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病院坂黒猫「犯人はあなただ」《シロクロワールド》 -
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1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 00:14:24.42 ID:buC7KwkN0
・戯言シリーズと世界シリーズとのクロスです。
・本スレには地の文が含まれています。
・スレ立て2回目ということもあり、つたない部分もあるかもしれませんがご容赦ください。
・オリキャラが三人ほどでます。
・一応ミステリーという形式になっていますので、途中でネタが割れたとしても生暖かい目で見守ってください。
・矛盾点がありましたら、びしばし指摘をお願いします。
・一度板を間違えてしまって立て直しました。すみません
・では始まります。
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。
佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/
全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/
君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/
笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/
【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/
トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/
【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/
ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 00:15:08.99 ID:buC7KwkN0
<<<<<人生は○×ゲームなんです。>>>>>
心残りはありません。
登場人物紹介
ぼく(語り部)――――――――――――――――――――――――請負人。
病院坂黒猫(びょういんざか・くろねこ)―――――――――――――探偵。
櫃内様刻(ひつうち・さまとき)―――――――――――――――――助手。
面 妖(ほおつき・あやか)――――――――――――――――――高校生。
音継継音(おとつぎ・つぐね)―――――――――――――――――高校生。
平沢 良(ひらさわ・りょう)―――――――――――――――――高校生。
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 00:15:41.84 ID:buC7KwkN0
■
■
■
人生はクローズアップで見れば悲劇。ロングショットで見れば喜劇。
■
チャーリー・チャップリン
おーぷにんぐ
「あなたは圧倒的なまでに贋作(フェイク)だ」
『病院坂黒猫』
彼女に出会ったとき、ぼくはあの赤色を、或いはあの青色を想起した。
それ程までに本物だった。これ以上ない、これ異常ない本物だった。
本物ゆえに完璧。完璧ゆえに正義。
純粋な意味での絶対を持つ少女。
相対なんて不純なものなどなく。相対(あいたい)なんてできるはずもなく。
混沌なんて綺麗なものなどなく。混濁なんてするはずもなく。
贋物なんて滑稽なものなどなく。偽者なんてありえるはずもなく。
悪意なんて正当なものなどなく。邪気なんてはべらすはずもなく。
絶対で完璧で本物で正義。
それこそ病院坂黒猫。それだけが病院坂黒猫。
それでありながら彼女は一般の中に居続ける。普通の枠組みにこだわり続けている。
それこそそれは異常だった。異形だった。
赤でなく、青でなく、純然たる『黒』である彼女。
周囲を壊し、世界を壊し、自身さえ壊した少女。
これはぼくと彼女の徹頭徹尾壊して壊れて不気味で素朴な狂い囲われた世界での出会いの話だ。
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 00:16:39.32 ID:buC7KwkN0
もんだい編
0
名前がないので0点です。
1
戯言遣い。なんてイタイ名称は既に遥か昔となった現在。かといって今がマシになったかといえばそうではなく請負人(見習い)という世間一般の方々から見れば五十歩百歩というところの職業について早二年。
無論、不況が嘆かれる昨今の日本でそんなふざけた職業の奴が食っていけるわけがない。そんなことができるのは人類最強ただひとりだけだ。
玖渚のヒモになるという素敵な選択肢もあるにはあるのだが、それは男として、いや人間としてどうかと思うので却下した。
だからぼくがとった手段は副業だった。
内容はいつかのように家庭教師。近所の女子高生(自分から率先というわけではないのに、なぜかぼくにお鉢が回ってくる)に勉強を教えている。
結局のところ副業が本業の稼ぎを超えてしまっているのだから世話ない。
という事で仕事だ。
今教えているのは面 妖(ほおつき あやか)ちゃんという子で、主に理数系科目を中心に、週三回、月水金でやっている。
で、今日は水曜日。
五時からだから、妖ちゃんの家には四時四十五分には着けばいい。
徒歩三十分ほどだから十五分には出ればいい。だからそろそろ準備を始めよう。
そんな日常(ルーチンワーク)。飽きるような日常、呆れるような日常。だけど、壊れる必要もない日常だった。
高校生が相手である事を考慮して、あまり威圧しない服を選び、それに身を包む。
携帯と、学生気分が抜けてないと思われるような教材と筆箱をドラムバッグに入れ、部屋を出た。
エレベーターに乗り、一階に降りる。
扉が開くと、目の前に崩子ちゃんがいた。
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 00:23:15.93 ID:buC7KwkN0
「今からお仕事ですか、お兄ちゃん」
十六になり、ますます美人具合に磨きがかかっている崩子ちゃん。学校には行ってないけど、毎日の図書館通いで、知識だけなら同年代と遜色ない程ある。勉強嫌いのぼくとしては頭の下がる思いだ。
「うん、そうだよ」
ぼくは崩子ちゃんにドラムバッグを見せた。余談だが、たまにぼくが崩子ちゃんに勉強を教える事もあるのだが、保健体育を教えてくれと言われた時は流石にたじろいだ。
閑話休題。
「まぁ、別に言う事などはありませんけど、その女子高生さんに手を出さなければ」
「ぼくは年下に手出しなんかしないよ」
「へぇー、そうですか」
そう言って冷ややかな視線を投げかける崩子ちゃん。
いや、だからぼくを何だと思ってるんだよ。
「姫姉さまに手を出していた所を見ると、察するにお兄ちゃんは女子高生フェチなのではないかとお見受けしますが」
「勝手な事を吹聴しないでくれ」
どこで誰が聞いてるかもわからないのに。壁に耳あり障子にメアリー。
でも、障子に張りつくメアリーちゃんにはちょっと萌えるな。
「ところで、戯言遣いのお兄ちゃん。今日のお夕飯はどうします?」
「作るの面倒だし、外で食べてくるかも」
「でしたら、私が腕によりをかけて何か作りましょうか?」
「それは助かる」
ちなみに崩子ちゃんは料理がうまい。こんなものを毎食食べていた萌太くんが恨めしいほど羨ましく思える。まあうらめしいのは萌太くんの方なのだけれど。
「よし、これで私の食費が浮きます」
「心の声が漏れてるよ」
いまだに貧しい生活をしている崩子ちゃん。それを強いてしまってるのはぼくに甲斐性がないからなのだが。
「では、戯言遣いのお兄ちゃん。息災と友愛を」
「じゃあね、崩子ちゃん」
ぼくは別れの挨拶をして、妖ちゃんの家に向かった。
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 00:24:43.74 ID:buC7KwkN0
インターホンを押し、数秒待つ。
『あれ? 先生、もう来たの?』
インターホン越しに声が聞こえた。
恐らく妖ちゃんだろうと思われる声だ。
しかし相手を確認せずに断定するのは感心しないな。
「残念。先生じゃありません」
『え!? そ、それじゃあ私を狙う刺客!?』
狙われているのか。
おもしろいので乗ってみる。
「誰に?」
『えっと〜、GHQ?』
世界に狙われているとはなんとも壮大だ。
まあ、ノリのいい子だ。
しかし、この感じだとGHQを知らないようだ。
日本史も教えてあげないとな。
「嘘だよ。ぼくだよ」
『むむ、やっぱり先生だったのだな。私を欺くとは二日早い』
割と早いな。
「それじゃあまた明後日改めよう。とりあえず玄関を開けてくれないかな」
『はいはーい』
元気よく返事をして、元気よく受話器を叩き置き(かなりうるさい)、元気よくずっこけた音がした。
扉が開き、お尻をさすりながらでる妖ちゃん。お約束展開を忠実にこなすなぁ。
「いてて。入って良いよ先生」
「んじゃ、お邪魔します」
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 00:26:07.53 ID:buC7KwkN0
「お、先生こんちはー」
「餃子」
家の中には妖ちゃんの友達である平沢 良くんと音継継音ちゃんがいた。
このあたりではそれなりに大きい家に住んでる妖ちゃんの家にちょくちょく来ているのだ。
しかし餃子? ……ああ、餃子→チャオズ→チャオっスか、分かるか!
「ちょっと妖ちゃんを借りてもいいかな」
「どうぞどうぞ、俺らはお暇しますんで、あとはお若いお二人で」
ノリがおっさんな良くんは継音ちゃんの手を引いて立ち上がる。しかし継音ちゃんは立ち上がろうとしない。まだ遊び足りないのだろうか。
「ほら、行くぞ。継音」
良くんに言われて、しぶしぶといった感じに立ち上がって部屋を出る継音ちゃん。
なんだか罪悪感が募る。
「さ、行こう。先生」
先導するように前を進む妖ちゃん。
こんなに嬉々として勉強をしたがる子も珍しい。
ぼくは彼女の背中を追いかけるようにしながら彼女の部屋に入った。
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 00:26:53.71 ID:buC7KwkN0
勉強が好きだから得意という等式が常に成立するわけじゃない。妖ちゃんの場合もそのケースは成り立つようで。
いや、けして勉強が不得意というわけではなく。むしろ暗記科目とかはいいくらいで、だめなのは理数系科目。いや、数学といった方が正しいのかもしれない。とにかく数学が壊滅的に壊滅だった。
……のはずだったんだけど。
「x=3~√4で、合ってるよね先生」
「……正解」
なぜか今日に限って正解を連発中。
「ほんと? やったー!」
「ちょ、ちょっと妖ちゃん?」
「なに? 先生」
「どうしていきなりできるようになったんだい?」
「やだなぁ、先生のおかげに決まってるじゃん」
「そうなの?」
「いつも先生が親身に教えてくれるおかげで、最近勉強ができるようになったんだよ」
「そんなものかな?」
まぁ、数学なんてコツさえ覚えればあっという間だからなぁ。そんなものなのだろう。
「それじゃあ次の問題」
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 00:27:24.61 ID:buC7KwkN0
「それじゃあ、ここまで」「ぬふぇー」
二時間に及ぶ勉強を終えた。いつも妖ちゃんは始めるときは意気軒昂としているのに、終わった時は疲労困憊といった様相だった。
「私、勉強が嫌いッス」
机に突っ伏して、体育会系敬語で言う妖ちゃん。
「のわりには、始まるときにはいつも意気込んでしてるようだけど」
「そ、それはそれだよ。先生の教え方はわかりやすいし」
「そう? だったらいいけど」
なんでそんなに慌てたように言うんだろう。
「それより先生! 今日はウチで夕ご飯食べていきなよ」
「残念。今日は先約が入っていてね」
「ちぇっ。彼女ッスか」
「違うよ。まぁ、妹の様なものさ」
「仕方ないッスね。だったら予約」
「ん?」
「明後日、ウチで夕ご飯食べようよ」
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 00:27:51.59 ID:buC7KwkN0
「分かった。いいよ」
「ほんと? 絶対だからね」
妖ちゃんが喜色ばんだ声で確認する。
「ほんとほんと」
「じゃ、指切り」
「はいはい」
おざなりな返事も意に介さず、嬉々としてぼくと指を絡める妖ちゃん。
指切った。と。
「ぬふふ。私が腕によりを掛けて作るから楽しみにしててね」
「え?」
「なにその反応」
「だって」
前に調理実習で作ったというクッキーを貰ったが、あれは生物兵器に使えそうな味だったから、かなり不安。
「あ、あれは失敗しただけだから。今度こそちゃんとするし」
「まあ、期待しない程度にたのしみにしてるよ」
「なんなの、その言い種」
ぶー、とむくれた様な抗議の声を上げる妖ちゃん。いや、だってねぇ。
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 00:28:19.64 ID:buC7KwkN0
「そういえば妖ちゃん、いつパソコンなんて買ったの?」
追及を避けるため、話の矛先を部屋の片隅にあるデスクトップパソコンに向ける。
「ん? あー、ちょっと前に。ていうか、この前からあったじゃん。気づかなかったの?」
「うん。あまり人の部屋をじろじろ見るのも失礼かなーと思って」
「そうだけどさー。女の子の変化には気づいてあげるべきだよ」
「そういうものかな。――そういえば、髪型変わった?」
「……むきゅー」
そんな声を出して押し黙る妖ちゃんを不覚にも可愛いと思ってしまった。
「それじゃ、お邪魔しました」
階下に降りて玄関を出て、挨拶をする。妖ちゃんのお母さんは仕事の都合なのかまだ帰っていらっしゃらないようだ。
「ばいばい先生。ご飯楽しみにしててね」
「…………うん。わかった」
「なにその間は」
怪訝そうに眉をひそめる妖ちゃん。
「冗談だよ。じゃあね妖ちゃん」
「ばいばい先生」
精一杯、今日今この瞬間を全力で生きてるように手を振る妖ちゃんを最後に眼中に収め、帰路についた。
こんな感じで妖ちゃんの授業は終了っと。
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 00:58:05.63 ID:buC7KwkN0
3
既に辺りも暗く、小柄な殺人鬼でも出そうな時間帯。街灯に照らされた道を愛すべき崩子ちゃんのいる、なんて本人の前で言ったらナイフが飛んで来そうだけど、とにかく崩子ちゃん達のいる我が骨董アパート改めて塔アパートへ向かって歩いている。
三年くらい前はまだ物騒だと言われた京都だが、現在はもちろんそんなことはなく、また落ち着きを取り戻していて、まだ午後の七時台だというのに呑みに行くために路地を歩いている人がいる。
前方三十メートル先にコンビニを見つける。
缶コーヒーと、今頃部屋で頑張ってくれているであろう崩子ちゃんにケーキでも買って行くかと思いながらそのコンビニに入った。
「あれ? 先生じゃないですか?」
男一人でケーキコーナーにいるという、羞恥の際に立たされていたのを救ってくれたのは妖ちゃんの幼馴染の平沢良くんだった。
「ん、ああ。良くん。どうした?」
「いえ、ただの買い物です。先生は授業終わったんですか?」
「うん、いまね」
「へー」
良くんの視線がぼくの手元に落ちる。
「どうした?」
「いや、先生でもケーキとか甘いもの食べるんだなぁと思いましてね」
すこし含みを持ったような笑みの良くん。いや、そんな顔で見ないでくれ。
「ぼくのじゃないよ。まあ妹にね」
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 00:58:49.10 ID:buC7KwkN0
「へー。先生妹いたんすか」
「まあね。生意気な妹だけど。ていうか先生って呼ばないでっていつも言ってるじゃないか」
別に良くんの先生であるわけではないのだから。
「いやね。先生って呼べーって。妖がうるさいですから」
「ふーんそうなんだ」
「……先生って」
良くんが声のトーンを下げる。
「ん?」
「いや、なんでもないんですけどね。先生って妖のことどう思ってますか?」
「どうって。生徒でしょ? 普通に」
「まあ、そうですけどね。……先生って微妙に鈍いって言われません」
「全然」
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 01:17:57.10 ID:buC7KwkN0
「今日はなんか変なこと聞いてしまってすみません」
コンビニの外で良くんが頭を下げた。ちなみに良くんの買ったものは肉まんだった。
「いや、いいよ。ぼくも人にそっけないとはよく言われるからね。まあ、昔からの性分で申し訳ないんだけど」
「ははは」
乾いたような苦笑いを浮かべる良くん。まあ、否定してほしいわけじゃないけどね。
「それじゃ、俺は帰ります。妹さんによろしく」
「ちょっと待って」
ぼくは帰ろうとする良くんに声を掛けた。
「はい、これ」
ぼくはコンビニ袋に入ってた缶コーヒーを投げた。
「…………」
良くんがいぶかしむように眉をひそめる。
「最近は寒いからね。風邪を引かないようにね。人から貰ったものをいぶかしむ癖っていうのには感心するけど。大人から貰ったものは素直に貰った方がいいよ。じゃあね」
ぼくは早口にそういって、その場を立ち去った。ふむ、イイコトってのは苦手だ。
結局その日は、崩子ちゃんと崩子ちゃんお手製料理を食べて、風呂に入って、寝た。
ぼくの世界は今日も壊れませんでした。まる。
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/22(土) 01:30:34.12 ID:buC7KwkN0
今日はここまでです。これからもちょくちょく小出しにしていくと思います。全体の分量的にも少ないと思いますので、どうかお暇な方はお付き合いください。
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/22(土) 02:31:38.47 ID:amZ2LCj/0
支援。
嵐の前の静けさがミステリ系の西尾維新っぽいです。
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/22(土) 11:02:53.21 ID:WVLegJODO
乙
ご飯を食べて崩子ちゃんを食べたのかと思ったけど二人でご飯食べただけだった(´・ω・`)
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/22(土) 15:28:11.69 ID:h0Aa7Eh/o
ぽくって俺は好きだぜw
そのせいかオリキャラも気にならんしねー
続き楽しみに待ってます
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/23(日) 00:42:11.10 ID:37EMeptH0
4
好きな曜日ランキングを作れば、一体木曜日は何位に来るんだろう。
とりあえず七位以内であることには間違いないのだから、入賞の賞状くらいは貰えそうなものだけれど。
ぼく個人の好みを言わせてもらえれば六位。七位は日曜。
なんて、宇宙の真理から百万億光年ほど離れてそうなどうでもいいことを考えながら、木曜の昼下がりの京都市内を散策する。
社会人になってから、フィアットやら、ベスパやらに乗ってるせいで運動不足感が否めない。
こうして人は肥満になっていくんだと、実感しながら家でごろごろするというのもなんか負けてると思って、こうして暇な時に散策をしているのだけれど。
まあ社会人としてこの時間に出歩いてるほうが失格の烙印を押されそうだ。
鴨川に沿い鴨川公園まで歩いてきた。また随分と歩いたものである。
時間帯のせいか制服に身を包んだ人を多数見かける。
特に異性同士で、手を組んだりして仲良しこよししているのを。
まあ、公園なのだから仕方ないのだけれど。しかし公の園と銘打っているのだから独り身の人に少しくらい配慮してくれてもいいとはおもうのだが。
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/23(日) 00:43:52.68 ID:37EMeptH0
そんな独り身の孤独に苛まれているところ、「ん?」
黒髪ツインテールのリュックサック、……は背負ってないけどランドセルでも背負ってそうな外観のしかし着ている服は紛れもなく高校のセーラー服というその手の方に喜ばれ、げほんげほん、とにかくそんな女の子――音継継音ちゃんがいた。
「継音ちゃん?」
ぼくが声に疑問を四十パーセントにじませて、継音ちゃんに声を掛けた。
継音ちゃんはびくりと小さい肩を跳ねさせて、ぼくを見る。
ため息をついたのは、残念だったからだろうか?
「仔猫」
周りの喧騒に消え入りそうな声で言う継音ちゃん。
仔猫? あー、キティ→ハローキティね。女の子らしいね。
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/23(日) 00:45:08.74 ID:37EMeptH0
「いま一人なの?」
ぼくのそんな問いにこくりと頷く継音ちゃん。
「あーそうなんだ」
だめだ。話が続かない。
まずぼく自身話すのは苦手なのに、プラス無口な継音ちゃんだと、まず会話が弾まない。
「じゃ、ぼくはこれで」
結局話に詰まってしまい、ぼくはその場にいづらくなってしまったので、家に帰ろうと踵を返した。
「…………」
「…………」てくてく。
「…………」
「…………」てくてく。
「……あのー継音ちゃん?」
びくりとその小さい肩を跳ねさせる継音ちゃん。いやそんな怖がらなくても。
「ぼくに着いてきても家に帰るだけだからなにもないよ?」
小刻みに首を縦振る継音ちゃん。ロックバンドでもしてるのだろうか。じゃなくて、なんのための首肯なのか。
えーと、「うちに来る?」
そういうと継音ちゃんは大きく頷いた。正解だったらしい。
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/23(日) 00:49:44.32 ID:kk1CgnoVo
期待
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/23(日) 01:12:32.14 ID:37EMeptH0
「お邪魔します」
うちに着き、適当に靴を脱いで上がる。上記の言葉を言ったのは勿論ぼくではなく継音ちゃん。一応挨拶とかはするんだな。
「お邪魔されます。といってもお邪魔されるほどものはないけどね。どっか適当に座ってていいよ」
継音ちゃんにそう告げて台所に向かう。高校生だからコーヒー飲まないかな。まあいいか、砂糖とクリームと持っていこう。
「どうぞ、コーヒーだよ」
リビング(らしきもの)に戻ると継音ちゃんがぼー、となにもない部屋の中を眺めてた。持ってきたカップを継音ちゃんの前に置く。
「ありがとうございます」
置かれたコーヒーをそのまま飲む継音ちゃん。ブラックで大丈夫なようだ。
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/23(日) 01:14:06.07 ID:37EMeptH0
「先生も」
ぼそりと継音ちゃんが言う。
「ん?」
「先生もパソコン持ってるんだね」
「うん。一応ね。パソコンに詳しい友達がいてね、そいつに貰ったんだよ。まあ仕事とかでも使うからね」
「仕事って家庭教師?」
「いや、じつは請負人ていう仕事をしていてね。家庭教師は副業なんだ」
「うけおいにん?」
可愛らしく小首をかしげる継音ちゃん。まあ一般人はそんな反応だろうな。
「うん。まあそんな仰々しい名前つけててもただの便利屋みたいなところだからね、もしくは相談所。継音ちゃんもなにか悩みごととかあったりしたら来てもいいよ」
哀川さんほど力があるわけじゃないから、こうして細々と知名度を上げる活動をしなきゃならない。新人は下積みが大切なんですよ。
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/23(日) 01:14:36.69 ID:37EMeptH0
「うん、わかった」
にこっ。と微笑む継音ちゃん。そんなことを言われて引かない感性はすごいと思う。そういえば笑うのは初めて見た気がする。レアだ。
その後三十分ほど、ようやく打ち解けた感じの継音ちゃんと他愛もない雑談を交わした。慣れれば、よく話す子なんだな、というのが感想だった。
結局、崩子ちゃんの乱入により、緊張した継音ちゃんは飛び出すように部屋を飛び出した。
崩子ちゃんには「また女の子を連れ込んでいたんですね」と、冷めた視線を投げかけられた。
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/23(日) 02:31:12.33 ID:37EMeptH0
今日はここまでです。飯食って風呂入ってから、執筆なので、投降時間は毎日夜12時過ぎになると思います。西尾さんと違って遅筆なので、あしからず
27 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/23(日) 03:47:08.76 ID:CCluOtBeo
こいつってくそビッチなやつだっけ
28 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/23(日) 17:49:50.36 ID:7dHqbkGAO
「x=3~√4で、合ってるよね先生」
黒猫の援交はトラウマ
29 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/24(月) 00:06:38.61 ID:ARLLleFE0
5
夜。
自室にあるパソコンの電源を入れる。スタンバイ状態から復帰した画面に、デスクトップ画面が表示される。
ブラウザを開き、お気に入りフォルダにある、あるサイトを開いた。
『Q-Room』というサイトがある。
概要としてはクイズを出し合ったりする電子掲示板、およびチャットルーム。といった感じのサイトで。
まず掲示板で、クイズを出し合ったりして仲良くなる。その仲良くなった数人でチャットルームに入り、個別で問題を出し合ったりする。そんな流れ。
ぼくがいつも話したりするのは『Lynx』というやつだった。頭がキレて、おそらく学校とかでも秀才タイプだけど、気取らないみたいなやつ。勝手な妄想だけど。
というか、ネットだから相手の年齢なんて分からないしね。まあこんなぼくでもネットをするのだ、案外ぼくみたいなやつかもしれないけど。
とりあえず、ユーザー名とパスワードを打ち込みログインした。そして、いつも入る部屋を見つけ、クリックする。
30 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/24(月) 00:07:03.65 ID:ARLLleFE0
――――――――――――――
Wellさんが入室しました。
Well>やあ
Lynx>やあ、今日は遅かったね。どうしたんだい? きみらしくもない。
Well>今日はちょっと立てこんでてね。ところで昨日の問題は解けたかい?
Lynx>ああ、しっかりと。犯人はAだろ?
Well>理由は?
Lynx>彼が第一発見者だから
Well>ご明察
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/24(月) 00:07:41.46 ID:ARLLleFE0
Lynx>しかしこれは、論理に傾倒しすぎじゃないか?
Well>論理的、合理的思考は過ぎると非合理的であると?
Lynx>そのとおり。命名するとして合理的ジレンマかな? これはそんな感じかな
Well>ふうん。そうかい。以後気をつけるよ
Lynx>分かってくれたら、うれしいよ。さて、今日は僕の番だったな。きみも疲れてるようだし、軽めなので行こう
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/24(月) 00:08:15.89 ID:ARLLleFE0
Lynx>囚人達三人に刑務官が、あるゲームをさせた。五つの帽子のうち三つをランダムで囚人達に被せる。五つのうち、三つは赤。二つは白。自分の帽子を見てはいけない。
Lynx>最初の囚人は二人の帽子を見て、「わかりません」と答えた。
Lynx>次の囚人は二人の帽子を見て、「わかりません」と答えた。
Lynx>さて最後の囚人であるきみに番が回ってきた。きみは、なんて答える?
Well>きみはただぼくを囚人扱いしたいだけなんじゃないか? というか、これ有名すぎるだろ
Lynx>たまには初心に戻るのも必要ということさ。どうする、いま答えておくかい?
Well>やめとく。問題も考えてないしね。明日答えるよ
Lynx>わかった。それじゃあ、良き明日のために。おやすみ
Well>おやすみ
Lynxさんが退室しました。
Wellさんが退室しました。
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/24(月) 00:13:05.26 ID:ARLLleFE0
6
金曜日で、思うことあれこれ。昭和生まれなら、明日まで学校。平成生まれなら、明日から休み。
社会不適合者であるぼくは週四日で休みなのだけれど。で、今日は少ない仕事の日ということで。現在は妖ちゃん宅に向かっている。というか着いた。
表札下についているインターホンを押した。
……反応なし。
「すみませーん」
声を掛けても誰も出てこない。
いないのかなぁ。なんて考えていると、中から「妖、妖」と、妖ちゃんを呼ぶ声が聞こえた。
声のトーン的にお母さんだと思うが、その声は明らかに切羽詰っていた。
緊急性を感じ、了承を得ずに家に入った。良い子はしてはいけません。
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/24(月) 00:13:37.84 ID:ARLLleFE0
「どうされました? お母さん」
必死に妖ちゃんの扉を叩き続けるお母さん。そういえば今日は仕事休みだったっけか。
「娘が出てこないんです」
なぜぼくがここに居るのか疑問も持たずにそう告げたお母さん。それだけ必死なんだろう。
「妖ちゃん? 妖ちゃん?」
ぼくも加勢して、呼びかけるが一向に返事がない。ただ寝ているだけだとしたら、かなり寝つきが良すぎる。
ノブを回して、鍵が閉まってることを確認する。たしか、内側に閂錠が着いているんだったか。
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/24(月) 00:14:03.74 ID:ARLLleFE0
「すみませんお母さん。すこしどいて貰っていいですか?」
体当たりをするから、という意味を言外に込めお母さんに言う。
素直に頷き、離れたのを見届けてから肩に力を込めて壁に体当たりした。
当たり前だが、漫画やアニメのようにすぐに開くわけでなく。十回二十回と試行した。
痛くなる肩を意識しないようにしながら、何回目のトライか、わからないが、軋んだ扉が壊れて開いた。
そこには誰もいなかった。
あったのは身体をメッタ刺しにされた面妖の死体だけだった。
もんだい:はんにんはだれだ。
36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/24(月) 00:15:41.19 ID:ARLLleFE0
これで第一章は終了です。明日からすいそく編になります。お付き合いくださる方、本当に嬉しいです。
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/01/24(月) 02:05:16.48 ID:CcXv1Gu6o
唐突に人が死ぬのは西尾流
とにかく支援
38 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/24(月) 02:55:56.18 ID:eDdNxgUAO
確か黒猫は留学の金を貯めるために援交してたんだっけか
様刻にそれを知られないようにしていたとこを見るかぎり、あいつら両思いなんだろうな。卒業旅行一緒に行くぐらいだし
39 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/25(火) 01:20:29.11 ID:FfM9C6FT0
すいそく編
0
知らない問題はありませんが、分かる問題はありません。
1
晴れて無職となって一週間。葬儀も事情聴取も終わり(ちなみに取調べをしたのは沙咲さんだった)、なにもすることがなく
、部屋でだらだらと過ごしていた。
七々見に借りた本を暇つぶしに読みながら(七々見に借りるとき、失職記念と言われた)、しかしもちろんそんな本の内容な
んて頭の中に入るわけがなく、ぼくの頭の中では今回の事件のことが少ない脳内の八割を占めていた。
とりあえずインパクトの強いものをあげるとしたら、包丁でメッタ刺しにされた妖ちゃん。
なにかの証拠隠滅のためなのか、粉砕されたパソコン。
そして、存在しない犯人の痕跡。
40 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/25(火) 01:20:59.34 ID:FfM9C6FT0
妖ちゃんの身体は、なんの為なのか、脚から、腕、腹、そして、最後に胸を刺して死んでいたらしい。
計二十一ヵ所、致命傷は心臓を一突き。
包丁は百円均一で買って来たような新品の包丁。揉みあったときにでもついたのか、指紋は妖ちゃん本人の分しかなかった。
鍵は一応ついてるが、窓にしろ扉にしろ、あんなのはいくらでも外から開閉する方法があるから、無視してかまわない。
問題は犯人はどうやって、あらゆる痕跡を消して、立ち去れたのか。
往年の密室トリックのようなものを使ったのか?
……なんて考えたところで、今回はだれかに依頼されたわけではないのでぼくが動く必要もないのだが。
死んだら人はそこまでだ、進退なんて存在しえない。
生者が死人にできることなんて一つもないのだから。
と、そんな堂々巡りを三十遍くらい繰り返したとき、インターホンなんて気の利いたもののついてない扉を叩く音が聞こえた。
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/25(火) 01:21:31.60 ID:FfM9C6FT0
「はいはい、今出ます」
と、適当に本を放り投げて玄関に向かった。
「ドーター」
玄関の前に居たのは継音ちゃんだった。
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/25(火) 01:48:53.34 ID:FfM9C6FT0
すみません今日は短いですけれどこれだけです。明日からはまた通常に戻りますんで
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/25(火) 09:25:03.80 ID:vPdrlwiqo
乙
44 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/25(火) 20:18:20.59 ID:HAqc9MSDO
ぐっどもーにんぐ娘
45 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/26(水) 00:02:09.87 ID:VY2IPzem0
「どうぞ」
確かブラック飲めたよな、というぼくの粗末な記憶から引き出した情報を信じて、彼女にブラックを出した。
「どうも」と、消え入りそうな声で言うけれど、口をつけようとはしない。
「それで?」ぼくは、コーヒーを一口飲み一拍つく。「今日はどうしてここに?」
びくりと、肩を震わせる。ふむ、いくらかは親密になれたと思ったのに、後戻りだな。
どうしようかと思案しているとき、ぼそりと「じつは……」と継音ちゃんの方から切り出した。
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/26(水) 00:02:45.72 ID:VY2IPzem0
「じつはお願いがあるんです」
「お願い?」
「お仕事の、依頼です」
「それはどういった内容?」
「妖ちゃんをあんな目に遭わせた人を見つけてください」
「それは犯人を見つけてくれってこと?」
「はい」
「真犯人を見つければいいの?」
再三ぼくは確認のために継音ちゃんに聞いた。
「はい」
弱弱しいながらも芯の通った声。決意はあるようだ。
47 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/26(水) 00:03:17.23 ID:VY2IPzem0
「……わかった。じゃあその方向で、依頼を請け負うよ。五万円」
「?」
「依頼料だよ。請負人っていっても一応仕事だから、そこらへんしっかりしないとね。因果な話だけど、お金は人を結びつける最大の手段だから仕方ないといえば仕方ないんだけど。で、どうする?」
「……わかりました。何とかします。だから」
しっかり意思の通った声で、継音ちゃんはいった。妖ちゃんのために、生者が死者のためにできる最大のことを継音ちゃんはしようとしてるのだ。
「了解しました。しっかりこの仕事を請け負わせていただきます。きみのためにも、妖ちゃんのためにもね」
ぼくはまた嘘をついた。
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/26(水) 00:03:50.95 ID:VY2IPzem0
2
Lynx>やあ、ひさしぶりWellさん
Well>やあ
Lynx>どうしたんだい? 最近はみなかったけど
Well>いろいろ、面倒くさいことがたてこんでててね
Lynx>ふうんそうかい。ところで、前にだした問題は覚えてるかい?
Well>ああ、赤だろ?
Lynx>正解
Well>次の問題ね
Lynx>うん
Well>この前京都で起きた事件を知ってるかい?
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/26(水) 00:04:21.62 ID:VY2IPzem0
3
タクシーを降り、目の前にある喫茶店に入る。
元々人混みが苦手な虚弱体質くろね子さんは、こんな街中の喫茶店に足を運ぶことなんてないのだが、しかしそれが敬愛すべき彼の指定というのだからやむべからずといった所だろう。
押し戸を開くと、頭上で涼やかな音が響いた。涼やか、というのも季節柄おかしな表現ではあるが。
喫茶店を一望する。
「ふむ」
雰囲気の良い喫茶店ではある。芳ばしい珈琲豆の匂いが漂い、バックグラウンドミュージックにジャズが流れている。
時間のせいもあるだろうが、なによりどんなことにおいても、人が居ない事に好感が持てた。マスターには悪いが、僕にとっては嬉しい事だった。
時間と場所を指定したのは彼の方だったか。
これも彼のさりげない気遣いというものだろう。僕は彼のそんなところに好感が持てる。
店の奥の方に、コーヒーカップを傾ける彼を発見する。
相も変わらず能面のように無表情な彼に、僕からの精一杯の親愛の証として笑顔を形作った。
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/26(水) 00:04:51.99 ID:VY2IPzem0
「やあ、僕の親愛なる櫃内君。櫃内様刻君。待ったかい? なんて一度は言ってみたい台詞ベストスリーには入るよね。そしてきみに、いや全然、なんて言われてみたいんだが。――言ってはくれないか。残念。ところできみは体調に異常はないだろうか? 近頃は少し寒くなって来たからね、きみが風邪でも引いてないかと僕は心配で心配で、心配のあまり、食事が喉を通らず、僕が風邪を引きそうになったものだよ。まあ、僕は元より食が細いのだけどね。という事で不肖、病院坂黒猫。親愛なる櫃内君のためにこうして馳せ参じたよ」
「相変わらずきみはよく舌が回るな。きみは舌を噛んでも死なない身体でも持ってるんじゃないか?」
彼――櫃内様刻君は、ぶっきらぼうにそんな事を言った。
「そんな事はないさ。僕は普通と変わらない、か弱い女の子だ。まあ人間は舌を噛み切ったくらいじゃ死なないらしいがね。実験してみる気はないけれど。ところで櫃内君。今日、きみが僕を呼び出した理由はなんだい?」
「何言ってんだよ。きみがぼくを呼び出したんだろう」
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/26(水) 00:05:24.48 ID:VY2IPzem0
「冗談だよ。僕一流の冗談。いや、一流と言ったってそれは言葉の綾であって、僕をその程度の人間だと思われては困る。そんな風に思われたら僕は悲しみのあまりに舌を噛み切って死にそうだよ。――冗談だ。そんな顔しないでくれよ。きみにそんな顔をされたらそれこそ僕は死にそうだよ。ふむ。午前九時半現在はまだ混みあってないようだけど、じき人も混むだろう。僕の体質上、混む前にここを出るべきだろうね。仕方ない、きみとこうしてのんべんだらりと話していたいという素敵で不適な気持ちを断腸の思いで飲んで本題に入ろうか。櫃内君」
と僕は彼の名を呼んだ。まだ会って間もない彼の名前を呼ぶのははばかられるので僕は彼を苗字で呼ぶのだ。
「きみはこの京都市内で起きた殺人事件を知ってるだろう?」
「どの殺人事件を指して言ってるんだ?」
「この前起きた女子高生が死んだ事件だよ。この平和な京都で――とは一概に言えないか。でも、ここ最近起きた殺人事件はそのぐらいだろう。で? きみはその事を知ってるかい?」
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/26(水) 00:05:51.14 ID:VY2IPzem0
「表面くらいなら」
「厳密に言うと?」
「女の子が鍵を掛けた自室でメッタ刺し。で、パソコンが粉砕されていた。それぐらいしか知らない」
「それだけ知ってれば十分だ。僕もそんなものだよ。ただ一つ、重要な事柄が抜けてるよ」
「と、言うと?」
「犯人の指紋、どころか犯人の痕跡が一つも発見されていない」
彼が険しい顔つきになる。どうやら興味を持って貰えたらしい。
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/26(水) 00:06:19.51 ID:VY2IPzem0
「これは公式発表されていないものだけどね。ん? だったら何故そんな事を知ってるかって? 実はさる人物に聞いたのだよ。なにこんな僕にも知人はいるのだよ。知っての通り、僕は分からないということが嫌いでね。生理的嫌悪感すら感じるくらいだ。それはこうしたミステリチックな殺人事件にまで及ぶのだよ。ふふ、おかしな病気だろ? しかしそれこそが僕なのだから仕方ないと言えば仕方ないのだけれど。そう、そこでこの事件だ。一体犯人はどんな手段をもってして痕跡を一切残さず、密室を作り上げたのか。目下僕の多大な嫌悪感と、僅かな好奇心はそこに集約されるのだよ。しかしそれは第三者という立場からじゃ分からない。分からないから僕は自分から巻き込まれようと思ってね。しかし対人能力が著しく低い僕だ。一人じゃ調査するのにも限界がある。そこできみを呼んだんだよ。厚かましい願いではあるが、どうかこんな僕のストレス解消に手伝って貰えないだろうか。承諾してくれるって? ありがとう。きみには貸しばかりあるな。さて、それはいつか返すとして。では、早速被害者宅に向かおうか」
僕と彼は席を立ち上がり、喫茶店を後にした。
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/26(水) 00:07:01.28 ID:VY2IPzem0
今日はこれで、終了です。くろね子さんがやっと登場しました
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/01/26(水) 00:14:45.09 ID:+zjfkVMao
乙
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/26(水) 07:56:49.35 ID:OP1I7UPDO
乙 やっぱりこの二人はいい距離感してるな
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/26(水) 11:11:38.75 ID:sdsSvpoAO
西尾の中では人識と出夢の次に仲いいよな
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/27(木) 01:07:05.81 ID:frzRIQD40
4
さる人物なんて洒落た言葉で飾ったところで、このぼくが知人と呼べる人間はおそらく櫃内君しか存在しない。それほどまでに僕の対人強度は脆い。くろね子ネットワーク。ただのインターネットだ。
まあ、学内のことはあの保健室で大概のことはわかるのだが、流石に学外のことはわからない。だから学外の情報はすべてインターネットという現代の英知の結晶に頼るしかない。
今回は、『Q-Room』なるサイトで偶然知り合った、事件の関係者(と思しき人物)から情報を流してもらっただけだ。
殺人事件を『問題』と称する、その倫理観はいただけないが。理解の礎になることに関しては感謝している。
ということで被害社宅に到着(この情報も『さる人物』から教えてもらった。個人情報駄々漏れである)。
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/27(木) 01:07:56.24 ID:frzRIQD40
「このたびはご愁傷様です」
被害者の母親に、対人用の猫かぶりくろね子さんを前面に押し出して挨拶をする。
「お葬式には諸事情あり出席できなかったので、クラスの友人として、ここでご焼香をあげさせていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、どうぞ」
まだ、娘さんの死から立ち直ってないのか、憔悴しきった顔をしている。若くして子供を亡くすというのは心中を推し量ることなどできないのだろう。しかし、そんな今こそつけいる隙がある。なんて焼香中に考えている僕の倫理観も唾棄すべきものなのだろうが。
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/27(木) 01:10:29.85 ID:frzRIQD40
「いま、お茶を持ってきますんで」
「いえ、どうぞお構いなく」
そんな日本人的建前の会話を交わし、台所へ向かうお母さん。
「できることなら、妖ちゃんの部屋をみたいものだね」
なかば冗談のつもりで、さながら不動の寡黙のように仏頂面の櫃内君に話しかけた。
「なんだ。部屋をみたいのか」と言って立ち上がる櫃内君。
僕が口を挟む前に、台所から出てきたお母さんに話しかけていた。
「許可とれたぜ」
彼はこんなにフットワークの軽いやつだったか?
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/27(木) 01:12:04.56 ID:frzRIQD40
すいません。今日は短いですがこれまでです
62 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/28(金) 00:58:30.96 ID:85f5U06g0
5
誰かが壊した扉を抜けて、被害者の自室兼殺害現場に入る。
ここで、面妖ちゃんが死んでいたということか。
正直テープでかたどったりしてるのだろうかと、期待していたのだが、案外そんなことはなかった。推理小説の読みすぎか。それとも、ただ剥がされただけかもしれない。
無論すでに死体はなく、警察が綺麗に処理してくれていた。しかし、全面絨毯敷きの部屋では僅かに血痕が残っていた。
ふむ、思ってたより荒れてないな。パソコンが置いてあったと思しき後は鈍器で殴られて凹んでいたりするのだが、しかしそれ以外に目立った痕跡というのはない。
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/28(金) 00:59:19.96 ID:85f5U06g0
死亡推定時刻は十六時くらいだったか。
家には非番だったというお母さんと、被害者しかいなかったという。
第一発見者はお母さんと家庭教師だとかいう男。
たしか扉を壊したというのもその男だったか。随分と短絡的な男なのだろうか。
関係者は被害者の友人という、音継継音ちゃんと、平沢良くんか。僕のクラスメイトだったらしいが、保健室登校生である僕は実際に彼らとコンタクトをとったことはない、と思う。まあ同じ学校だから顔を見たことくらいはあるのだろうが。
あとは、母子家庭らしいので、お母さんと家庭教師という男だけか。
まあ、一番怪しいのは状況的にいって、お母さんとなるのだろうが。しかしパソコンを壊した動機が僕の貧弱な脳からは導き出せない。
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/28(金) 00:59:47.44 ID:85f5U06g0
そう、パソコンだ。この事件の中心は圧倒的に虐げられた妖ちゃんではなく、その破壊されたパソコンにあると思う。
状況として、パソコンが壊される理由としてなにがあるだろうか。
まず短絡的に考えて、その内部データを壊したい、とか。削除してもデータの中には残るから、物理的に壊すのが確実と犯人は思ったのかもしれない。
だとしたら、お母さんも容疑者に入るのだろうか。いや、そしたら密室をつくる必要がない。
稚拙ながらも、一応なりとも密室だ。しかも、『状況としてまったく意味のない密室』。
過剰なまでの痕跡除去。異常なまでのパソコンに対する執着。非情なまでの被害者に対する攻撃。
略式プロファイリングを行うとしたら、精神的に幼い人物だろう。
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/28(金) 01:00:20.63 ID:85f5U06g0
憎いから殺す。うざいから殺す。なんとなく殺す。
そんな人物。そんな異常者。
小学生が友人に向かって吐く罵詈雑言のような。そんな感覚。
子供が『ぼくの考えた怪獣』と誇示するような。そんな感覚。
この事件にはそんな幼児性が垣間見えるのだ。
と、そこまで考えて思い出したように櫃内君を見てみると、彼は被害者の本棚を熱心にみていた。
「なにしてるんだか」
僕は独白気味に呟いた。相変わらず彼は『わからない』。
66 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/28(金) 01:20:01.45 ID:85f5U06g0
今日はここまでです
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/28(金) 01:47:14.26 ID:wWYGmVWDO
乙
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/28(金) 02:35:39.72 ID:DzPUiBRyo
乙
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/01/28(金) 13:14:13.77 ID:zIy/V1awo
最近西尾関係のSS増えたな
良いことだ
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/29(土) 00:23:42.05 ID:9t1IkxEe0
6
「わからない」
底冷えのする午後四時過ぎの公園のベンチで僕と櫃内君が並んで座る。
櫃内君の買ってきてくれた缶コーヒーで手元を温める。
四時台なら子供が遊んでいたりするものだとおもったのだが、意外にも園内は閑散としていた。
まあ、僕も外で遊んだりはしなかったのだが。
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/29(土) 00:24:15.73 ID:9t1IkxEe0
「なにがだ」
「勿論犯人の事だ」
「トリックは?」
「そんなものとっくに解ってるさ」
幼稚な犯人の幼稚なトリックだ。こんなものすぐに解る。
ただ解らないのはそれが誰が起こした事なのか、だ。
解らないというより、材料が足りていない。
後期クイーン問題の第一の問題のように、探偵役に対して提示されていない何かが存在する。
足りないピースのパズルをやっているような。
それこそ、すべてを俯瞰できるような神のような存在が必要だ。
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/29(土) 00:24:41.43 ID:9t1IkxEe0
蟠りが自分のなかに溜まっていくのが分かる。
あの憎たらしい神じゃないと、解けない問題。
もしくは、小説を読む読者しか、解けない問題。
中からじゃ全てを解けない。
さながらクレタのパラドックスのように。
さながらゲーデルの不完全性定理のように。
解けない。解らない。判らない。分からない。分からない分からない分からない。わからない。
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/29(土) 00:25:21.90 ID:9t1IkxEe0
「僕にはわからない」
「なんだまだわかっていなかったのか」
櫃内君は缶コーヒーを傾けてさらりとそんなことを言った。
74 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/29(土) 00:26:52.04 ID:9t1IkxEe0
ストーリー上、今日はここまでです。(昨日ここまでやっときゃよかった)
明日はかいとう編です。読んでくださってる方ありがとうございます
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/29(土) 00:39:01.38 ID:9t1IkxEe0
7
Lynx>やあ
Well>やあ。どうだい。進捗状況は
Lynx>まあまあさ
Well>まあ、がんばってくれ
Lynx>ところでだ
Well>ん?
Lynx>僕が思うにきみが犯人じゃないかと思うんだが?
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/29(土) 00:39:54.07 ID:9t1IkxEe0
載せ忘れていた分があったので。
追加投稿すみません。
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/30(日) 00:45:15.63 ID:ettxorkj0
かいとう編
0
先生。機嫌が悪いです。
1
論理的思考の弊害について。なんて書き出しの哲学の論文を書いてみたいものだが、如何せんぼくの幼い脳ではそこまで書ける自信がない。
いつかLynxと話したことだ。
論理的思考、合理的思考を常人以上に気を遣う科学者ないし数学者の方々。
しかし彼らの研究対象が実世間において役立っていることはその万分の一ほどしかない。
世間から見たらそれは無駄なこと、つまり非合理的であること。
Lynxは合理的ジレンマと名づけていたか。なるほど正鵠を得ているな。
推理小説の殺人者もそのジレンマに行き逢うことがある。
犯行がばれないように色々策を練る。だがしかし、まず殺人こそ非合理的なのだ。
だから殺人者と科学者は似ている。
だから探偵とパズルの回答者は似ているのだ。
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/30(日) 00:45:49.23 ID:ettxorkj0
と、そんなことをつらつら考えながら国民に一応なりとも約束された休日を過ごしていた。
日曜の午後ほど気怠いものはないと思う。曜日ランキング最下位は伊達じゃない。
気怠い日常、変わらない日常、変化のない日常。
大きな出来事なんて起きえない。
あるとすれば平沢良が死んだことくらいで。
まあ、そんなことぼくには一切関係ないのだが。
パソコンをつけようと、手を伸ばす。と、その時。
玄関の扉を叩く音が部屋に響いた。
……誰だろうかこんな時間に。
ぼくは大して重くもない腰を上げて玄関に向かった。
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2011/01/30(日) 00:46:28.46 ID:ettxorkj0
「やあ、元気かい。見たところ元気そうだが、しかし目に見えない病こそ気をつけるべきだと僭越ながら申しておくよ。……ふむ、知り合いでもないやつが約束もとりつけずに急に現れて、馴れ馴れしくしてきてもきみは表情ひとつ変えないのだな。感心するよ。まあ、きみと僕は知り合いでなくとも袖振り合うくらいの縁はあるのだがね。家には誰かいらっしゃるかな。外は少し肌寒くてね。病弱な僕はこうして寒空の下に立っていると病気になる不思議な身体をもっているのだよ。できれば暖かい部屋で暖かいお茶を飲みたいものだと思ってね。いやいや別に催促はしてないよ。だがしかしきみがそうしてくれるのならぼくも遠慮をすることはないのだが」
扉を開けたとたん、べらべら話す女が目の前にいた。
「帰ってください」
ぼくは扉を閉めようとした。
「つれないことを言わないでくれよ。Wellさん」
閉めようとした手が止まる。なんでその名前を。
80 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 00:47:00.34 ID:ettxorkj0
「言っただろう。袖振り合うくらいの縁はあるのさ。いや、肩をぶつけられたくらいの縁かな。もしかしたら唾を掛けられたくらいの縁かもしれない。なぁきみもそう思うだろ? 櫃内君」
そう彼女が言うと、扉の影から男が現れた。
「せんせい?」
なんで、ここに。なんでいる。なんで? なんで。
「やあ、継音ちゃん。依頼を達成しに来たよ」
彼は無愛想にそう言った。
81 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 02:35:56.43 ID:ettxorkj0
2
「今回の事件。この場合面妖ちゃんの事件だ。登場人物は面妖ちゃん。平沢良くん。家庭教師である櫃内様刻くん。そしてきみ、音継継音ちゃん。スポットをこの四人に絞れば、事件自体は案外簡単に導き出される。痕跡の一切存在しない殺害現場。何者かによって破壊されたパソコン。この事件の肝はそこだ。いや、これは事件なんて大層なものではない。ただの、なんていったら妖ちゃんが怒りそうだけど、そこはご寛恕願おうかな。これはただの自殺だ。
「当たり前だろ? 痕跡が存在しないのならば、そこに犯人は存在しない。末端組織から順々に刺していったのがその証明だね。それは自分でできるものだ。しかしそこに誰か他人の入れ知恵があったのは確かだ。では、誰か? そのヒントはもちろんパソコンにあると踏んだ。パソコンが破壊された理由。それはデータフォルダではなく、インターネットへの書き込みだ。書き込み自体はログに残るが、しかしそのログを辿るためにはまずそのパソコンが必要になる。
「だから犯人はパソコンを破壊した。正確には破壊を指示したかな。ではなぜ、僕がそんな発想に至ったか。
「おそらく、自殺を指示したのがパソコンを使ってのものだったのだろう。だから逆説的に、パソコンを破壊した理由になりえるね。
82 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 02:36:33.09 ID:ettxorkj0
「しかし、通信手段がメールにしろ、サイトにしろログは残る。自殺教唆のような文章はすぐに警察行きだ。そこで犯人が使ったのは二人だけの共通言語。
「すなわち暗号さ。
「おそらく使ったのは、クイズを出すような形式のサイト。そう、たとえば『Q-Room』とか。
「そんなサイトには大概暗号形式のクイズも多数存在する。だから気づかれない。木の葉を隠すなら森の中。なんて言い方は少しベタだが。
83 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 02:37:05.68 ID:ettxorkj0
「しかし、ここで僕は行き詰ってしまった。ネットという不特定多数の人が利用するようなもので犯人を特定するなど、当局の方々ならまだしも僕ら一般人にはどうしようもない。もちろん、二人は知り合いである可能性は高いと踏んでいた。赤の他人に言われて自殺するというのは僕のような叙情を解さない人物には理解できない。殺人ならまだしも、自殺なんてのはありえない。
「それでも、第三者である僕には特定する手段はない。
84 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 02:37:37.13 ID:ettxorkj0
「しかし、ここでキーになるのは櫃内君だ。彼がまさか妖ちゃんの家庭教師というのは昨日まで知らなかった。
「もともとこの事件は僕ら二人の情報がないと解けないものだった。問題としては不良だな。しかし偶然にも、ほんとうに偶然に、いや、もしかしたら櫃内君にとっては必然だったかもしれないけれど、とにかく僕にとっては偶然にも、僕と櫃内君が出揃ってしまったのだ。さながら足りないピースを補完しあうようにね。
「事件関係者といっても、事件の詳細をしっているのは限られてくる。まず警察。これは自明だね。つぎに被害者遺族。でも、細かいところまでは知りえないだろうね。そして櫃内君。彼は請負人なる噴飯ものの職業柄――そう睨まないでくれ櫃内君。興奮しちゃうよ。昨日大笑いしたことについては謝っただろう? とにかく、請負人という仕事のため、つまり依頼者であるきみのために多少非合法な手段を使って情報を知りえたのだろう。そして最後に、依頼者である継音ちゃん。きみだね。請負人として依頼者であるきみに事件のことを教えたらしいね。『友達として死んだ状況を詳しく知りたいんです』なんていったそうだね。ぼくの脳内補完では上目遣いでね。で、うっかり彼は話してしまった。プロ意識もなにもあったもんじゃないな。
85 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 02:38:09.40 ID:ettxorkj0
「そして犯人は事が自分の思惑通りに進んでいることを知る。
「次に犯人はその情報を問題としてネットに流した。僕への挑戦状といったところかな。
「個人情報諸々を教えるのは、僕ら二人の共通言語を使ってだったね。さっきの発想はここから来てるんだけど。
「櫃内君の話では妖ちゃんはいきなり数学ができるようになったそうだね。数学というのはいかに論理的思考ができるかってことに帰着するとおもう。つまりパズルができるなら数学は簡単にできるということさ。それは推理めいたクイズにも似る。おそらく、彼女は『Q-Room』か、それに似たサイトに足繁く通ったんだろうね。で、論理的思考が身についた。だから数学の点数が飛躍的に伸びた。しかし彼女は数学ができるようになったのは先生のおかげだと言った。なぜ、こんなことを言ったのか。彼女が彼を立てるために言った嘘でないとするならば、彼女は本当に先生に教えられたと錯覚していたのかもしれない。
「なぜか?
「誰かが彼を騙り、彼女に手取り足取り揚げ足取って、数学、というかクイズを教えたのだろうね。そう。インターネットというのは自身を偽れる。そこに犯人は付け込んだのさ。
「これも推量で申し訳ないが、彼の言葉の端々からは、妖ちゃんの彼に対する恋愛感情がひしひしと伝わってきたよ。まあ女心が分からない彼は気づかなかったようだがね。まあ男からすれば、女の子に好かれてるなんて思っても自意識過剰だと振り切るだろうがね。
86 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 02:38:42.45 ID:ettxorkj0
「そう、恋愛感情だ。暴力感情と同じくらい醜い感情だね。おっと怒らないでくれよ継音ちゃん。しかしこの事件はそれを象徴するいい事件だろ?
「犯人はそこに付け込んで、櫃内君になりすましネット上で彼女に近づいたのだろうね。ゆっくりじっくりと彼女を殺すためにね。そして彼女はそれに成功した。綱渡りのようなものをよくやったものだね。そこだけは感心しよう。
「では何故犯人はそんな下らないことをしたか。それもまた恋愛感情に起因するものだね。生徒であるってだけで彼の近くにいられる妖ちゃんを犯人は強く憎んだ。十数年来の友情より恋を選ぶとは、人間とは恐ろしいものだね。
「でも、理性の権化である犯人は、自身が起こしたことを隠蔽するために上述のようなトリックを考えたのだろう。付け加えるように、ネットで親しくなった友人に対する問題としても使えるように。
「犯人は、二つの動機を持って事件を起こした。憎き恋敵を殺すことで、思い人に近づくため。小賢しいネットでの友人を欺くため。どちらも唾棄するほど下らないものだな。まあ犯人にとっては重要なことだったんだろう。
「以上の理由を持ってして、僕は特定の人物を犯人だと断定した。
「音継継音ちゃん」
87 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 02:39:18.35 ID:ettxorkj0
「犯人はあなただ」
88 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 03:15:40.35 ID:ettxorkj0
えんでぃんぐ
継音ちゃんが警察に捕まって一週間。また飽きるような呆れるような、でも壊れる必要もないような日常を取り戻していた。
依頼人が捕まってしまったので結局今回の仕事は一文にもならなかったけど。
平沢良くんの殺害は、問題に答えたLynxこと病院坂のための次の問題として用意した事件だと、答えたそうだ。また沙咲さんが頭を抱えてそうだ。
今日はその病院坂のために有り余る時間を空けて、喫茶店スリーデーマーチに足を運んだ。
最近気づいたことなのだが、ここは喫茶店のくせに紅茶の方がおいしいらしい。天邪鬼であるぼくはついコーヒーの方を注文するのだけど。
涼やかな鈴の音が店内に響き、来客を告げた。
「やあ、櫃内君。今日は呼んでくれて嬉しいよ。一応なりとも社会人であるきみとこうして昼間に会うというのは心配だがね」
そんな失礼なことを開口一番のたまいながら現れた病院坂。年上に対して尊敬の念が感じられない。
「大きなお世話だ」
89 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 03:16:08.53 ID:ettxorkj0
「しかし、きみが社会人だと知ったときは驚いたな。身長のせいかな。きみは世界において矮躯な日本人のなかでも体格的に幼いようだからね。冗談だよ。しかし、年上ならば敬語の一つや二つ使ったほうがいいのかも知れないが、なぜだがきみに対してはそういう気が起きないのは不思議だね。使わなくてもいいと? ありがとう。では気兼ねなく話させてもらおうか」
病院坂はぼくの前の席に座り紅茶を注文した。
「いつか言おうとばかり思ってたんだが」
紅茶が来るのを待つ間、病院坂がそう言った。
「きみも知っているとおり僕はわからない事を嫌う性分でね。底が知れない人間というのを異様なまでに嫌悪するんだよ。しかしきみは底がまったく知れない。『わからない』人間なんだ。この僕にしてね。でも、きみといても何故だか生理的嫌悪感を感じない。何故だろうか考えていたんだが、最近気づいたよ。きみはわからなすぎる。だから、きみの事を理解するのを諦めてしまったようだ。で、どうしてきみはそこまで壊れるんだ?」
病院坂は興味津々といったように聞いてくる。わからないものが大嫌いで、わからないものが大大好きな病院坂らしい瞳だ。
90 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 03:16:44.40 ID:ettxorkj0
「さてね、ぼくは普通の生活を送ってきたと思うけどね。むしろ、ほかの人が異常に見える。どうしてそんなに道を外れないんだと。綱渡りなんて落ちないほうが難しいものだろう? ぼくは常々そう思ってるよ。むしろぼくが聞きたいのは、病院坂、きみはどうしてそこまで完璧なのか、だ」
「さあ。僕が完璧なまでに壊れてるから、そう思えるんじゃないか?」
病院坂はさらりとそんなことをいった。彼女の暗い半生がちらりと垣間見えた気がした。
91 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 03:18:34.44 ID:ettxorkj0
「ぼくの名前を臆面もなく呼ぶのはきみだけだよ病院坂」
「なぜだい?」
「ぼくの名前を呼ぶやつは例外なく死んでいるからね」
「そうかい。そんな非科学的なことを信じろというほうが難しいな。それに、僕はそんなことで死ぬほど、やわじゃない。この病院坂という名前が持つ不幸の方が、ずっと重いのさ」
「なるほど」
「きみにとって世界はどうなっていると思う?」
話を急に変えて、そんなことを聞いてくる病院坂。まあ世間話の延長だしな。
世界はどうなってるか。そんなものずっと前から決まってる。
「狂ってるよ」
ぼくはそう言って、たいしておいしくもないコーヒーを啜った。
The world is crazy world.
92 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 03:31:42.17 ID:ettxorkj0
うしろがき
これで終了です。どっかでいーちゃん=櫃内様刻だ。という説を見たことがあり、それをもとに書きました(名前クイズの時の数字も一致します)。
下敷きはクビシメロマンチストでした。
ストーリー上、いーちゃんとしていーちゃんが出せなかったり、いーちゃんファンの方には申し訳ございません。あと、哀川さんとか出したかったんですが、病院坂でいっぱいいっぱいで出せませんでした。
まあ、くろね子さんといーちゃんの絡みが書けて楽しかったです。
西尾維新先生と読んでくださった皆様に多大なる感謝を。
では縁があったらまた会いましょう。
93 :
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[sage]:2011/01/30(日) 09:59:34.01 ID:fcpn2FkOo
乙
94 :
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[sage]:2011/01/30(日) 11:14:34.73 ID:inNaNHsDo
乙
95 :
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[sage]:2011/01/30(日) 14:56:42.21 ID:DAn16+zDO
乙 様刻君と同姓同名ってことでいいのかな?
96 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 21:08:17.76 ID:ettxorkj0
>>95
です
97 :
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[sage saga]:2011/01/30(日) 23:56:58.14 ID:ettxorkj0
「で、どうだい?」
「どうだ、て言われてもなぁ」
放課後、保健室で連想されるワードは青少年の妄想を刺激するものだけれど、
そのワードにこいつが入ると、そんな妄想も想起されることもないだろう。
「まず、お前は僕のことを苗字で呼んだことはないだろ」
「ないね。まあ、そこはフィクションなりの嘘てことでいいだろ」
「まあな。ストーリー全体評価としてはBだな」
「おや、辛辣だな」
「さすがのお前でもこんな飛躍的発想はできないだろ」
「さてね、どうだろうか。でも多分出来ないだろうね」
「まあ、請負人とかいう発想は評価するけどな」
僕は、薄い原稿用紙をベッド脇に置いてある机に置いた。
「まあ、保健室登校生が暇つぶしに書いたものだ、粗探しなんかしないでくれ」
「別に良いけどさ。しかし、この三人は確か実在したよな」
去年の今頃そんな事件があった気がする。
「ああそうだよ」
「相変わらず不謹慎だな」
「事実に基づいたフィクションが今はやりなんだろう? それに事実に基づかないフィクションなんて存在しないさ。どちらにしろただのお遊びに揚げ足取られちゃ適わないさ」
「別に揚げ足を取ってはいないさ。でも、だとしたらこの請負人さんとやらも居るのか?」
「さてね」
彼女はそう言って薄く微笑んだ。こいつも大概『わからない』奴だ。
――――或る日の保健室登校生と少年の会話
98 :
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[sage]:2011/01/31(月) 00:16:39.94 ID:Tc3/Uak9o
乙
99 :
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[sage]:2011/01/31(月) 23:15:58.71 ID:Vl5LAGMBo
さすが黒猫さん見難いほど長く喋ってくれますね!
遅れたけど乙乙
面白かったです
100 :
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[sage]:2011/02/02(水) 23:54:55.95 ID:KR23qN7R0
今更だけど乙です面白かった
くろね子さんやっぱ素敵
101 :
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[sage]:2011/02/04(金) 00:03:13.03 ID:s+SqDUKX0
乙乙乙です!
妖ちゃんの死因にちょっと説得力が感じられなかったけど、
それを作品の雰囲気や世界観が補っていて、前期西尾維新の
作品っぽい感じがしました。
余談だけど、西尾さんはそろそろこっち側に返ってきてもいいと思うんだ。
乙でした!
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