このスレッドはSS速報VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

黒子「おまじない……?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 15:57:20.61 ID:QAMcOFU0
 とある秋の日の夜――
 夕暮れあたりから曇天の雲が多い尽くし、今ではすっかり空は泣き出していた。
 そんな空模様にも関係なく、学園都市内の学校は、数日後に迫った一端覧祭の準備の追い込みに追われている。
 ここ、柵川中学校でも例外ではなかった。

 初春「やっと終わりましたね。お疲れ様ですー」

 佐天「初春もお疲れー。うわっ、もうこんな時間だよ」

 時計はすでに19時を回っていた。
 気が付くと、教室に残っているのは初春と佐天のみ。
 一端覧祭の開催前日ならともかく、まだ日に余裕があるのか、クラスの生徒は彼女らを残して既に帰っていた。
 最後の後片付けの当番が彼女ら二人ということで、この時間まで残っていたのだった。

 佐天「しっかし、いろいろ小道具を作るのはいいんだけどさー、せめてある程度片付けてから帰ってくれないかな」

 初春「でも、佐天さんだって、昨日は散々散らかして帰ったじゃないですか。人のことは言えないですよね」

 佐天「それは、そうだけどさ……それより、ジャッジメントの方は大丈夫?」

 初春「今日は準備ということで休みになっていますから。支部に顔を出さなくちゃダメなら、残っていませんよ。佐天さんに後は全部お願いするところですね」

 佐天「えー、それはひどいよー。あんな量を一人でやるなんて、真夜中になっても終われないって」

 初春「自業自得ってやつです。それより……雨がひどくなってきましたね」

 外を見ると、いつの間にか雨は本降りになっていた。
 降りしきる音が、教室の中にも響き渡っている。

 佐天「マジでやばいって。今日傘持ってきてないし。どうしよう」

 初春「私も持ってきていませんし。雨がましになるまで待つしかないようですね」

 佐天「困っちゃうなー。その間、ずーっと待ちぼうけなわけ? 何もすることないしさー」

 初春「うーん……あっ、だったら丁度いいものがありますよ。この間、ネットでたまたま見つけてきたのですけど……」

 話しながら、初春が鞄の中をまさぐっていたとき、教室の扉が勢いよく開く。
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

2 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 15:58:02.01 ID:QAMcOFU0
 黒子「初春に佐天さん、こんな遅くまでお疲れ様ですの」

 美琴「二人とも、本当に大変だね。遅くまで残ってるって聞いたから、手伝いに来たんだけど、もう終わったみたいね」

 初春「ええ、こっちはもう大丈夫です。わざわざ来てもって悪いです」

 佐天「というか、二人とも思いっきりずぶ濡れじゃないですか」

 現に美琴と黒子の二人はまるでバケツの水を頭からかぶったかのように、全身がぬれていた。
 髪の毛から絶え間なく水滴が滴り落ちている。

 美琴「来る途中でいきなり降ってきてね。でも、ここまでもう少しのところだったから、そのまま来ちゃった」

 黒子「お姉さまったら、雨の中を走っていくなんて無茶なことを言い出したものですから。わたくしのテレポートで行けば、そんなに濡れずに済みましたのに」

 美琴「黒子はそう言って、思い切り抱きつこうとするから却下」

 黒子「ひどいですの。黒子はただ、お姉さまが濡れないように雨粒から身をもって防ぎ、かつ濡れてしまったら温めて乾かそうと……」

 美琴「なおさら拒否するわっ!!」

 佐天「もう、なんつーか……下心ミエミエだし」

 初春「まあまあ。とにかく上着を脱いで、乾かしたほうがいいですよ。あと、タオルもありますから使ってください」

 美琴「あっ、サンキュー。助かるわ」

 黒子「あと、スカートもぬれておりますから、これも乾かさないといけませんわね」

 美琴「せんでいい!!」

 ゴッ!!

 黒子の手が美琴のスカートに手が伸びた途端、すかさず美琴のゲンコツが黒子の頭を直撃していた。
3 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 15:58:44.90 ID:QAMcOFU0
 黒子「痛いですの……」

 初春「いつものことながらですけど、懲りないですねー。それよろ、白井さんも上着を乾かしたらどうですか?」

 黒子「ええ。そうさせてもらいますの。そこの椅子に掛けておいておいてよくて?」

 初春「構いませんよ。ほら、白井さんもこれを使ってください」

 黒子「初春、助かりますわ。しかし……」

 そこまで言うと、黒子は美琴の胸元に目をやる。
 ずぶ濡れになったブレザーと比べて、ブラウスは濡れていなかったものの、袖のあたりなどは肌がうっすらと透けて見えていた。
 そして、肝心の胸元はというと……ゲコ太のプリントがうっすらと見えるだけで、黒子は少しがっかりしたそぶりを見せる。

 黒子「お姉さま、常盤台のエースたるものがそんな幼稚っぽいものを着るのはどうかと。わたくしがこの間差し上げたあの下着にして下さいと、あれほど言っておりますのに」

 美琴「あんな紐同然のやつなんか、恥ずかしくて着れるかっ!!」

 佐天「白井さん、なんちゅーものをあげているのですか……」

 佐天(でも、ちょっとそんな御坂さんも見てみたかったかも)

 初春「相変わらずの飛ばしっぷりですねー」
4 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 15:59:29.88 ID:QAMcOFU0
 美琴「しっかし……さっきよりひどくなってきていない、雨」

 雨の降りは先程よりも勢いを増し、雷鳴も時折遠くから響いてきていた。

 佐天「ホントですね。予報じゃにわか雨があるかもって言ってただけですがね」

 初春「しばらく帰れそうにありませんね」

 美琴「でも、下校時刻はとっくに過ぎているから、ちょっとまずいんじゃない?」

 初春「それなら大丈夫ですよ。一端覧祭の直前ということで、ここは夜遅くまで開けていますから。準備が長引いているって言えば、何も言ってきませんし」

 黒子「でも、この状況はどう見ても、教室でだべっているようにしか見えませんわ。突っ込まれても、何も文句は言えそうにありませんの」

 佐天「まあ、先生らは徹夜同然で準備で必死になっているみたいだし、構っている余裕はなさそうだから、大丈夫だと思いますよ」

 美琴「にしても、雨がマシになるまで、何もしないままいるっていうのもね」

 佐天「確かにそうですよね……って、初春。さっきやろうとしたやつ、やらない?」

 初春「そうですね。人数もいますし。ちょっと待っててくださいね」

 美琴「初春さん、それってゲームか何か?」

 初春「ゲームじゃなくて……おまじないです」

 そう言って、かばんの中から出されたのは……人型に切った1枚の紙。
5 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 16:04:31.50 ID:QAMcOFU0
 黒子「おまじない……って、何ですの?またネットで見つけたやつですの?」

 初春「ええ。『しあわせのサチコ』さんっていうおまじないなんです」

 佐天「しあわせのサチコさん?それってどんな効果があるのかな?」

 初春「友達としての絆を固く結んで、生涯の友人として一緒にいられるというみたいです」

 佐天「へぇ、なかなか面白そうじゃん」

 美琴「でも、なんか眉唾っぽくない?」

 黒子「ちょっと初春。わたくしはそれには疑問がありますの」

 初春「何でしょう、白井さん」

 黒子「それは生涯の友人ではなくて、生涯の恋人の間違いではありませんの?」

 初春「さすがにこれの方法が書いてあったブログにはそんなことは書いて無かったですけど、一生その絆は無くならないみたいですよ」

 黒子「そうですの。ならば、やりましょう!!もちろん、お姉さまも異論はありませんね、いや異論は認めませんわ!!」

 黒子(これでお姉さまと一生一緒にいられるのなら……想像しただけでたまりませんわ!!)

 美琴「ちょっと、黒子!!私はやるっていうわけじゃ……まあ、いいか」
6 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 16:05:42.49 ID:QAMcOFU0
 美琴「儀式みたいなものね。私達も会ってから結構経つし、いろんなこともあったし……やってみるのもいいかもね」

 佐天「さっすが、御坂さん。で、初春ぅ、これってどうするの」

 初春「この人型のどこでもいいから、しっかりと指でつまんで、目を閉じて『サチコさんお願いします』とここにいる人数の分心の中で唱えてから、この人型を指で引きちぎるんです」

 黒子「4人ですから……4回ってことになりますわね」

 初春「ええ。ただ、唱える回数を間違ってしまうと、サチコさんの霊が怒って、とんでもないことになるみたいですから気をつけてくださいね」

 美琴「なんか、ますますうさんくさそうね。で、それからどうするの?」

 初春「その切れ端を財布などに入れて、ずっと大切に持つわけです。そしたら、絆は一生消えないみたいです」

 佐天「じゃあ、さっそくやろうよ。さあ、御坂さんに白井さんも」

 黒子「ええ、そうですわね。お姉さまもほら」

 美琴「わ、分かったわよ……」

 そして4人は人型を指でつまみ、目を閉じて……『サチコさんお願いします』と心の中で4回唱える。
 そして、全員がゆっくりと目を開いて、

 佐天「4回唱えたよ」

 黒子「わたくしも」

 美琴「わたしもやったわ。で、これを一気に引っ張るわけね」

 初春「そうです。じゃあ行きますよ。せーの」

 掛け声とともに、4人が人型をそれぞれの方向へと引っ張る。
 人型はたやすく4つに千切れた。
7 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 16:06:39.21 ID:QAMcOFU0
 佐天「これで、OKってことになるのかな?」

 初春「はい。これでおまじないは終了です」

 美琴「なんか、いまいち実感がわかないなぁ。まあ、別にいいけどさ」

 黒子「うふふふふふ……これで黒子はお姉さまと一生一緒に……お姉さまぁ!!」

 不気味な笑みを浮かべて、美琴に抱きつく黒子。
 もちろん直後に黒子の体に電流が流れたのはお約束である。

 黒子「あばばばbbbbb……ああっ、でも絆が強くなったから、平気な気がしますわ!!」

 佐天「白井さんはおまじないなんかしなくても、一生付きまとう気がするね」

 初春「まったくですね。絶対に離れ離れにならない気がします」

 美琴「ち、ちょっと!!アンタたちも笑ってないで、引き剥がすの手伝いなさいよ!!」

 そんなすったもんだを繰り広げていた……その時。


 グラッ……。


 初春「え?」

 教室がいきなり揺れだした。
8 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 16:07:33.57 ID:QAMcOFU0
 佐天「じ、地震!?」

 全員がびっくりする間を与えず、揺れは一気に激しさを増す。
 教室自体がシェイカーのように上下左右に激しく揺さぶられていた。
 照明が揺れのために、4人のいるところに向かって容赦なく落下してくる。

 美琴「つ、机の下に隠れてっ!!」

 黒子「といいますか、テレポートで!!」

 その時、同時に信じられないことが目の前で起こる。


 バキッ……バキバキッ……!!


 いきなり教室の床に裂け目が走ったかと思うと、そこから真下へと崩れだした。
 大きな口を開けるかのように、床が崩れ去っていき、机などを飲み込んでいく。
 そして、

 初春「ち、ちょっと……あああああ!!」

 初春の立っていた足元が一気に崩れ去り、寸分の間もなく彼女の体はぽっかり空いた黒い空間に飲み込まれていった。

 美琴「初春さん!!」

 黒子「お姉さま、足元!!」

 美琴「え!!」

 すぐさま美琴のいた所まで裂け目は広がり、彼女の体も一気に真下へとなだれ落ちていく。
 美琴の近くにいた佐天も例外ではなく、崩れ去る床とともに、漆黒の底に向かって消えていった。

 佐天「い、いやああ!!助けて!!」

 黒子「佐天さん!!今すぐに……」

 すぐさまテレポートを行おうとするものの、演算をする隙を与えず、黒子の足元も雪崩のように飲み込まれていき、彼女の体もそのまま落下していった……。
9 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 16:09:00.24 ID:QAMcOFU0
(注意)
 ・【とある魔術の禁書目録】【とある科学の超電磁砲】および【コープスパーティーBCRF】とのクロスです。
  あと、初代コープスパーティーおよびコープスパーティーゼロの設定を混ぜている場合があります。
 ・内容的にグロ要素や死亡要素が入る場合があります。
 ・設定やキャラ崩壊が場合によってはある恐れがあります。
 ・投下はスローペースです。投下の間隔が(日単位で)思い切り開く可能性が高いです。
 ・地の文も入れていますが、基本台本形式で進める場合が多いかと思います……多分。
 ・話の展開選択肢を設ける場合があります。選択次第によって、鬱系統の展開になる場合があります。
10 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 16:09:45.19 ID:QAMcOFU0
 黒子「……くっ……」

 全身に走った痛みで目をゆっくりと覚ました。
 目を開けても、全体的に暗く、何があるのかよく見えない。

 黒子「一体……どうしましたの……ここは……!?」

 やがて、暗闇に目が慣れてきて、ぼんやりと目の前のものが見えてきたが……。

 黒子(何なのですの!?)

 目の前に広がった光景にすかさず体を起こす。
 木張りの天井……それだけでなく、床も横にある窓も扉も木製。
 しかも、扉や窓のガラスは所々で割れていて、それを構成している木材も朽ちているといった感じだった。
 天井には照明が付けられていたが、明かりは灯っていなく、むしろ片方が外れて落ちかかっているものもある。
 そして、なにより床や天井には木が朽ち果てて、一部が崩れ落ちてしまっていた。
 湿っぽい、カビが生えたような不快な臭いが漂っている。

 黒子(どこかの廃墟のようですわね……。でも、こんな古臭い木製の建物、学園都市にありましたかしら?)

 ゆっくりと立ち上がって、とにかく歩き出す。
 そしてゆっくりと周囲を見回した。
11 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 16:11:52.33 ID:QAMcOFU0
 黒子(マンガに出てくるような、大昔の学校のような感じですわね。とにかく、外の様子はと……)

 そう思い、近くにあった窓に手を掛けて開けようとするが、びくともしない。
 いくら力を加えても、かすかに動く気配すらない。
 まるで、窓が壁に描かれたオブジェの様な感じだった。
 窓の外を覗いてみると……黒い空から降りしきる雨。
 そして、その向こうにはどこまで続いているか分からない漆黒の樹海が広がっていた。

 黒子(学園都市にこんなところはありませんわね。何がどうなっていますの。お姉さまは?)

 慌てて周囲を振り返る。
 だが、この場には黒子を除いて誰一人いなかった。

 黒子「お姉さま、佐天さん、初春……いますの!?」

 とにかく叫んでみるものの……返事は返ってこなく、ただ静寂が漂うのみ。

 黒子(とにかく……じっとしていても仕方ありませんの)

 歩を進めるが、目の前の廊下はすぐさま朽ち果てていて、大きな裂け目がぽっかりと口を開けており、前に進めそうにない。
 引き返そうと思ったとき、張り紙が壁に貼ってあるのが目に入る。
 そこに書かれていたのは……

 『ろうかをはしるな』

 黒子(ひらがな書き……小学校ですの、ここ……ん!?)

 そう思ったとき……いきなり大きな揺れが襲い掛かった。
 背後の天井が一部崩れだしたのか、バキバキという音が耳に入る。

 すかさずその場にしゃがみこむ。
 揺れはすぐに収まった。
12 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 16:12:42.54 ID:QAMcOFU0
 黒子(ここにいても危ないですの……)

 すぐさま、廊下が続いている方向へと歩き出す。

 ギシ……ギシ……。

 足を乗せるたびに、古い床が不快な音を立てる。

 黒子(下手したら崩れかねませんわね……慎重にいかないと)

 やがて、廊下は右に折れる形になっていたが、その先は床が崩れ落ちていて前に進めない。
 しかし、目を凝らすと崩落の先には廊下が続いていた。

 一方、廊下が折れている反対側には上へとすすむ階段があった。

 さらにその手前側には『3-A』と札の掛かった部屋が。恐らく教室だろう。
 入口のドアは開いていて、中には入れるようだ。

 黒子(さて……どこへいけばいいですの……あと、テレポートで一旦外へ出てみるのもいいかもしれませんわね……)


 A:階段を登る。
 B:3-Aに入る。
 C:崩落した先までテレポートで進む。
 D:外へテレポートで出る。

 とにかく安価は>>30で。
 本日はここまでです。
13 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 16:26:15.82 ID:D.k4q.DO
コープスとのクロスって昨日たたなかったっけ?
14 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 16:26:51.38 ID:WfKCP2w0
>>13
たってたね
15 : ◆IsBQ15PVtg :2010/11/23(火) 16:39:00.85 ID:QAMcOFU0
>>13
1です。
しまった、今確認してきました。
てか、立っていたのに気づかなかった俺って。

とりあえず、向こうの作品が収まってからこっちを投稿しようか、向こうとネタがかぶらないようにやろうか……どうしようか。

ちなみにこちらはコープスBRと同時期の設定です。
16 : ◆IsBQ15PVtg :2010/11/23(火) 16:40:42.36 ID:QAMcOFU0
なお、選択肢については安価指定は取り消し。
次回投稿までに多かった選択肢にします。
17 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 17:11:12.99 ID:wRQdAkAO
ちと遠いな
ksk
18 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 21:40:30.14 ID:uuNvaUAO
雰囲気が出てて良い文だ
支援
D:外へテレポートで出る。
19 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 23:27:24.92 ID:qg0.w3.o
俺は安価の方がスムーズに進んで良いと思うけどな
まあ期待だぜ



Dの外にでる
20 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 18:52:58.66 ID:BHplYzQ0
読み易いな。期待

C:崩落した先までテレポートで進む。
21 : ◆IsBQ15PVtg :2010/11/28(日) 08:51:24.15 ID:JNGles20
回答に感謝いたします。
では、票が多かったDの選択肢で、少しだけですが投下いたします。
22 : ◆IsBQ15PVtg :2010/11/28(日) 08:52:10.85 ID:JNGles20
 黒子(迷っていても仕方がありませんの。とにかく、窓の外に見えている森の近くまで……)

 迷わずテレポートのための演算を行おうとしたとき……


 グラ……グラ……


 再び校舎が揺れだした。天井から砂埃や木片が舞い落ちてくる。

 黒子(と、とにかく早く……)

 瞬時に体はその場から消えてなくなった。


 黒子(……雨……どうやら外には出られたようですの)

 建物の外に瞬間移動した彼女の体に、空から落ちてくる無数の雨粒が容赦なく叩きつけてくる。
 目の前には3階建ての古びた木造校舎が、暗闇の中で不気味な影を落としている。
 右の方に何気なく目をやったとき……

 黒子(あれ?)

 目の前の光景に……何かしら違和感を覚えた。
23 : ◆IsBQ15PVtg :2010/11/28(日) 08:59:25.66 ID:JNGles20
 建物は右の方で途切れていた。
 そこから渡り廊下が伸びていて、さらに別の古ぼけた木造の洋館が、うっすらと不気味な姿を見せている。

 黒子(さっき黒子がいたところは、建物の端のほうではなかったはず……確か、建物が折れ曲がっている内側の地点を目標にしていましたのに……)

 そう、建物がL字状に曲がっている内側に来ていなければいけないはずなのだ。
 あまりにも違いすぎている。
 移動先の演算をミスったのかとも思ったが、それは無いはず。
 少なくとも、先程窓から見えた風景にこの渡り廊下の存在は無かったから。
 
 黒子(なのに……なぜですの?)

 今まで数え切れないほど瞬間移動を行ってきたが、こんな経験は皆無だった。

 能力の暴走か、目の錯覚による誤りか……それとも、窓の内と外で空間がまったく違うとか……?
 いずれも非現実的で、考えられないことばかり。
 原因を考えれば考えるほど、訳が分からなくなってしまい、混乱しそうになる。
 次第には、寒気さえ覚えた。

 黒子(気味が悪いですの。本当に、何がどうなってますの、ここは)
24 : ◆IsBQ15PVtg :2010/11/28(日) 09:00:13.08 ID:JNGles20
 だが、このままじっと考えていても仕方がない。
 雨粒がじとじとと体を濡らし、それが鬱陶しく感じる。
 とにかく渡り廊下に向かって歩きだす。

 黒子(周りはほとんど樹海……少なくともここが学園都市の中ではないことは明らかですの)

 延々と周囲を取り囲む樹海。
 灯などは到底あるはずがなく、まるで闇がすっぽりと取り囲んでいるかのようだった。

 やがて渡り廊下の所までたどり着いた。
 古びて一部が崩れかけた瓦屋根が廊下の上を覆っていて、雨は何とかしのげそうだ。
 高さ1mほどの朽ちた木の柵に囲われているが、乗り越える分には苦労はしない。
25 : ◆IsBQ15PVtg :2010/11/28(日) 09:00:55.98 ID:JNGles20
 黒子(こちらの扉は鍵がかかっていますの)

 上に【校舎別館】と書かれた木の札が掛かっている――洋館風の建物の扉は厳重に閉ざされていて、中には入れそうにない。
 こちらも木造であるが、先程いた建物と比べて窓が小ぶりになっている。
 そしてなにより……

 黒子(一体何ですの……変に圧迫されているような感じですの)

 なんとなくではあるが、息苦しさを感じてしまう。
 一方、反対側の建物の入り口のドアは開け放たれていた。
 その上には【校舎本館】と記された朽ちた木の札がかかっている。
 しかし、そこからも不気味な雰囲気を延々と吐き出しているかのように思えた。
 だが、別館前で感じる不快な空気よりか幾分ましな気はする。

 黒子(さて……とにかく、お姉さまや佐天さんや初春がどこにいるか探さないといけませんわね。でも、こんな不快な所に居続ける気もないですの)

 本館をとにかく探し回るか、樹海を突き進んでどこかの街まで出て、助けを呼ぶか。
 とにかく動かないことには始まらない。


 A:本館に入る。
 B:樹海を突き進む。


 本日の投下はここまでです。   
26 : ◆IsBQ15PVtg :2010/11/28(日) 09:10:34.06 ID:JNGles20
選択肢については……やはり安価にしましょうかね。
とりあえず、>>30でお願いいたします。
(無効なものがあった場合や次回投下時に安価まで至っていない場合は、その前にあるレスのやつを採用する方向で行きます)
27 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/28(日) 10:05:04.14 ID:OrhC/.AO
ksk
28 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 12:34:54.50 ID:qfEx0HIo
ksk
29 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 14:00:43.72 ID:3oqFVego
ksk
30 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 14:32:53.03 ID:SPhe7.AO
A:本館に入る。
31 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 21:11:45.63 ID:dmC/6QAO
まだですか
32 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 20:32:28.75 ID:H3VnwME0
お待たせしました。
続きを投下いたします。

>>31
お待たせして申し訳ありません。
ただ、今後も投下間隔が数日開く形になりますので、ご容赦願います。
33 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 20:33:32.74 ID:H3VnwME0
 黒子「行きますの……」

 誰に話すわけでもなく、そんな独り言をつぶやきながら、本館へと歩みを近づけていく。
 扉が開け放たれた先には、漆黒の空間が広がっていた。


 黒子「うっ……」

 思わずうめき声を上げる。
 急激に頭が締め付けられる感覚に襲われたのだ。

 本館の入口から重苦しい空気が漂ってきて、それが一気にのしかかる。
 さながら、目の前には大きな怪物が口を開け、瘴気を吐き出しているように思えた。


 目の前がふらふらとなって、倒れそうになるのををこらえながらも、一歩一歩校舎の中へ足を踏み入れる。
 そして、何気なく入口の右側に目をやると――

 黒子「ひっ!?」

 目に飛び込んできたものに、思わず情けない声を上げてしまい――全身から力が抜けて、その場で尻餅をついてしまう。


 そこにあったのは――1体の骨。
34 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 20:34:23.22 ID:H3VnwME0
 黒子「ひ……人の骨ですの……!?」

 恐る恐る、人骨まで近づき、全体を眺め回す。
 どこかの学校の制服だろう、茶色のブレザーとスカートを身に着けたままだが――肉はすっかり消失していて、さらけ出された骨には赤黒いシミが所々にこびりついている。
 頭蓋の部分からは長い髪がまばらに伸びていることから、服装とあわせてそれが女性のものだと示している。

 自然と息が荒くなっていた。それが黒子自身の耳にもはっきりと聞こえている。
 無意識のうちに全身が小刻みに震えていたが、なんとか押さえ込もうと必死になっていた。
 
 黒子(……亡くなってから恐らく1ヶ月以上ですわね。頭に大きな陥没があるから、恐らく鈍器で殴られたのが直接の死因ですの……?)

 そして、近くに落ちていた小型の手帳を拾い上げると、中身を確認する。
 手帳には部活などのスケジュールなどがびっしりと書き込まれていた。
 内容からして、演劇部に所属していたと推測できる。
 さらに、中に生徒証が挟み込まれていた。

 黒子(……武蔵川女子中学校・高等部U-3 成瀬実香……。おそらく学園都市外の学校ですわね)

 手帳を閉じて、そのまま遺体のそばにそっと――置こうとしたその時――。


 ??「……ちはやちゃん……なぁなちゃん……」


 か細い、はかなげな少女の声が――聞こえた。

 どこからともなく――ではなく、遺体から。

 遺体自身が自らの意思で話したかのように……。
35 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 20:35:06.41 ID:H3VnwME0
 黒子「ど、どうなっていますの!?」
 
 目の前の信じられない光景に、とっさに仰け反ってしまう。 
 そして、あらためてまじまじと目の前の遺体を眺めなおす。

 先程とまったく変わった様子はない。
 口元はおろか、わずかに動いた形跡はない。
 常識的に考えて、先程のようなことはありえないはずなのだが……確かに聞こえたのだ、声が。

 黒子(ひ、非常識にも程がありましてよ。遺体が話すなんて……そんな非科学的なこと考えられませんの)

 第一、白骨死体があるだけでも既に常識の範疇を超えている。
 まして、死体が話し出すということなんて、ありえないにも程があった。

 黒子(聴覚系の能力が発動したとか……?)

 ともあれ、何があったのかは詳しくは分からないが……少なくとも、目の前の遺体の主に尋常ではない事態が降りかかったのは確かだ。
 ゆっくりと立ち上がると、遺体に手を合わせ、哀悼の意を示す。

 そして、一呼吸してから――といっても、あまりにも湿り気がありすぎて、喉に不快感を覚えたが――ゆっくりと通路の先へと歩き出す。
36 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 20:35:50.77 ID:H3VnwME0
 ギィ……ギィ……


 足を踏み出すたびに、床が軋む。
 さながら、そのまま体重を掛けたら、抜け落ちそうに思えてしまう。
 軋みが光の無い廊下中に響き渡り、不気味さをいっそうかもし出していた。
 所々にある、朽ちて抜け落ちた箇所に気をつけながら、恐る恐る廊下を進んでいたその時――


 ……ドタドタドタ……


 どこからともなく、廊下を走る音が聞こえる。
 明らかに人のものだった。

 黒子「ちょっと、誰かいますの?」

 とっさに駆け足で声のした方向へ向かおうとした。
 が――


 『……ヴヴヴヴヴヴヴ……』


 黒子「ひっ……?」

 目の前の暗闇から、女性の低いうめき声が響き渡った。
 思わずその場で足が止まり、立ちすくんでしまう。
37 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 20:36:42.91 ID:H3VnwME0
 そこは、ちょうど廊下が左右から伸びている広い通路と交わる箇所になっていた。
 十字路になっているわけだが、右前方から左手前にかけて、大きな裂け目が走っている。
 前と左には歩いて進めない形になっていた。

 足音は右の方からだんだん近づいてくるわけだが……


 ??「……アッハァアアアアア!!イイイイイイイイイ!!」


 甲高い少女のものと思える奇声が黒子の耳をつんざき、同時に大きくなった荒い足音が右から左へと流れ去る。
 ちょうど目の前で、床の木材が折れる音がした。


 だが――人の姿はまったく見えなかった。
 しかも、音は大きな裂け目を越えて、左方に伸びる廊下の奥へと消えていった。
38 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/03(金) 20:37:22.22 ID:H3VnwME0
 黒子「何が……どうなっていますの……?」

 音だけがして、姿がまったく見えない。
 視覚系の能力者――例えば、視覚阻害か――そんな推測をした。

 だが、黒子が知る限り、学園都市で把握している視覚系の能力者は――1人だけ。
 しかも、その人物とは以前に学園都市で起きた事件で顔見知りであった。
 少なくとも、こんな声質の持ち主ではないはず。

 黒子(……としたら、学園都市外で視覚系の能力者がいたとか……?)

 正直考えにくい推測だが――今目の前で起きたことをそれで納得しようとした……が。

 ??「しのざきぃ!!」

 今度は若い男の声。

 姿は見えなかった。
 やはり、目の前を右から左にかけて走り去る足音が聞こえるだけ――。

 黒子(視覚系の能力者がもう一人……学園都市の外にこんなに能力者がいるなんて……本当に信じがたい話ですの)

 先程の遺体の件といい、立て続けに出くわした納得しがたい事態に、一瞬呆然としてしまった。
 
 ふと左のほうへと目を向ける。
 大きな裂け目の先には、所々穴の開いた朽ちた廊下がただ延々と伸びているだけ。

 黒子(とにかく追いかけてみましょうか。何かここのことについて聞き出せるかもしれませんの)

 そして、裂け目をテレポートで超えるために、演算にとり掛かろうとした……その時。
39 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 20:39:28.75 ID:H3VnwME0
 『……いやああああああああ!!こないでええええ……』
 
 黒子「初春!?」

 演算を止め、少女の悲鳴のした方向――右へ伸びる廊下に目をやる。
 悲鳴の大きさからそんなに遠くないはずだ。

 黒子(初春、とにかく今行きますから!!)

 そして、即座にテレポートを行う。
 移動した先には――


 黒子「うっ……」

 目の前に広がっている光景に、思わず口に手をやる。
40 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 21:13:51.34 ID:H3VnwME0
 廊下に散在する――4体の人骨。
 向かって右側には3体が散乱していた。
 いずれも紫のブレザーに黒いズボンを着用していた――どこかの学校の男子生徒のようだった。
 うち1体の――傍に眼鏡が転がっていた――遺体の頭には、陥没した跡が見られる。

 一方、反対側には1対の人骨があり、近くには先程見た遺体と同じ色と形状のブレザーとスカートが散乱している。

 そして――周囲の壁や床に赤黒いシミがおびただしくぶちまけられていた。


 黒子(ここで……何が起きましたの……?)

 ここまで見てきた遺体はすでに5体。
 明らかに常軌を逸していた。
 得も知れない感情が黒子を襲い、体を小刻みに震わせる。

 黒子(……!! 初春は!?)

 慌てて周囲を見回すが、初春の姿は見当たらない。
 廊下はさらに奥へと伸びていたが、うっすらとではあるが、先には壁があって突き当たりになっているようだ。

 黒子(先を急ぎますわ!!)

 再びテレポートで移動をしようとしたその時――!!
41 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 21:16:14.11 ID:H3VnwME0
 ??「……キ……ザ……ミ……」

 
 右に固まっている3体の白骨死体のほうからする、低い男の声。
 恨みが篭っているとも思える、その不気味な呟きは、しっかりと黒子の耳にも届いた。


 ??「……サビシイヨ……イタイヨ…………ナァナ……チャン……」

 今度は、左側の女生徒の亡骸からする、今にも途切れそうなか細い少女の声。


 黒子「一体、何ですの!?」

 立て続けに起こる、遺体からの呟きに、湧き上がる苛立ちをぶつける。

 黒子(こんなことをしている場合ではないですの!!)

 すぐさまテレポートでその場を離れた。


 目に入ってきたのは――真っ赤に塗られた引き戸。

 黒子(……これまた不気味ですの。用務員室かしら?)

 引き戸の上には【用務員室】と書かれた札が、今にも落ちそうな感じで壁に掛けられていた。
 中は電灯が灯っているのか、引き戸にある曇りガラスから光が漏れている。そして――


 ……シャーッ……


 黒子(……この音、テレビのノイズの音みたいですの……)
 
 中に入ろうと、扉に手をかけるが、鍵が掛かっていて開かない。
42 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 21:17:21.52 ID:H3VnwME0
 ドンドン!!


 黒子「誰かいますの!?」

 大きくノックをして声をかけるが、中からはただノイズの音が延々と聞こえるのみ。
 どうやら誰もいないようだ。

 黒子(とにかく、初春は!?)

 正反対の方向に向き直り、周囲を眺め回す。

 右手には廊下が伸びており、先は暗くてよく見えない。
 一方、左手はモルタル製の薄汚れた白壁が広がっていて、それより先には進めない。
 そして、正面は窓があるだけの六畳ぐらいの広さのスペースが広がっているだけだったが――

 ――窓の下には――ぽつんと人影が見えた。
 暗くてあまりはっきりとは見えないが、確かに服を着た人がうずくまっているようだ。
 

 黒子「……初春?」

 はっきりとは分からないものの、恐る恐る声を掛けてみる。

 が、返事が返ってくることはなく、ただ、背後の用務員室からノイズの音が響くのみ。

 恐る恐る、その人影に近づく。


 ……ギシ……ギシ……


 歩みを進めるたびに、足元から響く朽ちた木の軋み。


 ……ゴクリ……。


 思わず固唾を呑んだ。
 これまで見てきた数多くの異様な事態から見て、まさか――。
 一瞬、想像したくなかった結末が頭に浮かぶが、否定しようと懸命に頭を振る。
43 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 21:18:35.65 ID:H3VnwME0
 黒子(……!!)

 いきなり鼻を突く腐臭に思わず、口元を塞ぐように手を当てる。
 先にあるのは……どうやら死体のようだった。

 やがて、漂う腐臭のきつさに何とか耐えながらも、人影の近くまで到達した。
 目に入ってきたものは――セーラー服のものと思える赤い帯――!!


 黒子(……!!)

 つい先刻に思い浮かべた、最悪の結末が頭をよぎった。
44 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 21:19:22.69 ID:H3VnwME0
 が――

 黒子(……やはり……また……遺体ですの……)

 目の前に横たわっていたのは――初春ではなく――1体の女生徒の亡骸。
 セーラー服を着ていたものの、半袖である上に、そもそも柵川中学校のものではなかった。
 髪は長く伸びていて、頭には黄色いリボンが付いていた。
 よくは見えないが、腐敗が進行していて、全身はすでにミイラ化しているようだ。
 左足のかかとの辺りには、布が巻きつけられていたが、ほとんどが赤黒く染まっていた。さらには床にまで赤黒いシミを大きく広げていた。
 どうやら、アキレス腱の辺りを損傷させて、出血が止まらないまま死に至ったようだ。

 さらには眼窩や鼻腔と思える部分には、何かしら白いものが無数にうごめいているのが目に付く。

 目を凝らすと、それが何なのか分かった――死体に蠢く蛆虫であるのが。


 黒子「うっ……!!」

 思わず吐き気を催して、遺体から目をそむけて、その場にうずくまってしまう。
 さすがに、精神が持ちこたえられそうにない。

 いくら風紀委員(ジャッジメント)だとはいえ、そもそも死体に向き合うこと事がなかったのだ。
 その辺の状態になると大体は警備員(アンチスキル)の領分になる。
 立て続けに数多くの遺体を見て、ここまでなんとか耐えてきたこと自体、珍しいといっても過言ではない。 
45 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 21:22:20.97 ID:H3VnwME0
 黒子「……はぁ……はぁ……収まりましたの……。でも……もうこれ以上は限界ですの……」

 荒く息をしながら、うつろなままゆっくりと目を上げる。

 
 ――手帳のものと思える用紙が数枚、床に散らばっているのが見えた。

 黒子(……何か書かれていますわね……)

 目を凝らして見つめてしまう。書置きのようだった。
 字が乱れて、所々が読めない。
 数枚にわたって書かれているものの、字が所々乱れて読めなくなっている。
46 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 21:22:53.97 ID:H3VnwME0
 黒子(『……ね……え……さ……ま……ど……う……し……て……』って、この人は妹ですの?)

 そこでふとある人物の顔が目に浮かぶ。

 黒子(……お姉さま……大丈夫でしょうか……)

 この廃校で目を覚ましてから、美琴の姿は一度も見ていない。

 黒子(一刻も早く一緒になりたいですの。こんな異様な空間で一人だと耐えらませんの!!)

 そして、さらに文字の続きを目で追う。


 黒子(『……イ…タ…ィ……イ…タ…ィ……ググゥゥゥ……死ンデモ……痛ミガ……続ク……ナンテ……グギギギィ……』)

 黒子(って、おかしいですの!?死んでからこの文章を書いたわけですの!?)


 ふと気づいた矛盾に、一瞬背筋が凍る。
 ゴクリとつばを飲み込んで、恐る恐る先を読み進めた。


 黒子(『イヤァァァ!!イヤァァ!!イヤアアアアアアア!!』……死んでからの苦しみですの、これ!?)

 明らかに異様な文面に、全身を震わせてふと目を上げた――その時!!
47 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 21:24:34.77 ID:H3VnwME0
 ボワッ!!

 遺体から何か湧き出る音がしたかと思うと……遺体の真上にそれは浮かび上がっていた。


 ――血のように真っ赤な色をした……燃えたぎる炎のような――いや、時折人の形をとる――モノが。

 
 黒子「ひっ、ひぃぃ!!」

 突如生じた光景に、情けない声を上げて、思わず背後にのけぞらせた。

 そんな彼女の様子にお構い無しに、そのモノはゆっくりと話し出した。
 恨めしさが篭った、さびしげな少女の声で……。


 ??「……ねえさま の うそつき……」

 黒子「…………」

 体は強張っており、その場から動くことさえできなかった。
 自身の息が明らかに荒くなっていくのが分かる。
 冷や汗が全身を伝い落ち、全身が冷たく感じてしまう。
48 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 21:25:55.95 ID:H3VnwME0

 ??「……私を置イテ行クのデスネ……ユ ル サ ナ イ」


 ボワッ!!

 途端に書置きに炎が沸きあがったかと思うと……一瞬のうちに燃えつくされてしまった。

 ??「ニクイ……ネエサマ……イ タ イ ヨウ」

 そのモノはゆっくりと……じわじわと黒子に近づいてきた。

 黒子「……ひっ!!」

 一刻も早くこの場を立ち去りたいという感情だけが、すでに彼女の脳を支配していた。
 すぐさまテレポートでその場を離れる。
49 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 21:27:27.47 ID:H3VnwME0
 黒子「もう……こりごりですの……」

 どこに移動するかなんて、考えずにとっさにテレポートをした。
 はっきり言って、今現在どこにいるかなんて分からない。
 いや、この空間で場所を把握してテレポートを実行しても、演算と大きくズレた……いや、完全に違う位置にいることがあるのだ。
 ましてや、先程まで黒子の目の前で起こった、数々の理解不能な現実。
 どこにいるかを知るなんて、ある意味無意味なようにも思えてきた。

 テレポートした先で――目に付いたのは先にまっすぐ伸びる廊下。
 しかし、床には廊下を寸断するかのように大きな裂け目が入って通ることはできない。

 右手にも廊下が伸びているようだ。
 左手には『5-A』と書かれた札の掛かったドアがあった。
 扉は閉まっている。

 黒子(とりあえず……初春はどこに……)

 どこから探し出そうかと思った――その時。
50 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 21:29:20.26 ID:H3VnwME0

 ??「……おねえ……ひゃん……」

 背後から――幼い男の子と思われる声が……聞こえた……。


 A:背後を振り返る。
 B:前方の裂け目に先までテレポートで移動する。
 C:『5-A』の内部にテレポートで移動する。
 D:右に伸びる廊下へと走り出す。


 本日はここまでです。
51 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/03(金) 21:32:06.68 ID:H3VnwME0
>>50
おっと、間違いが。

正『B:前方の裂け目の先までテレポートで移動する。』でした。

なお、安価は>>62でいこうかと思いますので、お願いいたします。

52 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 21:32:18.71 ID:WWzQ7nMo
こ、こええ・・・
選択肢次第で誰か死んでしまうかと思うとマジこええwwww
というわけで安価は他の人に任せたww
53 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 22:50:03.43 ID:xcK5TX.0
ksk
54 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 23:04:46.40 ID:7d3hCYAO
良いわーゾ ゾ す 
     ク ク る

遠いけど一応選択しとく、
C:『5-A』の内部にテレポートで移動する。
55 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 10:24:47.28 ID:R1.sVWE0
う、初春はどうなった!?
56 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 17:06:42.34 ID:mVIktkAO
ksk
57 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2010/12/06(月) 20:46:28.87 ID:vJmjsU60
1です。
続きですが、深夜以降に投稿できる見込みです。
58 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2010/12/06(月) 20:48:34.78 ID:vJmjsU60
安価ですが、62までいっていませんでしたら、直前に近いほうを採用しようかと思います。
なお蛇足ですが、今回の選択肢のうち3つはWrong ENDで考えております。
59 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 21:00:53.51 ID:uUJk8xoo
安価は先3レスくらいが限度。
それ以上はただのレス乞食と同じ
60 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 21:02:57.57 ID:V4d77Sko
VIPでもよっぽど賑わってないと10レス先は厳しいよね
製速での人多めな安価スレでも2〜3レス先で回ってるしその位が丁度いいのかも
61 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 05:31:18.97 ID:4XfRqas0
>>59>>60
アドバイス感謝です。

さて、早朝になってしまいましたが、続きをCで投下いたします。
62 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 05:32:48.25 ID:4XfRqas0
 黒子(だ、誰ですの?)

 一瞬振り返ろうと思ったが、途端に頭の中で警鐘が鳴り響く。
 ただ、得も知れない不気味さを感じるばかりだった。

 黒子(こんな死体ばかりが転がっている空間で、幼い男の子だなんて……おかしいですの)


 ??「……どうして……ぼふをころひたの……」

 背後からした声に、ぞっと背筋を冷たいものが流れ落ちる。

 ――すぐに立ち去るべきだ。
 よく見ていないので、そうはっきりとした根拠があるとはいえないものの、第六感がそれをしきりに訴えかけている。
 少年が話しかけてきた内容からも、少なくとも生きている人間でないことは明らかだ。


 黒子(とにかく、あの5-Aの教室の中へ……)

 思うと同時に、姿はその場から消えた。
63 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 05:33:23.08 ID:4XfRqas0

 ??「……ユ ル サ ナ ヒ……」


 その場に残された青白いモノ――それは少年の形をとっていた――は、目の前で黒子が消えたあとの空間をただ、恨めしそうに見つめていた……。
64 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 05:34:24.68 ID:4XfRqas0
 黒子「ち、ちょっと!?」

 瞬間移動した先は、教室の中で――床に大きく裂け目が入っている箇所だった。
 下へと広がる漆黒の空間に、ただ黒子の体は自然法則にしたがって落下していく。

 黒子(まさかこうなっているとは……とにかく床のあるところまで……)

 落下しながらも、すぐさま上のほうに見えている床がある箇所まで、瞬間移動をするため演算にかかろうとした――が。



 ――もう、それは――できなかった。

 ――遅すぎた。
65 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 05:35:19.53 ID:4XfRqas0
 黒子「――ぐっ!!」

 腹の辺りが急激に熱くなる。
 まるで、体の中から火が燃え盛るかのように――

 黒子(な……何が……)

 かすむ目で、何が起こったか見ようとした。



 そこにあったのは――尖った柱に貫かれた……黒子の体。

 柱には赤い血が毒々しく塗りたくられていた。

 まぎれもなく自分自身の血。
66 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 05:35:49.20 ID:4XfRqas0
 黒子(そ、そんな……!!)

 何が起こったのか分かった途端――言葉にできない激しい激痛が全身を駆け巡る。
 

 黒子(――痛い、痛い、痛い、痛イ、いタイ、イタい、いたイ、いた……)

 壊れた火災報知器のように、ただ同じ言葉が延々と頭の中でループして。


 黒子「……が……がああ……」   

 声にすらうまく出すことができない。
 腹からはもちろん、口からも血があふれ出す。
 全身はおろか、指すら動かすことすらできない。

 黒子「……あああ……ぐぐ……」

 血を吐きながら、うめき声をあげるだけ。
 なおも、激しい痛みだけが黒子を襲いながら――意識はゆっくりと薄れていく。

 黒子「……がが……あぐ……」

 何かを言おうとしたが、もはや言葉にならない。
67 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 05:36:28.76 ID:4XfRqas0
 黒子「……が……」

 目の前が完全に真っ暗になる前……誰かの顔が、黒子の脳裏をよぎる。

 それは――



 黒子「…………」


 ――目から光が消えて……四肢がだらしなく垂れた。

 それが何か――黒子は分からないまま――。 
68 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 05:37:32.39 ID:4XfRqas0
(暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

 テーレレテテテレテー
 
   Wrong End

 ビターン
(押し付けられた左手の赤い手形。人差し指がない)
69 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 05:56:45.61 ID:4XfRqas0
今回のようにWrong ENDに入った場合ですが、基本的には続きについては、Wrong ENDではない選択肢で話を進めようと思います。
(但し、展開上Wrongの状態で話を進める可能性もあるかもしれません)

続きは"D”で話を続けようかと思いますが、希望があれば他の選択肢(Wrong END)の話も書こうかと思います。

できれば今夜にもう一回投下できるかと思います。

>>55
これについては……申し訳ありませんが、今の所はノーコメントとさせていただきます。
70 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 06:12:26.48 ID:bBqlLcDO
黒子が死ぬ展開しか想像出来ない
声優的に考えて
71 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 07:52:09.66 ID:ZzSTmkAO
>>69
乙!!
ホラー好きとしては"A”を見ずには終われないんですよぜひおねがいします
72 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 13:14:58.49 ID:4XfRqas0
ちょっと時間がありますので……>>71のリクエストにお答えします。
選択肢"A"での話を投下します。
73 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 13:15:47.96 ID:4XfRqas0
 黒子(だ、誰ですの?)

 そして、振り返って見た、その先には。



 ??「……どうして……ぼふを……ころひたの……」


 黒子(――!!)


 背後にいた"ソレ"と目が合ってしまった――。

 途端に金縛りに掛かったかのように、体を動かすことができない。
74 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 13:16:13.63 ID:4XfRqas0
 そこにいたのは――1人の男の子。

 顔はおろか、全身は青白く――生気はまったくなかった。

 腹は大きく引き裂かれていて、そこから血がおびただしく出ている。

 さらには口からも幾筋の血が垂れていた。


 黒子(――体が……動かない……!?)

 体はおろか指すら動かすことができなかった。

 黒子(――な、何ですの!?)

 思考もほとんど働かない。
 テレポートの演算はおろか、それをしようとする思考すら浮かばない。

 ただあるのは――恐怖。
 得体の知れないものに対して、何もできなくなり、ただ怯えるしかなかった。
75 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 13:16:48.43 ID:4XfRqas0
 黒子(ひ、ひぃ……)

 "ソレ"の顔が、じわじわと大きくなっていく。
 ゆっくりと迫ってきていたのだ。

 そして、黒子の目はじっと、目の前の"ソレ"の瞳に釘付けになっていた。


 まったくの無表情な少年の顔。

 大きく見開かれた瞳。

 そしてさらに大きくなっていく、漆黒の瞳。
76 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 13:18:10.64 ID:4XfRqas0
 黒子(……ひぃ……え?)


 瞳の中に浮かぶ白い物体。

 それは――人の顔だった。

 誰の顔かは――よく分からない。

 怒ったり、笑ったり、苦しんだり……。

 それは様々な形に変化させ……じわじわと大きくなっていた。
77 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 13:18:42.50 ID:4XfRqas0
 黒子(……い、いや……嫌、いやああああああ!!)

 心の中で湧き上がる、さらなる感情。

 恐怖、嫌悪――。

 動くことも、考えることもできないまま、ただじっとそれらに呑まれていた――が。



 ??「……ユ ル サ ナ ヒ……」



 ――いきなり

 ――下腹部に

 ――激痛が。
78 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 13:19:21.92 ID:4XfRqas0
 黒子「あぐ!! な、何をじますの!?」

 
 ――鋏。

 ――少年の手に握られた、大きな断ち切りバサミ。 


 黒子「や、やめ……ああああああああ!!」

 それは――黒子の腹に突き立てられ――

 動きを止めることなく、ただ腹部の肉や内臓を――

 断ち切ったり、えぐったり――


 黒子「痛い!!イタイ!!いたイ!!イタい!!がああああああああああ!!」

 その後から、絶え間なく流れる――赤い液体。

 そして、じわじわと押し出される―ー赤いモノ。

 なおも襲い掛かる――容赦の無い痛み。
79 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 13:20:05.57 ID:4XfRqas0
 黒子「が……あ……」

 口から吹き出る大量の泡と――血液。
 そして、断末魔――。


 黒子「…………」



 バタン……。


 ――糸の切れた操り人形のように、

 黒子の体は、ゆっくりとその場に崩れ落ちる――。


 そして、瞳からはみるみるうちに――

 光が消えていった――。
80 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 13:21:19.27 ID:4XfRqas0
(暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

 テーレレテテテレテー
 
   Wrong END

 ビターン

(押し付けられた左手の赤い手形。中指がない)
81 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/07(火) 13:23:39.19 ID:4XfRqas0
投下はここまでです。
選択肢"D"からの続きは、夜以降にいけたら投下します。
82 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 14:27:00.90 ID:ZzSTmkAO
サンクス!いいもん観れました!鋏ですよ鋏、え〜趣味してはりますな〜ww
Endが微妙に違うのは何かこの先、影響あるのかな
83 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/07(火) 16:38:04.45 ID:/era.rY0
>>13の言っていた、もう一つのコープス×禁書のスレ立て主ですが、現在PCが故障中なので>>1さん、安心して書いてくださいね。では。
84 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 23:27:44.09 ID:bBqlLcDO
単独行動とかめっちゃきつそうだな
原作は一応二人一組で行動してるし
85 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2010/12/08(水) 03:48:41.27 ID:aTr/TGY0
>>82
Endが違うのは、原作とはちょっと異なったようにしようと単に思っただけではありますが……この先については影響がある場合があるかもしれません。
>>83
ありがとうございます。いち早い復帰を願っております。
(そちらのスレにも書き込みをさせていただきました)
>>84
きついというより、この空間では危険ですね。だが、そこをあえてやってみようということで……。

さて、今から>>81の通り、"D"のルートで投下します。
86 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 03:53:09.32 ID:aTr/TGY0
 すかさず、右に伸びる廊下へと走り出す。
 後ろを一切振り返ることなく。

 黒子(冗談抜きで……嫌な予感がしますの)

 こんな死体がいくつも転がっていて、挙句の果てには得体の知れない『モノ』が平然と出現する空間だ。
 そんなところに幼い男の子が、何事もなかったかのように歩いている……とは到底考えにくい。

 床は所々抜け落ちていて、中には50cmほどを残してすべて抜け落ちている一本橋のようなところもあったが、なんとか無事に通り抜ける。

 そしてたどり着いた先は……


 黒子(まさか、ここに出てくるとは……わたくしの能力も相当狂っていましたのね)

 ――4体の白骨死体が転がっているエリアだった。

 黒子(……とにかく、様子を見て初春を探さないと……さっきのには遭遇しないようにしないといけませんわね……)

 そう思って、振り返ったとき――

 廊下の奥から、何か青白い物体が浮かび上がっているのが見えた。
 ゆっくりではあるが、こちらに近づいてきているのが分かる。

 黒子(あれは……何ですの?)

 その場に立ち尽くして、それが何かじっと見つめる。



 ??「……どうして……ぼふをころひたの……」
87 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 03:53:59.25 ID:aTr/TGY0
 黒子(!!)

 それは――先程、背後から呼びかけてきた声……!!

 途端に、全身を悪寒が走り抜ける。
 冷や汗が一気に流れ落ち、息が荒くなってきた。

 黒子(……は、早く……テレポートで……)

 演算を行おうとするものの……なぜかうまくまとまらない。

 黒子(……な、なにをしてますの!!早く!!)

 焦りだけが頭の中を駆け巡り、集中できないのだ。
 いや――それ以外にも何かの感情が演算を妨げていた。
88 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 03:54:31.87 ID:aTr/TGY0
 
 ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……。

 
 自らの呼吸の荒さだけが耳に響く。
 心臓がけたたましく鼓動し、全身が一気に震えだす。

 黒子(……こんなことって、今まで……)

 無意識のうちに、顔をふと上げたその時。


 ??「……ユ ル サ ナ ヒ……」


 "ソレ"は黒子の――ほぼ間近にまで迫ってきていた。

 黒子(……小学生……ですの?)


 ――小学生ぐらいの男の子。

 ――顔はおろか、全身は青白く――生気はまったくない。

 ――腹は大きく引き裂かれていて、そこから血がおびただしく出ている。

 ――さらには口からも幾筋の血が垂れていた。
89 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 03:55:26.90 ID:aTr/TGY0
 黒子(……な……ホログラムとかですの……?にしては、冗談が過ぎましてよ。馬鹿馬鹿しいったらありゃしませんの)

 根拠はないものの、そう思って無理に目の前の事象を納得しようとした。

 そうでもしないと、これまでに生じた異様な感情――いや、恐怖感を抑えられなかったのだ。
 抑えないと正直やってられなかった。
 これまで、ジャッジメントとして様々な凶悪犯と向き合って、時には修羅場を潜り抜けてきた自分が、こんなのに異様なまでの怯えを感じたなんて――。
 そんな自分自身を恥と思う気持ちが、心の片隅にはあった。

 黒子(さあ、お相手して差し上げましょうか……)

 そう思って、少年に目を合わせようとした――その時。



 『……さん!!ソイツに目を合わせないで!!』
90 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 03:56:28.01 ID:aTr/TGY0
 黒子(お姉さま!?)

 突如、どこからともなく――それもすぐ背後から――響いた叫び声。
 それは紛れもなく……。

 黒子「お姉さま!!」

 反射的に大声で呼びかけて、背後を振り返る。


 ――が、そこには誰もいない。


 黒子「どこですの?」

 慌てて背後を振り返るが……姿はなく……返事もない。 

 黒子(今のは確かにお姉さまの声。それも間近から……でも、姿は無い。どういうこと……)

 そこまで思いを巡らせた時――
91 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 03:57:28.95 ID:aTr/TGY0

 ??「いっふぉに……」


 耳元で……あの少年の声が聞こえた。

 いつの間にかすぐ近くに迫ってきていたのに気づかなかったのだ。 
 途端に、全身に震えが走る。

 
 が――、


 黒子「くっ!!」

 ――やることは分かっていた。
 声だけであっても、尊敬する人からの忠告を――無下にするわけがない。
 
 体の震えや――恐怖感は微塵も無かった。
92 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 03:58:29.48 ID:aTr/TGY0
 黒子(恐らく、この少年に目を合わせたら……最期ですの)

 体は――すんなりと動いた。
 すぐさましゃがみこむような姿勢をとると、少年の脇をすり抜けるようにして、背後に回る。

 そして、振り返ることなく、一目散に通路の奥へと無我夢中で走り出した。


 ??「……許ふぁ……ナ……ひ……」


 背後から少年の声がするものの、だんだんと小さくなっていくのが分かる。
 恐らく距離が離れていっているのだろう。

 だが――振り返りはしなかった。
 振り返った所で、目が合ってしまっては、すべてが無駄になってしまうからだった。

 ただ、がむしゃらに――朽ちた床を駆け抜けた。


 
 ??「……おねぇ……ひゃん……」


 だが、それでも声はまだ聞こえる。
 距離はだいぶ開いているはずなのだが、それでも追ってきているということだろうか。
93 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 03:58:58.46 ID:aTr/TGY0
 黒子(このまままじゃ、埒があきませんの。こうなったら、テレポートで……)

 そこまで思いかけたとき、思わずつまづきかけた。
 床の穴に足を引っ掛けてしまったのだ。

 黒子(これで、転びもしたら……背後から追ってくる少年に捕まるか、最悪床の穴に落ちてしまうか……ロクなことがないのは明らかですの)

 すぐに体勢を立て直し、勢いを落とすこと無く、廊下を走り出す。

 黒子(こんな崩れかけた場所ですの。移動先の状況を十分に把握しないままで、テレポートを使ったら危ないですわね)

 やがて廊下の突き当たりまでたどり着く。
 T字路になっており、右は先程進んで赤い扉と……あの赤い"モノ"と出くわした場所で行き止まり。
 第一、裂け目ができていて進めない。

 迷わず左へと進路をとる。

 が――、
94 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 03:59:38.80 ID:aTr/TGY0
 黒子(――!!)

 左はすぐに袋小路になっていた。
 いや、右手には扉はあったものの――得体の知れない呪文がびっしりと書き込まれた札が無数に貼られていた。
 何かを封印しているように思えたが、今はそれが何かを考えている暇はない。

 恐らくすんなりと開きそうにはない――。
 下唇を噛みながら、立ち止まって、正面の壁をにらみつける。


 ??「……イッ……ひょ……ひ……」

 なお、遥か後方からだが――確実に聞こえる少年の声。

 黒子(まずいですの)

 全力で走って流れた汗と一緒に、冷や汗もにじみ出てくるのを感じた。
95 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 04:00:06.98 ID:aTr/TGY0
 ふと上を見上げる。

 ――そこには、木張りの天井。
 一部の木材は朽ちて、今にも落下しそうな勢いで垂れ下がっているのが見られた。

 が――少なくとも、黒子のいる真上のスペースは崩れ落ちている様子は見られない。


 黒子(こうなったら、一か八かですの!!)

 構造上、恐らくこの上は校舎の2階の廊下か教室のはず。
 演算をすばやく終えると、黒子の姿は瞬時にその場から消えた。


 ――直後に、青白い少年が、袋小路にたどり着く。


 ??「…………」

 追いかけていた対象の姿がなくなったのに対して――表情を変えず、ただじっと突っ立っていた。
96 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 04:00:49.94 ID:aTr/TGY0
 黒子「どうやら、撒くことができたようですわね」

 息を切らしながら、改めて瞬間移動した先の状況を確認する。

 廊下が正面と右手に伸びていた――が、右手は先の箇所で大きく崩れていて、進めそうにない。

 一方、左手にも廊下があるように思えたが――すぐ先の箇所で、椅子や机が無造作に積み重ねられていて、天井までバリケードが形成されていた。
 わずかな隙間から、上へ登る階段が見えるものの、容易に行けそうにないのは明らかだった。

 とりあえず、前へと進むことにした。
 幸い、廊下は所々が小さく穴が開いている程度で、進むのに支障は無い。


 すぐさま左手に教室が見えた。
 入口の上に『2-A』と書かれた札があった。
 しかし、入口の扉はまるで模型のようにその場にがっちりと固定されていて、開きそうにない。


 さらに先へと進んだとき……ふと足を止めた。

 黒子(『3-A』……ちょうど、わたくしが目を覚ました場所ですの)

 そう、最初に目を覚ました廊下まで戻ってきた――はずなのだが。
97 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 04:01:23.44 ID:aTr/TGY0
 黒子(様子が……おかしいですの。先程と、まったく違っていますの)

 そう――ちょうどここに至る廊下は、大きな裂け目が廊下を横断していて、歩いていくのは明らかに無理だったはずなのだが。
 しかし、今見てみると、そんな裂け目は見当たらない。

 まるで、一瞬にして崩れ落ちる前まで時を遡ったかのように……と言うのは間違いなのかもしれない。


 ――『3-A』の2つある入口の手前のスペースがいずれも抜け落ちていたのだ。
 廊下自体は半分ほど残っており、気をつければ通れるのだが、少なくとも『3-A』の教室には入れそうにない。
  
 黒子(崩れた所が直っていて、違う形で崩壊して……どうなっていますの、この廃校舎は?)

 先程いた建物と瓜二つの構造の建物に迷い込んだのか。
 となると、それは外に出たとき――?

 でも、先ほどいた建物の概観は本館で間違いないはず。
 現に、右手の窓から直角に折れ曲がった建物が見えるのは、目を覚ましたときと変わらない光景だ。
 テレポートの位置が大きくズレたりしたことも考えると――。

 黒子(今、そんなことを考えても、頭がこんがらがるだけですの。唯一ついえるのは――)
98 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 04:02:10.20 ID:aTr/TGY0
 改めて、今いる空間を眺め回す。
 ふと張り紙が目に入る。


 『ろうかをはしるな』とひらがなで書かれている。

 『走った者は厳罰に処す』と、さらに隣の行に書かれている。

 ――先程見たときは、こんな漢字書きの厳つい文はなかったはずだった。


 黒子(ここが……少なくとも学園都市はおろか、わたくしたちが住んでいる次元とは異なる亜空間にいるっぽいということでしょうか……)

 一見、突拍子も無い推測だが――これまで遭遇した状況を考えると、あながち間違いだとも思えない。
99 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 04:02:37.17 ID:aTr/TGY0
 黒子(まあ、このままじっとしていても仕方が無いですわね)

 ため息を一つつくと、ゆっくりと歩き出した。
 すぐに廊下の突き当りにぶつかる。

 右にも廊下は伸びているはずだが――やはり、先程と変わらず、大きく崩落していて進めそうに無い。
 一方左手には上への階段が。

 黒子(……3階に行くしかないようですわね……)

 そう思いながら、階段に足を乗せた時だった。


 『……いやああああああああああ!!』

 
 黒子「お姉さま!?」
 
 はっきりとではないものの、黒子にとって聞きなれた声質――その悲鳴は階段の上から確かに聞こえた。
100 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/08(水) 04:03:42.26 ID:aTr/TGY0
 黒子「お姉さま!?」
 
 はっきりとではないものの、黒子にとって聞きなれた声質――その悲鳴は階段の上から確かに聞こえた。
 

 黒子(お姉さまに何が!? 今、行きますの!!)

 一体何が起こったのかは分からない。
 
 だが、何をすべきかという結論は一つだ。
 四の五も言わず、すぐさま階段を駆け上がっていった――。



 本日の投下はここまでです。
101 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 05:20:00.81 ID:P8panIAO
乙。不安感が堪らない
102 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2010/12/15(水) 13:30:45.97 ID:h/r4xgg0
ブランクが空いてしまいましたが、続きができましたので投下します。
103 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:32:03.67 ID:h/r4xgg0

 ……ギィギィギィ!!

 木材が朽ちて所々で抜け落ちている階段を、場所を選びながらも駆け上がる。
 下手をすると、足を乗せた途端に抜け落ちるかもしれなかったが、そんなのには構っていられなかった。

 階段を登りきり、踊り場に出る。
 正反対にターンしたところで、さらに木製の階段が上へと続いていた。

 息をつく間もなく、上り階段に足をかけようとしたとき――


 ――グラグラ……


 いきなり、建物が大きく揺れだした。
104 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:32:55.70 ID:h/r4xgg0
 黒子(地震ですの!?)

 即座に立ち止まり、階段の手すりをしっかりと掴む。
 万が一、床が抜け落ちてもぶら下がれるように。


 ――パラ……パラパラ……。

 天井から埃や小さな木片が一気に舞い落ちてくる。


 揺れはすぐに収まった。

 黒子「……ゲホッ……ゲホ……」

 周囲に舞い上がった埃で思わず咳き込んでしまう。
 目にも容赦なく埃が侵入してくるので、目をつむりながら、まぶたを袖で思い切りこする。

 黒子(――まったく……油断もスキもあったものじゃありませんの)

 小さくため息をつくと、階段のステップに一歩一歩ゆっくりと足をかける。
 やはり、所々に抜け落ちている箇所はあったものの、なんとか登りきることができた。

 途端に、様々な――そして不快な臭いが鼻をつく。
105 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:33:54.49 ID:h/r4xgg0
 黒子「――この臭いは……アンモニア……?いや、それ以外にも……」

 手で鼻を覆いながら、目の前をゆっくりと確認する。
 この校舎に充満している埃が湿った臭いに加え、強烈なアンモニア臭が容赦なく鼻を突く。
 それだけでも十分に不快なのに、さらに異様な悪臭――何かが腐った臭いまでするものだから、たまったものじゃない。

 登った先は廊下になっていて、右のほうへと伸びていた。
 前へと進もうとしたとき、ふと左に何かが視界に入る――


 黒子「…………」


 そこには、細かく砕かれた白い破片が散らばっていた。
 
 もっとも、それだけでは何かは分からないが、近くに散らばっている布を目にすると――一瞬でそれが何かを悟った。


 黒子「……また……ですの……」

 ため息に近い呟きをふと漏らす。
 もはやうんざりしたと言いたげな感情が顔に出ていた。

 それの正体は――粉々に砕かれた1体の白骨化した死体。
106 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:34:20.74 ID:h/r4xgg0
 散らばっている布――緑色のセーラー服にチェック柄のスカートから見て、どうやら女生徒のようだ。
 死後かなりの時間が経過したと思われる。
 どうやら、鈍器か何かで砕かれたようだ。

 制服のポケットから、生徒証がはみ出ているのが見えた。
 何気なく、手に取る。


 黒子(……聖清女子学院I-2 東雲沙紗……)

 また知らない名前の学校の生徒。

 ――なぜこんな異質な空間に迷い込んできたのか。

 ――そして、なぜこんな異様な死に方をしなければいけなかったのか。


 黒子(――本当に、ここで一体何が起きましたの……?)

 だが、その疑問に答えてくれるものは誰もいない。
 推測こそできないということなさそうなものの、材料がまだまだ足りない。

 
 何せ、この廃校で目を覚ましてから――一度も生きている人間に会っていないから。
107 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:34:54.28 ID:h/r4xgg0
 黒子「…………」

 何も言わず、そのまま生徒証を遺体の制服のポケットに戻そうとしたとき――

 黒子(……くしゃくしゃになった紙切れ……何か書かれているようですの)

 すぐ近くの、指らしき骨が散らばったあたりに、それはあった。
 どうやら、死ぬ直前まで握り締めていたようだ。
 手に取り、そのまま広げてみる。

 それはA4サイズのルーズリーフだった。
 思い切り乱れた大きな字で書きなぐられている。

 
 『かみさま は きっとた すけてくれる』
108 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:35:35.17 ID:h/r4xgg0
 黒子(――皮肉もいいところですわね)

 紙に書いて願った内容と、目の前の現実――その差はあまりにもかけ離れすぎたものなのは明白だった。
 生きるどころか――骨まで木っ端微塵に砕かれて。

 あまりにも厳しい仕打ちにため息を吐いてしまう。


 黒子(ただ……一つ分かったことがありますの。それは――)

 改めて目の前の亡骸に目をやる。
 そして、これまで目にしてきた有様を思い起こす。

 黒子(少なくとも――何者かに鈍器で殺された可能性が高いということ……手に負えませんわね)

 先程の青白い、男児の形をした正体不明の"アレ"の仕業なのか。
 それとも――"アレ"以外にこのようなことをした者がいるとでもいうのか……。

 どちらにしても――あまり考えたくないことばかりだ。

 持っていた生徒証を散らばった制服の所に、その脇にくしゃくしゃになったルーズリーフを戻す。
 そのままゆっくりと立ち上がると、廊下の奥へと足を運んだ。
109 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:36:38.03 ID:h/r4xgg0
 黒子(ますます臭いがキツくなってきましたの……一体何ですの?)

 息をすることはおろか、目を開けるのでさえ辛くなってきた。
 これ以上前へ進むのさえ、正直嫌になってくる。

 黒子(と、とにかく……お姉さまを……)

 そんな感情を振り払い、気力を振り絞って前へ前へと歩き出す。

 やがて、一枚の張り紙が目に付く。


 『手前:男子厠 奥:女子厠』


 そして、張り紙のすぐ左手の奥まった箇所に、木製の引き戸があった。
 もっとも、戸は外れかかっていて、今にも倒れそうだったが。
110 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:37:30.16 ID:h/r4xgg0
 黒子(男子用トイレですの?臭いの原因はこれのようですわね)

 一瞬ためらわれたものの――念のために確認しようと、中に足を踏み入れる。


 すぐ右手には手洗い場が並んでいた。
 が、水道の蛇口や流し台は一部壊れているものがあった。
 壊れていないと見えるものでも、濁った水が溜まっていて、黒い髪の毛のようなものが無数に浮いていて、見ているだけで気持ち悪いことこの上ない。
 その上にある鏡も割れているものがあったり、黒いシミや髪の毛などがこびりついていて、まともに使えそうなものがない。

 さらに奥には男子用の小便器が2つ並んでいた。
 丸い形の、主に古い建物で多くあるタイプのものだ。
 強烈なアンモニア臭を放っている。


 片方は割れていて、残りは形を保っていたが……いずれも、所々が赤い色で染まっている。
 まるで、便器につけられている蛇口から……赤い水を勢いよく流したかのように。

 黒子(…………)

 これらについて、何も思う気すらしない。
 考えた所で、何もならないことは明白だから。
111 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:39:07.81 ID:h/r4xgg0
 そこを通り過ぎると、今度は個室が3つあった。
 木製の扉はいずれも閉じられている。
 が――


 黒子(これはどう見たって無理っぽいですの)

 個室の目の前の床は、ごっそりと抜け落ちていた。
 前に立つことはおろか――個室の下が見えていたが、そこからも崩れかけた床の木材がだらしなく垂れているのが見える。
 テレポートで移動しても、中が抜け落ちていて、危険である可能性が高い。

 黒子(仕方がありませんの)

 きびすを返し、男子トイレを後にしようとした。
 ふと、脇にあった鏡に目をやる。


 そこには黒子の顔が映っていた。
 どこか疲れたという感じがするということが自分でも分かったのだが――
112 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:40:05.85 ID:h/r4xgg0
 黒子(――!!)

 一瞬全身が金縛りにあったかのように動かなくなる。
 原因は鏡に映っているもの。


 ――背後に……少女が一人。

 ――小さい背丈に赤い服。

 ――黒く伸ばした長い髪。


 ――そして……そこから覗いている……青白い顔に。


 ――恨めしそうに見る視線。


 ――鏡を通して、刺すような気配が全身を駆け抜け、その場に凍り付いてしまう。
113 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:41:12.45 ID:h/r4xgg0
 黒子「…………」

 身震いが止まらない。
 いや、実際にはしていないのだろうが、心の底から震えているのが分かる。

 ふと、先程にも似たような感覚に襲われたことを思い出した。
 黒子(これは、さっきの少年と出くわしたときと同じ……)


 ――まずい。
 この少女は……分からないけど……とにかくまずい。

 黒子自身の第六感が必死に訴えかけていた。

 ――逃げなければ。
 ――この場にいては……危険。

 頭の中でそんな思いが駆け巡るが、体が一切の命令を受け付けない。
 ただ、その場でじっととどまっているだけ。


 その時……

 黒子(――!!)


 ゆっくりと――顔が後ろへと振り向こうとしているのに――気づいた。
114 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:41:55.23 ID:h/r4xgg0
 黒子(ち、ちょっと!!く、首が勝手に……!!)

 慌てて止めようとするが……首が言うことを聞かない。
 じわじわと背後の様子が視界に入ってくる。

 そして、視線の先には――




 黒子(……!?)




 ――誰もいなかった。
115 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:43:18.78 ID:h/r4xgg0
 黒子(どういう……ことですの?)

 途端に、金縛りが解ける。
 体を背後に向けて眺め回すが……誰もいなかった。
 最初から、そこにいなかったかのように。

 黒子「わ、悪い冗談もいい加減にして下さいまし!!」

 何もない空間に、ふと怒鳴りつける。
 やや震え気味な声で。

 当然、何の返事も返ってこない。

 黒子(…………)

 そのまま反対側に向き直る。
 そして、先程の鏡が目に入るわけだが――




 ――少女が映っていた。


 ――黒子の背後に……先程からずっとそこにいたように……じっと立っていた。
116 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:44:45.13 ID:h/r4xgg0


 そして――ゆっくりとその口が――歪められる。


 歪められて――青白い顔ににやつきが――浮かんだ。




 ??「……クスクスクス……」




 少女の笑い声が聞こえる。

 ――黒子のすぐ耳元で。


 得体の知れない悪寒が、すぐさま彼女を襲う。

117 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:49:07.37 ID:h/r4xgg0
 黒子「ひ、ひいいいい!!」

 情けない悲鳴を上げてしまう。
 思わず泣き出しそうになった。
 
 すかさず、反射的に駆け出し――男子トイレを出た。

 学生として、そして風紀委員としての黒子が普段見せている姿は――もはやそこにはない。

 ただ、次々と起こる不可解な出来事や"モノ"に怯えているだけ――。
118 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:49:58.80 ID:h/r4xgg0
 黒子「……はぁ、はぁはぁ……」

 先程の階段のところで立ち止まり、ひざに手を当てながら下を向いた。
 息がすっがり荒くなっている。
 悪臭の漂う中だったが、そんなのはもはや関係ないといった様子で。

 ふと、後ろを振り返る。

 そこには――誰もいなかった。
 男子トイレのほうから――先程の少女が追いかけてくる気配はない。

 とにかく……


 A:階段を下りることにした。
 B:女子トイレに行くことにした。
119 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 13:50:37.88 ID:J/O3GbYo
B
多分死亡フラグwwwwww
120 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/15(水) 13:51:13.58 ID:h/r4xgg0
今回はここまでです。
今夜あたりにいけたら、続きを投下しようかと思います。

なお、選択肢の安価は>>120でお願いいたします。
121 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2010/12/15(水) 13:52:49.95 ID:h/r4xgg0
かと思いきや、>>120が自己レスになってしまったので、>>123でいこうかと思います。
122 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 13:53:11.64 ID:J/O3GbYo
ごめんなさい割り込んじゃったみたい・・・安価なら↓
123 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 14:01:15.56 ID:b8SDSMDO
無難にA
124 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 15:41:03.77 ID:v8Q0QEAO
予想を遥かに上回る本格派だぜ……
125 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2010/12/16(木) 15:45:05.22 ID:UdCUZio0
予定より大幅に遅れて申し訳ないです。
改めて、見てくださっている方に多大なる感謝を。

Aで投下いきます。
126 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/16(木) 15:46:24.52 ID:UdCUZio0

 とにかく……階段を下りることにした。


 黒子(お姉さま……)

 男子トイレにはいないようだった。
 あとは女子トイレも探しておくべきなのだが――


 正直、これ以上探す気になれなかった。
 いや――このエリアにこれ以上いたくなかった――のが正しいだろう。

 あんな不可解極まりない――そしてあまりに不気味なことが起きて、


 ――しかも、自分の意思で体を動かすことすらできなく、


 ――その上、完全に怯えきってしまうなんて、


 ――無様なことこの上なかった。



 ――悔しい。

 自分自身が何もできず、目の前の恐怖に怯えているなんて。

 過去にジャッジメントとして様々な事件にぶつかってきたが、こんなことは初めてだった。
127 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/16(木) 15:47:21.59 ID:UdCUZio0
 学園都市にいる普段の自分自身だったら、こんな状態にはならなかっただろう。
 むしろ、そのまま立ち向かって、とことん抗うことを考えただろう。
 でも、現実には――


 黒子(……こんな状態を……お姉さまに見せたくありませんの……)

 そう思うことで……湧き上がったとてつもない恐怖に対して、あまりに無力な……自分自身をなんとか納得させようとした。


 いや――何とか言い訳をしようとして誤魔化そうとしているのが、正しいだろう。


 ――自分の弱さを認めたくないがために……

 ――美琴がいるかもしれないのに、それを恐怖のあまり見捨てようとしている自分を認めたくないがために……
128 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/16(木) 15:47:51.64 ID:UdCUZio0

 黒子(……分かっている……分かっていますの……そんなことぐらい……)

 下唇を思わずぐっとかみ締めてしまう。
 
 目から涙がこぼれそうになる――が、そこはなんとかこらえた。


 そして――何も言わず、朽ちかけた階段のステップを一歩一歩踏みしめ、踊り場に差し掛かった……その時。

 
 ??「いやあああああああああ!!」


 甲高い少女の悲鳴が階下から聞こえた。

 少なくとも知っている人物のものではないのだが……。
129 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/16(木) 15:48:36.81 ID:UdCUZio0
 黒子(……この声……先程の……?)


 先程耳にした――姿が見えないまま発せられた奇声の持ち主のようだった。
 やや小走りで、階段を下りる。

 しかし――


 黒子(……いませんの……)

 当の人物どころか、人の姿は無かった。

 だが、同時に一つの違和感を感じた。


 黒子(あれ?ここから前に伸びる廊下は、歩けそうになかったのに……直っていますわね)

 そう、目の前に伸びる廊下は――横切っていた大きな裂け目が、消えていたのだった。
 何事もなかったかのように、暗闇に向かって伸びている。
130 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/16(木) 15:49:34.96 ID:UdCUZio0
 黒子(……行くとしましょうか)

 それ以上のことは考えずに、ただ廊下を前へと進む。
 
 悲鳴だけが聞こえて、本人の姿がないことも――廊下が不自然に直っているのも――

 そんなことはもはや――どうでもよかった。

 深く考えても、答えなんかでるわけがない。
 本当に大丈夫かと疑念に思うことも、なかった。

 度重なる不可解な出来事に――感覚が麻痺していたのだった。
131 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/16(木) 15:50:26.35 ID:UdCUZio0
 しばらく進むと、左手に引き戸が見えた。
 上には『理科室』とかかれた札が掛かっている。

 扉に手をかけるが……開かない。
 ただ、ガタガタと小刻みに動くので、鍵があれば開きそうだ。

 黒子(……まあ、いいですわ)

 戸から手を離し、さらに廊下を進む。
 廊下は少し先で右手に折れていたのだが――。
132 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/16(木) 15:51:44.76 ID:UdCUZio0


 ……ぷぅん……ぶぅん……


 黒子(虫の羽音……ハエが飛び回っているようですわね)

 先から聞こえる、その音に思わず顔をしかめてしまう。


 黒子(また、先に腐乱死体でもあるのでしょうね……)

 まあ、それならばそれで仕方がない。
 死体が大量に平然と転がっている、こんな場所なのだから。

 なりふり構わず、突き当りまで行く。
 そして右へと折れようとしたとき――
133 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/16(木) 15:52:32.10 ID:UdCUZio0

 黒子「ひっ!?何ですの!!」

 思わず立ちすくんでしまう。
 折れ曲がった先に――嫌でも目に入った光景を目の当たりにして。

 黒子「ううっ……うぷ……」

 胸の当たりから喉元にかけて、急激にあたたかい物がこみあげる。
 吐き気を催してしまったのだ。


 その光景は――黒子が想像していたものとは――はるかにかけ離れていた。
134 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/16(木) 15:53:26.65 ID:UdCUZio0


 壁には一面の赤。
 まるでモダンアートのように、モルタル製の壁に――大きく赤に染められている。

 そして、その下の床には――赤い何かがぶちまけられていた。


 ――肉塊。

 血にまみれた臓器が床に散らばっていた。
 床に広がった血の海の中にある島のように――いや、うごめく大きな虫のように――散らばっていた。

 その中に、血に染まった布切れがわずかに見える。
 スカートのように見えたが――詳しくは見なかった。
 いや、見る気がしなかった。


 黒子「げええ……」

 我慢できなくなり――こみ上げてきた胃液を、その場で吐き戻してしまう。
135 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/16(木) 15:54:13.35 ID:UdCUZio0

 黒子「はぁ……はぁ……」

 すべてを吐き戻してもなお、壁に手をつき、下を向いたまま動こうとしない。
 

 やがて、中のものを吐き出しきってしまったのだが……壁に手を付いたまま、顔を上げる。

 ――進行方向とは、逆の方向へ。


 黒子(…………)

 そのまま、歩いてきた道を引き返す。

 あんな所を歩いて行く気には――到底なれなかった。
 テレポートで越える気すら起きない。
136 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/16(木) 15:55:04.93 ID:UdCUZio0
 階段の所まで戻ってきた。
 ふと、左手にある『3-A』の教室に目をやると……扉は開いていた。

 黒子(…………)

 何も考えることなく、そのまま教室へと足を踏み入れる。



 ??「ひっ……だ、誰?」


 突如、中から少女の声がした。
 思わず黒子も体をびくつかせる。

 髪を両側で括り、クリーム色のセーラー服のような上着に、紺のスカートの少女。
 だいたい高校生ぐらいだろうか。
 怯えたような目つきで、体を小刻みに震わせていた。
 その場に突っ立ち、黒子をじっと見ていた。
137 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/16(木) 15:55:46.00 ID:UdCUZio0
 黒子「わ、わたくしは……白井黒子と申しますわ。そういう貴女は?」

 ??「私は、篠崎あゆみよ……。貴女もこの校舎に監禁されたの?」

 黒子「監禁って……それってどういうことですの?」

 あゆみの言葉に、黒子は眉をひそめる。
 とりあえず、手近にあった椅子に腰掛ける。
 小学生用の小さいサイズで、多少難はあったが座れないことがあった。

 黒子(篠崎……どうやら、先程奇声を上げていた本人のようですわね。これはいろいろ聞いておきたい所ですの)

 黒子「ちょっと詳しく話を聞かせていただきませんこと?」

 あゆみ「え……と、とにかく……」

 恐る恐るあゆみが口を開きだした所で――



 ピシャツ!!



 黒子「――!!」
 あゆみ「ひぃ!!」
138 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/16(木) 15:56:16.44 ID:UdCUZio0

 突如、部屋の入口が急に閉められた。
 すぐさま、黒子は立ち上がって、扉に手をかけるが――びくとも動かない。


 黒子「……監禁というのは、まさにその通りかもしれませんわね」

 あゆみのほうへと向き直り、さらに言葉を続けた。

 黒子「詳しい話は後にして、とにかくまずはこの部屋から脱出することから考えなければいけませんわね」




                                               Chapter1『廃校』 END

                                           Continiue to Next Chapter……
139 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2010/12/16(木) 15:58:38.74 ID:UdCUZio0
本日の投下はここまでです。
次回よりChapter2に入りますが、登場キャラを切り替える予定です。

改めて、見てくださっている方に感謝。
140 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 20:09:54.45 ID:BsfKCRgo
B選んだ場合のルートも見たいぜ
怖い物見たさ的な意味で
141 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 07:02:05.44 ID:BgqpdgAO
ナカマキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
142 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2010/12/19(日) 17:16:57.41 ID:k5.pryY0
さて、続編を投下しようと思いますが、
まずは>>140のリクエストにお答えしようかと思います。
143 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:18:45.59 ID:k5.pryY0
(注:ここからは>>118を"B"で選んだ場合です)


 とにかく……

 
 黒子(追っては来ていないようですわね……。お姉さまを見つけて、こんなところ一刻も早く去らないと……)


 ――女子トイレに行くことにした。


 男子トイレのほうには目もくれず、足早に過ぎ去る。
 廊下が少しだけ伸びていて、女子トイレはその先にあった。

 同じような引き戸になっていて――少しだけ入口が開いていて、中の様子を覗かせていた。
 やはり男子トイレと同じように薄暗く――悪臭が容赦なく漂っている。
 そして――


 黒子「な……!?」

 目に飛び込んできた入口の光景。
 思わず歩みを止めてしまい、顔をしかめてしまう。
144 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:19:19.96 ID:k5.pryY0



 赤く染まった床や壁。

 ――それはまるで、勢いよくぶちまけたかのように。

 そこから放たれるなんとも言いがたい悪臭。

 ――それはまるで、腐りに腐りきったかのように。




  ……うじゃ……


           ……うじゃ……



 

 そして、床や壁に群がる……大量の蛆虫。


 ――それはまるで……目の前を埋め尽くすかのように。



145 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:20:04.38 ID:k5.pryY0
 黒子「……うっ……ううっ……」

 想像を超越した光景に、吐き気を一気に催してしまう。
 とっさに目をそらして、なんとか押さえ込むが……不快感が次々と胸元からこみあげてくる。

 目の前のグロテスクな光景を目にしないように、女子トイレにゆっくりと足を踏み入れた。


 手前側に一部壊れかかった洗面台が3つ並んでいて、奥には個室が並んでいた。

 内部は男子トイレとほぼ似たような構造だった。
 違いは小便器の存在がないことだけだろうか。
 そして、個室の前の床が抜け落ちていなかったことぐらいだろうか。

 もっとも、陰鬱で不気味な感じが漂っているという点では違いはないが――。


 黒子「お……お姉さま?」

 恐る恐る、声を掛けてみる。
 声は――かすかに震えていた。
146 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:20:38.66 ID:k5.pryY0

 
  ……ギイ……


         ……キィ……


   ……ギィ……


 返ってきたのは――時折木が軋む音だけ。

 見ると……奥から2番目の個室の扉が……だらしなく前後に揺れていた。
 
 

 ――ごくり。


 固唾を飲み込みながら、ゆっくりとその扉へと近づく。
 その時……床に置かれているものが目に入り……


 黒子「――!!」

 戦慄して、その場で一瞬固まってしまった。
147 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:21:39.93 ID:k5.pryY0


 ――それは一対の上履き。

 個室の前に整然とおかれていた。



 黒子(…………)

 どことなく……いやな予感しかしない。

 恐る恐る、揺れる扉に手を掛けて……ゆっくりと押し込んだ。




 ――その時、何かに当たる気配が……

148 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:22:17.82 ID:k5.pryY0
 黒子「……なんて……こと……」  
  
 目の前に広がった――扉が当たった物の正体に、

 全身を小刻みに震わせながら、ただ眺めることしかできなかった。



 
 ――そこにあったのは、天井の梁に縄をかけ――


        ……ギシッ……。


 ――首を吊って……絶命した少女。


   ……ギ……。


 ――全身をだらしなく垂らして――


     ……ギィ……。

 
 ――ゆっくりと前後に揺れていた。


 ――軋む梁の音だけが……その場に響くだけだった。


149 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:23:34.24 ID:k5.pryY0


 黒子「…………」
 

 クリーム色のセーラー服らしき上着に紺色のスカート。
 両側で丸くカールさせた髪型。

 そして――首はやや伸びて……目は充血して涙が流れていて……だらしなく開いた口からも涎が垂れていた。


 黒子「……自殺か……何かですの……」

 口元を押さえながら、再び喉元からこみあがってくるのを何とかこらえる。

 ふと、下に目をやると……血の付いたバケツが一つ――さらに手帳が一つ落ちていた。
 遺体に目をそむけ、足元に落ちている手帳を手に取る。
150 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:24:09.33 ID:k5.pryY0

 黒子(……如月学園高等部2-9 篠原世以子……)

 生徒証にあった写真にある顔は、確かに目の前で絶命した少女のものだった。
 写っているかわいらしい顔が……先程見た現状と対比すると、痛ましく思えてくる。

 手帳を床に置き、その場を立ち去ろうとしたが……


 黒子(……このままじゃ……気の毒ですわね……)

 一度手を合わして黙祷をささげた後……遺体に手をかけて、テレポートでロープを首から外した。
 途端、両手に体重がのしかかる。

 一旦、遺体を個室の外壁にもたれさせるように置くと、他の個室の中を確認する。



 ――しかし、いずれも……中には誰もいなかった。



151 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:24:49.54 ID:k5.pryY0


 黒子(お姉さまは……結局いませんでしたの……)

 肩を落として、遺体のほうに向き直る。
 個室の中に落ちていた手帳を拾い上げて、遺体の制服のポケットにしまう。

 黒子「…………」

 何も言わず、そのまま遺体を両手で抱きかかえ――ゆっくりと女子トイレを後にした。


 黒子(……ここでいいですわね……)

 階段の所まで戻った。
 遺体をゆっくりと床に降ろし、背を壁に持たれかけさせるようにする。
 そして、充血してだらしなく開いた目のまぶたを指で下ろして……再度手を合わせた。


 黒子(行くとしましょうか……)

 そのまま遺体に背を向けて、ゆっくりと階段を下りていった。
152 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:26:02.65 ID:k5.pryY0
 黒子(……しかし……どこか腑に落ちませんの……)

 ゆっくりと階段のステップを踏みしめながら、先程まであったことを頭の中で整理する。

 黒子(悲鳴は確かにこのフロアから聞こえたのに……いなかった)


  ……ギシ……


       ……ギッ……


 黒子(先程のお姉さまの忠告にしてもそう。初春の悲鳴にしてもそう……一体、何がどうなっていますの?)


     ……ギシ……


              ……ミシ……


          ……ギィ……


 黒子(これは、黒子の聞き間違いか、幻聴か何かですの?それとも、何か仕掛けがありますの?とするなら、結構悪質ですわね……)

 そして――朽ちかけた階段のステップを一歩一歩踏みしめ、踊り場に差し掛かった……その時。




 ??「いやあああああああああ!!」




153 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:27:05.78 ID:k5.pryY0
 甲高い少女の悲鳴が階下から聞こえた。

 少なくとも知っている人物のものではないのだが……。


 黒子(……この声……先程の……?)


 先程1階で耳にした――姿が見えないまま発せられた奇声の持ち主のようだった。
 やや小走りで、階段を下りる。



 ――正面から左手へ走り去る、人影。



154 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:28:17.23 ID:k5.pryY0
 黒子(――!!)

 すかさず、階段を駆け下り、左へ伸びる廊下へと進む。
 廊下の奥には人の姿は無い。
 また――駆け足の音はおろか、足音もしない。



 ??「……はぁ……はぁ……」



 かわりに、右手の――『3-A』の教室から、荒いいい気遣いが漏れていた。



 ――扉は……開いている。

 そのまま教室へと足を踏み入れた。
155 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:29:10.71 ID:k5.pryY0
 ??「ひっ……だ、誰?」


 突如、中から少女の声がした。
 思わず黒子も体をびくつかせる。

 髪を両側で括った、クリーム色のセーラー服のような上着に、紺のスカートの少女。
 だいたい高校生ぐらいだろうか。

 黒子(――この制服……先程の遺体が着ていたものと同じですの。ということは知り合いかもしれませんけど……)

 怯えたような目つきで、体を小刻みに震わせていた。
 その場に突っ立ち、黒子をじっと見ていた。

 黒子(さすがに今、そのことを聞くのはまずいですわね)

 とりあえず、誰なのかということとか……ここで何があったのかとかを聞き出すことにした。
156 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:31:22.40 ID:k5.pryY0
 黒子「わたくしは白井黒子と申しますわ。そういう貴女は?」

 ??「私は、篠崎あゆみよ……。貴女もこの校舎に監禁されたの?」

 黒子「監禁って……それってどういうことですの?」

 あゆみの言葉に、黒子は眉をひそめる。
 とりあえず、手近にあった椅子に腰掛ける。
 小学生用の小さいサイズで、多少難はあったが座れないことはなかった。

 黒子(篠崎……どうやら、先程奇声を上げていた本人のようですわね。これはいろいろ聞いておきたい所ですの)

 黒子「ちょっと詳しく話を聞かせていただきませんこと?」

 あゆみ「え……と、とにかく……」

 恐る恐るあゆみが口を開きだした所で――



 ピシャツ!!



 黒子「――!!」
 あゆみ「ひぃ!!」


>>138へ続く)

 >>118の選択肢"B"ルートはここまでです。以降、Chapter2を投下します。


157 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:33:45.19 ID:k5.pryY0



 美琴「――んっ……ここは……」


 目を覚ましたが――周囲はほとんど闇の中。
 見回そうとするが、やはり何も見えない。

 美琴(さっき、床が裂けて……落ちていって……)

 先程自分の身に起こったことを振り返ってみる。
 とにかく落下した先がここなわけなのだが……。

 美琴(怪我は……ないみたいね)

 とにかく起き上がろうと、左手を床に突いたが……。
158 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:34:40.90 ID:k5.pryY0


 美琴「――っつ!!」


 何かが手のひらに刺さったようだ。
 痛みのあまり、手を顔の所まで持ってくるが――よく見えない。

 美琴「な、なによ……これ……」

 刺さったものを引き抜こうと、右手を持っていくが――暗くて手元がよく見えず、なかなかうまくいかない。

 美琴(……ったく……うっとうしいわね)

 いらつきながらも、何とか刺さっているものに右手の指先が触れた。
 よくは分からないものの、木ではなく、石のような硬くて尖ったものが刺さっているようだ。

 とりあえず、一気に引き抜く。
 幸い、深くは刺さっていなかったようだが、刺さった後がじんじんと痛む。

 美琴(……ったく、こう暗かったら何もできないわね……って、あれは?)

 少しづつではあるが、暗闇に目が慣れてきたのか、ぼんやりと目の前の様子が見えてきた。



 ――小さな椅子や机が散乱していて……その手前に何かが落ちているのが見えた。
159 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:35:11.63 ID:k5.pryY0


 美琴(……ロウソクかな……これ)


 ほぼ目の前に落ちていた、白っぽくて長い物体を拾い上げる。
 先には糸らしきものが伸びている――確かにロウソクのようだ。

 美琴(とにかく……火花でいけそうね)

 早速、糸の部分を上にして置くと、それに向けて手から微弱の電気を流す。
 途端に火花が散って――糸の部分に着火した。

 先端に小さな炎が生じて、周囲をほんのりと照らし出す。
160 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:35:37.77 ID:k5.pryY0



 ――所々が朽ちて崩れかけている……木張りの天井。



 ――場所によって、大きく抜け落ちている板張りの床。



 ――そして、あちこちに散乱している……古めかしくて、小ぶりな木製の机と椅子。



 ――その奥には……何かが書きなぐられている黒板。



161 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:36:15.31 ID:k5.pryY0

 美琴「ち、ちょっと……ここは……学校!?」

 ロウソクの淡い炎に照らし出されたのは、確かに学校そのものの風景。
 椅子や机の大きさからして……どこかの小学校のようだ。

 ただし、崩れかかったり、どこか古めかしいかったり――明らかに異様ではあるが。
 床などは大きく崩れて、抜け落ちている箇所があるなど、危険極まりないともいえる。
 そして、湿っぽくて――カビの特有の不快な臭いが鼻を突く。

 美琴「……廃校か何か?こんなところ学園都市にはなかったような気がするけど……」

 ふと、右手にある窓に目をやる。
 所々が割れて、中には外れかかっているものもあった。

 その先にほろがる光景は――ただ一面の闇が広がるばかりだった。
 まるで、黒一色に塗りつぶしたかのように……外の光どころか、何も見えない。

 美琴「少なくとも……学園都市の中じゃないことは確かね。だとすると、ここはどこ……」

 見回しながら、考えをめぐらせていたとき……手に何かが当たるのを感じた。


 美琴「何かしら……ひっ!?」

 目にしたものに思わずのけぞってしまう。
 それは――普通ならまず目にすることがないものだった。



   それは――散らばった骨。



 大きさと、近くに散らばっている――黒のセーラー服とスカートからして……。
162 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:37:17.72 ID:k5.pryY0



 頭蓋骨からわずかに伸びた長い髪の毛……
 何より、骨格模型などで見た似たような形。


 ――人骨であるのに間違いはなかった。


 そして――近くには……骨の小片が散らばっていたが――

 そのうちの一つの――指の骨だろうか――尖った形状の部分の一部が赤く染まっていた……。


 美琴「ち、ちょっと……さっき刺さっていたのはコレなわけ?」

 更に寒い気配が全身に襲い掛かる。
 無性に息が荒くなっているのが、はっきりと聞こえた。
163 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:37:46.23 ID:k5.pryY0
 美琴「一体何なのよ、ここは!?」

 その骨小片から目を離そうとしたとき……床に文字が刻まれているのが見えた。
 この遺体の主が、死に際に書いたものだろうか。
 文字の最後のあたりに、指のものらしき骨小片が散らばっている。


 美琴(……奥にある新聞紙は……絶対に……見てはならない……。何よこれ……)


 ふと、教室の奥のほうを見ると――そこには1枚の新聞紙が落ちていた。

 美琴(これのことね。こんないかめしいことを遺言に残すなんて……)

 ゆっくりと立ち上がり――そのまま新聞紙が落ちているあたりまで歩き出す。
 そして、新聞紙を手に取る。


 紙面は全面的に黄ばんいた。
 『天神町奉知新聞』という、見たことも聞いたこともない新聞社の新聞。
164 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:38:28.46 ID:k5.pryY0
 美琴(昭和!?思いっきり昔のやつじゃない)

 新聞の上面に書かれた日付の年号に愕然とする。
 もっとも、詳しい年や日付はかすれて読めなかったが。 


 その、見出しの部分には――









    『 お 前 は 、 も う 出 ら れ な い 』










  ――ピシャツ!! 


165 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:39:33.54 ID:k5.pryY0
 美琴(――!!)

 扉が閉められる音が耳に入った。
 ふと、その方を見ると……教室の扉が閉まっていた。

 美琴「まさか……悪い冗談もいい所ね」

 顔をひくうかせながら、新聞紙を放り投げ、出入り口のところまで駆け寄る。
 そして、戸に手をかけて、引こうとするが――。


 美琴「何これ?まったく動かないじゃない!!」

 引き戸はまるでその場に固定されたかのように、びくとも動かない。
 ふと、先程の白骨死体が目に入る。


 美琴(まさか……同じように新聞を読んで……ここに永久に閉じ込められたまま、死んだって言うの!?)


 すかさず扉から手を離し、窓を開けようとするが……同様にびくともしない。
166 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:40:07.75 ID:k5.pryY0
 美琴(…………)

 やがて、窓からも手を離すと……一瞬体から力を抜き……

 ……一気に肩を震わせた。

 全身から電気を放出し、火花を撒き散らす。
 


 美琴「……ふざけんじゃ……ないわよ!!」

 ポケットからゲームセンターのメダルを取り出し、握った右手の親指の上に乗せる。

 そして――体中の電気をメダルに向けて――



  ――ズドォォォォン!!

 
 メダルを超音速で――閉じた引き戸にめがけて放つ。

 轟音が周囲を引き裂くかのように木霊した。
 戸はおろか、周囲の壁の一部――さらには、奥にある廊下の壁まで、一瞬にして吹き飛ばした。
 後には大きな穴がぽっかりと開いていて、漆黒の闇をそこから覗かせている。

 もっとも――近くにおいていたロウソクの炎も超電磁砲の風圧により消えていて、一気に周囲は真っ暗になったが。
167 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:40:36.88 ID:k5.pryY0
 美琴「はぁ……はぁ……」

 肩で息をしながら、ロウソクのところまで歩き出す。
 そして、再び指から火花を散らし、ロウソクに火を灯す。

 再度、付近に散らばっている人骨が目に入る。
 その時、制服のあたりに生徒証らしきものが落ちていたのを見つけた。

 美琴(……美里市立 彦糸高等学校3年6組 愛知心……学園都市の外の学校ね)

 一つため息をついて、改めて人骨を眺めなおす。 

 美琴(私は超電磁砲があったからなんとかなったけど……この人は何もできずに出られなくて……かわいそうね)

 そして、目を閉じて――遺体に向かって手を合わせる。
 哀れな犠牲者に対してできる、精一杯のことだった。

 美琴(とにかく……まずはここの状況を調べないと。黒子に、初春さんに佐天さんはどうなったのか……心配だわ)

 目を開けると、しゃがみこんで、近くに落ちていた小さな木片にロウソクを立てる。
 それを手にして、ゆっくりと教室を後にしようと、ぶち抜いた出入り口に向かってあるきだそうとした――その時。
168 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:41:06.00 ID:k5.pryY0

 




    『……いやああああ!!こないでええええ!!』





169 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/19(日) 17:42:32.31 ID:k5.pryY0


 周囲の空気を切り裂くような、少女の悲鳴。

 それは――美琴にとっては聞き覚えのある声。


 美琴(初春さん!?)

 すかざず、廊下に駆け出す。
 左右に伸びていて、床が所々抜け落ちているものの、なんとか進めそうだ。


 ――悲鳴がしたのは……右の方向。


 美琴「初春さん!!今行くから!!」

 なりふりかまわず、床に開いた裂け目に気をつけながら、廊下の奥へと駆け出して行った――。



 本日の投下はここまでです。
170 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/19(日) 19:15:58.68 ID:ykOfK6SO
おもしれぇ…
171 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 14:04:07.51 ID:HLXPrIAO
支援!
172 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 06:54:15.75 ID:qkZ61QSO
前回よりだいぶ間隔が開いてしまってスミマセン。
時間が出来たので投下します。
ただし今回は携帯からなので、間隔がやたらと開くかもです。
予めご了承下さいませ。
173 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 06:59:18.35 ID:qkZ61QSO
初春「……ううっ……痛い……」

 いきなり全身に鈍い痛みを感じた。
 特に、左足の部分に痛みを強く感じる。

 初春(そっか……さっき落下しましたから……)

 考えているうちに、左足以外の部分の痛みが、徐々にではあるがひいていく。
 試しに腕などを動かしてみたが……問題なく動くのを感じた。

 そして、目をゆっくり開けたのだが……。

174 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 07:04:52.83 ID:qkZ61QSO

 初春「ここは……どこですか……」

 目を開けても、漆黒の闇の中。
 まったく何も見えない。

 初春(まさか、霊界とか……さすがにそんなのじゃないですよね……)

 現に左手には、床に手を置いている感覚がある。
 手触りからして、木製のようだ。
175 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 07:06:42.77 ID:qkZ61QSO

 ――念のため、体中を手で触ってみる。

 初春(なんとか……五体満足のようですね。足が痛いことを除いてですけど)

 左手を支えにしながら、ゆっくりと上半身を起こす。
 さすがに、左足が痛むために無理に立ち上がる気にはなれなく、そのままあたりを見回してみるが……。

176 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 07:16:36.10 ID:qkZ61QSO
 初春(やはり何も見えませんね。何か明かりになりそうなものは……って、これじゃあ見つけようがないですよね)

 大きくため息をついてしまう。
 そして、ぼんやり真上を眺めていたのだが……。

177 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 07:19:14.55 ID:qkZ61QSO



  ……ビビ……



     ……ジジジッ…… 



 微かに音がしたかと思うと――周囲がいきなり明るくなった。
 天井にあった蛍光灯に光が灯ったのだ。
  
 いきなり降り注いだまぶしさに、思わずまぶたを細めた。
178 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 07:25:09.69 ID:qkZ61QSO

 初春(――電気が……って!?)

 明るくなった周囲を目にして――愕然としてしまった。




 ――所々が朽ちて崩れかけている……木張りの天井。



 ――場所によって、大きく抜け落ちている板張りの床。



 ――あちこちに散乱している……古めかしくて、小ぶりな木製の机と椅子。


 
 ――目の前の壁に大きく掛かった黒板。



 ――そして、その上には時を刻むのを昔にやめたのか……ガラスが割れて、止まった時計がさびしげに掛けられていた。

179 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 07:30:07.32 ID:qkZ61QSO
 

 初春「――ここって……廃校か何かですか……?」

 突如として広がった光景に目を白黒させてしまう。
 それもそのはずで、今までに廃校――それ以前に朽ちかけた木造の建物なんか見たことがなかったからだ。


 初春(だ、誰もいないようですけど……ん?)

 周囲を見回していると、ふと足元に新聞が落ちているのを見つけた。
 何気なく、手にとって眺めてみる。
 『天神町奉知新聞』という、見たことも聞いたこともない新聞社の新聞なのだが――


180 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 07:34:56.53 ID:qkZ61QSO


 初春「えええっ!?」

 目にした内容に思わず声を上げてしまう。
 新聞の上の端には日付が印刷されていたのだが――



 ――昭和48年9月……日。



 初春(かなり昔じゃないですか?まさか、タイムスリップしたとか?)

 新聞を持つ手が、自然と小刻みに震えていた。
 ごくりと唾を飲み込む音が、耳に響く。

181 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 07:41:20.77 ID:qkZ61QSO

 『【行方不明者ついに3名に】

   相次ぐ天神……校の生徒児童の失踪事件に、
  ついに三人目の行方不明者が出てしまった。
   同級生の証言によると、5年生の…………んは
  下校時刻に校内の渡り廊下で友人達と別れた後に、
  その後の消息を絶った模様。
   警察は誘拐事件の可能性も視野に入れ、捜査員を増やし
  一刻も早い解決に向けて捜索にあたっているが
  一人目の児童の失踪よりはや十日。
   未だ消息の知れない子供達の安否が気遣われている……』


 
 初春(誘拐事件のようですけど……ここがどこかという分かる資料ではないようですね)

 全体的に黄ばんで紙面が硬くなった新聞をそっと床に置く。
182 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 07:46:25.49 ID:qkZ61QSO
 初春(足は……まだ痛いです)

 鈍い痛みを発するのが止まない左足をまじまじと眺めた。
 靴下をゆっくりとずらすと、踵の付け根が赤くはれ上がっていた。

 手で恐る恐る触ってみると、少し痛みが酷くなるものの……激痛というほどではない。
 どこかで骨が折れているような手触りは感じられなかった。
183 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 07:50:27.45 ID:qkZ61QSO
 初春(どうやら捻挫のようですね。とにかく、何か副え木になるようなものは……)

 そう思って、周囲を眺め回した――その時。




 ――ゴトリ……。



 何かが……転がる音がした。


 初春(――!?)

 思わず音のしたほうへ顔を向けた――その先には。


184 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 07:53:32.95 ID:qkZ61QSO






 ――白いボール状の物体。




      ――そこに大きく開いた二つの穴。




              ――下には、小さく開いた二つの穴に……四角い形に似た……







                        ――歯並び。







                   それは明らかに――人間の頭の骨。

 




              うつろな二つの空洞が……じっと初春を見つめていた――



185 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 07:57:22.45 ID:qkZ61QSO

 初春「ひっ……こ、これって!?」

 金縛りにあったかのように動けない。

 息が荒くなり、嫌な汗が一気にふきだして、全身をなめるように伝い落ちる。

 歯がカチカチと音を鳴らすぐらいに口元が震えていた。



 過去に――こんな光景なんて実際に目にしたことなどなかったのだから。
 映像などでは見たことがあるとしてもだった。

186 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 08:03:23.67 ID:qkZ61QSO

 初春(……じ、人骨ですよね……これ……。何か制服を着ているような感じですし……)

 恐る恐る顔を上げて、視線の先にあるものをじっと見つめようとする。


 その先にあるのは――頭蓋骨と、その周囲に散らばった無数の骨。
 さらには、遺体の主が着ていたと思われる、黒い学ランとズボン。
 どうやら、中高生の男子生徒だったようだ。

 初春「こ、ここで……何があったのですか……?」

 目の前に誰もいない――いや、話すはずのない遺体しかない――のに、怯えきった弱弱しい声でつぶやく。 
 
187 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 08:06:42.87 ID:qkZ61QSO
 


   ……………………


 やはり、静寂だけが広がるのみ。
 いや、実際には――



   ……ポツン……



             ……ポツン……


 どこかで水滴が垂れる音とか――




     ……ブゥン……




                ……カサカサ……




         ……ジジジ……





 ――虫の羽音やら、うごめく音がどこから、かかすかに聞こえた。
 耳にするだけで不快な気分になったのは言うまでもない。

188 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 08:11:41.82 ID:qkZ61QSO

 初春(……このままじっとしていても仕方がありませんね……)

  
 そのままゆっくり立ち上がろうとする……ものの、

 初春「――っつ!!」

 途端に左足から痛みが走った。
 目の前の異様な事態で痛みを忘れていたのを呼び覚まされたように。
189 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 08:20:50.16 ID:qkZ61QSO
ここで一旦投下を中断します。
新幹線での移動中で仕上げようと思ったのだが…。

有明の待ち列で続きを少しいこうと思います。
190 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 09:41:35.84 ID:qkZ61QSO
(投下再開します)

 初春「このまま、歩くのはキツそうですね……」

 床は木片やらが散乱しているどころか、穴が開いていたり、場所によっては大きく抜け落ちたりしているのだ。
 こんな足を怪我した状態で歩くと、最悪足を踏み外して、抜け落ちた箇所から下に落下しかねない。

 初春(ここから脱出したいのですけど……まずは足を固定するものを探さないと……)

 左手を床について、その場にゆっくりと腰掛ける。
 足元に目をやると、そこには20センチほどの木材が転がっていた。

 初春(これならちょうどよさそうですね)

 その木材を手にすると、足のかかとの辺りにあてがい、そのまま持っていたハンカチでゆわえつける。
 完全ではないものの、なんとか副え木を当てることはできた。
 痛みはまだ多少するものの、なんとか歩けそうだ。

 初春(とにかく……ここから早く出ないと……)

 近くにあった椅子の座板に手を掛けて、体重を掛けて立ち上がろうとした。



その時。
191 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 09:50:28.90 ID:qkZ61QSO




    ――ボワッ









 何かが吹き上がるような音がした。



192 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 10:01:21.02 ID:qkZ61QSO
 初春「何でしょうか……」

 音のしたほうに何気なく顔を向ける。



 ――その時。




 初春「ひぃぃ!!」




 一瞬にして顔がこわばり、背筋に寒いものが走った。
 目に写っていたのは――あまりにも信じられない光景。






 青白い炎のようなものが――空中に浮かんでいた。

193 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 10:08:12.23 ID:qkZ61QSO

 ちょうど遺体が転がっているあたりに。


 それは炎のようだったが、時折人のような形をとったりする。

 そして――





    ……タスケテ……




  
             ……タスケテ……




 どこからともなく押し殺した男の声が耳に付いた。


194 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 10:17:06.28 ID:qkZ61QSO
ここで投下停止です。

いけたら夕方近くに投下します。
195 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 10:51:20.94 ID:Iu6w5wSO

待ってる
196 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 13:49:57.13 ID:qkZ61QSO
さて、投下を再開しようと思いますが、打ち込みながらなので、マジで間隔が開きますがご了承願います。
帰省ラッシュをナメてたのがバカだった…。
新幹線でデッキに立ちっぱのまま、どこまでいけるか…。
197 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 14:07:34.39 ID:qkZ61QSO
初春「ひっ……な……何?」

目の前の青白い物体に、腰を抜かした面持ちで、ただじっと見ていることしかできなかった。
いや――頭ではこの場から早く逃げようと思っても、体が完全に竦んでしまって、身動きがとれなかった。


??「……タスケテ……タスケテクレ……」


その青白い炎は宙に浮きながら、なおも重苦しい――まるでとてつもない重さの岩を腹に押しつけられたような――声をどこからともなく絞り出していた。
さらに、時折……形を変える素振りを見せていた。

その形はというと……。
198 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 14:36:49.79 ID:qkZ61QSO

初春「ひ……人……?」

ソレは時折――人のような形をとることがあった。
目を凝らして見てみると、それが男のようだともいうのが、辛うじて分かる。


そう――それはかつてヒトだった――人魂といわれるモノ。

初春「…………」

いまだに目の前の正体不明の物体に怯えも、警戒感も露にしていた。

しかし――それが何かを知りたいという、好奇心のようなものも、徐々に心の奥から湧き上がってきていた。



初春「あなたは……一体どうしたのですか?」

恐る恐る、しかし過剰な震えとかは一切抑えて、目の前の青白い――ヒトだったモノに訊いた。
199 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 15:46:53.61 ID:qkZ61QSO

??「アア……キミは生きていルノか……」

ソレは時折掠れた声でゆっくりと尋ねてきた。

初春「は、はい。私は生きてますけど、それが何かあるのですか?」

いきなりそんなことを訊かれても、かろうじてこんな答しかやりようがない。

だが、そんな彼女になりふり構わず、話を続ける。


??「ソウカ……ソレはイキテ帰ってモライタイものダガ……不可能に近いだろウ」
200 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 19:13:59.54 ID:qkZ61QSO
(携帯の充電が切れたため、長く中断してました。申し訳ないです)


初春「生きて帰るのが不可能って、いきなり言われても、受け入れられません」

突拍子もないことを言われて、思わず返してしまった。

だが……そこから返ってきた返事は、彼女の想像をこえたものだった。


??「キミは監禁されたのサ。この多重閉鎖空間に」
201 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 20:06:36.67 ID:qkZ61QSO

初春「多重……閉鎖空間……?」

??「ソウさ。ココはとてツモなく強力な霊力によって創られた、特殊ナ空間サ」

青白いソレは一旦言葉をきると、さらに続けた。


??「僕モこの空間二閉じ込められた犠牲者サ。この空間に連れてコラれて、僕は脱出できず、命を落トしたけどね」

初春「そ、そんなことが……あって……」

たまるか、と続けたかった。
多重閉鎖空間だの、とてつもない霊力などと、あまりにオカルトじみすぎている。

だが……それを今とやかく言ったところで仕方が無い。


――現に彼女自身が閉じ込められているから。

――現に……人魂という科学でわりきれないものが目の前にあるから。

初春「…………」

いまだに受け入れがたい様子の初春を尻目に、ソレは続きを話し出す。


??「キミがココに来た時……同じ時二、オナジような霊魂が飛んで来たのを感じタ……確カ、3つダッタ……」



――3つって……佐天さんに御坂さんに白井さん!?


初春「そ、その話、もっと詳しく聞かせて下さい!」
急に目の色を変えて、人魂に食い付いた。

202 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 20:16:12.06 ID:qkZ61QSO

??「あ、慌てルな。その3人はキミのトモダチかい?」

初春「ええ、そうです。どこにいるか分かりますか!」


??「残念ながらな……コノ次元二はいなイ……」



初春「そ、そんな……どうやったら会えるんですか!?」

さらに掴みかかる勢いで、必死になってしまっていた。
203 : ◆IsBQ15PVtg :2010/12/31(金) 20:22:35.31 ID:qkZ61QSO
本日の投下はここまでです。

続きは新年以降の予定です。
ではよいお年を。
204 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 01:59:53.01 ID:.twG5Yg0

コープスパーティは途中で飽きて、最後までやってないんだよなぁ
引っ張り出してくるか、プレイ動画でもみて復習するか・・・
205 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/01/07(金) 19:57:00.24 ID:4YCBLzk0
続き投下します。
206 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 19:57:29.14 ID:4YCBLzk0
 初春「そ、そんな……どうやったら会えるんですか!?」

 さらに掴みかかる勢いで、必死になってしまっていた。


 ??「ソレは……分からない…。ボクと一緒にトモダチもいっしょにコノ学校に連れてこられタケド……見つけラれなかっタ……」

 話すにつれて、声のトーンが落ちていく。

 ??「ダガ……時たま声ガ聞こエたりするんだ……。メッセージを書き残して……他の次元にいるトモダチに伝えることもデキルみたいダ……ダケド……それだけなんダ……」

 初春「そ、そんなことしか……できないというのですか……」

 今にもその場に崩れ落ちるかのように、全身から力が抜けていく。


 ――同じ場所にいるのに、会うことができない。

 ――声は聞こえるのに、会うことができない。

  
 目の前の霊魂が話すことは到底信じがたかったが、本当だとするなら……到底耐え切れそうにない。
 ただでさえ、不可解なことが繰り広げられている、この不気味な空間に一人でいるとなると……最悪精神が壊れかねない。
207 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 19:58:17.59 ID:4YCBLzk0
 ??「再ビ同じ仲間と逢いたけレば、同じ次元に存在スル方法を見つけなけレばいけない……そうすレば……」

 霊魂は一旦言葉を切ってから、トーンをやや落として話を続ける。

 ??「脱出ハ出来なくトモ……せめて一緒に死ヌ事くらいは……出来るカも知レないな……」

 初春「し、死ぬだなんて、そんなこと」

 あまりにも消極的過ぎる言葉に思わず反論してしまうが、これまでにこの霊魂が発した言葉を思い起こし、はっと気づく。
 
 ――脱出できるのなら、そもそもこんなところで亡くなっているわけがない。
 恐らくいろいろな手段を試し、一生懸命あがいたのだろう。

 ――でも、できなかった。
 できずに亡くなったのだ。
 だから、脱出が出来ないなんて言葉が出たのだ――。

 このとんでもない現実から逃れられるのが、いかに絶望的かを思い知らされたから――せめて一緒に死ぬ、なんて言葉が出たのだろう。
208 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 19:59:07.51 ID:4YCBLzk0
 初春「……取り乱して申し訳ないです」

 ??「気ニしなくてモいい……むしロ、助けになラなくて……すマない……」

 初春「いえ、こちらこそいろいろ教えてもらって、ありがとうございます」

 左足がなおも痛むのにこらえながらも、頭を小さく下げる。

 ??「……何とか脱出方法を見ツケ出スンダ……ワタシタチノヨウニ……ナラナイデクレ……」

 穏やかな口調で思いを霊魂が口にした――その時。





     ――ガラッ





 背後で――引き戸が開く音がした。
209 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 19:59:51.51 ID:4YCBLzk0
 ??「ヒィッ!!」

 か細い悲鳴を上げて……霊魂は消滅した。

 初春「ち、ちょっと……どうしたのですか?」

 いきなり消えた霊魂に慌てふためく。
 そして、ふと扉のほうに目を向けた――が。


 初春「ひっ……ひぃ!!」











 ――そこには――少女が一人。
210 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:00:17.75 ID:4YCBLzk0
 髪を長く垂らし、顔――のみならず、全身は青白く。

 ボロボロになった赤い服を着て。 

 ひざを抱えるようにして、入口のそばに座り込んでいた。





      ――髪の間からは瞳が覗いていた。



   


                  ――大きく見開いて。





 

  ――じっと初春の顔を見つめて。
211 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:01:13.47 ID:4YCBLzk0
 初春「……あ……ひっ……」


 ――逃げなくては。

 そう思っても、体が動かない。
 体はただ、小刻みに震えるだけで、脳からの指令をまったく受け付けないかのように動かない。

 心の奥からいやに冷たいものが湧き上がる。
 歯がカチカチと音を勢いよく鳴らすかのように口元が震え、全身をいやな汗が流れ落ちる。



 ??「…………」
 
 少女は何も言わずじっと初春を見つめているだけ。
 
 だが――その視線から、伝わってくる。



 ――憎しみ、恨み――



 おびただしい負の感情のような、重苦しいものが伝わってくる。

 それは、一瞬にして全身が凍りつくかのように。
212 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:02:00.43 ID:4YCBLzk0


 ――そして――





       ――ゆっくりとその表情は変わる――







                 ……ニィッ……






                 ――口元を――不気味に歪めて――



213 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:02:53.25 ID:4YCBLzk0
 そして少女は――


    そのままゆっくりと――立ち上がって――





       ――歩みだしてくる――








  ――初春のほうへと。




214 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:03:23.66 ID:4YCBLzk0


 初春「いやあああああああ!!こないでえええええええ!!」


 周囲の空気を震わせるような、ありったけの悲鳴を上げた。

 途端に全身の緊張が解けたかのように、後ろずさり……一気に走り出す。
 左足の痛みも気にせず、無理に足を引きずりながら。

 所々でつまずきそうになるものの、ただひたすら……無我夢中で……。


215 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:04:06.82 ID:4YCBLzk0
 美琴(確か……この辺だったと思うんだけど……)

 ロウソクを手にしながら、ゆっくりと廊下を進むものの――初春の姿は一向に見かけない。
 いや――人の姿すら見かけない。



   ……ミシ……ミシ……


       ……ギイ……ギ……


          ……カサカサカサ……




 ただ、床を踏みしめたときに、木が軋む音と――どこかを虫が這う音が聞こえるだけだった。
 ロウソクの炎でほんのりと周囲を照らしているものの……はっきりいって先はあまりよく見えない。
 湿っぽくて、かびが生えた特有の臭いが鼻を突く。
 ねっとりとした湿気がまとわりついて、不快なことこの上なかった。
216 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:04:45.75 ID:4YCBLzk0

    ……ポツ……ポツ……


 どこからともなく水滴が垂れる音が聞こえる。
 雨漏りでもしているのだろう。
 外をふと見ると、どうやら雨が降っている様子だ。
 こんな崩れかかった建物なら無理もない。


 美琴(外から聞こえた……ってわけじゃなさそうね)

 ふと外側に面した窓を覗き込んだが……ただ降りしきる雨の音がするのみ。
 所々割れているのはおろか、一部は外れかかっている窓から覗かせている光景は――暗闇だけ。
 目を凝らすと、森らしき影がうっすらと見える。

 ――人影はまったく見えない。
217 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:05:16.04 ID:4YCBLzk0

 美琴「初春さ〜ん、どこなの?」

 呼びかけてみるものの、返事はまったく返ってこない。

 窓と反対側に目をやる。
 所々が崩れ落ちたモルタル製の壁が広がっていたが……そこに1枚の張り紙が張られていた。

 美琴(……何かしら、これ)

 ロウソクの炎をゆっくりと近づける。
 何かの標語を書いているのだろうか、大きな文字で書かれていた。




 『……はやくおウチへかえろう
 
       いつまでも残っている子は……

            ……お腹がすいて、死んじゃうぞ』
218 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:05:45.27 ID:4YCBLzk0

 美琴(何よこれ……小学生向けの標語にしては、悪趣味っぽいわね)

 妙な違和感を感じつつ、ロウソクの炎を張り紙の所から離す。
 そして、廊下の先を進もうとした、その時。




   ……グラッ……グラグラ……



 
 美琴(地震!?)

 周囲を強い揺れが襲った。
 思わずよろめきそうになるが、なんとかこらえる。
 すぐにロウソクの炎を消し、その場にしゃがみこんだ。

 近くに木の板が落ちていたのを見つけた。 
 とっさにそれを拾って、頭を覆う。

 揺れとともに、砂埃が舞い上がり、一瞬にして煙たくなる。
 思わず目を堅くつむった。
219 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:06:13.86 ID:4YCBLzk0

 ――幸い、揺れはすぐに収まった。


 美琴(……もう……大丈夫みたいね……)

 板を廊下の壁に立てかける。
 目をゆっくりとあけてみる――が。


 美琴「げほっ……ゲホ……」

 いまだに周囲に漂う砂埃で、思わず咳き込んだ。
 煙たくて、目も大きく開けられない。

 美琴(危ないじゃない……たまったものじゃないわね)

 近くに置いたロウソクが転がっていた。
 先程と同じように、小さな木の板に立てて、ロウソクを立てかけようとした……が。
220 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:06:44.41 ID:4YCBLzk0

 美琴(そういえば、この状況で……火花を出すのはまずいわね……)

 ――粉塵爆発。
 そんな言葉が頭をよぎった。

 一定の濃度の粉塵が浮翌遊した状態で、火花などが生じると爆発を起こす現象。
 所々に隙間や裂け目などが開いているとはいえ、砂埃が十分に舞っているこの状況で電流を流すと、爆発する可能性はある。

 美琴(収まるのを待ってからのほうが……いいわね)

 ため息を小さくついて、ロウソクを一旦下に置く。
 そして、いまだに煙る廊下の先をじっと見つめていた――。
221 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:07:11.65 ID:4YCBLzk0

 初春「はぁっ、はぁ……」

 ――すぐに入口のところまでたどり着く。
 扉は開いたままになっていた。

 即座にくぐり抜けた――その時。



  ――グラッ……グラグラ……



 足元を突如大きな揺れが襲った。
 建物全体が、大きく揺れていた。



 初春「ひ、ひっ!!」

 足を止めて、手を頭の上に乗せて、その場にしゃがみこんだ。
222 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:07:39.16 ID:4YCBLzk0
 初春「ひ、ひっ!!」

 足を止めて、手を頭の上に乗せて、その場にしゃがみこんだ。



   ……バキ……バキッ……



        ……ミシッ……ギギギギギ……



     ……パラ……パラパラッ……



 揺れとともに、天井から砂埃や木片が舞い落ちる。
 床や天井が、悲鳴のように軋みを上げる。
 モルタル製の壁も、所々崩れながら砂埃を舞い上げる。
 煙たさのあまり、思わず目をつむった。
223 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:08:32.60 ID:4YCBLzk0
 ――揺れは1分もしないうちに収まった。

 ゆっくりと目を開けようとするが。


 初春「ゲホ……ゲホ……」

 鼻や口から埃が容赦なく入り込んできて、思わず咳き込んでしまう。
 目も入ってきて、ちくちくと痛み出し、まともに開けることも出来ない。

 そんな時――。




    ……ギィ……ギィ……



 ――近くから、木が軋む音が。
224 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:09:03.81 ID:4YCBLzk0

 初春(……!!)

 一定間隔で音がする。
 人が歩いているかのような……そんな感じだった。 


 初春(だ、誰ですか……?)

 目を擦り、ゆっくりと目を開けた。
 いまだに砂埃の舞い散る廊下の奥に……見えた。



 ――こちらに近づいてくる人影が。



 初春(ま、まさか……さっきの女の子とか……?)


 想像した途端に、再び全身が緊張しだした。
 左手を床に突きながらも、じっと廊下の奥に視線が釘付けになる。
225 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:09:34.99 ID:4YCBLzk0

 まさかのときは……すぐに逃げ出すつもりだった。
 足はいまだに痛むが、とやかく言っていられない。
 でも、さすがにさっきのように再び走り出せる自信は……ない。

 初春「……ごくり……」

 思わずつばを飲み込む音が聞こえる。




      ……ギィ……ギィ……




 軋みの音はだんだん大きくなってくる。
 そして、人影が大きくなってきて……近づいてきて……露になって……。












 ??「初春……さん?」
226 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:10:43.68 ID:4YCBLzk0
 初春「……え?」

 呼びかけてきた声は、聞き覚えのある声。

 クリーム色のブレザーに喉もとの赤いリボン。
 さらにチェックのスカート。

 見たことがあるも何も――常盤台中学の制服だ。
 そして、何より――その人物は。


 初春「御坂さぁん!!うわああああん!!」

 美琴「ち、ちょっと!!初春さん!?」

 まるで糸の切れた凧のように飛び上がり、美琴に抱きつく初春。
 そして、堰を切ったかのように胸元で声を上げてひたすら泣きじゃくる。
 そんな初春に美琴は戸惑うばかりだった。

 美琴(これは落ち着くまで待つしかないわね)

 一体何が初春の身に降りかかって、こうなったのかは分からない。
 内心でため息をつきながらも――ひたすら泣きじゃくる初春を、ただ抱きとめていた。





 ――そんな彼女達の背後の壁には、張り紙が1枚。
227 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:11:28.61 ID:4YCBLzk0

















    『お ま え の う し ろ は ほ ん も の か』














   ――大きな文字で書きなぐられていた……。



228 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/07(金) 20:20:18.79 ID:4YCBLzk0
本日の投下はここまでです。

さて……中途半端なところで申し訳ありませんが、この先で選択肢を設ける予定です。
落ち着いた後でどこへ行こうかという選択肢なのですが、先に示しておきます。
安価は>>230でお願いいたします。

A:2-A(初春が目を覚ました部屋)を探索する。
B:廊下を3-A(美琴が閉じ込められた部屋)の方向へ引き返す。
C:廊下を奥まで進む。

以上です。
229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 20:34:05.53 ID:dc2wc0co
ぎゃああこええええ
230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/07(金) 22:45:28.83 ID:JiNX/gAO
Cでお願いします。

コープスパーティーやったことないから先が読めないな……
231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 00:17:00.09 ID:Ju4tksko
怖いなぁー・・・
232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 02:09:01.08 ID:m57X2QAO
まさかパー速でホラー物が読めるとは 師匠シリーズ好きな俺得
233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 19:11:57.96 ID:S8/DzEgo
ここパー速だっけ?
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 21:58:01.42 ID:2ytvVgSO
製作速報VIP(クリエイター)
235 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/01/11(火) 20:56:59.30 ID:IvCg66eSO
それでは、Cということで、続きを書き込みます。
ただし携帯から書き込みますので、間隔が開きます。
ご注意ください。
236 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/11(火) 21:20:07.70 ID:IvCg66eSO


初春「ううっ……ぐすっ……」

美琴「どう?少しは落ち着いた?」

初春「は、はい……。取り乱しちゃってすみません」

美琴「いいのよ。何があったかは知らないけど……こんな所にいきなり連れて来られたら、たまったものじゃないわ」

初春「……会えてよかったです……」


ここで一旦言葉を切って、初春は美琴の顔を覗きこむ。
きょとんとしている美琴とは対照的に、目の下を赤く腫れ上がらせていた。



初春「……脱出するどころか……いる次元が違うから、会えないだろうって言われたものでして……」


美琴「それってどういうこと?そんなこと言ったのって、どいつ?聞かせてくれない?」

237 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/11(火) 21:30:12.07 ID:IvCg66eSO
初春はありのままに話した。


――ここが強い霊力によってつくられた、閉じられた多重閉鎖空間だということ。

――このことを教えたのは、前にこの空間に連れて来られた犠牲者の霊魂だということ。


――ここから脱出する方法は分からず、ほぼ不可能だということ。



そして――赤い服の不気味な少女がいきなり現われて――襲われそうになったこと。
238 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/01/11(火) 21:32:45.84 ID:IvCg66eSO
(投下は一旦ここまでです。いけたら夜中に続きをいこうかと思います)
239 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/12(水) 04:57:42.51 ID:8r0SL0y10
 内容は科学で割り切れる以前の問題といっていいほど、あまりにオカルトじみていたのだが――






 美琴「……大変だったね……初春さん」

 
 驚くとか、唖然とするとか――そういった素振りはあまり見せなく――

 胸元に顔をうずめている初春の頭をそっと撫でた。


 初春「…………」

 何も言わなかったものの、表情から怯えの色はなくなりつつあった。
240 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/12(水) 04:58:09.37 ID:8r0SL0y10

 廊下中に充満していた砂埃もいつの間にか落ち着いていた。
 視界こそ良くはなったものの……相変わらず周囲は暗闇に支配されていた。

 美琴「さすがに暗いのも何だから、明かりをつけとくね」

 初春「え?そんなこと……」

 ポケットにしまっていたロウソクを床に置くと、美琴は芯に向けて指先から火花を飛ばす。
 小さく火が灯り、周囲を淡い光が照らし出す。


 ――所々に穴の開いた天井や床。

 ――一部が割れたり、枠が外れかかっている外に面した数多くの窓。


 そして、その反対側には――大きく開け放たれた引き戸。
 その上には【2-A】と書かれた木の札が外れかかって落ちそうになっていた。
241 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/12(水) 04:58:49.53 ID:8r0SL0y10
 美琴「やっぱり、ここは学校のようね」

 初春「でも、こんな廃校は学園都市のどこにもないですよ」

 美琴「当たり前よ。学園都市の外ってことは確かだけど……第一、昭和の時代の新聞が残っているぐらいだし」

 初春「え?御坂さんも見たのですか?」

 美琴「うん。ただ、見たら教室に閉じ込められるというタチの悪いものだったけどね……」

 初春「そんなのが……学園都市の外だとしても……おかしすぎますよ」

 美琴「当たり前よ。こんなにあちこちが崩れかけて……」

 ここで一旦言葉を切ると、目の前の教室を睨み付けるように見て――言った。





 美琴「死体が堂々と転がっているのだから……」

 初春「…………」

 一瞬、びくりと体を震わせる初春。
 それを見て、きまずそうな表情を浮かべる美琴。
242 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/12(水) 04:59:18.57 ID:8r0SL0y10

 美琴「と、とにかく行こうか。早くこんな所から脱出しましょ」

 初春「は、はい……」

 ゆっくりと立ち上がろうとする二人。

 が――。


 初春「……っ!!」

 左足に再び痛みが走った。
 苦しそうに、思わず声を上げてしまう。

 美琴「ちょっと……足……ケガしてるの?」

 初春「ええ……ここに落ちてきたときに、思いっきり打ち付けてしまったみたいで……」

 美琴「だとしたら、何か固定できるものはないかな」

 周囲に手ごろな板切れなどがないかを探してみるものの、そういった類のものは見当たらなかった。
243 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/12(水) 05:00:28.74 ID:8r0SL0y10

 美琴「参ったわね……とにかく、先へ進みましょ。私の肩貸してあげるから」

 初春「す、すみません」

 美琴「いいのよ。こんな崩れかけた校舎だけど……板ぐらいは適当に転がってるでしょ」

 初春「そうですね。じゃあ、ロウソクは私が持ちます」

 美琴「なら、お願いね……こんな所、早く抜け出したいし」

 初春「まったくです」

 初春の左腕を首に掛けるようにして、立ち上がる。
 右肩を中心として、初春の全体重がのしかかるが、それに構わずゆっくりと歩き出した。
244 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/12(水) 05:01:06.78 ID:8r0SL0y10



 美琴「それに……」




   ……ギィ……ギギィ……



     ……ミシミシ……


 軋みの音が大きくなり、抜け落ちるのではと時折不安になる。
 一歩一歩、足元に気をつけながら廊下を進む。





 美琴「……喉も……渇いてきたから……」

 



245 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/12(水) 05:01:43.43 ID:8r0SL0y10
 初春「そうですよね」

 思えば、この廃校には水というものが見あたらない。
 蛇口はおろか、自販機なんて便利なものなんて到底なさそうだから。
 せいぜい、外まで出て、雨水を口に含むことぐらいしか出来ないだろう。

 それ以上何も言わず、美琴は初春の体を引きずるような形で、ゆっくりと廊下を歩いていく。

246 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/12(水) 05:02:58.41 ID:8r0SL0y10

 やがて、廊下は左に折れる形となっていた。
 右手には上に登る階段が伸びていたのだが――。

 美琴「階段を行くのは無理っぽいわね」 

 階段の手前のスペースが、ごっそりと崩れ落ちていた。
 残っている廊下の部分から、折れた梁がだらしなく垂れていて、その下は延々と闇が広がっていた。


 初春「左はなんとか行けそうですね」

 左へと曲がっている廊下は、部分的に崩れているものの、なんとか進めそうだった。
 進行方向へと顔を向けたとき……視界に飛び込んできたのは――。

247 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/12(水) 05:04:24.39 ID:8r0SL0y10



 ――床の一部が……赤く染まっている光景。



 ――ペンキをこぼしたかのように、大きな赤いシミができている。






 ――その真ん中あたりには、赤く染まった……メモ翌用紙が落ちていた。




248 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/12(水) 05:04:59.15 ID:8r0SL0y10

 初春「ひっ……何なのですか?」 

 美琴「ペンキとかいう冗談ではなさそうね……」

 そう言って、ゆっくりとメモ翌用紙のところまで歩み寄り――文字を眺めた。


 美琴「……想像したくないことが起こったようね……。初春さんは、読まないほうがいいかもしれない」

 顔をしかめながら、メモ翌用紙をじっと睨み付ける。

 その内容はあまりにもおぞましくて――読むだけで、言いようのない不快感が美琴を襲った――。

249 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/12(水) 05:05:37.24 ID:8r0SL0y10



              『ぼくは今日友達をたべた。

            お腹が空いたんだから、仕方がない。

           こうなった以上はどちらかでもいきのびて、

         ぼくらの帰りを待つ人たちに報告をしたほうがいい。



      僕らはジャンケンで、負けたほうが相手を食べることにきめた。



                僕は負けてしまった。

               血で喉の渇きを潤わせる。

                肉で命をながらえる。


                 この血も肉も、

      さっきまで話してたあいつの命を繋いでいた中身なんだと思ったら、

             どうしようもなく涙が止まらない。

   
              死んでも一緒にいたいから、

          俺はあいつの目玉を持っていく事にした。

       
              正気を保っていられるように、

            ぼくは出来るだけ手記を残そうと思う』





250 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/12(水) 05:10:03.72 ID:8r0SL0y10
本日の投下はここまでです。

あと、「メモ翌翌翌用紙」じゃなく、「メモ翌用紙」ですね。
これまでも、誤字脱字失礼しました。
251 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/01/12(水) 05:12:04.34 ID:8r0SL0y10
>>250
じゃなくて、「メモ翌用紙」です。
安易にペーストするとまずいのでしょうかねぇ。
マジ失礼しました。
252 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 08:36:44.82 ID:yADTJqoIO

昔、ハルヒSSでスウィートホームとのクロスがあって面白かったけど、コッチも期待してるんだよ。
253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 12:40:20.22 ID:am/BS36Ro
メール欄に「saga(さが)」と入れておくといいですよ
時々変な文字に反応して勝手な変換入るから

それにしても読む時にこんなに緊張するSSもあまりないな
毎回その感覚が新鮮で面白い・・・
254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 02:58:07.68 ID:T2TZ21CAO
>>232 俺はこの話好きhttp://kowabana.web.fc2.com/series/shishou/66_1.html

最近のオカ板は盛り上がりに欠けるからなぁ いいスレ見つけたわ。コープスって青鬼みたいなもんかと思ってたんだが違うんだな。
255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 23:21:04.02 ID:xGLODwywo
板移転みたいだから依頼出したほうがいいぞ作者

■ 【必読】 SS・ノベル・やる夫板は移転しました 【案内処】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294924033/

SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

256 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/01/14(金) 04:39:18.61 ID:HW5O2ym30
>>255
ありがとうございます。
まさか板移転とは……。
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

257 :真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
258 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/01/15(土) 22:56:24.01 ID:rBb1SpNz0
>>257
管理人様、運営の皆様、移転作業お疲れ様であります。
そしてありがとうございます。

新板に移り、落ち着いた所で……投下いきます。
259 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/15(土) 22:57:09.38 ID:rBb1SpNz0

 初春「読まないほうがいいって……そんなこと言われたら、余計に気になります」

 美琴「さっさと先に急ぎましょ。立ち止まっていても仕方がないから」

 メモから目をそむけ、うつむいたまま、美琴は前へと進もうとする。

 初春「で、でも……」

 美琴「初春さん。こんなことを言うってのも何だけど……知らなくていいってこともあるのよ」

 初春をぴしゃりとさえぎってしまう。

 美琴(本当かどうか分からないけど……こんなもの見せていいわけがないじゃない。ただでさえ、ここの異様さにまいっているというのに……)

 素直に初春のことを思いやってのことだった。

260 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/15(土) 22:57:38.47 ID:rBb1SpNz0

 が、そんな美琴の態度に、もやもやとした感情が初春の心の奥から湧き上がる。

 ――苛立ち。

 ――むかつき。

 ――不快感。

 それらが心の中で混ざり合って、大きくなっていく。


 初春(これじゃあ、バカにされているようじゃないですか……)

 いくら先程まで怯えていたとはいえ、今こそは二人でいるしそんなに怖くない。
 なにより、危険なジャッジメント活動に志願してきて、これまで様々な危険に身を投じて、それらを乗り越えもしたのだ。

 初春(こんなメモぐらいで……いくら怖いことが書いていようと、それくらい……)

 そこまで思ったとき、急にはっとする。

 初春(……それでどうかできるというのですか。むしろ、さらに怖い思いをして、御坂さんに迷惑をかけてしまうかもしれないのに――)

 目を覚ましてから、初春が立て続けに目にした怪異。

 それに対して――何も出来なかった。

 立ち向かうわけでもなく、ただ怯えて泣き喚いていただけ――
261 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/15(土) 22:58:08.33 ID:rBb1SpNz0


 初春(――結局、無駄にいきがって、何もできなかったじゃないですか……)

 ただ、己の無力さを呪い。

 下唇を固くかみ締めながら。

 じっと下の床を見つめていただけだった――。 


 美琴「……ちょっと、初春さん」

 初春「……すみません。行きましょうか」

 心配そうに見つめてくる美琴に、あいまいな笑みを浮かべて返す初春。
 再び、美琴は初春に肩を貸しながら――廊下の先を一歩一歩先へと進んでいく。






 
 ――メモが落ちていた血だまりのあった付近の壁に……貼り紙が一枚。



262 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/15(土) 22:58:38.94 ID:rBb1SpNz0











                    『 お ま え た ち は




                       ほ ん と う は




                   お 互 い の こ と が キ ラ イ




                         い ず れ









                       こ ろ し あ う 』






 破れかかって、黄ばんだ紙に――赤い字で刻み込むように書かれていた――。


263 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/15(土) 22:59:14.28 ID:rBb1SpNz0

         
 美琴「これはちょっとキツそうかな」

 二人の目に入った光景。

 先へ続く廊下を横切るように入った――一条の裂け目。
 もっとも幅の狭いところで1m程度。
 がんばれば飛び越えられなく――もなさそうだ。

 しかし、足を怪我した初春を抱えて、そんなことは到底不可能だった。
 それに、床は全体的に朽ち掛けているのだ。
 梁なども折れていたり、だらしなく下に垂れて落ちかかっているものまである。
 その下に広がるのは――ただ真っ暗な空間。

 仮に一人で飛び越えたとしても、着地した衝撃で床が崩れ落ちて、そのまま落下――
 そんな最悪の結末が頭をよぎった。
264 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/15(土) 22:59:49.71 ID:rBb1SpNz0

 初春「先に入口がありますね」

 それと思われる引き戸が、初春の指差す先に見える。
 裂け目からおよそ10m先といったぐらいだろう。

 初春「んで、ここの横にも入口が。ひょっとしたら、部屋を通り抜けたらいけるのじゃありませんか?」

 横には同じような入口があった。
 引き戸は半分閉まっているが、なんとか通り抜けられそうだ。
 上には【1-A】と書かれた木の札が掛かっている。
 二つの入口の間には、朽ちかかった窓が連なっていることから、中で繋がっているように思える。

 美琴「そうね。じゃあ、そうしようか」

 扉に手をかけると、キィという不快な甲高い音がして開いた。
 そして、ゆっくりと中に入る。



 ――が。


265 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/15(土) 23:00:26.31 ID:rBb1SpNz0


 美琴「そう簡単に……先に行かせてくれそうもなさそうね」

 初春「そうですね」

 部屋というより教室に入って目にしたのは――大きく抜け落ちた、教室の後ろ半分。
 廊下に面した窓が、先にある引き戸が、宙に浮いているかのようだった。
 ただ、床や壁の下から伸びた梁が互いに、中空で重なり合っているだけ。
 一方、残っている床の上には、木製の小ぶりな机や椅子がいくつか散乱していた。
 あとは最前方に黒板、その前には教壇がある。
 さらに奥に目をやると、戸棚が一つ置かれていた。

 初春を手近にある椅子に腰掛けさせ、先程の裂け目の橋渡しになりそうなものはないかと、まずは一つの机に手を掛けてみる美琴だが――。


266 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/15(土) 23:00:56.66 ID:rBb1SpNz0


 美琴「何よこれ」

 机は床に固定されているかのように、まったく持ち上がらない。
 いや――寸分たりとも動かない。

 初春「釘は打ち付けていないようですし、ボンドでくっつけてるんじゃないですか?」

 美琴「としたら、あまりにも質の悪いイタズラね」

 何度持ち上げようとしても、さらには他の机や椅子で試しても――どれも同じくびくともしない。


267 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/15(土) 23:01:34.67 ID:rBb1SpNz0

 美琴「ゴラアアアアア!!」

 終いには机の一つに勢いよく蹴りを入れる。
 だが、ゴツンという音が響いただけで、まったく1mmたりとも動いた気配がない。
 単に、蹴りを入れた足に痛みが残っただけだった。

 美琴「ててて……ちよっと、マジでおかしいって。まるで床と一体化しているみたい」

 初春「すぐに壊れそうに見えるのに……変ですね」

 美琴「ったく、何か使えそうなものはないかな……ん?」

 ふと目にした教卓の上に、小さな棒切れが1本置かれていた。

 美琴「これ、初春さんの足を固定するのに使えそう……って、何かが書かれている」

 棒を手に取ったとき、教卓の天板に文字が書かれていた。
 サインペンで書かれたものらしく、字がかすれていないことから、書かれてからまだそんなに間がたっていない感じだった。
268 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/15(土) 23:02:01.33 ID:rBb1SpNz0








 『結衣センセーへ

   迎えに行く。

    入れ違いでコレを見たら、この場で待ってて

     俺達も帰ってくるから』





269 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/15(土) 23:02:31.84 ID:rBb1SpNz0

 美琴「どうやら、少し前あたりに、ここに飛ばされてきた人がいるみたい」

 初春「ここで待って、その人たちと落ち合うことにしましょうか?」

 美琴「いや、それはどうかな。いくら少し前とはいっても、埃がうっすらとたまっているから……そこそこ時間は経っている感じね。それに……」

 一旦、外側に面した窓に目をやってから、再度口を開く。

 美琴「ここに必ず戻ってくるとは限らないわよ。生きているってことすら怪しい感じよ」

 初春「え……?」

 美琴「わたしも別の教室の中で目を覚ましたのだけど……死体があったわ。ここに飛ばされてきた人のね。初春さんが見た死体と合わせて、すでに2人がここで命を落としているってことになるわね」

 初春「まさか……このメッセージを書いたのはその2人とか?」

 美琴「とは限らないわね。わたしが見た死体は女子高生のものだったわ」

 初春「私が見たのは男のようでした。その人の魂の話し口調から、そう思っただけですけど」

 美琴「まあ、このメッセージを書いた人達は少なくとも3人以上がまとまってここに飛ばされてきたってことになるから、残りは生きているかもしれないけど……」

 話しながら、棒切れを手にして、初春のところまで歩み寄る。
 左足のあたりに副えると、ポケットからハンカチを取り出して、初春のかかとのあたりで棒を結わえ付けた。
270 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/15(土) 23:03:02.63 ID:rBb1SpNz0

 美琴「初春さんもハンカチ持ってない?」

 初春「ありますよ」

 ポケットから白いハンカチを取り出すと、そのまま美琴に手渡す。
 美琴は初春の太ももの辺りで、それをしっかりと結わえ付ける。
 そして、ゆっくりと椅子から立ち上がる初春だったが――。

 初春「あっ、大丈夫なようです。ありがとうございます」

 美琴「OKね。さてと……」

 窓際近くにある棚のほうまで歩み寄る。

 美琴「次はあそこを超えるいいものがあればいいのだけど……」

 何気なく戸棚を覗き込んだのだが――


271 : ◆IsBQ15PVtg :2011/01/15(土) 23:03:31.96 ID:rBb1SpNz0






 中には大量の髪の毛。
 それが戸棚の中を埋め尽くすかのように詰め込まれていた。
 扉を開けようものなら、それらが勢いよく飛び出しそうな感じだった。





 初春「気持ち悪いですね。なぜにこんなのを詰め込んで……」

 美琴「んなもん、知らないわよ、ったく……って?」

 戸棚から目を離したとき、背後に扉があるのを見つけた。
 ただ、扉は頑丈に釘で打ち付けられていた。

 美琴「釘を抜いたら……開けられそうね。でも、そうする道具とかは……」

 ふとあたりを何気なく見回してみる。



 ――戸棚の陰になるあたりに……メモ翌用紙が一枚落ちていた。

272 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/15(土) 23:04:23.17 ID:rBb1SpNz0







          『俺の手のひらに、

          生きていたあいつの。

    生きていたあいつのカラダの一部が握られている。

   アイツの頭に付いていた器官を持ち歩いているんだよね。
 
        眼球ってこんなに重たかったんだ。
   
        僕はこの硬質感を確かめるように、
 
      何度もにぎったり弱めたりしたのである』



 メモ用紙はくしゃくしゃになっていて、字も所々乱れていて……

 ――さらに所々が赤黒く染まっていた……。


273 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/15(土) 23:04:49.16 ID:rBb1SpNz0


 美琴(本当に、何よこれ。冗談とは思えないし……完全に狂ってるわね。口調とかもバラバラだし……)

 なんとも言いようのない感情が胸の底から込みあがってくる。
 息が自然と荒くなってきて、分泌する唾液の量が多くなっているのが感じられる。
 そして――











 喉がやたらと渇いてきている――そんな感じがしていた。




274 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/15(土) 23:05:31.93 ID:rBb1SpNz0

 初春「……どうかしたのですか?」

 そんな美琴の様子を後ろから不思議そうな目で見つめていた。
 心配そうな様子で初春は声を掛けた。

 美琴「い、いや。なんでもないわよ。それより、くぎ抜きとかって見ないよね」

 初春「ええ。一応何かないかと見て回りましたけど、そんなのはありませんでしたよ」

 美琴「ここ、釘で固定しているだけっぽいから、それがあったら中に入れそうだけど……」

 初春「まあ、ここだけじゃなく他のところに、役に立ちそうなものがあるかもしれませんよ。足の痛みはマシになってますし、ある程度歩いても平気な感じです」

 美琴「そう。だったら……」

 ここで、美琴はふと思い出した。
 初春に出会う直前に地震にあったが……その時に落下物を防ごうと、近くにあった板を手にしたのを。

 美琴(そういえば、あれだったら長さもそれなりにあったし、いけそうかも……)

 物は3-Aと2-Aの間の廊下においたままにしていたはずだった。
 初春さんにここで待ってもらって、急いで取りに行けばいいだろう。
 さらにひょっとしたら、この釘を抜くものも落ちているかもしれない。

 美琴(もっとも、超電磁砲を使ったら、簡単にいけそうなんだけどね……)

 目の前の釘で打ち付けられた扉をただ、じっと見つめているだけだった。

 そして――
 
 
275 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/15(土) 23:11:54.73 ID:rBb1SpNz0
本日の投下はここまでです。

>>271
>>253に教えてもらったのに、sagaを忘れているとは……最終行は『メモ用紙』ですね。

さて、続きに選択肢を以下のように続ける形で予定しております。
安価は>>276でお願いいたします。


A:初春を教室に残し、板を取りに行くことにする。
B:釘で打ち付けられた扉を超電磁砲で吹き飛ばす。

改めて、管理人および、運営の皆様、そして読んでくださっている方々に感謝です。
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 23:19:00.99 ID:XpTn5uFAO

Aだと初春が死ぬ気がする
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 23:58:47.28 ID:wD9JpROwo
ここで2枚のメモ翌用紙を初春に見せておきたい気もする

…ま、>>276のままに。
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 09:08:52.05 ID:iq8cWDtY0
ちょっと待て、これはもしや、はるうまENDフラグが立ってる?
279 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/01/19(水) 14:37:53.96 ID:QTnWGaNw0
さて、Bで続きを投下いたします。

>>276
おっしゃる通り、AはWrong ENDを想定しておりました。
280 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:39:06.16 ID:QTnWGaNw0
 
 美琴「やるっきゃないか」

 ポケットからメダルを取り出すと、握り締めた右手の親指の上に乗せる。

 初春「え?まさか、超電磁砲で吹きとばすのですか?」

 美琴「そのまさかよ。初春さん、悪いけど耳塞いでおいて」

 初春「は、はい」

 初春が耳を塞いでしゃがみこむと同時に、美琴の体に電気が走る出す。
 時折、周囲に青白い火花が飛び散る。

 美琴「じゃあ、一丁ぶちかますわよ!!」

 メダルを指で真上に弾き飛ばし、ちょうど扉の方向に向けた人差し指の位置まで落ちてきた時――

281 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:39:52.40 ID:QTnWGaNw0





  ――ズドオオオオオオン!!





 耳をつんざく爆音が周囲の空気を切り裂くとともに、指から膨大な電流が一気に放出される。
 メダルは一瞬にして、衝撃波とともに目の前の扉に向けて飛ばされていった。
 爆風を撒き散らし、途端に砂埃、さらには大量の髪の毛が一気に舞い上がる。

 初春「うぷっ。ちょっと……本気でやりすぎじゃないですか?」

 美琴「これでも抑えたほうなんだけどね」

 やがて砂埃が収まりだし、目の前の様子がはっきりとしてくる。

 引き戸のあった箇所を中心として、壁には大きな穴があけられている。
 その横にあった戸棚も、衝撃で黒板に半分ほどめり込んでいた。
 ぴっちりと閉まっていた戸棚の観音開きの扉は砕け散ったといっていいほど、木っ端微塵に破壊されていた。
 中にぎっしりと詰まっていた髪の毛は、そのせいで一気に舞い上がり、美琴や初春にも降りかかる。
 彼女らはそれを取り払うのに精一杯といった様子だった。
282 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:40:38.90 ID:QTnWGaNw0

 美琴「ま、先にはいけるようになったから、いいんじゃない」

 頭や体に大量に降りかかった髪の毛を手で取り払いながら、にべもなく言う。

 初春「それはそうですけど……」

 口の中にも髪の毛が入ってしまったのか、ぺっぺっとつばを吐き出すかのような仕草をする初春。
 気持ち悪がっているのがあからさまに表情に出ている。


 一方、美琴はある程度髪の毛を振り払うと、なりふり構わず壊れた扉の先へと足を踏み入れていた。

 美琴「ここは倉庫みたいなもの?ん?」
283 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:41:22.64 ID:QTnWGaNw0

 先は6畳ほどの小部屋になっていた。
 入って正面と右側、さらには扉のある側は、所々剥がれ落ちかけているモルタル製の壁になっていた。
 もっとも、正面の壁――ちょうど入って真正面のあたり――は、天井から床まで大きなクレーター状の窪みが出来ていたが。

 美琴「ここの壁は脆そうに見えて、案外丈夫ね」

 初春「抑えても、十分ぐらいにすさまじいですよ」

 美琴「そうかなぁ?」

 正面の窪みをしげしげと見つめる美琴を目の前にして、初春はそんな彼女の言い振りに少し呆れていた。
 だが、当の美琴は予想と現実との違いに疑問の色を隠せていなかった。

 美琴(おかしいな。威力を思い切り落としているとはいっても、こんな壁ぐらいすぐ突き破っちゃうはずなんだけどな……)

 少し首をかしげながら、ふと左のほうに目をやる。





 そこには――貼り紙が1枚。



284 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:42:20.60 ID:QTnWGaNw0





 そこには――貼り紙が1枚。









        『……知ろうと欲しない者には

        到底、状況の打開など不可能だ……



 
         ……しかし、この世には……』


 そこから下は、破れていて読めなくなっている。
 どうやら先程の超電磁砲の衝撃で吹き飛んでしまったようだ。
 よく見ると周囲の壁に涙のような痕が点々と付いている。

 美琴「何、これ?そんなこと当たり前じゃない。続きはどうなっているのか気になるところだけど……」
285 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:42:48.54 ID:QTnWGaNw0

 一方、初春は小部屋の入口のあたりでかがみこんでいた。

 初春「この貼り紙の続きって、これじゃないですか?」

 見ると、その破片には上半分が破れている紙が辛うじて貼りついていた。
 そこには文字が書かれていて、実際に前の貼り紙と合わせてみると、破れ方が一致した。
 さっそく目を通してみる。



286 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:43:17.38 ID:QTnWGaNw0




           『……知ってはならない真実も

               また存在する……

 

             読んでいる君の精神を

               深刻に破壊する、

                呪われた

            ダイイングメッセージの存在


 
             君の心を守りたければ……

      
                犠牲者の手記は

      
               絶対に、最後まで

      
               読んではいけない』

287 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:43:49.49 ID:QTnWGaNw0


 美琴「な、なによこれ……」

 初春「何のことかは分かりませんけど、目を通したら大変なことになる文章もあるようですね」

 美琴「そんなのがあるんだ。たまったものじゃないね」

 平然な素振りで言いつつも――内心戸惑っていた。






 ――心当たりがあったのだ。

 
 ――先程まで見た……あの不気味な内容の2枚のメモ用紙。




288 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:44:31.31 ID:QTnWGaNw0

 美琴(まさか、あの2枚のメモのこと?確かに内容は犠牲者の手記っぽいけど……読んだだけで精神を破壊するなんて、そんな非科学的なことが起こるわけがないじゃない。心理系の能力者が仕掛けたものじゃあるまいし)

 心の中で懸命にかぶりを振る。
 動揺を強引に押し込め、無理矢理落ち着かせる。
 そして、ふと小部屋の奥のほうに目をやる。

 そこには、教室で見たような規格の窓があった。
 もっとも、これまで見たものと同様に、嵌められている窓は所々が割れてはいるのだが。

 その前には机が一つ置かれていて――天板の上には、何かしらの物体が置かれている。
 近づいてよく見ると、金属製のレバーと滑車のついた器械だった。
 その背後にロウソクの光を近づけると、虚空に一筋の光が走るように反射する。
 どうやら、器械からピアノ線が延びているようだ。
289 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:45:18.77 ID:QTnWGaNw0

 初春「仕掛けか何かでしょうか」

 美琴「さぁ……よく分からないけど……動かしてみる?」

 無言のままで初春がうなづくのを見て、美琴は手前に下りているレバーに手を掛けた。
 さび付いているのか、力を加えてもなかなか動かない。

 美琴「結構固いわね、マジで」

 仕掛けの土台の部分を左足で踏みつけて固定させ、下から両手で持ち上げるように引っ張るが……なかなか動かない。
 足を机の上に持ち上げている格好になっていて、傍から見ればはしたないのだが。

 初春「あのぉ、あまり無理しないほうがいいのでは」

 美琴「ええ、そうね。だったら……あっ!!」





   バキンッ!!





 いきなり何かが折れるかのような音がしたかと思うと、美琴の身体が一瞬前のめりになった。
 勢いでそのまま机の向こうに転びそうになったが、なんとか踏みとどまる。




 ――レバーは半分ほどまでの位置まで動いていた。




 そして――

290 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:45:47.61 ID:QTnWGaNw0



    ……ゴゴゴ……


                    ……バキッ……


         ……グググ……


              ……グシャ……



 ――遠くのほうから、何か重いものが動いたかのような音や、何かが折れたり、ひしゃげたりするような音がした。


291 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:46:15.75 ID:QTnWGaNw0

 初春「い、一体何が起きたのですか!?」

 美琴「さぁ、よく分からないわよ。何か動いたような感じだけど」

 音のした方角――ちょうど小部屋の入口の方向を怯えた目でみつめる初春の横で、美琴は……

 美琴(……ん?)

 机の下に――何かが落ちているのを見つけた。





 ――何かが書かれた……1枚のメモ用紙だった。

 美琴は……目をそむけようとしたが……

 ……文字が自然と……目に入ってきた。


292 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:46:51.16 ID:QTnWGaNw0


            『……アイツと一緒に脱出する為、

             この校舎を探索しているが……

                ……駄目だ。

 
               もがけばもがくほど、

              酷いことばかりが起こる……

 
               耐え難い喉の渇きと、

             胃が縮んで潰れてしまいそうな

            この空腹は一刻ごとに膨れ上がり、

            俺の前に黒くのしかかってくる……。

  
                 手のひらの、

              アイツの眼球と話をする事で

               俺は正気を保っている。

 
               そんなに俺を見るなよ。

         オマエの遺書は脱出したら必ず家族に届けてやるから』


293 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:47:19.52 ID:QTnWGaNw0

 
 美琴(…………)

 何も言わず、その場にただ突っ立つだけ。



 ――胃に……どことなく空腹感を感じる。

 ――唾液が自然と次から次へと出てくる。




 ――激しく喉が渇くのを感じるとともに……。



294 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:48:06.66 ID:QTnWGaNw0

 初春「御坂さん、どうしたのですか?」

 美琴「あ、ああ……ごめん、今行く」

 心配そうに声をかけられ、はっと我に返る。

 美琴(そうよ……こんなので精神が侵されるって?たまったものじゃないわよ)

 心の底を奮い立たせ、メモから目をそむけ、入口のほうへと歩み寄る。

 が、その片隅に生じた一つの感情――。


 ――薄気味悪さ。

 行く先々に目にする――不気味でグロテスクな手記。
 まるで、美琴が読むように仕向けられているような……彼女にはそんな気さえしていた。




 そして、読むたびに増す――喉の渇きと空腹感。




 じわじわと湧き上がる不安を表に出さないように気をつけながら……小部屋の入り口から教室の中へと戻る。

295 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:48:33.56 ID:QTnWGaNw0

 初春「結局、あそこには使えそうなものはなかったですよね……」

 美琴「ええ……ただ、あのレバーが何かの仕掛けで、どこかのドアが開いたりとかしてるんじゃないかな」

 そんな憶測を口にしながら、ふと傍の壊れた戸棚の中を目にしたとき……

 美琴(何かが光ってる……これは?)

 何気なく、戸棚の中にロウソクを近づけると……残っている毛髪が積み重なった山の隙間から、光をまぶしく反射するものが見える。
 それは――



 美琴「折りたたみナイフ……だよね」

 それは、柄の部分が二つに割れて刃をしまう形状になっている――バラフライナイフだった。

296 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:49:02.95 ID:QTnWGaNw0

 初春「それ……何かに使えそうですか?」

 美琴「分からない。でも、一応持っとく」

 ロウソクを床の上に一旦おくと、中にあったサバイバルナイフに手を伸ばす。
 柄の部分を二つに割って、刃をしまった形にすると、そのままブレザーのポケットに押し込んだ。
 そして、再びロウソクを手にして、教室を出ようと入口に向かうが……


 初春「あれ?こんなところに貼り紙ってありましたっけ?」


 黒板と出入り口の間にある壁に貼られた一枚の紙。
 長い年月を経て、紙質はボロボロになっていたが……字ははっきりと書かれている。


297 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:50:04.93 ID:QTnWGaNw0



       『この学校のことを知りたければ、

      棚や貼り紙は漏れなく調べたほうがいい

           他の監禁者たちの

         遺してくれたメッセージは

          この学校の呪いを紐解く

         道標となってくれる筈だ』


298 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:50:32.02 ID:QTnWGaNw0

 初春「そんなこと言われましても……それっぽいものなんて、あまりなかったのですけど……」

 美琴「そうでもないんじゃない?他にもまだ探していない所はあるんだし……現に戸棚の中にも、道具があったし」

 初春「ですけど……あっ、もう1枚ありますね」

 その下には、別の紙が1枚貼り付けられていた。
 上の貼り紙と同様にボロボロで黄ばんでいたが、はっきりとした字で書かれている。


299 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:51:02.60 ID:QTnWGaNw0



        『崩壊した精神の残り滓……

    呪われた文は、正しい順番で読み進めなければ

          その姿を現さない

 
         願わくば貴方の精神が

        健やかでありますように』


300 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:51:34.86 ID:QTnWGaNw0


 美琴「一体どうしろって言うのよ。読むなっていうものがあるって言っておきながら、調べたほうがいいって……」

 初春「まあまあ。調べていいものと、そうでないものがあるって事じゃないですか」

 美琴「そりゃ、そうだろうけど……」

 苛立ちを隠せない美琴だったが……心の中に芽生えた薄気味悪さはさらに増大していた。


 ――先程までのメモ用紙。

 それが心の中で引っかかって仕方がない。
 息が先程よりも荒くなっていくのが、はっきりと分かる。
 一抹の不安が大きくなっていき――一気にはじけそうだった。

301 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:52:08.74 ID:QTnWGaNw0


 初春「とにかく、ここは調べつくしましたし、外に出ましょうか」

 美琴「そ、そうね」

 促されて、そのまま教室に出たわけだが――。





 美琴・初春「――!!」


 目の前に広がった光景に二人は息を飲んだ。



302 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:52:48.26 ID:QTnWGaNw0



 美琴「床が……伸びてる!?」

 初春「た、確かにそうですよね」

 彼女達の眼前にある床――それまで、裂け目が走っていて通れない箇所だったが――




 人一人分が通れるほどの幅で、裂け目をまたぐかのように床が……できていた。



303 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:53:17.53 ID:QTnWGaNw0

 美琴「これってどういうこと!?」

 初春「さ、さぁ……大丈夫でしょうか」

 美琴「そ、そうよね」

 恐る恐る、伸びた床の部分に足をかけてみるが……崩れる気配は特にない。
 見ると、その伸びた床は……手前の床板の下の部分より伸びているのが見えた。

 初春「ひょっとしたら、さっきの仕掛けの音って……これが伸びたやつだったのですか?」

 美琴「恐らくね。とにかく、大丈夫なようだし、先に進みましょう」

 初春「え、ええ……」

 床に一歩一歩、慎重に足を乗せる二人。
 特に崩れたり、抜け落ちたりすることもなく……何事もなく通り抜けた。

 そして、先に伸びる廊下を奥へと進んだわけだが――

304 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:53:46.93 ID:QTnWGaNw0

 初春「ひっ!?」

 それは、ちょうど1-Aの教室の後方の出入口を過ぎたあたりにある柱の影にあった。






 一体の――腐乱死体。

 廊下の柱に背を預けるようにして、これから進む方向に目を向けながら……息絶えていた。


 激しく鼻を突く不快な臭いを放っていた。
 肉は青黒くなっていて、全身に無数の白いもの――蛆虫が這いずり回っているのが見える。 
 周囲を飛び回るたくさんの蝿の羽音が、さらに不快感を引き立てていた。

 身に着けていた着衣から――女生徒のようだった。
305 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:54:15.27 ID:QTnWGaNw0

 初春「うぷ……うう……」

 廊下の窓際に、口を塞ぎながらしゃがみこんでいた。
 嘔吐感を催し……今にも吐き出しそうな気配だ。
 遺体からそむけるようにしている初春の目じりからは、涙が浮かび、今にも流れ落ちそうになっている。

 美琴「初春さん、大丈夫?よかったら……」

 初春「い……いえ……なんとか抑えましたから……」

 美琴「とにかく、すぐ先に進んだほうがよさそうね」

 あまりの悪臭に口もとを塞ぎながら、再度遺体に目をやると――

306 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 14:54:56.78 ID:QTnWGaNw0



 ――左手には1枚のメモ用紙が……握り締められていた。




 さらに――左足に覆われるように……メモ用紙が別に1枚。

 
 美琴(…………)

 口元を塞ぎながら……握り締められていたメモ用紙に手を伸ばそうとする。
 そして――。
307 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 15:02:56.99 ID:QTnWGaNw0
今回の投下はここまでです。

なお、今回も先に選択肢が続きます。

(握り締められていたメモ用紙を)
A:手に取り、読み出した。
B:手を引っ込め、読まないことにした。

安価は>>309でお願いいたします。

>>277
そういう展開もアリだったかもしれませんが……すみませんが、辞退しておきます。

>>278
はるうまですか……なるほど。
そっちの方が言いやすい気がします。
ういうまだと思っていましたのでw
308 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 15:06:48.75 ID:QTnWGaNw0
すみません、誤字訂正をば。

>>295最終行『バラフライナイフ』と>>296の3行目『サバイバルナイフ』は
いずれも『バタフライナイフ』です。
申し訳ないです。
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 18:33:05.77 ID:LotqllB8o
A
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 20:45:53.23 ID:fo+Qgk6DO
Aは美琴精神崩壊に近づく系っぽいな

Bで
311 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:49:39.00 ID:RwKi7YBx0
では、>>309のAにて続きを投下いたします。
312 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:50:18.75 ID:RwKi7YBx0
 ――メモ用紙の先端を恐る恐るつまみ……ゆっくりと取り出した。

 そして、ゆっくりと広げて……中を読み始めた――

 







           『お兄ちゃんへ

        会えずにに死ぬのが残念だよ

     ……寛はもう喉が渇いて、体が動かないの

  すごいんだよ、舌がスポンジみたいになって喉に詰まるの

      ……なんでもいいから飲みたい……

     冷蔵庫に残してたオレンジ、あれ飲みたい

     何にも出ないのにさっきから吐き気ばかり

            へんなの

         お兄ちゃんは生き残ってね


                  尼咲市立西高等学校

                   2年4組 本村 寛子』

313 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:50:45.24 ID:RwKi7YBx0

 美琴「これは……この子の書いた遺書……ってこと……?」

 初春「そのようですね。でも、かわいそうです……」

 美琴の背後からメモの内容を覗き込んできた初春だったが、メモを読み終えた途端、表情に暗い影を落とす。

 初春「お兄さんと別れ別れになって一人ぼっち……会えないまま、喉が渇いて、力尽きて……あまりにもかわいそうすぎます」

 美琴「そうね……」

 初春「こんな……地獄のような場所、早く出ましょう」

 美琴「分かってる。でも……」

 途中で一旦言葉を区切って、美琴は初春のほうに向き直る。

 美琴「……黒子と佐天さんを……探すほうが先なんじゃない?」

 初春「――!!」

314 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:51:22.05 ID:RwKi7YBx0


 美琴「こんなところ私だって早く出たい。でも……あの二人だって、ここに迷い込んでいる可能性が高いでしょ。だけど、見つからない」

 初春「ええ、そうです。ひょっとしたら違う次元の空間にいて……そうだとすると、会うことはできないと思います」

 美琴「だったら、なおさらよ。私と初春さんは一緒だからいいけど……あの二人が一緒に行動しているかなんてわからないわ。最悪――」

 そこまで言うと、再び遺体のほうにめをやって、さらに続ける。

 美琴「この子みたいに――ずっと一人ぼっちなままで、この空間をさまよっているかもしれないのよ。こんなところ一人でさまよったら、私だったら……いつまで正気でいられるか……分からないよ」

 初春「そうですね……でも、次元をまたいで会う方法なんて、分からないですよ」

 美琴「それを今から探すのよ。きっと手がかりはあると……思いたい」

 そして、遺体に視線を落とす。
 すると、左足に覆われた1枚のメモ用紙に……目が行く。


 美琴「それがあったら……本当にいいんだけどね」

 小さくつぶやきながら、メモ用紙を手に取り――ゆっくりと広げて読み始める。


315 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:51:51.97 ID:RwKi7YBx0


        『……しゅきをのこすぼくのては、

          ちにまみれているきがする。

          でも、それはおれのもうそう。

         おまえたちがぼくをおそうから

           おなかがまたすいてきた。


           こんな事ではいけない。

          気をしっかりと持たなくては、

          アイツに申し訳が立たない。

            血まみれの手で俺は、

         握りつぶした物をそっと飲み込んだ』




 ――美琴の脳裏に、一瞬――目玉を握りつぶし飲み込む人影が……浮かぶ。

316 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:52:39.28 ID:RwKi7YBx0

 美琴「……ううっ……」

 読んでいるうちに嘔吐感を覚える。
 メモをはらりと床に落とし、喉元から熱いものが込みあがってくるのをなんとか抑えようと必死になっていた。

 初春「ちょっと、御坂さん。どうしたのですか?」

 心配そうに面持ちで、初春が美琴の顔を覗き込む。
 そして、美琴の足元に落ちたメモ用紙に目が移り……。

 美琴「だ、だいじょうぶよ。それより、これはマジで読まないほうがいいって」

 初春「いきなりなに言ってるのですか。これだって手がかりかもしれないじゃ……」

 美琴「そんなの手がかりじゃないって。というか、初春さんにキツい内容だから!!」

 初春「頭ごなしに、私にはきついって決め付けないでください。そこまで精神は弱くはありませんよ」

 語調に興奮の色が帯びてくる。
 必死になって止めようとする美琴の手を振り払い、床に落ちていたメモを拾い上げ……目を通した。


 初春の表情が……みるみるうちに無表情になって……怯えがじわじわとにじみ出てくる。
 メモを持つ手が小刻みに震えだし……勢いよくメモを床に叩きつけるような感じで投げ出した。

317 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:53:11.36 ID:RwKi7YBx0








   ――ヒュー……


         ……ヒュー……ヒュー……






 そして――初春の体が床に崩れ落ち、まるで池の鯉が撒き餌を求めて水面に顔を出すかのような素振りで、強張らせた顔を上に上げ――激しく息をしだした。
 一時的な、過呼吸に陥ったようだ。


 美琴「ちょっと、初春さん。だから言ったのに」

 やれやれといった様子で、初春を抱きとめる美琴。
 そして、初春の口を手で塞ぎだす。
318 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:53:50.73 ID:RwKi7YBx0

 初春「…………」

 何も言わず、顔を強張らせたまま……ただ、上を眺めているばかり。
 息は……だんだん落ち着いてきている様子だった。
 そして、ようやく息の荒さが収まりだして……。

 美琴「初春さん、大丈夫」

 初春「は、はい……なんとか。まさか、こんなものとは……」

 時折、息を荒げながら……足元に落ちたメモ用紙を恨めしそうな目で見つめる。


 美琴「キツいって言ったのに。意地張って無茶しないでね」

 美琴(まったく、初春さんは変に強情になるところがあるから困る。自分のほどを弁えて欲しいものだけどね……。いくらジャッジメントをやってるといっても、現実をもっと見つめて欲しい所ね)

319 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:54:27.24 ID:RwKi7YBx0

 初春「ええ。さっき読むなといったのもこんな内容だったのですか」

 美琴「ええ……そうよ」

 初春「これって……読むなって書かれた犠牲者の手記じゃないのですか?だったら、御坂さんこそ、読むのは……」

 美琴「それが何?だったら、これ以上読まないようにすればいいわけでしょ」


 初春「まあ、そうなのですけどね」

 初春(御坂さんこそ、何でも一人で抱え込む癖があるから困ります。自分がレベル5だからでしょうけど、他の人が格下のように見て、何もできないと決め付けるのもいい加減にしてほしいですね)

 二人はともに、心の奥に不満などを煮えたぎらせながら――じっと互いを見つめていた。

320 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:54:55.64 ID:RwKi7YBx0

 美琴「とにかく先へ行きましょ。ここでじっとしていても始まらない」

 初春「そうですね。早くいきましょう」

 二人はゆっくりと立ち上がると、そのまま廊下の奥へと突き進んでいく。



 ――途中の壁に貼り紙が1枚あるのにも、まったく気づかずに。




321 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:55:23.57 ID:RwKi7YBx0






 
        『こころを正気に保て

         生きている仲間は

        最後の希望の灯火だ』




322 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:56:21.29 ID:RwKi7YBx0

 廊下を奥へと進むと、下へと降りる階段があった。
 所々が抜け落ちているが、完全に通れないぐらいになっているには至っていない。

 恐る恐る、朽ちた木のステップに足をかける。
 踊り場を通り過ぎ、さらに下へと階段を慎重に降りていく。

 降りた先は10畳ほどのスペースになっていて、廊下が右に伸びていた。
 そして――


323 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:56:50.63 ID:RwKi7YBx0


 美琴「また……死体?」


 目の前の壁には……男子生徒らしき死体が横たわっていた。
 白骨化はおろか、腐敗もしていなく……死後間もない様子だった。

 ただ――顔は青黒く、床に垂らした右手の手首からは夥しい量の血液が流れ出していた。
 周囲の床に血溜まりができている。
 時間はそれなりに経過しているのか、ほぼ乾いていて、床に流れた分は赤黒くなっているが。


 そして――遺体のうつろな目は――ほぼ正面にいる美琴と初春に向けられていた……。

 二人は一瞬、遺体の目線にウソ寒いものを感じたが、すぐに我に返り、振り払う。

324 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 21:57:48.53 ID:RwKi7YBx0

 初春「ま、また、メモ用紙がありますね」

 美琴「そうね……2枚あるわね」

 1枚は遺体の左手にしっかりと握られていた。

 さらに右手の近くの――乾いた血溜まりの上に、メモ用紙が1枚。

 美琴はゆっくりと遺体に近づいて、ゆっくりと手を伸ばした――。

325 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/19(水) 22:04:30.68 ID:RwKi7YBx0
本日の投下はここまでです。
なお、今回も選択肢を予定しております。

A:遺体の左手に握られたメモ用紙を読む。
B:遺体の右手の近くに落ちているメモ用紙を読む。

安価は>>327でお願いいたします。
(蛇足:犠牲者の手記は全部で5枚です)

>>310
選んでもらったのにすみません。
なお、Bルートは本村寛子の遺書は読まず、足元の犠牲者の手記に目がいって読んでしまい、>>316以降の流れになるというものでした。
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 22:09:50.76 ID:CBc97Vvoo
落ちてる方がヤバいメモなのかな?
じゃAで
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 23:35:51.31 ID:ObOTbkBso
A
328 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/01/23(日) 03:03:50.03 ID:Mp/H8XRA0
では、"A"のルートで投下いたします。

>>326の通り、床に落ちているのが犠牲者の手記でした。
はるうまENDは回避ということで……
329 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:05:22.21 ID:Mp/H8XRA0


 ――遺体の左手に握られたメモへと。

 美琴「…………」

 何も言わず、メモの端をつまみ、そのままゆっくりと握られた手から引っ張り出す。
 そして、くしゃくしゃになった紙を広げて……中身を確認しだした。
 ごくり、と唾を飲み込む音が、美琴自身の耳にも聞こえている。




 それは――遺体の主が、死ぬ前に力を振り絞って書き残した、メッセージのようだった。



330 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:06:05.98 ID:Mp/H8XRA0


             『水が飲みたい……食料よりも何よりも、

                  渇きが辛い……

        一緒にいた松原は……智は、便所の手洗いに溜まった汚水を飲んだが

          直後に全部吐き出して喉と胸をかきむしって死んでしまった。

         
                俺も唾を飲んだり……

               色々したがやはり無理だ。

                 舌が腫れ上がり

               喋る事ももう出来ない。

              窓の外は大雨だ……あの雨を

             汲むことが出来れば、智は助かった

            口惜しい……酷い仕打ちだ、あんまりだ。

               目の前に見えているのに……

            
            別館があると何処かに書いてあったが……

                見つからなかった……

 
              最後の手段だ 自分の血でも

                 飲むと しようか

           
            俺は尼咲西高の2年4組の小島英将……

              誰か、もしここから出る事が

          出来たら……家族に……親父に、伝えてほしい


                 俺の死を……


          行方不明なんて……一生心配かけるなんて……

                堪えられない……』



 ――それより下は、血飛沫が夥しく付着しており、真っ赤になっていて読めなかった。

331 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:06:41.15 ID:Mp/H8XRA0

 美琴「……本当に……早く出ましょう、こんなとこ……黒子と佐天さんをさっさと探して……」

 初春「ええ……」

 表情に影を落とす初春。
 美琴の目は床に落ちていたメモに目が行くが――手に取る気にはなれなかった。
 これまで立て続けに、飢えや渇きによる死を立て続けに見てきて思ったのだ。

 美琴(こんなところで……ちんたらしている場合じゃない)

 そして、遺体に手を合わせると、初春の手を引き――右手に延びる廊下を歩いていった。

332 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:07:08.89 ID:Mp/H8XRA0





   ……ギギィ……ギィ……





 朽ちた床は、足を乗せるたびに不気味な軋みを、かび臭いしめった空間に響かせる。

 初春「本当に……佐天さんと白井さん、どこにいるのでしょうか……」

 美琴「んなもの、分からないわよ。こんな時こそ、ふっとテレポートで、いきなり現れてくれたらいいんだけどね」

 初春「まったくですよね。変なときだけ、現れてくるものですから……っつ!!」


 急に立ち止まる初春。
 見ると、苦痛に満ちた表情で左足の踵をさすっていた。
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 03:07:21.92 ID:H6xFHFm7o
こんな時間に投下とは
寝れないじゃないか支援
334 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:07:30.71 ID:Mp/H8XRA0
 美琴「ちょっと、また痛み出してきたの?」

 初春「ええ……でも、これぐらいまだなんとか……」

 力を振り絞って、さらに歩き出そうとするものの……体制を崩して、そのまま床にしゃがみこんでしまった。

 美琴「無理しないの」

 やれやれと言いたげな表情で、初春の手を肩に乗せて、ゆっくりと立ち上がる。

 初春「御坂さん……本当にすみません……足手まといになってしまって……」

 美琴「そんなこと言っても仕方ないでしょ。ほら、行くわよ」

 廊下を少し進むと――視界が広がってきた。
 といっても、照明はなく真っ暗ではっきりとは分からないのだが――どうやらホールのような広い場所に出てきた。

335 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:08:14.72 ID:Mp/H8XRA0

 美琴「どうやら……正面玄関といったあたりね」

 手にしたロウソクの火を、ホールの向かって右手側に向ける。
 その先には、今まで見たものよりも大きい木製の引き戸が閉じられているのが見えた。

 もっとも――その手前側の床はごっそりと抜け落ちていて、扉の所にはたどり着けそうになかったが。
 足元の床には、小児用らしき小さくてボロボロの上履きがいくつか散乱していた。

 初春「まっすぐ行った先にも、左手にも行けるようですが……」

 廊下は正面にも左手にも伸びているようだった。

 美琴「ただ、どう見ても左にしか行けそうにないわね」

 玄関らしき扉の前の裂け目は、そのまま正面側に伸びる廊下の手前を横切るように続いていた。
 ちょうど、ホールの手前右側隅から、左手奥まで対角線を引くように床が裂けている。

 上の階で見たのと同様に――正面に伸びる廊下の手前あたりに、一部分だけ裂け目の幅が縮まっている箇所があった。
 が――今の状態で飛び越えるのは危険といってもよかった。

 そして――左手に伸びる廊下に目をやろうとしたとき――。

336 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:09:23.77 ID:Mp/H8XRA0

 初春「ひっ……御坂さん、ま、また……」

 怯えた様子で初春が指差す先には――






 ――一体の人骨が。





 まるで上と下が引き裂かれたかのように、2箇所に分かれて散らばっている。
 脊椎や胸骨の中には、断ち切られたかのように斜め方向の綺麗な切り口を覗かせているものがある。
 衣服はすでになく、死後から相当の時間が経過している様子だった。 
337 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:10:07.53 ID:Mp/H8XRA0

 美琴「一体どれだけ……たくさんの人がここで死んでいるわけ?」

 うんざりした様子で、そのまま白骨が散らばった箇所を通り過ぎようとする。
 メモなど遺書らしきものはおろか、骨以外何もない様子だった。

 散らばった骨から目をそむけるようにして、その場を通り過ぎようとする――が。


 初春「……うう……」

 左足からの鈍い痛みで、初春は思わず顔を歪める。
 足自体もがくがくと震えて、歩くのもやっとという状態だった。

 美琴「ちょっと……これ以上無理に行くのもまずいか」

 骨が散らばっている箇所を行き過ぎたあたりで立ち止まり、初春を床に座らせた。
 左足の靴を脱がせて、そのまま足を伸ばさせるものの、痛みはいっこうに治まらない。
 そんな様子を、美琴はただため息をついて、眺めるだけだった。
338 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:11:40.62 ID:Mp/H8XRA0


 初春「……ご、ごめんなさい……ちょっと休んだら、ましになると思いますので……」

 痛む左足の踵を恨めしそうに見つめながら、さらに言葉を続けた。




 初春「御坂さんは……先に行ってください。後で……追いかけますから……」




 美琴「な……そんなことできないわよ!!」

 いきなり出た突拍子もない提案に、思わず声を荒げた。
339 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:12:18.97 ID:Mp/H8XRA0

 美琴「な……そんなことできないわよ!!」

 いきなり出た突拍子もない提案に、思わず声を荒げた。

 初春「いいんです。私は大丈夫ですから……それより、早くここを出る手がかりを探してもらったほうが……」

 美琴「だめだめ!!こんな得体の知れない場所に、初春さんを一人きりにさせることなんてできるわけないじゃない。危険すぎる」

 初春「行ってください。早く」

 美琴「だから、そんなのできないって。初春さんの身に何かあったら、どうするの。
    そうなったら、黒子に佐天さんに会ったときに、何て言えばいいのよ」

 必死になって、初春の提案を拒絶する美琴。
 それもそうで、目の前に得体の知れない少女が出て怯えたり、不気味な遺書を目にして過呼吸になったり……。

 口で大丈夫という割に、実際は全然大丈夫じゃない。
 美琴に気を使ってなのかもしれないが、そんなのは逆に迷惑だ。はっきり言って、いらない。


 聞いているうちに、美琴の心の中で苛立ちが渦巻いて、大きくなっていく。
340 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:13:05.20 ID:Mp/H8XRA0

 初春「私はまともに動けない状態で、足手まといになるだけです。何かあって、御坂さんも巻き込んだらたまったものじゃありません。
    それだったら、御坂さん一人だけでも……」

 なおも強情に言い張って、美琴を先に行かせようとする。
 そんな初春の態度に……




 美琴「それって、私をバカにしてるの!?いきがるのもいい加減にして!!」


 心の中で、何かが切れたのを感じた。
 湧き上がる苛立ちを初春にぶつけてしまう。

341 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:13:36.69 ID:Mp/H8XRA0

 美琴「あんた、さっきから聞いていたら何よ。自分で言っていること分かっている?
    大丈夫っつときながら、実際はビビりまくって。
    それに私をなんだと思ってるの?
    LEVEL5よ。こんな妙な空間に放り込まれても、どうにかなるわよ!!バカにしないで!!」

 初春「じゃあ、手負いの私に気を遣いながら、あの得体の知れないものが現れた時に、どうにかできるわけですか。
    先ほど、超電磁砲を放ったときも、威力が思ったほど出ていなかったようですし。
    そんな状態で、いくらLEVEL5といっても、きついと思いますよ」

 冷めた様子で、反論する初春。
 そんな素振りに、美琴の苛立ちがいっそう激しくなる。

342 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:14:18.51 ID:Mp/H8XRA0

 美琴「分かった!!初春さんがそう言うなら、いいわ!!先に行くから!!」

 初春「ええ。そうしてください。ちんたらしている場合じゃないですよ」

 美琴「何かあったら、大声で叫びなさい!!すぐに戻るから!!」


 ロウソクを手にとって、ドタドタと荒い足音を立てて、廊下の奥へと進んでいく美琴。
 周囲を照らしていた淡い光が、徐々に遠ざかっていく。
 みるみるうちに暗くなっていく中、初春はじっとそれを見つめていた。

 初春「……言われなくても、分かってます」

 遥か先まで遠ざかった光に向けて……初春はつぶやくように声を投げた。


343 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:15:07.42 ID:Mp/H8XRA0

 美琴「まったく、何様のつもり……」

 なおも、心の底から湧き上がってくる感情をぶつけるかのように、虚空に向かってつぶやきながら、廊下を奥へと進む。
 途中で机や壊れた棚が転がっていたり、廊下の両側が崩れていたりしたものの、進めないということはなかった。

 やがて――廊下は壁に突き当たり、そこから左右に向けて伸びていた。
 左前方には、教室の入口らしき引き戸が見える。
 上には【4-A】とかかれた札が掛かっている。

 が――。


 美琴「この教室しか行けそうにない……か」

 右手の方向は、すぐ先で床が完全に崩れ落ちていた。
 両側の壁や窓がまるで宙に浮いているかのように見える。

 左方向も、4-Aの入口の先で大きく裂け目が走っていた。
 大きく息をつくと、引き戸に手を掛ける。



 ――難なく扉は開いた。

344 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:15:43.29 ID:Mp/H8XRA0


 美琴「こりゃまた、派手な状態ね」

 入口から覗かせた教室の様子……正面の教壇の一角を残して、大半の床が完全に抜け落ちていた。
 残っているものといえば、教壇の上に辛うじて乗っかかっている教卓と、奥に小さな机がぽつんと置かれているだけ。

 教壇にも所々に穴が開いていたりするので、足を踏み外さないように、恐る恐る足を踏み入れる。

 美琴(……ん?)

 ふと右の方向に迫っている壁に目をやると――貼り紙が1枚。


345 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:16:13.09 ID:Mp/H8XRA0




    『子供たちと目を合わせてはいけない……

    彼らの怨念はこの旧校舎を縛り付けている、

         恐るべき呪いの一部だ

       常人の精神など簡単に侵食されて、

      ぼろぼろに食い潰されてしまう……』



346 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:17:03.09 ID:Mp/H8XRA0

 美琴(怨念……そんなものがいるの)

 書かれていることに、思わず首を傾げてしまう。
 あまりピンと来ないのか、そのまま教壇の上を歩き、奥にある机に近づく。


 そこで――ふと一つのことに思い当たった。


 美琴(そういえば……初春さん、得体の知れない女の子と出くわして……!!)

 はっとして、後ろを振り返る。

 そこには――何もない。
 当然誰もいない。

 美琴(何もなかったら……一旦戻るか。やはり一人にしておくのは、まずいわね)

 一抹の不安を覚えながら、机の天板の上に目をやる。

347 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:17:53.07 ID:Mp/H8XRA0

 美琴(さっきと同じ仕掛けみたいね)

 1-Aの教室の小部屋で見つけたのと同じ形状の器械が、ぽつんと置かれていた。
 やはり、金属製のレバーが付いていて、傍に滑車があって、そこからピアノ線らしきものが延びているのが分かる。

 もっとも、今度はレバーが上がっている状態になっているという違いはあったが。

 美琴(これを動かしたら、さっきのように裂け目に床ができたりするかもね……でも……)

 レバーに手を伸ばしかけたが、一瞬ためらう。

 美琴(……初春さんを連れてきてからにしようかな……)

 その場で少し迷った挙句に――。
   
348 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/23(日) 03:23:04.41 ID:Mp/H8XRA0
本日の投下はここまでです。
なお、またまた選択肢が以下のように続きますのでお願いいたします。

A:レバーに手を掛け、下ろす。
B:伸ばした手を引っ込めて、一旦引き返す。

安価は>>350でお願い致します。

>>333
こんな時間にお騒げせいたします。
そしてお読みいただいて、かつ支援していただき、誠に感謝です。
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 03:24:00.08 ID:H6xFHFm7o
おつおつ
俺は怖くて安価踏めないぜww
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 03:42:32.35 ID:jHQNRMIto
Bだな
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 05:40:41.23 ID:vQQ2kr35o
>>349
俺も326がいなかったら踏まなかったww
皆無事で生還できるといいなあ

>美琴「何かあったら、大声で叫びなさい!!すぐに戻るから!!」
なんかツンデレ台詞に見えてしまった
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/23(日) 12:36:01.70 ID:xEr51IO60
こんなハラハラする作品は初めてだwwwwww
是非、Bを選んだ場合のはるうまENDもお願いします!
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 20:24:18.79 ID:IREccPP10
wrong end集も見てみたいです
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 23:43:35.16 ID:gjjvfBhp0
ブラッドカバーの1・2を少しやっただけなんで、はるうまENDとやらが気になるwwwwww
きっとかゆうまな感じなんだろうけど、よろしければBAD編もみたいです
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 07:41:38.13 ID:B0HDXTPG0
クリアしてたら分かるけど、ここでA選んだり、はるうまENDを見たりすると吐き気がする。だが見る。それが使命だからだ!(キリッ
356 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:36:37.36 ID:/N+ZAf3Q0
さて、Bにて続きを投下しようと思います。が……
要望がございましたので、その前に未公開だったWrong ENDを一部投下しようと思います。
なお、この系統が苦手な方は回避をお願いいたします。

>>352 >>354 >>355
すみません。はるうまENDについては、次回の投下でやろうと思います。
期待してくださってるのに、お待たせして申し訳ありません。

>>353
今回と次回に分けてこれまで公表していなかったWrong ENDを投下します。
以降も要望がございましたら、ぼちぼちWrong ENDも投下しようかと思います。
357 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:37:46.92 ID:/N+ZAf3Q0

 >>25 B:樹海を突き進む。




 黒子「…………」

 目の前に広がる樹海に目をやる。

 木々は鬱蒼と生い茂っている。
 漆黒の空間に広がるそれは、さながら出口なき闇の入り口といった様相をかもし出していた。


 黒子(……お姉さま方も、もしここに連れてこられたのなら……)




  ……ザザザ……


     ……ザザ……




 時折、木々の葉が擦れる音が聞こえる。
 一瞬、足を踏み入れるのをためらわれたものの――
358 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:38:12.93 ID:/N+ZAf3Q0

 黒子(……この建物にいる可能性も捨て切れませんが……)

 背後の建物に一度振り返る。

 雨が降りしきる暗闇の中、建物は不気味な影を落としていた。
 そして、再度樹海のほうに向き直る。


 黒子(……むしろ、人里を求めて脱出しようとするはずですの)

 腹をくくり、樹海へ向けて足を踏み出した――。


359 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:38:57.79 ID:/N+ZAf3Q0

 黒子(光がないと、本当に歩きにくいですわね)

 足元も当然闇に覆われているため、ろくに何があるか分からない。
 地面に這い蹲る無数の木の根、雑草――さらには、石つぶてがあったり、陥没している箇所もあったりして、歩くには相当の注意を要した。
 当然、幾たびか転びそうになるものの、なんとかこらえて前へと進む。

 黒子(これじゃあ、埒が明きませんの。テレポートで移動して距離を稼ぎますの)

 早速、テレポートで前方に向けて、移動を行う。
 目の前に広がったのは――当然、木々の中。
 ふと、真上を見上げても、生い茂る木の葉に覆われて、空の様子がまったくといっていいほど分からない。

360 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:39:24.02 ID:/N+ZAf3Q0

 黒子(まったく……本当にここはどこですの?)

 日本国内にはこういった樹海は数多くあれど――ここは明らかに異様な感じがする。
 こんな無人地帯といえる場所に、建物が一つ。

 それが学校となればなおさらおかしい。
 普通、学校があるためには、そこに通う生徒がいなければ成り立たないはずだし、そもそも建てられるわけがないのだ。

 そう――その生徒が住む住居、いや集落が近くにあってもおかしくないはずなのである。
 もっとも、学園都市みたいに全寮制の学校だとしても、その生徒が住む寮が近くになければいけないはずだ。
 そういった建物も――まったくといっていいほど見当たらない。
 当然、生活も営まなければいけないのだから、それに必要なものを調達する必要がある。
 
 近くにはなくても――人里はそう遠くない場所にあるはず。

 黒子(……とにかく行きますの)

 再度テレポートで、先へと進んだ。
 

 そうやって――テレポートを延々と、行っていった。

361 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:39:53.31 ID:/N+ZAf3Q0



 だが、移動した先は――森の中。




 黒子(結構、大きい森ですことね……距離にして20kmぐらいは進んだはずですけど……)

 あたりを見回すが、四方はやはり鬱蒼とした木々が頭上に生い茂っていた。
 出口はおろか、人里の明かりすらまったく見えない。

 黒子「……はぁ……はぁ……」

 さすがに息切れがしてきた。
 テレポートを連続で250回くらいはしていたので、疲れを感じてきていたのだ。

 黒子(ちょっと休みますの)

 手近な大木の幹の辺りに越を下ろそうとした。

 その時――臀部のあたりに、何かが突き刺さるような感覚を覚えた。

 黒子(何ですの。とがった石でもあったのでしょう。暗くてよく見えないのは困ったものですわね……)

 思わず立ちなおして、ふと座ろうとしていた場所を見た――のだが。


362 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:40:49.97 ID:/N+ZAf3Q0

 黒子「…………」

 目にしたものに、思わず絶句してしまう。
 とはいえ、はっきりとは分からなかったのだが……暗闇になれた目に映るそれに、思わず身をこわばらせた。






 そこにあったのは――多数の散らばった骨。







 黒子(動物か何かの……骨ですの?)

 そんな憶測をしてみるが――次に目にしたものに、その予測はあっさりと打ち砕かれてしまう。


 ――黒い学生服。

 ボロボロになって、散らばったあばら骨にそれは引っ掛かっていた。
363 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:42:01.51 ID:/N+ZAf3Q0

 黒子「ひ……ひっ!!」

 分かった途端――情けない声を上げて、思わず後ろずさってしまう。
 その時――足元に1枚の手帳が落ちているのを目にした。

 黒子(これは……この遺体の主のものとか……)

 恐る恐る手にして、中をゆっくりとめくる。
 表紙の見開きの裏には、生徒証らしきものが挟まれていた。
 生前のものと思われる、顔写真が載っていた。

 黒子(……美里市立 彦糸高等学校2年4組 水姫ともえ……学園都市の外の学校ですわね)

 そして、手帳をさらにめくってみると……乱れた文字で書きなぐっているページをみつけた。


364 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:42:44.30 ID:/N+ZAf3Q0


      『もう限界だ。
 
  どれだけ歩いても、外に出られない。

   戻ろうと思っても、戻れない。

   腹も減ってきてたまらない。

     体ももう動かない。

       出してくれ。

  こんな迷宮から、早く出してくれ』



 そこから先は、もはや字の形にすらなっていなく、読めるものではなかった。


365 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:43:13.08 ID:/N+ZAf3Q0


 黒子(この人……歩いて、この樹海を出ようとして……力尽きましたの?)

 手帳を閉じ、そっと置く。
 そして、目の前の遺体に手を合わせる。

 黒子(ぐずぐずしている場合ではありませんわね……わたくしも早くしないと……)

 すかさずテレポートで違う場所へと移った。


366 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:43:52.59 ID:/N+ZAf3Q0


 黒子(……どうなって……いますの……)


 ――行き着く先は森。

 森森森森森森森森。

 いくらテレポートを使っても、たどり着く先は――森の中。


 そして――
367 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:44:32.66 ID:/N+ZAf3Q0

 黒子「……そんな……前へと進んでいたはずでしたのに……」

 目の前にあったものに、黒子の全身から力が抜けていく。
 これまでとてつもない回数の能力使用で、体力の限界をとっくに超えていた。
 なんとか踏みとどまれていたが……ついにその場に体が崩れ落ちてしまう。



 そこにあったのは――先ほどの白骨死体。

 ここまで行ったテレポートは300回以上。
 だが――結局堂々巡りして戻っただけだった。


 黒子(…………)


 激しく襲う空腹感。
 そして脱力感。

 いくら動いても、抜け出せない樹海。
 出口がない迷宮。

368 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:45:03.14 ID:/N+ZAf3Q0

 ――もはや……体を動かす気にはなれなかった。

 黒子(……お姉さま……にもあえない……なんて……)


 意識も――徐々に薄れていく。

 黒子(……力が……はいりませんの……)


 暗闇でよく分からないが……肌が黒くなっていっている気がする。
 そして、全身を激しい寒さが襲う。

 黒子「……お姉さま……あいたい……おねえさま……おねえさま……」

 目からは――一筋の涙が流れ落ちていた。
 うわごとのように口にするが……掠れかかった声はやがて、出なくなる。

 そして――目の前が本当に暗くなっていき――

 意識は途絶えた……。

369 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:45:30.22 ID:/N+ZAf3Q0
 (暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

  テーレレテテテレテー
 
    Wrong END

  ビターン

 (押し付けられた左手の赤い手形。親指がない)

370 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:46:10.27 ID:/N+ZAf3Q0

 >>275 A:初春を教室に残し、板を取りに行くことにする。


 美琴「そういえば……さっき使えそうなものが落ちていたのよ」

 初春「え、そうなのですか」

 美琴「といっても、ボロい板なんだけど。でも、あの裂け目に乗せたら渡れるかもしれない」

 初春「そうなのですか。そしたらさっそく……」

 歩き出そうとするものの、途端に初春の左足に鈍い痛みが走る。

 美琴「初春さんはここで待ってて。そんなに離れていないし。すぐに戻るから」

 初春「ええ……お願いします」

 左足を押さえながら、教壇に腰掛ける初春を横に、すぐさま美琴は教室の外へと駆け出していった。
 そんな様子を初春は不安げに見詰めていた。
 床を駆ける音が遠ざかっていく。
371 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:46:44.00 ID:/N+ZAf3Q0

 初春「…………」

 何も言わずじっと、美琴の出て行った出入口をじっと見ていた。
 やがて――




   ……ドタ……ドタドタ……


       ……ドタドタドタ……




 足音が大きくなってくるのが聞こえる。
 どうやら、美琴が戻ってきているようだ。

 そして、さらに足音が大きくなってきて……。
 初春は思わず立ち上がった。

372 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:47:17.29 ID:/N+ZAf3Q0

 美琴(これぐらいの大きさなら、あの裂け目を飛び越えられそうね)

 壁に立てかけてあった板を手にすると、すぐさま来た道を引き返す。
 数分もしないうちに、1-Aの入口まで引き返してきたのだが……。

 美琴「あれ?」

 引き戸は――なぜか閉まっていた。
 出るときはあけてままだったはずなのに。

 少し首を傾げてみるものの、まずはこの板が使えるか試すことにした。
 すぐ先にある、床の裂け目に板を乗せてみると……ちょうど、裂け目を覆うかのようにうまく乗り掛かった。

 美琴「よし。あとは……」

 すぐさま、閉じられた1-Aの引き戸に手を掛け、勢いよく横へとスライドさせる。

373 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:47:43.91 ID:/N+ZAf3Q0

 美琴(……!?)

 目に入ってきたのは、天井の照明から放たれる蛍光灯の光。
 まぶしさに思わず、目頭を手で覆ってしまう。

 目の前の教壇に――初春がうずくまるように腰掛けながら、じっと美琴を見つめていた。
 なぜか――恨めしげな目線を向けて。


 初春「……御坂さん、遅いですよ。すぐに戻るっていったのに……」

 美琴「そんなに時間掛かったかな?」

 初春「ええ。掛かっていましたよ。その間、一人で怖かったのですから……。勝手に蛍光灯はつくし……」

 美琴「ごめんごめん。でも、あの裂け目は渡れるようになったからさ」

 初春「……おかげであんなものまで……見えてしまうし……」

 陰鬱な視線を向けながら、すっと教室の後方を指差す初春。

 美琴「え?何なのよ……」

 指差された方向に、思わず視線を向けてのだが――そこには。

374 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:48:41.27 ID:/N+ZAf3Q0






 赤。


 壁一面をほぼ塗りつくした――赤。


 まるで、赤いペンキをぶちまけたように、目の前を染めあげて。


 
 塊。


 壁の下にある、わずかに残った床の上には――いくつかの赤い塊。


 まるで、何かの赤い色の蛇のような生き物がうごめいているかのように、床の上に散らばって。
 




375 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:49:20.20 ID:/N+ZAf3Q0



 美琴「な……何よ、これ!!」

 目に入ったものに、思わず全身に震えが走る。
 呼吸が急激に荒くなるのが感じられた。
 背筋を冷たい汗が、次々と流れ落ちてくる。

 初春「御坂さんが……一人きりにするから……」

 美琴「そ、そんなこと言われても……こ、これは……」

 すぐさま初春の方を振り返ろうとする。
 が――その時、目に入ったものがあった。



376 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:49:57.43 ID:/N+ZAf3Q0





 赤く染まった――花飾り。


 花が咲き乱れているかのような初春の花飾りを――毒々しく染め上げた赤。


 まるで、床にうごめく赤い蛇に飲み込まれるかのように――散らばった赤い塊の上に……捨て置かれていた。







 初春「……壁にぶつけてつぶしちゃった……クスクスクス……」





               ――ジョキ……





 美琴の左足のかかとに……鋭い激痛が走った。
 途端に力が抜けて、その場に倒れこんでしまう。

377 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:50:25.13 ID:/N+ZAf3Q0

 美琴「あがっ!!な、何を……」

 そして振り返って、見たものは――






                   ――初春ではなく……




 
 ――赤い服の少女。



                   血のついた鋏を手にして――




 ――長い髪の間から覗く青白い顔には




                   ――不気味な笑みが浮かんでいた。 

 
378 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:51:08.97 ID:/N+ZAf3Q0
  
 ??「……クスクスクス……」

 美琴「ま、まさか……あれは……初春さん……」

 ??「……浮かべて、飛バシタラ……カンタンに砕けちゃっタ……クスクスクス……」

 勝ち誇ったかのような、いや悪意に満ちた笑みを美琴に向ける少女。

 美琴「ゆ、許さない……!!アンタが初春さんを……」

 驚きから怒りに転じて、飛び掛ろうとするものの――足に力が入らない。
 いや――足がまるで重い棒であるかのように――まったく動かない。
 ただ、激痛だけが響くのみ。



 見ると――アキレス腱が切られていた。
 傷口から血が絶え間なく、流れ続ける。

 美琴「ち、ちくしょう……これなら……」

 痛みをこらえながら、全身の電流をかき集めて――目の前の赤い服の少女にぶつけた。


379 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:51:47.16 ID:/N+ZAf3Q0


 ??「……クスクスクス……」

 感電はおろか、何の影響も受けていない様子で、ただにやついているだけ。
 そして――徐々にその姿を消していく。


 美琴「そ、そんな……ち、ちょっと……待てってば……」

 掠れたうめき声を上げながら、美琴は少女に手を伸ばそうとするものの――少女の姿は完全に消えてしまった。
 残されたのは美琴ただ一人――。

 美琴「……わ、わたしのせいで……うい……はるさんが……」

 教室の裂け目の向こうの――赤く染め上げられた壁を恨めしそうに見つめる。

 美琴「……ゆ……絶対に……許さない……」

 怒りに震える反面――左足からは絶え間なく血が流れ続けて……床を赤く染め上げていた。
 やがて、全身にうまく力が入らなくなり、冷たくなっていくのが感じられた。
 痛みだけは相変わらず、容赦なく襲う。

380 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:52:54.46 ID:/N+ZAf3Q0




 美琴「……殺してやる……」





 そして――目の前もじわじわと暗くなっていた。
 意識も朦朧としてくる。
 だが――ひたすらつぶやき続けていた……。




 美琴「……殺してやる、殺してヤル、殺シテヤル、コロシテヤル、コロシテヤル、コロシテヤル、コロシテヤル……」




 やがて、そのつぶやきもなくなっていった。
 意識はなくなり――美琴の目から光が失せていった。


 ただ――憎しみの表情を露にしたまま――。


381 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:53:21.03 ID:/N+ZAf3Q0

 (暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

  テーレレテテテレテー
 
    Wrong END

  ビターン

 (押し付けられた左手の赤い手形。親指がない)

382 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:56:27.98 ID:/N+ZAf3Q0
今回のWrong END集はここまでです。
残りは次回に投下いたします。

では続きを>>350のBということで投下いたします。
383 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:56:57.50 ID:/N+ZAf3Q0

 美琴(……一旦戻ったほうがよさそうね)

 伸ばした手を引っ込めて、きびすを返して、教室を後にした。



 初春(……御坂さん、遅いですね……何かあったのでしょうか?)

 不安げな面持ちで、美琴が歩いていった方角を見つめる。
 が、明かりもない暗闇の中では、姿形はおろか、先の様子すらよく見えない。

 初春(さすがに、こんなくらい状態でじっとしているのも……私も行ったほうがいいのでしょうか)

 足の痛みはある程度和らいできた。
 試しにゆっくりと立ち上がっろうとしてみると――先ほどと比べて、痛みは感じない。

 初春(ちょっと行ってみますか)

 そして、ゆっくりと立ち上がって、顔を起こした――その時。

384 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:57:31.72 ID:/N+ZAf3Q0




 「……おねえ……」



       「……ひゃん……」




 ――幼い女の子の……舌足らずな声。

 ふと、前を見る……と。

385 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:58:07.68 ID:/N+ZAf3Q0


 初春「ひ……あ……」

 目の前の光景に、声すらまともに出なかった。
 全身が強張って、身動きが取れない。
 そこには――






 ??「……わたひの……」




 そこにいたのは――青白い小柄な人影。

 服装から、女の子ということはかろうじて分かる。
 だが――

386 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:58:34.10 ID:/N+ZAf3Q0

 初春「いやああああああああ!!」

 それが何かを認識した途端、周囲を切り裂く悲鳴を上げてしまう。
 目の前の存在は――そうさせるには十分だった。




 ??「……あたま……」



 見えたのは――先のない舌。

 それが、首の上にある器のようなものに乗せられていた。
 その"器"は――舌の周りは真っ黒で、少し見ただけでは何かは分からなかった。


 千切れた舌の先にある"器"の淵には――白いものが並んでいた。
 そして、反対側には――毛が無数に生えていて――。
 
 はっきり――こういったほうが正確だろう。

387 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:59:18.84 ID:/N+ZAf3Q0






 ??「……はえひて……」





 ――頭の部分が、まるごとなかった。

 下顎から上が、切り取られたかのようになかった。
 下から伸びる歯が時折上下に動いていて――気持ち悪さをいっそう引き立てる。

388 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 20:59:52.46 ID:/N+ZAf3Q0


 初春「あ……いや……ああ……」
 

 ――まさに異形。

 それが、今……怯える初春の眼前にまで迫っていた。
 舌の先が見る見るうちに、近づいてくる。


 初春(い……いや……こないで……)

 心の中で叫ぶものの、声にはまったく出ない。
 いや、口はおろか、体も動かすことができなかった。 

 "器"――いや、残された下顎の上のほうに……ぼんやりと何かが……浮かんで見える。

389 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 21:01:12.89 ID:/N+ZAf3Q0







 それは――二つの……目。






 うっすらと空中に浮かんで見える1対の目は――じっと目の前の初春の姿を捉えていた。






390 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 21:02:26.45 ID:/N+ZAf3Q0


 初春「い……いや……」

 まるで猛獣ににらまれた小動物のように、怯えの感情を放ちながら、ただ震えるだけ。
 金縛りにあったと言ってもいいぐらいに――その場で固まるばかり。



 "ソレ"の目は、今まさに――初春の視線と合おうとしていた……。



391 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/01/28(金) 21:04:21.25 ID:/N+ZAf3Q0
本日の投下はここまでです。
続きは残り2つ(>>325>>348)のWrong ENDと合わせて投下しようと思います。
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 21:07:54.09 ID:HeK+u1nDO
乙です!
はるうまEND、楽しみに待ってますwww
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 21:09:47.83 ID:82CYwTLco
乙!
相変わらずホラーしてるなあ…いや当たり前なんだけどww
この油断できなさがいい
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 00:11:38.45 ID:4TITpihso
久々にkanoso思い出した
主に選択間違えたら即死的な意味で
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 00:58:09.34 ID:N8jPWNO3o
kanosoかよwwwwwwww
また懐かしいネタだなオイ
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 18:23:41.67 ID:Vl6zGFnI0
お?「憂〜」春が「ラーン!ラビット!ラーン!」するのか。この状況じゃ無理だな
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/01(火) 23:48:48.93 ID:qVmTSHJa0
398 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 19:52:38.79 ID:YwdgLvMo0
さて……本日は未公開Wrong ENDからまず投下しようと思いますが……。

今更警告をば。
1発目のはるうまENDですが……ガチでグロ描写入れてます。
苦手な方、キャラ(特に美琴や初春)が好きでこうした描写をされるのに嫌悪感を催す方は、本気で見ないようお願いいたします。
399 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 19:56:41.83 ID:YwdgLvMo0

 >>325 B:遺体の右手の近くに落ちているメモ用紙を読む。


 美琴(…………)

 口元を塞ぎながら……遺体の脇に落ちているメモ用紙に手を伸ばし――読み出した。




 意識が――やけに朦朧としてくる。



 美琴の目は――まるで何かに取り憑かれたかのように……じっとメモに釘付けになっていた――。





400 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 19:57:07.70 ID:YwdgLvMo0







                 『……これを読んでいる人がいれば……忠告しておこう』







 「ち、ちょっと……御坂さん……いきなりどうしたのですか……」





401 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 19:57:35.61 ID:YwdgLvMo0




 
                        『……救いなど来ない』





                                             「……ハァ……ハァ……初春サン……」
  




402 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 19:58:04.89 ID:YwdgLvMo0
  




                      『……何も与えられはしない』






 「ひっ!!ち、ちょっと、やめてください……」





403 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 19:58:35.77 ID:YwdgLvMo0





                       『……無限に続く無為』





                                                 「……ゴメン……ネ……」





404 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 19:59:04.24 ID:YwdgLvMo0





                       『永久に続く拷問……』










                                              「オナカ……すいて……モウ……ダメ……」







405 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 19:59:31.45 ID:YwdgLvMo0






                      『ここの正体はそんな所だ』









 「い、いやああああああああああああ!!」                                    







406 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 19:59:59.05 ID:YwdgLvMo0







                『……空腹と渇きが抑えられなくなった俺は……』







                                            バリバリバリ……




    バタン……




                                               ――ジュルリ……





                                                   「……ヘヘヘ……」



407 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:00:34.79 ID:YwdgLvMo0



                    『……またアイツの遺体に』





                                       ……ザクッ……



                                            ……ザク……ビシャッ……

                                         

                                    ……グチュ……ブチッ……


                                                 ……グチャ……グチャ……




408 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:01:05.15 ID:YwdgLvMo0





                     『むしゃぶりついた』




                                      ……ブッ……グチュ……




                                                  ……グニュ……ガリッ……




                                            ……クチャ……クチャ……



409 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:01:32.20 ID:YwdgLvMo0



                 『……舌の感覚など、とっくに無い』




                                     ……ゴリッ……ザク……





                                             ……ピュー……




                                        「……ハァハァ……」    



410 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:02:04.67 ID:YwdgLvMo0




               『……ただ肉と水分を胃に詰め込んでいるだけ』





                                       ……グチュ……ネチャ……





                                             ……ゴクッ……ゴクリ……





411 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:02:33.26 ID:YwdgLvMo0





               『……二度とお前の体を刻まないと誓ったのに』




                                                  「オエッ……」



 
                                      「――ハァハァ……ハァ……ハァハァ……」





412 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:03:04.84 ID:YwdgLvMo0





                     『……許してくれ』
                                              




                                           ……グチッ……




                                                ……グチョ……




413 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:03:32.28 ID:YwdgLvMo0



                    『……許してくれよな』





                                                 ――ペッ





                                                   「……オエッ……」




414 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:04:09.32 ID:YwdgLvMo0



 美琴「な……何よ……」

 ――口の中に広がっている……すこぶる苦い感覚。
 
 ――得体の知れない……柔らかい……まるでゴムのようなモノ。

 思わず、口の中のモノを吐き出す。




 それは――赤くてブニョブニョしている物体。

 口の中には――鉄臭さが充満している感じがした。


 美琴「き、気持ち悪い……何してたのよ……」

 戸惑いながら、床に吐き出したその物体を睨み付ける。
 が、すぐに不快感がぶり返し、反射的に目をそむけ――ようとした。

 そこで――目に入ってしまった。


415 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:05:01.45 ID:YwdgLvMo0




 ――大きく見開いた目。



           ――瞳孔はすっかり開ききっていて。



 ――半開きになっていた口。



           ――涎や舌をだらしなく垂らして。



 ――真一文字にばっくりと切り裂かれた首。



           ――裂け目から血が噴き出し、頬や首もと、さらには床を紅く染め上げて。



 ――そして、首と同様に、大きく横方向に裂けていた腹。



           ――中から赤い肉塊が、まるでうごめいているかのように、はみ出ていて。



 ――着ていた紺色のセーラー服は血で染まり、黒ずんでいて。



           ――頭の花飾りも飛び散った血飛沫を吸い込み、無数の赤い模様ができていて。




416 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:05:29.20 ID:YwdgLvMo0



 美琴「う……初春さん!!どうして……」

 目の前の、あまりにも無残な亡骸に――泣き出しそうな声をあげてしまう。











 ――それは……紛れもなく、初春。



           ――あまりに、むごたらしい最期を……ただ晒していた。




417 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:05:57.17 ID:YwdgLvMo0


 美琴「……誰が……誰が……………………こんなことを!!」

 次第に、心の奥から怒りが湧き上がり、肩を震わせる。
 下唇を強くかみ締め、拳を握り締め――





       ボトン……






 ――ようとした時、何かが手の中から滑り落ち、床に叩きつけられる音がした。

 ふと、それに目をやる――が。



418 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:06:30.49 ID:YwdgLvMo0







 ――紅く……刃先が染まった……バタフライナイフ。


           ――そして……紅く染まった……美琴の両手。


                     ――ブレザーの袖も、胸元も、チェック柄のスカートも……血まみれだった。




 途端に、怒りは怯えへと変わった。
 全身から血の気が退いていく。


 美琴「ひ……い、一体……何が……」

 その時、初春の頭のあたりに――何かが落ちているのを見つけた。

419 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:07:06.39 ID:YwdgLvMo0


 ――メモが1枚。

 古びて、破れかかった紙に――何かが書かれていた。
 下半分は血で染まっていたが――はっきりと字が書かれていて、読めないということは無い。


 そして――それは初春が書いた文字だった。



 美琴「…………」

 恐る恐るメモを手にして――読み出した。





420 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:07:34.06 ID:YwdgLvMo0






                    『殺される』




 美琴「……ハァ……ハァハァ……」

 一文字一文字目で追うたびに――息が荒くなっていって。



421 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:08:01.08 ID:YwdgLvMo0





                   『食べられる』



 ……ドクン……ドクン……。 

 動悸も激しくなっていって。




422 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:08:27.42 ID:YwdgLvMo0





                 『どうか裁いてください』


 
 美琴「……うっ……ううっ……」

 吐き気も急激に催してきて。





423 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:08:55.49 ID:YwdgLvMo0





                『私を殺して食べたのは……』



 美琴「…………」

 本能で目をそむけようとするが――それもできなくて。








424 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:09:38.03 ID:YwdgLvMo0











              『……常盤台中学の 御坂美琴です』










425 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:10:14.76 ID:YwdgLvMo0


 美琴「ああああああああああああああああ!!」

 
 堰きとめていたものが崩れたかのように――絶叫をあげた。
 メモを放り投げ、その場から走り去る。


 もう――どうでもいい。
 何があろうが――どうでもいい。

 ひたすら叫びながら――廊下を駆け抜けた。


426 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:10:47.82 ID:YwdgLvMo0


 そこで――外に面した1枚の窓が目に入る。

 はっきりと映し出されていた――。




 ……口元を紅く染め上げた――美琴の顔が。





 そこで美琴の脳裏に――次々と浮かぶ。


427 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:11:59.45 ID:YwdgLvMo0
 
 目尻に涙を浮かべ、怯える初春。

 初春の首もとに手を掛け、電気を放出する美琴の手。

 ぐったりと床に倒れる初春。

 ポケットから取り出した、バタフライナイフ。

 刃に反射して写る、不気味な笑みを浮かべ、舌なめずりをする美琴。

 刃先を突き立てられ、真横に走らされ、ばっくりと裂ける初春の腹。

 裂け目から次々と流れ出る血や内臓。

 血に染まるのもかまわず、ナイフで内臓を切り取る美琴の手。

 切り取ったモノを口に入れて噛み締め、飲み込む美琴。

 急激に乾きを訴える喉。

 ナイフを突き立てられる、初春の首もと。

 噴水のように吹き上げる、初春の血液。

 ナイフを抜き、傷口に口をあてがい、血で喉を潤す美琴。

 やがて、顔を上げる美琴。








 そして――窓に映った……目を充血させ、口元を血で染めて――恍惚しきった美琴の顔。






428 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:12:46.91 ID:YwdgLvMo0

 美琴「い……いやああああああああああああ!!」

 その場に立ち止まり、嗄れるとおもえるぐらいに、ひたすら叫びだす。


 脳裏には、そんな彼女を気にしないかのように、とどまることなく次々と浮かぶ。







 思わず吐き気を催す美琴。









 だが――ナイフを手に取り……再び初春の肉を切り取り、噛み締め、むしゃぶりつく美琴――。





429 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:13:20.12 ID:YwdgLvMo0


 美琴「わ、わたしが……う、初春さんを……」 
 
 涙を浮かべながら、その場にうずくまってしまう。
 目を閉じて、ただ全身を震わせて。
 自分の犯したことに――ただ怯えて、恐怖して。


 まるで、石のようにただじっとしていた。


430 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:13:49.40 ID:YwdgLvMo0


 美琴「…………」

 やがて、静かに立ち上がった。
 そのまま、無言でじっと下を向いたままでいた。




                                       ――ピロリン……




 どこからともなく……電子音が聞こえた。
 何の機械の音なのかは分からなかい。
 ただ、分かったのは――


431 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:14:18.79 ID:YwdgLvMo0



 美琴「……行かなきゃ……」

 
 ――その音が、初春の亡骸のある方向からだということ。

 美琴はゆっくりと、廊下を引き返しだした。




432 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:14:45.94 ID:YwdgLvMo0









 美琴「 ワ タ シ ノ エ モ ノ …… ト ラ レ チ ャ ウ ……」









 焦点の合わない目で、時折ふらつきながら。



433 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:15:13.65 ID:YwdgLvMo0

 ??「……ハァハァ……これはなかなかいいな……」

 初春の亡骸の前で、しゃがみこんでいる――1つの人影。

 眼鏡をかけ、黒の学ランをきちんと身に着けた男子生徒。
 胸についている名札には【2-9 森繁朔太郎】と書かれていた。

 携帯電話を亡骸にかざして……恍惚としきった表情を浮かべていた。

434 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:15:40.23 ID:YwdgLvMo0

 森繁「まったく、さっきまで叫び声がうるさくて近寄れなかったが……じっと待った甲斐があったな」



 ――ピロリン……ピロリン……


 次々と森繁の手にした携帯から発せられる電子音。
 それは、携帯のカメラ機能のシャッターを押したときに出る音。

 初春の無残な亡骸を、息を荒くして、写真に収めていく。

 森繁「ここまでインパクトのある死体があるとは……これだけでもおなかいっぱいになりそうだ」

 無我夢中で、ひたすらシャッターのボタンを押し続ける森繁。




 ――目の前に、人影が立っているのにも気づかずに。

435 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:16:07.05 ID:YwdgLvMo0







 

 美琴「 ミ ィ ツ ケ タ 」









436 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:16:40.16 ID:YwdgLvMo0

 美琴「…………」

 ただ、無言で立ち尽くす。
 すっかり汚れたブレザーの袖で、口に付いた血を拭いながら。


 足元の――亡骸は2体になっていた。

 初春と、森繁という知らない人物のものと。



 いずれも――腹や首は真一文字に切り裂かれ……。

 ――周囲の壁や床や窓を紅く染め上げていた。
 
437 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:17:08.24 ID:YwdgLvMo0
 

 美琴「……死体を写真に収めるなんて、変態もいいところじゃない……」

 森繁の遺体を見下ろしながら、せせら笑う。

 美琴「……私も人のこと言えたものじゃないか」

 誰に言うのでもない、独り言をつぶやきながら……ナイフを手にして、初春の遺体まで歩み寄って。


438 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:17:34.48 ID:YwdgLvMo0









 美琴「 ワ タ シ ナ ン カ 、 ヒ ト ヲ タ ベ チ ャ ッ テ ル シ 」











 顔をにやつきで歪めながら、初春のもとでかがみこむ。
 そして――



439 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:18:03.09 ID:YwdgLvMo0










 美琴「 ウ イ ハ ル サ ン モ 、ツ レ テ イ ク カ 」









 ナイフの刃先を――初春の左目の眼窩に突き立てた。
 まるで、玉を掬うかのように、刃先をぐりぐりと回す。
440 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:18:32.56 ID:YwdgLvMo0

 やがて、手ごたえがしたので……刃先をてこの原理で、眼窩の淵を支点にして押し上げる。

 ゆっくりと、初春の眼球は持ち上がり――そのまま飛び出して、床に勢いよく転がりだす。

 すかさず、美琴は転がる眼球に手を伸ばして、そのまま掴み取る。
 そして、手の中で掴んだ眼球をもてあそぶかのように転がし続けていた。

 初春の眼窩から、絶え間なく血があふれ出す。

 美琴はそんな様子など気にもかけないまま――ゆっくりと立ち上がる。

441 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:19:00.67 ID:YwdgLvMo0


 美琴「……ははは……」

 口元に小さく――笑いが浮かぶ。

 そのまま、ゆっくりと顔を上げる。
 外に面した窓ガラスが目に入った。



442 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:19:51.71 ID:YwdgLvMo0











 美琴「……あははははははははははははははははははははははははははははははははははは……」

 








 狂ったようにただ、笑っていた。
 声を高らかに上げ、笑っていた。


 目の焦点は合わず、ただ笑っている――すっかり狂ってしまった美琴の顔が……目の前の窓ガラスに映し出されていた。


443 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:20:23.76 ID:YwdgLvMo0

 常盤台のエースとか、学園都市のLEVEL5とか――

 様々な人から羨ましがられ、慕われていた美琴は……もはや、そこにはいなかった。


 美琴「……行かなきゃ……また……」 

 そこにいたのは――






444 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:20:49.90 ID:YwdgLvMo0










 美琴「…… オ ナ カ ガ ス イ テ キ タ ……」










 ――欲望のままに人を殺め……肉を喰らい……さらなる犠牲を生み出しさえした……ただの狂ったケモノ。

 ふらりふらりと……よろめきながら、ナイフを手にして……ゆっくりと廊下をさまよい出した……。



445 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:21:20.17 ID:YwdgLvMo0

 (暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

  テーレレテテテレテー
 
    Wrong END

  ビターン

 (押し付けられた左手の赤い手形。人差し指がない)

446 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 20:24:47.58 ID:YwdgLvMo0
とりあえず、はるうまENDはここまでです。
残り1つのWrong END(うい / はるENDって言っていいのかな)をいけたら、22時あたりにいけたら投下しようと思います。
なお、これもグロ描写ありですので、引き続きご注意願います。
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 20:37:33.35 ID:MqGr4u2io
おおお…結構きついな
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 20:53:47.69 ID:xbu0yfz50


何だかこの美琴は、天神小学校が犠牲者を呼ぶ限り生き続けそうな凄みがあるな
後、ある意味、森繁はここで死んでて幸せだったのかも、とか思ってみたり
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/04(金) 22:38:42.87 ID:uengpUXDO
乙です!
はるうまENDありがとうございますww
カニバリズム的な表現が最高でした!
次回の更新を楽しみに待ってますw
450 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:00:53.92 ID:7oG9wsNm0
>>447-449
皆様、ご声援感謝です。
予定より遅れましたが、Wrong ENDを1つ投下いたします。
これにて、現時点のErong ENDは全部ということになります。

くどいようですが……グロ表現がございますので、苦手な方はご遠慮くださるよう、お願い申し上げます。
451 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:01:45.27 ID:7oG9wsNm0

 >>348 A:レバーに手を掛け、下ろす。


 美琴(……ひょっとしたら、さっきの裂け目のところがつながるかもしれないし……そうだったら、レバーを引いたほうが早いし)

 レバーに手を掛け、そのまま手前へと引く。
 先ほどと違い、レバーはすんなりと下に下りた。

 特に何も音はしなかったが……何かしらの仕掛けは動いたと思えた。


 美琴「戻るか」

 そのまま、教室の入口のほうへと向きを変え、一歩一歩床を踏みしめていった。


452 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:02:10.89 ID:7oG9wsNm0

 初春(……御坂さん、遅いですね……何かあったのでしょうか?)

 不安げな面持ちで、美琴が歩いていった方角を見つめる。
 が、明かりもない暗闇の中では、姿形はおろか、先の様子すらよく見えない。

 初春(さすがに、こんなくらい状態でじっとしているのも……私も行ったほうがいいのでしょうか)

 足の痛みはある程度和らいできた。
 試しにゆっくりと立ち上がっろうとしてみると――先ほどと比べて、痛みは感じない。

 初春(ちょっと行ってみますか)


 そして、ゆっくりと立ち上がって、顔を起こした――その時。


453 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:02:39.38 ID:7oG9wsNm0






   ――ヒュン……





                     ……グチュ……



 初春「……え……!?」

 視界がひとりでに――動き出していった。






 ……右斜め下へと……。



454 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:03:08.88 ID:7oG9wsNm0

 ロウソクを手にして、進んできた廊下を戻る美琴。
 途中で幅が狭まった区間を慎重に進み、ゆっくりと玄関前の大広間へと戻る。

 そして、廊下を抜け、視界が広くなった。


 美琴「初春さん?」

 声をかけてみる。
 が、返事は無かった。

 美琴「どうしたのかな……まさか、勝手にどっかへ行ったとか?初春さん、意地になったら突っ走るトコあるから……」

 ため息をつきながら、先ほどまで初春のいた辺りにロウソクの炎を向ける。


 その時。
455 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:03:42.04 ID:7oG9wsNm0








      床は一面の赤。



      赤い液体が延々と、床に染み渡っていた。



      そして、赤い液体を今もなお吐き出し続ける――



                                         ――2つの黒い塊。



      白い模様が所々に入り混じった、赤い楕円状の面から、ゆっくりと染み出してくる――



                                         ――血液と……肉塊。





      そして、その塊には――



                           ――紺色のセーラー服と、スカートが着けられていて。


                                  

      セーラー服の上の方には、あった。



                              ――すっかり紅く染まった……頭の花飾りと……








               ――苦痛を滲み出した表情で、息絶えた……初春の顔が。



456 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:04:15.47 ID:7oG9wsNm0




 美琴「う、初春……さん……」

 思わず手にしていたロウソクを落としてしまう。
 幸い倒れずに、垂直なままで床の割れ目にひっかかり、周囲を淡い光で照らし出す。








             そう――真っ二つにされ……血の海に浮かぶ……初春の亡骸も。




457 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:04:46.21 ID:7oG9wsNm0

 美琴「ひっ……どうしてよ……どうして……」

 目の前の光景がすぐに受け入れられなく、ただ戸惑うばかり。
 思わず、よろめきそうになるが……なんとかこらえる。

 美琴「……わ、悪い冗談じゃ……ないよね……」

 顔を引きつらせながら、ただ呆然と――無残な亡骸を眺めるばかり。
 目の前の現実を拒絶しようとするが……無駄な努力だった。
 やがて――怒りの感情が、じわじわと心の奥から滲み出してきて……。


 美琴「誰よ……誰が……こんなことを……!!」

 下唇を噛み締め、全身から時折火花をスパークさせて……顔を起こした。

458 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:05:22.75 ID:7oG9wsNm0





 ――その時。



 4-Aの教室。



   ……ギギギ……


 奥にあった、仕掛けのレバーが――不気味な軋みを上げていた。
 そこから出ている、透明のワイヤーは限界に引っ張られているらしく、時折鋭い光を空間に放っている。
459 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:05:48.85 ID:7oG9wsNm0




 そして――





                             ……ガコン!!





 鈍い音とともに――レバーはひとりでに、奥まで跳ね上がった。
 ワイヤーが放つ光が……猛スピードで空間を走りだして――!!




460 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:06:22.20 ID:7oG9wsNm0







   ――ヒュン……





                     ……グチャ……





 美琴「え……!?」

 その瞬間、何が起こったのかがわからなかった。

 鋭い風切り音がしたかと思うと……視界が一気に動き出した。








                 ――上下方向に数回転も転がるように。

461 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:07:15.20 ID:7oG9wsNm0

 ――すぐさま、回転は止まり……視界は安定した。


 ――ただし、なぜか床に寝そべって、横向きになっていたが。


 美琴(な、何!?こんなに回るなんて……何が!?)

 今起こったことを懸命に理解しようとするが……うまく思考が回らない。
 それどころか、首もとがなぜか熱い。
 まるで、首に熱せられた鉄板を挟み込まれたかのように熱い。



 そして――視界が見る見るうちに……暗くなっていく。

462 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:07:43.12 ID:7oG9wsNm0


 美琴(ど、どうなってるの……)

 声に出そうとするが、なぜか全く声が出ない。

 徐々に闇に視界が閉ざされる中――目に入ったものがあった。


 美琴(――!!)


463 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:08:28.53 ID:7oG9wsNm0


 ――床に転がる、初春の切断死体。


 ――その前に立ち尽くし……ゆっくりと倒れる人影。


 ――クリーム色のブレザーと、青いチェック柄のスカートを着けた……女学生のような人影。





 ――それはどう見ても、常盤台の制服。






 そして――ブレザーの上にあるはずの頭が……ない。




 あるはずの場所から……噴水のように、盛大に噴き出す……紅い液体。




464 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:09:22.57 ID:7oG9wsNm0

 美琴(そ、そんな……嘘……)

 嘘でもなんでもなく――それは紛れもなく……










               ――首がない……美琴の体だった……。




 美琴(いや、嘘よ。こんなの嘘……)

 消え行く視界の中で――首だけになった美琴の口はつぶやこうと、小刻みに動いていた。

 だが――その動きもやがて――鈍くなる。

465 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:10:02.33 ID:7oG9wsNm0




    ……バタン!!




 美琴の胴体が――初春の亡骸にかぶさるように、倒れた。

 それと同時に――視界は闇に閉ざされ……口の動きは止まった。



 大きく見開いた目の瞳孔は――すっかり開いてしまっていた……。



466 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/04(金) 23:11:46.37 ID:7oG9wsNm0

 (暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

  テーレレテテテレテー
 
    Wrong END

  ビターン

 (押し付けられた左手の赤い手形。中指がない)





 本日の投下はここまでといたします。
 続編は後日投下といたします。申し訳ないです。
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/04(金) 23:29:19.49 ID:uengpUXDO
乙です(^^ゞ
次回の更新楽しみに待っておりますm(_ _)m
468 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/02/08(火) 17:40:29.36 ID:ugfH8VI00
>>390の続きより、投下します。
469 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:41:46.50 ID:ugfH8VI00





 その時。






 ――バチバチッ!!



 "ソレ"に向けて、真上から貫くかのように落ちてくる――稲光。

 初春(――!!)

 金縛りから解けたのか、思わず上を見上げてしまう。


470 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:42:17.01 ID:ugfH8VI00

 美琴「初春さん!!大丈夫!?」

 背後から聞こえたのは、聞きなれた友人の声。
 すぐさま振り返ろうと首を動かす――

 ――が。





 ??「……かああああああ!!」

 初春「ひ……!!」

 目に入ったのは――"器"にちょこんと乗った……舌。
 舌の先の切り口が勢いよく真上にそそり立ち――青白い"ソレ"は、雄たけびのような奇声をあげた。

 真っ黒な切り口を晒している――綺麗に切り取られた舌が、初春の目前に迫っていた。
 そして、両手を伸ばして――初春の体に掴みかかろうと――

471 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:42:55.71 ID:ugfH8VI00



 初春「ひ、ひああ……」

 美琴「初春さん!!ソイツに目を合わせないで!!」

 すかさず、美琴は初春の手を掴み、逆方向へと駆け出す。
 いきなりのことで、体勢を崩しそうになるが、なんとか持ちこたえた。
 美琴に引っ張られるままに、みるみるうちに"ソレ"から離れていく。


 すぐさま左へと向きを変えて、真っ暗な廊下を駆け抜ける。



 
472 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:43:21.87 ID:ugfH8VI00

 
 ??「……わた……い……のふい……」

 ろれつのまわらない、幼い声を上げながら――"ソレ"は追ってくる。
 幸い、追ってくる速度は遅く、簡単に撒くことはできた――のだが。



 美琴「ちょっと、足元気をつけて!!」

 初春「えええっ!?」

 ふと先を見ると、廊下の両側が大きく崩れ、人一人通れる幅しか残っていなかった。
 やや速度を落とすものの、足早にその箇所を走り抜ける。

 初春「ひ、ひああ……」

 途中でふらついて危うく足を踏み外しそうになるものの、なんとか立て直す。
 美琴の手が勢いよく、初春の体を引っ張ったためだった。
 もっとも、勢いあまって、幅が狭い区間を過ぎたあたりで、そのまま前へとつんのめってしまったが。
 しかも、前を走っていた美琴も巻き込んで。

473 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:43:59.72 ID:ugfH8VI00


 美琴「……ててて……大丈夫?」

 初春「なんとかいけました……でも、乱暴すぎます」

 美琴「仕方ないじゃない。あれじゃあ、本気でまっさかさまになってたからさ……」

 初春「そう言いましても……」

 痛がりながら、左の足首をさすっている。
 つんのめったときに足をひねってしまったようだ。


474 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:44:27.89 ID:ugfH8VI00

 美琴「ご、ごめん……やりすぎちゃったね」

 気まずそうに、転んだ勢いで落としたロウソクを拾い上げる。
 床に落ちる前に風圧で消えてしまったらしく、再度指先から火花を散らし、点火させた。


 初春「まったくですよ……って、ああっ!!」

 膨れ面をしていたが、ふと――腰掛けている脇に目を向けた途端――。


 初春「ああ……あああ……」

 顔は一気に真っ青になる。
 半開きにした口元を小刻みに震わせながら、すぐそばの床を指差して。

 美琴「ちょっと、いきなりどうしたのよ……」

 初春が指差すまま、美琴もその方向に視線を向けた途端――顔から表情が消えた。


475 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:45:05.20 ID:ugfH8VI00





 白骨死体。

 それも3体。

 それらが床の上に散らばっていた。




 ――ちょうど……怯えている初春を取り囲むようにして。





476 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:45:32.11 ID:ugfH8VI00

 美琴「……ホントにシャレにならないわね。気持ち悪いったらありゃしない」

 うつむきながら、ため息をつく。
 先ほど、ここを通ったときには分からなかった。
 廊下の両サイドが陥没した区間を抜けた先の右手に壊れた戸棚が捨て置かれ、その少し先には壊れた机や木材が散らばっていた。
 ちょうど影になる位置になっていた上に、暗かったのもあわせて気づけなかったのだろう。

 そのまま初春のそばでかがみこむと、手にしたロウソクを脇において、3体の白骨死体をじっと睨み付ける。

 初春「……全部男の人のようですね。しかも――」

 いずれも男物の、紫の学生服らしき布が散らばっっていた。
 白骨死体が群がっているスペースから、足を床に伸ばした状態のまま、ゆっくりと後ずさる。

477 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:46:06.60 ID:ugfH8VI00

 初春「――派手に……血が飛び散っていますし……」

 美琴「……そうね」

 ロウソクの炎が――すっかり赤黒く染まった床や壁をただ、ほんのりと照らしていた。
 すでに乾きっていて、初春の着ている制服に血が付くことはなかったが、気味が悪いことには変わりない。
 とりわけ遺体のあたりが、黒に近いぐらいに変色しており――どうやら、遺体から相当量の出血があったようだ。

 初春「……怪我でもして……亡くなったのでしょうか……」

 美琴「さあね。ただ……」

 表情を変えず、遺体のうちの1つに歩み寄って……そっと口を開く。


478 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:46:39.16 ID:ugfH8VI00

 美琴「……単なる怪我や事故で……亡くなったのじゃないかもね」

 その遺体――頭に直径5pほどの穴が開いていて、そばに割れた眼鏡が落ちていた――から伸びる、無数の血痕。

 それは廊下の奥から、延々と続いていて……一筋の線を描いていた。
 さらに……頭が陥没した要因となったものが、どこにも見当たらない。

 初春「ま……まさか……何かに襲われたとか……」

 美琴「それは分からない。でも……普通じゃないことが起きたのだけは確かね」

 割れた眼鏡のそばに、すっかり赤黒くなった――僅かに見える紫の生地のブレザーのそばに、手帳が一つ落ちていた。
 そっと拾い上げて、ぱらぱらとめくる。
 中身には、会議やいくつかの部活の予算案や学校行事などのスケジュールがびっしりと書かれていた――どうやら、生徒会活動をしていたようだ。
 手帳の裏表紙には、生徒証が挟み込まれていた。
 付いていた写真には、いかにも堅物そうな、目の鋭い眼鏡をかけた男性の顔写真があった。

479 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:47:25.50 ID:ugfH8VI00

 美琴(……白檀高等学校2年4組 袋井雅人……)

 初春「その人も同じ高校のようですね。近くに落ちていました」

 後ろから覗き込んでいた初春が、手を伸ばして見せた――血痕がいくつか付着した生徒証には【白檀高等学校2年4組 大川智寛】と書かれていた。
 無邪気そうなあどけなさの残る顔を写した顔写真が、すっかり赤黒い血痕で汚れている。

 美琴「そう……ここで何があったのかは、はっきり分からないけど……」

 手にしていた手帳をそっと、元に戻すと……ゆっくりと初春の方を振り返る。

 美琴「こんなところでぐずぐずしている場合じゃない。多分同一行動だったと思うけど……命を落としてしまっている」

 初春「あと……残りの骨も……制服が一緒ですから、同じ学校みたいですね」

 美琴「3人固まって動いても、こんなのだから……私たちでも、正直どうなるかわかったものじゃないわ」

 初春「そうですね……」












                                                   …………ミ…………

480 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:47:52.84 ID:ugfH8VI00

 初春「あれ……何か音が……しませんでした?」

 美琴「さぁ?聞こえないけど?」














                                           …………キ…………


481 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:48:21.34 ID:ugfH8VI00
 初春「いいえ。今しましたよ。何か低い音ですけど」

 美琴「空耳じゃないの?」



















                                                    …………ザ…………ミ…………           





482 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:49:36.48 ID:ugfH8VI00

 初春「またしましたよ。何か言っている感じです……」

 美琴「どうしたのよ。すきま風の音か何かじゃないの。初春さん、かなり神経質になってるよ」

 怯えて周囲を見回す初春の肩に、美琴はやや呆れる素振りで手を掛ける。

 初春「……そうですか?」

 美琴「まあ、こんな状況だったら、仕方ないかも……」











           …………キ…………




                       …………ザ…………





                                     …………ミ…………


483 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:50:04.54 ID:ugfH8VI00

 美琴「――!!」

 確かに聞こえた。
 今度ばかりは、聞こえた――はっきりと。

 極めて低い男の声。
 それも――まるで何か得体の知れないものが奥底から湧き上がるような。

 あえて言うなら――とてつもなく大きい――怨念めいたものをひしひしと感じた。

 声のした方向を振り返る。
 ――ちょうど、白骨死体が固まっているあたりだった。





 その時。










                                  「…………キ…………ザ…………ミ…………」





484 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:50:43.02 ID:ugfH8VI00












       「…………キ…………ザ…………ミ…………」







                「…………キ…………ザ…………ミ…………」






 「…………キ…………ザ…………ミ…………」



                                        
                          「…………キ…………ザ…………ミ…………」





             「…………キ…………ザ…………ミ…………」





                                         「…………キ…………ザ…………ミ…………」





                    「…………キ…………ザ…………ミ…………」



485 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:51:20.88 ID:ugfH8VI00


 無数に声がした。
 数人の――少なくとも3種類の――高さや声質が違う低音が……ただ響き渡る。

 それらは、いずれも遺体から直接発せられていた。
 まるで――恨みの篭った呪詛を、目の前の美琴と初春に浴びせかけるかのように。
 

 初春「ひいいいいいいい!!」

 美琴「と、とにかく行くわよ!!」

 すぐさま、そばで小さく震える初春の右手を肩に乗せると、そのまま廊下の奥へと駆け出した。
 見る見るうちに、固まった遺体が遠ざかっていく。



486 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:51:56.97 ID:ugfH8VI00







                                  「…………キ…………ザ…………ミ…………」






       …………キ…………ザ…………







                     …………キ…………


 


 遠ざかっても、小さくなってもなお、耳に響く不気味な声の合唱。

 美琴(……何なのよ。死体がしゃべるなんて……無茶苦茶にも程があるわ!!)

 初春が目を覚ましたときに見た遺体からも、声が発せられていたという。
 本当に不気味としかいいようのない――仮にイタズラだとしたら、相当質の悪い事態が立て続けに、降りかかってくる。

 美琴はただ――聞こえないかのように意識せず、闇に閉ざされた廊下をひたすらに突き進むしかなかった。

487 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:52:36.96 ID:ugfH8VI00

 やがて、声も聞こえなくなった。
 同時に廊下の突き当りにまでぶつかった。

 目指すは4-Aの教室。
 行けるところは、そこしかない。
 両側に伸びる廊下は裂け目で寸断されているのは分かっていた。 
 当然のように、4-Aの入口に目を向けるが――。


 美琴「あれ?開けっ放しのはずだったのに……」

 先ほどとの差異に首をかしげながら、立ち止まる。
 そして、引き戸が閉じられた教室の扉をしげしげと眺めていた。

 初春「どうかしたのですか?」

 美琴「さっきはここ、ドアが開けっぱだった」

 初春「誰かがここに来たのでしょうか」

 美琴「分からないわ。とにかく、中にさっきのレバーの仕掛けがあったの。さっさとそれを動かして先に進みましょ」

 引き戸の取っ手に手を掛け、左に引っ張った。
 戸はすっと滑っていき――

488 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:53:17.59 ID:ugfH8VI00















 ??「……お……ね……イ……ゃ……ん……」















 青白い――男の子らしき人物が立っていた。

 口や腹から……黒いものを垂れ流しながら。

 目の前に現れた美琴をじっと見つめていた。






 ――思わず目が合いそうになり……!!



489 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:53:46.99 ID:ugfH8VI00

 美琴「ひっ!!」

 情けない声を上げながら、すぐさま扉を閉じた。
 そして、息を荒げながら、初春のほうに向き直る。

 初春「ち、ちょっと、どうしたのですか?」

 美琴「今の……マジで危なかった。戸の向こうに……さっきのヤツの同類がいたわ」

 初春「ええっ?」

 美琴「目が合いそうになったわ。不意打ちもいいところよ。これじゃあ、先に行けそうにないわね」

 初春「そうですね……」

 閉じられた引き戸を恨めしそうに睨みつける美琴。
 左右に伸びる廊下に亀裂が走っているのを、ただ眺める初春。

 だが――そこで初春は何かに思い至ったのか、ゆっくりとつぶやきだした。

490 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:54:13.32 ID:ugfH8VI00

 初春「……レバーって……さっきのように、奥にある小部屋にあったのですか」

 美琴「ううん。今度は教室の中にあった。ただ、奥のほうだけど……」

 初春「だったら……ソイツの横をすり抜けて、行くしかないですね。目を合わせないようにすればいいわけですよね」

 美琴「そうなんだけどさ……かなりの難題よ」

 そこで一旦言葉を切り、大きくため息をつく。

 美琴「ソイツは追う速さは遅いからなんとか行けるかもしれないけど……教室もさっきの1-Aのように、教壇から先の床が抜け落ちていて、避けるスペースは限られているわ」

 初春「でも、他に進める場所もなさそうですし、困りましたね……あっ!?」

491 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:54:52.27 ID:ugfH8VI00

 美琴「どうしたのよ」

 初春「そういえば、さっきのレバーは鉄製でしたよね?」

 美琴「それが?」

 初春「御坂さんの磁力で動かせないですか?」

 美琴「……結構無理があるっぽいけど……その仕掛け自体鉄製だし、単に机の上に置かれているだけだったわ」

 初春「でも、その仕掛けも、さっきの机とかみたいにがっちり固定されていたら……磁力を調節したらいけるんじゃないですか」

 美琴「そうだったらいいのだけどね。悪い考えじゃないのだけどさ……」

 ふと破れかかった天井を見上げて、さらにため息をつく。
492 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:55:22.09 ID:ugfH8VI00

 美琴「できればさっきのヤツに目を合わせないように扉を開けないでやりたいけど……距離もそれなりにあるし、正直うまくいくとは思えないわ」

 初春「でも……他にいい方法はなさそうですし……」

 美琴「そうよね……」

 しばらく、いろいろその場で考えあぐねた。
 ただ、いい結論は出ず、そして――
493 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 17:57:29.49 ID:ugfH8VI00
今回の投下はここまでです。
なお、このあとには選択肢が以下の様に続きます。

A:引き戸を開け、"ソレ"を避けながらレバーの所まで行き、レバーを動かす。
B:引き戸は開けず、磁力でレバーを動かそうとする。

なお、安価は>>494でお願いいたします。
494 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/08(火) 18:04:56.46 ID:ugfH8VI00
すみません、安価が近すぎましたね。
>>496にします。

蛇足:"ソレ"と目が合ったケースは>>73->>80を参考していただければとw
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 18:27:35.76 ID:HeAMcf5c0
B・・・だろ。>>1
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 18:53:35.40 ID:onjTfyWN0
>>1
安価ならB
497 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 04:56:13.70 ID:wnfje7u10
Bにて続きを投下いたします。
498 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 04:57:12.58 ID:wnfje7u10


 美琴「……一か八かやってみるか」

 扉の前で一つ深呼吸をすると、全身に磁力を一気にまとわりつかせる。
 時折、周囲に火花がはじけ、パチパチと爆ぜる音が、廊下に響き渡る。

 美琴「照明の下にはいないようにしてね。多分、天井から剥がれて飛んでくると思うから」

 初春「は、はい……」

 自分のいる位置の真上に照明等の金属製のものがないことを確認し、初春はすぐさましゃがみこんで、手で頭を抱え込んだ。


499 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 04:57:39.93 ID:wnfje7u10



    ……メリ……


         ……メリ……


 現に天井から、木が軋む音が木霊していた。
 据え付けられている金属製の蛍光灯用の照明器具が、小刻みに震えていた。
 単に2本のポールで吊り下げられている形状なので、簡単にもげそうだった。
 現に、ちょうど斜め下にいる美琴に向かって、照明の端が大きく引き寄せられようとしていた。
 照明が揺れると同時に、頭上から木屑や埃が次々と舞い落ちてくる。

500 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 04:58:27.62 ID:wnfje7u10




   ……バキン!!




 初春「――!!」

 ついに照明を支えるポールの1本が根元からもげてしまった。
 片方が垂れ下がった照明は、美琴に向かって引き寄せられていた。
 あと1本残ったポールがぐにゃりと曲がりながらも、なんとか飛んでいくのを防いでいたのだが――



      ……バキ……バキ……



           ……メリ……


 なおも、木が割れる音や軋む音が休むことなく響く。
 見る見るうちに、残ったポールの根元はめくれあがっていき……

501 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 04:58:56.17 ID:wnfje7u10



     ……バキッ!!


 ついに残ったポールも天井からもぎ取られ――支えを失った照明器具は勢いよく、すぐ斜め下にいる美琴に向けて飛び掛かかる。

 だが、美琴はまったくそれに気づいていないのか、ただ目の前の戸に向けて、手をかざしているだけ。
 振り向く気配すらまったく無い。


 初春「御坂さん、後ろ!!」

 思わず身を乗り出して、叫んでしまう。
 だが、美琴は何も言わず――猛烈な勢いで飛んでくる照明器具に向けて、左手をかざしだした。

 美琴「……言われなくても、大丈夫。心配しないで」

 後ろを振り向くことなく、ただ前を見つめている。
 そして、照明器具が美琴のすぐ間近まで迫ってきた――
502 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 04:59:43.25 ID:wnfje7u10

 初春「――!!」

 一瞬、最悪の事態を想像した。
 思わず目をつぶってしまう。

 音は……何もしない。
 恐る恐る目を開けると……

 照明器具は――美琴の左手に収まる形で、動きを止めていた。



   ……バコン……



 同時に、かすかにだが、戸の向こう側から何かが倒れる音がした。
 そして――



      ……ゴゴゴ……



            ……バキ……バキ……


 遠くの方から、何かが動く音や、木が割れる音が響く。



    ――ガコン!!


 美琴は左手で持っていた、照明器具をにべもなく床に叩き落す。
 そして、小さく息をして――笑顔で初春の方に向き直る。

503 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:00:09.43 ID:wnfje7u10

 美琴「ホント、やってみなきゃ分からないものね」

 初春「ということは……?」

 美琴「多分、うまくいったと思う。すぐに行きましょ。恐らく、右に伸びていた廊下か……」

 ここでなぜか声のトーンがやや落ちる。

 美琴「――玄関の裂け目といったあたりかな」

 初春「できれば、廊下のほうがいいのですけどね」

 美琴「まったく。さっきの頭のない"アイツ"と出くわしかねないし……」

 ため息交じりで話す、彼女の後ろで……


  ――ガラッ……。

 閉じられていた引き戸が、ひとりでに開いた。
 そして――


504 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:00:37.35 ID:wnfje7u10








 ??「……どふして……ぼふを……ふぉろふぃたの……」







 いきなり、ろれつの回っていない男の子の声が。

505 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:01:05.37 ID:wnfje7u10

 美琴「初春さん、行くわよ。走るけど、いい?」

 初春「私は大丈夫です」

 教室のほうを振り返ることなく、美琴は初春の手を引っ張りだした。
 初春も足の痛みは少しは治まっていたのか、特に痛がる様子もない。
 廊下の分岐点に向けて、全力で駆け出した。






 ??「……ゆる……ふぁなひ……」





 引き戸の奥から出てきた、男の子の形をした青白い"ソレ"は、目の前から走り去る美琴と初春を追い始めた。
 が――速度は遅く、見る見るうちに彼女達に引き離され、すぐに見失ってしまっていた。

506 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:01:34.25 ID:wnfje7u10

 初春「……奥に行く廊下の裂け目はさっきのままでしたね」

 美琴「てことは、やっぱり玄関の裂け目に変化があるかもってこと?」

 初春「それで済んだらいいのですけどね」

 もと来た道を引き返す形で、暗い廊下を駆け抜ける二人。
 初春の手を引いた状態で、若干普段より速度は落ちているが、軽快に玄関ホールへと近づいていた。

 先ほどの骨が群がっていた箇所や、その先の廊下が狭まっている箇所も通り過ぎる。
 そして、玄関ホールへと足を踏み入れ――






 ――ようとした、その時。

507 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:02:03.54 ID:wnfje7u10








 ??「……わたふぃの……あたふぁ……」





 顎より上が欠損している、女の子のような青白い"ソレ"がいた。
 ちょうど、美琴が行こうとしている方向を塞ぐようにして。
 二人の姿を認めるや否や、ゆっくりと両手を伸ばして迫ってくる。

508 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:02:31.98 ID:wnfje7u10

 美琴「ちっ、まだいたの……初春さん、ちょっと大回りするから気をつけて」

 初春「え……ええっ?」

 すかさず、美琴は進行方向を右手に向ける。
 引っ張られる初春が一瞬、バランスを崩しそうになるが、なんとか持ちこたえた。

 すぐさま左斜め前方に向きを変えて――ちょうど、"ソレ"を遠巻きに回り込むように走り出す。
 もっと言うなら、玄関ホールに走った裂け目に沿って走る形になった。
 


 ??「……かえふぃふぇ……」



 "ソレ"はそんな美琴の行動に、ついていこうとするものの、追いつけずにいた。

509 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:02:58.95 ID:wnfje7u10

 美琴「やっぱり!!ここよ」

 走りながら、先ほど目星をつけていた箇所を目の当たりにして、思わず叫ぶ。
 裂け目がもっとも狭まっているその箇所は――さながら崩れていなかったかのように、床ができていた。
 もっとも、人一人がやっと通れる程度の幅だったが。

 すかさず、裂け目にできた床を通りきると、そのまま先に伸びる廊下へと足を踏み入れる。
 "ソレ"も追いかけてきているようだが、振り返らずにひたすら前へと進む。

510 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:03:39.10 ID:wnfje7u10

 美琴「階段があるけど……無理か」

 右手に昇り階段が見えたものの、手前側が大きく抜け落ちていた。
 走る速度を緩めることなく、先へと続く廊下を突き進む。

 すぐ左手には人骨が散らばっていたが、もはや気にも留めなかった。
 さらに――床自体も所々抜け落ちていたり、机や椅子が散乱していたりしていたが、構うことなく避けながら進む。

511 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:04:14.64 ID:wnfje7u10

 そして、廊下の先まで行き着いた。
 そこには――観音開きの扉が、閉まっているのが見える。

 初春「鍵が掛かっていなかったらいいのですけど」

 美琴「それだったら、超電磁砲で吹き飛ばすだけよ」

 だが、そんな不安は――する必要がなく、扉に手を掛けると、すんなりと開いた。




   ……ザァァァァァ……



 雨が降る音。
 扉を開けた先は外だった。
 もっとも――両側を高さ1mほどの朽ちた木の柵に囲われ、上を屋根に覆われた渡り廊下になっていた。
 その先には、別の建物の入口があり、扉は開いていたのだが――。

512 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:04:49.53 ID:wnfje7u10






 ??「……わたィの……」





 青白い女の子がいた。
 髪を後ろで二つに括った、小学生くらいの女の子。
 通路の中ほどで、美琴と初春に後ろを向く形でいた。

 すぐさま二人は立ち止まった。

513 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:05:44.58 ID:wnfje7u10

 美琴「まだアレの同類がいたなんて……まいったわね」

 初春「それより……あの子、襲われているみたいですよ」

 震える指で指差す先――後ろを向いた"ソレ"の向こう側には――


 ??「いや……お兄ちゃん……助けて……」

 小柄な女の子。
 赤いヘアバンドをして、襟元が白くて、他は黒いワンピースのような服をきた、まだあどけなさが見える女の子。
 胸元の小さな桃色のリボンが、かわいさ――というより幼さを強調していた。

 その少女が、迫る"ソレ"を目の前にして――涙を浮かべながら、その場で小刻みに全身を震わせていた。

 そして――背後で音がするのに気づいたのか、"ソレ"は……



 ??「……かえいて……」

 ――ゆっくりと後ろを振り向きだした。

 "ソレ"はやはり小学生の女の子のようだった。



 ――半開きになった口の中にある舌の先がないのと――左目が欠損して、黒くなっているのを除けば。


514 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:06:11.81 ID:wnfje7u10

 美琴「ま、まずい。気づかれた」

 初春「引き返すにしても、さっきのも追いかけてくることでしょうし……挟み撃ちですよ、これじゃあ」

 美琴「と、とにかく……」

 とっさに周囲を眺め回す。
 両側を囲んだ柵の向こうは、雨が降りしきる闇が広がっていた。
 目を凝らすと、樹海が生い茂っているのがうっすらと見える。

 柵の高さは、美琴なら乗り越えるのには問題はなさそうだ。
 ただし、これが初春となると――ましてや、足を負傷した状態だと、手間取りそうだ。
 それまでに"ソレ"に追いつかれたり、やりようによっては怪我を悪化させかねなく――はっきり言って、危険だ。


 ??「……わたふいの……めふぁま……」


 そうこうしているうちにも、"ソレ"はゆっくりと美琴と初春のいるところへと迫ってくる。
 さらに後ろにいる、女の子は――怯えながら、その場から動けずにいた。

515 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:06:53.17 ID:wnfje7u10

 美琴「私が囮になる。アイツをおびき寄せて、先の建物のどこかへ引き離すから、初春さんは後から追いかけてきて」

 初春「み、御坂さん。そんなの無茶苦茶すぎます」

 美琴「仕方ないじゃない。引き返すにしても、頭のない"アレ"が追いかけてくるし、初春さんにそこの柵を乗り越えさせるのは危ないし……」

 初春「…………」

 美琴の言葉は痛いところを突いていた。
 現実的にはその通りとしか思えないのだから、初春は反論できずただ押し黙っている。

516 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:07:33.26 ID:wnfje7u10

 美琴「それに……あの子も何とかしてあげなきゃ……」

 初春「そうですね。御坂さん、無理はしないでくださいね」

 腹をくくったような素振りの美琴を見て、今までの感情を押し殺す初春。

 ジャッジメントとしての役割なぞ今の状態では果たせそうにない。
 そのことへの悔しさと――それでも、目の前の見知らぬ少女の危機に対して、なんとかできることはしたいという思い。
 覚悟を決めた隣の友人に、せめてその思いを託すべく――精一杯のフォローをするのみだった。

 美琴「分かってる。初春さんも突っ走らずに、安全を確認してから行ってね」

 初春「分かってますよ。というか、その言葉、御坂さんに返しますよ」

 二人はクスクスと笑いあった。
 そして――

517 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:08:07.52 ID:wnfje7u10






  ……バチバチバチ!!



 すかさず、迫ってくる"ソレ"に向けて、強烈な電撃を投げかける。




 ??「……かああああああああっ!!」




 "ソレ"は途端に、怒りの表情を露わにした。
 両手を伸ばし、雄たけびを上げながら、美琴に迫ってくる。


 美琴「動きがワンパターンなのよ。横ががら空きね!!」

 すかさず、"ソレ"の右横をすりぬけると、向こう側への建物に向けて走り出す。

518 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:08:42.77 ID:wnfje7u10

 ??「……わたびのめだまあああ!!」

 "ソレ"は横をすり抜けた美琴のほうへと向きを変えると、怒り狂った声を上げた。
 そのまま、美琴の後を追いかけだす。

 美琴「アンタ、ちょっと我慢してね」

 いきなり目の前で起きた急激な変化に戸惑っている、ヘアバンドの少女の手を美琴はすかさず掴む。
 そして、そのまま向こうの建物の中へと消えていった。


 ??「かえぜええええええええ!!」

 "ソレ"も雄たけびを上げながら、後を追いかけて、建物の中に消えていき――その直後。

519 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:09:11.67 ID:wnfje7u10






    ……グラ……


        ……グラグラグラ…… 


 初春「――!!」

 いきなり周囲を強い揺れが襲った。
 すかさず、頭を抱えてその場にしゃがみこむ。
 渡り廊下の屋根から、砂埃が舞い落ちてくる。

 揺れが収まるまで――初春は、ただじっとしていることしかできなかった。

520 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:09:43.82 ID:wnfje7u10

 美琴「な、なんなのよ、ここ。すごく空気が重いというか……」

 建物の中の空気は、先ほどいた建物と比べて――はるかに澱んでいて、重苦しかった。
 かび臭くて埃っぽいことには変わりが無いのだが。
 それこそ息をするのですら、苦しくなるぐらいに。

 ??「うん……由香も頭が痛いよ。さっきもここに来たけど、こんな感じなの」

 美琴が引っ張ってきた、ヘアバンドの少女――名前は持田由香というが――もその場で頭を抱えてうずくまっていた。
 苦しさをストレートに表情に出して、今にも泣き出しそうになっている。

521 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:10:12.01 ID:wnfje7u10

 美琴「で、アイツを撒いたのはいいのだけどさ……」

 一旦言葉を切って、周囲を眺め回す。
 今いるのは、玄関ホールから左手に伸びる廊下の突き当たり。
 そこから左右に廊下が伸びていて、引き戸がいくつか並んでいるものの、いずれもぴっちりと閉じられていた。

 美琴「お兄さん、どこに行ったんだろうね」

 由香「ホント。置いていくなんてひどいよ……」

 美琴「玄関にはいないようだったし、とにかくあちこち見回ってみようか、持田さん」

 由香「うん……お兄ちゃんを一緒に探してください……お願いします」

 しょげる由香の手を握りながら、美琴は複雑な気分でいた。
 横にいる、持田由香という存在に対して。

 美琴(これが私とタメだなんて、悪い冗談かと思ったわ。どう見ても小学生としか思えないし。さすがにこれで私も同い年だなんていう気にもなれないわ……)

 由香の実年齢に対する外見および性格との、あまりの食い違いっぷりに、ため息を漏らしそうになる。


 美琴(それより……初春さんも見かけないけど……大丈夫かしら……)

 別館に入り込んでから、後から合流してくるはずの初春の姿を一度も見ていない。
 一抹の不安を覚える。
 だが、すぐさま頭の中からそれを振り払った――。


522 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:10:51.62 ID:wnfje7u10

 初春「……何か重苦しくて……頭も痛いです……ハァ……ハァ……」

 別館の玄関ホールにて――初春はその場にうずくまり、息苦しそうにしていた。
 時折頭を強く締め付ける感覚までするものだから、たまったものではなかった。

 地震が収まり、恐る恐る別館の中を覗き込んだ。

 中には――"ソレ"の姿は見当たらなかった。

 ――もっとも、美琴の姿もなかったが。

 とにかく、誰もいないようだったので、恐る恐る中に入ったのだが――途端にこの感覚に襲われた。
 しかも、入った直後にドアがひとりでに閉じられたときている。


 初春「……と、とにかく一旦外に……」

 たまらなくなったのか、重い腰を上げて、閉じられた玄関扉まで向かい、取っ手に手を伸ばす――が。 

523 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:11:18.45 ID:wnfje7u10

 初春「ど、どうなっているのですか?まったく動かないです!!」

 ドアはいくら力を加えても、びくともしなかった。
 力加減という問題ではなく――まるで壁に固定されているかのように、わずかなりとも動かない。
 恐る恐る取っ手から手を離し――一つの結論に至り、全身から力が抜けた。

 初春(これって……閉じ込められたってことですか……)
 
 その場に崩れ落ちてしまう。
 ちょうど、同じとき――

 ??「やあ、君は無事なようだが、どうしたんだい?」

 初春「え?だ、誰ですか?」

 背後からした、男の声にびくつきながらも振り返る初春。

524 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:11:48.59 ID:wnfje7u10

 そこには長身の男性が一人。
 白のワイシャツに黒のズボン。
 紫色の上着を肩から掛け、ワイシャツの胸元をはだけさせている、整った顔立ちをしたその男性は、にこやかな笑顔で初春を見つめていた。

 ??「僕は白檀高等学校の2年の刻命裕也。君もこの学校に閉じ込められたのかい?」

 初春「は、はい……。しかも友達が先に来ているはずなのですけど、見当たりませんので……」

 刻命「大変だな。良かったら助けになるよ」 

 戸惑う初春に、刻命はただにこやかな笑顔を向け続けていた――。




                                               Chapter2『監禁』 END

                                           Continiue to Next Chapter……


525 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/09(水) 05:16:12.82 ID:wnfje7u10
本日の投下はここまでです。
さて、次のChapterはまたキャラを変える予定です。

なお、>>493のAは……Wrong ENDの予定だったと伝えておきます。
526 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:02:30.86 ID:xgRPYyhc0
さて、続編のchapter3投下と行きますが……
その前に、>>493のAのENDを投下してからいきます。
527 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:03:01.93 ID:xgRPYyhc0

 美琴「……直接やったほうがよさそうね」

 そのまま引き戸に手を掛け――ゆっくりと開けて、恐る恐る中を覗き込んだ。

 中には――霊の姿は無い。

 美琴「どっかいちゃったみたい。このままいきましょ」

 初春「ええ。でも、気をつけてくださいね」

 美琴「そんなの分かってるって」

 安堵して、全身の緊張がほぐれる。
 大胆に引き戸を全開にして、足早に教室の中に入りこんだ。

 レバーが置かれた机が、先ほど見た状態で変わらず、教室の奥にぽつんと置かれている。
 その手前の教卓も、そのままの状態だった。

 美琴「さっさと済ませてしまって、先に……」

 教卓のあるあたりまで差し掛かり、レバーまで少し行けば手の届きそうな所になった――その時。

528 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:03:28.08 ID:xgRPYyhc0








 ??「……ゆるふぁない……」








 "ソレ"はいきなり美琴の目の前に現れた。
 教卓の影から飛び出してきて――そして。








 ――目が合ってしまった……。







529 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:04:01.20 ID:xgRPYyhc0

 美琴「――!!」

 全身が一瞬にして固まってしまう。
 無理矢理揺さぶられたかのように、視界が急激に揺れ、目の前のものが歪みだす。

 だが――青白い少年の姿だけははっきりと美琴の目に映っていた。

 もちろん――じっと見据える目も……瞳も。
 目の前に映る美琴の姿を捕らえて、放さなかった。

530 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:04:34.96 ID:xgRPYyhc0

 美琴「…………」

 全身に悪寒が走り――いやな汗が流れ出す。

 少年の黒い瞳には――何も映っていなかった。

 ただの黒。
 漆黒のような闇が、ただあるだけ。

 その闇はみるみるうちに大きくなっていって――美琴の視界を覆ってしまう。

 そして――何も見えなくなってしまった。
 闇だけがそこにあるのみ。

531 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:05:03.22 ID:xgRPYyhc0








 ??「……いっふぉに……ひて……」








 少年の声が……頭に響き、延々と木霊する。

 美琴「…………」

 足がひとりでに動き出す――左へと。
 そして――手もひとりでに動き出し……何か棒のようなものを掴んだ。
 とてつもなく強い力で。 

 それは――初春の右腕。

532 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:05:57.01 ID:xgRPYyhc0

 初春「み、御坂さん!!痛い!!放して下さい!!」

 横から何かが、甲高い悲鳴を上げているように……聞こえる。

 だが――それだけだった。

 それ以上、美琴の思考は働くことはなかった。

 そのまま、足を止めることなくゆっくりと歩き出した――








 ――床が抜け落ちた、漆黒の虚空へと。








533 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:06:39.37 ID:xgRPYyhc0

 初春「やめて!!いやああああああ!!」



 足元が無くなった。
 二人の体は虚空に舞い――底が見えない漆黒に向けて、ただ堕ちていく。

 初春の悲痛な叫び声が聞こえた後、最後に耳にしたのは……。







               グシャッ……






534 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:07:07.20 ID:xgRPYyhc0


 ――何かが砕けて爆ぜる音。

 後に残ったのは――。









 ――血溜まりに頭をうずめ……

    ――瞳孔が開いた目を充血させて……



       ――ぴくりとも、動かなくなった……美琴と初春だった――。


 
535 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:08:15.98 ID:xgRPYyhc0
 
 (暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

  テーレレテテテレテー
 
    Wrong END

  ビターン

 (押し付けられた左手の赤い手形。薬指がない)


 >>493のWrong ENDはここまでです。
 これより、Chapter3に参ります。
536 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:08:42.25 ID:xgRPYyhc0









   ――ドーン……







            ……ゴロゴロゴロ……









537 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:09:10.20 ID:xgRPYyhc0

 佐天「……ん……んん……」

 大きく響いた雷鳴で、徐々に意識が戻ってくる。
 そして、ゆっくり目を覚ますと……

 佐天「――!!」

 途端、びっくりしたかのように目を大きく開ける。
 そして、勢いよく上半身を起こす。




 見えたのは――一面の闇。

 正真正銘の暗闇の中に……佐天はいたのだった。





538 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:09:38.22 ID:xgRPYyhc0

 佐天「な、何……」

 慌てて周囲を見回す。
 だが――何も見えない。
 目の前にかざしたと思う、自分の左手すら見えない。


 佐天「そういえば、さっき地震で教室が揺れて……落ちて……!?」

 先ほど自分自身の身に起こったことを、一生懸命に思い起こす。

 体は特に痛みを発していない。
 怪我はしていないようだった。

539 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:10:14.41 ID:xgRPYyhc0

 佐天(まさか……死んでそのまま死後の世界に連れて行かれたとか!?)

 あまりにも突飛な想像が、突如心の奥から沸き起こる。
 だが、何も見えない闇の中では、そう思えても仕方がないだろう。

 すかさず、地面に手をついてみる。


 佐天(……床かな……)

 木の板の手触りがあった。
 さらに――




     ……ザァー……



           ……ポツン……



       ……ポツン……


 かすかに雨が降りしきる音や、どこからか水滴が垂れる音が耳に入る。

 佐天(……生きては……いるのかな……)

 完全にではないが、うすうすそんなことを感じてしまう。

540 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:10:42.73 ID:xgRPYyhc0

 佐天(……でも、なんかおかしい……)

 意識がはっきりしてくるにつれて――違和感を感じてしまう。

 明かりの無い空間。
 聞こえるのは、雨や水滴の音だけで、他の物音は何も聞こえない。
 当然――人の声なども。

 佐天(……床が崩れるぐらいの、あんな大きな地震があったら、大騒ぎになっている……はずだよね……)

 たとえ、大地震で学園都市全体で停電があったとしても――ここまで静まり返っているのは、明らかに異様といえた。
 さらに――

 佐天(何か……湿っぽいというか……いやなニオイだなぁ)

 埃っぽくて、カビが発する特有の、不快な臭いが鼻を突く。
 息をするだけでも、息苦しくなって、いやになるぐらいに。

541 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:11:14.72 ID:xgRPYyhc0

 佐天(そういえば!?)

 いきなり、一つのことに思い当たった。
 あの時一緒にいたはずの―― 


 佐天「初春ぅ〜!!御坂さ〜ん!!白井さ〜ん!!」

 すかさず、友人の名前を大声で呼び出した。

 しかし――何も声はおろか、音も返ってくることはなく――雨音がかすかに響くのみ。


 佐天「みんな……どうしちゃったんだろ……」

 そんな状況に、とてつもない不安に襲われる。
 そんな時――

542 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:11:45.55 ID:xgRPYyhc0




             ……ジジジ……



 佐天「――!!」

 耳障りなノイズのような音ともに――目の前が急激に真っ白になった。
 思わず、手で目のあたりを覆ってしまう。

 佐天(……停電が直ったのかな?)

 目をしょぼつかせながら、ゆっくりと目を覆っていた手をずらしていった時――



 佐天「……え!?」



 飛び込んできた光景は――

543 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:12:15.05 ID:xgRPYyhc0





 佐天「な……なに、これ……」





 あちこちが抜け落ちたり、崩れかかっている――朽ちた木製の床や天井。

 雑然と散らばったり、壊れて転がっていたりしている――木製の小さな椅子や机。

 黒ずんだり、所々が崩れかかったりしている――モルタル製のくすんだ白の壁。
 
 外れかかったり、壊れたり、ガラスが割られて枠だけになっていたりする――木製の窓。


544 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:14:44.63 ID:xgRPYyhc0

 佐天「こ……ここは……どこ……!?」



 想像しえなかった、あまりにも朽ち果てた光景に――脳が受け入れられず、驚きの声を上げるだけ。

 佐天「学校みたいだけど……ウチの中学にはこんな所……」

 口を空気を求める金魚のように、ぱくぱくと小刻みに開閉しながら――ただ、目の前の光景を見つめるだけしかできなかった。
 柵川中学には――いや、こんな廃墟のような、ましてや木造建築の学校が学園都市にあるなんて、聞いたことがない。

 佐天「一体……どうなっちゃったんだろ……」

 慌てて周囲を見回すが――

545 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:15:11.69 ID:xgRPYyhc0


 佐天「みんな……いない……」

 初春も、美琴も、黒子も――それどころか、誰もいなかった。

 無人の、得も知れない、不気味な空間に投げ出されたことに――気味悪さだけが、佐天の心を支配した。
 そして、ふと正面に目を向けたとき――

 佐天「ひっ!?」

 怯えの感情がにじみ出た、悲鳴のような声が口から出た。




 ――そこにあったのは、大きくて古びた黒板。

546 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:15:38.44 ID:xgRPYyhc0










  『 下 校 時 刻 を 過 ぎ て い ま す 』









   ――白いチョークのようなもので、

  




547 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:16:12.08 ID:xgRPYyhc0

  







   『 ま だ 残 っ て い る 生 徒 は 』









  
   ――でかでかと、乱暴な字で、





548 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:16:38.54 ID:xgRPYyhc0


















       『 も う 帰 れ ま せ ん 』
















   ――最後は……血のような赤い色で乱暴に書きなぐられていた――。
 


 
549 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/11(金) 23:18:50.83 ID:xgRPYyhc0
本日の投下はここまでです。
次回投稿については、例のごとくですみませんが、数日の間隔が空くと思いますのでお願いいたします。
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 01:23:33.69 ID:pf3ytVWDO
乙ー
夜読むと怖いわ
次の更新待ってる
551 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/02/15(火) 22:26:51.92 ID:gyj0vDmf0
>>550
ありがとうございます。
他にも読んでくださっている方々にも、感謝を。

少しながらではありますが、続きを投下いたします。
552 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/15(火) 22:27:43.50 ID:gyj0vDmf0

 佐天「なにかの悪い冗談……じゃないよね」

 黒板にでかでかと書かれた文字に――ただ、打ち震えるだけ。
 力なく、近くにあった小さい椅子に腰を下ろす。
 そして、何気なく頬をつねってみる。


 佐天「痛っ!!やっぱ夢なんかじゃないか……」

 目の前に広がっている光景――そして、その中にいるという現実をひしひしと感じて……落胆した。

 佐天「ここ……ホントにどこなんだろ……」


 あてもなく、周囲をぼんやりと眺め回す。
 小学校の――それも廃校ということはなんとなく分かる。

 傍には木製の引き戸が――ぴっちりと閉じられていた。
 引き戸の上半分には、木製の格子が組まれていて、そこに曇りガラスがはめ込まれていた。
 中にはガラスが割れていたりするものもあり――その一つに近づき覗き込む。

553 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/15(火) 22:28:15.05 ID:gyj0vDmf0

 佐天(真っ暗で何も見えないなぁ……廊下みたいだけど……)

 曇りガラスの割れた隙間から目を離し、引き戸の取っ手に手を掛ける。
 そして、何気に横に引っ張ってみた――が。


 佐天「びくともしない……何かが引っかかってるのかな」

 今度は両手を取っ手に掛けて、力いっぱい横に引いてみた。
 だが、結果は先ほどと同じで、寸分たりとも動く気配が無い。
 さらに、格子の部分に手を掛けて上下にゆすってみたが……やはり動く気配は無い。
 まるで、引き戸自体が何かで固定されているかのようだった。


 佐天「はぁ……はぁ……何で動かないのよ……」

 無理に力を加えたため、指先が痛み出した。
 手をぶらんぶらんと振りながら、息を荒げて、目の前の開かない引き戸をにらみつける。

 佐天「他にも出られそうな所は……」

 何気なく、教室前方に目をやる。
 黒板の右手にも同じような引き戸があるのを見つけた。

 引き戸は――片方が開いているようだった。

554 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/15(火) 22:28:55.90 ID:gyj0vDmf0

 佐天「何だ、あっちがいけるじゃん……」

 ため息をつきながら、前方の出入り口へと歩き出す。
 床が抜け落ちているたり、木材がめくれあがっている所があった。
 それらに気をつけながら、恐る恐る前へと進む。

 佐天「出られないかと思っちゃったよ……」

 ため息に近いような感じで息を漏らしながら、出入口をくぐりぬけようとした時――


 佐天「ロウソク……なんでこんな所に?」

 黒板脇の床の上に、火のついていないロウソクが転がっていた。
 さらに、ロウソクを立てるための金属製の皿まで近くに転がっている。

 佐天「こんな廃墟にロウソクって、気持ち悪いよね」

 口ではそのように言いながらも、出入口の向こう側が闇に閉ざされているの見て、

 佐天「火があればいいんだけど……」

 ライターやマッチなどは当然持っていなかった。
 ロウソクや皿まで落ちているのだから、ひょっとしたらあるかもと思い、何気なく周囲を眺めまわしてみた――その時。

555 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/15(火) 22:29:46.05 ID:gyj0vDmf0

 佐天「ひっ……な、何これ!!」

 見てしまった。
 そして、驚きのあまり、反射的にのけぞってしまう。
 足を躓かせて、床に尻餅をついた。
 そしてまじまじと、息を荒げながら――目の前に見えたものを、ただ見つめていた。





 
 白い骨。

 緑のセーラー服に、白いスカートを身に着けて。

 さらに足の骨のあたりには、黒いニーソックスが引っかかっていて。

 一部が大きく陥没した頭の骨は、写真やマンガで見覚えのある独特の形をしていて。




 どう見ても――人の骨だった。



556 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/15(火) 22:30:14.83 ID:gyj0vDmf0

 佐天「……ほ、本当に……シャレにならないって……」

 縮こまらせた全身を小刻みに震わせていた。
 すぐにも立ち去ろうとするが、足がすくんで動かない。
 思わず遺体から目をそらそうとしたとき――目に入ったものがあった。

 佐天「マ、マッチ?」

 だらしなく床に垂らした右手の骨の先には、一個のマッチ箱が落ちていた。
 さらに傍には、握り締められ、くしゃくしゃになった紙が散らばっている。

 すかさず前に身を乗り出して、手を伸ばす。
 マッチ、さらには傍にあった紙までも無我夢中で掴む。

 マッチ箱をすぐさま開けると――数本のマッチ棒が見えた。

557 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/15(火) 22:30:49.26 ID:gyj0vDmf0

 佐天「ど、どうやらいけそうだね。ち、ちょっと借りますよ〜」

 声を震わせながら、マッチ棒を出して、箱の側面の茶色い側薬にこすり付ける。


 ボワッ。


 マッチの頭の部分から、小さく炎が立つ。
 すかさず、ロウソクを皿に立てて、芯に炎を近づけると――淡い光を灯しだした。


 マッチの炎を息で吹き消し、マッチ箱をポケットにしまおうとする。
 そのとき、とっさに掴んだメモ用紙を傍に落としているのに気づく。

 
 佐天「戻しとかなきゃね……」

 誰に言うのでもなく、ただぽつりとつぶやく。
 メモ用紙を手に掴んで、元あった場所に戻そうとしたとき、中身が見えた。

558 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/15(火) 22:31:21.19 ID:gyj0vDmf0




 『恋都のばか、

  信じなきゃ救われないわよ

  私たち友達でしょ』


 佐天(ケンカでも……しちゃったのかな)

 そんなことをふと思いながら、メモを戻す。
 顔を上げると、遺体の制服に名札が付いているのが見えた。

 佐天(……聖清女子学院I-2 加東あすか……聞いたことの無い名前の学校だね)

 一体ここで何があったのか。
 何かで殴られてできたような、頭骸骨にできた大きな窪みが目に付いた。
 しかし、それ以上のことは――何も語ることはない。

559 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/15(火) 22:40:51.73 ID:gyj0vDmf0

 佐天「と、とにかく……行こう……」

 火を灯したロウソクを手にすると、ゆっくりと立ち上がった。
 遺体に背を向けると、そのまま出入口へと足を進める。


 外に出ると、廊下が左右に伸びていた。
 正面には、朽ちたり、外れかかっている窓が並んでいる。
 ロウソクの火を近づけたが、あまりにも暗すぎて外の様子はよく分からない。
 ただ、雨が降りしきっているようだった。

560 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/15(火) 22:41:43.89 ID:gyj0vDmf0

 佐天「ここ……本当にどこなんだろ……」

 灯は一つも見えない。
 ただ、佐天の手にしているロウソクの炎と、背後から漏れる部屋の明かりが、ガラスに反射して映っているだけ。
 そこに不安げな佐天の表情がうっすらと浮かび上がっていた。

 さらに背後には出てきた部屋の入口をも、ぼんやりと映し出している。
 上のほうに掛かっている【5-A】と書かれた木の札が逆向きになって見えていた。


 佐天「本当に学校みたいだけど……死体もあるなんて……」


 朽ちた廃校舎。
 そして、そこに転がっている白骨死体。

 ここがどこなのかは――はっきりとは分からない。

 ただ――普段では想像できない恐ろしいことが起きた――それだけは分かったのだった。

561 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/15(火) 22:42:33.48 ID:gyj0vDmf0

 廊下の床は、教室と同様に、所々に穴が開いていたり、机やガラスの破片やらが散らばっていたりしている。
 だが、進めないというわけでもなさそうだった。

 佐天(どっちに……行ったらいいんだろう……)

 そんな事を思いながら、ゆっくりと体を向けた……。
 

562 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/15(火) 22:44:33.72 ID:gyj0vDmf0
本日の投下はここまでです。

なお、以下の選択肢がこの後に続く形になります。

A:左へ行くことにした。
B:右へ行くことにした。

安価は>>565でお願いいたします。
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 22:49:16.70 ID:48kp4wrfo
乙乙
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 16:20:33.24 ID:INVxWTlb0
ksk
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 21:24:10.27 ID:QrA3w3xK0
Aで
566 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/02/19(土) 21:22:05.05 ID:JkVeA1Oy0
では、Aにて続きを投下します。
567 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:24:36.61 ID:JkVeA1Oy0



 ――左の方へと。




 手にしたロウソクの光が、ぼんやりと佐天の顔を照らしていた。
 だが、その表情は暗く。
 そして、先へと続く廊下も、延々と闇に閉ざされていた。
 外に面した窓はあるものの、入ってくる光は無く、ロウソクの光がただ、うっすらと照らすだけ。
 ただ、ギシ、ギシと足を乗せるたびに、軋む床の音が虚空に響いていた。



568 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:25:48.22 ID:JkVeA1Oy0





  ――シャーッ……






 佐天(何だろ……この音)

 雨音とは違う、何かが流れるような音。
 真っ暗な廊下の先から――確かに聞こえる。

 そして、一歩一歩進むたびに――次第に大きく、はっきりと耳についてきた。



 佐天「明るくなってきてる……」

 廊下のはるか先が――ぼんやりと白く光っているようだった。
 自然と歩く足が速くなっていく。
 見る見るうちに奥から届く光は大きくなっていき――ついにそこへとたどり着いた。

 光は左手の部屋から漏れていた。

569 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:26:28.48 ID:JkVeA1Oy0


 佐天「何……この部屋……」

 目の前に広がった光景に、ただ息を飲むばかりだった。

 赤く塗りたくられた引き戸。
 そこにはめ込まれた磨りガラスから、白い光が漏れている。
 そして、先ほどから耳についている音も――この部屋の中からはっきりと聞こえていた。


 佐天(……用務員室?)

 今にも落ちそうな朽ち掛かった木の札の文字にはそう書かれていた。
 扉の前に立ち、誰かいないかとノックをしようと思った――が、それはためらわれた。

570 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:26:59.57 ID:JkVeA1Oy0


 佐天(こんなに真っ赤なドアなんて、不気味だよ……)

 自然とノックをしようとした左手を引っ込める。
 そして、扉とは反対側に振り返る。


 そこは少し広い広間になっていた。
 廊下はそこまでとなっていて、先にはガラスが所々割れている窓が嵌められているだけ。
 もちろん、そこからは――外の様子ははっきりと見えない。

 佐天(……何かある?)

 窓の下の辺りに、黒くうずくまるものが見えていた。
 ロウソクの光はそこまでは届かず、それが何かはよく分からない。
 恐る恐る近づいて確認しようとした――その時。


571 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:27:31.28 ID:JkVeA1Oy0





  ――ドーン!!





     ……ゴロゴロゴロ……






 すさまじい雷鳴とともに、稲光が窓の外から強烈に差し込んだ。
 暗い闇に閉ざされていた空間を、一瞬だがまぶしく照らし出す。


 その場で怯える佐天の表情も。



 ――そして、窓の下にうずくまるモノも。


572 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:28:01.17 ID:JkVeA1Oy0


 佐天「ひ、人?」

 それは――人の形をしているのが確かに見えた。
 しかし、稲光が収まると――何事も無かったかのように、再び周囲は闇に覆われる。
 ただ、背後の用務員室の窓から、薄く白い光が漏れてくるだけだった。

 窓の下のモノは――まったく動いた様子がながった。


 佐天「ごくり……」


 固唾を呑み……一歩一歩、それに近づいていく。
 そして、ロウソクを手にしていた手を震わせながら、ゆっくりと前へと……前へと伸ばした。

573 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:28:42.88 ID:JkVeA1Oy0


 


  ――ドーン!!





 窓から差し込む稲光。
 真っ暗だった空間が、一瞬まぶしく照らし出す。





     ……ゴロゴロゴロ……





 足元にある――人の亡骸も。

 周囲に散った、鮮血も。

 瞳孔の開ききった、恨めしげな視線を放つ目も。



 佐天「――!!」

 思わず、目が合って体を小刻みに震わせる――佐天も。
 息を荒げながら、おぼつかない足取りで無意識に後ろずさっていた。

574 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:29:16.84 ID:JkVeA1Oy0


 目の前に横たわっているのは女学生のようだった。
 頭に黄色いリボンを付けて、半袖のセーラー服と黒いスカートを身に着けて。
 そこから露出している肌は、汚れてもいなく、むしろ艶やかで。

 だが――雷鳴が響こうが、佐天が近づこうが、すっかり蒼くなった表情は苦悶の色が浮かんだまま、寸分も動くことは無く。
 そして――左足の踵はざっくりと切り裂かれ、そこから血がわずかだが流れ出ていて。
 ――足首や靴下を紅く染め――周囲の床に夥しい血だまりを形成していた。


575 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:30:10.53 ID:JkVeA1Oy0



 佐天「……ハァ……ハァ……」

 後ろずさる足を止め、乱れた息をなんとか整える。
 恐る恐る、目の前に横たわる女学生に近づく。

 佐天(ひょっとしたら……気絶しているだけかも)

 そんな根拠の無い、希望めいた思いを持ちながら。
 震える手でゆっくりと女学生の右腕に触れてみた。





 ――氷のように冷たく――石のように硬かった。

576 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:31:01.89 ID:JkVeA1Oy0

 佐天「ひ、ひいいいい!!」

 情けない悲鳴を上げながら、掴んだ右腕をすかさず離してしまう。
 力なくその場に崩れ落ちて――足をだらしなく床に折り曲げて、しばらく放心してしまっていた。



     ……ゴロゴロゴロ……



 遠くから、雷鳴が響き渡る。

 手にした皿は斜めに向けられたままで。
 乗せたロウソクは今にも倒れそうな感じになっていた。

 さすがにいけないと気づいたのか、皿を床の上に置こうとする。


 佐天「何……メモがたくさん……」

 置こうとした床にメモが数枚散乱しているのが見えた。
 ルーズリーフのようで、所々乱れた文字が書きなぐられていた。

 ロウソクを床に置き、メモを手に取った。


577 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:31:41.35 ID:JkVeA1Oy0


 
 『……ねえさま……私はもう駄目です……

  切断された足首の腱から、血が止まりません

  ……せめて、ねえさまは生き延びてください……

  私の調べたことを、ここに記しておきます』



 佐天(遺言かな……)

 足首の腱という言葉が気になり、ちらりと傍の遺体に目を向ける。
 ばっくりと開いた傷口が生々しい。
 思わず目をそむけ、続きの書かれた別のメモを読み出す。


578 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:32:08.77 ID:JkVeA1Oy0


 『……ひとつ……

  この校舎の外へと面している窓や扉、壁などは
  動かす事も壊す事も出来ませんが、
  廊下側の教室の窓など内にあるすれらには、
  ある程度は影響を与えることが出来る。

  ……ふたつ……

  校舎内の至る所にいる霊魂……

  これらには、生者と同じで、良き者と悪しき者とがいる……

  穏やかで優しい心の魂は、
  静かに蒼く光を灯しています……

  しかし、悪い性質の魂は
  血のように赤い、炎のような光を宿しています……』

579 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:32:36.33 ID:JkVeA1Oy0

 内容はあまりにもありえない内容ばかりだった。
 特に霊魂などという、オカルト的要素に満ちた文章は、科学の中で暮らしている人間には到底受け入れがたいものだった。
 
 佐天(……冗談……なわけないよね……)

 都市伝説を探し回って騒いでいたりもしていたが、それはあくまで面白いからやっていたこと。
 実際、このような得も知れない空間に放り込まれ、オカルトじみたことを言われても、それをすんなりと受け入れるわけが無い。
 むしろ、不気味に思えさえした。

 
580 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:33:04.03 ID:JkVeA1Oy0

 




         『……痛い……

    ……鋏で踵の腱を切られた痛みが……

  足が無くなってしまえばいいのにと思うほど痛みます……

    死ねば、このひどい痛みも感じなくなるのが……

     今は、せめてもの心の救いです……けれど


       ……ねえさま……会いたい……

     ……もういちど、優しく抱きしめて欲しい……

      ……ねえさま……一人で死ぬのは寂しいです

       ……ねえさま……死ぬのは……怖いです

       ねえさ*** *********』



 それより下は、字が乱れていて読めるものではなかった。
 意識が途切れる間際に書いたもののようだった。

581 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:33:47.00 ID:JkVeA1Oy0

 佐天(…………)

 何も言わず、そっとメモ用紙を床に置いた。

 目の前の遺体の主に起きた、あまりにも不幸な出来事。
 そして、絶え間なく続く苦痛。

 それを想像すると、気の毒という言葉では到底片付けられない気がした。


 佐天(生徒手帳かな……)

 メモを置いた傍の床に、黒い小さな手帳が落ちているのを見つけた。
 表紙には校章らしき紋様が描かれていた。
 見開きには生徒証が挟み込まれていた。

582 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:34:16.70 ID:JkVeA1Oy0

 佐天(……天道高等学校U-A 長谷川志穂……)

 生徒証の写真に写る、生前のやや幼なさの残る少女の顔。
 それと目の前の表情と見比べると――痛ましく思えてしまう。
 
 なぜこんな目に遭わなければいけなかったのか。
 いきさつとかをよく見ていたわけじゃないので、それは分からない。


 ただ――分かることは、この空間にこのまま居続けては危険だということ。


 見てきた死体は2体。
 先に見た白骨死体も頭が陥没していたから――何かが落ちて頭にぶつけたか、

 それとも――撲殺されたか――。

 この遺体も、何者かに足の踵を斬りつけられた。
 霊魂とかいっていたが、実際は何者かは分からない。


 霊魂にしろ、人にしろ――殺意を持った何かが、この空間の中を徘徊している。

 それだけは、うすうす想像できた。

583 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:34:55.69 ID:JkVeA1Oy0

 佐天「……やっぱり、駄目か」

 試しに近くにある窓に手を掛けてみたが――びくとも動かなかった。
 さながら、壁に釘か何かで打ち付けられたかのように、びったりと張り付いていた。
 メモに書いていることは、おおむね真実と言っていいのかもしれない。
 

 佐天「早く……ここから出なきゃ……」

 怯えた素振りで、手帳を床にそっと置く。
 そして、目の前の犠牲者に静かに手を合わせると――ロウソクを手にして、足早にその場を後にした。


 用務員室の赤い扉には目もくれず、もと来た道を戻る。
 木製の床に足を乗せるたびに、ギィ、ギィという不気味な軋みを立てる。
 すぐに5-Aの教室まで来たが、速度を落とさずそのまま通り過ぎた。

584 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:35:31.81 ID:JkVeA1Oy0

  
 佐天「……初春たちは……どうしてるんだろ……」

 5-Aの部屋から右手へと、廊下をさらに奥へと進みながら、そんなことをふと思う。

 地震が起きて――床に裂け目ができて。
 そこに初春と美琴が落ちていって。

 佐天もつられる様に奈落の底へと吸い込まれて。
 最後に見たのは、後を追うように頭上から落ちてくる黒子の姿だった。


585 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:35:59.07 ID:JkVeA1Oy0

 佐天(やっぱり、ここに来てるのかな……)

 だが、彼女らの姿は一向に見かけない。
 いや、人の姿すら見かけない。

 見かけたのといえば――



    カサカサカサ……



 床や壁に時々、すばやく這い回る黒い虫。
 他にも、ムカデなどの――見るだけでもいい感じのしない虫ばかり。
586 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:36:38.74 ID:JkVeA1Oy0

 しばらく進むと、左手に幅の広い廊下が伸びている箇所にぶつかった。
 立ち止まって覗き見るが、ひたすら延々と伸びているだけで、ロウソクの光だけでは先はよく見えない。

 もっとも、まっすぐ伸びる廊下も然りだったが。
 天井から木材や壊れた照明器具がだらしなくぶら下がっていたり、
 床には穴があちこちに開いていて、机などの残骸が散らばっていて、

 床もそうだが、薄汚れたモルタルの白い壁にも――血の染みがついていたりして。

 どちらも変わりはしなかった。


587 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:37:06.71 ID:JkVeA1Oy0

 佐天「初春ぅ〜、御坂さぁ〜ん、白井さぁ〜ん……」

 何気に名前を大声で呼んでみるが――返事は返ってこない。


 佐天(まさか……いないとか……死んじゃってるとか……)

 一瞬そんな想像をしてしまう。
 が、すぐさまそれを否定するかのように、力いっぱい首を振る。

 佐天(まさか、死んじゃってるってことはないか。御坂さんに白井さんがそう簡単にやられるわけ無いよ。初春だって……)

 無理矢理、そんなことを心に言い聞かせる。


 佐天(早く見つけて……こんな所から出て行こう)

 そして、作り笑いを顔に浮かべると……そのまま廊下をまっすぐ進んだ。

588 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:37:34.81 ID:JkVeA1Oy0

 すぐさま右手に引き戸が見えた。
 上には【4-A】と書かれた木の札が掛かっている。
 引き戸はぴっちりと閉じられていた。
 はめ込まれている曇りガラスから中の様子は覗き見ることが出来ない。

 引き戸に手を掛けて開けようとしたが――まったく動かない。
 先ほどの窓と同様に、しっかりと固定されているようだった。
 ただ、曇りガラスに、背後の廊下の上にぶら下がっている照明器具と――疲れきった佐天の表情が映っているだけ。

 廊下を少し進んだ先に、同じく【4-A】という札が掛かった引き戸があった。
 同様に閉じられていたが――やはり開けることは出来なかった。


 佐天「ここは無理みたいだね……」

 引き戸から離れると、肩を落とす。
 そして、小さくため息をつくと、そのまま廊下の奥へと進んでいった。

589 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:38:18.33 ID:JkVeA1Oy0

 やがて、廊下は突き当たりにたどり着いた。
 6畳ほどの小部屋のようになっていて、正面と左手には外に面した朽ちた窓が並んでいて。
 そして、右手には引き戸があったわけだが。

 佐天「な、何これ?ものすごい雰囲気なんだけどさ」

 目にした途端、息を呑んだ。
 思わずその場に固まってしまう。
 窓の外からかすかに響いていた雨の音は途絶えていた。

590 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:38:50.88 ID:JkVeA1Oy0

 引き戸は、枠の部分に無数の釘が打ち付けられていた。
 さらに、2枚の引き戸を覆い尽くすかのように、紙の札が貼り付けられていた。
 いずれも何かしらの呪文を書いた札のようだが、どんなことが書かれているのかは、読み取れない。
 2枚の引き戸が合わさる部分の中央付近には、封印するかのように1枚の貼り紙があった。






       『何人も立ち入りを禁ず』

          【天神小学校校長:柳堀隆峰】






 佐天「危険な場所なのかな。にしても、ものものしすぎない?」

 あまりに異様な目の前の光景に、目を白黒させるばかり。
 ただ、入れそうに無い――いや、入っても危ない場所ということだけは想像できた。

 佐天「さっきの広い廊下に行ってみるか」

 扉から離れて、もと来た道に頭を向けようとした――その時。

591 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:39:31.51 ID:JkVeA1Oy0

 見つけてしまった。



 一体の白骨死体を。

 それは床に置かれた椅子の上に腰掛けていた。
 緑のセーラー服に白いスカート。
 先程5-Aの部屋の内部で見た、白骨遺体と同じ学校の生徒のようだった。

 袖からは肉がすっかり削げ落ちた白骨がだらしなく垂れ下がって。
 白いスカートは椅子の座面にずり落ちて、くすんだ色の骨盤を露にして。

 頭骸骨には――大きな陥没があった。
 

 佐天「ひっ!?」

 思わず情けない声を上げてしまう。
 すぐさまその場を後にしようとするが――その時、椅子の下あたりに紙が落ちていたのが見えた。

 ちょうど垂れ下がった右腕の骨の真下にあった。
 周囲には指の骨と思しき小さな骨が散乱していて、紙がくしゃくしゃになっていた。

 死ぬ間際まで――握り締めていたようだった。

592 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:39:57.73 ID:JkVeA1Oy0


 佐天「…………」

 何もいわず、恐る恐る床に落ちたその紙を拾い上げる。
 その時、遺体の制服に名札が付いているのが見えた。
 わずかに残る腐臭をこらえながらも、ちらりとそれを覗き見る。

 佐天(……聖清女子学院I-2 藤原恋都……さっき教室の中で見た死体と同じクラスだから……友達同士?)

 そんなことを思いながら、遺体から少し離れると、手にしたメモ用紙を広げた。
 全体的に丸っぽく書いた文字で書かれていて……所々に血の染みが付いていた。


593 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:40:45.07 ID:JkVeA1Oy0





     『頭が割れる……

         頭が割れる……
    

       頭が割れる

         頭が割れる

        頭が割れる


    ゆずはの死体を見つけたとき
   
   私わ大きな黒い影を見てしまった

 
   その事をみんなにゆわなかったから、
 
     みんなそいつに殺された
 
      ごめん、みんな

      ごめ、〜〜〜〜』



 先にも何かが書かれていたが、血が夥しく付着していた。
 赤黒さに字の色も溶け込んでいて、読むことはできなかった。

594 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:41:39.45 ID:JkVeA1Oy0

 佐天「……シャレになってないよ……マジで……」

 小さくつぶやくと、メモ用紙を元の位置へと戻した。

 教室の中で見た同じ聖清女子学院という学校の生徒。
 加東あすかという娘が遺したメモの内容をふと思い出す。
 確か、この目の前の藤原恋都という娘に信じなきゃ救われないというメッセージを遺していた――。


 佐天(ケンカか何かしちゃって、一人になって……)

 同じように頭についた陥没。
 そして、殺されたという文句。




 佐天「殴り殺されたってこと……!?」

 想像した途端に全身を悪寒が走った。
 思わず、周囲を振り返る。  

595 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:42:38.54 ID:JkVeA1Oy0



 ――何もいなかった。

 だが、安堵することはなく、もと来た廊下をじっとにらみつける。


 佐天(……マジで殺人鬼かなにかがいるみたい……)

 ごくりと固唾を飲んで、床に置いたロウソクを手にして。


 藤原恋都という娘は、一人になったところを襲われたのだろう。
 そして、加東あすかという娘もケンカして一人になったところを襲われて――。


596 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:43:04.83 ID:JkVeA1Oy0


 佐天(一人でいちゃ、マジでヤバイって!!)


 すかさず、廊下を戻りだした。
 もはやのんびりしている余裕は無かった。

 今の状況は、まさに一人ぼっち。
 殺人鬼に出くわして、襲われて――さっきの白骨遺体と同じ最期をたどってしまうのもありえない話ではない。
 LEVEL5の美琴や、テレポーターの黒子ならともかく、佐天は無能力者だ。
 はっきり言って、そんなのに太刀打ちするどころか、逃げ出せる自信すらない。

 一刻も早く、初春らと合流して、脱出経路を探して――。


 いや――最悪一人でも、ここから脱出しなければ危ない。


 佐天(とにかく、ここから早く出なきゃ、マジで!!)

 すっかり駆け足になったまま、廊下をひたすら突き進んだ。

597 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:43:37.61 ID:JkVeA1Oy0

 廊下がT字路になっている箇所まで戻った。
 幅が広くなっている廊下へと足を向け、なりふりかまわず前へと進んでいった。

 先ほどの廊下と違って、窓は無い。
 薄汚れた白いモルタルと、下半分を覆う朽ちた木の板で構成された壁に挟まれた廊下になっていた。
 照明器具は天井からぶら下がっていたが――明かりはついていなく、ただ真っ暗。
 それどころか、天井の構成材と共に床に落下しているものまである始末。
 手にした、ロウソクの明かりだけが頼りだった。


 佐天(しっかし、長いなぁ……この廊下)

 部屋への出入口も特に見当たらなかった。
 床は一部が穴が開いていたり、壁に沿って抜け落ちていたりした箇所はあった。
 しかし、通れないというものではなく、ひたすら前へと進んでいった。

 佐天(まさか、無限回廊だなんてオチは無しだよ……!?)

 ふとそんなことを思ってみる。
 ゲームか何かだったら、よくある話だが、現実にあったらたまったものじゃない。
 ましてや、すぐにも脱出したい、こんな得体の知れない危険な空間だったら。


598 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:44:13.27 ID:JkVeA1Oy0

 佐天「う、うそ……そんなぁ……」

 駆けていた足を止め、全身をわなわなと震わせながら、泣き出しそうな声でつぶやく。


 目の前には、廊下を横切るかのように裂け目が走っていた。
 幅は1.5mほどだが――下はただ漆黒の闇が広がるばかり。
 無理すれば飛び越えられなくも無いが……失敗したら命を落としかねない。

 慌てて、周囲を眺め回す。




 すると――長い板が1枚。
 右手の壁に立てかけられていたのを見つけた。
 長さはちょうど裂け目の幅より心持ち大きいといったところだろうか。
 
 佐天「なぁんだ、これならなんとかいけそうじゃん。びっくりさせなっつーの……」

 ほっと胸をなでおろし、ロウソクを床に置く。
 板に両手を掛けて、そのまま裂け目の所まで持ち上げた。


599 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:44:41.87 ID:JkVeA1Oy0







 ――その時。


 その影に――白骨死体があったのを見つけてしまった。
 まるでうずくまるかのように、床に横たわっていた。
 茶色のブレザーに、白いフリルが端に付いた茶色のスカートが、骨を覆いかぶせるように散らばっている。
 が、そこから離れた所にある頭骸骨は――眼窩の窪みがじっと佐天を見つめるかのように横たえられていた。


  ……バタン!!


 板を思わず落としてしまう。
 床にぶつかった音が周囲に響き渡る。


600 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:45:19.68 ID:JkVeA1Oy0

 佐天「もう、いいかげんにして……」

 憔悴した表情で、板を裂け目に乗せる。
 なんとか、裂け目を覆いかぶせる形になり、気をつければ渡れないということはなさそうだ。

 そのまま、渡ろうとしたとき――つま先に何かが当たる感覚がした。
 見ると、それは大きく開かれて裏返しになった、小さな手帳だった。
 何気なく拾い上げてみると、そこは見開きの部分だった。
 表紙の裏に生徒証が挟み込まれている。

 佐天(……武蔵川女子中学校T-2 桐上ひかり……って、私とタメ年!?)

 思わずはっとしてしまう。
 これまで見た遺体は高校生のものばかり。
 わが身も――と思っていたが、反面高校生ばかりで、他人事のように思ってしまっていたのも事実。

 だが――中学生、それも同学年ときたものだ。
 そして、この危険な空間まで落とされて――命を失っている。

 なぜこの空間で、多数の人間が命を落とさなければいけないのか。
 理由なんて分かるわけが無い。


 ただ分かるのは――佐天も命を落とす羽目に陥ってもおかしくないということ。

601 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:46:05.57 ID:JkVeA1Oy0

 佐天「…………」

 それ以上何も言わず、手帳を遺体の制服の上に置いた。
 そして、裂け目に渡した板の上を、一歩一歩ゆっくりと歩みだす。




   ……ギ……


       ……ギギ……




 時折板は軋みをあげていたものの、見た目よりかは丈夫な様子だった。
 割れたりすることも無く、無事に渡りきった。


 佐天(……こんなところで……死んでたまるか……)

 拳を握り締めながら、延々と続く廊下を、ただ突き進んでいった。

602 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:46:33.39 ID:JkVeA1Oy0

 やがて、大きな広間のような場所に出た。

 正面にはこれまでみたものよりも一回り大きな引き戸があったが――大きく開けられている。
 しかし、直前には裂け目が走っていた。
 幅は先程廊下で越えたものと同じ程度。
 あの長い板を取って来て渡せば、なんとかなるかもしれない。

 さらに手前の床の上もだが、小さな上履きがいくつか散乱していた。
 いずれも小学生用の大きさだった。


 佐天(――先は玄関みたいだね)

 現に、出入口の先には下駄箱と思しき棚が数列並んでいるのが見えた。

 佐天(他にも行けそうなところはあるっぽいけど……)

 広間から左右それぞれに廊下が伸びていた。
 ただし、玄関に向かって右側の廊下は、大きく抜け落ちていて、どう見ても通ることが出来ない。
 一方で、左に伸びる廊下は、壁際に裂け目が走っている箇所はあるものの、なんとか通れそうだ。

603 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:47:23.61 ID:JkVeA1Oy0

 佐天(とにかく、初春らを探してから脱出しよう。多分、玄関の扉があるだろうけど……)

 再び、正面の出入口を見渡す。
 並んだ下駄箱がうっすらと闇の中に見えるだけだった。


 佐天(閉められているっぽくて、さっきのように開けられないのかもしれない)

 左へと伸びる廊下へと目を向ける。
 入ってすぐのところの壁に貼り紙があるのを見つけた。


 佐天(でも、御坂さんの超電磁砲か白井さんのテレポートだったら、いけそうかも)

 すぐさま左に伸びる廊下へと足を進めた。
 脇にある貼り紙が目に入る。

604 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:47:53.04 ID:JkVeA1Oy0



    
      『一緒に行こうって……

      みんなと約束したのに……

       どうして……僕だけが

       置いて行かれるんだ……


        ……クルシイ


           ……クルシイよ……』




605 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:48:20.27 ID:JkVeA1Oy0

 佐天(……先に脱出しちゃって、置いてけぼりとか……)

 そんな考えがふと頭をよぎる。
 考えてみれば、初春にしても、美琴にしても、黒子にしても――こんな異様な空間で一人だったら。
 立て続けに、命を散らした犠牲者の遺体を見続けたら。
 最初は仲間を探そうとするが――しばらくそんな状態が続いたら。

 なかなか見つからないと……心の余裕はなくなってくる。
 いくら能力があっても、霊魂とかまでがある話だ。
 何が――それこそ命の危機も――起きてもおかしくない。
 となると、考え付くのは……。


606 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:48:48.48 ID:JkVeA1Oy0

 佐天「……まさかね。そんなこと無いよ……絶対無い」

 湧き上がった考えを一生懸命に頭の中で否定する。
 幻想御手に手を出してしまって、昏睡したとき、一生懸命に助けてくれた。
 いろいろバカやったり、ヤバいことに首を突っ込んだりしたけど、一緒に助け合って乗り越えてきた。

 佐天(私を置いてけぼりで逃げるなんて……絶対無いって)


 ――きっと、放っておかずに助けてくれる。

 心の中で勝手に一人でそんなことを確信しながら、廊下を突き進む。
 彼女らの性格が人を見捨てる真似をしないものだといっても、佐天の抱いたその感情は彼女らへの甘えだった。
 だが、そうでも思わなければ、心は持ちそうに無かった。
 

607 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:49:29.50 ID:JkVeA1Oy0


 廊下はしばらく進むと行き止まりになっていた。
 右手には上への階段があった。
 廊下の左手の天井は大きく抜け落ちていた。
 その真下には、天井の破片が無数に散乱していた。





 その中にあった。


 一体の白骨死体。


 天井の破片と共に、周囲に散乱していた。
 着ていたと思える緑色のセーラー服やスカートはビリビリに破れている。
 見上げると、天井の梁などにも服や骨の欠片が引っかかっていた。
 どうやら、階上から床を踏み抜くか、裂け目に落ちるかして、そのまま墜落したらしい。

608 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:50:17.63 ID:JkVeA1Oy0


 佐天「ははは……もうたくさん……」

 立ち止まり、ただ乾いた笑いをあげてしまう。
 だが、表情は今にも泣きそうな様子で。

 足元には、その遺体のものと思える頭骸骨が転がっていた。
 後頭部の部分には――大きな窪みがあった。

 傍の床の上には――握り締められるなりして、くしゃくしゃになったメモ用紙が数枚落ちていた。


609 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:50:47.76 ID:JkVeA1Oy0







  『仲良し4人組 本日活動日!
   放課後、校門裏に集合だよ 恋都』






 佐天(……聖清女子学院の友達の一人みたいだね。4人だったんだ……)

 ロウソクの炎を近づけて、落ちているメモを眺め回す。

610 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:51:18.36 ID:JkVeA1Oy0



 

  『5のAの教室にいるよ。みんな無事だよ、
   ゆずはも来て! あすか』






 佐天(……みんな無事って……3人も既に亡くなってるんじゃない……)

 そんな突っ込みを入れてみるものも、残るのは空しさばかり。
 ふと傍に落ちていた布の切れ端に、名札が付いていたのを見つけた。


611 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:51:46.48 ID:JkVeA1Oy0


 佐天(……聖清女子学院I-2 三上ゆずは……って!?)

 先ほどまで見た、犠牲者のメモの内容が思い起こされる。

 佐天(マジでケンカとかしちゃって……一人一人殺されちゃったんだ……)

 でもそれはなぜかということまで――気をまわす余裕は無かった。
 分かるのは、この三上ゆずはという娘も頭を殴られて殺されたということ。
 先ほど封印された部屋の前で見たメモの内容と、遺体の後頭部に空いた窪みから――それだけは言える。

 佐天(グズグズしてられない。早く探して、こんなところ――)

 そう思って、階段の上に目を向けた――その時。

612 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:52:12.89 ID:JkVeA1Oy0










 『ひぃ!!いやああああああああああ!!』









613 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:54:26.85 ID:JkVeA1Oy0

















                 ……グシャリ……











614 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 21:55:32.29 ID:JkVeA1Oy0


 聞きなれない、女の子のものと思える悲鳴。

 そして――何かが砕けるような音。

 それははっきりと――階段の上のほうから聞こえた。


 佐天(――!!)

 思わず全身が立ちすくんでしまう。
 冷たい汗がだらだらと全身を流れ落ち、息が荒くなっているのが感じられた。
 
 悲鳴はすぐに収まる。


  ……ハァハァハァハァ……


 後には、荒い呼吸の音だけが、ただ響くのみだった。
 
615 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/19(土) 22:04:50.60 ID:JkVeA1Oy0
本日の投下は以上です。

なお、この後に以下のように選択肢が続きます。


A:佐天「……今度は……何だっての……」

 疲れた表情でため息をつくと、階段を一歩一歩上へと登っていった。


B:佐天「……たまったものじゃない。早く外に出よう……」

 疲れた表情でため息をつくと、廊下を引き返して玄関に向かった。


 安価は>>617にてお願いいたします。
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 22:20:09.04 ID:FsObtoGJo
乙乙
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 22:53:10.54 ID:dEXxPRiAO
一人でも逃げようとか考えてたのにみんなは待ってくれてるとか少し甘いところに佐天さんっぽさがでてて良いと思う。

安価ならAで外は危険なきがする
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 02:01:20.74 ID:OcPrseeIO
乙、超乙
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 05:50:21.83 ID:sdAAbM8Xo
乙 ヒヤヒヤ感ぱねえ
620 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/02/24(木) 04:56:40.31 ID:HRa6Fkh90
少しだけですが、Aにて投下いたします。

なお、蛇足ながら、>>562のBは>>584>>596の後、>>567>>583のルートへ行くかの選択肢を挟んだ後、>>597以降のルートへ進む形を予定していました。
また、>>615のBはWrong ENDの予定でした。
621 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/24(木) 04:57:59.29 ID:HRa6Fkh90
 
 佐天「……今度は……何だっての……」

 疲れた表情でため息をつくと、階段を一歩一歩上へと登っていった。



   ……ギシ……


        ……ミシ……



 階段のステップに足を乗せるたびに、耳障りな軋みが周囲に響く。
 木で出来ているのだが、例に漏れず所々が抜け落ちていたりする。
 下手をすれば、踏み抜いてしまうのでは――とさえ、思える。

 すぐに踊り場までたどり着いた。
 階段は180度ターンして、さらに上へと登っていく形になっていたのだが……。
622 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/24(木) 04:58:34.94 ID:HRa6Fkh90





 ――またあった。





 白骨遺体が1体。
 紫色のブレザーに、黒いズボンを履いていたことから、男子生徒のもののようだ。
 上り階段に向き合うような形で床に横たえていた。
 頭骸骨が転がっているあたりの床に赤黒いシミができている。
 小さな窪みがひび割れと共に出来ていることから、頭を強打して亡くなったようだ。
 さらに服の中からはみ出ている肋骨と思しき骨も、折れていたり、ひびが入っていたりしていた。
623 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/24(木) 04:59:43.35 ID:HRa6Fkh90

 佐天「…………」

 もはや何の言葉も出ない。
 驚きや怯えの感情すらなかった。
 またかと言いたげな表情が露骨に表れていた。

 ここまで見てきた遺体は既に6体。
 感覚が慣れてきたと――いや、麻痺してきたといったほうが正しいだろう。
 死体がさりげに転がっているのが当たり前というように、無意識のうちに捉えてしまっていた。

 遺体に背を向けると、そのまま階段を登りだす。

624 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/24(木) 05:00:14.38 ID:HRa6Fkh90

 佐天「ん?」

 2・3段登ったあたりに、何かを踏みつけたような感覚がした。
 何気なく、その足を少し浮かせて見る。

 下には、大きく開いた生徒手帳が1冊。
 そこには生徒証が挟まれていた。

 佐天(……白檀高等学校2年4組 片山良介……ん、この校章って……)

 ふと、背後の遺体のほうを振り返る。
 遺体に絡まっている紫色のブレザーの胸元には、生徒証にあるものと同じ校章の刺繍があった。

 佐天(どうやら、この人の手帳みたい。てことは……)

 再度、階段の上の方を見上げる。

 佐天(階段から転がり落ちたのかな……)

 そんな推測をしながら、遺体のところまで引き返す。
 そして傍にそっと置くと、再び階段をゆっくりと登りだした。

625 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/24(木) 05:01:30.27 ID:HRa6Fkh90

 階段を登りきると、真っ暗な廊下が奥へ奥へと続いていた。
 1階と同様、ロウソクの光だけでは先がまったく見えない。
 

 佐天「うわっ……とと……危ないって……」

 廊下へ足を踏み出した途端――そこにあるべき床が無かった。
 反射的に足を引っ込めた勢いでよろめきそうになる。

 廊下はちょうど右半分が消失している。
 下で支えている梁などの木材が数本折れたまま、虚空の中に伸ばしているだけだった。
 目を凝らすと、その中のいくつかに布切れが絡まっている。

 佐天(さっきの子はここから落ちたみたいだね……)

 そっと覗き込むが――ロウソクの光は底までは届かずよく見えない。
 ただ、無限とも思える闇が延々と広がっているだけ。

626 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/24(木) 05:01:59.61 ID:HRa6Fkh90

 佐天(じっとしてても仕方ないか)

 先に進むことにしたが――どこかためらわれてしまう。
 左半分が残っているとはいえ、折れた梁の上に板が乗っかかっているだけのようなものだった。
 正直、踏み抜いたり、床ごと抜け落ちてしまうかもしれないという不安がある。




   ……ギィ……


        ……ギィ……




 佐天(――!!)

 聞こえた。
 木が軋む音が――確かに聞こえる。
 階段の下の方からゆっくりと――聞こえてくる。

627 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/24(木) 05:02:28.62 ID:HRa6Fkh90





    ……ギィ……


      ……ギギィ……ギィ……






 着実に音は――大きくなって聞こえてくる。



 佐天「…………」

 一瞬息を呑み、やがて――
628 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/02/24(木) 05:09:06.78 ID:HRa6Fkh90
今回の投下はここまでです。
なお、以下の選択肢が次に続きます。

A:佐天(……誰かな)
 振り返り、そのまま階段を下りていった。

B:佐天(…………)
 やや足早に先へと残っている床板の上を歩いていった。

安価は>>629でお願いいたします。

いけたら、今夜以降に投下しようと思います。
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 06:21:27.34 ID:hIpGH5AAo
Aで

黒子か初春か美琴でありますように
630 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/02/25(金) 22:40:15.89 ID:7D0YtuoL0
>>1です。
申し訳ありませんが、事情により続きは数日後になります。
Aでということは把握しました。
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 23:59:10.44 ID:mL9DHFlV0
追いついた
>>493のAはプレイ経験があると引っ掛かるなおいwwwwww
やっぱり最初は声優ネタ?
632 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/03/02(水) 23:09:17.22 ID:YrqwQY6q0
お待たせいたしました。
Aにて続きを投下いたします。
633 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:10:29.47 ID:YrqwQY6q0

 佐天(……誰かな)
 振り返り、そのまま階段を下りていった。



  ……ギシギシ……!!



 勢いよくステップに足を乗せるたびに、激しい軋みを鳴らす。
 しかし、気にせずそのまま階段を下りていく。

634 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:10:59.91 ID:YrqwQY6q0

 佐天「初春ぅ〜?」

 何気なく頭に思いついた人物の名を大声で呼ぶ。



   ……ギッ……


        ……ギギッ……



     ……ギギギ……





 返事はなかった。
 だが、階下から聞こえる軋みの音のペースが心持ち速くなったような気がした。

 佐天(初春ったら……返事しないなんて水臭いってば)

 自然と歩調のペースが速くなっていく。
 すぐに踊り場までたどり着いた。
 先ほど見た白骨遺体には目もくれず、そのまま踊り場を走り抜ける。
 そして、下へと降りる階段へ向き合ったとき、目に入ったのは――。


635 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:11:48.47 ID:YrqwQY6q0










 ??「ふしゅるる……」

 大柄な男性。
 髪はボサボサ、着ているジャケットやズボンもボロボロ。
 肌は青白く、目は不気味にぎらついていて。

 ――血が滴り落ちた巨大な鉄槌を手にしていて。

636 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:12:21.68 ID:YrqwQY6q0

 佐天「ひっ!?あ……ああ……」

 目の前に現れた大男に、走る足は瞬時にして動きを止めた。
 みるみるうちに動悸が激しくなり、呼吸が荒くなっていく。

 佐天(な、なに……コイツ……ま、まさか!?)

 途端に階下で嫌と言うほど見た数多くの白骨死体。
 それが脳裏に次々と浮かぶ。

 多くの――頭骸骨が陥没した白骨死体。

637 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:12:52.70 ID:YrqwQY6q0





  ――頭が割れる……




        ――頭が割れる……




    ――頭が割れる……





 先ほど目にした遺書のフレーズがしつこく頭の中で繰り返される。

638 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:13:27.97 ID:YrqwQY6q0

 佐天(さ、殺人鬼!?コイツに頭を殴られて!?)

 そして――ゆっくりと振り上げられる鉄槌。
 先に付着した血を床に滴らせて。

 ぎらついた目は――目の前の怯える佐天をじっと捕らえて。

 佐天「ひっ!!ひいいいい!!」

 すかさず後ろへとのけぞった。

639 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:14:09.61 ID:YrqwQY6q0

 ??「ぐおおおおおおおお!!」

 まるで獣のような咆哮が大男の口から木霊する。
 同時に振り上げられた鉄槌は勢いよく振り下ろされて――




  グシャッ!!



 直前まで佐天が立っていた床は――勢いよく砕け散った。
 振り下ろされた鉄槌の一撃によって。
 後には真っ黒な口を開けたような陥没が出来ていた。

 佐天(あ、あんなので殴られたら……逃げなきゃ!!)

 一瞬にして脳裏に最悪の結末が、ありありと浮かび上がった。
 慌てて逃げ出そうとする。
 バランスを崩しそうになったが、なんとか持ちこたえた。

640 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:14:36.67 ID:YrqwQY6q0

 ??「……グルルルル……」

 鉄槌を陥没から抜き、再度大きく振り上げる大男。
 そして、すぐさま振り下ろした。





   グシャツ!!





 大きな音とともに、床の木材が周囲に飛び散る。
 なおも、逃げる佐天の後姿を――獣のような大男の視線は離さない。

641 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:15:07.99 ID:YrqwQY6q0

 佐天(逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ)

 非常ベルがけたたましく鳴るかのように――
 頭の中でただ逃げろという警鐘が繰り返される。

 佐天(殺される、殺される、殺される、殺される……)


 とにかくひたすら。
 逃げて。
 駆け上がって。
 段で足を引っ掛けて。
 躓きかけて。


 でも、なんとか倒れずに――ただ、逃げた。
 階段を登りきって――。

642 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:15:34.72 ID:YrqwQY6q0








 佐天「――!!」

 気づくのが遅かった。
 足を乗せるはずの床はなく――ただ、下へ下へと……落ちる重力を感じた。


 佐天(……う……うそ……)

 自分の身に起こっている現実を受け入れられない。
 だが、現実は――体は漆黒の空間を延々と落下していき……。




 佐天「うがっ!!」

 ――そして、階下の床に叩きつけられた。

643 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:16:02.96 ID:YrqwQY6q0

 全身に激しい痛みが走る。
 頭も例外ではなく、割れるような痛みが襲う。
 体を動かすことなぞ到底出来ない。
 あまつさえ、意識が薄れかかっていき、目の前が暗くなって――



    ……ギィ……


       ……ギィ……



 近くから聞こえてくる――床が軋む音。
 誰かが近づいてきているようだった。

644 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:16:30.41 ID:YrqwQY6q0

 佐天(…………)

 同時に目の前が急に暗くなる。
 人影が――目の前に立ったような感じだった。

 それが何か、もはや考えることもままならなかった。
 が――なんとか意識を振り絞って、目を開けようとする。





 いたのは大男。

 ??「ぐるるる……」

 獣のような声を上げながら、ゆっくりとハンマーを持ち上げて。
 そして、振り下ろしだした。
 ――佐天の頭にめがけて。

645 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:17:00.95 ID:YrqwQY6q0

 佐天「……ひ……ひぃ……」

 悲鳴を上げようとしたが、声が出ない。
 避けようとしたが、激しい痛みのあまり、全身がまったく動かない。

 振り下ろされるハンマーはゆっくりとゆっくりと――佐天の目の前まで迫ってきて……。



 

   グシャッ……。




 砕ける音。
 それと同時に、目の前が闇に閉ざされ――佐天の意識は途絶えた……。

646 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:17:41.08 ID:YrqwQY6q0

 (暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

  テーレレテテテレテー
 
    Wrong END

  ビターン

 (押し付けられた左手の赤い手形。人差し指がない)


 というわけで、以降はBのやつを投下します。
647 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:18:08.78 ID:YrqwQY6q0

 佐天(…………)
 やや足早に先へと残っている床板の上を歩いていった。

 なんとなくではあるが――まずいという予感がした。
 なぜなのかは分からないが……本能がそう訴えかけた感じだった。




   ……ギィ……



      ……ギギ……



 相変わらず、床は不気味とも思える軋みを上げる。
 しかし、抜け落ちるということはなかった。
 右半分が抜け落ちている区間は10mほどで、無事通り抜けた。

648 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:19:24.99 ID:YrqwQY6q0



   ……ギ……



       ……ギギギ……



 後方から、床が軋む音。
 それは、少しづつ大きくなってきて。
 そして――

649 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:19:53.16 ID:YrqwQY6q0





            ……ふしゅるるる……






 誰のものかよく分からない――息遣いの音。
 それも、普通の呼吸とは思えない音。
 何かに興奮しているような……いや、変質者が獲物を見つけた時のような息遣いのように思えた。


 そして、これだけははっきりと言えた。

 ――佐天の知っている人間のものではないと。

 呼吸が、胸の鼓動が心持ち激しくなっていくのが感じられた。


 佐天(誰か知らないけど……ヤバそうな感じ)

 歩調を更に速める。
 後ろを振り返ることなく。
 ただ、ひたすら朽ちた廊下を先へ、先へと進む。

650 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:20:21.74 ID:YrqwQY6q0





 

   『……きゃああ!!』







651 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:20:51.47 ID:YrqwQY6q0

 すぐ先から、悲鳴が聞こえた。
 それは――

 佐天「御坂さん!?」

 悲鳴は……美琴のもののようだ。  
 少しくぐもっていたものの、聞きなれた彼女の声と一致していると、佐天の頭は認識した。

652 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:21:24.04 ID:YrqwQY6q0

 佐天(ここからみたい……)

 声のした方をじっと見る。
 右手には部屋の引き戸があり、半分だけ開いていた。
 上には【保健室】と書かれた木の札が掛かっている。
 照明は点いていなく、ただ真っ暗だった。
 中の様子を遠巻きに窺うことはできない。

 だが――ためらうことなく、部屋の中へと足を踏み入れた。

653 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:21:50.42 ID:YrqwQY6q0

 佐天「御坂さん!!」

 先ほど耳にした声の主の名を呼ぶ。
 しかし、まったく返事は無かった。

 いや、それどころか――その本人の姿さえなかった。


 部屋の中は、先ほど見た教室と同様、荒れている感じだった。
 床や天井、壁に窓は所々が壊れたり、抜け落ちたりしている。

 病院なんかで見かける布製の衝立があった。
 いずれも薄汚れて、一部が破れていて、それが不気味さをかもし出している。
 
 奥のほうには棚があり、中には薬品を入れたと思われる壜が並べられていた。
 しかし、いずれも色が黒ずんでいたりしているなど、使えるとは到底思えない。

 その横には木製の事務机が置かれていた。
 見ると、表紙に【Diary】と書かれた古ぼけたノートが置かれている。
 机の前には事務用の古い椅子が床に転がっていた。
 
 机の左側の壁には貼り紙が2枚貼られていた。
 そのうちの1枚にふと目が行く。

 佐天(せっけんでてをあらおう……どこの保健室でもありそうなやつだよね)

 その隣の貼り紙に目を移す。
 そこには、人体の解剖図が描かれていた。
 内臓の名称を記したりしていたが――内臓を描いた図の色にどことなく違和感を感じた。


 周囲が薄汚れているのに……そこだけが鮮やかな赤色で塗られている感じだった。

654 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:22:27.69 ID:YrqwQY6q0

 佐天(……なんか、気持ち悪い……)

 図から目をそらす。
 さらに左の方に目を向けると、そこにはベットが2つ置かれていた。
 掛けられている布団やシーツは見た所、多少汚れていたが、いざとなればまだ使えそうにも思える程度だった。

 結局、美琴の姿はどこにもなかった。
 いや、佐天を除いて誰一人いなかった。


 佐天「……ここにはいないのかな……」

 ふと小さくつぶやいて、入口の方に歩き出そうとした――その時。

655 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:22:54.11 ID:YrqwQY6q0



   ……グラグラグラ……



 佐天「地震!?」

 部屋を揺れが襲いだした。
 反射的にその場にかがみ込む。
 頭を手で覆い、じっと揺れが収まるのを待った。

656 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:23:31.63 ID:YrqwQY6q0



   ピシャリ!!



 遠くから何かが閉まる音がした。
 直後に揺れは収まり、恐る恐る音のした方に目を上げると――。


 佐天「――!?」

 引き戸が閉じられていた。
 揺れで扉が動いたのだろう。
 完全に閉じられていた。

657 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:23:59.18 ID:YrqwQY6q0

 佐天(……とにかく行こう)

 床に置いたロウソクを手にして、引き戸まで歩み寄る。
 そして、取っ手に手を掛ける。




 佐天「ちょっと!?」

 開かない。
 いくら力を加えても、開かない。

 佐天「ま、マジで洒落になんないって!!」

 慌てて、ロウソクを床に置き、引き戸を両手で引っ張る。
 その時。

658 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:24:38.57 ID:YrqwQY6q0




    ……キャハハ……




         ……クスクス……



 佐天「ひっ!?」

 どこからともなく、子供の笑い声が聞こえた。

 慌てて周囲を振り返る。
 子供の姿はどこにも無い。
659 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:25:05.73 ID:YrqwQY6q0




  



    ……キャハハ……




         ……クスクス……








660 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:25:31.68 ID:YrqwQY6q0

 だが――相変わらず聞こえる子供の笑い声。
 それは部屋全体から響き渡るように聞こえて。

 佐天「な、何なの!!これって、悪い冗談!?」

 悪寒が一気に全身を駆け巡る。
 背筋にいやな汗が、一気に流れ落ちるのを感じる。
 怯えの色が入った声で怒鳴るが――それに答えるものはいなかった。

661 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/03/02(水) 23:26:49.76 ID:YrqwQY6q0
本日の投下はここまでです。
次回の投下は数日後の予定です。
読んでくださっている方に、くどいようですが感謝。
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 23:45:05.75 ID:Hz7ur7Zzo
乙乙
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 23:45:27.12 ID:A+35Kn9AO
>>661
乙。このSSを読む時は部屋の電気を明るくしながら読んでるぜ
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/09(水) 23:39:27.96 ID:zZKmjpev0
まだか
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 21:58:49.23 ID:zaQ4+VPE0
落ち着け
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
666 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:23:31.38 ID:WkhQ+rEs0
お待たせして申し訳ありません。

今回の地震の件、本当に大変かと思います。
被災された方々に、心よりお見舞申し上げます。

さて、続きが仕上がりましたので投下しようと思います。
ただ、この状況の中、内容が内容ですので、当面の間はsageにて行おうと思います。
667 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:26:56.54 ID:WkhQ+rEs0
くどいようですが警告をしておきます。
読む際は十分ご注意願います。

・内容的にグロ要素や死亡要素が入る場合があります。
・話の展開選択肢を設ける場合があります。選択次第によって、鬱系統の展開になる場合があります。
668 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:27:54.36 ID:WkhQ+rEs0

 佐天「は、早く……開いてよっ!!」

 焦りの色を露にしながら、取っ手に力を入れる。
 両手を掛けて、壁に足を突っ張って。

 だが――意に反して、戸は寸分たりとも動く気配が無い。

 胸の鼓動が急激な勢いで脈打っている。
 息遣いが一気に激しくなって。
 瞳は戸の方に向けられながらも、めまぐるしく動きまわって。
 腕はおろか、掛けた指に痛みが走るが、気にしていられなく。
 あまつさえ、口から涎が垂れだしているが、気にも掛けずに。


 引き戸は――開くどころか――

669 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:28:41.60 ID:WkhQ+rEs0

 取っ手から指が離れた。
 それで、今まで引き戸を引っ張った力が殺されるわけがない。
 勢いのあまり、バランスを崩してしまい――

 佐天「うわっ!?」



   ばたんっ!!



 ――そのまま後ろへと倒れ、背中を強く打ち付けてしまう。


 佐天「……うう……ってて……」

 全身に一気に広がる痛み。
 思わずうめきが口から漏れる。
 体が重く感じられ、すぐに動かす気になれそうも無かったのだが――。
670 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:29:39.95 ID:WkhQ+rEs0

 


          ……アハハ……
  



    ……キャハハ……




         ……クスクス……





 再び、無邪気そうな子供の笑い声。
 上から下から右から左から――どこからともなく、佐天を取り囲むように放たれる。

 笑い声が生じるたびに――声が大きく、はっきりと聞こえる。
 声の主がじわじわと、佐天に近づいてきているかのように――。
671 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:30:34.99 ID:WkhQ+rEs0

 佐天「こっ、来ないで……」

 顔はおろか体が小刻みに震えていた。
 今にも泣き出しそうな目で、周囲を眺め回すが――誰もいない。
 子供の姿も、当然無い。
 近づいてくる笑い声に、怯えの色を露にする。


 佐天「ひっ……ひいい!!」

 慌てて上半身を起こし、周囲を落ち着き無く眺め回す。

 周囲には人の姿は――相変わらずない。
 破れが目立つ衝立や傍にある火の無い石油ストーブ、さらには机や椅子も先ほどと変わらず、ただ暗闇の中に影を落としているだけだった。
 無意識のうちに、机の脇の貼り紙が目に入る。

 1枚は人体の解剖図。
 1枚は標語。

 先程と変わった気配は一見無い様に――





 ――思えなかった。

672 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:31:22.29 ID:WkhQ+rEs0


 それは、解剖図。

 内臓を塗りたくった赤い色。




 ――臓器の絵から一筋、下へと垂れていた。


 佐天(さ、さっきと……何か違うって。こんなんじゃなかったって……)

 半開きになった口が小刻みに震える。
 胸の鼓動が異様に激しくなる。
 目の前に見えているものの不気味な変容に、頭が混乱しだす。

 そんな中――その脇の標語が目に入った。

673 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:32:01.02 ID:WkhQ+rEs0






   『 せ っ け ん で


       ち を あ ら お う 』






 丁寧な文字で――赤い字ではっきりと書かれていた。
 そして――先程見たものと1文字変わっていた。

 その変貌は、緊張状態に陥っている佐天を追い込むのに十分すぎた。
 
674 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:32:33.43 ID:WkhQ+rEs0

 佐天「いやああああああああああ!!」

 甲高い悲鳴が上がった。
 輪を掛けて呼吸が激しくなる。
 震えた足は無意識のうちに後ろずさっていた。

 その時――床についた左手に何かが触れる感触があった。
 細くて冷たいもののようだった。

 思わず手でそれを掴む。
 それは――1本の錆びたバールだった。


675 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:33:07.76 ID:WkhQ+rEs0



 


     ……アハハ……
  



         ……クスクス……




 同時に、周囲から聞こえる子供の笑い声。
 それは、すぐ耳元で発せられている感じだった。
 耳をふさいでも、なおも聞こえる。

676 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:34:17.84 ID:WkhQ+rEs0

 佐天「うああああああああああ!!」



  ブンッ!!



 いきなり立ち上がると、手にしたバールを振り下ろす。
 何も無い虚空に向けて。
 ただ、バールを振り下ろしたことで、空気の唸りが響いただけだった。 




          ……アハハ……
  



    ……キャハハ……




 なおも聞こえる笑い声。
 今度は衝立の裏側から響いてきた――気がした。

677 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:35:04.54 ID:WkhQ+rEs0

 佐天「うるさい!!黙れ!!黙れ!!黙れええええええ!!」





    ――ブンッ!!



           ――ブンッ!!



      ――ビリッ!!    



              ――ブンッ!!



    ――ガスッ!!



678 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:35:41.70 ID:WkhQ+rEs0

 まるで鬼のような形相で。
 目を血走らせて。
 ただ、がむしゃらに――バールを何度も振り下ろした。

 衝立の布は大きく裂け。
 壁や机の天板には、バールの先端が突き刺ささり。
 引っこ抜いては、さらに虚空に向けて振り下ろし。
 挙句の果てには衝立をなぎ倒し。

 延々と――そんなことを繰り返していた。

 狂ったかのように――いや、本当に狂気に侵されて。

 人がそこにいたらどうするのかなんて――まったく考えることなく。

 ただ――バールを所かまわず振り下ろし続けていた。 

679 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:36:19.72 ID:WkhQ+rEs0

 だが――





     ……クスクス……





 耳元で聞こえる笑い声は――いっこうに収まらない。

680 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:37:07.45 ID:WkhQ+rEs0

 佐天「うるさい!!うるさい!!うるさい!!」

 なおも、バールを虚空に向けて振り下ろす。

 そして、引き戸にもバールを振り下ろした。




   バコン!!



           バキン!!




 引き戸が廊下へと倒れ、大きな音を立てる。
 同時に金属音がした。
 手元が妙に軽くなった気がした。
 バールを見ると――中間あたりでぽっきりと折れていた。
 折れたもう一方の先端は、倒れた引き戸に突き刺さっていた。

681 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:37:40.52 ID:WkhQ+rEs0

 佐天「あはは……折れちゃった……」

 その場に力なく膝を落とす。
 今にも泣き出しそうな表情で、ただ乾いた笑いを浮かべていた。

 子供の笑い声はいつしかなくなっていた。
 だが、佐天はその場から動こうとしない。
 倒れた引き戸の先に広がる廊下を、ただ呆然と見つめていた。


 佐天「……帰りたい……帰りたいよ……」

 目から一筋の涙が垂れ――ゆっくりと頬を伝う。
 それは絶えることなく、延々と光る筋を作り出す。
 時折しゃっくりを出しながら、嗚咽していた。


682 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:38:17.75 ID:WkhQ+rEs0









   『……おかあさぁぁん!!うわぁあああん……』 









 廊下の奥のほうから、激しく泣く女の声が聞こえた。
 それは――

683 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:38:57.57 ID:WkhQ+rEs0

 佐天「え!?御坂さん?」

 聞きなれた人物の泣き声に、我に返った。
 涙でぬれた頬を袖で拭いながら、じっと廊下を見つめる。

 だが、それ以上声が聞こえることは無かった。


 佐天「…………」

 ふと、足元に目をやる。
 床に置きっぱなしにしていた、ロウソクを立てた皿が目に入る。
 あんなに暴れたのにもかかわらず、炎は消えずに、周囲を淡く照らし出していた。

684 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:39:44.01 ID:WkhQ+rEs0

 佐天「……行こう……」

 力なくつぶやく。
 右手にバールの切れ端を手にしたまま、左手で皿を手にする。
 そして、おぼつかない足どりで、倒れた戸の上をまたぐ形で廊下の外へと出た。


 廊下の外には――人の姿は無かった。
 ただ、床や天井や窓が朽ち掛かった様相を晒しているだけ。
 ロウソクの炎が照らす先は暗闇に包まれていて、何も見えない。


 佐天(――右の方から聞こえた気がする)

 進路を右にとり、ゆっくりと歩き出す。
 足を踏み出すたびに、床は今にも崩れそうな軋みを上げる。
 だが、そんなことには構うことなく、ひたすら前へと進む。

 所々が抜け落ちている箇所があったものの、気をつければ通るのには支障は無い。
 時々床が抜け落ちていないか、目で確認しながら進んでいたのだが――そんな時。

685 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:40:43.65 ID:WkhQ+rEs0



     ……プゥ〜ン……



         

          ……プゥ〜ン……




 佐天(……ハエか何か?やな感じ)

 羽音が耳につく。
 一歩一歩進むたびに、それは大きくなり、さらには幾重にも重なるように聞こえてくる。

686 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:41:43.51 ID:WkhQ+rEs0

 佐天(――!!びっくりした……)

 ハエらしき小さな虫が目の前をよぎる。
 それも1匹だけでなく、数匹も。
 さらには――

 佐天「……うっ……何、このニオイ……」

 奥へ進むたびに、様々なにおいが鼻を突き出す。

 カビの臭い。
 それに混じって――生臭さと、そして言いようの無い不快な臭い。
 まるで、何かが発酵して腐りきったような――そんな臭い。
 バールの切れ端をスカートの絞り口に挟むと、空いた手で鼻を覆う。
 そうでもしないと前へ進む気は到底しなかった。

 すぐ行った先、廊下は右側に壁が迫りだしていた。
 その迫りだした部分に――臭いの一つの正体はあった。

687 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:42:16.90 ID:WkhQ+rEs0

 佐天「……ゲロじゃん……最悪……」

 廊下を狭めている壁の先端や床に嘔吐物がぶちまけられていた。
 独特の嫌な臭いが立ち込めていて、周囲を数匹のハエがせわしく飛び回っている。
 それからは目をそむけ、狭まった廊下を進みだす。


 佐天「――!!」

 その時、目にしてしまう。
 他に立ち込めていた悪臭――とりわけ生臭さと、排泄物のような臭いを放つ正体が。

 廊下は右に折れていた。
 その正面の壁に――それはあった。

688 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:43:55.46 ID:WkhQ+rEs0

 周囲を無数のハエがたかっていた。

 壁のほぼ一面を紅く染め上げた壁。
 その下の床に広がる赤い――血だまり。

 そして――そこに浮かぶいくつもの赤い物体。
 ぐちゃぐちゃになって原型はとどめていなく、何であるかは一瞬分からない。


 だが――かろうじて残っているものもあった。

 長い蛇のような赤いモノ。
 その切れ端からはみでている、赤黒いモノ。
 そこを中心に――排生物特有の悪臭を放っていた。

 佐天(これって……!?)

 頭の中に先程見た人体の解剖図が思い浮かぶ。
 赤く塗られた内臓のうち、ぐにゃぐにゃといくつものカーブを描いて押し込められていた小腸を取り囲むもの。
 凸凹しながら、小腸から続く臓器。


 ――大腸のようだった。

689 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:44:39.15 ID:WkhQ+rEs0

 佐天(ま、まさかこれって……)

 ふと、嫌な想像が浮かんだ。
 思わず戦慄してしまう。

 佐天(人のやつじゃ……ないよね……)

 勝手にそのように思ってしまう。
 すぐに目をそむけようとしたが、その時目に入ってしまう。
 赤い塊の下敷きになっている――布のようなもの。



 それは――スカートのようだった。

 さらに、足元に何かが当たる感触。
 恐る恐る目を移すと――



690 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:45:35.18 ID:WkhQ+rEs0




 それは――白くて小さな球状の物体。
 一部には黒い丸の模様が見えた。
 その反対側には――赤い紐のようなものが伸びていた。
 

 佐天「こ、これって……目玉……ということは、これ……」

 全身がガクガクと震えだす。
 頭にある想像が浮かぶ。
 途端に――言いようの無い吐き気が襲い掛かる。





 佐天「……ひ……ひとの……肉……」




691 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:46:42.84 ID:WkhQ+rEs0

 足がすぐさまひとりでに動き出す。
 肉塊を避けるようにして。

 廊下はクランク状になっていて、すぐ左に折れていたが――すかさず無我夢中に走り出した。
 その時、つま先で何かを勢いよく蹴り飛ばしたが、確認する余裕はなく。
 途中に何かの部屋の入口があったが、気にする余裕もなく。
 ただ――廊下を駆け抜けた。


 先は上り階段になっていた。
 左手に廊下は伸びていて、すぐ先に教室らしき部屋の入口が見える。
 だが、その入口の前あたりで廊下はごっそりと抜け落ちていて、先に進めそうに無かった。

692 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:47:25.40 ID:WkhQ+rEs0

 先は上り階段になっていた。
 左手に廊下は伸びていて、すぐ先に教室らしき部屋の入口が見える。
 だが、その入口の前あたりで廊下はごっそりと抜け落ちていて、先に進めそうに無かった。


 佐天「……もういや……」

 立ち止まり、壁に手を付いてうつむきだす。
 吐き気こそはおさまったものの――精神はすでに限界に達していた。
 これ以上動く気も起きなかった。

 その時、靴のつま先に何かが引っかかっているのが目に入る。
 ――所々に赤いシミが付いた名札のようだった。

693 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:48:15.10 ID:WkhQ+rEs0

 佐天(…………)

 かがんで、つま先に引っかかっている名札を外す。
 名札の裏の安全ピンの針の先が、つま先のゴム底に軽く刺さっていたのだった。
 ここで普段なら「危ないっつーの」なんて言うところだが、さすがに今の佐天にそんな余裕は残っていなかった。

 佐天(……2-9 鈴本繭……まさか……)

 思わず、今走ってきた廊下の方に目を向ける。

 佐天(……さっきの……肉塊の人のやつ……?)

 全身が逆毛立ち、ぞわっとした感覚に襲われる。
 走ってきてただでさえ荒い息が、激しさを増す。

 思わず、手にした名札を床に置こうとしたが――それはためらわれたのだろうか。
 安全ピンの針を納めると、そのままポケットにしまいこんだ。
 自分の意思で持ってきたものではないとはいえ、そのまま捨てるのもためらわれた。
 かといって、戻る気にも正直なれなかった。

694 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:49:03.59 ID:WkhQ+rEs0




    ……ギシ……



         ……ギシ……




 木の軋み。
 確かに佐天の耳には聞こえた。
 ちょうど――階段の上の方から。
 
 すかさず、階段の方へと顔を向ける。

 佐天「だ、誰……」

 怯えの色をにじませた小さな声で呼びかけるが、返事はない――




 ――と思われた。

695 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:50:08.47 ID:WkhQ+rEs0






  『……でさー、聞いてよ……こ……』



 女の声。
 誰かとおしゃべりをしているような口調。
 話し相手がいるのか、楽しそうな印象さえ受ける。
 もっとも、何を話しているかははっきりと聞き取れない。

 佐天(御坂さん……誰かと一緒なのかな)

 声の主は聞きなれた友人のもののようだ。
 おしゃべりをしているということは、誰かと一緒になっているということ。
 相手を呼びかける口調からして、黒子と一緒のようだと思えた。

 それに安心すると共に――呆れ気味になっていた。

 佐天(さっきは泣いていたはずなのに……しかも……)

696 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:50:53.40 ID:WkhQ+rEs0






  『……ったら、マジで……それ、あたしもだって……』




 佐天(……あんなグロいところ通ってるはずなのに、平気だなんて……なんかおかしい)

 首をかしげながら、階段をただじっと見つめる。
 美琴がある程度タフなのは知っているものの、あんな光景を目にしてもなお、平気でいられるのだろうか。
 ましてや、最初は保健室で悲鳴をあげて、次は母親を求めて泣き叫んで、今度はおしゃべり――
 あまりの感情の急変ぶりにある種の疑問さえ浮かんでしまう。

 佐天(……まさか、さっきの子供の声のようなやつじゃ……?)

 ふとそんな考えが頭に浮かぶ。
 先程の保健室の状況を思い起こせば、そういう想像がつくのもおかしくない。
 何せ、声がしただけで美琴の姿は一度も見ていないのだから。

 とりあえず――

697 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/13(日) 05:59:28.74 ID:WkhQ+rEs0
本日の投下はこれまでです。
なお、この後に以下のように選択肢が続きます。

A:佐天「やっぱ、御坂さん……だよね……?」
 そのまま階段を上がった。

B:佐天「…………」
 階段を登るのはどこかためらわれた。

安価は>>699でお願いいたします。
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 06:05:17.41 ID:9ZqA3VPOo
ksk
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 12:21:56.86 ID:9J+zvacYo
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) [sage]:2011/03/16(水) 21:57:56.13 ID:EmkFh+Y30
思ったけどAだったら、
あの二人と行動する事になるのかな?
とりあえず乙
701 : ◆IsBQ15PVtg :2011/03/19(土) 22:54:30.58 ID:KhPFRn0y0
さて、続きをBにて投下いたします。
702 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 22:55:47.07 ID:KhPFRn0y0
しまった、ageてしまった。

ここからはsageにて投下いたしますので、よろしくお願いいたします。
703 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 22:56:56.15 ID:KhPFRn0y0

 佐天「…………」

 階段を登るのはどこかためらわれた。
 この声がフェイクで、登った先でさっきのような目に遭ったらたまったものじゃない。


 そのまま踵を返す。
 横に曲がる廊下はどう見ても先に進めそうに無いので、元来た廊下を引き返す。
 すぐ行くと左手に、引き戸が閉ざされているのが目に入る。

 佐天「ここに別の部屋があったんだ……」

 先程は必死で駆け抜けていたので、あまり気に止まらなかったのだろう。
 引き戸の上には【理科室】と書かれた札があった。

 取っ手に手を掛けてみる。
 しかし、鍵が掛かっていて、中には入れない。

 奥に行った場所にも同じような引き戸があり、やはり【理科室】と書かれた札が掛かっている。
 開けようとした――ものの、結果は同じだった。
 ガチャガチャと扉がわずかに動く手ごたえはするのだが、開くことは無かった。

704 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 22:57:23.34 ID:KhPFRn0y0

 佐天「……ここは無理みたいだね」

 誰に言うわけでもなくそっとつぶやき、真っ暗な廊下の先をぼんやりと見つめる。
 先はクランク状に折れていて――



 ――あの肉塊の所を通る。

 再度その箇所を通る――気には到底なれなかった。
 フィクションなんかではなく、本当に破裂した肉体。
 まぶたの裏にふとそれが浮かぶ。
 途端に、吐き気を催しそうになった。

705 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 22:57:55.03 ID:KhPFRn0y0

 佐天「……はぁ……やっぱ階段の方に行こう……」

 一気に疲れた面持ちで、ため息を大きくつく。
 再度踵を返して、階段の方へと戻る。

 佐天(……さっきの声……御坂さんぽかったけど……?)

 ふとそんなことを思いながら階段を登る。
 先程耳にした声の内容を脳裏に思い起こす。

 佐天(……なんか違う気がする……)

 声自体は、聞きなれている美琴のもののようなのだが――どことなく違和感を感じていた。
 特に口調について。
 普段の美琴のものと、先程耳にしたものとで、どこかがずれている感じがする。

 佐天(……御坂さんは"あたし"って言ってなかったような……)

 そうは思ってみたものの、それが確かとも断言できない。
 普段の口調をすべて思い起こせるわけなどなく、あやふやな状態での推論にすぎないのだが。
706 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 22:58:23.47 ID:KhPFRn0y0

 考えているうちに踊り場にたどり着いた。
 例にも漏れず、ここも所々に穴が開いていたりしていた。
 足をとられないように気をつけながら、さらに上へと登る階段に足をかける。

 佐天(まあ、うだうだ考えても仕方ないか……)



   ……ギシ……ギシ……



            ……ミシ……



 足を乗せるたびに、不気味な軋みをあげる階段のステップ。
 乗せた途端に本当に抜け落ちそうな気さえする。
 一歩一歩、慎重に足を乗せながら、ゆっくりと登っていく。

 佐天(……御坂さんだったら、それに越したこともないし……)

 階段を登りきる。
 右へと廊下が伸びていた。

707 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 22:59:06.85 ID:KhPFRn0y0

 佐天(……もし……これがさっきのようなフェイクだったら……)

 階段の左手には、粉々に砕かれた白骨死体が散らばっていた。
 その上に緑色のセーラー服に白いスカートが被せられられていた。

 佐天(……扉のある部屋なんかに下手に入らなきゃいいだけ)

 右に伸びる廊下に目を向けながら、構わず先へと進む。
 意識が右前方に集中していて、左の床下の白骨死体には気づいていなかった。
 それよりもむしろ――

708 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 22:59:34.43 ID:KhPFRn0y0

 佐天「つーか、マジクサいって!!」

 階段を登りきった直後から、アンモニア臭が鼻を突き出した。
 それにくわえて、何かが腐って発酵したような臭いまで混じっている。
 思わず、声を上げて叫んでしまう。

 が、途端に口や鼻に臭いが一気に入り込んでくる。
 反射的に手で口元を覆った。

 佐天(……なんだっつーの。息するのもイヤになってくるわ……って?)

 ふと右前方の壁に貼り紙があるのが目に付いた。
 

709 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:00:07.04 ID:KhPFRn0y0
 



 【手前:男子厠 奥:女子厠】

 佐天(トイレなわけね。こりゃクサいのも納得だわ……)

 やや呆れながら納得しながら、その場で立ち止まる。
 貼り紙の下には、錆びたバケツが1個、床に転がっているのが見えた。
 だが、あまり気に留めず、ちらっと右手の男子トイレに目をやる。

 男子トイレの引き戸は半分開いていて、遠くからでも中の様子が見える。
 手前側に洗面台や、男子用の小便器、その奥には個室がそれぞれいくつか並んでいるようだ。

 佐天(……さすがに……ここにはいなさそう。第一、こんなクサいとこ、長いこといないだろーし)

 そんな推測を立てながら、廊下の奥へと進もうとした――その時。

710 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:00:51.86 ID:KhPFRn0y0




  『ギャー!!マジ!?ひゃー……ちょっと萌える〜!』




 佐天(……御坂さんの声っぽいけど……違う)

 廊下の奥から聞こえる声。

 声自体は似てはいる。
 ただ、今度は――口調が彼女のものと明らかに違うのが分かる。
 佐天の知っている美琴は、少なくともここまで軽い反応はとらない。
 声の似た違う人物だろうと思えてくる。

711 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:01:18.36 ID:KhPFRn0y0

 佐天(……違う人なのかな……でも……)

 ゆっくりと廊下の奥へと進む。
 すぐ先で行き止まりになっていた。
 右手には半開きになった引き戸が見える。
 そこからは、いくつか並んだ洗面台と、個室の壁を覗き込むことが出来る。
 どうやら女子トイレのようだった。

 佐天(……でも……御坂さんかも……)

 そんな可能性もやはり捨てきれない。

 佐天(……とにかく行ってみるか)

 恐る恐る……女子トイレへと足を踏み出していった――。


712 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:01:46.25 ID:KhPFRn0y0


 トイレの中は悪臭で満ちていた。
 強烈なアンモニアの臭い。
 そして、鼻を覆いたくなるほどの腐敗臭。




     ……ゴボ……


          ……ゴボゴボッ……



 何かが沸き立つ音が耳につく。
 右手の洗面台の一つからその音は発せられていた。


713 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:02:22.25 ID:KhPFRn0y0

 3つ並んだ洗面台はいずれも苔やカビなどが付着していて、汚れがひどかった。
 中には割れて、破片を床に散らばらせているものまである。

 それらの上に据え付けられた鏡も清潔とは到底かけ離れた有様だった。
 周囲は苔や黴や汚れで覆われていて、覆われていない鏡面も薄汚れていた。
 ぼんやりと佐天の不安げな表情を映しこんでいる。

 音は中央の洗面台からしていた。
 水が溜まっていたものの、黒く汚れていた。
 そこに泡が不快な音と共に、時折湧き上がる。
 同時に悪臭も激しく立ち込める。

714 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:02:50.81 ID:KhPFRn0y0

 佐天(マジ最悪だって……)

 手で口元を覆いながら、目をそむける。
 見ているだけで気持ち悪くなってくる。
 足早に洗面台の前を通りすぎようとした――その時。





              ……ガコン……



       ……ミシッ……



 ??「……ぐぇっ……」




 何かが倒れる音。
 木の軋み――いや、何かがたわむ音。

 そして――

715 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:03:28.09 ID:KhPFRn0y0

 ??「……ぐ……ぅぇ……がっ……」


 それに加えて――息を詰まらせたようなうめき。

 佐天「――御坂さん!?」
 
 すかさず音のした方へと駆け出す。
 個室は全部で5つ。
 いずれも扉は閉まっている。


 ??「……あ……ぐ…………」

 うめき声がするのは右から3番目の、ちょうど真ん中に位置する個室からだった。
 外れかかった取っ手に手を掛け、扉を引くが――開かない。
 中で鍵が掛けられているのか、押しても引いても動く気配が無い。

 佐天「くそっ……」

716 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:04:00.62 ID:KhPFRn0y0

 ……ドンドンドン!!

 佐天「御坂さん、どうしたんですか!!」

 木製の個室のドアを拳で必死に何回も叩きながら呼びかける。
 しかし――

 ??「……げ……が……ぁ……」

 うめき声が断片的に聞こえるだけ。
 少なくとも正常な状態ではないことは確かだろう。

 何気に右手が腰の辺りに触れる。
 硬い棒のような手ごたえを感じる。
 途端にはっとして、腰に差しているバールの存在を思い出す。

 佐天(これなら……)

 すぐさま折れたバールを手にして、平たくなっている先端を扉の隙間に突き刺す。
 簡単にはいかなかったが、ある程度力を加えると隙間にうまく挟まった。

717 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:04:33.15 ID:KhPFRn0y0

 ??「……ぎ……ぐ……うぇ……」

 佐天(早く、早く!!)

 突き刺さったバールを両手で一気に押す。

 が、結構扉は固く閉まっているのか、なかなか開く気配が無い。
 力を緩めては再度力を入れなおすということも、数回繰り返した。

 しかし――扉はびくともしない。

 佐天「くそっ!!」

 ついには突き刺さったバールに向けて、右足で蹴りを入れた。
 1回や2回では、やはり結果は同じだったが――

718 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:05:05.29 ID:KhPFRn0y0


  ……ギギ……ギ……


 木材が悲鳴を上げると共に、わずかながら扉は動き出していた。
 さらに蹴りを入れる。
 扉は軋みを幾度もあげ、ついには――



   バキンッ!!



 扉が開いた。
 何かが折れる音と共に。
 その先に見えたのは――


719 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:05:50.77 ID:KhPFRn0y0



 ??「……げ……ぇ……ぐ……」


 個室の真上にある梁から伸びた――1本の縄。



 その先から――人がぶら下がっていた。


 一人の少女が――首を吊っていた。

720 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:06:21.25 ID:KhPFRn0y0

 顔を赤くして、苦悶を浮かべて。

 口から舌や涎を出して。

 足をばたつかせて。

 手で縄を外そうと、必死でもがいている。

 だが、それもかなわず――ただ、体が前後左右に大きく揺れていた――。
 
 
 ??「……ぎ……うぁ……」

 首には縄が容赦なくめり込んでいる。
 息ができなく、あえぎがただ口から漏れていた。

 それは美琴ではなく――見知らぬ人物だった。
 ショートカットの髪の、高校生ぐらいの少女。
 クリーム色のセーラー服に、紺色のスカート。
 どこかの学校の制服だろうが、当然見たことは無い。

721 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:06:50.98 ID:KhPFRn0y0

 佐天「ち、ちょっと!!」

 本当に見知らぬ他人だが――そんなことを言っている場合ではなかった。
 すぐさま少女の所まで駆け寄り、体を持ち上げようとする。
 足を支え、持ち上げようとするが――そこまでの力はなかった。
 重さのあまり、持ち上げようとした手を離してしまう。
 結果、下方向に余計に力が加わってしまった。

 ??「……ぐげ……」

 縄がさらに首にめり込み、締め付ける。
 少女の目や口が、苦しさのあまり、さらに大きく見開かれる。
 涎が垂れ、目は充血しだす。

722 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:07:18.82 ID:KhPFRn0y0

 佐天「あ、ああ……どうしよう……」

 状況がさらに酷くなってしまったことに、すっかり慌てふためいてしまう。

 思わず、周囲を見回す。
 足場になりそうなものがないかを。

 佐天(そういえば、外にバケツが……)

 先程あった記憶を掘り返す。




 その時――

723 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:07:48.02 ID:KhPFRn0y0


 ??「……が……」

 小さな喘ぎ声があがった。


 そして――少女の手がだらしなく下に垂れる。
 ばたつかせた足も動きを止め、力なくぶら下がる。

 口からは舌がだらしなく垂れていた。
 充血した目は大きく見開かれたままで、真下に向けられている。

 さらにぶら下がっていた足を、水のような液体が幾筋も伝わってきて――。

724 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:08:15.51 ID:KhPFRn0y0

 目の前で絶命した現実。
 それを本能で察知した途端――佐天の頭の中は一気に真っ白になった。

 そして、持ち上げようとして失敗してしまったこと。
 あれが致命傷になって――!!



 佐天「うああああああああああああああ!!」

 狂ったような叫びをあげ、後ろずさった。
 床に出来た窪み足を引っ掛け、尻餅をついてしまう。

 佐天「わ……わたしが……」

 それに構わず、目の前の首吊り死体をただ、目を見開いてじっと見ていた。
 口から出る息は荒く。
 表情は恐怖と狼狽に満ちていて。

 自分のせいで人が亡くなった。
 だが、それは結果としてなってしまったこと。
 死なせる、ましてや殺す気なんてまったくなかったのに――。

 目の前に突きつけられた現実に、頭の中で必死に言い訳をする。
 だが――それに答えるものはいなかった。

725 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:08:42.49 ID:KhPFRn0y0


 佐天「も、もういやあああああああ!!」

 全身を小刻みに震わせたまま、起き上がる。
 すかさず死体から目をそむけ、トイレの出口へと駆け出す。

 佐天「帰りたい!!もう帰りたいよ!!」

 誰に言うのでもなく、ただ叫びを上げる。
 床の状態なぞきにすることなく、ひたすら駆け出す。
 個室の前から、洗面台の前を通り過ぎ、出口に差し掛かろうとした――その時。


726 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:09:09.20 ID:KhPFRn0y0






 ??「……ダッタラ……カエシテアゲル……」

 佐天「……え?」




 どこからともなく、聞いたことの無い声が聞こえた。
 小さい女の子の声。
 それもすぐ傍――ちょうど左手の洗面台のあたりから。

 慌てて声のした方に顔を向けようとした――その時。


 目の前が一瞬、真っ白になった。

 そして――暗転して。

 佐天の意識は――途絶えた。


727 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:09:39.64 ID:KhPFRn0y0





 意識がぼんやりとだが……回復してきた。

 佐天(…………)

 何かが苦しい。
 特に――首もと。

 そして……息が出来ない。
 やろうとしても、できない。
 首もとが何かに締め付けられて――。

 佐天(……く、苦しい……)

 再び、気が遠くなってしまいそうなのを何とかこらえる。
 そして、目をゆっくりと開けて――。

 目の前には、覆いかぶさるようにいる人影。
 暗くて、それがよく見えない。

 だが、これだけは見えた。



 両手が――佐天の首もとに向かって伸びているのが。

728 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:10:12.59 ID:KhPFRn0y0

 視界は徐々にはっきりとしてくる。
 目の前にいたのは――。


 目の前で首を吊って絶命した――はずの少女。

 充血した目で、佐天をにらみつけながら。
 倒れた佐天の体の上に馬乗りになって。
 冷たくなっている手で――佐天の首を締め付けていた。

 佐天「――!!」

 すかさず首に巻きついた少女の手を離そうとする。
 両手の指を、締め付ける冷たい手と佐天の首の間に挟みこもうとした。

729 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:10:39.77 ID:KhPFRn0y0

 だが――冷たい手はとてつもない力で締め付けていた。
 指の一本も外すことはおろか、挟み込むことさえ出来ない。
 なおも、何度も何度も、指を挟み込もうとする。
 が、なかなかできず、せいぜい相手の指や自分の首を爪で傷つけるだけ。

 佐天「……ふぉ……え……ふ……ぁ……ぎ……」

 ごめんなさいと言おうとしたが、声に出ない。
 それどころか、余計に息が出来なくなり、苦しくなる。

 少女はなおも力を緩めず、首を締め付けてくる。
 さも、佐天の首の骨を折るかのような力で。

 やがて――気が遠くなってきた。
 目の前が徐々に、真っ暗になっていく。

 意識はついに薄れていって――。


730 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:11:06.85 ID:KhPFRn0y0







 ??「……おい……おい……」



 どこからか男の声が聞こえた。
 そして、体が揺さぶられる感覚。

 佐天(……だ、誰……)

 ぼんやりした意識の中。
 その声が誰なのかを思い起こそうとする。

731 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:11:34.98 ID:KhPFRn0y0

 そして――首を締め付ける感覚は――ない。


 ??「……佐天、しっかりしろ……おい」

 佐天(……大圄先生!?)

 声の主に思い当たった途端、はっと目を覚ました。
 目の前が一気に明るくなって――


 そこに広がったのは――心配そうに見つめる眼鏡を掛けた若い男性。
 担任の大圄だった。

732 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:12:00.24 ID:KhPFRn0y0
 
 机などは何事も無かったかのように整然と並んでいて。
 床や天井なども普段どおりで。

 なぜか教壇の脇で、佐天は横になっていたのだった。

 大圄「大丈夫か。まったく、こんなところで寝てるとは……」

 佐天「す、すみません」

 ゆっくりと体を起こしながら、呆れた顔の大圄に詫びを入れる。
 その時、教室をちらりと見回した。

 いるのは佐天と大圄だけだった。

733 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:12:29.37 ID:KhPFRn0y0

 佐天(……わたしだけ……?初春や御坂さんに白井さんは?)

 慌てて周囲を見回すが――それらしき人影はない。

 大圄「まあいい。もう帰りなさい。もう、9時を回っているぞ」

 佐天「は、はい。それより……他のみんなは……」

 大圄「とっくに帰ってるよ。いるのは君だけだよ」

 佐天「初春もですか。あと、御坂さんに白井さんも……」

 大圄「いないな。というか――」

 そこで一旦大圄は言葉を切ると、なお呆れた視線で佐天を見つめて言った。

734 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:12:56.48 ID:KhPFRn0y0



 大圄「他の学校の友達かい?勝手に連れ込んでくるなんて、何を考えているんだい」

 佐天「はい?」

 担任の発した言葉に、耳を疑う。
 そして、なおも食い下った。

 佐天「他の学校って……初春はこのクラスの生徒でしょう。先生、悪い冗談はやめてください」








 大圄「そんな名前の生徒――うちのクラスにはいないぞ。君こそ、悪ふざけはいい加減にしたらどうだい」









 真顔でそう言い出す担任。
 そんな彼に、佐天は戦慄を覚えた。

735 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:13:22.38 ID:KhPFRn0y0

 佐天「悪ふざけって……私はマジで言ってるんです。初春はうちの学校のジャッジメントですよ」

 大圄「はぁ?本当にいい加減にしないか。我が校のジャッジメントは今は不在だよ」

 佐天「ええ?」

 大圄「この間、それで常盤台中学がマスコミに突付かれたばかりで、我が校もヒヤヒヤしてるのに……頭の痛い問題を穿り返すんじゃないよ」

 佐天「うそ……」

 信じられないような大圄の発言に唖然としてしまう佐天。
 初春はおろか、黒子の存在も否定――いや、最初からそんな人物なぞいない感じだった。

 そんな彼女に構うことなく、大圄はさらに愚痴りだす。

736 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:13:48.32 ID:KhPFRn0y0

 大圄「まあ、あっちは名門だし、LEVEL5も1人いるから、そんなに叩かれはしなかったが、うちだったらそれだけじゃ済まないだろうな」

 佐天「え?常盤台って、LEVEL5は2人いるんでは。で、その内の1人がここに来ていたんですけど」

 大圄「おいおい何を言ってるんだ。あそこにはLEVEL5の第4位【心理掌握】がいるだけだよ。その人と知り合いかい?」

 佐天「いいえ、その人じゃなくて……」

 大圄「まあいい。相当疲れているようだね。早く帰って、寝なさい」

 佐天「は、はい……」

 面倒くさそうに放つ担任の言葉に、ただ力なく返事を返すだけだった。
 反論する気力はおろか、考える気力すら湧かない。
 ややふらついた足取りで、教室をゆっくりと後にした。

737 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:14:14.93 ID:KhPFRn0y0

 佐天(何なの。初春や御坂さん白井さんが、これじゃあ最初からいなかった感じじゃない)

 照明が煌々と照らしている廊下を歩きながら、ふとそんなことを思う。
 担任が事実否定どころか、信じられないような言葉を吐き出すことに――何もかも信じられない気分になっていた。
 そして、言いようの無いウソ寒さだけが残る。

 ふと、外に面した窓ガラスに目を移す。

 雨が先程と変わらず――延々と降りしきっていた。
 他の建物は全て照明を落としているのか――闇が広がるばかり。

 佐天(――え?)

 そんな光景に一つの違和感を覚える。
 さすがに遅くなったとは言えど、街頭ぐらいは灯っているはずだ。
 なのに、その光すらなく――ただ深い闇が窓の外を支配していた。
 降りしきる雨の音が、ただ響くだけ。

 あとは――廊下の照明とともに、佐天の姿をくっきりと映し出していた。

738 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:14:41.10 ID:KhPFRn0y0

 少しボサボサになった髪。
 すっかり疲れ果てた顔。

 そして――首もとに付いている黒い汚れ。



 それは――人の手の形をしていた。
 喉仏に親指が重なる形になっていて。

 そう――まるで他人に首を絞められたかのように。


739 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:15:27.47 ID:KhPFRn0y0

 佐天「な、なに……これ!?」

 一気に寒気が全身を襲う。
 思い起こされるのは――夢の中で少女に首を絞められた光景。

 佐天「ひっ……ひい!!」

 近くには女子トイレの入口があった。
 悲鳴を上げながら、そこに転がり込む。

 入ってすぐそばの右手の場所には、洗面台と鏡がいくつか並んでいた。
 その内の1つの鏡を覗き込む。

740 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:16:01.26 ID:KhPFRn0y0

 佐天「あ……ああ……」

 そこに写しこまれた光景。

 首もとにくっきりと付いた――人の両手の手形。
 まるで蝶が羽ばたいているかのように――佐天の首もとのほぼ全体をどす黒く染め上げていた。

 洗面台には石鹸が1つ置かれていた。
 すかさず手に取り、さらに水道の蛇口を開ける。
 水はなぜか少ししか出なく、なぜか悪臭が一気に漂い出す。

 だが、それに構うことなく石鹸を水にぬらし、それを首もとを力いっぱいにこすりつける。

 しかし、黒い手形は消えない。
 それどころか――さらに黒い汚れがさらに大きくなっていく。

 佐天「ひ、いやああ!!」

 なおも石鹸を擦りつける。
 さらには爪を強く首もとに付きたてて、何度も何度も擦り付ける。

741 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:16:29.89 ID:KhPFRn0y0


  ……ガリ……


 皮膚が避ける音と共に――黒くなった首もとから、紅い血が染み出てくる。
 だが、なおも爪で引っかいては、延々と擦り付ける。

 染み出た紅は、その量をじわじわと増してくる。
 黒い首もとに、幾筋もの紅い線が出来だす。

 だが、爪で首もとを引っかいては擦ることをやめない。

 やがて、紅い筋は幅が大きくなり――裂け目となった。
 じわじわ出た血の量が――見る見るうちに増えていく。
 首もとはおろか、引っかく指――さらには洗面台や排水溝近くに置かれた石鹸を紅く染め上げていく。


742 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:16:59.98 ID:KhPFRn0y0




  ……ガリ……ガリ……



           ……ピシュー……



 ついには、首もとの裂け目から――血が盛大に噴き出した。
 目の前の鏡や――佐天の顔が一気に紅く染まっていく。

 佐天「……が……げげ……」

 断末魔にもならないうめき声を上げながら――佐天の体はゆっくりと倒れた。

 倒れてもなお――首もとから噴き出す紅い液体。

 それはなおも、紅い水溜りを作り出していく。

743 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:17:25.82 ID:KhPFRn0y0


 ――朽ちてボロボロになった木の床に。

 ――できた血の池に、苦悶の表情を浮かべたままの顔をうずめて。

 ――佐天の体は倒れ伏し、動くことはなかった。


 薄黒く汚れた洗面台も、すっかり紅く染まっていた。
 そこに溜め込まれた汚水も、紅く染まっている。
 排水溝から悪臭と共に噴き出す無数の泡は、まるで血の池地獄のようだった。

 洗面台の上にある、周囲がカビに覆われた鏡も、血飛沫で所々が赤くなっていた。
 そこに映し出すのは、随所で崩れかかった――廃校の白壁。


744 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:17:54.47 ID:KhPFRn0y0

 そして――赤い服を着た、青白い顔の少女。
 
 長く伸ばした髪の隙間から覗かせる、恨めしそうな視線を下へと向けていた。


 足元の――佐天の亡骸に。







  「……クスクスクス……」








 そして――小さく、不気味に笑っていた――。

745 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:18:45.40 ID:KhPFRn0y0
 
 (暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

  テーレレテテテレテー
 
    Wrong END

  ビターン

 (押し付けられた左手の赤い手形。中指がない)


 BはWrongENDですので、Aのルートをこれより投下します。
746 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:19:13.87 ID:KhPFRn0y0

 佐天「やっぱ、御坂さん……だよね……?」

 そのまま階段を上がった。


 


   ……ギシ……ギシ……



            ……ミシ……




 足を乗せるたびに、不気味な軋みをあげる階段のステップ。
 乗せた途端に本当に抜け落ちそうな気さえする。
 一歩一歩、慎重に足を乗せながら、ゆっくりと登っていく。

747 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:19:47.86 ID:KhPFRn0y0

 佐天「御坂さ〜ん、白井さ〜ん!!」

 朽ちたステップに足を乗せながら、友人の名前を大声で呼んだ。
 しかし――返事はまったく無い。

 佐天(……まさか聞こえていない……いや、話し声が聞こえるぐらいだから、多分聞こえてると思うけど……まさかス無視?)

 そんなことを思いながら、階段を登りきる。
 右へと廊下が伸びていた。

748 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:20:13.33 ID:KhPFRn0y0

 『……大変だったんだから』

 なおも、聞こえる話し声。
 立ち止まり、耳を澄まして聞いてみるものの――美琴のように思える。

 佐天(……やっぱ聞こえていなかったのかな……)


 『……あははは』

 佐天(今度は白井さん……にしては何か違うような……)

 耳を済ませながらも、どこか違和感を感じる。
 笑い方はともかく……声のトーンがどこか違うのだ。
 いや、むしろこれは――

749 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:21:22.03 ID:KhPFRn0y0

 『……ビックリしたんだよ』

 今度は美琴っぽい声。
 だが、これで佐天の頭に一つの推測が浮かぶ。

 佐天(まさか――御坂さん、一人会話とかしてるとか……!?)

 その根拠は、黒子のもののように聞こえた笑い声。
 トーンこそ低くはしているものの、どう聞いても声質は美琴のものだった。


 佐天(……一体なんで……御坂さんに何かあったのかな)

 階段の左手には、粉々に砕かれた白骨死体が散らばっていた。
 その上に緑色のセーラー服に白いスカートが被せられられていた。

 しかし、佐天の意識はすっかり、聞こえる声に向けられて。
 左の床下の白骨死体には気づくことはなかった。

750 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:21:54.42 ID:KhPFRn0y0

 『……ふーん』

 トーンを落とした――美琴のものっぽい声。 


 佐天(……まさか……こんな所で精神がイカレタなんてことは……ないよね……)

 一つの推測が浮かぶが、どこか受け入れがたい。
 佐天の知っている美琴の素振りからは、こんなことをしそうには到底思えない。
 それどころか、こうなる精神状態になるとは――あまり考えにくい。

 いや――考えたくないといった方が正確だろう。

 彼女はLEVEL5の、言ってみれば強者だ。

 朽ち果てて、所々に死体が転がって、さらに霊や殺人鬼までいそうな――得体の知れない場所。
 こんな所で辛うじて平静を保っていられるのも、彼女の存在があるといってもいいかもしれない。
 彼女がいれば、まだなんとか脱出できるかもしれない。

 もし、死亡したり、精神が崩壊して廃人同然になってしまうなっていうことがあったら――。
 LEVEL0の佐天なら、なおさらそう思ってしまう。

751 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:22:24.51 ID:KhPFRn0y0

 右に伸びる廊下に目を向けながら、構わず先へと進む。
 それよりもむしろ――


 佐天「つーか、マジクサいって!!」

 階段を登りきった直後から、アンモニア臭が鼻を突き出した。
 それにくわえて、何かが腐って発酵したような臭いまで混じっている。
 思わず、声を上げて叫んでしまう。

 が、途端に口や鼻に臭いが一気に入り込んでくる。
 反射的に手で口元を覆った。

 佐天(……なんだっつーの。息するのもイヤになってくるわ……って?)

 ふと右前方の壁に貼り紙があるのが目に付いた。
 
752 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:22:52.86 ID:KhPFRn0y0



 【手前:男子厠 奥:女子厠】

 佐天(トイレなわけね。こりゃクサいのも納得だわ……)

 やや呆れながら納得しながら、その場で立ち止まる。
 貼り紙の下には、錆びたバケツが1個、床に転がっているのが見えた。
 だが、あまり気に留めず、ちらっと右手の男子トイレに目をやる。

 男子トイレの引き戸は半分開いていて、遠くからでも中の様子が見える。
 手前側に洗面台や、男子用の小便器、その奥には個室がそれぞれいくつか並んでいるようだ。

 佐天(……この中とか……それなら、むしろ女子トイレかなぁ……)

 なんとなく適当な推測を立てながら、廊下の奥へと進もうとした――その時。

753 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:23:29.20 ID:KhPFRn0y0




  『……でね、せいこ聞いてよ……』



 佐天(……違う、御坂さんじゃないっぽい)

 廊下の奥から聞こえる声。
 推測はすべて否定されたが、別の一つの推測を得た。

 佐天(――声自体は似てはいるけど――アカの他人だね)

 今度は――会話の中に出てきた"せいこ"という名前。
 当然、そんな名前の人物のことは聞いたことが無い。


 『振り向いたら、きしぬまがさとしの服触ってんのよ!』

 佐天(きしぬま?さとし?知らない人の名前が出てくるな〜)

 そんなことを思いつつ、ゆっくりと廊下の奥へと進む。
 すぐ先で行き止まりになっていた。

754 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:24:11.16 ID:KhPFRn0y0


 『ギャー!!マジ!?ひゃー……ちょっと萌える〜!』

 『それ見てあたし、何かきしぬまをぶん殴ってやりたくなってさぁ』

 『あはは、なおみ何それ?ジェラシー?』

 『……わかんないけど、その後あの二人、すんごいケンカしてたよ』

 軽い口調の話し声が、女子トイレの方からはっきりと聞こえる。


 佐天(……どうやら、話しているのは"なおみ"って子か、"せいこ"って子みたいだね……しかも一人で)

 右手には半開きになった引き戸が見える。
 そこからは、いくつか並んだ洗面台と、個室の壁を覗き込むことが出来る。

755 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:24:37.29 ID:KhPFRn0y0

 『……わかんないけど、その後あの二人、すんごいケンカしてたよ』
 
 佐天(……やっぱり……少なくとも御坂さんじゃない)

 推測は確信に変わりつつあった。
 なおも中から聞こえる、話し声。
  
 ――ごくり。
 固唾を思わず呑んでしまう。

 声の主が美琴ではないことが分かり、多少落胆はした。

 しかし、かといって――放っておく気にはどこかなれなかった。
 こんな異様な場所で、一人。
 しかも一人会話をしてしまっているぐらいだから――恐怖なんかがピークに達してしまっているのだろう。

 佐天だって、いつこうなってもおかしくない。
 他人事のようには到底思えなかった。


 佐天(……とにかく行ってみるか)

 恐る恐る……女子トイレへと足を踏み出していった――。

756 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:25:06.11 ID:KhPFRn0y0

 トイレの中は悪臭で満ちていた。
 強烈なアンモニアの臭い。
 そして、鼻を覆いたくなるほどの腐敗臭。




     ……ゴボ……


          ……ゴボゴボッ……



 何かが沸き立つ音が耳につく。
 右手の洗面台の一つからその音は発せられていた。

757 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:25:59.21 ID:KhPFRn0y0

 3つ並んだ洗面台はいずれも苔やカビなどが付着していて、汚れがひどかった。
 中には割れて、破片を床に散らばらせているものまである。

 それらの上に据え付けられた鏡も清潔とは到底かけ離れた有様だった。
 周囲は苔や黴や汚れで覆われていて、覆われていない鏡面も薄汚れていた。
 ぼんやりと佐天の不安げな表情を映しこんでいる。

 音は中央の洗面台からしていた。
 水が溜まっていたものの、黒く汚れていた。
 そこに泡が不快な音と共に、時折湧き上がる。
 同時に悪臭も激しく立ち込める。

758 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:26:28.16 ID:KhPFRn0y0

 佐天(マジ最悪だって……)

 手で口元を覆いながら、目をそむける。
 見ているだけで気持ち悪くなってくる。
 足早に洗面台の前を通りすぎようとした――その時。



 ??「あはははは!ウケるー。あは、私も見たかったよー」

 また会話が発せられた。
 どうやら、目の前に並んだ5つ並んだ個室の内のどれかからだった。

 佐天「ちょっと!!誰だか知らないけど、大丈夫!?」

 声の主に対して、呼びかけてみる。

759 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:27:10.88 ID:KhPFRn0y0

 ??「いや、見てないからそんな事言えるんだよ」

 だが、声の主は聞いていないかのようだ。
 帰ってくるのは、居もしない相手に対する返答だけ。


 佐天「ちょっと、アンタ、マジで自分で何してるか分かってます?」

 ??「実際見たら引くよ、ゼッタイ」

 呼びかけと返答がまったくかみ合っていない。
 ただ延々と続く――1人での会話。


 佐天(聞こえたのは確か――)

 ??「男子ってホントバカだよね〜」

 5つ並んだうちの、ちょうど中央にある個室から――声はした。

760 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:27:37.30 ID:KhPFRn0y0



  ドンドンドン!!



 その個室の扉を、勢いよく何度もノックする。


 佐天「ちょっと、聞いてます!?」

 ??「……可愛いんだけど」

 中にいる声の主は、外からの呼びかけに、まったく反応する素振りは無いようだった。
 なおも、空気に向けて会話を続けているのだろう。

 さらに扉を開けようとした。
 しかし、鍵は掛けられていて、開くことが出来ない。

761 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:28:22.51 ID:KhPFRn0y0


 佐天「ったく、いい加減に……」

 呆れながら、ふと上を見上げる。

 ぴっちりと閉ざされた、個室の扉。
 その上には、個室の上に渡された――太い木の梁。

 そして、梁に巻きつけられた――縄。
 それが下へと伸びているのが、わずかに見えた。


762 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:29:08.55 ID:KhPFRn0y0

 佐天(――あの縄って……てか、トイレで縄なんていらないよね?)

 ??「あは、そんな事言って」

 佐天(個室に閉じ込められたから脱出するために?)

 扉や梁と天井の隙間は、だいたい1mほど。
 縄なんかを梁に渡して、よじ登って、隙間から脱出する――できないことではない。
 ただ、そうだというのなら――

 佐天(――とっくに外に出てるはずだって)

 延々と扉の中から聞こえる会話をよそに、じっと梁に括りつけられた縄を見つめていた。
 両脇に目をやると――左隣の個室の上の梁にも、同様に縄が括りつけられている。

 佐天(一体なんなんだろ、これ)

 左脇の個室へと、足を向ける。
 扉は右隣と同様に、ぴっちりと閉じられていた。


 ただ、そこからは声がしないのを除いては――。

763 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:29:37.58 ID:KhPFRn0y0


 扉に手を掛けて、恐る恐ると引っ張る。
 鍵は掛かっていないのか――軋みをあげながら、ゆっくりと開いた。



 ??「なおみ、もちだ君のことが……」



 そこに見えたのは――

 佐天「――!!」

 目にしたと途端に、声を失う佐天。
 思わず、両手で口を覆い、その場に立ち尽くしてしまう。
 冷たい汗が、背筋を流れ落ち、全身の皮膚が逆毛立つのを感じた。


 しかし――これで一つの疑問に対する答えが出た。

 ――隣の個室で何が起きて――この先何が起きそうなのか。

 そして――すぐにやるべきことも。

764 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:30:23.82 ID:KhPFRn0y0
 
 呆然として、怯えている場合ではない。
 すぐさま、右隣の個室の前へと戻り、きっとにらみつける。


 佐天「アンタ、大丈夫なら出てきたら!!」

 個室の中の声の主に、大声で呼びかける。
 しかし、返事はまったく無い。
 延々と続けられていた、一人会話も途絶えていた。

 
765 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:30:55.63 ID:KhPFRn0y0

 
 
  ……カコン……



        ……ギ……ミシ……



 何か、金属っぽいもの置く音。
 そして、木ではない、何かが軋むような音。
 それらが、個室の中からかすかに聞こえた。

 佐天(もし、隣と同じようなことだったら――やばいって!!)

 すぐさま、扉に手を掛ける。
 しかし、鍵は相変わらず掛かったままで、開けることは出来ない。

766 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:31:27.77 ID:KhPFRn0y0

 ぐずぐずしていられなかった。
 隣で起きたことがこの中で現実になろうとしているのなら――ちんたらしていたら、手遅れになる。
 ましてや、一人会話なんかしている精神状態――そういうことをやらかしてもおかしくない。

 そこで、腰に差したバールの存在を思い出す。
 すぐさま折れたバールを手にして、平たくなっている先端を扉の隙間に突き刺した。
 簡単にはいかなかったが、ある程度力を加えると隙間にうまく挟まった。


 佐天「悪いけど、ドアこじ開けますよ!!」

 そう呼びかけると、突き刺さったバールを一気に両手で押し込む。
 が、結構扉は固く閉まっているのか、なかなか開く気配が無い。

767 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:31:56.40 ID:KhPFRn0y0

 佐天「くそっ!!」

 ついには突き刺さったバールに向けて、右足で蹴りを入れた。
 1回や2回では、やはり結果は同じだったが――


  ……ギギ……ギ……


 木材が悲鳴を上げると共に、わずかながら扉は動き出していた。
 さらに蹴りを入れる。
 扉は軋みを幾度もあげ、ついには――



   バキンッ!!



 扉が開いた。
 何かが折れる音と共に。
 その先に見えたのは――

768 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:32:22.42 ID:KhPFRn0y0




 中に垂らされた――1本の縄。

 その先に出来た――縄の輪っか。

 床に置かれた――逆向きのバケツ。


 そして――その上に立ち、縄の輪っかに手を掛け――

 ――今にも首を輪っかに通そうとしている――ショートカットの髪の少女。


 佐天「やめなって!!」

 なりふり構わず、個室の中に踏み込む。
 首を吊ろうとしているのを止めようと、すかさず手を伸ばした。
 が、勢いあまってタックルをする形になり――佐天も少女も、個室の奥に向かって転がり込んだ。

769 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:32:52.74 ID:KhPFRn0y0

 佐天「っつ!!」

 ??「あぐっ!!」

 両者とも、体を奥の壁に打ち付けてしまう。


 佐天「……ってて……ごめんなさい」

 強く床に打ちつけた足をさする佐天の隣で、

 ??「……んんっ……何するのよ……」

 痛みで顔をしかめながら、少女は強打した肩の辺りを手でさすっていた。
 そして、横にいる佐天をじっとにらんでいた。

770 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:33:28.26 ID:KhPFRn0y0


 佐天「だって……首を吊ろうとしてましたから……」

 そういって、個室の真上からぶら下がっている縄を指差す。
 縄の先端に作られた輪っかの部分が、前後に軽く揺れていた。

 ??「え……うそ……あ、アタシが……」

 佐天に指差された先にある縄と、そのしたの便器の上に転がったバケツ。
 その二つのものを交互に見回す少女。
 ――狼狽の色を露にして。

 どうも――先程まで自分がやろうとしていたことが、分かっていなかったようだ。

771 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:33:54.41 ID:KhPFRn0y0

 佐天「少し遅かったら、本当にやばかったでしたよ。覚えは無いのですか?」

 ??「うん……何してたか分からない……まさか、そんなことをしてたなんて……」

 明らかになっていくにつれて、少女の体が小刻みに震えていく。
 顔にも怯えの色がはっきりと出てきて、今にも泣き出しそうになっていた。

 佐天「…………」

 何も言わず、少女の体を軽く抱きとめる。
 着ているクリーム色のセーラー服ごしに、小さく震えているのが佐天の手に伝わった。

 さらに転がったはずみで、少女が履いている紺色のスカートが足の方へとずれていた。
 そっと手を掛け、腰のところまで引き上げる。

 その時、胸元には名札が付いているのが見えた。
 そこには【2-9 中嶋直美】と書かれていた。
 
772 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:34:24.71 ID:KhPFRn0y0

 ――どれだけの時間が経っただろうか。

 佐天と直美は、じっと押し黙ったまま、個室の中で座り込んでいた。
 互いに声を発そうとする気配は――ない。

 ちらりと直美の方に目を向ける。
 先程より――体の震えは収まっているようだった。
 もっとも、表情は暗いままだったが。


 佐天「そろそろ……ここ出ましょうか」

 直美「え……うん……」

 突然切り出され、直美は少しだけ驚きの色を見せる。

 佐天「こんなところにいつまでいたって、仕方ないでしょうし」

 直美「まあ、そうよね……」

 ゆっくりと立ち上がる佐天。
 直美もそれにならおうとするが――左足を手で押さえながら、たどたどしく起き上がる。


773 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:34:53.19 ID:KhPFRn0y0

 佐天「足、痛めてるんですか?」

 直美「捻挫なんだけどね……添え木もしているから、大丈夫だと思う」

 佐天「肩、貸しましょうか」

 直美「ううん。そこまではしなくていいよ」

 二人はゆっくりと個室を後にした。
 そのまま出入口に向かおうとした――が。

 直美「…………」

 なぜか個室の前で立ち止まって――左隣の個室に顔を向けている。
 下をうつむいて、表情に影を落としながら。

 佐天「…………」

 その理由は――何となくだが、察していた。
 恐らくは隣の個室の――。

774 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:35:33.35 ID:KhPFRn0y0

 佐天「……気になるのですか……」

 恐る恐る言葉を発する。
 先程の一人会話の内容から――口にはあまりしない方がいいだろうと感じていた。

 隣の個室にあった――





 直美「うん……友達だったから……」




 ――首吊り死体のことは。



775 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:36:10.58 ID:KhPFRn0y0




 佐天の脳裏に、先程の光景がよみがえる。

 個室のドアを開けた先に――見えたもの。




  
 それは――天井の梁に縄をかけ――首を吊って……絶命した少女。

 肩の辺りで髪をカールさせた、高校生らしき少女。


 着ている制服は直美と同じ学校の制服。
 そして、腰の辺りについている名札。

 【2-9 篠原世以子】

 さらに、さっきの直美の一人会話から、世以子が彼女の親友だというのは容易に想像が付いた。

776 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:36:41.33 ID:KhPFRn0y0

 佐天はゆっくりと左隣の個室の前に立つ。
 そして、じっと目の前の世以子の亡骸を見つめて――静かに言った。

 佐天「下ろしましょうか」

 直美「え……そんな……」

 突拍子も無い佐天の提案に、驚きの色を隠せない。


 佐天「このままじゃ……かわいそうですし」

 直美「それは、そうだけど……」

 佐天「とにかく、やりましょう」

 戸惑う直美をよそに、佐天は個室の中に入り込む。
 何も言わず、ぶらさがった世以子の体を掴むと、一気に持ち上げた。

777 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:37:19.19 ID:KhPFRn0y0


 だが――佐天一人の力では、一瞬数センチだけ上がるのが限界だった。

 直美「ち、ちょっと……できもしないのに、無理しないでよ」

 すかさず、直美も個室の中へと駆け込む。


 直美「じゃあ、アンタは右のわきの下に頭を突っ込んで。アタシは左でいくから」

 佐天「ちょっと、足をケガしてるのに大丈夫ですか」

 直美「そんなこと言ってられないよ……」

 小さくつぶやいて、直美は世以子の左脇の下に頭を突っ込むと、肩の力で持ち上げた。
 同じく佐天もそれにならって、世以子の体を持ち上げる。

 佐天「よし。これで縄を」

 世以子の右肩を全身の力で持ち上げつつ、首に掛かっている縄に右手を掛けた。
 そして、手前に勢いよく引っ張って――すかさず体を下ろす。

 個室の壁を背にする形で、世以子の体をもたれかけさせる。

778 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:37:59.51 ID:KhPFRn0y0

 そして、今度は佐天が世以子の両手を肩に掛け、一気に立ち上がった。
 全体重が佐天の体に一気にのしかかる。

 直美「ち、ちょっと……そこまでしなくても……」

 佐天「べ、別にいいですよ。ちょっと引きずるかもしれませんが……とにかく外まで」

 直美の言葉をよそに、佐天は世以子を肩に乗せたまま、ゆっくりと個室を後にする。
 さすがに体重がのしかかっている分、かなりの負担にはなっていた。

 が、息を切らせつつも――一歩一歩、トイレの床を踏みしめる。

 直美「…………」

 そんな佐天に、何も言わずただその後に付いていくだけだった。

779 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:38:38.19 ID:KhPFRn0y0

 やがて、トイレの外まで出て――近くの壁のあたりで、体を下ろした。
 床の上に寝かせる形にした。

 佐天「…………」

 大きく見開いて、充血させた世以子の目。
 佐天は何も言わず、まぶたに指を掛け、ゆっくりと下ろした。

780 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:39:10.15 ID:KhPFRn0y0

 直美「ううっ……世以子……」

 そんな世以子を目の前にして、目じりに涙を浮かべていた。
 そして――彼女の遺体に覆いかぶさるようにして……。


 直美「世以子ぉ!!うわああああん!!」

 一気に泣き出した。
 佐天はただ、その場に突っ立ったままで、じっと見守ることしか出来なかった。

 そんな時――

781 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:39:36.13 ID:KhPFRn0y0





  『……直美のこと……頼むね……』





 どこからともなく、小さくささやきかける――女の声がした。

 佐天「え……」

 すかさず周囲を振り返る。
 やや年をとった感じの――言うなら、黒子の声によく似ている気もする。

 しかし――そこには誰もいない。

 いたのは――その場で突っ立つ佐天と、世以子の亡骸のそばで泣きじゃくる直美だけだった――。




                                               Chapter3『孤独』 END

                                           Continiue to Next Chapter……


782 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/19(土) 23:44:35.08 ID:KhPFRn0y0
本日の投下はここまでです。
次回は恐らく1週間程度間隔が空きます。

なお、今更ですが>>631の方がおっしゃるように、声優ネタを用いています。

さて、次のチャプターは黒子・美琴・初春・佐天のうちのどれかのパートからはじめようと思いますが、現時点で未定です。
もし、リクエストなどありましたら、それに応えようかと思います。

改めて、読んでくださっている方に感謝。
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/19(土) 23:47:22.49 ID:5O8UpNO4o
乙乙
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/20(日) 08:05:33.81 ID:HnzwUnLQo
SS読んでたらこのゲームやりたくなってきた
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/20(日) 10:47:01.63 ID:tiCAtCRP0
ヘッドホンプレイ参照な。
それと、夜に暗い部屋でやると怖い。
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/28(月) 07:47:31.35 ID:+fONqZQDO
乙おもしろい
>>1が失踪だけはしないでくれ

後半は微妙になってくる
戸棚は調べるが吉
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/28(月) 07:49:00.23 ID:+fONqZQDO
下の文は>>784宛な
788 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/28(月) 22:17:34.19 ID:qCU7dHYA0
>>786
お気遣い感謝です。
一応生存報告をば。

投下についてですが、諸般の事情によりさらに数日掛かる見込みです。
大幅に遅れまして申し訳ないです。

次回は615のWrong ENDを投下した後に、勝手ではありますが、次chapterを黒子ルートに進む予定で考えておりますのでお願いいたします。
789 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/03/28(月) 22:21:21.03 ID:qCU7dHYA0
あと次回からは一旦ageてから、その先はsageで投下しようかと思いますので、お願いいたします。
790 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/04/01(金) 23:16:58.18 ID:d46RIvVr0
では、本日の分を投下します。
くどいようですが、グロ描写がありますので、十分ご注意願います。
791 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:17:57.68 ID:d46RIvVr0

 >>615 B

 佐天「……たまったものじゃない。早く外に出よう……」

 疲れた表情でため息をつくと、廊下を引き返して玄関に向かった。

 悲鳴が上がった階段の先。
 恐ろしいこと――もっと言うなら、命にかかわるようなこと――が起きているのは、容易に想像が付く。
 巻き込まれでもしたら、たまったものじゃない。

 廊下を歩くスピードはおのずと速くなっていった。 
 玄関前の広間まで戻るのに、そんなに時間は掛からなかった。
 すぐさま右手に折れ、奥へと伸びる廊下をひたすら歩く。
792 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:18:32.57 ID:d46RIvVr0

 裂け目が廊下を横切っている場所までたどり着く。
 渡してある木の板はそのままになっていた。

 ロウソクを床において、両手で板を持ち上げる。
 この状態では真っ暗な廊下を進むことになるが仕方が無い。
 恐る恐る足を踏み出す。
 その足で床に穴が開いていないかを確認して、足を乗せる。
 そんな繰り返しだったので、板を広間まで持っていくのにかなりの時間を要した。
793 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:19:03.46 ID:d46RIvVr0

 佐天「これだけでも一苦労だっつーの……」

 誰に言うわけでもなく、そんな不平を一人ぼそっとつぶやく。
 ゆっくりとかがみこんで、床に置いてあったロウソクを手に取った。
 そのまま、廊下を再び広間のほうと引き返す。
794 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:19:34.85 ID:d46RIvVr0

 広間まで出てきた。
 壁に立てかけてある、板はそのまま置かれていた。

 佐天「…………」

 押し黙ったまま、ロウソクを床に置く。
 玄関前の広間をほんのりと淡く照らす。
 しかし、奥に連なる玄関の中までは光が届かなく、手前にある下駄箱の一部が見えるだけだった。

 広間と玄関の間には、相変わらず裂け目が走っていた。
 手にした木の板をその裂け目に渡す。
 長さは十分にあり、板の上を通って玄関までいけるようになった。

 佐天「……外……出れるかな……」

 不安げにぼそりとつぶやいて、ロウソクを手に取る。
 板の上に恐る恐る足を乗せ、前へと進む。

795 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:20:08.48 ID:d46RIvVr0

 玄関に足を踏み入れた。

 下駄箱が数列並んでいた。
 だが、いずれもまっすぐに並んでいるとは言えず、本来の位置から一部がずれていた。
 中には一部が倒れ掛かっていて、隣の下駄箱にもたれかかっているものまである。
 その下には、壊れたすのこの破片や、子供サイズの上履きがいくつも散乱していた。
 足の踏み場が無い様相を呈している。

 その一角を通り抜けると、大きな引き戸が目に入る。


 ――が。
 扉には、木の板が何枚も釘で打ち付けられていた。
 ほぼ全体を覆う形になっていて、板の隙間から扉の一部が覗かせているのみ。

 どう見ても――外に出られそうに無い。

 いや――外に出さないという悪意さえ感じられた。

796 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:20:51.75 ID:d46RIvVr0

 佐天「な……最悪じゃん、これ……」

 目の前に飛び込んできた光景に、呆然とした。
 そして、その場に力なくしゃがみこんでしまう。

 その時。



   ……グラグラグラ……



 佐天「地震!?」

 部屋を揺れが襲いだした。
 反射的に下駄箱のあるスペースから離れる。。
 頭を手で覆い、じっと揺れが収まるのを待った。



   ピシャリ!!



 遠くから何かが閉まる音がした。
 直後に揺れは収まり、恐る恐る音のした方に目を上げると――。

797 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:21:23.36 ID:d46RIvVr0

 佐天「――!?」

 奥の広間へと通じる引き戸が閉じられていた。
 揺れで扉が動いたのだろう。


 佐天「ち、ちょっと……!?」

 すかさず扉の取っ手に手を掛けて引こうとするが……動かない。

 佐天「し、洒落になんないって!!」
 
 焦りの色を露にしながら、取っ手に力を入れる。
 両手を掛けて、壁に足を突っ張って。

 だが――意に反して、戸は寸分たりとも動く気配が無い。

 胸の鼓動が急激な勢いで脈打っている。

 息遣いが一気に激しくなって。
 腕はおろか、掛けた指に痛みが走るが、気にしていられなく。
 あまつさえ、口から涎が垂れだしているが、気にも掛けずに。

798 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:21:54.18 ID:d46RIvVr0

 引き戸は――開くどころか――

 取っ手から指が離れた。
 それで、今まで引き戸を引っ張った力が殺されるわけがない。
 勢いのあまり、バランスを崩してしまい――

 佐天「うわっ!?」

 その勢いは殺されることなく、体は後ろへと倒れ――


   ゴンッ!!
 

 佐天「うっ!!」

 背後にある倒れた下駄箱の角に――後頭部を強く打ち付けた。

 頭全体に広がる痛み。
 目の前が一気に揺れて、すぐに真っ暗になった。
 そのまま気を失ってしまう……。

799 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:22:27.41 ID:d46RIvVr0



 佐天「……んんっ……痛っ!!」

 意識が戻る。
 それと同時に、後頭部に鈍い痛みが響き渡る。
 首を動かすのがやっとで、起き上がる気にすらなれない。

 佐天「…………」

 ポケットからハンカチを取り出し、後頭部にあてがう。
 なんとなく指先が濡れた気がしたと思い、ハンカチを後頭部から離す。

 床においてあったロウソクはかなり小さくなっている。
 わずかに残された芯に、かろうじて炎が灯っている状態だった。

 淡い光にそっとハンカチを照らすと――。


 佐天「――!!」

 ハンカチには、赤い染みが大きく付着していた。
 どうやら、後頭部から出血しているようだった。

 佐天「マジ……大丈夫かな……」

 なおも痛みを発する後頭部の傷。
 手にしたハンカチで押さえるも、時折眩暈がしてふらつきそうになる。
 ぼやけた視界で周囲を眺め回す。
800 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:23:08.46 ID:d46RIvVr0

 倒れ掛かった靴箱。
 所々に汚れや破損が目に付くモルタル製の壁。
 そして、広間とを仕切る大きな引き戸。


 相変わらず閉まっている――のではなく、片方が半開きになっていた。


 佐天「あ……あれ……?」

 先程まで固く閉まっていて、開けようとしてもびくともしなかった引き戸。
 それが今、少しだけだが開いていた。
 思わず目を白黒させてしまう。

801 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:23:58.91 ID:d46RIvVr0

 佐天「……どーなってんの……これ……」

 目の前に見えている思いがけない変化に戸惑いを隠せない。
 だが、ずきずきと痛む頭を押さえながら、開いた引き戸へとゆっくりと足を進めた。

 扉の先の床には相変わらず裂け目が走ったままだった。
 だが、その上に渡した木の板も、さきほどと変わらず残ったままだった。
 先程の揺れがあったにもかかわらずである。

 佐天「…………」

 特にためらうことなく、木の板の上を渡る。
 閉ざされた玄関から出られるという一種の嬉しさと、なおも襲う頭痛で深く考えてなどいられなかった。

802 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:24:47.42 ID:d46RIvVr0

 ほんのりとロウソクの淡い光で照らされる、広間。
 相変わらず数メートル先は暗くてよく見えない。

 どこに行こうかと何気なく周囲を見回す。
 その時。


 佐天「――!!」

 すぐ先の床の変化が目に付いた途端、足を止めてしまう。
 息が止まり、体をびくつかせる。
 先程まではなかったものが存在していたのが見えた。

803 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:25:13.83 ID:d46RIvVr0

 床にぶちまけられた赤い液体。

 そして――その中に転がっている……いくつかの物体。

 佐天「な……なに……これ……」

 恐る恐る、その物体にロウソクの炎を近づける。
 なぜか、胸の鼓動がやけに激しくなる。
 まるで――警報が鳴り響くかのように。

 その物体をロウソクの光が照らし出しだす。

804 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:25:45.92 ID:d46RIvVr0



 そこにあったのは人間の体。



 ただ――胴体を真っ二つにされていた。


 佐天「え、これなに……これ!!」

 目に入った、体と共に切断された紺色のセーラー服。
 その制服には見覚えがあった。

 いや――佐天の着ている制服とまったく同じセーラー服だった。

805 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:27:04.01 ID:d46RIvVr0

 佐天「え……う、うい……」

 遺体の頭には、すっかり血で染まった花飾り。
 もちろん、それはいやと言うほど見ている親友のもの。



 瞳孔がすっかり開いた初春の瞳が――佐天をただ空ろに見つめていた。



 佐天「う、ういはる……うそでしょ……」

 目の前の事実が受け入れられない。
 泳がせた佐天の目に飛び込んでくる、別の物体。


 それは――初春の遺体に覆いかぶさる、別の人間の体。
 ベージュ色のブレザーに青系のチェックのスカートを着ている。
 どう見ても、これまた見覚えのある常盤台中学の制服だった――が。
 
806 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:27:36.46 ID:d46RIvVr0

 佐天「は、はは……いいかげんにしてよ……」




 ――首から上がなかった。

 切断面から、大量の血があふれ出し、上半身の大部分を赤く染め上げていた。
 

 佐天「も、もう……」

 思わずロウソクを落とし、無意識のうちに後ろずさる。
 その時、足に何かが当たる感覚がした。

 それは――美琴の首だった。
 口から舌をだらしなく垂らし、苦悶の表情のままで――血に染まった床の上に転がっていた。

807 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:28:02.86 ID:d46RIvVr0

 佐天「み、みさかさ……いやあああああああああああ!!」

 立て続けに目に入った――親友の惨殺死体。

 ついに、精神の限界を超えてしまった。
 狂ったかのように悲鳴を上げると、暗い広間をなりふり構わず駆け出す。

 佐天「ああああああああああああ!!」

 正面に向かう廊下を、奇声をあげながら、ただ走る。
 真っ暗で何も見えないことなぞ、気にもする素振りもなく。
 ただ――ひたすら走っていた。

808 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:28:34.54 ID:d46RIvVr0

 佐天「――!!」

 急に足元の感覚が無くなった。
 立ち止まろうとしたが――遅かった。

 床が抜け落ちてできた、深い虚空へと――佐天はまっさかさまになって、ただ落ちていく。
  

 佐天(あはは……もういいや……)

 下へ下へと落ちていく中、佐天の頭の中でそんな思いが生じる。


 佐天(……もうすぐ……初春と御坂さんに会えるから……)

 瞳に涙を浮かべながら。
 そして、薄ら笑いを浮かべながら。
 佐天の体は深い闇の底へと落下していった――。

 
809 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:29:03.21 ID:d46RIvVr0

 (暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

  テーレレテテテレテー
 
    Wrong END

  ビターン

 (押し付けられた左手の赤い手形。親指がない)

810 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:31:10.33 ID:d46RIvVr0
>>615のWrong ENDはここまでです。
これより、次chapterを投下します。
811 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:31:34.17 ID:d46RIvVr0

 ――閉ざされた扉。

 その前で黒子はじっと考え込んでいた。

 黒子(正直、こんな所テレポートでいけば、脱出なんて造作もないことなのでしょうけど……)

 視線を扉から背後に向ける。


 あゆみ「……もう嫌……許してよ……」

 うつむきながら、親指の爪を噛みしめる少女。
 目に涙を浮かべながら、体を小刻みに震わせていた。


 黒子(……学園都市の外の人間に、能力を使うのはまずい気がしますの)

 怯えるあゆみの姿をじっと見つめながら、悩んでいた。
812 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:32:19.65 ID:d46RIvVr0

 黒子(もっともそれは、一から説明すればいい話でしょう。でも……)

 ふと上を見上げる。
 所々で木材が抜け落ちた天井には、いくつかの照明器具が取り付けられているのが見えた。
 だが、中には今にも落ちそうになっているものまであるほど。
 早い話が、いずれも照明としての機能は果たしていなく――明かりは灯っていなかった。


 黒子(こんな異様な空間に監禁されて、精神も緊張状態になっているでしょうし……)

 再び、視線をあゆみの顔へと戻す。
 目の前の机には、火の灯ったロウソクが1本。
 淡い光が辛うじて、教室内を照らしているだけだった。

 黒子(……話したところで、納得してもらうのはおろか、事態をややこしくさせてしまうだけになる気がしますの)

 小さくため息をつく。
813 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:32:57.11 ID:d46RIvVr0

 教室内にはいくつか子供用の机が散らばっていた。
 だが――なぜか持ち上げることはできなかった。
 まるで床と一体になっているかのように、びくともしなかった。

 黒子(どの窓も開きそうにないでしょうし……)

 外に面した窓は、いずれも朽ちていたり、外れかかっているものもあった。
 が、どれも模型のように固定されていて動かすことができない。
 外れかかった窓と窓枠にできた隙間も、人の体を通すにはあまりにも狭い。
 もっとも、ここは2階なのだから、窓から脱出するのはあまり得策とはいえない。
814 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:33:38.85 ID:d46RIvVr0

 廊下に面した窓も同様に、びくともしなかった。
 その近くには戸棚が一つ置かれている。
 何か無いかと遠巻きに眺めてみるが――ガラス越しに見える中の様子に、黒子は思わず戦慄を覚えた。

 黒子(髪が隙間なく詰め込まれて……気持ち悪いですの)

 なんとか扉をこじ開けるものがないかと、教卓や机を探ってみるものの――何も見つけられなかった。

 そこで――
815 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/01(金) 23:36:47.15 ID:d46RIvVr0
本日の投下はここまでです。
なお、以下のように選択肢が続きます。

A:戸棚を開ける。
B:ロウソクを手に取る。

安価は>>817でお願い致します。
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/01(金) 23:38:01.28 ID:Rv3HcLxmo
kskst
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/04/01(金) 23:39:34.17 ID:fudRLnGHo
Bだな
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/02(土) 15:13:19.27 ID:yZFmtSzG0
世代子はやっぱり…
救いは無いんですか
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/02(土) 16:10:27.46 ID:6qgAZggZ0
セーブポイント手に取って何するんだろう?
すごい気になる

>>118の安価で最初Aの方になったけど、Bの方でしか世以子の生徒手帳拾ってないんだよな…
Aの続きとBの続きで変化があるならどっちも書いてほしいです
820 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/04/07(木) 23:02:39.64 ID:pga96Fg40
本日分の投下を開始します。
821 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/07(木) 23:03:06.36 ID:pga96Fg40

 机の上においてあるロウソクを手に取った。

 あゆみ「ちょっと、何をするつもり?」

 黒子「悪いですけど、少しだけ我慢してくださいまし」

 突拍子な行動を目の当たりして、目を白黒させるあゆみ。
 そんな彼女をよそに、黒子は出入口のそばまで歩きながら、ロウソクの炎を口元に近づける。

 そして――大きく炎に息を吹きかけた。

 芯の上で揺らめいていた小さな炎は、一瞬にして消えた。
 教室の中が一気に闇の中に閉ざされる。

822 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/07(木) 23:03:47.89 ID:pga96Fg40

 あゆみ「やめてよ!!暗くて何も見えないじゃない!!」

 背後で抗議の声が上がる。

 黒子「…………」

 が、黒子は何も答えることなく、引き戸があると思しき場所まで勘を頼りに歩く。

 黒子(……この辺のはずですけど……)

 廊下に面した壁に手を当てる。
 手探りで壁をなでていくうちに、木の板の感触がする。
 その上のほうには――引き戸の取っ手らしき窪みがあり、指先が入り込んだ。

 黒子(……これですの。あとは……)


 あゆみ「何考えてるのよ!!恐がらせないで!!」

 背後からヒステリックに叫ぶ声。
 そんな声に構うことなく、黒子は取っ手に手を掛けたまま、演算を脳内で行う。

 ――引き戸をどこかへ瞬間移動させるための。
823 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/07(木) 23:04:20.43 ID:pga96Fg40




   ……ガサ……ゴソ……


 まさぐるような音。
 恐らくあゆみが何かを探し出しているように思えた。

 ――同時に、黒子の手から、取っ手の感触がなくなった。

 引き戸を瞬間移動させることには成功したようだ。

 黒子(いけたようですわね。篠崎さんには悪いことしましたけど。あとはロウソクに火を……)

 そこまで思ったとき、あることに気づいた。

 黒子(まずいですの。そういえば火をつけるものなんか持っていませんでしたの)

 どうしようかと思った――その時。


824 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/07(木) 23:04:45.59 ID:pga96Fg40



 あゆみ「……本当に何のつもりよ……」

 目の前が明るくなった。
 あゆみの手元の机には、火の灯ったロウソクが乗せられていた。
 先程のまさぐるような音は、持っていたであろうスペアのロウソクを探す音だったのだろう。

 黒子を恨めしげに見つめる表情が、淡い光で薄暗く照らされている。
 そのためか、視線が重苦しく感じられる。

 黒子「いきなりこんなことをしたのは申し訳ないですの。ただ……」

 そこで一旦言葉を区切ると、出入口の方に顔を向ける。

 2枚の引き戸が閉ざされていた出入口には――変化があった。

 片方の引き戸が――まるごと消えていた。

825 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/07(木) 23:05:13.02 ID:pga96Fg40

 黒子「わたくし達を閉じ込めたのが……恐がらせようとするのが目的なら、やった人物は外で反応を眺めているかもしれないですの。向こうが予想しえない変化があれば、何かの反応があるかもと思っただけですの」

 ほとんど苦し紛れに近い言い訳をする。
 平静を保とうと意識するが、多少瞳が左右に泳ぎだしていた。

 あゆみ「だいだい分かったわ。まあ、出られるようにはなったけど……」

 黒子に向けていた目つきをさらにきつくする。

 あゆみ「こんなことをする貴女は得体が知れないわ!!」

 黒子を睨み付ける視線が痛く感じられた。
 不信の色が濃く滲み出ていた。
 二人の間に気まずい空気が一気に漂いだしているのは言うまでも無い。

826 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/07(木) 23:05:39.59 ID:pga96Fg40

 黒子「とにかく、出られるようになりましたし……わたくしは出て行きますの」

 あゆみ「…………」

 出入口に向かって歩き出す黒子。
 あゆみはじっとその場で座り込んだまま、なおも黒子を睨み付けていた。

 黒子「こんなことを言うのもなんですけど、気をつけてくださいまし。得体の知れない幽霊っぽいのがいたり……」

 あゆみ「……そんなの分かってる。というか……」

 静かに椅子から立ち上がった。
 思わず振り返る黒子。

827 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/07(木) 23:06:08.99 ID:pga96Fg40


 あゆみ「私を一人にしないで」


 ロウソクを手にしながら、今にも泣きそうな目で黒子をじっと見つめていた。

 黒子「付いてくるのは、わたくしは拒みはしませんわ。貴女はそれでいいですの?」

 あゆみ「信用するわけじゃないけど……これ以上一人でいるのは嫌。恐くてたまらないわ」

 黒子「別に構いませんけど……ただ……」

 あゆみ「何よ」

 黒子「そのロウソクの炎、お借りしてもよろしくて?」

 あゆみ「どうぞ」

 手にしていたロウソクの芯を、あゆみの持っているロウソクに近づける。
 炎に触れた途端に、もう一つの小さな炎が灯る。
 教室を照らす光が、わずかながら明るくなった。

828 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/07(木) 23:06:44.50 ID:pga96Fg40

 黒子「さっさと出ましょうか」

 あゆみ「ちょっと待ってくれない?」

 黒子「何ですの?」

 怪訝そうな目をする黒子の前で、あゆみはスカートのポケットをまさぐりだす。
 そこから取り出したのは――1本のロウソク。
 それにも炎をつけて、机の上に置く。

 あゆみ「私が来た目印を置いておかなきゃ」

 黒子「それで分かるものですの?」

 あゆみが一体何本のロウソクを、そして、なぜ持ち歩いているのかは――訊かなかった。

829 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/07(木) 23:07:21.84 ID:pga96Fg40

 あゆみ「うん。クラスメートや先生だったら、このロウソクを見たらすぐに分かると思うし」

 黒子「そうですの……」

 あゆみ「篠崎さんの恐いロウソクって言ったら、うちのクラスで知らない人はいないから」

 黒子「ひょっとして篠崎さん……怪談とか都市伝説とかをよくやったりしてますの?」

 あゆみ「そうだけど。このロウソクも怪談で使うやつだし」

 単なる女子高生がなぜ数本ものロウソクを持ち歩く理由が分かった途端、黒子は内心ため息を吐いた。
 この篠崎あゆみという人物は、結構変わった人物だという印象が刻み込まれる。
 そんな意味で有名なのだから――ロウソクで誰が来たかというのが一発で把握できるというのも分かる気がする。

 あゆみがロウソクを置き終えたのを見計らい、廊下に出ようとした――その時。

 黒子(……何ですの?新聞?)

 出入口の傍に貼り付けてある、古びた新聞紙が目に入った。
 【天神町奉知新聞】という、見たことのない新聞社の新聞だった。
 地方の新聞だろうと思うが――奉知という、妙にいかめしい言葉が心に引っかかった。

 黒子(昭和48年!?どれだけ昔のやつですの!?)

 目を白黒させながら、でかでかと載った見出しと記事の内容を目で追う。

830 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/07(木) 23:07:49.62 ID:pga96Fg40


 『【児童四名 連続誘拐・殺害事件 速報】

  わが町の誇る学び舎『天神小学校』に於いて、
  忌むべき犯罪が勃発した。
  ここひと月の間に、
  町内で多数発生していた
  『連続児童失踪事件』は
    当局の捜査の結果、
  急転直下 最悪の形で解決へと向かった
  昭和四拾八年 九月拾八日 午後七時、
  同校内にて 失踪中の児童たちの亡骸と
  血の付いた鋏を持ち放心している
  教員一名を発見、これを確保した
  遺体は全て、舌が*り取ら*ており、
  ***を凶器**定*』

 続きはちぎり取られていて、読むことができなかった。
 
831 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/07(木) 23:08:17.07 ID:pga96Fg40
 
 黒子「ここは……天神小学校っていう学校の廃校ですの?」

 あゆみ「ええ。私の通っている学校ができる前にあった小学校。昔に取り壊されたはずなんだけど……」

 黒子「そうですの!?」

 頭の中は一瞬混乱しだした。
 取り壊されたはずの小学校。
 なのに、今自分たちのいるこの空間には朽ちた形であるが、現存している。

 黒子「貴女は……どこからここに来ましたの?」

 あゆみ「どこからって……私の学校の教室からよ」

 黒子「貴女の学校は?」

 あゆみ「如月学園高等部。クラスは2年9組だけど」

 彼女の制服の胸に【2-9 篠崎あゆみ】と書かれた名札が付いていた。
 学校名はやはり学園都市の外の学校だ。
 もちろん黒子は聞いたことが無い。

832 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/07(木) 23:08:57.09 ID:pga96Fg40

 黒子「あと……貴女の飛ばされた年代と日時は?」

 あゆみ「それがどうしたの?」

 黒子「いいですから」

 あゆみが口にした年代と日付。
 柵川中学の初春の教室で床が裂けて――黒子がこの廃校に飛ばされた日時と同じだった。
 ようやく一つの考えがまとまった。


 黒子「なるほど……とにかく、まずはここを出ましょう。話はそれからしますの」

 あゆみ「う、うん……」

 教室の外へと歩き出す黒子に、おずおずと付いて来るあゆみ。



 黒子(――どうやら……奇妙な亜空間に飛ばされたのは、間違いない様ですの)

 そう思いながら、黒子は出入口をゆっくりとくぐって、廊下へと出た。
833 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/07(木) 23:15:02.56 ID:pga96Fg40
本日の投下はここまでです。
次回も数日〜1週間程度間隔が開く見込みです。

なお、>>815のAルートの場合は、棚の中を調べたが何もなく、>>821に繋がるルートになる予定でした。

>>818
今回は残念ながらですが……。

>>819
>>118のBを選択した場合のルートは>>831の内容と、わずかながらではありますが変化がありますので、いけたらその分もあわせて投下しようかと思います。
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 00:04:25.69 ID:Y8QoAyJD0
乙でした
作者が来る前にpsp版買ってクリアした俺に死角はない!!
プレイしたあとだと文章読むだけで場面と音が想像できて楽しい、けど前より怖い
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/10(日) 03:26:23.84 ID:8y1ulGoe0
おつおつ
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/10(日) 11:27:40.10 ID:2lhJVauy0
続き気になる
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/14(木) 22:38:18.25 ID:6s4ApO7k0
コープスパーティの続編決定してたのか
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/15(金) 18:52:43.94 ID:CA4ZLmW90
まだかなー
839 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/04/20(水) 22:45:10.00 ID:HgyAm96r0
前に言っていた予定より、かなり遅れて申し訳ありません。
大変、お待たせしました。
本日の分を投下いたします。

改めて、読んで下さっている方に感謝致します。

840 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:45:56.71 ID:HgyAm96r0

 廊下は相変わらず闇に閉ざされていた。
 天井からぶら下がっている照明も、まったく機能していない。

 黒子「さて……外に出たのはいいでしょうけど……どうしましょう」

 あゆみ「そういえば、ここに来る間だけど、私のクラスメートを見なかった……よね?」

 そう言いながら、横から黒子の顔を恐る恐る覗き込むように見つめる。


 黒子「貴女のクラスメートはおろか、生きている人と会ったのは貴女が初めてですの」

 あゆみ「そう……」

 黒子「貴女方は何人、ここに連れてこられましたの?」

 あゆみ「先生を入れて9人。女が6人に、男が3人」

 黒子「そんなにも……一体、何がありまして?」

 あゆみ「クラスメートの1人が転校することになって……」

 そこで言葉を一端切り、小さく息をする。
 少しの汗が額を流れ落ちようとしていたのを、手で拭って――言った。
841 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:46:56.55 ID:HgyAm96r0

 あゆみ「おまじないをしたの。そしたら、地震が起きて、床が崩れてこの廃校に……」

 黒子「――!?」


 思わずはっと息を呑んでしまう。

 黒子がこの空間に連れてこられたときの状況と――まったく同じだったのだ。


 黒子「そのおまじないって……『幸せのサチコさん』ですの?」

 あゆみ「そうよ。それは貴女も?」

 黒子「そうですの」

 あゆみ「ということは、白井さん。貴女といっしょにこの空間に連れてこられた人がいるの?」

 黒子「ええ。わたくしと女3人ですの。お姉さまと、友人が2人ですの……って、途中で会ったりとかしましたの?」

 あゆみ「ううん。他の学校の子と会ったのは、貴女が初めて……」

 そこで一旦言葉を切ると、表情に影を落とした。

842 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:47:37.10 ID:HgyAm96r0

 あゆみ「他校の生徒の……死体ならたくさん見てきたけど……」

 黒子「それ、ひとつお伺いしますの。その中に、お姉さまや友人がいましたの?」

 続けて、美琴、初春、佐天の3人の服装や特徴を告げる。

 
 あゆみ「ううん。その人たちはいなかった」

 暗い表情のまま、小さく首を振る。

 黒子「そうですの。本当に無事だったらいいのですが……」

 あゆみ「ええ。これ以上、誰も死なないでほしいわよ」

 下をうつむいたまま。
 喉の奥から絞り出したような低い声で、言葉を続けだした。




 あゆみ「1人……クラスメートが……目の前で殺されたから……」


 下唇をぎゅっと強く噛み締めていた。
 今にも涙が出そうなのをこらえながら、じっと黒子の顔を見つめる。

843 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:48:36.21 ID:HgyAm96r0

 黒子「…………」

 何も言えなかった。
 いや――どんな言葉をかけたらよいのか分からないといったほうが正確だろう。
 廊下の外で雨が降りしきる音だけが、ただ響いていた。

 あゆみ「鈴本さん……転校するクラスメートの女の子だったわ。保健室で子供の幽霊に心を取り込まれそうになってたから、助けようとしたの」

 廊下に面した破れた窓を、力ない様子で見上げる。

 黒子(子供の幽霊?1階で出くわしたあの少年ですの?)

 先程まで目の当たりにしてきたことを思い起こす。


 黒子(それとも……トイレの鏡の……赤い服の少女?)

844 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:49:07.73 ID:HgyAm96r0


 その時、脳裏に浮かぶ。


 鏡越しに映った、赤い服を着た青白い少女。
 長い髪の隙間から覗く――恨めしげな視線。


 黒子(――!!)

 思い起こした途端――全身に寒気が走った。
 ぶるぶると震えそうになるのを、必死になってこらえる。
 

 あゆみ「七星さんが、霊を弔う方法を教えてくれたから、その通りやったら……霊が怒ってしまって……」

 そして、ゆっくりと教室の左手へと延びる廊下を向き、視線を下へと落とした。
 声が徐々にくぐもって――。

845 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:49:55.94 ID:HgyAm96r0



 あゆみ「……霊に引きずられて……壁に叩きつけられて、砕けたわ……」


 目には涙が浮かんでいた。
 うつむきながら、こぼれる涙を手で拭っていた。
 

 黒子「砕けたって……」

 あゆみの話す内容について、今ひとつイメージが湧かない。
 内心、首を傾げた。 


 あゆみ「そのままよ。壁にぶつけられて、破裂して……あああ!!」

 話の途中で、急に怯えだし、悲鳴を上げた。
 頭を抱えて、全身をガクガクと震わせながら、その場にしゃがみこんでしまう。
 そして、右手の指を先へと続く廊下の方を指差していた。


 黒子「ち、ちょっと、落ち着いてくださいまし」

 あゆみの取り乱しっぷりに、慌ててなだめようとする。

846 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:50:41.39 ID:HgyAm96r0


 黒子(破裂って……ん?)

 一つのことが何気に思い起こされる。


 あゆみが指差す廊下の先――そこは3階への階段と、右に伸びる廊下があるはず。

 そのうち、右へと進む廊下。


 ――少し進むと、閉ざされた理科室があって。
 

 ――さらに進むと、右に折れ曲がって――。


 ――先には……。


847 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:51:16.31 ID:HgyAm96r0



 黒子「うっ!?」


 先程見た、光景。
 思い起こした途端に、全身に戦慄が走り、再び嘔吐感が黒子を襲った。



 壁や床にぶちまけられた――赤い液体。


 床に散らばった――赤い肉塊。


 そして、その中に埋もれていた――赤く染まった布切れ。


848 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:51:51.28 ID:HgyAm96r0

 黒子「まさか……あの奥の肉塊が……貴女のご学友の……」

 吐き気をなんとか堪えながら、あゆみの体を抱きとめた。
 だが、そんな黒子の手も小刻みに震えていた。

 あゆみ「そ、それ以上はやめて。思い出すのも嫌」

 黒子「も、申し訳ないですの……」

 なおも怯えるあゆみをよそに、顔を上げ、廊下の奥を見つめる。

 一体どれほどの力が掛かったというのか。
 引きずって、壁にぶつけただけで、人体をあんな状態にさせる――どれだけとてつもない力が加わったというのか。
 力だけで見たなら、学園都市の能力者――それもLEVEL5クラスに相当するといってもおかしくない。

 それを、あの児童霊がやったというのなら――。

 黒子(そこまでとてつもないものだったとは……相当厄介ですの)

 心の底でため息を吐きながら、あゆみの顔を覗き込む。

849 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:52:27.93 ID:HgyAm96r0

 あゆみ「う……ううっ……」

 黒子の腕にしがみつきながら、いまだに泣きじゃくっていた。
 落ち着くまでに、かなりの時間を要しそうだ。


 黒子(異空間に、児童霊……とんでもないのに巻き込まれてしまいましたの)

 自分の置かれた状況を思い起こし、再度ため息を吐いてしまう。

 黒子(まぁ、どうするかは、じっくりと考えるとしますの。時間はたっぷりあるでしょうし)

 あゆみを抱きとめながら、壁を背にして――ぼんやりと穴の開いた天井を眺めるのみだった。
850 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:53:26.28 ID:HgyAm96r0

 それから――どれだけの時間が経ったのだろうか。
 10分か、30分か、1時間か――いや、それ以上か。
 時計を見たわけではないので、正確には分からないが――かなりの時間が経過したかのように思える。

 あゆみ「…………」

 黒子「……もう、落ち着きまして?」

 あゆみ「うん……」

 すっかり泣き止んでいた。
 だが、言葉とは裏腹に、目の周りを赤く腫らし、疲れた表情を露にしている。

851 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:54:01.36 ID:HgyAm96r0

 黒子「とにかく、貴女のクラスメートを探すとしましょうか。わたくしも付き合いますの」

 あゆみ「いいの?」

 黒子「わたくしもお姉さま達を探さなくてはいけませんし。それに、一人にしないでって言ったのは貴女じゃないですの」

 あゆみ「それはそうだけど……悪いわね」

 黒子「構いませんの。こんな所でじっとしているのも何でしょうし、そろそろ行きますの」

 その場にしゃがみこんでいるあゆみの手を取った。
 指先はすっかり冷えていて、小刻みに震えているのが黒子の指にも伝わってくる。


 あゆみ「…………」

 黒子に引っ張られるまま、ゆっくりと立ち上がった――その時。

 何かが、あゆみの制服のポケットから転がり落ちた。

852 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:55:02.13 ID:HgyAm96r0

 黒子「ん?何ですの、これ」

 怪訝な顔をして、落ちたものを拾い上げる。


 ――それは1体の人形だった。


 キューピー人形のような丸っこい目をして、古めかしい子供服をつけた人形だった。
 いかにも幼児向けの、それも相当前の時代の人形のように思える。




 あゆみ「それ?もうどうだっていい」

 目にした途端に、吐き捨てるように言った。
 そして、人形から目をそむける。

853 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:55:50.47 ID:HgyAm96r0

 黒子「は?どういうことですの?」

 あまりにも妙なあゆみの態度に目を白黒させる。




 あゆみ「あの子達の霊を鎮めるどころか、怒らせたんだから……」




   ……ギィ……ギギィ……


      ……ギギ……ギィ……


 足を乗せるたびに軋む、朽ちた廊下。
 二人が足を乗せるたびに、不協和音のように鳴り響き、気味悪さを一層かき立てる。

854 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:56:36.28 ID:HgyAm96r0



 あゆみ「そのせいで……鈴本さんがっ……!!」

 うつむいた表情には、怒りと悔しさがにじみ出ていた。
 ロウソクを乗せた皿を掴む指に力が入る。
 かすかに灯る炎が小刻みに揺れていた。


 黒子(なるほど。これであの児童霊を鎮めようとして――)

 手にした人形をまじまじと見つめながら、思考をめぐらせる。


 黒子(が、結局失敗して……霊につかまっていたクラスメートが……あんなように殺されたわけですの……)


 再び――理科室を過ぎた廊下の光景が、脳裏によみがえる。

 それを振り払おうと、懸命に首を振って――その光景を頭の中から消し去ろうとした。
 正直、黒子にとっても思い出したくないものだった。

 だが、クラスメートという身近な存在が、あんな目に遭うのを目の当たりにした――あゆみのショックは計り知れないものだろう。
 そう思うと、やるせなくなってくる。

855 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:57:19.83 ID:HgyAm96r0

 黒子「あれ?」

 ふと足を止めた。

 そこは【2-A】の教室の前だった。
 手前側の入口は相変わらずぴっちりと閉まっていた。





 が、後方の入口の引き戸は――半分開いていた。


856 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:57:58.28 ID:HgyAm96r0

 あゆみ「……どうかしたの?」

 黒子「わたくしが先程ここを通ったときは、閉まっていましたの」

 あゆみ「え、そう?」

 黒子「間違いありませんの。扉を開けようとしても開きませんでしたの」

 あゆみ「誰か……来ているのかな……」

 歩調をやや速めて、教室の中に踏み込もうとする。


 黒子「待ってくださいまし。人ではなく、幽霊かもしれませんの」

 あゆみ「そ、それもあるよね」

 黒子に止められて、慌てて脚の動きを止める。
 そんなあゆみの前に出るように、黒子が身を乗り出した。

857 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:58:46.04 ID:HgyAm96r0


 黒子「先にわたくしが中の様子を見ますの」

 あゆみ「わかった。お願い」

 ロウソクを持った手を教室の中へと、ゆっくりと伸ばす。
 内部は照明が灯っていなく、真っ暗だ。

 小さな炎が、ほのかに暗闇の中を照らし出す。





 ――中央付近に佇む人影が1つ。





858 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 22:59:17.15 ID:HgyAm96r0

 黒子「――ごくり」

 固唾を呑み、恐る恐る教室の中に足を踏み入れる。

 人影は後ろを向いたままだった。
 じわじわとその姿を照らし出しているにもかかわらず、身動きする気配がない。
 黒子らの存在に、完全に気づいていない様子だった。

 あゆみも黒子の背後にぴったりと貼りつくように教室に踏み込むが――。


 あゆみ「な、七星さん?」


 人影を目にした途端、声を上げた。

 黒子「えっ?」

 あゆみの唐突な反応にびっくりして、ロウソクを落としそうになる。

859 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 23:00:20.62 ID:HgyAm96r0



 ??「あら、貴女は……」


 人影は黒子とあゆみのいる方へと振り向く。

 五芒星を象った髪飾りを付けた、ショートカットの髪。
 紫色のブレザーにスカート、さらには腰には黒っぽい上着を巻きつけていた。
 ぱっと見は女子高生のようだ。

 眼鏡の奥から覗き込む瞳に――光がないのを除いては。

 さながら――死人のような目つきといってもおかしくない。

860 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 23:01:04.18 ID:HgyAm96r0


 黒子「何者ですの?」

 戦慄を覚え、あゆみの方へと振り返る。

 あゆみ「……き……」

 だが、そんな黒子の声が聞こえていないのか、人影――七星と呼んだ女――に恨めしそうな視線を向けていた。
 うわごとのようにあゆみは何かをつぶやいていたが、黒子はよく聞き取れなかった。


 七星「今度は別の方を連れてきて、どうかなさいました?」

 当の本人は、なりふり構うことなく、黒子を見つめていた。




 ――無表情で。


 黒子「…………」

 気味の悪い――得も知れない寒気が、黒子を襲った。

861 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 23:01:30.85 ID:HgyAm96r0



 あゆみ「……うそつき!うそつき!七星さんのうそつき!」

 七星をキッと睨み付けながら、一気に責め立てる。そして――


 あゆみ「……鈴本さんを……返してよ……」

 傍にいた黒子の肩に手を掛け、そのままもたれ掛った――。

 黒子はただ、目の前で起きているやり取りがよく飲み込めずに――ただ、呆然としているだけだった。 

862 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/20(水) 23:06:04.15 ID:HgyAm96r0
本日の投下はここまでです。
次回も恐らく……下手したらかなりの間隔が開くと思います。

コープスBSは8/4、PC版Chapter5&EPが7/28……これまでにこのネタを完結できそうか、微妙です。
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/21(木) 04:30:27.59 ID:jB7Vi5hBo
乙乙
先が気になるけどリアル生活大事にしてね
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/21(木) 18:22:10.97 ID:sZD26zCU0
おつおつ
毎度楽しみにしてるよ
BS発売から過ぎたっていいじゃない
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/23(土) 15:05:42.46 ID:Lzry8EQDO
乙ー
無理しないでね
いつまでも待ってるぜ
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/23(土) 18:23:53.92 ID:wJtw18qw0
乙ー。
BSはやはり世以子や繭達を助けられるのかな・・・。
867 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/04/29(金) 23:04:19.88 ID:/lH7RaFJ0
お待たせしました。
本日分を投下いたします。
868 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:05:23.99 ID:/lH7RaFJ0


 2-Aの教室内部。

 目の前の存在をいまだに睨み付けるあゆみ。
 得体の知れない人物の登場、そして同伴者の突拍子もない行動に、ただ唖然とするしか術がない黒子。

 そして、そんな二人を無表情のまま、ぼんやりと見つめ続けるだけの七星。

 何とも言いようのない、ぎすぎすした空気が、この教室の中を支配していた。



869 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:05:49.98 ID:/lH7RaFJ0




 七星「……間違ってはいません」

 そんな空気を破るかのような、か細いつぶやき。
 表情はおろか、瞳さえ動かさないまま、ただ口だけが動いていた。

 七星「あの子達の霊をひとりづつでも安息に弔うことで、彼らの囚われた魂が形成しているこの多重閉鎖空間は存在できなくなるはずです」

 あゆみ「でもっ、成仏しなかったじゃない!犯人の懺悔でも!」

 目に涙を浮かべながら、七星をにらみつけるあゆみ。

 黒子(成仏?多重閉鎖空間?何がなんやらよく分かりませんの)

 二人の会話の意図――それ以前に内容がよくつかめず、ただ見守るしかない黒子。
 この廃校から解放される方法を話し合っているようだが、そもそも霊だの成仏だのあまりにもオカルトじみたものばかり。
 科学で埋め尽くされた学園都市の住人に、それが確実な方法だといわれてもピンと来ないのも無理はない。
 もっとも、この廃校の不可思議さや、霊などは目の当たりにしてきた中で、科学的な手法で通用するとも思えていなかったが。

 何気なく、周囲を見回す。
 入ってきた入口の傍に、1枚の貼り紙が貼ってあった。

870 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:06:18.85 ID:/lH7RaFJ0




          『ひとつ、

        わかったことがある

        子供達も被害者だ

          憎むべきは

        彼らを殺害した者

         この**の****』





871 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:06:50.64 ID:/lH7RaFJ0


 黒子(……子供達も被害者?あの子供の霊のことですの?)

 その時、あることが黒子の脳裏に浮かぶ。
 3-Aの教室で見た新聞の内容。

 この小学校で起きた、児童誘拐殺害事件のこと。
 児童が教員を殺した事件。

 目の前の会話の内容と、そのことをあわせると――一つの仮定ができあがる。
 そのまま、自然と口が動く。

 黒子「割り込むようで悪いですけど……事件で殺された子供の霊が、わたくしたちをこの空間に閉じ込めていると言うのですの?」

 七星「はい。あなたはまだ聞かされていなかったのですね」

 ちらりと黒子の脇にいるあゆみを一瞥する。

 あゆみ「…………」

 対して、あゆみは何も言わず、じっと七星を睨み続けたままだった。

872 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:07:39.42 ID:/lH7RaFJ0

 黒子「ええ。それはともかく、この空間から脱出する方法は、事件の被害者達の霊を成仏させることですのね?」

 七星「そうなると思うのです」

 黒子「そのために、犯人の懺悔が……」

 あゆみ「でも、それで霊が怒って鈴本さんが!!」

 黒子「黙ってくださいまし」

 怒りの表情を露にして、いまにも七星に掴みかからん勢いで身を乗り出すあゆみ。
 それを黒子はすかさず制止する。

 あゆみ「ううっ……」

 その場で、力なく泣き崩れた。
 そんなあゆみをそっと見下ろす黒子。

873 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:08:08.20 ID:/lH7RaFJ0

 黒子「…………」

 手にしている人形を見つめなおす。
 あゆみが霊を鎮めるのに使ったと思われる人形。

 結局は、失敗して――クラスメートの命が失われた。

 そのまま顔を上げて、黒子はじっと七星を見つめた。


 黒子「……この人形は犯人の懺悔にならないと言うのでして?」

 七星「それは分かりません。でも、結果として霊が怒ったのなら、違うかもしれませんね」

 あゆみ「だったら、どうしたらいいのよ……」

 目に涙を浮かべながら、ゆっくりと顔をあげるあゆみ。
 恨みが目一杯に込められた視線を、七星に向けて。

 七星は相変わらず、死人のような目つきでいた。
 それがさながら他人事であるかのように、黒子には感じられた。

874 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:08:35.77 ID:/lH7RaFJ0

 七星「犯人は今も校舎をさまよっています」

 黒子「今も、って……どんな奴ですの?」

 七星「鉄槌を持った男です。もっとも、その人物も死んでいますが」

 黒子「霊になってそいつもさまよっているわけですの?」

 七星「ええ。見境なく他人を傷つけながら、犠牲者を探し回っているようです」

 黒子「そんな奴を、懺悔させろと言うわけですのね」

 七星「そんな所かもしれません。あの男の霊も暴走しているようです。まずは見つけ出して、安息に弔うのが急務かもしれません」

 そこで言葉を切って、光のない瞳を黒子の手元に向ける。 

 黒子「…………」

 何となくではあるが、感じるところがあった。
 が、あえて口にはしなかった。

875 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:09:13.16 ID:/lH7RaFJ0

 七星「センセイの調べた資料によると……あの文化人形は、犯人が母親からもらった形見の品だったそうです」

 黒子「文化人形って……これのことですの?」
 
 手にしていた人形を七星の目の前に差し出す。

 七星「ええ。それはあの男の持ち物だったようです。母親に貰った、大事な心の拠り所だったようで……きっとそれを探しているのでしょう」

 黒子「なるほど……これを餌に、犯人の霊をおびき寄せるわけですの……で」

 言葉を切り、手元の人形から顔を上げ、七星をじっと見つめ返す。
 その視線に、問い詰めるような感情を込めて。

 黒子「具体的に、犯人の霊を弔うにはどうすればいいですの?」

 七星「この校舎のどこかにあの男の亡骸があるはずです。それを見つけて返してあげればいいかと思います」

 黒子「なるほど。そうですの……」

 外で降りしきる雨の音が、延々と教室の中に響き渡る。

876 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:09:40.65 ID:/lH7RaFJ0

 黒子(正直、確実性のない答えばかりですの。根拠に乏しいですし……いや、むしろ……)

 脳裏である考えがまとまる。
 風紀委員としての勘によるもので、根拠がないと言われればそれまでなのだが。





 黒子(この七星という女……本当は脱出する方法については分かっていないか、それとも――)



 黒子(――分かっているが、あえてはぐらかしていますわね……)



 黒子(――となると、こいつに聞いても、これ以上答えが出ない。むしろ知っている思われるのは、ネタ元になっている――)



 そして、七星をじっと見つめ直し、口を開いた。


 黒子「センセイというのは誰ですの?」

877 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:10:09.39 ID:/lH7RaFJ0








 七星「……私のことは詮索するな」

 無表情だった顔が一瞬にして、怒りの表情に変わる。
 光がない瞳に憎しみを込めながら、じっと黒子を睨みつけた。
 声にドスを効かせて、威嚇する口調で言い放った。




   ……グラ……グラ……



      ……グラ……グラグラッ!



 
 同時に教室が激しく揺れだした。

878 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:10:38.62 ID:/lH7RaFJ0

 黒子(こいつ、能力者ですの?)

 一方で黒子はあゆみとは対称的に、動じる気配を見せない。
 ただじっと七星の顔を見つめ続ける。



    ……ガシャン!



 傍にあった照明器具が、床にめがけて落下する。
 勢いよく砕け散った蛍光灯の破片が黒子の足元に飛んできた。

879 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:11:08.15 ID:/lH7RaFJ0

 黒子「まぁ、派手にやってくださいますわね」

 なおも七星を見つめる黒子の視線。
 それは、風紀委員としての彼女が犯罪者に向き合うものになっていた。

 問い詰められたら、相手を威嚇しながら、能力を使って反撃する。
 学園都市で能力を使う犯罪者がよくやる反応だった。
 風紀委員をやっていれば、よく出くわす光景であり、特に動じるという程ではない。

 黒子「貴女は学園都市の人間ではないのに、ここまでの能力。大したものですの」

 余裕を見せつつ、涼しげな反応をする黒子。
 傍から見れば、挑発をしているようにもとれる。

 あゆみ「ひっ……い……」

 黒子の体にしがみつくあゆみ。
 顔を下に向けながら、なおも怯えている。
 黒子と七星のやりとりに口を挟む余裕はなかった。
880 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:11:51.22 ID:/lH7RaFJ0






 七星「……ギギギギ……」



 獣が腹の底から絞り出すような奇怪なうめき声。
 目を大きく見開いた七星の口から、絶え間なく吐き出されていた。

 そして、顔を両手で覆いだす。

 教室を襲っていた揺れは、ぱたりと止まった。
 七星の不気味なうめき声だけが、室内に響き渡る。

881 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:12:17.80 ID:/lH7RaFJ0


 黒子「今度は何ですの?」

 訝しげに思いつつ、スカートの下に仕込んだ鉄釘に手を掛ける。
 次に何か妙な動きをしたら、テレポートで鉄釘を飛ばして、押し倒し、床に磔にする状態で拘束する――そんな腹積もりでいた。
 
 だが――。





 七星「……お友達の死は……あなたのせい……」




 か細い声でそう呟いて――七星の姿は徐々に薄れていった。

 そして、闇に溶け込むようにして――消滅した。

882 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:12:44.69 ID:/lH7RaFJ0

 黒子「くっ!!瞬間移動系の能力ですの?」

 歯軋りをするかのように、悔しげな表情のまま、七星が消滅した後に残された空間をただ睨みつける黒子。

 あゆみ「…………」

 対称的に呆然とした表情を、目の前の空間に向けていたあゆみ。

 が、すぐに黒子の顔を見上げる。

 あゆみ「ねえ」

 黒子「何ですの」



 あゆみ「学園都市だの、能力だの言ってたけど……白井さんって、学園都市の人なの?」

 黒子「――!!」

 思わぬあゆみの問いかけに、はっとする。

883 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:13:12.49 ID:/lH7RaFJ0

 黒子(――しまった)

 周囲に今いたのは、外部の人間ばかり――そのことを黒子はすっかり失念していた。
 学園都市の人間ということを明かせば、恐らく能力者ということも明かさざるを得ない流れになるのは、容易に想像できることだ。

 このまま隠し通してもいいが――表情を見た限り、あゆみはうすうす感づいている様子だった。
 少し考えたが、やがて――


 黒子(仕方がないですの)

 心の底で腹をくくった。

 つい先程まで能力と思える現象を目の当たりにした後だ。
 あゆみも出会ったときと比べれば、ある程度は落ち着いている。

884 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:14:07.77 ID:/lH7RaFJ0

 黒子「え、ええ。言ってなかったですけど、わたくしは学園都市に住んでいますの」

 たどたどしい口調で話し出す。

 あゆみ「ふ〜ん、そうなんだ」

 特に怯えたりするような反応はない。
 むしろ平静な状態だった。

 あゆみ「いいな〜。白井さんの着ている制服見て、もしやって思ってたんだけど」

 嬉しそうな表情になり、問いかけてくる。
 あゆみのそんな意外な反応に、黒子は一瞬たじろいだ。

 黒子「篠崎さん……貴女、常盤台のことはご存知で?」

 あゆみ「十分知ってる。とんでもない超能力者ばかりがいるお嬢様学校だって、オカルトマニアの間じゃ有名だよ」

 黒子「そ、そうですの……」

 思わず乾いた笑いをあげそうになる。
 能力を知って怖がる反応がなかったことを安心する。
 その反面、自分の通っている学校について、誤った認識をされていることについて複雑な気分になっていた。

 黒子(うちの学校には確かにLEVEL3以上の能力者しかいませんけど、超能力者(LEVEL5)は2人しかいませんことよ)

 そんな突っ込みを心の中で入れる。

885 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:14:49.80 ID:/lH7RaFJ0

 あゆみ「そっか。常盤台中学ってことは、超能力なんかも使えるとか?」

 子供のように、わくわくした面持ちで黒子に詰め寄ってくる。

 黒子(もはや、能力者ってことを隠せないようですの)

 そして、心の中でため息を吐いた。
 半ば開き直りに近い気持ちになっていた。




 黒子「ええ。そうですの。ま、超能力というほどではありませんけど」

 そう言って、近くの机の上に置いてあったロウソクを手にする。

 そして、脳内で演算を行った直後――


 ロウソクはあゆみの足元に移動していた。

 離れた場所にいた黒子の手には――何もなかった。

886 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:15:22.86 ID:/lH7RaFJ0

 あゆみ「え?」

 一瞬目の前で何が起こったのか理解できないでいた。
 まばたきを幾度も激しくしながら、突如現れたロウソクをまじまじと見つめている。

 黒子「わたくしの能力は空間移動ですの。言ってみればテレポートですわね」

 あゆみ「そうなの、ってことは……」

 顔から笑みが消え、真剣なまなざしで黒子を見つめる。




 あゆみ「ここから脱出できるわけだね。貴女の能力があれば」



 黒子(やっぱり、こんな話になりましたか。だから、空間移動のことは言う気がしなかったのですの)

887 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:15:57.76 ID:/lH7RaFJ0

 黒子(やっぱり、こんな話になりましたか。だから、空間移動のことは言う気がしなかったのですの)

 内心で舌打ちをする。
 霊などの異様なモノが徘徊し、いくつもの命が奪われている、この空間。
 誰もが一刻も早く立ち去りたいと思うはず。

 あゆみも黒子も――そう思っていた。

 そんな中、空間移動なんていう、外界から閉ざされた空間からでも脱出できると思える方法があれば――安易に飛びついてくるのは想像に難くない。

 しかし、現実はそうではない。
 黒子の空間移動の能力はかなり限られている。

 黒子および黒子が触れているものが対象であり、しかも、1回に移動できる総重量は135kg、移動距離も81.5mというものだった。

 さらに――質の悪いことに、この空間内で移動した場合、移動予定先と実際に移動した場所との間に大きなずれが生じることを経験している。


 黒子「残念ですけど、この能力でこの廃校から脱出できるものとは思えませんの」

 あゆみ「え?なぜそう思うわけ?」

 不思議そうに、やや不満を含めた表情で黒子を見つめる。
 黒子は自分の能力の限界などについて説明をした。
 ついで、この空間で能力がおかしな作用を起こしていることも。

888 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:16:34.42 ID:/lH7RaFJ0

 あゆみ「そうなんだ……」

 少ししょげた素振りを見せる。

 黒子「使える所には使えますでしょうけど。もっとも、さっきの3-Aの教室でドアをこっそり移動させましたの」

 あゆみ「能力が見られたくないから……真っ暗にしたわけ?」

 黒子「ええ。ただ、だますわけではなかったですの。あのときの貴女は相当怯えていましたから。そんな時に能力なんか使ったら、わたくしが幽霊か化け物と誤解するでしょう?」

 あゆみ「うん。言われたらそうだね。そう思ったかもしれない」

 黒子「それに……あの七星が言ってた多重閉鎖空間……これは想像ですけど……」

 一旦言葉を切り、開け放しになった廊下の出入口を眺める。
 そして近くにあった椅子に腰掛けた。



 黒子「ここと同じような空間がいくつもあるようなものだと思いますの。そうだとしたら、わたくしがいくら探してもお姉さま達と会えないのも合点が行きますわ」

 あゆみ「空間と空間の移動は……できないよね?」

 黒子「恐らくは。自由にできるのでしたら、お姉さまをとっくに見つけていますの。ただ……」

 あゆみ「ただ?」

 目を白黒させるあゆみを目の前に、黒子は小さく息を吐く。

889 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:17:01.24 ID:/lH7RaFJ0




 黒子「これも想像ですけど……能力を使う使わないに関係なく、空間を移動させられている気がしますの」

 窓の外から稲光がまぶしく教室内を照らし出した。




  ……ドーン!


 雷が落ちる音が響き渡る。
 すぐに静寂が周囲を支配しだした。

890 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:17:48.11 ID:/lH7RaFJ0

 あゆみ「それって……どういうこと?」

 黒子「廊下の裂け目があったと思えば、嘘みたいに消えていたり、別の形状になっていたりすることが度々ありましたの。貴女にはそのような心当たりはなくて?」

 あゆみ「言われてみれば……あった気もする」

 黒子「それが知らず知らずのうちに起きていましたの」

 あゆみ「だとすると……持田君1人でも、探すなんて難しすぎるじゃない」

 黒子「クラスメートですの?」

 あゆみ「うん。おまじないをやって、この学校に閉じ込められてから……会えてない」

 そう言って、何気なく天井を見上げる。

891 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:18:39.13 ID:/lH7RaFJ0

 黒子「さて……ここでじっとしていても仕方がありませんの」

 あゆみ「だったら……犯人の霊を弔いに行く。心当たりがあるの」

 黒子「心当たりとは?そもそも……」

 そこで椅子から立ち上がって、あゆみの顔をじっと見つめる。

 黒子「あの女の言うことを信じるというわけですの。貴女は先程、あの女の言葉を信じた結果、あんな目に遭ったわけでしょう?」

 あゆみ「でも、やってみないことにはとも思うの。思えば、この文化人形であの子達の霊を鎮めようとしたのも、これが犯人の懺悔だと勝手に思ったわけだから」

 続いて、あゆみはこれまでに起きた経緯を話した。


 保健室でクラスメートが児童霊に囚われたこと。
 外で七星に会い、霊を鎮めることで、この空間が維持できなくなるといわれたこと。
 探した文化人形は、犯人の懺悔と思える言葉が発せられていたことから、これを霊たちに聞かせようと思ったこと。
 いざ保健室まで行って、霊に人形の言葉を聞かせた途端……母親に会いたいと泣きじゃくり、怒らせて……


 ――クラスメートがあんな殺され方をしてしまったこと……。

892 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:19:27.77 ID:/lH7RaFJ0

 黒子「人形が話すこと自体、不気味ですけど……」

 手にした文化人形を複雑な面持ちで眺める。
 今の所は、何も言葉を発する気配は――当然ない。
 むしろ、こんな気持ち悪いものだったのかと、思わず投げ捨てそうにさえなった。

 黒子「あの女は、霊を鎮める方法がこの人形を使うこととは言っていないのですね?」

 あゆみ「うん」

 黒子「まあ、それが完全に違うという根拠もないですし……やらなければ仕方がないというのもあるかもしれませんわね」

 そこで言葉を一旦切ると、窓のそばへと寄った。

893 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:19:54.92 ID:/lH7RaFJ0

 黒子「ただ……これだけははっきりと言えますの」

 雷が落ちたのか、強烈な稲光が黒子の顔を照らし出す。



 黒子「あの七星という女……思い切り裏がありますの。叩けば埃がわんさか出る気がしますの」



  ……ドーン!


 激しい雷鳴が教室に響き渡った。

 
894 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/04/29(金) 23:23:31.51 ID:/lH7RaFJ0
本日の投下はここまでです。
お心遣いの声援、本当に感謝です。
以後も間隔がかなり開くかと思いますが、まったり行こうかと思いますのでお願いいたします。
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/29(金) 23:26:27.25 ID:3NzWU+900
おつおつー。
もうそろそろ次スレか…
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/29(金) 23:29:42.11 ID:itNXG4KDO
乙です!いやぁ、とある×SIRENスレといいコープススレといいホラー物に囲まれてて幸せ・・・。


無理しないで投稿してくださいね(´・ω・`)
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 21:21:09.05 ID:xAs1FN/x0
おつおつ

>>896
幸せってお前…すげーな
898 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/05/10(火) 22:36:26.84 ID:+4C+A4pM0
お待たせしました。
続きを投下します。
899 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:36:58.90 ID:+4C+A4pM0

 あゆみ「それって……どういうことなの?」

 言われた言葉について、今ひとつ飲み込めずにいた。
 やや困惑した素振りで、黒子をまじまじと見る。

 黒子「そのままですの。あの女は人に言えない様な後ろめたい意図を隠し持っている気がしますの」

 あゆみ「後ろめたさ……かばうわけじゃないけど、そこまであるとは思えないけど」

 黒子「具体的な方法は挙げない。話が核心に触れだすと、意図的に論点をすりかえる……そんなところですの」

 窓の外を眺める。

 絶え間なく、降りしきる雨。
 ぼんやりと見える、暗闇の中に沈んだ樹海。

 曇りガラスにうっすらと映る――あゆみの暗い表情に、黒子の険しい表情。
900 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:37:40.26 ID:+4C+A4pM0

 黒子「センセイとか言っていたでしょう。あの女にこれ以上聞き出しても埒が明かない、その人物に訊いたほうがここのことが詳しく分かるかもしれない……そう思って、訊ねたら……あのザマですの」

 もっとも、その人物に会う事ができるかということは、別に置いてだが。

 あゆみ「それ、多分七星さんが探している大事な人の事だと思う。死んでさえも、気になっているみたいだし」

 黒子「どういうことですの?あの女は死んで、幽霊になっているとでも言いますの?」

 怪訝な顔であゆみの方を振り返る。
 瞳に光がないなど、生気は感じられなかったものの、死んで幽霊になっているとまでは思っていなかった。
 黒子がこれまで見た児童霊とは違って、青白くなかったということもある。
 その分、黒子は心に強い衝撃を受けた。
901 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:38:10.28 ID:+4C+A4pM0
 
 あゆみ「うん。既に命を落としているって言ってたから」

 黒子「幽霊で、あんなとてつもない能力を使うなんて……本当に訳が分からないですの。あの女は一体何者ですの」

 あゆみ「女子高生霊能力者で有名な人だったよ。冴之木七星っていう人なんだけど」

 黒子「霊能力……そんな能力、聞いたことないですの」

 あゆみの言葉に釈然とせず、首をかしげた。
 学園都市の能力開発で、霊に関するものは聞いたことがない。
 そもそも、霊の存在自体があるとは考えられていなく、研究も行われている事実も、黒子が知っている限りでは存在していない。

 が、別に引っかかるものがあった。それは――


902 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:38:41.65 ID:+4C+A4pM0

 黒子「冴之木七星とかいいましたわね。どこかでその苗字を見た様な感じがするのですけど……よく思い出せませんの」

 あゆみ「そうなの?小説で賞を取ったことも有名だけど」

 黒子「……それかも知れませんの」

 ぼんやりとした記憶の中に、それが思い当たった。
 確か寮のパソコンで見たニュース。
 女子高生でありながら、有名な賞を取って話題になっていたというもの。

 黒子(……でも、それ以外に何かで……)

 なおも無理に頭の中の記憶を掘り起こそうとする。
 寮以外の場所で、その名前を見た気がするのだが……。

 しかし――何かは思い出せずじまいだった。

903 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:39:10.32 ID:+4C+A4pM0

 あゆみ「学園都市でも知られていると思ったのだけど。オカルトマニアの間じゃ有名だよ」

 黒子「少なくとも霊能力者ということは初耳ですの」

 あゆみ「そうなんだ」

 黒子「まあ、いいですの。それよりも……」


 なおも釈然としないまま、あゆみのいる近くまで足を踏み込む。
 ギィギィという不快な音が、耳についた。 

 黒子「貴女の言ってた、心当たりとやらは何ですの?あの女の言うことしか手がかりがないのも癪ですけど、動かないままでいても仕方がありませんの」

 あゆみ「それなんだけどね……1階の廊下を通っていたときに、その人形が泣き出したの」

 黒子「こ、これがですの?」

 訝しく思っているのをあからさまにしながら、改めて、手にした文化人形を見つめる。
 一見すれば、何の変哲もない古臭い人形。
 機械などの仕掛けが施されている様子は微塵も感じられない。
 それがいきなり話しかけたり、泣き出したりするとなると――気味悪い以外の何者でもないと思えてしまう。

904 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:39:37.69 ID:+4C+A4pM0

 あゆみ「学園都市でも知られていると思ったのだけど。オカルトマニアの間じゃ有名だよ」

 黒子「少なくとも霊能力者ということは初耳ですの」

 あゆみ「そうなんだ」

 黒子「まあ、いいですの。それよりも……」


 なおも釈然としないまま、あゆみのいる近くまで足を踏み込む。
 ギィギィという不快な音が、耳についた。 

 黒子「貴女の言ってた、心当たりとやらは何ですの?あの女の言うことしか手がかりがないのも癪ですけど、動かないままでいても仕方がありませんの」

 あゆみ「それなんだけどね……1階の廊下を通っていたときに、その人形が泣き出したの」

 黒子「こ、これがですの?」

 訝しく思っているのをあからさまにしながら、改めて、手にした文化人形を見つめる。
 一見すれば、何の変哲もない古臭い人形。
 機械などの仕掛けが施されている様子は微塵も感じられない。
 それがいきなり話しかけたり、泣き出したりするとなると――気味悪い以外の何者でもないと思えてしまう。

905 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:41:16.88 ID:+4C+A4pM0

 あゆみ「ひょっとしたら、そこに何かがあるかもしれない……あの霊たちを鎮めることができそうな……」

 黒子「それだったら、いいのですけどね。ま、行って見ましょうか」

 あゆみ「うん」

 座っていた椅子からゆっくり立ち上がろうとした――その時。


 あゆみ「うっ……」

 バランスを崩してそのまま前の方へと倒れ掛かってしまう。
 とっさに黒子が抱きとめて、事なきを得たが。

 黒子「ちょっと、篠崎さん。大丈夫ですの?」

 あゆみ「ご、ごめん。ここのところ貧血気味だったから……」

 なおもふらつきながらも、何とか手近の机に左手を突いてなんとかバランスを保っていた。
 しかし、顔色は悪く、疲れの色が一気ににじみ出ているのがはっきりと黒子にも分かった。

906 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:43:01.47 ID:+4C+A4pM0

 黒子「無理しなくてもいいですの。もう少し休んでからでも遅くは……」

 あゆみ「ううん。大丈夫。そこまでってほどじゃないから……」

 黒子「……という割には、危なっかしそうですけど?」

 現に、あゆみは立ってもなお、時折ふらついていた。
 教室の出入口に向かって歩き出そうとするものの、足取りがおぼつかない。

 何もない路上を歩くのならまだしも――ここは朽ちている床の上。
 場所によっては木が腐って、抜け落ちている箇所が所々にある。
 ただでさえ、足元に用心して行かなければいけない所だ。

 それを貧血でフラフラになっている状態で行こうとするのは、どう見てもまともに進めそうに無い。
 最悪、足を踏み外して、抜け落ちた床から転落してしまいかねない――。

907 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:44:28.82 ID:+4C+A4pM0

 あゆみ「うぁ……」

 心配している矢先に、当の本人は、めくれあがった床に足を引っ掛けてしまっていた。


 黒子「まったく……仕方がありませんわね」

 それを目にして、ため息を吐きながら――あゆみの手を軽く掴む。
 触れた手はすっかり冷たくなっていて、黒子の指先にもそれがはっきりと伝わってくる。


 あゆみ「あたたかい……」

 黒子「――!?」

 ぬくもりを感じて、安堵の表情を浮かべていた。

 その一方で、黒子は触れた手の感触に違和感を覚えていた。

 親指と人差し指の間辺りに、ぬめるような感触。
 皮膚が冷たく感じた中で、そこだけが異様に暖かい。

 見ると――親指の根元付近が裂けていて、血が滲み出ていた。

 出血自体は大方治まっているものの、ばっくりと開いていた傷に、できたばかりの瘡蓋が生々しく見える。
 少しでもずらしたり、動かそうとするものなら、すぐにでも血が吹き出そうだった。
 触った黒子の手のひらにも、紅いシミが付着している。

908 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:45:58.69 ID:+4C+A4pM0

 黒子「篠崎さん。ひどい怪我してるじゃありませんの」

 あゆみ「3-Aの教室に来る前に転んで、切っちゃって……」

 黒子「ったく、こんな所じゃ傷の治りも悪いですの。ちょっとじっとしてくださいまし」

 あゆみ「え?何するの?」

 ブレザーのポケットの中をまさぐる黒子。
 目的のものはあったらしく、すぐさまそれ――1本のチューブ状の物体を取り出す。

 学園都市の風紀委員に支給されている、塗り薬だった。

 キャップを外し、中からジェル状の液体を少し絞り出し、すぐさまあゆみの手の傷に塗りつける。
 傷に沁みるということもなく、痛がる様子はなかったが、あゆみはまじまじとその様子を見つめていた。

909 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:46:48.93 ID:+4C+A4pM0
 
 黒子「ハンカチは持っていまして?」

 あゆみ「うん。さっき血を止めるのに使ったから、少し汚れているけど」

 スカートのポケットから出された白いハンカチ。
 所々が血で紅く滲みていた。

 血が付着していない面を傷口にあてがうと、そのままあゆみの親指に巻きつけた。
 手首の辺りでややきつく結び目を作る。

 黒子「速効性の傷薬ですから、しばらくしたら傷はふさがると思いますけど、あまり動かさないで頂きたいですの」

 あゆみ「わかった。でも、そんな薬があったんだ」

 黒子「学園都市の一部でしか出回っていない特注品ですから、普通じゃ手に入るものじゃないですの。たまたま持っていたから良かったものの……」

 あゆみ「そうなんだ。ありがと」

 黒子「まあ、どうってことないですの」

 小さく息を吐くと、あゆみの手を取った。

910 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:47:35.04 ID:+4C+A4pM0

 あゆみ「白井さんって、世話焼きなんだね」

 幾分優しげな表情で、黒子をじっと見つめ、話しかけてきた。

 黒子「え?わたくしはそんなつもりはございませんが」

 あゆみ「そうなんだ。私にはそんな感じに見えたんだけど」

 黒子「そう……ですの?」

 あゆみ「うん。クラスメートにそんな子がいてね……彼女も一緒におまじないをして、この廃校に連れて来られているはずなの」

 黒子「はぁ……」

 話の切り替わりに、付いていけないところがあり、戸惑いの表情を隠せない。

911 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:48:12.93 ID:+4C+A4pM0

 あゆみ「彼女ね、白井さんと同じような声なの。しゃべり方はまるで違うけど、貴女の声を聞いているとその子のことを時々思い出しちゃって……」

 黒子「…………」

 あゆみ「彼女がかなりの世話焼きなの。で、さっきの貴女の動きを見てたら、そんな感じの人かなって思った」

 黒子「なるほど……そういうことですか。でも生憎わたくしは、貴女が思うほどではないと思いますの……まあ、いいですわ」

 天井を見上げて、小さく息を吐く。
 そして、あゆみの方へと向き直る。


 黒子「そろそろ行きましょうか」

 あゆみ「そうだね」

 そして、ゆっくりと足元に注意しながら、教室を後にした。

912 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:49:04.82 ID:+4C+A4pM0

 黒子「で、人形が泣き出したのは、1階のどのあたりですの?」

 教室の外。
 左右に伸びる廊下を眺めながら、あゆみに尋ねた。

 あゆみ「ちょうど5-Aの教室のあたりだったと思う」

 黒子「ここがちょうど4-Aの真上あたりでしょうから、1階まで……」

 ――テレポートで移動しますの。
 そう言い掛けた時、咄嗟に口をつぐんだ。


 黒子(そういえば先程はそのあたりで……)

 4-Aの教室の周辺、いや1階のほぼ全体で黒子が遭遇したことが頭の中によみがえる。

 ――児童霊に目が合いそうになって、追い回されたこと。

913 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:49:30.91 ID:+4C+A4pM0

 あゆみ「……保健室で」

 黒子「……そうですの。神出鬼没ってところですか」

 あゆみ「うん……」

 黒子「となると……空間移動は極力避けるようにしますの。とにかく……右の方へ行きますの」

 あゆみ「分かった」

 黒子(左は3階に上がる階段と……あの区域があるところですの。篠崎さんにとってもまずい現場ですから避けますの)

 心の中でそんなことを思いながら、あゆみの手を引っ張って、朽ちた廊下の上を踏みしめた。

914 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:49:57.65 ID:+4C+A4pM0

 教室を出てから少し進んだあたりで、廊下は左に折れていた。

 一方で、右手には3階へと登る階段がある。


 黒子「あれ?」

 ただ、先程見たときとは違い、階段を塞いでいた机やガラクタの山は――嘘みたいになくなっていた。


 黒子「この上には何かありまして?」

 あゆみ「私にも分からない。ここは、塞がれていたはずなのに……」

 状況の変化に、二人はいずれも首を傾げていた。

 左に折れる廊下も、通れないぐらいに穴が開いていたり、裂け目が走っている様子はない。
 階段と同様、先は闇に閉ざされていたが、進める感じだった。

 黒子「1階へは行けそうにはないですわね」

 あゆみ「下へ降りる階段だったら、反対の廊下を進んだ突き当たりにあったはずだけど……」

 その場で少し考えて、そして――。
 
915 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/10(火) 22:53:32.96 ID:+4C+A4pM0
本日の投下は以上です。

なお、先に以下のように選択肢が続きます。

A:廊下を進んだ。
B:3階へ登った。

安価は>>916でお願いいたします。

なお、>>904は投稿をミスりました。スミマセン……。

あと、スレはギリギリまで投下しようかと思います。
次回もかなりの間隔が空くかと思いますが、よろしくお願いいたします。
読んで下さっている皆様に、改めて感謝いたします。
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/11(水) 00:28:53.18 ID:9QoTP7E70
おつおつ
ここはAかな
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/05/11(水) 20:33:51.37 ID:FLkJeNXI0
あれ、今って、御坂・初春がチャプター3で、
黒子・佐天がチャプター4ぐらいだよな?
まあ何はともあれ乙
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/12(木) 19:07:29.60 ID:M76mJQmDO
待ってたぜー乙!
919 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/05/15(日) 21:04:58.16 ID:YctSisQV0
お待たせしました。
>>916のAにて続きを投下いたします。

が、その前に前回の投下分で抜けていた箇所がありました。
申し訳ないです。
その分を投下してから、続きに参りますので、お願いいたします。
920 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/05/15(日) 21:05:48.95 ID:YctSisQV0
(>>911から>>912の間)


 黒子「で、人形が泣き出したのは、1階のどのあたりですの?」

 教室の外。
 左右に伸びる廊下を眺めながら、あゆみに尋ねた。

 あゆみ「ちょうど5-Aの教室のあたりだったと思う」

 黒子「ここがちょうど4-Aの真上あたりでしょうから、1階まで……」

 ――テレポートで移動しますの。
 そう言い掛けた時、咄嗟に口をつぐんだ。


 黒子(そういえば先程はそのあたりで……)

 4-Aの教室の周辺、いや1階のほぼ全体で黒子が遭遇したことが頭の中によみがえる。

 ――児童霊に目が合いそうになって、追い回されたこと。

921 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:06:20.82 ID:YctSisQV0

 あゆみ「白井さん……どうかしたの?」

 表情を険しくして考え込む黒子に、不思議そうな表情で訊ねてくる。

 黒子「篠崎さん。一つお聞きしますけど、貴女は1階で児童霊に遭遇しまして?」

 あゆみ「うん。4-Aの教室にいたと思ったら、玄関前の広間にもいたりした。それがどうかしたの?」

 黒子「1階へ直接、空間移動しようと思いましたけど、その先で児童霊と鉢合わせになんてことになれば、まずいですの」

 あゆみ「そうだね。あの子達に絶対に目を合わせたらダメだから……でも、2階でも遭遇したよ」

 そこまで話したとき、あゆみの表情に影を落とし始める。

922 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:07:18.13 ID:YctSisQV0
前回抜けていた分はここまでです。
これより、>>915からの続きを投下します。
923 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:08:19.55 ID:YctSisQV0

 ――廊下を進んだ。

 天井からはいくつもの照明器具が吊り下げられていた。

 が、いずれも明かりは灯っていなく、廊下は闇に閉ざされていた。
 機能していないどころか、落ちかかってぶら下がっているものや――さらには、床に落下していて、歩く障害になっているものまである。

 黒子とあゆみが手にしているロウソクの光が、ほんのりと照らしているが、どこか心もとない。



 それは足元でも同じことだった。

 あゆみ「ひっ!!」

 床に開いた穴に、足を踏み入れそうになる。
 直前に気づいて、怯えた声を上げながら、足を慌てて引っ込める。

 黒子「すぐ近くまでいかないと分からないですから――たまったものじゃありませんわね」

 そんな様子を見ながら、ため息をつく。

924 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:09:03.75 ID:YctSisQV0

 ずっとこんな調子だ。
 一歩先に何があるか分からない状況なので、恐る恐る足を踏み出すといった状態だった。
 おかげで、速度としてはかなり遅い動きになっている。

 あゆみ「そうだね……」

 黒子「まったくですの。本当に、まどろっこし、うぁっ!!」



  バキン!!



 足を乗せた床板が、大きな音と共に折れた。
 踏み抜いた箇所はおろか、廊下の両端に至るまで、床の木材が崩れていく。
 破片は暗闇の底へと、吸い込まれるように落下していった。
 結果、床を横切るように、1mほどの裂け目ができてしまった。

 黒子の体も、そのまま急に底へと落ち――そうになった。
 が、踏み抜いた箇所の先にある床に両手を着くことで踏みとどまった。
 荒く息をした状態で、下に落ちないように、懸命に体勢を維持させる。
 だが、左足が宙に浮いた状態で、両手と残った右足で踏ん張っている――ちょうど裂け目を橋渡しするような――状態なので、相当苦しい。

925 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:09:47.05 ID:YctSisQV0

 あゆみ「ち、ちょっと!!」

 すかさず、黒子の両肩を掴み、引き上げようとする。
 だが、力がほぼなく、持ち上がることはおろか、落ちるのを阻止するのが精一杯だった。

 さらには――



  ベリ……。



 手を突いている床から、避ける音がするのが耳についた。
 そして、下の方向へとしなってきている。

 力を加えるどころか、このままでいても――床が割れてしまうのは時間の問題だった。

926 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:10:21.78 ID:YctSisQV0

 黒子「ありがたいですけど……無理しないでくださいまし。これぐらいどうにかなりますの」

 そう言って、すかさず脳内で演算を行う。
 空間移動を使わないと言っていたが、この場合は仕方がない。
 黒子はおろか、あゆみも巻き添えになって落下しかねない。




 黒子とあゆみの体は――裂け目の先へと瞬時に移動していた。


927 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:11:16.96 ID:YctSisQV0

 黒子(ん?何か痛い……)

 左足にジンジンと痛みが走る。
 何気なく、それを覗き込んでみると。


 ――ふくらはぎに一条の紅い細い裂け目。

 紅い血がじわじわと、絶え間なく滲み出してくる。

 踏み抜いたときに、床の破片に強く擦ってできてしまったのだろう。


 あゆみ「白井さん、ひどい傷じゃない」

 黒子「ええ。そうみたいですわね」

 ポケットから傷薬を出すと、すかさずできた傷に塗りこむ。
 そして、もっていたハンカチで傷を巻きつける。
 本当は包帯があればいいのだが、生憎そんなものまでは持ち合わせていない。
 薄く巻いただけなので、白いハンカチが傷口のあたりを中心として、赤く染まっていくのが見えた。

928 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:12:59.98 ID:YctSisQV0

 黒子「まあ、すぐに傷は治るでしょうから。こんなの大したことないですの」

 あゆみ「大したことありすぎよ!!」

 にべもなく言う黒子を、あゆみは今にも泣きそうな顔でじっと見つめていた。


 あゆみ「下手したら、落ちて死んじゃう所だったじゃない。嫌……これ以上、誰も死んじゃ嫌!!」

 黒子「…………」

 そんなに大げさにならなくても、と突っ込みを入れそうになる。

929 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:13:32.39 ID:YctSisQV0

 が、すかさず心の中にしまう。

 あゆみは既にクラスメートの死を見てきているのだった。
 それも目の前で。

 そのために、ただでさえ精神が不安定になっているというのに。
 黒子がいくら身体能力が高くて、空間移動が使えるとは言っても。
 これ以上、目の前で人が死にそうになっていたら――たまったものじゃないだろう。


 黒子「心配させて、悪かったですの」

 ついに泣きじゃくりだした、あゆみを優しく抱きとめる。

 そのまま、何気なく目の前の壁をぼんやりと見つめた。
 外に面した窓と反対側に位置している、その壁には数枚の紙が貼られていた。

930 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:14:07.33 ID:YctSisQV0

 黒子(何ですの……習字みたいですけど……)

 貼り紙は全部で8枚。
 いずれも、かなり黄ばんでいて、端がほころんでいたり、破れかかっていたりしていた。
 壁を埋め尽くすように貼り付けられていた、それらの紙には、黒い墨で四字熟語が書かれていた。
 筆跡からして、小学生が書いたような感じだった。



  【油断大敵】    【四苦八苦】 


  【迂直之計】    【音信不通】


  【右往左往】    【無駄方便】 


  【七難八苦】    【半信半疑】



 黒子(しかし、こんなの廊下に貼り出すものでしょうか?授業なんかで書くにしては、内容がいかついものが多い気がしますの)

 字を目で追いながら、ただ首を傾げるだけだった。

931 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:14:35.19 ID:YctSisQV0

 あゆみ「……ごめん。取り乱しちゃったみたい」

 いつの間にか泣き止んだのか、涙は止まっていた。
 ただ、周りを真っ赤に腫らした目で、黒子をじっと見つめている。

 黒子「いいえ。お気になさらずに。わたくしこそ軽く考えすぎでしたの。そろそろ行きましょうか」

 あゆみ「……うん」

 黒子の足の痛みもある程度治まってきたようだった。
 立ち上がるのにも特に問題が無い。
 あゆみの手を取り、朽ちた廊下を恐る恐る踏みしめていった。

932 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:16:01.38 ID:YctSisQV0
 あゆみの手を取り、朽ちた廊下を恐る恐る踏みしめていった。





   ……ギィ……ギィ……





 床に足を乗せるたびに、不気味な軋みが耳につく。
 だが、先程のように木が腐って抜け落ちるという様子はなさそうだ。

 少し安心しつつも、用心しながら前へと進み――やがて、右手に教室の引き戸が見えるあたりまで来た。

 戸の上には、【1-A】と書かれた札が掛かっている。


 引き戸は――開いていた。

933 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:16:27.39 ID:YctSisQV0

 あゆみ「ここに寄っていい?」

 黒子「どうかしましたの?」

 あゆみ「先生に書置きをしておいたの。ひょっとしたら戻ってきてるかもしれない」

 黒子「分かりましたわ。行きましょう」

 二人はそのまま、教室の中へと足を踏み入れた。

934 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:16:55.52 ID:YctSisQV0
 
 教室の中は、照明が一切灯っていなく、闇に閉ざされていた。
 手にしたロウソクの炎で、室内がうっすらと照らされる。

 が――人の気配は、まったくといっていいほど無い。

 黒子「誰もいないようですわね。で、書置きというのは?」

 あゆみ「これなんだけど……」

 教卓の前に立ち、天板のあたりをロウソクの炎で照らす。


935 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:17:48.12 ID:YctSisQV0






 『結衣センセーへ

   迎えに行く。

    入れ違いでコレを見たら、この場で待ってて

     俺達も帰ってくるから』





 天板にはマジックペンらしきもので、文字が書かれていた。
 ただ、時間がある程度経過したのか、埃がうっすらと積もって、文字自体もかすれていた。
 
936 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:18:59.53 ID:YctSisQV0

 あゆみ「返事……書かれていない……誰も来ていないのかな……」

 黒子「そのようですわね。足を踏み入れた形跡すらなさそうですの」

 落胆するあゆみに、ため息をつきながら、教室内を探る黒子。
 だが、教室の中央付近で黒子はふと立ち止まった。
 そして、ロウソクの炎を足元の床へと近づけていく。


 黒子「そのかわり……見たくないものがありますの。篠崎さん、できるなら近づかない方がいいですの」





 見たくないもの――それは、1体の白骨死体だった。

 黒い学ランが付近に散らばっていることから、男子中高生と思われる。



 ただ、そんなことより黒子の目を引いたのは――その学ランが、上下真っ二つに切り裂かれていたこと。



 それどころか――胸部の辺りで明らかに真っ二つに切断されていた。
 袈裟懸けで切断された切り口が生々しい。
 鋭い刀のようなもので、一瞬にして切断されたようだ。
 周囲の床や、来ていたと思われる白いワイシャツが赤黒く染まっていることから――その状況を物語っている。

937 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:19:33.70 ID:YctSisQV0

 黒子「篠崎さん、貴女が前に来たときは、こんな死体は……」





    ……コトン!!



        カランカラン……






 何気なく問いかけようとしたとき――背後で、何かが落ちた音に加え、金属音が響き渡った。

938 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:20:00.11 ID:YctSisQV0

 慌てて振り返ると――背後の床には、あゆみが手にしていたロウソクが落ちていた。
 床に転がった皿の上で、ロウソクが横向きになってもなお、芯に付いた炎が消えずに燃え続けている。

 黒子「篠崎さん?危ないですわよ。火事になったらどうしますの」

 慌てて、床に落ちたロウソクを拾い上げ、皿の上に立て直す。
 そして何気なく、傍に立っているあゆみの顔を見上げた。

939 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:20:54.89 ID:YctSisQV0




 あゆみ「……ヴヴヴヴヴヴヴ……」




 あゆみは、下でしゃがみこんでいる、黒子をじっと覗き込んでいた。

 目を大きく見開いて。

 口を三日月状に歪めて。

 獣の咆哮のような、低い声を口から漏らして。

 まるで、生気がなくなったかのように両手をだらしなく垂らして――ただ、じっと黒子の顔を見つめていた。 

940 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:21:29.09 ID:YctSisQV0

 黒子「篠崎さん?どうかなさいましたの?」

 あゆみのあまりの変貌振りに、動揺してしまう。
 問いかける声も思わず裏返りそうになっていた。

 あゆみ「……ヴヴヴヴヴヴヴ……」

 なおも、不気味な声を出しながら、動く様子が無い。
 変ににやついた表情が、下からのロウソクの炎で照らされて、余計に気持ち悪く見える。


 黒子「何かございまして?」

 何気なく、あゆみに近づこうとするが――。

941 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:21:56.65 ID:YctSisQV0




 あゆみ「お前、汚い!!ああああああああ!!」

 表情が般若のように、急に憤怒のものに変わる。
 そして、意味不明な叫びを上げると――

 黒子「うっ!!」

 近づいてきた黒子の体を、勢いよく突き飛ばした。
 傍にあった机に体を強くぶつけてしまう。
 あと数センチ上だったら、机の角に後頭部をぶつける所で危ないところだ。

942 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:22:54.73 ID:YctSisQV0





 あゆみ「殺してクダサイ、殺してクダサイ、殺してクダサイ、殺して」





 当の本人は、意味不明のことを口走りながら、教室内を当ても無く歩き回っていた。
 目をぎらつかせながら、口から涎をたらしながら。


 黒子「…………」

 そんなあゆみの狂乱ぶりに、ぶつけた背中をさすりながら、ただ呆然と見つめるしかなかった。

943 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:23:35.46 ID:YctSisQV0





 あゆみ「こんな所はもう嫌、こんな所はもう嫌、こんな所はもう嫌……だーせー!!あはははははははははは!!」





 なおも、教室内をあちこち歩き回るあゆみ。

 怒り狂ったり、笑い出したり、影を落としたり――表情はめまぐるしく変化していた。
 ただ――瞳だけは虚ろになってしまっている。

 手近にある床に倒れている、壊れた棚を蹴り飛ばす。
 周囲に散らばっていた黒い毛のようなものが、一気に舞い散った。

 黒子にも降りかかってきた。
 なんとかそれを振り払おうと、黒子は必死になっていた。

944 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:25:19.32 ID:YctSisQV0



 あゆみ「あはははははははははははははははははは!!」



 甲高い笑い声を上げながら、黒板の方へと駆け寄る。
 そして、脇にある別の入口に入りこみ――



  ガシャンッ!!



 中から扉を勢いよく閉めた。


 黒子「い、一体……何が起こりましたの……?」

 目の前でのあゆみの豹変振りに、理解が追いつかない。

 あゆみの入り込んだ部屋の入口の前に立ち、戸を開けようとする。


 が――開かない。

 中から、鍵を掛けてしまったようだ。


945 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:25:57.55 ID:YctSisQV0




  ドン!!ドンッ!!




 戸の向こうからは、何かをぶつけるような音が、度々響き渡り。



 あゆみ「あああああああああ!!一緒に!!一緒に!!先立つ不孝をっ!!」

 意味不明な、あゆみの叫び声だけが延々と聞こえてくる。

946 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:26:30.25 ID:YctSisQV0


 黒子「うっ!?」

 引き戸の取っ手から手を離したとき――突如、頭に重いものがのしかかったかのような感覚に襲われた。
 それは鈍い痛みとなっていき、思わず手で頭を抱えながら、その場にしゃがみこんでしまう。


 黒子「ううっ……何ですの……こんな時に、頭痛だなんて……」

 痛みのあまり、表情を歪めてしまう。
 体も妙に重く感じられ、動かす気にさえならない。


 黒子「う……ぐああ……」

 ついには、息をすることさえも苦しくなってきた――その時。

947 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:27:51.56 ID:YctSisQV0




 ??「……カワイソウニ……」


 黒子「――!?」

 背後から聞きなれない、男の声がした。

 同時に、それまで頭や体を襲っていた重苦しさが、一気に消え失せる。
 

 すかさず、振り返った。




 黒子の視線の先には――1つの青白い炎が、虚空に浮かんでいた。

 丁度、白骨死体のあった辺りに。

948 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:28:23.90 ID:YctSisQV0

 黒子「れ、霊魂ですの!?」

 ふと、前にも同じようなものを1階で見たのを思い出した。

 ――姉を恨む、妹の霊。

 あの時の霊の色は真っ赤だったが、目の前にいるモノの色は、穏やかな青い色だった。


 黒子「な、何がどうなっていますの?」

 次から次へと起こる、急激な変化に、黒子の理解が追いついていない。
 連れていた女生徒が正気を失ったかと思いきや、今度は霊魂の出現。
 どうしたらいいのかということなぞ、思いつくに至らない。


949 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:30:25.35 ID:YctSisQV0

 ??「……アノ子ハ、キミノ友達カイ?」

 一瞬、人の形を取ったかと思うと、穏やかな声で黒子に問いかけてきた。

 黒子「そこまでではございませんけど……途中から一緒に動いていただけですの。で、貴方は何者ですの?」

 とにかく質問に答えるうちに、何を聞くべきかが少しづつではあるが、頭の中に浮かんでくる。
 見ている限り、危害を加えてくることはおろか、何もしてくる気配がない。


 ??「ボクはコノ校舎に閉じ込メラレテ、命ヲ落トシタモノサ。感ジルンだヨ、コノ教室ニハ強イ思念ガ渦巻イテイル。ソレに呑み込マレタノカモ知レナイ……」

 ここで一旦言葉を切ると、霊は再び炎の形に戻りだす。


 ??「……彼女……相当、強イ思念ヲ植え付ケラレタノダロウネ……何カお守リトカ、霊的ナモノがあれバ、イイノダガ……」

 黒子「そんなのございませんでしてよ?」

 ??「コノ校舎ニハ、犠牲者ガ持っテイタ、お守リミタイなモノが残っテイルカモ知レナイ……」

 黒子「それを探せとでも言うのですの!?」

 あゆみを正気に戻せる方法を示しているのだが、それに役立つものがどこにあるかは分からない。
 そもそも、この霊の言うことを信用していいのかという、疑念さえある。

 ただ、他にいい方法を――思いつく自信は、黒子には無かった。


950 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:31:08.90 ID:YctSisQV0


 ??「……アトは、この教室にハ……ウアアアアア!!」


 途中まで言いかけた時――突如、苦しげに叫びを上げだした。
 かと思うと、瞬時にして、霊の姿が消え去ってしまう。

 残ったのは、黒子と――足元にある犠牲者の遺体だけ。


951 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:31:51.84 ID:YctSisQV0

 黒子(この教室内にも何かあるとでも言いますの?)

 気になる所だが、今は扉の向こうにいる――



 あゆみ「二人で一緒に!!そんなの押入が許すのですか!!あああああああああ!!」



 正気を失い、意味不明な事を叫んでいる少女。
 構うと、何をされるか分からない。
 ごく普通の、ましてや能力のなさそうな人間とはいえ、既に狂っている。


 ――下手に対処すると、自分の身にも危害を加えられかねない。


 いっそのこと、放っておいて――美琴達を探すことに専念してもいい。

952 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:32:27.83 ID:YctSisQV0

 だが――そんな気にはなれなかった。
 これまで見知ったことのない人間だったが――風紀委員としての正義感が、それを許さなかった。

 彼女だって、黒子と同様、この多重閉鎖空間とかいう、訳の分からない亜空間に閉じ込められた身。
 そして、霊に殺されそうになったりするなど、命の危機に晒されているのも、黒子と同じ。

 こんな所に一人にして見捨てるなど――殺すのと同然だという気がしていた。


 黒子(とりあえず、ここは……)

 少し考えて、そして――。
953 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:38:23.80 ID:YctSisQV0
本日の投下はここまでです。
改めて、読んで下さっている皆様に感謝いたします。
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/15(日) 21:39:33.43 ID:zXjgWD3DO
乙!!


やっぱりあゆみは、アッハァ!! だったかww
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/15(日) 21:40:11.28 ID:lSS3zSUDO
乙乙
956 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:50:24.15 ID:YctSisQV0
おっと、忘れていました。
申し訳ありません。

>>952の後に、以下のような選択肢が続きます。

A:黒子(……ちんたらしていられませんの)

 あゆみが入った部屋に、すかさず空間移動をすることにした。

B:黒子(……この霊にいろいろ聞いておいたほうがいいかもしれませんわね)

 問い詰めようとして、霊に呼びかけることにした。

C:黒子(……お守りみたいなものがあればいいのですけど)

 外に出て、霊の言っていた"お守りみたいなもの"がないか、探しに行くことにした。

 安価は>>956にてお願いいたします。

 なお、>>819のBを選んだ場合についてですが、ここまで読み返すと、あゆみとのやりとりに大きな変化が生じる感じになります。
 かなりの分量になるかと思いますので、投下が落ち着いたあたりに改めて投下しようかと思います。
 >>833で言っておきながらで、本当に申し訳ありません。
 かなり先になるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
957 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/15(日) 21:52:50.53 ID:YctSisQV0
度々、すみません。
安価は>>959でよろしくお願いいたします。
958 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/15(日) 21:58:51.28 ID:YctSisQV0
あと、改めてご声援をしてくださっている方々にも、感謝いたします。
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/15(日) 23:55:26.49 ID:iJCRoidSO
A
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/16(月) 00:58:53.39 ID:DZfM9PN1o
Cだろ
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/16(月) 03:38:16.59 ID:kwoxpmPR0
Wrong ENDな予感が……
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/05/16(月) 22:12:50.76 ID:lYJb1szc0
急に難しくなってきたな。
A・CはWrong ENDじゃないか?
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/17(火) 00:06:03.93 ID:4t8SGxav0
A.発狂したあゆみをなだめる術も無くあゆみに殺されてビターン
B.霊を問い詰めると“何者か”が現れてビターン
C.不用意に外に出て“何者か”が襲ってきてビターン

霊の苦しみ出した理由はあの子かなぁ…
続き待ちきれんよ
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/17(火) 00:07:12.25 ID:avvtl98mo
元ネタ知らないで読んでるからできればネタバレはしないでくれるとありがたい
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2011/05/18(水) 17:33:53.25 ID:1HieMgXV0
読み終わった こええええ!
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/18(水) 18:17:45.26 ID:W2zNj5TSO
>>964
そんな君には8月発売のコープスパーティー Book of Shadowsがオススメ!!PSPを持ってるなら買おう!!
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/18(水) 19:33:09.61 ID:9dXBhAfJ0
怖えぇ........っ!って方にはこれを!
つワラ人形
ストレス発散にぴったりでございますw
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/05/20(金) 07:38:23.96 ID:4mSUB3gI0
>>967
アァイ!
969 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/05/20(金) 21:58:13.16 ID:l9zYPE7N0
お待たせしました。
続きをAにて投下いたします。

なお、次スレはギリギリまで進んでから、立てようかと思います。
970 : ◆IsBQ15PVtg [ sage saga]:2011/05/20(金) 21:59:17.43 ID:l9zYPE7N0

 黒子(……ちんたらしていられませんの)

 あゆみが入った部屋に、すかさず空間移動をすることにした。


 そこは、6畳ほどの小部屋になっていた。
 所々剥がれ落ちかけているモルタル製の壁に囲まれている。
 壊れかけた窓ガラスが、部屋の奥にはめ込まれているものの――圧迫感がひしひしと感じられる。


 黒子「うっ!!また……」

 空間移動してくると同時に、頭が押さえつけられるような感じがする。
 まるで万力で締め付けられるかのように、鈍い痛みが絶え間なく、黒子の脳に響き渡る。

971 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 21:59:58.59 ID:l9zYPE7N0







 あゆみ「あははは……苦しい……苦シイヨ……もう楽にntsko……」





 当の本人は、部屋の奥のほうで佇んでいた。
 じっと虚ろな瞳で黒子を見つめながら、何かを呟いている。

 が、あまりにも激しい頭痛で、何を言っているのかはっきり聞き取れない。
 さらに言うと、あゆみの姿も黒子の目にはぼんやりとしか映っていなかった。

 あゆみの手には何かが握られているようだが――それすらも、何かはよく見えていない。

972 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:00:39.35 ID:l9zYPE7N0


 黒子「痛い……ううっ……」

 激痛のあまり、頭を抱えながら、その場にしゃがみこんでしまう。


 あゆみの影が、うずくまる黒子に覆いかぶさる。
 
 が、黒子はそれどころではなく、息を荒げながら、ただうめき声をあげるのみ。


973 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:01:52.03 ID:l9zYPE7N0







 あゆみ「あははははははははははははははははははははははははははは!!」








 高笑いをしながら、狂いきった瞳で、苦しみに悶える黒子を一瞥したかと思うと――



974 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:02:22.62 ID:l9zYPE7N0






     ドカッ!!



 手にしていた――瓦礫の破片を。



     グシャッ!!



 黒子「ぐぇっ……」




     ドカッ!!




 ――黒子の頭に――何度も振り下ろした。




    カラーン、カラン、カラン……



 殴打されて、体勢を崩してしまう。
 同時に、太もものホルダーに挟み込んでいた、数本の鉄釘が床に散乱した。


975 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:02:50.83 ID:l9zYPE7N0





 ??「……苦しいよ……早く……」





 黒子の脳裏に響く――女の声。

 それは、聞き覚えのない声――と、思えたが。



976 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:03:30.00 ID:l9zYPE7N0





 ??「……一緒に……天国に行こうって……言ったのに……」





 聞いていくうちに――それは聞き覚えのある声に、変化していった。

 そう――つい最近まで、よく耳にしていた――。




977 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:04:27.13 ID:l9zYPE7N0





 あゆみ「まだ苦しいなんて!!一緒に行こうって言ったのに!!アァ!?」

 目の前で横たわる黒子を睨みつけ――手にした瓦礫をなおも振り上げる。




 黒子「…………さま…………」


 殴られて、血が絶え間なくにじみ出る頭を抱えながら――何かを呟いていた。
 が、あまりにもか細すぎる声は、あゆみの耳には届いていない。





    ブンッ!!




 勢いよく、あゆみの手が振り下ろされた――。


 ――が。

978 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:04:58.44 ID:l9zYPE7N0





   ガタン!!





 その途中で――あゆみは体勢を崩し、前のめりになる形で転んでしまう。

 床に散らばっていた釘に足を乗せて、滑ってしまったのだった。

 手にしていた瓦礫は、黒子の頭ではなく――黒子の傍で横たわっている、他の犠牲者の遺体の頭を直撃した。

 ぐしゃりという、不快な音と共に――赤黒い液体が勢いよく飛び散って、あゆみの手に付着する。



979 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:05:27.04 ID:l9zYPE7N0





 黒子「……そう……ですわね……はやく……」






 途切れ途切れに言葉を発しながら、左手で――





980 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:05:54.88 ID:l9zYPE7N0





 黒子「……一緒に……逝きましょう……」 





 ――床に散らばっている釘を握り締め――






981 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:06:24.05 ID:l9zYPE7N0








 黒子「 オ ネ エ サ マ 」








 尖った先端を――振り下ろした。







  グシャッ……







 ――あゆみの、左目へと。


982 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:07:11.28 ID:l9zYPE7N0






 あゆみ「ぐ、ぐああああああ!!」


 左目に走る、激痛。
 獣の咆哮のような声を上げながら、床の上をのた打ち回る。



983 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:07:39.99 ID:l9zYPE7N0








 黒子「……何を苦しんでおられですの……おねえさま……」



 上半身をゆっくりと起こし――目の前で苦しむ、あゆみをぼんやりと眺める。





 ――焦点の合っていない、虚ろな目で。


 ――右手には、別の鉄釘を手にして。


 ――あゆみの姿は……美琴としか、黒子の目には映っていなくて。



984 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:08:10.60 ID:l9zYPE7N0






 あゆみ「が、があああああ!!」




 黒子「……かわいそうに。こうなったら、黒子が……」




 手にした鉄釘を振り上げて、



985 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:08:37.63 ID:l9zYPE7N0








 黒子「ラ ク ニ シ テ サ シ ア ゲ マ ス ノ」







 そのまま――あゆみの首筋に振り下ろした。



986 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:09:17.07 ID:l9zYPE7N0


 釘は、深くまでたやすくめり込んだ。

 そして――ためらいなく――引き抜く。





    ビシャアアアアアア!!





 勢いよく、噴き出す、紅い液体。

 それは、あゆみの首筋から、周囲の壁までを――一気に紅く染め上げた。



 もちろん――黒子の顔も。


987 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:09:50.90 ID:l9zYPE7N0



 あゆみ「……ヒュー……ヒュー……」

 声ではなく、空気の音が喉元から漏れてくる。












 だが――それも、長くは続かない。


988 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:10:24.01 ID:l9zYPE7N0






 あゆみ「……………………」






 音はなくなり――体は動かなくなってしまった。

 喉元を紅く染め上げ――充血させて、瞳孔の開いた目を――天井に向けたまま。

 
989 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:11:16.62 ID:l9zYPE7N0

 


 黒子「…………」




 顔に付着した、血を気にする様子もなく。

 絶命したあゆみを、ただぼんやりと眺めていた。





 手には――血で染まった鉄釘を握ったまま。




990 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:11:51.70 ID:l9zYPE7N0






 そして、鉄釘の先端を――







 自分の首もとにあてがって――






991 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:12:34.67 ID:l9zYPE7N0










       ――ためらいなく、突き刺した。










992 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:13:06.12 ID:l9zYPE7N0










 黒子「……ぐぇ……」

 押しつぶされた声を、口から漏らす。









 しかし――手は、そのまま釘を引き抜いた。




993 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:13:42.12 ID:l9zYPE7N0





   ビシャアアアアアア!!



 

 釘を抜いた後から、吹き出る鮮血。

 周囲の壁や天井――さらには、あゆみの死体や、傍の腐乱死体も、見る見るうちに赤く染まっていく。

994 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:14:35.94 ID:l9zYPE7N0

 




   グサリ……







 釘を手にした手は――なおも、自分の喉下に、釘を突き刺す。



995 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:15:13.52 ID:l9zYPE7N0





 黒子「……ふぉ……ふぇ……ふぁ……」





 息ずれのような、幽かな声を上げる。
 もはや何を言っているのか、分からない。

996 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:15:41.29 ID:l9zYPE7N0







   バタン……






 黒子の体は――力なく、倒れる。
 まるで、あゆみに寄り添うかのように。







 ついに――そのまま、動かなくなってしまった。


997 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:16:07.40 ID:l9zYPE7N0





 充血した白目を剥いて、開ききった黒子の瞳孔には――





 美琴ではなく――絶命したあゆみが映ったまま――。





998 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:16:35.81 ID:l9zYPE7N0
 (暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

  テーレレテテテレテー
 
    Wrong END

  ビターン

 (押し付けられた左手の赤い手形。親指がない)
999 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:18:57.82 ID:l9zYPE7N0
てなわけで、AはWrongENDでした。
ちなみに、BもWrongENDだったりします。

続きはCにて投下いたしますが、次スレにて行いますので、よろしくお願いいたします。
1000 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:22:52.14 ID:l9zYPE7N0
次スレを立てました。
続きは、以下にて行いますので、今後もよろしくお願い致します。

黒子「おまじない……??」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1305897699/
1001 :1001 :Over 1000 Thread
                      ''';;';';;'';;;,.,                  ブーーー
                       ''';;';'';';''';;'';;;,.,   ブーーー
       ブーーー            ;;''';;';'';';';;;'';;'';;;
                     ;;'';';';;'';;';'';';';;;'';;'';;; ;;'';;'';;;
                  ;;'';';';;'';;';'';';';;;'';;'';;;;;'';';';;'';;';'';';';;;'';;'';;;
ブーーー         /⌒ヽ/⌒ヽ/⌒ヽ /⌒ヽ/⌒ヽ/⌒ヽ            ブーーー
        ___   .(/ ̄ ̄ ̄\( ゚,;,;.゚ ( ゚,;::゚ ( ゚;;:;゚/ ̄ ̄ ̄\    .___
      /      \/        \./  ̄ ̄ ̄\. /         \ ./      \
   /          \. ○   ○ /          \  ○   ○ ./        \  ━━┓┃┃
  /   ○   ○   \(__人__)/   ○   ○   \. (__人__)/    ○   ○   \     ┃   ━━━━━━━━
  |      (__人__)    |.ゝ'゚   |      (__人__)     | ゝ'゚   |.       (__人__)    .|    .┃               ┃┃┃
  \    ゝ'゚     ≦ 三 ゚。 ゚      ゝ'゚     ≦ 三 ゚。 ゚ \     ゝ'゚     ≦ 三 ゚。 ゚                  ┛
       。≧       三 ==-     。≧       三 ==-      。≧       三 ==-
       -ァ,        ≧=- 。     -ァ,        ≧=- 。      -ァ,        ≧=- 。   SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
       イレ,、                                                      http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/
1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
黒子「おまじない……??」 @ 2011/05/20(金) 22:21:39.93 ID:l9zYPE7N0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1305897699/

ここだけ≪ここまお学園≫ ただしコンマ00で魔王学園長に怒られる @ 2011/05/20(金) 21:32:58.63 ID:lxsxC+Jn0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1305894778/

安価でラフ絵描く 【o進行】 @ 2011/05/20(金) 21:30:42.31 ID:90H2c938o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1305894642/

厨二能力やるからそれ使って戦おう @ 2011/05/20(金) 21:20:59.22 ID:msZue9fIO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1305894059/

厨二能力授けるからそれ使って闘おうぜ! @ 2011/05/20(金) 21:17:12.42 ID:Mncr6fG7o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1305893832/

皆さんのペニスの長さは何センチですか? @ 2011/05/20(金) 20:31:37.42 ID:mon/b65wo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1305891096/

厨二能力くれてやっから闘おうず @ 2011/05/20(金) 20:23:30.42 ID:Mbjp1JwAO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1305890610/

オプチュウはおっぱいに囲まれたいな雑 @ 2011/05/20(金) 20:10:09.89 ID:XNx6PQKLo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1305889809/


Powered By VIPService http://vip2ch.com/

516.01 KB   
VIP Service SS速報VIP 専用ブラウザ 検索 Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)