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【禁書】十年後 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 16:46:36.12 ID:WlluCac0
初SS、初スレ建てですが宜しくお願いします

お見苦しい点も多数あるでしょうがお手柔らかに
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 16:47:36.27 ID:WlluCac0
ロシアとの戦争から10年、魔法とも超能力とも何の関係も無い、北海道のとある小さな港町
大した特徴も目まぐるしい変化もない静かな町であったが、
八年程前にこの町で開業した小料理屋は、密かに住人達の自慢の種になっている。

若い女将が一人で切り盛りしているだけの小さな店だが、美人の女将が作る暖かみのある料理は瞬く間に評判になり、八年たった今では町の住人の殆どが常連になっていた。
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/02(火) 16:49:10.73 ID:3Rfy1rI0
がんばれ!がんばれ!
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 16:49:14.89 ID:WlluCac0
いつもと変わらない平日の夜、仕事終わりの住人達はいつも通りにその店を訪れる。
いつもと変わらない平日の夜、いつも通りに住人達は好きな酒を飲み、
思い思いの品を食べ、その日に起こった大した事も無い出来事をとりあげ、
つまらない話をする。
いつも通りの光景だが、常連も、そして女将も、この光景が大好きだった。
そんな中、一人の酔客が、女将に尋ねた。

「ああそうだ、女将さん、一度聞いてみたかったんだけど、ここに来る前って何してたの?」
途端、女将の顔が僅かに曇る。
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 16:51:03.79 ID:WlluCac0
>>3
支援ありがとうございます

酔客も言ってしまってから不躾な質問をしてしまった、しかも不味い話題だったと気づいた。
だが狭い店内の事、周りの客も質問を聞いてしまっている。
不躾な質問をした酔客に、非難めいた視線を送りながらも、女将の答えを待っていた。

常連達もいつか聞きたいと思っていた疑問である。
馬鹿が酒の勢いで聞いてしまったこの機会に、是非とも答えを聞きたいのだ。

先程から店内で喋っている客は誰もいなくなっている。
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 16:53:30.15 ID:WlluCac0
その場の空気に負けた女将がゆっくりと口を開いた。

「別に何という事も無いんですけどね、この町に来るまで2年程、あちこち色んな所を旅してて、その前は学生だったってだけですよ。」

そう言った女将の声には寂しさと懐かしさが混ざっていた。

しかし満足できないのは常連達である。自慢の女将の秘密が明かになると楽しみにしていたが、結局謎が深まってしまっただけだ。

その空気に押されてか、誰とも無く口を開く。

「じゃあ…10年前はどうして旅に出たんだ?」

明らかに突っ込みすぎた質問である、とその場の誰もが思った、先程以上の気まずい空気が流れそうになる。

しかし、場を和まそうと思ったのか、一人が口を挟む。
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 16:56:38.25 ID:WlluCac0
「馬鹿、余計な事を聞くんじゃねぇよ。こんな美人がよ住んでた町を捨てて、旅に出たんだぜ?しかも学生の身分と来た。聞くだけ野暮ってもんだろうが。」

その話に、年長の男が乗った。

「やっぱり男かね、あんまり突っ込んで良い話題でも無さそうだね。」

話を切り上げる切っ掛けを得たと思ったのか、先の男が続ける。

「しかし女将、2年もあちこち旅をしたんなら、色恋沙汰の一つや二つあったんじゃないか?そんな美人が一人旅なんて、俺なら絶対にほっとかないんだがね。」

「そんな事ないですよ、ただ一人であちこちの景色を見て回るだけの旅ですし、そんなに何度も恋が出来るほど強い女でもありませんから。」


そう自嘲気味に笑う女将が発した表情と言葉は、常連達の興味を満たすに十分なものであった。
後に残ったのは、微妙な気まずさだけである。女将と客がさてどうしようかと思案していると、一番初めに女将の来歴を尋ねた酔客が、再び口を開いた。
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 17:01:39.81 ID:WlluCac0
「いつも有難うございます、皆どうか気をつけて。」

「おおぅ、有難う、いっつもつい飲みすぎちまうんだよね。」
「やっぱり女将は上手いよね、どんどん飲ませちゃう。」
「なぁんで俺が皆に奢らなきゃなんないんだよー、しばらく来れなくなっちゃったよー。」
「いつまでぐちぐち言ってるんだよ、こういう時に男の器ってのが見えるってのによ。」
「それじゃあな、女将さん、また来るよ。」

最後の客を見送り、一人だけになった店内で、静かに片付けをする女将。

そんな中、不意に扉が開き、人が入ってくる気配を感じた。

だれか忘れ物でもしたのか、と扉に眼を向ける女将だったが、そこにいたのは予想だにしない人物だった。


「探したぞ…麦野。」

「え…浜面、嘘…何で。」

それは女将が今日最も会いたくない人物であり、しかし、最も会いたいと心のどこかで想っていた男であった。
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 17:04:24.22 ID:WlluCac0
しばらく黙って見詰め合う二人。

「座っても良いか?」

先に口を開いたのは浜面だった。

「う、うん、もうお客さんも来ないと思うから座って。」

「10年ぶりか、本当に久しぶりだな。」

席に座りながら、浜面は話を切り出す。

「学園都市のごたごたも治まって、これから皆で平和に暮らせるって矢先にお前は居なくなっちまった。随分探したよ、まさかこんなとこにいるなんて思いもしなかったけどな。」


「ごめん…手紙でも出せば良かったんだけどね。」

答えながらも麦野は浜面の顔に眼を向けない。
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 17:06:57.84 ID:WlluCac0
「浜面、ビールで良い?」

冷蔵庫からビール瓶を取り出し、ようやく麦野は浜面に顔を向ける。その顔は常連達に向けるいつもの笑顔となんら変わりは無かった。

「ああ、有難う。」

麦野からグラスを受け取り、ビールを受ける浜面。

「まさか麦野から酒を注いでもらう日が来るなんてな。」

「昔だって言ってくれればやったわよ、あんたが勝手に遠慮してただけじゃないの。」

「馬鹿言うなよ、パシられてる相手に注いでくれなんて言う奴いる訳無いだろが。」

「そう言えばそうだったっけ、余計な事ばっかり覚えてるんだから。」

それを最後に二人の会話は一旦途切れる。だが、あとに訪れた静寂は不思議とどちらにとっても居心地の良いものであった。
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 17:09:50.70 ID:WlluCac0
「何か肴でも用意するわ。」

次に口を開いたのは麦野だった。適当な食材を見繕い、調理場にたつ麦野に、浜面が声をかける。

「おう、あの麦野がどんな料理作るのか楽しみにしてるよ。」

「ふふ、びっくりしても知らないわよ、私の料理は評判良いんだから。」

料理をする麦野だが、浜面から向けられた視線が妙にくすぐったく、再び口を開く。

「そういえば、皆は元気にしてるの。」
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 17:10:33.42 ID:SdsHd9co
麦野に居酒屋の女将って似合いすぎだろ
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 17:14:29.94 ID:WlluCac0
「ん、ああ元気だぜ、絹旗は来年で大学卒業だ。最近は進路相談なんて殊勝な事もしてくるようになってきた。」

「あの絹旗が大学生ね、でも仲良くやってるみたいじゃない。」
「あいつと一緒に見に行ったC級映画も随分増えたよ、10年見てるうちにC級映画の楽しみ方まで覚えちまったんだぞ。」

「ふふっ、良いお兄ちゃんしてて安心したわ。」 

「あのファミレスはまだ残ってるよ、3人で行くようになってからしばらくは、ちょっと変な目で見られたけどな。」

「懐かしいわね、殆ど毎日入り浸ってたっけ。」
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/11/02(火) 17:14:54.27 ID:3Rfy1rI0
アイテム万歳
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 17:20:59.95 ID:WlluCac0
学園都市の近況やレベル5達のその後を話す浜面だったが、一人の女性に関しては何も話そうとしなかった。
彼なりに気を使っているのかもしれないが、麦野自身、近況を知りたいと思っている人物であったし、ここまできて気を使われるのもやや不愉快であった。

「じゃあさ、滝壺は何してるの。あ、もしかしてもう浜面理后になっちゃった。」

出来る限り明るく浜面に問いかけた。十年の月日がたって、自分なりに心の整理がつけられてると思ったが、どうやら気のせいだったようだ。どうにか取り繕えたが、声が震えそうになっている。八年間も客商売をしていたのに自分の笑顔にも自信が持てない。浜面が来るのが一日でも早かったら、おそらく泣き出してしまっていたのではないだろうか。
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 17:28:10.87 ID:WlluCac0
「いや、滝壺とは結婚していない。」

浜面の声はあくまでも淡々としたものだった。

「レベル5になった滝壺は学園都市のカリキュラムの監査役として頑張ってるよ。滝壺の能力を使えば、その学校が適切な能力開発をしてるかどうかなんてすぐに分かるからな。教育環境も昔に比べると随分ましになってるらしいぞ。」

「へぇ、滝壺も随分立派になってるじゃない。さ、出来たわよ。」

滝壺の近況を聞き終え、丁度出来上がった料理を浜面に渡す。ひょっとしたらこれ以上滝壺の事を聞きたくなかったのかもしれない。
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 17:33:53.85 ID:WlluCac0
「おお、美味しいじゃないか。」

麦野の料理を食べた浜面は素直に感想を述べる。先程とは違う、感情のこもった声だ。

「どうよ、びっくりするっていったでしょ。」

「ああ、本当に美味い。昔の麦野からは想像もできねえよ。」

「どういう意味よそれ。」

どちらからとも無く、微笑みがこぼれた。
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 17:40:14.86 ID:WlluCac0
浜面の言葉通り、昔の麦野にはとても作ることが出来ない料理だっただろう。
技術面でももちろんそうだが、昔の麦野には自分の料理で誰かを笑顔に出来たら、
という発想は決して生まれるものでは無かった。

そんな自分を変えてくれた掛け替えの無い男性に、自慢の料理を美味しいといってもらえた。
ここまで幸福感で満たされたのは、この十年で初めてかもしれない。
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 17:47:26.88 ID:WlluCac0
だからこそ、麦野は自分の心の中に生まれた、邪な願望を消し去ってしまいたかった。
浜面がまだ滝壺と結婚していない。あれから十年もたったというのに。
たったそれだけの話だ。

自分はどれだけ愚かな期待をしているのだろうか、二人の絆の深さは嫌というほど知っているではないか。

滝壺の事情もあるだろう、学園都市でも異質なレベル5だ、多忙でタイミングが掴めないだけかもしれない。
先程、滝壺の話をした時の声色一つで、どれだけ浅ましい想像をしてしまっているのか。
浜面が気を使ってくれていただけの事なのに。
自分の本質は結局昔から何一つ変わっていない、考えれば考えるほど自己嫌悪が膨らんでくる。
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 17:54:24.70 ID:WlluCac0
事情を聞いてしまえばすぐにでも無くなってしまう望みである。
それでいながら麦野は事情を聞けないでいた。
その惨めな妄想に少しでも長く浸っていたいのだ。

浜面が自分の事を選んでくれる。

十年前に捨てて、あれだけ消し去ろうとしてきたはずの願望に、
決して実現することの無い夢に、麦野はしがみ付いていた。

「なあ麦野。」
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 19:05:27.54 ID:WlluCac0
今の麦野に気付けるはずも無かったが、浜面の声は淡々としたものに戻っていた。

「あっ、ごめん、ちょっと考え事してたわ。」

慌てて取り繕う麦野だったが、それを気にした風も無く、浜面は言葉をつなげる。

「聞かないのか、滝壺と結婚しない理由。」

麦野は今度こそ自分の顔が強張ったのを感じた。
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 19:15:30.31 ID:WlluCac0
そ、それがどうしたのよ、事情があるんでしょ。」

どうにか声を出したが、あからさまに震えているのが分かる。

「そ、それにあんただって私が居なくなった理由いつまでも聞かないじゃないの、お互い様でしょ。」

少しでもこの話題から離れたくて、麦野は自分の事を引き合いに出した。
不味い話題には変わりないと思ったが、浜面ならここで話を切り上げてくれるはずだ。

「聞く必要なんてねえだろ、そんな事とっくの昔に気付いてるよ。」
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 19:23:07.43 ID:WlluCac0
切り捨てるような口調で告げる浜面に驚き、麦野は顔を向ける。

だが、浜面の表情からは何も読み取れない。

『だったら言って見なさいよ。』

喉元まで出そうになった言葉を慌てて押さえ込んだ。
浜面の口から、自分が居なくなった理由を聞かされたなら、おそらく自分は耐え切れないだろう。
別に複雑な理由では無い、幸せそうな浜面と滝壺を見ているのが辛かったのだ。
自分が居れば邪魔になる、自分には側に居る資格が無い、など適当に正当化して逃げ出したというだけの話だ。
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 19:28:09.79 ID:WlluCac0
「その上で言わせてもらうぜ、迷惑だった。」

胸に経験したことが無いほどの痛みが走る。
浜面の意図が分からない。
十年振りの再会だ、少しでも温かな時間に浸っていたいのに、先程から発せらる言葉は容赦なく麦野の心を切り刻んでいく。
「なん…で、何でそんな事言うのよ。」
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 19:44:36.52 ID:WlluCac0
「滝壺と結婚しない理由だけどな…」

麦野の問いを無視して浜面は言葉を続けた。

「や、止めてよ、お願いだから。」

「別れたって訳じゃないんだ、むしろ直ぐにでも一緒になりたいと思ってる。」

「だったら、だったらこんなとこに来てる暇なんてないでしょ、勝手に結婚式でもなんでも挙げれば良いじゃない。」
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 19:59:07.72 ID:WlluCac0
麦野は自分の声が涙声になっているのを感じた。
自らの淡い期待が打ち砕かれたのが悲しかったからでは無いと思う。
浜面から放たれる言葉に、麦野は感情を処理できなくなっていた。


「麦野…学園都市に戻って来てくれないか。」

「…っっ!」

店内にぱぁんという音が響く。その言葉を聞いた瞬間、反射的に麦野は浜面の顔を張り飛ばしていた。
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 20:06:12.50 ID:WlluCac0
「ご、ごめん、浜面、私、私、何てことを…」

自分のした事に気付き、慌てて謝罪の言葉を口にする。

「良いよ、殴られる覚悟はしてたからさ。」

「あ、ああ、結婚式に出席してくれって事でしょ、別に構わないわよ。日にちが決まれば店閉めてでも出席するから。」

浜面の頬に濡らしたお絞りを当てながら、平静を装って麦野は答えた。
一度浜面を叩いて頭が冷えたのか、自分でも驚くほどすんなり言葉が出て来る。
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 20:07:57.10 ID:IEajgYg0
胸がキュンキュンしてきた…
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 20:10:29.94 ID:BaRT6kAO
切ないな…
(能力じゃなくてよかった)
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 20:19:55.58 ID:WlluCac0
「麦野…」

浜面が口を挟もうとするが、それを遮り言葉を繋げた。

「やっぱり私が居ないとね、二人のリーダーだった訳だし、祝辞ぐらいは述べさせてもらおうかな。」

「麦野っっ!」

そんな麦野の思惑を浜面の怒声が断ち切る。
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 20:26:53.78 ID:WlluCac0
「何よ…怒鳴り声なんてあげて…じゃあどういう意味だっていうの。」

浜面の顔を見据え、はっきりとした口調で麦野は問いただした。

「結婚式へ出席するために戻ってきてくれなんて事じゃない。学園都市に戻って、ずっと俺の側に居てほしいんだ。」

麦野の視線を真っ向から受け止めながらも、浜面の声には動揺の色は見られない。
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 20:39:32.80 ID:WlluCac0
「…あんた、自分で何言ってるか分かってる?」

「ああ、分かってるよ、冗談で言ってるつもりでもない。」

「…馬鹿にしないでよ、私が居なくなった理由分かってるんでしょ、それでもあんたは滝壺を選んだんじゃない。」

感情を込めずに麦野は答えた。
少しでも感情を表してしまえば、浜面の言葉によって心の奥に生まれてしまった、
熱を持った塊が溢れ出してしまうような気がしたのだ。
浜面から眼を逸らしたのも同じ理由だった。
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 20:52:31.12 ID:HGsmfoDO
C。

まさかの浜麦‥‥だと‥‥
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 20:57:36.78 ID:WlluCac0
「十年前お前が居なくなってから、俺は滝壺にありったけの愛情を注いだ。お前の思いを無駄にしたくないっていう、思い上がった気持ちも少しはあったのかもしれない。」

浜面はそこまで話すと、グラスに残っていたビールを一気に飲み干し、大きな溜め息を吐いて、言葉を続ける。

「幸せな十年だった。目標もあったしそれを支えてくれる仲間達もいた。俺の人生の中で一番充実した時間だったって確信している。でもな、いつの間にか気付いちまったんだよ、俺が今居る場所から先に進むには、お前が必要なんだって事を。」
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:00:41.04 ID:WlluCac0
その言葉を聞いて、麦野は反射的に浜面に眼を向けた。
今までの浜面とは違う、確固たる決意が込められた力強い眼、
その眼に麦野は縫いとめられてしまった。

浜面が自分を必要としてくれていた。勝手な言い分だとは思う。
あんまりにも都合の良い話だとも思う。
しかし、麦野から発せられたのは、それらを責める言葉では無かった。
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:09:08.26 ID:WlluCac0
「は…まづ…らぁ。」

出来たのは、名前を呼ぶ事だけ。眼からは涙が溢れ、それ以上の言葉を紡ごうとしても、嗚咽になってしまう。

先程、麦野の胸の奥に産まれたほんの僅かな熱は、今や彼女の心の隅々にまで染み渡っていた。
浜面の冷たい言葉によってつけられた傷に容赦なく入り込み、麦野のより深い部分までを易々と溶かしていく。

「勝手な言い分だって事は分かってるよ。自分でも最悪な答えだとは思う。」

涙を流す麦野を眺めながら、浜面はなおも続ける。
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:14:15.88 ID:WlluCac0
「でもな、これは俺が出さなきゃいけなかった答えなんだ。十年前、俺もお前も滝壺も、3人が3人とも、それぞれの気持ちに気付いていた。それが分かっていながら、俺は答えを出そうとしなかった。その答えを出す事が怖かったんだ。」

いつしか浜面の顔には苦渋の色がにじみ出ていた。

「どんな惨めな思いだって受け入れる、そう決意したはずだったのにな…結局は口だけだった。二股掛けるなんて最悪な事はしたくないって、綺麗事ばっかり言い訳にして逃げていたんだ。挙句の果てにお前が居なくなったてからもそれを認めなかった。全部俺の責任だ。」
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:19:06.86 ID:WlluCac0
「その上で十年前出せなかった答えを出させて欲しい、麦野、愛してる。」

「お前も滝壺もまとめて幸せにしてやる。一人で過ごしていたこの十年よりも、俺たちの側にいる方が幸せだって、嫌って言うぐらいわからせてやる。俺も滝壺も今までの十年よりも何倍も幸せになってみせる。」

「滝壺にも死ぬ気で土下座した、絹旗には本気でぶん殴られた、後はお前だけだ。だから頼む、もう一度だけ『アイテム』をやり直してくれ。」


十年前の後悔を全て振り払うように、浜面は答えを告げた、
堂々と二股を掛けるという、誰が聞いても最低な答え。
だが、彼は何の迷いも無くその答えをだした、この答えが最善であると絶対の確信を持って。
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:21:50.41 ID:WlluCac0
グスッ…っっ、うっ…えぐっ…はま…はまづらぁ…はまづらぁ…」

十年間、過去の思い出にしようとしてきた努力が易々と打ち破られて行った。
浜面の言葉が、想いが、麦野の心を圧倒的な速度で征服していく。
とめどなく流れる涙を止めるための、ささやかな抵抗すら許してはくれない。
抗おうとするささやかな試みは、滑稽にも自らの屈服したいという欲望によってねじ伏せられていった。
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:27:18.15 ID:WlluCac0
麦野沈利は浜面仕上の事をどうしようもなく愛している。
簡単な世間話はおろか、心を傷つけるような冷たい言葉にすら、
自分は甘美な心地良さを味わってしまう。
そんな相手に本気で求められてしまった。
妄想の中で幾度と無く思い描いてきた場面であったが、比較にもならない。
圧倒的なまでの幸福感は、麦野を容易く押し潰していった。

「ヒグッ…あ、ありがとう、私…私…ずっと…グスッ。」
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:27:52.61 ID:WlluCac0
「あー、麦野。その、頼むからカウンターの奥で泣かないでくれ。折角だから俺の隣で泣いてくれたりしたら嬉しいなー、なんて。」

「う、うんっ…ごめん…」

泣き終わる気配を見せない麦野を隣に座らせ、浜面はどうにかして泣き止ませようと手を尽くす。

しかし、当然ながら現在の麦野には何をしても逆効果であり、まともに話が出来るようになったのは、
一時間以上も後の事であった。

その間に振り出した雪はどんどん勢いを増し、辺り一面を染めていった。
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:31:02.23 ID:WlluCac0
「あー、麦野。その、頼むからカウンターの奥で泣かないでくれ。折角だから俺の隣で泣いてくれたりしたら嬉しいなー、なんて。」

「う、うんっ…ごめん…」

泣き終わる気配を見せない麦野を隣に座らせ、
浜面はどうにかして泣き止ませようと手を尽くす。

しかし、当然ながら現在の麦野には何をしても逆効果であり、
まともに話が出来るようになったのは、一時間以上も後の事であった。

その間に振り出した雪はどんどん勢いを増し、辺り一面を染めていった。
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:31:56.14 ID:WlluCac0
「落ち着いたか?」

「どうにかねー、何か一生分泣いた気がするわ…」

隣に座った浜面に髪を撫ぜてもらいながら、すっかり眼を赤く腫らした麦野は言葉を返した。

「で、そろそろ答えを聞かせてもらえるか?」

優しく微笑んで問いかける浜面から、麦野は照れ臭そうに眼を逸らす。

「断るつもりなら、黙って撫でられてなんかいないわよ…馬鹿。」

「いや〜、一世一代の告白に成功したって事で、ちょっとテンション上がっちゃってな。」

そう答えた浜面の顔は完全に緩みきっており、先程までの真剣さは全く無くなっていた。
44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:34:12.73 ID:WlluCac0
「はぁ…まったく…本当に馬鹿なんだから…ってうわぁ、外凄い雪じゃない。」

「ああ、泣いてる間に降りだしたみたいだけど、確かに凄い雪だな。」
よりそいながら、ただ外の雪を眺め続ける二人。ふと浜面が何かを思いついたのか、麦野に声を掛ける。

「時間も遅いし、雪も降ってるから、今日は泊まってって良いか?」
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:34:57.65 ID:WlluCac0
交通も不便な立地条件で深夜な上にこの雪である。
浜面としては至極真っ当で健全な意味で言ったのであるが、
麦野は若干意味を取り違えてしまったらしい。
余りにも急な展開と、最愛の人からの告白に翻弄され続けた麦野沈利、
そんな彼女の思考能力に乱れが生じてしまったのも止むを得ないともいえるだろう。

「え、えぇっ!う、うんっ!え、でも…あ、あの、わ、私、その…初めてだから優しくしてくれると嬉しい…んだけど。」
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:38:54.90 ID:WlluCac0
「ん?」

「…え?」

「…ん?あ。」

「え、あ、え…!ちょ、ちょっと待った今の無し!忘れひぇ!」

両者の間に起こった勘違いが解け、とんでも無いことを口走ってしまった事に麦野は気付く。
慌てて取り繕うとするが、とっさの事で上手く言葉が出てこない。
それとは対照的に、浜面は完全に無言で、あっけにとられた表情をしていた。
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:39:46.78 ID:WlluCac0
「は、浜面?」

不振に思った麦野が声をかけた瞬間、浜面は急に立ち上がり、麦野をお姫様抱っこの形で抱き上げた。

「ちょっ!ええっ、浜面?」

「…麦野、寝室ってどこだ。」

「え…2階だけどって、ちょ、ちょっと、待って!」
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:44:46.31 ID:WlluCac0
「すまん、無理だ!」

力強く答えると、浜面は麦野を抱きかかえたまま、2階に駆け上がる。

「は、浜面、馬鹿、ちょ、は、はまづっ、ひぅん、はぁんっ、駄目ぇ…」





本日この地域に降った雪は、今年最高の降雪量を記録した。

だが、この小料理屋に積もった雪は、他の家屋のそれよりも大分少なかったそうな。



それは夜はおろか、早朝になるまで燃え続けた二人の愛の炎によるものであろう。
この炎は二人の前途をこれ以上無いぐらい、明るく照らしているような気がする。
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:49:18.21 ID:WlluCac0
以上になります。

ミスもありましたが、支援してくださった方、どうもありがとうございます。
結構な分量があると思ったのですが、投下していくとあっという間に無くなりました。

この量だとSS総合スレに投下しておけば良かったのでは無いか、
とも思いましたが、どうかご容赦ください。
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 21:50:58.86 ID:RVDFHNso

いいふんいきだったぜ
51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 21:51:03.04 ID:IEajgYg0
>>1乙!!

浜面が学園都市でクズヤロー扱いで針のムシロ生活な未来が見たいwwwwww
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 21:54:24.92 ID:A7ve.yoo

他の主人公の話はないのかい?
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 21:58:21.04 ID:WlluCac0
>>52

申し訳ありません…
投下した分だけで終了です。

上条さんと一方さんの十年後はちょっと想像が難かしいですね…
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 22:12:52.09 ID:BaRT6kAO
な なんじゃこりゃ…
でも >>1超乙!

はーまづらぁ…!
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 00:18:27.69 ID:X9cb06DO
やべぇはまづらかっけぇ
二股なのにかっこいいってどういうことなの…

超乙です…!
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 00:35:22.67 ID:TXxD8UDO
本文はこんなに上手なのにスレタイが・・・
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 01:10:46.85 ID:57mb0YE0
乙乙
このはまづらになら掘られてもいい
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 03:54:18.34 ID:DtPAIUDO
二股とか納得できないのに‥‥悔しいっ! でも、許しちゃうっ!
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 04:30:52.45 ID:c4PqyWYo
乙っす!

上条さんと一方さんの十年後(二股前提)……

上条→禁書美琴
一方→打止番外
が妥当なんかね?
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 08:49:48.96 ID:FjKPkok0
皆さんありがとうございます。
ワンナイの最終回を見て思いついたネタがこの二人にこんなにハマるとは思いませんでした。

>>56

申し訳ありません、短編のつもりだったんで、特に題名を決めてなかったもんですから…

>>59

その二人だったら自分もそうなると思います。
でも、周りに相談できそうな人が多い分、浜面より上手に収めそうな気もします。

ちょっとだけ続きを書かせてもらったので投下させて頂きます。
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 08:50:40.49 ID:FjKPkok0
学園都市で最愛の人の帰りを待つ、滝壺理后。

彼女の元に、浜面仕上からのメールが訪れた。

内容は『やったぜ!直ぐに麦野を連れて帰る!愛してるぜ滝壺!』

そのメールを見て、心の底から嬉しそうな表情を浮かべる滝壺。
様子を気にした絹旗は滝壺に声を掛ける。
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 08:52:32.08 ID:FjKPkok0
「どうしたんですか、滝壺さん。」

「ふふっ、はまづらから、『やったぜ!』だって。」

滝壺の返答を聞いた瞬間、絹旗は対照的に苦々しげな顔を浮かべる。

「ふんっ、そんなの始めから超分かってた事じゃないですか。大体仕上お兄ちゃんも今更迎えに行くなんて往生際が超悪すぎなんです。」
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 08:56:15.26 ID:FjKPkok0
憎々しげに話す絹旗の言葉を聞きながらも、滝壺は笑みを崩そうとしない。

「ほら、『愛してるぜ滝壺!』だって。」

「あー、良かったですね!もう滝壺さんの余裕っぷりが超腹立ちます。しかも何で仕上お兄ちゃんは私には何も送って来ないんですか!もう許しません、帰ってきたら超本気でぶん殴ってやります。」

恋敵が帰ってくるというのに、滝壺のこの余裕は何なのだろう。
未だに浜面からメールが訪れないことも相まって、絹旗のイライラはどんどんヒートアップしていく。
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 09:01:10.66 ID:FjKPkok0
「頑張れきぬはた、その時にはきぬはたの能力を奪ってあげる。」

「よろしくお願いします。その方が超思いっきり、超時間をかけて殴れますんで。」

このストレスを浜面を殴ることで発散しようと決めた絹旗は、
滝壺の協力を取り付けた事で、とりあえず溜飲を下げる。

それでもまだまだ感情の整理がついて無いのだろう。
浜面への愚痴は一向に止まない。
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 09:05:45.13 ID:FjKPkok0
「超格好つけすぎなんですよ、滝壺さんの力を借りれば一発で分かるのに、『滝壺の力だけは借りちゃいけない。』って、本当にもう…」

昔はどこか冷めた雰囲気を漂わせていた絹旗も、この十年間で随分と感情を出すのが上手になった。
浜面への呼び方の変化も、絆の深まりだけでなく、
甘えるという行為に対する抵抗が無くなっていったという証だ。


皆を引っ張っていく存在だった麦野の失踪や、
不器用な自分を全力で受け止めてくれる、浜面の存在が理由だろう。
身長が殆ど伸びなかった事を除けば、実に健康的に成長していったと言える。
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 09:10:25.44 ID:FjKPkok0
「でも良かったね、これでまたみんなで一緒にいれるよ。」

「そりゃ、嬉しくないって言ったら嘘になりますけど…でも、超ちょっとだけ納得出来てないです。滝壺さんが納得できてるって方が驚きですよ。」

麦野の帰還を心から喜ぶ滝壺に対して、どこか不満そうな絹旗。



勿論、浜面の決断が世間大多数の人から非難されるものであるとは分かっている。

しかし、それぞれの思いを知っている身としては、他人と同じ様に、
一般的なモラルや貞操観念を持ち出して非難するような事は避けたかった。
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 09:19:29.53 ID:FjKPkok0
「滝壺さんは不安じゃないんですか、麦野に仕上お兄ちゃんをとられちゃう可能性だってあるんですよ。」


嫌な人間になったと絹旗は思う。
滝壺からも、少しぐらい嫉妬や不満の言葉を引き出したかった故の言葉だと、
言ってから気付いた。

「不安なんてないよ、はまづらは両方に目一杯の愛情を注いでくれるってわかってる。だったら、後はどっちの方がはまづらを愛してあげれるかって問題だもん。」

全く動じようとしない滝壺の態度に、絹旗の心に自己嫌悪の思いが広がりかけた。

しかし、次の瞬間
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 09:35:18.24 ID:FjKPkok0
「だったら、絶対に負ける訳が無いよね。」

店の中の温度が10度下がった。
絹旗は本気でそう思った。

錯覚かとも思ったが、店の中を見渡せば、
その現象が自分だけに起こっていた訳では無いことが分かる。

店内の客や店員が一瞬にして沈黙し、
目の前に置いてあったホットココアからは、湯気ではなく冷気が溢れている。
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 09:41:57.54 ID:FjKPkok0
学園都市の頂点であるレベル5、その中の一人である『学園個人』滝壺理后。
しかし決して戦闘向きの能力を持ってる訳では無い。

第二位の垣根帝督と戦ったこともある。第四位の麦野沈利の激昂を目の当たりにしたこともある。
だが目前の彼女から、敬愛する姉のような人物から発せられる殺気は、
その両方を足したとしても、足元にも及ばないのではと感じさせるほどのものであった。

とはいえ、滝壺の意思を聞いた絹旗は、自分の中にあった不満の正体を自覚できた。
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 09:46:11.01 ID:FjKPkok0
「滝壺さんが羨ましいです、私にはその超自信が持てません。」


滝壺の言うように、浜面仕上は双方にありったけの愛情を注ぐだろう。
様々な苦労や衝突にも、決して挫ける事無く、乗り越えていくだろう。

だが、そうなれば自分はどうなるのだろう。
三人が愛を育んでいく中で、一人取り残されていってしまうのではないだろうか。

不満の正体が分かってしまい、絹旗の不満はより大きな不安へと変化する。

その思いを察すると、滝壺は絹旗の手を取り、優しく語り掛ける。
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 09:47:12.02 ID:FjKPkok0
「ごめんね、きぬはた、でも…分かって。」

「超分かってます、多分、三人にとっては一番の答えだって、でも…どうしたって怖いです。」

「違うよ、これは多分きぬはたにとっても、一番良い答え。」

「滝壺さん…」

滝壺の意図が掴めず、戸惑いの表情を浮かべる絹旗。
そんな絹旗に優しく、静かに、滝壺は語りかける。
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 09:53:06.19 ID:FjKPkok0
「きぬはたも、むぎのと一緒だよ、私に遠慮して自分の気持ちを抑えて…私はそんな事されても全然嬉しくない。それに、私は二人が遠慮したから、はまづらに選んでもらった訳でもない。」


「今回の事で分かったとおもうけど、はまづらも、自分の手でまとめて幸せにするって決意してくれた。その上でアイテムをやり直したいって言ってくれた。だから、きぬはたも遠慮するのはやめて、はまづらに正直な思いをぶつけて欲しい。」

絹旗の本心を見抜いた上で、その本心を浜面にぶつけて欲しいと、滝壺は真っ直ぐな瞳で告げた。
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 09:58:15.02 ID:FjKPkok0




「滝壺さん、ありがとうございます…私、やっぱり仕上お兄ちゃんの事が超好きみたいです。私も麦野と超一緒だったんですね…自分一人で勝手に逃げて、諦めたふりしてて。でも、今の滝壺さんの言葉のお陰で、ようやく決意が出来ました。」

「これからは超本気です、ずっと離れてた麦野は勿論、滝壺さんにだって負けません。絹旗最愛の恐ろしさ、存分に味あわせてやります。」

滝壺の思いに応え、秘めていた想いを洗いざらい吐き出して、宣戦布告をする絹旗。

「かかってきなさい。」

その瞳を真っ向から受け止め、胸を叩いて応える滝壺。


新たな、というよりは昔治まったはずの女の闘いが、再び燃え上がった瞬間であった。
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 10:04:32.60 ID:FjKPkok0
そんな中、絹旗の携帯が震えだす。

「あ、ようやく私の方にも連絡が来ました…ってはぁ。」

待ち望んでいた浜面からのメールを見るなり、肩を落とす絹旗。

その反応を不信に思った滝壺が携帯を覗き込む。
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 10:13:47.42 ID:FjKPkok0
『やったぜ!直ぐに麦野を連れて変える!お兄ちゃんがいないからって風邪ひいたりするんじゃないぞ!』

「うー、折角決意を超固めたっていうのに…本当に仕上お兄ちゃんは空気が超読めません。滝壺さんみたいに『愛してる』ってまでは、まだ無くても良いですけど…こんなにあからさまに超子供扱いする事無いじゃないですか。」

机に突っ伏す絹旗を見ながら、滝壺は携帯を取り出し、メールを送信する
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 10:14:44.35 ID:FjKPkok0

「どうしたんですかー、滝壺さん。」

横目で滝壺の動きを見ていた絹旗の質問に対し、滝壺は無言で送信したメールを見せる。



『きぬはたのメールにも愛してるってつけなきゃ駄目でしょ。』




見せた滝壺と、見た絹旗。
二人は視線をしばらく交わした後、心底楽しそうに笑いあった。
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 10:18:08.67 ID:FjKPkok0
以上で滝壺、絹旗パートは終了です。

二股どころか三股になってしまいましたが、多分上手くやるんじゃないかと思います。


機会があれば、絹旗が浜面の呼び方を変えるようになった切っ掛けや、
麦野が学園都市へ帰る道中など、色々書けたらいいなと考えています。
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 10:21:57.09 ID:XQmzV9s0
超超乙!
浜面爆発、とか言ったら3人にブチ殺されそうだから言わない
全員が幸せそうでほっこりした。次も期待してる!
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 13:36:17.99 ID:ljnIkUAO
な、なンじゃこりゃ…
>>1 超乙です

でも…、はーまづらぁっ!!!
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 13:50:38.49 ID:UesWpNIo
もう殆ど別キャラだなw
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 14:33:14.08 ID:WisTlwSO
もちろん学園都市の最新技術でフレンダは生き返ってて四股になるんだろ?
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 15:02:52.51 ID:/DeL5ago
超銀河二股宣言した女形を超えるか
83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 15:47:55.18 ID:BgU8L0g0
これは今こそ
『浜面もげろの会』を開くべきだな
84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 01:03:54.76 ID:LDB0tHMo
俺会員No.10032ね
85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 09:15:22.59 ID:XxD7cWc0
そうなると会員数が最低10000人を超える一大勢力なのか、
会員が10000人以上死亡してる悲劇の会 のどっちかだなwwww
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 10:44:28.75 ID:JgHBHQDO
10000人以上が麦のんによってぷちぷち潰された悲劇の会でおk
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 05:29:14.44 ID:aiIa94E0
一応続きを書きましたが、殆ど蛇足の領域です。


多分に間延びしていく恐れがありますので、
適当に読み流してやってください。
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 05:29:40.28 ID:aiIa94E0
きぬはたのメールにも愛してるってつけなきゃ駄目でしょ。』

絹旗にメールを送ってすぐ、滝壺から返信が帰ってきた。

今まではそんなの言われた事がなかったのにな、と不思議がりながら、
浜面は滝壺の言うとおり、絹旗にメールを送りなおす。

「ん…うぅ。」
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 05:30:31.83 ID:aiIa94E0
隣で寝ていた麦野が、寒そうに身を縮めた。

浜面が起き上がったため、冷たい空気が布団の中に入りんでしまったらしい。

一足先に目が覚めた浜面は、麦野に布団をかけ直して、布団から這い出た。

気持ちよさそうに眠る麦野を見ると、どうしても昨夜の情事が浮かんできてしまう。

昔と比べ、やや肉付きが良くなった麦野の体は、
男の欲情を嫌というほど掻き立てるものであった。
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 05:31:48.72 ID:aiIa94E0
自分の下で喘ぐ麦野を思い出し、頬が緩みそうになる浜面であったが、
先程のメールの件を思い出し、やや表情が固くなる。

昨日処女を散らさせたばかりの女性が寝てる横で、
他の女性に愛しているというメールを二通も送る。

「分かっているけど、最悪だわなー、俺。」

思わず自己嫌悪に陥りそうになるが、
自分がしなければならない覚悟の内だと思い、
またその覚悟のお陰で得られた麦野の肉体を想像して、気合を入れ直した。
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 05:33:06.04 ID:aiIa94E0
大きく伸びをした浜面は、
階段を下りて、麦野の小料理屋をじっくりと観察することにした。


昨夜はじっくりと見る余裕が無かったが、
穏やかな空気が漂う、温かな店だ。

掃除は店の隅々にまで行き届き、
棚には高価ではないものの、品のいい食器が並べられていた。

店主の人柄が良く現れた店、という言葉は良く聞く。

麦野の店だとの先入観を除いて見てみると、
麦野とは似ても似つかない優しげな雰囲気の女性が浮かんできた。
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 05:34:01.10 ID:aiIa94E0
「あの、麦野がなー。」

自分は十年前の麦野を知っている。

誤解されやすい性格のため、
よく知らない人間からは傲慢だの冷酷だのと勘違いされるが、
実際の麦野は人付き合いが下手で淋しがりやな女の子だった。
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 05:35:02.87 ID:aiIa94E0
そんな麦野が八年間も小料理屋を切り盛りしていたのだ。
自分には想像も出来ない苦労が幾度もあっただろう。

そんな大切な店よりも、麦野は自分を選んでくれた。
その事が浜面にはたまらなく嬉しかった。

「麦野は返してもらったぞ、このヤロー。」

椅子に座り、天井を見上げながら、浜面は不敵に呟いた。
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 05:35:43.82 ID:aiIa94E0
店内を見終え、寝室に戻ってみても、麦野はまだ眠っていた。

眠る麦野と店の雰囲気を照らし合わせてみると、不思議とイメージが重なって見える。

だが、昨日の夜の会話や、その後の情事を思い返すと、
昔と変わらない麦野が見える。


今の麦野には十年振りに再開した自分が、
一度肌を重ねただけでは理解しきれない味わい深さがあるのだろう。
95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 05:37:28.10 ID:aiIa94E0
その事を今更淋しいとは感じない。


これからいくらでも時間はある。
じっくりと麦野が歩んできた十年間を知っていけばいい。
麦野にも自分達が歩んできた十年間をじっくりと知ってもらおう。


麦野が自分の十年をどう話してくれるのか、
麦野は自分達の十年をどのように聞いてくれるのか、
思い描く浜面の顔は心底楽しそうである。
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/05(金) 05:44:34.46 ID:aiIa94E0
とりあえず、今日はここまでです。

麦野達が学園都市に帰るまでは書きたいですが、まだ未定です。

>>81
フレンダは好きなんですが、出せるかどうか自信ないです。

しかし1万3千字近く投下してもまだ100までいかないなんて…

2スレ3スレまで伸ばせる人は本当に凄いですね。
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 06:54:42.43 ID:FGEmRADO
ぬぐおぉぉ…朝からなんてものを…超乙!
>>1の文章はとても読みやすくて良いな

浜面はアイテムの皆さんに頭を噛みつかれてなさい
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 08:31:03.87 ID:8mYjzUAO
まったく…はーまづらァァ!
最近 面白いSSが多くて困るな…
超乙かれ!

2スレ3スレ目にまで到達する人は
LEVEL 6だからしょうがない。
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 11:23:21.74 ID:VCZypkSO
>>96
いやフレンダは冗談で言っただけだから別に無理に出してくれてもいいんだぜ
100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/09(火) 22:46:59.73 ID:GgmBqGU0
読み直してみると序盤で1レス抜けてる事に気付きましたので、
続きを投下する前にまずその部分だけ。
101 :7と8の間になります :2010/11/09(火) 22:47:49.15 ID:GgmBqGU0
「しかし女将、10年前に学生だったって事は今は何歳になるんだ。俺が思ってた以上に若いのかな?」

その言葉を聞いた女将はようやくほっとしたような笑みを浮かべた。

「女性に年齢聞くなんて失礼ですよ?ほら、変な話はこれでおしまい。皆、ロックの氷も解けてるし、熱燗だって温くなってるじゃないの。変な空気にさせちやったお詫びに、皆に一杯奢るから、ね?」

そんな女将の言葉を聞いて、常連客達にも笑顔と活気が戻る。

「本当だぜ全く、空気の読めねえ馬鹿野郎が。」
「女将さん、心配しないでくれよ、奢ってもらった分は全部こいつに払わせるからよ。」
「ち、ちょっと待ってくれよ、皆だって止めなかったじゃないか。」
「ふふっ、じゃあお言葉に甘えて半分だけ持ってもらいましょうか。」

いつもの雰囲気が戻った小さな港町の小料理屋、美人な女将と常連客達のいつも通りの夜が更けていった。
102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/09(火) 22:49:12.99 ID:GgmBqGU0
とはいえあんまり本編に影響はありません。

では続きを投下します。
103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 22:49:43.90 ID:mJ4uZYAO
待ってました!
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/09(火) 22:49:59.20 ID:GgmBqGU0
その日、麦野沈利は違和感とともに目を覚ました。

肌に触れる空気はすでに昼時に近い事を知らせているが、
何故か妙に肌寒く、淋しい。


違和感の正体に気付く事無く目を開けた麦野であったが、
その目に飛び込んできたのは、ありえない人物だった。
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/09(火) 22:54:56.25 ID:GgmBqGU0
何故か畳の上で浜面仕上が胡坐を組みながら、こちらを見下ろしている。


反射的に体を跳ね起こすものの、寝起きの頭ではこの状況を上手く整理することが出来ない。

呆気にとられた表情で見つめる麦野を不信に思ったのか、浜面が声を掛ける。

「えと…その、麦野、お早う。」
106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/09(火) 22:59:46.76 ID:GgmBqGU0
「あ…」

声を聞き、ようやく昨日の出来事を思い出す。

浜面との十年ぶりの再会、堂々の二股宣言、愛の告白、軽く思い出すだけで顔が赤くなってきた。

気恥ずかしさと嬉しさが混在した、どこかくすぐったくも心地良い感覚が体を駆け巡る。

顔を直視する事に耐え切れず、
僅かに目を逸らしたが、完全に目を背けることも出来ない。

横目で浜面を窺う麦野であったが、浜面の方は揺らぎの無い瞳で麦野を見据えていた。

その視線に、一層の気恥ずかしさを覚え、それを紛らわそうと声を掛ける。
107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/09(火) 23:07:21.94 ID:GgmBqGU0
「は…浜面、あの、寝起きだから、そんなに見られると恥ずかしい…」

「あ、あぁ、悪い。何ていうかな、その…凄く綺麗だったからさ。」

浜面の言葉に、ますます顔を赤らめる麦野。
横目で見る事にすら耐えられず、とうとう顔を背けてしまった。

そんな麦野の様子を気にしながらも浜面は言葉を繋げる。

「ま、まあ、そのな、眼福というか、嬉しいのは嬉しいんだけどさ…そろそろ、服着たほうが良いぞ。」
108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/09(火) 23:13:11.50 ID:GgmBqGU0
照れ臭そうに告げられた浜面の言葉で、今度こそ麦野は全てを思い出した。

昨晩、浜面からの告白を受けた後の事を。

昨晩の情事の詳細な部分までを余すところ無く。


いざ思い出してみると、その恥ずかしさは告白された時の比ではない。
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/09(火) 23:24:44.08 ID:GgmBqGU0
長期的に見れば掛け替えの無い思い出ではある。
しかしながら、つい昨日の初夜の思い出に、相手の顔を見ながら浸れるほど、
麦野沈利は男に慣れていなかった。


顔どころか全身までが赤く染まる。

浜面の視線を受けることにすら耐え切れず、布団に潜り込んで顔を枕に埋めた。

そうしたからといって、何か問題が解決する訳ではない。

とはいえ、今の麦野にはそうする他無いのである。
110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/09(火) 23:35:53.40 ID:GgmBqGU0
「うううぅ…」

麦野の背を、布団の上から浜面の手が撫でる。

「ま、まぁ…落ち着けよ、な、麦野。」

「は、浜面にあんな情けない姿、見られた…」

完璧主義者とも評される麦野は、易々と他人に弱みを見せるような人間ではない。

そんな麦野が、あられもない姿を全てさらけだしたのだ。

おそらく、今までの人生で味わったことのない羞恥心を感じているのだろう。
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/09(火) 23:42:04.50 ID:GgmBqGU0
「そんな事ねえよ、情けなく無かったさ、むしろ可愛かった。」

浜面は出来うる限り優しい声で麦野を落ち着かせようとする。

「そ、それにな、これから毎日ってぐらいに見られるんだから、一々恥ずかしがってちゃ身が持たないぞ。」

未だ布団の中から出てこようとしない麦野に対し、
別方向から浜面はアプローチをかける。
112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/09(火) 23:53:21.13 ID:GgmBqGU0
「な、なぁっ・・・ふざけた事言ってんじゃ無いわよ、この、馬鹿!」

その目論見は一応の成果を収めたらしい。

詳しくは顔に投げつけられた枕のせいで見えなかったが、
どうやら麦野を布団から出すことには成功した。
113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/09(火) 23:58:37.79 ID:GgmBqGU0
浜面が枕をどけてみると、麦野が布団で上手く体を隠しながら着替えを探している。

しばらくはその光景をじっくりと観察していた浜面であるが、
それに気付いた麦野から投げられた二発目の枕と、
照れと怒りが混ざった視線に気圧され、
着替えの終わるのを、部屋の外で待たなければならなかった。
114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/10(水) 00:00:35.72 ID:cWypbPY0
短いですが本日投下分は以上になります。

順調にぐだって来ましたが、
支援してくださった方ありがとうございます
115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 00:23:13.74 ID:QUAFiwDO
ええのうええのう
116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 00:28:03.02 ID:svvgfkSO
事後とか……






……………ふぅ
117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/11/10(水) 03:02:53.07 ID:PvMWkeM0
アイテム万歳。むぎのんばんざい
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 11:52:36.59 ID:rFHn3r.0
来てたああああ乙乙
むぎのんかわいいよむぎのん
続きが楽しみすぎてヤバイ
119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 15:42:37.93 ID:26CfbiUo
素晴らしいスレなのにスレタイが残念
120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/11(木) 22:55:26.73 ID:qMPm/6Eo
これはほんと、スレタイで損してるな
いい話なのに。

つーか、ありえねえよ
なんだこのハーレム
なんで女性陣は平気なんだ
絶対にねーよ
と、思うからこそ素晴らしい
すごくいいです
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 00:16:06.37 ID:Ay2gQrso
ふぅ
122 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:25:48.26 ID:rE9hcSE0

浜面を部屋から追い出し、麦野は着替えを始めた。

「全く、ほんっとに馬鹿なんだから。」

考えてしまうのは、浜面のことだ。

やはり悔しい。

それが麦野の率直な感想である。
123 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:27:14.64 ID:rE9hcSE0
申し訳ない、投下宣言する前に書き込んでしまいました。
124 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:29:07.33 ID:rE9hcSE0

昨夜の事を思い出すだけで、まともに顔を見られなくなる自分に対し、
浜面の落ち着きっぷりはなんだろう。

おそらく経験の差なのだろうが、
衣服を着たままの相手にああも堂々と裸を見られてはたまらない。

昨夜の交わりとは異なる性質の昂ぶりが生まれてしまいそうだ。

そこまで考えて、麦野はようやく昨晩の出来事を、
一人で思い出す時間が手に入ったことに気付いた。
125 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:30:00.31 ID:rE9hcSE0

姿見に映る自分の裸には、ところどころその痕跡が残っている。

麦野はそれらの一つ一つを指でなぞり、情事の余韻に浸っていく。

内のいくつかは、かすかに残る銃痕と重なっていた。

かつて浜面から受けた傷が、浜面から与えられる快楽の注ぎ口となっている。

その事が二人の関係の変化を象徴してるような気がして、
嬉しいながらも、どこか皮肉っぽく、少し愉快な気分になった。

「ふふっ…はーまづらぁ。」
126 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:32:31.14 ID:rE9hcSE0

指の動きを止めずに、麦野は恋人の名を呼ぶ。

「んんっ・・・!」

無意識の内に、体をなぞる指の動きが艶かしいものとなっていく。

情事の思い出に浸るための行為は、次第に快感を得るための行為に変わりつつあった。

「あぁっ、駄目ぇ。」

麦野がそれを自覚した時には、指先からはっきりとした快感が送り込まれていた。
127 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:34:09.53 ID:rE9hcSE0

頭の中に浮かんでいた睦言の記憶と、体に送り込まれた行為による刺激、
両者は容易く、そして深く結びつき、麦野の自我に更なる法悦を要求する。

「はぁっ…」

その要求に抗おうとする素振りすら見せず、
麦野は息を荒げ、より敏感な部分へと指を這わそうとする。

指の力はより強くなり、麦野自身の意思をもって、激しい刺激を求めていく。

「うぁっ…ひぁぁ…」
128 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:35:40.63 ID:rE9hcSE0

素肌に纏わりつく冷たい空気は、体の中から沸き起こる火照りをより際立たせ、
窓から入り込む太陽の光は、雪の反射と相まって、麦野の体をより強く照らした。

その様はどこか幻想的であり、麦野の脳内から現状への認識を奪っていく。

既に自分が着替えをしていたことすら忘れ、
何故か触れる事を拒んでいた秘部をめがけて、指を滑らせる。

首筋からゆっくりと情事の跡を辿り、脚の付け根へと向かわせていく。

その眼は陶酔の色に染まり、浜面への思慕の笑みを浮かべていた口元は、だらしなく緩んでいた。
129 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:37:37.87 ID:rE9hcSE0

「あ…と…すこ…し。」

麦野の口から、いずれ訪れる快感への期待が漏れてしまう。

その言葉が示すように、既に指先は入り口へあと僅かというところに迫り、
屈服を与える瞬間を嬉しそうに待ち構えている。


ほんの少し、有るか無いかの逡巡を見せた後、
麦野は体からの命令に応え、一気に指先を入り口へと滑り込ませた。
130 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:39:17.58 ID:rE9hcSE0


「麦野ー、もう入っても大丈夫か?」



「ひぇぅっ!」


待ち望んだ刺激が訪れようとしたまさにその時、外で待つ浜面からの呼び声が耳に届く。

埒外の事であった外からの呼び声により、
麦野の意識は一気に現実へと呼び戻されてしまった。


「ご、ごめん!あとちょっとで終わるから、もう少しだけ待ってて!」

自分の目的を思い出し、外の浜面に言葉を返した麦野は、
体に残る火照りもそのままに、驚くべき手際のよさで着替えを終えていく。
131 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:41:12.60 ID:rE9hcSE0

「終わったよー、浜面!」

急がせてしまったかな、と浜面が申し訳なく思いながら部屋に入ると、
何故か麦野が座布団の上に正座していた。

麦野からすれば正座したのは別に畏まったからでは無い。
ただ浜面の視界から、できるだけ秘部を隠せるようにと考えただけである。

とはいえ、浜面にそんな事情が分かるはずも無い。

眼に映るのは、昨晩肌を重ねた布団の前で、
頬を染めた麦野が妙にしおらしく正座しているという図だけである。
132 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:43:41.37 ID:rE9hcSE0

その様子に知らず緊張を覚え、浜面も動かされるように、
麦野に向かい合って正座した。

沈黙が二人の間を満たす。

勿論、険悪なものではない。
だが、両者ともに、話の切っ掛けを失ってしまっているのだ。

となれば、あとは場所の生み出す空気に流されてしまうしかない。
133 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:47:07.29 ID:rE9hcSE0

麦野にとってこの店は、浜面からの決別の象徴でも有る。
しかしながら、この寝室にだけは、彼の存在が色濃く染み付いているのだ。

文字通り染み付けられたと言ってもいい。


たった一夜の交わりによって、この十年間で培われた空気は塗り替えられ、
これからの浜面との幸せを期待させるものとなっている。

それに加えて、麦野にはまだ先程の火照りが燻っている。

そんな彼女が、何らかの形で浜面との触れ合う事を望むようになるのは、必然の流れであろう。
134 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:49:32.24 ID:rE9hcSE0

触れ合いを求めているのは浜面も同じである。

これからの事、これまでの事、昨日だけでは話しきれなかったことが積もるほど有るのだ。

それならすぐに話を切り出せば良いのだろうが、残念ながら場所が宜しくなかった。

どんなに慣れた間柄だとしても、女性の寝室に入るということは、
多少なりとも緊張を呼び起こすものだ。

まして無我夢中だった昨晩と違い、今は部屋の様子をじっくりと観察する余裕が出来てしまっている。
135 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:50:37.16 ID:rE9hcSE0

しかも、その部屋の主が、顔を赤らめて自分に何かを求めているようなのである。

麦野が何を望んでいるのか、それが分かるまでは下手に行動を起こせない。

ひとつ間違えればあっという間に布団の中に雪崩れ込んでしまう気がした。
136 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:51:34.21 ID:rE9hcSE0

それぞれが行動を起こす糸口を掴めないでいる間にも、
二人の間に漂う気恥ずかしい気配は、より一層強まっていく。

先にその空気に耐え切れなくなったのが麦野であった。

「あ、あの…浜面…」

「お、おう、どうした。」

少しでも浜面と話したく、それでいて何を話して良いか分からず、
ただ、場の空気に押されて出てしまった言葉。
137 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:53:17.07 ID:rE9hcSE0

だが、発してしまった手前、何でもいいから話を繋がなければならない。

続く言葉の用意もしていない中、真っ白になった頭で搾り出した結果が、

「ふ、不束者ですが、宜しくお願いします!」

であった。

138 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:55:37.15 ID:rE9hcSE0

無理やり発した割には、上手く状況にあった言葉かもしれない。

しかし、何分心の準備が出来ていなかった。

それは麦野に限ったことではない。

いきなり三つ指ついて頭を下げられたのである。

浜面の驚きは想像するに難くないだろう。
139 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:56:41.96 ID:rE9hcSE0

とびかけた意識をどうにか引き戻し、
浜面は麦野の言葉に応えようとした。

「あ…その。」

上手く言葉に出来ない事がもどかしい。
140 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 13:58:42.46 ID:rE9hcSE0

柄にも無く、耳まで真っ赤にして、頭を下げて、
そんな麦野がどうしようも無く愛おしくなって、
ありったけの思いを込めた言葉で応えたくて、
ほんの僅かの距離さえも離れていたくなくて、
強引に麦野の腕を取り、自分の胸へと抱き寄せた。

麦野を両腕でしっかりと抱きしめ、
耳に口を添えて、慎重に言葉を選びながら囁く。
141 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 14:00:10.89 ID:rE9hcSE0

「麦野…昨日も言ったけど、俺にはお前が必要だ。二股かけるような最低の男だけど、お前も滝壺も俺の手で幸せにしたい。だから、側にいて力を貸してくれ。」

浜面の胸に体を預けながら、麦野はその言葉に聞き入る。

しばらく抱き合って沈黙する二人、ようやく落ち着きを取り戻したのか、麦野が口を開く。

「ふふっ、何度聞いても、最低な告白よね、我侭で…勝手で…都合が良くて…でも、嬉しいよ、最低だって分かっても、その答えを出してくれて。」

浜面の腕の中、どこか甘えたような声で麦野は応える。
142 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 14:01:06.82 ID:rE9hcSE0

「でもね、浜面。」

「…ん?」

「私も、多分滝壺も、浜面が幸せになってくれればそれで良いんだから…変に気を使って疲れるよりも、自分が幸せになる事を優先して。」

「変な心配すんなよ、お前ら二人が居てくれるんだ。それで幸せになれない程、愚図じゃ無いつもりだ。」

再び二人の間に沈黙が訪れる。

しかし、それは言葉を探すといった類のものではない。

浜面と麦野の視線が交わり、どちらとも無く顔を近づけていく。

二人の距離がゆっくりと、しかし確実に縮まり、唇を重ねるまでの距離がゼロになろうとしていた。
143 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 14:02:51.67 ID:rE9hcSE0
申し訳ありません、急用が入ったので、中断させて頂きます。

夜には再会できると思います。
144 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 14:09:44.99 ID:b/qJVU.0
超乙乙乙
くそっ、いいところで!生殺しかwwww
待ってるよー
145 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 14:49:35.06 ID:cNgWg3wo
かわゆすぎる
146 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 17:33:09.39 ID:sZWt.7o0
帰ってきました。

投下再開します。
147 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 17:34:20.15 ID:sZWt.7o0


ぐうぅぅ〜






二人の唇が触れ合うか、触れ合わないかの瞬間、腹の虫が鳴き声をあげる。

その音は妙にはっきりと響き、部屋を満たす甘い空気すらも吹き飛ばしてしまった。

「あ、ご、ごめん浜面、すぐにご飯用意するから!」

浜面の腕から抜け出し、顔を真っ赤にしながら、麦野は部屋を飛び出す。

「お、おう!」

呆気にとられた表情を浮かべながらも、浜面もどうにか麦野を送り出した。
148 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 17:52:26.54 ID:sZWt.7o0

うやむやになった口づけの物足りなさを引き摺りながら、
麦野は階段を降り、浜面は部屋で料理が出来るのを大人しく待つ。

先程の思い出に浸りながらも、その刺激の強さに驚きを隠せない。

「凄い…まだ、こんなに胸が鳴ってる。」

麦野は一階で。

「うわっ、凄ぇなこれ…全然収まんねぇ…」

浜面は寝室で。
149 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 18:02:15.59 ID:sZWt.7o0

二人はそれぞれ胸に手を当て、動悸を落ち着かせようとする。

これからの生活に期待と不安を覚え、思わず言葉が漏れた。

「これ…滝壺と分け合うぐらいで丁度良いのかもね。」

「戻ったら滝壺と二人分…だよな、俺、体持つかな…」

ただ、僅かながらも、考える事は異なっていたようであった。
150 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 18:07:33.74 ID:sZWt.7o0







流石というべきか、麦野は手際よく食事を支度し、寝室に戻る。

本人が言うには、昨日の残り物とあり合わせで作っただけの事だが、
浜面がどう厳しく採点しても、満点以外の評価は付けられなかった。

「ど、どうかな。」

それでも本人からすれば不安なのか、味の感想を遠慮がちにねだられた。
151 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 18:19:40.56 ID:sZWt.7o0

美味しい、と即答しそうになり、思いとどまる。

折角だから何か気の利いた言葉を返したい。

頭を全力で回転させ、麦野が心配しない程度の時間で言葉をまとめる。

「ああ、美味しいよ。こんなに料理が上手い娘をお嫁さんにできる男は幸せだよな。」

気障ったらしく言ってみたが、効果は覿面だったらしい。

恥ずかしそうに眼を逸らしながらも、麦野は嬉しそうに微笑んでいた。

それでも少しぐらいは言い返したいと思ったのか、
かすかに目を険しくして、恨み言をぶつける。
152 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 18:28:46.90 ID:sZWt.7o0

「滝壺だけじゃ我慢できない、とか言ってるくせに、格好つけてんじゃ無いわよ、馬鹿。」

無理矢理拗ねたような言葉で言い返すものの、
どうしても言葉の端々に嬉しさが溢れてしまう。

それでも美味しそうに食べてくれる浜面を見ていると、
次第にそんな事はどうでも良くなってしまい、
二人で食卓を囲める幸せに存分に身を委ねる事にした。
153 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 18:37:47.83 ID:sZWt.7o0

食事が八割がた片付いたころ、麦野が遠慮がちに口を開いた。

「あ、あのさ、浜面。」

「ん、どうした。」

「お店の事なんだけど…あと三日だけ、続けさせて欲しい。そ、その、すぐに帰るって言ったけど…やっぱり贔屓にしてくれてた人もいるから、黙っていなくなるのは絶対に嫌なの。」

申し訳無さそうに、麦野は要望を伝える。
154 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 18:43:42.01 ID:sZWt.7o0

浜面もその事は考えていた、
いきなり連れて帰れば町の人に妙な心配をさせる事になるだろうし、
麦野にも迷惑がかかるだろう。

店の事に関しては浜面はいくらでも麦野の要望を聞くつもりだった。

「ああ、でも、三日で良いのか、何なら月末ぐらいまででも…」
155 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 18:53:47.08 ID:sZWt.7o0

「ううん、三日で良い。長く居すぎても未練が募るだけだと思うから。」

そんな浜面の申し出を断り、麦野は決意を固める。

長くなればなるほど、この店や町に対する愛情に捉われてしまうだろう。

学園都市への思いと町への愛着と、その二つにはさまれた中途半端な気持ちで、
だらだらと店を続けていくつもりは麦野には無かった。
156 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 19:00:19.86 ID:sZWt.7o0

食事と片付けが終わると、麦野は出かける準備を始める。

浜面が聞くところによると、閉店を知らせるため、公民館から回覧板を回して貰うらしい。

そうなると浜面に出る幕は無い。

特に何をするでもなく、食休みをしていると、
身支度を終えた麦野が声を掛けにきた。
157 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 19:07:09.41 ID:sZWt.7o0

「は、浜面。」

「おう、どうした麦野。」

「い、今から行って来るからさ…その…」

「うん?」

「だから…その…えと、あ、あの。」

今から行ってくる、と一声掛けるだけかと思ったが、妙に口が重い。

顔は真っ赤で、浜面が目を合わせようとするとしても、素早く背けてしまう。
158 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 19:12:17.80 ID:sZWt.7o0

「おーい、麦野ー。」

「う、うん、だから、今から行ってくるから…あの。」

「おう、どっか掃除とか、片付けとか、何か用事が有るならやっとくぞ?」

「ち、違うの、そういうんじゃ無くて…さ、さっきの…」

「さっきの?」

「だ、だから、さっき…その、で、出来なかったから、あの…い、行ってきますの、き、き、キス…とか。」
159 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 19:16:10.00 ID:sZWt.7o0

そこまで言って、麦野はようやく浜面に目を合わせた。

流石に真正面から見る事は出来ないらしく、
半分程目を伏せた、上目遣いに見る形になってはいるが、
言い切った以上、目を逸らすつもりは無いらしい。

恥ずかしさか緊張の為か、半分涙目になりながらも、
浜面の答えをじっと待っている。
160 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 19:19:46.66 ID:sZWt.7o0

そんな麦野を可愛らしく思ったのか、浜面の顔に笑みが浮かんだ。

「なっ、何笑ってんのよ、浜面、人が勇気振り絞って、って、うむっ…ちゅ、ぷあっ…ふぇ、 ひぁぅっ。」

再び浜面が麦野を強引に抱き寄せる。

そしてたっぷりと濃密な口付けを交わす事、五分弱。

口付けを終え、名残惜しそうに出かけていく麦野の脚は、
どこかふらついた、おぼつかない物となっていたそうな。
161 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/15(月) 19:20:53.58 ID:sZWt.7o0
今回は以上になります。

支援して下さったかた、本当に励みになりました。

次は学園都市サイドになると思います。
162 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 19:41:51.26 ID:BvnAXgAO
なんてうらやましい浜面だ
163 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 19:46:07.80 ID:Mps9kEAO
これはうらやまけしからん浜面だ
早急に俺と代われ
164 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 20:05:12.39 ID:a.hMQ6DO
超乙
これは浜面だから許されるんだよな…
むぎのん可愛い
165 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 20:21:14.42 ID:0jkeYpYo
浜面と代わりたくない
ちょっと離れた所から覗いていたい
166 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 21:33:52.17 ID:/sP/F.SO
上条がこの浜面と同じ答えを出したら金玉枯れるな
167 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 00:20:06.58 ID:U52Yeb2o
うらやまけしからん
浜面もげろ
168 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 10:24:25.38 ID:bDTnMp.0
投下させて頂きます、ちなみに今回、浜麦は一切出てきません。
169 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 10:24:56.54 ID:bDTnMp.0
麦野が目を覚ますより少し前、学園都市では既に絹旗達が食事を終えていた。


食事を終え、絹旗と滝壺はファミレスを後にする。

「じゃあ、滝壺さん、また夜に。」

「うん、店はいつものところで良いよね。」

「はい、今日は超派手に飲みましょう!」
170 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 10:27:03.15 ID:bDTnMp.0

夜にもう一度会う約束をし、二人は分かれた。

絹旗の告白への決起集会と前祝いらしい。

「私は研究所で用事があるけど、きぬはたはどうするの?」

「特に用事はありませんが…超折角だから、お墓参りでもしてきます。」

そう言うと、絹旗は郊外にある小高い丘に目を向けた。
171 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 10:28:02.05 ID:bDTnMp.0

「分かった、それじゃあまた後でね。」

「はい、滝壺さんも超頑張ってきて下さい。」

研究所に向かう滝壺に手を振ると、絹旗も郊外へと歩き始める。

172 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 10:37:41.32 ID:bDTnMp.0

街を見渡せる丘に建てられた小さな墓。
十年前、浜面仕上によって建てられたこの墓は、
アイテムにとって非常に関わりの深い人物を弔う為のものであった。

元スキルアウトで、街中の地理に精通した浜面が選んだだけはあり、
素晴らしい景観でありながらも、部外者が訪れるような事は殆ど無い。
173 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 10:46:28.45 ID:bDTnMp.0

そのため、春の花見や夏の花火鑑賞、秋の紅葉などのシーズンには、
浜面達が屋外で宴会を行う際の定番の場所となっている。

絹旗もこの場所を非常に気に入っており、物思いにふけりたい時や、
気分転換をしたい時など、墓参りを名目に、頻繁に訪れていた。

お供え物の鯖缶と花を持ち、一歩一歩地面を踏みしめながら、絹旗は丘を登っていく。
174 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 10:55:11.65 ID:bDTnMp.0

頭にあるのはやはり最愛の兄、浜面仕上のことである。
先程告白を決めたばかりだというのに、彼女の表情に緊張は見えない。

別に勝算があるわけでも、具体的な計画があるわけでも無い。

ただ、一大決心をしたというだけの達成感に満たされているだけである。
175 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 10:57:13.70 ID:bDTnMp.0

丘を登りきると同時に、頂上を吹き抜ける風が、体に纏わりつく。

「わぷっ…」

冬の冷たい風に驚きながら、絹旗はゆっくりと街を一望する。

12月も中盤に差し掛かり、街は年末特有のどこか浮ついた空気で満たされている。
176 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 11:00:21.68 ID:bDTnMp.0

これだけ冷たい風が吹いているにも関わらず、家に真っ直ぐ帰る学生は殆ど居ない。

ショッピングモールの方に目を向けて見れば、高校生ぐらいの女の子達が、
楽しそうにアクセサリーショップに入っていく。

公園の辺りに目を向けて見ると、男女の二人連れが手を繋ぎながら、
販売車の店員にクレープを注文している。
177 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 11:10:10.88 ID:bDTnMp.0

昔の自分には決して縁の無かった世界。

日常の幸せを当たり前に享受する彼らを、時には見下し、時には羨み、
同じような行動をしながらも決して同じ立場にいる事は無かった。

それから十年、既に暗部から離れて久しく、日の当たる世界に居ても、
疎外感を感じるような事は無くなった。
178 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 11:11:04.11 ID:bDTnMp.0

それでも昔の名残か、幸せそうな人達を観察するのは絹旗の趣味の一つとなっている。

昔の絹旗を知る人間からすれば、信じられない事だろう。

かつてのように、どこか卑屈な思いを込めながら、憧れの混じった目で見るのではなく、
純粋に他人の浮かべる笑顔を心地よく感じ、何の邪推もなく共感出来る、
絹旗最愛はそんな人間へと成長していた。
179 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 11:12:33.85 ID:bDTnMp.0

ゆっくり街を見渡してみると、全く人が寄り付かない区画が目に入ってくる。

絹旗が良く訪れる映画館が含まれる一帯だ。

B級映画専門の映画館のように、まともな人間では近づこうとも思わない建物が密集している。

詳しくは知らないが、苺おでんのメーカーや、
ゲコ太の類似商品の販売会社などもこの区画にオフィスを構えているらしい。
180 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 11:13:43.62 ID:bDTnMp.0

年末が近づいても何一つ変わりの無い一帯だが、
映画館では申し訳程度に、クリスマスフェアを開催している。

とくに電飾などで飾りつけをしている訳でもなく、
ただクリスマスのB級映画が上映されているだけだが、
兄が帰ってきたらまた二人で見に行く事にしよう。

希望としては良質なB級映画ながらも、
しっかりとムードが良くなる要素が組み込まれていればいいのだが、
流石にハードルが高い気がする。

181 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 11:15:21.32 ID:bDTnMp.0

街を眺めているうちに、持ってきたお供え物が邪魔になってきた。

手早く片付けてしまおうと、墓前に鯖缶と花束を供える。

墓の前で手を合わせている内に、昔の事が思い出されてくる。

「私…仕上お兄ちゃんに告白する事に決めました。」
182 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 11:16:09.32 ID:bDTnMp.0

思わず言葉が出てきた。

墓を通して、昔の自分達に報告する。
おそらく向こうでは大騒ぎだろう、
自分や麦野は勿論、滝壺ですら目を丸くしてるに違いない。

そんな事を考えていると、不意に背後から人の気配を感じた。
183 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 11:16:40.43 ID:bDTnMp.0

経験上、ここに他人が訪れる事は無い。

滝壺は研究所だし、浜面達が帰って来たにしては早すぎる。

となると、残りは一人しかいない。

「結局、自分の墓がそれだけ熱心に拝まれていると、悪い気がしない訳よ。」

「はあ…自分の墓にお参りに来るなんて、フレンダは超暇人ですね。」
184 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/20(土) 11:18:21.96 ID:bDTnMp.0
今回はここまでになります。

かなり文章が荒れてきた気が…
185 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 11:33:25.66 ID:jnbCyvU0
乙!!
フレ/ンダが生きてただと?
186 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 14:20:16.85 ID:mMq6k3Qo
187 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 16:39:08.08 ID:/hgqDEDO
乙!
フレンダさんきたああ
188 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga sage]:2010/11/20(土) 18:47:53.99 ID:tvxnbHU0
アイテム万歳。栄光あれ。
189 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 16:37:17.28 ID:5xNo1l20
フ霊ダ
190 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 16:31:36.36 ID:FmkocX20
絹旗に仕上お兄ちゃんとか言わせていると、妙に恥ずかしくなる。

という訳で投下します。
191 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 16:32:19.91 ID:FmkocX20

「結局、自慢の脚が眠ってるんだから、それだけでも大切にする価値はある訳よ。」

そう言うとフレンダは絹旗の隣に進み、絹旗がお供えした鯖缶を回収する。

「それに絹旗が鯖缶買ってきてくれるんだったら尚更よ。」

「別にフレンダに食べさせるための物じゃないんですけど。」

軽く睨むような視線を向ける絹旗に対し、フレンダは得意気な表情を崩さない。
192 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 16:33:26.79 ID:FmkocX20

「結局、脚は鯖缶を食べない訳よ、それなら脚の持ち主が貰うのが筋じゃないの。」

今度は猫用の鯖缶を探してこよう、そう心に決めて、絹旗は再び視線を街に移した。

「麦野、帰ってくるってね。」

絹旗と同じように、街に視線を向けながら、フレンダが話しかける。

「まあ、超予想できた結果ですけどね。」

答える絹旗の口調はどこか拗ねたものになっていた。
193 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 16:35:24.30 ID:FmkocX20

「あー、十年振りにアイテム完全復活か…」

絹旗の反応を気にも留めず、体を大きく伸ばしながらフレンダは言葉を続ける。

「なんかさ、そう思ったらここに来たくなっちゃったんだよね。」

「まあ…私も超そんな所です。」

絹旗がフレンダの方を見てみると、彼女はいつの間にか空へと視線を移していた。

194 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 16:38:56.08 ID:FmkocX20

つられる様に絹旗も空を見る。

透明な空気で満たされた冬の空、僅かに傾きかけた太陽を灰色の雲が覆い隠そうとしていた。

感傷が二人の胸を満たしていく。

言葉を交わさなくても、互いに何を考えているかは手に取るように分かる。

アイテムの思い出の一つ一つ、アイテムの結成、浜面の加入、スクールとの戦闘。
暗部組織らしい血生臭い思い出も多いものの、どれも二人にとって掛け替えの無い思い出だ。

195 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 16:41:11.71 ID:FmkocX20

「絹旗も告白するんだって?」

思い出したかのように、フレンダが尋ねた。

どうやら、墓に向かって話した内容を聞かれていたらしい。

「盗み聞きしてたんですか、相変わらず超嫌らしい性格してますね。」

フレンダの顔を見てみると、悪戯っぽい笑顔を浮かべている。
196 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 16:44:14.10 ID:FmkocX20

「私のお墓に話してたんだから、別に私が聞いても問題無いんじゃない?」

「あー、その私の墓アピール超うざいです。いい機会だから超辛気臭い墓なんてぶっ壊して、アイテムの記念碑に作り替えましょう。」

独り言を聞かれた恥ずかしさと、余裕綽々なフレンダの笑顔に苛立ちを覚え、右手に力をこめる。

そんな絹旗の様子を見て、からかい過ぎた事に気付いたフレンダが慌てて止めに入った。

「ちょ、ちょっと待った、とりあえず、とりあえず落ち着いて!そ、それに勝手に壊したら結局悲しむのは浜面な訳よ!」
197 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 16:46:00.91 ID:FmkocX20

墓に縋り付くフレンダの言葉を聞くと、絹旗は不満そうに拳を収めた。

その名前は絹旗にとって反則みたいなものだ。

自分の行動が兄を悲しませると思うとどうしても決意が鈍ってしまう。

とはいえ、フレンダの言葉はあながち間違いでもないだろう。
198 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 16:57:59.23 ID:FmkocX20

実際に場所の選定から墓石の調達など、
墓を建てるにあたっての諸々の雑務は、全て浜面が主導してくれたのだ。

そもそも暗部暮らしが長い絹旗達には、わざわざ墓を建てるという発想が無かった。

そんな中で、浜面だけは、自分達の命を尊重してくれていたのだ。

生存していた事に気付いて貰えなかった上に、自分の足を勝手に焼却されたフレンダですら、
浜面の行動には驚きながらも、感激していた。

199 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 17:06:20.32 ID:FmkocX20

絹旗自身も、墓を建てることを反対した際、随分と浜面に叱られた事を覚えている。

自分の事を真剣に考え、叱ってくれた浜面の思いが宿った大切な墓だ。

結果的には勘違いに終わってしまったとは言え、
アイテムにとって掛け替えの無い場所だという事に変わりは無い。
200 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 17:09:03.12 ID:FmkocX20

それでも、満面の笑顔で墓石を抱きしめながら、頬擦りをしているフレンダの顔を見ると、
少しだけ悔しくなってしまう。

「私も超何か埋めてもらえば良かったです。」

絹旗としては軽く呟いただけだったのだが、残念な事に、フレンダにはしっかり聞こえていたらしい。
201 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 17:17:10.73 ID:FmkocX20

「もう、可愛いよー絹旗ぁ〜。」

満面の笑みのまま、フレンダは絹旗を抱きしめる。

「ああ、超うっとうしいです、暑苦しいんで離れて下さい。」

「結局、冬は絹旗に温めてもらうのが一番良い訳よ。」

嫌がる絹旗に構わず、フレンダは絹旗の感触を楽しんでいる。

絹旗の方も本気で嫌がっている訳でも無いようだ。
202 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 17:18:08.14 ID:FmkocX20

「全くもう…」

抵抗を諦め、絹旗はフレンダに体を預けた。

冬の風で冷えた体を、二人はお互いの熱で温めあう。

「やっぱり便乗しちゃった?」

しばらくしてフレンダが口を開く。

その言葉は、ほんの僅かに、絹旗の胸に痛みを与えた。
203 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 17:20:42.54 ID:FmkocX20

「超もしかしてですけど…怒ってますか。」

不安そうな絹旗の言葉を、フレンダは笑い飛ばす。

「そんな訳無いって、結局、絹旗が浜面の事を好きだったのなんて、昔から良ーく分かってる訳よ。」

頬を染めて黙り込む絹旗を見ながら、フレンダは言葉を続けた。

「実はさ、ちょっと心配だったんだよね。」
204 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 17:25:07.57 ID:FmkocX20

そう言うと、フレンダは慈しむように絹旗の頭を撫で始めた。

「変に我慢しちゃってるんじゃ無いかってさ。」

その言葉を聞き、絹旗の脳裏に、先程の滝壺との会話が浮かんでくる。

「滝壺さんにも超同じ事言われました…私ってそんなに分かりやすいですか?」

「まあ、浜面が絡むとどうしてもねー。」
205 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 17:28:58.50 ID:FmkocX20

滝壺はまだしもフレンダにすら自分の気持ちが見抜かれていたと思うと情けなくなって来る。

「結局、浜面も私達も十年前のままじゃ無いんだからさ、安心して甘えちゃえば良い訳よ。」

「べ、別に心配なんてしてません!結果なんて超どうでも良いんです。お兄ちゃんに自分の気持ちを知って欲しいだけなんです!」

したり顔で話すフレンダに苛立ち、
恥ずかしさと情けなさで顔を真っ赤にしながらも絹旗は反論する。
206 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 17:42:07.69 ID:FmkocX20

だが、そんな絹旗の態度は、フレンダを付け上がらせるだけでしか無かった。

「またまたー、結局、今の浜面が断るなんて有り得ないって訳よ。絹旗も分かってる癖に。」

心の何処かに潜んでいた打算的な感情まで暴かれてしまい、
絹旗の眼にはうっすらと涙が浮かんでいる。

フレンダからすれば、特に責めるような事でも無いのだが、絹旗の方ではそうもいかない。
207 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 17:44:58.39 ID:FmkocX20

十年来の想い人に告白するのである。
まともな恋愛経験が無い絹旗にとっては、ただの一大決心というだけの話ではない。
間近で滝壺や麦野の例を見てきた事も影響しているだろうが、
彼女にとっての告白とはどこか純粋で、劇的で神聖さすら含む行為となっているのである。

そんな行為に自分の打算が入っていた事など、どうしても認めたくは無いのだ。

「う…そ、そんな事ないですよ、結果なんて超どうでも良いって言ってるじゃないですか!」

弁解しようとする絹旗を無視して、フレンダのからかいは更に加速していく。
208 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 17:48:07.62 ID:FmkocX20

「絹旗は凄いむっつりだからさ、告白するって決めた時から結局、頭の中は浜面とのエッチな事で頭が一杯だって事も十分に有り得る訳よ。」

「な…な、なぁ!」

フレンダの言葉が図星だった訳では無い。
とはいえ、フレンダの言葉は絹旗に浜面との情事を想像させてしまった。
209 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 17:50:49.99 ID:FmkocX20

勿論、絹旗自身にはそういった経験は無い。

とはいえ、数える程ではあるものの、浜面と滝壺の行為を覗いてしまった事も、
それを見ながら自分を慰めてしまった事もあった。

数える程というのが、この十年での事なのか、
あるいは年になのか、月になのか、はたまた週になのか、詳しい割合は本人の名誉の為に伏せるが、
一旦想像してしまうと、非常にリアルな映像が頭を埋め尽くす程度には観察していたのである。
210 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 17:56:44.86 ID:FmkocX20

「あれ?絹旗、おーい絹旗ー。」

硬直してしまった絹旗に声を掛けるフレンダだが、
絹旗は顔を真っ赤にしたまま、何の反応も返そうとしない。

少しやりすぎてしまったかと反省していると、不意に絹旗が動き出した。

「ごめんね絹旗、ちょっとからかい過ぎちゃったかなーって…」

「ふ、ふふふふふふふ。」

フレンダの言葉を無視し、絹旗は不気味な笑い声をあげる。
211 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 18:00:10.10 ID:FmkocX20

「き、絹旗?」

不安になったフレンダが声をかけると、絹旗はフレンダに向き直った。

「フレンダ…超ぶ・ち・こ・ろ・し・ま・す・ね。」

顔を真っ赤にし、薄っすらと涙を浮かべながら、絹旗は再び拳を握り締める。

「ちょ、ちょっと絹旗、ごめん、私が悪かったから!だから結局、落ち着いて欲しい訳よ!」

「超問答無用です!」

「まっ…!」

なおも弁解しようとするフレンダの言葉を遮り、車が衝突したかのような音が辺り一帯に響き渡った。
212 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 18:03:29.69 ID:FmkocX20
今回はこれで以上です。

支援してくださった方有難うございます。

フレンダが生きている理由もちゃんと書かないと…
213 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/26(金) 18:59:01.51 ID:YZlu6AE0
フレンダはフレ/
になってるのか
214 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 19:51:57.42 ID:JEE.eIDO
超乙!
きぬはた可愛いよきぬはた
ンダの墓ェ
215 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 00:52:26.10 ID:bekjp.AO
つか今フレどうなってんだよ
デビルガンダムみたいになってんのか?
216 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 00:56:50.49 ID:u4vywm.o
絹旗+お兄ちゃん=超+お兄ちゃん=超兄貴
217 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 00:59:17.64 ID:OP7ix46o
メタルギアみたいな武装車椅子にでも乗ってるんじゃね
218 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/27(土) 01:25:51.07 ID:oh8ToCY0
義足か再生医療なりで生やしたか、
まあ麦野の体についても詳しい描写はしていないので、
細かいところの想像はお任せします。
219 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 01:32:12.97 ID:jtlPhPM0
おk
毎回凄い楽しみにしてるから頑張ってくれ
220 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 19:30:31.94 ID:9tQE8hgo
そういや10年後なんだよな・・・
フレンダは外国の血はいってそうだからワンチャンないすばてぃなお姉さんになってるかもしれないのか・・・
股座がいきり立つな
221 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/06(月) 11:50:00.83 ID:fgGNOJg0
申し訳無いですが、一週間ばかり投下できそうにありません。

来週中には必ず投下しますので、どうか宜しく。
222 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 12:26:20.89 ID:piqxsADO
いつまでも待ってる
223 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 12:40:35.11 ID:8R6ddAoo
わたしまーつーわ
224 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 16:08:29.86 ID:7gcaYsAO
五和でも待ーつーわ
225 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 01:59:25.36 ID:OazEUXEo
    _l:.:.:.:.:.:.:.:,.ノ:.:.:.://:.:.:.:/i:.:.:.:.:.:!|ヽヽ:.:.:.:、:.:.:\
   く/:.:.:.:.:/:/´ ̄:.∠.-‐'´/:/!:.:.:.:.:|:ハ:|l:.|:.:.ヽ.\:.:.:)
   /:.:/:.:/://:./:.:/ ノ:./l:.:、|:.|!:.:.:.:./!|´l|`ハ:.|.:.:lヽヽ〈
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   Y:.:.:.:l!:.:|:.:.|イ´ i´ )ハl`i/,.ィく  イi´)ハ 〉|!:// |!
   !:.:.:.i:.:.:ヽ:.!ヽ. ヒz少 ノ´     lヒ_少/リ/:.:ヽl|
   |:.:.:.|:.:.:.:!トl  ー‐'       ,、 ` ̄  ハ:.:.:.:|
   |:.:.:.|l:.:.:.!|、          ´    /ノ!:.:.:.:!
   |:.:.:.|l:.:.:.:.ト\    , -─‐ 、__    /:.:.:|:.:i:.l|
   ヽ.:.:l|:.:.:.:.ヽi l\ (       ノ  ノ:.:/:ノ:.:|:リ   あれれ〜
      ̄`ヽ、:.| ̄ `i丶ー─ '´,.ィ' ´  ̄´ レ'´
         `  __|   ̄ ̄ |
 /:.:.:.:.,. '´:.:.:.:.:.:.:.:.:.、:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽく
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/:.:.:/:/:.:.:/:|:ハ:.|!:.:.:.:.|,リ´l! ヽ二、ヽ、:.:.:\:!:.:.:.:.:.∨
!:.:./:/:.:.:/:/!|`!:|l:.:.:.:.|ノ 'ィ r=-、`i\!:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ、
ヽ:|:.|!:.:.:|/ r=-、.!\:.ヽ、ヽi仆ッ,ハ/  |!:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:!:|     
  V \|:l〈 トッハ   `ー'   ゝ―'   |l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:|:|
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    /:.:.:|ハ  ヽ         //:.:.:.:.:/:/:.:.:.:/ /
. r、  |:.:.:.:Llヽ、   ( ̄ `ヽ  ∠/:.:.:.//:.:.:/ おっかしいぞ〜
ヽ! \ヽi:.:|  __`ヽ、 ヽ __ ノ / | ̄`  ̄´
)   `ヽ_/  lヽ. ̄` ーr‐ '    ト、          /
-     |   | \  ヽ、    l| ` ー- 、  , '´ -─
  ' ⌒ /  /   ヽ   |`ヽ -‐|     ハ l   _
226 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 02:00:50.36 ID:OazEUXEo
すまん誤爆
227 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:39:40.92 ID:djselOA0
待っていただいた方、支援してくれた方、本当にありがとうございます。

冬の沖縄も中々楽しかったです。

こんな時間ですが、投下させていただきます。
228 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:40:39.29 ID:djselOA0

「痛いよ絹旗〜、絶対これコブになってるって〜。」

頭を抑え、涙目になりながらも、フレンダは絹旗に抗議する。

「知りません、超自業自得です。」

恨みがましい目を向けるフレンダから顔を背け、
呆れたような口調で絹旗は応えた。
229 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:41:18.37 ID:djselOA0


そんな絹旗にどうにか反撃しようと想い、
再びフレンダは伝家の宝刀を抜く。

「良いもん、どうせ浜面に慰めてもらうんだから。」

経験上こう言えば絹旗が無視出来ない事は判っていた。

どんな反応を返すのだろう、
少し涙目になりながら、顔を真っ赤にして反論してくるだろうか、
そっぽを向きながら、拗ねた様子でどうでも良いと強がってみせるだろうか。

フレンダは楽しみにしながら絹旗に目を向ける。

230 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:41:54.80 ID:djselOA0


「まだ…殴られ足りないんですか、フレンダ。」

残念な事に、そこに居たのは殺気を孕んだ鬼であった。

拳を振り被る絹旗に平謝りし、
どうにかフレンダは二発目の鉄拳を許してもらった。

再び絹旗は街に視線を移し、フレンダはわざとらしくしゃがみこんで、頭をさすりだす。

しばらく景色を眺めた後、絹旗は遠慮がちに声を掛けた。

231 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:42:44.53 ID:djselOA0


「フレンダは…告白したり、とかしないんですか?」

自分が言える立場では無いのかもしれない。

他人の心配をしていられる状況でもないし、
恋敵を自らの手で増やす事もしたくない。

それでも滝壺によってチャンスを与えられた身としては、
同じような感情を抱いているかもしれない相手を放置して、
自分だけが告白の機会を得るような真似はしたくなかった。


一人で告白する事が怖いという事ではないだろう、
告白する際に、少しでも格好を付けたいと言う見栄なのかもしれない。
232 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:43:21.81 ID:djselOA0

「それって浜面にって事だよね。」

よっと、という掛け声と共に立ち上がると、フレンダは絹旗に言葉を返す。

そんなフレンダの質問に、絹旗は目を逸らしたまま頷いた。

「今の所は予定無いかな。」

何気ない様子でフレンダは応える。

「本当なんですか、フレンダだってお兄ちゃんと超一緒にいるじゃ無いですか。」
233 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:44:12.42 ID:djselOA0


「浜面の事が好きかって質問ならイエスだよ。」

納得できていない様子の絹旗に対して、フレンダはあっさりと言い放った。

「だったらどうしてですか、今の仕上お兄ちゃんなら超絶対に断らないって言ったのはフレンダですよ。」

自分にはそんな余裕は無い。
決意を固めたなら、そしてチャンスが有るならば、
次の機会を待つことなど、絶対に耐えられないだろう。
234 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:45:09.74 ID:djselOA0


「私ね、結局、もう二度とアイテムを解散させたくない訳よ。」

絹旗の想いを汲み取った上で、フレンダは言い聞かせるように言葉を続ける。

「浜面は上手くやってくれると思う。絹旗も滝壺も麦野も、私が混ざっても、きっと幸せにしてくれると思う。でもね、私は新しいアイテムに万に一つの不安要素も持ち込みたくないの。」

「…どういう意味ですか?」

「なんだかんだ言っても、今回の事では浜面の負担が一番大きくなる…最終的には上手くいくって信じてるけど、やっぱり始めの内は、疲れることも悩むこともあると思う。そんな時さ、結局、私たちの誰かが浜面を支えてあげられるような場所に居ないといけない訳よ。」

アイテムの問題はアイテムで解決する。
フレンダの言葉には彼女なりのアイテムの在り方が込められていた。
235 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:46:02.54 ID:djselOA0


「超似合わないです、フレンダの癖に。」

絹旗もようやくフレンダの意図を理解する。

自分も滝壺も、家族として或いは恋人として、浜面の事を支えてきたという自負はあった。

だが、今回ばかりは、それが逆効果になってしまうかもしれないのだ。

麦野が帰り、絹旗が告白しても、今の浜面ならば、何も問題ない。

その認識に関しては、絹旗もフレンダも同じである。

だが、それでもなお浜面の事を案じたフレンダに比べれば、
自分はただ単に依存しようとしていただけでは無いのだろうか。
236 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:47:15.85 ID:djselOA0

舞い上がっていた自分と違い、
フレンダはこれからの事を真剣に考えている。

その差が絹旗には悔しかった。

「超似合わないですよ…」

負け惜しみのように、先程と同じ言葉を繰り返す。

「結局、自分でも柄じゃないとは思ってる訳よ。」

フレンダは照れ臭そうに、頬を掻きながら呟いた。

「でもさ、結局、今のアイテムで、この支え方が出来るのは、私だけな訳よ。」
237 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:48:23.54 ID:djselOA0

確かにそうだろう。
滝壺や麦野がこの方法をとるならば、
それは十年前と何も変わらなくなってしまう。

なら、自分ではどうだろうか。

告白する決意を固めただけで、恋人になった訳でも無い。

自分ならば、フレンダと同じような立場から浜面を支えることができるのではないだろうか。

「私も…告白するのを待ったほうが良いんでしょうか。」

何気ない風を装いながら、絹旗はフレンダに尋ねる。
238 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:49:44.08 ID:djselOA0


「はー、何か妙に暗いと思ったら、そんな事考えてたの。」

そんな絹旗の質問を、フレンダは呆れたような口調で返す。

「良いのよ、絹旗は。そんな余計な事考えなくて。」

「でも…」

「あくまで私がサポートに回るのは念の為、ひょっとしたら、浜面は私の助けなんて必要ないかもしれないんだから。結局、絹旗までそんな事しちゃったら、浜面の事を信用してないってなっちゃう訳よ。」

暗い表情の絹旗に、慈しむような目を向けながら、フレンダは言葉を続ける。

「絹旗は私の真似なんかしなくてもいいの。妹だって言うんなら、結局、目一杯甘えちゃうのが一番浜面の支えになる訳よ。」

いつしかフレンダの手は、絹旗の頭に添えられていた。
239 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:50:41.05 ID:djselOA0


「だから告白しちゃいなよ、絹旗。浜面に甘えて、私にも頼って、それが妹の特権ってもんじゃないの。早く告白して、恋人になって、幸せになりなさい。結局、そうなって貰わないと、私も安心して浜面に告白できない訳よ。」

「別に…フレンダの妹になったつもりは超ありませんけど。」

そう言いながらも、絹旗にフレンダの手を払おうとする様子はない。

絹旗の言葉を最後に二人の会話が途切れる。

太陽はいつの間にか雲に覆い隠されてしまっていた。
時刻も夕方に差し掛かり、街の店々ではいつもより早めにライトアップが始められている。
僅かに残る太陽の光が街の灯りと混ざり合い、普段とはどこか違った景色を醸し出していた。
240 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:51:22.57 ID:djselOA0


「フレンダ。」

「ん?」

「私、告白しますね。」

「うん。」

「超幸せになります。」

「うん。」

「だから、フレンダも早く告白してください。」

「うん。」
241 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:52:06.56 ID:djselOA0


街を眺めながら、絹旗はフレンダに声をかけた。
その声は、今までよりも少しだけ自信に満ちていた。

「ねえ絹旗。」

「はい。」

「浜面の事、お兄ちゃんって読んでるよね。」

「はい。」

「結局、そろそろ私の事もお姉ちゃんって呼んで欲しい訳よ。」

「え、超嫌です。」
242 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:53:05.87 ID:djselOA0


「絹旗、それはちょっと酷くない!?」

要求を一刀両断に退けた絹旗に対し、フレンダは抗議の声を上げる。

「大体、滝壺さんを差し置いて、何でフレンダをお姉ちゃんなんて呼ばないといけないんですか、超意味不明です。」

「だったら、滝壺も麦野もまとめてお姉ちゃんで良いからさ〜。」

「私が呼ぶのは仕上お兄ちゃんだけなんです!」

涙目になりながら縋り付くフレンダを邪魔そうにしながら、絹旗は帰り支度を始めた。


243 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:54:34.56 ID:djselOA0


「あれ絹旗、帰っちゃうの。」

「そろそろ行かないと滝壺さんとの約束に間に合いませんからね。」

携帯で時間を確認すると、既に待ち合わせ時間の四十分ほど前になっていた。
少しだけ話が長引いてしまったかもしれない。

滝壺には、今後の事に関する相談が山のようにあるのだ、僅かな時間でも無駄にはしたくない。

「え、今日って滝壺と何かあったっけ。」

歩きだした絹旗に引き摺られながらフレンダは声を掛ける。
「はい、告白への決起集会と前祝いを兼ねて、超派手に飲みに行こうって約束してたんです。」
244 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:55:25.60 ID:djselOA0


「わ、私、誘われて無いけど…」

「まあ、今日決まった事ですからね。」

滝壺は研究所だし、自分はここに来てすぐにフレンダに会った。
連絡するタイミングが無かったのだ。

「ね、ねえ絹旗、私も混ざって良いかな。」

「滝壺さんが良いって言えばいいですよ。」

「ありがとー、大好きだよ、絹旗ー。」

「そんなんでよくお姉さんって呼べなんて言えましたね。」

頬擦りをしながら喜ぶフレンダを、呆れた目で見ながら、絹旗は呟いた。
245 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:58:03.69 ID:djselOA0


頬擦りをしながら喜ぶフレンダを、呆れた目で見ながら、絹旗は呟いた。

そのままフレンダを引き摺って街に帰ろうとした絹旗の鼻に、不意に何かが付着した。

「雪…ですか。」

空を見上げると、太陽を覆っていた雲から、大量の雪が舞い降りてきていた。

二人が眺めている間に、雪はどんどんと勢いを増していく。

「こんな事なら傘でも持って来れば超良かったです。」

「ふっふっふっ…じゃじゃん!」

得意げな笑みを浮かべながら、フレンダは鞄から傘を取り出した。

「ほらほら、絹旗も、入って入って。」

不承不承ながらも、絹旗はフレンダの招きに応じて、傘に入れてもらう。

確かに傘はありがたいものの、妙に嬉しそうなフレンダが、若干気に障る。
246 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 03:58:50.42 ID:djselOA0


「結局いざという時に頼られるのがお姉ちゃんな訳よ。」

「傘ぐらいで超いい気にならないで下さい。今日は超気まぐれで来たから用意してなかっただけです。」

反論するもフレンダは全く応えた様子をみせない。

「えへへ、結局、可愛い妹の絹旗と相合傘な訳よ。」

「何回言われても、超絶対に言いません!」








降りしきる雪の中、絹旗とフレンダは帰路に着く。

一つの傘に肩を寄せ合うその姿は、まるで姉妹のようであった。

(言わないだけ…なんですからね。)
247 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 04:00:29.66 ID:djselOA0
今回はこれで以上になります。

次からは再び浜麦サイドに戻ると思います。
248 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 04:35:09.79 ID:Fh2jpX.o

くっそ浜面爆発してギャグマンガみたいな状態になれ
249 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 07:24:12.57 ID:mAuvsYAO
ふれんだかわいいよふれんだ
250 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 00:29:11.25 ID:yRZ7RIDO
フレンダをも落としていただと…
これが……浜面仕上…

超乙、浜麦も楽しみだ
251 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 03:43:26.28 ID:.1Xt2Fgo
麦のん好きのフレンダまで堕とすなんて、はまずら恐ろしい子

脳内に爆弾を仕掛けるわけよ
252 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 01:59:13.37 ID:.Y7UsFo0
投下させて頂きます。

基本的に浜面がごろごろしているだけです
253 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:00:42.38 ID:.Y7UsFo0


麦野が店を閉めるという話は、瞬く間に街中に広がったらしい。
元々盛況であった分その反響も大きく、店内は閉店を惜しむ人々で満ち溢れている。

急な事のためか納得できない人も多いらしく、説明を求める声が二階にまで響いてきた。

254 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:01:12.62 ID:.Y7UsFo0

「嫌な事押し付けちまったな…」

本来ならば、自分も同席した上で説明するつもりだった。

だが、麦野にその旨を伝えたところ、
これだけは自分一人で説明させて欲しい、
自分の店だから自分の手できっちり幕を引かせて欲しい、ときっぱり断られたのである。
255 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:02:38.23 ID:.Y7UsFo0


そうなると浜面に出来る事は無い。

引越しの準備を進めようとも思ったが、
作業の音が店の邪魔になってしまうため断念した。

結局の所、部屋で寝転がっているぐらいしかないのだが、
これが思った以上に負担になる。

店から聞こえてくる歓声や嘆き声が、自分を非難しているようで非常に居心地が悪いのだ。
256 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:04:57.83 ID:.Y7UsFo0

実際に彼らから憩いの場を奪うため、非難される筋合いはあるのだが、
数時間以上も聞かされると、流石に胃が痛くなってくる。

「まあ…それだけ良い店だったって事だよな。」

そう呟くと、浜面は体を起こしてしっかりと階下の話に耳を傾けた。
257 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:05:44.64 ID:.Y7UsFo0


確かに聞いてて気分の良いものではない。

それでも、自分の都合で店を閉めさせる以上、
この街の人にとって、麦野の店がどのような存在であったのか、
その店が無くなるという事が、彼らにとって何を意味するのか、
可能な限り知っておかなければいけないのではないだろうか。



一言も漏らすな。



麦野が過ごしたこの店に、そう言われたような気がした。
258 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:06:36.45 ID:.Y7UsFo0



「どうもありがとうございましたー。」

「おう、女将さん、明日も明後日も、絶対に飲みに来るからな!」

最後の客を送り出す声が聞こえる。

「待たせちゃってごめんね、浜面。どうしても看板だって言い辛くて…」

階段を上りながら、麦野は申し訳無さそうに浜面へと声をかけた。

「常連だった店が急に閉まるんだ、俺だって逆の立場なら同じようになるさ。」
259 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:09:04.21 ID:.Y7UsFo0


何気ない風を装いながら、浜面は言葉を返す。

割烹着姿の麦野など、十年前には決して見ることが出来なかっただろう。

機能性と清潔さを重視し、体を飾り立てる要素なぞ一切含まれていない。

そんな服だからこそ、学園都市の頃には気づかなかった麦野の魅力を、
存分に引き出しているのではないだろうか。

家庭的で温かな雰囲気を醸し出すのは言うまでも無いが、
一方では円熟された女の色香を滲み出させてもいた。
260 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:10:04.25 ID:.Y7UsFo0


調理の為にまとめられた後ろ髪は、
普段覆い隠しているはずの白く滑らかなうなじを露にしてしまっており、
本来、体の線を隠してくれるはずの前掛けは、
それでもなお迫力を失わない麦野の豊かな胸を、より強調させるものとなってしまっている。

怪しまれない程度に視線を這わす浜面に対し、麦野が声をかける。

「良かったら下で飲まない?まだ料理も残ってるし。」

「ああ…いや、どうせならここで飲まないか。」

そう言いながら、浜面は窓の方へと視線を促す。
261 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:10:58.02 ID:.Y7UsFo0


昨晩の降雪とは対照的に、夜空には雲一つ見えない。
積雪の大地を照らす冬の満月だけが、ぽつりと浮かんでいた。

残念ながら一階には窓がついていないため、この景色を楽しむことが出来ないのだ。

「分かった、それじゃあ直ぐに用意してくるから。」

麦野も浜面の意図を理解し、直ぐに階下へと降りていく。

調理場に自分が入っても邪魔になるだけだろう。

おう、と一声だけかけて、浜面は再び窓の外へと目を向けた。
262 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:13:42.96 ID:.Y7UsFo0


月を眺めながら、浜面は少しだけ申し訳無さそうな笑みを浮かべる。

確かに、月を見ながら飲みたいというのも理由の一つだが、
実際のところは、麦野と肩を寄せ合って飲みたいというのが本音であった。

店に問題がある訳では無いが、構造上どうしてもカウンターを挟む形となってしまう。

折角結ばれたのだから、やはり恋人らしく過ごしたい。

そんな思いを胸に、浜面は麦野と酌み交わす酒を楽しみに待つのであった。
263 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:14:25.12 ID:.Y7UsFo0


麦野が酒膳の支度を終え、二階へと戻ってくるのに、そう時間はかからなかった。

煮物、焼き物に冷菜、造り、港町ならではの新鮮な魚介に、軽く燗された地酒が添えられ、
一流旅館もかくやと思うほどの宴席が浜面の前に用意されたのである。

「ちょっとだけ張り切っちゃった。」

恥ずかしそうに頬を染める麦野に対して、浜面はただただ驚くばかりであった。

「お前普段からこんな料理出してんのか…」

「まさか、今日は特別よ、閉店が近いから張り切っただけ。それに…食べてもらう相手が浜面だから。」

はにかみながら浜面の質問に答えると、麦野は机の反対側に腰掛けようとする。
264 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:15:51.60 ID:.Y7UsFo0


「あ、麦野。」

そんな麦野の様子を見て、浜面が声をかけた。

「折角だし、隣に座ってくれないか。」

何気ない風を装い呼びかけるが、効果は覿面だったらしい。

麦野はほんの少し呆けたような表情を浮かべた後、
嬉しそうに微笑みながら、いそいそと浜面の隣へ座布団を敷きなおした。
265 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:17:22.32 ID:.Y7UsFo0


「じゃあ、まずは一杯どうぞ。」

用意した徳利を持ち、麦野は浜面へ杯を促す。

「お、ありがとう。」

浜面は手元の猪口に酒を受けると、一息にあおった。

温めに燗された地酒が、ゆっくりと体に染み渡っていく。

「ああ…」

たまらずに声が漏れた。

その反応だけで十分なのだろう、
麦野は特に感想を求める事もせず、無言で浜面に寄り添った。
266 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:19:00.52 ID:.Y7UsFo0

お互いの温もりを感じながら、二人は無言で月に見入る。

冬の夜空にぽつんと浮かんだ満月は、美しくも寂しげで、
どこか人恋しさを呼び起こす。

月の寂しさに後押しされたのか、麦野は浜面の肩へと頭をもたれかけさせた。

「ほら麦野、ご返杯だ。」

徳利を手にすると、浜面は麦野に声をかける。

だが、聞こえているにも関わらず、麦野は自分の猪口へと手を伸ばそうとしない。
267 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:24:51.53 ID:.Y7UsFo0

その様子を怪訝に思っていると、少し恥ずかしそうにしながら、麦野が口を開いた。

「一杯目だけ、浜面の借りて良い?」

浜面の不思議そうな表情をみてとったのか、頬を染めながら言葉を続ける。
「一度やってみたかったの。好きになった人と二人きりで、一つの杯を差しつ差されつってね。」

麦野の言い様に思わず浜面も赤面してしまう。

どう言葉を返せば良いのか思い浮かばず、
手元の猪口を無言で麦野へと押し付けた。
268 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:26:10.50 ID:.Y7UsFo0


麦野は嬉しそうに酒を受けると、満たされた猪口へじっと視線を注ぐ。

「始めて人にお酌してもらっちゃった。」

一言だけ呟き、麦野は静かに酒を流し込んだ。

ゆっくり、ゆっくり、味わうように飲み干すと、
浜面へ溢れんばかりの笑顔を向ける。

「お客さんに注いだことは何度もあるけど、自分が酔う訳にはいかないから…」
269 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:31:35.11 ID:.Y7UsFo0


浜面はその言葉に含まれた、ほんの少しの寂しさに気づいた。

この十年間、麦野を支えてくれる人はいただろう、
しかし、寄り添えるような相手はいただろうか。

浜面は、浮かんだ端からその疑問を否定する。
もしそうならば、自分はこの場所にいない筈だ。

今更ながら、随分寂しい想いをさせてしまったと思う。

ほんの少しでもその穴埋めをしようと、
浜面は麦野の肩を抱き寄せる。
270 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:33:32.91 ID:.Y7UsFo0

そんな浜面の行動に、麦野はほんの少しの驚きを見せる。

だがそれも一瞬の事、肩に回された手に愛おしそうに自分の手を重ねると、
寂しさなど微塵も感じられない、満面の笑みを浜面へと向けた。

余りにも無防備なその笑顔に、浜面の鼓動が一層高鳴る。

照れ隠しに麦野の手から猪口を取り上げ、二杯目を催促した。

もうしばらく飲むとしよう。

赤く染まった顔の言い訳に、酒が過ぎたからだと言える様になるまでは。

そう心に決めると、浜面は二杯目に口をつけた。
271 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 02:34:49.10 ID:.Y7UsFo0
今回はこれで以上になります。

次は浜麦サイドが少しと、絹旗の過去話になると思います。
272 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 02:39:18.18 ID:x88GLTQ0
乙乙
いい雰囲気だ
273 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 03:21:26.22 ID:GnR1lT2o


このSSは俺得すぎて生きてるのが辛いわぁ
274 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 04:00:16.38 ID:3YuElC2o
かわいいよおかわいいよお
275 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 01:05:02.10 ID:OmmfL2SO
ほんと最高だよ


276 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 23:47:50.94 ID:R3LnjrY0

 何故だ……ハーレムなのに、どうしてこんないい話になるんだ……
277 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:03:43.33 ID:f7DlJDY0
間に合った…どうにか間に合った…

歳末の多忙さで時間がかかってしまいました。

こんな時間ですが、今年最後の投下をさせて頂きます。

何時も以上に急ぎで仕上げたため、
誤字脱字、読みにくい部分などあれば御指摘願います。
278 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 06:04:11.44 ID:f7DlJDY0


よい酒、肴に、美人の酌とくれば酒が進まぬ筈が無い。
当人の意図もあり、浜面は一本、二本と徳利を並べていった。

しかしながら間に交わされるのはごく他愛も無い話で、
これが十年間離れ離れであった男女の会話かと思うと首を傾げたくなる。

やれ刺身は何の魚だ、やれ吸い物の出汁は何だと、
取り上げる事といえば、目の前に並べられた料理ばかり。

これでは普段の客を相手にするのと変わらないのだが、
麦野の方でも嬉しそうに一つ一つと質問に答えていく。
279 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 06:05:00.65 ID:f7DlJDY0


品数の多さに助けられたのか、
料理について問いつ答えつしているだけでも、
中々どうして話が尽きる事は無い。

更に三本を飲み干し、顔が赤らむ程度に酔った辺りで、浜面は杯を置いて息をついた。

本人としては酔いの始めと言う所なのだが、
麦野の肩をしっかりと抱いていた筈の腕は、
いつのまにか彼女の肩からだらしなくぶら下がっている。

「お水入れる?」

杯を置いた浜面に麦野が声をかけた。
280 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:05:41.19 ID:f7DlJDY0


麦野のほうでも、酒が回っているようで、
白い項にはほんのりと桜色に染まっていた。

行動にもそれが現れており、
始めは体を添わせる程度であったのが、
今ではより大胆に、体全体を預けている。

「いや、大丈夫だ。」

気遣いを断ると、浜面は麦野の方へ視線を向けた。

「どうかした?」

浜面の視線に答えるかのように、麦野が口を開く。
281 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:07:11.64 ID:f7DlJDY0


「ああ…いや。」

喉まで出掛かった言葉を押し留めた。
とてもじゃないが、口に出して聞ける質問じゃない。
酒のせいで判断力が鈍っているのだろうか。

言葉を打ち切った浜面だったが、
そのような事で誤魔化せる筈も無い。

声に出して追求される事こそ無かったが、
麦野の目を見れば、続く言葉を待っているのは明らかであった。
282 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:07:45.39 ID:f7DlJDY0


なんでもない、と言いさえすればそれで済む話だ。

しかしながら、浜面の心の中に、酒の勢いを借りて、
この疑問をぶつけたいとの欲望が芽生えてしまっていた。

僅かな逡巡の後に、浜面は口を開いた。

「あのさ…麦野。」

「うん。」

「いつから…俺に惚れてたんだ?」

素面で聞ける質問ではない。
283 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:09:19.28 ID:f7DlJDY0


出来ればもう少し酔いが回っていて欲しかったが、
それを待つ為に、質問を留めておく程の余裕も無かった。

聞かれた麦野の方は、ほんの少し驚いたような目をした後、
恥ずかしそうに視線を下へと逸らした。

そんな麦野の様子を見て、不味い質問だったか、
と、浜面は気まずそうに頭を掻く。

「浜面も言うなら…」

忘れてくれ、そう言おうとした矢先に、
麦野がおずおずと口を開いた。

自分から切り出した以上、浜面に断るという選択肢は残されていない。

ああ分かった、と浜面は返答する。
284 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:09:49.89 ID:f7DlJDY0


そうすると、麦野は浜面の頬に両手を添え、
品定めをするように顔を覗き込むと、
微笑みながら言葉を続けた。

「一目惚れ…じゃあ無かったわね。」

どこか悪戯っぽいその口調からは、
言外に、「絶対」の一言が込められている事が、容易く読み取れた。

その言葉を聞くと、浜面の口から思わず苦笑が漏れる。
285 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:10:16.50 ID:f7DlJDY0


そこまで自惚れていた訳では無い。

自分の顔など精々人並み程度のものだ、
まして暗部組織のリーダーが、下っ端の雑用係に一目惚れなどする筈も無い。

「始めは、ちょっと多芸なチンピラだなって、便利がってただけ。」

浜面の反応に気を良くしたのか、麦野は嬉しそうに話し出した。
286 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:11:05.44 ID:f7DlJDY0


「いつからだろうね、ご苦労さん、とか、お疲れ様、とか、任務が終わる度にかけてくれる言葉が待ち遠しくなったのって。」

「浜面からすれば当たり前の事だったんだろうけど、暗部生活が長かった私には凄く新鮮だった。」
「下部組織の下っ端の癖に、誰にでも…私みたいな奴にでも同じ様な口聞いて…始めはスキルアウトの馴れ合い集団らしいって馬鹿にしてたっけ。」

言いながら、麦野は暗部組織の頃を思い出す。

アイテムのリーダー、学園都市の第四位、
高慢で、我侭で、意地っ張りで、
労いの言葉をかける事はあっても、
かけられる事なんて一度も無かった。
287 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:11:41.02 ID:f7DlJDY0


なまじ勘が良かったものだから、
下心混じりで近づいてくるような奴は、
妙な事を口走る前に、とっととお払い箱にしてやった。

だからこそ、そんな物が微塵も無い浜面の優しさに、
簡単に溺れてしまったのだろう。

「それが嬉しいって素直に思えるようになった時が、浜面を好きになった時だと思う。」

あっという間だったけどね、と付け加えると、麦野は浜面へと唇を重ねた。
288 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:12:09.63 ID:f7DlJDY0


「特に意識してた訳でも無いんだけどな…」

唇が離れると、浜面は遠慮がちに口を開く。

「知ってるわよ、そんな所に惚れたんだから。大体浜面にそんな器用な真似ができる筈ないじゃない。」

そんな浜面の様子を気にも留めず、
麦野は照れ臭そうに言葉を返した。

「ほら、次は浜面の番。」

恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、
麦野は急かすように言葉を促す。
289 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:12:44.94 ID:f7DlJDY0


言葉を待つ麦野の下あごに指を当て、
軽く上を向かせると、浜面は先程の仕返しとばかりに
じっくりと表情を観察した。

「俺は…一目惚れだったかもな。」

からかう様な浜面の口調に、
麦野は僅かに拗ねた様な表情を見せる。

冗談だよ、冗談。一声詫びると、浜面は言葉を続けた。
290 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:13:27.34 ID:f7DlJDY0


「そりゃ美人だとは思ったさ。でも始めはそんな対象には見えなかった。なんてったって学園都市が誇るレベル5だ、自分なんかが釣り合いのとれる筈も無い、さぞかし立派な人物だと思ったよ。」

「それがあっという間に化けの皮が剥がれた。不器用で、寂しがりやで、素直じゃなくて…自信満々なくせに、どこか危なっかしかった。」

「だから、何ていうか…ほっとけなくなったんだよ。」

「それが恋愛感情だって気付いたのは…やっぱりロシアだろうな。」
291 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:14:09.95 ID:f7DlJDY0


浜面は、麦野との間に繰り広げた最後の殺し合いを思い出す。

自分の体を犠牲にし、
プライドをかなぐり捨て、
麦野は浜面に全てをぶつけようとした。

それだけの覚悟で望んでもなお、
麦野は本当の願いを表に出そうとはしなかった。

助けて欲しい、その一言を秘めたまま、
麦野は死を選ぼうとした。

その思いに浜面は気付く事が出来た。
一点の迷いも無い、絶対の確信を持って。
292 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:17:28.75 ID:f7DlJDY0


あとはもう夢中だった。

『油断させるつもりに決まってる。』

『最後のチャンスだ、止めをさせ!』

頭の片隅で理性が賢しげに喚いていた。

そんな理屈で止められるものか、
麦野を助け出すんだ、
他の誰でも無い、自分の力で!
腐りきった学園都市の闇から!

そんな思いに、浜面は容易く体を支配されてしまった。
293 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:18:35.00 ID:f7DlJDY0


三度に渡って命を狙われ、
恋人までもが危険にさらされ、
何故そう思うことが出来たのか。

同情でそう思えるような、聖人君子じゃない。
償いなんて考えるような殊勝な人間でもない。

だったら答えは簡単じゃないか。
294 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:19:39.60 ID:f7DlJDY0


「今思えば笑えるよな、自分の想いに気が付くまでに、三回も殺し合わなくちゃならなかったなんて。」

呆れたように笑う浜面に、麦野が不満気な表情を浮かべた。

「そんな男に不器用だなんて言われる筋合い無いんだけど。」

「ああ、多分俺が一番不器用だ。」

麦野の抗議に対し、浜面は自嘲するように言葉を返す。
295 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:21:45.23 ID:f7DlJDY0

その妙に格好を付けた言い方が可笑しかったのだろうか、
麦野は愉快気に言葉を続けた。

「言ったでしょ、そんな所に惚れたんだって。」

「不器用だから十年もかかって、不器用だから二人とも諦める事ができなくて、不器用だから迎えに来てくれた。浜面が不器用だから、私達は今こうして二人で居られる。大好きよ、浜面の不器用なとこ。」
296 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:22:40.91 ID:f7DlJDY0

「お互い様だ、不器用だから十年間も待っていてくれたんだろ。」

流石に照れ臭くなったのか、ぶっきらぼうに言葉を返すと、
浜面は麦野の唇を奪う。

先程、麦野が浜面に行った、
軽い接吻などではない。

それは言葉を全て奪いつくしてしまうかのような、
深く、濃厚な口付けであった。
297 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:23:29.98 ID:f7DlJDY0


唇が離れると、浜面はからかう様に声をかける。

「キスもまだまだ不器用だな。」

「他の女で練習した癖に偉そうに言うんじゃないの。」

悪戯っぽく微笑む浜面とは対照的に、
麦野は心底悔しそうな表情を浮かべた。

よっぽど得意げな顔が憎らしいのか、
視線をそらすかの様に、
麦野は浜面の胸へと顔を埋める。
298 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:24:49.44 ID:f7DlJDY0


麦野としては、精一杯の抵抗のつもりだったのだろう。

しかしながら、不器用な浜面にそれが通用する筈も無い。

「ひぃうっ!」

情けない叫び声をあげると同時に、麦野は頭を跳ね起こす。

不意に首筋に走った感触の正体は、直ぐに明らかになった。

顔を埋めることで露になった項へ、浜面が指を這わせていたのだ。
299 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:26:15.84 ID:f7DlJDY0


ほんの少しだけ怒りを込めて、麦野は浜面へと抗議する。

「私、首筋弱いんだけど。」

「知ってるよ、昨日確かめたからな。」

浜面が事も無げに言い放つと、
麦野の顔は今までに無いほど真っ赤に染まった。

「ばっ、ば!むぐっ…!」

罵声を飛ばそうとする麦野の先手を打ち、
浜面は再び唇を奪う。
300 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:27:47.88 ID:f7DlJDY0


麦野は浜面の胸板を叩いて抗議したが
それもほんの僅かの間に過ぎなかった。

浜面の舌が口内に侵入してくると、
麦野は自らの舌を無意識に差出し、
与えられる快楽へと、身を委ねる。

月に写された二つの影が絡まりあって一つになり、
倒れこむように消えたのはそれからほんの僅かの事であった。
301 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/31(金) 06:30:17.46 ID:f7DlJDY0
今回はこれで以上になります。
絹旗パートはまた次回に…

あと年が明けてからもしばらく多忙が続きますので、
投下が遅れがちになると思います。

二週間以上空くことは無いように努力しますので、
どうか宜しくお願いします。
302 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 08:54:58.45 ID:NarPKgDO
激しく乙!
年越し前に極上の浜麦をありがとう
303 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 06:18:52.16 ID:TYMIxoDO


さ、新年一発目だ!
年越してからこのスレを見つけられたから、誰かさんからのお年玉かな?
「ここの浜面はハーレムなのに〜」 みたいなレス多いな!
本当に書き方次第で印象って変わって面白い。
いつものような「爆発しろ!!」ってのもありますが
まだ合流してないからってのも大きいと思うけど、今後の展開が楽しみです。


話しはかわりますが、28歳(推定)の麦野沈利。
小料理屋の女将、軽くウェーブのかかった髪を結い上げ、割烹着……たまらん!!
割烹着のうえからでもわかるほどの豊かな母性の塊
28歳(推定)でそして数時間前まで処女だった元女王様が

「だ、だから、さっき…その、で、出来なかったから、あの…い、行ってきますの、き、き、キス…とか。」

たまらん!!!!!
あ〜おっぱい揉みたい32歳頃の少し垂れたむぎのんのおっぱい揉みたい


304 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 06:20:57.82 ID:TYMIxoDO
そんな初夢を絶対みる
305 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/05(水) 17:49:50.75 ID:blU8qDU0
果たしてそんな初夢をみれたのだろうか
306 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 23:46:27.25 ID:mpk1bOU0
でも、この麦野って・・・いや、なんでもない
307 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 05:06:48.04 ID:pBFdMcDO
なんだよ言えよ。沈利のことは気になるだろう?
308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 05:55:36.16 ID:4OJ0wVA0
>>303

申し訳ない…多分合流した所で終わると思う。

>>306

何だろう、投下しようと思ったら凄く気になるメッセージが残されていた。
309 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 05:56:57.98 ID:4OJ0wVA0
とりあえず今回は絹旗過去パートの導入編です。

今更ですが、絹旗のキャラ崩壊が若干酷いかも。
310 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 05:57:38.11 ID:4OJ0wVA0


麦野の店が開いたのとほぼ同時刻、
学園都市では絹旗、滝壺、フレンダが居酒屋での会合を始めていた。

当初の内は、予定通り絹旗の告白について作戦会議をしていたようだが、
一杯、二杯と酒を重ねていくうちに論点がずれだし、
今では只の飲み会と化してしまっていた。

「聞いてるんですか〜フレンダぁ〜」
311 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 05:58:32.56 ID:4OJ0wVA0


その中でも特に気合を入れて望んだからだろうか、
絹旗の飲みっぷり、飲まれっぷりは、
凄まじいものであった。

「はいはい、聞いてるわよー絹旗。」

絡みつく絹旗を軽く受け流しながら、
フレンダは呆れた様な笑みを滝壺に向ける。
312 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 05:59:32.73 ID:4OJ0wVA0

そんな二人の様子を微笑ましげに見守りながら、
滝壺は追加の酒を注文した。

「お待たせしましたー。」

注文に従い、フレンダと滝壺の酒が運ばれてくる。

絹旗の分は注文をとりに来た事にすら気付かなかった為、頼まれていない。

「ああ、それ!そのお酒超こっちです。」

のだが、最早そのような事は大した問題では無いらしい。
313 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:00:49.55 ID:4OJ0wVA0


自分の酒を一気に飲み干し、絹旗はフレンダの分の酒を店員からもぎ取る。

「ちょ、ちょっと絹旗…」

抗議の声を上げるフレンダを視線で黙らせると、
絹旗は新しい酒もまた一気に飲み干した。

ぷはぁっ、と一息つくと絹旗の視線は中空に固定される。

特に見るものが有る訳では無く、
据わった目で壁を睨みつけているだけである。
314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:01:31.50 ID:4OJ0wVA0

「絹旗、おーい絹旗ー。」

一応は心配しているのか、フレンダが気遣うように声を掛ける。

それに対し、絹旗は睨みつけるような目のまま向き直った。

「い、いやー、大丈夫かなって思って…」

絹旗の視線に気圧されながらも、フレンダは言葉を続ける。

しかしながら絹旗は何の反応も示そうとしない。
ただただフレンダを睨みつけるのみである。
315 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:02:41.19 ID:4OJ0wVA0


その様子に違和感を感じたフレンダが、再び声を掛けようとするまさにその直前、
絹旗の眼から唐突に涙が溢れ出し、顔が悲しみに歪んでいった。

「超聞いでぐだざい、ブデンダ〜。」

涙をぽろぽろと流しながら、絹旗はフレンダに縋りつく。

「仕上お兄ちゃんてば超酷いんですよぉ〜。」

豹変振りに驚くフレンダに構わず、
絹旗は懐から取り出した携帯を鼻先へと突きつけた。
316 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:03:16.17 ID:4OJ0wVA0


「ほぉ〜ら〜、見で下さいこのメールぅ〜。」

画面に表示されているのは、今朝浜面から送信されてきた、
麦野を連れて帰るという旨のメールである。

一読したが、文言に不自然な点がある訳では無い。

そもそも同じメールならば、フレンダにも送られてきている。

不審な点があれば既に自分で気付いている筈だ。
317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:08:37.46 ID:4OJ0wVA0


首を傾げるフレンダに業を煮やしたのか、
絹旗はじれったそうにディスプレイを指差す。

『お兄ちゃんがいないからって風邪ひいたりするんじゃないぞ!』

メールの最後に付け加えられた一言がどうにも納得出来ないらしい。

顔を机に伏せると絹旗は不満そうに言葉を続ける。

「私だっでもう成人してるんですよ、超大人の女性なんでずよ〜。ぞれなのに、仕上お兄ちゃんはいつまでもいづまでも超子供扱いして…うぅっ…グスッ。」
318 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:09:17.98 ID:4OJ0wVA0


ここまであからさまに子供扱いされると、流石に辛いのだろう。

それが告白を決意した直後ともなれば尚更である。

不憫に思ったフレンダが慰めの言葉をかけようとするが、
再び絹旗の様子がおかしくなった。

机に突っ伏した態勢はそのままに、
嬉しそうな表情で妙に楽しそうな笑い声をあげているのである。
319 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:11:09.57 ID:4OJ0wVA0

状況の変化についていく事ができず、
助けを求めるような表情を滝壺に向けるフレンダであったが、
滝壺の方では気に掛けた様子も見せず、
追加の酒を店員に注文している。

どうしたものかと考えていると、
不意に絹旗が起き上がり、
満面の笑みのままフレンダに話しかけた。

「でも〜、こうやって大人になっても、ちゃんと妹の事を心配してくれる仕上お兄ちゃんが超超超大好きなんですよぉ〜。」
320 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:11:45.27 ID:4OJ0wVA0


その言葉を聞いてフレンダの表情が凍り付く。

結局の所、絹旗はのろけたいだけだったらしい。

一応とはいえ真面目に付き合っていたフレンダは大きく肩を落とした。

付き合いきれないと言いたげに、大きな溜め息をつくと、
フレンダは絹旗に取られた酒の替わりを注文する。

「お疲れ様、フレンダ。」

状況が一段落したのを見計らい、滝壺がフレンダに労いの言葉をかけた。
321 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:13:28.13 ID:4OJ0wVA0


「滝壺の裏切りもの。」

恨めしそうに抗議するフレンダに対し、
滝壺は得意げな笑みを向ける。

「きぬはたが他人にはまづらの文句を言うなんて、遠まわしにのろけたい場合しか無いから。」

「結局それは私も分かってた訳よ…でも今日ぐらいは、今日ぐらいは普通に愚痴を言うんだとばかり…」

フレンダは疲れたような表情で絹旗の方を見やる。
322 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:15:56.31 ID:4OJ0wVA0


二人とも話など全く聞いていないのだが、
絹旗からすればさしたる問題ではないらしい。

頬に手を添え、浜面との思い出を愚痴を交えながら嬉しそうに語り続けている。

「ま、素面で酔っ払いの愚痴を聞く方が馬鹿だったんだよね。さあ遅れた分を取り戻すぞ!」

そう宣言すると、フレンダは運ばれてきた酒に手を延ばした。

「ちょっと、聞いてるんですかフレンダ。」

フレンダが掴んだグラスを、絹旗は不満そうに押さえつける。
323 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:16:47.66 ID:4OJ0wVA0

「き、聞いてたよ、ただ、ちょっと喉が渇いたからお酒でも飲もうかと思っただけで。」

「私と仕上お兄ちゃんとの話を酒の肴にしようなんて超許せません。」

弁解するフレンダであったが、どうやら逆効果だったらしい。

ただただ喋れていれば良かった先程までと違い、
完全にフレンダに聞かせなければ収まらないといった様子である。

「そうですね、超良い機会ですから、何故お兄ちゃんを仕上お兄ちゃんと呼ぶようになったのか、最初から超丁寧に話してあげましょう。」
324 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:17:38.46 ID:4OJ0wVA0


「け、結局その話なら百回近く聞いてる訳よ、何も今更聞かなくても十分わかっ…」

睨み一つでフレンダの抗議を黙らせると、
絹旗は勢いづけとばかりに再びフレンダの酒を飲み干した。

「た、助けて滝壺。」

「だいじょうぶ、私はいつも貧乏くじばかり引かされる、面倒見の良いフレンダを応援している。」

どうにか絹旗の話から逃れようと滝壺に助けを求めるフレンダであったが、
満面の笑みのまま丁重に断られてしまう。
325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:18:06.88 ID:4OJ0wVA0


「あれから八年も経つのに、今でも目を瞑ると超昨日の事の様に思い出せます…」

神妙な表情を浮かべ、絹旗は思い出すように目を閉じる。

出来ればこのまま眠ってくれないだろうか、
そんなフレンダの思いも空しく、絹旗はゆっくりと目を開き、
げんなりした顔のフレンダと、それを微笑ましげに見つめる滝壺の前で、
八年前の出来事を語りだすのであった。

326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 06:24:11.66 ID:4OJ0wVA0
今回はこれで以上になります。

書くと宣言してから三週間近く経ちますが、
ようやく絹旗の過去話に入れそうです。



あと書いておいてなんですが、
このSSにおける酒の登場頻度は自分でも異常な気がします。
327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 07:10:15.14 ID:ajREvIAO
絹旗酒乱すぎワロタwwwwww
328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 12:09:18.38 ID:q2EErwDO
キテター!
続きが楽しみすぎて生きるのがつらい!
329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 17:44:42.75 ID:00xoVrg0
一人ぐらい下戸太がいるかと思ったらwwwwww
330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 18:23:59.80 ID:kl/nXFeM0

 乙です!!

 呑んだらこうなるんかよwwwwww
原作の絹旗からは想像できないwwwwww

 続き超楽しみです!!
331 :真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:12:58.84 ID:rO6GNsea0
悲しい時ー! SS速報禁書wikiの現行SSリストに自分のSSが入っていなかった時ー!

めげずに投下させていただきます。
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:13:41.75 ID:rO6GNsea0

「今日でこの学校ともお別れですか…」

満開の桜の下、絹旗は感慨深げに呟いた。

周りを見渡してみると、自分同様に少しだけ身なりに気を使った同級生や、
普段は見かけることの無い保護者連中が記念写真の撮影に励んでいる。

幼い頃から裏の世界で過ごしてきた自分にとって、
この学び舎は、始めて人間らしい日常を与えてくれた場所であった。

特に珍しい面がある訳ではない。
それこそ学園都市にはごまんとあるような、
有り触れた中学校である。
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:14:20.30 ID:rO6GNsea0

絹旗のレベルならば、常盤台はともかくとしても、
望みさえすれば長点上機の付属中学など、
学園都市トップクラスの名門校にすら編入できた。

にもかかわらず一般的な中学を選択したのには、
滝壺の能力開発への協力といった事情がある。

『学園個人』の能力調査には、能力の付与や収奪に協力する能力者が必要となる。

その協力者として絹旗は自ら名乗りを上げた。

絹旗の能力自体が『暗闇の五月計画』という忌まわしい実験により与えられた物であり、
そのような能力に固執するよりも、
滝壺の能力完成に少しでも協力したいという思いがあったのである。
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:15:23.42 ID:rO6GNsea0


実験の特性上、絹旗は日常的な能力の使用が制限され、
公式的な記録としてはレベル0を申告する事となった。

これにより、進学先は一般校に限定された訳だが、
元々進学校に興味があった訳では無い。

普通の学校で普通の日常を経験する、
絹旗の望みはそんな些細な事だったのである。

初めての学校生活は新鮮な事ばかりであった。

時には怠惰な日常を満喫し、
時には些細な問題から全力の喧嘩に発展し、
時には有り触れた行事に全力で取り組むなど、
暗部在籍中とは全く質の異なる時間の流れを味わえた。
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:16:27.00 ID:rO6GNsea0


人見知りな自分に友人を作る切っ掛けを与えてくれた。

当たり前の日常を味わえる場を与えてくれた。

語りつくせぬ程の恩があるこの学校から、
自分は今日、巣立って行かなければならない。

極力考えないようにはしていたが、
卒業式の看板や垂れ幕などを目の当たりにすると、
どうしても実感せざるを得なかった。

潤んできた瞳を袖で拭い、
涙を目の奥へと追いやろうと努力する。
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:17:15.26 ID:rO6GNsea0

それが功を奏したのだろうか、二度の深呼吸を終えてみると、
普段通りの自分を演じられる程には落ち着きを取り戻していた。

はあ、と溜め息をつくと、絹旗は頭上で咲き誇る桜に目を向ける。

この桜は来年も再来年もこの場所で同じように花を咲かせるのだろう、
今の自分のような生徒を送り出し続け、
二年前の自分のような生徒を迎え入れ続けるのだろう。

そのような役目を与えられた桜の木が、
少しだけ羨ましく思えた。

気分も落ち着かせたし、桜も存分に堪能した。

そろそろ教室へ戻ろうか、絹旗がそう考えたまさにその瞬間、
後ろから不意に人が近づいてくる気配を感じた。
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:17:56.24 ID:rO6GNsea0

忍び寄っているつもりなのだろうが、暗部出身の絹旗を欺けるはずも無い。

そろりそろりと体勢を低くして襲撃者が近づいてきた。

このあとのパターンは何時も通りだ。
一定以上距離を詰めると、下から掬いあげるように、スカートをめくりあげる。

さあ来るぞと、絹旗が僅かに警戒の念を強めたと同時に、
襲撃者が肉食獣を思わせるような俊敏さで襲いかかった。

いくら早いといっても直線的な行動である。
事前に察知していれば避ける事は難しくない。

振り向きざまに飛びずさると、
体を回転させた勢いを足に載せ、
襲撃者の頬へ回し蹴りを叩き込む。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:19:06.30 ID:rO6GNsea0

いつも通りのやりとりだ。

回し蹴りを食らった彼女は悔しそうに捨て台詞を吐いていく。

これが中学最後の襲撃か、と感慨に浸りかける絹旗だったが、
不思議な事に、いつまで経っても頬に蹴りがめり込む感触が伝わってこない。

戸惑いと共に絹旗は襲撃者の顔に目を向ける。

襲撃者は不敵な表情で顔を逸らし、そのまま縦に体をひねって、
絹旗の蹴りを寸での所でかわしていた。
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:19:51.55 ID:rO6GNsea0

おお!

僅かな感嘆と共に、絹旗は襲撃者の成長を認める。

相手の出鼻に合わせた完璧なカウンター、
そうそう簡単に避けられるものではない。

まして相手はただの中学生、
余程念入りなイメージトレーニングを積んだのだろう。

だが、ここまでだ。
体勢を立て直した絹旗に対し、
襲撃者は有効な攻撃手段を持たない。

中学最後の対決も私の勝ちだ、
いや、引き分けぐらいにはしておいても良いかもしれないかな。

そんな思いとともに、絹旗は軽やかに着地する。
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:22:39.79 ID:rO6GNsea0

「まだまだぁ!」

その瞬間を狙っていたのだろう、
気合を入れなおすと、襲撃者は再び体を回転させた。

「なっ!」
何を、と思ったときには既に手遅れである。

遠心力を加えられた襲撃者の長髪が第三の手へと変じ、
絹旗のスカートを豪快に捲り上げた。

舞い上がる長髪と、捲りあげられるスカートを目の当たりにし、
絹旗は自身が敗北した事を知った。

いくら着地の瞬間を狙ったとはいえ、
普段の絹旗ならばなんなく避けきれたはずである。

だがしかし、心に生じた僅かな油断は、
絹旗から回避という選択肢を奪ってしまっていた。
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:23:39.92 ID:rO6GNsea0

捲りあげられたスカートが沈み、
襲撃者が体勢を整えなおすと、
絹旗は賛辞の言葉を襲撃者に向けた。

「あんな手でくるとは思いませんでした…超見事です。」

だが、襲撃者の方は何の反応も返さない。

その立ち姿からは勝利の喜びは感じられず、
ともすれば敗北感に打ちひしがれてるようにすら見える。

「始めて勝ったんだから、超少しぐらい喜んだらどうですか?」

「…って…い…」

「え?」

「勝ってなんかない!」
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:25:04.84 ID:rO6GNsea0

顔を跳ね上げると、不満そうな表情で絹旗に愚痴をぶつける。

「スカート捲りってのはね、パンツを豪快に覗くためにあるの!」

「それなのに、顔を回転させてたせいで、ぜんっぜん絹旗のパンツが見えなかった…」

がっくりと肩を落としながら呟く友人に、絹旗は呆れたように声を掛ける。

「卒業式だっていうのに、本当に超馬鹿なんですね。」

「中学生活を負け越しで終わるわけには行かないからね〜、一週間前からこの日に備えて特訓してたのよ。」

絹旗の皮肉も全く応えていないようで、
友人は胸を張りながら堂々と言葉を返した。

「はぁ…でも結局は負けか〜。」

つまらなそうに呟く友人だが、
絹旗もほうも勝ち負けを言われては黙っていられない。
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:25:56.65 ID:rO6GNsea0

「超勝手に私の勝ちにしないで下さい、スカートを捲られた以上、私の負けです!」

「い〜や、パンツ見れなかったんだから私の負け、ここは絶対に譲れないからね!」

友人も友人で初勝利は完璧なものにしたいらしく、絹旗の主張を受け入れようとはしない。

そうなると後は売り言葉に買い言葉、絹旗が譲るわけもなく、
スカートを捲った捲らない、パンツを見た見ないの口喧嘩に発展していった。

行事の性質上学校には数多くの保護者が訪れており、
彼らの視線がどんどんと二人に集まっていく。

流石に放置して置けなくなったのか、二人の友人が仲裁に入った。

「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて下さい、周りの人が見てるじゃないですか!」

二人の間に割り込み喧嘩を止めようとしたのだが、それが不味かったらしい。
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:27:51.29 ID:rO6GNsea0

両名ともに冷静さを失ってはいるが、
スカート捲りに失敗した分、襲撃者の方がストレスをためている。

そこに普段標的にしている獲物が割り込んできたのであれば、
スカートを捲るなと言うほうが酷ではないだろうか。

「ふんっっっっっ!」

新たな獲物が近づいてきたのを視界の端で確認した襲撃者は、
目を怪しく光らせると俊敏な動きで襲い掛かり、
豪快にスカートを捲りあげた。

絹旗の時とは異なり、視線が集中している中、
喧嘩の仲裁に入った心優しき友人は、
衆人環視の中、自らのパンツをさらけ出してしまう。

「え、ええ、きゃあっ!」
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:29:00.81 ID:rO6GNsea0

慌ててスカートを押し付ける友人であったが、最早手遅れである。

僅かな期待を込めて、周りの人々の視線を確認するが、
誰も自分とは顔を合わせてくれない。

特に男性の反応は顕著で、
皆一様にどこか嬉しそうな表情で顔を赤らめている。

彼らが何を見たのか、その答は最早明らかであった。

「も…もう二人なんて知りません!」

少しでも早くこの場から離れたくなったのだろう。

一方的に言い終えると、
顔を真っ赤に染めて校舎へと走り去ってしまった。

「あっちゃ〜、やりすぎちゃったかな。」

「当たり前です、超少しは反省してください。」

頭を掻きながら申し訳無さそうな表情を見せる友人を、
絹旗はぴしゃりと叱りつける。
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:38:27.37 ID:rO6GNsea0

「じゃあ、ちょっと慰めにいってくるかな。」

微笑みながら校舎へと歩き出していく友人に反省の色は見えない。

「絹旗も早く教室戻りなよ。」

呆れたような表情で見送る絹旗に、
一言だけ添え、友人は去っていった。

後に残された絹旗は、寂しそうに溜め息をつく。

自分も出来れば教室にいたい。
だが駄目なのだ、今教室にいるのは同級生だけではない。
当然ながらその家族達も待機している。

普段離れ離れで生活している学園都市の生徒にとって、
保護者との再会は非常に喜ばしいイベントなのだろう。

周りを見渡して見ると、多くの生徒が嬉しそうに学校内部の施設を家族に案内して回っていた。
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:39:08.17 ID:rO6GNsea0

自分の友達も例外ではない。

教室には多くの家族が訪れ、
学園都市の自慢話や中学校の思い出話に花を咲かせている。

保護者達に友人として紹介される事は勿論嬉しい。
それでも、家族と楽しそうに話す友達を見ていると、
どうしても羨望の念が湧き上がってしまうのだ。

暗部の汚れた経歴が負い目にならなくなっても、
日の当たる世界で生きていけるという自信が持てるようになっても、
家族がいないという現実を変える事は出来ない。
家族が欲しいという願いを消し去る事は出来ない。

「戻れる訳、無いじゃないですか。」

呟いた言葉は幽かに震えていた。

再び目に涙が滲んできたようだ。

先程と同じように袖で目を拭い、
深呼吸して心を落ち着かせる。
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:40:06.09 ID:rO6GNsea0

家族と幸せそうに過ごす友人を見たくない。
友人に嫉妬する自分を見られたくない。

惨めな気持ちになるのを承知の上で、
絹旗は自分の思いに向き合った。

「それでも、私は教室に帰らないといけないんです。」

今日でこの学校とはお別れなのだ、
友人達と過ごす中学生最後の時間、
ほんの僅かでも無駄にはしたくない。
自分のつまらない嫉妬で無駄にしたくはない。

ありったけの思いを込めると、絹旗は自分の中の淀んだ感情を押し込めた。

もう大丈夫、今度こそ普段どおりの自分でいられるはず。

だから、だからあと校庭を一周だけしたら、教室に帰ろう。

痛々しいまでに満面の笑顔を浮かべると、
絹旗はゆっくりと歩き出した。
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:41:38.36 ID:rO6GNsea0

とぼとぼと歩いていると、いつのまにか校門の前に差し掛かっていた。

近くに来るまでは気が付かなかったが、
どうやら受付で揉め事が起こっているらしい。

「…から…ん…前の…!」

「事…あ…言ってん…!」

人の卒業式で喧嘩なんて何を考えているのだろうか。

丁度良い、溜まった鬱憤を晴らさせてもらおう。

腕まくりをして、肩を回すと、絹旗は受付へと進んでいく。

人を掻き分け、受付の前までたどり着くと、
ようやく当事者の顔を確認することができた。
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:42:31.90 ID:rO6GNsea0

一人は学校の男性体育教師、
不審者がどさくさに紛れて入らないように見張っていたらしい。

もう一人は金髪の長身で、頭の悪そうなチンピラ風の男…

顔を見た瞬間、絹旗は自分の胸がざわめいたのを感じた。
勿論不快なものではない、不快なものである筈が無い。

「おお絹旗、丁度良い所に来てくれた。こいつに言ってやってくれよ、お前の家族だって!」

人ごみから出てきた自分に直ぐ気付いたのだろう。

こちらを見ると安堵したような声で話しかけてきた。

「浜…面…?」

信じられない、といった表情で絹旗は男性の名前を口にする。

彼女が心の底に押し込んでいた鬱屈はいつの間にか消え去ってしまっていた。
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:46:28.97 ID:rO6GNsea0
今回はこれで以上になります。

案の定というか、一回では絹旗パートが終わりませんでした。

できれば次回で終わらせたいと思います。
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 04:25:35.38 ID:yHteOWeqo
あれ?中学?とか思ってちょっと動揺した
絹旗の昔(惚気)話かwwwwww
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 08:49:07.57 ID:Qhw+byKAO
これは良いお兄ちゃん
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 12:06:54.46 ID:YBoVtrvT0
超乙、wwktkが止まらない

ちなみにはーまづらぁは茶髪なんだぜ
金髪に染め直したとかいう設定だったらスマン
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 14:53:53.06 ID:z9Ui1/9m0
 乙乙!!
しかしこの2人が友達とは。
絹旗良かったね
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 00:47:36.15 ID:RRU8wG+p0
>>355

素で間違えました…
次回からは気を付けます。
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 08:56:37.67 ID:jkBcCHXw0
>>353
>>354
>>355
>>356

支援ありがとうございます、本当に励みになります。
絹旗の過去話はしばらく続きそうなので、
麦野パートを楽しみにしている方はご容赦下さい…
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 08:57:10.15 ID:jkBcCHXw0


「浜面…超何でこんな所にいるんですか!」

戸惑いを露にしながら、絹旗は尋ねた。

「何でって、そりゃお前の卒業式だからに決まってるだろ?」

あっけらかんと言い放つ浜面に対し、
絹旗は口をぱくぱくさせるばかりである。

「それでな、何か招待状がいるらしいんだけど、お前俺に渡してないだろ。」

「あ、そ、その、すいませんでした。超うっかり忘れてしまってたみたいで。」

言葉を続ける浜面に、絹旗はどうにか謝罪を返した。

「絹旗、この人はお前の関係者なのか?それにしては名前も違うし…一体どういう関係なんだ。」

傍観していた男性教師が絹旗に説明を求める。
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 08:57:50.66 ID:jkBcCHXw0

二人が知り合いであると分かったため、
先程より口調が穏やかになってはいるが、
未だに警戒を解いた訳では無いらしい。

「あ、あの…そ、それはですね。」

馬鹿正直に同居人と答えて良いものかと、
絹旗は言いよどむ。

その反応を誤解したのか、
男性教師が慌てた様子で絹旗を問い詰めた。

「絹旗、ま、まさか、彼氏とか言うんじゃあないだろうな!」

「なっ、超違います!!」

答えると同時に、絹旗の鉄拳が男性教師の腹に突き刺さる。

ぐふっと呻き声をあげ、うずくまる男性教師に、
絹旗は顔を真っ赤にしながら言葉をぶつけた。
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 08:58:26.15 ID:jkBcCHXw0

「わ、私がこんな超貧相で超頭の悪そうな奴と付き合ってる訳無いじゃないですか!」

「そ、そうか、す、すまなかったな。」

絹旗の剣幕に押され、
教師はうずくまなりながらも謝罪の言葉を口にした。

しかしながら絹旗には男性教師の声が届いていないようだ。

男性教師の胸倉を掴むと前後に揺すり、再び怒鳴りつける。

「そんなに私達が超恋人同士に見えたんですが!こんなチンピラと私がですか!どこですか、どこが超そんな風に見えたんですか!雰囲気ですか!超始めて見た人が直ぐに判るぐらいに恋人同士の雰囲気が超漂っていたんですか!」


「お、落ち着けよ絹旗。」

どこか必死な様子で問い詰める絹旗を抱きかかえ、
浜面は教師と絹旗を引き離す。

解放された教師はげほげほと息を整えながら絹旗に向き直り、弁解の言葉を口にした。
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 08:59:29.62 ID:jkBcCHXw0

「す、すまん絹旗、先生の誤解だ、ど、どこからどう見ても恋人には見えん!」

絹旗の反応が怒りからくるものだと判断したならば、
この弁解は至極真っ当なものであっただろう。

「…そ、そうですよ…ね、そうに決まってます。私たちがそんな風に見えるなんて、超有り得ないです…」

だが、実際の所はもう少し複雑な心理状況であったようだ。

教師の言葉を肯定こそしたものの、
落ち込んでいることが目に見えて判る。

自分の言葉が原因と気付いたのか、
ばつの悪い表情になりながら、教師は話を進めた。

「あ、あー、その、結局二人はどういう関係なんだね?」

「だ、だからですね、家族というか何というか。」

どうにか関係を説明する浜面であったが、
教師の方では納得できていないようだ。

絹旗の口から直接説明を聞こうと、
教師は浜面から絹旗へと視線を移す。
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 09:00:02.35 ID:jkBcCHXw0

しかしながら、絹旗もどう説明して良いのか決めかねているようだ。

口ごもる絹旗に対し、教師が質問を変える。

「この男性は絹旗の保護者でいいのか?」

「違います!こんな超貧相な男に保護されるいわれなんて超ありません!」

その質問に対し、絹旗は反射的に答えてしまった。

ますます分からん、といった風に教師は首を傾げる。

「なあ絹旗、お前がどうしてもと言うならその人が卒業式に参加するのを止めはしない。だがな、関係の分からない人を校内に入れるわけにはいかないんだよ。」

弱り果てた様子で尋ねる教師であったが、絹旗はうつむくばかりで答えようとはしない。

「はぁ〜…」

溜め息をつき、じれったそうに頭を掻く教師に対し、
絹旗がゆっくりと口を開いた。

「…に…ちゃ…です。」
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 09:00:30.60 ID:jkBcCHXw0

「ん?」

呟いた声は余りにも小さく、
教師の耳には明確には届かない。

うつむいたままでは、自分の気持ちを隠したままでは、
この言葉は届くことは無い。

自分の口から出た声の驚くべきほどの小ささに、
絹旗はそう悟ったのだろう。

涙目になりながらも、顔を真っ赤にしながらも、
彼女は顔を上げると迷いの無い目で教師を見据え、はっきりと言葉にした。

「この人は、私のお兄ちゃんです!」

先程までとは違う決意の籠もった言葉に、
教師が思わず気圧される。
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 09:01:07.29 ID:jkBcCHXw0

「そ、そうか…し、しかし名前がなぁ。」

未だに承服できかねる様子の教師に対し、
今度は浜面が口を開いた。

「絹旗の境遇は知っている筈ですよね、お願いします、どうか察してはもらえないでしょうか。」

深く深く頭を下げ、浜面は丁寧に申し入れた。

絹旗が自分を兄だと言うのであれば、
それにふさわしい立ち振る舞いをしなければならない。
その思いから出た行動であった。

「そ、そうか…分かった。すまなかったな絹旗、お兄さんなら出席の資格は十分だ。」

両者の堂々とした態度に押し切られる形で、
教師は浜面の立ち入りを許可した。

苗字の不一致などの謎が明確に答えられた訳では無いが、
絹旗が明言した以上、これ以上追求しようという気にはならなかった。
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 09:01:36.10 ID:jkBcCHXw0

二人揃って頭を下げると、兄妹は校内へと入っていった。

教師の眼からみた絹旗最愛という生徒は、どこかませた所があり、
素直に感情を伝える事は不得意であったはずである。

行事などでも、取り組む姿勢はともかくとして、
口頭では皮肉や憎まれ口を叩く事が多かった。

そんな彼女が、旅立ちの日に始めて感情をむき出しにして、
自分と向き合ったのだ。
教師としてはその思いを汲み取るべきではないか。

手を繋いで歩く二人は、教師の眼にはどこかぎこちなく写った。

しかしながら絹旗の後姿から伝わる喜びの感情は、
自分の判断が正しかったという自信を持つに充分足るものであった。
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 09:02:15.63 ID:jkBcCHXw0


「…超屈辱です、浜面なんかをお兄ちゃんだなんて。」

悔しそうに呟いた言葉が浜面の耳に届く。

その声につられ、浜面は絹旗の方へと目を向けた。

さぞかし悔しそうにしているのではないだろうか、
そのような予想と共に顔を覗き込む浜面であったが、
意外なことに絹旗の顔には溢れんばかりの笑顔が浮かんでいた。

「で、でも、今日だけは超特別に許してあげます…その、私のお兄ちゃんになる事を。」

顔を見ている事を気付かれたらしい。

絹旗は恥ずかしそうに目をそらすと、
超特別なんですからね、と強調するように付け加えた。
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 09:02:59.02 ID:jkBcCHXw0

その反応に、思わず『兄』の顔が緩む。

悪戯っぽく微笑むと、浜面は握った手にほんの少しだけ力を込めた。

「そうだな、今日は兄妹だもんな。」

絹旗もそれに応え、少しだけ力を込めて握りかえす。

「はい、今日だけは兄妹ですから。」

『だから、手を繋ぐなんて超当たり前の事なんです。』

互いの手をしっかり握り締め、
二人は絹旗の教室にゆっくりと向かっていった。
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 09:06:00.18 ID:jkBcCHXw0
本日はこれで以上になります。

絹旗編はあと二回程で終わると思います。
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 09:33:43.36 ID:ZtVhKysAO
はまづらかわいいよはまづら
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 09:48:08.27 ID:t6oj6OPDO
超浜面かわいいよ超浜面
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 19:20:20.16 ID:UT7JtaSj0
禁書ssで一番好き
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 02:35:30.03 ID:FUeyApFAO
むぎのぉんラブ
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 12:55:19.82 ID:BDi6VSSR0
これはいいアイテム
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/29(土) 15:24:08.62 ID:A9/k4k3x0
浜面7つに分解されて全世界に散れ
それでレーダーでちまちま集められろ
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/01/29(土) 15:47:12.43 ID:bkMNAXXR0
 浜面が漢してんなあww
絹旗が可愛すぎるんだがどういうことだ
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 04:20:50.35 ID:hJwmb3wAO
十年経っても「超」を付けて話す絹旗かわいい
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 01:57:25.00 ID:j8rsJjKSo
今日1日で追いついた。
素晴らしいアイテムだ。
続きお待ちします。
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 22:42:43.39 ID:poe5v0Gp0
>>370
>>371

な、何故浜面… 

>>372

そう言って下さる人がいるとは…
嬉しいけれども恐縮です。

>>373

もしかしたら待ってもらう期間が長くなるかもです。

>>374

新生アイテムにフレンダも戻ってきてくれますように。

>>375

相手が浜面なら、滝壺が無能力者レベルのAIM拡散力場でさえもきっちり把握して、
たちどころに見つけてくれるでしょう。

>>376

麦野からヤンが無くなったので、絹旗からもツンを無くしてみました。

>>377

気が早いですが、ファンキーなお婆ちゃんになってくれそうです。

>>378

待たせてしまって申し訳ない…

他の人はあっという間に書き上げてしまうというのに…
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 22:44:39.28 ID:poe5v0Gp0
一月末に卒論が終わり…
今日からは就職先でアルバイト…

なんやかんやで前回の投稿から2週間以上も開きましたが、
支援してくれた方々、本当にありがとうございました。
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 22:45:39.32 ID:poe5v0Gp0


「ここが私達が普段お昼を食べている場所です。」


「この間は最高学年だけで球技大会を開いたんです、私達のクラスは超残念ですけど準優勝でした。あとちょっとで逆転できたのに…超惜しかったです。」


「あっ、あの花壇見えますか?去年の夏に友達と一緒に花を植えたんです。卒業するまでに咲いてくれないんじゃないかって、超心配してたんですよ。」



ゆっくり、ゆっくりと歩きながら、時には嬉しそうに、時には悔しそうに、
絹旗は学生時代の思い出を、一つ一つ話していった。


浜面が始めて聞く話もあれば、既に聞いた事のある話もある。

それでも一々口を挟む事無く、浜面は聞き役に徹した。


青春の舞台となった場所で、幸せそうに話す絹旗をみていると、
些細な事で口を挟む事が馬鹿らしく思えたのである。
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 22:46:36.29 ID:poe5v0Gp0

話ながら歩いてるうちに、二人はいつのまにか教室の前に着いていた。

中からは保護者達の歓談が聞こえてくるが、
それを気にする様子も無く、絹旗は教室の扉を勢いよく開く。

教室に入ると、生徒たちの視線が一斉に浜面へと集まる。

まあ無理もないだろう、と居心地の悪さを感じながらも、浜面は妙な所で納得していた。

一応正装で来ているとは言え、元々が上品な顔つきではない。

いきなり自分のような男が現れたら警戒してしまうのもやむを得ないだろう。


しばらく教室の外で時間を潰していようか、
そんな風に考えていると、繋いだ手に強い力が込められるのを感じた。


どうやら考えていることが顔に出ていたらしい。
絹旗の方を見てみると、拗ねたような表情をこちらへ向けている。

「し、仕上お兄ちゃんは超堂々としてれば良いんです。余計な事なんて考えないで下さい。」
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 22:47:43.22 ID:poe5v0Gp0


そう言うと、浜面の手を引きながら絹旗は教室の中に進んでいった。



教室前方の席まで辿り付くと、絹旗は机の中からプリントを取り出す。

「これが今日のスケジュールですから、超隅々まで目を通しておいて下さいね。」

浜面へと手渡されたプリントには、『保護者へのお知らせ』との文字が記されていた。

「お前な、こういうプリントはちゃんと家に持って帰って来いよ。」

「す、すいません。その…二人とも仕事で忙しいから、迷惑かなって。」

呆れたような口調で咎める浜面に対し、絹旗は申し訳無さそうに謝罪の言葉を口にする。

「そういう遠慮はしなくていいんだよ、馬鹿。」

そう言うと、浜面は俯いた絹旗の頭を乱暴に撫でた。

「あ…は、はい!」

少し驚いた様子こそ見せたものの、絹旗は抵抗する素振りも見せず、
浜面に撫でられるままに身を任せている。
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 22:48:44.43 ID:poe5v0Gp0

くすぐったそうに身を捩じらしてはいるが、
俯いた顔には先程までの笑顔が戻っていた。

いつもであれば文句の一つでも返ってくるだろう。

卒業式だからか、或いは友達の前だからか、
妙に殊勝な絹旗が、何故かいつもよりも可愛らしく思えた。

出来れば、兄妹として振舞える事が嬉しいからというのが、
その理由であって欲しい。

しかしながら、そう考えるのは流石に自惚れすぎだろう。


浜面がそんな事を考えていると、不意にチャイムの音が響いた。


ふと時計の方に目を向けて見れば、ホームルームの開始時間が迫ってきている。

時間にはある程度の余裕を持って到着していたはずなので、
絹旗との散歩にそれだけ時間をかけたと言う事なのだろう。
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 22:49:34.29 ID:poe5v0Gp0

「じゃあな絹旗、また後で。」

そう言うと、浜面は絹旗の頭から手を離し、
教室の外へ出て行こうとした。

「折角来たんだからちゃんと式にも出てくださいよ。保護者席も隅から隅まで超探しますから、サボったら直ぐに分かるんですからね。」

浜面は絹旗の言葉に笑顔で応えると、手渡されたプリントを、
手を振るかのようにたなびかせながら、教室を後にした。




廊下の壁にもたれ掛かりながら、
浜面は絹旗から渡されたプリントの隅々にまで目を通す。

プリントには絹旗の言うとおり、今日の予定が隈なく記載されている。

式の流れを一通り確認すると、浜面は小さく溜め息をついた。

来て良かった。
浜面は心の底からそう感じた。

保護者宛に配られたプリントには、
ほんの僅かの汚れも残されていない。
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 22:50:38.44 ID:poe5v0Gp0


絹旗はどうか知らないが、
少なくとも学生時代の自分であれば、
関係の無いプリントなど、即座にゴミ箱に捨てていたか、
或いは机の奥の方に強引に押し込まれていたかのどちらかであっただろう。


捨てるわけでもなく、渡すわけでもなく、
ただただ机の中に丁寧にしまわれたプリントこそ、
絹旗が家族の温もりを求めていた証なのではないだろうか。

そこまで考えると、浜面の視線はプリントを持っている手に移った。

絹旗の手を握り締めていたその手には、
まだほんのりと温もりが残っている。

思わず浜面の頬に笑みが浮かんだ。
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 22:51:57.40 ID:poe5v0Gp0

言葉にしたのは始めてだが、
浜面は元より絹旗の事を本当の妹のように考えている。

それでも、どこか壁を作りがちな絹旗の性格に遠慮し、
深い部分には踏み込めないでいた事は否定できないだろう。


だからこそ、自分の事を兄だと言ってくれた絹旗の思いには、
何としてでも応えたかった。



兄弟なぞいない身で、始めて演じた兄という身分。



絹旗がどう感じたかは分からないが、
自分としては生まれて始めてとは思えないほど、
兄としての振る舞いが自然に行えたような気がする。


形だけの上とはいえ、
本当の兄として接する事が、本当の妹として接してもらう事が、
こんなにも居心地の良いものだとは思いもしなかったのだ。


叶うならば、今日一日で終わりたくは無い。


浜面は自分の手を見つめながら、
心の底からそう感じていた。
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 22:53:03.09 ID:poe5v0Gp0

丁度そのころ、浜面と同じように、
絹旗も自分の手を見つめて微笑んでいた。

教室では担任がこれからの流れを説明しているようだが、そんな物は右から左、
手や頭に残った浜面との余韻に浸るので精一杯である。

溢れんばかりの笑顔を浮かべた絹旗を不審に思ったのか、
先程の友人が声をかける。

「どうしたのよ絹旗、妙に嬉しそうじゃない。」

隣の席から覗き込む彼女に不意をつかれたのか、
慌てた様子で絹旗は言葉を返した。

「そ、そうですか、別にそんな事も無いですけど?」

それでも疑いを晴らすには至らなかったらしい。

友人は訝しげな目を絹旗に向け続ける。

どうにか誤魔化すような口実は無いだろうか、頭を抱えながら悩む絹旗を見て、
訝しげな目を向けていた友人は、含むような笑みを浮かべて言葉を続けた。

「あの人ってさ、絹旗の彼氏?」

「はぁっっつ!?」
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 22:54:55.10 ID:poe5v0Gp0

ホームルームの最中にも関わらず、絹旗は大声を張り上げる。

「だってさー、あの絹旗の喜びようや甘えようを見ちゃったらねー。」

そんな絹旗の反応を楽しみながら、
友人は更に言葉を続けた。

「あれはお兄ちゃんなんです!か、彼氏な訳無いじゃないですか!」

「へ〜、お兄ちゃんね〜。」

「超何なんですかその反応は!?大体卒業式に学外の彼氏呼んでくるなんて超頭おかしいじゃないですか!?」

絹旗は矢継ぎ早に言葉をぶつける。

確かに彼女の言は道理である。

しかしながら友人の浮かべる余裕の表情は全く揺るがなかった。

「だってさ〜。」

不敵な笑みを浮かべたまま、友人は言葉を続ける。

「絹旗はあの人の事名前で呼んでたけど、あの人は絹旗の事苗字で呼んでたじゃない。」
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 22:57:12.30 ID:poe5v0Gp0

そう言われた瞬間、絹旗の脳裏に先程までの会話が浮かぶ。




『し、仕上お兄ちゃんは超堂々としてれば良いんです。余計な事なんて考えないで下さい。』




『じゃあな絹旗、また後で。』




「あああああああぁぁぁっっっっっ!!!!!」

頭を抱えながら絹旗は叫び声を上げる。

自分は恥ずかしい思いをこらえにこらえて名前を呼んだというのに!

あの馬鹿面の事だ、名前を呼ぶなんて思い付きもしなかったのだろう。

「…よし、それじゃあそろそろ体育館に移動するぞ〜。」

絹旗と友人の会話が一段落したのを見計らい、
担任が生徒達に声をかけた。

頭を抱える絹旗をよそに、
周りの生徒達はガタガタと席を立ち、廊下に並びだす。


391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 22:59:49.55 ID:poe5v0Gp0


「ま、詳しい話は後で聞かせてもらうからね。」

肩をポンと叩いて、友人も教室を後にした。

後に残されたのは頭を抱えて硬直する絹旗と、
先程その友人に豪快にスカートを捲られた、もう一人の友人のみ。


「き、絹旗さん、ほら早く行かないと遅れちゃいますよ。」


硬直した絹旗の手を握り、
友人は半ば強引に教室の外に連れ出そうとする。

しかしながら、絹旗には彼女の言葉に答えるだけの余裕はない。


呆けた表情で連れ出される絹旗の頭の中は、
あらん限りの浜面への文句で満ち溢れていた。
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 23:00:30.64 ID:poe5v0Gp0



自分は名前を呼んだのに。



恥ずかしいのを我慢してお兄ちゃんと呼んだのに。



頭を撫でてくれた事は嬉しかったけど、
お兄ちゃんと呼んでくれたのは嬉しかったけど、
最後があれでは台無しでは無いか。


折角兄を演じてくれたなら、
最後まで演じきるべきだ。


自分のように…名前を呼んで。


そこまで考えた所で、
絹旗の脳裏にその光景が浮かんでくる。

先程のように、自分の頭を撫でながら、
浜面がこう言うのだ。

『じゃあまた後でな、最愛。』

引き摺られるままに歩いていた絹旗が不意に足を止めた。
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 23:01:34.67 ID:poe5v0Gp0

「絹旗さん…?って、ええ!?」

不審に思った友人は絹旗の顔を覗き込み、
驚きの声をあげた。

絹旗の顔は煙を吐かんばかりに赤くそまり、
眼の焦点は定まる事無く、あちらこちらを彷徨っている。

「絹旗さん!絹旗さん!」

どうにか彼女を覚醒させようと、
友人は大声で絹旗の名前を呼ぶ。

しかしながら今の絹旗には、友人の決死の叫びも、
遥か遠くの音のようにしか聞こえない。




ああ駄目だ…





これは反則だ…






今の自分には、あまりにも刺激が強すぎる。



頭を朦朧とさせながら、顔を真っ赤に染めながら、
友人の呼び声を遥か遠くで聞きながら、
絹旗は心の底からそう感じるのであった。
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 23:02:45.20 ID:poe5v0Gp0
本日は以上になります。

微妙に不定期になるかもしれませんが、
途中放棄だけは致しませんので、どうか宜しくお願いします。
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 23:17:13.28 ID:j8rsJjKSo
卒論ご苦労様でした。
社会人までの期間、有意義にお過ごしくださいね。
ゆっくり楽しみに待ちます。
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 09:49:44.03 ID:YMSwEK2AO
きぬはたマジもあい
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 21:00:52.33 ID:aCcIvT2AO
追いついた


絹旗かわいすぎるだろ
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/16(水) 04:13:26.49 ID:oh7UyU3M0
絹旗かわいすぎるだろ

あと新訳でフレンダ生存(?)フラグおめ! 
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 21:35:21.18 ID:f3O4PFJAO
きぬはたぁぁぁぁぁ
神すぎるぞなんだこれ
悶え死ぬゥ!
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 19:06:17.28 ID:IgGGwxxA0
>>1まだー?
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 14:05:07.30 ID:2Ct6GwnS0
>>395
ありがとうございます!
待たせてしまって申し訳ない…

>>396

滝壺あたりはその呼び名が気に入りそうです。

>>397
>>398
>>399

絹旗編は今回で終わらせるつもりだったんですが…
あと一回だけ次回に延ばします…

>>400

待たせてしまって申し訳ない、今から投下します。
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/20(日) 14:05:51.86 ID:2Ct6GwnS0


友人の一人に引き摺られながら、絹旗はようやく整列場所へと辿りついた。

先に並んでいたクラスメイト達に怪訝そうな目で見られているが、
平静を装い、そしらぬ顔で列に並び込む。

手を頬に添えてみると相当なまでに熱を持っている事に気付いた。

おそらく首筋まで真っ赤になっているのだろう。

後ろに並んでいるクラスメイト達から、
不審がるような、或いはからかうような囁きが聞こえてくる。

後ろを振り向き視線一つで囁き声を黙らせると、
絹旗は今日何度目かになる深呼吸を行った。

403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 14:06:29.20 ID:2Ct6GwnS0


「よし、全員揃ったな。じゃあ一組が入場したら、その後に続いて行進だからな。」

担任が改めてこれからの流れを説明している。

自分達卒業生は最前部に座り、後ろに在校生席、保護者席が並ぶ。

卒業生答辞や蛍の光の合唱などでは、壇前に設けられた台に並び、
在校生や保護者に向かい合うことになっていた。

随分卒業生を動かすものだと思うが、
式典とはそういう物なのだろう。

浜面の事はしばらく置いておこう。

これから卒業式が始まる。
自分の中学生活を締めくくる大事な式典だ。
友人や先生にみっともない姿は見せられない。
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 14:15:04.72 ID:2Ct6GwnS0

そう決意すると、絹旗は表情を引き締めた。
行進曲が廊下に響き渡り、前方の列が動き出す。

次が私達の番、精々胸を張り、真っ直ぐ前を向いて歩くとしようじゃないか。

行進する絹旗の頭にはそのような考えが浮かんでいた。

とはいえ、卒業式の大半は人の話を聞くだけで終わる。

そんな当たり前の事実を絹旗はすっかり忘れていた。
殊勝な決意を込めて望んだ分、
来賓や校長の話も友人よりは耳に入っているだろう。

良い話ではあると思う。
将来の夢や高校生活の過ごし方など、聞いて損になる話では無いのだろう。

だが卒業式という独特な雰囲気は、今後の人生に思いを馳せるよりも、
今までの学生生活を振り返る方に比重が置かれてしまうののだ。
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 14:17:01.94 ID:2Ct6GwnS0


そう感じるのは絹旗だけでも無いらしい。
周りを見渡して見ると、既に友人達の中には目を潤ませている者もいる。
他人の話などそっちのけで、自らの思い出に浸るだけで精一杯といった様子だ。

視線を再び壇上に戻すと、礼服に身を包んだ老人が、深々と頭を下げていた。

次は在校生送辞と自分達の答辞だ。

後輩と向かい合うため、卒業生は壇前の台へと登る。
身長の為か、絹旗は最上段の列に並ばされていた。

台上からは在校生のみならず、
後列の保護者席の隅々までが見渡せるようになっている。

それに気付いた瞬間、絹旗は無意識に会場の隅々にまで視線を這わせていた。
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 14:17:53.41 ID:2Ct6GwnS0


全員が並び終わるとお定まりの音楽が流れ、
後輩達が口を揃えて自分達へ言葉を投げかける。

しかしながら、今の絹旗にそのような言葉は届かない。


浜面はどこに座っているだろうか、
式をちゃんと見に来てくれているだろうか。


あらん限りの期待と僅かな不安を胸に、
絹旗は必死になって浜面を探す。


見つけられない時間が一秒延びるたび、
絹旗の不安が増大していく。


式に参加していないのだろうか、
急な用事で帰ってしまったのだろうか。


具体的な言葉としては浮かんでこなくとも、
ありえない答えだと分かってはいても、
脳裏をよぎった最悪のシナリオは、
彼女の心を黒く塗りつぶしていく。
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 14:19:03.16 ID:2Ct6GwnS0

どこですか、どこですかと、縋る様に浜面を追い求める絹旗の表情には、
いつしか恐怖にも近い感情が現れていた。

絹旗がようやく浜面の姿を見つけ出したのは、
彼女の眼に涙が薄っすらと滲み出たのとほぼ同時の事であった。

人相や体格、髪の色などの要因から、例え大勢の保護者の中からでも、
浜面を見つけ出すことは、さほど困難な事では無い。

まして探しているのは絹旗である。
実際、彼女が浜面を探すのに費やした時間は三十秒にも満たなかったであろう。

しかしながらそのような僅かな時間でさえ、
絹旗が恐怖を感じるには充分な時間であったのである。

なにはともあれ、彼女は浜面を見つける事が出来た。

安堵の溜め息をつくと、絹旗は涙を拭い、精一杯の笑顔を浮かべる。

それに応えるように、浜面も笑みを返す。

たったそれだけの事で絹旗の心は幸せで満たされていった。
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/20(日) 14:19:51.75 ID:2Ct6GwnS0
浜面との繋がりに浸る絹旗だったが、
そうすると新たな疑念が浮かんでくる。

浜面は先程の自分の顔を見ていただろうか、
不安に満ちた顔を、涙で歪んだ顔を。

いや、見られていない筈が無い。
壇上の自分など、浜面は容易く見つける事が出来ただろう。

途端に胸の中を羞恥の思いが埋め尽くす。

折角浜面が来てくれていると言うのに、
さっきまでの自分の態度ときたらどうだろう。

式の最中だというのに落ち着きも無くそわそわと視線を泳がしている。

これ以上浜面にみっともない姿は見せられない。
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/20(日) 14:20:18.22 ID:2Ct6GwnS0


名残惜しい気持ちを振り切り、浜面から目を逸らすと、絹旗は後輩達に向き直った。

後輩達は丁度送辞を言い終えた所らしい。

今度は自分達が応える番だ。

背筋を伸ばし、胸を張り、しっかりと前を見据え、
絹旗は友人と共に後輩達へ別れの言葉を投げかける。

彼らがこれから過ごす一年が、どれだけ彼らを成長させてくれるのか、
その先例となれるように、その証となれるように、出来得る限り堂々と。
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/20(日) 14:21:04.26 ID:2Ct6GwnS0

ああ、そうだったんですね。

心の中で精一杯に背伸びをしながら、
絹旗は不意にある事に気付いた。

卒業式って…私達だけの物じゃ無いんですね。

今まで、卒業式というのものは、
学校を巣立つ自分達を送り出すためだけの物だと思っていた。

その事を否定する訳では無い。
というより、主目的である事には違いないだろう。
だが、送り出される自分達とて、
教師や後輩からの祝福を受けるだけでは無い。
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/20(日) 14:21:49.68 ID:2Ct6GwnS0


彼らに自分達がどれだけ成長したかを見てもらうという役割があるのだ。

教師へ後輩へ、そして他の誰でも無い浜面へ、ほんの少しでも良い。

自分は貴方達のお陰で成長する事が出来ました。
貴方達が支えてくれたから、少しだけだけど大人になる事が出来ました。

その事を伝えたい、その証を見てもらいたい。
言葉では伝えられない事だから、態度で受け取って欲しい。

送辞が終わり、合唱が終わり、卒業証書の授与へとプログラムは進んでいく。

その間も絹旗は堂々とした態度を崩すことは無かった。
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/20(日) 14:22:56.45 ID:2Ct6GwnS0


見ていてくれてますか?
と心の中で浜面へと問い掛ける。

別に超特別な学校生活を送った訳じゃありません。

超普通の生徒が超普通の学校で過ごす、超普通の学生生活です。

それでも、ほんの少しですけど、成長する事が出来たんです。

今日だけで良いですから、口になんて出さなくて良いですから、
心のどこかで思ってください。

立派になったって。

そう思えたなら、誇りに思って下さい。

貴方がそうしてくれたんです。

先生と友人と、そして貴方のお陰です。

どうしようも無かった私を、
ほんの少しだけ大人にしてくれたんです。

だから…誇りに思って下さい。

私が立派になれたのは貴方のお陰なんです。

413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/20(日) 14:23:29.65 ID:2Ct6GwnS0


「絹旗最愛さん!!」

何時の間にか絹旗の順番が回ってきていた。

目から溢れ出す涙を必死で拭い、
はい!と声を張り上げて返事をする。

勢い良く立ち上がり、絹旗は壇上へと進んでいった。

老年に差し掛かった校長に深々と頭を下げ、
絹旗は卒業証書を受け取る。

たったそれだけの事。

絹旗の前にも後にも、多くの同級生が同じ様に卒業証書を受け取っている。

ただ卒業の証を受け取るだけの事。

それでも絹旗はほんの僅かも手を抜かなかった。

指先を伸ばし、背筋を張り、しっかりと腕を振って歩いていった。

浜面が立派だと感じてくれるように、浜面が誇りに思ってくれるように、
絹旗は式の最後まで、立派な卒業生として振舞い抜いたのであった。

414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/20(日) 14:26:45.89 ID:2Ct6GwnS0
今回はこれで以上です。

待たせてしまった上にこんな出来で申し訳ない…

これからの流れですが、少しだけ絹旗部分の最後を書いて、
フレンダ→麦野→滝壺→浜麦帰還→エピローグになると思います。

フレンダどうなるんだろう…?
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 14:29:52.99 ID:1oPWCh440
おつー
やっぱ絹旗はかわいいなぁ

ところで>>1の話の浜面って仕事なにやってんの?
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 17:14:57.70 ID:hnNwgDFAO
滝壺のヒモ
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 17:35:39.55 ID:GjFXG9nDO
主夫だよ、言わせんな恥ずかしい><

そして乙
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 19:03:54.98 ID:Gx+pMCe60
 めっちゃよかった!!!
超乙です!!!
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/21(月) 19:17:21.50 ID:jsJdJ1sS0
>>415
>>416
>>417

浜面の仕事についてはフレンダの部分でやろうとは思っています。

働いている事にはしてるけど、どうしたって滝壺の収入のが多いんだろうな〜

>>418

ありがとうございます!

今回台詞が少なすぎで読みづらいのではと心配してたもんで、
そう言ってくださると助かります。
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 21:56:25.72 ID:VwCorSqIo
絹旗編『最愛の最愛の人は最高で最低の男』
ってところだな・・・・
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 23:55:48.07 ID:58ODv5LMo
フレンダも楽しみだか、麦のん待機で風邪ひきそうだ。
じっと待つ。
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 21:58:20.49 ID:Ykf7iZ6AO
これ禁書の十年後というよりアイテムの10年後じゃ・・・
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/23(水) 00:47:37.19 ID:Mppz2wf/0
>>422
こまけぇ(略)
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 17:24:23.03 ID:PlnnhQ8D0
>>1まだー?
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/27(日) 21:09:44.65 ID:lMGMsNno0
>>1まだか

いいだろう、いつまでも待ち続けてやろうじゃないか
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/01(火) 23:39:05.06 ID:HpK/jXUN0
>>420

自分よりもよっぽどスレタイのセンスがある…

>>421

麦野の過去編は失恋中心の切ないものが中心なので…

書くか迷ってたけど、甘いだけの現代部分も書きます…ハイ。

>>422
>>423

スレタイの事は平に御容赦を…

>>424
>>425

申し訳ない、さらっと流すはずだった絹旗編の最後がやたら長くなったもんで。


という訳で投下します。
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/01(火) 23:40:42.31 ID:HpK/jXUN0


「それじゃあ絹旗、また後でね。」

最後のホームルームが終わり、
クラスメイト達は挨拶を交わして家路に着く。


この後は一度家に荷物を置き、
また全員で繁華街に集合する手はずになっていた。


そんな事をして問題ないのだろうかと心配したが、
アンチスキルに届出を出せば夜通し遊んでも問題ないらしい。


勿論卒業式の日だけの特例であり、
店もアンチスキルの指定のものに限られるとの事だが。


それでも、卒業の日を友人同士で夜通し騒がせてくれるというのは、
学生の街らしい粋な計らいと言えるだろう。

428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/01(火) 23:42:08.03 ID:HpK/jXUN0


それでも、卒業の日を友人同士で夜通し騒がせてくれるというのは、
学生の街らしい粋な計らいと言えるだろう。


友人と別れ、校門を出ようとした絹旗の眼に浜面の姿が飛び込んできた。


「よう。」


会話の邪魔にならないように気を使ったつもりらしい。


浜面は居なくなりこそしなかったが、ホームルームの合間なども、
教室の隅に控えているだけで積極的に話しかけてくる事は無かった。


そのお陰で友人達との時間をたっぷりと取らせて貰ったものの、
嬉しさと寂しさが同居する気遣いであった事は否定できない。


ともあれ、絹旗はようやく浜面と話す時間を手に入れた。
朝に兄妹の振りをして話したのが遠い昔のようだ。


「じゃあ、帰るとするか?」

「はい。」
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/01(火) 23:43:32.97 ID:HpK/jXUN0


話したい事は山ほどある。
なのに、何を話したいのかが分からない。


そんな焦燥感を味わいながら、
絹旗は先に歩き出した浜面の後を追い、ゆっくりと歩き出した。


「あ…」


歩き出した絹旗の足が、校門の前でぴたりと止まる。


朝の出来事が不意に頭をよぎった。


今日この門の中で、二人は始めて兄妹になれた。
今日この門を出れば、二人の関係は元に戻ってしまうのだろうか。
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/01(火) 23:46:01.38 ID:HpK/jXUN0


そんな事は決まってる。


自分で言った事じゃあないか、今日だけは兄妹だ、と。


今日だけ、だと。


門を出れば今までどおりの歳の離れた仲の良い友人同士。


それ以上でもそれ以下でも無い。


自分で言った事の筈だ、と心に言い聞かせ、
止まってしまいそうになる足を強引に進ませる。


何かを振り切るように、先を歩く浜面へと追いつけるように、
ほんの少しだけ小走りになると、絹旗はようやく浜面の隣に並ぶ事ができた。


横から覗く表情からは絹旗が感じているような焦りや寂しさは見えない。


どこか満足げな笑みを浮かべ、浜面は近くに咲く桜の樹の花と視線を移している。
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/01(火) 23:47:40.31 ID:HpK/jXUN0


その顔を見ている内に、絹旗は言わなければならない事を思い出した。


ありがとうございました。


卒業式に来てくれたこと、兄妹だと言ってくれた事、最後まで見守っていてくれた事。


お礼を言わなければいけない事はいくらでもある。


だから、何よりも先にこの言葉を言わなければならないのだ、
ありったけの感謝を込めて。


心に巣食う喪失感から目を背け、
絹旗は感謝の言葉を口にする。



「今日はありがとうございました
         

                      …浜面。」

432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/01(火) 23:49:19.07 ID:HpK/jXUN0



だがしかし、ありったけの感謝を込めたはずの言葉は、
何故か酷く素っ気無く、空虚なものとして響いた。




再び絹旗の足が歩みを止める。


どうしてだろう、あんなに呼び慣れた名前なのに、
あんなに大好きな人の名前なのに、
どうしてこんなに寂しいのだろう。


歩みを止めた絹旗の脳裏に、
今日の出来事が次々と思い出されてくる。


親友との最後の攻防、浜面との兄妹としての会話、
兄に見てもらった卒業式、最後のホームルーム。

433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/01(火) 23:52:14.73 ID:HpK/jXUN0


幸せな思い出、青春の一貢、かけがえのない人生の宝物。


しかし、友人との繋がりから解き放たれ、兄妹の繋がりさえも失った絹旗には、
それすらも暗い感情を呼び起こす重荷となってのしかかっていった。


卒業式の晴れがましさ、浜面に来てもらえた嬉しさ、
これから離れ離れになる友人達への不安、始めて感じた『兄妹』の暖かさ、
二度と帰る事の出来ない中学時代の寂しさ、終わってしまった『兄妹』の時間。


不安や恐怖、寂しさが次々と襲ってくる中で、
微かに残る幸せの余韻は、絹旗の精神を一層掻き乱していく。



「絹旗?」



歩みを止めた絹旗をいぶかしみ、浜面が声をかけた。


思わず絹旗の身体が竦む。


纏わり着く感情の奔流を振り払い、
絹旗は何気ない口調で返事を返そうとする。


「は…はい。」


だが、その一言だけで限界であった。
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/01(火) 23:54:05.77 ID:HpK/jXUN0


どうしましたか、と続けようとした言葉は、
喉の奥から湧き上がる嗚咽に掻き消されてしまっている。


気付いたときにはもう遅かった。


無理矢理に封じ込めてきた涙が競うように溢れ出して来る。


決壊した涙は彼女から視界と言葉を奪い、
絹旗の心をより深い狂乱の淵へと沈めていった。


「ち、ちがっ、うっ、ちがっ、い、ますからっ!」


何の意味もなさない否定の言葉が、嗚咽混じりに絹旗の口から漏れ出す。


何が違うというのだろう。


言葉を発した絹旗自身すらもわかってはいない。


「みっ、見ないでっ、くだざい。おねがい、でずっ、から見な、いでぇっ!!」


はっきりしているのは、
これ以上浜面に涙を見られたく無いという事だけである。


理由は分からなかった。


情けない姿を見せたくないという意地だろうか、
今日だけは立派な姿だけを見て欲しいという欲求だろうか、
或いは、何時ものように、友人として慰められる事を恐れていたのだろうか。


絹旗自身にすらもわからなかった。

435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/01(火) 23:55:46.70 ID:HpK/jXUN0


ましてや浜面が理解できる筈も無い。

それでも絹旗をこのままにしておいてはいけないという事だけは理解できた。


泣きじゃくる絹旗を、拒絶したはずの浜面の手が引き寄せる。


「いっ、やぁっつ!」


反射的にその手を振り払おうとする絹旗だったが、
浜面は構わず絹旗を胸に抱き寄せた。


抵抗する絹旗を強引に抱き抑え、
宥めるかのように耳打ちをする。


大丈夫だ、と。



「これなら見えないから。お前がどれだけ泣いても、こうしていれば見えないから。」



強く、強く、浜面は絹旗を抱きしめる。


涙に濡れた絹旗の顔が他の誰にも見えないように、
涙に濡れた絹旗の顔を自分が見れないように、
ありったけの力を込めて。
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/01(火) 23:57:46.77 ID:HpK/jXUN0


どれだけの時間が経っただろうか、
絹旗の涙がようやく勢いを弱めたころを見計らい、
浜面は声をかけた。



「大丈夫か?」



僅かに絹旗の肩が震えを見せる。


もとから返答は期待していない。


自分の声が届いているならそれでよかった。



「なあ。」



耳元に口を添え、浜面はどこか遠慮がちに言葉を続けた。


「なあ絹旗、俺に何か出来る事って無いか?」


自分で言っていて情けなくなるほど、陳腐な言葉だった。
泣いてる女性に向けるにはあまりにも呆けた言葉だと思う。


それでも浜面には確信があった。
この質問を絹旗にぶつけなければならない、という確信が。

437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/01(火) 23:59:34.22 ID:HpK/jXUN0


「俺に出来る事があったら言ってくれよ、どんな事でも叶えてやるからさ。」


励ますような口調で、浜面は絹旗へと語りかけた。


いつの間にか浜面は気付いていた。
絹旗の涙の理由に、絹旗が望んでいる事に。


自分であれば、その望みを容易く叶えることが出来るだろう。


だが、それで良いのだろうか。


自分と出会う遥か前から秘めていた願い。


その成就が、今日のこの日に、新たな旅立ちの日に、
ただ与えられるものであって良いのだろうか。


それ故、浜面は励ますだけに留めたのだろう。


絹旗がその願いを掴み取れるように、
新たな一歩を踏み出せるように。


それが自分の務めだと理解していたのだから。

438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/02(水) 00:01:07.74 ID:dVrl8ILn0


涙は相変わらず止まる様子を見せない。
それでも頭は僅かに働きを取り戻していた。


言わなければ。


始めに浮かんだのはその言葉だ。


何の事だろうか。


先程言いそびれた感謝の言葉?


いや違う。


そんな事よりももっと大事な言葉がある筈だ。


ずっとずっと望んできた願いが。
世界中で浜面にしか叶える事のできない願いが。


本能で理解していた。
これが最後のチャンスだと言う事を。

439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/02(水) 00:03:06.20 ID:dVrl8ILn0


顔を浜面の胸に埋めたまま、絹旗はゆっくりと口を開く。



「今日は、今日は本当にありがとうございましたっ。」



その一言で、絹旗は言葉を切った。


嗚咽が再び絹旗の口を塞ごうとする。



「う、嬉じがったんです、来てくれて、みっ、見にぎでくれで!」



それでも絹旗は言葉を止めなかった。


「かっ、家族だっ、家族だっで、言っでぐれで!」


「おにいぢゃんって呼ばせでぐれて!手を繋いでくれて!」


「わだじの話をぎいでくれてっっっ!」


搾り出すように告げると、絹旗は一度言葉を止めた。


それ以上言葉を続けることが出来なかったと言った方が正しいかもしれない。


次の言葉を発するための一呼吸は、長い時間を必要とした。

440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/02(水) 00:06:50.02 ID:dVrl8ILn0


「なのにっ…なのにっ、今日だけしかっ、今日だけしか、貴方の妹でいられないと思ったら…」


「寂しぐなっで、辛ぐなって!いづも通りに名前を呼ぶことがどでも悲しくてっ!」


「だからっ…だがらっ、ヒグッ、グスッ。」


願いを発しようとした絹旗の口を、とうとう涙が塞いでしまう。


それでも彼女は諦めない。
喘ぎ苦しみながらも次の言葉を発しようと体を震わせている。


そんな絹旗の頭を、浜面は慈しむようにゆっくりと撫でた。


焦らないですむように、自分の心とゆっくりと向き合えるように。


その手の温もりに助けられ、絹旗は呼吸を落ち着かせる。


何が成長した姿を見てもらう、だ。


少しだけ冷静になった頭で絹旗はひとりごちた。


一番伝えたい思いさえ、大好きな人の力を借りないと伝えることが出来ない。


そんな意気地無しが、どんな姿を見てもらえるというのだ。

441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/02(水) 00:09:04.65 ID:dVrl8ILn0


甘えてしまいそうになる心を必死で奮い立たせる。


それでも、それでもこれだけは伝えなければならない。


決意を固め、大きく息を吸うと、
絹旗はありったけの声で心の底からの願いをぶつけた。


「私の家族になって下さい!ずっと、ずっと一緒にいてください!」


「と、特別な事なんていらないんです!今の貴方で、今までの貴方で良いんです。」


「悪い所があったら直しますっ!だからっ、だからっ!」


「だからっ!だがらお願いします!これからもお兄ちゃんって呼ばせて下ざい!貴方の妹でい
ざぜで下さい!浜面仕上の妹でいさせてぐださいっ!」


言い終えると同時に絹旗は泣き崩れた。


もう言葉を発する余裕など無い。


溢れ出る感情に吹き飛ばされないよう、
絹旗は浜面に縋り付いて必死で耐えた。
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/02(水) 00:16:32.05 ID:dVrl8ILn0

そんな絹旗に浜面は労うような視線を送る。


良く頑張った。


自分の過去に、願いに、押し潰されそうになりながらも、
絹旗は自分に成長を見せてくれた。


その事が誇らしかった。


今度は自分の番だ。


応えてあげなければならない。


自分の家族に、世界でたった一人の、泣き虫な妹に。

「なあ絹旗。」

ゆっくりと浜面は口を開いた。

「ありがとうな。」

443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/02(水) 00:20:38.65 ID:dVrl8ILn0

「言いたい事は全部言われちまったけど…今日は本当に嬉しかった。」

「お前に兄妹だって言ってもらえて、素直な気持ちをぶつけてくれて、立派な姿を見せてくれて。」

「本当に嬉しかった、お前が妹で居てくれた事が誇らしかった。」


「だから絹旗、家族になろう。」


「これからも俺の妹になって欲しい、お前の兄にして欲しい。今日みたいな関係を、ずっとずっと続けていたい。」


「だから絹旗、今日から家族になろう。」

「どちらかがしてあげるんじゃなくて、二人でなるんだ…兄妹に。」

静かに、ゆっくりと、言い聞かせるように浜面は告げた。

絹旗の手を取るかのように、絹旗が伝え切れなかった願いを補うように。

二人が本当の家族になれるように。

絹旗だけの願いでない、と。

二人の共通の願いだ、と。
浜面ははっきりと、しかし、ゆっくりと告げた。

今の絹旗にでも伝わるように、今の絹旗が受け止められるように、ゆっくりと。
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/02(水) 00:24:01.01 ID:dVrl8ILn0



「うあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



浜面が言い終わるとほぼ同時に、絹旗の口から絶叫が溢れ出した。


小さな体を駆け巡る感情の激流は、歓喜と言う形をなす前に次々と漏れ出て行く。


いや、歓喜という言葉が正しいのかさえ定かではない。


解放感、虚脱感、高翌揚感、歓喜、感謝、
一言では表現しきれないだけの感情が、絹旗の口からただ叫び声となってほとばしっていった。


「お兄ちゃん、お兄ぢゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃんっ、お兄ちゃんっ!」


涙で歪んだ顔を向け、絹旗は何度も何度も浜面へと呼びかける。


「これからも映画に連れてって下さい!」

「高校の入学式にも絶対に来てください!」

「良い事をしたら褒めて下さい!」

「悪い事をしたら叱って下さい!

「ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっと一緒にいて下さい!」

そうしている間にも絹旗のお願いはどんどんと増えていった。
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/02(水) 00:28:38.23 ID:dVrl8ILn0


どれだけ増えても、どれだけ重ねても、
ささやかで、質素なありふれた願い。


どこの家庭でも口にする事無く叶えられていく願い。


そんな絹旗の願いを、浜面は一つ一つ受け入れていく。

飾り付けた言葉で返す訳では無い。

絹旗の願いの一つ一つに、
ほんの一言、ああ、と返すだけ。

それだけで充分だった。


それだけで絹旗の願いはしっかりと浜面の心に刻まれていった。
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/02(水) 00:30:26.53 ID:dVrl8ILn0


二人が抱き合う中、
不意に春の風が辺りに吹く。


巻き散った桜の花びらは渦となって二人を取り囲んだ。


まるで、二人だけの時間を守ろうとするかのように。


春の自然に祝福されながら、互いの温もりを感じられるように、
家族になれた喜びを分かち合う為に、
二人はいつまでもいつまでも抱き締めあうのであった。

447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/02(水) 00:32:22.87 ID:dVrl8ILn0

今日はとある中学校の卒業式。

特別なものじゃない、どの学校でも毎年行われる卒業式。

今日、多くの学生と同じように、一人の少女が旅立っていった。



彼女はほんの少しだけ大人になった。
この日旅立った、多くの学生達と同じように。

そして彼女はほんの少しだけ子供になった。
この日旅立った、多くの学生の中で、ただ一人だけ。
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/02(水) 00:36:14.48 ID:dVrl8ILn0
これで今回は終了になります。

軽く流すだけだったはずなのに、
随分待たせてしまって申し訳ない。

次は予告どおりフレンダ編です。

目標は一週間に一度、
少なくとも二週間以上は空かないようにするので宜しく。
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 00:37:53.35 ID:TrVKh3ROo


この話で此処の絹旗が一番好きになった
本当に乙
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 00:39:36.09 ID:hwop7fU2o
>そして彼女はほんの少しだけ子供になった。
>この日旅立った、多くの学生の中で、ただ一人だけ。

いいな。なんかこう言葉にはできないけど、すごくいい。
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 00:45:15.06 ID:RmyTiB5AO
いい最終回だった
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 00:48:53.83 ID:Hg+/6syh0
 なんという描写力……
ていうか絹旗可愛すぎだし、願いの切実さが何とも言えない……
浜面がマジでかっこよかった
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 01:40:54.73 ID:7l7kMJyAO
フレンダ編にも全力で期待
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 02:04:25.16 ID:gWp3V+DAO


書き手の愛を感じるな
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 03:14:24.38 ID:fE2DSpvM0


>>1は今までにない絹旗の可愛さを出してくれた
感謝している






( ^ω^)絹旗ペロペロ
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 03:37:13.53 ID:c4Umns5j0
乙!

本編の浜面はかっこいいけどここの浜面はさらにかっこいいな
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 23:43:59.63 ID:WAWUn7rDO
ちくしょう感動したぜ
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 02:27:34.67 ID:Xku9tomAO

スゲー良かったよ
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 20:47:25.37 ID:g+FMN33O0
>>1
そろそろ1週間がすぎるな
期待してまってるぜ
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 01:26:30.65 ID:Tqo5y2Py0
10年後とか新約のフレンダの妹はいい感じになってんだろうな
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 01:33:29.51 ID:oNpu5OYJo
>>460
俺は原作全く読まない人だからどうでも良いけど
何でネタバレするの?
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 21:15:35.13 ID:VvPu1QJi0
>>1そろそろ1週間だぜ

全裸待機中だ
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 22:20:04.18 ID:MXHKVKWA0
予告編しか見てないけど『FLOWERS』の仲間由紀恵がここの麦野のイメージと被る。
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/12(土) 19:25:08.21 ID:ulneDmWa0
>>1
地震大丈夫か?

まさかの北海道が>>1の地元でヤバイとかじゃないだろうな
生存報告早く頼むぜ
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 23:28:34.36 ID:m0MN8Bae0
みんな(特に>>1)大丈夫か?
まだ余震も続いてるし、気をつけろよ
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 06:09:22.46 ID:ht73OdwAO
地震のおかげで気持ち良かったし儲かった

禁書全巻買っちった
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 22:13:44.53 ID:wf2wHyx20
1です。とりあえず続きができましたので投下いたします。

支援してくれた方有難うございます。

心配させてしまった方は申し訳有りません。

地震の影響がある地域では無いのですが、
投下も無しで書き込むのもなんだと思って続き書くことに力を注いでました。

続きを投下しますが、フレンダルートの導入部分すら行って無いので気軽に読み飛ばしてください。
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 22:15:46.97 ID:wf2wHyx20


「良い話だね、何回聞いても…」


絹旗の話が終わると滝壺の口から呟きが漏れた。


二人の不器用な人間が、状況、風景、行事、様々な要因に助けられ、
お互いの素直な気持ちをぶつけ合った、掛け替えの無い思い出。


双方を深く知る彼女だからこそ、二人がどれだけ勇気を絞ったのかがありありと理解できた。


すやすやと眠る絹旗の頬を撫ぜながら、滝壺は慈しむ様な目を向ける。


「そうね、私もそう思えたんだろうね…」


「ふれんだ…?」


暗い口調のフレンダを不審に思い、
滝壺は絹旗から彼女へと目を移した。
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 22:17:27.49 ID:wf2wHyx20

「話の最中に、『もっと超真剣に聞きなさい。』って五回も殴られなければね。」


頭のあちこちにこぶを作り、不満そうに絹旗の頬を抓る彼女からは、
先程の話への感動など、微塵も感じられない。


「そういえばふれんだ何回か殴られてたね。」


話の途中で感極まったのだろう。


相槌を求めるように背中を叩くのはまだ大人しい方だ。


少しでも目を逸らそうなものなら文句を言われ、
話を遮ろうとすると容赦なく鉄拳が飛んでくる。

470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 22:18:04.25 ID:wf2wHyx20


能力こそ封じられているものの、痛いことには変わりがない。


更に困るのがいきなり泣き出す事だ。


勝手に盛り上がって号泣されてしまうと、怒るタイミングを逃してしまう。


結局フレンダは反撃する事も出来ず、
ただただ絹旗の惚気話を最後まで聞くしかなかったのであった。

471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 22:20:42.84 ID:wf2wHyx20


「しっかし、絹旗も飽きないねー、この話するの。」


呆れた様に絹旗の頬を突きながらフレンダは滝壺に話しかける。


「それだけ大切な思い出だって事だよ、きぬはたにとって。」


絹旗を弁護しながら、滝壺はフレンダのコブを優しく擦った。

それでもフレンダの不満を解消する事は出来ない。

滝壺の手に甘えるような素振りを見せながらも、フレンダの愚痴は続く。


「結局この話なんて八年で百回以上は聞かされてる訳よ。」


この回数はあながち誇張でもない。

今回のような飲み会で話すのはしょっちゅうで、
酷い時は浜面の膝の上で甘えながら話して来る。

一々腹を立てる程の事でもないが、悔しいことには変わりがなかった。
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 22:21:28.65 ID:wf2wHyx20

昔の思い出にまで腹を立てている内に、
フレンダはある事に思い当たる。

絹旗は帰ってきた麦野に対しても、同じように話すだろうか。

いや間違いない、この甘えん坊は話してしまうだろう、
十年間想い人と離れ離れになっていた女性でもお構いなしに。

だがあの嫉妬深い麦野の事だ、黙って聞いている筈がない。

怒り狂った麦野にお仕置きされる絹旗を想像し、
ようやくフレンダは溜飲を下げる事ができた。
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 22:22:18.58 ID:wf2wHyx20


「浜面との間に大切な思い出があるのはあんただけじゃ無いんだぞー。」


それでも嫉妬心を完全に消すことは出来なかったようだ。

殴られた恨みを晴らすかのように、
彼女は抵抗できない絹旗の頬を縦に横にと引っ張る。

だが余程深く眠っているのだろう、
絹旗は起きるどころか苦しそうな素振りすら見せない。

安らかな寝息が居酒屋の雑音に溶け込む中、
フレンダは何の反応も返さない絹旗の頬を無言で弄り続けた。
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 22:24:40.12 ID:wf2wHyx20
だがそれもしばらくの事。

「さて、じゃあそろそろ帰りますか。」

満足したのか飽きたのか、弄る手を止めると、
フレンダは滝壺に声をかける。

「うん、きぬはたもしばらく起きないだろうしね。」

その言葉に頷くと、滝壺は上着を羽織りながら立ち上がった。
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 22:25:41.16 ID:wf2wHyx20


「いつもありがとうございます、お気をつけてー。」


店員の言葉を背に受け、三人は店の外へと出る。

吹き付ける冬の夜風に、フレンダの背で眠る絹旗が身を震わせた。

起きてくれたのかと期待したのも束の間、
背中からは何事も無かったかのように、絹旗の寝息が聞こえてくる。

呆れたようについた溜息は、大きな靄となって辺りに広がった。


「結局いつもこうなる訳よ。」


うんざりした口調で話すフレンダだったが、
絹旗を放置するつもりも無いらしい。

よいしょと言う掛け声と共に、
ずり下がってきていた絹旗の体を押し上げる。
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 22:29:35.52 ID:wf2wHyx20


「いつもありがとう、ふれんだ。」


滝壺の感謝に苦笑いを返すと、
フレンダは絹旗の家に向かって歩きだした。


「その言葉はこの末っ子から言われたいんだけどね。」

「大丈夫だよ、きっときぬはたもそう思ってるから。」


愚痴をこぼすフレンダとそれを慰める滝壺、
そんな二人の間に、絹旗の寝言が紛れ込む。


「お…ちゃ…ん。」


途切れ途切れに言葉を漏らしながら、
絹旗は甘えるようにフレンダの背中に身を擦り付ける。
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 22:32:15.53 ID:Dzyf7QoN0
>>469
リコーのフレンダの呼び方は「ふれんだ」じゃなくて「フレンダ」じゃなかったか
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 22:32:33.52 ID:wf2wHyx20

「ね?」

同意を求める滝壺の言葉に、フレンダは満更でもない笑みを見せた。


「結局、末っ子の面倒を見るのがお姉さんの役目な訳よね。」


得意気に胸を張る彼女の頭に、滝壺の手が添えられる。


「偉いね、ふれんだ、いいこいいこ。」

「えへへ。」


くすぐったさに身を捩らせながらも、
フレンダの表情はどこか誇らしげであった。

そんな中、再び絹旗の口から寝言が漏れ出る。

その言葉は先程よりも明瞭であり、
二人の耳に誤魔化すことが出来ない程、はっきりと届いた。
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 22:38:24.14 ID:wf2wHyx20
>>477

も、申し訳ない、記憶違いだったかも…

とりあえず今は確認できないんで今回の投下はこのままでやらせていただきます。
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 22:38:27.15 ID:7E/8fhWq0
絹旗「onちゃん」
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 22:39:25.98 ID:wf2wHyx20



「仕上お兄ちゃんの背中、超温かいです。」



その言葉に思わず滝壺の表情が固まる。

ついつい目を逸らしてしまったがため、
フレンダの表情は滝壺からは窺うことは出来ない。

かける言葉が見つからないまま、
ただ絹旗の寝息だけが空しく響く。


「ふ、ふれんだ、その。」

「ねえ…」


形だけでも慰めの言葉をかけようとする滝壺だったが、
余りにも悲しいその試みは、フレンダの言葉によって遮られてしまった。


「ねえ滝壺、私の背中って、浜面と同じ位たくましいのかな。」

482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 22:40:57.97 ID:wf2wHyx20


寂しそうにこぼす彼女の頭に、滝壺は再び手を添える。

込められた思いは随分違っているが、フレンダを慰めるという目的には変わりがない。


「だ、大丈夫だよ、私ははまづらと同じ位頼りにされてるふれんだを応援してる。」


どうにか慰めの言葉を口にするが、どれだけの効果があったのだろう。

がっくりと肩を落とすと、フレンダは再び家に向かって足を進める。

その背中から漂う哀愁に驚きながらも、滝壺は慌てて後を追いかけた。
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 22:41:23.69 ID:wf2wHyx20


隣に並んだ滝壺に、フレンダは哀愁を漂わせながら愚痴をこぼす。


そんなフレンダに滝壺は一言一言慰めの言葉を返す。


愚痴るフレンダと慰める滝壺。


浜面と出会う以前からのこのやりとりは、
今日のこの日も、二人が家にたどり着くまで繰り返された。

484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 22:44:35.89 ID:wf2wHyx20
とりあえず今回はこれで以上になります。

投下ペースも進行速度も非常に遅いですが、
どうか長い目で見てやってください。
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 22:50:42.58 ID:hKxpSfGAO
お疲れさま。待ってるよ。
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 23:01:12.77 ID:HvbfxqOTo
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 03:32:47.17 ID:SoUmD3JI0


ところで>>1はフレメアは出す予定はなし?
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 14:28:29.13 ID:P8y9mDQV0
>>487

フレメアに関しては今のところ予定は無いです。

出るとしても多分ちょい役だと思います。


フレメアに嫉妬する絹旗とかも思いついたんですが、
流石に今からメインルートに入れるにはちょっと難しいかなと。
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 22:15:56.42 ID:ujPBiEDz0
>>488
浜面・フレメアコンビの駒場さんへのお墓参りがあるじゃないか!


いや、予定ないなら別にいいんよ?
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/14(月) 23:40:36.24 ID:BeV41ArU0
やばい、アイテムの皆が可愛すぎて…"とある"のアイテムの出る部分だけ全部読み返しちゃいそうだ…
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 01:21:03.48 ID:buZfb7DAO
>>490
やめておけ
絶望するぞ
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage saga ]:2011/03/20(日) 00:20:32.92 ID:OHDmH8Bl0
いや、オリジナルは読んでおいた方が良いと思うな
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/21(月) 10:56:02.60 ID:ass/d71G0
>>1マダー?
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/03/24(木) 00:08:03.51 ID:d0quUUZl0
>>492
けっこうエグいけどな
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/26(土) 22:47:33.75 ID:gDCwgDvC0
そろそろ>>1きてくれよ
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:18:55.30 ID:cpYs0k4B0
遅れてしまって申し訳ありません、
卒業式やら引越しやらでどんどん先延ばしになってしまいました。

とりあえずフレンダ編の入り口ぐらいは書けましたので、投下させて頂きます。
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:20:19.06 ID:cpYs0k4B0


「あー疲れた。」


絹旗を寝かしつけたフレンダが、滝壺の待つリビングに肩を回しながら現れる。


「お疲れ様、フレンダ。」


気だるそうな表情を浮かべるフレンダに労いの言葉をかけ、
滝壺はコップに注いだ冷水を渡す。

フレンダはそれを無言で受け取ると、
有り難そうに飲み干した。
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:21:05.92 ID:cpYs0k4B0

空になったフレンダのコップを受け取ると、
滝壺は再び冷水をコップに注ぐ。

滝壺の気遣いに一言礼を述べると、
フレンダはいそいそと炬燵に潜り込んだ。

まるで我が家の様にくつろいでいるが、この家に住んでいる訳ではない。

浜面、滝壺、絹旗、同居する三人とは別に、彼女は住居を借りていた。

別に彼等から距離をとっているという訳では無い。

彼女自身、週に5日以上はこの家に泊まりに来ており、
一つしか無い客間は実質的には彼女の部屋と化していた。

にもかかわらず他に家を借りているのは彼女なりの気遣いであろう。
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:25:37.65 ID:cpYs0k4B0

自らの決意の脆さに思わず自嘲の笑みがこぼれた。

いぶかしがる滝壺に、なんでもない、と言葉を返す。

炬燵の温もりに浸りながら、フレンダはふと麦野が過ごした十年間に思いを馳せた。

最愛の人の側で暮らし、共に励まし合える仲間と過ごしたこの十年は、
彼女にとって心の底から幸せだったと言える期間である。

だが、その環境を受け入れるには、彼女なりの妥協があった。

愛する人の側にいながら、その思いを明かす事無く、他の形で繋がりを求める。

それは恋敵として滝壺に挑むよりも、
妹として浜面の家族となる事を選んだ絹旗に似ていた。

恋人ではなく、仲間として、相棒として、
滝壺とも絹旗とも違う関係をフレンダは甘受したのである。
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:27:46.32 ID:cpYs0k4B0

しかしながら、それは浜面への想いを押し込める事に他ならない。

それでもフレンダは幸せであったし、
今の関係を否定するつもりも無い。

だが、麦野にはそれが出来なかった。
浜面への気持ちを諦める事も、恋敵として滝壺に挑む事も。
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:28:30.28 ID:cpYs0k4B0
ならば、想いを抱いて逃げた果てに何があっただろうか。
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:29:21.41 ID:cpYs0k4B0

失恋の痛手など所詮は数年で癒されるものだ。
まして他の関係を築き、友人として大切に扱ってもらえるのならば尚更であろう。

答えは驚く程簡単に出た。

想いを遂げられぬ空しさ、愛する人の側に居られない孤独。

自らの失恋と引き換えに得た安息の変わりに、
麦野はそれらの苦難を味わい続けたのだ。

幾度眠れぬ夜を過ごしただろう、何度浜面の名前を口にしただろう。

幸せな時に浸ってきたフレンダにとって、
麦野の過ごした十年は酷く寒々しいものに感じた。
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:30:39.19 ID:cpYs0k4B0

ふと窓の外に目を向けて見る。

当たり前の様に広がる夜の闇。

冬の透き通った空気の中で、
闇は一層その深さを増していた。

自分もかつてはあの中にいたのだな。

どこか他人事の様にフレンダは自分の過去を振り返る。
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:31:52.34 ID:cpYs0k4B0

だが、狂騒的ですらあった自分の前半生が、
どこまでも広がるこの深い闇の中に存在したとは思えない。

むしろ暗部から解き放たれた麦野の日々こそ、
この光景に相応しいものではないだろうか。

闇の中にただ一人でうずくまる麦野の姿が浮かぶ。

その姿は、ともすれば風の一吹きで消えてしまいそうなほど儚げなものだった。




いや、或いはそれが麦野の願いだったのかもしれない。



誰にも知られることの無い場所で、浜面への思慕のみと共に消えていく、



ただそれこそが。


505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:32:35.05 ID:cpYs0k4B0


「フレンダ?」


思索に耽るフレンダの耳に、不意に滝壺の言葉が届いた。


「な、何?」


意識の外からの言葉に、思わず返す言葉が上擦る。


「ううん、大丈夫かなって思って。」


質問の意味が掴めないで居るフレンダを他所に、滝壺は言葉を続けた。


「フレンダ、凄く辛そうな顔してたから。」


その言葉を聞くと、フレンダはばつの悪そうな表情を浮かべて頭を掻く。
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:33:18.66 ID:cpYs0k4B0


「ごめん、その…」


麦野の事を考えていた。

正直に言う訳にもいかず、
フレンダは言を左右にして滝壺の疑問をかわす。

ありがたい事に滝壺の方でも深く追求する気は無いらしい。

フレンダとの会話を打ち切ると、
彼女は炬燵から這い出し、無言で台所の方へと歩いていった。

その後姿をぼんやりと見ながら、フレンダは再び思考を巡らす。
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:34:35.70 ID:cpYs0k4B0


何はともあれ、そんな麦野が帰ってくる。
磨耗しきった心に、浜面への想いを抱いたまま。


そんな彼女に私は何が出来るだろうか。


友人として、仲間として。


心を癒すのは浜面の役目、ならば自分は?


一つ一つ指を折って数えようとしたが、
不思議な事に一向に浮かんでこない。


いや、浮かんで来ることは来るのだが、
浮かんだ端からこれなら浜面が担った方が良いと思ってしまうのである。
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:36:31.54 ID:cpYs0k4B0


結果残ったものと言えば、距離を置いて見守るという事だけ。



ああ、良いさ。



ちらりと浮かんだ浜面への嫉妬を振り払うと、
フレンダは半ば自棄になりながら結論を出す。


見守るしか出来ないなら見守れば良い。

結局は皆が新生活に慣れるまでの保険じゃないか。

別に浜面への想いを諦める訳でも無いのだから。

509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:37:15.88 ID:cpYs0k4B0


だから待とう、

麦野沈利が、幸せな日常を受け入れるようになるまで、

絹旗最愛が、新たな関係を冷静に受け入れられるようになるまで、

滝壺理后が、他の女性に恋人の想いが注がれるのを真に受け入れられるようになるまで、

浜面仕上が、彼を想う四人の女性全てを受け入れられるようになるまで。

その時まで、今度こそ。
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:37:45.31 ID:cpYs0k4B0

炬燵の暖に浸りながら、フレンダは密かに決意を固めていた。

そんな中、不意に頭上から声がかかる。


「フレンダ、良かったら飲み直さない?」


いつのまにか滝壺が戻っていたようだ。

頭を起こして見ると、滝壺の顔よりも先に、
彼女が持って来たお盆が目に入った。

簡単なつまみにグラスが二つ、側には充分に冷やされた日本酒も乗せられている。

その申し出に、フレンダは少なからず驚きを覚える。

滝壺がこういう事を言い出すのは非常に珍しい。
少なくともフレンダには思い当らなかった。
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:38:49.78 ID:cpYs0k4B0

とはいえ断る理由もない。
滝壺の申し出に同意すると、体を起こしてグラスを手に取る。

滝壺は机上に手早くつまみを並べ終わると、
フレンダのグラスに酒を向けた。

とくとくと小気味良い音を立て、
フレンダのグラスに酒が注がれる。

満たされたグラスからは、酒香と冷気が交わり、
どこか艶かしい気配すら立ち上っている。

冷気に誘われるかのように、フレンダは酒を呷った。

炬燵で暖められた体の隅々に、酒の涼味が染み渡る。

体を満たす心地よさに、思わず頬が緩んだ。
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:40:01.61 ID:cpYs0k4B0

一息ついて滝壺の方を見てみると、
彼女は愉快そうな笑みを浮かべながら、こちらをじっと見つめている。

そこまでだらしない顔をしていたのだろうか、
とフレンダは慌てて顔を引き締める。


「でも珍しいね、滝壺の方から飲もうなんて言い出すの。」


恥ずかしさを紛らわすように、フレンダは勤めて明るく声をかけた。


「フレンダは全然飲めてなかったからね。」


言いながら滝壺も自分のグラスに酒を注ぐ。

滝壺の思いやりに感激しながらも、
フレンダはどこか釈然としないものを感じた。
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:42:01.39 ID:cpYs0k4B0

表情からどうにか真意を読み取ろうとするが、
滝壺理后はそこまで甘くは無い様だ。

その優しげな微笑からは何も読み取ることが出来なかった。

フレンダは已む無く酒に意識を集中する。

滝壺は相変わらず優しげな微笑を浮かべており、
部屋には外の風の音だけが響いていた。
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:42:37.41 ID:cpYs0k4B0


「ねえ、今日はフレンダの話が聞きたいな。」


そんな中、唐突に滝壺が口を開いた。


「わ、私の話?」


その言葉に、フレンダの表情が凍り付く。


「うん、フレンダの話。」


滝壺は釘を刺すかのように、はっきりと繰り返した。


「そ、そうね、なら暗部に入るいきさ…」


それが狙いか、と心の中で毒づきながら、
フレンダはどうにか話を核心から逸らそうと試みる。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:44:00.91 ID:cpYs0k4B0


「フレンダ。」


逃げ道を塞ぐかの様に、滝壺はフレンダの名前を呼んだ。

その有無を言わさぬ口調にフレンダも観念したのだろう、
大きく溜息をつくと、困ったように頭を掻き毟る。


「結局、私と浜面の話なんて聞いても何にもおもしろく無い訳よ。」


滝壺から視線を逸らし、フレンダはつまらなそうに吐き捨てた。


「そんな事無いよ、私ははまづらとフレンダの大切な思い出、聞かせて欲しい。」


促すように励ます滝壺であったが、フレンダの口は重く、
もごもごと唸るだけで本題に入ろうとはしない。
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:45:30.01 ID:cpYs0k4B0


「それに、フレンダはきぬはたと違って、殆どはまづらとの昔話をしないから。」


「妹や恋人相手にそんな話しても悔しくなるだけだからね。」


不貞腐れたようにもう一つ溜息をすると、
フレンダは手元の酒を景気づけとばかりに飲み干した。

覚悟を決めた目で真っ直ぐ向き直ったフレンダに、
とうとう話してくれるのか、と滝壺の期待が高まる。

だがそれも儚い望みだったようだ、覚悟を決めた筈の目は直ぐに伏せられ、
炬燵の下では何かを誤魔化すかの様に手を所在無げに遊ばせている。

煮え切らないフレンダの態度に、滝壺の眼も自然と冷たいものとなる。


「もしかして、無いの?はまづらとの大切な思い出。」


これでは埒が明かないと感じたのだろう、
滝壺はどこか哀れむ様な口調でフレンダに尋ねた。
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:46:13.98 ID:cpYs0k4B0


「そ、そんな訳無いわよ!た、ただ、その…」


非常に分かりやすい挑発であったが、それでも効果は覿面である。

滝壺の言葉に反論するフレンダだったが、
その中には次の手への目印が曝け出されていた。


「ただ?」


滝壺はすかさずそれを捕らえ、次の言葉を引き出そうとする。

最早こうなってしまえば一本道だ。

最低限の反論を繰り返すだけでも、
いつかは答えを言わなければならないだろう。


「ただ、その…恥ずかしいし。」


どこか諦めたような声でフレンダはぽつりと漏らした。


「け、結局絹旗がおかしい訳よ、恥ずかしげも無く浜面に抱きしめて貰った話なんかしてさ。」

518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:47:11.05 ID:cpYs0k4B0

再びフレンダの視線が滝壺から逸らされた。

少し急ぎすぎただろうか。

滝壺は心の中で舌を出すと、フレンダの顔を覗き込む、

どうやらフレンダはすっかり拗ねてしまったようだ、
ぶつぶつと文句を言いながら恨めしそうに酒を舐めている。


「ごめんねフレンダ、ちょっと意地悪しすぎちゃった。」


素直に謝ると、フレンダの視線が僅かに滝壺の方へと戻された。

だが、それでも完全に許した訳では無いらしい。
じろりと滝壺を睨みつけると、嫌味たっぷりに愚痴をこぼす。
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:47:56.17 ID:cpYs0k4B0


「恋人相手に惚気話なんてしても惨めなだけなのに。」


「でもフレンダもはまづらの恋人になるんだよ。」


何時かは、という言葉を意図的に排除し、
滝壺はフレンダの最後の逃げ道を鮮やかに潰す。


「ああー、分かったわよ!どうせ私が話すまで諦めるつもりなんて無いんでしょ。」


その容赦ないやり口に、ようやくフレンダも観念したらしい、
真っ直ぐ正面に向き直ると、自らを奮い立たせるように胡坐を組む。

どうせ大よその話は知ってる癖にと、恨めしそうに捨て台詞を吐くと、
フレンダは彼女の人生における最も大切な思い出を、頗るつまらなそうに話し始めた。

520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/01(金) 00:52:05.15 ID:cpYs0k4B0
今回はこれで以上になります。

急いで書いたので、読みにくい部分など多々あるかもしれません…

次回の投下は今回ほど間を空けずに出来ると思いますので、どうか宜しくお願いします。

521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/01(金) 01:01:50.40 ID:n09TinkL0

結局、フレンダ編が一番楽しみだったわけよ

大体、待ちきれなくなると思う。にゃあ


522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/04/01(金) 04:04:37.60 ID:ym/1WisAO
新生活おめでとう。

つづき楽しみにしてます。
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/04/01(金) 13:30:54.69 ID:FgdIy+HNo
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/13(水) 21:09:37.40 ID:Joe0iqSh0
>>1
はやくきてくれー
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:05:28.63 ID:DYpQOAo40
>>521

今回は少しだけ暗くなりますが、次はなるべく明るい話になるように頑張ります…

>>522

有難うございます!

思った以上に色々な事に時間が取られてますが、
なるべく投下ペースを速めて行きたいと思います。

526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:07:02.49 ID:DYpQOAo40
>>534

待たせて申し訳ない…9時ぐらいには投稿できるはずだったのに…
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/13(水) 23:09:08.83 ID:DYpQOAo40
では投下させて頂きます。

528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:10:21.71 ID:DYpQOAo40


学園都市を取り巻く闇や、それに相対する魔術勢力との戦いは、
三人のヒーローや、彼らの戦友達の尽力によって終わりを告げた。


世界の命運すら賭けられたこの戦いは、歴史の影に潜められ、
功労者である彼らには何の名声や賞賛も与えられる事は無かった。


だが、彼等は戦いの中で、それを差し引いても充分過ぎるほどの宝物を手に入れていた。


或る者は、自分の魂すら委ねられるほどの親友を。

或る者は、生涯を共に歩む恋人を。

或る者は、安らぎを与え合える家族を。

或る者は夢を、或る者は幸せを、或る者は強さを、
各々の戦いの中で手に入れていった。


彼等はまさしく勝者であった。

529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:11:23.40 ID:DYpQOAo40


そんな勝者達の輪から外れ、フレンダ・セイヴェルンは独り病室に居た。


誇りを失い、仲間を失い、自分の身体すら失い、フレンダ・セイヴェルンは独り病室に居た。


ベッドの上に横たわる彼女の顔からは生気が失われ、
天井に向けられた目は定点を持つ事無く彷徨っている。


自分は何をしているのだろう。


おぼろげな意識の中、フレンダは思考を巡らせた。

足を除けば、自分の体には何の異常も無い。

その足ですら、学園都市の技術力をもってすれば、
直ちに代用品を得ることが出来るだろう。

ならば何故自分はそうしないのか。

530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:12:34.02 ID:DYpQOAo40

分かりきった答えを出すのに、フレンダは一日の時間を要した。


足を得たとしても、自分には行く場所が無いのだ。



そういえばそうだったっけ。



辿りついた答えに、フレンダは何処か人事のような感慨を抱いた。

頭の中に、幾人かの顔が浮かぶ。

絹旗最愛、滝壺理后、浜面仕上、そして麦野沈利。

かつて、互いの命を預けあった仲間達。

彼等のその後を風の噂で聞いた。

浜面と麦野との三度に渡る死闘、ロシアでの活躍、
学園都市の闇との死闘、そして勝利。

その中で、浜面はヒーローと呼ばれるようになったらしい。

531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:13:13.40 ID:DYpQOAo40

ヒーロー。


英雄。


他人の希望となれる、光の象徴。

闇の中で生きた自分に、自分達にとって、何と遠い存在なのだろう。

ふと、フレンダは外に目を向けた。

暗い病室の外、太陽の光の下で、子供達が元気に遊んでいる。

ここからでは良く見えないが、
手に持っているものは恐らく変身ヒーローの人形だろう。

532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:14:28.56 ID:DYpQOAo40


強く、優しく、迷わず、凛々しく、子供達が憧れる、正義のヒーロー。


そんな理想のヒーロー像に、無理矢理浜面の姿を当て嵌めてみる。


ヒーローとなった浜面に、悪の組織に捕らわれた自分が助けられるのだ。


それからは二人で一緒に戦うだろうか、
或いはヒーローの帰りを待ちわびているだろうか。


頭の中に浮かんだ幼子の様な夢想に、フレンダは没頭していく。


決して実現する事の無い、遥か遠くの夢物語。


彼女に残されたのは、ただそれにすがり続ける事だけなのである。

533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:15:42.49 ID:DYpQOAo40


それから何時間が過ぎただろうか、
存在しない筈の足から送られた疼痛により、
フレンダは現実へと引き戻される。

歪んだ顔は苦痛の為だろうか、
夢から覚めた彼女は、再びこれからの虚ろな人生に思いを巡らせた。

成すべき事もなく、行くべき場所もなく、ただただ寝床の中で夢に浸る。

そのような人生に、一体何の意味が有るというのだろうか。

答えを出せないまま、今日も陽が沈んでゆく。

534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:16:15.67 ID:DYpQOAo40




そうだ、死ぬというのはどうだろう。



535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:17:34.44 ID:DYpQOAo40


日没と共に、フレンダは一つの答えに辿りつく。

ふと思いついた考えは、驚く程抵抗無く受け入れられた。

何故このような事に気付かなかったのだ。

最早自分に生きている意味など無い。

ならば死んでしまうのが筋というものだろう。

フレンダの顔が再び歪む。

どこか狂喜すら感じさせる歪みの中から、
乾いた笑い声が間断なく発せられた。
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:18:40.73 ID:DYpQOAo40


夜の病室でただ一人、生気の失われた女性がけらけらと笑い声をあげる。
そんな異常な光景は外からのノックによって打ち破られた。


笑い声を止め、フレンダは扉の方に目を向ける。


ゆっくりと扉が開くと、夕食を携えた看護婦が部屋の中へ入ってきた。

怪しむような様子が感じられない所を見ると、
幸いにも先程の笑い声は聞かれていなかったようだ。


自分を元気づけようとしているのだろう。
一日中働いているというのに疲れた素振りすら見せず、
にこやかに笑いながら、様々の話題を投げかけてきた。

537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:19:27.22 ID:DYpQOAo40


善い人だ。


彼女だけでは無い。

他の看護婦も、自分を助けてくれた医師も、
医療に従事する人間の鏡というべき存在だった。

生きていく資格が無いからといって、安易に自殺などすれば、
彼等に迷惑をかけてしまうだろうし、あろう事か罪悪感すら感じさせてしまうだろう。

それだけは避けなければならない。

フレンダは夕食を食べながら、密かに自らの死についての方針を固めた。
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:21:08.73 ID:DYpQOAo40


食べ終えた夕食を片付けると、看護婦は名残惜しそうに病室を後にする。

閉められたドアをぼんやりと見ている内に、フレンダはある人物を思い出した。

フレメア・セイヴェルン。

この世に残った、ただ一人の妹の事を。

フレメアの事を考えるのはいつ以来になるだろう。

闇に生きる人間にとって、家族との繋がりは弱点以外の何者でもない。

暗部に堕ちた際に自分もフレメアとの縁を切らざるを得なかった。

539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:21:49.95 ID:DYpQOAo40


とは言えたった一人の妹だ。
当然ながら、何度も会いに行こうと思った。

だが、自分の手が血で染まっていく内に、不思議とそのような感情は消えていった。

自分には合う資格が無い。
自分は昔とは変わってしまった。

そんな悔悟の気持ちを持つ事無く、
ただ妹を求める気持ちが失せていったのである。


「ごめんね、フレメア。」


フレンダの口から、静かに詫びの言葉が漏れた。


「結局、本当に駄目なお姉ちゃんだった訳よ。」

540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:27:20.70 ID:DYpQOAo40

幸いと言えば良いのだろうか、
死の決意と共に、肉親への想いが甦って来たらしい。

姉としての役目を果たせなかった後悔と、
妹に対する謝罪の念が押し寄せてくる。

何かフレメアにして上げられる事はないだろうか。

そんな中で、ふとその様な想いが湧き上がってきた。

不具の身にはいささか過ぎた願いではあるが、
どうせならば果たしてから死んだほうが良い。

そう心に決めると、フレンダは思い出したかの様に、側の棚を漁った。

目的のものは、直ぐに見つけ出すことが出来た。

汚れ仕事の報酬で膨れた預金通帳だ。


入院生活で幾分か目減りしたものの、
それでも充分すぎる程の額が残されている。

これをフレメアに送るとしよう。
月並みではあるが、決して迷惑になる事も無いだろう。
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:28:19.22 ID:DYpQOAo40


ついでとばかりに信じる事を辞めて久しい神へと、都合の良い願いを述べる。

自分の死で、これを綺麗なお金に換えてください、
フレメアを幸せにしてあげてください、と。

夜の帳の中、フレンダは静かに祈った。

フレンダが真っ当な人間に育ってくれるよう、
多くの人に支えられるよう、明るい青春を過ごせるよう、
素敵な男性と結ばれるよう、幸せな家庭を築けるよう。

そして、自分の事を早く忘れるよう、静かに祈りを捧げた。

祈り終えたフレンダの口から、
思わず安堵の笑みがこぼれる。

542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:29:00.59 ID:DYpQOAo40


「結局、これでもう何も無い訳よ。」


もう忘れ物は無い。
後はただ死ぬだけだ。

焦る事は無い、時間は十分にある。

ゆっくりと死んでいけいばいい。

心を、体を、ゆっくり、ゆっくりと殺していこう。

そう決意すると、フレンダは死に向かうかのように、目を閉じた。

543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:32:11.01 ID:DYpQOAo40
今回はこれで以上になります。

フレメアの名前を出しましたが、
今後出るとしてもサブキャラ的な扱いになると思います。

次は十日以内、出来れば一週間以内を目標に投下します。
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/04/13(水) 23:34:23.45 ID:x3H72TLao
乙!!
ここからどう立ち直るのだろうか

>>541
>フレンダが真っ当な人間に育ってくれるよう、
ここはフレメアかな
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/04/13(水) 23:34:46.66 ID:Woi2nheAO
続きが気になる。
待ってます。
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/13(水) 23:36:45.70 ID:+lheq66j0
乙!
切断されたのは足だけって事か
原作じゃ下半身丸ごと持ってかれてたが
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/13(水) 23:49:21.17 ID:DYpQOAo40
>>544

申し訳ない…その通りです。

書いてる最中でも何回も間違えました。

確認したから大丈夫だと思ったのに…

>>546

浜面もどこまで切断されたか確認出来なかったでしょうし、
足全体なら下半身を切断されたと言ってもギリギリ大丈夫?

という事で、幸運にも足だけ切られて生き延びたって事にしておいて下さい。
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/14(木) 02:39:53.17 ID:6Ty5b2XMo
最低限生命維持に必要な組織だけ再生治療した、とかが妥当な所か?wwwwww
更新頻度が高くないだけに続きが気になる
SS速報で一番楽しみにしているSSかもしれん乙
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 19:09:29.54 ID:vL2VhKMw0
まだー?
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:12:50.89 ID:kXTh3k8U0
投下予告も大幅にオーバー…

どうしてこうなった。

とはいえ続きができたので投下します。
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:13:27.35 ID:kXTh3k8U0
その日、フレンダは夢を見た。

夢の中、彼女は独り暗いトンネルを駆け抜けている。

時々後ろを振り返っているところからすると、
恐らく何かから逃げようとしているのだろう。

息を切らせながらも、フレンダは速度を緩める素振りを見せない。

その表情は恐怖と焦りに満たされ、ほんの僅かな余裕も感じられなかった。

トンネルを走るうちに、フレンダは三叉路へと差し掛かる。

彼女は迷う事無く右に飛び込むと、
懐に隠した人形を元来た道への天井へと放り投げた。

人形が天井に触れる瞬間を見計らうと、
フレンダは衝撃から身を守るように、壁にもたれ掛かって身を竦める。
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:14:52.40 ID:kXTh3k8U0
次の瞬間、トンネルに共鳴した轟音と共に、
強烈な閃光と爆風が背中を叩いた。

押し寄せる衝撃から、吹き飛ばされそうになる体を必死で押し留める。

爆弾の威力は把握していたが、屋内での使用は想定外だ。

余波はどうにか耐えられるにしても、飛来する破片から身を守れる確証はなかった。

子供の頭部程もあるコンクリートの塊が、次々と周囲に突き刺さる中、
彼女は怯えたように身を竦ませ、爆風の猛威が通り過ぎるのを待ち続けた。

爆発が収まると、フレンダは舞い上がる粉塵の中でゆっくりと立ち上がる。

衝撃の余韻にふらつきながら、
彼女は少しでも前に進もうと、一歩、二歩と足を進めた。

ふと足を止め、彼女は後ろを振り返る。
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:15:48.11 ID:kXTh3k8U0
通って来た道は完全に瓦礫で埋もれており、
先程の爆発がどれだけ凄まじいものであったかを物語っていた。

これで時間稼ぎは出来た筈だ。

そう目算をつけると、フレンダは自らの心を奮い立たせ、
再び駆け出そうと地面を蹴った。

あとはこの先にある出口から地上へと戻るだけだ。

街の人ごみに紛れれば無事に仲間たちの元に戻れるだろう。

目標の地点を視界に捉え、逸る心は走る速度を加速させて行く。

あと10メートル、あと5メートル。

出口までの距離が3メートルにまで縮んだところで、
フレンダの顔から安堵の笑みが漏れる。
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:16:19.09 ID:kXTh3k8U0

だが次の瞬間、その笑みは文字通り歪む事となった。

全速力で走るフレンダの顔面へ、唐突に『何か』がめり込む。

めきめきと嫌な音を立て、頬や額の骨へと衝撃が伝播していった。

なまじ速度が付いていた分、被害は顔面だけに留まらない。

顔に遅れて体が前方の『何か』へと衝突し、
彼女は弾かれるように地面へと叩きつけられた。

「あ…え?」

始め、フレンダは自分に何が起こったのか理解できなかった。

半ば反射的に、肘を支えにして体を起こそうとするが、
全身に走る激痛がその試みを妨げている。
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:17:23.66 ID:kXTh3k8U0

戸惑いの呟きが漏れる中、目の前の床に一滴二滴と血が零れ落ちた。

血を見ることで、ほんの少しだが冷静さを取り戻す。

弾き飛ばされる感触や、体に残る痛みから推察するに、
おそらく自分は何らかの壁に激突したのだろう。

自らの顔があった高さに目を向けて見れば、血が生々しくこびりついており、
不可視の障壁が確かに存在することを示していた。

恐る恐る手を伸ばすと、指先に硬質な壁の感触が伝わる。

「え…な、何よこれ。」

大まかな状況は把握できたが、それは新たな混乱を生み出す効果しか無い。

556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:17:58.86 ID:kXTh3k8U0

何故ここに壁があるのか、出口は塞がれているのか、
手持ちの武器で破壊は可能なのか。

それらの疑問から目を背け、フレンダは目の前の壁に拳を叩きつけた。

だが、全速力の突進すら弾き返した壁にはさしたる効果は見られない。

次に懐から電気カッターを取り出し壁を焼ききろうとするが、
こちらも傷一つつけることは出来なかった。

一瞬落胆の表情を浮かべるフレンダであったが、
再び表情を引き締め、本格的な壁の爆破作業の準備に取り掛かる。

ありったけの爆弾を壁の一点に集中させると、
そこに通じるように爆薬テープで導火線を作る。

最早出し惜しみする必要もない。

最大威力の爆弾こそ無いものの、一点爆破にはこれが最も有効な筈だ。
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:18:29.47 ID:kXTh3k8U0

爆薬テープの反対側に立ち、両足を開いて前方の壁を睨みつける。

手に持った電気カッターを逆手に持ち直すと、
反対側の手でスカートの中から携行型のミサイルを取り出した。

これで準備は完了だ。
あとの問題はタイミングだけ。

フレンダは心を落ち着かせるように深呼吸をすると、
前方の障壁を両の眼でしっかりと睨みつける。

一瞬の後、フレンダは障壁に向かって手持ちのミサイル全てを発射した。

壁に向かい一直線に飛んでいくミサイルを見ながら、脳内で時間の誤差を修正する。

狙うは着弾と同時の爆発。

コンマ一秒のずれですら、破壊力に多大な差を生じさせてしまうだろう。

逸る気持ちや迷いを抑え、只じっとその瞬間を待つ。
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:19:53.92 ID:kXTh3k8U0

発射から3.8秒、ミサイルは行程の八割を過ぎようとしていた。

自らの経験で割り出した着弾時間を見計らい、
フレンダは大上段から電気ナイフを導火線の始点へと突き降ろす。

瞬く間に火花が導火線の上を走り、先行するミサイルの後を追いかけてゆく。

両者の光が直線に並んだまさにその瞬間、
ミサイルは障壁に、火花は仕掛けられた爆弾へ、全くの同時に突き刺さった。

轟音と共に大爆発が巻き起こる。

破壊力が一点に集中するように仕掛けた分、先程の爆発に比べれば余波の影響は少ない。

熱風を頬に感じながら、フレンダはゆっくりと歩を進めようとする。

だが、一歩目を踏み出す前に、全身を強烈な虚脱感が襲った。

とっさに両手を膝につき、自分の体を支える。

どうにか倒れる事は免れたが、直ぐに歩き出せるような余裕は無い。

肩で大きく息をしながら、消耗した気力を回復させる。
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:20:30.74 ID:kXTh3k8U0

前方に目を向けて見るものの、
元が透明であるだけに破壊に成功したかどうかは判断できない。

フレンダは三度四度と深呼吸を繰り返すと、
額に浮かんだ玉のような汗を拭って歩き始めた。

どうにか爆心地の手前まで辿り付くと、
彼女は再び深呼吸をする。

絶対に大丈夫だ。

あれは現状で出せる最大の破壊力だった。

だから大丈夫だ。

根拠の無い答えで、強引に自らの不安を押しつぶすと、
破壊できた筈の障壁にゆっくりと手を伸ばした。
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:20:57.40 ID:kXTh3k8U0



だが、暗部で生きてきた彼女が、
『頑張ったから大丈夫』という安易な結論に縋った時点で、
答えは見えていたのかもしれない。


561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:24:27.67 ID:kXTh3k8U0

伸ばした指の先に伝わる感触、
それは不可視の障壁が先程と変わらず存在している事を雄弁に物語っていた。

心のどこかで予想していた結果、
だが、それはフレンダには受け入れがたいものであった。

障壁の前にがっくりと膝を落とすと、
何かにとりつかれたの様に壁の至る所に手を這わす。

完全な破壊は出来なくとも、せめてひびぐらいなら入っているのではないか。

僅かな可能性を胸に、必死に壁のほころびを探す。

しかし、どれだけ手を這わしても、
ほんの僅かのひびすら見つけだす事はできなかった。

残酷なまでの現実に、目を背け続けた答えを否応なしに直視させられる。
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:24:58.69 ID:kXTh3k8U0

「い…や、嫌、いや、嫌。」

否定の言葉を口にし、フレンダは狂ったように拳を壁に打ち付けた。

皮が破れ、血が流れ出しても彼女の手は止まらない。

だが不幸な事に、そこまで錯乱しても、
彼女の脳から突きつけられた答えが消え去る事は無かった、

フレンダは職業上の事情や戦闘スタイルなどの理由から、
罠等に活用できる素材や武器に関する知識は豊富であり、
学園都市の最新技術に関しても積極的に情報を取り入れている。

だが、そんな彼女の知識を総動員しても、
この障壁を構成する物質はおろか、
それに類似したものすら思い浮かばなかった。
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:25:30.35 ID:kXTh3k8U0

ならばこの物質は何なのか。

答えは単純だ。

学園都市の最新技術をもってしても作り出すことの出来ない物質。

そんな物はこの世に存在しない。

どれだけ確かにあろうとも、この障壁が存在している筈が無いのだ。

この世に存在しない物質が自分の行く手を塞いでいる。

本来なら有り得ないその答えは、
しかし、フレンダを最も絶望させる答えだった。
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:26:56.06 ID:kXTh3k8U0

打ち付ける手を止め、呆然とした面持ちでうな垂れる。

そんな彼女の背後で、不意に轟音が鳴り響く。

咄嗟に振り向いてみれば、通路を塞いでいた筈の瓦礫の山が、跡形も無く消え去っていた。

遮るものの無くなったトンネルに、今度は人間の足音が響く。

僅かな焦りも感じさせず悠然と歩くその足音は、
恐怖に慄くフレンダとは対照的であった。

怯えるばかりで何の行動も起こそうとしないフレンダをよそに、
足音は刻一刻と迫ってくる。

誘い込まれるように彼女は足音の方へと視線を向けた。
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:27:57.27 ID:kXTh3k8U0

目に写るのは、暗闇の中をゆっくりと歩いてくる長身で茶髪の男。

軽薄そうな印象を受けるものの、中々に整った顔立ちをしており、
取り立てて異常な点は見受けられない。

だが、フレンダには理解できていた。

その男がおとぎ話で聞かされた化け物などより、
遥かに恐ろしい怪物であるということを。

「雑魚の癖に手間かけさせてんじゃねえよ。」

男は気だるげな口調でフレンダに声を掛ける。

「あ、あ…」

だが言葉を返そうとしても、
恐怖に凍りついた口は思い通りに動いてくれない。

そんなフレンダの反応に対し、男は一切の興味を見せず、
無造作に、無遠慮に、そして無警戒に、その手を伸ばした。

学園都市の頂点に立つ『超能力者』、その第二位に位置する、『未元物質』の魔の手を。

これが、フレンダの人生における最低最悪の時の幕開けであった。

566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/04(水) 01:30:46.91 ID:kXTh3k8U0
今回はこれで以上になります。

過去編の過去編とか訳の分からない事になりましたがどうか御容赦を。

次の投下ですが、今回よりは間隔を短めにするつもりです。

ただ一週間以内はちょっと難しいかもしれません…
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/05/04(水) 05:06:40.42 ID:Han/2fnAO
>>566
1乙
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/04(水) 19:03:36.91 ID:NV8Wl+Xzo
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/12(木) 17:54:05.61 ID:vcvvei4B0
>>1
超乙!って訳よ
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/16(月) 00:59:50.18 ID:1MHQHyDW0
とりあえず投下させていただきます。

垣根の能力解釈等、勘違いしている点などありましたらご指摘ください。
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/16(月) 01:00:28.64 ID:1MHQHyDW0


夢は唐突に次の場面へと移り変わる。

時間で言うならば、フレンダが垣根帝督に捕獲されてから三十分ばかりが経過したころだろうか。

その間に一通りの尋問、拷問などは受けたように記憶しているが、
これから起こる事に比べれば、そのような事は些事に過ぎなかった。

一向に口を割る気配を見せないフレンダだったが、垣根の方でも焦る様子は無い。

時間を気にするような素振りこそ見せるものの、
急いでいるというよりは誰かを待っているといった態度である。


「もう一度だけ聞くぞ、アイテムの合流地点はどこだ?」


先ほどから幾度と無く繰り返された質問が、再びフレンダに投げかけられた。

572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/16(月) 01:01:46.32 ID:1MHQHyDW0


「し、知らないって言ってるでしょ。」


フレンダの反応に対し、つまらなそうに溜息をつくと、
垣根はフレンダの胸板を勢い良く踏みにじった。

その瞬間、フレンダの体を高圧の電流が駆け巡る。

体内を焼かれる苦痛に、悲鳴を上げながら悶えるフレンダであったが、
大柄な垣根に押さえられた体は、どれだけ暴れてもびくともしない。


「おもしろいだろ?圧力を加えると反対側から電気が発生する。」


足の力を緩めると、垣根は再びフレンダへ声をかけた。

しかしながらフレンダの方には気軽に返事をする余裕など無い。

苦痛をこらえ、必死で息を整えようとするので精一杯である。

だが、自らの問いかけを無視されるという事は、
垣根の機嫌を損ねさせるのには充分であった。

573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/16(月) 01:02:31.98 ID:1MHQHyDW0


「人の話はちゃんと聞けって教わらなかったか?」


語気を強めると、垣根は脅しつけるような口調でフレンダを咎める。

その口調に危険なものを感じ取ったのか、
震える喉を振り絞り、どうにか言葉を返した。


「け、結局…き、聞いた事無い訳よ、そんな武器。」


「ああ、そりゃあそうだろうな。さっき俺が作ったんだから。」


投げかけられた疑問に事も無げに答えると、
戸惑うフレンダへと自分の能力を説明する。


「俺の『未元物質』は、この世に存在しない物質を作り出す。」


「さっきお前が豪快にぶち当たった壁も、今俺の足裏に仕込まれている板も、全て俺の都合の良いように作り出した物質だ。」

574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/16(月) 01:03:38.03 ID:1MHQHyDW0


自らの手の内を惜しげも無く晒す。

フレンダのように戦術を駆使して戦う人間にとって、
垣根の行動は理解しがたいものであった。

いや、眼前の男だけではない。

かつて交戦した『超電磁砲』も、自分達のリーダーである『原子崩し』も、
自らの能力を曝け出す事に何の執着も持たなかった。

一個人で軍隊に匹敵する力を保持する『超能力者』、
その境地にあるものだけが持つ傲慢なまでの無頓着さが、
眼前の男との間に存在する根本的な戦力差を、フレンダに実感させる。

自らの振る舞いが意味するものに気付く事無く、垣根は言葉を続けた。

575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/16(月) 01:05:56.88 ID:1MHQHyDW0


「取引をしようじゃねえか。」


だが、その言葉はフレンダには到底理解しがたいものであった。

しゃがみこんで視線を対等な位置に合わせると、
戸惑いの表情を浮かべるフレンダに対し、
諭すような口調で説明を始めた。


「俺の要求は只一つ、『アイテム』の合流地点だ。それさえ分かれば後はお前に用は無い。報酬はお
前の命…の筈だったが、気が変わった。これもくれてやるよ。」


そう言うと、垣根は靴の裏から薄い一枚の板を取り出し、フレンダの目の前に差し出す。


「俺の『未元物質』の産物、効果は身をもって理解しているよな?」


見せ付けるように手の中で板を弄ぶ。

その言葉を信じるならば、自らの体を焼いた電流は、あの薄板から発せられたものなのだろう。

つくづく非常識な力だ。
理解していたとはいえ、現物を見せられると、改めてそう思う。

片足を乗せる程度の圧力で、あれだけの電圧を発生させる。

既存の物理法則を無視した未知の物質、
それを一人の人間を拷問するためだけに生み出し、
惜しげもなく譲るという。

フレンダが積み上げてきた知識や経験、
それに基づく常識の全てが眼前の男に通用しなかった。

576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/16(月) 01:06:41.75 ID:1MHQHyDW0


「一般人なら持て余すだろうが、暗部の人間だったらこいつを捌くルートの一つや二つ、心当たりがあるだろう。別に危険を冒して学園都市の外に売り手を捜す必要も無い。内部の研究機関に売り飛ばしても、相当の金になるだろうな。」


「悪くない取引だろ?ただ集合地点を話すだけで命が助かり、相当の金を手に入れる事ができる。」


確かに垣根の言う通りだ。

拷問の上に情報を引きずり出され、
陵辱された挙句に命を失っても不思議ではないこの状況で、
この提案は余りにも虫のいい話であった。


「け、結局、そんな都合の良い話なん…て、し、信じられない訳よ。」


当然の様に発せられたフレンダの疑問に対し、
垣根は余裕に満ちた笑みを浮かべる。


「そう警戒するなよ、俺はお前が気に入ったんだ。それにお前にとっちゃ都合の良い条件かも知れないが、こっちには大した違いはない。こんな代物はいくらでも産み出せるし、お前が生きていようがいまいが対して影響も無いからな。」


事も無げに言い放つと、再び腰を上げ、フレンダを見下ろす。

577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/16(月) 01:08:16.34 ID:1MHQHyDW0


「さあ、答えを聞こうか?」


分かりきっている、と言わんばかりの表情で、垣根はフレンダに問いかけた。

その判断は正しいのだろう。

抵抗する手段を失った人間に対し、
圧倒的に有利な条件を突きつけたのだ。

大抵の人間はその条件を受け入れてしまう。

ましてやフレンダ・セイヴェルンは暗部に生きる人間である。

一瞬の選択ミスが生死を分ける世界で生きている彼女が、
むざむざ最良の選択肢を見捨てる筈も無かった。


「…け…ぃ…よ。」


顔を伏せたフレンダの口から、幽かに音が発せられる。


「…あん?」

578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/16(月) 01:09:03.15 ID:1MHQHyDW0

だが、電流の苦痛が体に残っているのか、
発せられた言葉は、まともな形を為していない。

聞き直そうと、垣根はフレンダの髪を掴み、
無理矢理顔を上に向かせる。

その瞬間、垣根の頬に何かの液体が付着した。

それがフレンダに吐きかけられた唾だと気付くのに、一瞬の時間を要した。


「ふざけんじゃ無いわよって言ってんのよっ!!」


「てめぇ…」


フレンダの啖呵を受け、初めて垣根の顔が激情で歪む。

頬を拭い、殺気を孕んだ目で睨みつけるが、
フレンダは微塵もひるむ様子を見せない。
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/16(月) 01:09:45.40 ID:1MHQHyDW0


その表情が垣根の不快感を更に増大させた。

苛立ちを晴らすかのように、
唾を拭った拳でフレンダの頬を殴りつける。

だが、無防備な顔面に全力で振るわれた拳を受けても、
フレンダの眼から敵意が失われることは無い。

睨んだ所で状況は好転しない。

だがフレンダに残された抵抗は、
ただ睨みつける事だけでなのである。

ならばそれを全力で行えばいい。

ありったけの力を込めて、ただ睨みつければいい。

580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/16(月) 01:10:51.89 ID:1MHQHyDW0


その覚悟が伝わったのだろう、
垣根は嗜虐に満ちた笑みを受かべると、
掴んでいた頭を地面に叩き付けた。

すぐさま起き上がり、垣根を睨みつけようとするフレンダであったが、
後頭部に振り降ろされた踵に一切の抵抗を封じられてしまう。

視界を塞がれたフレンダの耳に、垣根帝督の笑い声が届いた。

嘲るでも怒りでもなく、この結論を心底愉快がるような、喜色に満ちた笑い声。

暗い暗いトンネルの中、踏みにじられたフレンダの頭上で、
垣根帝督の狂気に満ちた哄笑が延々と響き渡っていた。
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/16(月) 01:16:00.42 ID:1MHQHyDW0
今回はこれで以上です。

フレンダ編が思った以上に長くなりそうな気がします。

ただこの時のフレンダの裏切りはどうにかフォローしたかったもんで…どうか御容赦を。
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2011/05/16(月) 01:48:28.20 ID:DcBPmJmJo
来てたー!!!
乙!!
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/16(月) 03:04:01.11 ID:3o1Jy+2+o
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/05/16(月) 12:11:26.29 ID:INK79jAAO
そろそろパンツ脱いだ方が良いね?
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/16(月) 17:20:37.95 ID:tBJqkTZDO
乙!
俺の浜面はまだかね?
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/16(月) 23:44:49.55 ID:1MHQHyDW0
>>584

18禁描写は…ひょっとしたら最後に書くかも?

>>585

多分次の次で出ると思います。

というかもう浜面2ヶ月ぐらい出て無かった…
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/22(日) 06:07:19.94 ID:hbbXBlNSO
待ってるよ
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 03:03:42.41 ID:lx7nGC5w0
まだかー
いつまでもまってやるから早くこーい
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/07(火) 17:54:32.25 ID:wlZjYJw60
そろそろ生存報告たのむわ
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/08(水) 00:35:57.17 ID:++hsC1q10
申し訳ない、ちょっと周りでごたごたしてまして…

週末には投下できる予定です。
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/06/08(水) 03:10:43.90 ID:HVidnQw4o
うぃー
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/12(日) 23:06:37.60 ID:uuEmrJVSO
週末が終わっちまう……
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:24:28.59 ID:JqzwHysJ0
最早謝る言葉も…

中々切れ目が見つからず、やたらと空いてしまいました。

遅ればせながら投下します
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/15(水) 00:25:06.73 ID:JqzwHysJ0


「あら、随分手間取ってるのね。」


そんな中、この狂乱の光景に新たな役者が加わる。

新たな参加者は、覚悟を決めたはずの自分でさえ怖気を感じる垣根に対し、
世間話をするような気軽さで声をかけた。

顔を挙げられないため顔を確認する事は出来ないが、
恐らくは『スクール』のメンバー、『心理定規』だろう。


「ああ悪いな、少し遊んでいた。」


想像を絶するような拷問を遊びの一言で片付けると、垣根は『心理定規』の方へ顔を向ける。

油断の一つでも生まれるかと期待するが、足に込められた力はほんの僅かも揺るがない。

595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:25:43.62 ID:JqzwHysJ0


「そう言うそっちはどうだったんだ、誰か一人でも仕留められたのか。」


歯軋りをするフレンダを他所に、二人は話を続ける。


「冗談言わないでよ、『原子崩し』相手に無茶する気は無いわ。」


とりあえず足だけは潰したけどね。

『心理定規』が何気なく繋いだその言葉に対し、
フレンダは反射的に声を荒げた。


「あ…んた、まさか浜面をっ…!!」


踏みにじられた頭を、渾身の力で押し上げると、
派手なドレス服を着た少女に、殺気の籠もった視線を向ける。
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:26:32.82 ID:JqzwHysJ0


その反応に興味深そうな視線を向けると、
『心理定規』はフレンダの前に腰を落とし、
観察するかのように、頬へと手を添えた。


「あら、あの男の子の事が心配なの?」


からかう様な『心理定規』の問いかけに対し、
フレンダは苛立ちを隠そうともせずに言葉を返す。


「質問に…答えろって言ってんのよっ!」


「ふふっ、そうね、野暮な質問は辞めにするわ。」

597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:27:20.12 ID:JqzwHysJ0

その反応だけで充分だったのだろう、
『心理定規』は満足したような笑みを浮かべると、フレンダの質問に答えた。


「彼なら生きてるわよ。少なくとも私は殺さなかった。」


その言葉に、フレンダは一先ずの安堵を覚える。

それでも自らの感情の機微を悟られたく無かったのだろう、

その思いを顔に現す事無く、垣根達に嘲りの笑みを向ける。


「あんな小者一人始末出来ないなんて、結局『スクール』も大した事無い訳よ。」


フレンダの挑発に対し、『心理定規』は微笑みを崩す事無く答えた。


「へえ…小者ねえ。その割には随分信頼されてたみたいだけど。」


からかい混じりのその言葉を黙殺し、フレンダは更に言葉を続ける。
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:28:54.97 ID:JqzwHysJ0


「以前始末したスナイパーとさっきのゴーグル小僧、こっちは既に二人も片付けてるってのに、そっちじゃ無能力者にかかりっきり。結局私の口も割り切れないし、麦野があんた達に止めを刺すのもそう遠い話じゃ無い訳よ。」


その言葉を聞くと、垣根帝督はフレンダの頭から足を離し、
側に立つ『心理定規』の肩へと腕を回した。


「わかってねえな、そっちが何人殺そうと問題じゃねえんだよ。『スクール』の核は俺だ、他が全滅しようと俺が最後まで残っていれば『スクールの」勝ちだ。」


それを踏まえた上で聞け

そう告げると、垣根はフレンダに耳打ちする。


「『原子崩し』じゃ俺の『未元物質』は攻略できない。さっきの戦いを覚えてるだろ?あいつの攻撃はどう頑張っても俺には届かなかった。俺を倒せないなら『アイテム』に勝ち目は無い。勝つのは『スクール』で負けるのは『アイテム』だ。」


物分かりの悪い子供に言い聞かせるように、
ゆっくりとした口調で垣根は言葉を続けた。
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:29:40.92 ID:JqzwHysJ0


「だからとっとと吐いちまえって、今ならお前だけは生き残る事が出来るんだから。」


何度目かになる垣根の誘い。

だがフレンダの答えは変わらない。

垣根を睨みつけると、再び顔面へ唾を吐く。

垣根もその反応を予測していたのだろう。

僅かに顔をずらして唾を避けると、
今度は『心理定規』へと声をかける。


「なあ見ろよ、大した友情だ、自己犠牲だ。こんなドブみたいな暗部にいて、決して仲間を売ろうとしねえ。」


同意を求めるような垣根の呼びかけに、『心理定規』も微笑みを見せた。

600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:30:31.08 ID:JqzwHysJ0

自分の反応を『心理定規』に確認させるかのようなその素振りに、
フレンダは何か得体の知れない悪寒を感じた。

だが、彼女が口を開くよりも先に、垣根の演説が再開される。


「ところで、そんな仲間想いなお前に聞きたいんだが、仲間ってのは何の為の存在だと思う?」


突然の質問に戸惑うフレンダであったが、垣根は答えを待たずに言葉を続ける。


「ま、他じゃあどうか知らないが、暗部の人間にとって、仲間ってもんは互いに利用しあうもんだ。不足した分野を補い合い、任務の成功率を上昇させる事が第一義で、仲間意識なんてのは必要だと思えば持てば良い。」


敵の言葉に同意するのは癪であったが、この男の言う事は間違っていない。

彼女の居場所である『アイテム』には、むしろその傾向が顕著に現れていると言える。

強烈な殺傷力、頑強な防御力、完全無比な索敵力、そしてそれらを最大限にサポートする戦術眼。
個々人の実力もさることながら、彼女達の連携は学園都市の中でも屈指のものであった。
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:31:10.42 ID:JqzwHysJ0

一方それを堂々と口にする『スクール』にはそういった要素は薄い。

先の戦闘を思い返しても、各々が個別に戦っているだけで、
チームワークなどと言うものは殆ど見られなかった。


「だとすれば、俺に不足した分野ってのは何だ。俺の『未元物質』は只攻防に優れているだけの能力じゃねえ、戦況に応じた物質を好きなように生み出せる、全局面に対応出来る能力だ。そんな俺に一体何が不足してるんだ?」


フレンダの疑問を他所に、垣根は芝居がかった口調で自らの能力を褒め称え続ける。

だがこれも認めざるを得ない。

先程までの戦いで、『未元物質』の万能性は身を以って体験している。

あれだけの能力を持ちながら、一体何が不足しているのか、
凡人に過ぎないフレンダには、到底答える事の出来ない問いであった。
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:31:57.98 ID:JqzwHysJ0


「その答えの一つがお前だ。」


フレンダの戸惑いに満足した様子を見せると、垣根は自らの問いに答えを提示する。


「俺の能力の前では大抵の奴が口を割る。自らが経験したことの無い苦痛、周囲の全法則すら支配されているという絶望感、それに抗える人間なんて殆どいねえ。」


「だが、稀にお前みたいな奴が現れる。自分の命よりも仲間を守り通そうとするやつだ。」


「そんな人間には俺の能力は通じねえ、勝手に満足してあの世にいっちまう。」


大げさに溜息をつくと、芝居がかった動作で頭を振る。


「困った話だよな…自分の意地の為に助かる命まで無駄にしてよ…」


目頭を抑え、悲劇を悼むような口調で話す垣根の姿に、フレンダは軽い眩暈を覚えた。

その命を散らせた本人が、何故ここまでを他人事のように話す事が出来るのだろうか。
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:32:38.43 ID:JqzwHysJ0


「だが、今の俺には『仲間』がいる。」


「そんな面倒な悲劇を回避させてくれる『仲間』がな。」


そう言うと、垣根は心理定規に熱い視線を注ぐ。


「随分長い講釈だったわね、待ちくたびれちゃったわ。」


垣根の紹介が終わると、心理定規はゆっくりと前に歩み出た。


「彼みたいな回りくどいのも嫌いじゃないけど、いい加減飽きちゃったでしょ?」


彼女はフレンダを労うような口調で語りかける。

だが、それは皮肉にもフレンダの敵対心、警戒心を煽ることにしかならかった。
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:34:30.07 ID:JqzwHysJ0

だが、それは皮肉にもフレンダの敵対心、警戒心を煽ることにしかならかった。

『未元物質』に対しては完全な敗北を喫したが、
だからと言ってフレンダの心が折れた訳では無い。

むしろ、どうせ垣根に勝てないのなら、せめてこの女だけは、
と密かに闘志を燃え上がらせていた。

そんなフレンダの覚悟を他所に、『心理定規』は素人同然の警戒の無さでフレンダに近づいた。

あと少し、あと少しだけ近づけば、この女の腕を取り、喉笛を切り裂く事ができる。

最後のチャンスを狙う彼女の意図に気付いたのか、
『心理定規』はフレンダの攻撃範囲の一歩手前で足を止める。
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:35:03.62 ID:JqzwHysJ0

殺気を読まれたのか、と僅かに後悔するフレンダであったが、
『心理定規』は気にした様子も見せずに、フレンダに語りかけた。


「ねえ、お願いだから、『アイテム』の集合場所を教えてくれないかしら。」


満面の笑みを浮かべながら、垣根と同じ質問をぶつける。

その問いに対し、フレンダは垣根と同じような反応を返そうとする。

だが、不思議な事に嫌悪感や反感する気持ちが、一向に湧き上がってこなかった。


「…いい加減に諦めなさいよ、私が『アイテム』を裏切るなんて、有り得ないんだから。」


かろうじて拒絶の言葉を口にする。
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:35:33.34 ID:JqzwHysJ0

沈黙という選択肢を選ぶ事はできなかった。

閉じた口から、『心理定規』の求める答えが漏れ出てしまいそうだったから。

だからフレンダは拒絶の言葉を口にした。

そうしなければ、自らの心変わりを認めてしまいそうであったから。

そうしなければ、大切な仲間達を裏切ってしまいそうであったから。

変化に戸惑うフレンダの反応を楽しそうに見届けると、
『心理定規』は拗ねた様な口調でフレンダに語りかけた。
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:36:03.31 ID:JqzwHysJ0





「そんな事言わないでよ、私達『仲間』じゃないの。」




608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:36:47.71 ID:JqzwHysJ0

仲間


なかま


ナカマ


『仲間』

609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:37:24.41 ID:JqzwHysJ0

怨敵の口から漏れたその言葉に、フレンダは激昂した。

いや、激昂しようとした。

だが、自らの表層を駆け巡った嫌悪感は、
心の奥底に留まる事無く消え失せてしまっていた。

心の奥で、彼女の言葉を認めてしまっている自分がいる。

『心理定規』を仲間と認めてしまっている自分がいる。

それに気付いた瞬間、彼女の心を恐怖と絶望が塗り潰した。

垣根帝督に敗北した時とは比べ物にならない程の絶望。

自らの根幹を成す尊厳が何の抵抗も出来ずに蹂躙された恐怖。

その事実は、容易くフレンダの心を折り、砕き、追い詰めてゆく。

610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/06/15(水) 00:38:27.39 ID:JqzwHysJ0


「貴女は優しい人、『仲間』の為なら命すら賭ける事が出来る人。」


優しげな笑みを浮かべ、『心理定規』は歌うように言葉を続ける。


「貴女は賢い人、大切な者を守る為なら冷静に最善の選択を選べる人。」


「仲間に優劣をつける事は出来なくても、今助けなくてはいけない『仲間』が誰か、ちゃんと理解できてる筈。」


「だからお願い、『アイテム』の居場所を教えて頂戴。」




でないと




「私、この人に殺されてしまうわ。」


611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:41:10.79 ID:JqzwHysJ0

そう言うと、『心理定規』は垣根提督の胸に自身の頭をもたれ掛けた。

恋人が甘えるかのようなその仕草。

「あ、あ…ああ…」

だが、フレンダの眼にはそうは映らない。

恐ろしい『敵』に大切な『仲間』が捕らえられている。

その『事実』を前に、次から次へと、選択肢が芽生えてくる。

助ける事が出来るのは自分しかいない。

必要な代償は仲間の情報。

大切な、大切な、仲間の情報。

そう、眼の前で囚われている『仲間』と同じ位、大切な。
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:42:34.38 ID:JqzwHysJ0

そこには優劣など存在しない。

だが、まさに今、命の危機に晒されている仲間と、これから命の危機に晒されるかもしれない仲間。

今この時、自分が助けるべきはどちらかという問いに対し、
暗部で生き抜いてきた経験は、その答えを
冷静に、そして合理的に導かせてしまっていた。

それでも迷うフレンダの中から、新たな言葉が湧き上がってくる。

彼女達なら大丈夫、きっと、きっと逃げ延びてくれる筈。

その言葉と共に、頼るべき仲間達の勇ましい姿が次々と脳裏に浮かんでくる。

そうだ、彼女達なら大丈夫、今は守らないといけない。

この『仲間』を、か弱い『仲間』を。

皮肉な事に、最後の最後でフレンダの背中を押してくれたのは、仲間に対する信頼であった。

613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:43:17.57 ID:JqzwHysJ0


導き出した答えを否定しようと、僅かに残った理性が全力で歯止めをかける。

だが、『仲間』を救いたいという彼女の願いの前に、
そのような抵抗は何の意味も為してはくれなかった。

『心理定規』を抱く垣根に対し、フレンダの口がゆっくりと開かれていく。

その口元は、彼女の心の葛藤を現すかのように、弱弱しく震えていた。



「あ…いて、むの集合場所は―――」



命をかけてまで守ろうとした情報が、遂にフレンダの口から発せられる。

暴力に強制されたのでなく、誇りを捨てたのでもなく、あくまでも自らの意思で。

経験も、誇りも、信頼も優しさも、全てがフレンダを裏切り、全てが仲間を裏切らせた。

614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:44:48.01 ID:JqzwHysJ0


おぞましくも、その事実はフレンダ・セイヴェルンに満足感を与えてしまっていた。

『仲間』を救えたことに対する満足感を。

それを認識した瞬間、フレンダは『音』を聞いた。

自らの心が、崩壊する音を。

叫び、泣き、笑い、喜び、嘆き、
ありとあらゆる感情が、混然となって溢れ出す。

涙となり、怒りとなり、笑いとなり、罵声となり、
そして、最後にはただの叫びとなって。

615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:45:19.18 ID:JqzwHysJ0


心を蹂躙しつくされ、ただただ慟哭するフレンダの頭上から、垣根帝督の声が降り注いだ。






なあ、仲間ってのは良いもんだろ?






俺がどんなに苦労しても出来なかった事を、こんな     簡単に     成し遂げてくれるんだから。




616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/15(水) 00:47:01.29 ID:JqzwHysJ0
今回はこれで以上です

次回は大分短めの予定ですが、
この後の出来事をちょろっと書いて回想の回想を終わりにするつもりです。
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/15(水) 01:08:31.52 ID:EBarByBuo
定規KOEEEEEEEE
乙!!
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/06/16(木) 00:29:50.37 ID:WenXoveAO
心理定規さんマジぱねぇっす
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/06/16(木) 08:17:15.40 ID:kXv0HqiJo
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/27(月) 01:58:45.78 ID:VrWkVkVZ0
生きてるかー?
生きてるならゆっくり書いてくれればいいんだが報告してくれるとありがたいんだにゃー
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/30(木) 01:09:00.35 ID:ERp2sFwW0
予告したところまでは行きませんでしたがとりあえず投下させてもらいます
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/30(木) 01:09:58.55 ID:ERp2sFwW0

解放されてからの記憶は判然としていない。

定石通りに行動するならば、直ぐに麦野達の合流場面に向かうべきだったであろう。

だが、絶望に囚われたフレンダに、そのような判断が取れるはずもなかった。

加えて垣根帝督が残した障壁によって、トンネルからの脱出は困難なものとなっており、
彼女が地上に戻った時には、垣根達に先んじて集合場所に辿りつく事は不可能となっていた。
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/30(木) 01:10:58.23 ID:ERp2sFwW0

指針も目的も無く、フレンダはおぼつかない足取りで、路地裏を歩き続ける。

一歩、また一歩と弱しく歩みを進めるうち、
とうとう体重を支えきれなくなった足は、
屈服を求めるかのように、その膝を曲げた。

それを拒もうとしたのか、或いは只の偶然か、
フレンダは近くの壁にもたれ掛かると、自らの呼吸を整えようとする。

息をする度に、焼かれた肺を冷たい空気が満たしてゆく。

その苦痛に苛まれながらも、
フレンダは僅かに冷静さを取り戻した頭で仲間の事を思い浮かべる。

麦野、絹旗、滝壺、浜面。

彼らの顔が脳裏に浮かんだ途端、フレンダは嘔吐した。

それはあたかも、彼らについてを考える事を、彼女の体が拒んでいるかのようであった。

624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/30(木) 01:11:31.99 ID:ERp2sFwW0


にも関わらず、彼女の頭から仲間の顔が消え失せる事は無い。

浮かんだ顔は次々に苦しみへと歪んでいき、最後には苦悶の内に血を吐いて死んでいく。

なまじ彼らに死をもたらす者の存在をしっているからか、
その光景は生々しく鮮明なものとして浮かんできた。

彼らの眼はフレンダに対する恨みで満ちており、
弛緩した口元からは怨嗟の言葉が吐かれ続けている。


「ごめんなさい…ごめんなさい。」


涙を零しながら、フレンダはただ謝罪の言葉を口にする。

625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/30(木) 01:12:45.15 ID:ERp2sFwW0


だが、それ以上の行動には出られない。


彼らの死を確かめることも、
彼らの命を奪った相手への復讐も、
心の折れた彼女には思いつく事すら出来なかった。


自己嫌悪と喪失感に苛まれ、フレンダは涙を流して、嘔吐を繰り返す。

そんな状態の彼女が、自らの背後に現れた人間の気配に気付けなかったのも止むを得ない事だろう。


胃の内容物の悉くを吐き出し、
それでもなお嗚咽を続けるフレンダの後ろ髪を、
突如として何者かが掴み上げた。


突然の出来事に戸惑い、慌てて後ろを見ようとするフレンダであったが、
背後の人物はそんな余裕を与える事無く、彼女を地面へと投げ捨てる。
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/30(木) 01:13:26.97 ID:ERp2sFwW0


地面に伏せ、苦しそうに息をつくフレンダの頭上から、
彼女を投げ捨てた者の声が降り注いだ。


「こんなところで悲劇のヒロインだなんて、随分良い御身分だなぁ、ふーれんだぁ〜。」


そこに居たのは、つい先程まで、彼女の脳裏で哀れな死に顔を見せ、
恨みの言葉を吐き続けていた『アイテム』のリーダー、麦野沈利であった。


「む、麦野?」


仲間との再会に対し、フレンダは驚きながらも素直に喜びの表情を浮かべる。

だが、その表情は瞬く間に戸惑いで満たされた。

頬につけられた擦り傷、焦げ縮れた髪の毛、所々に穴の開いた衣服。

完璧主義者である彼女には似つかわしくない、惨めとさえ写るその光景。
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/30(木) 01:13:56.89 ID:ERp2sFwW0


「どうしたのよ、そんなに驚いた顔して。私が生きてるのがそんなに不思議なのかにゃーん。」


普段と変わらぬ口調、しかしながら、そこに秘められた感情は、
普段とは比較に成らぬほど暗く、冷たい。

それは垣根とは質の異なる恐怖をフレンダにもたらした。


「ち…ちが。」


弁解しようとするフレンダであったが、麦野は気に止める素振りすら見せない。

無言で胸倉を掴みあげると、麦野はあらん限りの力を込めてフレンダの顔面へと拳を叩きつける。

呻き声を上げ、地面に倒れ伏すフレンダに、麦野は再び言葉をかけた。
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/30(木) 01:14:59.91 ID:ERp2sFwW0


「違わないんだよ、フレンダ。」


「あんたが裏切って、私達の居場所を敵に教えた。」


「なんの準備も出来ないまま、私達は第二位の襲撃を受けた。」


「それがどういう意味か分かる?」


麦野は一切の感情を乗せず、ただ質問だけを投げかける。

その冷淡な口調は、他の仲間達の末路を指し示しているようでもあった。

現実に眼を背けるかのように、フレンダはかぶりを振って麦野の質問を拒否する。

そんな彼女の様子に舌打ちをすると、麦野はフレンダの鳩尾を蹴り上げた。


「分かるのかって聞いてんだよっ!」

629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/30(木) 01:16:02.10 ID:ERp2sFwW0

苦しみ蠢くフレンダの頭を踏みつけ、質問への答えを要求する。

呼吸を整えるだけの時間を与えると、麦野は催促するかのように踏みつける足に力を込めた。

だが、フレンダの口からは何の答えも帰ってはこない。

そんな態度に痺れを切らしたのか、
麦野は再びフレンダの髪の毛を掴むと、無理矢理自分の方へと向き直らせる。

苛立たしげに頭を揺するが、フレンダは俯いたままで、麦野と顔を合わそうとしない。

更なる罵声を浴びせようとする麦野であったが、その耳に消え入りそうなフレンダの呟きが届く。



「…なさい。」


630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/30(木) 01:16:33.47 ID:ERp2sFwW0


その呟きだけで麦野は全てを察したのだろう。

頭を揺する手を止めると、絶える事無く発せられる呟きに耳を傾けた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ご…めんなさい…。」


零れ落ちる涙と共に、フレンダは謝罪の言葉だけを呟き続ける。

暗部に生きる人間として、裏切りを犯した人間として、
彼女がとった方法は余りに稚拙なものであった。

そんなフレンダの謝罪に対し、麦野は呆れたかのような溜息をつくと、
無言で彼女の顔を張り飛ばした。

口を切ったのか、或いは鼻に当たったのか、地面に数条の血痕が描かれる。

拘束から解放されたフレンダは、断罪を求めるかのようにその場にへたり込むと、
ただ涙だけを流し続けている。

そんなフレンダを見下ろす麦野の眼からは、何の感情も読み取ることは出来なかった。
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/30(木) 01:21:34.82 ID:ERp2sFwW0
今回はこれで以上です。

ここ一ヶ月半ぐらい、フレンダが嬲られる場面しか書いていませんが、
別に>>1はフレンダが嫌いな訳ではありません。

あと次で確実にフレ ンダになります。

632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/30(木) 03:01:27.65 ID:JtGwP6+i0

ようやくフレンダが殺されるのか
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 01:59:26.24 ID:mmZ6Q5ZG0
こんな時間だけど投下します。

今回急ぎでしたので誤字などあれば注意等お願いします。
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:00:33.96 ID:mmZ6Q5ZG0


「とりあえず、三人分の落とし前はつけさせてもらったわ。」


泣き崩れるフレンダに麦野が声をかけたのは、それからしばらくしての事であった。

発言の意図が理解できず、フレンダは問い返すような眼を麦野へと向ける。


「言葉通りよ、滝壺、絹旗、あとついでに浜面、三人分のお仕置きは今ので終わりって事。」


そいうと、麦野はフレンダに手を差し伸べた。

反射的に応えようとしたフレンダであったが、
差し出した手は、麦野の手を掴む事無く宙に留まっている。

何と言っても麦野の意図が分からない。

口調からは先程までの冷淡さは無くなっているが、
まさか今ので自分の裏切りを許したという訳でも無いだろう。

今までの経験上、油断させておいてから止めの一撃を見舞うという事も充分に有り得るのだ。

635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:01:21.41 ID:mmZ6Q5ZG0

フレンダの煮え切らない態度に苛立ったのか、麦野は強引にフレンダの手を掴むと、半ば無理矢理に立ち上がらせた。


「ほら、さっさと立ちなさいよ。ゆっくりしている暇なんて無いんだから。」


ぶっきらぼうにそう言うと、麦野は空いた手でフレンダの体についたほこりを払う。


「ま、普段なら問答無用でぶっ殺してるけど、『心理定規』が敵にいる以上、少しは考慮してあげないとね。」

「む、麦野、許してくれるの?」


麦野の態度に、フレンダは驚きを隠しきれないといった様子で問いかけた。

その声からは隠し切れない期待の色が漏れ出ていた。

だがそれも無理は無いだろう。

仲間からの許しは、今のフレンダが何よりも求めているものなのだから。


「あぁ?何寝ぼけた事いってんのよ、あんたは。」


だが、その期待はあっさりと裏切られる事となる。

足にこびり付いた生ごみを見るかのような眼を向けると、
麦野はフレンダの問いに、嘲りと怒りをにじませながら答えた。
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:01:54.88 ID:mmZ6Q5ZG0


「敵に捕まって仲間の居場所をばらして戦線に戻ろうともせずに路地裏で泣きながらゲロ吐いてる馬鹿の何をどう許せってのよ。」


辛辣ながらも、現状を的確に言い表したその言葉に、
フレンダは合わせる顔も無いといった風に、両手で顔を覆う。


「心配しなくても私自身のオトシマエは事が終わってからたっぷりとつけてあげる。」


そんなフレンダの頭を力強く撫でると、麦野は恍惚の表情を浮かべながら告げた。


「死にたくなかったら精々頑張る事ね。」


「で、でも頑張れって言われても…」


解放されたとはいえ、垣根から受けた拷問はフレンダに少なからずの傷を残している。

それに加え、手持ちの武器は電気ナイフの一丁のみ。

これでは汚名を返上するような活躍など到底見込めるものではない。

637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:03:51.20 ID:mmZ6Q5ZG0


「別に今のあんたに戦えって言ってる訳じゃ無いわ。」


フレンダの心配を他所に、麦野は言葉を続ける。

そもそも、第二位が相手だと、万全の状態でも、何も出来ないでしょうしね。

付け加えられたその言葉に、フレンダは落胆よりも安堵を覚えていた。

無茶な要求を突きつけられなかった事にではなく、
麦野が怒りに捉われず、冷静な判断を下している事に。


「言いたか無いけど、私じゃ第二位には勝てない。少なくとも正面からじゃね。」


「麦野…」


圧倒的な差を味わったのは自分だけではない。

麦野とて、自分の攻撃の一切が通用しなかったのだ。

プライドの高い彼女の事、その心中は察するに余りある。

レベル5という研究者が定めた枠組み、その壁を遥かに凌駕する、根本的な差。

同じレベル5である第四位なら第二位に勝利することもできる。

交戦前に『アイテム』が抱いていた幻想は、たった一度の交戦で脆くも崩れ去っていた。
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:04:53.94 ID:mmZ6Q5ZG0


「だからって、ここで逃げる訳にはいかない。」


拳を握り締めると、麦野は自分に言い聞かすように宣言する。


「で、でもどうやって、結局麦野の攻撃が通じないなら、私達に勝ち目は無い訳よ。」


「真っ向勝負で勝てないなら絡め手を使うまでよ。滝壺と連携して、長距離からの狙撃であいつを倒すわ。」


不安がるフレンダとは対照的に、麦野の言葉には一点の曇りも混ざってはいなかった。


「あんたの役目は狙撃場所の設定。浜面の馬鹿と話し合って、長距離狙撃と逃走の両方に適した場所を探し出しなさい。」


期待してるわよ

その言葉と共に、麦野はフレンダの背にありったけの力を込めた平手を見舞う。


「あ痛っ!」


背中を押さえるフレンダに視線を向ける事無く、麦野は歩を進める。

慌ててその後を追うフレンダであったが、
彼女の眼は麦野の赤く染まった耳と首筋をはっきりと捕らえていた。
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:06:17.32 ID:mmZ6Q5ZG0

こぼれた笑みと共に、フレンダは麦野の背中に言葉を投げかけた。


「ねえ麦野、結局今の一発を最後のオトシマエにするってのも、充分ありだと思う訳よ。」


「はん、あんなの予定してるお仕置きに比べたら挨拶代わりみたいなもんよ


「そ、そんなぁ…」


歩みを並べ、微笑みを交わしながら二人は進んでいく。

『アイテム』が力を合わせたならば、
どんな困難でも乗り越えられると、そう信じて。


だが麦野は気付く事が出来なかった。

フレンダに植えつけられた、 『悪意』 に。
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/07(木) 02:06:56.01 ID:mmZ6Q5ZG0


「こっからが『アイテム』の本領発揮よ。纏めてぶち殺してやるわ、第二位も、








『心理定規』もね。」

641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/07(木) 02:08:43.73 ID:mmZ6Q5ZG0



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瓦礫の山の上で、垣根帝督は溜息をついた。


「あークソ、面倒臭え、また逃げられちまった。」


じれったそうに頭を掻き毟る垣根に、
『心理定規』は呆れ混じりの声をかける。


「で、どうするの?流石に同じ手が通用するほど第四位も馬鹿じゃ無いわよ。」


「ま、別に問題ないんじゃねえの、あいつらだって格の違いは分かっただろう。それに俺の邪魔さえしなければ、無理に『アイテム』を潰す理由も無いしな。」


『心理定規』からの嫌味を受け流すと、垣根は自らの指に装着させた『ピンセット』を弄ぶ。


「第四位に関しちゃあこれからの展開次第だがな、スペアプランの一つだって言うならほっとく訳にもいかねえしよ。」


「だがとりあえずそれは後回しだ。いくらスペアを潰しても、メインプランが残ってるんじゃあどうにもならねえ。」

642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:09:14.33 ID:mmZ6Q5ZG0


『心理定規』はその言葉に混ざった僅かな興奮を見逃さなかった。


「随分楽しみにしてるのね、第一位との戦い。」


「はっ、そりゃあそうだろう。始めてまともな戦いが出来そうなんだからな。」


学園都市の悪意を象徴する暗部組織、彼らとの戦いでも垣根はかすり傷の一つさえ負わなかった。

本気を出す必要もなく、ただ力の一端を振るうだけで敵は容易く屈服する。

そんな男が、始めて自らの全力を振るえる相手と戦うのだ。

学園都市の頂点に立つ力を、頭脳を、
ただ原始的な暴力の衝突に行使できる。

その事実は、垣根帝督の心を否が応にも掻き立ててゆく。
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:10:06.71 ID:mmZ6Q5ZG0


「そう、じゃあ精々頑張ってね。」


だが、それに対する『心理定規』の反応は、垣根とは対照的に冷淡なものであった。

手をひらひらと振りながら、『心理定規』は垣根を見送る。


「おう、お前も気を付けろよ、暗部組織の残党が居るかもしれないからな。」


一応は心配する様子を見せた垣根だったが、
『心理定規』からしてみれば皮肉以外の何物でもない。


「そんな事言うぐらいなら、しっかり残党を始末して行って欲しいんだけど。」


「俺は無駄な殺しは嫌いなんだよ。」


「相変わらず傲慢ね、弱い人間の事なんて少しも考えて無いんだから。」

644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:10:36.02 ID:mmZ6Q5ZG0

その方針の為に仲間が犠牲になったとしても、
恐らくこの男は何とも思わないのだろう。

仲間の命よりも自らの偽善を優先する。
そこには垣根帝督の持つ歪みがありありと現れていた。

だが、本人にはその自覚は無いらしい。

『心理定規』の発言を否定しようと思ったのか、
垣根は足を戻し、『心理定規』の肩に馴れ馴れしく腕を絡ませる。


「不安ならエスコートしてやっても良いんだぞ、今日は機嫌が良いからな。」


「結構よ、お忙しいんでしょ、第二位様は。」


申し出を断ると同時に、『心理定規』は垣根の手を抓り上げる。
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:11:24.95 ID:mmZ6Q5ZG0


「素直に甘えとけっての、ったく。」


「あら、か弱い私が何の手も打ってないとでも思ってたの?」


『心理定規』はからかう様な口調で、忌々しげに呟く垣根へと反論する。

その言葉に些か興味を引かれたのだろう。
垣根は特に反論もせずに続く言葉を待った。


「貴方には関係無い事よ、でも…ひょっとしたら第四位だって始末できるかもしれないわ。」


だが、『心理定規』はその疑問に答えようとはしなかった。

ただ意味有りげに呟いたその言葉は、
彼女の打った手が、学園都市の暗部に相応しいものである事を雄弁に物語っていた。
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:12:12.14 ID:mmZ6Q5ZG0


「頼りになるのよ、私の『仲間』はね。」


そう付け加えると、『心理定規』は垣根に微笑みを向ける。

ともすれば戦慄さえ感じさせてしまいそうな微笑みを、垣根は心地良さげに受け止める。

『心理定規』との会話を切り上げると、垣根は再び歩き出した。


だが、垣根帝督は気づかなかった。

彼女の微笑の奥に潜む、深い、深い孤独に。

647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/07(木) 02:12:47.93 ID:mmZ6Q5ZG0





「む…ぎの…?」


麦野の発したその言葉に、フレンダの足が動きを止める。

その呼びかけに応じ、麦野は足を止めてフレンダの方へと向き直った。


「何よ、変な声出して。」


麦野は微笑みを浮かべ、
からかう様な口調でフレンダに言葉を掛ける。

だが次の瞬間には、麦野の表情から微笑みは消えうせていた。


「フレンダ…あんた。」


戸惑いを滲ませながら、麦野は仲間の名を呼ぶ。


「駄目だよ…麦野、『心理定規』を殺すなんて…」

648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:13:16.33 ID:mmZ6Q5ZG0

引きつった笑いを浮かべながらフレンダは言葉を続けた。

フレンダにも自分が何故このような事を口走っているのか、全く理解が出来なかった。

ただ内より湧き出す強烈な衝動に、なす術も無く付き動かされるばかりである。


「『心理定規』は、た、たいせ…つな『仲間』なんだから。」


フレンダは震える声で麦野への決別を口にする。

その瞳からは光が失せ、涙がとめどなく溢れていた。

そんな彼女を直視できなくなったのか、麦野は痛ましそうに顔を伏せる。
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:13:49.38 ID:mmZ6Q5ZG0


「け、結局、『仲間』はぜ、絶対に守ら無いといけない訳…よ。」


震える声でそう言うと、フレンダはポケットから電磁ナイフを取り出した。
彼女に残された、たった一つの武器を。


「ご、ごめん、ね…麦野。」


その言葉と共に、フレンダはうな垂れる麦野の首筋へと、ナイフを振り下ろす。

だが、振り下ろしたナイフの切っ先が麦野の首に突き刺さるより早く、
フレンダの体を一筋の光が通り過ぎる。

その光は彼女の体を両断し、必殺の一撃を容易く無へと帰していった。
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:15:41.92 ID:mmZ6Q5ZG0


「最高の贈り物だよ!垣根帝督!『心理定規』!」


地に伏したフレンダの傍らで、麦野沈利は狂気の笑みと共に、闇に向かって吼え叫ぶ。


「[ピーーー]![ピーーー]![ピーーー]!『アイテム』を虚仮にした事、絶対に後悔させてやるからなぁぁっ!!」


薄れゆく意識の中、フレンダは確かに麦野沈利が崩壊する音を耳にした。



ごめんね、麦野



最後の力を振り絞り、フレンダは謝罪の言葉を口にしようとする。

だが、放たれた意思は、声となる事なく、
幽かな吐息のままに中空へと消えていった。
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:16:51.58 ID:mmZ6Q5ZG0

暗部に生きるもの同士が、殺意を持って交わした一撃。

それを受けてなおフレンダが生き残っているのは、
彼女の『心理定規』への抵抗が、最後の最後で実を結んだのか、
或いは麦野の仲間への想いが、『原子崩し』の起動を僅かに鈍らせたからなのか、
それともただの偶然に過ぎないのか、真実は最早誰も知る事は出来ない。
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:19:19.93 ID:mmZ6Q5ZG0
今回はこれで以上になります。

とりあえずフレンダ編は無茶苦茶疲れました。

>>1もシリアス
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/07(木) 02:21:02.56 ID:mmZ6Q5ZG0
今回はこれで以上になります。

とりあえずフレンダ編は無茶苦茶疲れました。

>>1もこれ以上シリアスな場面は書けそうに無いので、
なるべく早く甘い雰囲気に出来るよう頑張ります。
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/07(木) 02:48:41.29 ID:lzLBvFDDO
超乙!
フレンダ…これはせつない心理定規恐い

甘いの超期待してる!
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/07/07(木) 16:09:10.10 ID:fqMTw+BWo
フレ/ンダに繋がる部分はそう来たか
面白い
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/22(金) 03:25:23.82 ID:4IiTaUJ50
>>1生きてるか?
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/25(月) 16:18:38.09 ID:GpTObxMz0
良スレかと思い読み続けてたらまさかまだ続いてたとは…
頑張って下さい
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/27(水) 00:32:37.98 ID:9gaciAp50
遅れて申し訳ない、
短いですが投下します
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/27(水) 00:33:05.48 ID:9gaciAp50

フレンダは飛び跳ねるように病室のベッドから身を起こした。

全身にびっしょりと汗を掻き、心臓は長距離走を終えたばかりのように激しく動悸を刻んでいた。

闇で満たされた病室で、フレンダは一人涙を流す。

あれから何度この夢を見ただろう。

自分が仲間を裏切る夢、自分の半身を失う夢。

全てを失ったその日から、フレンダは毎夜のように同じ夢に苛まれていた。

いくら現実から眼を背け、緩やかな死を望もうとしても、
植えつけられた恐怖は、彼女にそれを許してくれなかった。

フレンダは歯を喰いしばると、頭から布団をかぶり、うつ伏せになって枕に顔を埋める。

660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/27(水) 00:34:11.57 ID:9gaciAp50

今日はもう眠る事は出来ないだろう。

それでも、彼女は目を瞑る。

どうか安らかな眠りが得られるようにと願いを込めて。

そして、何時もの様に朝が訪れる。

何時もの様に看護婦が食事を運び、何時もの様にフレンダがそれを食べる。

そして病室で無為に一日を過ごし、夜になれば再び悪夢に苛まれる。

今日もそのような一日が訪れる筈だった。

だが、その予想は、朝食の片づけをしていた看護婦の一言によって覆された。

「あ、そういえばフレンダさん、午後から貴方に面会したいって人が来てるわよ。」
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/27(水) 00:34:45.52 ID:9gaciAp50

何気なく告げられたその言葉に、フレンダは戸惑いの表情を浮かべる。

「め…んかい?誰が?」

「あ、ごめんなさい。ちょっと名前は忘れちゃったんだけど…」

フレンダの問いに、看護婦は申し訳無さそうに言葉を返した。

自らのミスを誤魔化すように、おどけるような調子で看護婦を言葉を続ける。


「でも、男の人だったわよ。私よりも年上で、言葉遣いの丁寧な。」

662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/27(水) 00:35:31.36 ID:9gaciAp50

からかい混じりその言葉で、フレンダの困惑はより一層深まった。

暗部の人間は皆一様に交友関係が狭い。

勿論フレンダもその例外ではなく、
自らを訪ねる男性など、一人を除いて思い当たらなかった。

しかも、彼は看護婦が告げた年と一致しない。

像の見えない面会客を怪しみ、
面会を断ろうとするフレンダであったが、
その申し出は看護婦によって一蹴された。


「駄目よ、折角フレンダちゃんを訪ねてきてくれたんじゃない。」

663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/27(水) 00:36:04.35 ID:9gaciAp50

先生だって面会を勧めて下さってるんだから。

そう付け加えると、看護婦はフレンダに微笑みかける。

労わるような励ますような、そんな看護婦の言葉に、
フレンダは反論を封じ込められた。

結局フレンダは、押し切られる形で午後からの面会を受け入れた。

予想のつかぬ相手への興味も有りはしたが、
動機の大半は看護婦や先生への義理立てである。

一応面会相手について探りを入れてみたが、
先生も電話でしか会話していないらしく、
声から推測される情報しか得ることはできなかった。
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/27(水) 00:37:04.14 ID:9gaciAp50


フレンダはそこから昼までの時間を何時ものように過ごした。


自分の下に面会客が訪れる。
そんな非日常の出来事さえ、今のフレンダには何の動揺ももたらさない。


或いは


ふとフレンダは思う。


或いは、会いに来てくれたのが浜面なら、
少しは自分の心もざわめいてくれただろうか。


頭の片隅で浮かんだ可能性。


彼女がそれを馬鹿げた夢想だと笑い飛ばしたのは、
くしくも病室の扉が叩かれたのと、機を同じくしての事だった。
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/27(水) 00:37:56.27 ID:9gaciAp50

浮かんだ笑みを収めると、フレンダは扉に返事を返す。

その言葉に導かれるように、病室の扉が開かれた。

担当の医師と看護婦、その後ろに続く、見知らぬ壮年の男。

おそらくその男が面会者なのだろう。

比較的長身な体格の他は、さしたる特徴の無い平凡な風貌。

だが、フレンダは感じ取っていた。

その男が発する自分と同じ匂い、闇の世界で生きる人間の匂いを。
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/27(水) 00:39:55.86 ID:9gaciAp50
今回はこれで以上になります。
フレンダ編が思った以上に長い…

667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 07:13:01.33 ID:Y3B8Ou/DO

フレンダ派のオレとしてはイチャラブが楽しみでしょうがない
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/30(土) 18:58:50.33 ID:aglKyn/C0
乙でした
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/22(月) 19:00:49.50 ID:sho+eTRX0
マダカナー
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/30(火) 20:21:07.94 ID:F8BfilA9o
>>1生きてる?
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/30(火) 21:29:54.24 ID:iqyIlygr0
所要で長らく書き込めませんでした。

今週末か遅くとも来週には投下が出来ると思います…
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/30(火) 21:55:59.75 ID:F8BfilA9o
何時までも待ってる
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/10(土) 10:27:02.59 ID:Z3ju/9Tdo
生きてますか?
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 00:45:39.37 ID:ellQ8kVK0
遅れまくった上に中途半端ですが、
これ以上空くのは流石に酷いので投下させていただきます。
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 00:46:35.89 ID:ellQ8kVK0


「実は私はフレンダさんの…」


「ああ、そうだったんですか…」


男は出鱈目な身の上話を医師に聞かせている。

漏れ聞く所によれば、男は自分が小学校の頃の担任だったそうだ。

笑い飛ばしてやりたい内心を押し殺し、
フレンダは作り笑いで適当な相槌を打つ。

その姿に一応の納得がいったのだろう。

医師と看護婦は此方に軽く頭を下げると、
ごゆっくりどうぞと一声残して去っていった。

676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 00:49:03.08 ID:ellQ8kVK0


後にはフレンダと見知らぬ男の二人だけが残された。


「それで、何の用?」


しばらくの沈黙の後、フレンダは男へ声をかける。

人当たりの良い一般人を装う必要が無くなったからか、
男の表情からは笑みが失われていた。

フレンダの言葉に刺すような視線を返すと、
男はゆっくりと口を開いた。


「まずは自己紹介から始めようか。」

677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 00:49:59.59 ID:ellQ8kVK0

淡々とした声だった。

冷酷という程では無いが、その声からは、
人の温もりの一切が抜け落ちているように思えた。


「私は…まあ『人材紹介』とでも呼んでもらおうか。」


「御察しの通り、暗部に身を置いている人間だ。」


そこまで話すと、『人材紹介』はフレンダの反応を窺った。

その視線が煩わしかったのか、或いはただ退屈なだけなのか、
フレンダはまるで興味が無いといった風に、窓の外へ目を向けていた。
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 00:50:55.34 ID:ellQ8kVK0


そんなフレンダの耳に、病院の庭で遊ぶ子供たちの声が届く。

無邪気で楽しげで、精一杯に生を楽しむ彼らの声に、
知らずのうちにフレンダは心を引かれていた。


「続けるぞ」


しばらくの沈黙の後、男は再び口を開く。

その声は、フレンダの耳に余程不快なものとなって届いたらしい。

向き直った彼女の顔からは、機嫌の悪さがあからさまに滲み出ていた。

その反応を目に留めつつ、『人材紹介』は言葉を続ける。


「名前で分かっただろうが、要は暗部の紹介屋だ。」

「紹介屋…」

679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 00:52:10.43 ID:ellQ8kVK0


「ああ、お前らも利用した事ぐらいあるだろう。」


微かに発したフレンダの呟きに、
男は律儀に言葉を返した。


「へえ…成る程ね。」


その発言はフレンダの胸に生じた違和感を解消させた。

暗部の人間だというのに、
この男からは全くといっていいほど血の匂いを感じない。

だがそれも紹介屋という立場を考えるならば、もっともな話だった。
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 00:52:49.98 ID:ellQ8kVK0

しかし、その事実はフレンダに新たな疑念を抱かせる事となる。


「結局…人材屋が私に何の用な訳?」


フレンダの問いかけに、男は意味深な笑みを浮かべた。


「決まっているだろう、人材屋の用事なんてものは2つしかない。」

「仕入れと販売、これだけだ。」


男の笑みにほんの僅かに含まれた諧謔。

それを敏感に感じ取ったフレンダの表情には、
一層強い不快の色が露になっていた。
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 00:54:20.43 ID:ellQ8kVK0


「ああそう、だったら私には用は無いわね。」


切り捨てるような口調でフレンダは吐き捨てた。


「私には暗部の人材なんて必要無いし、結局必要になったとしてもあんたに頼むつもりは無い訳よ。」


精一杯の虚勢に嘲りを込めて男に笑みを向ける。

だがその行為も、男からフレンダの望む反応を引き出す事は出来なかった。
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 00:55:26.33 ID:ellQ8kVK0

男は笑みを収めると、真っ直ぐにフレンダの眼を見る。


「長々と話を続けるつもりはない。単刀直入に言おう、フレンダ・セイヴェルン。」


「お前を新たに創設される暗部組織の一員として正式にスカウトしたい。」


端的に放たれた言葉に、
フレンダは自らの心が揺さぶられた事を自覚した。

僅かな侮りも嘲りも無い、ただ真意のみが込められたその言葉は、
この男が真に自分の力を必要としている事を理解させてしまったのである。
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 00:55:59.09 ID:ellQ8kVK0

だが


「ふざけんじゃないわよっ…!」


その事を理解してもなお、男の言葉は納得できないものであった。


「暗部に戻れって?仲間を裏切った卑怯者が?まともに歩く事さえ出来ない片輪者が?」

「私はねえっ!五体満足な頃だって『アイテム』のお荷物だったのよ!」

「皆に迷惑ばっかかけて!足引っ張って!最後には仲間を裏切って!」

「私のせいで『アイテム』は滅茶苦茶になったのよ!暗部の人材屋ならそれぐらい知ってるでしょ!」

684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 00:57:19.59 ID:ellQ8kVK0

悲鳴交じりの叫び声が病室に響いた。
自らの半身を失ったその日以来、フレンダがこれだけの大声を出したのは始めての事だった。

思いの丈の洗いざらいを吐き、フレンダは荒く息を付く。


「ああ…知っているさ、当然だろう。」


窓の外に視線を移すと、男は溜息交じりの言葉で呟いた。

二人の間に再び沈黙が訪れる。
外で遊ぶ子供たちの声だけが、病室に響いている。
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 00:58:44.94 ID:ellQ8kVK0

先に口を開いたのは男の方だった。


「知った上でここに来た。知った上でお前を勧誘している。」


告げられたその言葉に反応し、フレンダは鈍い動きで顔を上げた。

そこにあったのは、先ほど怒鳴り声を上げた人間の物とは思えない程の、虚ろな目であった。

その眼を認めた上で、男はゆっくりと、しかしはっきりと言葉を続ける。


「足の事は問題にならん。学園都市の技術力があれば四肢の欠損などどうとでもなる。お前が望むのなら元通りの足を生やす事も、人の域を超えた最新式の義足を用意する事も出来る。」


男の言葉に誘われるように、フレンダは自らの下半身に視線を移した。
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 00:59:24.74 ID:ellQ8kVK0


「実力の面だが、それも多めに見るとしよう。今暗部は極端な人材不足に陥っている。」


そう言うと男は忌々しげに頭を振った。


「第一位の方針でな、脅迫や人質などの手段で人材を確保する事が出来なくなってしまった。お陰で暗部に残ったのは自ら進んで暗部に居座ろうとする変人ばかりだ。」


出来ればこちらの意図に沿う信頼できる人間が欲しい。

そこで一度言葉を切ると、男はフレンダの反応を待った。

だがフレンダは、一度身体を震わせたのみで、男の言葉に答えようとはしない。

男はそんな彼女の様子に、呆れたような溜息を付くと、再び口を開いた。
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 01:00:18.72 ID:ellQ8kVK0


「信頼できる人間、という言葉が納得できないのか?」


その言葉に、フレンダは弾かれた様な反応を見せる。


「やはり図星か。」


「そちらの方も気にする事は無い。お前が戦った相手は学園都市でも屈指の戦力を誇る『未元物質』だ。」


フレンダの心を解きほぐそうとする男の言葉、
だが、その言葉がフレンダの耳に届くたび、フレンダは怯えたように身を竦ませる。

だが、男はその反応に気付かない。

らしく無い事をしてるとでも思っているのだろうか。
フレンダに背を向けると、窓の外を眺めながら言葉を続けた。
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 01:02:12.69 ID:ellQ8kVK0


「裏切りの事も問題にはならない。心理系の能力者に操作されたのであれば、抗える人間の方が少ないだろう。」


もし彼がフレンダの方を向いていたならば、この様な失態は犯さなかっただろう。

耳を塞ぎ、身体を震わせ、涙を滲ませている、そんな彼女に気付いていたなら。

だが彼は気付かなかった。

自らの放つ言葉が、フレンダへの決定的な一撃となることに。
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 01:03:15.37 ID:ellQ8kVK0
気にするな     






お前の犯した失敗など












大した事ではない 





690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/12(月) 01:05:01.57 ID:ellQ8kVK0
今回はこれで以上になります。

次は短めになると思いますが、その分投下も早めにします。


オリキャラ出しましたが次の投下が最後の出番ですので
嫌いな方もどうかご容赦ください
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/12(月) 01:37:56.69 ID:rZ5AzOnao
本当に待ち遠しかった

乙!
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/09/27(火) 00:24:31.92 ID:s5Ad9CKIo
あげてみる
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/01(土) 12:28:57.46 ID:QTbVhcez0
とりあえず投下します

もう少し先まで書こうと思いましたが
土日と書けなくなったので、取り急ぎ
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/01(土) 12:29:28.97 ID:QTbVhcez0


男が振り向いたのと、フレンダが手元の花瓶を投げ付けたのは、ほぼ同時の事であった。


怒りに任せて投げた花瓶は、男を外れて側の窓枠に当たり、無惨に破片を撒き散らした。


フレンダから向けられた、殺気すら篭ったその視線に、男は自らの過ちを悟った。


自分らしくも無いミスだと、男は唇を噛む。


だが、それも致し方無い事なのかもしれない。
いくら実働部隊とは違う立場にいようと、男は所詮は暗部に生きる人間である。
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/01(土) 12:30:31.51 ID:QTbVhcez0


仲間を裏切った事に対する後悔の念など、
人間を商品と見なす事に慣れてしまった男には、
想像出来ないものであった。


「…すまなかった、気を悪くしたのなら謝ろう。だが…」


自らの望みが遂げられない事を知りつつ、
男は猶も交渉を続けようとした。


慢性的な人材難に悩まされる今の暗部にとって、
これ程までに団結心や責任感を持つ人間は、
欠かすことの出来ない存在なのだから。

696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/01(土) 12:31:19.88 ID:QTbVhcez0


その言葉を遮る様に、男に向かって鋏が投げつけられる。


或いは予想していた反応だったのだろう。
男は軽く頭をずらし、投げられた鋏を避けた。


当たったかどうかも気に止めず、
フレンダは手当たり次第に、周りの物を男に向かって投げつける。


その合間を縫うように、彼女の口からは罵声と拒絶の言葉が次々と吐き出されていった。


黙れ、煩い、帰れと、ただ男との会話を拒むため、駄々をこねる子供の様に。


その声は他の病室や廊下まで達していたらしい。
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/01(土) 12:32:17.06 ID:QTbVhcez0

フレンダの病室の前には、騒ぎを聞きつけた職員や患者達が、続々と集まってきていた。


流石にこれ以上話を続けることは不可能と判断したのだろう。

男は逃げるように病室を飛び出すと、
呼び止めようとする看護婦をすり抜け、足早に病院から去っていった。


だが、今のフレンダにはそのような事は最早どうでも良かった。


ただ頭から布団を被り、
外からの呼びかけの全てを拒絶する。




下半身の無い少女が、残った両の手で、必死に布団を抑えて蹲る。
それは、異様で、惨めで、それでいてどこか滑稽な姿であった。


698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/01(土) 12:34:01.78 ID:QTbVhcez0

それでもフレンダはそうせずにはいられなかった。

自分の過ちを、些細な事と切り捨てた男の言葉。

激怒して然るべき、その言葉に、
ただの第三者に過ぎない、他人の言葉に、
フレンダは、只の一瞬とはいえ、
嬉しいと感じてしまった。

その一瞬の為に、今までの後悔も、苦悩も、覚悟も、
全てが否定されてしまった。


その事実は、フレンダが決めた、
懺悔の末の死という幕引きすら、
否定する物であったのだから。
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/01(土) 12:34:44.20 ID:QTbVhcez0

病院を抜け出た男は、駐車場に待たせてあった車に乗り込むと、
胸元から取り出した煙草に火をつけた。


「どうでした、成果は?」


運転席の部下らしい男が、『人材派遣』へ首尾を尋ねる。


部下に煩わしげな視線を向けつつも、
『人材派遣』は煙草の煙をゆっくりと吐いて、
呟くようにその質問に答えた。


「無駄だったよ、残念だがな。」


彼の口調には、徒労に終わった虚しさと、自らの失言への後悔が滲み出ていた。
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/01(土) 12:35:20.17 ID:QTbVhcez0


「だと思いましたよ。そもそも選び方がおかしいですもん。」


そんな『人材派遣』の様子に気づかず、部下は軽い口調で感想を述べた。


「元暗部とは言え、今は下半身が無い身でしょ?しかもリハビリを受けている様子すらない。そんな人間を復帰させるより、外部から一流の人材を招聘した方が遥かに安上がりですよ。」


「…ああ、だが、それを考慮してもフレンダ・セイヴェルンは価値のある人材だった。今回会って改めてそう実感した。」

701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/01(土) 12:37:15.85 ID:QTbVhcez0

『人材派遣』の解答に、部下は不満の色を僅かに滲ませる。

「それじゃあ…ここに通う事になるんですか?」

「いや、これ以上説得を続けても無駄だ。残念だが、フレンダ・セイヴェルンは諦めざるを得ない。」

そう答えた『人材派遣』の声色は、元通りの冷淡な物に戻っていた。

その返事に安心したのだろう。
部下は一転して陽気な口調で『人材派遣』へと呼びかける。

「いやー、残念ですねー。でもまあ、こう言う事もありますよ。たまには無駄足ってのも悪くないですよね。」

『人材派遣』は、そんな部下の声を無視すると、
胸元から携帯電話を取り出し、何者かの番号を呼び出した。
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/01(土) 12:38:14.98 ID:QTbVhcez0

一度、二度と呼び出しのコールが鳴る。

「無駄足で終わらせてしまうのは、その人間が無能だからだ。そして、それを許容してしまうのもな。」

電話相手を待つ間に、男は相変わらずの冷淡な口調で、部下の楽観を諌めた。
相手が通話に応じたのは、その言葉が終ったのとほぼ同時の事であった。

「私だ…頼まれていた人間が見つかった。場所は○○病院、今日直接会って確認した。用件は以上だ。」

端的に述べると、男は通話を打ち切る。
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/01(土) 12:39:24.51 ID:QTbVhcez0

「…誰なんですか、今の?」

その電話が、『人材派遣』の言う、
無駄足で終らせないための処置なのだろう。

だが『人材派遣』は、部下の問い掛けに答えようとはしなかった。

通話の切れた携帯電話の画面に、ただじっと目を向けているばかりである。

質問してはいけない事だったのか、部下がそう後悔しはじめた頃に、
『人材派遣』はようやく、だが、はっきりと答えを口にした。










「英雄だ、学園都市の、な。」
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/01(土) 12:43:10.52 ID:QTbVhcez0
今回はこれで以上になります。

次回でようやく浜面が出せます。

よくよく考えたら最後に浜面出してから半年以上も経ってる…主人公なのに

再会で一度投下するか、
再会からフレンダ編の本筋が終るまで待って投下するか未定ですが、
なるべく早く投下できるように頑張ります。
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/01(土) 13:33:22.28 ID:gPD69OCAo
乙!!

頑張れ!
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/01(土) 18:46:50.71 ID:P8Chs68DO
乙乙!
浜面超wktk
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 00:09:53.93 ID:+P8YaX0IO
超まってた!超乙!
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/29(土) 20:32:42.72 ID:7rzl05Dzo
まだかな
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:45:44.21 ID:leaGnD4p0
なんとか書けたので投下します

結局浜面との再会までですが…
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:46:19.97 ID:leaGnD4p0

男が病室を去った後も、フレンダの錯乱は続いた。

宥めに来た看護婦らにまで罵声を飛ばし、
残された両の腕を必死に振り回す。

だがそれは余りにも些細な抵抗であった。

医者達は暴れるフレンダを無理やり押さえつけると、
沈静剤を注射し、その日の内に隔離病棟へと移送した。

711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:46:54.71 ID:leaGnD4p0


一夜が明けた頃には、フレンダは既に落ち着きを取り戻していた。


「ごめんなさい、迷惑かけて…私はもう大丈夫だから。」


そう告げられた医者や看護婦は、余りにも痛ましい彼女の姿に、
思わず目を背けたという。


生きる気力を失いつつあった彼女に、
少しでも希望を取り戻されることができるのでは。


彼らの善意から生まれた筈の行動は、
結果的に最悪の事態をもたらすことになってしまった。

712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:47:39.56 ID:leaGnD4p0

そんな彼らの失意に申し訳ないと思いながらも、
フレンダには最早その善意に報いるだけの気力は残っていなかった。


自分達に何か出来る事はないだろうか、
そう思いながらも、彼女を更に深い闇に追いやってしまう事を恐れ、
医者達は何の手出しも出来ずにいた。


そんな両者の躊躇いと諦めは、
問題の解決を時の流れに委ねようとしていた。
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:48:39.83 ID:leaGnD4p0

このままで良い筈が無い、誰もがそう思いながらも、
誰もが問題に立ち向かえない、立ち向かおうとすらしていない。

フレンダの隔離病棟での生活は、
そんな閉塞感に満ちたものとして幕を開けた。

悪くない

その環境の中で、フレンダが抱いた感想はそれだった。

誰にも構われない、誰にも期待されない。
ただただ一日を無為に費やし続ける。

生きる意義はおろか、死ぬ理由すら失ったフレンダにとって、
そんな生活は、静かで、虚ろで、安らかなものに感じられた。
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:49:05.89 ID:leaGnD4p0


だが、彼女は気づいていなかった。

結局の所、それが只逃避を繰り返してるに過ぎないことを。

だが、彼女は知らなかった。

夜も明けきらぬ内から、彼女に面会させろと、
病院に押しかけてきた若者が居た事を。

そんな若者と、フレンダの身を案じた医者達の間で、
怒声すら伴った言い合いが起きていた事を。

追い返された若者が、いくつかの工具を用意しに戻っていtことを。


彼女は知らなかった。
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:50:12.63 ID:leaGnD4p0


隔離病棟へ移された二度目の夜、既に時刻は深夜にまで達しており、
聞こえる物音といえば、外から響いてくる幽かな虫の鳴き声ばかりである。

消灯から数えても大分時間が経っており、
全ての患者が眠りに付いている事だろう。

だがそんな中にあってもフレンダの目は閉じられていなかった。

特に何か目的があって起きている訳では無い。
別に思索を巡らせる事も無く、ただフレンダは起きていた。

環境が変わったから眠れない、などと暢気な事を言うつもりではない。

仲間を裏切ったその日から、眠れぬ夜を過ごすことなど、
さして珍しい事でもなかった。
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:50:50.62 ID:leaGnD4p0

その日もいつもと同じ様に、ただ眠れぬ夜が来ただけの事だ。

そう思いながら、フレンダはゆっくりと窓の外に視線を移す。

特に何かの気配がしたというわけでもない、
ただ天井を見ているのに飽きたというだけの事だ。

夜の闇に慣れた目で、外の風景を眺めてみる。

何という事はない。

取り立てて見るものの無い、静かな夜の光景、これなら先程まで目を向けていた、
病室の天井と大して変わり映えはしないだろう。

717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:53:13.69 ID:leaGnD4p0

それでも、窓から見える景色は、フレンダの心に外の思い出を呼び覚ましてしまう。

はあ、と一つ溜息を付いて、彼女は視線を戻そうとした。

かぁん

首が疲れたからだ、見る物など無いからだ、と、自分に言い訳をしながら、
目を背けようとするフレンダの耳に、夜の病室には不釣合いな音が響いた。

半ば反射的に、フレンダは視線を窓へと戻す。
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:54:04.21 ID:leaGnD4p0


思えばあれは窓の欄干に何かが当たった音では無かったか。

彼女に残された暗部としての本能が、発された音への分析を迅速に行わせた。

フレンダはじっと窓を注目する。

だが、一向に次の音が聞こえてこない。

自分の気のせいだったのだろうか、フレンダがそう思った次の瞬間、
再び、


かぁん


と、小気味のいい音が響くと同時に、窓の下からぬっ、と手が伸び、
窓ガラスの表面へぺたりと張り付いた。
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:55:19.99 ID:leaGnD4p0


微かな月明かりに照らされたその腕は、
思いのほか大きな影となり、病室の壁に写し出される。

フレンダは自らの筋肉が緊張で強張っている事に気づいた。

心に生まれたのは、恐怖ではなく、警戒。

深夜、尋常ならざる手段で現れた訪問者に対し、
彼女が放棄した筈の防衛反応が、幽かに反応を示している。

半身を失った身で特に何が出来るものでもない、
精々がただ手を握り締める程しか出来はしない。

720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:55:48.49 ID:leaGnD4p0

だが、我知らず闘志の火を灯した彼女に対し、
現れた訪問者の動きは鈍い。

ぺたり、ぺたりと、探るように窓の表面を撫でるその手付きは、
お世辞にも卓越した手腕を持っているとは言い難かった。

侵入者のもたつきにより、いくらの余裕を与えられたフレンダは、
冷静になった頭で現状についての整理を行った。
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:59:11.38 ID:leaGnD4p0

このような時間に、このような方法で訪れる人間が、まともである筈が無い。
また隔離病棟という場所から考えても、盗みが目的というのも考えにくい。

それならば、こいつの目的はなんなのだろうか。
そう考えたフレンダの頭は、至極単純で明快な答えを弾き出していた。

脳内に浮かぶのは、昨日自分の元を訪れた暗部の人材屋の姿。

考えてみれば当然の事だ。

学園都市暗部の現状まで曝したにも関わらず、
自分の勧誘を受け入れなかった人間を、そのまま放置しておく訳も無いだろう。

だが所詮自分はまともに身動きの取れない片輪者。

そんな相手を始末するのには、
あのレベルの人材で充分だと思ったに違いない。
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 13:59:41.69 ID:leaGnD4p0

芽生えかけた闘志を押さえ込むと、
フレンダは再び身体から力を抜き、握り締めた拳を解いた。

侵入者はようやくとっかかりを見つけたらしい。

窓に添えた手に力を込め、侵入者は一息に身体を引き上げた。

当然というべきか、窓ガラスに映し出された顔は覆面ですっぽりと隠されていた。

一度体勢を立て直した事で侵入者は落ち着きを取り戻したようだ。

背中に担いだリュックから器具を取り出すと、ガラスに押し当ててくるりと回転させる。
器具を離したその後には、人の腕が楽に通るほどの穴が開いていた。

再び器具を背中に仕舞うと、侵入者は開いた穴から腕を差込み、
窓の鍵を解いて、部屋の中へと入り込んで来る。
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 14:00:16.20 ID:leaGnD4p0

先ほどまでのようなもたつきは見られないが、
それでもその動作は、お世辞にも洗練されているとは言えなかった。

プロと言うよりも場数を踏んだ素人という方が正しいだろう。

まあ、それでも自分を[ピーーー]には充分だ。

室内に降り立った侵入者を見ながら、
フレンダはどこか他人事のような感想を抱いた。

彼女の思いを気に止めることなく、侵入者はゆっくりとフレンダへと近づいてくる。

跳べば三歩で手が届く距離にも関わらず、侵入者からは一片の殺意も感じられない。
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 14:00:57.68 ID:leaGnD4p0

素人に毛が生えた程度の実力にも関わらず、この余裕は何なのだろうか。

生じた疑問、芽生えた興味を満たすため、フレンダの五感は知らず知らずの内に、
目の前の侵入者からの情報を集めていく。


「…っ!」


集積された情報が彼女の脳で処理された次の瞬間、
フレンダは思わず息を呑んでいた。

始めは只の予感に過ぎなかった。

だが、彼女の心に生じた一つの答えは、
次々と送り込まれる侵入者の情報により。
急速に裏付けを与えられていった。
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 14:01:33.34 ID:leaGnD4p0

自分の顔に浮かんでいるのが、
どのような感情なのか、今のフレンダには分からなかった。

ただ一つ確かなのは、侵入者が一歩一歩と近づいてくる度、
自分が押さえ込んでいた感情が、次々と息を吹き返している事であった。

胸が張り裂けんばかりの恐怖と、それに匹敵する程の悦び、
その二つが軸となり、巨大な感情の渦を成していく。


「あ…」


発せられた言葉はその一つだけだった。

だが、それはフレンダがこの病院に来てから発されたどの言葉よりも、
多彩な感情で満ち溢れたものであった。
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 14:01:59.90 ID:leaGnD4p0

侵入者の顔は隠されていた。

だがそれがどうしたというのだ。

顔が隠された程度で分からなくなるはずがない。

何度も死線を共にした。

何度も笑顔を交し合った

そんな相手が目の前にいるのだ。
分からなくなる筈がない。
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 14:03:59.32 ID:leaGnD4p0

フレンダの目から我知らず一筋の涙がこぼれたのと時を同じくして、
侵入者はとうとうフレンダの眼前に辿り着いた。

視界は全て彼の姿で覆われている。

窓から入る明かりは彼の背中に遮られ、
あたかも後光の様な神聖さを生み出していた。

その神々しさから目を逸らすように、
フレンダは両の掌で自分の顔を覆った。

彼女の姿は、断罪を待つ罪人の様でもあり、
祈りを捧げる修道女の様でもあった。

荘厳な絵画を思わせる光景の中で、
二人はしばし、沈黙の時を過ごした。
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 14:04:31.94 ID:leaGnD4p0



「何してんだよ、馬鹿。」


永遠に続くかとも思われたその時は、侵入者の発言によって、終わりを告げた。

その言葉に誘われるように、フレンダの視線も侵入者の元へと引き戻される。

気だるげに発されたその言葉は、軽々しく、気安げで、馴れ馴れしいものであった。

だがその声は、フレンダの心の隅々にまで、暖かな響きを伴い染み渡っていく。

溢れ出した涙は手のひらから零れ落ち、
身体を覆う布団に点々を染みを描いていった。
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 14:05:58.76 ID:leaGnD4p0


「ようやく居場所が分かったからって会いに来てみれば、面会謝絶の隔離病棟になんか移されやがって。」


「ここまで来るのにどんだけ苦労したと思ってんだ。」


そう言うと、侵入者は自らの疲れを主張するように、わざとらしく肩を回す。

以前と変わらないその口調がフレンダにはたまらなく嬉しかった。

侵入者は次の言葉を発する前に、自らの顔を覆う覆面を、今更の様に脱ぎ捨てた。

そこにあったのは、フレンダの予想通りの顔であった。

以前より幾分精悍にはなっているが、それ以外は昔となんら変わる事の無い、浜面仕上の顔であった。
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 14:08:06.52 ID:leaGnD4p0


「ようやく会えたなフレンダ。」


フレンダの頭を優しく撫ぜながら、浜面仕上はそう語りかけた。

涙が止まることは無かったが、彼女の顔には久方ぶりの本心からの笑みが浮かんでいた。

731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) :2011/11/23(水) 14:09:35.85 ID:leaGnD4p0
今回はこれで以上になります。

暗めなシリアスで思った以上に時間をとられましたが、
次回からはある程度甘めでほのぼのした話になる予定です。
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 14:19:45.31 ID:nC76mEZ0o
乙です。
浜面マジイケメン。
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) [sage]:2011/11/23(水) 20:45:59.74 ID:g/K57k7Fo
ほほう
人材派遣がなんか意外だぜ

乙!
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 22:07:56.58 ID:Z5aD95vS0
ヅラのくせに生意気な……!
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/23(水) 22:20:06.55 ID:2iMu40vNo
おつおつ
浜面がかっこよすぎてもうね…
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 01:44:17.32 ID:LKCUqRAOo
浜面、伊達にヒーローやってないな
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) [sage]:2011/11/24(木) 13:09:07.41 ID:fAnShH3bo
流石ヅラさん
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 15:02:28.17 ID:4naEkhv3o
浜面爆発しなくていい
739 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 04:28:33.51 ID:REFgG8dvo
マダー?
740 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 01:33:30.64 ID:yaW6AHvyo
>>739
きっと年末までには書いてくれるよ。
741 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/25(日) 09:56:22.49 ID:cdTeCcPq0




「ま…結局そういう訳よ。」

浜面との再会までを話し終えると、
フレンダは一度言葉を切り、一つ息を付いて、そう呟いた。

目の前に置かれたグラスの氷が、思い出したかのようにからりと音を立てる。

言葉にした事で、その時の感動が蘇ったのだろう。

押し黙るフレンダの頬は、仄かに赤く染められていた。

742 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/25(日) 09:57:02.43 ID:cdTeCcPq0


「やっぱり…浜面はヒーローな訳よ。」

沈黙により呼び起こされた気恥ずかしさを紛わそうと、
フレンダは言葉を繋いだ。

言いながらフレンダは目の前のグラスに手を伸ばす。

中には僅かに酒が残っていたが、
彼女はそれを口に運ぼうとはせずに、
ただゆらゆらと手の中で弄んだ。

その度に、グラスの中からはからからと小気味良い音が響いてくる。

743 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/25(日) 09:58:05.20 ID:cdTeCcPq0


「今更言う事でも無いけどさ…浜面には結局特別な力なんて無い訳よ。」

「あの時だって、ただ情報を仕入れて、空き巣紛いの方法で忍び込んできただけ。」

「それでも…私が一番来て欲しい時に来てくれて、私の手を握ってくれて…・」

「かっこよかったなぁ、あの時の浜面。」

はにかむ様な笑みを滝壺に向けながら、
自分が受けた感動の何万分の一かでも伝えようと、
ゆっくりゆっくりと、フレンダは言葉を発していった。

それが途切れると、彼女は弄んでいたグラスを机に置き、
浜面に握り締めて貰った手へと視線を注ぐ。

744 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/25(日) 09:58:42.78 ID:cdTeCcPq0


先程まで氷の入っていたグラスを持っていたにも関わらず、
その手からは、心を蕩かすような温もりが沸き上がってきていた。

「それで?」

思い出の世界に浸りかけたフレンダに、
滝壺は静かに声をかける。

「ん?」

唐突に現実に引き戻されたフレンダは、
その質問の意図が理解できずに、とぼけた声を返す。

「続きは?」

745 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/25(日) 10:00:16.37 ID:cdTeCcPq0

微笑んで先を促す滝壺の声は、あくまでも柔らかであった。

しかしながら、その口調から、酒の名残が完全に消え失せていた事に、
フレンダは気がつかなかった。

「続き…?うーん、でも、一番辛かった所はもう話しちゃったし…」

「…それに、結局これ以上は恥ずかしい訳よ。」

頬に手を当てながら、フレンダは身を捩じらせて滝壺の要求を拒絶する。

甘い思い出を自分だけの秘め事としておきたい。

そんないじらしい想いから導き出された、フレンダの答えに対し、
滝壺は笑みを崩すことなく、ゆっくりとフレンダが置いたグラスを手に取った。

746 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/25(日) 10:00:44.76 ID:cdTeCcPq0

普段のフレンダであれば、その様子に何か不穏な物を感じ取っただろう。

だが、酒と慕情に浮かされた今のフレンダには、
滝壺に生じた微妙な変化に気づく事はできなかった。

「ねえフレンダ。」

机に視線を落とし、滝壺は言葉を続けた。

「ちょっと考えてみて欲しいんだけど」

一言一言が発せられる度に、その声は徐々に重く暗い物へと移っていく。

747 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/25(日) 10:02:29.47 ID:cdTeCcPq0


「うん?」

その声に、フレンダもようやく滝壺の様子が変わったことに気づいた。

それでも、事態を完全に把握出来ているという訳でも無く、
ただ身悶えを止め、不思議そうに滝壺を見つめている。

一時の沈黙の後で、滝壺はフレンダと視線を合わせた。

「恋人が深夜に友人の下を訪ねて、一晩中二人っきりで過ごして、人生の中で一番大切な思い出を手に入れて、でも詳しい部分は恥ずかしいから内緒で、って…」

「それで納得出来る訳ないよね?」

748 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/25(日) 10:02:59.25 ID:cdTeCcPq0


言い終わると同時に、部屋の中にピシリという音が響く。

見ると滝壺の手中にあるグラスには一筋のヒビが入っており、
そこから水が滴り始めている。

一瞬の事にフレンダは思わず視線をコップに奪われてしまう。

フレンダが慌てて目を戻すと、いつのまにか顔を上げた滝壺が、
こちらの方を真っ向から見据えていた。

口元には普段と変わらない微笑が浮かべられていたが、
フレンダに向けられた目からは、
安らぎを与えてくれるような温かさが綺麗に抜け落ちていた。

749 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/25(日) 10:03:44.55 ID:cdTeCcPq0
「あ…あの、滝つ…」

「は・な・し・て。」

「…はい。」






750 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/25(日) 10:05:23.63 ID:cdTeCcPq0
とりあえず今回はこれで終わりになります。
できれば年内か、それで無くても三が日には投下しますので、
よろしくお願いします


出来ればフレンダ編は次回で終わらせないと…
751 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 12:20:12.66 ID:AFr1UwEco
乙!

浜面ハーレムはやはり良い
752 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 15:21:41.29 ID:vkAkm7sT0
この浜面は天寿全うして4人に看取られながら[ピーーー]
それか4人とも看取ってからゆっくり天寿全うして[ピーーー]
753 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 16:22:11.31 ID:2Andyz2IO
一気読みしてしまった

乙、面白いですまったり書いて下さい
754 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 19:13:53.22 ID:KmYKWfCg0
浜面め、かっけえなおい
755 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 20:19:51.55 ID:6gAzMO0DO
キテタ―乙
浜面とアイテムが好きすぎて生きるのがつらい
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:10:32.57 ID:a/hRaEQl0
皆さんあけましておめでとうございます。
三が日は間に合いませんでしたが、とりあえず投下します

757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:11:04.51 ID:a/hRaEQl0






『どうして』

フレンダが始めに発そうとしたのはその言葉だった。

目の前に浜面が来てくれた。

その現実が理解できなくて、思わず発されたその言葉。

それは涙と嗚咽に掻き消され、殆ど声にはならなかった。
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:12:10.17 ID:a/hRaEQl0

浜面にその言葉が、想いが届いたかは分からない。
だが浜面は、フレンダが伸ばした手を優しく握ると、自らの片頬に押し当てた。

浜面の温もりと優しさが腕を通じてフレンダの全身を満たしていく。
その温もりは疑問に対しての答え以上に、彼女の求めていた物であった。

止まる筈が無いと思っていた涙すら勢いを弱め、
方法さえ忘れていたと思っていた呼吸は、次第に正常な物へと戻っていった。

フレンダの心情が平静に戻るのを見届け、浜面は空いたほうの手をフレンダの頭に乗せる。


「面倒かけさせやがってよ。」


言いながら浜面は頭に載せた手をゆるゆると動かす。
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:12:38.52 ID:a/hRaEQl0

手のひらから伝わる浜面の温もりは、かつて共に過ごした頃と何一つ変わらないものであった。

その温もりにより、フレンダは久方振りに、平常な精神を取り戻していた。

だが、平静になったからといって、それがすぐさま冷静な思考や行動につながるとは限らない。

この場合のフレンダにも、それと同じ事が言えた。

通常であれば、解消されていない疑問、
浜面が現れた理由についての答えを求めるはずであり、
再会を喜びつつも、再び問いかけを行うというのが、一般的な行動だと言える。

760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:13:08.96 ID:a/hRaEQl0

しかしながら、この時フレンダの心に生じていたものは、
今以上に、浜面の温もりを感じたいという、単純かつ肉体的な欲求であった。

その欲望に付き動かされ、フレンダは空いた手を支えに体を起そうとする。

だが、フレンダの心が要求した迅速な行動を、
疲弊しきった体は実行に移すことが出来なかった。

体を起し、浜面の方へと向けることだけには成功したものの、
支えていた腕はそこで力を失い、体勢を崩したフレンダをベッドの外へと投げ出してしまった。

目前に迫る、冷たく硬いコンクリートの床に、フレンダは思わず目を瞑る。
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:13:45.05 ID:a/hRaEQl0
だが、彼女が覚悟した衝撃はいつまで経っても伝わってこない。

恐る恐る目を空けたフレンダの目に入ったのは、
浜面の腕に抱きかかえられた自らの姿であった。

「あ…」

戸惑いの声を挙げるフレンダを尻目に、浜面はフレンダを抱えたままベッドの上へと腰を下ろす。

下半身を失ったフレンダの体は、彼女の妹程の身長しか残されておらず、
それ故、余すところ無く浜面の腕の中に納められている。

その姿はさながら父親に抱かれる赤子のようでもあった。
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:14:20.66 ID:a/hRaEQl0

再びフレンダの頭を撫でながら、浜面はゆっくりとフレンダの疑問に答える。


「お前をちゃんと弔ってやろうと思って、後始末をした下部組織の連中に、遺体を返還するように頼んだんだ。」


「そしたら、脚の部分しか見つからなかったって言われてな…ひょっとしたらって思ったんだよ。」


どこか得意気に話す浜面の言葉、その一言一言がフレンダにかつての日々を呼び起こさせていく。


「あとは暗部の情報屋に片っ端から依頼して、ようやく昨日居場所を突き止めたって訳だ。」


浜面が言い終わるとともに、一瞬の沈黙が病室に訪れる。

浜面の言葉も、フレンダの泣き声も、
夜の闇に吸い取られてしまったかのように、病室から消え失せていた。
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:14:59.86 ID:a/hRaEQl0

心に生じた空白を埋めようと、フレンダは浜面の方へと眼を向ける。

その視線は、丁度フレンダを見つめていた浜面の視線と交わり、
互いの表情を、間近ではっきりと確認させることとなった。

浜面の眼には頬がやつれ、病み衰えたフレンダの顔が、
フレンダの眼には、以前より少しだけ逞しく、光に満ちた浜面の顔が、
それぞれ互いの眼に写し出される。

一瞬、浜面の口から、息をのむような音が漏れこぼれた。

咄嗟に口をついて出そうになった労わりの言葉、
それを飲み込んで、浜面は話を進める。


「でも、これでようやく、アイテムが一つに戻れるな。」


耳に届く浜面の甘い言葉、
だが、その内容に、フレンダは思わず身を竦めた。

764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:16:20.92 ID:a/hRaEQl0

浜面の提案は、フレンダが心の底から望んでいた事でもあった。

だが、それは、果たして自分の裏切りを知った上での事なのだろうか。

この心優しい無能力者の英雄は、自分の犯してしまった大罪を、
それでも許してくれるのかもしれない。

許した上で、自分をアイテムに迎え入れてくれるのかもしれない。

だが、もし知らなかったとすれば?

自分に向けてくれている、この温かな笑みは、
今度こそ永久に失われてしまうのでは無いだろうか。
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:17:03.99 ID:a/hRaEQl0


フレンダの逡巡を知ってか知らずか、
浜面はフレンダの返答を待つことなく言葉を続ける。


「皆待ってるぞ、滝壺も、絹旗も、勿論、麦野もだ。」


告げられたその言葉に、フレンダは信じられないといった視線を返した。


「…麦野、も?麦野も、私にアイテムに戻って欲しいって、言ってくれてるの?」


フレンダの問いかけに、浜面はただゆっくりと頷いた。


「で、でも、私、麦野を、アイテムを、裏切ったんだよ?」

766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:17:37.84 ID:a/hRaEQl0


「知ってるよ、知ってるに決まってるだろ。」


更なる反論を打ち消そうと、浜面はフレンダの頭を、自分の胸板へと押し付ける。


「何も知らずに迎えに来るほど、無責任じゃないさ。」


その力強い所作に、フレンダは全ての疑問も反論も押し流されそうになってしまう。

だが、心に突き刺さった棘は、そんな安穏とした選択を許してはくれない。


「だ、だったら。」


続く言葉は思い浮かばなかった。
それでも、フレンダの意図は、浜面にはっきりとした形で伝わっていた。
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:18:14.40 ID:a/hRaEQl0


「なあフレンダ、俺は麦野と三度殺し合った。」


「その度に俺も滝壺も死にかけたし、麦野は右目と左腕を失って、全身に大火傷を負った。」


超能力者と無能力者の間に繰り広げられた死闘、
フレンダもその詳細まで知っている訳では無かったが、
それがどれ程苛烈なものであったかは、容易に想像がつく。


「それでも、俺たちはやり直すことが出来た。互いに許しあって、元通りになる事を選べた。」


その声は希望に満ちていた。

前だけに目を向け、輝かしい明日を信じて疑わない。

フレンダ達が遥か幼少の頃に失った、
嘗ての浜面さえも失っていた、未来への希望が。
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:21:48.21 ID:a/hRaEQl0


「俺たちは学園都市の暗部に生きた。」


「互いに胸を張って誇れるような経歴でも無いし、大なり小なり一生背負わなければいけない業だって持ってるさ。」


「今更たった一度の失敗で全部壊れるもんじゃない、俺達はやり直せる、絶対にな。」


揺るぐ事の無い希望、その根拠がただ、
仲間の、自分達への信頼から生み出されている事に、フレンダはいつしか気づいていた。


「麦野も滝壺も絹旗も、心の底からお前に会って、やり直したいと思ってる。その気持ちに嘘は無い。」

「後はフレンダ、お前だけだ。お前が麦野を許せるのか、お前が自分を許せるのか。後はそれだけだ。」


浜面の示す、幸せな未来。
フレンダは、自らがその光の中に加わっているような錯覚を覚えた。
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:22:14.53 ID:a/hRaEQl0

しかし、フレンダの心を拘束する鎖は、
そんな彼女を深い闇の中に押し留めようと、より強靭に彼女を締め付けてゆく。


「駄目だよ…浜面。」


口から漏れ出る拒絶の言葉、
フレンダ自身、それが本心から発される物ではないと気づいているのだろう。

それでも、フレンダは、発されたその言葉を否定しようとはしなかった。

770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:23:04.34 ID:a/hRaEQl0

「今日は…浜面に会えて嬉しかった。多分今までの人生で一番。」

「…でも駄目だよ、ここで皆に許してもらっても、また昔みたいに皆と一緒になっても…。」

「私は…結局皆の足手まといになっちゃう訳よ。」

言葉を紡いでいく内に、フレンダの中で、その言葉が根拠を持って裏打ちされていく。

しかも、それは過去に対する罪悪感によるものではなかった。
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:23:33.89 ID:a/hRaEQl0


「皆は学園都市の呪縛から解放されて、新しい明日に向かって踏み出そうとしてる。」

「きっと、将来への夢や目標へと向かって、一生懸命頑張ってると思う。」

「でも…私には何もないの。夢も、希望も、成し遂げたい事も。」


そんな自分が彼らの仲間として、共に歩めるだろうか。

恐らく、浜面達は、自分を受け入れてはくれるだろう。

だが、半身を失い、未来への希望すら見出せていない自分が、
今の浜面達の輪の中に加わる事は、彼らの重荷となるだけでは無いだろうか。

772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:24:29.79 ID:a/hRaEQl0


「だから…お願い浜面、私の事はもう忘れて。」

「もう私は満足なの、浜面に会えて、許してもらって。」

「だから、忘れて、私の事なんて。」


自分には、この一夜の思い出さえあればいい。

この思い出さえあれば、それを慰めに、残りの一生を過ごすことができる。

それで自分は満足なのだから。

773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:24:59.65 ID:a/hRaEQl0


「…」


フレンダの願いに対し、浜面は沈黙で返した。

それは勿論、フレンダの願いを受け入れるという意思表示ではない。

だが、フレンダの哀切な願いに対し、
ただ単純に、無責任に否定するだけでは、
今の彼女を助け出すことは出来ない。

浜面は本能的に、そう感じ取っていた。

沈黙の後、しばし天を仰いで、浜面は再びフレンダと目を合わせる。

774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:25:28.62 ID:a/hRaEQl0

フレンダを見据えるその目には、先程までの視線に込められていた慈愛ではなく、
厳然とした決意が込められていた。


「あのさ、フレンダ、俺に力を貸してくれないか?」

「…え?」


輝かしい未来を否定し、共に歩くことを拒絶した仲間に対し、浜面は助力を乞い願った。

もし、この時浜面が、フレンダからほんの少しでも目を逸らしていたならば、
フレンダは浜面の言葉を、ただの同情としか受け取れなかっただろう。
例えその言葉に、どれだけの真実が込められていたとしても。
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:25:59.28 ID:a/hRaEQl0

だが、浜面は真っ向からフレンダを見つめていた。
痩せこけた仲間の顔を、絶望に囚われた仲間の顔を、揺るぐ事無く、真っ向から。


『力を貸して欲しい』


つい昨日、初対面の相手に、フレンダは同じ事を言われている。

その時、フレンダは笑い飛ばし、次に怒った。
だが、今日、フレンダはそのどちらも出来ないでいた。

浜面の目に込められた想いの強さに、逆らう事も、頷く事さえも忘れ、
ただ、その瞳に飲み込まれていた。

776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/12(木) 00:28:51.61 ID:a/hRaEQl0

今回はこれで以上になります。

大分伸びましたが、次回でようやくフレンダ編が終了です。

浜面・フレンダの現在の仕事なんかがメインになると思いますが、
そこまで分量が増えない予定なので、なるべく早めに投下できるよう、頑張ります。
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/01/12(木) 01:58:16.26 ID:jIXdGk5v0

この浜面はコブラか何かか?かっこよすぎるぞ
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2012/01/12(木) 04:08:18.97 ID:PbXWUxxXo
アホな質問なんだが麦野が学園都市を離れた理由って語られたっけ?
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/12(木) 10:08:55.81 ID:syiYyn7DO
超乙!
浜面かっこいいよ浜面
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/01/12(木) 14:50:38.90 ID:a0EQeRxAO
>>778
>>1から読めばすぐ見つかるんじゃねえの。聞くよりも早く
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/12(木) 23:58:52.38 ID:a/hRaEQl0
>>778

理由としては、麦野が浜面への想いを諦める事が出来なかった事が上げられます。

浜面の場合、この時の麦野を引き止めるには、
「お前が俺の事を好きなのは分かっているけど、俺はもう既に滝壺を恋人にしている。だからうじうじしないで、これから友達として、一生仲良くしようぜ。恋心はきっぱり諦めてくれよ。」
と、麦野を極力傷つけずに伝えるか

「お前が俺の事を好きなのは分かっているから、俺はもう既に滝壺を恋人にしているけど、お前の事も恋人にするよ。」
と、麦野に同情と思われないように、かつ罪悪感を抱かせないように伝えるか

このどちらが出来ていたなら麦野を引き止められていたかもしれません。

浜面の場合、悩みに悩んで後者を選択し、
麦野も滝壺と同じぐらい好きだと確信できるようになるまで、
十年程必要だったんだと考えています。
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/13(金) 12:59:31.88 ID:CAAe7EnIO
乙。浜面まじコブラ。
滝壺の心情描写に期待するわ。原作からしてそうなんだし、ドロドロした葛藤を見てみたい…
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2012/01/13(金) 17:03:53.89 ID:MWBqSXwQo
>「お前が俺の事を好きなのは分かっているから、俺はもう既に滝壺を恋人にしているけど、お前の事も恋人にするよ。」
この一文だけ見るとただの屑だなwwwwwwwwww

回答サンクス
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/02(金) 19:12:01.21 ID:64I28KrRo
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/04(日) 19:34:42.06 ID:w3tGJN8No
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:08:27.85 ID:NzzNVT710
皆様お疲れ様です

どうにかこうにか続きが出来ました

フレンダ編の本筋はこれで終わりになります

最後駆け足になってしまったので、読みにくいところもあると思いますが、
ご容赦ください。
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:09:37.25 ID:NzzNVT710

「…笑うなよ?」

一拍の呼吸の後、浜面は少しだけ照れが混じった口調で、そう呟いた。

「俺な…会社を作ろうと思うんだ。」

言った後で、浜面は気恥ずかしさを紛らわすように、頭を掻き毟った。

「…会社?」

そんな浜面をよそに、フレンダはやや気の抜けた風に問い返す。

自身でも、随分間抜けな声を出してしまったと思う。
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:10:10.54 ID:NzzNVT710

だが、それも止むを得ない事かもしれない。

フレンダの耳に届いた言葉は、眼前の人物に対する印象とは、余りにもかけ離れた物であったから。


「まあ…いきなり俺にこんな事言われても戸惑うだろうけどさ。」

彼女の反応を確かめた後、浜面はゆっくりと口を開く。
その声には若干の照れが入っており、目も躊躇いがちに揺れている。

「その、何ていうかな、一応自分でまとめて来たつもりだったんだけど、いざ話すとなると、何から話せばいいか…」

789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:10:39.83 ID:NzzNVT710


「いいよ?どれだけ時間がかかっても。」


腕を組み、頭をひねる浜面を見ているうち、フレンダの口から自然とそんな言葉が漏れた。

自分の知らない所で一回りも二回りも成長してきた仲間は、
どの様に自らの進む道を定めていったのか。

彼女は、単なる好奇心では説明出来ない程に、
その疑問に対する答えを、強く、深く求めていた。

フレンダの心遣いに、浜面ははにかむ様な、安心したような笑みを浮かべた。


「…そうだな、最初から話すよ、多分それが一番分かりやすい。」
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:11:06.93 ID:NzzNVT710

「俺が学園都市の外で、色んな敵と戦ったって事は知ってるよな?」


その言葉に、フレンダはただ一度だけ、はっきりと頷きを返す。

第三次世界大戦、学園都市に接近した超巨大空中要塞、ハワイでの米軍襲撃事件、
病室で眠りについていたフレンダにすら、その一端は聞こえてきていた。

「その戦いの中で、俺は色んな奴に出会って来た。学園都市の第一位、どんな魔法も超能力も打ち消せるイレギュラー、天使に魔神、アメリカ大統領なんてのも居たな。」

「どいつもこいつも桁違いな奴ばっかりだ。一まとめに英雄なんて呼ばれたけど、とても俺なんかが肩を並べれる相手じゃなかったよ。」

そんな事は無い、という通り一遍の弁護は、フレンダの口からは発せられなかった。
何故なら浜面の声には、自分を卑下する様子が一片も込められていなかったのだから。
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:11:34.08 ID:NzzNVT710

ごく普通の一般人は、それでも死力を尽くして、人知を超えた怪物たちと戦ってきたのだろう。

「結局俺は只の無能力者だ。戦いが終わった後、世界を導いていくような立場が用意されてる訳でもない。」

「残るのは元スキルアウトの無能力者というレッテルだけだ。」

「昔の俺だったら、他の奴らと自分を比べて劣等感に悩まされたりしたんだろうな。」

そう言うと、浜面は窓の方へと目を向けた。

その視線は遥か遠くへと注がれており、
過去の浜面自身へと向けられているようにも見えた。
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:12:18.91 ID:NzzNVT710

しばしの間、フレンダはその視線に魅入られていた。

そんな二人の下へ、窓の穴から入り込んで来た冷ややかな風が訪れる。

身を切るような冷たさに、フレンダは思わず身を竦めた。

「ああ、悪い、寒かったか?」

そう言うと、浜面はフレンダの体をさらに強く抱きしめた。

彼女の矮躯の全身に、浜面の体温が染み渡っていく。

その心地良さを存分に堪能しようと、
フレンダは二度三度と、甘える様に胸板に頬を擦り付けた。

それに応える様に、浜面はくすぐり交じりの撫で方で、
彼女の頭や頬、首筋までに、ゆっくりと指を這わせた。
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:12:45.38 ID:NzzNVT710


「…戦いが終わった後で、俺は始めて昔の自分に向き合った。」

「学園都市の落ちこぼれ、無法者のリーダー、暗部組織の下働き。どれをとっても自慢できるような立派な経歴じゃあない。」

「でも、そこで培った経歴があったからこそ、俺はあの戦いを勝ち抜く事ができたんだ。」

聞きながら、フレンダは浜面の指をそっと握り締めた。

たとえ汚れた経歴から得た技術でも、使う人間の器量によって、
それを全うな目的の元で活かす事ができる。

浜面の言い分は、自らが培ってきた経験と作戦を以って、
暗部を生き抜いてきたフレンダの考えと、確かに通じる所があった。

794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:13:16.43 ID:NzzNVT710

「俺はスキルアウトで得た物を、暗部で得た物を、無駄にはしたくない。この平和な世界で、全うな手段で、裏の世界で手に入れた力を使って、生きていきたいんだ。」

「…それで、どんな会社にするの?」

思わず、フレンダの口から先を勧める言葉が発された。

「ああ…警備会社か、探偵会社かにしようと思ってる。」

浜面はそれを奇異に思うことも無く、勧められるままに言葉をつないだ。

「俺やスキルアウトの仲間たちは学園都市の隅々までを知り抜いている。暗部の奴らみたいに、情報としてじゃなく、経験でな。」
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:14:13.97 ID:NzzNVT710


学園都市の路地裏に潜むスキルアウト、侮蔑交じりの表現だが、それは決して間違いではない。

後ろ盾を持たない彼らはしばしば廃墟となった建物に住み着き、
自らの力で獲得した、生身の情報を以って、
アンチスキルを始めとした治安部隊と戦いを繰り広げている。

確かに彼等の情報は、精度という点では暗部に劣るかもしれない。

だが、彼らの培った経験は、時に途轍もない破壊力を生じさせる。

第一位を追い詰めたかつての駒場利徳や、第四位を打ち倒した浜面仕上の様に。


「暗部を解体した今の学園都市は、警備、防衛の担い手が極端に不足している。俺達ならきっとその穴に入り込める。」
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:14:39.10 ID:NzzNVT710

浜面のささやかなビジネスプランは、昨日自分を勧誘した人材屋と類似する物だった。

恐らく、このような動きは学園都市の至る所で行われているのだろう。

「始めから上手く行くなんて思っちゃいない。立ち上げの資金だって雀の涙程しか用意できない。でも、だからこそ、始めのスタッフには選りすぐりの精鋭を用意したいんだ。」

だからこそ、お前には力を貸して欲しい。

浜面のその言葉に、フレンダは只促されるまま、頷いてしまいそうになる。

夢を叶える大事な一歩目に、浜面は自分を選んでくれた。
滝壺でも、麦野でも、絹旗でもなく、自分を。

それが幼稚な感傷だと言う事は、フレンダも気づいている。
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:15:04.46 ID:NzzNVT710

別に自分が特別な存在という訳ではない。
ただ浜面の求めるスキルを自分が持っているだけの話だ。

それでも、自分の居場所が浜面の隣に用意されているというだけで、今の彼女には満足だった。

「もし…」

「うん?」

だが、フレンダの口から発されたのは、本人すら意図しなかった言葉であった。

「もし、私が、浜面に力を貸さないって言ったら…どうなるの?」

フレンダの心に絡みついた、最後の鎖。
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:15:53.71 ID:NzzNVT710

『結局は力だけが必要なんだ。』

『役に立たないと分かれば自分を見捨てるに違いない。』

本心ですらない、心の溝に染み付いた、捩れ曲がった思考の澱が、
未来へ踏み出そうとするフレンダの足に絡みつく。

否定しなければ。

なんでもない、只の戯言だから。

そう言って笑い飛ばさなければ。

だが、そんなフレンダの試みよりも早く、
浜面は答えを返していた。
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:17:02.23 ID:NzzNVT710


「そうだな…どうしても駄目だって言うなら、無理強いはしない。」

「そう…」

フレンダの声が、幽かに気落ちしたものへと変わる。

否定する筈の考えを裏づけしてしまう様な、浜面の返答に。

「ああ。」

「でもな、だからって、お前をこのまま放っておく事だけは絶対に無い。」

フレンダの様子に、浜面が気づいていたかどうかは定かではない。

だが、断言されたその言葉は、彼女にまとわり付いた澱んだ感情を、容易く吹飛ばしてしまうほどに、
熱く、力強い物であった。

800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:17:39.81 ID:NzzNVT710

「俺はお前が生きる目的を取り戻せるようになるまで、責任を持って支え続ける。」

「その為なら、毎日だって此処まで忍び込んで来てやるし、鯖缶だって幾らでも買ってきてやる。どこか外に出たいって言うなら、背負ってでも連れて行ってやる。」

「昔みたいに、どんな我侭でも聞いてやる。俺に出来る事なら、何だってする。だから、フレンダ、お前も昔のお前に戻ってくれ。」

そう話していく内、フレンダの痩せ細った体は、
いつの間にか、浜面の熱く逞しい体に抱き締められていた。

羞恥の心は不思議と起きなかった。
ただ、フレンダの両目からは、再び涙が溢れ始めていた。

ああ、涙とはこんなにも熱かっただろうか。

胸板に押し付けられたフレンダの耳に、
早鐘を打つような浜面の鼓動が響いてくる。
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:18:26.81 ID:NzzNVT710

それは希望と生命力に満ち満ちていた。

深く大きく、どこか安ぎを与えてくれる、頼もしいリズム。

これに比べれば、弱りきった自分の心音など、
かき消されてしまっているに違いない。

そう思い、フレンダは、自らの鼓動に耳を傾けてみた。

消え失せたかに思えたフレンダの鼓動は、
確かに、規則正しいリズムを刻んでいた。

当然といえば、当然の事。

だが、その鼓動は次第に浜面の物と重なり合って行き、
三度呼吸を終える頃には、自分でも区別が付かないほどに、同調してしまっていた。

802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:19:11.96 ID:NzzNVT710


「無責任だよ、浜面…」

泣きじゃくりながら、フレンダは思わずそう言った。

「生きる目的なんて見つけられないのに、それなのに、昔みたいに戻れって、そんなの…っ!」

この言葉は、嘘偽りの無い、フレンダの本心から発されたものだった。

だが、その本心にどれだけの感情が込められているか、
フレンダにも分からなかった。

ただ、嬉しかった、悲しかった、恥ずかしかった、少しだけ、ほんの少しだけだが、
怒りの感情すら含まれていたかもしれない。
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:19:34.44 ID:NzzNVT710

「今すぐ見つけろなんて言ってないさ、自分の気が済むまで時間を掛けて見つければ良い。例え一生かかったとしても、ずーっと付き合ってやるよ。」

「お前は、俺が責任を持って、絶対に幸せにしてみせる。今日はそれだけの覚悟を持って此処に来た。」

どれだけの感情をぶつけても、浜面の決意が揺るぐ事は無かった。

フレンダが把握仕切れていない気持ちすら、
浜面には理解されてしまっているのかもしれない。

「馬鹿…馬鹿っ…馬鹿っ…!」

「ああ、良いよ、馬鹿で。お前を幸せに出来るってんなら、いっそ馬鹿な方がありがたい。」
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:20:05.14 ID:NzzNVT710

フレンダの罵声を軽く受け止め、浜面は微笑みながら、彼女の背中を優しく叩く。

「今日の返事はまた明日聞かせてもらうかな、一晩とは言わない、じっくり考えてみてくれ。」

労わりの言葉と共に、浜面は話題を打ち切ろうとした。

だが、その気遣いに対し、フレンダはゆっくりと首を振る。

「ううん、もう決めたわ。私は浜面の会社に協力する。きっと浜面の夢を叶えてみせる。」

涙を拭いながら、フレンダははっきりとした声でそう言った。

「でもこれだけは覚えていて。私は浜面みたいに、スキルアウトの為、とか、暗部で培った力を、なんて理由で、協力するんじゃないって事。」

805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:20:32.55 ID:NzzNVT710

一瞬あっけに取られた浜面を尻目に、フレンダは言葉を続ける。

「私が協力するのは、浜面に夢を叶えて欲しいから。」

「私は浜面の夢を叶える事を人生の目標にする。だから、浜面も覚えていて。私を幸せにしようと思ったら、浜面が自分自身の夢を絶対に叶えないといけないって。」

フレンダはそこまで言うと、浜面の手を取り、甲に軽く口付けをする。

「良いのか?それを人生の目標にしても。」

「良いのよ、結局私は女なんだから。」

そうか
と只一言だけ、浜面は言葉を返す。
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:21:27.60 ID:NzzNVT710


「ねえ浜面。」

しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはフレンダであった。

「ん?」

「少しだけ、勇気を分けて欲しいの。」

そう言うと、フレンダは浜面へと唇を向けた。

「ちょっ…おい!」

戸惑いを露にする浜面に対し、
フレンダは少しだけ目に涙を滲ませながら、
消え入りそうな声で呟いた。

「駄目?」
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:22:19.95 ID:NzzNVT710

その言葉に、浜面は答える事が出来なかった。

拒絶の言葉も、許諾の言葉も。

「お願い、あと少しだけ、前に踏み出す勇気が欲しいの。」

フレンダの縋り付く視線。

救いを求めるその目に、浜面の体は何かに背中を押される様に動かされた。

腰に右手を回し、左手でフレンダの顎を掴む。

流れるようなその手つきは、
ただ受け入れるだけのフレンダに、否応無しに男を意識させた。

期待と怯えが入り混じる彼女の耳に、
浜面の言葉が届く。
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:22:58.61 ID:NzzNVT710


「勇気が出るかどうかなんてわかんねえぞ。」

その言葉に頷くと、フレンダは目を閉じ、緊張した面持ちで、再び唇を浜面に向けた。

浜面はそれに応えるように、ゆっくりと顔を近づけていく。

時を同じくして、夜の闇を照らす月が、分厚い雲に覆われてしまった。

その瞬間、二人の姿は世界中のあらゆる目から、完全に隠されていた。

再び月が現れた時には、二人の姿は元と同じ距離にまで戻っていた。
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:23:27.50 ID:NzzNVT710

確かに、二人は重なり合ったのだろう、
それが月が隠されていた僅かな時間に過ぎないにしろ。

その瞬間、生涯に渡って、二人を結びつける契約が交わされていた。
決して破られる事の無い、掛替えの無い契約が。

生涯に渡り、互いを幸せにし、互いの夢を支えあうという、美しく清らかな契約が。
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/06(火) 02:24:48.50 ID:NzzNVT710

とりあえず今回はこれで以上になります。

次回はフレンダと滝壺の会話パートに戻り、
滝壺編の入り口まで書ければと思っております。
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/06(火) 02:50:03.93 ID:fochfYmbo
やっと来た!次も楽しみ。でも、麦のんは遠いなぁ
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/06(火) 07:41:36.76 ID:YHkqeoFAO
乙!
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/06(火) 13:34:17.39 ID:PB7b94G70
浜面かっこいいなぁ乙
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/06(火) 15:17:49.96 ID:B4YqpnKSo
浜面マジイケメン
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/03/09(金) 08:55:32.52 ID:Rt+hoaGAO
浜面もげるな、増やせ
もしくは生やせ

世紀末淫獣王として触手祭りを(メルトダウニャーン♪)
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:35:57.02 ID:VT0pMAAs0
>>811

麦野がメインヒロインで始まった筈なんですが…
もう少しだけ待ってください…
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:37:04.93 ID:VT0pMAAs0

とりあえず続きができたので投下します。

次の滝壺編までのつなぎだとおもって見てください
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:37:43.28 ID:VT0pMAAs0






「で。」

フレンダが話を終えた後、滝壺は殺意すら滲ませた目で、冷徹にそう言った。

「…え、えーと。」

調子に乗って喋り過ぎた。

心の中で、フレンダは激しく後悔していた。

だが、いくら悔やんでも、最早後の祭りである。

「何か弁明があるなら聞く。」
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:38:10.05 ID:VT0pMAAs0


身を貫くような、鋭い滝壺の言葉に、フレンダは精一杯の抵抗を試みる。

「ひ、被告人は無罪を主張する訳よ。」

「へえ…」

「い、良いじゃん別に!結局頬にしかしてくれなかったんだし!」

その時の悔しさが湧き上がってきたのか、
フレンダは頬を膨らませ、拗ねた表情を作ってみた。

820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:38:48.38 ID:VT0pMAAs0







「頬…?」

期待した感触が、自分の想像とは異なった場所からもたらされた事に、
フレンダは図々しくも、不満の意を露にする。

「少しだけ、で良いんだろ?」

照れが混じった表情で、少しだけ目をそらし、浜面はぶっきらぼうに言う。

そんな浜面に対し、フレンダは物足りないと言わんばかりに、再び唇を突き出した。

「欲張りすぎだ、馬鹿。」

額を小突き、浜面は苦笑まじりに、そう呟いた。
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:39:17.68 ID:VT0pMAAs0

「結局、こういう時にケチな男はもてない訳よ。」

「好きな相手にだけ惚れられれば良いんだよ、俺は。」

小突かれた額を軽く抑えるとフレンダは頬を膨らませながら抗議する。

そんなフレンダを、浜面は軽くあしらい、呆れ混じりに呟く。

しばらく無言で続いた睨み合いの後、二人はほぼ同時に笑い出していた。

当の二人にも、自分達が何故笑っているのか分からなかった。

ただ一つ確かな事は、フレンダを繋ぎ止めていた鎖など、
とうに消え失せてしまっていた、という事だけであった。
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:40:19.90 ID:VT0pMAAs0







「しっかしさー。」

先ほどの仕返しとばかりに、フレンダも探る様な目を滝壺に向けた。

「あの浜面が随分と女慣れしてたじゃないの。」

悪戯っぽく挑発するフレンダに、滝壺はどこか自慢げな笑みを浮かべる。

「浜面は勉強熱心だったからね。」

余裕に満ちた滝壺の返答であったが、フレンダの耳には残念ながら届いていなかったらしい。

反応が見られないのをいぶかしんだ滝壺が、フレンダの顔を覗き込んでみると、
そこには、妄想と思い出に心を奪われた、だらしない親友の表情があった。
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:41:03.56 ID:VT0pMAAs0


「浜面のあの言葉って、どう考えてもプロポーズだよね〜。」

「『お前は、俺が責任を持って、絶対に幸せにしてみせる。』だってさ〜。」

寝床に忍び込み、体を優しく抱き締められて告げられたその言葉。

例え場所が陰鬱な隔離病棟であったとしても、
その言葉の持つ破壊力は些かも衰える事は無かっただろう。

「例えばさ、遊園地の観覧車の上でね?浜面が私にプロポーズする訳よ?」

「そこで私が目にうれし涙を浮かべてね、『私はもうとっくの昔にプロポーズされたつもりだったのに』って言って…」
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:42:36.90 ID:VT0pMAAs0

ただそれを思い出すだけで、
フレンダはこんなにも喜んでいる。

そしてそれは、フレンダ以上に、
浜面から甘い言葉を注がれた滝壺にとって、
充分に共感できる事であった。

「そして、私は黙って目を瞑る訳よ…今度はケチケチしないでねって言って。」

だが、それを許容するかどうかは、また別の問題である。
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:43:16.70 ID:VT0pMAAs0

「そんな私に、浜面は『大判振る舞いしてやるよって』…うへへへへへへ。」

恥ずかしげも無く、自分の妄想を垂れ流すフレンダを尻目に、
滝壺は何やら機械のような物を懐から取り出すと、
机の上に見せ付けるような素振りで、それを置いた。

「ねー滝壺、その後の流れってどうなると思う?浜面ってなんだかんだで変態だから、そのままホテルまで連れ込まれるかな?あ、でも意外と優しいとこもあるし、その日は余裕を見せて、結局優しく家までエスコートして終わりとかも充分ありえる訳よ!私としては浜面に全部委ねるつもりだから、どっちにしろ大丈夫なんだけど、でもでも、そこは心構えというかね。今までの傾向というかを聞いて置きたい訳よ!」

好き勝手に妄想を垂れ流した後で、
フレンダは恋人同士のプライベートにまで踏み込んだ質問を滝壺に投げかける。

当然の事ながら、滝壺はその問いに答えようとはしない。
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:43:52.46 ID:VT0pMAAs0

「ねー、滝壺ってば…って、それ何?」

滝壺に答えを催促した所で、フレンダはようやく、
机の上に置かれた機械に気づく。

「うん、ボイスレコーダー。」

そう言うと、滝壺は機械をしまい、はっきりとした声で、そう答えた。

「被告人の発言は、証拠及び自白として、録音させてもらいました。」

いつも通りの穏やかな笑みを浮かべながら、滝壺は事も無げに呟く。

「これは明日検察側の切り札として、裁判長に提出させていただきます。」

そう言いながら、滝壺はボイスレコーダーを服の上から軽く叩く。
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:44:29.79 ID:VT0pMAAs0


「と、とりあえず聞くけど、裁判長って…誰?」

「絹旗」

「有罪確定!?」

その姿に不気味な予感を感じたフレンダは、
滝壺の真意を読み取ろうと、質問を投げかける。

だが、そこに待っていたのは、
死刑宣告にも等しい残酷な物だった。

「け、結局、あの超絶ブラコンにこんな話聞かれたら絶対に処刑される訳よ!」

絹旗から下される罰を想像すると、自然と手が恐怖に震えてしまう。

我ながら情け無いと思うが、今までに浜面関連で絹旗から受けた仕打ちを考えれば、
ごくごく自然な防衛本能の筈だ。
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:45:13.73 ID:VT0pMAAs0

「滝壺〜、謝るから許してよー。」

「大丈夫、謝らなくてもいいよ。私もフレンダの気持ちは充分に分かるから。」

「た、滝壺…。」

親友の温かい言葉に、フレンダの目から、思わず感涙が漏れ出そうになる。

「だから、フレンダも私の気持ちが分かるよね?」

だが、フレンダは即座に自分の判断の甘さを悔いることになる。

はっきりと言い表すことは出来ないが、滝壺の体からは、
確実に怒りと嫉妬の気配が滲み出ていた。
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:45:50.86 ID:VT0pMAAs0

手の握りやまぶたの動き、息の仕方に声の張り、
長年の付き合いだからこそ読み取れるそれらのサインは、
滝壺の怒りがどれ程の物か、雄弁に物語っている。

「な、ならもう良いわよ。どうせ殴られるんなら、悔いの残らないよう、思い切り浜面で楽しんでやるんだから。」

開き直ったとばかりに、再びフレンダは妄想に耽り出した。

追い詰められたゆえの、半ば自棄になった行動ではあったが、
どうやら滝壺には効果があったらしい。

後に報復できるとは言え、今この場での怒りを完全に抑えきれる者でない。

だらしない笑みを浮かべるフレンダに対し、歯軋りをしながら睨み付けるのが精一杯であった。
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:46:31.63 ID:VT0pMAAs0

そんな滝壺の表情を見て、どうにか溜飲を下げたのか、
フレンダは一しきり妄想を楽しんだ後で、滝壺に再び目を向ける。

だが、妄想の余韻というのは中々拭い去れない様である。

一応目には平静の色を宿してはいたが、
唇の両端を指で押さえ続けなければ、笑みが自然に零れてきてしまう。

「でもさ、ありがとね、滝壺。」

自らの逆鱗を刺激し続けた相手からの、
突然の感謝の言葉に、滝壺はきょとんとした表情で首をかしげた。
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:47:24.89 ID:VT0pMAAs0

「会社を立ち上げてしばらくの間は、滝壺の護衛が殆ど全部の仕事だったじゃない。」

フレンダのリハビリの後で立ち上げた、浜面の会社。

始めはたった四人からの出発だった。

自分に浜面、それに浜面の友人だった半蔵と郭。

浜面の言ったとおり、少数精鋭のメンバーだった。

そんな自分達の初仕事は、『学園個人』として、
レベル5の中でも屈指の重要性を持つようになった、
滝壺理后の護衛だった。
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:48:16.51 ID:VT0pMAAs0

彼女は能力の研究を申し込んだ全ての組織に対し、
自分の身辺護衛については、
その全てを浜面警備に委任しなければならないとの条件を課していたのだ。

「いいよ、お礼なんて。私にとって、一番安心して身を任せられる相手がはまづらだったって事なんだから。」

そうは言うが、立ち上げたばかりの会社にとって、
滝壺の申し出がどれだけ助けになったか。

単純に収入だけの問題ではない。

学園都市の至宝を狙い、内外から襲い来る数々の敵を相手に戦う事で、
実績、信頼、経験、一言では言い表わせられない程の数々の恩恵を、
フレンダたちは手に入れたのである。
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:48:58.05 ID:VT0pMAAs0

「でも、私はきっかけを渡せただけ。成功へのチャンスを掴めたのは、フレンダ達が頑張ったからだよ。」

「うん…ありがとう滝壺。」

「それに、もっともっと、大きくするつもりなんでしょ?フレンダは。」

滝壺の言葉に、フレンダはその意を得たとばかりに、大きく頷いた。

「そんなの当たり前な訳よ!」

力強く拳を握り締め、フレンダは高らかに宣言する。

「私は浜面の夢の結晶を、もっともっともっと輝かせてみせるんだから!」

「アメリカ、ロシア、エリザリーナ!海外への進出だって考えてるし、システム部門だって来年から大幅に強化する訳よ!」

「あんまり詳しくは知らないけど、今度ウチに来る絹旗の同級生の女の子が、とんでもない凄腕だって話だしね。」

目を希望で輝かせ、フレンダはこれからの道筋を楽しそうに語る。
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:50:25.08 ID:VT0pMAAs0

その姿は、絶望に囚われていた過去の面影など、
微塵も感じさせられない程、活力で満たされていた。

「…で、そんな状況なのにさ。」

「うん?」

握り締めた手を机の上に置くと、
フレンダは、唐突に、呆れたような目で、
滝壺の顔を覗き込む。

「何か古くからのお得意さんがさ、ウチの大事な大事な社長を出向させろとか、無理難題を言ってるんだけど。」

その言葉に、滝壺の頬が僅かに強張った。
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:51:37.80 ID:VT0pMAAs0


「いや私もね?大口のお客の要望には応えるつもりなんだけどさ、流石に社長不在ってのもねえ。」

からかい混じりのフレンダの言葉に対し、滝壺はどこか焦りを滲ませた声で答える。


「フレンダさん、当研究所は浜面警備さんの誠意ある回答を期待しております。」

「弊社としても、御研究所の御期待に沿える様、最大限の努力をさせて頂きたいと考えております。」


そう答えたフレンダの声は、完全に営業用の、外面を取り繕った物へとなっていた。


「どうしてフレンダがそれを知ってるの…」

「いや、社長秘書が知らない方が可笑しいでしょ。」


悪巧みを看破され、頭を抱える滝壺に、
フレンダは冷静に言葉を返した。
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:52:17.88 ID:VT0pMAAs0


「起死回生の策だったのに…恨む、恨むよフレンダ。」


悪巧みを看破され、滝壺は呪詛の言葉を吐いてまで悔しがっている。


「だ、大丈夫だから。結局浜面を出向させる事には同意した訳よ。」


そんな友人を見かねたフレンダの言葉に、滝壺は敏感に反応した。


「ほんと?」

そう問いかける滝壺の表情は、喜びで満たされている。

「本当、本当、しかも浜面だけじゃなくて、私まで一緒に出向するっていう大盤振る舞いなんだから!」
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:52:52.85 ID:VT0pMAAs0

「…そう。」

だが、更に滝壺を喜ばそうとしたフレンダの言葉により、
その喜びは露骨なまでに薄れていった。

「ちょ、ちょっと何よ、その反応は!」

「別に…」

そう言った後で、滝壺は、
寝ている絹旗にすら届くと思える様な音で、舌打ちをする。

「折角はまづらと仕事中も二人きりで一緒に居れると思ったのに。」

「流石に露骨過ぎる訳よ。というかどうしたの急に、そんな無茶言いだして。」

フレンダの問いに対し、滝壺は沈黙を返した。
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:54:36.67 ID:VT0pMAAs0

「まさか…麦野の事を意識してとか。」

推測というより、確信に近い物を持ちながら、
フレンダは滝壺を問いただす。

それでもなお、しばらくの間、滝壺は沈黙を続けたが、
最後には観念したかの様に、語りだした。

「はまづらがむぎのを連れて帰る事も、きぬはたがはまづらに告白することも、フレンダがいつかはまづらに告白する事も、一切合財認めたんだから、これぐらいの我侭は許される筈。」
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:54:58.04 ID:VT0pMAAs0

頬を膨らませた弁解混じりの言い分に、
思わずフレンダの手が滝壺の頭に伸びる。

絹旗や妹にするのと同じように、
フレンダは愛情と理解を込め、ゆっくりと撫でた。

滝壺はそんなフレンダの行為を特に抵抗もせず受け入れる。
僅かに顔を背けてはいたものの、その顔には、どこか恥ずかしそうな、
それでいて嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/11(日) 23:56:05.56 ID:VT0pMAAs0
今回はこれで以上になります。

次回で滝壺編の入り口から中盤ぐらいは書けると思いますので、
よろしくお願いします。
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/12(月) 00:05:54.49 ID:5RehY2imo
乙でした
静かな雰囲気が好きです
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/12(月) 00:12:11.40 ID:/5N/fA+Y0
更新早いな乙
このSSはずっと読んでいたくなる
滝壺編も楽しみだ
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/04/02(月) 05:45:19.16 ID:LsL4tX1AO
まだかなー
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/30(月) 04:20:08.10 ID:+q3N3t/30
まだかにゃ
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/15(火) 16:49:43.70 ID:uYtFXVcIO
2ヶ月…か。
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:27:03.33 ID:4OdatGDk0
とりあえず多少進んだので投下します
滝壺編のとっかかりというかなんと言うか…
ぎりぎりスタートラインの手前です。
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:27:31.04 ID:4OdatGDk0

「それで…」

しばらくの間、頭をなでる手の感触を楽しんだ後で、
滝壺はやんわりとそれを払いのける。

「あの事はどうするの?」

問いかける滝壺の目には、労わりとも憐れみとも取れる感情が浮かんでいた。

「あー、あの事って、フレメアの事?」

恐る恐る聞き返すフレンダに、滝壺はゆっくりと頷く。
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:27:56.65 ID:4OdatGDk0


「って言われてもねえ…。」

「会社の事にあんまり口を挟んじゃいけないのは分かってるけど…。」

言葉を濁すフレンダに対し、滝壺は申し訳なさそうに呟いた。

「でも結局滝壺も無関係じゃ無い訳だし。」

二人の頭に浮かぶのは、アイテムの末っ子にして、フレンダの愛すべき妹である、
フレメア・セイヴェルンの姿であった。

初めて会った時には、年端も行かない少女であったフレメアも、
来年の春には、高校を卒業するという年齢になっている。

849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:29:47.84 ID:4OdatGDk0


となれば、当然進路が問題になる訳だが、
彼女が在籍していた学校の特性上、
就職するとなると、ほぼ一つの職種に限られてしまう。

だが、それはさしたる支障にはならない。
フレメアの成績であれば、大抵の所には就職できるからだ。

問題は、当のフレメア自身が、ある一社、
もしくはある一家庭を除いて、就職する気が無いという所である

「そりゃ主席卒業なら優秀なのは間違いないけど、うちの会社に置くのは流石にちょっとねえ。」

850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:33:44.76 ID:4OdatGDk0


「でも、私の家でも難しいと思う。嘘をつく形になっちゃったけど、まだ子供がいる訳でも無いから。」


溜息まじりに呟くフレンダに、多少の同情を示しながらも、
滝壺は婉曲に結論だけを伝える。

「メイドねえ…」

どちらともなく言葉が漏れる。

脳裏に浮かぶのは、メイド服に身を包んだ金髪碧眼の美少女の姿。

身体に馴染みだした色気と、かすかに残るあどけなさは、
メイド服の魅力と互いに引き立てあい、否が応にも男心を刺激してしまう。
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:35:04.09 ID:4OdatGDk0

学園都市が誇る繚乱家政女学校、その主席ともなれば、
各国首脳や大富豪の専属メイドとなる事も夢ではない。

しかし、そんな彼女が主人として望んだのは、
学園都市内の一中小企業の主であった。

浜面が世界を救った英雄の一人であることを顧みれば、
確かに見劣りはしないだろう。

だが、それを知らない多くの同窓や教師たちにとって、
フレメアの選択は、驚愕せざるをえない物であった。

浜面たちの感じた驚きに比べれば、
それでも些細なものだったかもしれないが。
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:35:46.61 ID:4OdatGDk0

滝壺とフレンダ、二人の脳裏には、フレメアがメイドにしてくれる様、
頼みに来た日の光景が浮かんでいた。

同級生の進路がちらほらと決まりだした頃、
フレメアはメイド服に身を包み、浜面達の家を訪れた。

この日の為に新調したのだろうか、
折り目一つ無いおろし立ての衣の匂いが、
幽かに浜面達の鼻をくすぐる。

「どうしたの、フレメア?」

彼女が不意に訪ね来る事など、さして珍しくも無い。

だが、滝壺は問わずにはいられなかった。

彼女の目に宿された、明確な決意を見過ごす事が出来なかったから。
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:37:34.83 ID:4OdatGDk0


その問いを無視し、フレメアは浜面へと足を進めた。

他の何者も意に介さないその動きに、
その場にいた、浜面を含めた全ての人間が、
ほんの一瞬だけ、反応する事を忘れた。

僅か、一瞬、だが、フレメアにはその一瞬だけで充分だった。

愛しい愛しい浜面の胸元へと飛び込むのには。

眼前に展開されたその光景に、
滝壺達の思考はさらなる麻痺に陥っていく。
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:38:13.55 ID:4OdatGDk0

そんな彼女たちを尻目に、フレメアは躊躇することなく、
浜面に、浜面だけに自らの目的を告げる。

「浜面…これからずうっと、御奉仕させてほしいにゃあ。」

皆の目の前で、浜面を優しく押し倒すし、
フレメアは甘えるような声を発する。

浜面にだけ向けられた筈のその声は、
何故か横で聞いていた滝壺達の耳にも、いやにはっきりと届いていた。
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:38:44.76 ID:4OdatGDk0


「い、いきなり押しかけて何言ってンでしょうかねェ、このクソガキは?」


最初に硬直から抜け出したのは絹旗であった。

一応ギリギリの自制は働いているのだろう。

握り固めた拳を振り上げる事こそ無かったものの、
その口調からは、殺意すら孕んだ怒りが隠し切れずに滲み溢れていた。

「大体どこからどう見ても就職活動なんだけど。真剣なんだから邪魔しないで。」

そんな絹旗を蔑む様に一瞥すると、フレメアは冷たく言い放った。

「そんな就職活動があってたまるかァっ!!!!!」

顔を怒りで真っ赤に染め上げ、絹旗は地団駄を踏みながら怒鳴りつける。
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:39:11.46 ID:4OdatGDk0

「どうどう、ほら絹旗もちょっと落ち着いて。話が全く進まないから。」

フレンダは怒り狂う絹旗を宥めつつも、フレメアの真意を問いただす。

「で、フレメア、結局何の目的で来た訳よ。」

「大体さっきから言ってる。就職活動だって。」

だが疎ましげに帰ってきた返答は、
先程と何一つ変わらないものであった。

だが、このままでは埒が空かないと判断したのだろう。

フレメアは一度浜面の胸に顔を埋め、深呼吸をしてみせると、
フレンダたちから顔を背けたまま、口を開いた。

「メイドが御主人様に雇って貰おうと足を運んできた。立派な就職活動だと思うけど。」
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:39:52.24 ID:4OdatGDk0

だが、その言葉は、場の空気をより一層緊張させる事にしかならなかった。

何時誰の手によって爆発してもおかしくない、
切迫した状況の中で最初に口を開いたのは、
当事者でもあり、ある意味では元凶の一人でもある、浜面であった。

「にしても…何で俺の所なんだ?もっと条件のいい所なんて、幾らでも見つけられるだろう。」
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:40:39.70 ID:4OdatGDk0

ある意味ではもっともな、
しかしまたある意味では、果てしなく的外れな浜面の疑問に、
フレンダは心底呆れたと言わんばかりの視線を向ける。

横で見守る滝壺も、激昂していた絹旗も、その思いは同じであった。

だがフレメアだけは違っていた。

絹旗達の反応も、浜面の問いかけも、
準備万端に整えてきた彼女にとっては、
想定の範囲内に過ぎない。
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:42:37.45 ID:4OdatGDk0

待ってましたとばかりに、
用意してきたような完璧な笑みを浮かべ、
フレメアは浜面の質問に答える。

「条件とかじゃ無いの。私は浜面が良いんだから。」

その答えは単純明快なものであった。

だが、真剣な眼差しを向けられてのその言葉に、
浜面は思わず承諾の言葉を口にしそうになった。

「いや気持ちはありがたいんだけどな、子供とかがいる訳じゃないから、メイドとして来て貰っても…その仕事が無いというか…」
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:43:22.16 ID:4OdatGDk0

その思いを強引に押し込め、やんわりと拒絶の言葉を口にする。

それは理性的な判断だったのか、それとも、
背後で見つめる恋人の視線によるものだったのか、
浜面本人にも恐らくわかってはいなかった。

「…ほんとにそう思う?」

浜面の拒絶に、フレメアは誘うような口調で問いかける。

「一流のメイドがずうっと家に居たら、凄い快適になるよ。大体滝壺も仕事だし、絹旗はあてにならないし、一人ぐらい家の事に専念する人がいても良いと思うにゃあ。」
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:43:52.93 ID:4OdatGDk0

「ああ、まあそりゃあ…」

フレメアの言い分ももっともかもしれない。

特にそれが原因で揉める事も無いが、暗部の頃からの習性か、
家事担当に占める割合は、いまだに浜面が最も大きいのである。

浜面の心に生じた迷いにつけこむように、
フレメアは更に言葉を続ける。

「それに、きっと仕事の面でも役に立てると思うよ。なんちゃって秘書のお姉ちゃんなんかよりも、よっぽど。」

聞き様によっては傲慢とも取れるフレメアの言動、
だが、それが絶対的な自信と経験に裏づけされている事を、
フレンダは知っている。


862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:45:02.46 ID:4OdatGDk0

メイドは、家事さえ出来ればそれで良いというわけではない。

通常のメイドならいざしらず、一流のメイドともなれば、
スケジュール管理は勿論の事、財務、法務等々、
主人を支えるありとあらゆる技能を備えていなければならないのだ。

「どうしよう…?」

目の前にぶら下げられた数々の魅力的な条件の前に、
ついに浜面の意思が揺らぎだす。

流石に自分の独断で決めるだけの勇気は無い。

意見を求めようと、同居人と仕事仲間に声をかける。
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:45:39.73 ID:4OdatGDk0


「超絶対に嫌です!」


その問いかけに、絹旗がいち早く答えた。

予想通りといえば予想通りの答えであったが、
その余りにも激しい剣幕は、浜面に反論することを即座に諦めさせた。


「えーと、ならフレンダは?」

「いや、良いって言う訳無いでしょ、そんなの。こっちも今まで働いてきたプライドってもんがある訳よ。」


口調こそ冷静ながら、フレンダの答えも絹旗とはさほど違わない。

きっぱりとしたその口調は、先程と同じく、
浜面に説得を諦めさせるのには充分過ぎる物であった。

流石に二人に拒絶された後では、滝壺にも尋ねにくい。

864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:46:05.80 ID:4OdatGDk0


甘える様な視線を向けるフレメアに、
浜面は困り果てたといった様子で頬を掻く。

胸に生じた申し訳なさを誤魔化そうと、
フレメアの頭を撫でてはみるが、彼女の縋るような目をみると、
どうやらそれで誤魔化せるものでもなさそうであった。

進退窮まったという風で、ただフレメアを抱きしめるしかない彼に、
助け舟を出したのは、他ならぬ滝壺理后であった。


「私は別に構わないと思うよ。フレメアなら。」


「はあっ!?」


「ちょっ、滝壺!?」

865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:46:39.63 ID:4OdatGDk0

滝壺の口から発された、了承の言葉に、
絹旗とフレンダは非難混じりの驚愕を発する。

そんな二人の声を手で押しとめ、
滝壺はフレメアに優しく微笑みかける。

「…ほんと?」

問い直すフレメアの口調には、
不安よりもむしろ警戒の念が強く現れていた。
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:47:12.88 ID:4OdatGDk0


「うん、仕事については口出しできないけど、家事については本当に助かると思う。」


はまづらの負担も軽くなると思うし。

と付け加えると、滝壺はフレメアを抱きかかえ、
浜面の胸元から引き離す。

「でも、もう少しだけ待って欲しいかな?」

視線を対等に位置に合わせ、諭す様な口調でフレメアに告げる。

「待つ…?」

「うん。フレメアの気持ちはありがたいけど、今の私達にはやっぱり今直ぐにメイドが必要って訳じゃないの。」

その言葉に、フレメアの表情が陰る。

867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:47:43.21 ID:4OdatGDk0

理解を示した振りはしても、結局は大人のやり方で断ろうとしているだけじゃないか。

フレメアの目は明らかにそう語っていた。

だが、滝壺はその一言で全てを片付けられると思うほど、
無責任でも、楽観的でも、そして、甘くも無かった。


「きっと長くは待たせないよ。ひょっとしたら一年もかからないかも。」

「だから私を信じて待っていて、その時がきたら、こっちの方から頼みに来るから。」

「滝壺…」


フレメアは浜面以外の全員に拒絶される事を覚悟していた。
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:48:13.50 ID:4OdatGDk0

それも当然だろう。

今まで彼女たちが築き上げてきた人間関係に、
真っ向から割り込んでいこうというのだから。

絹旗達の反応こそ、自然というべきなのだ。

それなのに、滝壺は自分の事を受け入れる、と言ってくれている。

これが恋人の余裕というものなのだろうか、
そんな僻みすら生まれないほど、フレメアは滝壺の優しさに心打たれていた。

ほんの少し、ほんの少しだけ、フレメアの目に涙が浮かんだ。

それを悟られまいと、フレメアは目を逸らした。


869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:49:17.93 ID:4OdatGDk0

その一瞬の隙がなければ、或いはフレメアは気づいたかもしれない。



滝壺の目が、ほんの少しも笑ってはいなかった事に。


「そう、私が浜面の子供を妊娠して、誰か日常生活を支えてくれる人が必要になったら、きっと頼みに来るから。」

「それまで大人しく待っていてね?」

だが彼女は気づくことが出来なかった。

それ故に、滝壺の語気に込められたむき出しの殺気を、
無防備なままで、全身に被ってしまう。
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:49:53.65 ID:4OdatGDk0


「あ、あの…滝壺?」


それでも問い直す余力があったのは流石と言うべきだろう。

少しでも反撃しようと、ありったけの勇気を振り絞り、震えた声でおずおずと問いかける。




「ね?」




そんな彼女をねじ伏せるように、滝壺はただ一言だけ付け加える。

敵意に溢れたその言葉は、奮い立たせたフレメアの勇気を容易く打ち砕いた。

「流石にそんなはっきり言われると、少し恥ずかしいなあ?」

「いや、私に聞かないで欲しい訳よ。」

「恋人の前で他の女を超抱きしめながら言う台詞じゃないと思います。」

緊迫する二人を他所に、外野は暢気に言葉を交わす。


871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:50:26.81 ID:4OdatGDk0


「あ、あの…滝壺?」


それでも問い直す余力があったのは流石と言うべきだろう。

少しでも反撃しようと、ありったけの勇気を振り絞り、震えた声でおずおずと問いかける。




「ね?」




そんな彼女をねじ伏せるように、滝壺はただ一言だけ付け加える。

敵意に溢れたその言葉は、奮い立たせたフレメアの勇気を容易く打ち砕いた。

「流石にそんなはっきり言われると、少し恥ずかしいなあ?」

「いや、私に聞かないで欲しい訳よ。」

「恋人の前で他の女を超抱きしめながら言う台詞じゃないと思います。」

緊迫する二人を他所に、外野は暢気に言葉を交わす。


872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:51:49.31 ID:4OdatGDk0


フレメアも絹旗も、滝壺が本気になった以上は、心配することも無いとばかりに、
腰を下ろして、余裕交じりに眺めている。

当事者である浜面がに関しては、ある程度慣れっこなのだろう。

涙を浮かべたフレメアをあやす様に、背中をぽんぽんと叩いている。

そんなフレメアを滝壺がじろりと睨み付ける。
何時までそこにいるつもりなのか?と言いたげに。

その視線に操られたかのように、フレメアは浜面から飛び離れた。

滝壺と目を合わせながら、彼女はじりじりと扉の方へと動いていく。


873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:53:27.38 ID:4OdatGDk0


空いた浜面の胸元に、すかさず絹旗が滑り込んだが、
滝壺もフレメアも、最早互いの事しか目に映っていない。

「と、とりあえず大体用件は伝えたし、今日の所はこれで帰るから!」

扉までたどり着くと、フレメアは忌々しそうに吐き捨てて、外へと飛び出していく。

発した言葉とは裏腹に、走り去るその姿はどこか安心したようでもあり、楽しげでもあった。

恋敵の背中を見送ると、滝壺は浜面の元へと歩み寄る。

「お疲れ様、それにしても随分と過激な言い方だったな。」

浜面は胸で絹旗を甘えさせたまま、滝壺を労う。

874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:54:07.79 ID:4OdatGDk0


「そんな事無いよ、フレメアも始めから同じ結論を予想してたみたいだし。」

そう言うと、滝壺は浜面に視線を合わせ、意味ありげに微笑んだ。


「頑張ろうね、はまづら。」

「私、フレメアに嘘つくつもり無いから。」


浜面がその意図を理解する前に、滝壺は浜面の唇を奪う。

間に挟んだ絹旗の事など意図に解さず、滝壺は浜面と舌を絡ませあう。

始めは、不意をつかれ、只されるがままだった浜面も、
直ぐに体制を建て直し、滝壺の濃厚な口付けに応えて行く。


875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:54:36.09 ID:4OdatGDk0


一度始まってしまえば、それはもう恋人同士の事である。

普段の営みと同じように、互いにしか理解できない呼吸で、口づけを交わしていく。

しかしながら、それを読み取ることが出来ない部外者には、
その口付けは永久に続く物とさえ感じられた。

ただ見蕩れるだけのフレンダには、特に害は無かっただろう。
両手で顔を塞ぎ、見ていない振りをする余裕があったのだから。

最大の被害者である絹旗には、そんな余裕すらも残されていなかった。

押しかかる滝壺によって、絹旗は逃げ場も無いぐらいに、最愛の兄に密着させられている。

恋人との口付けに興奮したのか、兄の体温は普段のそれよりも遥かに高く感じられた。

876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:55:08.68 ID:4OdatGDk0


滝壺と夜の営みを交わすときも、きっと彼の身体はこの熱さを宿しているのだろう。

(な、何考えてるんですか!私は!そんな事よりも、この状況をどうにかして抜け出さないと!)

頭によぎった考えを、必死に振り払おうとする絹旗、
だが、そんな彼女の耳に、浜面と滝壺の濃厚な口付けの音が容赦なく襲い掛かる。

絹旗の欲望を揺さぶるその音は、一刻も早くこの場から逃れなければならないという、
常識的な選択肢すら、奪い去ってしまった。

しかし、それは停滞を許してもらったと言う事ではない。
抵抗を放棄した絹旗には、新たな責め苦が直ちに課せられることになる。


877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:56:06.76 ID:4OdatGDk0

その刺激は、今現在の絹旗の身体で、最も熱を持っていた、下腹部よりもたらされた。

それは、ある意味では当然の結果だったかもしれない。

恋人と密着し、濃厚な口付けを交わす浜面に、
男性特有の性的興奮による生理現象が起こってしまうのは。

878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:57:27.04 ID:4OdatGDk0

ただ、絹旗の座る場所が浜面の膝の上であった事、
そして、彼女が逃げ場所も無いほど浜面に密着させられていた事、
それだけが不幸だったと言うしかない。

共に衣服を着用しての事である。
間違いが起こる事などあるはずも無かったが、
絹旗の脳に、許容しきれないほどの衝撃が与えられた事には変わりが無かった。

その衝撃が一しきり絹旗の脳を犯し切った頃、
浜面と滝壺はようやくその唇を離した。

糸を引いた涎が、僅かに絹旗の首筋にかかっていたが、
誰もその事実に気づく事はなかった。
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:58:02.54 ID:4OdatGDk0


「…だから。」


「だから…頑張って子供作ろうね?」


蕩けた表情を隠そうともせず、滝壺は甘えた声で浜面に語りかける。

女としての欲望を露にした恋人の言葉に、
浜面は、より濃厚な口付けをもって応えた。



その夜が、アイテムの誰にとっても、
熱く激しく燃え上がる物であった事は、最早言うまでも無いだろう。
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/27(日) 22:58:58.97 ID:4OdatGDk0
今回はこれで以上になります。

長く待たせる上に、展開も遅くて申し訳ありません。

881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/28(月) 01:29:01.63 ID:d3mwja1b0
キテター乙です
面白いから長くても待ってられるよ
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/28(月) 08:45:44.39 ID:uwiAaHfIO
乙乙!待ってたよ!
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/07(土) 15:19:44.60 ID:ddbstnLU0
まだか…
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:18:21.26 ID:la8PrWyR0
連休最後に何とか間に合いました

とりあえず区切りの良いところまで出来たので投下します
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:18:55.25 ID:la8PrWyR0


 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

「結局、フレメアとの約束、破っちゃったね。」

言いながら、滝壺は自分の下腹部に手を当てる。

未だに膨らみを見せない彼女のそこは、
彼女が浜面の子供を孕んでいない事を、はっきりと示していた。

「しょうがないって。結局こればっかりは授かり物な訳よ。」

フレンダは滝壺の呟きを軽い調子で返す。

886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:19:42.87 ID:la8PrWyR0


よくよく考えれば深刻な悩みとなりかねない内容だが、
フレンダの適当な返事を、滝壺の方でも何とも思っていない様である。


長い付き合いなのだ、大して自分が深刻に考えていない事など、
フレンダには呟き一つ聞けば直ぐに分かるのだろう。


よっ、と一声かけて立ち上がると、
フレンダは自分と彼女の空になったグラスを手に取り、
流しのほうへと歩いていく。

887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:20:13.96 ID:la8PrWyR0


滝壺は頭を炬燵の上に載せ、そんなフレンダの後ろ姿をただぼんやりと眺めていた。

今日はまた随分と長い事飲んだものだ。

日も落ちきらぬうちから店に入り、
一しきり飲んだ後、家に帰ってからもだらだらと飲み続けた。

絹旗が告白すること、麦野が帰ってくること、
これからの生活の事、今までの浜面との思い出。

思えば今日話した事は、全て普段の飲み会では、
話題にも上らない内容ばかりだった。
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:20:52.02 ID:la8PrWyR0


どれだけ平静を装ってみても、
やはり自分達の心はざわめき立っているのだろう。

だが、それは決して不快な物ではない。

そう、例えるならば、沸き立つような新たな節目への期待が、
心を浮つかせているのだ。


「あのね、フレンダ。」


その気持ちに突き動かされる様に、
滝壺はフレンダに呼びかける。


「…お代わり。」

「はぁ…あと一杯だけだからね。」


889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:21:22.60 ID:la8PrWyR0


呆れた様子を隠さないフレンダだったが、
その言葉通りに、薄めの酒を一杯用意すると、
滝壺の前にゆっくりと差し出した。

そのコップに、滝壺は軽く口をつける。

口内を満たしていくその液体は、
酒と言い張るにはあまりも薄すぎる物であった。


「フレンダ…これ。」

「今の滝壺にはこれで充分って訳よ。」

890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:22:38.08 ID:la8PrWyR0


不満交じりの滝壺の言葉を気にも止めず、
フレンダの方は冷水をゆっくりと喉の奥に流し込んでいく。

「…ねえ、フレンダ。」

「駄目、今日はこれでおしまいなんだから。」

「違うよ、お酒の話じゃなくて。」

「え?」

「ちょっと聞いて欲しい事があるの。」

グラスに目を注いだまま、滝壺は僅かに思いつめた風でフレンダに声をかける。
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:23:25.59 ID:la8PrWyR0


「さっきのフレメアとの話なんだけど…私、嘘ついてたんだよ。」


これから自分が話す事も、普段の自分であれば、決して口にしなかっただろう。
だが、それでも自分は心のどこかで、誰かに告白したいと願っていたのだ。
浜面の決め事、ひょっとしたら仲間への裏切りを。


「私とはまづらの間に子供なんて出来なかった、少なくとも、今までは絶対に。」


浮ついた気持ちと少々の酒に背中を押され、滝壺はゆっくりと口を開く。


「…えと、それって?」


咄嗟の事に、フレンダは思わず問い返した。

どうにか意味だけは理解できたものの、
それを発した真意までは到底読み取れる物では無い。

892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:28:24.89 ID:la8PrWyR0


「別に…私やはまづらが子供を作れない体とか、そう言う訳じゃないの。」


フレンダの問いに、どこか深刻なものを感じ取ったのだろう。

滝壺はそれを打ち消すように、明るい調子で言葉を続ける。


「もっと単純な話…ただ、この十年間、お互い意識して、ずうっと避妊してたってだけ。」

「フレメアにあんな調子の良い事言った癖に、子供作る気なんて、始めから無かったんだから。」


滝壺が軽く発した言葉には、
わざとらしいとさえ思える自虐が込められていた。


聞いていたフレンダは勿論の事、滝壺自身ですら、
それが意図的に発されたものかどうかは分からなかった。

893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:29:15.49 ID:la8PrWyR0


だが、滝壺から漏れ出た、この十年の生活についての自虐は、
フレンダの意識を引き付けるには、充分すぎるものであった。


「あのさ、滝壺、何か話したい事があるんなら聞くよ?」


期待通りの親友の言葉に、滝壺はほんの少しだけ笑みを浮かべる。


「本当なら…私が勝手に言って良い話じゃないのかもしれない。」


フレンダの声に、後押しされたとでも言わんばかりに、
滝壺はゆっくりと自分の心情を吐露し始める。

その口ぶりは、ただ躊躇ったという一言では片付けられない程、
勿体をつけた物であった。

894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:30:36.38 ID:la8PrWyR0


「全部押し付けるつもりは無いんだけど、やっぱりむぎのの事が原因…だと思う。」

改めて言葉に出してみて、ようやくに理解できたような気がする。

分かりきった事だと思っていたのに、言葉にしてみればここまでしっくりくるものなのか。

押し付けるつもりなど無いと言った筈なのに、
全ての責任を麦野に押し付けてしまおうとしている自分が、確かに存在している。


「私達には、家族なんて居なかった。」


ただ無秩序に本音を吐き散らかしたいという欲望を抑え、
滝壺は、押し殺していた気持ちに、一つ一つ丁寧に言葉を備えていく。

895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:31:04.03 ID:la8PrWyR0


学園都市の暗部で血にまみれた生活を送っていた自分達だ、
皆の事情全てを知っている訳ではないけれども、
幸せな家庭とは程遠い環境で育ってきた事だけは知っている。


「そんなもの私達には関係の無い、夢みたいな話だって、ずっと思ってきた。」

「でも、学園都市の戦いが終わった時、それが手を伸ばせば直ぐにでも届きそうな場所にあるって事、はっきりと分かった。」


戦いが終わり、皆がそれぞれの道へ向かって歩き出す中、
自分の脳裏には、浜面と築き上げる幸せな家庭が浮かんでいた。

叶う事の無い夢でもなく、死に物狂いで追いかけなければならない目標でもなく、
ただ当たり前の様に待ち受けている、確定した将来の事として。

896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:31:40.71 ID:la8PrWyR0


その時、強く望んだならば、直ぐにそれを現実にする事も出来ただろう。

だが、私も浜面もそれをしなかった。


「…都合の良い話だよね。ずっとずっと望んでいた事なのに、」


手に届く位置に来てしまったその夢に対し、自分は驚くほどに貪欲であった。


「私は、私とはまづらは、それを完璧な形で迎え入れてあげたくなった。」


家庭

言葉にしてみれば只の一言で片付いてしまうが、
それを理想の形にするには、昔の自分達には、余りにも足りない物が多すぎた。

897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:32:16.89 ID:la8PrWyR0


「だから、私たちは子供を作ろうとしなかった。」


子供が出来てしまえば、自分達は結婚という選択肢を先延ばしにする事は出来なくなる。

自分達が納得できていない状況で、子供という決定的なピースを受け入れる事は、
恐ろしくもあり、また申し訳なくもあった。


「自分達が納得できるまで、今なら理想の家庭を築けるって確信できるまでは、子供の事は考えないようにしよう、
浜面と二人でそう決めたの。」
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:33:19.53 ID:la8PrWyR0


新しい生活が軌道にのったら

自分達の夢が叶えられたら

絹旗達が幸せになったら

一つ一つ理由を消していっても、自分達はまだ納得することが出来なかった。

理由はずっと前から分かりきっている。

アイテムから抜け落ちた一枚のピース。

その穴は、時を経る事に、はっきりと浮き上がっていった。


「でも、それもあと少し。」

899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:39:40.01 ID:la8PrWyR0


フレンダから僅かに目を離し、滝壺ははにかむ様な笑みを浮かべる。


「御免ねフレンダ。きっとフレンダなら、謝る様な事じゃないって言うと思う。」

「それでも言いたかった。はまづら以外の誰かに…聞いて欲しかった。」


ごめんね



もう一度付け加えて、滝壺はにっこりと微笑んだ。


「いいよ、別に。こっちが話してみてって言ったんだから。」


自分の謝罪に、フレンダは苦笑混じりでそう答えた。

900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:40:05.92 ID:la8PrWyR0


「でも、結局二人だけの問題に、色々なもんしょい込み過ぎな訳よ。」


浜面とは違う、やわらかい手が、自分の頭を撫でる。
慈愛に満ちたその行為が、自分には妙に恥ずかしく思えた。
頬を染めて俯く自分とは対照的に、フレンダはどこか楽しそうだ。


「でも、聞かせてくれて嬉しかった。ありがとね。」


言いながらフレンダはゆっくりと立ち上がった。
腰を一二度曲げ、机の上のゴミを片付けていく。
手伝わなければ、と立ち上がろうとした自分を、フレンダは手で制す。


「良いから良いから。珍しい話聞かせてくれたお礼な訳よ。」

901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:43:52.72 ID:la8PrWyR0


その言葉に甘え、再び炬燵の中に足を入れる。
机の上に頭を乗せると、ひんやりと冷たい感触が肌に伝わっていった。

何故だろうか、胸には妙な高翌揚感が満ちている。

長年の秘密を打ち明けた解放感か、
その秘密を、浜面に無断で打ち明けた事による背徳感なのか、
滝壺にははっきりとは分からなかった。


分かろうとする気もさして起きなかった。

今は只、胸を満たす高翌揚感に浸っていたい。
そんな欲望に任せ、何を見るでも無く、ただぼんやりと視線を宙に浮かす。

部屋には外から伝わる冬の夜風の音と、フレンダが食器を洗う音だけが響いていた。

902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:44:26.46 ID:la8PrWyR0




「でもさ、滝壺。」


しばらくの沈黙の後、不意にフレンダが話しかける。

どこか上の空のまま、自分はフレンダの背中に目を向けた。

相槌の一つでも打とうか、そう思っても、
気の抜けた身体は行動には移ってくれない。

どうしようか、など気の抜けた事を考えている自分を余所に、
フレンダは気にした様子も無く、言葉を続ける。



「やっぱり滝壺は凄いね。」


903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:45:02.62 ID:la8PrWyR0


その言葉に、散りかけた意識が急速に集まっていった。

フレンダの発した何気ない一言が、自分が最も触れられたく無い部分に、
達してしまいそうな予感がしたから。



「麦野の気持ちも、浜面の思いも、全部受け入れて、それでもまた皆で一緒に居ようって言えるんだから。」

「それも昔と同じままじゃなくて、ちゃんと皆で新しい関係を築いていこうとしてる。」

「結局滝壺のお陰な訳よ…ありがとね。」



穏やかな口調で告げられた感謝の言葉、
フレンダはきっと思いもよらないだろう。

その感謝と尊敬の言葉こそ、
自分の心を最も刺し抉る物だと言う事に。


904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:45:34.39 ID:la8PrWyR0

今度も、自分は何も答えなかった。
だがそれは、先ほどとは違う、明確な自分の意志に拠る物であった。

しばらくの間、無言の時間が続いた。


「さて、片付けも終わったし、そろそろ寝ようか?」


流しを拭きながら、フレンダはそう呼びかける。

結局彼女は最後まで自分の方を振り向こうとはしなかった。
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:48:22.24 ID:la8PrWyR0


照れくさかったのだろうか。
ともあれ、それはこちらとしてもありがたい事だった。

普段どおりの表情をしているとは思うが、
それでも心の動揺を見抜かれない自身は無い。

「ううん、私はもう少しだけ、こうしておく。」

そう断りを入れた私に、フレンダは、
炬燵で寝ると風邪引いちゃうから、早く部屋に戻りなよ?

とだけ言い残し、去っていった。

906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:48:53.70 ID:la8PrWyR0


部屋に残った自分の中に、先ほどまで感じていた高翌揚感は残っていない。

後には重く黒い塊が、小さいながらも、
はっきりとその存在を主張していた。

溜息を一つつき、流しの方に目をやる。

自分が飲んでいたグラスは、綺麗に洗われて、
他の食器と一緒に、並べられている。

最後に飲んだあの一杯がもう少しだけ濃かったなら、
自分は偽ることなく全てを話せていただろう。


そこまで考えて、余りにも自分に都合の良い言い分に、
思わず自嘲の笑みが漏れた。

907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:49:50.73 ID:la8PrWyR0


滝壺は凄い。


さっきのフレンダの言葉を思い出してみる。

何が凄いもんか。


自分達の出した答えを聞いて、皆がそう言った。

皆は知らないだろう。
自分が只臆病で卑怯だっただけだという事を。


それでも、自分はその言葉を甘んじて受け入れた。
少しぐらいは何かを背負った気になりたかったから。

908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 16:50:34.20 ID:la8PrWyR0


自分の下腹部に手を当ててみる。
そこには相変わらず子の無い腹があった。

その事に少しだけ安堵を覚えている自分が居る。

子供を作らない理由、
フレンダには綺麗な部分しか話せなかった。

だが、話せなかった今となっては、
それでも良いかと少しだけ思っている。

自分の懺悔は浜面が全て聞いてくれたのだから。

だから、本当に凄いのは浜面なんだ。

909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 17:01:22.60 ID:la8PrWyR0




あの日、前に進もうって言ってくれた事が、
自分の汚い感情を受け入れてくれた事が、
十年間も目を背け続けた事に、真剣に立ち向かってくれた事が、
本当に凄いことだったんだ。


910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 17:02:18.90 ID:la8PrWyR0


いつの間にか、自分は目を瞑っていた。

脳裏に映し出されたのは、
今年の初冬に浜面と出かけた、学園都市の遊園地だった。

ああ、『あの日』だ。

幽かに残った意識の中、自分はぼんやりと考えている。

911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 17:02:51.35 ID:la8PrWyR0


『あの日』の自分達の後ろ姿を、自分は見つめていた。


当然ながら、彼らは自分には気がつかない。

そのまま仲睦まじく手を繋ぎ、遊園地の中に入っていく。

背中だけ見れば、何の変哲も無いカップルだろう。


だが自分は知っている。


その時の自分が得たいの知れない不安に怯えていた事を、
その時の浜面の目に、いつか見た決意の火がともっていた事を。

912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/16(月) 17:03:56.03 ID:la8PrWyR0

今回はこれで以上です。

滝壺編はそこまで長くなりそうには無いので、
次の投下で終了させられるかと思います。
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/16(月) 19:08:16.02 ID:Cv+MmOcSO
>>1
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/18(水) 16:07:16.93 ID:3yeve/Oc0
乙。もうこのスレも少なくなってきたなあ。
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2012/07/24(火) 06:25:59.29 ID:PwGnhYVwo
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/24(火) 15:20:17.80 ID:AT14FwUk0
豬憺擇辷逋コ縺励m
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 03:26:06.61 ID:ILzFpapD0
まだかな?待ってる
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/10/15(月) 21:25:17.67 ID:DdLilsYAO
おーい、3ヶ月だぞー
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