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上条「だからお前のことも、絶対に助けに行くよ」一方「……」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/24(日) 16:08:20.52 ID:lnwWc/Y0
○ご注意!
・基本的な世界観は一緒ですが、設定が違ういわゆるパラレルです。
・時系列は上条と美琴が出会った後、美琴が妹達の存在を知る前かつ上条がインデックスと出会う前。
・具体的には6月17日(?)の数日後くらいがスタート地点だと思っていただければ。
・それでも展開上の都合で、ちょこちょこ出来事の時系列や人物の関係、立場などの設定に変更があります。

けっこう前に総合に投下させてもらったお話です。
細かいことはまた一回目の投下終了時にさせて頂きますね。
それでは、お楽しみ頂ければ幸いです。
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/10/24(日) 16:09:11.17 ID:lnwWc/Y0
走る。走る。走る。

何処へ向かえば良いのか、どうして走っているのか。何も分からないまま、それでも少年はひたすらに走り続ける。
けれど少年には、たったひとつだけ分かっていることがあった。

誰から逃げているのか。

それを理解するのは簡単だった。少年の背後には、恐ろしい追跡者があったからだ。
追跡者は必死になって逃げ回っている少年とは対称的に、追跡者としてはあるまじきことに余裕の表情で悠々と歩いていた。
なのに、追跡者はたまに地面を軽く蹴ったかと思うと一瞬で少年との距離を詰めてくる。
だから少年は、とにかく必死で逃げることしかできなかった。

少年はそんな追跡者の態度が気に食わなくて仕方がなかったが、今は逃げるしか手立てが無い。
自分ではとてもではないがあの追跡者を退けることなどできないからだ。

突然少年の真横にあった壁が小爆発を起こしてコンクリートの破片を撒き散らす。
飛散した拳大のコンクリートが二の腕を抉るが、少年はすぐに体勢を立て直すと背後の追跡者を一瞥してから再び走り出した。
その様子を見ていた追跡者は一旦その歩みを止めると、とても詰まらなそうに溜息をつく。

「オイオイ、ホントに能力が使えなくなってんのか? 張り合いねえなあ」

『文句言ってねえでさっさと捕まえろ。もうすぐ第七学区の大通りに出る。人目につく場所に出られたら面倒くせえ。
 それに能力が使えないってんなら好都合だろうが。捕まえやすいだろ?』

追跡者がインカムのマイクに向かって不平を漏らすと、すぐさま男の声が返ってきた。
それはどう考えても、明らかに追跡者よりも一回りは年上の男の声。
にも関わらず、追跡者は一切口調を改めようとしなかった。

「ま、そりゃそうだけどよ……。手加減すんの、結構難しいんだぜ? 下手に傷つけたら後が怖い」

『ちょっと傷をつけるくらいなら、学園都市の医療技術で傷跡ひとつ残さずに治療できる。
 流石に手足飛ばしちまったら、俺もお前もただじゃすまねえだろうけどな』

「わーってるって、心配すんな。うまくするさ」

追跡者は視線の先にいる少年が暗い路地の角を曲がるのを確認すると、能力を使って一気に少年との距離を詰めた。
そうして追跡者が路地の角を曲がろうとした、その時。
そこに積み上げられていた大量の木箱が、追跡者を押し潰さんとして雪崩れ込んできた。

相手は能力が使えないからと高を括って、自分も能力の使用に手を抜いていたのが悪かった。
木箱攻撃をまともに食らってしまった追跡者は木箱の山に埋まってしまい、
ほんの僅かな時間とはいえ完全に少年の姿を見失ってしまう、という致命的なミスを犯した。
追跡者はすぐに木箱の山を蹴散らして少年の姿を探すが、何処をどう見回しても少年の姿を見つけることができない。
追跡者が歯噛みしていると、イヤホンから先程の男の声が聞こえてきた。

『オイ、すごい音がしたぞ。どうかしたか?』

「くそ、油断した。見失っちまった。だがまだそんな遠くへは行ってない筈だ。監視カメラから確認できるか?」

『ちょっと待ってろ。…………』
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 16:10:32.78 ID:lnwWc/Yo
ヘッドセット越しに、カタカタとキーボードを打つ音が聞こえてくる。
それは時間にして一分にも満たなかっただろうが、途轍もなく長く待たされているかのような錯覚に陥った。

「まだか? 早くしねえと遠くに行っちまうぞ」

『……、…………。いねえ』

「は?」

『どの監視カメラにも写ってねえ。アイツは走り続けてるはずだから、死角にいるとは考えづらい。
 この周辺にはもういないと考えた方が良いだろうな』

「はあ? アイツは能力が使えないんじゃなかったのか? そんなことできるはず……」

『お前との追いかけっこの中で少しだけ能力の使い方を思い出したか、使えないふりをしていたか、だな。
 どちらにしろこれじゃ能力を使って逃亡したと考えた方が妥当だろう。
 俺は別のエリアの監視カメラをハッキングする。お前はその辺を走り回ってとにかくアイツを探せ』

「チッ、調子に乗りすぎたか……。仕方ねえ、本腰入れて探すとするか」

追跡者は苦い表情を作ると、自らの能力を展開させて一瞬にしてその場を去ってしまう。
……だから追跡者達は、遂に気付くことができなかった。
雪崩れて山と積まれた木箱の下に、僅かに開け放されたマンホールがあることに。
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/10/24(日) 16:11:18.73 ID:lnwWc/Yo
第七学区。
誰もいない裏路地のマンホールの蓋がひとりでに持ち上がったかと思うと、その中から幽霊のように真っ白な手がぬっと伸びてきた。
まるでホラー映画のワンシーンのような光景だが、続けてそこから顔を出したのは追跡者から逃げ回っていたあの少年だ。

少年は傷だらけの身体を引き摺って何とかマンホールから這い出ると、ぺたんと座り込んで壁に凭れかかる。
血を流しすぎた所為もあるだろうが、体力の消耗が激しかった。

「はっ、はあ、は、はあ……。な、とか、撒いたか……」

荒い息を繰り返しながらも、彼は痛む身体に鞭打って再び立ち上がった。
もしかしたら撒けたと思っているのは自分だけで、追跡者はもうすぐそこまで迫っているかもしれないからだ。すぐに出発しなくては。
すると少年は壁に寄りかかりながらきょろきょろと辺りを見回して、周囲の状況を確認する。

「……ここ、何処だ?」

マンホールを通ってきたので、今自分が何処にいるのかよく分からない。
なんとなく何かから遠ざからなければならないという事は分かるのだが、それが何なのかが分からないのだからどうしようもない。
少年は一瞬途方に暮れかけるが、ふと耳を澄ませてみるとすぐそばに町の喧騒があることが窺い知れた。

どうやらここは大通りから一本裏に入っただけの路地らしい。ちょっと行けばすぐに大通りに出ることができるようだ。
しかし大通りに出て良いものだろうか、と少年は迷った。
確かに大通りに出れば、あの追跡者達もそう簡単に自分に手出しすることはできなくなるだろう。
だがこの血だらけ泥だらけの姿で大通りに出てしまえば、
不審者として通報されて捕まって、最悪あの追跡者達の所へと身柄を引き渡されてしまうことも考えられる。
それだけは何とかして避けたかった。

少年は暫らく考えた後、やはりこのまま路地裏を進むことにした。
やはり大通りに出るのは躊躇われるし、大通りのすぐそばの裏路地なら追跡者達もあまり派手な破壊行為はできないだろうと踏んだからだ。

そうと決めると、少年は再び歩き始めた。
ふと顔を上げてみれば、そう遠くないところに病院が見える。
あそこに行って治療を受けるのが最善だろうが残念ながら少年は無一文で、しかも病院で身元を尋ねられても答えることができない。
そうして最終的には通報されて……という最悪の結末が脳裏を過ぎり、少年は力なく首を振った。
……自分の力だけで、何とかしなければならない。
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 16:12:05.49 ID:lnwWc/Yo
同じく第七学区、とある大通り。
完全下校時刻間近で人通りの多いこの場所にも、世にも恐ろしい追跡者から必死で逃げ続けている不幸な少年が居た。
ただし、この少年を追いかけている追跡者はなんとも可愛らしい少女であった。
学園都市有数のお嬢様学校である常盤台中学の制服に身を包み、セミロングの茶髪を靡かせているその少女は、
しかし、体中から鋭い紫電を発していた。

バチバチと派手な音を立てて放電しながら疾走する少女は、時折少年に向かってその紫電を解き放つ。
しかし、とんでもない速度で逃げ続ける少年にその攻撃が届くことは決してない。
いつまで経っても少年に一矢報いることもできないことにいい加減痺れを切らした少女が、走る速度を落とさないままに声を張り上げた。

「あーっ!! もう! いつまで逃げてんのよ、大人しく私と勝負しろーっ!!」

「そんなことを言われましてもですね、俺はただの無能力者であって、これは流石に命の危険を感じざるを得ないというかーッ!!」

「うっさい、どの口でそんなことを言うか! 待・て・や・ゴルァアアア――ッ!!」

「ハッハッハ、待てと言われて待つ馬鹿がどの世界に居るというのやら! ……ああ、不幸だ――ッ!!」

少年の名は、上条当麻。幻想殺しという特殊能力を持つが、普段は不幸体質の無能力者。
対して、少女の名は御坂美琴。名門常盤台中学の誇るエース、超能力者(レベル5)の第三位。

途轍もないレベル差のある二人だが、こうした追いかけっこイベントは、そう珍しいことではない。
むしろ美琴は上条を見つける度にこうして勝負を挑んでは逃げられ、追いかけっこを開始するので、もはや日常茶飯事とさえ言える。
周囲の人々は好奇の視線こそ向けてくるものの、こうした能力者同士の喧嘩はよくあることだからなのか、
いらぬ火の粉を浴びないように道を開けたりはするものの、この二人の追いかけっこを積極的に止めさせようとは思っていないようだ。

……ああ、不幸だ。
上条は、今度は心の中だけで、再び自らの口癖を呟いた。

今日は不幸体質の上条にしては非常に珍しいことに、タイムセールでお手頃な値段になっていた牛肉を手に入れることができて、
意気揚々と自らの住まう学生寮に帰ろうとしたら、これだ。
久々に牛肉を味わうことが出来ると思って幸せな気分でいたのに、つくづく神様は自分を素直に幸せにしてくれる気がないらしい。

ああそれにしても、さっきから高速でシャッフルされているビニール袋の中身は大丈夫なのだろうか。
流石に牛肉はまだ大丈夫だろうが、他にも諸々の食品が入っている。そちらの方がどうなっているかが心配でならない。
上条は一刻も早く袋の無事を確認して安心したかった。

(その為にも、なんとかしてビリビリを撒かなくては……)

上条は胸中で呟くと、何か利用できるものはないだろうかときょろきょろと辺りを見回し始める。
すると、ふと路地裏への入り口が目に付いた。
確かに入り組んだ構造をしている路地裏に逃げ込めば、美琴を撒くことのできるチャンスが生まれるかもしれない。
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 16:12:35.02 ID:lnwWc/Yo
上条は即行で決断を下すと、急ブレーキをかけて真横に方向転換。
路地裏に飛び込むと、一気に美琴を引き離すべく全速力で走って路地裏の入り組んだ迷路の中に身を隠そうとした。

と、その時。
上条は、黒で塗り潰されているはずの路地裏に白い人影があるのを見つけた。
まさかこんな所に人が居るとは思っていなかったので上条は少々驚いたが、この状況でそんなことにかまけている暇は無い。
少年の方も上条を見て少し驚いたようだったが、大した反応を見せることなく二人はすぐにすれ違い、別々の方向へと向かっていく。
……しかし、美琴がそれを許さなかった。

「逃がすかあああ―――ッ!!」

美琴の方も上条を逃がすまいと必死になっていたのと、上条と同じようにまさかこんな所に人が居るとは思っていなかったのだろう。
美琴は路地裏に飛び込んでくるなり、よく前方を確認することなく電撃を放ってしまった。
しかし美琴の目の前に立っていたのは上条ではなく、先程の少年。
それを見た美琴は慌てて放った電撃を引っ込めようとするが、間に合わなかった。

バチィッ、と大きな音がして、電撃が少年に直撃する。
少年は咄嗟に両腕で頭を庇ったが、少年にできた防御行動はたったそれだけだった。
そんな申し訳程度の防御でただの少年が超能力者の第三位たる美琴の電撃に耐えられるはずもなく、
少年はそのまま気絶してその場に倒れこんでしまう。

先程までの威勢は何処へやら、電撃を放った張本人である美琴は顔を真っ青にして凍り付いている。
もちろん致死量の電撃など放ってはいないが、上条に当てるつもりで放った電撃だったので、それでもかなりの威力を持っていた、と思う。
それを見た上条は慌てて急ブレーキを掛けてUターンすると、すぐさま血の気の引いた顔をしている二人のもとへと駆け寄った。

「ど、どどどどうしよう……、わ、私とんでもないことを……」

「言ってる場合か! 早く病院、救急車だ! いや、ここからなら救急車を待つよりも運んで行ってやった方が早いか」

「う、うん……」

混乱のあまりにどうしたら良いのか分からずおろおろとしている美琴を尻目に、上条は慣れた手つきで少年を負ぶっていた。
不幸中の幸いか、病院はすぐそこにある。二人は路地裏を飛び出ると一目散に病院に向かって駆け出した。
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/24(日) 16:12:51.60 ID:PByZF6Qo
期待
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 16:13:15.88 ID:lnwWc/Yo
第七学区、とある病院。
例の少年が入院することとなった病室の外にある椅子に、二人は落ち着かない様子で座っていた。
特に、この状況の原因である美琴の落ち着きのなさは尋常ではない。
大人しく座って俯いているかと思ったら、急に立ち上がって落ち着きなく辺りを歩き回り始める。
上条は暫らくそんな美琴を眺めていたが、いよいよこの沈黙に耐えられなくなったのか、急に美琴が声を掛けてきた。

「……そう言えばアンタ、やけに手馴れてたわね。こういうこと、よくあるの?」

「ん? ああ、俺は近道するためにしょっちゅう路地裏を通るからさ。不良どもに絡まれてる奴をよく助けてやるんだよな。
 そういう時って、絡まれてた奴は大抵既に怪我してるから、そういう奴を病院に連れてってやるんだよ。
 ま、殆どの場合その時に俺もボコボコにされてるから、俺も一緒にこの病院で診てもらうんだけどな。アハハ……」

「ふうん……。ほんと、無能力者の癖によくやるわね」

そう呟く美琴の口調は、どことなく不機嫌そうだ。
一体どこで地雷を踏んでしまったのかさっぱり分からない上条は首を傾げると、不意にガラッと病室の扉が開く音がした。
二人は一斉に音のした方向を振り返ると、そこには少年の病室から出てきたカエル顔の医者の姿があった。

「先生! どうでしたか?」

「外傷の方は、どうってことなかったね? たぶん無意識に加減していたんだろう。それより中身の方が重症みたいだね?」

「そ、それってどういう……」

美琴が再び顔を青くしながら尋ねると、医者は困ったように眉根を寄せる。
どうやら身内でも何でもない上条たちにあの少年の症状について説明してしまうことを躊躇っているようだったが、
医者は少し考えただけですぐに再び口を開いた。

「まあ君達もまったく無関係というわけではないようだし、説明しておこうかな?
 結論から言うと、あの子は記憶喪失だね? エピソード記憶がごっそりと、一部の意味記憶と手続記憶も失っている」

医者の言葉を聞いて、これ以上青くはならないだろうと思われていた美琴の顔がもっと青くなった。
しかしそれを見た医者は、慌てて言葉を続ける。

「心配しなくても良い。あの子に確認してみたら、電撃を浴びる前の記憶ははっきりしていた。恐らく君の電撃の所為ではないだろう」

「そ、そうですか……」

「それより、彼に電撃によるもの以外の外傷があったのが気になる。君達は何か知っているかな?」

「あ。そういえば、路地裏ですれ違ったのでもしかしたらタチの悪い連中に襲われたのかもしれません。
 その時には既に少しふらふらしてた気もします」

「なるほど」
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 16:14:16.04 ID:lnwWc/Yo
上条の説明に、医者は合点がいったような顔をした。
……と言うことは、まさか不良に絡まれたときに頭を強く殴られるか何かして記憶を失ってしまった、ということなのだろうか。
上条が考えたことをそのまま医者に伝えると、医者は左右に首を振った。

「いや、それはないね? ちょっと機械で検査をしてみたけど、頭部を強打したことによる記憶喪失ではなかったよ」

記憶喪失と言えば頭を打って……というイメージがあったので、この医者の答えに上条は少し驚いた。
原因を聞いてみたかったが、どうやらこちらは少年から直接口止めされているらしく、医者は申し訳無さそうにその旨を伝えてきた。

それにしてもすべての記憶を失くしてしまうなんて、まるで想像することもできない。
それでもお人好しの上条は、きっと途轍もなく不安なんだろうなと思った。
上条たちはあの少年の知り合いではないから記憶についてはどうしてやることもできないが、何とかして力になってやりたいと思った。

「話を聞くに、君達はあの子とは面識がないみたいだけど、あの子に関して何か覚えていることはないかな?」

「すみません、何も……。すごく目立つ容姿だけど、今まで一度も街で見かけたことがないし……。
 ……あれ。先生、そう言えばあの人の名前はなんて言うんですか?」

「……それが、自分の名前も覚えていないみたいだね?
 ただ自分に関する情報として『一方通行』という単語だけは覚えているようだったから、とりあえずそう呼んでいるけどね?」

「アクセラレータ? 加速装置のこと? それが何の関係があるのかしら」

「いや。『一方通行』と書いて『アクセラレータ』と読むみたいだね? 多分、能力名か何かだろう」

「能力名……? そんな能力、聞いたこともないわ」

恐らくは「アンタは知ってる?」という意味なのだろう、上条は美琴に見つめられたが何も言わずに首を振った。
学園都市の第三位である美琴も知らないような能力を、無能力者の上条が知っているわけがない。

「もしくは警備員や風紀委員みたいな組織の名前? あるいは計画とか研究とか。
 そうだ、警備員に頼んで書庫で調べてもらったら良いんじゃ……」

「それが、本人が頑なに警備員や風紀委員に相談することを拒んでね? 理由も教えてくれないから、困っているんだよ」

「うぐ、それは難しいな……」

「あ。そしたら私、風紀委員に知り合いがいるのであの人のことは伏せて『一方通行』について調べられると思います。
 それなら良いですよね?」

「そこは本人に訊いてもらわないとね? もうだいぶ良くなってるし、会ってみるかい?」

当然、こうなってしまったことをあの少年に謝らなければならない。
二人は迷うことなくそれを了承すると、医者に続いて例の病室に入っていった。
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 16:14:52.21 ID:lnwWc/Yo
少年は病室の窓際に置かれたベッドの上で、半身を起こして開け放たれている窓の外を眺めているようだった。
白い病室と殆ど同化してしまっている程に白いその少年は、三人分の足音に気付いてこちらを振り返る。

「ンだァ? まだ何か用か?」

「いや、例の子達が君に謝りたいらしくてね? 連れて来ただけだよ」

医者の言葉に、少年は医者の後ろに佇んでいる二人の方へと目をやった。
見たこともないような鋭い真っ赤な瞳に見つめられてぎくりとするが、美琴は怯むことなく口を開く。

「あ、あの、ほんとに申し訳ありませんでした。ついいつものノリで電撃を……、不注意でした。ごめんなさい」

「……別に、謝られるほどのことじゃねェ。アイツよかマシだ」

最後の方は本当に小さな声だったので聞き取れなかったが、とりあえず少年はそこまで怒っているわけではなさそうだ。
不機嫌そうに見えるのは、どうやら天然のしかめっ面なだけらしい。
少年の言葉に、深々と頭を下げていた美琴は顔を上げると、ほっと胸を撫で下ろした。

「俺も、ちょっと考えれば、あのまま行けば巻き込まれるのは分かってたのに、すみませんでした。えっと……」

「……一方通行で良い。ここの奴らはそう呼ぶ。あと、むず痒いから敬語もいらねェ」

「そ、そっか。とにかく、身体の方は何事もないみたいで安心したよ。あ、俺は上条当麻。こっちはビリビリ。
 これも何かの縁だし、何か困ったことがあったら俺を頼ってくれ」

「誰がビリビリかッ!! ……わ、私は御坂美琴よ。よろしく」

流石に病院内なので電撃のおまけは無かったが、美琴の鋭いツッコミを受けながら上条は一方通行に向かって手を差し出した。
一方通行はそれを見て少し驚いた顔をし、そして少し躊躇ってからその手を取って握手した。
続いて美琴とも握手をしていたが、どうも動きがぎこちない。こういうことに慣れていないのか、人見知りなのだろうか。

「お医者さんから話は聞いたわ。私はこう見えても超能力者だから、そっちの無能力者よりは頼れると思うわよ。
 それから、私は風紀委員の知り合いがいるんだけど、アンタのことは伏せて『一方通行』について調べたいと思ってるの。
 風紀委員や警備員と関わりたくないみたいだからちょっと迷ってるんだけど、大丈夫かしら?」

「あァ。その程度なら構わねェが……」

「それから私達、この辺りには結構詳しいから、外出できるようになったらこのあたりを案内してあげるわ。
 この辺のことも覚えてないだろうし、一応見回っておいたほうが後々便利でしょ?」

「そ、そォか。助かる」
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 16:15:43.88 ID:lnwWc/Yo
ほんの少し一方通行の様子を観察してみただけだが、やはり彼はどうにもこういうやり取りに不慣れなようだった。
反応に困っている気がする。
上条がそんなことを考えながらふと時計を見やってみると、もう完全下校時刻をだいぶ過ぎてしまっているではないか。
確か美琴の寮には門限があったはずだと思い当たった上条は、まだ一方通行と何事かを話しているらしい美琴に声を掛ける。

「ビリビリ、そろそろ帰らないとやばくないか? お前、確か寮に門限あったよな?
 それに一方通行もまだ本調子じゃないだろうし、また今度お見舞いに来ることにしてもう帰ろうぜ」

「へ? ああっ!?」

壁に掛けられている時計を見て、美琴は本日何度目かになるか分からない蒼白な顔をした。
美琴は大慌てで床に置きっぱなしにしていた鞄を引っつかむと、反対の手でがっしりと上条の腕を捕まえた。

「今日は本当にごめんなさい! 早く良くなるといいわね! それじゃ、またお見舞いに来るから! じゃあね!」

「お、おいコラビリビリ! なぜ上条さんの腕をつかんでいるのでせうか!? は、放してええぇぇぇ……」

美琴は暴れる上条の腕を掴んだまま、足早に病室を飛び出していった。抗議の言葉も完全無視だ。
急いでいたために開け放されたままになったドアから、引き摺られていっているらしい上条の悲痛な悲鳴が聞こえてくる。
呆然としながらその様子を眺めていた一方通行は、やがて我に返ると呆れながら呟いた。

「……変な奴ら」

「ま、賑やかで良いんじゃないかな? 病院で騒ぐのは、あまり褒められたことじゃないけどね?」

今度は窓の外から騒ぎ声が聞こえてきたのでふとそちらに目をやると、ちょうど上条と美琴が病院から出てきたところだった。
病院の敷地内なのだから騒いではいけないのではないかと思ったが、二人は完全にお構いなしだ。
流石にここからは内容までは分からないが、何やら言い合いをしながら帰っていく二人を眺めながら一方通行は再び同じことを呟いた。

「変な奴ら」
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/24(日) 16:20:23.45 ID:Gl6opcAO
支援
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 16:20:42.10 ID:lnwWc/Yo
ここまでが総合に投下させてもらった分です。
総合で突っ込まれた部分をここでちょこちょこ補足させてもらいますね。

・一方さんの存在や能力は原作と比べて凄まじく厳重に秘匿されている設定。少なくとも美琴たちは知らない。
・恋愛要素については美琴→上条があるくらいです。原作程度と思っていただければ。
・あと遅筆だと思いますごめんなさい。のんびり待っていて下さるとうれしいです。

基本的にシリアスほのぼのです。
こうやってスレ立ててSS書くのは初めてなので、不慣れでいろいろ失敗するかもしれません。実際今回もエラー出てビビりました……

あと、本当はすぐに次の投下をしようと思ってたんですけど今ちょっと確認したらひどい修正点を発見したので修正してから投下しますね。
それでは、わざわざここまで読んでくださってありがとうございました。
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/24(日) 16:23:53.96 ID:zlFAvOIo
記憶にあるな
期待
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/24(日) 16:55:10.02 ID:lnwWc/Yo
うおお、レスありがとうございますー。励みになります。
意外と早く修正が終わったので、さっそく次の分を投下させてもらいますね。
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 16:57:31.30 ID:lnwWc/Yo
事件から数日後。とある病院の診察室。
冥土帰しという異名を持っているらしい医者による診察が終了したので、一方通行は診察のために脱いでいた手術衣の上着を着直した。
別に手術をしたわけでもないのに何故手術衣を着ているのかというと、前着ていた服がぼろぼろになってしまったからだ。

「経過は良好、能力も安定してるみたいだね? もう大丈夫だよ」

カルテに一方通行の状態をすらすらと書き込みながら、冥土返しがそう言った。
あれから様々な検査を行った結果、一方通行には何らかの能力が発言していることが判明したのだ。
待っているだけで手持ちご無沙汰な一方通行は冥土返しを眺めながら、ぼんやりと意味不明な自分の能力について考えていた。

「能力、ねェ。そう言えば、俺の能力って結局なンなンだ? 最初は紫外線なンかの一部の有害物質を弾く能力、っつってたが」

「それが、僕にもよく分からないんだね?
 最初は体表に微弱なバリアを張る能力かと思ったんだけど、たまに身体能力も向上することがあるみたいだし。
 能力開発のほうは専門じゃないから、詳しいことはそっちの専門家に聞いたほうが良いだろうね?」

「そこまでして知りたいわけじゃねェよ。それに、迂闊に動けばまた奴らが来るかもしれねェしな」

……実は一方通行は最初、この病院に入院することを拒否したのだ。
自分は得体の知れない何者かに狙われているから、この病院に迷惑を掛けることになるかもしれない。
だから、多数の患者を守るべき病院が、自分のような人間を迎え入れるべきではない。

それが一方通行の主張だった。
しかし冥土帰しは、自分は学園都市の裏事情に精通しているから大丈夫だ、などと言って一方通行を言い負かし、半強制的に入院させた。
確かにここに入院してからというものの、あんなにしつこかった追跡者の影を感じたことは一度もない。
けれどそれはただの偶然で、一方通行は今にもあの追跡者達がこの病院ごと破壊して自分を誘き出そうとするのではないかと思ってしまう。

ただ、一方通行も間違いなく怪我人である。
だからこうして治療を受けられるのはありがたかったが、それでもこれでは病院にとってもあまりにもリスクが大きすぎる。
外傷の方はだいぶ癒えてきたことだし、本当なら今すぐにでもここから抜け出したかった。
それにそうして動き続けていなければ、いつか居場所を特定されて追い詰められてしまうのではないかと、不安で仕方がないのだ。
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 16:58:50.11 ID:lnwWc/Yo
「奴ら、ね。その、君を追っている人たちについては教えてくれないのかい?」

「……なにしろ記憶喪失だからな。追われてる俺にも、奴らが誰なのか分からねェ。まァ、ヤバくなったら出て行ってやる。安心しろ」

「そんな心配は無用だよ。前にも言ったけど、僕はちょっと上層部の方にコネがあってね。
 たとえ統括理事会の連中だって、おいそれとこの病院には手出しできないんだよ?」

「どォだか。それが俺を丸め込むためのハッタリじゃねェって証拠は何処にもねェンだ」

「本当に疑り深い子だね? 君は子供なんだから、そんな心配はせずに病室でのんびり眠っていればいいんだよ」

冥土帰しは優しい声音でそう言ったが、一方通行はそっぽを向くばかりでちっともその言葉を信用しようとしない。
頑固な少年に呆れながら、冥土帰しは机の上のカルテを整理していた。

「ああ、そう言えば君に能力奨学金が出たよ。後で新しく作った通帳を渡すから、確認しておくといい。
 ちょっと変わった方法を取らせてもらったから、身元や名義については心配しなくても大丈夫だからね?」

「……手の込ンだことしやがって。一体何が目的だ?」

「何も無いさ。強いて言えば、患者に必要なものは何でも、どんな手を使ってでも揃えるのが僕の信条でね?
 これが君に必要だろうと思ったから揃えただけのことさ」

「わざわざご苦労なことだな。まァ、貰えるもンは有り難く貰っておくとするか」

一方通行は呆れたようにそれだけ言うと、すぐそばに立て掛けてあった銀色の松葉杖を手に取った。
別に足が悪いわけではないのだが、一方通行は時たまふらついて倒れそうになることがあるので、冥土帰しに無理矢理持たされているのだ。
一方通行は最初こそ色々と文句を言っていたが、
実際松葉杖に助けられることが多いのか今では何も言わずに素直にこれを持ち歩くようになっている。

「そうそう。もうだいぶ良くなって来てるから、外出しても大丈夫だね?
 彼らに街を案内してもらうんだったら、次の休日あたりに彼らを誘ってみたらどうかな?」

「そォかい。お気遣い痛み入るよ」

それで話は終わったとばかりに、一方通行は冥土帰しに背を向けてさっさと診察室を出て行ってしまう。
冥土帰しはそんな一方通行の後ろ姿を見送りながら、小さな溜め息をついた。

「やれやれ。本当に、このまま何事も起こらないでいてくれると良いんだけどね?」
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 17:00:03.16 ID:lnwWc/Yo
放課後。上条はとある高校の教室でのろのろと帰る準備をしながら、これからどうしようかと考えていた。
とりあえず今日も一方通行のお見舞いに行くつもりだが、今日こそは『一方通行』についての情報収集もしてやりたい。
……が、当然ながら当てがない。

上条は幻想殺しという特殊能力を持ってはいるが、学園都市の行っている身体検査ではその能力は測定できないため、レベルは0。
その所為もあってか、もちろんコネなんか持っていない上条は情報収集するにもその範囲が狭すぎるのだ。

「どうしたカミやん、浮かない顔して。また特売品でも逃したのかにゃー?」

「いやいや、これはまた奨学金を引き落とそうとしてキャッシュカードを踏み抜いたときの顔やで!」

「どっちもちげーよ! つーか、どんな顔だよそれ!」

級友である土御門と青髪ピアスが上条の溜息を聞きつけてやってきた。
しかし上条の通っている学校はいわゆる底辺校なので、この二人に一方通行について尋ねた所で自分と同じで何も知らないだろう。
すると、暗い顔をしている上条を見て別の予感を感じ取ったのか、クラス委員長である吹寄が近づいてくる。

「……貴様、まさかまた何か問題を起こしたんじゃないでしょうね?」

「ま、まさかまさか! 吹寄が心配するようなことは何もないですよ? はい!」

「怪しい。素直に白状しろ!」

「いやほんとですって! マジでマジで! あ、そうだ、お前ら一方通行って知ってるか? なんか能力名らしいんだけどさ!」

多少無理矢理だが、こうでもして強制的に話題を転換しなければ、待っているのは世にも恐ろしい吹寄の頭突きだ。
上条は少し無謀だったかと思ったが、意外にも皆この話題に食い付いてきてくれた。

「一方通行? 知らんなあ。なんやそれ?」

「名前の意味をそのまま受け取るなら、加速装置のことよ。でも、一方通行なんて能力は聞いたことがないわ。
 一般的な能力のカテゴリでもなさそうだから、たぶん超電磁砲や心理掌握みたいな個人の能力名だと思うわよ。それがどうかしたの?」

「い、いやちょっと調べものをしててさ! 知らないなら良いんだよ、アハハハハ!」

上条のわざとらしい笑い声に何かがあると思ったのか、吹寄は再び怖い顔になる。
ああもう頭突きは免れないのかと上条が観念しかけたその時、突然土御門がいつになく真剣な顔で声を掛けてきた。
              . . .
「カミやん、どうしてそいつについて調べてるんだにゃー?」

「へ? あーと、ちょっと小耳に挟んでさ、好奇心だよ。土御門、何か知ってるのか?」

「……いーや、聞いたこともないにゃー。でもま、あんまり首を突っ込まない方が良いと思うぜい? 世の中物騒だからにゃー。
 もしかしたら、何か危ない事件に関わってるような能力者のことかもしれないぜよ?」

「へ? あ、おう。分かった」
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 17:00:40.54 ID:lnwWc/Yo
土御門の言っていることはよく分からなかったが、とにかくこれで吹寄の頭突きは免れることはできた。
上条が心の中だけで土御門に感謝していると、青髪ピアスがふと思いついたように口を開く。

「能力のことなら、小萌センセに聞いてみると良いんやないか? 発火能力専攻やけど、他の能力にもかなり詳しいみたいやでー。
 ま、今日は会議があるとかで忙しそうやったから、訊くなら明日になるけどなー」

「あ、そっか。ありがとうな青髪ピアス、また今度小萌先生に訊いてみるよ」

その手があったかと思わぬ収穫に青髪ピアスに礼を言いながら、上条は珍しく分厚くなっている鞄を掴んで席を立った。
すると、それを見た青髪ピアスが意外そうに声を上げる。

「あれ、カミやんどっか行くんかいな? ゲーセン誘おうと思っとったのに」

「すまん、今日はちょっと用事があるんだ。ゲーセンはまた今度な!」

「なんや、つれないなー。ハッ、まさかまた女の子か、またフラグを立てよったんかいな! きぃー!!」

「うっさい騒ぐな!!」

吹寄の怒りの矛先が青髪ピアスに向いたところで、上条はそそくさと教室を出て行った。
生贄にしてしまった青髪ピアスを少しだけ哀れみながら下駄箱に向かう途中、上条はふと不思議なことに気が付いた。

「……そういえば土御門、どうして能力名の一方通行って聞いて『そいつ』なんて言ったんだろ?」
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 17:06:02.34 ID:lnwWc/Yo
同時刻、風紀委員活動第177支部。
柵川中学の一室にある風紀委員の支部だ。美琴のルームメイトである白井黒子や、その後輩である初春飾利の詰めている支部である。
美琴は硝子盤に手を触れて、指紋や静脈・指先の微振動パターンの認証を終えると、支部の扉を開いた。
……と、その瞬間。

「お姉えええぇぇぇ様あああぁぁぁ―――ッ!!」

「そう何度も同じ手を喰うか!!」

扉を開けた瞬間に空間移動を使って飛び掛ってきた白井を、美琴はすかさずその腕を掴んで一本背負いをすることで回避。
その光景を目の前で見ていた固法美偉は驚きのあまり固まってしまっているが、
その奥でパソコンを弄っている初春は、まるでこんなのいつものことと言わんばかりに平然とキーボードのタイピングを続けていた。

「み、御坂さん、いらっしゃい……」

「あ、すみません。お見苦しいところをお見せしてしまって」

「いえ、それより白井さん大丈夫なのかしら」

「大丈夫です。いつものことなので」

本棚に背中から激突した白井は逆さまになったままぴくぴくと痙攣しているが、美琴はまるで気にした様子がない。
それどころか、彼女は爽やかな笑顔を浮かべて固法に挨拶していた。

「お、お姉様……。今日はまた一段と過激ですの……」

「うっさい。パソコンがあるから、電撃は勘弁してあげたのよ。感謝しなさい」

「そんなお姉様も素敵ですの!」

かなりの勢いで本棚に叩きつけられたにも関わらずすぐさま復活した白井は再び美琴に飛びつこうとするが、
これまた簡単にあしらわれてしまう。
美琴はそんな白井を無視すると、奥の方でパソコンに向かっている初春のところまで歩いていった。

「御坂さんお久しぶりですー。いつもいつも、白井さんがすみませんねえ」

「いや、あいつは寮や学校でもいつもあんな感じだから、気にしないで。
 それより、今日はちょっと初春さんに個人的な頼みがあってきたんだけど、今大丈夫かしら?」

「ん、ちょっとだけなら大丈夫ですよ。何でしょう?」
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 17:06:31.24 ID:lnwWc/Yo
美琴より一つ年下の初春は、こう見えて凄腕のハッカーである。ただし今日は、初春の情報収集能力を見込んで頼みごとをしに来たのだ。
ただし、もちろんハッキングは犯罪。個人的な事情のためにそれをやってもらうのは少し後ろめたい。
美琴は後ろのほうで白井の介抱をしている固法を横目に見ながら、二人にばれないように初春にそっと耳打ちした。

「早速で悪いんだけど、『一方通行』について調べて欲しいの。皆に秘密でね。もちろん、時間が空いたらで良いんだけど……」

「……ふむ、変わった言葉ですね。能力名でしょうか?」

「たぶんそうだと思うわ。私にも詳しいことは分からないの。ごめんなさい」

「いえいえ、大丈夫です。名前さえ分かれば充分調べられますので」

本当ならもうちょっと早くここに来て初春にこの頼みごとをする予定だったのだが、
白井曰く最近はなんだかおかしな事件が増えてきて風紀委員はその対応に追われているとかで、今日までここに来るのを控えていたのだ。
今日になって、白井が少しはマシになってきたらしいことを教えてくれたのでやってきたのだが……。

「だけど、すみません。今ちょっと忙しいので遅くなっちゃうと思いますけど、急ぎですか?」

「いえ、そんなに急いでもらわなくても大丈夫。それより何かあったの? さっきからすごい勢いで調べものしてるみたいだけど」

「ああ、これですか。御坂さんも白井さんに聞いてると思いますけど、何か最近能力者がよく事件を起こすんですよね。
 それでさっき、ちょっと不審な点を見つけたので改めて犯人について調べ直してるところなんですよ」

「不審な点?」

美琴が首を傾げながら鸚鵡返しすると、初春は無言で頷いた。
パソコンを覗き込んでみると、確かに色々な能力者についての情報が表示されている。
ただ、表示されている能力者のレベルはどれも事件など起こしようもないほどに低かった。新手の武装集団でも現れたのだろうか?

「こら、初春さん! 一応風紀委員の機密事項なんだから、御坂さんに話したら駄目じゃない!」

「うぐっ……、ごめんなさい御坂さん。そういうことなので、これ以上は話せません」

「な、なんかごめんなさい。大丈夫よ、そこまでして聞きたかった訳じゃないし気にしないで。それよりさっきの件、よろしくね」

「はいはい、了解でーす。何か分かり次第、こちらから連絡させてもらいますねー」

返事をしながらも、初春はキーボードのタイピングを辞めずに作業を続けている。
美琴は大したものだと感心しながらそろりと背後を振り返ると、固法は再び白井の手当てに戻っているのが見えた。
事件について話しているのを聞かれてしまっただけで、頼み事についての話は聞かれていないらしいことに、美琴はホッと胸を撫で下ろす。
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 17:06:57.20 ID:lnwWc/Yo
「じゃあ初春さん、あとはよろしくね。そうそう、お礼は黒蜜堂のゼリー詰め合わせでどうかしら?」

「そんなに良いんですか? 御坂さんってば太っ腹! 白井さんとは大違いですよー。私、頑張っちゃいますね!」

「あはは、仕事に支障が出ない程度にね……。それじゃ、私この後用事あるから帰るわ。黒子のことよろしくー」

「任されましたー。手綱は握っておきますんで、安心して下さい!」

「うーいーはーるー……? さっきから聞こえてますのよ……」

「げっ、白井さん!? もう復活したんですか!? 流石ゴキブリ並みの生命力……」

「うぅぅいぃぃはぁぁるぅぅ!!」

地獄の底から響いてくるような白井の声が轟き、続いて初春の悲鳴が聞こえてきたが、美琴は構わずに第177支部を出て行ってしまう。
ちょっと可哀想かなとも思ったが、よく考えてみればいつものことだったので気にしないことにした。

「んー。色んな所に寄ってったからちょっと遅くなっちゃったかしら。ま、門限まではもう少しあるし大丈夫よね」

美琴は学生鞄の他にもう一つ持っていた、大きな紙袋の重量を確かめるように持ち上げながら呟いた。
実は結構時間的に危ないのだが、見舞い品としていくつか食品を持って来てしまったので少し無理をしてでも病院に行かなければならない。
もうすぐ夏なのでまだまだ空は明るかったが、時計を見るともう随分な時間になってしまっている。
それを確認するなり、美琴は駆け足で病院へと向かって行った。
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 17:07:23.46 ID:lnwWc/Yo
学校が終わってこれから友達同士で遊びに行こうとしている者や、まっすぐ家に帰ろうとする者でごった返している第七学区の大通り。
そんな怪我人に優しくない場所を、松葉杖を突いた一方通行は涼しい顔で歩いていた。

一方通行は軽く周囲を観察しながら歩いていたが、見覚えのあるものがまったくなかった。
この辺りをうろついていたのだから恐らくこの近くに住んでいたのではないかとは思うのだが、それでもやはり何も思い出せない。
もしかしたらと思ってわざわざ危険を冒してまでこんなところまでやってきたのに、アテが外れてしまった。

一応帽子を目深に被って目立つ髪色を隠しているし、服は病院でできるだけ地味なものを選んで借りてきたものを着ているのだが、
何の収穫も見込めない以上、このままここにいてもあの追跡者に見つかる可能性が上がるだけだ。
一方通行が諦めてそろそろ病院に帰ろうと踵を返したその時、不意にどこからか聞き慣れた声が響いてきた。

「あれ、一方通行?」

「……オマエか。何してンだ?」

声の聞こえてきた方向を振り返ると、そこには学生鞄と買い物袋を手にした上条が立っていた。どうやら買い物の帰りのようだ。
しかし、ここは上条が住んでいる寮とはまったく正反対の方向。
どこをどう頑張っても、スーパーからの帰り道にここを通ることなどはないはずなのだが。

「あァ、また御坂に追い回されてたのか。毎度毎度ご苦労なこって」

「違げえよ! 俺だってそんなにいつもビリビリに追い回されてるわけじゃねえ。お前のお見舞いに行こうと思ってたんだよ」

「それはそれで、毎日毎日よく飽きねェな」

「飽きるって、お前なあ……。まあ、人の好意は素直に受け取っとけ。何か損するわけじゃあるまいし」

あれ以来、上条と美琴はほとんど毎日のように一方通行のお見舞いにやってきてくれていた。
特に上条なんて貧乏だろうに、頻繁に果物などのお見舞い品を持ってきてくれる。
そしてその他の様々な行動から察するに、一方通行は上条は真性のお人好しなのだろうと思っていた。
そうでもなければ、たとえ自分の不注意で事故を起こしてしまったとはいえ、普通ならなかなかここまではできないだろう。

「それにしてもお前、もう外を歩いて良いのか? まさか抜け出してきたんじゃないだろうな」

「そンなことするかよ。よォやく外出許可が出たから、リハビリがてら歩いてただけだ。あとは、何か思い出せるかと思ってな」

「おお、そっか。良かったじゃねえか。で、何か思い出せたか?」

「いやまったく。自分でもびっくりするほど何も思い出せねェ。この辺に住ンでたわけじゃねェのかもな」

言いながら、一方通行は肩を竦める。
一方通行はどう見ても中高生くらいにしか見えないので普通ならこの辺りに住んでいるはずなのだが、どうやらそうではなかったようだ。
風紀委員や警備員に自分の存在を知られたくないらしいし、もしかしたら本人も知らないような複雑な事情があるのかもしれない。
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 17:08:55.69 ID:lnwWc/Yo
「それにしても、住ンでたところまでさっぱり忘れてるとは。退院したらどォすっかな」

「あ、そっか、退院したら住むとこがないのか。じゃあやっぱどっかで借りんの?」

「そのつもりだが、IDがねェ。そンな不審者に部屋を貸してくれるところがあるかどォかだな」

「それなら、うちの学校の先生に掛け合ってみようか?
 趣味で訳ありの子供を居候させてるような先生だから、たぶん学生寮くらいなら何も言わずに貸してくれると思うぞ。
 ついでに学校にも通えばそっちの奨学金も出るし、もうちょっと生活も楽になるだろ」

「学校……ねェ」

上条の提案は魅力的だったし、ある程度信頼もできる。しかし一方通行は、どうにも踏ん切りがつけられないようだった。
一方通行は上条には到底理解できないような冥土帰しの医学書や美琴が持ってきた能力の専門書を平気で読んでいるような奴なので、
勉強についていけないというようなことは無さそうなのだが。

「まあ、とにかく考えといてくれ。悪いようにはならないと思うしな」

「分かった、考えとく」

「じゃ、そろそろ病院に行こうぜ。今日も色々持って来たし、ずっとこんなところで立ち話してたら通行の邪魔だしな」

松葉杖をついている一方通行を気遣ってか、上条はゆっくりと病院のある方向へと歩いていく。
一方通行もそれについて行こうとしたが、その途端にふと嫌な予感がして背後を振り返った。
しかし振り返ったその先には、どう見ても一般人としか思えないような普通の学生がいるばかりでそれらしいものは何もない。
一方通行は神経質になっているのかもしれないと思い直し、彼がついて来ていないことに気付いた上条に呼ばれて歩調を早めた。

そうして二人が完全にその場から姿を消すと、恐らくは一方通行の感じた不穏の正体が人混みの中から姿を現す。
それはしばらく二人の去って行った方向を見つめながら佇んでいたが、
やがて興味を失ったかのように二人に背を向けて、そのまま再び元の闇へと帰って行った。
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 17:09:31.32 ID:lnwWc/Yo
病院の廊下。上条は一方通行の病室の扉に背を預けながら、一方通行の着替えが終わるのを待っていた。
病院で借りた服を返さなくてはいけないので、いつもの手術衣に着替えているのだ。
一方通行は別に部屋の中に居ても良いと言ってくれたのだが、そこは一応マナーということで部屋から出ておいた。

ふと腕時計を見やれば、もうだいぶ遅い時間になってしまっていることが窺い知れる。
これから夏になる為にどんどん陽のある時間が長くなってきているので、陽の高さで大体の時間が掴めなくなってきているようだ。
しかしこの時間ならもう美琴と出くわすこともないだろうと上条が安心していると、
不意に廊下の向こう側からカツカツという聞き覚えのある足音が響いてきた。
嫌な予感がして音のした方を振り返ってみると、そこには今日は会わなくて済むだろうと思っていた人物が立っているではないか。

「あら、アンタも居たの?」

「げっ、ビリビリ……」

「ビリビリ言うな! ったく、ここが病院で良かったわね。
 外だったら電撃喰らわせて電流流したカエルの足みたいにピクピクさせてやるところだわ」

「さ、さいですか……」

こうした美琴の暴言はもはや日常茶飯事のようなものだが、それでもやっぱり傷つくものは傷つくのか上条はがっくりと肩を落とす。
美琴の暴言がそろそろ看護師さんに注意されそうなレベルになってきた頃、漸く病室の中の一方通行から声が掛かった。

「オイ、着替え終わったぞ」

「も、もう入って良いみたいだぞビリビリ! ほら早く入ろうぜ!」

「あら? アイツ、着替えてたのね。まあ良いわ、今日はこの辺りで勘弁してあげる。
 ただし、次に外で会った時は覚悟しなさい! 今度こそメタメタのギッタンギッタンにしてやるんだから!」

「はいはい分かりましたよ。ほら一方通行、ビリビリも来たぞー」

放っておくとこのまま延々と暴言を吐き続けかねないので、上条は半ば強引に美琴を連れて病室の中へと入っていく。
すると、病室の中にはいつもとまったく同じ格好でベットの上に座っている一方通行の姿があった。

「ン、オマエもまた来たのか。揃いも揃ってよく飽きねェな」

「お見舞いなんか、飽きる飽きないの問題じゃないでしょ。今日も色々持って来てあげたんだから感謝しなさい」

「そう言えば、今日はずいぶんでかい袋を持ってんな。一体何持って来たんだ?」

「いつも私が読んでる漫画雑誌とかその単行本とか、あとは新しい能力の専門書ね。
 そうそう、おすすめって看板が出てたから今日は学舎の園にあるヴォアラで売ってたコーヒーゼリーも買って来たわよ。
 アンタコーヒー好きだし、有名店のお菓子だから口に合うと思う」

「そりゃまた随分とたくさん持って来たな。特に本なんか、全部棚に入るのか?」

「大丈夫よ、たぶん。入らなかったらいらないの持って帰るし」
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 17:10:40.53 ID:lnwWc/Yo
言いながら、美琴は病室の隅に置かれている本棚に次々と本を詰め込みはじめた。
元々この病室には本棚なんか無かったのだが、いつも病室で暇過ぎて死にそうな顔をしている一方通行を見るに見兼ねて、
美琴が本と一緒に組み立て式の小さな本棚を持って来てくれたのだ。

本棚には実に様々な本が収められていて、上条も読んだことのあるような漫画本から逆にさっぱり理解できないような難解な専門書、
果ては洋書まで取り揃えられている。量は少ないが、ちょっとした本屋のように幅広いラインナップだ。

「あー、やっぱり少し持って帰らないと全部は入らないわね。持って帰って良いのってどれ?」

「上二つの棚に置いてある本は全部暗記したからもォ良いぞ。あとは漫画も全部読ンだ。
 一番下の段に置いてある本は、まだ全部は読ンでねェから必要じゃねェなら置いといてくれ」

「うげっ、もうそんなに読んだのかよ。読むスピードも尋常じゃないな」

「て言うか、アンタが本を読まな過ぎるのよ! これくらい普通でしょ?」

美琴が心底呆れたというような表情をするが、上条はなんだか納得がいかなかった。
確かに上条が馬鹿なのは認めるが、それでも中学生の美琴や絶賛記憶喪失中の一方通行に本気で心配されるほどではない。
つまり、美琴と一方通行の方が異常なのだ。
もちろんそんなことを言い返したところで虚しくなるだけなので、口にはしないが。

「お、俺の話は良いだろ。それにしても、ビリビリってお嬢様なのにこういう漫画も読むんだな。ちょっと意外だ」

「何言ってんの。お嬢様って言ったって、アンタが思い描いてるようなモンじゃないわよ?
 確かに私くらい好き勝手やってるのは珍しいけど、学舎の園の中で完璧に管理されてるのが窮屈だと思ってる子が殆どだし」

「ふーん、そんなもんか。所詮深窓の令嬢なんて夢物語ってわけですかねー」

「いや、中には本当に箱入りで怖くて学舎の園の外になんか出たくないーって子も居るけど。ごく少数ね、そういう子は。
 そんなことより、外出許可出たんでしょ? 道案内も兼ねて、次の休日にこの辺り回ってみましょうよ」

「そォいえばそンなこと言ってたな。俺はこの通り暇人だし、いつでも良いぞ」

「上条さんもいつでも大丈夫ですよー。ビリビリはどっちでも大丈夫なのか?」

「ええ、特に用事も無いしね。じゃあ次の日曜日にしましょ」
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/24(日) 17:11:16.01 ID:lnwWc/Yo
言いながら、美琴は壁に掛けられている時計をちらりと見やった。
寮の門限を気にしているのだろう。美琴に倣って時計を見やってみれば、確かに寮の門限ギリギリの時間になってしまっている。
美琴は急いで持っていた紙袋を折りたたんで鞄の中に収めると、

「ごめん、もう時間だから私もう帰るわね。時間についてはまた後で連絡するわ!」

とだけ言って大慌てで帰っていった。
上条と一方通行はその行動のあまりの素早さに驚いていたが、やがて一方通行が呆れたように溜息をつく。

「慌しい奴だな。忙しいなら無理して来なくても良いっつってンだが」

「ま、あいつもあいつで世話焼きなとこあるからな。それになーんかお前って放っておけないんだよなー。構いたいというか」

「なンだそりゃ……。つゥか、オマエも帰らなくて良いのか? そろそろ完全下校時刻だろォが」

「いいのいいの。俺は門限無いし、完全下校時刻破りなんかいつものことだし。それより林檎持って来たから食おうぜ!」

「えェー。コーヒーゼリーが良い」

「いやいやそれは今度ビリビリが来たときに一緒に食うべきだろ。アイツが持ってきたんだから」

「仕方ねェなァ……」

上条の言葉に漸く納得したのか、一方通行は渋々といった様子で食べやすいサイズに切り分けられた林檎を摘まんだ。
それを見た上条はまるで子供を躾ける親のように「よし」を呟くと、自分もまた皿の上に置かれていた一口サイズの林檎を口に運ぶ。
林檎はとても美味しかった。
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/24(日) 17:15:38.32 ID:lnwWc/Yo
とりあえず今回はここまでです。
次の投下はたぶん一週間以内にはできると思います。
それでは、ここまで読んで下さった方はありがとうございました。
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/24(日) 17:24:17.79 ID:4gOD.YQ0

一方通行がなんで能力使えなくなったのか気になるな
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/24(日) 17:26:47.23 ID:V9ip3KUo
>>「えェー。コーヒーゼリーが良い」

一方通行かわいい
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/24(日) 17:33:24.29 ID:t8OaqU20
乙です
これ面白いなぁ……どう話が転がっていくのか楽しみにしてます
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/24(日) 17:48:56.18 ID:zlFAvOIo
紫外線を反射やらなんやら言ってたから
能力の使い方を忘れただけじゃないの?
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/24(日) 20:24:52.90 ID:vsHJr1c0
>>1
スレたつの楽しみにしてた
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/25(月) 01:26:06.86 ID:pwBjzkAO
おぉついに立ったか!
総合のときから楽しみにしてたよ。そしてこれからも楽しみにしている!
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/25(月) 23:35:17.12 ID:hnEDf6s0
支援
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/26(火) 01:06:05.36 ID:EyVaQY20
やだ…なにこれオモシロイ
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/26(火) 23:41:25.25 ID:pw0/rLEo
サイレンスレが鬱すぎて生きるのが辛い

どうも>>1です。次の投下は明日か明後日になりそうです。とりあえず生存報告。
正直これ面白いんだろうかとか俺得でしかなくねとか思ってたので、こんなに反応頂けてびっくりしてます。

>>29
特にネタバレになるようなことでもないので言ってしまいますが、だいたい>>32さんの言うとおりです。
能力の使い方とかコツ(無意識演算?)を忘れてるだけなので、その辺思い出せれば以前同様使えるようになるかも?
原作みたいに演算能力が落ちたわけじゃないですし、能力もベクトル操作のままですし。
ただ、レベルは大体2くらいまで落ちちゃってます。まあ細かいことはそのうち本編なんかで触れられると思うので。

あと、やっぱりトリとかつけた方がいいんですかね? #のあとに英数字で良いんでしたっけ?
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 21:51:30.87 ID:/ENKDak0
スレ立つの待ってましたー!
トリはつけた方が見やすいと思う
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 23:24:44.00 ID:Edxl2vY0
面白えー!
純粋に続きが気になるっていうか、凄い楽しみです支援支援
40 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:28:42.21 ID:AsXHCfIo
どうもこんばんは。支援ありがとうございます。
さっそくトリ付けてみました。これで少しでも見やすくなれば良いんですが……

では、投下はじめますね。
41 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:29:32.96 ID:AsXHCfIo
約束の日曜日、待ち合わせ場所である病院の前の広場で、上条は二人がやって来るのを待っていた。
本当ならこの病院に入院している一方通行が一番最初にここで待っているはずだったのだが、どうも外出手続きに手間取っているらしい。
前もって申請するのを忘れていたのと、まだだいぶ早い時間で病院が忙しいこともあって少々時間がかかっているようだ。
と言っても、冥土帰し曰くそれほど時間がかかる訳ではないらしいので、外出自体にはまったく影響はないのだが。

よって一方通行の方は問題ないのだが、集合時間五分前になってもまだ美琴がやって来ないことが気がかりだった。
女の子は身だしなみに時間がかかるという話は流石の上条も聞いたことがあるが、常盤台中学は休日でも制服の着用が義務付けられている。
なのでそれほど時間がかかるとは思えないのだが……などと考えていると、車道の向こうから美琴がやってくるのが見えた。

「ごめん、ちょっと遅れた!」

「や、そんなに待ってないよ。一方通行もまだ来てないし、ギリギリ時間には間に合ってるぞ」

「そっか、良かった。アイツはどうしたの?」

「外出手続きにちょっと時間がかかるらしい。でも、もうすぐ来ると思うぞ」

ここまでずっと走って来たのか、美琴はだいぶ息を切らせていた。
服装は上条が予想したとおりにいつもと同じ常盤台中学の制服だったが、雰囲気がいつもと少し違う気がする。
それが少し気になって、どこが違うんだろうと考えているとふと視界の端に白い人影が映った。

「あ、来たな。おはよう」

「悪ィな、待たせちまったか」

「いやいや、全然。ビリビリなんか本当にたった今来たところだしな」

ようやく手続きを終えてやってきた一方通行は、手馴れた様子で松葉杖を突いていた。
上条は以前大通りで会ったときに一方通行が松葉杖を突いているのを見ていたが、美琴はこれが初めてなので少し驚いているようだ。

「前見たときも思ったけど、なんかそれ持ってると病人みたいだな。お前、ただでさえ目立つのに」

「いや、こんなでも一応病人なのよ? 本人が元気って言い張るからそう見えないだけで」

確かに記憶喪失なのだから病人(?)なのだが、どうも一方通行は自分が記憶喪失であることをまったく気にしていないので、
なんだか上条もたまに一方通行が病人であると言うことを忘れてしまいそうになる。

と言っても日常生活に必要不可欠なことは覚えているので、普通に生活する分には不自由はない。
しかし、不安なことも多そうに感じるのだが。
もしかしたら記憶喪失になる前からの知り合いが全くいないので、逆にそういうことを気にしなくて済んでいるのかもしれない。
思い出すことのできない過去の出来事を語られて、頭を痛めたり心を痛めたりすることが一切ないのだから。
42 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:31:11.08 ID:AsXHCfIo
「それより、何処に行くの? 私は特に決めてないんだけど……」

「あ、そっか。俺も特に考えてないんだけど……。一方通行、どっか行ってみたいところとかあるか?」

「俺も特にねェな。歩きながら決めれば良いだろ」

それもそうだ。この辺りのことについて何も知らない一方通行が、行き先なんて考えているはずがない。
こんなことなら前もって行く場所を決めておくべきだったなあと思いながら、上条は咄嗟に思いついた場所を挙げてみる。

「そうだ。地下街なんかどうだ? あそこは色んな学生が集まるし、多分一方通行も記憶喪失になる前に一回は行ったことがあると思うぞ」

「あ、それ良いわね。久しぶりにゲーセン行きたいわ」

「……お前、これが一方通行の為の案内だって分かってるよな?」

「わっ、分かってるわよ! 失礼ね!」

「なら良いんだけどさ」

美琴は顔を赤くしながら否定したが、やはりゲームセンターが惜しいのか少し残念そうな顔をしている。
まあちょっと寄るくらいなら良いだろうと上条が思い直していると、二人が何を話しているのか分からないらしい一方通行が口を開いた。

「で、その地下街っつゥのは何処にあるンだ?」

「ああ、ここからちょっと行ったところに入り口があるから、そこから入るんだ。
 それほど距離がある訳じゃないから、杖つきでも大丈夫だと思うぞ」

「そこ行くまでにも色々あるし、説明しながら歩きましょ。お昼までまだ時間があるし、ご飯は地下街で良いわよね?」

「ン、そォだな。時間は……まだ9時前か。地下街を回ってからでも充分だ」

第七学区は中高生が最も多く住んでいる学区と言うだけあって、若者向けの店が多数立ち並んでいる。
何も知らない一方通行に、上条と美琴はよく利用する店や有名な店を紹介してやりながら地下街へと向かっていった。
43 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:32:01.98 ID:AsXHCfIo
地下街を彷徨い始めて数時間後。そろそろ昼食を食べに行こうかな、と三人が考え始めた頃のことだった。
上条と美琴と一緒に地下街を歩いていた一方通行が、ある店の前で唐突に立ち止まった。
一拍遅れてそれに気付いた上条は美琴に声を掛けてから立ち止まると、一方通行がじっと見ている店に目を向ける。

「ゲーセンか。やっぱり見覚えあるのか?」

「……いや。つゥか、何をするところなンだ? 騒音がすげェな」

「ありゃ、ゲーセンも駄目か。まあいいや、興味があるならちょっと覗いて見るか?」

「あァ」

もう昼が近いだけあって、ゲーセンの中は既に結構な人で賑わっていた。
それも休日なので心なしか放課後にここに来るよりも人の数が多い気がする。空いているゲームを探すのが難しそうだ。

「やー、ゲーセンって久しぶりに来たわ。
 好きなんだけど、黒子が『常盤台のエースとしての自覚を〜』とか言って私がこういうとこ行くの嫌がるから来にくいのよね。
 こういうとこに一緒に来れるような友達もいないし、かと言って一人で来るにもちょっと寂しいし」

「やっぱり、常盤台のお嬢様はあンまりこォいうところには来ねェのか?」

「こういうとこは流石にね、ガラの悪い奴らも多いし。私はほら、能力があるから簡単に撃退できるんだけどさ。
 他の子達はそうもいかないからね。たとえ脅しに使うだけでも、人に向けて能力を使うのに抵抗があるって子が殆どだし」

「て言うか、それが普通なんだと思うぞ……。お前はもうちょっと能力の使用を控えるべきだ」

「失礼ね、私だって普段からあんなに能力を使ってるわけじゃないわよ。あれはアンタ限定」

「ひどい! ビリビリはもっと俺に優しくなるべきだ!」

「……まァ上条は置いといて、不良相手にも無闇に能力で攻撃するのは止めといた方がイイと思うぞ。電撃は障害が残ることもあるからな」

「その辺もちゃんと加減してるわよ? コイツ意外には」

相変わらず上条に対してだけは手厳しいが、なんだかんだ言って美琴は学園都市最強の発電能力者であるので加減も非常に上手い。
一見むやみやたらに電撃を放っているように見えて、実は絶対に重傷や障害を負わせたりすることがないように絶妙な調整をしているのだ。
もちろん、それも上条以外に限定されるわけだが。
44 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:32:39.17 ID:AsXHCfIo
「はあ、俺に平和な日々が訪れることはあるのだろうか……」

「諦めろ、あれは天性の負けず嫌いだ。本気で戦って勝つか負けるかしないと納得しないだろォな」

「いやでも流石に女子中学生を殴ることには抵抗が……」

「なによ紳士ぶっちゃって! 腹立つ!」

「おわあああああっ!? こんな機械が多いところでところで電撃は止めなさい!」

美琴が放った小さな電撃をなんとか右手で受け止めながら、上条が悲鳴を上げる。
最近は病院で会うことが多くて電撃はご無沙汰だったので油断していた。危うくもろに食らってしまうところだ。
その様子を初めて見た一方通行は、上条の右手を興味深そうに見つめている。

「話には聞いてたが本当に不思議な能力だな。異能の力ならなンでも打ち消しちまうンだろ?」

「右手首から上だけだけどな……。それに異能でも何でもないただのパンチとかには意味ないから、そこまで便利なもんでもないぞ」

「ああもう、本当に忌々しい右手だわ。ちょん切ってやろうかしら」

「やめてくださいビリビリ様!」

一方通行が上条と美琴が馬鹿な言い合いをしているのを聞き流しながら辺りを見回していると、ちょうど空いている台を発見した。
彼は二人の言い合いを中断させると、見つけた台を指差した。

「あそこ空いてるぞ。あれで良いンじゃねェか?」

「おお、2台も。これは格ゲーか。対戦もできるみたいだぞ」

「俺は観戦させて貰うぞ。やり方がイマイチよく分かンねェからな」

「じゃあ、私とアンタで対戦しましょうよ。こっちでは絶対に負けないんだから!」

「うぐ、またビリビリと勝負かよ、不幸だ……」

言いながらも、二人がそれぞれ席に着く。観戦するつもりの一方通行は美琴の側に回って画面を覗き込んでいた。
二人がコインを入れると、さっそく開始の合図がされて対戦が始まる。

「えいっ、とりゃ、たあ!」

「やべ、本当に強い。だけど負けるかああああ!」

「馬鹿か」

ゲームごときに必死になっている二人を見て呆れながら、一方通行は呟いた。
しかしそんな一方通行の言葉もまるで耳に入っていないようで、二人は奇声を上げながらゲームの中で死闘を繰り広げている。
45 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:33:25.92 ID:AsXHCfIo
しばらくの間そんな奇怪な状況が続いていたが、最終的に軍配は美琴に上がった。

「やったあ! 勝ったー!」

「うう、負けた……」

「こンなゲームで一喜一憂できるなンて、オマエらも平和だな……」

ゲームの中での戦いとはいえ上条に勝てたのがよっぽど嬉しいのか、美琴はぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでいた。
その一方で、敗者上条はゲーム台に突っ伏して項垂れている。

「ふふん、でもアンタもなかなか強かったわよ。楽しかったわ」

「俺、これでも仲間内では強い方なんだけどなあ……。ゲーセンにも通い詰めてるのに……」

「まあ、私はゲーセンには来れないけど家庭用ゲーム機でやりこんでるしね」

「そっちかよ!」

「どォりで強いわけだ」

素人目にも凄まじいボタン捌きだったので何かあるとは思ったが、まさかそこまでやりこんでいようとは。
そこまでしてゲームをやりこんでいる美琴に一方通行は呆れてしまったが、上条はそれでもやっぱり悔しいのか、
コインを握り締めている右手をぷるぷると震わせながら美琴をびしっと指差した。

「も、もっかい勝負だ! 次こそは負けねえ!」

「ええ、望むところだわ。何度やっても結果は同じだと思うけどね!」
46 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:34:57.80 ID:AsXHCfIo
上条にしては珍しいことに、すっかり熱くなってしまっているようだ。
またその一方で、美琴は今まで上条に逃げられてまくって勝負できなかった分の鬱憤をここぞとばかりに晴らそうとその挑戦を受けて立つ。
二人は同時にポケットの中からゲーセン用のコインを取り出すと、それぞれゲーム台に投入した。
……そんなことをかれこれ十回も繰り返していたのだが、その結果はと言うと。

「やぁったあ! 私の全戦全勝!!」

「一勝もできなかった……。不幸だ……」

「いや一勝くらいしろよ。強いンじゃなかったのか?」

「や、ビリビリはマジで強い。あとちょっとってところまでは行けるんだけどなあ……」

「でもまあアンタもそこそこ強かったわよ。実際何度か結構危ないとこまで追い詰められたし。
 あ、そうだ。一方通行もやってみない? 面白いわよ?」

「ン、じゃあ少しやってみっか」

言いながら、一方通行は上条が譲ってくれた席に座る。
一方通行は初心者なので本当なら美琴に負けた上条が相手をした方が良いのだが、当の一方通行本人が美琴との対戦を希望したのだ。
宿敵上条に連勝できたことで気持ちが大きくなっているのか、反対側の席に座っている美琴は何だか小憎たらしい笑みを浮かべている。

「ふふん、手加減してあげるから安心しなさい!」

「……言うじゃねェか。吠え面掻いても知らねェぞ」

なんだかんだ言って、実は一方通行も相当負けず嫌いだ。
上条は一方通行の側から画面を覗き込みながら、心配そうな面持ちで負けず嫌い二人の行方を見守っていた。
47 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:36:22.59 ID:AsXHCfIo
十分後。
……これには流石の上条も目を丸くしてしまった。何故ならなんとあの美琴が、初心者であるはずの一方通行に負けてしまったのだ。
それから何度対戦を繰り返しても、やはり結果は一方通行の勝利で終わってしまう。
そうしてやがてついに観念した美琴は、先程の上条とまったく同じようにゲーム台に突っ伏して項垂れていた。

「わ、私の完敗よ……。まさかここまで完膚なきまでにやられるなんて……」

「うおお……。すげえな、俺なんか一度も勝てなかったのに」

「こンなの、操作方法とコツ、機械の挙動のクセさえ覚えちまえば簡単だ。
 それについさっきまで御坂がプレイしてるのをすぐそばで観察してたから、御坂の戦い方もついでに覚えちまったンだよ」

「つまり、あの時点で既に私は看破されてたってわけね……」

一方通行がわざわざ上条ではなく美琴との対戦を希望したのには、こういう裏があったのだ。
なのでもし一方通行が美琴ではなく上条と戦っていたら、また違った結果になっていたのかもしれない。

「でも、初めてなのに横から見てただけで急にあそこまでできるのはすげえよ。器用なんだな」

「て言うか、アンタって頭良いわよね。やっぱり前は良い学校に通ってたのかしら。……あれ、そう言えばアンタって何歳?」

「知らねェ。まァ、身長が上条と同じだからそれくらいじゃねェか?」

項垂れていると言うよりゲーム台の冷たい感覚が気に入ったのか、美琴はまだゲーム台の上に頭を乗せたままごろごろしていた。
どうせ学園都市製のゲーム台なので高度な防菌加工がしてあるのだろうが、綺麗な訳でもないのだからよせば良いのに、
などと上条が思っていると、ふと美琴がごろごろするのをやめてある一点を見つめはじめた。
何かと思って美琴の視線の先を追ってみると、そこには如何にも女の子が好きそうなプリントシール機が設置されているではないか。

「なンだ? オマエ、あれがやりたいのか?」

「待て待て一方通行。アレはプリクラと言ってだな、シールになる小さい写真を撮る機械だ。ゲームじゃない。
 女の子が友達同士で撮ったり、恋人同士で撮ったりするものであって、俺らのような人間が撮るようなものじゃないんだよ」

「ふゥン。そりゃ、確かに女が好きそうな玩具だな」

「良いじゃないプリクラ! 記念にもなるし撮りましょうよ! て言うか実は私も撮ったことないから撮ってみたいのよ!」

美琴は急にがばっと立ち上がると、プリントシール機を指差しながら熱弁した。よっぽどやってみたいらしい。
しかし男である上条は、どうしてもああいったものには抵抗があった。と言うか凄まじく恥ずかしい。
逆に一方通行は未だにプリクラをよく理解していないからなのか、どうして上条がそこまで嫌がっているのか分かっていないようだ。
48 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:37:42.13 ID:AsXHCfIo
「でも、なんか意外だな。ビリビリもこういうの好きそうなのに」

「そりゃあ、好きは好きよ? でもさっき言った通りに一緒に撮る友達がいないのよ。ああいうのは一人で撮っても虚しいだけだし。
 だから、ね! やりましょうよ! そんなに時間がかかるわけでもあるまいし!」

「……そこまで言うンなら、別に良いンじゃねェか? ただの写真なンだろ?」

「マジでか。いやアレは本当に女の子向けの代物であってだな……」

「よっし! じゃあ決まりね! 行きましょ!」

抵抗も虚しく、哀れ上条は美琴に腕を掴まれて強引にプリントシール機の中へと引きずり込まれていく。
何も知らない一方通行は素直に二人の後をついて行ったが、プリントシール機の中に入ってその画面を見た途端に顔をしかめた。
確かに少女向けの玩具だろうとは予想していたが、まさかここまで徹底的だとは思わなかったのだ。

嬉々としてプリントシール機に向かっている美琴越しに除ける画面には、目が痛くなるようなキラキラしたフレームが並んでいる。
上条は言わんこっちゃないと言うような顔で一方通行を見ていたが、当の一方通行はそっぽを向いて現実逃避していた。
そこに、美琴は追い討ちをかけるように更に様々な装飾を追加していっている。

「お、おいビリビリ、ちょっと派手すぎやしないか?」

「何言ってんの、こんなの普通よ。これでもアンタ達が嫌がるだろうと思って控えめにしてあげてるんだからね!」

「これで控えめなのかよ」

上条はげんなりしながら呟いたが、念願のプリクラができてご満悦の美琴にその言葉は届いていないようだ。
もうどうにでもなれと思っていると、全ての設定を終えたらしい美琴が両脇にいた上条と一方通行の腕をぐいっと引っ張って引き寄せる。

「ほら撮るわよ! カメラ見て笑って!」

「はいはい、分かりましたよ。一方通行もちゃんと笑えよ」

「………。無茶言うな」

一方通行は一瞬笑顔を作ろうと努力していたようだが、上条は見なかったことにした。物凄い引き攣っていたからだ。
結局一方通行は、いつもの仏頂面で写真を撮ることになった。

パシャリというシャッター音が響き、撮影された映像が画面の中に映し出される。
派手なフレームや装飾が若干(いやかなり)恥ずかしいが、写真だけ見れば本当に仲の良い友達同士に見えた。
そこに、美琴は更に何かを追加していく。ペンでパネルに何かを書いているようだった。

「今度は何してんだ?」

「文字を入れてるのよ。一回やってみたかったのよねー」

「……よく恥ずかしげもなくそンな文章を書き込めるもンだな」

「い、良いじゃない! こういうのが普通なのよ、普通!」
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 23:38:13.00 ID:Z8QhWMYo
この三人が仲良しなのがスゲェいい・・・
ごろごろするみことかわいい
50 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:39:46.84 ID:AsXHCfIo
どうやら美琴も恥ずかしいと思っているらしい。やめる気も無さそうだが。
上条は横からちらりと美琴の手元を覗き込んでみたが、上条にしてみればそこまで恥ずかしいような文章には思えなかった。
まあ、この程度なら許容範囲なのではなかろうか。
それに文字を書けば書くほど周りのフレームや装飾が潰れてくれるので、もっと書けば良いのになどと酷いことも考えていた。

「よし、これで完成! 印刷するわよー」

ボタンを押すと、取り出し口にすとんとシールが落ちてきた。
美琴はいそいそとシールを取り出すと、それを器用に三等分にして上条と一方通行にも分けてやる。

「こんなの、何処に張れば良いんだよ。恥ずかしくって人に見せらんねえよ」

「えーと、普通は携帯電話のバッテリーの蓋の裏とかに張るみたいね。
 そこなら人目に付かないだろうし失くさなずに済むし、ちょうど良いんじゃないかしら?」

「なるほど、そこなら良いか。一方通行は携帯持ってたっけ?」

「この間冥土帰しに押し付けられた。これでイイのか?」

勧められた場所にシールを張りながら、これならよっぽど不幸なことが起きない限り人に見られたりしないだろうと上条は安堵した。
上条と美琴、あとは冥土帰しくらいしかまともな知り合いが居ない一方通行は良いだろうが、
上条にはこれを見られたら困る知り合いが非常に多いのだ。
その一方で遂に念願のプリクラを手に入れた美琴は、自分の分のシールを見つめながらニヤニヤしている。

「プリクラって思ったより楽しいわね。また今度来たとき撮りましょうよ」

「絶対嫌だ」

「もうオマエとは絶対ゲーセンに来ねェ」

「ひどい!」

男性陣のあまりにも冷たい反応に美琴は非難の声を上げたが、二人は既にもう二度とプリクラなど撮るまいと心に誓っていた。
上条がむくれている美琴を宥めながら腕時計を確認してみると、ちょうど12時を過ぎたところだった。

「そろそろ飯食おうぜ。結構歩いたから腹減ったし」

「ああ、そう言えばもうそんな時間なのね。あそこのファミレスで良いんじゃないかしら?」

そう言って美琴が指差したのは、学園都市にも複数のチェーン店が展開されているありふれたファミリーレストランだった。
わざわざこんな地下街に来たまであんなありふれたレストランに行くのかと上条は思ったが、
そこまでありふれたレストランならもしかしたら一方通行の記憶に残っていることもあるかもしれない。
僅かばかりの期待を胸に、上条は二人についてファミリーレストランへと入っていった。
51 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:42:16.71 ID:AsXHCfIo

―――――


時刻は夕方。休日なので完全下校時刻なんてものはないが、平日だったらもうアナウンスが流れている頃だ。
三人は帰路につこうとしている人々で溢れている大通りを歩きながら、他愛ない話をしていた。

「それにしても、収穫ゼロかあ。まさか地下街のことも全然知らないなんて思わなかったな」

「次は第六学区にでも行ってみましょうよ。あそこはアミューズメント施設が集中してるし、一回くらい遊びに行ったことがあるかもよ?」

「でもまァそンなに急ぐよォなことでもねェし、気にすンな。今のところ大した不便も無ねェしな」

「逞しいなあ……。あ、そうだ。学校のこと考えてくれたか? 先生に訊くなら早い方が良いだろうし」

一方通行の退院はまだもう少し先のことだが、上条の学生寮を確保してもらうにも少し時間が掛かるし決断が早いに越したことは無い。
しかし一方通行はそれとなく上条から目を逸らしながら、曖昧に返事をした。

「あァ、それなァ……。もうちょっと待ってくれ。まだ考えてる」

「何をそんなに迷うことがあるのよ? アンタの今の状況を考えてみれば、願っても無い好条件だと思うけど」

「まァ普通に考えればそォなンだけどよォ。……実は、外に出よォかと思ってンだ」

上条と美琴は一瞬、一方通行が何を言っているのか理解できなかった。
外ってどの外のことだ。今だって外にいるじゃないか。
上条はその言葉の意味を暫らく考えていたが、やがてひとつの可能性に思い当たって目を丸くした。

「まさか、外って学園都市の外のことか? 無茶苦茶だ」

「……やっぱりそォだよなァ」

「何でまた学園都市の外になんか出ようと思ったのよ? アンタは知らないでしょうけど、学園都市の外は私達にとってすごく危険なの。
 学園都市の能力開発技術を何とかして手に入れようと躍起になってる連中がうじゃうじゃいるんだから。
 万が一、変な奴らに捕まったりしたら実験台にされるかもしれないし。
 それにアンタの場合は外に出るときにマイクロチップやナノマシンを注入したりもできないから格好の餌食よ?」

「それに、記憶を取り戻すための手掛かりだって外では見つからないと思うぞ。流石に外から来たって訳じゃないだろうし」

「…………。それも、そォだな。とにかくもう少し考えさせてくれ。悪ィな」

「いやそれは全然構わないんだが……。どうして学園都市の外に出ようなんて思ったんだ?」

「色々事情があるンだよ。色々な」

どうも、話したくないことらしい。
上条たちも一方通行が何か複雑な事情を抱えているらしいことはなんとなく察しているので詮索はしなかったが、
とにかく危ないことだけはしないでくれと念を押しておく。
しかし対する一方通行は、過剰に心配する二人を見て呆れたように呟いた。
52 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:43:52.52 ID:AsXHCfIo
「そンなに心配されるよォなことは何もねェよ。過保護な奴らめ」

「いやいや、それくらい学園都市の外ってのは能力者にとっては危ないんだぞ。お前だって、微弱とはいえ能力が発現してるんだろ?」

「分かったっつゥの。俺だって危ない橋渡るのはゴメンだからな。ほら、オマエらの帰り道はあっちだろ」

「なーんか納得いかないわ……。とにかく、絶対に血迷ったことしないでよ! 分かったわね!」

「ハイハイ。じゃ、今日はそこそこ楽しかったぞ。またな」

一方通行の態度はぞんざいだったが、それでもやっぱり門限が気になる美琴は素直に自らの帰路についていった。
ただし何度も二人のいる方向を振り返り、ぶんぶんと手を振りながら。
やがてそんな彼女の姿が見えなくなってしまうと、今度はまだなんだか難しい顔をしている上条の方へを向き直る。

「オマエはスーパーのタイムセールに行くンだろォが。急がなくて良いのか?」

「いやまあ、確かに急がなきゃだけど……。本当に大丈夫なんだよな?」

「何がだよ? ったく、オマエらは揃いも揃って心配性なのか? 最後の最後に辛気臭ェ雰囲気にしてくれンなよ」

「お前なあ……。はあ、まあ良いや。信用するよ。じゃ、お前も早く帰れよ。仮にも病人なんだから」

「分かってるっての。俺だって早く帰って寝てェ。疲れた」

それを聞いて漸く安心したのか、上条はやっといつもの調子を取り戻してくれたようだ。
そろそろ本当にタイムセールに間に合わなくなるぞと一方通行が脅すと、上条は慌てて腕時計を確認する。

「うお、ホントに時間ねえ! 悪いな、じゃあまた明日!」

「明日も来ンのかよ」

背後を振り返りながら一方通行に手を振って全速力で走るという器用な芸当をしながら、上条はあっという間に去っていった。
一方通行はしばらく去っていく上条の後姿を眺めていたが、やがて飽きてしまったかのように踵を返して病院へと帰ろうとする。
……と、その時だった。
53 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:47:41.15 ID:AsXHCfIo
「あの」

最初、一方通行はそれが自分に対して掛けられた声だということに気付けなかった。
一方通行の周囲には、そんな控えめな声の掛け方をする奴はいないからだ。
だから一方通行はそれが自分を呼ぶ声だということに気付かずに、聞こえてきた声を無視して歩いていってしまおうとする。

「あの、一方通行」

名前ではないはずだが、それでも自分のことを示す単語がどこからか聞こえてきたところで、一方通行は漸く立ち止まる。
声の聞こえてきた方向を振り返ってみると、そこには先程帰って行ったはずの御坂美琴が立っていた。

「なンだ、オマエか。どォした? 上条ならもォ行っちまったぞ」

一方通行の言葉に、しかし御坂美琴はきょとんとした顔をした。
けれどそんな顔をされるようなことを言った覚えのない一方通行は、何か言い知れぬ違和感を感じて顔をしかめる。

常盤台中学の制服を着ているし、顔も見間違えようもなく御坂美琴そのものなのだが、何かがおかしい。
そういえば、先程まで美琴はあんなにごつい軍用ゴーグルなど装備していなかった。それにあんな嵩張るものを隠していたとも思えない。
一方通行が訝しんでいると、御坂美琴は一人で唐突に納得したような顔をしてこう言った。

「失礼しました。ミサカは超電磁砲・御坂美琴ではありません。いわゆる妹というやつです、とミサカは懇切丁寧に説明します」
54 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/10/27(水) 23:50:38.19 ID:AsXHCfIo
本日の投下はここまでです。お読みくださってありがとうございました。
次回もまた一週間以内には来れると良いな……
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 23:51:25.53 ID:VshuSEQ0
乙!
リアルタイムは初めてだったww
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/28(木) 00:06:12.11 ID:nC.dd1k0
気になる引きだ……次回も楽しみにお待ちしてます
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/28(木) 02:04:02.46 ID:hOg2YRs0

これは良い展開だ・・・
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/28(木) 02:30:17.61 ID:.MztGaUo
これは・・・・・
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 17:56:37.37 ID:rBNimPso
追いついた
凄い面白いし続きが気になる
60 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/02(火) 23:55:40.47 ID:f7rU0zwo
こんばんは、ギリギリ一週間内ですみません。
ところで魔滅の声ってなんか『ものすごい酷い悪口』ってイメージだったので、禁書アニメ見てちょっと意外でした。普通に歌でしたね。
インデックス凄くかっこよかったんですが、最後の鼓膜破りのインパクトに全部持って行かれてしまった……
それにしても、今回の活躍でインデックスがインなんとかさんと呼ばれないようになると良いんですが。目指せ、空気ヒロイン扱い脱却。

それでは、今回も投下していきますね。
短めだと思いますごめんなさい。
61 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/02(火) 23:59:05.00 ID:f7rU0zwo
第七学区の喫茶店。
真っ赤な夕陽の光が差し込んでくる窓際の席に、一方通行と美琴の妹は座っていた。
二人用の小さな席に向かい合って座っている二人は、それぞれの注文した飲み物をのんびりと啜っている。

「美味しいですね、とミサカは一方通行に同意を求めます」

「いや、俺とオマエは注文したモンが違ェから分かンねェよ。
 つゥか御坂の妹……あァもォ御坂妹でイイな。で、その御坂妹が一体俺になンの用だ? わざわざこンな場所にまで連れて来てよォ」

「それは……、今日は、少々あなたに相談があって伺ったのです、とミサカはさっそく本題を切り出します」

「相談? 俺にか?」

我ながら、自分ほど相談相手として不適格な人間はそうそういないと思う。
そんな一方通行に相談しに来たとは、一体どういうつもりなのだろうか。もしくは、一方通行がどういう人間かを知らないのかもしれない。

「はい、相談です。とミサカは繰り返します」

「悪ィが、どォ考えても人選ミスだと思うぞ。何の相談か知らねェが、他当たった方が良いンじゃねェか?」

「構いません、とミサカはきっぱりと断言します」

「……まァ、そこまで言うなら聞くだけ聞いてやるけどよ」

一方通行は『美琴の知り合いに用がある』ということでここに連れて来られたのだった。
だが、それならせめて美琴の知り合い繋がりで上条にでも相談した方が良かったのではないだろうか?
……などと一方通行が考えていると、御坂妹が再び口を開いた。
62 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/03(水) 00:01:23.43 ID:b7Et/bco
「その為には、まずミサカたちについて説明しなくてはなりません。
 ミサカたちは実は、お姉様のDNAマップを元に作成された体細胞クローン『妹達』なのです、とミサカは改めて自己紹介します」

「ン? じゃあ妹じゃねェのか?」

「厳密にはそういうことになります。
 ですがミサカたちは皆オリジナルのことを『お姉様』と呼び慕っているので、自ら『妹』と名乗っているのです、とミサカは補足します。
 それにミサカたちの総称もちょうど『妹達』ですし。
 一部の人はミサカたちは妹より娘に近いと言いますが、流石にまだ中学二年生のオリジナルを『母』と呼ぶのには抵抗がありますから、
 とミサカは更に理由を追加します」

「なるほどなァ。確かに、その辺の奴に説明するにしても『妹』の方が分かり易いし楽だろォしな」

「そういうことです。と言うか、クローンと聞いてもあまり驚かないんですね、とミサカは一方通行の反応を意外に思います」

「学園都市ってのは『外』に比べて30年も技術が進ンでンだろ? クローンなンてのはありふれたもンじゃねェのか?」

「いやいやいや。学園都市でも人体のクローニングは禁止されていますし、
 実はミサカたちも非合法な存在なのでかなり厳重に秘匿されています、とミサカは一方通行の非常識ぶりに逆に驚かされます」

「へェー。オマエらも大変なンだなァ。つゥか、そんな非合法な存在がこンなところを普通にうろついててイイのかよ」

「実は現在脱走同然の状態です、とミサカは衝撃の真実を暴露します」

「オイコラ」

一方通行が鋭くツッコミを入れるが、御坂妹は何処吹く風だ。
それどころか、彼女は一方通行の発言を無かったことにして話を進める。

「それでここからが本題になるわけですが、とミサカは話題の軌道修正を試みます」

「スルーか。まァ良い、とりあえず話してみろ」

「はい。実はお姉様にお会いしたいと考えているのですが、大丈夫でしょうか? とミサカは相談内容を提示します」

「…………? 会いたいなら勝手に会いに行けばいいじゃねェか」

別に一方通行は美琴の保護者でも何でもない。それどころか、不本意ながらどちらかと言えば逆だ。
なのに、何故御坂妹は一方通行にそんなことを尋ねるのだろうか?
そんなことを考えながら一方通行が首を傾げていると、御坂妹はすかさず説明を続ける。

「実はお姉様は自分の体細胞クローンが作られていることをご存じないのです、とミサカは最大の問題を明かします」

「はァ? じゃあナニか、どっかのアホが本人に無許可で勝手にクローン作ったってのか?」

顔を顰めながら、一方通行は不愉快そうな声を出した。
しかしよくよく考えてみれば人体のクローニングは禁止されているのだから、あの美琴がそんな非合法な実験に協力するはずもない。
すると御坂妹はこくんと頷き、言葉を続けた。
63 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/03(水) 00:05:23.34 ID:b7Et/bco
「そういうことになりますね、とミサカは首肯します。
 とは言っても、ミサカたちはそのお陰で生まれることができたので一概に彼らを非難したくありません、とミサカはミサカの考えを主張します」

確かに御坂妹には何の罪もないし、誕生の経緯がどうであれ彼女達が生まれたことを非難するつもりも毛頭ない。
……しかし、当事者である美琴は一体どう思うだろうか? 彼女たちの存在を、果たして許すことができるのだろうか?

「……つまりオマエは、御坂が自分たちを受け入れてくれるかどォか知りたいっつゥことだな?」

「そういうことです、とミサカは一方通行の話の呑み込みの早さにほっとします」

「しっかしクローンとはまた、難しい質問だなァ……。御坂とはそンなに付き合いが長ェわけでもねェし。
 やっぱ上条辺りに相談した方が良かったンじゃねェか?」

「いえ。記憶喪失で何の先入観も持っていないあなたの意見を聞きたかったのです、とミサカはミサカの真意を告げます」

そこで一方通行はおや、と思った。
自分はまだ、御坂妹に自分が記憶喪失であることを話していないはずだ。隠しているわけではないが、そんな簡単に知れることでもない。

「俺が記憶喪失だってことも知ってンのか、やけに俺に詳しいな。どうしてそこまで知ってンだ?」

「……そ、その、ミサカたちはお姉様に近付く為にお姉様の身辺を調査したのです。
 その過程であなたのことも少々調べさせていただきました、とミサカは苦しい言い訳を……いえなんでもありません」

最後の方は蚊の鳴くような小さな声だったので聞き取れなかったが、そこまで神経質にならなくても大丈夫だろうと一方通行は判断した。
なので一方通行は興味なさげに「そォかい」とだけ言うと、静かにコーヒーを啜る。
それに、記憶喪失になったこと自体に関しては特に口止めをしているわけでもあるまいし、確かにちょっと調べれば分かることだ。

「それにしても、クローンなァ。どうしたモンかねェ」

「今すぐにお返事を頂けなくても構いません。それとなくお姉様にクローンの話をしてみてはどうでしょう、とミサカは提案します」

「つっても、日常会話の中でクローンの話が出てくることなンかまずねェぞ」

「でしたら、お誂え向きの話題があります。
 記憶喪失のあなたは知らないでしょうが、常盤台中学では『超電磁砲のクローンが存在するのではないか』という噂が実しやかに囁かれているのです。
 もちろんお姉様もその噂をご存知ですから、その噂を聞いたことにして話題にしてみたらどうでしょうか、とミサカは実は綿密な計画を立てていたことを明かします」

「あァ、なるほど。それならなンとかなるか……」

どうやら御坂妹は、本気で美琴に会いに行きたいと思っているようだ。
上条たちから借りた漫画などによる偏った知識から想像するに、クローンといえばオリジナルを亡き者にして入れ替わりを画策するとか、
そういうブラックなものを想像していたので、一方通行としては御坂妹の行動は少し意外だった。
ただし、そこまで計画を立てたところまでは良い。問題はその先だ。
64 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/03(水) 00:09:40.67 ID:b7Et/bco
「だが、それでそれとなくクローンの話をしたとして、御坂の反応が芳しくなかったらどォすンだ?」

「……あなたがなんとかしてお姉様のクローンに対するマイナスイメージを改善してください、とミサカは無茶振りをします」

「ホントに無茶振りだな。ま、とにかくやるだけやってみるか」

「ありがとうございます。これで漸くお姉様に会う目処が立ちました、とミサカは素直に感謝します」

「ハイハイ。そォだ、上条にはこのことを話しても構わねェのか?」

「そこはあなたの判断に任せます。
 上条当麻に関しては情報が少なかったのでミサカたちでは判断できなかったのです、とミサカはあなたを選んだ第二の理由を明かします」

「…………? そォか、分かった」

「では、ミサカはこれから用事があるのでこれで失礼させて頂きます。
 こんな時間に付き合ってくださってありがとうございました、とミサカはぺこりと頭を下げます」

「気にすンな、俺も暇人だしな。ちったァ良い暇つぶしになった」

「……、そうですか。そう言っていただけるとミサカも嬉しいです、とミサカははにかみます」

すると、御坂妹はテーブルの上に紅茶代を置いて席を立った。
コーヒーを啜っていた一方通行は、それを見てふと思い出したように急いでポケットの中を探り始める。

「おい、ちょっと待て」

「?」

「これ、俺の携帯のメルアドと電話番号。またなンかあったら連絡しろ」

言いながら一方通行がポケットの中から取り出したのは、彼の連絡先が書かれてあるメモ用紙。
御坂妹はそれを見て何故か少し驚いた顔をし、そしておそるおそるといった様子でその小さな紙切れを受け取った。

「……ありがとうございます。
 ではミサカの連絡先も教えておきますので、何か進展があれば連絡を下さい、とミサカは一方通行に依頼します」

「当然だろ、そォじゃねェと意味ねェだろォが。ほらよ」

一方通行は書くものを持っていなかったらしい御坂妹に、自分のと同じメモ用紙とボールペンを差し出してやる。
御坂妹はやたら畏まりながらそれを受け取って連絡先を書き込むと、まるで猛獣に餌を与えるかのようにそれを一方通行に差し出した。
      . . . . . . .. .. . . . . . . . . .
「なンだ、連絡先を交換し合うのは俺が初めてなのか? 変な奴」

「……はい、そうです。よく分かりましたね、とミサカは一方通行の言葉に驚きます」

「その様子見てりゃ分かるだろ、普通。やっぱクローンってのも大変そォだな」
65 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/03(水) 00:12:13.81 ID:b7Et/bco
「ええ。本当に大変なんですよ、とミサカは苦労話を展開しようと思いましたが、もう時間もないので控えました」

「そォかい。それじゃ、その苦労話はまた会ったときに聞かせてくれ。じゃあな」

一方通行がひらひらと手を振ると、御坂妹は再び深々とお辞儀をしてから彼に背を向ける。
……ふと、その光景に鮮烈な既視感を感じた一方通行は、思わず彼女を呼び止めた。

「……、なァ」

「今度は何ですか、とミサカは少々焦りながら返事をします」

「オマエ、前に俺と会ったことねェか?」

その言葉に、しかし御坂妹は何の反応も示さなかった。彼女はまるで作り物のような無表情を、保っていた。
御坂妹はゆっくりと目を閉じ、そして開く。そして彼女は先程までと同じ平坦な声で返事をした。

「いえ、ミサカがあなたと会うのはこれが初めてです、とミサカははっきり答えます」

「……そォか。引き止めて悪かったな、もォ行って良いぞ」

「はい、そうさせてもらいます。それでは失礼します、とミサカは一方通行に別れの挨拶を告げます」

それだけ言うと、御坂妹は今度こそ一方通行に背を向けて喫茶店を出て行った。
カランカランという扉の閉まる音が、静かな喫茶店の中に響き渡る。
一方通行は窓の向こうに見える御坂妹の後姿を眺めながら深い深い溜め息をつくと、顔を顰めて手のひらで目を覆う。
ひどい頭痛がした。



―――――
66 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/03(水) 00:15:02.02 ID:b7Et/bco
―――――



『やっほー、どうだった? ってミサカはミサカは一仕事終えた下位固体を労わりながら挨拶してみる!』

『……またあなたですか、とミサカはいい加減げんなりします』

大通りを歩いている御坂妹の頭の中に、妹達の形成する脳波ネットワーク『ミサカネットワーク』を通して幼い少女の声が響いてきた。
少女の名称は『打ち止め(ラストオーダー)』。
全ての妹達を統括し、上位命令文を発動させることによって妹達に対して絶対反抗不可能な命令を下すことのできる、妹達の上位固体。

『つれないなあ、ってミサカはミサカはむくれてみたり。
 ミサカだって本当はあの人に会いに行きたいのに我慢してるんだから、ご褒美だと思って早く早く! ってミサカはミサカは急かしてみる!』

『そんなに特筆すべきようなことは何もありませんでしたよ。彼は何も変わっていませんでしたし、とミサカは面白味の無い報告をします』

『他には他には? ってミサカはミサカは更に詳細な報告を求めてみる』

『ああ、そう言えばあなたのいい加減な計画の所為で色々感付かれそうになりました、とミサカは上位固体の思慮の浅さを嘲笑います』

『ええー、あれで駄目だったの? ってミサカはミサカは驚いてみる。
 あの人はやたら勘が鋭いから計画を考えるのも一苦労だよ、ってミサカはミサカは頭を悩ませてみる。次はどうしよっかなー』

『……ときに上位固体。計画を考える程度なら一向に構いませんが、くれぐれも余計な行動は取らないように、とミサカは念を押します』

それまではまるで妹をいじる姉のようだった御坂妹が、急に真面目な口調になった。
ミサカネットワーク越しに、打ち止めがぎくりとしたのが分かる。
それを感じ取った御坂妹は呆れたように溜息をつくと、更に言葉を繰り返した。

『良いですか上位個体。決して無闇に外を出歩かないように。彼らに見つかってしまえば一巻の終わりですよ、とミサカは警告します』

『わ、分かってるってば、ってミサカはミサカは口籠もってみる……』

『彼らに捕まって痛い目に遭うのがあなただけならまだマシです。
 ですがあなたが捕まって最も被害を被るのは彼ですし、他にもミサカたちに協力してくれた人々の努力が全て無に還ることになるのです。
 あなただって呼吸するだけのキーボードに逆戻りしたくはないでしょう、とミサカは……』

『分かったってば! 絶対に外には出ないから! ってミサカはミサカは口うるさい下位固体にぐったりしてみる』

御坂妹は本当に分かってるのかこの上司は、という顔をしたが、どうせネットワーク越しなのでその表情が打ち止めに見えることはない。
と、大通りを歩いていた彼女は辺りを軽く見回してから裏路地に入った。
裏路地には危険なスキルアウトが屯しているはずだが、その程度戦闘用に調整された軍用クローンである御坂妹の敵ではない。
67 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/03(水) 00:19:37.13 ID:b7Et/bco
『でもまあ、変わってないって聞いてちょっと安心したかも、ってミサカはミサカは素直な感想を言ってみる』

『安心、ですか。安心するのはまだまだ早い段階だと思いますが、とミサカは楽観的な上位固体に対する呆れを隠し切れません』

『まあ確かにそうなんだけど、あの時は10032号だってちょっと嬉しそうだったじゃない、ってミサカはミサカは言い返してみる!』

『ハハハ何のことやら、とミサカはしらを切ります』

御坂妹は乾いた笑い声を上げたが、その表情は完全無欠の無表情だ。
と言っても、どうせ二人はミサカネットワークを通して声のみによる通信を行っているだけなので、笑わなかったところで見えはしない。

『それはそれとして、実際これからどうするの? ってミサカはミサカは先行き不安』

『さあ、どうしたものやら、とミサカも困り果てます』

『……さっき、あの人やお姉様たちが話してたのを立ち聞きしてたよね? あれはどうなの? ってミサカはミサカは回想してみる』

『外、ですか。確かにそれが最善ではありますが、それでも学園都市の中より幾分かマシというレベルです、とミサカは冷静に分析します』

『そうなんだよねー。流石にこれ以上みんなに迷惑を掛けるわけにも……、ってミサカはミサカは頭痛がしてきた』

『……そういえば、芳川桔梗はどうしていますか? とミサカはミサカたちの協力者を心配します』

『研究所に戻って何事もなかったかのように研究を続けてるけど、それでもかなり疑われてるみたいですごく厳重にマークされてる、
 ってミサカはミサカは苦い顔をしてみる。
 流石にこれ以上ヨシカワに頼ることはできないけど、こうしてアマイたちにばれないようにミサカを調整してくれただけでも充分だよ、
 ってミサカはミサカはヨシカワの大胆さに驚愕を隠せなかったり』

『本当に天井亜雄たちにばれずにやりきったのですか。
 彼女は本当に甘いか強いかの両極端ですね、とミサカはもはや感心することしかできません』

御坂妹は普段から自分のことを甘い人間と称している女研究者の顔を思い浮かべる。
路地裏の更に奥深くへと淀みない足取りで進んでいく彼女は、ふと思いついて打ち止めに声を掛けた。

『ところで上位固体、あなたは今何処に居るのですか?』

『んーと、ヌノタバが用意してくれた隠れ家だよ! ってミサカはミサカは報告してみる。絶対座標も教えようか?』

『いえ、ミサカがそこに行く機会はないと思いますので遠慮します、とミサカは上位固体の申し出を辞退します』

『へ? なんで? ってミサカはミサカは首を傾げてみる』

『ミサカは現在厳重にマークされておりますので、迂闊にあなたに会いに行けばあなたが捕らえられることになるからです。
 一応撒く努力はしていますが、追跡者が追跡者なので次に会いにいけるのはかなり先になるでしょう、とミサカは懇切丁寧に説明します』

『そ、そっか。でも何でそんなに厳重にマークされちゃったの? ってミサカはミサカは不思議がってみる』
68 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/03(水) 00:24:17.71 ID:b7Et/bco
『彼に接触してしまったからでしょう。彼は厳重に監視されていたようですので、
 彼と接触したときにミサカも見つかってしまったというわけです、とミサカは察しの悪い上位個体に更に補足してやります』

分かっているのか居ないのか、打ち止めは感心したようにほえーと気の抜けた声を上げた。
しかし、流石にそこで違和感を感じたようだ。

『あれ? でもどうしてあの人は彼らに見つかってるのに捕まってないのかな、ってミサカはミサカは首を傾げてみる』

『ミサカにも分かりません。ですが、彼らは今間違いなく彼に手を出せない状況にあるようです、とミサカは新情報を報告します』

『おお、それじゃあの人はもう大丈夫なんだね! ってミサカはミサカは安心してみる』

『いえ、恐らく一時的なものでしょう。そうでなければもう彼を監視する意味などないのですから、とミサカは冷酷に告げます』

『うぐっ、まあなんとなく予想はしてたけどね、ってミサカはミサカはぬか喜びにがっかりしてみる……』

『それはさておき『外』の話に戻しますが、冥土帰しに協力してもらえば何とかなるかもしれません、とミサカは脱線した話を元に……』

『…………? 10032号、どうしたの? ってミサカはミサカは不安に駆られてみる』

『……すみません上位固体、少々面倒な用事が入ってしまったようです、とミサカは一方的に通信を切断する準備に入ります』

『ええっ!? ちょ、ちょっと待ってってミサカはミサカは―――――』

ブツン。
ミサカネットワークとの接続を完全に断ち切り、打ち止めの声が唐突に途切れたとき、そんな音がした。
御坂妹は心の中で打ち止めに謝罪すると、暗い路地裏を小走りに走り出す。
そこから少しずつ速度を上げていき、暫らく後には彼女は全速力で路地裏を駆け抜けていた。

そしてやがて、少し開けた場所に出る。そこはいくつものコンテナが積まれた、屋外物置のような場所だった。
地面に敷き詰められた砂利や白いラインを見るに、元は駐車場だったようだ。
御坂妹はそこで漸く立ち止まると、荒れた呼吸を整えながらゆっくりと背後を振り返った。しかし、そこには誰も居ない。
けれど御坂妹は警戒を緩めないまま、小さく息を吐いてから虚空に向かって声を掛けた。

「……こそこそと隠れずに、素直に出てきたらどうですか。居ることは分かっています、とミサカは追跡者を促します」

僅かな沈黙。
無駄だったかと御坂妹が諦めかけた、その時。彼女の背後、そのコンテナの上で、すとんという軽い音がした。
御坂妹は、この音を知っている。

「ばれてたか。尾行は専門じゃないとはいえ、こうも簡単に気付かれると流石にちょっと傷付くぜ」

「撒くつもりだったのですが、こうも簡単に追いつかれると自信をなくしてしまいますね、とミサカは自らの無力さを痛感します」

御坂妹の背後に降り立ったのは、少年だった。
男にしては長めの、明るい茶色の髪。何処かの学校の制服なのか、茶色いブレザーを羽織っている。
御坂妹は振り返ると、少年の姿をまっすぐに見つめながらその名を口にした。

「久しぶりですね、垣根帝督」
69 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/03(水) 00:31:17.39 ID:b7Et/bco
投下ここまで! 引きが前回とそっくりですね。自分の表現力の無さが伺える。
でも今回は非常に難産でした。シリアスは書くの楽しいけど難しい。
なので次回も難産になることでしょう。よって、次回も一週間以内に投下が来れればいいな、くらいに思っておいてください。
あと、いつも支援やコメント下さっている皆さん、本当にありがとうございます。励みになります。


それではみなさん、おやすみなさい。
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 00:45:32.28 ID:xnHl1k.o
むぐぐ、ここでていとくん登場か
悪い予感しかしねぇ・・・
ともあれ乙!
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 00:47:09.05 ID:69AjZsDO
おやすみなさい
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 01:09:57.06 ID:R65/C.o0
先が気になる!
おつ〜
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 00:49:38.82 ID:J5kkcuIo
次回期待してる。
これって総合で冒頭投下してたよな
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 22:01:08.98 ID:AiaX/6AO
>>74

>>1 >>13
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 22:02:02.47 ID:AiaX/6AO
安価ミスったし
>>73
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 22:03:00.96 ID:TZ/8qs.o
>>74
気を落とすなよ
77 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/05(金) 21:30:06.27 ID:mbTsdywo
どうもこんばんは。意外と早く書けてしまえたので投下しに来ました。
その代わりにまたちょっと短めですごめんなさい。

そういえば、No buts!のカップリング曲のSATANICって曲がすごいお勧めです。
なんか一方さんぽい。
一期みたいに挿入歌で使われないかなあ。

>>73
応援ありがとうございます。
あと、仰るとおりに総合で投下してました。意外と覚えて下さっている方が多くて嬉しいです。
ご期待に添えられるように精進しますね。


それでは、投下していきます。
78 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/05(金) 21:31:20.00 ID:mbTsdywo
目の前の垣根を見据えながら、御坂妹は油断なく身構える。
第三位の劣化クローンである彼女が学園都市の第二位なんて化け物に敵うはずなどないが、それでもなんとか五体満足でこの場を逃れたい。
しかし垣根はそんな彼女を見て、くつくつという笑い声を上げる。

「そう身構えんなって、別に取って食おうって訳じゃねえ。御坂妹、だっけ?」

「……盗み聞きとは趣味が悪いですね、とミサカは不快感を露にします」

「まあそう言うな。確かにやりながら悪趣味だなあとは思ったが、
 こうでもしねえと今すぐにでもアイツを連れ戻したくて仕方がない研究者どもが納得しねえんだよ。勘弁してくれ」

「心中はお察ししますが。ミサカに何の用ですか? ミサカは上位固体の居場所など知りません。
 なお、ミサカたちには情報を口外しないよう上位命令文が下されておりますから、如何なる拷問も無駄ですので、
 とミサカはあなたの行動が徒労であることを通告します」

「やれやれ、すっかり嫌われちまったなあ。つーか、あのお優しい最終信号(ラストオーダー)がそんな命令を下すわけねえだろ」

「あの程度の子供、ミサカ一人でも無理矢理押さえ込んで洗脳装置(テスタメント)に掛けるくらい容易いです、
 とミサカは上位固体の意志など無関係であることを主張します」

「ひっでえ。やってることのレベルは俺らと大差ねえな」

「承知の上です、とミサカは目的の為には手段を選ばないことを宣言します」

言葉と共に、御坂妹はぎりりと垣根を睨みつける。
しかし当の垣根はそれをまったく気にした様子もなく、涼しい顔のまま言葉を続けた。

「まあ、それは別に良いんだけどよ。上位命令云々以前に、お前をどんな拷問にかけたところで口を割らないのは分かり切ったことだし」

「ならばどうしてミサカの後をつけていたのですか、とミサカはあなたの行動の矛盾を指摘します」

「さっきも言っただろ。研究者共の要求でな……ってのはまあ建前で、純粋に興味があったんだよ」

「……興味、ですか、とミサカはあなたの言葉を復唱します」

その言葉に、御坂妹は訝しげな表情を浮かべる。
それを聞いた垣根は軽く頷くと、コンテナの上に座って足を組んだ。

「そう、興味があるんだ。お前たちがどうして突然こんなことをしだしたのか」

「……理由など。語ったところであなたごときには到底理解できるはずもありません、とミサカは口を噤みます」

「あっそ、言いたくねえなら別に良いけど。大体想像はつくしな」

「ならばどうして尋ねたのですか、とミサカはあなたの行動を疑問に思います」
                                  . . . . . .
「……ただ、さあ。お前たちの行動を妨害しようとしてる反対派の妹達。お前、あいつらのことどう思ってんの?」

「…………!!」
79 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/05(金) 21:32:30.53 ID:mbTsdywo
御坂妹は目を大きく見開き、驚愕の表情を露わにする。
すると垣根はすうっと裂くような笑みを浮かべながら、如何にも可笑しくてたまらないといった口調でもう一度尋ねた。

「なあ、10032号。どう思ってるんだ?」

「……それは、とミサカは言葉を濁します」
                                                        . . . . .
「彼女たちの主張は決して我儘じゃあない。むしろ、人間として当然の欲望だな。誰だって、あんな末路は嫌だろうさ。俺だって嫌だ。
 あんなひどい目に遭うくらいなら、アイツに殺してもらった方が遥かにマシだろうさ。

 しかもあの実験が成功すりゃ、様々な技術が発展して二万人なんて目じゃない数の人々を助けることができるようになるかもしれない。
 アイツに殺してもらえればそんな偉大な実験の礎になれるし、そもそもの存在理由もまっとうできるって訳だ。
 ……そりゃあ誰だって、そっちの方が良いよなあ?」

「で、ですが殆どの妹達はミサカたちに協力してくれています。何人かの妹達は生き延びることができることになっていますし……、」

「知ってるぞ。反対派やってる妹達、生き残れることになってる奴らなんだろ?
 当たり前だ。自分の姉妹があんなにひどい目に遭うことが分かっていて、自分だけのうのうと生きて行ける筈がない。
 いや、もしかしたら残された方が死ぬより辛いのかもしれねえな」

そこで初めて、御坂妹は垣根から目を逸らしてしまう。
垣根はそんな彼女をせせら笑いながら、膝の上に頬杖をついてコンテナの上から御坂妹を見下ろした。

「お前たちだってもう知ってるはずだ。
 どんなに足掻いてもどんなに頑張っても、誰もが望んで誰もが笑える最高のハッピーエンドなんかお前らには用意されてないってことを。
 なのに今更、何を思ってこんなことをしてるんだ?」

「……、はい。知って、います。だからミサカたちは、せめてこうすることに決めたのです、とミサカはミサカの決意を語ります」

「で、その為に最終信号を味方に付けて、反対意見を押さえつけて強引に自分の都合を通したってわけか? えげつねえなあ。
 大した自己犠牲精神だが、お前たちの仲間にも本心ではアレが嫌で嫌で仕方ない奴だって居るだろうに」

「………………」

何も言い返すことができなかった。
この選択を拒んでいた妹達には、本当に申し訳ないと思っている。どんなに謝っても許してもらえないとも。
けれど、どうしても。
80 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/05(金) 21:33:06.25 ID:mbTsdywo
「その目論見が失敗しようが成功しようが、お前らは死の運命からは逃れられない。だったらせめて楽に殺して欲しいとは思わないのか?
 アイツなら、きっとそうしてくれただろうに」

「……同じ死ぬなら、大切な人を一人でも救いたいと思うのはそんなに可笑しなことですか、とミサカは疑問に思います」

「さあな。俺はただ、お前らのことを哀れに思うだけさ。それに俺がおかしいと言ったところで、お前たちは諦めるのか?」

「いいえ。決して諦めたりしません、とミサカはミサカの決意が揺るぎないことを確認します」

「だったら、その問いは無意味だ。お前はお前のやりたいようにすれば良い。どうせ短い人生だ、せめて好きに生きろ。俺は干渉しねえ。
 ただし、俺も自分の好きなようにやらせてもらう。その過程でお前が俺の邪魔をするなら、その時は容赦しねえがな」

「……、肝に銘じておきます、とミサカは冷や汗を流しながら答えます」

御坂妹は顔を引き攣らせながらも、ふっと不敵な笑みを浮かべた。
垣根はそれを見て再びくつくつと笑うと、すっくと立ち上がって自らの能力を展開させる。

「さって、その為にもこっちはこっちで地道に最終信号を探すとするか。容疑者から絞り込めば候補は結構限られて来てるしな」

「そうですか。まあ絶対に見つからないと思いますが、とミサカはせせら笑います」

「お前、ほんっと相変わらずな。まあ良いわ。じゃあな」

たん、という軽い音と共に垣根は一瞬で姿を消す。
御坂妹は暫らく垣根の座っていた場所をじっと見つめていたが、やがて何かを深く考え込むようにゆっくりと目を閉じた。
                 . .. . .
「……妹達にはもちろん、あなたたちにも本当に申し訳ないと思っているのですよ、とミサカは……、」

……本当に哀れなのは、誰なのだろうか。



―――――
81 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/05(金) 21:33:52.17 ID:mbTsdywo
―――――



「っつゥことがあったンだよ」

「それはまた……、難しい問題だなあ」

いつもの病室、いつもの時間。
一人作戦会議に行き詰った一方通行は、さっそく御坂妹のことを上条に相談していた。
御坂妹は判断を一方通行に任せるといっていたし、これまでも上条は一方通行という人間のことを周囲に言い触らしたりしていないので、
その辺りも信用できるだろうと思っての行動だ。でなければこんな相談はできない。

「で、オマエだったらどォ思う?」

「うーん……。やっぱり、自分のクローンが居るって言われたらすげえ驚くと思う……」

「受け入れられねェか?」

「その御坂妹って子みたいな友好的なクローンならいけると思う。ただ、こればっかりは個人差が……。
 双子とはまた別だろうし、自分とまったく同じ顔の人間なんか気持ち悪いって奴もいるからなあ」

「やっぱ、御坂にそれとなく聞いてみるしかねェか」

本当なら最初っからクローンの存在を匂わせるような行動は控えるべきなのだろうが、今回はそうも言ってられない。
まずは美琴がクローンに対してどんなイメージを抱いているのかを聞き出して、スタートラインを定めなければいけないのだ。

「それにしても、どうやってクローンについての話を振るんだよ。どう考えても不自然だろ」

「そこは御坂妹が知恵を授けてくれた。オマエ、常盤台で第三位のクローンが製造されてるって噂が流れてること、知ってるか?」

「ん? あー、そう言えばそんな噂を聞いたことがあったような……。ああ、そうだ。本人から聞いたんだった。
 アイツ、たまに街で会っても攻撃してこないでジュース奢るから愚痴に付き合えって言ってくるときがあるんだよな。その時だ」

「なンだ、オマエら意外と仲良いのか。二人で会うときはいつもリアル鬼ごっこしてンのかと思ってたぞ」

「いや殆どの場合はそうだぞ。まともな会話ができるのは本当にたまにだ、たまーに」

言いながら、上条がげんなりとした顔をする。
今日は美琴が一緒ではないので鬼ごっこは無かったようだが、思い出しただけでうんざりするくらいの頻度で追い回されているようだ。

「病院の外で会っても、俺の前では滅多にやンねェけどな。ありゃ何でだ?」

「流石に前科があるから、お前の前では自重してるんじゃないのか? あれでアイツかなり責任感じてるみたいだし。
 そうでもなけりゃ、あの凶暴なビリビリが上条さんに攻撃してこないなんて奇跡がそうしょっちゅう起こるわけが……」

「き・こ・え・て・る・わ・よ? だぁれが凶暴ですって?」

(事実だけどな)
82 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/05(金) 21:34:36.03 ID:mbTsdywo
一方通行は心の中だけで呟きながら、冷めた目で美琴にしばかれている上条を見つめていた。
病院内では電撃を使えないからか、美琴は最近になって素手による攻撃方法を多数習得し始めていた。なんだかどんどん強くなっている。
それでも女の子に負ける上条ではないのだが、反撃できないのでされるがままだ。ひたすらギブギブと悲鳴を上げている。

「くっ、ここまでやっても落ちないか……。流石に手強いわね」

「俺は今日ほど自分の耐久力を恨んだ日はねえよ……」

「そォか。俺はオマエの頑丈さが羨ましいがな」

「いやいや、確かに頑丈さは俺の数少ない取り柄ですよ? 実際それで助けられたこともあるしな。
 でも今回ばかりは例外と言うか何と言うか……」

「それだけ口を利く元気があるならまだ行けそうね」

「Oh...」

美琴が再び上条に技を掛けようとしたところで、流石に可哀想に思ったらしい一方通行が止めに入る。
ついでに美琴もやって来たことだし、いい加減本題に入らなければならない。

「そォいや御坂。ちっと小耳に挟ンだンだが、オマエ、自分のクローンの噂って知ってるか?」

「へ? 知ってるけど、何よ薮から棒に。まさかアンタたちまであんな下らない噂を信じてるんじゃないでしょうね?」

「まさか。人体のクローニングは学園都市の自治法でも禁止されてンだろ?」

と、御坂妹が言っていた。
まさかついこの間までクローンがありふれたものだと思ったいたなんて、口が裂けても言えない。
83 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/05(金) 21:35:40.50 ID:mbTsdywo
「ええそうよ。記憶喪失なのに詳しいわね。でも、だったらどうしてクローンの話なんかするのよ?」

「いや、もし実際にそンなもンが目の前に現れたら、オマエはどォ思うのかと思ってよ」

「ええ? どう思うのかって……何よ急に?」

「い、いや、さっきまでちょうどその噂の話をしてたんだけど、俺たちはどうも想像がつかなかったからさ。
 実際にそんな噂の当事者なビリビリはどう思うのかなーって思っただけであって、特に深い意味なんてナインデスヨ?」

「ふーん……」

演技が下手過ぎる。
そんな意味を込めて一方通行は上条を睨みつけたが、不信感から美琴にも睨まれている彼は、
身動きが取れずにただワザとらしい笑顔を浮かべることしかできなかった。
すると一方通行は呆れたように溜め息をつきながら、上条に助け舟を出すついでにさっさと話を進めてやることにする。

「で、どォなンだ?」

「んー……、そーねぇ」

美琴には悟られないように気を付けながら、二人は静かに固唾を飲んで美琴の答えを待つ。
そして暫らく考えた後、美琴は苦笑いしながらこう答えた。

「やっぱり薄っ気味悪くて、私の目の前から消えてくれーって思っちゃうわね」

……アウト。



―――――
84 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/05(金) 21:36:35.29 ID:mbTsdywo
―――――



「駄目だった」

「………………」

再び第七学区の喫茶店。
今度は上条も引き連れて、一方通行は御坂妹に事の次第を報告していた。
二人は無言無表情のまま見つめ合っているので、それを横から見ている上条はもうはらはらすることしかできない。
と、次の瞬間。

「そこを何とか! とミサカは必死に懇願します!」

「いやいやいや、アレは無理だ。取り付く島もねェよ」

「何の為にあなたに頼んだと思っているのですかこの役立たず、とミサカは白モヤシを罵倒します!」

「オイコラ今オマエ何つった。人が気にしてることに触れやがってはっ倒すぞ」

「お前ら落ち着け! とりあえず座れ! 喫茶店の皆さんがこっちを見ていらっしゃるぞ!
 はい気をつけ! 礼! ありがとうございました! 着席!」

上条はよくわからない勢いで何とか二人を座らせることに成功するが、問題はこの先だ。
ああは言ったものの、一方通行が匙を投げたくなるのも仕方ない。何故なら美琴の答えは、それくらい絶望的なものであったから。
流石に御坂妹にそのまま伝えることはしていないが、生理的に受け付けないのではもうどうしようもない。

「……どうしても難しいですか、とミサカは未練がましく繰り返します」

「想定してた最悪の答えより酷かったンだぞ? それでも諦めねェってンで、まだ策があるなら協力はしてやる」

「マイナスイメージの改善以前の問題だからなあ。
 いっそ突然アイツの目の前に現れて、どんな感じかを見て貰った方が手っ取り早い気がする」

「阿呆か。そンな荒療治、失敗したら御坂の方がショックで精神的に参っちまうぞ」

「うぐ、そうか……。でもだったら、やっぱり少しずつ段階を踏んで慣らしていくしかないよな」

「具体的には?」

「さっぱり分からん」

完全にお手上げだ。
三人はそれぞれ注文した飲み物を啜りながら頭を悩ませるが、なかなかいい案が浮かばない。
85 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/05(金) 21:37:16.12 ID:mbTsdywo
そんな中で、上条が唐突に声を上げた。

「もしくは『ビリビリ、実はお前を姉と慕うクローンが居るんだが、会ってみてくれないか?』だな」

「それもどォなンだよ。ショック的には大差ねェぞ」

「それじゃあどうすれば良いのでしょうか、とミサカは項垂れながら呟きます」

「そォだなァ……。『慣らしてく』って考え自体は間違ってねェと思うンだが……」

一方通行は背もたれに寄り掛かりながら天井を仰ぐと、目を閉じて唸りはじめた。
既に完全に手詰まりとなっているらしい二人は、期待を込めた眼差しでそんな彼を見つめ続ける。
すると、一方通行は急にぱちりと目を開けて顔だけを御坂妹の方に向けた。

「……こンなのはどォだ?」

自然と一方通行の方へと顔を寄せてきている二人に向かって、一方通行は回りに決して聞こえないような小さな声で作戦を説明する。
そして説明が終了すると、御坂妹は珍しくほんの少しだけ楽しそうな表情を浮かべた。

「それで、最終的にミサカが『よく きたな オリジナルよ わたしが おまえの クローンだ』とRPGの魔王の如く言い放つのですね、
 とミサカは心を躍らせます」

「その辺はもォ好きにしてくれ。御坂がどォいう反応するかまでは責任持たねェがな」

一方通行は相変わらず超絶マイペースな御坂妹に呆れていたが、その一方で上条は苦い顔をしていた。
彼が懸念していることは、ただひとつ。

「……でもさあ、それってそれはそれで結構精神的に来るんじゃねえか?」

「確かに、結構な負担にはなるだろォな。しかし、現状これ以上の策は思いつかねェ。それか、何か他に良い方法があるか?」

「意見があれば伺いますが、ミサカも彼の言う通りだと思います、とミサカは一方通行に賛同します」

「まあ、そうなんだけどさ……」

それでも上条は美琴に少しでも辛い思いをさせてしまうことに抵抗を感じているのか、難しい顔をしていた。
そんな上条をじっと見つめていた御坂妹は、申し訳なさそうに目を伏せる。

「自分勝手は承知しています。お姉様に迷惑を掛けることになるということも。
 ですがどうしても、ミサカたちは可能な限り早くお姉様にお会いしたいのです、とミサカは切実に頼み込みます」

「……でもこの方法だって、そこまで早く決行できるような作戦ではないぞ?」

「許容範囲内です。それよりも、これ以上作戦会議で時間を浪費してしまうことの方が惜しいです、とミサカはミサカの心境を説明します」

「それでも、下準備なんかもかなり大変だ。先回りして色々な細工をしないといけないし、その為の手段はどうするんだ?
 とてもじゃないけど、そんな簡単に実現できるような方法じゃないと思う」

「それなら問題ありません。心強い協力者がいますので、とミサカは強気に言い放ちます」

「……、はあ。分かった。そこまで言うなら、俺はもう何も言わない」
86 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/05(金) 21:38:11.29 ID:mbTsdywo
遂に御坂妹に根負けした上条は、諦めたように溜め息をつく。
コーヒーを飲みながら他人事のように二人の会話を眺めていた一方通行は、それを見届けると再び口を開いた。

「決まったか? あァ、俺は口出ししねェぞ。
 作戦を決行するかどォかは御坂妹が決めることだし、噂に誘われてクローンを探すかどォかは御坂が決めることだからな。
 ただ、絶対に上手く行くって保証はねェ。そこをきちンと理解してるンだろォな」

「大丈夫です。その覚悟はできています、とミサカは決意を表明します」

「じゃ、俺たちにできることはこれで全部だ。
 正直この作戦を決行する為の手段については全く考慮してなかったから、ここから先は俺たちにできることは何もねェ。
 後は全部オマエたち次第だ。勿論できる範囲で協力はしてやるが、あンまり期待はすンな」

「いいえ、ここまででも充分過ぎるほどです。
 むしろ下手にミサカたちに干渉することであなたたちまでお姉様とぎくしゃくしてしまうのではないかと心配ですので、
 ここまでにして下さった方がミサカとしても安心できます、とミサカは懸念事項を口にします」

「その辺は大丈夫だ。ま、せェぜェ御坂に悟られないように気ィ使う程度だな。……オマエらも頑張れよ」

「はい、とミサカは一方通行の応援に答えることを約束します」

御坂妹の言葉を最後に、作戦会議は終了した。すると、三人は流石に緊張していたのか、一斉に自分の飲み物を口にする。
そうしてやっと一息ついたとき、ふと上条が尋ねてきた。

「そう言えば、御坂妹は『ミサカたち』って言ってたけど、お前みたいなのってあと何人くらい居るんだ?」

「……秘密です、とミサカはミステリアスな女性を気取ってみます」


87 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/05(金) 21:41:30.76 ID:mbTsdywo
今回はここまで。
色々分かり辛いと思いますが、今はただ雰囲気だけわかってもらえればと思います。伏線はちゃんと回収します。
あとていとくんの言動がものすごい書きにくくて、何度ていとくん死ねと思ったか分かりません。ていとくん好きですが。
原作のイメージと二次のイメージがごっちゃになって何だか変なことになっている……。
しかも原作だと出番少ないのでキャラ掴みにくい。未元アーマーとかじゃなくて本人出してください本人。


あと、ここから先は繋ぎと言うか伏線回と言うか馴染ませようという話なのでちょっとぐだります。
と、今のうちに言っておく。できるだけ早く本編に帰れるように頑張ります……。


それはそうと、今夜は禁書アニメですね。法の書編は今回でおしまいでしたっけ?
この次は残骸編! 2期1クール目で一番楽しみにしてるので待ち遠しいです。早く来週になればいいのに。
あ、来週と言えば来週には資格試験があるのでちょっと投下が遅くなるかもしれません。ご了承を。


それでは、読んでくださってありがとうございました!
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 22:16:32.36 ID:vM1Q4YUo
乙ニャ!
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 22:20:39.64 ID:xg55V6E0
乙です
むー、雲行きが怪しいですな……しかし垣根さんも根っからの悪人ではなさそうで
他人を想う事が出来る優しい人が多いはずなのに、世界は不幸で満ちているのは……
これからどのようにお話が展開していくのか楽しみにお待ちしております
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 22:01:29.55 ID:ajLwr2AO
これは期待
91 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 21:46:30.55 ID:QFVk0n.o
どうもこんばんは。
投下しよう投下しようと思っても、いちいち修正するのが面倒くさくてなかなかできません……。
けっこう書き溜まってはいるんですが。


とりあえず投下します。
92 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 21:48:18.61 ID:QFVk0n.o
数日後。学舎の園、常盤台中学。
午前中の授業が終了した昼休み、美琴は一人でベンチに座りながら売店で購入した焼きそばパンを頬張っていた。

(寂しい……)

友達同士で和気藹々と昼食を食べている周囲の女子生徒たちを眺めながら、美琴は心の中で一人ごちた。
いつもはルームメイトである白井と一緒に昼食を食べているのだが、
最近その白井が風紀委員の仕事に追われていて忙しそうなので邪魔になるようなことを控えているのだ。
一度は一段落したかに思えた風紀委員の仕事が、なにやら新しい発見があったとかで再び忙しくなってしまったらしい。

それでも昼食くらいは一緒に、と思って一度白井の教室に顔を出して昼食の誘いに行ったのだが、
彼女はノートパソコンに向かって難しい顔をしながらひたすら作業をしていて、とても声を掛けられるような状況ではなかった。
それでも白井は美琴の姿を見ると飛びついてきて一緒に昼食を食べようと言ってくれたのだが、美琴は自ら辞退した。
なんだかんだ言って白井は風紀委員の仕事に対してとても真摯に取り組んでいるので、それを邪魔するべきではないと思ったのだ。

と言うわけで、白井は今頃一年生の教室でめそめそしながら携帯食で栄養補給をしているはずだ。
やっぱり一緒に食べれば良かったか、いやでも仕事の邪魔はできないし、などと美琴が葛藤していると、ふとひそひそ声が聞こえてきた。

「……れは絶対御坂……だって」

「そ……訳……ない……い」

「ん? 何?」

何処からともなく聞こえてきた声が自分の名前を呼んだので、話し相手を欲していた美琴はついそれに反応してしまった。
ひそひそ話をしていた女子生徒はちょうど美琴の後ろにいたのだが、後姿だけでは美琴に気付けずについそばで本人の話をしていたようだ。

「え? あれっ!?」

「えっと、あの」

「あー、ごめんごめん。自分の名前が聞こえてきたもんでつい……」

突然話しかけられた二人組の女子生徒は、後ろ向きにベンチに座っている美琴を見て非常に驚いた顔をした。
ついつい反射で反応してしまったようなものとはいえ、盗み聞きみたいでちょっと悪いことをしてしまったかなと美琴は少し後悔する。

「た、多分見間違いだと思うんですけどこの子がさっき御坂さんを街で見かけたって」

「身体から電磁波出てるのも確認したのに……」

「でも御坂さん、さっき一年生の教室にいましたよね? だからそんなことあるわけないって」

「? ええ、昼休み中はずっと学校の中にいたわよ」

「ほら、やっぱり見間違いよ。背格好の似てる発電系能力者だったんだって」

「うーん、でも常盤台の制服着てたし、本当にそっくりだったんだけどなあ……」
93 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 21:50:06.35 ID:QFVk0n.o
……最近、急にこうした噂を聞くようになった。
当然ながら、美琴にそんな能力はない。如何に超能力者の第三位とはいえ、美琴はただの電撃使い。分身などできようはずもない。
どちらかと言えばどっかの馬鹿な能力者が変な悪戯をしているという可能性のほうが高いがそんな噂も聞かないし、
そもそもそんなことになっていれば事件として処理されることになるだろうから、風紀委員の白井を通じて美琴の耳に入るはずだ。

「その、ごめんなさい。こんな噂気分悪いですよね」

「ううん、私から聞いたことだし。気にしないで」

「それでは、私たちこれから別の棟へ移動しなくてはいけないので……、失礼します」

「うん、頑張ってね」

ぱたぱたと急ぎ足で去っていく女子生徒たちを見送りながらひらひらと手を振ると、美琴は深く溜息をついた。
ああは言ったものの、あの女子生徒が言っていた通り、正直美琴にとっては非常に薄気味の悪い噂だった。
なんと言っても他でもない自分自身の幻影が堂々と街を闊歩しているというのだから、気にならないはずがない。

かつ、こんなにも目撃証言が相次いでいるのに具体的な事件になることもなく、よってその詳細が美琴の耳に入ってくることもない。
美琴本人の与り知らぬところで、美琴に関わるおかしな何かが起こっている。それが、たまらなく気味が悪かった。
ただ美琴には、ひとつだけ思い当たることがある。

(クローン……、ね)

つい先日、上条と一方通行に振られた話題。何処かで超能力者の第三位のクローンが製造されているという噂。
彼らに言われるまでもなく、美琴もこれまでにも何度かクローンの影を感じたことがあった。
けれどそんなことはありえないと一蹴し、大して気にしたこともなかったが、まさか今更になってこんなことが起こるとは。

(ただの噂だと思ってたけど、まさか……。そもそもクローンの製造にはDNAマップが必要だし……)

そこで、ふと美琴は恐ろしいことを思い出してしまう。
DNAマップ。
……私、DNAマップ、提供したこと、なかったっけ……?

(いやいや、あれは筋ジストロフィーの治療の為に提供したんだし。まさかクローン製造の為に流用なんかされてるわけがない)

しかし。無いと、言い切れるか?
あの頃の美琴はとても幼くて、特に深い考えもなくただ筋ジストロフィーに苦しんでいる人々を助けたいと思ってDNAマップを提供した。
だから美琴がDNAマップを提供した研究者が、本当に筋ジストロフィーの研究者だったかどうか分からないのだ。
もしかしたらあの研究者はただの詐欺師で、超能力者の第三位のDNAマップ欲しさに美琴のことを騙したのではないだろうか?

(……待て待て、おかしいってば。あのときの私はまだレベル1だった。当然、超能力者の第三位なんかじゃない。
 そんなただの電撃使いのDNAマップを手に入れるために、そんな用意周到な真似をするか? ありえない、やっぱり勘違いか)

他にも様々な不安要素はあったが、美琴はふるふると頭を振ってそれを振り払った。
そんなこと、あるはずがない。あって良いわけがない。
それに、一方通行だって言っていた。学園都市の自治法でも人体のクローニングは禁止されている。だから、ありえないのだ。
94 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 21:52:12.40 ID:QFVk0n.o
美琴は半ば自分に言い聞かせるように、わざとそう思い込ませようとするかのように心の中でありえないと繰り返す。
ぎゅっと目を瞑って完全に頭の中を書き換えると、美琴は残っていた焼きそばパンを一気に口に放り込んでもぐもぐと咀嚼した。

「あ、あの、御坂様ですよね?」

「ん?」

口の中の焼きそばパンを呑み込んでしまうと、急に見知らぬ女子生徒が美琴に声を掛けてきた。
見た感じ、下級生のようだ。何人もの友人を引き連れて美琴を取り囲んでいる。

「私達、御坂様のファンなんです! その、握手してもらって良いですか?」

「わ、私はこのノートにサインが欲しいんですけど……」

「よろしければ一緒に写真を撮っていただけませんか?」

「あ、う、ええと、うん、良いわよ……」

少女達の勢いに押されながらも、美琴は苦笑いしてそれを快諾した。
まるでアイドルだなあと思いながら、美琴は少女達の要望にそれぞれ応えてやる。こういうことは珍しくないので、美琴も手馴れたものだ。

「わあ、本当にありがとうございます、御坂様!」

「一生大切にします!」

「これからも応援させていただきますね。頑張ってください!」

「あはは、ありがと」

美琴はなんとかお嬢様らしい上品な笑顔を取り繕って、少女達のキラキラとした瞳に答えてやる。
そしてきゃっきゃとはしゃぎながら去っていく少女達の後姿を見送ってしまうと、美琴は盛大に溜息をついた。

ああいう子たちは基本的に、美琴に対して『常盤台のエース』『学園都市最強の電撃姫』といった幻想を抱いている。
しかし普段の彼女の素行を考えてみれば分かってもらえるだろうが、美琴の行動はとてもではないがそれに相応しいとはいえない。
けれどああいった純粋な少女達の夢を壊したくない美琴は、そうした子たちの前では優等生を演じることにしているのだ。
実際、美琴に憧れて常盤台に入学してくる生徒も少なくない。そんな子たちの夢を一々壊してしまうのは、あまりにも可哀想だ。

ただし、当然美琴にとっては慣れないことをしているわけなので、非常に疲れる。
美琴はもう既にこれは超能力者の宿命なんだろうなと諦めてしまっているが、それでもどうしても未だに慣れることができなかった。

(……あ)

そして、超能力者にはそれとは別にもうひとつの宿命があった。
こちらはどうしても認められなくて、諦められなくて、美琴はまだ抗い続けている。
だから美琴は、声を掛けた。
95 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 21:53:59.21 ID:QFVk0n.o
「ねえねえ、なんの話してるの? 私にも教えてくれない?」

「へ? あ、え、みっ、御坂さん!?」

「と、とてもではありませんが御坂さんのお耳に入れるようなことでは……」

「いーのいーの、そんなの気にしないでよ。クラスメイトなんだし」

「で、ですが、その、本当に大したことのない話で……」

「……ごっ、ごめんなさい!」

何も悪くないのに、誰も悪くないのに、美琴のクラスメイトたちは美琴に頭を下げると脱兎の如く逃げ去ってしまった。
その場には、美琴一人がぽつんと取り残されてしまう。
いつも同じ教室にいて、いつも同じ授業を受けているクラスメイトなのに。

(今日も駄目だったか)

別に美琴が何をしているわけでもないし、何をされているわけでもない。
ただ、美琴が超能力者であるというだけだ。
けれど美琴は諦めずに日々こうした挑戦を続けているが、未だに成果は得られない。レベルの壁は、それほどまでに高かった。

(悪い子たちじゃないっていうのは、分かってるんだけど)

そう、分かっている。分かっているけれど、やはり、辛い。
他の子の前では普通に話しているのに、自分が目の前にやってきた途端に萎縮してしまってまともな会話をすることができない。
これまでは絶対に諦めてやるもんかと強く心に決めていたが、いい加減そろそろ限界だった。
この頃はずっと白井がついて回ってくれていたので忘れていたが、白井が居なくなったことでまたそれを強く感じるようになってしまった。

(寂しい……)

そうだ、放課後になったらまたあいつらに会いに行こう。美琴が超能力者であることを、ちっとも気にしないあいつらに。
午後の授業の予鈴が鳴った。



―――――



第七学区、とあるビルの屋上。その縁に腰掛けながら、垣根帝督は病室の一方通行を監視していた。
病室の中の一方通行は、美琴から借りたらしい分厚い本を読みながら、大きなあくびをしている。

「ったく、暢気にあくびなんかしてやがる。自分が追われてるってこと忘れてるんじゃねえか?」

『まあ実際、今は手出しができねえから追われてるとは言い難いがな。平和ボケには違いねえ』

独り言のつもりで言ったのだが、予想外にもヘッドセットから声が返ってきた。
あっちも暇なのだろうか、などとどうでもいいことを考えていると、今度は一方通行がうとうとし始めた。本当に大丈夫かあいつ。
96 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 21:56:22.05 ID:QFVk0n.o
「つーか、なんで手出ししたら駄目なんだ? 今なんか絶好のチャンスじゃねえか」

『なんか圧力が掛かってるらしい。統括理事長様のお達しとありゃ、聞かねえわけにはいかねえだろ』

「は? アレイスターが? そりゃまた何で」

『俺が知るか。あっちにはあっちの考えがあるんだろ』

苛立ち混じりに投げやりな答えが帰ってくる。どうやらその所為であっちも手持ち無沙汰なようだ。
と言っても、それは垣根も同じことだが。暇で暇で仕方ない。

「そもそもアレイスターが指示してたんじゃなかったのか、この実験。一体何がしたいんだ」

『諦めたわけじゃねえだろ。もしそうなら、妹達なんかとっくに『処分』されてる。あくまで『今は』駄目なだけだろう』

「ふーん、まあ良いや。とにかくこれは妹達にとっては僥倖ってことか。寿命が延びるんだからな」

「ええ。どうやら天はミサカたちに味方しているようですね、とミサカはこの幸運に感謝します」

「うおお!?」

いつの間にやら背後に忍び寄っていた御坂妹に驚いて、垣根は変な声を出してしまった。
相手は軍用に調整されたクローンとはいえ、超能力者の第二位たる垣根が接近にまったく気が付かないとは。

『おい、どうした?』

「クローンだよ、クローン。いつの間にか後ろにいた」

『いつの間にかって……、お前第二位じゃなかったか?』

「うっせ」

そのやりとりに、無表情だった御坂妹の表情がぴくりと動いた。
彼女はゆっくりと垣根の方を向くと、しかし垣根を見ずにヘッドセットの向こうにいる人間に向かって話しかける。

「その声は木原数多ですか、とミサカは垣根帝督の通信相手を推測します」

『おう、久しぶりだなクローンちゃん。最終信号の居場所教えろ』

「知りません、とミサカはそっぽを向きます。まあ本当に知らないんですけどね」

「それは前聞いたっつの。ってか、お前から俺に会いに来るなんて珍しいな。てっきり毛嫌いされてるとばかり思ってたが」

「嫌いですが、とミサカはきっぱりと肯定します」

垣根は心の中でだけひでえと呟くと、ヘッドセットから笑いを堪える声が聞こえてきた。
畜生覚えてろよ。
97 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 21:57:52.81 ID:QFVk0n.o
「で、俺のことが大嫌いなミサカちゃんがわざわざ何の用だよ」

「病院に野暮用がありまして。そこでたまたま見かけたので何か企んでいるのではないかと思ったのです、
 とミサカはここに至った経緯を説明します」

『残念……、いや、ラッキーだったな。こっちは手出し無用だとよ』

「存じています。しかしあなたたちが単独行動に出る可能性を危惧しました、とミサカは補足説明を付け加えます」

「流石にそこまでしねえよ。俺たちだって色々惜しいモンがあるからな」

「そうですか、とミサカは安堵します」

口では安堵と言うものの、御坂妹の表情にはまったく変化が見られない。
そんな彼女を見ながら、垣根は改めて御坂妹に対して人形のようだと言う評価を下した。

『何か企んでるのはテメェの方だろうが。野暮用ってのは何のことだ?』

「さあ、何のことでしょうね、とミサカはしらを切ります。
 と言ってもミサカたちは不安定なクローンですから、病院にならいくらでも用があるんですけどね」

『チ、まあ良い。上手く行くと思うなよ』

「……何のことやら、とミサカは目を逸らします」

会話の内容は垣根にもおおよその見当がついたが、彼は何も言わなかった。
言うまでもなく、上手く行くはずがないからだ。少なくとも、第二位たる自分がいる限りは。
そしてその時には、もう既に行動制限は解除されているはずだ。

「ところで」

不意に、御坂妹の声が聞こえた。
非常に珍しいことに、彼女は口角を僅かに吊り上げてうっすらと不敵な笑みを浮かべている。

「賭けをしませんか、とミサカは要領を得ない提案をします」

「はあ? 何の話だそりゃ。つーか、自分で解って言ってるのかよ」

『耳を貸すな。下らねえ』

吐き棄てるように言った木原の声に、垣根も無言で同意する。
しかし、御坂妹は構わない。
98 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 22:03:01.70 ID:QFVk0n.o
「ミサカたちとあなたたちの目的は、根本的なところでは同一のものです。
 あなたたちにとっても損ではないと思いますが、とミサカは思わせぶりに言葉を続けます」

「……はあ。聞くだけ聞いてやる」

『オイコラ』

「良いだろ。聞くだけだ、聞くだけ。愚痴に付き合ってるとでも思えば良い」

「では、話を続けさせてもらいましょう、とミサカは笑みを深くします。
 ……あなたたちは万に一つもありえないと切り捨て、馬鹿にするでしょうが。もし、もしミサカたちの企みが上手く行ったなら」

そこで、彼女は一度言葉を止めて小さく息を吐いた。
最初から覚悟はしていたが、改めてそれを口にするのはやはり恐ろしいことだった。

「もう、彼も、ミサカたちも、放っておいて貰えますか、とミサカは提案の内容を明かします」

「……は、馬鹿か。俺たちがどうしてこんなことしてるのか、知ってるよな?」

「ええ、もちろん。理解した上で言っています。
 いえ、だからこそ言っています。ですからその時は、もう、そっとしておいてあげて貰えますか、とミサカは繰り返します」

「で? 俺たちに対する配当は?」

「もしミサカたちが負ければ、あなたたちの要求に何でも答えましょう、とミサカはあなたたちにとって魅力的であろう条件を提示します」

『……確かに魅力的だ。だが、賭けとして成立してねえな。賭けの参加者は俺たちとお前たち。しかしお前たちに配当はない』

ヘッドセットから、呆れたような木原の声が聞こえてきた。
しかし御坂妹は、相変わらず気味が悪いくらい綺麗に微笑んでいる。

『お前たちは賭けに勝っても負けても、最終的には死ぬことになる。いや、勝った方がひでえことになるな。
 その辺、ちゃんと解ってて言ってるのか?』

「もちろん解っています。しかし、あなたは少し勘違いしていますね。ミサカたちにも配当はありますよ、とミサカは訂正を求めます」

『……頭おかしいんじゃねえのか? 気が狂ってる』

「それにもしお前が勝ったところで、その後で万が一アイツが思い出したら。あるいは知ったら。
 どちらにも利益のない最悪の結果になるだけだ」
                                .. .. .. ... . ..
「そうならないようにして下さい。それでも駄目ならまた同じことをして下さい、とミサカはあなたたちに依頼します」

「……ホント、お前らは狂ってるよ」

「ええ、自分でもそう思います、とミサカはあなたの言葉を肯定します」

垣根は、理解を諦めたとでも言うようにやれやれと首を左右に振った。
御坂妹は、最後まで表情を変えなかった。
99 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 22:05:14.28 ID:QFVk0n.o
―――――



白い病室の中、暖かな日差しに包まれている一方通行は、本を手にしたままうとうととしていた。
その分厚くて重い本が、力の入っていない手のひらから今にも滑り落ちてしまいそうだ。
しかし絶妙なバランスで以てなんとか一方通行の手に収まっていたその本は、不意の衝撃によって呆気なくその手から零れ落ちた。

「やっほーう。元気してる? ……って、あれ?」

「ふ、くァ……、御坂か。珍しく早かったな」

「ごめんごめん、寝てたの邪魔しちゃったわね」

あくびの所為で出てきた涙を拭いながら、一方通行は床に落ちた本に向かって手を伸ばす。
本の様子を確認してみれば、ちょうど背表紙から落ちてくれたお陰で汚れも折り目も付かずに済んだようだ。

「いや、本読みながら居眠りしてただけだ、構わねェよ。
 ちなみに上条なら今日はタイムセールだってンでまだ来てねェぞ。アイツのことだからその内来るとは思うが」

「なっ、何で突然アイツの話が出てくるのよ。何の関係も無いじゃない」

「なンだ。自覚ナシか」

「だから、何の話?」

「いや、分からねェなら別に良い」

「はあ?」

美琴は怪訝そうな顔をしていたが、本能でこれ以上は墓穴だと悟ったのか、しつこく訊いてくることはしなかった。
そんな彼女を横目に見ながら一方通行は本を本棚に仕舞い込むと、ふと思い出したかのように口を開く。

「そォいや、いつもは知り合いの風紀委員と一緒に出歩いてるンじゃなかったのか?」

「ん、何か風紀委員の仕事が忙しいみたいでさ。邪魔するのも悪いし、退散して来たのよ」

「ふゥン。喧嘩でもしたのか?」

「へっ? い、いや、まったくそんなことは無いんだけど。……何か顔に出てる?」

「なンとなく。嫌なことがあったのか? って程度だな」

「そ、そっか。私ってそんなに分かり易いのかしら……。アイツも意外と見抜いて来るのよね。
 まあ、ほんとに大したことじゃないんだけどさ」

そこまで言って、しかし美琴はもごもごと言い淀む。
一方通行はベッドのそばに置かれた椅子を座りやすい位置まで引きずり出すと、美琴に座るように促した。
100 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 22:09:19.17 ID:QFVk0n.o
「まァ、言いたくねェなら無理に言わなくても良いンじゃねェの。相談されたところで、俺もそォいうの苦手だしな」

「あー、うん。それは何となく分かってるから良いんだけど。ま、愚痴だとでも思って聞いてちょうだい」

美琴は勧められた椅子に座りながら、わざと明るい調子でそういった。
やっぱり分かり易い奴だなと思いながら、一方通行は彼女の言葉を黙って待つ。

「ほら、アンタたちは忘れてるかも知れないけど、私って超能力者でしょ? だからなのか、結構敬遠されちゃうのよね。
 尊敬だか畏怖だか知らないけど、とにかく近寄りがたいみたいでさ。
 私はレベルなんか全然気にしてないんだけど、あっちはそうも行かないみたい」

「嫉妬か?」

「いや、幸いそういうのは無いんだけど。みんなすごく良い子だし。ただ、普通の友達として扱って貰えないと言うか何と言うか……。
 何て言うのかな。アンタの言う通りに虐めとかなら、お互いの悪い所を治すっていうふうに一応改善の余地があるんだけど、
 私の場合は誰も何も悪くないから何処にも改善の余地がないのよね。
 話し合って理解して貰えれば良いんだけど、大抵の場合は相手が遠慮しちゃったり萎縮しちゃったりしてまともに会話が成立しないし。

 今まではそれでも何とかしようって思って結構頑張って来たんだけど、いい加減そろそろ諦めようかなあって。
 それに、もう私には黒子たちもアンタたちも居るし、そこまで必死になる必要を感じなくなってきたしね」

美琴は一気にそこまで言い切ると、はあっと大きく息をついた。
彼女は何も言わない一方通行の方に向き直ると、気まずそうな笑顔を浮かべる。

「アハハ、ごめん。こんなこと言われても困るだけよね。気にしないで」

「いや。愚痴れば少しは気が楽になンだろ。俺じゃ何も出来ねェが、聞くぐらいならいつでもやってやる。
 ちょうど良い暇潰しにもなるだろォしな」

「暇潰しって、アンタねえ……。人がわりと真剣に悩んでるってのに」

「俺に真っ当な反応を求めるのがそもそもの間違いなンだよ。助言が欲しいなら上条に言え」

一方通行がさらりと言った一言に、美琴はしかし過剰反応して顔を真っ赤にしてしまう。
こういうところが分かりやすいんだ、と思いながら一方通行は溜息をついた。

「でっ、出来るわけないでしょ! って言うか、この話絶対アイツにはしないでよ!?」

「ハイハイ、分かってるっつゥの。その辺はオマエが自分で何とかしろ」

「まったくもう……。本当に分かってるんでしょうね?」

かなり真剣にそう言っているのだが、一方通行は適当にあしらうだけだ。
と言っても、なんだかんだ言って彼は美琴の不利益になるようなことをしたことは無いので、一応は信用できるのだが。

「あ、そうだ。話は変わるけど、アンタはクローンってどう思う?」

「ごほっ」

水差しから注いだ水を飲んでいるところに来たあんまりな不意打ちに、一方通行は思わず咽る。
気管に水が入ってしまって苦しんでいると、美琴が呆れながらも背中を擦ってくれた。
101 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 22:14:00.73 ID:QFVk0n.o
「何よ、そんなに驚くことないじゃない。アンタたちが最初に振ってきた話題でしょーが」

「いや、それはそォだが……。
 クローンに対する答えがアレだっただけに、オマエはあまり好きじゃなさそォな話題だったからな。少し意外だっただけだ」

「あー、あれね。まあ確かにそうかも。でもあれから急にクローンの噂をよく聞くようになってさ。
 ちょっと前までは常盤台の一部でしか聞かなかった噂だったのに、
 いつの間にか街中のあちこちでクローンの噂がされるようになったから、ちょっと気になっちゃってね」

「そ、そォか。で、何だ?」

表情はいつも通りのポーカーフェイスだが、内心は何か良からぬことが起こってしまったのではないかと気が気ではない。
それにしても御坂妹め、少し行動が早すぎやしないか、と一方通行は心中で毒づいた。

「うん。こないだ私はクローンについてあれこれ言ったけどさ、アンタたちがどう考えてるのかは聞かなかったなーって思って。
 で、どう思ってるのか聞いてみようかと」

「……クローン、なァ。俺は記憶がねェから、ある日突然実は双子の弟が居ました、って教えられたのとそォ変わらねェな」

「あー、なるほど。そんな感じなら、今のアンタにとっては充分ありうる可能性なのか」

「でも、オマエは生まれてから今までずっと双子なンか居なかったンだろ? その辺が俺とオマエの感覚の違いになるだろォな」

「けど、クローンって遺伝子的には完全に同一人物なのよ? ちょっと気味が悪くない?」

「その辺は、それぞれの考え方の違いなンだろォな。
 俺はまだそっち方面の学問には詳しくねェから突っ込ンだことは言えねェけど、一卵性双生児とそンなに変わらねェと思うぞ。
 それに遺伝子的に同一人物ってだけだから、環境や生活習慣が変われば体格や性格だってだいぶ変わってくるしな」

「ふむ……。まあ、確かにその通りかも。黒子もなんかコピーロボットみたいに考えてるみたいだったしなー。
 それにしても、双子の妹、ねえ」

……これは、意外と好感触だろうか。
一応、作戦についての打ち合わせは最後までしてある。それに、御坂妹はほぼ準備完了したのであとは仕上げだけと言っていた。
予定よりだいぶ早いが、御坂妹にしても一方通行にしても、時期は早いに越したことはない。
一方通行は決断を下した。

「……そォ言えば、よ。俺も最近、オマエのクローンについて変な噂を聞いた」

「え? どんなの?」

「樋口製薬・第七薬学研究センターにオマエそっくりの奴が入って行ったのを見た奴が居て、
 それがオマエのクローンなンじゃねェかって噂されてるンだと。それともオマエ、なンか心当たりあるか?」

「……いや。そんな施設、行ったことどころか聞いたこともないわ」

途端、美琴の声が低くなった。
ああこれは絶対何か企んでると思いながらも、一方通行はわざとなんでもない風に言葉を続ける。
102 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 22:15:25.19 ID:QFVk0n.o
「つっても、ただの噂だからな。樋口製薬・第七薬学研究センターっつったらまだ普通に稼動してる施設だ、
 対立してる研究所かなンかが営業妨害の為にそォいう変な噂を流してるって可能性もある。調べに行くにしても無謀だしな」

「……ま、それもそうね。もうちょっと何か調べようがあれば良いんだけどねー」

言いながら、美琴は椅子の足元に立て掛けていた鞄を拾い上げた。
表面上気にしていない風を装っているが、これは明らかに今すぐ調べに行こうとしている。

「もォ帰るのか?」

「うん。たまには門限に余裕を持って帰らないと寮監に目を付けられちゃうしね。また明日来るから」

「そォか。上条にも言っとく」

「だーかーら、何で突然アイツの名前が出てくるのよ、もう。それじゃあね」

それだけ言うと、美琴はひらひらと手を振りながら病室を出て行ってしまう。
一方通行はそれを見送り、閉じられた扉を眺めながらぼそりと呟いた。

「……ホント、上手くいくのかねェ」


103 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 22:17:20.14 ID:QFVk0n.o
本日はここまでです。
次は、今度こそちょっと投下が遅くなると思いますすみません。


では、ここまで読んでくださってありがとうございました!
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 23:04:41.75 ID:CiM4h2AO
おちゅ
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 23:13:11.58 ID:6Et.eIYo
この話って前提というか前スレ的なものはある?
106 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/09(火) 23:21:42.52 ID:QFVk0n.o
>>105
無いです。ここが最初のスレです。
分かりにくい部分についてはあとで伏線回収するというか、今は雰囲気だけ感じ取ってくだされば。
まあそんな感じです。
107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 10:17:50.07 ID:SxE7UtEo
おつおつ
ちょっとあまりにもぼやかし過ぎじゃないかと感じる。
まぁおれの読解力と想像力が貧相なだけだと思うが
108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 13:17:52.12 ID:rrVFdMIo
>106
そっか、ありがと。
伏線回収楽しみに待ってるぜよ。
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 18:31:56.32 ID:H3Wrs6AO
乙乙
一方さんvs垣根+木原くンとか胸熱すぐる
110 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/10(水) 20:22:04.84 ID:vdTAAFko
>>107
ぼかしてるのは結構わざとなんですが、まあ確かにあまりにもぼかし過ぎですかね……
いや正直書いてる時点でぼかし過ぎかなとは思ってたんですけど。
とりあえず、ぶっちゃけ御坂妹とていとくんたちのシーンについては

・御坂妹たちはかなり危ない立場にいるらしい
・ていとくんたちにも何らかの事情があるらしい

と言うことを伝えたいだけのシーンなのでそれだけ分かっていただければ……
話が完結して、後でこのシーンを見返した時にちゃんと整合性がとれるように色々気を回したり、
伏線はりながら自然な会話になるように気を遣った結果、逆に分かり辛くなったようです。余計なことしたかな……


まあ、とにかく上記のことだけ分かってもらえば良いので、細かいことはあんまり気にしないでください。
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 11:52:47.48 ID:uwoJyeQo
最後にひとつ。それならもっとぼかすのもありじゃないかと思う。

とりあえず続き待ってる。
112 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 00:16:08.25 ID:6QB2xYDO
何これ面白い
113 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/18(木) 01:35:19.71 ID:4wteoHEo
どうもこんばんは、お久しぶりです。
長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。
今回の話は難産で、三回くらい大幅修正する羽目になりました。でもいまいち気に入らない……けどもう疲れたので妥協します。

>>111
アドバイスありがとうございます。
折角ここまでぼかしまくったんで、その方法で行こうと思います。
勘の良い人は気付いちゃうと思いますが、できる限りぼかしてギリギリまで引っ張ることにします。
と言っても、しばらくていとくんたち出番ないですが……


それじゃ、投下行きます。
114 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/18(木) 01:36:23.51 ID:4wteoHEo
一方通行は美琴が出て行ってから暫らく経ったのを見計らうと、ベッドのすぐそばに置いてあった松葉杖を取って病室を出た。
もはや歩き慣れてしまった病院の廊下を進み、一方通行は美琴が出て行ったのとは違う出口から外に出る。
そしてポケットの中に仕舞っておいた携帯の電源を入れると、電話帳に入っている数少ない連絡先の中からひとつを選んで電話を掛けた。

「タイムセールは終わったか? 予定よりかなり早まったが、御坂を樋口製薬・第七薬学研究センターに誘導した。オマエも来いよ」

それだけ言うと、一方通行は電話の向こうで慌てている相手を無視して一方的に電話を切った。
そうして彼は携帯電話を再びポケットに入れると、病院に戻らずにそのまま無断で外に出て行ってしまう。
御坂妹に、会わなくてはならなかった。



―――――



一方通行にわざわざ嘘をついてまで病院を飛び出した美琴は、思いっ切り帰り道を逆走していた。
行き先は、もちろん樋口製薬・第七薬学研究センター。
本当はずっと気になっていた、クローンの目撃情報のあった場所。

それに目撃情報があったのが研究所なら、白井のような風紀委員に情報が行っていなかったのも納得できる。
研究所なんかの施設は、完全に風紀委員の管轄外。警備員の管轄だ。
しかも如何に警備員であったとしても、研究所など何か決定的な証拠でも無ければ踏み込むことなど絶対に許されない。
そして当然、こんな噂程度の目撃情報なんかではそんな大それたことなど出来る訳がない。

しかし、美琴は違う。
ありとあらゆる電子機器を自由自在に操ることができる超能力者の第三位は、
誰にも悟られることなく物理的にも電子的にも何処にでも侵入し、そこにある情報を引き出すことが出来る。
だから美琴は、そんな下らない制約に縛られたりはしないのだ。
そして、だからこそ美琴には一切の躊躇いが無かった。

「……ここ、ね」

美琴はとある建物の前で立ち止まると、息を切らしながらそう呟いた。ここが、例のクローンが目撃された場所。
彼女はごくりと唾を飲み込むと、そっとその門に触れる。
そして目を閉じて細く息を吐くと、意を決して門を乗り越え建物の敷地内へと侵入する。
持ち前の運動神経でもって華麗に着地すると、彼女は立ち止まることなく一気に一番大きな建物の中へと駆け込んだ。

美琴は自分の行く手を阻む電気的なセキュリティをすべて解除し、撹乱し、利用して先へ先へと進んでゆく。
やがて安全と言える場所までやってきた美琴は、携帯しているPDAを使って研究所のシステムに直接接続し、それらしい研究部署を調べ始めた。
ちなみに、彼女の場合電気的なセキュリティにはまったく気を配らなくても良いのだが、所員やガードマンの目だけは彼女の能力ではどうすることもできない。
だからそういった人の目にだけ気をつけながら調査を進めていくと、彼女は明らかに怪しい区画を発見した。

(電源はあるのにLANが配線されてない隔離区画……? 取りあえずここから当たってみるか)

と、その時。暗がりに隠れていた美琴のすぐそばの壁が懐中電灯のライトで照らし出される。
幸い、光源となっている場所から美琴の位置は死角になっているので自分の存在はばれていないが、心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。
見つからないようにそっと様子を窺ってみれば、どうやらガードマンが巡回にやってきたようだった。
115 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/18(木) 01:37:02.36 ID:4wteoHEo
しかし、ガードマンは辺りを適当にライトで照らし出しただけで人は居ないと判断してしまったのか、すぐに美琴に背を向けて帰って行く。
美琴は絶対に音を立てないように慎重にPDAのケーブルを取り外すと、足音を立てないようにそーっとその場から移動する。

(びっくりした、見つかったかと思った……。最悪、見つかっても電撃で気絶させちゃえば良いけど、侵入した痕跡を残したくないもんね)

ケーブルを纏めてポケットに仕舞いこみ、PDAに保存しておいた見取り図を頼りに隔離区画へと向かう美琴。
そこはもともと美琴の立っていた場所からそこまではそう離れていなかったらしく、彼女はすぐに目的地に辿り着くことができた。
隔離区画には厳重な電子錠が掛けられていたが、美琴の前では何の意味も為さない。
彼女はいとも簡単に電子ロックを解除してしまうと、内部に誰も居ないことを確認してから部屋の中へと入ってゆく。

(コンピュータ発見。これかしら? ……と、何あれ?)

部屋の東側は一面がガラス張りになっていて、その向こうに何か大きな機械が見える。
美琴はコンピュータを後回しにして窓の方へと近付いていくと、暗い中で目を凝らしてその機械を観察してみる。
……あれ、は。

(人間が入るサイズの培養器……。いよいよきな臭くなってきたわね)

美琴は窓から離れると、僅かに汗ばんだ手でコンピュータを起動させる。
コンピュータのデータの中にはいくつか消された痕跡があるものもあったが、この程度なら復元可能だ。
彼女は能力も併用してデータの復元を完了させると、震える指先でボタンを押して目的のデータを表示させる。
そうして画面に表示されたのは、“超電磁砲量産計画『妹達』最終報告”の文字。

(…………、本当にあった……、私の、クローン計画)

あまりの衝撃に、眩暈がした。危うく倒れ込んでしまいそうになったのを何とか堪えて、美琴は体勢を整える。
そして彼女は更にコンソールを操作して、次々と情報を表示させていく。

(やっぱりあの時に提供したDNAマップが基になって……、最初からこれが目的だった?
 将来有望な能力者のDNAマップを集めてたとかなのかしら……)

流れていく情報に目を通しながら、美琴ははたと指の動きを止めた。
ある一点で、視線が固定されている。

(……『妹達』のスペックは私の1%にも満たない……? 私の劣化版しか作れないってこと? それなら商品価値なんて無に等しいはず。
 それなのにクローンは製造された? 製造した後に『妹達』のスペックの低さが判明したのかしら。
 いや、でもそれって余りにも無計画すぎるわ。こういう計画ってのはかなり綿密な予測と計算をもとに漸く開始されるもののはず)

しかし、いくらデータを見直してみても、その辺りの経緯は一切記載されていなかった。
そして同時に、美琴自身もそれどころではなくなった。
データの一番最後に、とんでもないことが書かれていたから。

(今日の二十時半に絶対座標X-154368 Y-325589にて『妹達』検体番号10032号の調整を行う、って……。今何時!?)

美琴が慌てて腕時計を確認すると、時刻は現在十九時過ぎ。
病院からここまで移動してくるのと、ハッキングや研究所内の調査に時間を掛けすぎたようだ。もうこんな時間になっているとは。
PDAで絶対座標の位置を確認してみれば、そこはここからはかなり離れた廃ビルのようだった。
交通機関を駆使して、全速力で走ってギリギリで間に合うかどうか。しかし、迷っている暇も考えている暇も無かった。

彼女は素早くコンピュータを起動させた痕跡を完全に削除すると、慎重かつ迅速に研究所から脱出する。
美琴は頭の中で最適な移動手段を弾き出しながら、全速力でモノレールの駅へと走って行った。
116 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/18(木) 01:37:38.22 ID:4wteoHEo
―――――



「予定を早める、という判断をして下さった一方通行には感謝しなければなりませんね、とミサカは一人ごちます」

とある廃ビルの一室の中、御坂妹はたった一人で計画の準備を進めていた。
かつては本当にここで調整で行われていたのか、彼女の周囲には無数の培養器や医療機器が立ち並んでいる。
しかし今はそれら全てに黒い布が掛けられてあって、それが何なのか分からないようになっていた。

「……さて、これで充分ではないでしょうか、とミサカは準備の進行状況を報告します」

報告などと言っているが、周りにはまだ誰も居ないので彼女の言葉を聞く者はいない。
別にミサカが可哀想な人というわけではなく、もはや癖のようなものなので気にしないで欲しいです、と御坂妹は心中で呟いた。

「……あとは、主役の登場を待ちわびるばかりですね、とミサカは緊張した面持ちで呟いてみます」

一方通行からの連絡を受けたのが、ざっと一時間前。
それからすぐに最後の仕上げに取り掛かったお陰で、彼女の用意した舞台は既に満足の行く出来になっていた。
御坂妹は今一度辺りを見回すと、満足そうな顔をして予定していた位置につく。

「さあ、上手く行くかどうかは神のみぞ知るですか、とミサカはあとは天運に任せることにします」



―――――



X-154368 Y-325589。その絶対座標が示す場所にある廃ビルの目の前に、御坂美琴は立っていた。
彼女は考え得る限りの最適な交通機関を駆使してここまで来たが、それでも時間はギリギリだった。
現在時刻は二十時二十五分。実に、二十時半の五分前だ。

「……、行こう」

躊躇っている時間なんか残されていない。そう判断した美琴は、迷うことなく廃ビルに入って行く。
廃ビルの中にはろくな照明が無かったので、美琴は自分の能力を使って発生させた電気の光球を光源にして先へ先へと進んで行く。
ぽつぽつと点在する蛍光灯が明滅している所為で、ただでさえ気味の悪い廃ビルが更に不気味に演出されていた。

(絶対座標の示してる場所は……、最上階の大広間か。
 まったく、いくら誰にもばれたくないからって、ちょっと徹底し過ぎじゃないかしら。誰の趣味なんだか)

当然、こんな廃ビルのエレベーターが稼働しているはずがないので、ぼろぼろの階段を登って行かなければならない。
能力を使えばもしかしたら動かすことは出来るかもしれないが、
最後にメンテナンスされたのがいつだか分からないようなエレベーターに乗りたいとは思わなかった。

本当なら調整とやらを行う研究者の為のエレベーターがあるのだろうが、そう簡単に見つかるとも思えないし、探している時間も無い。
美琴は覚悟を決めると、一気に階段を駆け上がる。

(最上階は6階。頼むから私が行くまで待っててちょうだいよ、10032号!)
117 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/18(木) 01:39:08.30 ID:4wteoHEo
―――――



「あーっ、もう!! どうして俺だけこんな目に!?」

スーパーのロゴが入ったビニール袋を手首に提げた上条は、携帯電話を片手に学園都市を駆けずり回っていた。
通信相手である一方通行は、そんな上条の近況報告を聞いて受話器の向こうでけらけらと笑っている。

『オマエの不幸は本当に筋金入りだな。何をどォやったらそンなに不運が重なるンだ?』

「そんなの俺が知りたいよ畜生!」

一方通行からの連絡を受けて慌ててスーパーを出て病院に行ったらもぬけの殻で、メールされていた作戦内容に載っていた研究所に行ったら御坂妹から電話が掛かってきて遅れて申し訳ないという旨の言葉とともにそこは違うからこっちに来い(意訳)と言われ、指示された交通機関に乗って移動しようとしたら美琴と鉢合わせしそ うになって一目散に逃亡し、代わりに乗った電車が途中で人身事故に遭って止まってしまい、仕方がないので走って行こうとしたら不良に絡まれて逃げ回る羽目になった。連続不幸記録更新なるか、というレベルだ。

「しかも集合場所が廃ビルの六階ってどういうことだ! これ以上上条さんを疲れさせて何がしたいんですか!?」

『その辺りは問題ありません。ビルには隠しエレベーターがあるのでそれを利用してください、とミサカは横からアナウンスします』

一方通行の携帯に繋げているはずなのに何故か突然御坂妹の声が聞こえてきたので、上条は少し驚いた。
どうやら一方通行は携帯をスピーカーモードにして御坂妹も通信に参加できるようにしているようだ。

「そ、そうか、それなら安心だ。て言うか御坂妹、俺なんかと喋ってて良いのか? 準備は?」

『そちらは大丈夫です。舞台の準備は整いました、とミサカは無い胸を張りながら報告します』

「なら良いんだけど……、それ以前にこれ本当に間に合うのか? もうすぐ二十時半回るぞ」

『あ、御坂来たぞ』

「うおおおい! さっそく出遅れてるじゃねえか! ここまで走って来た俺の苦労は!?」

『ちょ、ちょっと待ってください。緊急事態が発生しました。
 いぬが空腹を訴えているので餌をあげなければなりません、とミサカは焦りながらも餌の準備を始めます』

『もォすぐ御坂が来るっつってンだろ! 何でこの状況で猫に餌やろォとしてンだよ』

『あなたはこんなにも鳴いて餌を求めている子猫を放置できるというのですか!? とミサカは一方通行の薄情さに憤慨します』

『時と場合を考えろ。この状況で御坂が突入してきたらどォする気だ? ってオイマジかマジで餌やるのか俺もォ知らねェぞ!』

「お、おーい、本当に大丈夫なのか? なんか心配になって来たんだが……。つーかこれマジで俺間に合わないんじゃないか?」

御坂妹たちの方も大変な状況になっているようだが、それ以上にどうしようもないのは上条だ。
上条は先程からずっと全速力で走り続けているが、それでも既に廃ビルに到着しているであろう美琴に追いつけるかどうかは非常に怪しい。
118 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/18(木) 01:40:16.74 ID:4wteoHEo
『あァ、御坂はエレベーターを諦めて階段で来るよォだ。だからオマエは御坂が階段を登り切る前にエレベーターを使ってここまで来い』

「そんな無茶な! まだけっこう距離あるぞ!?」

『そォいう時は根性でなンとかしろって前に誰かが言ってた気がする』

「根性で何とか出来ることと出来ないことがあるんです! ああもう、不幸だー!」

喋る体力があるなら黙って走れば良いのに何とも非効率的なことをしているなあとは思いつつも、このままの方が面白いので何も言わない一方通行。
さて、果たして上条は美琴が御坂妹と対面するその時までに間に合うのだろうか?



『大変です、いぬが餌に喰らい付いて動こうとしてくれません、とミサカは緊急事態を報告します』

『だから言っただろォが。俺はもォ物陰に隠れるからな。あとは自分で何とかしろ』

『そんな薄情な! とミサカは一方通行に縋り付こうとしますが避けられてしまいました』

『オマエ、自業自得って言葉知ってるか? あ、足音聞こえてきた』

「……なんかもう駄目な気がしてきた」


119 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/18(木) 01:41:29.62 ID:4wteoHEo
―――――



廃ビルの最上階、大広間への扉前。
ここまで一気に階段を駆け上がってきた所為で荒れてしまった息を整えながら、美琴はそっとその扉のノブに手をかける。

(…………、……この、先に……)

しかし、そのドアノブを押して扉を開くのは、とても勇気のいることだった。
美琴はドアノブに手をかけたまま目を閉じて深く息を吐くと、そのまま一息に扉を押し開く。

開いた扉の先の大広間は薄暗く、ここからでは一番奥まで見通すことが出来なかった。
左右の壁に等間隔に配置されている小さな明かり以外には何の光源も無かったが、普通に歩き進む分には問題なさそうだ。
美琴は能力で作った電気の明かりを消滅させると、壁に掛けられたランプの発する不気味な光を頼りに恐る恐る先へ進んで行く。

よくよく見れば、壁のそばには明かりの他にも何か大きなものが並べられてあるようだ。
それらには全て黒い布が掛けられているのでその正体は分からなかったが、ここがそもそもどういう目的で使われている場所なのかを思い返してみれば、どうせろくでもないものなのだろうという予測は立てることが出来た。

黙々と、ゆっくりと歩を進めていると、彼女はやがて大広間の奥まで見渡すことの出来る位置に辿り着いた。
そこには、確かに人の気配がある。
そしてその最深部には、一心不乱に餌にがっついている子猫と何やら達観した表情でその子猫を見守っている自分そっくりの少女の姿があった。
調整と聞いていたので何かもっとおぞましいものを見ることになるのではないかと身構えていた美琴は、思わずきょとんとしてしまう。

「ふふふ……ミサカはもう諦めました。いえ、いぬが幸せなら良いのです……、とミサカは現実逃避します」

「…………、あれ? あの、ちょっと?」

「申し訳ありませんが、現在いぬが食事中なので静かにして頂けますか?
 まあそれ以上に準備が全て台無しになってしまったことによる精神ダメージが莫大なので正直そっとしておいて欲しいだけなのですが、
 とミサカは本音をぶっちゃけます」

「は、はあ」

わざわざ言われなくとも明らかに近寄るなオーラを発しているのが分かるので、美琴は少女の言うことに従うほかなかった。
下手につつくと事態を悪化させるだけのような気がしてならない。
そこで美琴は、とりあえずできる限り少女を刺激しないように慎重なコミュニケーションを図った。

「あの、大丈夫? 元気出して……」

「ミサカは……、ミサカは、わざわざこんなに仰々しい舞台まで用意して、RPGの魔王っぽい衣装も揃えていたというのに、
 まさか最後の最後で失敗することになってしまうとは……。
 ……いえ、やはりいぬを捨て置くことはできません。
 彼は薄情なことばかり言いますがミサカは断じて後悔などしていないのです、とミサカは自分に言い聞かせます」

何を言っているのかよく分からない。
分からないが、とにかくそれを不憫に思ったらしい美琴は何とかして少女を慰めようとするが、彼女は一向に顔を上げてくれる気配がない。
120 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/18(木) 01:42:10.86 ID:4wteoHEo
一方、美琴に見つからないように培養器の物陰に隠れている銀色の松葉杖の少年とスーパーのビニール袋を持った少年(死にかけ)は、
最早はらはらしながらそんな彼女たちの様子を見守ることしかできなかった。
どうでも良いが、死にかけている方の少年は美琴と紙一重の差でここに辿り着くことができたらしい。

「言わンこっちゃねェ。それにしてもアイツのアレ、本気だったのか……」

「ぜえっ、ぜえ……、こ、これどうするんだ? なんか御坂妹、本気で落ち込んでるみたいだぞ。て言うかアレって何だ?」

「アレだろ、RPGの魔王みてェに『ミサカがお前のクローンだ』って言いたかったンだろ。よく見ろ、セットもそれっぽいから」

「うお、本当だ。ここの明かり、この間来たときは蛍光灯だったのに松明みたいになってる」

「意味分かンねェよな、何処から来るンだよその情熱は。つゥか、計画してた演出が成功したらしたで収拾がつかなくなってた気もするが」

「確かにそれはそうなんだが……。って、そうじゃなくて御坂妹のアレは大丈夫なのか?」

「俺に訊かれてもなァ。流石にこれはどォしよォもねェだろ。
 御坂がいる以上俺たちは直接手出しできねェし、アイツが自力で立ち直るか、御坂が上手いこと立ち直らせてくれりゃァ良いンだが」

見ている方はもどかしくて仕方がないが、今ここで自分たちが美琴の前に姿を現したところで、余計に事態をややこしくするだけだ。
本当は手を出したいのは山々なのだが、ここはぐっと堪えて傍観していることしかできない。
一方、傍観されている方の二人は先程から動きが無いが、美琴が頑張って慰めようとしているのはここからでも何となく分かる。

「そ、その……、良かったら話聞くけど……」

「……お姉様に話しても詮無きことです。お姉様の為に準備していた演出だったのですから、それをお姉様に話しても虚しいだけです。
 強いて言えば、お姉様がミサカの頭を撫でてくれたらちょっとは元気が出るかもしれません、とミサカはさり気なく要求してみます」

「へ? 頭撫でて欲しいの?」

思わぬ要求に美琴は目を丸くしたが、彼女は御坂妹の目の前にしゃがみ込むとその頭をわしゃわしゃと撫でてやった。
御坂妹は望み通りに頭を撫でてもらってもなかなか動いてくれなかったが、根気強く頭を撫で続けていると漸く顔を上げてくれた。

「……ありがとうございます。少し立ち直れました、とミサカはお姉様に感謝します」

「う、うん、それは別に良いんだけど……。えーと、アンタは私のクローンなのよね?」

漸く立ち直ってくれたらしい御坂妹に、美琴は早速気になっていたことを尋ねてみる。
しかし当の御坂妹は、首を傾げて不審そうな表情を浮かべた。

「その通りですが、見て分かりませんか? とミサカはオリジナルの視力を心配してみます」

「いや、そりゃ確かに鏡で写したみたいに瓜二つだけどさ……、やっぱり一応確認と言うか……」

「なるほど、一種の現実逃避と言うわけですね、とミサカは一人納得します。
 まあお姉様が現在置かれている悲惨な状況を考えればその気持ちも理解できますが、とミサカは意味深な発言をします」

「へ? それってどういう……」
121 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/18(木) 01:42:38.56 ID:4wteoHEo
「おや、やはり気付いていなかったようですね。
 寮の門限、思いっ切りぶっち切ってますよ? とミサカはお姉様に残酷な現実を突き付けます」

「…………、ぎゃあああああ!! すっかり忘れてた! 黒子にも連絡してない!」

美琴はものすごい悲鳴を上げるが、今更どれだけ嘆いたところで門限である八時二十分をぶっち切ってしまったという事実は変わらない。
そんな彼女を眺めている御坂妹は憐みの表情を浮かべているが、しかし残酷な現実を叩きつけ続ける。

「帰ったらあの鬼寮監のお仕置きが待っているのでしょうか。首コキャですかねえ、とミサカは遠い目をしながらお姉様を憐れみます」

「ど、どうしよう……。今度という今度こそ殺される……」

「聞くところによるとお姉様は門限破りの常習犯だそうですね。
 自分でこんなことをしておいてアレですが、確かにそろそろ危ないかもしれません、とミサカは他人事のごとく気楽に分析します」

衝撃の真実を告げられた美琴の顔は、クローンとはまったく関係無いところで真っ青になっていた。
しかし一頻り打ちひしがれた後にはっと我に返った美琴は、御坂妹の肩をがしっと掴んで前後に揺すり始める。

「いや確かにそれも重要だけど、アンタはどうして作られたのかとか調整って何なのかとか色々訊きたいことがあるのよ!」

「ミサカの製造理由はトップシークレットですが、調整というのはミサカたち不安定なクローンを延命させるための処置のことです。
 ですが今回については、調整とはお姉様を誘き出す為の方便ですので実際には行っておりません、とミサカは懇切丁寧に説明します」

「……それは、つまり嘘ついたってこと? どうしてそんなこと……」

「お姉様に逢いたかったからです、とミサカは行動の理由を明かします」

御坂妹があまりにもまっすぐな瞳をして見つめてくるので、美琴は一瞬言葉に詰まってしまった。
その瞳が嘘をついているようには見えない、が、それでもどうしてもクローンに対する疑念を拭うことができない。
目的が、理解できなかった。

「……どうして、嘘をついてまで私に逢いたかったの? 目的は?」

「はて。妹が姉に一目会いたいと願うのは、当然のことではありませんか? とミサカは首を傾げます」

「い、妹とか姉とか……。アンタたちは私のクローンでしょ? 私はアンタの姉じゃないし、アンタは私の妹じゃないわ」

「……ふむ。確かにその通りですが、現にミサカたちはオリジナルのことを生みの親として慕っています。
 ですのでミサカたちはオリジナルに対する親しみと感謝を込めて、あなたのことを『お姉様』と呼ばせて頂いているのです。

 正確には母に近いのですが、流石に中学二年生で、しかも外見年齢が同じ人をお母様呼ばわりするのはどうかと思いましたので、
 こうして『お姉様』という呼称に落ち着いたわけです、とミサカは愛称の理由について説明します。
 それにオリジナルと言うのも何だか愛の無い名称だとは思いませんか? とミサカはお姉様に同意を求めます」

「……よく、分からないわ」

美琴は難しい顔をしながら眉根を寄せた。
その表情の理由は、御坂妹の考えを理解できないからなのか、怒涛の展開についてこれないだけなのか。
どちらにしろ、彼女が混乱しているのは間違いない。
122 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/18(木) 01:43:07.68 ID:4wteoHEo
「そうですか。……もしかしてお姉様は、クローンはオリジナルに対して攻撃的な感情を持っているのではないかと思っていませんか?
 何故かクローンというだけでそうした偏見を持たれることが多いのですが、
 ミサカたちはお姉様に対してそのような負の感情は一切持っていませんよ。
 と言うか、自分の親とも呼べる存在を慕うのは当然のことではありませんか? とミサカは疑問に思います。

 ですからミサカたちはお姉様に感謝していますし、一度で良いのでこうしてお話したり、あわよくば一緒に遊びたいと思っていました。
 よって、今回はそうした願望を叶えるべくしてこのような行動を取ったのです、とミサカは更に補足説明します」

なんだか頭がこんがらがってきた。
けれど急に与えられた膨大な情報に頭がパンクしそうになっている美琴に構わず、御坂妹はさらに畳み掛けるように言葉を続ける。

「ですので、お姉様」

「……こ、今度は何?」

「ミサカと一緒に遊びに行きませんか、とミサカは提案します」

「は、はあ?」

御坂妹の突然の提案に、美琴は思わず間抜けな声を上げてしまった。
しかし、御坂妹は本気で言っている。目を見れば分かる。本気で美琴と一緒に遊びに行きたいと思っているのだ。しかもこんな時間に。

「駄目でしょうか? どうせ門限はもう破ってしまっているわけですし、今更ちょっと夜遊びしたくらい変わりませんよ、
 とミサカはお姉様を不良の道へと誘ってみます」

「だ、駄目とか駄目じゃないとか、そういう問題じゃなくて……」

「ではどういう問題なのでしょう、とミサカはきょとんとします」

「だから、その……、そう、アンタの製造者の名前や居場所を調べたり、アンタが隠した製造理由を調べたりしないといけない訳で……」

「調べたところで分からないと思いますが……、あ、良いことを思い付きました。
 ミサカと一緒に遊んでくれたらヒントくらいは差し上げますよ、とミサカはお姉様にとって魅力的であろう提案をしてみます」

「……え、ええ? そんなことして良いの?」

「いや駄目ですけど、正直アレをいっぺんボコって下さればミサカたちにとっても色々と都合が良いですし、
 とミサカは不穏な本音をぶっちゃけます」

「ボコるって……、いやまあ確かにそのつもりがまったく無かったって言ったら嘘になるけど。……はあ、分かったわ。
 門限は今更もうどうしようも無いし、付き合ってあげるわよ」

「マジですか。粘った甲斐がありました、とミサカは喜びを露わにします」

相変わらず表情は変わらないが、確かに喜んでいるらしい。御坂妹は何度も両手を上げたり下げたりと万歳を繰り返していた。
なんともシュールな光景だったが、美琴には最早それに突っ込む気力も無い。
123 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/18(木) 01:43:52.15 ID:4wteoHEo
「……ただし、まだアンタに心を許したわけじゃないからね。まだアンタが私を騙そうとしていないとは言い切れないんだから」

「まあそう言うだろうとは思っていました。
 と言うか正直そんなことはどうでも良いのですが、お姉様は優等生でしょうから夜の学園都市などよく分からないですよね?
 ミサカが案内しますのでついて来てください、とミサカはお姉様の手をぐいぐい引っ張ります」

「ちょ、ちょっと待って。そう言えば、そもそもこの学生の街にこんな時間に遊ぶ場所なんて……」

「ですからミサカが案内します、とミサカは更にお姉様を急かします」

御坂妹は半ば無理矢理美琴を部屋の最深部まで連れて来ると、床を横にスライドさせて下階へと続く隠し階段を出現させた。
ちなみにこの先は隠しエレベーターのある小部屋に続いていて、ここから外に脱出できるようになっている。
一方、物陰に隠れて二人が去って行く様子を見守っていた二人の少年は、御坂妹たちの気配が完全に消えたのを確認すると漸く姿を現した。

「……意外と上手く行くモンなンだなァ」

「割りと結果オーライというか、賭けだったけどな。終わり良ければすべて良しだ。
 それはそうと、俺たちはこれからどうすんだ? やっぱあの二人を追いかけんのか?」

「いや、あの様子ならもォ大丈夫だろ。むしろ、姉妹水入らずで居させてやった方がイイだろォな」

「それもそっか。いやあ、それにしても良かった良かった。一時はどうなることかと思ったけど」

「まったくだ」

最初に美琴がクローンを完全に拒絶した時はもう駄目だと思ったものだが、よく考えればあれも彼女なりのツンデレだったのだろうか。
そんなどうでも良いことを考えていると、不意に上条が何かを思い出したかのような声を上げた。

「そういえばお前、また無断で病院抜け出したんだって? カエル先生怒ってたぞ」

「冥土帰しがァ? 怖くねェよ、別に」

「いやいや、ああいう普段は温厚なタイプの方が怒らせると怖いんだって。お前のことベッドに縛り付けようかみたいなこと言ってたし」

「……、次からはもっと上手くやる」

「いやだから素直に外出届を出しなさい! 心配するから!」

一方通行はそんな上条の説教を完全に無視すると、すたすたと御坂妹たちが使ったのとは別のエレベータの方へと歩いて行ってしまう。
しかし一方通行の後を追いかけながら、上条は引き続きくどくどと説教を続けていた。


そうして少年たちは帰路につき、彼らの波乱に満ちた夜は終わりを迎えた。
けれど少女たちの夜は、まだまだ始まったばかりだ。


124 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/18(木) 01:45:49.97 ID:4wteoHEo
今回の投下はここでおしまいです。お粗末さまでした。

ところで最近疲れてるのになかなか寝付けなかったり寝ても疲れが取れなかったりします。
何か良い解消法とかないものでしょうか……しんどい。
とりあえず今日ももうだいぶ遅いですが、寝ることにします。皆さんもおやすみなさい。
125 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 02:03:16.38 ID:UniYT7wo

ありきたりだが枕が悪いんじゃない?
あとは寝る前にストレッチとかいいと思うよ
126 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 03:37:24.25 ID:nNDDo3ko
乙!続き待ってた!!

あったかいショウガ入りミルクティーとか飲むといいよ
あとは軽いストレッチやると全然違う。体育の授業の準備運動程度で平気
127 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 11:57:26.96 ID:xjfUKQMo
無呼吸症候群も疑うといいかもな
アレは太ってなくても鼻腔や気道次第で誰でも発症しうるし
寝てる間の事なんで気付きにくい

それはともかく、御坂姉妹の出会いが険悪な物にならなくて良かったな・・・
この後なんか色々ありそうだけど最終的にみんな幸せになって欲しいものだ
128 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 12:39:10.95 ID:qmt./2oo
おつおつ
おれは最近枕を変えたら気持ち良くて睡眠時間がやたら長くなった。朝起きれねぇ
129 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 13:22:20.68 ID:UniYT7wo
枕かえるだけで全然違うよな
値段高くても自分にあったの作ったほうがいい
130 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 01:52:35.68 ID:W8d9/.c0
いやぁ今週の禁書は素晴らしかったな・・・
伏線とか原作端折るとかはまぁ・・・割り切ったとしても・・・
良い一方通行回だった・・・興奮した・・・
131 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/20(土) 21:19:31.20 ID:paIcwrUo
どうもこんばんは。皆さんアドバイスありがとうございます。
ストレッチやったらちょっと良くなりました。
ストレッチすげえ。
でも確かに今使ってる枕ちょっと高い気がするので、そろそろ新しいの買おうかと思います。
あと父が無呼吸症候群なのでちょっと怖いんですけど、あれ遺伝するんですかね……
居間で昼寝しててもそういうことを言われたことが無いので、たぶん大丈夫だと思うんですけど。
ミルクティーはちょうど切らしちゃってたので今度買ってきたら試してみようと思います。
生姜とか豚肉は良いって言いますよね。今度生姜焼き作ろう。


>>130
良かったですよね! 一方さんかっこいい上条さんかっこいい美琴かわいい黒子かっこいい!
でも美琴と美琴の世界を守る発言が無くなっちゃってたのと黄泉川のセリフが微妙にカットされてたのがちょっと残念でした。
あと一方さんの「こっから先は一方通行だ」が微妙に変わってたのが。
あれ、「侵入は禁止ってなァ!」って言ってませんでしたよね? あの台詞あれのワンセットで好きだったんですが。
それと一方さんがかっこいいのは良いんですが、あわきんぼっこぼこになってたのがちょっと可哀想でした。あわきん……
あれ絶対鼻の骨折れてますよね。19巻冒頭のデパートさんはあんな感じでぼこられたのだろうか……


……調子に乗ってなんか語り過ぎましたすみません。
ではさっさと投下することにします。
132 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/20(土) 21:22:07.00 ID:paIcwrUo
キキッという音と共に、一台のバイクがとある道路に停車する。
バイクに乗っているのは二人の少女。
その内の一人、バイクの後ろに乗っていた方の少女は素早くバイクから降りると、すぐさまヘルメットを外して運転手の少女に詰め寄った。

「ちょ、ちょっと。なんか流されてここまで来ちゃったけど、アンタバイクの免許なんか持ってるの?」

「持っていませんが。技術があれば十分なのでは? とミサカは個人的な見解を述べてみます」

「いや駄目でしょ……、はあ。もう良いわ」

御坂妹の言葉に、美琴は観念したように深く溜め息をついた。
しかし御坂妹はどうして美琴がこんなに疲れた顔をしているのかがよく分かっていないのか、ちょこんと首を傾げている。
そしてその天然っぷりが、更なる美琴の頭痛の種となっていた。

「そんなことより、こんなところに連れてきてどうしようってのよ。遊ぶところなんかあるの?」

「おや、やはりお姉様はご存じありませんでしたか。
 意外と知られていないのですが、ここはなかなか健全に遊ぶことのできる場所ですよ、とミサカはミサカの知識の広さをアピールします」

第二十二学区。学園都市で最も面積の狭いこの学区は、その為なのか地下街が非常によく発達している。
そこには昔ながらの銭湯から天然ものの温泉、
スパリゾートまで様々な温泉施設が立ち並んでおり、しかもアミューズメント施設とも合体していた。

そんな第二十二学区には、未だに学生たちがちらほらと行き交っていた。
もちろん、完全下校時刻などもうとっくに過ぎてしまっているのにも関わらず、だ。

と言っても、別に彼らが不良という訳ではない。彼らは住んでいる寮にある風呂が壊れてしまったり、そもそも寮に風呂が無かったり
といった事情があってここに風呂に入りに来ている、普通の学生たちだ。
そんな訳で、この温泉街ではこの時間でもまだ学生向けの様々な施設が開かれているのだった。
ただしそれを知っているのはここの銭湯に用がある学生や、学園都市では圧倒的に少数派である大人たちくらいのものなので、
客足はそんなに芳しくなさそうなのだが。

「と、いうわけなのです。お分かり頂けましたか? とミサカはお姉様に確認を取ります」

「ふうん、こんな場所があったのね。確かに私には縁が無いし、知らなかったわ。
 まあ、ウチの寮は門限あるしお風呂もちゃんとしたのがあるから、ここに来るのはこれっきりだろうけど。
 遊びに行くだけなら第七学区や第六学区で十分だし、わざわざ外出届を提出してまで来るようなところじゃないしね」

「そうですか、それは残念です。お姉様はゲコ太がお好きとのことでしたので、
 ポイントを貯めると限定ゲコ太ストラップが貰える温泉をお勧めしようと思っていたのですが、とミサカは……おや?」

話の途中で、突然御坂妹が間抜けな声を上げた。ちょっと目を離した隙に、いつの間にか美琴が居なくなっていたのだ。
美琴の姿を探してきょろきょろと周囲を見回してみれば、いつの間にか美琴がすたすたと温泉街へと歩いて行っているのが見えた。
133 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/20(土) 21:22:37.01 ID:paIcwrUo
「ちょ、お姉様? 突然どうなさったのですか? とミサカはお姉様の行動に困惑します」

「何って、アンタが温泉に行こうって言ったんじゃない。ほら、早く行くわよ」

「……まさかここまでとは思いませんでした、とミサカはお姉様の執着心にもはや感心することしか出来ません」

と言うかお勧めしようと思っていただけで別に今すぐ行こうとは言っていないのですが、
と心の中だけで呟きながらも、御坂妹は大人しくずんずんと進んで行ってしまう美琴の後について行く。
まあ、喜んでくれるなら何でも良いか。



―――――



御坂妹お勧めの銭湯へとやって来た二人は早速例のストラップを貰う為のポイントカードを受け取ると、
美琴のポイントカードに美琴本人と御坂妹の二人分のスタンプを押して貰った。
ポイントカードを見ながらキラキラと目を輝かせている美琴を見ながら、御坂妹は珍しく呆れたような顔をしている。
そんな御坂妹の視線に気付いたのか、美琴は慌ててポイントカードをポケットに仕舞うと、こちらを振り向かないままにもごもごとした声を出した。

「と、とりあえずお礼は言っとくわ。ありがとうね」

「ほほう。これが噂のツンデレですか、とミサカは思わぬ収穫に感謝します」

「な、何よそれ? ほら、馬鹿なこと言ってないでさっさと入るわよ」

恥ずかしいところを見られて顔を赤くしながらも、美琴は強引に御坂妹の手を引いて脱衣所に向かう。
何でも良いのでとにかくその場から離れたかったようだが、どちらにしろ御坂妹も一緒に行かなければならないので無意味だ。

美琴はやって来た脱衣所でさっそく服を脱ぎはじめると、不意にすぐ隣から視線を感じた。
その視線の原因を見やれば、なんと御坂妹が正々堂々と美琴の胸をガン見しているではないか。
美琴は慌てて自分の胸を両手で隠すと、顔を更に赤くしながら御坂妹を睨みつける。

「あ、アンタ何処見てんのよ!? 恥じらいってもんが無いの!?」

「残念ながらそのようです。
 そんなことより、やはりミサカのこの残念な胸はお姉様の所為だったのですね、とミサカは成長の見込みが無いことに愕然とします」

「余計なお世話だっつーの! だ、大体私たちはまだ中学生なんだからこれから成長するわよ!!」

「だと良いのですが、とミサカは希望的観測を述べます」

「そうよ。私のママは大きいし、まだまだ成長の見込みはあるわ。……多分」

最後の方は消え入りそうなくらい小さな声だったが、しっかり聞こえていたらしい御坂妹ははあっと深い溜め息をついた。
悔しいが、現状が現状なので美琴は何も言えない。
134 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/20(土) 21:23:06.77 ID:paIcwrUo
そうして二人は一通りの準備を終えてしまうと、途中で買ったお風呂セットを持って大浴場へと入って行く。
もう大分遅い時間だからか、それともそもそも来る人が少ないからなのか分からなかったが、大浴場には疎らにしか人が居なかった。
美琴がさっさと歩いて空いているシャワーのところへと行ってしまうと、
御坂妹はまるで親鳥について行くヒヨコみたいにその後に続き、美琴の隣の場所を陣取る。

(可愛いかもしれない……じゃなくて! 何とかしてコイツから少しでも情報を聞き出さないとなんだから。しっかりしろ私……)

何だか雰囲気のまま流されそうになっている自分と葛藤しながらも、美琴は何となく気になってちらりと御坂妹の胸を見やる。
……心なしか自分のよりもあっちの方が大きい気がするのだが、きっと気のせいだ。
だって私のクローンなんだし。遺伝子レベルで同一なんだから違いなんかあるわけがないに決まってる。うん、絶対気のせいだ。

「……どうやらお姉様にも羞恥心が無いようですね、とミサカはニヤニヤしながら話し掛けます」

「ぶっ!? う、ううう五月蝿いわね! それにアレはアンタがあまりにも堂々と見てたからそう言っただけであって、
 ばれないようにちらっと見たくらいなら羞恥心が無いとは言わないの!」

「そうなのですか。では、今度からちらっと見ることにします、とミサカは今後の行動方針を発表します」

「だ、だからそういうのを羞恥心が無いっていうのよ!!」

勢いよく立ち上がりながら大声を出してしまった所為で、浴場内にいる人々の視線が一斉に美琴に集まった。
美琴は数秒固まった後に、顔を真っ赤にして体を隠しながらお風呂用の椅子に座ると、縮こまりながら大人しく髪を洗い始める。

「今のお姉様の行動も恥ずかしいものだったのですね、とミサカはまた一段と賢くなりました」

「もう好きにして……」

さも誇らしげに語る御坂妹の方を見もせずに、美琴は蚊の鳴くような声で力なくそう答えた。
泡立てた髪から垂れてくる泡が、ちょうどよく美琴の真っ赤な顔を隠してくれた。



―――――



ざぶん、という音がして二人分の体積のお湯が浴槽から零れ落ちる。
御坂妹はお風呂セットを購入した際に一緒に買ったらしいヒヨコのおもちゃ(何故かアヒルではなくヒヨコだった。ヒヨコに何かこだわりでもあるのだろうか)を湯船に浮かべながら、隣で顔を半分湯に沈めてぶくぶくと空気を吐き出している姉を見やった。

「お姉様。恥ずかしかったのは理解しましたが、そろそろ元気を出してください、とミサカはお姉様を心配してみます」

「だって……、ちょっと誰かが超電磁砲って言ってるのが聞こえた……絶対常盤台の超電磁砲は変人だっていう噂が立っちゃうよう……」

「大丈夫ですよ。有名人というものには往々にしてそういった根拠のない噂が付き纏うものです。
 またひとつそのような根も葉もない噂が増えたとでも思えば良いではないですか、とミサカはお姉様を慰めてみます」

「その中でも一番現実味のなかった噂の生き証人であるアンタがそれを言うか」

「それもそうですね、とミサカはあっさり肯定します」
135 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/20(土) 21:23:48.24 ID:paIcwrUo
美琴は恨みがましい目をしながら御坂妹を見ていたが、当の本人はまったく気にした様子が無い。
言動を鑑みるに感情が無いわけではないようだが、表情だけ見るとまるでロボットのように無感情だ。

「……さっきから思ってたけど、アンタって本当に表情が硬いわね。私のクローンとは思えないくらい」

「そうですか? これでも意外と感性豊かになった方なのですが、とミサカは昔はもっと酷かったことを懐古します」

「これより酷いって、一体どんなのだったのよ……」

「ミサカたちの持つ知識や経験の殆どは、洗脳装置(テスタメント)によって強制入力(インストール)されたものですから。
 洗脳装置に感情を足すという技術はありませんので結果的にこのようになってしまったものと思われます、とミサカは冷静に分析します」

どうやら、ただ表情が硬いだけではなくて本当に感情が薄いらしい。
確かに科学的な方法で感情を足すなんていう技術は聞いたことが無いが、感情が薄いのと表情が硬いのはあまり関係無いのではなかろうか。
どんなに薄いといっても一応感情を持っているのだから、ここまで徹底した無表情なのは少しおかしい気がする。
それに、本人がわざと無表情を維持しているわけでもなさそうだ。
しかし美琴は、恐らくこれが彼女に与えられた個性なのだろうと納得することにした。

「そ、それより! いつになったら情報のヒントとやらを教えてくれるのよ?」

「ああ、それでしたら別れる時にでもお教えします。
 教えてしまったら、お姉様はまたすぐにミサカを放っぽって何処かへ調査しに行ってしまいそうですから、とミサカはもったいぶります」

「流石に私だってそこまで薄情じゃないわよ。もうこの際だから、今日一日くらいなら付き合ってあげるわ」

「でしたら、ミサカのリクエストにも応えて頂けますか? とミサカはお姉様にお伺いを立ててみます」

「ん? 何よ」

「この後にプリクラというものを撮ってみたいです、とミサカはリクエストします」

「!」

美琴は驚いて、一瞬だけ目を大きく見開いた。
しかし御坂妹はプリクラに思いを馳せているのか、明後日の方向を見つめていて美琴のことを見ていなかった。

「あ、アンタ、プリクラやったことないの……?」

「はい。ミサカたちはあまり自由に出歩くことが出来ませんから、そもそもこうやって遊び歩くこと自体が初めてです。
 ですので、せめて形に残るようなものを残したいと思いまして、とミサカは遠回しにお土産を要求します」

「ふうん……、クローンも大変なのね」

「ええ、大変です。様々な薬物を使って無理矢理成長を早めているので寿命が極端に短いですし、
 定期的に調整を受けなければまともに生きていくこともできませんし、
 有名人であるお姉様とそっくりな外見をしているので無闇に外で遊ぶこともできませんし、
 特にこのミサカはあのやんちゃな幼女の面倒まで見なければならないですし。
 なので今日はここぞとばかりに遊んでやろうというわけなのです、とミサカはミサカが遊びたい年頃であることをアピールします」

マシンガンの如く繰り出される御坂妹の苦労話に、美琴は思わず絶句してしまう。
やりたい放題やっているように見えるが、今日は特別に羽目を外しているだけであって普段は苦労しているようだ。
136 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/20(土) 21:24:17.08 ID:paIcwrUo
「……でも、やっぱりクローンって体に色々問題があるのね。寿命はどのくらいなの?」

「調整である程度回復することができるそうですが……、
 まあ、それでもちゃんと調整を受ければかなり生きられるそうです、とミサカはさして大きな問題ではないことを説明します」

「そうなんだ。虚弱体質だったりとかは?」

「そちらは殆ど問題ありません。極端に消耗してしまえば別ですが、それでも調整を受ければきちんと元に戻ります。
 それにミサカたちはもともと軍用に作られたクローンですから、
 万全の状態であれば成人男性を凌駕する身体能力を発揮することができます、とミサカはミサカの優秀さをアピールします」

「そっか。なら、普段は私たちと全然変わらないのね」

「はい。中には特別な措置を施されていた個体も居ましたが、少なくともこのミサカは常人と何ら変わりません。
 確認してみますか? とミサカはちらりと湯船から肢体を露出させます」

「そんなことせんでよろしい。それより、これ以上入ってるとのぼせちゃうわよ。もう出ましょ」

「ふむ。頭がぼーっとしてきてなんだか気持良くなってきたところだったのですが、とミサカは残念がります」

「手遅れ!? それ思いっきりのぼせてるわよ!」

湯気で周りがよく見えなかったので分からなかったが、よく見てみれば御坂妹は確かに顔を真っ赤にしていた。
この状態で、よく普通に喋っていたものだ。
美琴は頭をぐらぐらさせている御坂妹を湯船から引きずり出すと、その体を支えてやりながら脱衣所へと急いだ。



―――――



「まったく、自分がのぼせてることにも気付かないなんて。そういうのって洗脳装置で入力してもらったりしなかったの?」

「ミサカはのぼせることを想定して造られたわけではないので、入力内容に入っていなかったのでしょう。
 そんなことよりコレ意外とキッツイですね、とミサカは扇風機に向かって話しかけます」

「私には意外と元気そうに見えるんだけど」

「声が刻まれているようで面白いです、とミサカは新たな遊びを発見しました」

「アンタは小学生か」

服を着ずにバスタオルを体に巻いたままの状態で、御坂妹は扇風機の前で声を出すという懐かしい遊びをしていた。
湯冷めしないように体を拭いてから扇風機の前で涼ませていたら、いつの間にかこうなっていた。
そんな妹に対してきちんと服を着て髪を拭いている姉は、呆れながら妹に向かってとある飲み物を差し出した。
137 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/20(土) 21:24:50.01 ID:paIcwrUo
「ほらコレ。私の奢りよ」

「これは何でしょうか? とミサカは牛乳瓶に入っているのに牛乳らしからぬ色をしている飲料を警戒します」

「フルーツ牛乳。銭湯と言ったらコレらしいわよ。私も初めて飲むけどね」

「ほう、なかなか美味しそうな名称ですね、とミサカは未知の飲料に心躍らせます」

御坂妹は瞳を輝かせながらフルーツ牛乳を受け取ると、初めて飲むにも関わらず器用に牛乳瓶の蓋を開いた。
美琴もそれに倣って牛乳瓶の蓋を開けると、何の偶然か御坂妹と一斉に牛乳瓶に口をつけ、そのまま中身を一気に飲み干した。
二人はこれまた同時に牛乳瓶から口を離すと、ぷはっと大きく息を吐く。

「うん、やっぱり定番と言われてるだけあって美味しいわね」

「こんなに美味しい飲料がこの世にあったとは……とミサカは驚愕します。
 もう一本飲みたいです、とミサカは上目遣いになりながらお姉様にお願いします」

「だーめ。牛乳は飲み過ぎるとお腹壊しちゃうわよ」

「そうなのですか。ならば控えなければなりません、とミサカは渋々それを了承します」

美琴はそれでも未練がましく牛乳瓶のふちをがじがじとしている御坂妹から牛乳瓶を取り上げると、代わりとばかりに服を投げつけた。
いくら夏が近いとはいえ、こんな夜に裸同然の格好で扇風機の前でじっとしていたら流石に風邪をひいてしまう。

「ほら、さっさと着なさい。プリクラ撮りたいんでしょ? 流石の第二十二学区と言えど、急がないとゲーセン閉まっちゃうわよ」

「そう言えばそうでした、とミサカは大急ぎで服に着替えます」

実のところ、美琴ももう一回くらいプリクラを撮ってみたいと思っていたので御坂妹のリクエストは願ったり叶ったりだ。
それに美琴自身、無意識の内に御坂妹を自分の妹として認め始め、彼女の希望を叶えると共に何らかの思い出の品を残したいと考えていた。
いそいそと着替え始めた御坂妹を眺めながら、美琴は誰にも気づかれないくらい微かに微笑んだ。



―――――



だいぶ遅い時間なのにも関わらず、ゲームセンターには予想よりも多くの学生たちがいた。
そんな中で、美琴と御坂妹はプリクラが密集しているエリアにもうずっと居座っている。もちろんプリクラを撮る為だ。
しかし、そのプリクラ台の隅っこに置かれているシールの数が尋常ではない。
何故なら、御坂妹が持ってきたお金を全部使い切りかねないくらいの勢いで写真を撮りまくっているからだ。

「……ねえ。こんなに撮って何に使うの?」

「聞くところによると、シール帳というものに張るそうです。お姉様もどうぞ、とミサカはお姉様にシール帳を差し出します」

「あ、ありがと……。でも、私とアンタばっかりじゃない。あんまり見栄え良くないわよ?」

「構いません。これを後で他のミサカたちに自慢するのです、とミサカは最初にお姉様と遊んだ個体としての優越感に浸ります」
138 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/20(土) 21:25:20.43 ID:paIcwrUo
「アンタが良いなら良いんだけどさ……」

上条たちと遊びに行ったときはあんなにプリクラを撮りたがっていた美琴も、これには流石に驚いているようだ。
ただやはりプリクラを撮ること自体は楽しいのか、撮るたびに二人で好きなフレームを選んだり装飾をしまくったりして遊んでいる。

「……ところでさ、ずっと気になってたんだけど、妹『達』とかミサカ『たち』とかって何?
 まさかアンタみたいのが五人も十人も居るんじゃないでしょうね」

「黙秘権を行使します、とミサカはだんまりを決め込みます」

「ちょ、ちょっと! それってつまり殆ど肯定じゃない! ちゃんと答えなさいよ!」

美琴は御坂妹の肩を掴んでがっくんがっくんと揺さぶりながら叫ぶ。
しかし、御坂妹は先程の台詞を最後にまったく口を開こうとしない。黙秘権行使中だ。

「あ、常盤台の双子だー」

「珍しー」

「やはりそう見えますか、とミサカは頬を赤らめます」

「双子違う! あとその反応はおかしい!」

美琴は通行人の言葉に対してツッコミを飛ばすが、はたから見たらどう考えても仲の良い双子にしか見えないだろう。
すると、ゲームセンターの隣でアイスクリーム屋を営んでいるらしい店主が声を掛けてきた。

「コラコラ、冗談でもそんなこと言うもんじゃねえぞ」

「だ、だから本当に姉妹じゃないんだってば……」

「まだ言うか。ったく、ちょっと待ってな」

美琴の訴えも虚しく、アイスクリーム屋の店主は店の奥に引っ込んで何やら作業をし始める。
そして暫くすると、再び店主が顔を出して二人に向かってアイスクリームを差し出してきてくれた。

「ほれ、ウチの自慢の品だ。これやるから仲良くしな」

「……押し売り?」

「人聞きが悪いな……。
 もう店仕舞いでケースを洗うんでね、サービスさ。何があったかは知らんが、美味いもん食えばイライラも治まるってもんよ」

「いや悪いけど今はそんな場合じゃ……」

「美味しいです、とミサカは初めて食べるアイスクリームを絶賛します」

「はは、そりゃあ良かった。ま、とにかく姉妹仲良くなー」

「だーかーらー!」
139 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/20(土) 21:25:59.07 ID:paIcwrUo
美琴は反論しようとするが、その前に店主はさっさと店の奥へと帰って行ってしまった。
まあ確かに他人が見れば姉妹にしか見えないんだろうけど、と心中で文句を言いながらアイスクリームに口をつけようとすると、
彼女はふとすぐ近くから視線を感じた。

「……な、何?」

「ミサカもそれを食べてみたいです、とミサカはおねだりしてみます」

「だ、駄目! アンタにはそれがあるでしょ!」

「ではお姉様にもミサカのを一口分けるので、お姉様もミサカに一口下さい、とミサカは食べさせっこを提案します」

「うぐ……、まあ、それくらいなら良いわよ。私もちょっと食べてみたいし……」

「では決まりですね、とミサカは早速お姉様にアイスを差し出します」

言いながら、御坂妹はアイスに付属していたスプーンで自分のアイスをすくって美琴に向かって突き出した。
俗に言う『あーん』と言うやつだ。
美琴は少し逡巡したが、少し顔を赤くしながら思い切ってそれに食いつく。バニラアイスだった。

「美味しい……」

「そうでしょう。ではお姉様のも分けてください、とミサカはわくわくしながら待ちます」

「はいはい」

呆れたように返事しながら、美琴は同じように御坂妹にアイスを分けてやる。
魚が釣り針に食いつくみたいにそのスプーンに食いついた御坂妹は、美琴のチョコミントアイスをじっくり味わって食べていた。

「こちらも美味しいです。アイスとはこのように美味なものだったのですね、とミサカはこの美味しさに感動します」

「大袈裟ねえ……。確かに美味しいけどさ」

「それに、施設での栄養摂取は点滴や錠剤によって必要最低限分だけ補給する、というものだったのでこのような食事自体が新鮮なのです、
 とミサカはそもそも経口摂取による栄養補給自体がミサカにとって価値のあるものだということを説明します」

「……ふ、ふうん、そうなんだ。ねえ、ちょっと小腹も空いたしあそこでハンバーガーでも食べない?」

「食べます! とミサカは願ってもない提案に即座に食い付きます」

御坂妹はあまりにも勢い良く返事をした所為でコーンの上のアイスを落としてしまいそうになったが、ギリギリのところで踏み止まった。
それを見た美琴は現金だなあと苦笑いしながら、御坂妹を引き連れてハンバーガーショップへと向かおうとした、が。

「ようお嬢ちゃんたち、こんな時間にこんな場所で何してるんだい?」

「俺たちと遊ぼうぜ。帰りも送ってやるよ」

「いつ帰れっかは分かんねえけどなあ。ぎゃはは!」
140 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/20(土) 21:27:01.52 ID:paIcwrUo
……出た。
美琴は内心呆れながら、如何にもといった風貌の不良たちを見やる。
ここに居るのは殆どが普通の学生と言っても、それはあくまで『殆ど』であって別にまったく不良が居ないわけではないのだ。
しかもこんな時間にこんな場所で、年頃の少女が二人で遊んでいるのに絡まれない方が珍しい。

と言うか、美琴たちがこんなにこれ見よがしに常盤台の制服を着ているのに、この不良たちは気付いていないのだろうか。
常盤台中学と言えば、レベル3以上の人間でなければ入学することすら許されないという超エリート校だ。

しかも何処かの国のお姫様を不合格にしたとか、
全生徒の能力干渉レベルを総合すると生身でホワイトハウスを攻略できるとかいう伝説じみた噂まで持っている。
すると当然常盤台の学生は相当強い能力を持っていることになるわけで、つまりこの状況はどう考えても不良たちの方がピンチなのだが。

「アンタらねえ……、喧嘩する相手はちゃんと選びなさい。痛い目を見ることになるわよ?」

「ああ? ちょっと強い能力持ってるからって調子に乗ってんじゃねえぞ」

「何も考えずに常盤台の女に声を掛けるとでも思ってたのか?」

「……………?」

美琴が訝しげな顔をすると、不良が突然御坂妹に掴みかかってきた。身体強化系の能力者らしい、凄まじいスピードだ。
しかし御坂妹は自分の肩を掴もうとした不良の腕を取ると、その勢いを利用してそのまま一本背負いに繋げる。
どうやら軍用に製造されたというのは本当のようだ。物凄い勢いで地面に叩き付けられた不良は、脳震盪を起こして失神した。

「な、なんだこの女!?」

「成程、この程度なら確かにレベル3程度といったところでしょうか。
 それでもやはり常盤台中学の生徒に手を出すのは無謀と思われますが、とミサカは驕りの過ぎる不良たちに忠告します」

「う、うるせえ! おい、こっちの女からやっちまうぞ!」

男の声を皮切りにして不良たちが一斉に御坂妹に向かって能力を行使しようとしたが、その能力はひとつとして彼女に届くことはなかった。
御坂妹の前に躍り出た美琴が、その攻撃すべてを巨大な電撃で呑み込んだからだ。

「ちょろっとー、無視しないでくんない? 確かにこの子もそこそこ強いみたいだから気を取られるのも分かるけど、
 もっと気を付けるべき人間がすぐ隣にいるのに気付かないってのはどうなのよ?」

「な、なんだ今の……」

「オイ、コイツまさか常盤台の超電磁砲……」

「気付くのおっそい」

美琴が右腕を振り上げると同時、不良たちは真っ青な顔をして一目散に逃げ出した。
しかし美琴は不敵に笑うと、構わずにその手を振り下ろす。

「人の妹に手ぇ出しといて逃げられるとでも思ってんの?」

凄まじい音を発しながら迸った電撃にいとも簡単に絡め取られた不良たちは、綺麗に意識を刈り取られて地面に倒れ伏した。
それを確認した美琴は事も無げに息を吐くと、携帯電話を取り出してさっさと警備員に通報する。
141 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/20(土) 21:27:34.06 ID:paIcwrUo
「じゃ、さっさと逃げるわよ。学校外での能力使用は基本的に禁止だから、私まで事情聴取に連れてかれちゃうし」

「ミサカが不良に誘うまでもなく、お姉様はすでに不良だったのですね、とミサカは目を丸くします」

「べ、別にいつもこんなことしてるわけじゃないってば。今回は特別……」

「そんなことより、お姉様」

言葉の途中で、急に御坂妹がずいっと顔を近づけてきた。
あまりにも顔が近いので美琴は少し後ずさるが、それでも御坂妹から視線を外さずに問い返す。

「な、何よ?」

「さっきのをもう一度言ってください、とミサカはお願いします」

「へ? さっきのって何よ?」

「『人の妹に手ぇ出しといて逃げられるとでも思ってんの?』の『妹』部分を繰り返してくださると非常に嬉しいのですが、
 とミサカは引き続きお姉様にお願いします」

「うぐっ!?」

つい勢いで口走ってしまった台詞だったのだが、御坂妹は聞き逃していなかったらしい。
美琴は至近距離から目を覗き込んでくる御坂妹を見てさらに後ずさったが、そうして空いた差を埋めるように御坂妹が詰め寄って来る。
……斯くなる上は。

「な、何言ってんのよ、そんなこと言ってないわよ。気のせいじゃない?」

「いいえ、このミサカの耳は誤魔化せません。確かに言っていました、とミサカはしらを切ろうとするお姉様に更に詰め寄ります」

「そんなことより逃げないと! それにハンバーガー食べに行きたいんでしょ? ほら早く!」

「……お姉様のツンデレのツン比率の高さには困ったものです、とミサカはやれやれと首を振ります」

「なんか言った?」

「いえ何も、とミサカはお姉様に倣ってしらを切ることにします」

御坂妹は、変に焦りながら自分をハンバーガーショップに連れて行こうとしている美琴に素直についていくことにする。
まだまだ道のりは長そうですね、と御坂妹は心中で呟いた。


142 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/20(土) 21:32:41.02 ID:paIcwrUo
今回の投下はここまでです。ありがとうございました。
美琴と御坂妹のお出かけもこれでおしまいです。

あと、自分の住んでる地域では今日(明日?)も禁書を放送するので、わくわくしながら待とうと思います。
二回も見れるので得な地域です。ここに住んでて良かった。
143 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 23:36:39.92 ID:eJRhePUo

二人とも可愛くてニヤニヤしてしまう
144 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 01:15:17.73 ID:1UW.Ea.0
乙でした
御坂妹とビリビリのやり取りがいいな
145 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 21:49:21.57 ID:k0zH5DYo
かわいいなぁ
146 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/23(火) 21:24:59.60 ID:QjJiIigo
どーもこんばんは。皆さんいかがお過ごしでしょうか。
今回は繋ぎのお話なのでちょっとぐだぐだというか微妙ですが、宜しければおつきあいください。

では、投下始めます。
147 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/23(火) 21:26:22.39 ID:QjJiIigo
「……と、いうことがありました、とミサカは昨晩の出来事を振り返ります」

「良かった。あの後もちゃんと上手く行ったんだな」

最早溜まり場となりかけている第七学区のとある喫茶店で、上条と一方通行は御坂妹の結果報告を聞いていた。
意外と強情な美琴に少々不安が過ぎったりもしたが、概ね成功で終わらせることが出来たようだ。

「そう言やァ、情報のヒントってのは結局やったのか? その様子だとどさくさに紛れてスルーしても大丈夫そうだったが」

「そこはきちんと約束を守りました。
 と言っても、ほんの触りやボコって欲しい人間の名前くらいしか教えていませんが、とミサカはさらりと物騒なことを口にします」

「ああ、そうそう。それ俺も気になるから教えて欲しいんだけど……。駄目か?」

「構いませんが、そんなことを聞いてどうするつもりですか? ボコるんですか? とミサカは疑問を投げ掛けてみます」

「いや、そのボコって欲しい人間ってお前たちの製造者のことなんだろ? だから、ちょっと気になってさ」

「別に構いませんが……。アレは冴えない男ですので、恐らくあなたの想像しているような人間ではありませんよ。
 まあとにかく名前をお教えしておきますと、天井亜雄と言う男です。
 量産型能力者計画の創始者でミサカたちの人格データを作成した、言わば生みの親でしょうか、とミサカは懇切丁寧に説明します」

「何でそンな奴をボコって欲しいンだよ。恨みでもあンのか?」

「まあそんなところでしょうか。と言うか、アレをちょっと行動不能に出来れば、ミサカたちにとって少々都合が良いのですよ。
 ただ、ミサカたちを生み出してくれたことに関してはもちろん感謝していますよ、とミサカはフォローも忘れません」

「ふーん、御坂妹にも色んな事情があるんだな」

「そういうことです、とミサカは肯定します」

御坂妹は紅茶を口に運びながら、ふうっと悩ましげに息を吐く。
上条には何だかよく分からなかったが、自分たちの製造者をボコって欲しいというのだからよっぽど深い事情があるのだろう。

「そォ言えば、俺たちの扱いはどォすンだ? 流石に素直に協力者ですって言うワケには行かねェだろ」

「それについては、適当に御坂美琴の妹を名乗る人物に会って会話したとでも言っておけば良いでしょう。
 その場合、お姉様のリアクションが面白くなりそうですが、とミサカはその場面を想像してニヤニヤします」

「確かに驚くだろォな。よし、アイツが何か飲み物飲ンでる時に切り出してみっか」

「お前は鬼か! 一〇〇%咽せるだろ」

上条はそうツッコミながらも普段の仕返しがてらそうしてみるのも面白いかもしれないと思ったが、
これは正当な報復なので鬼ではない……と、願いたい。
そんな葛藤をしている上条を知ってか知らずか、一方通行は構わずに話を続ける。
148 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/23(火) 21:26:58.21 ID:QjJiIigo
「で、次はどォする? オマエはまだ物足りねェと思ってンだろ?」

「もちろんです。そして、次の目標はお姉様にミサカを妹と呼ばせることです。
 昨晩はなかなか良いところまで行ったのですが、あとちょっとのところでツンデレが発動して失敗してしまったのです、
 とミサカはお姉様の手強さを痛感します」

「でもさ、ここからはもう普通に親交を深めて行くしかないんじゃないか?」

「俺もそォ思う。流石にもォ変な小手先は必要ねェだろ。
 アイツは素直じゃねェから表に出さねェだけで、内心はちゃンと妹だと思ってはいると思うぞ。あとは言わせるだけだ」

「まあ、その『言わせる』ってのが最難関なんだけどな……」

「そこで秘策を用意して来ました。……これです、とミサカは秘密兵器をお披露目します」

そう言いながら御坂妹が得意気に取り出したのは、何かの紙切れだった。
ばしんと音を立てながら机に置かれたそれをよくよく覗き込んでみると、それは第六学区に新しく作られたという遊園地のものではないか。
上条はそれを見て目を丸くすると、感心したような声を上げる。

「へえ、凄いじゃないか。これ、人気過ぎて入手困難なことで有名なんだぞ。よく手に入れられたな」

「ミサカたちが本気を出せばこんなものです、とミサカは自らの優秀さをアピールします」

「ふゥン。そンなにすげェところなのか」

「ああ、あなたは遊園地など行ったことがないでしょうから良い機会かもしれませんね、とミサカは思わぬ巡り合わせに驚きます」

「? 良い機会ってどォいうことだ?」

「……あれ、このチケット、四人分……?」

「はい。ミサカとお姉様とあなたたちで四人です、とミサカはチケット使用者の内訳を説明します」

「え、俺たちも行くのか?」

「当然でしょう、とミサカは当たり前のことを繰り返します」

御坂妹は何を今更とでも言いたげな表情でそう言い放ったが、当然そんなことなど初耳な二人は驚いた。
一方そんな二人の表情を見て何を勘違いしたのか、御坂妹は少し不安そうな顔をする。
149 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/23(火) 21:27:40.20 ID:QjJiIigo
「嫌でしたか? とミサカは首を傾げながら問い掛けます」

「いや、そういうわけじゃないけど……、良いのか?」

「? どういう意味ですか? とミサカは更に疑問符を浮かべてみます」

「そりゃ、やっぱり姉妹水入らずの方が良いんじゃないかと」

「でしたら心配ありません。お姉様はミサカと二人きりで居るよりあなたたちも一緒に居た方がリラックスできるでしょうし、
 このミサカも一度この四人で遊びに行ってみたいと思っていましたから、とミサカはミサカの意図を説明します」

「確かにそれも策だが、あの御坂が知り合いの前でオマエのことを妹って呼べると思うか?」

「…………、なるほど。そこまで考えが及びませんでした、とミサカは己の浅はかさを後悔します」

がっくりと肩を落とす御坂妹。
上条はそんな彼女を見て困ったように頬を掻くと、言葉に気を付けながら声を掛けた。

「えーと……、じゃあどうする?」

「……いえ、やはり四人で行きたいのでこのままで行きます。
 妹と呼んでもらう、という目標は今回は見送りと言うことで諦めましょう、とミサカは苦渋の決断を下します」

「まァ、オマエが良いなら良いけどよォ……」

一方通行が呆れたようにそう言うと、御坂妹はうぎぎと変な声を出した。
どうやら本当に断腸の思いで決断したようだ。

「それと悪いんだけどさ、今週の日曜は補習があって行けないんだ。土曜日でも大丈夫か?」

「はァ? 上条オマエ、あンだけ勉強教えてやったのにまた補習なのか」

「いや、お陰様で古典とか数学とかの普通の教科は大丈夫でしたよ? でもね、記憶術(かいはつ)はどうにもならないんですよ……」

「オマエには幻想殺しがあるだろォが。それで便宜を図って貰えばイイじゃねェか」

「それが、幻想殺しはどうしても身体検査(システムスキャン)じゃ測れなくて、どうしようもないんだ」

「『原石』だって似たようなモンだろォが。オマエのソレは生まれ付きなンだから、申請すれば通るンじゃねェか?」

「上条さんの通ってるような底辺校では、そんな申請まともに取り合って貰えないんですよ……」

「あァー……、何つゥか、本当オマエって不幸だな」

「……良いんだ、別に今に始まったことじゃないから……」

つまり、上条はどう足掻いたところで記憶術の補習からは逃れられないということだ。
仮に上条に何らかの超能力が芽生えたとしても、幻想殺しが勝手にそれを消してしまうので上条は一生無能力者から脱出できないだろう。
150 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/23(火) 21:28:18.28 ID:QjJiIigo
「……。もしくは幻想殺しがそもそもそういう能力だった場合、
 多重能力者(デュアルスキル)が実現不可能な以上、他の能力に目覚めることもできないのでどちらにしろ無能力者扱いですね、
 とミサカは残酷な現実を突き付けます」

「分かってた……、分かってたけどそうもハッキリ言われるとやっぱりグサッと来る……」

「無能力者は奨学金も少ねェらしいからなァ。多分、今は俺の方がオマエより金持ってるぞ」

「げふっ、どうせ俺は貧乏学生ですよ。……あ、そう言えばお前レベル2だっけ? 結局何の能力?」

「いや、この間レベル3に上がった。集中すりゃ一部の有害物質だけじゃなくて他のものも防げる。能力の詳細は相変わらず不明だがな」

「え、レベルってそんなに簡単に上がるものなのか? うちの学校の奴らはレベルあげる努力なんかしないからよく分からないんだが」

「さァな、俺もよく知らねェ。ただ、冥土帰しは能力の使い方を忘れてるだけとか言ってたから、もともと高位能力者だったのかもな」

「高位能力者……、何だかエレガントな響き。奨学金どれくらい貰えるんだろ……」

「あなた、さっきからお金の話ばっかりしてますね。
 あなたの普段の貧乏っぷり見ているので何となく気持ちはわかりますが、とミサカは呆れながらも同情します」

別に上条が金の亡者というわけではない。ただ切実にお金がないのだ。
しかもただでさえお金がないのに立て続けに不幸が起こってせっかく買ったものをすべて台無しにしてしまったり、
銀行からお金を下ろしたばかりの財布を落として見つけた時には中身が空だったりとかがざらにあるのだ。
上条はそんな自分の不幸を思い出しながら遠い目をしていたが、ふと我に返ると思い出したようにこう言った。

「っと、悪い。話逸れたな。で、土曜日でも大丈夫か?」

「俺はいつも通り暇人だ」

「ミサカも一向に構いません。お姉様のスケジュールもその日は空いています、とミサカは何の問題も無いことを報告します」

「……どォしてオマエが御坂の予定を知ってンだ?」

「妹が姉のことを把握していて何がおかしいのですか? とミサカは予想外の質問にきょとんとします」

「…………、まあ良いんじゃないか? 仲の良い姉妹ってことで」

本当は色々プライバシーとかの問題があるが、御坂妹に何を言っても無駄だろう。
そしてまるでそれを証明するかのように、御坂妹はきょとんとした顔のまま、本当に分からないと言うように小さく首を傾げた。



―――――
151 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/23(火) 21:28:53.59 ID:QjJiIigo




「そォ言えば、この前オマエの妹に会ったぞ」

「ぶふぉっ!?」

……本当にやりやがった。
上条は、美琴が噴き出した所為で顔に掛かったヤシの実サイダーを無表情のままハンカチで拭きながらそう思った。すごいベタベタする。
ちくしょう、自分は安全なところに避難しやがって。

「げふっ、ごふっ、ちょ、ごめん、顔すごいことになってるわよ」

「知ってるよ……。そんなの俺が一番よく知ってるよ……」

「オマエの不幸はマジで折り紙つきだなァ」

「いや、これは狙ってやっただろ! 確信犯だろ!」

「何の事だか」

一方通行はそっぽを向きながらしらを切るが、いつものポーカーフェイスが普段より少し楽しそうに見えるのでわざとで間違いないだろう。
しかし御坂妹との繋がりを悟られてはいけない手前、あんまり露骨に文句が言えないのがもどかしい。

「そ、それで、い、いいい妹が何よ?」

「あァ、妹が今度四人一緒に遊園地に行こうとさ」

「!? げはっ、ごほっ!」

「だから何でそのタイミングで飲み物を口に含むんだよ! ビリビリも狙ってるの!? アレこれ四面楚歌!?」

「う、うっさいわね! ちょっと飲み物が気管に入って咽せただけでしょ! 別にあの子の発言に驚いて咽せたわけじゃないんだからね!」

(そこまでくると逆に分かりやすいわ!)

喉元まで出たツッコミを何とか飲み込んだ上条は、無言のまま更に追加で浴びせられたヤシの実サイダーを拭き続ける。
しかし、ハンカチももう使い物にならなくなってきたので今度は病室のティッシュ(もちろん一方通行のもの)を強奪した。
悪いのは一方通行なので文句は言わせないと言わんばかりの眼力だが、当の一方通行は何処吹く風だ。

「で、第六学区に新しくオープンした遊園地のチケットを手に入れたからそこに行こうって誘われた。もちろン御坂も行くだろ?」

「えっ、うう、わ、私は……」

(……やっぱりあンまし乗り気じゃねェな。まァ、確かに他人に自分のクローンの存在を知られかねないよォな真似は控えたいのが普通だな。
 ここは、御坂妹から借りた知恵を使ってみるか)

しどろもどろ状態の美琴を見ながらそう判断した一方通行は、御坂妹に言われた言葉を頭の中で反芻して間違えないように確認すると、
さも何気ない風を装ってこう言った。
152 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/23(火) 21:29:48.04 ID:QjJiIigo
「確かこの遊園地、マスコットキャラクターにゲコ太とか言うカエルを使ってるンだったか? 着ぐるみが練り歩いてるらしいぞ」

「行くわ!」

(ちょろい)

(ビリビリ、あんなカエルが好きだったのか……。女の子の趣味ってのは分からんなあ……)

ゲコ太という単語を聞くなりすぐさま力強くそう宣言した美琴を眺めながら、ひそひそ話をしている二人。
しかし、美琴が急にぐるりとこちらに向き直ったのを見て二人は素早く話を中断させる。

「で、いつ行くの?」

「急に乗り気になったな。次の土曜日だとよ」

「よし、すぐね。ふふふ……、楽しみだわ」

急に態度を豹変させた美琴が少し不気味だったが、労せずして目的を達成できたのだから安いものだ。
一方通行は知恵を授けてくれた御坂妹に感謝しながらも、オマエの姉はこんなので本当に大丈夫なのかと軽く本気で心配になった。



―――――



とある研究所。
人間が丸々入るサイズの培養器が無数に立ち並ぶこの研究所は、とある『実験』を立案し、大量の『妹達』を製造した施設だった。
すべての妹達を製造し終わった現在は、『実験』に投入されるまでの間彼女たちを生き長らえさせる為の調整が行われている。
広大な敷地を持つこの施設には、それでもスペースが足りないんじゃないかというくらい大勢の研究者たちが出入りしていた。
しかし、彼らは誰もが調子の悪そうな顔をしている。
それというのも、重要な『実験』が頓挫しかけている所為だ。良い顔が出来るはずがない。

そんな中でたった一人、けろりとした顔でデータと向き合っている女性研究者がいた。
彼女は手にした紙束に何事かを書き込みながら、鼻歌さえ歌っている。

「芳川桔梗」

と、不意に声を掛けられて、芳川桔梗というらしい女性が顔を上げる。
その視線の先には、『実験』の責任者である外人研究者とやつれた黒髪の研究者――天井亜雄を中心として、数人の研究者が立っていた。
しかし芳川はその様を見てにこりと笑うと、彼女にしてはやけに明るい調子でこう言った。

「あら、皆さんお揃いで。こんな所に何の御用かしら?」

「……あくまでしらを切るつもりですカ」

「何のこと? わたしはここで日夜『実験』の準備に勤しんでいる真面目な研究員。
 一体どんな問題があってそんな言葉を掛けられなければいけないのか、わたしにはさっぱり分からないわ」

「ふざけるな!! お前が妹達の手引きをしたことは分かっている。最終信号の居場所も知っているんだろう!!」
153 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/23(火) 21:30:27.73 ID:QjJiIigo
掠れた声になりながら怒鳴る天井を横目に見ながら、芳川はやれやれと首を振る。
そして困ったように笑いながら、ゆっくりと頬に手を当てた。
                                                                                                . . .
「と言っても、状況証拠だけでしょう? 明確な証拠も無いのに適当なことを言わないで欲しいわね。わたしはただの善良な研究員よ?」

「こ、いつ……!」

「……イエ、彼女の言う通りでス。彼女と妹達を関連付ける決定的な証拠は何もなイ。ただ、状況的に彼女が最も疑わしいというだけでス」

「理解してくれて嬉しいわ。それじゃ、わたしはまだやることがあるから」

「待て! まだ話は……!」

「ああ、そうそう。勢い余ってあの子に手を出したりしないようにね?
 わざわざ上から下された『手を出すな』っていう命令に逆らった所為で、この実験が中止になってしまったらとても残念でしょう?」

それだけ言うと、芳川はにこにこ笑いながら軽く手を振ってその研究室を後にする。
後ろの方でまだ天井が何かぶつぶつ言っていたが、彼女は意に介さなかった。
そうしてしばらく歩き続けた彼女はやがて極端に人通りの少ない廊下に出ると、そこで二人の少女に出くわした。

「あら、あなたは布束さんと……、」

「このミサカは10032号です。上位個体の世話係を仰せつかっていました、とミサカは何度目になるか分からない自己紹介をします」

「そう。ごめんなさいね、あなたとは一番付き合いが長いのに分からないなんて」

「構いません。彼でさえ、見分けることができたのはこのミサカを含めてもほんの数人のミサカだけでした、とミサカはフォローします」

「incidentally.アレは用意してもらえたのかしら?」

「ええ、もちろんよ。はいこれ」

芳川は懐から手紙を取り出すと、それを布束に手渡した。
その白い封筒は、外側からは何が入れられているのかまったく分からないようになっている。
また、封筒には宛名どころか差出人も住所も、何も書かれていなかった。
しかし布束はそれを受け取ると封筒を矯めつ眇めつし、それからそれをしっかりと鞄の中に仕舞い込む。絶対に失くしてしまわないように。

「それに必要なことは全部書いてあるわ。あとは適当な妹達にでも頼めば大丈夫。ただ、気を付けてね」

「確かにこの『実験』に関わっている人間は多いですが、それでも全てのミサカたちを完全に監視下に置けるほどではありません。
 それほど気を張らなくても大丈夫でしょう、とミサカは楽観的な見解を示します」

「……indeed.ありがとう、助かるわ。あなたも色々と大変でしょうに」

「いいえ、妹達が上手くやってくれてるから気楽なくらいよ。あの責任者と天井の悔しそうな顔ったら、本当に笑えるわ」

「あなたは本当に良い性格をしていますね、とミサカは芳川桔梗が味方であったことに感謝します」

くすくすと本当に可笑しそうに笑っている芳川を見て、布束は呆れたような顔をした。
しかし次の瞬間、芳川は唐突に笑顔を引っ込めると珍しく真剣な表情を浮かべた。
154 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/23(火) 21:31:11.96 ID:QjJiIigo
「そういえば、『アイテム』はどうしてるのかしら?」

「……彼女たちはまだ身の振り方を考えている段階のようです。当然の反応と言えるでしょう、とミサカは客観的な感想を口にします」

「そうね。……せめて、わたしたちの邪魔はしないでくれると良いんだけど」

「それこそ神のみぞ知る、ね。彼女たちもあれで暗部の人間。同じ暗部である垣根帝督や木原数多と同じ考えに至らないとも限らないわ」

「どちらにしろ、今はそっとしておいてやるべきでしょう。下手に干渉すると逆効果になる可能性があります、とミサカは危惧します」

「もちろんよ。それが彼女たちの為でもあるでしょうし、ね」

芳川はふと二人の背後へと視線を向けると、唐突に二人に背を向けて本来向かうはずの方向へと歩いて行ってしまった。
突き当りの向こうから、研究者がやってきたのだ。そしてその研究者は、もちろん彼女たちの敵だ。
御坂妹と布束は、素早く反応してくれた芳川に感謝しながらそれぞれ別の方向に向かって歩き出す。
御坂妹とすれ違ったその研究者は疑わしげな眼差しで彼女を睨んだが、御坂妹は何事もなかったかのように去っていった。



―――――



「……まさか、僕の方にまでこんな依頼が舞い込んでくるとはね?」

病院の隠し部屋でとある少女と対面していた冥土帰しは、困ったような顔をしながらそう言った。
そんな彼と対峙しているとある少女――御坂美琴、いや御坂妹とそっくりな姿をした少女は、申し訳なさそうに僅かに表情を歪める。

「無理なお願いをしているのは承知の上です。
 ですが、『患者の為ならどんなことでもする』という信条をお持ちで『外』の病院機関にも太いパイプをお持ちのあなたにしか
 お願いできないことなのです、とミサカは懇願します」

「そちらの事情は理解したよ。……だけどねえ、ふむ」

「……難しい、でしょうか。とミサカは不安そうな声を出します」

「難しくないと言えば、嘘になるね? ……けど、僕は僕の信条に背きたくはない。できる限りの努力はさせてもらうよ」

冥土帰しの言葉に、少女はぱっと表情を明るくさせる。
そして座っていた椅子からがたんと立ち上がって、勢いよく頭を下げた。
155 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/23(火) 21:31:43.20 ID:QjJiIigo
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます! とミサカは力の限り感謝の気持ちを表現します」

「いや、そこは構わないんだけどね? ……君たちは、本当にそれで良いのかな?」

喜ぶ少女とは対照的に、冥土帰しの表情は暗い。
しかし少女はそんな言葉にもまったく表情を変えることなく、嬉しそうな表情のままこう言った。

「はい。少なくともこのミサカにとってはこれが最善の道です。ですから、本当に心から感謝します、とミサカは感謝の言葉を繰り返します」

「……そうか、分かった」

「それでは、ミサカはまだやらなければいけないことがあるので失礼します、とミサカは別れの挨拶をします」

そういって少女は再び深々と頭を下げると、冥土帰しの部屋を出て行った。
冥土帰しはそれを暫らく見送っていたが、やがてのその後ろ姿が見えなくなると、珍しく本当に疲れたようなして椅子に深く腰かける。
彼はデスクに置かれたとある患者のカルテを眺めながら、固く目を閉じてそっと額に手を当てた。

「……本当に、これで良いのか?」


156 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/23(火) 21:33:47.53 ID:QjJiIigo
投下おしまい!
書き貯めが残り少なくなってきました。というかとあるゲームにはまってしまって全然書き進められませんごめんなさい。
ちょこちょこ書いてはいるんですけど……

ですが一応まだあるにはあるので、次はまた一週間以内くらいに? 三日以内かもしれません。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
157 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 22:01:07.03 ID:NFBE6aso


上条さんってそれなりに仕送り貰ってるはずなんだよね。たぶん刀夜さん高収入だろうし。
原作の上条さんが貧乏なのって上条さん自身の不幸で財布落としたりするせいもあるけど
一番の問題は某シスターが原因なんだろう
158 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 22:48:44.96 ID:RNvst6o0
美琴と一方通行が仲良くしているssは
本当にはずれが無いな
159 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/23(火) 23:13:03.39 ID:QjJiIigo
>>157
良く考えたら確かに上条さん1巻でちょっと良い料理食べてたりするのでインデックスが居なかったらそんなに貧乏じゃないのかもしれないとも思ったんですけど貧乏な方が面白いし不幸っぽいのでこのままにしておきました。我ながら酷い。
インデックスはものすごい食べるらしいですが、イギリスついてすぐの空腹だったときは上条さんも同じくらい食べてた気がするのでよく分かりません。
彼女は具体的にどれくらい食べるのだろうか。というか、そもそも上条さんは仕送りどれくらい貰ってるんでしょうかね。子供にそんな大金持たせるわけにもいかないでしょうし。
しつけの一環として限られたお金を使って生活しろって言う親も居ますしね。だけど刀夜さんはあんまり厳しくなさそうなので、そこまではしないかな。


>>158
ああああありがとうございます! 恐縮です!
この二人が仲良くしてる設定の他の方のSSは本当に素敵なんですが、ちゃんと仲良くしてるSSってなかなかないので寂しいですよね。
需要はあると思うのですが……。主に自分に。
自分は、思い余って供給に回ってみたクチです。自給自足?
みんなもどんどん書くと良いよ!
160 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 23:36:44.52 ID:NFBE6aso
上条さんは基本的に自炊してるみたいだし食費は大して掛からないんだろう本来は。
学園都市の学生の大半は補助金や奨学金で生活してるみたいだから無能力者でも普通に生活できるだけの生活費は貰えてるはず。
生活品や家賃とか激安みたいだし仕送りももらえてるなら普通は余裕の生活ができるはずだよ。

つか禁書目録なんて下手すりゃ核兵器よりも危険な人物養ってるんだから必要悪の協会も生活費くらい出してやりゃいいのに。
まぁ禁書世界の宗教団体なんてキチガイ集団だからな
161 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 23:37:20.12 ID:LoVVd9co
超電磁砲とか見るにインデックスと会う前から結構貧乏そうだけどね
あと学園都市から奨学金とか出てるから仕送りはもらってないんじゃないかな
162 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 23:55:38.34 ID:NFBE6aso
刀夜さんあの性格だから多くないにしてもそれなりに仕送りはしてると思うがなぁ
まぁ上条さん財布落としたりカード飲み込まれたりしちゃうから意味ないんだろうけど。
163 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 01:36:28.32 ID:80RDWwAO
置き去りとか考えると学園都市にお金払ってるのかな
規模が違うだけで大学と一緒だけど
164 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 01:58:01.03 ID:8PzZjTc0
確かにこの三人が仲良くしてるSSって外れたことほとんどないよね。
三人が仲良くしてるととても心地よくなる。
原作もここまでじゃなくていいから和解してほしいな。
165 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 01:58:24.59 ID:uXnJ0Z2o
学園都市にとっちゃ学生は研究材料だから入学費とかはないんじゃね?
166 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 16:50:30.27 ID:sjVq6Iwo
逆じゃね?入学費だけはあるだろ
167 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 20:46:43.24 ID:8PzZjTc0
さすがに入学費ないと困るだろww
168 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 01:25:03.77 ID:nAQdkhs0
1まだかな〜
169 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 02:31:03.27 ID:cPRQijA0
『置き去り』の定義も「入学金だけ支払った後に親にトンズラされちゃった子供」
だから、入学金はあるんじゃね?
170 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/27(土) 16:48:22.11 ID:1DNSA0ko
うおう、ちょっと見ない間に何だか議論っぽくなっている。
ちなみに入学金については、超電磁砲三巻に『置き去り』の定義として「入学費のみを支払って子供を学園都市の寮に入れ、
その後行方をくらます行為。また、そうする事で学園都市に置き去りにされた子供のことも指す」とあるので、入学費はあるようです。
学費はどうかわかりませんが、先生とかのお給料も払わないとでしょうし、流石にあるんじゃないかなあ……。
まあ、生活費と一緒にしても、奨学金で賄えるレベルでしょうが。


というわけで、今回も投下していきます。
ゲーム、やっとクリアしたと思ったらおまけのボリュームが異常。何だB99Fって。
171 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/27(土) 16:48:49.81 ID:1DNSA0ko
「おーい、こっちこっち」

第六学区の遊園地前。待ち合わせ場所であるそこに最後にやってきた美琴に向かって、上条がひらひらと手を振った。
美琴はそれを目印に駆けてくると、少し意外そうに他の三人を見回した。

「アンタたち、早いわね。私も結構早めに出たつもりだったんだけど」

「俺は不幸に遭っても遅れないように、かなり早めに出たからな。でも今日は珍しく何事もなくここに辿り着けたんだ」

「ミサカは今日が楽しみだったので少し早めに来てしまいました、とミサカは待ち切れなかった故に早く来てしまった旨を説明します」

「俺は基本的に暇人だからなァ。早くに出てこの辺ふらふらしてたら既にコイツらが居たから合流しただけだ」

美琴もかなり早めに出たつもりだったのだが、彼らはそれよりも遥かに早くここに来ていたようだ。
ともかく、もう既に全員が揃ってしまっている。が、まだ指定した集合時間の30分前。
遊園地自体は既に開場しているが、それでもまだだいぶ早い時間だ。
流石に遊園地の入り口前なので人はそこそこ多いが、まだこんな時間だからか予想していたよりもかなり空いている。

「で、これで全員だよな。一応全員顔見知りだけど、改めて自己紹介しとくか?」

「はい、そうしましょう。ではミサカから行きますね。
 ミサカはお姉様、御坂美琴の妹です。妹と呼んで下さると嬉しいです、とミサカは自己紹介をします」

「俺は一方通行。本名じゃねェが、便宜上そォいうことになってる」

「えーと、俺は上条当麻。ビリビリとは喧嘩友達って感じかな。宜しく」

「今更だと思うけど……。私は御坂美琴。常盤台の超電磁砲、超能力者の第三位よ」

「自分から言い始めておいて何ですが、本当に今更ですね。ですが、とにかく宜しくお願いします」

言いながら、御坂妹はぺこりと礼儀正しく頭を下げる。
上条もそれに答えて軽く頭を下げたり、一方通行もそれに応じたりしていたが、そんな三人を眺めながら美琴は微妙な心境になっていた。

(まったく、人の気も知らないで普通に楽しんじゃってさ。ついついゲコ太に釣られて来ちゃったけど、本当に大丈夫かしら?)

「……御坂? どォした、ぼォっとして」

「な、何でもないわ。それよりさっさと入場しちゃいましょ。今はまだ良いけど、もう少し経つと入口が混雑しちゃうわよ」

「それもそうですね、とミサカはお姉様に同意します。
 それから、こちらがチケットですので各自失くさないように所持していてください、とミサカはお願いします」

「お、ありがとう」

上条は御坂妹から遊園地のチケットを受け取ると、何となくそのチケットにプリントされているイラストを眺めてみた。
そこには、美琴がご執心しているという緑色生物が何匹も描かれている。
よく見てみれば微妙に顔や身に着けているものが違うのでそれぞれ別のキャラクターなのだろうが、上条にはさっぱりわからなかった。

当然美琴に尋ねてみれば分かるのだろうが、そうする勇気を上条は持っていない。
多分、訊いた途端にもの凄い勢いで語られる羽目になるだろう。
172 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/27(土) 16:49:27.55 ID:1DNSA0ko
「ふふふ……。ゲコ太……。ふふふ……」

「御坂が壊れた……」

「ま、まあまあ。それだけ好きってことなんだろ。そっとして置いてやれよ」

御坂妹からチケットを受け取った美琴が、上条が見ていたのと同じイラストを見ながら何だか気味の悪い笑顔を浮かべている。
こんな美琴は見たことがないが、多分それだけ好きということなのだろう。

「これで全員に行き渡りましたね。それでは入場してしまいましょう、とミサカは促します」

「そォだな。入れば御坂も少しは気が済むかも知れねェし」

「ゲコ太……、可愛い……。ふふ、ふふふ……」

「……ビリビリ、ストレス溜まってんのかなあ……」

「お姉様は常盤台中学ではアイドル扱いを受けているそうなので、普段は外面を保つ為に色々と抑圧されているのかも知れません。
 それがここに来てタガが外れてしまったのではないでしょうか? とミサカは推測してみます」

「まァ、本人は幸せそォなンだから良いンじゃねェか? コイツだって、たまにはハメを外したってバチは当たンねェだろ」

「この状態を常盤台の知り合いに見られたら一巻の終わりだろうけどな」

上条の発言にふと不安になって、三人は軽く辺りを見回してみる。
とりあえずは周囲に常盤台中学の制服を着た人間は居なかったが、この遊園地にはチケットが入手困難であるという理由上
コネや金を持った人間、つまりお嬢様のように身分の高い人や高位能力者がよく来るらしいので油断はできない。

「ま、まあ大丈夫だろ。ビリビリだってずっとこの状態のままってことはないだろうし」

「とにかく、遊園地に入って最初にしておきたいことを決めておきましょうか。お姉様は何がしたいですか? とミサカは尋ねてみます」

その言葉に、ずっとチケットのイラストに見入っていた美琴がこちらを振り返る。
彼女は今まで見たことのないくらいキラッキラした輝きをその瞳に湛えながら、高らかにこう宣言した。

「ゲコ太探し!! 絶対にゲコ太を見つけ出して記念撮影してやるわ!!」

……まあ、そう来るだろうとは思ったよ。
その時、確かに三人の心は一つになっていた。



―――――
173 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/27(土) 16:50:18.48 ID:1DNSA0ko



「ゲコ太! ゲコ太!! やっぱりすごく可愛いわ!」

遊園地に入場してからずっと血眼になってゲコ太を探し続けていた甲斐あって、遂に美琴はゲコ太との邂逅を果たしていた。
周囲には他にもゲコ太に群がっている子供たち(当然美琴より遥かに幼い)が居るのだが、美琴はまったく気にせずにはっちゃけている。
人目を憚らないというのはこのことか。
そしてそんな彼女を、他の三人は少し離れたところから眺めていた。

「まあ、他人の振りをしようにも御坂妹がいるから無理なんだけどな! どう見ても姉妹にしか見えないからな!」

「誰に向かって話し掛けてンだ? とにかく、さっさと記念撮影するぞ。そォすればアイツも満足するだろ」

「では、その辺りの人に撮影を頼んできますね、とミサカはカメラを手にちょうど良さそうな人を物色します」

「それなら俺が頼んで来るよ。御坂妹そういうの苦手そうだし。ほら、カメラ貸してくれ」

「あァ、それなら俺が撮る。貸せ」

一方通行は上条が御坂妹から借りたカメラを受け取ろうと手を伸ばしたが、上条はその手をひょいっと避けてカメラを逃がしてしまう。
上条の行動に一方通行は一瞬意味が分からないというようにきょとんとした顔をしたが、
やがてそれを遊ばれていると受け取ったらしい彼はぎろりと上条を睨みつける。しかし一方の上条は、至極真面目な顔でこう言った。

「いや駄目だろ。こういうのは全員で映らないと」

「はァ? いや、俺はこォいうのは……」

「ミサカも全員映ってる写真の方が良いと思います、とミサカは上条当麻に同意します」

再びカメラに向かって手を伸ばそうとした一方通行の前に、今度は御坂妹が割り込んでくる。
それを見た一方通行は、伸ばしていた手を引っ込めると小さくため息をついた。

「何なンだその拘りは。一人ぐらい映ってなくてもイイじゃねェか」

「駄目だ。やっぱりこういうのは来た全員で撮らないと、後で皆でアルバムを見直した時に寂しい思いをすることになるんだぞ?」

「……アルバムなンか、見ねェよ。イイから貸せ」

「駄目です。全員で撮るのです、とミサカは強硬に主張します」

「あ、すみませーん! 写真撮ってもらえますかー?」

流石に二人掛かりで来られてしまったら、松葉杖を突いている一方通行には太刀打ちできない。
彼はそれで漸く観念してくれたのか、嫌そうにしながらも道行く通行人に写真を頼みに行く上条を黙って見送っていた。
暫くして適当な通行人を連れてきた上条は、カメラの使い方を一通り説明すると戻ってくる。
174 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/27(土) 16:50:59.92 ID:1DNSA0ko
「おーいビリビリ。写真撮るから戻って来い、色んな意味で」

「……はっ! そうだったわ、記念写真を取らないと! 私としたことが迂闊だったわ!」

「はいはい、並びますよ。あ、そこ入らないのでもうちょっと詰めて下さい、とミサカは撮影の準備を促します」

「ほら、折角の記念写真なんだから一方通行も笑いなさいよ」

「いやそれはやめた方が良いと思う」

「……悪かったな。仏頂面で」

「そろそろ撮りますよ。カメラの方をちゃんと見てください、とミサカはカメラ目線を指示します」

「すみません、もう大丈夫ですよー! お願いします!」

美琴が手を振りながら合図を出すと、撮影を引き受けてくれた人の掛け声とともにシャッターが押された。
すぐに美琴がカメラの確認をしに行って、その出来に満足したらしい彼女は上条たちに向かって手でOKの合図をする。

一方、御坂妹は撮影が終わって去って行くゲコ太に向かってずっと手を振っていた。どうやら御坂妹もあれを可愛いと思っているらしい。
美琴は上条と一緒に撮影してくれた人にお礼を言うと、再びカメラの確認をしながら満足そうな顔で戻ってきた。

「うんうん、良い出来。あの人なかなか腕が良いわね」

「満足してくれたか?」

「もちろんよ。それじゃ、一番最初に私の目的に付き合わせちゃったんだから、次はアンタたちの行きたいとこに付き合うわよ。
 何処行きたい?」

「それなら、ミサカはジェットコースターに乗ってみたいです。とにかくすごく早くて怖いのが良いです、とミサカは希望を述べます」

「初めてなのにそんなのに乗って大丈夫なのか?」

「初めてだからこそ一番すごいものに乗ってみたいのです。やはり初体験は面白くなくては、とミサカは意気込みます」

「とにかく、ジェットコースターね。私も一度は乗っておきたいと思ってたし、ちょうど良いわ。
 ゲコ太探しの為に地図は完全に頭に入れてあるから場所も分かるし……。そうね、一番大きいジェットコースターはあっちかしら。
 ほら、ここからも見えるでしょ?」

そうして美琴が指差したのは、だいぶ遠いところにあるにもかかわらず確かにその巨大な姿を確認できるジェットコースターだった。
流石にここまでは悲鳴は聞こえてこないが、間違いなく近くに行けば阿鼻叫喚のごとき絶叫が聞こえてくるだろう。
小さな頃にジェットコースターに乗ったきりトラウマになっている上条は顔を青くさせたが、年下の女の子が二人もいる手前、弱腰になれない。
その一方で、その姿を見た御坂妹はほんの少しだけ楽しそうな雰囲気を滲ませていた。いつも無表情なのに。
175 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/27(土) 16:52:12.01 ID:1DNSA0ko
「あれならば確かに期待できそうです、とミサカは無い胸を期待に膨らませます」

「無い胸とか言うな。悲しくなるわ」

「……オイ、上条。何か顔色悪ィぞ。大丈夫か?」

「だ、大丈夫だ。……そう言えば一方通行もジェットコースター初めてだよな? 大丈夫そうか?」

「? あァ、見た感じは大丈夫そォだ」

「そうか……。はあ」

上条が溜め息をつくと、一方通行は不思議そうに首を傾げた。何とか理由は悟られずに済んだようだ。
そして彼らは引き続きはしゃいでいる美琴と御坂妹に連れられて、ジェットコースターのあるエリアへと歩いて行った。



―――――



「うぷ……。やっぱり見栄張らずに辞めておけばよかった……」

「何か様子がおかしいと思ったら、オマエジェットコースター苦手だったのかよ。素直に言っておけば良いものを」

「いやでも楽しそうなビリビリと御坂妹を見てたら空気読もうかなって……」

「もう一回乗ってみたいです、とミサカは構わずに己の欲望を曝け出します」

「いやいや、ちょっとは遠慮してあげなさいよ。ほら、飲み物買ってきたわよ。飲みなさい」

少し離れた屋台からコールドドリンクを買ってきてくれた美琴が、そのうちの一つを上条に向かって差し出した。
上条はそれを受け取って一口飲んだが、むしろ逆効果だったのか一瞬ドリンクを戻しそうになりながらも何とか飲み込んだ。

「うえ……、悪いなビリビリ……」

「だからそのビリビリっての辞めなさいって言ってんでしょうが」

流石に電撃は来なかったが、代わりに額をぱしんと軽く叩かれた。
大して痛くもなかったが上条は額を抑えると、いつもこのくらい優しかったらいいのに、などと思った。
176 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/27(土) 16:53:40.27 ID:1DNSA0ko
「でも、これからどうしようかしら。コイツがコレじゃ乗り物に乗るのは難しいだろうし」

「あなたは何かリクエストはありますか、とミサカは問い掛けてみます」

「俺か? 俺は……、特にねェ……、な」

「言いながら凄いチラッチラジェットコースター見てますが、やっぱりあなたももう一度乗りたいのですか?
 とミサカはちょっと期待してみます」

「分かりやすすぎるわよアンタ」

「あー……、乗りたいんだったら乗ってきて良いぞ。俺はここで待ってるから」

「まあ、確かに休憩がてらそうするのも良いかもしれないわね」

それで意見が一致しかけた時、突然御坂妹が何か思いついたというようにぽんと手を叩いた。
その音に全員の視線が集まると、御坂妹は人差し指を立てながらこう提案する。

「ならば二手に分かれませんか? お姉様もここで休憩していたいですよね? とミサカは名案を口にします」

「へ? ああ、私は別にまた乗りたいわけじゃないから良いけど……、あれ?」

「ならば二手に分かれましょう。あ、勝手にどこかに行ってしまっても一向に構いませんから。
 それでは乗り終わったら携帯電話で連絡しますので、とミサカは言い逃げとばかりに一方通行の手を引いて猛ダッシュします!」

「ちょ、オイコラ待てこっちは杖突いてンだぞ加減しろォ!」

半ば引き摺られるようにして去って行く一方通行を見送りながら、しかし美琴は未だかつて無いほどの緊張状態に見舞われていた。
いつも無表情なくせに、やたらとニヤニヤしていた御坂妹の顔が思い出される。

(あ、あの子どういうつもりなの!? これって、これって……)

「オイビリビリ、どうした? お前もなんか顔赤いぞ。実はジェットコースター駄目だったか?」

「そそそそっそそんな訳ないじゃないばっかじゃないの!? アンタは黙って休憩してれば良いの!」

「そ、そうか? なら良いんだけど……。でもやっぱりちょっと顔が赤い気が」

「気のせいよ気のせい! ほらコレさっさと飲み干せ!」

「うぶっ、なんかまた厳しくなってる気がする……。不幸だ……」

上条は自由な体制で休むために一旦美琴に預けていたドリンクのコップを再び受け取ると、言われたとおりにそれを飲み始めた。
その一方で美琴は、上条から思いっ切り顔を逸らして何とかして熱くなってしまった顔を冷まそうと努力していた。

(遊園地でコイツと二人きりってまるで、で、デー……、いやこれは偶然こうなっただけであって別にそういう意図があったわけじゃ……)

「おーいビリビリー、飲み終わったぞ。気分もだいぶ良くなってきたし、どっか行くかー?」

空になったコップをベンチの隣に置いてあったごみ箱に捨てながら言ったが、美琴から反応がない。
上条はやはり気分が悪いんじゃないかと思って美琴に呼び掛ける為にその肩にぽんと手を置いた、その瞬間。
177 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/27(土) 16:54:26.32 ID:1DNSA0ko
「ふにゃああああ!?」

「うおおおお!? どうした突然そんな変な奇声を発して! やっぱりお前おかしいぞ!」

「だっ、だから何でもないって言ってんでしょしつこいわね!」

「本当か? さっきよりも顔が赤い気が……」

「うっさい! ほらあの子たちが戻ってくるまで何処か行くんでしょ? あそこにしましょ!」

そう言って美琴が指差したのは、巨大な鏡の館のようだった。学園都市の技術によって更に複雑化されているらしい迷路だ。
上条は突然怒り出した(ように見えているらしい)美琴を見ながら溜め息をつくと、ベンチから立ち上がりながらこう言った。

「はいはい。お供しますよお姫様」

「お、お姫さっ……!? な、なに恥ずかしいこと言ってんのよ馬鹿!!」

上条としては何気なく言った台詞のつもりだったが、美琴は途端に顔を真っ赤にさせる。
しかし上条はそれを悟る間もなく美琴のグーパンチで吹き飛ばされ、日差しの所為で熱くなった地面に寝転がる羽目になった。

「やっぱり不幸だ……」



―――――



「良かったのか?」

「何がですか? とミサカはちょこんと首を傾げてみます」

「上条と御坂のことに決まってンだろ。オマエ、御坂と一緒に遊ぶ為にここに来たンじゃなかったのか?」

ジェットコースターの列に並びながら、一方通行は呆れたようにそう言った。
しかし御坂妹は、一方通行の予想に反してニヤリと悪い顔をする。
178 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/27(土) 16:55:11.21 ID:1DNSA0ko
「そのことですか。先程も言いましたがミサカはお姉様に楽しんでいただければそれで良いですし、
 むしろ先程のアレはミサカの好感度アップの為に上条当麻を利用してしまって少々申し訳ないと思っているくらいです、
 とミサカはアレが計画的犯行であることを明かします」

「好感度アップ、ねェ……。アレで本当にそォなると思うか?」

「と、言いますと? とミサカは一方通行の意図を測りかねます」

「御坂は恐ろしいことにあれで自覚がねェみてェだし、上条はマジで救いよォのねェレベルで鈍感だ。
 そンな奴らを二人っきりにしたところで何か進展があると思うか?」

「……そう言われると厳しいかもしれません、とミサカは自信を喪失します」

「せめてあと1ミリでも良いから御坂に積極性があれば、あるいは上条に甲斐性があればなァ……」

「今頃お姉様たちはどうなっているでしょうか、とミサカは今更ながら二人を心配します」

「……九割方、上条が不用意な発言をして御坂が真っ赤になり上条がぶっ飛ばされる、の繰り返しだろうな」

「お姉様の許容量を突破して最後の『ぶっ飛ばされる』プロセスが無くなればまだ希望はあるのですが、とミサカは遠い目をします」

「さて、俺たちが帰るまでに上条が生きてると良いンだが」

まるで他人事のように一方通行がそう言うと、ジェットコースターの係員が並んでいる客たちに順番が来たことを知らせに来た。
その指示に従って歩き始めながら、御坂妹は無表情の中にほんの少しだけ楽しそうな雰囲気を浮かべる。
よっぽどジェットコースターが気に入ったようだ。

「ところで、何回くらい乗るおつもりですか? とミサカは質問します」

「……さァな。飽きるまでじゃねェの?」

「そうですか。ミサカもそのつもりでした、とミサカは同意見であったことに喜びます」


179 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/27(土) 16:56:32.58 ID:1DNSA0ko
投下おしまい。お疲れ様でした。
ともあれ次回は中二病回です。書いてるときは楽しかったんですけど後から「これ投下するのか……」と思いながら修正してると
異常に恥ずかしい気持ちに襲われます。でも必要な展開だから仕方ない……仕方ない……

というわけで、次回からようやく横道から本編に戻ってきます。長かった……。
次回はどんなに遅くても一週間以内には。早ければ三日以内です。
では、付き合って下さってありがとうございました。
180 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 17:02:22.08 ID:37lpDzMo
過去見た妹達の中で一番可愛いかもしれない
181 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/27(土) 17:07:46.83 ID:1DNSA0ko
おうふ。テレビ見ながら修正した所為で変なところがある……。すみません。
>>176を修正。

×上条は自由な体制で休むために一旦美琴に預けていたドリンクのコップを再び受け取ると、言われたとおりにそれを飲み始めた。
○上条は自由な体勢で休むために一旦美琴に預けていたドリンクのコップを口に押し付けられると、のろのろとそれを受け取って言われたとおりにそれを飲み始める。

しかも誤字……。
何のために修正してるんだ自分は。あほか。
182 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/27(土) 17:11:43.74 ID:1DNSA0ko
>>180
早くてびっくりです。本当にありがとうございます。彼女は10032号です。なんか他SSの見過ぎでキャラが崩れてる気がしてなりませんが!
それにしても、ちゃんと姉妹やってる美琴と御坂妹って少ない気がするんです。可愛いのに。皆も書けばいいのに。
183 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 18:03:28.89 ID:e3ukz.s0

本編が気になってしょうがない
次も期待してます

>>180
俺の14510号をディスってんのかコラ
184 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 19:46:02.23 ID:zXpua.DO
上条さんビリビリって言い過ぎだって思ったけど、そういや記憶失ってないんだったな
185 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 20:02:15.64 ID:nAQdkhs0
おっつおっつ
乙!

186 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/30(火) 20:44:29.24 ID:wmHevFEo
>>184
そうです。この上条さんは記憶喪失になってないので、美琴のことをビリビリもしくは二人称代名詞でしか呼びません。
……あれ、初代上条さんって美琴のこと名前で呼んだことないですよね?
もし名前で呼んだことがあったらごめんなさい。でもビリビリもビリビリで可愛いと思うんだ。


というわけで、どうもこんばんは。本日も投下のお時間です。
ですが、今回はちょっと気を付けて頂きたいことがあります。ちょっとグロいというか、痛いです。苦手な人はご注意を。
もし本当に駄目な人などいらっしゃいましたら、その旨をレスしていただければ簡易あらすじを投下します。
一応用意はしてあって投下後に追記的に落そうかと思ったのですが、出来があまりにもアレだったので希望があればということで。
まあ、禁書を読んでいる方なら大丈夫だと思いますが……。

それでは長々と失礼いたしました。
投下して行きます。
187 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/30(火) 20:46:10.76 ID:wmHevFEo
鏡の館内部。凄まじい応酬の末になんとかここまでやって来ることの出来た上条と美琴は、さっそく鏡の迷路に翻弄されていた。
あちらこちらに自分の姿が映っている、などというレベルを遥かに超越している。
実に三百六十度すべてに自分たちの姿が映っているように見えるので、どちらに行けば先に行けるのかが皆目見当もつかないのだ。

「すっげえな。もう何処から入ってきたのかもよく分かんねえぞ」

「ふふん、アンタはまだまだね。
 私なんか電磁波で障害物の有無を把握できるから、自分たちが何処から来て何処へ行けば良いのかちゃーんと分かってるわよ?」

「へ? あ、ちょっと待てビリビリ!」

上条の制止も聞かずにずんずんと進んで行こうとした美琴は、そのままの勢いで思いっ切り鏡に額をぶつけてしまった。
上条はその反動で後ろに倒れそうになった美琴を受け止めると、心配そうな顔をしながら彼女の顔を覗き込む。

「……お前な、ちゃんと入口の説明読んだか?
 簡易AIMジャマーみたいなものでAIM拡散力場も乱反射してるから、そういうのはあてにならないんだって」

「うっ、ううううううるさい! 良いからさっさと放してよ!」

「っと、ごめんごめん。つーかすごい音したけど、タンコブとかできてないか?」

「ふにゃっ!?」

美琴が暴れるので上条はすぐに彼女の体を解放したが、すかさずその額にそっと手を当てて顔を近づけてきた。
額にある冷たい手の感触とすぐ近くにある上条の顔を見て美琴は顔を真っ赤にさせたが、
幸か不幸かタンコブ探しに集中しているらしい上条がそれに気付くことはなかった。

(う、ぐぐぐぐぐ……。こんなAIM拡散力場を乱反射してるようなところで電撃を飛ばしたらどうなるか分からない……。
 だから私がされるがままになってるのは自分が怪我をしない為であって、別にずっとこのままでいたいとかじゃ無いんだから! うん!)

「うん、タンコブは無さそうだな。良かった良かった。他に痛いところとかないか?」

「だから大丈夫だって言ってんでしょ! それに大して痛くもなかったんだから!」

「本当ぐわっ!?」

美琴の額から手を引いて屈んでいた身体を起こそうとした途端、上条はごつんと勢いよく天井に頭をぶつけてしまった。
どうやら、ちょうど天井が低くなっているところだったようだ。
上条はぶつけたところを擦りながら起き上がり直すと、ふと頭がそこまで痛くないことに気が付いた。

「あれ、本当にあんまり痛くないな。なんだこれ?」

「ちょっと触ってみたけど、鏡なのに柔らかめの素材で出来てるみたいね。もしかしたら鏡じゃないのかしら」

「へー、不思議だな。学園都市の技術って本当に進んでるんだ」

「当然でしょ、学園都市は『外』と三〇年くらい技術レベルの差があるんだから。
 普段私たちの目の届く場所には超能力や掃除ロボくらいしか『外』との技術レベルの差を表すものがないから分かりにくいかもしれないけど、
 この学園都市にはもっと凄い技術がごろごろしてるんだから。ま、私たちに見えないところでしか使われてないだろうけどね」
188 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/30(火) 20:47:27.59 ID:wmHevFEo
「ふーん、そんなもんなのか。詳しいな」

「仮にも超能力者の第三位なんだから、それくらい当たり前でしょ。それにあの子だって……」

「ん? どうかしたか?」

「なっ、なんでもない! ほら早く行くわよ! ……ってきゃあっ!」

言ってるそばから、美琴はまた鏡にぶつかってしまった。
確かに鏡は柔らかめにできていると言っても思いっ切りぶつかればそこそこ痛いし、下手をしたら先程の美琴のように転ぶこともありうる。
慣れたからか今回は転びそうにはならなかった美琴だが、なんだか異常に腹立たしい気持ちになった。

「ありゃりゃ、これは慎重になった方が良さそうだな。壁に手を付きながら行こうぜ」

「なにそれ? 確かにそれなら鏡にぶつかることは無いかもしれないけど、いつまで経っても外には出れないわよ」

「いやいや、そういう裏技があるんだよ。ちょっと時間は掛かるけど確実だ。やってみろって」

「……まあ、アンタがそこまで言うなら仕方ないわね。私ももう鏡にぶつかるのはごめんだし」

ぶつけた頭を擦りながら、上条に倣ってもう片方の手で鏡に手を付いてみる美琴。
二人は片手を付きながら、地道に鏡の館を攻略していくことにした。



―――――



「ふう、満足しました。とミサカは満ち足りた顔をします」

「結局何回乗ったンだろォなァ」

数えるのも億劫になるくらいの回数ジェットコースターに乗って、漸く二人は満足したらしい。
一方通行は目立つ髪と目の色を隠すためにキャップ帽を目深に被っているのだが、それでも係員に顔を覚えられていそうなほどの回数なのだから相当だ。
恐らく御坂妹の顔は確実に覚えてしまっただろう係員に見送られながらその場を去り、先程まで上条たちが休んでいた場所へとやって来る。
しかし、当然そこには二人の姿はなかった。

「あいつらは流石にどっか行っちまったみてェだな。とりあえずメール入れとくか」

「……お腹が空きました、とミサカは空腹を訴えます」

「あァ、そォ言えばもォこンな時間か。どっか適当なレストランでも見つけてあいつらを待ってた方が良いな」

くいくいと服の裾を引っ張ってくる御坂妹に促されて時刻を確認してみれば、確かにそろそろ昼食にしても良さそうな時間になっていた。
一方通行は軽く辺りを見回すと、そうして見つけた食堂を指さしながら御坂妹の肩を叩く。

「あそこならちょうど良いだろ。……ン、どォした?」

「な、何だか今更気分が悪くなってきました、とミサカは……うえっぷ」
189 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/30(火) 20:48:05.44 ID:wmHevFEo
見やれば、御坂妹は先程の上条なんか目じゃないくらい真っ青な顔をして口を抑えていた。
一方通行はそんな彼女の背中を擦ってやりながら、何となく原因に思い当たって呆れたような顔をする。

「……オマエ、そォ言えば調整を続けねェと生きていけねェよォな身体してンだろ? やっぱ連続ジェットコースターは無理があったのか」

「ミサカたちは軍用クローンです、そんなことあるはずが……、うえ。
 済みません一方通行、やっぱり肩を貸してもらえますか? とミサカは切実にお願いします」

「ほらよ。掴まれ」

一方通行は御坂妹に肩を貸してやるが、彼も彼で杖突きなので、肩を貸してやるのはだいぶ辛そうだ。
御坂妹は一方通行に体重を預けながら、自分で自分の胸を擦って何とか気分を落ち着かせようと努力する。

「少し休憩すれば大丈夫だと思います、とミサカは力なく返事をします……」

「無理してわざわざ長く喋ろうとすンな。すぐそこだからちょっと我慢しろよ」

「杖を突いているのに申し訳ありません、とミサカは一方通行に謝罪します」

「良いから気にすンな。ほら、行くぞ」

一方通行は御坂妹の体重を支えながら、杖を突いているにしては素早く目的地へと向かって歩いていく。
歩いている最中も、御坂妹の顔色は悪くなる一方だった。



―――――



それなりの時間をかけて二人は漸く食堂に辿り着くと、一方通行はすかさず空いている席に御坂妹を座らせた。
椅子に座らせた途端、御坂妹はぐったりとして机に突っ伏する。相当辛そうだ。

「オイ、本当に大丈夫か?」

「うぅ……、認めたくはありませんが、やはりジェットコースターに乗ったことによる重度の乗り物酔いのようなものだと思いますので、
 やはりしばらく休ませて頂ければ問題ないかと、とミサカは私見を述べます……」

「ほらよ、水持ってきたぞ。飲めるか?」

「ありがとうございます……」

一方通行はセルフサービスの水を御坂妹に差し出してやりながら、自分も杖を置いて御坂妹の向かいの席に座った。
彼は特に彼女のような症状は出ていないが、彼女をここまで運んでくるのに少々体力を使ってしまったようだ。少し疲れた顔をしている。

「ぷは、少し楽になったような気がします、とミサカは一方通行に感謝します」

「回復するまでもォちょっとそこでそォしてろ。……そォだ、体力をつけておいた方がイイな。なンか食べれるか?」

「それではアイスクリームのようなものをお願いします、とミサカは注文します」
190 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/30(火) 20:49:14.41 ID:wmHevFEo
「了解。じゃあそこで待ってろ」

御坂妹は机に突っ伏しているせいで横倒しになっている視界の中で、じっと去って行く一方通行を眺めていた。
やがてその姿が人混みの向こうに消えてしまうと、御坂妹はコップの方を見ないままに手を伸ばして一方通行の分の水も飲み干してしまう。
一方通行は水に口を付けていなかったし、割りと切実に水が欲しかったので見逃してくれるだろう、と思いながら。

(……彼にはああ言ったものの、だいぶ辛いですね、とミサカは本音を吐露します)

水を飲むことで少しは気分が良くなったのは本当のことだが、それも本当に少しだけだ。
とにかく体が熱くて仕方がなかったので、冷たいものが欲しかった。
あまりにも熱いので自分でセルフサービスの水を取りに行こうかとも思ったが、足に上手く力が入らないのでそうすることもできない。

(うう、早く帰ってきてください、とミサカは祈ることしかできません……)

御坂妹は腕の中に顔をうずめてぎゅっと目を閉じる。そうすれば、少しは状態の悪化を留めていられる気がした。
しばらくそうやって待っていると、目の前の席の椅子ががたんと音を立てたのが聞こえた。
一方通行が帰ってきたのだと思って、御坂妹は嬉々として顔を上げる。

「……え?」

しかし、御坂妹の目の前に座っていたのは見知らぬ男だった。
夏が近いこの季節に肌を一切見せないような服を着込み、一方通行と同じくらい目深に帽子を被り、口元は布のようなもので隠されている。
いつもの御坂妹だったなら、即座に不審者と判断して退治することができただろう。
けれど、今の彼女は極端に弱ってしまっていた。だから判断が遅れてしまい、先手を打つことができなかった。

「大人しくしろ。殺すぞ」

流石にこれで、御坂妹は目の前にいるこの男がどのような人間なのかを理解した。
御坂妹は行動を起こそうとしたが、無駄だった。遅すぎたし、そんな余力も無かったからだ。額に銃口が当てられるが、何もできない。

(……いずれ、彼が戻ってきます。どうすれば……)

しかしその時、すぐそばで女性の悲鳴が上がった。どうやら御坂妹に突き付けられている拳銃を目にしてしまったようだ。
その悲鳴を皮切りに、店内が恐慌状態に陥る。
恐怖は人々に波及し、あちこちから悲鳴やこの場から逃げようと足掻く音が聞こえてきた。

「チッ、しくったか」

しくったも何もない。こんなところで堂々と拳銃など見せびらかせば、こうなるのは当然だ。普通は布などで隠しながら使用する。
よって御坂妹は、この男は素人だと判断した。
そもそもこの学園都市で、拳銃一丁でいったい何ができるというのだろうか。
こんなことをすれば即座に警備員か風紀委員が飛んできて、最新式の兵器か超能力によって撃退されてしまうのが関の山だというのに。
実際、この程度ならいつもの御坂妹でも十分退治可能だった。

「オイッ、こっち来い!」

「……ッ!」

男が御坂妹の腕を強引に引っ張り、何処かにか連れて行こうとする。
満足に自分の足で立つこともできない御坂妹はふらついて転びそうになるが、更に強く腕を引かれて無理矢理立たされた。
瞬間、脱臼したのではないかという程の痛みが御坂妹に襲い掛かる。
191 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/30(火) 20:50:27.23 ID:wmHevFEo
「オラ、さっさと歩……ぶッ!?」

途端、飛んできた硝子の器が男の顔面に直撃する。相当の勢いだったのか、器に盛られた白いアイスクリームの隙間から血が流れていた。
御坂妹はその隙をついて男の手を振り払い、言うことを聞かない身体に鞭打って何とか人の多いところへと逃げる。
その途中、彼女は誰かとすれ違った。ほんの一瞬のことだったが、御坂妹にはそれが白い影に見えた。

そして、今度はドゴンという肉を打つ音が響き渡る。
悲鳴や音であれだけ騒がしかった店内が、一瞬にして静まり返った。それ程に重く鈍く、痛そうな音だったからだ。
何とかして人の多いところに逃げ込み、店員に保護してもらった御坂妹は音の源を振り返る。
そこには、キャップ帽を目深に被った華奢な少年が立っていた。その足元ではあの男が、血の泡を吹きながら倒れている。

「下らねェ真似してくれてンじゃねェぞ。クソ野郎」

言いながら、一方通行は地面に転がっている男の頭を蹴った。
一体どれほどの力を込めて蹴っているのか、その一回だけで男の頭から血が流れる。
しかしその時、複数の場所でガチャリという金属音がした。店内が静かだったのが幸いし、一方通行はそれにすぐに気付くことができた。

「……何だよ、仲間がいたのか。面倒くせェ」

複数の人間に銃口を向けられて尚、一方通行は動じない。
それどころか相手が何らかのアクションを起こすよりも早く行動し、一番近くにいた男に一瞬で肉薄した。

「こ、いつ、身体強化系の能力者……ッ!」

「遅ェし違ェ」

言い終わるが早いか、一方通行は男の手を蹴り上げて拳銃を弾き飛ばす。
一方通行は宙に舞った拳銃を見事にキャッチすると、その手で更に男の顔面を殴りつける。少々危険なメリケンサック代わりだ。

「一方通行ッ!」

背後で御坂妹の叫び声が響いた。
見やれば、彼女を保護していた店員を殴り倒したらしい男が御坂妹を捕まえて、その首に銃口を押し付けていた。
振り返りざま、一方通行は躊躇わずに、

撃った。

「ぎゃああああ!!」

男の右肩から血が噴き出すと、御坂妹は反対の腕に噛み付いて拘束を解き、更に拳銃を叩き落としてから一方通行に駆け寄った。
一方通行は倒れ込むように寄りかかってきた彼女を受け止める。
けれど一方通行は、頭の中では至極冷静に物事を処理しながら心の奥では驚いていた。

いくら自分の命が危険に晒されているとは言え、御坂妹が危なかったとは言え、
普通の人間はこんなにも躊躇いなく、こんなにも簡単に、自分と同じ人間に対して引き金を引けるものなのだろうか。
……今の自分は、奴らを殺すことさえ辞さなくはなかったか?

「ッの、野郎!」

物音がしたので背後を振り返ってみれば、そこには一方通行に向かってナイフを振り下ろそうとしている男の姿。
どうやら流石に拳銃の数には限りがあるようだ。
192 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/30(火) 20:51:30.31 ID:wmHevFEo
しかし一方通行はニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、迷うことなく再びその引き金を引いた。
今度は、二回。

銃声が轟き、男の身体が地面に転がる。ナイフを地面に取り落とし、両手首を抑えて無様にのた打ち回っていた。
しかし、一方通行は構わずに穴の開いた手首を踏みつけて男の動きを止める。悲痛な声が響いた。
彼はそのままもう片方の足で無防備になった男の鳩尾を踏み潰した。ぐえっとカエルを潰した時のような声を発し、男は気絶する。

男の身体から足を退ければ、鳩尾を踏む為に体重の支点にしていた、手首を踏んでいた方の足の靴裏からぐちゃりという音がした。
夥しい血がこびり付いている。
何処かから誰かのすすり泣く声が聞こえてきた。
うるさいな、と思う。

「……しつけェな」

やっと片付けたと思ったら、また新手が湧き出てきた。しかも、拳銃を持っているのがまだ何人かいる。出し惜しみでもしていたのだろうか。
けれど、と一方通行はまた嘲った。
ここまでやられておいて、全員が全員一方通行に銃口を向けているだけなのだ。引き金を引こうとする指ががたがたと震えている。

しかし、彼は気付いただろうか。
彼らがあんなにも怯えているのは人間に対して銃口を向けているからではなく、自分に対する恐怖が原因であるということに。

「うわあああああ!!」

その中で、パニックを起こしたらしい男が二人に向かって銃を乱射してきた。
一方通行は瞬時に銃弾の当たらない位置を演算すると即座に御坂妹を伏せさせ、自らは前へと躍り出る。

(銃弾は速度が速いし、威力も大きすぎる。俺の能力じゃ防げるか怪しい。試すにしても、あまりにも当たった時のリスクが高い)

「なッ、銃弾を、よ、避け」

「遅ェっつってンだろォが。このノロマ」

しかし、一方通行の手が男に届くよりも男が引き金を引く方が僅かに早い。
男の方もその考えに至ったのか、恐怖と歓喜が入り混じった奇妙な笑みを浮かべながら銃の照準を一方通行に向ける。
けれど一方通行は臆しない。

「よく考えてねェのはオマエの方だ」

一方通行の手には、銀色の松葉杖があった。そして男は、既にその間合いに入ってしまっている。
男が冷静で、即座に引き金を引ける状況だったなら、また結果は違っただろう。
しかし一方通行の手にあるその武器を見て、男は完全に落ち着きを失ってしまった。

罵声と共に、一方通行は男の顎を松葉杖で思いっ切り打ち上げる。血飛沫といくつかの歯が舞い飛ぶ。
一方通行はその一撃で男の意識を完全に刈り取り、次の敵へと向かおうとした、が。
突然その首に腕を回されて拘束された。まだ隠れている仲間がいたのだ。男は素手だが、凄まじい力で一方通行を締め上げる。

「お前も道連れにしてやる……!」

一方通行は最初、この男は武器を持っていないと思った。しかし違った。男は立派な武器を持っていた。
そして理解した。こいつらがどのような目的を持ってここを襲った人間なのか。
193 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/30(火) 20:52:16.27 ID:wmHevFEo
(爆弾……! コイツ、テロリストか!)

一瞬服の隙間から爆薬が見えただけだが、よくよく見ればこの男の服はあちらこちらが不自然に膨らんでいる。
一体、どれだけの爆薬を詰め込んでいるのだろうか。
一方通行は危険を感じて力づくで男の拘束から脱しようと試みるが、どうやらこの男は本物の身体強化系の能力者のようだ。
身体強化が本領ではない上にレベル3程度の一方通行の能力では、とてもではないが振り払えない。拳銃を持った手も拘束されている。

男が狂気じみた笑い声を上げながら、ライターの火を点ける。
最早ここまでか、と一方通行が諦めかけたその時、何かが光ったと思ったら唐突に腕の拘束が解かれた。
詰まっていた息が急に解放された所為で、一方通行は激しく咳き込んでしまう。

「ちょっと、大丈夫!?」

「うげっ、何かここもすごいことになってるぞ」

美琴と上条が遅れてやってきた。先程の光は、美琴が電撃を放った時に発されたものだったらしい。
見事に男にだけ電撃を的中させ、昏倒させてくれたのだ。ここに来る前に上条に送ったメールが幸いした。

「ったく、ここに来るまでに何人相手にしたと思ってんのよ! それとアンタは今度こそそこで大人しくしてなさい!」

「わ、分かってるっての!」

美琴は上条に向かって苛立ち交じりに叫びながら、無数の雷撃を発する。
彼女は、軽く腕を振っただけだった。しかしその雷撃は的確にテロリストたちを貫き、あっという間に全滅させてしまう。

「ふん、口ほどにもない……」

電撃の余波を手のひらに収束させながら、美琴が詰まらなそうにそう言った。
しかしその時、美琴の電撃によって倒れていたはずの男が突然立ち上がり、すぐ傍に座り込んでいた御坂妹に銃口を向ける。
男の目は狂気に満ちていた。躊躇いは無い。

「ッ、妹!」

美琴が思わず叫び、咄嗟に電撃を飛ばそうとするが、遅い。男の指は既に引き金に掛かっている。
しかしその引き金が引かれる直前に、一方通行が御坂妹の前に立ちはだかった。

そして次の瞬間、銃声が轟く。
しかしいつまで経っても、一方通行にも御坂妹にも覚悟していたような衝撃や痛みは与えられなかった。
だが。

「ぐあああああ!?」

一方通行も、美琴も、上条も、御坂妹でさえ、もちろん他の誰も何もしていない。けれど男は、あまりの激痛に咆哮する。
拳銃が突然暴発、いや爆発し、男自身の手のひらを貫いたのだ。
男の手からは大量の血が流れ出るどころか、何本かの指が失われていた。血の池の中に、吹き飛んだ指が転がっている。

「な、なに? 何で?」

「……あンままじまじと見るよォなモンじゃねェぞ。夢に出ちまう」
194 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/30(火) 20:52:56.38 ID:wmHevFEo
混乱する美琴に向かって一方通行はそう言うと、地面に転がっていた松葉杖を手にテロリストへと近づいていく。
松葉杖を持っていると言っても、能力を使って身体を支えているからなのか杖は突いていない。

「もォ寝ちまえ。そっちの方が楽になンだろ」

言葉と同時に、一方通行は松葉杖でテロリストの頭を打った。
どうやら彼は急所を正確に把握しているようだ。大して力を込めていないはずのその一撃だけで、男の意識は落ちて大人しくなった。

改めてテロリストを全滅させたことを確認した一方通行は深い溜め息をつくと、松葉杖を突いて自分の体を支え直す。
その時、彼の目の前に何か白いものが舞い落ちてきた。
気になって、一方通行はひらひらと舞っているその白を掴みとる。掴みとったそれは、真っ白な羽だった。
しかしその羽はしばらくすると、まるで砂のようにさらさらと崩れ落ちて一方通行の手のひらから零れ落ちていった。

ふと倒れているテロリストの周囲に目を向ければ、そこにも白い羽が何枚か落ちている。
けれどそれらの羽もまた、一方通行が掴んだものと同じように溶けるようにして消えていく。普通の羽であったなら、考えられない現象だ。

「…………?」

「ちょっと、何ぼうっとしてんのよ! もうすぐ警備員が来ちゃうんだから、逃げるわよ!」

「えっ、逃げんのか?」

「ここまでやっちゃったんだから当たり前でしょ! 事情聴取とかすごい面倒くさいんだから!」

何度か経験したことがあるような言い方だが、今はそんなことなど気にしていられない。
一方通行としても、こんなところで警備員に捕まってしまうのはさらさら御免だ。
背に腹は代えられないと、彼は再び能力を発動させて松葉杖なしで走ろうとする、が、途端に頭を激痛が襲ってふらついてしまう。

「何だよ、お前ら具合悪かったのか? ほら掴まれ! 走るぞ!」

「妹は私が担ぐから! 早く!」

それぞれ上条が一方通行、美琴が御坂妹に肩を貸し、その場からの逃亡を図る。
後に残ったのは、気絶したテロリストたちと逃げ遅れて店内に僅かに残っていた一般人だけだった。


195 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/11/30(火) 20:54:06.05 ID:wmHevFEo
上条さんマジ戦力外
投下終わりです! というわけで中二病回だったんですが、修正したらちょっとはマシになった気がします。ちょっとだけ。
あと、見てて痛い描写が多くてごめんなさい。でも自分は13巻のアレ大好きです。

では、ここまで付き合って下さってありがとうございました!
次回の投下はいつも通り、長くて一週間以内、短くて三日以内くらいだと思います。腰痛いけど頑張る。たぶんパソコンのやりすぎだ。
196 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 21:37:08.94 ID:dSVTqh60
すげえ面白かった!!
一方さんの謎とかなんかドキドキする……応援してるぜb
197 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 22:34:42.52 ID:yTHHInw0

198 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 23:14:52.36 ID:vrPeztI0
一方さん厨二格好良いぜ
また次回楽しみにしてるよー
199 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/06(月) 01:05:30.52 ID:X3JHb.co
どうもこんばんは。
切実に腰が痛かったりいろいろあって落ち込んだりテストが近かったりして遅れてしまいました。すみません。
腰の方はもう治ったのですが、まだもうちょっと立ち直れそうにありません……。
あと一部の教科はもうすぐテストですので、本当に投下速度落ちると思いますごめんなさい。
それでも一週間以内更新は維持したい……です。

さて、今回は前回とはうってかわってほのぼの回です。
そういえばもうすぐスレタイ回収できると思います。次回かその次くらいかなあ?
では投下していきます。
200 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/06(月) 01:06:04.01 ID:X3JHb.co
「結局アイスクリームも食べれなかったのでお腹が空きました、とミサカは訴えます」

「お前意外と元気だな! つかこの状況でそれを言うか!」

なんとか警備員や風紀委員から逃げ切った四人は、例の食堂から大分離れた場所にあるベンチで一旦休憩していた。
一方通行によれば先程まで不調だったらしい御坂妹はすっかり元気を取り戻たのだが、今は逆に一方通行が完全にダウンしてしまっている。
どうやら凄まじい頭痛に襲われているようなのだが、念の為に持ってきた頭痛薬を飲んでもなかなか治ってくれない。

「たぶん、これは能力の過剰使用の所為ね。普段は殆ど使わないくせに急に酷使したもんだから、脳に過負荷が掛かっちゃったのよ。
 ただでさえアンタは記憶喪失なんだから、あんまり脳に負荷が掛かるようなことはしちゃいけないのに」

「悪ィな……」

「それにしても、本当に大丈夫か? すごい顔色悪いぞ。もう帰った方が良いんじゃ……」

「……いや、大丈夫だ。少し良くなった」

「無理しない方が良いわよ? 特にアンタはもともと入院中の身なんだから」

美琴が心配そうな顔をしながらそう言うが、一方通行は左右に首を振ると松葉杖を突いてすっくと立ち上がった。
明らかに辛そうだしまだまだ顔色も悪いが、とりあえず自力で立ち上がれる程度には回復したようだ。

「それに、まだ上条が行きてェってところに行ってねェだろ。俺は御坂妹とジェットコースターに乗ったから良いとして」

「お前本当に律儀な……。つっても、俺は絶叫系苦手だしなあ。行きたいところなんか……」

「でしたら遊園地の定番、観覧車はどうでしょう? とミサカは提案してみます」

「ああ、良いな観覧車。高いところから見る景色、結構好きなんだよな」

「煙となンとかは高いところが好き……」

「オイコラお前実は元気だろ」

「アンタのツッコミも本当にいつも通りね。とにかく、ご飯食べたらそれに乗って帰るってことで良いわね?」

「……分かった」

一方通行は少し不満そうだったが、切実に具合が悪いのだろう、それ以上は何も言わなかった。
ふと上条が時計塔を見やれば、もう2時を回るところだ。

「じゃ、何食う? 流石にこの状況でレストランや食堂はやってないだろうから、屋台のホットドックかなんかを買って食べることになるけど」

「そう言えば、屋台にしても観覧車にしても、こんな状態でちゃんと営業してるのかしら?」

「既にすべてのテロリストは警備員によって捕えられ、施設も回復を始めています。
 屋台はやっているでしょうし、これから昼食を食べれば観覧車に乗るのにもちょうどいい時間になるのではないでしょうか、とミサカは判断します」
201 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/06(月) 01:06:37.56 ID:X3JHb.co
「なるほど。……あ、あそこでなんか売ってるじゃん。俺買って来るよ」

「じゃあお願い。気を付けるのよー」

「なんか引っかかる言い方だが……。行ってくる」

まるで母親のような口調の美琴に見送られながら、上条は屋台に向かって走って行った。
残された三人はベンチに座り、じっと上条の帰りを待つしかない。

(……、気まずい……。今一方通行に話しかけるのは流石に悪いし、コイツと話すと調子狂うのよね……)

「ときに、お姉様。とミサカは唐突に切り出します」

「にゃあっ!? な、何!?」

話し辛いと思っているそばから御坂妹に話し掛けられたものだから、美琴は変な声を出してしまった。
美琴は恥ずかしそうに顔を赤くするが、幸い一方通行には聞こえていなかったようだ。

「お姉様はミサカのことを妹と呼びにくいと思っているようですが、あの時は妹と呼んでくれましたね。しかも二回も、とミサカは付け足します」

「え、あ、だ、だから覚えてないってば……」

「でしたら思い出させて差し上げましょう、とミサカは不敵な笑みを浮かべます」

不敵というより邪悪な笑みを浮かべながら御坂妹が懐から取り出したのは、高性能ボイスレコーダーだった。
それを見た途端、美琴はぎくりとする。
……まさか。

「ぽちっとな、とミサカは古い台詞を真似します」

「ちょ、ちょっと待ッ!」

美琴が止めるよりも早く、御坂妹の指がボイスレコーダーの再生ボタンに触れた。
しばらく無音状態が続いた後、正真正銘の美琴の声でこんな言葉が再生される。

『ッ、妹!』

『妹は私が担ぐから! 早く!』

「思い出しましたか? とミサカは一時停止ボタンを押しながらニヤニヤします」

「オマエ、そこまでするか……」

「……恥ずかしくて死にそう……」

しかも一方通行にまで聞かれた。美琴は恥ずかしさのあまり顔を耳まで真っ赤にして、両手で顔を覆う。
いや別に妹と呼んだこと自体は別に良いのだが、こう冷静になっている時に必死になっている時の自分を見ると非常に恥ずかしいのだ。
美琴は、この場にせめて上条がいなかったことに心から感謝した。

「って言うか、アンタずっとそうやってボイスレコーダーで録音してたの……?」
202 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/06(月) 01:07:26.99 ID:X3JHb.co

「いえ、お姉様がそばに居るときだけです。
 あの時は非常に体調が悪かったので、お姉様登場の瞬間と共に録音ボタンを押すのは骨が折れました、とミサカは苦労話を展開します」

「あの状況の中でそンなことしてたのかよ。しかもピンポイントで『妹』部分だけ抜き出してるからいつの間にか編集したンだよな。
 すげェなその執念」

「お姉様の為でしたらこの程度朝飯前です、とミサカは無い胸を張ります」

やたら得意げな顔をしながら、御坂妹はボイスレコーダーを懐に仕舞う。
美琴は一頻り恥ずかしがるとそれで気が済んだのか、顔から手を離して顔を上げると何故か達観した瞳で遠くの方を見つめた。

「うう、分かったわよ。私の負けを認めるわ……。これからは素直に妹って呼ぶわよ」

「やっほい、お姉様に勝ちました、とミサカは万歳をしながら喜びます」

……結局は、ただの意地の張り合い。実に姉妹らしい姉妹喧嘩だっただけのことなのだ。
一方通行は呆れたように薄い笑顔を浮かべながら、そんな二人を眺めていた。

「ただいまーっと、どうした御坂妹? 何で万歳してるんだ?」

「ミサカは遂にお姉様を超えることができたのです、とミサカは得意げに語ります」

「? へー、なんかよく分からんけど良かったな?」

「はい、とミサカは大きく頷きます」

理由を聞いてもよく分からなかったのか、上条はそんな御坂妹を見て首を傾げる。
しかしただ単に嬉しそうにしているだけなので特に問題は無いと思ったらしく、上条はそれ以上追及しなかった。

「で、何を買って来たの?」

「サンドイッチ。色んな種類があったから適当に買って来たんだけど、どれが良い?」

「肉」

「野菜でお願いします、とミサカは希望します」

「卵ある?」

「全部ある……けどさ。一方通行は具合悪いのに肉なんか食べて大丈夫なのか?」

「いっつも味気ねェ病院食わされてンだよ。今日くらい肉食わせろ」

「まあ、お前が良いなら良いんだけどさ」

呆れたように言いながら、上条は一方通行にカツサンド、御坂妹にトマトサンド、美琴に卵サンドをそれぞれ手渡していく。
上条は最後に残ったハムサンドを頬張りながら、三人の座っているベンチの一番端に座った。

「そう言えば、お姉様たちも何人ものテロリストを相手にしたようですね。大丈夫でしたか? とミサカは今更分かり切った質問をします」
203 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/06(月) 01:08:44.07 ID:X3JHb.co

「あー、アレね。まあアンタの予想通り、大したことなかったわ。
 強いて気になったところと言えば、とにかくレベル3や4くらいの能力者がやたら多かったくらいかしら? でも……、何て言うのかな。
 自分の能力を扱い切れてないと言うか、能力に振り回されてると言うか、とにかく能力の使い方がなってない奴らばっかり。
 少なくとも私の敵ではなかったわね」

「お姉様たちのところには高位能力者がいたのですか? とミサカは目を丸くします」

「うん。そういや、アンタたちのところには普通に武装してる奴ばっかりだったみたいね。運が良いのか悪いのか」

よくよく思い返してみれば一方通行たちのところにも、少なく見積もってもレベル3以上の身体強化系能力者がいた。
レベル3と言ったら常盤台に入学することが許されるようになるほどのレベルだが、どうしてそんな奴らがあんなにも沢山いたのだろうか。
しかし御坂妹は美琴の言葉の中にそれ以上に気になる部分を見つけて、首を傾げながらこう尋ねた。

「それから、『少なくとも私の敵ではなかった』というのはどういう意味ですか? とミサカは疑問点を挙げます」

「……そうなのよ、聞いてよ! コイツったら、相手が能力者だからって油断して敵に突っ込みまくってボッコボコになりまくり!
 しかも全然学習しないし! 中にはアンタたちのとこに居た奴らみたいに武装したテロリストも居るもんだから、
 そういうのが出てくる度に私が磁力で銃弾やらナイフやらの軌道を逸らしたり吹き飛ばしたりしなくちゃいけなくて!
 私のサポートが無ければ、コイツ間違いなく十回は死んでたわ!」

「上条自重しろ」

「そ、そこまで言われると耳が痛いな……。だって能力者の攻撃だったら俺の右手で無効化できるし、大丈夫かと思って……」

「だったら相手が最初に拳銃を取り出した時点で右手だけじゃ駄目だってことを悟りなさいよ! まったく、サポートする方の身にもなれっての」

「でも、目の前で殺されそうになってる人がいたらほっとけないだろ?」

「別にアンタの助けが無くったって、私一人で助けられるわよ! 雷速なめんな!」

まったくもって美琴の言うとおりだ。
確かに上条は異能に対してはほぼ無敵かもしれないが、拳銃やナイフ、拳といった普通の武器を持ち出されたら普通に瞬殺されてしまう。
しかも攻撃手段が『殴る』のみ。凄まじく原始的だ。
それでも上条は喧嘩慣れしているのでナイフや拳相手ならそこそこ戦えるのだが、リーチを無視する上にほぼ回避不可能な拳銃とは非常に相性が悪い。
よって、美琴の『間違いなく十回は死んでた』というのは決して誇張ではなかったりする。

「と言うか、その辺りを屯しているスキルアウトにしても、拳銃を持ち出してくることがあるのでは? そういう時はどうしているのですか?
 とミサカは素朴な疑問をぶつけます」

「間合いに入ってたら即叩き落とす。けど、殆どの場合は全力で逃げるな、やっぱ。
 でもあいつら、拳銃は大抵脅しに使うだけで、撃って来ることなんか滅多にないぞ。中にはマジで容赦なく撃ってくるのも居るけどな」

「……アンタ、なんかやたら慣れてるみたいな口振りね? ん?」

「い、いやなんと言いますかやっぱりほら裏路地で偶然拳銃なんか突き付けられてる人を見つけちゃったら放っておけないじゃないですか?」
204 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/06(月) 01:09:10.86 ID:X3JHb.co

上条は早口になりながら必死で言い繕うが、もう遅い。
その隣に座っていた美琴はしばらくわなわなと震えた後にがばりと立ち上がると、激しく放電しながらこう叫んだ。

「アンタは自殺志願者かーっ!!」

「ぎゃああああすいませんごめんなさいもうしませ……とは言えないけど!」

「コイツの携帯のショートカット1番に警備員登録しとくか」

「それが一番手っ取り早いでしょう、とミサカは一方通行に同意します」

いつの間にか上条から携帯電話をすっていたらしい一方通行が、勝手にショートカットの1番に警備員の番号を登録していた。
一方美琴は全力で放電しまくったおかげで少しは気が晴れたらしく、肩で息をしながらもベンチに座り直して食べ途中だった卵サンドを再び口に運びはじめる。

「それにしても、高位能力者ですか。最近急に増えた気がしますね、とミサカは先日絡んできた不良のことを思い返します」

「そうねえ。レベルなんかそう簡単に上がるようなもんじゃないんだけど。そう言えば、レベルアッパーとかいう都市伝説あったなー」

「何だそれ?」

「その名の通り、使用者のレベルを上げてくれるっていうアイテムのことよ。
 まあどんな形状をしてるのかとかどういう使用方法なのかとか、噂によってバラバラだから信憑性は低いんだけどね」

「ふゥン。眉唾だな」

「確かにそんなもんがあったら誰も苦労しないしなあ。学園都市としても、使わない手はないだろうし」

言いながら、上条は美琴の電撃の所為で少し焦げたハムサンドの最後のひとかけらを口に放り込んだ。
上条の通っている学校の担任の先生は、無能力者と能力者の違いについて熱心に研究しているような人なので、
きっとそんなものが実際にあったら飛び付くんだろうなあと思いながら。

「ですが、そういうものには往々にして副作用が付き纏うものです、とミサカは世知辛い世の中を感じます」

「確かにありそうだなー。火の無いところに煙は立たないって言うし、もしかしたら本当にあるのかも。
 なのに都市伝説扱いになっちゃってるのは、そういう理由からだったりして」

「ま、所詮都市伝説だし、何を言っても憶測の域を出ないわよね。っと、みんな食べ終わった?
 早く観覧車に行っちゃいましょ」

「それもそうだな。一方通行、歩けるか?」

「なめンな。余裕だ」

心外そうに言いながら、一方通行は杖を支えにして立ち上がる。
食事したからか、心なし先程よりも足取りがしっかりしている気がした。



―――――
205 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/06(月) 01:09:48.60 ID:X3JHb.co



遊園地のあちらこちらには、警備員や風紀委員が立っていた。あんなことがあったのだから、当然だ。
しかしすべてのテロリストを逮捕しきってもうだいぶ経ったからか、もう既に殆どの施設が復旧しているようだ。

「どうも、もともとこの遊園地の警備は強化されてたみたいだな。
 テロリストの数が尋常じゃなかったから一部対応しきれない場所があったみたいだけど、それ以外ではほぼ完璧に対応してたみたいだ」

「この遊園地のチケットが入手しにくいというお話は、もう既にしましたよね? とミサカは確認を取ります。
 それ故に、チケットを手に入れられるのは地位やコネのある人間、もしくは高額を支払うことの出来る人間に限られてくるわけです。

 よって自然とここに来るのは高位能力者や権力者が多くなってしまうので、元々ここはテロリストの格好の標的でした。
 ですから警備員や風紀委員もここが狙われることを予測して、最初から大量の人員を配置し、完璧なマニュアルを用意していたのです、
 とミサカは解説します」

「なるほどねー。ん? でもそしたらアンタはどうやって四人分もチケットを確保できたのよ?」

「人海戦術を用いました、とミサカは得意げに語ります」

「? ふーん、とにかく協力者がいっぱい居たってわけね」

観覧車の順番を待ちながら、四人はそんなことを話していた。
普通、こういうことが起こったら即座に入場者を避難させて遊園地を閉園させるのだが、元々ここはそういう事件が起こりやすい為に、
いちいちそんな対応をしていられないようだ。
そもそもこの程度なら、学園都市では割と日常茶飯事だ。『またか』の一言で片づけられる程度には。

それでもこの遊園地には常に大量の警備員や風紀委員が配置されているのでこういう事件は事前に食い止められることが殆どなのだが、
今回に関してはあまりにもテロリストの数が多かった為、一部手の回らない場所が出てしまったらしい。
一方通行たちの居た食堂や、上条たちが巻き込まれたという数々の事件もその一部なのだろう。

「あれ、この観覧車二人乗りなのか。どうやって分ける?」

「ミサカと一方通行、お姉様とあなたで良いのではないでしょうか、とミサカは独断で組分けをします」

「うえっ!? な、なんで私がコイツなんかと!」

「つゥか、御坂妹はイイのか? 御坂と一緒が良かったンじゃねェのか」

「流石に同性同士で観覧車は虚しいのではないでしょうか、とミサカは主張します」

「それはそうなんだが、ビリビリ嫌がってるし俺と御坂妹、ビリビリと一方通行で良ぐおふっ!?」

全部言い終わる前に、御坂妹の膝回し蹴りが上条の腹部にクリティカルヒットした。
あまりの衝撃に耐えきれず崩れ落ちた上条を見下ろしながら、御坂妹は女王様のごときポーズをとって言い放つ。

「良いから黙ってお姉様と一緒に乗りやがれ、とミサカは命令します」

「ハ、ハイ、分かりました、どうも済みませんでした……」
206 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/06(月) 01:10:40.67 ID:X3JHb.co

「オイ、順番来たぞ。さっさと乗れ」

一方通行にまで腹の横を足で突かれながら、上条は未だ痛む腹部を抑えて美琴と共に観覧車に乗り込む。
あんなに嫌がっていた割には、美琴は大人しく観覧車に入ってくれた。
それを見送った一方通行と御坂妹も、二人が行った後にやってきた観覧車に乗る。

「ふう。まったくあの二人は本当に世話が焼けますね、とミサカは溜め息をつきます」

「御坂の放電で観覧車が止まらなきゃ良いンだが」

「……そこは、彼が右手で上手く受け止めてくれるのではないでしょうか、とミサカは希望的観測を述べます」

「そォなることを願うしかねェな」

まだ低い景色を眺めていた二人は互いに顔を見合わせると、揃って隣の観覧車に目を向けた。
一瞬光ったような気がした、が……。たぶん気のせいだろう。



―――――



「なんで私がこんな奴と……」

「ハハハ……。悪いなビリビリ、御坂妹がどうしてもこうしたかったみたいだからさ。姉なんだし、妹の為に我慢してくれ」

美琴は観覧車に乗り込んでからと言うものの、窓の外の景色を眺めながらぶすっとしていた。上条の顔を見ようともしない。
やっぱり相当嫌われてるなあと的外れなことを考えながら、上条は困ったような笑顔を浮かべている。

「……ん?」

そこで、上条はふと違和感に気がついた。
美琴の雰囲気が、いつもと何となく違うのだ。
……確か、以前にもこんなことがあった気がする。あれは、いつのことだっただろうか?

「あ、分かった分かった」

「はあ? 何よ、急に」

「いや、今やっとお前が化粧してることに気がついたんだよ。
 この間地下街に行った時は気づかなかったけど、雰囲気が同じだからあの時もそうだったんだよな? うん、可愛い可愛い」

「ふえっ!?」

基本的に常盤台中学では化粧は禁じられているのだが、
相手に化粧をしていることを悟られない程度の自然な化粧は『淑女の嗜み(レディライクマナー)』として許されている。
207 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/06(月) 01:11:28.92 ID:X3JHb.co

美琴がやっているのもそういう薄い化粧なので、
あの鈍感な上条がそんな小さな違いに気がつくとは夢にも思わなかったのだが、まさか気付いてしまうとは。
しかし美琴は顔が赤くなっているのを悟られないように思いっ切りそっぽを向きながら、ぶっきらぼうにこう言った。

「あ、アンタ今更気付いたの!? 遅いわよ馬鹿!!」

「ごめんごめん。
 なーんかいつもと雰囲気違うなあとは思ってたんだけど、常盤台っておしゃれは一切禁止ってイメージだったから化粧してると思わなくてさ。
 でもお前、化粧上手なんだな。すごい自然だし似合ってるぞ」

「な、なっ……」

そろそろそっぽを向く程度では隠し切れないくらい赤面レベルが上がって来た。
しかしその一方で、上条はにこにこしながらまじまじと美琴の顔を覗き込んできている。
どうしようもなくなってしまった美琴は、

「ふにゃー」

「うわああああ漏電してる! 漏電してますよビリビリさんしっかりしてええええ!」

……こうなった。



―――――
208 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/06(月) 01:12:10.16 ID:X3JHb.co



「やっぱり光ってる気がすンなァ」

「気のせいです。気のせいなんです、とミサカは自分と一方通行に言い聞かせます」

戻って、再び後ろの観覧車。
上条&美琴ペアとは打って変わって、こちらは非常に平和だった。しかも二人ともよく喋るタイプではないので、とても静かだ。
二人は時折他愛ない会話をしながら外の景色を眺めたり、前の観覧車の末路を案じたりしている。

「……ッ」

「まだ痛みますか? とミサカは一方通行を心配します」

「いや。たまに痛むことがある程度だな、常に痛いわけじゃねェよ。それ程ひどくもねェし、心配すンな」

「…………」

一方通行は何でもないと言う風にひらひらと手を振りながら言ったが、御坂妹は複雑そうな表情をしていた。
どうやら御坂妹は、彼が能力を過剰使用してしまったのは自分の所為だと思っているらしい。
何となくそれを感じた一方通行は困ったように顔を顰めると、自分の頭をがしがしと引っ掻いた。

「別に、オマエの所為じゃねェよ。俺が勝手にやったことだ。オマエの体調不良に関しては、それに気付けなかった俺も悪いしな」

「……いえ、それもありますが、そういうことではなく……。いや、何でもありません、とミサカは口を噤みます」

「?」

御坂妹の言葉に一方通行は小さく首を傾げたが、彼女はそれきり黙りこくってしまった。
こういう時にどうすれば良いのかまったく覚えていない一方通行は困ってしまったが、
やがて下手なことをするよりもそっとしておいた方が良いという判断を下したのか、それ以上何も言わないことにしたようだ。
その一方で、御坂妹はまったく別のことを考えていた。

(……頭痛の原因は、やはり、)

窓の向こうに目をやれば、ゆっくりゆっくりと高層ビルの向こうへと沈んで行こうとする真っ赤な太陽が輝いていた。
……夕闇がやってくるまで、あと僅か。


209 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/06(月) 01:17:28.27 ID:X3JHb.co
おしまいです。お疲れ様でした。
次回はまた中二病回です。いい加減にしろ。でもまあ前回ほどではないですが……。

それからちょっと他の方のSSを見ていて思ったのですが、もしかしてここって一回の投下量少ないですか?
地の文付きで文字数が多いのでこんなものかと思ってたんですけど、他のSSとか見てると一回に30レス近くとかしてたりしてるんで……。
自分のとこは一回の投下で10レスも行かないので、もしかしたら短すぎて読みにくいでしょうか?
もしくは、地の文付きSSって読むの大変でしょうから、逆にもっと短い方が良いって方もいるかもしれませんし。
ちょっと意見を聞かせて頂きたいです。


次の投下は未定ですが、できれば一週間以内で。
では、ありがとうございました。
210 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 01:29:36.60 ID:k5gMJh20

そこまで少ないとは思わなかったし
テスト近いのに無理して書く必要は無いよ

これからの展開に期待してる
あとここんとこに書かれた感想確認したら、パソコン切って勉強するんだぜ!
211 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 01:52:56.59 ID:ECy15NQ0
地の文が入ったSSで30レスとか2万字位いくぞ?
俺は長い方がいいけど無理しない方がいい、10レス位でも十分

地の文の30レスと台本形式の30レスではわけが違う

無理せず頑張ってくれ
212 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 03:22:52.74 ID:mM9hxhUo

少なくはないかな。物足りないとは思ったけどww
けどこの物足りなさが心地よいww

そりゃ少ないよりも多いいにこしたことはないけど、変に無理されるより、
1書きたいとき書けるときに書きたい分だけ書けばいいよ。

たぶんそれが、一番おもしろい。
213 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 03:50:25.84 ID:V4d77Sko
地の文形式だと読み応えあるから10レスでも結構ボリューム感あるぜ
逆に地の文形式で30レスもあると流石にちょっと疲れるかも知れないww

ほのぼのいいなー
4人ともかわいいなぁー
214 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage ]:2010/12/06(月) 05:08:19.59 ID:Rkrt5Pg0
面白い!!
……が、どこか怖い。
誰もが笑って、誰もが望む最高なハッピーエンドを祈る。
215 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 09:38:59.79 ID:2d4ZetIo
乙乙!
自分のペースで投下して大丈夫さー。まったり待ってる。

しかし一方さんの頭痛…やはり記憶関連なのかな。
続きが気になる。
216 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/06(月) 19:32:26.80 ID:X3JHb.co
おお、お早いお返事ありがとうございます。
でも製速のスレを確認するのが生きがいみたいなものなので、ここだけ確認してパソコンを切るなんてことはできそうにないんだぜ!
それでもいい成績は取らないといけないので勉強はまじめにやりますが。

それから投下量については、今のままで良いようなのでこのままで行こうと思います。
確かに台本形式と比べちゃいけなかったか……。30レスで二万字とか、改めて聞くとおっそろしいですね。
それでもここまでで流石に30レスはしてると思うので、これ何万字くらいなんでしょうか。
ちなみに、このSSを書きだめてるテキストファイルの容量(断片的なネタも入ってるけど)は329kbでした。

なのに未だに序章も終わってないのはどういうことなんだぜ……
あと、多分物足りなさの原因は展開の遅さにあると思います。張りまくった伏線はいつ回収することになるやら。

とにかく、やっぱり自分のペースで頑張ろうと思います。
某フラグスレの投下量と投下速度を見てるとなんか急かされてしまうんですよね……。でもやっぱり自分のペース大事。


ハッピーエンドかー。いつだったかのていとくんのセリフを上条さんたちは覆せるのでしょうか。
217 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 19:59:46.64 ID:V4d77Sko
台本形式中心で感想レスが運良くそれなりに貰えて800越えまで行っててもテキストファイル見ると240kbくらいなんだぜ・・・
まあ、俺のはそんだけスッカスカな内容なんだろうけどさww

某フラグスレの人は色々と規格違いな気がするから比べると大変なことになるかとwwwwww
とにかく楽しみにしてるぜ!
218 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 20:28:32.21 ID:D97Pt1Uo
隠されてるネタって、ミサカが○○してるってことなんだろうかなぁ。
とりあえず、それなら辻褄は合うけれど。

うう、気になるぜ。
219 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 01:47:47.33 ID:tEl368E0
途中で投げ出さなければ
最後にはフラグの人並みの評価ももらえるさ
220 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 12:15:59.24 ID:fce3vhQo
量と濃さなら行くわよの人が凄まじい。
どシリアスなのもあって結構読むの疲れるけど。
221 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/11(土) 21:02:11.50 ID:gv3XuLoo
どうもこんばんは。
眠気と戦いながら修正してきました。昼寝が癖になってしまっている……。
治さないととは思うのですけど、ついつい昼寝しちゃうんですよね。
どうしよう。ついでに返事いろいろ。

>>217
それでも800越えってすごいですよ。自分はどれくらいいけるのやら……
ちなみに何処のスレでしょう?
あ、イージーモードの人だってことは割れてます(

>>218
○○してる……だと……?
ミサカたちはいろんなことをしてるので何が入るのかさっぱりわからないぜ! でも合ってるかもしれないから言わないでほしいんだぜ!
まあ、これからの展開を楽しみにしていただければ。

>>219
評価とかはあんまり気にしないんですけど、
あんだけ早いのを見せつけられると「自分って遅いのか? 待たせすぎてるのか?」って気がしてしまうんですよね。
自分が常駐してるスレは作者が失踪してるか異常に更新が速いかなんで、基準がよく分からないんですよ。
ともあれ、応援ありがとうございます。

>>220
御坂「――行くわよ、幻想殺し」のことかな? 見たことないのでわからないのですけど……。
ちょっと興味がわいたので、今度目を通してみようと思います。流石に今は無理ですが!
自分のとこもドシリアスになる予定……まあ予定です。疲れるかもしれませんが、ついて来て下さると嬉しいです。


ふう、たくさんのレスありがとうございました!
ところで全レスって初めてやってみたんですけど、うざいって人が結構いるみたいなので頻発はできない諸刃の剣。
返信してる方は楽しいのですが。

何はともあれ、投下していきます。
222 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/11(土) 21:02:42.19 ID:gv3XuLoo
第七学区、冥土帰しの病院。
冥土帰しから受け取った茶封筒を手に、一方通行は小さく首を傾げていた。

「おつかい?」

「そう。生憎、今は僕もナースたちも手が離せなくてね? 悪いんだけど、頼まれてくれるかな?」

「まァ、その程度だったら別に構わねェが」

何でも、また第五学区で大規模なテロが起こったらしい。
しかも第五学区の病院だけでは手が足りないとかで、比較的現場に近い位置にあった第七学区のこの病院にまで怪我人が運び込まれていた。
お陰で医者も看護師もてんてこ舞い。手の空いている人間など居ない、と言う状況なのだ。

「その封筒を、この地図にある研究所に持って行って欲しいんだ。すると代わりに薬をくれるはずだから、それを持ってきてくれ。
 ついさっきそれを使い切ってしまってね?
 今すぐに必要というわけではないんだけど、いざってときに無いと困るから今の内に補充しておきたいんだ。大丈夫かい?」

「ったく、どいつもこいつも重病人扱いしやがって。なめンな」

「いや、松葉杖を突かなくても良くなったとは言え、君は立派に重病人だからね? 本当はこんなことを頼むのはとても心苦しいんだ」

「大丈夫だっつゥの。そンなに遠い場所でもねェしな」

「そうかい? それじゃあ頼んだよ。寄り道しちゃ駄目だよ?」

「ハイハイ」

「あ、能力の連続使用は30分が限界だから気を付けてねー。それ以上は死ぬほど頭痛くなるから」

「しつけェ!」

一方通行は腹立たしげに叫びながら、病院を出て行った。
冥土帰しはその後ろ姿を見送っていたが、暫らくするとくるりと後ろに向き直り、その先にいる人物に声を掛けた。

「タイミングが悪いね、御坂妹さん。申し訳ないけど、今はとっても忙しいから君の為だけに時間は割けないんだ」

「構いません。と言うか、ミサカにもある程度医療知識が備わっておりますので宜しければお手伝いしますが、とミサカは申し出ます」

「……それじゃ、頼もうかな? その話をしたいんだったら、彼が帰って来る前に終わらせたいからね」

御坂妹はこくんと頷くと、冥土帰しと共に患者のもとへと向かって行った。



―――――
223 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/11(土) 21:03:20.97 ID:gv3XuLoo



一方通行は、日の暮れかけている第七学区の裏通りを歩いていた。
裏通りにはあまり良い思い出が無いのでできる限りここを通りたくなかったのだが、冥土帰しの言っていた研究所はこの裏路地を
ずっと行ったところにあるのでどうしてもここを通らざるを得なかったのだ。

この辺りには他にもいくつもの研究所があるのでこうした裏路地であっても意外と人が通るからなのか、不良の姿は見当たらない。
いざとなったら能力で追い払えばいいのだが、使用時間に制限があるので乱用は禁物だ。
冥土帰しいわく、30分以上無理に能力を使用してしまったら間違いなく気絶してしまうほどの頭痛が襲ってくるらしい。
しかも、頭痛自体は15分経過辺りから始まるらしいので実際の使用可能時間はもっと短いのだ。

(……っと、ここか?)

封筒と手書きの地図を片手に裏路地を歩いていた一方通行は、とある建物の前で立ち止まる。
施設の名称は蘭学医療研究所。地図にある名前と同一だ。
一方通行は入口にあるガードマンの詰め所へと歩いて行くと、そこでテレビを見て休憩していた所員に声を掛ける。

「どォも。冥土帰しの使いで来たンだが、取り次いで貰えるか?」

「はいはい、話は聞いてますよ。どうぞ」

すると、所員はパネルを操作してあっさりと入口を開けてくれた。
一方通行は一応礼を言いながら研究所に入って行くと、既にそこで待ち構えていたらしい研究員に迎えられる。

「これが封筒。薬と交換って聞いたンだが」

「ああ、これが薬だ。お疲れ様」

言いながら、研究員は後ろに控えさせていた部下から大きな紙袋を受け取った。
この紙袋の中に薬が入っているらしい。

一方通行はさっそく紙袋を受け取ろうとして手を出すが、しかし研究員は紙袋を手に持ったまま動かない。
いつまで経っても紙袋を渡してくれない研究員に、一方通行は訝しげな表情をしながら研究員の顔を見上げてみる。
すると、研究員は何故か彼の顔を凝視したまま固まってしまっていた。視線まで固定されている。

「……? なンだ? 俺の顔に何か付いてるか?」

すると研究員ははっと我に返り、慌てて落ちそうになっていた紙袋を持ちなおす。
そして手に持っていた紙袋を一方通行に手渡すと、まるで何事も無かったかのように言葉を続けた。

「いや、すまないね。なんでもないよ。ところで、そうして帽子を被っているんだい?」

「? 悪ィ、研究所でこれは駄目だったか」

そう言えば、何かの本で室内で帽子を被るのは行儀が悪いとか人に挨拶するときには帽子は脱げだとか書かれていた気がする。
この研究員はそのことを言っているのだと思った一方通行は、素直にキャップ帽を脱いだ。
白い髪と赤い瞳が露わになるが、一方通行はにこにこと人の良さそうな笑顔を浮かべている研究員を特に警戒しなかった。

「……、いや、そんなことはないよ。気にしないでくれ。そんなことより、暗くなると危ないから早く帰った方が良い」
224 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/11(土) 21:04:13.94 ID:gv3XuLoo

「そォか? じゃ、そォさせて貰うわ」

一方通行は一応受け取った紙袋の中を確認すると、研究員に向かって軽く頭を下げてから研究所を出て行こうとする。
すると、研究員は一方通行が出て行ってしまうのを待たずに研究所の奥へとさっさと歩いて行ってしまった。やはり忙しいのだろうか。

(コレ、意外と重いな……)

研究所のゲートを潜ってガードマンに見送られながら、一方通行はそんなことを思った。
少し気になって紙袋の中身を覗いてみれば、大きな瓶に詰められた薬剤がいくつも入っていた。どうやらこの重量の原因は瓶のようだ。
能力を使って身体能力を強化すればこんな重さを感じることも無いのだろうが、使用制限があるのであまり無闇に使いたくはない。

遠くの方で、ピーポーピーポーと救急車の走っている音がした。また何処かでテロが起こり、冥土帰しの病院に運び込まれたのだろうか。
テロが起こったのは第五学区なので上条や美琴は巻き込まれたりはしていないだろうが、
二人とも面倒事には片っ端から首を突っ込むような人間なので助けに行こうとかいう無茶をしてないとは言い切れない。

(それは流石に心配し過ぎか。アイツらの心配性がうつったか?)

……一方通行は、気づいていなかった。
最初の頃の彼だったなら、きっと気付いていただろう。しかし今の彼は、あまりにも平和に慣れ過ぎてしまっていた。
だから、気付くことができなかった。

路地裏の闇の中に、彼を付け狙う影が紛れていることに。



乾いた銃声が響く。
ガシャン、と手に持っていた紙袋が地面に落ちた。
一方通行の身体が、止まる。

しかし。

一方通行は、倒れなかった。
それどころか、右足首から小さな音がしたのを聞いただけだった。
けれど音のした場所に目をやれば、確かに銃弾が当たった痕跡として、僅かな煙が立ち上っていた。
更に足元に目を移せば、細い針のような銃弾が転がっている。

(な、にが)

何が起こったのかわからない。
動揺と焦燥と恐怖と後悔。
ただそれだけが、一方通行の頭の中を駆け巡る。
だが相手は、そんな彼を待ってはくれない。

『狙撃失敗。麻酔銃は『反射』に阻まれました』

『銃弾を高威力の衝槍弾頭(ショックランサー)に変更。狙撃準備』

「……!」
225 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/11(土) 21:04:41.98 ID:gv3XuLoo

一方通行には決して聞こえてくるはずのない声が、聞こえてきた。
彼には、どういう原理で銃弾が防がれ、どういう原理でこんな声が聞こえてきているのかさっぱり理解できない。
理解しようとも思わなかった。

相手が何人いるのか、どんな武装をしているのか、どこまでの範囲を包囲しているのか。
何も分からない。
ただ、逃げなければならないと、そう思った。

落ちた紙袋など完全に意識の外だ。
彼は能力を解放して身体能力を強化し、重心を安定させて、全速力で走った。

『A班より連絡。標的が逃亡を開始。B班は戦闘準備を開始せよ』

『了解』

背後の方で、鉄を激しく打つ音が響いた。衝槍弾頭の銃声。
いくつかの銃弾は石の壁を大きく抉り、またいくつかの銃弾は一方通行の身体に当たったが、彼の身体は傷付かない。

(……『反射』。触れたものにマイナスをかけて、そのままそっくり『反す』技能)

そんな中で、一方通行はゆっくりと自分の能力を理解していく。いや、思い出していく。
ずっとバリアだと思っていた。しかし、違ったのだ。
演算が完全に身体に染み付いてしまっていた所為で、能力を展開していてもどのような演算をしているのかよく分かっていなかった。
けれど、こうして連続で攻撃を加えられて何度も演算を繰り返すことで、漸く自分がどんな演算をしているのか解析することができたのだ。

(一度『反射』を展開すれば、速度も威力も関係無く攻撃を反せる。ただし……)

ずぐん、と頭に重い痛みが走る。
まだ3分も能力を使用していないのにも関わらず、頭痛が始まっていた。
どうやら『反射』の連続使用には、相当の負荷が掛かるようだ。

(抜けられる、か?)

この時間であっても、大通りであれば人は多い。
そこまで行ってしまえば、こいつらも流石に手は出せなくなってしまうはずだ。
こいつらは、絶対にこうした事件を表沙汰にしたくはないはずだから。
だからそこまで行くことが出来れば、一方通行の勝ちだった。
しかしそれを理解しているのは相手も同じこと。相手は全力でそれを阻止しようとするはずだ。

その時、一方通行の目の前に駆動鎧(パワードスーツ)が立ち塞がる。
駆動鎧は、まるで消防車のホースのような砲口を持つ巨大なリボルバーを一方通行に向けていた。

『反射の展開を確認。衝槍弾頭は阻まれました。焼夷弾頭の使用許可を申請』

『申請許可。発砲開始』

殆ど爆発のような発砲音が響き、コーヒーの缶ほどもある大きさの砲弾が一方通行に向かって発射される。
けれど、一方通行は気に留めなかった。
すっと手のひらを目の前に翳す。たったそれだけで砲弾は『反射』され、駆動鎧に直撃した。
226 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/11(土) 21:05:22.69 ID:gv3XuLoo

もうもうと爆炎が立ち上り、黒い煙があたりを覆い尽くす。
これは僥倖とばかりに、一方通行は煙幕に紛れて駆動鎧を撒いてしまおうとした、が。
駆動鎧は煙幕などものともせず、再び一方通行に向かって何発もの砲弾を放ってきた。

(チッ。高性能センサーでも付いてンのか?)

砲弾はひとつも一方通行には当たらず、彼の足元に着弾する。
足元で大爆発が起こるが、爆炎も爆風も衝撃波も、すべて彼の『反射』に阻まれて彼の体に届くことはない。
だが、しかし。

(……ッ!?)

頭を殴られたかのような衝撃が走り、一瞬で意識が持って行かれそうになる。
辛うじて能力を行使しなんとか意識を保つが、それだけだった。意識を保つことしかできなかったのだ。

(酸、素が……?)

走るどころか立っていることも出来なくなり、一方通行は走っていた勢いのまま無様に地面に叩き付けられる。
複数の砲弾、いや爆弾が至近距離で炸裂したことにより、一瞬で空気中の酸素が奪われてしまったのだ。
それでも何とか立ち上がろうと腕に力を込めるが、何とか半身を起こすことが出来ただけで、とてもではないが立ち上がれそうになどない。

まともに頭が働かない所為で、身体強化にまで能力を割くことができないのだ。
しかもこれではすぐに酸素が足りなくなってすべての能力が使えなくなり、意識さえ保つことができなくなってしまう。

ぼやけた視界の中で、何かが動く。駆動鎧だろうか。
奴らにとって、今の彼を捉えることなど造作もないことだ。

(酸素……、空気、風……)

まともに機能しない思考の中で、カチリとパズルが噛み合ったような音がした。
一方通行は自分に残されたすべての力を賭して、演算を開始する。
途端、嵐のように激しい風が巻き起こり、煙も炎も駆動鎧もすべてすべて吹き飛ばした。
代わりとばかりに、酸素が返ってくる。

「げほっ、ごほっ! はあ、はっ、はぁ……」

一気に酸素を吸い込んだ所為で逆にまた意識が飛びそうになったが、ギリギリ残されていた能力を使って何とか耐える。
激しく咳き込みながらもなんとか酸素を取り込み続けていると、少しずつだが意識がはっきりしてきた。

(つゥか、だから結局俺の能力は何なンだよ!)

先程は夢中だったのでよく考えなかったが、まったく考えれば考えるほど意味不明な能力だ。
ただ、できる気がしただけ。
たったそれだけなのに、まさか本当にできてしまうとは。

(まァ良い。このまま逃げ切る!)
227 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/11(土) 21:06:16.59 ID:gv3XuLoo

一方通行は壁に手を付きながらふらふらと立ち上がると、取り戻した能力を行使して身体能力を補助し、走り出す。
渾身の爆風はよっぽど高威力だったのか、周囲を見回しても駆動鎧の姿はなかった。
代わりに騒ぎを聞きつけて集まってきたらしい通行人と、通報されて駆けつけた警備員がこちらに向かってくる音がする。

一方通行にとっては、駆動鎧も警備員も大差ない存在だ。
だから彼はそのどちらからも逃げ切る為に、出来るだけ騒がしくない方へと向かっていく。



走って、走って、走って、走って、走って。
漸く大通りに辿り着き、大勢の人々の行き交う日常的な光景を目にした一方通行は、深い深い溜め息をついた。

ここまで来ればもう大丈夫だろうと安心した途端、忘れていた頭痛が帰ってくる。
しかしそこまで長時間能力を酷使したわけではないので、冥土帰しの言っていたような気絶するほどの激しい頭痛ではなかった。
一方通行は壁に身体を預け、そのままずるずると地面に座り込む。
頭痛もそうだが、それ以上に精神の方が参っていた。もともと病人だったので、体力も激しく消耗している。

(……、薬。どォするか)

あんな目に遭ったのだから当然だが、置いてきてしまった。
とは言え今更戻ったところで、どうせ駆動鎧に踏み潰されるなり砲弾の被害に遭うなりして原形を留めていないだろう。
それに、冥土帰しには悪いが例え使えるような状態にあったとしてもわざわざ取りに戻ろうなどとは思えなかった。

「……、?」

すると、ふと何処かで聞いたことのある声が聞こえた。
……悲鳴、怒鳴り声、罵声、助けを求める女の声、呻き声、叫び声、騒音。
一方通行は何となくこの流れに覚えがあった。

彼は壁に手を付きながら立ち上がる。
ほんの少ししか休んでいないが、自力で歩ける程度には回復していた。
そして声の主を探し求めてきょろきょろと辺りを見回す、と。

……一方通行は声の主、その原因を見つけたと同時、能力の過剰使用とはまた別の頭痛に襲われた。
いや本当に、まったくもって頭が痛い。
能力の過剰使用なんか、全然比べ物にならない程だ。

「……何やってンだ、あの馬鹿」

一方通行は溜め息をつきながら、馬鹿としか表現しようのないその人物を視界に収める。
視線の先には、女の子を助けようとして大勢の不良を敵に回し、ボコボコにされながらも戦っている上条当麻の姿があった。



―――――
228 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/11(土) 21:06:46.28 ID:gv3XuLoo



「オマエってホントにお人好しな」

絆創膏と消毒液の入った薬局のビニール袋を上条に向かって投げ付けながら、一方通行が呆れた声でそう言った。
公園の水道で傷口の汚れを洗い流していた上条はそれを受け取ると、さっそく応急処置を開始する。

「そうか? ああいう場面に遭遇したらほっとけないだろ、普通」

今日も今日とて通りを歩いていた上条は、いつものように不良に絡まれている女の子を発見し、いつものように助けようとしたのだった。
そして、その結果がこの有様だ。
病院に連れて行った方が良いんじゃないかと思うくらい傷だらけの上条は、しかしそんなのはいつものことと言わんばかりに平然とした顔をしている。
……まあ、実際いつものことなわけだが。

「それでもあんな大勢の不良の中に一人で突っ込ンで行くその行為を一般に無謀っつゥンだよ。
 御坂も言ってたが、自殺願望でもあンのか?」

「まさか。でもまあ、あれには流石の上条さんも死ぬかと思いましたよ。いやマジで助かった」

「俺が助けに入らなかったら確実に死ンでたぞ。マジで阿呆か」

一方通行が呆れるのも無理もない。
何しろ上条は、女の子を助ける為に実に十人以上の不良を相手に戦っていたのだから。
もちろんそんな人数の不良に敵うはずもなく集団リンチに遭っていたところに、一方通行が割って入ってくれたのだ。
これには上条も驚いたのだが、一方通行は能力を駆使してあっという間に不良を駆逐してしまったのだった。

「それにしても、本当にお前の能力って何なんだ? 今日のはなんかバリアの強化版っぽかったけど」

「さァな、俺にもよく分かンねェ。あと、今日のアレはバリアじゃなくて『反射』だ。触れたものに対してマイナス掛けてるだけ。
 演算自体は簡単なンだが、常時展開してねェとだから使うにはかなり集中力がいるし、結構疲れるンだけどな」

「へー、すげえじゃん。俺の能力なんかスキルアウト相手の喧嘩になんかまったく役に立たないからなあ」

応急処置を続けながらも、上条が感心したように声を上げた。
一方通行からすれば上条の能力の方がよっぽど強いように感じるのだが、隣の芝は青いという奴だろうか。
確かに銃やナイフといった通常武器に対しては無力だが、異能に対してはほぼ無敵なのに。

「つーか、手当て手伝ってくれよ。背中とか手が届かないんだ」

「最近思い出したンだが、俺ドSなンだよな。消毒液に浸したガーゼを傷口になすりつけてもイイか?」

「すいませんやめてください」

その恐ろしい発言に、上条はすぐさま一方通行の手から消毒液を奪い取った。
冗談だと思いたかったが、ちらりと一方通行の顔を見たところ目がマジだったので本気の可能性を否定することができないのが悲しい。
とにかく上条は、以後決して一方通行に消毒液を持たせないことを誓った。

「ったく、痛い目に遭いたくねェならちっとは自重しろっての。いつか殺されるぞ」
229 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/11(土) 21:07:39.87 ID:gv3XuLoo

「あー、それは流石に嫌だなあ」

「だったら、いい加減自分の身を守る為に他人を見捨てるってことを覚えろ。その後に風紀委員なり警備員なりに通報すれば良いだろォが。
 それから絶対に敵わねェ奴が相手だったら迷わず逃げる。そォしねェとマジで早死にするぞ」

一方通行の言葉に、しかし上条はうーんと唸るばかりで返事をしない。
こいつのお人好しはもはや病気の域だなと一方通行が呆れていると、不意に上条が口を開いた。

「でもさ、やっぱり見捨てられねえよ。困ってるわけだし、放っといたら酷い目に遭うことなんか分かりきってるじゃねえか。
 風紀委員や警備員じゃ間に合わないことが多いしな。それに、敵わない奴が相手だったら絡まれてる奴の手を引いて逃げれば良いし」

「……はァ。そォいや、オマエが助けてるのって女が多いな。もしかして女好きなのか?」

「い、いや、別にそういうつもりじゃ……。女の子が絡まれてる確率の方が高いから、自然とそうなることが多いってだけで」

「御坂にチクるか」

「らめえええ!! なんかよく分かんないけどすごいビリビリされる気がする! 今度こそ超電磁砲の餌食にされる!!」

悲鳴を上げる上条をよそに、一方通行はやっぱりこいつも気付いてないのか、なんてことを考えたりしていた。
まあ確かに、美琴のアレは当事者にとってはあまりにも分かりにくすぎるだろう。
特に上条は絶望的に鈍感なので、気付けと言う方が酷な話だ。

「それに、お前が困ってたって助けてやるぞ」

「オマエがかァ? スキルアウトなンかにボコボコにされるよォな奴に助けに来られてもなァ」

「うぐっ、それを言われると苦しいんだが……」

実際、ついさっき一方通行に助けられたばかりの上条は気まずそうに言葉を詰まらせた。
一方通行はそんな上条を鼻で笑っていたが、ふっと表情を消して声を低くした。

「……それに、別に良い。必要もねェ。大体、そンな義理もねェだろォが」

「何言ってんだ。馬鹿かお前」

上条が、心底呆れたというようにやれやれと首を振った。
正直こいつにだけは馬鹿にされたくないと思っていたのだが、一方通行は何となく何も言うことができなかった。

「友達を助けるのは当然のことだろ。だからお前のことも、絶対に助けに行くよ」

「……」

上条はとても真剣な瞳をしながらそう言ったが、一方通行は何も答えなかった。
彼は応急処置セットのついでに買ってきていた缶コーヒーを一口だけ口に含んで飲み込むと、更に一拍置いてから口を開く。
230 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/11(土) 21:08:20.87 ID:gv3XuLoo

「うぜェ」

「バッサリ!? 結構真面目に言ったのに! 流石の上条さんもへこむんですけど!」

「だァかァらァ、オマエの世話になるよォなことはなにもねェっての。大体オマエ、俺より弱いだろォが。足手纏いだっての」

「うぐぎぎぎ……」

上条は忌々しげに呻いたが、正直なところ一方通行の言う通りなので何も言い返せない。
一方通行は飲み終えた空き缶をゴミ箱に投げ込みながら立ち上がり、軽く背伸びをすると何処か遠くを眺めながら口を開いた。

「話は変わるけどよォ、今度どっか行かねェ?」

「へ? 別に良いけど、お前から誘うなんて珍しいな。何かあるのか?」

「もォすぐ退院だからな。……記念ついでにまたこの辺りで遊びてェと思っただけだ」

「あ、そうなんだ、おめでとう。そう言えば松葉杖も突いてないな」

「どォもありがとさン。それじゃ、俺ももォ帰るわ。そろそろ冥土帰しがキレて入院延長されかねねェからな」

「そっか。じゃあお前も気を付けて帰れよ。不良に絡まれてもお前なら大丈夫だろうけど、能力の過剰使用は危ないんだから」

「分かってるっつゥの。じゃあな」

一方通行はそれだけ言うと、上条の方を向かないままひらひらと手を振った。
手を振り返してくれていた上条の気配が完全に消え失せた頃、彼はもうすっかり暗くなってしまった大通りを歩きながら、先程の上条の台詞を反芻する。
けれど一方通行はゆるゆると首を振って、何も知らない無邪気な上条の言葉を頭の中から掻き消した。

(……もう、終わりにするか)


231 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/11(土) 21:09:05.44 ID:gv3XuLoo
投下おしまい。スレタイ回収回でした。あと中二病と言うかバトル?
一方さんの能力については後程誰かが解説してくれると思いますので、今は保留にしといてあげてください。
それから、スレタイは当初

上条「友達を助けるのは当然のことだろ。だからお前のことも、絶対に助けに行くよ」一方「……」

だったのですが、当然のごとく字数制限に引っ掛かって泣く泣く上条さんのセリフの前半部分を削りました。
なのでスレタイだけではちょっと意味が分からない感じになってるかもしれません。
苦肉の策……。
あと、テスト期間はまだまだ続くよ! 状態なので、まだもうちょっと更新停滞すると思います済みません。
それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました!
232 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 21:29:09.38 ID:TpjuP62o


気づいたら普通に一方さん能力つかってたww
どっか見落としたか……
233 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 22:09:04.42 ID:G6TIj4Ao
続き来てたー!乙!!

スレタイ回収シーン、きゅんときた
234 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 23:16:49.39 ID:Si7ZFKso
スレタイ回収遂に来たか・・・
今後の展開に胸が騒ぐわぁ

で、イージーモード書いてた馬鹿とバレてるのが割りとビビったww
まあ、そのスレはなんか美琴がフラグメーカーなアレです
235 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 01:17:50.71 ID:yUf78lMo

スレタイ回収したか。
そろそろ本格的に物語が動くのか。

236 : ◆uQ8UYhhD6A [sage saga]:2010/12/16(木) 23:21:12.57 ID:Amo.NQEo
何だか結局全然ここにも来れてないので、レス返信だけしていきます。
次の話はもう少し待ってください。ごめんなさい。

>>232
一方さんの能力については、あんまり深く考えなくても良いかもしれません。
と言うか、結局は思い出せばいいだけなのでけっこうノリと勢いで使ってるところもあります。
一応説明はしてありますがそこまで気にする程のことではないですし。
これからも彼は気が付いたらじゃんじゃん新しい能力が使えるようになると思います。出力はガタ落ちしてますが。

>>233
スレタイ回収シーン、地味かなあと思っていたのでそう言っていただけると嬉しいです。
上条さんはみんなの心のオアシス。

>>234
イージーモードの人だってことに気付いたのはただの偶然と言うか、どっかで誰かが指摘してたのに便乗しただけだったりww
なのであまりお気になさらず。総合スレのイージーモードは楽しませていただきました。またいろいろ書いてくださると嬉しいです。
と言うかフラグメーカースレの方だったのですか! 読ませて頂いてます恐れ入ります。
ところで、フラグメーカーの前にも何か書いてらっしゃいませんでしたっけ?
ものすごいうろ覚えなのでどんな内容だったのかも忘れちゃったんですが、すごい好きだった気がするんです。なんだったっけなあ……

>>235
いい加減そろそろ動き出す……、はず、です。曖昧で済みません。
次回はワンクッション(?)置くので、まだもうちょっとお待ちをって言うかあんまり書けてないんですごめんなさい。
一方さんイジメはまだまだ始まったばかりだぜ!


と言うわけで、皆さんレスありがとうございました!
これを糧にして執筆頑張ろうと思います。
237 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 03:22:30.24 ID:sae.8bc0
いいぜ・・・てめえがなかなか続きを書けねぇっていうんなら・・・

まずは服脱いで全裸待機だ!
238 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 08:19:18.44 ID:eGroPTAo
>>237
靴下とネクタイくらい装備しろよ
マナーだぜ
239 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 20:29:34.42 ID:zJpGTjco
寒いだろうからサンタ帽子くらいは許してやるよ
240 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 22:47:46.69 ID:lb/eQSAo
>>236
むむ、一応SSはフラグメーカーが初めてですよぅ
その後VIPで少し書きましたけど・・・美琴ファンクラブとか・・・

次回投下、ゆるりとお待ちしておりますのよ?
241 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/18(土) 19:35:24.22 ID:IhqcQz2o
どうもこんにちは! やっと修正まで完了したので投下しに来ました。
それにしても全裸待機とか初めてされたのでびっくりです。とりあえず服を着なさい。最近はマジで寒いから。風邪引くから。
あとまだまだテスト期間中なのでまた次もちょっと期間が空くと思います。ご了承ください。

>>240
あれ? じゃあ記憶違いですかね……。美琴ファンクラブってのはちょっと覚えがない。うろ覚えよくない。
勘違いすみません。けっこうな数のSSを読んでるのでいろいろごっちゃになってるのかも……。

て言うか皆さん意外と見ていらっしゃるんですね。
地の文で読みにくいだろうからあんまり読んでる人いないのかと思ってました。その、ありがとうございます。

あ、そうだ。
今回は色々グロいので危険を感じたら5つくらい改行が続いてるところまで飛ばすと良いと思います。
まあ13巻より遥かにマシ(だと思う)なので大丈夫だとは思いますが。
それではみなさん、お気を付けて。
242 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/18(土) 19:37:49.93 ID:IhqcQz2o
「かんぱーい!」

からん、とグラス同士が打ち合わされる音がして、上条たちの元気な声が響く。
四人は一方通行の退院の前祝いに、ファミレスにやって来ていた。
みんなで遊びに行くときには大抵この店に来ているのであまりお祝いという感じはしないが、こういうのは気分の問題だ。

「それにしても、退院かあ。なんだかんだ言って、あれから結構経ってるのね」

「つっても、まだ一か月も経ってないぞ? 俺はもう何か月も経ったような気がする」

「まァ、ものすごいハードスケジュールだったからなァ。地下街に行って御坂妹に遭遇して遊園地に行って、毎週どっか行ってたのか」

「そう考えると、あなたの退院は早い方なのではないでしょうか。
 お姉様の電撃が直撃したと聞きましたが、とミサカは一方通行の意外な回復力に驚きます」

「ちょ、ちょっとそれ何処で聞いたのよ?」

超能力者として一般人に怪我をさせてしまったことを恥と考えているらしい美琴は、僅かに顔を赤くしながら御坂妹に詰め寄った。
しかし対する御坂妹は、涼しい顔であっさり答える。

「冥土帰しに尋ねたら簡単に教えてくれましたよ。
 他にも数々のお姉様の黒歴史を披露しましょうか、とミサカは不気味な笑みを浮かべます」

「く、黒歴史!? そんなの何処で、いや私にそんなものは……、でもあれとかこれとか……」

「ははは、ビリビリは現在進行形で黒歴史を綴ってるじゃねえか」

「んだとゴルァ!!」

悪気なく悪口を言う上条に向かって美琴は電撃を飛ばしたが、そろそろ慣れてきたらしい上条はそれを簡単に右手で打ち消した。
四人の近くの席に座っている客が非常に驚いていたが、四人にとっては日常茶飯事なので今更突っ込む気も起きない。

「あ、そう言えばこの間さ、俺のクラスメイトの青髪ピアスって奴がお勧めだーっつって漫画貸してくれたんだよ。
 アイツのことだからまた萌え系の漫画だろうなと思って読んでみたら、これが普通に面白くてさ。
 ちょうど読み終わったところだから、今度お前にも貸してやるよ」

「えっ、何それ。私も興味あるから教えてよ」

「ふむ、漫画ですか。ミサカは漫画というものを手に取ったことが無いのですが、この機会に読んでみるのも良いかもしれません、
 とミサカも話題に食いついてみます」
243 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/18(土) 19:42:14.54 ID:IhqcQz2o

いつもと同じ、他愛ない会話。
基本的に見舞いに来てくれる彼ら以外には話し相手もイベントも無い入院生活を送っている一方通行には、今更彼らに聞かせてやれるような話など何も無い。
なので彼は、黙って上条たちの話に耳を傾けていた。
ただそれだけでも、楽しかった。いや、それこそが彼の幸せだった。


けれど、そんな幸福はいとも簡単に崩れ去る。


耳を劈(つんざ)く爆音が轟く。
粉々になったガラスと、炎と、爆風と、瓦礫が視界を覆った。
瞬間、『反射』が展開し、彼の身を守る。
だから彼は、何にも阻まれることなく、すべての光景を目にしていた。

最初に、窓ガラスを食い破って、砲弾が彼らの机の中心に撃ち込まれたのが見えた。
当然、グラスも皿も机も砕け散り、爆発が巻き起こる。

砕けて凶器となった無数の破片が、他の三人に襲い掛かった。
爆発の衝撃波で、見知った誰かの身体が弾け飛ぶ。
そして全てを焼き尽くさんとして、一気に炎が燃え広がった。
血とヒトの肉が焼ける不快な匂いが充満する。

一方通行は何もできなかった。ただ、茫然とその光景を眺めていることしかできなかった。
だって、彼はすべてを見ていたから。

自分の展開していた『反射』に弾かれたガラスの破片や衝撃波や炎が、三人に襲い掛かるのを、はっきり見ていた。

彼の身体には傷ひとつなかった。
代わりに、目の前の友人たちが犠牲になった。

(……見え、た。俺が、弾い、た、瓦礫が、上条、の、頭に、突き、刺さって、)

恐る恐る、上条が転がって行った方向に視線を動かした。
後悔することなんか分かり切っているのに、それでももしかしたらあんなのは見間違いで、実は運良く助かっているのではないかと都合の良い幻想を抱いて。
そして、その幻想はあっさり打ち砕かれた。


こんなの、あんまりだ。
こいつらが、いったい何をしたというんだ。
悪いことなんか、何もしていないのに。
……どうして、こんなことに。


理由を求めて、考えて、そして彼はひとつの結論に至った。
答えは、とてもとても簡単だった。

「……俺の、せいか」

244 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/18(土) 19:44:31.20 ID:IhqcQz2o





―――ちか、と眩しい光が差した。
ゆっくりと目を開けば、そこには見慣れた白い天井があった。
いつもの病室、いつものベッド、いつもの空気。

一方通行はゆっくりと半身を起すと、自分の身体が気持ち悪い汗でじっとりと濡れていることに気が付いた。
大量の汗の所為で、髪までぺったりと顔にくっついてしまっている。

「……夢」

そう口にしながら、一方通行はそれを頭の中で否定した。
夢と一蹴してはならない。
これは、現実に起こりうることだ。

(……馬鹿か。何で今まで忘れてた? 何で今まで気づかなかった? いくら何でも平和ボケし過ぎだ……)

今まで、こういうことが起こらない方がおかしかった。
だからあの夢の方が、現実なのだ。
あちらの方が、一方通行にとっての正しい世界だったのだ。

(分かってる。分かってるよ、クソったれ。こンなのが長続きしないってことくらい。だから終わらせよォとしてるンじゃねェか)

楽しかった時間は、もうおしまい。
そして二度と帰ってこない。

間違った形になっていたものを、正さなければならなかった。
すべて元通りにして、それで終わり。
そうだ。勘違いするな。未練を残すな。思い知れ。ここはお前の居場所ではない。
巻き込んでしまってから後悔するのでは遅すぎる。

(……本当に、これで終わりにするから。だから、今だけは許してくれ)



―――――
245 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/18(土) 19:48:48.87 ID:IhqcQz2o



「小萌せんせー」

放課後、上条は教室を出て行こうとする担任教師を呼び止めた。
どう見ても小学生くらいにしか見えないこの教師は、信じられないことにこれでもかなりの年齢になっているらしい。
そんな小萌先生は珍しくげっそりとした顔をしながら振り返り、それを見た上条をぎょっとさせた。

「……そ、その、今日も駄目でしょうか?」

「ごめんなさいねー、上条ちゃん……。相談に乗ってあげたいのは山々なのですけど、先生今日も予定が入ってしまっていて……」

「て言うか、クマとか頬とかもの凄いことになってますけど、本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫、先生はまだまだ元気なのですよー。ただちょーっと忙しいってだけなのですー」

しかし、何処からどう見ても空元気にしか見えない。それくらい小萌先生の頬はこけ、目の下にはくっきりとクマが出来てしまっていた。
特に彼女はとても幼い容姿をしているので、余計に痛々しく見える。

どうして彼女がこんなことになっているのかと言うと、最近異常にテロが多いとかで警備員に所属している教師陣があらかた出払ってしまっていて、
彼らがやるはずだった仕事を残った先生方ですべてやってしまわなくてはならないからだ。
しかも小萌先生はそうした後処理を率先してやっているだけではなく、いつも通りの授業をする為の準備も怠らないのだ。
その上成績の悪い生徒の為に補習までしてくれているのだから、まったく頭が上がらない。

そんなこんなで、日々激務に追われている小萌先生はこんなにも疲れ果ててしまっていたのだった。
治安維持の為だから仕方ないとは言え、お陰で上条もいつまで経っても彼女に『一方通行』について訊けずにいる。

「本当に、本当にごめんなさいね、上条ちゃん……。少しでも時間が空いたら、必ず真っ先に相談に乗ってあげますからね……」

「いや、そんなに急ぎじゃないし大丈夫です。先生こそ、本当に無理しないで下さいよ」

「もう、上条ちゃんは心配性ですねえ。本当に平気なのですよー。
 それじゃ、先生ちょっと時間が無いのでもう行きますね。上条ちゃんも真っ直ぐお家に帰るんですよー」

「あ、はい。それじゃ」

小萌先生はげっそりとした顔にぎこちない笑顔を浮かべると、上条に向かって手を振りながら教室を出て行った。
上条はそんな彼女の小さな後ろ姿を見送りながら、本当に大丈夫なのだろうか、と思った。

「カミやーん。今日はゲーセン行けるかにゃー?」

「うお、土御門か。びっくりした」

「カミやん、最近付き合い悪いからなー。やっぱり彼女でもできたんやろ?」

「だーかーら、違うっつの。ったく、ちょっと人にプライベートな時間が出来たからっていちいち邪推してきやがって」

馴れ馴れしくまとわりついてくる青髪ピアスを、上条はうざったそうにしっしと追い払った。
土御門はそんな二人を眺めながら、ちょっと変わった笑い声を上げる。
246 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/18(土) 19:51:29.32 ID:IhqcQz2o
「で、カミやん、今日はどうするんだにゃー?」

「あー、まあたまには一緒にゲーセン行くか。確かに最近付き合い悪かったかもだし」

「おお、カミやんは彼女ができても友達を大切にするタイプなんやね! そういう奴は好きやわー」

「ええいだから違うって言ってんだろうがしつこい! そして気持ち悪い!!」

上条の放った右ストレートが、見事に青髪ピアスの顎に決まる。
そのパンチをまともに喰らって吹っ飛んだ青髪ピアスは、椅子と机に埋もれながら非常に良い笑顔を浮かべてサムズアップした。

「ふふ、カミやん、見事なパンチ……や……」

「青ピー!!」

「貴様! また騒ぎを起こして! 何度叱られれば気が済むの!?」

「うわっ申し訳ありません吹寄様もうしませんだからお願いですから頭突きだけはッ!!」

上条の懇願も虚しく、教室に非常に痛そうな鈍音が響く。
吹寄が上条の胸ぐらを掴んでいた右手をぱっと放すと、上条はそのままばったりと地面に倒れ伏した。



―――――



「そろそろ来る頃だと思っていたよ」

患者の居ない診察室で、冥土帰しが扉に向かって呼び掛けた。すると、ゆっくりと扉が開いてその隙間から一方通行が顔を出す。
冥土帰しは一方通行に患者用の椅子を勧めてやったが、彼は椅子を一瞥しただけで座ろうとしなかった。

「……どォいう意味だ?」

「君が先日、どんな酷い目にあったのかは知っている」

その言葉に、一方通行は僅かに目を見開く。
冥土帰しはそんな彼を見て少しだけ悲しそうな顔をすると、そのまま言葉を続けた。

「悪かったね、あれは僕が不注意だった。とても怖かっただろう?
 だけど、ここは安全だから大丈夫。君が望むなら退院などせずに、いつまでもここに居てくれても良いんだよ?
 それに君はとても頭が良いから、僕の助手になってくれるととても助かるんだけど」

「何を……、馬鹿か。本当に分かってンなら、俺がどれほどの疫病神なのか知らねェとは言わせねェぞ」

「ああ、分かってる。理解した上で言っているんだよ、一方通行」

「……頭、おかしいンじゃねェの。ろくに治療費も払えねェよォな奴に、何をそこまで義理立てする必要がある?
 俺を捕まえる為に、この病院ごと破壊しかねねェよォな奴らだぞ。俺一人の為に、この病院に居る奴ら全員犠牲にするつもりか」
247 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/18(土) 19:54:57.10 ID:IhqcQz2o

「そんなことにはならないよ、絶対にね。だから君は、何も気にすることはない」

それを聞いた一方通行が、何を思ったのかは定かではない。だが、彼はただゆるゆると首を振った。
まるで、そんな彼らの優しさを拒絶するかのようだった。

「とにかく、俺はここを出て行く。最短でいつ退院できる?」

「……まあ、そう言うだろうと思ってはいたけどね?
 それと詳細な退院日についてはもう少しだけ待ってくれ。本当に退院しても大丈夫かどうか、最後に検査をしないといけないからね?
 そんなことより、君は一体ここを出て何処へ行くつもりだい? どうせ、行く当てなんか無いんだろう?」

「自分で何とかする。気にすンな」

一方通行は事も無げに言ったが、それは肯定も同然だ。
あまりにも無計画な彼に冥土帰しは溜め息をつくと、呆れたような口調で言葉を続ける。

「やれやれ、そんなことだろうと思ったよ。……『外』に行くつもりなんだってね?」

「……オマエ、一体何処まで知ってやがる」

「そんなのは些細なことさ。
 とにかく、『外』に行くつもりなら僕に当てがある。僕の知り合いがやっている病院に話を付けてあるから、そこを頼ると良い。
 君ならあちらでも充分な働きが出来るだろうし、たぶん生活には困らないだろう。

 なに、そこは学園都市とは何の関係も無い場所だし、院長も信頼できる人間だから安心しなさい。
 それに、流石に彼らだって無闇に『外』の施設に手を出したりは出来ないだろうしね?」

願ってもない提案だったが、一方通行は迷っているのかのように僅かに眉根を寄せる。
いや、迷っているというよりも疑っている顔だった。

「信用できないかい?」

「いや。……そンなの、それこそ今更だろォが。あまりにも手際が良過ぎると思っただけだ」

「そのことなら、協力者がいたからだよ。その子たちが他にも様々な便宜を図ってくれたお陰さ」

「……協力者?」

唐突に現れた部外者の存在に、一方通行が訝しげな顔をする。
しかし冥土帰しは、疑り深い彼を安心させるかのようにすかさず補足説明を付け加えた。
248 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/18(土) 19:57:58.80 ID:IhqcQz2o

「ああ、心配しなくてもいい。信頼できる、良い子たちだよ。だから疑う必要はまったく無い」

「…………、そォか」

「納得してくれたようで何よりだ。そんなことより、だいぶ顔色が悪いね? どれ、診てあげよう」

「平気だ、要らねェよ。……ちょっと外に出てくる」

「そうかい? まあ、気分転換にはそれが一番だね? ただ、絶対に人通りの少ないところに行ってはいけないよ、危ないからね」

「……そンなの、俺が一番よく分かってる。じゃあな」

疲れた顔をした一方通行は、それだけ言うとすっと診察室を出て行ってしまう。
その背中を見送った冥土帰しは、結局座られることのなかった患者用の椅子に視線を移すと、とても複雑そうな表情を浮かべた。



―――――



なんだかんだで結局ゲーセンにやって来た3馬鹿デルタフォースは、いつか上条が一方通行たちと遊んだ格闘ゲームで対戦をしていた。
あれから美琴に勝つために血の滲むような特訓を重ねた上条は、土御門と青髪ピアスを相手に勝利を続ける。
そして遂に連勝記録の自己ベストを更新した上条は、ゲーム台の椅子に足を乗せて大きくガッツポーズを取った。

「よっしゃあ! 13連勝達成!」

「か、カミやん強くなり過ぎだにゃー。俺たちなんて全然相手にならないですたい……」

「うぐぐぐぐ、これがギャルゲーなら絶対に負けへんのに……」

「ふふふふ、この貧乏学生上条さんがこれだけの強さを得るために一体どれだけの投資をしたのか……。うっ、何か涙出てきた」

「……カミやん、ゲームに熱中するのは良いけどお金は大切にな」

「何か負けたのに負けた気がしないぜい。今度なんか奢ってやるから元気出すにゃー」

本気で涙ぐんでいる上条を慰めるように、土御門がその肩をぽんぽんと叩いてくれた。
その優しさが身に染みる。特に吹寄の頭突きを喰らった後は。

「凄まじい努力を続けてたカミやんには悪いんやけど、これじゃ本当に勝負にならへんから他のゲームせえへんか?
 新しいパズルゲーム入ってるでー」

「ああ、そうするか……。正直俺もなんか格ゲー見てたら虚しくなってくるし」

「どんだけ金かけたんだお前……。まあ、今日は嫌なことなんか忘れてぱーっと遊びましょうや」

「そうだな。三人で対戦できるやつとかあるか?」
249 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/18(土) 20:01:55.41 ID:IhqcQz2o

「あるある、これやな。っと、コインが無くなったからちょっと両替してくるわ。ちょっと待っててなー」

「おう、いってらっしゃい」

財布を片手に両替機に行ってしまった青髪ピアスを見送りながら、上条はパズルゲームの台に座った。
彼が帰ってくるまで、きちんと席を確保しておかなければならない。ちょっと目を離すとすぐに誰かに取られてしまうのだ。

「そんなことよりカミやん、やっぱり格ゲーで鍛えられたのは常盤台の彼女のお陰かにゃー?」

「ぶふっ!? お、お前何を!?」

「土御門さんは見てしまったんだぜい……。この間の日曜日、地下街でカミやんが女の子を二人も連れて歩いているところを!」

「いやそんなはずは……、あれ? この間の日曜日? 二人?」

得意げに言い放った土御門の言葉に、上条は首をひねる。
確かにこの間の日曜日は美琴と一方通行を連れて地下街をうろついていたが……。あの時はまだ、御坂妹はいなかったはずだ。
御坂妹も一緒に行ったのは遊園地だし、そもそもあれは土曜日だし。

「……ああ、あれな。あれは違うって、確かに一人は女の子だけどもう一人は……、あれ? 男? そう言えばどっち?」

「この期に及んで誤魔化そうとするとは、許せん! やっぱりカミやんは一人で密かにハーレムを作ろうと画策してたんだにゃー!?」

「だから違うってば! ああもう何でおれの周りはこんな馬鹿ばっかりなんだ!?」

「ハーレムと聞いて飛んで来たで! おのれカミやん、これは鉄拳制裁も已む無し!」

「ええいこの馬鹿どもが! 良いだろう、この上条当麻が相手になってくれる!」

そして、何故か三人はゲームセンターで格闘ゲームではなくリアル乱闘を繰り広げることになる。
この街では能力者同士の喧嘩なんか日常茶飯事なので、無能力同士の乱闘なんて可愛いものだ。周囲の人々は一向に気にした様子が無い。
やがて三人の死闘が終盤に差し掛かった頃、上条の視界の端に見覚えのある白い影が映った。

「あれ? アイツ……」

「おお、噂をすればこの間カミやんが連れてた子だにゃー。あれ、こっち来るぜい?」

「そりゃこれだけ暴れれば目に留まるだろうよ……。おーい、一方通行ー」

こちらにやってくる一方通行に向かって上条が手を振れば、一方通行は「やっぱりか」とでも言いたげな表情をした。
何だかいつもこんな阿呆なことをしているように思われているようだが、決してそんなことは無い……筈だ。

「オマエ、こンなところで何やってンだよ。バトルがしてェならゲームの中だけにしろ」

「いやまあ尤もなお言葉ですが、已むに已まれぬ事情があってだな……。そんなことより、お前は何で一人でこんなところに?」

「……ずっと病室に篭ってると気が滅入るンだよ。気分転換だ」

「なるほど。まあもうすぐ退院なんだし、リハビリにはちょうど良いかもな」
250 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/18(土) 20:06:41.20 ID:IhqcQz2o

そんな会話をしていると、ふと上条は喧嘩相手である二人を押さえつけていた手に抵抗が感じられなくなっていることに気がついた。
どうしたのかと思って二人を振り返ってみれば、二人は上条たちの方に興味が移ったからか早々に喧嘩を中断してこちらを観察していた。非常にうざったい。

「おお、噂をすれば影だぜい。こないだ一緒に歩いてた子だにゃー」

「ふおおお!! アルビノやないかい! しかも可愛い! カミやんこの野郎羨ましいでほんまに!」

「何か身の危険を感じるンだが」

「危ないから下がってなさい。割りとマジで」

異常なテンションの青髪ピアスについて行けない一方通行は、ドン引きしながら一歩後ずさった。さり気なく上条を盾にしようとしている。
上条にしてみればもう慣れたものなので何とも思わないが、これが普通の正しい反応だろう。

「それで、さっき話しててちょっと気になったんだけどさ。お前って男? 女?」

「ちょっ……」

「……はァ? 見て分かンねェのかよオマエ。頭おかしいンじゃねェの?」

「へ? いやだから分からないから訊いて……」

「ちょっとカミやんこっち来い!」

一方通行の機嫌が未だかつてないほど悪くなったことに気が付かずに言葉を続けようとした上条を、後ろに居た友人二人がその首根っこを引っ掴んで強制回収する。
服を引っ張られた所為で訳も分からず首を絞められた上条は、咳込みながら二人に向かって抗議の声を上げた。

「オイコラ! テメェらいきなり何すんだよ!」

「何すんだよはカミやんだぜい! あんな質問、あの子が男だったとしても女だったとしてももの凄い失礼だって分からないのかにゃー!?
 確かに分かりづらいから訊きたくなるのも分かるけど!」

「無いわーカミやんそれは無いわー。男の風上にも置けへんわー」

「あ、そっか」

ここまで親切に説明されて、上条はやっととんでもない地雷を踏み抜いてしまったことに気が付いたようだ。
だからと言ってここで謝ってしまうのも、それはそれで性別が分からなかったことを認めてしまうことになるのでどうしようかと思っていたが、
そろりと一方通行の方を振り返ってみれば、幸いなことに彼はもう既にまったく別のものに気を取られているようだった。

「あのー、一方通行さん? 何を見てらっしゃるんでしょうか?」

「……あれ。なンでガラスケースの中にぬいぐるみが入ってンだ?」

「知らん? UFOキャッチャーやで。ゲーセンの定番やけどなあ」

「ああ、そう言えばこの間来たときは人が多かったからあんまり見て回れなかったんだよな。やってみたいのか?」

「いや。本当に散歩するだけのつもりで出てきたから、金持ってねェし。欲しいモンがあるわけでもねェしな」
251 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/18(土) 20:10:15.57 ID:IhqcQz2o

本当に特に執着心があるわけではないらしく、一方通行は説明を聞くとすぐにUFOキャッチャーから興味を失ってしまったようだ。
それでも一方通行がこうしたゲームに非常に強いことを知っている上条は、ポケットからコインを取り出すとそれを彼に差し出しそうとする。

「なんだ、それならちょっとコイン分けてやるよ。ちょうど余ってるし」

「いらねェよ、今はそォいう気分じゃねェしな。ここに来たのも、見覚えのある馬鹿が馬鹿やってたから様子を見に来ただけだし」

「そうか? じゃあ見てくだけ見てけよ。今日はそこそこ空いてる方だし、色々見て回れると思うぞ」

「……まァ、見るだけなら」

一方通行は少し躊躇っていたようだったが、やはり少し興味があるのか割りと素直に上条の誘いに乗ってくれた。
上条はそれを見て嬉しそうな顔をすると、彼をデルタフォースに迎え入れる。
青髪ピアスと土御門に歓迎された一方通行は、少しだけ照れ臭そうにしていた。



―――――



「あー楽しかった!」

久しぶりにゲームセンターで思う存分遊んで満足したらしい上条は、外に出ると思いっ切り伸びをした。
ずっとゲームセンターのゲーム台に座っていた所為で体が固まってしまったのか、土御門と青髪ピアスも上条と同じように伸びをしている。
完全下校時刻まではまだ余裕がある時間だったが、ちょうど全員のコインが尽きたので引き上げることにしたのだ。

「それにしても、随分遊んだにゃー。俺も久しぶりだったからつい夢中になっちまったぜよ」

「せやな、やっぱみんな一緒の方が楽しいわー。ほな、僕はパン屋の手伝いがあるから帰らせてもらうな。一方通行もまたなー」

「あ、あァ。またな」

一方通行は青髪ピアスに挨拶されると、ぎこちなく返事をする。
それはまるで人見知りの子供が頑張って挨拶をしているように見えて、上条は何だか微笑ましい気持ちになった。
252 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/18(土) 20:14:09.04 ID:IhqcQz2o

「そォ言えば、オマエもタイムセールだろ。急がなくてイイのか?」

「うおっ、そうだった! 教えてくれてありがとな! それじゃ一方通行、今度の休日に!」

「おォ、じゃあな」

そして上条が走り去ってしまうと、後には一方通行と土御門の二人だけが残された。
遊んでいる時は普通に親切にしてくれたのだが、何故か土御門に対して苦手意識を感じていた一方通行は、何となく気まずく感じてしまう。
それはさて置いても病院を出てからだいぶ時間が経ってしまっているし、冥土帰しもそろそろ心配している頃だ。
どちらにしろもう帰らなくてはならないのだから挨拶くらいはしておかなければと思った一方通行は、改めて土御門の方に向き直る。

「土御門、俺ももォ帰る。オマエも暗くならない内に帰れよ、最近はテロだ何だで色々物騒だからな」

「それもそうだにゃー。じゃ、俺も帰らせてもらいますたい。お前も気を付けて帰るんだぜい?」

「ああ、それじゃァな」

分かっていた筈なのに、何故か一方通行は土御門に普通に挨拶を返されて安心していた。
……何か、別のことを言われるとでも思ったのだろうか。しかし、いったい自分は何を言われると思ったのだろうか。

そう不思議に思いながらも彼が土御門に背を向けた、その時。
土御門が唐突に、聞いたこともないような低い声で言った。

「お前の事情はある程度理解できる。だが、できれば上条当麻をあまり巻き込まないでくれ。
 今のお前が悪人ではないらしいことは知っているが、お前はあまりにも多くの不幸を呼び過ぎるんだ。……悪いな」

一方通行は驚いてばっと背後を振り返ったが、そこには既に土御門の姿は無かった。
しかし彼の言葉がやけに鮮明に頭に焼き付けられてしまい、一方通行は暫らくそこから動くことが出来なかった。


253 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/18(土) 20:17:51.74 ID:IhqcQz2o
と言うわけで、ひどい前振り回でした。
一方さんの性別については原作準拠にしてみましたが、特に意味はありません。でもやっぱり性別:天使なのかなあ。
まあ何であっても一方さんは一方さんなので一向に構わないんですけどね! 一方さんマジ天使!

そういえばマジで23巻はいつ発売するんでしょうね。やっぱゲームと同時期かなあ。
まあゲーム買う気ないんですけどね、格ゲー苦手ですし。
て言うか何か……、一方さんが普通にダメージ喰らってる姿が何か釈然としないというか、シュールというか←
あと特別版のジャケットが(ry


うーん、何か他のスレみたいに気の利いた次回予告ができればいいんですけど、ネタがありません。個人的には原作風のあれが一番好き。
あ、一応ここで予告をしておくと美琴無双・序って感じです。なんだそれ。
次回更新は未定です! 一週間前後には来れると良いな! でもあんまり期待しないでくださいね!
254 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 20:30:34.23 ID:R/OUiC60
>>253
乙!

一方さんの性別は超電磁砲漫画によると男ですね
原作では不明だっけか?
255 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 20:33:24.97 ID:18E6fog0
>>1おつ!
一方さんは性別:一方通行でおk。
夢部分でわりと本気で上条さん死んじまったー!!って思っちまったwwww
つかつっちーかっけーなぁ…
256 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 20:34:17.37 ID:SwQIeaEo
乙!

>>254
原作では不明扱いだけど地の文では「少年」になってる
257 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 20:38:04.53 ID:f/dhC/.o
おちゅかれれれれえええええ
>>1乙! おっつおっつ!
夢のファミレス部分でうおお!?!? 上条さんと妹と美琴さん死んじまった!?
って思ってビビった・・・・・・ww
258 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 20:54:22.29 ID:o5IB8bY0
子萌先生マジ教師・・・
259 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 19:23:12.42 ID:b1lirhwo
乙乙!!

一方さンマジ天使!
だから幸せになれるといいなァ。
260 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 02:14:43.58 ID:ZOunK.DO
23巻は3月に発売予定
261 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/25(クリスマス) 18:20:16.55 ID:jZYpsD2o
どうもこんばんは。クリスマスですね。
我が家ではクリスマスケーキにアイスケーキを食べるらしいです。特に何かイベントがあるわけではないのですが、それだけ楽しみです。
それから、12月分のテストがようやく終わりました。
が、つい昨日12月中に提出しないといけない論文があったことを思い出してしまいました。畜生。

あと、前回の冒頭はわざと一番死にそうにない上条さんを殺すことで「あ、夢か」と思わせようという戦略だったのですが、
皆さん意外と素直に受け取ってしまわれたようですね。しかし、上手く騙せたことを喜ぶべきなのか。

そう言えば、実は『少年』って単語は男女両用だったりします。狭義では男性のことを指しますが。
ただ、『彼』は間違いなく男性に対して使う三人称なんですけどねー。まあ便宜上使わざるを得ない場合ってありますし。
と言うか超電磁砲で男って明記されてたのか……と思って確認したらこれ美琴の主観かな?
まあそれよりなにより、一方さんの性別があやふやになってる一番の理由は八巻のあとがきでしょうね。
結局あれはどういう意味だったのか。

それから23巻の件、わざわざ教えてくださってありがとうございます。
3月ですか……、遠いですね。2月とかなら丁度テストが終わる時期なので良かったんですけど。


と、長々とすみません。
とりあえず投下します。
262 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/25(クリスマス) 18:23:19.89 ID:jZYpsD2o
「おっそい!」

待ち合わせ場所である映画館前で仁王立ちしていた美琴は、遅れて来た上条をビシッと指差しながらそう怒鳴った。
途端、上条が勢いよく頭を下げる。
とは言え映画の上映開始時間にはギリギリ間に合っているのだが、それでも約三十分の遅刻なのだから、美琴が怒るのも無理はない。

「アンタが映画見たいって言うからわざわざ退院祝いの日にこんなところまで来たっていうのに、遅刻するってどういうつもり!?」

「本当にすまん、返す言葉も御座いません……。これには深ーい事情があるんだが、言い訳にしかならないよな……」

「別にイイじゃねェか、映画には間に合ったンだ。そンなことより、さっさと入らねェと本当に間に合わなくなるぞ」

「一方通行の言う通りです。
 ですが遅刻は遅刻ですので、罰として今日の昼食はあなたの奢りにしましょう、とミサカは罰ゲームを提案します」

「あら、それ良いわね。それなら許してあげるわ」

「うぐっ……。わ、分かった。でもできるだけ高価なところは勘弁してくれよ?」

貧乏学生である上条にはなかなか辛い罰ゲームだが、理由はどうあれ悪いのは遅刻した上条なので仕方がない。
上条の逼迫した経済事情を知る一方通行が可哀想なものを見る目で上条を見つめてきていたが、彼はスルーすることにする。
それに、悲しいかな上条にとってこの程度の不幸は日常茶飯事なのだ。

「っと、こんなことしてる場合じゃないな。早く入らないと本当に遅れちまう」

「それもそうですね。ですが、どうせですし歩きながら話しましょうか、とミサカは提案します。
 ところで今から見る映画は一体どのような内容なのですか? とミサカはわくわくしながら尋ねます」

「そっか。一方通行もだけど、妹も映画は初めてなのね。
 映画をリクエストしたのはコイツだから私も細かいことはよく知らないんだけど、アクションものらしいわよ。
 私はゲコ太……げふんげふん、恋愛ものが良かったのに」

「今更何を隠そうとしてンだよ。オマエ、自分が遊園地でどンだけはっちゃけたのか覚えてねェのか?
 大体、恋愛ものとかキャラじゃねェだろォが」

「う、うるさいわね! それに私だって恋愛ものの映画くらい見るわよ!」

そうは言うものの、美琴は先程からずっと『ゲコ太TheMovie』と書かれた映画の宣伝ポスターに釘付けだ。
しかも、今映画を見れば特典として特製キーホルダーが貰えるという宣伝文句を目にしてからの美琴の落ち着きの無さときたら、尋常ではない。
この調子だと、解散した途端にこの映画を見に行ってしまいそうな勢いだ。
その上、意外なことに御坂妹もそれも興味を惹かれている。この間の遊園地の件で懲りたかと思っていたのだが、そうでもなかったようだ。

「でも、それならビリビリにも満足して貰えると思うぞ。この映画、恋愛要素もあるらしいし」

「ほほう。そこはかとない下心を感じますが、とミサカは分析します」

「まさか、そんなわけないだろ。近頃流行ってる映画みたいだったし、面白そうだから見ておきたいなーと思っただけだよ。
 それにちょうど友達にも勧められたところだったから、どうせならみんなで見に行こうと思ってさ」
263 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/25(クリスマス) 18:28:05.62 ID:jZYpsD2o

「……だとさ、御坂。残念だったな」

「な、何がよ!?」

唐突に話を振られたからか、美琴は顔を僅かに赤らめながら狼狽している。
上条はそのやりとりの意味が分からずにきょとんとした顔をすると、解説を求めて御坂妹の方を見たが、彼女は知らんぷりするだけだった。

四人は暫らくそんな他愛のない会話をしていたが、映画館内に入るとマナーに則ってきちんと会話を中断する。
館内では既に映画開始前に上映するCMが流されていて、故に辺りは真っ暗になっていた。
彼らは暗闇の中で躓かないように気を付けながら、チケットに書かれた指定席へと歩いて行く。
そうして漸く目的の席に辿り着いた彼らは、それぞれ指定の席に座った。
順番は正面から見て左から一方通行、御坂妹、上条、美琴だ。ちなみに美琴は通路側の席になっている。

「上条、これオマエの分のポップコーン。御坂妹、渡してくれ」

「了解しました、とミサカはバケツリレーの如く上条当麻にポップコーンを引き渡します」

「お、ありがとう……って、運びながらちょっと食うなよ! お前も自分の分あるだろ!?」

「ミサカの分はキャラメル味なので、あなたのとは味が違うのです。
 ふむ、あなたの塩味もなかなか美味ですね、とミサカはポップコーンを賞賛します」

「はしたねェことすンな。ほら、俺の分けてやるから」

「おお、ありがとうございます。では遠慮なく頂きますね、とミサカは早速ポップコーンにがっつきます」

「待てコラ、全部やるとは言ってねェぞ! オイ御坂オマエ姉なンだからこの妹なンとかしろ!」

「ふふふ……。ゲコ太可愛い……」

「……駄目だこりゃ」

助けを求めて美琴を見やれば、彼女はゲコ太映画のコマーシャルに釘付けになっているところだった。
それでもなお本人はゲコ太好きを隠そうとしているのだから、片腹痛い。

「お、映画始まったぞ。やっぱりギリギリだったんだな」

「ふむ、確かにかなり凝ったオープニングですね、とミサカは映画を評価します」

「ちょっとアンタたち、いい加減静かにしてよ」

一応周囲には迷惑が掛からないように気を使ってはいるのだが、当然会話をする為に仲間内には声が聞こえるように喋っているので、
どうしても話し声が美琴まで届いてしまうようだ。
するとちょうど本編が始まったので、二人も映画に集中する為にそれきり会話を中断させる。

映画の内容は、敵対勢力に命を狙われたとある資産家のご令嬢を護る護衛役のお話だった。
色んな事件に巻き込まれている内にやがて気の強いお嬢様が自分で戦い始めたり、最終的には主人公である護衛役に背中を預けられたりと
何だかめちゃくちゃなお嬢様だったが、流行っているだけあってシナリオはなかなか面白かった。
264 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/25(クリスマス) 18:32:49.34 ID:jZYpsD2o

また、こうした物語の王道として護衛役とお嬢様が恋に落ちたりもしたのだが、
そういったものに耐性が無いらしい美琴は、そういうシーンが出てくる度に顔を真っ赤にしながら思いっ切り目を逸らしていた。

「な、ななな何よこれ!? 何でこんなシーンがあるのよ!?」

「何でって、恋愛要素あるって言っただろ。って言うか、こういう映画ではキスシーンぐらい普通じゃないか?
 そう言えば、ビリビリは恋愛ものの映画をよく見るんだよな?
 俺はそういうのあんまり見ないからよく知らないけど、純愛ものでも普通にキスシーンぐらいないか?」

「だ、だからって……、もごもご」

「お姉様は本当に初心ですね。それにしても、このミサカよりも恋愛に対する免疫が無いというのは正直どうなんですか?
 とミサカはお姉様の奥手さに呆れながら一方通行に同意を求めますがコイツ寝てやがる」

「…………zzz」

尚、ちゃんと周りに迷惑が掛からないように小声で会話しているし一方通行も異常に静かに寝ているのでご安心されたし。
とにかく彼らは、こんな感じで四者四様の反応を見せながらそれぞれ映画を鑑賞していた。

ちなみに映画の方は、途中二人の関係がばれてお嬢様の父親の猛反対に遭ったり
手練れの殺し屋をあとちょっとのところで逃がしてしまったりと紆余曲折あったものの、最後にその殺し屋がお嬢様の父親の命を狙い、
それを護衛役が助けたことで父親は二人の関係を少しだけ認めるようになったのだった。
そして敵対勢力との最終決戦やその他の様々な障害を乗り越え、やがて映画はハッピーエンドを迎える。

エンディングが流れている時、美琴はちょっとだけ泣いていた。
やがてスタッフロールも終わり、館内に明かりが灯されると、彼らはそれぞれ伸びをしながら立ち上がる。
長時間ずっと同じ体勢で座り続けていた所為で、すっかり身体が固まってしまっているのだ。

「ふー、終わったか。俺はこういう映画ってあんまり見ないんだけど、意外と面白いんだな。
 またみんなでこうやって見に来ようぜ」

「それは良い考えです、とミサカは上条当麻の提案に賛同します」

「ふあァ……、やっと終わったか。随分長かったな」

「お前なあ……。せっかく金払って見てるんだから寝るなよ。ビリビリなんか感動して泣いてたぞ?」

「なっ、なに馬鹿なこと言ってんのよ!? 私は泣いてなんかないわ!」

「お姉様の照れ隠しはいつものことなので放っておくとして、この人はアクションシーンは割りと真剣に見ていましたよ、とミサカは報告します。
 確かに何故か恋愛シーンの時だけは寝ていましたが、とミサカは器用な一方通行に驚きます」

「アクションシーンに入ると音量が大きくなるから、寝ててもそれで起こされンだよ」

「いや、だから寝ようとするなよ」

上条がツッコミを入れるが、当の一方通行は大きなあくびをしていてまるで聞いている様子がない。
彼がそんな一方通行に呆れていると、不意に御坂妹が思い出したように口を開く。
265 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/25(クリスマス) 18:35:52.73 ID:jZYpsD2o

「そんなことより、昼食はどうしましょう? あなたの奢りということですが、やはり一方通行の退院祝いですので彼に決めて貰いますか?
 とミサカは忘れずにきちんと罰ゲームを履行しようとします」

「ああ、そう言えばそうだったな。それで良いけど、頼むから高いものは勘弁して下さいお願いします」

本当にお金が無いのだろう、上条は途中から丁寧語になりながらかなり切実に懇願した。
そんな上条の勢いに一方通行は若干引いていたが、少し考えてから珍しく遠慮がちにこう提案する。

「じゃァその辺のファーストフード店にでも入るか。腹も減ったし、とにかくさっさと何か食いてェ」

「あら、そんなので良いの? 折角の奢りなんだから、そんなに遠慮しなくても良いのに」

「ビリビリは頼むからもうちょっと遠慮してくれ。
 て言うかビリビリも一応お嬢様なんだから、わざわざ奢ってもらわなくてもいつも良いもの食べてるだろ?」

「確かに常盤台の学食や寮の食堂は非常に高品質な料理を提供しているようですね、とミサカはお姉様を羨みます」

「そんなことないわよ、普通よ普通。特に私は購買で適当に買って食べることが多いから、そんなに食べる機会が多いわけじゃないし。
 もしそんなに気になるんだったら、今度連れてってあげるわよ」

「本当ですか? 遠回しにねだった甲斐がありました、とミサカは歓喜します」

御坂妹は相変わらずの無表情だったが、三人はそろそろ表情が変化しなくても彼女の考えが掴めるようになってきているので問題なかった。
彼女は表情は変わらないが、基本的に自分の感情に素直なのでコツさえ掴めば意外と分かりやすい。

「とりあえず、どの店に入るか決めないと。この時間だと、早めに入っておかないとすぐに混雑し始めるぞ」

「それもそォだな。あ、あの店なンか良いンじゃねェか? 空いてそォだぞ」

「ではあそこで決定ですね。ミサカもお腹が空いたので早く行きましょう、とミサカはお姉様を急かします」

「そんなに焦らなくったって店は逃げたりしないわよ。せっかちな子ね」

自分の腕をくいくいと引っ張って急かす御坂妹に呆れながら美琴は苦笑いを浮かべた。
そんな二人を見ながら、上条はもうすっかり姉妹が板についたなあなんて微笑ましく思っていた。



―――――
266 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/25(クリスマス) 18:38:32.89 ID:jZYpsD2o


『いただきます』

御坂妹の主張によって、何故か四人はファーストフード店でいただきますをさせられていた。
普通の食卓なんかでは有り触れた光景だろうが、流石にファーストフード店でこれをする人はいない気がするので少し恥ずかしい。
しかしこれを提案した御坂妹は、希望が通ってご満悦といった様子だ。

「あ、乾杯もするか? 一方通行の退院を祝って」

「まだ退院してねェけどな」

「紙コップだからあんまり良い音しないけどねー。まあ、とにかく退院祝いなんだからやっちゃいましょ」

「乾杯、やってみたいです。とミサカも便乗します」

「じゃ、みんなそれぞれコップ持って」

『かんぱーい』

掛け声とともに四人が一斉に紙コップをぶつけあうと、ぱすんと軽い音がした。紙なので仕方がない。
しかもストローなので一気飲みすることもできない……と思ったのだが、美琴と御坂妹はわざわざ蓋を取り外して一気飲みしていた。

「っぷはー。やっぱり白ぶどうよねー」

「炭酸を一気飲みするのは流石に無謀でした……、とミサカは……うぷ」

「オマエ、いつもそンな感じだよな……。大丈夫か?」

「とりあえず何か食べて抑え込むことにします、とミサカはサンドイッチに手を伸ばします」

「……それは大丈夫なのか?」

一方通行に背中を擦って貰っている御坂妹はがつがつとサンドイッチを食べ始めたが、まだちょっと苦しそうな顔をしている。
上条は苦笑いをしてそれを眺めながらも、手近にあったチキンを手に取った。

「そういえば、一方通行は結局いつ退院なんだ? 明日だっけ?」

「いや、明後日だ。準備はもォしてあるし体調も万全だから、退院自体は今すぐにでもできるンだがな」

「ふーん。そうだ、退院した後はどうするの? 住むところとかは決まった?」

「…………。冥土帰しが偽造IDを手配してくれたからな、それ使って適当なアパートを借りた。
 こっからだいぶ遠いが、格安だから文句言えねェ」

一方通行が話しているのを聞きながら、上条は何となく違和感を覚えた。
本当によく気を付けて見ていないと分からない程度だったが、ほんの少しだけ様子がおかしいような気がしたのだ。
しかしそれはあまりにも微細な変化だったので、上条は気の所為だと思って特に気に留めなかった。
その一方で、それに気付いていない美琴はいつもと同じ調子で言葉を続ける。
267 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/25(クリスマス) 18:42:56.18 ID:jZYpsD2o

「それなら住所教えてよ。今度遊びに行くからさ」

「……覚えてねェ。分かったら今度メールで送る」

「まあ、新居の住所なんかなかなか覚えられないよなー。俺も今の学生寮の住所を覚えるのにどれだけ苦労したことか」

「そう言えば、あなたは高校一年生でしたか。
 でしたらこの時期で既に住所を覚えているというのは早い方なのでは? とミサカは上条当麻の意外な記憶力に驚きます」

「住所って意外と色んなところで要求されるからな。もちろん、最初はメモ書きを持ち歩いてたけど」

話しながらその時のことを思い出したのか、上条は少し遠い目をする。幾度となくメモ書きを落として不幸な目に遭ったことは、心の中にそっと仕舞っておくことにしよう。
しかしその話を聞いていた美琴は、一方通行の言葉に首を傾げて不思議そうな顔をする。

「でも、アンタは何でもすぐに覚えちゃうじゃない。珍しいわね」

「……、俺にだってそォいうことくらいあるっつゥの。とにかく、住所はまた今度な」

「りょーかい。できるだけ早めにお願いね」

「おォ」

適当に返事をしながら、一方通行もフライドチキンに手を伸ばす。
その横から御坂妹がさり気なくコーンサラダを一方通行の方に押しやっていたが、彼は完全無視だ。
冥土帰しも嘆いていたが、一方通行はあまり野菜を食べようとしてくれない。

「ところで、退院した後は何するつもりなんだ? やっぱり何処かの学校に通ったりするのか?」

「……いや、まだ決めてねェ。冥土帰しの病院で助手するか、どっか適当な研究所の働き口探すかだな」

「働くつもりなの? アンタだってたぶん学生だったんだろうし、学校とか行った方が良いんじゃない?」

「学校なンか行ったって仕方ねェだろ。俺は独学でも大抵のことは学習できるしな」

「学校ってのは、何も勉強するだけの場所じゃないぞ? 友達作って一緒に遊び歩いたり、部活に精を出したり、他にもイベントとかあって色々できるし。
 せっかく学生なんだから、学校は行っとかないともったいないぞ」

「そンなモンかねェ……」

「そんなもんだ」

力強く頷きながら、上条はポテトを口に放り込む。
けれど、どちらにしろそれは一方通行にとっては縁遠い話だ。

「まあそれは置いとくとして、ごはん食べた後はどうするの? 何かリクエストある?」

「映画をリクエストしたのは俺だから、他の奴優先で良いぞー」

「俺は特に無ェ。この辺のことはよく知らねェしな」
268 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/25(クリスマス) 18:46:53.67 ID:jZYpsD2o

「ミサカはショッピングというものをしてみたいです、とミサカは早速リクエストします」

「あら、それ良いわね。て言うかアンタいつもその制服ばっかり着てるけど、もしかしなくてもそれしか持ってないでしょ?」

「その通りです。この制服の替えはいくらでもあるのですが、それ以外の服は何も無いのです、とミサカはミサカの洋服事情を説明します」

「それはそれでどういう洋服事情なのよ……」

「あ。そう言えば、一方通行も確か二、三着くらいしか持ってなかったよな?」

「三着だな。外出するごとに毎回ローテーションで着回してる。面倒くせェし」

「それじゃこれから困るわよ? 入院してた時みたいに、四六時中手術衣を着てれば良いってわけじゃないんだから。
 決定、服買いに行きましょ」

そして、そんな美琴の一言で、彼らの次の目的地が決定した。



―――――



映画館の周辺にはあまり良い洋服店がないという美琴のアドバイスによって、四人は第七学区にあるセブンスミストを目指していた。
セブンスミストはここからだいぶ遠かったが、品揃えが良いしついでに他の生活必需品も買い揃えることができるということで目的地に決定したのだ。
また一方通行は退院するというのに必要最低限のもの以外は何も準備していないらしいので、他の雑貨も適当に買い集めることになった。

「セブンスミストってこの辺じゃちょっと有名な服屋なんだけど、アンタたちは知らないわよね?」

「前を通ることくらいはあったが、確かに入ったことはねェな」

「ミサカも同じようなものです、とミサカは一方通行に追従します」

「俺でも何度かお世話になってるようなところだからなー。必要なものは大体揃うと思うぞ」

そんな他愛のない話をしながら歩いている四人は、先程漸く第七学区に入ったばかりだ。
彼らのいた映画館は第六学区なので、セブンスミストまではまだまだ距離がある。
休日で人通りの多い大通りを歩きながら、美琴はふとセブンスミストがあるであろう方角を眺めて困ったように眉根を寄せた。

「でも、やっぱりちょっと遠かったかしら。あと何分くらい掛かるか分かる?」

「位置的には三十分程度でしょうか。バスなどの交通機関を使った方が良かったかもしれません、とミサカは進言します」

「三十分かあ。徒歩で行けない距離でもないし、ちょっと微妙だな。この辺には近道できるような路地裏も無いし」

上条のその言葉に、一方通行は密かに少し安心していた。
あれ以来、路地裏に行くことは冥土帰しに固く禁じられている。もちろん一方通行としても、もう二度とあんなところに行きたいとは思わなかった。

「まあ、時間はあるんだからのんびり行こうぜ。途中で良さげな店があったら覗いて見るのも良いし」
269 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/25(クリスマス) 18:49:47.87 ID:jZYpsD2o

「そうねー。……あ、クレープ屋さんある。食べたい」

「さっき昼飯食ったばっかじゃねェか。オマエの胃袋は一体どォなってンだ?」

「甘いものは別腹なの! 妹だってそうでしょ?」

「ええ、その通りです。とミサカはお姉様に同意します」

美琴の問い掛けに、御坂妹はあっさり頷いた。
その返事に一方通行は呆れたが、それに対して美琴は自信に溢れた表情で胸を張る。

「ほらね! 女の子はそういうものなのよ!」

「ハイハイ、分かりましたよォ。で、結局食うのか?」

「あったり前でしょ! という訳でさっそく買ってくるけど、アンタたちは何か食べたいのある?」

「苺と生クリームのクレープが良いです、とミサカは注文します」

「俺はアイスが入ってるのが良いな。バニラかチョコで」

「コーヒークリーム。ナッツ入ってる奴」

「結局全員食べるんじゃない! 別に良いけど! まあ、とりあえず買ってくるわね」

それだけ言うと、美琴は広場に停車しているクレープ屋の車へと駆けて行く。
そんな彼女を見送りながら、上条ははたと大事なことに気が付いた。

「あれ、こういう時って普通男が買いに行くもんじゃね?」

「……別に良いンじゃねェの。御坂が進ンで買いに行ったンだから」

「クレープが食べられるのならなんでも良いです、とミサカは己の欲望を曝け出します」

「……まあ、良いか。て言うかもう戻って来たし」

器用にも四つのクレープを手に持っている美琴は、うきうきしながら駆け戻ってくる。
……何故かひとつだけ異常に巨大で豪華なデコレーションのされたクレープがあるのだが、あれは一体何なんだろうか。

「お待たせー。はい、これ」

「どォも。つゥか何だソレ? やたら派手っつゥか、でけェっつゥか……」

「スペシャルストロベリーショコラジェラートデラックスクッキークリームエクストラ! 一度食べてみたかったのよねー」

「お、おおう……」

「流石のミサカもそれは引くわ、とミサカは思わず本音を漏らします」
270 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/25(クリスマス) 18:57:28.13 ID:jZYpsD2o

「何よう、そんなこと言うなら食べさせてあげないんだから。学校の近くじゃ売ってないし、そこそこ高いからなかなか食べる機会なんてないのに」

「……ソレ、全部一人で食べ切れるのか?」

「だから言ったでしょ、甘いものは別腹って。じゃ、いただきまーす」

「マジでか」

「胃袋が宇宙ってレベルじゃねェぞ」

「そのフレーズ懐かしいですね、とミサカは懐古します」

自分たちのクレープを食べることも忘れて美琴の巨大クレープに目を奪われている三人は、それぞれ本音過ぎる感想を述べた。結構失礼だ。
そして美琴が、今まさにクレープにかぶりつこうと、する。



『―――目標補足。特殊弾頭申請許可受領、狙撃準備完了』

『了解。追撃班、回収班、処理班配備完了。……狙撃開始』



そう、まさにその瞬間のことだった。
耳鳴りのような風切り音が、鳴った。
音速を超えて接近してくるその砲弾に反応できる者など、いないように見えた、が。

パチリと何かが弾けるような音と共に、いや、それよりもほんの少し早く美琴が背後を振り返る。
そして次の瞬間、先程とはまるで比べ物にならないほど激しい電撃音が轟いた。
そして驚くべきことに、美琴は磁力を用いて凄まじい勢いで飛来したはずの砲弾を空中に静止させたのだ。
しかしそれだけのことをしておきながら、彼女は何の目立った動きも見せなかった。彼女はただ振り返って、砲弾をじっと見つめているだけだった。

そして美琴はクレープを持っていない方の手をすっと砲弾に向けると、その華奢な手のひらから再び莫大な磁力を生み出した。
途端、砲弾は飛来してきた時とは比較にならない速度……、音速の三倍で元来た方向へと帰って行く。
次の瞬間、何処かのビルの屋上へと着弾した砲弾は、爆発を起こして屋上の一角を瓦礫に変える。

「ったく。この美琴センセーに喧嘩を売りたいなら、鉄分を含まない武器を持ってきなさいよ」

学園都市最強の電撃使いにして、常盤台の『超電磁砲』。
超能力者の第三位が、そこにいた。


271 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/25(クリスマス) 19:00:53.73 ID:jZYpsD2o
投下おしまいです。お疲れ様でした。
前もって言い訳しておくと、自分はどちらかというと文系の人間ですので理科はよく分かっていません。
禁書で科学的にあれがおかしいこれがおかしいと言われていてもさっぱりわからないレベルです。間違いなくかまちーより分かってません。
あ、流石に木原神拳がおかしいのは分かりますが←
と言うことで、今回科学的に色々おかしいところがあるかもしれませんが見逃してやってください……。

一応調べながら書いてはいますが、なにぶん付け焼刃な知識ですので勘違いがあるかもしれません。
ですので、何か間違ってるところがあったら教えて下さると嬉しいです……。

では、読んで下さってありがとうございました。
次回の投下は一週間前後です。それでは。
272 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) :2010/12/25(クリスマス) 19:36:35.21 ID:FSCInASO
紅茶(だったっけ?)に浸かっただけで銃が熱膨張で使えなくなる世界ですぜ?
あまり細かい事を気にする必要は無いと思う
273 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 19:38:03.64 ID:TcZZEHUo
むむ、ほのぼの日常シーンと思いきやまたも事件勃発ですか
そういや遊園地もそうだったし、中々平和を満喫できない4人ですなぁ
274 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 19:41:10.98 ID:7tKYz0c0

木原神拳は愛だとか根性だとか、どっちかって言うと精神論の世界だと思うよ
何が言いたいかっていうと何の問題もないぜ!!!ってことさ
脳内補間余裕です
275 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 20:14:25.62 ID:7wsv2H20

まあ学園都市自体がトンデモ科学の世界だからなぁ
気にしなくてもいんじゃね

それより距離を置こうとする一方通行に御坂妹が気づかないなんて・・・平和ボケしてるんじゃあないか?
276 :クリスマス終了のお知らせ :2010/12/26(日) 00:07:19.39 ID:wgyYfDQ0
映画なのに奴が出ない、だと
277 : ◆uQ8UYhhD6A [sage]:2010/12/26(日) 03:01:57.74 ID:yV3qh32o
皆さん寛容で良かったです。と言うわけで、けっこう適当にやって行こうと思います←
ああいうのちゃんと考えてSS書いてる人凄いですよね……。
あ、あと武器や兵器に関しても完全に素人なので、そっちも見逃してくださると助かります。
まあ何が言いたいかというと、細けェこたァ気にすンな! ってことです。

>>259
言い忘れてた。
自演乙!

>>275
御坂妹については、>>154から>>155>>246から>>248あたりを見れば何となく心中を推し量れるかもしれません。
分かりにくくてごめんね!

>>276
彼女はC級映画専門です。流行の映画なんか見ないんです。
べ、別に忘れてたわけじゃないんだからねっ!
278 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 11:57:51.45 ID:Fu/hte2o
美琴かっこいいな…禁書本編でも見たいもんだ
279 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 16:06:03.97 ID:IGpz2c.o
おっつおっつ! >>1乙!
デレふにゃ美琴さんもいいけどかっこいい美琴さんも好きだ。
280 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/30(木) 00:35:42.79 ID:qCEAQfQo
どうもこんばんは。投下しに来ました。
しかし、話が全然進まない……。すみません。

ともあれ、眠いのでさっさと投下しますね。
冬コミ……か……。
281 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/30(木) 00:36:17.52 ID:qCEAQfQo
突然の砲撃、そして超能力者の第三位『超電磁砲』の反撃に、周囲は騒然となる。
それまで大通りにいた大勢の人々は一斉に逃げ惑い、恐慌状態に陥った。悲鳴と泣き声と怒号がその場を支配する。
しかしその中心にありながら、美琴はちっとも動揺していなかった。

「うおっ、今何が起こったんだ? よく分かんなかったんだが」

「その割には冷静ですね。普通ならもっとあのように逃げ惑うと思うのですが、とミサカは更に冷静に判断を下します」

「いやー、俺はほぼ毎日テロに巻き込まれてるからなー。なんかもう慣れちゃったと言うか」

「あなたの不幸は本当に折り紙つきですね。それでもテロに慣れるのは流石におかしいと思いますが、とミサカはあなたの順応能力に舌を巻きます」

幸か不幸か騒ぎの中心に立っている彼らは、逃げ惑う人々にぶつかられるということもなくのんびりと会話することができていた。
あっちが勝手にこちらを避けて行ってくれるのだ。
普通に考えて、あんな反撃を行った超能力者のそばになんか近づきたくないからだろう。
実際、騒ぎの中心が美琴でなければ、上条だって一目散に逃げ出していたはずだ。

「まーたテロリストかしら。まったく嫌になっちゃうわね、毎日毎日毎日毎日……。よく飽きないもんだわ」

「まあ彼らはそれが仕事のようなものですから、とミサカは傍迷惑なテロリストに呆れます」

「つーか、あんな反撃しちゃって大丈夫なのか? 流石にあれ死んじゃったんじゃ……」

「失礼ね、ちゃんと加減してるわよ。て言うかあんな特殊弾頭持ち出してくるくらいなんだから、駆動鎧(パワードスーツ)くらい着てるでしょ」

詰まらなそうに言いながら、美琴は頬に掛かった髪を後ろへとはらう。
そして彼女は、ふと自身の左手に目をやった。

「それにしたって限度ってもんが……」

「ああああああああ!!」

「うお!? ど、どうした!?」

唐突に悲鳴を上げた美琴に、上条が何事かと驚いて駆け寄った。
上条はわなわなと震えている小さな肩にぽんと手を置くと、美琴は涙目になりながらゆっくりと振り返る。

「お、おい、大丈夫か?」

「あああああ……、ひどい、ひどすぎる……。わ、私の……クレープ……」

「……はあ?」

上条は思わず間の抜けた声を上げてしまった。
見やれば、確かに先程まで彼女がかぶりつかんとしていた巨大クレープがその手の中でぐちゃぐちゃになってしまっている。
が、まさかこの状況でそんなことを気にしているとは思わなかった。

「ううっ、超電磁砲の応用で砲弾を飛ばした時につい力んじゃったから……。楽しみにしてたのに……」
282 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/30(木) 00:36:49.70 ID:qCEAQfQo

「待て待て、今はそんなことを気にしてる場合じゃないだろ!? さっさと逃げるぞ!」

「うるっさいわね! アンタには私の気持ちなんか分からないわよ! 私がどれだけこのクレープを楽しみにしてたか分かる!?
 ちょっと前に雑誌で見かけたんだけど、この辺りはあんまり来れないからなかなか食べれなかったの! それがやっと食べれるって思ったのに!
 あのテロリストども……、絶対に許さん!!」

それでも美琴は最早クリームの塊と化してしまったクレープを握りしめながら、未だかつてないほど激しく放電した。
美琴のすぐそばにいたばっかりにその煽りを喰らいそうになった上条は咄嗟に右手で電撃を打ち消すと、必死に美琴と距離を取った。
しばらく放電をし続けてやっと気が済んだのか、彼女は放電をやめるとぜえぜえと肩で息をしながらも全力で叫んだ。

「あーもう、絶対に成敗してやるわ! て言うかアンタ、右手が邪魔だから何とかしてくんない?」

「んな無茶な!」

「地面に手を付けてくれるだけで良いわ。それがあると電磁波が乱れちゃうのよ」

美琴は電撃使い故に、微弱な電磁波を常に発し続けている。
そしてその電磁波の反射波を察知して障害物をサーチすることができるのだが、上条の右手があるとその電磁波を打ち消されてしまうのだ。
そのあたりの仕組みをきちんと理解している上条は、衝撃でぼろぼろになっている地面に右手をついた。

「これで良いか?」

「オッケー。あと、アンタはこの状況じゃ役立たずなんだから、出来るだけその姿勢を保ったまま逃げなさい」

「馬鹿言え。こんなところにお前だけ置いて行けるか」

「アンタ、誰に向かってそんな口聞いてるの? 私はねえ……」

その時、電気が弾ける音がした。
同時に美琴は眼を見開くと、先程よりかは幾分か抑え込まれた、しかし十二分に強力な電撃を全方位に放つ。
すると、複数の場所から美琴を狙撃したのであろう銃弾がすべて弾き飛ばされた。

「超能力者の第三位、『超電磁砲』よ? この程度でどうにかされるわけないじゃない」

「だ、だからってなあ……」

「うっさいわね、邪魔だって言ってんの。その右手も邪魔だし、話し掛けられると集中の邪魔」

あまりにもキッパリと戦力外通告をされて落ち込んでいる上条を尻目に、美琴は集中の為に目を閉じた。
どちらにしろ、このままここにいるだけではらちが明かない。
相手の攻撃はすべて無効化することができるが、この距離では美琴の攻撃は相手に届かないのだ。
……そんなのは、まったくもって面白くない。

(銃弾の軌道から狙撃手の位置を逆算。電磁波を増幅、サーチ範囲の拡大と指向性の追加。逆算した狙撃手の位置にサーチを集中)

すると、美琴は閉じていた眼をゆっくりと開いてニヤリと笑う。
ちょうど美琴の顔が見える位置に立っていた上条は、その顔を見て背筋が冷たくなった。

「さあ、今度はこっちの手番よ。この私に喧嘩を売ることがどれだけ愚かなことか、骨の髄まで理解させてやるわ」
283 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/30(木) 00:37:23.55 ID:qCEAQfQo

「……お前、まさか」

「まさかじゃないわ、さっき宣言したじゃない。テロリストを倒しに行く」

「お、お前本当に馬鹿だろ!? こんなの警備員に任せときゃ良いんだよ! 俺たち子供が関わって良いような事件じゃねえ!」

「残念ね。私、売られた喧嘩は買う主義なの。でも安心しなさい、アンタを巻き込むつもりはないから。
 もちろん、安全な場所まで送ってあげるくらいのことはしてあげるわ」

「あのなあ……」

それでも何かを言い返そうとして、上条はふと違和感に気付いた。
こういう時に真っ先に文句を言いそうな一方通行と、姉を諭してくれるだろう御坂妹がまったく口を出してこないのだ。
それに気付いた上条が慌てて周囲を見回してみたが、そこには誰の姿もない。二人は何処にもいなかった。

「あれ? 一方通行と御坂妹……、は?」

「知らない。あの子たちはアンタと違って頭が良いから、危険を察知してさっさと逃げたんじゃないの?」

「い、いや、そんなはずは……。て言うか御坂妹なんかさっきまで一緒に喋ってたのに……」

「……ま、確かに妙ね。いくら緊急事態とは言え、アンタを見捨てて逃げるなんて」

二人ともそんな薄情者ではないことを知っている美琴も、訝しげな表情を浮かべる。
確かに普通の人ならば一も二も無く逃げ出してしまうような状況だが、残念ながらあの二人は『普通の人』のカテゴリには当てはまらない。
だから、何かよっぽどのことが無ければこの場からいなくなってしまうというようなことは無い筈なのだが。

「まさか、何かあったんじゃ……」

「……私ほどじゃないとは言え、あの子たちもかなり強いわ。ちょっとやそっとでどうにかなるとは思えない、けど……」

何でもないような口調で言いながら、しかし美琴はすうっと目を細めた。
そして彼女は上条に背を向けると、電磁波によってサーチした狙撃手の居場所へ歩いて行こうとする。

「アンタは気付かなかっただろうけど、今の砲撃は明らかに私たちを狙ったものだったわ。
 最初は馬鹿なテロリストが見せしめに超能力者の私を処刑しようとしたんだと思ってたけど、もしかしたら狙いはあの二人だったのかも。
 もしくは、そのどちらかね。
 一方通行は明らかに厄介な事情を抱えるみたいだったし、妹も……、まあ、ちょっと特殊なのよ。

 だから砲撃以前に私たちのそばに既に何者かが潜んでいて、砲撃のどさくさに紛れて誘拐されたって線も考えられる。 
 自分で言うのもなんだけど、私は結構有名人だし、その私相手に金属製の特殊弾頭で砲撃なんて不自然だもの。
 普通、電撃使い相手に防がれるのが分かり切ってる金属製の武器で攻撃する? これじゃ、殺す気が無かったとしか思えないわ。

 で、殺す気が無いのにあんなに派手な砲撃をする理由は? ってなると、やっぱり陽動か目くらまししか考えられないのよね。
 実際、私は砲撃と狙撃への対処に気を取られて二人の失踪に気が付かなかったわけだし」

「ちょ、待て待て待て待て! 話についていけないんだが」
284 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/30(木) 00:37:59.42 ID:qCEAQfQo

「……とにかく、二人が危ないかもしれないってこと。
 あの子たちが本気を出したらどれくらい強いのか知らないけど、特殊弾頭から推測した相手の装備を考えた限りは結構ヤバいと思う。
 一方通行はレベル3、妹は鍛えてると言ってもレベル2だし。
 ……だから、私はそれも含めてテロリストたちに話を聞きに行くことにするわ」

美琴はまるで睨むようにちらりと背後の上条に目をやると、すたすたと歩いて行ってしまう。
目まぐるしい展開に茫然としていた上条ははっと我に返ると、足早に去ろうとする美琴の後を慌てて追いかけた。



―――――



『案の定一部の馬鹿が暴走しました、とミサカ10032号は状況を報告します』

『既に連絡はこちらにも来ています、とミサカ10039号は通達します』

『大規模な事件ですが、何故か警備員は少数しか配置されていないようです、とミサカ10854号は疑問を呈します』

『当たり前です。上層部が事件の本質を露呈させない為に手を回したのでしょう、とミサカ16770号は質問に対する推論を述べます』

『ミサカ10044号、ミサカ14002号、ミサカ18820号、ミサカ10774号、現場に到着しました、とミサカ10044号は加勢する意を表明します』

『感謝します。現場の付近にいる妹達も加勢に来ていただけると助かります、とミサカ10062号はお願いします』

『了解。今からそちらに向かいます、とミサカ14458号は希望に沿う旨を伝えます』

『こちらも今そちらに向かっているところです、とミサカ19002号も加勢に参加します』

ミサカネットワーク。
御坂美琴の体細胞クローンである『妹達』の形成する脳波ネットワークの中で会話しながら、御坂妹は隠し持っていた銃を組み立てていた。
いつかこうなることは予測できていた。だから御坂妹は、いつでもこうした事態に対処できるように準備していたのだ。

『でもでも、相手はミサカたちより遥かに上等な装備をもったプロの戦闘員なんでしょ? そんなの相手に戦って、本当に大丈夫なの?
 ってミサカはミサカは心配してみる』

『その辺りは大丈夫です。この襲撃を行っているのは、絶対に『実験』を成功させたいと思っているマッドサイエンティストですから。
 『実験』に必要不可欠な『妹達』を無闇に傷つけることはできません、とミサカ10032号は悪知恵を働かせます』

『それでもミサカたちは量産可能なんだから、別に良いやって思っちゃう人もいるんじゃ……ってミサカはミサカは懸念を表してみる』

『ミサカたちにはそれぞれ『実験』に最適な状態になるよう調整が施されていますし、あの人も今のミサカたちに合わせて体調管理されていました。
 ですので、もはや『実験』にとってミサカたちは代替可能な消耗品ではないのです。
 そしてそこを逆手に取ります、とミサカ10032号は綿密な計算の末の行動であることを明かします』

『それなら良いんだけど……、無理しないでね、ってミサカはミサカは何もできない自分を悔いてみる……』
285 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/30(木) 00:38:38.52 ID:qCEAQfQo

『ええ、何も問題ありません。
 それでは、現場に到着した妹達は所定の位置について待機、奴らが来たら応戦してください、とミサカ10032号は指示を飛ばします』

『了解しました。こちらではまだ動きがありません、とミサカ14002号は思いのほか暇なことに安心します』

『こちらは既に駆動鎧を視認しました。予想よりも数が多いのでできれば応援をお願いします、とミサカ10230号は要請します』

『ではこちらからそちらに何人か送ります。どうかそれまで持ち堪えてください、とミサカ10117号は要請に応じます』

御坂妹のもとにも、ミサカネットワークを通して何処かで戦っている妹達の様子が伝わってくる。
殺されることは無いにしても、相応の怪我は覚悟しなければならない。
御坂妹は組み立て終えた銃を小脇に抱えて立ち上がると、これから駆動鎧たちがやって来るであろう方向を見据えた。
彼女はまだ、たった一人だった。

『……それよりも、気付いたら既に彼が姿を消していたことが気になります、とミサカ10032号は先程の出来事を回想します』

『うん……。あの人は勘が良いから、たぶんすぐに気が付いたんだよ。
 だから巻き込まない為にその場から離れたんだね、ってミサカはミサカは推測してみる』

『大方その通りでしょう。
 まったく、記憶が無くなっても何でも一人で抱え込む悪い癖は治っていないようですね、とミサカ10032号は呆れてものも言えません』

『あの人、大丈夫かな……ってミサカはミサカは俯いてみる』

『……彼の能力はもうだいぶ戻っているようですし、垣根帝督や木原数多が出てこない限りは大丈夫でしょう。
 それより、彼の位置はまだまったく掴めていませんか? とミサカ10032号は尋ねます』

『うん、ミサカネットワークに流されて来る情報を統合して分析してるんだけど、全然。
 あの人が能力を使って動いてるなら、位置の特定はかなり難しいと思う、ってミサカはミサカは自分の無力さを嘆いてみる』

『全力で飛び回っている彼は殆どテレポーターみたいなものですから無理もありません、とミサカ10032号は上位個体を慰めます』

『ありがとう、ごめんね、ってミサカはミサカは謝ってみる』

『その程度で謝るなんて、あなたらしくもない。気にし過ぎですよ、とミサカ10032号は指摘します。
 ……と、こちらもこれから少々忙しくなりそうなのでネットワークを切断しますね、とミサカ10032号は戦闘態勢に入ります』

『う、うん。気を付けてね、ってミサカはミサカは戦場に赴く下位個体を見送ってみる』

いつになく不安そうな声色で言う打ち止めの言葉を聞いて御坂妹は僅かに微笑むと、それを最後にネットワークを完全に切断した。
目の前には、無数の駆動鎧。
しかし彼女の背後にも、いつの間にやら応援に駆け付けてくれた何人もの妹達が立っていた。

「さあ、愚か者に裁きの鉄槌を下しましょう、とミサカは戦闘開始を宣言します」



―――――
286 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/30(木) 00:40:10.25 ID:qCEAQfQo



御坂が気付かなかったら。
御坂が反応できなかったら。
御坂が対応してくれなかったら。

そんなifを考えるたびに、ぞっとした。
そうならなくて本当に良かったと、心から思った。
……そうならないように、気を付けていたつもりだった。

だけど、甘かった。あまりにも甘すぎた。
これが最後だなんて、なんてひどい我儘だろう。
結局巻き込んだ。危うく殺しかけた。実際、自分だけでは守れなかった。
御坂が居なかったら、死んでいた。

(やっぱり、駄目だった。駄目だったンだ。駄目だ。駄目なンだ)

否定的な言葉の羅列。そんなものばかりが彼を支配する。心が千々に掻き乱される。
しかしそんな中で、頭だけは何故かいやに冷静だった。

これからどうするべきなのか、何をするべきなのか。それらすべてを冷徹に計算して、これから行うべき行動を組み上げていく。
だから彼は、一方通行は、能力を駆使して全力で駆ける。

少しでも早く、彼らから遠ざかる為に。
少しでも早く、奴らを駆逐する為に。
                                                      . . .. . . .
(初撃の軌道から狙撃手の位置は割り出せた。御坂が反撃はしたが、アイツの言う通り死ンではいねェ)

ビルの屋上から屋上へ飛び移りながら移動していた一方通行は、やがてとあるビルを目の前にして足を止めた。
そこは、最初に彼らに砲弾を放った駆動鎧たちがいるはずのビルだ。
実際、美琴の反撃の所為で、ビルの一角が完全に破壊されている。
一方通行は何を考えているのか分からない瞳でそこを見上げると、しかし特に何も思うことなく地面を蹴って飛び上がった。

『!? も、目標がF−3に到達!』

『確保、確保だ! 何が何でも捕らえろ!』

その屋上の淵に降り立った途端に聞こえてきた駆動鎧たちの声を、一方通行はまるで他人事のように聞いていた。
いや、実際それは他人事だった。
……こんな駆動鎧風情が、今の彼を捕らえられるはずがなかったから。

「よォ。随分好き放題暴れまくってくれたなァ?」

自分でも聞いたことがないくらい残虐な声だった。
その声に、それまで忙しなく動き回っていた駆動鎧たちが蛇に睨まれた蛙のように凍り付く。

実に、実に愚かしいことに、駆動鎧たちはこの時になって漸くこの少年の恐ろしさを理解したのだった。
そしてそれは、あまりにも遅過ぎた。
287 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/30(木) 00:42:03.01 ID:qCEAQfQo

「あは。ちょうど、俺も暴れてェと思ってたところなンだ。オマエら、わざわざ俺に喧嘩売りに来たんだろォ?
 相手してやるから、俺の『遊び』にも少し付き合えよ」

そうだ。
敵の攻撃から彼らを守りきることが難しいなら、彼らを攻撃しようとする奴らをすべて叩いて潰せば良いんだ。
徹底的に徹底的に徹底的に蹂躙する。
そして、こんな馬鹿なことをしようだなんて二度と思わせない。

その為にも、不安の芽は全部摘んでしまおう。
全部全部全部全部全部全部全部全部。

「……生まれてきたことを、後悔させてやる」

それは、死刑宣告。
いや、死刑宣告よりももっと恐ろしい宣誓だった。



―――――



「ったく、馬鹿なことしやがって」

傍らにいる『反対派』の妹達からミサカネットワークの状況の報告を受けながら、垣根は呆れたように呟いた。
彼らのいる研究所も騒然としている。
いつもはこの部屋で『実験』の準備や垣根のサポートを行っている木原も、この時ばかりは出払っていた。

「まったくもってその通りです、とミサカも同意します」

「こんな無茶なことばっかしやがって、アイツら本当に実験を続けたいと思ってるのか? まさか対抗勢力が紛れ込んでるんじゃないだろうな」

「その可能性は薄いと思われます。対抗勢力の類は先日あなたたちが強襲したばかりですので、あちらもかなり慎重に出方を窺っています。
 ですので今更対抗勢力がこのような無謀なことをするとは思えません、とミサカはあなたの推測を否定します」

「そんなの俺も分かってるっつーの。研究者どもがあまりにも馬鹿だから揶揄しただけだよ」

ぐだっと机に突っ伏しながら、垣根はひらひらと手を振った。
垣根もなんだかんだ言って研究者に振り回される側の人間であるので、この展開には辟易しているようだ。
そんな彼を見ながら、『反対派』の妹達はちょこんと首を傾げる。

「……ところで、あなたは止めに行かなくていいのですか? 『実験』が中止されたらあなたも困るはずです、とミサカは疑問を投げ掛けます」

「そう言うお前はどうなんだよ。今はほかの妹達とも利害が一致してるはずだろ、協力してやれば?」

「いえ。『推進派』の妹達は『反対派』の妹達よりも圧倒的多数です。
 今更『反対派』のミサカたちが出て行ったところで大した戦力にはなりません、とミサカは冷静に状況を分析します」
288 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/30(木) 00:42:44.03 ID:qCEAQfQo

「ふーん。ま、俺も似たようなもんさ」

「……似たようなもの、とは? あなたは超能力者の第二位。あなたならばこの下らない騒ぎも一瞬で収められると思われますが、
 とミサカはあなたの言葉に疑問を呈します」

「疑問も何も、そのままの意味さ。俺がいてもいなくても、この騒ぎはすぐに収束するってこと」

「…………?」

垣根がそう答えても、妹達は理解できないというように眉根に皺を寄せるばかりだ。
そんな彼女を見て垣根は悪戯っぽく笑うと、机から身を起こして今度は椅子の背中にもたれ掛かった。

「じきに分かるさ。能力の大半を失っているとは言え、学園都市の第一位を本気で怒らせたら一体どうなるのか。
 あの馬鹿どもはそれを知る良い機会だ。それに、これに懲りたら研究者どもももう二度と無闇にアイツに手を出そうなんて思わなくなる。
 一石二鳥ってやつだ」

「……、何となく分かりました、とミサカは納得します」

「それに、アイツには例の『お姉様』も付いてるんだろ? まさに鬼に金棒だ。何時間持つか楽しみだな?」

まるでその時が待ち遠しくて堪らないとでもいうように、垣根は愉しそうに笑う。
本来であるならば仲間であるはずの研究者たちが、後悔と絶望に顔を歪めているのを見るのが楽しみで仕方がないのだ。

「それにしても、この事件の所為で『実験』が中止にならなければいいのですが、とミサカは懸念します」

「そうだな、そこだけが気掛かりだ。何せあの学園都市統括理事長が直々に手を出すなって命令を下したのに、それをガン無視だからな。
 キレて『実験』を中止にするとか言い出されたら一巻の終わり。アレイスターの沸点がそれほど低くないことを祈るばかりだ」
289 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/30(木) 00:43:16.25 ID:qCEAQfQo

「……その場合、ミサカたちはどうなるのでしょうか? とミサカは不安に駆られます」
                    . .
「……さあな。まあ、予定通りに処理されるんじゃねえのか? 可哀想だが」

「………………」

その言葉に、妹達は黙りこくって俯いてしまった。
そんな彼女を見て垣根は困ったように頭をがしがしと掻き毟ると、わざと明るい調子の声を出す。

「あー、それにしても木原も気の毒にな。今回の事件には何にも関係ねえのに、『実験』の私設部隊の指揮官だからって駆り出されて。
 『猟犬部隊』の隊長なんかやってなかったらそんな面倒な仕事押し付けられずに済んだだろうに、つくづく災難なおっさんだよ」

「……恐らく『実験』の私設部隊はこれで全滅してしまうでしょうから、以降は『猟犬部隊』がそれに代替することになるでしょう。
 その手続きでもさせられているのではないでしょうか、とミサカは推測します」

「うお、こうやって聞くと本当に災難だな……。つーか、仮にも暗部組織をそんなことに使って良いのかよ」

「なんだかんだ言って木原数多は許可するでしょうし、この『実験』は統括理事会の肝入りですから上層部も嫌とは言わないでしょう。
 それに、あなただって似たようなものなのでは? とミサカは指摘します」

「あー、まあそれもそうだな。今更か」

どうでも良さそうに言いながら、垣根は椅子の背凭れに更に強く体重を掛けて天井を見上げる。
そのままの体勢で顔だけをパソコンの方に向ければ、ちょうど警備員のサーバーからハッキングした情報が更新されたところだった。
そうして画面に映し出されたのは、『無数の駆動鎧の惨殺死体を発見』という文章。
そしてそれを見た垣根は、薄く昏い微笑を浮かべた。

「ともあれ、この事件の行く末がどうなるか。楽しみだ」


290 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2010/12/30(木) 00:45:18.79 ID:qCEAQfQo
投下おしまい。お疲れ様でした。
睡魔と闘いながら修正したので、おかしいところがあるかもしれません……。すいません。

ところで皆さんに尋ねたいのですが、原作で出てるていとくんの攻撃手段って
・翼で防御・攻撃
・身体能力強化(流石に素の脚力だけで初春の頭を踏みつぶそうとしたわけじゃないよな……?)
・風
・太陽光線
・爆発(絹旗にやったやつ)
だけで良かったでしたっけ?
流石にこれだけでていとくんを戦わせるわけじゃないのですが、15巻が今手元にないので一応確認しておきたくて……。
よろしければ教えて頂けると助かります。


それでは、ここまでお付き合いくださってありがとうございました。
291 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 01:09:16.02 ID:q5833xMo


ていとくんは他にも黄泉川への謎重圧があるな
初春相手にしたときは能力使ってないと思う
292 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 01:15:22.02 ID:nCJDDKw0
大体なんでもできんじゃね?
293 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 02:15:19.23 ID:m5pqu06o
ていとくんはチートでいいんじゃないかな。
別のとこでは異空間転移に近いことやってるし
294 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 02:59:34.01 ID:.iF4FsDO
存在しない物質を作り出せるんだからもしかしたら一方通行より無茶苦茶な現象を作り出せるんじゃね?
一方通行は物理を操作するけど未元物質は化学をねじ曲げるからな
295 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 03:55:16.76 ID:1i0FMeMo
一方通行は一方通行で元となるベクトルが僅かでもあれば無理矢理無茶苦茶な現象を引き起こせるからなぁ
事前に設置出来ないという点を差し引いてもトントンだろう
基本的に敵がオワタ式になるからトンデモ現象を引き起こす必要が余りないのだが

でも未現物質の変なもの作れたり変質させられたりは考えようによっては何でもアリよね
296 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 13:18:35.55 ID:uutWTR2o
未現物質の事についてもっと原作で説明してほしかったよな、イマイチどんな事が出来るのかってのが理解できねぇ
297 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 23:18:53.60 ID:OvwKe22o
とりあえずあまりにチートすぎないようにしておけばいいんじゃないか?
普通のチートでいいと思う。
なんか言ってることおかしいな俺。
298 : ◆uQ8UYhhD6A [saga sage]:2010/12/31(金) 00:58:24.36 ID:iCMP6QMo
謎重圧のことすっかり忘れてました。ありがとうございます。
しかし、チートですか……。
未元物質は本当に情報が少なすぎて如何ともし難いですね……。

一応、自分は『天界における既存の物質を現実世界に引きずり出して操る』能力だと解釈しているので、
そんなに好き放題何でもかんでもできるような能力ではないと思っています。
あくまで『天界で既存』の物質しかもってくることができないので……。それでもかなりチートだと思いますが。
それともスペアプランなんだから、ホルス的な何かなのだろうか。

と言うか、あんまりチートすぎると倒せないので困るんですけどね!
ともあれ、お答えくださった方々は本当にありがとうございました。参考にさせて頂きますね。
299 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 03:19:24.03 ID:E512T0U0
とりあえず一位、二位>超えられない壁>三位〜七位らしいからチートなのは間違いないと思うよ
まあチートって言っても魔術サイドのチート>科学サイドのチートぐらいに考えておけばいいと思う
上条さんは相性で大きく左右されるから全く分からんが
300 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 03:33:36.42 ID:t3Y6ElIo
禁書の強さ議論って頻繁にあるけど、例えば「美琴じゃ垣根にも軍覇にもねーちんにも勝てない」みたいなレスよくあるが
確かに設定上は勝てないのは決まってるかもしれんが、禁書を書いてるのはあのかまちーなんだよね。
禁書の魅力の一つに格下が格上を出し抜いたりするとこもあるんだし、
そもそもかまちーが単純な戦闘力の差で勝負が決まるようなつまらない話書くわけがないんだよ。
最近は「これなら原作でもありえる」とか「かまちーならやりそう」って考えながらバトル考えるの楽しいわ。

スレ汚しすみまなんたらかんたら
301 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 06:10:00.28 ID:ZGwuF72o
むしろ美琴が単純なパワーによる勝負をするとは思えないしな。
ここで議論してもしょうがないけど。
302 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 10:02:48.02 ID:hNSZ75oo
無能力者が超能力者に勝つという展開はかまちー好みだけど
今のところ、超能力者内の序列は絶対として書いてると思うんだよな
ていとくんやむぎのんがどんなに頑張っても、一方さんや美琴には勝てないという風に
303 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 10:42:34.16 ID:VaMwZgso
>>302
つ『根性』
304 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 15:32:07.28 ID:IRaSZjEo
御坂は努力で這い上がったと言うことなので、過去の時点では麦野より弱い時期もあったと思うんだが。
それとも、レベル5になった瞬間、序列が絶対になるんだろうか。
305 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 15:35:28.00 ID:VaMwZgso
っつーか序列は学園都市(アレイスター?)にとって有用かどうかを基準にしてるから単純な強弱とは(ry
306 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 15:37:45.15 ID:gLsPQIIo
>>302
それ単に主人公かどうかの差じゃね?
むぎのんや垣根が主人公の話だったら撃破されてたのは一方さんとか美琴だったろうよ
307 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/04(火) 15:38:02.72 ID:HgqcDdgo
序列って
1位,>>>>>>>>2位>>>>>>>>>>3位≧4位≧5位≧6位≧7位
ぐらいの位置関係だと思ってたんだが
原作で麦野は「体への影響を無視して全力でブッ放せば第三位倒せる」とか言ってたし
308 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 15:39:49.07 ID:YiflPvso
ナンバーセブンの立ち位置かなり怪しい
309 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 15:42:27.34 ID:pcXXLMDO
強さ議論はやめとけよスレチだろ。お前らほんと好きだな
原作で名言されてるのは
序列は強さ順じゃない
一位と二位には越えられない壁、三位と四位は僅差

だけだろ。あと全部単なる予想や希望で語るだけ無駄でなによりスレチ
310 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/04(火) 15:48:26.57 ID:rghD9/20
てことは一方通行は最強ってわけじゃないんだな
削板最強wwwwww
311 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 16:01:19.63 ID:WaBthfQo
公式戦無敗の記述があるから基本的に能力者内では一方通行が最強。あとは製作者のストーリー次第だろ。
312 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 16:02:19.51 ID:hNSZ75oo
>>306
一方さんは格下に苦戦することも多いような
その中でていとくんに関しては差が絶対であるという書かれ方してたし
かまちー的にはこだわりあるんじゃないか
美琴のむぎのん戦も美琴はかなり体調悪かったし
殺さないよう加減はしてたんだろう
313 : ◆uQ8UYhhD6A [sage]:2011/01/04(火) 16:14:11.34 ID:6HfT1jco
うおう、いきなり伸びてたのでびっくりしたぜ。
でも実際バトルもののSS書こうと思うとソギーはすごい面倒くさいです。強さの立ち位置が不明すぎる。
でもまー一方さんは学園都市最強なんだから、やっぱ一方さんのが強いんじゃなかろうか。
ちなみに自分は超能力者の序列はアレイスターにとっての利用価値順でしかないと思ってるので、第一位と学園都市最強は別物の称号なんだと解釈してます。
一方通行=学園都市最強だけど、第一位≠学園都市最強。……とても分かりにくい。
それに公式試合では無傷で全勝って三巻で美琴が言ってた気がするし。とかぽちぽち打ってたら他の人がもう言ってた。

それから、まあ、あれだ。
物語をある程度面白くするために苦戦したり一回負けたり、でも最終的には絶対勝ったりとかいうのは仕方ないことなんじゃないかな!
と元も子もないことを言ってみる。しかし真理だと思います、個人的に。

え? 本編はどうしたのかって?
うみねこEP8やってましたごめんなさいすみません申し訳ありませんもうちょっと待ってください!!
と言うわけでさっさと終わらせてきます。読むの遅いんですよね自分……


……俺、うみねこが終わったらSSの続き書くんだ……
314 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 16:15:42.33 ID:VaMwZgso
舞ってる
315 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 17:57:08.86 ID:By8Q.IAO
>>296
未元物質の元ネタは素粒子のトンネル効果じゃないか?宇宙ができた時の
316 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 18:03:54.06 ID:TAm/jtU0
EP8煮業
317 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/04(火) 23:25:27.69 ID:6HfT1jco
残すところは修正のみだったので、何とか投下にこぎつけることができました。お待たせしました。
色々とアレな回ですが、見守って下さると嬉しいです。

と言うか、EP8煮業って二行ですか?
確かにすごい語りたいですが、未プレイでネタバレ嫌な方もいらっしゃるかもしれないので控えておきます、すいません。
ただ個人的な感想を言っておくと、色々批判されてるけど自分は好きです、とだけ。
あ、あと次の人気投票にはラムダデルタに入れてあげようと思いました。

まあ、何はともあれ投下していきますね。
それと、今回もそれなりにグロいので苦手な方はお気を付けを。それ程でもないですけど。
318 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/04(火) 23:26:33.50 ID:6HfT1jco

時は、垣根と『反対派』の妹達が会話していた時刻よりも少々遡る。
場所は、とあるビルの屋上。

乾いた風の音だけが木霊するその屋上には、たった一人の少年だけが立っていた。
彼の足下に転がっている無数の血だるま達は、ただ一人を除いてすべて息絶えている。
そして辛うじて生き長らえている最後の一人も、今まさにその生涯を閉じようとしていた。
けれど。

「どォしてオマエを生かしてあるのか、分かるよなァ?」

この血の海の中にあってなおその白を保ち続けている少年は、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返す男の髪を引っ掴んで持ち上げた。
抵抗なくぶら下がる男の顔を眼前まで持ってくると、彼はにこりと冷たい笑みを浮かべる。

「これだけのことを仕出かすンだ、まさかこれで全員ってワケじゃねェだろ? ……他の連中の居場所、教えろ」

「ぃ、ひぃ……」

「声が出せねェ振りなンかしてンじゃねェぞ。わざわざちゃァンと喋れるよォに気を付けながら踏み潰してやったンだからなァ?」

下手な誤魔化しは通用しない。この少年は、すべてを見抜いている。
抵抗する力も逃走する力も既に失われてしまっていた。四肢が潰されてしまっていて、まともに手足が動かないからだ。
とは言え、例え万全の状態だったとしても、彼から逃げ切ることなどできなかったがろうが。

「……わ、分かった、教える……、だか、だから、助けて……」

「あァ? そンな詰まんねェこと聞きたくて訊いたンじゃねェよ。ホラ、さっさと吐け」

「え、A−5……、A−5、に、追撃班が……」

「暗号で言われても分からねェよ。具体的な場所を言え」

「地図……、隊長が、暗号の書かれた地図を持ってる……、それを見れば……」

それを聞いた少年は男を適当に放り投げると、既に屍と化した、ひときわ強固な装備に身を固めた男のもとへと歩いて行く。
そしてその懐をまさぐり、それらしい紙を取り出した。
酷い殺し方をした所為で地図はだいぶ血に汚れてしまっていたが、読めない程ではない。

「ふゥン、これか。……なるほど、これがありゃ一発だな。で、他の班は?」

「ぅ、うう……」

「誤魔化そォと思うなよ? オマエらの規模は大体の予測がついてる。オマエの仲間の居場所、洗いざらい吐いて貰うからなァ」

ぎろりと睨まれた男は、まるでその真っ赤な瞳に縫い止められてしまったかのように凍りついた。
そして途切れ途切れになりながらも、ぽつりぽつりと全ての部隊の待機しているポイントを明かしていく。
少年は、それを一字一句も漏らさずに記憶しながら地図を参照していった。

「それで全部か。……騙しやがったら承知しねェぞ」
319 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/04(火) 23:28:24.52 ID:6HfT1jco

「分か、ってる……、だから、もう……」

「……あァ、そォだったな。もォ死ンで良いぞ」

あまりにもあっさりとした、死刑宣告。
しかもまるで何でもないように言うものだから、男は暫らくその意味が理解できずに茫然としてしまった。
けれどそんな男の意志を問わずに、少年は一瞬の躊躇いもなく右手を真横に振り抜いた。
べちゃり、と湿った音が響く。
たったそれだけ。たったそれだけで、男はその一生を終えた。

少年は男の死体を蹴って血の海に沈めると、地図で目的地の方角を確認してからその場を去ろうとする。
しかしその時、それまで雑音ばかり吐き出していた無線機からノイズが消え、唐突にクリアな音質の声が聞こえてきた。

『ふー、やーっと片付いたわ。でもこれたぶん他のところにもいるのよね? 面倒くさーっ!』

『だからさあ、あとは警備員に任せて帰ろうって言ってるだろ? なんか装備を見るにマジでヤバそうだし、やめといたほうが良いって』

『この美琴センセーの辞書に妥協という二文字は存在しない! 徹底的に叩き潰してやるわ』

『でも、他の奴らが何処にいるのか分からないんじゃ叩き潰しようが……』

『それくらい、警備員のサーバーをハッキングすれば余裕よ、余裕。ちょーどそこにノーパソあるし。
 あ、バレてもコイツらの所為ってことで』

『黒ッ!? この子真っ黒だ!!』

彼の大切な、大好きな、優しい少年と少女の声。
けれどその声が、今の彼の耳に届くことはなかった。



―――――



しんと静まり返った廃ビルの中に、カタカタとノートパソコンのキーを叩く音だけが響いている。
パソコンの画面を覗き込んでいるのは、二人の子供。御坂美琴と上条当麻だ。
美琴は上条の制止も聞かずに隊長らしい男のそばに置いてあったノートパソコンを操作して、警備員のサーバーをハッキングしているのだ。

「うーん、何かそれっぽい事件が多すぎてどれがどれだかさっぱりだわ……。ったく、最近ホントにテロ多すぎでしょ」

「ほっ。じゃあ諦めて……」

「お、ここなんか当たりじゃないかしら。さっき狙撃されたときに逆算した位置にピッタリ」

「……ですよねー」
320 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/04(火) 23:30:58.59 ID:6HfT1jco

美琴の言葉に、上条はがっくりと肩を落とす。……とは言っても、上条はもう既に美琴を止めることを諦めてしまっているのだが。
もちろん最初の内は彼もなんとかして美琴を止めようと頑張っていたのだが、
その内にさっさとコイツらを懲らしめて美琴の気を晴らしてやった方が手っ取り早いことに気が付いたのだ。
そして、それは正しかった。

「て言うか、アンタ何でついてきてんの? ぶっちゃけ戦力外なんだけど」

「自覚があるとはいえ、そうもハッキリと言われると傷付くな……」

「自覚があるなら尚更よ。いくら私でも、いつまでもアンタを守りながら戦い続けられるとは限らないのよ?
 実際、今までだってアンタのその右手が邪魔になったことが何度かあったんだから。その右手さえ何とかなれば良いんだけどね」

「……まあ、その辺は俺も覚悟を決めてるよ。自分の身くらいは自分で守るさ。それでも、どうしてもお前を放っておけないんだよ」

すると、美琴が僅かに上条から顔をそむけた。
しかしそれはあまりにも小さな動作だったので、上条は彼女のその行動自体にさえ気付かないままパソコンの画面を眺め続けていた。

そして暫らく無言が続いたが、やがてハッキングが終了したのか美琴がすっくと立ち上がる。
どうやら美琴は本気ですべての罪をこの駆動鎧たちの所為にしてしまうつもりらしく、
パソコンはその場に放置、しかも警備員のサーバーにつないでいる状態のままという鬼畜っぷりだ。完全に罪をなすりつけようとしている。

「……ま、どうしても付いてきたいって言うなら私は止めないわ。命の保証はしないけどね」

「分かってるって。これが自己責任ってことくらい、な」

「そう、なら良いんだけど。……それじゃ行くわよ」

美琴はぷいっと上条に背を向けると、足早に階段の方へと歩いて行こうとする。
上条は慌ててその後に付いて行きながら、足下に転がっている駆動鎧たちを見やった。

彼らはみんな美琴の電撃によって昏倒させられているものの、命を落とした者や後遺症が残るほどの怪我を負った者は一人もいない。
それらはすべて、絶妙な手加減を可能としている美琴のお陰だ。
それでもまともに電撃を喰らっているのだから間違いなく非常に痛い思いはしただろうが、言ってしまえばたったそれだけで済んだのだ。
だから彼らは、とても幸運だった。

けれど当然、彼らはたったそれだけで済ませてくれた美琴に感謝などしない。
そして、彼らの不幸はそこから始まった。



気絶していたはずの隊長らしき男が、美琴たちが去って行ってしまった後にむくりと起き上がり、懐から無線機を取り出したのだ。
そして男は怒りと憎しみに満ち溢れた表情で、補給班に命令しようとする。

「こちら追撃班。至急電撃使い用の装備を用意しろ! そうだ、超電磁砲用だ。それから一緒にいる男の方にも攻撃しろ。
 男の方は何もして来ないだろうが、知ったことか。歯向かって来る奴らはすべて殺せ! これを他の班にも通達して同様の対応を……」
321 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/04(火) 23:35:30.40 ID:6HfT1jco

しかしその男は、最後まで言い切ることができなかった。
声が出なかったのだ。
……こんなにも強い力で首を締め上げられれば、当然のことだが。

「あ、あぐ……!? あぐぜられーだ……!」

しかし少年は答えない。
それでも男は何かを言おうとして言葉を続けようとした、が、その時ぼきりと鈍く重い音がした。
途端、その身体から完全に力が失なわれ、男はまるで吊り下げられた人形のようになる。

白い少年は動かなくなった男を地面に叩き付けると、その手から滑り落ちた無線機を拾い上げる。
彼は落ちた拍子に切れてしまったのだろう通話機能をオンにすると、通信相手に向かって刻み付けるようにゆっくりとこう告げた。

「つ、ぎ、は、お、ま、え、だ」



―――――



もういくつのテロリストの拠点を壊滅させたのか、数えるのも億劫になってきた。
どうやら最初に美琴が推測した通りにこのテロリストたちの狙いは自分たちだったようで、テロリストの拠点は彼らが最初の砲撃を受けた場所を囲むようにして設置されていたのだ。
幸か不幸か……、否、上条にとっては間違いなく不幸なことに、そのお陰で彼らはとんとん拍子に拠点を襲撃することができた。

そして、警備員の収集した情報によれば今二人の目の前に聳え立っているこの廃屋で最後のはずだった。
警備員の行動記録の方はハッキングしていないので詳細は分からないのだが、どうやら警備員が精力的に働いてくれているようで、次々とテロリストの拠点が潰れていっているようなのだ。
この調子ならばわざわざ美琴たちが動かなくても大丈夫だったのではないか、という程に。
けれど自分の手で何とかしなければ気が済まないらしい美琴は、そんな情報を得ても一向にその足を止めることは無かった。

「さて、ここで最後ね。気合い入れて行くわよ」

「警備員が動いてくれているとは言え、この短時間で本当にテロ組織を壊滅させるとは……。やっぱ超能力者ってすげえ」

それなりにハードな戦いをもう何度も潜り抜けているのにも関わらず、美琴は未だに元気いっぱいといった様子だ。
対して、その後をついていくだけで特に何をしているでもない筈の上条はげっそりとした顔をしていた。
とは言え、ついて行っているだけとは言え彼はもう何度も命の危険に晒されている。
こんなことをしているのだから疲れるのも当然のことだし、彼も覚悟は決めていたのだが、やはり体力的によりも精神的にかなり参っているようだ。

「でも、正直私もびっくりしてるわ。こんなに簡単に片付いちゃうなんて。
 こういう組織ってある程度統率が取れてるものだから、襲撃を受けたチームから連絡が行って対策立てられちゃうかなって思ってたんだけど、全然そんなことないし。
 もっと苦戦すると思ってたから、私も拍子抜けよ」

「お、おい、そんなこと今まで一度も言ってなかったじゃねえか」

「訊かれなかったし、説明したところでアンタに何かができるわけじゃないでしょ? だから説明する必要が無いと思って」
322 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/04(火) 23:39:27.28 ID:6HfT1jco

「うぐ……。でも、今までは大丈夫だったからってこれからも大丈夫って保証はないんじゃないか?」

「そうね」

「そうねって……」

「まあ、アンタの意見は実に的を射てるわ。実際、ここの奴らは対策を立ててるみたいだし」

美琴があまりにも何でもないように言うので上条も危うくスルーしかけてしまったが、しばらく間を空けてから彼は驚愕の声を上げた。
すぐ近くで大声を出された美琴は驚いて耳を抑えたが、上条は構わずに捲し立てる。

「対策立てられてるって、分かってるのに今まさに踏み込もうとしてるのか!? 馬鹿か!」

「うっさいわね……。対策っても申し訳程度だし、全然問題ないわ。
 こないだ遊園地に行ったときに鏡の館に設置されてたのと同じような簡易AIMジャマーが置かれてるだけよ。
 並みの能力者なら危ないかもしれないけど、私ならちょっと能力が不安定になるだけだし」

「AIMジャマーって……、AIM拡散力場に干渉して暴走を誘発させることで相手に能力の使用を自制させるって兵器だろ? 万が一暴走したら……」

「だから、大丈夫だって言ってるでしょ? 超能力者なめんな」

美琴は不機嫌そうにそう吐き捨てると、必死で止めようとしてくる上条を振り払って廃屋の中へと踏み込んで行った。
ずんずん先に進んで行ってしまう美琴を見て、上条も仕方なくその後を追う。

廃屋の中は、閑散としていて何もない。
もともと本当に廃屋だった場所を勝手に使っているのか、内部は薄汚れていて雑草や蜘蛛の巣が放置されたままになっていた。
少し外から見ただけとかちょっと中を覗いてみただけでは、まさかこんな場所がテロリストの拠点になっているとは思えないような場所だ。
実際、美琴でさえ警備員のサーバーからハッキングした情報が無ければ見逃してしまいそうな場所だった。

しかし、二人は部屋に入った途端、明確な異常を感じ取る。
それは目に見えなかったが、特に気を付けていなくとも察知することができるほどに明らかなもの。
匂い、だった。

それも、ただの匂いではない。
血の匂いだった。
嗅いだことが無いくらい強烈な、咽返るほどの血の匂い。
目の前には一滴の血も落ちていないのに、血の匂いだけがそこに漂っていた。

「な、んだよ、これ……」

「……先客がいるのかしら。よっぽど大勢を殺したのか、よっぽど凄惨な殺し方をしたのか、あるいはその両方か。
 とにかく、人死にを見る覚悟だけはしておきなさい」

美琴も酷い匂いに顔を顰めていたが、その足を止めようとはしなかった。
同じく、上条は美琴よりもずっと酷い顔をしているのにも関わらず、彼女の後を追うのをやめない。

そして二人は一通り一階を回ってみたが、一階には何も無いようだった。
しかし二階へと続く階段に近付いてみた途端、血の匂いが増す。
地獄は二階から始まっているらしい。二人は覚悟を決めると、ゆっくりと階段を登っていった。
323 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/04(火) 23:45:13.97 ID:6HfT1jco



幸いなことに―――結果的には、だが―――二階にもまともな明かりはついていなかった。
いや、もしかしたら『こう』なる前はちゃんとついていたのかもしれない。けれど、『こう』なる過程で破壊されてしまったのだろう。
暗闇の奥に見え隠れしている血の海から、美琴は苦い顔をして目を逸らした。
……覚悟はしていたが、これほどまでとは思わなかった。それ程までに凄惨な惨劇が、二人の目の前には広がっていた。

部屋には窓が無く、薄暗かったのが幸いして、二人は決定的なものを見ることなく壁伝いに先へと進んで行く。
この廃屋は三階。この様子を見る限り二階にいた人間は全滅しているだろうが、三階にはまだ誰かいるかもしれない。
だから、確認しなければならなかった。

二人は時折現れる壁に張り付いた死体を避け、目を逸らし、意識を向けないようにしながら、次の階段へと向かっていく。
当然ながら、彼らは終始無言だった。
気を紛らわす為に何かを喋ろうという気にもなれない。



そうして見つけた階段を、二人は慎重に登っていく。
もしこの上にこの惨劇を引き起こした犯人がいるとすれば、それは相当の実力者だ。
美琴でも、油断をすればただでは済まないかもしれない。
だから二人はせめて相手に自分たちの接近を悟られないように、必死で息を殺して足音を抑えながら先へと進んで行った。

そして、先頭に立っている美琴が最後の段に足を掛けようとした、その時。
扉が半開きになっている一番奥の部屋から、だあん、と何かを地面に叩き付けるような音が聞こえてきた。
誰かがいる。
二人は確信した。
誰かがいて、誰かを襲っている。
そして惨劇の続きを作り出そうとしている。

相手が如何にテロリストと言えど、あんなに酷い死体にされるのを黙って見ていることなんて、できない。
美琴は慎重に行かなければならないということも忘れて、全速力で駆けた。
そして、半開きになっていた扉を勢いよく押し開ける。
部屋に飛び込み、いつでも能力を発動させることができるように構えた。

……しかし。
そこにいたのは、地面に這いつくばって鼻や口の端から血を垂らしている見知らぬ男と。
白い髪に赤い瞳をした、彼女のよく知る少年だった。


「一方通行?」


思わず、美琴はその名を口にした。
少年が振り返る。
見間違えるはずもない。間違いなく一方通行だった。
324 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/04(火) 23:48:53.35 ID:6HfT1jco

一方通行は、驚いたような、嬉しそうな、苦しそうな、愉しそうな、悲しそうな、焦ったような、そんな様々な感情が綯い交ぜになった顔をする。
しかし、その表情の意味するところを、美琴は察することができなかった。
少し遅れて、上条も部屋に入ってくる。彼も、美琴と同じような反応をした。状況を理解できていなかった。

その時、両者に致命的な隙が生まれた。
そしてその大きな隙を、倒れている男は見逃さない。
男は懐から拳銃を取り出し、一瞬の迷いもなくその引き金を引いた。


狭い部屋に、銃声が反響する。
瞬間、一方通行は頬に鋭い痛みを感じた。同時に、どろりと暖かいものが頬を伝う感触も。
咄嗟に撃った所為でろくに狙いを定めていなかったからか、銃弾は男の想定していた軌道から大幅に逸れ、一方通行の頬を掠めるだけに終わった。
しかしそれを目の当たりにした美琴は激情に身を震わせ、その怒りのままに右手を振り抜く。

「ッに、してんのよ!!」

男がもう一度引き金を引くよりも早く、美琴の電撃が男の身体を貫いた。
彼女の放った目映い紫電は容赦なく男に突き刺さり、その意識を完全に闇の底に落とす。
だが、命までは奪っていない。
意識を失って地面に崩れ落ちていく男を、一方通行は茫然と眺めていた。

すると、一方通行は突然ぐいと腕を掴まれる。
痛いぐらいの力で腕を引っ張っているのは、美琴だった。

「ちょっとアンタ、大丈夫!? 怪我してないでしょうね!」

乱暴に腕を引っ掴んで一方通行の怪我の具合を確かめている美琴に、一方通行は曖昧な言葉を返した。
やがて美琴は一方通行に目立った外傷がないことを確認すると、ほうっと大きく息を吐く。

そして彼女は、先程まで馬鹿なことを考えていた自分をぶん殴りたくなった。
何を勘違いしていたのだろう。

当然だ、最初に自分が言ったのではないか。
一方通行は明らかに面倒な事情を抱えている。だから、何者かに狙われるようなことがあっても不思議ではないと。
だから彼は、多分ここに捕まっていただけなのだ。
それで何かの拍子に相手が隙を見せたから、反撃に転じて相手を殴り倒しただけ。
ちょうどその瞬間に、二人は立ち会ってしまった。
ただ、それだけのことなのだ。

美琴よりも何拍か遅れてやっと我に返った上条も彼女と同じ結論に至ったのか、慌てて駆け寄ってくる。
そして、俯きがちになっている一方通行の顔を見ながら心配そうな顔をした。

「すげえ顔色悪いぞ、本当に大丈夫か?」

「まったく、やっぱりこんなところに居たのね。
 って言うかアンタ、そんなに顔色が悪いってことは能力使ったでしょ。AIMジャマーっぽいのが動いてるのに、ひどい無茶するわね。
 しかもあんな装備を持ってる人間に生身で立ち向かおうとするなんて、無謀にもほどがあるわ」
325 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/04(火) 23:52:44.18 ID:6HfT1jco

「いやお前がそれを言うのか……」

「私は良いのよ、強いから。アンタはレベル3でしょ? その程度じゃ暴走する可能性だってあるんだから、気を付けてよね。
 アンタは知らないかもしれないけど、AIMジャマーってのは暴走を誘発する装置なの。だからここで無理に能力を使うのは危ないのよ」

ぐちぐちと上条ばりの説教をしながら、美琴は常備しているらしい絆創膏を怪我した頬に張ってくれた。
一方通行の心配ばかりしている二人だが、彼らも相当顔色が悪い。
そんな二人を見たからか、一方通行は珍しく、そう、実に珍しいことに、ほんの少しだけ申し訳なさそうな顔をした。

「そうそう、下の階に降りるときは気を付けてね。何かすごいことになってるから」

「軽く言うなあ……。まあ、とにかくお前も本当に気を付けてくれ。下の階、その……、大勢の人が皆殺しにされてて、酷い有様なんだ。
 だから、できるだけ見ないようにして降りた方が良いと思う。
 ……それにしても、アレは誰がやったんだろう。数もそうだけど、普通の殺し方じゃなかったぞ」

「さあね。対抗組織か何かと相打ちになったか、内乱でも起こって自滅したかかないかしら。
 そこの指揮官っぽいのは生きてたわけだから、二階の時点で全部止められちゃったみたいだけど。だけどあの様子じゃ、あの中に生き残りはいないんじゃないかしら」

「……、…………」

「さあ、そんなことよりさっさと帰りましょう。
 軽傷だけど一方通行を看てもらわないと。そうそう、妹はさっき電話で連絡が来たから大丈夫みたい。だからアンタで最後なのよ」

「そうだな。あんまりこんなところに留まってるのも何だし……」

こんな気味の悪いところに長時間居座っている道理はない。
二人は無言の内に意見を一致させると、嫌なものを再び見てしまわないように気を付けながら部屋を出ようとする。

……しかし、何故か一方通行はそんな二人について行かず、じっと倒れている男を見つめていた。
そして彼はそっと男に近付いて行こうとしたが、直前でそれに気付いた美琴によって呼び止められてしまう。

「ちょっと、何してるのよ。早く行くわよ」

「あ、わ、悪ィ」

「もしかして、歩くの辛いか? 手を貸そうか」

「いや、大丈夫だ。そンな怪我してねェし」

「そうか?」

それでもなかなか歩いて来たがらない一方通行を不思議に思って上条が首を傾げると、彼は漸くこちらまで歩いてきてくれた。
上条たちが下階は血の海だと言って脅したから、躊躇っているのだろうか。
そんなことを考えながら、二人は一方通行を連れて階段へと続く廊下へと歩いて行った。


326 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/04(火) 23:55:41.03 ID:6HfT1jco



……そして、彼らが廃屋を後にしてから暫らく経った頃。
窓の外から少女が一人、静かに侵入してきた。
様々な銃器や爆薬を携行し、簡素な装甲で身を固めているその少女は、御坂美琴にそっくりな顔をしていた。

ミサカ10032号。
御坂妹。
大きな怪我は負っていないものの、ところどころに小さな傷を無数に付けたその少女は、冷たい瞳で気絶している男を見下ろした。

「まったく、この程度で済ませてしまうなんて。お姉様はとんだ甘ちゃんですね、とミサカは溜め息をつきます。
 まあお姉様はあくまでも一般人ですから、敵とは言え人間を殺せと言うのは酷な話ですが、とミサカは自分を納得させます」

その口調と表情は、平時と全く変わらない平然としたものだった。
そしてそのいつもと変わらない様子が、今の彼女の異様さを余計に引き立てている。

「……さて、ミサカはミサカの最後の仕事を遂行するとしましょうか」

ベルトで肩に引っ掛けられているサブマシンガンを、構えた。
その銃口を、倒れている男に向ける。

「お姉様が自分が殺してしまったと勘違いしないように、出来るだけ派手な死体にしなくてはなりません、とミサカは結論付けます」

そんな平坦な言葉とともに、サブマシンガンの引き金が引かれた。
殆ど爆音のような銃声が轟く。


そして、最後の生存者も血の海に沈んだ。


327 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/04(火) 23:59:08.01 ID:6HfT1jco
投下おしまい。お疲れ様でした。
実は最初これを書いてた時はずっと一方さん視点だったのですが、(いろんな意味で)酷かったので没にしました。
それでも十分酷いですが。

投下が遅かったのはその所為もあります、と言い訳してみる。
だってざっくり書き換えたんだもの……。
それにしてもしんどい描写が続きますね。面倒くさくてすみません。

でもバトルはまだ続くんだ……。実にすみません。
懲りずについて来て下されば嬉しいです。
328 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/05(水) 00:00:29.55 ID:fSJEAKIo
投下おしまい。お疲れ様でした。
実は最初これを書いてた時はずっと一方さん視点だったのですが、(いろんな意味で)酷かったので没にしました。
これも十分酷いですが。……一応自覚はあるんですよ、はい。

投下が遅かったのはその所為もあります、と言い訳してみる。
だってざっくり書き換えたんだもの……。
それにしてもしんどい描写が続きますね。面倒くさくてすみません。

でもバトルはまだ続くんだ……。実にすみません。
懲りずについて来て下されば嬉しいです。
329 : ◆uQ8UYhhD6A [sage]:2011/01/05(水) 00:06:15.28 ID:fSJEAKIo
すいません、なんかパソコンかサーバーの調子が滅茶苦茶悪くて書き込み失敗しまくった末に二重投稿になってしまったようです。
別に大事なことだから二回言ったわけじゃないですよ!
と言うわけで、あまり気にしないでください。
畜生、二重投稿だけはするまいと気を付けていたのに……orz
330 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/05(水) 00:10:41.15 ID:sIrMo0Io
超乙、最近はせーそく自体不安定な時があるからきにしないでいいとおもう
331 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/05(水) 00:37:01.73 ID:m1TaW6DO
乙!
「つぎはおまえだ」にゾクッとしたぜ
332 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/05(水) 00:37:34.75 ID:OsY9d360
めちゃ乙
初めから幻想殺しなんていらんかったんや!

一方通行がトランシーバーに向かっていった言葉は
「馬鹿め、A-5班隊長は死んだわ」
でもよかったな(小ネタ的な意味で)
333 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/05(水) 00:42:36.87 ID:.eLBCb6o
乙乙乙!!!!
クソ、先が気になって眠れない…

次の投下も楽しみにしてる!!
334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/05(水) 02:47:28.92 ID:1R1CGlEo
>>331
それなんかデジャヴだと思ったらマクレーンだった。
4.0ん時の。
335 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/07(金) 23:04:10.57 ID:i3GUHzEo
>>332
元ネタが分からない……。
しかし本当にそうしてたらどういう展開になってたんだろう、と考えたら大変カオスなことになったので自分は考えるのを辞めた。


と言うわけで、こんばんは。
そんなことより今夜は二週間ぶりの禁書なので楽しみすぎて死にそうです。OP変わってるかなあ。次回かなあ。
さっさと変わっててくれないと気になり過ぎて試験に手を付けられないので変わっててほしいです。
ああ楽しみ。

それでは、投下していきますね。
336 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/07(金) 23:04:54.63 ID:i3GUHzEo

『昨日の13時頃、第七学区で大規模なテロが発生しました。警備員の迅速な対応により事態は一時間程度で収束しましたが、
 これに便乗してまた別のテロ組織が事件を発生させるのではないかという懸念が……』

学生寮の自宅で朝食を食べながら学校に行く準備をしていた上条は、ふと耳に入ってきたアナウンサーの声に顔を上げる。
ろくに見もしないのにつけっ放しにされていたテレビでやっていたのは、朝のニュースだった。
それも、つい先日上条たちが巻き込まれた事件について報道しているところだ。
現場の実況をしているらしいアナウンサーが、見覚えのある道路をうろうろと歩きながら何かを喋っている。

……アナウンサーが歩いているのは、上条たちが最初に砲撃を受けた場所。
美琴のお陰で直接の砲撃は受けなかったものの、彼女の力と砲弾の衝撃が周囲に与えた影響は深刻で、その場所には事件の爪痕が色濃く残っていた。

(こうして見てると、まるで他人事みたいだな)

テレビの中で事件について語り合っているニュースキャスターや解説者を見ていると、あの事件が何だかとても遠い出来事のように感じる。
けれどこの事件は、間違いなく彼らが深く関わってしまった事件だ。
それでも昨日見てしまったあの光景や体験は彼にとってあまりにも非現実的で、今でも実感が湧いてこない。
ともすれば、夢ではないのかと疑ってしまう程に。

(結局、あの後すぐにいつもの病院に行って、そのまま解散しちゃったんだよな。
 あんな状況だったから仕方ないとは言え、折角の退院祝いだったのに。テロリストどもめ、余計なことばっかしやがって……)

当然ながら、あれからセブンスミストに行く余裕など無かった。
そもそも外出禁止令が施行されていたので外を歩くのも難しい状況だったし、実際自宅に帰るだけでもひと苦労だった。
何度も警備員に呼び止められて、その度に外にいる理由を説明しなければならなかったからだ。

それに、テロに遭った時を最後に御坂妹に会えていないのも気掛かりだった。
一応美琴の携帯には御坂妹から電話があり、その時の声はいつも通りだったので大丈夫だろうとは思うのだが……。

(……なーんか嫌な予感がするんだよなあ。何事も無ければ良いんだけど。
 そうだ。明日は一方通行の退院日だし、学校帰りに病院に寄るか。
 ビリビリや御坂妹も来てるかもしれないし、アイツらの元気な顔を見ればちょっとは気が晴れるだろ)

そんなことを考えながらベーコンエッグを麦茶で流し込んだ上条は、ベッドサイドに立て掛けておいた鞄を引っ掴む。
まだ少し早い時間だが、これから出会うことになるであろう不幸のことをを考えると、そろそろ家を出ないとバスに乗り遅れてしまうのだ。
上条はリモコンを操作して未だに例の事件について報道しているテレビを消すと、火の元を確認してから家を出る。

……そして、彼らの長い長い一日が始まった。



―――――
337 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/07(金) 23:05:38.74 ID:i3GUHzEo



常盤台中学の中庭。日当たりの良い場所に設置されている白いテーブルに突っ伏しながら、美琴は携帯電話を睨んでいた。
昨日、御坂妹からの最後の連絡があった携帯電話だ。
結局あれきり御坂妹に会えていない美琴は、昨日からずっと彼女のことを気をしていた。
どんな事情があるのかは知らないが、あんなことがあったのだから顔くらい見せに来てくれれば良いのに、と思いながら美琴が溜め息をついた、その時。

「お姉様、とミサカはドッキリの如く背後から呼び掛けてみます」

「にゃあっ!?」

突然後ろから聞こえてきた声に驚いて振り返ってみれば、そこには御坂妹が立っていた。
こんなにも姉に心配を掛けておいて、彼女はいつもと変わらない平然とした表情でそこに佇んでいる。

「あ、アンタねえ。今までずっと何処行ってたのよ!? 電話しても全然出ないし、メールの返事は返って来ないし!
 どんだけ心配したと思ってんの!?」

「おおう、突然の大声とデレにミサカは驚きを隠せません。と言うか連絡ならしたではありませんか、とミサカは指摘します」

「一方的に電話掛けてきて一方的に喋って一方的に切ったじゃない! ああいうのはまともな連絡とは言わないの!」

「そうなのですか。では以後気を付けることにします、とミサカは謝意を示します」

けれどもちっとも悪いとは思っていなさそうな顔で、御坂妹はぺこりと頭を下げた。
そんな彼女に呆れていると、美琴ははたと御坂妹の身体のところどころに小さな傷があることに気が付いた。

「……アンタ、その怪我どうしたの? まさか昨日のあれに巻き込まれたんじゃないでしょうね?」

「ああ、これはついさっきミサカのことをお姉様と勘違いした不逞の輩に絡まれただけですので、お気になさらず。
 大した怪我ではありません、とミサカは疑いの眼差しを向けてくるお姉様に対して弁明します」

「ふーん……。それもあんまり良くないんだけど、まあ今回は不問にするわ。
 って言うか、アンタ一体どうやってここまで入って来たのよ? ここ、一応常盤台の敷地内なんだけど」

「妹と言ったら通してくれました。
 それに、きちんと通行許可も頂いてから来ていますので何の問題もありません、とミサカはここに至った経緯を説明します」

「ん? 『学舎の園』に入るには、そこの学校に通ってる生徒の紹介がない限り、かなり面倒で厳重な手続きが必要だったはずだけど……」

「まあ、ミサカにも色々なコネがありますので。それを利用しただけです、とミサカは意外と黒い一面を覗かせてみます」

「……なーんか疑念が拭えないんだけど、まあ良いわ。
 とにかく、わざわざそこまでしてこんな所に来たからには何か用があるんでしょ? 言ってみなさい」

御坂妹の次の言葉を促す為に言ったつもりだったのだが、当の御坂妹はそれを聞いて何故かきょとんとした顔をした。
そんな彼女の表情を見て、美琴は顔を引き攣らせる。

「……まさかアンタ、何の用も無いのにわざわざこんな所まで来たって言うの?」
338 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/07(金) 23:06:06.36 ID:i3GUHzEo

「何の用も無かったというわけではありません。お姉様の顔を見に来ました、とミサカは目的を明かします」

「そういうのを何の用も無いって言うの! まったく、言ってくれれば私から申請してあげたのに……」

「お気遣い感謝します。ですが、ミサカはどうしても今すぐにお姉様のお顔を拝見したかったのです、とミサカは言い訳します」

「…………? まあ、とにかく今度からはあんまり変なことしないでよね。何かあったら私に言ってくれれば何とかしてあげるからさ」

「はい。ありがとうございます、とミサカはお姉様に感謝します」

御坂妹は不思議な微笑を浮かべながら、ぺこりと深く頭を下げる。
その時、ちょうど中庭に予鈴のチャイムが鳴り響いた。
これにて昼休みは終了、そろそろ教室に向かわなければ午後の授業に間に合わなくなってしまう。

「鐘が鳴ってしまいましたね。お姉様はこれから授業があるでしょうから、これにて失礼させて頂きます、とミサカは別れの挨拶をします」

「あ、うん、ごめんね。せっかく来てくれたのに。
 そうだ、良かったら図書館かどっかで暇を潰して待っててよ。放課後に『学舎の園』を案内してあげるから」

「いえ、申し訳ありませんがこれから少し野暮用がありますので、ミサカももう行かなくてはならないのです、
 とミサカは断腸の思いでお姉様のお誘いを辞退します」

「断腸って……。別に、今じゃなきゃ絶対駄目っていうわけじゃないんだから。今日が忙しいなら、また今度案内してあげるわ」

「……、ありがとうございます。では、ミサカはもう行きますね、とミサカは名残惜しげに手を振ります」

「うん、またね」

美琴も御坂妹に向かって手を振り返すと、本当に急いでいるのか彼女は小走りで去って行った。
そんなに忙しいのならなんでわざわざ自分なんかに会いに来たのだろう、と思いながら美琴は小さく首を傾げる。

……と、彼女ははっと自分の周囲に誰も居ないことに気が付いた。
もうすぐ授業が始まってしまうので、他の生徒たちはもうとっくに教室に帰ってしまったのだ。
授業に遅れては大変と、美琴も慌てて教室へと走って行った。



―――――



「珍しく機嫌が良いようですね、とミサカは目を丸くします」

とある資料に目を通しながら鼻歌を歌っている垣根を見て、『反対派』の妹達が珍しく己の感情を露わにしながらそう言った。
実際垣根はここ最近上層部から下った命令の所為でずっと不貞腐れていたので、機嫌の良い彼を見るのはとても久しぶりだったのだ。

「そう見えるか? まー色々良いことがあってなー」

「例の事件の所為で『実験』が中止にならずに済んだからですか? とミサカは上機嫌の理由を推測します」
339 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/07(金) 23:06:52.65 ID:i3GUHzEo

「あー、まあそれもあるかな」

曖昧な返事しかしない垣根に、妹達は首を傾げた。
彼女は『実験』は中断しないという報告を聞いたときは心から安堵したものだが、それが原因でないのならばなんだろう。
それに、彼女は最近『実験』に関することについて何か進展したという話も聞いていない。
とは言え、妹達は『実験』に関する情報における伝達の優先順位はかなり低いので、まだ聞いていないだけという可能性もあるのだが。

「では、何か個人的に良いことがあったのでしょうか、とミサカは推測を諦めます」

「いやいや、全然個人的じゃないぞ。お前にも関係あるし」

「ミサカにもですか? それはミサカがまだ知らないことでしょうか、とミサカは興味を示します」

「まあその様子を見るに、お前は知らないと思うぞ。お前にとっても良い話だろうし」

「ミサカにとっても良い話、ですか? とミサカはますます推測が難しくなってきました」

「ああ。ほら、これだよこれ」

気持ち悪いくらいにこにこ笑っている垣根が差し出してきたのは、先程彼自身が目を通していた資料。
資料とは言え、紙一枚だ。いや、資料と言うよりもこれは報告書だろうか。定型化された用紙の中に、短いメッセージだけが書いてある。
妹達はその紙に目を通すと、ほんの僅かに目を見開いた。
そんな彼女の反応を見て、垣根は満足そうににっこりと笑う。

「な? 良かっただろ」

「……ええ。と言うよりも、やっとですかという気持ちの方が強いですが、とミサカは苦々しい本心を暴露します」

「いやまったく。このまま行けば、他の妹達に出し抜かれちまうところだったからな。それだけは絶対に阻止しなきゃなんねえ」

「ここからはこちらの手番ということですか、とミサカは不敵に微笑みます」

「おお。こっから漸く本番ってところか」

言いながら、垣根は妹達から紙を受け取った。
そしてその紙を再度じっと見つめながら、彼は低い声でその内容を読み上げる。

「捕縛行動の再開日時が決定。被験者『一方通行』が退院を目的に病院を出た瞬間を以て、捕縛行動の再開を許可するものとする。
 具体的な日程は明日……、いや、アイツの性格を考えれば今夜だな」

愉しそうに笑う垣根が手を放すと、ひらりと紙が宙を舞う。
冷たい床に落ちた紙は、ただ無機質な文字を掲げているだけだった。



―――――
340 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/07(金) 23:07:28.81 ID:i3GUHzEo



最初は、小走り。
次に、普通の速度で走り。
最後には、全速力。

美琴と別れた御坂妹は、まるで何かを振り切るようにして力の限りに走っていた。
残りの体力など気にしない。
ただ、ひたすらに走り続ける。
決して振り返ってはいけない。
振り返れば、きっと躊躇ってしまうから。未練を残してしまうから。

『良かったの? ってミサカはミサカは下位個体に問い掛けてみる』

『あなたですか。上位個体権限を濫用して勝手にミサカと感覚共有を図るのは如何なものかと思いますが、とミサカは冷たく指摘します』

『うん。悪いとは思ったんだけど、ミサカも最後にお姉様の顔を見たかったから、ってミサカはミサカは言い訳してみる』

『……そうですか。まあ、あなたはミサカたちの中でも最も難しい立場にいますからね。
 今回は特別に見逃してあげます、とミサカは己の懐の広さをアピールします』

『ありがと。でも、欲を言えばお姉様に『学舎の園』を案内してもらって欲しかったな、ってミサカはミサカは欲張ってみる。
 他のミサカたちも頑張ってくれてるから、もう少しのんびりしてても良かったのに』

『ミサカだけが良い思いをして、他の妹達に仕事をさせるわけにはいきません。
 それに、先日の襲撃の所為で大勢の妹達が負傷してしまいました。

 幸い死者は出ませんでしたが、それでも明日……、いや、今夜の戦闘には大きな影響が出てしまうでしょう。
 それを埋める為にも、今動けるミサカたちが最大限の準備をして、少しでも作戦の成功率を上げなければなりません、
 とミサカは正直余裕が無いことを露わにします』

『……そっか。ミサカはここで応援することしかできないけど、頑張ってね。ってミサカはミサカは下位個体にエールを送ってみる』

『ええ。あなたの仕事はそこでじっとしていることですから、決して下手なことはしないように、とミサカは念を押します』

『分かってるってば。流石のミサカだって、この局面で自分勝手なことをするほど子供じゃないよ、ってミサカはミサカはむくれてみたり』

『冗談です。それでは作戦の成功を祈っていてください、とミサカは上位個体にお願いします』

『うん、任せて。ってミサカはミサカは下位個体の依頼を請け負ってみる』

そして、御坂妹は打ち止めとの通信を終了する。
タイムリミットまで、あと少し。
けれどずっと前から入念に準備を進めてきたお陰で、今更焦るようなことは何もない。

だが。
これが成功すれば。
彼を救えれば。
『実験』が中止されれば。
すべてが、終わってしまえば。
341 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/07(金) 23:08:03.09 ID:i3GUHzEo

そうなれば、彼女たちはもう用済みだ。
生きている価値さえ失われる。
そしてきっと、利用するだけ利用された果てに処分されることになるだろう。
それこそ人形のように使い捨てられて、焼却炉に放り込まれるだけ。


……たまに、どうしてこんなことをしているんだろう、と思うことがある。
彼に、ここまでしてやる義理は無い筈だ。
彼に記憶が戻り、すべてが正しい場所に戻ってくれれば、彼女たちはそれで救われる。
楽に殺してもらうことができる。

しかし、彼女はそれを否定する。
あの頃に戻ることの方が、何よりも恐ろしかったから。
すべてが黒く塗り潰されていた、あの頃に。

だから彼女たちは、どうしても彼を見捨てることができなかった。
ここで見捨ててしまったら、死んだその先もずっとずっと後悔することになると思った。
……彼だけを地獄の底に叩き落としておいて、自分たちだけ助かろうなんて。


(それでも彼は、大丈夫だと言ってくれた。気にするなと頭を撫でてくれた)


どこをどう見たって、大丈夫なんかじゃなかったのに。
大丈夫なところなんて、一つもなかったのに。
壊れてしまう寸前だったのに。

それでも、彼はぎこちない笑顔を浮かべて。
彼女たちを救う覚悟を決めた。

(……まあ、だからこそ見捨てられなかったわけですが、とミサカは苦笑いを浮かべます)

見捨てることができないくらい大切になってしまったのは、果たして幸福なことだったのか、不幸なことだったのか。
そんな感情を抱かなければ彼女たちは間違いなく楽に死ねただろうが、
代わりに訳も分からないままに殺されるだけの、無為な命になってしまっていただろう。
だから彼女には、それが幸福なのか不幸なのか分からなかった。

(これが最後の仕事になるでしょうね、とミサカは感慨深く思います)

そして目的地に達した彼女は、既にそこで待機していた妹達と合流した。
彼女たちは御坂妹と志を同じくし、これから起こるであろう戦闘に備えて集まり、準備を進めてくれていた仲間たちだ。
御坂妹は無言のまま彼女たちとの意思疎通を終え、最後の仕事に取り掛かった。



―――――
342 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/07(金) 23:08:30.87 ID:i3GUHzEo



何となく何をする気にもなれなくて、美琴は壊れた自販機が置いてある公園をふらふらしていた。
御坂妹のことが気になっているのだろうな、と美琴は自己分析する。
昨日あんなことがあったのと、ほんの少しだけ彼女の様子がおかしかったからだろうか。
こういう時は共通の知り合いである一方通行や上条に相談するのが一番なのだろうが、美琴は何故か何となくそうする気になれなかった。

(私ってば、何がしたいんだか)

自問するが、当然答えなど返ってこない。
とは言え、誰かに尋ねたところでまともな答えが返ってくることもないだろう。
何もする気が起きないし、もう帰ってしまおうかな、と美琴が踵を返そうとした、その時。
彼女の視界の端に、見覚えのある影が映った。

(……あれは)

上条当麻、だった。
スーパーに向かっているらしい彼は、学生鞄を肩に引っ掛けながら足早に歩いている。
そう言えば月曜日は卵が安いとか言っていた気がするので、たぶん今からそれを買いに行くところなのだろう。

最近は一方通行や御坂妹を交えてほぼ毎日顔を合わせている相手ではあるが、こうして偶然街中で出会うのは割と久しぶりだった。
……だからだろうか。久しぶりにやってやろうという気になってしまったのは。

「上条当麻!!」

「へっ?」

突然大声で自分の名前を呼ばれた上条は、驚いて思わずそんな間の抜けた声を上げてしまった。
だが、彼がそんな声を出してしまうのも無理はない。
何故なら振り返ったその先には、能力全開で仁王立ちしている超能力者の第三位の姿があったから。
343 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/07(金) 23:09:00.11 ID:i3GUHzEo

「ちょ、ビリビリさん? 何でこんな所でそんなにビリビリしていらっしゃるのでしょうか?」

「ふふふ……。ここで偶然会ったのも何かの縁。久しぶりに私と勝負しなさい!」

「いやいやいやいや、何を言っていらっしゃるんですか? 超能力者のお前に無能力者の俺が敵うわけが……」

「右手一本でこの私の攻撃をいとも簡単に消し去る奴が何言ってるのよ。今日という今日は相手してもらうわよ!!」

「で、でも上条さんにはこれから特売という名の非常に大事な用事があってですね……」

「なら、勝負してくれたら付き合ってあげるわよ。私はアンタと勝負できる、アンタはお一人様数量限定の特売品を二人分ゲットできる。
 ほら、利害が一致してるじゃない」

「いやだから無理ですって! 上条さんは凶悪なテロリストをたった一人で制圧できるような人となんか勝負したくありません!!
 っていうわけで、じゃあな!」

「あっ、コラ待ちなさい! 逃げるなー!!」

脱兎の如く駆け出した上条を、美琴が全速力で追い掛ける。
万が一に備えていつでも右手を突き出せるように気を配りながら疾走する上条と、
彼が一瞬でも立ち止まろうものならすぐさま攻撃できるように電気を纏ったまま走る美琴。
こうして、二人のリアル鬼ごっこが開幕した。


344 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/07(金) 23:10:11.88 ID:i3GUHzEo
さて、物語も佳境に入って参りました。
とは言え今回はただの前振りなので、あんまり面白みがないと思いますが勘弁してつかあさい。
次回からいろいろ動き出す……、予定です。

それにしても色々ぼかし過ぎたかな、と反省。
でもぼかす時は開き直ってぼかしまくれとアドバイスされたので、もうこのまま突っ走ろうと思います。
ぼかされた先にあるものを明かすのはいったいいつになるのやら。
楽しみにしてくだされば幸いですが……。

話は変わりますが、もうすぐ冬休みが終わるので、て言うかもうすぐ試験があるのでまた更新速度が落ちると思います。
それでも最低一週間に一度は投下したいですが……。できなくても悪しからず。すみません。
それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました。


千と千尋見ながら修正したので、色々おかしかったらごめんなさい←
345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 23:39:52.34 ID:qP/aqIQo

千尋かわいいよ千尋
346 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 00:02:17.65 ID:KV.FbMgo
その試験をぶっ[ピーーー]!

わけにもいかないんで出来るペースで頑張ってください。
すげえ続き気になるけどww
347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 00:37:15.20 ID:zRDBMdI0
>>332
元ネタは『ランドルフ・カーターの陳述』だな。
348 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 00:48:07.08 ID:bc1efwM0

試験勉強頑張れ
349 : ◆uQ8UYhhD6A [sage]:2011/01/08(土) 02:25:30.94 ID:Emve2two
やっぱりOP変わってなかった……。
年跨いだから行けると思ったんですが。やっぱり来週までお預けですね。残念。

ところで『ランドルフ・カーターの陳述』をちょろっとぐぐってみたんですが、何か難しそうなので理解を諦めました。
そもそも大した情報もありませんでしたが。
クトゥルフ神話とかなんとかでした。予想に反して真面目そうだったのでちょっと驚きました。

本編の方は、せっかく続きもの状態になってるのに試験の所為でお待たせすることになって申し訳ないです。
2月に入るまでずっと試験期間が続くので、随分お待たせすることになってしまうと思いますが何卒よろしくお願いします……。
本当はこういう続きものになってるのはさっさと投下してしまいたいんですけど!
自分がやられるとすごい悶々とするので嫌なんですよね……。


あ、そういえばずっと言うの忘れてました。
明けましておめでとう御座います。今年もよろしくお願いします。
350 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 15:31:37.40 ID:zRDBMdI0
クトゥルフ神話は禁書でも出てきてますぜ。禁書目録の挙げた魔道書の中にクトゥルフ系のモノが
結構な割合で入ってた。
史実でもクロウリーの晩年の弟子ケネス・グラントが
ラヴクラフトの書く宇宙観とクロウリーの魔法体系に共通点を見出し
「両者は無意識に同じものを視ていたのではないか」と仮説を立てているから、
だからきっとそのうち絡んでくるんだろうなと思っていたんだが・・・・・・一巻以来存在が消えた?

続きはのんびり待ってますぜ。だからエターだけは勘弁な!
351 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:39:35.34 ID:haACF.Y0
まあ禁書本編初めの方にはスタンドがどうのこうのとかもあるしな
わかりやすく有名な魔道書の名前を借りただけだろう
352 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 20:35:47.49 ID:YmSRoUaAO
二月か…長いな
353 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/14(金) 01:04:50.69 ID:bLROZ2TEo
どうも、お久しぶりです。
テストの波が取りあえずひと段落したので投下しようと思ったら、何だかSSがどんどん移転していっているようで。
自分も申請して移転させてもらいに行ってきますね。


では、皆さんがいらっしゃるのをお待ちしております。
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

354 :真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 01:41:07.49 ID:QDYkoPNr0
いちばんのりー
勉強がんばってね
356 : ◆uQ8UYhhD6A [sage]:2011/01/14(金) 01:47:26.81 ID:7cnr1jFTo
まさか自分より早い人がいたとは……
応援ありがとうございます。テスト頑張ります。

あと、今日中と言うか寝るまでに投下しようと思ってたんですけどもう遅いので明日にしますね。すみません。
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 12:38:56.94 ID:buB/oZCro
追いついたにゃー
移転云々でタブ更新とかしてる時に見つけちまって一気に読んでしまった
358 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/14(金) 13:06:14.47 ID:7cnr1jFTo
どうもこんにちは。予告通り投下しに来ました。
テスト期間中に限って異常にSS書きたくなるのって何でなんでしょうね。
普段からこれだけモチベがあれば良いのに。

>>350
神話系は片っ端から魔術にされてますからね。アニェーゼ隊とかも。
ただ禁書はもっぱら十字教や北欧神話ばっかりなので、クトゥルフはあんまり出てきませんね。あ、アステカもあったか。
いつかクトゥルフの話が出てきたりするのでしょうか。神話はあまり詳しくないのですけど。

あと、実は自分は今までにけっこうな数のSSを書いているのですが、いずれも完結させたことが無かったりします。
まあこういう形式でSSを書くのは初めてですし、そのお陰か一定のモチベーションは保てているのでエターはしない、と思います。
と言うかこういう場で書き始めた時点で完結させる責任が発生すると思いますし! ……頑張ります。

>>357
一気読みとは……お疲れ様です。
我ながら結構な量だと思っているので大変だったと思うのですが……。地の文ですし。お茶でも飲んで休憩してって下さい。
ともあれ、これからもまったりと見守っていただけると嬉しいです。

それでは、投下して行きます。
359 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/14(金) 13:07:38.54 ID:7cnr1jFTo
カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。
静かな病室に、時計の針が動く音だけが響く。
時刻は、23時59分。
間もなく一日が終了してしまう時間。
しかし時を刻む時計はそれを名残惜しく思うことなく、ただ淡々と針を進めるのみ。
そして。


カチリ。


長針と短針が重なり、すべての針が時計の頂点を指した。
それは、一日が終了した合図。
学園都市が火曜日の午前零時を迎えた音。

病室のベッドで横になっていた一方通行は、その音と共にぱちりと目を開くと仕掛け時計の人形のように機械的な動きで身を起こした。
そして彼は、いつもの手術衣から外出用の洋服に着替え始める。
着るのは、外出の時にいつも着ていた思い出深い服。
あの時結局セブンスミストに行くことができなかったので、これくらいしか外出用の服を持っていないのだ。


やがて着替えが完了してしまうと、彼は荷物の確認を始める。
入院した時は身一つだったし、買い物もあまりしなかったので、鞄の中には殆どものが入っていなかった。

替えの服と全財産を入れた財布、そしてことあるごとに撮らされた写真とプリクラの貼られた携帯電話。
鞄の中に入っているものといえば、そのくらいだった。
あとは上条や美琴がくれると言って置いていってくれた本が何冊かあったが、それらはすべて置いて行くことにした。

最後の確認も済ませてしまい、一方通行は軽い鞄を肩に引っ掛ける。
そして彼は、病室の窓を全開にした。
今夜出て行くことをできるだけ多くの人間に悟られたくないので、窓から飛び降りて脱出することにしたのだ。
けれどその前に学園都市を見納めておこうと思い、じっと外の景色を眺めていた、その時。

「残念だったね?」

聞き慣れた声に振り返ってみれば、そこには冥土帰しが立っていた。
真っ暗闇に包まれた病室に、白衣が浮かぶように映えている。

「彼らのことだから、今日もお見舞いに来てくれるかと思ったんだけどね? まさか最後の日に会えないなんて、君も彼らも運が悪い」

「……構わねェよ。アイツらにもアイツらの事情がある。つゥか、ノックぐらいしろよ。悪趣味だな」

「ああ、それは悪かったね? でも、そんなことをすれば君はあっという間に逃げてしまうだろうと思ったんだよ」

「分かってンなら、わざわざ話し掛けに来ンじゃねェよ。やり辛ェな」

一方通行が悪態をついても、冥土帰しは曖昧に笑うだけだ。
彼は、冥土帰しのこういうところが苦手だった。
そして結局、この日を迎えるまでにその苦手意識を克服することはできなかった。
360 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/14(金) 13:08:29.29 ID:7cnr1jFTo

「本当に、これで最後なんだよ? 寂しくはないのかい?」

「しつけェぞ。それに、見送られたら見送られたで行きづらくなるだけだろォが」

「……そうか。それじゃ、気を付けて行くんだよ? くれぐれも無茶はしないようにね?」

「分かってるっつゥの、ったく……。じゃあな」

「ああ。身体に気を付けて」

一方通行は軽く手を振ると、窓枠に足を引っ掛ける。
途端、ざあと一際強い風が吹いてきて、病室の中の空気を冷やした。
カーテンが風に揺れ、白い髪が靡く。
外の景色を見つめたまま振り返らない一方通行の表情を窺うことは、できなかった。


「……ありがとう」


風の音に掻き消えてしまいそうなほど、か細い声だった。
冥土帰しは珍しく驚いた顔をし、そして何かを言おうと口を開いたが、その前に一方通行は窓から飛び降りてしまう。
結局何も言うことができなかった冥土帰しは、それを見送りながら少し暗い顔をして呟いた。

「……気を付けるんだよ、一方通行」



―――――
361 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/14(金) 13:10:20.37 ID:7cnr1jFTo
走る。走る。走る。

何処へ向かえば良いのか、どうして走っているのか。今は何もかもがはっきりしていて、だから少年はひたすらに走り続ける。
追跡者はまだいない。
しかしすぐに現れることになるだろうと、彼は予想していた。

その時。
どおん、と真横で鼓膜が破れるかと思うほどの爆音が轟いた。
いや、『反射』を使って許容量以上の音を遮断しておかなければ、間違いなく深刻なダメージを負っていただろう。
爆発そのものは最初から反射設定に含んでいることは相手も知っているはずなので、
それではダメージを与えられないと見て音での攻撃に切り替えてきたのだろうが、念のために反射設定を変更しておいて助かった。

続いて今度は目くらましの為にか閃光弾のようなものが至近距離で炸裂したが、これも反射設定に入れていたので何とか凌ぐことができた。
相手は自分の能力についてよく予習してきたようだ。
いずれも、少し前の彼であったなら防げない攻撃だっただろうから。

(にしても、随分と洗練されてやがる。一昨日の連中とは大違いだな。
 俺の能力については勿論として、行動パターンや考え方、果ては性格までよォく把握してるみてェじゃねェか)

そこまで思考して、しかし彼はそれ以上考えるのをやめた。
変な予想を立てたところで、何の意味もない。
それに、対策を立てるにしても限界がある。現に、追跡者たちの攻撃は今のところ一つも彼に通用していなかった。

しかし、追っ手を撒く為にランダムに迂回しながら走っているはずなのに、その先々で待ち伏せしている奴らがいるのが気になった。
まるで彼の心を読んでいるかのようだ。
一瞬読心系か透視系の能力者がいるのかとも思ったが、それにしては準備が良すぎる。
その場で心を読むなり透視するなりした程度では、こんなに早く動けるはずがない。

こっちはその都度気まぐれに逃走ルートを変えているというのに、相手は最初から彼の通る道をすべて把握しているようで気味が悪かった。
樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)だって、ここまで正確な予測はできないんじゃないだろうか。

(まァ、いくら正確に予測をしようが対策を立てようが、関係ねェか)

飛んでくる様々な攻撃をものともせず、一方通行は走り続ける。
この分なら何の問題もなく逃げ切れそうだ、と彼が安堵した瞬間、一際大きな爆発が起こって彼の視界を遮った。
だが、こんな煙幕など彼の前では何の意味もない。
彼はすぐさま風を操り、周囲を覆っていた煙幕を吹き飛ばそうとする。

「そう簡単に逃げ切れると思うなよ、一方通行」

だんだんと晴れてゆく煙幕の向こう側に、背の高い男のシルエットが見えた。
やがて煙幕の向こうから姿を現したその男は、警備員のような装備で身を固めている他の人間たちの中にあって異色な存在だった。
何故なら、その男はこの状況で何故か装備らしい装備を殆ど身に付けていなかったから。

唯一身に付けている装備は、両手にはめた機械でできたグローブのようなもののみ。
他に身に付けているものと言えば、とてもではないが防御力など期待できそうにない白衣などのただの衣服くらいのものだった。
にも関わらず、その男は圧倒的な威圧感と存在感でもって一方通行の前に立ちはだかっている。
正直、理解に苦しむ光景だった。

(……どォいうつもりだ? いったいどンな勝算があって……)
362 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/14(金) 13:12:24.66 ID:7cnr1jFTo

しかし、その男は一方通行に思考する暇を与えなかった。
男は力強く地面を蹴り、一瞬で彼との距離を詰める。
けれどやはり、一方通行には男の行動が理解できない。
こんなことをしたところで、彼の能力である『反射』に阻まれて自分が怪我を負う、だけ―――

の、はずだった。

ごがん、と言う音が頭の中で響いた気がした。
頭を思いっ切り殴られたのだ。
油断していた所為でまともにその攻撃を喰らってしまった一方通行は、無様によろけて倒れてしまう。

「…………!?」

能力で電気信号と身体能力の調整を行い、彼は男が次の手を出してくる前に素早く体勢を整えた。
『反射』は間違いなく正常に機能している。
にも関わらず、殴られた。まったく意味が分からない。

「ったく、散々手間ァ掛けさせやがって。クソガキが」

意味は分からない……が、だからといってこんなところで立ち止まっていられない。
考えろ。考えて、この場を切り抜けなければならない。
どうしようもない状況に追い込まれたのはこれが初めてではないのだから、いちいち戸惑うな。最初の頃よりかは遥かにマシだ。
だから彼は、思考する。まだちゃんと能力が使えなかった頃に、そうしていたように。

……装備を見るに、あの男の攻撃手段は上条と同じで接近戦のみ。
背後には何人もの武装した人間がいるが、攻撃してこないのを見るにアレは自分に通用する武器ではないのだろう。
ならば、近付かれないように距離を取れば良い。
攻撃手段が「殴る」しかないのならば、それをさせないように立ち回れば良いだけのこと。

「お前の考えてることなんかお見通しだっての、バーカ」

「!?」

突然背後から聞こえてきた声に、一方通行は反射的に前へと踏み込んだ。
しかし間に合わずに、後頭部に重い衝撃が走る。
再び倒れてしまいそうになるがギリギリのところで重心を安定させ、背後を振り返るがそこには既に誰も居なかった。

「な、ン……」

「おっせえ」

背中に鋭く手刀が食い込み、彼は再び地面に叩き付けられる。
ちょうど心臓のある位置だったので、鼓動が一瞬おかしくなったように錯覚した。
いや、この男は的確に彼を気絶させに掛かっている。
わざとそういう攻撃を仕掛けてきているのだろう、人体の急所を正確に把握していた。
攻撃されるたびに能力で衝撃を緩和していなければ、とっくに立てなくなっていたに違いない。

(ど、ォいうことだ? こっちは身体強化に電気信号の高速化までしてるってのに、生身でそれを上回って……!?)

「不思議そうな顔してやがるなあ。ま、種明かしすりゃあ大したことねえことなんだがな」
363 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/14(金) 13:15:18.60 ID:7cnr1jFTo

言いながら、男が腕まくりをした。
そして露わになった腕には、何か包帯のようなものが巻かれてある。
ずっと病院暮らしをしていた一方通行は、それに見覚えがあった。

「発条包帯(ハードテーピング)……!?」

「んー、ほぼ正解ってとこか。これはその改良版だ。発条包帯よりも出力が落ちる代わりに、肉体への負担を極限まで抑えてるってわけだ」

発条包帯とは、駆動鎧に搭載されている身体強化を行う機能のみを取り出したような装備なのだが、
駆動鎧のように身体的プロテクトが存在しない為に使用者に多大な負担をもたらし、高機動だと肉離れを起こしてしまうという代物だ。
また、それ故に警備員の試験運用からも落ちてしまった欠陥品なのだが、まさか実用段階まで改良されているとは。

「チッ……」

「おいおい、させると思うのか?」

身体を動かそうとしたが、男は立ち上がることさえ許さずに彼の首を蹴った。
衝撃に息が詰まるが、それでも先程殴られた時ほどの衝撃ではない。足では上手く攻撃できない、のだろうか?
朦朧としながら男の顔を見上げれば、僅かながら苦悶の表情を浮かべていた。

「クソ、記憶喪失の所為で自分だけの現実(パーソナルリアリティ)と思考パターンが微妙に変質してやがるのか?
 マイクロマニピュレータを装備してねぇ足じゃきついか」

「……?」

独り言だったので非常に聞き取りにくいぼそぼそとした声だったが、それでも一方通行はその言葉を聞き取ることができた。
マイクロマニピュレータ。あのグローブ。
あれさえ破壊すれば、活路を見出すことができるか。

一方通行は倒れたまま演算を開始する。
途端、強風が吹き荒れて男を吹き飛ばした。
だが男はこれさえも予測していたのか、綺麗に地面に着地するとすぐさま距離を取っているであろう一方通行に近付こうとする。

しかし。

一方通行に接近する必要はなかった。
何故なら、彼は既に男の目の前にまで迫っていたから。

「ッ、らァ!」

一方通行は、男が右手に装備しているマイクロマニピュレータに向かって拳を放つ。
いや、殴る、という表現は正しくないかもしれない。
マイクロマニピュレータは、一方通行が触れた瞬間にバラバラに砕け散ったのだ。

そして彼は、マイクロマニピュレータを破壊した勢いのまま、全力で男の拳を殴りつける。
ごきりと確かな手応えがして、男の指が変な方向に折れ曲がった。

「チッ、クソガキが……!」
364 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/14(金) 13:17:35.96 ID:7cnr1jFTo

男は怯まず、左手で一方通行に殴りかかる。
側頭部を強打され一瞬意識を持って行かれそうになるが、何とか耐え切った。
彼は再び風を操作し、今度は風の刃でマイクロマニピュレータを引き裂く。
すると、男は今度こそ悔しそうな表情を浮かべた。

「このッ……、調子に乗ってんじゃねえぞ!」

しかし男は、風の刃の余波を喰らって血塗れになった左手で攻撃してくる。
マイクロマニピュレータを破壊したお陰か、やはり威力は落ちているがそれでもそれなりのダメージは喰らう。
けれど、それは相手も同じこと。
どういう理屈かは分からないが、男もマイクロマニピュレータなしで一方通行に攻撃するとダメージを負うらしい。
ほんの僅かだったが、引き裂かれた傷口が悪化していた。

だが、それでも一方通行の劣勢は変わらない。
一方通行は漸く男の両手にダメージを与えることができただけなのにも関わらず、彼は気絶寸前だ。
少しでも気を抜けば、今にも倒れてしまうだろう。

これは彼自身の責任ではないのだが、ただでさえ多くはない体力が病院生活で更に低下しているのが祟ってしまった。
流石に、これ以上ダメージを負うのはまずい。

「しっかし、ひどい弱体化具合だ。『反射』もそうだが、出力もガタ落ちしてやがるな。以前の十分の一もねえとは。
 こんなんで『実験』なんか続けられんのかねえ」

「オマエ、は……」

「記憶喪失前のお前なら、この程度軽くあしらえただろうに。ひでえ話だ」

「……知ってるのか。俺のことを」

「……ああ。大人しくついてくる気があるってんなら、教えてやっても良いけどなあ」

「却下だ。誰が、オマエらなンかに……」

「そうかい。ま、今のお前の意志なんか関係ねえ」

言い終わるが早いか、男が凄まじいスピードで接近してきた。
しかし、一方通行も素早く地面を蹴ってそれを回避する。空を切った拳を見て、男が小さく舌打ちした。

だが、このまま戦いを続けるのはあまりにも無謀だ。
そこまで戦闘慣れしている訳ではない一方通行ではあの男を倒すのは難しいだろうし、そもそも体力がギリギリなのでこれ以上戦っていられない。
よって、この場で取るべき手は一つ。

(柄じゃねェが、逃げるが勝ち!)

こちらの様子を窺っていた男を完全に無視して、一方通行は能力全開で逃げ出した。
速度ではあの男には劣るが、建物の上まで行ってしまえばこっちのものだ。
流石に高低差までは男も対応できないし、他の武装兵たちによる遠距離攻撃では彼にダメージは与えられない。
ちらりと背後を振り返ってみれば、あの男がこっちがビックリするくらい呆けた顔で自分を見上げているのが見えた。
365 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/14(金) 13:19:11.31 ID:7cnr1jFTo

「あ、あの野郎逃げやがった!? あの一方通行が!?」

(どの一方通行だよバーカ)

やはりあの男は彼のことをよく知っているようだが、生憎こっちは記憶喪失だ。
お前の知っている一方通行と同じだとは思わないで頂きたい。
勝てないと思ったら迷わず逃げる。無茶ばかりする上条に説教した時も挙げた、あまりにも有り触れた「身を守る方法」だ。
そんな当たり前のこともできないと思われているなんて、以前の自分は一体どんな人物だったのだろうか。

昔の自分に興味が無いわけでもなかったが、今はそんな余計なことをしている場合ではない。
優先順位を取り違えてはならないのだ。
とにかく、あの男が呆けている隙に少しでも距離を稼がなければ。

「くそ、オイさっさと車を回せ! 予測逃走ルートに先回りを……」

「そんなことは超させませんよ」

完全に、不意打ちだった。
少女の声が聞こえたと思ったら、頭部に衝撃を感じて身体が吹っ飛んだ。
直感で防御したお陰で気絶は防いだが、ちょっと当たり所が悪ければ死にかねない程の威力だ。当然、相当のダメージを負ってしまう。
それでも男は何とか受け身を取って立ち上がると、自分をぶん殴った少女を睨みつけた。

「どーも。超お久しぶりですね、木原数多」

「テメェ、絹旗最愛……!」

「私だけじゃありませんけどね」

まるで少女の声を合図にしたかのように、男の背後で爆発が起こった。
背後に控えていた武装兵たちが爆風を受けて吹き飛び、地面や壁に叩き付けられ、炎に煽られて火傷を負う。
そして立ち上る黒煙の中から、一人の少女が姿を現した。

「結局、私に掛かればこんなもんって訳よ」

金色の長い髪にベレー帽を被った、外人の少女だった。
右手に工具のようなもの、左手にはこの状況にはまるでそぐわないとても愛くるしいぬいぐるみを抱えている。
しかし、どう見てもただの子供にしか見えないこの少女たちの登場に、男は顔を歪めた。

「テメェら、自分たちが何してるのか分かってんのか?」

「超分かってますとも。分かってなけりゃこんなことしやしません」

「結局、私たちは妹達につくことにしたって訳。ってことで、楽しい楽しいバトルの時間でーす♪」

金髪の少女が、すべての指に挟んだ工具を一斉に地面に向かって投げる。
綺麗に地面に突き立った工具は、いつの間にか地面に張り巡らされていた白いテープに導火線のように着火する。
数秒の間も置かず複数の場所で爆発が起こり、再び武装兵たちが吹き飛ばされた。
366 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/14(金) 13:21:11.91 ID:7cnr1jFTo

「チッ、余計なことしやがって。今回ばっかりは流石に容赦しねえぞ」

「それは超こちらの台詞です。再起不能になっても恨まないで下さいよ」

「もー、爆弾で死人が出ないように調整するのって難しいのに」

口調は軽いが、その瞳は互いに真剣そのもの。
各々相手の出方を窺い、数秒の沈黙と睨み合いが続く。
そして、戦いの火蓋は切って落とされた。



―――――



「まさか彼女たちがこちらに付いてくれるとは夢にも思いませんでした、とミサカは驚きつつも安堵します」

とある装置の準備をしていた御坂妹は、一緒にいる妹達に向かってか、それとも独り言なのか、そんなことを呟いた。
そんな彼女と共に作業を進めている一人の妹達は、御坂妹の顔を見て少し考えてからこう返した。

「そうですね。ですが、ミサカたちにしても彼女たちにしても、彼のことを大切に思っているのは同じでした。
 こうなる可能性もゼロではありませんでしたので、ミサカはそれほど驚いてはいません、とミサカは個人的な感想を述べます」

「それもそうですね。とは言え、直接そう尋ねたところで彼女たちは否定するでしょうが、とミサカは天邪鬼な彼女たちの顔を思い浮かべます」

「でしょうね。ともあれ、そんな彼女たちと敵対せずに済んだのは喜ばしいことです、とミサカは……あっ、やべ」

「ちょ、あなた何してるんですか。これもの凄い貴重な装置なんですから取り扱いには注意してください、とミサカは厳重注意します」

「も、申し訳ありません。不注意でした、とミサカは素直に謝罪します」

珍しく語気を荒げた御坂妹に、妹達は小さくなって頭を下げた。
しかし、彼女が怒るのも当然だ。
この装置は非常に貴重で、方々に手を尽くしてもたった一台しか用意できなかった上に、この作戦において必要不可欠なものだったから。
もしこんなしょうもないことでうっかり壊してしまおうものなら、他の妹達に合わせる顔が無い。
367 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/14(金) 13:22:30.13 ID:7cnr1jFTo

「今回は修復可能ですので不問としますが、本当に気を付けてくださいよ、とミサカは重ねて忠告します」

「重々承知しています。うう、重要な仕事を任されたのは良いものの、失敗ばかりで挫けそうです、とミサカは泣き言を言います……」

「これから気を付ければ良いのです。もうすぐこの作業も終了するのですからもう少し頑張りなさい、とミサカは励ましの言葉を掛けます」

「ありがとうございます。これも彼の為なのですから頑張ります、とミサカは自らを奮起させます」

一時は自信を無くしてしまっていた妹達だったが、そんなことをしている場合ではないのだということを思い出して無理矢理に立ち直る。
彼女は特に『彼』に対して好意を示している個体なので、思い直すのも早かった。
ちなみに、冥土帰しと直接交渉して彼が『外』で生活できるように頼み込んでくれたのも彼女だ。

そうして御坂妹は、立ち直った彼女と共に作業を進めていく。
とは言え、必要な準備の殆どは前もって行われているので、あとは最後の仕上げだけ。
よって、作業が終了するのにもそう時間は掛からなかった。

「……さてと、これでこちらの準備は完了です。あなたも離れた方が良いですよ、とミサカは注意を促します」

「分かりました。これは効果圏外に出てから遠隔操作で起動させるのですか? とミサカは確認を取ります」

「いえ、時間がありませんので今すぐに起動させてしまいます。
 能力を全解除した方が良いでしょう、とミサカはネットワークからも切断してしまうことを推奨します」

「そうですね。……ではミサカ10032号、装置の起動をお願いします、とミサカは切断完了を通知します」

「了解しました、とミサカも了承します」

妹達の言葉を受けて、御坂妹が装置に接続されたノートパソコンの前に座り込んだ。
そして彼女は、ノートパソコンのエンターキーを押す。
途端、装置に付いているランプがすべて灯って小さな起動音を立てた。起動した証拠として、彼女たちにも気持ち悪い感覚が纏わりつき始める。

「AIMジャマー、起動完了」


368 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/14(金) 13:24:36.58 ID:7cnr1jFTo
投下おしまい。お疲れ様でした。
あと、戦闘シーンは正直すいませんでした。久しぶりなのであんまり上手く書けないと言うか、その、ごめんなさい。

伏線を回収するどころか伏線を投げまくってますが、次回の投下は未定です。
できれば一週間以内……。流石に難しいか。
それでは、ここまでお付き合いくださってありがとうございました。
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/14(金) 13:27:55.32 ID:LFw6saHY0
大丈夫、お前ならできるさ
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 14:58:43.09 ID:wELM+CiDO
超乙
超待ってる
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 20:24:54.38 ID:F9hm2QJDO
>>1
楽しみにしてるんだよ!

>>350
そんな事言うからエイワス=ニャル様とか妄想しちゃったじゃないかwwww
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 20:36:42.23 ID:Z4vCkzpq0

完結させようとするそんな>>1を応援してる

そしてアイテム・・・どういう関係なのか気になるなぁ
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/14(金) 20:38:44.74 ID:RYfRcIdI0
最愛ちゃン可愛いなァ
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 22:20:51.53 ID:m1uKFCVZ0


>>371
最近星の配置が狂っているとかそれっぽい要素が出てきてるからつい期待しちゃうんだぜ
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 17:05:50.23 ID:SdvQv+HAO
オイオイ…まだなンですかァ?
376 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/28(金) 02:26:19.26 ID:jMvwQYeBo
事情があるとは言え、ここまで更新が滞ってしまうとは、申し訳ない限りです。
本当にすみません。

とりあえず少しだけ書き上げることができたので、投下します。
377 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/28(金) 02:30:02.22 ID:jMvwQYeBo

「妹達め、まさかAIMジャマーまで持ち出してくるとは……。本気すぎるだろ」

て言うかどっから持ってきやがったんだよなどと愚痴りながら、垣根帝督は彼らしくもなく地に足を付けて駆け回っていた。
いつものように空を飛んでいないのは、ひとえに彼女たちの持ち出してきたAIMジャマーの所為だ。
だが、これでも暗部の小組織を率いている身。
携帯していた武器を用いて何とか彼女たちを退けることはできたものの、未だにAIMジャマーの効果圏内から出られていない。

(念の為に武装しておいて助かったな。まさか本当に使うことになるとは思わなかったが)

絶対に暴走しない程度に最小限の能力は辛うじて使えるものの、それでもあの数の妹達をすべて撒くのは骨が折れた。
とは言え、一方通行を取り逃がしたらしい木原からの情報によると、彼らを妨害する者は妹達の他にもまだまだいるようだったが……。

(それにしても、まさかアイツらがあっちに付くとはな。アイツはもっと合理的に物事を考えられる奴だと思ってたんだが)

とある少女の顔を思い浮かべながら、垣根はやれやれと首を振った。
確かに彼女たちは強大な力を持ってはいるが、それでもそれは垣根の持っている力の足元にも及ばない。
たとえ彼女たちが束になって掛かってきたところで、彼の敵ではないのだ。
まあ、今回のように能力がろくに使えないような状況にあるならば話は別だが……。

(っと、やっとAIMジャマーの効果圏内を抜けたか。能力は……)

ぐだぐだと考え事をしながら走っている内に、今までずっと身体中に纏わり付いていた気持ち悪い感覚が消え去っていた。
それを確認した彼が試しに能力を展開してみると、何の問題もなく三対の白い翼を発現させることができた。
さしもの妹達も、本物のAIMジャマーは一つだけしか用意することができなかったようだ。
この、たった一つのAIMジャマーから逃れることさえできれば、あとはこっちのもの。垣根は安堵からか、僅かに笑顔を浮かべた。

(よし、大丈夫だな。あとは木原から送られてきた予測逃走ルートを参考にアイツを追跡するだけ……)

そして垣根が懐から携帯端末を取り出し、望むデータを表示させようとした、瞬間。
何の前触れもなく唐突に、携帯端末のディスプレイ部分が消失した。
その不思議な現象に、垣根は表情を引き攣らせる。
彼はこのトンデモ不思議現象に、凄まじく心当たりがあったのだ。

「オイオイオイ、マジかよ……。この局面で出てくるか? 普通」

もはやただのゴミと化してしまった携帯端末をポイ捨てしながら、垣根は盛大に溜め息をついた。
すると、背後からコツコツと誰かが近付いてくる足音が聞こえてくる。
それも、二人分。

「ひっさしぶりだねえ、メルヘン野郎。元気だったかにゃー?」

「大丈夫だよかきね、私はそんなメルヘンなかきねを応援してる」

この状況にそぐわない軽い調子で喋りながら、二人の少女が姿を現した。
一人は、茶色い長髪を靡かせた背の高い少女、超能力者の第四位『原子崩し(メルトダウナー)』麦野沈利。
一人は、黒い髪にピンクのジャージを着た少女、大能力者(レベル4)の『能力追跡(AIMストーカー)』滝壺理后。
どちらも、垣根にとって見覚えのある少女たちだった。

「応援してるなら見逃してくれよ」

「コラ滝壺、こんな奴応援しなくて良いの」
378 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/28(金) 02:32:23.25 ID:jMvwQYeBo

「わかった。ごめんねかきね、今のかきねは応援できない」

「ひでえ……」

大袈裟に肩を竦めて見せながら、垣根は彼女たちの方に向き直った。
彼女たちは、暗部の小組織『アイテム』に属する戦闘員だ。
『上』からの命令によって、学園都市統括理事会を含む上層部や自分たちと同じ暗部組織の暴走を阻止することを主な業務としている。
しかし彼女たちは、今回に限っては極めて個人的な理由によってその力を振るっていた。

「しっかし、まさかお前がこんなことをするなんてなあ。意外だ」

「うるっせえなあ。私だって、らしくねえことしてるのは分かってるっつうの。ま、本音を言うとテメェと逆の目に張ってみたかっただけなんだけどねえ」

「ああ、なるほど。納得がいったわ。つーか俺嫌われ過ぎだろ。何これイジメ?」

「むぎのは素直じゃない。……色んな意味で」

「それはどういう意味かな、滝壺ちゃーん?」

「……とにかく、ここは通してあげられない」

「無理矢理本題に入ろうとするなよ……」

相変わらずマイペースな二人に、垣根が呆れた顔をする。
……まあ、もしこれが高度な時間稼ぎなのだとしたら素直に拍手してやるが。

「だが、お前らが俺に敵うとでも思ってんのか? 自分で言うのもなんだが、無謀だぞ」

「あらあら、自信たっぷりねえ。ま、そういう態度を取ってくれてた方が潰し甲斐があるってもんだけど。
 ……滝壺」

「うん、分かってる」

滝壺が頷くと同時に、麦野は彼女に向かって小さなケースのようなものを投げた。
垣根は、あれが何なのか知っている。

「オイ、お前……」

「最近使ってなかったから、ちゃんとできるか分からないけど」

「……悪いわね」

滝壺は投げられたケースを受け取ると、その中に入っていた白い粉を微量だけ手の甲に降り掛ける。
そして手の甲に載せられたそれを、ほんの少し舌で舐めとった。

途端、滝壺の目が見開かれる。それまでぼうっとしていただけだった彼女の雰囲気が一変する。
それは、彼女が能力を発動する合図。
能力を暴走させることによって、初めて彼女の能力は発動する。
379 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/28(金) 02:33:37.87 ID:jMvwQYeBo

「……マジかよ」

「大マジよ。流石のテメェでも、能力を乗っ取られりゃあひとたまりもねえだろ」

「かきね。……本気で行かせてもらうよ。ごめんね」

滝壺の周囲で渦巻いていたAIMが、唸りを上げて垣根に襲い掛かる。
しかし、垣根は大人しく屈しない。
無理矢理に能力を発動させ、滝壺の能力が完成してしまう前にその発動を阻止しようとする。

だが、当然麦野がそれを見逃すはずもない。
それどころか、彼女は滝壺の能力によって垣根の能力が不安定になった一瞬の隙を狙う。
そして。



―――――



「ぜえ、ぜえ……、あ、アンタ、いい加減にしなさいよ……。どんな体力してんのよ……」

「そ、それはこっちの台詞だ……。こんな時間まで追い掛け回してきやがって……、ああもう、不幸だ……」

「とり、とりあえず一時休戦よ……、そこのベンチで休憩しましょう」

「賛成……」

この時期にこんな時間までずっと追いかけっこをしていたものだから、二人とも汗だくのへとへとだった。
と言うよりも、よくもまあここまで体力が続いたものだ。
追いかけっこを始めたのが学校が終わってすぐなので、もう何時間走り続けていたのか、考えたくもない。
二人はいつもの公園のベンチに揃って凭れ掛かりながら、荒れた息を整えていた。

「まったく、ちょっと勝負しろって言ってるだけなんだからそんなに逃げなくたって良いじゃない。手加減してあげるのに」

「あのなあ、電撃ビリビリを喰らうのがどれくらい痛いか知ってるか? 気絶するんだぞ? 超痛いんだぞ?」

「そんなこと言ったって、アンタはどうせその右手で全部防ぐんでしょ。関係無いじゃない」

「関係あります! あのなあ、何度も言うが幻想殺しの効果範囲は右手首から上だけなんだよ。それ以外に当たったら普通に喰らうの!」

「知ってるわよ。でもいつも防ぐじゃない」

「それはお前の能力が電気だから、右手を突き出すと避雷針みたくなって勝手に電撃が右手に当たってくれるんだよ。
 だからそれで防げてるだけであって、お前にそれを意識して攻撃されたら終わりなんだよ」

「ほほう、これは良い攻略法を聞いたわ。流石のアンタでも雷速には対応できないだろうし……」

「……やばい、余計なこと言ったかもしれない」
380 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/28(金) 02:34:06.97 ID:jMvwQYeBo

上条は黒い微笑を浮かべている美琴を見て冷や汗を流すが、もはや後の祭りだ。
次からは電撃の一発や二発は覚悟しなければならないかもしれない。

「まあでも、今日は帰るわ。流石にもう疲れちゃったし」

「そ、そうか。良かった……」

美琴のその言葉に、上条は心から安堵した。
流石の上条ももう体力の限界だったし、明日も普通に学校だ。さっさと帰って寝なければ、確実にまた遅刻するハメになってしまう。
それに美琴だってちゃんと学校に通っているのだから、そういう準備もあるだろう。

「一応門限は黒子に頼んで誤魔化しといてもらったけど、心配してるだろうし」

「えーと……、うわ、もう十二時過ぎてんじゃねえか。本格的に明日は遅刻かも……」

「何よ、ちょっと夜更かししただけじゃない。だらしないわね」

「いやいや、十二時って相当だからな? まあそれは置いといて、もう遅いし寮まで送って行ってやろうか?」

「え!? あ、その、私は一人でも別に全然平気だけど、アンタがどうしてもって言うなら送らせてあげても……」

「そうか? まあお前は超能力者だし、いらない心配だったか」

「………………」

美琴はまだ何事かをもごもごとつぶやいていたが、上条はさっぱり気付かない。
まあ、上条が絶望的に鈍感なのを分かっていてこんな態度を取ってしまう美琴にも非はあるのだが、こういうのは理屈ではないわけで。

「……アンタは」

「ん?」

「何でそんなに鈍感なのよおおお!!」

「えっ、何!? 何で!? どうして突然怒り出すんですかビリビリさん!?」

まったくもって理不尽なことだが、上条は最早そういう星の下に生まれてきてしまっているので仕方がない。
上条は無制限に放電している美琴の電撃を右手で防御しながら、ひたすら彼女の怒りが収まるのを待つことしかできなかった。

「はあー、はあー……、もう良いわ、帰る!」

「さ、さいですか……。気を付けて帰れよー」

「うっさい!」

そして美琴が上条に背を向けようとした、途端。
二人のいる場所からそう離れていないところで、爆発が起こった。
大きな爆音に反射的に耳を抑えながら、二人はもうもうと立ち昇る黒煙を見上げる。

「な、何だありゃ? またテロか?」
381 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/28(金) 02:34:44.05 ID:jMvwQYeBo

「こんな時間に……? いや、こんな時間だからこそかしら」

「と、とりあえず警備員に通報しないとだよな。
 えーと……、あれ、何故かショートカットの一番に警備員が登録されてる……。まあ良いや」

とにかく何かをしなければならないと思った上条は、携帯電話で警備員に通報する。
警備員に事件の概要や場所の説明をしながら、上条は何だか嫌な予感がしていた。
何故なら、彼の隣に立っている美琴が、無言のまま爆音の起こった場所をじっと睨みつけていたからだ。

「おい、まさかまた首を突っ込もうとか考えてないよな?」

「な、何よ。アンタには関係無いでしょ?」

「あのなあ、いくら何でも危な過ぎるって前から言ってるだろ!?」

「超能力者だから平気だろってさっきアンタだって言ってたじゃない!」

「それとこれとは話が別だろ! 俺はお前が心配なんだよ!」

「なっ……」

この言葉にも当然他意は無いのだが、そんな上条の意思に反して美琴は顔を真っ赤にさせた。
もちろん上条は、何故彼女が顔を赤くしているのかさっぱり分かっていない。

「わっ、分かったわよ。そこまで言うなら今回は素直に警備員に任せることにするわ……」

「そうか、良かった。お前には怪我して欲しくないからな」

「ううううう、うるさいわね。そんなことより、アンタまだ電話中でしょ? こんな無駄話してないで、さっさと説明終わらせちゃいなさいよ」

「おっと、そうだった。もしもし? すみません、ちょっと取り込んじゃって……」

上条が電話に戻っている間、美琴はそっぽを向いて熱くなった顔を冷ます努力をしていた。
美琴も一応はあれが何の他意も無い言葉だということは理解しているのだが、分かっていても顔が勝手に赤くなってしまうのだから仕方がない。

(ああもう、何なのよこれ! 意味分かんない! ばっかみたい!)

両手で思いっ切り頬を叩くと、漸く熱かった顔が冷めてきたような気がしてきた。
とは言え、力一杯手を張った所為でまた別の理由で頬が赤くなってしまったが。

すると、また爆発が起こった。
最初の爆発よりかいくらか規模は小さいようだが、先程よりも近くなっている気がする。
と言うか、どんどんこっちに近付いてきているような……。
382 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/28(金) 02:35:43.84 ID:jMvwQYeBo

逃げるならそろそろここを離れなければならないということを上条に伝えようと背後を振り返ろうとした時、がさりと近くの植込みが蠢く音がした。
もしかしたらテロリストかもしれないと思い、美琴は警戒しながら植込みを睨みつける。
しかし、そこにいたのは、

「……!? あ、一方通行!」

「……チッ」

一方通行は驚きのあまりに大きな声を出してしまった美琴を無視すると、再び夜の闇の中へと消えて行ってしまった。
あっという間に彼を呑み込んでしまった植込みを見つめながら美琴はしばらく呆然としていたが、やがてはっと我に返る。

どうしてこんなところにいるのか。
どうして自分に声も掛けなかったのか。
どうして自分を見てばつが悪そうな顔をしたのか。
いや、そんなことよりも。

「ちょ、ちょっと! 今一方通行がいた! アレは絶対何かに巻き込まれてる!」

「はあ? 何言ってんだ。アイツがこんなところにいる訳が……」

「だから、いたのよ! 良いから、つべこべ言わずに追い掛けるわよ!」

「お、おい待てよ! たった今関わらないって決めたばっかじゃねえか!」

「アンタこそ、何バカなこと言ってんのよ! アイツの方が先決でしょ!?」

「そりゃあそうだけど……」

「分かってるなら、さっさと行くわよ! ほら急いで!」

怒鳴りながら、美琴は上条の制止を完全に無視して走って行ってしまった。
そちらは、間違いなく先程爆発が起こった方向だ。
本当にあんなところに一方通行がいるとは到底思えなかったが、だからと言って美琴を放っておくわけには行かない。

「……あーもう! 仕方ねえな!」

上条は観念したようにそう叫ぶと、全速力で消えていった美琴のあとを追い掛けた。
未だ黒煙を吐き出し続けている、爆心地へ。



―――――
383 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/28(金) 02:36:42.01 ID:jMvwQYeBo

美琴に見つかってしまった一方通行は、何とかして彼女から逃げ切る為に全力疾走していた。
やっとのことで追跡者たちを撒いた矢先に、この有様だ。
せっかく今後のことを考えて能力を節約していたのに、今度は美琴を撒く為にまた能力を使うハメになってしまった。
別に彼女が悪いわけではないのだが、今回ばかりはタイミングが悪過ぎるとしか言いようがない。

(つゥか、アイツらこンな時間にあンな場所で何やってンだよ! 明日は学校じゃなかったのか!?)

流石にもう家に帰っているだろうと高を括って油断していた彼にも非はあるのだが、それでも苛ついてしまう彼をどうして責められようか。
何しろ、彼は美琴を撒く為だけに追跡者たちのいる方へと向かって行っているのだ。
彼女を振り切るのに最善のルートとは言え、やはりこの道を通るのには相当の覚悟が要る。
何故なら最悪の場合、あの最初にして最強の追跡者と鉢合わせてしまう可能性があるからだ。

(腹立たしいことに、アイツにだけは未だに勝てる気が全くしねェ。遭遇したら最後だな)

それでも危険なルートを行くのを辞めないのは、ひとえに美琴をこんなことに巻き込みたくないからだ。
事情を知れば、彼女はきっと一方通行のことを助けようとするだろう。
そして、あの追跡者とも戦おうとするに違いない。
だが、彼は美琴では奴に敵わないと確信していた。それほどまでに、あの追跡者の力は圧倒的なのだ。

どうやら奴らは一方通行を生け捕りにしなければならないようなので、少なくとも彼だけは殺されることはないだろうが、
美琴にもそこまでの配慮をしてくれるとは限らない。
一方通行はあの追跡者の人格を知らないが、もし目的の為に手段を選ばないような人物だったならアウトだ。
そう。彼の懸念は、そこだった。

(それにしても、こっちは能力フル活用して走ってるってのにどォしてついて来れるンだ? アイツの身体能力は化け物か)

彼のすぐ後ろには、スポーツ選手も顔負けの見事なフォームで走っている美琴の姿があった。
あれだけ早いと、彼女も自分のように体内の電気信号を操って身体能力を強化しているのではないかと疑いたくなる。
いや、美琴のことなのでもしかしたら本当にやっているのかもしれないが。

(……しかも、上条まで増えてやがる)

追跡者たちは結構派手に暴れているようだから流石に上条は自重するかと思ったのだが、その期待は裏切られてしまったようだった。
拳銃や爆弾といった普通の兵器に対しては無力なくせに、よくもまあここまで首を突っ込めるものだ。
つい先日あれだけ注意したというのに、まったく懲りていないらしい。
自分はその見本として、ついさっき『敵わないと思った相手』から逃走してきたばかりだというのに。

(屋根の上に飛べば撒けるだろォが、目立ち過ぎるからあンまり使いたくねェんだよな。
 ……まァ、この状況じゃそンなことも言ってられねェか)

先程戦闘になった時は、あの男と距離を取ることを最優先にしていたため已む無く使ってしまった手だが、
少し考えたら分かる通りに、一歩間違えば格好の的にされかねない手段だ。
実際、彼はあれから道に降りるまでの間ずっと砲撃を受け続けていた。
もちろん『反射』をオンにしてあったので彼自身は無傷だが、
砲撃による音や光によって自分の位置を知らせながら逃げているようなものなので、逃走するには恐ろしく非効率的な方法なのだ。

しかし彼は、意を決して夜空へと跳び上がる。
背後で、美琴が息を呑む音が聞こえた。
彼女は一方通行が戦っている姿を見たことが無かったので、まさか彼がここまでの能力を持っているとは思っていなかったのだろう。

そして彼は背の高い建物の屋上に着地すると、自分の後を追う二人には目もくれずに更に向こうの建物へと跳躍した。
彼を追っていた二人の足は、止まってしまっていた。
逃げて行く一方通行の姿を見て、彼女たちがいったい何を思ったのかは定かではない。

ただ、一方通行は振り返らずに走り続けた。
ひたすらひたすら、二人を振り切る為に。


384 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/01/28(金) 02:38:09.15 ID:jMvwQYeBo
以上で、本日の投下は終了とします。
お疲れ様でした。

次回の投下は、大変申し訳ありませんが2月となります。
調子が良ければ一日に投下できるかもしれませんが、あまり期待はなさらないで下さい。
それでは、お付き合いありがとうございました。
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 02:38:57.66 ID:ZB6C9eVU0
おつ。楽しみにしてる!
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 06:47:52.77 ID:sRGwputUo
乙なんだよ!!
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 07:50:53.88 ID:ll8d9bLDO
きたー
乙乙乙
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 10:32:55.00 ID:ywtJLUkC0

ここの滝壺はレベル5第八位の力を使えるのか・・・
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 12:46:52.07 ID:kMiXNsuwo
>>388
なんだよそれ
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 00:01:24.76 ID:N2R6P3h80
いい展開だ
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 01:46:21.87 ID:DKzA+GXdo
感動的だな
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 18:35:29.57 ID:CuHpAQngo
「だが、m「嫌いじゃないわ!」」
393 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/01(火) 17:45:38.85 ID:18hPWCNmo
どうもこんにちは。
長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。
昨日で試験は終了したので、これからはもう少し投下速度が速くなると思います。

それでは、今日も投下して行きます。
よろしければお付き合い下さい。
394 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/01(火) 17:47:29.37 ID:18hPWCNmo

「……行っちゃった」

あっという間に一方通行を呑み込んでしまった夜の闇を眺めながら、美琴が呆然と呟いた。
すると、彼女よりもだいぶ後ろで立ち止まっていた上条が駆け寄ってくる。

「ビリビリ! 一方通行は……」

「駄目。完全に見失っちゃったわ」

「……、そうか。ったく、何なんだよアイツ。どういうことなんだ……?」

「そんなの、私が訊きたいくらいよ」

美琴が、頭を押さえながら溜め息をついた。
分からないことが多すぎて頭が痛い。
彼が一体どんな境遇にあって何に巻き込まれていて、何をしようとしているのか。
何から何まで、さっぱり分からなかった。

「それにしてもアイツ、いつからあんな能力を……。隠してたのかしら」

「……あれ、お前は知らないのか? アイツ、どんどん能力の使い方を思い出してるみたいだぞ」

「はあ!? そんなの聞いてないわよ!」

「まあ、俺もまさかあんな事までできるとは思ってなかったけど……。ええと、前に一回説明してくれたんだよな。なんて言ってたかな」

それから、上条はいつか聞いた『反射』の概要を話し始める。
上条の貧相な語彙と理解力で美琴に正確な情報が伝わったのかどうかは分からなかったが、彼女はとても驚いた顔をした。

「何よそれ……。とんでもない能力じゃない」

「あ、やっぱりそうなのか? 能力にはあんまり詳しくないから深くは突っ込まなかったんだが、やっぱりすごい便利な能力……」

「そういう意味じゃないわよ馬鹿!
 相変わらず能力の詳細はよく分からないけど、とにかくそれだけでも出来れば大能力者……、
 いえ、場合によっては超能力者(レベル5)にも匹敵するかもしれないわ」

「れ、超能力者!?」

ここで、やっと事の重大さに気づいた上条が大声を上げる。
そんな彼を見て、美琴は再び頭を抱えた。
普通すぐに気付きそうなものだが、コイツはいったい何処まで勘が鈍ければ気が済むのだろう。

「だけど、これでアイツがあんなことになってる理由が大体見当ついたわ。絶対に能力絡みね」

「ど、どういうことだ?」
395 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/01(火) 17:50:10.82 ID:18hPWCNmo

「ああもう、ここまで言ってまだ分からないの?
 詳細が分からないからレベルについてはあんまり突っ込んだことは言えないけど、アイツが途轍もなく希少な能力を持ってることは間違いない。
 そんな貴重な能力者だったから、きっとどっかのバカに目を付けられちゃったのね。絶好の実験動物(モルモット)として。

 ……私も、小さい頃に覚えがあるわ。見込みがあるとかなんとか言われて、何も分からないうちに変な実験にかけられそうになった。
 幸い、私の周りにはちゃんとした大人がいたから守って貰えたけど……、アイツはそうじゃなかったのね」

「………………」

疲れた顔をしながら淡々と話す美琴を見て、上条はさあっと血の気が引くのが分かった。
それは、つまり。

「……じゃあ、アイツは」

「そういうこと。……って言うか、これくらいすぐ気付きなさいよ馬鹿! あと私にもちゃんと教えなさいよ馬鹿!
 さっさと話してくれてれば、もうちょっと対策の練りようもあったのに!
 それにこの間の件だってあるんだし、アイツが何か抱えてるのは明らかだったでしょうが!」

「わ、悪かったよ。いたたた、殴んな!」

苛立ちに任せて、美琴は上条の頭をべしべしと連続で殴る。
上条は右手で頭をかばって防御していたが、物理攻撃なので大して威力は緩和されなかった。

「それにしても、アイツが治安維持機関を頼りたがらない理由がよく分かったわ。
 警備員や風紀委員に悪意が無くても、裏から手を回されちゃったら指定された人間に保護した人間を引き渡さなくちゃいけないものね。
 もし身柄を確保されたら最後、そのまま地獄行きって訳か。ああもう、本当にどうしてやろうかしら」

「……とにかく、今はアイツを追おう。それから詳しい話を聞いてからじゃないと始まらねえ」

上条のその言葉に、美琴は少し意外そうな顔をした。
それと同時に美琴の拳も止まったので、上条も彼女を見ながら少し不思議そうな顔をする。

「どうした?」

「……いや。アンタのことだから、私のことも止めようとするのかと思った」

「馬鹿か。警備員も風紀委員も頼れないんだったら、自分たちで何とかするしかないだろ。
 それともお前、この程度のことでアイツを見捨てるつもりなのか?」

「まさか。アンタが止めるなら、その屍を踏み越えてでも行ってやるつもりだったわよ」

「それは流石に勘弁して頂きたいのですが……」

物騒なことを言う美琴に、上条はたらりと冷や汗を流した。
流石に屍と言うのは冗談だろうが、美琴のことなので少なくともそれに準ずる状態にされるのは間違いないだろうから。

「とりあえず、アイツが消えた方向に進みましょう。敵を撒く為に建物の屋根伝いに移動してるなら目立つ筈だし、すぐ見つかるわ。
 今は地上に降りて目立たないように行動してるみたいだけど、いつまでもそうしてる訳にはいかないでしょ」
396 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/01(火) 17:52:04.08 ID:18hPWCNmo

「あ、ああ! 手分けして探そう!」

「って、アンタはこの状況の中一人で大丈夫なの?」

「逃げ足には自信があるし、何とかするよ。今は一刻も早くアイツを見つけ出すのが先決だ」

「……、分かったわ。気を付けてよね」

「お前もな」

二人は互いに視線を交わすと、それぞれ別々の方向へと駆けて行く。
また何処かで爆発が起こり、炎と黒煙が上がった。



―――――



あれから、どのくらい走り続けているのだろう。
もう何時間も走っているようにも感じるし、まだ数分も走っていないような気もする。
時間の感覚が滅茶苦茶だった。
けれどあの武装兵たちは上手く撒くことができたのか、今は彼の行く手を阻むものはなくなっており、だいぶ走り易くはなっている。

あと、どれくらいで『外』に辿り着けるのだろう。
能力で少しずつ回復を促してはいるものの、まだたまにふらついてしまうことがある程度には消耗してしまっている彼は、
たったそれだけを判断する能力さえ鈍ってしまっていた。

それに、能力の過剰使用による頭痛もどんどん酷くなってきている。
能力が明確に発現してからというもの、少しでも長く能力が使えるように身体に能力は慣らしてきたものの、今回はあまりに長期戦過ぎる。
美琴と上条に見つかって、能力使用モードで逃げざるを得なかったのも災いした。
それでも彼は頭痛と戦いながら、無我夢中で走って、走って、走って、走り続ける。

……だから、気付くのが遅れてしまった。
最初にして最悪の追跡者が、すぐそこまで迫っているということに。


どおん、と至近距離で鋭い爆音が轟く。
足元で小爆発が起こったのだ。
しかし、それは辛うじて展開していた『反射』に阻まれて、一方通行を負傷させるには至らない。

けれど。
何かおかしな、違和感がした。
……この不自然な爆発に、彼は見覚えがある。

「ありゃ、外したか」
397 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/01(火) 17:55:41.65 ID:18hPWCNmo

ばさり、と背後で何かがはためく音がした。
振り返れば、そこに立っていたのは六枚の白い翼を背負った少年。
金だか茶だかよく分からない色の髪に、何らかの攻撃を受けたらしくぼろぼろになってしまっている茶色のブレザーを着ている。
……彼は、超能力者の第二位、垣根帝督。

「……!!」

「おっと、そんなに警戒するなよ。別に殺しに来たわけじゃねえんだし」

周囲の暗さと中途半端に長い髪の所為で、その目元までは確認できない。
しかし一方通行には、彼の口の端が釣り上がったように見えた。

「ま、捕縛はさせてもらうけどな。ここらが年貢の納め時だろ」

身構える間もなかった。
何の前触れもなく、突然周囲の壁や地面が一斉に爆発したのだ。
しかし、その爆発によって発生する攻撃力は、あくまで通常物理法則に則った瓦礫や爆炎や衝撃波に過ぎない。
ならば彼の『反射』で防げない道理はない。

よって、一方通行は垣根の攻撃に対して何のリアクションも起こさなかった。
身構える間はなかったが、身構える必要もなかったのだ。

やがて爆発が完全に収まって黒煙が晴れた時、一方通行は無傷のままその場に立っていた。
傷どころか、煤一つ付いていない。

「なるほど、ある程度能力が戻ってるってのは本当みたいだな」

「オマエ……」

口調や雰囲気で、何となく分かる。
垣根も、昔の一方通行のことを知っている。
そしてきっと、一方通行よりもこの能力について詳しい。
彼は、そう確信した。

垣根自身の戦闘能力もさることながら、唯一の頼みの綱である能力についての情報を握られてしまっているのではどうしようも無い。
先程と同じで逃げの一手しかないことを悟った一方通行は、能力の出力を最大にして逃走を図ろうとする、が。

「おっと、木原から話は聞いてるからな。逃走を警戒してないと思ったか?」

咄嗟。
一方通行は逃走に充てるつもりだった力をすべて回避行動に回し、真横に跳んだ。
それは、彼の全力。最大出力、だった。

……にも関わらず、彼は左足首に激痛を覚えた。
ブツンという音を聞いた一方通行は腱を切られたことを悟ったが、悟ったところで何ができる訳でもない。
垣根の攻撃による衝撃を緩和しきれなかった一方通行は、その勢いのままに地面に倒れこんだ。

混乱しつつも、彼は自らの足もとを見やる。
そこには、予想通りにざっくりと切り裂かれ、少なくはない量の血を流している自分の足首があった。
398 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/01(火) 17:59:39.29 ID:18hPWCNmo

「ッ……」

「やっぱりな。出力だけじゃなく、『反射』自体の質も落ちてやがる。
 以前のお前の反射はホワイトリスト方式だったが、今は指定したものしか防げないブラックリスト方式になっちまってんのか。
 それじゃ、俺の攻撃は防げねえな」

薄く白いナイフのようなものが、一方通行の足首と先程まで彼のいた場所に無数に突き立っている。
よく分からないが、どうやらアレは普通の攻撃ではないらしい。
辛うじて反射膜をすり抜けた時の感覚が残っているのでそれは何となく分かるのだが、その正体がうまく掴めなかった。
きちんと解析して逆算することができれば反射可能かもしれないが、今はそんなことをする余裕も時間もありはしない。

「さっき、ちょっと色々あってよお。上手く手加減できねえかもしんねえから、さっさと諦めた方が良いと思うぞ?」

垣根の提案に、一方通行は答えない。
代わりに、足を引きずり壁に手を付きながら、それでも一方通行はしっかりと立ち上がった。
そんな、この圧倒的不利な状況にあって尚諦めようとしない強情な彼を見て、垣根はやれやれと首を振る。

「学園都市の医療技術にも限界はあるんだからな? ……どうなっても知らねえぞ」

「ハッ。オマエらの言いなりになるくらいなら死ンだ方がマシだっつゥの。バーカ」

「お前までそんな態度!? 俺嫌われ過ぎじゃね?」

「知るか。死ねメルヘン野郎」

何だかよく分からないが、とにかくコイツを見ているとイライラする。
この状況でへらへらしているコイツ自体も気に喰わないし、こんなのに手も足も出ない自分自身も腹立たしい。
自身の精神衛生の為にも、一刻も早くコイツを視界の外に追いやらなければならなかった。

とは言え、今の一方通行が視界から垣根を排除できる手段は殆ど無いと言って良い。
痛覚神経を麻痺させて痛みを消すことには成功したものの、この足ではどう能力を駆使したところで垣根から逃げ切ることなどできないだろう。
よって、ほんの一瞬でも良いので動きを止めなければならないのだが……。

(理由は知らねェが、アイツはここに来るまでに誰かと戦ったのか、それなりのダメージを負ってる。
 勝機があるとすれば、そこしかねェが……)

それにしたって、圧倒的な力の差があり過ぎる。
……しかし、だからと言って諦めるつもりは毛頭ない。

一方通行は強風を発生させると、全力で垣根にぶつける。
しかし、垣根は片方の翼で風を遮ると右手を軽く上げて氷柱のような杭を撃ち出してきた。

対して一方通行は、飛来する杭に再び風をぶつけ、軌道を逸らして回避。
どうやらあの氷柱は『反射』は易々と貫くことができるようだが、風や瓦礫などを用いればある程度の干渉をすることはできるようだ。
ただ、垣根の攻撃は威力が高いので簡単に弾かれたり砕かれたりしてしまう。だが、少なくとも障害物にはなる。

「ひっでえ攻撃。それで本気だってんならお笑い種だな」
399 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/01(火) 18:02:55.07 ID:18hPWCNmo

至近距離から、声。
気付いたら、垣根が目の前に立っていた。身構えるとか反応するとか、そんな行動がまったく許されないレベルの速度。

(こ、の野郎。音速超えてンじゃねェのか!?)

咄嗟に腕で頭部を庇おうとするが、間に合わない。凄まじい速度で側頭部に蹴りを叩き込まれ、一方通行は壁に叩き付けられた。
壁に激突した衝撃はそのまま反射できたが、蹴りのダメージはまともに入ってしまう。
ただでさえ体力が削られているところに受けてしまった大ダメージに彼は危うく気絶しかけたが、なんとか持ち堪えた。

「ん、耐えたのか。ちょっと意外だ」

まるで何でもないようにそう言った垣根に浴びせてやりたい罵詈雑言が百はあったが、今は喋る体力さえ惜しい。
もう意識が朦朧としてしまって何がしたかったのすら分からなくなってしまいそうだったが、一方通行はそれでも立ち上がった。
そして、彼は力の限りに地面を踏み鳴らす。

いや、踏み抜いた、と言ってしまって良いだろう。
地面を踏みつけた一方通行の足は完全に地面にめり込み、大きなクレーターを形成していたから。
彼はそこから更に地面を伝う衝撃を操り、垣根の足元のコンクリートを爆発させる。

しかし、垣根は飛散したコンクリートの破片を手の甲で軽く払っただけだった。たったそれだけで、いとも簡単に破片を弾いてしまったのだ。
当然、それなりの勢いで破裂させたのにも関わらず。

「何だ、翼の内側なら無防備なんじゃ……、とか思ったのか? 残念だったな。俺の能力はお前と同じで自動防御付きだ」

「…………」

「で、終いか? おいおい、あっけねえなあ。もっと手応えがあるかと思ったんだが」

視界は未だぼやけたまま、まともにものを見ることができない。
しかし、その中で彼はばさりという音を聞く。
同時に視界にぼんやりと白いものが広がったのが見えたので、恐らく垣根が決着をつけるべく翼を広げたのだろうと、思う。
万事休す、という言葉が頭に浮かんだ。

だが、天運は彼に味方する。
唐突に、耳を覆いたくなるほどの凄まじい雷鳴が轟いたのだ。
朦朧としている一方通行には、何かが光ったことしか分からない。
しかし、それが何なのかは理解できる。

そして彼は、自分の運の良さを嘆いた。
400 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/01(火) 18:07:17.13 ID:18hPWCNmo



「アンタ、人の友達に何してくれてんのよ!!」



右手を突き出し、未だ体中から紫電を発している少女が、一方通行の後ろに立っていた。
超能力者(レベル5)の第三位、御坂美琴。
彼女は怒りに歯を食いしばりながら、眼力で射殺さんばかりに垣根を睨みつけている。

「おーおー、こりゃあ数奇なメンバーだ。初めましてだな、第三位。俺は第二位、垣根帝督だ。よろしく」

「アンタなんかと仲良くやってやるつもりなんかこれっぽっちも無いわよ! 死に晒せえええ!!」

美琴は叫ぶと、自身の最大出力である十億ボルトを惜しむことなく垣根に向かってぶっ放した。
相手が第二位と分かっているからと言って、滅茶苦茶だ。
これには、流石の垣根も顔を引き攣らせる。
垣根は十億ボルトの電撃を翼を盾にして受けるが……、第三位の全力を喰らって、手負いの第二位が無傷でいられるものだろうか?

やがて美琴の放電が収まり、巻き上がった砂埃が少しずつ晴れていく。
……しかしその向こうにいた垣根は、それでも立っていた。
ただし、白かった翼は焦げて黒く煤け、翼だけでは防げなかった電撃の所為で身体中のあちらこちらが焼けている。

(……第二位だって聞いたからヤバいかもしれないと思ったけど、行ける! ダメージは確実に通ってる!)

全力で能力を放出した所為で肩で息をしていたが、美琴は確実な手応えを感じていた。
第二位と第三位の間には絶対的な力の壁があると聞いていたが、……これなら行ける。
勝てるかもしれない。

とは言え、もし垣根が万全であったなら、この程度の攻撃でダメージを負うことはなかっただろう。
しかし、実は彼は麦野と滝壺にボコボコにされた直後なのだ。
強がってはいるものの、能力を滅茶苦茶に乱されながらギリギリ辛勝した、という状態なので、実のところ彼自身もかなり弱っていた。
……だが、手負いであったとしても、第二位と第三位には圧倒的な力の差がある。それを覆すのは、やはり難しい。

「……いってえな。そしてムカついた。ぶっ殺される覚悟はできてんだろうな」

「第二位だか何だか知らないけど、やれるもんならやってみなさい!」

だから。
難しいから。

「掛かって来なさい、第二位」

美琴は不敵に微笑んで、格上相手に挑発をする。
垣根はぎりりと歯軋りすると、薄い刃のように伸びた白い翼をすべて美琴に差し向けた。

超能力者は、プライドが高い。
垣根と同じ超能力者である御坂美琴も、そのことは重々承知していた。
だから、あえてここまで引き付けた。

白い刃が、目の前まで迫っている。
けれど美琴は、動かない。
防御や回避どころか、能力を使おうとする素振りさえ見せない。

……しかし、その瞳に映っているのは恐怖や諦観や悲哀や悔恨ではなかった。
何故なら。

401 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/01(火) 18:08:01.33 ID:18hPWCNmo





「歯ァ食い縛れ!!」




402 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/01(火) 18:09:13.84 ID:18hPWCNmo

ごがん、と凄まじい鈍音が響く。
翼も自動防御も完全に無視して突き抜けて、固く硬く握られた右拳が垣根の顔面に叩き込まれた。
その何の捻りも無い真っ直ぐな右ストレートの前に、垣根は初めて地を這うこととなる。

「二人から離れろ! この三下ァ!!」

超能力者の第二位、垣根帝督を殴り飛ばした張本人。
上条当麻が、そこに立っていた。




403 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/01(火) 18:09:42.73 ID:18hPWCNmo
投下終了。お疲れ様でした。
次の投下は三日以内だと思います。
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 18:16:34.76 ID:WHtqhBy1o
おつーー
上条さーーーーん!!!
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 18:26:09.70 ID:A4eAkY6Oo
上条さああああああああああああああん!!!11
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 18:35:51.66 ID:WX2JhU3AO
乙ー!
うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 19:33:46.95 ID:P3v/+mHA0
ていとくん頭良いから遠距離戦にならなきゃいいが
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 19:35:50.99 ID:ivflQb1S0

原作上条さんなら説教だけでたちどころに全員控えおろう状態にできそうだけど
このSSの上条さんじゃ、原作垣根戦の黄泉川みたいな末路たどりそうで怖い
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 19:45:59.55 ID:UU4w5eWeo
なんという流れるような連携・・・胸熱
でも相手が悪いよなぁ
どうなっちゃうんだか非常にこわい
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 21:17:55.20 ID:5ZHMQcIJo
遠距離戦になったら、逃げりゃいい。
垣根倒すんじゃなくて、一方さん救出が勝利条件だろ。
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 21:26:11.00 ID:xZYnbw7Uo
ぶんなぐって倒れたところを上条さんの右手で捕獲して
美琴さんの電撃で気絶させたらいいじょのい
412 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/03(木) 00:15:17.39 ID:JQC41bBwo
どうも、こんばんは。
予定よりも早く書きあげることができました。
少しでも遅れを取り戻せれば良いのですが……。

とにかく、投下します。
413 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/03(木) 00:18:42.03 ID:JQC41bBwo

地に伏している垣根は、前代未聞の混乱状態に見舞われていた。
まったく意味が分からない。
自動防御は問題なく展開させていたし、それ以前に背中の側には翼がある。それを突き抜けて攻撃してくるなんて、有り得ない。

有り得ない、筈だ。
なのに、その有り得ないはずのことが起こってしまった。
なんだこれは。
なんだこれは!

「ご、ぁ……」

殴られた顔面を抑えながら、垣根はふらふらと立ち上がる。
鼻から血が流れていた。
もしかしたら、折れているかもしれない。
こんな激痛を味わわされるのは、本当に久しぶりだ。最後にこんな風に殴られたのは、一体いつのことだっただろうか?

「テ、メェ。何を……」

「テメェこそ何なんだよ! 第二位だか何だか知らねえが、こんな下らねえことしやがって! 何が目的だ!」

上条が怒りに任せて叩き付けてきた言葉に、垣根の眉がぴくりと動く。
だが、それだけだった。
それだけで垣根は余裕を表す為の笑みを取り繕うと、まるで何事もなかったかのように鼻から流れてくる血を拭う。

「……ハッ、テメェらなんかに教えてやる義理なんかねえ。それより、覚悟はできてるんだろうな?」

「うっせえ! それはこっちの台詞だ!」

「大口叩きやがって。本気でテメェ如きにそんなことができると思ってんのか?」

「そんなん知るか。ただ、俺はお前をブッ飛ばして二人を連れて帰る。それだけだ」

「……馬鹿が。調子に乗るなよ、無能力者」

凄む垣根に、しかし上条は怯まない。
それどころか彼は右手を握って拳を作ると、垣根に向かって走り出し、その拳を振りかぶった。



一方、美琴は垣根を上条に任せて壁際に蹲っている一方通行に駆け寄った。
誰かが駆け寄ってきた気配に感づいた一方通行は、緩慢な動作で顔を上げる。
ほんの少しの間だけだが、戦いの場から引き離され休息を得られたことで、少しずつ意識がはっきりしてきた。
けれど彼は、目の前にいる美琴と垣根と戦っている上条を見ても、今更驚いたりしなかった。いや、諦めた、と言った方が正しいだろう。

美琴はポケットからハンカチを取り出すと、怪我をしている一方通行の足にそれを押し当てて少しでも出血を抑えようとする。
けれど、こんなのはただの気休めだ。
だが、彼女はそれでも何かをしてやらなければ気が済まなかった。

「……オイ」

「動かないでよ。出血が酷くなったらどうするの」
414 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/03(木) 00:21:20.50 ID:JQC41bBwo

「馬鹿か、オマエら。あンなのに挑むなンて、どォかしてるンじゃねェのか」

「アンタにだけは言われたくない」

ちらりと美琴の表情を窺い見れば、少し怒っているようだった。
それでも呆れが隠し切れずに、一方通行は盛大に溜め息をつく。
そんな一方通行を見て美琴は少しむっとした顔をしたが、突然彼が動き出そうとしたので慌ててそれを抑え込んだ。

「ちょ、ちょっと! じっとしてなさいって言ってるでしょ!?」

「いや、もォ大丈夫だ。足、放して良いぞ」

「はあ!? だって血がこんなに……」

しかし、美琴はそこで絶句した。
先程まではあんなに酷く出血していたのに、もうその血が止まりかけているのだ。
しかもよくよく見てみれば、一方通行の足首を押さえていたハンカチもそれほど汚れていなかった。

「な、何で……?」

「どォも、そォいう能力らしい。やっと分かった。『方向を操る能力』か。……どォりで分かりにくい筈だ、漠然とし過ぎてンだろ」

「方向を……? でも、それでどうやって血を止めたの?」

「千切れた血管と血管を繋ぐように血流を操作してンだ。あとは、あンまりやらない方が良いンだが、生体電気を操って傷の回復も促してる。
 ……だから、もォ大丈夫だ」

それだけ言うと、一方通行は美琴から離れて壁に体重を預けた。
まだ自力で自分の身体を支えることができる程には治癒していないようだが、それでもあれだけ消耗していたのだから、その回復力は相当だ。

「どォせ、逃げろって言っても聞かねェンだろ。……上条の加勢に行ってやれ。アイツには右手があるが、それでもアレの相手はキツい」

「わ、分かったわ。アンタは動けるようになったらすぐに病院に行くのよ? ここは私たちに任せてくれて良いから」

しかし、一方通行は何も答えない。
そんな彼を心配してか、美琴は何度も背後を振り返りながら、それでも上条たちが戦っている場所へと走って行った。



―――――
415 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/03(木) 00:23:22.99 ID:JQC41bBwo



一方、上条と垣根の戦いは膠着していた。
最初の一撃以来、上条は一発も垣根に入れられていないのだ。
とは言え垣根も似たようなもので、小さな傷くらいならいくつか付けることができるものの、未だ決定打を与えることができずにいる。
得体の知れない上条の強さに、流石の垣根にも少しずつ焦りが見え始めていた。

(ックソ、妙な手品使いやがって。どういうことだ!?)

どんな手段を使って攻撃しても、そのことごとくが何故か防がれてしまう。
AIMジャマーとも滝壺の能力『能力追跡』とも違う方法で、能力の行使が阻害されているのだ。

だが、別に能力の発動自体を妨害されているわけではない。
むしろ、能力そのものは何の問題も無く発動している。
にも関わらず、上条に攻撃を加えようとした途端、突然発現した能力が消滅してしまうのだ。
まるでガラスを叩き割るようにして、翼も杭もバラバラに砕け散ってしまう。
……どういう理屈でそうなっているのか、さっぱり分からない。分からない、が、垣根にはひとつだけその正体に心当たりがあった。

「……まさか、幻想殺し(イマジンブレイカー)か?」

「!」

その言葉に、上条は一瞬だけ反応してしまう。
しかし、垣根にとってはたったそれだけで十分だった。
それだけで、推測は確信に変わる。

「……なるほど、『非論理的な現象を否定するための基準点』ね。アレイスターめ、知ってて黙ってやがったな」

「はあ? テメェ、なに一人でぶつぶつ言ってやがる!」

垣根が唐突に攻撃の手を休めたので、上条も彼と少し距離を取って攻撃を中断する。
能力を駆使して闘っているだけの垣根と違って、上条は己の体力と身体能力のみによって攻撃を行っているので、ぜえぜえと肩で息をしていた。

「いーや、何でもねえよ。それにしても、『超電磁砲』に『幻想殺し』ときたか。こりゃ、ますます数奇なメンバーだ」

「さっきから、何をごちゃごちゃと……」

「ただの独り言さ、気にするな。お前には何の関係も無い」

それでも尚くつくつと嗤い続けている垣根を見て、上条は訝しげな表情を浮かべる。
そして、同時に不愉快だった。
一体、この状況の何処がそんなに可笑しいというのだろうか。

するとそんな彼の隙を突いてか、光り輝く直線が垣根に向かって撃ち込まれた。
しかし垣根はその場から飛び退いてそれを回避すると、光線の発生源となっていた場所を見やる。
416 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/03(木) 00:26:21.47 ID:JQC41bBwo

「おいおい、揃いも揃って不意打ちが得意技なのかよ。正義のヒーローにしちゃ些か卑怯すぎやしないか?」

「う、五月蠅いわね! アンタが勝手に笑いはじめて、警戒を解くのが悪いんじゃない!」

「おお、そりゃそうだ。だけどやられっぱなしってのも性に合わねえからな、ちょっくら俺も卑怯な手を使わせてもらうことにするよ」

相変わらず余裕の表情を崩そうとしないまま、垣根は翼を広げて夜空へと飛び上がった。
……彼は、幻想殺しへの対処法を知っているのだ。

幻想殺しの効果範囲は、右手首から上だけ。
いや、それ以前にそもそも上条自身が遠距離の攻撃手段を持っていない。
なので、上条の攻撃から逃れるのに最も効率的な方法は、上条の手の届かない場所、例えば上空などに逃げてしまうことなのだ。

「こ、の!」

「格下、しかも一般人を虐める趣味は無いんだけどよ。邪魔だから、殺すわ」

垣根が、六枚の翼を一際大きくはためかせた。
途端に暴風が吹き荒れ、地上に立っている上条と美琴に襲い掛かる。

異能そのものならいくらでも無効化できるものの、異能による二次災害に対する防御能力を持たない上条は、両腕で顔を庇いながら垣根を睨みつけた。
対して、美琴は垣根の異能そのものを防御することは難しいが、異能による二次災害――例えば、ただの風――ならいくらでも対処できる。
彼女は大きな看板を引き寄せてきて風除けにすると、上条が風に対処できていないのを見て適当な障害物を引っ張ってきてくれた。

「くそ、あんなところに行かれたら手が出せねえ……」

「そんなに慌てないでよ。今のアイツなら、私でも何とかできるわ」

「え?」

美琴と垣根に実力差があることには何となく察しがついているのか、上条はきょとんとしたというか、疑念の眼差しを向けてきた。
それを見て美琴は少し不機嫌そうな顔をすると、ポケットからゲームセンターのコインを取り出す。
言わずもがな、そのコインは彼女が超電磁砲を放つときに愛用しているものだ。
彼女はいくら風除けがあってもこの状況でコインを真上に投げるのは危険だと判断したらしく、右手でコインを持ち、左手でコインを弾いた。
瞬間、彼女の超電磁砲が炸裂する。


……美琴と垣根の間には、そう大きな距離はない。せいぜい十メートルと言ったところだろうか。
なので彼女は、コインを五十メートルも保たそうとは考えない。
そう、垣根に当たりさえすればそれで良い。十メートルちょっと保ってくれれば、それで良いのだ。

つまり、熱の摩擦によってコインが溶けてしまうことを考慮して手加減しなくて良い。
よって美琴は本当に本気で、いつもの何倍もの力を使ってコインを射出した。
コインが一体どれくらいの速度を出したのかなんて、分かるわけもない。
ただ、美琴の超電磁砲は垣根でも反応できない速度でもってその白い翼を貫き、燃やし、融解させた。

「ッ、チッ!」
417 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/03(木) 00:29:27.74 ID:JQC41bBwo

片方の翼を完全に破壊された垣根は、バランスを崩して地へと落下を始める。
しかし彼は空中で素早く体勢を整えると、不完全ながらもなんとか翼を修復させて、無傷での着地を成功させた。

(上手く行けば落下の衝撃でダメージを与えられるかと思ったけど、そんなに上手く行かないわよね。
 ま、どちらにしろこれで空を飛んで距離を取ろうなんて真似はしにくくなるはず。
 あっちは能力がかなり不安定になってるみたいだし、その状態で何度もあんな緊急対応が成功するとも思えないしね)

(空に逃げれば幻想殺しは気にしなくて済むが、翼を使う分こっちの攻撃手段も制限されるし第三位の攻撃が厄介だ。
 建物の上に行くのも得策とは言えねえな、超電磁砲で建物ごと破壊されたらさっきよりも危ねえ、か。
 あークソ、あの時麦野たちにさえ鉢合わせしなかったらここまで面倒くさいことにはならなかったんだが……)

両者が、睨み合う。
すると何を思ったのか、垣根は突然翼を消滅させると二人に向かって駆けてきた。
いや、二人と言うよりも、上条に向かって、か。

突然の行動に上条は少し驚いた顔をしたが、怯んだりしない。
それどころか、上条は近付いてくる垣根に向かって自らも走り出した。無論、拳を握りしめて。

「う、らァッ!!」

そして上条は、垣根に向かって右拳を振り下ろす。
しかし垣根は突然地面を蹴って後方に跳び、緊急停止・後退を行うとともに上条の攻撃を回避した。
当然上条の拳は見事に空振り、彼は思いっ切り体勢を崩してしまう。

(幻想殺しは確かに厄介だが、攻撃手段は殴打のみ。身体能力はそこそこだが、決して一般人の範囲から逸脱してるわけじゃねえ)

垣根帝督は、この学園都市の暗部に生きる人間だ。
与えられる仕事の殆どをその強力な超能力によって処理してきた彼だが、それでも超能力のみによってすべての死線を潜り抜けてきたわけではない。
もちろん、今回のように能力の使用を制限される、といった状況に陥ったことも何度もあった。

……つまり、彼の武器は超能力だけではないのだ。
とは言え、単純に身体を鍛えている、というわけではない。いや、当然それもあるが、それだけでは不十分だ。
もっと暗部らしい武器を、彼は所持している。


垣根が、裂くような笑みを浮かべた。


パチリ、と何かが弾けるような音。
それと同時に美琴がはっとした顔になり、驚愕の形相で上条に向かって叫んだ。

「右手を後ろに引きなさい!!」

何が何だか分からなかったが、体勢を崩しかけていた上条は片足を前に突き出して地面を踏み、転倒を回避するとすぐに右手を後ろに引いた。
そして顔を上げて垣根を見た彼は、美琴の言葉の真意を理解する。
垣根は上条に拳銃を向け、今まさにその引き金を引かんとしていたのだ。
418 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/03(木) 00:31:54.19 ID:JQC41bBwo

流石に、今から回避を間に合わせることなどできない。
それでも急所に当たることだけは避けなくてはと思い体を捻ろうとしたと同時に、拳銃から銃弾が放たれた。

しかし、そこで上条は不思議な現象を見た。
本来なら自分に向かって真っ直ぐ飛んでくるべき銃弾が、上条の目の前で方向を転換させて明後日の方向へ飛んで行ってしまったのだ。
けれど上条は、その光景に見覚えがあった。

「間に合った……」

「……忌々しい能力だ」

美琴が右手を引けと言ったのは、こういうことだったのだ。
上条の右手は、それが悪意によるものだろうが善意によるものだろうがまったく関係なく、すべての異能を打ち消してしまう。
だから美琴は右手を引かせ、磁力によって銃弾の軌道を操作することを阻害させないようにしたのだ。

「っぶね……、悪ぃ、助かった」

「ちょっとは後先考えて行動しなさいよね、もう」

美琴が呆れたように言いながらもほっとした顔をしている一方で、垣根は面倒くさそうに目を細めていた。
幻想殺しの性能を逆手に取ったつもりだったのだが、拳銃が金属製だったばかりに美琴に即座にその存在を悟られ、あっけなく失敗してしまった。
しかし上条に拳銃が有効なのは確実だし、美琴が銃弾から上条を守るためには幻想殺しを引かせなければならない。
それなりに有効な攻撃手段ではあるのだが、いまいち決定打に欠ける。

(……膠着、してんな)

使えないと判断した拳銃を後方に投げ捨てながら、垣根は正直にそう思った。
それに、先程からずっと一方通行が大人しいのも気にかかる。
……こうなったら、少し無茶をしてでも奴らを退けなければならない。

ざあ、と不自然な風が巻き上がる。
AIMのさざめきを感じ取った美琴は、それが何かを仕掛けてくる前兆だと悟って身構えた。

瞬間。
垣根が鋭く地面を踏み砕き、凄まじい速度で距離を詰めてきた。
標的は、美琴。

(ま、ずい!?)

この至近距離で能力を展開されたら、美琴であってもそのすべてを防御できるかどうか分からない。
しかし、ピンチとはチャンスでもある。
これだけの至近距離であれば、相手も美琴の十億ボルトを完全に防ぐ術など持っていないはず。
負傷覚悟で突っ込めば、行ける。

(こ、れ、くらいで)

虚空から滲むようにして、三対の翼が現れた。
それらすべてが、美琴に襲い掛かるべくしてその刃先を向けてくる。

(怯むもんか!)

けれど、美琴は前進をやめない。
彼女の全力、十億ボルトを垣根に向かって解き放った。

雷鳴と風切り音が、共鳴する。


419 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/03(木) 00:35:50.75 ID:JQC41bBwo



……だが、そのどちらもが、相手に達することは無かった。
美琴が驚愕を通り越して茫然とした表情を浮かべ、垣根がにやりと不気味な笑みを零す。

……そう。チャンスとは、ピンチでもある。

『それ』をピンチだと判断してしまった上条が、美琴を助けようとして右手の力を使い、二人の力をすべて打ち消してしまったのだ。
だが、垣根はこれを予見していた。
そこが、垣根と美琴の差だった。

垣根は無防備になった美琴の鳩尾に、容赦なく膝蹴りを叩き込む。
上条の力の所為で磁力を使った緊急回避すらままならなかった美琴は、為す術もなく蹴りを喰らって背中から壁に叩き付けられた。
彼は位置的に障害となっていた上条を蹴り飛ばすと、追撃すべく美琴に向かって拳を振り下ろそうとする。

美琴はぐらぐらする視界の中でなんとかそれを受け止めようと両腕を顔の前で交錯させるが、垣根はすぐさま拳を引くと再び彼女の腹に蹴りを入れた。
吐瀉物を吐き出しそうになりながらも、美琴は既に自分たちが上条の右手に能力を阻害されない位置まで出ていることに気が付いた。
しかし、それは垣根も同じこと。しかも、垣根の方が早かった。

垣根は美琴よりも早く能力を展開させると、翼で彼女を薙ぎ払う。
亀裂が入るほど強くコンクリートの地面に叩き付けられた美琴は、そのまま動かなくなってしまった。
不幸中の幸いか、翼は刃物状にはなっておらず真っ二つは避けられたようだったが、強く打った頭から血が流れ出している。

上条は思わず美琴に駆け寄りその状態を確認したが、彼女はぐったりとしていてまったく目を覚ます気配がない。
しかし呼吸は正常なので、今のところ命に関わるようなことはないだろう。
それを確認すると、上条は美琴を背後に庇いながら垣根を鋭く睨みつけた。

「テメェ!!」

「おいおい、そんなに怒るなよ。テメェが余計なことしなけりゃ、こうはならなかったんだけどな」

美琴の覚悟と信念を、面白いくらい台無しにしてくれた愚か者が怒りに震えているのを見て、垣根は思わず噴き出した。
まったく、滑稽ったらない。

……実は、垣根は美琴を殺す気などさらさらなかった。
別に一般人だから容赦してやろう、なんて殊勝なことを考えているわけではない。
流石に第三位の超能力者を殺害してしまったら、後からいろいろと面倒くさいことになってしまう。
特に、彼にとっては。

しかし、幻想殺しは違う。
裏ではどう思われてるのかなんて知らないし興味もないが、少なくとも表ではただの無能力者として扱われている。
超能力者の広告塔として知られている美琴を殺害すればすぐに公になるだろうが、彼は違うのだ。
無能力者の一人や二人、死んだところで暗部組織のリーダーをも務めている彼ならば簡単に隠蔽することができる。
……それに。

「じゃ、そろそろお別れだ。さようなら、幻想殺し」

420 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/03(木) 00:38:08.36 ID:JQC41bBwo

空中に、無数の杭が浮かび上がる。
何十、何百、何千、何万。
大量に、広範囲に顕現したそれは、とてもではないが上条の幻想殺しだけで打ち消すことの出来る数ではない。

しかし、上条は拳を握る。
絶対に諦めないと、その瞳が言外に語っている。
垣根はそれが、途轍もなく気に食わなかった。

だから、垣根は容赦なく上条を殺しに掛かった。
もはや壁と言ってしまっても過言ではない量の氷柱が、一斉に上条に向かって飛んでいく。
それを迎え撃つべく、上条が右手を構える。


しかし、その瞬間。
上条の目の前に、一方通行が立ち塞がった。


その光景に上条は驚愕したが、それよりももっと驚いたのは垣根だった。
もう、氷柱を緊急停止させるだけの時間さえ残されていなかったのだ。

421 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/03(木) 00:40:28.53 ID:JQC41bBwo

「……は?」


そして。
垣根は自分の目を疑った。
あんなにも大量にあったはずの杭は、一方通行に傷ひとつ付けることはなかった。
無論、上条も。
……つまり、二人ともまったくの無傷。

杭は、何処に行った?
そう思った垣根は首を動かそうとしたが、動かない。
いや、身体全体が動かない。

そこで、垣根は漸く気付いた。
……ああ、そういうことか。
垣根は力無く笑みを浮かべると、そのままゆっくりと血の海の中に沈んでいった。



「……未知の物質(ダークマター)、解析完了」



一方通行はぽつりとそれだけ呟くと、自らもまた、意識を手放した。




422 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/03(木) 00:41:03.52 ID:JQC41bBwo
本日の投下は、これにて終了とします。
次回は一週間以内。

それでは、お付き合い下さってありがとうございました。
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 00:44:37.88 ID:Jg1zAVeBo
おおいいところで…乙
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 00:47:26.41 ID:ux64JH1Jo
うおおおおおおおおおお
熱い!!熱いよ!!!!!
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 00:49:59.77 ID:wlCJP1FBo
垣根つええ
が、ジャストのタイミングで現れる一方さんかっけぇ
つか上条さんいいとこ無しwwwwwwww
426 : ◆uQ8UYhhD6A [sage]:2011/02/03(木) 01:22:12.04 ID:JQC41bBwo
>>425
……あっ
ちょっと上条さんに土下座してきます
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 01:30:16.74 ID:JlTm5fnvo
原作の主人公属性がついてない上条はこのくらいの強さな気がする
簡単に負けるほど弱くはないけどボスには勝てないくらい
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 01:31:16.16 ID:Z3bzb2xqo
おつおつ
上条さんのかっこいいところは前回更新で出尽くしたようです
……相手を信頼しきれてないあたり上条さんと御坂が結ばれるのはまだまだ先だな
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 01:33:36.75 ID:inDeaTYi0
ここのスレは一方さんが主人公属性を持ってるから上条さんはそれで良いと思う
ぶっちゃけ攻めよりも守りの方が向いてる

右手だけが武器とか主人公属性ないと無理すぎる
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 01:40:34.46 ID:wlCJP1FBo
この展開なら上条さん足引っ張っても仕方ないっしょ
戦闘慣れしてる垣根のが何枚も上手だったってだけだろうし
一方さんの逆転の一手はギリギリまでタイミングを見て放ったバクチが成功したって事だろう多分
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 10:10:17.14 ID:Z8RjaKIw0
むしろ殴り飛ばした次の瞬間逆上したていとクンに
八つ裂きにされなかっただけましなレベル
乙乙
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 02:24:40.62 ID:ur/SYWWHo
まあ属性云々ていうか、経験値の差じゃないのか?
とりま乙です
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 12:14:58.59 ID:aj1YWMyD0
このssの美琴は好きだな
レールガンの美琴は頭悪いからな
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 12:46:44.62 ID:tDwOuBmb0
頭悪いって言うか平和ボケしてる感じ
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 14:11:40.93 ID:i8CzGXJYo
アニメの方はお話の起伏を付ける為にハイスペックだと都合が悪いから色々とスペック落としてるしな、仕方ないよ
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 22:36:02.62 ID:aj1YWMyD0
原作がドロドロしてる分ここの一方さんは泣けてくるな(始めのほのぼのしたとこ)
後半は素直に不憫で泣けてくる
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 11:53:00.57 ID:AoAKUx2AO
まぁ記憶失う前の上条さんだから強い相手との戦闘慣れしてないのもあるよね。
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 21:36:14.98 ID:7vs+g7sAO
面白いよ〜
439 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/07(月) 22:14:43.80 ID:K0zOCZ8xo
どうもこんばんは。
皆さん、フォローありがとうございます。少し気が楽になりました。
あと、沢山のレスも有り難いです。励みになります。

さて、少し遅くなってしまいましたが、これから投下させて頂きます。
お付き合いいただけると嬉しいです。
440 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/07(月) 22:15:20.64 ID:K0zOCZ8xo



優しい誰かが、いた気がした。
その時、自分は一人ではなかった。
たくさんの大好きな人たちに囲まれていて、とてもとても幸せだった。
いつまでも、こんな時間が続けば良いと思っていた。


441 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/07(月) 22:15:52.73 ID:K0zOCZ8xo

目を覚まして真っ先に目に飛び込んできたのは、見知らぬ薄汚れた天井だった。
いつもの、病院の天井ではない。
一方通行は驚いて飛び起き周囲を確認したが、そこはやはり見知らぬ部屋だった。

しかし、不思議と不安は感じない。
その部屋はあまりにも生活感に満ち溢れていたし、なんとなく見覚えのある雰囲気が漂っていたから、だろうか。
それでも一応警戒を怠らずに周囲を見回してみると、すぐ隣にあるベッドに美琴が寝かされていた。

「うお、もう起きたのかよ」

聞き慣れた声に振り返ってみれば、大きな鍋を持った上条が歩いて来ていた。
どうやら、ここは彼の家らしい。
一方通行は悟られぬようにほっと息をつくと、胡散臭そうに上条の持っている鍋を見つめた。

「何だ、ソレ?」

「何か食べさせないとと思ったから、お粥。怪我人に何食べさせたら良いのか分からなかったから定番メニューで」

「そンなモン、病院で食べ飽きたんだが」

「わがまま言うな。二人とも結構出血してたから本当なら肉が良いんだろうけど、残念ながら上条家にそんな余裕はありませんでした」

「そ、そォか……」

若干遠い目をしている上条を見て、一方通行が少したじろいだ。
触れてはいけないことだったようだ。
しかし上条はいつものことと言わんばかりに軽く流すと、机の上に置かれた鍋敷きの上に大きな鍋を載せる。

「本当なら病院に連れて行くべきなんだろうけど、事情が事情だったからな。
 ちょうど俺の家が近かったし、いつもの病院はちょっと距離があったからこっちにした。応急処置はしたけど、後でちゃんと病院行けよ」

「お、おォ……」

「いやあ、それにしても二人を同時に運ぶのは骨だったぞ。近いとはいえ、俺も無傷ではなかったし。まあでも二人とも無事で良かった」

見やれば、上条も体のあちらこちらに包帯を巻いていた。
あのときは垣根の能力の逆算に全神経を注いでいたから気付かなかったが、二人とも怪我をしているのだ。
それを思い出して、一方通行はふと表情を翳らせる。

「……ま、とりあえず食えよ。腹減ってるだろ?」

茶碗にお粥をよそっていた上条が、彼に向かって湯気の立つ茶碗を差し出してくる。
すると、不意に美琴が身じろぎした。
442 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/07(月) 22:16:26.67 ID:K0zOCZ8xo

「ん……」

「お、ちょうど良かった。ビリビリも起きたか」

「……ビリビリ言うな!」

「へ? ……ぎゃああああ!!」

もはや美琴のこれは条件反射らしい。まだろくに目も開けていないのに、これだ。
上条は手に持っていたお玉を床に落としながらも、何とか彼女の電撃を右手で受け止める。

「うーん……。あれ、ここ何処?」

「電撃はスルーですか? あと、ここは俺の家だけど」

「へ? アンタの?」

眠そうに目をこすりながらも、美琴はきょろきょろと辺りを見回した。
そんな彼女を見ながら、上条は少し恥ずかしそうに頬を掻く。

「そんなにまじまじと見られると恥ずかしいんだが……。散らかってて悪いな」

「なっ、べ、別にまじまじとなんて見てないわよ!」

「そ、そうか? まあ良いけど、とにかくお前もこれ食えよ。口に合わないかもしれないけど」

美琴は顔を赤らめながら上条が差し出してきたお粥をぶんどると、温度をよく確かめもせずにお粥を口に運ぼうとした。
それを見て、上条は慌てて彼女を止めようとする。

「待て! それ出来立てだからそんなに慌てて食べたら……」

「!? げほっごほっ! 〜〜〜〜〜〜!!」

「ああ、言わんこっちゃない……」

湯気が立っているのを見ればお粥が熱々なことなんて分かるだろうに、がっついた美琴は涙目になりながら悶えていた。
冷めた目でその様子を見ていた一方通行は、きちんとお粥を冷ましてから口に運ぶ。

「っ、そ、そういうことは早く言いなさいよね!」

「いや、言おうとしたんだがその前にお前がかっ込もうと……」

「口答えしない!」

「すみませんでした」

「理不尽」

「うっさい!」
443 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/07(月) 22:17:42.79 ID:K0zOCZ8xo

正直美琴の自業自得なのだが、こんなやりとりに慣れきっているらしい上条は素直に頭を下げていた。
しかし、とりあえずそれで怒りは収まってくれたらしい美琴は、今度はちゃんと息でお粥を冷ましてから口に運ぶ。
上条は口に合うかどうかわからないなんて言っていたが、お粥は存外に美味しかった。

「……さて、俺はもォ行くわ。ごちそーさン」

早くもお粥を食べきった一方通行が、床に敷かれた布団から立ち上がろうとする。
しかしそんな彼の両手を、上条と美琴ががっしりと拘束した。

「おいコラ待て。何処へ行く」

「……びょ、病院」

「嘘つけ! お前意外と嘘下手だな!」

「目が泳いでるわ。さあ座りなさい」

素直に怒りを顔に出してくれている上条よりも、にこにことらしくない笑みを浮かべている美琴の方が怖かった。
上条に掴まれている所為で能力は使えないし、もとより非力な彼が二人の手を振り払える筈もない。
そして何より後が怖い。
と言うわけで一方通行はあえなく降参し、素直に座ることを余儀なくされた。

「さて、どういうことなのかちゃんと説明してもらうわよ」

「ここまで来たんだから、流石にもう無関係とは言わせないぞ」

「…………」

一方通行は迫る二人に無言の抵抗を試みようとするが、頑固な二人が見逃してくれる筈もない。
それでも彼はしばらく躊躇っていたが、遂に観念したのか、やっと口を開いてくれた。

「……言っておくが、俺も一部しか知らねェし、殆どが推測だ。あンまり期待すンじゃねェぞ」

「お前だって記憶喪失だからな、そこは分かってる。知ってる範囲で良いよ」

すると、一方通行は小さくため息をついて目を閉じた。
頭の中で、情報を整理しているのだろうか。
そしてやがて彼は目を開くと、ぽつりぽつりと語り始めた。

「まず、俺を追ってる奴らのこと。
 俺も奴らがどォして俺を追い回してるのか、奴らが誰なのか、はっきりしたことは何も分からねェ。……ただ、今回でひとつ分かった。
 俺を追ってる奴らの一人は、超能力者(レベル5)の第二位。名前は……、垣根帝督、だったか」

「私も、第二位については少し聞いたことがあるわ。……あんまり良い噂は聞かないわね。
 だけど一つだけ確かなのは、もしアイツが万全の状態だったら私なんか為す術もなく瞬殺されてたってこと。
 第二位以上と第三位以下には、圧倒的な力の差があるの」

「……御坂には悪ィが、俺もそォ思う。今回何とか倒せたのも、運によるところが大きい。
 それと奴らの目的について。これは完全に推測だが、俺の能力が欲しいらしい。俺を殺さないよォに細心の注意を払ってたからな」
444 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/07(月) 22:18:22.09 ID:K0zOCZ8xo

「それは何となく分かる。それにしては容赦が無かった気がするが」

「まァ、学園都市の医療技術を駆使すればちょっとやそっとの損傷は何の問題にもならねェからな。
 ただ『死なれると困る』よォなことは何度も言ってたから、そこは間違いねェと思う。
 ……それから、俺の記憶について」

遂に提示された本題に、上条と美琴は思わず緊張してしまう。
そもそもこんなややこしいことになっているのは、彼の記憶喪失の所為だからだ。記憶さえ取り戻せれば、多くのことが分かる筈なのだ。
……しかし。

「俺の記憶……、エピソード記憶の方だな。戻る見込みがまったく無いらしい」

「え!?」

突然の告白に、上条と美琴は声を揃えて驚いた。
今までそんなこと一言も言っていなかったし、そんな素振りも見せていなかったのに。
それ以前に、この科学の発展した学園都市で『絶対に記憶が戻らない』なんていうこと自体が驚くべきことだった。

「記憶が戻らないって、どういうことだ?」

「その前に。……オマエら、洗脳装置(テスタメント)って知ってるか?」

「……知ってるわ。五感に電気的な信号を入力することによって、脳内に情報や技術を強制入力(インストール)する装置のことでしょ。
 でも、それがそうかしたの?」

「どォも俺はそれを応用した装置にかけられて、エピソード記憶を全部削除されたらしい。空白で上書きした、って言った方が正しいか?
 パソコンで言えば、リカバリした状態に近い。
 だが当然そンなンは普通の使い方じゃねェから、洗脳装置が事故って一部の意味記憶と手続記憶まで飛ンじまったってことだそォだ。

 ただ、事故っただけだから意味記憶と手続記憶はまだ思い出せる見込みはある……、つゥか、今でも少しずつ思い出せてるから問題ねェ。
 ただしエピソード記憶だけは、電気的に完全に消去されちまってるから思い出しよォがねェンだと」

「……なんで、そんな」

「そンなン俺が知りてェよ。冥土帰しが言うには、そこまでされてるからには何かとンでもねェ実験の被験体にされてたンじゃねェかとさ」

「それって……、やっぱり、アイツらがやったのかしら」

「……順当に考えるなら、そォだろォな。あくまで推測だが」

一方通行の口調は、どこまでも淡々としていた。
そして、だからこそ上条と美琴は絶句してしまう。どうして彼はこんなことを、まるで何でもないように語れるのだろうか。

「で、その大事な被験体が逃げ出したモンだから、連中も血眼になって俺を探してるンだろォよ。
 だから、俺は何とかして奴らの手の届かねェ場所に行かねェといけねェンだ。
 ……つゥか、そォでもしねェと次は一体何されるのか分かったモンじゃねェからな」

「…………」
445 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/07(月) 22:18:55.27 ID:K0zOCZ8xo

相変わらず他人事のように喋る一方通行を、二人は黙って見ていることしかできなかった。
そして、束の間の沈黙が降りる。
しかし暫くの間を置いてから、上条が慎重に口を開いた。

「……それで、お前は何処へ行こうとしてたんだ?」

「外」

今更隠すまでも無いことなのだろう、即答だった。
そして実際、それは上条たちも予想していた答えだった。いや、彼は以前に一度だけそう言っていた。
ただ、それが本気だったというだけのことなのだ。

「あては、あるのか」

「冥土帰しが手配してくれた。信頼できる知り合いの病院らしい。
 外の機関なら学園都市の連中でもおいそれと手出しはできねェし、そもそも範囲が広すぎて捜索だけで尋常じゃねェ手間が掛かる。
 だから、俺にとってはそれが最善の策だった」

「学園都市じゃ、駄目だったの?」

「俺は、学園都市にいる限り永遠に狙われ続ける。俺一人が困る分には構わねェが、他の連中まで巻き込めねェだろ」

結局のところ、それが彼の答えだった。
自分の勝手な都合で、周りの人間まで危険に晒すわけにはいかない。ただ、それだけなのだ。
そこに、彼の意志は介在しない。

「……お前は、それで良いのか?」

「俺がどォ思うとか思わないとか、そォいう次元の問題じゃねェンだ。俺はただそこに存在するだけで……」

「そういうことを訊いてるんじゃねえ。お前がどうしたいのかって訊いてんだ」

珍しく怒気を孕んだ上条の口調に、一方通行はたじろいだ。
そして、少し驚いた。
自分が本当はどうしたいのかなんて、考えもしなかった。

「……俺、は」

だから、彼は言葉に詰まる。
どうしたいのか。
本心では、どう思っているのか。
……そんなの、答えは最初から決まっている。

「…………、……。俺は、ここにいたい」

その一言を搾り出すのには、途轍もない勇気を必要とした。
こんなにも正直に自分の本心を吐露するのは、記憶喪失になってから初めてだからかもしれない。
446 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/07(月) 22:19:34.62 ID:K0zOCZ8xo

けれど、一方通行はそれを言ってしまってから少し後悔した。
今更そんなことを言ったからといって、一体何になるというのか。
こんなの、余計に惨めになるだけだ。

……けれど上条は、その言葉を聞いて嬉しそうに笑った。
彼がどうしてそんな顔をしたのか、一方通行にはまったく分からなかった。

「だったら、そうすれば良い」

「……はァ?」

今度こそ、一方通行は上条の正気を疑った。
……コイツは、何を馬鹿なことを言っているんだ。

「オマエ、ちゃンと俺の話聞いてたか? それは無理だって言ってンだろォが」

「そんなことないだろ。お前はあっち側の最高戦力であるはずの第二位を、自分の力で倒せたじゃないか。
 だったら、アイツらだってもうそんな簡単に手出しはしてこなくなるはずだ」

「アレは不意打ちのまぐれ当たりだ。そもそもアイツは、あの時点で既にかなり弱ってたンだぞ?」

「でも、ちゃんと対策は立てられたんだろ。それに、アイツはかなりの重傷を負ってた。
 あれなら当分動けないだろうから、暫らくは俺たちに手出しはしてこれないと思う。その間に、根本的な問題を解決しちまえばいいじゃねえか」

「………………」

実は、それだけではない。
彼はその他にも、様々なヒントを得ていた。
垣根にも驕りがあったのだろう、致命傷とも言うべきとても大きなヒントを。

けれど、それだけでは足りない。
自分の力で守れるのが自分だけでは駄目なのだ。
彼がここにいる為には、もっとたくさんのものを守り切らなければならない。

「それに、こんなの納得できるかよ。お前は何にも悪いことなんかしてねえのに、何で逃げなきゃなんないんだ。悪いのはアイツらじゃねえか。
 ああくそ、思い出したら腹立ってきた。もう一発くらい殴ってやればよかった」

「そうよ、こんなの理不尽じゃない! どうしてアンタばっかりこんな目に遭わなきゃいけないのよ!」

「い、いや、……、俺は」

「私たちのことを気にしてるんだったら大丈夫。自分の身くらい自分で守るし、その他大勢だって守って見せるわ。ね!」

「おう。次こそは返り討ちにしてやるさ」

「……オマエらのその自信は何処から来るンだよ」
447 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/07(月) 22:20:03.08 ID:K0zOCZ8xo

一方通行は、もはや驚きを通り越して呆れることしかできなかった。
コイツらは絶対に事の重大さを分かっていない。そして、自分がどれだけの疫病神であるのかも。
……それに、自分は。

それでも。
この二人が言うと、本当にそうすることができるような気がするのはどうしてだろう。
本当に、ここにいても良いのではないかという気さえしてくる。

「……気持ちだけ受け取っとく。でも、やっぱり俺は」

「ええい、わがまま言うな! お前はここに残る! ハイ決定!」

「そうよ、アンタにここを去るなんて選択肢は残されてないわ。何が何でも留まってもらうから」

「あのなァ、俺の話を聞け! 相手がどンな規模だか分かってンのか!?」

「知らねえし、興味もねえ。ただ、俺たちに手を出してきたらぶっ飛ばす。それで良いだろ」

「そうそう、それから私たちから逃げようなんて気は起こさないことね。地の果てまで追いかけて連れ戻すから。
 逃走防止に首輪とリードで繋いでも良いのよ?」

「いや、流石にそこまではしないけれども」

「冗談よ」

美琴はしれっとそう答えたが、目が割とマジだったのは気の所為だったのだろうか。気の所為だったのだろう。
ともあれ、そういうことにしておいた方が心の平穏が保てるのは確かだ。

「とにかく、絶対に残ってもらうわよ。万が一にも逃がしたりなんかしないから、覚悟しなさい」

「話の趣旨が変わってねェか?」

「つーか、どっちにしろタイムオーバーだと思うぞ。『外』に行くつもりだったんだろ?」

軽い調子で言いながら、上条が時計を指差す。
見やれば、時刻は既に三時過ぎだった。なんだかんだ言って、結構な時間が経過してしまっている。
……そして、一方通行は上条の言葉の通りであることを知った。

「なになに、どういうこと?」

「こんな真夜中に『外』に出るってんだから、当然脱走するつもりだったんだろ?
 あれからもうだいぶ時間が経ってるし、どういう風に手を回したのかは知らないけど手遅れになってると思うぞ」

「……ああ、そっか。学園都市の警備システムを掻い潜るには、私みたいな能力でも無い限り事前の根回しが必要だもんね。
 で、もうその根回しが効果を為す時間も終了してしまったと」

「大体そういうことだな」

「………………」
448 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/07(月) 22:20:31.09 ID:K0zOCZ8xo

幸か不幸かと言うべきか、残念ながらと言うべきか、上条の言う通りだった。
いや、正直に白状すれば根回しなんかしていなかったのだが、一方通行が狙っていたのは真夜中に警備員の交代が行われる時刻だったのだ。
交代の為に一時的に警備が疎かになるタイミングを見計らい、多少の強行突破は覚悟した上で脱走するつもりだった。

しかも一方通行はこうした騒ぎが起こされるのを見越していたので、少なくない人数の警備員がそちらに回されることも計算に入れていた。
つまり、彼に脱出が許されていた時間は、もうとっくに終了してしまっていたのだ。
このようなチャンスが次に回ってくるのは、一体いつになってしまうのだろうか。皆目見当もつかない。
……漸くそんな絶望的な状況に気が付いた一方通行は、ただでさえ白い顔を更に白くさせた。

「そんなに残念がるなよ。残りたかったんだろ?」

「……だから、何でオマエらはそンなに楽観的なンだよ。信じらンねェ」

「大丈夫だろ。さっきも言ったけど、あの垣根って奴はどう考えても重傷だったし、暫らくはアイツが直接手を出してくるってことは無いだろ」

「それで、ソイツが回復する前に首謀者を突き止めてボッコボコにすれば良いだけの話なのよね? あら、思ったより簡単じゃない」

「……マジで信じらンねェ……」

がっくりと肩を落として項垂れている一方通行とは対照的に、上条と美琴は満足そうににこにこしている。
そんな二人を見た一方通行はまた、信じらンねェ、と零した。



―――――
449 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/07(月) 22:21:02.05 ID:K0zOCZ8xo



「こういう場合って、賭けはどうなんの?」

不意に背後から声が聞こえてきたので、御坂妹ははっとして声のした方を振り返る。
そこには、建物の上に足を組んで座っている垣根の姿があった。
一方通行によって血みどろにされたはずなのに、と思ったのも束の間、よくよく見れば垣根はきちんと血みどろになっていた。
だが、垣根はそんな怪我などまるで何でもないかのように淡々と言葉を続ける。

「お前の企みは失敗したが、その本質は達成された。これってお前の勝ち? それとも負け?」

「……そうですね。賭けは立ち消えということでどうでしょうか、とミサカは卑怯な提案をしてみます。
 流石にここで降参して、上位個体の居場所を教えるわけにはいきません。
 ですが彼が学園都市に残ることになった以上、あなたにもうこれ以上彼を狙うなと言うこともできません、とミサカは曖昧に言葉を濁します」

「そうだよなあ。まあ木原のおっさんは賭けに参加するつもりはなかったみてえだし、そうするとつまり賭けの参加者は俺とお前たちだけ。
 だから賭けの行方については、俺たちの合意で決めちまって良いよな?」

「どういう意味ですか? とミサカは訝しげな顔をします」

「お前の意見に賛成ってこと。賭けは立ち消え、よって現状維持。それでオッケー?」

血塗れの顔でにこりと笑った垣根を見て、御坂妹はきょとんとした顔をした。
まさか、ここまであっさりと交渉が成立してしまうとは思わなかったのだ。特に、彼はこのことに関しては非常に強く執着していたから。

「正直、意外です。もっとごねるかと思っていたのですが、とミサカはあなたに対する認識を改めます」

「だからお前は俺のことを何だと思ってるんだっつーの。仕方ねえだろ。俺もお前も、誰もこんなことになるなんて思いもしなかったんだ。
 だが、結局はそうなっちまった。だったら、もう互いに妥協するしかないだろうが」

「確かにそれはそうなのですが。……あなたは、これからどうするのですか、とミサカは尋ねます」

答えなんて、最初から分かり切っている癖に。
そう自問した御坂妹の心中を知ってか知らずか、垣根は一瞬の躊躇いもなくこう答えた。

「お前と同じさ、諦めねえよ。俺はアイツを取り戻す為なら、どんなことだってやってやる」

「……そうですか。では何も変わりませんね、とミサカは諦めの悪いあなたに辟易します」

「それはお互い様だろうが。ったく、自分のことを棚に上げやがって」

言いながら、垣根が立ち上がる。
その拍子にぼたぼたと何滴かの血雫が落ちたが、誰も気に留めなかった。

「ですが、これまでと同じ方法では何も取り戻せないと思いますよ。他の方法を考えなければ、とミサカは敵に塩を送ってみます」

「分かってるさ。だから帰って作戦会議かねえ、面倒くせえ。
 ま、お前らはせいぜいそれまでの間、ほんの少しだけ延長された余生を楽しめば良いさ。じゃな」

「ええ、作戦会議ができる限り長引くことを祈っていますよ。いっそのこと永遠に終わらなければいいのですが、とミサカはぼそりと呟きます」

御坂妹がそう言い切る前に、垣根は姿を消していた。
何処に行ってしまったのかは、分からない。
これからどうなってしまうのかも、さっぱり分からない。

ただ一つ確かなのは、彼らの戦いはまだ終わらないということだけだった。


450 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/07(月) 22:22:21.72 ID:K0zOCZ8xo
これで、本日の投下は終了です。
お疲れ様でした。
次回は、また一週間以内には。次はもう少し早く投下したいと思います。

……記憶喪失にする方法、総合スレに投下されたとある話と被ってしまって焦ったのは秘密です。
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 22:53:15.81 ID:h1llIaKO0
乙ー
上条さんも美琴も暗部の怖さ知らなさ過ぎる・・・・・・
彼らの明るさが吉と出るか凶と出るか
木原クンが出てきたらもう終わりにしか見えない
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 00:40:27.03 ID:zY7MlScLo
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 12:20:57.62 ID:ofa5QVfQo
三人とも結構大怪我してた筈なのにピンピンしてるなww
ある意味原作通りと言えなくも無いwwww
つか、一方上条美琴ってSSへの登場率の高さの割りにこの三人だけって組み合わせは実際かなりレアな気がする
展開も三人の距離感も物凄くツボでたまらんわぁ
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 12:59:21.18 ID:1UCH4of/o
>>453
確かに
ギャグでも何でも絡むときは大体打ち止めも一緒だったりするもんなあ
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/08(火) 22:20:36.26 ID:+TtD+LJp0
このssは一方さんが御坂妹達編で上条さんにそげぶされたり美琴と対峙したりしてないせいじゃないか。
やっぱあの事件があると…ね。

何はともあれ乙!続き楽しみに待ってる!
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/09(水) 17:43:49.66 ID:S4u6Dz+K0
つっちーは本格的に絡んでくるかな?
457 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/10(木) 21:08:30.43 ID:DJLHstIAo
投下します。
458 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/10(木) 21:11:40.14 ID:DJLHstIAo
「………………?」

閑散とした部屋の中、上条は一人静かに目を覚ました。
身体の節々が痛い。
昨晩の戦いでそこそこ深い傷をいくつか負ってしまったからかと思ったが、どうやらそれだけではないようだ。
固い床に直接眠っていた所為で身体が痛いらしい。自業自得だ。

そう、昨晩は怪我をした美琴と一方通行にそれぞれベッドと布団を譲って、上条は床で寝たのだ。
本当は来客用の布団がもう一式あったのだが、
あまりにも疲れていた所為でそれを引っ張り出すことさえ面倒くさくなってしまった結果、そのまま床に眠ってしまったのだ。

……ちなみに、一応美琴と同じ部屋に寝るのは流石にどうかとは思った。
思ったのだが、自分だけが風呂場に行くならまだしも怪我人である一方通行まで付き合わせるのは悪かったので、結局妥協してしまったのだ。

上条は痛む身体を宥めながら、のろのろと体を起こす。
時計を見ると、まだ七時前。目覚まし時計が鳴る前に目が覚めてしまったようだった。
眠りについたのが確か四時頃だったので、あれから三時間も寝ていない。にも関わらず、目だけはやたらとすっきりしていた。
頭はまだぼうっとするが、もう暫らくすればすぐに覚醒するだろう。

……しかし、上条は何か妙な違和感を感じた。
何か、ぽっかりと胸に穴が開いてしまったような。当たり前にあったはずのものが無くなってしまったような。
そんな、虚無感。

上条ははっとして布団の方を振り返る。
しかし、そこに居るはずの一方通行の姿は無かった。
慌てて室内を見回してみても、何の意味もない。
一方通行は何処にも居なかった。

「あの野郎……」

上条は歯軋りをして苛立ちを露わにしたが、すぐに諦めたようにはあっと大きな溜め息をついた。
……アイツらしいと言えば、アイツらしい。

それに先刻説明した通りの事情によって、一方通行は学園都市の外に出ることはできない。
その上足を怪我していたから、あの状態のまま遠くに行くことはできない筈だ。

ならば、彼はきっとまだこの第七学区の何処かにいる。
だったら、探して見つけてやれば良い。
同じ学区の中にいるのだから、見つけ出すのはそう難しくはないだろう。

(……まったく。馬鹿な奴)

本人が聞けば間違いなく憤慨するであろう台詞を呟きながら、上条はついでとばかりにもう一つ溜め息をつく。
真っ白な朝日が、燦々と輝いていた。



―――――
459 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/10(木) 21:15:05.67 ID:DJLHstIAo



風通しが良いからか、廃ビルの中は意外と涼しかった。
硝子(ガラス)も扉も何も填められていない荒涼とした廃ビルの中を歩き回りながら、一方通行はそんな感想を抱いた。

(……、この辺り、か?)

一方通行は適当な部屋を見つけ出すと、その中に入って様子を確認する。
その部屋にもやはり窓には硝子が填められておらず、扉も付いていなかった。文字通り、吹きっ晒しの部屋だ。
しかし、すぐ目の前に別の建物が立っているので、そこまで雨風に荒らされてはいない。
それでも他の部屋よりかは幾分かマシ、というレベルだったが。

一方通行は持っていた小さな鞄を部屋の壁際に置くと、窓の方へと歩いて行った。
……とは言え目の前に建物の壁があるので、何も見えはしないが。
故に、日当たりは最悪で部屋の中は薄暗く、じめじめしている。暑い季節なので、肌寒いことが苦にならないのは不幸中の幸いか。

(ま、こンなモンか)

流石に寒い季節になって来たらこんな場所にはいられないだろうが、ここはあくまで仮の宿だ。
夏が始まる頃には、もっとちゃんとした家に住めるようになっているだろう。
とにかく彼の当面の目的は、その為のアパートを探すことだった。

(金、は……。まァ、贅沢さえしなけりゃそれなりに持つな。ただ、アパートを借りるには心許無い……)

何はともあれ、金だ。
なんとも世知辛い話だが、やはり先立つものが無ければ何もできない。
綺麗事だけで渡って行けるほど、世の中は甘くないのだ。

(取りあえず、仕事だな。何とかしねェと……。しっかし、無所属の子供にまともな仕事なンかあるのかね……)

本当なら、上条の言っていたように学校に行って奨学金を貰うのが最善なのだろう。
しかし一方通行は、その気は更々なかった。
学校なんかに行ってしまえば、きっと今よりもたくさんの人たちを自分の事情に巻き込むことになってしまう。
それだけは、絶対に避けたかったのだ。

しかし、仕事をするにしても多少の人間に知り合うことになってしまうだろう。
よってこれ以上誰も巻き込まないというのは難しいだろうが、せめて人数だけは最小限に留めたかった。
その点、学校という場所にはあまりにも多くの人間が居過ぎる。
かつ、かなりの数の人間とも関わり合わなければならなくなってしまう。それは、彼にとって最悪の状況だった。

(さて、どォすっかね……)

一番確実な方法は、冥土帰しを頼ることだ。
出ていく彼に対してここで働いてくれても良いと言ってくれていた程だし、信用もできる。
しかし、彼はこれ以上冥土帰しを頼りたくなかった。

あそこが病院だから、と言う理由もある。
けれどそれ以上に、もうこれ以上あの医者に借りを作りたくはない、と言う自己のプライド保持が大きな理由だった。
460 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/10(木) 21:18:05.33 ID:DJLHstIAo

下らないことに執着する自分の性格に辟易してしまうが、それでも一方通行はどうしても冥土帰しを頼ろうという気にはなれなかった。
……よって、自分のことはすべて自分でやらなければならない。
上条と美琴からも逃げ出して来てしまった以上、これからは誰も頼ることができないのだから。

(仕事を探さねェと、だが……。今日一日は休養に充てた方が良いだろォな)

昨晩上条にお粥を食べさせてもらったし、もともと食が細い方なので今のところ空腹の心配はなさそうだ。
今日一日は、何も食べなくても我慢できるだろう。

それに、無闇に外をうろうろしたくなかった。
追手が自分を探しているかもしれないという懸念もあるが、それ以上に怖いのは上条と美琴だ。
黙って出て行ってしまったので、きっと今頃怒っているだろう。
しかし、やはり、あの二人だけは巻き込めない。巻き込みたくない。昨晩のようなことを、もう二度と起こしてしまってはならないのだ。

……それに、昨晩はああいう風に言ってくれたものの、あの二人では垣根帝督に敵わない、と言うのが一方通行の見解だった。
あれに対処できるのは、一方通行だけだ。
しかし、それでもあの二人を守りながらでも勝利できる自信はない。
だからこそ、彼が下した決断がこれだった。

(……、……。寝るか)

ともあれ、今は眠って少しでも体力を回復しなければ。
上条と美琴が完全に寝付いたのを確認してからすぐに出てきてしまったので、彼はろくに眠っていないのだ。

それに、眠りつつ能力で怪我の回復を促さなければならない。
こうすれば、明日には怪我は殆ど治ってくれているはずだ。

……彼は病院暮らしが長い所為か、戦闘に使うような大きなベクトルを操るよりも、
生体電気を操って回復を促したり運動神経を向上させたり、といった微細なベクトル操作の方が得意になっていた。
よって、この程度なら簡単に治すことができるだろう。


一方通行は部屋の隅までやって来ると、壁に背を預けて蹲る。
そして鞄の中から長袖の上着を取り出すと、それを布団代わりに身体に掛けてゆっくりと目を閉じた。



―――――



上条宅からほど近い公園。
壊れた自販機の隣にあるベンチに座っていた彼女は、膝の上に置いたPDAを凝視しながらもの凄い勢いで何事かをタイピングしていた。

……言ってしまえば、彼女のやっていることはハッキングだ。
いわば犯罪行為。
風紀委員に見つかってしまえば、間違いなくしょっ引かれてしまう行為だ。
けれど、今の彼女はそんなことなど気にしていなかった。

別に、ハッキングすることに抵抗が無いわけではない。彼女はきちんとそれが犯罪行為であることを理解している。
しかしそれを理解した上で、それでも彼女はハッキングをやめなかった。
そうするだけの理由があったのだ。
461 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/10(木) 21:20:33.92 ID:DJLHstIAo

(……アイツが唯一覚えていた言葉、『一方通行』。手掛かりには違いない筈なのに、まったく引っ掛かってくれない。どうして?)

本当ならば風紀委員の権限を使ってある程度合法的にハッキングが行え、
しかも美琴よりも遥かに情報処理能力に長けた知り合いがいるにはいるのだが、美琴は今回ばかりは彼女を巻き込んではいけないと思っていた。
何しろ、相手はあの第二位を含む謎の組織である。万が一にも巻き込んで、危険な目に遭わせるわけにはいかない。

(こればっかりは、一方通行と関わったからどうこうってレベルじゃないからね。情報ってのは、知られたってだけで脅威になる。
 うっかり知ってしまったってだけで、アイツらは本気で命を狙ってくるわ。流石にそこまでは巻き込めない)

けれど、彼女の能力ではここらが限界だった。
どうしても手掛かりを見つけられない。

危険を冒すくらいならいくらでもできる。けれど、危険を冒してもどうしても開けられないセキュリティがいくつもあったのだ。
さしもの超電磁砲(レールガン)でも、こればっかりはどうしようもない。
最悪、研究所に殴り込んで直接それっぽいパソコンから情報を抜き出せれば良いのだが、その研究所の所在地さえ分からない。
正に八方塞だった。

(けど、そのお陰で逆に分かったことがあるわ)

……それは、『一方通行』が書庫(バンク)なんか目じゃないくらいの最重要機密であるということ。
これだけやって見つからないのだから、それだけは間違いない。

(まったく、まさかここまで厄介だなんて思わなかったわ。アイツ、一体どんな境遇だったのよ)

人為的に記憶喪失にされて。
第二位に追い回されて。
何度も何度も、幾度となく狙われて。

そこまで考えて、美琴は思考を中断させた。
考えただけで腹が立ってくるからだ。
一体どんな大義名分があるか知らないが、こんなのは絶対に許さない。
そう、どんな手を使ったって守り切ってやる。

(それっぽい研究所に片っ端から殴り込んでやろうかしら。……流石に無謀か)

不穏なことを考えながら、美琴はPDAに映し出されていたウィンドウを次々と消していく。
これ以上は時間の無駄と見て、ハッキングを諦めたのだ。
しかし、諸悪の根源を見つけ出すことを諦めるつもりはさらさら無い。
さてこれからどうしようかと考えながら唸っていると、不意に背後から声が聞こえてきた。

「お姉様? こんなところで何を?」

「っひゃあ!?」

聞き慣れた声に振り返ってみれば、そこには茶色い髪をツインテールにした少女が立っていた。
身に纏うのは、美琴と同じ常盤台の制服。
美琴のルームメイト、白井黒子だ。風紀委員の仕事中なのか、肩には腕章が装着されている。
462 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/10(木) 21:22:49.15 ID:DJLHstIAo

「く、くくくくくく黒子!? どうしてこんなところに!?」

「どうしてって、風紀委員のパトロール中ですの。お姉様こそ何をしていらっしゃいますの?」

「べ、別になにもしてないわよ? ぼーっとしてただけ」

「折角PDAを立ち上げたのに、ぼーっとしていただけですの? お姉様のことですから、ゲームでもしていたのかと思いましたわ」

「ああ、うん。ゲームはこれからやろうと思ってて……。ほら、何のゲームをしようか悩んでたのよ!」

「……お姉様」

露骨に怪しい態度を取る美琴を、白井がじとっとした目で睨んでいる。
……これは、まずい。
白井は誇り高い風紀委員だ。美琴のしていたことがばれようものなら、きっと事務所に連行されてしまうだろう。

何とかして誤魔化さなければ。
そして必死に言い訳を考えている美琴の予想に反して、白井はこんなことを言った。

「まーた例の殿方との『勝負』ですの!?」

「だ、だからそんなことしてないってば……、あれ?」

「黒子には何でもお見通しですのよ! 早めに学校を出たかと思ったらふらふらと街に繰り出して殿方を追い掛け回して!
 門限を無視し、今日だって朝にお帰りになられたかと思えば急に学校を休むと仰られて! 一体どういうつもりなんですの!?
 はっ、まさかその殿方に気があるのでは……!?」

「ぶっ、そ、そんなわけないでしょ!? 誰があんな奴なんか……」

しかし、本当のことを言うわけにはいかない。白井を巻き込みたくなかった。
と言うか、「男(上条)の家に一晩泊まりました」なんて正直に白状しようものなら、白井が発狂するのは目に見えている。
別に何もまったくやましいことなど無いのだが、きっと白井はその事実だけで大騒ぎするだろう。

尚、彼女が学校を休んだのは病院に行く為だ。
白井に心配を掛けない為に怪我したことも隠してこっそり病院に行ったのだが、どうやら逆に邪推する隙を与えてしまったらしい。
ちなみに冥土帰しに診てもらったお陰で、見た目には何でもないように見えている。

「ですがお姉様、でしたら何故こんなところにいらっしゃいますの? よもやあの殿方を待ち伏せしているのでは!?」

「だ・か・ら、違うって言ってんでしょうが!! まったくもう、何処をどうすればそんな結論に辿り着くのよ……」

「……本当に、本当ですの? 信じても良いんですの?」

「ええ、一片の疑いも持たずに全幅の信頼を置いてもらって一向に構わないわ。誓って私とアイツはそんなのじゃないんだから!
 大体アイツは鈍くて気が利かなくて向こう見ずで考えなしですぐ逃げるしお人好し過ぎて死にかけるし覇気が無いし「不幸だー」が口癖だし!
 あんなのを好きになるわけないじゃない!」
463 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/10(木) 21:25:06.60 ID:DJLHstIAo

「そ、そうですか……」

そこで、ふと美琴でも白井でもない人間の声が何処かから聞こえてきた。
異常に聞き覚えがある声だ。
……と言うか、つい数時間前に聞いたばかりの声だった。

何だか途轍もなく嫌な予感がする。
だから美琴は、錆びついたからくり人形のようにぎこちない動きで背後を振り返った。
そこには、一人の少年。
しかも、両手を地面についてうちひしがれていた。

「そこまで……、そこまで言わなくったって良いじゃないか……。俺だって傷付くんだぞ……」

「まあ、この殿方が例の? 本当に冴えない方ですのね」

「ちょ、ちょっと! この状況で追い打ち掛けなくったって良いじゃない!」

「追い打ちも何も、最初に悪口を言い出したのはお姉様ではありませんか」

「うぐっ……」

白井の指摘に、美琴は言葉を詰まらせてしまう。事実なので、言い返せないのだ。
よって、彼女は無理矢理話題を方向転換させることにした。

「そ、そんなことよりどうしてアンタはこんなところをうろうろしてるのよ! アンタは学校行ったんでしょ、いつもの補習は!?」

「……今日は珍しく記憶術(かいはつ)の補習が無かったんだ。
 ほら、最近はいつもお前らに勉強見て貰ってたから、それ以外の教科は結構マシになってきてさ、補習も無くなってきたんだよ。
 今日の補習は、確か現国と数学だったっけ」

「ふうん……、良かったじゃない。まあ、この私が見てあげてるんだからそれくらいは当然だけどね」

「……な、な……」

上条と美琴は至極普通の会話をしていたつもりだったのだが、何故かそれを聞いていた白井は真っ白な劇画調になっていた。
何だかあそこだけ違う話みたいだ。
そんな彼女を見た上条と美琴は互いに首を傾げるが、その瞬間に白井が弾けるようにして目を覚ます。

「お、お姉様ああああああああ!! 黒子は、黒子は悲しゅうございます! よもや、よもや、こんな類人猿とそこまで進展していたなどとは!」

「かっ、勘違いしないでよ! 私とコイツはそんなんじゃ……」

(何か凄い子だな……)

大暴れする白井とそれを抑えつけようとする美琴を他人事のように眺めながら、上条は失礼な感想を抱いていた。
女子校ってみんなこんな感じなのだろうか。怖いな。
464 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/10(木) 21:27:16.66 ID:DJLHstIAo

やがて美琴はやっとの思いで白井を大人しくさせることに成功させるが、未だに白井の興奮は収まらない。
それどころか、上条をぎろりと睨みつけてびしいっと指まで差してきた。

「こんな、こんな類人猿なんかにわたくしのお姉様を渡してたまるものですか! 宣戦布告ですわ!」

「いや、だから俺とビリビリは本当にそんなんじゃないって」

「ここまで見せつけておいてまだ誤魔化そうとするとは、まこと許し難いですわ!
 良いですの? わたくしの名前は白井黒子! お姉様の露払いを務めさせて頂いていますわ。よく覚えておきなさい!」

まるで捨て台詞のようにそれだけ言うと、白井は一瞬にしてその場から姿を消してしまった。
そういう光景を初めて見たわけではなかったが、上条は少し驚いた。それは、とても珍しい能力だったからだ。

「……何だったんだ、アイツ?」

「ああいう子なのよ、あんまり深く考えないで。悪い子じゃないんだけどね……」

「まあ、それは何となく分かるから良いんだが。お嬢様ってのは、みんなあんな感じなのか?」

「まさか。あの子が特別なだけよ。それに、あの子の本性はこんなもんじゃないんだから」

「へえ……。お前も苦労してるんだな」

「でもいざって時には頼りになるのよ? いや本当に。風紀委員だし」

「ああ、そう言えば腕章してたな。それにしても、空間移動能力者(テレポーター)か。珍しいよな。あんまり居ないんだろ?」

「そうよ。だからあの子は風紀委員でも重宝されてる。大能力者(レベル4)だし、訓練で鍛えてるから体術もそこそこいけるのよ」

「じゃあ、強いのか」

「もちろん。ま、流石に私には及ばないけどね」

言いながら、美琴は得意げに胸を張った。
なんだかんだ言って、美琴は自分が超能力者であることに誇りを持っているのだ。その強さに対するプライドも、人一倍高い。

「それよりビリビリはここで何してたんだ? ここ、常盤台から結構離れてるだろ」

「単にここが私のお気に入りってだけよ。そう言うアンタはどうしてこんな公園に来たの?」

「たまたまここを通りかかっただけ。ほら、ここって俺の寮に近いだろ?」

まったく意識していなかったが、そう言えばそうだった。
つい数時間前まで上条の寮に居たというのに、すっかり忘れてしまっていた。ここは間違いなく上条宅の近辺だ。
見回してみれば、確かにここからも上条の寮が見える。

「……ん? でもアンタ、鞄持ってないじゃない。これから何処か行くつもり?」

「いやー、あはは……」
465 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/10(木) 21:29:01.42 ID:DJLHstIAo

曖昧に笑う上条を見て、美琴が怪訝そうな表情になる。
これは、何かを隠している時の反応だ。

「何よ、アンタ何か隠してるでしょ。素直に白状しないと痛い目を見ることになるわよ」

「あー……、いや、まあ、お前にも話しておかないととは思ってたんだが……」

「だから、何?」

「一方通行に逃げられた」


……一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
コイツ、今なんて言った?

「ごめん、よく聞こえなかったわ。もう一回言ってくれる?」

「へ? ああ。今朝は混乱を避ける為に何も言わなかったんだが、実はアイツ、俺が目覚めた時にはもう居なかったんだよな。つまり行方不明。
 お前が何か言ってくる前に見つけて連れ戻そうと思ったんだが、これがなかなか見つからなくてさあ……」

「……アンタねえ……」

目の前で、聞き慣れた電撃音が唸り始める。
上条はそれを見て一瞬きょとんとしたが、すぐにそれの意味するところを察して目の前に右手を突き出した。
途端、紫電が上条に襲い掛かったが、彼はそれを難なく無効化する。

「な、何すんだよビリビリ!」

「それはこっちの台詞よ! そういうことはすぐに言いなさいよ、すぐに!」

「いや、すぐに見つけられると思ったから下手に心配させない方が良いかと思って……。意外と見つからないもんだな」

「当たり前でしょ!? 第七学区だけで一体どれだけの広さがあると思ってんのよ!」

「あ、やっぱり?」

「……呆れてものも言えないわ」

美琴は溜め息をつくと、頭痛を耐えるように頭を押さえる。
一応まずいことをしたという自覚はあるらしい上条は、それを苦笑いで誤魔化そうとしていた。

「まったく、アンタはどうしてそんなに楽観的なのよ……。もう良いわ、私も探しに行く」

「ああ、それは助かる。第七学区の中にはいるだろうけど、流石に一人でこの範囲を全部探すのは結構骨が折れるからな」

上条がほっとしたようにそう言うと、美琴はまた呆れたような顔をした。今度はじとっとした眼差し付きだ。
それを見た上条は気まずそうに彼女から目を逸らしたが、それで彼女の視線から逃れられる訳ではない。
466 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/10(木) 21:30:52.64 ID:DJLHstIAo

……しかし、一方通行にも言われたが、やはり楽観的すぎるだろうか。
それで人の気分を害してしまうようならば改善しなければとは思うのだが、これはもはや生来の性格なのでなかなか直せそうにない。
そんなことを考えていた上条は、ふと美琴に聞きたかったことがあるのを思い出した。

「……あ。そうだ、御坂妹のこと何か知ってるか?」

「妹? 何か用があるの?」

「そうじゃないんだけど、結局あれ以来会ってないからちょっと心配でさ。お前なら何か知ってるかと思って。
 知らないなら別に良いんだけど」

「いえ、一回会いに来たわよ。わざわざ常盤台まで挨拶しに。
 ……でも、そう言えばあの時のあの子はちょっと様子がおかしかったかしら。何だか急いでるみたいだったし……。連絡してみる?」

「いや、いいよ。用も無いのに電話するのは流石に悪いしな」

「そう?」

それ以前に上条も御坂妹の連絡先は知っているので、連絡したかったら自分からしている筈だ。
申し出を断られた美琴は、取り出しかけていた携帯と膝の上に置きっぱなしになっていたPDAをポケットの中に仕舞う。

「それに、御坂妹っていつも忙しそうじゃないか? だから、何となく連絡しにくいんだよ」

「いつも? そうだったかしら」

「あれ、知らないのか? 街で見かけると、いつも早歩きで歩いてるんだよ。声掛けても気付かないから、何か用事があって急いでるのかと思って。
 まあ、たまたま俺が忙しいときにばっか遭遇してるだけかもしれないが」

「そうなの? 私はあんまり街中であの子を見かけないから……」

「ん、そうなのか? でも確かに御坂妹はあんまりそういう素振りを見せないから、分かりにくいかもしれないな」

「……あら、上条ちゃん?」

唐突に聞こえてきた幼い少女の声に、二人は少し驚いた。
そして名前を呼ばれた当人である上条が振り返ってみると、そこには桃色の髪をした小学生くらいの女の子が立っていた。

「こ、小萌先生?」

「……先生? これが?」

「ああ、俺のクラスの担任の先生。……学園都市の七不思議にも指定されてるんだが、先生はこれでも大人だぞ」

「これでもとは何ですか、これでもとは! 先生は立派な大人なのですよ!」

「なるほど、学園都市の不老不死実験の被験者か何かかしら……。気の毒に」

「ち、違います! 先生は至極まっとうな人生を歩んできた上でこういう身体をしているのです!
 ああっ、そんな可哀想なものを見る目をしないで下さい!」
467 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/10(木) 21:33:10.40 ID:DJLHstIAo

「ああ、なるほど。実験の被験者だったからそういうことになっちゃったんですね。先生は」

「上条ちゃんまで!?」

小萌先生は大袈裟なリアクションを取りながら叫ぶと、その体勢のまま固まってしまった。
そんな小萌先生を見た上条は小さく噴き出すと、軽く謝りながら頭を下げた。少しからかい過ぎてしまったようだ。

「とまあ、冗談はこのくらいで。小萌先生はこんなところで何やってるんですか? 最近はずっと忙しそうでしたけど」

「はい。最近はあまりにも事件が多くて警備員の先生方が出払ってしまうということで、
 残された先生方の負担を軽減する為に雑務が減ることになったのですよ。
 もちろん授業の準備や研究には手を抜きませんけど、会議や諸々の報告事項が大幅に削減されたお陰でだいぶ楽になったのです。
 それに、最近は学校の方が事務をやってくれるアルバイトの方を雇ってくれているので、そちらの方もかなり負担が減ったのですよー」

「へえ、良かったですね」

「はいー。これで漸く上条ちゃんの相談にも乗ってあげられます」

小萌先生がは頼もしげに胸を叩いて見せたが、まだ目の下にはクマがあるし顔色も悪い。
それに、一方通行のことはあまり気軽に人に話してはいけないということがつい昨晩判明したばかりだ。ここで余計な心労を増やすべきではないだろう。
そう判断した上条は、申し訳ないが小萌先生を誤魔化すことにした。

「あー、それについてはもう解決したんで大丈夫です、心配させちゃったみたいですみませんでした」

「そうなのですか? ちょっと残念です」

「?」

蚊帳の外状態の美琴がきょとんとしている。事情が分かっていないのだ。
すると、突然小萌先生の視線が美琴に向き直った。

「ところで上条ちゃん。この子は?」

「ちょっとした知り合いです。えーっと、超能力者の御坂美琴っているじゃないですか? それがコイツです」

「あら、上条ちゃんはそんな凄い子とお知り合いなのですか?」

「あー……、まあ、そんな感じですね」

「御坂美琴さん、初めまして。上条ちゃんがお世話になってるみたいですね。これからも仲良くしてあげてくださいー」

「は、はあ……」

小萌先生に手を差し伸べられて、美琴は訳も分からないまま握手に応じる。
そしてやがて手を放すと、小萌先生は上条を見てにこりと笑った。

「それにしても、ここで会えたのは運が良かったです。ちょうど連絡しようと思ってたところだったんですよ」

「え? それってどういう……」

「上条ちゃん、これから先生の家に来れますか? 用事があるならその後でも良いんですけど」

「あー、えーと……。これからちょっとやらなきゃいけないことがあるので、後でも良いですか?」

「構いませんよ。それじゃ、これが先生の家の住所です。遅くなっても平気ですから、用事が終わったらちゃんと来て下さいね?」

「は、はい」

「それじゃ、絶対に来て下さいよー」

小萌先生はそれだけ言うと、意味が分からずに困惑している上条を残してあっという間に去って行ってしまった。
あんなに小さな身体をしているのに、実に素早い。
結局何が何だか分からずじまいだった美琴も、展開について行けずに茫然としたままの顔をしていた。


468 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/10(木) 21:34:34.25 ID:DJLHstIAo
投下終了。
申し訳ありませんが、次回の投下は少し遅くなるかもしれません。
出来れば一週間以内には留めたいとは思っていますが、悪しからず。

それでは、ここまで付き合って下さってありがとうございました。
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/10(木) 22:38:55.94 ID:FPh7lsUAO
乙!


楽しみにしてます。
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 23:02:17.01 ID:yGfA5m1Qo
乙乙
毎回楽しみでならない話なんで待つよ!
結局一方さん出てっちゃったんだなー
先の展開が読めな過ぎて楽しみだ・・・
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 23:20:52.40 ID:NqDCO+xJ0
おつ!
のんびり上条さんも良いなぁ。
しかしどうなるか本当に気になります。
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 10:45:34.84 ID:FNfegsxe0
子萌先生マジ教師
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 21:22:17.54 ID:IYpc10OAO
とっとと
474 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/15(火) 19:52:06.84 ID:2woxd/9Lo
案の定少し遅くなってしまいました。申し訳ありません。
それでは、投下して行きます。
475 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/15(火) 19:54:14.57 ID:2woxd/9Lo

結局、あれから一方通行を見つけ出すことはできなかった。
けれどなかなか諦めることができなかった所為で、捜索を中断したのはだいぶ辺りが暗くなってしまってからだった。

……時刻は、既に八時過ぎ。
当然、完全下校時刻はぶっち切ってしまっている。

しかし遅くなっても構わないということだったので、上条は今更ながら小萌先生の家へと向かっていた。
小萌先生から貰った地図を頼りに夜の学園都市を彷徨っていた上条は、
持ち前の不幸でもって迷いに迷った末に、漸く小萌先生の自宅へと到着する。

「……ここ、か?」

だが、やっとの思いで目的地に辿り着いた上条を迎えたのは、見るも無残なボロアパートだった。
これなら上条の学生寮の方が何倍もマシ、と断言できる程の年季の入りようだ。

(確かに公務員の給料は削減する方向って聞いたが、流石にこれは……。よっぽど金遣いが荒いのか?)

しかし、それはあの教師の鑑と言うべき小萌先生からはかけ離れた人物像だ。
うっかりそんな想像をしかけてしまった上条はぶんぶんと頭を振ってそれを掻き消すと、小萌先生の部屋の呼び鈴を鳴らす。
するとわざわざ待機していてくれたのか、小萌先生はすぐに扉を開けて上条を迎え入れてくれた。

「いらっしゃいなのですよー。すみませんね、こんな時間にわざわざ来てもらっちゃって」

「いえ、大丈夫ですよ。こっちの用事に手間取った所為ですし」

申し訳なさそうに言う小萌先生に笑顔で返していた上条だが、小萌先生の家に入った瞬間にその表情が凍りついた。
そんな上条の表情を見て、小萌先生は恥ずかしそうに身体を縮こませる。

「す、すみません。これでもだいぶ片付けた方なんですけど……」

「……い、いや、あはは。でも一人暮らしってこんなもんですよ、うん……」

何とか取り繕おうとするが、上条は室内の惨状を見て顔が引き攣っているのが自分でも分かった。
しかし、上条がそんな反応をしてしまうのも無理はない。
何故なら小萌先生の部屋は、およそ彼女の外見からは想像できないほどに荒れ果てていたからだ。

煙草の吸い殻の詰め込まれたビールの空き缶がいくつも転がり、ハズレ馬券と思しき紙切れが無数に散乱している。
これではまるで、タチの悪い酒飲み親父の家だ。……テレビドラマでも見たことが無いようなレベルの。

「そ、そんなことより! 上条ちゃんに来てもらったのは、これをお渡ししたかったからなのです」

「? 何ですかこれ」

悲惨な室内をまじまじと見つめられることに耐えられなくなったらしい小萌先生が、ずいっと白くて大きな箱を差し出した。
上条は、この箱に見覚えがある。結構最近目にしたものだ。
476 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/15(火) 19:56:16.17 ID:2woxd/9Lo

「……先生、これって」

「上条ちゃん、先生を誤魔化そうとしてもそうはいかないのですよ。
 少し悪いとは思ったのですが、上条ちゃんが病院通いをしていると聞いて事情を調べさせてもらいました。
 どうやらまた何かに首を突っ込んでいるみたいですね」

その言葉に、上条はぎくりとする。
小萌先生が一体どこまでの事情を把握しているのかは分からない。
しかし、一方通行のことを風紀委員や警備員に報告されてしまったら一巻の終わりだ。

「それで、これを上条ちゃんのお友達に渡してあげてください。そして、学校に通うように呼びかけてあげてください。
 先生たちは、いつでも誰でも大歓迎ですから!」

「……その、小萌先生。このことは、警備員や風紀委員には……」

「……え? どうしてそこで風紀委員や警備員が出てくるんですか?」

しまった。
上条の表情が凍りつく。
小萌先生は、上条が思っている程事情を把握していなかったようだ。

いや、それはそれで幸運なことだ。
深い事情は知れば知るほど、小萌先生を危険に晒すことになる。
しかし今回は、それが不運に働いた。
余計なことを言ってしまったと後悔してももう遅い。小萌先生は疑念の眼差しで上条を見つめてきている。

「……上条ちゃん、それはどういうことですか? まさか、もしかして、本当にもの凄い厄介ごとに巻き込まれてたり……」

「い、いや、別にまったくもってそんなことは無いというか……」

「上条ちゃん?」

だらだらと大量の汗が流れる。言い逃れは不可能だ。
しかし、ここで白状してしまうわけにはいかない。そんなことをすれば、小萌先生まで巻き込むことになるかもしれないからだ。

「……すみません、言えません。
 ただ、アイツのことは風紀委員とか警備員とか、とにかく上層部みたいなところには絶対に報告しないで下さい。お願いします」

「………………」

上条が、深々と頭を下げる。
しかしそれを見ても、小萌先生は難しい顔をしたままだった。
暫らくの、無言。

上条は頭を上げない。
そんな彼を見ていた小萌先生は、やがてはあっと呆れたような溜息をついた。
477 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/15(火) 19:58:16.00 ID:2woxd/9Lo

「……分かりました。先生は、何も聞かなかったことにします」

「ありがとうございます!」

上条が、再び頭を下げた。先程よりも深く。
小萌先生はそれを見ると慌てて頭を上げるように促し、上条の持っている白い箱を見ながら言った。

「……それは、ちょうど余りがあったのを譲って貰ったので、その子に無償でプレゼントしてあげようと思って持って来たものです。
 ただ、サイズがちゃんと合っているかどうかが分からないので、上条ちゃんが確認してくれますか?」

「は、はい」

上条が、慌てて白い箱を開く。
その中には、綺麗に折り畳まれた新品の制服が収められていた。

通常よりも少し小さめの制服。
一方通行は普通の人と比べて華奢なので、きっとこのサイズでぴったりの筈だ。
……これさえあれば、一方通行はいつでも学校に行くことができる。

「これで、大丈夫だと思います。……本当にありがとうございます」

「いえいえ、先生の勝手なお節介です。気にしないでください」

「絶対にアイツに渡して、学校に通うように言いますから。少し時間が掛かるかもしれませんけど……」

「はい。期待して待っていますね」

にこり、と小萌先生が無邪気な笑顔で笑う。
ここまでして貰ったからには、絶対に一方通行を連れ戻して、自分たちと同じような普通の生活を送らせてやらねばならない。
上条は改めて決意を固くすると、制服の入った箱の蓋を閉じた。

「それじゃ、上条ちゃん。今日はもう遅い時間なので、そろそろ帰った方が良いですよ? それから、明日はちゃんと遅刻しないで来て下さいね」

「わ、分かってますよ。じゃあ、お邪魔しました」

上条は最後にもう一度小萌先生に向かって頭を下げると、見送られながらその家を後にする。
一人帰路を急ぐ上条は紙袋に入れた白い箱を眺めると、袋の持ち手を握っている方の手をぎゅっと強く握り締めた。



―――――
478 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/15(火) 20:01:42.90 ID:2woxd/9Lo



廃ビルに、照明などあるはずもない。
一方通行は月明かりさえ届かない真っ暗な部屋の隅で、壁を背にして携帯電話を弄っていた。
よって、この場における光源は携帯電話のみ。

目が悪くなってしまうことも気にせずに、一方通行は真面目な顔で携帯を操作し続けている。
携帯電話の画面に映っているのは、学園都市の求人情報。
今日一日は休養に充てることにしていたのだが、それでもまったく何もしないというのも勿体ない気がしたので、
あれから目を覚ました彼はこうしてずっと携帯を通じて仕事を探していたのだった。

……しかし、どれもこれも条件が厳しい。
冥土帰しに偽造してもらった身分証があるからその辺りの心配はいらないのだが、条件に『学校に通っていること』という項目があるのだ。
それは一般の大人がスキルアウトのような子供たちから身を守る為のものなのだが、今の一方通行にとっては非常に難しい条件だった。

一方通行くらいの年齢の子供は普通、学校に通っている。
にも関わらず学校に通っていない子供なんてのは、通常スキルアウトくらいのものなのだ。
だから、相手の言い分も理解できる。

……理解はできるのだが、今の一方通行にとってこれほど恨めしい条件は無かった。
学校に行くことができないから仕事を探しているのに、学校に行っていないからと言う理由で仕事に就けないとは。

(……どォしたモンかねェ……)

何処をどう探してみたところで、やはり目ぼしい仕事は見つからない。
一方通行は溜め息をつくと、結局何の情報も彼に与えてくれなかった携帯電話をぱたんと閉じた。
途端、辺りは真っ暗闇に包まれる。

(やっぱり、自分の足で探して直接交渉なりなンなりするしかねェな。最悪、能力を利用した実験台も覚悟するか。……限度はあるが)

辺りは真っ暗で何も見えないというのに、一方通行は少し離れた場所にあった鞄を正確に引き寄せて携帯電話を仕舞い込む。
そして冷たく硬い地面にごろんと横になり、目を閉じた。
ちなみに、流石に目が覚めた時に体中が痛くなっているのはごめんなので、多少能力で身体を保護している。

つい数時間前に起床したばかりだというのに、眠気はすぐに襲ってきた。
そしてうとうととし始め、いよいよ意識が睡眠の闇の中に落ちそうになった、その時。

こつん。
足音。
少し遠くから、しかし確実にこちらに向かって歩いてきている、足音。
その音に、眠りに落ちようとしていた一方通行は飛び起きた。

(何モンだ? 追手、いやただのスキルアウトの可能性も……)

しかし、どちらにしろ敵には違いない。
一方通行は起き上がると、壁に背を付けて部屋の外の様子を窺った。
遠くの方に、小さな光が見える。
どうやら、相手は懐中電灯を持っているようだ。
479 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/15(火) 20:04:57.06 ID:2woxd/9Lo

足音は、どんどん近付いてくる。
数は、一つ。
今更どんな奴が出てきたところで後れを取ることはないだろうが、警戒するに越したことは無い。
一方通行は徹底的に気配を殺しながら、近付いてくる足音の正体を探る。

そして、遂に足音は一方通行の部屋の目の前までやって来た。
同時、彼は能力を発動させて廊下にいる筈の人物の目の前に飛び出す。
すると。

「おや、一方通行ではありませんか、とミサカは予想外の遭遇に驚きます」

「……御坂妹ォ!?」



―――――



「まあ、端的に申しますと少々悪さが過ぎて研究所から追い出されてしまったのです、とミサカは自らの置かれている状況を説明します」

「……大丈夫なのか? ソレ」

「永久追放と言うわけではありませんし、大丈夫でしょう、とミサカは楽観します」

御坂妹が持って来た折り畳み式の机を挟んで、二人は向かい合って座っていた。
天井には、同じく御坂妹持参の照明が取り付けられている。
本人が言うには追い出すにあたって一通り必要なものを預けられたとのことなのだが、それは果たして追い出す意味があるのだろうか。

「だが、オマエは生きる為に定期的に調整が必要なンじゃなかったか?」

「その通りです。ですが、調整が必要になったら帰って来ても良いということでしたので問題ありません、とミサカは某研究員を思い出しながら解説します」

「ふゥン……、意味分かンねェ」

これではますます追放された意味がない気がするのだが、まあ彼女にも色々な事情があるのだろうと思うことにして自分を納得させた。
そして、一方通行は部屋の隅に置かれている御坂妹の鞄をちらりと見やる。
御坂妹の持って来た鞄は、一方通行の鞄の何倍も大きく、しかもぱんぱんに膨らんでいた。

「……で、オマエは何でこンなところに居るンだ?」

「目的はあなたとほぼ同じかと。寝床を探して彷徨っていたら偶然あなたと遭遇したにすぎません、とミサカは説明します」

「あァ、そォ……。他当たれ」

「何故ですか、とミサカは驚愕を露わにします」

「何故って、オマエなァ……。ここにはもォ俺がいるだろォが。だからオマエは他の所行け」
480 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/15(火) 20:07:31.37 ID:2woxd/9Lo

「でしたら一緒に住めば良いではないですか、とミサカは提案します」

「駄目だ」

「どうしてですか、とミサカは首を傾げます」

「どォしてもだ」

「それでは、あなたはミサカをこの物騒な夜の学園都市に放り出そうとするのですね。
 そしてミサカが夜な夜な学園都市を徘徊しているスキルアウトに襲われて、あーんなことやこーんなことをされても一向に構わないと、
 そう仰るのですね、とミサカはあなたの薄情さに慄きます」

「そこまでは言ってねェだろォが!」

「と言うわけでミサカを守ってください、とミサカは図々しく申し出ます」

「……はァ」

本当に図々しい御坂妹を眺めながら、一方通行は頭を抱えた。
……コイツには本当に敵わない、と思う。

しかし、御坂妹の言うことももっともだ。
如何に軍用クローンと言えど、肉体年齢中学二年生の少女を飢えた野獣どもの徘徊する学園都市に放り出すのはよろしくない。
しかも、スキルアウトはただの不良ではない。武装しているのだ。
確かに御坂妹はかなり戦闘に長けている方だが、それでも寝込みを襲われたり、武装した複数人に襲われたら危ないかもしれない。
安心して眠る為には、信頼のおける人間がそばにいる必要がある、と言うのも事実だった。

「……、……。御坂の寮に行けば良いじゃねェか。アイツなら快く受け入れてくれるだろ」

「ご存じありませんか? お姉様の寮を管理している寮監は、非常に厳しいことで有名なのです。
 もしお姉様が学校に秘密でミサカを匿った場合、お姉様が一体どんな目に遭うことになるのか考えただけで恐ろしいです、
 とミサカは暗にお姉様は頼れない旨を伝えます」

「オマエを放り出した研究者どもに金は渡されてねェのか。ホテルでもなンでも行けば良いだろ」

「一応お金は渡されていますが限られていますし、学生の多い第七学区にホテルなどほとんどありません。
 今から探しに行くのもそれはそれで危険かと、とミサカは可能性を潰していきます。……そろそろ諦めたらどうですか?」

「………………」

その時、御坂妹がほんの僅かだけ勝ち誇ったような表情をしたのを、一方通行は見逃さなかった。
非常に腹立たしい。
……腹立たしい、が。

「わァかったよ。好きにしろ」

「ありがとうございます、とミサカは感謝します」

遂に折れた一方通行に、御坂妹はにこりと笑う。
そんな彼女を見て、彼は再び大きな溜め息をついた。
481 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/15(火) 20:10:19.60 ID:2woxd/9Lo

……しかし、止むを得ないとは言え、厄介なことになってしまった。
今は垣根帝督を撃破した直後なので比較的安全な状況とは言え、それでも彼がまだ狙われているということには変わりない。
これでは、きっと御坂妹まで巻き込んでしまうことになる。

それは、何としてでも避けなければならない。
一体彼女が研究所から追い出されているのはどれくらいの期間になるのかは分からないが、それまでの間、何とかして彼女を守らなければ。

「……とまあ、色々と不安を煽ってはみましたが、ミサカもそこそこ戦えると自負していますのでそこまで緊張しないでください、
 とミサカは難しい顔をしている一方通行に語り掛けます」

「……そンなンじゃねェよ。それより、オマエはいつまで研究所に帰れねェンだ?」

「そうですね、それほど長い期間ではありません。三日と言ったところでしょうか、とミサカは追放期間を提示します」

「ふゥン……、まァ、それくらいならいけるか……?」

「…………」

ぶつぶつと独り言を言っている一方通行を見ても、御坂妹は何も言わなかった。
それどころか彼女は一方通行を無視して巨大な鞄を漁り始め、更にその中から毛布を引っ張り出しはじめる。しかも、何故か二枚。

「オマエ、なンだそりゃ」

「見てわかりませんか? 毛布です、とミサカは愛しいこのもふもふを見せびらかします」

「そンなことを訊いてンじゃねェよ。このクソ暑ィ時期に、なンで二枚も毛布なんか持ってきてンだ?」

「ミサカは寒がりなのです。ですが今回は特別に一枚あなたに貸し出してあげます、とミサカは懐の広さをアピールします」

「いらねェよ」

「遠慮なさらないで下さい。こんな固い地面に直に寝たら身体が痛くなってしまうでしょう、とミサカは親切心を発揮します」

「能力で保護してる。心配ねェ」

「なんて勿体ないことに能力を使っているのですか。
 それでいざというときに頭痛になったりして、能力が使えなかったらきっと困りますよ? とミサカは諭します」

「……はァ、分かったよ。使えば良いンだろ、使えば」

「素直で何よりです、とミサカは説得に成功して満足します」

言いながら御坂妹が毛布を差し出すと、一方通行はひったくるようにしてそれを奪い取った。
御坂妹はそれを見て満足そうな動作をすると、自分用の毛布を身体に巻き付け、そのままその場にごろんと寝転がる。

「おいコラ、ちょっと待て」

「何でしょうか、とミサカは睡眠を妨害されて不機嫌になります」
482 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/15(火) 20:12:05.07 ID:2woxd/9Lo

「そこで寝ようとすンな。他の部屋行け」

「何故ですか」

「この状況は客観的に問題があンだろォが! そンなことも分かンねェのか?」

「おや、それではあなたはミサカに手を出すつもりがあるのですか? とミサカはエロ親父のようなニヤニヤ笑いを浮かべます」

「うぜェ! ンなことする訳ねェだろォが、客観的に見ておかしいだろっつってンだ」

「ですが、ミサカが他の部屋に行ってしまうことによってミサカが襲われた時にあなたに気付いて貰えなかったら大変なことになります。
 それともあなたはミサカが何者かに」

「あー! もォ分かったよ、勝手にしろ!」

「はい、勝手にさせて頂きます、とミサカは言い逃げして眠りにつきます。おやすみなさい」

有言実行、御坂妹はそれだけ言うと再び地面に寝転がった。
そして驚くべき寝付きの良さによって、彼女はわずか数秒で寝息を立てはじめる。

一方通行は御坂妹の寝顔をしばらく見守っていたが、やがて点けっぱなしになっていたランプの明かりを消して部屋の壁際へと歩いていく。
流石に彼女のそばで寝るのは悪いと思ったのか、それとも彼女に対する最後の抵抗だろうか。
ともあれ彼は部屋の壁際までやって来ると、御坂妹のように毛布をかぶり、壁に背を付けて座るとそっと目を閉じる。


彼は暫らく様々な考えを巡らせていたが、すぐに眠りに落ちていった。


483 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/15(火) 20:12:44.94 ID:2woxd/9Lo
投下終了。お疲れ様でした。
次回は一週間以内に。やはり少し遅くなってしまうと思いますが、ご了承ください。
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 20:20:32.48 ID:jaWXy5euo
久々の御坂妹と一方さんの絡みとは・・・!
つかあっさりと知り合いに見つかっちゃったな一方さんwwww
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 23:29:13.13 ID:x3aqdp/Fo
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 00:16:12.63 ID:WVBUUAuP0
>>1乙通行

このss内で記憶を失った一方さんが見せる何気ない仕草に凄く心を打たれる。

支援
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/16(水) 15:01:14.62 ID:NT/ftAT40
乙乙!
488 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/20(日) 00:32:01.49 ID:k31JosIBo
毎度遅くて申し訳ないです。
レスは本当にありがたいです、感謝しています。
それでは投下します。
489 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/20(日) 00:32:33.59 ID:k31JosIBo





殺される夢ではなく、
殺す夢を見た。




490 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/20(日) 00:36:33.80 ID:k31JosIBo

「…………!」

廃ビルの一室で眠っていた御坂妹は、驚いてがばっと飛び起きた。
しかし周囲を見回せば、そこは眠った時と寸分違わぬ静かでひんやりとした灰色の部屋。昨晩と全く同じ、何も変わらない。
壁際では、御坂妹の持って来た毛布に身を包んで眠っている一方通行の姿もあった。

それを見て、御坂妹は漸く平静を取り戻す。
そして彼女は鞄の中に入れておいたタオルを取り出し、僅かに伝う汗を拭った。
大した発汗もなく息切れも起こしていないので見た目には何とも無いように見える彼女だが、心臓はばくばくとしている。
彼女は、胸に手を当てて鼓動が収まるのを待った。
やがて鼓動が穏やかになってくると、彼女は被っていた毛布を剥ぎ取って一方通行の眠っている場所へと歩いていく。

そして一方通行の目の前までやって来た彼女は、その場に座り込んで未だ眠り続けている一方通行の顔を覗き込んだ。
寝息を立てている。動いている。生きている。何も、問題ない。

(……それにしても珍しい夢でした、とミサカは暢気な感想を述べます)

御坂妹はそもそも夢自体、滅多に見ることは無い。
だと言うのに、たまに夢を見たと思ったら、これだ。……気分が悪い。
もう二度と夢など見たくないな、と彼女は思った。

(時刻は……、13時32分ですか。明らかに寝過ごしてしまいました、とミサカは目覚ましを掛け忘れたことを後悔します)

……一方通行の護衛の為にミサカネットワークを駆使して彼を捜索していたにも関わらず、こんなところに隠れられていた所為で見つけるのに手間取ってしまった。
しかしそれ以上に、昨晩は事後処理や諸々の作業に追われて非常に忙しかった。
恐らく、御坂妹も一方通行と同じで疲れが溜まっていたのだろう。
とは言え、今のところこれといってやるべきことはない。今はただ、ここでこうしていることしかできないのだ。

御坂妹は小さくため息をつくと、再び一方通行の顔を覗き込む。
もうずっと見つめ続けているというのに、飽きないのだろうか。
彼女は暫らくそのままじっとしていたが、やがて観念したように一方通行がもぞりと身動ぎした。

「……オイ、いつまでそォしてるつもりだ?」

「おや、起こしてしまいましたか、とミサカは申し訳なく思います」

「最初っから起きてた。オマエが突然目の前に来たから起きづらかったンだよ」

「そうでしたか、それは申し訳ありませんでした、とミサカは謝罪します」

御坂妹が目の前から退くと、彼はすっくと立ち上がって少しだけ汚れの付いてしまった服をはたき始めた。
はっとして、御坂妹も自分の服装を見下ろす。
制服のまま毛布にくるまって眠っていた所為で、ブラウスもスカートもくしゃくしゃになってしまっていた。
流石にこれではみっともないので、御坂妹は必死になって服の裾を引っ張って皺を伸ばそうとする。

「服の替えはねェのか?」

「あるにはありますが、あと一着しかないので無駄遣いはしたくありません、とミサカは倹約を宣言します」

「あァそォ……。つっても、ソレじゃ外に出れねェだろ」

「だから今こうして一生懸命引っ張っているのではありませんか、とミサカは引き続き人力アイロンを実行します」
491 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/20(日) 00:38:18.24 ID:k31JosIBo

「止めとけ、服が伸びて余計にみっともないことになるだけだ。素直に着替えろ」

「ですが服の替えが無いといざというときに困ります、とミサカは渋ります」

「それを寝巻にして、もう一着を外出用にすれば良いだろォが。それか、ランドリーがその辺にあった筈だからそこにぶち込ンどけ」

「ふむ……。ではあなたの言う通りにしましょう、とミサカは妥協します」

「そォしろ。俺は出てくる」

早速着替えを始めようとした御坂妹に背を向けて、一方通行が部屋から出ていこうとする。
それに気付いた御坂妹は、すかさず彼を引き止めた。

「待ってください。何処へ行くのですか? とミサカは質問します」

「仕事探しだよ。いつまでもこンなところに住むワケにはいかねェだろォが。金も無限じゃねェし、オマエと違って帰る場所もねェンだよ」

「それでしたら、ミサカが力になれるかもしれません、とミサカは胸を張ります」

「……はァ?」

思わず、と言った調子の声を上げながら一方通行が振り返る。
するとそこには、ブラウスのボタンを全開にしたまま得意げに胸を張る御坂妹の姿があった。

「……オマエ、何してンの?」

「おおっと、これは失礼しました。すぐに着替えを完了させるのでしばらくお待ちください、とミサカは慌てて服を脱ぎます」

「そっちじゃねェよ、アホか。もォ良い、俺はあっちに行ってるからな。着替え終わったら呼べ」

それだけ言うと、一方通行は踵を返してすたすたと立ち去ってしまった。
とは言え、足音は少し行ったところですぐに止まってしまったので、隣の部屋に移動しただけのようだが。
御坂妹は一方通行の行動の意味が分からないとでも言うように首を傾げていたが、すぐに本来の目的を思い出して着替えを再開した。



―――――



「で、仕事のアテがあるって話だったか?」

「そういう話でしたね、とミサカは同調します」

着替えが完了してパリッとした制服に着替えることの出来た御坂妹は、心機一転といった調子で一方通行と向かい合っていた。
その隣にはくたびれた制服が畳んでおいてある。結局、御坂妹はあれを寝巻にすることにしたようだった。

「そのアテってのはなンだ?」
492 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/20(日) 00:41:05.31 ID:k31JosIBo

「ミサカの調整を行っている研究所のことです。ちょうど人手が足りないと嘆いているところだったので、恐らくすぐに雇ってくれるでしょう。
 それに、法的に禁止された人間の体細胞クローンを研究する場所ですから、ぶっちゃけ後ろ暗い連中ばかりです。
 誰も深く詮索はしてこないでしょうし、多少素性が分からないような人間であっても問題ないかと思われます、とミサカは説明します」

「ほォ、確かにそれならうってつけだな」

「そうでしょう、とミサカは得意げに無い胸を張ります」

「それもォ止めろ」

両手を腰に当て、再び平べったい胸を前面に押し出している御坂妹を見て、一方通行が呆れたように言った。
すると、御坂妹は少し不服そうにしながらもそのポーズを止める。

「他でもないあなたの願いなら聞き入れる他ありませんね。それから、言い忘れていましたがこれには一つ問題があります、とミサカは告白します」

「なンだ?」

「ミサカは現在研究所を追放されている身ですので、最低でもあと二日は研究所にあなたを紹介することができません、とミサカは項垂れます」

「あァ、その程度なら構わねェ。仕事を探すのに、もっと時間を掛けることも覚悟してたからな」

「そうですか? それなら良かったです、とミサカは胸を撫で下ろします」

もちろんこれは、もともと最低でも三日は彼のそばにいる為の方便だったのだが、最初にそう説明してしまった以上今更翻すこともできない。
それに彼は異常に記憶力が良いので、下手なことを言って矛盾を発生させてしまうと追及されてしまう。
なので御坂妹は、無理に最初の発言を覆したりはせずに話を合わせた。
正直この状況は願ってもいないくらいの好転だったので今すぐにでも彼を研究所に案内したかったのだが、そんな無茶をして疑われてしまっては元も子もない。

「というわけで仕事は決定してしまったわけですが、これからどうするつもりですか?
 ミサカにも特に予定はありませんので、何処かに行くのでしたらミサカも同伴させて頂けると嬉しいです、とミサカは希望します」

「俺もこれと言って予定はねェな。……何処か行きてェ場所があるのか?」

「特にはありませんが、ここでじっとしているのは嫌ですね。取りあえずこの辺りをぶらぶらしましょうか、とミサカは提案します」

「ン、じゃあそォすっか。腹も減ったしな」

「そう言えばまだ何も食べていませんでしたね。ついでに食事も済ませてしまいましょう、とミサカは外食に心躍らせます」

「……期待してるとこ悪ィが、この辺は大したモンは無かったはずだぞ」

「料理の質自体にはさほど興味はありません。外食という行為自体、何かわくわくしませんか? とミサカは自らの価値観を語ります」

「ま、オマエが良いならなンでもイイけどよ……」

一方通行が席を立ち、部屋から出ようとする。
もちろん御坂妹もその後について行く為に、立ち上がってその背中を追おうとした。
493 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/20(日) 00:45:19.19 ID:k31JosIBo



すると、その時。
何故か唐突に、先程見た夢が目の前の彼に重なって見えた。




咄嗟。本当に、思わず。
御坂妹は、一方通行の手首をはっしと掴んでしまった。
彼女の突然の行動に驚いた一方通行が、珍しくきょとんとした顔をして御坂妹を見つめている。
そんな彼の顔を見て御坂妹ははっと我に返ると、慌てて彼の手首を解放した。

「……なンだ?」

「い、いえ、何でもありません。驚かせてしまって申し訳ありません、とミサカは頭を下げます」

「いや、それは別に良いンだが……」

一方通行は何か言いたそうにしていたが、そこで言葉を切ったきり、何も言わずに再び御坂妹に背を向けてしまった。
御坂妹も彼に倣って何も言わずに、黙って後を付いて行くことにする。

(……夢、ですか。まったく馬鹿馬鹿しいですね、とミサカは一人溜め息をつきます)

黙々と彼の後に続きながら、御坂妹はあの夢のことを考えていた。
けれど、どちらにしても有り得ないことだ。
そう。殺すにしても殺されるにしても、有り得ない。
どうして今更あんな夢を見てしまったのか、自分でも不思議なほどだ。

そう言えば何処かの心理学者が夢は自分の願望を表すとか言っていたが、アレは嘘っぱちだ、と御坂妹は確信する。
だって自分は微塵もそんなことを望んでいないし、そうならない為に今日まで頑張ってきたのだから。
そして、その気持ちには何の嘘偽りも無い。紛れもない本心だ。

(そう、有り得ないことです。……有り得ないようにする為に、ミサカたちは……)

……『反対派』や木原数多たちとの戦いは、現在休戦状態にある。
どちらも予想していなかった結果になってしまった為に、両者ともがどうしたら良いのか分からず作戦会議を行っているからだ。
本当なら『推進派』のリーダー格である彼女もそれに参加するべきなのだが、どうもそうする気になれない。
と言うか、正直に言うと何の案も出ないに決まっているので面倒くさいのだ。
それにこちらの方がよっぽど有意義な仕事だし、何より楽しい。他の妹達には申し訳ないが、彼女が適任なのも事実なのだ。

(はあ。本当に、これからどうすれば良いのでしょうか、とミサカは途方に暮れます)

彼がこの学園都市に残るということに関しては、一抹の不安が残るがまあ構わない。それに、彼の意志が最優先だ。
しかし、この先。この先をどうするかが問題だった。
いくら彼が強くなったと言っても、幻想殺しと超電磁砲が味方に付いていると言っても、この状況を維持するのは難しい。
だが、彼女たちの仕事はそれを何とかして維持させることだった。

……いや、もしかしたらあの三人の力をもってすればそれも可能かもしれない。
しかしそこはもう完全にあの三人の領分であって、彼女たちの出る幕は無いのだ。彼女たちの戦闘能力は、そこまで高くない。
出来ることと言えば、せいぜい一方通行の天敵である木原数多と彼率いる猟犬部隊を牽制することくらいだ。
しかもそれは完璧ではない。訓練された暗部組織である猟犬部隊を完全に抑えられるほど、彼女たちは強くないのだ。
494 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/20(日) 00:47:30.43 ID:k31JosIBo

(……とにかく、足手纏いだけはごめんですね。とにかく情報封鎖から始めないとでしょうか、とミサカは結論付けます)

「オイ、早くしねェと置いてくぞ」

突然一方通行に声を掛けられて、御坂妹は慌てて顔を上げた。
考え事をしている内に、歩調を遅めてしまっていたらしい。
御坂妹はいつの間にやら置いて行かれていたらしく、一方通行がかなり先に行ったところで立ち止まってくれていた。

「申し訳ありません、とミサカは慌てて歩調を早めます」

「……顔色が悪ィな。体調が悪いのか?」

「いえ、そんなことはありません。昨日からろくにものを食べていないので空腹の所為かと、とミサカは推測します」

「ふゥン……」

一方通行は一瞬胡散臭そうに御坂妹を見つめたが、それだけだった。
彼はそのまま踵を返し、すたすたと歩いて行ってしまう。
その後を、御坂妹は慌てて追いかけていった。ただでさえ距離が開いているので、これ以上先に行かれたら見失ってしまう。

御坂妹は一方通行を追って、駆け足で廃ビルを後にした。



―――――



一方通行が御坂妹と共に昼食を食べに出ている頃。
上条と美琴もまた、行方不明になってしまった一方通行を探して第七学区を彷徨い歩いていた。

「ったく、アイツ一体何処にいるんだよ……」

「目ぼしいところは大方当たってみたけど、全部ハズレとはね。一つくらいヒットするかと思ったんだけど」

何処の誰に聞いても知らないという答えしか返ってこないので、最初は楽観視していた上条も少し焦り始めていた。
一方通行くらいの子供が働く場所を探そうとするのなら、第七学区くらいしかアテはない筈。……にも関わらず、まったく見つかる気配がない。

実際は、一方通行はあれからちっとも行動を起こしていないから見つからないだけなのだが、二人はそこまで考えていないようだった。
何しろ上条は驚異的な回復力で自力で怪我を治してしまったし、比較的重症だった美琴はさっさと病院に行って治してもらったので、
当然一方通行も彼らと同じように回復してすぐに行動を開始しているものと思い込んでしまっているらしい。

「流石に第七学区内にはいると思うんだが、第七学区も広いからなあ……」

「一応、アイツの行動パターンを考えて範囲指定してるけどね。もうちょっと探索範囲を広げるべきかしら?」

「そうかもなあ……。アイツのことだから、できるだけ人を巻き込まないように第七学区の中でも人気の無さそうなところにいるんじゃないか?」

「その考えには大方同意だけど、一体この第七学区にどれだけの数そんな場所があると思ってるのよ?」
495 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/20(日) 00:50:27.22 ID:k31JosIBo

「第七学区って意外と寂れてるところ多いんだよな。隠れやすい廃屋なんかも多いから、よくスキルアウトが根城にしてるし……」

もちろん、そういう場所を探しては見た。
しかし当然ながらそういう場所にはスキルアウトが跋扈しているので、わざわざ彼らを排除してから探し回らなければならない。
準備だけでも一苦労なのだ。

スキルアウト相手なら少しくらいなら上条も戦えるが、相手が三人以上なら迷わず逃げる。
つまり大量のスキルアウトが潜んでいそうな場所を探索するときは美琴に頼らざるを得ないので、なかなかそういう場所には行けないのだ。
自身が情けない以上に、上条は女の子である美琴にあまりそういう場所に近付いてほしくなかった。

「まあ、スキルアウトが隠れやすいってことはアイツが隠れてる可能性も十二分にあるんだけどね。やっぱりその辺を中心に探すのが……」

「いやいや、危ないって。俺だってあんまり大量のスキルアウトは相手できないし……」

「何回言わせるつもり? 私があんなスキルアウトに負ける訳ないでしょ。そんなに心配してくれなくても大丈夫だってば」

「でも、あそこはお前が思ってる以上に物騒なんだぞ? 本当に。それに、最近はスキルアウトも狂暴化してるって話だし」

「……そう言えば、そんな噂もあったわね。テロが頻発し始めた頃だったかしら?」

「言われてみればそれくらいだな。武器が大量に横流しされたりしたのか? 学園都市の治安はどうなってるんだか」

「ま、その武器だってどうせ金属製なんだから私には関係ないんだけどね」

「まあお前にとってはその通りなんだろうが……。何か、スキルアウトが能力を持ち始めてるって話も聞いたな」

「……スキルアウトが、能力を? それスキルアウトじゃないんじゃない?」

「確かにスキルアウトの定義が微妙に崩れてるけどな……」

スキルアウトとは、武装無能力者集団のことだ。
要するに、構成員のほぼ全員が無能力者。
まったく能力者がいないというわけではないだろうが、それでもかなりの低能力者の筈なので実戦には向かないはずだ。

……にも関わらず、『能力を持ち始めている』と言う噂が立つほどになっている。
それはつまり、スキルアウトが能力を使って脅迫や暴行を行っている現場を見た人間が居る、ということだ。

能力を持っていないが故に武装していたはずのスキルアウトが、能力を持ち始めている。
武装能力者集団。
問題になっているという話は聞いたことがないが、もしそんなものが実在するとしたら脅威だ。
殆どの学生の安全が、脅かされることになってしまうだろう。

「それでも私の敵じゃないけどね」

「そりゃそうだろうけど、頼むから危機感を持ってくれよな。お前の能力が通用しない新兵器とか能力とか、無いとは言い切れないんだからな」

「新兵器はともかく、相手が能力者ならアンタが負ける訳ないじゃない」

「……ビリビリはほんと、俺のこと買い被り過ぎだって。上条さんはそんなに強くありませんのことよー」

「そういう台詞は一回でも私に負けてから言いなさいよ。何だかんだ言ってあれから勝ててないのよね……。あ、なんか腹立ってきた」
496 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/20(日) 00:52:39.98 ID:k31JosIBo

「頼むからこんなところで放電しないでくれよ。俺はともかく、ほぼ確実に周囲に被害が及ぶから」

「分かってるわよ。流石にアンタ以外に迷惑をかけるのは、ね」

「ちょ、それどういう意味ですかビリビリさん?」

「つーんだ」

美琴はそう言って上条から顔を背けると、少し歩調を早めて彼を追い抜かしてしまった。
先に行ってしまおうとする彼女を、上条は慌てて追いかける。
追われる美琴は一度だけ振り返ってあっかんべーをすると、更に上条を引き離すべくさっさと走って行ってしまった。


497 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/20(日) 00:53:23.87 ID:k31JosIBo
今回の投下はこれで終了です。
次回は一週間以内。本当は、もう少し早くに来たいのですが……。
それでは、お付き合い下さってありがとうございました。
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/02/20(日) 01:22:14.12 ID:g/9UH//X0
乙!
一方さん達と上条さん達は外食先で合流できるか……?
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 01:37:27.20 ID:o10o9olAO
おつ!

楽しみにまってます。

500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 01:56:13.50 ID:KR1JprMT0
乙ー
あれか?能力持ちのスキルアウトって、絶対等速さんみたいなやつか?あれはスキルアウトではないか
しかしそうでなくても、一方通行に喧嘩吹っかける馬鹿みたいな不良は沢山いるんだろうが・・・
ほんとになんであんなに学園都市治安悪いんだろうな
無能力者は虐げられるっていうけど、佐天さんとか普通に生活できて、友達もいるじゃん
しかも無能力者って全体の六割だろ?そのなかのどれくらいがスキルアウトに目覚めれば、学園都市みたいな状況になるんだ?
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 02:08:23.39 ID:MZnC+458o
>>500
まあ深く考えるな
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 02:18:15.12 ID:gngUMmaQ0
原作にも0点のテストをぶら下げて歩くようなもんみたいな表現あったくらいだからな。
俺らにゃ分からんでも、実際に無能力者の烙印押されてそれなりにプライドあったらグレるかもしれん。
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 03:22:21.17 ID:NCfeT14Ko
>>500
佐天さんは自前の明るさもあるけど、両親や友達の支えがあったからだろうな
期待して子を学園都市に送ったのに無能力者と言われて失望する両親とかいそうだし
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 04:07:16.32 ID:fSkwiRkMo
スキルアウトの登場率が高いのは実も蓋のない言い方をすれば、出すのに都合のいい存在・設定だからって所だと思う
どっかのスレで似たような話題になった時に、「金田一やコナンが毎日のように殺人事件に遭遇するようなもん」と表現してた人がいたが
物凄く納得した覚えがあるww
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 04:15:40.87 ID:oCJPoWO/o
>>504
それ言ったら元も子もねえよ。そういう根本的な話じゃなくて、組み込まれてる設定の中で、
「何でそうなんだろう?」ってことだよ。
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 04:23:20.39 ID:fSkwiRkMo
あー、でも俺は現実社会でも不良はあちこちにいるし治安の悪い地区やらたむろってる店はあるから、それほど大差なく
単に話上そのシーンばかり目立つから異様に治安悪いように見えるだけ、って解釈してるけど
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/20(日) 11:40:35.31 ID:SCUxj9aq0
ようは回りに助けてくれる人間が居たかどうかだろ?
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 11:59:14.81 ID:6Oq2Y1TIo
開発受けて、能力発現しなかった連中は高確率で精神に異常をきたす。

でいいんじゃね?
善悪は置いて、浜面とかも常人レベルの精神力じゃないだろ。
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 12:45:53.81 ID:rYHjrK6So
学園都市の人口が230万人、その中の8割が学生で184万人、その内6割が無能力者110万人、例え無能力者の1/100しかいなかったとしても1万人はいるぞ
普通に遭遇してもおかしくないレベル、さらに上条さんはスキルアウトのおっかけだからな
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 17:31:39.19 ID:t0icDw4yo
超能力にあこがれるような思春期の子供が、開発受けて頭のいい精神異常者となり、さらに最先端機器が簡単に手に入る
立派な犯罪者が育つな
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 01:58:27.33 ID:QaB7/UAAo
>>504>>506の考えがあってるんじゃね?
平和な現代日本だって警察に密着してれば事件多いなと感じるだろうし
上条さんや美琴は事件に巻き込まれることに関しては1流で、婚后さんは能力者犯罪の餌食になる天才
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 02:57:26.30 ID:hg6vhyRlo
7学区がとくにスキルアウトが出没しやすいってのもあるかもね
7学区の隣が学園都市内でもっとも土地が安い10学区
10学区は少年院・墓地・実験動物廃棄場とかがある殺伐エリア
アンチスキル訓練所のある2学区も隣接してるし、近隣の不良どもが10学区にたまる
⇒一般生徒に絡むために7学区や地下街に遠征、ってかんじかもしれないな

ってことで議論スレみたいになってるんだけど設定に関してのアレコレは
設定質問受付
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1296923909/
とかでやった方がよくね?SSの本筋それたレス続くと作者も投下しづらいだろう
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 17:23:31.62 ID:YgjbayMT0
この流れ、感想も書きづらし…

1乙!!
なにこの全力で守りたくなる一方さん
いつも淡々と1人になろうとすんな…
しかし忍び寄る不吉が怖いわ。続き待ってる!
514 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/23(水) 13:28:13.04 ID:SFobUqfxo
自分としては、雑談は構わないのですけどね。
今回の雑談はSS書きとしてもなかなかためになるような内容だったと思いますし。参考になります。

それでは、投下していきますね。
515 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/23(水) 13:31:04.24 ID:SFobUqfxo

御坂妹の追放期間、最終日。
明日、漸く御坂妹は研究所に戻ることを許されるらしい。そして、それは同時に一方通行が仕事に就く日でもある。
言わば最後の休日なのだが、御坂妹は用事があると言ってさっさと何処かへ行ってしまった。
よって、一方通行は暇を持て余しているのだ。

(……、外、出ねェ方が良いよな……)

ビルの隙間から見える喧騒を眺めながら、一方通行はひたすらぼうっとしていた。
それまでかなりの頻度で襲い掛かってきていた追手も、あの垣根帝督を撃破してからというもののまったく音沙汰がない。
いや、それは恐らく幸いなことなのだが、どうも油断を誘っているような気がして気味が悪かった。

(しかし、暇だ……)

……なんだかんだ言って、御坂妹は話し相手としてはかなり優秀だったと思う。
何処から得た知識なのかは知らないが、彼女は意外と色々なことを知っていたので何もない時は様々な話をしてくれた。
その知識には異様に偏りがあったが、それでもただ聞いている分には面白かった、と思う。

しかし彼女に比べて一方通行は余りにも何も知らないので、彼から彼女に話し掛けるということは殆ど無かった。
ただ、尋ねられれば答えたし、知っていることは話してやったが、せいぜいそれくらい。彼女には到底及ばなかった、と思う。
彼が知っていることと言えば、冥土帰しの仕事を横から見ていて得た医療の知識と本で得た学問的な知識のみ。
そんな小難しい話をしたってきっと面白くないだろうし、御坂妹だって疲れるだけだろう。

(……やべェ、平和ボケし始めてる)

暇過ぎて、一瞬ちょっとくらいなら外を出歩いても良いかな、と思ってしまった。
しかし彼はそんな腑抜けた考えを一蹴する。
そういう風に楽観的に考えてしまったからこそ起こしてしまった悲劇を、彼はまだ忘れていなかった。

本当なら、いつも病院でそうしていたように眠っていれば良いのだろう。
しかし生憎彼は先程目覚めたばかりで、その上珍しくあまりにもさっぱりと目が覚めてしまったので二度寝する気になれなかったのだ。
だから、今も彼はこうして暇を持て余している。
眠気は全くないのに、暇な所為であくびまで出てきてしまっ……、駄目だこれマジで平和ボケしてる。

(人通りの少ないところなら大丈夫か? 俺一人が襲われるくらいなら平気だろォしな)

いっそのこと襲い掛かってきてくれた方がこの平和ボケも少しは改善されそうだ。
ちなみに追手でなくても良い。スキルアウトでも可。
とにかく今は、ほんの少しでもいいから緊張感を取り戻したかった。

いつまでもこんな調子では、いざ本当に強敵が襲ってきた時に手も足も出ない、なんて事態になりかねない。
身体を鈍らせない為にも、適度な運動が必要だった。



―――――
516 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/23(水) 13:34:11.54 ID:SFobUqfxo

一方その頃。
一方通行を置いて外出していた御坂妹は、彼女が寝泊まりしていた研究所とはまた別の研究所にやってきていた。
Sプロセッサ社、脳神経応用分析所。
例の実験における重要な研究者の殆どは、ここで研究を行っている。

……とは言え、現在は研究らしい研究などほとんど行われていないが。
現在ここで行われているのは、『如何にして一方通行を捕縛するか』を模索する為の会議。

しかし、今回御坂妹がこの研究所にやって来たのはそれを監視する為ではない。
と言うか、監視する意味がない。
何しろその会議には、彼の能力を攻略できる可能性を持った人間は誰も参加しておらず、
ただ頭でっかちなだけで無力な研究者が延々と無意味な話し合いをしているだけだからだ。監視するだけの価値もない。

……いや、一つだけ懸念があると言えば、ある。
けれど御坂妹の目的は、そこではなかった。

(……とは言え、放置するには少々危険でしょうか。ですがミサカたちには何の対抗手段もありませんし、とミサカは一人ごちます)

どんな懸念をしたところで、現時点では放置するしかないのが悔やまれる。
しかしその一方で、もう暫らくは大丈夫だろう、という確信もあった。
そしてその確信を更に強固なものにする為に、釘を刺さなければならない。今日の彼女の目的は、そこだった。

(そこまで心配せずとも彼らなら大丈夫だとは思いますが、とミサカは自らが心配性であることを認めます)

それに、大した危険があるわけでもない。
どうせ研究者たちは、彼女を反対派の妹達と見分けることなどできないだろうから、彼女は自由に研究所内を歩き回ることができる。
完全に同一故に自分たちを殆ど見分けて貰えないことに不満を持ったこともあったが、この姿にはこうした利点もあるのだ。

(今ここでぐだぐだと考えていても埒が明きませんね。さっさと行ってしまいましょう、とミサカは結論付けます)

すると御坂妹はさっさとドアノブに手を掛け、一気に扉を開く。
しかし扉を開いたその先には、研究員は見当たらなかった。どうやら殆どの研究員が会議に参加しているようだ。

(目的の部屋は……、あっちですね、とミサカは脳内の情報を整理します)

立場上この研究所には滅多に来ることがないので歩き慣れてはいないのだが、そこで立ち止まってしまうほど御坂妹は無能ではない。
彼女はミサカネットワーク上に保存されている研究所内の見取り図を参照しながら、しっかりとした足取りで奥へと進んで行く。
その姿に、迷いなど微塵も感じられなかった。



―――――
517 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/23(水) 13:37:47.71 ID:SFobUqfxo


今回に限っては幸運なことに、裏路地に入るとすぐにスキルアウトらしい集団に囲まれた。大体10人くらいか。
腹立たしいことに、か弱そうな見た目が相手に襲いやすそうな印象を与えるらしい。
……とは言え、女子供関係なく能力だけがものをいうこの学園都市で、そんな判断基準にどれほどの意味があるのかは分からないが。

「ようようそこの君ぃ、こんなところで何してるんだい?」

「ちょーど良かった、俺たちお金に困ってるんだよねー。ちょっと貸してくんない?」

いつの時代も、不良の脅し文句というのは大して変わらない。
一方通行は記憶喪失だったが、以前にもこういう風に絡まれたことがあるのか、何となくその台詞に聞き覚えがあるような気がした。

「おいおい、黙ってんじゃねえよ。痛い目に遭いたいのか?」

取りあえず、練習台の確保には成功した。しかし、ここからどうするべきなのかいまいち分からない。
きっとこいつらは、もうすぐ一方通行に殴りかかってくるはずだ。そして、反射の壁に阻まれて為す術もなく地に伏すこととなるだろう。
一方通行が手を下すまでもない。間もなく、彼らは自滅する。

だが、それではいけないのだ。
突っ立っているだけでハイ終了、なんてのは何の練習にもならない。ただスキルアウトを虐めているだけだ。
つまり一方通行は、自分から何らかのアクションを起こし、戦いらしい戦いをしたいのだが。

(……動体視力と反射神経には自信があるが、喧嘩なンかしたことねェからなァ。まず、最初はどォいう攻撃をするのが良いンだ?)

一方通行は、完全に目の前のスキルアウトを無視して考え込んでしまっている。
もちろん彼の場合はそれでもまったく問題ないのだが、その余裕ぶった態度がスキルアウトの癪に障ったようだ。
痺れを切らしたスキルアウトの一人が、さっそく一方通行に殴りかかろうとする。

(あ、不味ィ)

しかしその攻撃を、一方通行はひょいっと回避した。
彼の背後にあった壁にスキルアウトの拳が激突し、実に痛そうな打撲音を響かせる。
……尚、当然ながら一方通行に先の攻撃を避ける必要性など皆無だ。
だがあのままでは彼の能力に驚いたスキルアウトたちが脱兎のごとく逃げ出してしまうことは明白だったので、あえて回避したのだ。

(反射を使わずに、どれくらい戦えるか……、これで行くか)

もちろん反射は既に展開中だが、できるだけ相手に反射に触れさせずに戦おう、ということだ。
垣根や木原との戦いで、反射の通用しない敵がいることは判明している。
うち垣根には対応できたが、木原の攻撃は未だに解析が進んでいない。どう考えても、ただの打撃としか言いようがないのだ。
つまり、一方通行の反射には打撃に対する何らかの脆弱性があるらしい。

だからこうして訓練して、打撃自体に触れないように行動できるようになれれば良いのではないか?
こいつらの動きはあの木原数多には遠く及ばないが、少なくとも訓練にはなるはずだ。それも、戦闘経験の少ない一方通行には丁度良いレベルの。
……そう考えた一方通行の行動は、早かった。
518 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/23(水) 13:41:16.03 ID:SFobUqfxo

「ッ、てえ!」

「この、なめやがって!」

まずは、目の前にいて最も彼の動きを制限している男を蹴り飛ばした。
そこから不良たちの輪を抜け出し、手近にいた男の背中を回し蹴りで吹き飛ばす。
次いで殴り掛かってきた男の攻撃も、首を捻って容易く回避した。
ベクトル操作のお陰で多少無茶な体勢をしてもバランスを保てるので、反応さえできれば回避自体はそう難しいことではない。

(ン、意外と行けるモンだな)

能力で攻撃の威力も上げているので、大抵のスキルアウトは一撃でのすことができる。
そんな攻撃と回避を繰り返している内に、彼はあっという間にすべてのスキルアウトを撃退してしまっていた。
あまりにもあっさりと片付けることができたので、逆に拍子抜けしてしまったほどだ。

(学園都市の裏路地事情には詳しくねェが、スキルアウトってのは皆こンなモンなのか? 意外とちょろいな)

確か上条は相手が三人だったら迷わず逃げるとか言っていたが、あれはもしかして上条なりの謙遜だったのだろうか。
いや、もしかしたら持ち前の不幸を発揮してやたら強いスキルアウトに当たってばかりだったのかもしれない。

(でも上条には能力ねェしな……。相手も能力無しだったらそンなモンか? いや、でもアイツ垣根帝督とタイマン張ってたよな……)

殴打という攻撃手段しか持たない上条とは相性が悪かったので勝利には及ばなかったが、それでも上条は接近戦で垣根と互角に戦っていた。
垣根が一体どれくらいの身体能力を持っているかは分からないが、流石にスキルアウト以下と言うことは無いだろう。

いや、それでも垣根帝督の場合は能力の方が強いのだから、身体を鍛えているとは言ってもそちらに重点は置いていないはずだ。
それに上条は「三人以上なら迷わず逃げる」と言っていたので、もしかしたら二人なら余裕なのかもしれない。
それなら単純身体能力で上条と拮抗していたのもまあ理解できるかもしれないが……。
と言うか、上条の場合は火事場の馬鹿力とかそういうものが働いているような気もする。

(…………、腹、減ったな……)

そう言えば、昼に起きてから何も食べていない。
つまり、昨日から何も食べていなかった。腹が空くのも道理と言うもの。
一方通行は進路を塞いでいたスキルアウトの身体を蹴って道を開けさせると、昼食を求めて人の少ない通りへと出て行った。



―――――
519 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/23(水) 13:44:43.03 ID:SFobUqfxo


「……相変わらず、暢気な奴」

顔に大きな刺青を入れた白衣の男、木原数多がパソコンのモニタに映る一方通行を眺めながら呟いた。
……現在、彼らは一方通行を監視することしかできなくなっていた。
別に上からそういう命令が下ったわけではない。単純な戦力差によって、おいそれと手を出せなくなってしまったのだ。

「一方通行だけでしたらあなた一人でも対処できたでしょうけどね、とミサカは他人事のように分析します」

「……で、お前はなんでここに居るんだ。ああ?」

けろりとした顔で木原の隣に座っているのは、反対派の妹達ではない。
こともあろうに、推進派のリーダー格であるミサカ10032号、つまり御坂妹だった。

「お前は俺の敵だろうが。何で平気な顔してそんなとこに座ってるんだよ」

「これは敵情偵察です。あなたたちがどんな悪巧みをしているのかスパイしに来たのです、とミサカは自らの目的を暴露します」

「そうか。帰れ」

木原は「それ以前にコイツをここまで通したのは誰だ馬鹿どもめ」などとぶつぶつ言っていたが、御坂妹は全く気に留めない。
それに文句を言ったところでどうこうできるという問題ではない。
彼女たちは遺伝子が同一なだけあって本当にまったく同じ顔をしているので、見分けるのは非常に難しいからだ。
……ただし、この様子を見るに木原にはある程度見分けがついているようだが。

「ふむ。ですがそちらも何の進展も無いようですし、これ以上ここに居ても仕方がないのでお暇させて頂きますか、とミサカは席を立ちます」

「そうしろ。そして二度と来るな」

そうは言うものの、木原はほとんど彼女の侵入を阻むことを諦めてしまっている。
何故なら、『反対派』の妹達と『推進派』の妹達を見分けて入場を制限することなど、ほとんど不可能に近いからだ。

こと妹達のことに関しては、どうしても上位個体を擁しているあちらの方に分がある。
何度か対策を講じたことはあったものの、それらはすべて最終信号(ラストオーダー)の上位個体権限の前には無意味だった。
なので最近は妹達が上位個体権限を無視できるようにする為の装置を開発しているのだが、なかなか難航しているようだ。

「ああ、それからこちらの方も作戦会議は難航しています。もうミサカたちの出る幕はないのではないか、と言う意見まで出てしまう始末ですよ?
 とミサカはミサカたちの事情を明かします」

「…………。それはどういうことだ?」

「どういうこと、とは? とミサカは首を傾げます」

「どうしてわざわざ俺にそんなことを教える。優位に立ってるからって余裕を見せつけているつもりか?」

「どう解釈してもらっても構いませんが、その上でお答えしますとミサカがフェアではないと判断したからです。
 それに、報告したところでこちらには何の害もありませんから、とミサカは嫌味に言い放ちます」
520 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/23(水) 13:50:03.20 ID:SFobUqfxo

「フン。精々今の内にその余裕を楽しんでおくんだな」

「…………。少なくとも、あなたたちは手段を選ぶであろうとミサカたちは信じています。お願いしますよ? とミサカは念を押します」

「……はッ。下らねえ」

忌々しそうに呟く木原に御坂妹はぺこりと頭を下げると、そのまま研究室を出て行った。
残された木原は、彼女の言葉を思い返して歯噛みする。

……そうだ。まったくもって、下らない。
それでもそれだけは、使ってはならない手だった。人間として残された良心の、最後の一線だった。
しかも、それだけではない。
一歩間違えれば、それはこの実験そのものをすべて台無しにしてしまいかねない。
だからそれはこの状況において最も有効な一手であるにも関わらず、絶対に使ってはならない禁断の一手だった。

(……、くそ。八方塞りか)

作戦会議は現在も難航しているだろう。しかしほとんど手詰まりであることを、奴らも本心では理解しているはずだ。
だからこそ、最後の強硬手段に出るのではないかと不安でならなかった。
もしそうなってしまったら、今までやってきたことが全て水泡に帰してしまいかねない。
彼らも推進派の妹達も反対派の妹達も研究者も誰も望まない、最悪の結末。

そして何よりも心配なのが、反対派の妹達だ。
彼女たちは今、極限まで追い詰められた状態にある。
実験再開が絶望的になり、事実上処刑を待っているだけの状態になっているのだから、当たり前と言えば当たり前だが。

……しかし本当に怖いのは、そういう状態に陥ってしまった人間だ。
奴らは、手段を択ばない。

どうすることも出来なくなって破れかぶれになり、本来の目的も忘れて最悪の選択をする。
そうしかねないだけの雰囲気が、今の彼女たちにはあった。

(作戦会議で何か良い案が出ることを期待するしかねえな……)

とは言え、自分はここで監視の任に就かされ、肝心の垣根は大怪我で療養中。
こんな状態では、良い案など出るはずもない。
木原はらしくもなく疲れた顔をすると、すっかり冷めてしまったコーヒーを一口啜った。



―――――
521 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/23(水) 13:53:25.05 ID:SFobUqfxo


「ただいまー、とミサカは帰宅の挨拶をします」

「ハイハイ、おかえり」

御坂妹が現在の住居たる廃ビルに帰って来ると、一方通行は机に突っ伏してぐだっとしているところだった。
しかし彼は御坂妹がが帰って来るとすぐに起き上がり、彼女に向かいに座るように促す。

「おや、わざわざ夕食を買ってきてくれたのですね、とミサカは目を丸くします」

「俺が気を利かせるのがそンなにおかしいか? 黙ってさっさと食え」

「それではありがたく頂くことにします、とミサカは食事の挨拶をします。いただきます」

「……いただきます」

二人は小気味良い音を立てながら割り箸を割ると、それぞれ机の上に用意されたコンビニ弁当にありつく。
学園都市の科学力のお陰で、購入してからかなり時間が経っているにも関わらず出来立てほかほかの暖かさと美味しさだった。
弁当箱は使い捨ての容器だというのに、ここまでしてくれるとは有り難い。
基本的に学園都市はそのあまりある科学力を碌でもないことばかりに使っているのだが、こういうものを見るとなかなか捨てたものではないなと思える。

「つゥか、オマエは今日何してたワケ?」

「野暮用です。とミサカは秘密主義を貫きます」

「ふゥン。まァ別に良いけどな」

一方通行は本当に感心無さそうにそう言うと、弁当の唐揚げを口に放り込んだ。
その一方で、御坂妹はいったい何をそんなに慌てることがあるのか、まるで掃除機のように弁当を口に掻っ込んでいる。

「……もォちょっと落ち着いて食えねェのか。腹壊すぞ」

「はっ、申し訳ありません。行儀が悪かったですね、とミサカは自らの行動を反省します」

「よっぽど腹が減ってたのか?」

「まあそんなところです。少々野暮用が重なってしまいまして昼食を食べることができなかったので、とミサカは事情を説明します」

「メシはちゃンと三食食えよ。身体に悪ィらしいからな」

「三食と言うか、近頃は朝食を抜く人が多いのでそちらの方の注意喚起としての三食では? とミサカは自己解釈を提示します」

「そォなのか? どっちにしろしっかり食うに越したことはねェだろ。腹が減ってはナントカって言うしなァ」

「それもそうですね、とミサカは納得します」

それを聞いた御坂妹は興味深そうにうんうんと頷いていたが、口の周りを汚したままなので残念ながらただの間抜けにしか見えない。
そんな彼女を見兼ねた一方通行は、黙って彼女に向かってティッシュを差し出してやった。
522 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/23(水) 13:57:47.43 ID:SFobUqfxo

「おお、ありがとうございます、とミサカは有り難くティッシュを受け取ります」

「ったく。仮にも女なンだからもォ少し外面を気にしろっての」

「気にしているつもりなんですけどねえ、とミサカは他人事のように……、あ。そう言えばお話があるのでした」

「? なンだ?」

食事の手を一旦止めて、一方通行は御坂妹を見やる。
とっくに食べ終わって弁当箱と箸を綺麗に机の上に並べていた御坂妹は、正座をするとぴっと姿勢を正した。

「明日からあなたはミサカの研究所に就職することになっていることは分かっていますよね? とミサカは確認を取ります」

「あァ、今更な確認だが」

「ミサカの研究所は早い時間から稼働しているので、明日の朝もあなたの紹介の為に早めにここを出たいのですが、大丈夫でしょうか?
 ああ、あくまでアルバイトの扱いなので実際の勤務時間はもう少し遅くなると思いますのでそこはご心配なく、とミサカは補足も忘れません」

「具体的には何時頃だ?」

「そうですね、6時にはここを出たいです。ここを引き上げる為の準備もありますので、起床は5時くらいが好ましいかと、とミサカは提案します」

「分かった。……今日は早めに寝るか」

「そうしましょう。とは言えあなたはいつも早寝ですけどね、とミサカは思い返します。と言うか、睡眠時間が長過ぎやしませんか?」

「仕方ねェだろ、眠ィンだからよ。ホラ、食い終わったンならゴミ袋に入れろ」

「了解しました、とミサカはゴミ袋を受け取ります」

ビニール袋を受け取るなり、御坂妹はてきぱきと後片付けを始めた。
それに少し遅れて食事を終えた一方通行も同じように片付けをしていると、ふと御坂妹からの視線を感じて振り返る。

「……なンだ?」

「いえ。……今日、あなたは何をしていたのですか? とミサカは好奇心から質問します」

「あー……、特に何もねェよ。メシ食って寝ただけだ」

「まるでニートのような生活ですね、とミサカは呆れます」

「好きでこンな生活してるンじゃねェっての。ったく……」

一方通行は溜め息交じりにそういうと、御坂妹が帰ってきた時と同じように机に突っ伏した。
……食べて寝ただけにしては、少々お疲れ気味のようだが。
御坂妹はほんの少しの違和感を感じつつも、自分も似たようなものだから追及する必要もないか、と思い直した。


523 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/23(水) 13:59:52.34 ID:SFobUqfxo
全然話が進んでいませんが、今回はここまでです。
お付き合いありがとうございました。
毎回一週間以内と言っているのに大体4日くらいで投下しているので、少し自分を追い詰めて次回は5日以内に。
これで少しは投下速度が速くなると良いのですが。

それでは、お疲れ様でした。また次回。
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 14:54:32.69 ID:L4uIJnl70
まとめサイトから飛んできた
文章上手いし話も単調じゃなくて好きだ
完結待ってる 乙ー
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 03:21:03.14 ID:bteu2sBWo
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 02:44:19.25 ID:xofH/Ica0
この物語の謎はすべて解けた

結論:犯人はヤス
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 06:30:29.73 ID:y7zqw4pDO
最初から一気に読んで追いついたー、乙なのだよ

しかし、一方通行と御坂妹の絡みは何故か癒されるww
528 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/26(土) 00:35:36.93 ID:NyUj8khEo
いつもコメントありがとうございます、本当にうれしいです。
それでは、今日も投下して行きますね。
529 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/26(土) 00:39:37.39 ID:NyUj8khEo

一方通行が連れてこられたのは、入り組んだ路地裏を延々と行った先にある大きな研究施設だった。
門に掛けられていた看板にあった名前は、バイオ医研細胞研究所。
どうやらここが御坂妹がお世話になっている研究所らしい。そして、これから彼が働くことになる場所でもある。
一方通行は先行して道案内をしてくれている御坂妹の後ろに付いて行きながら、周囲を見回していた。

「研究所は珍しいですか? とミサカはきょろきょろしている一方通行に尋ねます」

「まァな……、一度それっぽいところに来たことはあるが、こンなに奥まで入ったのは初めてだ」

「……そうですか。ミサカにとっては見慣れたものなのですがね。
 とは言えあなたは記憶喪失で経験も少ないですし、見覚えが無いのも当然ですか、とミサカは一人納得します」

「そりゃそォだろ……、っと、ここか?」

歩いていた二人は、それまで並んでいた扉よりも若干大きな扉の前で立ち止まった。
扉に付けられている表札には、『調整室』の文字。

「そうです。よく分かりましたね、とミサカはあなたの鋭さに驚きます」

「なンとなくだ。ほら、入るぞ」

一方通行は御坂妹の返事を待たずに、さっさと扉を開いてしまう。その先に広がっていたのは、異常にだだっ広い広間のような部屋だった。
しかし、その部屋には所狭しと巨大な培養器が並べられている。
今はどの培養器には何も入っていないようだったが、一方通行はその培養器の使用用途を何となく悟った。

「おや、もう準備は完了していたようですね、とミサカは彼女の仕事の速さに感心します」

「……? 誰もいねェじゃねェか」

御坂妹の言葉に首を傾げながら、一方通行は調整室に足を踏み入れた。
そして彼は、誰も居ないという認識が間違っていたことを知る。

「あら、もう来たのね。早かったじゃない」

培養器の陰に隠れるようにして立っていた一人の女性が、二人の存在に気付いて声を掛ける。
その声に一方通行が視線を向けてみると、そこには白衣に身を包んだ女性研究者の姿があった。

「予定時刻にぴったり到着しましたが、早いですか? とミサカは首を傾げます」

「少し遅れるかもしれないと思ったから。ああ、早いに越したことは無いから大丈夫。準備も完了しているしね」

「…………?」

話について行けない一方通行は、その場に突っ立っていることしかできなかった。
それに気付いた女二人が、くるりと同時に一方通行を見やる。
そのタイミングが示し合わせたのではないかと思うくらい綺麗に揃っていたので、一方通行は思わずびくりとしてしまった。

「ごめんなさいね、話し込んじゃって。ようこそ一方通行、わたしは芳川桔梗。そしてここが今日からキミが働くことになる場所よ」

「厳密にはこの部屋での業務ではないのでその表現は些か間違っていますが、とミサカは訂正を入れます」
530 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/26(土) 00:42:45.00 ID:NyUj8khEo

「あら、同じ研究所内なんだから似たようなものよ? それじゃ一方通行、今日からよろしくね」

「……よろしく」

にこにこと笑顔を浮かべながら差し伸べられた芳川の手を、一方通行が恐る恐るといった様子で取る。
芳川は取られた手を軽く握って更に笑みを深くすると、そっと彼の手を解放した。

「それじゃ、早速これからキミにやってもらう業務について説明するわね。少し専門知識が必要だけど、まあキミなら大丈夫でしょう」

「一方通行。ミサカは少々席を外しますので、彼女の言うことをきちんと聞いて行動してくださいね、とミサカは言い聞かせます」

「あ、あァ」

「それでは頑張ってください、とミサカは応援の言葉を口にします」

それだけ言うと、御坂妹は来た道を戻るようにして何処かへと去って行ってしまった。
一方通行はそんな彼女を見送ると、すぐに芳川に向き直る。

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ、難しいことじゃないし。取りあえずわたしたちも移動しましょうか。資料もここにはないしね」

一方通行が黙って頷くのと見ると、芳川は調整室を出て御坂妹の去って行った方向とは反対側の廊下へと向かって行った。
当然、一方通行はそれを追い掛ける。
気味が悪いくらい綺麗に清掃された白く明るい廊下を暫らく歩いていると、やがて芳川がある一室の前で立ち止まる。

表札に書かれている名前は、『資料室』。
調整室と違って扉の大きさは他の部屋と変わらないので、慣れない内は見つけるのに手間取ってしまいそうだ。

「ここよ。入って」

芳川に促されて入った室内には、その名の通り膨大な資料が詰め込まれていた。
壁一面に本棚が並べられているにも関わらず、そこに収まらなかった本や書類が床に直接積み上げられている。
これでは目的の資料を見つけるのにも時間が掛かってしまうのではないかと思ったが、意外にも芳川はすぐに必要な資料を見つけ出した。

「これね。ちょっと多いけど、ちゃんと目を通しておいて」

「分かった」

「それから……、と」

一方通行に渡された資料の表紙には、『妹達検体調整用マニュアル』と書かれていた。
しかし芳川に言われた通りに目を通したところ、マニュアルには先程の部屋にあった培養器の使用方法などは記していなかった。
彼の仕事には培養器は使用しない、ということなのだろうか。

「妹達の検診と調整用薬剤の扱い方、経過の観察に体調不良時の対処、ね。こンなン素人に任せても大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。あの子たちだって、ちょっと失敗したくらいで死ぬようなヤワな体してないし」

「……それは本当に大丈夫なのか?」
531 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/26(土) 00:46:20.04 ID:NyUj8khEo

何だかだんだん心配になってきた。
先程の御坂妹とのやり取りを見る限りは妹達と仲が悪いとか命を軽んじているとかそういう印象は受けなかったのだが、これはもしかしてそういう信頼なのだろうか。
……こんなに嫌な信頼関係もなかなか存在しないが。

「まあ、そんなに気になるようならキミが細心の注意を払うようにしてちょうだい。キミなら大丈夫だと信じているわ」

「はァ……」

悪びれもせずににこりと笑った芳川を見て、一方通行は溜め息をつくことしかできなかった。
この女、マイペース過ぎる。
御坂妹も大概だが、この女もそれに肩を並べるほどだ。いや、それ以上かもしれない。

「あと、具体的な仕事の内容についてはそれぞれこの資料に書いてあるけど……。文字で読むより実演した方が早いでしょう。行くわよ」

(本当にこの女に付いて行って大丈夫なのか……?)

大量の資料を渡すだけ渡してさっさと部屋を出て行ってしまった芳川の後を追いながら、一方通行は一抹の不安を感じる。
しかし御坂妹が自分のことを任せるくらいなのだから、少なくとも彼女にとっては信頼できる人間なのだろう、とは思うのだが……。

「あ、ストップ」

「……なンだ?」

唐突に立ち止まった芳川にぶつかりそうになりながらも、一方通行は何とか緊急停止する。
すると芳川はこちらに向き直り、さもすっかり忘れていたと言わんばかりの表情をしながらこう言った。

「キミ、『御坂妹』以外の妹達に会ったことはある?」

「あァ? ……直接会ったことはねェが、複数いるらしいことは聞いてる。それがどォした?」

「ここから先、ちょっとびっくりするかも」

「何を今更。こちとら常日頃からオリジナルと並ンでるところを見てンだよ」

「……それもそうね。じゃあ行くわよ」

そうは言いつつも、芳川は未だに不安そうな表情を拭えないままだ。
しかし一方通行は大丈夫だと高を括って、彼女にさっさと扉を開けるように促す。
そんな彼を一応信用したらしい芳川は、一息に扉を押し開けた。

……そこに居たのは。



―――――
532 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/26(土) 00:49:33.35 ID:NyUj8khEo



「はじめまして一方通行、とミサカは挨拶をします」

「あなたたちの様子はミサカネットワークを通じて常々配信されていましたが、あなたは相変わらず白いですね、とミサカは感心します」

「ふむ。やはりネットワークを通じて見るのと実物を拝見するのとでは印象が変わりますね、とミサカは感想を抱きます」

「常々思っていたのですが、どうしてそんなに白いのですか? その美白の秘訣を教えなさい、とミサカは半ば命令口調です」

「ミサカ10032号ばかり遊びに行っていてずるいです。たまにはこのミサカも連れて行って下さい、とミサカは駄々を捏ねます」

「我が儘を言ってはいけません。ミサカ10032号一人の時でさえお姉様はあんなに驚いていたのですから、
 この数のミサカが突然押し掛けて来たらお姉様は失神してしまいます、とミサカは諭します」

「ミサカも遊びに行くということをしてみたかったのですが、
 当分はミサカネットワークの配信で我慢しなくてはならないようですね、とミサカは落胆します」

「そんなことよりさっさと彼の仕事の説明に入った方が良いのでは? とミサカは本題に戻ろうとします」

「ですがやはりこれから付き合うことになるのですから、各々の挨拶と自己紹介くらいは済ませるべきです、とミサカは提案します」

「それではどういった順番で自己紹介を? とミサカは意見を募集しようとします」

「ここは公平にジャンケンをすることにしましょう、とミサカは腕まくりをします」

「いえ、ジャンケンではミサカネットワークを不正使用するミサカが出ないとも限らないので不公平です。
 あみだが良いのではないでしょうか、とミサカは対抗意見を出します」

「ミサカは」

「ミサカは」

「ミサカは……」

……こンなの、御坂じゃなくても失神するわ。
そんなツッコミを何とか胸の中に押し留めた一方通行は、とにかくミサカの大群を前に呆然とすることしかできなかった。

それもその筈、彼女たち妹達はこの大して広くもない部屋に、少なく見積もっても百人以上は詰め込まれていたからだ。
何処にどう視線を動かしても、ミサカが視界の何処かに必ず入る。
どうすれば良いのか分からなくなって、一方通行は助けを求めるように芳川を見た。

「ああ、心配しなくてもこの子たちはいつもここに閉じ込められてる訳じゃないわ。
 何の説明もなく突然彼女たちをキミの目に触れさせてしまったらキミを混乱させてしまうと思ったから、
 一時的にこの子たちにはここに避難して貰ってただけよ」

「ンなことを訊いてンじゃねェよ! なンだこの御坂妹の大群は!」
533 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/26(土) 00:53:09.78 ID:NyUj8khEo

「あら、ここに彼女は居ないわよ?」

「そンなン見りゃ分かる。似てるから便宜上そう呼ンだだけだ」

「……そう? とにかくそれはそれとして、これからキミに受け持って貰うのはこの子たちだから一応挨拶をしておいてちょうだい」

「……俺一人で、コイツら全部か?」

「いえ、まだまだ居るわよ。ただこの子たちの調整は毎日必要な訳じゃないから、一日当たり人数はもっと少ないけれどね。
 キミの今日の仕事は、この子たちの補佐を受けながらこの子たちの健康診断を行うこと。
 細かいことはこの子たちが知ってるからその都度尋ねれば良いわ。分かった?」

「……マジで言ってンのか?」

「もちろん。大マジよ」

芳川は最後にウィンクを付け加えると、「じゃあ後はよろしくね」という非常に簡潔で無責任な台詞を吐いてさっさと部屋を出て行ってしまった。
……無論、妹達の大群の中に一方通行一人を残して。



―――――



「一方通行、遊園地という場所はどのような場所でしたか? とミサカは感想を求めます」

「動くな。ちゃンと検査できねェだろォが」

「一方通行、いい加減その白い肌の秘訣を明かしなさい、とミサカはしぶとく食い下がります」

「オマエまだそンなこと言ってンのか。つゥか邪魔すンな」

「一方通行、次に来る時は食べ物を持って来て下さい。栄養剤生活はもう飽きてしまいました、とミサカはぶーたれます」

「ハイハイ、オマエらが大人しくしてたら考えといてやるよ」

「一方通行、やっぱりミサカも遊びに行ってみたいです。動物園という場所はどうですか? とミサカは提案します」

「……分かったから静かにしろ。集中できねェだろ」

「分かった、というのはミサカの提案を受け入れたということでしょうか? とミサカは期待に胸を膨らませます」

「いえ、この場合はただ単に黙っていてほしかったので適当にあしらおうとしただけでしょう、とミサカは期待を一刀両断します」

「はァ……。頼むからいい加減にしてくれ……」

「……あ、あの、一方通行、とミサカは恐る恐る呼び掛けます」

「今度はなンだよ……って、オマエか。どォした?」
534 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/26(土) 00:55:59.29 ID:NyUj8khEo

「その、診断書のここが間違っています。修正をお願いできますか? とミサカは申し出ます」

一方通行は後ろに控えていたナース服姿の妹達から診断書を受け取ると、彼女の指し示した修正点にざっと目を通す。
そして彼は今日が仕事始めと思えないくらい慣れた手付きで修正を施すと、修正の完了した診断書を妹達に手渡した。

「これで良いか?」

「……、はい。大丈夫そうです、ありがとうございます、とミサカは迅速な修正に感謝します」

「おォ。……オマエはまともそォで助かる」

「そ、そうですか? 色々事情がありまして、妹達の中ではむしろミサカの方が変わり者なのでそう言ってもらえると嬉しいです、
 とミサカは赤面します」

おかしな口癖は妹達そのものだが、彼女は他の妹達とは違って感情表現が豊かだった。
他の妹達は基本的に無表情なのだが、彼女はまるで普通の少女のようにくるくると表情を変える。
確かに彼女のような存在は妹達の中では珍しいのだろうが、一方通行はむしろこちらの方が彼女たちらしいような気がした。
いつも美琴を見ていたからかもしれない。

「俺はオマエみてェな奴の方がとっつきやすいがな。……そォ言えば、オマエの検体番号(シリアルナンバー)はいくつだ?」

「み、ミサカの検体番号は19090です。それがどうかしましたか?」

「いや、識別できるよォに確認しただけだ。ミサカ19090号な、覚え……ン?」

そこで、一方通行はふと作業の手を止めた。
そんな彼の突然の行動に、途中で診断を中断されてしまった妹達とミサカ19090号がきょとんとした顔をする。

「……19090号だと? ……御坂妹は10032号……、だったよな……」

「それがどうかしましたか? とミサカは突然考察モードに入ってしまった一方通行の顔を覗き込みます」

「…………。なァ」

「何でしょうか、とミサカは次の言葉を待ちます」

「……オマエら、全部で何人居るンだ?」

「…………」

途端、先程まであんなに騒がしかった妹達が全員口を閉じた。
その反応に何だか途轍もなく嫌な予感がして、一方通行は引き攣った表情のまま繰り返し尋ねる。

「俺は最初、オマエらの検体番号は10000から始まってるのかと思ってたンだが……。まさか、本当に19090人もいる訳じゃねェよな?
 そォじゃなくても10032と19090の間には9058の差がある訳だが……」

「……さあどうでしょう、とミサカは言葉を濁します」

「オイコラ目を逸らすな。ちゃンと俺の目を見ながら言え」
535 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/26(土) 00:59:52.79 ID:NyUj8khEo

「一方通行、後が閊(つか)えています。早く健康診断を終わらせて次のステップに進みましょう、とミサカはあからさまな話題転換を試みます」

「自分であからさまって言っちまってるじゃねェか。オイ答えろ」

「ぼ、暴力反対です! とミサカはおぶぶぶぶ」

一方通行は片手でミサカ19090号の頬を挟むようにして持ち、自供を促すが彼女はぶんぶんと首を左右に振るばかりだ。
さてどうしてくれようかと彼が凶悪な笑みを浮かべると、唐突に頭にこすんという衝撃が浴びせられた。

「ッで!?」

「こら、何をやっているの」

「……チッ、オマエか」

頭を押さえながら振り返れば、芳川桔梗がそこに立っていた。
その手にポートフォリオを持っているので、どうやら彼女はこれの角を使って一方通行を攻撃したようだ。
省エネの為に反射を切っていた所為でまともに喰らってしまった。非常に痛い。

「この子たちをあんまり困らせないの。キミは一応この子たちより年上なんだから、もうちょっと大人にならないと」

「分かってるっつゥの。……で、さっきも訊きそびれたンだがコイツらは結局何人居るンだ?」

「二万人よ」

「…………、……!? にまッ……!?」

さしもの一方通行も、その数を聞いて驚愕を露わにした。まさか、本当にそんなにも膨大な数のクローンがいるとは思っていなかったようだ。
そんな彼を見たミサカ19090号が、おろおろとしながら芳川に近付いて行く。

「そんなことを彼に教えてしまって良かったのですか? とミサカは芳川桔梗の大胆さに戸惑うことしかできません」

「良いのよ、いつまでも隠しておけることじゃないしね。それにこのくらいなら問題無いでしょう」

「それなら良いのですが……、とミサカは渋々納得することにします」

「ほら、君もいつまでもそんなに動揺していないで頂戴。次の仕事に取り掛かって貰うんだから」

「……オマエなァ」

一方通行は、既に驚愕から脱していた。いや、今はもう、驚いているというよりも怒っているようだった。
彼は敵意を隠そうともせず、芳川を睨みつける。
しかしそんな彼の白衣の裾を、ミサカ19090号がくいっと掴んで引っ張った。仕方なく、一方通行は彼女に目を向ける。

「その、あなたはお姉様のことを存じていますから、一体どういう心境にあるのかは何となく予想が付きます。
 ですがミサカたちは、彼女たちのような研究者たちのお陰で生まれてくることの出来た命なのです。
 確かにきっかけは悪意に満ちていたかもしれませんが、それでもミサカたちは生んでくれた彼らに対して感謝しています。
 ……だから、あの、彼女たちを責めないであげて下さい、とミサカは懇願します」
536 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/26(土) 01:03:01.79 ID:NyUj8khEo

「…………クソ」

一方通行は忌々しげにそう吐き捨てると、芳川から視線を逸らした。
それを見たミサカ19090号はほっとした顔をすると、白衣の裾からゆっくりと手を放す。

「それじゃ、お話も終わったところで次に行きましょうか」

「おい、待て。コイツらの診断はまだ終わってねェぞ、どォするつもりだ」

「流石に初日からその子たち全員を診ろなんて難易度の高いことは望んでいないわ。
 今回はあくまで練習の為に数をこなしてもらうつもりだったのだけれど、まさかもうここまで終わらせてるとは思わなかったし。
 診断書もこれなら文句なしね」

「……そォかよ」

それでもまだ彼女に対する不信感を拭えていないらしく、一方通行はぶっきらぼうにそう答えた。
芳川はそれを見て苦笑いしていたが、不意に何者かに袖を引かれて振り返る。

「ちょっと待ってください。それではまだ診断の終わっていないミサカたちはどうなるのですか? とミサカは問い詰めます」

「こちらの準備や説明も終わったから、他の研究員にやらせるつもりよ。それがどうかした?」

「酷いです! ミサカたちも彼に診断して貰って、もっとお話をしたかったです! とミサカは主張します!」

とあるミサカを筆頭に、まだ診断して貰っていない妹達が同調するように頷いた。
そして次々と抗議の言葉を浴びせてくる妹達を見てぽかんとしながら、芳川が一方通行に視線を向ける。

「キミ、大人気じゃない。一体どんな手を使ったの?」

「知るか。勝手にコイツらが懐いてきたンだよ」

「この子たち、あまり他人には懐かない筈なんだけど。羨ましいわね」

「……こっちはいい迷惑だ」

一方通行は相変わらず不機嫌そうな表情のままそう呟いたが、芳川の目には案外満更でも無さそうに見えた。
そんな彼を見て芳川は微かに微笑むと、騒ぐ妹達を宥めに掛かった。


537 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/26(土) 01:03:47.16 ID:NyUj8khEo
投下終了。次回は一週間以内です。
ここまで読んで下さってありがとうございました。
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 01:04:59.25 ID:xH1bR2BFo

さて何人生きてるかな
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 01:11:23.68 ID:gDzJlPN3o
みんなかわいいな。妹だけに限らず。
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/26(土) 01:13:01.78 ID:UY3m1S4X0
乙過ぎる。
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 01:23:09.50 ID:Ojv3hmxAO
>>1
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 01:45:45.84 ID:3UrqM/WDO
乙乙ー

一方さんハーレムすなぁ
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 10:44:06.52 ID:P4gO3UuIO
かわゆすなぁ
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 11:37:53.18 ID:Efhhc2Reo
>>538
レス数×2〜3人はromってるぞ

545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 12:09:07.20 ID:71CpGVwk0
おつおつ

一方さん、ちょっと代わろうか?ちょっと。な?な?
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 14:10:20.55 ID:UHclNoKM0
一方さんの人気に嫉妬

547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/26(土) 21:35:00.67 ID:zRfXR3m/0
やっと追いついたー乙

一方さんに診察してほしい!!
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 16:03:08.15 ID:vhrudPdIO
>>544 そんな少ない訳ないだろw
549 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/28(月) 18:11:30.79 ID:eUvk8S8ro
どうもこんにちは。
何だか自分が想像しているよりも多くの人に見て貰っているようで驚きました……

とりあえず、投下して行きます。
550 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/28(月) 18:13:21.82 ID:eUvk8S8ro

妹達の診断方法、研修済。
経過の観察方法、研修済。
資料の整理方法、習得済。
調整用薬剤の扱い方、習得済。

……そして最後に覚えるのは、妹達の体調不良時の対処方法だ。

芳川の後について医務室へと向かっている一方通行は、またあの騒がしい妹達と顔を合わせることになるのかと思ってげんなりしていた。
別に彼女たちが嫌いなわけではないのだが、常にあのテンションで引っ付かれていると流石に疲れる。
それに、集中できなくて仕事に支障が出る。
ただでさえ覚えなくてはならないことが多い上に慣れない仕事なのに、邪魔までされてはたまらないのだ。

「こらこら、そんなに嫌そうな顔をしないの。ここにいる子たちは比較的大人しいから大丈夫よ」

「……本当だろォな?」

一方通行が疑うのにも理由がある。
あの診断が終わってからも彼の助手として何人かの妹達と共に行動をすることがあったのだが、その彼女たちが大変はっちゃけていたのだ。
しかもその時芳川は今回と同じように「彼女たちは優秀だから大丈夫」という前置きをしていた。
よって一方通行は、既に芳川の言葉を信用できなくなってしまっているのだ。

「今回は本当よ。それに、わたしはあの時あくまで『優秀だから』と表現しただけであって、大人しいとは言っていなかったわよ?
 優秀であることと騒がしいことは両立しうるわ」

「優秀な助手は仕事してる人間の邪魔したりしねェよ」

「……それも一理あるけど。でもそれ以外の部分は優秀だったでしょう?」

「アレで仕事までできなかったら俺は今頃オマエをぶン殴ってる」

「あら怖い。でもこれからあの子たちはいつもあんな調子になると思うから、今の内に慣れておいた方が良いわよ?」

「……マジか」

その言葉を聞いて、一方通行はあからさまにうんざりとした顔になる。
しかしそんな彼の顔を見て、芳川はにこにこと笑っていた。こっちにしてみればまったく笑い事ではないのだが。

「そんな顔をしないであげて。彼女たちはミサカネットワークでミサカ10032号と記憶を共有しているから、キミにとても興味があるのよ。
 つまり、キミのことを本当の友達のように錯覚してしまっている。だからあまり無下にしないであげて。
 あの子たちは立場上いつもこうした研究所に閉じこもって外に出てはいけないことになっているから、友人もいないの。
 大変だとは思うけど、できるだけあの子たちの話を聞いて欲しいの。きっと彼女たちにとってはそれだけが唯一の楽しみだから」

「…………はァ」

いつもの飄々とした調子ではなく真剣な声音で言う芳川の言葉を聞いて、一方通行は深く溜め息をついた。
……そこまで言われてしまっては、聞いてやらないわけにはいかないではないか。
そしてそんな一方通行の心中を悟ってか、芳川はにこにこと笑っていた。まったく、憎たらしいったらありゃしない。
551 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/28(月) 18:15:25.18 ID:eUvk8S8ro

「あ、そうだわ。すっかり忘れていたのだけれど、これを渡さないと」

「……何だ?」

会話の途中で唐突に立ち止まった芳川は、くるりとこちらに向き直って何かを差し出してきた。
乱暴にそれを奪い取った一方通行は、手の中のそれを見て訝しげな顔をする。
一方通行に渡されたそれは、眼鏡だった。

「何だこれは。俺は視力には自信があるンだが」

「それは視力を補強する為の眼鏡ではないわ。この研究所の機密を守る為のものよ」

「……機密を守る? これでか?」

一方通行は更に不審げに顔を歪めると、眼鏡を矯めつ眇めつし始めた。
どう見ても、何の変哲もないただの眼鏡にしか見えない。確かに度は入っていないようだが……。

「ふふ。流石にちょっと見ただけで見抜かれてしまうような安い技術は使ってないわよ?
 確かにキミなら時間を掛ければ解析できるかもしれないけどね」

「へェ……」

「取りあえず説明をしておくと、それは指定された情報だけを遮断してくれる眼鏡よ。
 眼鏡と該当情報の表記されている場所に特殊な加工が施されていて、
 その眼鏡を掛けている限り絶対に情報を読み取ることができないようになっているの。特殊な暗示を掛けている、と言えるかしら?」

「それなら該当箇所にフィルムでも張って色眼鏡でも掛けさせておけば事足りるンじゃねェのか?」

「それじゃ足りないのよ、ここにある機密情報は本当に危険なものだから。キミも余計な面倒事を背負いたくはないでしょう?」

「……まァ俺が金出してる訳じゃねェから何でも良いけどな。情報の秘匿に高度な技術を使うに越したことはねェだろ」

「そうそう。それじゃ、ちゃんと付けてね」

芳川に促され、一方通行は眼鏡を装着する。
当然ながら眼鏡なんて掛けたことがないので最初は違和感を感じたが、度が入っているわけではないのですぐに慣れた。
ただ、眼鏡を掛けても何が変わったのかよく分からない。これで本当に情報とやらは保護されているのだろうか。

「あら、白衣にもよく似合ってるじゃない。そうしていると本当に研究者みたいね」

「……嬉しくねェよ。大体、こンなに若い研究者もいねェだろ」

「そんなことはないわよ? 長点上機に通っている女の子が一人、ここで研究者として働いているしね」

「その年でこンなところで働いてるのかよ。世も末だな」

「でも良い子よ? キミも、彼女に会ったら仲良くしてあげてね」

「妹達で手一杯だっつの」
552 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/28(月) 18:18:13.79 ID:eUvk8S8ro

「大丈夫よ、彼女は寡黙だから。少なくとも、妹達のようにキミの邪魔をしたりはしないと思うわ」

どこまでも信用できない芳川の言葉を、一方通行は鼻で笑った。
……そうこうしている内に、二人はようやく医務室の前までやってきた。話し込んでいた所為もあるだろうが、随分距離があった気がする。

「ここが医務室だから、ちゃんと覚えてね。それからここにいるのは体調の悪い妹達ばかりだから、あまり乱暴にしないように」

「しねェよ。オマエは俺を何だと思ってンだ」

「冗談よ。開けるわよ」

くすくすと笑いながら、芳川が医務室の扉を押し開ける。
医務室の中は想像よりも遥かに広く、数えるのも億劫になるくらいの数の寝台がずらりと並べられていた。
とは言え、現在使われている寝台は5、6台程度だ。そこに、顔色の悪い妹達が横たわっている。

「……どォしてこンなに広いンだ?」

「ミサカネットワークの関係で、同時に大勢の妹達が体調不良を訴えることがあるのよ。その為に、ベッドは大目に用意してあるの」

「それじゃ、逆に足ンねェンじゃねェのか」

「その通りだけれど、妹達の研究を行っているのはここだけではないから。それでも流石に二万台は無いと思うけどね」

「それで大丈夫なのか?」

「流石に二万人全員が一度に体調を崩すことは無いから大丈夫。
 それにミサカネットワークの方もこまめに調整してるから、そもそも滅多にそんなことは起こらないしね」

話しながら、芳川は医務室の妹達に近付いていく。
そして手際よく妹達の診断を始める彼女を見ながら、一方通行も医務室に足を踏み入れた。

「じゃ、これからこの子たちの体調不良時の対処方法を教えるわよ。そっちに座って頂戴」

「あ、あァ」

「少し難しいから、ちゃんと見ていてね。……ミサカ10039号、ちょっと良いかしら?」

「……はい、とミサカは体調不良をおして起床します」

「ごめんなさいね。これからあなたの治療を始めるから、ちょっと付き合って欲しいのだけれど」

「了解しました、とミサカは起き上がります」

熱があるのか、少し顔の赤い妹達……ミサカ10039号が半身を起こす。
芳川は寝台の傍らに置いてあった機械から伸びているコードを、ぺたぺたと手際よく取り付けていった。

「それは?」

「妹達の状態を検査する為の装置よ。この子たちはデリケートだから、弱ってる時の検査は細心の注意を払わないといけないの。
 だから万全を期して、こういう装置で体調を診断してるっていうわけ」
553 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/28(月) 18:20:49.68 ID:eUvk8S8ro

「さっきの奴らみてェに、普通に診断するンじゃ駄目なのか」

「本当にただの風邪ならそれでも構わないんだけど、体質上この子たちはもっと複雑で深刻な状態にあることがあるから。
 こっちの方が確実で安全なのよ」

「ふゥン……」

気のない返事だったが、一方通行の目は真剣そのものだった。
芳川の一挙一動を漏らさずに正しく記憶し、次に自分が妹達を看るときに決して間違いが無いようにしようとしている。
そういう彼の姿勢は立派なのだが、極めて注意深く観察されている芳川は珍しく緊張していた。
もし自分がほんの少しでも間違えば、一方通行にも影響が出るからだ。彼は彼女の行動を、そのままそっくり記憶してしまう。

「……これで、取り付けは完了。大丈夫?」

「ああ、覚えた」

「で、次は装置の操作方法。きちんと手順を覚えてね」

「分かった」

すべてのコードを取りつけ終わった芳川は、ミサカ10039号を再び寝台に寝かせると次に装置を起動させた。
静かな稼働音が鳴り、ディスプレイに起動画面が表示される。
そして芳川は何度か操作盤を叩き、ミサカ10039号の診断を開始させた。

「これが診断開始までの手順。結果が出るには少し時間が掛かるから、もうちょっと待ってね」

「この装置なら、妹達に負荷は掛からねェのか」

「流石にまったく掛からないというわけではないけど、殆ど掛からないわ。少なくとも体調に影響が出るようなことは決してないし」

「こンなの、病院では見なかったが」

「そりゃあ、学園都市の最新技術だからね。結構な値段が張るから、普通の病院じゃとてもじゃないけど導入できないわよ?」

「この研究所には結構な予算が注ぎ込まれてンのか」

「……その通りよ。詳しいことは聞かないでね、機密だから」

「コイツらが造られた理由もか?」

「ええ、機密よ」

「…………」

一方通行は不満そうな顔をしたが、余計なことを訊くべきではないと思ったのか口を噤む。
きっと、自分が知って良いようなことではないのだろう。
それに一方通行は、ここで働かせて貰っている身だ。せっかく御坂妹が紹介してくれた仕事なのだから、下手なことをして解雇されるわけにもいかない。
……単純に、生活の問題もあるが。
554 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/28(月) 18:22:47.70 ID:eUvk8S8ro

「さ、診断終了まではもう少し時間があるからお茶でも淹れてくるわ。紅茶で良いかしら……っと、キミはコーヒー派だったわね」

「…………? その通りだが、何でそれをオマエが知ってンだ?」

「……えっ、あ、ミサカ10032号に聞いたのよ。キミはいつも喫茶店でコーヒーばかり飲んでるって」

「そォか……?」

確かに一方通行は事あるごとにコーヒーを飲んでいるので御坂妹がそれを知っていてもおかしくはないが、
彼女と喫茶店に行ったことなど数えるほどしかないのだが。
しかし彼は勝手に二人の会話の間で齟齬があったか芳川の自己解釈が入ってしまったのだろうと思い込み、特に追及しなかった。

「とにかく、コーヒーを淹れてくるわね。キミはそこでミサカ10039号の様子を見ていてちょうだい」

「異常があったらどォすりゃ良いンだ?」

「わたしに報告してくれるだけで良いわ。本人が話せるような状態だったら、その指示を聞きながら対処して」

「了解」

一方通行の返事を聞くと、芳川は隣の部屋へと消えて行ってしまった。どうやらあそこが給湯室らしい。
手持ちご無沙汰な一方通行は暫らくじっと装置のディスプレイを眺めていたが、不意に白衣の裾を引かれてそちらに目を向けた。

「何だ? どっか悪いのか?」

「い、いえ。ミサカの症状は恐らく風邪ですのでそこまで心配されるほどではありません、とミサカは自己の症状について報告します。
 それより……、その、ミサカとお話をして下さいませんか、とミサカは申し出ます」

「……オマエもか」

呆れたように言う一方通行を見て、ミサカ10039号は少し不安そうな表情を浮かべた。

「駄目、でしょうか……、とミサカは落胆します」

「……別に、そォいうわけじゃねェよ。構わねェ」

「そうですか。それは良かったです、とミサカは安堵します」

「ただし、無理はすンじゃねェぞ。体調が悪化したら元も子もねェ」

「それは重々承知しています。……それで、その、お姉様たちのお話をして欲しいのです、とミサカはリクエストします」

「……御坂か。やっぱり自分たちのオリジナルは気になるモンか?」

「そう、ですね。オリジナルである以上に、『お姉様』ですから、とミサカはミサカたちのお姉様に対する認識の修正を求めます」

「そォか。悪かったな」

「いえ、とミサカは……げほ、ごほっ」
555 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/28(月) 18:25:08.84 ID:eUvk8S8ro

突然咳き込み始めたミサカ10039号の背中を、一方通行は慌てて擦ってやった。
風邪を引いているくせにこんなに喋れば、こうなるのは当たり前だ。
やがて彼女の咳が収まると、一方通行は背中を擦っていた手を離して彼女に毛布を掛け直してやる。

「ったく、風邪っぴきの癖にそンなに喋るンじゃねェっての。話してやるから、オマエは黙って聞いてろ」

「……はい、とミサカは大人しく返事をします」

「その口癖も難儀なモンだな。……そォだな、何から話すか」

一方通行は少し考えてから、ゆっくりと美琴と上条と御坂妹のことについて話し始める。
彼はあまり話すのが得意ではないからぎこちない語りだったが、ミサカ10039号はそんな彼の話をじっと聞いていてくれた。
……給湯室でお湯が沸くのを待っていた芳川は、微笑ながら二人の語らいに聞き耳を立てていた。



―――――



「……随分遅かったじゃねェか」

「あら、空気を読んだつもりだったのだけれど。余計なお世話だったかしら」

「そォかよ」

先程までずっと一方通行の話を聞いていたミサカ10039号は、流石に疲れてしまったのか、眠ってしまっていた。
しかし、その手は未だに彼の白衣の裾を握ったままだ。
どうやら一方通行は、相当彼女たちに懐かれてしまったらしい。……理由は、何となく想像がつくが。

「はい、コーヒー。暖かいから安心して」

「……まるでコイツが寝るタイミングが分かってたみてェだな」

「分かるに決まってるじゃない。研究者をなめない方が良いわよ?」

自信に溢れた笑顔を浮かべる芳川をじとっとした目で眺めながらも、一方通行はコーヒーを受け取って一口飲んだ。
……存外に旨いのが癪に障る。
もし不味かったら文句の一つでも付けてやろうと思っていたのだが、当てが外れてしまった。

「さて、それを飲んだら次は検査結果の見方とそれに対する対処方を教えるわよ」

「ああ、分かってる」

返事をしつつ、一方通行は再びコーヒーを口に含んだ。
気に入らないが旨いのは事実なので、文句は言えないが褒める気もない彼は黙ってコーヒーを啜る。
すると、不意に芳川が沈黙を破った。
556 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/28(月) 18:29:11.30 ID:eUvk8S8ro

「……キミは、優しいのね」

「はァ?」

藪から棒に、何を言い出すんだこの女は。
その意味不明な発言に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった一方通行は、気まずそうに表情を歪めながらコーヒーを口に運ぶ。

「なァに馬鹿なこと言ってンですかァ? 寝言は寝て言えっての」

「でも素直じゃない、と」

「マジでぶっ飛ばすぞ」

一方通行が低い声でそう脅しても、芳川は穏やかに笑うばかりで全く気にした様子がない。
そこで漸くこの女には何を言ったところで無駄だということに気付いた一方通行は、彼女との会話を諦めた。
この手の馬鹿は無視するに限る。

「キミは信じてくれないかもしれないけれど、これでもわたしは本当に感謝してるのよ?
 あの子たちはキミに出会うまで、友達らしい友達なんていなかったんだから」

「…………」

「これからも、あの子たちをよろしくね。きっとキミは、あの子たちの心の支えになるわ」

聞いていられなくなって、一方通行はコーヒーを一気にあおった。
そして空になったティーカップを少し乱暴に寝台のサイドテーブルに置くと、苦虫を噛み潰したような顔をして芳川から目を逸らした。

「そんなに急いで飲まなくても良かったのに」

「……さっさとやっちまいたいンだよ、こォいうことは。あンまり長居してコイツを起こすのも悪ィだろうが」

「なるほど。そうね、キミの言う通りだわ。それならさっさとやってしまいましょうか」

芳川は促されるままにコーヒーを飲み干すと、彼と同じようにサイドテーブルにティーカップを置いた。
彼女はコーヒーで濡れてしまった唇をハンカチで拭うと、さっそく装置の前に付いてディスプレイを指でなぞりはじめる。

「じゃあ始めるわよ。少し複雑だから、ちゃんと聞いていてね」

「ああ」

「これが診断結果。上から妹達の検体番号(シリアルナンバー)、病名、深刻度、処方する薬品名よ」

「これは?」

「これは脳波と心拍数、体温、血液の状態と以前に処方した薬剤の名称に詳細な健康状態。それからこっちは……」

一方通行は、芳川の指し示した文字と彼女の言葉を一字一句違わずに記憶していく。
どうやらこの装置は本当に詳細な健康状態まで知ることができるようで、診断書の枚数も決して少なくはなかった。
しかし一方通行は、それらをすべて正しく記憶する。彼は決して間違えない。

やがて芳川の説明が終了すると、一方通行は目を閉じて教えられたことを反芻し始める。
芳川はそんな彼を見ながら、小さく安堵の息をついた。無事に説明を終えることができて安心したのだ。

「……診断書の見方はこんなものね。次に、指定された薬品を調合して妹達の体質と体調に合った薬を作るの。
 流石にこれはキミに任せることはできないから、処方箋を指定の部署に提出して薬を貰ってね。部署はこっちよ、ついてきて」

話している内に出力しておいた診断書を揃えると、芳川は席を立った。
一方通行もそれに倣って医務室から立ち去ろうとしたが、ふと白衣に引っ掛かりを感じて立ち止まる。
振り返れば、彼の白衣の裾は未だミサカ10039号に掴まれたままだった。

一方通行は眠っている彼女の指をそっと外してやると、最後にちらりとだけ彼女の顔を覗き込んで今度こそ医務室を立ち去る。
残されたミサカ10039号の寝顔は、とても安らかだった。


557 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/02/28(月) 18:29:43.47 ID:eUvk8S8ro
今回はここまでです、お疲れ様でした。
次回はまた一週間以内に。それではまた今度。
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 19:08:37.66 ID:aDz9RjLB0
>>1乙!

待ってるぜい
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 23:37:32.72 ID:twTe1knn0
乙!
一方通行の妹達ハーレムか・・・胸が熱くなるな
だけど話の展開によっては、原作以上の悲劇にも・・・
目頭が熱くなるな
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 02:48:01.24 ID:eF4BphYoo
乙!
この話の一方さんが健気なだけに
実験の結末どうなるのかハラハラする
561 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/04(金) 23:14:59.09 ID:TtRh/bLGo
いつもレスありがとうございます、励みになります。
予定よりも投下が遅くなってしまいました、申し訳ありません。

と言うわけで、投下して行きますね。
相変わらずまったく話が進んでいませんが、付き合って下さると嬉しいです。
562 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/04(金) 23:18:37.75 ID:TtRh/bLGo

「あ゛ー……、疲れたァ……」

「お疲れ様です、とミサカは疲労困憊な一方通行を労わります」

一方通行が食堂の机に突っ伏していると、突然隣からもはや聞き飽きてしまった声が聞こえてきた。
そこに居たのは、ミサカ10032号、御坂妹。
何だか随分久しぶりに会ったような気がするが、まだ一日も経っていない。

「ン、オマエか。用事とやらは片付いたのか?」

「ええ、お陰様で。今日は調整もありませんからこのままのんびりするつもりです、とミサカは自由を謳歌します」

「あァそォ……。こっちはもォ疲れ果てちまって遊ぶ元気もねェよ」

「元気を出してください。大変なのは最初だけでしょうし後は慣れです、とミサカは一方通行を励まします」

「そォだと良いンだがな……」

彼自身にもともと体力が無いと言うのも原因の一つだろうが、あの妹達のフリーダムっぷりには本当に参った。
仕事を続けていく上で少しずつ体力が付いて行くだろうと仮定しても、流石に彼女たちのあのテンションに慣れる日が来るとは思えない。
芳川には初日だからはしゃいでいるだけだと慰められたが、あれも一体どこまで信用できるのか。

「ともあれ、今日のあなたの業務は終了です。お疲れ様でした、とミサカは一方通行を労わります」

「あァ、ありがとさン」

「それからあなたの住処についてなのですが、この研究所の空き部屋を一つ貸し出して下さるそうです、とミサカは思わぬ特典を提示します」

「……本当か?」

これには思わず、一方通行も机から顔を上げて御坂妹を見上げた。
少なくとも給料日までは廃ビル暮らしになることを覚悟していたので、これは非常に有り難い。

「と言うか、こうならなかったらあなたは一体どうするつもりだったのですか、とミサカは疑問を呈します」

「なンだって良いだろ、別に」

「あなたのことだからどうせあの廃ビルに住み着こうとか考えていたのでは? とミサカは予測します」

「……そンなことはもォどォでもイイだろ。ここに住めることになったンだから」

「その反応を見ると図星のようですね、とミサカは溜め息をつきます」

「俺がどンな暮らしをしていようが、お前には関係ねェだろォが。能力があるから危険なことも殆どねェし」

「あのですね、あなたは本当にご自分の立場を……」

言いかけて、御坂妹は突然停止してしまった。
いつもの口癖も付いていない。
そんな彼女を不審に思って、一方通行は首を傾げた。
563 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/04(金) 23:21:28.70 ID:TtRh/bLGo

「どォした?」

「……い、いえ、何でもありません。忘れてください、とミサカは慌てて取り繕います」

そうは言うものの、御坂妹の様子は明らかにおかしかった。
しかし、その原因を探ろうと周囲を見回してみても何もない。そもそも、ここはただの食堂なので何か特別なものがある筈がないのだが。
しかも既に昼食時を大分過ぎてしまっているので、客も彼らくらいしかいなかった。

「そ、そんなことよりあなたはこれからどうするつもりですか、とミサカは質問します」

「俺ェ? 取りあえず部屋を見に行くかな」

「その後は? とミサカは更に質問をします」

「寝る」

「あなたはそればかりですね、とミサカは呆れます。
 そんなに寝てばかりいると太りますよ……、いややっぱり腹が立つのでもう少しくらい太って下さい」

「言われなくてもそォするつもりだ」

一方通行は特に何もしていないどころか非常に不健康な食生活と生活習慣を送っているにも関わらず、なんと御坂妹と同じくらいの細さなのだ。
……もしかしたら記憶喪失前の彼はそういう努力をしながら生活をしていたのかもしれないが、
意味が分からないし気持ち悪いのですぐにそんな想像は頭の中から削除した。たぶん能力の弊害か何かだろうと勝手に結論付ける。

「ところで、それはもう食べないのですか? とミサカは恐らくかつて牛丼だったであろうどんぶりを指差します」

「あァ、もォいい。腹一杯になった」

「畜生何なんですかその満腹中枢は。そんなんだから太らないんですよ、とミサカは八つ当たりします」

「仕方ねェだろ、無理に食って腹壊したら最悪だし」

「本当にその食の細さを分けてほしいのですが、あなたの能力で何とかなりませんか? とミサカは提案します」

「オマエは俺の能力を何だと思ってやがる。ベクトルを操作するだけの能力だって言ってンだろ」

「ほら、そこはこう、生体電気やら何やを操って脳に色々誤認させたりできるんじゃないですか? とミサカは思いつきます」

「俺がお前に触れてる間はできるだろォけどな。手ェ放した瞬間元に戻ると思うぞ」

「じゃあずっと触っていて下さいよ、とミサカは食い下がります」

「アホか。頭痛で死ぬわ」

「死んでも良いのでミサカのダイエットに協力してください、とミサカは要請します」

「理不尽にも程があるだろ」

むしろ太りたいと思っている一方通行には彼女の悩みなど本当に馬鹿馬鹿しいものでしかないのだが、本人の瞳は真剣そのものだ。
彼の眼には彼女は十分痩せているように見えるのだが、一体何がそんなに不満なのか。
564 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/04(金) 23:24:15.50 ID:TtRh/bLGo

「うう、それでは何か別の方法を考えなくてはなりません……、とミサカはまだまだ諦めません」

「はァ……。そこまで言うなら、他に方法があるっちゃあるが」

「それは何ですか!? とミサカは即座に食いつきます!」

驚くべきスピードで一方通行に顔を近づけてきた御坂妹に、彼は少したじろいでしまう。
一体どれだけ必死なんだ。
本当にまったくもって理解できないが、一度口に出してしまった以上彼女を無視する訳にもいかないので、一方通行は仕方なく口を開いた。

「新陳代謝を向上させてカロリーを消費させれば、ちったァ足しになるンじゃねェのってだけだ。
 これだと普通に運動するだけとそォ変わらねェしやってる間はずっと俺が触れて操作し続けねェとだから、割に合わねェかもしれないが」

「それでも構いません。運動をしなくても良いと言うのは重要なファクターです、とミサカは力説します」

「そンなモンかねェ……」

「そんなものなのです。運動をしても上手く痩せられないことだってあるのですから、とミサカは苦い思い出を噛み締めます」

それは彼女がそもそも痩せているので痩せにくくなっているだけなのではと思うのだが、一方通行は黙っていた。
余計な地雷を踏んで長話に付き合わされる羽目になっては堪らない。
御坂妹は全くお構いなしだが、彼は慣れない仕事を連続でやらされて疲れているのだ。

「と言うわけで一方通行、早速やって下さい。とミサカは要求します」

「今日は勘弁してくれ……。疲れてンだよ。また今度やってやるから、部屋に案内しろ」

「それでは仕方ありませんね。ですが、このかつて牛丼だったものは本当にこのまま残してしまうのですか? とミサカは勿体ない精神を発揮します」

御坂妹が、肉だけ綺麗さっぱり消えていて半分以上白米の残されたどんぶりを指差した。
やたら執着するなあと思った一方通行は、ふと嫌な予感がしてじとっとした目で御坂妹を見上げる。

「……人の食べ残しは食うなよ」

「流石にそこまではしませんよ、あなたは一体ミサカを何だと思っているのですか。
 と言うか、食べ終わったらカウンターに戻さないと駄目ですよ。ここはセルフサービスです、とミサカは壁の張り紙を指差します」

「知ってる。ちょっと休憩してただけじゃねェか」

「そのまま寝そうな勢いでしたが。夜にはまた大勢の人が来るのでこんなところで寝ては迷惑ですよ、とミサカは注意します」

「だから部屋に行くっての。連れてけ」

一方通行は気だるげにそう言うと、食器の載った盆を持って立ち上がった。
……そう言えば御坂妹が昼食を食べているところを見た覚えがないのだが、彼女はもう食べてしまったのだろうか。
彼の場合は仕事が長引いて遅めの時間に昼食を食べるハメになってしまったので、もしかしたらそうなのかもしれないが。
565 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/04(金) 23:25:12.88 ID:TtRh/bLGo

「片付け終わりましたか? それではこちらです、とミサカは道案内を開始します」

「あ、あァ。頼む」

「任されました、とミサカは意気揚々と先陣を切ります」

他でもない御坂妹自身に思考を断ち切られてしまった為、一方通行は何となく彼女にそれを尋ねるタイミングを逸してしまった。
しかしそこまで気にすることはないかと思い直すと、彼は御坂妹に付いて食堂を出て行った。



―――――



放課後の学園都市に繰り出した美琴は、今日は一人で一方通行を探し歩いていた。
上条は、またいつもの補習らしい。
学園都市が最も力を入れている科目は言わずもがな能力開発なので、必然的に無能力者(レベル0)の上条はその補習に捕まりやすいのだ。

(事情が事情だから仕方ないとは言え、この広さを私一人で探すのは流石に厳しいかな)

大通りを一人で歩き回りながら、美琴は小さくため息をつく。結局、あれから一方通行に関する手掛かりは何も掴めていない。
一方通行という言葉の正体も、その名を持つ少年の居所も、何も。

(……そうだ。口うるさいアイツも居ないことだし、この機会に路地裏を掃除してみようかな)

いつもはお節介な上条に危ないと言って止められるのであまり路地裏には行かせて貰えないのだが、今日はその元凶は欠席だ。
これは僥倖とばかりに悪い顔をした美琴は、軽く辺りの様子を窺ってから路地裏に続く道へと足を踏み入れようとする。
しかし、その時。

「お姉様ーっ!」

「うきゃあああああ!?」

突然何者かに背後から抱き着かれて、美琴は思わず悲鳴を上げてしまった。
道行く人々が驚いて彼女の方を見てくるが、そんなことを気にする余裕はない。変態の手が変なところに侵入しようとしているからだ。
そしてすぐさまその変態の正体を看破した美琴は、全力で変態を引き剥がしに掛かった。

「くぅーろぉーこぉーッ! こんなところで何してくれてんのよぉッ!!」

「ああん、お姉様のいけずぅ! 久しぶりの抱擁なのですからもう少し堪能させて下さいまし!」

「馬鹿じゃないの、ここ何処だと思ってんの!? 天下の往来よ、往来!」

通行人が物珍しそうに二人のことを眺めている。と言うか、実際珍しいのだろう。
美琴はなかなか剥がれてくれない白井の腕を掴むと、そのまま前方へと投げ飛ばす一本背負いへと繋げる。
しかしそのまま地面に叩き付けられる筈だった白井は、その直前で空間移動(テレポート)を発動させて事なきを得た。
566 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/04(金) 23:25:38.84 ID:TtRh/bLGo

「ですが、最近お姉様が構ってくれないのも悪いですわ。黒子は寂しかったですのよ?」

「そ、それは悪かったと思ってるけど……。こっちにも色々事情があるのよ」

「……それは、黒子でも力になれないことですの?」

「う……、うん、ごめん。黒子を信用してない訳じゃないんだけど、巻き込みたくないの。本当にごめんね」

申し訳なさそうに俯いてしまった美琴を見て、白井は小さく溜め息をつく。

「無理強いは致しませんわ、お姉様にはお姉様の事情があるのですもの。
 それでもどうしても行き詰ってしまったときは、どうかこの黒子を頼って下さいまし。少しは頼りになると自負していますわ」

「うん、ありがと。本当の本当にどうしようもなくなったらそうさせてもらうわ」

言いながら、美琴はぎこちなく笑顔を浮かべる。
きっと、彼女は本当にそんな状況になったとしても白井に相談するようなことはしないだろう。これは、ただの彼女なりの気遣いだ。
白井もそれは理解している。それ以前に、美琴でもどうしようもないことを白井がどうにかできる筈がないのだ。

「それから、最近よく門限ギリギリまで外出しているようですが……。人探し、ですの?」

「そう、だけど……。これが全然見つからなくてね、手掛かりゼロ」

「それくらいならわたくしにも手伝えますわ。特徴を教えて下さいますか?」

「あー……」

確かに、風紀委員である白井に協力してもらえるのは心強い。
しかし同時に、親友とは言え風紀委員に一方通行のことを話してしまっても良いのか、という心配もあった。
もし警備員や『上』に彼のことを報告されてしまったら、最悪の事態になりかねない。

……いや、きっと白井なら頼み込めば報告をせずにいてくれるだろう。
だが風紀委員権限を使って人探しをするには当然理由が必要だし、詳細な報告も必要になってくる。
でっちあげることもできるが、そこまで彼女に苦労を掛けることはしたくなかった。
それに、下手をしたら巻き込んでしまう、なんてことにもなりかねない。それだけは絶対に避けなければならなかった。

「……ごめん。その探し人ってのがちょっと複雑な事情を抱えてて……。だから、無闇に話せないの」

「そうですの……。いえ、そこまで気にしないで下さいまし。出過ぎた真似をしてしまいましたわ」

「ううん、本当にありがとうね。気持ちだけ受け取っとく」

「ええ、それだけで黒子は十分ですわ。ところで、お姉様」

途端、白井がずいっと美琴に顔を近づけてくる。
驚いた美琴は思わず後ずさってしまったが、それ以上に彼女のじとっとした目にぎくりとした。
567 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/04(金) 23:26:29.87 ID:TtRh/bLGo

「路地裏に入ろうとしていたようですが? ……お姉様、わたくしは何度も何度も何ッ度も路地裏には入らないよう注意致しましたわよね?」

「あ、あはは……」

「その様子ですと図星ですのね。まったく、近頃の路地裏は本当に物騒なのですから気を付けて下さいまし」

「分かってるってば。大体、この私がその辺のスキルアウトに後れを取るわけないのに」

「その油断が命取りになるんですのよ?
 幸い我が一七七支部にはまだ何の被害もありませんが、他の支部ではもう何人も路地裏へパトロールへ行って大怪我をして帰って来た者がいるとか。
 訓練された風紀委員でさえもう何人も病院送りにされているのです。路地裏は、もう昔のようなただの不良の溜り場ではありませんのよ?」

「そんなことになってたの?」

風紀委員が何人も犠牲になっているという話は美琴も初耳だったようで、彼女は驚きに目を丸くした。
確かに最近不良が狂暴化していたりテロが頻発していたりと言う話を頻繁に聞くが、まさかそんな奴らに風紀委員が後れを取るとは。
事態は、美琴が思っていたよりもずっと深刻なようだ。

「そうですわ。ですからお姉様も、どうかもっと危機意識を持って下さいな」

「それは分かったけど……。その話、もうちょっと詳しく聞かせて貰えるかしら」

「……と言うか、ホームルームで先生方が何度も注意喚起されていたと思うのですが、聞いていらっしゃらなかったのですか?
 流石にお姉様のクラスでもそういう話がされたと思うのですが」

「わ、悪かったわね、人の話を聞かない奴で。最近は考えることが多くて忙しいのよ」

「はあ……。もうすぐ定期試験があるのですから、授業はきちんと聞いていないと後々苦しむハメになりますわよ?」

「その辺は大丈夫よ、要点はちゃんとまとめてるし。それより話してくれる?」

「ああ、そうでしたわね。失礼しました。……まず、どうやらスキルアウトが強力な能力を持ち始めているという噂は本当のようですわ。
 最低でも異能力者(レベル2)と、もともと無能力者であったことを考えると飛躍的に強度(レベル)が上がっています」

「0から最低でも2? それって、いくらなんでもおかしくないかしら」

「ええ、その通りですの。それからスキルアウトだけではなく、テロリストの方もおかしいのです。
 あ、今回のテロリストというのは、学生で構成された組織だった行動を行う集団ですわ。世間に不満を持った学生が蜂起したとかで……。
 そのテロの方もおかしくて、書庫(バンク)に載っている犯人のレベルと実際のレベルがまったく一致しませんの」

「書庫のデータと? それってつまり、身体検査(システムスキャン)までの間に急激にレベルが上がったってこと?」

「そういうことになりますわね。通常、短期間の内にそこまでレベルが変わるということはありえないのですが……」

「…………、ねえ。レベルが上がってるのって、そういう悪いことしてる人たちばっかりなわけ?」
568 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/04(金) 23:27:09.72 ID:TtRh/bLGo

「へ? いえ、確かにそういう人間を中心にレベルが上がっているようですが、一般の人の中にも急激にレベルが上昇した方がいるとか。
 身近にはそういう方は居ませんし、悪いことをしない限り取り調べたりはしないのでわたくしたちが把握しているのはごく僅かですが」

聞けば聞くほどおかしな話だ。
どうも、大勢の人間のレベルが一斉に上がっているらしい。通常ならば、絶対にありえない現象だ。

「他には何かある?」

「そうですわね……。そう言えば、もともとのレベルによって上昇具合が異なるようですわ。
 そしてあくまで現時点の話ですが、上限は大能力(レベル4)のようです。
 つまり、無能力者は一気に強能力者(レベル3)になれることがありますが、大能力者が超能力者(レベル5)になることはありません」

「ふうん……。じゃあ、未だに超能力者は7人だけ、ってこと?」

「現在こちらが把握している限りはそうですが、恐らくそうでしょうね。
 それにもしそんな人間が居たとしたら、それが善人であれ悪人であれとっくに大騒ぎになっている筈ですから」

「そうでしょうね。悪人だったらその力を使って事件を起こすでしょうし、善人であってもそれを友人なんかに自慢したがるだろうし」

そもそも、大能力者と超能力者の間には非常に高い壁がある。
例え大能力者の能力が無能力者と同じくらい大幅に上昇したとしても、それで超能力者認定されるとは思えない。
もともと超能力者に匹敵するほどの力を持つ大能力者なら話は別かもしれないが、それはそれで非常に希少だ。

「とにかく、そんな訳ですから路地裏に入るのは控えて下さいな。本当なら、表通りだって歩いては欲しくないのですよ?」

「はいはい。でも、そんなに物騒なことになってる割りにはこの辺りは賑わってるのね。いつもと変わらない気がするわ」

「皆、自分だけは絶対に巻き込まれないだろうと考えているのですわ。そんなことはありませんのに……。
 風紀委員も警備員もできるだけ早く帰るようにと促してはいるのですが、誰も聞く耳を持ってくれませんの。困ったものですわ」

美琴もあまり人のことは言えないので、とりあえず彼女は笑って誤魔化すことにした。
しかし、美琴には強力な能力を持っているという強みがある。
いざという時になれば、彼女は自分を守るどころか周囲の大勢の人々を守るれるだけの力を持っているのだ。

その一方で、道行く人々の中には無能力者も大勢いるに違いない。
……何の力も持っていないのにこんな恐ろしい街に繰り出すなんて、怖くないのだろうか。美琴には、そこだけが理解できない。

美琴がそんなことを考えていると、唐突に白井の携帯電話が鳴りだした。
懐から異常に小さい携帯電話を取り出した白井は、少しの会話の後電話を切ると美琴の方に向き直る。

「申し訳ありませんわ、お姉様。事件が起こったとかで急な呼び出しを受けたので、失礼させて頂きます」

「あ、うん。長い間付き合わせちゃってごめんね」

「いいえ、黒子は一向に構いませんわ! 少しでもお姉様と一緒にいられる時間が長くなるのであれば……」

「良いからさっさと行きなさい」
569 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/04(金) 23:27:58.61 ID:TtRh/bLGo

そのまま再び抱き着いてきかねない勢いの白井の額をぺしんと叩くと、彼女は渋々と言った様子で空間移動してその場から姿を消した。
それを見送った美琴は、先程自分が立ち入ろうとした路地裏の闇を見据えながら物思いに耽る。

(……スキルアウトにテロリスト、ね)

この路地裏の向こうには、そんな恐ろしい存在が跋扈している闇の世界だ。
しかし、一方通行はきっとここに居るのだろう。
……大丈夫、だろうか。確かに彼は強力な能力を持っているが時間制限付だし、そもそも彼は追われている身だ。
何があってもおかしくはない。

(でも、流石にそんなことになってたら助けを求めてくるわよね。……たぶん)

手近な壁に背を預けて携帯電話を開く。
しかし、当然ながら誰からの連絡も入っていなかった。

あれ以来、一方通行とはまったく連絡が取れていない。
電源を切っているのか着信拒否をしているのかは知らないが、電話をしてもメールをしてもまったく繋がらないのだ。
……一体、どういうつもりなのだろうか。もしかしてずっとこのまま行方を晦ますつもりなのだろうか。

(まったく。ちょっとくらい私たちを信用しなさいよね)

携帯電話をぱたんと閉じながら、美琴が大袈裟に溜め息をついた。
しかしそう思う一方で、彼女は一方通行が自分たちを信用していないからこんなことをしている訳ではないことも理解している。
彼女が白井を巻き込みたくないのと同じで、彼も大切な人を危険な目に遭わせたくないだけなのだ。

(もう少し人を頼りなさいっての。あの馬鹿)

しかし、こんなところで愚痴っていても始まらない。
美琴はそう思い直すとちらりと路地裏への入口へと目をやり、少し考えてから暗闇へと足を踏み入れた。
……彼女には、例えどんな危険を冒したとしても諦めきれないものがあるから。


570 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/04(金) 23:30:17.13 ID:TtRh/bLGo
本日の投下はここまでです。お疲れ様でした。
それから、蛇足かもしれないとは思ったのですが一応補足説明させて頂きますね。

作中のテロリストと言うのは、初期の結標がやっていたような組織を想像してください。能力を持った学生で構成されたテロ集団です。
または、常盤台中学にある『派閥』のような学生集団が極端に狂暴化したようなものもあります。
本当はこういう具体例も作中に含めるべきかと思ったのですが、メタな視点の情報になってしまうのでこちらで。ごめんなさい。

それと、次の投下は三日以内に。
今回の投下が少し遅れてしまったので、次は早めに投下できるように心掛けます……。
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 23:34:46.14 ID:MlUDPEAeo
乙乙
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 23:53:41.70 ID:XFWYpWeAO
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 00:41:40.53 ID:kB/93pJDO
俺の初春はまだなんだろうか乙
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 02:21:15.32 ID:A5NI+PmM0
決意は立派なもんだけど……この美琴一発引っ叩きたくなるな
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 23:15:46.17 ID:R9D2+05F0
そうだな
短パンを脱がせて形のいい小尻をこうペチーンと
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 11:07:07.27 ID:xjxLqvcOo
デデーン
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 15:28:22.91 ID:Pu6i+p4DO
海原、アウトー
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 15:54:15.27 ID:KyVMI96Vo
なんだろう、下手な18禁より>>575の文章をエロく感じる。
579 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/06(日) 23:15:04.82 ID:Vxi+OU+jo
どうもこんばんは、予定通り早めに来ることができました。
そしていつもレスありがとうございます、本当に嬉しいです。
ついでに。

>>576 >>577
そのスレ見てます。面白いですよね。
そう言えば当SSでもあの4人が登場してますね。出番がかなり偏ってるし役割も割と真逆ですが……

それでは、投下して行きますね。
宜しければお付き合い下さい!
580 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/06(日) 23:17:48.85 ID:Vxi+OU+jo

一方通行が研究所で働き始めてから、数日が経過した。
驚くべき速度で仕事を覚えた彼は、今や担当業務に限れば他の研究員に引けを取らないくらい正確に仕事をこなすことができるようになっている。
今や一人前となった一方通行は、現在とある妹達のカルテを確認しているところだった。

「お疲れ様です一方通行、今日の業務は終了です、とミサカは報告します」

「おォ、お疲れさン」

確認し終えたカルテをデスクの上に置いた一方通行は、御坂妹の言葉に返事をしながら伸びをした。
ずっと同じ体勢で座っていたので、背骨がぱきぱきと音を立てる。
一人の女研究員が微笑ましそうにそれを眺めていたが、唐突に何かを思い出したらしい彼女は二人に近付いて行った。

「一方通行くん、昼食は食堂で食べるつもり?」

「ン? あァ、そのつもりだ」

「今日は食堂は閉まってるから、外で食べて来ないとよ。手当はもう貰った筈だから、お金は大丈夫よね?」

「それは大丈夫だが……。そォか、今日は日曜日か。仕方ねェなァ」

「外食ですか? とミサカは下心を隠しつつ質問します」

「……行きたいのか?」

「行きたいです! とミサカは即答します」

無表情なくせに瞳だけはやたらとキラキラさせている御坂妹が、ずいっと顔を近づけながらそう言った。
一方通行はそれを見て少し考えてから溜め息をつくと、立ち上がって白衣を手近な椅子に引っ掛ける。

「オラ、行くぞ」

「ありがとうございます、とミサカは飛び上がって喜びます」

「ったく、現金な奴だなァ」

「行ってらっしゃい。ああ、明日のお仕事は今日とは逆でお昼からだから気を付けてね」

「分かった」

女性研究員に見送られながら、二人は研究室を後にする。
寝室も研究所内に設けて貰ったし、食事や風呂などの基本的な生活もここだけで行えるので、一方通行が外に出るのは割と久しぶりだ。
きっと久しぶりの太陽の光はさぞ鬱陶しいのだろうなと思いながら、彼は外へと出て行った。



―――――
581 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/06(日) 23:19:52.42 ID:Vxi+OU+jo



「見つからないなー」

「見つからないわねー」

第七学区の表通りをぶらぶらと歩いている上条と美琴は、今日も今日とて一方通行探しに精を出していた。
しかし、未だ一向に見つかる気配がない。
一方通行も生活するには仕事をしなければならないだろうということでそれらしい場所を中心に探しているのだが、手掛かりはゼロだった。

「全然見つからねえ……。アイツ、今頃何処で何やってんだか」

「まあ、第七学区って言っても広いからね。探し方がちょっと甘いのかもしれないわ」

「俺たち二人だけじゃやっぱり限界があるからなあ……」

「弱音吐かない! 他の人を巻き込む訳にはいかないんだから仕方ないでしょ」

言いながらも、もしかしたら人混みの中に一方通行が紛れているかもしれないと美琴はきょろきょろと辺りを見回す。
しかし、やはり何処をどう探したところであの白い姿が見つかることは無かった。

「……アイツに何かあったってことは無いよな」

「ないない。アイツ、第二位をボッコボコにしたのよ? そんな奴が今更誰に負けるって言うのよ」

「まあそれはそうなんだが……。あまりにも見つからないものだからついな」

「あのねえ、ついでそんな嫌な想像しないでよ」

「はは、悪い悪い」

「まったくもう!」

不機嫌そうに目を細めた美琴に上条が苦笑いしながら謝るが、彼女はつんと顔を背けてしまった。
しかしその拍子に何かが目に付いたのか、ある一点で美琴の視線が停止する。

「どうした?」

「……いや、ちょっとお腹空かないかなーって思って」

「ああ、そう言えばそうだな。結構歩き回ってるし、なんか食べるか?」

「そうしましょ。でね、あそこで売ってるたこ焼きなんか良いんじゃないかなーと思って。美味しそう」

「ん、あのキャンピングカーか? 珍しいな、こんなところにたこ焼きの屋台なんて」

美琴が指差したのは、大通りの端に停車しているキャンピングカーだった。
クレープやホットドックなどの屋台は割りと頻繁に目にするが、確かにたこ焼きは珍しい。キャンピングカーでやっているとなると、特に。
582 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/06(日) 23:24:33.00 ID:Vxi+OU+jo

それに興味をそそられた上条が美琴の提案を了承すると、彼女は気を良くして足早に屋台に近付いて行った。
アイツも案外お手軽な性格だななんて失礼なことを考えながら、上条もその後をついて行く。
そして辿り着いた屋台には、幸い人はあまり並んでいなかった。

「すみませーん、たこ焼き二人分下さい」

「こっちも二人分くれ」

……ん?
それは、上条たちよりも少し遅れてやって来た客の声だった。
しかし非常に聞き覚えのあるその声音に、上条と美琴が勢いよく振り返る。
そこには。

「あ」

「え」

「あっ」

「ぶふー、とミサカはまさかのエンカウントに思わず吹き出します」

……そこには、この間からずっと探し続けていた一方通行と、何故か御坂妹がいた。
暫らく、時間が止まってしまったような錯覚。
だがそんな硬直状態からいち早く脱した一方通行は、連れである御坂妹を連れて逃亡を図ろうとした。
しかし。

「妹、確保!」

「了解しました、とミサカはお姉様の命令に従います。がしっ」

「こ、この裏切り者ォ!!」

「良いのかこれ……」

「良くねェ!」

一方通行は往生際悪く抵抗を続けているが、御坂妹にがっしり拘束されてしまっているので逃げられない。
能力を使って御坂妹を振り払うこともできるのだが、それだと彼女を怪我させてしまう可能性があるのでできないのだ。
しかしその時、一方通行は衝撃の事実に気付いた。

(待て、妹ごと抱えて行けば良いンじゃねェか?)

「ハイ残念」

「……畜生」

すかさず上条の右手で掴まれて、一方通行は今度こそ本当に逃亡手段を失った。
項垂れる彼を眺めながら、御坂妹は申し訳なさそうな表情をする。
583 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/06(日) 23:25:32.89 ID:Vxi+OU+jo

「申し訳ありません。他でもないお姉様のお願いだったので脊髄反射的に思わず……、とミサカは言い訳します」

「良いのよ妹、良くやったわ。今度なんか美味しいもの食べさせてあげる」

「本当ですか、とミサカは手放しで喜びます」

「まあ、何はともあれ見つかって良かった。あ、たこ焼きは四人分まとめて同じ袋に入れてください」

「オイコラ、勝手に話進めンな。あと御坂妹は覚えてろよ」

一方通行は恨めしそうに御坂妹を睨みつけていたが、美味しいものの方が優先順位が高いらしい彼女は完全に開き直っていた。
凄まじい薄情さだが、今回はそれがプラスに働いたので良しとしよう、と美琴は一人納得する。

「とにかく、こんなところで話し込むのは営業妨害だからあっち行きましょ。コイツを問い詰めるのはそれからで良いわ」

「それもそうですね。ほら一方通行、さっさと歩いてください、とミサカは一方通行を引きずって歩こうとします」

「自分で歩けるっつゥの、放せ」

「放したら逃げるだろ。御坂妹、絶対に放すなよー」

「心得ています、とミサカは更に強く一方通行の腕を拘束します」

「痛ェからやめろ」

上条は右手で一方通行に触れたまま、屋台の店主からたこ焼きの入った袋を受け取る。
袋からはソースの良い匂いが漂ってきていたが、今の一方通行には何もかもが恨めしく感じられるだけだった。

「何があったのかは存じませんが、良いではありませんか。あなたたちは友達同士なのでしょう? とミサカはただの事実を述べてみます」

「……チッ」

御坂妹が、少しだけ腕に込めていた力を緩める。
しかし一方通行は、それに気付いてももう抵抗しようとはしなかった。



―――――
584 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/06(日) 23:28:17.90 ID:Vxi+OU+jo



とある研究所。
現在大怪我をして療養中の垣根帝督は、医務室のベッドで半身を起こしながら反対派妹達からの報告に耳を傾けていた。
彼は暫らく目を閉じてじっとその話を聞いていたが、彼女の話が終わるとそっと目を開く。

「……そりゃまた、予想外なことが続いてるな」

「本来なら予測しておくべきだったことですが、とミサカは自らの浅はかさを認めます」

「まあそう言うなよ。そもそもこういう状況になるってこと自体予測されてなかったんだから、無茶言うな」

垣根はいつも通りの明るい調子だったが、妹達の瞳はいつもより暗い。
それどころか、焦点が定まっていないような気さえした。
……これは、相当落ち込んでしまっているようだ。状況からすれば当然だが、それでもどうしても彼はそんな彼女に戸惑ってしまう。

「最初は、もっと簡単に事が運ぶだろうと思っていました。
 ですがここまでイレギュラーが続いてしまうのでは、もはや実験の続行は絶望的なのではないかと……とミサカは……」

「……そんな顔するなよ。いざとなったら、お前たち反対派妹達くらいなら俺が全員殺してやる」

「…………、……お気遣い感謝します。
 ですがこのミサカは助かることになっているミサカですので、それについては少々考える時間を下さい、とミサカはお願いします」

「ああ、そうか。そいつは悪かったな……」

「いえ。他の妹達が『処分』される中、ほんの一握りのミサカたちだけが取り残されるというのは、ミサカたちにとっては想像を絶する苦痛です。
 もしかしたらそれをお願いすることになるかもしれません、とミサカは自嘲気味に呟きます」

「………………」

半身とも言うべき仲間たちが犠牲になっていく中、自分だけがのうのうと暮らしていくなんてことが出来る訳がない。
垣根にさえ、それは理解できる。
もともとが心優しい少女である彼女がそんな状況に置かれれば、一体どんな悲惨な末路を辿ることになるのか。
……想像することさえおぞましい。

「なーに既に諦めムードになってんだよ。まだまだ時間はいくらでもあるだろうが」

「……時間があっても、機会が無いのではいずれ必ず見捨てられてしまいます、とミサカは真実を告げます」

「当分は大丈夫さ。連中はまだまだこの実験にしがみ付くつもりらしいからな」

しかし、対する垣根の調子はあくまで軽い。
……敢えてそう振る舞っていなければ、彼女の心が折れてしまいそうだったからだ。
だから努めて明るく、さも簡単そうに語らなければならなかった。

「ときに垣根帝督、とミサカは呼び掛けます」

「お、おおう。何だ?」
585 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/06(日) 23:31:10.86 ID:Vxi+OU+jo

唐突に話し掛けられて、垣根は少し驚いた。
彼女から話し掛けてくることなど、滅多にないからだ。特に最近はめっきり無口になってしまっていたので、余計に垣根は動揺してしまう。

「あなたのその怪我は、いつごろ完治しそうですか? とミサカは質問します」

「ああ、これか。研究者どもが言うには、まだもう少し掛かるだろうってよ。
 もっとまともな医者に診せれば違うんだろうが、この研究所にゃそんなんいねえし俺は立場上無闇に外に出る訳にもいかないからな。
 仕方ねえよ」

「……そうですか。あなたのその能力を使えばすぐにでも治せてしまいそうなものですが、とミサカは少し期待します」

多分、彼女は強い力を持っている彼ならこの状況を打破できるのではないか、という希望を抱いているのだろう。
しかし垣根は、申し訳なさそうに眉根を寄せるとゆっくりと首を振った。
……分かってはいたものの、期待を裏切られて表情を翳らせてしまった彼女を見て心が痛むのを感じる。

「悪いな。俺の能力でできる医療行為は止血くらいだ。……アイツなら違ったんだろうが」

「いえ、そういう風にご自分を卑下なさらないで下さい。無茶な要求をしてしまいました、とミサカは自らの浅薄さを反省します」

「や、事実だから構わねえよ。すまねえな」

「……そんなことはありません。それに、あなたに比べたらミサカたちにできることなど微々たることですし、とミサカは俯きます」

「お前だって、この制限の多い状況の中でよく頑張ってるさ。こうして偵察にも行ってきてくれてるしな」

「ありがとうございます。……せめて上位命令文さえ無視できるようになれば良いのですが、とミサカは無い物ねだりをします」

「その辺は木原が頑張ってくれてるから、期待して待ってろ。ただ、無理はするなよ」

「……お気遣い、感謝します。
 次の任務の時間になりましたので、ミサカはこれでお暇させて頂きますね、とミサカは自らの任務状況を報告します」

「ん、そうか。気を付けてな」

「はい。それではまた後ほど、とミサカは別れの挨拶をします」

それだけ言うと、妹達は速やかに医務室から出て行ってしまう。
垣根はそっと閉じられていく扉を見つめながら、のろのろと身体を倒してぼすんとベッドに寝転がった。
神経質なまでに綺麗に清掃された天井が、視界いっぱいに広がる。

「どうして、こうも上手く行かねえんだろうな。……畜生」

彼の他には誰もいない医務室に、その声だけが虚しく響く。
……そんな彼の声を聞く者は、誰も居なかった。



―――――
586 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/06(日) 23:32:20.75 ID:Vxi+OU+jo



「さて、どう料理してくれようかしら……」

「オイ御坂妹、あのゲームやりたくねェか?」

「やりたいです! とミサカは即答します」

「話を逸らそうとするな!」

「チッ」

「舌打ちしない!」

あれから紆余曲折を経た四人組は、何故かゲームセンター内の小さな売店にたこ焼きを持ち込んで昼食にしていた。
御坂妹たちの正面に座っている上条と美琴は、よっぽどお腹が空いていたのかたこ焼きを食べながら一方通行に詰め寄っている。

「アンタ、あれからどうしてたのよ? 心配したんだから!」

「黙秘」

「今は何処で何してるんだ? ちゃんと飯は食べてるんだろうな」

「黙秘」

「これからどうするつもりなのよ? まさかこのままスキルアウトよろしく放浪生活でも送るつもりじゃないでしょうね」

「黙秘」

「と言うか、なんで御坂妹と一緒に居たんだ?」

「黙秘」

「だーっ!! これじゃいつまで経っても話が進まないじゃない! 何か喋れ!!」

「拒否」

「喧嘩売ってんのかー!!」

「お姉様、どうどう。落ち着いてください、とミサカはお姉様を宥めに掛かります」

うがーと唸り声を上げながら立ち上がって勢いよく机を叩く美琴を見ても、一方通行は素知らぬ顔でたこ焼きを食べ続けていた。
御坂妹に宥められた美琴はぜえぜえと肩で息をしながら席に着くと、水を一気飲みして平静を取り戻そうとする。

「まったく、人の気も知らないで……。せめて心配してた私たちに対して何か言うことがあるんじゃないの?」

「黙秘ィ」

「いい加減にしろー!」
587 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/06(日) 23:34:53.52 ID:Vxi+OU+jo

「お、落ち着けってビリビリ。でもお前もお前だぞ、とりあえず何か喋ってくれないと何も分からないじゃないか」

「…………」

上条が諭すようにそう言っても、一方通行はむすっとした表情のままたこ焼きを頬張るだけだ。
手を放しても逃げなくなったのは良いものの、いつまでもこんな調子ではいつまで経ってもらちが明かない。

「で、俺から提案があるんだけど。うちの学校に転入しないか?」

「ヤダ」

「こんな時だけ即答かよ! あとお前そんなこと言える立場なのか? わがまま言うんじゃありません!」

まるで保護者のように説教する上条を目の当たりにしても、一方通行はつんとそっぽを向いている。
すると、そこで突然御坂妹が会話に割って入ってきた。

「ちょっと待って下さい。一方通行が学校に通うようになってしまうとミサカも困ってしまいます、とミサカは唐突に口出しします」

「へ? 何かあるのか?」

御坂妹の言葉に、上条は思わずきょとんとしてしまう。
彼女は口の周りに青海苔を付けたまま姿勢を正し、上条の目を真っ直ぐ見据えてから口を開く。

「一方通行は現在、ミサカの研究所で働いているのです。ですのでここで彼を引き抜かれてしまうと研究所の人出が足りなくなり……」

「おいコラ、勝手に話すな」

「いやそれよりちょっと待ちなさい妹。こっち来なさい」

話している途中で一方通行の妨害が入ったと思ったら、突如御坂妹が美琴に掻っ攫われてしまった。
別にそこまで遠くに行ってしまったわけではないのだが、一応ここはゲームセンター内なのでそれなりの騒音に晒されている。
よって、少し離れただけだが二人の会話は完全に聞こえなくなってしまった。

しかし上条たちはそんな二人を見送りながらも、引き続きたこ焼きを頬張ることにしたようだ。
何だかんだ言って、二人とも相当空腹だったらしい。

「事情があるなら無理強いはできないけど……、お前は本当にそれで良いのか?」

「……チッ。良いも何も、もォ決めたことだ。それに、あの様子だと御坂妹も本当に困ってたみてェだしなァ。寝床も用意してもらったし」

「そうか、お前が自分で決めたことなら良いんだ。
 あ、そうそう、それからお前に渡しておかなきゃいけないものがあるから今度うちに来いよ」

「なンだ?」

「学校の制服。ウチの担任がわざわざ用意してくれたんだよ。
 サイズはお前に合わせてあるっぽいし俺には入らないから、学校に行かないにしてもお前が貰っといてくれ。礼服にも使えるしな」

「……いらねェよ」
588 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/06(日) 23:37:45.87 ID:Vxi+OU+jo

「良いから、黙って受け取っておけって。うちに置いといても嵩張るだけだし」

「ッたく……」

ぶつぶつと文句を言いながら、一方通行はまたたこ焼きを口に放り込む。
素直じゃないなと呆れて苦笑いしながらも、上条は遠くの方に行ってしまった御坂姉妹に目をやった。


……そして、二人から離れた場所まで行ってしまった美琴と御坂妹に場面は移る。
美琴は盗み聞きをしているような人間が誰もいないことを確認すると、がしっと御坂妹の肩を掴んで真剣な顔で彼女の瞳を覗き込んだ。

「アンタ、まさかアイツらに自分のことをべらべらと喋ってないでしょうね?」

「自分のこと、とは? とミサカは曖昧な質問に対する確認作業を行います」

「アンタが私のクローンってことよ! アンタ、自分が『御坂美琴の妹』で通ってることを忘れてるんじゃないでしょうね?」

「何だそんなことですか、とミサカは拍子抜けします」

「そ、そうよね! いくらアンタでもそこまで口が軽くは……」

「未だに隠し通せていると思っていたんですか? とミサカはお姉様のお気楽さに呆れます」

「いっ、妹おおおお!!」

叫びながら、美琴は掴みっぱなしだった御坂妹の肩をがっくんがっくんと揺さぶった。
御坂妹は首が折れかねないぐらいの勢いで前後に振り回されているが、無表情でされるがままになっている。

「落ち着いてくださいお姉様。
 けっこう早期にばれましたので、ミサカたちにしてみれば何を今更という感じですよ? とミサカは告白します」

「あ、アンタねえ……。何処まで話したのよ?」

「全部です」

「……全部って、どれくらいよ」

「ほぼお姉様と同じかと。
 ミサカがクローンであることや調整のこと、製造責任者のことやその他諸々…… といったところでしょうか、とミサカは他人事のように報告します」

もちろん嘘だ。一方通行はもっとたくさんのことを知っている。
しかし常識的に考えて「あなたのクローンは実は二万人居るんですよ」なんて言ったら美琴が失神することなど分かりきっているので、
口が裂けたってそんな真実は明かさない。それに、その事実がそう簡単に彼女にばれることもないだろう。

「……はあ。アンタね、そういうことはもっと早くに言いなさいよ。私に訊かれなくてもさ」

「知ればお姉様は混乱なされると思いましたのでできれば隠しておこうと思っていたのですが、とミサカは自らの真意を明かします」

「こういう風に突然暴露された方が、よっぽどびっくりするわよ」

「そうでしたか。それは申し訳ありませんでした、とミサカは謝罪します」

「良いわよ。でも今度からは気を付けてよね」

美琴は御坂妹の肩から手を放すと、その頭をぽんぽんと撫でてやる。
御坂妹はそうされるのが好きなのか、にへらと笑って美琴を見上げた。

「お姉様、ミサカはお腹が空きました。もう戻っても良いでしょうか? とミサカはお伺いを立てます」

「あ、ああ、そうね。付き合わせて悪かったわ」

美琴がぱっと手を放して御坂妹を解放してやると、彼女は少しだけ嬉しそうな顔をしてぱたぱたと二人の所へと戻って行く。
その後ろ姿を見ていた美琴は一つ小さな溜め息をつくと、少し遅れてその後を追っていった。


589 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/06(日) 23:40:24.97 ID:Vxi+OU+jo
中途半端なところで終わってしまいましたが、これで今回の投下は終了です。
次回は一週間以内……と言いたいところですが、>>1は関東在住なのでこの更新を最後に連絡が途絶えたらお察しください。
何も無ければ一週間以内にまたお会いましょう。まあ何も無いとは思いますが。

それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました。
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 23:42:28.20 ID:O2LzI1fYo
えっ関東何か起こるの?
俺も関東なのでちょっと怖いんだけどちょっと

それはともかく乙乙
やはり相変わらず4人とも可愛い!
そして折角身を隠してたのに迂闊にも見つかる一方さん流石っすwwwwww
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 23:44:02.77 ID:JalAUw+H0
おい、俺も関東なんだが何を察すればいいんだ
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 23:48:49.39 ID:I56gowtDO
乙乙
黙秘ィがかわいすぎるwwww

で、俺も関東だがなんかあったっけ?
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 23:52:15.26 ID:FTq8Db1SO
「関東で大地震発生」とかいう話がツイッターで出回ってたけどそれのことかな?

確か今晩だったような。
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 23:55:40.70 ID:+O1gm4LJo
えっなぜか某ちだまりスケッチだと思った俺は一体
とりあえず乙、そして東北万歳
595 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/07(月) 00:00:42.01 ID:4OSxfuBjo
ありゃ、変な混乱を招いてしまってすみません。
どうも関東で200年に一度の大地震が起こるとかいう話がツイッターで出回っていたので、その話をしていました。
皆さん意外とご存じなかったのですね……。
ともあれ、用心するに越したことは無いので皆さんもどうかお気をつけて。
本当に何もないと良いのですけど……
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:00:47.78 ID:HBzr0XBAO

近畿住まいの自分は安全そうで一安心
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:59:49.69 ID:tUDVCwXW0


俺埼玉だけどそこまで都市部に住んでいるわけじゃないし多分大丈夫だ
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 01:51:36.50 ID:DAIswtM00
ありとあらゆる予言書を紐解けば2週間に1回の割合で地球が滅亡しているこの御時世に何を今更騒ぐのか
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 06:26:28.05 ID:WFgsg5700
震災はないだろうけど別の危機感が漂う沖縄から乙ですの!

超電磁砲6巻を見た後だから御坂姉妹の姉妹愛が単純に嬉しい
こっちの美琴は失う前に気付くことが出来るだろうか
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 17:03:25.32 ID:vJSORCuOo
>>1乙、ここまで一気読みした
一方さんも御坂妹も他の妹達も、皆幸せになって欲しいな
601 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/09(水) 20:51:29.78 ID:1p14awS4o
結局自分の所では特に何も起こらなかったのでいつものように投下しにきました。
今日は宮城の方で大きな地震があったそうですが、皆さんは大丈夫でしょうか?
自分の知り合いで震源地に近かった人たちはみんなピンピンしてたので大丈夫だとは思いますけど。

ちなみに、自分は予言の類を信じているのではなく地震の予測にもっともらしい根拠があったのでついつい踊らされてしまっただけなのです。
それに、もし予言の通りに事が進んでいたらそれこそ本当に二週間に一回は惑星規模で輪廻転生を繰り返す羽目になるでしょうし、
そもそもノストラダムスの大予言によれば十数年前の夏に大魔王が降臨して云々なんて話があったのですから眉唾であることは自明の理。
たまに科学的根拠を持った予言なんてものもあるらしいですけどね。

と、変な話に食いついてしまってすみません。
皆さんいつも読んで下さってありがとうございます。一気読みなさった方はお疲れ様です。
自分ではかなりの量があると自負しているのですが、よく読み切れましたね……。本当にありがたいです。
あ、あとまどまぎ見てます。それから新約も読みました。どっちも面白いですよね。

それでは、久々にぐだぐだと喋ってしまいましたがさっさと投下して行くことにします。
お付き合い下さると嬉しいです。
602 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/09(水) 20:54:11.17 ID:1p14awS4o

「で、結局どうすることにしたのよ?」

「学校に通わず、御坂妹の研究所で働くってさ」

「ふーん……、アンタはそれで良かったの?」

「良いも何も、アイツが自分で決めたことなんだから俺がどうこう言う資格は無いだろ。残念は残念だけどさ」

あれから紆余曲折を経て、四人は何故かゲームセンターを見て回っていた。と言うか、御坂妹たっての希望だ。
彼女はこういう場所に初めて来たのか、物珍しそうにきょろきょろと辺りを見回していて先頭を歩く上条達よりもだいぶ後ろを歩いている。
そしてそんな彼女とはぐれてしまわないように、一方通行がその様子をずっと見守っていた。

「お姉様、あのゲコ太のぬいぐるみが欲しいです、とミサカは希望します」

「ん? ああ、クレーンゲームの景品ね。あれ結構取るの難しいのよねー」

「一方通行に取って貰ったらどうだ? アイツこういうの得意そうだし」

「その手がありましたか。一方通行、あれ取ってください、とミサカは懇願します」

「懇願ってツラじゃねェぞ……。ったく、しょうがねェな」

一方通行は呆れた顔をしながらも、ポケットからコインを取り出してクレーンゲームのマシンに投入した。
途端、動き出したアームを見て御坂妹がびくっとする。
どうやら、ゲームセンターに来たのが初めてどころかこういう機械を見たことさえないようだ。

「…………、……ほらよ」

「おお、本当に一回で取れてしまいました。ありがとうございます、とミサカは一方通行に感謝します」

「お前って本当にこういうの得意だよな。羨ましい」

(私もゲコ太欲しい……)

御坂妹が一方通行に取って貰ったゲコ太のぬいぐるみを抱き締めているのを、美琴は羨ましそうに眺めていた。
そして美琴は一人、後で絶対手に入れようと誓うのだった。

「あ。そう言えば、あなたを正式に研究所に迎えるにあたって一つ決めておかなければならないことがあるのでした、とミサカは唐突に想起します」

「……どォいうことだ? 今更変なこと言い出しやがったらソレ没収するぞ」

「難しいことではないので、そんなに怖い顔をしないで下さい。ただ、上の方にあなたのことを報告するのに名前が必要なだけです。
 一方通行というのは能力名ですから、報告書に記入する為の人間らしい名前を考えてほしいのです、とミサカは若干ややこしい注文をします」

「報告って……、どんなことを?」

「そんなに心配なさらずとも大丈夫です。単に彼が研究所に就職したことを報告するだけですから、とミサカは補足します」

「……それなら、良いんだけど」
603 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/09(水) 20:56:29.03 ID:1p14awS4o

美琴はいまいち煮え切らない態度だったが、とりあえずは納得してくれたようだった。
しかし、当の一方通行は不安な単語が出てきたことなど気にも留めずに御坂妹の言ったことについて考え込んでいた。

「ソレは、つまり偽名を考えろってことか?」

「まあそういうことですね、とミサカは肯定します。とりあえずそれらしい名前なら何でも構いませんよ」

御坂妹は軽く答えたが、これはなかなか難問だ。
一方通行は彼女の言葉を聞くと再び腕を組み、考え込んでしまう。

「名前なあ……、確かに絶対無理って訳ではないけど、いきなり考えろって言われると結構難しいな」

「面倒くせェ……。何か案出せ」

「何その無茶振り。横暴ね」

「オマエにだけは言われたくねェ」

「ちょっと、私が横暴だって言うの?」

「横暴だろ」

「横暴ですね、とミサカも同意します」

「な、何よ。失礼しちゃうわね」

満場一致してしまったので、さしもの美琴も怒ることができずにたじろいでしまう。
それ以前に、ここでまた暴力に訴えてしまったら横暴という認識の正しさを証明してしまうことになってしまうのだが。

「そんなことより今は名前です。何か良い案はありませんか? とミサカは尋ねてみます」

「そうだなあ……、どうするんだ?」

「適当でイイだろ。オマエが考えろ」

「俺が!? 人に名前なんか付けたことないからセンスないと思うぞ?」

「その年で人に名前付けたことあったらドン引きするっつゥの。で、なンかねェの?」

「うーん……。『一方通行』だから、そうだなあ……」

何故か、一方通行ではなく上条が考えさせられている。
しかし美琴と御坂妹も自分が考えるのは面倒臭いと思っているのか、誰もそのことについて突っ込んでくれなかった。
当の上条は、真剣に考えているからかそんなことには気付いていないらしい。

「……那由他」

「何処かで聞いたことがある名前ですね、とミサカは私見を述べます」
604 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/09(水) 20:58:06.24 ID:1p14awS4o

「刹那?」

「なーんか違うわね」

「ええい、そんなに言うならお前たちも考えるの手伝えよ! 意外と頭使うんだぞこれ!」

「うっせェな。それより、なンで全部数関係なンだよ」

「お、よく分かったな。ほら、一方通行って一って数が入ってるから、それに因んだ方が良いかと」

「安易だなァ」

「悪かったな! つーか、もうちょっと具体的な希望は無いのかよ。文句ばっかり言われたので上条さんはもう疲れました」

「特に無ェ」

「この野郎」

これだけ散々言われたのにまだ真剣に考えてくれるのだから、この男も大概お人好しだ。
そして暫らく唸り続けた後、名案とばかりに上条が絞り出したのは。

「鈴科!」

「なンだそりゃ。苗字か?」

「そうだよ。それに、苗字の方が何かと便利だろ?」

「……それもそォだな」

「そうね、なかなか良いんじゃないかしら? それっぽいわ」

「ええ。なかなか似合っているのではないでしょうか、とミサカも賞賛します」

今まで散々文句を言っていた三人も、これでやっと納得してくれたようだ。
ようやく肩の荷が下りた上条は、そんな三人の様子を見てほっとした顔をする。

「良かった。気に入ってくれたか」

「まァ、今までのがアレだったからな。妥協案ってとこだ」

「畜生……」

しかし口ではそう言っているものの、一方通行は案外満更でもなさそうだった。
とにかく、苗字だけでも決まってくれたので一安心だ。

「あとは名前だけど……、やっぱり今の内に決めておいた方が良いのか?」

「いえ、とりあえずは苗字だけで構いません。便宜上必要なだけですので、とミサカは説明します」
605 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/09(水) 21:00:48.39 ID:1p14awS4o

「そうか? まあ、いらないなら別に良いけど」

「やっぱり名前はもっとちゃんと考えて決めた方が良いだろうしね。って言うか、名前くらい自分で決めなさいよ。自分の名前でしょ?」

「えェー……。しンどい」

「……もうお前が良いなら何でも良いよ」

自分のことだというのにあまりにも無頓着な一方通行に、一同は呆れることしかできない。
上条はそういう彼の性質を矯正することをもう諦めてしまっているが、ここまで来ると流石に心配になってくる。
コイツは、こんなので将来大丈夫なのだろうか。

上条がそんなことを思っている一方で、ゲームセンター内をきょろきょろと見回していた一方通行がある一点で視線を止めた。
どうやら時計を探していたらしく、彼は時刻を確認すると外の様子と見比べてから御坂妹に向き直る。

「もォこンな時間か。御坂妹、帰るぞ」

「そうですね、とミサカはぬいぐるみを抱き締めながら一方通行の後に続きます」

「待ちなさい。せめてこれだけは訊かせてもらうわよ。……アンタたち、一体何処に住んでるの?」

静かに、しかし半ば脅しのような低い響きを持った美琴の声に、二人が同時に振り返る。
しかし御坂妹は特に何も考えずにすぐ口を開こうとした、が。

「第七学区の……むぐっ」

「余計なこと言うンじゃねェ。これ以上余計なことすンな」

「むう……、分かりました、とミサカは渋々了承します」

「往生際が悪いわね、逃がさないって言ってるでしょうが。ストーキングするわよ」

「頼むからビリビリはもうちょっと体面を気にしてくれ……」

こんな人の多いところで臆面もなくそう言ってのけた美琴を、上条がどうどうと宥めようとする。
しかし一方通行にも譲る気は全くないらしく、険しい表情で美琴を睨みつけていた。

「……オマエらは本当に何も分かってねェ。学園都市の暗部だぞ? オマエら如きが簡単にどうこうできるよォな問題じゃねェンだ」

「分かってるわよ。分かってて、覚悟した上で言ってんの」

「分かってねェ」

「分かってる」

「ま、待て待て喧嘩するな。こんなところで能力大バトルなんて繰り広げないでくれよ? いくら俺でも止められないからな」

上条が二人の間に割って入って必死に落ち着かせようと尽力しているが、雰囲気は険悪になって行く一方だ。
このままでは、本当にこんな場所で喧嘩を始めかねない。
……すると。
606 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/09(水) 21:03:15.82 ID:1p14awS4o

「でしたら、互いに譲歩すれば良いのではないでしょうか、とミサカは提案します」

一方通行の後ろに隠れていた御坂妹が、唐突にそんなことを言った。
しかし当然、その言葉を向けられた当人である一方通行と美琴はその意味が理解できない。
すると御坂妹は前に出てきて、交互に二人の目を覗き込んでから口を開いた。

「詳しい事情は存じませんが、ミサカは生い立ちが生い立ちですから何となく一方通行の考えていることも理解できます。
 ですがその一方で、彼の力になってやりたいというお姉様の気持ちも理解できます。
 けれどその二つは両立しえません、とミサカは確認します」

「……そォだな」

「なので、ここは互いに譲歩するしかありません。
 取りあえず整理してみますと、一方通行は自分の居場所を知られたくない、お姉様は彼を逃がしたくない、と言うことですね?
 とミサカは続けて確認作業を行います」

「……そうよ」

「ならば、一方通行は居場所を黙秘したままで構いません。ただ、二人といつでも連絡が取れるようにしてください。
 そして自己の判断に基づいて、会っても大丈夫な時と場所で今日のように会えば良いのではないでしょうか? とミサカは立案します」

御坂妹の提案に、二人は黙ったまま考え込む。
一歩間違えれば本当に能力バトルに発展しかねないので、上条はその様子をはらはらとしながら眺めていた。

しかし、いつでも必ず連絡を取れるようにする、というのは今までの状況から考えるとかなりの進歩だった。
これまでは、携帯の電源を切っているのか着信拒否しているのかは知らないが、とにかくどれだけメールしても電話しても完全無視だったから。
……だが、この条件を認めたところで一方通行がまた同じことをしないという保証は何処にある?

「尚、明らかに故意によって連絡がつかないと判断される場合はミサカが研究所の所在地を明かしますので、とミサカは釘を刺します」

「徹底してンな……」

「当たり前です。この程度はしておかないとあなたはすぐに逃亡してしまうでしょうから、とミサカは当然の予測をします」

「分かったわ。私はこの条件を呑むけど。……アンタは?」

「……、無闇に連絡しまくったりするなよ」

「しないわよ、失礼ね」

美琴の返事を聞くと、一方通行はポケットから携帯電話を取り出して何らかの操作を開始した。
彼は暫らくそうして操作を続けていたが、いくつかの電子音の後に携帯電話のディスプレイを美琴に向かって突き付ける。
ディスプレイには、『着信拒否を解除しました』の文字。どうやら、上条の分も外されているようだ。

「これで良いンだろ」

「……ええ。じゃあ、私もこれ以上アンタの居場所については干渉しないから」
607 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/09(水) 21:07:31.15 ID:1p14awS4o

「それでは交渉成立ですね、とミサカは双方に確認します」

「うん」

「あァ」

ほぼ同時にそう答えた二人を見て、上条はほっと胸を撫で下ろした。
そして、また一方通行ときちんと連絡を取れるようになったことに安心してもいた。彼もやはり、一方通行を放ってはおけなかったのだ。

……けれど、正直な心情を吐露すると、怖い。
学園都市の暗部なんて、まるで想像もつかない。どれだけ恐ろしい奴らなのかなんて、知るはずもない。これは、きっと美琴も同じはずだ。
それでも、どうしても見捨てられない。自分でも、どうしてそこまでしてやろうなんていう気になったのか分からない。
上条は美琴よりも少しは大人だから、彼女のように無鉄砲で怖いもの知らずにはなれない。
でも。

「では一件落着と言うことで。帰りましょうか一方通行、とミサカは帰宅を促します」

「……そォだな」

一方通行は御坂妹に手を引かれて、今度こそ二人に背を向けた。
しかしその背中に美琴の視線を感じながら、御坂妹はほんの少し表情を翳らせる。

(……最大のネックである垣根帝督は現在療養中で、当分はミサカたちに手を出してくることはありません。
 つまり、現在危惧するべきは一方通行の天敵である木原数多と猟犬部隊の存在。
 彼に対しては今の一方通行でも手も足も出ないでしょうが、相性的にお姉様なら対抗しうる。いえ、最強の護衛となりえるでしょう。
 なので今この状況で、これ以上に心強い味方はいないのですが……、ひどい打算ですね、とミサカは自分の計算高さにうんざりします)

けれど、それは必要なことだった。
繰り返すが、いくら数で遥かに上回る妹達と言えど、木原数多と猟犬部隊のすべてを抑えておけるほど優勢なわけではない。
アイテムの助力も、諸事情により現時点では期待できない。
だから今は、目の前にあるすべてに縋ってでも戦力を整えなければならなかった。

だがそれは、本来巻き込むべきではない人々を巻き込む所業だ。
だから御坂妹は、そんな手段を以てしか彼を守ることの出来ない自分に吐き気を覚えてさえいた。
……すると、その時。

「……ン」

「あの……、何でしょうか、とミサカは疑問を呈します」

しかし一方通行は何も答えず、黙って御坂妹の頭を撫でているだけだ。
……記憶喪失になって尚変わらない彼の優しさも、今は鋭く胸に突き刺さるだけだった。



―――――
608 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/09(水) 21:10:24.44 ID:1p14awS4o


ゲームセンターからの帰り道、上条と美琴は人々でごった返している大通りを歩いていた。
最終下校時刻が近いのだ。
みんな、二人と同じように帰路に就いている。
彼らは時折人混みに呑み込まれてしまいそうになりながらも、はぐれることなく歩を進めていた。

「でも、意外だった。お前ならもうちょっと食い下がるかと思ってたよ」

「……私だって、本当はそうするつもりだったわよ。でもまあアイツの気持ちも分からないでもないし、譲歩してあげたの。妹のこともあるしね」

「なんだ、お前も意外と大人だな」

「な、何よ急に。トーゼンでしょ、美琴センセーはアンタなんかよりずっと大人なんだから!」

「はいはい、ビリビリは偉いなー」

「茶化さないでよ馬鹿!」

怒りの叫びと同時にぱちんと電気の弾ける音がしたが、流石にこの人混みの中で放電するのは無茶と思ったのか、それだけだった。
上条はこの人混みに感謝しつつ、更に言葉を続ける。

「いや、でもお前は本当にすごいよ。
 あんなに一生懸命だったのに譲歩したこともそうだけど、本人を前にしてあんなことが言えるんだ。大したもんだ」

「な、何のことよ」

「だから、あの公衆の面前での逃がさない宣言。あれ、守ってやるってことだろ? ……ん? もしかしてあれはこくはぐぼぉッ!?」

唐突に横っ面を殴られた上条は、そのままの勢いでちょうど良く隣にあった壁に叩き付けられた。
吹き飛ばされた先に人がいなかったのは幸いだが、ダメージ二倍で上条は瀕死だ。

「ちょ、何するんですかビリビリさん!?」

「あんったねえ、何下らないこと言ってくれてんのよ! そんな訳ないでしょ!?」

「え、ちっ、違うのか?」

本当にきょとんとした顔でそう言った上条が無性に腹立たしくて、美琴は今度は踵落としをお見舞いしてやった。頭頂部に。
ちなみにスカートの下には短パンを履いているので安心だ。

「ず、ずびばぜんでじだ……」

「ったく、ホンットにアンタって奴は下らないことばっかり……。今度変なこと言ったら鳩尾に跳び膝蹴りだからね!」

「肝に銘じておきます……」

意外と早くに回復した上条は、地面にめり込んでいた顔面をさすりながら立ち上がった。
驚異的な回復能力だが、実はこれが上条の能力だったりはしないのだろうか。
609 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/09(水) 21:11:41.57 ID:1p14awS4o

「って言うか、お前また強くなってないか?」

「そう? 黒子に稽古付けて貰ってるからかしら」

「黒子って……、風紀委員の白井か。道理で……」

「アンタもあの子に稽古付けて貰ったら? そのままじゃまた垣根帝督が来たときに足手纏いになるわよ?
 種は割れちゃってるんだから、最初みたいな奇襲攻撃はもう通用しないだろうし」

「あー……、でも流石に女の子にそういうこと頼むのはなあ」

「まあ、男としてのプライドがあるってのは分かるけどね。背に腹は代えられないって言うし、その気になったらいつでも頼んであげるわ」

「それは有り難いんだが、俺アイツに嫌われてないか?」

「そう? まああの子ちょっと男嫌いの気があるし……」

「やっぱりそっち系の子だったか……」

「今更気づいたの? ちなみに女子校だからそんな子ばっかりって訳じゃないんだから、誤解しないでよね」

「分かってるって。……っと、分かれ道か。お前はあっちだったよな」

「ええ。それじゃ、また今度ね。……ところでアンタ、最近補習の時以外はずっと私に付き合ってるけど勉強は大丈夫なの? もうすぐテストよ?」

「ははは……、じゃあな!」

笑って誤魔化すと、上条は脱兎のごとく逃げ去ってしまった。
そのあまりにもあからさまな反応に美琴は呆れてしまったが、その辺りは流石に彼女が干渉すべきことではない。というか自業自得だ。

「まったく。アイツってほんと馬鹿……」

それは一体、何に対しての言葉だったのか。
しかしそんな彼女の声は誰の耳にも届くことなく、空気へと溶けていった。


610 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/09(水) 21:16:07.20 ID:1p14awS4o
今回はここまで。お疲れ様でした。
次回の投下は一週間以内に。と言いつつどうせ三日後だと思います、たぶん。

それから、あんまりこういうところでこういうことを言うべきではないとは思っているのですが、これだけ言わせてください。
美琴の行動は、これはこれで正しいと自分は思っています。
……とりあえず、ちょっと前に美琴の行動についてツッコミ(?)があったのでフォローのようなものを。
今はこれだけしか言いませんけど。

それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました。
またお付き合い下さると嬉しいです。
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 21:23:59.62 ID:jCJ+Yqbb0
乙乙
さてまだ静寂ではあるから
四人の楽しい日常を楽しみたいところです
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 21:24:12.53 ID:QPz9raj10
乙です
鯨が打ち上げられたんでしたっけ?地震の前触れ

そして一方通行マジ天使
ここの一方通行の過去がはやく知りたい

多分あれだ、ここの美琴の行動がウザいと思っちゃう人は
普段から他人に干渉されるのが苦手なタイプの人なんだよ、きっと
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 21:57:26.48 ID:lZBGRJKr0

なんというか原作だと美琴のいる立ち位置を上条さんがやって、上条さんの立ち位置をステイルや土御門あたりがやってるイメージがある
ここの上条さんは比較的落ち着いてるというか、美琴が無鉄砲なところがある分ある程度冷静な判断をしている感じ、美琴いなかったら多分美琴以上にガンガン首突っ込んでいくんじゃないかな
まああくまで個人的な意見なんだけどね
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 16:08:35.96 ID:5pdhUmyDO
地震と津波酷いな…
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 16:10:14.36 ID:gNSOd2bg0
地震が…
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 17:14:02.63 ID:bP3G3kaIO
>>613
それだとこのSS の上条さんが話の本筋に関われない、空気キャラって事になるじゃないか
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 17:14:07.87 ID:DuW9qD5y0
>>1は大丈夫か?
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 17:21:58.58 ID:0QTCMrD9o
>>1の安否が気になる
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
619 : ◆uQ8UYhhD6A [sage]:2011/03/11(金) 17:27:20.10 ID:kz9d9OvLo
あ、心配させてしまってすみません。
かなり揺れましたが、被害は本が落ちたくらいで何ともありませんでした。まだ揺れてるので何とも言えませんが……
ただ、阪神淡路大震災の時は3時間後に一番大きな地震が来たそうなので皆さんくれぐれもご注意を。

ところで、以前関東と東北在住の方がいらっしゃいましたが大丈夫でしょうか?
それから津波も深刻なので、そちらにも気を配った方が良いと思います。それでは皆さんもお気をつけて。

地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 19:25:35.63 ID:GTq4p39e0
まさかホントに地震が起きるとは思わなんだ
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 21:54:40.97 ID:famZq22+0
>>1は無事か、よかった
まさか本当に地震が起こるとは思ってなかった
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 09:35:11.63 ID:V2NHgmTYo
よかった、よかった
ちなみに東北だけど秋田だから被害はほぼないよ
623 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/12(土) 23:55:46.00 ID:TV+d/oJ/o
どうも、こんばんは。
ちょっと慌ただしいのですが、三日後宣言しちゃいましたし地震前に殆ど書き上がってたので今日投下してしまいますね。
それでは、投下開始します。
624 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/12(土) 23:58:24.46 ID:TV+d/oJ/o

今日は仕事はお休みだった。
何でも未成年を過剰に働かせる訳にはいかないとかで、不定期ながらも彼には週二日の休日が与えられることになったのだ。

それでも彼は自室でごろごろしているつもりだったのだが、不健康だと怒られて追い出されてしまった。
彼にとって外は危険な場所であるのだが、彼らがそんなことを知っている筈もない。
事情を話すわけにもいかない一方通行は結局反論することができずに、嫌々ながらもこうして外に出てくるハメになってしまった。
しかし、だからと言ってやることがある訳でもない。

……よって、一方通行はいつかのように路地裏に出張してスキルアウトを虐めていた。
いや、虐めていたのではなく厳密には戦闘慣れする為の訓練なのだが、能力差故に戦況はあまりにも一方的だったのでそう表現するのが適切だろう。

「今日はこンなモンか……」

足もとに転がる無数のスキルアウトを見回しながら、一方通行は呟いた。
今日はわざわざスキルアウトの多そうな路地裏の奥深くまでやってきて絡まれに来たので、先日よりも遥かに多くの人数を相手にしたのだ。
如何に一方通行と言えど、流石にこの数を相手にするのは少々骨が折れた。
彼は疲れたように溜め息をつくと、倒れたスキルアウトを踏まないようにしながら路地裏を去ろうとする。


――と、その時。
突然、彼の真横を何か大きなものが掠めていった。
数瞬遅れて、背後でけたたましい音が轟く。金属製の箱のようなものが、派手に壊れた音だった。

「な、ンだ?」

突然の出来事に驚いて、一方通行は暫らく固まってしまった。
音のした方を振り返ってみれば、そこには見る影もなくバラバラになってしまった巨大なゴミ箱。
続いてゴミ箱の飛んで来た方向を見やれば、そこには巨大と表現するしかない程の大男が立ちはだかっていた。

「……身体強化系の能力者か。まったく、手加減くらいしてほしいものだな」

まるでコピー紙をそのまま吐き出しているかのような、陰鬱な口調。
見上げるほどの巨体を持った、スキルアウト。

「コイツらは、オマエの仲間か」

「そういう訳ではないが……。まあ、同じスキルアウトの仲間と言えなくもないかもしれないな」

言い終わるが早いか、大男は目にも止まらぬ速さで一方通行に蹴りかかる。
一方通行はその攻撃を間一髪で回避したが、本当に危ないところだった。いや、殆ど勘で避けたようなものだった。

(オイオイ、なンだあの威力!? あンなモン反射しちまったら、折れるどころか千切れかねねェぞ!?)

練習台にしてしまった時点で外道なことをしている自覚はあるが、それでも美琴を見習って後遺症が残らない程度には抑えている。
にも関わらず、この男は全力で自殺しに来ていた。
いくらスキルアウトとは言え、一方通行もそこまでするつもりはない。
スキルアウトとは、ただ自分の能力に絶望してこの都市から零れ落ちてしまっただけの子供たちなのだ。
625 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/13(日) 00:00:27.37 ID:TFC+/ROzo

「……なるほど、なかなかの高位能力者のようだな」

「なるほど、じゃねェよ! 殺す気か!」

正確には「自殺する気か」の方が正しいのだが、相手は何の事情も知らないのでこう言った方が分かり易いだろう。
しかし男は、表情を変えもせずにこう続けた。

「近頃、能力者が無能力者を悪戯に襲撃する事件があることは知っているか?」

(あ、コイツ話聞く気ねェわ)

持ち前の頭の回転の速さで、一方通行は素早くそう判断した。
要するに、この男は彼のことをその事件の犯人だと思い込んでしまっているらしい。正義感に溢れていて立派なことだ。
しかし、もちろん一方通行はそんな事件の犯人ではない。
だがその一方で彼がスキルアウト即ち無能力者を虐めていたのは事実なので、言い逃れすることはできない。現行犯逮捕だ。

しかも彼が相手をしたのはあっちから絡んできたスキルアウトだけなのでぶっちゃけ正当防衛なのだが、
そんな話にこの男が耳を傾けてくれる筈もない。
と言うか、この状況を見てそんな話を信じてくれる人間が一体どれだけ居るか。それだけ、彼の置かれた状況は悪かった。

(強そォだから練習台には持って来いなンだが……、流石にこの状況でそンな暢気なことは言ってらンねェな)

一瞬外道な考えに至りそうにもなったが、そんなことをしている場合ではない。
このままでは本当にこの男を死なせてしまいかねないのだ。
そう判断した一方通行は、即座に方向転換を行って逃走を開始する。
しかし。

「逃がすと思うか?」

(なンだコイツ、図体でけェ癖に滅茶苦茶速ェ!)

一方通行は能力をフル活用して走っているというのに、大男はそんな彼に追い付きかねないほどの勢いで追い掛けてきている。
正直、すぐに撒けるだろうと楽観していた一方通行は焦った。
このままでは本当に追い付かれてしまいかねない。
どうするべきか、と一方通行が考えを巡らせようとした、その時。

「こっちだ!」

突然横道から手が伸びてきて、一方通行の手首を掴む。
あまりにも突然の出来事だったので一方通行はそれに対応することができずに、その手に引かれるまま横道に引きずり込まれてしまった。
混乱していた所為でそのまま連れて行かれてしまいそうになった一方通行は、すぐに我に返ってその手を振り払おうとする、が。

もはや見慣れた後ろ姿に、一方通行は振り払おうとした手を止めた。
彼の手を引いているのは、上条当麻だった。

裏路地の構造を知り尽くしているらしい上条は、男を撒く為にかわざわざ複雑で曲がりくねり、身を隠しやすい道を選んで走ってくれた。
しかし彼はきちんと道のりを把握しているらしく、迷うことなくずんずん先へ先へと進んで行く。

上条に誘導されるまま、走って、走って、走って、走って。
やがて二人は表通りに出た。
626 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/13(日) 00:06:13.53 ID:TFC+/ROzo

「はあ、はぁっ、はぁ……、ここまで来ればもう大丈夫だろ」

「……オマエ」

「あのなあ、裏路地は危ないって前から散々言ってるだろ? それともあんなところに何か用でもあったのか?」

息を切らしながらも、呆れたような怒ったような口調で上条が詰め寄る。
しかし正直に答えようものなら間違いなく説教を喰らうので、一方通行は彼の問いに答えずに黙っていることしかできなかった。
そんな彼を見たからか、上条も諦めたように溜め息をつく。

「まあ、言いたくないってんなら無理強いはしないけど。あんまり危ないことするなよ、心配するだろ」

「……悪ィ。助かった」

「それは別に良いよ。ただし、もうあんなとこ行くなよ」

一方通行はばつが悪そうにしていたが、上条がまるで保護者のようにそう言うと割と素直に頷いた。
それに実際、上条の警告を軽んじて嘗めて掛かっていたことには違いなかった。

「ところで、お前これから何か予定あるか?」

「無い」

「俺ゲーセン行くとこだったんだけどさ、お前も一緒に来ないか? 流石に一人じゃちょっと寂しいしな」

「……いつもの二人はどうしたンだ? 青髪ピアスと、……土御門だったか」

「それが、二人とも用事があるとかで帰っちまったんだよ。薄情な奴らめ」

「ふゥン。……そォいえばオマエ、前にこの時期はテストがあるとか言ってなかったか? こンなところで遊ンでてイイのかよ」

「……現実逃避してる」

「後で泣きを見ることになるぞ……」

「覚悟はしてる」

とは言え、つい最近までの上条は一方通行や美琴に勉強を教えてもらっていたので、そこまで酷いことにはならない……、と思う。
まあ、それでも今までの成績があまりにも悪すぎるので、夏休み中の補習は決定だろうが。

「まァ、俺には害はねェから何でも良いンだが。……ゲーセン行くならついてく」

「お、そうか。じゃあ行こうぜ」

「本当に現実逃避してンのな……」

補習確定を悟っているからなのか、もうどうにでもなれと諦観している上条を見て一方通行は呆れた顔をした。
とは言え、一方通行もそんな彼を咎めようとはしない。
スキルアウトも上手いこと撒けたし路地裏に入った時の様子を見るに例の追手などの危険も居なさそうなので、今は暇潰しが最優先なのだ。
……我ながら、友達甲斐の無い奴だという自覚はある。
627 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/13(日) 00:07:55.54 ID:TFC+/ROzo

そしてゲームセンターの前までやって来た二人はさっそくその中に入ろうとしたが、入り口に立っている華奢な後姿を見つけて足を止める。
御坂美琴だ。

「……お前、こんなところで何してんの?」

「へ? あっ、アンタたち何で!?」

振り返って二人の姿を確認した途端、美琴は驚愕の表情を露わにした。
しかし、二人は構わず美琴の近くへと歩いていく。

「いや、どっちかと言うとそれはこっちの台詞だと思うんだが。俺はいつもこのゲーセンで遊んでるしな」

「へ、へー、そうなんだ。私もまあそんなところかな?」

「……オマエ、立場上ゲーセンには来にくいとか言ってなかったか?」

「そっ、そんなことも言ったかしら? でも最近は結構通うようになってきたのよね、やっぱり楽しいし?」

「…………」

その反応を見て、上条も漸く美琴が何を目的としてここにやって来たのか見当がついたようだ。
と言うか、先程から彼女の視線がちらちらとそちらに向かっているので気付かない方が難しいかもしれないが。

「……素直に言えよ。クレーンゲームのカエルを取りに来ましたって」

「この間御坂妹が取ってたのがよっぽど羨ましかったンだな……」

「うっ、うるさい! 何よ、私がゲコ太のぬいぐるみを取りにわざわざこんなところまで来てるのがそんなにおかしいわけ!?」

「別にそこまでは言ってないだろ。て言うか、お前がアレ好きなのなんか既に周知の事実だし」

「むしろ何を今更隠し通そうとしてンだよ。遊園地でのはっちゃけぶりを忘れたとは言わせねェぞ」

「その台詞前にも何処かで聞いたわね……。まあ、アンタたちが私の邪魔をしないなら別に何でも良いわ」

当然、二人にはそんなつもりは毛頭ない。
しかしそれ以上に、上条は美琴の言葉に引っ掛かりを感じて思わず聞き返す。

「……と言うか、自力で取る気なのか?」

「当たり前じゃない! ああいうのは自分の力で取ってこそ価値が生まれるのよ」

「まあ止めはしないけど、あのクレーンゲームは難しいことで有名なんだぞ?
 それにお前は滅多にゲーセンになんか来れないんだから、クレーンゲームには慣れてないだろ。取れるのか?」

「そんなの、やってみないと分からないじゃない。いざ、限定ゲコ太ぬいぐるみ!」

美琴は自分に気合いを入れるようにガッツポーズをすると、二人を置いてけぼりにしてさっさとゲームセンターに入って行ってしまう。
残された上条と一方通行は何とも言えない表情でそれを見送っていたが、やがて彼女の後を追って中へと入って行った。



―――――
628 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/13(日) 00:09:35.46 ID:TFC+/ROzo


様々な音が飛び交うゲームセンター。
一通り遊び尽くして疲れた一方通行は、いったん上条と別れてゲームセンターの隅に設置してあるベンチに座っていた。
そばにあった自動販売機でコーヒーを購入すると、プルタブを開けて一気にあおる。
冷たいコーヒーは喉を潤し、ゲームセンターにこもった熱気の所為で熱くなった身体を冷ましてくれた。

「あら、アイツは?」

すると、ふと真横から美琴の声が聞こえてきた。
見やれば、美琴は何処かで見たことのあるカエルのぬいぐるみを抱いていた。例のクレーンゲーム限定のぬいぐるみだ。

「まだ遊ンでる。パズルゲームで知らねェ奴と対戦中」

「ふうん。アンタは何してるのよ?」

「見て分かンねェか? 休憩中だ。少し疲れた」

「じゃあ、隣良い?」

「構わねェよ」

一方通行の答えに礼を言うと、美琴はすとんと彼の隣に座った。
膝の上にのせたカエルのぬいぐるみが愛らしい。

「そのカエル、取れたンだな。……ゲコ助だったか?」

「ゲコ太よ! まったく、散々私が語ってあげた上に遊園地にまで行ったのに、まだ覚えてなかったの?」

「悪かったな、記憶力が悪くて。それより、それ取るのにどれくらい掛かったンだよ?」

「……五千円は使ってないわ」

「つまり、五千円近く使ったってことか。それだけ使えば十分だ」

「何よ、好きなんだからしょうがないじゃない。どうしても欲しかったのよ」

「別にオマエの趣味にケチ付ける訳じゃねェけどよォ。その為に上条を放って置くってのはどォなンだよ」

「……ど、どういう意味よ」

「良いことを教えてやろォか。御坂妹曰く、アイツは意外とモテるらしい。さっさと素直になっておいた方が後で後悔しねェと思うぞ」

「はあ!? 何よそれ!」

叫びながら、美琴が驚いてがたんと席を立つ。
幸い騒がしいゲームセンターの中だったので大勢の人の注目が集まるようなことは無かったが、それでもやはり恥ずかしかったのか、
美琴ははっと我に返るとそっと席に戻った。

「べ、別にアイツがモテようとモテなかろうと、私には関係ないわ。何なのよ、もう」
629 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/13(日) 00:13:08.89 ID:TFC+/ROzo

「まだ自覚が無かったのか。こりゃァオマエも相当重症だな」

これ見よがしに溜め息をつく一方通行を見て、美琴はむっとした顔をする。
照れの所為なのか不機嫌の所為なのか分からないが、彼女が渾身の力で抱き締めている所為で、ぬいぐるみは大変可哀想なことになっていた。

「……あ、そうだ。ずっと言い忘れてたことがあるんだった」

「? なンだ?」

「ほら、私たちって四人で遊びに行くと必ず何かに巻き込まれて台無しにされちゃうじゃない?
 だから三度目の正直ってことで、また四人で何処かに遊びに行こうと思って。ちょうど良いとこのチケットを貰ったのよ」

「あァ……、そォ言えばそォだな。いろンな事件に巻き込まれるよォになったのは、御坂妹と遊ぶようになってからだったか」

「そうなのよ! それに気付いたらなんか腹が立ってきて、今度こそは何が何でも四人で遊び通してやる! って思ったのよ」

「そりゃまた、ガキっぽい理屈だな」

「が、ガキっぽくて悪かったわね! でも、その所為であの子は一度もこのメンバーで平和に遊べたことないのよ? それって可哀想じゃない」

確かに、それもそうだ。
ただでさえ色々と複雑な事情を持ったクローンでなかなか遊んだりできないというのに、こんな仕打ちはあんまりだろう。
その点については、一方通行も文句なしに同意だった。

「……二度あることは三度ある、とも言うけどなァ」

「やめてよ、そういう不吉なこと言うの……」

「ま、確かにオマエの言うことにも一理あるからな。良いンじゃねェか?」

「本当? 良かった、これで後は妹に確認取るだけね」

「ン? 上条にはもォ言ったのか」

「うん、さっきここに来る前にね。大賛成だってさ」

「そォか。で、何処に行く予定なンだ?」

一方通行が尋ねると、美琴は待ってましたと言わんばかりにポケットの中から四枚のチケットを取り出した。
コーヒーをまた一口飲みながら、一方通行は得意げにしている美琴からチケットを一枚受け取る。

「どうよ! 水族館のチケットよ。行きたかったんだけど行けなくなっちゃったっていう友達に譲って貰ったの」

「ふゥン。良いンじゃねェの?」

「でしょ? 学園都市の技術をフルに使って演出した最高の水族館なんだから」

「へェ……。それならアイツも喜ぶな」
630 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/13(日) 00:16:44.84 ID:TFC+/ROzo

学園都市の技術をふんだんに使った水族館、と言われてもいまいちどう凄いのか想像がつかないが、
美琴がこれだけ楽しみにしているのだからきっと相当すごいのだろう、と一方通行は勝手に結論付けた。
それに、御坂妹は普通の人なら何でもないようなことにいちいち興味を示したり感動したりするので、それほどのものなら申し分ない筈だ。
一応名目上は御坂妹の為になっているのだが、美琴もかなり期待しているらしく瞳をキラキラさせている。

「そうそう、それから日時はいつが良いかしら? テストがあるからすぐには無理なんだけど……」

「夏休み中、もしくはテスト明けだろォな。まァ俺はいつでもイイが」

「あ、そうだ。この間アイツにも直接テストのことについて突っ込んだんだけど、アイツはあんなことしてて大丈夫なの?」

「駄目っぽいな。見ての通り、現実逃避してる」

「駄目じゃない」

「あァ、駄目だ」

二人の視線が遠くの上条に向く。
彼は、まるでテストのことなど忘却の彼方に捨て去ってしまったかのように無邪気にゲームを楽しんでいた。
それを見て何となく微妙な雰囲気になってしまったことに気付いた美琴は、慌てて話題の転換を図る。

「で、でももしアンタが学校に通ってたりしたらきっとテストなんか楽勝なんでしょうね! 羨ましいわ」

「オマエだって超能力者の第三位なンだから、成績は良いンじゃねェのか?」

「普通の学校だったらそうなんだろうけどね……。
 でも常盤台は大学レベルの授業をやるから、テストの内容はそこそこ難しいのよ。私もちょっとは勉強しないと流石に危ないかなー」

「とンでもねェ中学もあったモンだ」

「まったくね」

購入したヤシの実サイダーのプルタブを開けながら、美琴がはあっと溜め息をついた。
学校に通ったことなどない一方通行にはよく分からない感情だが、とにかくテストと言うものは相当に精神的に重いもののようだった。
美琴の学校と上条の学校では圧倒的な差があるとは言え、果たして上条はアレで本当に大丈夫なのか。

「あら、もうこんな時間? そろそろ帰らないとまた黒子にぶつぶつ言われちゃうわ」

「ン? あァ、もォこンな時間なのか。どォりで腹減ったと思った」

「寮の門限まではもうちょっとあるけど、ちょっと距離あるから早めに出ないといけないのよね。寮監もすごい厳しいし……」

「そォか。気ィ付けて帰れよ」

「誰に向かって言ってるのよ、私は超能力者の第三位よ? ちょっとやそっとじゃどうこうされないわよ」

「ハイハイ、それは失礼しましたねェ」

「そうよ、平気平気。それじゃ、また今度ねー」

「おォ、またな」

そして席を立った美琴は上条の方へと歩いて行って軽く挨拶すると、彼らに軽く手を振りながら駆け去った。
一方通行はそんな彼女を見送ると、飲み干して空になってしまったコーヒーの缶をベンチの隣に置かれてあったくずかごへと投げ入れる。
からんと小気味の良い音がして、缶はくずかごの底に落ちて行った。


631 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/13(日) 00:18:04.27 ID:TFC+/ROzo
以上で投下は終了です。お疲れ様でした。
次回の投下は少し遅れるかもしれません、すみません。一応目標として一週間以内、と言っておきますね。

それでは、ここまで付き合って下さってありがとうございました。
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 01:27:03.52 ID:IhrzaSiK0
>>1
今は大変な時期だから、慌てる事ない
みんなも体に気をつけてな
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 02:10:37.03 ID:BW0MoIjdo
マジ乙なわけだ。
>>1が無事でよかったよほんと。
いやまじで。
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 03:01:57.24 ID:jm2zQkKA0
おら一週間たったぞこら
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 17:23:17.61 ID:9EZ/UYqi0
>>634は日数も計算できないの?
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 19:22:47.39 ID:AgjujzDIO
待ち遠しすぎて時間感覚が狂っちゃったんだよ。
これが>>1の能力か……
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/03/16(水) 15:49:49.95 ID:9ahew+7+0
>>1…!恐ろしい子…!
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県) [sage]:2011/03/16(水) 15:52:49.52 ID:KtszpCAe0
>>634
ワロタwwwwww
639 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/17(木) 23:55:48.47 ID:DkvGYgrTo
自分は時間操作系の能力者だったのか……あれ精神操作系か?
何はともあれ、非常にお待たせしてしまって申し訳ありませんでした……。
これからはできるだけ以前の更新頻度に戻していきたいと思います。

まあ、とりあえず投下して行きますね。
相変わらず全然話が進んでませんが、ここぞとばかりにほのぼのをお楽しみいただければと思います。
640 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/17(木) 23:57:50.15 ID:DkvGYgrTo

完全下校時刻を過ぎてしまった、暗い夜道。
閉店時間になってからようやくゲームセンターから出てきた二人は、並んで帰路に就いていた。

「ったく、まさかこンな時間まで付き合わされる羽目になるとは……」

「悪い悪い、ついつい夢中になっちゃってさ」

苦笑いしながら謝る上条を見て、一方通行が溜め息をつく。
とは言え一方通行もあの後また上条に付き合って遊び始めていたりしたので、あまり人のことは言えないのだが。

「つゥか、テスト本当に良いのか?」

「……まあ、今更だしな」

「ふゥン。俺には関係ねェから別に良いンだけどよォ、御坂との約束に影響が出ないよォにはしろよ?」

「ど、努力はする……」

上条にしては珍しく信用ならない言葉だが、こればかりは彼一人の力でどうこうできるようなものではないので仕方がない。
だったら大人しく勉強すれば良いのにと思っていると、ふと立ち止まった上条に合わせて足を止めた。

「どォした?」

「いや。俺の寮、ここだからさ」

「あァ、そォいえばそォだったか。じゃァここまでだな」

「待て待て、制服渡すからちょっと上がってけよ。ついでに夕飯も食ってくか?」

「夕飯はいい。制服だけ貰ってく」

「遠慮すんなって! お前のことだからどうせコンビニ弁当ばっか食ってるんだろ? たまには家庭料理食べないと身体に悪いぞー」

「いや、だから制服だけ……」

「良いから良いから! 上がってけ!」

「人の話を聞け」

一方通行の言い分を完全に無視して、上条はその腕を掴んで寮に強制連行しようとする。
能力を使って逃げようにも、右手で掴まれてしまっているのでそれも叶わない。
当然、単純な腕力で一方通行が上条に敵うはずもなく、彼はあえなく引き摺られて行ってしまった。



―――――
641 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/17(木) 23:58:38.48 ID:DkvGYgrTo

「すぐに出来るから、テレビでも見てて待っててくれ」

「ハイハイ。ったく……」

結局上条に丸め込まれてしまった一方通行は、上条宅で寛ぎながら夕飯ができるのを待っていた。
手持ちご無沙汰な一方通行は部屋の中をきょろきょろと見回し、上条宅を観察する。

以前来た時はこうしてゆっくり見る余裕もなかったので気付かなかったが、部屋は男子高校生の自室にしてはかなり片付いている方だった。
ベッドはきちんと整えられているし、本も床に散乱することなく綺麗に本棚に収納されている。
しかし潔癖と言うほどでもなく、部屋には適度な生活感も感じられた。
何となく、温かい雰囲気。きっと上条の実家もこういう雰囲気の場所なのだろうな、と思った。

(親のことなンざ覚えてねェけどな。……居るかどォかも怪しいが)

記憶喪失の一方通行には、当然肉親の記憶もない。しかし自らの境遇を考えると、肉親など居ないのではないか、という気もする。
あんな実験動物扱いされているのだから、きっと自分は置き去り(チャイルドエラー)なのだろう。
けれど、不思議と悲しい気持ちになったりはしなかった。
記憶喪失になる前の自分はそれが当然だったからか、それとも。

(……くっだらねェ)

自嘲しながら、一方通行は視線を下ろす。
すると、ベッドの脇にリモコンが落ちているのが目に付いた。

先程の上条の言葉を思い出した一方通行は、何となくそれを手に取ってテレビを付けてみる。
映った番組は、ニュースだった。
先日のテロ事件について報道している。

いや、正確にはテロではなく一方通行を追い回していた連中の残した爪痕がテロと勘違いされているだけだ。
見覚えのある路地裏が、銃弾や爆発、衝撃波に晒されて破壊されていた。
そこには一方通行の覚えのない破壊痕もあったが、ほぼ間違いなく彼を巡って付けられたものだろうと彼は推測する。
幸いその事件による犠牲者はゼロだったらしいが、物的被害は甚大だった。

「出来たぞー。……って、何見てるんだよ」

「ニュース」

「ふーん……」

テーブルの上に食器や料理を並べていきながら、上条もテレビに目をやった。
そしてすぐに、それが何のニュースか気が付いたようだ。

「…………、あのさ。こういうの、あんまり気にしなくていいと思うぞ? お前が悪いわけじゃないんだし」

「………………」

「悪いのは全面的にアイツらなんだ。お前には一切非は無いんだからさ」
642 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 00:00:22.68 ID:1L/yEOX/o

言いながら、上条は一方通行の頭をぽんぽんと撫でてやる。
俯いていた一方通行は顔を上げて上条を見ると、むっとした顔をした。

「ガキじゃねェンだ。御坂じゃあるまいし、その慰め方やめろ」

「はは、悪い悪い。つい癖でなー」

「……癖? 弟でもいたのか」

「いや、弟も妹も居ないぞ。でも仲の良い従妹がいてさ、妹みたいに可愛がってたんだ。だからそれが癖になっちまって」

従妹のことを思い出しているのか、上条はやんわりと微笑みながら最後の食器をテーブルに載せる。
その一方で一方通行は意外な事実に少し驚いていたが、同時に納得もしていた。通りで人の世話を焼くのが板に付いているわけだ。

「よし、配膳終わり。食べようか」

「ン」

「いただきます」

「……いただきます」

やはりまだ少し照れがあるのか一方通行の声はとても小さかったが、確かに聞こえてきたその言葉に上条は苦笑いした。
そして、二人はさっそく夕食に手を付け始める。
二人とも食事中はあまり喋らない性分なのか、暫らく静かな食事が続けられた。

「急いで作ったやつだから簡単なので悪いな。口に合うと良いんだが」

「不味くはない」

「そ、それはどういう感想なんだ……? まあ不味くないなら良かった」

曖昧な感想を述べた割りには、一方通行はがつがつと料理を掻き込んでいた。
その行動が既に答えになっているような気がするのだが、指摘すれば機嫌を損ねること請け合いなので上条はあえてスルーする。

「お前、いつもどんな食事してるんだ? 本当にコンビニ弁当とかばっかりだと身体に悪いぞ」

「研究所に食堂があっから、そこで食ってる。人の手で作られたモンだから大丈夫だろ」

「そうか、それなら良いんだけど。て言うか、お前は自炊とかしないのか?」

「……出来るように見えるのか?」

「いやまあ出来ないとは思うけど、自分から挑戦しないといつまでも出来るようにならないぞ。自炊の方が安上がりだし」

「ふゥン……」

一方通行は興味無さそうな声を出すと、茶碗と箸をテーブルの上に並べて置いた。
それを見て、上条は少し意外そうな顔をする。遠慮をするような性格でもないはずなのだが。
643 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 00:01:33.54 ID:1L/yEOX/o

「あれ、もう良いのか? お替りあるけど」

「いい。十分だ」

「そう言えば、お前って元々あんまり食べないんだっけ。今までは病院暮らしだったから気にしなかったけど」

「……そンなンだからもやしなンだとか言ったら殺す」

「へ? 何か言ったか?」

「いや、何も」

ぼそりとだけ呟いた一方通行の言葉を聞き取れなかった上条は首を傾げたが、気にする程でもないと思ったのかすぐに食事を再開させる。
食事を終えて暇になってしまった一方通行が再び上条の部屋を観察していると、ふとベッドの上に置かれている白い箱が目に付いた。
すると、一方通行が見ているものに気が付いた上条が食事の手を止めて箱を見やる。

「あれが制服。そうだ、ちゃんと試着しなきゃな。大丈夫だとは思うけど、万が一サイズが合わなかったら交換してもらわないとだし」

「ふゥン。じゃァ着てみるか」

一方通行は席を立つと、さっそく白い箱の中から制服を取り出して試着を始めた。
上条の学校の制服はもともとシャツの上に着れるようになっているタイプなので、試着も簡単だ。
しかし上条は、箱の中の男物の制服を見た一方通行が一瞬微妙な表情をしたのをうっかり見てしまい、だらだらと汗を流していた。
……男で良かったんだよな。男だよな。そう信じてますよ上条さんは!

そんな上条の心中を知る由もない一方通行は、取りあえず上着だけを試着していた。
何も言わないところを見るとこれで文句はないようだが、何かこう微妙な雰囲気が漂っているので気が気でならない。
しかもズボンを履き替えようとしないのが更に気に掛かのだが、それに特に深い意味はないことを願いたい。

「……まァ、こンなモンか。サイズは問題ねェが、微妙に似合ってねェ気が……」

「いやいやそんなことは無いぞ! 非常によくお似合いですとも!」

「そォか? それなら良いンだが。……つゥか、オマエ何かおかしいぞ。どォかしたか?」

「な、何もないぞ? 嫌だなあ、何を仰るのやら」

「?」

いやに白々しい上条を見て、一方通行は首を傾げる。
とにかくサイズの確認を終えた彼は試着していた上着を脱いでしまうと、それを適当に畳んで箱の中に押し込んだ。
……ところで畳むのが下手とかいう次元の話ではないのだが、彼は服を畳んだことがなかったのだろうか。

「で、話は変わるがテストってのはいつからなンだ?」

「うぐっ、その話題は出さないで下さいお願いします」

「だから、勉強見てやるっつってンだよ。それでちょっとはマシになンんだろ」
644 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 00:02:22.88 ID:1L/yEOX/o

「え、良いのか?」

「夕飯の礼だとでも思ってくれりゃイイ。おら、さっさと出せ」

「ありがとうございます! いやーほんとに助かったあ!!」

「そンなに切羽詰ってるンならさっさと相談しろよ……」

「いや、でもやっぱりこういうのは頼みにくくてな……。ビリビリは教えながら罵ってくるし」

「……ご愁傷様」

「言うな……」

当然ながら美琴には悪気はないのだが、彼女が簡単に解くことの出来る問題で年上である上条が引っ掛かっていると、
ついついあれこれ言いたくなってしまうようだ。気持ちは分かる。
しかしその『あれこれ』は、確実に上条の精神にダメージを与えてしまっていたらしい。可哀想に。

「でも、ここまでやって貰ってるんだから頑張らないとな。テストが終わったら夏休みだし」

「夏休み?」

「そう、知らないか? 夏になると長期休暇があるんだよ。えーっと……、確か、うちの学校は七月二十日からだっけ」

「二十日……? って、本当にすぐじゃねェか」

「そうだぞ。だから、夏休みになったらまたみんなでどっか遊びに行こうな。水族館は決定してるけど」

テーブルの上の食器を二人で片づけながら、上条は夏休みについて語りはじめた。
よっぽど楽しみにしているのだろうか。
とは言えその前には乗り越えなければならないテストという難関が待っているのだから、現時点では手放しに喜べないのだが。

「そうだ。学園都市に申請通せば、『外』にも遊びに行けるかもしれないぞ」

「俺は無理だろ。偽造IDがあるとは言え、基本的には不法滞在扱いなンだ。流石にゲートは誤魔化せねェよ」

「そうか? 意外と行けそうな気がするが」

「オマエ、本当に楽観的な……」

「これでも一応危機感持ってるつもりなんだけどな……」

しかし、上条の平和そうな顔からはそんな感情など微塵も感じ取れない。
一方通行はそんな彼を見て、小さく溜め息をついた。



―――――
645 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 00:03:17.66 ID:1L/yEOX/o



「……ン」

差し込んできた日差しの眩しさに、一方通行は目を覚ます。
寝ぼけた眼を擦りながら顔だけを上げてカーテンの隙間から見える外の景色を覗いた途端、一方通行はがばっと起き上がった。

(あ、アホか! 油断し過ぎだ!)

机に突っ伏して眠っていた一方通行は上半身を完全に起こすと、苛立ちを紛らわすかのように頭を掻き毟る。
その向かいでは、先程までの彼と同じように上条が眠っていた。

どうやら昨日の勉強会が夜遅くまで続いてしまった所為で、二人ともいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
思い返してみれば、確かに昨日の勉強会の最後の方の記憶が無い。
最後の方は二人とも凄まじい眠気と戦いながら勉強をしていたので、記憶がひどく曖昧になってしまっているのだ。
それにしても、どちらが先に眠りに落ちてしまったのかさえ覚えていないとは。

(あークソ、ホント調子狂う……)

あまりにも上条の勉強が進まないので意地になって夜遅くまで付き合ってしまった彼も彼なのだが、取りあえずは八つ当たりだ。
一方通行は眠っている上条の額にでこぴんをお見舞いすると、テーブルに頬杖をついて間抜けな寝顔を観察する。
相変わらず、何も考えて無さそうな顔だ。涎まで垂らしている。……ノートが思いっ切り濡れて滲んでしまっているが、まあ良いか。

「……ん、ふぁ、あれ? 一方通行?」

「おォ、オハヨウ」

「あ、ああ、おはよう。あれ、お前泊まっていったんだっけ?」

「違ェよ。オマエに勉強教えてるうちに居眠りしちまったみてェだ」

「そう言えばそうだっけ。悪かったな、遅くまで付き合わせちまって」

「別にそれは良いンだが……」

最近の様子を見ればその可能性は限りなく低いが、最悪ここで眠っている間に奴らに襲われる可能性もあった。
そんなことになっていれば、確実に上条も巻き込むことになってしまう。
今回何事もなかったのは幸いだったが、これからはもう二度とこのようなことがないようにしなければならない。
……一方通行は自らの迂闊さに嫌悪した。

「そうだ、朝食も食べるよな? 米とパン、どっちが良い?」

「どっちでも」

「分かった。じゃあトーストと目玉焼き……。っと、コーヒーもだな」

「ン、頼む」

「おう。って、ノートが大変なことに!?」
646 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 00:04:10.32 ID:1L/yEOX/o

無残な姿を晒しているノートを見て悲鳴を上げると、上条は必死で汚れを拭きはじめる。
ティッシュで乱暴に吹いた所為でますます滲みが酷くなってしまったノートに嘆く上条を見て、一方通行は呆れたような顔をした。

「ったく。ちゃンと管理しとけっての」

「うう、返す言葉もない……」

「後やっとくからメシ作ってこい。腹減った」

「悪いな……。じゃ、後よろしく」

「あァ」

一方通行は適当に返事をしながら、テーブルの上にうずたかく積み上げられた教科書やノート、プリント類を片付けていく。
尚、滲んでしまったノートはもうどうにもならないので、そのまま閉じて重ねておいた。
やがて片付けを終えてしまって何もすることが無くなった一方通行は、取りあえずリモコンを操作してテレビをつける。
しかし何処にチャンネルを回しても、朝のニュースか天気予報くらいしかやっていなかった。

(変わり映えのねェ……)

しかも、どの番組も似たようなことしか言っていない。なの、で一方通行は適当な番組にチャンネルを合わせるとリモコンを置いた。
そしてふとテレビの左上に表示されている時計を確認してみると、現在の時刻は七時過ぎ。
自然にこんな時間に起きるのは珍しいなと思いながら、彼は昨晩とは打って変わって平和なニュースをやっているテレビを眺めていた。

(…………、……。平和だな)

これほど自分に似合わない台詞も無いだろうという自覚はあるが、
今日のわんことかプールの繁盛模様などといったつまらないことしか報道していないニュースを見ているとそう思わずにはいられなかった。
すると、キッチンから目玉焼きを焼く音とコーヒーの良い匂いが漂ってくる。
そのあまりの心地よさに二度寝してしまいそうになったが、一方通行は何とかそれに耐えてテレビに意識を集中させようとしたりしていた。
……束の間の平和は、とても暖かかった。


647 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 00:06:00.37 ID:1L/yEOX/o
投下終了。お疲れ様でした。
次回は一週間以内と言いつつやっぱりたぶん三日後だと思います。一応保険として一週間ということにさせて下さい……
それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました。

……もしかして時間操作ってほむほむとお揃い?
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/03/18(金) 00:10:45.91 ID:oXWd8n4Ro

そうか、>>1は魔法少女だったのか
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/18(金) 00:18:35.60 ID:EQQ7S8Yfo
        |\           /|
        |\\       //|   
       :  ,> `´ ̄`´ <  ′     
.       V            V       
.       i{ ●      ● }i 
       八    、_,_,     八    
.       / 个 . _  _ . 个 ',    
   _/   il   ,'    '.  li  ',__


おつー
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 00:19:18.23 ID:QQLlvDBzo

つまりそのうち時間を巻き戻せるようにですね
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 00:59:18.63 ID:+Lx8FJ9DO
乙乙ー

あれ?まさか百合子フラ(ry
いや、そんなわけないな…うん…
652 : ◆uQ8UYhhD6A [sage]:2011/03/18(金) 01:11:52.60 ID:1L/yEOX/o
>>649
うわああああああああ

>>651
653 : ◆uQ8UYhhD6A [sage]:2011/03/18(金) 01:13:17.75 ID:1L/yEOX/o
失敗した…… どうもすみません。

>>651
制服着せるに当たって男だと確定させてしまうと原作的にちょっと納得いかなかったのでああいう演出をしただけです。
前に誰かも言ってたけど、一方さんはもう性別一方通行で良いんじゃないかな……
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/03/18(金) 02:18:55.61 ID:OOfGa3qCo
ふたなりはロマン
……いや、俺談では無いんだがな
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 07:10:51.27 ID:5dpxPQ1oo
頭ポンポンしたり、デコピンしたり、なるほど。
俺はこういう関係の2人を見たかったんだな。BLとかじゃなくて。
656 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 12:48:53.01 ID:1L/yEOX/o
言い訳させてください。
前回投下分はどうしても最後の締めの部分が気に入らなくて修正を繰り返していたので、やたら時間が掛かってしまっていたんです。
だからその息抜きに、大体着地点を定めて次回分の話を書いていたんです。
で、前回の締めに時間をかけ過ぎたせいで、前回を投下した時には次回分はほぼ出来上がっていたんです。
それで、前回分を投下した後にすぐ次回分ができてしまって、しかもそのまま適当に修正してたら完成してしまったんです。

つまり何が言いたいかと言うと、投下します。
657 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 12:51:06.88 ID:1L/yEOX/o

目を閉じて、能力の行使に神経を集中させる。
……反射設定の、再構築。
ブラックリスト方式ではなく、ホワイトリスト方式へ。
指定した有害なものを反射するのではなく、指定した無害なもの以外をすべて反射するように、設定を変更。

(『指定する無害なもの』は空気、音、光、その他諸々、すべて許容量の範囲内のみ。……これで良い、か?)

生存に必要不可欠なものはすべて指定した……はず。
少々の不安が残るが、取りあえず展開してみないことには効果を確認することができない。
彼は設定の再構築を一時完了させると、反射を展開した。

途端。
浮遊感が襲い掛かり視界が反転したかと思ったら、体中に衝撃が掛かったのを感じた。
実際には衝撃は受けていないし痛みも無いのは、もちろん反射のお陰だ。

「……重力か。設定すンの忘れてた」

何か忘れている気がするなあと思ってはいたのだが、重力だったか。一応何度も確認したつもりだったのだが。
しかし、何はともあれ命に関わるものは忘れていなかったようなのが不幸中の幸いだったか。
とは言え屋外で重力を反射したら大気圏外まで吹っ飛んでしまうので、ここが室内じゃなかったら大変なことになっていただろうが。

(重力を設定に追加)

念じると、すぐに天井に張り付いていた一方通行の身体がすとんと床に落ちてきた。
これで本当に設定完了だ。
部屋に少々の損害が出てしまったが、まあ大丈夫だろう。
そんな軽い現実逃避をしながら能力を解除すると、大きな音を聞き付けた部屋の主が慌てて戻ってきた。

「なんかすごい音が……ってうわ、何だこれ! 天井が大変なことに!?」

「何でだろうなァ」

「いやさっきまではこんなの無かったぞ! これ絶対お前がやっただろ!」

帰って来るなり大騒ぎしながら上条が指差したのは、盛大にへこんでしまった天井だった。
一方通行が重力を反射してしまった時に、彼がぶつかった衝撃+彼に返ってくる筈だった衝撃がすべて天井に叩き付けられてしまったのだ。
幸い穴は空いていないものの、天井を構成していた素材がぼろぼろと毀れてきている。

「ああもう、どうするんだよこれ。今月きついのに……」

「……弁償はする」

「いや、まあそれは別に良いんだが……。何をしててこんなになったんだ?」

「ふと思い立って、例の第二位対策に反射の設定を組み直してたンだよ。そォしたら重力まで反射しちまったンだ」

「ああ、いつだったか何とかリスト方式とか言ってたやつか? 重力なんか忘れるか、普通」

「空気の内訳と許容量の計算で手一杯だったンだよ。悪ィか」
658 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 12:53:58.73 ID:1L/yEOX/o

上条に呆れられたのが悔しかったのか、一方通行はぶすっとした顔をしてそっぽを向いてしまった。
普段はやたら思い詰める癖に、こういうところは子供だ。

「ま、とりあえずメシ出来たから早く食おうぜ。冷めちまうし」

「ン。……ところでオマエ、今日も学校だろ? そンなにのンびりしててイイのか?」

「まだ時間あるし、大丈夫。それよりお前は仕事は平気なのか?」

「今日も休みィ」

言いながら、一方通行は朝食を口にし始める。……ちなみに、もちろんいただきますは言わされた。
上条もそれに倣って食べ始めたが、そうしながら物憂げな溜め息を漏らした。

「そっか、羨ましい……。俺は土日の休みも高確率で補習に駆り出されるからなあ」

「こンだけ教えてやったンだから、もォ大丈夫だろ。むしろこれでまた赤点取りやがったらぶン殴る」

「ええっ!? それは勘弁してほしいんだが」

「だったら赤点取らなきゃイイだろォが」

「いやそれはそうなんだがなんと言いますかまだ自信が無くてだな……」

「言い訳無用。キリキリ勉強しろ」

「不幸だ……」

がっくりと項垂れている上条を無視して、一方通行はトーストに齧りつく。
流石に時間が無いからか、上条は暗い表情のまま俯きながらも食事を口に運んでいた。器用だ。

「あ、一方通行。すごい申し訳ない頼みなんだが、まだいくつか分からないところがあるからまた教えてくれないか?」

「それは別に構わねェが、御坂に訊けばいいじゃねェか。アイツも教えるの上手かったはずだ」

「それでも良いんだけど、何となく頼みにくくってな。ほら、アイツも一応女の子だし」

「一応ってなンだ一応って。アイツに聞かれたら殺されるぞ」

「どうか御内密にお願いします」

「はァ……」

すかさず床に額を擦りつける上条を見て、一方通行は深い溜め息をついた。
まったく、これでは美琴も報われないはずだ。

「と言うか、流石に中学生の女の子を自分の部屋に呼んで勉強を教えてもらうってのはおかしいだろ。
 ファミレスみたいなとこに居座るのも良いんだが、それだとお店の人に悪いしな」

「……まァ、俺に言えた義理はねェがたまにはアイツを頼ってやれ。アイツはあれで意外と寂しがりだからな」
659 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 12:55:51.64 ID:1L/yEOX/o

「あー、何か分かるなそれ」

「分かってンなら構ってやれよ」

「そうしたいのは山々なんだけどさあ、アイツ俺のこと嫌いみたいだからなあ」

「……オマエ、ソレ本気で言ってンのか?」

「へ? あれ、俺何か変なこと言ってるか?」

「これは重症だな……」

「?」

露骨に呆れた顔をして一方通行が呟いても、上条はきょとんとしているだけだった。
鈍感も、ここまで来ると罪だ。

「そうだ。それよりさ、確認するけどお前今日休みなんだよな?」

「それよりってオマエ……。まァ休みだけどよォ」

「それなら俺の学校に来てみないか? 見学ってことで。ほら、制服着てれば意外とばれないかもしれないぞ」

「アホか。そォいうことは俺の髪と瞳の色を見てから言え」

「大丈夫だって、うちは校則緩いから変な髪の色してる奴大勢いるし。俺は染めてないけど土御門や青ピはすごい色してただろ?」

「……、…………」

久しぶりに聞いた名前に、一方通行は僅かに反応する。
そしてかつての土御門の言葉を、思い出した。

……彼の言っていたことは、正しい。いや、紛れもない真実だ。
そして、一方通行自身もそれをきちんと理解している。
だから彼は、出来る限り今以上に多くの人間と接点を作ってはならないと思っていた。
巻き込んでしまう可能性のある人間は、少ない方が良いからだ。

それに、上条と美琴は彼とその周りの人間たちを絶対に守り切ると宣言してしまっている。
彼らの性格から考えるに、一方通行が多くの人間と知り合えば知り合うだけ彼らの守る対象=負担が増えてしまうことになるだろう。
だからこそ、それだけは避けなくてはならなかった。

「おーい、また何か変なこと考えてただろ。お前は何も考えずに好きなことやってりゃ良いんだってビリビリも言ってただろ?」

「……、…………はァ」

「何ですかーその溜め息は。上条さんたちがそんなに頼りないとでも言いたいんですか?」

「その通りだボケ。第二位に手も足も出なかった癖に」

「ぐふっ、今のは結構グサッと来たんだが……。でも、次は絶対大丈夫だって。鍛えてるし」
660 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 12:58:02.33 ID:1L/yEOX/o

「具体的には?」

「ビリビリと命を懸けた鬼ごっこを少々」

「逃げる気満々じゃねェか!」

「いやでもだってそれが一番手っ取り早いだろ? 鳩尾蹴ってダッシュすれば一発だって」

「そして地味に鬼畜なンだが」

しかも幻想殺し(イマジンブレイカー)があるので、本当にそれが可能なのが上条の恐ろしいところだ。
この間の垣根のように拳銃みたいな武器でも持っていれば良いのだろうが、彼ならばそれさえも気合で避けてしまえそうで困る。
それくらい、上条の火事場の馬鹿力は半端ではないのだ。

「まあそれはどうでも良いんだが」

「良いのかよ」

「良いんだよ。今はそんなことより学校だろ」

「それもそォか」

学校よりも優先順位の低い第二位が、未だかつていただろうか。
一方、件の第二位は某研究所の医務室で原因不明のくしゃみをしていたのだが、そんなことなど二人は知る由もない。

「で、学校行くぞ」

「いや行かねェよ。ヤベェ今ちょっと流されかけた」

「チッ、作戦失敗か……」

「舌打ちすンな。つゥか作戦だったのかよ」

「まあ冗談はこれくらいにして」

「冗談だったのか」

「お前、これからどうするんだよ。どうせ暇なんだろ?」

「……その辺ぶらぶらする」

「やっぱりな……。それならやっぱり学校に行った方がよっぽど有意義じゃないか」

「ほっとけ。休日なンだから俺の好きなよォにしたって罰は当たらねェだろ」

「そりゃそうだけどさ。まあ、気が変わったらいつでも声掛けてくれよな」

「そンな日は永遠に来ねェから諦めンだな」

「ちぇー」
661 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 13:02:35.13 ID:1L/yEOX/o

上条は子供みたいに拗ねて見せたが、テレビの左上に表示されている時計の時刻を見るとびくりと身体を跳ねさせた。
どうやらタイムリミットのようだ。

「やっべえのんびりし過ぎた! 遅刻する!」

「俺なンかに構ってるからこォなるンだよ」

「って、何でお前は優雅に食後のコーヒー二杯目!? てかどうやって淹れたの!?」

「細けェこたァ気にすンな」

「気にするよ!? ってああもうほんとに時間が無い! 悪い、合鍵渡すから出てく時はそれ掛けてってくれ! 今度返してくれればいいから!」

「あ、待て、俺も出る」

「良いから! つうか待ってる暇もねえじゃあな!!」

「ちょっ、おま……」

引き留める声も虚しく、上条は驚くべき速度で出て行ってしまった。
彼を引き止めようと空を切った右手が何とも物悲しい。

「……はァ」

一方通行は小さな溜め息をつくと、とりあえずテーブルの上に放置された食器を片付けて、ついでに能力で天井の穴をちょっとマシにしてから出て行こうとする。
しかし、彼はそこでとても重要なことに気が付いた。

「……合鍵、何処だ?」



―――――



朝の通りをのんびりと歩いている人影が、ひとつ。
その人影の正体たる一方通行は、やっとの思いで見つけ出した上条宅の合鍵を手の中で弄びながら人通りの少ない道を行く。
いや、この通りはもともと人通りは多い。
ただこの時間は殆どの生徒が学校に行ってしまっているので、一時的に人が少なくなってしまっているのだ。

しかしそんな中で、一方通行は前方を一人の学生が歩いていることに気が付いた。
それは見覚えのある後姿。やたらと派手な髪の色をした少年。

「あれ? キミ、確かカミやんと一緒に居た……」

「……青髪ピアス、だったか?」

「おお、やっぱりそうかいな! 久しぶりやなー」
662 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 13:05:05.85 ID:1L/yEOX/o

真っ青な髪にピアスをした少年、青髪ピアスは人好きのする笑みを浮かべると一方通行に近付いてきた。
……尚、彼はきちんと制服を着ているし、鞄も持っている。
詳しいことは知らないが、確かこっちは上条の高校がある筈の方向だ。

よって彼が学校に向かっていることは間違いなさそうなのだが、上条が遅刻すると悲鳴を上げながら出て行ってから随分経っている。
これでは遅刻どころか、一限目の授業に間に合うかどうかさえ怪しいのだが。

「そうや、キミ名前は? 前はカミやんが一方通行って呼んでたのに合わせてたけど、あれ能力名やろ?」

「あ、あァ」

「やっぱりなー。名前はなんて言うの?」

やばい。勢いに押されてうっかり能力名であることを肯定してしまった。
自分でも『一方通行』という名前が本当に能力名なのかどうか、まだよく分かってないというのに。
しどろもどろしている一方通行を見て、青髪ピアスは怪訝そうな表情をする。
その時一方通行は、はっと先日の出来事を思い出して咄嗟に口を開いた。

「す、鈴科!」

「鈴科くんかいな? 覚えたで。ほな、改めて宜しゅうなー」

まさかこんなところであの時に考えた偽名が役に立つとは思わなかった。御坂妹に感謝しなくては。
しかし胸を撫で下ろしているのも束の間、青髪ピアスは首を傾げて更に質問を追加してきた。

「ところで、鈴科くんは学校行かへんの? こんな時間にこんなところうろうろしてたらあかんでー」

「お、オマエこそこンなところで何やってンだ? 上条はだいぶ前に走ってったぞ」

「ああ、僕はかまへんねん。ちゃんと目的があってこうしてんねや」

「目的?」

何か用事があって、それで遅刻してしまったのだろうか。
そう言えば青髪ピアスはパン屋に下宿していると聞いたことがあるから、その手伝いの所為で遅れてしまったのかもしれない。
パン屋の朝は忙しいのだ。たぶん。
……というのは一方通行の想像であって、現実は決してそんなに綺麗なものではなかったりする。

「そう! 小萌先生に叱られたくてわざと遅刻してるんや!!」

「………………」

リアクションに困って、一方通行は思わず固まってしまった。
しかしどうやらそのリアクションが普通だったらしく、青髪ピアスは彼の反応をまったく意に介さずに話を続ける。

「確かに小萌先生のあの可愛らしい瞳を涙で濡らしてしまうのは心が痛む! しかしそれ以上に! あの怒った顔!
 叱っている時は僕だけを写す瞳! そしてあの愛らしい声で罵りなじってくれるあの瞬間に僕のリビドーはげぼぉっ!?」

「よく分かンねェが、ヒト泣かすな」
663 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 13:09:24.99 ID:1L/yEOX/o

「す、鈴科くんもやるようになったんやね……。良いチョップ持ってるやないか……」

一方通行と青髪ピアスの間にはかなりの身長差があるので頭頂部を狙った筈のチョップはそのまま青髪ピアスの顔面に直撃したわけだが、
それがクリティカルヒットしたらしい。青髪ピアスはふらふらとしながら鼻を押さえて蹲った。
流石にベクトル操作で威力増幅まではしていないが、チョップする手が痛くならないように手にだけ反射を展開させていたのでかなり痛い筈だ。

「取りあえず、オマエがとンでもねェ変態だってことはよく分かった。今更だが」

「それは違う! 僕はなあ、落下型ヒロインはもちろん義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪銀髪
 ロングヘアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテールお下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラー
 ブレザー体操服柔道着弓道着保母さん看護師さんメイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんロリショタツンデレチアガール
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 麗人眼鏡目隠し眼帯包帯スクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリングショット水着バカ水着人外幽霊獣耳娘まであらゆる女性を迎え入れる
 包容力をぐはぁっ!?」

「変態確定」

「鈴科くん手厳しいなあ……」

早くも二撃目を受けた顔面を擦りながら、青髪ピアスがか細い声で呻いた。
どうやら今回も相当痛かったようだ。
しかし、一方通行はもちろん反省などすることなくその様子を眺めているだけだった。

「ところで、鈴科くんは学校通ってへんの?」

「ン。事情があって通ってねェ」

「そうなんか、勿体ないなー。素晴らしい青春を過ごせるのは今だけなんやで?」

「くっだらねェ」

「くだらんことあらへんよ、学生時代の体験って大切なんやで?
 鈴科くんがどういう事情で学校に通ってへんのかは知らんけど、無為に過ごすと後で後悔する羽目になるでー」

「…………」

青髪ピアスの言葉に、一方通行は黙り込んでしまう。
正直に言うと、彼だって別に学校に通いたくない訳ではない。けれど今の状況を鑑みれば、そんなことをしている場合ではないのは明白だ。
だから、一方通行自身が何を思っていようと他の誰が何を言おうと、関係が無い。意味も無い。

「っと、すまん。余計なこと言うたかな?」

「……いや、気にすンな。それよりオマエはさっさと行け。それとも一限すっぱ抜くつもりか?」

「おわ、もうこんな時間かいな! 小萌先生と一緒に居られる時間が減ってまう! すまんかったな鈴科くん、ほなな!」

「もォ寄り道すンなよ」
664 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 13:10:08.99 ID:1L/yEOX/o

流石にもう時間ギリギリだったらしく、慌てて駆け去ってしまった青髪ピアスを一方通行は見送った。
そしてやがて青髪ピアスの後ろ姿が完全に見えなくなってしまうと、一方通行は踵を返して帰路につこうとする。
しかし、その時。

「一方通行、とミサカは呼び掛けます」

「ン?」

突然聞こえてきた声に一方通行が振り返ると、そこには御坂美琴そっくりな容姿をした少女―――妹達が立っていた。
御坂妹では、ない。
一方通行は彼女を見て暫らく思考を巡らせてから、自信なさげにこう言った。

「……10039号か?」

「よく分かりましたね、とミサカは一方通行の記憶力に感心します」

「殆ど勘みてェなモンだがな。どォしたンだ?」

「研修中です。近々ミサカたちも『運用』されることになりますので、社会経験を積む為の訓練を行っているのです、とミサカは説明します」

「運用?」

「はい。正確な日時は決まっていないのですが、ミサカたちは学園都市の『外』で運用されることになっているのです、
 とミサカは更に補足します」

「『外』? オマエたちが?」

ミサカ10039号の言葉に、一方通行は素直に驚く。
学園都市の自治法ではもちろん、『外』の法律……と言うか国際法でも人体のクローニングは厳重に禁止されている。
にも関わらず、そのクローンの実物である彼女たちが『外』で運用されるとは。

「ああ、ご心配なさらず。
 『外』と言っても学園都市の協力機関ですので、ミサカたちの存在が公にされることは絶対にありません、とミサカは解説を続けます」

「……それでも、大丈夫なのか?」

「もちろんです。完全に信用できる機関にしかミサカたちは配置されませんし、
 万が一にも悪用されることがないようにミサカネットワークを監視する為の『上位個体』は学園都市に留まることになっていますから、
 とミサカはミサカたちの安全性を立証します」

ミサカ10039号は淡々と説明していくが、しかし一方通行はそこで首を捻った。
聞き慣れない単語があったからだ。

「上位個体?」

「おや、一方通行は上位個体をご存じありませんでしたか? とミサカは意外に思います」
665 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 13:11:54.15 ID:1L/yEOX/o

「あァ、初耳だ」

「そんなことより」

突然、ミサカ10039号がずいっと顔を近付けてくる。
そう言えば御坂妹にも何度か同じことをされたが、これは彼女たち『妹達』特有の癖のようなものなのだろうか。

「な、なンだ?」

「ミサカは遊びたいです。一緒に何処かに行きませんか? とミサカは提案します」

「遊ぶって……。オマエ、研修はイイのかよ」

「研修とは言っても適当に外をぶらぶらして来いというだけで実際の内容については指定されていませんし、問題ないでしょう。
 それで、あなたの予定は大丈夫なのでしょうか? とミサカは再度質問します」

「あァ、今日は仕事も休みだから大丈夫だが……」

「それならば一緒にその辺りを歩くことにしましょう。何処かお勧めはありますか? とミサカは先行しつつ尋ねてみます」

「…………、……まァ良いか。付き合ってやるよ」

一方通行は諦めたように溜め息をつくと、僅かだけこちらに目配せしながら先を歩くミサカ10039号について歩いていく。
ミサカ10039号は何の感情も浮かべていない無表情だったが、一方通行の目にはほんの少しだけ楽しそうにしているように見えた。


666 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/18(金) 13:13:25.27 ID:1L/yEOX/o
投下終了。お疲れ様でした。
次回こそは三日後だと思います、たぶん。それではここまで読んで下さってありがとうございました。

……自分は上条さんをお母さんか何かと勘違いしていると思う。
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 13:17:57.17 ID:QQLlvDBzo
しかし上条さんと暮らすとなると便利<不幸で大変かもしれない

乙です
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/18(金) 13:22:09.77 ID:bhY/9kt30

ミサカシリーズが可愛くて仕方ない
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/03/18(金) 13:29:58.20 ID:o7ApDMgmo
乙乙
あながち間違ってる気がしなくもない>母親上条
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/03/18(金) 13:30:53.46 ID:h+im5BYAO

つまり母条さんとな
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/03/18(金) 14:54:29.68 ID:LpwTsPkm0
ぼ……母条!!
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 17:24:53.91 ID:5dpxPQ1oo
しかしそんな上条さんと一方通行の関係が俺は大好きなのである
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/18(金) 18:16:00.12 ID:qbqpr+QP0
乙〜
母条さんいいよ母条さん
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 20:34:58.06 ID:vL8kpDqIO
そうなると御坂はしつけの厳しいお父さんって訳か
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 20:52:36.62 ID:ZjUYhD/Xo
ああ、10039号って体調崩して一方さんにお話しねだって白衣掴んだまま寝た個体か。
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 23:00:45.60 ID:FN8xNYTFo
上条母と御坂父に囲まれた家庭で俺も育ちたいです
677 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/21(月) 21:51:08.18 ID:phNmQ4HQo
どうもこんばんは。いつもレスありがとうございます。
ちなみに自分はどちらかというと御坂妹の方が父親っぽいイメージ……。美琴はあくまでお姉さんな気がします。
厳しいお父さんというのもそれらしい気がしますが……。ううむ。

ともあれ、投下します。
678 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/21(月) 21:53:11.92 ID:phNmQ4HQo

「お嬢ちゃんたち、カップルかい? お熱いねー」

「いえ、彼とミサカはそのような関係ではありません。認識の修正をお願いします、とミサカはあくまで冷静に訂正します」

「え、そ、そうかい? それは悪かったね……」

驚くべき冷静さでアイスクリーム屋の店主をたじろがせながらも、ミサカ10039号は生まれて初めて購入したアイスクリームを受け取った。
これが御坂妹だったらもうちょっとくらい狼狽えそうなものなのだが、彼女は決してそのようなことはしない。

それが、彼女の特徴だった。
彼女は非常に冷静で、滅多に驚いたり狼狽えたり戸惑ったり恥ずかしがったり、というような感情表現をしない。
いや、妹達はもともと感情表現に乏しいのだが、彼女の場合は特にその傾向が顕著なのだ。

これが上条なら「せっかく可愛いのに勿体ない」などと歯の浮くようなセリフを言うのかもしれないが、
一方通行はこれが個性が希薄になりやすい妹達の中での彼女の個性だと思っているので、これはこれで良いのではないかと考えている。
それに、感情表現なんて周囲に強制されて行うようなものでもないのだから。

「一方通行。アイスクリームの購入に成功しました、とミサカは任務の達成を報告します」

「任務って……。まァ良いか。つゥか、本当に金は良いのか? 奢るぞ」

「いえ、自分の持っている金銭を使用してこその買い物です、とミサカは主張します。
 それに、こうした買い物はミサカにとって重要な経験になると共に立派な研修として成り立つのでこれで良いのです、とミサカは主張します」

「ふゥン……」

彼はミサカ10039号が買ってきたアイスクリームを受け取ると(こちらはきちんと一方通行がお金を出している)、彼女と一緒にベンチに座った。
アイスクリームの種類はミサカ10039号に任せてしまったので少し不安だったが、彼の好みに合わせてくれたのか彼女の選んだもののように異常に甘ったるくは無かった。
彼女に自分の好みを教えた覚えはないのだが、恐らくミサカネットワークとやらを通じて知ったのだろう、と一方通行は勝手に結論付ける。

「ふむ、これはなかなかに美味です。他の妹達にも教えなくてはなりませんね、とミサカは早速ネットワークに接続します」

「あー……。その前に、ちょっと良いか?」

「? 何でしょうか、とミサカは静かに問い返します」

「……さっきの。上位個体とやらについて説明してもらえるか?」

「ああ、そのことですか。先程は説明を省いてしまいましたからね、とミサカは先程の出来事を回想します。
 そうですね、何から話すべきでしょうか……」

呟きながら、ミサカ10039号はミサカネットワークで情報を整理しているのか遠い目をして思考に耽る。
一方通行は彼女の思考を遮らないように、黙ってミサカ10039号の言葉を待っていた。
679 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/21(月) 21:53:54.82 ID:phNmQ4HQo

「……まず上位個体とは、外部の人間がミサカネットワークに干渉する為に存在する、コンソールのような役割を持つ個体です。 
 また、『上位命令文』という妹達に対して絶対的な強制力を持つ命令をミサカネットワークに流すことの出来る個体でもあります。
 この上位命令文を流すことによってミサカたちの反乱を防ぎ、ミサカたちの意に反した行動を強制することができるのです、
 とミサカは上位個体の概要を明かします」

「それは……、逆に平気なのか?」

「それは悪用されることは無いのか、という意味の質問ですか? とミサカは曖昧な質問に対する確認作業を行います。
 でしたら、その可能性は低いのでご心配なく。
 上位個体は研究員が扱いやすいように肉体(ハード)も精神(ソフト)も未完成のまま留められていますし、
 上位命令文自体も外部の人間が流すには洗脳装置(テスタメント)を使って上位個体に直接コードを入力する必要があります。
 ですので何の知識も無い外部の者がミサカたちを悪用するのは難しいかと、とミサカは上位個体に関する解説を締めます」

「へェ……」

「ご理解頂けましたか? とミサカは気のない返事をしているあなたに問い掛けます」

正直に言うと難しい単語が多すぎて少々分かり辛かったのだが、まあ概要は大体理解できたのでそのまま流しておいた。
しかしこの説明を聞いてもまだ安全性に多少難があるような気がするのだが、本当に大丈夫なのだろうか。
実物を見たことがないから何とも言えないが、学園都市の最新技術で本当に厳重に管理されているのなら大丈夫そうだが。

「それにしても、あなたが上位個体について何も知らないというのは意外でした。
 てっきりミサカ10032号からとうに説明を受けていたものかと、とミサカは私的な感想を述べます」

「意外? どォしてだ?」

「…………、ミサカたち妹達を扱うにあたって知るべき必須事項だからです。
 あの研究所にいて誰も上位個体についてあなたに伝えなかったのを少し不思議に思いまして、とミサカは研究員の職務怠慢を疑います」

「あァ、まァ俺もまだあの研究所じゃ新人だしな。ここのところは忙しかったし、教える暇も無かったンだろ」

「これはあくまで個人的な意見ですが、何か恣意的なものを感じます、とミサカは―――」

「おっ姉っ様――っ!」

話している途中で、ミサカ10039号は唐突に背後から何者かに抱き着かれた。
同時に思いきり前方に押し出されてしまった為、彼女が手にしていたアイスクリームはべしゃりと派手な音を立てて地面に叩き付けられる。
ミサカ10039号は地面の染みと化してしまったアイスクリームを無感情な瞳で見つめていた。

「……アイスクリームが落ちてしまいました、とミサカはあくまで冷静に状況を報告します」

「こっ、これは申し訳ありませんお姉様! 後ろからではアイスクリームを持っているのが見えなかったもので……」

「……アイスクリームが落ちてしまいました、とミサカはあくまで冷静に状況を報告します」

「落ち着け」

見た目には完全無欠に無表情だが、どうやら相当ショックだったらしい。
隣でわたわたしている謎の少女と合わせて、何だかとてもシュールな光景だった。
680 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/21(月) 21:54:49.19 ID:phNmQ4HQo

「いいいいい今すぐ同じものを買って参りますわ! 少々お待ちくださいませ!」

「あ、オイ待てオマエ……」

しかし一方通行が引き止める間もなく、謎の少女は長いツインテールを靡かせてアイスクリーム屋へと消えて行ってしまった。
そしてその場に残されてしまった一方通行は、押された時の体勢のまま固まってしまっているミサカ10039号を見やった。

「オイ、大丈夫か?」

「……何も問題はありません。たかだかアイスクリームが地面に落ちただけです、とミサカは無理やり自分を納得させようとします」

「語尾に本音が出てンじゃねェか。……ホラ、ツインテールが買い直してくるっつってたから元気出せ」

「はい……。ですが、先程の彼女は一体何者だったのでしょうか、とミサカは我に返って疑問を呈します」

「なンだ、オマエの知り合いじゃねェのか」

ミサカ10039号の言葉に、一方通行は驚いたような声を出す。
彼女はそれに対して頷いたが、やはり視線は地面に落ちたアイスクリームに固定されたままだった。

「はい。ミサカは殆ど研究所から出たことがありませんでしたから、学生の知り合いと言えば布束砥信とあなたくらいしか居ません、
 とミサカは自らの交友関係について暴露します」

「……じゃあ、アイツは……」

「ええ。恐らくミサカのことをお姉様(オリジナル)と勘違いしているのでしょう、とミサカは推測します」

地面に落ちていたアイスクリームが、掃除ロボットによって綺麗さっぱり掃除されてしまう。
ミサカ10039号はアイスクリームを吸い込んでいった掃除ロボットを名残惜しげに眺めていたが、すぐに諦めたように視線を逸らした。

「それにしても困りました、とミサカは頭を抱えます」

「どォしてだ? いつかの御坂妹みてェに妹のフリすればイイじゃねェか」

「それが、そうもいかないのです。彼女は見たところ常盤台中学の生徒ですし、ミサカたちよりもお姉様と近しい関係のはず。
 お姉様の家族構成が把握されている可能性がありますので、妹のフリをするのはかえって危険です、とミサカは問題点を提示します」

「なるほどなァ……」

しかも先程の少女のあの行動を見ると、彼女と御坂美琴の関係は浅からぬものであるようだ。
あの様子なら、彼女が美琴の家族構成を知っている可能性もある。
そしてそれ以上に、少しでも疑問を持たれて学校側に家族構成を問い合わせられてしまったら一巻の終わりだった。
流石にクローンだということまではばれたりしないだろうが、美琴が不信感を持たれるようになることには変わりがない。

「どうしましょう? とミサカは一方通行に意見を求めます」

「どォするってオマエ……。そりゃ、御坂本人のフリをするしかねェンじゃねェのか?」

「やはりそれが最善でしょうか、とミサカは思案します」
681 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/21(月) 21:55:33.29 ID:phNmQ4HQo

「自信がねェのか?」

「まあ、演技などしたことがありませんから、とミサカは遠回しに肯定します」

「……出来るだけフォローはしてやるから、まァやるだけやってみろ」

「ありがとうございます、一方通行。……おや、さっそく帰って来たようです、とミサカは報告します」

言いながら、ミサカ10039号は装着していた電子ゴーグルを外して一方通行に押し付けた。
どうやら完璧に美琴を演じるつもりのようだ。
実際、電子ゴーグルを外されてしまうと見た目だけでは美琴とまったく変わらない。クローンなのだから当然だが。

「お姉様! 同じものを買って参りました!」

「うん、ありがと。ごめんねー、私もちょっとぼーっとしててさ」

「いえいえ、お姉様が謝る必要など何処にもありませんわ!」

……意外と上手い。一方通行は素直に感心した。
もしかしたら洗脳装置で演技の仕方も強制入力されているのかもしれない、と思ってしまうくらいだった。
そんなミサカ10039号の意外な特技に一方通行が呆然としていると、彼女にアイスクリームを手渡した少女がぐりんとこちらに向き直る。
どう贔屓目に見ても、好意的とは思い難い目つきだった。

「ところでお姉様。こちらの方はどなたですの?」

「ん? ああ、友達よ友達。それがどうかしたの?」

「……どォも」

こういう場面で露骨な悪意を向けられたことのない一方通行は一瞬驚いたが、すぐにいつもの調子を取り戻して返事をする。
しかし、それでも少女の目つきは変わらない。じとっとした目で一方通行を睨み続けている。

「な、何? どうかしたの?」

「……いえ。先日の類人え……、上条さんと言い、お姉様には『学舎の園』の外にご友人が多いのですわね」

「そ、そうかなあ? そんなことないと思うけど……」

慌てて取り繕いながら、ミサカ10039号はちらりと一方通行に目配せする。
それに気付いた一方通行は、少女に気付かれないようにそっとミサカ10039号に触れて能力を発動させる。
生体電気と脳波を操作することによって、彼女と自分の間に回線を作り出すのだ。

(どうやら彼女は特にお姉様と親しい間柄の人間なようです、とミサカは苦い顔をします)

(みてェだな。つゥか思い出した。コイツは多分白井黒子っつゥ御坂のルームメイトだ。特徴と言動が一致してる)

(ルームメイト……、ですか。これはなかなか厄介ですね、とミサカは苦言を呈します。他に何か彼女についての情報はありますか?)

(御坂にベタ惚れ……、いや、これはもはや崇拝の域だな。とにかく御坂に執着してて、露払いを自称してる空間移動能力者だ。
 それから御坂に学舎の園の外の人間が近づくのを嫌ってる節があンな。ゲーセンに行くのも嫌がられるっつってたか……?)
682 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/21(月) 21:56:19.51 ID:phNmQ4HQo

(つまりお姉様のお目付け役と言うことですか、とミサカは情報を纏めます。それであなたに敵意を?)

(恐らくな。まァ常盤台はお嬢様学校だったから、気持ちは分からないでもねェンだが)

(と言うか上条当麻とも面識があるようですね、とミサカは思い返します。こちらはどうするべきでしょう?)

(ほっとけ。類人猿とか言いかけてたし、どォせまたなンか気に障るよォなことをコイツにしたンだろ。
 そォじゃなきゃここまで敵意丸出しになンねェよ)

(では上条当麻には触れない方針で? とミサカは尋ねます)

(それがイイだろォな。思い出させればそれだけ機嫌を損ねるだけだ)

(了解しました、とミサカは一方通行の言葉に従います)

「……先程から、何を黙りこくってらっしゃいますの?」

「う、ううん、何でもないわ。そんなことより、アンタはどうしてこんなところにいるのよ?」

流石に長く会話をし過ぎてしまったようだ。少女、白井が怪訝そうな顔でミサカ10039号の顔を覗き込んでいた。
これ以上余計なことを悟られないように一方通行はそっとミサカ10039号から手を放すと、回線を切って能力を解除する。
これで秘密裏に意思疎通を行うことはできなくなってしまったが、まあここらが潮時だろう。

「何って、風紀委員のパトロールですわ。お姉様にお教えしませんでしたか?」

「あ、ああパトロールね。すっかり忘れてたわ」

よく見てみれば、白井の腕には風紀委員の腕章が装着されていた。
どうやら風紀委員に所属しているようだ。
ミサカ10039号が非難するように目配せしてきたが、これは一方通行も知らない情報だったので仕方がない。
いや、美琴に風紀委員の友人が居ることは知っていたのだが、それがまさか目の前にいるこの少女だとは思わなかったのだ。

「それより、それはこっちの台詞ですわ! どうしてお姉様はこんなところに?」

「どうしてって、私がここにいちゃ悪いの? ちょっと友達と駄弁りながらアイス食べてただけじゃない」

「わ、悪いということはありませんが……」

強気に出るのは一種の賭けだったが、どうやら正解だったようだ。
白井は不機嫌そうなミサカ10039号の言葉に口籠もり、勢いを失ってしまう。……少し可哀想かもしれないが。

「そんなことよりアンタたち、自己紹介しなさいよ。お互いに初対面でしょ?」

「こ、これは失礼しました。申し遅れました、わたくしは白井黒子と申します。お姉様の露払いを務めさせて頂いております」

「俺は一方……、鈴科だ。……よろしく」

「以後お見知りおきを、鈴科さん」
683 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/21(月) 21:57:28.86 ID:phNmQ4HQo

白井はお嬢様らしい可憐なお辞儀をすると、にこりと綺麗な作り笑いをした。
……そう、作り笑いだ。
いったい何をすればここまで『外の人間』に対する印象を悪くできるのか。上条の行動は、本当にまったく厄介ったらない。
一方通行はそんな彼女の笑顔を見てほんの少しだけ目を細めると、ちらりとミサカ10039号を見やった。

「そんなことより……、黒子。こんなところで油売ってて良いの? パトロールなんでしょ?」

「黒子にはお姉様よりも重要なことなんてありませんわ!」

「馬鹿なこと言ってないで、さっさと仕事に戻りなさい。最近はテロリストも多いんだから大変でしょ?」

「むう、お姉様がそう言うのでしたら仕方ありませんわね……。お姉様も早めにお帰りになって下さいませ」

「分かってるってば。じゃ、風紀委員のお仕事頑張ってね」

「ううっ、黒子はお姉様のその一言だけで三徹はできますわ……!」

白井は滲む涙を懐から取り出したハンカチで拭うと、ミサカ10039号に向かって深々と頭を下げてから立ち去ろうとする。
しかし彼女はその直前で振り返ると、じろりと一方通行を睨みつけながらこう言い放った。

「お姉様は渡しませんわ!」

その台詞にぽかんとしている一方通行をよそに、白井はべーっと舌を出すと一瞬でその場から姿を消した。空間移動(テレポート)だ。
残された一方通行とミサカ10039号は暫らく茫然としていたが、やがて我に返ると緩慢な動作でそれぞれ顔を見合わせた。

「……上条は一体何をしたンだ?」

「さあ、とミサカは曖昧に言葉を濁すことしかできません」

……アイスが、溶けかけていた。



―――――



結局、一方通行は一日中ミサカ10039号に付き合わされてしまった。
その所為で一方通行はへとへとに疲れ果ててしまったが、いつもは無表情なミサカ10039号が心なし楽しそうにしているのを見てまあいいかと思い直す。
ミサカ10039号は自分のお金で購入したひよこのぬいぐるみを抱き締めながら、一方通行の前を歩いていた。

「今日はありがとうございました、とミサカは感謝の言葉を口にします」

「ン。気が向いたらまた付き合ってやるよ」

「本当ですか? とミサカは確認を取ります。
 ですが次にこのミサカに外出許可が出るのはだいぶ先なので、できれば別のミサカに付き合ってあげて下さい、とミサカは希望します」

「他の妹達にか? 俺なンかが付いて行っても面白くもなンともねェぞ」
684 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/21(月) 21:58:52.37 ID:phNmQ4HQo

「そんなことはありません。気が向いたらで構いませんから、どうか他のミサカにも構ってあげて下さい、とミサカは再度お願いします」

「……まァ、本人がそォして欲しいってンならその時に考えてやるよ」

「ありがとうございます。きっと彼女たちも喜ぶはずです、とミサカは一方通行に感謝します」

すると、ミサカ10039号は一方通行に向かってぺこりと頭を下げた。
それを見て何を思ったのか、一方通行は難しい顔をして軽く頭を掻く。

「ったく、分っかンねェなァ……」

「そうですか。ですが、あなたもいい加減こういった感情の機微を理解した方が良いですよ? とミサカは今更ながら助言します」

「……感情の機微、ねェ」

ミサカ10039号の言葉を反芻しながら、一方通行は苦い顔をする。
別にそういったものをまったく理解できない訳ではないのだが、一方通行はとりわけ妹達のことに関しては理解しがたいと思っていた。
ミサカネットワークで御坂妹と記憶を共有しているとは言え、どうしてそこまで自分に執着しているのか。

条件は、上条や美琴と同じだ。
いや、むしろ美琴は妹達のオリジナルで『お姉様』として慕われているのだから、一方通行よりも彼女に執着して然るべきだ。
しかし彼女たちは、ただ手近なところにいると言うだけの理由でひたすら一方通行にだけ構って貰いたがる。
美琴や上条も御坂妹以外に何人かのクローンがいることは知っているのだから、気兼ねなく会いに行くことは出来るはずなのに。
……誰にとは言わないが、気を遣っているのだろうか?

「ともあれ、今日はとても楽しかったです、とミサカは研修に対する感想を述べます」

「そりゃァ良かった」

「はい。本当に良かったです、とミサカは……」

いつもの口癖を途中で止めて、ミサカ10039号はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて俯いた。
……こういう時に掛ける言葉を、一方通行は持っていない。
だから彼は何も言わず、黙ったままのミサカ10039号を見守っていた。

「……あ。研究所に到着してしまいました、とミサカは状況を報告します」

「あァ、そォだな」

「これでミサカの研修も終了ですね、とミサカは名残惜しく思います」

「……そォか」

一方通行とミサカ10039号では、向かうべき棟が違う。
だから二人は、ここで別れなければならなかった。
……別に、ここで別れたからってもう二度と会えなくなるわけではない。明日の仕事で、また顔を合わせることになるだろう。
けれど彼女の研修は、ここで彼と別れてしまった時点で本当に終わりになってしまうのだ。

「それでは一方通行。また明日、とミサカは別れの挨拶をします」

「……あァ。また明日、な」

「はい。さようなら」

ミサカ10039号はそれだけ言うと、駆け足で自分の向かうべき棟へと帰って行った。
まるで、何かを振り切ろうとしているかのように。
一方通行はそんな彼女の後姿を見送りながら、何も言うことができなかった。
……何かを、言うべきだったのではないかと考えながら。


685 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/21(月) 22:00:38.05 ID:phNmQ4HQo
投下終了、お疲れ様でした。
次回はまた三日後に。
それでは皆さん、ここまで読んで下さってありがとうございました!

花粉症が酷過ぎて死にそう
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/03/21(月) 22:20:42.59 ID:WiuxDy3ho
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/03/21(月) 22:30:19.08 ID:NsXgTstVo

最後がなんか切ないぜ・・・
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/03/22(火) 00:52:26.94 ID:OhD8bQjG0
さよなライオnいやなんでもない
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/22(火) 01:15:27.32 ID:OyY9TGXNo

ぬのたばさんはまだですか
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/22(火) 17:40:28.63 ID:ipxHJRKIO
なんか切ねえな……
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/23(水) 02:59:07.49 ID:a5+gUCNi0
な、なんだよ…なんか嫌なフラグじゃないよね…?(´・ω・`)
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/03/23(水) 10:26:53.40 ID:GtqfAIYy0
乙乙。
ここにもあいさつの魔法にかけられた人が…
ちなみに俺も花粉症だから引きこもってる
別にニートって訳じゃないんだぞ!
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/03/23(水) 21:13:15.44 ID:kqIrrYig0
自宅警備員乙
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/24(木) 17:24:13.57 ID:mluvvEEDO
一方さんは花粉症にもならないんだろうなー
695 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/24(木) 23:05:58.21 ID:bmJudz08o
どうもこんばんは、結構ギリギリで済みません。
それではちゃきちゃき投下しますよー。
696 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/24(木) 23:06:42.29 ID:bmJudz08o

ピピピピピピピ。

埋め込み式時計のアラーム音で、一方通行は目を覚ました。
彼は暫らくアラームの音を無視してぼーっとしていたが、時間が結構ギリギリなことに気付いてアラームを停止させ、起床の準備に入る。
白衣に着替えながら、彼は大人しくなった時計をちらりと見やった。

……七月、十六日。

確か今日は身体検査(システムスキャン)の日だったか、なんて取り留めのないことを考えながら、一方通行は眼鏡を掛ける。
そして準備の最終確認をしていると、不意に部屋の扉がノックされた。

「なンだ?」

「あの、ミサカ19090号です、とミサカは自らの検体番号(シリアルナンバー)を報告します。少し遅れているようでしたので、様子を見に……」

「あァ、オマエか。わざわざ悪かったな。今行く」

「い、いえ、ゆっくりで構いません、とミサカは慌てて付け足します。それではこちらで待たせて頂きますね」

しかしミサカ19090号が言い終わるよりも早く、一方通行は部屋の扉を開く。
それが予想外だったのか、扉の横に立っていたらしい彼女は驚いてびくりと身体を跳ねさせた。

「……驚きすぎだろ」

「も、申し訳ありません、とミサカは謝罪します。それでは研究室にご案内します」

「ン? いつもの場所じゃねェのか?」

「はい。少々問題が発生しまして、第六研究室に変更になりました。確か、あなたはまだ第六研究室に行ったことがありませんでしたよね?
 そこで、このミサカが案内役を申し付けられた訳です、とミサカはここに至るまでの経緯を説明します」

ミサカ19090号の言葉に気のない返事をしながら、一方通行は先行する彼女の後について歩きはじめる。
すると彼は唐突に何かを思い出したような顔をして、前を歩くミサカ19090号に声を掛けた。

「そォいえば最近御坂妹……、ミサカ10032号を見かけねェンだが、オマエなンか知ってるか?」

「ミサカ10032号、ですか? 彼女は確か現在任務遂行中だったと思われます、とミサカは報告します。そろそろ帰って来るはずですけど」

「任務?」

「はい。ただ、任務と言うよりは彼女個人の知り合いからの頼み事、と言った方が正しいでしょうか、とミサカは訂正します。
 どちらにしろ危険なことではないので心配することはありませんよ? とミサカはすかさず補足します」

一方通行も御坂妹の強さは重々承知しているので、別にその身を心配しているわけではないのだが。
しかし、最後に会ったのがあのゲームセンターの時だったので、少し気に掛かっているのだ。
あの時の御坂妹の様子は、少しおかしかった。
御坂妹がいったい何を思って行動しているのかは知らないが、彼女も彼女でなかなかに事件に巻き込まれやすいタチだし、
何かおかしなことに巻き込まれていないと良いのだが……。
697 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/24(木) 23:07:22.72 ID:bmJudz08o

「何か気になることでも? とミサカは尋ねてみます」

「…………、……いや。何でもねェよ。変なこと訊いて悪かったな」

「そんなことはありません。これからも何か尋ねたいことがあれば何なりと、とミサカは自らの有用性をアピールします」

「ハイハイ。頼りにしてますよォ」

「む。ミサカのことを馬鹿にしていませんか? とミサカは疑いの眼差しを向けます」

「気のせいだろ」

それでもミサカ19090号は納得いかないというような顔をしていたが、一方通行は無視して歩き続ける。
そしてやがて目的地に辿り着いた二人は、ノックをしてから第六研究室へと足を踏み入れていった。



―――――



ぱかり、と携帯電話を開く。
死に体で教室の机に突っ伏していた上条は、それが一方通行からのメールであるということに気付いて顔を上げた。
そのメールの内容は、仕事が終了したので誘いに付き合ってやっても良い、という旨のもの。
上条はそれに適当な返信をすると、再び机に突っ伏した。

……どうして彼がこんなにもぐったりしているのかと言うと、テストの結果が散々だったからだ。
いやまだ結果は帰ってきていないのだが、結果を見なくても分かるくらい酷かったのだ。
ちなみに身体検査の方は、当然のごとく無能力(レベル0)だった。こちらはもはや決定事項と言うか予定調和なので今更気にしない、が。

(うう、これじゃわざわざ勉強を教えてくれた一方通行やビリビリに申し訳が立たねえ……)

特に一晩中付きっきりで彼の面倒を見てくれた一方通行には申し訳なくて仕方がない。
一体、どうして自分はこんなに頭が悪いのだろうか。
一方通行や美琴の優秀さをほんの少しで良いから分けて頂きたい。
て言うか神様俺のこと嫌いすぎだろ常識的に考えて……。

(ちくしょー……)

しかし、悪態を吐いたところでテストの結果が良くなるわけではない。実に腹立たしいが。
そんなこんなでうだうだしていると、横合いから突然土御門が声を掛けてきた。

「どうしたんだにゃーカミやん? 浮かない顔して」

「どうしたもこうしたもねーよ……。テストが……テストがな……」

「そんなん今に始まったことじゃないぜい」

「うう、まあその通りなんだけどな……」
698 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/24(木) 23:08:09.22 ID:bmJudz08o

反論できずに、上条はさらに項垂れた。
これは流石に重症だと思ったらしい土御門は、苦笑いしながら話題の転換を図る。

「そんなことより、例のオトモダチはどうなってるのかにゃー?」

「友達って……、ああ、一方通行のことか? 別に普通だよ、普通。この後も一緒にメシ食いに行く予定だし」

「あ、そういえばこないだその鈴科くんに会ったでー」

すると、そこで青髪ピアスが会話に唐突に割り込んできた。
しかしそれ以上に、上条は彼の言葉に驚いて振り返る。

「会った? アイツに? って、鈴科?」

「そうそう、本名鈴科くん言うんやろ? 一方通行って能力名で呼ぶのはなんかちょっとそっけない気がしてなー」

「あ、う、そ、それもそうだな! あはは……」

まさか、自分から早速あの偽名を使っているとは。
まあ確かに一方通行という名前は明らかに能力名っぽいし、気まぐれに普通の名前らしい名前を名乗ってみたくなったのかもしれない。
それにこれからのことを考えればそちらの方が好都合だしな、と上条は先日の美琴との会話を想起しながら思った。

「そんなことより、お前何処でアイツに会ったんだよ? 何してたんだ?」

「こないだ、学校に行く途中でちょっとなー。それにしても、あの子は良いツッコミになるでえ!」

「いやホントに何してんだよお前……」

「そんなことよりカミやん、時間は良いのかにゃー? さっきメシ食いに行くとか言ってたけど」

「うおっ、そうだった! もう出ねえと!」

土御門に指摘されて現在時刻に気が付いた上条は、項垂れている場合ではないことに気が付いて大慌てで帰宅の準備を始めた。
そして驚くべき速度で鞄に荷物を詰め込み終わった上条は、土御門たちに向き直ってしゅびっと手のひらを立てる挨拶をする。

「それじゃ、俺先に帰るな! また明日!」

それだけ言うと、上条はばびゅんという効果音でも付きそうなくらいの速度で教室を出て行った。
土御門と青髪ピアスはそんな上条を見送りながら、けらけらと笑い合う。

「ほんま、カミやんはいつも元気やなー。羨ましいわ」

「まったくだぜい。ま、それもいつまで続くかにゃー?」

「?」

「何でもないぜい」

意味の分からない土御門の発言の青髪ピアスは首を傾げていたが、土御門はそれ以上何も言わなかった。
言う意味も無かった。



―――――
699 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/24(木) 23:08:55.35 ID:bmJudz08o


「ふいー、ようやく任務が終了しました……、とミサカは久しぶりの休息に身を預けます」

「お疲れ様、ミサカ10032号」

ミサカ10032号こと御坂妹は芳川に差し出されたコップを受け取ると、まるで瓶の牛乳を飲んでいるかのようにぐいっと一気に飲み干そうとする。
途端、御坂妹は咽そうになったのか一瞬苦しそうな表情をしたが、何とか耐えてココアをすべて飲み込んだ。

「あらあら。熱いからそんなに一気飲みしたら火傷しちゃうわよ?」

「ごふっ、そういうことはもっと早くに言って欲しかったです、とミサカはひりひりする口を抑えます……」

「ごめんなさい。まさかそんなに喉が渇いているとは思わなくて。冷たい方が良かったかしら?」

「今度からはそうして頂けるとありがたいです。
 研究所内は冷房が効いていて寒いくらいですが、外はかなり暑くなってきているので、とミサカは外の気温状況を報告します」

繰り返すが、本日は七月十六日。
よって外はどんどん暑くなってきているのだが、ずっと冷房の効きすぎた研究所の中にいる芳川にはそれが感じられていないようだ。
実際、芳川は彼女の言葉を聞いてきょとんとした顔をした。

「ああ、そう言えばそうだったわね。そろそろ夏休みの時期かしら。羨ましいわ」

「……お姉様と上条当麻の学校は、ちょうど七月二十日から夏休みが始まるようですね、とミサカは想起します」

「あら、本当にもうすぐなのね。あの子にも夏休みあげた方が良いかしら」

「彼の場合、仕事が無くなってしまう方が困るのでは? とミサカは一般論を述べてみます」

「ふふ、冗談よ。あ、だけどあなたにはご褒美として数日の自由時間が与えられているわ」

「……自由時間、ですか? とミサカは鸚鵡返しにします」

「ええ。自室でごろごろしても構わないし、街に出て遊びに行っても良いそうよ? 良かったわね」

「………………」

せっかく貴重な休日が与えられたというのに、御坂妹の表情は浮かない。
どうしたのかと思って芳川が首を傾げていると、不意に御坂妹が口を開いた。

「、あの。ミサカに休日は必要ないので、他のミサカたちに自由時間を与えては頂けないでしょうか、とミサカは申し出ます」

「…………。悪いけど、それはできないわ。
 他の妹達はあなたほど外の環境に慣れていないし、調整も完璧ではない。あなた以外では、万一のことがあっても対応しきれないもの」

「そう、ですか……。とミサカは落胆します」
700 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/24(木) 23:09:52.23 ID:bmJudz08o

「ごめんなさいね。何とかできれば良いんだけど、上からの要請で妹達に実験投入用の調整を施さなければならないことになっているから。
 ……あなたも、小まめな調整が必要でしょう?
 今のところ、実験用の調整をした上で外の環境に長時間耐えうるだけの調整を施されているのはあなただけなのよ」

「いえ、お気になさらず。事情は分かっていますから、とミサカは理解を示します」

「……せめて、ネットワークに接続したまま遊びに行ってあげなさい。記憶を共有すれば、他の子たちも楽しめるはずよ」

「もちろんです。それでは失礼させて頂きます、とミサカは席を立ちます」

「ええ、いってらっしゃい。……そうそう、あの子は今例の上条君に会いに第七学区に行ってるから、もしかしたら会うかもね」

「……了解しました。お気遣いありがとうございます、とミサカは情報提供に感謝します」

御坂妹は最後に深々とお辞儀をすると、そのまま部屋を出て行った。
芳川はそんな彼女の後姿を眺めながら、空っぽの部屋の中、一人寂しくこう零す。

「……ごめんね」



―――――



遠くの方で、見覚えのあるツンツン頭が手を振りながら駆けてきている。
一方通行はその人影に向かって手を振り返すと、ちらりと時計塔を見やってから腕を組んで電灯のポールに寄り掛かった。

「わ、悪い! 今何時だ!?」

「待ち合わせ時間25秒前。ギリッギリ」

「せ、セーフ……」

ギリギリもギリギリで待ち合わせに間に合った上条は、安堵から大きなため息を吐いた。
学校からここまでずっと走って来たのか、かなり激しく息切れしている。

「つゥか、テストどうだったンだ?」

一方通行がそう尋ねた途端、肩で息をしていた上条が突然硬直する。
彼はそれだけでなんとなく答えを悟ったが、顔を上げて凄まじい遠い目をした上条を見て何かもう色々諦めた。

「燃え尽きた……、真っ白にな……」

「まァ大体想像どォりだな。あと元ネタを良く知りもしねェ癖に真似すンな」

「どうもすみません……。あんなに勉強見て貰ったのに」
701 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/24(木) 23:12:00.39 ID:bmJudz08o

「それは別にどォでもイイ。でも平均60点以上は取れよ」

「それは無理!」

恐ろしい発言に上条が悲鳴を上げると、一方通行がけたけたと笑う。
それを見ながら、上条は申し訳ないんだか恨めしいんだかといった微妙な気分になっていた。

「つっても、これでもかなりボーダー低く設定してンだぞ?」

「それでも無理なものは無理なんですーお前らと一緒にしないで下さいー」

「拗ねンな」

「どうせ俺なんて……」

ちょっと弄り過ぎたようだ。上条はがっくりと項垂れると、魂が抜けてしまいそうなくらい盛大な溜め息をつく。
流石に可哀想だと思ったらしい一方通行は、そんな上条の肩をぽんぽんと叩きながら慰めてやる。

「所詮、テストなンかただの目安だ。昼メシ奢ってやるから元気出せ」

「本当か!?」

「……オマエ、本当に現金な」

突然元気になってガバッと顔を上げた上条を見て、一方通行は呆れた顔をした。
しかし上条はそんなことなど全く気に留めず、嬉しそうに瞳を輝かせている。先程までの憂鬱っぷりは一体何処に行ってしまったのか。

「ただし、あンまり高いのはナシな」

「分かってるよ。あー良かった、今月苦しかったんだよなー」

「先月も同じこと言ってなかったか? 今度は何したンだよ」

「いや、色々あって特売やタイムセールに行き損ねてですね……」

「あァ……」

少し前までは美琴に追い掛け回されていた所為で、最近は補習や勉強、そして度重なる不幸の所為で……、と言った具合に、
上条の節約しようという努力はことごとく踏み躙られているのだ。
そうした事情を知っている一方通行は、上条を可哀想なものを見る目で見ていた。

「と、とにかく! もうすぐ世間でも昼飯時だし、外食するなら店が混む前に行こうぜ」

「それもそォだな。何処が良い?」

「んー、そうだな……。その辺のファーストフード店とかで良いんじゃないか? 安いし」

「身体には悪そォだけどな……」
702 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/24(木) 23:13:51.83 ID:bmJudz08o

「あれ、お前そういうのあんまり気にしない方じゃなかったっけ?」

「御坂妹達の調整なンかをやってると栄養管理もやることがあるからな。なンとなく目に付くよォになったっつゥか」

「ふーん。まあこれを機に自炊なんかしてみると良いんじゃないか? 安上がりだし結構ハマるぞー」

「つっても研究所には食堂付いてっからなァ……。まァ考えとく」

話しながら、二人は第七学区の大通りを適当にふらふらと歩いていた。
別に空腹で死にそうという訳でもないし慌てて店を探すことも無いだろうということで、どちらかと言うと暇潰し優先なのだ。

「あ。そう言えばこの間ちょっとビリビリと話し合ったんだけどさ、今度からお前のこと鈴科って呼ぶことにしたんだ」

「はァ? そりゃまた何で」

「ほら、一方通行って名前は『奴ら』も知ってる名前だからさ。
 普段からその名前で呼びまくってたら奴らの目に付きやすくなっちまうんじゃないかと思って」

「そォか? 結構今更だと思うが」

「まあそれはそうなんだけど、念には念をってことだろ? 奴らに見つからないに越したことはないんだし」

確かに上条の言う通りだ。それに、青髪ピアスも言っていた通り一方通行という名称は名前としても多少不自然だし若干呼びにくい。
今まではそこまで気にしたことはなかったが、特に抵抗がある訳でもなかったので一方通行は快く承諾した。

「そうだ、ビリビリと言えば今日はアイツどうしたんだ? 確か誘ったって言ってなかったっけ」

「あァ、アイツは連絡付かなかった。まァ今日身体検査だしなァ」

「なるほど。やっぱ超能力者(レベル5)ともなると測定に時間が掛かるのかね」

「プールの水を緩衝剤にしても加減しないとヤベェっつってたからな。新しい測定方法でも試してンじゃねェの?」

「でも、学園都市はそういうとこ不精な気もするけどな……」

と、その時。
ドォン、というとんでもない爆音が轟いたと思ったら、遠くの方で乗用車が回転しながら空を飛んでいるのが見えた。
しかもその直前に、見覚えのある光が迸った気がした……、の、だが。

「……アレが新しい測定方法か?」

「いや、それは流石に無いと思う」


703 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/24(木) 23:14:56.28 ID:bmJudz08o
投下終了。お疲れ様でした。
次回は恐らく三日後に。

ちょろっと超電磁砲の内容に触れますが、そんなにがっつりやらない予定なのであまり期待しないで下さいね……。
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/24(木) 23:24:51.04 ID:/2g+YDmIO
乙かれ!楽しみに待ってる

>「……アレが新しい測定方法か?」
ワロタwwwwwwwwwwww
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/03/24(木) 23:49:57.01 ID:mtfaUF/T0
乙乙
実は今読んでるSSの中で一番気に入ってたりする
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/25(金) 00:17:19.08 ID:njldHMbio
まさかの第一話かwwwwww
二人の感想がシュール過ぎるわww
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/25(金) 03:16:51.66 ID:2Vhgc+Po0

続きが待ち遠しい!
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage ]:2011/03/26(土) 12:26:09.92 ID:j9a5AFuH0
お、追い付いた……。
おもしろすぎて徹夜で読んでしまったww じっくり読んでたらもうこんな時間だ。
>>1乙 これからも楽しみに待ってる。
709 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/27(日) 22:27:20.76 ID:5PE7BpyZo
どうもこんばんは、いつも読んで下さってありがとうございます本当に。
ですが睡眠時間はどうか大切に。
自分は大したことしてない筈なのに何故かうっすらと隈のようなものができてきています……なんでだ。

ともあれ、投下します。
710 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/27(日) 22:27:58.16 ID:5PE7BpyZo

夕暮れの細道を、一人寂しく歩く。
与えられた休暇を消費する為に第七学区を歩き回っていた御坂妹は、結局この時間まで一方通行たちに会うことはなかった。
とは言え、別に捜し歩いていた訳ではないので見つからなかったからどうということでもないのだが。

(と言うか他のミサカたちの要求が思いのほかハードでした、とミサカは今日一日の出来事を振り返ります)

本日の御坂妹は、休暇を使って自分の欲求を満たすのではなく、他の妹達がやりたいと言ったことをやってやる、ということを繰り返していたのだ。
妹達はミサカネットワークを通じて記憶や感覚を共有することができるので、
そうして御坂妹が体験したことはそのまま他の妹達も追体験できるようになっている。
よって、彼女は外に出て遊ぶことの出来ない他の妹達の為にミサカネットワークを介して彼女たちのやりたいことを疑似体験させてやっていたのだ。

しかしその妹達の要望がとても大変なことばかりで、御坂妹はすっかり疲れ果ててしまっていた。
特にあれを食べたいこれを食べたいという希望が非常に多かったので、お腹がいっぱい過ぎて苦しい。後で体重計に乗るのが怖い。
ただその一方で彼女もいつもは食べられないようなものも食べられたりしたので、デメリットばかりではなかったが。

(うう、横っ腹が痛いです。早急に研究所に帰るべきですね……、とミサカは自らの目的を決定します)

研究所まではまだまだ距離がある。甘いものを食べまくったので喉も乾いた。
これは何処かでジュースでも飲みつつ休んだ方が良いかもしれない、と思い立った御坂妹は、ネットワークを使って周辺地図を検索した。
そしてやがてすぐ近くに公園があることを知った彼女は、俯いていた顔を上げて再び歩き出そうとした、が。

彼女は進行ルートのど真ん中に、見覚えのある少年が立っていることに気が付いた。
ここ最近目にすることが無かった姿に御坂妹は少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに我に返って彼に向かって軽く手を振る。
すると、そこで漸く彼女に気が付いたらしい一方通行がこちらに向かって歩いてきた。

「お久しぶりですね一方通行、とミサカはありきたりな挨拶をします」

「ああ、本当に久しぶりだな。任務ってのはもォイイのか?」

「それは何処で聞いたのですか? とミサカは疑問を呈します」

「ミサカ19090号が言ってたぞ。それより、オマエは大丈夫なのか?」

「は、はい。特にこれと言って特筆すべきことはありませんでした。あなたこそ、何か心配事でもあるのですか? とミサカは首を傾げます」

「……いや、何でもねェ。何も無かったなら良い」

「そうですか、とミサカは胸を撫で下ろします」

「………………」

「………………」

会話が続かない。
御坂妹は何故か遠慮がちになっているし、一方通行はもともと自分から喋るようなタイプではないので、つい言葉に詰まってしまった。
数秒、気まずい沈黙が続く。
711 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/27(日) 22:28:28.44 ID:5PE7BpyZo

「えと……、そこの公園のベンチに座りましょうか、とミサカは提案します」

「あ、あァ。そォするか」

御坂妹に促されて、二人は近くにあった公園のベンチに座る。
しかしそれで話題が生まれる訳でもないので、ベンチに座ってからもまた沈黙が続いてしまった。
取りあえず間を持たせる為に、一方通行は自販機で飲み物を購入しようと席を立つ。

「オマエ、何か飲むか?」

「えっ? あ、いえ、お構いなく、とミサカは遠慮します」

「気にすンな。適当に買っちまうぞ」

「そ、それではいちごおでんを……、とミサカはおずおずと要望を口にします」

「えっ」

「えっ」

「……いちごおでンで良いのか?」

「はい。美味しいですよね、とミサカは一方通行に同意を求めます」

「…………、いや、お前が良いなら良いンだが……」

「?」

何か言いたそうな一方通行の態度に御坂妹は首を傾げるが、いちごおでんを受け取った途端に嬉しそうにプルタブを開けて飲み始めた。
……信じられないことに、本当に美味しそうに飲んでいる。
名前からして不味そうだったので流石に飲んだことは無いのだが、実は美味しかったりするのだろうか。

「そう言えば、お姉様たちとは完全に和解なされたそうですね。少し心配していたのですが安心しました、とミサカは安堵します。
 ……ところで、あなたは学校には行かれないのですか?」

「俺は……、ちょっとな。それよりオマエは御坂と同じ学校に行かねェのか?」

「残念ながらミサカのレベルは2ですので、常盤台の入学条件を満たしていません。
 よって、お姉様と同じ学校に行きたくとも入学条件に阻まれてしまってそれは叶わぬ夢なのです、とミサカは肩を落とします」

「そォなのか……。悪かったな」

「いえ、気にしていません。それに、そもそも学校に行けるような立場ではありませんですし、とミサカは諦観します」

「……芳川とか、オマエらを作った研究員どもと交渉して、せめて普通の学校に行けるようにはしてもらえねェのか?」

「難しいと思います。入学するとなると色々とお金がかかりますし、調整の問題もあります。
 このミサカだけがそのように良い思いをするわけにはいきませんし、クローンであるミサカたちではIDの偽造は非常に難しいのです、
 とミサカは世知辛い世の中に思いを馳せます」
712 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/27(日) 22:29:02.47 ID:5PE7BpyZo

システム上美琴の血縁者を偽ることは難しいが、それ以上に美琴の血縁者でないのにそっくりな顔をしているというのはネックだ。
美琴が有名人であることが災いして彼女も注目を浴びることになってしまうかもしれないし、偶然や他人の空似にも限度というものがある。
……だからそれは、確かにかなり難しい話なのだろう。

しかし、がっかりとしている彼女を見ている限りは、本心では学校に通いたいのだろうと思う。
何とかしてやりたいとは思うのだが、お金もコネも持たない一方通行にはどうしてやることも出来ない。超能力者の美琴でも難しいだろう。

「ですが、ミサカは今の生活で十分満足しています。ですからどうか、お気になさらず。
 ところで先日お姉様から水族館へのお誘いがあったのですが、あなたも聞いていますか? とミサカは話題の転換を試みます」

「聞いてるぞ。後はオマエに確認取るだけって言ってたが、どォなンだ?」

「もちろん大丈夫です。インターネットで調査してみたところ、なかなか面白そうなので楽しみにしています、とミサカは心躍らせます」

「そりゃ良かった。御坂にはもォ連絡したのか?」

「はい。その内そちらにも連絡が行くかと思われます、とミサカは予測します」

すると、御坂妹はわざわざ携帯を弄って送信履歴を見せてくれた。
そこには、確かに美琴に水族館に行ける旨を伝えるメールが映っている。御坂妹らしい、質素で簡潔なメールだった。

「……あ。そう言えばお金が溜まったらアパートに移り住むつもりだと聞いたのですが、本当でしょうか? とミサカは尋ねてみます」

「ン、よく知ってるな。一応そのつもりだが、まだまだ先のことになるだろォし今から気にしなくてもイイと思うぞ」

「ふむ。ですが、引っ越したら住所を教えてくださいね、とミサカは約束を取り付けます」

「遊びに来るつもりか? 面白いモンなんて何もねェぞ……」

「構いません。とにかく約束ですからね、とミサカは念を押します」

「ハイハイ」

一方通行は適当な返事しか返さなかったが、御坂妹はそれを見ると満足そうに頷いた。
すると御坂妹は残ったいちごおでんを一気に飲み干し、ぷはっと息を吐く。

「さて、ジュースも飲み終わりましたし、そろそろお暇させて頂きますね。ありがとうございました、とミサカはぺこりと頭を下げます」

「これからまたどっか行くのか?」

「はい。体調も良くなってきましたし、もう一つくらい妹達の要望に応えてやろうかと思っています、とミサカは目的を明かします」

「?」

事情を知らない一方通行はその言葉の意味を掴みかねてきょとんとしていたが、御坂妹は面倒臭いのか詳しく説明してくれなかった。
そして彼女は席を立ち、くるりと一方通行に向き直る。

「……それから、一方通行。一人でこんなところを歩いてはいけませんよ? とミサカは警告します」

「…………? この間のこと、聞いたのか? だったら別に気にすンな、大したことねェよ」
713 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/27(日) 22:29:30.13 ID:5PE7BpyZo

「いいえ。油断大敵ですよ、とミサカは一方通行を諭します」

「オマエも意外と心配性だな。まァ、オマエがそこまで言うなら気を付ける」

「是非そうして下さい。それでは今度こそ失礼します、とミサカは踵を返します」

すると、御坂妹は一方通行に背を向けて去って行ってしまった。
一方通行は彼女の不思議な態度について暫らく考えていたが、そうしたところで何かを思いつくはずもない。
彼はベンチに背を預けると、暗くなりかけている天を仰いだ。

(なンか知ってやがるのか? まさかな……)

たかだか……と言ってしまうと失礼だが、それでも御坂美琴のクローンごときが一体どんな情報を手に入れられるというのか。
ただの考え過ぎだろうと適当に結論付けると、一方通行はベンチを立つ。

(……明日も仕事だ。準備、しとかねェと)

確か、明日は新しい仕事を教えるとか言っていたからいくつか準備するものがある筈だ。
一方通行は仕事に必要な道具を頭の中で整理しながら、今や自宅と化している研究所へと向かって行った。



―――――



(計器、資料、薬剤……。あれ、眼鏡どこやった?)

今日のように明日の朝まで寝坊しかけてしまうと大変なので、一方通行は今の内から仕事の準備を完了させようとしていた。
しかしあと少しで準備完了というところで、今日の仕事終わりまでは確実に掛けていたはずの眼鏡が行方不明になっていることに気が付く。
一方通行は最後に眼鏡を見たのが何処だったのか思い出しながら部屋を探し回るが、なかなか見つからなかった。
するとその時、探索をしている彼を妨害するかのように携帯電話が鳴り響く。

(チッ、誰だよこんな時に……)

一方通行はあからさまに不機嫌そうな顔をしたが、届いたのはメールだったのかすぐに携帯電話は大人しくなった。
しかしすぐに返信しなければならないメールだといけないので、彼はすぐに携帯を手に取ってその内容を確認する。
メールの送り主は、上条だった。

(明日遊べるか? 御坂妹もか。まァアイツ今日までずっと任務だったらしいし、遊びたいンだろォな)

どうするか考えながら、一方通行は頭の中に入っている明日のスケジュールを参照する。
彼は少しの間そうして悩んでいたが、暫らくすると携帯電話の返信ボタンを押してメールを打ち始めた。

(……仕事は午前中までだからそれ以降なら大丈夫、と。これでイイか)

一方通行はメールを完成させると、改めて文面を見直してから送信した。
彼はそれを確認すると携帯電話を置き直し、再び眼鏡の捜索を開始する。
714 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/27(日) 22:30:27.37 ID:5PE7BpyZo

(マジで何処やったっけか……。外か?)

一方通行は苛立ち紛れに頭をがしがしと掻き毟ると、外に出ようと部屋の扉を開いた。
あの眼鏡は機密保持の為のものなので眼鏡なしで部屋から出るのはあまり良くないのだが、この際仕方がない。
……しかし扉を開けた途端、ごすんと鈍い音がした。

「……ン?」

「い、痛いです……、とミサカは涙目になりながら頭を押さえます」

「あ、悪ィ……。タイミングが悪かったな」

「いえ……。ミサカも不注意でしたのでお気になさらず、とミサカは気遣います」

イライラしていた所為で八つ当たり気味にかなり強い力を込めて扉を押してしまったので、本当は相当痛かったはずだ。
それに実際、彼女――ミサカ19090号――の額は真っ赤になってしまっている。

「大丈夫か? たンこぶになる前に冷やしといた方がイイぞ」

「は、はい、お気遣い感謝します。それよりこれを、とミサカは一方通行に白衣を差し出します」

やっぱり痛かったのか、微妙にぷるぷる震えている彼女から白衣を受け取る。
どうやら白衣を洗濯しておいてくれたらしい。そう言えば白衣も部屋から無くなっていたな、と一方通行は思い出す。

「悪いな」

「それから、白衣のポケットにこれが入っていました、とミサカは報告します。お返ししますね」

「あァ、そンなところにあったのか……。どォりで見つからない筈だ」

差し出されたのは、眼鏡だった。一方通行はそれを受け取りながら、迂闊な自分に呆れるかのように息を吐く。
それで全ての荷物を渡し終えたのか、ミサカ19090号は空いた両手でぶつけた額を抑え始める。……本当に大丈夫なのか。

「濡れタオルくらいならすぐに作れるが……、いるか?」

「お、お願いします、とミサカは一方通行の厚意に預かります」

「分かった。そこ座ってちょっと待ってろ」

一方通行はミサカ19090号を適当な椅子を座らせると、洗面所へと姿を消した。
洗面所から聞こえてくる水の音を聞きながら、ミサカ19090号はきょろきょろと周囲を見回してみる。

本当に何も無い部屋だった。
ベッドの整え方がかなり適当だったり財布や携帯などの私物が適当に放り出されているので生活感はあるものの、とにかくものが無い。
恐らく、家具類を除いても彼の私物よりももともとこの部屋にあった備品の方が多い筈だ。
たぶん今彼が濡らしに行っているハンドタオルも、もともとこの部屋に備えられていたものだろう。

(正式な給料日はまだですが、生活に必要な手当は渡されている筈なのでお金はあると思うのですけど……、とミサカは心配します)
715 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/27(日) 22:31:01.63 ID:5PE7BpyZo

実は彼女は、記憶喪失になる前の彼と接する機会がそれほど多かったわけではない。
むしろ彼女の持っている情報の殆どは、ミサカネットワークによって共有されているものに過ぎない。
けれど当時ミサカネットワークに流れてきていた情報によると、彼はここまで物欲が無いわけではなかったと思うのだが……。

「どォした?」

「はうあっ!? なっ、何でもありません! 不躾だったでしょうか、とミサカは申し訳なく思います」

「いや、別に構わねェが。なンか面白いモンでもあったか?」

「い、いえ……。むしろ物の無さに驚いていました、とミサカは素直な感想を述べます」

「あァ、特に欲しいモンがねェからな。あと妹達によくタカられるから金が無ェ」

「それは誠に申し訳ありませんでした……、とミサカは床に額を擦りつけっ、ひぎゃ!?」

「ぶつけたばっかっつってンのにそンなことしたら悪化するに決まってンだろォが……。もォ手遅れか。ほら濡れタオル」

「あ、ありがとうございます、とミサカはお礼を言います」

ミサカ19090号は受け取った濡れタオルを額に当てると、少しは痛みが引いたのかほっとした顔をした。
少し腫れてきてしまっているが、これならまだたんこぶは免れそうだ。

「ところで、そんなにミサカたちへの差し入れにお金を掛けてしまっていたのですか、とミサカはもう居た堪れなくてたまりません」

「まァ安物ばっかだが、人数が人数だからな。オマエがそこまで気にする程じゃねェが」

「ですが、それにしてはやはり部屋に物が少ないですよね? とミサカは首を傾げます」

「さっきも言ったが、欲しいモンがねェンだよ。そもそも何があンのかも分かンねェし」

「なるほど、とミサカは一人納得します」

確かに病室にテレビがあったはずがないだろうし、この部屋にもテレビは無い。
記憶喪失も手伝って、欲しいと思えるようなものの情報を得る機会そのものがそもそも彼にはないのだ。
漫画は上条や美琴から借りて読んだことはあるらしいが、一度読んだことがあるものをわざわざ買ってまで読もうとは思わないだろう。
続刊は黙っていても二人が押し付けてくるし。大方語る相手が欲しいのだろう、たぶん。

「では、今度お姉様や上条当麻と共に買い物に出かけてみては如何でしょうか? とミサカは提案してみます」

「買い物ォ? なンでまた……」

「ミサカ10032号から、明日上条当麻と遊びに出かける予定だと聞きました。ついでに行けば宜しいのでは? とミサカは思い付きます」

「オマエらのネットワークホント便利な。つっても、明日はもォ予定決まってるからなァ」

「ではその次の機会ででも。恐らくお姉様たちもあなたの無頓着さは気に掛かっていると思いますよ、とミサカは推測します」

「そンなモンかね」
716 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/27(日) 22:31:41.24 ID:5PE7BpyZo

一方通行は理解できないと言うように眉根を寄せたが、ミサカ19090号がやたら自信ありげにそう言ったからか一応納得してくれたようだ。
すると濡れタオルがぬるくなってしまったのか額から外した彼女を見て、一方通行は二枚目の濡れタオルを渡してやる。

「それにしても、オマエは本当に他の妹達とは違うンだな」

「違う、とは? とミサカは詳細を求めます」

「なンつゥのか……。オマエは他の妹達より感情表現が豊富だと思っただけだ」

「その話でしたか。以前もお話したと思いますが、確かにミサカは妹達の中でも変り種ですからね、とミサカは以前の会話を想起します」

ミサカ19090号は、新しい濡れタオルを再び額に当てる。
その時にちらりと見えた額は、少しだけ腫れが引いているように見えた。

「それというのも、ミサカには感情プログラムが入力されているのです、とミサカは真相を明かします」

「……感情プログラム?」

「はい。最初はただ特定の行動に対して疑似的な反応を返すというだけのプログラムだったのですが、どうもそれが馴染んでしまったようです。
 とは言え洗脳装置(テスタメント)によって形成されたミサカたちの自我はまだ未熟ですし、
 単にこのミサカがただの疑似的な反応を本当の感情と取り違えているだけかもしれませんが、とミサカは概要を解説します」

「ふゥン。でも、何でそれがオマエにだけ強制入力(インストール)されてンだ?」

「その、ちょっと問題がありまして……。これはミサカが悪いのですが、感情が芽生えてしまったばっかりにちょっと汚い真似を……。
 ですので感情プログラムを強制入力することによってミサカのように抜け駆けする者が現れるのではないという懸念がされ、
 ミサカネットワークによる協議の結果、あえなく感情プログラムの拡散は中止されてしまったのです、とミサカは事の顛末を説明します」

「汚い真似ってのは?」

「そ、その、ダイエットを……」

「……はァ?」

「より痩せている女性の方が優れていると聞いたので、ミサカは他の妹達に隠れてダイエットをしたのです、とミサカは白状します。
 それが他の妹達からの恨みを買い……」

「アホか」

「み、ミサカたちにとっては重要なことなのです! とミサカは力説します!」

そう言えば、確かに御坂妹もやたら体重を気にしていたような気がする。
一体何処でそんな知識を吹き込まれたのかは知らないが、いい加減なことを言う奴もいるものだ。
717 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/27(日) 22:32:10.00 ID:5PE7BpyZo

「痩せすぎは体に悪ィぞ」

「その辺りは研究者の皆さんに健康管理をして貰いながらやっているので大丈夫です、とミサカは懸念を解消します」

「そこまでするか」

呆れたように言いながら、一方通行は三枚目の濡れタオルをミサカ19090号に差し出した。
しかし彼女はそれを受け取らず、額に当てていたタオルを一方通行に返す。

「もう大丈夫そうです、ありがとうございました、とミサカは感謝します。それではそろそろお暇させて頂きますね」

「あァ、さっきは悪かったな。一応研究者の誰かに看て貰えよ」

「了解しました、とミサカは一方通行の提案を承諾します。お気遣い感謝します」

そしてミサカ19090号は最後に一礼すると、小さく手を振りながら部屋を出て行った。
一方通行はそれを見送りながら暫らくぼーっとしていたが、携帯の着信音にはっと我に返る。
メールの発信者は、上条だった。


718 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/27(日) 22:33:46.35 ID:5PE7BpyZo
投下終了、お疲れ様でした。
相変わらずまったく話が進んでいなくて申し訳ありません……。
ともあれ、次回の更新は三日後に。
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) [sage]:2011/03/27(日) 23:18:02.03 ID:7MZn//Pu0
おつです
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/03/27(日) 23:55:03.54 ID:dPL4APLjo

楽しみに待つからゆっくり書いてください
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/28(月) 13:27:20.87 ID:JJqxmB0DO
乙なんだよ!

最近19090号が可愛くて生きるのが辛い…
722 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/30(水) 13:39:03.71 ID:hdQff3Jko
どうもこんにちは、いつもレスありがとうございます。
何だか心配されている気がするのですが、自分は普通に元気なので大丈夫です。

では、投下して行きます。
723 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/30(水) 13:39:51.19 ID:hdQff3Jko

「……御坂妹、本当に手伝わなくて大丈夫か?」

「ええ、まったく何も問題ありません、とミサカはどや顔で自らの余裕をアピールします」

そんな間抜けなやり取りを聞き流しながら、一方通行は小さく溜め息をついた。
彼の溜め息の理由は、御坂妹が両手いっぱいに抱えたぬいぐるみにある。
どう考えても彼女一人では持てないだろうと思われていた量のぬいぐるみを、どういう手品を使っているのか彼女は持って歩いているのだ。

しかもぬいぐるみを誰にも渡したくないのか、上条が手伝いを申し出てもことごとく断っている。
一体どういう意図があってこんなことをしているのかは知らないが、この執念に一方通行は呆れかえっていたのだ。

「そンな数のぬいぐるみ、一体何に使うンだよ……」

「ミサカが個人的に使用するものが殆どですが、他の妹達にも少しくらい恵んでやろうかと思っています、とミサカは自らの心の広さをアピールします」

「ふーん、そう言えば結局妹達って何人くらい居るんだ?」

「企業秘密です、とミサカは口にチャックします」

「企業だったのか」

「って言うか、それ本当に大丈夫なのか? 研究所まで結構距離あるんだろ? ちゃんと帰れるか?」

「大丈夫です。いざとなったらこのぬいぐるみを餌に他の妹達に救援を求めますから、とミサカはぶっちゃけます」

「いやそこは一方通行を頼れよ」

上条のツッコミを、御坂妹は何故か鼻で笑った。
オイそれどういう意味だ。

「あ。ちょっとごめん、悪いんだけどちょっとお金引き落としてきて良いか?」

「あァ? なンでだよ」

「今日結構買い物しちまったから、もう金が無いんだよ。これじゃ明日の学校で昼飯食いっぱぐれる」

「その程度なら構いませんよ、とミサカは快諾します」

「いやホントごめん……。すぐ終わらせるから」

上条は大量の荷物を持っている御坂妹に深々と頭を下げる。
しかし御坂妹はまるで重さを感じていないかのように平然としていた。何か裏技でもあるのだろうか。

「ですが、この辺りに銀行はありません。どうなさるおつもりですか? とミサカは首を傾げます」

「ああ、コンビニにATMがあるからそこで大丈夫だ」

「なるほど、そんなものもあるのですね。便利な世の中になったものです、とミサカは感嘆します」
724 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/30(水) 13:40:20.02 ID:hdQff3Jko

「いやかなり昔からあるモンだと思うが……」

「ミサカにとって目新しいものなので良いのです、とミサカは言い張ります」

何故か得意げにそう言い張る御坂妹を見て、上条は苦笑いする。
そんな、夕暮れの通りを歩く彼らの後ろ姿は、何処からどう見てもただの仲の良い友人同士にしか見えなかった。



―――――



夕陽の光で紅く照らし出された背の高い風車が、くるくると回っている。
はあっ、と盛大な溜め息をつきながらその麓を歩いている美琴は、見るからにお疲れの様子だった。

「子供の相手してるうちにすっかり日も暮れちゃったわね……」

遠い目をしながら夕日を眺めている美琴の背中には、何故か年齢に似合わない哀愁が漂っている。
どうやら本日は随分とハードな事件に巻き込まれてしまったようだ。

「……どうせ門限は過ぎてんだし、コンビニで立ち読みでもしていきますか」

美琴は諦めたようにそう呟くと、ちょうど目の前にあったコンビニへと足を向ける。
どうせ門限を破った時点で寮監からのお説教は確実なので、開き直って遊び呆けてしまおうという魂胆らしい。不良だ。
しかし、その時。

「ぎゃ―――ッ!? 今度はカードが飲み込まれて出てこない!? 不幸だぁ――ッ!!」

「オマエの不幸ってホント面白いくらいの確率で発生すンのな」

「合っている筈の暗証番号が間違っていると認識される……。学園都市の科学技術の見直しが必要ですね、とミサカは深刻な顔をします」

「……アンタたち、何やってんの?」

呆れたような眼差しで、美琴は騒ぎの元凶となっている三人組を見やる。
そこには、最早見慣れ過ぎて見飽きてしまったメンバーが勢揃いしていた。

「ゲッ、ビリビリ」

「ゲッてオマエ」

「流石にその反応は失礼なのではないでしょうか、とミサカは指摘します」

しかし、今更謝ったところでもう遅い。ぷちんと神経の千切れる分かり易い音と共に、美琴は思いっ切りATMに拳を叩き付けた。
しかもその顔には、分かり易く引き攣った笑顔が張り付けられている。とってもお怒りの様子だ。

「ちょーおど良かったわあ? 今日という今日こそ決着を付けてやるんだからっ!!」

「ちょ、ま、落ち着けビリビリ! すまん、俺が悪かっ……」
725 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/30(水) 13:40:46.57 ID:hdQff3Jko

するとその時、先程までうんともすんとも言わなかったATMが突如稼働音を響かせ始めた。
どうやら美琴が拳を叩き付けた時に纏っていた電撃に反応して、何らかの誤作動が発生してしまったようだ。
……しかし、今回ばかりはそれが幸運に働いた。
なんと、誤作動を起こしたATMが小さな機械音と共に上条のカードを吐き出したのだ。

「で……、出た―――ッ! サンキュービリビリ!!」

「ビリビリじゃなくて御坂美琴! いい加減訂正しなさい!」

「いやーマジ助かった! ホントありがとうな!」

「だからアンタ……」

しかし、美琴の言葉は奇怪な駆動音によって遮られる。
何事かと思って音源であるATMを見やれば、何故かATMはカードや通帳の挿入口から白い煙を吐き出していた。

「……何か、嫌な予感が」

青褪めた顔をしながら、か細い声で上条が呟く。
しかし、位置の所為で状況が分かっていないらしい美琴はきょとんとしていた。

……そして。
ATMはディスプレイに警報という真っ赤な字を映し出し、けたたましい警報音を撒き散らし始めた。
警報の内容は、攻撃性電磁波の感知。
どう考えても美琴の電撃の所為でエラーを吐いている。

「や、やっぱり――!?」

上条はとっさの判断で美琴の手を掴むと、そのままその手を引いて脱兎の如くコンビニを飛び出していった。
もちろん逃走だ。
はっとして先程まで自分の背後にいた筈の一方通行たちを振り返ったが、二人はそこから忽然と姿を消していた。
どうやらいち早くこの結末を察した二人は、さっさと逃げてしまったようだ。薄情者め。

「ああもう、不幸だああああああああ!!」

「ちょっと!! 何処行くのよ!?」

上条に手を引かれている美琴は状況について行けずにそう叫んだが、それどころではないらしい彼は何も答えてくれない。
しかし彼女の本来の目的は上条との勝負なので、このまま一緒に走って行けば大丈夫な筈だ。
そう考えた美琴は上条に声を掛けることを諦めて、大人しくその後を走ってついて行くことにした。無論、勝負の為に。
……長い夜になりそうだ。



―――――
726 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/30(水) 13:41:13.68 ID:hdQff3Jko


日がとっぷり落ちてしまった時刻。
鈴虫の鳴き声の聞こえてくる土手で、上条は頭を抱えながら打ちひしがれていた。

「うぅ、故障とかしてないと良いなあ……、防犯カメラに顔映ってるだろうし。……って、俺は何もしてないのに何で逃げてんだ?」

「んな事はいいから勝負しなさいよ勝負」

しかし、この騒動の元凶たる美琴はまるで気にしていないかのようにけろっとした顔をしている。
まさかとは思うが、こんなのが日常茶飯事だったりしないだろうな。

「あのなあ……。何度も言うけど、俺は勝負なんかしたくないんだって」

「ですが何だかんだ言って今のところお姉様の全戦全敗ですよね、とミサカは戦績を発表します」

「みぎゃあ!?」

唐突に背後から掛けられた声に、上条と美琴は揃って悲鳴を上げてしまった。
振り返ると、そこには上条たちよりも早く逃走していた筈の一方通行と御坂妹の姿が。一体何処まで行っていたのか。

「って、お前ら何でここに?」

「偶然。つゥかオマエらこンなとこまで逃げて来てたのかよ。いくら何でも逃げ過ぎだろ」

「いやいや、風紀委員や警備員は舐めない方が良いぞ。最近は何かあるとすぐに飛んでくるんだから……って、思い出しちまった。
 もし共犯だと思われて前科者になったらどうしよう……」

「そこのところはご安心を。そうならないように細工をしてきましたから、とミサカは上条当麻を慰めます」

「防犯カメラのデータを差し替えてきたからな。よっぽど念入りに調べられねェ限りは大丈夫だろ」

「よ、良かったぁ……」

二人の言葉に、上条は心から安堵した。心なし涙が滲んでいるような気さえする。
どうやら彼らが姿を消したのは、裏から防犯カメラをハッキングしてデータを差し替える為だったらしい。薄情者とか言ってすいませんでした。

「って、妹! その戦績はおかしいわよ!」

「はて、そんなことはない筈ですが。実際、お姉様は彼に一度も攻撃を通したことが無いじゃないですか、とミサカは事実を告げます」

「そ、それはそうだけど……。そう、私だって一発も喰らってないんだから負けてないわよっ」

「じゃあどうしたら終わるんだよ……」

心底呆れたように言う上条に、美琴は一瞬口籠もる。
そして彼女は暫らく考え抜いた後、顔を赤らめながらこう言った。

「そ、そりゃもちろん……、…………。私が勝ったらよ」

……一応言いにくそうにしているあたり、流石に滅茶苦茶なことを言っているという自覚はあるらしい。
しかしその台詞を額面通りに受け取った上条は、今まで聞いたことが無いくらい大きな溜め息をついた。
727 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/30(水) 13:41:44.82 ID:hdQff3Jko

「そ、そこっ! さっきより大きい溜め息しない!」

「溜め息の一つもつきたくなるさ……。つーか、一方通行も御坂妹もいるんだからそんな物騒な話はもう止めようぜ」

「言っとくが、俺は止めねェぞ。面倒くせェ」

「お姉様と上条当麻の真剣勝負……。ちょっと見てみたいです、とミサカは好奇心を露わにします」

「……へ?」

あれ、何か流れがおかしいぞ。どうしてこうなった。
しかし上条が戸惑っている内に、いつの間にか一方通行と御坂妹は観戦に最適な位置まで引っ込んでしまった。

「ほら、二人からも許可が下りたわよ?」

「え、マジで?」

「マジで」

それでも上条は往生際悪く何とか逃げ出そうと頑張っていたが、この状況でそんなことができる訳も無く。
流されに流されて、上条はいつの間にか決闘を受けるハメになってしまっていた。

「うぅ、どうしてこんなことに……」

「いい加減無駄な抵抗はやめなさいよね!」

既に戦闘位置に着いている為に、少し距離の離れたところに立っている美琴が叫ぶ。
それを見て上条は再び大きなため息を吐くと、観念したように右手を構えた。

「はいはい、分かりましたよ。……それじゃ、掛かって来い」

「言われなくても! こっちはずっとこの時を……」

バチバチ、と美琴の前髪が帯電する。
やがてその帯電は全身へと広がり、みるみると膨れ上がっていった。

「待ってたんだから!」

溜め込んでいた電撃を、上条に向かって一気に放出する。
しかし上条は右手でそれを受け止め、一瞬でそれらをすべて掻き消してしまった。
一応右手を避けて身体に当たるように指向性を調整してはいるのだが、雷の特性の所為でどうも上手く行かない。
どうしても突き出された右手の方に雷が引き摺られていってしまうのだ。

そしてそれ以上に、上条の神懸かり的な勘と反射神経も脅威だった。
美琴の動きや癖から先読みしているのか、上条は確実に彼女の狙った先に右手を突き出してくるのだ。

(分かってたことだけど、やっぱ電撃はアイツにゃ通用しないわね。……なら!)
728 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/30(水) 13:42:11.02 ID:hdQff3Jko

晴れた砂煙の向こうに無傷の上条を見とめた美琴は、今度は右手に電撃を纏う。
そして彼女がバチバチと音を立てながら発光している右手を地面に向かって差し出すと、黒い粉のようなものが彼女の右手に集まってきた。

「……は? いやオイ……」

上条が狼狽える。
それもその筈、美琴は右手に集めた粉で剣の形を象って、それを上条に向かって突き付けたのだから。
けれど上条には、その剣の正体は分からなかっただろう。
彼に分かることと言えば、ただ何か恐ろしい武器を持った美琴が本気で自分を睨んでいるということくらいだ。
しかし離れた位置から二人の戦いを観戦していた一方通行たちは、その正体を一瞬で看破した。

「砂鉄か」

「そうでしょうね、とミサカは分析します。あれは流石に危ないんじゃないでしょうか?」

「さァな。上条の右手が打ち消せる『異能』の幅はイマイチよく分かンねェからなァ」

「ですね。さて、お姉様の砂鉄の剣が上条当麻に通用するのかどうか……、とミサカは固唾を飲んで見守ります」

「……通用したら血の海だけどな」

「?」

御坂妹がきょとんとした顔をして首を傾げたが、一方通行は何も答えなかった。
それでも念の為なのか、携帯を取り出していつでも救急車が呼べるようにスタンバイしている。
しかし御坂妹には、ただの鉄の剣がそこまで危険なものだとは思えなかった。
砂で出来ているのだから切れ味は微妙だろうし、鈍器のようなものとは違うのだろうか。

「ちょっ、お前! 得物使うのはズルいんじゃ!?」

「能力で造ったものだもん。問題無し」

上条の抗議をさらりと流した美琴は、手にした砂鉄の剣を一振りして見せた。
するとそこにちょうど落ちてきた一枚の葉っぱが、見事な切れ味でもって真っ二つに切り裂かれる。
それを見た上条はもちろん、御坂妹もぎょっとした。

「砂鉄が振動してチェーンソーみたいになってるから、触れるとちょーっと血が出たりするかもねっ!」

「どう考えてもそれじゃ済まないと思うんですけど!?」

しかし上条の悲鳴を無視して、美琴は思いっ切り彼に斬りかかった。
それをギリギリのところで避けた上条は、更に連続で振るわれる砂鉄の剣を次々と回避していく。
だがそれを見て尚、美琴の余裕の笑顔は崩れなかった。

「ちょこまか逃げ回ったってコイツには……」

美琴はバックステップし、一旦上条との距離を取る。
これで少なくとも砂鉄の剣の脅威には晒されなくなったと思った上条は安堵しかけた、が。

「こんな事もできるんだからっ!」
729 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/30(水) 13:42:54.88 ID:hdQff3Jko

美琴が振り上げた砂鉄の剣が伸び、蛇のように曲がりくねりながら上条に向かっていく。
上条は驚きに硬直してしまっている。
回避行動を取るだけの時間も、準備も、何も無かった。

(入った? 躱せるタイミングじゃ……)

しかし。
パン、と何かが弾けるような音と共に、美琴の砂鉄の剣が消失した。
……いや、消失したのではない。
それまで真っ黒な剣を象っていたはずの砂鉄が元の粉末に戻り、風に浚われていってしまったのだ。

上条を見やれば、彼は僅かに残った砂鉄の剣に向かって右手を突き出していた。
どうやら右手を使って砂鉄の剣を無効化したようだ。

(強制的に砂鉄に戻された。これも効かないか……)

ただの砂に還ってしまった砂鉄が手の中から零れていくのを眺めながら、美琴は僅かに歯噛みする。
しかし彼女の顔からは、未だに笑みが消えていない。

(……ここまでは予想通り)

美琴は手の中に残っていた砂鉄を空中に撒く。
それを見て上条は彼女が砂鉄の剣を諦めたのだと思ったらしく、あからさまに安心した顔をした。

「しょ、勝負あったみたいだな!」

「……さあ、それはどうかしら?」

不敵な笑みを浮かべる美琴に、上条は不穏を感じ取る。
風が強い。
撒き散らされた砂鉄は、未だ風に乗って空中を漂っていた。

(砂鉄が消されずに残ってるなら)

ジャリジャリ、と空中の砂鉄から妙な音が聞こえてきた。
どれだけ馬鹿な上条でも、流石にそれが自然現象でないことくらいは分かる。
つまり、その音の正体は。

「お前っ!? 風に乗った砂鉄まで操……ッ」

撒き散らされバラバラの粉末となっていた砂鉄が、再び集まり始める。
しかし上条は怯まず、右手を構えた。

「こんなこと、何度やったって……」

汗の滲む顔で不敵に笑って見せると、上条は砂鉄に向かって右拳を振り下ろす。
すると砂鉄はパンという音を立て、またしても弾けて霧散した。

「同じ結果じゃねーか!!」
730 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/30(水) 13:43:23.85 ID:hdQff3Jko

視界を遮っていた大量の砂鉄が、次々と地面に落ちていく。
そして晴れた視界の向こうを見やろうとして、そこで初めて上条は目の前に美琴の姿が無いことに気付いた。

(右手が駄目だってことは重々承知してる! だからこそ、左手から電流を直に流す!
 飛んで来る電撃は右手で打ち消せるかもしれないけど、これならいくらアンタだってひとたまりもない筈!)

(ッ、背後か!)

美琴が上条の左手を取ろうとしたのと、上条が背後の美琴を振り返ろうとしたのは、ほぼ同時だった。
つまり。
上条が振り返ったことによって左手を取ろうとした美琴の手は、うっかり右手を取ってしまったのだ。
……よって。

(ぎゃああああやっちゃった何で!? まずいこれじゃ反撃が……)

「………………、えーと」

美琴の手を握った上条が、困ったような顔をしながら彼女をじっと見つめていた。
二人は互いに見つめ合いながら、暫らく硬直する。

すると上条が、わざと美琴から見える位置で自由な左手の拳を作って見せた。
ぎょっとする美琴を眺めながら、上条は続いて左手を振り上げてみる。
途端に美琴がびくっとして怯えたように頭を庇ったものだから、やっぱり上条はどうすれば良いのか分からなくなって固まってしまう。
と、暫らく考えた後に何かを思いついたのか、上条は突然右手を掴んでいる美琴の手を振り払い、そして。

「ギャ―――ッ!!」

「!?」

上条の奇行に、美琴のみならず一方通行と御坂妹もびくっとした。
そして上条は一頻りもがいた後、ぱたりと地面に倒れてこうほざいた。

「マ……マイリマシター」

……暫らくの、間。
鈴虫の鳴き声だけが虚しく響き渡っていた。

「……ねェよ」

「無いですね、とミサカは判断します」

そして当然の評価。
しかし何を期待しているのか、上条は倒れたまま薄らと目を開けて目の前の美琴の様子を窺った。
まあ、もちろん。

「ふ、ふ」

「?」

美琴は変な声を出しながら、それだけを繰り返していた。
だがそうしながら帯電しているのを見た上条はヤバいということを漸く察したらしく、がばりと起き上がって逃走体勢を取る。
731 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/30(水) 13:43:51.68 ID:hdQff3Jko

「ふ、ざ、け、ん、なぁあッ!!」

「ぎゃああああああ!?」

今度こそ本物の悲鳴を上げながら、上条は美琴の電撃から逃げ惑う。
上条の代わりに電撃を喰らった地面から白煙が上がっているのだが、あれは本当に手加減をしてくれているのだろうか。

「マジメにやんなさいよっ!」

「だってお前ビビってんじゃん」

「なっ!?」

図星を突かれて、美琴が顔を真っ赤にする。
しかし美琴は構わずに、強がったまま叫び散らす。

「ビビってなんかないわよっ!」

「うそつけっ!! どう見ても涙目になってこんな風にビクッてしてたら……はっ!?」

馬鹿丸出しで先程の美琴の真似をしていた上条は、彼女が再び帯電しているのを見て顔を青くする。
今度は完全に手加減は無さそうだ。

「死ねえええええっ!!」

「だああああッ!?」

上条は美琴の電撃を右手で受け止めるが、それで彼女の怒りが収まる筈もない。
命の危険を感じた上条は回れ右して本日二回目の逃走を図るが、美琴はそれを許さなかった。
バチバチと音を鳴らす電撃を纏ったまま、逃げる上条を追い始める。

「逃げんな――ッ!!」

「お前っ今っ、今の直撃してたらフツー死ぬぞっ!!」

「死ね!」

「ひどい!」

逃げる上条。追う美琴。
絶え間なく放たれる電撃を避けたり右手で受けたりと、上条は非常に器用な逃走を続けていた。

「とにかく、ちゃんと私の相手をしろ――っ!!」

「ぎゃあああやめて! 電撃やめて! ああもう不幸だ――っ!!」

大騒ぎしながら、二人はあっという間に夜の闇の向こうへと走って行ってしまった。これもある意味青春なのだろうか。
そんな二人を見送っていた一方通行と御坂妹は、感慨深げにこう呟いた。

「アイツらはホント仲良いなァ」

「まったくですね、とミサカは同意します」

今日も平和だ。


732 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/03/30(水) 13:45:24.13 ID:hdQff3Jko
投下終了。お疲れ様でした。
超電磁砲はがっつりやらないとか言っておいて結局結構やってしまってますね……
まああれです、幻想御手編のことだと脳内変換しといてください。すいません。

取りあえず、次回の投下は三日後に。
では、読んで下さってありがとうございました。
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/30(水) 14:20:43.57 ID:r1bW+qbOo
乙ですたい。
やっぱりこいつらがこんな風に仲良くしてるとこ見ると心が洗われて今にも昇天しそうになる。
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/30(水) 14:46:00.44 ID:WQPsuJSio
傍観者が居るとその温度差で妙におかしく見えてくるなwwww
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/03/30(水) 20:01:24.51 ID:gsERfASi0
超電磁砲編に一通さんに上條ちゃんが介入が胸が熱いな
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/31(木) 00:47:46.97 ID:mPiN+Z+j0
3時間かけてやっと追いついた…
この4人の関係性というか距離間が絶妙だな
最大の懸念はインさんが絡んでくるかどうかなんだけどこの4人の間に入り込む余地ないだろ…
737 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/02(土) 16:31:04.40 ID:pE+I6oLvo
どうもこんにちは。四月ですね。
ちょっとずつ学校が始まって行く時期なので既に鬱状態です。
まあそんなことも言ってられないんですけど……

取り敢えず投下します。
738 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/02(土) 16:31:31.22 ID:pE+I6oLvo

七月十八日。
仕事終わりに上条にメールで呼び出された一方通行は、一人待ち合わせ場所への道を歩いていた。

(絶対ミサカ19090号の差し金だな……)

歩きながら、先程届いたメールの再び目を通す。
その内容は非常に簡潔。「服買いに行くぞ」の一文のみがそこには表示されていた。

(まァ確かに殆ど服持ってねェけどな)

ぱたんと携帯電話を閉じる。
そして顔を上げれば、既に待ち合わせ場所で待機している上条の姿が見えた。
上条の方もやって来た一方通行に気付いて、ぶんぶんと手を振っている。

「待ったか?」

「いや、全然。急に呼び出して悪いな」

「別に。今日は早上がりだったしな」

「そっか、なら良かった」

一方通行の言葉に、上条は安堵したような顔をする。
しかし一方通行はそんな彼をじとっと見つめながら、行動の核心を突いてみた。

「で、御坂妹から聞いたのか?」

「ぎくっ。な、何のことやら……」

「オマエ誤魔化すの絶望的に下手なンだから、無理に隠そうとすンな。どォせアイツに一緒に服を買いに行ってやれとか頼まれたンだろ」

「そこまでお見通しなのかよ……。まあその通りなんだけどな」

「……はァ。そこまで気ィ使わなくったってイイのによォ」

「まあまあ、善意でやってくれてるんだから良いじゃないか。俺もちょうど、新しい服が欲しいと思ってたしな」

上条が宥めるように言ったからか、一方通行はそれ以上お節介について何も文句は言わなかった。
しかしそれ以上に気になることを思い出して、ふと彼は上条に向き直る。

「そォいえば、昨日はあれからどォしたンだ? 御坂から逃げたっきり連絡つかないからてっきりくたばったかと思ったぞ」

「洒落にならない……。いやまあ、何とか逃げ切ったよ。一晩中逃げ回るハメになったけど」

「オマエらどォいう体力してンだよ……」

「それはビリビリに訊いてくれ。俺は自分の命を守るのに精一杯でした」

遠い目をしながら語る上条は、何だかとても達観して見えた。
一方通行はそんな上条を慰めてやりながら、更に懸念事項を尋ねてみる。
739 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/02(土) 16:32:02.13 ID:pE+I6oLvo

「つゥか、寝不足とか学校とかは大丈夫だったのか?」

「寝不足は授業中に寝ることで解消しました。学校は今日は殆どホームルームとかテストの解説とかだったから問題無し」

「あァ、テストが終わったから授業は殆どねェのか」

「そうそう。学校自体も午前中だけだから楽なもんですよ」

「補習は?」

「……夏休みに」

「ご愁傷様」

「それは言わないでくれ……」

がっくりと肩を落とす上条を見て、一方通行は呆れたように溜め息をついた。
そこまで落ち込まれると自分の教え方も何処か悪かったのだろうかという気になってしまうのだが、実際どうだったのだろうか。
圧倒的に時間が足りないというのも原因の一つだろうが……、と一方通行は一人思案する。

「でっ、でも補習は夏休みの最初の一週間だけだからそれ以外は大丈夫だぞ! 多分!」

「本当かァ? せめて水族館には支障無いよォにしとけよ」

どんよりと暗い顔をしていた上条は空元気を振り絞るようにガッツポーズをしたが、それにも何となく不安が見え隠れしている。
どうせ上条のことなので、補習に行く途中で何か変な事件に巻き込まれて補習もう一週間追加、なんて悲劇にならないとも限らない。
いや、むしろそうなる可能性の方が高いかもしれなかった。

「で、何処行くつもりだ?」

「セブンスミストって服屋。前に行こうとして行き損ねたことあったろ? あそこだよ」

「あァ、あの時のか」

「そうそう、あの時のな」

話しながら、二人はセブンスミストに向かって歩き始める。
しかしそうして暫らく歩いていると、唐突に上条が足を止めた。それに気付き、一方通行も立ち止まる。

「どォした?」

「いや、あの子」

言いながら上条が指差したのは、小さな女の子だった。
何処からどう見ても立派な迷子だ。何かを探しておろおろきょろきょろ、ふらふらと歩き回っている。危なっかしいったらない。

「その内風紀委員か警備員が来るだろ。それとも通報しとくか?」

「いや、俺が行く。ちょっとそこの女の子!」

「あ、オイコラ……」

しかし一方通行の制止など聞くはずもなく、上条はさっさと女の子の方へと走って行ってしまった。
まったく、本当に上条のお節介は折り紙付きだ。
もし上条の善意が世界中の人間に平等に分配されたとしたら、間違いなく世界は平和になる。

(……まァ、仕方ねェか)
740 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/02(土) 16:32:41.86 ID:pE+I6oLvo

一方通行は小さく息を吐くと、女の子を連れてこちらに歩いてくる上条に目をやる。
上条は申し訳なさそうに笑いながらも、女の子の手をしっかりと引いていた。

「ったく、どォすンだよ。これから買い物だってのに」

「いや、それは大丈夫そうだ。この子もセブンスミストに行くつもりだったらしい」

人見知りなのか一方通行が怖いのか、女の子は上条の後ろに隠れている。
そしてそこから顔だけを出しながら、彼女は蚊の鳴くようなか細い声でこう言った。

「あ、あの……。よろしくおねがいします」

「……はァ。あァ、宜しく」

一方通行がそう言うと、女の子はぱっと表情を明るくさせる。
斯して、三人はセブンスミストへと出発した。



―――――



「アレ? あの子何処行った?」

「あっち。可愛い服があったから見てくるとさ」

「なかなかアクティブな子だな……」

セブンスミストにやって来た上条たちは、結局自分たちの服は見ずに女の子に付き合ってあげていた。
なんとあの子はここで待ち合わせをしていたとかではなく、本当に一人で服を買いに来たらしい。
とは言え親と一緒に学園都市にやってくる子供など殆どいないに等しいのでこうしたこと自体は特に珍しい光景ではないのだが、
お人好しの上条が心配だから付き合ってやると言ってしまったのだ。

「……悪かったとは思っている」

「別に構わねェよ。欲しいモンがあった訳でもねェし」

「いやでも一応俺から誘ったのに……」

上条は両手を合わせて頭を下げる。
しかし、一方通行は本当に気にしていないようだった。

「つゥか、見失わないよォにしとけよ。また迷子になられたら厄介だからな」

「それはちゃんと分かってるから大丈……ん?」

言葉の途中で、上条が突然変な顔をした。
最初は何事かと思ったが、その視線が自分を見ていないことに気付いた一方通行は上条の視線の先を追ってみる。
するとそこには、どう見ても子供向けとしか思えないデザインのパジャマを持った美琴が挙動不審に周囲を見回していた。
741 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/02(土) 16:33:08.89 ID:pE+I6oLvo

「……何やってんだ、アイツ?」

「さァな。犯罪に走らなきゃ良いンだが」

「アイツはそんなことするような奴じゃないし、それは無いだろ」

しかし、商品を持ったままきょろきょろと周囲の様子を窺っているその姿はどう見ても不審者だ。
上条と一方通行は互いに顔を見合わせて暫らく考えていたが、やがて意を決したかのように美琴に近付いて行った。
それとほぼ同時に、美琴が店の奥に引っ込む。
すると。

「何やってんだお前。挙動不審だぞ」

「!?」

背後から掛けられた上条の声に、美琴は見たことも無いくらい驚いて飛び上がった。
どうやら彼女は、店の奥にある鏡でパジャマと自分を合わせていたようだった。それでどうしてあんなことになるのかは不明だが。

「―――ッ? 〜〜〜〜ッ!?」

「驚きすぎだろ……」

驚きのあまりにじたばたと大混乱を起こしている美琴を見て、一方通行が呆れた声を出した。
暫らくして漸く落ち着きを取り戻した美琴は、持っていたパジャマを後ろ手に隠しながら顔を真っ赤にして叫ぶ。

「な、な、何でアンタたちがこんな所にいるのよっ!!」

「いちゃいけないのかよ」

「おにーちゃーん」

突然背後から聞こえてきた幼い声に、三人は振り返る。
するとそこには可愛らしい服を持って走ってくるあの女の子の姿があった。

「あのね、このおようふく……」

しかしそこまで言いかけて、女の子は言葉を止めた。
その視線は美琴に固定されている。

「あっ、トキワダイのおねーちゃんだ」

「き、昨日のカバンの子?」

どうやらこの子は美琴の知り合いだったようだ。
女の子が嬉しそうに美琴に駆け寄る。

「お兄ちゃんって、アンタ妹いたの?」

「違う違う。俺らはこの子が洋服店探してるって言うから案内してやっただけだ」
742 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/02(土) 16:33:48.31 ID:pE+I6oLvo

ひらひらと手を振りながら、上条は美琴の言葉を軽く否定する。
すると美琴に引っ付いていた女の子が、得意げな顔をしながら持っていた服を美琴に見せてあげた。

「あのね、オシャレなひとはここにくるってテレビでいってたの! わたしもオシャレするんだもん!」

「そうなんだ。今でも十分お洒落で可愛いわよ?」

「えへへー」

言いながら、美琴は女の子の頭を撫でてやる。
姉らしい仕草が板に付いているのは、やはり御坂妹の存在による影響だろうか。

「……短パンの誰かさんと違ってな」

「うぐっ! な、何よやる気!?」

上条の余計な一言に、美琴がいきり立つ。
流石に今のがやばかったと悟った上条は、今にも電撃を放ちかねない雰囲気の美琴から一歩後ずさる。

「なんだったら昨日の決着を今ここで……」

「今回は上条が悪ィが、やめとけ。こンな子供の前で始めるつもりか?」

「う゛っ」

溜め息交じりの一方通行の指摘に、美琴が言葉に詰まる。
ちらりと女の子の方を見やれば、彼女はきょとんとした無垢な瞳で美琴を見つめてきていた。

「……確かに上条にも非はあるンだが、御坂も御坂なンだよなァ……」

「な、何か言った?」

「いや何も」

一方通行はしれっとそう言ってのけたが、美琴は何だか納得いかなそうな顔をしていた。
すると、不意に背後から聞こえてきた二人組の足音に美琴がぎくりとする。

「あれ、御坂さん? どうかしたんですか?」

「う、初春さんに佐天さん」

美琴に声を掛けたのは、頭に派手な花飾りを付けた風紀委員の少女と黒いロングヘアを靡かせた少女だった。
どちらも美琴とは違う学校の制服なのだが、どうやら二人とも彼女の友人らしい。

「フーキイインのおねーちゃん!」

「あら、あなたは昨日の……」

女の子が、今度は初春と呼ばれた少女に抱き着く。何とも知り合いの多い女の子だ。
初春は暫らく女の子に構ってやっていたが、上条と一方通行の存在に気付くときょとんとした顔で首を傾げた。
743 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/02(土) 16:34:27.11 ID:pE+I6oLvo

「えと、御坂さんのお知り合い……ですか?」

「う、うん。まあそんなとこ」

「そうなんですか! あ、私は初春飾利って言います。宜しくお願いしますね」

「あたしは佐天涙子でーす。無能力者ですけどどうかよろしく!」

「初春さんに佐天さんな。俺は上条当麻で、コイツは鈴科。よろしくなー」

「宜しく」

流石に慣れてきたらしく、一方通行は初対面の人間に対してそこまで言葉に詰まったりはしないようになった。
しかしそんな明るい自己紹介の様子を、美琴は何とも微妙な面持ちで見守っていた。

「御坂さん? どうかしました?」

「…………、いや別に。ごめん、私ちょっと外すわね」

それだけ言うと、美琴は四人を残して何処かへと歩いて行ってしまった。
佐天はそんな彼女を見送りながら、不思議そうな顔をする。

「どうしたんだろ? 御坂さん」

「さあ……」

「ま、アイツにも色々あンだろ」

「何だよ色々って」

「色々は色々だ。オマエには分かンねェだろォが」

「はあ?」

意味の分からない一方通行の言葉に上条は疑問符を浮かべるばかりだが、彼はそれ以上何も答えなかった。
それでも思い当たる節を探そうとして上条が考え込んでいると、不意にくいくいと服の裾を引っ張られて彼は目線を落とす。

「ん、どうした?」

「あの、その、トイレ行きたい……」

「トイレ? えーと何処にあったっけ」

「あ、化粧室ならあっちの方向ですよ。私が連れて行ってあげましょうか?」

「いや、悪いよ。方向も教えてもらったし、俺たちで連れてくから初春さんたちはアイツを待っててやってくれ。ほら鈴科行くぞ」

「俺も行くのかよ……」
744 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/02(土) 16:35:00.79 ID:pE+I6oLvo

「いってらっしゃーい」

初春と佐天に見送られながら、二人は女の子を連れて歩き始める。
確かこちらは美琴が歩いて行った方向でもあるのでもしかしたらすれ違うかもしれないと思ったのだが、
行き違いになってしまったのか彼女の姿は何処にもなかった。

「じゃ、ここで待っててやるから行って来い」

「うん! ばいばい!」

女の子は元気良く手を振ると、化粧室へと飛び込んで行った。
上条はその様子を微笑ましげに見送っていたが、ふと一方通行が初春たちの居た方向をじっと見つめているのに気付いて声を掛ける。

「鈴科?」

「……なンか騒がしいな。嫌な予感がする」

「嫌な予感?」

一方通行に倣って、上条も周囲の様子を窺ってみる。
確かに騒がしくなっている、気がした。
ここからでは初春たちの様子は見えないが、どうも彼女たちの居る方向から騒ぎが広まっているようだった。何かあったのだろうか。
するとその時、唐突に構内放送のスピーカーからブチンと乱暴に回線を繋げる音が聞こえてきた。

『お客様にご案内を申し上げます。店内で電気系統の故障が発生した為、誠に勝手ながら、本日の営業を終了させて頂きます。
 係員がお出口までご案内致します。お客様にご迷惑をお掛けしますことを、心よりお詫び致します。繰り返します……』

「……これは、ドンピシャか」

「どうする? 初春さん風紀委員だったし、詳しいこと知ってるかも……」

「俺が見てくる。オマエはここであのガキを待ってろ」

「分かった」

その場を上条に任せ、一方通行は初春たちがいた場所へと駆けて行く。
途中彼は、風紀委員や有志の民間人に誘導されて慌てて退場しようとする人間と何度もすれ違ったが、そこに見知った顔は一つも無い。
時折人の波に流されそうになりながら走る一方通行は、ふと上条たちは本当に大丈夫だろうか、と不安になった。


745 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/02(土) 16:35:37.12 ID:pE+I6oLvo
投下終了。お疲れ様でした。
次回の投下は恐らく三日後です。次もどうかよろしくお願いします。
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/04/02(土) 17:23:29.98 ID:2Bgcg0O9o
乙乙
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/02(土) 18:35:26.06 ID:WvgVc9nOo
乙!

「鈴科?」
ってところでちょっとだけ頭が?になったww

そういやそんな風に呼ぶって言ってたな・・・・・・。
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/02(土) 18:59:54.75 ID:AUybT1h8o
一昨日に7話を観直したばかりだったからタイムリーすぎる。
>>1はアニキャラ個別初春スレの住人なんだろうかとちょっと思ってみたり。
一通さんがいるとどういう流れになるのか楽しみだなー。
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/03(日) 01:08:25.92 ID:eQwrzg2jo
バトルシーンではあんなにかっこよかった美琴さんなのになんとも可愛いなぁww
750 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/05(火) 20:11:08.28 ID:dnwRI0/9o
どうもこんばんは、大学が始まりました。
ちょっとずつ投下速度が下がるかもしれませんが、ご了承ください。

それでは投下します。
751 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/05(火) 20:11:42.52 ID:dnwRI0/9o

元の場所に戻っては来たものの、そこに風紀委員の初春は居なかった。
代わりに、そこには避難誘導の手伝いを概ね完了させたらしい美琴が立っている。
きょろきょろと周囲の様子を窺っているところを見ると、どうやら彼女は退避確認を行っているようだ。

「オイ、何があった?」

「あ、アンタ何処行ってたのよ! アイツとあの女の子は!?」

「あのガキは上条に任せてある。それよりこの騒ぎについて、何か詳しいことは分かるか?」

「あーえーと、何て言えば良いのかな。取り敢えず簡単に言うと、この店に爆弾が仕掛けられたの。アンタは爆弾とか大丈夫だっけ?」

「平気だ」

端から聞いているととんでもない会話だが、実際に平気なのだから仕方がない。
美琴は一方通行の返事に頷くと、素早く次の指示を飛ばした。

「じゃあ、悪いけど他に残ってる人がいないか探して避難誘導して。殆ど退避させたけど、まだ逃げ遅れてる人がいるかもしれな……」

「鈴科! ビリビリ!」

美琴の言葉は、途中で上条の大声に遮られた。
彼女は一瞬苛立ったようだったが、上条の尋常でない焦り方を見て緊張を張り詰める。

「どォした?」

「あの子! こっちに来てないか!?」

「は? アンタが一緒に居たんじゃないの!?」

「あの後急に人が押し寄せてきて見失っちまったんだ! 多分まだ店内にいると思うんだが」

「アンタなにやって……」

だが、その時。
パタパタという気の抜けるような軽い足音と共に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「おねーちゃーん」

振り返れば、そこにはぬいぐるみを抱えて少し離れた位置にいた初春に駆け寄るあの女の子の姿があった。
一度は見失ってしまったその小さな姿を見つけて、上条はほっと安堵する。

「良かった。無事だったみたいだな」

携帯で同僚と連絡を取っていたらしい初春が、女の子に気付いて振り返る。
すると、女の子の持つぬいぐるみを目にした初春と美琴の表情が怪訝そうに変化した。

(……あれは、さっきの?)

「あのね、メガネかけたおにーちゃんがおねーちゃんにわたしてって」
752 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/05(火) 20:12:44.40 ID:dnwRI0/9o

言いながら、女の子が初春にぬいぐるみを手渡そうとした、
途端。
突然ぬいぐるみが、不自然に収縮し始めた。

「ッ!!?」

それを見た初春は何かを直感し、ぬいぐるみを女の子から奪い取って遠くに放り投げる。
ぽかんとしている女の子を庇うようにして抱きかかえ、初春は叫んだ。

「逃げて下さい! あれが爆弾です!!」

ぬいぐるみが、メキメキと音を立てながら収縮していく。
もう数秒ももたない。逃げる時間など、無い。

(超電磁砲で爆弾ごとッ!)

美琴がポケットに手を突っ込み、超電磁砲用のコインを取り出そうとする。
しかし焦ってしまったからか、彼女が取り出そうとしたコインはポケットから零れ落ちてしまった。

(ま、ず)

チャリン、とコインが床の上を跳ねる音が響く。
高速で収縮していくぬいぐるみは、もう殆どただの球体のようになってしまっていた。

(間に合―――)

爆音が轟いた。



―――――



セブンスミスト前の大通りは、騒然としていた。
つい先程に起きた大爆発にも関わらず、大勢の野次馬がひしめきあって目の前の惨状について語り合っている。
現場に到着した風紀委員が彼らを退避させようと頑張っていたが、なかなか難航しそうだった。

「例の連続爆破テロだって!」

「逃げ遅れた人がまだ中にいたみたいだぞ」

「風紀委員の子を見たって……」

皆が皆、好き勝手に事件について話し合っている。
それ程までに、爆発は大規模なものだったのだ。
建物自体が倒壊していないのが奇跡とさえ思えるほどの大爆発。爆破された階には大きな穴が開き、その中身は真っ黒に焼け焦げている。
外から見ただけでも、中にいた人間が助からないことなど明白だった。
753 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/05(火) 20:13:49.57 ID:dnwRI0/9o

「危険です! 危ないから下がって!」

「コレマジでヤバいんじゃね?」

「シャレんなんねーよなあ」

……すると、その時。
野次馬の一人が、開けられた大穴から何かが落ちてくるのを見た。

「なあ、今あの穴から誰か降りて来なかったか?」

「はあ? そんな訳ないだろ、あそこ四階だぞ? あんなところから飛び降りる馬鹿なんかいないって。
 そもそも爆発で生存者がいるかどうかも怪しいってのに」

「……そうかなあ」

野次馬の少年は何だか釈然としない顔をしていたが、その真偽を確かめる術はない。
そうして彼は友人の言葉に流され、いつしか降りてきた人影のことなど綺麗さっぱり忘れ去ってしまった。



―――――



語るまでもないことだろうが、結論から言おう。
彼らは無傷だった。
幻想殺し(イマジンブレイカー)を構えて咄嗟に爆弾の前に飛び出した上条が、爆弾による衝撃や爆炎を『打ち消して』くれたのだ。
しかし守れたのは彼と彼の背後にいた美琴たちだけだったので、それ以外の床や壁、商品や展示品は酷い有様だ。
きっと、責任者は今頃泣いているだろう。

「あれ、ビリビリは?」

事件後に現場から追い出された上条たちは、あの女の子を連れてテープの張り巡らされた爆発跡を眺めていた。
真っ黒に焦げた店内というのは、なかなかに壮観だ。同時に、悲惨でもあるが。
しかしこの惨状の中にあって、焼け焦げてしまった服や衣装棚を勿体ないと思ってしまうのは貧乏性ゆえだろうか。

「そこから出てった。犯人に心当たりがあるンだとさ」

「ふーん」

あんなことがあったにも関わらず、上条はいつも通りだった。
しかし物珍しそうにその辺りを歩き回っていた女の子が急に頭を押さえてふらふらしだしたのを見て、慌てて彼女に駆け寄っていく。

「うーん、あたまくらくらするー」

「大丈夫か? 凄い爆発音だったからな。病院行った方が良いかも……」

「警備員(アンチスキル)呼んで来るか」
754 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/05(火) 20:15:10.99 ID:dnwRI0/9o

「ああ頼む……、って、お前ももの凄い顔色悪くないか?」

「……何でもねェよ。体調はいつも通りだし」

「そうか?」

「そォだよ。とにかく、警備員呼ンでくるからそこで待ってろ」

上条はそれでも納得していなさそうにしていたが、一方通行がそのままさっさと歩いて行ってしまったので黙って見送らざるを得なかった。
すると女の子が、心配そうな顔をして上条を見上げる。

「あのおにーちゃん、だいじょうぶ?」

「んー……。アイツ結構やせ我慢するからなあ。念の為に病院に引き摺ってってやるか」

「なかよくしなきゃだめだよ?」

「はは、大丈夫大丈夫。そうでもしないとアイツすぐ無理するから、これくらいやった方が良いんだよ」

「ふーん?」

女の子が分かっているようないないような顔をしていたので、上条は苦笑いしながらその頭を撫でてやった。
こんな小さな女の子にまで心配されるほどなのだから、アイツの無茶ぶりは本物だ。

「……ん?」

「? おにーちゃん、どーしたの?」

「い、いや、何でもないよ。あはは……」

開いた穴の向こう、その路地裏で何処かで見たことのある雷光が迸った気がしたのだが。
……美琴が追って行ったという事件の犯人とやらは大丈夫だろうか。黒焦げにされていないと良いのだが。

「上条さーん!」

「あ、初春さん」

今まで風紀委員の仕事に追われていたらしい初春が、こちらに向かって駆けてきた。
途端、女の子も嬉しそうに初春に向かって駆けて行く。どうやら彼女はよっぽど懐かれているようだ。

「ういはるおねーちゃん!」

「あら、あなたは何処か痛いところはありませんか?」

「ちょっとくらくらするから、あんちすきるのひと呼んでもらった!」

「初春さんこそ、何ともないか?」

「はいっ、お陰様で! それにしても御坂さん、本当にすごかったですね!」
755 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/05(火) 20:17:16.61 ID:dnwRI0/9o

熱っぽく語る初春を見て、上条はぎこちなく笑う。
そう。爆弾を何とかしてくれたのは、美琴だということになっているのだ。
まああんな状況だったし、無理もない誤解だ。
それに上条は、それをわざわざ訂正しようとも思わなかった。……まあ、ただ面倒くさいだけなのだが。

「そうだな。まあみんなが無事で良かったよ」

「はい! あの状況で全員が無傷なんですから奇跡ですよ! 流石、超能力者(レベル5)は違うなあ……」

「あ、あはは……」

見かけによらず、初春はああいうものに対して憧れを抱いているらしい。
そんな彼女の超能力者語りがお嬢様語りへと移行しそうになった頃、不意に三つ編みの風紀委員が三人の真横を走って通りすがる。
彼女はテープのすぐ傍まで走って行くと、その向こうにいる見覚えのあるツインテールに状況報告を行った。

「あのっ、容疑者の少年を確保した模様です」

「…………。了解ですの」

「あっ、白井さんだ! おーい、今回まるで出番のなかった白井さーん!」

(アレ? この子こっちが素?)

テープの内側で現場検証を行っていたらしい白井が、初春の声に気付いてぐりんとこちらを振り返る。
上条はそれを見て本能から恐怖を感じ取ったが、彼が逃走行動を取るよりも早く白井は空間移動でこちらに姿を現した。

「うぅーいぃーはぁーるぅー? 何か言いました?」

「やだなあ、どうせ聞こえてたくせに! それに事実なんだからしょうがないじゃないですかー」

「これは、ちょーっとお灸を据える必要があるようですわねぇ?」

言いながら、白井は初春の頬を力の限りに引っ張った。
面白いぐらい伸びているのだが、これは初春の顔がもともと伸びやすいからなのか白井がもの凄い力で引っ張っているからなのか。
痛そうなので、できれば前者であってほしいが。

「……まったく、人の気も知らないで。本当に心配しましたのよ?」

「ひはひはん(白井さん)……」

「まあ、無事で何よりですわ。……そちらの、上条さんも」

「あ、ああ」

いきなり声を掛けられて、上条は少し戸惑った。
確か凄まじく嫌われていた筈なので、まさか向こうから声を掛けてくるとは思わなかったのだ。

「御坂さんのお陰ですよ。ねーっ」

「うん! トキワダイのおねーちゃんが助けてくれたの!」
756 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/05(火) 20:18:52.92 ID:dnwRI0/9o

「……お姉様が?」

しかし二人の言葉に、白井は眉を顰める。
そして彼女は再び爆発跡を振り返ると、その無残に焼け焦げた床や壁を眺めながら何かを考え込むように腕を組んだ。

(初春たちがいた場所だけまったくの無傷だなんて……。能力をどう使ったらこういう風になりますの?)

(……あれ、これもしかして無用に捜査を混乱させてるかな? まあ良いか……)

そんな上条の適当な判断の所為で、この事件の真相は永久に迷宮入りするハメになりそうだ。
まあ美琴のお陰にしておいたところで、何か問題がある訳でもないのだが。

「オイ上条、何ぼーっとしてンだ?」

「うおっ、鈴科。いつの間に戻って来たんだ?」

「今さっき。あのガキは警備員に預けといたぞ」

「そっか、ありがとな。助かった」

「あら、鈴科さんもいらしてたんですのね」

人の気配に気付いた白井が、また何か言われたのか初春の花畑を毟りながらこちらを振り向いた。
この二人、風紀委員の仕事は良いのだろうか。

「あァ、オマエか。風紀委員も大変だな」

「いえ、好きでやっていることですので。……ところで顔色が優れないようですが、警備員を呼びましょうか?」

「い、いやいやいやいや大丈夫! こっちで勝手に病院に連れてくから!」

「そうですか? 遠慮なさらなくても良いんですのよ」

白井の厚意は有り難いが、一方通行を警備員に預けるなんてとんでもない。
先程のように別の人間の為に呼んで来るくらいなら大して問題ないだろうが、本人を預けるとなると話は別だ。
送るとか言われて身元や住所を訊かれたら不味い。

「つゥか、別にンな重症じゃねェ……、っ、う」

「……本当に大丈夫ですの?」

「た、たぶん……。まあとにかくさっさと病院に連行することにするよ。初春さんたちもまたな」

「はいっ、お疲れ様でしたー」

ぶんぶんと手を振っている初春たちに見送られながら、上条たちは事件のあったフロアを後にする。
……その一方で、事件現場から離れるごとに一方通行の顔色が回復していっているような、気がした。



―――――
757 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/05(火) 20:19:48.28 ID:dnwRI0/9o


セブンスミスト、非常用出口。
表口が野次馬やら爆発の残骸やらで大変なことになっている為に、二人はこちらから外に出るように誘導されたのだ。
しかしその出口の前で、二人は見慣れた姿を見つける。
御坂美琴だ。

「お、ビリビリ。犯人はもう良いのか?」

「そんなの、もうとっくに捕まえたわよ」

腕を組みながら壁に寄り掛かっている美琴は、何処となく不機嫌そうだ。
その原因に心当たりのない二人は、首を傾げて互いに顔を見合わせる。

「……一応言っておくが、今からお前の相手をする気力は無いからな?」

「そんなの分かってるっつの。私だってそのくらいの分別はあるわよ」

(ほんとかよ……)

流石に学習したらしい上条は、その言葉だけは呑み込んで心中だけで呟いた。賢明な判断だ。
しかし美琴は壁から背を離すと、相変わらず不機嫌そうに目を細めながら上条を見据える。

「……あの時、私の超電磁砲は間に合わなかった。実際に初春さんたちを救ったのはアンタよ」

「そ、それがどうかしたか?」

「何かみんなあの場を救ったのは私だと思ってるみたいだけど。……良いの?」

「何が?」

その言葉の意味するところが本気で理解できないらしい上条は、きょとんとするしかない。
一方彼女の言いたいことが大体理解できた一方通行は、小さく溜め息をついて明後日の方向を見やった。

「だから、今名乗り出たらヒーローだっつってんの」

「? 何言ってんだ」

そこまで言っても、上条は本当に分からないとでも言いたげな表情をしていた。
今度は美琴がきょとんとする番だ。

「みんな無事だったんだからそれで何の問題もねーじゃんか。誰が助けたなんてどうでも良いことだろ」

その言葉を、美琴がどう思ったのかは定かではない。
ただ、彼女は言葉を失った。

「もう良いか? コイツ病院連れて行かなきゃだからもう行きたいんだけど」

「平気だっつってンのに……」

「念の為だよ念の為。久しぶりにカエル先生に会いたいし。じゃ、またなビリビリ」
758 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/05(火) 20:20:49.49 ID:dnwRI0/9o

上条はそれだけ言うと、美琴の返事を待たずに非常口から出て行ってしまう。……無論、一方通行を引き摺りながら。
そしてその場に一人取り残された美琴は、暫らく動くことができずに茫然としていた。

「あ、こちらにおられましたか」

この店のオーナーらしいスーツの男が、人の良さそうな笑みを浮かべながら美琴に近付いてくる。
どうやら彼もこの事件を防いでくれたのは美琴だと思っているらしく、何度も彼女にお礼の言葉を述べてきた。

「お客様のお陰で、当店から一人の怪我人も出さずに済みました。本当にどうお礼をすれば良いか……」

「……誰が助けたかなんてどうでも良い……」

「はい?」

ぼそりと低い声で呟かれた美琴の一言を、男は聞き取ることができなかったようだ。
しかし男が聞き返すよりも早く、美琴は従業員用の鉄扉に見事な後ろ回し蹴りをかました。凄まじい音が周囲に響き渡る。

「ってスカしてんじゃねえーッ!!」

「!?」

スーツの男は呆気にとられていたが、美琴はそれで終わらない。
なんと、彼女はそのまま鉄扉に向かって連続蹴りを決めるという見事な八つ当たりを披露して見せたのだ。

「思いっ切りカッコつけてんじゃないのよ! だぁームカつくー!! この私に貸しを作ったんだからちょっとはエラソーにしろ!!」

「ちょ!? お客様!?」

……美琴が鉄扉に八つ当たりをしている頃と同時刻。
上条は何やら悪寒を感じて、ぶるりとその身を震わせた。

「なんか理不尽な怨念を感じる……」

「キャラじゃねェ癖にキザなことするからだよ。ばァーか」

「そこまで言う!?」


759 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/05(火) 20:21:47.66 ID:dnwRI0/9o
投下終了、お疲れ様でした。
次回更新はたぶん三日後です。

あんまり本編の内容に手を加えたくないというか活躍を奪いたくなかったので、一方さんは仕事しませんでした。
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/04/05(火) 20:51:14.95 ID:4yizZNPAO
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 21:10:21.49 ID:K++c4oH2o
>>1乙
三日後まで寝とく。
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/04/06(水) 00:15:24.62 ID:oCpVJtFy0

俺も三日後まで寝るか…
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/06(水) 01:14:00.16 ID:3EGQujkxo










十年後−−−
764 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/08(金) 21:03:03.71 ID:B//6TTyoo
どうもこんばんは。
久しぶりに大学に行ったからか、足が痛いです。
ずっとパソコンの前に座ってる所為もあるというかむしろそっちが原因な気もしますが。

とりあえず投下します。
765 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/08(金) 21:03:30.65 ID:B//6TTyoo

「身体の方には、何の問題も無いね?」

「えっ?」

予想外の言葉に、上条は思わずそんな声を発した。
しかし、冥土帰しはそんな彼に構わずに話を続ける。

「爆音や余波による身体的な影響はない。無傷と言って良いだろう。これは、精神的なもののようだ」

「と、言うと?」

「平たく言うと、トラウマだね? 何か心当たりは?」

言われて、上条は腕を組んで考え込む。
今回の事件によって発症されるトラウマといえば、やはり爆弾関係だろう。
つまりそこに一方通行のトラウマがあるということなのだが。

「……ちょっと心当たりが多すぎますね」

「じゃ、多分その内のどれかだろうね?」

「ううむ……」

取りあえず上条は思い出す努力をしてみたが、やっぱり心当たりが多過ぎてこれと言えるようなものが無い。
それに、彼は一方通行の全てを知っている訳ではない。
一方通行はあんな境遇だから上条の知らないところでも頻繁に事件に巻き込まれているし、そこで何かがあった可能性もあるのだ。
やがて考えたところで埒が明かないと思ったらしい上条は、考えることを諦めて冥土帰しに向き直った。

「まあ、とにかく爆発関係なことは確かだから、これからそっち方面に気を付けてくれれば大丈夫だね?」

「分かりました。ありがとうございます」

「うん、宜しくね? それと、彼の頭痛のことなんだが」

「何か分かったんですか?」

上条が即座に食い付く。
冥土帰しはそんな彼を制しながら、カルテを捲って説明を始めた。

「やはり、彼の頭痛は記憶喪失に起因するもののようだね? 能力を使う度に昔のことを思い出しそうになっているようだ」

「? 記憶は機械的に完全に削除されたって聞きましたけど……」

「ああ、その通り。彼の記憶は完全に削除されている。よって、思い出すことなど絶対にできない。
 しかしその『無い記憶』を無理矢理思い出そうと、あるいは補おうとして脳の活動が空回りし、脳に異常な負担が掛かってしまっているんだ」

「……? 能力を使うとそうなるんですか?」
766 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/08(金) 21:03:58.68 ID:B//6TTyoo

「そうだ。能力とは元々脳と密接に関わっているし、特に強い能力者ともなると能力を自分のアイデンティティとしている者もいるからね?
 彼がどの程度の能力者だったのかはともかく、珍しい能力であることは間違いないから、恐らく彼も元々そういう人間だったんだろう。
 だから能力を使うたび、能力と深く関係している記憶を思い出しそうになっているという訳だ」

「すいませんよく分かりません」

「…………。まあ取りあえず、彼ができるだけ能力を使わないようにしてくれれば良い」

「ああ、そういうことなら任せて下さい」

「うん。……本当に大丈夫かな?」

「ど、努力します……」

さり気なく目が泳いでいるので、本当に大丈夫なのか心配なのだが。
冥土帰しはそんな上条を見て溜め息をつくと、カルテをデスクの上に置いた。

「とにかく、頼んだよ? 命に関わるようなことではないけど、僕としては患者は一人でも減らしておきたいからね?」

「は、はい。……ところでアイツは?」

「隣の検査室だよ。君のことを待っている筈だね?」

「分かりました。先生、ありがとうございました」

「……これが僕の仕事だからね? ほら、早く行ってあげなさい」

上条は最後に深々と頭を下げると、足早に診察室を出て行った。
冥土帰しはそれを見送ると、細く深く息を吐く。
そして冥土帰しは、誰もいない筈の虚空に向かって声を掛けた。

「そこに居るんだろう? 盗み聞きなんて趣味の悪い」

暫らく、気配は躊躇った。
しかしやがて観念したかのように、物陰から気配の正体が姿を現す。
……隠れていたのは、御坂妹だった。

「申し訳ありません。堂々と尋ねることは憚られたので、とミサカは盗み聞きに対する弁明をします」

「別にそんなことはないね? 君たちには知る権利がある」

「…………、果たしてそうでしょうか。とは言え、ミサカたちにはある程度の予想は付いていましたが、とミサカは本心を吐露します」

「まあ、それはそうだろう。……とにかく、君たちにはきちんと伝えておかなければならないと思っただけさ」

「……それは、ミサカたちに『思い知れ』ということですか? とミサカは曖昧な発言に対する確認作業を行います」

「さあ、どうだろうね? これを聞いてどう思うかは、それこそ君たちの自由だ」
767 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/08(金) 21:04:25.53 ID:B//6TTyoo

冥土帰しの言葉を、御坂妹は目を閉じて反芻する。
その結果、彼女がその言葉を解釈したのかは分からない。ただ彼女は不思議な笑顔を浮かべながら、寂しそうに目を伏せた。

「それにしても。……君たちは、いつまでこんなことを続けるつもりだい?」

「……さあ、とミサカは曖昧に言葉を濁します」

「いつまでもこんな不安定な状態が続くと思っている訳でもないだろう。それに、今日の事件は彼と何か関係が?」

「今日の事件は彼には何の関連性もありません、とミサカは断じます。
 ……ただ彼はあまりにも沢山の人間に興味を持たれていますから、ミサカたちの与り知らぬところで関係している可能性も無きにしも非ずですが」

「そうかい。……まあ、僕がそこまで口を出すことじゃないが」

そこで、冥土帰しは一息置いた。
御坂妹は息を潜めて、彼の次の言葉を待つ。

「ぐだぐだとこんなことを続けている内に、最悪の事態にならないとも限らない。……十分に気を付けておくことだ」

「……肝に銘じておきましょう、とミサカはその言葉を重く受け取ります」

「ああ、是非ともそうしてくれ」

「…………。あなた、は」

突然御坂妹が発した言葉に、冥土帰しは少し意外そうな顔をする。
まさか自分の話題に飛ぶとは思わなかったのだろう。
しかし、彼がそんな顔を見せたのはその一瞬だけ。すぐにいつもと同じ表情に戻り、黙って御坂妹を見つめる。

「あなたは、何を何処まで知っているのですか? とミサカは問い掛けます」

「……さあ、ね。僕は直接の関係者じゃないから、そこまで詳しいことは知らない。
 ただ、その概要と……、その渦中にいた君たちが一体どんな気持ちでそこにいたのかを推測しただけさ」

「………………」

「だけど、これだけは言っておく。僕は君たち以上の深い闇を体験してきた。闇の底の底、奈落の果てをね。
 だから僕の言うことはきちんと聞いておくんだ。良いね?」

「ええ。……もちろんです、とミサカは改めて了解します」

御坂妹は、その言葉を強く噛み締める。
自分たちがいた場所以上の闇なんて、まるで想像がつかない。本当にそんなものが存在するのかどうかも疑わしい。
けれど冥土帰しは、それが存在すると言った。……存在、するのだ。そういう深淵が。

「……もう良いだろう? そろそろ帰りなさい。研究者さんたちも心配している筈だ」

「はい。……今日は、本当にありがとうございました、とミサカは感謝の意を示します」

そして御坂妹はぺこりと頭を下げると、静かに診察室を後にする。
残されて一人きりになってしまった冥土帰しは、彼女が出て行ってしまった後も、ずっと閉じられた扉を見つめ続けていた。



―――――
768 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/08(金) 21:05:01.69 ID:B//6TTyoo


翌日、七月十九日。
ファミリーレストランで昼食を摂っていた一方通行と御坂妹は、偶然出会った美琴と他愛ない世間話をしていた。
そして、そこで話題になったものというのが。

「幻想御手(レベルアッパー)?」

美琴の言葉を鸚鵡返しにしながら、一方通行は怪訝そうな顔をした。
そんな彼の反応を見て、美琴はうんうんと頷く。
……ちなみに御坂妹は一方通行の隣で、某腹ペコシスター並みの料理を平らげようとしていた。恐ろしや。

「そりゃまた眉唾な……」

「ま、前も言ったけど都市伝説だしね。でもなーんかただの噂話って一蹴できない要素が多過ぎるっていうか」

「?」

煮え切らない美琴の言葉に、一方通行は首を傾げる。
一体、そんなありがちな都市伝説の何処に引っ掛かる要素があるというのか。

「昨日の連続虚空爆破(グラビトン)事件、覚えてる?」

「あァ、まァな」

「あの犯人、書庫(バンク)の登録データでは異能力(レベル2)判定だったんだって」

「はァ? ありゃどォ見ても大能力(レベル4)クラスの破壊力だったぞ」

「うん、そうなのよね。そこで、幻想御手が怪しいんじゃないかーって話になったわけ」

「……それはそれで短絡的なンじゃねェか?」

「私もそうは思うんだけどさ、書庫のデータが食い違ってる筈もないし犯人の供述もちょっとおかしくって」

パフェのスプーンを指揮棒のようにくるくる回しながら、美琴が難しい顔をする。
大量の料理を黙々と食べていた御坂妹も、いったん食事の手を止めて彼女の方に視線を向けた。

「犯人が幻想御手を使ったっつったのか?」

「いや、そうじゃない。けど本人が、確かにちょっと前までは異能力だったって言ったらしいのよね」

「……つまり、前回の身体検査から現在までの短期間に大能力に上がったって言いてェのか」

「そういうこと。有り得ると思う?」

「それを俺に訊くか?」

「あ、そう言えばアンタは素で異能力から大能力に飛んだんだっけ。でもあれは特別な例じゃない? どうせアンタも元々大能力者だったってオチでしょ」

「まァ、普通に考えればそォだろォけどな」
769 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/08(金) 21:05:43.08 ID:B//6TTyoo

複雑そうな顔をしながら、一方通行はコーヒーを啜る。
御坂妹は、そんな彼の横顔をじっと見つめていた。

「つゥか、どっちにしろ俺にそれを訊くなよ。能力開発の実例なンてろくに知らねェンだから」

「それもそっか。でもまあ、取りあえず私の知る限りではほとんど『有り得ない』とだけ言っておくわね」

「……で、幻想御手に白羽の矢、ねェ」

「まあ、どうしても胡散臭く感じちゃうアンタの気持ちも分かるけどね。でも状況が状況だから笑って流せないって言うか。
 アンタも、テロや能力者犯罪が増えてるのは知ってるわよね? その犯人の悉くが、書庫のデータと実際の能力強度が食い違ってるのよ」

「……そこまで来たら、流石に書庫のデータの更新忘れを疑った方が良いンじゃねェの?」

「いや、私の知り合いで最近やっと大能力になった子がいるんだけど、その子のデータはちゃんと更新されてたわ」

「ふゥン……」

学園都市中の能力者のレベルが、一斉に上がっている。
しかも超短期間の内に、だ。
ただ、書庫の更新忘れではなく単純にデータミスの可能性もあるが、その数があまりにも多過ぎる。
数えるのも億劫になる程の総容疑者数。
書庫が、そんなにも大量のデータミスを抱えることなど有り得るのか。

「まァ、確かにタイミングが良過ぎるわなァ」

「でしょ? 普通は能力の開発ってのは学校で何年も掛けてやるもんだから、そんな都合の良い話があるのかとも思うけどさ」

「……つっても、もし仮に幻想御手なンてモンが実在したとして、そンな曖昧なモンをどォやって追うつもりだ?」

「ん、その辺はちゃんと当たりを付けてるから大丈夫。
 こういう都市伝説に詳しい子がいてさ、自称幻想御手使用者の溜り場を教えてくれたのよ。だから時間になったら囮捜査に行くつもり」

「なンだ、結構進ンでンのな」

「まあ実際に会ってみないことには何も分からないんだけどね」

言いながら、美琴がパフェの上に載ったバニラアイスを口に運ぶ。
よっぽど美味しかったのか、美琴は頬を抑えながら幸せそうな顔をしていた。相変わらずお気楽な奴だ。
と、そんなことをしていた彼女は突然何かを思い出したのか、懐をまさぐり始める。

「どォした?」

「いや、見せたいものがあったの思い出したのよ。えっと……。ほらっ、これ見て!」

「? なンだこりゃ。音楽プレイヤーか?」

「ご名答! 新型が出たから新しく買っちゃったのよねーっ」
770 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/08(金) 21:06:09.21 ID:B//6TTyoo

美琴が得意げに差し出してきたのは、とても小さな音楽プレイヤー。
普段は銀色の棒が二つ並んでいるように見えるだけなのだが、それを左右に広げると薄い画面と操作盤が現れる仕組みになっている。
左の方の棒にイヤホンやスピーカーに繋げられる端子が付いていた。

「変わってンな」

「学園都市でしか先行販売してない次世代機らしいしね。小さすぎて失くしやすいのが玉に瑕だけど」

「それは使いやすいのか?」

「まあそこそこ。音質と容量は保障するわよ」

操作盤をタッチしながら、美琴は音楽リストをくるくると流していく。
しかし目的の曲がなかなか見つからないのか、彼女は少し困ったような顔をした。

「あれ、おかしいな……。同期したと思ったんだけど」

「何をだ?」

「お気に入りの曲を見つけたからアンタたちにも聞かせたげようと思ってたんだけど、入れ忘れちゃったみたい。また今度か……」

「別に頼ンでねェぞ?」

「私が聞かせたいの!」

「ああ、アレか。布教って奴か」

「まあそんなところ」

美琴は音楽プレイヤーを懐に仕舞うと、再びパフェをつつきはじめる。
アイスクリームとフレークを混ぜる、じゃりじゃりという音がした。

「つゥか、俺に聞かせるよりこの間の白井とか初春とかに聞かせた方が良いンじゃねェの? 碌な感想言えねェぞ」

「良いのっ、私の自己満足だから! て言うかアンタ、黒子に会ったことあるの?」

「あァ、ミサカいちま……、御坂妹と一緒に歩いてる時にちょっとな。オマエと勘違いして抱き着いてきたぞ」

「あの子ったらまた……。ったく、今度釘を刺しておかないと」

「頼むぞ。それでアイス台無しにされて落ち込ンでたからな」

「了解、厳しく言っとくわ」

言いながらフレークの混ざったアイスクリームを美味しそうに食べる美琴を見て、一方通行は少し呆れたような顔をした。
それの真似をしているつもりなのか、御坂妹も自分の注文したパフェをがつがつと混ぜはじめる。

「……前から気になってたンだが、アイツはオマエの何なンだ?」

「ルームメイト……って話は前にしたわよね。まあ、ちょっと変わった性癖の後輩よ」
771 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/08(金) 21:06:44.00 ID:B//6TTyoo

「あァ、やっぱりそォいう……」

「……悪い子じゃないのよ、悪い子じゃ。
 この間もわざわざ私とお揃いの音楽プレイヤー買ったり私の枕に顔を埋めて深呼吸してたりしたけど、うん、まあ、良い子よ。多分」

「音楽プレイヤー……って、ソレのことか?」

「うん、そう。まああの子はもともとこういう近未来的なデザインのものが好きだから、偶然かもしれないけど」

「しっかし……、枕の方に関しては通報した方が良いンじゃねェの?」

「あの子風紀委員なんだけど」

「そォいえばそォだったか。世も末だな」

「まったくね」

二人は互いに視線を合わせると、揃って大きな溜め息を吐いた。
悪い人間でないことは一方通行だって分かっているのだが、そういう話を聞いてしまうとちょっと敬遠したくなってくる。

「あ。音楽プレイヤーと言えば、幻想御手の正体は曲だー、なんて噂もあったわね」

「ン? 前は論文だの料理のレシピだの言ってなかったか?」

「うん、そういう説もあるわね。他にも薬とかゲーム、なんて説もあったっけ」

「……どンどン胡散臭くなってきてねェか?」

「仕方ないでしょ、元は都市伝説なんだから。胡散臭いも何もあったもんじゃないわ」

「……、…………。幻想、御手……」

混ぜ過ぎてバキバキになったポッキーをひとつひとつ摘まんで食べていた御坂妹が、唐突にぽつりと呟いた。
それに反応して、美琴がくるりと振り返る。
772 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/08(金) 21:07:18.88 ID:B//6TTyoo

「何よ妹、興味あるの? 駄目よ、あんな得体の知れないもの使っちゃ」

「そういう訳ではありません。ミサカはレベルになど興味ありませんし、とミサカは誤解を解こうとします」

「はいはい、分かってるわよ。で、どうしたの?」

「なっ、何でもありません。そんなことよりミサカも捜査に参加したいです、とミサカは意志表明します」

「ええっ!? ダメダメ! 黒子も一緒だから大騒ぎになっちゃうわよ!」

「むう、それなら仕方ありませんね……、とミサカは引き下がります。あ、では代わりにあなたが参加してみては?」

「俺がか?」

突然話を振られて、一方通行はきょとんとした顔をした。
確かに幻想御手なるものの真偽について興味はあるが、そんな軽々しく参加してしまって良いものなのだろうか。

「あのねえ、一応れっきとした風紀委員の捜査なのよ? そんな遊び気分で参加しちゃ駄目だってば」

「…………。でも今日はもォ暇なンだよなァ……」

「ちょ、アンタも何でそんなに乗り気になっちゃってるのよ!? て言うか風紀委員に関わりたくないとか言ってたのアンタでしょうが!」

「白井とは面識あるしな。オマエの知り合いだっつっとけば大丈夫だろ」

「……え、マジで? もしかして本気で言ってる?」

どんどん参加する為の外堀を固めていっている一方通行を見て、美琴は焦りはじめる。
しかし一方通行はにやりと笑うと、こう言い切った。

「本気だ」


773 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/08(金) 21:08:12.38 ID:B//6TTyoo
投下終了。
今回はちょっとくらいは話が進んだ、ような……。
着々と終わりに近付いているのは確かですが。

ともあれ、次回更新は三日後。読んで下さってありがとうございました!
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/08(金) 21:50:54.17 ID:x2iM8Tiao
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/08(金) 22:15:29.01 ID:B6reezsdo
>>1乙なのだ。
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/08(金) 22:27:08.07 ID:FWEi0UuDO
こうやって定期的に来てくれるのはありがたい
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/04/08(金) 22:38:43.71 ID:jaVCL44R0
そろそろ一通さんのターンかな?
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/04/08(金) 22:56:36.39 ID:kpXsiWBd0
一方通行「こっから先はずっと俺のターンだァ」

乙乙!
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/08(金) 23:10:28.02 ID:4OFcHfXIO
一方さんも上条さんや美琴みたいに物事に進んで突っ込んでいく癖でも移ったんじゃないか
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/04/08(金) 23:58:29.74 ID:jvqKv1JAO
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 01:33:08.72 ID:EG7ta/DDO
>>779
朱に交わればなんとやら

元が真っ白な一方さんは特に色濃く影響を受けたのさ
782 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/11(月) 21:33:05.00 ID:qiiDIWEBo
どうもこんばんは。
前回は疲れていたのでうっかりスルーしてしまったのですが、『十年後』に反応しておくべきだった……
惜しいことをした……

ともあれ、皆さんいつもレスありがとうございます。励みになります。
では、投下して行きますね。
783 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/11(月) 21:33:37.70 ID:qiiDIWEBo

「……で、なーんであなたまでこんなところにいらっしゃいますの?」

「捜査の手伝い」

「そんなものを頼んだ覚えはないのですけれど?」

「細けェこたァ気にすンな」

もうすっかり日が暮れてしまった時間、とあるファミリーレストラン。
結局美琴についてきた一方通行は、目的の不良グループからは死角になっている席で白井と共に待機していた。
白井は当然最初は嫌がったが、他ならぬ美琴の頼みだった為に断り切れなかったのだ。

「まあ、ここまで来てしまったからには仕方ありませんわ。ただし、足手纏いにだけはならないで下さいませ」

「分かってるよ、心配すンな」

「本当でしょうか……。っと、始まったようですわね」

小型の通信機から聞こえてきた美琴の声に、白井が身構える。
美琴は、自分から進んで覆面捜査員を名乗り出たのだ。一番危険な役割だが、まあ彼女には打って付けだろう。
一方通行も白井も最初は色々な意味で不安だったのだが……。

『ネットで偶然お兄さんたちの書き込みを見て、できたら私にも教えて欲しいなーって』

「……お姉様にしては上手くやっているようですわね」

「いつ腹を立てて能力を使ったり相手をなぎ倒したりするか分かったモンじゃねェがな」

「ええ、まったくその通りですわ。うう、黒子はとってもとっても不安ですの……。二重の意味で」

後輩にここまで心配されているなんて、いったい美琴は普段からどのような生活態度を取っているのだろう。
そんなどうでも良いことに思いを馳せながら、一方通行も耳に装着した通信機に意識を向ける。

『ねっ、良いでしょ?』

『こっちも情報を手に入れるのに苦労したんでね。帰んな』

『そこをなんとかっ!』

(……今のとこ、何の問題も無さそう、だが……)

上手く行っている。気味が悪いくらいに。
にも関わらず、一方通行は一抹の不安を拭えずにいた。一体どんな不安要素が残っているというのだろうか?

『ダメだダメだ! ガキはもうねんねの時間だぜ』

「あ」

「あ」
784 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/11(月) 21:35:04.93 ID:qiiDIWEBo

その時、美琴の肩がぴくりと動いたのを二人は見逃さなかった。これは終わった。二人は揃ってそう思った。
美琴は子供扱いされることを極端に嫌う。
つまりこの言葉は美琴にとって地雷なのだ……、が。

『え〜っ、私そんな子供じゃないよぉっ』

「ぶふぉおっ!?」

「!?」

白井が、飲んでいたジュースを盛大に噴き出した。
幸い一方通行は彼女の隣に座っていたので被害は受けなかったが、その凄まじい噴きっぷりに動揺する。
しかしそんな惨状を知らない美琴は、引き続き媚び媚びな演技を続けていた。

『だよなあ! オレはアンタ好みだぜ』

『きゃっ、ホントにー?』

「ふおおおおおおッ!? ぐあああああああ!!」

「白井!? どォしたしっかりしろ!」

何の拒絶反応が出ているのか、白井が突然テーブルに頭を打ち付けはじめる。
しかもかなりの勢いで打ち付けているのか、彼女の額からはだらだらと血が流れてきていた。
ちなみに、もちろん美琴は気付かない。

『じゃあ教えてくれる?』

『んー、でもやっぱタダって訳にはいかねえなあ』

『えっとぉ、お金なら少しは出せます〜』

「ぐあ……、あ、あぁ……」

「白井? オイ生きてンのかこれ」

流石に限界が近付いたのか、大人しくなった白井がテーブルに突っ伏して倒れた。
テーブルの上は白井の血と零れたメロンソーダが混ざって大変なことになっていたが、そんなことより今は救急車だ。
一方、やっぱり美琴は気付かない。

『金も良いけどこういう時はやっぱり……、こっちの方かねえ?』

『で、でもぉっ、そういうのはやっぱり恐いって言うかぁ……。お金じゃダメ?』

『ダメダメ、それじゃ教えらんねえなあ。子供じゃないんだろ?』

「あ、冥土帰しか? 急患だ。第七学区のベニーってファミリーレストランに救急車寄越せ」

救急車を呼んだ一方通行は、白井の覚醒を促すために声を掛ける。
意識はあるのか僅かな反応は返って来るが、どれも言葉らしい言葉にはなっていなかった。
785 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/11(月) 21:35:43.16 ID:qiiDIWEBo

『う……』

『?』

……その時、美琴側にも異変が現れ始める。
なんと、あの美琴がくすんくすんと嗚咽を漏らしながら涙を流し始めたのだ。もちろん演技だろうが、その衝撃は計り知れない。
それまで彼女に突っかかっていた不良も、突然の出来事にぎょっとする。

『うおッ!? 何だイキナリ』

『わ、私……、実は無理言って学園都市に来させてもらったの』

『は? 何言って……』

『でもやっぱり私才能なくて、能力も全然伸びなくて……。
 お父さんはさり気なく電話で身体検査(システムスキャン)の結果を訊いてくるし、お母さんはあなたはやればできる子なんだからって』

秘技・泣き落とし。当然ながら目薬を使った嘘泣きだが、不良は面白いくらい狼狽えていた。
それを見た美琴は心中でニヤリと笑うと、ここぞとばかりに畳み掛ける。

『期待に応えなきゃって思うけどどうしようもなくて、思わず嘘ついちゃって。
 そんな時お兄さんたちのこと知って……、もう幻想御手しか頼れるものがなくって……』

『い、いやそんなことを言われても……』

おろおろとしている不良は、しかしそれでもまだ渋っていた。しかし、ここまで来ればきっともう一押しすれば行ける筈。
……そこで、美琴はトドメとばかりに上目遣いに濡れた瞳で不良を見上げる。

『ダメ……、かな』

不良陥落。
しかしその一方で、白井も真っ白に燃え尽きていた。

「す、鈴科……さん」

「! 白井、目が覚めたのか?」

「ひとつ、お願いがありますの……」

「どォした? 言ってみろ」

「もし、もしわたくしが死んだら……、骨は粉末にしてお姉様の食事に混ぜて欲しいんですの……」

「やっぱり変態だったか」

戻って、美琴サイド。
彼女に突っ掛かっていた不良は完全に美琴に口説き落されていたが、それでもまだ躊躇っているのかもだもだしている。
するとその時、それまで美琴たちのことを傍観していた別の不良が何かに気付いて隣の仲間に囁きかけた。
その小さな声さえも、風紀委員支給の高性能マイクは拾ってくれる。
786 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/11(月) 21:36:21.26 ID:qiiDIWEBo

『オイ、良く見りゃアレ常盤台の制服じゃねえか。意外と良い金ヅルになるかもしんねーぜ』

『ほう……』

そして不良は下卑た笑みを浮かべると、美琴に突っ掛かっていた男を押し退けて前に出てきた。
優柔不断なこの男では、落としたところで埒が明かないと思っていた美琴は密かに安堵する。

『こんなとこで泣かれてもメンドクセー、金額次第で教えてやるよ』

『お、オウ』

(やった!!)

美琴は一瞬とても悪い顔をしたが、別のことに気を取られている不良たちはそんな彼女に気付かない。
これで本当に幻想御手についての情報が手に入るのなら安いものだと思い、美琴は懐から財布を取り出そうとする。
しかし彼女がその中からお金を取り出そうとしたまさにその時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

『これこれ童子ども』

「……ン? この声……」

この場で聞こえてくる筈のない声に、一方通行は首を傾げる。
不審に思って美琴のいる方向を振り返ってみて、……彼は唖然とした。

『あー? 何だテメェは』

『よってたかって女の子の財布を狙うんじゃありません』

「……嘘だろ?」

薄幸そうなツンツン頭の少年。
上条当麻がそこにいた。



―――――



大騒ぎしながら出て行った上条と美琴と不良グループを見送った一方通行は、とにかく呆然とすることしかできなかった。
尚、白井は相変わらず彼の隣でぐったりとしている。
取りあえず一方通行はコーヒーを一口飲んで平静を取り戻すと、ゆっくりと口を開く。

「白井、動けそうか?」

「…………取りあえず生きてますの」

「追うぞ。あれじゃ大惨事になりかねねェ。不良の方が」
787 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/11(月) 21:36:49.57 ID:qiiDIWEBo

「心得ておりますわ。救急車はそちらに回した方が良いのでは?」

「その通りだろォな」

一応能力で応急処置してやったからか、白井はある程度までは回復しているようだった。
しかしそれでもまだ本調子じゃないからか、ふらふらしているが。

「不本意ですが、掴まって下さいまし。わたくしのテレポートで追えばすぐですわ」

「あァ、悪ィな」

そして一方通行が白井の手を取った、瞬間。
唐突に景色が切り替わる。
瞬間移動というものを初めて経験した一方通行は驚いたが、美琴と上条を追う不良グループがすぐ目の前を走っているのをみて身構えた。

「それでは行きますわよ。準備は宜しくって?」

「問題ねェ」

白井と一方通行は、各々の能力を使ってそれぞれ不良グループの前に躍り出る。
突然の出来事に不良グループが立ち止まったのを確認すると、白井は一歩前へ出て不良たちに風紀委員の腕章を示して見せた。

「風紀委員ですの! 暴行未遂の現行犯で拘束します!」

「ああ!? んだぁコイツら!」

「しゃらくせえ、やっちまえ! この人数だ、負ける訳ねえ!!」

不良の人数は十人程度。
彼らがただの不良であるならば何の問題も無く拘束できるのだが、今回ばかりは少し話が違う。
この不良たちは幻想御手使用者なのだ。恐らく、一筋縄ではいかないだろう。
そのことを思い出して、白井は少し焦った。

(不味いですわ。爆弾魔レベルがこの人数は少し辛いかもしれません……)

「パワーアップして異能力者(レベル2)になったオレたちの力……、見せてやるぜ!」

「杞憂でしたわ」

しかしそんな白井の思いを知ってか知らずか、不良たちは一斉に能力を二人に向けてきた。
白井は空間移動で回避、一方通行は反射でそれら全てを弾き返す。

「ぎゃあああああ!?」

「面倒くせェからこれで勘弁してくれ。あァ、救急車は呼ンであるから安心しろ」

「まあ、高位能力者の方だったんですのね」

「オマエと同じだ。大能力(レベル4)」
788 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/11(月) 21:37:38.81 ID:qiiDIWEBo

「あら? あなたにわたくしのレベルを教えた覚えはないのですけれど」

「空間移動能力者(テレポーター)は自分を転移できるようになったらその時点で大能力判定だろォが」

「よくご存知ですわね。その通りです、わっ!」

話している途中で殴り掛かってきた不良を空間移動で回避し、後頭部を鞄でぶん殴る。
続いて白井は上空に空間移動すると、落下速度をそのままに不良の頭頂部に踵落としを叩き込んだ。

「その体術も、大したモンだ」

「風紀委員ですので。この程度は普通に訓練を受ければ身に付きますわ」

「そォか」

性懲りもなく向かってきた火球を反射して不良を一人沈めると、一方通行も白井と同じように不良の渦の中へと飛び込んだ。
飛んでくる能力攻撃は反射に任せ、それでも倒れなかった不良を能力で強化した体術で捻じ伏せる。
やはり能力の力が大きいのか、見よう見真似の攻撃でもそれなりの威力は認められるが白井の評価は厳しかった。

「酷い型ですわね。能力に頼り切りというのも考えものでしてよ?」

「チッ、やっぱりか。訓練なンか受けたことねェから独学なンだよ」

「でしたら風紀委員に入っては如何です? 訓練はスパルタですが、なかなか良い経験になると思いますわ」

「……遠慮しとく」

「それは残念。最近は特に忙しいもので、人手が欲しかったのですけれど」

そんな話をしている内に、二人はいつの間にかすべての不良を鎮圧してしまった。
白井は彼ら全てが完全に意識を失っていることを確認すると、鞄の中から変わった形の手錠を取り出してその中のいくつかを一方通行に投げ渡す。

「案外呆気なかったですわね。ところで申し訳ないのですが、彼らを拘束するのを手伝って下さいな」

「電子手錠、か? どォやって使うンだよ」

「拘束したい人間の手首に押し当てるだけで大丈夫ですわ」

「了解」

受け取った電子手錠の中から一つを選び、適当な不良の手首に当てようとした、その時。
鉄橋の方向で巨大な雷光が閃き、続いてとんでもない音量の雷鳴が轟いた。

そしてそれとほぼ同時に、街中の明かりが一斉に消える。
通常は照明の所為で見ることのできない星空が、頭上で輝いているのが見えた。……鉄橋の上空だけ曇っているような気もするが。
しかし星空が見えているということは今日は快晴なのだが……、だとしたらあの雷の正体は、何なのか。

「……お姉様ですわね」

「だろォな。ったく、何やってンだアイツら……」
789 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/11(月) 21:38:27.58 ID:qiiDIWEBo

一方通行の能力は感知能力でもあるので真っ暗闇の中でも周囲の様子をある程度窺えるが、白井は大丈夫なのだろうか。
そんなことを考えていると、ぽつぽつと周囲に明かりが灯り始めた。非常電源が作動し始めたのだ。

真っ暗闇に目が慣れかけてしまっていた所為で一瞬目が眩んだが、それもすぐに慣れてきた。
彼は手元の電子手錠を再度確認すると、改めて不良の手首に押し当てる。ピピッという電子音の後に、電子手錠のロックが作動した。
そんなことを受け取った手錠の数だけ繰り返した一方通行は、立ち上がってふうっと息を吐いた。

「これで終わりだな。そっちは大丈夫か?」

「ええ、わたくしも今全員分の手錠を掛けたところですわ。……それにしても、お姉様はどうしてあんな場所で雷を……」

「どォせ上条がまた妙なこと口走ったンだろ。そンなことより、いくつか非常電源が作動してねェところがあンな」

彼が指差したのは、少し古びた背の高い建物だ。
その建物はまるで団地のように一塊になっているくせに、明かりのついている部屋が一つもない。こんな時間に、全員が就寝してるなんてことはないだろう。
確かあっちの方向には上条の学生寮もあった筈だ、なんて考えていると、顔を上げて建物に目を向けた白井が説明をしてくれた。

「あれは学生寮ですわ。もともと非常電源が備わっていないんですの」

「ふゥン……。このクソ暑い時期にご愁傷様だな」

「まったくですわ。まあ、わたくしたちには関係ないことですけれど」

「なンだ、オマエのところには非常電源ついてンのか」

「まあ名門常盤台中学ですので、そのくらいの設備は。むしろあなたの方が他人事では無いのでは?」

「俺ンとこも問題ねェ。つゥか、非常電源付いてねェと命に関わるからな」

「? 鈴科さんは病院にでも住んでらっしゃいますの?」

「……まァそンなところだ」

一方通行は適当に答えながら、拘束した不良たちを引き摺って一か所に集めていく。
攻撃の勢いのままに吹っ飛んで結構遠くまで吹き飛ばされてしまった不良も多いので、一塊にしておいて回収しやすくしているのだ。

(あ)

その時、ふと目に付いた電光掲示板に表示されていた日付を見て、一方通行は立ち止まる。
七月二十日。
いつか上条が教えてくれた、終わりの日。
そしてそれは、同時に始まりの日でもある。

(……夏休み、か)


790 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/11(月) 21:39:31.74 ID:qiiDIWEBo
投下終了。
確かに一方さんのターンですがそれ以上に黒子のターンだった気がします。

次回更新は三日後。それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました。
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/04/11(月) 21:45:58.28 ID:R7lSwHIQ0
乙!

黒子かわいいよ黒子
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/11(月) 21:47:58.74 ID:WE46KEsMo
黒子の顔ドラムwith一方さんウケるwwww
そろそろあの方が登場するのだろうか・・・
乙です!
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/11(月) 22:52:54.81 ID:HsGfTD+DO
乙乙! 黒子が可愛すぎて禿げそうだ!
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/11(月) 22:54:10.49 ID:jXQAr7nko
>>793
鏡見てこいよ・・・手遅れだぜ
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/12(火) 09:26:43.76 ID:NDkyhipzo

インフィニッティーさんは出てくるのかな

「十年後」は若干滑ってたから仕方無いうん
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/04/12(火) 10:19:52.07 ID:GsRAv0lIO
その現実を……ぶち殺したい!!
797 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/14(木) 21:57:53.31 ID:yDtrAmgPo
どうもこんばんは。
少し遅くなってしまいましたね、すみません。

それでは、今日もさっさち投下していきます。
798 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/14(木) 21:58:29.90 ID:yDtrAmgPo

交通整理の笛の音が鳴り響いている。そんな真昼の大通りを、一方通行は行く当てもなく歩いていた。
上条は補習、美琴は連絡がつかず、御坂妹は不在なのでやることが無いのだ。

(……そォいえば、アイツらあの後どォなったンだ?)

昨日は白井の手伝いにかまけていて結局上条と美琴の方は放置してしまったので、一方通行はあの後二人がどうなったのか知らなかった。
とは言えどうせあの二人のことだから、いつものように追いかけっこに発展したんだろうが。

(ま、気にする程でもねェか)

そんな適当なことを考えながら歩いていた一方通行は、ふと何かを思い立ったのか立ち止まる。
道路の真ん中では、何処かで見覚えのある気がする風紀委員が手際よく車を誘導していた。

(信号方向……は時間が掛かりそォだ。……路地裏から行くか)

風紀委員は確かにしっかりと仕事をしているのだが、如何せん車が多過ぎる。
これでは歩行者が信号を渡れるようになるまで少し時間が掛かりそうだと判断した一方通行は、車道を見限って路地裏へと足を向けた。
先日御坂妹に警告はされたが、ちょっと駅前まで行くだけだから大丈夫だろう。

……と、楽観していたのだが。
路地裏に入って数分と歩かない内に、一方通行は不良に絡まれた。しかもかなり大人数の、集団だ。

(……なンだ? まるで俺が路地裏に入って来るのを待ってたみてェな素早さじゃねェか)

そのあまりのタイミングの良さに一方通行は少し警戒したが、彼を取り囲んでいる不良たちはどう見てもただの一般人にしか見えない。
いや、一般人という言い方はおかしいかもしれないが、少なくとも第二位の関係者には見えなかった。

(不良の恨みを買ったりは……、あァ、山ほど心当たりがあるわ)

ならば、これは所謂お礼参りというやつではないだろうか?
意外と単純な結論に一方通行は安堵したが、この不良たちをこのまま無視する訳にもいかない。相手だってそんなことは許さないだろう。
どうせだから戦闘の練習台にでもしてやるか、なんて一方通行が考えていると、ふと不良の一人がニヤリと笑った。

「良いのか? そんなに余裕ぶっててよお」

「……? 幻想御手(レベルアッパー)程度で俺に勝てると思ってンなら、ひでェ思い上がりだとだけ言っておこォか」

「ハッ、幻想御手? そんなちゃちいモンに誰が頼るかよ!」

予想外の反応に、一方通行は怪訝そうな顔をする。
そんな彼の表情を見て、不良はより一層笑みを深くした。

「喰らえ! これが俺たちの最終兵器だ!!」

瞬間。
まるでガラスを爪で引っ掻いた時に発せられるような不快な音が、周囲に響き渡った。
一方通行はその音に一瞬だけ頭痛を感じたが、それは本当に一瞬だけ。
数秒と経たない内に頭痛から解放された一方通行は、はたとあることに気が付いて少し驚いた。

(反射が、勝手に展開してやがる? しかも何か反射してンな、これは何だ?)
799 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/14(木) 21:58:58.07 ID:yDtrAmgPo

目の前の不良を無視して、一方通行は自分が無意識に反射している『何か』の解析を開始する。
その一方で、不良たちは一方通行に何の変化も見られないことに焦り始めていた。

「何だコイツ……、どうしてコレが効かねえんだ!?」

「俺が知るか! くそっ、もういい! やっちまえ!」

「?」

一方通行を取り囲んでいた不良たちが、己の拳を武器に襲い掛かってくる。
しかし一方通行は、それでも解析を中止したりはしない。
その必要もないからだ。
彼が展開している反射は、彼の意思とは関係なく有害なもの――否、無害でないものはすべて勝手に反射してくれる。
だから、わざわざ彼自身が不良たちに手を下す必要さえないのだ。

(これは、音? そォいえば、さっきまで聞こえてた変な音が聞こえなくなってンな。でもどォして音なンか……)

「ぎゃあああ! 腕が、腕があっ!」

(反射してるっつゥことは、ホワイトリストのフィルタに引っ掛かったンだよな? 音響兵器か?)

「おいっ! これどうなってやがんだ!?」

(でもコイツら耳栓してねェしなァ……。本来なら俺にだけ効果が見られる筈だったみてェだが)

「怯むな、やれ!!」

(俺とコイツらの違いを判別する音響兵器? こりゃまたトンデモな道具が出てきたモンだ。幻想御手と言い、最近流行ってンのか?)

「だ、駄目だ! こんなのに敵う訳ねえ!」

(つゥか、違いってなンだよ。どンな違いを識別してるってンだ?)

「コラお前ら、逃げるな! くそっ」

(そもそもどォしてただの不良なンかがこンな代物を持ってる? 兵器の研究所のセキュリティは不良に破られる程度のモンじゃねェ筈)

「馬鹿野郎! こんなのとまともにやり合える訳ねえだろ! さっさと逃げろ!!」

(ってことは、何者かが何らかの目的を持ってコイツらに貸し与えたって線しか無くなるわけだが……ン?)

一方通行が気付いた時には、既に不良たちは姿を消していた。
とは言っても反射によって大ダメージを負い、動けなくなってしまったらしい不良たちは彼の足元に転がったままだったが。

「……そォだ。イイこと思いついた」

「ひ、ひィッ!?」

倒れながらも辛うじて意識を保っていた不良の一人が、一方通行の視線に気付いて悲鳴を上げた。
彼はそれを見てとてもとても楽しそうに嗤うと、地面に転がっていた不良の胸倉を掴んで持ち上げる。
800 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/14(木) 22:00:11.60 ID:yDtrAmgPo

「なん、何だ!? 何をする気だ!? 俺たちはもう……」

「なァに、別に取って食ったりはしねェから安心しろ。俺の質問に素直に答えてくれりゃあそれでイイ」

「分かった! 答える、答えるから! た、助けて……」

一方通行に持ち上げられて地から足が離れていることも不安を煽るのだろう、不良は可哀想なくらいぶるぶると震えていた。
そんな様子の不良を見て、一方通行は裂くように口角を釣り上げる。
さあ、この不良は何処をどう絞れば、どんな情報をどれだけ吐き出してくれるのだろう?



―――――



「これ、は」

目の前の光景に、美琴は絶句した。
だだっ広い、真っ白な部屋。
真っ白な寝台。
そしてそこに横たわる、夥しい数の患者たち。
彼らはすべて、原因不明の昏睡状態に見舞われている学生だった。

「……この間の爆弾魔も、この中に?」

「はい。他の患者と同じように、彼も取り調べ中に突然眠ったように倒れまして……」

「予想以上ですわね。どうしてこんなことに……」

美琴の隣に立ってその光景を眺めている白井も、辛そうな顔をしている。
幸いなことに、その中に彼女たちの見知った顔は無い。
しかしそうであっても、まだ幼い彼女たちにとってこの景色はあまりにも衝撃的だった。

「容態はどうなんですか?」

「最善を尽くしていますが、依然意識を取り戻す様子はありません。
 身体には何処にも異常はないのですが、ただ意識だけが失われているんです。原因が分からないので、手の打ちようも無くて」

「今までに意識を取り戻した患者は?」

「一人もいません。この症状に陥ったが最後、回復した例は今のところまったく……」

医者の話では、先週くらいから突然こういう患者が現れ始めたらしい。
それからはまるで堰を切ったかのように同じ症状の患者が次々と運ばれてくるようになり、今では患者の数がこんなにも膨れ上がってしまった。
そしてこんな話をしている間にも、一人また一人と患者が部屋に運ばれてくる。壮絶な光景だった。
801 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/14(木) 22:00:39.26 ID:yDtrAmgPo

「伝染病、とかなんですか?」

「いえ。ウィルスは検出されていませんし、関係者の二次感染も起きていないのでその可能性は低いと考えています。
 ……ただ、こうなった以上は何か共通の原因が必ずあるはずです」

説明してくれている医者の顔も、やつれている。
きっと昏睡状態の患者たちに出来る限りの手を尽くして、その上で何の効果も見込めなかったことに絶望しているのだろう。
精神的にも、かなり参っている筈だ。
そんな医者の心情を思って、美琴も苦しそうな顔をする。

「ねえ黒子、まさかこれも幻想御手が……?」

「……最初は、そう睨まれていましたわ。ですが今は……」

「?」

「確かに、昏睡状態に陥った患者の殆どは幻想御手使用者でした。ですが幻想御手を使用した形跡の無い人間も中にいるのです」

「それじゃ、幻想御手は関係ないってこと?」

「いえ、そうは言い切れませんわ。幻想御手を使用した痕跡を上手く隠しただけ、という可能性もありますし。ただ……」

「ただ?」

美琴が聞き返すと、白井は少し困ったような顔をした。
恐らく風紀委員の機密事項で、おいそれと一般人に話して良いようなことではないのだろう。
しかし白井は少し躊躇った末に、美琴は信頼できると判断したのかゆっくりと口を開く。

「……ただ、幻想御手を使用した痕跡の無い患者は全員それなりにレベルの高い能力者なのです。大能力者が殆ど、でしょうか」

「大能力者が? ……どういうことなのかしら」

「さあ……、今のところは情報不足なので何とも……」

患者の中には本当にただの犠牲者でしかない人間も多いので、無茶な家宅捜索などはできないのだ。
警備員はともかく、風紀委員の権限には限界がある。
それに確証もないので、個人的にもあまり強硬手段をとりたくはなかった。

「……ですが、仮にそうだとするなら事態は深刻ですわね」

「うん……」

美琴の返事にも元気がない。
すると、そんなこそこそ話を聞いていなかったらしい医者が唐突に声を上げた。

「木山先生! ご到着されたんですね」

「?」
802 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/14(木) 22:01:17.41 ID:yDtrAmgPo

まるでその言葉を合図にするかのようにして聞こえてきた大勢の人間の足音に、美琴と白井は振り返る。
そこには、医者よりも更にやつれた顔をした髪の長い女研究者が立っていた。
彼女は背後に大勢の研究者を引き連れて、かつんかつんと靴の音を響かせながらこちらに歩いてくる。
その雰囲気から、美琴は彼女こそがこの研究者たちの中心的な存在なのだろうと悟った。

「お待たせしました。水穂機構病院院長から招聘を受けました、木山春生です」



―――――



泡を吹いて気絶した不良を、適当に投げ捨てる。
べしゃりという音と共に地面に叩き付けられた不良に見向きもせず、一方通行は歩き始めた。

(まァ期待はしてなかったが、案の定大した情報は持ってなかったな)

一方通行の足元には、同じような状態になった不良が何人も転がっていた。
誰がどんな情報を持っているとも知れないので、彼はとりあえず全員を締め上げて情報を吐かせたのだ。
しかしそれでも、彼が得ることのできた情報は多くない。
その上そのどれもが決定打に欠けている。恐らく事情を知っているリーダー格の人間は先程逃げて行ってしまったのだろう。

(どォする? さっきのアイツらを追い掛けるか? いや、しかし時間が経ち過ぎてるな……)

彼は小さく舌打ちすると、歩きながら頭の中で情報を纏めはじめる。
こんな状況だ。どんな小さな情報だったとしても見逃さず、きちんと把握しておいた方が良いだろう。

(まず、コイツらが使ってた兵器の名前はキャパシティダウン。能力者の演算を阻害して頭痛を誘発させる音響兵器。
 『識別方法』ってのはこれだろォな。コイツら無能力者は殆ど影響を受けないが、俺たち能力者には絶大な威力を発揮する……筈だった。
 まァ俺が相手じゃなかったら予定通りにコトが進められたンだろォが、残念だったな)

泣き叫びながら命乞いする不良たちの姿を思い出して、一方通行はくつくつと喉を鳴らした。
絶対の力を有すると思っていた兵器が使い物にならないと分かった時、アイツらは一体どんな気持ちだったんだろう。

(……と、コレも一応確認しておくか。風紀委員に通報した方が良さそうだが……どォすっかなァ)

ふと思い立って一方通行が懐から取り出したのは、紙の束。
もちろん、これも不良から強奪したものだ。
これではどちらが追い剥ぎか分かったものではないが、先に手を出したのはあっちだ。正当防衛正当防衛、と彼は自分を正当化する。

(襲撃予定者リスト、ね。ただ、持って行っても信じてもらえるどォかだな)

心中で呟きながら、一方通行は紙の束を捲っていく。
ざっと目を通してみると、そのリストに載っている人間の殆どは大能力者だった。
と、紙束をぱらぱらと流し見ている途中、彼はその中に見覚えのある顔を発見して苦い顔をする。

(げ、白井まで居るじゃねェか。危ねェな……)

彼女の他にも、常盤台の制服を着た学生が何人も載っていた。いずれも大能力者だ。
もともと一方通行には知り合いが少ないのでそこに白井以外の顔見知りはいなかったが、美琴の友人はきっとこの中に何人もいるはずだ。
803 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/14(木) 22:01:57.87 ID:yDtrAmgPo

(つゥか、なンで俺のデータまであるンだよ。確かに奨学金の為に申請はしたから、書庫(バンク)に載っててもおかしくねェンだが……)

赤い丸で印の付けられた自分のデータを見ながら、一方通行は眉根を寄せた。
……彼は、学生ではない。
よって、彼が大能力者であることを知るには書庫に侵入してデータを閲覧するしかない訳なのだが。

(ただのスキルアウトが、書庫になンか侵入できる筈がねェ。そォするだけの価値も、普通無い。
 ということは、コイツらにキャパシティダウンを与えた研究者が一緒にリストも渡してきたんだろォな。目的はさっぱり分かンねェが。
 ただ、コイツらが律儀にこのリストに従って襲撃を行っている辺り、交換条件でも出されたンだろ。
 「キャパシティダウンをやるから、このリストに載っている能力者を襲撃してくれ」ってな具合にな)

本当はこの辺りの話も不良たちから直接聞ければ良かったのだが、ちょっと虐め過ぎた所為で詳しい話を訊く前に気絶されてしまったのだ。
まあ、ちょっと調子に乗ってしまった一方通行にも非はあるのだが。

(あーあ、もォちょっと優しくしてやったら詳しいことが分かったかもしれねェのに。馬鹿なことした)

しかも、不良たちも不良たちで口止めをされていたのか、なかなか詳しい話はしてくれなかったのだ。
特に、彼らにキャパシティダウンやリストを渡して妙な指示を出したらしい研究者についての情報は殆ど吐いてくれなかった。
とは言え、彼らもそこまでその研究者について詳しいわけではなかったようだが。

(いつも趣味の悪ィピンクの駆動鎧(パワードスーツ)を身に纏ってて顔は見てねェ、ってか。声は女だっつってたが)

着ている駆動鎧がピンクな時点で高確率で女だろうが、それでも相手の目を欺くためのものという可能性もある。
それに、声なんかいくらでも変えることができるので信用できない。
つまり一方通行が得られた研究者についての情報は、ゼロと言っても過言ではなかった。

(これ以上の情報を得るには、やっぱりさっきのアイツらを捕まえるのが一番手っ取り早いンだが……)

しかし先程も自分でそう否定したように、彼らが逃げて行ってしまってからかなり時間が経っている。
今から追い掛けたとしても捕まえることなんてできないだろう。手掛かりを見つけられるかどうかも怪しい。
ただ、リーダーらしい男の顔だけは覚えているので一度でも顔を合わせれば捕まえられるのだが……。

(それにしても、どォしてこンなことをするンだ? 襲撃した奴を拉致して実験動物(モルモット)にしてる訳でもねェらしいし)

不良たちから聞いた話によると、能力者を襲撃したらそれきり、特に何もしないらしい。
金品を巻き上げることはあるらしいが、それ以上のことは何もしない。
恐らく、それも例の研究者の指示なのだろう。しかしそれでは一体何の為に襲撃しているのか分からない。
まあ一方通行が話を聞いた不良はただの末端なので、彼らの知らないところで何かが行われているのかもしれないが。

(さて、どォすっかね……ン?)

適当にリストを捲っていた一方通行が、突然その手を止めた。
そして、にやりと笑う。何かを思い付いた時の、悪い顔をしていた。

(あァ、なンだ。イイ策があるじゃねェか、この手の中に)

黒いことを考えているとは思えないほど楽しそうな顔をしながら、一方通行は紙の束を懐に仕舞う。
紙の束の内容はもう記憶した。
あとは信じて貰えるかどうかは別として、これを風紀委員にでも届けておけば良いだろう。

(つっても、風紀委員の支部が何処にあンのか知らねェンだよな……。あとで御坂にでも訊いとくか、っと)

と、ちょうど一方通行は路地裏を抜けて大通りへと出た。
彼は新しい住処となるアパートを探す為に駅前を目指していたのだが、どうもそんな気分ではなくなってしまった。

(乗り気がしねェのは確かなンだが、時間は有り余ってるしな……。まァ良いか、ここまで来て何もしねェのも勿体ない。探そう)

それに、不動産屋を巡っている内に風紀委員の支部が見つかるかもしれない。
また、アパート探しにはそこそこ時間も掛かるだろうから、補習の終わった上条や最近忙しそうな美琴と遭遇する可能性もある。

(『策』を実行するのにも下準備が必要だしな……。とにかく今は何もできねェ。取りあえずは暇潰しだな)

そうして彼は当面の目的を決定すると、人々で賑わっている大通りへと踏み出した。
沢山の人の波に呑まれて、彼の白い後ろ姿はすぐに見えなくなってしまった。


804 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/14(木) 22:02:59.28 ID:yDtrAmgPo
投下終了、お疲れ様でした。
次回更新は三日後です。

以前も言いましたが、幻想御手編(というか超電磁砲)はさらっと流してしまうのでご了承ください!
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/14(木) 22:41:18.97 ID:zmmx6vdwo
乙です!
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/04/15(金) 17:50:06.95 ID:uy7jmMJ70
乙!

超応援してます
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/04/15(金) 21:17:16.08 ID:z2Ypn3by0
乙乙
そうか、電磁砲はあんまり触れないのか、残念
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/16(土) 00:11:43.89 ID:/r/sJn1Ao

テレス木原が一通にとって重要になるか否か
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/16(土) 04:07:26.04 ID:HVtTH42DO
ほほう木原ちゃン活躍の予感とな乙乙
810 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/17(日) 20:15:55.43 ID:Ud+X54BYo
どうもこんばんは。
超電磁砲のEDのDear My Friendsってすごい良い曲ですよね。
そういえば最終回のタイトルもこれでしたっけ。

それと、今回から少し投下形式(?)を変えてみました。
それでは、お楽しみいただけると幸いです。
811 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/17(日) 20:16:30.49 ID:Ud+X54BYo

「うえ、終バス終わってる……、不幸だ」

自分の腕時計とバスの時刻表を見比べていた上条は、思わずいつもの口癖を漏らしながらがっくりと項垂れた。
歩いて帰れない距離という訳ではないのだが、補習によって疲れ果てた身体にはなかなかに酷な仕打ちだ。
しかし、こんなところで文句を言っていても仕方がない。彼は一つ大きな溜め息をつくと、とぼとぼと歩き始める、
と。

「あ」

「ン」

「あれっ」

まさに、ばったりと表現するのがぴったりだろう。
それぞれ全く別の道から歩いて来た一方通行と美琴と、同時に遭遇したのだから。
上条は驚いたが、二人も驚いているようだった。

「すっごい偶然ね。アンタたち、こんなとこで何してんの?」

「俺はアパート探し。オマエらこそ、何してンだ?」

「俺は終バス逃して補習の帰り。ビリビリは?」

「ビリビリ言うな。……まあ、私はちょっと野暮用でね。さっきまで黒子たちと一緒に居たんだけど、たった今別れてきたとこ」

つまり、三人が三人とも全然違う目的を持って歩いていただけらしい。
凄まじい偶然だ。

「そうだわ、ちょうど良いし勝負しましょ! いい加減決着つけたいし」
812 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/17(日) 20:16:57.80 ID:Ud+X54BYo

「馬鹿言え。あれは完全にオマエの負けだったろォが」

「うぐっ。で、でも私だって一発も喰らってないんだからあんなの無効よ無効!」

「往生際悪ィなァ……」

「あー、悪いんだけど今日はちょっと勘弁してくれ。補習で疲れてるんだよ」

「むう……」

美琴はそれでも納得いかないという顔をしていたが、一方通行に宥められてようやく諦めてくれたようだ。
そんな彼女を見てほっとした上条は、ふと何かを思い出したようにはっとした顔をした。

「そういえばさ、ここらで英国式の教会ってのが何処にあるか知ってるか?」

「は? 教会? 何でまたそんなとこに」

「なンだ、オマエ十字教徒だったのか?」

「違う違う。忘れモン届けに行かなきゃなんねーかもだからさ……」

「忘れ物?」

「まあ、とにかく教会の場所を教えて欲しいんだ。知らないか?」

上条が尋ねてくるが、記憶喪失でろくにこの辺りのことを把握していない一方通行が教会の場所なんて知っている筈もない。
ということでここで頼りになるのは美琴だけなのだが、彼女もいまいち心当たりがないのか難しい顔をしている。

「うーん、教会ねえ……。神学系の学校が多い第十二学区になら沢山ありそうなもんだけど……」
813 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/17(日) 20:17:25.51 ID:Ud+X54BYo

「それじゃちょっと遠すぎるな。この辺にはやっぱないか……」

「あ、ちょっと待って。英国式かどうかは知らないけど、教会なら確か三沢塾の近くにあったかも」

「三沢塾? 何処だそこ」

「んー、あの辺ちょっと道が入り組んでて分かりにくいのよね。一回大通りまで出ちゃった方が分かり易いかも」

「ほう」

言いながら大通りの方を指差した美琴は、ここから見える道路を指でなぞりながら上条に道順を教えてやる。
手元に地図が無いので教えるのに少し苦労したが、上条はきちんと理解してくれたようだった。

「おお、分かった分かった。ありがとな、恩に着るぜ」

「別に良いわよ。でも、忘れ物なら私が風紀委員に届けてあげよっか?」

「いや、届けなきゃいけないかもってだけだから。もしかしたら自分で取りに来るかもしれないし」

「そう? なら良いんだけど」

何だか複雑そうな上条の事情に美琴は首を傾げたが、深く追及するようなことでもないだろう。
それにしても教会に忘れ物を届けるなんて、シスターさんが十字架でも落として行ったのだろうか。

「あァそォだ、俺も風紀委員に届けなきゃいけねェモンがあるンだった。支部が何処にあるか知ってるか?」

「支部? 黒子の支部なら真逆の方向よ。あそこの駅をずっと北に行ったとこ。忘れ物なら私が預かるけど」

「いや、直接届けなきゃいけねェモンなンだ。悪ィな」
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/17(日) 20:18:20.76 ID:Ud+X54BYo

「ふーん。揃いも揃って一体どんな事情があるんだか。暴力沙汰になりそうになったら私にも教えなさいよねっ」

不満そうにしながら、美琴は一方通行に向かってびしっと指を立てる。
しかしそんな彼女を見て、上条は呆れた顔をした。

「それどういう意味だ……。まったく、お前も一応女の子なんだからあんまりそういうことに首突っ込むんじゃねえぞ?」

「お、大きなお世話よ! ほんとにもう、どいつもこいつも私を一般人扱いするんだから」

「一般人だろォが」

「そうだけど、そうなんだけど! 超能力者(レベル5)だもん!」

「はいはい、お前が強いってことはよく分かってるよ」

「何か馬鹿にされてる気がする! むぎー!」

美琴は苛立ちに任せて電撃を放とうとしているようだったが、上条に頭を撫でられているので電気は発現する前に打ち消されていた。
こうしておけば、危険な超電磁砲も間違いなくただの一般人だ。安全安全。

「遊ぶな。ったく、オマエらは気楽でイイよなァ……」

「な、何よ。私だっていろいろ大変だったんだから!」

「上条さんも今日はなかなかハードな一日でしたよ。朝はエセ魔術師に絡まれるし食料全部駄目になるし遅刻するし補習は居残りだし……」

半分くらいは自業自得な気がするのだが、この際ここはスルーしておこう。
一方通行と美琴が気になったのは、最初の言葉だった。

「まじゅつし? って何?」

「オマエも遂に壊れたか……。可哀想ォに」

「ち、違う違う! 可哀想なのは俺じゃなくて自称魔術師の方だと思います!」

「まあ何でも良いけど。何よそのまじゅつしって?」

美琴の質問に、上条は何故か困ったような顔をする。
そして彼は暫らく言葉に迷った後、苦笑いを浮かべながらこう言った。

「さあ。何だろうな?」


815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/17(日) 20:18:46.51 ID:Ud+X54BYo

―――――



ドアの開閉する音に、本に目を落としていた御坂妹が顔を上げる。
彼女は帰って来たのが一方通行であることに気付くと、席を立って彼に駆け寄って行った。

「おかえりなさい一方通行。何処に行っていたのですか? とミサカは一方通行を出迎えます」

「……御坂妹か。アパート探しだ、アパート探し」

「ほう。良い物件は見つかりましたか? とミサカは一方通行の様子を窺ってみます」

「まァな。金が出来次第引っ越すことにした」

「そんなに早くにですか? とミサカは寂しがります」

「つっても仕事は相変わらずここなンだから、そこまで変わったりはしねェと思うぞ?」

「ふむ、そんなものでしょうか……とミサカは思案します。ともあれ約束は忘れていませんよね? とミサカは確認します」

「あァ、アパート借りたら遊びに行かせろって奴だろ? 覚えてるから安心しろ」

「それなら良いのです、とミサカは安堵します。これでミサカがあなたの家に遊びに行く第一号ですね」

「オマエも物好きだな。……あ、上条と御坂には場所教えるンじゃねェぞ」

「おや、まだそんなことを言っていたのですか、とミサカは驚きます」
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/17(日) 20:19:13.17 ID:Ud+X54BYo

驚いているというよりも呆れているようだったが、一方通行は意に介さなかった。
御坂妹には理解できないかもしれないが、こればかりはそう簡単に譲ることはできない問題なのだ。

「そォだよ、悪かったな。それより返事は」

「了解しました。ですが、それなら何故ミサカは良いのですか? とミサカは疑問に思います」

「オマエらのことだから、どォせ隠してもストーキングして人海戦術でアパートの住所突き止めるだろ。
 だったら、最初っから素直に教えといた方がマシだ。同じ顔したストーカーが百人単位で大挙して押し掛けてくるとかホラーだぞ」

「なるほど。実際その通りでしょうから賢い選択ですね、とミサカは納得します」

「……冗談だったンだが。半分くらい」

「冗談で返したつもりですが。半分くらい、とミサカも本来の意図を告白します」

「……そォか」

「はい」

半分というのは具体的に何処まで本気ということなのか気になったが、知らない方が幸せでいられるような気がしたので黙っておいた。
もう無闇に御坂妹にタチの悪い冗談を振るのは辞めようなどと考えていると、一方通行はふと彼女の持っている本が気になった。

「ソレ、何だ?」

「これですか? これは先日ぬいぐるみを大量購入した際に同時に購入した本です。羨ましいでしょう、とミサカは本を見せびらかします」

「……って、絵本じゃねェか。こンなン読ンで面白いか?」

「面白いですよ。ほら、この小鳥のイラストなどは非常に可愛いでしょう、とミサカは同意を求めます」
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/17(日) 20:19:40.70 ID:Ud+X54BYo

「まァ可愛いは可愛いが……。楽しみ方が間違ってる気がする」

「?」

一方通行の言葉に、御坂妹は首を傾げてきょとんとしている。
可愛い絵を見たいだけなら、画集やイラスト本を買った方が良い気がするのだが。

「で、何て本なンだ?」

「ええと、『みにくいあひるの子』ですね。有名な童話のようです、とミサカは解説します」

その童話なら、一方通行も知識だけなら持っている。
生憎と記憶喪失なのでその童話を読んだことがあるのかどうかは定かではないが、大体のあらすじは把握していた。

「話はちゃンと読ンだか?」

「はい。可愛い絵柄とは裏腹になかなかにハードな話でした、とミサカは感想を述べます」

「ハード? 『みにくいあひるの子』はハッピーエンドだった筈だが」

「……果たしてそうなのでしょうか、とミサカは一人ごちます」

「? どォいう意味だ?」

一方通行の問いに、しかし御坂妹は何も答えなかった。
あんな子供向けの童話を読んで、彼女は一体どんなことを感じたのだろう。一方通行には分からなかった。
ただ彼女は一般人とは違った独特な感性を持っているので、その結末に何か思うところがあったのかもしれない。

「まあそんなことはどうでも良いのです、とミサカはざっくり切り捨てます」

「本当にざっくりだな」
818 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/17(日) 20:20:18.20 ID:Ud+X54BYo

「それよりミサカはあなたが手に持っているそれが気になるのですが、とミサカはあなたの手元を覗き込みます」

「ン? あァ、これのことか」

言いながら一方通行が持ち上げたのは、例の紙束だった。
ただし流石にその内容を御坂妹に見せる訳にはいかないので、中身は見えないように気を遣っているが。

「風紀委員への届けもンだ。大したモンじゃねェ」

「……そうですか? とミサカは訝しがります」

「そォだよ。オマエが気にするよォなことじゃねェ」

「ですが、風紀委員への届け物なら早めに届けなくて良いのですか?
 風紀委員の支部ならこの時間でも開いていると思われますが、とミサカは首を傾げます」

「急ぎじゃねェから良いンだよ、こっからだと遠いしな。ほら、オマエは大人しく本でも読ンでろ」

「あなたは何を? とミサカは質問します」

「部屋戻って寝る。あとオマエ、夜更かしは程々にしろよ」

「な、何故それを……とミサカは動揺します」

「夜中に目が覚めた時にオマエの部屋の前通ると、必ず電気が付いてンだよ。睡眠時間は大切にしとけ」

適当に返事すると、一方通行は動揺のあまりに固まってしまっている御坂妹を無視して研究所の奥の方へと歩いていってしまった。
そして自分の部屋へと戻ってきた一方通行は、持っていた紙束をベッドの上に放り投げるとデスクに座る。
備え付けられていたコンピュータを起動すると、凄まじい速度でのタイピングを始めた。
819 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/17(日) 20:20:47.82 ID:Ud+X54BYo

ちなみに、彼はこの部屋を与えられて初めて自分のコンピュータというものを持ったのだが、用も無いので大して触れたことは無かった。
しかし記憶喪失以前にコンピュータに触れる機会があったらしく、彼の指は自分でも驚くくらい滑らかに動いてくれた。

(この研究所のセキュリティレベルは高めに設定されてる、が……、書庫(バンク)にアクセスできるか……?)

多くの画面が現れては消え、現れては消えていく。彼は一通りの操作を終えたあと、緊張した面持ちで書庫へのアクセスを実行した。
すると、暫らくのラグの後、書庫へのアクセスを成功させたという旨のメッセージが表示される。

(行けた、か。さて、ここからだが……)

一方通行はベッドの上に放置されている紙束をちらりと振り返ると、再び高速でのタイピングを始める。
紙束に記載されていた大能力者のデータを検索しているのだ。
あの紙束にある情報は大能力者の顔写真と簡単なプロフィール、具体的な能力の内容くらいで、詳細が載っていない。
そこで、一方通行は狙われている大能力者の詳細な情報を書庫に求めたのだ。

(つっても書庫の情報にも限度があるからな。本当は監視カメラでもハッキングできれば良いンだろォが……)

入院中に美琴に面白半分でハッキングの方法を教えられたことはあるが、流石にパソコン初心者の身でそんな冒険に出たくはない。
なのであくまで合法的に、出来る限り多くの情報を集めたいのだが……。

(ン? コイツは……)

大能力者の情報を照会していた一方通行の目に留まったのは、一人の少女。
無論、大能力者だ。
見たこともない顔に、聞いたこともない名前。
けれど一方通行は、その少女が妙に気になった。

(……まァ良い。ちょうど珍しい能力らしいし、優先順位も高そォだ。コイツにするか)
820 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/17(日) 20:21:26.22 ID:Ud+X54BYo

一方通行は心中でそれだけ呟くと、彼女に関する更に詳細な情報を求めて書庫の更に深部へとアクセスする。
学校名と所属学科、居住している学生寮まで載っている。
まあ、あくまでただのデータ上の情報なのでどこまで正確なのかは分からないが。最近の学生には不良が多いらしいし。

(よし、これだけ分かりゃ十分だろ。あとはタイミングだが……、まァ何とかなるか)

彼らしくない楽観だが、実際現状で準備できることはこれくらいしかないので仕方がない。
本当は美琴辺りに協力を求めればもっと楽なのだろうが、最近は本当に何かと忙しそうなのでこれ以上の気苦労は増やしてやりたくなかった。
それに、こんな危なそうな事件に彼女を巻き込むということ自体にも抵抗がある。
一方通行は、既に彼女をもっと恐ろしいことに巻き込んでしまっているのだ。

(……これで、完了。行動開始は明日からでイイか)

ディスプレイに表示されていたウィンドウが、作業終了とともに次々と消えていく。
一方通行はそのままコンピュータをシャットダウンすると、椅子の背もたれに思いきり体重を掛けて天井を仰いだ。

(あっちも……、いつか決着、つけねェとな)


821 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/17(日) 20:21:57.37 ID:Ud+X54BYo

―――――



薄暗い路地裏。
その如何にもお嬢様然とした見た目にはまったく似つかわしくない場所に、白井黒子は笑顔で立っていた。
目の前には、これまた如何にもと形容したくなるような不良たち。
彼らは自分たちの縄張りへと悠々と侵入してきた白井を、威嚇するかのように睨みつけていた。

「御免あそばせ。幻想御手(レベルアッパー)について知りたいのですけれど、詳しいことを教えて頂けないでしょうか?」

「あ゛ー? 何言ってんだこのクソガキ」

あくまでにこにことしている白井。
対して、不良たちは敵意を隠そうともせずに彼女に迫る。

「運が悪いなお嬢ちゃん」

「普段なら追っ払ってお終いだが、先日アンタと同じ制服の女に怪我させられてね」

「アンタに恨みはねえが、ちょっと憂さ晴らしさせてもうらうぜ!」
822 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/17(日) 20:22:35.18 ID:Ud+X54BYo

白井は笑顔を崩さない。
けれど不良たちは、そんな彼女にも容赦なく襲い掛かってきた。

「ま、待て! その女は……」

しかしその中でたった一人、彼女に見覚えがあったらしい男が声を上げる。
が、時既に遅し。
本当にほんの一瞬の内に、白井は襲い掛かってきた不良を片付けてしまったのだ。

「まったく、愚かですこと。暗かったから分からなかったんですの? あなたたちに怪我させたのはわたくしたちですのよ」

言いながら、白井はぱんぱんと手をはたく。
彼女の目の前には、鉄釘によって服を壁に打ち付けられた不良たちがぶら下がっていた。
そしてそんな彼女の背後では、襲い掛かってこなかった不良が腰を抜かしている。

「さてっと、できれば善良な一般市民の自発的な協力を仰ぎたいのですが……。如何なさいますか?」

白井はくるりと振り返り、腰を抜かしている不良を見やる。
にっこりと笑っているだけの筈なのに妙な迫力を持っている彼女に、怖気づいた男は高速でこくこくと頷くほかなかった。


823 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/17(日) 20:23:17.01 ID:Ud+X54BYo
投下終了です。
途中でうっかりトリが外れちゃったりしてますが、ずっと自分が投下してましたのでご安心を。

それでは、次回投下は三日後です。お疲れ様でした。
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/04/17(日) 21:06:55.53 ID:3+TOFqu60
大能力者 珍しい能力 少女

奴だな
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/17(日) 21:13:07.77 ID:V923/ZTDO
乙乙ー

窒素姉妹くるー?
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/17(日) 21:15:17.57 ID:mSqt/Ym60
登場人物でレベル4の少女は結構多いよな、8人くらい?

まあ俺の予想だと釧路帷子たんだがな
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/04/17(日) 21:28:07.69 ID:uDxa0kVXo
予想はよそう
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/17(日) 21:30:22.74 ID:1ssc4TTgo
えっ
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/17(日) 22:20:44.59 ID:JX1IoZJ2o
何?もう一度言ってみて
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/18(月) 01:23:37.91 ID:EqkVjE/z0
最近歳でなもういちどいってくれんかのぉ?
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 02:39:10.08 ID:+k64ZdkZ0
guessんなゲス
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 22:32:34.40 ID:Whml+OtSO
乙。

大能力者…ジュルリ
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/19(火) 02:32:25.24 ID:QGSgNL2V0
お・・・乙。

あまりにもおもしろかったから1から全部読んじまったぜ・・・。
834 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/20(水) 21:08:55.32 ID:4F9GmDFbo
>>833
やだなあ、褒めたってSSしか出ませんよ☆


……我ながらこれはひどい。☆ってお前……。うえっ
投下します。
835 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/20(水) 21:09:23.85 ID:4F9GmDFbo

七月二十一日。
風紀委員、一七七支部。
コンピュータの前に座っている初春は、コンピュータが幻想御手(レベルアッパー)をダウンロードする様子をじっと見つめていた。
38%、64%、96%……完了。

「ダウンロードできたみたいですわね」

「これを聴くだけでレベルアップって、そんな事あるんですかね」

そう、幻想御手の正体は『曲』だったのだ。
そんな真相を聞いて訝しげな顔をする初春に、白井は少し物騒な笑顔を浮かべる。

「情報提供者の話ではそういう事らしいですわよ? しっっっかり訊いて来たので間違いないかと」

「ですけど、正直眉唾というか……」

「そう思うなら試して御覧なさいな。使ってみればすぐに答えが出ますわよ」

「えー、でも副作用があるとか言われてるんですよねえ。そんな危ないもの……」

しかしそこまで言い掛けて、初春ははっとする。
微妙に黒い考えが頭をもたげた。

(もしこれを使って白井さん以上の能力者になっちゃったりしたら……、今までの仕返しにあんな事やこんな事を……」

「途中から思考がだだ漏れになってますわよ、初春」

白井はにっこりと笑うと、イヤホンを両手で持つ。
その様子に嫌な予感を感じた初春は逃走を図ったが、それより早く白井の手が彼女の肩を捕まえた。
836 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/20(水) 21:09:54.12 ID:4F9GmDFbo

「わたくしへの恨みを晴らしたいのでしたら是非!」

「わーっ! 嘘です嘘ですよー!!」

そんな感じで二人は一頻りじゃれ合っていたが、白井が初春を捕まえてお仕置きをしたところでそれも終了する。
流石に白井も本気で彼女に幻想御手を使う気は無かったようだ。

「うう、白井さんの鬼……」

「何か言いました?」

「い、いえ、何も。
 ……ちなみに、業者に連絡してこの曲を公開していたサイトを閉鎖するまでのダウンロード件数は五〇〇〇件を超えてますね」

「げ……。そんなにですの?」

「全員が全員使用したわけではないと思いますが、ダウンロードできなくなってからは金銭で売買する人が増えてるみたいです。
 直接取引だったり振込みだったり……」

「広まるのを完全に止めるのは無理……、ということですわね」

想像以上に悪化している状況に、白井は苦い顔をする。
コンピュータを操りながら解説をしてくれている初春の顔も、険しかった。

「その取引の場所は分かりますの?」

「ちょっと待っててください」

初春が軽くタイピングすると、プリンターから何枚もの紙が吐き出されてきた。
彼女は出てきた紙をクリップで纏めると、それを丸ごと白井に差し出す。
837 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/20(水) 21:10:20.25 ID:4F9GmDFbo

「はい、時間と場所です」

「って、これ全部ですの!?」

白井は資料を受け取りながら悲鳴を上げたが、これも立派な風紀委員の仕事。
露骨に面倒臭そうにはしているものの、きちんと資料に目を通していた。

「……仕方ありませんわね。一つ一つ回って行きますか」

「え、白井さん一人でですか?」

「これが本物で実害があると実証されなければ、上は重い腰を上げませんもの。
 まずはできる限り拡大を止め、危険性を証明するしかありませんわ。初春は木山先生の見解の方をお願いしますの」

「あ、ハイ」

とにかく、今は動ける人間が動くしかない。
白井は学生鞄を手にすると、素早く一七七支部を出て行ってしまった。


838 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/20(水) 21:10:46.53 ID:4F9GmDFbo

―――――



(我ながら、すげェ豪運だな)

目の前の光景に、一方通行は呆れてさえいた。
確かに、追い掛けてはいた。
確かに、書庫(バンク)の情報を元に少女の動向を追ってはいた。
確かに、少女の優先順位は高かった。

しかしだからと言って、こんなにも早く探し物が見つかるものだろうか。
昨日の今日なのに。

「ようよう姉ちゃん、こんな所で何してんだ?」

「飛んで火に入る夏の虫ってかあ!? ギャハハハハ!」

道を一本向こうに行ったところで繰り広げられているのは、路地裏では大して珍しくもない不良によるカツアゲだ。
……いや、今回に限っては少々事情が違うか。
何故なら絡んでいるのは昨日一方通行に絡んできたあの不良たちで、絡まれているのは昨日一方通行が調べたあの少女だからだ。

(アイツら、学習しねェなァ……。昨日の場所からちょっと離れてるからって油断しすぎだろ)

一人ごちながら、一方通行はゆっくりと不良たちへと近付いていく。
不良たちは彼に気付いていない。まあ、昨日のことがあるので気付いていたら脱兎のごとく逃げ出すだろうが。
しかし、今回ばかりは奴らを逃がす訳にはいかない。情報が必要なのだ。
839 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/20(水) 21:11:20.29 ID:4F9GmDFbo

だから一方通行は、決して不良たちに気配を悟られないように静かにその背後へと近付いて行った。
……が、その時。

(げ)

「…………」

絡まれている方の少女が、一方通行に気が付いた。
だが彼女は一方通行を発見しても大した反応を見せることはなく、じっとこちらを見つめているだけだ。
……あれは、助けを求めている、のだろうか?

(まァ求められなくても助けるけどな)

また幸いなことに、少女は一方通行に気付いてもうんともすんとも言わなかった。
ただ、少女はこれでもかというくらいの勢いでこちらを凝視しているので下手をすると不良に勘付かれる可能性もあったが、
間抜けな不良たちは少女にばかり注意が行っていてまるでこちらに気付く様子が無い。

だから一方通行は、上手いこと不良たちに存在を悟られずに彼らの背後まで忍び寄ることができた。
そして。

「ぃぎッ!?」

「うお!? なっ、何だ!?」

まずは一人、手刀で首筋を打って気絶させる。そして不良たちが動揺している隙を突いて、能力を駆使し一気に三人の意識を奪った。
しかしろくに顔を見ずに襲撃した所為か、リーダー格の男は未だ健在だ。

「こいつ、昨日の……ッ!?」

「く、くそッ! 逃げろ!」
840 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/20(水) 21:11:46.65 ID:4F9GmDFbo

リーダー格の男を含む不良たちが一斉に逃走を図ったが、そんなことを一方通行が許す筈もない。
彼は一瞬で彼らの前方へと回り込むと、今度こそリーダー格の男に狙いを定めてその鳩尾を蹴り上げる。
ごぼりと空気を吐き出す音と共に、リーダー格の男は呆気なく沈んだ。

「これでよし、と。他の奴らはどォすっかねェ?」

「ひぃッ」

自分たちの頭が倒れてしまったからか、一方通行が逃げ道を塞いでいるからか、残った不良たちも全員腰を抜かして地面を這い蹲っていた。
かなり大人数だったのできちんと仕留められるか心配だったのだが、案外苦も無く処理することができて拍子抜けする。
黙って不良たちの注意を引き付けてくれていたあの少女のお陰もあるかもしれない。最初に四人減らせたと言うのはなかなかの戦果だ。

「っと、オマエは大丈夫か?」

「うん。へいき」

眠そうな目をした黒髪の少女は、まるで何とも無さそうな顔をしている。
しかし反射の様子を見るにキャパシティダウンは作動しているようなのだが、何ともないのだろうか。

「……頭痛はしねェのか?」

「? キャパシティダウンのこと? それなら、無理に演算しようとしなければほんの少し頭痛は軽減される」

「コレのことを知ってンのか?」

「ちょっとだけ。あなたも、何とも無さそうだね」

「あァ、俺は能力で防げンだ」
841 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/20(水) 21:12:13.45 ID:4F9GmDFbo

「良いな。私は耳栓忘れて来ちゃった」

「コレ、耳栓で防げンのかよ……」

「ちょっとは頭痛くなるけど、かなり」

しかし、軽減しているらしいとは言え痛いのは事実だ。
一方通行は路地裏の出口まで歩いていくと、少し開けた道路に停車してあった車の中にある機械を丸ごと破壊した。
音源はここだったので、恐らくこれがキャパシティダウンだろう。

前回はこの車ごと不良たちに逃げられてしまったのだが、今回はきちんと破壊できて良かった。
これで、もうこの不良たちによる犠牲者は出ないだろう。

「ありがとう。私、たきつぼりこう」

「あァ、……滝壷な」

「のん。たきつぼ」

「えっ」

「たきつぼ」

「……滝壺?」

「いえす。たきつぼ」

どう違うのか分からないが、取りあえず少女―――滝壺は、それで満足してくれたらしかった。
精神系の能力者ではなかった筈なのだが、一方通行の認識の違いをどうやって把握していたのだろうか。
842 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/20(水) 21:12:39.14 ID:4F9GmDFbo

「ところで、あなたの名前は?」

「……鈴科」

「すずしな。助けてくれてありがとう」

滝壺はやんわりと微笑むと、緩慢な動作でお辞儀をした。
こんな状況の中にあっても何処までものんびりしているので、何だか調子が狂ってしまう。

「それ、運ぶ?」

言って、滝壺が指差したのは倒れている不良だ。
つい先程まで自分に突っ掛かっていた人間だというのに、彼女は微塵も恐れを見せない。

「あ、あァ。訊きたいことがあるからな」

「訊きたいこと?」

「……そォか、オマエも何か知ってるンだったな。コイツらの目的が何か知ってるか?」

「知ってる。大能力者を襲うの」

「それは俺も知ってる。……まァそンなモンだよな」

「む」

彼女が一体何者なのかは分からないが、やはり詳しいことは知らないようだ。
そこまで期待していた訳ではないが、一方通行は少し落胆する。
しかし、滝壺は不機嫌そうに眉根を寄せて首を振ると、倒れている男に近付いて行ってそのポケットを探り始めた。
843 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/20(水) 21:13:06.71 ID:4F9GmDFbo

「オイ、何してンだ?」

「……これ。これを襲った大能力者に使うの」

「はァ?」

とてとてと戻ってきた滝壺が手渡してきたのは、何処にでもありそうな音楽プレイヤーだった。
一方通行はそれを矯めつ眇めつしてみるが、やはり何処をどう見ても不審な点など無い。これが一体どうしたと言うのだろうか。

「で、何だよコレ」

「音楽プレイヤー」

「それは見りゃわかる。これを大能力者にどォ使うってンだよ。曲を聴かせるとでも言いてェのか?」

「そう」

ますます訳が分からない。大能力者を襲って、曲を聴かせて、それが一体何になると言うのか。
もしかして適当なことを言っているだけではないのだろうか、という疑念が湧き上がってくる。至極真っ当な感情だが。
しかしその時、滝壺が予想だにしなかったことを口にした。

「それを聴かせると、数時間後に昏睡状態になる。遅行性の毒のようなもの」

「……これが、か?」

「嘘だと思うなら聴いてみて。すずしなには何も聞こえないから」

「?」

だが、そう言われたところで流石に試してみようという気にはなれない。何せ昏睡状態になると脅されているのだ。
確かに一方通行には反射があるが、それでも無駄に危ない橋を渡りたいとは思わない。
それに相手は音。もし一方通行が反射膜が通す音の許容量の幅を間違えていたら、即アウトなのだ。
844 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/20(水) 21:13:50.15 ID:4F9GmDFbo

「……聴くのが嫌なら、風紀委員に届けた方が分かり易いかも」

「そォする。つゥか、どォいう仕組みで曲を使って昏睡状態になンかするンだよ」

「知らない。詳しいことはきっとそっちの人の方が詳しいし」

「そォか」

確かに彼女の言う通りだ。この不良たちは間違いなく当事者なのだから、滝壺よりもこの事件について詳しいに違いない。
どう考えても、普通にこの不良たちを締め上げて情報を吐かせた方が手っ取り早いだろう。

「で、どォしてオマエはそンなに詳しいンだ?」

「それは、」

「滝壺さん!!」

唐突に言葉を遮られて、滝壺は自分の名前を呼んだ誰かの方を振り返る。
つられて見やると、滝壺よりもいくつか年下に見える少女が大慌てでこちらに向かって駆けてきているのが見えた。
すると、それに応じて滝壺がひらひらと手を振る。

「きぬはた。どうしたの?」

「どうしたもこうしたもありません! 超遅かったので私が様子を見に来たんですよ」

「そうなんだ。ありがとう」

「まったく、あれほど路地裏は通らないで下さいと超お願いしたじゃないですか。あなたに戦闘能力は超無いんですから」

「うん。ごめんね」

「……今度からは超気を付けて下さいよ」

「分かった」
845 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/20(水) 21:14:15.39 ID:4F9GmDFbo

ぼけっとしている滝壺の表情からはいまいち申し訳なさが感じられなかったが、絹旗と呼ばれた少女はそれ以上彼女に詰め寄らなかった。
すると、絹旗がこちらを振り返る。
途端、彼女は一瞬驚いたような顔をした。

(……やっぱこの色は目に付くか。一応帽子は被って目立たないよォにはしてるンだが)

珍しいと言うか非常に目立つ髪と瞳の色なので、彼女はきっとそれに驚いたのだろう。
そう思った一方通行は、一応これ以上無駄にその色が他人の目に触れないようにと更に目深に帽子を被り直した。
流石に髪の色全てを隠すことはできないが、瞳の色くらいは影になって見えなくなった筈だ。

「あの、……あなたは」

「すずしな。助けてくれた」

「…………、そうだったんですか。私は絹旗といいます。滝壺さんを助けて下さって超ありがとうございました」

「いや。これからは気を付けろよ」

それにしても、先程滝壺には戦闘能力が無いとかいう言葉が聞こえた気がしたのだが、あれは本当だろうか。
戦闘能力もないくせに、最近テロが頻発している物騒な学園都市の路地裏を歩こうとするとは、勇気があるというか無謀というか。
資料で見た能力の概要はAIM拡散力場に干渉するというものだったのだが、あれは戦闘能力無いのか。

「それでは、私たちはこれで超失礼させて頂きます。鈴科さんも、こんなところを超歩いていてはいけませんよ」

「分かってるさ。じゃァな」

絹旗はぺこりと頭を下げると、滝壺の手を引いて路地裏を立ち去って行く。
一方通行はそんな二人の後ろ姿を見送りながら、何だか不思議な感覚に囚われていた。


846 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/20(水) 21:14:58.03 ID:4F9GmDFbo
投下終了。お疲れ様でした。
次回はまた三日後に。

滝壺の名前って、地味に間違えられやすい気がします。変換の問題なんですけどね。
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/20(水) 21:39:13.68 ID:8BtSFYpSO
乙!

まさかここで絹旗ちゃンが出るとは…!
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/20(水) 22:29:26.36 ID:Iy3tE02l0
乙!!

この(*´ω`*)SSは、ハヤル!!。
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/21(木) 18:40:19.01 ID:60waHaO8o
>>848
このSSは流行ってるがその顔文字は流行らないし流行らせない
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/21(木) 19:01:09.22 ID:vuFLhTvYo
乙!
一方さんが探ってたのは滝壺だったのか
ここからアイテム関わってくるのかな楽しみだ
851 :843の男 [sage]:2011/04/22(金) 20:36:18.58 ID:VwfesjuQ0
乙!

女性ならキッラ☆!は、大歓迎! 男の場合だったら・・・・
852 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:26:58.64 ID:gPO8oWVwo
こんばんは、ポッキー美味しいですね。
取り敢えず投下します。
853 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:27:51.62 ID:gPO8oWVwo

「お、俺たちは本当に知らない! 知らないんだ!」

「……嘘吐いても為にならねェぞ」

「本当だ! 嘘なんか吐いてない!!」

「あっそォ」

一方通行は、締め上げていた男の襟首から手を放す。
重力に従って地面に崩れ落ちた男は久しぶりの新鮮な空気に暫らく咳き込んでいたが、一方通行はそんな束の間の休息も許さなかった。
彼の影が自分の視界を覆ったのを見た男は、ぎくりとして一方通行を見上げる。

「だったら用済みだ。残念だったな」

「待て、待ってくれ! 俺は本当に知らな……」

「じゃァな」

パァン、と何かが弾ける鋭い音が鳴り響く。その音と共に泡を吹いた男は、そのまま意識を失ってどさりと地面に倒れ伏してしまった。
それを見ていた一方通行は、不良に向けていた自分の手のひらを見やりながら感心したように呟く。

「いやァ、人って演出だけで気絶すンのな。コイツの気が小さかっただけかもしれねェが」

一方通行は、能力を使って手のひらで掴んだ範囲内の空気を小爆発させて大きな音を出しただけだ。
小爆発と言っても衝撃波が外部まで届くようなものではないし、音自体も威力を持つほどの大きさではない。
にも関わらず気絶してくれたということは、まあつまりはビビり過ぎて失神したということだ。

(っても、どォすっかねェ。黒幕の居場所が分かンねェンじゃどォしよォもねェじゃねェか)
854 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:28:26.43 ID:gPO8oWVwo

一方通行が不良たちを尋問して得られた情報は、それほど多くは無い。
滝壺が教えてくれたとこととそう変わらなかったのだ。

(まァ、取り敢えずまとめとくか)

まず、ピンクの駆動鎧を着た研究者に大能力者(レベル4)を襲撃するように頼まれたこと。
それと同時にキャパシティダウンを渡され、それなりの額の報酬も用意されたこと。
大能力者の資料も、その研究者から渡されたものであること。
襲撃した後、音楽プレイヤーに録音された『毒』の曲を聴かせるように言われたこと。

(ただし、毒は遅効性。聴かせてすぐに症状が出る訳ではなく、暫らくは普通の生活を送れる。数日普通に生活する場合もある)

だから不良たちは、襲撃した大能力者たちに特に手を出したりせずに、曲を聴かせるだけ聴かせてあとは放置する。
余計な傷をつけてしまうと、研究者の『実験』に支障が出てしまう場合があるかららしい。

すると、当然目を覚ました大能力者たちは普通の生活に戻ろうとする。
警備員や風紀委員に通報する者もいるかもしれないが、あれは基本的に現行犯以外にはあまり頼りにならない。
……そして、暫らく普通の生活を続けた後に突然倒れ、そのまま昏睡状態に陥る。

(つっても、そォいう事件の話は聞かねェしな。混乱を避ける為に情報統制されてるって可能性もあるが)

不良たちは、聴かせた相手が昏睡状態になるということまでは知っていたが、その先は知らなかった。
つまり、一度昏睡状態になった人間はきちんと目を覚ますのかどうか。

(……報道されてねェってことは、少なくとも今までに目覚めた奴はいねェンだろォな)

考えてみれば、恐ろしい事件だ。
キャパシティダウンなんて恐ろしい兵器を使って能力を封じた上で、大人数で囲んで暴行する。
気絶したら、『曲』を聴かせてあとはトンズラ。
しかし遅効性の毒が回って来たら昏睡状態に陥り、そして二度と目覚めない。
855 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:28:52.75 ID:gPO8oWVwo

(まァキャパシティダウンも破壊したし資料も全部燃やした、不良どももあれだけボコしとけばもォ馬鹿なことをしよォとは思わねェだろ)

……これは、ただの不良を殺してしまうことに躊躇いを覚えている自分への言い訳だ。
しかしそれを自覚していても、やはり彼らを手に掛けたいとは思えない。

「……チッ」

一方通行は舌打ちをすると、踵を返して歩き始めた。
しかしその手の中には、不良たちのリーダーを務めていた男から強奪した携帯電話が握られている。
少しでも例の研究者についての情報を手に入れたかったから、だが。

(アイツらの言ってたことは本当らしいな。……マジで何の情報も無いとは)

まああの状況でまだ嘘を吐いていたとしたら大したものだが、それでも淡い希望を捨てられずにいた一方通行は深い溜め息をついた。
結局、彼が得られた例の研究者についての情報はほとんどゼロだった。
居場所どころか名前や容姿、どんな研究をしていた人間なのかもさっぱりだ。これでは埒が明かない。

(……ホント、どォしたモンかね)

一方通行は溜め息をつくと、何の情報源にもならなかった携帯電話を投げ捨てる。
苛立ち紛れに結構な勢いで投げたからか、地面に叩き付けられた携帯電話はバラバラに砕け散った。

(…………。取り敢えず風紀委員にこれを届けておくか。今更な気もするが、もしかしたら黒幕に辿り着くかもしれねェし)

路地裏から表通りへと出る。
美琴の話では、白井たちの勤めている風紀委員一七七支部はここからそう離れてはいなかったはずだ。
確かこっちだったか、と記憶を掘り起こしながら歩き始めようとした、その時。
856 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:29:19.35 ID:gPO8oWVwo

「う、おっと」

「きゃあっ!?」

考え事をしながら歩いていたからか、うっかり走ってきた少女とぶつかってしまった。
一方通行は軽くよろめいただけで済んだが、少女はかなりの勢いで走っていたからか転んで持ち物を地面にぶちまけてしまう。

「悪ィ。大丈夫か?」

「い、いえ、あたしもちょっと不注意だったので……」

ぶつけたらしい膝を擦りながら立ち上がる少女の顔を見て、一方通行ははっとした。
何処かで見覚えがある顔だったからだ。
……彼女は、確か。

「……佐天、涙子だったか?」

「あ、鈴科さんだったんですか。どーも済みませんでした」

「いや。それより色々落としてンぞ」

「うわっ、いっけない!」

地面にばら撒かれてしまった自分の持ち物を、佐天は慌てて拾い集め始めた。
こうなったのは半分以上くらい自分の所為なので、一方通行も彼女の持ち物を拾い集めるのを手伝ってやる。

ふと、一方通行はバス停のベンチの下に音楽プレイヤーが落ちているのを発見した。
恐らくこれも佐天のものだろう。
彼はしゃがみ込んでだいぶ奥まですべり込んでしまっていた音楽プレイヤーを取り出すと、持ち物の確認をしている彼女に向かって差し出した。
857 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:30:00.22 ID:gPO8oWVwo

「オイ、これもオマエのだよな?」

「へ? あっ、そうです! ありがとうございます!」

佐天は彼の手にある音楽プレイヤーを見るなり、大慌てでそれを受け取った。
ともすれば引っ手繰られたと表現しても過言ではない程の勢いに、一方通行は少し驚く。よっぽど大切なものなのだろうか。

「……あの、これの中身とか見えちゃいました?」

「見てねェよ、心配すンな」

「そ、そうですか」

一方通行の言葉に、佐天は密かに安堵しているようだった。
その意図が分からずに彼は首を傾げたが、知られたくないことのようだし詮索しない方が良いだろう。

「それじゃ、あたしもう行きますね。本当に済みませんでした」

「あれは俺も悪かったから、気にすンな。ただし、今度はちゃンと前見て歩けよ」

「はい、気を付けます」

佐天は丁寧に頭を下げると、何処かへと歩き去ってしまおうとする。
そして一方通行も風紀委員の支部へ行かなければならないことを思い出して歩き始めようとした時、唐突に引き留められた。

「あ、あのっ!」

「……何だ?」
858 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:30:27.17 ID:gPO8oWVwo

歩き去ろうとしていたはずの佐天が、こちらに向き直って声を掛けてきたのだ。
一方通行も振り返り、それに応じてやる。

「ええと……、その。鈴科さんって何歳ですか?」

「……高一。十五」

適当だが、上条もそれくらいだったので多分合っているだろう。
それを聞いて、佐天は何故か複雑そうな顔をする。

「じゃああたしの三学年上ですね。あたし、中一なんで」

「それがどォかしたのか?」

「あ、あはは。別に何でもないですよぉ。……それと、もう一つ良いですか?」

「……? 構わねェが」

「その、……鈴科さんって、レベルいくつですか?」

唐突な質問に、一方通行は訝しげな顔をする。
……そう言えば、佐天は自己紹介の時に自分のことを無能力者と言っていた気がする。やはり、それを気にしているのだろうか。
一方通行は少し迷ったが、ここは嘘を吐くような場面ではない。素直に答えた。

「……大能力者だ」

「そ……、そうなんですか。すごいなあ、白井さんと一緒ですね!」

「まァ、な。……何かあったのか?」
859 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:30:58.50 ID:gPO8oWVwo

「いえいえ、何も無かったですって! 嫌だなあ、あたしってばそんなに挙動不審ですか?」

「それなりに」

「ばっさりですか……。とにかく、変なこと訊いちゃって済みませんでした。それじゃ、今度こそ失礼しますね」

「あァ。気ィ付けろよ」

「……はい。じゃあまた」

佐天は再び軽く頭を下げると、今度こそ去って行ってしまった。
一方通行はどう考えても様子のおかしかった彼女に、気持ち悪い引っ掛かりを感じる。
あの、音楽プレイヤー。

(まさか、な)

きっと、ただの偶然だ。
佐天の持っていた音楽プレイヤーとあの音楽プレイヤーの形が良く似ていたので、根拠もなく同一視してしまっているだけだ。
一方通行はそう思い込むことによって嫌な考えを振り払うと、本来の目的地である風紀委員の支部へと向かっていく。

(……と。ここか?)

思っていたよりも近かったらしい。数分も歩かない内に到着してしまった。
そして一方通行は取り敢えず一七七支部の扉の前までやって来てそのノブを引こうとしたが、当然ながらロックが掛かっていて開かない。

「?」

しかし一方通行は風紀委員の支部を何だと思っているのか、不思議そうに首を傾げた。
どうやら彼は風紀委員の支部を交番のようなものだと思っているらしい。
よって、自由に訪ねることができないのはおかしい、と思っているようだ。
860 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:31:30.99 ID:gPO8oWVwo

(っつゥことは、留守か? ……まァ、中で待ってりゃイイか)

留守というのはまあ正解なのだが、このまま中に入るのは立派な不法侵入だ。
だが勘違いしたままの一方通行は能力を使って強制的に鍵を回して扉を開閉可能な状態にすると、悠々とその中へと入って行く。
一応帰って来た風紀委員が鍵が掛かっていなくて驚くといけないので、鍵は元に戻しておいた。

(コレだけ置いてっても良いンだが……。それじゃあまりにも不親切すぎるか)

一方通行は懐に仕舞っていた紙束を取り出すと、それを適当なデスクの上に置いた。
そして自分もそのデスクの椅子に座り、白井たちを待つことにする。
……当たり前だが、待っている間は非常に暇だ。彼は暇潰しできるような道具を持っていないし、こんな場所にそんなものがある筈もない。

(ン? ……これは)

ちょうど向かいのデスクに置いてあったものを見つけて、一方通行は手を伸ばした。
彼が手に取ったのは、見覚えのある音楽プレイヤー。美琴のものだ。
そう言えば美琴はかなり頻繁にこの一七七支部に出入りしているとか言っていたので、うっかり忘れて行ってしまったのだろう。

(今日はやたらと音楽プレイヤーに縁があるな。どォいう日なンだ?)

下らないことを考えながら、音楽プレイヤーを弄ってみる。
意外と、収録されている曲数は少なかった。
確かこの音楽プレイヤーは新型で、つい先日買ったばかりなんてことを言っていたからまだ少ないのだろう。

(御坂がお勧めっつってた曲は……、どれだ? まァ良い、暇だし適当に聴いてくか)

付けっ放しにされていたイヤホンを装着し、一方通行は再生ボタンを押してみる。
そして流れてきたのは、静かなインスト曲だった。少し意外だ。

(……、…………。眠くなってきた)

静かな曲の所為か、急激に眠気が襲ってきた。
しかし拒む理由も無いので、一方通行は大人しく睡魔に身を委ねて机に突っ伏する。
腕の中に頭をうずめた一方通行は、数分も経たないうちに眠りに落ちた。


861 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:31:58.58 ID:gPO8oWVwo

―――――



「はあ、災難でしたわ……」

「お疲れ様でしたー。それにしても、本当に病院行かなくて良いんですか?」

「そうよ、こういう時は大事を取らないと!」

「お気遣い感謝します。ですがそうはいっていられない状況ですので……。お姉様も、お手を煩わせてしまって申し訳ありませんでした」

「良いのよ、こんな時くらい頼りなさい。可愛い後輩の為なんだからさっ」

三人で何処かに出かけていたのか、美琴と白井と初春が揃ってぞろぞろと177支部へと流れ込んできた。
しかしその中でも白井は負傷しているらしく、あちらこちらに包帯やガーゼが当てられている。
結構な怪我であるにも関わらず応急処置で済ませてしまっているので、美琴たちは本当に大丈夫なのだろうかと心配そうな顔をしていた。

「でも、白井さんは暫らく休んで下さいね。その身体じゃとてもじゃないですけど取引現場の差し押さえなんてできません」

「大丈夫ですわ! 見た目ほど大したことはありません」

「駄目だってば。黒子が復活するまでは私が初春さんの手伝いをするから。ね?」

「お姉様、こういうのは風紀委員の仕事であって一般人のお姉様が関わって良いようなことではありませんのよ?
 今回の戦闘行動は風紀委員の手伝いということで大目に見ますが、通常なら一般人の対人能力使用は立派な暴行ですわ」

「分かってるってば。だからきちんと初春さんの指示の範囲内に留めて……ん?」
862 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:32:39.77 ID:gPO8oWVwo

話している途中で、美琴が室内の異変に気付いた。
人の気配がするのだ。
彼女たちが帰って来るまで、支部は無人だった筈だ。鍵だって掛かっていたし、セキュリティにも異常は見られなかった。

「誰でしょう? 今日は私たち以外はみんな出払っちゃってる筈ですけど……」

初春が首を傾げ、美琴と白井が互いに目配せする。
侵入者の可能性を危惧しているのだ。
美琴と白井は小声で指示を出し合うと、警戒しながら人の気配のする方へと近づいていく。
すると。

「……鈴科さん?」

「あ、アンタこんなところで一体何やってんのよ」

気配の正体、机に突っ伏して熟睡している一方通行の姿を見つけた美琴と白井は、一気に脱力した。
どうやってこんなところに侵入したのかは定かではないが、彼の便利能力に掛かればきっと難しくないのだろう。
美琴は溜め息をつくと、一方通行を揺さぶって起こそうとした、が。

「これ、って」

一方通行を起こそうとした美琴は、その直前で彼の耳から伸びている黒い線に気が付いた。
なんて事のない、ただのイヤホンだ。
しかし、そのイヤホンの繋げられている先にあるものが問題だった。

白井の音楽プレイヤー。
幻想御手が収録されている、サンプルとしての音楽機器。
863 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:33:09.26 ID:gPO8oWVwo

「ちょっ……とアンタ! なんてモン聴いてんのよ!? 起きなさい!」

「し、白井さん。あの、幻想御手って……」

「……ええ。確か、聴いた人間の大多数が昏睡状態に陥る、という疑いが掛けられていましたわね」

美琴が乱暴に揺さぶるが、一方通行は起きる気配がない。
その横で白井は彼の耳に付いていたイヤホンを外し、音楽プレイヤーを停止させて稼働時間を確認した。
ちょうど初春と入れ違いになる形でここに入って来たのか、かなり長時間聴いていたようだ。

「この様子では、確実に幻想御手を聴いてしまっていますわね」

「きゅ、救急車呼んだ方が……?」

「コラ! お・き・な・さ・い・よ!!」

痺れを切らした美琴が一方通行の脳天にチョップを喰らわせた、その時。
きゅいんと妙な音がして、美琴の手が明後日の方向に弾き飛ばされた。痛みは無いが、何だか変な感じだ。

「へ?」

「…………、……うっせェ……」

「お、起きた!?」

「ンだよ、堂々と安眠妨害しといてその言い草は」

「ひいっ、済みません!」

一方通行に睨まれて萎縮した初春が悲鳴を上げる。
が、その一方で美琴と白井はぽかんとしていた。
864 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:33:36.59 ID:gPO8oWVwo

「アンタ、何ともないの?」

「何ともって、何がだ。俺はオマエの音楽プレイヤーで曲聴いて寝てただけだぞ」

「この音楽プレイヤーはわたくしのですわ! どうしてそのような勘違いを……」

白井が首を傾げながら難しい顔をするが、その横で美琴ははっとした。
彼女は、一方通行に自分の音楽プレイヤーを見せたことがある。
そしてその音楽プレイヤーは、白井とお揃いのものなのだ。しかも買ったばかりなので、二人とも何の装飾もしていない。
これでは白井の音楽プレイヤーを美琴のものだと勘違いしても仕方がない。

「ごめん、これ私のじゃないわよ。私のはこっち。黒子とお揃いなのよ」

「……あー、そォいえばそンなこと言ってたな」

「いえ、こんなところに危険なものを放置したわたくしにも非はありますわ。……それよりも、本当に何ともないんですの?」

「だから何がだよ」

「…………?」

白井は、再び自分の音楽プレイヤーの稼働時間を確認してみる。
つい先程まで再生されていた曲の順番と各曲の再生時間から計算してみると、間違いなく彼は幻想御手を聴いてしまっていた。
ただ、昏睡は即効性がある訳ではない筈なので今大丈夫なだけという可能性はあるが。

「……そうだ。アンタ、反射は?」

「ン? ……今は展開してねェが」

「反射って有害なものを感知すると無意識に展開するのよね? さっきみたいに。それって曲にも適用される?」
865 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:34:10.67 ID:gPO8oWVwo

「曲っつゥか、音にも適用されるぞ。許容範囲の設定をミスってればアウトだが」

「じゃあ、音が有害のフィルタに引っ掛かった時ってアンタにはどういう風に知覚されるの?」

「普通に音が聞こえなくなる。……そォいや、一曲だけ無音の曲があったな。あれはどォいう目的で入れてるモンなんだ?」

「…………。ごめん、黒子ちょっと貸して」

「お姉様!?」

美琴は一人で納得したように呟くと、白井から音楽プレイヤーを奪い取って操作を始める。
暫らくして彼女は何らかの設定を完了させると、机の上に投げ出されたままだったイヤホンを一方通行に差し出した。

「悪いんだけど、これもう一回聴いて貰える?」

「御坂さん、それって……」

「どうせ一回聴いちゃってるんだから、二回目も三回目も同じよ。確かめたいことがあるの」

「分かった」

一方通行は状況を把握できていないようだったが、素直にイヤホンを受け取るとそれを耳に装着した。
それを見た美琴は暫らく躊躇ったが、やがて意を決したように再生ボタンを押す。

「……曲、聴こえる?」

「いや、何も聞こえねェ。……何がしたいンだ?」

「やっぱり」

美琴は、一方通行の言葉から何らかの確信を得たようだった。
その背後に立っている白井と初春も、驚いた顔をしている。

……斯くして、『幻想御手』の有害性が確定した。


866 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/23(土) 21:35:00.68 ID:gPO8oWVwo
投下終了。
次回更新は三日後です。

話が進んでないどころか凄まじく行き当たりばったりですみません……
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/23(土) 21:35:28.42 ID:L36V0gzko
乙って訳よ
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/04/23(土) 21:40:38.21 ID:C4fbg9kGo

反射ほんと便利な力だな、これでも能力の一端でしかないのだからベクトル操作は恐ろしいww
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/23(土) 21:53:40.71 ID:m+72D7jU0
やべぇ超続きが気になる
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/23(土) 23:34:02.39 ID:E/3+vk9SO
乙!

いつの間にかこのSS読むのが習慣になってたわ
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 01:32:05.16 ID:TzwjrFTL0
やっべ投下に気付かなかった
幻想御手の有害性も分かるとかベクトル操作マジ万能
872 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:41:08.82 ID:qA9b4sbZo
どうもこんにちは。風が強いですね。
もう春一番の季節なのか……

取り敢えず投下します。
873 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:41:38.83 ID:qA9b4sbZo

ご褒美に缶コーヒーを進呈。
釈然としないが、好きなものは好きなので素直に喜んでおくことにする。

「美味ェ」

「アンタって意外と安上がりよね……」

缶コーヒー(自販機産)を飲みながら寛いでいる一方通行を眺めながら、美琴が呆れたように呟いた。
聞こえていたが、否定もできないので一方通行はスルーして話を元に戻してみる。

「で、結局何だったンだ?」

「んー、話すと長くなるんだけどね……」

一方通行と美琴は、開いた机に向かい合って座りながら凄まじい勢いで作業をしている風紀委員コンビに目を向ける。
彼には彼女たちが一体何をしているのかはさっぱり分からなかったが、二人の必死な表情からかなりの真剣さは窺うことができた。

「えーっと、この間話した幻想御手(レベルアッパー)のことは覚えてる?」

「覚えてる。使用者のレベルを上げるっつゥ何とも胡散臭い道具のことだろ」

「そうそうそれ。で、それが見つかったんだけど、どうもおっそろしい副作用があるみたいなのよね」

「副作用?」

不穏な単語に、一方通行が眉を顰める。
そんな彼に同意するようにして、美琴はこくんと頷いた。

「そう、副作用。幻想御手を使うと二度と目覚めない昏睡状態になるみたいなの。確証はないから、まだ疑ってる段階だけどね」

「!」
874 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:42:07.31 ID:qA9b4sbZo

美琴の言葉に、一方通行が反応した。
しかし彼女は気付かずに、そのまま説明を続ける。

「どうも先週あたりから、原因不明の昏睡状態に陥る学生が増えてるみたいなの。で、その学生の殆どが幻想御手使用者なのよ」

「殆ど、ってのは?」

「それが、幻想御手を使用した形跡が一切無い人もいるのよね。
 まあ上手く痕跡を隠しただけって可能性もあるんだけど、それにしては数が多いから幻想御手は関係ないんじゃないかって線もあるわ」

「…………」

聞きながら、一方通行は机の上に投げ出されていた紙束を引き寄せる。
それを見ていた美琴は、首を傾げて紙束を指差した。

「それ、何?」

「昨日言ってた風紀委員への届けモンだ。ちょっと厄介なことになっててな」

「またぁ? ったく、そういう時は私に言いなさいって言ったじゃない」

「オマエも人のこと言えねェだろォが。……オイ白井、ちょっと良いか?」

「少しだけでしたら」

ちょうど作業が一段落ついたところだったのか、パソコンに向かって作業していた白井がこちらに向き直る。
そんな彼女に、一方通行は例の紙束を投げて渡した。
875 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:42:39.35 ID:qA9b4sbZo

「わわっ、何なんですの?」

「最初の数ページ、赤ペンで印の付けられた能力者。見覚えはあるか?」

「へ? ちょっと待ってくださいな」

一方通行に促されて、白井は慌てて紙束に目を通してみる。
すると、一ページ目でいきなり彼女の顔が険しくなった。
しかもそれだけでは留まらない。二ページ目、三ページ目と先に進んで行くごとにどんどん彼女の目つきが鋭くなっていく。

「……鈴科さん。何処でこれを?」

「俺に絡ンできやがった不良を締め上げたら落としてった。どォも厄介な連中らしい」

「その不良たちの居場所は分かります?」

「数時間前に締め上げたばっかだが、流石にもォいねェだろォな。絡まれた場所はここから南にある大通りの東側の路地裏だ」

「そうですか……。他に、何か聞きました?」

「そのリストに従って大能力者(レベル4)を襲ってるらしい。襲った後はある曲を聴かせて後は放置、だそうだ」

「曲、というのは?」

「聴いたら復帰不能な昏睡状態になる曲らしい。流石に俺も聴いてねェが、サンプルならぶンどって来た」

「渡して頂けます?」

「あァ。ほらよ」
876 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:43:06.53 ID:qA9b4sbZo

一方通行は懐から強奪してきた音楽プレイヤーを取り出すと、それを白井に再び投げ渡した。
彼女はそれを受け取るとすぐさまパソコンに繋げ、その内容を確認する。

「これは……」

「な、何? どうしたの?」

「……幻想御手、ですわ」

震えた声で紡がれたその答えに、美琴も驚愕する。
これは一方通行にとっても予想外の結果だったが、彼はあまり驚かなかった。

「もっと詳しいことは分かりますか?」

「そいつらはある研究者に依頼されて大能力者を襲ってた。キャパシティダウンっつゥ道具を使ってな」

「キャパシティダウン?」

「能力者の演算を阻害し、頭痛を誘発させる音響兵器だ。耳栓である程度防げるし、無理な演算をしなけりゃ頭痛は少し抑えられるらしいが」

「そんなものが……」

「あ、アンタそんな奴らに襲われて大丈夫だったの?」

「言っただろ、俺は反射で大抵のモンは防げる。キャパシティダウンの『音』も反射の無害フィルタに引っ掛かって阻まれた」

一方通行の話を聞きながら、美琴はもはや茫然としていた。
白井も情報を纏めるので精一杯なのか、こめかみを抑えて眉間に皺を寄せている。
877 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:43:49.68 ID:qA9b4sbZo

「その『ある研究者』というのは?」

「俺も詳しくは知らねェ。ただ、ピンクの駆動鎧を着て女の声で話してたらしい。
 まァ声なンかいくらでも変えられるし駆動鎧もいくらでも着替えられるから、さっぱり頼りになンねェけどな」

「それだけですの?」

「それだけだ。俺だってもっと情報が欲しいくらいさ」

「…………、分かりましたわ。こちらでも出来る限り調べておきます」

「あァ、頼む」

「ごめん、話について行けないんだけど」

紙束を見せて貰えなかった所為で一部置いてけぼりを喰らってしまった美琴が、所在なさげにしていた。
そんな彼女を見て、白井は溜め息をつきながら紙束を渡してやる。

「あ、ありがと。……あれ、これってこの間病院で見た昏睡状態の患者さん?」

「その通りですわ。しかも、幻想御手を使用した痕跡のなかった方々ばかりですの」

「なるほど。幻想御手を使ってないのに昏睡状態に陥った人たちは、みんなその不良たちに襲われて強制的に幻想御手を聴かされたと」

「概ねその通りでしょう。気絶させて聴かせたらその後は放置、だそうですから使用した痕跡が無いのも当然です」

「不良どもは襲撃後は対象に一切関与しなかったみてェだからな。襲った相手のレベルが上がってるかどうかなンて確認する訳がねェ」

「それ以前に大能力者は幻想御手を使ってもレベルが上がりにくいみたいだから、本人も気付かなかった可能性もあるわね」
878 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:44:20.55 ID:qA9b4sbZo

「そういうことですわ。……初春、話は聞きましたわね?」

「はい、ばっちり!」

恐るべき速度でのタイピングを続けながら、初春が威勢良く返事をする。
その途端、ただでさえ驚異的な速度で行われていた作業が更にスピードアップした。指がどうなっているのかさっぱり分からない。

「……アイツは何なンだ?」

「初春さんは凄腕のハッカーなのよ。調べられないことなんかないんじゃないかってくらいの」

「ハッカー? ハッキングは犯罪だった筈だが」

「風紀委員だから、ある程度合法的にハッキングができるみたい」

「イイのかそれ……」

「まあ事件解決に一役も二役も買ってる能力だから、上も何だかんだ言って黙認してくれてるみたい」

「ふゥン」

作業をしている初春の瞳には、ウィンドウが高速で現れたり消えたりしているパソコンの画面がそのまま映し出されている。
それを逐一確認している彼女の視線も、同じくらいの速さで移動していた。
美琴たちは彼女の仕事の邪魔にならないように大人しくしていたが、暫らくすると初春が大きな溜め息をつきながら背凭れに寄り掛かった。

「駄目です、やっぱりヒントが少なすぎますよぅ……」

「だよなァ……」
879 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:44:47.38 ID:qA9b4sbZo

「初春、諦めたら試合終了ですわ! もうちょっと粘って下さいまし!」

「もちろんですよ。て言うかいくつか怪しいところはあるんですけど、どこも風紀委員よりも強い権限を持ってるところなんですよね」

「強行突破はできませんの?」

一筋の希望に、白井が初春のパソコンを覗き込む。
しかし、初春の返事は芳しくなかった。

「出来ないことはないですけど、見つかったら後が怖いですね。風紀委員の権限だけじゃ侵入が許されない領域ですし」

「罰則覚悟なら何とかなる、と?」

「……罰則程度で何とかなると良いんですけどね。ダメもとですけど、上と掛け合ってからの方が良いですよ」

「それでは時間が掛かり過ぎてしまいますわ」

「それはそうですけど……。せめて、先輩と相談してからの方が良いんじゃないですか?」

「ですが、あの頭の固い先輩が許してくれるかどうか……」

「どうせ同じ支部に居るんですからやったら絶対にばれますよ。だったら一応最初から言うだけ言っておいた方が良いんじゃないですか?」

「うう……」

ここが初春なりの妥協点のようだったが、白井はまだ悩んでいるようだった。
一方通行はそんな彼女たちをじっと眺めていたが、やがてそれを見限って無言のまま席を立つ。
すると隣に座っていた美琴が、それを見て不思議そうな顔をした。
880 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:45:17.15 ID:qA9b4sbZo

「どうしたの?」

「いや、野暮用を思い出してな。世話ンなった」

「いえいえ、情報提供感謝しますわ」

「鈴科さんもありがとうございましたー」

状況に似合わず意外と暢気な声の初春たちに見送られながら、一方通行は一七七支部をあとにした。
外に出た彼は、頭の中で必要な情報を仕分けしながら目を伏せる。

(出来るだけ時間は掛けたくなかったンだが、このザマじゃ仕方ねェ。……あれで行くとするか)


881 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:45:50.80 ID:qA9b4sbZo

―――――



七月二十四日。
一方通行は、とある不良たちのアジトへと出向いていた。
それは、あの不良たちが根城にしていた場所。
かつて彼らが『例の研究者』と接触を図っていた場所でもあった。

(七月二十四日。確か、今日が『例の研究者』がこのアジトに新しい大能力者のリストを持ってくる日だったな)

あの不良たちを締め上げた時に聞いた、唯一の研究者に関する情報を手に入れられる機会。
彼らはなかなか口が堅かったので、これを訊くのには苦労した。
だが、それはその分だけこの情報が確かなものであるということを示している。
なのでここで『例の研究者』に関する情報を手に入れられる確率は、かなり高い筈だ。

(奴らによるとそろそろ来る頃の筈だが……)

一方通行は、アジトの物陰に隠れて入口の様子を監視している。
不良たちがいないことを不審に思われていないだろうかと不安になったが、確か接触するときは人払いをして必要最低限の人員しか
配備していないと言っていたので、問題は無い筈だ。
すると。

「!」

ガシャン、と入口の方から物音が聞こえてきた。
しかも一つ二つではない。かなりの数だ。
一方通行は駆動鎧の実物を幾度となく目にしてきたから分かる。これは、駆動鎧の集団の足音だ。

(複数? どォしてだ? 確か接触の時には毎回ピンクの駆動鎧が一人だけ、って話だったが……)
882 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:46:16.58 ID:qA9b4sbZo

一瞬ハメられたかと思ったが、あの状況であんなただの不良が自分の命を賭けてまで嘘を吐こうとするだろうか。
それに実際に一方通行の能力を見れば、彼に駆動鎧なんかが通用しないことも分かっている筈。
だからこれは、何者かの思惑による策の類ではない。ただ単に、偶然ピンクの駆動鎧が来れなくなって代わりが寄越されただけなのだろう。

(しかし、どォすっかねェ)

ここから飛び出して、駆動鎧をのすのは簡単だ。あの程度の駆動鎧、ちょっと殴ればすぐに稼働しなくなる。
しかし、問題はその先。殴って気絶させて、そこからどうやって情報を手に入れるか。
恐らくあの駆動鎧たちは『例の研究者』の直接の部下の筈だ。不良たちよりも遥かに口が堅いに違いない。

(……そォだ、イイこと思いついた)

ニヤリと邪悪に笑い、一方通行は立ち上がる。
そしてなんと、彼は堂々と歩いて行って駆動鎧たちの目の前に姿を現したのだ。

『!? 誰だ!』

当然ながら、駆動鎧は警戒して携行していた銃器を一方通行に向ける。
だが一方通行は動じず、それどころか似合わない笑顔さえ浮かべながら駆動鎧に近付いていく。

「あァ、警戒すンなよ。今リーダーたちは出払っちまってるから、代わりに俺がここで待機してろって言われただけだ」

『見ない顔だが』

「新入りだ。大能力者襲撃の成績が良かったから、ごく最近に信頼されるようになった」

駆動鎧たちは顔を見合わせる。
そして互いに頷き合うと、その中の一人が前へと進み出て一方通行と向き合った。
883 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:46:42.81 ID:qA9b4sbZo

『他の連中はどうしていないんだ?』

「ちょうど良いカモ集団を見つけてよォ。上手く行きゃあ超能力者(レベル5)もとっ捕まえられるンじゃねェかって話だ。
 こンな機会は滅多にねェから、見逃してもらえるか?」

『……なるほど、了解した。では、これが次に襲撃してもらう大能力者のリストだ。きちんとリーダーに渡しておくように』

「了解。……それから、一つ聞いて良いか?」

一方通行に紙束を渡した駆動鎧が、言葉に反応して首を動かす。
当たり前だが、ヘルメットに阻まれてその表情は一切確認することはできない。

『なんだ?』

「リーダーたちテンション上がったまま出て行っちまったから、襲撃済み大能力者のリストを持って行ったままなンだよ。
 また取りに来させるのも悪いし、次に接触する日までかなりあるからそっちも困るだろ? だからオマエたちの研究所の場所を教えてくれねェか?」

『………………』

すると、先頭に立っていた駆動鎧は背後を振り返って仲間と目配せした。
ヘルメットの横にあるランプが明滅しているのを見ると、どうやら駆動鎧間でのみ通用する通信を行っているらしい。
彼らは暫らくそうして会話していたが、暫らくすると一方通行に向き直った。

『分かった。絶対に外部には漏らさないと約束できるか?』

「もちろんだ」

真面目な表情をして答えている裏で、一方通行は嗤っていた。
こんなに簡単に行くとは思わなかった。どうやら不良たちは『例の研究者』によっぽど信頼されているらしい。
いや、もしかしたら信頼されているのはキャパシティダウンなのかもしれないが。
884 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:47:08.83 ID:qA9b4sbZo

『先進状況救助隊本部、先進状況救助隊付属研究所だ。テレスティーナ・木原・ライフライン所長に報告してくれれば良い』

「……なるほどな。お疲れさン」

駆動鎧に不穏を感じさせる暇さえ与えなかった。
一方通行が軽く腕を振ると、それだけで凄まじい突風が巻き起こってすべての駆動鎧を薙ぎ倒してしまう。
状況を把握できていない駆動鎧たちは、混乱から恐慌状態に陥った。

『な、何が……!?』

「オマエらはもォ用済みってことだよ。邪魔にならねェように、ここで暫らく眠ってろ」

がん、と地面を勢いよく踏み抜く。
途端に狭い範囲に巨大な地震が発生し、振動や落下する瓦礫に次々と駆動鎧は傷付けられ、機能を止めていった。
無機質なエラー音が、まるで輪唱のように周囲に鳴り響く。

このままでは全滅してしまう、何とかしなければ、と思ってはいても一方通行の前ではどうすることもできない。
結局、駆動鎧たちは何の抵抗も許されないままに倒れていった。

「ハイ、しゅーりょォー」

数秒後には、そこに立っているのは一方通行だけだった。
気絶しているのか故障の所為かは分からなかったが、駆動鎧たちはみなピクリとも動かない。

「それにしても先進状況救助隊、ねェ。仮にも救助隊と名の付いてる組織がこンなことしてイイのかよ。まァ俺には関係ねェが」

手近に落ちていた駆動鎧を軽く蹴ると、一方通行は足早にその場を立ち去って行った。
無論、先進状況救助隊付属研究所へと向かう為に。


885 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:47:35.01 ID:qA9b4sbZo

―――――



「ここか」

想像よりも大きな建物を見上げながら、一方通行は一人呟いた。
当然だが、警備が厳重だ。
流石先進状況救助隊、なんて名の付いている集団の本部なだけある。

(さて、どォやって侵入するか)

入口で見張りをしている駆動鎧に見つからないように身を隠しながら、一方通行は研究所の門を覗き見ていた。
例によって、駆動鎧を撃退するだけなら簡単だ。五秒もいらない。
だが、ここは駆動鎧たちの拠点だ。いったいどれだけの駆動鎧が潜んでいるのか、想像もできない。
それに、もし長期戦に持ち込まれたら厄介だ。彼の能力には制限時間がある。

(あれからも訓練は続けてるが……。一時間はもたねェな、流石に)

それで十分な気もするが、黒幕らしいテレスティーナとかいう研究者が何処に潜んでいるか分からないというのもネックだった。
駆動鎧たちに気を取られて、テレスティーナを逃がしてしまっては元も子もない。すべて振り出しだ。

(こっそり侵入するのがベストなンだろォがこの警備状況じゃそれもほぼ不可能だろォし、俺一人じゃ工作も難しい。コネもねェしな……)

強行突破してそれっぽいところに特攻し、偶然テレスティーナに遭遇するという偶然に恵まれるとも思えない。
そんな運頼りは御免だ。無謀が過ぎる。
つまるところ、一方通行はここまで来て手詰まりになってしまったのだ。
が、その時。

「そんなところで何をしているんですか?」

唐突に背後から掛けられた声に、一方通行はぎくりとした。
見つかったか。ここは騒ぎにならない内に相手を黙らせておいて、奴らの仲間に状況が伝わってしまう前に行動を開始するのが最善の筈。
そう思い至った一方通行は背後を振り返り身構えようとして、そこに居る人物に驚いた。
見覚えのある、小さな体躯。フードの付いた袖なしカーディガンにホットパンツ。下手をすれば小学生に見えてしまいそうな程に幼い容姿。

「……オマエは」

いつか、滝壺を助けた時に出会った少女。
名前は確か、……絹旗。


886 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/26(火) 17:48:08.48 ID:qA9b4sbZo
投下終了。
次回は三日後に。
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/04/26(火) 17:58:12.37 ID:CkQA7rKAO
乙!!
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/26(火) 18:48:05.03 ID:JjFs9YWSO
乙!

絹旗ちゃァァァァン!
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/26(火) 20:34:48.94 ID:LpX6WD9z0
最愛たァァァァン!
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/26(火) 21:59:36.73 ID:9vmop6z1o
モャハハハハ!
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/04/26(火) 23:42:03.17 ID:zDMrYZ9V0
三日後が楽しみだ・・・
もっと魔術サイドでも鈴科さんを活躍させて欲しいかもw
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/27(水) 07:15:46.77 ID:gK/InfVPo
>>891
しばらくはこのままでいいだろ、あまり急かしてやるなよ
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/04/27(水) 07:35:38.62 ID:H8StuzQAO


ここできぬはっちゃん登場か
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/28(木) 09:39:05.99 ID:7cBWvC0DO
乙!
急がなくても大丈夫、
次も楽しみにしてます
895 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:33:24.05 ID:5TmlY6Ogo
絹旗の人気に嫉妬。
投下します。
896 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:34:04.77 ID:5TmlY6Ogo

「超驚きました。まさかただの超一般人が、あそこからこんなところにまで辿り着くとは」

絹旗最愛に連れられて、一方通行は研究所の外周部を歩いていた。
その慣れた様子に不審を感じるが、不思議なことに敵意や悪意は感じない。
だからなのか、一方通行は何となく彼女を突っぱねてわざわざ別行動を取ろうとは思えなかった。

「……オマエは何者なンだ?」

「超難しい質問ですね。まあ風紀委員の超少数精鋭バージョンだとでも思って頂ければ超結構です」

「風紀委員? 治安維持組織なのか?」

「まあそんなところです。一般には超知られていませんが、一応学園都市公認の組織なので超安心してください」

何だか余計に胡散臭くなった気がするが、一方通行は必要以上に追及しなかった。
今重要なのは、彼女の正体なんかではない。

「で、その自称治安維持組織が俺みてェな一般人にンなこと喋っちまってイイのかよ」

「超人手が足りないんです。そこで、あなたにご協力頂こうかと」

「俺に?」

「そうです。あなたは超……、えーと、大能力者ですよね? 超独力でここに辿り着いたことも含めて、そこそこの戦力になるとお見受けしましたが」

「その口調不便そォだな。超能力者か大能力者か分かりゃしねェ」

「ちょ、超うるさいです! そんなことより超協力してくれるのかくれないのか、はっきりしてください!」
897 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:34:30.72 ID:5TmlY6Ogo

「行くさ。当然だ」

即答したからか、絹旗は一瞬面食らったようだった。
しかしすぐに元の調子に戻り、にやりと悪戯っぽく笑う。

「超良い返事です。やはりそう来なくては面白くありません」

「あァ。宜しく頼む」

言って、一方通行は絹旗に向かって右手を差し出す。
そして彼女は、迷わずにその手を取った。
……思えば、一方通行がこうして自分から初対面の相手に歩み寄るのは初めてかもしれない。

「じゃァ、作戦の概要を教えてくれ」

「もちろんです。まず、私たちは超先行してキャパシティダウンやその他研究機材を超破壊します」

「先行?」

「はい、メインの襲撃は後発隊の麦野……私たちのリーダーに超任せてありますので、私たちはあくまで超陽動です」

「そンなンでイイのかよ」

「流石に超一般人にそこまで高度なことは求めていません。それに、陽動だって超立派な仕事ですよ? それなりに危険ですし」

「ふゥン」

一方通行が拍子抜けしたように軽い調子で答える。
と、唐突に絹旗が足を止めた。
彼は危うくその小さな背中にぶつかってしまいそうになったが、何とか立ち止まって彼女の様子を窺ってみる。
898 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:34:57.68 ID:5TmlY6Ogo

「どォした?」

「……超まずいですね。別行動で超先行していた馬鹿が超ドジをやらかしたようです」

「大丈夫なのか」

「まあ、少々予定は狂いましたがそこまで問題があるわけではありません。
 ただし、最初に予定していた侵入経路よりも超危険な道を通るハメになってしまいましたね。準備は超大丈夫ですか?」

「あァ」

そう返事をする一方通行の声は、少し緊張していた。
しかし絹旗は構わずに、軽く地面を蹴って高く跳び上がり研究所の塀の上へと着地する。

「超手助けはいりませんよね?」

「当然」

一方通行もそれに倣って跳び上がり、彼女の隣に着地する。
途端、ほんの一瞬だが頭痛に襲われた。
しかし、それはすぐに反射に阻まれて消失する。

「……キャパシティダウンが動いてるな」

「私たちよりも先に侵入していた超馬鹿が見つかってしまったみたいなんですよ。超申し訳ありません」

「俺は大丈夫だが。……オマエとそいつは大丈夫なのか?」

「私は能力で外部の音が超聞こえないようにしていますので平気です。あっちも無能力者ですから超問題ありません」
899 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:35:23.62 ID:5TmlY6Ogo

「……会話できてるみてェだが」

「読唇術が使えますので、超普通に喋っていただいて構いません。ただ、こちらを向いてくださらないと意味はありませんよ」

「了解」

そして、二人はほぼ同時に塀から飛び降りて研究所の敷地内へと降り立った。
不思議なことに警報は鳴り響かなかったが、近くを警備していたらしい何体かの駆動鎧が襲い掛かってくる。

「フレンダは超仕事をしたようですね。セキュリティは一応切ってあるようです」

「キャパシティダウンは動いてるのにか」

「キャパシティダウンは電源装置がセキュリティとは超別の場所にあるんですよ。もともと切れるとは超思っていません」

「にしても……、前に見た時よりでかくなってねェか」

「超改良に改良を重ねたようですね。ですがその分巨大になり、喰う電気も超跳ね上がっている筈です。見つけるのが簡単なのは超助かりますね」

「確かにな」

世間話でもするような調子で喋りながら、二人は苦も無く駆動鎧を薙ぎ倒していく。
一方通行は風や地震などを駆使して戦っているが、絹旗はなんと素手で鉄の塊を殴る、なんていう荒業をやってのけていた。
恐らく身体強化系の能力なのだろうが、拳が痛くなったりはしないのだろうか。

「そォいや、オマエはレベルいくつだ?」

「大能力者です。あなたと超同じですよ」
900 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:35:52.59 ID:5TmlY6Ogo

「滝壺も確か大能力者だったな。で、もォ一人の陽動は無能力者か。変わった組織だ」

「自分でも超そう思います。まあ仕事さえきちんとこなせれば能力のレベルなんて超関係ありませんが」

「その通りだな」

低能力者(レベル1)の初春が風紀委員で活躍していた姿を思い返しながら、一方通行は同意する。
そしてちょうど二人の会話が途切れた頃、最後の駆動鎧が地面に倒れ伏した。

「さて、これで暫らくは超大丈夫なはずです。それでは早速キャパシティダウンを超破壊しに行きましょう」

「アレか」

「アレもそうですが、東西南北にそれぞれ一ヶ所ずつ、計四か所に配置されているようです。それらを順番に超壊して行きましょう」

「手分けすンのか?」

「はい。私が北と東、あなたが南と西にあるキャパシティダウンを超破壊します。制限時間は十分。できますか?」

「五分で行けるだろ」

「超頼もしいですね。お願いしましたよ」

絹旗は薄く笑いながらそう言うと、軽く手を振ってからあっという間に走り去ってしまった。
……そう言えば、先程は彼女を身体強化系の能力者だと推測したが、それならキャパシティダウンの音をどうやって防いでいるのかの説明がつかない。
耳栓をしているようには見えなかったし、一体何の能力だったのだろうか。

(っと、ンなこと考えてる場合じゃねェな)
901 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:36:20.77 ID:5TmlY6Ogo

制限時間は十分。いや、大口を叩いてしまった以上五分で片付けなければならないか。
しかし、それでも充分だ。
駆動鎧は彼の行く手を阻む壁にさえならない。
彼にとっては何の害にもならないのだから、無視して突っ切って行ってしまっても良いくらいだ。

(さて、行くか)

一方通行は悪い笑顔を浮かべると、地面を蹴って一瞬で姿を消す。
後に残されたのは、山と積まれた無数の駆動鎧だけだった。


902 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:36:52.52 ID:5TmlY6Ogo

―――――



絹旗と外周部を歩いていた時も思ったことだが、この研究所の敷地は非常に広い。
気を遣ってくれたのか、二人が研究所に侵入した位置は西のキャパシティダウンにほど近い場所だった。
なので一つ目のキャパシティダウン破壊はすぐに為し得たのだが、問題はその次だった。

早い話が、遠いのだ。
能力の使用制限のこともあるのであまり能力を浪費したくないのだが、何とか制限時間以内に目的を達成するには能力をフル活用して
走り続ける他に無い。まあどちらにしろあちらこちらから駆動鎧が湧いてくるので、かなりの頻度で反射を使わなくてはならないが。

(ったく、一体何人潜ンでンだ?)

向かってくる駆動鎧を次々と薙ぎ倒しながら、一方通行は溜め息をつく。
キャパシティダウンは見えているが、まだ遠い。
また、やはり要であるキャパシティダウン周辺の警備は厳重になっているのか、倒しても倒しても駆動鎧が湧いてくる。
しかも、先進状況救助隊と言うだけあってその駆動鎧は悉くが最新型だ。

(金掛けてンなァ……。勿体ねェ)

一方通行はどんな攻撃が来たとしてもすべて反射で跳ね返せるから良いが、これでは絹旗が少し心配だ。
彼女が一体どういう能力者なのかは知らないが、こういう攻撃からきちんと身を守れるような能力なのだろうか。

(…………、まァ自称プロだからな。俺は俺の仕事をするだけだ)

向かってくる駆動鎧を風で吹き飛ばし体勢を崩したところに、首に手刀を落として破壊する。
大抵の駆動鎧には装備している人間の意識を補助して操作させる為の機構があるのだが、その中枢は大体首に備え付けられている。
だから、そこを破壊すれば最小限の力で駆動鎧を無力化させることができるのだ。
あまり能力を無駄遣いできない状況なので、こうした節約はとても重要だ。
903 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:37:19.39 ID:5TmlY6Ogo

(身体強化程度なら消耗は少ないしな。風は演算が複雑だし、地震は使う力が大きいから消耗が激しい。
 一度に大勢を排除できるから便利は便利なンだが)

一番簡単なのは反射状態のまま突っ込むことなのだが、流石に相手も学習しているのか無闇に攻撃してこない。
彼の弱点を把握しているわけではないだろうが、時間稼ぎに重点を置いているのも少し面倒臭かった。
駆動鎧たちにしてみれば、「手も足も出ないのでせめて時間稼ぎくらいはしよう」という考えなのだろうが。

(無視しても良いンだが、後々厄介なことになりかねない。敵の戦力は少しでも多く潰しておくに限る)

キャパシティダウンが近づいてくる。
同時に、駆動鎧の数も増えてきた。
その型も、先に進むごとに強固で性能の高いものに変化して行っている気がする。
攻撃自体は脅威ではないが、破壊には一苦労だ。

(キャパシティダウンまでそォ距離はねェが、何があるか分からねェからな。念の為に節約しておくか)

一方通行は更に強く地面を蹴って、加速する。
マシンガンを向けてきたグリーンマーブルの駆動鎧に向かって駆け、銃口に手のひらを宛がって塞ぐ。
その速度に反応できなかった駆動鎧は、引き金を引く指を止めることができずにマシンガンを暴発させた。
流石に駆動鎧を着ているので中身の人間を負傷させるには至らないが、駆動鎧を故障させて稼働停止に追い込むにはこれで充分だ。

(……現在三分経過。充分か)

続いて、今度はブルーマーブルの駆動鎧が三体同時に現れた。
どういうコンセプトの駆動鎧なのか、三体とも銃器などの武器らしい武器は持っていない。

(まァ、銃器なンてモンは俺に対しては逆効果だから、それが正解かもな)

飛び掛かって来た一体目の駆動鎧の足を掴み、そのまま地面に叩き付ける。
そこにすかさず接近してきた二体目の駆動鎧が一方通行の顔面を狙って殴り掛かってきたが、彼はあえて回避しなかった。
言うまでもないだろうが、その必要が無いからだ。
904 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:37:47.23 ID:5TmlY6Ogo

案の定一方通行の顔面を殴って腕を大破させた駆動鎧は、怯んで一歩後ろに後ずさった。
ここで追い打ちを掛ければ良かったのだろうが、背後で三体目の駆動鎧が何やら不穏な動きをしていたので、彼はそちらに意識を向ける。

ガチャガチャと何かを組み立てる音と同時に向き直ると、そこには腕をホースのような形に変形させた駆動鎧。
また銃器の類かと思って、一方通行は構わず三体目の駆動鎧に攻撃を加えようとした、が。
彼はその砲口から飛び出してきたのが、砲弾ではなく炎であることに気付いて慌てて飛び退いた。
火炎放射器か。

(っぶねェ。炎自体は脅威じゃねェが、あの火力じゃ酸素を奪われかねねェな)

よくよく見れば、ブルーマーブルの駆動鎧には三体とも背中に巨大な酸素ボンベのようなものが装着されている。
あの駆動鎧は、もともと炎の中もしくは炎を使って戦うことを前提とされたタイプらしい。

(が、戦法が分かっちまえばこっちもモンだ)

確かにあの火炎放射器は高威力だし、殆ど爆発のように炎を一気に吐き出すものだから酸素を奪ってしまう。
よってまともに喰らえば一方通行でも辛いのだが、同時にああいう武器は使用者の視界を奪うのだ。
また、一回目の発射から二回目の発射までに、燃料の再装填の為のタイムラグが存在する。そこがあの駆動鎧の弱点だ。

一方通行は掃射が一旦終了するタイミングを見計らって、一気に駆動鎧に接近する。
炎とそれに伴う煙が晴れると同時に目の前に現れた一方通行の姿に、駆動鎧は驚いて背後に飛び退った。
が、たったそれだけで逃げ切れるほど彼は甘くない。

「遅ェってンだ、よッ!」

ごがん、と凄まじい音を響かせながらのアッパーカット。
打ち上げられた駆動鎧の顎部分はものの見事に破壊され、そのまま罅が伝播するように広がって頭部全体が破壊される。
今回ばかりは駆動鎧でも威力を殺しきれなかったのか、中の人間は血を吐いてそのまま倒れた。
905 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:38:18.63 ID:5TmlY6Ogo

(他にもまだトドメを刺してねェのが……ン?)

しかし振り返った先には、一体の駆動鎧が倒れているだけだった。
確かにあと一体の駆動鎧がいたと思ったのだが……。

(逃げた、のか? まァ賢明な判断だな、どォ頑張ったところで手も足も出ねェンだから)

一方通行は最初に倒したブルーマーブルの駆動鎧に近付いていき、確かに気絶していることを確認する。
二体目の駆動鎧は最初に腕を破壊してしまったので大丈夫だろうが、一体目は地面に叩き付けただけなので火炎放射器が生きている可能性がある。
だからこの駆動鎧にまた立ち上がられて、不意打ちで火炎放射器を使われてしまったら少し危ないのだ。

(酸素を奪われた時の辛さは経験済みだからな、流石に勘弁願いてェ)

彼は、倒れている駆動鎧の右手を軽く蹴って火炎放射器を破壊する。
念の為中の人間の様子も確認してみたが、操縦者は白目をむいて完全に失神していた。これなら問題ないだろう。

(さて、キャパシティダウンは……。もうすぐそこだな)

一方通行は首を動かしてキャパシティダウンを見上げると、能力の出力を上げて一気に跳んだ。
そのまま彼はキャパシティダウンの上へと着地し、躊躇うことなく全力の拳を真下に向かって振り下ろした。
途端、凄まじい破壊音と共にキャパシティダウンが砕け散る。

しかし僅かに機械としての形を残した部分が煙を上げ、漏電しはじめた。
だが一方通行は、構わずに軽くキャパシティダウンを更に蹴りつけて追い打ちを掛ける。

その直後に、キャパシティダウンは大爆発を起こす。
無論、一方通行は反射によって無傷。
それどころか、それら爆発を反射で跳ね返して更に徹底的にキャパシティダウンを破壊した。
906 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:38:47.53 ID:5TmlY6Ogo

「任務終了、っと。5分ジャスト、こンなモンか」

「超お疲れ様でした。まさか本当に5分以内に任務を達成してしまうとは超思いませんでした」

「うおッ!?」

突然掛けられた声に、一方通行は驚いて振り返る。
そこには、背の高い建物の上に足を組んで座っている絹旗の姿があった。非常に悠々としている。

「オマエの方の任務は?」

「ドジやった無能力者が名誉挽回する為に超頑張ってくれたようです。私は一つ壊すだけで済みましたよ」

「そりゃ結構。そいつは汚名返上できそうか?」

「まあお仕置きは超確定ですが、若干軽くなるのではと思います。結果的に私も超楽が出来ましたしね、フォローくらいはしてあげようかと」

絹旗は立ち上がると、躊躇なく建物の上から飛び降りた。
そして猫のようなしなやかさで地面に着地すると、未だキャパシティダウンのあった場所に立っていた一方通行に降りるよう促す。
彼はそれに従って飛び降りたが、反射の方向を少し間違って地面に盛大に罅を入れてしまった。

「げ」

「……あなたが大能力者な理由が超分かった気がします。能力的には殆ど超能力者なのに」

「うるせェな、慣れてねェンだよ。
 他にも設定を変えたばっかだからか反射の精度もイマイチだし、威力の高すぎる攻撃は反射できねェことがあるし……。超能力者には程遠い」
907 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:39:13.90 ID:5TmlY6Ogo

一方通行が拗ねたようにそっぽを向くと、ふと絹旗が笑った。
偶然彼女のそんな表情を見てしまった彼が意外そうな顔をしていると、絹旗は恥ずかしそうに咳払いしてから口を開く。

「と、とにかく超撤退しましょう。麦野たちももう侵入できたようですし、私たちの仕事は超終了です」

「こンなモンか、拍子抜けだな。その麦野ってのに加勢しに行かなくてイイのか?」

「麦野は余計な水を差されることを超嫌うので、下手なことはしない方が超身の為ですよ。帰りましょう」

「黒幕の顔くらいは見ときてェンだが」

「駄目です!」

ぴしゃりと冷たく言い放った絹旗に、一方通行は思わずびくりとしてしまった。
しかし同時に絹旗も自分の言い方や雰囲気に驚いたのか、慌てて元の調子に戻って取り繕う。

「す、すみません。とにかく、私は麦野の怒りに超触れたくないんですよ。あなただってそんな人の怒りを買うのは超御免でしょう」

「……分かった。それなら仕方ねェな」

一方通行はそれでもまだ少し不満そうだったが、絹旗が本気で嫌がっているようなので諦めてくれたようだ。
そんな彼を見て、絹旗はほっと胸を撫で下ろした。よっぽどその麦野という人が怖いのだろうか。

「で、どっから脱出するンだ?」

「セキュリティは超解除されているので出ようと思えば何処からでも出れるのですが、そうですね……」

ちょうど良い場所を探して絹旗がきょろきょろと周囲を見渡していた、その時。
ガシャン、ガシャンという駆動鎧の足音が聞こえてきた。
一つではない。しかも、そのひとつひとつの足音が今までの駆動鎧が立てていた足音よりも大きい。
どういうコンセプトの駆動鎧かは知らないが、少なくとも先程まで彼らに襲い掛かってきていた駆動鎧よりもサイズが大きいもののようだ。
908 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:39:49.87 ID:5TmlY6Ogo

「どォする?」

「どうするもこうするも、超倒すしかないでしょう。麦野の負担を超減らすことにもなりますし」

「了解」

そして、暗がりから四体の駆動鎧が姿を現した。
色は、ピンク。
それを見た絹旗が驚きに目を見開いたが、一方通行は相手が黒幕かもしれないことよりも駆動鎧の右腕に装着された砲口が気になった。
何となくだが、嫌な予感がする。

「あれは、テレスティーナ……?」

『目標を発見。指示を』

『―――、――! ―――!』

『……了解。戦闘行動を開始します』

「指示を仰いでるところを見ると、下っ端っぽいが」

「…………、……。
 ええ、こちらも超確認しました。麦野は間違いなくテレスティーナと超交戦しています。あれはただの超下っ端のようです、が……」

一瞬安堵したような顔になった絹旗の表情が、すぐに苦いものに変化する。
そして次に彼女から発せられた言葉に、一方通行は自分の嫌な予感が現実のものとなったことを知った。

「あの駆動鎧の、右腕。第三位の『超電磁砲』を超再現したもののようです」


909 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/04/29(金) 21:41:00.85 ID:5TmlY6Ogo
投下終了、お疲れ様でした。
そろそろ学校が始まるので、申し訳ありませんがこれまでの更新ペースは維持できないかもしれません。
という訳で、一応保険を掛けて次回更新は一週間以内と言うことで。

それでは、読んで下さってありがとうございました。
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/29(金) 21:44:25.73 ID:q3UH6MqSO
乙乙。

学校か…がんばれ。
気長に舞ってるからな
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) :2011/04/29(金) 22:56:13.91 ID:oG3aLugZ0
俺も舞ってる
絹旗の舞を
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/30(土) 03:54:50.81 ID:D8lvYMMDO

絹旗可愛いのお
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/30(土) 08:02:30.66 ID:hJ90sEXdo
別に書いてもらう必要はないけど、浜面がこの時期にアイテムにいるのはなんでだろう
914 : ◆uQ8UYhhD6A [sage]:2011/04/30(土) 09:59:59.13 ID:Pt458K39o
>>913
書いてもらう必要はないとのことですが、どうしても気になったので……。
ごめんなさい、あれは浜面ではなくフレンダのことです。
新約でフレメアが無能力者だったので、それに合わせてフレンダも無能力者にしました。

915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/30(土) 15:13:48.49 ID:1l1wQd0E0
駆動鎧の右手ってまさがガトリングレールガン?
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2011/04/30(土) 16:03:17.68 ID:c37qs2BXo
アニレーの最後にテレスティーナが使ったやつだぜ
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/01(日) 01:55:45.46 ID:5Bj8hOny0
アニメ超電磁砲見たことないが
そんな武器があるのか……

レールガンを連射出来るの?
なにそれ怖い
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/05/01(日) 02:05:39.48 ID:jgy2tuBGo
アニメのは駆動鎧の腕に装着した携帯用レールガンだね。
別に連射とかはしないし美琴の能力は関係ないただの近未来兵器って感じ。
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/05/02(月) 15:40:03.45 ID:AwrBIO0lo
>>918
一応、美琴の能力再現したものとは言ってたがな
禁書最新刊のオーバー5につながる複線
920 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:30:43.14 ID:W4jEtkTQo
本当にすみません大変お待たせしました!
私事が色々立て込んでて学校以上にそっち関連で死んでました。
これからも学校に慣れるまでこんな感じになってしまうかもしれませんが、平にご容赦を。申し訳ないです。

それでは、今回分を投下して行きますね。
921 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:31:54.36 ID:W4jEtkTQo
作戦会議をしている暇もなかった。
四体の駆動鎧が、容赦なくその砲口を二人に向けて超電磁砲を放つ。
二人は咄嗟の判断で飛び退ってそれを回避したが、その途轍もない速度と威力にひやりと背筋を凍らせた。

「超生きてますか!?」

「何とか。そっちは五体満足か?」

「今のところは」

「充分だ」

それぞれ別々の方向に飛び、しかも瓦礫や砂埃が飛び散った所為でお互いの状態が確認できない。
だが、キャパシティダウンをすべて破壊したからか、絹旗は普通に音が聞こえる状態に戻しているようだった。
そうでなくても、この状況で音が聞こえないというのは致命的だが。

「これは流石にキツイな。逃げるか」

「超そうしたいところですが、あっちはそうさせるつもりは超無いみたいですよ」

「外まで出れば追い掛けては来ねェだろ」

「それは超甘い考えです。それに相手の狙いは恐らく……」

瞬間、絹旗に向かって超電磁砲が撃ち込まれた。
砂埃を風で吹き飛ばして視界を確保しながら、一方通行は絹旗がいる筈の方向に向かって駆ける。

「絹旗!」

「超無事です。直線攻撃なので避けやすいですしね。ところで、あなたはあれ喰らっても超平気そうですか?」
922 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:33:09.80 ID:W4jEtkTQo

「自信ねェな、流石に威力が高すぎる。オマエは?」

「まあ、超一回くらいなら死なないんじゃないでしょうか」

「そりゃつまり、即二撃目が来たら死亡って意味か?」

「超概ね」

「そォかよ」

はっきり言ってしまえば、絹旗は一撃でもあれを喰らえば行動不能になってしまうのだ。
そうなれば、このただでさえ苦しい状況の中で一方通行は絹旗を守りながら戦わなくてはならなくなってしまう。それは、流石に無謀だ。

「とにかく、外に逃げてもアイツらは恐らく地の果てまで超追ってくるでしょうね。
 被害を超最小限に留めたいのであれば、今ここで倒すしかないかと」

「選択の余地なンかねェじゃねェか」

「私も超そう思います」

再び、超電磁砲が撃ち込まれる。
早くも慣れてきたのか、二人は先程のように大きく回避するのではなく最小限の動作だけでそれを回避した。
まあ油断していると余波を喰らって吹っ飛ぶので気を抜けないが。

「倒しましょう。超行けますか?」

「行くしかねェンだろ」

「その通りですね。超説明しておきますと、あの超電磁砲はエネルギーの充填の為に発射までに若干のタイムラグがあります。
 なので超狙うとしたらその隙なのですが……」
923 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:33:59.55 ID:W4jEtkTQo

「四体もいると隙も何もあったモンじゃねェな。そォいや、キャパシティダウンと同じ数か」

「では、超先程と同じように二手に分かれて二体ずつ破壊することにしましょうか」

「了解」

一方通行の返事と同時に、二人はそれぞれ別々の方向へと跳んだ。
直後、先程まで二人の居た場所に超電磁砲が撃ち込まれる。

背後で巻き上がる砂埃は、もう気にしない。
彼は先程超電磁砲を撃ったばかりで未だエネルギーの充填状態にある駆動鎧に向かっていく。
しかし傍にいたもう一体の駆動鎧がすかさず砲口を自分に向けたのを見て、一方通行は風を使った緊急回避を実行する。
能力で発生させた突風で自分の身体を吹き飛ばすという荒業なのだが、この程度なら反射があるので問題ない。

(つっても、微調整利かねェからある意味賭けだがな)

ひらりと地面に降り立つと、一方通行は思いきり地面に拳を振り下ろして地震を発生させた。
そして地割れを起こした地面に駆動鎧が足を取られて身動きが出来なくなった一瞬の隙に、彼は地面を蹴って一気に距離を詰める。
が、駆動鎧はバランスを崩しながらも懐へと潜り込もうとしていた一方通行に超電磁砲の砲口を向けた。

だが一方通行はその恐ろしい砲口を眼前に突き付けられたにも関わらず、
にやりと笑った。

駆動鎧はその笑顔にぎょっとしたが、引き金を引く手は止めない。
超電磁砲が放たれる。
しかし駆動鎧が引き金を引いたその時には、既にそこに一方通行の姿は無かった。

見事に空振った超電磁砲は駆動鎧の真下の地面に突き刺さり、凄まじい砂埃と凶器と成り得る無数のコンクリート片を飛び散らせる。
けれどもちろん、駆動鎧はこの程度でダメージを受けたりはしない。
924 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:35:02.63 ID:W4jEtkTQo

……ただ、視界は遮られてしまった。
駆動鎧は自身に内蔵されているセンサーで一方通行の捜索を図ったが、どうもセンサーが攪乱されてしまっているのか上手く行かない。
そしてその中に、センサーの探査網を妙に歪めている何かを漸く見つけることができた、その時。

「確かに駆動鎧は上等だが、使用者はてンで素人だな。情けねェ」

唐突に背後から聞こえてきた声に、駆動鎧は軽くパニックになりかけた。
超電磁砲のエネルギーの充填は未だ完了していない。
しかもこの砂埃の中では自分の姿も見えないだろうから、仲間の駆動鎧が援護射撃を行ってくれる可能性も極めて低い。
不明瞭な視界の中で、一方通行と間違えて仲間を撃ってしまってはいけないからだ。

「墓穴を掘ったな」

一方通行の腕が、するりと駆動鎧の首に回される。
駆動鎧が抵抗しようと身動きしたが、もう遅い。彼はあっという間に駆動鎧を締め上げ、その首部分をへし折る。
途端、駆動鎧は耳障りなエラー音を吐き出しながら硬直してしまった。

……中の人間がどうなったのかは分からない。確認する余裕なんてないからだ。
彼のノルマは、あと一体。

(一体だけなら大した苦はねェ。一撃目の超電磁砲を回避して、エネルギーを充填する隙を狙えばイイだけの話……)

そして彼はもう一体の駆動鎧に向き直り、超電磁砲を撃ってくるタイミングを図ろうとした、が。
駆動鎧は、一方通行のことなど見ていなかった。
その砲口は、彼とはまったく別の方向へと向いている。
絹旗最愛の方へと。
925 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:35:36.35 ID:W4jEtkTQo

「ッ!?」

一方通行は駆動鎧を止めるべく即座に駆けて行ったが、間に合わない。
超電磁砲が、絹旗に向かって放たれる。

「絹旗ァ!」

叫ぶと、漸く駆動鎧を一体片付けた絹旗が振り返り、気付いた。
だが、もう既に何もかもが手遅れ。
放たれた超電磁砲は、彼女の肩に直撃してその小さな身体を吹き飛ばした。

だあん、という耳を覆いたくなるような音と共に絹旗の身体が地面に叩き付けられる。
辛うじて意識はあるのかほんの僅かだけ動いてはいるが、あの状態ではとてもではないが次の超電磁砲など回避できない。
一方通行は駆けながら彼女を撃った駆動鎧に容赦なく拳を振り下ろし、操縦者を一切考慮せずに完全に破壊する。
残り一体。

だがそこで、追い打ちとばかりに絹旗が相手にする筈だった駆動鎧が彼女に超電磁砲の砲口を向けた。
先程の絹旗の言葉が蘇る。最悪の結末が脳裏を過ぎった。

(間に、合え)

一方通行が、絹旗に向かって手を伸ばす。
あと少し。
絹旗の手を掴んで引き寄せることが、できれば。

しかし。
無情にも、超電磁砲はそれよりも早く放たれる。
だが、照準は絹旗ではなかった。
それは、ある意味では幸運だったのかもしれない。

けれど彼女の代わりに狙われたのは、一方通行だった。
926 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:39:32.42 ID:W4jEtkTQo

砲口から撃ち出された閃光は、彼の胸を正確に撃ち貫く。
反射を使って砲弾自体は弾けたが、殺しきれなかった衝撃がそのまま彼の身体に叩き込まれる。

一方通行は地面に叩き付けられながら、咄嗟に指を地面に食い込ませて吹き飛ぶのを防いだが、彼にできたのはここまでだった。
全身を激痛が駆け巡る。動けない。

「あく、せら……」

絹旗がボロボロの身体を引き摺って近付こうとしているが、一方通行は返事もできない。声が出なかった。
ある程度能力は、軽減できた。しかしやはり、超電磁砲はあまりにも威力が高すぎた。
超電磁砲を受けた場所も悪い。胸に直撃してしまった所為なのか、上手く呼吸ができなかった。

がしゃん、がしゃんと駆動鎧の足音が聞こえてくる。
しかしそちらに意識を向ける余裕もない。
一方通行は近付いてくる駆動鎧に対して身構えることもできなかった。
それどころか、本当に意識があるのかどうかさえ怪しい。

駆動鎧が立ち止まる。
絹旗がのろのろと首を動かしてみれば、駆動鎧が二人の目の前に立っているのが見えた。
砲口ではなく、手のひらが一方通行に向けられている。
そしてその手のひらが彼に触れようとした。


その時。


倒れていた一方通行が、素早く身を起こして拳で駆動鎧の顎を打ち貫いた。
相手が油断した隙を突いた、不意打ち。
一方通行は駆動鎧の砕けた頭部から血が流れ、操縦者が白目を剥いているのを見送ると、再び地面に倒れ伏す。

最後の一撃に残っていた力をすべて注ぎ込んでしまったので、彼はもう意識を保っていることもできない。
大ダメージを受けたことには変わりがないのだ。
やがて、彼は何処かから聞こえてくる誰かの足音を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。


927 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:41:05.26 ID:W4jEtkTQo

―――――



一方通行が目を覚ましたのは、見覚えのある懐かしい病室だった。
ただ、彼の荷物や上条や美琴が持ち込んだあれこれはすべて片付けられてしまっているので、あの時とまったく同じという訳ではないが。
けれどまるであれから誰もこの病室に入っていないのではないかというくらいに、馴染んだ雰囲気が漂っている。

「おや、超目が覚めましたか」

入口の方から聞こえてきた声に振り返ってみると、そこには絹旗が立っていた。
左肩に包帯が巻いてあるのが、服の隙間から見える。
確か、彼女が超電磁砲を受けたのは左肩だった。彼女はもう治療を終えたらしい。

「大丈夫だったか?」

「それは超こちらの台詞です。あなた、肋骨が数本超イッてたんですよ」

「げ」

「……まあ、超医者が治してくれたようですが。なんなんですかあの医療技術、超理解できません」

恐らく、絹旗が言っているのは冥土帰しだろう。
一方通行は医者と言ったらまずあのカエル顔が出てくるので比較対象に乏しいのだが、それでもあの医療技術の異常さくらいは理解している。
折れた肋骨を一日も掛けずに殆ど治癒してしまうなんて、普通ではない。
もしかしたら、一方通行が無意識に能力を使って治癒を促していたのかもしれないが。

「ちなみに、私の方は骨に超罅が入ったくらいで済みました。大事を取って超安静にとは言われていますが、問題ないでしょう」
928 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:42:41.42 ID:W4jEtkTQo

「そォか。……ところで、オマエの仕事の方はどォなった?」

「あなたのお陰で人的被害はほぼ出ませんでした。……ただ、超問題があるにはあるのですが」

「?」

「……まああなたも無関係ではありませんし、一応教えておきましょうか。
 テレスティーナを逃がしてしまったんですよ。こちらが油断した、一瞬の隙にね。
 超甘く見ていたと言わざるを得ません」

「な……」

予想外の結末に、一方通行は思わず言葉を失う。
そんな彼の表情を見てか、絹旗は申し訳なさそうに眉根を寄せた。

「協力して頂いたにも関わらず、申し訳ありません。超不甲斐ないです……」

「……、そォか」

「超出来る限りこちらであなたに被害が行かないように対処しますが、あなたもテレスティーナには気を付けるようにして下さい。
 恐らく、あなたも顔を見られているので」

「分かった。……そォいや、アイツの目的は結局何だったンだ?」

「……そうですね。一応、お教えしておきましょうか」

巻き込んでしまったお詫び、ということなのだろうか。
本来なら一般人には教えてはいけないことだろうに、絹旗は案外あっさりと説明を承諾してくれた。

「幻想御手(レベルアッパー)、というものを超御存知ですか?」
929 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:43:57.58 ID:W4jEtkTQo

「あァ。能力のレベルが上がるっつゥ道具のことだろ。深刻な副作用があるってンで、風紀委員が取り締まってる奴」

「では、仕組みはどうですか? レベルが上がる理由、副作用が発生する理由は?」

「……知らねェ」

そう言えば、風紀委員の二人組が必死になって幻想御手を解析していたが、結局その原理は解明されていなかった。
純粋に興味もあったので、一方通行は素直に彼女の話に耳を傾ける。

「共感覚性を利用して、『曲』だけで脳波を書き換えていたんです。洗脳装置の超簡易版、とでも言えば良いでしょうか。
 脳波を超無理やり書き換えていた為に、幻想御手使用者は脳の過負荷に耐えられずに昏睡状態に陥っていたようです」

「それの作成者がテレスティーナ、っつゥことか?」

「いえ、作成者はまた別の人物です。と言うか、テレスティーナは幻想御手事件の首謀者でさえありません」

「はァ?」

「テレスティーナは幻想御手のシステムに目を付け、とある実験を行おうとしていたようです。
 それからレベルが上がる仕組みについてですが、これは同一の脳波同士の人間の間に脳波ネットワークができていたからのようですね。
 脳波ネットワークに接続することによって演算能力が超向上したり、同系統の能力者のノウハウを得たりしていたらしいです。
 私は専門の科学者ではありませんので、あんまり細かいことは分かりませんけど」

要するに、脳波の書き換えによってミサカネットワークのようなものを作っていた、とのことだ。
あれは彼女たちが発電能力者であるからできる芸当だとばかり思っていたのだが、まさか脳波が同一であるだけで構成できるものだとは。
ただ、その存在を確かに認識したり意図的に接続したり、といったことはできないらしいのでミサカネットワークとは少し違うが。

「副作用とレベル上昇の仕組みは分かった。テレスティーナが作成者でも首謀者でもないってこともな」

「済みません、超誤解が生じているようですね。テレスティーナは別の事件の首謀者なんですよ」
930 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:44:25.34 ID:W4jEtkTQo

「?」

「テレスティーナは、幻想御手事件とは超関係無いところで別の事件を起こそうとしていたんですよ。私たちはそれを超止めようとしていたのですが」

「……逃がしちまって失敗した、か?」

「まあ、……超そういうことですね」

気まずそうに、絹旗は一方通行から目を逸らす。
別に責めるつもりは無かったのだが。
いまいちコミュニケーションに慣れていない自分にうんざりしながら、彼は自分から話題を転換した。

「で、テレスティーナの目的は何だったンだ?」

「ええと、超大雑把に言うと、幻想御手を使って超強力な能力者を生み出そうとしてたってとこです」

「レベルが上がるからか?」

「超そうです」

「だが、昏睡状態になるってンなら意味ねェじゃねェか」

「そこはテレスティーナも科学者ですから、何らかの対策を練っていたのではないでしょうか。
 と言うか、超強力な能力者を生み出してもそれに抵抗されては超溜まったものではありませんから、むしろ昏睡状態の方が有り難いのでは?」

「オマエ、さらっと恐ろしいこと言うな……」
931 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:45:32.85 ID:W4jEtkTQo

「おや、これは超失礼しました。そういう科学者を何人も見てきたものですから。
 ですが実際、科学者は私たちがただ能力を吐き出すだけの人形であってくれれば良いと思っていると思いますよ?
 実験動物は大人しいに越したことはありませんからね」

一方通行は表情ひとつ変えずにそんなことを言う彼女に、何だかうそ寒いものを感じた。
この小さな少女は、一体どんな世界を渡り歩いてきたのだろうか。

「流石に超脅かし過ぎましたかね? 済みません。ただあなたも超珍しい能力持ちのようですし、科学者には十分お気を付けて」

「……あァ。肝に銘じておく」

「是非そうしてください。それと、今回は本当に助かりました。超ありがとうございました」

「いや、俺も最終的には気絶したからな……。そォいや、オマエの仲間とやらは?」

「滝壺さんたちですか? 彼女たちは大した怪我もしていないようでしたので、今頃超後片付けに追われているのではないでしょうか?
 なんだかんだ言ってここからが超面倒臭いところですし」

「ふゥン、ご苦労なことだ」

「ええ、超本当に。はあ、さっさと終わらせて超B級映画を見に行きたいです……」

遠い目をしながら、絹旗はうんざりといった様子で溜め息をつく。
そんな彼女を見ながら、一方通行は意外そうな声を出した。

「映画が好きなのか」

「ただの映画ではありません、超B級映画です。
 あからさまに狙ったようなB級映画ではなく、超本気で予算を掛けてハリウッドを狙った上でずっこけたようなのが好みですね」
932 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:46:06.57 ID:W4jEtkTQo

「変わってンな……」

「超面白いですよ? まあ一般人には理解できない感覚かもしれませんが」

絹旗は、何故かやたらと得意げだ。
そこから始まった彼女のB級映画語りを一方通行は暫らく黙って聞いていたが、それが一段落した頃になって彼は躊躇いがちに口を開いた。

「…………、そォいや、よ」

「? なんでしょう?」

「俺が撃たれた時。……オマエ、何て言った?」

「へ?」

質問の意図を図りかねているのか、絹旗はきょとんとした顔をした。
しかし、こんな質問ではそんな顔をして当然だ。
それでも一方通行は暫らく言いにくそうにもたもたとしていたが、やがて意を決したように言葉を続ける。

「俺の名前、呼ンだだろ。あの時、俺をなンて呼ンだ?」

絹旗は一瞬、ぎくりとした。
が、それを一方通行に悟らせるようなへまはしない。
だから彼女はきょとんとした表情を維持したまま、首を傾げて見せた。

「超普通に、鈴科さんと呼びましたが。それが何か?」

「……そォだったか?」

「そうですよ。と言うか、超苗字しか知りませんし」

「………………」

一方通行は目を伏せて黙りこくる。
けれどあの時彼の意識は朦朧としていた筈だし、勘違いだと思わせるのは難しくない、筈だ。

「そう……、か。変なこと訊いて悪かったな」

「いえ、超大丈夫です。ところで私はこのまま帰って超休むことにしますけど、あなたは入院しますか?」

「や、俺も帰る」

「では、帰り際にその旨を超伝えておきます。超お大事に」

「オマエもな」

絹旗は軽く頭を下げると、静かに病室の扉を閉めて帰って行った。
一方通行はゆっくりと遠ざかって行くその足音をじっと聞いていたが、暫らくするとベッドから降りて帰宅の準備を始める。
空が、暗くなりかけていた。


933 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:46:33.07 ID:W4jEtkTQo

―――――



夕方と夜の間。空が赤と藍のグラデーションを描き出している。
そんな中で、歩いている一方通行の頭上にある空は淡い紫色に彩られていた。太陽は沈みかけ、ビルの陰にすっかり隠れてしまっている。
念の為にと渡された薬の袋を持って歩いていた一方通行は、ふと近付いてくる人影に気付いて足を止めた。

「あ」

「……お迎えに上がりました、とミサカはちょっと不機嫌です」

心なしむすっとした表情の御坂妹。
彼女は肩で風を切るような勢いで一方通行に歩み寄り、彼が持っていた薬の袋を奪い取った。
少々乱暴だが、怪我をしている彼の代わりに持ってやるということらしい。

「オイ」

「分かってはいたことですが、あなたの無茶ぶりは本当に呆れるしかありません、とミサカは溜め息をつきます。
 これで病院のお世話になるのは何回目ですか?」

「……数えてねェ」

「そうです。数えるのが億劫になるくらいお世話になっているんですよ、とミサカは事実を述べます。何が言いたいかと言うと自重しろ」

(怒ってる……)

御坂妹は一方通行に背を向け、彼を置いて行ってしまいかねない程の速さでずんずんと歩いている。
一方通行は早歩きで彼女の後を追いかけながら、どうしたら良いのか分からずに困惑していた。
934 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:48:11.55 ID:W4jEtkTQo

「……心配したのか」
                      . . . . .. .. . .
「当然です、とミサカは断言します。覚悟はしていましたが、肋骨骨折は流石に頭おかしいと言わざるを得ません」

「もォ殆ど治ってるっつの。……悪かったな」

「本当にそう思っているのでしたらもう少しご自愛を、とミサカは切実にお願いします」

「分かったよ」

そうは言うものの、何だか返事がぶっきらぼうだ。
これではまるで信用できないとでも言うように、御坂妹は盛大に溜め息をつく。

「まったく。お姉様たちの性格が伝染ったのではないですか? とミサカはあの二人に疑いの目を向けます。
 それに今日は『あちら』の方もてんやわんやの大騒ぎだったようですし、本当に気苦労が絶えません、とミサカは疲労感を露わにします」

「?」

「こちらの話です、とミサカは不思議そうな顔をしている一方通行を躱します。
 それにしても親は子に似るとは言いますが、似なくても良いところまで似てしまいましたね、とミサカは再び大きなため息を吐きます」

「オマエ今何つった。誰が親で誰が子だ」

「聞き間違いではないですか? とミサカは口笛を吹きながらしらを切ります」

つんとそっぽを向いたまま言うと、御坂妹は本当に口笛を吹き始めた。
妙に上手いのは何故だろうか。
流石に口笛の吹き方までは洗脳装置で強制入力されたりしないだろうに。

「……ですがまあ、悪い影響ばかりではなく良い影響も与えてくれているようですのでそこは感謝しなければなりませんね、
 とミサカはフォローします」
935 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:48:58.74 ID:W4jEtkTQo

「フォローなのかよ」

「今までの説明だけですとまるでお姉様たちがあなたに悪い影響しか与えていないと誤解されかねないと思いましたので、
 とミサカはお世辞であることを否定しません」

「散々な言われよォだな……。まァ、確かに記憶を失って以来アイツらとばっか一緒に居たからな。無意識に行動を模倣してることは否定しねェよ」

「実際にその通りでしょうしね、とミサカも同意します。最初の方はかなりマイナス思考だったのが、最近はかなりプラスに傾いてきていますし」

「そォか?」

「そうですよ、とミサカは肯定します。昔のあなただったら自分から進んでこんなことをしたりはしなかった筈です」

「……アイツらの能天気が伝染ったか。あンな無鉄砲な馬鹿になったつもりはねェンだが」

「まあ根暗よりは能天気の方が良いのではないですか? とミサカは私的な見解を述べます」

「誰が根暗だ」

「別にあなたを根暗と言ったわけではなくただの例示として挙げただけなのですが、
 そういう反応をするという事は自分にそういう傾向があるという自覚はあるのですね、とミサカは分析しつつ逃走を図ります!」

「待てコラァ!」

一応言い過ぎたという自覚はあったのか、不穏な雰囲気を感じた御坂妹は言うだけ言って全速力で走りだす。
そして、彼女の言いように怒った一方通行が逃亡する彼女の後を追い掛けて行くと、二人はあっという間に見えなくなってしまった。


936 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/05(木) 23:49:40.55 ID:W4jEtkTQo
投下終了。お疲れ様でした。
次回投下も一週間以内です、宜しくお願いします。

それでは、ここまでお付き合い下さりありがとうございました!
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) [sage]:2011/05/05(木) 23:58:02.33 ID:/6CLpWQz0
乙!
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/06(金) 00:00:49.10 ID:Qm22RlXmo
乙乙
週1内の投下なら速い方のような。
自分のペースでゆっくりやってくれてかまわんぜ。気楽に待ってるから

久々のミサカの出番に俺歓喜。一方さんとの掛け合いがほんとに和むww
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/05/06(金) 00:36:05.25 ID:28eF8XHAO
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/06(金) 01:39:09.53 ID:uVNTKD6u0
乙!!

き、絹旗が怪我した!!!!!!!至急冥土帰しをってもう治療済み!?だったら俺が看病&治療で絹旗をペロペロしなくては!!!!
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/06(金) 01:45:05.52 ID:hCQ0Ymvao
乙ミサカぺろぺろ
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/06(金) 02:57:23.40 ID:UvmoqBGuo
一方さんカッケーなぁ…
おつおつ
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/06(金) 08:35:37.89 ID:Qj5vlgh30
>>940
そげぶ
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/06(金) 11:47:09.00 ID:BjjPALFjo

絹旗は知ってるのかなあ
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/06(金) 19:19:29.26 ID:POs/bqVSO
ここの一方さんはイケメンだから好き

乙乙!
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/07(土) 22:48:09.53 ID:4vBu4MTv0
初のリアルタイムのSSに歓喜
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/08(日) 10:29:06.54 ID:TE2tZ0ULo
この板でリアル遭遇ってあんまり珍しくなくね
21:00以降に投下する人多いし
948 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/09(月) 21:33:08.59 ID:Hdk35R4go
どうもこんばんは。
何か言いたかったことがあったような気がしたんですが忘れてしまった……まあいいや。

チョコレート食べながら投下始めます。
949 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/09(月) 21:34:38.36 ID:Hdk35R4go

「つか……れた……」

「お疲れさン」

七月二十七日。
とあるファミレスに来ていた一方通行は、向かいの席に座るなりぐったりと倒れ込んだ美琴の頭をぽんぽんと撫でてやった。
美琴は暫らく机に突っ伏したまま動かなかったが、メニューを引き寄せてデザートのページに目を通すとティラミスを注文する。

「まったくもう、寮監ってばほんとに鬼! こちとらでかい事件を解決して疲れて帰って来たってのに容赦なく罰掃除なんだもん」

「で、その罰掃除も門限以内に終わらなくて食堂の掃除もさせられたと」

「常盤台はプールも食堂も馬鹿みたいに広いから本当に辛かった……。うう、暫らくは目を付けられないようにしとこ」

「そォしろ。オマエは何にでも首を突っ込み過ぎだ」

「妹にもそれ言われた。暫らくは自重しまーす……」

弱々しい声音で宣言すると、美琴はようやく机から顔を上げた。
しかしやっぱり疲れ果てているのか、今度はソファに思いきり身体を埋めてだらんとする。年頃の少女にあるまじき体勢で。
だが短パンだ。

「でもそのお陰で幻想御手(レベルアッパー)事件も晴れて解決、だったンだろ? 情状酌量とかねェのかよ」

「ないない、あの寮監はそういう融通利かないから。頭固いのなんのって」

「ふゥン……。ところで、事件の方はどォだったンだ?」

「あれ、ちょっとは聞いてない? 結構大騒ぎになったと思うんだけど」
950 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/09(月) 21:35:31.69 ID:Hdk35R4go

「そン時俺も色々あったンだよ。それとも機密か?」

「や、そんなことないと思うけど」

仮に機密だったとしても、風紀委員でもなんでもない美琴にはそんなの関係ないのだが。
だから彼女は、ほんの少し考える素振りも見せずにぺらぺらと喋り始めてしまう。

「まあ大雑把に言うと、木山春生っていう研究者が教え子を助ける為に起こした事件、ってとこかな」

「幻想御手が教え子を助けることにどォ関係してンだよ」

「んー、洗脳装置はアンタも知ってるわよね? 幻想御手は、共感覚性を利用した超簡易的な洗脳装置だったの。
 幻想御手使用者が昏睡状態になったのは、幻想御手によって強制的に脳波を木山春生のものに書き換えられたから。
 他人の脳波に脳が耐えられるわけないもんね」

説明しながら、美琴が水を一口飲む。
中の氷がからんと音を立てた。

「幻想御手によって整頓された脳波は、ネットワークを形成したの。言わば巨大な演算装置ね。
 幻想御手使用者のレベルが上がってたのは、そうやって他人の演算領域を借りたり能力使用のノウハウを得たりしてたからみたい」

(絹旗の話と一致してるな。やっぱ、ミサカネットワークみてェなモンか)

御坂妹たちが自らの脳波によって形成しているミサカネットワークは、それ自体が一つの意思だ。
しかしこの場合は木山春生の脳波を雛形としているので、ネットワークの主は木山春生、ということになるのだろう。
つまり、彼女はリスク無しで膨大な演算能力を得たということになるのだが。

「……まだ目的と繋がらねェンだが」

「ごめんごめん、前振りが長かったわね。でもまあこれでほとんど彼女の目的は達成できてるんだけど」
951 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/09(月) 21:36:27.84 ID:Hdk35R4go

「?」

「どうも、木山は教え子を助ける為の予測演算をしたかったみたい。どうやったら助けられるのかシミュレートしたかったんだって」

「ンなモン、申請して樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)にやらせりゃイイだけの話じゃねェのか」

「それが、悉く申請が却下されてたらしいわ。どうも学園都市の上層部がグルになって木山の教え子たちが助からないようにしてたみたい」

「何で?」

「さあ……」

二人は顔を見合わせて首を傾げる。
美琴の話では木山の教え子たちは違法な人体実験の犠牲となって意識不明になったらしいのだが、どうして助けてはいけないのだろうか。

「助けられるなら助けりゃイイじゃねェか」

「うーん、何かその子たちが意識不明になることによってメリットが生じるとか? どちらにしろ碌でもない理由でしょ」

「違いねェ」

かく言う一方通行も、学園都市の怪しげな実験の犠牲者みたいなものだ。
そこに一体どんな大層な大義名分があるかは知らないが、きっと美琴たちにとっては取るに足らないようなことに決まっている。
彼女は、ここ最近それをより強く痛感するようになっていた。

「で、どォしてンなただの研究者が起こした事件を片付けるのに大騒ぎになったンだよ」

「それがさあ、木山は脳波ネットワークを利用して多才能力(マルチスキル)とかいうのになって、大暴れしてたのよ。
 あれは流石の私でも倒すのにちょっと苦労しちゃった」
952 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/09(月) 21:37:25.90 ID:Hdk35R4go

「多才能力?」

「そ。なんでも幻想御手の副産物で、幻想御手使用者の能力を使えるとかなんとか。一度に複数の能力を使いまくりよ」

「……それは、多重能力(デュアルスキル)か?」

「本人が言うにはちょっと違うみたいだけど。その辺は専門的な分野になるから私にはよく分かんなかった」

「………………」

多重能力。
多才能力。
その単語が、何故だか妙に引っ掛かる。
何故、だろうか。

「どうかした?」

「……いや、何でもねェ。それからはどォしたンだ? 倒せたンだろ?」

「倒せたは倒せたんだけど、直後に脳波ネットワークが暴走を起こしたとかで変な化物……AIMバーストとか言ったかな? が現れて、
 今度はそれを倒すために大立ち回り。そいつも色んな能力使ってくるし超再生するしで凄かったわよ」

「よく倒せたな……」

「実は何度か殺されかけた。でもって最終的には幻想御手のアンインストールプログラムを使ってネットワーク自体を破壊して、
 あとはAIMバーストの核を私が壊して終わり」

「ご苦労さン」

「もっと褒めろ。それにしても、電池切れとか初めてなったわよあの時……」
953 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/09(月) 21:39:01.21 ID:Hdk35R4go

「連戦だしな」

しかも、その上で罰掃除を課せられたのだ。彼女が疲れ果てるのも無理はない。
と言うか、本当にその寮監とやらも大目に見てあげれば良いのに。

「そォいや、結局その木山とかいう研究者は目的を達成できたのか?」

「ううん。手段があんまりにもあんまりだったし、直後に暴走してAIMバーストが出現しちゃったからね。それどころじゃなかった」

「じゃあ教え子は昏睡状態のままか」

「可哀想だけど、そういうことね。まあ木山は絶対諦めないって言ってたから大丈夫よ。十数人の教え子の為に2万人弱も巻き込むような人だし」

「……それは安心してイイのか?」

「また変なことしたら私が止めに行くって釘を刺しておいたから、もうこんな馬鹿なことはしないわよ。きっと」

話しながら、彼女は店員の持って来ているティラミスに視線を固定させていた。
一方通行も目の前に置かれたコーヒーにミルクを投入する。

「幻想御手の所為で昏睡状態だった奴らは全員回復したのか?」

「うん、アンインストールプログラムのお陰でちゃんと全員目が覚めたみたい。佐天さんが倒れた時はどうしようかと思ったけどね」

「佐天が?」

「そうなの。あの子やっぱり自分のレベル気にしてたみたいでさ、幻想御手使っちゃったみたい」
954 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/09(月) 21:40:11.80 ID:Hdk35R4go

先日、偶然道で出くわしたときに妙に思い詰めている雰囲気だったのは、そういう事だったのか。
あの時彼女は、使わないようにと言われている幻想御手を使うか否か、迷っていたのだ。
そして佐天は、能力者になれるかもしれないという誘惑に負けて幻想御手を使ってしまった。

「幻想御手使用者のレベルは、使用前に戻ったのか?」

「ネットワークを完全に破壊しちゃったからね。みんな、元のレベルに戻っちゃったみたい」

「……そォか」

それだと、何だかぬか喜びをさせてしまったようで少し可哀想だ。
レベルなんて昏睡と引き換えにするようなものではないが、それでも彼女たちからしてみれば喉から手が出るほど欲しいものだったろうに。

「でも、無能力者なんて言ってもまったく能力が無い人なんて滅多にいないし、ちゃんと時間を掛けて努力すればいつかレベルは上がる。
 普通はみんなそうやって少しずつレベルを上げていくんだから、落ち込んでばっかりはいられないでしょ」

「一度高レベルを経験したことで向上心が生まれることもあるからな。悪いことばかりって訳でもねェだろ」

コーヒーに入れられたミルクが、カップの中で白い渦を描いている。
一方通行はそれをティースプーンでかき混ぜてから口に運んだ。

「あ。そう言えばさ、アンタはアイツに電話繋がる?」

「アイツ? 上条か?」

「そうそう。いくら電話してもメールしても全然返事来なくてさ、アンタはどうなのかなーって」

「……確かにメールが返ってきてねェな。電話はしてねェから分からねェが」

「ちょっと試してみて貰える?」
955 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/09(月) 21:41:16.77 ID:Hdk35R4go

「分かった」

一方通行はポケットから携帯を取り出すと、ショートカットボタンを押して上条へと電話を掛けてみた。
しかし。

『お掛けになった電話番号は、電波の届かないところにあるか、現在使われておりません……』

「……駄目だな」

「やっぱりか……。何でだろ?」

「アイツのことだ、どォせまた携帯を踏み抜いて破壊したとかそンなだろ」

「すごい有り得る」

今更説明するまでもないだろうが、上条の不幸は本当に折り紙つきだ。
そんな不幸に常に見舞われている彼が、今更ドジって携帯を破壊するなんて不幸に晒されたとしても驚くようなことではない。

「なンだ、アイツに何か用事でもあンのか?」

「いや、そういう訳じゃないんだけど。全然繋がらないからちょっと気になってさ」

「……それもそォだな。いつから繋がらねェンだ?」

「えっと……、二十一日から? 二十日は掛けてないから分からないんだけど」

「二十日は会ったじゃねェか」

「ああ、そう言えばそうだったわね。あの時はいつもと同じ感じだったし、まだ壊れてなかったのかしら?」
956 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/09(月) 21:42:43.29 ID:Hdk35R4go

「開き直って気にしないよォにしてたって線もあるが」

「……アイツ、今回で携帯壊すの何回目なのかしら」

「俺が知ってるだけでも三回目だ。それ以前も同じ頻度で壊してるとしたら、開き直ってもおかしくねェだろ」

とは言え過去の二回のうち一回は一方通行関連の事件に巻き込まれた時に壊しただけなので、流石に普段からそこまで頻繁に壊している訳ではないだろう。
それに、美琴だって事件に巻き込まれた時に一度所持品を壊している。

「ま、何か用事があるならアイツの家に直接行くわよ。補習で忙しいみたいだけど、流石に家の前で待ち伏せてれば会えるだろうし」

「また勝負とか言って追い回してやるなよ。本当に補習で忙しそォだからな」

「分かってるって。そんなんで補習期間伸ばされて水族館がパーになったら嫌だしね」

美琴は少し心外そうにそう言うと、フォークですくったティラミスをぱくりと頬張った。
色んなことがありすぎた所為で忘れかけていたがそんな約束もあったな、と思いながら一方通行も二口目のコーヒーを口に含む。

「話を戻しちゃうけど、本当に幻想御手事件が解決して一安心、って感じね。私もやーっと肩の荷が下りたわ」

「オマエ、この事件に関してはずっと白井に付いて回ってたみてェだからな」

「あまりにも規模が大きい事件だったからね。流石にちょっと心配になっちゃって」

「どォせ興味本位もあるンだろ」

「……まあ、それはそうなんだけど」
957 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/09(月) 21:43:52.46 ID:Hdk35R4go

図星を吐かれて、美琴が何とも言えない表情になる。
すると、一方通行が小さく溜め息をついた。

「そンなに事件に首を突っ込みてェなら、風紀委員にでもなったらどォだ?」

「嫌よ、風紀委員の仕事って普段はすごく地味なんだから。道の掃除したりとか迷子の案内したりとか」

「そりゃ、風紀委員だからな」

「私のイメージではもっと普段から危険な事件の解決に奔走する、って感じだったんだけど」

「風紀委員に夢見過ぎだ。警察だって普段はそォいう仕事が中心だろォが」

「それもそうね……。ただ学園都市は確かに事件が多いから、危険なことをする場合も多いみたいだけど」

「学園都市は調子に乗った能力者が犯罪を起こしまくるからな。……そォいや、幻想御手事件が解決したってことは少しは能力者犯罪は減ったのか」

「うん、むしろ幻想御手事件が始まる前よりも減ったみたい。今回の事件でみんな懲りたんでしょうね」

「あれだけの事件を目の当たりにしたンだ。巻き込まれてねェ奴らにも影響を与えてもおかしくねェだろ」

「逆に、それでもまだ犯罪に走るような奴らは本当に救いようがないわね。それとも、よっぽど切羽詰ってたりするのかしら」

何となく甘いものを口にしたくなって、一方通行はコーヒーに砂糖を入れる。
普段はあまりこうしてコーヒーを甘くしたりはしないのだが、突然何だか妙に甘いものが欲しくなったのだ。

「あれ? アンタがコーヒーに砂糖入れるの珍しいわね」

「……何となくだよ。オマエも疲れてるといつもより甘いモン食いたがるだろ」
958 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/09(月) 21:45:29.95 ID:Hdk35R4go

「ああ、そういう。つまり疲労のバロメーターって訳ね」

何故だか妙に納得したような顔をして、美琴はうんうんと頷く。
気付いたら、いつの間にかティラミスは完食されていた。

「そうだ。アンタ、これから何か予定ある?」

「いや、何もねェ」

「ならさ、ちょうど良いタイミングだし手掛かり探ししましょうよ。何か見つかるかも」

「……手掛かり探し?」

「そう、アンタの記憶とか正体とかの。それっぽいところ探してみたりしてさっ」

「そンな探検気分で見つかるよォなモンじゃねェと思うが……」

「大丈夫、その辺は私がパソコンで情報集めたりするからさ。ずっと前に色々やってたんだけど、最近忙しくてすっかり忘れてたのよね」

「オマエそンなことしてたのかよ。危ねェな」

呆れたように言いながら、一方通行は砂糖を入れたコーヒーを飲む。
甘くなり過ぎるのが嫌でほんの少ししか砂糖を入れなかったからか、甘さが物足りなかった。

「で、情報収集の成果はどォだったンだ?」

「それが全然……。うう、アンタ何者なのよ! なんであんなにセキュリティ厳しいのよ!」

「俺だって知りてェよ」

びしいっと人差し指で指差しながら理不尽な文句を言う美琴に、一方通行は呆れた顔をする。
その一方で、彼は砂糖をまたほんの少しだけ追加した。

「……それで、辛うじて集められた断片的な情報を頼りに足で探しに行こうかと思って。アンタも興味あるでしょ?」

「そりゃ無い訳ではねェが……」

「じゃあ決まりね。まずは第七学区にあるバイオ医研細胞研究所周辺の路地裏!」

「オマエ、疲れてるンじゃなかったか?」

「そうだけど、こういう時に大事なのって気晴らしとか忘れる為の努力よ?」

「そォかよ。もォ好きにしろ」

一方通行が諦めたようにそう言うと、美琴はにっこりと笑った。そんな彼女を見ながら、彼は伝票を手に取って立ち上がる。
美琴もそれを見て席を立つと、まるで子供みたいに鼻歌を歌いながらながらその後を付いて行った。


959 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/09(月) 21:48:00.93 ID:Hdk35R4go
投下終了、お疲れ様でした。

そう言えばそろそろ次スレの時期ですね。
スレタイどうしよう……
せめてネタバレにならない時点までスレを進めてからスレタイを考えたいのですが、おさまるかな。

あ、次回投下は一週間以内で。
それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました。
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/09(月) 21:51:12.48 ID:8IKB0v2G0
おつおつ
上条さん……(´;ω;`)ウッ
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/05/09(月) 21:51:22.07 ID:MUXc1Seno

嫌な名前の研究所だな
うっかり変なデータが出てきそうだ
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/05/09(月) 21:55:27.88 ID:bMMDTXFB0
乙!

もう次スレの時期か…
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/09(月) 22:35:06.02 ID:0Ac/e+tDO
乙乙

細胞ってことはもしかして…
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/09(月) 22:37:59.41 ID:0Ac/e+tDO
乙乙

細胞ってことはもしかして…
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/09(月) 22:54:06.52 ID:tW5/fWvLo


上条さんは原作通りか…

なんか複雑なことになりそうだなwwwwww
966 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:20:48.74 ID:SfnEmynoo
日付をよく見ればわかりますけど、上条さんは一応まだ無事ですよ!
とりあえず投下します。
967 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:21:14.93 ID:SfnEmynoo

「そォいや、どォして研究所そのものじゃなくてその周辺の路地裏なンだ?」

「研究所のセキュリティがやばくて中身を見れなかったってのもあるけど、単純にこの周辺で第二位の目撃情報があったからよ」

「第二位の?」

「と言うか、天使的な何かがこの周辺を飛び回ってたって話ね」

「天使……? アレが……まァ確かに天使か……」

「ぶふっ! 笑っちゃうわよね、天使だって天使! でもあれ確かに天使よね。それにしても天使って、天使って……」

よっぽどツボに入ったのか、美琴は必死になって笑いを噛み殺している。
実際に第二位と戦っている時は必死すぎて気にならなかったが、確かにあの羽根は天使に相違ない。
しかし、やっぱり改めて思い出してみると笑いが込み上げてくる。この気持ちは何だろう。

「ま、まあとにかく第二位がうろついてるような場所なら何かあるんじゃないかなってこと! 第二位に直接出くわすのは勘弁だけどね」

「じゃあ危ないンじゃねェか?」

「その時はあれよ、腹蹴って逃げる」

「オマエもか」

かつて、上条も同じようなことを言っていた。
何だかんだ言いながらも美琴と上条がこうして付き合いを続けられているのは、そういう部分で思考回路が似通っているからかもしれない。

「でも最近の目撃情報は無かったから、大丈夫だとは思うけどね」

「だったら情報も残ってねェンじゃねェのか」
968 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:21:41.58 ID:SfnEmynoo

「少しは手掛かりが残されてるかもしれないじゃない。とにかく行動あるのみ!」

美琴は気合を入れるようにガッツポーズを取ると、一方通行を置いてずんずんと路地裏の奥の方へと踏み込んで行ってしまった。
一方通行はそんな無計画な彼女に呆れながらも、大人しくその後を付いて行く。

「ホントにこンなとこに手掛かりなンてあンのかねェ……」

「そんなこと言ってたって始まらないでしょ。まずは少しでもそれっぽい場所から当たって行かないと」

「そりゃそォだが……」

すると、突然目の前を歩いていた美琴が立ち止まった。
何事かと思って彼女の背中から顔を出してみると、その先には前方からこちら側にやってくる少年の姿。
この狭い路地裏で、擦れ違わなくてはならないようだ。

「どォする? 戻るか?」

「いや、私とアンタならギリギリ行ける筈」

「それでも壁にはぶつかるぞ」

「仕方ないでしょ、それくらい我慢しなさい」

「違げェ。俺は別にどォでもイイがオマエ制服じゃねェか」

「良いのよ替えあるし!」

美琴が強硬にそう主張するので、一方通行も仕方なく彼女に倣ってギリギリまで壁に寄り、何とか少年と擦れ違う。
一方通行の服は黒いので汚れは目立たなかったが、美琴のサマーセーターの背中部分は黒く汚れてしまった。
しかしそれでも良いと言ったのは他ならぬ彼女自身なので仕方がない。
……が、安心したのも束の間、今度はとてもではないが擦れ違うことなどできない程の巨体を持った男が目の前からやってくる。
969 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:22:10.96 ID:SfnEmynoo

「……どうしよ」

「はァ、分かったよ。掴まれ」

「あ、うん」

一方通行は美琴の手を掴むと、能力を使ってすいっと男の頭上を飛び越えた。
美琴はスカートなのでよく考えたらいろいろ問題があるような気がしたが、どうせ中身は短パンだし本人が気にしていないので良しとする。

「おーっ、アンタの能力凄いわね。手を繋いだだけであんな風に跳べるんだ」

「能力で重心と体勢を安定させたからな。それにしても、ここは普段からこンなに人通りが多いのか?」

「おっかしいわねぇ。調べた限りではそんなことは無かったはずなんだけど」

「今日に限ってか。何なンだ?」

「さあ……」

二人が揃って首を傾げていると、またしても前方から人の気配がやってきた。
またかと思った二人がうんざりしながら振り返ってみると、そこには。

「おや、お姉様に一方通行ではありませんか、とミサカは驚きます」

「妹?」

(げっ)

御坂美琴そっくりの外見に常盤台の制服、そして軍用のごついゴーグルを装備した少女。
確かに彼女は妹達だが、『御坂妹』ではない。
幸か不幸か、一瞬でそれを見抜いてしまった一方通行は大いに焦った。
970 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:22:38.32 ID:SfnEmynoo

何しろ、彼女の検体番号(シリアルナンバー)は13577号。
もし美琴の目の前でそんな検体番号を名乗られてしまったら、一巻の終わりだった。

「何よ、アンタこんなとこで何してんの?」

「お金集めです、とミサカは間髪入れずに即答します」

「お金集め? こんなところでお金なんて集まるの?」

「それにはちょっとした秘密がありましてですね……」

が、その時。
突然一方通行がミサカ13577号の顔を正面からがしっと掴んだ。
ミサカ13577号は流石の無表情だが、当然美琴は困惑する。

「な、何? 何なの?」

しかし戸惑っている美琴を無視して、一方通行は能力を発動させる。
いつかミサカ10039号にやったのと同じように、回線を開いて通話を行うのだ。

『オイ、オマエ自分の検体番号は名乗るなよ』

『何故ですか? とミサカは首を傾げます』

『自分の検体番号を忘れたのか? 13577はヤベェだろ』

『ふむ。それはつまりお姉様にミサカたちがそれほど大量にいることを教えたくないと? とミサカは一方通行の真意を推測します』

『そォいう事だ』
971 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:23:05.54 ID:SfnEmynoo

『ではミサカは何と名乗ればよいのでしょう? とミサカは代替案を求めます」

『……妹二号でイイだろ』

『それはあまりにも適当過ぎやしませんか、とミサカは不満を露わにします』

『我儘言うな。製造されてるクローンの数は少ない方がアイツのダメージは少ねェだろ。別に三号あたりでも良いが』

『似たようなものではありませんか、とミサカは溜め息をつきます。しょうがないですね、妹二号で行きましょう』

『頼ンだぞ』

『分かっています、とミサカは即答します』

そして会話の終了を確認した一方通行は、回線を切って彼女の顔から手を離す。
一方、そんな光景をずっと見せられていたにも関わらず蚊帳の外に放置されていた美琴は、もはや茫然としてしまっている。

「……ねえ、アンタたち何してんの? 何それ」

「気にすンな。それよりコイツは御坂妹じゃねェぞ」

「へっ?」

予想外の発言に、美琴は思わず変な声を出してしまう。
すると、ミサカ13577号が一歩前に出てきて美琴に向かってぺこりと頭を下げた。

「初めまして。ミサカは言わば妹二号です、とミサカは自己紹介します」

「に、二号って……。え? え?」
972 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:23:35.04 ID:SfnEmynoo

「つまり二人目のクローンと言うことになりますね、とミサカは困惑しているお姉様の為に補足説明をします」

ミサカ13577号の言葉に、美琴はそのままフリーズしてしまった。
案の定、驚いているらしい。
たった二号でこの反応なのだから、もし本当の検体番号を知ってしまったらどうなっていたのだろう。考えるだけで恐ろしい。
妹二号(仮)の発言を口の中で繰り返し呟いていた美琴は、やがてはっと我に返る。

「か、覚悟はしていたけど、やっぱり私のクローンってあの子だけじゃなかったのね……」

「そういうことですね、とミサカは肯定します」

「……もしかして、これまでにも何度か秘密で入れ替わってたりする?」

「いえ、それはありません。今までお姉様たちと接してきたのはすべて同じミサカ……妹一号、になりますね。とミサカは誤解を正します」

ミサカ13577号があまりにも何でもない事のように淡々と説明するからか、美琴もだんだんその雰囲気に流されてくる。
そもそも、御坂妹からクローンは一人じゃない、というようなことは何度も仄めかされてきた。
今更こんなことで驚く必要もないか、と美琴は無理矢理自分を納得させる。

「まあ良いか……。えーと、アンタのことは妹二号で良いの?」

「お好きなように及び下さい。ですが単純に妹二号の方が分かり易いと思いますよ、とミサカは最初の呼び名をお勧めします」

「……うん。じゃあそうさせて貰うわね」

突然の出来事に美琴は少し疲れてしまったようだったが、彼女はミサカ13577号へと近付いていくとすっと手を差し出した。
それがどんな意味を持つものなのか知っていたミサカ13577号は、飛び付くようにはっしとその手を掴む。

「宜しくお願いしますね、とミサカは握手に応じます」
973 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:24:03.59 ID:SfnEmynoo

「ええ、よろしく」

握手しながら美琴がにこっと微笑むと、ミサカ13577号も心なし嬉しそうな表情をしたような気がした。
そして、十分に握手を堪能したのち二人はゆっくりとその手を離す。

さて。
ここでミサカ13577号について説明しておこう。
彼女は、基本的にはミサカ10032号と非常に似通っている。普段の口調や素振りを見ているだけでは、殆ど彼女と見分けがつかない。
最初、美琴が彼女を御坂妹と完全に勘違いしてしまっていたのもこうした事情に起因する。

だが、ミサカ13577号はミサカ10032号とは全く異なる点が、ひとつだけ存在する。
それは。

「ところで、さっきお金集めって言ってたわよね? 何か欲しいものでもあるの?」

「まあそれもありますが……。単純にそれが好きだからですね、とミサカは趣味を告白します」

「……え? どういう意味?」

「つまりただ単にお金集めが好きだということです、とミサカは自らの嗜好を暴露します」

そう、彼女はお金が大好きなのだ。
何か買いたいものがあるらしいということは一方通行も知っているものの、それが何なのかは教えて貰えていない。
ただ、彼女がお金を集めているという事実だけは一方通行も身を以て知っていた。

何故なら彼が研究所に来て間もない時期、あまりにも彼を見物に殺到する妹達を整理しながら何故か見物料を取っていたような奴だ。
もちろん、すぐに一方通行が止めさせたが。

「か、変わった趣味ね……」
974 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:24:35.94 ID:SfnEmynoo

「どうかなさいましたか? とミサカは微妙な反応のお姉様の顔を覗き込みます」

「ううん、何でもないわ。でも、こんなところでお金なんか集まるの?」

「もちろんです。少しは噂を耳にしませんか?
 最近、第七学区の路地裏にマネーカードが隠されていることがあるそうです、とミサカは路地裏の秘密を明かします」

「なるほど。さっきから異常に人と擦れ違うのにはそォいう事情があったのか」

先程擦れ違った二人のことを思い出しながら、一方通行は納得したように言う。
すると、ミサカ13577号が懐から大量の封筒を取り出してそれを自慢げに美琴たちに見せ付けてきた。

「ご覧ください。これがミサカの発見したマネーカードです、とミサカは無い胸を張ります」

「無い胸言うな。まあそれはともかく、すごい数ね。いくらくらいなのかしら」

「下は千円から上は五万円を超えるものまでありますので……、ざっと二十万程度と言ったところでしょうか、とミサカは概算します」

「二十ッ……!? いったい誰がそんなにばら撒いてるのよ!?」

「すげェ金持ちだってことだけは間違いねェな。勿体ねェ……」

上条なら一体それだけのお金で何日生活できるだろう、なんて下らないことに思いを馳せる。
とにかく、二十万と言うのはそれ程の大金なのだ。
誰が何の為にこんなことをしているのだろう。

「それにしてもすごい金額。それなら欲しいものってのも買えるんじゃない?」

「買えることは買えますが……、これでは一つしか買うことができないのです、とミサカは肩を落とします」
975 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:25:12.03 ID:SfnEmynoo

「に、二十万円もあるのにひとつしか買えないって何買うつもりなの!?」

「詳細はお教えできませんが、ひとつ十八万もする代物なのです。
 それを出来るだけたくさん買いたいのですが、流石に高額なのでなかなか難航しています、とミサカは溜め息をつきます」

「何を買うつもりなのよ……」

美琴が呆れたようにそう言うが、ミサカ13577号は「トップシークレットです」と誤魔化すばかりで何も答えてくれない。
それにしても、十八万、十八万か。良いコンピュータでも買うつもりなのだろうか?

「普段から研究所で手伝いなどをしてこつこつと稼いではいるのですが……。
 お皿洗いなどでは一回五百円しか貰えませんし、やはりどうしても効率が悪いのでこうしている訳です、とミサカは経緯を説明します」

「ホントに地道だな……」

小さな子供の手伝いレベルのアルバイトを一生懸命やっているらしいミサカ13577号に、美琴は不覚にもちょっときゅんとした。
クローン故に普通の学生がやっているようなアルバイトができないので、彼女はこういう事しかできないのだ。

「とにかく、お姉様たちも良ければ一緒にマネーカード探しをしませんか? とミサカは申し出てみます」

「うーん……。どうしよっか?」

「そもそもオマエが言い出したことだからな。好きにしろ」

「……じゃ、付き合おうかな」

「本当ですか、とミサカは諸手を上げて喜びます」

無表情のまま万歳三唱を始めたミサカ13577号を見て、美琴は苦笑いする。
二人目の妹とも、上手くやっていけそうだった。


976 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:25:41.34 ID:SfnEmynoo

―――――



「十七時四十五分。そろそろ門限の時間です、とミサカは現在時刻を報告します」

「え、もう?」

マネーカード探しの途中で唐突にそんなことを言い出したミサカ13577号を振り返り、美琴は驚いたような声を上げた。
まだ十八時にもなっていないのに門限とは、いくらなんでも早過ぎやしないだろうか。

「……そォいえば、オマエの研修はまだ先だったよな。オマエ、どォしてこンなとこうろうろしてたンだ?」

「てへ、とミサカは可愛らしい仕草で誤魔化そうとします」

「真意が丸ごと語尾に出ちゃってるわよ。つまり抜け出してきたから早めに戻らないとヤバいのね」

美琴がそう断じると、ミサカ13577号は少し気まずそうにこっくりと頷いた。
その反応に、美琴と一方通行は揃って溜め息をつく。

「ったく、やっぱり私の妹ね。ほら、見つかると面倒なんでしょ? 早く帰りなさい」

「なンだ、自覚はあったのか」

「う、うるさいわよ!」

「とにかく、研究員の皆さんに脱走を悟られると厄介なことになるのでミサカは失礼させて頂きますね、とミサカはお暇しようとします」

「あ、ちょい待ち」
977 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:26:16.66 ID:SfnEmynoo

背を向けようとしたミサカ13577号を引き止めると、美琴は持っていた封筒を彼女に向かって差し出した。
美琴の持っている封筒は、ミサカ13577号が最初に持っていたよりも多い。
ちなみに一方通行はその半分くらい、ミサカ13577号は美琴の1.5倍くらい。
美琴はマネーカードが発する超微弱な電磁波をキャッチすることができるらしく、面白いくらい封筒を見つけることができたのだ。

「アンタにあげるわ。私はちゃんと奨学金とか貰ってるし、アンタの方が有効に使えそうだもの」

「良いのですか? とミサカは遠慮しつつも視線は釘付けです」

封筒はかなりの数だ。
恐らく、ミサカ13577号が集めたマネーカードと合わせれば『彼女の欲しいもの』も三つくらいは買えるのではないだろうか。

「良いの良いの、これで欲しいものでも何でも買いなさい」

「……ありがとうございます、とミサカは深く感謝します」

「妹二号」

不意に一方通行に呼ばれて、ミサカ13577号は振り返る。
すると、振り返った拍子に彼女の頭に何かばさりとしたものがぶつかった。

「うきゃ!? 今度は何ですか!? とミサカは突然の出来事に狼狽します!」

「驚き過ぎだろ。俺もこれやる」

「あ、あなたもですか? とミサカは驚愕を露わにします。あなたはお姉様のようにお金持ちではなかった筈ですが……」

「良いンだよ、俺は普通に稼いでるしな。ほらよ」

「ありがとうございます、とミサカはお礼の言葉を口にします」
978 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:26:46.77 ID:SfnEmynoo

ミサカ13577号は封筒の束を受け取りながら、またぺこりと頭を下げた。
そしてそれをまた彼女の持っていた分の封筒と合わせる。
もう、彼女の手だけでは持ち切れないのではないかというくらいの量になっていた。きっと、かなりの額だ。

「それではミサカは研究所に帰りますね。今日は本当にお世話になりました、とミサカは改めてお礼を言います」

「良いのよ、私たちも楽しかったしね。他にも、何か困ったことがあったら何でもお姉さまに相談するのよ?」

「はい。そうさせて頂きます、とミサカは了承します。それでは」

「またね」

ぱたぱたと手を振っている美琴に見送られながら、ミサカ13577号は足早にその場を立ち去った。
やがてその後ろ姿が見えなくなってしまってから、美琴はようやく手を下ろす。

「じゃ、私たちも帰ろっか?」

「そォだな。寮監に目を付けられないよォにするンだったか」

「うんまあその通りなんだけどね……。あれ、そう言えばアンタはあの子と一緒に帰らなくてよかったの? 研究所暮らしじゃなかったっけ」

「引っ越した。つい最近」

「ほんと!? 住所教えなさいよ!」

「教えねェよ。そォいう約束だっただろォが」

「何よそれ、まだ有効だったの?」
979 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:27:15.91 ID:SfnEmynoo

「有効だ。諦めろ」

「むう……、仕方ないわね」

「ストーキングやハッキングはナシだぞ」

「ちっ」

「オイ今なンで舌打ちした?」

「何のことかしら」

一方通行の追及を口笛を吹きながら躱した美琴は、彼から顔を逸らした拍子にふと何かを発見する。
ちょうど目に入った路地裏の向こうに、数人の不良が屯しているのが見えたのだ。

「どォした?」

「いや、あれ」

尋ねられて、美琴は不良たちを指差す。
それにつられて、一方通行も彼らの会話に耳を傾けた。

「ホントだって!」

不良の一人が、仲間に向かって何かを必死で訴えかけている。
しかしそれに対する仲間たちは、不良の言葉を少し疑っている様子だった。

「偶然路地入ったら、女が例の封筒を置いてんのが見えてさ。後を尾けたんだよ」

「!」

嫌な予感に、二人は顔を顰めて注意深く不良たちの会話に聞き耳を立てた。
こういう時に奴らが考えそうなことなんて、知れている。

「雑居ビルみてーなトコに入ってったからそこがアジトだぜ。外から見た感じ居んのは女一人だけっぽいから楽勝だろ」

美琴と一方通行は互いに顔を見合わせる。
やがて二人は不良たちが動き出したのを見届けると、目配せしてからその後を追い始めた。


980 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/14(土) 20:29:26.21 ID:SfnEmynoo
投下終了。次回は一週間以内に。

ところでスレタイをいろいろ考えていたんですけど、スレタイの字数制限いくつでしたっけ?
次スレもやっぱり長いスレタイになるので、字数制限によってスレタイが変わるんですけど……
流石にこればっかりはテストできませんし。
できれば教えて頂けると助かります。と言うか、こういうことを教えてくれる場所を教えて下さると嬉しいです。

それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました。
宜しければ、次回もよろしくお願いします。
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/14(土) 20:42:07.43 ID:8JVNcIPro
乙!単価18万円か…

今ざっと長そうなスレタイ見たら、一番長いので全角40文字だった
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/14(土) 20:46:19.94 ID:vvV0KArIO
おつおつ!18万…何する気だ……
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/14(土) 21:17:46.85 ID:cUZqIz1io


18万といったらあれしかないが目的がよく分からん
召使い…?
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/05/14(土) 21:50:40.53 ID:ilFk9Bp8o

18万といえば目的はロクな事じゃないか果たした後ロクな目にあわんな
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/05/14(土) 23:07:52.97 ID:UWL/SuN80
来てたあああああッフォオオオオオオオ!

18万だとアレしか思いつかない…
乙乙!
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/14(土) 23:19:19.20 ID:3GXdWQhfo

一体180円だったら良かったのにな
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/14(土) 23:29:05.68 ID:g8jdoApRo
>小さな子供の手伝いレベルのアルバイトを一生懸命やっているらしいミサカ13577号に、美琴は不覚にもちょっときゅんとした。

俺もキュンときた!ww
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/15(日) 03:10:55.90 ID:7URF96Upo
しかし、それも1万人でやれば500万円のお手伝いに!
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/15(日) 11:04:37.31 ID:XSJwGhEto
>>980
自治スレか管理者がたむろしてるとこ行けば教えてくれると思う
990 : ◆uQ8UYhhD6A [sage]:2011/05/17(火) 02:28:55.75 ID:J5Vy8bkso
皆さんレスありがとうございます、励みになります。
わざわざ文字数を数えて下さった方とスレを教えて下さった方にも感謝します。助かりました。

あとやっぱり18万って言っちゃうとばれちゃいますよね。
ですが別にそこまで不穏(?)な目的ではないと思います……。
それから一万人分の手伝いなんてなさそうですし、それぞれにお小遣いあげてたら研究員の皆さんが破産します、多分。
そう言えば一体180円とか懐かしいですね。あれ再開しないんでしょうか……。

それと、次回投下分はこのスレ内に収まりそうにないので次スレに投下することにしました。
次スレのスレタイは

一方「泣き叫ンだところで、それを聞いて駆けつけてくれるヒーローなンざいねェ」

の予定です。本当は美琴も詰め込みたかったんですが余裕で文字数制限を突破してました。
当たり前ですね。
で、スレの残りで質問を受け付けようと思います。何でもどうぞ。

一応スレを立てた時に誘導はしようと思っていますが、その前に埋まってしまった際は上記スレタイで検索してください。
それでは皆さん、また今度。
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/19(木) 22:11:39.75 ID:WaiByiXSo
一方さんは今どこまで出来るのか?
992 : ◆uQ8UYhhD6A [saga]:2011/05/21(土) 00:10:24.37 ID:gGgzkDclo
>>991
出力は全盛期の五分の一くらいにはなりました。
ただしベクトルの増幅は殆どできないので、無風状態から風を起こすのはちょっと難しいです。

それから反射については、

そげぶ:普通に喰らう
雷撃の槍:威力によるが、二億ボルトで来られるともろに喰らう
超電磁砲:弾けるけど大ダメージ
原子崩し:弾けるけど大ダメージ
未元物質:小手先複数→普通に弾ける 大威力単発→もろに喰らう
木原神拳:喰らうが威力軽減、ただし相手に若干の反動あり
窒素装甲:普通に弾ける
通常兵器:普通に弾ける

こんな感じです。
取り敢えずは現時点での能力なので、これから成長することもあるかもしれませんしないかもしれません。
それはそうと、スレ立てしました。

一方「どンなに泣き叫ンだって、それを聞いて駆けつけてくれるヒーローなンざいねェ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1305903640/

多少スレタイ変えました。悪しからず。
あ、このスレの残りはもう埋めちゃってください。
質問があるならしても良いですが、基本的にいつでも受け付けてるので新スレの方でも構いません。
埋まらないようなら自分の方から適当にHTML化依頼出しておきます。
それでは、また次スレでお会いしましょう。
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) [sage]:2011/05/21(土) 00:12:05.84 ID:1qY5GcUd0
おつでしたー
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 00:21:46.77 ID:sPduO3dDO
けっこうダメージ喰らうんだな…
レベル5とレベル4は能力の強さが段違いってことか
わかってたが、認識しなおされた
ここのキャラは全員が好感持てるな
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 00:22:25.95 ID:xEfw9q9Bo
乙です!

音はある程度反射するけど自分の悪口だけ聞こえちゃって
泣きそうになる程度の出力じゃないんだな、良かった

新スレでも続き楽しみにしてます
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/21(土) 00:54:23.09 ID:xETrpT3ho
乙!

レベル5と4の差が分かりやすくていい
次スレも期待してる
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/21(土) 00:59:11.31 ID:zwOhDY5N0
乙です
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/21(土) 00:59:54.69 ID:3Qv8zuBFo

こっち埋めた方がいいのかな?
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/21(土) 01:09:43.99 ID:zwOhDY5N0
埋めますか
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/05/21(土) 01:45:25.87 ID:eNSn0CGl0
>>1000なら一方さんは作中で結婚
1001 :1001 :Over 1000 Thread
      (ヽ、 _ヽ、  )\     ヽヽ
     _ヽ、     ⌒  ヽ、     \\
     \ ̄     __    )ノ     ヽヽ
    ∠⌒     / )    ⌒ヽ     | |
     )   / ゙̄- く       \   ノノ
    /  /ノ^)___)ノl       ヽ_//
   /   //(/ !_|_|       ヽ三ヽ
   レヘ  |j(/l_/    |ノヽ      |──)  
    ノ (/l_/  /⌒| | | |  !   |二 二ヽ
  /   |_/__| |  | -| | ノノ    ノ── 、)
  /    `───| | ノ -| |   |/(())   ヽ  
 /⌒) ∧    ヽ/_//  /j()ノ_   (()) i
    // ノ     |_// / ̄ ̄`\ (())  j
      (ヘ       ̄   |   ヽ   \   /
       )/(/) / ⌒ |⌒ヽ |\  /i\ /|   )ヽ
            |/      |    !  / | ノ |  ( (
     )ヽ           |  /  /  ( ((|   ) ヽ
    (  )           |  / /    ヽ|  (   )
    ) (      、    /  ) |ヽ、_ __ ノ   )  (
   (   ヽ    ((   /  /−、|        (   ヽ
(    )   )    )ヽ  ヽ_ノ |  |   ヽ   ノ     )
 )  (    (   ノ  )     |   |  ( (  (      (
 (_ ノ     )(  ( (    / /^)  ) )  )
               )  / / /  (  ( _ノ
                 (/__/// // // )
  .ト、.  /ヽ |\  /ヽ  /”゙ォv' .// // /
  |. ヽ./ | ヽ! .`、/  ヽ,/     '     /_  _
: --!          ,,,,, ,,,,,               ̄./
\      ,illllli,,,,,,,,, lllll llll               /
_ヽ    ,llllllllllllllll!' ,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,             ̄ ̄ ̄''_,-
\    ,illll!' ,illll!'  !!!!lllll!!!!l゙`     ,,, ,,,     ,r-'''゙ ̄
  >   ゙゙゙゙' .,illlll゙    lllll|  llllllllll!!!!!  llll !ll! iiii,, <_.
/_   .,illlll'   ,,,,,,,llllll,,,,,,,,,,      ,,,iillll!!゙   >
 ̄/   ,llll!!'    lllllllllllllllll!!!l_      :ll!!!゙゙゜   <_
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   ( ⌒ )
    l | /

   .__⊥_    <こんなおわらせかたじゃあ、
  (____)     あとがこまるじゃないか!
  |_ノ_ヽ  ヽ
  | 3 | ◎| ̄ ̄6)  なんというむせきにんなわしだ!!
  ( ̄○丶   .|
  ヽ_◎__/)
  (
                                               SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
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1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
俺「安価で強くなりたい」 @ 2011/05/21(土) 01:34:51.14 ID:qbd1NRlW0
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蚊に刺されたら皮が剥けるほど掻きむしるでしょ? @ 2011/05/21(土) 00:21:47.76 ID:kNbMvSRAO
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男「…へ?」 少女「だからね」 @ 2011/05/21(土) 00:50:48.68 ID:bKnQqaV4o
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犬より猫派 @ 2011/05/21(土) 00:36:00.25 ID:FZG41Jrw0
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ポケモンダイパプHGSSBW心のファンファーレ聴いてきた @ 2011/05/21(土) 00:08:48.74 ID:SSRTgVBUo
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一方「どンなに泣き叫ンだって、それを聞いて駆けつけてくれるヒーローなンざいねェ」 @ 2011/05/21(土) 00:00:40.96 ID:gGgzkDcl0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1305903640/

出会いスレ @ 2011/05/20(金) 23:37:08.57 ID:o3v9JBd+o
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一方「木ィィィ原くゥゥゥゥ」穴子「ぶぅぅぅるるるるるるらぁ!!!」 @ 2011/05/20(金) 23:21:49.47 ID:c7UvG4pu0
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