供から優先して連れ立つ初春飾利の胸は今にも張り裂けそうだった。
最後にカウンターに表示された10413体という数の敵兵を相手取り、自分達を逃がすために戦っている垣根帝督を思うとだ。

初春「(絶対…絶対帰って来て下さい…垣根さん!)」

洒脱で、瀟洒で、飄々としていて、皮肉っぽくって、すぐ子供扱いして、それでもちゃんと話を聞いてくれて――

初春「(やっと戦争が終わったのに、離れ離れになるだなんて…嫌です!)」

面白い話をたくさん知っていて、それと同じくらい意地悪な悪戯をしてきて、でも泣いてる時は優しくしてくれて――

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 18:47:35.90 ID:kAy517YAO
男子生徒A「またかよクソぉっ!オレらがなにしたってんだよ!!」

鳴り止まない轟音に苛立ちの声を上げる者

女子生徒A「もうイヤ!もうヤダぁ!」

へたり込み泣き叫ぶ者

固法「泣いてるヒマなんてどこにもないの!立って!立ちなさい!!」

その腕を引っ張り上げ奮い立たせる者

男子生徒B「お、表!表になんか魔法使いみたいなのがいるぞ!」

青ざめた表情で悲鳴を上げる者

女子生徒B「こっち!こっちに銃持ってるヤツが来る!」

目尻が裂けんばかりに見開く者

白井「お下がりになって!初春!彼等を連れて逃げて!!」

そんな彼等を守ろうとする者

初春「はい!!!」

初春飾利は駆け出す。生徒達を連れて、『能力者狩り』の人間達の手から逃れるために。
今すぐ全てを捨てて飛び出したい気持ちを押さえ込んで

初春「皆さん!こっちです!右に曲がって真っ直ぐに――」

?「誰か!誰か手を貸して欲しいんだよ!!」

初春「!?」

その時、崩落の音に混じって聞こえて来た、切なる声が初春の足を止めた

禁書「わっ、私とこもえの二人じゃ…難しいかも〜!」

小萌「結標ちゃん!結標ちゃん!起きて下さい!目を開けて下さい!お願いです結標ちゃん!!」

その声のする方…そこには子供のように小さな少女と、自分とそう年の変わらない…一目見れば忘れられないような修道女姿の少女。

初春「待っ、待って下さい!今助けに行きます!そこを動かないで下さっ…貴女は!?」

慌てて駆け寄る初春が見たもの…それは両脇から肩を貸し、引きずられて意識を失っている赤髪の少女――
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 18:50:37.80 ID:kAy517YAO
小萌「結標ちゃん!立って!立って下さいなのです!結標ちゃん!!」

初春「(やっぱり、この人)」

それは白井黒子が事件を追っている過程の中で知り得た情報の二重写し。
特徴的な赤毛は顔写真と異なり二つ結びではなくほどかれたまま、まるで死人のように意識を失っている。
その肩に無造作に羽織られただけの霧ヶ丘女学生のブレザーに見覚えは確信に変わる。

初春「(レベル4の…名前は確か!)」



しかし、そこへ――



ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!

傭兵1「クリア(突破)!!」

バリケードを

傭兵2「クリア!クリア!クリア!」

窓ガラスを

魔術師1「油断するな!噛みつかれるぞ!」

防火扉を

障壁を破って続々と侵入して来る兵士達、次々と雪崩込んで来る魔術師達。

初春「―――!!?」

禁書「魔術師!!!」

小萌「みんなっ!!!」

その手には軽機関銃、アサルトナイフ、古めかしい紋章の刻まれた刀剣――

白井「初春!!!!!!」

人を殺めるためだけに生み出された武器達が、人を守るために組織された風紀委員、初春飾利、月詠小萌、インデックスへと殺到する。

白井「(間に合わな―――!?)」

初春「(――死――)」

鉄矢を抜いて構える白井、矢面に立たされ動けない初春。

小萌「やめて…くださいっ!!!」

禁書「こもえ―――!!!」

飛び出し両手を広げる小萌、結標を抱えた悲鳴を上げるインデックス。

この世界にヒーロー(上条当麻)はいない。

この場にピカレスク(垣根帝督)はいない。

この物語に、救いなどない――

ドン!ドン!ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!


渇いた、銃声と共に―――
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 18:53:56.68 ID:kAy517YAO
〜3〜

姫神『淡い希(のぞみ)だなんて。幸が薄そう』

初対面で人の名前にケチをつけるような失礼な娘に会ったのは、貴女が初めてだった。

姫神『まるで。血の色――』

初対面で人の髪に触れて来るような、喧嘩を売るような真似を許したのは貴女が初めてだった。

姫神『ない。私には帰る場所も。待っていてくれる人も。もういないから』

殆ど初対面で家に連れ帰って住まわせるような、そんな大胆な事をしたのは貴女が初めてだった。

姫神『だから。今日から少しでも大きくなりたい。背伸びじゃなくて。大きく』

私より年下なのに、それを感じさせなかったのは貴女が初めてだった。

姫神『ホタルブクロ。花言葉は。“熱心にやり遂げる”』

私より少女趣味で

姫神『―――“悲しい時の君が大好き”』

私より少しだけ物知りで

姫神『自分だけが。汚いだなんて思わないで』

私に、初めてキスしてくれた貴女――
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 18:55:31.86 ID:kAy517YAO
〜2〜

白井『“この後”どうするかではありませんの。“この先”どうするかですの』

わからないわよ、わからないまま、ここまで私は来てしまったのだから。

削板『いや。コイツはここ(第七学区)まで自分の足で来た。誰に言われた訳でもなく!迷いながらも自分の出来る事を探して迷っていた目だ!!それにコイツは――根性が、ありそうだ』

やめて。私は貴方達のように健やかでも、逞しくも、まして強くもないんだから

フレンダ『お綺麗な生き方に逃げてるだけでしょ!汚れた自分と向き合いたくないから!誰かのためにって言い訳が自分に欲しいだけ!誉められて罪悪感を忘れたいだけ!気持ち良いよね自分の能力(ちから)を大義名分(ボランティア)に使えるのは!』

そう。これが私。貴女の言う事は間違ってないわ。腹ただしいほどに正論。
悔しいけれど完敗よ。認めたくないけれど、認めざるを得ないわ

フレンダ『わかるわよ!自分だけ可哀想な子にしないで!私だけ悪い子にしないで!結局、同じ――人殺し(あんぶ)のクセに!!』

自分でも理解してた。こんな私が、こんな眩しい世界で、こんな輝いている人達の中で生きていけるハズなんてないって

木山『――人を愛する事を“病気”などと、どの医学書にも一行たりとも書かれてなどいないよ――』

こんな私が、誰かを好きになるだなんて間違ってたんだ。こんなにも、夢に見るまでに、誰かを思うだなんて間違ってたんだ。

黄泉川『守りたいものがあるからじゃん』

私だって、守りたかった。他人(ヒーロー)任せじゃなくて、汚れた手でも良いから、大切なものを守りたかった。


姫神『―――淡希―――』



ただ、秋沙(あなた)だけを――



387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 18:57:48.84 ID:kAy517YAO
〜1〜

赤(血)と黒(死)の世界しか知らない私達が出逢った、あの青空が眩しくて。

見上げた入道雲が真っ白で、あそこへ向かって飛べる鳥はなんて羨ましいんだろう。

私は飛べない。翼も持てない私は、ただ輝かしい夏の空をなじるだけ。

貴女といるこの場所(せかい)も悪くはなかった。

貴女と見上げた夏雲(そら)も嫌いじゃなかった。

二人で受けた風が、遠くまで飛びたくても飛べない私達を慰めているみたいで。

変わった貴女、変われなかった私、こんなにもチャンス(希望)はあったのに、失って初めて気づいた、貴女という存在。

私だって本当は変わりたい。遠く遠く、離れて行く貴女の手を掴めるまで座標移動(飛び)たかった。

赤(血)と黒(死)だけじゃない。

青(空)と白(雲)もある未来(せかい)が欲しかった。

二色しかない以外の、違った世界を貴女と見たかった。


結標『私と一緒に来るなら、この手を掴んで』


違う、違う、言葉で誤魔化すな。

ありのままの自分の

本当の結標淡希(わたし)が

本当の私(むすじめあわき)が望んでいたものは―――



結標『イエスなら優しく連れて行く。ノーなら乱暴にさらって行く。選んで。好きな方を』



手を引いて欲しかったのは…私だ


誰よりも何よりも…本当に手を引いて欲しかったのは…私だ!



救 わ れ た か っ た の は … 私 の 方 だ ― ― ― ― ― ― ! ! ! ! ! !



388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 19:00:58.72 ID:kAy517YAO
〜とある高校・校舎内2〜

ドン!ドン!ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!

兵士1「ぐあっ!?」

兵士2「ぐはぁっ!!」

魔術師「ぐっ…ほ…っ!」

渇いた銃声が、全てを塗り潰したかに見えた。

初春「…!」

確かに銃弾は三人に向かって放たれた。至近距離で放たれた弾雨の全てが、三人の生命を喰い破る――はずだったのに。

倒れ込んだのは、生殺与奪の全てを握っていたはずの――侵入者達だった。

白井「マシンガンを…テレポートさせましたの!?」

放った銃弾の全てが、三人に触れる事無く

『消失』し

『転送』され

射手目掛けて『空間移動』で突き刺さったのだ。


「―――最悪の、寝覚めだわ―――」


こんな、飛来する銃弾の嵐を空間移動でカウンターを浴びせるだなんて離れ業は自分でも出来はしない。そう白井黒子は息を飲む。


「―――最低の、目覚めだわ―――」


それを可能とするならば、自分と違い手に触れる事無く物質を転送させるような高位の空間移動能力者…
そして唾を飲む白井の知る限り――そんな能力者はただ一人しかいない!!

白井「――遅刻ですのよ?寝坊でもされましたの?」

三人の影から、突き出された軍用懐中電灯、下ろされた赤髪が広がり、怜悧な美貌と鋭利な眼差しと玲瓏たる声音の――


「ええ…あんまり“目覚まし”が五月蝿くってね…こんなに気分の悪い寝起きは自分でも初めてよ」


開いた胸元、伸びやかな足、羽織っただけの霧ヶ丘女学院の制服――

白井「――おはようございます、とでも言えば満足ですの?」

同じレベル4、同じ空間移動能力者、ツインテールと二つ結び、相似形を描きながら決して交わらない光と影――


「なんとでも、おっしゃいなさいな」


風紀委員と暗部、常盤台と霧ヶ丘、鉄矢とコルク抜き、コインの裏と表――


白井「――おはようございます、結標淡希さん?」


0:00分


七日目


結標淡希の日付が変わった――
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 19:06:14.67 ID:kAy517YAO
>>1です。本日の投下はここまでになります。次回より七日目に突入いたします。

今回は垣根帝督→ジャッジメント→結標淡希の視点になりました。

レスを下さる方、読んで下さる方、本当にいつもいつも助けられております。なんと感謝すれば良いかわかりません。ありがとうございます。

それでは次回もよろしくお願いいたします…失礼いたします。
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 19:32:42.65 ID:Paxy4JFQo
おつ!
戦闘描写と心理描写にいつもドキドキさせられっぱなしだ
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 20:03:45.64 ID:SKXdNr7uo
日曜に発見して狐含めて一気に読んじゃった。
こんなスレを見逃してたなんてというのが素直な感想だわ。

結果がどうあれ二人それぞれの先が今になるよう祈ってるよー。
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 20:08:59.93 ID:fFQCFJNCo
きてたー!黒子ぉぉぉお!!いやぁ姫神スレだとわかってるんだが、この2人もいいすなぁ。ちょっと8巻読んで来よう。
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 20:26:56.62 ID:l5LDGiNAO
>>1
何このかっこよすぎるていとくん
明日はあわきんのターンかな?
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 21:15:45.96 ID:Xr1qlDtSO
あわきん復活ッ!
あわきん復活ッッ!!
あわきん復活ッッッ!!!

なんだよ、前回のていとくん降臨に続いての
この熱い展開は!泣けてきたじゃないか!
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 09:06:32.34 ID:8TcIlNxW0
傷つけ愛や悲恋、アブノーマルな恋愛が好きな自分としては、天国のようなスレですよ

端々に心に突き刺さる名文が潜んでて、読んでてゾクゾクする

>>1乙です


396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 19:46:58.48 ID:gF8c244AO
>>1です。姫神×あわきん同居生活七日目を投下させていただきます。
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 19:49:44.96 ID:gF8c244AO
〜とある高校・裏門〜

七日目…0:17分。正門よりグラウンドにかけて垣根帝督が10413体の白銀の騎士団を相手取る中、裏門での戦闘もまた激化していた。

狙撃兵A「ガッ!?」

狙撃兵B「撃つな!射線が割れてるぞ!引け!一度引くん…グウッ!?」

狙撃兵C「クソッタレ!クソッタレ!何がどうなってやがるんだ!!?」

裏門付近に広がる雑木林に息を潜めて狙撃兵が次々と撃ち落とされて行く。
統率など望むべくもない学生達、避難民など目を瞑っていても鴨撃ちの的でしかなかったはずだった。なのに――

御坂妹「初めて学園都市の先端技術の恩恵に預かれました、とミサカは暗視ゴーグルを直しながら次の標的を狙い撃ちます」

砂皿「………………」

鉄鋼破り(メタルイーター)を携え屋上より狙撃兵を狙い撃ちにする御坂妹。
磁力狙撃砲を構えて脱出する学生達に迫る傭兵達をヘッドショットで撃ち抜く砂皿緻密。
狙撃手だからこそわかる経験則から次から次へと撃墜して行く二人、その眼下で――

白井「送り狼は一匹も通しませんの!」

ダンダンダンダンダンダン!カッカッカカッカッカ!

魔術師a「くっ!」

魔術師b「止めろ!これ以上好きにさせるな!」

十指に挟み込んだ黒金の鉄矢を文字通り矢継ぎ早に繰り出すは――白井黒子。
それに長裾の黒衣を纏う魔術師達の衣服を刺し貫き壁面に、地面に縫い付け金縛りにし、空間移動を連続で繰り出し魔術師達に狙いを定めさせない。

――そこへ――

結標「女の尻ばっかり追い掛けてるんじゃないわよ!!」

敵兵が一瞬奪われた『目』そのものへワインのコルク抜きを座標移動(ムーブポイント)で抉り抜く――結標淡希!

突撃兵A「がああああああ!?」

突撃兵B「このアマッ…ぐぶっ!?」

白井「目移りの激しい殿方は好みではありませんの!」

眼球を鮮血を迸らせる突撃兵、狙いを結標に変える兵士の一人の後頭部目掛けて空間移動にて出現、両脚を綺麗に揃え全体重を乗せたドロップキックを浴びせる白井。
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 19:50:37.32 ID:gF8c244AO
突撃兵C「このクソガキ共がああああああ!!!」

その白井の背後に激昂しアサルトライフルを突き付ける突撃兵。
狙いなどつけない。逃げ出す避難民もろとも肉塊に変えるべく、その引き金を――
引く!

ガガガ!ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!

弾丸が射出される刹那

結標「させるわけないでしょう!!」

横薙ぎに振るう軍用懐中電灯

突撃兵C「!?」

弾雨の全てを明後日の方向へ『転送』させられ、愕然とする突撃兵

白井「せいっ…やあっ!!」

突撃兵C「がはっ!?」

その腕を取り、足に爪先をかけ、相手の体重を利用し、合気にも似た1・2・3の呼吸で横倒しに投げ飛ばす白井。
しかし次の瞬間、更に追撃を加えるべく獄炎の魔術を篭手に宿し狙う魔術師の魔の手が迫る――!

魔術師c「ちょこまかと往生際の――」

白井「ハッ!」

それをリンボーダンスのように上体をそらせて魔術師の炎の手をかいくぐる白井、その生まれた空いたスペースに目掛け――

結標「往生際が悪いのは――そっちでしょうが!」

割り込んで来た結標が上体をそらせる白井の真上から、魔術師の鼻骨ごと叩き割るように軍用懐中電灯を振り抜き、叩きのめす。
更に怯んだ魔術師を、上体反らしから地面に片手を付き、体勢を低く前のめりに、屈んだ状態から独楽回りに足払いを繰り出す…白井!

歩兵A「撃て!撃て!!撃て!!!」

ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキ!

一斉に横一列に片膝をついて軽機関銃を構える歩兵。しかし――

結標「何度やろうが…無駄なのよ!!」

そこへ、低い姿勢となった白井の肩を踏み台に足を蹴り出し、月下の満月の中を文字通り月面宙返りで――舞う結標!

歩兵BCD「「「!!?」」」

一瞬見上げ、銃口を上向かせ、それがそのまま徒となり――結標は空中で身を捩りながら

結標「引かせない!!」

ブンッ!と指揮者がタクトを切るように空中で軍用懐中電灯を振り切る結標!
すると結標が着地する地点に…兵士達の握り締めていた軽機関銃の全てが、着地した結標の足の下に『座標移動』される!そこへ――

白井「女性を銃でものを言わせるなど殿方の風上にも置けませんの――」

ベキィッ!

歩兵B「ぐべぇっ!」

白井「花束の一つでもお持ちになって――出直してくださいまし!」
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 19:51:36.68 ID:gF8c244AO
空間移動で眼前に躍り出、右足で前歯を根刮ぎさらうような跳び蹴りを食らわせる白井!
さらに相手の顔面を踏みつけにし、そこから無着地に飛び上がり――

結標「白井さん!」

白井「結標さん!」

白井の手に、結標の足元に『転送』された軽機関銃が再び『座標移動』で『再転送』され

ゴキャッ!

歩兵C「グッ…ハッ!」

結標から白井へと、空中から兜割りのように軽機関銃の銃尻が歩兵の額と眉間に叩き込まれ、昏倒させられる!
長年連れ添ったダンスパートナーのような、幾たびも死線を越えた戦友のような息のあった二人のコンビネーションを前に…残す所あと一人!

歩兵D「ウオオオオオオ!」

そこにアーミーナイフを振り上げて突進してくる歩兵。
次々と理解不能な『テレポーテーション』に振り回され接近戦に挑むも――

結標「力押しで迫って来る男も――好みじゃないのよ!!」

結標の怜悧な美貌を、その刃先が全てを引き裂く刹那――結標はついに軍用懐中電灯を振るう事もせず

ボゴンッ!

歩兵D「…?わっ、あああ!?」

歩兵を校舎の壁面の『内部』に埋まり込むように『空間移動』させた!
手足と頭部だけ出たような、かつて自分が陥ったような悪夢めいたオブジェへと歩兵を仕立てて…!

結標「…安心しなさい。命まで取らないわ。出る時、多少皮膚が持っていかれるだけでね。夜明けまでそうしていなさい」

髪留めを姫神に引き取られ、流れるような赤髪を払いのけながら結標は振り返りもせずに言い捨てた。

白井「ふう…固法先輩との組み手と、寮監の身こなしが活きましたの」

いつしか校舎内の学生達はロングレンジからの御坂妹・砂皿緻密、ショートレンジでの結標淡希と白井黒子の獅子奮迅の働きで脱出を終えたようで――
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 19:53:50.39 ID:gF8c244AO
〜とある高校・屋上〜

砂皿「…傭兵16名、正体不明16名、一個小隊が2つ…か」

御坂妹「危ない所でした、とミサカは無表情の中にも今更流れ出した脂汗を拭います」

屋上にて敵対勢力の無力化を確認すると御坂妹はこめかみを流れる一筋の冷や汗を拭う。
一方通行の時や、他の妹達が原石を保護すべく臨んだ戦いとは異なる『誰かを守る戦い』。
そのために引いた引き金の重さ、握った手の汗が――またひとつ、御坂妹の中の『確かな何か』になる。

砂皿「…次だ。間を置かずにまた来るだろう…セカンドポイントは体育館だ」

一方、砂皿の顔色に汗はない。感慨はない。あるのは緊張と意識と目を切らぬための一息。
自分達の持ち場は白井黒子、御坂妹、結標淡希、砂皿緻密は対32名の混成部隊。
彼の雇い主たる垣根帝督は対10413体の騎士団。ここで息は切らせない。

砂皿「…行こう。次の戦場へ」

絹旗最愛に撃破され、ステファニー=ゴージャスパレスに救い出された後、再び『スクール』に雇われ、彼はまた学園都市に来たまでの話だ。
もしグノーシズム(異端宗派)に雇われていたならまた立場は違っていただろう。

だがプロである以上、全うせねばならない任務がある以上、砂皿緻密はやり遂げる。

御坂妹「燻し銀ですね、とミサカはメタルイーターを担ぎながら月夜の下をおっかなびっくり歩きます」

そして御坂妹は、今手に握った『何か』を確かめるように二、三度手のひらを握り、開き、拳を固めて駆けて行った。
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 19:54:57.38 ID:gF8c244AO
〜とある高校・裏門2〜

白井「壁に埋め込むだなんて…相変わらずえげつないやり口ですの。とても誉められたものではありませんの。“水先案内人”さん?」

結標「貴女達と違って仕事のやり方を選んでいられないのよ“風紀委員”さん」

ドン、ドオンとあちらこちらから響き渡る轟音、爆音、破壊音。
闇夜が赤く、白く、黄色く、移り変わり染め上げられて行く。
32人の兵士と魔術師を全滅させた中、二人は互いを見交わす。

結標「――まさか貴女と手を組んで、足並みを揃えて戦う日が来るだなんて思ってなかったわ」

蒼白い月の光の中、吹き荒ぶ爆風に髪紐を失った赤髪がそよぐのを手で抑える結標淡希。

白井「わたくしも、貴女に背中を預け、呼吸を合わせて闘う時が来るとは思ってもいませんでしたの――」

真白き月明かりの下、吹き荒れる熱風に真紅のリボンで纏められたツインテールを翻るに任せる白井黒子。

結標「――――――」

白井「………………」

既に校舎内に取り残されていた学生達、避難民は固法美偉と初春飾利による誘導と引率によって脱出に成功している。
しかし二人の眼差しは――先程の互いを知り尽くしたような戦友のような動きとは裏腹に、長年の好敵手を見交わすように静謐なそれだった。

白井「…その様子なら、もう吹っ切れたと思って構いませんの?」

本来交わる事のなかった、光(法の番人)と影(闇の住人)の二人。

結標「ええ。そう思ってもらって構わないわ。私はもう――迷わない」

同じ性別、同じ能力者、コインの裏と表のように似通いながら相反する二人。

白井「――あの女性は?」

結標「連れ戻しに行くのよ。なんでもかんでも背負い込んで、勝手に家出した大飯喰らいで馬鹿な黒猫をね――」

白井「たった一人でも?」

結標「たった独りでもよ」
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 19:57:46.81 ID:gF8c244AO
御坂美琴を慕う白井黒子。

姫神秋沙を想う結標淡希。

今二人の胸を去来するものは、恐らく同一。

白井「そうですの――」

結標「――貴女が私の立場でも、同じ事をするでしょう?」

白井「ええ。ですからわたくしは止めませんの」

それぞれ出会いの形が

それぞれ出逢う場が

それぞれ歩む道が

それぞれ交わる道が異なっていたならば――

自分達はどうしていただろうというif(もし)

『ガガ…吸血殺し(ディープブラッド)を捕捉…ガガ…の者は…ガガ…直ちに…ガガ…第九学区のハイウェイへ…ガガ…』

結標「…行くわ」

白井「わかりましたの…」

兵士達が備えていたトランシーバーから漏れ出すノイズ交じりの指令が二人のif(もし)を断ち切る。

背を向けて歩み出す結標、解かれて風に舞う赤髪を靡かせるその後ろ姿を見送る白井は――
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 19:59:20.70 ID:gF8c244AO
シュルッ…

白井「結標さん!お待ちなさって!」

ヒュンッ!

すると…白井はツインテールの内、左側のリボンを外して――空間移動でそれを結標の手の中に転送した。

結標「これは?」

白井「髪がまとまらないようでしたので」

それを受け取り、肩越しに振り返る結標。フワフワと左側の髪を夜風に遊ばせる白井。

結標「ありがとう、と言えば良いのかしら?」

白井「勘違いなさらならないように。お貸しするだけですの」

結標「返せなくなったらどうするつもり?」

白井「帰って来ますの。貴女は、必ず…」

結標「お守りの効果まであるだなんて御利益あるわね…これでどう?」

そして結標は赤い後ろ髪をポニーテールのようにまとめ、白井に見せた。

結標「似合う?」

白井「ええ」

それを見やり、白井はクスッと笑い、結標はフッと笑んだ。

結標「私が返しに来るまで、せいぜい生き延びる事ね」

白井「貴女が帰って来るまで、せいぜい生き長らえる事にいたしますの」

結標・白井「「お互いに」」

自分達にif(もし)はない。それは止まらない時の中で長針と短針が交錯したような、一瞬の交差。

光と影がほんの僅か重なり、ほんの微かに重なった、ただそれだけの事だった。

それだけで十分だ――そう互いに、一度も振り返る事なく二人は別々の道を駆け出す。


――互いが選んだ、それぞれの戦場へと――
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 20:01:40.88 ID:gF8c244AO
〜第七学区・瓦礫の王国〜

魔術師C「なんなんだよアイツはよオオオォォォ!!!」

近衛兵A「…!」

ガシャン!とモニターの内一つを持ち上げ、振り上げ、叩き壊す白雪のローブを纏った魔術師。
砕け散る画面を更に憎いとばかりに踏みつけ、地団駄を鳴らすように犬歯を剥き出しにして口から泡を飛ばして激昂する。
その激怒を通り越してヒステリックじみた、子供の癇癪が爆発したような様相に近衛兵らが息を飲んだ。

魔術師C「クソが!クソが!!クソが!!!聞いてねえぞ!知らねえぞ!認めねえぞ!ふざけんじゃねえぞオオオォォォ!」

送り込んだ白銀の騎士団10413体…一個大隊はおろか一師団に匹敵する兵力の全てを垣根帝督は粉砕した。
操り人形とは言え、兵の練度は意思を持たぬが故に並の軍隊など及びもつかない規模であった。それを…

垣根『所詮“白銀”なんざ“黄金”になり損なった二番手の勲章だ。ブリキの兵隊にカメオの城は落とせねえ。一昨日来やがれクソッタレ』

それをチェスボードごと引っくり返すように垣根帝督は勝利をもぎ取った。
その上完成された『黄金錬成』を知らぬ内に、下位互換たる『白銀錬成』を嘲笑って。
戦略上の勝利から相手の矜持まで二度打ち砕くその様はまさに不遜な王(キング)のそれだった。

魔術師C「おい!グレゴリウスの聖歌隊の数を増やせ!詠唱を加速させろ!たがが一万そこらじゃあの優男(ロメオ)のイケすかねえスカしたツラ潰すにゃ足りねえんだよオオオォォォ!」

近衛兵A「はっ、たっ、ただちに…!?」

過剰摂取した興奮剤の影響からか血走った目を見開いて吠える魔術師。
それを受けて慌てて無線機にて本部に連絡を取ろうとコールサインを確認しようとして――

近衛兵A「観測部隊から打電!吸血殺し(ディープブラッド)は避難所じゃありません!第九学区です!第九学区から車両で移動中です!」

飛び込んで来た、監視・索敵・探知の魔術に秀でた部隊からの第一報。
それを受けて魔術師は一度ポカンとし…そこから笑い始めた。
それは人格としての正常な機能を放棄したような、そんな笑い方だった。

魔術師C「ふへうへへうふぇふぇ!!錬成する!場所は第九学区!標的は姫神秋沙!現出するは―――」

避難所への能力者狩り、姫神秋沙の追跡、その両方を行うに充分過ぎる。
偽・聖歌隊3829名、魔術師567名、傭兵達も数限りなくいる、撃ち漏らしのないウサギ狩りを――
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 20:02:47.71 ID:gF8c244AO
〜第九学区・ハイウェイ〜

姫神「………………」

黄泉川『避難所が訳わかんない連中に襲われてるじゃん!?どうなってるじゃん!?』

ステイル「…能力者狩り、だね」

手塩『恐らく、彼等は、痺れを、切らした。この埒のあかない、膠着状態に』

七日目…0:47分。姫神秋沙をイギリス・ロンドンへと脱出させる道中…ステイル=マグヌス、オリアナ=トムソンの二名は姫神と向かい合わせの形で護送車の席に腰掛けていた。

オリアナ「貴女のせいじゃないわ。この学園都市(まち)には昨日着いたばかりだけど、お姉さんはいずれこうなると思っていたもの。遅かれ早かれ」

ステイル「魔術師から予言者に職替えしたのかい?事が起きてからそれを言うのは予言の範疇から悖ると僕は思うがね」

オリアナ「あら?女の予言って当たるのよ?預言者エリヤのようにね」

ロケット弾を喰らっても横転しないハンヴィー型特殊装甲車の小窓から流れ行く景色、本部と連絡を取り合う黄泉川愛穂と手塩恵未の声音。
芸術や工芸に特化した学区らしく、そこかしこに前衛的なオブジェや巨大な彫刻など見える。
しかしそんな中、オリアナのフォローやステイルの混ぜっ返しにも――

姫神「(私が。いるから。こうなった)」

その中の女神像の一つにでもなったかのように憂いを帯びた表情で姫神は俯いていた。
確かに自分が標的とされる前から能力者狩り、原石狩りは他の学区でも数少なくとも横行していた。
しかし姫神には、全ての災厄の源が自分であるように思えてならなかった。
それほどまでに姫神の精神活動は鈍麻していた。
結標淡希の傍らで芽吹き始めていた感情表現まで麻痺しつつあるほど。

ステイル「(恐らく、グノーシズムの魔術師だね。既に手は打っているが僕が戻るまで持ちこたえられるかどうか)」

そんな中、ステイルが案じるのは避難所に置いて来たインデックスの事である。
同時に避難所を襲撃したならば程度の差こそあれど姫神がその場にいない事が割れるのは時間の問題…
息詰まる物思いから、ふと外の空気を吸いたいとステイル小窓を覗き込み――

ステイル「姫神秋沙」

姫神「なに」

姫神も呼応して顔を上げる。心がズタズタでもボロボロでも、呼び掛けられれば応えるくらいのやりとりはまだ出来た。
だが姫神の見やった視線の先のステイルは――
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 20:05:08.20 ID:gF8c244AO
ズウン…ズウン…

ステイル「この学園都市(まち)では」

遠くから低く、重く、鈍い音が断続的に鳴り響いてくる。

それは姫神の感覚の中で、近い言葉で言えば『足音』に似ていた。

オリアナ「あらあ…?お姉さん達の愛の逃避行、もう無粋な追っ手にかかっちゃった?」

ズシン…ズシン…

まるで幼い頃テレビに流れていた怪獣映画の効果音のような、想像上では有り得ても、現実的にまず有り得ない…破壊音――

姫神「…あれは。…なに」

小窓から姫神の目にも見て取れたのは――男のような身体に女の顔を持った…周囲の風力発電の風車がその影の『足』くらいの大きさほどにしか感じられない巨大な――


ステイル「この学園都市(まち)には――巨人像が歩き回るだなんてギミックまであるのかい?」


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

姫神「…!!?」

その轟音が、全長が計れないほど巨大な白銀の巨人像が奮った拳の先――立ち並ぶビル群を砂城を崩すように殴り抜いた音だと姫神が理解した瞬間――

オリアナ「姫神さん!!」

薙ぎ倒されたビルが、護送車の走るハイウェイを塞ぐように横倒しになる。
姫神達の行く手を阻み、闇夜の中にも禍々しく輝く白銀の巨神兵が…舞い起こる粉塵すら踏み潰して…

姫神「あ…。ああ…」

ハイウェイを跨ぐように歩を進める白銀の巨人…この装甲車などあの巨人のサイズからすれば落ちた本を拾い上げるようなものだろう。
それが…無骨な男の肉体と優麗な女の美貌を持つ醜悪な巨神兵が…姫神達の元へ…!

黄泉川「降りるじゃん!こっからは徒歩(かち)で行くじゃん!姫神!」

姫神「あっ…!」

運転席から飛び出して来る黄泉川が姫神の手を引く。
その脳裏に過ぎるは、シェリー=クロムウェルがかつて学園都市に侵攻して来た事件の再来。

手塩「ルートを、切り換える、本部に報告のあった、去年侵攻してきた、正体不明の、巨人に酷似している」

同じく、迫る巨人を前に手にしたアンチスキルの標準装備…暴動鎮圧用ライフルを背負って駆け出す手塩。
もちろん、優先すべきはなりふり構わない逃走手段。
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 20:06:18.57 ID:gF8c244AO
オリアナ「うふっ…やっぱり、女は追い掛けるより追い掛けられる内が華って言うのはお姉さんも同感よお?けれど、大きいだけの男の子じゃお姉さんはイカせられないわよ?」

手にした『速記原典』の一枚をその艶めかしい唇に咥えながら嫣然と微笑むオリアナ。
その頭脳には既に最適な逃走経路の割り出しを終えている。そして―――


「――君達は先に行け」


迫る巨人、逃げ出そうとする女性陣の狭間でライオンハートの『ハウル』のジッポーで煙草に火を点けるは――

オリアナ「貴方一人で大丈夫?あの巨人さん、貴方より更に大きいわよ?」

黒衣の神父服、十指に嵌められたシルバーアクセサリー、耳にも同様のピアス、特徴的な目元のタトゥー、そして――

「…どうやら今夜の僕は、らしくもなく苛立っているようでね――」

姫神「(淡希と。同じ――)」

燃えるような、鮮血のような、赤い長髪をなびかせて、懐から数万にも登る――魔法陣の刻印されたルーンのカードをばらまく!!


ステイル「――周りを巻き込まない自信がない!!!」


轟ッッ!と姫神達の逃走経路を除くハイウェイ全体を火の海に変える地獄の業火が巻き起こる。
夜空まで焼き尽くし塗り潰すような煉獄の炎上網を展開させ、ステイルは天をも衝く白銀の巨人に対峙する。

姫神「(――似てる)」

その赤い髪が、姫神に結標を想起させる。彼女は今どうしているだろうか。
既に避難しているだろうか、それとも再び戦っているのか。
それを知る術は今の姫神にはない。だがしかし――

姫神「――死なないで」

それは目の前のステイルか、遠く離れてしまった結標に向けた言葉か、それは姫神にもわからない。
しかし、その言葉は共に偽らざる姫神の心からの本心であった。

ステイル「…行け!!」

その言葉を背に、黄泉川・手塩・オリアナ・姫神は駆け出した。

白銀の巨人と、ステイルを残して
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 20:08:17.64 ID:gF8c244AO
〜第九学区・炎上するハイウェイ〜

ステイル「…なるほど、それがアウレオルス=イザードの負の遺産か。相続人が悪かったようだね。ちっとも運用出来ていない」

魔術師C『なぁぁんだオマエぇぇアイツを知ってるかなぁ?』

ステイル「知っているだけさ…会って、話して、戦って…そして――僕が奴を“殺し”た」

白銀の巨人を通して何者かの声音がステイルの耳朶を不快に震わせた。
周囲の風車が脚部部分にしか相当しないほど巨大な敵を前にしながら、新たに煙草を取り出して火を付け、紫煙をくゆらせながらそう言った。
道端の吐瀉物を目にしたように眉根を潜めながら。

魔術師C『へえ?なら知りたいもんだな。あの気取った骨董屋がどうくたばったかよ?』

ステイル「――答える必要はない」

魔術師C『…なにぃ?』

ステイルは周囲の真紅の炎と比べ、その内面に蒼白の焔を宿していた。
それは、形は違えど道は違えど、気に食わなかろうが気に入らなかろうと――

ステイル「聞こえなかったかい?墓荒らしで身につけた安っぽい銀細工を見せびらかすような盗人に答えてやる必要はない、と言ったんだ」

あの男(アウレオルス)はインデックスのために世界の全てを敵に回してでも、自分の生命を、人生を、全てを捧げ、それでも叶わず『死んだ』のだ。
ステイルが決して相容れないアウレオルスを唯一認める一点…その一点を奴等(グノーシズム)は汚したのだから。

ステイル「死んだ亡霊(アウレオルスの遺産)が生者に危害を加えるのを――この神父(ぼく)が見逃すとでも思ったか?馬鹿め」

インデックスが側に居なくて良かった、とステイルは思った。
今の、静かながら臨界点を超えた激怒、限界点を超えた激情を湛えた顔を見られずに済むのだから。
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 20:10:32.40 ID:gF8c244AO
ステイル「――戦う理由が、増えたようだ」

これは弔い合戦などではない。これは必要悪の教会から下された任務だ。

ステイル「君は、魔法名を名乗るにも値しない」

そう、これは――神父としての戦いだ。

ステイル「Kenaz PuriSazNaPizGebo(炎よ!巨人に苦痛の贈り物を)」

これは死に損なったアウレオルス=イザードの遺産(たましい)を冥府を送るための――神父(ステイル)の闘いだ

ステイル「AshToASh…DustToDust…SqueamishBloody Rood(灰は灰に…塵は塵に…吸血殺しの紅十字)」

二刀に構えた炎の剣を重ね合わせる…まるで墓標に刻む十字架のように

ステイル「MTOWOTFFTOIIGOIIOF IIBO LAIIAOE IIM HAIIBOD IINFIIMS ICRMMBGP(世界を構成する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ…それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり。その名は炎、その役は剣。具現せよ、我が身を喰いて力と為せ)」

白銀の巨人と――

ステイル「イ ノ ケ ン テ ィ ウ ス ( 魔 女 狩 り の 王 ) ! ! !」

赫怒の巨人が――

魔術師C『くたばれええええええええええええええええええ!!!』

ステイル「さあ…始めようか――魔術師…!」

――業火の中――激突する!!!――
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 20:15:31.47 ID:gF8c244AO
>>1です。本日の投下はこれにて終了です。たくさんのレスをありがとうございます。お読みいだけた全ての方々に深く感謝いたします。

レスの中にあった感想から、今回はあわきん&黒子→御坂妹・砂皿→あわきん×黒子→敵モブ→ステイルの流れにさせていただきました。

それでは失礼いたします…ありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 20:27:20.68 ID:jBbODU2Lo
黒子とあわきんの共闘場面がカッコ良過ぎて鼻血出そうなのよな。
この退廃的な感じが好き過ぎる。NOIR風に脳内再生されましたよ。
しかも砂皿さんとかヤムチャじゃないカッコいいステイルとか、こんなに一度に俺の大好物を詰め込んだスレに出会えて幸せです。
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 20:33:20.91 ID:69Zjym6SO
偽善使いの時もだったけど
>>1はカッコいいステイルを書くよなぁ。
今回も燃え展開に次ぐ燃え展開で
熱い涙が出そうだったぜ!
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 20:39:38.64 ID:UqzWZbUAO
いちおつ!
鳥肌が立ちっぱなしでした!
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 20:52:44.65 ID:Fhco8tXWo
御坂妹・砂皿やあわきん・黒子の共闘に燃えに燃えた、乙!
読むのに夢中になってしまう
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 21:43:58.23 ID:0CHzQXlAO
燃えに燃えた!乙でした!
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 08:58:02.01 ID:uS/k1vIAO
色んなキャラに見せ場がありすぎて泣ける
個人的にていとくん大好きなんだが、いい作者の書くていとくんはホントカッコいい
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:30:59.18 ID:3nSo0P7AO
>>1です。姫神(攻)あわきん(受)の同居生活七日目、投下させていただきます。
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:32:34.90 ID:3nSo0P7AO
〜第九学区・『黄色い家』〜

手塩「数が、多過ぎる。このままでは、弾丸(タマ)が尽きるぞ!」

黄泉川「持たせるじゃん!今救援を呼んだじゃん!!」

姫神「ッ!」

2:06分。芸術と工芸に特化した第九学区の学生街、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホがかつて作り上げようとした芸術家達だけの村に由来する『黄色い家』と名付けられたアトリエに四人は立て込もっていた。

特殊兵A「吸血殺し(ディープブラッド)を連れて投降しろ!そうすれば命だけは保証してやる!」

狭い路地を擦り抜け、所構わず据え置かれたオブジェを掻き分け、満月が照らす石畳を駆け抜ける敵兵。しかし――

オリアナ「イヤねえ?ここにこーんなイイ女がまだ三人もいるのにお目当てさんしか口説かないだなんて――」

ピッ!とワードレジスターの形を模した『速記原典』の内一枚を噛みちぎると

ドオオオオオオン!

特殊兵A「がはっ!?」

手榴弾でも炸裂したかのように突入部隊の先陣を切った特殊兵を閃光と共に吹き飛ばす。
そしてその閃光の一撃から身を踊らせ飛びかかるは――

オリアナ「お姉さん拗ねちゃうわよ?」

バキィッ!

特殊兵B「ぐべぇっ!」

急角度に跳ね上がる右ハイキックで特殊兵の顎骨を蹴り砕くオリアナ=トムソン

黄泉川「生徒じゃないなら――キッツいお仕置き、お見舞いするじゃんよ!」

ゴッ!と全身を覆う防盾をハンマー代わりに横殴りにフルスイングする黄泉川愛穂

手塩「だから、足を、すくわれる!」

ガウン!ガウン!とオートマチック拳銃で物影から四人を伺っていた特殊兵の一人の右腕と右膝を撃ち抜く手塩恵未。
ステイル=マグヌスが魔術師を引きつけている間に少しでも距離を、時間を稼がねばならない。だが――
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:33:37.37 ID:3nSo0P7AO
姫神「(どうすれば。私は。私はどうしたらいいの)」

アトリエのマホガニーデスクの下に身を隠し、頭を庇いながら姫神秋沙の顔色は蒼白になっていた。
耐えざる緊張、絶えざる銃声、堪えざる重圧に押し潰されてしまいそうだった。

姫神「(また。私のせいで。誰かが。命を落としたら)」

三沢塾では死に絶えていた感情が、上条当麻との出会いで、月詠小萌との巡り会いで、吹寄制理との語り合いで、結標淡希との触れ合いで芽吹いた感情が寒風に晒される。

姫神「(お願い。誰も死なないで。お願い。お願い)」

今や姫神にとって、周囲の誰かが自分のために命を落とすという現実はあの寒村での惨劇を想起させる。
吸血鬼であろうと人間であろうと、自らの『吸血殺し(ディープブラッド)』が招く災厄がもたらす『死』は。

姫神「(――淡希――)」

ギュッと結標淡希の赤髪から形見分けのように引き取った髪紐を握り締めながら姫神は耐えた。
破綻しそうな叫び声を、決壊しそうな涙を、辛うじて踏みとどまる。
微かに香るクロエの残り香、つい数時間前に離れたばかりなのに、今生の別れを告げたばかりなのに――

姫神「(無事で。いて。逃げて。生きて。淡希)」

姫神にはオリアナやステイルのような魔術も、黄泉川や手塩のような戦闘技術も使えない。
頭を低くし、背を屈め、声を出さないという『耐える戦い』しか出来ない。
避難所で決めた、姫神秋沙の戦いはまだ終わらない。終わらせる事など出来はしない。
『生きる』のではなく『死なない』事…それだけが今姫神に出来る全てだった。
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:36:10.66 ID:3nSo0P7AO
〜第七学区・学舎の園〜

結標「秋沙…!」

2:07分、結標淡希はとある高校から旧学舎の園まで座標移動を繰り返しながら第九学区を目指す。
火を飲み込む思いで、無尽蔵とすら思える敵の進軍の真っ只中を突っ切る!

魔術師d「屋根だ!狙え!一人も生かして出すな!」

轟ッッ!とミサイルのような氷柱が円陣を描いて結標の周囲を旋回する。
同様に地中海風の石畳を直走る魔術師が、次々と氷飛礫を雨霰とばかりに結標目掛けて撃ち放つ!

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!

結標「いい加減しつこいのよ!私の道に――立ち塞がらないで!!」

座標移動・座標移動・座標移動―!

窓ガラスを粉々に打ち砕く氷の弾丸を

石造りの壁面を軽々と貫通する氷の矢を

屋根瓦に易々と風穴を開ける氷柱を

繰り返す空間移動で

地面を転げ回って

物影に飛び込んで死に物狂いで回避する!

結標「キリがないわ!ゴキブリの方がまだ慎みがあるわよ!」

既に避難所を覗いて第七学区の至る所に『原石狩り』の魔術師が、『能力者狩り』の傭兵が次から次へと侵攻してくる。
それだけならまだ良い。問題は――その後に次から次へと虚空より出現してくる――

魔術師d「チャリオッツだ!チャリオッツを投入しろ!一気に踏み潰せ!」

魔術師e「“六枚羽”を展開させよ!制空権を奪って虱潰しだ!」

魔術師f「テルス=マグナ=オルデン(白銀近衛騎士団)!押し潰せ!」

見た事のない白銀の戦車が瓦礫の山すら押し潰し、見た事のある無人戦闘ヘリが宙を舞い、見たら忘れられない白銀の騎士が次々に学舎の園を埋め尽くして行く…!

結標「ゴキブリじゃなくてネズミ算式ね…こっちは!時間がないのよ!」

結標は知らないが、垣根帝督が撃破し、ステイル=マグヌスが交戦している今はその白銀錬成(テルス=マグナ)は大幅にその力を削られている。
しかしそれでも一個中隊を下らない軍勢に、結標は――

結標「―――!!!」

迷う事なく、地面を蹴った
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:37:45.43 ID:3nSo0P7AO
〜旧学舎の園〜

安っぽく命を懸けて、馬鹿っぽく身体を張る。


闇の底(暗部)に身を置いていたクセに、偽善者ぶって避難所のボランティアまでやってる。


誰かの笑顔って、お金より尊い物?


感謝されるのって、気持ち良い事?


恋をするのって、幸せな気持ち?


わからない。


わかりたくもない。


理解しようとも。


理解したいとも思わない。


そもそも、興味が無い。


そもそも、関心が無い。


他人がどうとかよりも。


自分がどうしたいかの方が大事。


なのに。


何で一度も言い訳しないかな。


あんな酷い事言われて、何で続けられるかな。


ああ――そうか


馬鹿なんだ。


頭が悪いんだ。


レベル4の癖に。


ああ――そうか


馬鹿なんだ。


私も。


―――――――結局――――――



――「みんな馬鹿ばっかって訳よ!!」――
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:40:20.33 ID:3nSo0P7AO
〜第七学区・学舎の園2〜

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!

結標「!?」

魔術師def「「「!?」」」

結標が地面を蹴り出した瞬間、侵攻していた戦車部隊の先頭部分が『爆破』された。
キャタピラー部分が吹き飛ばされ、底部から炸裂した爆発が下から上へ吹き抜けて炎上して…!

魔術師d「――対戦車地雷だと!?引け!この瓦礫はカモフラージュだ!前進止め――」

しかし――それを見やっていた少女

「ブービートラップって知ってる?」

闇夜の中にも光輝く金糸の髪をちょこんと乗せたベレー帽

「この国じゃ“馬鹿”とか“間抜け”って意味なんだけど」

学園都市ではやや珍しい碧眼を、飛びっきりの悪戯が成功したように輝かせ

「私も麦野から馬鹿とか間抜けとか詰めが甘いとか口が軽いとか言われるんだけど――結局、爽快な訳よ」

伸びやかな脚線美を振り上げ――踏み鳴らす!!!



フレンダ「自信満々の馬鹿(マヌケ)を嵌めたこの瞬間が最っ高ーに快感な訳よ!!!」」



ドガンッ!ドオンッ!ボオンッ!ズガアアアアアアアアアアン!!

魔術師def「「「何だとオオオオオオオオオオオ!!?」」」

爆発、爆破、爆裂。フレンダが手にした着火装置をオンにした瞬間、学園都市の科学技術を結集させた対戦車地雷が次々に戦車部隊を誘爆させて行く!

フレンダ「あっはっはっは!どや顔で突っ込んで来た自慢のやわらか戦車が木っ端微塵!って訳よ!」カチッ

ズガン!ズガン!ズガンズガンズガンズガンズガンズガン!!!

さらに廃虚と化していた学舎の園の地中海風の建築物にまで爆弾を仕掛けていたのか、次々に石造りが雪崩となって後続の戦車隊の行く手を塞ぐ!

結標「貴女…どうして…」

突如として始まった、フレンダの手による火祭りに茫然自失気味に口を開く結標。
それをそっぽを向きながら狂乱状態の戦車隊を見やり――
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:41:54.55 ID:3nSo0P7AO
フレンダ「どうしたもこうしたも、避難所外部の守りは“アイテム”の仕事って訳よ。そういう貴女こそどうしてここにいる訳よ?」

そう。避難所の外の『狩り』はアイテムが担当する。オリアナが手渡したハザードマップを元に、フレンダは待ち構えていたのだ。
突如として現れた白銀錬成の騎士団に出鼻こそ挫かれたものの。

結標「あ、貴女には関係な――」

フレンダ「フレンダ」

結標「―――?」

フレンダ「私の名前。結局、私達お互いの名前も知らない訳よ」

そう…四日目に無理矢理組まされた時は険悪を通り越して最悪の空気のまま物別れに終わったのだ。
お互いの名前すら知ろうとしない、暗部同士の流儀。

結標「――保健所に連れて行かれそうな馬鹿猫を奪り還しによ、フレンダさん…私は淡希、結標淡希」

フレンダ「ふーん。変な名前――」

魔術師d「キサマらァァァァァア!!」

そこに、戦車隊の大半を壊滅させられた魔術師が

結標「危な―――」

魔術師d「死―――」

目を見開く結標目掛けて何やら魔法陣の描かれたカードを取り出す――



ズギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!



「背中ガラ空きでしょうが、この馬鹿」



…より早く、その魔術師の上半身は闇夜を切り裂いて放たれた…

結標「…えっ…」

アイスブルーの閃光により『食いちぎられた』。まるでライオンに頭から喰われたように

フレンダ「馬鹿だねー…結局」

彼方から放たれた光芒の御手…有象の障壁など、無象の防壁などものともしない――魔弾の射手


麦野「フーレンダぁ…」

レベル5第四位『原子崩し』麦野沈利


絹旗「フレンダ超油断大敵です」

レベル4『窒素装甲』絹旗最愛


滝壺「ふれんだ、余所見はめっ」

『八人目のレベル5』滝壺理后

フレンダ「結局――“アイテム”は一人じゃない訳よ」

そして――フレンダ


学園都市暗部『アイテム』…再集結――
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:43:48.08 ID:3nSo0P7AO
〜第七学区・学舎の園3〜

結標「(これが)」

赤々と燃え盛る学舎の園、口の中の飲み込めない唾液、鼻につく火薬と人間の焼ける匂い、産毛がチリチリと焦がれるような感触、阿鼻叫喚の断末魔。

結標「(これが―――アイテム)」

男所帯だった『グループ』とは違い、『アイテム』は噂に聞いていた通り女所帯だった。
だが実際目にすると――その若さ、統一性のなさ、そして――

麦野「パリイ!パリイ!パリイ!てかァ?笑わせんじゃねえぞ糞袋が!!戦争ごっこのケンカ程度でこの街の闇(暗部)をどうにかできると思ってんのかァ!!?」

暗部に身を置いていた結標ですら目を背けたくなるような残虐性に戦慄する。
特に今、『元リーダー』らしい麦野沈利の『制裁』は群を抜いて凄惨だった。
小萌と約束した焼き肉の時に思い出したら嘔吐を催すほどに。

フレンダ「今日の麦野は気分ルンルンな訳よ!一人生かして帰すみたいだし。あんなんなっちゃってるけど」

結標「…あれで機嫌悪かったらどうなるのよ…」

フレンダ「大丈夫大丈夫!だって今日――」

麦野「フーレンダぁ…余計な事言わないの…」

3:36分。アイテムと結標淡希の一時的な共闘によって侵入して来た敵軍は全滅した。

戦車部隊はフレンダが

戦闘ヘリ部隊は麦野が

騎士団は絹旗が

魔術師は結標がそれぞれ撃破した。

同時に敵の包囲網も解け、後は突破を残すのみ。

結標「…ありがとう、私だけじゃ突破出来なかった」

滝壺「避難所は、みんな助け合いだよ」

絹旗「超ついでです」

フレンダ「目障りだったんで一緒に吹き飛ば…人助けって訳よ!」

麦野「フレンダ、アンタしゃべるととことんダメな娘ね…」

結標「(………………)」
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:45:09.63 ID:3nSo0P7AO
結標もふっ…と思う。もし避難所で水先案内人などという仕事をしていなければ、今頃自分はどうなっていただろうか。

白井黒子と出会わなければ、あの場から月詠小萌や生徒達を救出する事など出来なかった。

削板軍覇が迎え入れてくれなければ、そもそも水先案内人になどなろうとしなかっただろう。

フレンダとぶつかり合わなければ、自分は今この場で敵陣を突破する事など不可能だった。

木山春生と話し合わなければ、姫神秋沙への恋心を認められず、今の自分などありえなかっただろう。

黄泉川愛穂と差し向かなわなければ、誰かを守るために、もう一度立ち上がろうなど思いもよらなかった。

そこへ――


『ヒトミニウツス ミライニダッテ イツモツヨクテ コンナキミハボクサ キミハマダマブシイケド オナジキモチデ コノテノバシテ〜♪』


鳴り響く、着信音

結標「…出て良いかしら?」

アイテム「「「「ご自由に」」」」

携帯を取り出し、開かれた画面


発信者――『ナンバーセブン(削板軍覇)』――
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:47:31.60 ID:3nSo0P7AO
〜第七学区・全学連復興支援委員会本部〜

削板「オレだ!!」

結標『着信見ればわかるわよ。それで何かしらナンバーセブンさん。私今忙しいんだけど』

雲霞の湧き出る敵対勢力が避難所目指して侵攻してくる。

削板「うむ!頼みと言うのは他でもない!」

減らしても減らしても止む事のない魔の手

削板「お前に、迷子の案内をしてもらいたい!さっきアンチスキルの黄泉川先生から援軍要請があってだな――」

結標『ちょっ、ちょっと待ってちょうだい!私今――』

何度『幻想(ぜつぼう)』をひっくり返しても、何回でも押し寄せてくる『現実』

削板「――迷子は第九学区を抜けて第二十三学区を目指してる。女の尻ばっかり追い掛けてる根性無しどもから逃げながらだ!!」

結標『―――!!!』

単騎で軍隊と渡り合えるレベル5が全員結集してすら、支えられるギリギリの限界点。

削板「水先案内人!仕事だ!迷子(姫神)を案内(導いて)してやれ!右も左も敵ばかりだが――根性でなんとかしろ!!」

結標『…!貴方…どこまで知って…』

削板「返事はハイかイエスだ!!」

夜明けまで持ちこたえられるかなど誰もわかりはしない。敵も味方も誰も彼も。

結標『――やってやるわよ!!根性で!』

削板「よしよく言った!!お前の根性、確かに受け取ったぞ!!」

通話を切る。携帯をしまう。戦う相手は倒せば終わる軍隊などではない、敵は終わらない絶望(げんじつ)だ。
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:49:01.85 ID:3nSo0P7AO
〜避難所・表口〜

この世界に英雄(ヒーロー)はいない。

いるのは

災誤「吻ッッ!!」

寮監「破ァッ!!」

鍛え抜かれた身体で生徒を守るべく兵士達に拳を振るう大人。

月詠「もっと重いものを!このままでは破られてしまうのです!」

戦う力がなくとも、バリケードを築き上げて生徒達の盾になろうとする教師。

禁書「杜撰だね!外側にばかり意識が向いているから簡単に割り込まれるんだよ!」

謎の力で魔術師の魔法から避難所の狙いを逸らせるシスター

初春「だ、第27番カメラに異常!来ます!」

固法「私が行くわ!初春さんはここにいて!」

鉄装「わ、わっ、私だっています!行きます!」

白井「出ますわ!…これで最後ですの!!」

戦えない生徒達の代わりに闘う風紀委員(ジャッジメント)と警備員(アンチスキル)

佐天「て、てりゃー!!」

金属バットを振り回して戦う無能力者(レベル0)

坂島「こ、ここは通さないぞ!!く、くっ、来るな来るなー!」

ハサミに代わって日曜大工のトンカチを握って虚勢を張る美容師

黒妻「スキル」

郭「アウトを」

服部「舐めんじゃねえええええええええええええええ!!」

侵入して来た兵士を袋叩きにして放り出すスキルアウト(武装無能力者集団)

絶対等速「やっとこ見つけたオレの居場所に入ってくるんじゃねええええ!!」

刑務所帰りの能力者までいる。

芳川「この中に隠れなさい。大丈夫、ここの守りは甘くないから」

木山「みんな、終わるまで出てきちゃダメだ」

吹寄「大丈夫、お姉さんがいるからね」

子供達を地下収納室へと隠れさせ、そこを守る女性達もいる。

心理掌握「――――――」

心理定規「えげつない力ね。敵が可哀想になるわ」

人間の深層心理に働きかけ、自我と人格が崩壊するような心の傷を広げて兵士達を昏倒させる少女達――

この世界に、ヒーロー(英雄)はいない。
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:52:32.09 ID:3nSo0P7AO
〜避難所・裏口〜

雲川「お馬鹿の大将」

削板「おお?」

体育館の裏手より、迎撃に移るべく歩を進める削板の背にかかる声音。

非常用避難口のライトグリーンの光の下、カチューシャにまとめられた髪を退屈そうにいじるは…全学連復興支援委員会副委員長、雲川芹亜。

雲川「行くの?」

削板「決まってるだろう!オレは根性を決めたぞ!女が根性を見せたってのに、男のオレが根性を見せん訳にはいかん!」

雲川「…普通リーダーはどっしり構えるもんだと思うんだけど?」

削板「机の前であれこれ頭を悩ませるのはお前に任せた!オレに出来る事は身体を使う事だけだ!なんせここが――ここが根性の見せ所だからな」

削板は振り返らない。鳴り響く轟音がパラパラと体育館の壁から粉を散らす。

その背を見つめていた雲川は、リノリウムの床に落ちる影に視線を落として

雲川「…お前みたいなお馬鹿な大将でも一応居てもらわなきゃ困るんだけど。だから――」

雲川の表情は俯き加減であり、薄暗がりで伺う事は出来ない。しかし削板には背中越しにも

雲川「だからとっとと片付けて――さっさと帰って来て欲しいんだけど」

雲川がどんな表情をしているのか――見ずともわかるようで。

削板「任せとけ!!!」

そう言って削板は駆け出す。外に広がる『戦場』へ向かって。

一度も――そう、今の表情の雲川を見まいと、見られたくはなかろうと。

雲川「…戻ってきたら、覚えておけバカ大将。言いたい文句が山ほどあるんだけど。溜まってる書類、全部押し付けてやりたいんだけど」

そして…雲川は独り言ちた。



雲川「――前ばっかり見てないで――たまには振り返って欲しいんだけど」



429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:56:01.78 ID:3nSo0P7AO
〜削板軍覇〜

削板「だァァァらっしゃァァあああああああああああああああああああああああああああ!!」

削板軍覇は駆け抜ける。

グラウンドを、敷地内を、残す所1000を切った白銀錬成の兵団目掛けて。

削板「最低だな、オマエら。やる事為す事闇討ち紛いの根性無しめ。たかだか“能力者狩り”のために――オレ達にケンカを売るってか」

根性(なかみ)のない白銀の騎士などものの数ではない。

何故ならば――削板軍覇は知っているからだ。


削板「見せてやるよ!本物の根性ってヤツを!!」


――かつて魔術サイド全てを敵に回し――


削板「大それた理由なんかいらねえ!」


――学園都市最暗部にたった一人で喧嘩を売り――


削板「曲がらず!腐らず!正面を行く男は!!」


――さらに自分を打ち破った男――『北欧玉座のオッレルス』を知っているからだ。


削板「赤の他人だろうが…何だろうが!」


オッレルスの力は、強さは、優しさは、こんなものではなかった。


削板「傷つけられた女の子のために立ち上がる事が出来るんだ!!」


そう、この世界に英雄(ヒーロー)はいない。

いるのは、傷付きながらも今日を生きようとする者達

痛みに耐えながら明日を目指す人々がいるだけだ。


削板「――来い!!さもなきゃこっちから行くぞォォォォォォ!!!」


英雄(ヒーロー)に救われなければならないほど――自分達の世界は、弱くなどないと


削板「お 前 ら の 根 性 叩 き 直 し て や る ! ! ! ! ! ! 」


そして――削板は敵軍の真っ只中へ、敵陣の真っ正面から、敵兵を真っ向から打ち破って行く。

『世界最高の原石』と『人工の白銀』の戦いへと――
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 18:57:51.95 ID:3nSo0P7AO
〜第九学区・『黄色い家』〜

黄泉川「いっ…生きてるじゃん?」

手塩「死、死んでは、いない」

4:16分…黄泉川愛穂と手塩恵未は追っ手を全滅させ、黄色い壁面から屋根の上半分が消失するまで戦い抜き…
今、二人は流血の後も生々しい満身創痍の状態で瓦礫の山に寄りかかっていた。

黄泉川「あ…あいつら…無事空港…ついたじゃん?」

手塩「恐らく、な。そうだと、信じ…たい」

姫神秋沙をオリアナ=トムソンに託し、二人は今頃第二十三学区まで辿り着いているかと…二人は言った。
絶え絶えでの青息吐息の中…黄泉川はニカッと笑った。

黄泉川「これで…あいつらに顔向け出来るじゃん?」

壊滅させられた第十五学区のアンチスキルの隊員達の顔が浮かぶ。
彼等は『被害者』ではなく『殉職者』と黄泉川は呼びたかった。
同時に自分に問い掛ける。彼等の無念を万分の一でも晴らせたかと。

手塩「そう、ありたい、ものだな」

徐々に白み始めようとしている初夏の夜明けを探すように手塩は空を仰ぐ。
暗部にいた頃、眩し過ぎて見上げられなかった空を、疲労困憊の中で――


フッ…


手塩「…ああ」

見上げた夜明け前、空を舞う赤髪、あの時と違う二つ結びでは無くポニーテールを靡かせ、空を見えない階段でも駆け上がるような…少女の姿が見えた

手塩「全く、眩しいな」

かつて少年院で対峙した時と似た露出度の高い服装。忘れようにも忘れられない、自分達を打ち倒した…あの能力者…名前は確か――

黄泉川「なに寝ぼけてるじゃん?寝たら永眠確実じゃん」

そう手塩がかつて激闘を繰り広げた少女がテレポートして行った後ろ姿を見やっていると…黄泉川が肩を貸して手塩を立ち上がらせた。

手塩「そう、だな、もう、夜が明けるのに、寝てはいけないな」

そして二人の女性(アンチスキル)は互いに肩を貸し合いながら瓦礫の中を歩み始める。

黄泉川「さっ、行くじゃん」

手塩「ああ、行こう」

間もなく昇る、朝陽に向かって――
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 19:03:59.56 ID:3nSo0P7AO
>>1です。本日の投下はこれにて終了です。

たくさんの感想、レス、お読みいただけてホッとすると共にガッツが湧いてきます。
ありがとうございます。助けられております。本当にありがとうございます。重ねてお礼申し上げます。

今回は姫神→結標→フレンダ→アイテム→→結標と削板→避難所の人々→雲川→削板→黄泉川と手塩になりました。

それでは、連日となりましたが、次回もよろしくお願いいたします。皆様、いつもありがとうございます…失礼いたします。
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 20:27:50.60 ID:SZoxtFNno
"チャリオッツ" でポルナレフが頭を過ぎった俺馬鹿ッ!超馬鹿ッ!

しかし>>1にかかればどんなキャラもカッコよくなるのは仕様ですか?
絶対等速さんだけちょっとキュンってなったけどww
あとはカッコいいインデックスが見れたらなぁ…(チラッ
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 21:04:02.49 ID:+06s+7l5o
>>427読んだあたりで涙出てきた。
なんだろな、なんかクルわー。
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 21:13:02.31 ID:X/g3odmQo
フレンダ参戦からアイテム集合、能力者達の戦いの流れで鳥肌立った
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 21:58:26.61 ID:QuOwi2cvo
全員だ。全員が主役だ!!
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 22:06:06.94 ID:pbCK3KYKo
http://uploader.sakura.ne.jp/src/up25309.png
http://uploader.sakura.ne.jp/src/up25310.png
前回ロゴあげたものです、なんのひねりもなくてすいません

鳥肌止まんねぇ 超楽しみにしてます
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 22:22:22.29 ID:T9EML3BSO
>>434が言いたいことを全部言ってくれていたでござるの巻。

そして鳥肌モノの熱い展開の中で
雲川さんが僅かに見せた乙女心にキュンとした。
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 09:55:05.71 ID:QY+kj8YAO
ひゃああああああああああああああああ
どいつもこいつも覚悟が決まりすぎてる!!!!!!!
何つーアツい展開なんだよ!!!!!!!
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 17:33:34.69 ID:mXtdrxbAO
>>1です。本日の投下ですが、今夜はこちらの都合で明日の夜21:00か、土曜日にずらさせて下さい。申し訳ありません
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 17:46:15.00 ID:mXtdrxbAO
>>436さん。前回に引き続き素敵なロゴをありがとうございます。
また一つ宝物をいただけた気がします。今夜は投下出来ませんが、この場を借りてお礼申し上げます…既に待ち受け画面に仕様させていただいております。重ねてありがとうございます。
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 10:06:22.12 ID:BawA1NhIO
新作来てたのかよ
何度も偽善使い読み返してたが気付かなかった
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 18:20:24.37 ID:OzOj6UCAO
>>1です。いただいたロゴにテンションが異常なまでに跳ね上がり、書きためを含めた投下の量がいつもの二倍になりそうです。
全て投下し尽くすのに一時間近くかそれ以上かかりそうなので、投下時刻を23時にずらさせていただきます。申し訳ありません。
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 18:43:51.47 ID:DMWyXKJAO
>>1喜びすぎwwwwww
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 18:47:09.53 ID:1IPt+ngm0
>>436のロゴってのはどうすれば見れるんだ?
無粋な質問してスマソ
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 20:41:53.55 ID:zY3Dbe9bo
>>1が可愛すぎるwwwwww
このSS読んでるといつもStone SourのThrough Glassって曲が頭のなかで再生されるんよね。
Youtubeにもあるから興味あったら聴いてほしいな。

>>444
もう流れちゃってるね。
作者さんの許可が得られればどっかに上げるけども、どうでしょうか。
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 22:29:52.42 ID:O/ba9hTSO
投下に1時間掛かるほどの文章量…だと?
よし、パンツは脱いだぜ!
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 22:30:58.63 ID:bPw6g/Gjo
wwktk
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 22:53:04.35 ID:OzOj6UCAO
>>1です。姫神(S)×結標(M)の同居生活七日目、投下させていただきます。いつもより長いですがよろしくお願いいたします。
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 22:55:43.78 ID:OzOj6UCAO
〜第二十三学区・ターミナル駅〜

肋骨が軋む、心臓が破れそうになる、土踏まずから踵まで痛い、喉から血の味が登って来る。
鼻からの息どころか、口からしてすら足りない。肩と背中で息をしているようだ。

姫神「――はあっ。はあっ――」

背中が、鳩尾が、後ろ髪のかかる項が汗でへばりついて気持ち悪い。
額から滲む汗が珠になって、目に入りそうになる。

姫神「――はっ。はっ――」

階段で、エスカレーターで、歩く歩道で、一晩で擦り切れてしまった革靴が何度も引っかかる。
恐怖に震える爪先が、疲労に震える膝頭が、錆び付いてしまった自転車のペダルのように重く、進んでくれない。

姫神「――――――」

振る腕が上がらない、眩暈がする。通り越して吐き気さえする。けれど私は――走っている。
枯れたはずの涙が溢れそうな中、私はターミナル駅を走って走って走って――鉄身航空技術研究所付属実験空港を目指す。

エージェントA「居たぞ!追え!追え!」

その背後から迫り来るは――厳重な第二十三学区の警備すら突破し、追跡して来るブラックスーツの男達。
姫神はその姿を視線に入れまいと懸命に折れそうな身体に鞭を打つ。そして――

オリアナ「――悪いけれど」

その姫神の横を併走しながら、豪奢な金糸の巻き髪と豊満な肢体を揺らして駆けるオリアナ=トムソンが

オリアナ「お姉さんもう一晩中頑張らされちゃったから――」

爪先から踏ん張り、足首を返し、横滑り気味にロビーの床面を踏み締め――ピッと手榴弾のピンでも開けるように

オリアナ「これでイッちゃいなさい!」

ワードレジスターの『速記原典』の一枚をその艶っぽい唇で食み…引き破って舌を出す!

エージェントA「グワアッ!!!」

エージェントB「コイツも能力者か!?」

次の瞬間、蒼氷色の熾炎がルート66番待合い席から搭乗口に燃え広がる!
通常の物理法則から外れた魔術による火の海は瞬く間に姫神の後方を焼き尽くして行く。

オリアナ「あら?お熱いのはお嫌いだったかしら?お姉さんはまだ燃え足りなくって火照っちゃってるんだけど」
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 22:56:57.29 ID:OzOj6UCAO
オリアナ「――お姉さんはこっちの坊や達とR指定のパーティーが待ってるの。残念だけれど二十歳以下の未成年は参加出来ないわ。だから…先に行って待っててくれないかしら?」

姫神「でっ。でも。貴女――」

その言葉に姫神の足が止まる。黄泉川愛穂が、手塩恵未が、そうしたように――
オリアナはここで全ての敵を食い止めるつもりだ。そう悟って制止をかけようと振り返ろうとして

オリアナ「うふふ、お姉さん足腰強いのが自慢なの。このくらいじゃ腰砕けにも骨抜きにもされてあげないわ。それから――」

オリアナは振り返らない。四十人は居ようかと言うエージェント達を見据えたまま、背中越しに――投げかけた。

オリアナ「――あの時は、ごめんなさいね」

姫神「――――――」

大覇星祭の時、誤って姫神を血祭りに上げてしまった事を…オリアナは詫びた。
先程までの陽気で妖艶な声色と違ったそれに、姫神は止めようとした言葉を失った。

オリアナ「あの時の償いを、ここでお姉さんにさせてちょうだい」

姫神「……………!」

オリアナ「さ!行って!それともその安産型のお尻に、お姉さんのスパンクが欲しい?」

姫神「…わかった。先に行って。待ってるから…!」

もう姫神はそれ以上何も言わなかった。言えなかった。駆け抜ける。走り抜ける。
今自分が為すべき事は、オリアナの意思と意志と意地を無駄にしない事だと悟ったから。

オリアナ「…さ・て・と…」

そして姫神が去り行くのを足音で感じ取ると

エージェントA「猪口才な真似をしてくれたものだな…推し通るぞ!」

向き直る先。軽機関銃を携えたエージェント達
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 22:58:22.90 ID:OzOj6UCAO
オリアナ「ダメよお?そんな危ないもの空港に持ち込んだら手荷物検査で引っ掛かちゃうわ」

オリアナも手中で『速記原典』の残り枚数を数え上げる。その整えられた指先で。

オリアナ「(これじゃああともう1Rも頑張れないわねえ?困ったわあ…お姉さん、そういうパーティーより一人とじっくり愛し合いたいタイプなのに)」

既に手持ちの魔術が底を尽きかけていた。

目の前の敵を倒すにも、自分が逃げ出すにも手札が足りないほどに。

オリアナ「(ごめんねリトヴィア。お仕事は成功で、お姉さんは失敗しちゃった。もうアイスクリーム一緒に食べられないわ)」

姫神を逃がすので精一杯だった。だがそれで良いとオリアナは思った。

オリアナ「くすっ…ベッドで夜明けのコーヒーを一緒に飲みたくなるようなタイプはいないけれど…いいわ」

Basis104(礎を担いし者)…その魔法名を名乗った日から、覚悟はしていた。

プロ(運び屋)としての感覚が告げている。自分は夜明けを迎えられないと。

オリアナ「お姉さんのスゴいトコロ…見・せ・て・あ・げ・る」


――ここで自分は、礎(いしずえ)になると――


452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:01:51.99 ID:OzOj6UCAO
〜姫神秋沙1〜

『秋(あい)の沙(すな)だなんて不毛な名前よりマシよ』

初めて出会った時は、少し素っ気なくて怖い人に思えた。


『――やっぱり変わってるわ、貴女』

つっけんどんで、雨宿りに来た事が申し訳なく思えた。

『――もし、行く所がないんだったら、私の余ってる部屋、使う?』

だから、そう言われた時はとても驚いた。

『貴女も、私も、変な娘ね』

優しい人だと思った。

『えっ、Mよ!かも知れないってだけよ!!何言わせるのよ貴女は!!!』

からかうと面白い人だとも思えた。

『赤と黒だなんて…スタンダールみたい』

見た目より聡明だとも

『だ、誰にだって苦手な分野や不得手な領域があるじゃないの!わ…私はそれがたまたま料理だったってだけで…』

その割に料理下手で

『…何馬鹿な事言ってるの。“先輩”が“後輩”からお金もらう訳に行かないでしょう?』

けれど、いなくなってしまったお母さんみたいで

『貴女が居てくれたから、私も自分の気持ちに仕切り直しが出来たのよ』

そんな貴女に出会えて、私も変わる事を決めた

『見ないで…見ないでよぉ!!わからないわよ…貴女みたいな綺麗な子に…私みたいな汚い人間の――』

だから――キスした

『素敵な口説き文句ね?そんな殺し文句で迫られたらどんなの男の子もイチコロだわ』

拒まれても、放っておけなくて

『そのクロス(十字架)いつもつけてるわよね…ちょっと貸してもらってもいい?』
そのせいで、お互いの距離を読み間違えた事もあった。

『うん。そうだよね姫神さん…私達、友達だよね』

お互いを、深く傷つけあった事もあった。
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:03:40.00 ID:OzOj6UCAO
『私にはコレ(座標移動)しかないから…姫神さんみたいに何でもオールマイティーには出来ないわ。特に炊事なんて頼まれたってね』

当たり前の事しか出来ない私を、認めてくれて

『パイナップルはいるでしょう!取り消しなさい!』

くだらない事で喧嘩して

『夏がそろそろ近いから降りやすいのかも知れないわね。ふふっ…思い出さない?私と姫神さんが初めて話したのもこんな雨の日だったの、覚えてる?』

私にとって大切な事を覚えていてくれて

『――こんな事なら、私達もっと早く出逢えていれば良かったわね――』

私と似たような事を考えていてくれて

『聞いた事ないわよそんな当たり前!消して!消して姫神さん!チャンネル変えて!!私達未成年でしょ!?』

私でも見て知ってる事を、初めて見たようにリアクションする貴女が新鮮だった。

『おっ、お化け!お化けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』

戦う時は勇ましくて

『一緒に暮らさない?私達。今みたいな仮住まいじゃなくて』

一緒にいる時は優しくて

『そうよ。私って実は性格悪いの。貴女には負けるけどね。人の身体をオモチャにするようなサディストが何言ってるの?』

私が言いたくても言えない事を

『私と一緒に来るなら、この手を掴んで。イエスなら優しく連れて行く。ノーなら乱暴にさらって行く。選んで。好きな方を』

一番言って欲しい時に言葉をくれる貴女。

『戦う事より、傷つく事より、死ぬ事より――私が恐ろしいのは…貴女よ姫神さん――貴女が消えてなくなるより怖いものなんてない!!!!!!』

怒ってくれた

結標「それが姫神秋沙(あなた)の全てなんかじゃない!それが私が貴女を見捨てる理由になんてならない!!!」

叱ってくれた

結標「貴女がさらわれたら、貴女が自分で自分の命を断ってしまったら――私は貴女と同じになるのよ!?私が貴女を守れなくても!見捨てても!私は一生悔やむ!一生自分を呪って生きる!!今の貴女のように!!!」

私を見てくれた

結標「貴女のいない世界(へや)で…ずっと一人で生きていく(くらしていく)のは…嫌なのよ…!」

一緒に泣いてくれた

『――言ってよ!!!助かりたいって!救われたいって!生きたいって!死にたくないって!一度で良いから!自分の言葉で叫んでよ!!!』

そんな貴女が――

結標「貴女が――好きだからよ」

私も、好きだった。
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:05:25.54 ID:OzOj6UCAO
〜第二十三学区・鉄身航空技術研究所付属実験空港、滑走路〜

姫神「…もっ。もうっ…」

姫神秋沙はイギリス・ロンドンへと向かう超音速旅客機を目指して滑走路を駆ける。
既に空港内の搭乗口は戦場と化し、彼方から警備隊とグノーシズム(異端宗派)は交戦を開始していた。
あちこちから爆発音と銃声、火災と発煙が巻き起こり、有人バスが横転している。

姫神「もう。少し…」

冷や汗が止まらない。脂汗が引かない。恐怖から来る悪寒が、絶望から来る戦慄きが、疲労からくる吐き気が姫神を苛んでいた。
初夏の季節を前にして、震えるほど空気が冷たく感じる。
不意に脳裏を掠める言葉。一日の内、最も暗い時間帯は夜明け前だとも。

姫神「うっ。ううっ…」

一晩中駆け抜けた足を折らずに引き摺るように歩む。
膝を屈してしまえば、もう立ち上がれる気がしなかった。
至る所が吹き付けてくる風が黒髪を煽る。遮る物のない、滑走路の風が

姫神「…っ」

思い知らされる。今自分が一人きりなのだと。手のひらに食い込む僅かな砂利の痛みと共に。
もう黄泉川愛穂は、手塩恵未は、オリアナ=トムソンは、上条当麻は、『彼女』は、姫神の手を引いてくれる者は誰一人居なくなってしまったのだ。

姫神「(…怖い?)」

慣れ親しんだはずの『孤独』が、姫神の心を死に絶えさせていた『絶望』が、まるで見知らぬ来訪者のように感じられた。
同時に思い知らされる。自分がどれだけこの学園都市(まち)に守られてきたのか、上条当麻を心強く思っていたのか、『彼女』の側でその心を支えられて来たのかを。

姫神「行か…なきゃ」

戦う力も持たず、逃げる足は潰れ、生きる術を手探りで求める。
煤だらけの制服、擦りむいた膝、ボロボロのスカート、クシャクシャの髪。
痛くて、辛くて、苦しくて、しかし…それでも姫神は

姫神「まだ。…生きて。私は。生きているから」

足のもげた虫のように、翼の折れた鳥のように、地を這うように歩を進める。
もう数百メートル、闇夜の彼方に辛うじて見える超音速旅客機に向かって――


――スティンガーミサイル、発射!!!――


姫神「――――――」


次の瞬間、姫神の最後の希望は目の前で手折られた。

455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:08:55.25 ID:OzOj6UCAO
〜姫神秋沙2〜

冥く、深く、冷たく、陽の光が二度と射し込まない闇の奥。

太陽の光も、月の灯りも、星の輝きすら届かない闇の底。

一緒に堕ちようと、一度ならずも、一瞬なりとも、望まなかったと言えば嘘になる。

破滅の園に逃げ込んで、甘美な死に酔いしれて、奈落の絶望の果てで睦み合いたかった。

身体を合わせる温もりの中で、肌を重ねる暖かみの中で、夢に堕ちて行くように散ってしまいたいとさえ思った。

世界は自分達に優しくなくて、神様は残酷で、自分は微力で非力で無力だった。

しかし――もう幻想(ゆめ)の時間は終わってしまったのだと。

残されたのは苛酷で、残酷で、冷酷な現実(ぜつぼう)だけ。

秋沙『貴女は馬鹿。本当に救われるだなんて。本当に思っていたの』

嘲るように、苛むように、貶めるような冷笑を湛えた幼い少女が幻視出来た。

それは惨劇の中、白雪と死灰の中に置き去りにされた――幼き日の自分。

秋沙『貴女は。自分すら騙せない嘘で。彼女を欺いて。ありもしない救いに。ただ縋っていただけ』

死に絶えた感情と共に埋葬された幼年期の終わり。

自分の影だなんて、心の闇だなんて、そんな逃げ口上で片付けられない“本当の姫神秋沙”

秋沙『貴女は知っていたはず。わかっていたはず。遅かれ早かれ。こうなる事が』

目を逸らしたいのに、眼を背けたいのに、瞳を閉じてしまいたいのに、それすら出来ない。

秋沙『たかだか。一週間足らずの相手に。貴女は何を期待していたの。みんなだって。彼女だって。貴女とさえ出逢わなければ。こんな目に合わずに済んだのに』

心の隙間に、疵に、罅に、綻びに、緩みに、毒を孕んだ言葉の刃が灼けるように食い込んで来る。
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:10:51.74 ID:OzOj6UCAO
秋沙『貴女さえ生まれて来なければ。お父さんも。お母さんも。村のみんなも。吸血鬼も。誰も死なずに済んだのに』

芽生えかけた感情が、芽吹きかけた情動が、根刮ぎ蹂躙されて行くような、凍える声音に耳を塞ぐ事すら許されない。

秋沙『貴女さえ居なければ。三沢塾の人間も。イギリス清教の人間も。アウレオルス=イザードも。みんな死なずに済んだのに』

心臓に氷の刃を、背筋にドライアイスの剣を突き刺してくるような言葉。
一言一言が消耗した精神を、磨耗した感情を削り、抉り、穿って行く。

秋沙『貴女が彼女と出逢わなければ。彼女だって自分の手を汚さずに済んだのに。守られる事に甘えて。助けられる事に甘んじて。救われる事に甘ったれて』

これが、本当の私。醜くく、卑しく、浅ましく――
他人に見せられず、自分ですら見たくない本当の自分。

秋沙『教えてあげる。どうして貴女が。彼女に執着するのか。依存するのか』

巫女服姿の『秋沙』が、制服姿の『姫神』へと指を突きつける。
救いようもない咎人、贖いようのない罪人への死刑宣告のように。

秋沙『――自分と重ねているから。血に汚れているのは自分だけじゃないって。側で確認して安心したいだけ。“自分だけが汚いんじゃない”って。身勝手な親近感――』

無慈悲な真実を、無情な事実を、無惨な現実を突きつける。

秋沙『上条君が眩しいから。あの人の。彼の周りの子達が綺麗だから。汚い自分に負い目を感じているから。汚れた彼女なら引け目を感じないから』

否定も、反駁も、拒絶も、峻拒も、一切を許されない。

秋沙『貴女は出逢った時も。彼女の血の匂いに惹かれたはず。自分と同じ臭いがする彼女に』

それは言わば、同じ罪業で同じ檻の中に入れられた、囚人同士の親近感。
利己的で、一方的で、禁治産的で、自己陶酔的な連帯感。
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:12:21.00 ID:OzOj6UCAO
秋沙『彼女と唇を重ねたのだって。彼女と肌を合わせたのだって。同性が相手なら。自分の忌まわしい血を。呪われた子を。宿す必要がないから』

それは意識化された思考でもなければ、無意識下での計算でもなかったのかも知れない。
だが『秋沙』は笑う。貴女も『女』ね、と。

秋沙『彼女を責めて。苛んで。弄んで。身体も。心も。欲しくなったんでしょう。恋ですらなくて。愛でさえなくて。ただ貴女の。捻れた思いと。歪んだ想いのために』

『秋沙』が『姫神』の背中を抱く。左手を胸元に、右手を太ももに、耳朶に唇を、『彼女』を責め立てる時のように。

秋沙『今だって。貴女は彼女を守るために。離れたんじゃない』

死人のように冷たい吐息が、亡霊のように幽かな声色が

秋沙『――彼女を。道連れにしたい自分に気がついたから』

姫神を誘う、死者の手招きのように鮮血で真っ赤な手で

秋沙『――彼女が欲しくて。地獄に一緒に堕ちたいと願った自分が。怖くなって逃げただけ。それで。彼女を守ったつもりでいる貴女が。とっても滑稽。』

自己満足、自己陶酔、自己欺瞞、自己憐憫と断ずる。

秋沙『貴女なんて。生まれて来なければ良かった』

生きる力の全てを奪うように

秋沙『貴女なんか。ここに居なければ良かった』

姫神の心の全てをヘシ折るように。



秋沙『貴 女 さ え 死 ね ば み ん な 助 か る の に』



458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:15:27.99 ID:OzOj6UCAO
〜第二十三学区・管制塔〜

魔術師C『やっど見づげぃだぞぉぉディィィィープブラッドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

頼みの綱であり、最後の希望であった超音速旅客機に目の前でスティンガーミサイルで爆破したグノーシズム(異端宗派)は狂喜していた。

魔術師C『手こずらせやがって!悪足掻きしやがって!!鬼ごっこは終わりだクソがアアアアアアァァァァァァー!!!』

中でも純白のローブを見に纏った魔術師の顔は狂気に染まっていた。
限界を超えた致死量の薬物投与で既に脳は溶解状態。
加えて白銀錬成(テルス=マグナ)の酷使により限界状態だった。

魔術師C『どいつも!こいつも!!オレの邪魔ばっかりしやがって!くたばれ虫螻!死で償え塵屑!これ以上オレをイラつかせるんじゃねえよオオオオオオォォォォォォ!!!!!!』

『超能力者』垣根帝督に一万弱の兵力を全滅させられ

『原石』削板軍覇に一千強の騎士団を壊滅させられ

『魔術師』ステイル=マグヌスに切り札たる白銀の巨神兵を足止めさせられ

もはや遠隔操作もままならぬまま、魔術も半分以下の出力しか出せないが故に引っ込む事を止めて飛行場まで出張って来たのだ。

姫神「…ッ!来ないで」

そして姫神秋沙は――目の前で攻撃された超音速旅客機の乗り場から身を翻し、管制塔の頂上にまで逃げ込んでいた。
疲れ切った身体を、手摺りを掴んで支えながら夜明け間近の風に耐えながら。

姫神「来たら。飛び下りる…!もう。私の。吸血殺し(ディープブラッド)で。誰も死なせない。殺したくない…!そんな事をさせるくらいなら。自分で自分を…!」

管制塔の下に集結した魔術師、兵士による包囲網に向かって、五月蝿いほどの強風の中姫神は声の限り叫ぶ。

しかし、黒衣の集団の中にあって一際光輝く白衣の魔術師が叫び返す。
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:16:46.42 ID:OzOj6UCAO
魔術師C『馬ぁぁぁぁぁぁ鹿!誰が死なせるかよ!手足がなくなろうが、顔が潰れようが、脳みそと心臓だけはくたばってもブッ生き返してやるよ!テメエの考えなんざ知るかぁぁぁぁぁぁ!』

姫神「っ…!」

魔術師は叫ぶ。そこから飛び降りて死を選ぼうとも無理矢理蘇生させる。延命させると。
吸血鬼を呼び出し、誘き出し、その力を異端宗派の物とするまで自殺も自決も自死も自由にさせないと。

魔術師C『この街じゃ内臓グチャミソのシェイカーでミキサーでミンチメーサーでも生きたヤツがいるんだろォ!?馬鹿デカい冷蔵庫でもとっつけて、生理食塩水と電解質流し込んで生かしてやる!テメエの意志なんか知るか!テメエの意思なんざいらねえんだよォォォ!』

姫神の体温が一気に氷点下まで下がる。姫神の精神が一気に絶対零度まで下がる。
生きる術はおろか、死を選ぶ自由から、人間としての全てを奪われる事に。
自分は吸血殺しという能力を吐き出すための撒き餌に、装置に使われるのだと。
人格の全てを破壊された後まで道具として使われるのだと。

魔術師C『決めた。脳みそと心臓以外に子宮も残しといてやる。ディープブラッドが量産されるまでな!腐り落ちるまで×××に突っ込んで掻き回してやるよ!能力を受け継ぐガキが生まれて来るまで、失敗作は目の前で刻んで潰してテメエに食わしてやるから腹いっぱい食えやァァァァァァ!』

姫神「あっ…。ああ…」

人間とはここまで暗黒面に堕ちるものなのかと姫神は絶望する。
生きても死んでも、勝っても負けても、どちらに転んでも姫神の地獄は終わらない。
血液が氷水に、脳髄が氷塊と化した、氷象のようになった姫神の精神を破壊する、この夜より深い『絶望』

魔術師C『テメエが死んだ所で誰も救えやしねえんだよオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

姫神「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

それが最後の砦で、最後の一線で、最後の光で、最後の希望で、最後の無花果の葉だった。
姫神の精神が決壊する。崩壊する。圧壊する。
眼下にいる全ての人間の全てが、彼等を操る全ての人間が、姫神を殺しに来る。
姫神はもう――心が白紙に、魂が暗黒に、全てが無色になってしまった。
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:20:44.95 ID:OzOj6UCAO
姫神「――――――」

この世界に救いなんてない。

この世界で生きて行こうだなんてもう思えない。

死を選んでも地獄にすら落ちる事すら許されない。

延々と続く生き地獄

永久に続く無間地獄

絶望すら生温い本物の地獄。

姫神「――ああ――」

この夜は明けない。

この闇は終わらない。

もう二度と陽の光を浴びる事も

もう二度とあの澄み渡る空を仰ぐ事は出来ない。

もう二度と――――――

姫神「あわき」

彼女に会えなくなるとわかっていたのに、彼女に逢わないと決めていたのに。

姫神「あわき…」

朝焼けの光を浴びて燦々と輝く雨上がりの街が目蓋に蘇る。

姫神「あわき……」

徐々に鳴き始める蝉の声まで耳朶に蘇る。

姫神「あわき………」

夏の始まりに差し掛かった汗ばむ陽気の感触すら肌に感じられた。

姫神「あわき…!」

行き交う人々の中で、飲み込んだ唾の味さえ忘れられない。

姫神「あわきっ…あわきっ…あわきっ…」

回る風車が起こす風が運んだ、彼女のクロエの香りまでさえも。

そして最後に見たのは、青空を行く―――

姫神「淡希…」

それが―――人間としての姫神秋沙の全てだった。

姫神「…淡希いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

魔術師C『捕まえろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

魔術師の軍勢が

傭兵達の集団が

包囲網を敷いていた管制塔に殺到した来た。

逃げ場はない。

身を投げようが

舌を咬もうが

『死』にすら逃げられない――――――






――――――私達って。救われない――――――
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:24:13.32 ID:OzOj6UCAO










―――その時―――










―――風が吹いた―――










462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:27:35.05 ID:OzOj6UCAO
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…!!!!!!



姫神「…えっ」



彼方から吹き付けて来る風が強くなる。何処から轟いてくるエンジン音。



魔術師C『…なんだと』



夜明け前にかかる空の、暗雲すら吹き飛ばすように巻き起こる――疾風。

一陣の風などと生易しいものではない、まさに『暴風』を引きつれて来たような――


近衛兵「―――あれは」



管制塔目掛けて、雲を吹き飛ばし、風を切り裂き、空を突っ切ってくるは――



魔術師C『飛行船だとオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!?』



それは、姫神が『彼女』と最後に見上げた…学園都市では珍しくもなんともない…無人飛行船だった



近衛兵「退避!総員退避イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイー!!!!!!!」



その巨大にして強大な質量の全てが、グノーシズム(異端宗派)の集団に影を落とす。


不時着でも強行着陸でもない体当たりの吶喊攻撃。


そしてエンジントラブルでも電子制御の暴走でもない――
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:30:00.35 ID:OzOj6UCAO
「“どんなに遠回りしても”」


それは、ただ一人の少女が起こした飛行船ジャック。

電子制御の全てを手動に切り換え、特攻を仕掛ける飛行船の先端部分に片手片足をついて。

その好敵手から譲り受けたリボンで纏めた――赤髪を向かい風の中になびかせて


「“信じてた――絶対に貴女を見つけられるって”…そう言ったのは貴女よ、秋沙」


姫神が管制塔から、魔術師が滑走路から、兵団が地面をそれを見上げた。

暗雲を

絶望を

運命すらも

意図的に引き起こした暴走状態の飛行船から焼け付き炎上したエンジンから巻き起こる炎風で焼き尽くして行くのを――


「――言ったでしょう、秋沙――」


そして――少女は飛行船から身を投げる!!



「私の座標移動(ムーブポイント)から――」



墜落の瞬間

激突の刹那

風を受けて

投げ出した身体を

踊らせるように翻し

――手にした軍用懐中電灯を――振り抜く!!


「逃 げ ら れ る と 思 わ な い で ! ! ! ! ! !」



ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:35:35.80 ID:OzOj6UCAO
激突

衝突

追突

爆発

炎上

衝撃

轟音

爆音

爆炎が明けの空を染める。



魔術師C『なんなんだよテメエはアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』



魔術師が吠える。かき集めた兵力の大半を押し潰され、吹き飛ばされ、形勢が、趨勢が、体勢が、原始的な神風特攻によるただの一手が覆され


姫神「―――な。なに―――」


疾風が

爆風が

熱風が

烈風が

血風が

暴風が上昇気流となって管制塔頂上の姫神に吹き付けて来る。

先程の寒風と比べようもない熱い風が、掴まった手摺りから姫神の腕をもぎ取らんばかりに。

「――勝手に家出する。高い所に登って降りられなくなる。ミーミー泣いてうるさくって叶わないわ」

そんな姫神の前に、飛行船が墜落する直前に『座標移動』で飛び降り立った少女は――

「ああ本当にもう―――馬鹿な黒猫(ネコ)を拾ったものだわ」

眼下で起こる赫炎の火祭りの照り返しを受けて笑う。呆れたように、困ったように、皮肉っぽく。

「迎えに来たわよ。家出猫(バカネコ)。終わらせて帰るわよ。――今度こそ、全てを」
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:37:52.49 ID:OzOj6UCAO
姫神を庇うように背を向けて立ちはだかり

右手の軍用懐中電灯をビッと剣でも振るうように真横に構え

肩越しに振り返る――炎に照らされた横顔。

姫神「どうして。どうして来たの…どうして。どうして!!!」

涙が零れる。

涙が流れる。

涙が溢れる。

もう全てを諦めたのに。

やっと全てに絶望出来たのに。

もう奇跡なんて願わないと。

望まないと。

祈らないと。

求めないと。

決めた――ハズだったのに――!!!


「――決まってるでしょ?さらいに来たのよ」


彼女は来てしまった。


終わらない奇跡を引き連れて。


明けない夜を焼き尽くして。


翼を持たぬ守護天使のように――



結標「――貴女の全てをね!!!!!!」


結標淡希は、舞い降りた。
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:40:52.73 ID:OzOj6UCAO
〜第二十三学区・夜明け前の管制塔〜

短いようで、長かった一週間の休息。

長いようで、短かった一夜が明ける。

今度こそ終わらせる。この醒めない悪夢を――

結標「帰るわよ、秋沙。私達の居場所(いえ)に」

姫神「…淡…希…」

眼下には炎上する超音速旅客機から逃げ出すクルー達が、眼前には爆発する飛行船から這い出す敵対勢力がそれぞれ見える。

背中越しに泣き疲れた子供のようにへたり込みながら呟く――私のルームメイト、姫神秋沙の姿も。

姫神「…どう。して…。…ここ。までして…」

結標「ここまで追い掛けなきゃ、ここまでしなくちゃ、貴女はわからないでしょう。何が猫は死期を悟ると姿を消すよ。馬鹿言わないで」

まるでジャンヌダルク(救国の聖女)にでもなった気分だ。

聖なるオルレアンの剣なんかじゃなくて手にしているのは軍用懐中電灯だけど…もうなんだって良かった。

結標「貴女は死なない。世界は終わらない。私達の明日はまだ続いて行く。勝手に諦めて、勝手に終わらせないでくれないかしら?」

この学園都市(せかい)を救うだとか、絶対悪の敵を倒すだとか、そんな英雄(ヒーロー)に私はなりたいんじゃない。

なりたくてもなれないし、なれたってなりたくない。そんなの私のガラじゃないしキャラじゃない。

結標「――考えたの。秋沙。ここに辿り着くまで、どうしたら貴女を助けられるか、そればっかり考えて飛んで来たわ」

私の力はちっぽけだ。レベル4であろうが座標移動(ムーブポイント)があろうが…
自分がこんなにも力無い存在だと思い知らされた夜はなかった。

結標「けどね、何度考え直しても何回思い返しても、貴女を救えるかわからなかった。当たり前よね。ゲームじゃないんだから」
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:42:38.53 ID:OzOj6UCAO
同時に――こんなにも自分が周りに支えられ

生かされ

手を貸してもらえたか

背中を押してもらえたか思い知らされた夜もなかった。

結標「でもね、秋沙――私達、まだ生きてるのよ」

越えて行きたい。この夜を。

結標「うまが合いそうにもない風紀委員(能力者)と手を組んだりしたわ」

超えて迎えたい。朧気に、幽かに、登りつつある夜明けを。

結標「気にいらない女の子(暗部)が道を切り開いてくれた」

登り行く太陽を、訪れる『今日』と言う『明日』を貴女と分かち合いたい。

結標「根性根性うるさいヤツ(原石)が私の背中を押してくれた」

救いようのない景色だって、絶望的な世界だって、私達は生きてる。

結標「変な先生(科学者)が、私の中の貴女への気持ちを気づかせてくれた」

避難所のみんな一人一人が生き延びようとしていた中の一人に、私達だって含まれててる。

結標「ろくに話した事もない警備員達(人間)が、ここまで貴女を守ってくれた」

私達の世界にヒーロー(特別)なんていない。みんなちっぽけで、ちっちゃくて、ちんけなものだ。
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:45:43.51 ID:OzOj6UCAO
結標「みんな、生きようとしてる」

結標「私達を救ってくれたんじゃない」

結標「私達だから助けてくれたんじゃない」

結標「みんなが必死に生き延びようとしたから」

結標「私はここにいられる」

結標「貴女はここにいる」

それでいい。この小さな世界の片隅で、貴女と生きていけるならば。

他愛もない日常と、時々刺激的な非日常を過ごせるならば。

結標「――私達は、生きてるのよ――」

何度だって戦う。この醜くくも美しい世界で――

笑劇は終わり

無言劇は終わり

喜劇は終わり

悲劇は終わり

茶番劇は終わり

惨劇は終わり

ここから先は…救出劇で幕を引く!!!


結標「――私はもう、貴女のために死を選ぶような未来(あした)なんていらないわ」


そう――


結標「――貴女が、私と生きるのよ」


もう、私達は――


結標「――私と一緒に生きて!!!秋沙!!!!!!!」


―――独りじゃない―――!!!
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:49:48.02 ID:OzOj6UCAO
〜姫神秋沙3〜

死に際に見た最後の幻だと

散り際に見た最期の夢だと思った。

姫神「あ…わ…き」

結標「言って」

彼女がここにいる訳がない。

彼女がここにくるハズがない。

結標「助かりたいって」

これではまるで御伽噺だ。

絶体絶命の窮地に

駆けつけて

割って入って

救い出すだなんて自分は本当にお姫様のようだ。

結標「救われたいって」

そう言って手を差し伸べてくれる。まるで自分を助け出した上条当麻のようだ。

結標「生きたいって」

夜明けが見える。昇り行く太陽が見える。その手が自分を夏雲溢れる空の下、差し伸べたアウレオルス=イザードのようだ。

結標「死にたくないって」

けれど――彼女は違う。

彼女は

結標淡希は

上条当麻でも

アウレオルス=イザードでもない。

結標「一度で良いから」

だから私は――その手を取らない。彼女を地獄の底まで連れて行きたくないなら…

誰も自分達を地獄の底から引きずり上げてくれないなら…!

結標「自分の言葉で叫んでよ――秋沙!!!!!!」



自 分 達 の 足 で ― ― 地 獄 の 底 か ら 這 い 上 が る し か な い ! ! !



姫神「― ― さ ら っ て ! ! 淡 希 ! ! !」


夜明けへと、手を伸ばして――!!!
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 23:52:01.89 ID:OzOj6UCAO
〜第二十三学区・夜明けの管制塔〜

魔術師C『撃て!撃て!!撃て!!!』

眼下より銃弾の雨霰が、鉄火の暴風が巻き起こる――けれど

結標「飛ぶわよ!秋沙!!」

姫神「うん!!」

座標移動で管制塔から夜明けの空へと飛び出す。もう何も怖くない。あんなチャチな弾丸なんて――かする気さえしない!

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!

空中から中空、中空から上空へ連続で座標移動を繰り返し弾雨を潜り抜ける。
まるで見えない翼でも生えた気分だ。秋沙が腕の中にいるだけで、どこまでだって高く飛べそうだ。

魔術師C『暗器銃を錬成!弾丸は十五!標的はあの赤髪!息絶えるまで狙い撃て!!』

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!

下で白装束の魔術師が剣と銃が合体したような武器で撃ってくる。
それを私は空を切るように座標移動して、その横を銃弾がすり抜けて行く。

近衛兵「だ、ダメです!速過ぎて狙えません!!」

魔術師C『断頭台の刃を錬成!数は四十!標的を解体するまで降り注げ!』

次の瞬間、私の周囲にギロチンの刃が出現し、一気に飛来してくる。けど――

姫神「淡希!!後ろ!!!」

結標「わかってるわよ!!」

秋沙が見る。私が飛ぶ。空の中襲い掛かるギロチンの側面を蹴り出して跳び、ギロチンの刃を薄氷を踏むように翔ぶ!!

兵士「ダメです!手がつけられません!」

魔術師C『クソがアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

――その瞬間、魔術師のいる場所から…

ズウウウウウウウウウウン…!

姫神「あれは」

ズウウウウウウウウウウン…!

ドロドロに溶解したような白銀の巨神兵が現出する。
妄執と妄念とが練り上げたかのような、奇怪で醜悪な造形。
人間の持てる負の感情全てを宿したような巨神兵を上空から見下ろす。

姫神「赤髪の人の時より。大きい…!」

結標「愉快なオブジェね…反吐が出るわ」

宙を舞う、空を飛ぶ、夜明けの空が青い、太陽が眩しい、雲が掴めそうなほど高くまで――

結標「―――秋沙」

姫神「信じてる」

辿り着いて――私は



姫神「――私は。――淡希を。信じてる――」



軍用懐中電灯を



ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!



捨てた。
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/29(土) 00:00:24.21 ID:ryKZzyBAO
〜only my Deepblood〜

いつも私の前には壁があった。

高く、厚く、冷たく、聳え立つ白い壁が

その壁はいつも四つだった。

一つめは容易く

二つめは普通に

三つめは難しく

四つめは高かった

結標「――――――」

軍用懐中電灯は捨てる。手が塞がる。この壁を乗り越えるには邪魔になる。

結標「――行くわよ――」

わかっている。この壁は私の限界そのもの。レベル4と言う壁そのものだと。

姫神「いい」

ずっと超えられずに来た、ずっと越えられずにいた壁。

最もレベル5に近いと言われながら、登り詰める事の出来なかった壁。

けれど、あの白井黒子との戦いの中で経験した『暴走』の力を

あの少年院での闘いの中で手にした『覚醒』の力を

この一週間の中で広がった演算の領域を

姫神秋沙との出会いで広がった『自分だけの現実』を


姫神「――私は。淡希を。信じてる」


私は無理だと思っていた。私には不可能だと思っていた。

私では自分を信じ切る事が出来なかった。私自身の弱さ――だけど


姫神「私は」


二人でなら立てる。


二人でなら飛べる。


二人でなら――乗り越えていける――


姫神「淡希を――」

結ばれなくても

標(しるべ)がなくても

淡く儚い願いだとしても

希(のぞみ)は捨てない


姫神「――愛してる――」



『結標淡希』をここから始める―!!!



472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/29(土) 00:02:08.37 ID:ryKZzyBAO
〜学園都市〜

その時、学舎の園にいた滝壺理后は夜明けの空を見上げた。

滝壺「…第二十三学区から信号が来てる」

その時、とある高校グラウンドにいた削板軍覇は夜明けの空を見上げた。

削板「おっ!」

その時、学園都市の監視施設にいた青髪ピアスは夜明けの空を見上げた。

青髪「朝も早よからようやるわー」

その時、とある高校避難所にいた心理掌握は夜明けの空を見上げた。

心理掌握「………………」

その時、瓦礫の王国にいた麦野沈利は夜明けの空を見上げた。

麦野「ふんっ…」

その時、第七学区の要所にいた御坂美琴は夜明けの空を見上げた。

御坂「―――来たわ」

その時、とある高校上空にいた垣根帝督は夜明けの空を見上げた。

垣根「今日はバースデイパーティーだな」

レベル5全員が夜明けの空の彼方に聞いた。それは新たな仲間の――『誕生』――


垣根「九人目のレベル5…誕生だ!!!」

ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


第二十三学区から、学園都市全土に響き渡る激震(うぶごえ)と共に――


473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/29(土) 00:03:58.49 ID:ryKZzyBAO
〜LEVEL5-Movepoint〜

魔術師C『あ…ああ…あああ』

魔術師は信じられないものを見た。それは限界を超えた過剰な薬物投与の幻覚かとさえ思った。

魔術師C『嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ嘘だアアアアアア!!!!!!』

最後の力を振り絞った、ステイル=マグヌスの時とは比べ物にならないサイズの巨人が…

魔術師C『なんだ…なんなんだよあれはああああああ!!!』

いきなり白い光に包まれた『門』か『扉』が現れたかと思えば…

先程航行不能に追いやったはずの超音速旅客機が『瞬間移動』して…

白銀の巨神兵にぶつけられ、粉砕し、爆発炎上したのだ。

大型旅客機と比べてさえ一回り巨大で長大な超音速旅客機を…

まるで窓ガラスにボールでも投げつけようにして破壊したのだ。

何トン?

何十トン?

何百トン?

何千トン?

何万トン?

そんな計る事さえ困難なほど大質量なそれを――

結標「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

あの赤髪の女が、懐中電灯を捨て、黒髪の吸血殺し(ディープブラッド)と共に堕ちてから…
まるで殻を破った雛鳥がそのまま見えない翼を広げたような、劇的な変化。

魔術師C『ひっ…ひっ…ひぃ!』

もう限界だった。

一万の軍勢を粉砕した垣根帝督(超能力者)

一千の精兵を撃破した削板軍覇(原石)

一軍に匹敵する巨神兵と渡り合うステイル=マグヌス(魔術師)

一度とは言え覚醒した結標淡希(レベル5)

そのどれにも勝てない。勝てる気がしない。

この学園都市には今、上条当麻(幻想殺し)も、一方通行(学園都市最強の第一位)も、浜面仕上(第三のイレギュラー)も、あのローマ正教最暗部…右方の―――



ステイル「夜明けだ。夢の時間は終わりだよ」
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/29(土) 00:06:44.80 ID:ryKZzyBAO
〜第二十三学区・炎上する飛行場〜


魔術師C『あわっ、あわっ、あっあっあっあっあっあ…!』

ステイル「なんだい。その歳で寝小便はどうかと僕は思うがね」

思わず後ずさる。尻餅をついて、首も座らぬ赤ん坊のように失禁しながら、伝い歩きもままならぬ赤ん坊のように這いながら。
それを――ステイル=マグヌスは力尽き眠り込んでいるオリアナ=トムソンを両手で抱き抱えながら。

魔術師C『なんでテメエがここにいるんだよおおおおおおおおお!!!』

ステイル「…まだ寝ぼけているのかい?君の出来の悪い木偶人形ならとっくに朝の燃えるゴミだ。あれならばシェリー=クロムウェルのゴーレムの方が数段出来が良いよ」

ステイルはさも当たり前そうに、それでいてさもつまらなそうに吐き捨てた。
両腕にお姫様抱っこしたオリアナの香水の香りが自分の趣味が合わないように。そして――

ステイル「そんな君の目を覚ますとっておきのニュースが二つある…良いニュースと悪いニュース…どちらから先に聞きたい?」

魔術師C『あっ…うう…ああ』

道端の酔っ払いが撒き散らした吐瀉物を見るような目でステイルは魔術師を見下ろす。
もう恐怖と絶望で歯の根が合わず、口も聞けない魔術師を見限ったように。

ステイル「――悪いニュースだ。第十二学区にあった君達グノーシズムの僧院はもう壊滅したよ。偽・聖歌隊と共に。必要悪の教会(ネセサリウス)の部隊と土御門元春が葬り去った」

魔術師C『―――!!!』

ステイル「君達も、そして認めたくはないが僕も…あの女狐の掌の上で踊らされていたんだよ。夜明けと共に終える死の舞踊をね。さっきの通信でわかった事だが」

そう…アウレオルス=イザード亡き後の異端宗派に吸血殺し(ディープブラッド)の情報を流したのは他ならぬ『最大主教』ローラ・スチュアート本人だったのだ。

ステイル「あの女狐は、君達をおびき寄せ引きずり出すために姫神秋沙の情報をわざと流した。君達は吸血鬼の力に目がくらみ、十字教に反旗を翻し学園都市に蜂起した。打って出れば本丸もわかるからね。僕はその大掃除に駆り出された下っ端という訳さ」
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/29(土) 00:09:43.16 ID:ryKZzyBAO
全てはローマ正教・イギリス清教の策の内。
反逆に出ても、吸血鬼という勝算に値する餌をぶら下げて打って出た所を叩く。
身内の後始末と、異端宗派の大掃除、その両方を一気に推し進めるために。

ステイル「話としてはそんな所だ。この話そのものが君達を一掃するためのブービートラップ(馬鹿者の罠)という訳さ」

オリアナは万が一にも、本当に姫神が敵の手に落ちないための保険だったのだ。
当然、オリアナも薄々は感じ取っていた。奇妙な依頼だと。

ステイル「あの女狐が言っていたよ。こんな初歩の初歩、謀略とさえ言えないお粗末なトラップにかかる時点で君達などたかが知れていると」

姫神を始めとする学園都市そのものを含めた『原石』『能力者』の保護を依頼した上条当麻・一方通行・浜面仕上・『もう一人』の依頼を全うしながらも、その合間にローラは策を講じた。
騙し合い、化かし合いの掛け合いにおいてローラの右に出る者は少ない。故に

魔術師C『じゃ、じゃあオレは…オレは…』

ステイル「――そう。良いニュースだ。君はここで灰も残さず僕に焼き尽くされる。異端審問にかけられる事なく逝けるんだ。吉報だろう?この裏話は君への――この国で言う“冥土の土産さ”――」

魔術師が血走った目を見開く。ステイルはピッと一枚、手品師のようにルーンのカードを取り出してそれを見やる。
その表情はせいぜい抱えたオリアナが重いな、と顔をしかめる程度で。
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/29(土) 00:12:53.32 ID:ryKZzyBAO
魔術師C『待っ、待っ、待っ…!』

ステイル「君は」

助命を乞う嘆願の声音を遮って、ステイルは言う。
昇った朝日すら色褪せるほどの赫怒の炎を湛えた瞳で。

ステイル「アウレオルス=イザードの遺産(誇り)を踏みにじった。君はアウレオルス・ダミー(偽物)にすら劣る。そして――君が仰ぐ朝陽はこれが最後だ。眠れ。永久に」

ステイルのルーンのカードが燃え盛る。
ステイルの怒りに呼応するように。
その瞬間、魔術師は理解した。全ては手遅れなのだと―――

魔術師C「許してくれええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」

絶望の底から叫ぶ魔術師、それを見下ろすステイルの頭上には渦巻く業火が――



ステイル「僕は神父だが…君の懺悔だけは聞き入れられないな」



魔術師の血走った目に映った、最後の光景だった。



ステイル「――詫びるならアウレオルス=イザードにするんだね――」



そして、全てが闇に落ちた。

血の一滴

肉の一片

骨の一かけら

灰の一摘みも残さず

――ステイルは魔術師を『燃やした』
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/29(土) 00:17:14.71 ID:ryKZzyBAO
〜第二十三学区・飛行場〜

姫神「……淡希……」

結標「スー…スー…」

七日目…9:02分。全てを終えた二人は蜂の巣をひっくり返したような騒ぎに包まれた飛行場の救護所にいた。

既にニュースチャンネルは学園都市にテロリストが侵入しただの、飛行場がハイジャック犯に襲撃されただのと言ったダミー情報で埋め尽くされていた。

それが学園都市上層部と、雲川芹亜の情報操作によるものだと知る者はそう多くないが――

ステイル「――これでグノーシズム(異端宗派)の過激派はほぼ壊滅だろう。少なくとも戦力となる勢力は全滅だ。そして――今回の件で学園都市側も防衛機構の復旧をより急がせるだろう。君の安全は保証されたようだね」

姫神「…そう。――ありがとう。さっきは。逃がしてくれて。そっちの女の人にも」

ステイル「…仕事さ」

救護所の中で、裏の事情を知らない姫神の感謝の言葉に、ステイルはばつが悪そうに顔を背けた。
しかし、その背にオリアナをおぶったままでは格好も何もなかった。

ステイル「…避難所に戻るかい?警備員が送ってくれるらしいが?」

そう言ってステイルは片手を器用に差し出して来た。
英国紳士の鑑とも言うべき所作であったが…姫神は

姫神「――――――」

その手に、上条当麻を、アウレオルス=イザードを想起し…僅かにかぶりを振って。

姫神「私はもう。大丈夫」

もう、誰かに手を引かれる事などしない。そう姫神秋沙は決めたから。

姫神「淡希は。私が連れて帰る」

これからは――自分が結標淡希の手を引く。二人で、並んで、歩いて行くと決めたから。

ステイル「…そうかい。僕達は先に帰る。彼女(小萌)に伝えておくよ。君達の無事をね」

そうしてステイル=マグヌスは背を向けて歩き出す――背に、オリアナ=トムソンを背負ったまま――
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/29(土) 00:20:19.84 ID:ryKZzyBAO
〜第二十三学区・空港ロビー〜

ステイル「(ふう…さっきテレビにインデックスの後ろ姿が映っていた。もう安心と思って良いだろう)」

ステイル=マグヌスはおんぶ抱っこしながら空港内を歩いていた。

周りの視線が痛い。自分のような大柄な男がこんな派手目な女をかかえていればさぞかし悪目立ちするだろう。その上。

オリアナ「ねえ〜お姉さん放置プレイは好みじゃないの…答えてくれないなら耳朶噛んじゃうわよ。ピアスだらけだけど」

ステイル「起きているなら下りろ!それからそんなふざけた真似をしたら灰にするぞ」

背中のオリアナがしなだれかかってちょっかいを出して来る。

空港に駆けつけた時に助けないで無視すれば良かった悔やまれてならない。

オリアナ「あら?こんなキレイなお姉さんの身体にタッチ出来てるのに…残念だわあ」

ステイル「僕の尊敬する女性はエリザベス一世で、好みのタイプは聖女マルタだ。君じゃあないよ」

今すぐ投げ捨てたいが、姫神秋沙のイギリス行きがなくなり、帰りの便が出る空港が復旧するまで放り出すのも得策ではない。
ステイル「(全く…あの男と関わってから僕のツキはガタ落ちだ)」

こんな場面をインデックスや月詠小萌に見られたらどうなるか…

神裂火織が見れば仰天されるだろうし、今仕事中の土御門元春に見られたら必要悪の教会で言いふらされるに違いない。

オリアナ「うふふ…さっきの貴方、とっても情熱的だったわ…お姉さん火傷しちゃった。ねえ?お仕事もなくなっちゃったし、これからお姉さんと火遊びしな〜い?お姉さん今の貴方とだったら…」

ステイル「ああ…クソッ」

こういう役回りはあの男のものだ、と吐き捨てながらもステイル=マグヌスは気づかない。
自分が今、最も毛嫌いしている男と同じ――


ステイル「…不幸だっ」


というセリフを口にしている事を――
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/29(土) 00:24:50.79 ID:ryKZzyBAO
〜第二十三学区・救護所〜

ステイル、オリアナが先に帰った後…姫神秋沙は自分の肩に寄りかかる結標淡希の寝顔を見つめながら想起していた。この一週間の出来事を。

姫神「(本当に。いろいろあった)」

一日目は、一緒に同居生活を始め

二日目は、一緒で小萌に会いに行き買い物をして

三日目は、一緒にボランティア活動を始め
四日目は、一緒に寝て、その前にキスまでした。

五日目は、一緒にお風呂に入って、ゲームセンターに行って、ラブホテルに泊まった。

六日目は、一緒にいられないと離れ、戦闘が激化し、姫神は逃げ、結標は追った。

七日目は、一緒にいると決めた。一生側にいたいと、そう思えた。

言葉にすればこんな一週間だったはずなのに、何故こうも…長く早く感じられたのか
姫神「…ね。淡希」

姫神にはわからない。結標が一瞬であろうと、一度であろうと、レベル5(超能力者)の頂に辿り着いた事を。

結標「ん…んん?」

力の全てを使い果たし、己の全てを出し尽くした結標の身体を肩に抱き寄せる。

自分を守ってくれたその――小さく、細い結標の肩を。

結標「ん〜…なによ…私疲れてるのよ…まだ朝じゃない…」

寝起きをいじられた猫のように嫌がる結標の顔を覗き込む。

形見分けのように持って行った髪紐も返そう。騙し討ちで出て行った事も謝ろう。そして、それより伝えたい事がある



――そう思っていると。





『―――――もう良いのか?―――――』





480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/29(土) 00:27:35.77 ID:ryKZzyBAO
姫神「―――――!」

救護所の外に広がる、堆く広がる入道雲と、澄み渡る青空。

慌ただしく行き交う人々の黒山の雑踏の中――見えた、深緑色のオールバック。

冷たくて、優しくて、若々しいのに、深みのある声が聞こえて来た。


姫神「…うん。私は。もう大丈夫」


純白のスーツ姿

深緑色のオールバック

若々しくありながら、どこかその佇まいはどこか壮年のような雰囲気を醸し出していて。


姫神「私の世界は。――救われたから」


『当然。ならばそれで良い――全てはそれで良い』


これはきっと、夏の幻が見せた一瞬の幻想なのかも知れない。

だが姫神はその雑踏の中、淡く揺蕩う幻想に向かって



―――微笑みかけた。精一杯の笑顔で――


姫神「――さようなら。アウレオルス=イザード」


それを受けて、幻想は呆然としたような、唖然としたような、愕然としたような――それでいて、泰然自若とした笑顔で



『―――…さらばだ。姫神秋沙―――』



再び、雑踏の中にその影は消えて行った。
溶けるように

美しく

儚く

潔く―――
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/29(土) 00:31:11.02 ID:ryKZzyBAO
結標「秋沙?どうしたの?」

姫神「!」

そんな姫神の様子を訝ったのか、肩に寄りかかっていた結標が姫神の頬を指でつついた。
そのポカンとした表情に――姫神は薄く微笑んだ。

姫神「なんでもない。それより――」

結標「?」

このお化け嫌いの同居人が聞いたら卒倒するだろう内容はぼかした。

あれが本当に『彼』だったのか、そうでないのか、それは姫神秋沙にもわからないのだから。

しかし―――


姫神秋沙の長い一夜が明け


結標淡希の短い一週間が終わり


二人の新しい一日は、今ここで始まるのだ。


お化け嫌いで


料理下手で


寝起きが悪くて


それでも仕事熱心で


頼りになって


愛おしくてたまらない


最愛の同居人(こいびと)と共に


歩んでいこう。二人で。手を携えて。並んで。


今度は、一緒に


姫神「おはよう―――淡希」






この限りなく広がる、青空の下で―――






482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/29(土) 00:39:51.18 ID:ryKZzyBAO
>>1です。以上で「結標淡希の七日間戦争」は終了です。

たくさんのレスをくださった方々、こんな馬鹿げた量の投下をお読みいただけた方々、ロゴを作っていただけた方、曲を私に教えてくださった方々、本当にありがとうございます。

最初から最後までノープランの一発書きのこの物語も、あと数回で終わる予定です。

まだ終わっていないので蛇足ですが、今回もJanne Da Arcの曲からこの物語を思い浮かべました。

なので>>445さんのように曲を教えていただけると良い刺激になりました。洋楽だったので意味合いはなんとなくしか私にはわかりませんでしたが、シックな感じの曲で新鮮でした。ありがとうございます。

とうとう書きためすらなくなってしまったので、また次回もノープランですがよろしくお願いいたします。失礼いたします。
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 00:43:36.93 ID:TfsS9KhDO
乙!
ヘタ錬さん…
>>1は麦琴読んでた?何か時々雰囲気似てて切なくなる
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 00:45:43.59 ID:mAyajWnDO

全体的に駆け足だった気がした
内容もよかったし、熱かったし、なんでそう感じたんだろ?だらだらした日常がないからかな
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 01:01:45.77 ID:F8ji1tglo
しかし七日間戦争と言われるとTMNを思い出す罠。
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 01:01:59.84 ID:gWvkpWuEo
乙乙乙
最高だ、それしか言えない
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 01:02:06.55 ID:qTKsmbtQo
>>484
二人の関係が進展する速度が異常だったからじゃないの
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 01:02:51.37 ID:Vg9GTGlIO


で偽善使いの2巻の内容はまだかね?
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 01:18:29.76 ID:zg78ZUwso
最後の件で泣いた…
言葉回しがホントに大好きだ
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 03:45:35.48 ID:3vqo273AO
あと数回で終わりか…。楽しみにしてるぜ!
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 04:41:42.86 ID:cygLrO/DO
七日間戦争というと僕らシリーズが浮かぶ

何はともあれ乙
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 05:15:50.42 ID:rFv8unoAO
くそぅ、今まで百合物だからって読まなくて損した
ここまで熱くさせられたssは久し振りだぜ、一気に読んじまった
けど、最終戦争だとか、特にグノーシスが今書き溜めてるssの要素とめちゃ被ってるorz
しかもこんな文才まで見せつけられちゃあ、何か自分のがちっぽけ過ぎてもう書けません…
もう読み専になりますたい
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 15:40:29.87 ID:6H86bO080

熱い展開の連続でみんなかっこよかった
絶望の中で人から与えられるものじゃない、いろんな人が関わって作り上げていく希望って感じがいいな
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 20:00:18.61 ID:ryKZzyBAO
>>1です。ラストまでまとめて投下したいので、誠に勝手ながら今日は無しで明日に投下させて下さい。
恐らくまた長くなってしまいそうですが、よろしくお願いいたします。
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 04:13:54.87 ID:GMorNryq0
期待してる
こんな秀逸なss久しぶりだわ
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 09:30:41.33 ID:ZSUH3mRAO
>>1です。最終話が完成したので午後の15時前後に投下させていただきます。
タイトルだけ置いていきます。タイトルは『See visionS』です。ではまた後ほどよろしくお願いいたします。
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 14:52:46.62 ID:ZSUH3mRAO
>>1です。

『とある夏雲の座標殺し(ブルーブラッド)』
ラストエピソード『See visionS』を投下させていただきます。
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 14:54:59.82 ID:ZSUH3mRAO
〜第二十三学区・飛行場滑走路〜

上条・浜面「「なんじゃこりゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」」

七日目…9:42。上条当麻と浜面仕上は超音速旅客機のタラップから降りるなり、寝ぼけ眼を見開かせて絶叫した。

上条「ひ、飛行場が…」

浜面「く、空港が…」

二人が目にしたもの…それは管制塔に白銀色の大巨人が横臥し、その胴体を今の今まで自分達が搭乗してきた超音速旅客機が十字架のように突き刺さり、燃え尽きた愉快なオブジェであった。

上条・浜面「「………………」」

空港も空港で怪獣が暴れ狂ったような惨状であり…よく着陸出来たものだと思った。
同時に、自分達はまだ夢を見てるんだ、これは何かの悪い冗談なのだと言うのが二人の共通認識であった。
そして互いに顔を見合わせ…再び周囲を見渡し…そしてまた向き直る。

浜面「…悪い、ちょっと顔つねってくれないか?オレ多分まだ夢見てるんだわ」

上条「あっ、ああ…じゃあオレも…せーのっ」

ギュウウウウウウゥゥゥゥゥゥ…

上条・浜面「「痛い痛い痛い痛い痛い痛い〜!!」」

互いの頬をつねり合いながらタラップで地団駄を踏む。
約二週間ぶりとなる学園都市の土を踏む感慨も何もなく、起き抜けの頭を一瞬でフラットに戻す痛み。そこへ――

?「下りろォ!三下共がァ!!」

ゲシッ

上条・浜面「「うわわわわわわわわわ!?」」

一瞬スローな無重力感を味わった後、自由落下の法則に従って蹴り出された二人は上条が下敷きに、浜面が仰向けに…

上条・浜面「「おあああああああああ?!」」

ドンガラガッシャーン!と背後からの蹴撃を受けてタラップから転がり落ちる二人。
上条「ふっ、不幸だ…」

頭に星が巡る上条の上で、未だ火花が瞬く浜面がかぶりを振りながら、叫ぶ。

浜面「〜〜〜何しやがる一方通行!!!」
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 14:56:23.30 ID:ZSUH3mRAO
一方通行「朝っぱらからくだらねェ漫談やってンじゃねェよ!後がつかえてンだろうがァ!!」

打ち止め「あなたもドリフみたいだよ!ってミサカはミサカは掌を返しながらいまいちなおめざなあなたにビシッとツッコミを入れてみる!」

タラップの上…そこには起き抜けのホワイトヘアーをガシガシと掻き回しながら不機嫌そうに見下ろす一方通行(アクセラレータ)と、対照的に元気一杯に飛び跳ねる打ち止め(ラストオーダー)の姿があった。

一方通行「〜〜〜テメエがさンざっぱら騒ぐからだろうがクソガキィ!!!」

打ち止め「いっ、痛い痛いってミサカはミサカは千切れちゃいそうな自分のチャームポイントを押さえてみたり!」

フィアンマ「…貴様等も大概だ。早く下りろ。五月蝿くてかなわん」

そして更にその後ろに控えるは――ローマ正教最暗部、元『神の右席』指導者――『右方のフィアンマ』。
打ち止めのアホ毛を掴む一方通行の後ろで物憂げに、鬱陶しそうに、気怠げに手を振る。道を開けろと言わんばかりに。

一方通行「ああン?なンですかなンなンですかァ?一番遅く起きてきて命令口調とか舐めてンですかァ?」

フィアンマ「喚くな。頭に響く。俺様の手を煩わせるな」

至近距離でガンを飛ばす一方通行、それを冷めた様子で睥睨するフィアンマ。
ほとんど極道とマフィアのメンチの切り合いであり、一触即発状態だが――

上条「だあああぁぁぁもうっ!朝っぱらから喧嘩すんなよお前ら!そんな事してる場合じゃないだろ!?」

浜面「そ、そうだそうだー!暴力反対!マジ切れ御法度!つかお前らどんだけカルシウム足りてねえんだよ!?」

打ち止め「右に同じく!あなた達が暴れたらこの空港まで吹き飛んじゃうよ!ってミサカはミサカは演算補助の接続を――」

一方通行「打ち止めァ!」

フィアンマ「フンッ…」

上条がフィアンマをなだめすかし、浜面と打ち止めが一方通行を粘り強く押さえ込みながら四人の男と一人の少女がタラップを下りる。
二週間ぶりとなる地に足を踏みしめ、上条当麻は空を見上げる。
しみじみと感じざるを得ない。帰って来たのだと―――


―――上条「学園都市か」―――


500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 14:59:10.09 ID:ZSUH3mRAO
〜第二十三学区・空港内〜

浜面「うわっ…めっちゃメール入って来てる…滝壺に、フレンダに、絹旗に、半蔵に、郭に…ああ電池がぁぁぁ!スパムメールかよ!?」

上条「“夜にオ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね”…“噛みつき百回の刑なんだよ!とうま!”…“今更何しに帰って来てんのよゴラァァァ!後で罰ゲームだからね!”…ふっ、不幸だ…」

一方通行「“テメエの見せ場はもうねえよクソ野郎。くたばるまで幼女と一緒に砂遊びしてろ(笑)”…あのクソ野郎(スペアプラン)!!着いたら愉快なオブジェにしてやンよォォォ!!」

フィアンマ「(着信0件…メール0件…オッレルス…シルビア)」

打ち止め「友達いないの?ってミサカはミサカは手持ち無沙汰なあなたの後ろ姿に哀愁を感じてみたり」

10:05分。五人はそれぞれ携帯端末を操作しながら現状把握と生存報告に明け暮れていた。
最終戦争後の事後処理やその他諸々の案件を片付ける最中、振って湧いたグノーシズム(異端宗派)襲来の報に急ぎ帰国したは良いものの――

垣根『――死傷者0だ。でもってブリキの兵隊共は全滅だ。テメエらの出る幕はねえよクソッタレ』

垣根帝督のメールからわかった事…避難所が半壊してしまい、また焼け出されてはしまったが死傷者は0だと言う事。

上条「(そうか…みんな助かったんだな…)」

もちろん負傷者はいたが、一方通行を除くレベル5全員が防衛戦をやり遂げ、残る全ての人々が籠城戦を成し遂げた。

一方通行「(チッ…あのクソメルヘンが…)」

垣根帝督の未元物質(ダークマター)が避難所全域を完全にカバーし完璧にコントロールした所が大きい。
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:00:51.27 ID:ZSUH3mRAO
浜面「(…ホッとしたぜ…マジで…)」

夜明けと共に帰還した黄泉川愛穂が全学区の警備員を総動員させ、残党狩りを含めた鎮圧行動に出、無事事態は収束されたようだ。

フィアンマ「(…生きている、人間達か…)」

同時に、上層部は隠蔽工作と事後処理と情報操作と対外折衝に死に物狂いで、必死に日本国政府の介入を阻んでいるらしい、とも付け加えられていた。

垣根『さんざっぱら甘い汁と他人の生き血啜って来た連中だ。テメエらの保身にゃ必死になんだろ?せいぜい苦い汁飲めってんだ。ところでオレの飾利を見てくれ。コイツをどう思う?』

一方通行「知るかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

打ち止め「あ!あの時の花飾りの人だ!ってミサカはミサカは運命的な出会いを思い返してみたり!」

今後の先行きを案じるメールもそこそこに、垣根帝督が初春飾利をぬいぐるみのように抱きながらドヤ顔で写っている写メールまで添付されていた。
惚気たっぷりのメールにブチ切れる一方通行とケラケラ笑う打ち止め、それを見やる――

フィアンマ「…奴等は何時もこうなのか?」

浜面「あれはあれで丸くなったと思うぜ。トムとジェリーくらいにはな」

フィアンマ「俺様には理解の外だ」

浜面「だろうなあ。あんたそういうキャラじゃねえしな…あっ、そうだそうだ。さっき案内所で聞いたんだが――」

右方のフィアンマ。彼もまた第三次世界大戦後、紆余曲折あって世界中をさすらう旅の途中である。
この三人の輪に加わっているのは、“上条当麻に借りを返す”ためらしい。
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:03:29.26 ID:ZSUH3mRAO
浜面「ターミナルは封鎖、モノレールは閉鎖らしいぞ。最悪、陸の孤島だ」

上条「げっ…って事は」

打ち止め「えー!?ここで足止め?!ってミサカはミサカは駄々をこねてみる!」

一方通行「車かっぱらってこいよ。テメエの十八番だろうがァ」

浜面「この厳戒体制の非常線張られまくってる時に出来っか!!お前のカラスみたいな羽でブワーッて飛べねえのかよ?」

一方通行「バッテリーが持たねェよ。だいたい四人も抱えて飛べる訳ねェだろうが」

フィアンマ「チッ…使えん奴め」

一方通行「スクラップの時間だクッソヤロオオオオオオォォォォォォ!!!」

上条「喧嘩すんなって上条さんいつもいつも言ってる言った言いました三段活用そげぶ!」ガッシ!ボカ!

一方・右方「「〜〜〜!!!」」

打ち止め「…本当に大丈夫かなってミサカはミサカは自分の先行き不安に頭を抱えてみる…」

上条「嗚呼…帰ったら沈利とインデックスとビリビリになにされるか…上条さんは今から不安で胃痛になりそうですよ」

帰りの足に頭を抱える浜面、上条の鉄拳制裁に頭を抱える一方通行とフィアンマ、この人達についていって大丈夫かと頭を抱える打ち止め、恋人と同居人と女友達の死より恐ろしいペナルティに頭を抱える上条当麻――すると


グウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…

全員「「「「    」」」」
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:04:42.92 ID:ZSUH3mRAO
どこからか盛大に鳴る腹の虫、高らかに歌い上げるカエルの大合唱がガヤガヤと騒がしいロビー内であってさえ響き渡る。

上条「…誰だ?」

浜面「…お、俺じゃないぞ」

一方通行「…クソガキか?」

打ち止め「れっ、レディーにそんな質問はデリカシーないってミサカはミサカは女心のわからないあなたに無罪を主張してみる!」

フィアンマ「俺  様  だ」

全員「「「「お前かよ!!?」」」」

一斉に入る突っ込み。しかしフィアンマは動じずにかぶりを振り、恥ずかしがった様子もなく一同を見渡し。

フィアンマ「ともあれ、まずは食事にするとしよう。ここで空きっ腹を…いや頭を抱えていても埒が開かん。行くぞ」スタスタ

一方通行「なンでテメエが仕切ってンだゴラァァァァァァァァァ!!」カツンカツン

打ち止め「わーいご飯ご飯!ってミサカはミサカは食べ盛りの子供らしくはしゃいでみたり!」ピョンピョン

浜面「オレサマ系VSオラオラ系だなあ…まあ機内食出なかったしちょうどいいか。なあ?」テクテク

上条「いいんじゃねえか?そりゃ避難所も気になるけどさ…このままだと良い案も出ないだろうし…それに」トボトボ

上条は改めて携帯端末に目を落とす。本当は今すぐ飛んで帰りたい。
恐らくこの場にいる誰にも負けないほどに。しかし


上条「――大丈夫さ。あいつらなら」
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:06:58.35 ID:ZSUH3mRAO
〜第二十三学区・レストラン『スカイスクレイパー』〜

姫神「食べ過ぎた。もう動けない」

結標「私を連れて帰るって言ったじゃない!!」

10:11分。姫神秋沙と結標淡希は救護所から退散し空港内にあるレストランで遅めの朝食をとっていた。
警備員の護送車で送られる前に、一晩中戦い通しだった結標も一晩中走り通しだった姫神も空腹の限界を迎えたのである。

姫神「聞いていたの。寝たふりをしていただなんて。いけないあわきん」プニッ

結標「あわきんって呼ばないで言ったでしょ!コ、コラ突っつかないで!」

結標はパスタとサラダを、姫神は朝定食だけでは足りずにサイドメニューにチキンや山盛りポテトなどを次々と注文し、気がつけば一晩分の疲労と眠気が一気に弛緩して動けなくなっていた。
対する結標はサラダをつつきながら姫神に頬に指差されるちょっかいから逃れようと身をよじっていた。しかし

姫神「食べても。お腹が出ない貴女が。心の底から憎らしい。これから夏の盛りなのに。妬ましい」

結標「肌を出すファッションの娘はスタイルにだって人一倍気を使うのよ。貴女だって手足長いじゃない」

姫神「スレンダーな貴女と並んで歩くと。比べられそうで嫌」

結標「あーそれはあるかもね?」ニヤニヤ

姫神「かっちーん」フミッ

結標「痛い痛い!足踏まないで!」

テーブルの下で足を蹴飛ばしたり脚を践んだりと水面下での女の戦いは続く。
つい数時間前での、世界の果てで永遠の愛を誓い合った姫君と騎士のような空気は微塵もない。
それこそどこにでもいる、女子高生同士のやりとりだった。

結標「はあー…なんかさっき寝たのにまだ全然寝足りない気分。小萌の所に顔出して、避難所の様子見たら早めに帰って眠りましょう」

姫神「…うん」

そこで姫神の表情がやや落ち込む。『能力者狩り』の標的は姫神を含めた学生全てであったが、悩み続け、思い詰めた末に出奔してしまった手前、諸手を上げて帰るのが憚られる気がしたのだ。だが結標は

結標「しゃきっとしてちょうだい。貴女は生きて帰って来て、みんな生き残ったわ。胸を張って帰って、色んな人にありがとうって頭を下げて回ればいいのよ。私もそうするつもりだしね」
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:08:39.78 ID:ZSUH3mRAO
些細な事とは言わないが、悩み過ぎだと笑った。
一人のために戦争など起きはしない。一人の人間が戦争を終わらせる事など出来ないように。
そして一人の人間が帰って来るのを拒むような狭量な人間はあの避難所にはいないのだから。良くも悪くも

姫神「…わかった。ありがとう。淡希。お礼に。ケーキを奢る」

結標「あら?じゃあご馳走してもらおうかしら。でも貴女お金大丈夫なの?」

姫神「大丈夫。支払いは任せろー。バリバ―――」



………………シーン………………



姫神「」

結標「ちょっ、ちょっと秋沙?どうしたの?どうしてフリーズしてるの?」

姫神がボロボロになってしまったスカートから財布を取り出そうとして…固まった。
ただでさえ乏しい表情も相俟って、発条のネジが切れた人形のように。

姫神「…ない」

結標「えっ」

姫神「忘れた。第九学区の護送車の中に。鞄ごと」

姫神の表情が蒼白になる。黄泉川達に手を引かれ、無我夢中で、取る物も取らずに巨神兵から逃げ出したのだから。
ちなみに余談であるが、既に護送車はステイル=マグヌスが顕現したイノケンティウス(魔女狩りの王)で灰燼に帰している。

結標「…仕方無いわね。私が出してあげるわ。ここの払いもね」

姫神「…ごめんなさい。淡希。最後まで。役立たずで」

結標「良いわよ。生きて帰って来てくれただけで十分お釣りが来るわ」

姫神「代わりに。帰ったら。私の身体を。好きにしていい」

結標「ばっ、馬鹿!!!!!!」

鷹揚に微苦笑を浮かべながら結標は姫神を見やった。朝食代など安い物だ。
もう二度と手離せないダイヤモンド(永遠の輝き)が、自分の手に戻ったのだから。
姫神の最後のセリフにどぎまぎしつつ、自分のポケットを探ると―――



………………シーン………………



結標「」

姫神「…淡希?」

無表情で蒼白な姫神、微苦笑で脂汗をかく結標。
結標の微苦笑がひきつり笑いに、ひきつり笑いから泣き笑いに変わって行く。

結標「あは…あはは…あははは…ごめん秋沙」


姫神「…帰ったらお仕置き。今日は淡希に服を着せない」

結標も財布を無くしたのである。あれだけ座標移動を繰り返せば、あれだけ脇目も振らずに駆け抜ければ、あれだけ一騎当千の大立ち回りをすれば財布だってなくす。
しかし姫神の言葉にブチッとキレてしまった結標がテーブルを叩く。
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:11:31.92 ID:ZSUH3mRAO
結標「な、なによ!貴女だって無一文じゃない!私一人悪いみたいに言わないでくれる!?」

姫神「貴女だって素寒貧。このままじゃ。送られるアンチスキルの護送車が。避難所でなく留置場に」

結標「そういうのが逆ギレだって言うのよ!私だって法律違反はたくさんして来たけど無銭飲食だけはした事ないわよ!そうよ秋沙!貴女ここでウエイトレスしなさい!それで勘弁してもらうのよ!」シャー!

姫神「テンパらないで淡希。目が濁ってる。それに。ここの制服は。私のクラスメートの。メイドマニアが喜びそうなデザインだから。いや」フー!

結標「私だって仕事仲間のメイドマニアが喜びそうなこんなエグいメイド服着れないわよ!絶対に着ないからね!土御門の馬鹿じゃあるまいし!」

姫神「えっ」

結標「えっ」

姫神「なにそれ。こわい」

くしゅんっ、とどこかのグラサン金髪男のくしゃみが聞こえたのは幻聴だったのか。
片や仕事仲間、片やクラスメートとという見えざる接点ではあるが。

結標「…どうしようかしらね本当に…」

姫神「…貴女の座標移動で。逃げ(ry」

結標「それはダメ!!人として!!!」

姫神「――私達って。救われない――」

結標「それ言いたいだけでしょ!?」

そこで途方に暮れる二人。携帯端末で誰かを呼ぼうにも遠過ぎる上に混乱の坩堝でそれどころではない。
頭を抱える美少女二人。まさか食い逃げ犯で小萌に泣かれるのは流石に嫌だ。すると――

打ち止め「わーい地中海風!ってミサカはミサカは店内の雰囲気を誉めてみたり!」

一方通行「走り回るんじゃねェクソガキ!あっ、どうもすいませン。今静かにさせますンで」

浜面「…子連れの若いパパさんかよ」

上条「沈利とインデックスみたいだなー…席どうする?窓際にするか?」

フィアンマ「俺様は食えれば席など関係ない。強いて上げるなら、神の(ry」

全員「「「「言わせねえよ!?」」」」

結標・姫神「「!!!」」

その懐かしい声音に、二人の耳はうさぎのように跳ね上がった。

結標「一方通行!!」ガタッ

姫神「上条くん!!」ガタッ

席を蹴る二人、飛び出す二人、迫る二人

一方通行「テメエは!?」

上条「姫神?!何でここに!!」

この時、二人の心はまさに一つだった。



結標・姫神「「お金貸して!!!」」



上条・一方「「はァ!!?」」


この世界に、ヒーロー(金主)はいると。
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:13:59.77 ID:ZSUH3mRAO
〜第二十三学区・レストラン『スカイスクレイパー』〜

結標「…って言う事があったのよ」

一方通行「カカカ!じゃああの愉快で素敵なオブジェこさえたのはテメエかァ?。あンな真似オレだってやらねェよ」

上条「    」

浜面「オイオイ、ブイヤベース垂れてるぞ。あっ、店員さんすいません!追加いいっすか!」

姫神「モグモグ」

打ち止め「あー!ジェニィー!ってミサカはミサカは目の前でさらわれた最後のメルバトーストの名前を叫んでみたり!」

フィアンマ「つまり、あのジェット機を突っ込ませたのは…女、お前か」

結標「…そう言う事になるわね。大きい声じゃ言えないけど」

上条当麻はブイヤベースをすくうスプーンを持ったまま言葉を失っていた。
グノーシズム(異端宗派)による学園都市襲来のあらましから顛末まで知っているつもりではあった。だがしかし

上条「(…本当に皆無事で良かった…違った意味で)」

その中に無人飛行船をジャックして敵陣目掛けて吶喊攻撃を躊躇いなく敢行し…
怪獣と見紛うような巨神兵に超音速旅客機をぶつけるような無茶など…
さんざん無茶苦茶な戦い方をして来た自分でさえ素面では真似出来ない滅茶苦茶な闘い方だ。しかし

上条「あー…結標さん?」

結標「なにかしら?ええっと…」

姫神「上条くん」

結標「ああ!そうそう上条くん。なにかしら?」

一方通行「三下ァ。ンなヤツにかしこまる事ァねェぞ?目のやり場には困るだろうがなァ。カカカ!」

結標「混ぜっ返さないでくれないかしら一方通行?で…」

上条「…ありがとう!」

結標「!」

ちゃんぽん漫談を目の前で繰り広げる結標らの前で、スプーンを置いて上条は頭を下げた。
いきなりの行動に結標もやや目を見開く。そこで
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:15:11.67 ID:ZSUH3mRAO
上条「オレの友達を守ってくれて…本当に…本当にありがとう…!ありがとう!」

結標「あっ、いやっ、別にそんなつもりじゃ…私もただ必死だった、それだけだから。ねえ秋沙?」

姫神「私からも。ありがとう。淡希」

しどろもどろになる結標に真横で姫神が、真向かいで上条が頭を下げた。
二人の背景を知らぬ上条は純粋に姫神の友人として感謝した。
ちなみに席順は向かって右側が打ち止め・結標・姫神であり、左側が一方通行、上条、フィアンマ、浜面である。

結標「(これが…小萌と秋沙の言ってた上条当麻…昔の一方通行を倒したかも知れないって少し噂になった…無能力者)」

いずれも伝え聞きであり、目の当たりにするのは初めてだが、一見どこにでも居そうな男子高校生だ。
しかし、一方通行と、他にも得体に知れない男二人の輪の中で平然と溶け込んでいる時点で普通でない事くらいは、わかる。

浜面「げっ…滝壺からまたメールだ…“自分達だけでおいしいもの食べてないで早く帰ってきて”って…どこから見えてんだよ!?ああまた電池がぁぁぁ!」

一方通行「あァ?テメエの女、AIMストーカーなンだろォ?バレバレだなァ。つうか売店で電池買ってくりゃいいじゃねェか」

フィアンマ「つまり貴様は姦淫や不義密通を働けんと言う訳だな。俺様には関わりのない事だが」

浜面「普通に浮気って言えよ!滝壺泣かしたら絹旗にフレンダに麦野に八つ裂きにされちまう!それにしねえよ!俺には滝壺だけだ!…でもなんでわかるんだオレ無能力者なのに」

打ち止め「愛の力だよ!カカア天下で尻に敷かれてるんだね!ってミサカはミサカはネットワークであなたの監視を考えてみたり!」

一方通行「止めろクソガキィ!おい三下ァ!結局どうすンだァ?」

上条「そろそろ出ないとなぁ…でも避難所までどうやって行くかなあ…」

姫神「!」

結標「?」

そこで姫神は閃いた。頭に電球でも浮かび上がったように。

姫神「一緒に。来れば良い」

全員「「「「「!」」」」」
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:17:27.39 ID:ZSUH3mRAO
〜第二十二学区・ハイウェイ〜

結標「もうちょっと詰めてもらえないかしら?痛っ!足踏まないでよ一方通行!」

一方通行「テメエこそ隅に寄れェ!クソガキィ!膝の上に乗るんじゃねェ!」

打ち止め「だってキツキツなんだもーん!ってミサカはミサカはあなたのお膝が指定席!」

姫神「狭い。窓を開けて。息苦しい」

浜面「警備員!これ明らかに定員オーバーだろ!!それでいいのかアンチスキル!!」

フィアンマ「囀るな愚昧の輩共め。俺様の眠りを妨げるな」

上条「お前助手席じゃねーか!返事しろよフィアンマ!寝たふりするなっつの!」

警備員「(コイツら五月蝿い…)」

七日目…12:35分。一向は五人乗りのおんぼろセダンに揺られていた。
警備員達による厳戒態勢の中での護送で、車両も人員も足りずに差し向けられたのは警備員の自家用車。
こんな事で良いのかアンチスキル!というのが浜面仕上の主張である。
後部座席は鮨詰めないし缶詰め状態であり、食べて眠くなったのかフィアンマはうつらうつらと船を漕いでいる。

浜面「たはー…でもゴテゴテした装甲車よか良いか。あれには嫌な思い出しかねえ。黄泉川に追っ掛けられたりな」

一方通行「アイツのこった。笑いながらカーチェイスしてきたンだろうが。ハリウッドばりのアクションでよォ」

姫神「黄泉川先生は。私を何度も守ってくれた。とても。優しい人」

一方通行「優しい…なァ」

打ち止め「優しいよ!ってミサカはミサカは久しぶりに炊飯器料理が食べてみたくなったり!」

上条「黄泉川先生か…まだ学校残ってるといいな…小萌先生やみんなはどうしてた?インデックス達の事はわかるんだけどさ」

結標「元気よ。少し痩せたけれど。それから、貴女の彼女もね(まずい…食べたら眠くなってきたわ…)」

上条「…そっか」
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:19:12.35 ID:ZSUH3mRAO
そこで上条がやや恥ずかしそうに微笑んだ。これがあの女が選んだ男か、と思うと少々不思議な気持ちになる。

喧々囂々の車内にあって、結標はチラと姫神を見やる。そして姫神もまた――

姫神「淡希」

結標「ん?」

姫神「眠くない?肩なら。貸す」

結標「そう…じゃあお願いするわ。近くなったら起こしてちょうだい」

コテンと、結標は姫神の肩に頭を預けた。髪型は未だ白井黒子から借り受けたリボンである。

姫神「(少し。妬ける)」

後で髪紐を返そうと思う。ほんの少しだけヤキモチを妬いてしまうから。

一方通行「………………」

一方通行がこちらをキョトンとした眼差しで見つめている。

一方通行「(どうなってンだぁ?あの女人前で寝るようなキャラじゃねェだろ…)」

何か言いたそうにして、何と言葉にして良いかわからない。そんな表情に、姫神は――

姫神「シー…」

人差し指を唇に当て、悪戯っぽく笑った。
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:22:37.66 ID:ZSUH3mRAO
〜第七学区・とある高校避難所〜

禁書「とうま達が帰ってくるんだよ!!」

麦野「!!!」

御坂「!!!」

一夜明け…学園都市中のアンチスキルからジャッジメントからボランティアから続々と集結しつつ避難所にて…
インデックスは覚えたてのメールを麦野沈利と御坂美琴に携帯電話の画面ごと見せた。

禁書「今車でこっちに向かってるんだよ!あと一時間くらいで着くって!」

壊滅状態の第七学区では既に携帯電話による電波受信すら困難な有り様で…

麦野「あ…ああ…あああ…」

もちろん上条も三人にメールを送ったのだが真っ先に繋がったのはインデックスだったのである。

御坂「しっかりして第四位!ほらちゃんと見なさいよ!アイツからのメールよ!!ああもう!もっとマメに連絡しなさいよね!あの馬鹿!!」

そのインデックスもまたこぼれんばかりの笑い泣きで、御坂美琴もまた溢れんばかりの泣き笑いで、麦野沈利にいたっては…

麦野「うわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

御坂「ちょっ、ちょっ、第四位!まっ、待ちなさいよ!泣くの早いって!!」

麦野「とぉぉぉぉぉぉぉぉぉうまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

禁書「し、しずり!落ち着くんだよ!うわっぷ!はなみずがつくんだよ!短髪!どうにかして欲しいかも!!」

御坂「わ、私に言わないでよ!わっ!ブラウスが!私のブラウスがー!!」

麦野「かぁぁぁんけいねえぇぇぇんだよぉぉぉ…かぁぁぁん…うわぁぁぁぁぁぁ…」

御坂・禁書「ダメだこりゃ(かも)」

最狂の女王様、麦野沈利をここまでボロ泣きさせられるのはアンタくらいのもんよ、と御坂美琴は独り言ちる。

同時に御坂も空を仰ぐ。恋敵で、友人とは呼べないものの知らない仲とは言えない麦野の頭を撫でながら――ふと瓦礫の彼方を見やると
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 15:23:36.69 ID:sOCmqGZEo
>>500
フィアンマ・・・
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:24:17.18 ID:ZSUH3mRAO
滝壺「はまづら…帰ってくる」

絹旗「超朗報です!超速報です!フレンダー!超起きて下さい!やっぱりですよ!帰って来ますよ!超浜面!」

フレンダ「ふあ〜…結局、徹夜明けはテンション低い訳よ…はあ。でも、おめでとう」

滝壺「ありがとう。ふれんだ」

絹旗「麦野ー!超チーンです!超チーンですよ!」

一晩中戦い続け、テントより惰眠を貪っていたフレンダが顔を覗かせる。
滝壺はその頭を撫でながらうなずく。絹旗もホッと胸を撫で下ろしながらビービー泣き続ける麦野にハンカチを手渡しに駆け寄る側を――

垣根「あのクソ野郎がもう帰ってくるだあ?言っとけ。“オメーの席ねーから!”ってよ。ハハハハハハ!」

心理定規「私は心理掌握から聞いただけよ。貴方とレベル5しか連絡先知らないのに伝えられるはずないでしょう?なんだかんだ言ってメモリーは消さないのね」

垣根「…飾利と付き合い始めて女共の番号消したら、お前ら(スクール)とアイツら(レベル5)の番号しか残らなかったんだよ…」シュン…

心理定規「(…戦ってる時と悪だくみしてる時以外は本当にダメな男ね)」
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:25:56.80 ID:ZSUH3mRAO
しかし、その割に瞳が底意地悪い輝きに満ちている、と心理定規は思っている。

まるで、楽勝過ぎる相手ばかりに飽いて、自分の『敵』になりうる打ち手を待つ王様のようだとも。だが。

初春「よいしょ…よいしょ…」

そこに通りがかる…避難所から自分の荷物を両手に抱えた初春飾利と

佐天「うう、荷物多いし重いなあ…うんとこしょ…」

同じく背中に背負った佐天涙子が二人並んで通りすがると

垣根「飾利ぃぃぃ!そんな重いもん持つな!腕が太くなっちまうだろうが!」バッ

初春「垣根さん!?だ、大丈夫ですよぅ!これくらい持てます!」

垣根「ダメだ!女にはハンドバック以外持たせねえのがオレの美学だ!そんなもん持って転んじまったらどうするんだ!お前だけの身体じゃねえんだぞ!?」ガバッ

初春「なななな何言ってるんですか垣根さん!私達まだほっぺにチューしか…はわわわ…」

佐天「うわー初春愛されてるねー(過保護過ぎるでしょ…どれだけお姫様扱いなのよー?)」

困り顔ながらも頬を染める初春と、背景に薔薇でも咲きそうな笑顔の垣根。
それを見てどっ白けで肩が下がり棒読みの佐天。

垣根「いけねえ!大事な事忘れてた…飾利、お前確か――に詳しかったよな?」

初春「?は、はい!少しは」

垣根「…ちっとばかしお前のアドバイスが欲しいんだ…実は」ゴニョゴニョ

初春「!で、出来るんですかそんな事!?そんなの不可能ですよぅ!」

垣根「――忘れたか飾利?オレの“未元物質”に常識は通用しねえ。お前の男の辞書に不可能の文字はありえねえんだ」

もう初春が16歳になったら結婚してしまえ、嫁に出してしまえとさえ思う。
花束の代わりに塩を撒いてやりたい気分だ、と佐天が溜め息をつく傍ら――
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:28:40.59 ID:ZSUH3mRAO
寮監「ふう…よし、全員揃ったな?直ちに場所を校舎から“アルカディア”へ移すぞ!校舎はもう立ち入り禁止だ!」

常盤台中学の女生徒達を引率する者

災誤「点呼始めー!!」

野太い声音を腹の底から出す教師

小萌「みんなー!上条ちゃんと姫神ちゃんが帰って来るのですよー!!って…きゃあっ!?」

生徒達「わーしょっい!わーしょっい!あのバカが帰ってくるぞー!」

生徒達の輪に飛び込み、胴上げされる担任

吹寄「姫神さん…!…上条!いったい今までどこをほっつき歩いて!」

安堵と膨れっ面を同時に浮かべるクラスメート

青髪「(…今回は読みが外れんで良かったわー…土御門はしばらく本業に忙しいんやろうなー)」

笑い目を遠くしながら彼方を仰ぐ悪友

黄泉川「痛いじゃん!巻き方ぶきっちょ過ぎじゃん!」

半死半生で生還して来た者

芳川「巻き方が甘いと血が止まらないわよ。私は自分に甘いけど」

不器用な手つきで包帯を継子結びする者

手塩「いい加減、ホチキスの、周りが、かぶれて来たんだが」

九死に一生を得た警備員

木山「待ってくれ。しかしこれを外したら傷が開いてしまうぞ…先生」

早く子供達に顔を出してやりたいと願う元科学者で現教師で養母まで勤める者。

冥土帰し「やれやれ。君達は本当に医者泣かせだね?」

ただ一人の死傷者も出しはしなかった名医

絶対等速「いやっほーい!お天道さんがまぶしー!!」

自分の居場所を見つけた刑務所帰りもいる

――彼等は、生きているのだ――


516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:31:06.58 ID:ZSUH3mRAO
〜第七学区・全学連復興支援委員会本部〜

ボランティアA「削板さん!サイン下さい!押忍!!」

ボランティアB「軍覇さん!ハンコお願いします!オス!」

ボランティアC「リーダー!この決済頼んます!ウス!」

ボランティアD「委員長!この書類見て下さい!ごっつぁんです!」

削板「ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!今朝のマネキン共(白銀近衛騎士団)よりも終わりが見えん!だが根性ぉぉぉぉぉぉ!」

雲川「…そこの数字、違ってるんだけど」

削板「ぬああああああ!?修正テープをくれ!うわぁぁぁ崩れる!この根性無しめ!男がそんなに簡単に諦めるな!」

雲川「書類に性別があるなんて初耳なんだけど」

一方…学園都市側からの調査委員会との折衝を終えた雲川芹亜は優雅に午後の紅茶を楽しみながら…
ミカン箱の机の中で山と詰まれ崩れた書類と格闘する削板軍覇の背中に足を行儀悪く投げ出していた。

芹川「…忙しくなるのはこれからだぞ、馬鹿大将。お前が本当にわかってるかどうか疑問なんだけど」

雲川芹亜は憮然としていた。学園都市側としては昨夜から今朝にかけた一件をなんとしても取り繕いたいらしい。
第三次世界大戦から先の最終戦争、加えて二週間経たずに起きた今回の事件により…
紛争地帯認定を受けて日本国政府からの介入を受ける事は断じて許さないらしい。と

削板「学生達に箝口令を敷こうが、上層部が治外法権を声高に叫ぼうが、統括理事長が残した何万の隠蔽工作のマニュアルを総動員させようが、もう根性でどうにか出来るレベルでない事くらいはオレにもわかるぞ!政治の話だからな!この街に溜まった闇と膿はもう自家中毒の域だ!そう言いたいんだろう?」

雲川「お前やっぱり頭悪くないでしょう?」
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:34:23.21 ID:ZSUH3mRAO
ゲシッゲシッと削板の背中を蹴る雲川。しかし山を蹴っているように動かない削板。
雲川は思う。たまにはこっちを向けと。何故自分ばかりいつもいつも前に立ちはだかって話をしなければならないのかと。しかし――

削板「だが――オレは信じてるぞ」

雲川「…何を言いたいのかわからないんだけど」

削板「――この学園都市(まち)で生きようとしている奴らの…根性をだ」

雲川「――――――」

その時、一瞬雲川の蹴り足が止まる。それは削板の言葉以上に…振り返ったからだ。削板が。

削板「あの戦闘で、正直オレも誰も死なずに済むだなんて思っちゃいなかった。だが――アイツら(学生達)は誰一人諦めなかった。すげー根性だ。頭が下がった」

雲川「………………」

削板「だからオレは信じる。生きる事を諦めなかったアイツらの根性を。神様の奇跡なんかじゃない、一人一人が築き上げたこの学園都市(せかい)にはまだまだ救いがあるってな!」

雲川「(…この男は、本当に――)」

救いようのない馬鹿だと雲川は思う。削板は全てわかった上で、消去法でもなく夢想論でもなく…
現実を見据えた上でそう言っているのだ。この街の表も裏も知りながら、だ。

雲川「…本当、お前の馬鹿さ加減につける薬が見当たらないんだけど」

削板「馬鹿は死ななきゃ治らんからな!だがオレは死なん!根性で生きる!」

雲川ほどの明晰な頭脳を持ちながら、その秤で計れない『器』を持つ男、削板軍覇。
確かに馬鹿だと思う。こんな腐り切って荒れ果て壊れてしまった世界を相手に、学園都市中の学生を巻き込んで復興支援で立ち上がろうだなんて本気で信じているのだから。しかし――

雲川「…まあ、そういう馬鹿は嫌いじゃないんだけど」

削板「そうか!」
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:35:57.93 ID:ZSUH3mRAO
惚れ惚れするほどの突き抜けた馬鹿さ加減が、いっそ愛おしい。
まるで風車に挑むドンキホーテのようで、馬鹿と笑う事は出来ても誰にも真似出来ない馬鹿をやるなら――

雲川「(私も、馬鹿の一人って事になるんだけど)」

ならばなってやろう。サンチョパンサでも、ロシナンテにでも。
この馬鹿がどんな騒動をこの街で引き起こすのか、見届けてやろう。その背中を――

削板「ところで」

雲川「?」

削板「さっきから白のパンツが眩しくてかなわん!」

雲川「!!!??」バッ

削板「根性で目を逸らしていたが、いい加減言わんとお前が恥をかくと思ってな!まあオレは別に気にしな――ん?なんだ?そんなに足を上げて?また見え――」

雲川「馬鹿!!!!!!」ガッ!

削板「んが!!!ぐおおお根性の入った一撃だ…!南無三っ」ダッ!

…と思った矢先に、いきなり下着の事を指摘されて雲川は踵落としを思いっきり食らわせる。
それにたまらず削板がミカン箱の書類の山と雲川から逃げ出し、それを雲川が追い掛ける。
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:37:42.21 ID:ZSUH3mRAO
雲川「三点バーストマグナムを寄越せ服部!あの馬鹿大将を初の死亡者にしてやりたいんだけど!!」ビュンッビュンッ!

服部「やっ、やめろって!おいよせ!削板!お前なにしたんだよ!?」

黒妻「おいおい!夫婦喧嘩は犬も食わないって…痛ぁ!?」ブスッブスッ

削板「うん?!雲川のパンツが(ry」

雲川「言うな馬鹿!もう我慢の限界なんだけど!!!」ポイッポイッ!

服部「痛っ!痛っ!なんでオレまで!」グサッグサッ

背後からボールペンや万年筆を投げつける雲川、ヒョイヒョイとジグザグでかわす削板、それに巻き込まれ共に逃げ出す服部と黒妻。

雲川「待て!待て!止まらないと足らない頭をブチ抜くぞ馬鹿大将!!!」

服部「やべえ!やべえ!完全にキレてるぞ!なんとかしろよナンバーセブン!!」

削板「女心と天気ばかりは根性ではどうにもならん!逃げるぞ!!」

黒妻「いつもの根性はどこ行っちまったんだよォォォ!!ウギャー!!!!」

雲川芹亜が怒っているのは下着を見られたからではない。
下着を見られたのに、削板がいたってノーリアクションだったからだ。
つまり、自分は女としてすら見られていないのかと逆上したのだ。

雲川「馬鹿馬鹿馬鹿!!お前なんて知るか馬鹿ー!!!」

鈍さまで原石級の削板軍覇、明晰な頭脳を持ちながら乙女心は年相応な雲川芹亜。
二人の追い掛けっこはまだまだ続く。この先も――
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:40:12.52 ID:ZSUH3mRAO
〜とある高校・屋上〜

白井「何をしていますの…あの方々は」

御坂妹「キャッキャッウフフです、とミサカはハートフルコメディな学生生活の一幕をゴーグル越しに観察します」

一方…そんな二人の様子を呆れ半分で見下ろしていた白井黒子はリボンのほどかれた髪を風に揺らしていた。
屋上の手すりの外に座りながら、御坂妹は給水塔に腰掛けながら。

御坂妹「上位個体より連絡が…全員がこちらに向かっているようです、とミサカは踏みつけにされた男達を憐れみます」

白井「そうですの…」

避難所生活を営む内に知り合った御坂妹の言葉に耳を傾けながら、白井は憂いを帯びた表情のままそよぐ風に下ろした髪を任せる。
ひとつきりのリボン、その片割れを貸し与えた張本人――結標淡希が帰還すると聞いてからずっとこの調子である。

白井「(結標淡希(あなた)が、帰って来ますの)」

彼女は帰ってくる。最愛の恋人を奪い還して。以前より高い位置に上り詰めて。
当然、御坂美琴への想いは一ミリたりとも揺らいでなどいないが、白井は忘れられない。
昨夜、最初で最後となる共闘(ダンス)を結標淡希と繰り広げてから、ずっと。

白井「(貴女は、確かに変わりましたの。強く、大きく、見違えるほどに)」

フッと鼻から抜けるように微笑む。常より大人びた表情で。
あの流血と銃弾飛び交う戦場で、あれほど心強く感じたパートナーは…
御坂美琴を除いて恐らく結標淡希が最初で最後だろうと。そして――

白井「――認めて差し上げますの。結標淡希さん――貴女は――…」

自分達にif(もし)はない。結標は帰還し、白井にリボンを返し、話はそこでおしまいだ。
それ以上でもそれ以下でもない。ただ一夜、光(白井黒子)と影(結標淡希)が交わった…ただそれだけの話だと。

白井「――貴女は――…」

御坂妹「………………」

そこで御坂妹は再び追い掛けっこを始めた削板軍覇と雲川芹亜へ視線を向ける。
入道雲広がる青空向けて…白井黒子がつぶやいた言葉の続きは、風の悪戯と思う事にした。

御坂妹「(乙女心は複雑なのです、とミサカは再び始まったボーイミーツガールに思いを馳せます)」

それが、『人間』というものだと、御坂妹は知っているから―――
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:41:39.26 ID:ZSUH3mRAO
〜第八学区・ハイウェイ〜

姫神「そんな事が。あったの」

上条「まだ誰にも言わないでくれよな。俺達も…色々あったからさ」

一方その頃…姫神と上条を除く全員が長旅で眠り込んでしまった中、姫神と上条は話し込んでいた。
上条達が終戦後、世界各国で何をし、何を見、何を手にしてきたかを。

姫神「(だから)」

何故だろうか、少し見ない間に少し大人びて見えたのは。
男子三日会わざれば刮目して見よ、という諺があるが…頷けると姫神は思った。
その横顔には確かな自信と、少しの落ち着きがあった。
恐らく以前の姫神が見たなら――頬を染めてしまうほどに。だがしかし――

上条「なんか姫神も大人っぽくなったよな」

姫神「そう。そういうものは。自分ではわからないもの」

肩にかかる羽のような重み、微かに香るクロエの匂い、サラサラとした赤い髪、そして安らかな寝顔――結標淡希。

姫神「ふっ…。私にも。色々あった」

上条「おっ…おおっ…姫神がまさに大人な発言で上条さんも驚きましたよ」

初恋だったかも知れなかった男の帰還、そしてそれ以上に愛しい存在が今、姫神の傍らにある。
今、日向ぼっこしている猫のように微睡んでいる――利かん防で、怒りん防で、暴れん坊で、甘えん坊な同居人(こいびと)結標淡希が。

フィアンマ「貴様等。いつまで眠りこけているつもりだ。もう着くぞ」

上条「んがー!飛行機で一番遅く起きて車で一番早く寝たのお前だろうがフィアンマ!上条さんの目は節穴ではございませんの事ですよ!」

フィアンマ「ふん。この俺様がそんな失態を見せるか。目を瞑って世界の行く末を憂いえていただけだ」

上条「授業中居眠りするヤツはみんな目閉じてただけって言うんだっつの!」

姫神「(あまり変わってない。かも知れない)」

そんなやり取りの傍ら――姫神は――



姫神「淡希。起きて」



522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:45:00.72 ID:ZSUH3mRAO
〜とある高校〜

そう、私はずっと長い夢を見ていたんだと思っていた。

この終わりの見えなかった、一週間前からずっと続く夢。

だから、私は信じられない。今自分の目に映っているものが。

白井「結標さーん!おかえりなさいですのー!」

校門の前で仁王立ちになっている白井黒子が手を振っている。

御坂「遅いのよアンタは!遅刻も遅刻大遅刻よ!」

その横で御坂美琴が真っ赤にした嬉し泣きの顔で指を突きつけている。

坂島「おお〜姫神さん!どうにか生き延びたよ」

美容師もいる

舞夏「おおー!みんな久しぶりなんだぞー!」

メイドもいる

服部「浜面ぁぁぁ!!オレもう限界だ!気ままなスキルアウト暮らしに戻りてえええ!!」

スキルアウトもいる

黄泉川「打ち止め!一方通行!おかえりじゃん!」

芳川「愛穂、転ぶわよ、松葉杖なんだから」

手塩「姫神君、か、息災そうで、なによりだ」

木山「車椅子なのだから立ち上がらないでもらえるかい?やあ結標さん。おはよう。大変だったようだね」

警備員が二人、研究者崩れも二人いる。

滝壺「はまづらー!」

絹旗「超浜面ー!!」

フレンダ「変な名前のヤツー!結局、生きて帰って来たって訳よ!」

麦野「はーまづらぁ…上条!かみじょーう!とうまぁぁぁぁぁぁ!!寂しかったぁぁぁぁぁぁ!!」

禁書「しずりズルいんだよ!私も!とうま!あとふぃあんま」

暗部が四人、何故か修道女までいる。

吹寄「姫神さん!無事で良かった…本当に良かった…!あら?そっちの人達は?」

土御門「カミやーん!おかえりなんだぜーい!それと結標、一方通行、久しぶりだな」

青髪「(本業抜けてきおったな)カミやん!お勤めご苦労さん!」

友人達もいる

絶対等速「ばんざーい!ばんざーい!!」

刑務所帰りもいる。
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:48:51.06 ID:ZSUH3mRAO
御坂妹「おかえりなさい上位個体、とミサカはおじぎしながら彼をチラ見するちゃっかりした自分が大好きです」

ステイル「ふんっ…悪運しぶとく帰ってきたか」

オリアナ「はあい坊やにお嬢さん?さっきぶりね」

人間が一人、魔術師も二人いる。

削板「案内人!いい根性だったぞ!これからもよろしく頼むぞ!」

雲川「案内人、二日も本部に顔を出さなかったな。仕事が溜まってるんだけど」

地べたに踏まれている委員長と踏んづけている副委員長もいる。

そして―――

サアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…

姫神「これ。…は?」

結標「青い…薔薇?」

青天から降り注ぐ、青い薔薇(ブルーローズ)の花片。
まるで翼が舞い散るような花が吹き踊るようにフワリフワリと…
結婚式の花のシャワーのように空から空から…後から後から――

垣根「よお“9人目”。歓迎するぜ――レベル5に。花束代わりに受け取んな」

結標「第二位!!?垣根帝督!!?」

初春「か、垣根さぁん!ここからだと私のスカートの中見えちゃいますよぅ!」

垣根「しまった!いけねえ!オレの飾利がぁぁぁ!」

遥か天空から、『未元物質』で青い薔薇を作り上げ降り注がせる垣根帝督。
その腕に慌ててお姫様だっこで抱えられる初春飾利。

そして…そんな二人を――



小萌「――おかえりなさいなのです、姫神ちゃん、結標ちゃん!青空教室なのですよー!」



姫神・結標「「小萌…!」」

あたたかく迎えてくれる――教師がいる

上条「…行けよ姫神。家に帰るまでが遠足…だろ?」

背中を押してくれるクラスメートがいる

一方通行「――凱旋だ。いけよ。花道は譲ってやるからよォ」

尻を蹴飛ばす仕事仲間がいる


私達は、一人じゃない。
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:51:31.03 ID:ZSUH3mRAO
〜See visionS〜

姫神「…行こう。淡希!」

結標「わわっ、ちょっと待って秋沙!」

私達は駆け出す。この限りなく澄み渡る青空の下、降り注ぐ青い薔薇の花吹雪の中を、互いの手を取り合って駆け出す。

姫神「大丈夫。離さないから。貴女の手を」

飛べない、届かない、掴めない空。それを地べたを這いながら生き、何度その青さをなじっただろう。

結標「年下のクセに…生意気ねっ」

でも、今なら思える。この場所だって悪くない。

羽根を持たない私達は、一歩一歩前に足を進める事しか出来ない。

それでいい。もうあんなに空を飛び回るのには飽きた。

地べただって構わない。泥にまみれたって構わない。

姫神「私が。上」

結標「私が下!?」

舞い散る青い薔薇の花嵐。終わりなく続き、限りなく広がる青空を見上げながら歩いていけたらそれでいい。

遠くに行けなくなったって、先に進めなくなったって、立ち上がれば良い。何度だって。

私達の瞳に映る太陽は、眩しくって、届かないかも知れない。

でもそれでいい。もう離さない。この繋いだ手を。もう二度と離さない。

結標「――秋沙、青い薔薇の花言葉ってなんだったかしら?」

姫神「――“不可能”――」

私達は超えて来た。レベルの壁(不可能)を、打ち破れない悲劇の夜を、二人で越えてきた。

結標「――もう一つは?」

姫神「――“神の祝福”――」

神様に見捨てられたって、神様に忘れられたって、私達の学園都市(せかい)は終わらない。終わらせはしない。

結標「――あと一つは?――」

姫神「――“奇跡”――」

奇跡はここから始まる。作り上げていく。一人一人の手から。私達の手から。
もう神様なんていらない。夏雲の彼方(そこ)から黙って見てればいい。

結標「――秋沙――」

姫神「――淡希――」

貴い物は、私達の手の中にある。血の繋がりより強いものが。

花嵐の中駆け抜ける秋沙、青空の下走り抜ける淡希、夏の陽射しが降り注ぐ、海のように青く澄み渡って――



「――――――愛してる――――――」


終わらない空の下――私達の世界は繋がっている。



私達はもう…



孤独(ひとり)じゃない――



とある夏雲の座標殺し(ブルーブラッド)・終
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:53:43.31 ID:ZSUH3mRAO
>>1です。以上、全ての皆様のおかげをもって『とある夏雲の座標殺し(ブルーブラッド)』は終了となります。1ヶ月近い連日の投下にお付き合いいただき誠にありがとうございました。

終了という事で、少しばかり蛇足を…

前作のテーマが「救い」だったので、今作のテーマは「生きる」になりました。
前作が一巻再構成だったので、今作は二十二巻から先の未来予想図でした。
姫神、あわきん、軍覇くん、ていとくんを選んだのは前作の伏線からです。


そして恒例ですが…また今回もJanne Da Arcの曲を聞いていてこの月詠家居候コンビのストーリーが浮かんだため書きました。『Love is Here』という曲です。
最終投下だけPIERROTの『薔薇色の世界』でした。

ちなみに

あわきん→姫神が「mysterious」
姫神→あわきんが「ヴァンパイア」
垣根帝督→初春飾利は「シルビア」から「Neo Venus」へ
雲川芹亜→削板軍覇だけ篠原涼子の「愛しさとせつなさと心強さと」です。


小萌先生や吹寄さんは二人の関係の緊張感を維持するために出番を極力カットし、上条さん達を連想させないようインデックスと御坂の場面を大幅カットしてしまいました。ノープランのしっぺ返しですね…


他にも
1:姫神・あわきんイギリス女子寮行き百合百合新婚生活

2:あわきんの昔の仲間が『能力者狩り』で姫神をさらいにくる→あわきん葛藤するの巻

3:姫神(主)とあわきん(従)の主従逆転、ヤンデレ百合SMなお話

4:本物の吸血鬼VS右方のフィアンマ頂上決戦

5:姫神に冷たくされヤケクソになったあわきんが白井に迫り一夜の過ち→修羅場

なんてメチャクチャなアイデアなどもまだまだありましたが全てボツにいたしました…私なんかの力で書いたら取り返しがつかないので…

あまり蛇足が伸びてはいけないのでこのあたりで…お読みいただけた方々、たくさんのレスをくださった方々、ロゴを作っていただけた方、土下座で感謝させて下さい。本当にありがとうございました。
心の底から良かったです。ありがとうございます…では失礼いたします。
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 15:56:52.42 ID:PtgR1Lgx0
終わりか…終わってしまったか…
貴方の話は本当に素晴らしいハッピーエンドで大好きです

5は…ハッピーエンドというお菓子に砂が混じっちまいそうな案だな
1は読んでみたい!

なんにせよ乙でした
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 15:57:16.12 ID:D2JbvFeAO
乙、最後まで楽しく読ませてもらったわ。救われない二人の未来に幸多からんことを
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 15:58:11.75 ID:QwCXzMJHo
GJ!!!!

529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 15:59:47.13 ID:lB7F3JsIO

とても楽しめた
フォックスのときからずっと見てたぜ
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 16:04:52.12 ID:6Tpwz4cWo
おい待て…その蛇足、全部見たいんだがww
特に1と4と5が。いややっぱ1だな。

何はともあれ超乙!!
楽しみ過ぎて実生活に支障が出るレベルのスレだった。
他スレであわきんと姫神が絡んでるのを見るともはやデキてるようにしか見えんww
お疲れでした!



エピローグ、期待してるからな(チラッ
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 16:12:32.72 ID:C3c24IZDO
乙!素晴らし過ぎて言葉が見つからない
あわきんと姫神にこれからも幸あれ
ところでていとくんはどんだけ初春が好きなんだww
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 16:12:59.57 ID:kEFeXnBAO
お疲れ様でした!
おまけとして1、3、5が見たいですwwww
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 16:31:18.28 ID:Qy1+RQVSO
>>1乙!最高だったぜ!!

なんか後半からどんどん雲川さんが可愛くなってきて
ソギーもげろと言わざるを得ない(`・ω・´)

あと>>1の書くていとくんの初春ラブっぷりが大好きなんで、
いつか二人の馴れ初めが観たいね。
改めて、お疲れ様でしたっ!
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 17:18:31.56 ID:sNpjEhQHo
うおおおおおお
乙!乙!
>>1の書くSSはどれも最高だ!
メチャクチャ楽しんで読めた!
もう一度とどめに>>1乙!!
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 18:34:11.45 ID:BJMoMybAO
本当に楽しませてもらいました!
乙でした!!
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 19:28:35.20 ID:OY343Xfyo
なんという気持ちのいい読後感。
綺麗、だった。それに尽きるわ。

黒子のそれはお姉さま、に対して姉貴、みたいな感じなのかなーなんて。
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 20:49:40.05 ID:D49++shAO
久しぶりに来たら丁度終わっていた……!!
なんてーか登場人物全てが生き生きしててホントに最高!!!!
あと前作から読んでるけど、相変わらず要所要所でていとくんはいい仕事しすぎww
>>1乙!!!!!
いいもの読ませてもらったよ!!!!
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 21:10:57.93 ID:mbIuSezAO
ああ、最近どんどん読んでたssが終わってく…
嬉しいようで切ないぜ
おつかれ!
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/31(月) 19:31:40.53 ID:fCNCk7KAO
>>1です。たくさんのご感想ありがとうございます…書いてて本当に良かった、だなんてしみじみ思います。読んでいただけて本当にありがたい限りです。とても幸せな気分です…

本編は既に終わってしまいましたが、今週中に山も意味も落ちもない本編一ヶ月後のお話を投下したいと思います。

本編でほぼまるまるカットされてしまったほのぼのを書いてみたくて…季節的には八月の場面になると思います。
ボツネタ期待された方本当に申し訳ありません…では失礼いたします。
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 22:45:24.26 ID:rxhvQ1Zdo
乙乙!
あわきんも姫神も幸せになってくれ!

つか、前作を知らないまま読んでた俺はむぎのんが上条さんの恋人になっててびっくりした位に情弱ww
美琴とインデックスは新たな恋に生きたりはしないのかな
余計な事言う前に前作見てくるかwwww
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 01:33:12.70 ID:hJwmb3wAO
ほのぼの期待
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 02:59:02.57 ID:G1aSOq6AO
ぼのぼの期待
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 19:35:38.67 ID:IJdYfm8SO
お、完結してたのか。1乙!

座標殺しの二人や他の登場キャラ皆素晴らしかったけど、
個人的にボロ泣きする麦のんに全部持ってかれましたwwwwww
麦のんマジ上条の嫁。

後日談も楽しみにしてます。
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/01(火) 20:11:31.86 ID:7KXHWO0AO
>>1です。たくさんの支援レスありがとうございます…実はあれから皆さんの感想レスを読み返しながらニヨニヨしつつ書いている最中ですが…


なんて言うんでしょうか…最終的に登場人物が四十人オーバーしちゃいそうな状態です…現時点の書いてる一部です


【四十人オーバー、レベル5集結、姫神&あわきん、三人主人公+フィアンマ】

【オルソラ来日、番外個体ちょっと登場、吹寄さん本格参戦】

【お酒は二十歳になってから】

終わりが私にもわかりません…投下は土日になると思います(量的に)では失礼いたします…山も落ちも意味もダラダラなのにどうしてこうなった…
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 21:19:29.02 ID:Rlru0bpCo
本編がシナリオゲーだったし番外編はダラダラとオムニバスしようぜ☆でこざいますのよ

オルソラいやっほーーい!!!
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 21:49:21.06 ID:r5Yr2MhAO
またまた胸熱なラインナップやね!!
もしやと思って前作見に行ったら後日談が投下されててヒッヒッフー
期待して待っとるよ!!!
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 23:04:39.48 ID:xUGw7QvP0
なにそれすっごい楽しそう
大人しく正座でいい子にして待ってます
548 :>>1です。簡単な予告になります :2011/02/02(水) 19:30:28.88 ID:DDlO20FAO
結標「はーい坊や元気でねー!ああ…この仕事は私の天職かも知れないわ」

姫神「身体が。いくつあっても足りなそう。俗っぽい意味で」

一方通行「オレが焼きそば係だァ!!?」

垣根「序列は二位だが、飾利の一位はこのオレだ(キリッ」

フレンダ「結局、サボって舐めるアイスは最高に美味しい訳よ」

滝壺「大丈夫、私はそんなむぎのとかみじょうといんでっくすの生活を応援している」

固法「二人とも暑い中ご苦労様。牛乳飲む?」

雲川「仕事しろ馬鹿大将!下の人間に示しがつかないんだけど!!」

番外個体「ひゃっひゃっひゃっひゃっ!似合わないったらないね!ひゃっひゃっひゃっひゃっ!ミサカの腹筋割れちゃいそうだよ!あっひゃっひゃっひゃっ!」

神裂「(この街はもうダメです…いえ、この国はもうダメです…)」

オルソラ「あらあら。これがジャパンに伝わる“打ち水”のわびさびなのですね」

絶対等速「あそこの席だけで店潰れるくらい食ってるよ!どうなってんの!?」

麦野「ただしグラサン…アンタはブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

禁書「それにそれは後世の創作なんだよ。これ常識かも」

芳川「なんだか私の若い頃を思い出すわ…ふふっ、甘い記憶…」

手塩「うっ、うっー、うま、うま」

浜面「きーみがー!いたなーつは!とおいー夢のな〜か〜ぁ!そ〜らーに消えてっーた!打ち上げ花火ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

初春「(汚い花火だなあー)」

打ち止め「ええー?これから花火始まるのに帰っちゃうの?ってミサカはミサカはあなたと作る一夏の思い出作りを楽しみにしてみる!」

フィアンマ「光栄に思え。肉塊。貴様等の人生の価値は、無事刈り取れたぞ(焼肉的な意味で)」

吹寄「(もしかして私って、今とんでもない場所にいるんじゃないかしら)」

御坂「私の酒が飲めないってんのかゴルァァァァァァァ!!!」

御坂妹「(バレたらノーバウンドでブッ飛ばされますね、とミサカは青林檎サワーを舐めながら素知らぬ顔をします)」チビチビ

上条「不幸だァァァァァァァー!!!」


とある夏雲の織女星祭(サマーフェスティバル)…こんな感じです。
削ったり膨らませたりで進みませんが…土日の投下の際はよろしくお願いいたします。
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 20:28:58.67 ID:K74J1J7AO
お前はどんだけイコスピさん好きなのよwwwwwwww
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 20:32:58.08 ID:pPys1lEC0
待つわ私待つわ
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 21:29:17.82 ID:/LN+PEEAO
わたしまーt……予告カオスすぎるでしょう?
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/02(水) 23:09:03.20 ID:Ur1ukB9l0
絶対等速wwwwwwwwwwwwwwwwwwww
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 23:16:12.24 ID:vnRLT0pDO
初春wwwwwwwwwwwwwwwwww
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 01:47:50.38 ID:I/trLWWSO
絶対等速さん愛され過ぎだろwwwwwwwwwwwwwwwwww
555 :>>1です。もう一つ予告を :2011/02/03(木) 20:47:42.42 ID:q11oJYiAO
心理掌握「…貴様、名前は?…」

姫神「意外な。特技」

浜面「いや何やってんの?ねえ今橋が落ちたって聞こえたけどオレ酔ってるか?」

結標「止めた方がいいと思うわ…夏だし」

垣根「うっ…たまに羽伸ばすくらいいいじゃねえかかーざーりー」ギュッ

ステイル「…残念ながら度があっていないようだね。焼き直してあげよう。今夜の火力はちょっとスゴいぞ…?」

佐天「(オゴリ!?)やったー!御坂さん太っ腹!さすがレベル5!いよっ!常盤台のエース!」

神裂「(怨みますよ上条当麻…そしてオルソラ、その話は三度ほど前の上五回も聞かされていますよ…)」

御坂妹「救われないあなたにベビーカステラを一つあげましょう、とミサカは聖母の慈悲を発揮します」

吹寄「土御門!!お前にデリカシーってものはないの!?」スパーン!

一方通行「学園都市最強を舐めンじゃねェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」

フレンダ「これだから日本人はわかってない訳よ!結局、黒ビールは常温なのが一番な訳よ!」

海原「冷たいですね貴方も。僕達グループが解散した直後じゃないですかグノーシズム(異端宗派)が襲来して来たのは。結標さんが大活躍して彼(土御門)もキッチリ仕事をこなしたって聞きましたよ。久しぶりに旧交を暖めたいと思って来てみれば帰国早々この人混みで参っちゃいましたよ。はははっ」ペロペロ

浜面・半蔵「「負け犬上等ォォォ!その日暮らしの野良犬(スキルアウト)を舐めんじゃねェェェ!」」

フィアンマ「白米を炊き出せ」

麦野「私はテメエらのママじゃねえんだよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

土御門「カミやーん!」


学園都市は、今日も平和です。
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 08:01:47.85 ID:ApVVX23AO
今更だが、ていとくんが初春にべったりなのは全SSの共通設定なのなwwwww
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 19:04:15.18 ID:8LUDO+Gdo
垣根が羽根をのばすっていうと能力発動してる姿しか想像できない件
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 21:10:10.50 ID:6hJAz2BDo
いちゃらぶで平穏な日々に期待
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 21:25:55.40 ID:AV/C/dFn0
麦のんがかなりはっちゃけてそうだwwktk

神裂さんじゅうはっさいェ…
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/04(金) 21:52:25.94 ID:pEEaO9BAO
>>1です…8月7日、一日の物語なのにまだ終わりが見えません…現時点でのリストです。

・二人の空間移動能力者

・とある女難の幻想殺し

・焼きそば屋さン

・声を枯らしてビール売り

・鬼百合の浴衣

・集結、御坂姉妹

・レッド○リフ

・三十路間近のビアガーデン

・とある真夏の空中庭園

・浜面仕上VS削板軍覇

・はじめてのやきにく

・小麦色のイイ男

・悪いヤツらはだいたい友達

・彼女ってレベルじゃねえぞ!

・あなたの名前を、わたしに教えて

・禁書目録と超電磁砲

・熱いコーヒー、冷たいコーヒー

・ジン♪ジン♪ジーンギスカーン♪

・とある忍者の恋物語(ガールハント)


絡む人間は伏せておきます…どうしてこうなった…まだ終わりません…
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 22:37:32.25 ID:95LJ3Cc0o
終わったと思ったけど結局まだまだ終わらないって訳よ!
わくわくしてきた!
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 16:54:56.21 ID:IxCWbF7AO
>>1です。ようやく終わりにこぎつけました。本日の22時半から投下させていただきます。長くなりそうなので…
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 17:19:18.68 ID:P7JRySgLo
把握
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 17:40:59.19 ID:PcUlM6uAO
期待してる
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 17:53:15.78 ID:PnU6DmD1o
全裸で待機してる
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 18:27:30.86 ID:uYUS8Kiv0
超期待してます!超待ってますから!!
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 19:27:52.14 ID:XdAFfYQAo
結局、待ち遠しいって訳よ
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 20:53:52.80 ID:IxCWbF7AO
>>1です。たくさんのレスをありがとうございます…あまりの嬉しさに調子に乗ってしまい、上のリストに更に追加になりました

・女王蘭の温室

・酒と泪と男と女

・女王陛下の憂鬱

・わたしのなまえをよんで

・○○○○の異常な愛情

・Masterpiece

です。やり過ぎました。投下し終わるのにに二時間近くかかりそうな気がします…
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 21:49:09.73 ID:xAgW3tTAO
どんとこい!
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:24:53.80 ID:IxCWbF7AO
>>1です。番外編、『とある夏雲の織女星祭(サマーフェスティバル)』投下させていただきます。
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:25:50.55 ID:IxCWbF7AO
〜第十五学区・織女星祭歩行者天国〜

結標「はいはい坊やどうしたの〜?あ〜パパとママとはぐれちゃったのね〜?うん!大丈夫大丈夫お姉ちゃんがいい所…ううん案内所まで連れて行ってあげるからね?ああ泣かない泣かない…よしよし杏子飴買ってあげるからね〜♪」

白井「(目が濁ってますの…“案内人”でさえなければ不審者として引っ張って行きたいほどヤバ良い笑顔ですの…)」

八月七日…15時19分。第十五学区にて催された学園都市最大の花火祭り『織女星祭』の総合案内所付近に二人はいた。
片や風紀委員活動第一七七支部、JUDGMENT 177 BRANCH OFFICEの腕章をつけた白井黒子。
片や『レベル5第九位』へと昇格した『水先案内人』結標淡希である。
今二人は迷子になっていた外部の子供を臨時迷子センターへ送り届けている最中である。

美少年「お姉ちゃーん!ありがとーう!」

結標「はーい坊や元気でねー!ああ…この仕事は私の天職かも知れないわ」

白井「未成年者略取は犯罪ですの。ジャッジメントの詰め所までしょっぴかれたいんですの?」

結標「ちょっとくらいいいじゃない!役得よ役得!張りがなくっちゃ仕事にならないもの」

白井「貴女のプロ意識は歪んでいますの!」

結標好みの美少年を案内所へ預け、別れ際に振る手を下げた頃には舌戦である。
雲霞の如く並び立つ夜店と屋台、至る所に聳え立つ短冊を下げた笹、学園都市全域の学生達や外部の人間達でごった返す人波。
最終戦争後、開催が危ぶまれていた祭は例年よりひと月繰り越して行われ、近年稀に見る盛況ぶりである。

白井「それになんですのあのトルコアイスより蕩ろけたお顔は!貴女のパートナーに言いつけてしまいますのよ!?」

結標「卑怯よそれは!冗談でも止めてちょうだい!秋沙あれでものすごく嫉妬深いの!それに貴女だって御坂美琴を見てる時あんな顔してるじゃない!」

白井「わたくしを性犯罪者そのもの貴女と一緒にしないで下さいまし!」

これが一ヶ月前まで成り行きとは言え、まがりなりにも自分と共同戦線を敷いた相手かと思うと溜め息を出る。
そういう白井は常と同じ赤いリボンでまとめられたツインテールであり、結標は髪紐で束ねられた二つ結びである。


リボンを返した、あの日から


572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:26:55.20 ID:IxCWbF7AO
〜織女星祭会場・コスプレ喫茶『まじかる☆みらくる』〜

姫神「どうして。そんなロズウェル事件で捕まえられた宇宙人のような顔をしているの」

上条「…お、お二方?両腕組まれると上条さん食べれ(ry」

麦野「関係ねえよ!私がお口あーんしてやるからカァァンケイねェェんだよォォッ!当麻の友達だったっけ?バイト?」

姫神「こんにちは。そう。休憩中」

禁書「しずり!ここからここまでのかき氷全部食べたいんだよ!あいさお願い!」

麦野「頭キーンってなるかお腹壊すわよアンタ…じゃあこっからここまでお願い。私はストロベリーサンデーで。当麻は?」

上条「オレはクリームソーダかな…って姫神は休憩中だろ!話聞けっての!」

姫神「大丈夫。ごめん。オーダーお願いします」

15時26分。姫神秋沙は織女星祭会場にて、臨時アルバイトで雇われたコスプレ喫茶にいた。
格好はもちろん巫女服で声がかかる事は多い。ようやく休憩時間をもらい身体を休めていた所へ…

上条「すまん姫神…本当に助かる…」

姫神「いい」

歩き疲れ涼みにやって来たのがインデックス、麦野沈利に両腕を組まれた上条当麻その人である。
サーカステントの内部は涼を取りに来た客達によってそれなりに盛況で、対照的に上条の顔色だけが疲労困憊である。

姫神「身体が。いくつあっても足りなそう。俗っぽい意味で」

上条「頼むからその事には触れないでくれ姫神…もう土御門や青髪にさんざんいじられるし、垣根先輩には笑われるし」

姫神「回収して来なかったツケ(フラグ)が一気に回ってきた。反省して欲しい」

麦野「当麻ーそれちょっとちょうだい」

上条「ん?良いぞ別に。インデックスも食べるか?一口だぞ!一口!」

禁書「いただきますなんだよ!あむっ」ズゴゴゴー!

上条「お、オレのクリームソーダ!インデックス!一口って言ったろ!?」

麦野「かーみじょう…アンタもいい加減学習しなさいよ。コイツの一口は“一口で全部食べる”の間違いなんだから」

禁書「ほうはひぇなふぃんはも!ほひほふはまなんらよ!」モグモグ

麦野「だから食べながらしゃべるんじゃないわよクソガキ。服にこぼしたら洗うの私なんだからさあ」

姫神「…ご愁傷様」

上条「…不幸だ…」

女が三人寄れば姦しいと言うが、しっかり自業自得のツケは支払わされているのだなと姫神は独り言ちた。
もう墓場に入るまでこうしていれば良いのに、とさえ思う。
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:28:51.62 ID:IxCWbF7AO
〜織女星祭・とある鉄板焼そば屋台〜

一方通行「オレが焼きそば係だァ!!?」

垣根「光栄に思え第一位(新入り)。本当なら野菜切る係から始まる所がいきなり花形スターだぜ?第一位かっこいいー!」ヒューヒュー

一方通行「ふざけンなァっ!なンでオレがンな事やらなきゃいけねェンだよォッ!」

服部「黄泉川からお前を更正させて社会復帰出来るよう言われてんだから諦めろよ下っ端(第一位)。お前がサボってたらチクっていいって言われてるし」

一方通行「黄泉川ァァァァァァ!!!」

15:31分。一方通行は全学連復興支援委員会の詰め所に放り込まれていた。
打ち止めに嘘泣きされて織女星祭まで連れ出され、言いくるめられて鉄板焼そば屋台の焼そば係に任命されてしまったのだ。
委員会の中では削板軍覇・雲川芹亜に次いでナンバー3に当たる服部半蔵が教育係に当たって。

服部「そう言うなって。お前の仲間?か?あの赤い奴なんて大したもんだぜ」

そう言って顎をしゃくる服部の視線の先…そこには真夏の中にあってさえうだるような熱気を孕む鉄板に向かって…

フィアンマ「余計な力はいらない。手首の返しを使えばひっくり返るのだから、力みは必要ない。余計なトッピングはいらない。屋台の売りはシンプルさなのだから、材料費に頭を悩ませる必要はない。俺様の手を持ってすれば容易い事だ」

一方通行「なにちゃっかり馴染ンでンだよテメエはァァァァァァ!!!」

職人技の域に達した手付きで鉄板焼そばを捌いて行くは元ローマ正教最暗部『神の右席』指導者、右方のフィアンマである。
火を司る力故か、神の子の恩恵か汗水一つかかずに黙々と仕事をこなしている。
しかし一方通行を見やると鼻で笑ったようなドヤ顔で――
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:29:37.29 ID:IxCWbF7AO
フィアンマ「がなるな。唾が飛ぶ。焼そばの一つも満足に作れないようでは器が知れるぞ“最強”」

垣根「はははははは!レベル5の第一位が…ぷぷっ…タマネギ切る所から始めるか?目がますます真っ赤になって文字通りウサギちゃんだな…くくっ」

一方通行「貸せェ!テメエらに出来てこのオレに出来ねェはずがねェだろうがァ!おい第二位(スペアプラン!)テコでもヘラでも持って来い!」

垣根「序列は二位だが、飾利の一位はこのオレだ(キリッ」

一方通行「聞いてねェェェェェェ!ノロケで耳が腐りそうなンだよォォォ!」

半蔵「よしっ、これなんかちょうどいいぞ…やってみろ。出来るか?大丈夫か?」

一方通行「五月蝿ェェェェェェ!!どこの母親だテメエはァァァ!!」

ドヤ顔のフィアンマ、半笑いの垣根、子供が初めてキッチンに立ったのを見る母親のような顔の半蔵らの視線の中…

一方通行「学園都市最強を…」

焼そばの山の中に突っ込んだ右手のテコと左手のヘラで持ち上げた焼そばを――

一方通行「舐めンじゃねェェェェェェェェェェェェ!!!」

ビターン!!

思いっきり鉄板の上に――叩きつける!

全員「「「何叩きつけてんだよぉぉぉぉぉぉ!?」」」ガビーン

一方通行「えェーなンでオレ怒られてンのォ…ちゃンとひっくり返したのにィ」

フィアンマ「コイツは焼そばを舐めている。そして世間を舐めている」

垣根「つーか人生を舐めてる。常識が通用しねえのオレの未元物質だけにしろよ…こいつは後で肉焼く係は任せられねえな」

服部「…郭、教えてやれ。コイツの狂ったベクトルを矯正するのはオレには無理だ」

郭「えっ?!」

その後、焼そばからお好み焼き、お好み焼きからたこ焼きまで叩きつけてしまうため一方通行は下働きに回された。
社会復帰はまだまだ長い時間がかかりそうである…
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:31:12.38 ID:IxCWbF7AO
〜織女星祭・花火会場〜

滝壺「屋台村から信号が来てる…」

浜面「ビールー、ドリンクー、かち割りはいかがっすかー…って滝壺大丈夫か?」

滝壺「大丈夫じゃないのは、多分はまづらの友達」

絹旗「??…超ホットドックー!超フランクフルトー!超ポテトはどうですかー?」

フレンダ「結局、サボって舐めるアイスは最高に美味しい訳よ」

浜面「働けフレンダァァァ!!!売り物に手つけてんじゃねぇぇぇ!」

花火会場のメインスポットとなる森林公園の人工湖に『アイテム』の面々はいた。
繁華街がメインの十五学区と商業区がメイン十六学区を繋ぐ大桟橋の麓で。
浜面がビールサーバーを担ぎ、滝壺と絹旗がホットスナックを持ち、フレンダがアイスクリームなどを盗み食いしながらだ。

滝壺「そう言えば、かみじょうがむぎのに告白したのも確かこの辺り。一年前のこのお祭りだった」

絹旗「滝壺さんあの男の話は超止めてください。私あの男超嫌いですから…麦野もなんで超浜面と同じくらい冴えない男なんかに…」ブツブツ

浜面「さりげなくオレの悪口言うの止めてくれ絹旗…ははーん?お前アイツに嫉妬してんだろ。お姉ちゃん嫁に取られちまった妹みたいに」

絹旗「五月蝿いです超浜面!」ガッ!

浜面「痛っ!」

フレンダ「結局、麦野離れが一番出来てないのは現リーダー(絹旗)って訳よ。嫁って言えば、結局いつ結婚する訳よ?」


絹旗「焼け出されてから超同棲生活してます。超引っ越し手伝わされました」

浜面「あのへんてこシスターも一緒になんだろ?よく許したなー麦野のヤツ。妻妾同衾って言うのか?こういうの」

フレンダ「浜面のクセに難しい四字熟語知ってても、結局キモい訳よ」

滝壺「大丈夫、私はそんなむぎのとかみじょうといんでっくすの生活を応援している」

最終戦争によりとある高校男子寮から焼け出されたのを機に、麦野は上条とインデックスと三人暮らしをしている。
独占欲と執着心の強烈な麦野がインデックスの同居を認めた経緯を四人は知らない。しかし

フレンダ「まっ、結局世は事も無しって訳よ。アイスクリームとサバ缶いかがー?えっ、アイスクリームだけでいいって訳?」

他人は他人の倖せ、自分は自分の幸せをそれぞれ勝手にやりましょ、とフレンダは独り言ちた。
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:33:27.55 ID:IxCWbF7AO
〜織女星祭・全学連復興支援委員会本部〜

結標「パトロール終わり!交代の時間よ」

白井「皆さんお疲れ様ですの」

初春「おかえりなさい白井さん!結標さん!」

固法「二人とも暑い中ご苦労様。牛乳飲む?」

結標・白井「「 ラ ム ネ で 」」

黒妻『ピーンポーンパーン!学園都市ラジオ“レディオノイズ”が16時をお知らせするぜ!もちろんお送りするのはDJ黒妻と!メインパーソナリティは…おーいミサカさーん?オンエアですよー…非番!?マジで?!』

16:00分。パトロールを終えた風紀委員と水先案内人が本部に帰還する。
結標と白井の額にもうっすら汗が滲み、ハンカチでパタパタと扇ぐ傍ら、初春飾利がクーラーボックスからラムネを手渡す。
テントの外を行く人々は時を経る毎に増して行き、それを委員会の面々が見送る。

結標「胸暑い…汗疹になりそう」パタパタ

固法「わかるわ…汗が溜まって」バサバサ

初春・白井「イヤミですか(ですの)!?」

夕方に差し掛かり黄金色の空色となりながらも依然として気温は30度を下回らない。
そんな中、胸元をくつろげる結標と固法を見て初春と白井の眼がつり上がる。
しかし結標はミニ扇風機と下敷きを併用しながら涼みつつラムネを一息にあおり
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:34:17.04 ID:IxCWbF7AO
結標「大きくったっていい事ないわよ。貴女達も大きくなればわかるわ」フフン

白井「(イラッ)」 シュンッ!

結標「ちょっと!ビー玉転送させないでよ!飲めないでしょ!」

削板「離せー!離してくれ!祭とあっては血が騒ぐのが男だろう!ぬおおお根性ォォォ!」グイッグイッ

雲川「仕事しろ馬鹿大将!下の人間に示しがつかないんだけど!!」ビーン!

初春「スゴいなあ…未元物質製のリード…犬みたい」

ラムネの中のビー玉を転送させあう結標と白井の側を、首に『未元物質(ダークマター)』で出来た絶対に千切れない縄でつなぎ止められるは削板軍覇。
その手綱を握るは雲川芹亜である。しかし雲川だけは鬼百合の意匠をあしらった浴衣姿である。
織女星祭が始まってからずっとウズウズしていた削板が何度も脱走しようとし、その都度に犬のようにリードを引っ張り戻されている。

削板「焼そばが!かき氷が!金魚すくいが!輪投げが神輿が射的が祭り囃子がオレを呼んでるんだ!止めてくれるな雲川!オレの根性を持ってしても我慢の限界だ!」

雲川「暴れるな馬鹿大将!打ち上げまで我慢して欲しいんだけど!」

初春「(もうなんか二人とも違った意味で必死ですよう…削板さんも雲川さんの浴衣ちゃんと見てあげたらいいのに…)」

結標「あー暑い暑い」

白井「熱くて熱くてたまりませんの」

固法「(視える…削板さんの頭が“祭り祭り祭り”でいっぱいなのが)」

その数分後、削板はリードごと雲川を引っ張り回して脱走した。
そして最初から最後まで型抜き遊びや水風船すくいに夢中になり、雲川にブチ切れられるのは数時間後の話である。
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:36:41.97 ID:IxCWbF7AO
〜織女星祭・屋台村〜

番外個体「ひゃっひゃっひゃっひゃっ!似合わないったらないね!ひゃっひゃっひゃっひゃっ!ミサカの腹筋割れちゃいそうだよ!あっひゃっひゃっひゃっ!」

打ち止め「ぷっ…ぷくくっ…ガテン系にクラスチェンジだね!ってミサカはミサカは袖まくりに手拭い姿の田吾作スタイルなあなたの色の白さに笑いをこらえてみる!」

御坂妹「まさに下働きの追い回しですね、とミサカはお姉様に買ってもらったベビーカステラを噴き出しそうになります…わっしゃっしゃっしゃ!」

一方通行「笑い方移ってンぞォォォ!見せ物じゃねェぞ!どう考えたって場違いだろうがァ!なンで俺がこンな事しなくちゃならねェンだよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

16:14分。焼そば屋台の裏手で手拭い、腕捲り、長靴姿でゴミを出したり材料を出したり皿洗いに精を出す一方通行の血を吐くような叫びと裏腹に姦しい笑い声が響き渡る。
それを遠巻きに屋台村のフリーテーブルで見やるは――

御坂「笑ってやんなさーい。いい気味だわ」

佐天「御坂さーん!初春からメール来ましたよー…交代時間ズレちゃったから白井さんと一緒に行きます、ですって」

御坂「忙しいわねージャッジメント…ところで佐天さん銀だこって食べた事ある?」

佐天「ありませんねー…銀だこってタレじゃなくておつゆつけるたこ焼きでしたっけ?」

御坂「確かそんなんだったかも…よし!二人が来るまで食べ歩きしましょう!御坂センセーおごるわよ!」

佐天「(オゴリ!?)やったー!御坂さん太っ腹!さすがレベル5!いよっ!常盤台のエース!」

一方通行「コイツらなンとかしろォォォ!!営業妨害だぞォォォ!!」
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:37:48.08 ID:IxCWbF7AO
フンッと鼻を鳴らして大中小の姉妹達を見やり、一方通行の悲鳴に溜飲を下げながら御坂美琴は席を立ち上がる。
次なる屋台を制覇すべく、オゴリと聞いて太鼓持ちにクラスチェンジした佐天涙子を伴って。

御坂「よし!まず銀だことネギだこから行ってみましょうか!」

一方通行「無視すンなゴルアアアアアアァァァァァァ!!!」

番外個体「あー笑った笑った。じゃーねー一方通行。ついでにくたばれ」

打ち止め「バイバイあなた!お仕事頑張って!また後で一緒に花火見ようね!ってミサカはミサカはみんなの後ろに猛ダッシュ!」

御坂妹「救われないあなたにベビーカステラを一つあげましょう、とミサカは聖母の慈悲を発揮します」

一方通行「一つかよ!しかも食べかけのベビーカステラ置いてくンじゃねェよォォォォォォ!!」

佐天「でも初春の彼氏さん、よくついて来るっていいませんでしたねー超猫っ可愛がりじゃないですか」

御坂「垣根さんの事?あれ初春さん以外の普通の女の子なら勘違いしてダメになっちゃうわよ。あんな甘やかされたら…あっ、垣根さんからメール来てる」

佐天「メール?」

冷やかすだけ冷やかして女子軍団は去って行く。
突っ込み疲れて屋台村の洗い場で力尽きそうな一方通行を残して――
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:38:56.69 ID:IxCWbF7AO
海原「残念です。御坂さんではなく妹さんの食べ残しとは…でも仕方ありません。買ったのが御坂さんならこれで我慢(ry」

一方通行「いつ帰ってきやがった海原ァァァ!!?」

…と思った矢先、洗い場の裏から姿を現すは…『グループ』解散後より本国に帰っていたはずのアステカの魔術師こと海原光貴(エツァリ)である。
そのあまりの神出鬼没ぶりに思わず一方通行も目を見開く。
しかし海原はお構い無しといった様子で肩をすくめるジェスチャーをし

海原「いつもなにも、御坂さんのいる世界なら僕はいつでもどこでもぐもぐ」

一方通行「食べ残しを喰うンじゃねェェェ!もっぺん国に帰れよ!二度と帰ってくンな!!」

海原「冷たいですね貴方も。僕達グループが解散した直後じゃないですかグノーシズム(異端宗派)が襲来して来たのは。結標さんが大活躍して彼(土御門)もキッチリ仕事をこなしたって聞きましたよ。久しぶりに旧交を暖めたいと思って来てみれば帰国早々この人混みで参っちゃいましたよ。はははっ」ペロペロ

一方通行「ははっじゃねェよ!しゃべるかしゃぶるかどっちかにしろォォォォォォ!!」

一方通行は思う。いつから学園都市はこんなに平和ボケしてしまったのかと。
結標は女友達?と行動を共にし、土御門はイギリスと学園都市を行ったり来たりする合間に義妹の自慢話ばかりを。
今の海原などグループ時代の面影すら見当たらない。同じ人間の皮をかぶった別人ではないのかと。

一方通行「(この街はもうダメだァ…)」

突っ込み過ぎて自分のバッテリーが上がりそうだ、と一方通行は茜色に染まり始めた空を仰いだ。
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:41:41.53 ID:IxCWbF7AO
〜織女星祭・コスプレ喫茶『まじかる☆みらくる』〜

神裂「(この街はもうダメです…いえ、この国はもうダメです…)」

禁書「見て見てとうまとうま!カナミンのコスプレもあるんだよ!これ着てみたいかも!」

姫神「店長が。似合いそうだから。汚さなければ。いいって」

上条「インデックス!絶対こぼすなよ!?上条さんの仕送りじゃ絶対弁償出来ないからな?!」

土御門「おおー!あそこのメイドさんの格好わかってるんだぜい…ねーちんも一着どうかにゃー?」

神裂「着ません!馬鹿も休み休み言って下さい土御門!はあ…仕事帰りに近くまで寄ってみれば…」

吹寄「上条当麻!姫神さんの仕事の邪魔をするな!」

上条「上条さんの責任でせうか!?」

青髪「そうやそうやー!悪いんはカミやんやー!で、姫神さんの別コスあれへんの?僕ひぐ○しの羽入みたいな脇見せざっくりのエグい巫女服…」

姫神「手が。すべった」ばっしゃーん!

青髪「冷たいぃぃぃ!」

オルソラ「あらあら。これがジャパンに伝わる“打ち水”のわびさびなのですね」

ステイル「…必要悪の教会(ネセサリウス)はいつからこんなに角が取れてしまったんだ…」

麦野「フレンダ達に送信…と」

16:46分。姫神秋沙のバイト上がりを待って吹寄制理が、青髪ピアスが、そして土御門元春がやってきた。
そこにグノーシズム(異端宗派)の本拠地を制圧した神裂火織、ステイル=マグヌス、そして…

上条「いや、オルソラ…あれは打ち水じゃなくってだな…なんつーか」

オルソラ「ここのジェラードはとても美味しゅうございますよ」

上条「オルソラ…頼むから話を聞いてくれ。あれは打ち水じゃなくて」

オルソラ「シェリーさんもいらっしゃれば良かったのですが、どうしてもこの学園都市(まち)は嫌だとおっしゃるのでございます」

上条「会話が噛み合わないー!」

禁書「とうまとうま!とうまー!?また他の女の子にデレデレしてるんだよ!」ガブッ

上条「痛たたた!インデックスー!!」

姫神「店内は。お静かに」

上条「不幸だー!!」
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:42:46.43 ID:IxCWbF7AO
オルソラ=アクィナスである。グノーシズムが秘匿し隠避していた数々の書簡や古文書、研究論文から暗号化されたそれらを解読するために来日したのである。

学園都市でオルソラが解読作業にいそしみ、英国でシェリー=クロムウェルがその補助と補強にあたるという遠近分業制を以て臨んでいるのである。

吹寄「土御門。本当にこの人達お前の親戚…なの?」ボソボソ

土御門「いいんだぜい。オレの髪も金髪だろい?うちの親類はイギリス人が多いんだにゃー!なっ、ねーちん?」

神裂「嘘は止めて下さい土御門!その流れでは私が貴方の姉のようではありませんか!」

ステイル「ふう…」スパー

麦野「私の前で煙草吸うなっつってんだろうが赤毛ェェェ!」ガシャーン!

青髪「土御門ーそれメッチャ無理ある嘘やわー…でも白シスターに黒シスターにウエスタンサムライガールにプッツンお姉さんとかカミやんも僕に負けず劣らず広い心と器の持ち主やんなあー?」

オルソラ「大丈夫でございますか?」

上条「しっちゃかめっちゃかで上条さんはダウンしそうです…」

禁書「とうま!お祭りと焼き肉終わるまでダウンされたら困るんだよ!ここで食べて帰れなかったから悔やんでも悔やみ切れないかも!」

麦野「かーみじょう。疲れたんなら膝貸すけどー?」ポンポン

姫神「キッチンの人。あそこの席のサマージャンボパフェが。まだ」

絶対等速「あそこの席だけで店潰れるくらい食ってるよ!どうなってんの!?」
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:45:46.17 ID:IxCWbF7AO
〜織女星祭・吹寄制理〜

8月7日。戦争から二ヶ月、姫神さんが大事件に巻き込まれたらしい一件から既にひと月が過ぎ去った。

姫神「上がり。後は淡希が来るまで私も待つ。いい?」

吹寄「姫神さんお疲れ様!ええ、確か貴女のルームメイト…よね?」

姫神「そう。ちゃんと話した事は。確かなかったね」

吹寄「そう…ね。今までないわ。声をかける機会もなかったし」

あの大規模な戦闘から…私達のいた高校の避難所は放棄された。
流石に建築物としての限界に達していた事と、第六学区にある学園都市最大の総合アミューズメントパーク『アルカディア』が新たな避難所として開放されたからだ。

このお祭りだって、戦後の沈みがちな今の学園都市だからこそと開催に踏み切られた。
正直言って驚いている。全てが目まぐるしく変化し、毎日が大覇星祭の時以上に目が回るほどの忙しさだ。

姫神「そう。なら紹介する。淡希にも。吹寄さんの事を話したら。一度会って話してみたいって。言っていたから」

吹寄「そっ、そうかしら?」

そしてそれ以上に驚かされたのは…姫神さんの変化に他ならない。
避難所のボランティアに来てくれたのもそうだし、いつの頃からか霧ヶ丘女学院の三年生と同居し始めたらしい。
以前通っていた頃の知り合いなのかと聞いてみたら違うと言われた。結局どう言う事なんだろう。

姫神「吹寄さんは。私の。一番最初に出来た友達で。一番の大親友だって」

吹寄「あ、ありがとう」

その結標淡希さんという人も、数週間前に九人目のレベル5になったらしい。
話した事がないのは、なんとなく近寄り難い雰囲気があったのと…
どこか姫神さんとの間に立ち入れない空気を感じたから。

吹寄「(気に…しすぎよね?)」
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:47:27.53 ID:IxCWbF7AO
それは、私の事を上の名字で呼ぶのにその人の事を下の名前で呼んでいるからかも知れない。
礼儀正しい姫神さんが、いくらルームメイトでも年上で目上の人を呼び捨てにするだなんて、と思うと。

禁書「しずり!私にもお膝貸してほしいかも!」

麦野「当麻が乗ってるから肩なら空いてるわよん。似合ってるのはわかったらシワにならないうちに返してきな」

上条「し、沈利…これやっぱ恥ずかしいって…」

土御門「おーおーデキた彼女なんだぜい。でもカミやん?避妊には気をつけるんだぜい?高校卒業前にデキ婚は流石にマズいんだにゃー」

吹寄「土御門!!お前にデリカシーってものはないの!?」スパーン!

土御門「うおっ!オレのサングラス!?」

麦野「私は別に構わないんだけどね。一時期本気でそれも考えてたし」

上条「麦野さん!!?」

姫神「爆。弾。発。言」

それから上条当麻。あの戦争の最中から一ヶ月前まで行方を眩ませていた。
それが何故なのかは私にもわからない。何度聞いてもはぐらかされて逃げられてしまう。
ただ姫神さんと、一応去年から見てはいたけど、この麦野沈利さんというレベル5の四人目も知っていそうだ。

吹寄「(なんでかしら…すごく、冷たい感じがする)」

けれどこの人は結標さんに輪をかけて話し掛けにくい。
相槌を打ってくれたりはするけど、さりげなく姫神さんや私に神裂さんと言う人には話し掛けてはくれない。嫌われるような事したかしら…

麦野「ただしグラサン…アンタはブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

姫神「出来れば。店の外で」

土御門「ねーちん!やっつけてくれい!目がマジなんだぜい!昔勝ったんだろう!?」

神裂「貴方がからかうからです土御門。私は知りませんよ。それにあの勝負は水入りです」

ステイル「僕を見ないでくれないか土御門。墓標に刻む銘文なら聞くがね」

オルソラ「サングラスはGAULTIERですか?この国の陽射しは強うございますからね」

土御門「カミやーん!」
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:50:03.37 ID:IxCWbF7AO
そして土御門。ふらっと姿を現したり消したりする。
何か知っているようで知らないふりをしているような、それが何かを掴ませないような。
そしてこの場にいる…とてもスゴい格好をしたお姉さん。それと同じくらいスゴい見た目の神父さん。
前に月詠小萌先生と一緒に歩いているのを見た事がある。
そしてシスターさん。もうどんな人脈なのか見当もつかない。

上条「はあ…土御門。そんな訳ないだろ?オレだって学校出て、仕事に就いて、キチンと一人前になってからだっつの。むしろそれが当たり前だろ?」

青髪「意外にしっかりした考えやけど、なんせカミやんやもんな〜なっかなか上手く行かん気するわ」

上条「裏切り者ばっかじゃねえかデルタフォース(三馬鹿)!俺達の誓いを忘れたのか?」

土御門「何を言うカミやん!我等生まれた日は違えど!」

青髪「死する日は一緒や!」

姫神「それは。桃園の誓いの。パクリ」

土御門「やっぱりバレたんだぜい!」

禁書「それにそれは後世の創作なんだよ。これ常識かも」

青髪「ホンマそれ!?」

吹寄「三国志ね」

麦野「あの一騎当千がどうとか無双がなんとかかんとか?」

オルソラ「映画にもなったのでございますよ」

ステイル「ああ…あの燃えるシーンだけは印象に残っている」

神裂「赤壁のクライマックスですね」

そして青髪。どこの噂か知らないけれど、奴が行方不明の第六位(ロストナンバー)だなんて噂まで聞いた。
けれどレベル5がうちの高校にいるだなんてちょっとありえないと思う。
そして以前打ち上げに来ていた真っ白な服のシスターさん。

吹寄「(この娘が、一番わからない)」
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:52:04.23 ID:IxCWbF7AO
悪口を言うつもりじゃないけど、あの気が強そうでおっかなそうな上条の恋人と上条と三人で暮らしているらしい。
どんなマジックを使ったのかとても気になる。ごく自然に溶け込んでいる。

平時なら常識で考えて認められないし許されない話だけれど、この危急の時は仕方ないのかも知れないだなんて思ったりもする。すると――

結標「お待たせ秋沙!迎えに――…どうなってるのこれ?」

そこに…姫神さんのルームメイト…そして新たなレベル5『第九位』

姫神「友達。いい機会だから。淡希を紹介したい」

土御門「いよーう!結標!」

結標「げっ…秋沙、こいつはいいわ。知り合いだから」

土御門「つれないんだぜい」

青髪「(ややこしなるから黙っとこ)」

姫神「吹寄さん。いい?」

そこで私に声がかかる。爽やかだけど甘い香りがする。
たまに姫神さんからもするのと、同じ匂い――

吹寄「えっ、ええ。はっ、初めてじゃないかも知れませんが、吹寄制理です。姫神さんの――」

結標「初めまして。聞いてるかも知れないけど、結標淡希。よろしくね」

初めて交わす、顔と言葉と握手。そうか。この人が――結標、淡希

姫神「嘘臭い。営業スマイル」

結標「話の腰折らないでってば!」

姫神さんを…変えた人――
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:54:58.11 ID:IxCWbF7AO
〜織女星祭・ビアガーデン〜

黄泉川「ぷはー!この一杯目がたまらないじゃん!」

芳川「愛穂。ヒゲになってるわ」

月詠「この時間からと言うのが最高なのですよー」

木山「せ…先生方、人の目が気にならないと言えば嘘になるんだが」

手塩「たまには、休息も、必要、だ」

寮監「こうして親睦を深める事も」

浜面「えらい奴らに捕まっちまった…」

17:07分。浜面仕上と滝壺理后は第十五学区のデパート屋上ビアガーデンにいた。
常ならば学生が大半を占めるこの学園都市にあっては教職員が軒を連ねる第八学区を除けばほぼ存在しないのだが、外部からの人間も訪れ集客が望めるとあって臨時開店しているのだ。しかし

滝壺「はまづら。ふれんだときぬはたがいない。追跡する?」

浜面「いや、いいだろ。どっか回ってんだろうし(サンキュー2人とも!)」

黄泉川「おお浜面ー?あの時の彼女さんじゃん?可愛いじゃーん!」

芳川「なんだか私の若い頃を思い出すわ…ふふっ、甘い記憶…」

月詠「2人とも若いのですよー!先生も…」

木山「うん?そう言えば月詠先生も確かあの赤い髪の神父らしき人と」

手塩「うっ、うっー、うま、うま」

寮監「ここはビアガーデンだぞ。学生は…」

浜面「出来上がるの早過ぎるだろ!?これでいいのか教職員!!」

一杯目から一気飲みの黄泉川、枝豆の皮むきと焼き鳥の肉を箸で一個一個取る芳川、すでにピッチャーで飲んでいる小萌、あまり飲めないのかグラスの木山、次々と飲み干して行く手塩と寮監。
せっかく花火が良く見える絶景スポットを…と滝壺と訪れた屋上ビアガーデンなのに…そう浜面は思わざるを得ない。

浜面「(せっかく絹旗とフレンダが気使ってくれたっつうのによぉー!滝壺と二人っきりで夏の思い出があああ!)」

滝壺「(はまづらがジタバタしてる。ビール飲みたかったのかな)」
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:56:20.86 ID:IxCWbF7AO
浜面「きーみがー!いたなーつは!遠い夢のな〜か〜ぁ!そ〜らーに消えてっーた!打ち上げ花火ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

手塩「懐かしい」

芳川「まさに夏メロね」

木山「うん?最近流行ってるのかこの歌は…ふむ、回って来たら暑くなってきたな」

小萌「脱いじゃダメなのですー!」

寮監「確かにこの時間からは回りも早いですね」

黄泉川「浜面!今日は私も非番じゃん!たっぷり彼女さんとの馴れ初めからなにから聞かせるじゃん!」

浜面「気を使え大人共ぉぉぉぉ!!!」

終わった。今日の日はさようなら状態である。そう浜面が号泣と共に空を見上げる。
この世界に神はいないのかと。するとビアガーデン上空を――

麦野「はーまづらぁ…アンタなにやってんの?こんな時間から頭のネジ外れてる?」

光輝く六対十二枚の『光の翼』で羽ばたく麦野沈利と

上条「うおっ!先生達だ!」

その麦野と左腕で肩を組むようにして空中散歩している上条当麻の姿があった。

浜面「なにやってんのあんたらぁぁぁ!?」

麦野「見てわからない?当麻とデート。頭と目ん玉のネジ締め直してほしい?はーまづら」にっこにこ

浜面「まずお前がネジを締めろぉぉぉぉ!!なんだそのニコニコ顔!軽くハプニング映像だよ!」

上条「悪い麦野、俺がテレポート出来ないばっかりに…」

麦野「いいのよんアンタなら。滝壺元気ー?」

滝壺「げんき」

浜面「普通に会話しないで!人が空を飛んでるんだよ!?うっかぶ!くーもを突き抜けフライアウェーイ!フライアウェーイ!」
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:57:28.44 ID:IxCWbF7AO
『幻想殺し(イマジンブレイカー)』のせいで座標移動出来ない上、すでに路上は学園都市中の人間が埋め尽くしているため二人は空路を選んだのだ。
それにつけても非常識極まりないデートに浜面は口あんぐりである。
しかし当の麦野本人はいたって気にした様子はない。
こんなもん1、2、3、4位はみんな形は違えど出来ると。

黄泉川「むやみやたらな能力使用はやめるじゃーん!不純異性交遊で取り調べちゃうじゃーん!」

麦野「ちっ…じゃあね滝壺。浜面、滝壺泣かすんじゃないわよ」

上条「悪い悪い。邪魔したな!それじゃ!」

浜面「このお〜おぞらーに〜つばさーをひろ〜げ〜飛んで〜行きたいよぉぉぉぉ!!!」

麦野「あっ、すっかり忘れてた…はーまづらぁ!後で滝壺連れて空中庭園集合!ってチャラ男(垣根)から伝言!」

浜面「?なんかあんのか?」

麦野「焼き肉!」

そう言って二人は文字通り飛んでいった。しかし、教職員一同が『光の翼』に身を奪われている――チャンスは今!

浜面「いくぞ滝壺っ!」

滝壺「あっ、なんこつ」

浜面「焼き肉だってよ!お呼ばれに行くっきゃないだろ!なんこつなんてまた食える!」

黄泉川「ああー!浜面逃げたじゃーん!」

滝壺の手を引いて駆け出す浜面。鶏のなんこつ唐翌揚げを食べながら一緒に走り抜ける二人。


あの二人みたいに飛べなくたっていいさ一緒に歩けるなら、と。


590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:01:04.52 ID:IxCWbF7AO
〜織女星祭・空中庭園〜

一方通行「グリルパーティーだァ!?」

垣根「さっき言ったろクソッタレ。人の話聞けよ」

17:50分…学園都市最大の花火大会『織女星祭』にて、もっとも人気と倍率の高いスポットに一同は集結しつつあった。
ここ数ヶ月の激務をねぎらうべく、垣根帝督がポケットマネーでグリルパーティーを企画したのである。

垣根「たまにはガス抜きぐらいしねえとパンクすんだろ?プラスお前らの凱旋祝いだ。1ヶ月遅れだがな」

続々と肉と酒と炊飯器が貸し切りにしたホテルの空中庭園に運び込まれて行くのも全て垣根の指図である。
夕闇の中大きく流れる大河を跨ぐ大桟橋を見下ろしながら手摺りに持たれかかった垣根が言い、椅子に腰掛け前衛的な杖を投げ出した一方通行が唸りを上げた。

一方通行「ふざけンな!いつからレベル5は仲良しこよしの寄り合いになったンだァ?オレは帰ンぞ!」

垣根「おーいチビちゃん。君らの保護者がお帰りだとよー」

打ち止め「ええー?これから花火始まるのに帰っちゃうの?ってミサカはミサカはあなたと作る一夏の思い出作りを楽しみにしてみる!」

番外個体「ただ飯食えるのにもったいないねー?ミサカ達の指まで喰ったクセに」

御坂妹「既に牛肉・豚肉・鶏肉・馬肉・合鴨・羊肉・鹿肉が運び込まれています、とミサカは生唾を押さえ切れない自分を押し留めます」

御坂「ご飯くらい付き合っていけば良いじゃない。この子達泣かせたら許さないからね」

そこに抗議の声を上げるのは御坂姉妹である。打ち止めは一方通行の膝に突撃し、番外個体は一方通行のテーブルに腰を下ろし、御坂妹は背後から呟き、御坂美琴はそれを離れたテーブルから足を組みつつ見やる。
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:02:32.95 ID:IxCWbF7AO
白井「お姉様に妹様に小さいお姉様から大きいお姉様ですのぉぉぉ!!黒子の3分の1の純情な感情が振り切れて花火になりそうですのぉぉぉ!!」

初春「(汚い花火だなあー)」

佐天「垣根さんってやっぱり初春以外の前じゃキャラ違うよねー(なんかヤクザ予備軍みたい)」

フィアンマ「光栄に思え。肉塊。貴様等の人生の価値は、無事刈り取れたぞ(焼肉的な意味で)」

一方通行「…煮るなり焼くなり好きにしろォ…」

加えてその卓につくは白井黒子、佐天涙子、初春飾利などの『超電磁砲組』である。
多数決だ、民主主義だとブーイングを起こされ最終的に一方通行は折れた。
ここで我を通せば悪党ではなく悪者になってしまう。
そして何故か一方通行の席には右方のフィアンマまでいる。海原は一方通行にポリバケツの中に突っ込まれ欠席となった。

禁書「お肉♪お肉♪お肉なんだよ嬉しいな〜♪」

上条「本当にいいのかなあ…俺達までご馳走になっちまって」

麦野「五十人前で予約入れちゃったらしいわよ垣根の馬鹿。それにインデックスがいれば平気でしょ?」

トップ3とくれば第四位麦野沈利の登場である。他人との馴れ合いは大嫌いだが、インデックスは食べさせてさえおけば大人しいと知っているからだ。
同時に上条当麻も特に反対しなかったため、参加と相成った。

心理掌握「………………」

青髪「お互い面割れると面倒臭いからよろしゅうな?」ヒソヒソ

土御門「グリルパーティーって言うか野外焼肉パーティーみたいなんだぜい。ねーちんらの女子寮ではやらないのかにゃー?」

神裂「普段は食堂ですし、仮にもシスターの女子寮ですからそういう事はあまり…」

オルソラ「神に仕える身でございますから…」

ステイル「(結局インデックスに引っ張られて来てしまった…早くイギリスに帰りたい)」

第五位心理掌握(メンタルアウト)、そして第六位(ロストナンバー)青髪ピアス、さらに必要悪の教会(ネセサリウス)の神裂火織、オルソラ=アクィナス、ステイル=マグヌスは土御門元春に強引に引っ張って来られた。
仕事漬けでワーカーホリック気味な自分達も羽を伸ばすべきだとの提案で
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:05:16.87 ID:IxCWbF7AO
削板「なんとか根性で間に合わせたぞ!わはははは!」

雲川「どっかの馬鹿の首に縄付け直す事にならなければこんなバタつかずに済んだんだけど」

服部「垣根もいい企画上げてくれたぜ。久しぶりに肉が食える」

そして第七位こと『ナンバーセブン』削板軍覇と全学連復興支援委員会の頭脳、雲川芹亜と右腕、服部半蔵である。
織女星祭最終日という事もあり、避難所の残りのメンバーに送り出されて来たのだ。

滝壺「はまづら、このお肉全部食べていいの?」

浜面「らしいぞ。払いは第二位が持つってよ。ゴチになろうぜ」

絹旗「なんですかこの超大盛り…相撲部屋のちゃんこパーティーですか?」

フレンダ「結局、なんだかんだでこうなるって訳よ(気使った意味なかった)」

そして八人目のレベル5こと滝壺理后、浜面仕上、絹旗最愛、フレンダの『アイテム』勢である。
学園都市上層部が完全崩壊し、暗部も総解散となった今や、彼等も宙ぶらりんの根無し草集団である。
クリーンな何でも屋か、荒事専門の便利屋になるか、今話し合いの最中である。

結標「なんて言うか…壮観よね」

姫神「小萌先生も呼んだけど。今日くらいは。先生達は先生達で。生徒達は生徒達で。自由にって」

吹寄「(もしかして私って、今とんでもない場所にいるんじゃないかしら)」

そしてレベル5第九位に昇格した結標淡希、そのパートナー姫神秋沙、友人である吹寄制理である。
見れば見るほどアクとクセの強い愚連隊も同然の面子に落ち着かないのは無理からぬ話だろう。
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:07:26.16 ID:IxCWbF7AO
一方通行「馬鹿だろォ…サークルのパーティーかよォ…ありえねェだろこの面子」

垣根「男10女20か…えらい偏ったな。五十人前頼んじまったが大丈夫かコレ?も少し呼んでみるわ」

御坂「なんとかなるでしょ。確かアンタとアイツの所のシスター、スッゴい食べるし」

麦野「あの娘一人で百人前食べたって驚かないわ今更」

心理掌握「………………」チラッ

青髪「(知らん顔しとこ。能力の関係上五位と八人目しか僕の事知らんし)」

削板「なに!根性さえあればどうにかなる!」

滝壺「残ったら、持って帰っていいかな…」

結標「止めた方がいいと思うわ…夏だし」

集まりながらグリルパーティーの人数を今更ながら話し合うレベル5達。

打ち止め「まだー?まだー?ってミサカはミサカはお行儀悪くお箸でお茶碗を叩いてみる!」

初春「そろそろ花火上がりますよー!」

上条「ビールがケースでじゃんじゃん来てる!??これ大丈夫なのか大丈夫かよ大丈夫ですかの三段活用!!」

雲川「(浴衣にするんじゃなかった…汚れそうなんだけど)」

浜面「あっ、すいませんそこの赤毛の人火貸してもらえないか?ライター無くしちまって…」

姫神「(肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉)」

そして――18:00分。花火が上がった。

全員「かんぱーい!!!」

宴が、始まる
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:10:03.69 ID:IxCWbF7AO
〜織女星祭・グリルパーティー〜

浜面「うめー!うめー!なんだこれ美味ぇぇぇ!!」

服部「生き返る!!いや生きてて良かったぁぁぁ!!」

青髪「我が人生に一片の悔い無しや!!ええ匂いプンプンさせおって!僕を誘ってるんか!」

土御門「来て良かったんだぜい!!舞夏悪い!」

上条「上条さん家の100グラム98円の肉と全然違うの事ですよ!」

削板「がぶっがぶっがぶっがぶっ!がぶっがぶっがぶっがぶ!」

ハイエナのようにサーロイン、リブロース、特上カルビ、骨付きカルビにくらいつく者達。
男達の頬を伝う涙は煙に目が染みた訳ではないはずだ。断じて。

白井「あら。美味しいですの」

結標「ほんと。これいいわね…秋沙、これなんて言うの?」

姫神「とも三角。わさびで食べるのが。通の証」

フレンダ「結局、スペアリブが最高って訳よ!」

禁書「羽子板十本食いなんだよ!ん〜ほいひいはも〜」

番外個体「なんかコリコリ固い…これ骨?」

滝壺「薬研なんこつ。噛めば噛むほど味が出る」

慎ましやかに量より質を選ぶ女性陣。カロリーが気になるのか鶏肉や合鴨を選ぶ者が多い。
中でもインデックスは次から次へと他テーブルへ飛び込んでは平らげて行く。
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:10:56.81 ID:IxCWbF7AO
御坂「私の酒が飲めないってんのかゴルァァァァァァァ!!!」

麦野「ちょっ、誰よ御坂に酒飲ませたの!コイツだけはダメだって言ったでしょうがァァァー!」

オルソラ「シャトーブリアンを焼く時にかけたマルサラワインでこうなってしまったのでございましょうか…?」

佐天「(うわあ御坂さん酒乱だったんだあ…退散退散)」コソコソ

一方通行「ブホォッ!?おい第四位ィ!70度とか舐めてンですかァ!?」

雲川「ジョージ・T・スタッグス。バーボン72度。規格外なんだけど」

御坂妹「(やったのがバレたらノーバウンドでブッ飛ばされますね、とミサカは青林檎サワーを舐めながら素知らぬ顔をします)」チビチビ

打ち止め「(私にはバレバレだけどね!ってミサカはミサカは慌てふためくあの人が可愛く思えたり!)」

思い思いに杯を傾ける者達もいる。悪戯を仕掛けた佐天と御坂妹はそれぞれこっそりと頭を低くし――
一方通行は口から火を噴く思いで、麦野は御坂に絡まれホトホト手を焼いていた。

垣根「ビール腐るほどあるからボイラーメーカーにするか。ターキー取ってくれ。12年じゃなくて8年がいい。飾利はまだ中学生だからヴァージン・ブリーズな」

初春「あっ…このお花が可愛いのですね?皆さんはどうします?」

心理定規「未成年だからシャトリューズトニック(ノンアルコール)で」

ステイル「15歳だからサラトガクーラー(ノンアルコール)にしてもらおうか」

神裂「18歳なのでシャーリーテンプル(ノンアルコール)でお願いします」

絹旗「中学生なんで超ウーロン茶で」

心理掌握「………………」【水】

吹寄「高校生なので青汁でお願いします」

フィアンマ「ワインは嫌なヤツを思い出すから俺様は山ブドウジュースだ」

垣根「オレの常識が通用しねえ…!」

気がつけば年齢詐称組、未成年組に囲まれ呆然とする垣根。
飲める相手が見当たらず、彼はウロウロとよそのテーブルをさまよい歩く羽目になるのである…
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:12:52.46 ID:IxCWbF7AO
〜アイテム・復興支援委員会〜

服部「美味いなあ…駒場のリーダーにも味合わせてやりたかった…」ジーン

浜面「言うな半蔵…せっかくの肉がしょっぱくなるじゃねえか」ジワッ

雲川「たかが焼肉でえらい男の下げようなんだけど」

浜面・半蔵「「負け犬上等ォォォ!その日暮らしの野良犬(スキルアウト)を舐めんじゃねェェェ!」」

豚ガツを炙りながらしみじみと肩を寄せ合う男二人を雲川は夜空に咲く大輪の花を見やりつつごちた。
矢も盾も止まらずかぶりつく様を見て、まあ十代の男なんてみんなこんなもんだと思いつつ…

フレンダ「それが日本の“キモノ”?結局、実物を拝むのは初めてな訳よ!」

雲川「え?ああ…これは着物じゃなくて浴衣なんだけど」

フレンダ「違いがわからない訳よ…リリウムの柄って事くらいしか」

絹旗「リリウムって超なんの事ですか?この花柄の名前ですか滝壺さん?」

滝壺「百合。この人の浴衣は鬼百合の柄だよ。いいな」

雲川「そんなに見られると穴が空くんだけど…」

金髪碧眼の少女が食いつき、今にも下着が見えそうで見えないけれど見えてしまうギリギリアウトの少女が見つめてくる。
ピンク色のジャージを羽織った少女が羨ましそうに顔を近づけて来てやや居心地が悪い。しかし――

削板「吻ッ!破ァ!」パキーン!

絹旗「超スゴいです!」

フレンダ「空手マンって訳よ!」

浜面「おービール瓶切りか。昔漫画の真似して手切ったわ」

並べられたギネスの黒ビールを手刀で叩き切った削板がゴクゴクと一気にラッパ飲みする。
雲川の方へ悪意なく一瞥も向けない。もしかして顔のパーツでしか人間を認識出来ていないのかとすら思う。
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:14:00.57 ID:IxCWbF7AO
削板「プハー!んまいっ!が!冷え冷えじゃないな」

フレンダ「これだから日本人はわかってない訳よ!結局、黒ビールは常温なのが一番な訳よ!」

浜面「結局何人なんだよお前は…おいナンバーセブン!箸握れ!飲み比べで男を見せようじゃねえか!」

削板「ハシケンを知っているとは嬉しいぜ…!いい根性だ!勝負!3!」

絹旗「浜面!アイテムの名に懸けて超負けられませんよ!絶対勝って下さい!」

その上男同士の飲み比べ対決に突入してしまった。
それを見て雲川は怒りを通り越して呆れすら覚える。
まさか馬鹿だ馬鹿と思いながらここまで馬鹿だとは…

滝壺「…浴衣、見てもらえなかったの?」

雲川「別に。ただ暑かったしタンスの肥やしにするのも勿体無いかなって思っただけなんだけど」

滝壺「…ちょっと言ってくるっ」ダッシュ

雲川「いいって!本当にいいんだけど!」
抗議しに行く滝壺、追い掛ける雲川、そしてその側では

服部「駒場のリーダー…乾杯。いや、こういう時は献杯っつうのか」チンッ

二人分のグラスに黒ビールを注ぎ、悼む半蔵。
郭が連れて行けとうるさがっていたが、こうして『男二人』で飲みたい時もあるのだ。
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:16:11.78 ID:IxCWbF7AO
〜結標淡希&姫神秋沙+吹寄制理・一方通行&シスターズ+フィアンマ〜

結標「………………」

一方通行「なに見てンだよ」

結標「別に」

打ち止め「お馬さんも食べられるんだね!ってミサカはミサカは生まれて初めて極上カルビを食べてみる!」

番外個体「へえ。この国にはこんなのがあるんだね。ミサカも初めてみたよ。これ何て言うの?」

姫神「これは厚帯。私は。焼くより刺身が好きだけど。初めてなら。焼いて食べるのがオススメ」

御坂妹「これはユッケなるものにも出来るのですか?とミサカはグルメ番組で見たあの丼が忘れられません」

フィアンマ「白米を炊き出せ」

吹寄「(同じ顔がたくさん…姉妹??)」

結標組は一方通行組と共にいた。初めての焼肉大会に瞳を輝かせるシスターズに、姫神や吹寄が食べ方を教える。
皆、馬肉を口にする事も初体験なのか恐る恐る箸を伸ばしながらも舌鼓を打っている。
それを保護者のように見やるのは一方通行と結標である。

結標「…なんだか不思議で、複雑な気分ね…」

一方通行「…言うな。俺が言えた義理でもねェが」

二人の初遭遇、その因縁、その遺恨、その彼等が焼肉を楽しんでいる風景。
口数が自然と少なくなる。それぞれに抱えた物と背負った罪が重過ぎて。
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:17:25.57 ID:IxCWbF7AO
一方通行「…なンだって好きこのンでレベル5なンぞになりやがった」

結標「なりたかった訳でもなろうともしなかったわ。ならざるを得なかったのよ」

一方通行「言ってる意味がわからねえンだよ。わかってンだろうが。俺達(レベル5)を見りゃあ…化け物の仲間入りだぞ」

結標「丸くなったわね一方通行。貴方が他人の心配?」

一方通行「アァ!?」

一方通行が不機嫌そうな顔つきと剣呑な眼差しを向けて来る。出会った時のように。
しかし結標もまたその視線を射抜き返す。挑むように。

結標「レベル5“くらい”にならなければ、私は私の大切なものを守れないって気づいたからよ」

飛行船で吶喊した。超音速旅客機を投げ飛ばした。
そこまでしてやっと守れた。それだって自分一人の力じゃない。
それでも欲したのだ。ただ一人を守る力を。それは一方通行が打ち止めを守るベクトルにやや重なる部分でもあった。

一方通行「…啖呵だきゃあ一人前になったって認めてやンよ。オラ、肉寄越せ肉」

結標「えらそうに!サラダもちゃんと食べなさいよね!」

一方通行「五月蝿ェ。焼きそばぶつけンぞ」

前より扱いにくくなったが、面構えは随分マシになったなと一方通行は中落ちカルビを貪り食いながら思った。
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:19:56.63 ID:IxCWbF7AO
〜必要悪の教会・超電磁組・+α〜

土御門「どんどん焼くんだにゃー!」

ステイル「何故僕がこんな事をしなくちゃいけないんだ!」

白井「わたくし、レアがよろしいですの」

佐天「わー…スゴい。大きいお兄さんは発火系能力者なんですか?」

ステイル「違う!」

一方、ステイル=マグヌスはステーキハウスのマスターよろしく焼き係をやらされていた。
その上、こんがりウェルダンがお好みな土御門元春、レアが好きな白井黒子とそれぞれ火加減を調整しながらだ。
当初は猛反対し猛反発したステイルではあったが――

禁書「すている!焼き加減はブルーにしてほしいんだよ!」

ステイル「わかったよ…」

インデックスの真の恐ろしさは自分しかり、アウレオルス=イザードしかり、上条当麻しかり…
相手に命を懸けたって惜しくはないと思わせるに足るこの『人たらしの笑顔』に他ならないのではないかとさえ思える。
10万3000冊の魔導書にだってここまで強力な魔術はないであろうと。

御坂「それでね!それでね!私勇気出して言ってやったのよ!なのにアイツったらね、アイツったら…うわあああぁぁぁん!」

オルソラ「それが貴女様のストラップに秘められたエピソードなのでございますね…なんと胸打ち心暖まるお話なのでございましょう」

神裂「(怨みますよ上条当麻…そしてオルソラ、その話は三度ほど前の上五回も聞かされていますよ…)」

久保田の万寿を片手にくだをまく女子中学生というシュールすぎる光景にオルソラ=アクィナスはまるで懺悔でも聞くように何度も頷き、神裂火織はイチボを箸でひっくり返しながら意気消沈していた。
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:21:08.63 ID:IxCWbF7AO
佐天「白井さん…良いんですか?ジャッジメントですよね?」

白井「何度も止めようといたしましたの…」

ひそひそと耳打ちする佐天涙子に、白井黒子は上品にTボーンステーキを切り分け口に運びながら溜め息をついた。
この様子では連れて帰るのは難しそうだと頭を悩ませながら。

佐天「初春もいないしぃ…最近初春垣根さんとばーっかりで付き合い悪いですよぉー」

白井「あれは初春に第二位の殿方がべったりですの。佐天さんこそそう言ったお話はございませんの?」

佐天「ええっ!?白井さんからそんな話振ってくるなんて…珍しー」

白井「こんな時くらいよろしいのではなくて?」

そして佐天もじわりじわりと同年代の友人がステップを駆け上がって行くのにどこかうら寂しいのだろう。
そんな女子二人の会話が弾む中――

土御門「で…どうなんだ?オルソラの進捗状況は」

ステイル「まだ四割と言った所らしい。それからアウレオルス=イザードの私的な日誌が出て来たらしいよ」

土御門「それが仕事となにか関係があるのか?」

ステイル「…それこそ私的な部類の問題さ。シェリー=クロムウェルが言う通り、彼女は優しすぎる。それは甘さでもあり、また弱さだと僕も思うがね」

土御門「わかった…ところでステイル」

ステイル「なんだい?」

そこで土御門がサングラスをクイッと人差し指で押し上げて直す。
オルソラ曰わく今夏のGAULTIERに切り換えたゴツいデザインのそれを

土御門「なんで小萌先生を呼ばなかったのかにゃー?きっと寂しがって女同士で飲み歩いてるに違いないにゃー!」

ステイル「…それこそ私的な話だろう!君には関係ない!そしてあの人も僕とは関係ないだろう!」

土御門「ちっちっち…このつっちー、かけてるのは色眼鏡だが真実を見抜く眼に曇りはないんだぜい!特に!この間はオリアナとも」

ステイル「…残念ながら度があっていないようだね。焼き直してあげよう。今夜の火力はちょっとスゴいぞ…?」

土御門「まっ、待てステ…に゛ゃー!」

まさにウェルダンになるまで焼かれて土御門はダウンした。
眼力云々以前に口が災いの元となったのは誠に皮肉な話である。そして――
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:22:30.31 ID:IxCWbF7AO
心理掌握「――――――」

青髪「そっかーみんな疎開して一人ぼっちなんかあ…そら寂しいなあ」

心理掌握「………………」

青髪「え?寂しくなんてないて?アイツらは派閥の人間であって友達やないって?あかんあかんそんなん言うたら!」

その頃、第六位(ロストナンバー)青髪ピアスと第五位(メンタルアウト)はグリルパーティーから少し離れて空中庭園を散策しながら話し込んでいた。

心理掌握「‥‥‥‥‥‥」

青髪「わかってるんやろ?心の通わん人間ばっか周りに集めたかて、そんなん小さい子が一人で寝るの寂しいからお人形さんいっぱい並べるんとおんなじや。全然楽しないよ?」

心理掌握「・・・・・・」

青髪「うん。わかるよ。僕かてカミやんや土御門に会うまでそうやった。コイツらなんも見えてへんアホやって。ほんで僕も――今も、言えてへん事いっぱいあるし」

草木と水の香りを運んでくる真夏特有の夜風が青髪と心理掌握の前髪を揺らす。
それぞれの事情があって表向き素顔を出せない者同士の、奇妙な交流。

青髪「どないや。僕ら、友達になれへん?」

心理掌握「!?」

青髪「変な下心ないよ。何なら心読んでみ?君やったらわかるやろ」

心理掌握「‐‐‐‐‐‐」コクッ

青髪「よっしゃ!ちょうどお祭りやってるし!夜店の回り方から教えたるわ!」

そして青髪は心理掌握の手を引っ張り駆け出して行った。
お腹が空いたら食べにここに戻ればいい。それまで遊び倒そうと。


まるで、幼い少年少女のように
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:25:28.47 ID:IxCWbF7AO
〜上条&麦野・垣根&初春・浜面&滝壺〜

滝壺「(ムスッ)」

麦野「あれー?あれー?滝壺の機嫌がさっきと違うけど…あれー?」

浜面「それがわかんねえんだよ…なんか削板と飲み比べしてたら怒られちまった」

垣根「彼女ほったらかして男とばっか遊んでたからヘソ曲げたんじゃねえのか?クックック」

滝壺「違う。はまづらのせいじゃない」

麦野「はーまづら。こうなったらテコでも動かないよ。意外と頑固だからね。ってな訳でジョニーウォーカーとって。ブルーラベルね」

浜面「どんな訳だよ!でもってまたドリンクバー職人かよ!」

また、とある一角では所帯持ちが三組顔を突き合わせていた。
上条当麻と麦野沈利、垣根帝督と初春飾利、浜面仕上と滝壺理后である。
そしてそこにさりげなく――アイスペールとミネラルウォーターを運んでくるは

上条「ふいー。ったく。アンチスキルに通報されないか上条さんはヒヤヒヤものですよ」

垣根「貸し切りにしてっから安心しろ。そんくらいの常識はある」

初春「本当に常識あったら未成年に飲ませちゃダメなんですよ?」メッ

垣根「うっ…たまに羽伸ばすくらいいいじゃねえかかーざーりー」ギュッ

初春「ひゃっ!」

上条当麻である。水と氷が上条、酒とつまみは浜面が運んでくる。
かく言う垣根はと言うと…初春を膝にちょこんと乗せていた。
それを見て麦野は呆れ顔になる。トング片手に肉をひっくり返しながら。

麦野「伸びてんのは羽じゃなくて鼻の下だろクソメルヘン。デレデレしやがって。見てらんないわ。当麻ー鞍下食べるー?」ジュージュー

初春「(この人が…麦野沈利)」
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:27:56.60 ID:IxCWbF7AO
以前、一度だけ会った事があると初春は想起する。
同時に垣根からも聞かされていた。この麦野絡みで上条は二度生死の境をさまよっている。
御坂達と共に上条を見舞いに行った時など、あのカエル顔の医者でなければ間違いなく命を落としていたほどの大怪我。
それも――他ならぬ麦野自らがその上条の身体に一生消えない傷をいくつも刻んだと。

垣根「実際大したもんだと思うぜ。ブッ壊す事しか知らないイカレたライオンみたいな女を飼い慣らしてるアイツはよ。今はもう…ライオンっつうかネコだなありゃ」

初春「そんなに…すごかったんですか?」

垣根「すげえなんてレベルの話じゃねえな。アイツの前に敵として立ちはだかって、アイツの横で味方として寄り添うって言うのはそういう事だ。血を見ずにライオンと生きてくのが不可能なようにな」

そう語る垣根の目は遠い。他ならぬ二人を知らず知らずの内に、結果として結ばれるよう後押ししたのは垣根である。
むしろ、垣根なくして上条と麦野はぶつかり合う事も、上条が告白する事も有り得なかっただろう。

滝壺「でも、かみじょうとケンカしてむぎの家出した事ある」

浜面「なんだそりゃ。可愛いもんじゃん。しまちょう食べるか?(おっ、反応した)」

滝壺「うん、食べる。それで第十九学区のブリッジが落ちた」ガジガジ

浜面「いや何やってんの?ねえ今橋が落ちたって聞こえたけどオレ酔ってるか?」


垣根「ちなみにだ飾利。コイツらは超音速旅客機パクッてロシアまで逃げたらしいぞ。でもって第三次世界大戦だ」

初春「ええー!?」

思わずスカジャンとジャージ姿の二人を見る。自分と垣根の出会いも一般的に考えれば最悪の部類に入る。
しかしなんなのだこの二人は。まるでハリウッドのヒーローとヒロインのようだと。
しかし当の浜面と滝壺はと言うと――
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:29:36.93 ID:IxCWbF7AO
浜面「ジャックダニエルのシルバーか…品揃えいいなあ…何本か持って帰りてえ。俺の稼ぎじゃビールが精一杯だ」

滝壺「はまづら。焼いたらお肉持って帰っても大丈夫かな…?」

浜面「どうだろうなあ…とりあえず食おうぜ!もっぺんいただきまーす!」

いたって普通である。実に美味しそうにカルビばかりをご飯に乗せて食べている浜面と、手羽先をかじっている滝壺。
よほどご飯とお肉が嬉しそうなのか、甘いのとは違った意味で雰囲気がフワフワしている。
ワカメスープねえかななどとウロウロしたりしている。

上条「艦長さんのもなんか取りませうか?」

垣根「その呼び方やめろよなー。んじゃー鴨むねととうがらし取ってくれ」

上条「一味?七味か?」

垣根「いや、とうがらしってのはその串に刺さってる鶏肉のだ」

上条「これとうがらしってのか…えーっと初春さんは?」

初春「あっ…私は馬肉のたてがみを――」

垣根「食え食え。食わねえと大きくなれねえからな。飾利はいつまでもちっちゃいし。背の代わりに伸びたのは髪くらいか」

初春「ひどいです垣根さん!」

上条「(オレが沈利に言ったら怒られんだろうなあ…)」

ほとんど親戚の子供を膝に乗せているおじさん状態で垣根は箸を進める。
さりげなく初春の好きそうなものから優先して取り分ける辺りを見て上条は思う。
やっぱり女の子慣れしてる男は違うなと。そして麦野は――
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:30:42.26 ID:IxCWbF7AO
麦野「一番変わったのはアイツだと思わない?かーみじょう」

上条「かも知れねえなあ。オレが会った時はもっとこう…ゴニョゴニョ」

麦野「とっかえひっかえだったでしょ?女をチューインガムと勘違いしてんじゃないっての!」

上条「ちょっ!声デカいって!」

滝壺「むぎの。伊勢エビ食べたい」

浜面「麦野ー!山賊焼き食いたい!」

垣根「第四位ー!自然薯頼むわー」

初春「あっ、あの…豚ハラミお願い出来ますか?」

麦野「私はテメエらのママじゃねえんだよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

鮭がないのを不満そうにしながら焼きはらすを炙る麦野。獅子唐や銀杏や唐黍を串に刺して行く上条。
味がなくなったら吐き捨てるとまで評する麦野に、上条はそんなに悪い人じゃないんだけどなと微苦笑を浮かべた。
そしてジョニーウォーカーを一気にあおりながら肉を捌いて行く。

麦野「あーもう水で割るのも面倒臭え。ま、あの花飾りの子も大したタマね」

垣根の素性を知ってか知らずか、はたまた全て知った上で傍らにいるのか。それは麦野にもわからない事だが――
いずれにせよ見た目より腹が座っているのだろう。自分が上条当麻に寄り添うと腹を括ったように。

麦野「かーみじょう。アンタも食べなさいよ」

上条「ああ、オレいいよ。麦野こそ食えよ。代わるぞ」

麦野「麦野って呼ばない!いい加減慣れなさいよねー」

上条と出会い、共にインデックスの記憶を助けるべく奔走した去年の夏。
あの辺りからかななどと回顧する。そして今年の夏はこんな調子だ。
来年はどうなっているか見当もつかない。ただ、再来年の事だけはわかる。それは――

麦野「再来年には私も“上条”なんだからさ―――」


607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:34:08.62 ID:IxCWbF7AO
〜織女星祭・夜店巡り〜

至る所から祭り囃子と風鈴の音、ソースの焼ける匂い。
空にはいくつもの花火が浮かんでは消え口を描く。
ごった返す人波と学生達の中でも、その少年の髪色は際立って目立った。
そう、それはまるで群青色に近い髪に、チャラチャラとなるピアス――

青髪「あーアカンアカン。デメキンを真ん中ですくったらあかんねん」

そこには金魚すくいの水槽の前にしゃがみこんでいる青髪ピアスと、

心理掌握「・・・・・・」ヒョイ

金魚がすくえずにつまらなそうにしている、常盤台中学の制服に身を包んだ女学生『心理掌握(メンタルアウト)』がいた。

青髪「ん?こんなんするん生まれて初めてやって?そらそうかー常盤台のお嬢様やもんなあ」

心理掌握「......」クイックイッ

青髪「ん?僕はやれへんのかって?悪い悪い。おっちゃーん!この娘とおんなじポイちょうだい!」

店主「(げっ…コイツ知ってやがる)」

思わず店主の顔が引きつる。女性客に渡すポイの方が若干厚めなのを見抜かれていると。
仕方無しに手渡すと、青髪は心理掌握を振り返りながらニヤリと笑った。

青髪「狙うは姉金や。よー見とき?」

すると青髪は…水槽の中でも一際大きく、赤々とした金魚をその笑い目で追う。
手にしたお椀もさりげなく近づけながら。それを心理掌握も見やる。

青髪「こー言うんはな、隅っこに来るまで待つねん。そいでポイを斜めつけるとか半分つけるとか破れやすうなるだけや…」

朗々と講釈を歌い上げつつ…青髪は姉金を隅まで追い詰めた後、ポイを一気に水に浸し――

青髪「こういう時は思い切って…そいやっ!」

パシャッ!

心理掌握「!」

近づけていたお椀に水ごと金魚達をすくうようにしてゲットした。しかも

青髪「奥義、一発二匹捕りや!」

心理掌握「‐‐‐‐‐‐」キラキラ

なんと、一回のトライでまさかの二匹同時にすくい上げるという離れ技に心理掌握も目をキラキラさせる。
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:35:21.16 ID:IxCWbF7AO
青髪「せやけど、これやると一回でポイが破れる諸刃の剣や。素人にはおすすめせえへん」

心理掌握「・・・・・・」コクコク

セオリーと邪道な技を組み合わせた、一回限りのテクニックだ。
あまりやると金魚すくいの店主に荒らしと見做され嫌われてしまうからだ。

青髪「ふふん。まさにどや顔や。はい!」

心理掌握「?」

青髪「君のんや。大事にしたり」

心理掌握「!?」

そこで青髪は袋に入れられた金魚のペアを心理掌握に手渡す。
それに困惑する心理掌握。しかし青髪は他者にわからぬよう、『心を読まれている』のを前提に心の中で話し掛ける。

青髪『これ(金魚)やったら、君かて心を読まれへん。声も聞こえへん。金魚もひとりぼっちにならんよう二匹やで。これで向かい合えるやろ?一個の命に』

心理掌握『――――――』

青髪『もう、周りの人間を風避けにせんでええねん。出といで』

心理掌握にとって、人間とは口から出す声と心の声を二重音声で喚き立てるつまみのイカレたスピーカーでしかなかった。
無差別に、無軌道に、無分別に心の声を垂れ流す『人間』に倦んでいた。
いつしか、心の声を垂れ流される前に周囲の人間の精神を操作し、自分の周りを無風状態にしていた。

心理掌握『………………』

自分の周りでくらい静かでいたかった。ずっと人間の心の声を聞かされ続けるのは苦痛を通り越して地獄そのものだったから。
精神を一時的な白紙にした人間をバリケード代わりに使っていると、それは派閥となり、いつしか女王様と呼ばれるようになった。
あの世に地獄なんてない。地獄は人間の心の中に存在すると悟ってから

心理掌握「…貴様、名前は?…」

今、金魚という小さな命から始めてはどうかと勧めて来た男の心が読めない。
まるで外国の絵本のようだった。絵ではストーリーを理解出来るが、文字が異国の文字を見るような訳のわからなさ。
だから話し掛けてしまった。肉声で、今金魚を手渡してきた青い髪の男に――

青髪「おおーロリな見た目よりずっとハスキーな声や。しかも尊大口調!自分、女王様キャラやろ?けどかまへんで!僕はありとあらゆるタイプを受け入れられる心の持ち主やねん!ええやろ!そんかわし、次は君が名乗るんやで!」

能力不明。本名不明。初めて自分と対等(レベル5)の中で出会ったその男の名は――

青髪「僕の名前はな――」
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:38:08.36 ID:IxCWbF7AO
〜禁書目録と超電磁砲〜

禁書「短髪、いくら何でも飲み過ぎなんだよ。流石にもう止めた方がいいかも」

御坂「ひっくっ…ひっくっ…」

その頃、御坂美琴は開けた酒瓶や缶ビールでボウリングが出来るほど飲み尽くしていた。
涙の嗚咽なのか回った酔いなのかは机に突っ伏したままではわからなかったが、その震わせる肩を見やりながらインデックスは焼きトウモロコシにバター醤油で味つけしていたものをかじっていた。

禁書「わかるんだよ短髪。でも今日は明るいお酒にするんだよ。涙が混じったらみんな心配しちゃうかも」

御坂「どうして…かなあ」

そこで組んだ腕を枕にしていた御坂のシャンパンゴールドの髪が揺らめく。
俯き加減にまで顔を上げる事は出来ても、被さった前髪が目元を隠す。
インデックスはそれらを敢えて見ないようつとめながら夜空の花火を仰ぐ。
一年前、学園都市に駆け込んで来たのも御坂と出会ったのもこんな季節だったかと想起しながら。

御坂「思うのっ…考えるのっ…どうして私じゃなかったんだろうって…」

禁書「それはしずりじゃなくて自分だったら、って事でいいのかな?」

御坂「違う」

そして手元にあるお冷やに手を伸ばす。それを一息に飲み干す。

御坂「もっと早く出会えてたらって」

泣いても泣いても楽にならない。

御坂「もっと早く知り合えてたらって」

ただの塩水の一滴一滴が

御坂「気がついた時には第四位がいて、アンタがいて」

重くて仕方無いと言わんばかりに。

御坂「もう――私が入れる場所なんてどこにもなかった!」

タンッ!とグラスを音高くテーブルに置き、御坂の常盤台中学の制服のスカートにポタポタと涙の雫が落ちる。
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:38:57.59 ID:IxCWbF7AO
禁書「短髪…」

こらえても押さえても、溢れて来る涙が涙腺を焦がし、嗚咽が喉を焼く。

禁書「それは私もおんなじなんだよ。私だって、出会った時にはもうしずりが側にいたんだよ」

インデックスはそれを空いた手でポムポムと御坂の頭を撫でながら語る。

御坂「それでも…近くに、側に、居られるアンタが…私はうらやましい…こんな風に思う自分なんて…大っ嫌いなのにっ!」

禁書「…見た目ほど良くないかも?気だって色々使うんだよ。辛くて、イギリスに帰りたくなった事もあるんだよ」

御坂「…インデックス…」

禁書「今の短髪みたいに、こっそり泣いた事もあるんだよ。しずりと一緒に泣きながらケンカした事だって何度もあったかも!」

御坂「なら…どうして」

インデックスは思う。自分だって聖女ではないし麦野だって良妻賢母などではない。
一人の一個の独立した人間であり確立された人格を持っている以上、人並みに喧嘩だってする。ぶつかったりする。
御坂が“女友達”で居ると決めたように、自分は“家族”になると決めたのだから。

禁書「――短髪と同じ理由なんだよ。離れた方が楽かもって何回思っても――」

喧嘩して、仲直りして、くだらないテレビで笑って、陳腐なドラマに泣いて――
特別な事なんて何もない日常が、何より特別だと知っているから

禁書「――出逢わなければ良かった、なんて一回も思わなかったんだよ?」

微苦笑を浮かべながらインデックスは語る。
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:40:09.16 ID:IxCWbF7AO
自分達はなんて馬鹿で

鈍感で

他人の痛みを放っておけないのに

女心のわからない男を好きになってしまったんだろうと。

禁書「変だね短髪。私達は、おんなじ男の子に助けられて、おんなじ男の子を好きになったんだよ」

御坂「…ね。第四位も言ってた。私達三人、どうしてあんなバカの事…いつから好きになっちゃったんだろうね。ホント、馬っ鹿みたいね」クスッ

禁書「――いつからだったかなんて、もう忘れちゃったかも!」

御坂「…完全記憶能力はどこ行っちゃったのよ?」クスクス

禁書「短髪こそ、えんざんのうりょくはどこにいったのかな?」クスクス

御坂「残念ね!お酒回って訳わかんなくなってる」クスッ

かつて麦野沈利は語った。上条がいなければ自分は取り返しのつかない場所で、破滅的な最期を迎えていただろうと。
御坂は絶対能力進化計画で、インデックスは奪われ続ける記憶の中で、一人の力では浮かび上がれない血だまりの闇の底に沈んでいただろうと。

御坂「…馬鹿ついでに、馬鹿騒ぎするわよインデックス!あの馬鹿に飲ませまくってやる!第四位ー!ソイツ借りるわよー!」

麦野「ちゃんと後で返しなー!ほらほら行った行った!!」ドンッ

上条「うえっ!?酒臭いぞビリビリ!こっちまで匂ってるっての!やめろっ、なにすんだ!」

禁書「今夜はぶれいこーなんだよ!とうま!」

その背中を麦野は静かに見送り――それから杯を傾けた。
自分達を救った罪作りな男の背中を叩く、自分と同じ女達の笑顔を

麦野「…苦労、かけるわねー…」

612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:43:00.55 ID:IxCWbF7AO
〜一方通行と番外個体〜

一方通行「あァン?何言ってンだ呂律が回ってねェぞ」

黄泉川『今夜は桔梗や他の先生達と朝までコースだから帰らないじゃーん!だから打ち止め達にも伝えて欲しいじゃん?あっ』

芳川『一方通行?電話代わったわ。なんだか今日の愛穂、飲みたい飲みたいって聞かないのよ。構わないかしら?』

一方通行「構わねェもなにもこちとらガキじゃねえンだ。クソガキ共はきっちり寝かしつけといてやっから行き遅れのババァ同士死ぬまで飲ンでろ。ぎゃはっ」

芳川『そう。じゃあお言葉に甘えて。ほら愛穂。立って』プツッ…ツー…ツー…

あちらこちらでどんちゃん騒ぎの馬鹿騒ぎの中、一方通行は乱痴気騒ぎから少し離れた場所から打ち止めと番外個体の保護者両名からの連絡を切った。
結標達は気付いた時にはいなくなっていたが、別段気には止めなかった。が

番外個体「なんだってー?」

一方通行「黄泉川と芳川は今夜帰らねェ。男日照りを酒で潤すンだと」

番外個体「ハッ。あなたと一つ屋根の下とかゾッとしないね。どうする?あの二人がいない中でミサカが大声出したら一発で立派な性犯罪者(あくとう)の出来上がりだねえ?一方通行」

そうやって皮肉たっぷりの外連見ある笑顔を投げかけて来るのは番外個体だ。
避難所にも寄り付かず、一方通行の帰国後にフラリと姿を現したのだ。
今もニヤニヤと一方通行を見やりながらわざとらしく手羽先を食い千切って。

一方通行「ふざけンなクソが。余計な真似しやがったらお望み通り素っ裸に剥いて叩き出すぞ」

番外個体「いいねいいね一方通行。さっきの女の人じゃないけど、柄にもなく日和ったリアクションだったらミサカがっかりだよ。こんな島国くんだり殺しに追っかけて来た甲斐があったってもんだ」
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:43:54.05 ID:IxCWbF7AO
かつて打ち止めと出歩いた大覇星祭のナイトパレードのように輝く夜空を見上げながら、一方通行はテーブルに足を投げ出す。

一方通行「ご苦労様ァ。テメエにいつ寝首かかれるか今から楽しみだァ」

行儀悪く椅子に身を沈め、頭の後ろに組んだ両腕を枕代わりにして。
端から見れば救いようのない裏路地のギャングの組み合わせだ。
さしずめ愛も恋も絡まないボニー&クライドのように。

番外個体「寝顔だけは可愛いもんだよ。締め殺してやろうか縊り殺してやろうか、そればっかり考えてたらいつも朝になるんだ。ミサカが大嫌いな朝に」

そう独り言のように語りながら、番外個体は御坂美琴を見やる。
白服の修道女と共に、未だ網焼きに乗せられていないウニのような頭の少年と肩を組んで一升瓶片手に笑っている。
それをやや眩しそうに見つめるのは、夜空に上がる花火の度を越した光量ゆえか。

一方通行「…コーヒー飲みてェ。取って来い」

番外個体「酒はやらないの?新発見だね。飲めないんだ。悪党気取ってたクセに」

一方通行「どんちゃン騒ぎン中で飲む気になンざならねェよ。早くしろ」

番外個体「あはっ。毒入りでも知らないよ」

そして、ドリンクとアルコールがわんさと詰まれたテーブルへと歩を進める。
熱いのがいいか冷たいのがいいか、それを聞いておけば良かったと思いながら――


いいや、2つ持っていけば


614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:46:35.30 ID:IxCWbF7AO
〜女子会〜

雲川「大将(リーダー)が馬鹿過ぎて生きるのが辛いんだけど」グビッ

白井「目が座ってますの…」

結標「いつもの事じゃない」

絹旗「超好き過ぎて生きるのがツラいの間違いじゃないんですか?」

雲川「意味がわからないんだけど」

その頃、照葉樹林(グリーンティーのカクテル)を飲みながら味噌漬けホルモンを口に運ぶ雲川は文句タラタラだった。
それにこんがり焼いた香ばしいソーセージを頬張りながら合いの手を入れたのは絹旗だった。

雲川「私の話は聞かない。すぐいなくなる。一人で勝手に決めちゃう。もうやってらんないんだけど。うんざりなんだけど。ああ足が痛いんだけど」

心理定規「明日多分むくんでるわよ。特に暴飲暴食が重なると一発よ一発。なんで慣れない浴衣なんて着てきたの面倒臭い」

神裂「慣れると普通の服よりも楽ですよ。私も昔着ていましたしね」

姫神「すごくわかる。ゆったりする」

佐天「いや、焼肉大会にドレスっておかしいですよね?お姉さん達の格好も普通じゃないですよ?」

神裂「(ぷいっ)」

心理定規「(プイッ)」

姫神「グビッ」

佐天「こっち向いて下さい」

御坂妹「着た切り雀のミサカには羨ましい限りです、といいつつミサカは残りの青林檎サワーを一気します」

打ち止め「あの人のシャツはとってもいい匂いがするの!ってミサカはミサカは自慢してみる!」

佐天「(初春に先を越されこんな小さい子にまで…)」

骨付きの牛肉に岩塩をまぶしながら佐天は独り言ちた。
もう夏だと言うのに浮いた話一つないまま終わってしまうのかと。
そしてそんな佐天の横で、子豚の丸焼きの皮をパリパリと食すは――
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:48:11.18 ID:IxCWbF7AO
フレンダ「彼シャツねえ…結局、最近の子は進んでるって訳よ」ムシャムシャ

姫神「あの白い人の?淡希。割って」

結標「白州12年…秋沙、貴女強くないんだからもう少しライトなのにした方が良いんじゃない?吹寄さんからも言ってあげて」

吹寄「そ、そうよ姫神さん…というか私達女子高(ry」

姫神「お清め。淡希。早く」

オルソラ「ラム肉が運ばれて来たのでございますよ」

フレンダ「(結局、巫女服の方がタチで二つ結びがネコな訳よ)」ヒソヒソ

白井「(強気ドSに見えてヘタレ受けはセオリーですの)」モシャモシャ

フレンダと白井である。あの中庭の一件で姫神と結標の関係を知る数少ない人間でもある。
黒ビール片手にはたと二人のやりとりを見やる。ああ、この大人しそうで年下らしい方が力関係は上なのかと。

心理定規「彼もまた大量に頼んだわ…このままだと鹿肉やジビエ(野兎)まで並びそうだわ」

御坂妹「ほとんどお肉屋さんの見本市ですね、とミサカは今更ながら制服に染み付いた焼肉臭に思い当たります」クンクン

神裂「私ももう手遅れでしょうね…ずいぶん酒臭いのも移ってしまいましたし」

オルソラ「それでは焼いてしまいましょう。ジンギスカンでございます」ジュージュー

雲川「言ってる矢先でそれはないと思うんだけど…もういい。やけ食いなんだけど」

白井「そして翌日の体重計を見る度後悔いたしますの…それでも止まらないのが乙女の悲しい性ですの」

佐天「大丈夫ですよ皆さん!赤信号、みんなで渡れば――」

姫神「全滅」

佐天「」

結標「やめなさい秋沙。私はもういいわ。なんか甘いのでしめる」

絹旗「甘いのは超別腹ですからね!」

姫神「太るのは。同じ腹」

絹旗「orz」

結標「だからやめなさい秋沙。貴女酔ってるでしょう?」

御坂妹「ジンギスカンの歌は歌えますか?とミサカは上位個体に無茶振りをします」

打ち止め「…?ジーン、ジーン、ジーンギスカーン?ってミサカはミサカ隣のお姉さんにバトンタッチ!」


神裂「ジーンギスカーン…ふーふふーふーふふーふーふふふふふ…あ、あら?続きはどうでしたっけ?」

そして、色とりどりの花が咲き乱れる向こうでは――
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:50:45.66 ID:IxCWbF7AO
〜花より男子組〜

服部「この中に裏切り者が3人いる」

ドン!とビッグマンの4リットルボトルを前に芝生に座り込みながら服部半蔵は厳かに、そしてキッパリと言い放った。

垣根「何の話だよ。あと焼酎を牛乳で割るんじゃねえ気色悪い。せめてコーラにしろよ」

訳がわからないと言った風体で神戸スタイルのハイボールをあおるは垣根帝督。
キンキンに冷やしたグラスとウイスキーとソーダで自作した氷無しである。

浜面「おい、大丈夫か?しこたま飲まされたな」パシャッ

上条「ま、まだ大丈夫だ…沈利と付き合ってなかったら完全にアウトだったけどな…ビリビリ強過ぎる…」

そしてテーブルに突っ伏したまま緑茶で酒気を追い払おうと務めるは上条当麻。
その隣で物珍しいイケムのワインボトルを携帯電話のカメラで写メるは浜面仕上。

一方通行「リアル電氣ブランだなァ!かかききくけここpwpwujmwmduj死d.dkqwgmg」

番外個体の罠により、無味無臭のウォッカをコーヒーにぶち込まれ壊れているのは一方通行。
演算補助も切られていないのに呂律が回らず、ベクトル操作でアルコールを飛ばす事すらままならない。

土御門「裏切り者って俺の事かにゃー?」

ステイル「まだ生きていたのか」

土御門「夏だからこんがり小麦色ってレベルじゃなかったにゃー」

そしてようやく女子供から離れられ、思う存分タバコを飲んでいるステイル=マグヌス。
そして危うく焼け死にかけながらも生還した土御門元春が豚の生レバーをつまんでいた。

フィアンマ「裏切り者とはなんだ。俺様はお前達の仲間になった覚えはないぞ。そして貴様。その手形はなんだ」

削板「雲川にひっぱたかれた!根性で耐えねば奥歯を持っていかれた!」

フィアンマ「そうか。ところでそのドラゴンはなんだ」

削板「よくぞ聞いてくれた!これは型抜きだ!俺の根性の一作、昇り龍!!」

削板が遊んでいた型抜きの昇竜をしげしげと見やるは右方のフィアンマ。
さらにほっぺたに夜空に浮かぶ花火より真っ赤なビンタを食らったのは削板軍覇だ。しかもとうの半蔵は
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:51:48.38 ID:IxCWbF7AO
服部「俺の!俺の!俺の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

上条「古っ!上条さんだってわかるっつうの!」

垣根「五分も聞いてやれねえぞ。なんだってムサい男ばっかで飲まなきゃならねえんだ。酔いが冷めちまう」

フィアンマ「おいそこの忍者。二分に縮めろ」

白けた様子で垣根が首を傾げる。垣根は醒めるほど酔ってはいないが半蔵の目は座っている。
焼酎の牛乳割りなどと悪酔いしそうなゲテモノを飲みながら、半蔵は叫ぶ。

服部「裏切り者ってのは他でもない…垣根浜面ウニ頭!お前らだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」デデーン!

一方通行「チンピラ・三下、アウトォーあはっぎゃはっforilubmgzl-」

三人「「「オレ!?」」」

削板「避難所の仲間を裏切るとは根性の腐ったヤツらめ!ブッ飛ばしてやる!」ファッ!

垣根「落ち着けナンバーセブン!おら!ポッペン咥えろポッペン!」

土御門「オレじゃなかったんだぜい。でも…ぷぷっ…なんでその三人が裏切り者なのか…くくっ…教えてくれないかにゃー?」

いきなりの告発にギョッとする三人。そこに土御門がビールケースに腰掛けながらニヤニヤと豚タンを味噌で味付けしながらかじっていた。
すでにわかりきってはいたが、敢えて言わせたいのだろう。そこに

フィアンマ「なるほど。女か」

フィアンマの合いの手が入り

服部「そうだ赤いヤツ!お前達三人の罪…それは彼女持ちだって事だ!!」

ドーン!と効果音のつきそうな人差し指を突きつける半蔵の告発に
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:53:41.68 ID:IxCWbF7AO
垣根「はあー?」

耳に手を当てもう一回言ってみろのジェスチャーを送る垣根

上条「ちょっ、ちょっと待てって!上条さんは寝耳に水ですよ!?」

突き出した両手を振って無罪を訴える上条

浜面「そんなこったろうって思ったよ…長い付き合いだしなあ…あっ、赤毛のお兄さんもう一回火貸してもらっていいスか?」

ステイル「ふむ」シュボッ

垣根「オレも吸う。浜面一本くれ」シュボッ

浜面「お前吸うのか」プハー

垣根「飾利と付き合ってから止めてたんだが、酒入るとたまーに吸いたくなる」

ステイル「何を吸っていたんだい?」

垣根「ダビドフ。マグナムな」

ステイル「ああ。そのブランドなら香水は買った事があるよ」

服部「話はまだ終わってねえぞ!」

呆れ顔でマイルドセブンを咥える浜面、火を貸しつつ自分も二本目に火をつけるステイル、そこに垣根も加わる。
もちろん上条も一方通行もフィアンマも削板も吸わないためなんの話かわからないが――

浜面「なんでだよ。郭がいるだろ」

服部「アイツは違う!そういう対象じゃねえ!」

垣根「わかった。あの警備員か」

一方通行「黄泉川かァ?黄泉川なら今頃飲み歩いてンぞォ?三十路間近で女子(笑)飲みだとよォ」

フィアンマ「男の嫉妬は見苦しいぞ」

上条「(完璧に酔ってるもんなあ…弱ったなあ)」

口々に好き放題に言う面々。半蔵曰く、不思議系天然美少女だの、年上の綺麗なお姉さんだの、年下も年下の妹系中学生など持っての他だと。
それを聞いて土御門はニヤニヤし、削板は夜店が買ったガラス風船のポッペンで遊んでいた。だが

削板「なら、ここで根性出して誰かに話しかけてみたらどうだ?」ポッペンポッペン

服部「お前ら分けろ!むしろもげろ!そうだ声かけ―――えええ!!?」

そこで、削板の言葉に半蔵の弾劾が一時止む。そこに削板がさらにかぶせる。

削板「?オレは硬派だからよくわからんが、こういうのは男から声をかけるものなんだろう?」

キョトンとしながらポッペンを膨らませたり吸ったりして遊んでいる。
次はヨーヨーで遊ぼうと思案している合間の何気ない一言だったのだろう。
しかしこんな展開を待っていたのか――

土御門「ここから先は俺に仕切らせてもらうんだぜい!」

全員「!?」

土御門が立ち上がった。

619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:56:49.52 ID:IxCWbF7AO
〜男闘呼組(欠席:青髪ピアス)〜

土御門「という訳で仕切りはオレがやる。異論、異存はないな?」

一方通行「ウォッカに火点けンじゃねえ」←やっと抜けてきた

何故か囲んだ卓の中心になみなみと注がれたバルカンウォッカに火を点け会議を開く土御門元春。
他のメンバーはめいめい好き勝手やりながらその席についている。議題はもちろん…

土御門「服部半蔵を男にする。が、既に収まってしまった麦野沈利、初春飾利、滝壺理后は除かせてもらう」

上条「上条さんは沈利一筋ですよ」

垣根「飾利はオレの花だ。何人たりとも触れさせねえ」

浜面「(言えねえ…まだキスしかしてねえだなんて言える空気じゃねえ)」

頭をポリポリとかく上条。そう、内容は至って単純…半蔵が女の子一人一人を見定め、それを他の男がジャッジし、GOサインを出すか否かである。
そう、一言で言うなれば――『お前ら中学生か』という話である。

服部「じゃあ…あそこのグラマラスでポニーテールのお姉さんだ!!見た感じ年上!やっぱり女は二十代半ばからだろ!」

そこで半蔵が焼酎の牛乳割り片手に指名したのは――『聖人』神裂火織であった。が

土御門「デテーン!半蔵、アウトー」

フィアンマ「ふんっ」ドゴオオオ!

服部「ごっ、があああああああああァァァァァァァァ!!?」

いきなりのチョイスミスにフィアンマの『聖なる右』が尻に突き刺さる。
黄泉川と似たようなスタイル、落ち着いた物腰に惹かれたにも関わらず、だ。

服部「いきなりクライマックスかよ!理由を言ってくれ!」

『聖なる右』で尻をブッ飛ばされて尚立ち上がる時点でもう色々おかしいが、ともかく半蔵は起き上がった。

土御門「理由は二つだにゃー。まずねーちんはまだ18、本人に聞こえたらキレる。でもってカミやん寄りだから脈は薄いんだぜい」

服部「くっ…じゃあ隣に座ってる、あのムチムチした修道女さんだ!顔しか肌が出てないけどそこがまた禁欲的でいい!」

土御門「それもまた外れなんだぜい…オルソラは本物のシスターだ。男性との接触は本来好ましくない上にカミやん寄りなんだにゃー」

服部「…念の為聞く、あの白いシスターは?」

土御門「――カミやんと麦野と暮らしてる。後はわかるな?」

服部「ウニ頭!お前って奴は!お前って奴は!!」ガクンガクン!

上条「上条さんのせいでせうか?!濡れ衣だー!」
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:58:45.87 ID:IxCWbF7AO
いきなりの三枚落ちに上条の肩がガックンガックンと揺すられる。
この場に青髪ピアスがいれば言っただろう。美少女独占禁止法違反で死刑だと。

上条「」

服部「ちくしょう…持って行かれた!」

フィアンマ「不様だな」

一方通行「まさかねェとは思うが、うちのガキ連中名指しにしたら愉快なオブジェでスクラップだかンな。あと超電磁砲も三下寄りだァ」

浜面「女子20人だから…もう半数は声かけらんねえ計算になるか」

垣根「心理掌握も見当たらねえ。残り9人だな」

ステイル「女性を品評するような真似は好ましくないと僕は思うがね…」フー

残すは姫神・結標・吹寄・佐天・黒子・フレンダ・絹旗・心理定規・雲川である。
だいぶ絞り込めたな、と土御門は悪い笑みを浮かべる。本番はここからだと。

服部「悪いんだが…流石に中学生は勘弁してくれ。垣根ほど開き直れない」

垣根「法律もアグネスもクソッ喰らえだ。オレが好きだと言っている。あとあのドレス着た女も確か中学生だぞ」

服部「本当かよ!?ホステスかと思ったぞ!」

浜面「なら絹旗も抜いて…フレンダは微妙だな。グレーか」

土御門「最終的には姫神秋沙、結標淡希、吹寄制理、フレンダ、雲川芹亜だぜい」

土御門がまとめに入る。中学生はアンチスキルのお縄になりたくとの理由から女子高生ばかりがリストアップされた。が

服部「雲川副委員長は外してくれ」

上条「雲川先輩が?」

そこで半蔵が挙手する。まだ1ヶ月半程度の付き合いだが、見えてくるものも確かにあるのだ。それは

服部「(雲川は多分…)」チラッ

削板「なんだ?まだ紅葉が残ってるか?」

服部「いや…ところで削板…お前は雲川をどう思う?」

削板「ん!根性のある女だ!仕事はタフだし、踵落としも大した威力だ!」

服部「…なんでもねー。聞いたオレが馬鹿だった…(雲川が不憫過ぎて泣けてくる…)」

ムシャムシャと焼き鳥のちょうちんを貪る削板を見やりハーと溜め息が出る。
こんな脳内メーカーが『根性』で埋め尽くされているような男が相手では到底無理だ、と雲川に心底同情せざるを得ない。

人を見る目は確かなのに、毒を持つ人間を受け入れるだけの器の広さを持っているのに、何故女心だけわからないのか問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。その上
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 23:59:36.55 ID:IxCWbF7AO
垣根「オラオラ行け行け。骨は拾ってやるからよ」

服部「フラれるの前提かよ!」

さらに垣根が尻を叩き

削板「当たって砕けろの根性だ!涙の数だけ強くなれる」

服部「アスファルトの花じゃねえ!砕けたら意味ねえだろ!」

削板が肩を叩き

フィアンマ「安心しろ。酒だけはある」

服部「優しいけど!優しいけど優しさの捉え方がねじ曲がってんだよ!」

フィアンマが無責任に背中を押し

ステイル「行け。無能力者」プカプカ

服部「そこで使うセリフじゃないだろ!しかも輪っかつくりやがってちくしょう」

ステイルがおざなりなエールを送った。

上条「いいぜ…お前が(ry」

服部「その幻想は殺さないでくれ頼むから!!」

土御門「男は度胸!なんでも試してみるもんなんだぜい!」グイグイ

服部「押すな押すな!押すなー!」

そう――ここから始めるのだ。服部半蔵を
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:02:28.96 ID:TkhEpR3AO
〜空中庭園・温室〜

結標「秋沙、お酒臭い」

姫神「そう?自分では。わからない」

結標「鼻が馬鹿になるまで飲むからよ…これはもう没収ね」

姫神「あっ」

宴もたけなわの最中、姫神秋沙と結標淡希は硝子張りの温室の中に居た。
天空に咲き誇る花火、温室に咲き乱れる蘭の花に取り囲まれながら。

姫神「ひどい。こんな高いお酒。こういう時でもなければ。飲めないのに」

結標「お酒臭い秋沙は嫌い。キスしてても、あんまり嬉しくないわ」

二人の足元には四分の一ほど減った十二年物の白州が転がっており、照明も空調も落とされ暗室と化した視界の中でも――

姫神「じゃあ。もう今日は。キスしない。してあげない」

目元に朱が差し、頬が赤く染まり、首筋から胸元までほんのり上気している。
三角座りの足の間に腰を下ろし、背中から姫神に抱かれる結標。
艶々した黒髪が降りてきて、それが結標の素肌を心地良くくすぐる。

結標「馬鹿ね…私、嫌いとは言ったけれど、しないでなんて言ってないわ」

姫神「淡希はひねくれ者。吹寄さんをおいて。こんな所に私を連れ込んで」

結標「だって」

背後からかかる手に頬を擦り寄せる。滑らかな肌触り。
こうして付き合い始めてから、手先や指先のケアをお互い気を使うようになった。
シャンプーやボディーソープや、石鹸や香水を使うのが一緒になった。
部屋は別々だけれど、寝る時は同じ布団。寝間着を着ている時も、そうでない時もある。

結標「吹寄さんって人と、仲良過ぎて妬けちゃったんだもん…」

姫神「そういう淡希は。吹寄さんとあまり話さなかった。どうして?」

結標「どうして…って言われても」

姫神「吹寄さんの事。好きじゃない?」

姫神の手が結標のシャープな輪郭を滑る。まるで自分が一匹の猫になったような気さえする。
その心地良さに細めていた目を、薄く開ける。答えなくちゃいけないかなと。

結標「そんな事ないわ。秋沙の友達でしょう。いい娘だと思うわ」

握手を交わしただけでわかった。自分とは合わないタイプだと。
好悪の情を抱く以前に、噛み合わないと感じられた。
それは姫神と肌を重ねてからわかった、握手を通した手触り一つで合わないとまで感じられた皮膚感覚の鋭敏化。
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:03:23.11 ID:TkhEpR3AO
姫神「嘘吐き」

スッ…と姫神の人差し指が唇に添えられる。それはいつもの、結標をたしなめる時のそれ。

結標「…やっぱりわかっちゃう?」

姫神「淡希の事は。なんだってわかる。淡希は今。拗ねてる」

スッ…スッ…と唇の上を滑る細い指先。その指を口に含みたい衝動に駆られる。
ふやけるまで舌を絡めて、抗議の意味を兼ねて歯を立ててやりたい。そして

結標「なんだかズルいわ。私は今だって…貴女の事でわからない事だってたくさんあるのに」

姫神「淡希は。私のものだから」

姫神の指先が唇から離れ…代わって手の平が目に覆い被さられる。
心地良い暗闇。伸びをしたくなるほど、気持ち良い暗黒。

姫神「嫉妬。した?」

結標「…したわよ。わざとやってるんじゃないかって思うくらい。友達だって知らなかったら、私なんてもういらないんじゃないかって…考えてしまうくらいに」

結標は以前避難所での映画鑑賞会の時に見たキスシーンのダイアローグを思い出す。
キスの時、目を閉じてする目蓋の裏に広がる暗闇が好きだと。
性格と人格の破綻したヒロインだったが、その部分だけは共感出来た。暗闇でも、優しい暗闇もあるんだと。

姫神「冗談でも。そんな事言わないで」

結標「…っ」

この夏、開けたばかりのピアスごと耳朶を食まれる。
どちらから言い出したかわからない。しかし二人は望んでこれをつけた。
猫(結標)は鎖で繋げない。だからこのピアスは鈴なのだと。

姫神「淡希は。私のもの。違う?」

結標「…違わ…ない…」

姫神「そうじゃない。でしょう」

カリッと歯を立てられる。いっそこのまま奪われたい。しかし今はダメだ。
目出度い席でこのような睦事に耽っているだけで十分背徳的なのに、これ以上を今望んではいけない。
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:04:24.41 ID:TkhEpR3AO
結標「ふっ…ぅんっ!」

姫神「私が。気に入るように答えて」

あの異能者集団の中にあってさえ、結標は強い。
少なくとも並みの魔術師に引けを、並みの戦士に遅れは取らない。
しかしそんな自分が、戦う力一つ持てない少女に指先一本すら自由にさせてもらえないという現実。

姫神「また。こんな格好をしてる」

結標「だって…暑…」

姫神「誰が。口答えをして良いと。許したの」

結標「やっ…ぁ!」

丈の短いスカートから伸びる太股に指先が滑る。調律される楽器も同然だ。
姫神という奏者を得て、結標は歌う。時に高い声で、低い呻きで、甘い囁きで。

姫神「腰を冷やしたら駄目なのに。何度注意しても止めない。私は。私以外に。淡希を見て欲しくないのに」

結標「そんなの…私の…自由じゃない」

耳朶の輪郭を、耳朶の溝を、耳朶の穴を濡れた舌がくねり、這い、押し当て、滑る。
吐息をどこに漏らして良いかわからない。空気を吐き出しているような喘ぎ。

姫神「それでも。淡希を自由にしていいのは。私だけ」

姫神もやはり酔いが回っているのか常より饒舌であった。
それは結標の持つある種の嗜好と、姫神の持つある種の志向が合致している事に由来する。

姫神「淡希は。私に逆らえない」

結標「…噛みつくわよっ」

姫神「させない」

結標「…!」

フレンダが評したように、両者の力関係の天秤は常に姫神にその比重が置かれる。
年下であろうと、戦闘力がなかろうと、そんな価値観が意味を為さない観念。
上条と麦野が完全に同等の立ち位置ならば、姫神と結標は完璧な上下関係。
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:07:18.29 ID:TkhEpR3AO
姫神「淡希はいつもそう。気を引きたくて。悪さをする猫と同じ」

結標「ダ…メ…耳に…息…かけないで」

姫神「今だって。こんな話は外でも出来たのに。わざわざこんな所まで。来たのだって」

先程まで一方通行と焼き肉をつついたり、女同士の輪の中で笑っていた結標淡希はもういない。
ここにいるのは、半ば望んで、半ば期待して、甘い痛みと痺れに苛まれる事を選んだ、姫神秋沙の半身。

姫神「私に。こうして。構ってほしいから。そうでしょう?淡希」

結標「…貴女が!貴女が吹寄さんとばっかりいて…私の事、全然見てくれなかったからじゃない!」

姫神「そう。私が悪かった。だから。吹寄さんを。悪く言わないで」

それを姫神は正しく理解している。それはこのひと月で深い所まで進んだ。
例えるなら、たまの休みを二人が揃って取った時――

結標『どこか行かないの?』

結標は決して『どこに行きたい?』『どこか連れて行って』とは口にしない。
遠回しで、回りくどくて、素直に思った事を口にするのが負けとでも思っているようで。だから――

結標「…また、吹寄さんを庇って…」

姫神「…安心。して?淡希」

望む形で、そのプライドを崩す。プリンの山にスプーンを入れるように。
吹寄に対するそれすら、実のところは姫神が自分に向ける注意や視線を逸らして欲しくないから。
しかし間違っても自分の口からはそれを言いたくないから。言えば認めた事になるから。

姫神「もう。淡希を置いて。どこにも行ったりしないから」

結標「…絶対よ?絶対だからね?秋沙」

姫神「うん」

そう慰めながら、正面を向かせて抱き締める。吹寄には後で謝っておこうと姫神は思った。
まさか拗ねた恋人をなだめていました、などとは流石にまだ言えないから。

姫神「本当に。淡希は猫」

一ヶ月前の事件から、結標は子猫が親猫を探すような目で見る事が時折ある。軽いトラウマなのかも知れない。

結標「猫だって…構わない。私は秋沙の…猫でいいから」

いじり過ぎると怒るくせに、ほったらかしにされ続けると拗ねる。
ご飯も気まぐれに食べたり食べなかったり、気が付くと布団に潜り込んで来たり――

結標「秋沙の…飼い猫でいいから――」

本当に、可愛いなと思った。

626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:10:29.37 ID:TkhEpR3AO
〜酒と泪と男と女〜

服部「うおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」

上条「…なんてこった…」

一方その頃…相も変わらず焼酎の牛乳割りを片手にテーブルに男泣きに泣くのは服部半蔵であった。
それを見やるのは同じ卓についた上条当麻と男子一同である。
視線の集中する先は号泣する服部…その原因は――

フレンダ『結局、ごめんなさいって訳よ!私、麦野好きだし』

まず、真っ先に声をかけた脚線美も眩しい金髪碧眼の美少女に一刀両断され――

吹寄『上条当麻!姫神さん達どこ行ったか知らない!?あっ、ごめんなさい話の途中で…ところで何の話ですか?』

次いで、オルソラ・神裂についで豊満なバストの女子高生はそれどころですらなく…残る姫神と結標は見当たらない上に――

白井『姫神さんですの?姫神さんなら恋人がいらっしゃいますの(嘘は言っておりませんの!)』

麦野『あー…案内人?もう好きな人いるんじゃなかたっけ…たしか(中庭と図書館で見ちゃったけどフレンダの借りの件があるから本当の事言えないしねー)』

つまり…半蔵は勝負の前から決着が着いてしまっていたのだ。
せめてもの救いは、皆それぞれの事情で優しい嘘をついてくれた事くらいか。
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:11:39.41 ID:TkhEpR3AO
服部「おーいおいおい…おーいおいおい!!!ちくしょお…ちくしょおおおお!」

フィアンマ「光栄に思え忍者。付き合ってやろう」

垣根「女に泣かされんのも男を磨く事になるんだ。飲めよハットリくん」

削板「こん…とは言えんな!流石に!!」

浜面「半蔵、注いでやるよ」

ステイル「………………」つ【タバコ】

土御門「し、鹿肉が運ばれて来たから焼いてやるんだぜい!ほーらディアステーキだにゃー、香ばしいんだにゃー?」

服部「お、お前ら…!」

垣根「いいって事よ。オレが本当の愛を見せてやる」バサッ

服部「!?なに羽出してんだ?!」

一方通行「くっだらねェ…」

上条「そげぶ!」ガッ!

一方通行「なにしやがンだ三下ァ!」

フラれた経験はおろか恋愛経験すらあるのかないのかわからない一方通行を除いて皆が服部に同情した。
この結末は流石の上条当麻ですら救えない。土御門など思いもよらない惨劇にステーキまで焼きはじめる始末だ。
垣根にいたっては何をするつもりなのか白翼をはためかせている

上条「(ホント…帰って来たんだよなあ学園都市)」

思わず、頭上の花火と、眼下の祭り囃子と、周囲の面々とを見渡す。
しみじみと、実感する。帰ってきたのだと。学園都市に

一方通行「なに黄昏てやがンだ三下ァ…似合わねェぞ」

上条「悪い悪い」

それを一方通行が突っ込む。間もなく上がる最後の花火に、思わず『去年の記憶』が蘇る。
『子供の頃に家族と見た』どんな花火の記憶より、鮮やかなそれを――
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:14:23.42 ID:TkhEpR3AO
〜ですぺらーどのつまたち〜

麦野「…………………」

初春「どうかしましたか?」

滝壺「むぎのが、アンニュイ」

麦野「別にー?」

その様子を見やるは女三人。麦野沈利、初春飾利、滝壺理后の三人である。
麦野の手には強めのウォッカで作られたブラッディシーザーがあり、初春は二杯目のヴァージンブリーズ(ノンアルコール)、滝壺はメロンアイスのシャーベットだった。

麦野「ただ、男なんていくつになっても馬鹿でガキだな、って」

初春「あははは。そうかも知れませんね」

滝壺「私達、ほったらかし」

三人揃って妙な貫禄とゆとりがあるのは、海千山千の死線を超えてきた故か。
問題だらけの危なっかしい男ばかりの側にいるせいか、奇妙な共感がそこにはあった。

滝壺「籍を入れるって、本当?」

麦野「そうね。年上に生まれてちょっと後悔」

初春「上条さんの方が、年下…だからですか?」

麦野「それもある。アイツが高校出るまでがすごく長く感じられる」

滝壺「でも、ちょっと驚いてる。むぎのは、そういうタイプじゃない気がしてた」

麦野「言うようになったじゃない。滝壺」

らしくもないと自分でも思う。だが、麦野にとってそれは恋や愛という甘い成分は少ない。
今口にしているアルコールのように、やや辛い舌触りですらある。それは

麦野「…私達は、いつ死ぬかわからないから」

初春「………………」

麦野「…アイツの生き方は、命がいくつあっても足りないから。ここまで生き延びてこれたのがもう奇跡みたいなもんね」

滝壺「………………」

麦野「最初はね、思ったの。もし子供でも出来たら危ない事止めてくれるんじゃないかって。でも、無理よね。人殺しの私に子供なんて産めない。産める気がしない。私のエゴのためにそんな事出来ない」
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:16:21.94 ID:TkhEpR3AO
酒には強い方だが、やや酔っているのかも知れないと思った。
しかし『人殺し』というキーワードを聞いてなお、初春は動じない。
もしかすると、本当に全てを知っていて素知らぬ顔をしているのかも知れない。
逆にそれくらい強かで腹が黒くないと垣根の側になどいられないかも知れないと麦野は思った。

麦野「だから――籍だけは入れたい。私達のどちらが先に欠けても、同じお墓に入れるように」

滝壺「…もっと、甘い生活してると思ってた」

麦野「あら?私は今でも十分幸せにしてもらってる。暇さえありゃイチャイチャしてるし、いつかゆっくり旅行だってしてみたい。やりたい事、まだまだたくさんあるよ。クソガキもいるし」

滝壺は知っている。上条と麦野の出会いは殺し合いから始まった。
心の闇全てをぶつけるような殺し合いを三度も繰り返した果てに、麦野は上条の生き方を認めた。そして結ばれた事を

滝壺「旅行って言えば、はまづらが海行きたいって誘われた」

麦野「うわー絶対アンタの水着目当てだよ。下心にもパンツ履かせろってんだ」

初春「ぱ、パンツって…!」

麦野「男なんてみんなスケベよん」

麦野は思う。こんなネガティブ思考に陥っているのを知られたらまた説教されるんだろうなと。
もちろん上条は麦野の悲愴なまでの決意を知らない。麦野もそれを語る事はない。
ただ、その程度の覚悟すらなければ寄り添い続ける事など自分は出来ないと知っているから。

麦野「(あーあ…ホント)」

心中で微苦笑を浮かべる。あの男は何度だって自分を救う、守る、助ける。
お姫様(初春)の傍らにいる王子が垣根なら、女王(自分)の側にいる騎士は上条だと誰よりも信じているから。

麦野「(馬鹿な男に…惚れちゃったなー)」
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:21:15.49 ID:TkhEpR3AO
〜空中庭園・天蓋〜

白井「先程はお楽しみでしたの」

結標「ブッ」

白井「吹かないでいただけません事?淑女の範にもとりまーすのー♪」

温室から戻って来た結標淡希は、姫神秋沙と共にいた事を勘ぐられないよう時間をずらすべく庭園内をぶらついていた。

その直後である。カルピスを片手に空中庭園内を散策していた白井黒子と遭遇したのは。

結標「いっ、いつから見てたのよ!?」

白井「あら?わたくしほんの戯れに口にしただけですのに…まさか本当にそうでしたの?」

結標「うっ…」

白井「(軽いかまかけのつもりが大当たりですの)」

二人はガーデン内の天蓋のアーチ部分に並んで腰掛けていた。
結標の手には姫神から没収した酒瓶が、白井はコップにペーパーを添えて指先を濡らさぬようにして上品に飲んでいた。
こういう振る舞いの一つ一つが、確かにお嬢様学校の生徒であると今更ながら思い返させる。

白井「はあはあいけないお人ですのはあはあわたくしもお姉様と是非とも薔薇の園で同衾したいと言うのにはあはあお姉様はちっとも靡いて下さいませんのはあはあ」

結標「ちょっと!息が荒いわよ!本当になんでもないったら!」

白井の理想としては薔薇の園らしいが、結標の現実としては百合の城だ。
しかし現実には蘭の温室という。そして硝子張りの暗室から見上げた夜空は奇しくも満月。二人が共闘したあの日の夜そのままに。

白井「そうですの?わたくしてっきり、耽美で退廃的な、愛欲にまみれ爛れた逢瀬を想像しておりましたのに」

結標「残念ね。私はこれでも健全な関係を築いているつもり。手遅れの貴女とは違うのよ!」

白井「その割に、先程よりご機嫌斜めでないようで何よりですの」

結標「下世話な娘ねっ」

白井「お互い様ですの」
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:23:01.60 ID:TkhEpR3AO
空中庭園内を走る水路と、数々の草花と木々の香りが夜風に舞い上がって二人の鼻腔をくすぐる。
この二人の救いようのない所は、これでまだ自分だけは健全で健康でいるつもりでいる感性だろう。

白井「はあー…お姉様は相変わらずあの殿方にお熱ですの。全く、どこが良いのやらわたくしにはさっぱりですの」

結標「第四位の男でしょう?一見平凡に見えるけど、あの連中の中で普通にいられるんだからもうまともじゃないわよね」

白井「おかげさまで…お姉様との熱い夏がもう半分を消化してしまいましたの。短冊にあんなにお願いを書きましたのに…“お姉様と結ばれますように”とほんの15枚ほど」

結標「…織姫と彦星も苦笑いね。欲張り過ぎるのは淑女の範からもとるんじゃないの?」

白井「途中でお姉様に止められなければあと倍は書けましたの!」

結標「よくやったわ超電磁砲(レールガン)」b

そう話しながら無意識の手がピアスを開けた耳朶に触れ行く。
そうする事でいつも姫神が感じられるような気がするから。
最初は揃い指輪も考えて…止めた。何故だか指輪では緩く軽く感じられたからだ。

結標「(やっぱり私達って歪んでる?)」

自分の身体の一部に穴を開け、そこに相手の贈り物を身につける。
その事に覚えた奇妙な安堵と充足感。それを姫神に伝えた時、意地悪く浮かべられた笑みを思い出す。

姫神『淡希は。マゾだから』

端から見れば、確かに爛れているのかも知れない。
自分達には砂糖水のような恋も、純水のような愛も似合いそうになかった。
世間一般のカップルがどうであるか、自分達のような同性のペアがどうであるかもよくわからない。いつだって自己流だ。

姫神『大丈夫…そんな淡希が。私は好き』

そう囁かれて愛でられると、不思議な優越感と二人しか知らない秘密を共有している気分になる。
それは支配という名の庇護を受けているからだとも自己分析している。
一時、結標淡希である事から解放されて相手の所有物になれる事。

結標「あー…不健全で不健康で不道徳な関係だわ」

白井「お酒と同じですの。飲み過ぎは身体に悪いとわかっていても、酔いを求めて人はそれを口にいたしますの」

結標「…貴女、本当に中学生?」

白井「ですの」
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:29:24.33 ID:TkhEpR3AO
それでも真っ直ぐ歩けているのは、あの時から自分の中に生まれた真っ直ぐな芯があるから。
折れず、曲がらず、捻れない直向きな想い。今ならわかる気がした。白井黒子のごく一部が、自分の中のごく一部が、重なる。自分達にif(もし)はないとわかっていても


白井「――結標さん?」


風が吹く。天蓋の下に咲く花々を乗せて


結標「――何かしら?」


二人の髪を揺らす、あの夜のように


白井「――一度で、よろしいので」


戻らぬ刻の針が、逆回しされるように


白井「わたくしの事を――」


朧を描く蒼月が、夜風に流された雲に隠れる


白井「“黒子”…とお呼びいただけませんこと?」


そう、もう地上からは誰にも見えず、そして空からは神様すら覗けない。


結標「――いいわ」


木々がざわめき、草花が煽られ、一陣の風が吹く


結標「―――“黒子”―――」


そう、自分達にif(もし)はない。


白井「…ありがとう、ございます…」


しかし――こんな夜風の中に、ありえたかも知れないif(もし)を見てしまうから――


白井「――すっきりいたしましたの!」


だから、白井黒子は微笑む。小悪魔めいたウインクと、天使のようなスマイルで

結標「――私もね」

そして――その時

ヒュウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…

結標「あら」

白井「大玉ですの」

地上から天空へと昇り行く流星雨が見えた。かなりの大玉の予感がした。
その赤い大玉は高く高く高く…限界点まで打ち上げられて行き――

ドオーン!ドオーン!ドオーン!ドオーン!


――『I L O V E K A Z A R I』――


ドオーン!ドオーン!ドオーン!ドオーン!

結標・白井「「!!?」」

夜空に、ナイアガラの滝と一緒に大文字で真紅の閃花が咲き乱れた。
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:32:00.92 ID:TkhEpR3AO
〜宴の終わりに〜

全員「「「なにやってんだ第二位ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!」」」

夜空に浮かぶ『I LOVE KAZARI』の未元物質で生成された超特大大玉で放たれた花火に一同からツッコミが入る。
ただ一名、Christian Diorのモード系スーツに身を包んだどや顔の男を除いて。

垣根「言ったろう?俺の愛に常識は通用しねえ。花束より気が利いてんだろ?」

一方通行「気が利いてンじゃなくて気が違ってンだろォがァ!?むしろテメエの頭がお花畑(メルヘン)なンだよ!!!」

こんな事になるなら復活出来なくなるまで擦り潰せば良かったと後悔するは第一位(アクセラレータ)

御坂「ごめん垣根さん…これはないわ」

垣根「安心しろ。自覚はある」

こんな奴が自分より序列が上かと思うと酔いすら醒めるのが第三位(レールガン)

麦野「キモい!キモいィィィィィィ!夏なのに鳥肌止まんねぇぇぇぇぇぇ!」

垣根「舐めてやがるなテメエ。ムカついた」

こんな男は絶滅すべきだと止まらない鳥肌をかきむしるは第四位(メルトダウナー)

心理掌握「      」

青髪「アリかナシで言うたら…アウトや」

口をポカーンとさせるは第五位(メンタルアウト)と第六位(ロストナンバー)

削板「いいぞ第二位!オレは今猛烈に感動しているぞ!」

垣根「ありがとうありがとう」

ズレた感性で涙を噛み締めるは第七位(ナンバーセブン)

滝壺「ダメ。これ以上いけない」

クワッと目を見開いて夜空を見上げるは第八位(AIMストーカー)

結標「…抜けようかな、レベル5…」

こめかみを押さえて目眩に耐えるは第九位。そして――

垣根「どうだ飾利!序列は二位だがお前の一位はこのオレだ!」

初春「垣根さんっ…!」

全員「「「うるせえェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」」」

これ以上ないどや顔の第二位(ダークマター)

上条「………………」

そして一斉に始まるレベル5によるリンチで垣根は笑いながらボコボコにされた。
全てをやり遂げたような、一片の悔いも残さぬイイ笑顔のまま。

上条「父さん…母さん――」
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:34:10.22 ID:TkhEpR3AO
吹寄「な、なんなのアレ」

同じ物などない繰り返しの日々の中で

神裂「に、日本の夏が…」

白紙の行き先へ駆け出すように

服部「見せつけやがってちくしょおおおおおお!」

二本の足で大地を蹴って

御坂妹「悪趣味極まりないですね、ミサカは思い出の付箋をつける事を止めにします」

時に雑踏の中孤独を感じても

絹旗「超キモいです超台無しです」

人は自分以外の何者にもなれない。

心理定規「私、“スクール”辞めるわ…」

暗い夜を飛び越えて

黄泉川「はっはっは!誰かが馬鹿やってるじゃん!」

空に手を伸ばして

ステイル「ふん…馬鹿馬鹿しい」

小さく儚い願いを抱いて

雲川「風流もへったくれもないんだけど」
悲しみに負けずに

フレンダ「ファンタスティック!な訳よ!」

明日を求めて

打ち止め「あれいいな!ってミサカはミサカはあなたのお膝に飛び乗ってみる!」

新たなページに今日を刻んで

オルソラ「あらあら…まあまあ」

何度も道に迷って

佐天「初春逃げてぇぇぇぇぇぇ!」

広がる景色に戸惑って

小萌「お熱いのですよー!」

手にした答えに何度も問い掛けて

土御門「オレもアホだがここまで出来ないんだにゃー」

そして案外簡単な場所にそれを見つける

絶対等速「なんで祭りの日まで働かないないと行けねえんだよぉぉぉ!」

迷った時は思うがまま進め

寮監「来年こそ嫁げますように…と」

焦がれるように手を伸ばせ

姫神「これは。やりすぎ」

かけがえのない幸せの瞬間へ

禁書「すごいおっきい花火なんだよ!」

同じものなどない――希望(マスターピース)へと――

上条「学園都市は、今日も平和ですよ…っと!」


とある夏雲の織女星祭(サマーフェスティバル)・終

635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:37:58.47 ID:TkhEpR3AO
>>1です…二時間かけて投下は初めてです…お付き合いいただきましてありがとうございます。

蛇足などはまた明日に…たくさんのレスをありがとうございました。
少しでも読んでいただけた皆様に恩返し出来たならこれ以上の喜びはありません…では今夜はこれにて失礼させていただきます。
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 00:39:49.19 ID:D1P7uOJBo
お疲れ様。
そして盛大にGJ
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 00:41:29.60 ID:4hq9eUnAO
楽しい時間をありがとう!
乙でしたー
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 01:01:59.18 ID:ZrzvmLBvo
お疲れー
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 01:46:22.07 ID:TkhEpR3AO
>>1です。二時間に渡る投下にお付き合いいただきましてありがとうございます。
投下終了という事で、少し蛇足を…

今回のテーマは『お疲れ様会』でした。もう無責任なくらいはしゃぐシーンというのが書いて見たかったので…

前作では書けなかった心理描写や、登場自分の視点がコロコロ変わるものが書いて見たかったため、とても楽しかったです。

気がついて振り返ってみれば、

姫神×結標(恋人)
上条×麦野(婚約済み)
垣根×初春(兄貴分と妹分)
雲川→削板(お利口さんとお馬鹿さん)
青髪→心理(友達)
白井→←結標(???)

とどマイナーな組み合わせばかりですね…次はセーブしないドロドロしたものが書いてみたいです。それでは今度こそ失礼いたします…
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 01:54:28.09 ID:NGRq42jD0
なんというお祭りwwwwwwwwwwww最高でした!

マイナーでもいいじゃない、上麦はジャスティス
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 05:00:33.35 ID:JBOdluwAO
この物語の終了に一抹の寂しさを感じずにはいられないけど、それでも無事に完結したことは読者としては素直に嬉しいな
ここまで本当にお疲れ様。次の物語を楽しみにしてるよ
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 07:52:19.94 ID:QoTCjkqDO


偶々http://www.youtube.com/watch?v=fL96Da52zyE聴きながら読んでたら、雰囲気が逢い過ぎて、合い過ぎて
覚醒都市をBGMに、ひとつひとつの場面が、騒がしく、笑顔の面々がゆっくり横スクロールで流れていくEDだった。
面白かった。ありがとう


643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 08:10:14.84 ID:K1CGmFdAO
垣根wwwwwwwwwwww
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 11:07:39.54 ID:O7agUyiLo
面白かったよ
>>1
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 13:50:18.15 ID:pViWFWNLo
最後の最後でなんともカラフルな。
シンドラーのリストみたいに単色だった物語が自ら色を付けて行ったような
すごく不思議な感触がしたよ。
昼間っから酒を飲ませる要因になった座標殺しに乾杯だねえ。
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 18:00:48.89 ID:A9EhtDTLo
結局、乙な訳よ
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 01:42:02.05 ID:3OB1ycdSO
1乙!楽しかったよ!
それにしても、まさかの青ピ掌握…だと?
……有りだなっ!ここの綺麗な青ピになら任せられるわ。

次回作にも期待してるよー。
個人的には偽善使いのスピンアウト的な感じで
垣根初春の今に至るまでを観てみたいな。
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 10:03:29.74 ID:f69tlyxAO
やっぱていとくん最高だわwwwww
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 15:13:32.08 ID:cbWD2nXAO
>>1です。たくさんのご感想レスありがとうございます…ただいま絶賛ニヨニヨしております…ありがとうございますありがとうございます…

ていとくんと初春にレスが来ているようなので、今夜九時に短編を投下させていただきます。
偽善使い(フォックスワード)から座標殺し(ブルーブラッド)の狭間の話になります。
こちらの事情で投下せずお蔵入りしていた短めのお話ですが、垣根と初春がどうして仲良くなったかを想像出来るくらいのストーリーです。

タイトルは『とある月華の未元保存(エンジェルアイズ)』になります。よろしくお願いいたします。
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 17:28:38.57 ID:+cT8CraU0
ぃやっほおおおおおおおおおう!いい子にして待ってます
651 :とある月華の未元保存(エンジェルアイズ)1 :2011/02/07(月) 20:57:33.67 ID:cbWD2nXAO
最初に見た色は禍々しいまでの『白』だった。

染色とも脱色とも異なる、天然の白。ただしそれは純粋でも純白とも純色とも違う、雪のような冷たさを孕んだ熱のない『白』

それは自然界の中に身を置けばたちまち外敵の、たちどころ天敵に喰われるだけの存在。

それはガキの頃読みかじったサイエンスブックにあった、餓鬼の頃読み漁ったブルーバックにあった単語。


『アルビノ』――真っ先に脳裏に浮かんだのはそれだ。


それが神の悪戯が生んだ先天性のものなのか、神の因子が働いた後天性のものなのか、それはわからない。アルビノかどうかすら、それすらどうでもいい。

アルビノとやらは神代より古来、古来より現在に至るまでその神々しいまでの御姿を以て『神の使い』と評されて来た。

なるほど――『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(SYSTEM)』への第一歩、レベル6(絶対能力者)に到達出来る唯一の可能性と言われただけの事はある。



テ メ エ が い る か ら 



652 :とある月華の未元保存(エンジェルアイズ)2 :2011/02/07(月) 20:59:02.68 ID:cbWD2nXAO
最後に見た色は神々しいまでの『黒』だった。

肉を切り裂き、骨を押し潰し、内臓を食い破り、血管を引きずり出す。

死を宿した毒牙の萼に飲み込まれ、堕ちた先が地獄ならそれはそれで悪くない。

地獄の魔女が口説けるかどうか試してみるのも一考の価値はあったろう。


だが――問題はその『相手』による。


なるほど。テメエが『神にも等しい力の片鱗を振るう者』か。

なるほど。オレが『神が住む天界の片鱗を振るう者』か。

なるほど。『皇帝』の風上に立つのは確かに『神』しかいねえ。だがしかし

『神』に似せて作られた『人間』の下に立つ事を良しとしなかったから『天使』は天界に対して反旗を翻した。

泊まり歩いたホテルにいつだってあった十字教の聖書にはそうあった。

連れ込んだ名前も知らねえ女がシャワーを浴びている時戯れに手に取り、それを知ったからだ。

この学園都市(セカイ)の『神』は誰だ?統括理事長だ。アレイスター・クロウリーだ。

第二位(おう)より上に立つ第一位(かみのつかい)は誰だ?テメエだ。

『神』に弓を引き、曙の明星から奈落の底へ叩き落とされた反逆の天使は誰だ?オレだ。



テ メ エ さ え い な け れ ば


653 :とある月華の未元保存(エンジェルアイズ)3 :2011/02/07(月) 21:01:12.02 ID:cbWD2nXAO
人間の意思はどこに宿る?

クリスマスケーキみてえに三分割された脳味噌か?

人間の意志はどこに宿る?

ぶっ潰されて馬鹿デケエ冷蔵庫で補われた心臓か?

命だ

心だ

魂だ

――くだらねえ。

死はただの現象で

現状で

現実だ。

人間は戸籍の書類と印鑑の捺印で出来てる。くたばった後は文字と数字しか残らねえ。

命は軽い。死は重い。この学園都市(セカイ)じゃ驚くほどに。

枯れるより早く

散るより速く

種も残さず

実も結ばず

花も咲かせず

蕾のまま踏みにじられる。

そうやって生きて

そうやって死んでいったはずだった。



垣 根 帝 督 ( オ レ ) は 



654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 21:03:42.82 ID:cbWD2nXAO
垣根『なんで――テメエがここにいる?』

初春『――1人くらい、花を手向ける人がいたって…いいじゃないですか』

二度目の出会いは、なんて事のないありふれた墓地。

垣根『なんで――オレはここにいる?』

『Teitoku Kakine』と刻みつけられた墓標の前で巡り会った。

風斬『私はどこにでもいて、どこにもいないんです』

歩く死人(ダークマター)、揺蕩う亡霊(カウンターストップ)

風斬『――貴方と同じです』

死んだ事になっている『人間』、存在しているだけの『幻影』

姫神『これは。マリーゴールド。太陽に恋をした少女の花。花言葉は二つ。一つは“濃厚な愛情”』

降り積もる雪の中、轢殺され事切れた犬の前に花を備える少女。

姫神『――もう一つの花言葉は。――“絶望”』

垣根『なるほど…太陽に鑞の翼を溶かされたイカロスにはお誂え向きの花だ』

進む道も、行く先も、帰る場所もなくただ雪の中路地裏から空を見上げていた。

上条『艦長…さん?』

垣根『帝督…つったろ』

かつて雨の中連れ帰った男に、雪の中引き上げられるという皮肉。

麦野『…あれー?あれー?死んだ、って聞いてたんだけど…あれー?』

垣根『…お前が、上条の女だったのか』

かつて物別れに終わった女は、その男の傍らに寄り添っていた。
655 :とある月華の未元保存(エンジェルアイズ)5 :2011/02/07(月) 21:06:11.17 ID:cbWD2nXAO
冥土帰し『僕としては、一刻も早い入院と調整を提案させてもらいたいんだけどね?』

垣根『これが“人間”だなんて呼べる代物か?少なくとも、オレはオレを“人間”とは呼びたかねえな』

死者すら呼び戻すと呼ばれた命医を以てしても括れない“人間の定義”

禁書『だーくまたー?』

垣根『そうだ。オレの肉体の9割を構成している。だから上条。お前の右手でオレに触れるなよ』

生き延びたのか、死に損なったのか、それすらもあやふやな存在。

結標『赤と黒、よ。スタンダール。貴方って白と黒をハッキリわけないと気が済まないタイプ?』

垣根『白黒(決着)つくまで止められねえんだよ』

生きて行く内で最も必要ない学問は哲学だと思ってたんだがな。

一方通行『いっぺン試してみたかったンだよなァ…人間ってのはァ二度殺せるかどうかってよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』

垣根『潰すなら頭だ…今度こそ仕留めろよ一方通行(アクセラレータ)ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

そう――思ってたんだがな。


初春『――もう、“垣根帝督”は死んだんですよ』


死神にすらフラレれちまった最期に、辿り着いたのは――


初春『――だから、ここから生まれ変わるんです』


ああ

なんだ

お前だったのか


初春『生まれ変わって下さい…垣根さん』


オレが探していたのは



656 :とある月華の未元保存(エンジェルアイズ)6 :2011/02/07(月) 21:09:42.92 ID:cbWD2nXAO
〜織女星祭・月灯りの空中庭園〜

垣根「うっ…」

初春「気がつきましたか?」

八月七日…22:02分。織女星祭が終わり、グリルパーティーの撤収作業に駆け回る足音と共に、垣根帝督は目を覚ました。
二人はその中心からやや離れた、月下美人の咲き誇るガーデンのベンチにいた。

垣根「うおおお痛え…オレじゃなきゃ死んでるぞマジで」ムクッ

初春「あっ、きゅ、急に起き上がっちゃダメですっ!」ぽふんっ

垣根「ぐえっ」

開かれた双眸に飛び込んで来た最初の光景は自分の頭を膝に乗せた初春飾利。
開かれた双瞳に映り込んで来た最初の風景は、闇夜に皓々と幻暈を描く銀月。
跳ね起きようとした上体を初春に押さえ込まれ、再び膝の上に引き戻される。

初春「ごっ、ごめんなさい垣根さん…でもこういう時いきなり起き上がったら身体に良くな…」

垣根「ずいぶん強引になったな飾利。出来りゃあ膝なんかより――」

初春「ダメです!」ペチーン!

垣根「って!」

ベンチに身体を横たえ垣根の頭を膝に乗せていた初春から、額をペチンと掌で叩かれる。
寝起き早々に頭が痛い。こんな事ならしばらく狸寝入りしてやれば良かったと思わなくもなかった。

垣根「今のが一番効いたぞ…」

初春「ううっ…垣根さんがエッチな事言うからですよぉ…」

垣根「痛ててて…あーしこたまボコられたな。やっぱ酒入ってると喧嘩にならねえ。マジでムカついた。これ新作なんだぞ」

身体の節々が痛む。未元物質による大玉花火の後レベル5全員から食らったフルボッコリンチが夜風に凍みてならない。
Christian Diorのスーツにも靴の足跡がついている。
黙ってさえいればモデルでも一級品のイイ男が形無しである。しかし
657 :とある月華の未元保存(エンジェルアイズ)7 :2011/02/07(月) 21:11:06.51 ID:cbWD2nXAO
垣根「(――まあ、悪かねえか。痛みを感じられる身体を取り戻しったてのもよ)」

温かみも痛みも通わない身体から脱する事が出来た。
脈打つ心臓を取り戻し、二度目の『生』を手にした。
初春の言うところ、『生まれ変わって』。

初春「(もう少し…見てたかった…な)」

垣根が数ヶ月前の出来事を夢を通して想起し、目覚めたばかりの頭で懐古している頃、初春はまた別の事を考えていた。

初春「(垣根さんの寝顔…)」

初春の知る垣根の表情を収めたフォルダーの中にも、寝顔と言う種類は少ない。
先程話した麦野沈利と上条当麻ほど夫婦然とした暮らしはしていないし、滝壺理后と浜面仕上ほどプラトニックな関係にすら及ばない。
二人はまだ頬に巫山戯てキスをするか、やっと慣れて来た手を繋ぐと言った所のピュア加減だ。
寝顔を知るという関係には遠くいたらない。そして

垣根「なーに呆けてやがる。子供はおねむの時間か?」

初春「ひゃっ」

眼下から伸びて来る手が初春の頬に触れる。ビクン!と跳ねる身体を頭越しに感じて、垣根が笑う。

垣根「ポヤーっとしやがって。おはようのキスはくれねえクセに、おやすみのキスが欲しいか?」

初春「ちっ、違います!違いますってば!」

父親にだってこんな事はされた事はない。少なくとも同年代の周りの男子学生にこんなタイプはいない。
『大人』と『お兄さん』の狭間にいるような、そんな異性に触れて平静でいられるほど経験値など積んでいない。
もう何回寿命が縮まっただろう。早鐘を打つ鼓動が控え目な胸から聞こえてしまいそうで。

白井『お気をつけあそばせ初春。あの殿方からは遊び慣れているオーラが見えますの。流されても誘われてもいけませんの!』

御坂『あー…あの手のタイプは女の子を砂糖漬けにして虫歯にしちゃうタイプだと思うわ』

佐天『垣根さんと付き合ってから初春がスカートめくりさせてくれなくなった!』

未だ異性との恋愛経験がない三人からの注意書きである。
どこまで当てになるやらならないやらわからないが――
658 :とある月華の未元保存(エンジェルアイズ)8 :2011/02/07(月) 21:14:37.19 ID:cbWD2nXAO
初春「じゃ、じゃあ!もしですよ?もしもの話ですよ?もしもですからね!?」

垣根「?」

ごくっと息を飲む。震えそうになる指先をギュッと握り込んで。
夜で良かったと思う。顔が茹でたパプリカのようになっている今なら尚更――

初春「も…もっ…もし、私っ…から」


キスして下さいって言ったら――垣根さんはどうするんですか?


垣根「………………」

ヒョイと垣根が身体を起こす。今度は制止しなかった。
こめかみから眼球の毛細血管の隅々まで血が通うような感覚。
胸が熱くなって、頭の芯が熱を帯びる感覚。

初春「ひうっ…うぅっ…」

ギュッと目を閉じる。怖いのかドキドキしているのかわからない。
空気が動く。どこかでプチっと何かが切れる音がする。
夏なのにプルプルと身体が震える。女の子らしく、可愛いらしい表情が出来ているかどうか自信がなかった。そして――


ポフッ…


初春「(あっ…あれ?)」

唇に触れる感触が柔らかい。柔らか過ぎる?

初春「(それに…なんだか)」

少し甘い香り?と初春が恐る恐る瞳を開けると――

垣根「…ぷっ」

そこには…こらえきれない笑いを押さえて意地の悪い笑顔を浮かべた垣根帝督と――

初春「えっ…えええ?!」

ベンチを囲むように咲き誇っていた月下美人の花蕾が…垣根の手によって初春とキスしていた。

垣根「はははははは!引っ掛かったな飾利!」

初春「なっ…なっ…なっ!」

決死の想いで誘ったキスは、垣根の唇ではなく月下美人の花蕾に取って代わられた。
659 :とある月華の未元保存(エンジェルアイズ)9 :2011/02/07(月) 21:16:18.48 ID:cbWD2nXAO
初春「なにを…するんですかぁー!」

垣根「花片にキスするってのもなかなかメルヘンだろ?キスをせがむにゃあと二年早いな」

カッカッカと笑う垣根。同時に初春は思う、優しくて、意地悪で、それでも頼もしいこの人は――いったいいつになれば自分を子供扱いするのを止めてくれるのか。

初春「もうっ…もう垣根さんなんて知りません!」

思わずそっぽを向く。きっとこういう所が子供っぽいと思われる所以なのだろうと思わくもない。しかし――垣根「――予約、だな」

初春「へ?」

そっぽを向いた頭に手を置かれて撫でられる。
それこそ、蒲公英の綿毛に触れるような、優しい手つきで。

垣根「キス出来る高さまで背が伸びたらしてやる。それまで予約だ」

初春「…牛乳いっぱい飲みますっ。固法先輩みたいに!」

意地悪で、気障っぽくて、でもお洒落で、カッコ良くて、優しくて――



垣根『オレの側から――離れるな』



かつてそう言って私を守ってくれた貴方が――私は好きです。
知っています。避難所が襲われた時だって、貴方がどれだけ直向きに、真剣に、私やみんなを守ってくれたか。
ずっと想いを温め続けて来た私は、ずっと貴方を見ています。



――貴方は、私の天使です――



660 :とある月華の未元保存(エンジェルアイズ)10 :2011/02/07(月) 21:19:37.22 ID:cbWD2nXAO
垣根「(あっぶねー…)」

一方、ようやく機嫌を直した初春の側で垣根は内心大きな息をついていた。

垣根「(さすがにヤバかったな…あんまからかうもんじゃねえ。ミイラ取りがミイラに化けちまう)」

寸での所でブレーキをかけられたのは、恋愛経験もレベル5だったからに他ならない。
名前も知らず顔も思い出せないあまたの女達に垣根は生まれて初めて感謝した。
下手ではないがキスが得意ではないのだ。飛び石伝いに、三段抜かしに男女関係を飛び越えて来た垣根にとっては――

垣根「(もちっとマトモな恋愛経験積んでくりゃ良かった)」

真っ直ぐ相手を見て、触れ合ったり心を通わせる経験が絶無だったから。
一夜限りの関係や火遊びの延長はあっても、真剣に恋愛などした事がないからだ。
そう言う意味では、垣根とてそれなりにいっぱいいっぱいなのである。
誰かを大切に、何かを大事にする『マトモな恋愛』は

垣根「はあっ…」

浜面「お?もう目が覚めたのか」

初春「!」

そこに通り掛かるは浜面仕上。その肩にはダウンした服部半蔵が潰れていた。
そこで垣根はおもむろに立ち上がり――浜面に耳打ちする。初春に聞こえぬよう。

垣根「浜面、タバコもう一本くれ」ひそひそ

浜面「ああ?いいけど…止めたんじゃねえのか?」ぼそぼそ

キョトン顔の初春、ポカン顔の浜面、そして垣根は大きく息を吸い――そして吐き出した。




垣根「――口さびしくなったんだよ」




とある月華の未元保存(エンジェルアイズ)・終
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 21:25:21.85 ID:cbWD2nXAO
>>1です。以上がていとくん×初春の出会いと道のりです。
お蔵入りにしていたネタを、まさか座標殺し(ブルーブラッド)で出せるとは思っていませんでした。
レスを下さった方、ありがとうございました。

こんな感じで短編を書くのは初めてでしたが、これからもこんな感じで書けたら良いなと思います(本編と織女星祭で完結しているので)それでは失礼いたします。
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 21:41:03.81 ID:f69tlyxAO
乙!!!!
やっぱ帝春はいいなぁぁぁぁああぁぁああぁぁああぁあぁあぁぁあ!!!!!

……ところでタバコのフィルターは乳首と感触がダブると聞いたことがある
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 21:46:06.95 ID:mAP998/zo

キザメルヘンめ・・・
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 22:08:35.96 ID:cfDbkoM/o
二人とも初々しいんだけどこれ絶対に未元殺しだよねww
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 22:35:05.24 ID:XMRkBE0+0
乙!
これだからイケメンは…もげろ
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 10:53:11.47 ID:OLgLlt+DO
ショチトル出なかったか。まぁとりあえず>>1乙!
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 12:13:32.23 ID:ofa5QVfQo
どのキャラも物凄く丁寧に描かれるだけにインデックスと美琴の失恋模様に物凄く胸が痛んだわ・・・
原作でもどちらかがフラれる展開はありうるけど出来ればどっちつかずのまま終わって欲しいなぁ
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/08(火) 17:18:17.69 ID:r9k3rzPAO
>>1です。たくさんのレスをありがとうございます。
とてもありがたく思いながら一つ一つ読み返させていただいております。

今夜21時に、8月7日の短編を投下させていただきます。
タイトルは『とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)』です。

雲川芹亜→削板軍覇のお蔵入りした短編です。それでは失礼いたします。
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 18:04:37.41 ID:OLgLlt+DO
やはり天才・・・大した根性だ。
670 :とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)1 :2011/02/08(火) 20:41:23.12 ID:r9k3rzPAO
〜織女星祭・噴水広場〜

雲川「足が痛いんだけど」

削板「ん?」

22:31分。空中庭園でのグリルパーティーを終え、家路へと向かう途中に雲川芹亜は出し抜けにそう言い放った。

削板「なんだ藪から棒に」

雲川「むしろ私の足が棒なんだけど。もう歩けないんだけど」

至る所で夜店や屋台が手仕舞いを始め、昇り下りに帰路に就く見物客の山と波の中…雲川は噴水に腰掛け、足を組んだ。
着慣れない鬼百合の浴衣であろうとやや裾長のそれを上手く捌いて。

削板「どこか捻ったのか?」

雲川「ううん。単に履き慣れない草履で足が靴擦れなんだけど」

削板「根性で(ry」

雲川「どうにかなるか!」

玉座に身を委ねる女王然とした物言いでヒョイと足を投げ出す。
しかし削板は気づかない。草履なのに靴擦れなどと日本語としておかしい表現を雲川がしている事に。

削板「むう…これは難儀だ。仕方が無い。持ち合わせが少ないがタクシー呼んでやるから―…」

雲川「まっ!待って欲しいんだけど!」

人混みの中、見上げる雲川が見下ろす削板を制止した。

削板「うん?金の事なら心配するな!女に払わせるだなんて男を下げる事はしねえ!無い袖を振るのが男の根性――」

雲川「違うんだけど!ちゃんと私の話を…私の話を聞いて欲しいんだけど!」

それはもう常日頃の雄弁な語り口も何もない、どこかつっかえつっかえの言葉だった。
まるで、本当に声に出して伝えたい言葉を無理矢理別の言葉に置き換えているような…

雲川「…少し飲み過ぎたから、苦手な車に揺られて帰るのは危ない気がするんだけど…」

削板「お前車酔いなんかするのか?初耳だぞ。ならモノレールやサブウェイが――」

雲川「今から乗ったって混み混みで一時間は並ばなきゃいけないんだけど。乗れても座って帰れないのは辛いんだけど」

削板「八方塞がりだ!」

むう…と削板は闇夜にも悪目立ちする白ラン姿で腕組みしつつ思案する。
雲川が腰掛けている噴水広場は水中より七色に変化し虹色に光り輝くライトアップがなされている。
ザーっと言う滴り落ちる水音を聞きながら雲川は思案顔の削板を見やる。
671 :とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)2 :2011/02/08(火) 20:42:52.81 ID:r9k3rzPAO
雲川「それに…いくらお祭りだからって女の夜道の一人歩きは危ないと思うんだけど」

やや俯き加減に、痛む足に目を落とす。それより痛む胸を押さえて。

削板「それもそうだな…祭の夜は乱痴気騒ぎのドンチャン騒ぎだ!女の身一つでは如何なお前の根性にも限界があるからな!」

雲川「!」

よしっ、と削板はそこで右握り拳を左掌に叩きつけ鷹揚に頷いた。
何やら策でも閃いたか方法でも浮かんだのか。

削板「ちょうど今朝板金屋から仕上がったばかりのオレの愛車がある!ここに来るまでにそれに乗って来たからそれで家まで送ってやろう!」

雲川「そ、そうか?悪いな」

削板「オレは一向に構わん!戦争前に預けたきりで、お前達にもまだ見せていなかったからな!待ってろ!今取って来る!」ピャー

雲川「ちょっ、ちょっと!」

そう言い切るや否や、削板は雲川を置いて走り出して行ってしまった。
周囲ではテントの足組を解体したり、電球を外したりと祭の墓引きの火のようだった。
そんな中、引き止めようとした手だけが虚しく空をすり抜け…雲川は手を膝に下ろした。

雲川「…あの馬鹿大将、車なんて持ってたのか?確か私と同い年か一個上のハズなんだけど…バイク?バイクか?」

確か板金屋と言っていたから車かバイクなのだろう。
削板の格好や年齢からすればバイク辺りが妥当な線なのだが――この時の雲川は自分の言葉の明らかな矛盾点を取り繕う事を忘れていた。
『乗り物酔いする体質』と言いながら『削板の愛車で送ってもらう』という絶対矛盾に――

672 :とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)3 :2011/02/08(火) 20:45:15.75 ID:r9k3rzPAO
上条「雲川先輩?」

雲川「…上条、当麻…」

頭上からかかる声音に思い出す。この少年との再会はかつて一人スプリンクラー雨祭りをしている時だったと。

上条「どうしたんですかこんな所で、一人で」

雲川「…別に?迎えの足が来るのを待ってるだけなんだけど」

幻想殺し(イマジンブレイカー)上条当麻。自身が原石のリストから外すように助言したパッケージ。その少年が、削板と入れ違いに姿を現したのはただの偶然なのか。

上条「なら良かった…流石に女性の一人歩きは上条さんも心配になりますよ」

雲川「ふふっ。そうか。変わらないな。そういう所が気に入ってるんだけど」

見た所一人だが、手には大量の屋台の食べ物が詰まった紙袋があった。
店仕舞いに際して持てるだけかき集めたのだろうか。
あれだけ肉という肉のオンパレードの後によく入るなと雲川は思う。

上条「浴衣――似合ってますね」

雲川「ほう?おべっかを使えるようになるまで成長したか。これは評価を改めるべきなんだろうけど」

上条「違います!違いますって!」

雲川は知らない。上条が抱えている紙袋は彼自身ではなくその同居人の修道女が喰らう物だと。
雲川は知っている。こういったリアクションは昔のままだが、朴念仁過ぎる鈍感さは多少現在の『恋人』に教育されているのだと。

プッープー!

「かーみじょう!買いに行けっつったけど油売れって言ってないでしょー!」

「とうまとうま!チョコバナナあった?チョコバナナあった?もう待ちきれないんだよ!」

上条「わかったー!今行くっつの!」

噴水広場の外から鳴るクラクションと、女性とおぼしき声音と少女の声色が上条に呼び掛ける。
どうやら車の主達にパシらされていたらしいとそこで気づく。
少し離れていて見えにくいが、たしかヴェンチュリーのアトランティックモデルに雲川には思えた。

上条「じゃっ、すいません雲川先輩。気をつけて!」

雲川「ああ。わざわざありがとう」

少し見なかった間に、背が伸びている。たったそれだけの変化で、随時大人びて見えた。
しかし、今雲川が追っている背中は――上条当麻ではない。だから

雲川「おやすみ」

見送る背中に、聞こえないほど小さく小さく――雲川は呟いた
673 :とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)4 :2011/02/08(火) 20:47:52.06 ID:r9k3rzPAO
〜織女星祭・噴水広場2〜

ざわ…ざわ…

見物客A「おい…なんだよアレ…」

ざわ…ざわ…

見物客B「実物初めて見たわ…写メ取って大丈夫かな?」

ざわ…ざわ…

見物客C「出し物…じゃないよな…」

ざわ…ざわ…

雲川「出し物って言うか見世物なんだけど!!!」

削板「どうした雲川!足が痛むのか!?」

雲川「痛いのは足じゃなくて周りの目なんだけど!!!」

上条達が車で去って行った後…入れ替わりに今度は削板が『愛車』を引っさげてやって来たのだ。そこまでは良い。だが

雲川「どうして…どうしてっ!」

車なら車でも良い。バイクならバイクでも構わない。ぶっちゃけた話のロケットカウルに三段シート付きの族車仕様でも構わない。

雲川「なんで…なんでっ!」

もちろん良くなどないがこれに比べればまだマシだ。
自転車でもママチャリでもマウンテンバイクだって構わない…
しかし今、噴水広場を『ざわ…ざわ…』で埋め尽くしているそれは――

雲川「――なんでデコチャリなのかを聞きたいんだけど!!!!!!」

削板「チャリで来た!当たり前だろう!それに――」

雲川の前に置かれ、削板が跨っているそれは…立派なロケット仕様のFバンパーに、後部には六連テール、その上ナイトで光り輝くライトアップで『根性』をデコレーションされた…
デコトラのオーナーが裸足で逃げ出す仕様をデコチャリにあるまじきマウンテンバイクに取り付けた掟破りのセッティングであった。
674 :とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)5 :2011/02/08(火) 20:49:44.86 ID:r9k3rzPAO
削板「雲川!オレをいくら馬鹿にしても構わない…だがコイツ(愛車)を馬鹿にするのはいくらお前でも許さねえ!」

雲川「名前で呼ばないで欲しいんだけど!他人のふりしたいんだけど!!」

削板「何を言う!これは板金屋の鉄さん(仮名)と、垣根が未元物質でコーティングしてくれた完全防水製!錆の一つもつかん根性の結晶だぞ!」

雲川「垣根ェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」

避難所でのあの獅子奮迅の戦いを除いてロクな事をしない垣根の抹殺を雲川が本気で考えたのはまさにこの夜である。
しかし当の垣根は『面白そうだったから』の一言でケロッとしていたそうな。

削板「さあ帰るぞ!乗った乗った!」ヒョイッ

雲川「離せ馬鹿!離せ馬鹿!私の話を聞けこの馬鹿ー!!」

そして雲川は削板の愛車の荷台に乗せられ、半ば拉致されるようにして連行された。
途中、麦野が運転し上条・インデックスが乗り込んだヴェンチュリーを追い抜き、ブチ切れた麦野が

禁書『しずり!しずり!赤いところ!赤いところまで踏んでるんだよ!?』

麦野『法定速度ォ?関係ねぇよ!そんなのカァァンけいねぇぇんだよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!』

上条『不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

とデコチャリVSスポーツカーという異種格闘カーチェイスを繰り広げるのはまた別の話である。
675 :とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)6 :2011/02/08(火) 20:52:32.84 ID:r9k3rzPAO
〜とあるコンビニ〜

雲川「死ぬかと思ったんだけど…」

削板「?。女を乗せてるから気を使ったつもりなんだがな!」

雲川「スピードの向こう側が見えたんだけど…」

ヴェンチュリーVSデコチャリの激戦を制した削板は雲川の要望によりコンビニに立ち寄った。
雲川としても一息つかねば息の根が止まってしまいそうだったからだ。
もうカチューシャでまとめた髪はグチャグチャに掻き回され、浴衣など胸元が肌蹴そうだ。
草履も片一方どこかに吹き飛んで行ってしまった。

雲川「とりあえず…なんか飲み物が欲しいんだけど…あれ?」

渇き切った喉を潤すべく歩を進めたドリンクコーナー…しかしそこでは何故かブラックコーヒーが根刮ぎ姿を消していた。

雲川「…商品入れ替え?」

削板「買い占めじゃないのか?しかしコーヒーの大人買いとは根性があるヤツだな!眠れなくなるぞ!」

雲川「そんな訳あるはずないんだけど。そんなヤツいたら馬鹿なんだけど」

二人は知らない。そこはかつては麦野沈利が、結標淡希が、来る度にコーヒーが買い占められている魔のコンビニだと。
そして犯人はもちろん――言うまでもない。

雲川「とりあえず…ヘルシアウォーター」

削板「三ツ矢サイダー!ガリガリ君食うか?」

雲川「別に構わないんだけど」

焼肉の後にヘルシアはある意味仕方無いとして、そこでアイスを食べてしまってはチャラになってしまう事に雲川は気づかない。
削板を馬鹿だ馬鹿だと言いつつも、次第に感化されつつある自分にも。

絶対等速「(どんな組み合わせだよコイツら…って避難所のヤツらか)」

かたやデコチャリで乗り付けた特攻服のような男、かたや鬼百合の浴衣からこぼれ落ちそうなバストの女。

絶対等速「(くそったれぇ…早いとこ金貯めて家探して…こんな風に彼女欲しいよなあ…なんで祭りの日まで働いてんだ俺ぁ…)」

衣食住は避難所として開放された学園都市最高最大の総合アミューズメントスパリゾート『アルカディア』にいる限り安泰だが…
そろそろ身の振り方を考え始めねばならない。
かといってケチなATM強盗でクサい飯を食わされるのはコリゴリだ。
だから地道にコツコツと、地に足をつけてやっていくのだと誓いながら掛け持ちでアルバイトに精を出すのだ。が

絶対等速「ありあとあしたー!!」

今夜くらい従業員カードで値引いた発泡酒で乾杯しよう。
そう思いながら絶対等速は二人を見送った。
676 :とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)7 :2011/02/08(火) 20:54:46.71 ID:r9k3rzPAO
〜とあるコンビニ・駐車場〜

削板「んまいっ!やっぱりガリガリ君は最高だな!一本芯の通った、根性のある味わいだ!」

雲川「レディーボーデンが良かったんだけど」

23:04分。二人は店外へ出ると駐車場に座り込んでアイスを食べていた。
そこではたと夏特有の生温い夜の空気に気付く。どこか青臭くて、虫の声がいやに耳につく真夏の夜。
削板はデコチャリに、雲川は車止めに腰を下ろして。

雲川「まさかお前とこんな中学生みたいな事すると思ってなかったんだけど」

削板「青春は一度しかねえ!雲川、お前こういうのあんまりした事ないだろ?」

雲川「デコチャリに2ケツだなんて普通の人間は一生経験しないはずなんだけど。まあ、そんな刺激があるから人生は愉しいんだけど」

不意に夜空を見上げる。星が瞬き月が輝く。こんなに良い夜なのに、まるで夜中にフラフラ出歩く中学生のような自分達。
いや、自分はあくまでも高校生でありたいと雲川は思った。何故なら

削板「刺激はまだまだあるぞ…見ろ!当たり棒だ!もう一本もらえるぞ!根性で引き当てた」

男衆の大半が『中学生の悪ふざけ』ならば削板はさながら『小学生の夏休み』だ。
特に今、ガリガリ君の『あたり』を自慢気に雲川に見せて来る所など。
677 :とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)8 :2011/02/08(火) 20:55:57.27 ID:r9k3rzPAO
雲川「私もあたりだ。でも二本も食べられないんだけど」

削板「安心しろ!お前はリッチの方だから、アイスと交換は出来んがプレゼントに応募出来るぞ」

雲川「庶民的なレベル5もいたもんだ。詳し過ぎるんだけど」

削板「その通りだ。コンビニというのはだな、三週間単位で商品が入れ替わったり消えたりする。一度逃すともうお目にかかれないものもあるんだぞ。一期一会だ。気がついたら詳しくなっていた」

一期一会…よく聞く言葉だが、そんな四字熟語がこの男から出るとは予想外だった。
そんな事をぼんやり考えていると削板は当たり棒片手に再び店内に入り、新たなガリガリ君と何か袋を片手に戻って来た。

削板「さあ行くぞ!」

雲川「頼むからデコチャリのライトは落として欲しいんだけど」

こんな悪目立ちするデコチャリでナイトを照らせば余計に人目を引く。
そう文句をつけながら雲川は荷台に腰を下ろす。浴衣の裾を直しながら

雲川「――もう半分まで来たから、後はゆっくりで構わないんだけど」

削板「いいのか?半分まで来たなら根性で飛ばせばすぐ――」

雲川「い  い  か  ら」ぼこん

その言葉に込められた想いにかすりもしない、削板の鉢巻き頭にヘルシアウォーターのボトルで叩いて。
678 :とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)9 :2011/02/08(火) 20:59:11.18 ID:r9k3rzPAO
〜川縁の土手〜

雲川「………………」

チリンチリン♪

雲川芹亜は取り付けられた荷台に腰を下ろしながら普通の速度で進む自転車に揺られていた。
流れる夜の雲に見え隠れする満月と、流れる川のせせらぎと、遠くて近い夏の虫達の混声合唱に耳を側立てながら。

削板「が〜りが〜りくんが〜りが〜りくん」チリンチリン♪

雲川「(…何か話し掛けて欲しいんだけど)」

なんだ、自分がいるのに、まるで自分の部屋でくつろいでいるようなマイペースさだと雲川は思った。
もちろん削板に悪気も悪意もない。デコチャリのセンスは悪趣味だが。

雲川「なあ馬鹿大将」

削板「ん?」

雲川「さっき、男衆が誰を口説くだの落とすだのやってたはずなんだけど」

仕方無しに話を振る。流れて行き頬に触れ髪に流れる夜風が爽やかで穏やかだ。
しかし静か過ぎるのだ。風流に楽しもうにもつい気が散って。

削板「服部だな!根性入れて行ったようだが半ベソで帰ってきた。まったく、女心はわからんな」

雲川「(特にお前がな)お前はやらなかったのか?」

削板「よくわからん世界だからな!」

その事にやや安堵すると共に訳もなく雲川は落胆する。
確かにこの脳味噌が筋肉で根性一本頼みのこの男が色恋沙汰にかまけている姿など想像すら出来ない。
女の自分の前で全裸のままレモン石鹸とたわしで水浴びするような男なのだから。

雲川「――気になるような、めぼしい誰かはいないのか?単に話のタネなんだけど」

そうだ、コイツは馬鹿ではないが利口ではない。
愚鈍ではないが鈍感だ。ナイフや銃弾だって『ちょっと痛い』で済ませるような男だ。
多少突っ込んだ話題を振ったところで何が変わる訳でも――

削板「――お前、かな」

雲川「!!!???」
679 :とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)10 :2011/02/08(火) 21:01:31.98 ID:r9k3rzPAO
――そう思った矢先の、正体不明の衝撃、説明不能な感情が雲川を揺さぶる。
ガタンゴトンと土手のデコボコに合わせて揺れるデコチャリ以上に。

雲川「ほ、ほーう?こ、この私を意識しているのか。予想外なんだけど」

この男はいつも前ばかり見ている。前しか見ていない。
後ろを振り返る事も自分を省み見る事もしない男の性質がこの時ばかりはありがたい。
振り返られたら、今自分がどんな顔をしているか知られてしまうからだ。

削板「――根性があるからな!」

雲川「…は?」

…が。その言葉に雲川の表情がみるみるうちに凍りつく。
それは先程食べていたガリガリ君リッチのように。

削板「仕事はタフだし、スピーディーだし、誰に対しても上から目線だ!なかなかどうして腹と肝と根性の座った女だと俺は思ってるぞ」

雲川「………………」ベコォッ

ヘルシアウォーターのボトルを握り潰す。決めた。首締めだ。
ペットボトルより頑丈だが頸動脈を締め上げてやる。
幸い近くは川だ。朝になれば下流にでも引っ掛かっているだろう、そう伸ばした手を――

削板「そうだ。これを使え」

雲川「!」

ヒョイと、自転車の取っ手にぶら下げていたコンビニ袋…
先程のガリガリ君を交換しに行った際に買った『それ』をノールックで雲川に手渡す。
それこそ背中に目でもついてるんじゃないかと思うほどに。

雲川「バンドエイド…?」

削板「靴擦れが痛むんだろう?男ならツバつけとけば根性で直るが、女のお前は違うだろう?」

雲川「――あっ、ありが――……っ…」

締めかけた手をどこに持っていけばよいかわからなくなり、絆創膏を受け取る。
こんな時に、こんな所で、こんな風に言われたって困る。
だから…削板の首根っこに伸ばしかけた手を――



ギュッ…
680 :とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)11 :2011/02/08(火) 21:02:56.36 ID:r9k3rzPAO
削板「うん?」

雲川「…勘違いするな。落っこちないようにしてるだけなんだけど」

車輪に浴衣の裾を巻き込まないように横座りになりながら、削板の腰回りに腕を回す。
僅かに頭を背中に持たせかけて。それだけだそれだけだと自分に言い聞かせながら。
手には受け取ったバンドエイドの小さな箱を持って。

削板「で、お前の寮はどこだ?」

雲川「…この橋を渡って十字路を右なんだけど」

頬に感じる、硬くない岩のような、鋼のような広い背中に耳を立てる。
少し苦しい体勢だが、自分の重みなど羽ほども感じないこの男ならと。

削板「うん?見当たらないぞ!」

雲川「…間違った。左だったかも知れないんだけど」

削板「よし来た!イナズマターン!」キキィー!

雲川「普通に漕いで欲しいんだけど!」

右に曲がった先はマンション群。それも教職員らが住まうタイプのそれ。
まあこんな事もあるかと削板はデコチャリでイナズマターンなどと言う離れ業で進路を逆方向に変え――

削板「おお?!元の道に戻っちまったぞ雲川!!」

雲川「…また間違えた。やっぱり真っ直ぐだったんだけど」

今度はまた川縁近くまで戻ってしまった。しかし削板は気づかない。

削板「お前が何度も記憶違いをするとはよほど飲んだな!酒は飲んでも呑まれ――」

雲川「わかったから漕げ」

頭脳明晰な雲川が、二度も三度も道を間違え、わざわざ遠回りするルートばかり選んでいるという意味を――
681 :とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)12 :2011/02/08(火) 21:06:07.93 ID:r9k3rzPAO
〜雲川芹亜の女子寮(再建後)〜

削板「ついたぞ!」

雲川「…お疲れ」

その後…10分ほど辺りをグルグル回らされ、削板軍覇のデコチャリに乗せられた雲川芹亜はようやく再建された女子寮へと帰還した。
やっと見つけられたと目をキラキラさせる削板とは対照的に、トーンダウンした雲川が印象的だ。

削板「まったくキツネに化かされた気分だ。こんな街中でリングワンダリングさせられるとは思わなかったな」

雲川「そう?暗くて道を間違えただけだと思うんだけど」

女子寮の入り口でバンドエイドの箱を持ったまま佇む雲川、デコチャリのハンドルを握る削板。
時刻はすでに23:42分。予定よりずっと早くついてしまった。あのカーチェイスさえなければ。

雲川「…馬鹿大将」

削板「なんだ?」

そうだ。今日はひと月遅れの七夕祭りなのだ。日付はまだ変わっていない。
まだ今日という日はあと18分もある。そう、言い聞かせながら――

雲川「…良かったら、ここまで送ってくれたお礼に、お茶の一杯でも――」

削板「?。いや、まだサイダー残ってるし」

雲川「ぬっ、ぬるいサイダーなんて飲んだらお腹を壊すんだけど」

削板「そんな話は聞いた事がないぞ!それに根性で――」

吹寄「雲川さん?」

雲川「!!!!!!」

すると…女子寮の入り口に、先に帰っていたのか吹寄制理が下りて来た。
傍らに姫神秋沙と結標淡希の姿はない。二人は今同居してるからだ。

吹寄「削板さん。ここは女子寮ですよ」

削板「おおそうだった!いけねえいけねえ。雲川!また明日な!」

雲川「あっ…」

吹寄からかかる注意の声、頭をかいて気付かされる削板、引き止めようとして言葉が出ない雲川。
確かに日付も変わる時間帯に、女子寮の入り口で男と話し込んでいればそうなるだろう。そして

削板「ぜんかい!ぜんかい!ごーごーかんななかんななか・ん・な・な・フィーバー!!!」シャー!

雲川「………………」

そして削板はデコチャリをライトアップさせて元来た道を疾走して行く。
ギターウルフの『環七フィーバー』を大声で歌いあげながら…

吹寄「先輩も、今帰りだったんですか?」

雲川「…余計なお節介、ありがとう」スッ

吹寄「?」
682 :とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)13 :2011/02/08(火) 21:08:31.59 ID:r9k3rzPAO
悪気なく話し掛けて来る吹寄から目を切り、肩をぶつけようか足を踏んづけようか一瞬考えて…
雲川はどちらもせずに階段を昇る。削板からもらったバンドエイドと、ガリガリ君の当たり棒を持って。

雲川「…バンドエイドとか、コンビニの時に渡してくれれば良かったんだけど」

酔ってなどいない足取りは真っ直ぐだ。片一方しかない草履。サイズは23.5。
痛むは痛むが歩けないほどではない。今足より痛むのは胸と心だから。

雲川「…お茶の一杯でも出さないで帰すとか、なんだか私が悪いみたいなんだけど」

記憶力だって抜群だ。目をつぶってだって帰ってこれた。
結局、浴衣は一度も見てもらえなかった。上手く話す事も出来なかった。
そう思いながら自分の部屋の鍵を開ける、中に入る。電気をつける

雲川「…はあー…バッカみたいなんだけど」

もらったバンドエイドを、あけずに枕元に置く。
そしてアイスの当たり棒を見やる…『あたり』とでかでかと書かれたそれを。

雲川「…ハズレなんだけど」

そうつぶやきながら雲川は携帯電話の待ち受け画面を見やる。
時刻は23:53分。日付変更まであと七分…そう、まだあと七分もある

雲川「………………」

アドレス帳を開く、そこから電話番号をクリックし、発信ボタンを押す。
呼び出しコールがいやに長く感じられて、繋がるかどうか一瞬不安になる。しかし

雲川「私なんだけど。うん。さっきは追い返すみたいで悪かったんだけど」

別れたばかりなのに、もう久しぶりに聞いたようなその声の主。
周囲の雑音の入り具合からすればまだ外だろう。当然だが。

雲川「…そう。やっぱり足が痛くてたまらないんだけど。だから」

電話越しだから言える事。電話越しだから伝えられる事。
面と向かって言えないから、真っ直ぐ目を見て話せないから。
振り返ってくれないお前が悪い。だからこうするんだ。




雲川「――明日の朝、迎えに来てくれたら助かるんだけど」




だって、雲川芹亜(わたし)はひねくれ者だから




とある根性の深夜暴走(カンナナフィーバー)・終
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 21:12:25.14 ID:VeZZ03hR0
乙です
どこのバクチクだ、といきなり吹く羽目になるとは…
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/08(火) 21:16:12.55 ID:r9k3rzPAO
>>1です。垣根×初春のピュアコンビの次は雲川→削板の不器用&鈍感コンビになりました。原石絡みのコンビです。

ショチトル期待された方申し訳ございません。私の力量では難しかったので…では失礼いたします。
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 21:54:17.30 ID:OLgLlt+DO
>>684
いえいえ!問題ナッシングです。素晴らしい作品をありがとう!!








出来れば、今度は科学サイドの話しで上条達の活躍の時に
出して頂ければ嬉しいな(チラッ
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:02:12.75 ID:liJCVjVio
>>1の引き出しが多彩すぎて困る。
マウンテンのデコチャリとかどうよどうなのよどうなりけるのよ。
車にしてくれって言ったらチャリにハイラックスのボディ乗っけて来そうだよなあ…
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 04:58:57.69 ID:+0m4vql2o
ソギーにわろたww
常識が通用しなさすぎて困る
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/09(水) 18:48:15.67 ID:a22Tf37AO
>>1です。たくさんのレスをありがとうございます…本日は短編ではなく連作の投下をさせていただきます。投下時刻は21時前後になります。


タイトルは『とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)』です。

白井→←結標の退廃的なお話になります。甘さもピュアさも笑いもありませんがよろしくお願いいたします。ではまた後ほど…失礼いたします。
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 19:48:59.40 ID:2r+knRdSO
雲川さんが可愛すぎて生きるのが辛いんだけど。
そして空間座標と聞いてwktkなんだけど。
要するに1乙なんだけど。
690 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)1 :2011/02/09(水) 20:59:33.65 ID:a22Tf37AO
あたしは、女の子同士の団体行動があまり好きではなかった。

一緒にお手洗いに行くだとか、一緒にご飯を食べるだとか

要らぬ波風を立ててまでそれを厭う事はなくても、あまり好ましくはなかった。

あたしは、女の子同士の集団行動があまり好きではなかった。

やたらと輪を作ったり、その輪からさり気なく人を遠ざける事も

表面上は波風を立てずとも、水面下に沈む石のようなそれを厭い、嫌ってさえいた。

土御門「本当にお堅いんだにゃー…まさに鉄の女なんだぜい」

青髪「なんや。あのヒールレスラーかいな?」

上条「それを言うならブッチャーだろ?ってか鉄の女ってなんだったっけ?」

そのせいだろうか。例え馬鹿であろうがなかろうが、裏も表もないあの三馬鹿(デルタフォース)とよくかち合うのは。

吹寄「貴様!それを言うならサッチャーでしょう?一体授業で何を聞いているの!?」

上条「そんな事言われてもなあ…聞いちゃいるんだが、こう…」

青髪「右から♪右からやって来るう〜」

土御門「それを♪僕は♪」

上条「左へ受け流す〜♪」

吹寄「馬鹿者!!」

昔から良く言われる。女だてらだとか男勝りだとか、締まり屋だとか仕切り屋だとか。
決して意識してそうしている訳ではないけれど、周囲からの『吹寄制理』の印象と評価はそう言った感じに落ち着いている。そして――

姫神「どうしたの。吹寄さん」

転校初日、あたしが彼女に抱いた印象と評価…それは『大人しそう』と『静かそう』と言った感じに落ち着いている。

吹寄「姫神さん!聞いてもらえないかしら?コイツらまた――」

土御門「一!」

青髪「二!!」

上条「散!!!」ダッ

吹寄「コラ!話はまだ終わって…逃げるな!!」

そしてクラスメートとして過ごし、進級してから再び同じクラスになってもその印象はあまり変わらなかった。

あたしがジッとしていられない質なら彼女は大人しくいつまでも待てるような娘で、あたしが話し役なら彼女は聞き役だった。

あたしとはまた違った方向性で、彼女も女の子同士の群れあいや馴れあいを苦手にしているようにも見えた。
そういう意味で、あまり女っ気がないあたしと女の子らしい彼女と気があった。

少なくとも『彼女』が…『結標淡希』さんが姿を現すまでは、あたしは彼女の一番の友達で無二の親友だと自負に揺らぎはなかった…






ハズだったのに
691 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)2 :2011/02/09(水) 21:02:07.96 ID:a22Tf37AO
〜1〜

吹寄「姫神さん、どうしたのその傷?」

姫神「猫に。ひっかかれた」

8月9日、17:34分。吹寄制理と姫神秋沙は織女星祭の未だ終わらぬ後片付けの最中突如として振って湧いた通り雨に濡れ鼠と相成った。
二人は一時作業を中断し、未だ解体を終えていない六尺テントの中へと雨宿りしていた。
互いに下着が透けてしまうほどの豪雨に晒され、うっすら浮かび上がる体操着の胸元の爪痕らしき部分を吹寄は指摘したのである。

吹寄「猫?」

姫神「そう。少し気が立ってたみたいで。いじり過ぎたら。やり返された」

天蓋を穿つような真夏の集中豪雨。先程までの熱気を湿気に変え、肌に纏わりつく水気が寒気を誘う。
足元は既に洪水となって二人の運動靴を泥土にまみれさせ、文字通りバケツをひっくり返したような轟雨となって視界を白く染める。

吹寄「あれ…結標さんの…いや、姫神さんの所って猫を飼ってるの?」

姫神「飼ってる。痩せっぽちで。気紛れで。怒りっぽくて。寂しがり屋な猫」

吹寄「ふふっ…手がかかりそうな猫ね。でも大丈夫?失礼だけど、猫の爪って雑菌が多いから腫れたりしたら…」

姫神「大丈夫。毎日一緒にお風呂に入って。私が洗ってるから。清潔」

吹寄「?。変わってるわね…猫って水や濡れるのが嫌いなんじゃないの?」

姫神「……クスッ……」

吹寄「(…えっ…)」

そこで姫神は艶々とした黒髪に伝う水滴を払いのけるように手櫛を入れた。
その含み笑いを浮かべた横顔が、それまで吹寄が知る姫神とは全く異なる角度に見えたからだ。例えるならば

吹寄「(何かしら…今の笑い方)」

学校指定の制服から、家で着る私服へと衣替えしたような変化。
そこにいる人間は変わらないのに、纏う空気と漂う雰囲気が一変したような…そんな笑み。

姫神「うちの猫は。濡れるのが大好き」

うっすら透けて見える胸元の十字架を握り締めながら、姫神は元通りの表情に戻って吹寄へと向き直る。
吹寄のやや広い額にもツ…と水滴が流れ、前髪が張り付く。

姫神「その猫と会ったのも。こんな雨の日だったから」
692 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)3 :2011/02/09(水) 21:03:51.85 ID:a22Tf37AO
〜2〜

結標「この私に使い走りをさせるだなんて、貴女もえらくなったものね?秋沙」

吹寄「ごめんなさい結標さん…本当に助かりました」

結標「いいのよ吹寄さん。はい、タオル。それからジャージも借りて来れたわ。男子用の予備みたいだけど一応ちゃんと洗ってあるみたいよ」

18:02分。轟雨の中浸水して来るテントから出られなくて靴下も運動靴も駄目になってしまい…
困り果ててしまっていた所で姫神さんが結標淡希さんを携帯で呼び出し、あたし達は『座標移動』なる能力で総本部まで転送された。
おかげで今、あたし達は女子更衣室で濡れた身体を拭き清めている。けれど

姫神「遅い」

結標「ずいぶんなご挨拶ね秋沙。誰が持って来てあげたと思ってるの?心優しい先輩に対して感謝の言葉の一つもあったってバチは当たらないでしょう?ほら後ろ向いて」

タオルと替えの体操着を持って来てくれた結標さんに対し、姫神さんの態度は正直な所ギョッとした。
とてもではないが上級生に対する態度や言葉使いではない。その上

姫神「もう少し。優しく」

結標「注文の多い娘ね…大人しくしていられないなら止めるわよ?」

結標さんに自分の髪まで拭かせている時点でもうあたしは気が気でない。
いくらルームメイトだからって…と思う。いっそあたしが代わってでも止めなくちゃと思った。しかし…

結標「ほら。肩が冷えるわよ。これ着て」

姫神「うん」

結標さんは気分を害した様子もなく姫神さんの髪を乾かし、それどころか自分の羽織っていた霧ヶ丘女学院の制服を肩に着せていた。
それもどこか…なんて言うんだろう…まるで
693 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)4 :2011/02/09(水) 21:05:07.38 ID:a22Tf37AO
結標「この娘、スッゴくワガママでしょう?吹寄さんにも迷惑かけたりしてない?」

吹寄「いっ、いえ!姫神さんが我が儘言ってる所なんて見た事もありません」

チェシャ猫のような笑顔でこちらを見やってくる結標さんに少しドキッとする。
何というか…手の掛かる妹をなだめながら世話をする姉のように見えて。

姫神「吹寄さんに。そんな事しない」

結標「そう?なら猫かぶりかしら?気をつけてね吹寄さん。この子本当は我が儘よ」

吹寄「そんな…姫神さんはすごくいい娘です。クラスでも、自分の意見を遠慮してなかなか言ってくれないくらい、大人しくて」

けれど何故だろう…何故だか、妖しい空気を感じた。怪しいではなく妖しい雰囲気。
何というか、共犯者同士のひそひそ話を聞かされているようなカンジがする。それに――

結標「そう。でも安心したわ」

結標さんは笑ってる。私達と一学年しか違わないのに、とても大人っぽく



結標「秋沙に、いいお友達がいて」



そして、何故かその笑顔がゾッとするほど怖く思えた。
694 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)5 :2011/02/09(水) 21:08:12.23 ID:a22Tf37AO
〜3〜

バタン

姫神「………………」

結標「………………」

それから十数分後、吹寄制理は冷えた身体を暖め直そうとドリンクを買いに更衣室を出て行った。
時刻は18:18分。撤収作業も水入りとなったため翌日に持ち越しという運びになった。が

姫神「淡希」

結標「(ビクッ)」

二人きりになった途端、姫神の纏う空気が一変した。
それこそ、今外で降っている雨のように冷たいそれに。

姫神「私が言いたい事は。わかっているでしょう」

結標「………………」

姫神の髪を拭いていた結標が、振り返る声音に対して手を止める。
その表情にはやや怯えの色が入り混じり、先程年上然とした雰囲気は既に雲散霧消していた。

姫神「淡希。何故黙っているの」

その言葉に、結標の唇が雨に打たれ体温を奪われたように震える。
恐る恐る視線を巡らせて、姫神の表情を伺うように。

姫神「どうして。吹寄さんを威嚇するの」

それに対して姫神は振り返り、相手の表情を目の当たりにしながら無視するようにしてその白面を寄せて行く。
雨に濡れてやや冷たい指先が、結標のシャープな輪郭に添えられる。

姫神「どうして。私の友達と。仲良く出来ないの」

結標「…ッ!」

痛みこそないものの、空気の圧迫に歯噛みし、結標はキュッと震える手を握り込んでそれに耐える。
対照的に、キスする時も目を閉じない姫神は具に結標の表情を観察する。
あと一言二言押せば涙が滲み、瞳が潤み始めるだろうと知った上で――顔を離す。

姫神「飼い主(私)を引っ掻くのは。構わない。けれど。私(飼い主)の友達に。爪を立てるような事だけは。しないで」

結標「………………」

それに対し結標はわだかまりを捨て切れずにいるのがありありとわかる表情だった。
頭で納得していても感情で反発しているように。
695 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)6 :2011/02/09(水) 21:10:12.69 ID:a22Tf37AO
結標はその感情を知っている。それは未だ拭い去れない――嫉妬だ。

結標「…電話をくれたから、何かと思ったらあの娘までいるじゃない…」

姫神「そう。でも。友達といて。何がいけないの」

結標「…別に。貴女が誰と居ようが、私には関係ないのでしょう?良いわ。私は、貴女が私のいるところへ帰って来てくれさえすれば…」

姫神「なら。どうしてそんなに不機嫌なの。吹寄さんは友達だって。何度も言ったじゃない」

結標「――わかっていたって!腹が立つのは!頭に来るのは変わらないわよ!」

バサッと手にしていたタオルを姫神目掛けて投げつける。
しかし姫神は微動だにしない。むしろ結標の方が取り乱して見えるほどに。

結標「なによ!確かに貴女と過ごして来た時間はあの娘の方が長いわ!けれどね、貴女の事は私の方がずっと知ってる!あの娘よりずっと!」

姫神「なら。どうして。そんなに苛立っているの。私は。淡希を他の誰とも比べた事もないし。淡希は何にも代えられない」

結標とてわかっている。これは単なるヒステリーで、単なるジェラシーだ。
一般的に考えれば、恋人の友人にそこまで嫉妬する方が大人気ない。
だが姫神と結標の関係は一般的ではない。同性の親友という肩書きすら、二人の間柄に於いては結標の不安を掻き立てるには充分に過ぎた。
何故なら、二人の関係もまた『友達』から始まったのだから。

結標「わかってる…わかってるわよ…滅茶苦茶な事言ってるのは私だって…無茶苦茶な言い掛かりつけてるのは私だって…わかってるわよ…!」
696 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)7 :2011/02/09(水) 21:11:48.14 ID:a22Tf37AO
もし結標が男ならば、姫神に親しい男友達がいたなら良い気はしないが同性の女友達なら何とも思わない。
しかし結標にとっては、男も女も、姫神に近い人間がいるとどうしようもなく不安になる。
それはまだ付き合い始めて一月弱という短い期間もあれば、付き合ってみるまで嫉妬深い己を知らなかったと言う部分にも由来する。

姫神「…話にならない…」

結標「…えっ…」

しかし――二日前の女王蘭の温室に続いて二度同じ内容で結標は姫神に不満をぶちまけてしまったのだ。
冷たいのを通り越して、怒りを通り過ぎて、姫神は呆れたように言った

姫神「貴女は。私が友達の話をしたり。友達と一緒にいるだけで。この先。何回同じ事を繰り返すつもり?」

結標「…!」

対する結標は怯えを通り越して蒼白に、衝撃を通り過ぎて白紙に、結標は呆けたようになって



姫神「――淡希が。こんなに物分かりの悪い娘だなんて。思ってなかった」



結標「――!!」

結標の中で燻っていた熾火が、花を散らした。



パンッ
697 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)8 :2011/02/09(水) 21:14:42.55 ID:a22Tf37AO
〜4〜

最初に目についたのは、赤みがかった二つ結び。

次に目がいったのは、伸びやかな四肢と惜しげもなく晒された柔肌。

更に目についたのは、人当たりが良くとも温度の低い眼差しと笑顔。

あたしが苦手な女の子で、あたしが不得手なタイプだと思った。

そして、きっと向こうにも同じような印象と、似たような感想を持たれているだろうなと感じた。

吹寄「姫神…さん?」

姫神「吹寄さん」

そしてここ最近ハマっている自分用の健康飲料と、二人分のドリンクを持って更衣室に戻ってみれば――

吹寄「どうしたの…それ!」

そこに結標さんの姿はなく、残されているのは頬が打たれたように赤くなり…
その部分を手で押さえている姫神さんの姿だった。

姫神「なんでもない」

吹寄「なんでもないなんて事あるわけないじゃない!誰にやられたの?結標さん!?」

姫神「大丈夫。本当に。なんでもないから」

状況的に考えて、悪いけれどあたしには結標さん以外には考えられなかった。
それも、あたしが離れた側からこんなひどい事をするだなんて…と言う思いもあった。

姫神「…猫に。引っかかれただけだから」

なのに姫神さんはまるで庇うようにかぶりを振って私の言葉を否定する。
猫に引っかかれただなんて下手くそな嘘までついて取り繕って。

吹寄「あたし、ちょっと結標さんに言ってくるわ!彼女はどこ!?」

思わず、カッと頭に血が上る。さっきまでの姫神さんの態度もよくなかったけれど、それにしたってあんまりだと思った。
それを不快に思ったなら言えばいいのに、手を上げるだなんていくらなんでもひどいと。けれど…

姫神「私も。悪かったから。淡希だけが。悪いんじゃない」

吹寄「でもっ…!」

姫神「今の淡希に。近寄らない方がいい。私にしか。手に負えないから」

それでも姫神さんは結標さんの飛び出して行った先を教えてくれなかった。
それに、今までにもこんな事が数回あったような口振りに感じられた。だから…

吹寄「…わかった。今濡らしたタオル取ってくるから、それで冷やして」

姫神「ありがとう」

あたしは、渦巻く憤りをなんとか胸の中でなだめた。
どっちが正しくてどっちが間違っていたのかはあたしにもわからない。けれど

友達に手を上げられて、黙っていられるほどあたしは人間が出来ていない。
698 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)9 :2011/02/09(水) 21:16:33.52 ID:a22Tf37AO
〜5〜

結標「ぐすっ…ぐすっ」

その頃、結標淡希は水入りとなった撤収作業の現場からやや離れた大通りを一人歩いていた。
涙の熱さと、雨の冷たさに鼻を啜り嗚咽を漏らして。

結標「ううっ…ひっぐ…」

降り注ぐ雨にとうに散ってしまった人通り、撃たれるような雨に剥き出しの肩を浚われる。
水溜まりなど生まれる間もなく河となり、結標の足元を攫う。
真夏の雨は叩きつけるように結標の涙まで洗い流して行く。

結標「(どうして…こんな風になっちゃったんだろう)」

甘え過ぎていたのかもいたのかも知れない。我が儘が過ぎたのかも知れない。
それでも我慢出来なかったのだ。姫神と吹寄が一緒にいる事が。

結標「(手なんて…あげるつもりなかったのに)」

八つ当たり以下の苛立ちをぶちまけ、それを冷たくあしらわれて、カッとなって手を上げてしまった。
そして加害者側だと言うのに被害者面をして飛び出してしまった。
誰が見たって、どこから見たって自分が悪い。それなのに――

パシャッ

そこへ、軽やかな足取りが水を踏みしめた。

結標「――――――」

パチャッ

半透明の白無地のパラソルと、焦げ茶色の革靴が見える。

結標「……貴女……」

鈍色の空、鼠色の雲、降りつつある夜の帳が、主演女優の後ろで引かれて行く幕のようにー

「傘、お忘れになりましたの?」

結標「…傘、置いてきちゃった…」

「そうですの」

パラソルの下に隠された素顔を見ずとも、結標にはそれが誰だかわかった気がした。

結標「馬鹿ね…置き傘なんてしてたら、他の誰かに持って行かれてしまうかも知れないのに」

ピチャッ

「ちゃんと、名前はお書きになられましたの?」

幼い見た目の割に大人びた声色。見忘れようもない常盤台中学の制服。

結標「しっかりと、刻んだつもりよ」

「本当に?」

その言葉と共に――結標の身体を濡らす雨が、パラソルに遮られた。

結標「泣いて…なんか…いないんだから…!」

「存じておりますの」

雨と涙に濡れた頬に、ハンカチを当てられた。
そこではっきりとわかる。ぼやけて滲む結標の瞳にも。



白井「――雨ですの」



19:00分。長針と短針が交わったその時――

結標「…!」

結標は、白井黒子を抱き寄せた。
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/09(水) 21:21:03.16 ID:a22Tf37AO
>>1です。本日の投下はここまでとなります。
リクエストが多かった白井黒子編となります。今までのと織女星祭で立てたフラグの回収です。

皆さんのたくさんのレスをいただきまして、書く事を決めました。本当にありがとうございます。

この物語は無糖チョコレートです。それでは失礼いたします…
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 21:39:27.33 ID:A6Ba8GCzo
黒子ぉおおおおお!!
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 21:41:11.26 ID:84aNWpkco
タイトルで嫌な予感したら、やはり
「レイニー止め」かw

いっそ懐かしいなあ。
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 22:09:08.52 ID:ZNUxuhqXo
レイニー止めだなw
パラソルをさす準備は出来てるぞ
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 22:10:05.22 ID:NQU9lq5ko
麦琴でレイニー止め。
ここでもレイニー止め。
百合の様式美か
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/10(木) 02:04:00.00 ID:grfBBtrAO
乙ん。

「レイニー止め」って何だっけ? 麦琴SSで知った単語だけど、忘れちった。
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 02:52:45.88 ID:bNOhNJ2uo
>>704
レイニー止めってのは端的に言うといいところで次回に続くってやられること
マリみて原作の「レイニーブルー」って巻が語源
いいところで次回に続くってのはどんなアニメでも漫画でも小説でもあるけど
おもに百合系作品か恋愛要素が入った状態でそういうヒキをやられてときに使う
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 10:03:41.26 ID:FT+EJ9sp0
知らんかった
これ読んでたら百合に興味持ったから見てくるわ
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/10(木) 17:55:18.66 ID:EX0KiuhAO
>>1です。たくさんのレスありがとうございます。私も気になって調べてみたらマリア様がみてるなんですね。
百合を書いているくせにマリア様を読んだ事がなかったので別のタイトルにすれば良かったなあ…としょんぼりしています(´・ω・`)

今夜の投下も21時前後になると思います。よろしくお願いいたします。
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 20:17:54.20 ID:cxcl2vSDO
アスアステカテカ
709 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)10 :2011/02/10(木) 20:40:08.29 ID:EX0KiuhAO
〜6〜

吹寄「雨…強くなって来ちゃったわね」

姫神「うん。さっき。天気予報を見たら。二、三日は。雨だって」

吹寄「そう…ここ最近晴れ間が続いていたから、なんだか気が滅入るわね」

19時05分。あたし達はカフェ『デズデモーナ』に入って一息入れていた。
元は学舎の園にあった、店内の壁紙から調度品、カップに至る全てを純白に統一されたお洒落なカフェ。
第七学区が放棄されてからこの学区に移転したおかげで、あたし達もそれを楽しめている。少し不謹慎だけれど。

姫神「…猫。雨に濡れてないと。いいけど」

吹寄「家猫じゃないの?」

姫神「晩御飯の時には帰って来る。縄張りのパトロールが。日課だから」

吹寄「そうなの…でも、晩御飯の時だけ帰ってくるだなんて…やっぱり犬とは違う生き物なのね」

姫神「犬と違って。猫は鎖で繋げないから。いちおう。鈴はつけている」

吹寄「なら、野良猫じゃないってわかるから連れて行かれたりしないわね」

幸い、姫神さんの様子は表面上変わった様子はない。
あたしはその点だけに安堵を覚えながらシェルパティーを口に運ぶ。
それにしてもずいぶんと御執心なのだなと思った。だからつい聞いてみたくなった。

吹寄「どんな毛色なの?」

姫神「赤トラ。わかりやすく言えば。茶トラ」

吹寄「オス?メス?」

姫神「メス」

吹寄「名前は?」

姫神「――――――」

そこで、姫神さんの言葉が詰まった。あたし、何か変な事言ったかな?

姫神「…まだ。拾ったばかりだから。名前をつけていない」

吹寄「まだなんだ?可愛い名前、つけてあげないとね」

いつからその猫を拾って来たのだろう、と少し首を傾げる。
そう言えば上条も猫を飼ったとかなんとか言っていた気がする。確かスフィンクスと呼んでいたっけ。


ガシャンッ!


吹寄「!?」

その時、カップが割れ砕けて散る音が聞こえた。

吹寄「姫神さん?!」

その音は、向かい合わせに座った姫神さんから立った音。

姫神「…!」

けれど、目を見開く姫神さんはカップを取り落とした事さえ意中にないらしく、店外を見通せる窓際に目を向けたままだった。

吹寄「…?…!!?」

そしてつられて視線を窓際に向けると…それが意味する所がわかった。

吹寄「結標…さん?」

結標さんが、誰かと相合い傘をして喫茶店の横を素通りして行ったのを
710 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)11 :2011/02/10(木) 20:41:13.10 ID:EX0KiuhAO
〜7〜

白井「今、お湯を沸かしますの」

結標「………………」

19時24分。結標淡希は白井黒子の使っている部屋にいた。
常盤台中学が全壊し、避難所が半壊した後一時的な仮住まいとして使っているマンションである。
それを結標は憔悴しきった表情で聞くともなしに聞いていた。

結標「…悪かったわね。貴女の制服まで…びしょ濡れにしてしまって」

白井「まったくですの!」

濡れ鼠となったまま白井の身体を抱き寄せたせいで制服まで濡らしてしまった。
それを結標はフローリングの床に拭き取れ切れなかった水滴を落としながら詫びる。
相対する白井は片手を腰に当てた仁王立ちで鼻を鳴らしながら

白井「ですが、ただならぬご様子でしたので結果として良しといたしますの」

結標「本当よね…私ったら、一体何をしているのかしら」

自嘲と憂いを浮かべた表情のまま、無理矢理口角を上げて形ばかりの笑みを浮かべる。
雨に打たれた姿と相俟って、ひどく投げやりで、退廃的で、そして妖しい色気が漂っていると白井は何とはなしにそう感じた。

結標「くだらない事で喧嘩して、つまらない事で飛び出して…つくづく、今日の私はどうかしてるわ」

道すがら、白井はだいたいの事情を結標から聞かされていた。
なんの事はない。取るに足らない痴話喧嘩と言ってしまえばそれまでだ。
夕食前に犬も食わない夫婦喧嘩を持ち込んで来たその当人はと言うと

結標「こんな事だから…秋沙に呆れられてしまうのよ」

濡れた前髪に指を差し入れ、折り曲げた左足に肘をついてうなだれる。
窓の外は既に夜の雨が窓ガラスを打つのがカーテン越しにも見て取れた。

結標「貴女にも…迷惑をかけてしまうわね」

白井「お構いなく。迷子の保護も風紀委員の職務の一つですの」

出会った時から薄々感じていた事だが、相変わらずメンタルが弱いなと白井は思った。
同様に上条当麻の恋人も情緒不安定の気があるが…

白井「さ、早くお湯に浸かっていらしてくださいな」

結標「…ありがとう…」

白井「どういたしまして」

優しくし過ぎても、突き放し過ぎてもいけない。
つくづく、女同士の距離感は難しいなと白井は独り言ちた。
こと精神年齢の面だけで言うならば、自分の方がまだしも大人だな、と思うに留めて。
711 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)12 :2011/02/10(木) 20:44:39.12 ID:EX0KiuhAO
〜8〜

姫神「出ない…」

吹寄「繋がらない?」

姫神「呼び出し音はある。電源が入っているみたいだけど。出てくれない」

19:28分。店外で二人を見掛け、声をかけようとした矢先に二人は姿を消した。
姫神さんが言うにはあれはテレポーテーションらしい。
追い掛けようにも瞬間移動されては足取りも追えない。八方塞がりだった。

吹寄「…誰だったのかしら。一緒に居た子」

姫神「知らない。多分。常盤台中学」

心なしか、姫神さんの声に焦りを感じた。もしかしたら、今のあたし達のように喧嘩別れして友達と一緒にいるだけかも知れないのに。

吹寄「この間のグリルパーティーや避難所でも見た事あったわ…誰だったかしら」

姫神「知らないったら!!!」

吹寄「!」

姫神「あっ…」

思わず、肩がビクッとなってしまい心臓がドキッとした。
初めて聞いた、姫神さんの大声。けれどその声に驚いたのは姫神さん自身に見えた。

姫神「…ごめんなさい。吹寄さん」

吹寄「いっ、いいの別に!ちょっとびっくりしちゃっただけだから」

今日の姫神さんもどこか様子がおかしい。ちっともらしくない。
それだけ結標さんとの喧嘩が堪えているのだろうか…すると

『もしもし?』

姫神「!」

吹寄「!」

姫神さんの携帯が結標さんの携帯に繋がったようだった。しかし

『姫神秋沙さん、ですの?』

姫神「…貴女は。誰?」

通話口から漏れ聞こえて来る声は、結標さんとは似ても似つかぬ声。
何故だろう。話し方がどこかお嬢様然として聞こえた。
しかし反対に姫神さんは…静かながら、怖いくらいドスの聞いた低い声。

姫神「何故。淡希の携帯に出ているの。常盤台中学の娘?淡希に代わって」

『結標さんなら今お風呂ですの。この意味、貴女ならばおわかりになられるかと』

姫神「…!」

電話口の誰かが話している内容は雨音にかき消されて聞き取れない。
けれど…姫神さんが怖い顔で息を飲んだ様子は伝わって来た。

姫神「巫山戯けないで。私は今。冗談を笑って聞き流せる気分じゃない」

『…ご安心を。結標さんには指一本触れていませんの。鈴のついた猫を横取りするなどと言った真似はいたしませんの』

電話越しなのに、刃と刃で切り結び、鎬を削って火花を散らしているような…そんな雰囲気の中――

『ただし――今夜は彼女を帰しませんの。ごめんあそばせ』

姫神さんが、携帯を叩き壊した。
712 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)13 :2011/02/10(木) 20:47:29.09 ID:EX0KiuhAO
〜9〜

結標「…馬鹿みたいよ。本当に私ったら」

結標淡希はバスルームで熱の飛沫を身体に浴びせていた。
ようやく冷え切った手足の指に血が行き届く感覚に目を落としながら、誰ともなしに呟いて。

結標「なんて…不様なんでしょうね…秋沙に合わせる顔がないわ」

恋人と喧嘩して飛び出して、友達とすら呼べない知り合いの家に転がり込む。
陳腐を通り越してチープなまでの展開だ。なるほど、お涙頂戴のドラマが廃れないはずだと結標は自分を嘲笑った。

結標「…秋沙…」

浴室の曇ったガラスに映る、胸と鎖骨に刻まれたキスマーク。
昨夜つけられたばかりの生々しいまでの交わした証。
しかし…それは今や結標にとって、証では無く烙印に等しかった。

結標「秋沙…秋沙っ…秋沙!」

ガリッ…と爪を立てる。キスマークに上書きするように。
僅かに爪先に滲む血が側からシャワーに流されて行く。
温かいはずのお湯すら、今の自分の身体を温めてなんてくれないと。

結標「なんで…どうしてっ」

痛みが欲しかった。姫神がくれる痛みが。痛みがあれば、それに苦しむ自分をそこに見つけられるから。
ついたかさぶたすら愛でられる。姫神が命じるままに脚を舐めた事すらある。
それに比べれば、自身で自分に刻む痛みなど姫神を想ってする一人遊びにすら劣る。

結標「ううっ…ううぅっ…」

どうしようもなく無惨だった。歪んだ愛に慣らされ切った身体は、一晩だって姫神から離れられない。
そしてこれ以上自分を傷つけられない。この身体の全ては姫神のものだから。

白井「――結標さん?」

結標「!?」

そこへ…バスルームの磨り硝子越しに、白井の影が映り込んだ。

白井「着替え、置いておきますの。あまり長く浸かってのぼせませんよう」

結標「…おあいにく様ね。私はシャワー派なの。長湯の心配はないわ」

霞む湯気の向こうに対して呼び掛ける。そう言えば姫神との同居生活の初日もこうだったと。

白井「それは結構ですの」

そこで、白井が硝子に背を向けて寄りかかるのが見えた。
どうやら、思い詰めてやしないかと様子を見に来たように結標には感じられた。
713 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)14 :2011/02/10(木) 20:49:38.49 ID:EX0KiuhAO
結標「…ねえ」

白井「なんですの?」

硝子一枚を隔てて交わされる奇妙な会話。それが決して交わらない結標と白井の距離のようで。

結標「シャワールームで泣く事って、ない?」

白井「ありますの。お姉様といた常盤台中学の女子寮ではしょっちゅうでしたの。部屋では泣けませんの」

結標「…私も、そうなの。秋沙と暮らし始めてから」

白井「――女の子ならば、誰しもが一度は経験する事ではございませんの?」

互いの姿は見えているのに決して触れる事の出来ない距離。
それが今の結標にとってはありがたいものだった。

結標「…私は、秋沙が初めてだった」

それはどっちの意味で?と白井は聞かなかった。わかりきっている。両方の意味でだ。

結標「誰にも言えずに、誰にも言わずに、誰にも言うつもりはなかったわ」

白井「――世間一般では、わたくし達の居場所はございませんの」

互いに思う。女子中学生と女子高生のする会話ではないと。
それは互いの積んだ経験と経た精神年齢の水域が同じだからかも知れない。

白井「花は咲けども実は結ばず、種も残さない荊棘の道のりですの。口が自然と重くなるのは無理からぬ事とはお思いになりません?」

結標「…貴女、中身だけなら超電磁砲より大人びて見えるわね」

白井「あら?お姉様もなかなかどうしてしたたかで打たれ強いんですのよ?」
714 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)15 :2011/02/10(木) 20:51:05.38 ID:EX0KiuhAO
能力の強度は兎も角、人間としての強度は白井の方が数段上だった。
なるほど、妹(しらいくろこ)は姉(みさかみこと)を見てその背に学ぶと言う事かと。

結標「…私は、打たれ弱いわ…」

白井「………………」

結標「貴女みたいに…強くなれない」

もし結標が白井の立場なら、上条当麻の存在を認める事など決して出来ない。
叶わない願いを抱き続ける事も出来そうにもない。だから

白井「…しゃんとしてくださいな」

白井は背を向けたまま座り、結標も背を向けたままシャワーを浴びる。
そう、自分達にif(もし)はないのだから。



白井「――貴女は、わたくしが認めた二人目の人間ですのよ」



結標「…!?」

白井「あまり、わたくしをがっかりさせないで下さいまし」

そう優しい声音を残して、白井は立ち上がって去って行った。

結標「…馬鹿ね」

いつしか、苛まれていた寒さと震えを乗り越えた結標を残して。

結標「それは…こっちの台詞よ」

姫神が結標の『半身』ならば、白井は結標にとっての『もう一人の自分』だった。

結標「私は――貴女のようになりたかったわ」
715 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)16 :2011/02/10(木) 20:53:34.91 ID:EX0KiuhAO
〜10〜

結標「着信無し…か」

パタン、と折り畳み式の携帯電話の着信履歴を見る…姫神から電話が来た形跡はない。
こちらからかけてみても繋がらなかった。話すつもりではない、単に安否確認のそれだった。

結標「白井さん。どうやら私は本格的に嫌われてしまったみたいよ」

白井から借り受けた白のワンピースから伸びる片足を抱えるようにして窓辺の結標は喉を鳴らして笑う。
それをリビングに置かれたチェアーに腰掛け足組みし、テーブルに頬杖をついて白井は言う。

白井「家主ですのに追い出されてしまいますの?軒を貸して母屋を取られるとはまさにこの事ですの」

結標「飛躍し過ぎよ。それより…シャワーも貸してくれてありがとう。もう少ししたらお暇させてもらうわ。悪かったわね」

カチャッ…パタンと開け閉めを繰り返し手中の携帯電話を弄ぶ。
借りた服も洗って返すから、と結標は一段高い位置にいる白井を見上げる。
外の雨は未だに勢いを衰えさせない。いや増すばかりの雨音。

白井「…遅い時間は申しませんが、もう夜ですの。今夜はもう泊まって行っては?」

結標「そこまで厚かましくなれないわ。まして、私と貴女は――」

そう、互いの刃を以て火花を散らし合い、鎬を削って殺し合いをした仲なのだ。
一夜限りの共闘は言わば敵味方を超えた利害の一致。
二人の間の遺恨や因縁を決して――

白井「…今夜は、雨ですの」

それに対し、白井の声音は落ち着いたものだった。
二人の間には絶えず一定の緊張感がある。それは同系統の能力者であると言う間柄、光(法の番人)と影(闇の住人)と言う関係性に拠る。だが

白井「…今夜に限り、水に流しません事?」

結標「………………」

白井「互いに寝首を掻くような無粋な真似はわたくしとしてもご遠慮願いますの」

結標には結標の、白井には白井の事情があって二人は顔を突き合わせている。
そこに過去の出来事に拘泥していても何ら建設的な進展は望めないと。

結標「――いいの?悪いけれど、私は秋沙と寝たのよ。貴女、そんな女に屋根を貸すつもり?自分の貞操の心配でもしたら?」

白井「御安心を。わたくし、耽美より純愛派ですの。それはわたくしは親愛、恋情、いずれの両面から健康美溢れるお姉様が好みですの。貴女のような妖しいタイプは好みから外れますの」

結標「――気が知れないわ」
716 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)17 :2011/02/10(木) 20:55:26.38 ID:EX0KiuhAO
その露悪的な微笑と怜悧な声色に白井は思い出す。ここ最近、砂糖漬けの練乳がけの生活ですっかり丸くなって見えたが

白井「(ネコはネコでも、ヒョウですの)」

結標の本来の姿は豹だと。例えネコ科であろうと、飼い主がいようと野生は野性を捨てられない。

結標「…ごめんなさい。何を偉そうに私は言ってるのかしらね…そんな事を言えるような立場じゃないのに」

かと思えば抱えて膝を揃え、三角座りで顔を隠す結標。
なるほど、と白井はかつて姫神が抱いたのと同じ感想を持った。
無防備過ぎる脆さ。ダイヤモンドの結晶のようだと。

白井「ひとまず、夕食の準備をいたしますので紅茶でも飲んでお待ち下さいな。ティラーズでよろしいですの?」

結標「任せるわ。私はリプトンかフォーションしか知らないから」

ミルクをたっぷり入れてあげようと、白井は結標に一瞥も送らず立ち上がった。
コンビニでも売っているような紅茶しか知らないなら、さぞ驚くだろうと。
帰る目処がつけば、この学区に移転したカフェ『デズデモーナ』にでも連れて行けば舌を巻くだろうと。

白井「ところで結標さん、デズデモーナはご存知ですの?」

結標に背を向けたままキッチンに立つ白井。しかし返って来た返答は意外なもので

結標「“オセロ”のデズデモーナの事?」

白井「ムーア人の手紙の方ではありませんの。よくご存知ですのね?他にはどんな書を嗜まれますの?」

結標「ただの暇潰しよ。あとはスタンダール。赤と黒は読んだわ」

オセロ…それは悲劇の名手シェイクスピアの物語の一つ。
掻い摘んで言うなれば、旗手の策略にかかり、愛すべき白い肌を持つ妻デズデモーナの不貞を疑い、嫉妬に狂った黒い肌を持つ夫が妻を殺害してしまうと言う物語。
最後には妻の不貞は旗手の策略であったと知った夫はデズデモーナの亡骸に口づけながら自殺してしまうと言う筋書きだ。

白井「これは失礼いたしましたの。見た目と違って教養がおありですのね」

結標「こんな救いのない話を知ってる貴女もね。言ったでしょう暇潰しだって」

デズデモーナ。ギリシャ語で『不運』。こんな名前を自分の店につける店主も店主だと白井は思った。そこで――

結標「――そう言えば」

結標が顔を上げる。少し会話のキャッチボールが出来てきたと思いながら

結標「貴女の名前もオセロ(白と黒)ね」

止まない雨を、結標は静かに見上げていた。
717 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)18 :2011/02/10(木) 20:57:56.50 ID:EX0KiuhAO
〜11〜

私は今、信じられないものを目にしている。

姫神「ハー…ハー…」

吹寄「ひめ…がみ…さん?」

いきなり携帯電話を叩き壊して、親の仇の死体に鞭打つように何度も何度も何度も…
肩で荒い息をつきながら真っ二つに折れ、割れた液晶を踏みつけて。
無表情な中にも鬼気迫る何かがあって、眠たそうな瞳に狂気じみた何かを宿して。

吹寄「どう…したの?結標さんに…何か…あったの?」

普段大人しい人が怒ると怖いと言うけれど、そんなレベルの話じゃない。
こんな顔の姫神さんを、あたしは想像すらした事がなかった。

姫神「なんでもない」

そう、一瞬でいつも通りの平坦なトーンに戻る所が怖い。
どんな悪ぶった男子に絡まれても一度も負けた事のないあたしの腰が引けてる。

姫神「イタズラ電話」

吹寄「で、でも携帯が…」

嘘だ。発信したのは姫神さんだ。言ってる事が滅茶苦茶だ。
けれど姫神さんはバラバラになってしまった携帯電話に静かに一瞥をくれると

姫神「新しいのに。取り替える」

本当に、ゴミでも見るような目でそのバラバラになった部品を…

姫神「これはもう――」


バキッと踏み鳴らして、グシャッと踏み潰して





姫神「  い  ら  な  い  」





718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/10(木) 21:01:42.58 ID:EX0KiuhAO
>>1です。本日の投下はここまでになります。
みなさんたくさんのレスをありがとうございます…
マリア様が見てる、読んでおけば良かったかなと今少し思っております(未読なもので…)。


それでは本日は失礼いたします…ありがとうございました。
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 21:55:56.83 ID:eidGg3j1o
>>718

>マリア様が見てる、読んでおけば
読んでないのがにわかに信じ固いクォリティですがww
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 22:21:01.30 ID:grfBBtrAO
乙ん。
姫神怖ぇww
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 22:27:33.19 ID:vtzCRNqAO
乙! 姫神が病んでる…
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 01:00:23.02 ID:m5gUaXEDO
Niceboat
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 06:46:34.74 ID:nFbP8PoUo
おおぅ…
姫神さまのお怒りじゃ
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 12:58:12.56 ID:J9v+71Uz0
かーなしーみのー
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/11(金) 16:23:59.92 ID:9z4dV04AO
>>1です。休日なのでこの時間ですが投下させていただきます。
726 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)19 :2011/02/11(金) 16:25:53.66 ID:9z4dV04AO
〜12〜

結標「………………」

白井「(致命傷ですの)」

結標淡希は白井黒子の部屋のソファーの上で相変わらず膝を抱えたままボンヤリとテレビを見ていた。
夕食後からずっとこうだ。時折意味もなく携帯電話を開いたり閉じたりしている以外アクションを起こさない。
それを隣に腰掛けながら白井はずっと観察していた。

白井「夕食、お気に召しませんでしたの?あまり食べていらっしゃらないようでしたの」

結標「いいえ。とっても美味しかったわ。料理が苦手な私からすれば逆立ちしたって勝てないくらい…あ…」

しかし、料理と言うキーワードに再び意気消沈してしまう。
姫神秋沙(恋人)の味を思い出しているのだろうと白井は勘づく。
本当にどうしようもなく惚れ込んでしまっているのだろうと。

白井「…さぞかしや、美味な食事の数々に舌鼓を打っておいでですの」

結標「…あのね?」

そこで結標は三角座りの体勢のままソファーの背もたれに頭をもたせかけた。

結標「…おかしな話、秋沙が作ってくれるならレトルトだって美味しいの…」

白井「………………」

黒子自身も右足から左足に組み換え、テレビを見やる。ちょうど音楽番組が新人アーティストの紹介場面に移っている。

結標「一緒に食べてくれるなら、私が手抜きで買って来たお惣菜だって…お弁当だって美味しいのよ」

結標の声音に震えが混じる。見ずともわかる。わかってしまう。

結標「私、あまり食べないのにあの娘いっぱいご飯作るの…細すぎだ、肉つけろだなんて…私を太らせようって意地悪するの」

こんな気丈な結標を、ここまでさせる姫神はさぞかし良い主人(恋人)なのだろうと。

結標「私…なのに…秋沙にひどい事した…ひどい事言った…手…上げた…!」

白井「そうですわね。貴女は最低ですの」

同時に――もっと大事にしてあげられないものかと不快な気分になる。
何故飛び出してすぐ追い掛けなかったと。こんなになる前に何故許しを与えてやらなかったのだと。

白井「最低で…同時に、共感も出来ますの」

結標「え…?」

結標の頭に手を置き…スッと側に寄せる。これがかつて自分と切り結んだ相手かと。

白井「何故、姫神さんが貴女を手離したがらないのかが」

呆気ないほどコロンと結標は白井の膝に身体を倒した。
軽すぎる。細すぎる。華奢すぎる。こんな身体は抱き締められたら折れてしまいそうだと。
727 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)20 :2011/02/11(金) 16:27:02.33 ID:9z4dV04AO
結標「…離れられないのは、きっと私の方よ」

対する結標も特別なリアクションを起こさなかった。故に白井は確信する。

白井「――愛されているからですの?」

結標「――抱かれているからよ」

この娘は人肌に慣らされ切っていると。大なり小なり他者と触れ合えば硬直なり反射をする。意識的なり無意識なりに。
それを行わない人種は白井の知る限り――相手の体温に合わせて溶ける、そんな寂しがり屋。

結標「聞きたい?私が秋沙にどんな風に抱かれているか」

白井「お止め下さいまし。後悔いたしますのよ」

同時に、相手を大切に出来ても自分を大事に出来ないタイプの人種にもそれは顕著だ。
その手合いは自己否定と自己破壊に一度走ると歯止めが効かなくなるとも。
風紀委員として街の治安の一角を担う中で、色んなタイプの犯罪者を目にして来たからこそ。

白井「――貴女は、もっとご自分を大切になさるべきですの」

結標「私は自分が一番可愛いわ」

自分が男なら、既に押し倒しているだろう。
女が情欲を覚えるにあたっての環境は九割が『気分』だ。
恐らく、結標自身気づいていないだろうし意識もしていないのだろうが…
結標はその環境作りと雰囲気作りに訴えかけてくるのが異常に上手い。
サバサバした性格に隠れてわかりにくいが、角度を変えるとゾッとするほど妖しい瞬間がある。今のように

白井「――お風呂に行ってきますの」

結標「そう」

得心も行く。恐らく姫神が執着し、結標が依存する。
主従で言えば姫神が上、結標が下なのだろうとも。
ただし…関係性の主導権は姫神が握っていても、関係性の支配権は結標が鍵となっていると白井は見抜く。

結標「ありがとう。話を聞いてくれて」

恐らく、どっぷりつかり込んでいるのは姫神の方だろう。
怖い怖い、さっさと頭を冷やしに長湯にしようと白井は決め込んだ。
728 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)21 :2011/02/11(金) 16:29:21.88 ID:9z4dV04AO
〜13〜

吹寄「姫神さん!姫神さんったら!」

あたしは土砂降りの雨の中をズンズンと進んで行く姫神さんに小走りでついて行く。
車道沿いの並木道の木々が物凄い勢いで揺さぶられている。
あまりの雨風で、声を張り上げているのに姫神さんに届かない。

吹寄「姫神さんってば!!」

姫神「――――――」

そこで、あたしは少し乱暴とも思ったけれど姫神さんの肩を掴んで引き止めた。
こうでもしないと、姫神さんはあたしの話を聞いてくれないと思ったから。

姫神「――ごめんなさい。吹寄さん。先に帰ってもらって。いいから」

吹寄「ダメよ!そんなっ…」

姫神「――ひとりに。させてほしいの」

しかし、姫神さんはそれでもあたしの目を見て話してくれない。
それどころか、なんとかして顔を背けようとしているようですらあって。

吹寄「ごめん…姫神さん。それは…出来ない」

何があったかはわからない。けれど携帯電話を叩き壊すほど姫神さんの頭に血を昇らせるような出来事があって、それをほったらかしにしてただ見送るだなんて出来なかった。

姫神「お願い。だから」

吹寄「ダメ…今、姫神さんを一人になんてさせられない。帰るんでしょう?結標さんの家に。だったらあたしからも言ってあげるから――」

姫神「――淡希は。今夜。帰ってこない」

そこで、姫神の声がひび割れたような気がした。
思ったよりずっと深刻そうだった。いくら喧嘩したとは言え、飛び出した結標さんが…
申し訳ないけれど、家主が帰らないだなんてよっぽどの事だと思った。

吹寄「…さっきの電話はそれだったの?」

姫神「…正確には。淡希じゃない。私の知らない誰かが電話に出た。淡希が帰りたくないって。だから帰さないって」
729 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)22 :2011/02/11(金) 16:30:25.58 ID:9z4dV04AO
本当に重傷だ。電話に出た相手はあの常盤台中学の生徒だろうか。
傘で顔は見えなかったけれど、結標さんの友達なんだろうか。
このまま放っておけば、最悪ルームメイト解消だって有り得るかも知れない。

吹寄「…姫神さん。ごめんなさい。私には全然話が見えてこないの。本当は聞いちゃいけないと思ってたけど…こんな大喧嘩するだなんてただ事と思えない。一体貴女達に…何があったの?」

織女星祭でレベル5が集結するのを見て思った。
レベル5と言うとあのテレビに映っている御坂美琴さんのような優等生、ないしトップエリートの集団を想像していた。
けれど蓋を開けてみればスキルアウトの何十倍も洗練されて、何百倍も暴力的な雰囲気があった。

髪が真っ白なアーティスト風の第一位、ホスト風で女の敵のような第二位、綺麗だけれど恐ろしく冷たい目を私に向けて来た第四位、暴走族みたいな服を来た第七位、そして露出多めで遊んでそうな結標さん。

人を見た目で判断しちゃいけない事はわかってる。けれど無視出来るレベルじゃない。
悪いけれど住んでる世界が違い過ぎる。そんな中で平気でいられるどころ輪に加わってさえ見える上条と土御門。

姫神さんには申し訳ないけれど、そんな異彩を放つ集団の第九位(結標さん)と一緒にいる絵面はおかしい。

いつか取り返しがつかない事になる前に、これを機にそんな付き合いは止めてほしいとすら思った。だけど。

姫神「――これは。私と淡希の問題だから」

何故、貴女はそこまで結標さんに執着するの?
手を上げられて、何故それに対して怒らないの?
家を追い出されるから?行き場を失うから?だったら――

吹寄「じゃあ、姫神さん――」

あたしが、姫神さんを守る。あんな手を上げるような人の所に、あたしだって帰してやらない。
730 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)23 :2011/02/11(金) 16:33:23.65 ID:9z4dV04AO
〜14〜

結標「(…かさぶた、終わっちゃうわね。ヒリヒリするのも消えたし)」

結標淡希は相変わらずソファーの上で膝を抱え身体を丸め込んで見るともなしにテレビを見やっていた。
内容なんて頭に入ってこない。単に孤独が侘びしくて音を欲しているだけだ。

結標「(…新しいの、欲しいな…)」

自分のセンスでは決して選ばない、お嬢様趣味の純白のワンピースの胸元を右手で握りながら結標は嘆息した。
腫れ上がりそうなほど吸われ、望んでつけられた歯形の跡がどうしようもなく疼く。
耳に感じる僅かなピアスの冷たさが、姫神の不在をより一層確かにして。

結標「(メールも、電話も、返してくれないの?)」

頭をよぎったのは、こんな馬鹿な事をした自分に愛想を尽かせた姫神。
もう何回もメールを送ってる。手を変え品を変え文面を変えて四回も。
しかし応答も返信も何もない。追い掛けてすらくれなかったと。

結標「(叱られるより、怒られるより、無視されるのが一番堪えるわ)」

今どうしているんだろうと、二人で映った待ち受け画面を見つめる。
明日は土日だから揃って休みになるが、この様子ではその休日すら憂鬱なモノになりそうだ。
ネガティブ思考が坂を転げるほどに膨らむ雪だるま式に大きくなって来る。

結標「(許されたいけど、謝りたくない)」

姫神への反発もあった。吹寄がいると姫神はろくに自分の相手をしてくれない。
かと言って姫神が折れるまで根比べしていては自分が参ってしまう。
自分が悪かった。しかし相手にだって非はあると思っている。

結標「私って…面倒臭い女なのかしら」

思わず口に、声に、言葉に出てしまう。面倒臭い女、重い女。
けれど自分だって一人の人間だ。都合の良いお人形さんのようには振る舞えない。
相手にとって望まれる存在でありたい。しかしそれだけでは――

白井「面 倒 臭 い で す の」

結標「わっ!?」

すると…ソファーの向こうからジト目でこちらを見下ろして来る湯上がり姿の白井黒子がそこにいた。
トレードマークであるツインテールをほどき、生乾きの髪をタオルで拭きながら。

結標「いつからいたのよ!?」

白井「ついさっきですの。恋煩いも結構ですが、周りへの目配りも怠らぬようお願いいたしますのよ。わたくしもおりますの」

全くと言って良いほど気づけなかった。つらつらと思い煩いを募らせている合間に白井は呆れたように回り込んで。
731 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)24 :2011/02/11(金) 16:35:45.38 ID:9z4dV04AO
白井「まだ、連絡がつきませんの?」

結標「…見てたならわかるでしょう?そうよ。言わせないで欲しいわね」

一度も鳴らない携帯電話。傍らの白井から湯上がりの良い匂いがした。
なるほどツインテールを下ろすだけでグッと落ち着いて見えるから不思議なものだ。

白井「そうですの。意外と冷めてらっしゃいますの。貴女のパートナーも」

結標「違うわ…秋沙はそんな娘じゃ…」

白井「言い切れますの?」

グサッと胸の奥の柔らかい場所に薔薇の棘が食い込んだような痛みを覚える。
もう一度違うと言いたくなって…自信が湧いて来なくなる。

白井「失礼ですが――」グイッ

結標「!?ちょっと!なにを――」

そこへ…伸びて来た白井の手が、結標の胸元に伸びる。
ワンピースの胸元が僅かに肌蹴て、剥き出しの歯形とキスマークが晒される。

白井「あまり大切にされているとは思えませんの。わたくしには」

結標「…やめて…」

白井「貴女の格好からすれば見えかねない場所に、言い訳の出来ない痕を刻む事が本当に貴女を大切にしているかどうか、わたくしの感性では計りかねますの」

結標「…やめて!」

白井「――わたくしには、貴女が良いように身体を弄ばれているようにしか感じられませんの」

結標「やめて!」

白井「それを拒まない、貴女とて――」

結標「やめてってば!!」

思わず、突き飛ばしてしまう。それに白井は抗う事もなくソファーに仰向けになる。首だけを起こして。

結標「秋沙は…秋沙はそんな娘じゃない!秋沙を悪く言わないで!!秋沙の事何も知らないクセに、勝手な事言わないで!!」

たまらず、涙声になる。感情が高ぶり過ぎているとわかっている。
それでも反駁せずにはいられなかった。自分を侮辱される事より怒りを感じたから。

結標「あ…いさを…悪く…言わないで…悪いのは…わ…るいの…は…わた…し!」

白井「…他にも、目に見えない所にもございますの?彼女が刻んだ証が」

出し尽くしたと思った涙が、枯れ尽くしたと思った雫が、後から後から溢れてくる。
もうボロボロだ。自分でコントロール出来ない強い感情の発露に、自分の器が耐えられない。
両手で顔を覆うように結標は涙を流す。その涙の理由は、白井の言葉に否定しきれない疑惑を自分も抱いているから。

結標「で…も…終わったら…秋沙…すごく優しくしてくれるの…痛くしたところ…汚くなんてないって…!」
732 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)25 :2011/02/11(金) 16:37:15.41 ID:9z4dV04AO
自分に言い聞かせるように、結標は言葉を紡ぐ。自分の発した言葉にすがるように。
その姿が、白井にはいっそ哀れを通り越して痛々しいまでだった。

白井「…そう、ですわね」

身体を起こす。泣きじゃくる結標の姿を捉えるために。
手を伸ばし、細く小さな肩に手を置く。拒まない。それが白井の胸を痛めた。

白井「好いておられますの?姫神さんの事を」

結標「好きよっ…決まって…る…じゃな…い…私は…秋沙が好き…!」

白井「こんな雨の中飛び出した貴女を追い掛けもせず、電話の一つも寄越さずとも…ですの?」

結標「わ…だじ…には…秋…沙しか…いないの…秋沙…じゃな…きゃダメなの!」

結標の泣き顔を、薄く控え目な胸に抱く。パジャマ越しに感じる涙が熱い。
しゃくった涙声で、鼻を啜る。肩も細い。背中も小さい。
路地裏で対峙していた時の抜き身の刃のような鋭角さはすでになく、まるでガラスの剣も同然だった。

結標「私達は…私達は!」

白井「わかっておりますの。あなた方を見ていれば」

共闘を通してわかった。死地に身を投じて想い人を奪り還しに行った結標の想いも。
そのためにレベル5にまで駆け上がった結標の決意も。
どんな言葉より雄弁に、あの夜の結標の横顔は凛々しく美しかった。

白井「―――がうらやましいですの」

その薄い背に右手を回して、あやすように撫でる。
震えが伝わってくる。嗚咽の度に背中が戦慄く。
寄せた頬をすり合わせ、一定のリズムを務めてトントンと叩く。

結標「…え?」

それを泣き濡れ潤んだ眼差しで結標は見上げて来た。
これは確かに…と白井は改めて確信する。こんな顔をされれば庇護欲を駆り立てられるか嗜虐的な気分になるだろう。

白井「…何でもございませんの」

左手で後頭部を撫でる。指先に絡む、自分よりも更に赤みがかった結標の髪を。
緩くウェーブのかかった自分のそれとは異なる髪に手櫛を入れて、指先で梳いて。
呆けたような結標の白面へと、くっつき合わせた頬を離して

白井「こっちの話ですの…さ」

寄せた唇を、涙に濡れた目元に落とす。
冷たい涙と、熱い頬と、僅かに塩辛い雫に口づける。
綺麗、だと思った。もし人の形をした硝子細工があったならこれ以上の美しさは望めないだろうと。
あるとすれば敬愛する御坂美琴をおいて他にありえない。そして――

白井「――そろそろ、眠りません?」

唇に触れたなら、きっと甘いだろうと。
733 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)26 :2011/02/11(金) 16:39:07.68 ID:9z4dV04AO
〜15〜

吹寄「思い出したわ、姫神さん」

姫神「?」

あたしは姫神さんを女子寮に連れ帰った。
連れ帰ったと言うより、とても強引に引っ張って来てしまったのだけれど。
こういう時、同じ学校で同じクラスメートで良かったと思う。

吹寄「ちょっとしか声が聞こえなかったからなかなか思い出せなかったんだけど…この間のグリルパーティーの時にいた、リボンの女の子じゃない?」

姫神「リボンの。子…!?」

私の言葉に、出しっぱなしにしていたぶら下がり健康器に触れていた姫神さんが振り返る。
その肩には未だ霧ヶ丘女学院のブレザーが羽織られている。結標さんのものだ。

吹寄「うん。あの時常盤台中学の娘が三人いたでしょう?多分、だけど」

あのグリルパーティーで見掛けた常盤台中学の生徒は三人。
一人はテレビでも見た第三位御坂美琴さん、一人は名前は知らないけれど第五位と呼ばれていた人、一人は特徴的なリボンだったから強く印象が残っていたから。だけれど

姫神「リボン。もしかしたら。私。その子を知ってる」

吹寄「?。そうだったの?」

姫神「…私が。上条君達と帰って来た日。覚えてる?」

吹寄「7月7日よね?七夕の日だったからよく覚えてるわ。それがどうしたの?」

姫神「…淡希。その日。持ってないリボンをしてた。よく覚えてる」

本当によく覚えてるなと思った。あれだけ人数のいるパーティーで一人一人の顔と名前を一致させるのは難しいけれど…
結標さん一人に絞り込むなら何か手掛かりを掴めると思えた。

姫神「淡希…!」

けれど…何故姫神さんはこんなに怖い顔をしているのだろう
734 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)27 :2011/02/11(金) 16:42:03.01 ID:9z4dV04AO
〜16〜

白井「ピアス、外しませんの?」

結標「これは鈴だから」

白井「鈴?」

結標「そう。猫の鈴」

未だ止む気配のない雨音、未だ衰える予兆のない雨足。
窓辺を撃つ雨垂れが幾筋も幾重も描く雨模様を見上げながらベッドの上で結標淡希は冷たく笑う。
雨音はショパンの調べだなんて言ったのは誰だ。耳鳴りのようではないかと

結標「秋沙が私につけた鈴よ。私がどこに居ようが、誰と居ようが、何をしていようが――結標淡希(わたし)は姫神秋沙(あのこ)の所有物(もの)だって言う…鈴(あかし)なの」

白井「重くありませんの?」

結標「重いわ。CHROME HEARTSのフレアだから」

白井「重量の問題ではございませんの」

クイーンサイズのベッドに同衾しながら、白井黒子はその横顔を見やる。
自嘲と、自虐と、自罰が綯い交ぜとなったその横顔を。

白井「滑稽ですの。そんなもの一つで縛れるほど、人の心は容易くも安くもありませんの」

結標「そうね。私もそう思うわ。けれどね、私達にはこれくらい重くてちょうどいいの」

自分でもそう思う。重さもゴツさも女の子向きではない。
ただデザインだけは洗練された百合の意匠で、値段も二万ほどとまずまずだった。
私は二万円の女、そう自分で自分を貶めたくなる。

結標「思った事ない?女同士のカップルがいて、それを繋ぎ止めてるものはなんだって」

白井「愛、という模範回答ではいけませんの?」

結標「及第点以下よ。常盤台(おじょうさま)」

白井「答え合わせを。霧ヶ丘(おじょうさま)」

結標「重さ、じゃないかしら」

スッと布団に入る。伸び伸びと眠れる。傍らに寄り添う相手が常より小さく、寝そべるベッドが常より広いから。
735 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)28 :2011/02/11(金) 16:43:39.89 ID:9z4dV04AO
白井「残酷な解答ですのね。わたくしのテキストとは答えが違っていますの」

結標「答えの一つではあるでしょう?」

白井「解説を」

結標「いいわ」

互いに寝首を掻こうとすればいつだって可能な距離。
これでいい。自分達にif(もし)はないのだから。

結標「秋沙と付き合っていてわかったわ。つくづく女の身体って、女と肌を合わせるように出来てなんていないって」

それは生物としての構造の限界でしょう、と白井は言う。
その通りだと結標も思う。重ねて白井も言う。
こんな話はとても御坂美琴には聞かせられないと。

結標「――私達は、遺伝子に逆らってる。女同士だなんて倫理観の前にね。それに耐えるには重さしかないんじゃないか…ってね」

白井「――本能には忠実ですのに?」

結標「そうね。だからエスカレートするしかないのよ。女同士で埋まらない部分を満たすには…それしかないから」

これは言わば、華やかな表舞台に対する暗幕の中の愛憎。
女同士の恋愛(禁じられた遊び)という関係と、問題と、根幹に触れる愛憎。

白井「常盤台でも時折そう言う噂や話は出ますの。女生徒ばかりですので」

結標「男みたいに、気持ち良いだけで満足出来ないから女は救えないのよ…!」

白井は思う。笑いをこらえるのと涙をこらえる声の震えはよく似ていると。
結標は今どちらだろうか。自分を嘲笑うのと姫神への涙、どちらをこらえているのか
736 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)29 :2011/02/11(金) 16:45:18.85 ID:9z4dV04AO
結標「秋沙が男の子と話してると苛立つの…秋沙が女の子といると腹が立つのよ。敵が二倍だわ…こんなの知らなかった…知りたくなかった…知らなければ良かった!」

白井「結標さん」

声が震えだす。抱き締めた自分の身体に爪を立てる。
そうしなければ震えだす自分の身体をなだめられないから。

結標「最低よ…最悪よ。交わしている時しか嫌な事が忘れられないの!気持ちが落ち着かないのよ!」

女が女が愛するという事はそう言う事なのだ。
男はもちろん、親しげに話す女友達にすら神経は逆撫でされる。

結標「綺麗なだけで!美しいだけで!好きだとか!愛してるだとか!そんなもので埋まる訳ないじゃない!!」

白井「結標さんっ」

御伽噺ではなく現実の話。男女の中ですら女にはドロドロとした感情は渦巻く
それが女と女になればそれは二倍ではなく二乗の計算になる。

結標「一緒に生きるって!一人で死んだりさせないって!何が何でも何があっても二人一緒にって!だから私は!私は!!」

白井「結標さん!!」

抱き締めた身体に立つ爪から血が滲む。それを白井が引き剥がす。
純粋に腕力だけなら能力頼りの結標より風紀委員で鍛えている白井に分がある。
そこで結標は抵抗を止めた。誰かを傷つけようと向かう力を自分に向けて止めるように

白井「…落ち着いて下さいまし。いつもの貴女らしくありませんの…」

結標「…私はね」

一ヶ月、結標と姫神が出会い、結ばれ、付き合い始め、暮らし始めて約一ヶ月だ。
最初の限界が来るのはわかっていた。姫神は大人しそうに見えてメンタルは強そうだが結標は無理だろうとも。
737 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)30 :2011/02/11(金) 16:48:31.38 ID:9z4dV04AO
結標「――コーヒーがブラックで飲めないのよ」

白井「………………」

結標「砂糖とミルクが入ってないと…飲めないのよ――」

人によっては言うだろう。ブラックで飲めないならコーヒーなど飲まないほうが良いと。
だが結標にはまだ苦さ(現実)の中にある深みに舌が追い付かない。
砂糖(甘さ)やミルク(優しさ)無しで、全てを飲み込むのはまだ無理だった。

白井「――わたくしは、クリームティーが好きですの」

白井とて、御坂美琴に絡んで陰ながら泣いた経験は一度や二度ではない。
だからわかる。結標の抱く苦悩やぶち当たった同性の壁も手に取るように。
喧嘩などほんの些細な穴に過ぎない。問題はその穴から噴き出す激情だと

白井「あったまりますのよ。コーヒーよりもずっとずっと…あったまりますの」

同時に白井は姫神に対して思う。メンタルが強いなら、相手を強く愛する以上にケアしてあげるべきだと。
怒って手を上げ飛び出した結標も大人気ないが、それをほったらかして追い掛けなかった姫神だって悪い。そして――

白井「…眠る前は、特に」

緩く柔らかく結標の手を取る。血が出るほど爪を食い込ませた指先を…自分の頬に導く。
白井の頬に僅かな血の雫がつく。血という絵の具に、結標の指先という絵筆を以て、描かれるキャンパスのように

結標「――汚れるわよ」

白井「互いに、血を流し合った仲ですの」
738 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)31 :2011/02/11(金) 16:50:34.48 ID:9z4dV04AO
夕方の路地裏での殺し合い、深夜の学校での共闘(ダンス)。
白(ジャッジメント)の黒(グループ)の交錯。
光(白井黒子)と影(結標淡希)の倒錯。

白井「共に涙を流し合った恋人は世に数多くございますが」

妖しい磁力。引き込まれそうになるどころか気を抜けば吸い込まそうだと白井は笑う。

白井「――共に血を流し合ったのは、わたくし達だけですの」

そこで結標は認識を改める。自分達はコインの裏表であり、同極のマグネットだと。

結標「血を流す事を誇るのは、愚か者のする事よ――」

同じだから反発する。同じだからくっつかない。

結標「――白井さん」

結標が顔を寄せる。白井が目を閉じる。薄暗闇の中、影が近づいていく。

結標「逃げていいのよ」

白井「わたくしが、貴女に背を向けて逃げると?見くびらないでいただきたいですの」

結標「…逃げたら、引き裂いてやれたのに」

どちらともなく寄せられた唇、どちらともなく伸ばされた舌。
微かに匂う血の匂い以上に、白井の甘い香りがする。

白井「貴女は姫神さんを裏切れませんの…裏切ってはいけませんの…だからこれでいいんですの…」

結標「…馬鹿な娘ね」

光はあたたかくて、手の届かない場所にあるくらいがちょうどいい。
姫神という存在から離れられない吸血鬼(むすじめあわき)が光に手を伸ばせば灰になってしまう。



結標「―――貴女、泣いてるじゃない―――」



白井「―――雨ですの―――」



光(しらいくろこ)が、どんなに眩しくても
739 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)32 :2011/02/11(金) 16:52:18.05 ID:9z4dV04AO
〜17〜

話して行く内に、私は自分でも記憶の整理が出来て来た。
やっぱり話相手がいると思考もまとまりやすくなって来る。

姫神「(確か。二日目)」

淡希と一緒に避難所の小萌先生の見舞いに言った時、淡希はリボンをつけた常盤台中学の娘と長い間話し込んでいた。

姫神「(確か。五日目)」

淡希と一緒にゲームセンターでダンレボをしている時、対戦しようと言って来た女の子二人の内一人の子もリボンをしていた。

姫神「(そして。七日目)」

淡希が空港での戦闘の時、私が奪った髪紐の代わりにやっぱりリボンをしていた。

姫神「(ヒントは。答えは。ずっと私の目の前にあった)」

淡希しか見ていなかったから気づけなかった。
けれど淡希がいない今だからこそ周りが見渡せる。
淡希に時折差す影…あのリボンをつけた誰かはいつもいたのだ。

姫神「(私から。淡希を奪わないで)」

させない。やらせない。触れさせない。淡希は私のものだ。
心の底から愛するのも、身体を弄んでいいのも、一緒に寝起きを共にするのも、跪かせて脚を舐めさせる事だって。

姫神「(認めない)」

淡希の笑顔だって、泣き顔だって、寝顔だって、溶けた顔だって…
心の欠片から身体の隅々まで淡希は私のものだ。

結標『そう?人を好きになって、愛して、マトモでいられる人間なんているのかしら。それを教えてくれたのは貴女よ。秋沙』

今なら私にもわかる。あの夜淡希が言った言葉の意味が。




姫神「(淡 希 は 誰 に も 渡 さ な い)」




740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/11(金) 16:55:06.26 ID:9z4dV04AO
姫神「淡希は。どこ」

白井「結標さんならわたくしの横で寝ていますの」



>>1です。本日の投下は以上になります。皆さんのおっしゃっていたマリア様がみてるを一巻だけ読みました。読んだのにこうなってしまいました…何故でしょうか(´・ω・`)

たくさんのレスをありがとうございます…雪が降ったり寒さが染みる時期ですが、皆さんあたたかくして下さいね(作中は8月ですが)それでは失礼いたします。
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 17:02:37.97 ID:PW3834clo
ぐぁぁあ動悸がする!乙です!毎度毎度良いところで止めよって!

ところでヤンデレが似合いそうな禁書キャラランキング(俺調べ)のトップはずっとオルソラだったんだけど、これは姫神に奪われたかもしれん
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 19:43:13.01 ID:pqaI5DdEo
作者さんマリみて読んでないでコレはほんと凄い
>>698とか特に

マリみて読んだこと無い人は古本屋でもいいから
「レイニーブルー」のラスト数ページと「パラソルをさして」冒頭を
立ち読みでいいから流し読みしてみるといいよ
この作者さんの凄さもわかるから
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 20:18:54.75 ID:7V9ENjeeo
なんつか、ここまで書き手との性差を実感させられる作品はないなあ。
こんなの書けねえし思わねえし理解もできねえ。
精緻に分析的に描かれてるだけに余計に思う。
なんかもう世界がちげえ。
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 21:04:49.94 ID:m5gUaXEDO
ヘタレてわ立ち直ってを繰り返すあわきんを応援してる。
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 00:18:46.35 ID:XdNl/J74o
相変わらずすんげークオリティだな
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/12(土) 13:04:17.99 ID:jAbNOmQAO
>>1です。本日の投下をさせていただきます。
747 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)33 :2011/02/12(土) 13:06:09.20 ID:jAbNOmQAO
〜17〜

白井「朝ですの」

7:03分。白井黒子は窓辺の陽射しと共に朝を迎えた。
クーラーは除湿に。室内は適温に。そして傍らには――

結標「すー…すー…」

白井「(…夢ではございませんの…)」

ほんのりあたたかい人肌の体温。安らかで心地良さそうな寝息を立てる結標淡希の寝姿。
罪のない寝顔。汚れすら知らないような静謐なそれ。
下ろされた髪と純白のワンピースも相俟って幼い少女のようにも見える。

白井「………………」スッ

成る程。これが姫神秋沙しか知り得ない結標淡希の姿かと思う。
日向ぼっこに丸くなる猫のようだ。触りたくなるのと眺めていたくなるのと両方の気持ちが湧いてくる。

結標「んっ…」

伸ばした手を、結標が巻き込んだ。わかっている。夢現に微睡んでいるだけだと

結標「秋沙…」

白井「………………」

巻き込まれた手を、引っ込める。わかっている。夢幻に寝ぼけているだけだと。

白井「結標さん。朝ですの。起きて下さいまし」

結標「…ふえ…」

開け放つカーテン、射し込む朝焼けの光。この止んだ雨は一時的なものだ。
夕方からまた降り出すに違いない。そう思いながらキュッと固く瞑った目蓋をうっすら開ける結標を見やる。

白井「朝ですのよ結標さん。起きていただかないとベットメイキングが出来ませんの」

結標「んんう〜…今日は土日じゃないの…もう少し寝させて…」

白井「わたくしにも朝食の準備がございますの。起きていただけないなら引っ剥がしますの」

結標「…起こして〜」

そう言いながら腕だけ上げて来る。なんと手の掛かると白井は思う。
御坂美琴の寝起きの方が遥かにマシに思えてならない。しかし

白井「まったく…姫神さんの苦労が偲ばれますの」

右手で手首を掴み、左手を肩回りから背中にかけて回して状態を起こす。
用救護者か介護のようだと思いながら。そして上体を起き上がらせた結標は――

結標「…いい匂い…」

フカフカと白井のお腹あたりに顔を乗せてまだ寝ぼけていた。
手の掛かる姉を持った世話焼きの妹の気分だった。思わず溜め息が出る。

白井「…アーリーモーニングティーは何になさいますの?」

結標「クリームティー…」

昨夜の事が、まるで夢のような――ありふれた夏の朝が来た。
748 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)34 :2011/02/12(土) 13:08:37.28 ID:jAbNOmQAO
〜18〜

結標「もむもむ…」

白井「パン屑がこぼれましてよ」

7:40分。結標淡希は白井黒子と朝食をとっていた。
テーブルにはクリームティーが2つ、結標が食べているキューカンバーサンドが1つ、白井が目玉焼きとベーコンを乗せたトーストを頬張っていた。

結標「(この娘も料理出来るのね…もしかして作れないのって私だけ?)」

白井に言わせればマスタードバターをパンに塗って、スライスされたキュウリに塩を振って挟んでカットするだけの事だが、その手つきだって結標からすればマジックだ。

白井「マスタードの量が不足していたようですの。もっとしゃっきりとなさっていただけませんこと?」

結標「まだ無理よ…それより貴女のご飯、天空の城ラピュタのパズーみたいね…」

白井「朝ご飯をおろそかにする者は後になって泣きを見ますの」

蒲柳の質である結標からすれば白井の健啖ぶりは真似出来そうにもなかった。
同時に思う。姫神が昔作ってくれたサーモントーストサンドの味を。

結標「………………」

白井「なんですの?わたくしの顔にヨダレの跡でもついていまして?」

結標「いいえ…ありがとう」

白井はいたって平静だ。事あるごとに御坂美琴へ求愛のダイブを仕掛ける点を除けば確かに御坂よりお嬢様然としている。
あの口と性格の悪さが美貌まで台無しにしている第四位も物腰だけはそうだったと。

結標「昨夜は…ありがとう」

白井「まったく。いい迷惑ですの」

ピッとリモコンでテレビを点ける白井。適当なチャンネルを回しつつ、続ける。

白井「あんなに剥き出しの脆さをさらけ出されて、放ってなどおけませんの」

結標「…それは正義の味方の風紀委員(ジャッジメント)として?」

白井「わたくし(白井黒子)として、ですの」

上品にティーカップのクリームティーに口をつけながら、すぐりのパイでも欲しいですわねなどと挟みつつ。

白井「――昨夜の事はお互いに忘れましょう」

結標「………………」

白井「わたくしは貴女に傘を差した、貴女はその中で雨宿りした…ただそれだけの事ですの」

結標「そうね…私も、どうかしていたわ」

結標は思う。なんて優しいんだと。優し過ぎると。
それは甘さが高じたそれでなく、確かな強さに裏打ちされた優しさだと。

結標「けどね…」
749 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)35 :2011/02/12(土) 13:10:28.79 ID:jAbNOmQAO
フッ…と思う。もし、自分達の出会いと歩みの道が違えばと。
ありえないif(もし)が姫神秋沙という少女に愛を捧げる前に起きていたら――

結標「――例え、あの瞬間だけでも…私は確かに本気だった。それだけは…気の迷いと受け取らないで」

白井「――わたくしも」

白井もフッ…と思う。自分達の立場と所属が事なればと。
ありえないもし(if)が、御坂美琴に恋をする前に起きていたら――

白井「慰めや、同情で、貴女と居た訳でないと…わかっていただけますの?」

結標「――もちろんよ」

しかし、自分達にもしもは、ifは起こり得ない。今までも、これからも。

白井「ただ――1つだけ、お願いが」

結標「――聞かせて」

この件が解決すれば、敵同士とまでは言わないものの味方同士とは呼べない関係に戻る。
過去に殺し合いを演じ、共闘を経て、二人はまたいつか衝突する。それで良い。

白井「――わたくしの事を、“黒子”と呼び捨てになさって」

光と影、表と裏、相反し相剋を描くからこそ二人は巡り会えたのだから。

白井「織女星祭の夜のように…昨夜のように…ただ、“黒子”と」

結標がロミオなら、姫神がジュリエットなら、白井はロザラインだった。
選ばれる事のなく退場したはずのヒロインだった。

結標「――黒子」

白井「…はい」

結標は姫神を愛してしまった。白井は御坂に恋をしてしまった。
二人は思う。つくづく学生のするやり取りではないと。
750 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)36 :2011/02/12(土) 13:12:26.52 ID:jAbNOmQAO
結標「私も…淡希でいいわ」

白井「――淡希さん」

結標「しなくっていいのよさん付けは。秋沙だって呼び捨てにしてるわ」

白井「後輩(年下)、ですので」クスッ

結標「聞かせてあげたいものね、あの娘(後輩)に」

お姉様と言う呼び名は、御坂美琴のためにあるもの。故の折衷案。
互いにわかっている。帰る場所があって、待っている人がいるからこそ、自分達は巡り会った。
共に過ごした夜があっても、共に迎えた朝があっても、二人にif(もし)はありえない。

白井「…淡希さん?」

結標「なに?黒子…」

白井「ただ、呼んでみただけですの」

それがわからないほど子供でもない。それだけだと切り捨てられるほど大人でもない。
それでも――今ここにある笑顔を、偽物にしたくなかった。

結標「クスッ…変な子ね貴女。名前を呼んだだけで、どうしてそんなに嬉しそうなの?」

白井「ただ名前を呼ぶだけで、幸せになる事だってありますのよ。淡希さん」

まるでテーブルに置かれた花のようだと結標は思った。
青い薔薇のような神々しさがなくとも、女王蘭のような香り高さがなくとも…

結標「…わかる気がするわ。今なら…」

ただそこにあるだけで慰められる。眺めて、愛でて、慈しむ事が出来る。
何度枯れても、何度散っても、その都度残されたものが再び芽吹かせる。
ああ…そうか。これが『白井黒子』かと…奇妙に納得した。

結標「――貴女のおかげで」
751 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)37 :2011/02/12(土) 13:15:27.23 ID:jAbNOmQAO
〜19〜

それから二人は朝食を終えると、片付けもそこそこにソファーに寄りかかって白井が撮り溜めていた金曜ロードショーを見やっていた。
予定のない休日は、そうしてHDDに溜まった映画を見るのだと言う。

結標「可愛いわね。ジブリが好きなんて」

白井「風景がとても綺麗ですの。この学園都市(まち)では見れませんの」

肘掛けに持たれる側とは反対の肩に白井がコテンと寄りかかる。
まるで妹でも出来たみたいだなと思いつつ結標はその頭を撫でる。

結標「私はこの空と雲が好きよ。こんな場所が本当にあればいいのに」

白井「わたくしは、この水平線が好きですの。どこまでも、この線路が続いていそうで…」

スカイブルーが気に入った結標、アクアブルーがお気に入りの白井、クリアブルーが好きな二人。
季節は八月上旬。そんな中クーラーに当たりながらジブリを見ている。
まるで夏休みに、お留守番している姉妹のようだと二人は笑った。

結標「ねえ…黒子」

白井「なんですの?」

そこで結標は白井の肩に手を回して抱き寄せた。
幸い予報では雨振りは夕方からだ。時刻はまだ十時にすらなってはいない。

結標「――海、見に行かない?」

白井「えっ」

互いに語らない。ここにいても良いのか、帰らなくて良いのか。
それは優しい嘘にも似ていて、言葉のいらない沈黙と双生児だった。

白井「無理ですの。如何に学園都市の規制が損なわれたと言っても、許可無しに一朝一夕に外出など…」

結標「相変わらずお堅くていらっしゃるのね黒子(ジャッジメント)は…あるでしょう?この学園都市(まち)でただ一カ所…外部に出ずとも海が見られる場所が」

白井「…あっ!」

服は道中の適当な店で買い直せば良い。持って行くのは身の回りのいくつかと――

結標「そう…貴女が考えている通りよ」

二人が入れるだけの、傘が1つあればいい。



白井「――軍艦島――」



752 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)38 :2011/02/12(土) 13:17:34.48 ID:jAbNOmQAO
〜20〜

身の回りのいくつかを持って、2人は着替え、傘を1つ携えてモノレールに乗り込む。
雨上がりの街を、真夏の陽射しを浴びて照り返す水溜まりを、熱気に揺らめく逃げ水の風景を見下ろして。

結標「暑くなる一方ね…テレポートしていかなくてお互い正解だったわ」

結標が駅構内で買ったガムを口の中に放り込みながら呟く。
クーラーは寒いばかりなのに、駅ごとに開く乗車口から茹だるような熱気が吹き込んで来て。

白井「こんな時くらい、ゆっくり各駅停車でもよろしいんではなくて?」

それを物欲しそうに見つめる白井。常盤台中学の制服スカートに包まれた膝の上にランチバスケットを乗せて。
家出娘とお嬢様の終着駅すら見えない夏休みの一幕に僅かに胸膨らませて

結標「それもそうね…先を急ぐ訳ではないのだから」

狂った油蝉の鳴き声が聞こえてくる。八日目を迎える事なく亡骸と脱け殻を晒すばかりの命を燃やしている声が

白井「ですの。淡希さん、わたくしにもおひとついただけません?」

そんな物思いに耽る結標に、白井が微笑みかけてくる。
制服着用の校則は相変わらずだが、今日に限ってリボンはしておらず下ろされたままである。

結標「ええ。どうぞ」

白井「!」

それを見ていると、ごく自然に唇を重ねていた。
白井は一度ビックリしたように目を見開き…そして静かに目を閉じてそれを受け入れた。

結標「…美味しい?」

白井「…新しいのが欲しかったですのっ」

口移しで与えられたガムは、メロンとバニラミントの味がした。

結標「イヤだったかしら?」

白井「…いいえ。ドキッとしましたの」

結標「寿命、縮んちゃいそう?」

白井「ええ。まるでセミのように」

白井は思う。子供の頃から活気と活力に満ちた夏という季節に、他のどんな季節にもない『死』を感じるようになったのはいつからだと。

結標「そう。ならあと一週間は生きられるわね」

結標は思う。夏の昼下がり、誰もいない街通りを一人歩く時のうらさびしさを。
まるで世界の全てが自分を残して死に絶えたような切なさを感じるようになったのはいつからだと。

白井「おあいにく様ですの。わたくしは、セミほど儚くございません事よ?」

二度目のキスは、メロンと、バニラミントと、クロエの香りがした。
753 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)39 :2011/02/12(土) 13:19:18.00 ID:jAbNOmQAO
〜21〜

白井「はあっ…」

結標「スゴいわね…初めて来たけれど」

12:34分。二人はモノレールから降り立ち、ターミナルゲートを潜り抜けて、テレポートを繰り返して軍艦島と呼ばれる放棄された人工島が連なるエリアへやって来た。
元は神奈川県まで跨ぐ学園都市を海路で繋ぐためのアクアライン計画と、海洋探査人工島を以て海上学区を広げようとし、二十年前に中途で放棄されてしまったエリア。

今では地図にも乗っておらず、止まる駅も交通手段も道路もなく…
スキルアウトすら寄り付きもしないまさに空間移動能力者でなくては行き帰りすらも困難なエリア。

結標「あれは…カモメ?」

白井「いえ…ウミネコですの」

痛いほどに澄み切った青空を舞うウミネコ達の羽が潮風に乗って運ばれる。
一種壮観な眺めですらある。水没しかけたいくつかの人工島、海上に突き刺さる戦闘機らしき残骸、無数の船の墓場、廃虚と化した海洋生物研究所、錆び付いた灯台…

結標「そう…図鑑でしか見た事なかったわ。後は映画くらい」

白井「わたくしもですの。実家の避暑地に海辺はありませんでしたの」

彼方から波止場へと寄せては返す波の音。さらわれてしまいそうな海風。
朽ち果てた大桟橋の向こうに広がる横一文字に切られた入道雲が限り無く高く広がっている。
青と白とパノラマ。いっそ幻想的なまでの景観がそこにはあった。

結標「――あるものなのね、こういう風景。さっき見た海列車が走ってそうだわ」

白井「あら?わたくし達、片道分の切符しか持っていませんのよ」

結標「いいじゃない…片道切符だって」

その眺めに、訳もなく泣きそうになる。感動とも違う、悲嘆とも異なる。
強いてあげるなら、一人一人の胸にしか存在しないはずの心象風景が、太陽の光を以て青空に描かれ、それに水と海の額縁に収められたような――

結標「――行きましょう。黒子」

姫神と共に見上げた、青薔薇の空に匹敵する蒼さ。
空の青、海の蒼、それぞれ似ているようで違うのに胸を打つ。

白井「往きましょう。淡希さん――」

陽の光の当たる世界へ帰還した結標と姫神。
水の雫溢れる世界へ辿り着いた結標と白井。
無鉄砲に、無軌道に、無計画に片道切符しか持たないまま飛び出して

爽やかな蒼い風の中を

切ない景色の中を

目映い光の中を

終わらない夏への扉を探して

今は、全て忘れて―…
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/12(土) 13:23:23.46 ID:jAbNOmQAO
白井「さっきのガムはどこのメーカーですの?」

結標「フィッツのメロン&バニラミントよ」

白井「お買い求めは最寄りのコンビニですの!」


>>1です。たくさんのレスと、丁寧な御感想ありがとうございます…読みやすくわかりやすくを心掛けるようにしていますが、至らぬ部分は申し訳ございません。


次回より舞台を移す軍艦島の映像イメージは『東京幻想』『水没都市』です。興味のある方は検索して見て下さい。

そして今回に限り、物語のテーマとなるBGMは敢えてチョイスしていません。皆様のお好みのままに…それでは失礼いたします。
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 13:45:46.12 ID:0K/dQiE8o
ちょっとガム買ってくる
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 14:07:49.51 ID:f51AKMH20
乙です!
いやはや素晴らしいクオリティです…
ぐあああああ!いつ修羅場が来るのかとドキがムネムネするぅぅぅぅ!
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 14:14:15.89 ID:7EoHzX2bo
自分から貧乏クジ引きにいってるな、黒子ェ・・・・
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 15:13:23.15 ID:8hjNMdxho
水没都市とかやばすぎるだろうが!!
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 15:39:19.85 ID:vA9rUjiGo
>>743の感想を書いたんだけど至らないと思われたのなら申し訳ない。
文章も内容もわかる。わからないのは登場人物がそういう思考をしているってことなんだ。
これはありえないとかそんな奴はいないということでなく、自分のなかにこういった思考回路は
存在しないし思いもよらないって意味でね。
認識はできても自分の中に組み入れられることはない・できないというか。

ぐだぐだ書いちゃったけど禁書って枠をとっぱらってもすげえ魅力的な作品なんで楽しみにしてる。
俺的BGMはFrost*のSalineかなー。
ttp://www.youtube.com/watch?v=8O1ezvr-Ajc
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/12(土) 22:58:51.25 ID:VtegB9SQ0
やっとリアルタイムに追いついた
乙ですっ
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 23:47:58.65 ID:+QvNx7Bio
http://uploader.sakura.ne.jp/src/up27287.png
http://uploader.sakura.ne.jp/src/up27286.png
ようやく追いついた
まだ途中だけど終わったら新作とかやるつもりですか?
やるなら絶対見ます
あと>>445さん、再配布とかは全然構わないです
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/13(日) 10:32:27.58 ID:JI8B96FAO
>>1です。一日早いバレンタインですが投下させていただきます。無糖チョコレートの物語、軍艦島の夏です。
763 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)40 :2011/02/13(日) 10:33:47.85 ID:JI8B96FAO
〜22〜

ミャーミャーと空を行き交うウミネコの翼影が潮風に漂白された石畳の上に落ちる。
名も無き花が揺られ、その花片が舞い上がる行方を――

結標「………………」

結標淡希は静かに見送る。荒れ果て忘れ去られた旧市街の名残の中を踏みしめながら。

白井「どうされましたの?」

結標「いえ…自然の力の偉大さを感じていた所よ」

潮風に腐食し赤錆の浮いた建造物の鉄骨部分に手を触れながら結標は呟くように語る。
瓦礫の王国と化した第七学区と比較するように。

結標「科学万能のこの学園都市(まち)でこんな事を言うのもなんだけれど…人の手が入らなくたって自然は何度だって甦るのね」

自分達の都合で建造物や人工島を建て、自分達の都合でそれを放り出した後も…
鳥は空を、花は地に、その生命の連環を絶える事なく紡いでいる。
昨夜の雨の名残が生み出した水溜まりを、天蓋から滴る雫が穿って波紋を描く。

白井「センチメンタルな物言いですのね?うらさびしいお気持ちになられまして?」

結標「私にだってそんな時くらいあるわ…こんな事を話したのは、貴女が初めてよ。黒子」

朽ち果てた信号機と傾いだ電柱、乗り捨てられた車が歳月の風雨にさらされたスクランブル交差点に出る。
さんざめく真夏の太陽に液状化されたアスファルトに立ち上る陽炎。
死に絶えた街並みから二人は彼方に広がる海を目指す。

白井「光栄の至り…」

遮るもののない海風は蒼々とし、二人の前髪を揺らす。
そこで一歩下がってついて来た白井黒子が結標の手首を掴んで引き留める。
それを結標が足を止めて振り返る。蝉の声だけが聞こえる、昼下がりの沈黙。

結標「…ガム、もう味なくなっちゃった?」

白井「そうですの」

結標「虫歯になるわよ」

白井「よろしいんですの」

僅かに爪先を伸ばし、可愛らしく顔を上向かせ、キスをせがむ。
結標は両手で包むように白井を引き寄せると唇を近づけて――

白井「こうしていないと、消えてしまいそうで」

結標「…貴女だって、センチメンタルじゃない」

甘ったるく、許されざる、禁じられた遊び。
子供同士でするキスに、禁忌を覚えていた頃を思い出す。
二人しかいないスクランブル交差点の真ん中で交わす、幾度目かのキス。

白井「――淡希さん――」

腫れ上がるほど、火傷するほど、初めてするように、別れのように――
764 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)41 :2011/02/13(日) 10:36:08.94 ID:JI8B96FAO
〜23〜

白井「こうしていると、世界の果てがここだと錯覚してしまいそうですの」

結標「貴女といると、世界の終わりがここだと勘違いしてしまいそうだわ」

崩壊したメガフロートが海中に没し、人工島と人工島を繋ぐ空中回廊を挟んで二人は互いに語り合う。
白井は今にも倒れそうな鉄塔から、結標は今にも崩れそうなビルディングから。

結標「汚いのに綺麗で、綺麗なのに醜くくて」

白井「切なくて、残酷で、美しくて、優しくて」

結標・白井「「貴女のようで」」

振り返れば学園都市が見える。見上げれば青空が広がっている。
しかし結標は姫神に、白井は御坂に、この景色を決して理解してもらえないと感じた。
理解は示されても共感は得られない。二人だけの世界だからこそ見える風景。

白井「お魚が泳いでいますの。ビルが、お魚のお家になっていますの」

白井が指差す先には、蒼の水面の奥底…碧の海底に沈んだ、建築物内を泳ぐ魚群。
第十九学区も寂れきって久しいが、ここは輪にかけて廃れていた。

白井「水槽でしか見た事がなかったので、あんなに早く泳げるとは知りませんでしたの!」

それはきっと、空の青(姫神秋沙)と水の蒼(白井黒子)の狭間を揺蕩う結標の心象風景なのかも知れない。
姫神の傍らに寄り添うと決めた誓いは変わらない。御坂の側に寄り添うと決めた白井も同様に。

結標「…私は、空を目指した深海魚だったのかも知れないわ」

白井「………………」

結標「深海(裏の世界)の暗さに、重さに、冷たさに耐えられなくて…光と空気が溢れる空(表の世界)を求めて…ね」

白井「なら…わたくしは人魚姫になりたいですの」

白井が鉄塔から空間移動して来た。姫神のように一緒に飛べない、御坂のように一緒に翔べないとしても…
離れ、分かたれた距離を、二人は一瞬で縮める事が出来る。

結標「ダメよ黒子…泡になって消えてしまうのよ?」

白井「わたくしが海に還ったら、淡希さんは泣いて下さいますの?」

結標が白井を抱き締める。馬鹿な事を言わないでと。
腕の中の白井が微笑み返す。ならばしっかり捕まえておいてと。さもないと

白井「さもないと――」

その時、結標の腕の中から白井の体温が

結標「!?」

重みが、存在が、甘い匂いが、喪失する。

ジャボンッ!

765 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)42 :2011/02/13(日) 10:37:16.52 ID:JI8B96FAO
結標「黒子!?」

掻き消えたのだ。空間移動で。結標の腕の中から、ビルの屋上から、空中へ身を投げ出して、真っ逆様に海中へと柱を立たせて着水する。

白井「ぷはっ!」

そして結標の眼下から、水飛沫と水泡が収まる間もなく白井が海面より顔を出す。
可愛らしい額に張り付く髪をかきあげて、真上の結標へと手を拡声器のようにして。

白井「淡希さーん!見てるだけじゃなくってー!いらっしゃいませんのー?」

結標「馬鹿!危ないじゃない!帰りの服どうするのよ!」

白井「すぐ乾きますのー!冷たくって…気持ち良いんですのよー!」

結標は思う。なんてムチャをする娘だろうと。なんと突拍子のない事する娘だろうと。しかし

結標「まったく…もう!」

結標も水没都市目掛けて空中へと身を投げ出す。
青空の中へと墜ちて行くように、青海の中へと堕ちて行くように。

ジャボンッ!

座標移動。胸が吸い込まれそうな無重力感の後身に浴びる着水の衝撃。
心地良い冷たさが一瞬で全身を包み込み…水中から水上に輝く光へ向かって――

結標「…っは!」

思いっ切り止めていた空気を吐き出し、呼吸をハアハアと繰り返す。
思った以上に肌を叩いた水が痛くて…そしてそれ以上に。

白井「捕まえましたのっ」

抱きついてくる白井の身体があたたかい。濡れた制服、透けた下着、水が滴る肌がくっついているのにちっとも不快でない。

結標「あっ、暴れないの!沈んじゃう!」

慣れない水、初めてに近い海、揺蕩う結標が沈まぬように気を張るのもお構いなしに白井はくっついてくる。
もし自分に妹がいたならば、こんな感じだろうかと考えさせるほどに。

白井「ほら…わたくしは泡になって消えたりいたしませんの」

結標「………………」

白井「声を奪われる事も、髪を喪う事もございませんの」

初めて、白井黒子という少女が年相応に結標には見えた。
躊躇いなく電車に飛び乗り、目指した海に飛び込み、結標に腕を回してくるその姿に。

結標「足は痛くないの?人魚姫さん」

白井「胸が痛いですの。魔女さん」

結標「魔法の解き方を忘れてしまったわ」

白井「解けなくっていいですの」

海の中、空を仰いで、二人は抱き合う。例え今カルニアデスの板を差し出されても――

白井「人魚姫は、何一つ後悔しませんでしたのよ?」

きっと二人は取らない。二人で沈むのではなく、二人で助かるために

766 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)43 :2011/02/13(日) 10:39:57.63 ID:JI8B96FAO
〜24〜

白井「綺麗ですわね…」

結標「美しいというべきかしらね…」

そして二人は濡れた身体を乾かすため灯台を臨める小高い丘の療養所跡地に来ていた。
療養所内は蔦葛と緑樹に侵略され、真っ白な壁面を魔女の住まう洋館のように仕立てている。
二人は割れ砕けた硝子の残骸だけが辛うじて窓枠に残って。

白井「空も、海も…どこまでもどこまでも続いていそうですの」

結標「天国までだってね」

白井「縁起でもありませんの!」

二人はもぬけの空となった病院ベッドに並んで腰掛けながらオーシャンビューを楽しむ。
療養所で封を切られていなかった新品のシーツを身体に巻き付けて。
壊れた窓枠がまるで額縁のように海と空と雲に描かれた絵画を囲うようなそれを見つめながら。

結標「子供の頃には思っていたのよ。雲の向こうには神様の国があるって」

白井「それは今でも信じておいでで?」

結標「私は神様に遠すぎるわ」

煤けて埃っぽいカーテンが時折はためき、リノリウムに影を落とす。
白井はアメリカンクラブハウスサンドを、結標はフルーツサンドを食べながら。

白井「“On A Clear Day You Can See Forever”」

結標「…?」

白井「ご存知ありませんの?邦題では“晴れた日には永遠が見える”というミュージカルの歌ですわ」

結標「残念ながらね。常盤台(お嬢さま)と違ってそういうのを嗜む機会に恵まれないのよ…で、それはどんな歌?」

白井「ふふ…それは――」

白井は歌う。流麗な発音で、優麗な歌声で。英語の歌詞だが結標にもその意味は理解出来た。
晴れた日には周りを見渡せ、自分を見つめ直せ、自分も海や砂や自然の一部であり、それは輝く星のように尊い存在なのだと。

白井「…如何でした?」

結標「…おひねりはどうしたらいいかしら?」

白井「おあしをいただくほど上手くなどございませんの」

結標「私のために、歌ってくれたでしょう?」

白井「この眺めを、私にプレゼントして下さった貴女へのお返しですの」

結標「だとすれば…もらい過ぎだわ。お釣りはどう返したらいいかしら?」

白井「貴女の、望むままに」

この『死』に満ち溢れた療養所(サナトリウム)にあって尚、咲き誇る向日葵のようだと結標は白井を評した。
買いかぶり過ぎですわよ、と腕の中で白井は微笑み返した。

結標「手折ってしまうわよ」

白井「散らせて下さいまし」
767 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)44 :2011/02/13(日) 10:41:14.72 ID:JI8B96FAO
シーツを巻き付けただけのそれが、まるでお揃いワンピースのようだと二人は額をくっつけ合いながら笑う。
剥き出しの素肌、投げ出した素足、海水の冷たさから、人肌に通う体温へと。

結標「この傷…私がつけたものよね」

白井「そうですの。とっても痛かったですの」

細い手首が重なる。白い指先が触れる。小さな手が合わさる。

白井「貴女の身体にも…わたくしが刻んだ傷がまだ残ってますのね」

結標「そうよ。私達が殺し合った(あいしあった)、疵痕(あかし)なのよ」

カーテンがそよぎ、陽射しが差し込み、風が吹き抜ける。

結標「…ごめんなさい。もっと綺麗な身体で、貴女とこうしたかったわ」

白井「女心ですのね…貴女は汚れてなどいませんの。綺麗ですの」

結標「…貴女は優しいのね。黒子は優しすぎるわ」

白井「だとしたら…わたくしはただ、優しい“だけ”ですの」

数多の生と幾多の死を見送って来たベッドの上で交わす睦言。

白井「こういう時…お互いのほくろの数を数えるものではございませんの?」

結標「私達の場合は疵痕、でしょ?忘れないモノだわ。痛みを伴った経験は」

白井「…なんだって構いませんの。覚えていてさえいただけるなら…なんだって」

結標「なら忘れないわ…今日と言う日を。貴女と見たこの世界(けしき)を」

壊れた壁掛け時計、置き去りにされた空っぽの鳥籠、ひび割れた薬品の瓶。

結標「何故かしらね…私、貴女からリボンを受け取ったあの夜から…こうなるような気がしてた」

白井「わたくしは…織女星祭の夜からこうなるような予感がしていましたのよ」

サラサラとした結標の髪が、フワフワした白井の髪に重なる。

結標「貴女の言葉があったから、私は水先案内人になれたのよ」

白井「貴女の力があったから、わたくしはあの夜戦い抜けましたのよ」

外に干した二人の衣類がひるがえるのが見えた。
もう服も下着も真水で洗い流して乾き切った頃だろう。

結標「………………」

白井「………………」

そして、もう言葉はいらなかった。
768 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)45 :2011/02/13(日) 10:45:14.43 ID:JI8B96FAO
〜26〜

白井「あの鳥達は、どこに帰って行くんでしょう」

結標「空に終わりはないから――止まり木に、じゃない?」

沈み行く落日が水平線の彼方に燃え尽きる頃…衣服の渇いた二人は軍艦島内にある打ち捨てられたショッピングモールへと足を向けていた。
至る所で窓ガラスが割れ砕け、シャッターや鉄格子までもが歳月の風雨に晒されている。
二人が見上げた茜色の空は、たった今海鳥の群れが飛び去っていたばかりだ。

結標「知ってる黒子?鳥ってね、翼があっても風切り羽がないと飛べないのよ」

白井「それが何か?」

結標「飛び続けなきゃ行けないのと、地べたを這いずり続けるの…どっちが辛いと思う?」

白井「決まっていますわ――飛べなくなるのが、一番辛いですの」

海鳥の群れからしげしげと廃墟の街並みに立ち並ぶアンティークショップのウィンドウを覗き込む白井黒子。
二十年前から見捨てられ水没しかかった軍艦島でのウィンドウショッピングなど、と結標は思わなくもなかった。

白井「御存知ですの?鳥は雨雫に翼を濡らしても飛べなくなるんですのよ?」

結標「なら、黒子はさしずめ飛べなくなった燕(わたし)の止まり木ね。感謝しているのよ。本当に」

白井「そうですの。翼を休めたら、また巣に帰りますのよ。貴女は姫神さんへ、わたくしはお姉様へ」

そう語る白井の背中は、結標から見てすら大人びていた。
この姿をいつも保っていれば御坂美琴だって見方を改めるだろうに。
もっとも、結標と姫神とてほとんどチャンポン漫才のようなやり取りだが…

結標「…何を見てるの?」

白井「オイル時計ですの!」

結標「オイル時計…??」

白井「知りませんの?砂時計の砂でなく、リキッドで時を刻む物ですの。レトロで、クラシックで、アンティーク極まりありませんの!」

そう言って白井がトランペット欲しさに硝子に張り付く少年のように振り返る。
指差した先にはウルトラマリンの色彩を湛えた流体が静かに雫を落としていた。
ラピスラズリを散りばめた、確かに年代別らしい風格があった。

結標「買ってあげましょうか?」

白井「えっ!?」

結標「一宿一飯の恩義よ。不満かしら?」

白井「で…でも店員もいないんですのよ?泥棒は犯罪ですの!」

結標「なら、こうすればいいのよ」

すると結標は締まりきったシャッターをものともせずに座標移動で転移し、店内に入ると。
769 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)46 :2011/02/13(日) 10:46:15.16 ID:JI8B96FAO
結標「おつりはいらないわ」

財布からいくつかの紙幣を取り出し、硝子の向こうの白井にヒラヒラ見せると…それをレジに置き、オイル時計を手にした。

結標「(…秋沙が買ってくれたランプシェードの時も、私はきっと黒子と同じ目をしていたんでしょうね)」

きっと今頃姫神秋沙は激怒を通り越して、殺意を決意しているだろう。
わかっている。結標には『全て』がわかっている。わかっていてこうしているのだから。

結標「(覚悟はしてるわ…覚悟を決め過ぎて、震えすら起こらないのだから)」

結標が愛した姫神秋沙とはそういう少女だ。暗い激情を秘めた感情の極北を胸の内に湛えた女性だ。
血を流す以外の結末などありえない。結標が一生共に歩むと青空に誓った恋人は。

結標「(ねえ黒子?わかる?私と秋沙の絆は、赤い糸で繋がってるんじゃないわ。銀の鎖で縛りあっているのよ)」

こんな他愛のない痴話喧嘩で、痴情のもつれで、『終われたり』『別れたり』『切れたり』『壊れたり』など出来ないのだ。
それは愛情でも信頼でも希望ですらない。もっと退廃的で、破滅的で、絶望的なまでの『運命』なのだ。

結標「(貴女は、そんな私に傘を差して、身体であたためてくれたのよ。それがどんなに嬉しかった事か)」

あの長い夜を越え、空を見上げた時から結標と姫神は『永遠』の欠片を手にした。
それはリセットもリスタートも出来ない。許そうが許すまいが二人は離れられない。離れる事など出来ないのだ。

結標「(最初で最後のデートが廃墟の軍艦島だなんて、ちょっぴり心残りだけれどね)」

最高の瞬間も、最低の悪夢も、最悪の苦痛もずっとずっと二人で分け合う。
永遠に愛しあい、永久に憎みあう。傷つけあい壊しあい、抱き合い口づけ合う。
それを繰り返すのだ。天国と地獄の行ったり来たりの上り下り。
770 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)47 :2011/02/13(日) 10:47:34.23 ID:JI8B96FAO
結標「(それでも黒子…私は、貴女の事が――)」

仮に姫神が吹寄制理と寝ようが、結標は別れない。
仮に結標が白井黒子に姫神に注ぐのと同等の愛を捧げても姫神は離れない。
互いに、どちらかを自分の手で殺めても、その亡骸を抱いて後を追う。
そして命ある限り共に歩む。空に終わりはないのだから。

白井「淡希さん…本当によろしいんですの?」

結標「受け取って欲しいのよ、貴女にね」

その生き方は、『永遠』を誓った代償だ。何かを選ぶという事は、同時に何かを捨てるという事。
それを分けて良い所だけ選ぶようなら、最初から『永遠』など望まなければ良い。

白井「でも…」

結標「いいのよ」

しかし、白井は違う。こんな善悪の彼岸の向こうに続く荊棘の道など知らなくて良い。
歪んでいるからこそ強い愛情などと、劇薬を盛った毒杯の味など知らずとも良い。
結標達は空の下、白井は光の中を歩めば良い。

結標「もし――私の事を――」

白井「――――――」

良いも悪いもない。ハッピーエンドもバッドエンド。自分で選んだストーリー。
出来が悪く、都合が良いラブストーリーだけ摘み食いなど出来ない。

結標「―――なら、受け取って、黒子」

白井「そんな言い方は…とてもとても…卑怯ですの」

結標「忘れた?。私って性格悪いのよ。思い出したかしら?」

バッドエンドはゴールじゃない。ハッピーエンドはスタートラインに過ぎない。
その道筋に疲れ、雨に撃たれ、冷え切った心と身体をあたためてくれたのが白井だ。
そう…if(もし)…もし(if)だ。

白井「わたくし怒りましたのよ!これだけでは足りませんの!」

姫神秋沙が、御坂美琴が、全ての可能性が…結標淡希と白井黒子に神の祝福(ブルーローズ)を授けてくれたなら…

結標「どうしたら、許してくれるかしら?黒子(おじょうさま)?」

きっと…最高で…最良で…最愛のパートナーになれていただろう。
しかし…そんな『もし』は、『if』は、ありえないのだ。
それこそが、それだけが二人の不可能(ブルーローズ)

白井「それは―――」

誰からも祝福されない…二人の恋の終わり
771 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)48 :2011/02/13(日) 10:50:42.72 ID:JI8B96FAO
〜破滅によせて〜

結標「本当にこんなので良かったのかしら?」

白井「これで、いいんですの」

二人は今、忘れ去られた岬の灯台の最上階にいた。
療養所から持ち出したシーツにくるまりながら、星空を見上げて。

結標「一緒に星が見たいだなんて、そんな事で」

白井「――最後の、夜ですの」

白井は手の中でオイル時計を愛おしそうに慈しみながら。
結標はそんな白井をすっぽりと包み込みながら。

白井「夜明けまで、淡希さんを一人占めにさせていただきますの。これ以上、わたくしにとってのご褒美はございません事よ?」

結標「欲張りな娘ね…私は秋沙の女よ?貴女、殺されるかも知れないわ」

白井「――受けて立ちますわ」

結標は全てを話した。白井も全てを話した。話した上で二人は今…ここにいる。
姫神から結標を奪うつもりはない、しかし結標一人に血を流させはしない。自分も罰を受けると。

結標「…貴女だけなら、庇ってあげられたのに。事実、私から誘惑して、私から迫ったのだから」

白井「見くびらないで下さいまし――わたくしが、貴女に背を向けて逃げ出すとでも?」

それは、初めてのキスの時と同じ台詞。

結標「――秋沙は、一生私達を許さないわよ」

白井「――構いませんわ」

それでも白井は…結標から離れようとしない。
この明日の見えない夜の中にあってすら、その光は沈まない。

結標「いいわ黒子…私と一緒に裁かれて」

白井「望むところですのよ、淡希さん」

結標は知った。生と死を巡って愛に結ばれた自分と姫神との絆以外にも――
罪と罰を巡って、許されない恋に結ばれた自分と白井の絆もありえたのだと。



しかし――



カツン…カツン…



772 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)49 :2011/02/13(日) 10:52:25.86 ID:JI8B96FAO
結標「――ごめんね、黒子。もう遅いみたい」

灯台の階段を、誰かが登って来る音。それは聞き慣れた足音、耳慣れない跫音。

白井「――いいんですの」

どうやって見つけ出したか、どうやって辿り着いたかなど知る由もない。
空間移動能力者でもない『二人』がどうしてここまで追ってこれたか?決まっている。


「――どんなに遠回りしても――」


あの図書館での一件でも、あの空港での一件でも、自分達は見えない運命に導かれるようにして巡り会ったのだから



「― ― 信 じ て た ― ―」



『永遠の愛』というもの言葉の意味は、プラスにばかり働かない。ポジティブな意味合いばかりではない。
永遠という言葉の意味を、誰も彼も手軽に受け取り過ぎている。




「― ― 絶 対 に 貴 女 を ― ―」




手垢のついた『永遠』は―――そんなに軽い言葉じゃない。





「―  ―  見  つ  け  ら  れ  る  っ  て  ―  ―」





773 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)50 :2011/02/13(日) 10:57:01.89 ID:JI8B96FAO
振り返らなくたってわかった、夜風にひるがえる黒髪…
そして、長い黒髪の少女が、もう一人の黒髪の少女の手を『恋人繋ぎ』していた。

結標「――早かったじゃない――」

『遅すぎたくらい』だとその黒い影は言った。なるほどと思った。
白井黒子が結標淡希の『分身』ならば、『彼女』は結標淡希の『半身』なのだから。

結標「――貴女も、吹寄さんと寝たのね――」

微苦笑が込み上げてくる。つくづく自分達は息のあったパートナーだ。
息が合い過ぎて――殺してやりたくなる。

「そう。淡希も。その娘と寝たの?」

結標「寝たわ。嫌がるこの娘を、無理矢理手込めにしたのよ。初めてだったのにイイ声で啼いてくれたわ。貴女に抱かれた時の私みたいに」

腕の中の白井が異議を唱えて暴れる。それを結標が押さえ込む。
もう言葉でどうにかなる場所はとうに過ぎているのだから。
逸らせる矛先は可能な限り逸らせ、自分に注意を向けさせたかった。

「私とするより。気持ち良かった?」

結標「どうかしら?もう一度愛し合って確かめてみる?私、まだ濡れてるわよ」

隣の吹寄が震えている。怖いだろう。きっと『彼女』も結標も、正視に耐えない笑顔を浮かべているだろうから。
笑顔という正の要素を、極限にまで負の要素に貶めたような、『女』の微笑。
その中で白井だけが変わらない目で挑む。本当に強い娘だと結標は思った。

結標「――どうだった?吹寄さん。この娘、とっても上手でしょう?」

吹寄「あ…ああ…」

結標「この娘くらい上手くなかったら、私だって初めてで、しかも女同士だなんて無理だったはずだもの」

この時、結標は初めて吹寄に対して申し訳なく思った。
怪物(バケモノ)とバケモノ(怪物)の争いに巻き込んで悪かったと。
けれど、このゲームからは誰も降りない。降りれない。
リセットもリスタートも…ゲームオーバーすらないのだから。
774 :とある驟雨の空間座標(レイニーブルー)00 :2011/02/13(日) 10:59:29.55 ID:JI8B96FAO
「――私達って。救われない――」

結標「そうね。人を好きになって、愛して、マトモでいられる人間なんているのかしら。それを教えてくれたのは貴女よ」

夜は明ける。世界は終わらない。誰も死なない。何も変わらない。ただ二人の空は終わりなく続く。

これは優しい御伽噺でも、甘酸っぱいラブストーリーでもない。

『特別でもなんでもない』、ありふれた日常の1ページなのだから。

「私は。今でも淡希を愛してる。貴女が誰と寝ても」

結標「ええ。私も、貴女を変わらず愛してるわ。貴女が誰を抱いても」

腕の中の白井を抱き締める。一言、ごめんねとだけつぶやく。しかし――



白井「――わたくしも、貴女を愛していますのよ…“お姉様”――」

結標「――私も、貴女を愛してるわ…黒子――」



ここには罪しかなくて



ここには罰だけがない



ここには愛しかなくて



ここには救いだけがない



結標「愛してるわ…――――」



さいごによんだのは



あなたのなまえ――
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/13(日) 11:02:35.12 ID:JI8B96FAO
>>1です。以上で『とある驟雨の空間移動(レイニーブルー)』終了となります。ここで少し、蛇足を

この物語のテーマは『アンチ百合』でした。甘くなく、優しくなく、ひたすら残酷な美しさを念頭に置きました。
愛情や恋情や友情ではどうにもならない、性別の壁、同性の壁、カップルになってぶつからないとわからない壁を逃げずに真剣に描きたかったので。

そしてお気づきの方もいらっしゃるでしょうが、白井は本編最初からこのSSの裏ヒロインでした。だから全て姫神と対にさせました。

天気…姫神=夏雲、白井=驟雨

色…姫神=空の青、白井=水の青。

家に転がり込む…姫神=結標宅に転がり込む、白井=結標が転がり込む。

贈り物…姫神=ランプシェード、白井=リキッドクロック

小説…姫神=『赤と黒』、白井=『オセロ』

役柄…姫神=お姫様、白井=人魚姫

二人が交わした場所…姫神=廃校の保健室、白井=療養所の病室

二人の愛を誓った場所…姫神=空港の管制塔、白井=港の灯台

二人が見上げた空…姫神=青空、白井=星空。

存在…姫神=結標の半身、白井=結標の分身

です。本当ならば心中エンド、逃避行エンド、殺害エンド、どれもあってその中で一番残酷な終わりにしました。
死んで終わり、死んで楽になる、なんて逃げ道は結標は空港での戦いで捨ててしまったので。

そして、結標は軍艦島で一度も携帯電話をチェックしていません。そして姫神は辿り着きました。それが全ての答えです。

次回作の予定は実は考えていません…引き出しが少ない上いつもノープランの行き当たりばったりなので…
ただ、ロゴをありがとうございます…テンションが上がりまくってチョコレートをプレゼントしたい気持ちでした。小躍りでルンタルンタしていました。


ただ、結標が最後に呼んだ名前はどちらなのか、答えは読んで下さった方の胸の中にあります。そして最後に

この残酷な夏の物語のエンディングは浜崎あゆみの『monochrome』です。それでは失礼いたします…
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 11:04:25.92 ID:Hl8R+gKuP
乙。耽美系だな……。
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 11:09:50.77 ID:LWhRJAyto
乙。
GJ
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 11:22:00.98 ID:lsvcLmCAO
あぁぁ、切ないなぁ
何というか、こうぐちゃぐちゃしたものが胸にこみ上げてきた
1乙
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 11:37:54.62 ID:+tbpY3MAO
読んで元気なくなった。それでもすげー楽しめた。救いがないのが救いだわ。期待しなくて済むもんね。ここまでお疲れ様でした
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 11:54:26.20 ID:8jgrHQvpo
>>775

『アンチ百合』ですって? ご冗談をww
むしろこの手の話は古いタイプの完全王道ですよ
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 14:02:29.15 ID:7KUKBP+do
最後までレイニー止めのままだった。パラソルェ…
とりあえず、午後の予定は何も手につかなくなったと言っておこう
だがしかし、こういう終わり方は大好きです
何かアレ、バタフライエフェクトのDVD特典別エンディング見た時と同じ気分になった

超乙でした!
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 14:47:33.90 ID:COlI9flAO


すごくよかった。今までの>>1のSSの中で一番好きかも。

次回作も超期待して今から全裸で待ってる
783 :>>1です。使用曲リストです。 :2011/02/13(日) 16:14:48.33 ID:JI8B96FAO
>>1です。ちょっと腑抜けてしまったので、オマケにイメージに使っていた楽曲のリスト。息抜きにどうぞ

モノレールでの戦い→サガ・フロンティア『Battle#5』

大桟橋でのバトル→マキシマム・ザ・ホルモン『爪爪爪』

ていとくんVS白銀錬成→Janne Da Arc『WILD FANG』

あわきん&黒子の共闘バトル→elika『君、微笑んだ夜』

ステイルVS巨神兵→T.M.Revolution『イグナイテッド』

軍覇くん→doa『英雄』

飛行船体当たり、あわきん光臨→L'Arc-en-Ciel『HONEY』

あわきんファイナルバトル→アンティック-珈琲店-『覚醒ヒロイズム』

とある夏雲の織女星祭→nobodyknows+『ココロオドル』

服部半蔵のガールハント→湘南乃風『睡蓮花』

青ピ×心理掌握→高橋瞳『evergreen』

とある根性の深夜暴走→ギターウルフ『環七フィーバー』

雲川先輩×軍覇くん→矢井田瞳の『my sweet darling』

とある驟雨の空間座標
序盤→シド『レイン』
中盤→ALI PROJECT『禁じられた遊び』
終盤→浜崎あゆみ『monochrome』

最初から最後までノープランの作品でしたが、音楽無しには作れませんでした(`・ω・´)お暇な方はどうぞ!
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 16:25:48.80 ID:5fM3rL+p0
おつおつ

姫神との対比とか本当に色々と凄いです
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 16:44:41.93 ID:5aV2n5Eh0
乙でした!
スゲェ…なんつーか、うんすごかった

なんでこんなん書けるのか…正直嫉妬を禁じえないです、ハイ
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 18:18:01.58 ID:hOUDCq4Eo
種の存続なんて個の欲求に比べたら小さいもんなんじゃねーの。
なんて種付けるだけの、常に一世代で終わる側の人間は思っちゃうんだけどね。
いやめちゃくちゃ面白かったです。すげえ考えさせられたし。
提示されたテーマを聴きながらもっぺん読み返そう。
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 19:39:54.82 ID:SCKuIeQDO

いかにもサブカル好きの女が書くようなくどい文章で鼻につくところはあったけど、
雰囲気は嫌いじゃなかった
また何か思い付いたら書いてくれ
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 22:05:12.07 ID:1cy6OgoDO
>>787
随分態度のデカいお客様っすね^ ^;
789 :>>1の独り言です。興味のない方はスルーして下さい。 :2011/02/13(日) 23:08:13.20 ID:JI8B96FAO






…ドッと疲れました。前作、本作、番外編3つ、全部合わせても疲れなかったのにこの『滅びの夏の終わり』ではガクッと来ました。

正直、自分の全部をえぐり出して絞り出して書いて吐きそうになりました。
書いてて途中で涙がボロボロ出ました。プロの作家さんやSS書きの人は本当にすごいと思います。

そして、読んで下さって、たくさんのレスを、ご感想を、ロゴを下さった方々がいてくれて、その人達を信じてこの作品を投下させていただきました。

皆様がいてくれたからこそ、ここまで残酷なストーリーを書ききれました。
前作に引き続き季節が夏だったのは、より情景を絶望的にするためでもありました。

ここまでムゴい話を読んで下さってありがとうございました。私から土下座させてください。書かせてもらえてありがとうございました。

1日早い、砂糖無しのバレンタインチョコレートでしたがどうぞお受け取り下さい。
そしてあわきんと黒子のチューの気分を味わいたい方は

つ【フィッツ メロン&バニラミントガム】

どうぞご賞味下さい。それではこれにて失礼いたします…おやすみなさいませ。
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 23:15:03.13 ID:syEC77wIo
こちらこそ、読ませてくれてありがとう。
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 23:55:59.33 ID:z2UBFrbAO
偽善使いもこれもかなり良かった!
ノープランで書けちゃうとかスゴいしwwww
また何か書くなら絶対読みに行くから!
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 00:19:32.32 ID:XakY1BZ0o
読んでるこちらもゴリゴリと何かが削り取られる想いだった。
今まで多くの禁書SSを読んできて、好きな作品は数あれど、
この空間座標に関しては何かこう、好き嫌いの枠には入れられないわ。
絶望をありがとう。
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 00:20:30.62 ID:oZ8vaSHAO
お疲れさま。「乙」っていうか、ほんと「お疲れさま」って感じよな。

残酷なのに綺麗で残酷だから綺麗ですごくよかった。こちらこそありがとう。



…ふぅ
余韻に浸りつつフィッツを買ってきてあわきんとチュッチュッする仕事に戻るか
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 02:10:28.88 ID:VHOZILyDO
素敵な悲劇をありがとう>>1

バッドendがしっかりあると深みがでるね。でも、激甘な
座標殺しが好きなので、もう一回飛行場の死闘を見直してみる。
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 20:16:14.35 ID:UZKRnDDAO
日時生活に支障が出る程度に楽しませてもらったよ、ありがとう


さて、イメージソング聴きながらもう一度読むことにしよう
796 :>>管理人様に編集していただきました。 :2011/02/15(火) 23:28:40.14 ID:VtEf1hBAO
>>1です。管理人様に編集していただけたようなのでご報告をば

115 :管理人1<報告> ◆pFUQ.lnATeGJ :2011/02/15(火) 00:20:34.31 ID:cMIRJSAl0 <編集終了>
・とある夏雲の座標殺し(ブルーブラッド) (長編)
http://www35.atwiki.jp/seisoku-index/pages/727.html
-あらすじ-
戦争により住む場所を失った姫神が出会ったのは、結標淡希。
「グループ」と呼ばれる組織で働いていた彼女だが現在は暇を出されていると言う。いろいろあって、ルームシェアをすること
になった二人は密接した関係の中で心の交流を深めていく。
---姫神×結標の珍しい組み合わせ。あいわからずメンタルが弱い
結標と以外にしたたかな姫神のキャラクター性に注目。


何というか…感無量です。初スレ立てだったので喜びもひとしおです。
思えば…

上条×麦野(恋人通り越して夫婦愛)
姫神×結標(永遠の恋人)
垣根×初春(イノセント)
雲川×削板(やきもきコンビ)
青ピ×心理(少年少女の絆)
結標×白井(ありえたかも知れないもう一つの運命)

…それぞれの恋愛の書き分け、出来てたでしょうか(´・ω・`)

笑いがない、甘い話の書き方がわからない、バトルが苦手、難しい設定を考えられない、毎回ノープラン…本当に皆さんのおかげです。

本当に皆様ありがとうございます…なんだか少し浸ってしまい、真っ先にご報告したく書き込まさせていただきました。では失礼いたします…
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/15(火) 23:59:57.00 ID:FKUzaydJ0
長い間お疲れさまでした
また気が向いた時にでも書きに来てください
最後にもう一度
お疲れさまでした
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/21(月) 21:48:09.13 ID:sru03ExAO
前作の「とある星座の偽善使い(フォックスワード)」が全部まとめられてるまとめサイト見つけた

http://himajin777.blog38.fc2.com/blog-entry-35.html

こっちも神作だから未読の人どーぞ
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 00:26:11.29 ID:cQXk+pRR0
乙です。

素晴らしい作品だと思う。掛け値なしに。
でも、それでも。
一流の悲劇より三流のハッピーエンドにしてほしかった。
「ぶつからないとわからない壁」があるなら乗り越えて欲しかったよ。

頻出する削板の「根性」という言葉が、
作品全体に意味をもたらせず、結局ただの口癖かキャラ付けにしかならなかったのが残念だ。
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 02:45:18.78 ID:4eUWnkKDO
批判的なこと書く。
筆者さんに届くかはわからんけど。

個人的には、

命を懸けた大恋愛して、
一方は「自分だけの現実」を進化させ、
一方は生き方を変化させ過去を乗り越えておきながら

数週間後には、
「やっぱり同性愛だとお互い傷つけあってしまいます。」
「相手を想うあまり、それが負担になってしまいます。」
じゃあ、
ガキの恋愛でもありゃしないと思う。
臭いこといえば、そんなの愛じゃねーし、傷の舐めあいですらないよ。

部分部分の心の描き方の技巧はうまいと思う。
でも、良い作品を作ろうとすることが先ず目的となってしまって、
同性愛、ってか百合の耽美で悲恋な世界をちょこちょこ摘んだだけの作品になったように思えた。
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/03/08(火) 12:18:10.68 ID:sfge3jj60
乙。完結おめでとう。感想、書いていいんだよな?

素晴らしかった。一度もだれたり寄り道もせず一週間のストーリーを書ききったのは本当に実力あると思う。でも個人的にはもっと遊びを持たせたり余裕があっても良かった。
無駄がなさすぎてそこが弱点になってる。この書き手くらいのレベルが高ければ人は離れないんだがらもうちょっとゆっくりでいいんだぜ。

黒子編は完全にありだったよ。むしろ黒子ストーリーがなかったら良作ではあったけどここまで心に残る作品にはならなかった。甘くてイチャイチャなのが受ける中で、ここまで退廃的で欝な美しさを書いたのは冒険だったと思う。
同じss書きからすれば、一度キレイに終わったやつを壊しかねないバッドエンドを投下したのは評価する。それでもまたハッピーエンドにしてほしかったぜ………美しい破滅より、かっこわるい前向きさがさ。

>>1は焦りすぎだ。まだ二作目でこの実力なんだから焦らずやってほしい。あと次回作書くならここに教えてほしい。絶対見に行くから!!

802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 17:52:36.74 ID:3d0MgM+uo
ってか、完結したらhtml依頼出さなくていいのか?
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/09(水) 00:29:24.53 ID:cQuD2TNAO
まだ作者がはっきり完結かどうか言ってないからな・・・
次はただ幸せなあわくろを書いて欲しい・・・・・・・・・
高3のあわきんと中2の黒子なんて組み合わせはエロすぎる・・・・・・・
むぎのんの時のような濡れ場を書いてくれると信じてる・・・・・
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/09(水) 01:53:03.90 ID:jjyHMdVDO
正直気持ち悪い

このSSがじゃなくて、>>1が何したいのかわからん
まだ書くならなんらかの報告、書かないならさっさとHTML依頼出せよ
もっと見てもらって褒められたいのか知らんが、ルールくらい守れ

他のスレに顔出してんだし忙しいとかじゃないだろ
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 02:24:49.31 ID:rzexyIu4P
>1000に到達する前に完結、または不要になったスレッドは、HTML化依頼スレッドへ報告を。
感想を貰うという機能をこのスレが維持している限り、ローカルルール違反ではないだろ
続きを書くかどうか考えてる途中って可能性もあるしさ
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 08:46:54.68 ID:fUFLBdwl0
結局SSも作者自身も独りよがりだったわけよ
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 09:14:00.85 ID:QoURF1XAO
まあ商業じゃないんだし、完結するなら[田島「チ○コ破裂するっ!」]でもなんでも構わないんじゃない?

感想言うのは良いことだが行き過ぎれば中傷にもなる。荒れるのは嫌だろうしここら辺にしておこうぜ。あとは>>1がどうにかするだろ
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 09:32:36.42 ID:ePuQ6e4Ao
ある程度読者のために残しておいて、時間が立ったら依頼だす
ってスタイルだったはずなので見守ってやんなさい
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 09:35:58.55 ID:C7Ikk3wAO
いや>>804の言い分はわかる
言葉は悪いけどね

感想もらう機能って言っても、いつでも見れるのがhtmlなんだし

正直いつまであっても邪魔なだけ
極端な話放置を擁護してるようなもんじゃん
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 10:02:51.92 ID:gJEMiq4AO
>>1です。長らく放置していて申し訳ありませんでした。
新訳禁書のネタを入れたいと置いていたのが間違いでした。
それではhtml依頼をしてきます。

それからご感想いただき、ありがとうございました。
どんな内容でも、いただいたレスは私にとってとても大切なものです。
長い間申し訳ありませんでした…そしてありがとうございました。

それでは失礼いたします…
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 10:34:27.17 ID:cQuD2TNAO
>>804
>>ほかのスレにも顔出してるんだし、忙しいとかじゃないんだろ

そんな所までついて回ってるお前が誰より一番気持ち悪いよ
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 12:15:56.56 ID:jXrS/i3Oo
あーあ、ネタ投下潰したか
804市ねww
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 12:40:37.80 ID:YcrJ9PZIO
>>810
>新訳禁書のネタを入れたいと

個別スレ立てしないんだったら是非とも総合に投下してくれ
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 18:37:49.64 ID:/b+EwpGV0
>>804
依頼の件は正当だけど、残りのレスはおまえの悪意しかねえだろ。マジで気持ち悪いこういうヤツ。おかげで読めたネタがおじゃんだよ。>>804のせいで
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 18:42:39.79 ID:A28JifbIO
言われる>>1も悪いけどな
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 19:36:31.37 ID:N7YGUi+3o
ていうかそもそも投下するならそう言えっていってんだから>>804は態度と言い方が悪い以外間違ったこと言ってないな
他スレで名乗り出てたことあったのも本当だし
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 19:49:06.37 ID:C7Ikk3wAO
まぁ信者が一番気持ち悪いってのは確定的に明らかだな

読めたネタがおじゃんとかwwwwww
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 20:01:56.09 ID:jXrS/i3Oo
粘着が気持ち悪い
書き捨てのスレ全部に同じこと書いて回れよ
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 20:02:57.02 ID:yTryckvto
そんな書くにしても2週間ごとに報告でもしないといかんのか?
1ヶ月くらいなら他のスレでもよくあることだろ
ルール違反でも何でもないのを一々言うようなほうがどう考えても悪い
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 20:20:00.94 ID:N7YGUi+3o
いや、だから、書きたいネタがあったなら>>810のタイミングでもいいから
「書きたいネタがあるので依頼もう少し見送ります」とか言えばよかったじゃんって言ってるんだが
依頼出したのは>>1の判断なんだからどんなレスだろうと他の人間を責めるようなことを言うのはおかしいって言いたい

依頼出してから言っても今更なんだけど
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 20:29:13.99 ID:cQuD2TNAO
やりたくないだろ粘着につかれたスレで。どっかで新しく書いてくれるのを待とう。
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 21:37:16.29 ID:rzexyIu4P
>>820
あんな言われ方すれば、作者の方が萎縮してHTML依頼だしちゃうのは仕方ないだろ
続きを書くかどうか迷ってる時に、「続きを書きます」と宣言しなくちゃいけないというローカルルールは存在しないし、
保留中のスレをHTMK化依頼しなくちゃいけないというルールも存在しない

自治厨は自治スレに篭ってろ
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 21:53:09.12 ID:N7YGUi+30
籠もってろとか言ってる側が乗り込んでてわろた
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 22:25:35.67 ID:2a2ebtbE0
>>822みたいにマナー知らずがいるからな
一応完結したんだから依頼出すのは当然、続けるにしてもなにかしら言うのも当然

>萎縮してHTML依頼だしちゃうのは仕方ないだろ

そんなメンタルなら掲示板なんかに一生書けねーよ
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 22:32:36.81 ID:rzexyIu4P
マナー知らずねぇ……

俺もマナー知らずかもしれないが、
人格批判紛いのレスをする>>804にもマナーがあったなんて思えないね

「正直気持ち悪い」なんて一文がなければ、こんな過剰反応はしなかったさ
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 22:46:51.59 ID:vcym6qVAO
今の状況は要するに文才の無い人が嫉妬して粘着してる訳ですね

827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 23:04:19.34 ID:cQuD2TNAO
>>804のは完全な言いがかり。ホットメールの注意だけすりゃいいものを、根拠のない人格批判するからこうなる
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 16:45:58.20 ID:k9ycw2Ii0
ルール関連に関して言われてたことは間違ってないし、>>1の考えもわかるよ

でも、これぐらいの荒れ方で「もう投下できません・・・」っていうのは同情ひこうとしてるしか思えないし。
別スレたてて、また最初からやればいいじゃない
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 17:26:22.28 ID:R/j0Wo1AO
もう投下できませんなんて一言も作者のレスに書いてねーだろ。
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 20:31:03.44 ID:5mVY31P0o
>>828
どこに「もう投下できません・・・」書いてあるのかkwwsk
見逃してたらスマン
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 20:58:43.38 ID:+aDQ7MMf0
小ネタスレに続きらしきものが

937::VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 01:38:44.29 ID:C5EEy6zAO
白井黒子「――さようなら、“お姉様”――」



夏休み中、突如として行方不明となった白井黒子(中学二年生)と結標淡希(高校三年生)。
半年の空白期間を経た冬のある日、御坂美琴・初春飾利、佐天涙子の前に再び姿を現した白井は――

白井黒子「お久しぶりですの、“御坂先輩”」

トレードマークのツインテールをほどき、金属製のベルトに軍用懐中電灯、そして霧ヶ丘女学院の制服を羽織っていた。
風紀委員を辞任し、常盤台中学を退学し、再び雪降る学園都市の何処へと消えて行く白井。
変わり果ててしまった白井の行方を追うべく奔走する超電磁組。

何故少女達は消えたのか?何故白井は結標の格好をしているのか?何故白井だけが帰って来たのか――



バッドエンドから始まって、バッドエンドで終わるお話。

続き?くるか!?
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 21:15:21.06 ID:8+gdc2SRo
>>831
つづきってより新作じゃね?
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 23:22:15.46 ID:SAgAgbLyo
>>831
本人確定ですな。
同じIDで、今度は偽善使いの続編の構想書いてる。
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 23:54:58.76 ID:s+g8wo0DO
なんか信者も粘着も変わんねぇな
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