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【禁書】5+0+0+5【SS】 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 21:09:15.28 ID:k3QPUe0G0
注意事項的なもの
・みんな仲良し
・ゆえに戦闘とかはないです
・時系列とか気にしない
・キャラ崩壊します
・初の地の文つきSS。見苦しい点が多いと思います
・ビックリするほど投下速度は遅いと思います

それでも大丈夫な方はどーぞ↓
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 21:13:16.02 ID:k3QPUe0G0
 平年より少し……ではなく、各地で大雪警報が出たり積雪で道路が塞がれ交通機関が麻痺し
たりと、とんでもなく寒かった冬も少しずつ遠退いて行き、枯れていた木々には新緑が芽生え、
そろそろ桜のつぼみも開き始めようかというぐらいには暖かくなってきた早春。
 御坂美琴はまるで、今年の冬の寒さに凍えるように縮こまり小刻みに震えながら頭を抱えて
公園のベンチで小さく丸まっていた。

「私はなんちゅー約束を……」

 美琴は今、とある懸案事項を抱えている。その内容は友人である佐天涙子から頼まれたダブ
ルデートのセッティング。
 学生の有する長期休みのうち学年編成のため、唯一宿題も補習もない春休みを謳歌しようと
朝っぱらからオシャレなカフェのテラスで優雅にカプチーノを啜っていたのが間違いだったの
だろうか。それとも一学年上だしちょっとお姉さんぶってみようかな、とか思っちゃったのが
間違いだったのだろうか、とにかく美琴はそこで自分のプライベートですら一度も経験した事
のないデート(しかも今回はダブルデート)のセッティングの約束をしてしまったのだ。テラ
スで優雅にカプチーノを啜っていた美琴の前に絶望フェイスでフラフラとやってきた佐天のた
めに。

(でもあんな顔であんな事されたら断れるわけないわよねー)

 美琴はテラスでの出来事を思い出す。思い出す、と言っても二、三時間程前の話でしかないが。


                 * * *


 学園都市内でも中々の人気を誇るカフェ、そこのテラスで美琴は注文したカプチーノが運ば
れて来るのを待っていた。テラスは店の表の通りに面するように作られており、行き交う学生
たちや道路を挟んで作られた四季の花を咲かす花壇を見ながらコーヒーを嗜めるようになって
いる。
 しばらく花壇を眺めてあの花の名前はなんだろう。とか今通った人の付けてた携帯ストラッ
プかわいいなー。とか、なんとなしに通りを眺めていると店員が注文したカプチーノを木で出
来たテーブルの上に置いた。運ばれてきたカップの中を覗くと、そこには泡立てたミルクと爪
楊枝、バリスタの技術によってファンシーなデザインのゲコ太ラテアートが美琴に笑顔を向け
ていた。

「か、かわいぃー!」

 意外なところでゲコ太と出逢えた嬉しさに思わず大声をあげる。ハッとすぐに我に返り、両
手で口を塞ぐが案の定、周りの客の視線を集めてしまっていた。

3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 21:21:56.62 ID:k3QPUe0G0

(はっずぃ……)

 下を向き、少し赤くなった顔を隠す。黒子や初春などが一緒に居ればどうってことはないが、
今は一人なのだ。美琴に集まった視線はすぐにそれぞれ別の方向へと戻る。それを確認すると
美琴はまたゲコ太ラテアートを愛で始めた。
 先程は一人だったから恥ずかしかったが、一人だからこそ出来る事もある。おもむろに携帯
を取り出すとカシャリとラテアートの写メを撮る。そしてまた愛でる。一々、口うるさい黒子
がいないため美琴のテンションは下がる事なく上がり続け、ボルテージは朝十時の時点ですで
に最高潮に達していた。

 
 満足行くまで愛でた後、美琴はようやくカップを口元に持って行く。仄かなコーヒーの香り
が鼻腔をくすぐり何とも優雅な気持ちにさせる。と、普通の人ならコーヒーへの感想を持つが、

(あぁ……ゲコ太崩れちゃった。可愛かったのに……可愛かったのになぁ)

 涙目になりながら朝一番で出逢えた愛しのゲコ太との早すぎる別れに、心を軽く傷つけてい
た。
 それでもカプチーノ自体は評判通り、割と美味しかったのでそれが救いか。
 ゆっくりとした動作で優雅にカプチーノを啜っていると、何やらこちらを凝視している人間
を美琴は視界の端でとらえた。その人物は何やらフラフラとした足取りで美琴の方に近づいて
くる。顔は俯いていてよく見えないがそのちょっと怪しい人物は、

「……佐天さん?」

学年は一つ下、通っている学校も別、けれども紛れもなく美琴の友人な佐天涙子であった。

「御坂さぁぁぁん」

 いつものエネルギッシュな彼女の声とは比べ物にならないほど暗い声で美琴の名を呼ぶ。佐
天の発した声は明らかにネガティブオーラを孕んでいた。そのせいか、美琴の目には佐天の背
中から、この世の全ての憎しみや憂いを凝縮したような肩翼だけで五mにも及びそうなドス黒
い翼が生えているように見えていた。
 佐天が美琴に近寄ろうとフラフラ机の間を縫うように歩く。佐天がガールズトークに花を咲
かせていた高校生たちの横を通るとその楽しそうな声はピタリと止まった。佐天が誰かの横を
通るたび、通られた側の会話はピタリと止まる。
 世間一般では天使が通った、霊が通ったと言うのであろうが改めなくてはいけない。会話が
唐突に止まる時、そこには佐天が通っているのだ。

4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 21:26:02.04 ID:k3QPUe0G0

「ど、どうしたのよ? いつもと比べて随分と纏ってるオーラが違うけど」
   
 自分の横にある椅子を天使状態で幽霊状態な佐天のために引く。美琴にしか見えない翼が頬
を撫ぜる。途端に美琴を強い虚脱感が襲う。本当にこれは何なんだろうか。ついに佐天さんも
超能力に目覚めたのか、そうするとこれはLEVEL5で能力名は『負負負負(ワールドエンド)』だ
わ。などと美琴が考えていると、佐天は先ほど美琴の引いた椅子に腰をかけ、そしてテーブル
に躊躇なく額から突っ込んだ。

「えぇっ!? ちょっと佐天さんどうしたのよ!?」

「御坂さん、私は……」

 テーブルと対面したまま続ける。

「私の青春は多分もう……絶対過ぎ去っているんです」

「はぁ?」

 意味が分からないと首をかしげる。まだ中一なのに青春が? なに? テーブルとキスしたま
ま動こうとしない佐天の後頭部を見ながら美琴は頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。

「私、昨日宿題のない春休みを思いっきり満喫してやろうと色々お店を回ってたんですよ。一
人で」

 注文を取りに来た店員に低い声で「水」とだけ答えて話し出す。美琴はフォローの意味合い
も込めてカプチーノのお代わりと佐天の分のコーヒーを注文した。

「あっ、私キャラメルマキアートがいいです」

「じゃあ、さっきのコーヒーやめてソレで」

「かしこまりました」

 一言ツッコミたかったが堪える。触らぬ神に祟りはないのだ。

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 21:29:59.99 ID:k3QPUe0G0

「えーっと、それでふと気付いちゃったんですよ」

 テーブルとのディープキスをやめて美琴の目を見つめる。その眼力に思わず美琴はたじろい
だ。

「な、なにに?」

「お買いものしてた人たち、私以外みんな彼氏持ちだったんですよぉ!!」 

 テーブルをダンッと叩き勢いよく立ちあがる。椅子はグラッと後ろへ仰け反るがなんとか倒
れずにいてくれたようだった。それでも周囲の目を集めるには十分の声量であったが。

「彼氏いないの私だけ!!!」

 えー? なになに? 痴情の縺れ?
 中学生って若いよねー
 そんな!御坂さん百合百合だったんですか!?
 周囲から色々囁かれるが構っている場合ではない。美琴に向けられた佐天の目からは何か鬼
気迫るものが感じられる。ここで佐天を無視して周りに構ったりすると先ほどのドス黒い翼で
周りに引かれてしまう程のネガティブ女子中学生にされかねない。

「そ、そんなことないんじゃないかなー。ホラ、私だっていないわけだし」

「御坂さんはその気が無いだけですよ!その気になれば男女構わずどーせ入れ食い状態です!
精神的にも肉体的にも!!」

「佐天さん落ち着いて!後マジで黙って!!」

 とにかく、今はいつもとちょっと違う所のネジが飛んでいる佐天を落ち着かせたい。美琴は
心から節にそう願った。だから遠くで「そうですよ!僕は何時だって入れ食われる覚悟があり
ますよ!というより挿れ食われたいです!」などと、訳のわからない事を言っている変態の声
が聞こえるがそれは無視する。

「とにかく座って。店員さんが持って来てくれたキャラメルマキアートでも飲んで落ち着きま
しょう?」  

 佐天は自分の横で涙目で震えているちょっと気の弱そうな店員さんを見つけると、しぶしぶ
椅子に座る。美琴は店員さんにお礼と謝罪をした。

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 21:35:37.73 ID:k3QPUe0G0

「すいません。昨日付きつけられた悲しい現実にどうしようも無くなってしまって……」

「たまたま佐天さんの行ったお店がカップル多かっただけじゃないの? 学校の友達にもいるで
しょ? 彼氏いない人なんて」

 普通の佐天と今日初めて会話出来た事に少し胸を撫で下ろす。

「それがみんないるんですよ」

「えっ?マジで?」

「はい。中には学園都市外……地元ですね。そこの友達と夏休みの帰省中に付き合い始めたっ
て子もいます」

 これは美琴の予想外だった。そこから切り崩そうと思っていたのに、まさかの遠距離恋愛者
までいるとは。しかし、美琴の脳裏にある人物の顔が浮かぶ。

「あっ!大丈夫よ佐天さん!初春がいるじゃない!」

 初春飾利。後輩でルームメイトである白井黒子の属する風紀委員に初春も属しており、美琴
自身の友人でもある。失礼ではあるが彼女なら彼氏彼女といったものには疎いはずで、黒子か
ら彼氏がいるとも聞いたことはない。

「初春に男は近づけさせませんよ。初春は一生純潔を守るキャラですもん」

 佐天の頭のネジは、正規の位置には戻ってきたようだがキチンと締めつけられてはいない様
だった。

「だから私だけなんですよ。彼氏いないの」

「そんな、無理してまで彼氏欲しいかなぁ? 私にはわかんないなーその気持ち」

「と、言うより実のところデートしてみたいだけなんですよね。私、もうすぐ中二になるのに
デートどころか男の人と遊んだ事すらなくて」

 へへっと困ったような顔をして佐天は笑った。次いで「だからちょっと憧れっていうのもあ
ると思います」と少し頬を染めながらキャラメルマキアートに口をつけた。急にしおらしくな
った佐天に少し困惑しながら、美琴もつられてカプチーノの啜る。
 
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/14(金) 21:36:45.49 ID:AC/ib8BAO
ふむ、文章も巧いし期待させてもらおう
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 21:39:43.29 ID:ffJHUrl5o
カップリングも気になるがそれより二人が可愛い
そして海原自重しろ
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 21:39:44.36 ID:k3QPUe0G0

 ただ、佐天の気持ちもわからない事はない。自分だって同じ思春期の中学生なのだ。異性が
気にならないと言えば確実に嘘になる。自分はとある高校生を追い回してたり、たまには普通
に会話もしたりするが話を聞く限り佐天にはそれさえもなさそうだ。佐天の言い分も当たり前
といえば、そうなのかもしれない。

「御坂さんはデートってしたことありますか?」

 突拍子もない質問に美琴は飲んでいたカプチーノをブハッと噴き出す。幸い佐天には掛から
なかったが、木で出来たテーブルには放射状にカプチーノが飛び散り見るも無残な姿となって
しまった。

「で、デートぉ?」

 ハンカチで口を拭いながら例の店員さんにフキンを持って来てもらうように催促する。美琴
たちのたび重なる失礼に付いて行けず、先ほどまでなんとか涙目で堪えていた店員さんの目か
らはポタポタと涙がこぼれていた。

「御坂さんがデートした事ある人なら、その話を聞いて妄想してみようかなーって思ってみた
んですよね」

 デート。アレは果たしてデートに含まれるのだろうか……美琴は去年の夏にした、上条当麻
との恋人ごっこを思い出す。一緒にホットドックを食べたりドサクサに紛れて最初に手を繋い
だり(引っ張って行ったとも言う)したがアレをデートとは……
 しかし、自分は佐天の一つ上でもうすぐ最高学年となる。のにデートもした事ないなどとは
言えない。というより言いたくない。思春期特有の見栄っ張りに悩まされながら美琴は「デー
トぐらいならあるわよ」と答えた。そして矢継ぎ早に

「でもアレね! 口で説明すんのは難しいわ! だから佐天さん! ちゃっちゃと経験してきなさ
い! 佐天さん可愛いしデートの相手なんて腐るほどいるでしょ?」

「私別に可愛くなんてないです。それにそのお相手がいないんですってば……」

 美琴はしまった……と思った。自分としては今のでデートの話を回避してハッピーエンドの
予定だったが肝心なところが抜けていたのだ。しかし「だから話してくださいよー」なんて言
われるのは困る。言えるような内容ではないから。美琴が自分のアホさにあたふたしているの
を他所に、なにやら佐天は顎に手を当ててう――んと唸っていた。

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 21:44:24.73 ID:k3QPUe0G0

「あの……フキンです」

 自分のキャパシティを突破されエグエグ泣きながらフキンを持ってきた店員さんから美琴は
ソレを受け取り、唸っている佐天の顔を窺いつつ先ほど汚したテーブルを拭く。どうやら撥水
加工が施されているようで、木にカプチーノのシミが付く事はなさそうだ。これだけ店に迷惑
をかけておいてさらに綺麗な木目のテーブルにシミまで付けるとなると流石の美琴も申し訳が
付かない。
 美琴がテーブルを拭き終え店員にフキンを返しに行こうとした時、

「そうだ! 私いいこと考えました!」

 佐天が何か閃いた様だった。その声量はまたしても大きいものだったがとにかくこれであの
日のデートっぽいものを話さずに済む。と美琴は胸を撫で下ろした。

「ダブルデートしましょう! 私と御坂さんとあと御坂さんの知り合い二人とで!」

 のもつかの間、とんでもない無茶ぶりが美琴を襲う。

「ダ、ダブルデート!?」

「はい! それなら御坂さんも初デート出来ますし私も出来ます!」

 嘘は、見抜かれていた。いや、嘘ではないのだが。

「ちちちょっと待って佐天さん! いないから! デート誘えるような男はいないから!!」

「またまたー。白井さんから聞いてますよ?なんだか去年の夏ぐらいから一人の高校生を追い
かけ回してるみたいじゃないですかー。その人誘ってくださいよ」

 「後で黒子殺す」ふざけた事を吹いたルームメイトに殺意を覚えながらも、美琴は必死で口
を動かす。

「あ、アイツはそんなんじゃないのよ!そう!言うなれば倒すべき人間というかゲームで言う
とラスボス的な!だからデートに誘うとか私がアイツの事好きとかそんなんじゃなくてっ!そ
りゃあアイツは頼りがいあって優しくて、でも困った人間がいたら利害なしに全力で助けちゃ
うようなお人好しでそんな所もいいなーなんて私はそんな事全然まったく一ミリも思ってない
わよっ!!?」

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 21:49:15.48 ID:k3QPUe0G0

 動揺して余計な事まで言いそうになり無理やりに喋るのをやめる。実はもぅ結構な所まで言
ってしまっていたが、美琴はもちろんデートに漕ぎ付けそうにないと悟った佐天もその事には
気付かなかった。

「そうですか……残念です」

 いい案を出せたと思ったが全力で拒否された佐天はテラスに来襲した時のような絶望フェイ
スで項垂れる。背中からはジワジワとドス黒い翼が……

「ちょっ、えぇ!? 佐天さん!?」 

「はい?」

 翼は先ほどよりも範囲を広げ、二つ隣の席で楽しそうに話しているカップルを飲み込んだ。
すると一秒前まで笑顔で話していたカップルは急に真顔になり、一言も言葉を発する事なく、
まるで修羅場かのような空気で睨み合う。一対だった翼は四、五、六対と数を増やし、テラス
全体を浸食する。そしてテラスから、人の声は消えた。
 尚も翼は拡大を続け遂には歩道にまで影響し始める。これは不味い。このままではドス黒い
翼が学園都市を覆い、春休みをエンジョイ出来なくなる。美琴は自分の春休みの、延いては、
学園都市全体の楽しい春休みのために決意する。と、いうより折れる。

「わかった! わかったわ!! 声かけてあげるからそんな落ち込まないでっ!!」

 その言葉にテーブルと熱いキスを交わしていた佐天が顔をあげる。ネガティブな翼の進行は
テラスに備え付けてある手すりより先には進まない。道路では小学生が元気な声をあげて走り
去っていた。

「デートの相手私が見つけとくから! ね? だからこれ以上落ち込まないで!」

「ホントですか!?」

「ホント! ホント!!」

 翼がビデオの巻き戻しのようにサァっと退いて行く。テラスの道路側から順に笑顔と笑い声
が戻って行く。

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 21:57:34.90 ID:k3QPUe0G0

「御坂さんアリガトウございます!!」

 ヒマワリの様な笑顔でギューっとキツク抱きしめる佐天の背中を、美琴はいいの、いいのと
ポンポン叩く。ただ聞いて措かなければいけない事が三つある。

「でも、相手高校生よ? それに一人は多分大丈夫だけどもう一人はいい奴じゃないかもよ?」

「全然OKです! むしろ高校生とか大人っぽくて素敵です!」

「そもそも断られるかもよ?」

「その時はしょうがないです!」

「それとさ……」

「なんですか?」

「佐天さんって能力のレベル今どれくらい?」

「……? LVEL0のままですよ?」

「そぅ。ならいいの」

「?」

 精神系攻撃最強の負負負負(ワールドエンド)は偶にしか発現しない原石で未完の大器なのだ。

               
                 * * *


 携帯の着信音で夢だと思いたい午前中の回想から美琴はふと我に帰る。メールの差出人は上
条当麻。頭を抱えて蹲る前に手汗を尋常じゃないほど掻きながら勇気を振り絞ってメールを送
っていたのだ。
 断れ! 断れ! と願いながら新着のメールを開く。そこには『いいぞ。日時とか決まったら
またメールしてくれ』と、断る気持ちゼロの文章が書いてあった。嬉しい、とは思う。これは
最低でも当麻が自分の事を友達とは思ってくれてると言う事だし、あれだけの手汗を無駄にし
なくて良かったのだから。しかし、今でなくても……と美琴は心の中でごちる。どうせならこ
んななし崩し的な感じではなく自分で決心した時に送りたかった。いや、これは言葉のあやで
あって私がアイツを好きって訳では……

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 22:05:11.96 ID:k3QPUe0G0

「なァァンで金だけ飲み込ンでコーヒーも釣りも出ねェンですかァ!!?」

 ふにゃふにゃ妄想していると公園に備え付けて付けてある自動販売機の方角から罵声が飛ん
でくる。視線をやると華奢な身体に恐ろしく白い皮膚、真白い髪、少し距離があるので分かり
づらいが恐らく赤目、そして全身黒ずくめの男がお金を飲み込むことで有名な自動販売機に蹴
りを入れていた。

「コンビニがなかったから仕方なく自販機で我慢してやろうと思ったのによォ!! っざっけン
じゃねェってのォォォ!!!」

 思い切り振りかぶり渾身のミドルキックをお見舞いする。が……

「いってェ!!脛打ったァァァアァァァァアァ!!!!!!」

 どうやら自動販売機の角で脛を強打させてしまったらしい。砂が洋服に付く事もお構いなし
に地面でゴロゴロと転がる。眼光するどい赤目にはなにやら光るものが浮かんでいた。

「一方通行」

 地面で脛を押さえて悶絶している少年の名前を口にする。一方通行、学園都市に七人しかい
ないLEVEL5、その中でも圧倒的実力差で第一位に君臨している少年だ。その最強が今、地面に
蹲っている。彼を地に伏した相手は、自動販売機。
 美琴は苦笑しながらその光景を眺めていた。

「このクソ自販機がァ! こっちが能力使ってないからって調子に乗ってんじゃねェぞ!!」

 一方通行は涙目のまま立ちあがり、最強を地面にひれ伏せるほどの戦闘力を持つ自動販売機
と真正面に対峙する。

「いいぜェ。俺が本気でやりゃァ、てめェなンざ瞬殺出来ンだよ」

 地面を蹴るベクトルを操作し、普通の人間ではまるで到達できない様な高さまで飛びあがる。
そして最高到達点まで達した時、一方通行は右の拳を握りしめ大きく振りかぶった。

「ぶっ壊してやらァァァアアァァァァアアァ!!」

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 22:08:36.67 ID:k3QPUe0G0

 グングンと落下速度は増していき、標的までの距離はドンドン縮まって行く。五メートル、
三メートル、一メートル――
一方通行の拳と自動販売機の角がぶつかる瞬間、

「やめなさい!」

 突然の横やりに思わず能力を解く。しかし振り切った拳を戻すことは出来ず、激しい鋭痛と
共に、一方通行は無機物相手に二度目の敗北を味わうこととなった。



「はい、こんだけ出てきたし元は取れたでしょ?」

 両手いっぱいにジュースを抱え、美琴はその中から適当なものを選び一方通行に差しだす。
一方通行は、しゃがんで右手を押さえ、下を向いたまま動こうとしない。

「何よー。いつまで痛がってんの?」

「ちょっ、マジで」

 やはり下を向いたまま左手を前に突き出し美琴の言葉を遮る。声は酷く小さいものだった。

「アレ壊しちゃダメよ? 私のお気に入りなんだから。まぁ、出てくるジュースは選べないん
だけどね」   

 腕の中にある大量の缶を一旦ベンチに置き、そこからヤシの実サイダーなるものを選んでプ
ルタブに指を掛ける。プシュッという清涼感あふれる音が鳴り、プルタブを元に戻してから、
美琴は喉を鳴らして炭酸を楽しんだ。

「あァー……」

 美琴がヤシの実サイダーを飲み干すころになってようやく一方通行は立ち上がり、ベンチに
腰をかけた。

「バカね。痛がり過ぎよ」

「そもそもお前が……」

 言いかけてやめる。無駄に争う事になるだけだし、なにより先ほどの痛みで脱力感が半端で
ない。

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 22:11:14.64 ID:k3QPUe0G0

「なンでもねェ」

「あっそ」

「アンタこんな所でなにやってたのよ?」

「コーヒー飲もうとしたンだけどよォ。近くにコンビニなくて仕方ねェから自販機で買おうと
して、アレに金突っ込んだら飲まれたンだよ」

 言いながら美琴の精密な蹴りにより自動販売機が吐き出したジュースを物色する。その中に
コーヒーは無く、代わりに苺大福ジュース、パイン抹茶、辛麺スープなど、かなり前衛的なも
のばかりがラインナップされていた。

「そォいうお前は公園で一人で何してンだよ。実は寂しいやつだったンですかァ?」  

「んな訳ないでしょ。少なくともアンタよりは友達多いわよ。考え事よ考え事」

「フーン」

 さして興味がないのか、一方通行は自分には飲めないと判断したジュースたちを地面に置き、
縦に積み始める。

「実はねー」

「おゥ」

 聞いてもいないのに美琴は勝手に喋りだそうとする。一方通行はそれを止める事なく適当に
相槌を打ちながら缶を積み上げる。その高さはすでにベンチに腰掛けている一方通行の目線に
まで達していた。

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 22:15:40.47 ID:k3QPUe0G0

「私、明日デートすることになったのよ」

「そりゃ良かったじゃねェか。相手はなンだ?そこら辺走り回ってる掃除ロボか?」

「人よ。ヒ・ト」

「そォか、小学生か。いいンじゃねェの? 年の差カップル」

「しかもダブルデートなのよ。なぜか私が相手見つけなきゃいけないんだけどね」

「最近はガキへの防犯徹底してっからガンバレ」

「一人は見つかったんだけど後一人がねー」

「防犯ブザー鳴らされっとソッコーで警備員くるからなァ」

 グダグダとかみ合わない会話をしながら美琴は気付く。今、自分の横に座っている人間の性
別は男。佐天はいい奴ではないかも知れない事を承諾している。そして自分の知り合いだから
気を使う必要は無し。カシャカシャと学園都市第三位の頭を使い計算する。そして――

「アンタ、デート要員決定ね」

「は?」

 もう、コイツでいいや。という結論に達した。

「聞こえなかったの?」

「聞こえたけど意味わかンねェ」

 ベンチの上に立ち、高く缶を積み上げていた一方通行は瞬きを三つした後、目を見開いて美
琴を見降ろす。その目には『驚愕』の文字しかなかった。

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 22:19:00.90 ID:k3QPUe0G0

「だからー、アンタ明日私たちとデートすんの。メンバーは私と私の友達とアンタと上条当麻
よ。私の友達は二人とも知らないけどアイツいるし寂しくは無いでしょ?」

 ガラガラと積み上げた缶が崩れ落ちる。その衝撃でいくつかの缶がなぜか小爆発を起こして
いたが二人とも無視する。両者とも学園都市トップのLEVEL5。小爆発程度、気にする必要は無
いのである。本気になれば小爆発どうにでも出来る。今重要なのは、美琴が発している美琴に
とってはただの結論、一方通行にとっては解読困難な言葉なのだ。
 一方通行は手に握ったままにしていた『ヒエヒエ!甘納豆サイダー』を後方に放り投げなが
ら口を開く。今日初めて二人の間で意思疎通が図られる。
 
「デートォ?」

「ダブルデートよ」

「俺が? お前とお前のお友達と三下と?」

「そう」

「嫌に決まってンだろ。寝言は寝て言え」

 一応確認した後、間髪いれずに却下する。今言われたメンバーでキャッキャウフフする意味
なんて感じないし、必要もない。そもそも急にデートする、などと言われても困る。焦る。

「どうしても?」

「どォしてもだな」

「こんなにお願いしてるのに?」

「そンなにお願いしてねェだろ」

「そっか。なら仕方ないわね」

「おゥ」

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 22:25:40.42 ID:k3QPUe0G0

 あっさりと美琴が引いた事は一方通行にとって少し意外だった。もちろん承諾するつもりは
全くないがもっと駄々をこねられると踏んでいたのだ。

「さっき自販機に玩ばれてた事言いふらされても」

「はィ?」

 美琴は諦めてはいなかった。和平がダメなら今度は強行突破するしかないと考えたのだ。も
ちろんそこまでして一方通行と一日一緒に居たいわけではない。ただ、今回のダブルデートに
打って付けな人間を手放したくはないのだ。

「じゃあねー、一方通行ぁ」
 
 語尾にハートマークが付きそうなほど甘ったるい声で公園の入口へ歩き出す。口元には軽く
笑みがこぼれていた。

「ちょっと待てェ!!」

 すかさず一方通行は美琴の前に立ちはだかるが横をスルリと抜けられる。それでも一方通行
はすぐに美琴の横に付く。

「なァに言ってンですかァ!?」

 さっきのアレを言いふらされるのはマズイ。これでもクールでカッコいい、触れるな危険を
売りにずっと第一位でいたのにアレが周りに伝わるとダサくてウケる、お触りOK一方通行にな
ってしまう。それは一方通行にとって、とても都合の悪いことだった。羞恥の目も気にせずに
世の中を渡って行けるほどの精神的強さはない。意外とナイーブだったりもする。さらに美琴
には約一万人の妹達が世界中にいるのだ。妹達は脳波をリンクさせ情報を共有している。もし、
一人にでも話が伝われば世界中に広まる可能性もある。一応ネットワークを管理する上位個体
である打ち止めは手元にいるが、情報を止めるとは限らないし、打ち止めの性格上面白がって
逆に一気に広める可能性だってある。もし、そんな事をされて世界中に情報が広まってしまう
とナイーブ少年一方通行には引き籠るほか道は残されていない。

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 22:29:45.16 ID:k3QPUe0G0

「大丈夫よ。ちょっと知り合い数人に話すだけだから」

 笑顔ではあるが決して目は笑っていない。一方通行は悟る。美琴は本気だと。デートに行く
事を承諾しないと確実言いふらすと。
 
「わ、わかった」

 美琴の細い腕を、細い指で掴み足を止めさせる。そして、覚悟を決める。

「デート、行ってやらァ」

 その言葉を聞いて、美琴は作り物ではない笑顔で弾む様に言った。

「はい、決定!後でやっぱ止めるとか無しだからねっ!」

「あァ」

「いやー下手な演技した甲斐があったわー」

 その言葉に、一方通行の思考が止まる。今、コイツはなんて言った?

「あんなダサい姿、他の人に言えるわけないでしょ。大体誰も信じないわよ。第一位が自販機
相手に悶絶してたなんて」

「じ、じゃあ俺が断ってても言わなかったって事ですかァ?」

 最強に有るまじき弱弱しさで尋ねる。
 
「当り前じゃない。その時はまた他の人に当たるか当麻の友達連れてきて貰ってたわよ」

「嵌めやがったな、このクソアマがァ!」

「とにかく明日はちゃんと来なさいよ!約束したんだから」

「時間は後でメールするからー」

 それだけ言い残し軽く手を振りながら美琴は公園を後にした。一人残された一方通行は、しば
らくの間、美琴の出て行った入口を茫然と見送るしか出来なかった。
 学園都市の最強は、能力でどうにもならない様な分野では割と脆かったりするのだ。

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 22:33:12.35 ID:k3QPUe0G0

                 * * * 


 時刻は午前九時。上条当麻はいつもより気合いを入れて髪をセットしていた。傍らには普段は
絶対買わない様なファッション雑誌。開いているページは『この春のモテ髪!!』と題され、白
い歯をチラリと見せて笑っているイケメン達の顔写真がズラリと並んでいる。
 当麻はその中から自分の髪の長さでも出来そうな髪形を見つけ、かれこれ一時間ほどソレに近
づけようとワックスだったりムースだったりを駆使して髪をいじっているのだが中々思うように
はいかない。どうあがいても、いつものツンツンヘアーから脱出することは出来ないでいた。

「あーもー! やめだ! どうにもならん!」

 一時間セットし続けた髪を水で濡らした両手でグシャグシャっとする。そしてドライヤーで簡
単に乾かすと何時もの上条当麻がいた。

「ヤバイな。もうあんまり時間がないじゃないか」

 整髪料と抜け毛ですっかり汚なくなってしまった洗面所から抜け出し、昨日のうちにハンガー
にかけておいた服に着替える。自然と陽気な鼻歌が出ている事に当麻自身は気付いていない。

「とうま、なんだかご機嫌だね」

 先ほどまでスヤスヤと眠っていた銀髪碧眼のシスターが、頭から毛布をかぶったままノソノソ
とベッドがら這いずり出てきていた。当麻の鼻歌で起きたのだろう。

「そ、そっかー?」

 鼻歌をやめイソイソと上着のボタンを留める。見つかってしまった……という思いは拭えない。
出来ればインデックスには見つからずに家を出たかった。置手紙を残して、インデックスの分の
朝・昼あと一応夜ご飯は冷蔵庫の中でチンをすればいいだけの状態で眠っている。
 
「あれ? どこかにお出かけするのかな?」

 当麻がいつもの部屋着ではない事に気付いたインデックスは当麻に近づきながら目を光らせる。
出かけるのなら自分も連れて行って欲しい。最低でもお土産は買ってきて欲しい。

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 22:37:09.00 ID:k3QPUe0G0

「インデックス、そこで『待て』だ」

 数々の幻想を打ち砕いてきた右手を前に出し、近寄るインデックスを静止させる。今日は人生
初のデートなのだ。相手は良く知った人間だがもう一人女の子が来るみたいだし、折角誘って貰
ったんだから無下には出来ない。いくらタイプは年上のお姉さんであっても思春期の男子、そう
言う事に感心は有りまくり。だから遅刻は避けたい。そのため不測の事態起こるような因子は最
初から除外しておきたかったのだ。もちろんインデックスが嫌いだから逃げたかった訳ではない。

「とうま。私は犬じゃないんだよ?」

「わかってる。が、今は俺が部屋を出て行くまでステイだ」

 ちゃぶ台の上で伸びをしていたスフィンクスを胸で抱きかかえながらジリジリとインデックス
が歩み寄る。
 それと同じ速さで当麻は玄関へと後ずさる。

「ちゃぶ台の上に手紙を置いてあるからそれを見るんだ」

 怪訝な顔をしながらインデックスはちゃぶ台に目を落とした。するとさっきは気付かなかった
が確かにそこには手紙が置いてあった。宛名は『Dear インデックス様』
 一度、抱えていたスフィンクスを床に放し、手紙を広げる。

『ちょっと大人の階段を昇ってくる。ご飯は冷蔵庫の中に入ってあるからチンして食べてくれ。
スフィンクスのエサは朝と夜だけだから気をつけろ。火は絶対使うな。何か困ったことがあった
らすぐに電話してこいよ。お前に渡したゼロ円携帯の数字の1を押したら俺にかかるようにして
あるからな』
  
 読み終えてから、手紙をグシャッと丸めた。やっぱり当麻は一人で楽しく遊んじゃうつもりな
のだ。自分は除け者にして。そんなの嫌! とインデックスは歯をむき出して噛みついてやろうと
顔をあげる。
 しかしそこには開けっぱなしになった玄関のドアから少し肌寒い風が入ってくるだけだった。
 むむぅ、と頬を膨らませる。どうせもう聞こえないだろうが、言っておかなければならない。
インデックスは思いっきり肺に空気をため、心のモヤモヤとともに一気に吐き出す。

「とうまのバカァァァアアァアァアァァ!!」

 耳を劈く大声量を背に、当麻は全力疾走で待ち合わせ場所まで向かうのだった。

22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/14(金) 22:40:52.92 ID:k3QPUe0G0
取り合えず今日はここまでです。
初回だったんでこんだけ投下出来ましたがこれからは少なくなると思います。
次は日曜日にでも。
それじゃ見てくれてありがとーございました。
これから是非是非よろしくお願いします。

おやすみー
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 22:42:39.47 ID:n0Pj1EQ1o
メールの文章的には一見そっけないのに結構ウキウキな上条さんかわいいww
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 22:44:08.90 ID:kou+a5zwo
乙〜
上琴と佐天×一方通行?
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 22:55:48.28 ID:GRxd6viQo
斬新なスレタイだなww
文章もしっかりしているし期待
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 23:13:29.79 ID:s7wBkd/Uo
最初、ん?
と思ったが、
佐天さんとの絡みで
もしかして……?
と思い、
一方さん登場で
ニヤリ

でしたよ。

大期待
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 23:33:53.94 ID:SuMPs1zCo
>「いってェ!!脛打ったァァァアァァァァアァ!!!!!!」

やべえwwwwwwこれはヤバイwwwwwwwwwwwwww
今年一番の笑いが来たwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 23:34:16.30 ID:R0SwLIH/o
カフェの件がおもしろすぎるww
こういう一秒を一分に思わせるような文章大好きだわー。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 00:07:56.28 ID:tS2JE/YPo
なるほど、それでこのスレタイか
みんな可愛いしおもしろいな

おつかれ
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 00:10:43.37 ID:NxgWcO5No
乙ー
上琴と一佐だったら嬉しいがまあどう転んでも読む
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 12:58:57.28 ID:Tbcc1SKlo
5+0+0+5

ほう……上条さん×一方さんで美琴×佐天か
斬新なダブルデートだな
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 17:34:15.34 ID:myBbq3jIo
>>27
自販機に負けるなら冷蔵庫にも負けるかもしれん
ていとくんの勝機が見えたな
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 20:08:07.79 ID:uHvManPk0
カップリングについては今のところ上琴、一方×佐天の予定ですが、
まだ完全に決めてる訳ではないし、気が変わるかもしれないんで明言はしないでおきます。

文章に関して半信半疑な俺がいるwwww

それでは続きです
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 20:10:45.55 ID:Q1N5LJdNo
気が変わるか…

濃厚なBLを纏わりつく
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 20:15:47.02 ID:uHvManPk0

「おっせェ」

 デート当日、一方通行は美琴に指定された場所に時間通りに来ていた。ほぼ強制的に参加が
決まったとはいえ、丸一日潰れるのだから、それなら真面目にやった方がいいと踏み、ちゃん
と時間にも遅れずに集合場所である昨日の公園に来たのだ。
 それなのに、それなのに約束の時間からほぼ一時間過ぎた今でさえ誰も来ない。一体これは
どういう事なのかと美琴に問いただそうとしたのが三十分前。その時は美琴が電源を入れてな
い様で、結局連絡が取れなかった。他の二人の連絡先は知らない。
 かくして一方通行は朝の八時から待ちぼうけを食らっているのだ。

「最初に来たやつは先ずぶっ殺す。その次に来たやつもぶっ殺す。そんで最後に来たやつァ、
超ぶっ殺す」

 結局全員、ぶっ殺す事に決定した訳だがそれにしても遅い。まさか自分が間違えているので
はないかと美琴のメールをチェックするが間違いなく日付けは今日で、場所はココで、時間は
一時間前だった。
 バチンと乱暴に携帯を折りたたみポケットに突っ込む。そして公園の入り口を睨み続ける作
業を再開してから十秒。ツンツン頭の少年が息を切らしながら公園に入ってきた。

「さァァァァァン下ァァァアァァァァ!!」

 一瞬で公園の入り口まで移動する。一秒前に一方通行がいた場所には足形だけが残っていた。

「あっ、おはよう一方通行」

「おはようじゃねェンだよォ!」

「えっ? なに怒ってんの?」

 意味が分からないと当麻は首を傾げる。一時間近く遅れといてなんという言い草だろうか。
一方通行のこめかみにビキビキと筋が走る。

「三下三下三下ァァ」

 歌うように呼ぶ。一方通行の怒りのボルテージはMAXまで達しようとしていた。

36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 20:27:52.92 ID:uHvManPk0

「今、何時ですかァ?」

「九時五十分だな」

「待ち合わせ時間は何時だったっけなァ?」

「十時だろ? どうしたんだよ一体」

「そうだろうが! 十時だろうがァ!! それなのにてめェは一体何時にっ……」

 言葉が詰まる。十時? 待ち合わせは九時ではなかったのか?
 一気に頭が混乱する。行き場を失った怒りのボルテージは急速に落ちて行く。

「九時じゃ……ねェのか?」

 メールにはそう書いてあった。さっきも確認したし間違いはないはずだ。

「何言ってんだよ。ほら」

 当麻が美琴からの送信メールを開いて一方通行の目の前に表示した。そこには確かに九時に
公園に集合と書かれていた。
 もう一度、自分の携帯を取りメールを開く。そこには九時に公園集合と書いてあった。

「御ィィィィ坂ァァァァァアアァァァ!!」

 行き場を取り戻した怒りが大爆発する。口から火でも出しそうな勢いだった。携帯を真上に
ブン投げる。ギラギラと光る赤目を最大限見開き、どうしてやろうか、ぶっ殺してやろうか。
うんそうだ、ぶっ殺そう。これはもうぶっ殺しても問題ないレベルだ。などと物騒な事を考え
ていると、ぶち殺しが確定した美琴が佐天を引き連れてノコノコと公園に入ってきていた。

「なによ、人の名前大声で叫んじゃって」

「これみろォ!」

 地面に転がっていた自分の携帯を拾い、例のメールを付き付ける。一方通行のあまりにも凄
い勢いに、佐天は思わず美琴の背中に隠れた。

37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 20:32:58.53 ID:uHvManPk0
時間がおかしい事になってる

上条へのメール→10時
一方へのメール→九時

でお願いします
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 20:52:50.75 ID:uHvManPk0

「あー、打ち間違えちゃってたんだ」

「俺はなァ……このメールのせいで朝っぱらから一時間も待たせれたンだぞォ!」

「そっか。ごめん! それじゃあ佐天さんもいる事だしさっそくみんな自己紹介しましょう」

「いやいやいやいや、御坂さン」

 自然すぎる進行に一瞬流されそうになるが、そこは食らいつく。ごめん!ってそれだけで
済まそうなんて一方通行はこれっぽっちも思ってないのだ。

「なによ、謝ったでしょ。もう一回言えばいいの? なら言ってあげるわよ。ごめん!」

「いや……あの、うン」

 あまりの美琴のキレの良さにたじろぐ。しかしやっぱり何か納得いかない一方通行はしゃが
んでいじけてしまった。隣では初めまして、佐天涙子です。こちらこそ初めまして上条当麻で
す。と普通に自己紹介が始まっていた。
 
「それで、あそこでいじけてるのが一方通行よ」

 美琴が、砂に人差し指で小さい三角形をグルグルなぞっている一方通行を指差す。佐天はあ
はは、と少し困ったように笑いながらしゃがんでちっちゃくなっている一方通行に近寄った。

「いや、確かにィごめんは合ってンだけどよォ。それはなンか違うっつーか……」

 佐天が近づいた事にも気付かない一方通行は小声でグチグチごちっていた。佐天は身体を曲
げ、一方通行を覗き込むような体勢になる。佐天の長くてツヤのある綺麗な黒髪が一方通行の
顔を軽く撫ぜた。

「初めまして、一方通行さん。私、佐天涙子っていいます」

 その声に一方通行が上を見上げると、そこにはひまわりの様な明るい笑顔があった。

「お、おゥ」

 顔をくすぐる髪からはシャンプーの匂いだろうか、柔らかくて仄かに甘い香りが漂っていて
何ともこっ恥ずかしい気持ちになる。中学一年生にしてはな大きく布地を押し出した胸が近い。
一方通行は周りには分からない程度に赤面する。家には幼女とお姉さんが常駐しているという
エロゲ的な生活を送っている一方通行だが、そういう風な目で見た事はなかったし、なにより
生のピチピチ中学生に対する免疫なんてものは持っていないのだ。

39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 21:13:59.36 ID:uHvManPk0

「で、今日ってどこ行くんだ?」

 集合場所と集合時間しか知らない当麻が美琴に尋ねる。昨日の晩にこういうのは普通男が考
えるものじゃないのか? とバスタブの中で考えたりもしていたが、結局何も思いつかないまま
眠りについていしまい、今朝はあんな事になってしまったため当麻的にはこの後はノープラン
なのだ。

「実は何にも決めてないのよねー。佐天さんは行きたいとことかないの?」

 まさかのノープラン発言に当麻は新喜劇バリのズッコケをみせる。笑いの一つでも起きると
思ったが「えっ、なにそれ」と美琴が予想外の方向へ食いついてきてしまい、ただの変なテン
ションの人間となってしまった。

「んー。私も特にないんですよね。地下街でも行ってみますか? あそこなら遊びに関しては大
体のものは揃ってますし」

「よし、じゃあ地下街行こうぜ」

 言いながら当麻は右手で美琴の左手を取る。凄く自然に、それが然も当然かのように。

「えっ……ちょっ、なんで手を繋ぐのよ!」

 美琴は突然の当麻の行動に顔を赤らめて慌てるが、当麻は「え? これデートなんだろ?」
と素の顔で答える。当麻の脳内ではデート=手を繋ぐの構図が一ミリの迷いもなく構築されて
いるようだ。たとえ相手が本当の恋人でなくても。

「んなっ」

 当麻の言葉に、そう言えばこれはデートなんだと再確認させられ首まで赤くなった美琴は、
下を向きブツブツと呪文を唱えている。それでも決して自ら手を離すことはなかった。
 そんな二人を見て、

「どうしましょうか?」

 と、佐天は眉を下げて困り顔。あの二人は普段から仲がいいし手を繋いでも違和感はあまり
ないが自分たちは今日初めて会ったのだ。初対面の人と手を繋ぐ。それは少し勇気のいる事だ
が、自分としては折角のデートだし繋いでみたい気もする。一方通行は嫌がるかもしれないが。

40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 21:18:38.21 ID:uHvManPk0

「ン」

「へ? あっ……」

 当麻たちの行動を見て、一方通行はぶっきら棒に右手を差し出す。つられて佐天はその上に
左手を置いた。佐天の手を一方通行の手が優しく包む。朝から一時間も外で待ちぼうけを食ら
っていたせいだろうか、一方通行の手は、酷く冷たかった。

「おーい、行こうぜー」

「そンな慌てンじゃねェよ」

 呼ばれて一方通行が佐天より先に足を踏み出す。佐天は自分と繋がっている冷たい手を見て
いたため少し反応が遅れる。必然的に一方通行に一歩分引かれて歩く形となった。

(私いま、男の人と手を繋いでるんだ。これからデートなんだっ)

 歩調に合わせて揺れる白髪を見ながら改めて実感する。今まで全くと言っていい程、男っ気
のなかった自分がデートするのだ。そう意識しだすと色々と考えてしまう。今日の服は大丈夫
なんだろうか。髪は崩れてないだろうか。ちゃんと綺麗だろうか。自分はこの人にどういう風
に見られてるのだろうか。
 いまだ冬の気配を残した風が吹き抜ける。普段なら首をすくめる所だろうが、不思議な熱を
持った身体には、心地よい春風となっていた。

41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 21:23:27.43 ID:uHvManPk0

 適当な所から地下街に降りるために階段を降る。暦の上ではもう春とはいえ未だ外気は冷た
いためだろう、地下街全体に強めの暖房が入っていて階段を降りて行くとムアッとした空気に
襲われる。
 二組が手を繋いでから十数分。最初はテンパっていた美琴もなんとか落ち着き今はいつも通
りに当麻と会話している。時折二人の間にこぼれる笑みから察するに、結構楽しめているのだ
ろう。問題は、もう一組だ。

(どうしよう……なんか重い)

 一応、手を繋いで並んで歩いてはいるのだが、佐天と一方通行の間に会話はない。初めのう
ちは高校はどこだ、中学はどこだ、こうやって男の人と遊ぶのは初めてだ。など当たり障りの
ない会話で場を繋いでいたが、一方通行が返事しかしないため長くは持たない。佐天だって、
初対面の人間相手に色々話せるほど器用ではない。かくして数分前から二人の間には沈黙が流
れているのだ。
 最初は美琴と上条の話に割り込もうとも考えたがすぐに止めた。あまりにも二人が楽しそう
なのだ。特に美琴が。何も知らない人間が見ればなんの疑いもなく二人をカップル認定するだ
ろう。その位前を歩いている二人の間にはアマアマな空気が流れていた。

(私といるの、つまんないのかな……)

 集合場所に行く前に美琴から聞いた話によると、手を繋いでいる男はどうやら強制召喚らし
い。本当はココにいるのも手を繋ぐのも嫌々なのかも知れない。そう考えるとなんだか一方通
行に悪い気がして佐天は俯いてしまった。
 行き先も決めてないくせに、前の二人はズンズン進んでいく。

(少しぐらいこっちの事を気にしてくれてもいいのに……)

「つまんねェか?」

 いきなりの質問に佐天は驚き、思わず握っていた手を離してしまった。

「そ、そんな事ないですよっ」

「そォか。ならいいンだけどよ」

 それだけ言って、一方通行はまた佐天の手を取り歩き出す。

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 21:28:40.89 ID:uHvManPk0

(嫌では、ないのかな……?)

 嫌ならまた手を握り直すなんてしないだろうし、なによりさっきみたいな質問は来ないだろ
う。何考えてるかよく分からない男・一方通行に手を引かれながら佐天は思う。
 このヒョロイ白髪は悪い人ではないんだろうと。

「なぁ、これからゲーセン行くのでいいかな?」

 第三者的にはイチャイチャしていた当麻が振り返る。なんだ、ちゃんと次の事考えてたんだ。
と、佐天は少し意外に思った。

「いいですよ。一方通行さんもいいですよね?」

「あァ。俺ァなンでもかまわねェ」

「なら決定ね! 確かそこの角を曲がった所に二つぐらいあったと思うんだけど……」

 そんな会話をしながら四つ角を曲がると、美琴の言う通り二つのゲームセンターが併設され
ていた。
 
「どっちに入る?」

 二つのゲームセンターの入り口のちょうど中央まで来たところで当麻が振り返る。つられて
美琴も振り返る。二組は久々に向かい合う形となった。学園都市のゲームセンターには二種類
のものが存在する。一つは学園都市の最先端技術を集めた未来型のもの。もう一つは学園都市
外と同じレベルの一般的なものだ。

「どうせならこっちに入りませんか? 折角、学園都市に住んでる訳ですし」

 佐天が前者のゲームセンターを指差す。入口の遮音機能のあるガラス製の自動ドアには所狭
しと新作ゲームのポスターが貼られていて、中の様子はドアが開かない限りはほとんど見えな
い。

「そうね。私もココ来るのご無沙汰だから新機種もいっぱい入ってるでしょうし」

 当麻を引っ張りながら美琴は未来型ゲームセンターの入口へ向かう。強い力で引っ張られた
のだろう。美琴と手を繋いでいる当麻は前のめりになり、こけまいと必死にケンケンで体勢を
整えていた。

43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 21:33:33.08 ID:uHvManPk0

「一方通行さんってこういうとこ来たりするんですか?」

「今日が初め……」

「きゃっ!」

 自動ドアが開くと電子の爆音が四人を襲った。あまりの音量に佐天は思わず身体をビクつか
せてしまう。春休みという事もあるのだろう。ゲームセンターの中は混雑、とまではいかない
が中々の客入りだった。

「どれやるー?」

「あれとか面白そうじゃない?」

 当麻と美琴は慣れているのか、爆音を物ともせずズンズン奥へ入って行く。二人を見失わな
いようにと佐天も歩き出すが、なぜか一歩踏み出した所から体が進まない。

「あれ?」

 不思議に思って横を見ると、一方通行が空いている左手で耳を押さえてしゃがみ込み、小さ
く丸まっていた。

「やっべーだろこの音は。人体への影響そっちのけですかァ?」

 生まれて初めてのゲームセンターで奇襲を受けた一方通行は完全に腰が引けていた。昨日か
ら、何故だか無生物に良く負ける。

「あははっ、大丈夫ですか?」

「お、おゥ」
 
 そんな一方通行の手を引いて立ち上がらせると、四方から飛んでくる電子音にまざり美琴の
自分たちを呼ぶ声が聞こえた。

44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 21:40:53.73 ID:uHvManPk0

 美琴たちの所まで行くと、そこには格闘技で使うような大きさのリングが透明のプラスチッ
クで囲まれるそうにして設置されていた。そしてそのリングをゲームの画面に見立てるように
ゲームセンターでよく見かける、レバーと四つのボタンで構成されているコントローラーと簡
易な椅子が鎮座している。そしてその一角だけ、やけに天井が高い。

「これなんですか?」

 ゲームセンターには不釣り合いなリングを見ながら佐天はレバーを適当にガチャガチャ動か
す。

「なんかねー、擬似体験型格闘ゲーム? らしいわ」

 美琴が近くに立てられている恐らくこのゲームのであろう幟を見ながら答えた。佐天はコン
トローラーの台に紐で括り付けてある小冊子を見つけるとパラパラとめくり始めた。
 それによるとこのゲームはどうやら二人一組、計四人で行うらしい。リングに上がる人間は
専用のヘッドギア、ベスト、グローブ、足にはレガースと靴を付ける。そしてペアになった人
間がコンローラーでリング上の人間を操作して戦う。そんなゲームだ。

「へー、面白そうじゃない」

「一方通行、対戦しようぜ」

「俺らがリングに上がンのか?」

「そりゃお前、女の子殴り合わせる訳にはいかないだろ」

 当麻は着ていたダウンを脱いで着々と準備を進めていた。

「これ、幾らなンだ?」

「えーと、一ゲーム……千円!?」

「千円!? ゲームするだけで千円もかかるんですか!?」

 佐天と当麻の一般人コンビは目が飛び出るんじゃないかというぐらいのリアクションを見せ
る。しかし少なくともそういう面では一般人でないLEVEL5コンビは……

45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 21:45:24.88 ID:uHvManPk0

「これ電子クレジット使えンのか?」

「んー……ver.2までなら使えるみたい」

「マジかよ。俺のver.3なンだが。札なンざここ数年持った事ねェし」

「電子マネーは?」

「全部クレジットにしてっからなァ」

「それぐらい持っときなさいよ。結構便利よ? 電車もコレだけで乗れるし」

「移動は基本歩きかタクシーなンだよ」

「そんなんじゃ世間から置いてかれるんじゃない?」

「でもカード増えっと請求書とか面倒くせェしなァ」

「電子マネーは請求書とかないわよ。取り敢えずココは私が出しとくわね」

「悪ィな。今日のメシは奢ってやンよ」

「楽しみにしとくわ」

 千円を払ってまでこのゲームをするか否かではなく、どうやって千円というはした金を払う
かで盛り上がっていた。

「LEVEL5恐るべしですね」

「ああ。俺らとは住む世界が違うな」

 普段はLEVEL5だという事を感じさせない様な二人だが、こういう時は自然とレベルの違いを
見せつけるのであった。

「おィ、佐天。コレ持っとけ」

 一方通行が着ていた真っ黒なコートを乱暴に投げる。急に飛んできたコートに対処しきれず、
佐天はソレを取り落としてしまう。

46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 21:51:32.50 ID:uHvManPk0

「あっ、すみません」

 地面に落ちてしまったコートを慌てて拾う。しかし真っ黒なコートには目立つ埃が付いてし
まっていた。おそらくこのコートも高いんだろうな、怒られちゃうかな。とおっかなびっくり
一方通行の方を見るが、コートを落とした事に気付いてないのか、それともどうでもいいのか、
すでにリングの上に上がっていた。

「チーム分けどうするんだ?」

 専用の靴を履きながら、当麻はプラスチック越しに美琴と佐天に尋ねる。

「さっきのでいいんじゃない?」

 さっきの、とはもちろん手を繋いでいたコンビで。という事だろう。

「絶対負けないぞ! 一方通行!!」

「ンなこと言っても操作すンのはあっちだからなァ」

 言いながらグローブをギュッと引っ張る。言動には出さないが、静かに対抗意識を燃やして
いるのだろう。一応デートなのだ。女の子にカッコ悪い所を見せたいはずはない。

「二人とも準備はいいー?」

 美琴の掛け声に当麻、一方通行とも反応する。それを確認してから、美琴は電子マネーを読
み取り器にかざす。
 佐天は慌ててコントローラーの前に立つが、一方通行から預かったコートをどうしようかと
思案していた。小脇に抱えるのはゲームをするのに邪魔だろうし、コントローラーの台の上に
置くとまた床に落としてしまいそうだ。何気なしに美琴の方を見ると、美琴は当麻のダウンを
自分のコートの上から着ていた。ソレをみてハッとしたように佐天も一方通行のコートを着る。
当り前だが、袖が長く指は第二関節までしか覗かなくなってしまった。
 袖の端を指でイジイジしていると前方から、ゲームのオープニングであろう軽快な音楽が流
れて来た。用途不明だったプラスチックに映像が流れる。

「さーて、佐天さんどこのステージでやりたい?」

 美琴がカチョカチョとレバーを引く。それに合わせて背景が変わっていく。キャラが自分自
身のため、いきなりステージ選択からゲームは始まっているのだ。ちなみに必殺技などはゲー
ムが始まった時点でコンピュータが自動で決めるらしい。ステージを一通り見ると、道路、雪
山、川、草原、中には宇宙なんてものもあった。なるほど、これは凄い。と佐天は学園都市の
技術に感心する。まるで自分がその場所にいる様な臨場感が味わえるのだ。それはリング上の
二人も同じ、というかそれ以上にリアルに感じられるようで、画面が変わるたびリングの方か
ら「すげー!」「なンだこりゃ。川の流れに足取られてンのか?」などとテンションの上がっ
た二人の男の声が聞こえてくる。

47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 21:57:09.88 ID:uHvManPk0

「初めてだしオーソドックスな場所でやりませんか? 道路とか」

 さっきの一方通行の言葉を聞くと、どうやら川や雪山などのステージでは、足場の感覚もソ
レに合わせて変化するらしい。そうなると操作は難しくなるだろう。

「そうね。先ずは様子見ってことで」

 美琴がカーソルを道路に合わせてボタンを押す。すると画面にはNOW LODINGの表示とともに
簡単な操作説明が表示された。それによると、どうやら昇竜拳とか出せるゲームと操作性はほ
とんど同じらしい。違うのは現実世界で戦うため奥行きまである事と、超必殺技が地上戦と空
中戦で違うことぐらいだろう。

(これなら何とか大丈夫そう)

 構えながら佐天は適当に技の練習をする。美琴はジッと画面を見ているだけだった。

「一応言っとくけど能力とか使うなよ?」

「これに使ってなンか意味あンのか?」

 リング上では今まさに闘わんとしている二人がゆるい会話をしていた。
 画面が切り替わり舞台である道路が表示される。体力ゲージや超必殺技を放つためのゲージ
の位置も例のゲームとさほど変わらない。もっとも当麻と一方通行にゲージは見えていないの
だが。

「美琴ー頑張れー」

「ヘマすンじゃねェぞ」

 戦う二人から声援が送られるという可笑しな構図だが、これもこのゲームの売りなのだろう
か。佐天がそんなことを考えていると戦闘開始のカウントダウンが始まった。

 3

 それと同時にリング上の二人の身体の自由が奪われ、格闘ゲームのキャラのように身体を揺
らしながら、構えを取った。

 2

「全然身体動かねェな」

「動いたら意味ないもんな」

 1

48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 22:03:17.76 ID:uHvManPk0

 GO!!の合図と共に当麻は天井スレスレ、床から5メートルの高さまで飛翔した。所謂ハイ
ジャンプである。やけに高い天井はこのモーションのためだった。

「ぎぃやぁぁああぁぁぁぁあ!!」

 なんの打合せもなく体験した事のないような高さまで飛んだ当麻は思わず悲鳴を上げる。そ
して両手をバッと広げた。その手には青白い光が宿っている。

「さぁ! 食らいなさい! 佐天さんもとい一方通行!!」

 戦闘開始わずか一秒での超必殺技発動。超必殺技のゲージは1から0となる。それと同じタ
イミングで真横に広げていた当麻の両手から、連射砲のごとく十五の青白い光球が放たれる。

「すげぇ!俺能力使ってるみたいだ!!」

 自らの手から放たれた光球を見て、当麻のテンションは急上昇だ。擬似とはいえ、自分の手
から何かが放出されるというのはLEVEL0としてはかなり嬉しい。

「一方通行さん! 動きますよ!!」

「おォ!」

 頭上から降り注ぐ攻撃に合わせて一方通行の腕が伸びる。このゲームに単純にガードすると
いう概念はなく、その場に応じて避けるなり弾くなりしなければならないのだ。
 身体に当たる前に一方通行の手が光球を弾く。手に若干の衝撃が走った。怪我をする事はな
いが、攻撃に合わせそれに見合った衝撃が来るようにプログラミングされているのだろう。
 十、十一と次々襲ってくる光球を弾く。それに合わせて一方通行側の超必殺技のゲージは溜
まっていく。しかし……

「っつ!」

 全てに対処しきれず十二発目が一方通行の頭に直撃する。超必殺技という事もあり、まとも
に食らった場合の衝撃は強いのだろう。足と地面が離れ、一方通行は伸身のまま宙に浮く。そ
こに十三、十四、十五発目が追撃する。一方通行の身体が地面に叩きつけられた。体力ゲージ
が削られる。

「大丈夫ですか!?」

 その佐天の言葉を聞く前に一方通行は跳ねるように起き上がった。ゲームによる起き上がり
のプログラミングだろう。

49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 22:09:48.50 ID:uHvManPk0

「問題ねェ! 問題ねェからさっさと攻撃しやがれ!!」

「させないわ! このまま一気に型を付けてあげる!」

「ちょぉぉぉおおぉぉぉ! 御坂さぁああぁぁぁぁん!!」

 再び当麻は飛翔し、右足を真上に突き出す。それを見た佐天はレバーを素早く手前に二度引
く。すると一方通行からすると右側、佐天からすると手前に一方通行は移動した。
 当麻が踵落としの要領で足を真下に振り抜く。しかし、すでにそこに一方通行はおらず、リ
ングをガンッと鳴らすだけだった。

「御坂さんは大振りすぎるんですよ」

 佐天の言葉と共に、一方通行は左から右へと右手を振り抜く。強攻撃での裏拳が当麻の側頭
にクリーンヒットした。さらに……

「コンボ繋げさせてもらいますね」

 裏拳の勢いそのままに左脚でミドルをお見舞いする。当麻の身体がくの字に折れ曲がる。二
歩ほど当麻が後ずさる。しかし佐天は追撃をやめない。一方通行が左手を伸ばし、当麻の胸倉
近くのベストを握る。美琴は慌ててその手を外そうとするがもう遅い。
 目にも止まらぬ速さで、一方通行の右拳の弾幕が当麻の全身を貫いた。

「ハハハハッ! いい! いいぜ佐天!!」

「ちょっとー! アンタ早く動きなさいよ!!」

「そんな事言われても……」

 拳の弾幕が止んだ後も、当麻の身体は美琴の言う事をきかない。所謂ダウン状態なのだろう。
フラフラと身体を揺らしながら立っているのがやっとという状態で、当麻の体力ゲージの残り
はもう半分を切っていた。

「一方通行さん! 決めますよ!!」

 当麻の放った超必殺技を弾いた分と先ほどのコンボで、ゲージはMAXまで達していた。佐天
が必殺のコマンドを入れる。

50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 22:16:06.68 ID:uHvManPk0

「終わりだぜ三下ァ!」

 一方通行は腕を組むようにして両手を脇で挟んだ。そして力強く腕を引く。すると有ろう事
か肘から先が抜け、露わになった上腕の断面には砲門が備わっていた。

「ちょっ?はァ!?」

 予期せぬ出来事に一方通行は混乱する。しかしそれでも佐天は……

「ヘルズフラ――――ッシュ!!」

「腕もげたァァァアァァァ!!」

 二人の歓喜と悲痛の咆哮とともに、一方通行の両肘から極太の深紅のレーザーが発射された。



「いやー、佐天さん強かったわ」

「我ながら上手くコンボを繋げれましたよ。でも、二回戦の御坂さんの奇襲には驚きました」

 激戦を演じた四人は、現在少し休憩しようと言う事でゲームセンターの隅に設けられている
休憩コーナーでジュースを飲んで一服していた。ちなみにココでの支払いは一勝二敗で惜敗し
てしまった当麻・美琴チームの奢りとなっている。

「なァ、マジで大丈夫か? 切れ目とかねェよな?」

「大丈夫だってば。アレはゲームの演出だって」

 先ほどプレイした擬似体験型格闘ゲームの感想で盛り上がっている女子二人の横で、男子二
人は自分の腕をマジマジと見ていた。

「でもアレ凄かったな。あれだけ殴り殴られしたのに傷どころか痛み一つ無いなんて」

 当麻の問いかけには一切反応せず、一方通行は色々と角度を変えて自分の腕を確認する。当
麻の言う通り、先ほどのアレはただの演出な訳だが、なまじ精巧に出来ていたため一方通行は
仮想世界から帰りきれずにいた。一方通行には演出だと言ったが当麻も同じなのだろう。時折
手をジッと見つめた後、勢いよく手を前にかざし、何か手から出ないかな……などと呟いてい
た。

51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 22:18:04.81 ID:uHvManPk0
今日はここまでー
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 22:28:53.64 ID:P21YE9O/o
腕もげたwwww
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 22:40:54.00 ID:ZrB7xLJb0
なんで腕もげてんだよwwwwww
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 22:54:02.85 ID:I4KFAdXQo
勝ったのに雄たけびひでえwwwwwwwwwwwwwwwwww
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 23:55:54.76 ID:etV4VDXAO
人造人間16号かwwww
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 01:08:26.72 ID:pRx+gqCto
もwwwwwwげwwwwwwwwたwwwwwwwwww
あんたには敵わんwwwwww
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 01:18:03.79 ID:OS2N2hOmo
しっかり青春してるわー乙
腕以外ももげろ
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 02:51:46.87 ID:rDMYtdwJo
面白過ぎるwwwwwwww
そしていちゃいちゃっぷりとはしゃぎっぷりが見ててほんわかするわぁww
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 07:38:59.35 ID:VhMgYWTAO
16号wwwwwwwwww
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 09:06:30.65 ID:c8JdygrAO
決め技にヘルズフラッシュを選ぶとは話の分かるやつだな
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 13:06:40.45 ID:+YoH2LXEo
ちょっと気になったんだがここの一通さんは杖と能力制限なし?
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 16:48:44.53 ID:VhMgYWTAO
>>61
>>18
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/19(水) 23:40:31.82 ID:l0TLrfxJ0
>>61
制限なしです。でも普段はデフォの反射とかも切って、普通に生活してる設定です。平和!!
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/19(水) 23:44:17.91 ID:l0TLrfxJ0

「ねぇ、次どうするー?」

 仮想空間から戻ってこない二人に美琴が声をかける。まだ昼食には早いが、やりたいゲーム
もこれと言ってない。こんな時はみんなで考えるのが一番なのだ。

「なんでもいいぞ」

「三下と同じだな」

「アンタら……」

 自分の意見のない二人に少しばかり呆れる。これではデート開始一時間で手詰まりだ。かと
言ってならお前は何か考えているのか、と聞かれると別に何もなかったりする。四人の間に、
けして悪いものではないがなんとも言えない空気が流れる。

「あのー」

 オレンジジュースをチビチビと飲んでいた佐天が控えめに手をあげた。一斉に三人の目が佐
天に集まる。

「なになに? なにかやりたいゲーム見つけた!?」

 この変な空気を打開してくれるのか!? そんな期待を含んだ、いつもと比べると少し高い
声を持って美琴は佐天の方に身を乗り出す。男子二人は背もたれに身を預けたままだ。

「プリクラ……みんなで撮りませんか?」

「プリクラかー、こっちのゲーセンにあったかな?」

「?」

「いいわね! ナイスアイデアよ佐天さん!!」

 佐天の提案に三者三様のリアクションを返す。一番拒否しそうだと踏んでいた一方通行が何
故だか無表情で押し黙った事に佐天は安心し、同時に不安にも思う。もしかしてだが、万に一
つ、この瞬間太陽が爆発するぐらいの可能性ではあるが……

65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/19(水) 23:47:50.55 ID:l0TLrfxJ0

「……一方通行さん、プリクラってなんだか分かりますか?」

 佐天は少し戸惑ったが一応、聞いておく。もし一般人にこんな質問をすれば、ちょっとした
ジョークだと思われるかもしくはバカにしてるのかと思われるかのどちらかだろう。しかし今、
目の前でこちらを見たままボーッとしている御方は学園都市の第一位。それだけでもアレだが
先ほどのゲーム代のやり取りを見て、少なくとも自分や当麻と同じ種類の人間でない事はわか
った。だからというか何と言うか、とにかくこの御方は本当にもしかするともしかしちゃう可
能性を秘めている気がするのだ。

「お前、いい質問するじゃねェか」

 腕を組み、舐めるように佐天へ視点をやる。長い前髪の隙間から赤目が覗き、キラリと光る。
無表情ではあるが何かを感じさせるその赤目で佐天の瞳を真っ直ぐ見据え口を開いた。

「わかンねェから、教えてください」

 手を膝に着き軽く頭を下げる。佐天が考えていた以上に一方通行のもしかしちゃう率は高か
った。



結局、四人がいた方のゲームセンターのは『動物になりきろう!』や『心霊写真風プリクラ』
などと言った色物しか置いていなかったため併設されている一般的なレベルのゲームセンター
へ移動する事になった。その道中、三人がかりで一方通行にプリクラとは何たるかを説明した
が、「分かった。ようするに写真撮ンだな?」と分かったのか分かってないのか微妙なライン
の返事が返ってきた。

「うわっプリクラだらけじゃない。プリクラってこんなに種類あるのね」

「見ろよ、このプリクラで撮ったら目が大きくなるらしいぞ」

「上条さん、それは止めといた方がいいですよ。前に友達と撮った時は目じゃなくて鼻の穴が
大きくなっちゃった子がいたんで」

「化けもンじゃねェか」

66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/19(水) 23:55:51.51 ID:l0TLrfxJ0

 一般的レベルのゲームセンターに入ると、この店の売り上げはプリクラのみなのだろうかと、
余計な詮索をしてしまいたくなるほど充実したプリクラコーナーが広がっていた。その広大な
プリクラコーナーを物色しながらうろつく。当麻と一方通行にはどれも同じようなものに見え
るが、女子二人にはそうでもないらしい。顔がくっ付きそうなほど接近してこの機種は美白が
とか、これは書きこむ時のスタンプの種類とかペンの色が少ないとか色々と判別するのに忙し
そうにしていた。

「アイツら何基準で迷ってンだ?」

「俺もよく分からん」

 蚊帳の外で並んでいると、どうやらどの機種にするか決まったらしい。美琴と佐天が手招き
をして二人を呼んだ。

「正直どれがいいか良く分かんないんでこれにしましょう」

 佐天が指差した機種は『美白のお姫様』。このネーミングセンスはどうにかならなかったのか
と当麻が軽く突っ込みを入れながら中に入ると、そこには二畳ほどの空間が広がっていた。

「せっめェ」

「こんなもんですよ」

 言いながら佐天は早速機械に三百円を入れた。支払いは俺にまかせろー! と勢いよく財布を
ポケットから取り出して天高く構えていた当麻はそれを誤魔化すように「御坂、お魚さんです
よ〜」と財布を宙に泳がす。美琴はそれを無視して佐天とフレームを選んでいた。

「まァ、お前はさっき飲み物代払ったしな」

 一方通行の優しいフォローが、やけに心にしみる当麻だった。

「はい、出来た!」

 フレーム選択が終わったのだろう。少しあわてながら美琴と佐天は、並んで立っていた当麻
と一方通行の両脇に駆け寄る。当麻の左に美琴、一方通行の右に佐天という構図だ。全員意識
せずともこのカップリングで決定しているのであろう。
 ウィーンという、いかにもな機械音を発しながらカメラが移動を始める。慣れたように佐天
は右手でピースサインを作る。いつも初春たちと撮る時は肩を組んだりスカートをめくったり
している左手は、今日は一方通行のコートの脇腹あたりを握っていた。

67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/19(水) 23:59:58.93 ID:l0TLrfxJ0

(これはつっ立てるだけでいいのか?)

 プリクラというかこうやって仲良く映る写真自体ほぼ初体験な一方通行は迷っていた。右に
居る佐天はピースしてるし、左に居る当麻は暑苦しく肩を組んできている。美琴は……この位
置からは見えないが、どうせ何かしらはしているんだろう。
 プリクラの機械の天井に埋め込まれたスピーカーから、子供の様な高い声で「いくよ〜」と
シャッターを切るカウントダウンが始まる。美琴は一人で焦っていた。

(どうしよう、無難にピースするか、それともデートだし! 今日はデートだし!)

 両手を緊張と恥ずかしさで震わす。当麻の袖を握っちゃおうかどうしようか。当麻ならビッ
クリはしても笑って許してくれる気はする。でも、単純にそんなことする自分が恥ずかしい。
そんな美琴の迷いなどお構いなしに3,2,1と機械的にカウントダウンは進む。

(えーい! もぅどうにでもなりなさい!!)

 両腕で当麻の左腕をがっちり絡め取る。顔は少し赤くなっているがとびっきりの笑顔。勢い
余って胸まで当麻の肘に押しつける。その瞬間、カシャッとシャッターのおりる音が無言の空
間に響く。

(やっちゃった……袖を握るどころか絡みついちゃった……勢いで胸まで押しつけちゃったし
下品だと思われたかなーっ)

 腕を絡めた時よりもさらに顔を赤くする。そこまでするつもりはなかった。軽く袖を握って
ちょっと仲良し感を出したいだけだった。無意識に当麻のダウンの裾をキュッと握る。

「だ、大丈夫か?」

 当麻は焦っていた。シャッターの下りる瞬間、左から軽い衝撃があり、シャッターがおりて
すぐに何事かと目を向けるとダウンの裾を掴んで俯いている美琴がいたからだ。それにあの時、

「肘、骨に当たっちゃっただろ?」

 肘に硬い衝撃があった。もしかしたら鳩尾に入ってしまったのかもしれない。もしそうなら
かなり苦しいだろう。当麻も何度か経験したことがあるがあの苦しみはどうにもならない。空
気を吸う事も吐く事も出来ず、ただ耐えるしかない痛み。美琴が苦しんでいるのを見るのは、
なんだか辛いものがある。そんな訳で少しでも痛みが和らげばと背中を擦ろうとすると、その
手を美琴に払われた。 

68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/20(木) 00:03:03.42 ID:N7aIOt8/0

「はぁ?」

 なぜ? 当麻の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。もしかして鳩尾じゃなかったのだろうか。
もっと違う所に当たっていたのだろうか。

「アンタの肘が当たったのは……」

 美琴が当麻を見上げ、睨みつける。その目は少し潤っていた。それがさらに当麻を焦らせる。
もう意味が分かんない。
 
「私のむ、むむむ胸だぁあぁぁ!!」

 恥ずかしさと怒りで全身に十億ボルトもの電気を帯びる。スピーカーからは「はい、チーズ」
ってそんな場合ではない。学園都市最強の電撃使いが本気で能力を使おうとしているのだ。

「落ち着け御坂! ここで電撃なんか飛ばしたら機械の弁償代とかバカにならないぞ!?」

「うっさぁあぁぁぁい!! 女の子の胸触っといて鳩尾とはどういう了見だこらぁあぁあぁぁ
!! 普通ドギマギしたりするでしょうがぁぁぁあぁ!!」

「だって硬かったんですもの! ふんわりとした感覚なんてなかったんですもの!」

「ばかぁぁああぁぁぁぁぁあああぁ!!」

 落ち着かせるどころかなぜか当麻は火に油を注ぐ。美琴はまだ電撃を飛ばしてこそいないが
身体に纏っている電気は明らかに強力なものになって来ている。いつ電撃を飛ばしても不思議
ではない。

「御坂さんおおお、落ち着いてくださいぃぃぃぃ」

 初めて見るLEVEL5の本気にビビりながらも必死で友達を止めようとする。そんな佐天を一応
電気が飛んできても大丈夫なように背中に隠しながら、一方通行は右足をあげた。

69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/20(木) 00:06:01.93 ID:N7aIOt8/0

「いいからその右手で止めてこいってェの」

 一方通行が当麻の尻をガツンと蹴る。自分なら攻撃こそ食らいはしないが、ソレ自体を止め
る事は出来ない。そこで当麻の出番だと考えたのだ。当麻の右手が触りさえすれば美琴の電気
は強制的にキャンセルされる。確かに下手な説得よりは一番確実な選択ではあるが、やり方が
あまりにも雑だ。

「うぉおぉぉ!?」

 いきなりの後方からの攻撃に対処出来るはずもなく、当麻の身体は美琴めがけて一直線だ。
それでも何とか右手を前に突き出す。いくら身体が頑丈だからといってもこの電圧に触れるの
は洒落にならない。当麻が必死で突き出した手は空を切ることはなく、美琴の肩に触れた。
 その瞬間、美琴の放電が納まる。しかし、一方通行の蹴りの勢いを止める事は出来ず当麻と
美琴は抱き合うような姿勢になってしまった。
 わぁ、とその状況に佐天は羨望の声をあげた。プリクラがパパラッチよろしくシャッターを
切る。

「っと大丈夫か?」

 訳:もう右手を離しても放電しませんか?
 
「まだ」

 訳:もうちょっとギュッとしてて

 予期せぬ出来事に、美琴の身体は小刻みに振動する。当麻はその振動を怒りによるものと勘
違いしたのか、はぁ……とため息を吐きながら落ち着かせようと右手で頭を撫でた。 

「御坂さんいいなぁ」

 一方通行のコートの背中と腕の部分を掴みながら佐天は小声で呟く。プリクラ内で突如発生
したイチャイチャ空間。そう言う事になじみの薄い佐天には夢のような光景だった。一方、こ
の状態を作り出した一方通行は、いつまでも人前でイチャついている二人に悪態をつく訳でも
なく、何を考えてるか分からない目で静かに見ているだけだった。
 なんの抵抗もなく男の腕に大人しく納まっている女、その女の頭を撫でながら抱きしめる男、
一歩後ろからそんな二人を羨望の眼差しで見る女とただつっ立ている男。世にも奇妙な構図を
バッチリと機械はフレームに収め、

「また遊んでね! お絵かきコーナーは出て右側だよ!」

 明るい声で四人に撮影終了のアナウンスを伝えた。その言葉に当麻の腕の中でポワーンとし
ていた美琴は我に帰る。

70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/20(木) 00:08:36.29 ID:N7aIOt8/0

「ちょっと! いつまで抱きしめてんのよこの変態!!私出るから退きなさいよ!」

 両腕を突っ張って当麻の腕から逃れる。顔がめちゃくちゃ熱い。自分はいったい今、なにを
やらかしちゃってたのだろうか。三人の目から逃れるようにそそくさと外へ出て行く。

(御坂さんかわいぃー)

 佐天は頬に手を当てて顔が溶けそうなほどニマニマする。いいものが見れたといった感じか。

(危なかった……死ぬかと思った)

 当麻は佐天が溶けてる事も美琴が首までTHE☆REDになっている事にも気付かず、今はただ、
自分の命が無事だった事に胸を撫で下ろす。

(お絵かきコーナーってなンだ?)
 
 プリクラを撮る前に三人から説明されたはずだが、一方通行はやっぱりプリクラを理解して
いなかった。
 それぞれの想いを胸に外へ出ると、美琴がお絵かきコーナーの前で茫然としていた。不思議
に思った佐天が駆け寄る。

「どうしたんですか?」

「まともなのが……」

 お絵かきコーナーのディスプレイを覗き込む。お絵かきコーナーとは、先ほど撮った写真を
ディスプレイに表示し、その中から数枚を選んで専用のペンで写真に落書きする云わばプリク
ラとして印刷する前段階なのだが、

「あらら」

 いわゆるプリクラとして体をなしている写真は最初に撮った一枚だけ。他の写真は謎の人型
発光物体が写っていたり、一方通行が当麻に蹴りを入れる瞬間だったり、画面の端で抱き合う
二人と画面中央でそれを見守る二人だったりと奇抜なものばかりだった。

71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/20(木) 00:11:26.12 ID:N7aIOt8/0

「あっでもこの御坂さん可愛いですよ」

 佐天が指差したのは美琴が当麻の腕に絡んだ一枚目、仏頂面の一方通行以外はみんな笑顔の
写真だ。指差されたその写真を見て、折角戻りかけていた美琴の顔はまた赤くなる。

(あぁ〜〜っ! 何であんな事したのかしら!! 数分前の自分を殴ってやりたいわ!!)

 恥ずかしさと後悔でその場にいられなくなった美琴は超速足で何も言わずに化粧室に入って
いった。去り際に「なんだアイツ? すっごい我慢する派なのか?」と当麻がデリカシーのか
けらもない事を言い佐天に脇を小突かれるが、幸か不幸か美琴自身には聞こえなかったようだ。

「どうします? 時間制限ありますし適当に書いちゃっていいですかね?」

「別にいいんじゃないか?」

「なら、一方通行さん書いてみてくださいよ」

「なンで俺がンな事しなきゃなンねェンだよ」

「お前初めてなんだろ? 何事も経験だって」

「そうですよ。それに私、一方通行さんがどんな事書くのか見たいです」

 当麻と佐天にグイグイと押され、一方通行はお絵かきコーナーの前に立つ羽目になった。

「いや、コレどう操作すンのかわかンねェし」

 何を書けばいいのか全く皆目つかない一方通行はそれっぽい言い訳をして逃れようとする。

「適当でいいんだよ。適当で」

「私と上条さんは外で出来あがるの楽しみに待ってますね!」

 言い訳は軽く流され、間仕切りのカーテンが勢いよくシャッと引かれた。

「適当ねェ」

 ご丁寧にディスプレイの横に貼り付けられている、ガイドラインを見ながら一方通行は指で
クルクルとペンを回す。選ぶ写真は最低でも三枚。一枚は良いとしてあと二枚をどうするか。
選んだとして落書きは何を書いたらいいのか。少し悩んだ後、一方通行はゆっくりとディスプ
レイを操作し始めた。
  
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/20(木) 00:14:15.89 ID:N7aIOt8/0
おやすみー
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 00:38:28.64 ID:/0Gadr+Uo
これが青春か……!
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 00:45:24.36 ID:13ouX2aP0
おもしれぇww
上条さんと美琴のドタバタっぷりが笑える
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 02:45:57.25 ID:ZApDLaFWo
流石上条さん
逐一デリカシーのかけらもないぜ!
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 06:25:51.75 ID:VdFlF1OAO
一通さんかわいい
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/23(日) 22:04:03.11 ID:vtOzwDfH0
 一方通行がお絵かきコーナーに押し込まれているころ、美琴はひとり化粧室の大きな鏡の前
で顔に両手を当てていた。幾らか熱さは引いたものの依然として顔は赤い。大丈夫、あのプリ
クラを見ても当麻は何にも思わない。私はただ一人相撲してるだけ。頭を撫でてくれたのもい
つもの考えなし!! そんなネガティブな事を考えて気を紛らせる。やってて少し悲しくなるが、
大分落ち着いた。
 ふぅ……と息を吐き深呼吸する。思わず逃げてきてしまったが、今頃佐天たちはプリクラに
色々書いている頃だ。少し想像する。一体誰が書いているんだろうか。一番無難なのは佐天中
心にみんなで。それなら外れる事は無いだろうし、かわいいものが出来あがるはずだ。しかし
それだといつも通りで面白みに欠ける。もし当麻と一方通行が書くんならどんなものが出来あ
がるのだろうか。当麻は、割と慣れてそうだが、一方通行が書くとしたら……

「ぷはっ」

 想像して思わず噴き出す。あの仏頂面がカワイイ文字でカワイイ事書いてたらどうしよう。
ハートとか使ってたら、それはもう爆笑ものだ。

「ま、あり得ないけどね」

 顔が元に戻ったのを鏡で確認し、化粧室を出る。出てすぐに先ほどのプリクラの機械は見え
るのだが、当麻と佐天はお絵かきコーナーから出ており、代わりに一方通行の姿が見えない。
まさかと思いながら、二人に駆け寄る。お絵かきコーナーのカーテンの下からは見覚えのある
男物の靴が見えていた。

「一方通行は?」 

「お前トイレ長かったなー。便秘か?」

 取り敢えず当麻の頭を叩く。スパ――ンと、いい音が響いた。

「一方通行さんなら今、奮闘中ですよ」

「あ、マジでアイツが書いてるんだ」

 これはかなり期待だ。無難には絶対まとまらない。美琴の口が思わず弛む。出来あがったの
が変だったら思いっきり笑ってやろう。もし可愛く出来てたのならニヤニヤしながら茶化して
やろう。そんな事を考えていると、お絵かきコーナーのカーテンが開き、一方通行が中から出
てくる。

78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/23(日) 22:05:39.64 ID:vtOzwDfH0

「どうでした?」

「どうもこうもねェよ。三下の言った通り適当だ。つーか時間足ンねェンだよ。三枚中二枚し
か書けなかったぞ」

 適当に書いたのに二枚しか終わらなかった。コイツ結構楽しんでやってたなと、美琴にはそ
れがまた可笑しい。歯の間から笑いが漏れる。

「ンだよ」

「な、なんでもない……フフッ」

 一体どんな顔で書いてたんだろうか。これなら化粧室になどに逃げずに踏みとどまってれば
良かった。そして写メ、もしくはムービーでその映像をおさめたかった。爆笑間違いなしだ。
変な笑いのツボに入った美琴は無理やり口を閉じる。笑うのはもう少し、変なのが出来あがっ
た後に。
 カタンという音と共に受け取り口に出来あがったプリクラと用紙が落ちる。プリクラは裏返
しで出てきたため、まだ中身は見れない。一方通行が二つを取り出す。

「ン? なンだこの紙」

 プリクラと一緒に出てきた紙には携帯電話で読み取るQRコードが記載されていた。

「ソレ読みとったら携帯にプリクラの画像取り込めるんだよ。ま、会員しかダメなんだけどな」

「私会員に入ってるんで後でメールでみんなに画像回しますよ」

 佐天さんグッジョブ! これで一方通行作のオモシロ画像を永久保存できるわ! 笑いをこら
えながら、美琴は佐天に向けて親指を立てた。いきなり親指を立てられた佐天は、訳も分から
ず首をかしげる。

「で、こっちがプリクラだな。さっきも言ったけど三枚中二枚しか落書きしてねェから」

 一方通行が手に持ったプリクラをひっくり返そうとする。すると当麻の手が伸びそれを静止
させた。

「なンだよ?」

「どうせなら切り分けてからみんな一緒に見ようぜ。一方通行向こうで四等分に切ってきてく
れよ」

「それいいですね」

79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/23(日) 22:07:48.64 ID:vtOzwDfH0

 めんどくせェとごちりながらも、一方通行は素直に鋏の置いてある台に向かった。もうそれ
だけで笑いのツボに入った美琴には面白い。

「ほらよ」

 四等分して、縦に細長くなったプリクラをちゃんと裏返しで三人に配る。もしかしたら一方
通行も初落書きのお披露目が楽しみなのかもしれない。

「よし、せーので見るぞ。……せーの!」

 当麻の合図で一斉にプリクラをひっくり返す。一番上は美琴が帯電して、白い発光体になっ
ている時のものだった。美琴の茶髪は不自然なほど金色に塗られていて、一方通行の手書きで
あろう吹き出しには『クリリンのことか――!!』と書き込まれてていた。

「あははははははははっ!」

 一方通行の全てがツボに入っている美琴は、自分が変な風に改造されたにも係わらず今まで
堪えていた分もあわせて爆笑する。それを見た一方通行は満足そうに鼻を鳴らす。流石に笑い
すぎだとは思うが、滑るよりは全然いい。

「うーん。十点!」

「じゃあ私は五十点ぐらいで」

「うっせェな! 点数付けてンじゃねェよ! あと三下は低すぎンじゃねェのか!?」

 ただ、佐天と当麻にはイマイチだったようで厳しい点数が返ってくる。世間は全てが上手く
いくほど優しくはないのだ。

「ていうか字、綺麗だな。ちょっと意外だわ」

「そォか?自分じゃわかンねェな」

 プリクラとは関係ない所で褒められる。悪い気はしない。ただもうちょっと高得点が欲しか
った。

「二つ目はこれですか。一方通行さんナイスチョイスです!」

「つーか使えそうなのがコレぐらいしかなかったンだよ」

 中段は当麻と美琴が抱き合っているシーンだった。これは何も書かれずに写真そのままだ。
美琴は笑い過ぎでヒーヒー言っていたが、突然「うっ」と息を詰まらし静かになった。その
目はプリクラに釘付けだ。

80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/23(日) 22:09:02.85 ID:vtOzwDfH0

「なんかこうやって見るとめちゃくちゃ恥ずいな」

 当麻の言葉に美琴は顔をあげる。確かにこれはかなり恥ずかしいが、ココで黙っていてはこ
の状態を肯定したようで尚の事恥ずかしい。美琴は半ばやけくそ気味に牙をむく。

「は、恥ずかしいなんて言ってんじゃないわよ。アンタから抱きついて来たんだから!」

「あれは一方通行が蹴ってきたから仕方なくだっての。それに今にも電気飛ばしそうだったし、
実際俺が触らなきゃやばかっただろ?」

「じゃあ触るだけで良かったじゃない! アンタ私をギュッてした! 頭も撫でた!」

「それはお前が怒ってると思ったから落ち着かせようとしたんだろうが! ほら、ムツゴロウ
さんもテレビで良くやってるじゃん! ドウドウって!!」

「アンタ、私を何だと思ってんのよ!?」

「あーもー! ちょっとハグしたぐらいで騒ぎすぎだって!!」

「ちょっとじゃないわよ! 結構強かったもん!!」

「んな訳ないね! んな訳ないね!!」

「二回も言うな!」

「というかですね!? そもそも御坂が鳩尾当ててこなけりゃ……」

「む――――ね――――!!」

 また痴話喧嘩か……一方通行は呆れるが、その横で佐天はニヤニヤしていた。ところ構わず
じゃれる二人を見て楽しんでいるのか、単純にじゃれる相手がいるのが羨ましいのか。
 
「ていうか後にしようぜ!? 今はプリクラだプリクラ!」

 当麻が美琴の唇を親指と人指し指で挟んで強制的に黙らせる。このままじゃ埒が明かないし、
なにより店に申し訳ない。当麻がソロリと周りを見渡すと結構な人数の客の目を引いていた。
UFOキャッチーの陰からは店員が迷惑そうな顔でこちらを睨んでいる。
 当麻が自分の唇の前に人差し指を立て、『静かに』とジェスチャーをする。美琴は口が動か
せない分、頬を膨らませて抗議するが状況を察したのかすぐにコクリとうなずいた。

81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/23(日) 22:10:42.63 ID:vtOzwDfH0

「さて、悪いな一方通行。早速続き見ようぜ」

「お前らは一生じゃれてろ」

「じゃれてないわよ!!」

 大声を出した美琴の口を当麻が塞ぐ。またかよ……と店員が溜め息をついているのを見て、
当麻は申し訳なさそうに頭を下げた。

「私先に見ちゃいますよ? あっ最後のは結構書きこんでますね」

「一番最初に書いたからな。ってかそれに時間くっちまったンだわ」

 最後の一枚は当たり前だが最初に撮った唯一まともな写真だった。例の美琴がはっちゃけ
ちゃったシーンである。それには四人に被らないように『ダブルデート』と今日の日付けが
書かれている。四隅には星のスタンプが散りばめられていてカワイイ雰囲気を醸し出してい
た。さらに当麻・美琴、一方通行・佐天の間にはハートのスタンプが付け加えられている。

「おー! やればできるじゃないか!! すごいプリクラっぽい! 百点!!」

「完璧ですね! 私も百点です!」

「……まァな」

 結構考えながら書いたし、自信作でもあったから百点は単純に嬉しい。褒められる事に慣れ
てないためか、身体がムズムズする。本当なら拳を突き上げ「ヒャッホウ!!」と飛び跳ねた
いがそんなキャラじゃない。結局表情は変えずに、いつも通りの声で受け答えた。
 そんな照れ隠しをしている一方通行の横で、美琴は期待通りになったはずなのに茹でダコ状
態だった。


                 * * *


 プリクラを撮った後、混雑を避けようと少し早目の昼食をとる事にした四人は地下街の一角
にある飲食店街を散策していた。飲食店街には気軽に入れるファストフード店から学生には無
縁そうな高級店まで軒を連ねている。

82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/23(日) 22:12:00.30 ID:vtOzwDfH0

「どこ入ンだよ?」

 昼食は一方通行の奢りとなっている。一方通行は「金は気にすンな」と言うが、真に受ける
訳にもいかないので当麻と佐天は入る店を決め切れずにいた。

「あそこで良くない? なんか空いてそうだし」

 美琴が見ていたのは雑誌に何度も記載され今注目を浴びているレストランだった。ただ一般
の学生には逆立ちしても払えない様な金額をブン取る超高級レストラン……らしい。らしい、
というのは雑誌にランチやコースの料金は表記されず、なぜかネットにも上がらないため、試
しに立ち寄った学生が手痛い目にあった。という噂からしか料金を推測出来ないからだ。

「み、御坂いくら一方通行の奢りだからってそれはキツイだろ……」

「そうですよっ、あそこはランチタイムでも一人前で諭吉さんが一人財布から飛び出すって噂
のとこですよ!?」

「それ程度ならどォって事ねェな。あそこ行くか?」

 あの手の店は雑誌を彩るためだけのものだと思っていたのに、科学者や教員などの大人なら
いざ知らず、学生には無縁な場所だと思っていたのに、まさかこんなに近くにその認識を覆す
ような人物がいたとは。これもLEVEL5の力なのかとただの学生二人は愕然とする。

「や、やめときましょうっ! ほらっ格式高そうですし!」

「ああ! 俺たちみたいな学生は門前払いだって!」

「そォか?」

「大丈夫でしょ」

「いや、でも……」

 佐天が目を凝らして暗い店内を観察すると、床には大理石の上に国際的な映画祭などで良く
見る様な真っ赤な絨毯が敷かれており、天井からはいかにもなシャンデリアがいくつも下がっ
ている。入口付近にはボーイが立っており席まで案内してくれるようだ。昼食には少し早い時
間とはいえ、春休みなのに中には客が一組しかいない。学生っぽい美女四人と高級レストラン
には似つかわしくないジャージの男が一人。ボーイが運んで来たであろう大きな皿にはごく少
量の食べ物しか乗っておらず、ソレを美味しそうに食べる美女たちの横で、ジャージの男はし
きりに財布の中身を確認していた。見栄でも張って無理してしまったのだろうか。
 中の様子を見て、自分には異次元の世界だと佐天は完全に気後れする。当麻は最初から逃げ
の一手だ。正直、あんな場所に入っても食事を楽しめない気がする。緊張のあまり味など分か
りそうもない。

83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/23(日) 22:13:10.53 ID:vtOzwDfH0

「うん! やっぱりやめましょう! あっそうだ! 私あそこが良いです! 有機野菜を使ってる
ハンバーガー屋さん!」

「ナイスアイデアだな佐天さん! ちょうど俺もあそこのハンバーガー食べたかったんだ! な
んせ一つ千五百円もするもんな! 一方通行ハンバーガー奢ってくれ!」

「あっ、おィ」

 返事も聞かず地下街の入り口付近にある有機野菜と国産和牛を使った、チェーン店と比べ少
し値段が高めなハンバーガーショップを指差した。

「そンなンでいいのかよ? あそこでもいいンだぞ?」

「大丈夫です!」

「ほら! 御坂もボーっとしてないで歩く!」

 佐天は一方通行の、当麻は美琴の手を取って競歩なみのスピードで逃げるようにレストラン
から遠ざかる。世の中には身分相応という言葉があるのだ。自分達にはちょっと高めのハンバ
ーガーで十分だ。と、佐天と当麻の考えは一致した。



 高級レストランから逃げてきた四人(実際に逃げたのは二人)は現在ハンバーガーショップの
テーブルを囲っている。自分で席まで運ぶチェーン店とは違い、ココは店員が席までハンバー
ガーを運んで来てくれるシステムらしい。

「コレどうやって使うンだ?」

「使い道は正直無いですよ。せいぜいケータイとかに貼り付けるぐらいですね。後は大切に保
管って感じです。プリクラは撮って落書きを楽しむものですもん」

「思い出にはなるけどな」

 一方通行は先ほどのプリクラを手でいじっていた。ゲームセンターではどうでもいい様な態
度をとってみたものの内心やっぱり気になる。

84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/23(日) 22:14:26.36 ID:vtOzwDfH0

「ケータイに貼ってみます?」

「俺がァ? なンか恥ずくねェか?」

「なら私も貼ります。それなら大丈夫ですよ」

「そォじゃなくてよォ」

「じゃあ俺も貼ろっかな。御坂も貼るだろ?」

「い、いや私は……」

「貼らないんですか?」

「……貼る…」

「つーか俺貼るなンて言ってねェンだけど」

「まーまー。皆貼るんだからさ」

「一番下のでいいですよね?」

「一番下ぁ!?」

「ダメですか?」

「……別に……いいけど」

「あえてクリリンでもいいけどな」

「おィ、やめろ」 
 
 店に鋏を借り、一方通行はブツブツ、美琴はゴニョゴニョ言いながら一方通行自信作の一番
下のプリクラだけを切り分ける。佐天と美琴は電池パックの蓋の裏、当麻は携帯の裏側に貼る
が、やっぱり一方通行は少しずれていた。

85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/23(日) 22:15:55.40 ID:vtOzwDfH0
 
「こンなンでいいのか?」

「え? なんでそんなとこ?」

「ダメか? どうせケータイいじる時はこっちしか見ねェンだしこっちのが良いと思ったンだ
けどよ」

 一方通行はなぜか文字盤の空きスペースにプリクラを貼っていた。無理やり感は否めず、斜
めに傾いている。

「んー、有りっちゃ有りですかね」

「て言うかアンタはなんで外から見えるとこに貼ってんのよ!」

 変な所に貼った一方通行も、画面を開かない限りプリクラは見えない。佐天と美琴は言うに
及ばず。しかし当麻だけは携帯を裏返しただけでプリクラが見える。つまり当麻が携帯をいじ
るたび、プリクラは周囲に晒される。街でも学校でも。美琴にとって、それは羞恥プレイに他
ならない。らしくない自分の姿が映っているのだし、佐天はもう仕方ないとして他の知り合い
に見られでもしたら恥ずかしすぎる。

「見えなきゃ意味ないだろ」

「見えちゃダメでしょ!」

「お待たせいたしました」

 またじゃれ合いが始まろうとした時、店員がハンバーガーを運んできた。その瞬間、美琴は
素早く携帯をしまう。その姿を見て佐天は美琴のこれからの生活が少し心配になったのだった。

「おぉーでっかいな」

「これどうやって食えばいいンだよ」

 運ばれてきたハンバーガーは普段食べているようなチェーン店とは比べ物にならないほどと
てつもなく大きい。銀の装飾が施されたプレートに乗ったハンバーガーはパティだけでも二百
グラムはありそうだし、この店自慢の有機野菜も惜しげもなく挟まれている。一応崩れないよ
うに串が刺さっているものの、かなり不安定だ。付け合わせのポテトフライも大きめに切られ
ており、それだけで満腹になってしまいそうなほどだ。

86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/23(日) 22:17:37.11 ID:vtOzwDfH0

「ハンバーガーはかぶりついてナンボですよ!」

 串を抜き、佐天が大きく口を開けかぶりつく。佐天の口にはやはり大きすぎた様で上のバン
ズは無傷のままだ。

「んー! おいしい!!」

「おィ。鼻にソースついてンぞ」

「どう……も…んあっ!」

 一方通行に注意されグイっと鼻を拭う。スパイスの効いたソースが鼻に入ってしまいツーン
と粘膜を刺激する。佐天は涙目で鼻をゴシゴシ擦るが、効果はないようだ。  

「佐天さん無茶しすぎよ」
 
「肉汁すご……ふがっ!」

 笑いながら美琴はナイフをフォークで一口大にハンバーガーを切っていた。その横では当麻
が佐天と同じ状態になっている。一方通行は美琴を真似てハンバーガーを切っていた。美琴の
よりかなり大きめに切ってはいるが。
 擦り過ぎて鼻が赤くなっている佐天は苛立ちを乗せるようにフォークでポテトフライを突き
刺し口に運ぶ。ポテトフライはサクサクと香ばしくジャガイモ本来の味がしっかり感じられた。

「そうだ、一方通行さんと上条さんのアドレス教えてください。さっきのプリクラの画像送り
ますんで」
 
 言われて二人は携帯を取り出し、操作する。当麻の指の間からはチラチラとプリクラが見え
隠れしており、美琴にはやっぱりそれが気になる。
 赤外線通信でアドレスを交換してすぐに佐天は三人にメールを送った。そして少しの間を持
って三種類の着信音が鳴る。どうやら無事届いたらしい。美琴の指は高速で動き、画像を携帯
と外部メモリの両方に保存、さらにフォルダにロックを掛ける。勝手に携帯をいじるような友
人はいないが、落とした時などの事を考えての事だ。あの恥ずかしいのは他人に見られたくな
い。本当なら三人にも同じ様にしてほしいが、佐天はまだしも当麻と一方通行は面倒くさいと
か適当に理由を付けて拒否するだろうからこの際諦め、他の人に見られない事だけを願う。

「この後どうするんだ?」

 右手で携帯をいじる。当麻も画像の保存をしているのだろう。美琴のように外部メモリにま
で保存して、さらにフォルダにロックを掛ける事まではしないが今日の記念として記録に残し
ておきたいのだ。

「だれも行きたいとこが無いんならショッピングしない? ちょっと見たいのがあるのよね。
あー、でも佐天さんこの前行ったばっかりなんだけ?」

「全然いいですよ。ショッピングはいつ行っても楽しいですもん」

 男子二人も賛成し、午後はショッピングをする事になった。美琴はあっち行ってー、こっち
行ってーと頭の中で道順を組み立てる。時刻はちょうどお昼時。店の入り口には何時の間にか
列が出来ていて飲食街は一気に活気づいたようだ。
 佐天が美琴の計画に加わり話が弾んでいく。当麻と一方通行もちょくちょく加わりテーブル
は飲食店街にシンクロするように賑わいでいく。
 四人の傍にあるガラス窓の向こうでは腹を撫でてご機嫌な美女四人の後ろで、ジャージの男
が空の財布を持って泣いていた。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/23(日) 22:20:08.63 ID:vtOzwDfH0
それでわー
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 22:36:08.72 ID:TQvdXjpgo
浜面wwww
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 22:48:13.11 ID:8Tp5qiSwo
浜面無茶しやがって・・・

美琴の反応がいちいち初心でかわゆいww
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 22:52:35.37 ID:c/0O80hKo
浜面www
三月に一度くらいだったら替わって欲しいなw
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 23:32:53.29 ID:rkGmHFODO
5+でゼロだから五和×茶店かと思ったけどそんな事なかったぜ
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 00:31:01.78 ID:uCDRpK/m0
一方さんのことだからアラベスクか何かでプリクラを埋め尽くすものだとばかり
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 04:29:12.06 ID:UfqN52fOo
背中に黒翼でもかけばよかったのに
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/27(木) 00:05:15.88 ID:ZewKLPAF0
 

                 * * *


「重い……」

「今更なに言ってンだよ。それなら最初に持ってやるとか言わなかったら良かったじゃねェか」

「だってこんなに買うなんて思わなかったんですもの」

 当麻の両手には大量の荷物がぶら下がっている。時折握り直すが、皮膚には買い物袋の紐の
跡がくっきり残るほどだ。美琴の提案で午後はデパートでのショッピングとなったがかれこれ
四時間、美琴と佐天は飽きもせずに商品を見て回っている。デートというよりは二人のお供と
なり下がった当麻と一方通行は一歩後ろを付いて回っていた。

「見てください御坂さん! このニットワンピースめちゃくちゃカワイイですよ!」

「えー……、でもちょっと丈が短すぎないかしら」

 店頭に飾られたマネキンの前で美琴と佐天は立ち止った。黒を基調に濃い灰色と薄い灰色の
ボーダーが引かれていて、胸元はゆったりと空いている。この春の新作なのだろう、他の商品
と比べ、大きめのポップが掲げられている。

「こんなもんですよ。御坂さん綺麗な足してるんだから見せなきゃもったいないですって!」

「そ、そんな事ないわよ。っていうか私には絶対似合わない気がする」

 佐天と美琴がマネキンの置いてある店に入って行く。最初は女の子の洋服が置いてある店に
入る事に抵抗があった当麻と一方通行だが今では自然に二人の後をついて行けるようになった。
四時間前に持っていた恥ずかしさは、すでに麻痺して消え去ったようだ。

「そんな事ありますって。ねぇ一方通行さん?」

「あァそうだな。すげェどォでもいい」

「カチンと来た。見てなさいよ一方通行、今から試着してくるから、私の美脚を目ん玉ひん剥
いて拝みなさい」

「あー、はィはィ」

「ちょっと待って御坂。また買うとか言わないですよね? 上条さんの指はもう千切れそうで
すよ?」

「大丈夫よ。次買う時は一方通行に持たせるから」

「そっか。なら試着してこいよ」

「ざけンな」

95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/27(木) 00:07:12.14 ID:ZewKLPAF0

 一方通行を無視して美琴は試着室に入る。ハンガーにコートを掛けているのだろう、試着室
の中からカチャカチャと金属同士がが触れ合う音が聞こえてくる。そして布の擦れる音とジッ
パーが下りる音。カーテンの向こうから漏れる着替えの音はなんだかエロイ。今日だけで何度
も聞いた音だが、ソレに中々慣れれない当麻は気恥しくなり試着室から目を反らす。

「お前なンも買ってねェけどいいのか?」

「一昨日、いっぱい買っちゃいまして。今月の生活費がヤバイんで今日はウィンドウショッピ
ングに徹します」

「ふーン」

「御坂ー、着替え終わったかー?」

「終わった……けど脱ぐからちょっと待ってて!」

「なんで脱ぐんですか? 見せてくださいよっ」

 佐天が頭だけ試着室のカーテンに突っ込む。その時少しだけ翻ったカーテンの隙間から美琴
の雪のように白い足がチラリと覗いた。一方通行は首のない佐天を見てボーっとしているが当
麻はそうもいかない。チラリズムとは、男の友で天敵なのだ。今美琴が来ている服と同じもの
を着せられているマネキンは、マネキンのくせになんだかエロイ。ゆったりとしている胸元に
大きく突き出しているものがそう思わせるのか、やけに短い丈がそう思わせるのか。当麻の頭
の中ではマネキンと美琴を合体させた煩悩が膨らんでいく。

「ほらー、やっぱり似合いますよ」

「そんな事ないってばっ! なんか胸元ダルダルだしやっぱり丈は短いし……」

「何いってるんですか。制服のスカートもそのくらいにしてるじゃないですか」

「せ、制服の時は中に短パン履いてるから大丈夫なの! やっぱダメ! 脱ぐ! もう脱ぐ!!」

「まぁまぁ。それじゃ、お披露目ー」

「ち、ちょっと佐天さんっ!」

96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/27(木) 00:09:16.13 ID:ZewKLPAF0

 美琴の制止もお構いなしにカーテンを引く。当麻と一方通行に普段は着ない様な服を着てい
るのを見られたのが恥ずかしいのか、美琴は身を縮込ませてモジモジしていた。

「……」

「……」

「な、……なんか言いなさいよ」

 短い裾から伸びる足は白く、肌はきめ細かく、露出している太ももは光るようだ。ゆったり
とした胸元はサイズが大きいのか美琴が華奢なのか、鎖骨が丸見えになっている。顔はほんの
り赤く染まっていてそれがまたイジラシイ。普段より何倍も女の子っぽく見える美琴を前に、
当麻は少し戸惑う。
 カワイイ。凄く似合っている。素直にそう思えた。いつも自分をおっかけ回しては即死の電
撃を飛ばし、街の不良どもも一蹴する学園都市の第三位、最強の電撃使いの御坂美琴はココに
はいない。目の前に居るのは、ただのカワイイ女の子だ。

「いや、えーっとだな……」

 美琴の荷物を手にぶら下げたまま対面する。何か言えと言われても、困る。なんて言ってい
いのか分からない。素直にカワイイと言えばいいのだろうが、なぜか言えない。さっきまでの
二人の空気と違う事に、佐天も戸惑う。予定では当麻が普通に「カワイイ」と言って美琴が照
れて、いつも通りじゃれ合いが始まるとばかり思ってたのに。
 そんな変な空気の中、一方通行が口を開いた。

「お前、それ中にちゃんと下着着てンの? 裸にしか見えねェンだけど。それともそういう服な
のか?」

 爆弾投下。

「あー、そう言われたらそんな気も……」

 さっきまで純粋にカワイイとしか思えなかった服装も、そんな事を言われるとそう見えてくる
から不思議だ。可愛かった服も、今はもうエロイ。

「なんか痴女って感じ?」

 当麻は核爆弾投下。照れ隠しが、異常なまでに下手なのだ。
 美琴の顔はみるみるウチに赤く染まって行く。今日はよく笑い、よく照れて、そしてよく怒る
日だ。

97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/27(木) 00:11:25.75 ID:ZewKLPAF0

「なんて事考えるのよ! この変態どもがぁぁあぁぁ!! 着てるわよ!! ちゃんと下着着てる
わよぉおぉぉぉぉお!!」

 ブーツを当麻と一方通行に全力で投げつけて試着室に戻りカーテンを乱暴に閉める。一方通
行は片手でブーツを受け止めるが、両手が荷物で塞がっている当麻は顔面でブーツの硬いソー
ルを受け止める形になった。
 カーテンの向こうからは「だあぁああぁぁぁ! ばかあぁぁぁぁああぁぁ もうやだあぁあぁ
あぁぁぁあ!!」と美琴の怒号が響く。一刻も早くココから離れたいのだろう。ガチャガチャ
と乱暴にハンガーを扱う音も聞こえる。ニットワンピースに着替える時の何倍ものスピードで
元の服に着替えた美琴は、レールが壊れそうなほどの勢いでカーテンを開け、大股で店を出て
行った。

「御坂さーん」

美琴の後を佐天が小走りで追う。当麻は美琴が去り際に押しつけたニットワンピースを頭から
被ったままソレを見送る。

「どォすンだあれ。お前のせいだろ」

「何言ってんだよ。最初に裸とか言いだしたのお前じゃないか」

 重い荷物を一度床に置き、ニットワンピースを畳む。まだ少し美琴の体温が残っているのか
ほんのり温かい。

「はァ……どォ考えてもお前に言われたからじゃねェか」

「えっ? 俺そんなに御坂に嫌われてんの? それはちょっとショックなんだけど」

 コイツは本気で言っているんだろうか。今日一日一緒に行動しただけの自分でもなんとなく
はわかるのに。佐天だって分かってるから色々茶化してたのに。当の本人だけが分かってない
なんて、流石の一方通行も美琴が哀れになる。「はァ……」ともう一つ溜め息を重ね、一方通
行は佐天たちが出て行った方向に歩き出す。

「どっちにしろあのまま放っとくのはダメだろ。なンとかしろよ」

「あっ、おい待てって」

 当麻の言う事など聞かずに一方通行は店を出て行った。女性物の洋品店には大量の美琴の荷
物と当麻だけが残される。 

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/27(木) 00:13:27.34 ID:ZewKLPAF0

「御坂さーん、出て来て下さいよー」

 困った事になった。女性用化粧室の個室から美琴が出てこない。それも多分自分のせいで。
調子に乗り過ぎてしまったと佐天は反省する。自分が当麻と美琴がじゃれるのを見たいがため
に無理やりカーテンを開けてしまわなかったら、美琴は痴女呼ばわりされる事も個室に立て篭
もる事もなかったのに。

「あなたは完全に包囲されてますよー」

 いつも通りを装っているが、気が気でない。自分のせいで楽しい今日が終わってしまったら
どうしよう。なにより当麻と美琴の間に軋轢が生まれてしまったらどうしよう。胸が押しつぶ
されるような不安に襲われる。

「どうせ……だもん……」

「え?」

 個室から聞きとるのも難しいほど小さい声が漏れる。思わず佐天は聞き返してしまった。

「どうせ私、痴女だもん!! だから痴女は痴女らしく痴女便所で痴女痴女してるもん!!だ
から痴女じゃない佐天さんは痴女たる私のいる痴女個室から離れときなさいよぉぉおぉぉ!!」

「ちょっ! 御坂さん落ち着いてください! 痴女とか発言しちゃダメですよっ!!」

「もォ――――!!!痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女
痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女痴女!!
私はヤリマンだぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああぁぁああぁ!!!!」

 いくら化粧室に人影が無いからといってもこれはマズイ。学園都市有数のお嬢様学校である
常盤台中学のしかもエースが……というより女の子が三十六の痴女連発に、一発のヤリマン発
言。聞く人が聞いたらとんでもない事になる。誰も聞いてなくても、とんでもない。
 喉が千切れるほどの魂の咆哮の後、化粧室にはまた静寂が流れる。佐天はもーと、手をワタ
ワタ振る事しか出来なかった。

99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/27(木) 00:15:17.23 ID:ZewKLPAF0

「佐天さーん。ちょっといいかな」

 化粧室の入り口から、今回の騒動の主役である当麻の声が聞こえてくる。ちなみに主犯は佐
天、補佐は一方通行。詰まる所、全員悪い。

「すみません……私のせいで……」

 なによりも、佐天はまず謝った。完全に自分一人のせいだと思っているようだ。

「別に佐天さんのせいじゃないだろ。俺の痴女発言のせいだし、一方通行の裸発言のせいでも
あるし」

「いや、お前の痴女発言のせいだな。アイツお前ンこと好きみたいだし」

「へ?」

「あっ」

「一方通行さん……」

 つい口がすべったと一方通行はバツの悪い顔をする。本人が気付く前に言ってしまうなんて。
これでは流石の当麻の理解出来るだろう。「スマン」と一方通行は心の中で美琴に謝罪を入れ
る。

「なに言ってんだお前。御坂が俺の事好きな訳ないだろ。好きな奴に致死の電撃飛ばす奴なん
ていねぇよ。せいぜいヒマつぶしの玩具だろ」

 当麻は真顔でそんな事を言う。本当に気付いていないのか、照れ隠しなのか、一方通行には
分からない。分からないがなんとなく前者な気がする。「ドンマイ」と一方通行は心の中で美
琴にエールを送った。佐天は何か可哀想なものを見る目で当麻を見ている。

「今、中にだれかいる?」

 そんな二人を気にする事もなく当麻は一方通行に美琴の荷物を預ける。一つだけ、小さな紙
袋は残して。

「いえ、今は御坂さんしかいませんけど……」

「そっか。なら誰も入ってこない様に二人で見張っててくれ」

「上条さん?」

 それだけ言い残し、当麻はなんの躊躇もなく化粧室に入って行く。いきなりの行動に佐天も
一方通行も動けない。

100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/27(木) 00:17:10.52 ID:ZewKLPAF0

「御坂ー、どこだー?」

「なによ」

 一番奥の個室から低い声で返事が返ってくる。顔なんか見なくても、その声だけで怒ってい
るのはわかる。当麻は美琴がいる個室の前まで行くと一つ深呼吸をした。

「さっきはゴメン。痴女とか言っちゃって」

「……」

 少し待ったが、美琴からは何の返事もない。当麻はそのまま話を続けた。

「お前が可愛くてビックリしちゃったんだ。なんというか……上手く言えないけど何時も見慣
れてる服とは違ったから新鮮だったし、でも凄く似合ってた。お前恥ずかしがってたろ? 身
体縮込ませてモジモジしてさ、顔もちょっと赤くなってて。俺はそんなお前が可愛いって思っ
たんだ。一人の女の子として。だから初めて見るお前に緊張しちゃって訳わかんなくなっちゃ
ったみたいな。正直照れ隠しですよ、アレは。だけど、俺がお前を傷付けた事は変わわない。
怒って当然だとも思う」

 当麻の独白が続く。いつしか、個室の壁を挟んで美琴は当麻と向き合っていた。ゴウンッと
換気扇が音を立てて回り始める。いつもは気にするようなものでもないのに、こんな時は耳障
りな程大きな音だと美琴は感じた。

「でも……」

 換気扇の音を消すように当麻の声が鼓膜を揺さぶる。さっきまで自分は怒っていたのに、こ
の声を聞くと何故だか安心する。嫌いで、好きな声。

「俺はお前と仲直りしたい。もっと一緒に居たい。いろんなとこに行って、いろんなもの見て
笑いたい。だから……」

 個室の上の隙間に向かって当麻は唯一持って入った紙袋を放り投げた。突然現れた紙袋に驚
きながらも、美琴はなんとかキャッチする。

「なに? 仲直りしたいから物で釣ろうっての?」

「そういうつもりじゃないけど、そう取って貰っても構わない。俺は、お前と仲直りしたいだ
けだから」

 美琴が紙袋を開ける。そこにはさっきまで自分が着ていたニットワンピースが入っていた。

101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/27(木) 00:19:17.94 ID:ZewKLPAF0

「こんなもの貰ってもどうせ私痴女になるだけだし……」

「似合ってたよ。今なら照れずに言える。凄い似合ってた」

「……これ、皆の前で着るのは恥ずかしいし……」

「なら俺の前でだけ着てくれればいい」

「……」

「今度二人でどっか遊びに行こう。仲直りのしるしに」

「電撃飛ばすかも知れないわよ?」

「何を今更って感じですよ」

「荷物いっぱい持たせちゃうかも……」

「今日で慣れたよ」

「また……ケンカになっちゃうかも…………」

「ケンカしたらまた仲直りしたらいいさ」

 美琴は何も言わない。当麻も何も聞かない。化粧室には妙な沈黙が流れ、換気扇の音だけが、
静かに響く。

「ちょっと待ってなさい」

「ん?」

 美琴はそれだけ言うと、後はなにも言わなかった。代わりに個室からはガサゴソと紙袋をい
じるような音がかすかに聞こえてくる。

102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/27(木) 00:20:35.74 ID:ZewKLPAF0

「き、今日は特別よ! あ、あああアンタが見たいって言ったんだからねっ!」

 ズバン! と勢いよく個室のドアが開かれる。中にはニットワンピースを着た美琴が、やはり
モジモジしながら立っていた。顔は、最初に着た時よりもさらに赤い。恥ずかしさからか少し
長めに作られている腕の袖をギュッと手で握りしめている。

「うん、やっぱり可愛いよ。似合ってる」

「ど、どうも……」

 ソレを聞いて満足したのか、美琴はニットワンピースの上からコートを羽織った。元々着て
いた服は、紙袋の中に詰め込んである。

「うーん」

「な、なによ! あんまジロジロ見んじゃないわよ! えろいっ!!」

「コート着たら痴女っぷリがちょっと上がったんじゃないか?」

「あ?」

 美琴の全身が青白く強く光る。それはプリクラを取った時に見たものよりも、初めて会った
時、学園都市を停電に追いやったときに見たものよりも力強く、殺意の籠った閃光だった。

「えっ! あっ! 違うぞ御坂!! そうじゃない! そう言う意味じゃないですよ!?」

 必死に言い訳するが、もう遅い。

「死ねやぁぁあぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁああぁぁ!!!!!!」

「落ち着いてぇぇぇええぇぇぇぇぇえええぇぇぇえ!!!!!!」

 化粧室の入り口から、目映い閃光が吹き出しデパートの全ての電球が破裂した。 
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/27(木) 00:22:48.41 ID:ZewKLPAF0
おやすみー
最初になんであんなに投下出来たかまじで謎。

104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 00:58:29.15 ID:84wfqoW1o
おつおつ

歪みないな三下ァ…
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 01:10:29.27 ID:LgZ9M3lP0
せっかくいい雰囲気だったのに
さすが上条さんやで
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 02:12:58.39 ID:Gf1j6nKxo
上条さん本気で誰かに殴られればいいのに…wwww
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 06:19:53.98 ID:qycVKovSO

さあ次は佐天さんと一方通行をイチャイチャさせるターンだな
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 08:35:43.82 ID:/DwLjh/AO
佐天さん佐天さん佐天さん
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 13:36:11.89 ID:X9Sr9cBlo
両カップルとももっといちゃいちゃしちゃえ!
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/30(日) 19:21:47.75 ID:X09sSeyQ0
 

                 * * *


 美琴が破壊した電球の責任を問われる前に、四人は逃げるようにデパートを後にした。季節
も本腰を入れて移り変わろうとしているのか日が落ちるのも大分遅くなった。オレンジ色の夕
日が学園都市中を柔らかく包む。夕日がビルとビルの間から覗く光景は、そのまま切り取って
額縁にでも入れればそれでもう立派な芸術だろう。そんな科学と自然が織りなすキャンパスの
中で、当麻と美琴は飽きることなくやっぱりじゃれていた。

「お前バカですか!? デパート中の電球壊すとか一体いくらかかると思ってんだよ!?」

「あーもー、うっさいわね。過ぎた事にクヨクヨしてんじゃないわよ」

「監視カメラに映ってませんように……俺に賠償金来ませんように……」

 胸の前で手を組み、オカルトを真っ向から否定する立場の学園都市の人間が神頼みする。デ
パート全ての電球代なんて一体いくらするのか見当もつかない。何十万円か、はたまた何百万
円か。美琴はどうだかは知らないが、当麻にそんな額を払うほどの余裕は無い。月に一回の仕
送りはきっかり五万円。そこから食費やら光熱費やら出さなければいけない上、大食漢の居候
に猫までいるのだ。ただでさえ苦しい家計なのにその上借金まで抱えるなんて自己破産街道ま
っしぐらだ。

「よかったですね。二人が仲直り出来て」

「三下にもうちょい脳みそがありゃァ、なお良かったンだけどな」

「んー。でもそういう所が上条さんの魅力と言えば魅力と言えなくもない様な……」

「言えねェだろ、鈍感すぎンぞ。俺でもなンとなく分かるってのによォ」

「デスヨネ」

「御坂苦労すンぞ。アレ」

「御坂さんは御坂さんでアレですから」

「まァな」

 相変わらず前でじゃれている二人の後を歩きながら、佐天はふと気付いく。一方通行と躓く
事なく話が出来てる。朝は大分無理をして、それでも会話と沈黙の時間が半々だったのに、今
は友達と話すのと変わらないぐらい自然に話せている。一方通行も返事をするだけでなく、話
を返してくれる。
 慣れた。そう言ってしまえばお終いだし、確かに一日一緒にいて慣れたのもあるだろうが、
それだけではないと思いたい。佐天としてはもうすっかり一方通行とは『友達』だと思ってい
る。『ただ今日一日一緒にいただけの友達の友達』ではなく『友達』だと。二人で話をしてい
て楽しいし、一緒に居ても苦しくない。呆れながらも見せる美琴や当麻への気配りや優しさは
素敵だと思うし、自分が正面に居る時は目を見て話すのも、今のように並んで歩いていて時折
気にするようにこちらに視線を向けてくれるのも好感度大だ。初めて一緒に遊んだ男性が、一
方通行でよかったと思う。

111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/30(日) 19:23:35.30 ID:X09sSeyQ0

「ねー、ちょっと早いけど今日はこれでお開きでいいかしら?」

「悪い! 俺晩飯の金も無くなっちまったんだ。まだ夜は少し冷えるし立ち話でもして風邪引
くのもアレだしさ」

 少し前を歩いていた当麻と美琴が振り返る。

「私も門限あるし……っていうか門限よりも黒子に色々詮索されるのウザいし。もし黒子が私
を探しに来て、この現場を見られたらもう黒子殺すしかないし……」

「えっ」

「まァそう言う事なら仕方ねェな。どォせ俺が奢るとか言ってもお前は……」

「いや! 今日は昼メシ奢ってもらってるしこれ以上は悪いからいいよ」

「だろうよ」

「なら、今日は解散しましょうか」

「悪いな佐天さん」

「いえいえ」

 本音を言えば、もう少し一緒にいて、もう少し一緒に話したかった。しかし自分の我儘で当
麻の言う通りみんなが風邪をひくのは申し訳ない。

「じゃあまた今度な! 俺は御坂送って行くことになってるから!」

「またね。佐天さん、一方通行」

「おォ」

「おつかれでーす。今日はありがとうございましたっ」

 美琴は当麻の横に並ぶと今まで持たせていた荷物を受け取ろうとする。「いいよ、結構重い
し家まで運んでやる」と当麻は渡さなかったが、美琴が強引に片方の荷物を奪っていた。

112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/30(日) 19:25:15.08 ID:X09sSeyQ0

「あの二人はホントに仲良いですねー。あっ結構綺麗かも」

 佐天は携帯を取り出すとカメラ機能を起動した。そして二人の背中を画面の中心に入れると
カシャッとシャッターを切る。オレンジの西日で薄く化粧をした薄雲、広がり始めた紺色の空、
肩がぶつかるくらいの距離で並んで歩く二人。科学と自然の織り成す芸術がまた一つ生まれた。

「うんっ。いい感じ! あとで御坂さんに送ってあげよう」

「また顔赤くすンじゃねェの?」

「あはっ。確かにそうかもですね」

 写真をきっちり保存して携帯をパチンと閉じる。同時に街の至る所に設置されてあるスピー
カーから六時を告げるメロディーが流れた。中学生以上の人間は誰も気にしないが、小学生に
とっては強制帰宅の合図だ。高学年になるにつれ、それを守る人間なんていなくなるが。

「一方通行さんも、今日はありがとうございました」

「別に……暇だったから来ただけだっての」

「また暇だったら遊んでくれますか?」

「おゥ」

「やった! なら今度メールしますねっ!」

「はィはィ」

「それじゃ、私はこっちなんで……」

「あっ、おィ」

「なんですか?」

「いや、アレだ…………帰り道なンかあったら俺に連絡しろ」

「子供扱いしないでくださいよっ」

 フフッと笑って佐天は当麻たちとは逆側へ歩いて行く。何度か振り返り一方通行に手を振り
ながら歩くもんだから、一方通行も中々背を向けて歩き出せない。結局、佐天が角を曲がって
姿が見えなくなるまで、一方通行は佐天が振り返るたび手を振っていたのだった。

113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/30(日) 19:26:46.76 ID:X09sSeyQ0


「だァー、疲れた」

 一方通行が自宅の玄関前に備え付けてある落下防止用の手すりにコツンと軽く額をぶつける。
ドアを開ければソファがあって、ココで立っているより暖かいし落ち着けるが、今はそれはし
たくない。顔をあげると先ほどまでオレンジと紺のグラデーションが綺麗だった空は、すっか
り紺一色の夜の顔になっていた。
 三人と待ち合わせをして地下街に行く時、佐天は異性と遊ぶのが初めてだと言っていた。だ
から今日は楽しみだと。しかしそれは一方通行だって変わらない。一方通行だって、同年代の
異性遊ぶのは初めてだった。それでも家には打ち止めもいるし黄泉川もいるから自然に話すこ
とぐらい簡単だと思ってた。しかし、いざ二人きりになるとそうもいかない。地下街までの道
のりは正直かなりきつかった。佐天が色々話しかけてくれていたのに返事をするのがやっとだ
った。当麻が美琴と手を繋いでるのを見てそれが普通なのかと真似したのも手伝って緊張しっ
ぱなしだったのだ。佐天は何も言わなかったが、おそらく手汗も酷かっただろう。
 ギュッと手を握って開く。さっきまで感じられていた温かみはもう感じられす、代わりに少
し冷たい夜風が指の間を通って行った。

「佐天涙子」

 不意に名前を呼んでみたくなった。それが何故だか一方通行自身にはわからない。ただ、今
日一日佐天がいた隣が少し寂しい。ぽっかりと穴が開いたような、そんな気分だ。今日は楽し
かった……と思う。色々慣れない事をして、緊張や疲れは有ったが楽しかった。佐天は魅力の
ある女性だとも思った。だから最後に分かれる時、柄にもなく送ってやる。とか言いそうにな
ったのだ。結局踏みとどまったが。当麻といるとちょっと感覚がおかしくなると、一方通行は
当麻のせいにしてみた。
 ふと佐天の見せるヒマワリのような笑顔が脳裏に浮かぶ。ついでに無邪気な明るい声も。
 ガツンッと再び手すりに額をぶつけた。今度はかなり強めに。ジンジンと痛みが広がって行
き、一方通行の額には一本の赤い線が出来てしまった。

「なァに考えてンだ俺は」

 どうせ今日一日だけの、期間限定の出来事なんだから。アドレスと電話番号の交換もしたが
多分掛かってくる事は無いだろう。自分はただの練習相手。今日で佐天も男といるのには慣れ
ただろうし、これからは誰か適当な相手を見つけて付き合うんだろう。結構、可愛かったし佐
天がその気になれば拒否する男なんていな……
 全力で手すりに向かって頭を叩きつける。鉄製のパイプは少しへこんで一方通行の額からは
真っ赤な血が滲みでる。痛い。もんのすごく痛い。それでももう一度同じ強さでぶつける。

「寒いからな。寒さで思考回路オカシクなってンだろ。さっさと家入って温まンねェとな」

 額を割り、血を垂れ流しながらドアノブを回す。寒さとか痛みとか痛みとかでさっきの雑念
はもう忘れた。事にした。

114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/30(日) 19:28:09.60 ID:X09sSeyQ0

「あァ?」

 ドアノブを引くが、鍵がかかっているのかドアは開かない。もう一度ドアを引いてみるが結
果は同じだ。外気でドアノブが冷やされたのだろう、手のひらに冷たい感覚が広がる。

「おィおィおィ、マジですかァ?」

 今日は打ち止めも黄泉川も芳川も何処にも行かないと言っていたので鍵を持って出ていない。
寝坊気味の昼寝でもしてるのかとインターホンを押してみるが、中からの反応もない。能力を
使えばドアの一つや二つ訳ないが、そんな事したら夜寒いし、何より黄泉川に怒られる。ここ
だけの話、怒った黄泉川は結構怖い。自分が怒られた事は無いが、たまに打ち止めが叱られて
るのを見て、一方通行は決心した。黄泉川だけは怒らせない。アレが自分に向けられるとなる
と泣いちゃうかもしれない。
 一方通行は携帯を取り出して電話帳を開いた。そしてヤ行の欄まで操作し、上から二番目の
黄泉川に電話を掛ける。発信音の後にコールが鳴った。一つ、二つ、三つ。いつもならこのあ
たりで出るが今日はなぜかコールが止まない。遂に、黄泉川は電話に出る事は無く、留守番電
話サービスに繋がってしまった。通話を切り、今度はメールを開く。一応メール問い合わせも
してみたがやはりなんの連絡もなかった。

「どォなってンだ?」

 今度はヤ行の一番上の芳川に電話を掛ける。打ち止めに携帯は持たせてないし、もし芳川も
電話に出なければ誰か帰ってくるまでココで待ち続けなければいけない。店に入ってもいいの
だが、額から血を垂れ流した男を受け入れてくれる店なんてあるのだろうか。
 
「珍しいわね? あなたが私に電話するなんて」

 五つ目のコールで芳川が電話に出る。これでとにかく一安心だ。

「家に誰もいねェンだけど」

「私は研究所、二人はお寿司食べに行ったわ。その後カラオケ行くとも言ってたわね」

「俺、そンなン聞いてねェ」

「テーブルに置手紙したでしょ?」

「家に入れねェンだよ」

「え? 鍵は?」

115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/30(日) 19:29:28.75 ID:X09sSeyQ0

「……家ン中」

「……二人に電話した?」

「出ねェ」

「……」

「……」

 二人を沈黙が支配する。これはまさか……そんな事は……
 最悪の事態が一方通行の頭に浮かぶ

「私、あと三時間ぐらいで帰るから」

「えっ? マジで?」

「どこかお店に入っときなさいよ」 

「それ出来たら苦労はねェンだよ!」

「……? よくわからないけど私か二人が帰るまで待ってなさい。それじゃあ私忙しいからも
う切るわね」

「ちょっ!! てめェ!!」

 ブツンと通話が切られる。ディスプレイを睨むが、それで何かが変わるわけでもない。一方
通行初めてのデートの日は、まるで忠犬のように待ちぼうけに始まり、待ちぼうけに終わるの
だった。


                 * * *


 時間は少し巻き戻り、美琴たちがデパートを後にして解散した頃まで遡る。謎の電球破壊の
被害にあったデパートでは従業員たちが必死の修復作業に追われ、館内アナウンスでは、危険
なため動かないようにと客に注意を促している。そんな中、一人の少女がゆっくりとした足取
りで化粧室から出てくる。暗闇で顔は窺い知れないが、非常灯の緑の光が胸のあたりで時折反
射している。ネックレスか何かをしているようだ。
 
「凄い事を。聞いてしまった」

 ポツリと呟く。声からは感情が読み取れない。その抑揚のない平坦な声は簡単に闇に吸いこ
まれる。少女の近くを懐中電灯と大量の電球を持った従業員が走って行く。それに続いて脚立
を持った従業員も。この階でも復旧作業が始まるのだろう。従業員は脚立を広げると、割れた
電球に注意しながら新品の物に取りかえた。チカチカと瞬いた後、辺りが白い光に照らされる。
 光が戻ったその中で、少女は無表情のまま美琴たちが弁償から逃れるために使った階段を見
つめていた。

116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/30(日) 19:30:53.19 ID:X09sSeyQ0
第一章終了みたいな、そんな感じです。
これからちょくちょく話を動かしていく予定。

それでわー
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/30(日) 19:32:50.07 ID:xOcLjW9K0
一方さん…(/o;)
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 19:55:19.67 ID:VgP3ozJAO
セロリさんまじかわいい。

と思ったら姫神だと……。
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 22:08:57.88 ID:BuYgLGNC0

楽しみに待ってるんだよ
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 14:39:45.26 ID:4OZoM4Py0
姫神の言う凄いこととは一体?
痴女三十六連発+一発の事かそれとも今度二人でどこか行こうの事か
続きが気になる
兎に角乙
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 21:57:40.33 ID:mXx1NX/t0


「それでー、これが皆で撮ったプリクラ」

「うわー……近すぎじゃないですか?」

 風紀委員一七七支部、そこで佐天は椅子の背もたれを抱えながら初春に携帯の画像を見せる。
画像とは、美琴、当麻、一方通行、佐天でダブルデートをした日に撮ったあのプリクラだ。そ
の時は三種類をデータとしてQRコードで携帯に送ったのだが、今初春に見せているのは一方通
行渾身の出来のあの一枚だ。

「そっかなー? 御坂さんと上条さんも同じ感じじゃん?」

「でも御坂さんたちはお付き合いしてるんですよね?」

「え? まだしてないよ? 多分」

 否定はしきれない。四人で遊んだ時はそんな風では無かったけど、あの後二人でどこかに行
った様だからもしかすると付き合い始めたのかもしれないし、相変わらずあの微妙な距離感な
のかも知れない。

「それでもあの二人はもとから仲良かったじゃないですか。佐天さんはこの日に初めてこの男
の人に会ったんですよね? そう考えるとやっぱり近すぎますよー」

「いやぁー、この時はもう結構仲良くなれてたしさ。上条夫妻の雰囲気にも飲まれちゃったと
言うか」

「んーー」

 初春が可愛らしく人差し指を唇にあて、ディスプレイを凝視している。頭の花は今日も元気
に咲いていた。悪戯で毟ってやろうかと佐天は手を伸ばしたが、途中で初春に気付かれて手を
払い落された。スカートは捲り放題な女の子のくせに頭の方はガードが堅い。女の子としてそ
こはせめて逆なんじゃないかと言いたいが、言った後に初春のスカートガードが堅くなったら
佐天としては面白くないので黙っておく事にした。 

「なに唸ってんの?」

 椅子を立って、今度は背もたれでなく初春を抱きかかえるようにして後ろに立つ。頬をプニ
プニと突いても初春は怒らないし、指でつまんで横に伸ばしても「ひゃめてくらはいよ」と言
うだけで抵抗はしない。頬をいじった流れのまま手を頭、というか花に持って行く。
 やっぱり払い落とされた。

122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 21:59:06.25 ID:mXx1NX/t0

「これ、一方通行さん? に佐天さんの胸当たってませんか?」

「ふぇ?」

「かるーくですけど、ほらこの肘のとこが」

 初春から携帯を奪い取る。今まで気付かなかったが確かに当たってるような当たってないよ
うな微妙なラインだ。だが、見れば見る程怪しい。

「いやっ、でもこの時一方通行さんは何も言わなかったしっ」

「密かに佐天さんのおっぱいを楽しんでたかもですよ?」

「一方通行さんを変な風にゆーなっ!」

 パチンと軽く初春の花……ではなく鼻にデコピンする。正確に鼻の頭を撃ち抜かれた初春は
両手で鼻を押さえて涙目で「うぅ〜〜、冗談じゃないですか〜」と唸っていた。
 佐天はディスプレイを待ち受け画面まで戻すと、携帯を閉じた。胸が当たっているか当たっ
てないか。そんな事は一刻も早く忘れたいのだが、そう思えば思うほど思考はあの時当たって
いたのか当たってなかったのかで埋め尽くされる。
 画像を見る限りはグレーゾーンだがあの時は当たってたなんて全く思わなかった訳だから実
際当たってないとは思うが、でも今考えるとかすかに一方通行の肘が当たっていたような気も
する。しかしもし当たっていたんなら一方通行の性格だったら「おィ、胸当たってンぞ」ぐら
いは言ってきそうなものだし、でももしかしたら一方通行はむっつりスケベで当たってるのも
承知で黙ったたのかも知れないし、でももしあの時当てったいたとしたら当てに行ったのは一
方通行の肘を掴みに行った自分な自分な訳だからそう考えると一方通行は全然悪くない気がす
るしでもでもそれならそれなら……
 佐天が思考の沼にはまって行く中、初春はデコピンの痛みから抜け出したのか支部に備え付
けてある電気ポットの前で二人分のお茶っ葉を急須に入れていた。

「佐天さん緑茶でいいですよね?」

「あぇ!?」

 初春によって思考の泥沼から引っ張りだされた佐天が素っ頓狂な声をあげる。初春は「は?」
と急須から目を離し、意味がわからないと言いたげな顔で振り返った。その時、甲高い電子音
と共に風紀委員支部の入り口が開かれる。二人がそろって入口を見ると、そこにはどうしよう
もなく暗い顔をした白井黒子が立っていた。

123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 22:00:10.82 ID:mXx1NX/t0

「今、白井さんの分のお茶も入れますね」

「白井さんおはよーございます」

 二人を無視して黒子は自分の席まで行くと、力なくドカッと椅子に身を沈めた。目はうつろ
で、口から魂が抜けてしまっている。 

「ど、どうしたんですか?」

「お姉様の……お姉様の様子がおかしいんですの」

 ギリっと歯を食いしばりながら苦虫を噛んだような表情で黒子は答えた。

「進化したんですか? ライチュウですか?」

「初春黙って」

 ボケを軽くスルーされた初春はふてくされたように頬を膨らました。それでも手は止めずに
三人前のお茶を手際良く用意している。沸騰したお湯を急須の中に入れて軽く回す。緑茶の匂
いが鼻腔をくすぐる。出来あがった緑茶をコポコポと湯呑みに入れて佐天と黒子の前に置くと
次は自分の分の湯呑みに緑茶を注いだ。
 そのお茶を黒子はズズッと啜り一息つく。そしてゆっくりと口を開いた。

「最初にお姉様が少し変だと気付いたのは一週間ぐらい前の事でしたわ」

 一週間前と言えばちょうどダブルデートをした日だ。そんな事を考えながら佐天は初春の入
れたお茶を啜るが、佐天にはまだ少し熱かったようだ。舌を軽く火傷したのか少しヒリヒリと
した感覚が残る。

124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 22:01:26.07 ID:mXx1NX/t0

「珍しくお姉様が門限通りに帰ってきましたの。それで私と一緒に寮の夕飯を食べていたんで
すけど、ずっと携帯の画面を見てはにやけ……画面を見てはにやけ、私の甘いピロー……いえ、
ディナートークは完全にスルーされ続けましたわ」

「それいつも通りじゃ」

「初春黙って」

「そうですの。これぐらいだったらいつも通りですの。でも、一度お姉様の着信音が鳴ったと
思ったら、お姉様は『ヒョウッ!!』と言って動かなくなってしまったんですの」

「白井さんが御坂さんの新ギャグに笑ってあげなかったからですよ」

「初春黙って」

「随分と長い間固まってたのでどうしたのかなー、何か変だなーと思って失礼と知りながら私、
お姉様のケータイのディスプレイを覗いたんですの」

「なんでいきなり淳二さんなんですか?」

「初春黙って」

「えっ、今のもダメですか?」

「するとそこには……」

 黒子の身体がガタガタと震えだす。どんな恐ろしいものが映っていたのだろうかと佐天は息
をのんだ。初春は、お茶のお代わりを注ぎに行った。

「あろうことかお姉様とあのクソ忌まわしき類人猿のツーショットが映っていたんですの!!
それも肩がくっ付きそうなほど寄り添って仲睦まじく歩く姿でですわ!! 怖いなー、バック
の夕焼けが美しいなー、綺麗な画だなーってマジふざけんじゃないですわ!!!!」

 口から火を噴きそうな勢いで黒子は椅子から立ち上がって吠えた。ガルルルルと野生の獣の
そうな殺気を纏っている。湯呑みに残っていた緑茶を飲み干し、初春にお代わりを要求する。
すぐに出来あがったアツアツの緑茶も一気飲みして、そして熱すぎて佐天に吹いた。

125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 22:03:45.94 ID:mXx1NX/t0

「あっついですわ!! もぅイロイロあっついですわ!!!!」

「熱いの私ですよっ!」

 佐天が黒子の吹いたアツアツの緑茶が掛かった顔を押さえながらのた打ち回る。初春が急い
で持ってきたフキンも、なぜかアツアツだった。

「アッツ!! ちょっと初春!? なんでフキン熱いの!?」

「そっちの方が面白いかなって思いまして」

「面白くなーいっ!!」

 学園都市の治安を守るはずの風紀委員の支部でドタバタ劇が繰り広げられる。佐天は初春に
馬乗りになり、片手で往復ビンタをしながらもう片方の手ではスカートをバッサバッサとめく
る。パンツどころか臍辺りまで露わにされている初春は「佐天さんやめて――!」と悲鳴を上
げるだけだ。

「それからと言うものお姉様は事あるごとにクソ類人猿を探しに学園都市中を徘徊するように
なってしまわれたんですの! 上手くクソ人猿に会えた日は夜中まで私相手にノロケ話披露す
るんですの! 私散々お姉様が好きって言ってるのに生き地獄ですわ! 上手くクソ猿と会えな
かった日は私が慰めるんですのよ!? シュンとしてるお姉様可愛いなーとも思いますけれどや
っぱり納得いかないんですの!! あのクソ! お姉様を悲しませるんじゃないですの!!」

 ギャーギャーと思うままに騒いでいると、支部の入口の電子ロックが解除されゆっくりとド
アが開き始める。今この瞬間まで騒いでいた三人が一気に静かになりドアの先を見つめる。固
法先輩にでもこの状況を見られたら確実に怒られる。部外者の佐天も含めて。そもそも部外者
を普通に入れている黒子と初春はさらに怒られるだろう。
 ドアが開き切ると、そこにはこの騒ぎの間接的な主役が立っていた。

「みんな、おはよー。ごめんね初春。また勝手にロック解除しちゃった」

 いつものノリで美琴が挨拶する。しかし誰も返事は返さなかった。代わりに三人の目線が美
琴に突き刺さる。

126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 22:05:40.52 ID:mXx1NX/t0

「なに、どうしたの? すごい静かだけど……」

「広い意味で全部御坂さんのせいです」

「へ? なんで?」

 美琴が支部内を見渡す。何か液体で濡れた床、スカートを顔の位置までめくられさらに頭の
上で絞るように紐で縛られまるで逆テルテル坊主の様になり、パンツと臍が丸見えのまま悶え
ている恐らく初春。その上で横腹を親の敵のようにくすぐる佐天。黒子はゼェゼェ息を切らし
ていた。

「お姉様! 昔のお姉様に戻ってくださいまし!」

 突然の黒子の大声に美琴は体をビクつかせた。黒子の足元では初春っぽいものが黒子から離
れる様にゴロンと一回転する。そのせいで初春にマウントポジションをとっていた佐天は転が
り落ちた。
 
「朝の挨拶かと思えば当麻! 昼の挨拶かと思えば当麻! 夜の挨拶かと思えば当麻! 私もう耐
えられませんの!!」

「ちょっ、黒子やめ……」

 黒子が美琴の両肩をがっしり掴んで揺さぶる。おかげで美琴の頭は振り子のようにグワング
ワンと揺れていた。

「最近では胸のサイズを気にするようになったのか怪しげなバスト増量通販グッズを買い漁っ
たり、バストの増量マッサージがのったファッション雑誌のみを買い漁ってお風呂で実践して
みたり! そんな必死なお姉様も萌え萌えですがそれが毎日とあっては流石にキツ……」

 アイアンクローの要領で美琴が黒子の頭を掴む。口元はヒクヒクと微妙に動き、いびつな笑
みを浮かべている。

「なぁ〜んでアンタは風呂の中の事まで知ってるのかしらねぇ〜〜」

「そ、それはもちろんお姉様にいつ何時危険が襲うか分からないのでドアの隙間から覗いてる
からですの」

「そぉ〜、それはアリガトねぇ〜。でも危険は迫って来ないから大丈夫よ、だから一生私のお
風呂覗くんじゃないわよ?」

127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 22:07:03.62 ID:mXx1NX/t0

 ギリギリと渾身の力を込めた美琴の指が黒子の側頭にめり込んでいく。黒子が両手で美琴の
腕を引き離そうとするが指に瞬間接着剤でも付けていたのか全くビクともしない。かすれる様
な声で美琴に手を離すように言ってみるが……

「やめ……お姉……指……食いこ………」

 言葉にならない。

「そういえば、佐天さん」

「はい!?」

 目の前の圧倒的光景に茫然としていた佐天の声が思いがけず裏返る。美琴は佐天の方に目を
向けるが決して黒子の頭からは手を離さない。美琴の腕を掴んでいた黒子の手が、重力に従う
ように力なく垂れる。

「この前はアリガトね?」

「い、いえ私の方こそ無茶言ってすみませんでした」

 一応受け答えはするが、黒子が気になってしょうがない。気のせいでなければ黒子は泡を吹
いている。

「後、写真……送ってきてくれて……」

 可愛らしく頬を薄ピンク色に染めながら手を握って口元に持っていき、恥ずかしそうに佐天
から目線を反らす。もう片方の手は相変わらず黒子を締め上げているのがなんともシュールだ。

「いえ、アレは私が勝手にやった事ですし……凄く綺麗だったんで思わず撮っちゃいました」

「やだっ! 綺麗とか! って夕焼けがよね!! 今思いっ切り感違いしちゃったわ!」

「御坂さんと上条さんも含めてですよ」

「〜〜〜〜〜〜っ」

 言っといて何だが、照れ隠しに黒子を振り回すのはどうかと思う。黒子の身体はまるで旗の
様に右へ左へはためいていた。



「佐天さん、あれから一方通行と連絡取ったりしてる?」
 
 美琴が落ち着いた所でようやくアイアンクローから解放された黒子は、土下座をするような
形で両側頭を押さえていた。よく見ると美琴が掴んでいた部分にはくっきりと指の跡が見てと
れる。

128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 22:08:35.09 ID:mXx1NX/t0

「いやー、全然ですねぇ」

 ダブルデートの日から一週間、一方通行とは会ってもないし連絡も取っていない。別れ際に
メールをするとは言ったものの誘う口実も見当たらずダラダラと時間は過ぎて行ったのだ。一
方通行から連絡が来るかもと淡い期待も多少持っていたが、それもない。

「あんのバカは……よくもまぁ佐天さんを放っておけるわね。まーでも一方通行に佐天さんは
勿体無いけど」

「そ、そんな事ないですよっ。一方通行さん優しいし気が利くし……ちょっとカッコ良かった
し……むしろ私には勿体無い感じですよ」

 優しくて気が利いてカッコいい? 普段無駄話ぐらいしかしない美琴にはよく理解できない単
語が並ぶ。優しくて気が利いてカッコいいのは当麻だろうと言いそうになったがギリギリ踏み
とどまる。そんな事言ってしまった日には黒子が全力でウザくなるだろう。今でさえ若干ウザ
いのに。それに佐天に自分が当麻を好きな事がばれるかも知れない。たとえばれても佐天なら
応援してくれるだろうが、やっぱりどこか恥ずかしさが残る。声に出してソレを言ってしまっ
たら当麻の顔も見れなくなってしまいそうだ。

「でもその一方通行さん。私はプリクラでしか見てないですけど寂しがり屋っぽい顔してませ
んか? 目も赤いし、多分ウサギさんですよ。今頃佐天さんに会えなくて泣いてますよ」

 初春が緑茶を湯呑みに入れながら言った。今度は美琴が増えたので四人分だ。

「初春マジバカ春」

「あははっ、でも確かにそうかもねー。知り合った最初の方は良く暇だからってメールしてき
てたし。まぁ打ち止めとか同居人が出来てからはそれも無くなったけど」

 初春が四人分の湯呑みをトレイに載せて危なっかしい足取りで運ぶ。その途中、いまだ土下
座でこめかみを押さえている黒子の頭の上に「熱いので気を付けてくださいね」と湯呑みを置
いた。

「え? 初春? これじゃ私動けませんのよ?」

「佐天さん、御坂さんどうぞー」

 黒子は無視して二人にも緑茶を渡し、空いている席に腰を掛ける。ちょうど佐天と美琴の間
に座るような位置関係だ。

129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 22:10:02.62 ID:mXx1NX/t0

「御坂さんって前から一方通行さんと仲良しだったんですか?」

 美琴と一方通行が昔頻繁にメールをしていたと聞き、佐天は少し興味がわいた。あの日の二
人を見る限りでは美琴が当麻に付きっ切りだったというのもあるが、二人の関係がよく分から
なかったからだ。普通に話してたし仲が悪いという訳ではないだろう。そもそも仲が悪いので
あればあの日のデート要員にすらならないはずだ。

「んー。別に仲良しって訳でもないわよ。ただの……まぁ会ったら話す程度の友達ね」

 歯切れ悪く美琴が答える。もう少し突っ込んで聞きたい気もするがこれ以上のことは望めな
いだろう。
 「そうなんですか」と佐天が返した後、天使が……いや、佐天が通った様に会話がなんとな
く止まった。妙な沈黙に耐えられなくなったのか、初春が「ル・ミュヒョロペーゼ・アウアウ
!」と摩訶不思議な呪文を唱えるが誰も反応しない。ビックリするほど滑った初春は熟れたト
マトの様に真っ赤になった顔を両手で覆い隠し俯いた。

「そう言えば上条さんとのデートはどうだったんですか?」

 佐天が話題を変えてみる。こういう時は何か話すきっかけを作ればいいだけなのだ。

「デェェェエェェトォオォォォォォォオ!?」

 黒子が過剰に反応するが頭の上に熱いお茶が乗っているので顔をあげる事は出来ない。テレ
ポートでどければいいだけの話なのだが、自分の把握し切れていなかった美琴の行動に混乱し
てそこまで頭が回らないようだ。

「で、デートじゃないわよっ! ただ二人で遊んだだけよ」

「世間じゃそう言うのはデートって言うんですよ」

 初春の突っ込みにジトッと睨みつける。

「私、何かおかしな事言いましたかね?」

「御坂さん、何でもかんでも噛みついちゃダメですよー」

 ネコか何かをなだめる様に佐天が美琴の頭をポンポンと叩く。まったくそんな事をされては
年上の面子が丸つぶれだと美琴は大人しくなった。

130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 22:11:44.44 ID:mXx1NX/t0

「あの服着て行きました?」

「どこ行ったんですか?」

 大人しくなった事を見計らうように二人は美琴を質問攻めする。お年頃なだけあってやっぱ
り気になるのだ。佐天もデートはしてみたがアレはダブルデートだったし、二人でのデートと
は少し違うものがあると思う。それに本人から直接は聞いてないが、美琴が当麻を好きなのは
見てとれる。というか分かりやす過ぎる。好きな人と一日二人っきりになるのはどんな気分な
のか、ぜひとも聞いてみたい。

「あの服は着て行ったわよ。アイツが見たいってゆーから……」

 フムフムと何が分かったのかはよくわからないが佐天と初春がうなずく。少しずつ美琴の声
が小さくなるもんだから聞き逃さないように二人の顔が美琴の顔に近づいて行く。ソレを避け
るように美琴は俯いてしまったため、二人の顔がニヤけている事に気付かない。

「それで待ち合わせした後はふつーに……、えっと……ボーリング行ってお昼ご飯食べて……
で、その後どーしよっかってなって……」

 さらに大きく佐天と初春はうなずく。顔はもうとろける様程にニヤケ切っている。初春が小
声で「ホテル? ホテルなんですか?」と囁くのを佐天が頭を後ろから叩く。幸い美琴は照れ
を隠すので精いっぱいで聞こえていないようだ。照れは隠せていないのだが。

「カラオケ……行きました……。それでおしまい」

 ムハーーと二人が息を吐く。その瞬間後ろから叫び声が聞こえた。

「カラオケェェエェェェェエエェ!!」

 言うまでもなく黒子だ。床と強制キス状態のため声は籠っているがそれでもハッキリと聞こ
える。

「ダメですわお姉様! 若い殿方と密閉された個室に二人きりなんて!! そんなもんもうラブ
ホとイコールですのよ!! ああっ!! これでもうあのクソバカ類人猿の汚い棒によってお姉
様の神聖なる処女ま……」

 コンクリート片を地上十メートルから叩き落としたかのような轟音が支部内に響く。黒子の
頭に乗っていた湯呑みは復元など到底不可能なほどに粉々に粉砕され、床のタイルも黒子の頭
を中心に波紋のようにひび割れて、ところどころコンクリートが見え隠れしている。
 美琴が黒子の頭を撃ち抜いた足を上げ、「帰るっ!」とだけ言い残し顔を真っ赤にしたまま
振り返る事なくドアから出て行った。
 
「大丈夫ですよー! 初春と私はそんな事考えてませんよー!」

「そうですよ! どうせやるなら家かホテルが良いですもんね!」

 二人が必死でフォローするが聞こえているのかもわからない。足元では「お姉様が……私の
お姉様が……神聖なるお姉様が……」とぶっ飛んだ妄想癖の持ち主が自らの妄想によって泣い
ていた。

131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/03(木) 22:13:04.86 ID:mXx1NX/t0
今日はしゅーりょー
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 22:23:39.30 ID:yjoc4KC4o
おい、ちょっとカメラ止めろ。

じゃなかった、フリーダムすぎる花娘止めろw
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 22:37:08.00 ID:fuTrccNMo
オイコラどんだけ面白いんだよアンタ最高だよすっげえ幸せな気分になったよチクショウ!
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 23:06:20.67 ID:980fn0160
捲ったら臍が見えるとか
初春はスカートをどこで止めてるんだよww
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 23:19:53.19 ID:OgtghIhYo
花瓶女ひどすぎワロタwww

ちゃんと連絡とれよ!セロリ!
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 23:39:55.52 ID:zf23ye3Fo
>>134
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 17:17:55.02 ID:kbBqEKve0
男たちのその後も気になるな

二人でデートした事に悶々とする上条さんとか
写真を同居人に見られて慌てふためく一方さんとか
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 20:42:45.32 ID:xU8ZKRmW0
黒子は相変わらず体を張ってますね
初春かわいいよ黒いよ
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 00:07:15.43 ID:wD2J0P630
 
「白井さん、危ないんで動かないでくださいね」

 泣いている黒子の頭に乗っている湯呑みの破片を佐天が丁寧に取り除いていく。初春もロッ
カーから箒とチリトリを取り出して黒子を中心に散乱した破片を掃き始めた。

「痛いとことかありませんか? かなり強く踏みつけられてましたけど」

「……心」

「大丈夫そうですね」

「あっ、足もとはまだ破片あるんで気を付けてください」

 佐天は黒子の頭から湯のみの破片を全て取り除くと、黒子を後ろからはがい締めにするよう
にして立ち上がらせ、スカートに着いた埃や手では取りにくい細かい破片を払った。黒子の顔
があった部分にはくっきりと黒子の顔が転写されている。風紀委員一七七支部の床に浮かび上
がった黒子の顔。それは鬼の形相で間違って踏んでしまおうものなら容赦なく呪われそうな雰
囲気を醸し出している。
 今度から支部に来る時は踏まない様に注意しよう、と佐天は一人心に誓った。

「白井さん、これどうしたらいいんでしょう? このままだと絶対に個法先輩に怒られますよ
ね?」

 初春が箒の柄でひび割れた床をコンコンと叩く。割れた湯呑みは黒子の私物なため、割ろう
が無くそうが爆発させようが買い直せばいいだけの話なので無かった事には出来る。しかし、
この床だけはどうしようもない。自分たちではどうする事も出来ないし、業者に頼むにしても
基本的に支部は部外者立ち入り禁止のため色々な書類を書かないといけない。その書類は個法
先輩の許可がないと作成できない。

「……模様替えですの」

「模様替え?」

 初春が首をかしげる。模様替えをした所で何になると言うのか、ヒビが直る訳でもないだろ
う。

140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 00:10:27.85 ID:wD2J0P630

「机を移動させてこれを隠すんですの。それ以外に怒られない道はありませんわ」

「あっ、なるほどー」

 納得したように初春はパンッと柏手を打った。確かにそれなら気付かれる事は無いかもしれ
ない。早速キャスター付きの椅子をどかして机を運ぶ準備にかかる。

「よくそんな悪知恵が働きますね」

 少し呆れながらも佐天は初春の持っている机に手を掛けて手伝い始めた。机の上の荷物を下
ろさずに運ぼうとするものだから結構重い。ガリガリと引きずってなんとか机を運ぶとひび割
れの半分が隠れる。「次はこっちですの」という黒子の指示で二つ目の机も同じようにして運
ぶと、綺麗にひび割れを隠す事が出来た。
 それにしてもなんで黒子の顔には傷一つないんだろう。残りの机も不自然にならない様に並
べながら佐天は思った。床にくっきり顔の跡が出来るほどの強さで頭を踏みつけられたにも関
わらず黒子の顔は美しい。きめ細やかな肌には擦り傷一つ付いてないし、赤くすらなっていな
い。動機はアレだが、俯いて元気のない憂い顔の黒子はなかなかクルものがあった。
 
「佐天さんどうしたんですか? なんかボーっとしてますけど」

「ん? いや、なんでもない」

 黒子にときめいてました。なんて言えるわけがない。佐天は適当にごまかすも、それが初春
の何かに触れたようだった。いきなり初春のテンションが上がる。

「もしかして一方通行さんのこと考えてたりですか!?」

「へ!?」

「考えてたりだったんですね!!」

 佐天は何も言ってないのに疑問は確信になったようだ。さっき恥ずかしめを受けたお返しと
ばかりに一気に攻め立てる。

「御坂さんの話聞いて燃え上がっちゃったんですね!」

「いやいや、私そんな事一言も言ってないよ?」

「連絡しましょう! さっそく一方通行さんに連絡取っちゃいましょう!」

「今日の初春うざい!!」

141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 00:14:44.61 ID:wD2J0P630

 最初に運んだ机では黒子が机を運ぶのを手伝いもせずに藁と紐を取り出して何かを作ってい
た。傍らには釘とトンカチが置いてある。
 一方通行さんは! だーかーら! セロリ!! 初春マジうぜェ!!  ギャーギャー騒ぎなが
らも佐天と初春は手は休ませずに机を運ぶ。そして最後の机を運びきった所で突如として支部
に警報音が鳴り響いた。佐天と初春は言い合いをやめ、黒子も壁に向かって藁人形に釘を打ち
つけるのをやめる。
 支部に鳴り響く警報音。これは学園都市内で事件が発生した事を意味する。

「初春、ナビよろしくですの!! 私は現場に向かいますわ!」

「わかりました!」

 イヤホンとマイクを付けながら黒子が指示を出す。その顔はさっきまでのものとは違い完全
に仕事の顔だ。それは初春も同じで、すでに移動させたばかりの机に座りパソコンと向き合っ
ていた。手は高速でキーボードをタイプし、ディスプレイには次々と文字や写真が一面に詰ま
ったウィンドウが開かれる。
 
「えっ? へ?」

 二人のあまりの切り換えの速さに佐天は付いて行けず交互に二人を見ることしかできないで
いた。

「佐天さんごきげんようですの」

 それだけ言い残し黒子はテレポートで一気に建物の入り口まで飛んだ。初春の見るディスプ
レイには街の地図が表示され、その上には赤い丸と黄色い三角形が映っている。赤い丸が事件
現場で、黄色い三角形が黒子の現在位置だ。黒子が付けて出たイヤホンとマイクには小型のGP
Sが付いており、それで黒子の現在位置を把握できるようになっているらしい。
 地図を確認しながら初春は黒子に道順を示す。パソコンのスピーカーからは黒子の声で「了
解ですの」と返って来た。黄色い三角形が赤い丸へと動き出す。その動く速度から見てテレポ
ートは使わずに走っているのだろう。テレポートを使った方が早く現場に付けるのは百も承知
だが、ソレをすると電波が飛び飛びになり初春が発する正確な情報が得られないためだ。正確
な情報は現場で最大の武器と成り得る。その事を知っている黒子は初春からの情報が届くまで
はテレポートは使わずに移動するようにしているのだ。

142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 00:16:48.60 ID:wD2J0P630

「今回は能力者同士のケンカみたいですね。データバンクによるとLEVEL3の発火能力者と念動
力者みたいです」

『まったく……人騒がせな連中ですわね』

「ちょっとレベルが高いですけど白井さんなら大丈夫だと思うんでさっさと捕縛しちゃってく
ださい。今のところ怪我人の報告はありませんが人通りの多い道ですので周りには十分気を付
けてくださいね」

『わかりまし……あ゛あ゛っ!!』

 スピーカーから大音量で黒子の声が響き、思わず佐天と初春は耳を塞ぐ。

「初春! 十秒……いえ、五秒だけ時間を頂きますわ!!」

「へ? なにかあったんですか?」

 初春の問いかけに黒子は答えない。代わりに佐天が口を開いた。

「ねー初春。コレ白井さん道ずれてない?」

 佐天がパソコンのディスプレイを指差す。初春が見ると、確かに黒子の現在位置を表す黄色
い三角形は目標地点である赤い丸の二本前の角を曲がって移動していた。三角形が飛び飛びで
表示される事から今はテレポートを使って移動しているのだろう。

「白井さん!?」

『死にさらせぇぇぇえぇぇぇえぇえぇ!!』

 スピーカーからはドスの利いた低い怒号と人が吹き飛んで何か金属をまき散らしたかのよう
な乱雑音が聞こえてくる。音声だけのため佐天と初春には何が起きたか解らない。解るのは黒
子が何かしたという事だけだ。

『目標の駆逐完了ですわ。今からケンカの方止めてきますの』

「何したんですか!? 白井さん今風紀委員の腕称してるんですよ!? あんまり目立つような
事は!!」

143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 00:19:04.17 ID:wD2J0P630

 ディスプレイの三角形が一瞬消えたかと思うと、今度は丸に重なるようにして表示された。
スピーカーから『ジャッジメントですの!』と黒子の声が聞こえるのでどうやら現場には到着
したらしい。

「あーもー、白井さん大丈夫でしょうか」

「大丈夫じゃない? ほらっ男の人の悲鳴聞こえるし」

 支部にガチャガチャと騒がしい戦闘音が広がる。かなり激しそうだが黒子が劣勢ではないの
はよくわかる。男の悲鳴は聞こえど、黒子の悲鳴は全く聞こえず、むしろ怒りを撒き散らすか
のような罵声しか聞こえない。

「そっちじゃないですよー。その前のやつです……一般人に危害加えてたりしてなきゃいいん
ですけど」

 初春がはぁ、と机に肘を立て悩ましげに溜め息をついた。能力者同士の喧嘩の鎮圧に行った
のにココまで心配されないのは黒子の実力を信用しているからか、どうでもいいのか。是非前
者であって欲しいと佐天は思った。
 黒子が現場に到着してから一分。すでに事件を鎮静化出来たのだろう。さっきまでの戦闘音
は聞こえなくなり、代わりに黒子と誰かの話声が聞こえる。おそらく警備員への引き継ぎを行
っているのだろう。

「はっや……」

「白井さんが行くといつもこんなもんですよ。圧倒的力で対象をねじ伏せますから」

 これにて一件落着、というように初春が伸びをする。パソコンのディスプレイからは赤い丸
がいつの間にか消えていた。

「そう言えば、佐天さんそろそろ帰った方がいいですよ。事件がありましたしそろそろ個法先
輩がココにくるかもなんで」

「そうだね。怒られんのは嫌だしそろそろお暇させて……」

 電子音が鳴り、支部のドアのロックが外される。噂をすればなんとやら。開いたドアの向こ
うには巨乳でメガネなお姉さんが立っていた。

144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 00:20:46.65 ID:wD2J0P630


         * * *


「うん! 炊飯器使ってない割には中々美味いじゃん!」

「あのなァ黄泉川、普通パン焼くのに炊飯器なンて使わねェンだよ」

「このサラダに掛かってるドレッシング結構好きかもってミサカはミサカはドバッとドレッシ
ングを追加してみる!」

「バカかてめェは。そンな事したら味きつすぎて食えたもンじゃねェぞ」

 午前七時。打ち止めと黄泉川がテーブルを囲み朝食を取って、一方通行は台所で昨日の夕飯
で使った食器と今朝の調理で使った器具を洗っている。朝食はトーストに半熟の目玉焼き、そ
れとキャベツを適当にちぎって盛り付け、そこにキュウリとトマトを乗せた簡単なサラダだ。
黄泉川家では主婦業は一日交代のローテーションが敷かれており一昨日は黄泉川、昨日は芳川
だったため今日は一方通行の日なのだ。打ち止めはこのローテーションに入っていないが毎日
皆の手伝いをしてなんとなく絡んでいる。

「やベェ、眠ィ……」

「まだ起きたばっかりなのにだらしないよってミサカはミサカは注意してみたり」

「うっせェな……こちらと芳川に合わせて朝の四時から起きてンだよ。つーか朝四時ってなン
なンだよ、ほぼ夜じゃねェか」

「一回寝ればよかったじゃん?」

「ンな事して起きれなかったらお前仕事に遅れンだろうが。今日起こすの俺の担当なンだから
よォ」

 今ココにいない芳川は実験の都合とか何とかで朝五時には家を出なければならず、今日の主
婦当番の一方通行はそれに合わせて朝食を作らなければいけなかったため、朝四時から起きっ
ぱなしなのだ。

145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 00:22:38.29 ID:wD2J0P630

「つーか腹減ってきたな。もっかい朝飯食ってやろうか」   

 朝食は芳川と一緒に取ったため、朝七時の時点ですでに三時間ほど経過している。育ち盛り
の男子としては小腹が空き始める頃だ。

「眠かったりお腹減ってたり忙しいねってミサカはミサカは家庭的一方通行の身体を心配して
みたり」

「打ち止め、次家庭的と言ったら昼メシ抜いちまうぞ?」

「ごちそうさまじゃん!」

 黄泉川は食器をまとめて流し台に置き、ドタバタと洗面所に向かった。適当に櫛で髪を梳か
してからいつものように後ろで一つにまとめる。年頃の女性とは思えないほどの工程の少なさ
で身支度を整えていく。
 今、黄泉川が置いた分の食器も洗い終え、流し台の周りに飛び散った水をフキンで綺麗に拭
き取った後、一方通行はパッパッと手の水気を弾きタオルで拭きながら、この後は洗濯機を回
して掃除をして……と頭の中で予定を組み立てる。芳川と黄泉川が食事以外のこの二つを意地
でもしないため、一方通行のローテーションの時にやらなければ永遠に終わらないのだ。
 ちなみに先ほど一方通行が洗っていた昨日の分の食器も、本来なら芳川がしなければならな
いのだが、昨晩は夕食後に芳川が死んだように眠りに着いたため仕方なく一方通行が行ってい
た。二人は働いているのだから仕方ないと割り切ってはいるが、それでも結構不公平なのでは
ないかと一方通行は思う。

「ごちそうさまでしたー!ってミサカはミサカは食器をガチャガチャ言わせながらあなたに渡
してみる」

「……洗いもン終わった瞬間に持ってきやがって……」

 打ち止めから食器を受け取り再度洗い物を始める。昼食まで残していてもいいのだが、洗い
物はすぐ洗うと言うルールが一方通行の中に出来ているためそうもいかない。

「打ち止めー打ち止めー」

 黄泉川が歯ブラシを咥え、口の周りに白い泡を付けたまま打ち止めを呼ぶ。郵便受けを覗い
てきたのか左手には封筒が握られていた。

146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 00:24:39.11 ID:wD2J0P630

「なにー? ってミサカはミサカは駆け寄ってみたり」

「問題じゃん。これって何でしょーか?」

 左手の封筒を親指と人差し指で挟んでヒラヒラと宙を泳がす。その顔には軽く笑みを浮かべ
ていた。

「封筒?」

「そのまんまじゃん」

「お前なァにゆったりしてやがるンですかァ? 人に朝から起こさせといて遅刻しましたとか
になるンじゃねェぞ?」

 打ち止めがピョンピョンと飛び跳ね封筒を渡すように催促する。「そこまでバカじゃ無い
じゃん」と黄泉川は歯ブラシをシャコシャコと上下に動かしながら封筒を打ち止めに渡した。
 打ち止めが受け取った封筒の宛名は『打ち止め様』となっている。送り主はどうやらどこか
の企業名が書かれているようだ。

「ミサカ宛て!? って事はまさかまさかのまさかかも! ってミサカはミサカは幸せ指数をほ
んのちょっとだけ上げてみたり!」

 ビリビリと手で打ち止めが封を切る。ソレを見てもっと綺麗に封切れよと腹の中では突っ込
みを入れるが、謎のハイテンションでウキウキしている打ち止めの水を差すのも悪い。一方通
行は取りかけた鋏をそっと元の場所に戻した。
 手で切ると言うか乱暴に破ったため案の定封筒は真ん中あたりまで破れてボロボロになった
が、そんな事はお構いなしに打ち止めは中身を取りだした。中身は一枚のコピー用紙と二枚の
長方形型のチケットの様なものだ。打ち止めがコピー用紙はそっちのけでチケットの文字が印
刷されている側を凝視する。そして数秒間だけ固まり、両手を勢いよく真上に上げた。

「キターーーー!! ってミサカはミサカは喜びを爆発させてみる!」

「朝から一体なンなンだよ」

「今日が最後の発表だったから尚更嬉しいってミサカはミサカは封筒にちゅーしてみたり!」

「よかったじゃん! 何回も諦めずに手紙出してみるもんじゃん!」

 黄泉川の発言で一方通行は「あァ……」と全てを理解した。打ち止めが今クルクル回りながら
両手で端を持って掲げているのは、一ヶ月ほど前に打ち止めが懸賞で応募した犬と猫が主役のハ
ートフル映画の試写会のチケットだ。あまりに熱心に応募していたし、何度も何度もへたっぴな
説明をされたからよく覚えている。 

147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 00:26:46.78 ID:wD2J0P630

「一緒に行こうねってミサカはミサカはお誘いしてみる!」

「もちろんじゃん! して、その試写会の日程っていつじゃん?」

 チケットにはなにも書いていなかったため恐らく打ち止めが放り投げて床に落ちてたままに
なっているコピー用紙に時間と場所が書かれているのだろう。一方通行が紙を拾い上げて確認
すると予想通り上映場所までの簡易な地図と日程が書かれてあった。

「今度の土曜だな」

「ハッピーサタデー! ってミサカはミサカはガッツポーズしてみたり!」

「……一方通行、もっかいお願いするじゃん」

「だから今週の土曜、明後日だっての」

 確認してから、黄泉川の表情が曇る。テーブルの上に置きっぱなしにしていた携帯電話を手
に取ると一つ一つの動作を確認するようにゆっくりと操作をし始めた。

「なにしてンだよ?」

 一方通行が問いかけるも歯ブラシを咥えたまま片手を突き出し無言で『待って』のポーズ。
いつも打ち止めと一緒に騒がしくしている黄泉川にはあまり見られない貴重なシーンだが、あ
まりいい事ではないのかもしれない。携帯電話を食い入るように覗きこんでいるため前髪が垂
れ、横顔はほとんど見れないが、なんとなく困っているようなそんな表情をしている気がする。
打ち止めも先程とは違う不穏な空気を察したのか、チケットが当たった喜びもどこかに消え去
ったかのように黙って眉をハの字にしている。
 携帯電話を閉じ、「今スケジュールを確認したんだけど……」と前置きをしてから黄泉川は
打ち止めに深々と頭を下げた。後ろで一つにまとめている黒い長髪が肩を滑ってスルリと落ち
る。

「その日、警備員の会議があるからいけないじゃん」

「えぇ――――!! ってミサカはミサカは途中から空気でなんとなくそんな気はしてたけど
一縷の望みを託してた分やっぱり全力で叫んでみる!」

「ホントごめんじゃん! この会議はどうしても休めないじゃん」

 パンッと両手を合わせて本当に申し訳なさそうな顔をしながら再度頭を下げる。

「ミ、ミサカはどうしたらいいの!? ってミサカはミサカはアタフタしてみる!!」

「そうじゃん! 一方通行が一緒に行けばいいじゃん!?」

「ソレ! ナイスアイデア! あなたが私を連れてって! ってミサカはミサカは腕にしがみ付き
ながらお願いしてみる!!」

「いや、っつーかよォ。誰が連れてくとかの前に、お前この日、カエル医者ンところの定期健
診の日だからそもそも行けねェンだわ。時間もモロ被りだしな」

「えぇ――――!?」

148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 00:28:55.15 ID:wD2J0P630

 まさかの衝撃的事実。昼の情報番組で組まれていた特集を見てからずっと観たいと、少しで
も早く観たいと思っていた。だからさまざまな番組の映画の宣伝を兼ねたプレゼントコーナー
にも応募したし、お小遣いをはたいて買った中身には全く興味のない雑誌の懸賞にも応募した。
それでようやく手に入れた念願の試写会。懸賞に外れるならまだしも、手元にチケットがある
のに、懸賞に当選したのにこんな形で棒に振るなんて考えられない。打ち止めは体全体を使っ
て一方通行の腕をブンブンと振り回し抗議する。

「その日はお休みして! その後は休まず行くから! 絶対行くから!」

「それはダメじゃん。落ち着いてはいるけど身体の調子もまだ少し不安定だし何かあってから
じゃ遅いじゃん」

「じゃあ次の日! 日曜日に行く事にすればいいよ! ってミサカはミサカは必死で提案して
みる!!」

「そンなもン、カエルに迷惑掛かンだろうが。今まで散々迷惑かけてンだから止めとけ」

「〜〜〜〜〜っ!」

 我慢しきれず地団駄を踏む。あれだけ待ち望んだのに神様はなんて酷い仕打ちをするのだろ
うか。本当なら定期健診なんてほっぽり出して映画を観に行きたい。しかし一方通行と黄泉川
の言うことだって分かる。分かるから、余計に映画に行けない事が悔しい。打ち止めの目に熱
い涙がじんわり浮かんだ。それでも涙を零さないようにとギュッと唇を噛んで小さな手を握り
しめる。手の中のチケットがグシャリと潰れた。
 そんな打ち止めを見て二人が何も思わないはずがない。ある日大量の手紙を買ってきたと思
ったら、それに黙々と下手な字で何かを書き始めた。どれだけ書くんだと聞くと全部と返って
くる。手伝おうかと言っても自分でやりたいと二人の手を取る事は無かった。少しでも手紙が
目立つようにと手紙の枠を蛍光ペンで塗ったり、シールを貼ったりして工夫もした。それでも
抽選に落ち続け今日が最後の発表の日。そこでようやく試写会を当てたのだ。だから出来れば
行かしてやりたい。だが打ち止めの身体と映画の試写会、どっちが大切かなんて分かりきって
いる。未だ不安定な打ち止めの身体がどうにか安定して欲しい。黄泉川も今この場に居ない芳
川も、一方通行だって顔には出さないが気持ちは同じだ。

 どうか打ち止めが無事に成長していきますように……

149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 00:30:42.41 ID:wD2J0P630

「まァ、今回は運がなかったって諦めるンだな」

「一般上映まで待てばいいじゃん?」

 なんの慰めにもならないが言うしかない。とにかく定期健診には行かせなくてはいけない。
身体が不安定な分、いつ何が起きても不思議ではないのだが、月に一回でもカエル顔の医者の
言葉をもらえればそれで得れる安心もある。

「でも……お手紙とかでお小遣い使っちゃったから映画を観るお金なんて残ってないよ……っ
てミサカはミサカは肩を落としてみる」

 言葉にして噛みしめるのが辛い。とうとう打ち止めの目から堪えていた涙の粒が落ちる。

「……」

 何も言えない黄泉川の横で、一方通行は一歩前に出た。

「金なら稼ぎゃァいいだろうが」

 今回の事は、もうなにも出来ないが次に繋がる何かは出来る。一方通行は打ち止めの手の中
でグチャグチャになっているチケットを取りあげた。

「この試写会のチケットいくらなンだよ」

「え?」

 状況を上手く飲み込めないのか、打ち止めは零れた涙も拭かずにキョトンとした顔をした。
そのやり取りを見て黄泉川は一方通行には見つからない様に軽く微笑んで打ち止めの両肩に後
ろから手を置いた。

「一方通行がそのチケット買ってくれるって言ってるじゃん」

「えっ? えっ?」

 涙を拭いてから打ち止めは上から自分を覗き込んでいる黄泉川の顔を見る。黄泉川は打ち止
めに優しい笑みを向け「ほら、一億円とか言っちゃうじゃん」と背中を押した。

150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 00:33:18.77 ID:wD2J0P630

「現金は……今ねェから後で銀行でおろして渡す。オラ、いくらで売ってくれンだよ。ダフ屋
さンよォ」

「ホントに? ホントにいいのってミサカはミサカはあなたを見上げてみる」

「俺が自分の意思で買うっつってンだからいいんだよ」

「でもミサカがあなたに映画の事話した時はあんまり興味なさげだったってミサカはミサカは
一ヶ月ぐらい前ののことを思い出してみたり……」

「お前があまりにも熱心に説明するから観たくなっちまったンだよ。俺のキャラには合わねェ
映画だとは思うがな」

「そうなんだってミサカはミサカはちょっと嬉しくなってみる」

 さっきの涙が嘘だったかのように、打ち止めに小さいタンポポの花のような笑顔が咲く。

「で、売ってくれンのか? くれねェのか?」

「売る! 売ります! ってミサカはミサカは宣言してみる!」

 これが正しいか正しくないかと言えば、おそらく正しくは無いだろう。それでも一方通行に
はこんな方法しか思いつかなかったが、これで打ち止めが笑顔になるならそれでいいと、そう
思う。

「あっ、でも……」

 打ち止めが一方通行に振り返る。

「あなた一緒に映画に行く友達いるの? ってミサカはミサカは素朴な疑問をぶつけてみる」

「なンの心配してンだよ。それぐらいいるに決まってンだろ」

「そうじゃん。あの携帯のプリクラの女の子でも誘えばいいじゃん」

「女の子? ってミサカはミサカは彼から遠く離れた存在の名称を反復してみる」

「綺麗な黒髪でー……」

「ババァァあァァ!! なァあァァンでそれ知ってンですかァァァああァ!!?」

 一方通行が黄泉川を黙らせようと飛びかかる。黄泉川はソレを軽く往なして一方通行のポケ
ットから携帯電話を取り出して打ち止めに放り投げた。とあるマンションの一室で二人の笑顔
の花が咲き、一人の恥ずかしい物がぶちまけられる。黄泉川の出勤時刻はとうの昔に過ぎ去っ
ているが、黄泉川も一方通行も、今はそれを気にする事は無い。皆で楽しく笑えていれば、そ
れだけでいいのだ。

151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/08(火) 00:34:54.84 ID:wD2J0P630
おやすみー
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 00:37:12.01 ID:tgT8dZJAO
>>151 超乙!
よい眠りを…
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 07:16:40.66 ID:YMSwEK2AO
なにこの朗らかファミリー
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 12:16:42.30 ID:ofa5QVfQo
何と言う癒し系SS
マジ毎回読むたび和むわww
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 23:06:21.97 ID:jN1OCTpA0
あなたが名SS創造神だったのか
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 22:34:55.45 ID:4OsO4Rano

 
 遅刻決定の黄泉川を送り出した後、二日分溜まっていた洗濯と掃除を手際よく済ませ、一段
落ついた一方通行はソファに深く腰掛け、天井を仰ぎ見て短く息を漏らす。朝の四時から起き
ているせいか酷く瞼が重い。打ち止めも一方通行の手伝いが終わった後、この春休みで出来た
同年代の友達と遊ぶためにはりきって公園に行ったため、家の中は普段からは考えられないぐ
らい静かで、それが余計に睡魔を強くする。
 いつもの一方通行ならこのまま夢の世界へと旅立つのだろうが今日はそうもいかない。一緒
に映画を観に行く人間を探さなければいけないのだ。一方通行としては打ち止めからチケット
を買い取って、それで終わりにしたかったのだが、打ち止めと掃除をしている時に約束してし
まったのだ。映画をちゃんと観に行って感想を伝えると。

「どォすっかなァ」

 打ち止めから買い取った試写会のチケットをテーブルから取り、なんとなしに見つめる。映
画を観に行くだけなのだから最悪一人でいけない事もないが、内容が内容なだけにそれは少し
恥ずかしい。出来れば他人の目からは『友人の誘いで仕方なく付いてきました』スタンスでい
たいのだ。今になってなんであんな約束をしたのかと少し後悔するが、した所で何か変わるわ
けでもない。一方通行はチケットを再びテーブルに置き、今度はチケットの代わりに自身の携
帯電話を掴んだ。
 少し身体を起こし、ソファの肘かけに背中を預けて足を放り投げる。伸ばした膝からパキン
と骨が鳴り、運動不足を感じさせられるが、だからどうしたと言った具合で一方通行は折りた
たみ式の携帯電話を開いた。文字盤の空きスペースにはあの日のプリクラが貼られたままだ。
この一週間で何度か剥がそうか剥がすまいか迷って結局そのままにしていたのだが、まさかそ
れが原因で黄泉川に茶化されるなんて……
 プリクラの端に爪を掛けて剥がそうとして、そして止める。今剥がしても黄泉川に見られた
事実は消えないし、逆に今剥がすと今度は「意識してんじゃ〜ん」とまた茶化されそうだ。爪
を掛けた端の部分が数ミリ捲れたのを人差し指で擦って綺麗に貼り付ける。そしてメニュー画
面から電話帳一覧を開いた。少し遠回りしたが、今の問題は誰と映画に行くかなのだ。

「……映画とか……誰誘えばいいンだよ」

 電話帳を下へ下へとスクロールさせ、最後の黄泉川まで来たところで再び一番上まで画面を
戻す。誰を誘うかは決めれなかったが、取り敢えずショタコンとストーカーとシスコンは誘う
リストから消去した。別に仲が悪い訳ではないが、そんな間柄じゃない。映画と言う事は最低
でも二時間程は二人で一緒に居ても大丈夫な人間を選ばなければいけないのだ。

「……。コイツでいいか、気ィ使わなくていいしな。文面はァ……土曜日……に…映画を観に
…行き……ませンか? ってな。まァ、こンなもンだろ」

 メール作成のキーを押し、適当に文字を打ち送信。まだ朝の十時だしすぐには返ってこない
だろうと一方通行は携帯電話をテーブルの上に置いた。その瞬間、バイブレーションがテーブ
ルをガタガタ鳴らす。一方通行が今置いたばかりの携帯電話を取り上げてメールを開いた。

157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 22:35:38.02 ID:4OsO4Rano


from 三下 i-am-happy.i-am-happy.i-am-happy@(ry

件名 RE:

本文 大至急スタバの近くのスーパーに来てください


158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 22:36:32.40 ID:4OsO4Rano

「は? 俺無視ですかァ?」

 三十秒も置かずに返ってきたメールは行く行かないではなく、なぜかお誘いのメールだった。
一方通行もすぐにメールを返す。

『いや、俺映画の事聞いてンだけど』

『分かってるけど今はダッシュでスーパーに来てくれ』

『意味わかンねェ』

『いいから!』

「なンで切れンだよ」

 ごちりながらも自室に上着を取りに向かう。メールで済ませればいい話だがなぜか全然話が
進まないし、なんか呼ばれてるから直接あった方が早く話が済むと踏んだのだ。

「あーもー! うっせェな!!」

 上着を着ている間にも当麻からのメールが絶えずに届く。最初の一、二通は読んだものの内
容は早く来るようにとの催促ばかり。一方通行は途中でメールを見るのをやめ携帯電話をポケ
ットに押し込むと、窓から空へとダイブした。当麻の指定しているスーパーにはこちらから行
った方が早いし、なによりポケットで震え続けている携帯電話を黙らせたくて能力を使って最
短ルートで行く事にしたのだ。

159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 22:37:36.71 ID:4OsO4Rano


「いやー、助かったよ一方通行。これでしばらく小麦粉生活が送れる!」

「……そりゃァどォも」
 
 現在当麻と一方通行はスーパーの二軒隣にあるアレイスターバックス(略してスタバ)のテー
ブル席で向かい合うようにして座り、コーヒーを啜っている。当麻の横の席には十キロ分はあ
ろうかと言うほど大量の小麦粉がレジ袋に入って置かれている。そのレジ袋をうつろな目で見
ている一方通行は、真白に燃え尽きていた。
 一方通行が呼び出された先のスーパーでみたもの。それは小麦粉一キロ五十円のタイムサー
ビスを勝ち取ろうと団子状態になっている学生たちとその中に埋もれながらもしっかりと三袋
をキープして離さない当麻の姿だった。団子状態の生徒たちは今から戦争に行くかのように士
気が高かったし、ソレを煽るようにスーパーの店員は拡声機で「今から十分間だけ!! これ
を逃せば春休みが明けるまでチャンスはないよ!! 五十円! なんと小麦粉一キロが五十円!」
と店外まで漏れる様な大声を出していた。それに気圧された一方通行は静かに店から出ようと
したが、当麻に集団の中に引きずり込まれ、一気に戦場最前線まで駆り出されたのだ。

「で、なんだっけ?」

「映画行こうぜって話」

「あー! そうそう。映画だったな」

 一方通行が財布から映画のチケットを取り出して当麻に渡す。当麻はチケットを受け取ると
マジマジとそれを見て、首を傾げた。

「わんにゃん物語……」

「おゥ。わンにゃン物語」

「お前こういうホンワカしたの好きなんだ? ちょっと意外だな」

「ちげェよ。打ち止めから買い取ったンだよ」

「買い取ってまで?」

「違うっつってンだろうが!」

 一方通行がテーブルをバンッと叩く。当麻はそれに怯むことなくテーブルの上にチケットを
置き、一方通行の方へ滑らせた。

160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 22:40:50.36 ID:4OsO4Rano

「丁重にお断りさせて頂きます」

「丁寧に断ってンじゃねェよ」

 当麻が頭を下げると一方通行はチケットで当麻の頭をペシンと叩いた。

「だってお前、こんなの男二人で観に行くとか寂しすぎるだろ」

「グッ」

 確かに、わんことにゃんこのハートフル映画を男二人で観に行くのはちょっと寂しい。バレ
ンタインに自分で自分にチョコレートを買うぐらい寂しい。しかし一人で行くよりはマシなは
ずだと一方通行は食い下がる。

「でも、俺お前が行かないなら一人で行く事になンだぞ? それはさらに寂しいだろうが!!」

「いや、佐天さんとか誘えよ」

 なんでココでその名前が出てくるか分からない。一方通行としては気を使わなくていいから
当麻に連絡したのに、美琴ならまだしも佐天と一緒に行くなんて絶対気を使う。一週間前みたい
に絶対疲れる。それに今度は二人きりなのだ。つまり佐天を誘うのならそれはもう今度こそ正真
正銘の……

「そンなもンデートになっちまうだろうがァ!!」

「ただ映画観に行くだけだろ。デートではねぇよ」

「いや、あの……はィ」

「じゃあメールしようぜ」

「今?」

「お前今しなかったら絶対しないだろ」

「グッ」

 いつの間にか当麻のペースに飲まれている事にも気付かず、一方通行は携帯電話の電話帳を
開いた。ここまではいいのだが、さて、どちらにメールをしようかと一方通行は悩む。美琴は
言わずもがなだし、佐天はあの日メールすると言ってから一週間音沙汰なし。あの日のデート
はただ佐天が男と一緒に遊ぶのに慣れるための実験みたいなものだった訳だから、つまりはそ
う言う事なのだろう。しかし他の人間にするにしても芳川は嫌だしショタコンなんてもっと嫌
だ。結局は佐天と美琴のどちらかには最低でも連絡をしなければいけない。一方通行は覚悟を
決めてメールを打ち始めた。文面は当麻に送ったものをそのままコピーして貼り付ける。

161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 22:41:27.81 ID:4OsO4Rano


from 御坂 gekota-geki-love.misaka@(ry

件名 RE:

本文 死ね


162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 22:42:36.11 ID:4OsO4Rano

「すげェ機嫌悪ィ」

「なんて?」

 一方通行が当麻に美琴からの文面を見せる。そこにはたった二文字『死ね』とだけ書かれて
いた。当麻が苦笑いする。
 
「うわー、佐天さんって御坂並みにキツイんだな……」

「は? 俺がメール送ったのは御坂だぞ?」

「え? なんで御坂?」

「は?」

「え?」
  
 二人の間に大きなクエスチョンマークが浮かぶ。当麻としてはあの日アレだけ佐天と仲良く
してた訳だし、まずは佐天にメールするだろうと踏んでいたのだ。

「俺はただメールしやすい方にしただけなンだが」

「お前佐天さんとめちゃくちゃ仲良くやってたじゃん。二人でずっと手も繋いでたしさ」

「それはお前らもだろうが」

「俺と御坂は最初にゲーセン行く時以外は繋いでないぞ?」

「は?」

「え?」

 そんなアホな……と一方通行は心の中で突っ込みを入れてみる。自分は当麻の真似をして佐
天と手を繋いでいた訳だから当然、当麻と美琴も手を繋いでいたと思っていたのだが。必死で
あの日の事を思い出そうとするが記憶が大分薄れているのか、そういった細かい所まではよく
思い出せない。

163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 22:43:48.61 ID:4OsO4Rano

「ま、いいや。とにかく御坂はダメだったんだろ? なら早く佐天さんにメールしようぜ」

「てめェ一人でサクサク進めてンじゃねェよ! 今は手ェ繋いでたかどうかだろうがァ!」

「なんだよー、小学生じゃあるまいし手とか繋いでも繋がなくてもどうでもいいだろ。それと
もアレですか? そう言うのにイチイチ反応するピュアピュアハートの持ち主ですか!」

「ンなわけあるかァ! 手とかどォでもいいに決まってンだろうが!!」

「ならいいじゃないか。ほら、佐天さんにメールっ」

「……チッ…」

 本当なら「どうでもよくねェ!」と言いたいピュアピュアハートな一方通行だが、性格上そ
んな事を言う訳にもいかず、しぶしぶ携帯電話を開く。それでもまだ踏ん切りのつかないのか、
一方通行は醜く悪あがきする。

「……なァ、迷惑じゃねェよな?」

「迷惑なら断るか返信来ないだろうから大丈夫だ」

「いや、それ大丈夫じゃねェンじゃ……」

「気にしすぎだっての」

「あっ、アレだわ。佐天からもう一週間連絡ないしもうこりゃアド変わってンな」

「アド変更のメール来てないから」

「それはアレだ。アレだよアレ」

「なに? お前佐天さんのこと嫌いなの?」

「ンなわけあるかァ!」

「なら早くメールしろって」

「それとこれとは話がちげェ」

「ダァーー! お前何ウジウジしてんだよ!? ちょっとケータイ貸せ!」

 煮え切らない一方通行に痺れを切らした当麻が携帯電話を奪い取る。返せ返せと暴れる一方
通行を右手で押さえながら左手でメールを打って即送信。一方通行の「あァ゛ーー!?」の掛
け声と共に携帯電話の画面には『送信しました』の通知が表示された。

164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 22:44:27.32 ID:4OsO4Rano


from 一方通行 ilovecoffeeshop@(ry

件名 久しぶりー。+(・ω・)ノ+。°

本文 今度の土曜日ヒマ(´・ω・`)?
   ヒマなら一緒に映画観にいこーぜェ(>∀<)


165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 22:45:53.26 ID:4OsO4Rano

「だァれだよこれはよォォォオォォォ!!」

 当麻が佐天に送った文面をみて一方通行が土下座をするように跪いて絶叫する。普通に送る
ならまだしも、一度も使った事のない可愛らしい顔文字まで貼り付けられているている。その
文面はいつも文字だけのメールをする一方通行の目にはかなり新鮮に映るがこれは明らかにア
ウトだ。

「後は佐天さんの返信待つだけだな」

「やだもゥコイツ! 三下ホント三下!」

「大丈夫だって。佐天さんなら返信くれるって」

 当麻が笑顔でポンポン、と一方通行の肩を叩く。爽やかな笑顔がこんなに腹立たしいものだ
とは。本人の悪気がゼロなのも、また余計に腹立たしい。吐き場所のない怒りをテーブルの足
にぶつける。ぶつけると言っても最近無機質相手に痛い思いをしたので軽く揺らすだけだが。

「そォじゃなくてよォ! 文面!!」

「もっと賑やかな方が良かったか?」

「すでにお祭り騒ぎなンですけどォ!!」

 握るものをテーブルの足から当麻の足に変えて再び揺らす。当麻は「はっはっ、やめろって」
と余裕だが、一方通行にはそんな余裕は無い。佐天に(自分でではなくても)メールを出したと
言う事がすでに限界寸前なのに、その中身は自分とは正反対を向いているのだ。せめてもの仕
返しにと、一方通行は密かに当麻の左右の靴の紐を固結びで連結させた。

「つーか何で佐天さんだとそんななんだ? 御坂には普通にメール出してたのに」

「佐天と御坂はなンか違うだろうが」

「顔?」

「そう言うンじゃなくてよ」

「声?」

「俺は声フェチじゃねェし、そンな特徴的な声でもねェだろ」

「じゃあ恋だな」

「は? ちげェし。何言ってンですかお前は? 俺が佐天に恋してる訳ねェだろうが。つーか別
に誰も好きじゃねェし。そもそも今は何が違うかの話してたろ? なンだお前? 手足千切って
達磨にすンぞ?」

166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 22:47:28.85 ID:4OsO4Rano

 矢継ぎ早に言いながら両眼を見開き赤目をギラつかせ、当麻に迫る。二人の顔の距離が五セ
ンチまで近づいた所で当麻が顔を後ろに引きながら「ごめんなさい、冗談です」と謝った。一
方通行は、まだ足りないのか中々顔を離そうとしない。

「なんだよ、顔近いっての」

「なァ、お前ってツインテ般若顔テレポーターの知り合いとかいるか?」

「どうしたいきなり」

 一方通行にさっきまでの自分への威圧感がない。近すぎてよくわからないが、なんとなく一
方通行が自分の奥を見ている気がする。

「なンか飛び飛びで近づいてくる」

 一方通行が指差した方に当麻は目をやるが、ツインテも般若も見当たらない。

「なにもな……」

 言いかけて身体が硬直する。突如として視界の真ん中部分が茶色い何かで覆われる。視界の
残りに短めのスカートから伸びた細い太ももと、何か面積が異常に少ない黒い布のようなもの
が見えた気もするが……

「死にさらせぇぇぇえぇぇぇえぇえぇ!!」

 耳を劈く怒号と顔面への鉄球をぶち込まれたかのような衝撃で、全てを忘れ去った。

「目標の駆逐完了ですわ。今からケンカの方止めてきますの」

 なにが起きたか分からない一方通行はただ立ちつくす。急に少女が現れたかと思ったら当麻
にドロップキックをかまして一言だけ呟くと、また消え去ってしまった。分かったのはドロッ
プキックの少女は恐らくテレポーターで鬼も怯むような般若顔でそれに似合わないツインテで、
当麻が十メートルほど金属製のテーブルや椅子をまき散らしながら吹き飛んだと言う事だけだ。

「だ、大丈夫か?」

 取り敢えず吹き飛んだ当麻に声をかける。十メートル先からは「…ふ……不幸だ」と弱々し
い声が聞こえるだけだ。
 店の奥からは店員数名と恐らく店長だろう。男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚
人にも見える謎の人物が飛び出してきて他の客に頭を下げながら当麻を救出に向かっている。
一方通行もそれに混じってとび散らかったテーブルと椅子を直し始めた。
 一方通行の携帯電話が初期設定のままの着信音を発しながらガタガタとテーブルの上で震え
ている事には、今はまだ誰も気付かない。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/14(月) 22:49:47.45 ID:4OsO4Rano
間空いちゃってゴメンです。
三月の半ばまでは週一ぐらいになるかもです

それでわー
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 22:51:58.43 ID:wykIp2Rfo


i-am-happy.i-am-happy.i-am-happy

上条さん…
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 22:53:07.61 ID:Wa1uSzjN0
>>168
危ない宗教とかにコロっとだまされそうだな
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 23:30:31.98 ID:4UlCcS1x0
乙です。

>アレイスターバックス(略してスタバ)
>男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える謎の人物
……え?何やってんすか、統括理事長?
ここでは引退してる設定なのか?
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 00:30:03.63 ID:+Cf++mhj0

学園都市にスタバあったのか
いかんスタバのロゴがアレイスターに見えてきた

相変わらず面白いよ〜
次の更新が楽しみだぜ
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 00:38:36.80 ID:EFYnnHFjo
美琴のメアド前にどっか別のSSでみたことあるな…
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 00:41:20.85 ID:i/DkIOk1o
ちょwwwwwwww俺もスタバのロゴが誰かさんにしか見えなくなってきたwwwwww
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 01:08:53.04 ID:JEbUVaK5o
上条さんのメアドで泣いた
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 01:12:51.18 ID:XR1a6Vj1o
くっそwww統括理事長と上条さんのメールでやられたwwww
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 03:57:15.54 ID:jaWXy5euo
ものすげぇ微笑ましいなwwwwwwwwww
一方さんかわええなぁ・・・
黒子のドロップキックが日常化してるって事はアレか、上条さんの美琴攻略は順調か
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 07:11:43.20 ID:GzO0SFTHo
攻略も何も
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 20:51:01.79 ID:dQtjtLPFo
上条さんは攻略される方だろ
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 16:27:41.92 ID:zMjsmEgwo
乙乙!!

あと、個法先輩じゃなくて固法先輩な
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 13:33:49.58 ID:IkGJg4KOo
>>1です
ちょっとリアルが書き溜め出来る状況じゃ無くなってきたんで、申し訳ないですが三月まで投下はお休みさせて頂きます。

>>170
そんな感じです。あの人も暇なんです

>>172
美琴のアドは考えるのメンドくて前に書いたSSのを流用したんで、多分それだと思います

>>179
了解です。ありがとう
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 02:35:23.90 ID:LXrxcXjmo
おお…残念だが仕方ないな
待ってる

そしてあれ書いた>>1かよ
全然気付かなかったわ
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 02:43:15.39 ID:fSkwiRkMo
やべぇ、あのSSスゲェ好きだったのに全く気付かんかったwwwwwwww
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 00:37:41.28 ID:mOJC+1rP0
さあ、3月だ

待ってるから>>1よ
早く来てくれ…
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 12:48:26.95 ID:ixl0HDIDO
超待ってます
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 21:01:13.03 ID:vIqH61E5o
お久し!

>>1です。
リアルの方も片付いてまた書き溜め始めてるんですけど、あまりに量が少ないんで投下は来週からにさせて頂きます

それでわー
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 21:08:20.27 ID:gtvT5uLIo
>>185
よっしゃきた!
待ってる
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 21:09:59.76 ID:reMh2Oa1o
きたきたー
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 00:44:41.29 ID:2C4eEFUDO
超待ってます
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/13(日) 16:13:25.31 ID:DyAbqGseo


         * * *


 佐天に(当麻が)メールを出してから二日後。一方通行は己の脛と拳を破壊したあの自動販売
機のある公園のベンチで一人座っていた。天気は快晴、気温もそこそこ高いらしく、長袖一枚
でも十分なぐらいだ。一方通行は携帯電話を開いて時間を確認する。待ち合わせ時間の正午ま
で後五分弱。公園の入り口の方に顔を向けるがまだ待ち人は付いていないようだ。一方通行は
緊張をほぐす様に両手を上にあげ、大きく伸びをした。
 今日やる事、それはなんてことは無い。ただ映画を観る、それだけの事なのだが一緒に行く
相手が問題だ。
 あの日、吹き飛んだ当麻の救出とテーブルや椅子の片付けが終わった後、自分の席に戻ると
いつの間にか佐天からの返信メールが届いていて、恐る恐るメールを開くと可愛い絵文字やデ
コメでいっぱいの、いかにも女の子が書きましたと言うような雰囲気で『行きます』と言う主
旨の内容が書かれてあった。自分はもう佐天にとって用無しだと思っていた一方通行にとって
はすこぶる意外だったが、とにかくメールの返信をするために、聖人のにも、囚人にも見える
店長に傷の手当てをして貰っている当麻にまた代理で返信させた。自分で返信しても良かった
のだがそれだとあまりにもテンションが違いすぎるし、暫定的に顔文字いっぱいオチャメ通行
で乗り越えることにしたのだ。
 かくして今日は佐天と『ワンニャン物語』を観る事になったのだが、今回は美琴も当麻もお
らず、正真正銘二人きりなのだ。当麻にはただ一緒に遊ぶだけだろと、軽くあしらわれたが一
方通行としてはそんなに綺麗には割り切れない。女の子と二人で遊ぶと言う事はそれはやっぱ
りどう考えたってデートなのだ。
 ベンチの上に放り出していた小さ目のボストンバッグを引き寄せる。柄は今日の洋服と合わ
せて白を基調に、竜の爪の様な黒いデザインがバッグの下から上へ施してある。そんなシマウ
マカラーのバッグを開いて、中から封筒に入れた今日の試写会のチケットを取り出す。一昨日
から何度も確認しているが、最後にもう一度再確認。日付けは今日で、開場時間は一二時、開
演は一三時からだ。口の中で小さく「よしっ」と呟いてチケットをしまう。準備は万端、あと
は佐天が来るのを待つだけだ。
 佐天とは一昨日のメール以来連絡をとっていない。それだって実は当麻が代わりにやってい
たから本当の意味で佐天と絡むのは実に一週間ぶりだ。そう考えると何故だか心拍数が上がっ
てくる。
 自分でもよく分からない感情を押さえるように一方通行は大きく息を吸った。

「わぁ!!」

「だァァアアアァ!!?」

190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/13(日) 16:14:26.01 ID:DyAbqGseo

 吸った瞬間、後ろから両手で肩を思いっきり叩かれる。突然の出来事に、一方通行はベンチ
からずり落ちた。

「あははっ」

 こっちは大変な事になってるのに何を笑っているのか。一方通行が睨むように顔をあげると、
そこには一週間ぶりのヒマワリの様な笑顔があった。

「お久しぶりです、一方通行さん」

「お、おゥ……」

 怒りは急速に下がり、代わりに恥ずかしさが込み上げてくる。セカンドコンタクトでまさか
こんな情けない姿をさらす事になるなんて思っていなかった。尻に着いた土を払いながら一方
通行は立ち上がる。

「随分な挨拶じゃねェか」

 恥ずかしさを隠すように、努めて冷静に、いつも通りに。

「一週間ぶりだったんでテンション上がっちゃいました」

 へへっと笑う佐天の顔を見ると、なんとも言えない感情がわき上がる。一方通行が自分自身
で理解できずに持て余している感情は、世間一般で言うところの『愛らしい』とか『可愛い』
と言ったものだが、一方通行が一方通行なだけにその感情の答えが出る事は無く、処理しきれ
ない感覚が血流に乗って胸の奥からじわじわと体中にめぐる。

「でも驚きでしたよ」

 日もちょうど真上まで昇り暖かくなってきたのだろう。佐天が大きめのチェック柄をあしら
った長袖のシャツの袖を捲り、ついでにボタンも一つ開けた。

「なにがだよ?」

「一方通行さんのメール、すごいカワイイんですもん」

 ブハッと一方通行は吹き出した。全部アイツのせいだと、脳内にツンツン頭の少年の顔を浮
かべる。そう、今佐天と一緒にいるのも今日一緒に映画を観るのも当麻のせい(おかげ)なのだ。
一方通行としてはあの日以降、もう佐天と関わる事など無いと思っていたのに、当麻が半ば無
理やりにメールを送ったもんだから自分は今、無駄に緊張したり恥かいたり自分の経験からは
計り知れない謎の感覚に苛まれたりするのだ。

191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/13(日) 16:16:00.70 ID:DyAbqGseo

「いや、アレはよォ……」

「アレは?」

 佐天が一方通行の顔を下から覗き込む。この前の時も何度かやられたが、中々慣れない。佐
天は人との顔の距離が近い様な気がする。

「……なンでもねェ。会場行こうぜ」

 一方通行はベンチの上のボストンバックを手に取り、照れを隠すようにそっぽを向いて歩き
だした。「待って下さいよぉ」と佐天が小走りで一方通行の左側に付く。雲ひとつない、世界
中の何処まででも空の青が広がっていると錯覚するような快晴の下、二人は並んで公園から試
写会の会場までゆっくり歩き出した。


         * * *


「うわー、人多いですねー」

「コレ、こンなに人気あったのかよ」

「席大丈夫ですかね?」

「試写会だし、席も指定されてっしその心配はねェだろ」

 試写会のあるビルに入ると、まだ開演三十分前だと言うのにかなりの人だかりが出来ていた。
受付にはチケットを持った学生達が長蛇の列を成しており、少し離れた所にはダフ屋までいる
始末だ。二人は非常階段の近くまで来ている列の最後尾にまわる。周りを見回すとそのほとん
どは小学生で、あとは稀に大人。中高生は今のところ自分たち以外見られない。場違いな所に
来てしまったと心の中でブツクサ言いながら、一方通行はボストンバックの中の封筒から二枚
のチケットを取り出して、左側で一緒に並んでいる一枚を佐天に渡す。

「ほら、なくすンじゃねェ……ぞ」

「子供扱いしないでくださいよー。ってなんかすごいクシャクシャですね。もしかして封筒開
けた時、当選したのが嬉しくて握りつぶしちゃった感じですか?」

192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/13(日) 16:17:03.78 ID:DyAbqGseo

 佐天が冗談っぽく一方通行の顔を見上げて笑うが、一方通行はそれに返す事は出来なかった。
本当なら打ち止めとのくだりを言うべきなのだろうが今はそんな場合ではない。一方通行にと
って、とんでもなく緊急事態なのだ。

 佐天の緩く開いた胸元から、谷間がガッツリ見えている。

 いつも露出いている腕や顔とはまた異質、一方通行にとって初体験の透き通るようにきめ細
かく雪のように白い、触ればどこまでも沈んでいきそうな柔らかな膨らみが視覚を支配する。
佐天が斜に構えているもんだから左乳など先っぽまで見えそうだ。実際はブラジャーぐらいし
ているだろうし現に胸元から肩にのびる可愛らしいレース付きの淡い水色の紐も見えているの
だが、それがまた一方通行の幻想を加速させる。

「一方通行さん?」

 佐天のその声でハッと一方通行は我に帰る。凝視していた視線を外そうと、錆びた歯車を動
かすようにギギギと無理やり首を回した。
  
「どうしたんですか?」

「なンでもねェ! なンでもねェですよォ!?」

「そうですか?」

「そォですゥ!! まったくもってなンにもねェですゥ!!」

 全力で誤魔化す。耳がとてつもなく熱い。もしかしたら当麻に反応する美琴並みに顔が赤い
かもしれない。佐天に顔を見られない様に、一方通行は左手で目を押さえる様に顔を隠した。

(なァに考えてンだ俺はァ!? 友達! 佐天はただの友達だろォが!)

 自らを呪うかの様に繰り返す。もしここが試写会の会場ではなく自宅の玄関前ならいつかの
ように鉄製の手すりに額をガンガンぶつけていただろう。
 
「あっ前に動くみたいですよ」

 佐天のソレが合図だったかのように列がズルズルとゆっくり前に動きだす。無表情のまま頭
の中では悶々としていた一方通行もそれにならって歩みを進めた。
 一度動きだすと、列はほとんど止まる事もなく前に進み、気付けば二人がチケットを見せる
番となった。

193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/13(日) 16:17:56.88 ID:DyAbqGseo


係員にチケットを見せて会場に入ると、中は映画館の様に後ろに向かってだんだんと席の位
置が高くなる作りになっていた。そもそもは学会などが開かれる場所だが試写会には打って
付けの場所だろう。

「13のDとE……」

「あ、ラッキーですね。ベストポジションですよ」
 
 打ち止めのクジ運が良かったのか、二人の席はちょうど会場のど真ん中、一番映画を見やす
い場所だ。

「お菓子とか売ってないですかね?」

「自販機ぐらいしかなかったンじゃねェか?」

「むー……映画にはポップコーンと相場は決まってるんですけどね」

「試写会だしなァ」

 他愛もない話をしながら二人は並んで席に腰を掛けた。適度な柔らかさが臀部に伝う。おそ
らくこんな椅子一つとっても最先端の技術が使われているのだろう、これなら長時間座ってい
ても疲れそうにない。

「ちょっと早いですけど……」

 佐天が一つ前置きを入れる。一方通行はなんとなく佐天の方に身体を捩った。

「今日は誘ってもらってありがとうございます」

「いや、こっちも急に誘ったりして悪かったな」

「そんな事ないですよ。私ずっと暇してましたし」

「友達と遊び行ったりしなかったのかよ?」

「女友達はみんな実家の方に帰ってますから。初春も今週は忙しかったみたいだし……」

194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/13(日) 16:19:38.15 ID:DyAbqGseo

 『女友達』と言うフレーズに一方通行は少し引っかかる。普通に『友達』でいいのに一々別
けると言う事は、やはりそう言う事なのか……少し迷って、一方通行は口を開いた。

「男は?いねェのか?」

「学校でちょっと話す様な友達はいるんですけど何と言うか、やっぱり休みの日にお誘いする
のは抵抗があるというか一方通行さんじゃないとダメというか……」 

 周りの喧騒の間を縫って、佐天の声だけが一方通行の鼓膜を揺らす。今の言葉の真意は何な
のか。


『一方通行じゃないとダメ』


 予期していなかった言葉に一方通行の胸が、本人の意思とは別に少し高鳴る。

「お前何を……」

 一方通行が思わず聞き返す。

「あっ、その……まだ他の人は慣れないってことです」

「あァ……そォですか」 

 そして玉砕。だからと言って何がどうなる訳でもないし、自分は佐天を何とも思っていない
はずだし、そもそも一方通行の中で佐天とはあの日で全てが終わっていたはずで、今日が当麻
によるただのイレギュラーなだけのはずなのに、何故だかショックだ。

「で、でもっ」

 グイッと佐天の顔が一方通行に近づく。思わず一方通行が仰け反るが、それでもまだ息がか
かりそうなほど、顔は近い。

「一方通行さんの事は好きですよ?」

「なっ!?」

「とっ、友達としてっ!」

「」

 ステージを覆っていたカーテンが開かれ、照明が落ちる。真っ暗闇の中で、映写機からの光
を受け、スクリーンが白く光る。会場内に物語の開演を告げる、低音と高音を混ぜたブザーが
鳴り響いた。 
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/13(日) 16:20:21.59 ID:DyAbqGseo
結局短いままww

それでわー
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 16:37:55.55 ID:buifNT+DO
待ってた
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 16:55:11.83 ID:ClPYBDLN0
待ってました!!一方さんも佐天さんも可愛いww
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 18:46:39.85 ID:DLggWHiB0
何この佐天さん魔性の女過ぎる
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 21:31:37.98 ID:+sfegvfAO
なにこの魔女
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 06:58:00.24 ID:rNp9hmFAO
何この店長すげー良い人
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 00:02:56.47 ID:/bTTh1fDO
ここの>>1は無事なんだろうか・・・
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 17:49:18.08 ID:tDPBuoHlo
>>201
大丈夫ですよー

あと投下は20日予定ですのでよろしくです
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/20(日) 22:03:37.70 ID:t1pRDOMW0
そろそろかな?
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/03/22(火) 01:45:38.20 ID:YG+pbJPw0
マダー?
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/22(火) 21:19:34.24 ID:+MstLeq3o



「いい話でしたね……」

「あァ、いい話……だったな」

 試写会の上映が終わり、会場からワラワラと人の列が出てくる。その列に混じり、一方通行
と佐天も会場を後にしているのだが、その表情は二人の会話の内容とは裏腹に微妙だ。と言っ
てもそれが異質と言う訳でもないらしい。周りの人間の顔を見ると、二人と同じ顔をしている。
全体がそんな雰囲気だからだろうか、200〜300人は居そうなのに会場は酷く静かだ。

「にゃンこがわンこをかばってジェット機に轢かれるトコとかな」

「ずっとツンツンしてたのにやっぱり友達だと思ってたんだぁって感じでウルッときましたね」

「玉ねぎの大群からにゃンこを逃がしてやるトコとかな」

「自分も食べたらダメなのに猫を守るためにガブガブ食べてましたね。涙目で」

「ラストとかもゥやばかったろ。柄にもなく泣きそうになった」

「犬に新しい飼い主が見つかって良かったのか、それとも今まで通り野良でいた方が幸せだっ
たのか……最後の最後で私たちに疑問を残して終わるなんて考えもしませんでしたよ」

「ただ、な……」

「……」

「全編にゃンことわンこの鳴き声だけってありえねェだろ。促販CMの人間ほぼ無関係だった
じゃねェか。よく知らねェけど普通こういうのは声優とかが声あてンじゃねェのかよ」

「やっぱりでそうですよね! 言ったらダメかなーって思ってたんですけどやっぱりそうです
よね!?」

 二人の会話を聞いていたのか、そこで周りが僕も、私も、吾輩もである、とざわめく。下
手にいい内容の映画だった為か、皆言うに言えなかったのだろう。

206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/22(火) 21:20:20.93 ID:+MstLeq3o

「それでもなんとなく内容が理解できるのは凄いんですけどね」

「それがまたなンか腹立つな」

「そう言わずに。ほら、あのベンチの人みたいに感動のあまり泣いちゃってる人もいるんです
から」

 佐天の指先に目をやると、確かに全身ジャージの男がベンチの上で体育座りで丸まり、シク
シクと泣いていた。横には彼女だろうか、小柄なミニスカートの少女がジャージの男に話しか
けている。

「浜面、超泣きすぎです。あの程度で泣くなんて流石は超浜面ですね。私ぐらいになるとあの
程度の感動ものじゃ涙腺はピクリとも動かないですよ」

「……グスッ、いいじゃねぇか、俺は凄い感動したんだからよ。あとそんな事言う前に鏡見て
こい。目ぇ真っ赤だバカ」

「……っ! こ、これは超花粉です! 今日は一年で一番花粉が飛ぶ日だからっ! 建物の中に
も花粉が超入ってくるんで花粉症な私は超目を擦らないといけないんです!」

「はいはい花粉症ね。……グジュ……なら仕方ないな」

「絶対信じてませんねっ! 今日の浜面は浜面のくせに超浜面ですっ!」

「あっ! テメッ!!」

 少女がジャージの男の頭を足蹴にする。唯でさえ短いミニスカートはさらに上へと捲れ、少
女の肌をかなり際どい位置まで露出させた。ソレを見ていた一方通行の目線が意識せずに少女
の際どい場所に集まる。ただ計算しつくされているのか、どんなに頑張っても見えるのは健康
的な太ももまでで下着的なものは見えない。

「なに見てるんですかっ」

「ゴハッ」

 佐天の細い指が肋骨と肋骨の間を縫って一方通行に突き刺さる。

207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/22(火) 21:21:08.13 ID:+MstLeq3o

「し、死ぬ……」

「気持ちは分からなくもないですが見ちゃダメですっ!」

「お、男ってのァああいうのは自然と目がいっちまうンだよ……」

「がまんっ!」

「ゴエッ」

 佐天の鋭いボディーブローが一方通行の脇腹にめり込む。的確に肝臓を打ち抜かれた一方通
行は膝から崩れ落ちた。

「おま……マジで……」

「男の子のそういう目線は意外と気付いてるもんなんですよ! ほらっ、もう行きますよ!」

 佐天が膝立ちで脇腹を押さえている一方通行の手を取って引き上げる。そしてその勢いのま
ま一方通行の手をがっちりと掴んで階段へと早足で歩き出した。一方通行は歩調を乱しながら、
佐天に引っ張られる形で後を追う。かなり力が入っているのか佐天に握られている手がやけに
痛い。

「待てっの! 自分で歩けるから引っ張ンじゃねェ!」

「……」

 一方通行の言葉は無視して階段を降りる。下から吹き抜ける風はいやに生温かい。 

「なァンなンだよ、急に!」

「……」

 ようやく佐天の手が一方通行の手から離れたのは、一階と二階を繋ぐ階段の踊り場まで来て
からだった。早足と言うよりほとんど走るようなスピードで下りてきたため二人とも軽く息が
切れている。

「ハァッ……どォしたよ、何怒ってンだよ。俺なンかしたか?」

 普段の運動不足がたたってか、額にじんわりと汗がにじむ。一方通行はそれを右手で乱暴に
拭った。

208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/22(火) 21:21:52.96 ID:+MstLeq3o

「いえ……なんでもないです。それに怒ってなんかないですよ?」

 一方通行に背中を向けたまま佐天が答える。

「……ンな事ねェだろ」

「なんでもないですよ」

 佐天が振り返る。

「急にすみません」

 その顔は少しの憂いを帯びたような笑顔だった。

「気になンじゃねェか」

「ははっ、やだなぁ。ホントに何にもないですよ? それより外に出ませんか? 多分早くし
ないと出口が人でごった返しますよ」

「佐天!」

 一方通行が再び階段を降りようとした佐天の手首を掴んで制止させる。このまま有耶無耶に
していい訳がない。本来ならダブルデートの日のそれっきりの関係であっても、現に今、目の
前に佐天は居るのだ。だから目を瞑る事は出来ない。

「言えって」

「……」

 一方通行と目が合い、佐天はソレから逃げるように目線を左下へと泳がせた。

209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/22(火) 21:22:50.34 ID:+MstLeq3o

「だって……」

「おゥ」

 苦しそうに佐天が言葉を紡ぐ。一方通行の手の中から佐天の手がスルリと抜け落ちた。

「デートの途中だったから……」

「一方通行さんはそんな事思って無かったと思いますけど、私にとっては今日は二人っきりで
のデートだったから……」

「……」

 そこで一方通行は初めて気付く。ああ、そうか。佐天も自分と同じだったんだと。

「だからかは分からないんですけど、一方通行さんがあの子を見てると何故か気持ちがざわつ
いちゃって……」

 それならたとえガキの恋人ごっこでも――

「私たち恋人でも何でもないんですけどね。ちょっと不思議です」 

 佐天への気持ちが自分でさえ分かってなくても―― 

「そりゃァ、悪かったな」

 今日を楽しまなければ、笑っていなければいけない――

「い、いえ! 一方通行さんのせいじゃないですよっ! 私の勝手な妄想ですしっ!!」

 だから今、自分に出来る事は――

「ならよォ……」

 自分の中の勝手に作った壁とかを全部ぶっ壊して――

「俺ァ、今からお前の彼氏だ」

 ただ、素直になる事。

210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/22(火) 21:23:18.48 ID:+MstLeq3o

二日遅れゴメン! 短くてゴメン!
ゼンッゼン進まない! それではっ!
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/22(火) 22:34:37.50 ID:MycbxsaAO
久しぶりの更新キターー!
超乙
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/03/22(火) 22:38:36.15 ID:FYLcinvIo
やっぱこのスレ好きだわー。
ジェットに轢かれる一通さんとかたまんねえ。
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/03/22(火) 23:45:42.80 ID:4YYwaVJz0
乙!
佐天さんかわいいよ佐天さん
あとモアイちゃんもな!
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/22(火) 23:58:28.23 ID:PHkFU3gDO
佐天さんかわいすぎんだろ!
続き期待してるぞ
乙!
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/23(水) 20:17:59.27 ID:lvcStABZo
さりげなくアックア混ざってんじゃねーかwwwwww
某日記SSスレのアックア思い出してクソワロタww
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sagae]:2011/03/23(水) 21:17:56.47 ID:5x6UqLCj0
乙です!!
佐天さん乙女過ぎて可愛い!!
浜面は動物モノに凄く弱そう。こっそり盲導犬のクイールとか子狐へレンとか借りて来て部屋で号泣してそうwww
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/03/23(水) 22:14:54.79 ID:DSsP7+hAO
乙です。…さて滝壺さんに浜面の事を連絡するか…
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/23(水) 22:25:16.74 ID:aT4BKp7Lo
乙です

>>217
ヒント:滝壺理后の能力は『能力追跡』(AIMストーカー)
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/24(木) 11:52:16.81 ID:b07OJbmSO

浜面「」
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/28(月) 16:43:47.05 ID:DU8gWnai0
佐天さんが可愛すぎて生きるのがつらい
なんにせよ続きが楽しみだ
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/31(木) 22:16:28.42 ID:oHDEvBEso

「え?」

 佐天がポカンとした表情で一方通行を見る。突然の申し出に付いていけていないらしい。

「いや、なンつーかよォ。恥ずかしながら俺もお前と同じ様な感じでココに来てたンだよ。だ
からお前も同じ様に考えてンなら……アレだ、今日はデートってことで一日彼氏彼女でいねェ
か?」

 こんな時どんな顔をすればいいのか分からないの。といった具合に一方通行が眉を顰めなが
ら後頭部を掻く。恥ずかしくて、にやけたくて、いっその事顔を赤くしたいがそんな事は理性
が許さず、結局いつもの仏頂面のまま口を開いた。

「いやっ……あの、えと」

「ア゛ァ!?」

 恥ずかしさと上から物を言っといて断られたらどうしようと言う不安からつい声を荒げてし
まう。その声に佐天はビクリと肩を縮めて俯いてしまった。

「うぅーー」

 喉からやっとの事で絞り出したような悩ましげな声が佐天から漏れる。脅かそうとしたつも
りはないが、さっきので佐天は俯いてしまっているため一方通行からは表情がうかがえない。

「い、嫌なら断われよ。別に強制って訳でもねェンだしこれからどうなるって訳でもねェンだ
からよォ」

 少し焦りながら一方通行が言葉を付けたす。これ以上沈黙が続くと誰が見ても分かるぐらい
テンパりそうだ。と言うか実は現在進行形で仏頂面のまま静かにテンパっており、頭の中では
『やっちまったのか!?』
『俺だけ勝手に突っ走っちまったのかァ!?』
『いや、でもさっきデートがどうのこうのとか言ってたじゃねェか!』
『あれ? もしかして俺嵌められた系ですかァ!?』
『やべェ! もしそれなら俺今超ハズいじゃねェか! いや、でも佐天がそんな事するってのは
想像できねェし!!』
『ま、まさかそれも込みで今まで全部演技とかかァ!?』
『もしかして今下向いてンのも笑い堪えてンのか!?』
『俺ァ、今からお前の彼氏だ(笑)ってかァ!?』
『女こえェ!! 何それ女超こえェェェ!!!!』
『いや! コレ俺の勝手な妄想だし! 事実じゃねェし! アレ!? 事実じゃねェよな!?』
願望と被害妄想が蔓延っていた。

222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/31(木) 22:17:25.06 ID:oHDEvBEso

「あのっ」

「フォウ!」

 返事もろくに出来ない程度に勝手にテンパっていた一方通行が佐天の一言で一気に現実世
界へと引き戻される。

「わ、私っ」

 佐天の顔が一方通行に近づく。佐天は人との距離が近いと改めて思う。急に声を掛けられた
驚きやら、自分の彼氏になってやる宣言やら、佐天の顔が近いのやら、色々な要因で一方通行
の拍動が早まる。

「よろっよろしくお願いしますっ!」

「……お、おォ! こちらこそ夜露死苦ゥ!」

 DQNっぽくなりながら親指を立ててグーのサイン。一方通行自身、何故こんなバカみたいなポ
ーズを取ったのか分からない。あえて言うならテンパってたからの一言だが、とにかく告白?
は成功した様だった。

「じ、じゃあ折角なんで……」

 佐天が一方通行に向けて右手を差し伸べる。反射的に一方通行は握手をする形でその手を握
った。

「いえ、そうじゃなくてですね……」

 佐天が一度手を離し、今度は左手で一方通行が差し出したままにしてある手を取り一方通行
の右側に並んだ。そしてその細い指を絡ますように、一方通行の指と指の間に自分の指をスラ
イドさせる。

「ぬァっ!」

 恋人つなぎ。以前のダブルデートでもやったが、今回は何か違う。何が違うかは分からない
が以前とは絶対全く全然違う。取り敢えず前より手が熱い。それが一方通行の熱なのか佐天の
熱なのか、それとも両方の熱なのかは分からないがとにかく熱い。

「えへへ」

 佐天が一方通行の顔を見ながらはにかむ。その頬は仄かに赤く、繋いだ手からその熱を伝え
たかの様に一方通行の頬も仄かに赤く染めた。

223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/31(木) 22:18:16.05 ID:oHDEvBEso

「お、おおォォおォ……そうだな。握手はねェな! 今俺ら付き合ってンだからな!」

「そ、そうですよっ! まさか握手されるとは思わなかったですよ!」

 無駄に緊張しながらもなんとかいつもの笑顔な佐天とは対照的に、一方通行はなにも知らな
い人が見たらダッシュで逃げだす様な超不器用で邪悪な顔で笑う。と言うか顔を歪ます。この
状況が嫌な訳ではない。ただただ緊張しているのだ。

「……ここにいるのもなンだからどっか行くか」

「……そうですね」

 あり得ないぐらいギクシャクな会話で場を持たす。当麻か美琴がいれば絶対突っ込まれてい
るだろう。一日限定のカップルとして関係は近づいたようで逆に遠くなった気さえする。

「どっか……行きてェとことかあるか?」

「前は私と御坂さんで決めちゃったんで、今度は一方通行さんに決めて欲しい……なぁ〜」

「そ、そォか」 

「無理にとは言わないですけどっ」

「いや、問題ねェ! 行き先ぐらい決めてやるってンだ!」

「じゃあ、お言葉に甘えますね」

「そォだな……」

 一方通行が脳内に学園都市の地図を広げ、この場所から近くて、そして佐天が退屈しない
様な場所を探す。会話が続くか不安なのでカフェ系は候補から外し、再度地図を展開。二〜
三十秒程考え、そして一つの答えを出した。

「うし、決めた。行くぞ」

「どこ行くんですか?」

「そりゃァ……秘密だ」

一方通行が赤く鋭い眼光はそのままに、口角だけを引き上げて笑った。

224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/31(木) 22:19:06.08 ID:oHDEvBEso


          * * *


「あーっ! 一方通行さん見てください! このぬいぐるみすっごいカワイイ!!」

「そォかァ? なンかデロンデロンじゃねェかよ」

「わかってませんね〜。それがカワイイんじゃないですか」

 一方通行が選んだのは、試写会のあったビルから徒歩五分程のところにある雑貨屋が集合し
た通りだった。軒を連ねる店は便宜的にすべて雑貨屋として扱われているがその実、売ってい
る品物の種類はなかなか多い。今二人がいる様なぬいぐるみ専門店もあればアロマグッズを扱
っている店もあるし、所謂『雑貨屋』といった色々な品物を一色単にして売っている店もある。
 この通りなら話も途切れないだろうと踏み、実際その通りに事は進んだのだがそれがまた一
方通行を悩ませる種となっていた。

(ちょっと待てェ……)

(これ、この前と一緒じゃねェか!!)

 そう、佐天が物色してその後を一方通行がチョロチョロ付いて回る。この構図は違いは当麻
と美琴がいないだけで、一週間前のダブルデートとほとんど同じなのだ。佐天は楽しんでいる
様だし、会話もさっきのギクシャクしたものからいつもの感じには戻っているのでマイナスファ
クタ―ではないだろうが、一週間前の行動をなぞるだけと言うのは如何なものか。仏頂面のポ
ーカーフェイスのまま一方通行は頭を悩ませる。前とは違った場所に行った方がいいのか古い
ドラマである様なビッグサプライズを用意した方がいいのか……

「なァ佐天」

「なんですか?」

「こンなンで大丈夫だったか? なンかこう……ビル貸し切って夜景が綺麗だぜ! みたいな事
した方が良かったか?」

 迷った挙句本人に聞いたのだった。

225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/03/31(木) 22:19:18.96 ID:yPZ4IuUAO
一方通行テンパりすぎwwww
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/31(木) 22:19:57.26 ID:oHDEvBEso

「いえ、私はこういう普通なのがいいです。っていうかそんなのされたら困るし引きます」

「急に真顔になって冷めンな」

 今の質問はアウトだったが場所の選択は佐天的に正しかった様だ。そのことに一方通行は胸
を撫で下ろす。

「え? なんですか? もしかしてそんなサブい事しようとか思ってたんですか」

「ン、ンなわけねェだろォが! ほらっあっち見ようぜ! アクセとかあンぞ!」

 佐天の手を引いて通りの向かい側にある所謂雑貨屋な店へと歩を進める。急にアクティブに
なった一方通行に多少戸惑いながらも言われるがままに佐天は引っ張られる。一方通行は佐天
に好感触なら割と本気で『夜景が綺麗だぜ』をやろうとしてた事は、胸の奥深くに百重ぐらい
鍵を掛けて忘れ去ることにした。

「見ろ佐天! こンなに綺麗な……ンだこりゃァ!? 唯の棒っきれじゃねェか!」

 話題の流れを完全にアクセサリーに持って行くべく適当に選んだものは、何の変哲もない銀
で出来た棒がついただけのネックレスだった。

「ちょっと前にこういうシンプルなのが流行ったんですよ。知らないですか?」

 言いながら佐天が前屈みになり黒いベニヤ板に掛けられたシルバーアクセサリーを物色する。
全て店のオリジナルらしく、大衆受けしそうなものから突飛なデザインのものまでバラエティ
に飛んだネックレスが規則正しく並んでいた。

「アクセはあンま見ねェからな……ァ」

 一方通行がなんとなしに佐天の方へ首を向け、そして言葉を詰まらせる。これは幸福と呼ぶ
べきなのか不幸と呼ぶべきなのか、佐天が前屈みになっているせいでまたしても胸元が露わに
なっていたのだ。
 自分で言っといてなんだが、『男は自然と目が行く』というのは真理だと一方通行は思う。
今はただ佐天の顔を見るために振り向いただけなのに顔はスルーで自然と目線は胸元へ向かっ
てしまったのだ。

227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/31(木) 22:21:43.43 ID:oHDEvBEso

(ばァかか俺は! さっきそれで佐天を怒らしたンだろォがァ!!)

(学習しろよォ!!)

(ハッ! そういやさっき女の子は気付いてるとか言ってたな。つーことはもしかして……)

「あっ」

「はィィィ!?」

 恐る恐る佐天の顔を窺おうとした瞬間、佐天の声が一方通行の鼓膜を揺らした。測ったかの
ようなジャストタイミングに一方通行の声が裏返る。

「?」

「い、いや。なンだよ? なンかあったのか?」

 頭上にクエスチョンマークを浮かべながら佐天が首をかしげる。どうやら一方通行の目線に
は気付いていなかったらしいが、そんな事を感じ取るほどの余裕は無く、一方通行は白々しく
佐天が持っているト音記号を模ったアクセサリーを覗き込んだ。

「いえ、ただコレかわいいなーって言おうとしただけですよ?」

「そそそそうか! ならいいンだけどよォ!」

 そこでやっと一方通行は自分の目線が気付かれていない事を知るのだった。そんな事には全
く気付いていない佐天は、すっかり気に入ったのか手のひらでネックレスを転がす。

「……気に入ったのか?」

「結構。でも先週買い物しちゃったんで今日はお預けですね」

「俺が買ってやンよ」

「そんなの悪いですよ。この前もお昼ご飯奢ってもらったんですから」

「俺、お前の彼氏なンだしプレゼントって事でよォ」

228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/31(木) 22:23:03.37 ID:oHDEvBEso

 その言葉に佐天の顔が薄くピンクに染まる。試写会のあったビルを出てからはいつも通りに
一方通行と接していたため、忘れかけていたがそう言えば今自分たちはカップルなのだ。ソレ
を自覚すればするほどに顔は紅潮していく。今なら美琴にも負けないだろう。
 一方通行も自然と出た自分の言葉と今の佐天の顔を見て一気に恥ずかしさが込み上げる。あ
くまでも顔には出さないが今すぐココから逃げ出したいくらいには恥ずかしい。
 
「え、えと……それならお願いしちゃおっかなぁー」

「……おゥ、任せろ。これでいいンだな?」

 佐天の手からネックレスを受け取ろうとして、一方通行の手が空をかすめる。

「なンだ? 違うのにすンのか?」

「ダメ、ですか?」

「別にいいぞ。他になンか欲しいのあンのか?」

 コクンと喉を鳴らし、佐天がソロリと手をあげる。 

「私、一方通行さんが選んだのが欲しいです」

「はァ!?」

 一方通行が思わず大声を出す。まさかそんな選択肢があるなんて夢にも思っていなかったの
だ。

「いい、嫌ならいいんですけどっ、折角なら選んでほしいなーって思っただけなんでっ」

 さっきの声にビビってしまったのか、かなりの早口だ。両手は前に伸ばし指を目いっぱい広
げてブンブンと振っている。

「も、もちろンこの音符のはなしなンだわなァ?」

「えっと、そうですね……出来れば一方通行さんが私に似合いそうなの選んでくれたら嬉しい
です」

229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/31(木) 22:24:00.96 ID:oHDEvBEso

 これは大変な役目を負ってしまったと一方通行は少し後悔する。佐天のためにネックレスを
買うのはなんの問題もないし、金銭面もカードを使えばどうとでもなる。しかしネックレスの
デザインまで決めるとなると少し気が引ける。自分が選ぶ、と言う事は相手に自分のセンスを
見せるのと同義だ。つまらないものを選んでしまって佐天に気を遣わせるのもセンスなし人間
と認定されるのも御免被りたい。とにかく一方通行は数多かけられているネックレス達を覗き
込む。
                       
(取り敢えずこの棒っきれはねェだろ……佐天も『ちょっと前』に流行ったって言ってたから
な)

(これは雪の結晶か? 今春だってェの。却下だな、却下)

(後は……ンだこりゃァ? ビーチサンダルゥ? もうすぐ夏だぜヒャッホォォイってかァ?
これ作った奴バカじゃねェのか)

(これはどォ考えてもジャラジャラしすぎだろ。こンなバカでかいの付けてたら肩こンぞ)

(クソ、碌なもンがねェじゃねェか)

 掛けられているネックレスを端から順に見ていくがどうもシックリくる物が見当たらない。
もう佐天の選んだト音記号を選ぶしかないかと諦めかけた時、ふと一つのネックレスが一方通
行の目に止まる。

(あァー。これは中々……っつーかこれ以外がクソ過ぎっからなァ)

(……これにすっか。多分大丈夫だろ)

 一方通行がネックレスを取る。それは薄いピンク色のチェーンに小ぶりで少し太めのリング
が通してあるものだった。

「これとかどォよ? 真ン中の空色の帯とかお前の色っぽくねェか?」

 一方通行の手の中のネックレスを見て何故か佐天が恥ずかしそうに下を向く。まさかの失敗
かと少し不安になりながらも一方通行は取り敢えずこのネックレスを押す事にした。

「ほら、手にとってみろよ……あァ?なンだ?二つ取っちまったのか?」

 佐天にネックレスを渡そうとして気付く。一方通行は一本だけを取ったつもりでいたが、ど
うやら二本のネックレスを取ってしまっていたようだ。薄いピンクの方だけを渡そうと一緒に
取ってしまったらしい銀色のチェーンを指でつまんで離そうとするが、何故だか二つのチェー
ンは離れない。

230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/31(木) 22:24:58.75 ID:oHDEvBEso

「……? どォなってンだ?」

「一方通行さん」

「あァ、タグで束ねられてンのか。こりゃ店側のミスだな」

「一方通行さんっ」

「なンだよ?」

「それ、ペアネックレスです……」

「……」

「……」

 二人の間に沈黙が流れる。この店で唯一良いんじゃないかと思い、手に取ったものがまさか
のペアネックレス。これが本当の恋人同士なら特に何の問題もなくレジへと進めるのだろうが
この二人は違う。今は一応カップルと言う事にはなっているが、それが決まったのはついさっ
き、それも今日だけ、超短期の擬似的カップルなのだ。
 一方通行は「あァ……おォ……そうか」と小声で呟き、佐天は「どうしましょうか?」とい
った具合に眉を下げて困った感じの笑顔だ。もう一つぐらい候補があればすぐさまそちらに替
える事も出来るのだろうが如何せん一方通行のセンスセンサーに引っかかったのはこれだけ。
最終手段として佐天が最初に選んでいたト音記号のネックレスにする事も出来るが、ここで一
方通行自ら「やっぱ佐天の選ンでたのにしようぜ」などと言うと佐天とのペアネックレスは嫌
です。と言ってしまうようなもので、それは佐天に申し訳ない。しかし、それは佐天も同じな
訳で、かくして二人はお互いに何も言えず、ただつっ立っているだけの状態になってしまって
いるのだ。

「……どォするよ」

 手のひらにネックレスを乗せたまま一方通行が口を開く。

「一方通行さんはコレ……嫌ですか?」

「ンな訳ねェだろ。俺が選んだンだからよ」

 嫌ではない。ただ、今日が終わればカップルでも何でもない唯の友達同士なのにペアネック
レスを持っているのも何か違う気がするが……

「なら、これでお願いします」

「おゥ」

 佐天が良いと言うならこれで良いんだろう。一方通行は佐天の手を優しく掴み、レジへと向
かった。

231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/31(木) 22:26:24.29 ID:oHDEvBEso
書いたのここまで!

またねー
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/03/31(木) 22:34:41.30 ID:yPZ4IuUAO

一方通行マジ青少年
いやホント、ここまでテンパってるのを見るといっそ微笑ましいww
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/03/31(木) 23:05:29.10 ID:/EV9H0Nzo
ぶおぉぉぉぁぁああああ!
砂糖吐くってこういうことか…
ギクシャクっぷりがクリティカルすぎるぞ……
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/04/01(金) 00:03:54.17 ID:QC/+HsbAO
乙。なんて甘ずっぱい
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/04/02(土) 20:22:34.72 ID:k9YIVMlJ0
初々しいねえ
おつおつ
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/03(日) 02:25:44.01 ID:9JybGZst0
くそ可愛いなこの二人・・・
リア充圧縮しろ!
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/05(火) 22:43:00.14 ID:kiDf/t0I0
木原「一方通行の童貞は、俺が守る。」
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/06(水) 11:42:32.83 ID:DtsODqYR0
黄泉川の胸には反応しないで中学生の胸には反応するあたりアクセロリータの名前は伊達じゃないな!
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/13(水) 20:22:29.54 ID:GYTZWPnuo



 先のアクセサリーショップからほど近い場所にあるカフェテリア。一方通行と佐天はそこで
向かい合って座っていた。綺麗な木目調のテーブルの上には二人が頼んだブレンドコーヒーと
キャラメルマキアートが置かれていて、カップから湯気を昇らせている。
 一方通行はアクセサリーショップのロゴがプリントされた紙袋から、朱色の紙でラッピング
された長方形の箱を一つ取り出すと、ソレを佐天へ差し出した。

「ほらよ」

「あっ、ありがとうございます」

 言わずもがな箱の中身は先ほど購入したペアネックレスの片割れだ。もう片方は今佐天が持
っている物と同じように包装され、紙袋の中で眠っている。

「付けてみてもいいですか?」

 佐天が包装紙の糊づけされた部分に指を掛けながらワクワクと言ったところか……プレゼン
トをもらった小さな子供のように気持ちを弾ませている。それが少し可笑しくて一方通行の口
元が僅かに弛んだ。

「お前のなンだし、好きにすりゃァいいだろ」

 待ってましたと言わんばかりに、それでも所作は丁寧に、佐天はほんの数分前に閉じられた
ばかりの包装紙を破らない様に綺麗に剥いでいく。
 包装紙を取り去り、箱に付いたシールをはがし蓋をあけると、中から薄いピンク色のリング
ネックレスが顔をのぞかせた。ご機嫌な顔で佐天はそれを取り出すと、慣れた手つきで金具を
止めた。オレンジ色の西日が反射してネックレスが佐天の胸元でキラリと光る。

「どうですか?」

「まァ……似合ってンじゃねェの」

「へへ〜」

 その言葉に佐天の顔がほころぶ。ここまでに喜ばれるとプレゼントしがいがあるというもの
だ。つられて笑顔になりそうになるのをグッとこらえて、一方通行はブレンドコーヒーを啜った。

240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/13(水) 20:23:25.03 ID:GYTZWPnuo

「一方通行さんは付けないんですか?」

 佐天が紙袋の中からもう一つの箱を取り出し、自分の顔の前で両手で左右に箱を振った。

「俺は似合わねェからいいンだよ」

「そんな事ないですよー」

「つーか、俺ネックレスすると首爆発すっから」

「ウソのレベルが低すぎですよ」

「うっせェ」

「私とおそろい嫌ですか?」

「……」

 嫌な訳ではない。ただやっぱり実際にとなるとどこか気恥しい。一方通行の言葉が詰まる。
どうすればこの状況を回避できるかと必死で頭を回転させた。

「嫌……なんですね」

 その沈黙を悪く取ってしまったのだろう。佐天はシュンと肩を縮めた。

「嫌じゃねェよ。けどそれとこれとは……」

 そこまで言って一方通行は気付く。佐天の目に光るものがある事に。

(はァ!? なンですかァ!? 泣いてンの!?)

 今はもう完全に佐天が俯いてしまって見えないが、鼻も啜っているしさっきのが見間違いと
言う事は無いだろう。その証拠に佐天が目を拭った指が濡れている。

241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/13(水) 20:24:32.36 ID:GYTZWPnuo

「ちょ……佐天?」

「……」

 声を掛けてみるも返ってくるのは鼻を啜る音だけだ。これはやってしまった、佐天を泣かせ
てしまったと一方通行は焦る。

「な、泣いてンのか?」

「……泣いてなんかないです」

 そして決定。これは完全に泣かせてしまっている。試写会のビルでの時とトーンが同じだ。
さっきはどうすればネックレスを付けずに済むかに回転させていた頭を、今度はどうやって佐
天を泣き止ますかに切り替える。ただ、考えるまでもなく答えは最初から出ているのだ。自分
がネックレスを付ければいい。それだけの事なのだ。
 
「わ、分かった」

「ネックレスつけっからよォ」

「……ホントですか?」

「あァ、だからもゥ泣くな」

 ポンと、子供を慰めるように佐天の頭の上に手を乗せる。その手を包むように佐天が両手で
一方通行の手を握り、顔をあげた。

「じゃっ! つけましょっか!」

「……へ?」

 そこには泣き顔なんてものは無く、いつも通りのヒマワリのような笑顔があった。急な佐天
のトーンの変化に付いて行けず、一方通行はただ呆然とする。

「ウソつくならこれくらいしなきゃダメですよ♪」

「……!!」

 その言葉でやっと一方通行は状況を理解する。詰まる所、佐天は泣いてなんかおらず一方通
行にネックレスを付けさせるべく一芝居うち、一方通行はものの見事にソレに嵌ったのだ。
 
「なンだよォォォォォォ!! 嘘かよォォォォォォォォォ!!」

「ウソですよー。あっ立たないでくださいよ。ネックレス付けにくいじゃないですか」

 椅子から立ちあがろうとする一方通行の頭を片手で押えながら、佐天は手際よく未開封の箱
からネックレスを取り出し、早足で一方通行の背後に付いた。

「やられた! 完っ全にやられた!!」

「今度何か奢らせて下さい♪」

 佐天が歌う様に言いながら手を回し、一方通行の首にネックレスを付ける。嵌められたのが
よっぽど悔しいのか、手を首に回した時に佐天の胸が後頭部に当たったの事にも一方通行は気
付かない。

「はいっ! 出来ましたよっ」

「てめェ、絶対今度なンか奢らせるからな」

「喜んでっ。でもこれでホラっ、ちゃんとおそろいですね」

 佐天が胸元のリング手にのせて、いつもの様にヒマワリを咲かせて笑う。ただそれだけなの
に、一方通行は自分の胸元にあるリングをやけに冷たく感じるのだった。

242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/13(水) 20:25:34.41 ID:GYTZWPnuo


          * * *


 バタリと倒れ込むように佐天が自室のベッドの上に突っ伏す。あの後カフェで一方通行と小
一時間程話こんだ後解散となり、たった今戻ってきた所なのだ。

「イタっ……?」

 体勢を変えようと身体を動かすと胸部に痛みが走った。どうやらネックレスのリングの部分
が肌に食い込んだらしい。ネックレスを外そうと首に手を持って行くが、そこでふと手を止め
る。同性同士、例えば初春や黒子、美琴となら誕生日やクリスマスなどに何度かプレゼントし
たりされたりしたが、そう言えば異性からプレゼントをもらったのはこれが初めてだ。止めて
いた手を再び動かしネックレスを外す。どこに置こうかと少し迷ってから、結局自分で買った
アクセサリーを置いている小物入れの中に他のものとゴッチャにならない様に丁寧に置いた。

「私、一方通行さんに色々してもらいすぎだなー」

 リングをいじりながらポツリと呟く。先週は強制デート要員をして貰った上、昼ごはんまで
奢ってもらったし、今日はこのネックレスだ。そのくせ自分は一方通行に何もしてないし、い
くらその場面場面で自分が彼女設定だからといっても甘え過ぎているかもしれない。というか
たとえ自分がホントに一方通行の彼女だったとしても甘えすぎだろうか……

「今度はちゃんと私が一方通行さんに何かしてあげなくっちゃ……」

 脳裏に一方通行の顔が浮かぶ。おそらく一日の八割はそうしているんであろう仏頂面、本人
はごまかせていると思っているのだろうが、一瞬だけ見せる照れた顔、佐天の冗談に慌てる顔。

「それにしても」


 俺ァ、今からお前の彼氏だ


「私って結構単純なのかも……」

 ハァと溜め息をつき頬をネックレスと同じ薄いピンク色に染めながら、佐天はがっくり項垂
れた。


一方そのころ、一方通行は先週の悲劇をなぞり、今は一人公園のベンチで項垂れているのだった。


243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/13(水) 20:26:39.65 ID:GYTZWPnuo

2章終了。もちろん忘れてると思うけど次は姫神さんが登場します。

それでわー 
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/04/13(水) 20:40:38.21 ID:nkW3VnzAO

姫神さんすっかり忘れてた
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/13(水) 21:42:23.66 ID:O0bPdNQAO
キテター乙
■■さん?
ごめんマジで忘れてる
もっかい読み直してくるε≡≡=ヽ(;゜◇゜)ノ
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/14(木) 06:22:23.48 ID:18cBknlAO
>>243
大丈夫。ちゃんと覚えてた。
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/14(木) 06:56:49.11 ID:kBCajnqQ0
俺も覚えてた
果たして姫神さんが聞いてしまったすごい事とは一体?
そして姫神さんが何をやらかしてくれるのか?
とにかく次章が楽しみだ

後一方さん鍵を持てよ
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/04/15(金) 00:07:00.26 ID:WP0frzz+0
乙。姫神さんの登場も楽しみにしてる。
しかし一方さん佐天さんに手玉に取られてるなあww
学園都市の能力だと一方さんはレベル5で佐天さんはレベル0でも、対人コミュニケーション能力ではその逆だよな
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/23(土) 02:18:25.52 ID:JslZQlLx0
期待して待ってるぜ
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/26(火) 00:26:14.54 ID:Np25t1BQo

 
 春休み最終日、宿題も補講もない長期休みに悔いを残さないようにと学生たちが夜の街へ繰
り出そうと賑わっている大通りの片隅で、当麻はいつにも増して上機嫌で帰路へついていた。
 学園都市はその人口の大半が学生と言う性質上、他ではあまり見られない様なセールも行っ
ている。今日は軒並みどの店も『春休み最終日セール』を銘打って、浮かれ気分な学生をター
ゲットにしているのだ。普通の学生ならカラオケ、ボーリング、ビリヤード等々レジャー施設
へと金を注ぐのだろうが、常に火の車な家計をなんとかやりくりしている当麻は違う。遊びよ
りも何よりもまずは食糧なのだ。そんな当麻にとってスーパーでの全品値下げセールは非常に
心強いものだった。

(インデックス喜ぶだろうし、今日はお代わり自由にしてやるか)

 指の肉に食い込むレジ袋の中身を頭に描いて、思わずニヤケる。大量の野菜に調味料各種、
財布の味方鶏肉に普段は絶対買わない国産の黒毛和牛。そして一番うれしいのがレジ袋の重み
の大半を占める米10キロ×2。ハラペコシスターが在住している上条家にとって主食の大量確
保は大海で浮木に出逢うようなものなのだ。総重量20キロオーバーと言う負荷も今の当麻にと
っては心地よく、地を蹴る足はいつもに増して力強い。
 今にもスキップをしてしまいたい衝動にも駆られるがそれはグッとこらえる。唯でさえ欲し
いものが格安で手に入って幸福なのに、空前絶後の不幸体質たる自分がそれに加えそんなウカ
レトンチキな事をすると絶対何か不幸が起こる事を当麻は知っているのだ。幸福の中にも当麻
は当麻でしか体感出来ない独特の緊張感を持って帰路についていた。
 例えば今、目の前で点滅している歩行者用の青信号。いつもなら小走りで渡ってしまう所だ
が今日に限っては右折車が突っ込んでくるかも知れないし、走り出した瞬間レジ袋が裂けて米
が落下し、地面に落下した衝撃で米粒が辺り10メートル四方に散乱し挙句国産の黒毛和牛は通
りすがりの猫に持って行かれる可能性だって当麻に到っては無きにしも有らずなのだ。よって
当麻はこの両腕の幸福を自宅まで確実に届けるため、次の信号を待つことにしたのだった。

「あれ?」

 信号待ちの間、自分の向かう先に目をやると電柱の陰に何やら見覚えのある背中がちらつい
ていた。
 学園都市屈指の名門お嬢様学校、常盤台中学の制服に茶髪、スカートの裾からはお嬢様には
似つかわしくない短パンが見えている。顔はこちらからは見えないがアレはまさしく……

「……美琴?」

251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/26(火) 00:27:24.80 ID:Np25t1BQo

 常盤台中学校のエースにして学園都市第三位の超能力者、御坂美琴だ。信号が青に変わって
も美琴は動かず、電柱の陰からコソコソと明後日の方向を向いている。当麻にとって美琴の行
動は年がら年中、特にこの春休みに入ってからはほぼ毎日何らかの形で顔を合わせているのだ
が未だ理解しきれない。このままスルーしてもいいのだが、そうすると見つかった時に噛みつ
かれそうだし、美琴の視線の先は自分の家だし、春休み最終日のこんな時間にこんな場所で一
人で何をしているのかも気になる。横断歩道を渡り終えてから、当麻は美琴に声をかける事に
した。

「おっす、何してんの?」

 神経を研ぎ澄ませていた逆方向からの当麻の声に美琴の肩はビクンと跳ね上がる。

「おおおお、おうおうおおおおお……」

 美琴がスローモーションのようにゆっくりと振り返る。未だ動揺しているのか声が声になら
ないでいた。

「何おうおう言ってんだよ。セイウチ?」

「お、お久しぶりです」

「は? 昨日も一昨日もその前もその前の前も会ってんだろ」

「そ、そうねっ! 昨日も一昨日もその前もその前の前も会ったわねっ!」

 オウム返し。素直に「今日もアンタと会えたらいいなって思って待ってました」などとは言
える訳はないし、「昨日会ったのも一昨日会ったのもその前も、その前の前も会ったのも待ち
伏せしてたからです」なんて事は言えないのだ。

「あ、あんたこんな所で何してたのよ?」

「何って、買い物だけど」

 ズッシリと重たいレジ袋を美琴に見えるように上げる。袋の底の方が伸びて少し薄くなって
いる気もするがそこは見なかった事にした。

「遊びに行かないの? 今日春休み最終日よ?」

「上条さんにとっては遊びよりも日々の生活が大事なんですよ。それに春休みは色々支出多か
ったし……」

252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/26(火) 00:28:30.87 ID:Np25t1BQo

 当麻が遠い目で空を見上げる。無自覚ではあるものの、当麻の言葉は美琴の胸にチクリと棘
を刺した。ダブルデートのニットワンピースに始まり、二人で遊びに行った時は払うと言って
るのに支払いはほとんど当麻だったし、待ち伏せして上手く当麻と会えた日のカフェの料金も
半々。当麻が拒んでいたとはいえ、当麻の首を絞めているのは間違いなく美琴なのだ。

「……ごめん」

「へ? ……いや違うぞ!? そんなつもりで言ったんじゃないですよ!?」

「でも、私が強引に誘ったのもあるじゃない」

「本当に嫌だったら断ってるっての」

 当麻が右手に抱えていた袋を左手に持ち替える。そして空いた右手で美琴の頬をぺチペチと
優しく叩いた。

「疑ってる?」

「疑ってはないわよ……」

「うーん、そうだ。今日ウチにメシ食いに来るか?」

「へ?」

「材料もたんまりあるし、お前と一緒にいるのが嫌じゃないって証拠にさ」

「え……あ、えーとっ」

 当麻の急な申し出に美琴は少し戸惑う。しかし、このままついて行けば当麻の家に遊びにい
けるのだ。いつも偶然を装って会う時はカフェで喋って終わりだしこれはチャンスか……美琴
のテンションはついさっき刺さった棘の事も忘れて一気に上昇気流に乗るのだった。

「い、行く!」

「よし、決まりだな!」

 なら早速ウチに行こうぜ。と当麻が歩き出す。その瞬間、美琴は当麻の腕を引っ張った。

「なんだ?」

「袋、重たそうだしかたっぽ持ってあげるわよ。」

「いいのか? これホントに重いぞ?」

「大丈夫、大丈夫」

253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/26(火) 00:29:59.01 ID:Np25t1BQo

 言いながら美琴は当麻の指に食い込んでいる袋の取っ手を掴んだ。心の中では、これで空い
た手と手を繋ぎたいんだけど……、と零すがそんな事は口が裂けても言えないのだ。

「なら手、離すぞ?」

「どーぞ」

 当麻が袋の取っ手から手を抜いた瞬間、美琴の腕に予想以上の負荷が圧し掛かる。  

「きゃっ」

「みこっ……!」

 当麻の伸ばした手もむなしく、レジ袋は美琴の指をすり抜け地面へと落下した。美琴に渡し
たレジ袋の重量は米を筆頭に10キロ超。美琴の細い腕で支え切れないのは当然と言えば当然な
のかもしれない。それでも……それでも当麻はこれだけは言っておく必要がある。
 
「ふ、不幸だ……」

「ご、ごめん」

 二人を中心に10キロ分の米粒は放射状に散乱し、滅多に買えない国産黒毛和牛は通りすがり
の猫に持って行かれたのだった。 



          * * *



「最近、とうまの帰りが遅いんだよ」

 インデックスが飼い猫スフィンクスの肉球をプニンと押す。スフィンクスは嫌がるように身
体をくねらせるが、両腕でがっちりとホールドされていて中々抜け出せない。それに加えいつ
もは感じられない後頭部の柔らかい隆起物も邪魔してストレスバリバリだ。
 当麻が安売りセールで貧乏学生たちと戦っている間、インデックスは上条宅で大人しくお留
守番をしている訳だがなにも一人でと言う事ではない。さっきの言葉も当麻のいない寂しさ余
っての独り言ではなく、ちゃんと話し相手がいるのだ。

254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/26(火) 00:34:29.07 ID:Np25t1BQo

「帰りが。遅い?」

 黒髪ロング、胸にはケルト十字架、そして何故か巫女服。インデックスの前に座りスフィン
クスを両腕と胸(けして巨乳ではない)で押さえているのは姫神秋沙だ。

「そうなんだよ! 前は18時には帰ってきてご飯作ってくれたのに、今は19時とか、たまに20
時まで帰って来ない事もあるんだよっ。もしかしたら不良少年になっちゃったのかも」

「それは高校生としては。普通なんじゃないかな」

「でもでも春休みになってからイキナリなんだよ? これはちょっと怪しいかも」

「春休み……」

 姫神は少し前の、デパートでの個室の時の事を思い出す。女の子が叫んで、その後聞こえて
きたのは当麻の声だった。何でデパートの女性用化粧室から当麻の声がするのかと焦ったが、
それよりもその時気になったのは個室のドア越しで行われた当麻と自分は痴女でヤリマンだと
叫んだ少女の会話の内容。盗み聞きする様で悪いとも思ったが、個室から出れる雰囲気ではな
かったし、二人の会話をシャットアウトする事も出来ず結局最初から最後まで聞いてしまった
会話。
 上条当麻の事だからあの言葉の意味にそれ以上も以下もなく、本当にそのままの意味な可能
性もあるが、姫神からすると告白、どんなに過少評価しても好意駄々漏れの言葉だった。

「にゃー!」 

「あっ……。ごめんね」

 いつの間にか手に力が入っていたらしい。スフィンクスが姫神に抗議するように強引に腕か
ら抜け出す。

「スフィンクスこっちにおいでー」

「にゃー」

 姫神の腕から抜けた瞬間今度はインデックスに捕まる。もう止めてくれと思うがそれを伝え
る手段もなく、スフィンクスは大人しくインデックスの膝の上に納まった。

「私。そろそろ帰る。夕飯の用意もしなくちゃいけないし」

 化粧室での時は上条当麻だからという理由で深くは考えないようにしていたが、帰りが遅い
となると付き合い始めたのかもしれない。全ては憶測だが少し気持ちの整理がしたかった。た
とえ春休みに入ってから一度も遊びに誘われなくても、学校でもあまり話さなくても、姫神だって当麻の事
が好きなのだ。
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/26(火) 00:36:27.03 ID:Np25t1BQo
おやすみー
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/26(火) 00:46:41.59 ID:5lLqOu2uo
乙です!!
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/26(火) 03:50:25.73 ID:QmGM7+7d0
            /..:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.、.. \  _,
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        |:.:|i八 く\、\u^`     {    iT{.:∨j/
        |:.:|{:.:.:.`'マべ.ーヽ          从|:.:.|
        |:i:い:.:.:.:.、\j\    (⌒ニマ′/.:i |い|
        |:|:.:|i;.:.:.:.:.:\\ `     . イ|{.:.:.:i | } }\
         j:ル1{:.:.:.:.:.:.、:\\   `¨〔\」八:.:.:.:.〈/ , }
       厶ミい、:.:.:.:.:\:.\\   \,}   ,:.:.:..∨ |
      ,   \\:.:.:.:.:. \:.\\___,ノ,〉  〉:.:.:.i 八
        i       \\:.:.:.:. \ 丶   {_/,ハ}:.|/ , }
        }       \\:.:.\ \{\ j_//]/| /〈  '^Z.
     /{.      \   〉厶:.:.._}ハ}\∨, / }{,/  ∨/,1{
     {い\     \{厶 -‐…‐- ミ`^く__彡' i   ./// i |
      ;   、      | r‐……‐- .`>、\  | .///  |
      i   \  、  | |       /ヘ. \\」.;//.'    レヘ,
      |    \ \  | |            \ `|「 i|「   /,  {
      |      丶 ∨| }              } :|| il||  〈/  ノ

258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/26(火) 05:29:11.83 ID:nE3H5l9AO
姫神可愛いのになんであんなに不憫なんだろう
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/26(火) 06:04:54.00 ID:0oTTFN77o
不憫だからこそ。かわいい。
不憫キャラや空気キャラという逆説的なキャラ立ちによって。存在感がないという存在感を得ている。
不憫や空気というキャラ付けを失えば。もはやいないに等しい。
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/28(木) 00:24:38.22 ID:8S1tD1kIO
空気キャラはセリフのあった時に一際輝きを放つ
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/06(金) 21:52:46.14 ID:RhuYFy3to
お久しぶりです。>>1です

諸事情ありまして定期的に投下する事が難しくなりました……

なので一度落としたいと思います

いつか完結させてから投下し直しますのでその時はヨロシクお願いします
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/06(金) 21:53:16.30 ID:yGe4AexRo
待ってるからな!
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/05/06(金) 22:09:24.16 ID:JEQcOKkAO
了解です

楽しみに待ってます
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/05/06(金) 23:11:46.11 ID:r82DDElbo
冒頭のカフェシーンの衝撃が忘れられない。
その後も投下ある度にいつもにやにやしてた。
このスレすっげえ好きだ。
止まっちゃうのは残念だけど、余裕ができたらまた読ませてねー。
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/07(土) 00:57:43.65 ID:AEvc8vwP0
SS速報禁書wikiに収録させて頂きました↓
http://www35.atwiki.jp/seisoku-index/pages/998.html
>>1さんがんばってください!
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 13:55:46.95 ID:2RFs+GZDO
姫神……
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