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悪魔「異界の門を開いたのはお前か」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/26(水) 16:26:40.73 ID:RH9uGsCAO
女「えっ……え……?」

悪魔「おや? ここは日本で合ってるよな……?」

 女が悲鳴をあげた。

悪魔「……」

女「あなた誰ですか? 変態!? ストーカー!? 殺人鬼!?」

 早口にまくし立てられる。
 無言のまま、女が黙るのを待って口を開く。

悪魔「悪魔だが……」
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 16:41:41.72 ID:RH9uGsCAO
女「あ、悪魔って……」

悪魔「残虐非道で人に災いをもたらす、そういえば分かりやすいだろう?」

女「……」

悪魔「とは言え。別にお前に何かしようと言う気は無いのだ。異界の門に吸い込まれて、出て来たところにお前が居ただけだからな」

女「……どこの病院から抜け出して来たの? ……とりあえず、救急車を呼ぶから、帰ってちょうだい」

悪魔「頭のおかしい人間扱いされるとは……これだから最近の人間は……どうすれば私が悪魔だと信じる?」

女「……どうしたって信じないわよ」

悪魔「ふうむ。ならば豚に変えて見せようか? 蛙が良いか?」

女「はいはい、豚でも何でも出来るもんならやってみてよ。ほら。どっからでもどうぞ?」

悪魔「……」

 悪魔は人間には不可能な発音の言語を高速で読み上げる。

 超自然の呪文は人の脳に多大な負荷をかける。

 すぐさま、女は不快感に襲われ、耳を塞ごうと、腕を上げた。

 しかし、腹と顎が床に落ちたのみで、腕は耳に届かない。

 詠唱が止んだ。

女「ブヒッ」

悪魔「豚にしてやったぞ。なんなら鏡の前まで抱っこで連れていこうか?」

女「ブヒッブヒッフガッ」

悪魔「すまない。何を言ってるか分からない。いくら悪魔と言えども、豚の言葉は理解できん」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 16:52:49.84 ID:8VhsTggSO
期待
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 16:57:11.00 ID:RH9uGsCAO
悪魔「これで私が悪魔だと信じる気になっただろう? なにせ豚に変えられたのだからな」

女「ブヒッ」

悪魔「……ちょっと待てよ。私は人間を豚にする事は出来るが、豚を人間にする事は……。捌く事なら出来るのだが……」

女「ブブヒィッ!?」

悪魔「豚として生きていくのも悪くなかろう? なにせ人間の精神を持った豚だ。どうすれば自らが美味しく育つか考えられる。素晴らしい」

女「ブヒッブヒッ!!」

悪魔「ええい! やめろ!! 抗議するなら人語を話せ!! 鼻水を擦り付けるな!!」

女「ブヒ……」

悪魔「そうだ。大人しく運命を受け入れ――」

女「ブヒッ!!」

 ひときわ大きく鳴いて、タンスへ突っ込んで行く。
 しかし、豚の体では、タンスを開く事も叶わず、足や鼻をぶつけるだけだ。

悪魔「なんだ? そこに美味いもんでも入ってるのか? 流石は豚だ。どれどれ……」

 豚が仕切りぶつかっていた、下着や小物を入れる為の小さな引き出しを開ける。
 そこにあったのは紙袋と、預金通帳だった。

悪魔「金をやるから、元に戻してくれ? ……豚語の翻訳は初めてだが、合ってるか?」

豚「ブヒッ!!」

悪魔「間違いなのか正解なのか、わからんち」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 17:04:29.35 ID:3nOwWzwSO
むしろ悪魔と豚の組み合わせのままがいい
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 17:12:11.93 ID:RH9uGsCAO
女「ブヒィィ……」

悪魔「……それに、さっきも言ったが、しないのでは無く、できないのだ。悪魔だと信じさせる為に豚に変えた事なんか今までなかったしな」

女「ブヒ……」

悪魔「そう嘆くな。今から悪魔の料理をお前に振る舞ってやろうではないか。物凄いカロリーを持ちながら、食べれば食べるほど飢餓感が増してゆく、逸品だ」

女「ブヒッ!?」

悪魔「実は彼の有名な7つの大罪の一つである、暴食を司る悪魔とは旧知の仲でな。奴に分けてもらったのだ。ほら、一口食えば永遠に食い続けなければならないが……美味そうだろう?」

女「フガッ」

 豚の体には耐え難い、嗅覚を刺激する様々な食べ物が並べられる。
 いまや悪魔の話に疑う余地は無く、目の前の蠱惑に手を出せば、二度と引き返す事は出来ない。
 涎を垂れ流し、無意識に鼻を向ける体をなんとか理性で抑える。

悪魔「人の好意は無碍に扱うもんじゃないぞ?」

 悪魔は優しく豚の頭を撫でた。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 17:31:21.76 ID:RH9uGsCAO
女「ブヒィィ……」

悪魔「それに、食っている間はもう何も迷う必要は無い。人間だった事も忘れて、ただただ、美味いと言う感情だけで余生を過ごすのも一種の幸福と言えないか?」

女「ブヒッ……フガッ……フガッ……」

悪魔「そうだ、一口食えばもう天国だ……」

 女が大きく口を開き、悪魔がにやりと笑う、その時に扉が開いた。
 
少女「ただいま……? あれ?」

女「ブヒィ」

悪魔「おい、なんだこいつは」

女「ブ、ブヒッ! ブヒブヒッ!!」

 悪魔と女の家人らしき少女の間に豚が割り込み、しきりに鳴く。

悪魔「……なるほど。そのちっこい女を守ろうとしてるのか? 健気な豚だな」

少女「あの……? どちらさまでしょうか? それにお姉ちゃんは……」

悪魔「お姉ちゃんなら、足元でブヒブヒ鳴いているじゃないか」

少女「え?」

悪魔「それから、私が誰か、知りたいか? 頭のおかしい人間扱いをしないなら、教えてやろうではないか」

少女「は、はぁ……。ひょっとして、悪魔さんですか?」

悪魔「む? 私が悪魔だと分かるのか? なかなか聡明ではないか。出来が悪いのは姉の方だけか」

少女「だって、私が呼び出したから……」

女「ブヒィィッ!?」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 17:38:24.18 ID:PLt17Eyo0
ちょwwwwwwwwwwwwwwww少女なにやってんだwwwwwwwwwwwwwwww
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 17:46:21.23 ID:RH9uGsCAO
悪魔「はっ。何を言い出すかと思えば、やはり血は争えんと言う事か。お前がごとき小娘に異界の門を開いて、悪魔を呼び出す事が出来るハズもなかろう!」

少女「現にこうして、来てくれたのに?」

悪魔「お前の関与しない事柄が原因で私はここに居るに違いない。そもそも意図的に開かれたのは三百年以上も前が最後だ……。今の時代にグリモワールが残っているハズも……」

少女「悪魔さん、悪魔さん。……これ、なぁんだ?」

悪魔「……ふっ。紛い物だな。現代の人間に魔術書が書けると思っているのか?」

少女「表紙は最近、自分で買った物だよ。中身は古本商からコツコツと断片を買い集めたんだ。このグリモワール、本物だよね?」

悪魔「……」

少女「……」

女「……ブヒッ」

少女「あ、お姉ちゃんあのね。グリモワールって言うのは魔術書の事で……ええと、ソロモンの鍵って聞いた事ない? ああ言うのだよ」

女「……ブヒッ?」

悪魔「豚に説明したところで理解出来まい。……一体悪魔を呼び出して、何が目的だ?」

少女「あ、うん。殺したい人が居るの」

女「ブヒッ!?」

悪魔「この豚か?」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 18:27:08.36 ID:RH9uGsCAO
少女「違うよっ!!」

悪魔「むう。ならばどこの誰だ?」

少女「……殺して欲しいのは多分、吸血鬼」

悪魔「吸血鬼? 奴らなんぞ恐るに足らんではないか。日光にも弱ければ、杭如きで死ぬ、ひ弱な奴らだ」

少女「……それが、日光は平気みたいで」

悪魔「……まあ、吸血鬼とは言えいくつか種類が居るからな。私が知る限りでは、ウクライナの吸血鬼がそうだ」

少女「どう見ても日本人顔なんだけどな……」

悪魔「まあ良い、それで吸血鬼がなんなのだ。異界から人間界を見る限り、奴らが人を殺せばたちまち大騒ぎになって、すぐに殲滅されるだろう?」

少女「人は殺して無いよ。……私が血を飲まされたの」

女「ブヒッ!?」

悪魔「その割には牙も見ない。……ああ。血を飲むことでしか、栄養を取れなくなったのか?」

少女「……うん。吸血鬼らしくなったのはそれだけで……別に牙も生えないし、日光も平気なの。こんな事ってあるの? 悪魔さん」

悪魔「それを聴くか、小娘。……お前の見に起きてる事が真実だろうが」

少女「……」

悪魔「……吸血体質だけを感染させる種も私は知っているが、奴らは光に弱いはずだ。家畜を襲い、それを食べた者が感染する……お前は血を飲まされたと言ったな? そうなると、私の既知には無い種が相手だ」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 18:33:21.98 ID:PLt17Eyo0
ギャグかと思ってたのに結構シリアスっぽい
支援
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/26(水) 19:21:57.90 ID:4wLIr0an0
乙です。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 11:05:57.41 ID:isal5xAAO
悪魔「それはさて置きだ。小娘がグリモワールを買い集めて、現代に復活させただと? よもや自分が特別な人間だと思っている訳ではあるまい」

少女「それは……」

悪魔「ふうむ。当ててやろう。お前に協力した者がいるな?」

少女「……」

悪魔「その様子だと、口止めされているか。しかしな、悪魔と契約した者の末路は決まって地獄行きだ。グリモワールを知る者が、それを知らん訳がない。そいつはろくでなしだぞ?」

少女「そんな事……。それに……今だって充分地獄ですよ……!」

悪魔「血を飲ませる代わりに、何か要求されているのか? ……見たところ金持ちの家にも見えないし、身体か」

 少女は黙って頷いた。
 豚と化した女は驚愕と納得を覚えた。
 確かに最近は食事の量も減り、夜間に出かける事が増えていた。
 どちらも自分が通った道であり、至極真っ当な事だと考えていたが、まさか吸血の性質によるとは。
 悪魔は人間の心情を素知らぬ顔で続ける。

悪魔「たかが身体を弄ばれる事と地獄を一緒くたにされるとは。地獄の餓鬼共が聴いたら憤慨するぞ」

少女「……」

悪魔「……だが、面白い事が起きているには違いあるまい。お前の口からグリモワール復活の協力者の名が出ないなら仕方ない。私が自ら探し出して真意を問うてやろう」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 14:39:47.46 ID:isal5xAAO
少女「……」

悪魔「ついでにその吸血鬼らしき者もぶちのめしてやろう。それで良いな? ……グリモワールを使って邪魔などしない事だ。そうすれば、契約と言う形を取らずに、お前の望みは叶う」

 少女は何かを言いかけたが、すでに悪魔の姿は無かった。
 
女「ブヒッ……」

少女「あ、お姉ちゃんの事、忘れてた……」

女「フガッ!」

少女「多分だけど……人間に戻してあげられるから……少し待っていて、お姉ちゃん」

 少女までもが家を飛び出す。
 残された女は途方に暮れた。

女「ブヒィ……」

 突如巻き込まれたこの異常事態はどのような結末を迎えるのか。自分は人間に戻れるのか。
 今は悪魔と少女が戻るのを、豚の姿で待つ事しか出来なかった。

女「ブヒッ」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 15:13:18.44 ID:isal5xAAO
 閑静な住宅街に咆哮が響いた。
 女の住まうアパートを後にした悪魔は、件の吸血鬼――と思われる人物を探し出すべく、異界から眷属の一つを呼び出した。
 ヨーロッパの各地にその名を残す怪異。人狼だ。
 しかし、多くの伝説と異なり、女性の姿に狼の身体の一部を合わせた、どこか愛嬌のある風貌を持っていた。
 ぴくぴくと耳を動かしながら、辺りを見回している。

悪魔「久々の人間界はどうだ?」

人狼「臭い。それに五月蝿い。こんなところに呼び出して何の用だ」

悪魔「……これだから堅苦しい狼は。せっかく楽しげな事が起きている人間界に呼び出してやったと言うのにな」

人狼「楽しげか。一体どれだけの人間を苦しめるつもりだ?」

悪魔「ふうむ。どうやら私が主犯だと思っているようだが……残念ながら今回は茶々入れ程度で留めておくつもりだ」

人狼「どういう事だ」

悪魔「古きグリモワールが復活し、さらには私すら知らぬ吸血鬼らしき者が、人間にちょっかいを出しているのだ」

人狼「吸血鬼……?」

悪魔「さすがは猟犬だ。獲物にしか興味を示さない獰猛さは私に飼われても変わらないか……」

人狼「貴様のくだらん挑発に乗るつもりは無い。……要点だけ話せ」

悪魔「その吸血鬼もどきをぶちのめすのが、今私たちがやるべき事だ」

人狼「吸血鬼を狩るのは大いに結構だが……お前に何の得がある? 放っておけばお前の言う楽しい出来事が起こるだろう?」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 15:34:12.95 ID:isal5xAAO
悪魔「どちらかと言うと、吸血鬼に興味は無い。私はグリモワール復活の真相が知りたい。もちろん行く末もな」

人狼「だから、何故だ。グリモワールによって吸血鬼が発生したのか?」

悪魔「ふむ……そうか。グリモワールの断片をあの小娘に集めさせるべく、吸血鬼を生み出した可能性もあるな……。とにかく、グリモワール復活に程度の差はあれ、その吸血鬼が絡んでいるのだ」

人狼「そういう事か。……吸血鬼の住処に目処は付いているのか?」

悪魔「いいや。だからお前を呼んだ。私に二人の人間の匂いが着いているはずだ。それの幼い方の匂いに、恐らく吸血鬼の匂いも含まれているはずだ」

 悪魔の黒衣に人狼が顔押し付けるが、すぐに離れた。
 切れ長の目が悪魔を鋭く睨み付ける。

人狼「ふざけているのか? 豚の匂いしかしない」

悪魔「……すまない。豚と人間の匂いがするはずだ。人間の方を良く嗅いでくれ」

 納得ならないと言う表情のまま、再び人狼が黒衣に顔を押し当てる。
 端から見れば、一組の男女がいちゃついているようにも見えた。人が通れば、さぞや大胆なカップルだと思っただろう。なにせ、ここは住宅街のど真ん中なのだ。
 程なく、人狼が、わかった、と呟き悪魔を連れて駆け出した。
 その姿を目で追えた者はこの住宅街には居なかった。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 16:53:36.24 ID:isal5xAAO
悪魔「……学校?」

人狼「学校だな。お前に着いた匂いに混ざる、血と精液の臭いを辿って来たが……」

悪魔「ふむ。いつの時代も春機発動期の男は性の事しか頭に無いのか」

人狼「いや。恐らく職員だろう。中年の臭いだ」

悪魔「……なるほど。現代に悪魔が呼ばれん理由がわかった気がするな」

人狼「こっちだ」

 すでに日が暮れているが、いくつかの教室には灯りが灯っていた。
 人外の二人組が知るところでは無いが、定時制に通う生徒達だ。
 人狼が時折、深く息を吸い込みながら、進む。
 正面玄関には入らず、右回りで校舎裏へ、渡り廊下の窓から中へ。
 明かりは無かった。

人狼「この扉の向こうに居る」

悪魔「食堂の様だが……ここで働いているのであれば、容易に血を飲ませる事が出来るな」

人狼「そんな事はどうでも良い。狩りを始めるぞ」

 牙を剥いて宣言すると同時に、扉を蹴り破った。
 派手な音を立てて、それらは扉として役立つ事はなくなった。
 厨房から、一人の男が飛び出して来る。
 頭髪の薄い、くたびれた中年だった。
 低く唸りをあげる、獣の耳を有する人狼を認知する前に彼は、机の幾つかを巻き込みながら、その身を壁に叩き付けられた。
 しかし、生死すら危ぶまれる拳を受けながら、彼は咳き込んだのみに過ぎなかった。

悪魔「……こいつが吸血鬼か」

中年「……あいつの言う通りだったようだな。悪魔か、お前」

悪魔「いかにも……と、言いたいが、お前を殴ったのは人狼と呼ばれる物だ。お前達とは犬猿の仲だろう?」

 狩人は、血気盛んに唸り、獲物を見据えるのみ。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 19:05:54.15 ID:Hgs84wJDO
期待
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/27(木) 22:59:37.37 ID:I7rMAWiV0
乙です。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 11:49:08.89 ID:bMMZmqDAO
 人外の力を持つ中年は卑下した薄笑いを浮かべた。

中年「小汚い犬人間の知り合いを持った覚えは無いが」

人狼「犬人間か……」

 静かに罵倒を受ける人狼に悪魔は違和感を覚える。
 犬呼ばわりされれば、怒り狂うのが常であるはず。
 もっとも、遠い昔に軽々と人狼を負かした悪魔のそれは別だが。

人狼「おい」

悪魔「うん? 人違いか?」

人狼「違う。[ピーーー]前に、用があるんだろう?」

悪魔「……それは問題ない。殺してからでも私の質問には答えられるはずだ」

人狼「そうか……」

中年「[ピーーー]だ? ……何の話かは知らんが……死ぬのはお前らだっ!!」

 その声と同時に、中年が人狼との距離を瞬く間に詰める。そして、振りかぶった。
 人ならざる動きだが、向かう者もまた人外にて強力。
 拳が下ろされる事は無かった。
 嘲りの一つでも吐き捨てるはずだった男は、背骨が砕けた事を認めた。
 彼は手首を取られ、床へ叩き付けられていた。
 技に因るところでは無かった。背負いもせずに腕力だけでそれを成した人狼は吐き捨てた。

人狼「大口の割には手応えの無い奴だ」

中年「お前もな……」

 よろよろと立ち上がり、背中をさすった。
 痛みが引くことの早さに、中年は吸血鬼の名を冠する事を改めて感じた。

中年「この分なら、やはり死ぬのはお前らだ」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 12:40:22.55 ID:bMMZmqDAO
こ、[ピーーー]!!

って駄目なのか……。

sagaってメール欄に入れれば良いのかに?
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/28(金) 12:41:56.66 ID:vsHJxMzuP
ドラえもんオナニー

sage sagaって入れるのが一般的だぬ
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 12:59:21.44 ID:bMMZmqDAO
これで。どうかな
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/28(金) 13:00:45.82 ID:bMMZmqDAO
両方きちんと入れなきゃ駄目なのか……。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 13:12:38.11 ID:wWYGmVWDO
変換すり抜けならsagaだけで大丈夫よ
sageたいならsageもどうぞって感じ
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 13:13:05.61 ID:vsHJxMzuP
[たぬき][田島「チ○コ破裂するっ!」]

別にageageで行くならsagaだけでもいいと思うお
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/28(金) 16:26:26.66 ID:bMMZmqDAO
把握した。
どうもありがとう。

ちなみに。
相当、不定期に書いてるんで。
sageで行こうかなと。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/30(日) 13:56:42.29 ID:t0ky2MRAO
人狼「何を言い出すのかと思えば……」

中年「確かに俺一人ではお前に及ばないが、こいつら全員が相手ならどうだ?」

 粘っこい笑みに呼応するかの如く、周囲の大気が揺れた。
 実体無き影が蠢き始める。
 成り行きを黙って眺める人狼の耳元で、足元で、背後で、唸りがあがる。
 この上無い怨磋の声だ。
 それれは徐々に数を増して行く。
 頭上から、獣のその耳元から、声に覆われながら、人狼は毅然として立っている。
 
中年「こいつら……血に飢えているらしい。お前の命もろとも餌にしてやるつもりだ」

 言葉に続いた高笑いを皮切りに、それらは動き出した。
 蠢く影に過ぎなかった彼らは、青白い顔を覗かせた。身体は依然として視認性が無い。
 すぐさま、そう広くは無い食堂は顔に埋め尽くされた。
 縦横無尽に宙を舞う生首が一斉に人狼へ襲い掛かる。
 血を寄越せ。口々に呻きながら牙を剥いた首は、しかしことごとく、地に堕ちた。
 当然、人狼が殴り、噛み付き、蹴り飛ばした結果だが、目で追えた者は居なかった。

人狼「肩慣らしにはなったな」

 吐き捨てて、足元に転がる顔を踏み潰した。
 鶏卵の割れる音を立派にした様な音を立てて、頭を構築する諸々を撒き散らして、それはひしゃげた。

悪魔「……しかし、一体あとどれだけ、準備運動をするつもりだ? 今のは十分の一にも満たない。それに……吸血鬼の回復能力はお前も良く知っているだろう」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/30(日) 16:30:55.63 ID:t0ky2MRAO
人狼「言われなくてもわかってる。……お前がどうにかしろ」

悪魔「……さっきまでの威勢はどうしたんだ。お前」

人狼「準備もせずにこんなの相手に出来るか!」

悪魔「やれやれ……。情けない犬だな」

人狼「見てるだけのお前に言われたくないな」

 悪魔の足元には、魔方陣が展開されており、首共は近付く事が出来ずにいた。
 対する人狼は悪魔を見もせずに、向かい来る凶刃を振り払い続けていた。
 個々の力量では圧倒的だか、数多の不死者を相手に圧されつつあった。
 元来の吸血鬼退治に用いられる胸に杭を打つ事も、首だけが明確な彼らには通じず、夜明けまでこの袋小路を続ける事も出来そうに無かった。
 体力は徐々に削がれ、肌には無数の噛み傷が残される。

悪魔「まさに多勢に無勢か……。おい、ここらでやめにしないか? 引き分けと言うことでな」

中年「引き分けだ? 何をバカな」

悪魔「私も加われば、夜明けまでこの状況を維持出来る。そうすればお前達は……」

中年「吸血鬼が太陽に弱いだなんて、おとぎ話の読み過ぎじゃないのか? そこで黙ってお友達が干からびるのを見てな」

悪魔「やはり血は吸うようだな。ならばあの小娘の言うお前の特性と同じか……。気は進まんが、飼い犬が死ぬを黙って見ていては飼い主失格だからな」

 悪魔が、魔方陣の一部を靴でこすり消した。

悪魔「……さて、引き分けとしなかった事を後悔させてやろう。私を殺せるか?」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/31(月) 20:09:16.07 ID:ysW3NZdAO
中年「……そんな手には乗るかよ」

悪魔「む……? ああ、戦力を私に回させて、人狼にお前を叩かせるとでも思っているのか?」

中年「……もしくはお前が突っ込んで来るのだろう?」

悪魔「それも悪くは無いが……これだけ居るのでは上手く行くかも分からん。おい、私一人で相手をするから下がってろ」

人狼「何を馬鹿な……。どうするつもりだ?」

悪魔「……黙って引っ込んでろ。吸血鬼もどき相手にむきになっても仕方ないだろう」

人狼「……わかった」

 言葉通りに後退を始めた。
 代わって悪魔が足を進める。
 中年は不審な眼差しを向けながら、吸血鬼達で身を固める。
 生首の壁の向こうへ、悪魔が語りかける。

悪魔「私の思惑はともかく……。どのみち降りかかる火の粉は払わねばならないだろう? 今ここで逃げ出しても、私は地の果てまでお前を追うつもりだ」

中年「……」

悪魔「……来いよ。それとも私が怖いか?」

 両手を広げて不敵に悪魔が笑う。

中年「……良いだろう」

 そうは言ったが、半数以上を待機させたまま、それでも三十は軽く越える吸血鬼が悪魔へ向かう。
 よほど警戒されているのか。ならば仕方ない。
 牙が黒衣を貫き、肉体に埋め込まれた。

悪魔「ぎええええ」

 完全なる棒読みの悲鳴をあげて、悪魔は背を地に付けた。

人狼「……」

中年「……」

 あまりと言えばあまりの出来事に言葉を失う二人をよそに、吸血鬼達は悪魔の身から血をむさぼり続ける。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/31(月) 23:05:34.97 ID:ysW3NZdAO
悪魔「死ぬう。ああ……痛くて、ああ痛くて……震える……」

 駄々をこねる子供の様にじたばたと、手足を動かす。
 名演だと悪魔は内心で自賛した。
 これで勝ちを確信した中年が吸血鬼のほとんどを自分に差し向けると。

人狼「……何をやってる?」

悪魔「死ぬぅ。助けてー助けてー」

中年「馬鹿にしやがって……!! お前ら戻って来い!!」

人狼「……お、おい?」

悪魔「ぐああああ」

中年「……」

人狼「……」

 何者も口を開かない時間が流れた。
 ある種の狂気と呼ぶべき悪魔の演技は、しかし止まらない。
 呆れかえった人狼は壁にもたれかかり、目まで閉じている。
 中年は、そうはいかなかった。
 吸血により気を狂わせる能力などは、手下に備わってはいないハズだ。
 何を企んでいるのか。
 緊張を解く訳にはいかなかった。
 
悪魔「ぎええええ」

 ひときわ大きい声を悪魔があげる。
 感情の全くこもっていない演技に中年は苛立ち始めていた。
 状況を打破せんと、目論見を模索するも見当も付かなかった。
 ふと、思う。
 ここの生徒達も、試験で難題にぶち当たった時、このような感覚に陥るのだろうかと。
 それがきっかけだった。
 戦いを長引かせ、人目に付かせようと言うのではないか。
 相手は素性も知れぬ輩だが、自分はここの職員であり、人として生活している。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/31(月) 23:36:48.18 ID:ysW3NZdAO
 この事態が大衆に晒された時、被害を被るのは自分だ。
 そうだ。そうに違いない。
 仮に当初の予測通りの、戦力分断が目的だとしても、人狼の動きに気を配っていれば、対応は不可能ではない。

中年「……望み通りぶっ殺してやるよ!!」

 吸血鬼が一斉に悪魔へ噛み付く。
 一瞬にして首に覆われた悪魔だが、果たして彼の考えは?
 やがて、群がりの内側で多くの血を貪った者が、這い出て来る。
 中年は、吸血鬼にも飽腹と言うものがあるのかと、納得した。
 這い出てた者達は一様に地に転がり、苦しげに呻いているのだ。
 ひょっとしたら、悪魔の身体には無限に血が流れているのか、と言う疑問が生まれる。
 地に堕ちた首が増えて行くのだ。
 やがては悪魔に食らいつく者は居なくなった。

中年「……くそ!」

人狼「……どういう事だ?」

悪魔「……お前なら、少し考えれば分かるだろう?」

 見るも無残――原型を留めぬ、肉塊と呼ぶべき姿の悪魔がむくりと起き上がった。
 ボロボロと肉片がその姿から剥がれ落ちた。

悪魔「人の姿と言うのは便利だ。それはさて置き……もう少し上品に食事したらどうだ、お前ら」

中年「いったいどうなってる……!!」

悪魔「吸血鬼と言うのは、生ける者に流れる血を糧にしている。……お前やその首共も、それは変わらないらしいな」

人狼「ああ……、そうか。お前の身体は死んでたのか?」

悪魔「正真正銘の半死半生と言ったところか? 魔方陣から出る際に半分殺しておいた」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/31(月) 23:56:54.09 ID:ysW3NZdAO
中年「いったい何の話だ……」

悪魔「日光には強くても、生き血を啜る者の因果からは逃れられなかった。……死者の血は吸血鬼には毒だ。知らんのか? 少しはおとぎ話でも読んでおくべきだったな。おい、留めはお前にくれてやるぞ」

人狼「……わかった」

中年「ま、待て! お前ら何が目的だ!? ……そうだ!! 何か質問があるんだろう、何でも答えるから!」

 中年が口早に叫ぶが、悪魔は氷雨の様な言葉で切り捨てた。

悪魔「死人も口を聞く。……私の世界ではな。さっさとやれ」

 机の足をへし折った即席の杭で、人狼は、哀れな男の胸を貫いた。

悪魔「さてと。一つ仕事が終わったが、この身体では少々不自由だ。私は一度、こいつを連れて異界に戻る」

人狼「じゃあ私も」

悪魔「いや、お前にはこの事を報告してもらう。私に付いていた豚の臭いを覚えているだろう? そこへ行って、吸血鬼は殺した。と、小娘に伝えてこい」

人狼「なんで私が」

悪魔「留めを譲っただろう」

人狼「……ずるいぞ」

悪魔「悪魔に卑怯は褒め言葉だと思うが?」

 悪魔は意地悪く笑うと、中年の死体と共に虚空へと消えた。

人狼「はあ……。面倒くさいな」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 04:03:06.80 ID:dV0yGRNa0
乙です。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/03(木) 22:01:35.96 ID:oFw+rwrAO
 

女「ブゥ?」

人狼「……悪魔の使いの者だ。おい豚、お前の飼い主はどこへ行った」

女「ブヒィ!?」

人狼「……お前が何を言ってるか? 分かるぞ。私も獣だ」

女「ブヒッ、ブゥブゥ!!」

 それから女はブウブウブヒブヒと、懸命に語った。
 悪魔が突然現れ、豚に変えられてしまった事に始まり、魔術書を巡り何かが動き始めた事、そして人狼が飼い主だと勘違いしている妹は、どこかへ出て行ってしまった、と。

人狼「なるほど……災難だったな、お前も」

女「ブヒッ」

人狼「私か? ……私も良く分からない。気付けばこの様な姿で、人を食らっていた」

女「ブ、ブゥゥ」

人狼「安心しろ。昔の話だ」

女「ブヒィ……」

 豚の体に人間の精神、人狼はこの奇妙な存在に好奇心を刺激されていた。
 悪魔と連んではいるが、彼女自身は魔術を行使出来る事も無く、この様な結果に合うのは初めてだった。
 確かに面白い事が起きている。
 人間界に着いて早々に悪魔が恩着せがましく口にした台詞を素直に受け入れた。
 グリモワールにはさしたる魅力を感じないが、さて。

人狼「……お前はこれからどうしたい?」

女「ブヒッブヒッ!!」

人狼「そうか。じゃあ行こう」

 豚の身を抱き上げ、小脇に抱える。
 そして、部屋を後にした。
 不安を置いて行く事は出来なかったが、女は何より妹の身を案じての決断だった。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/04(金) 00:06:01.00 ID:t5MrH5UAO
 夜は彼らに関せず、とばりを下ろしていた。
 家々がもらす灯りもまた、変わらない。
 非日常に身を置く女の目には、遠い昔日の景色に映った。
 ともあれ、それはここが夢では無いことを認めさせ、彼女を奮い立たせた。

女「ブゥ」

人狼「匂いを追うんだ。豚も嗅覚は悪くは無いと思うが……」

女「ブヒッ……」

人狼「まだ身体が馴染んで無いのだろう? 慣れればその鼻も器用に使えるはずだ」

女「ブヒッ!」

人狼「ん〜? 良いと思うけどな……。さてと、走るから落ちないようにな」

 言い切るなり、人狼の身体が急加速する。
 女は悲鳴をあげた。
 しかし止まるどころか加速を続ける人狼は、言葉に一切そぐわぬ一直線で、少女を目指す。
 屋根から屋根へ飛んだかと思いきや、次は民家二棟を丸々飛び越える。
 大きな鼻孔から鼻水が、目から涙が、水平に流れた。
 ようやく人狼が足を止めた頃には、ずいぶんな水気が顔を覆っていた。
 人の姿では無いことに、女は少しばかり感謝した。

人狼「……大丈夫か?」

女「フガッ」

人狼「なら良いけど……。この家の中だな、知った場所か?」

女「ブヒブヒ」

 見覚えは無かった。二階建ての、どこにでもありそうな家だった。
 灯りは一階の居間と思しき位置からのみ、こぼれている。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 00:53:07.39 ID:cUXAltnQ0
乙です。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/06(日) 02:02:24.56 ID:U0EI/VjRo
人狼「さて、どうしたものかな……」

女「ブヒ?」

人狼「悪魔は招かれていない家には上がれないんだ」

女「ブヒッ」

人狼「いや、私は悪魔では無いが……悪魔の眷属として人間界に召喚されたからな」

 要するに、悪魔として扱っても良いと言う事なのだろうか。
 オカルトの知識に乏しい女には、言い切れない。

女「ブヒッ、ブヒブヒ」

人狼「む? 私を田舎者だと思ってるのか……有線通話装置くらい知っているぞ」

 女は知らなかった。
 インターフォンを日本語に直すと、そんな言葉になるとは。

女「フガッ?」

人狼「何って……」

 それだろう? とインターフォンを指したかと思うと、人狼が後ろへ飛び退く。
 玄関へ向かってくる足音への反応だった。

人狼「誰か来るぞ……」

 女が息を呑む。
 人狼はそれを聴覚で感じた。

39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/08(火) 22:07:52.31 ID:t7faXI5AO
 ゆっくりと扉を開いたのは、少女だった。

少女「お姉ちゃん……」

人狼「……ふうん、この子か。吸血鬼は殺した、悪魔からの伝言だ」

 少女は緩慢な動作で辺りを見回す。

少女「悪魔さんは……?」

人狼「さあな。私に伝言役を押し付けて、異界に戻ったみたいだけど? ……不都合でもあるのか?」

少女「……いえ。ただ人狼の方がいらっしゃるなんて」

 二人に広がる不穏な空気を女は感じていた。
 人狼は明確な疑いの眼差しを少女に向ける。受ける少女は真意の図りがたい微笑みを湛えた。
 眼前の少女は果たして女の知る所と変わらないのか。

女「……ブゥ、ブヒ?」

人狼「……ここに住むのは誰だ?」

少女「……私の学校の先生ですよ。今のはお姉ちゃんの言葉?」

人狼「ああ。私には興味の無い事だからな」

少女「そうですか? ……じゃあお姉ちゃんをこっちに」

 少女が二人へ歩み寄る。
 一歩、また一歩と距離が近付く度に、女の不安が増して行く。
 教師が一枚噛んでいたなんて思いも寄らなかった。
 少女に連れられて家へ上がれば、全ては明るみに出て、元の生活に戻れる? 果たしてそうだろうか。
 悪魔の言葉を信じるなら、その教師は最低な輩だ。
 そして妹は、その見た目は変わらぬまま、別の何かを思わせる。

少女「どうかしましたか? お姉ちゃんも」

人狼「お前が人間だとは思え無いが……何とも言い切れない」

 人狼の言葉は女の心中をさらにかき乱す。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/08(火) 22:23:06.99 ID:ysApqgoBo
見てるぜ
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/08(火) 22:37:15.54 ID:t7faXI5AO
少女「私が悪魔に取り憑かれてるとか、ですか?」

人狼「悪魔よりも嫌な気配だ」

少女「……気のせいですよ、きっと」

 言い切られると、人狼は口を閉ざす他無かった。
 
女「ブッ! フガッ……ブヒブヒ!!」

少女「どうしたの? お姉ちゃん」

人狼「……私にも付いて来て欲しい? 私は別に構わないが」

少女「私も構いませんよ? それじゃあ、上がってください」

 少女はさっさと家に入ってしまう。

女「ブゥ……」

人狼「……あの子の言う通り、勘違いかも知れない。何かに憑依されている様では無くて、ただ嫌な気配がするだけだからな」

 玄関をくぐると、少女がスリッパを用意して二人を待っていた。
 言われるままに、居間へと通される。
 そこには、一人の男がソファに腰掛けていた。

少女「先生、お姉ちゃんと、悪魔さんの伝言役の人狼さんです」

教師「……そうか、二匹共椅子は居るか?」

 一般的な教師よりずいぶん若いなと、女は印象を受けた。
 銀縁眼鏡の奥から、不愉快その物と言った視線が注がれる。

人狼「すぐに動ける様にして置きたい。だから椅子はいらない」

教師「それが良い。……馬鹿を見るのはそういう頭の回らない奴らだ」

女「フガッ! ブヒッブヒッ!!」

 女が、がなり立てるが、教師はそれを理解する事が出来なかった。

人狼「……」

 それまで翻訳を務めていた人狼は口を開かない。
 
女「ブヒッ!! ブゥ!!」

人狼「……何を言っても無駄だな。この男、悪魔と契約している。他人を陥れる事なんて、何とも思っていない」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/08(火) 23:36:37.93 ID:t7faXI5AO
教師「……そうだな。例えば、ある男を吸血鬼にしてグリモワール集めの理由を作っても、なんとも思わんな。こいつがどうなろうと、俺の知った事じゃあ無い」

女「ブヒッ!!」

教師「だけどな……俺を非難するのは間違ってるぜ。こいつは喜んでるんだから」

女「ブヒィッ!!」

少女「あの、お姉ちゃんは何を言ってるのですか?」

人狼「そんな事は絶対に無い……そう怒ってる」

 喜ぶ事がどこにあるのか、そもそも何故教師の言葉を平然と聴いているのか。
 人の姿であれば、今すぐに妹の手を引き、ここを出ている。
 少女は姉の頭をそっと撫でる。
 なだめる様に言葉を紡ぐ。

少女「お姉ちゃん……私は大丈夫だよ? だから、そんなに怒らなくて良いの。先生には感謝してるんだから……だって」

 こんな事も出来るようになったんだから。
 その言葉が意味する所は、少女の真後ろに佇んでいた。
 初老の男が青白い顔に無表情で、女を見据えている。
 冷や水を浴びた様な感覚が女を襲う。

少女「……死に神だよ。私の言う通りにしてくれるんだ」

人狼「……」

 濃厚に漂う死の気配の中、身動き出来る者は居なかった。

少女「ふふ、びっくりしてる? お姉ちゃん?」

 死がそこにある。
 自らの死に様が脳裏に描かれる訳でも無ければ、白髪の無表情に殺気が含まれている事も無い。
 ただ、それは死であり忌避すべき物と女は理解した。
 緊迫した空気の中、少女だけが平然としている。

少女「私ね。これからこれからこの世界を壊さなくちゃいけないの、大変そうだよね」
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/09(水) 00:02:12.39 ID:nTPYzEuAO
人狼「世界を……」

 その先を繋げたのは彼女の主だった。

悪魔「壊す、か。面白い事を言うじゃないか」

 しかし、姿は無い。声のみが、人狼の口を介してその場に現れた。

少女「悪魔さんでも、死ぬのは怖い?」

悪魔「まさか。私にとっての死とは、単なる肉体の状態でしか無い。地獄に押し込められるのはご免だが」

少女「だったら、どうしてここに来て来れ無いの?」

悪魔「ふん。悪魔封じの魔法円を描けるらしいじゃないか。そんな所にノコノコ現れる程、私は馬鹿じゃないぞ」

少女「……どうしてそれを?」

 確かに、少女は物理的な手順を踏まずに魔法円を描く事が出来る。
 教師の座するソファの下には既に描かれていた。

教師「悪いな。俺の入れ知恵だ。ざまあみろ」

悪魔「彼の身に潜む悪魔と接触させてもらってね。……ま、だから私の事は気にしないでくれ」

少女「え……?」

悪魔「だから、好きにすればどうだ? 私は人間界がどうなろうと、楽しければ良いのだよ」

教師「お、おい……!! てめぇ!!」

少女「んー……ここに居る人はみんな私の邪魔をしそうだよね」

 誰もが、少女の言葉に死を覚悟した。
 悪魔の助けは宛てに出来ない。
 死に神が、人狼と女へと向かう。
 揺らめく様に近付く死に神を振り払う事も、逃げ出す事も、出来なかった。
 死への恐怖からか、或いは、それから逃れる事は何人にも適わないのか――。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/09(水) 00:06:44.64 ID:nTPYzEuAO
こういう系は難しいな。

見てくれてる人ありがと。

誤字とか、脱字とか、ごめんなせぇ。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 00:55:49.84 ID:lsRKO851o
誤字?脱字?そんなの気にしねぇ!
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 09:01:22.24 ID:ajm9z4730
乙です。
そうです。誤字脱字は流れで読むから無問題です。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 17:52:17.66 ID:L2WItF/2o
面白いで
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 15:24:32.32 ID:yZXe4y2AO
 骨と皮だけの節くれ立つ指の青白い手が、人狼の頬に触れる。
 添える様に、そっと。

人狼「ぐ……う……」

 人狼が小さく呻き、膝を付く。
 抱えられていた豚は落下し、腹を打ち付けられた。
 触れる死の手は、冷たく、渇いていた。
 人狼の生命力がその手へ、移り深く広がる。
 二色の肌が徐々に、同化して行く。
 荒く、深くなる人狼の呼吸は虫の息か。
 死に片足を突っ込み、彼女の生存本能はけたたましく警鐘鳴らす。
 意図せず、それを退けようと、死に神の腕を弱々しく掴む。
 しかし、結果は彼女の死を早めた。
 触れる程に、熱と命をより吸い取られる。
 程無くして、人狼の体温は、死に神のそれと等しくなった。
 彼女の死体は前のめりに倒れた。

女「ぶひっ」

 より濃さを増した死の香りに、豚は身震いする。

悪魔「……呆気ない幕引きだったな。つまらん奴だな」

 くすんだ死者の口で、悪魔は吐き捨てた。

少女「仇討ちでもしますか? 悪魔さん」

悪魔「その必要は無い。二つの意味でな。……聴きたいか?」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 18:37:04.11 ID:byQjVQOYo
お!?
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 20:10:41.44 ID:km81n6cp0
乙です。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/28(土) 08:31:27.35 ID:UKEEtSkH0
スタイリッシュに戦う悪魔さんを呼んでもいいですか?
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