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騎士「全てを見届ける」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 17:45:25.33 ID:aoryfah40
《魔王城・王の間》

ガキィン、ガキッン……

騎士「…………」

ゴォォォッ、バキッ

騎士「…………ぐ」

騎士「……っ」

騎士「ぅ…………お、俺は……、気絶、していたのか……」

ガキンッ、ガキィン、ガキッ

騎士「……そうだ! 魔王との最終決戦……くっ、こんなところで!」
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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 17:45:50.37 ID:aoryfah40
勇者「お前を倒して、全てを終わらせてやる……!」

魔王「死に損ないが笑わせる」

勇者「やってみせる! 僧侶、フォローは頼むぞ……っ!」

僧侶「はい、勇者様……!」

魔王「貴様ら纏めて黄泉の国へ送ってやろう。仲良く死ね! 《メテオブラスト》!」

僧侶「させません! 《マジックバリア》!」

魔王「たかだか人間の魔法障壁に何が出来る!」

勇者「俺もいるんだよっ!」バッ

魔王「ふん、見え見えだ、馬鹿め」

勇者「なッ、ちぃっ!?」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 17:46:19.34 ID:aoryfah40
魔王「フハハハハハハ! 至近距離からでは避けられまい! 《ヘルフレイム》!」

勇者「ぐっ……おおっ、ぐおおおおおおおおおっ!」

僧侶「勇者様!?」

勇者「ぐ、負けられ、ないんだよ……っ!」シャッ

魔王「っ、貴様……、まだそのような力が残っておったか! 消し炭となれ!」

僧侶「《スターライト》!」

魔王「なにっ!? 貴様ら所詮死に損ないが……!」

騎士「勇者! 僧侶!」

勇者「騎士、起きたんだな……!」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 17:47:22.03 ID:aoryfah40
魔王「またも死に損ないが一人か! そこで気絶しておればいいものを!」

騎士「ここから先は任せろ、回復に努めるんだ!」

魔王「フン、させぬわ!」バッ

勇者「ぐおおおおっ!」

僧侶「きゃあああっ!」

騎士「勇者! 僧侶! ……魔王め、我が剣技に光と散れッ!!」

魔王「人間風情がいちいちいちいち五月蠅いわッ!」

騎士「《ディヴァインソード》ッッ!」

魔王「な、それは……! 失われたはずの聖光剣技ッ!?」

騎士「これで終いだぁぁぁぁッ!」


ズシャァァァッ
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 17:49:43.06 ID:aoryfah40
魔王「ふ、ふ、ふ……、よもや、人間共に敗れようとはな……」

騎士「甘く見たな、馬鹿め……」

魔王「ふ、ふ、ふ……、貴様も同じよ。我が最後の力をその身に受けるが良い!」

騎士「ちっ……! その手を離せ!」

魔王「そうはいかん……、貴様に……、不老不死の呪いをかけてやろう……!」

騎士「!」

魔王「フハハハハ! 貴様はこの先老いることもなければ死ぬこともない! 貴様を知る人間が次々と死す中一人生き長らえる現実に悶え苦しめェッ!」

騎士「ええいっ、黙れ死に損ないが!」

魔王「フフフ、強がっていられるのも今のうちだ……」

騎士「黙れと……言っているッ!」

ザンッ …………ゴロッ
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 17:52:00.95 ID:aoryfah40
騎士「……これで終わりか。長い、旅も、全て……」

騎士「いやっ! 勇者、僧侶!」

勇者「…………」

僧侶「…………」

騎士「おいしっかりしろ、勇者! 僧侶! 今回復魔法を……、俺たちは勝ったんだ、勝ったんだぞ!」

勇者「き、騎士……」

騎士「勇者、今すぐに回復の……」

僧侶「……い、いえ、もう…………無駄でしょう」

騎士「おい! 何言ってるんだよ馬鹿! もう魔王は死んだ! 平和が訪れる! わかってるだろ!?」

勇者「わかっ、てるさ……。よくやってくれた、騎士……」

僧侶「世界の平和は……、騎士様のお陰です、ね」

騎士「おい馬鹿何言ってんだ! 死ぬ気満々じゃないか! 二人とも少し動くなよ、《ヒール》ッ!」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 17:53:33.29 ID:aoryfah40
僧侶「……もはや、生命力の尽きた……、私たちには……無駄、でしょう……」

騎士「なんで! なんで効果がないッ! 《ヒール》! 《ヒール》! 《ヒール》だ!」

勇者「やめろ騎士、無駄に……体力を使うな……」

騎士「無駄じゃないだろ、仲間のためなんだから……! 《ヒール》!」

僧侶「落ち着きなさい……!」

騎士「!」

僧侶「騎士様……私たちは、死ぬんです。生命力が尽き、死にます」

騎士「だ、だからって……そんな……」

僧侶「……世界が平和になるためのお手伝いが出来て、本当に良かったです……」

勇者「ああ、そうだな……」

騎士「おいお前ら何でそんな満足そうな顔なんだよ! まだ、まだいろいろやることあるだろ!?」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 17:55:19.61 ID:aoryfah40
騎士「お前ら、子供だって生まれたばかりで……、夫婦らしいことあんまりしてないじゃないか!」

騎士「折角結ばれたのに……、なんだって、なんだって……!」

勇者「ああ……子供、俺の、娘……か」

僧侶「あの娘を残して、逝くのは……、心苦しいです、ね」

勇者「なぁ、騎士……」

騎士「なんだよ……、なんなんだよ……!」

勇者「俺たちの娘……、お前に、任せて良いかな……?」

僧侶「お願いします……。騎士様しか、頼れる方はいないから……」

騎士「お前ら……。わかった。わかった! 俺がお前の娘を育てる! だから死ぬな!」

勇者「いや、無理らしい……」

僧侶「もう、なにも見えないですから……」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 17:57:04.47 ID:aoryfah40
騎士「おい待てよ待てよ待てよッ! どうするんだよ、王が、国民みんなが待ってるぞ!」

勇者「はは、みんな嬉しそうだな……」

僧侶「わたし、この国が……好きです……」

勇者「騎士、ありがとうな。お前は最高の……親友だった……」

僧侶「あなたのおかげで…………、勇者様と結ばれることが出来たんですから……ね」

騎士「待て、待ってくれ! 頼むから、おい、勇――」

勇者「…………」

騎士「そん、な……。僧侶、僧――」

僧侶「…………」

騎士「あ、あ……。あ、ああああああああああああああああああッ!」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 17:57:31.85 ID:aoryfah40
かくして、大陸中を恐怖の渦に巻き込んだ魔王という脅威は去った。
魔王撃破の立役者、騎士は、戦友の勇者と僧侶の亡骸と共に故郷へと帰った。
世界から魔物の影が消えたわけではないが、以前よりも数段暮らしやすくなったこの世界。
世界の英雄、騎士は、母国の騎士団長という地位を与えられていた……。

騎士「……」

騎士(あれから一年、か。早いもんだよ、勇者、僧侶。あっという間に、一年だ)

騎士(人々は平和な暮らしを謳歌してるよ。……同時に、お前らのことを忘れつつもある)

騎士(酷い話だとは思うが、平和なのが一番なんだろうな、やっぱり)

騎士「……」

団員「団長!」

騎士「騒がしいな。いきなりどうした」

団員「そ、それが……キマイラが現われたんです!」

騎士「なにっ!? キマイラだと!?」

キマイラは、魔王の眷属である魔物達の中でも上位に位置する強力な魔物である。
魔王亡き今、世界に蔓延る魔物達はその数を減らし、弱いものばかりが溢れるようになっていた中、
キマイラの存在は人々にとっては驚くべきものであった。

騎士「すぐに行く。場所は」

団員「じょ、城下町です! 団員が総出で対処に当たってます!」

騎士「住民の避難を徹底させろ! 行くぞ!」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 17:58:34.25 ID:aoryfah40
《城下町》

騎士「……久しぶりだな、キマイラ」

キマイラ「ギャオオオオオオオオオオオオッ」

騎士「会えて嬉しいか? 俺はまったく嬉しくないけどなッ!」

ザンッ

キマイラ「ギャオオオオオオオオオオオオッ」

騎士「相変わらず固いみたいで驚きだ!」

キマイラ「グオオオオオオオオオオオオオッ」シュンッ

騎士「当たるかよ!」

キマイラ「グオ……?」

騎士「こっちだ!」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 17:59:22.36 ID:aoryfah40
キマイラ「ギャオオオオオオオオオオオオッ!」

騎士「俺も、体がなまってるな……! オラァッ!」

ザンッガスッシュバッガシュガシュガシュ

キマイラ「ギャオオオオオオオオオオオオッ!?」

騎士「ははは、痛いか? でもまだ終わらないぜ!」

キマイラ「グオオオッ!」バッ

騎士「ちっ!? カウンターとは中々……うおおおっ!?」

キマイラの鋭いカギ爪が、騎士の腕を捉えた。そして、斬り裂かれる腕。
血が飛び散り、遠巻きに見守っていた人々の輪から短い悲鳴が漏れる。

騎士「いつっ――、キマイラ如きが舐めるなああああああ!」

キマイラ「ギャオオオオッ!?」

鬼気迫る騎士の様子に錯乱したキマイラが、闇雲に攻撃を繰り出す。
その全てを弾いていた騎士だったが、運悪く、その内の一つの攻撃が彼の心臓目掛けて――、

騎士「――ぅぐっ!?」

団員「団長!?」

キマイラ「ギャオオオオオオオッ!」

ドサッ

騎士「…………」

騎士(心臓、貫かれて……何で俺はまだ生きてる……?)

キマイラ「グオオオオオオオオオッ!」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 18:00:09.60 ID:aoryfah40
キマイラ「ギャオオオオオオオオッ!」

騎士「……おい、待てよ」フラッ

キマイラ「ギャオッ?」

騎士「なんかワケわかんねーけどまだ生きてる。勝負はまだ終わっちゃいない!」

ザシュッ

キマイラ「グ、オッ……」

騎士「は……、終わりだ。おい、団員! これで終わりだな」

団員「…………」

騎士「おい、どうした」

団員「だ、団長……、何故……」

騎士「ん?」

団員「し、心臓を貫かれてどうして生きていらっしゃるんですか……?」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 18:36:13.78 ID:qtyO0KvAO
続きまだかな
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 19:58:43.55 ID:ad3VyC/q0
期待
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 21:16:43.42 ID:aoryfah40
騎士「何でって……、そんなことよりキマイラの死骸を……」

団員「っ!」バッ

市民「ひっ……」

騎士「お、おいおい……、どうしたんだよ」

皆の急変した態度に騎士が狼狽えている間にも、彼の血まみれの体は回復を続けていた。
じゅくじゅくと傷口の肉が蠢き、順々に組織が再生していく。
胸元にぽっかりと暗い口を開けていた傷口も、またたく間に消えていった。

騎士「……おい、お前ら、どうして」

市民「ば、化け物……っ」

騎士「!」

その時、騎士の脳裏に魔王の最期の言葉が掠めた。


魔王『貴様はこの先老いることもなければ死ぬこともない!』


騎士(まさか……本当に……?)
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 21:23:19.62 ID:aoryfah40
騎士(ない、傷が! 全部……!)

騎士「不老不死の、呪い……。やってくれたな魔王!」

団員「団長……」

騎士「あ……いや、すまん……、とりあえずキマイラのことは任せたぞ」

言って、騎士は人々の視線から逃げるように自宅へと駆けた。
今はとにかく、落ち着きたい。一人になりたい。
不老不死の呪い、まさか、本当にかけられていたのか……?

《騎士自宅》

騎士「はぁっ、はぁっ……!」

メイド「あら……、ご主人様。どうかなさいました?」

騎士「キマイラが出た……。斃してきて、それで……」

メイド「凄い血……。今すぐ洗いますから!」

騎士「いや、いい……。少し、一人にさせてくれ」

メイド「ご主人様……?」

騎士「一人にさせてくれ。……あの子は、寝てるか?」

メイド「はい、すやすやと」

騎士「……そうか」

寂しげな笑みを見せ、騎士は自室へ向かった。
勇者と僧侶の遺した娘――勇娘は、騎士が預かり育てている。
メイドと勇娘には、自分の身に起こったことを伝えたくはなかった。
いや、伝える気にはならなかったといった方が正しいか。

……反応が、怖い。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 21:46:39.44 ID:zU6CWZEho
おもしろそうなのを見つけた期待
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 22:01:39.39 ID:aoryfah40
騎士「俺は本当に不老不死になったのか?」

騎士「夢や幻……ではないか……」

騎士「確かに心臓を貫かれた痛みも覚えている……」

騎士「……しかし、傷は塞がっている」

騎士「これが、不死か」

騎士「では、不老は……?」

騎士は自室に備え付けられている鏡を覗き見た。
普段とそう変わりない顔が、ただ映っているのみだ。

騎士「……不死、不老はともかく、不死の力があることだけは間違いないのかもしれない」

騎士「くそっ……なんてことだ……」

騎士「これじゃまるで……」

市民達から飛び出た一声が頭に過ぎる。
『化け物』……ああ、違いないだろう。こんなの、ただの化け物だ。

騎士「……死ねないのか? 俺は」

騎士「いや。試してみる方法はあるな」

騎士は部屋の壁に飾られている短剣を手に取り、首に宛がった。
思い切り引けば、勢いよく血が噴き出るだろう。そして部屋を真紅に染める、はずだ。

騎士「……」シュッ

プシャアアアアアアアアと、呆気ないほど簡単に血が噴き出た。
急激に血が減っていく感覚に一瞬目眩を覚えるが、

メイド「ご主人様、お召し物を……きゃああああっ!?」

騎士「メイド……。おい、よく見てろ……化け物が見れるぜ、きっと」

言うが早いか、ぱっくりと裂けた首の傷跡が徐々に塞がっていく。
肉が、桃色の軟らかな肉が蠢くのを見て、メイドは息を呑んだ。当然の反応だ。
やがて傷は完全に塞がり、血独特の錆び付いた匂いばかりが部屋に充満した。
当の騎士は、血色良くぴんぴんとしている。

騎士「……不死だ。化け物になったんだな、俺は」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 22:12:56.87 ID:aoryfah40
噂というものはすぐに広まるものである。
翌日にメイドが辞表を持ってきたのを皮切りに、城下町の人々は騎士を化け物呼ばわりし始めた。
次いで城の者たちも。騎士団の部下達もまた、彼と距離を置き始めていた。
誰も彼も、騎士を見る目が変わっていた。

救国の英雄から、おぞましい化け物を見る目へと。

どこにいるにしても、人の目が追ってくる。
騎士は騎士団長の座を退き、自宅に引きこもっていた。

騎士「……なあ、勇者、僧侶……、俺は化け物になっちまった」

騎士「お前達の所に行きたいと願っても、最早叶うことなんて無いんだぜ……」

騎士「笑っちゃうよな……」

騎士「ああ、そうそう。最近やっと、お前らが英雄として認められ始めてるぜ……」

騎士「……魔王を斃し、闇の眷属である俺に謀られ殺された悲運の英雄サマだってよ」

騎士「あはははは! 笑っちゃうよなあ……。誰がお前らを殺すもんかよ……。あれだけ俺はお前達を助けたかったのに」

騎士「それを、俺が殺しただと!? ふざけるな! 俺は、俺は魔王を……斃して……、どうして!」

騎士「どうして俺がこんな目にあわなくちゃならないんだ!」

騎士「俺はただ……。平和に暮らしたかっただけ……なのに……」

騎士「平和な世界が……欲しかったんだ……」

騎士「なのに……どうして……」

勇娘「……おとーさん……?」

騎士「っ、勇娘……、起こしちゃったか?」

勇娘「かお、こわいー」

騎士「……はは、すまん」

勇娘は三歳になり、言葉も覚え始めていた。
母親の僧侶に似て可愛らしい子供だ。
彼女の登場に、荒れていた騎士の心は少し静まった。

騎士「そうだ……俺はお前を育てないといけないんだ。勇者と僧侶の愛娘を……」

勇娘「?」

騎士「……良い子だ。さあ、眠りな」

勇娘「いっしょがいー」

騎士「…………本当に、良い子だよ」

愛おしげに勇娘の頭を撫で、騎士は彼女を抱っこした。
彼女と触れあっている間だけは、まだ幸せな気持ちを忘れずにいられるような気がする。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/01/31(月) 22:26:28.94 ID:aoryfah40
騎士「……ん? 勇娘、その怪我、どうした?」

勇娘「え? 何でもない……」

勇娘が六歳の頃。学問所に通っていた彼女の様子がおかしな事に、騎士は気がついた。
体のところどころに、アザが見える。

騎士「何でもないことはないだろう。俺に言ってみな……」

勇娘「…………」

騎士「勇娘は俺の大事な娘なんだ。お前に何かあると、俺が困る」

勇娘「あのね……、お父さんが……、化け物だって言うの。みんな」

騎士「…………あ、そう、なのか」

勇娘「わたしがね、そんなことないって言っても、信じてくれないの」

騎士「…………」

勇娘「それで、殴られたり、蹴られたりしたの。……化け物のむすめは、化け物だって」


勇娘の言葉を聞く度に、騎士の心に悔恨の念と、憎悪の念が宿る。
自分が勇娘を育てていることで生まれてしまう弊害を考えなかったことの自責。
事実は知られていないにせよ、人々があれだけ崇め称える勇者と僧侶の娘である勇娘を迫害する者たちへの怒り。
そして、結局は全ての元凶たる自分への凄まじい憎悪。
知らずのうちに剣を取っていた騎士は、勇娘に鋭く言い放った。

騎士「今日の内に王都を出るぞ」

勇娘「え……?」

騎士「誰も俺たちを知らない所に行くんだ」

勇娘「で、でも……」

騎士「俺には、お前を守る術がそれしかないんだ……。化け物はただ、逃げる他ないんだよ」

街の者たちを殺したいと思ったことは二度や三度ではない。
だが、そんな思いを抱く度に、まだ人間であった頃の自分、理想を追っていた頃の自分がそれを押しとどめるのだ。
自分が守りたかったのは、こんな人々なんだ、と。
守りたくて守った人々を手にかけてどうする。死んだ勇者と僧侶が、浮かばれないだけだ。
だからずっと、堪え忍んできた。逃げてきた。そして今回も、逃げるのだ。
今度は、自分たちを知らない、どこか遠い遠い世界へ。

騎士「だから、用意しなさい」

勇娘「うん……」

騎士「…………」

あの子は賢い子だから、きっとわかってくれるだろう。
そう信じると同時に、いずれ自身の秘密にも気付いてしまう日は来るのだろうとの確信もある。
それは怖い、怖いが……、しかし必ずやってきてしまうことなのだ。

騎士「それでも俺は、勇娘を育てる。俺にできるのは、まだそれだけだ」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 23:34:50.02 ID:vOJ3VfM+o
これは面白そう
超期待!
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 00:14:57.96 ID:kLt9YWm3o
期待
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 01:44:26.26 ID:A1K7w26DO
最近ファンタジーがちらほら出てきて俺得

王道突っ走って欲しい支援
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/01(火) 14:49:12.00 ID:WnzhAyhd0
その日、小さな荷物を纏めた勇娘と共に、騎士は王都を発った。
誰にも、なにも言わず、ただ逃げるよう、宵闇に紛れて王都からその姿を消したのだ。

化け物の逃亡に住民達は胸を撫で下ろし、皮肉にも、王都には平和な空気がまた流れ始めるのであった……。


そして、騎士と勇娘が王都を発ってからさらに五年近くの月日が流れて。


大陸中に、旅の先々で魔物を屠って行く、鎧で身を包んだ謎の騎士の噂が流れ始めた……。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/01(火) 14:58:22.88 ID:WnzhAyhd0
騎士「……勇娘、脚は大丈夫か?」

勇娘「大丈夫。お父さんは?」

騎士「……問題ない」

大陸の、端の、端の、端。
かつて魔王が住処としていた魔王城、そのすぐ近くの大地は、水はけも良ければ土も養分を多分に含んでいる、実に暮らしやすい土地であった。
しかし、かつて魔王が遺した魔力の残滓から魔物が常に湧いて出るため、誰も近づかぬ未踏の地でもある。
王都を発った後の騎士は、まだ小さかった勇娘を連れ、大陸中を旅して回った。安住の地を求めて。
初めはよくしてくれる者も多かったが、彼の正体、その身に刻まれた呪いを知ることで、誰もが彼を拒絶した。
いくら月日を経ても皺を刻むことのないその顔。いつしか騎士は、真紅の色に染め上げられた兜を被り、外すことはなくなっていた。
そしていつしか、真紅の鎧、まるで血染めの甲冑をその身に纏って、何かに取り憑かれたように魔物を屠り続ける彼の噂は大陸中を駆け巡っていた。

勇娘「お父さん、ここにするの?」

騎士「……ここなら、人は住んでいないな。二人でのんびり暮らすにはもってこいじゃないか?」

勇娘「のんびりって……、魔物がいっぱい出るみたいだけどね」

くすり、と笑みを漏らす勇娘。
五年の月日は人を大きく成長させるもので、齢十一となった彼女は、亡き母である僧侶の面影を多分に感じさせる美しい娘となっていた。
色々なことがありながらもまっすぐに成長してくれた彼女を、騎士は誇らしく思う。
そして、いつしか本当の娘のように可愛がっている彼女にすら、顔を見せることに恐れを抱くようになってしまっていた自分を情けなく思う。

娘に顔を、いつまでも老けないこの顔を、見せるのが怖い。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2011/02/01(火) 15:05:50.07 ID:WnzhAyhd0
騎士「…………勇娘、魔物だ」

勇娘「え? 感じないけど……」

騎士「修行不足だな」

勇娘「酷いなぁ」

騎士「三時の方向に二体、九時の方向に三体だ」

勇娘「挟み撃ちかあ……。でも、お父さんと私なら楽勝だよね」

騎士「……違いない、が、油断はしないようにな」

騎士の忠告に、勇娘は笑みをもって応えた。
騎士と共に世界を巡っていた勇娘は、いつしか魔物を屠り続ける彼の手伝いを申し出るようになった。
孤独に戦う父――彼女は自らの出自を知らない――の姿に、何かを感じ取ったのだろう。
騎士は嬉しさ半分、悲しさ半分に、彼女に戦い方を叩き込んだ。

僧侶の美しさを引き継いだ勇娘は、勇者の勇敢さと戦いのセンスをも引き継いでいたらしい。
齢十一ながら背の丈近くある剣を振るう彼女の姿は雄々しく、しかしどこか美しく映るのであった。

勇娘「行くよ!」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/01(火) 15:17:57.82 ID:WnzhAyhd0
騎士「行こう」

騎士が得物をすらりと抜き放つ、と同時に、狼の姿を模した魔物が現われた。騎士の相手は三体。
低級の魔物で、勇娘の言うとおり二人にかかっては負ける要素が見当たらないレベルの相手である。
兜の奥で短く息を吐き出してから、騎士はその身を躍らせた。

騎士「我が剣技に散れ!」

騎士の武器はちょうど真ん中に柄のある両刃の長剣であった。
扱いが難しく、趣味の武器とすら呼ばれるものであったが、騎士はこの双刃剣が好きだった。
流れるように舞い、踊るように敵を屠る。ただ得物を振っている時だけは、自身が化け物であるという現実を忘れられるから。

狼「グルルルルッ!」

騎士「邪魔だ」

すぱり、と狼の胴を真っ二つに斬る。
流れるようにステップを踏み、くるくると手の中で回る剣がもう一体の頭を額から斬り裂いた。
くるりくるくると得物を回し、背後に突き立てる。

騎士「0点。相手の力量を見極めるのは重要だ」

狼「ガ……、グ……」

刃は、仲間二体が次々に斬られていく中背後から騎士の首を狙って飛びかかろうとしていた狼の喉元に突き立っていた。
首を回してみれば、敵二体の頭を見事に斬り裂いた勇娘の姿が兜の奥から見える。あっちも心配はないようだ。
しかし、あの姿……、

騎士「父親にそっくりだな。ふふ……」

今は亡き親友に瓜二つの、勇娘の勝利ポーズ。
懐かしく、しかしもう戻ってくることのないその光景に、騎士は寂しげな声を漏らした。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/01(火) 15:24:21.92 ID:WnzhAyhd0
勇娘「お父さん、ここに住むの?」

騎士「ああ」

勇娘「そっか……。あ、ねえ、村を作るってのはどうかな!」

騎士「……村?」

勇娘「そう! 差別とかも、何も無い村……、みんなの理想郷!」

騎士「そんなのは夢物語だな」

勇娘「もー、お父さんってば何でそんなに夢がないの」

騎士「若い頃に夢を見すぎたんだよ」

勇娘「……? よくわからないけど、みんな仲良く暮らす村が出来たら、お父さんもその兜を外せるんじゃない?」

騎士「…………」

勇娘「私、お父さんの素顔が見てみたいなあ。小さい頃は見せてもらってたかもしれないけど」

騎士「この顔はな、見るに堪えないんだよ。小さい女子供に見せるもんじゃない」

勇娘「そーやっていつもはぐらかすー」

騎士「……それで、村を作るってのはどういう事だ?」

勇娘「逃げたね……。あのね、ここは作物が育ちやすいんでしょ?」

騎士「ああ。魔物が出る以外は大陸のどこよりも農業に適しているはずだ」

勇娘「だから、畑を始めに村を作る! そして、お父さんが村長になる!」

騎士「…………」

勇娘「お父さんが村長になれば、差別だって何も無くなるじゃない? 魔物だって倒せるし!」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/01(火) 15:29:34.60 ID:WnzhAyhd0
騎士「しかし難しいぞ? 好き好んでここにやってくる者がいるとは思えない」

勇娘「だから、ここに村を作るんだよ」

騎士「……?」

勇娘「ここを理想郷にする。私たちと同じような境遇の人たちが、安心して暮らせるように……ね?」

騎士「…………お前は、大きくなったんだな」

勇娘「どうしたの?」

騎士「いや、娘の成長を喜んでいるだけだ。きっと俺の親友も、喜んでくれているだろう……」

勇娘「親友って? え? なんなの、急に?」

騎士「いや……、勇娘、俺は協力しよう。ここに村を作る」

勇娘「ほんと? やったあ!」

騎士「だが、村長はお前だ。俺は……、そういうのには向いてない」

勇娘「え? なんで?」

騎士「顔も見せない村長なんて怪しすぎるだろう?」

勇娘「じゃあ見せればいいじゃない」

騎士「……無理だ。まあ諦めろ」

勇娘「ケチだなあ……」

騎士「くくく……、さて、村を作るのならこれからやることが多くなるぞ」

勇娘「うん! がんばろ、お父さん!」

騎士「……ああ、そうだな」
31 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/01(火) 15:35:12.55 ID:WnzhAyhd0
コテをつけた。
結構年月とか飛ばしまくってるけどまあ笑って許してほしい
こちらのオナニーで、暇潰しや少しでも楽しいと思ってくれたんだったら書き手冥利に尽きる
32 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/01(火) 15:51:53.01 ID:WnzhAyhd0
それから、騎士と勇娘の村作りが始まった。
まずは簡単に二人の家を建てるところからだ。

騎士「木材はこの程度か?」

勇娘「でも、こんなにたくさんどうやって運ぶの……?」

騎士「……親友に教えて貰った魔法がある。《トラクタービーム》」

勇娘「うわっ! 木が浮いた……」

騎士「俺の集中力が切れる前に早く持って行こう」

勇娘「うん!」


二人は仲良く、そして着実に、計画を進めていった。


勇娘「完成! 私たちの家ー! いえーい!」

騎士「……壊滅的につまらない洒落だな」

勇娘「ひどっ……」

騎士「冗談だ。しかし、色々不格好だな」

勇娘「うん、でも良いじゃない! 親娘の共同作業の賜物よ!」

騎士「それにしても、家を建てるのに半年近くかかるとは……」

勇娘「そういうものでしょ。でもこれからが早いよ、きっとね!」

騎士「そうかな……、そうだといいな……」


不老不死。
騎士にかけられた呪いは、彼一人を時代の流れから取り残してしまう、最悪の呪いであった。
勇娘の成長を見ることが出来る。それは素直に嬉しい、だが、いずれは、来てしまうのだ。

騎士(勇娘が死に……俺だけが……生き残る日が、いつか……)



(とりあえずここまでで! 続きはまた今度!)
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 16:28:44.31 ID:A1K7w26DO
支援、読んでるぞーがんばれー
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 16:33:29.58 ID:egw5FLRAO
また面白そうなのが!
ブクマ
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 16:45:36.69 ID:6EKv1j0AO
同じく読んでます
頑張って下さい
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 16:54:03.51 ID:REwm4kvao
このスレを魔王様が気にかけているようです

37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 17:52:08.31 ID:yPAmG35AO
-=◎=-

監視中
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/01(火) 20:59:46.11 ID:QBxjqUTW0
乙です。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 21:45:30.04 ID:VyS6UkD9o
面白いが救いがなさそうだな
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 01:31:56.38 ID:Z7K5HdDfP
>>1
女騎士スレも書いてるか?
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 09:56:15.15 ID:uDyqoL4k0
>>40
特定しなきゃいけない病気にでもかかってるのか?
42 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/02(水) 10:31:40.49 ID:rmi0HmH10
>>40
たぶん影響は受けてるな
今日明日明後日と投下は出来ないので報告
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 12:54:18.02 ID:Fg95zmoKP
>>41 俺が思ってるのと違うスレかもしれんが放置されてるからじゃないかそっちが
44 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 15:31:23.51 ID:26HSSYhZ0
それはかなり突然のことであった。

騎士と勇娘が家を建て、畑を作り、簡単な柵を辺り一帯に覆った頃。
二人の住処が村の姿に一歩ずつ近づいている頃、勇娘が齢十二の年。


二人だけの村に、初めて人間が現われた。


勇娘「お、お父さん大変!」

騎士「……どうした?」

勇娘「傷だらけの女の人と、男の子が倒れてるの!」

騎士「……すぐに行く。勇娘は手当を頼むぞ」

勇娘「うん!」

もう何年も勇娘以外の人とは話していない。
決してボロを出さないようにしよう――そう誓い、騎士は勇娘の背中を追った。
45 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 15:32:12.51 ID:26HSSYhZ0
村の入り口に辿り着いた騎士は、倒れ込む二人の男女とその側に屈み込む勇娘を見つけた。
男女は母と息子という体ではなく、姉と弟といった年の頃に見える。
何にせよ、二人とも血まみれでかなり危険な状態に違いはないだろう。

騎士「勇娘、どうだ」

勇娘「意識はあるみたい」

少女「……う、ぅ」

勇娘「あ、無理して口を開いたらダメだよ!」

少女「ぁ、あの……、弟、だけでも……助け……」

掠れるような声でこちらに手を伸ばす少女。
その手をしっかりと取り、騎士は彼女を安心させるべく強い声を出した。

騎士「心配するな。隣の子も……君も絶対に死なせはしない」

少女「……はぃ…………」

安らかな顔を浮かべ瞳を閉じた少女と、その隣で倒れ伏す少年に、騎士はかつての親友から教わった回復魔法をかけた。
46 : ◆V8UyFaPsi2 [saga]:2011/02/03(木) 15:36:18.46 ID:26HSSYhZ0
騎士「これで治癒能力が高まった。とりあえずベッドに運んで体力回復させよう」

勇娘「うん!」

騎士「二人……抱けるな。よし……」

騎士(……軽い……、いや、軽すぎる)

勇娘の補助を受けつつ、騎士は急な来訪者を抱きかかえた。
彼らの信じられない軽さに驚きつつ、騎士は自宅へ向かう。

勇娘「客間を作っておいてよかったね」

騎士「まったくだ」

増改築を繰り返され、二階建てになった村長宅の客間に二人を放る。
二人に刺激を与えないよう、騎士は勇娘と共に部屋の外へ出た。

勇娘「大丈夫かな、あの人達」

騎士「大丈夫だろう。寝息も整っていた」

勇娘「よかった……。でも、お客さんなんて初めてでちょっとどきどきするね」

騎士「ああ、そうだな。弟の方はお前と同じ年の頃だ、もしかすると仲良くできるかもしれないな……」

勇娘「楽しみだなあ。早く元気になって貰わなくちゃ!」

騎士「…………」
47 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 15:38:08.20 ID:26HSSYhZ0
騎士(おそらくあの少女と少年は……逃げ出した奴隷だろう)

騎士(足の裏の烙印が、それだ……。そして、姉の方は……)

騎士(……ハーフエルフだろうな。それ故の奴隷だ……)

ハーフエルフ。
エルフ族と人間の間にもうけられた互いの血が半々の種族で、どちらの側からも迫害されることの多い悲しき種族である。
人にあらざる存在であるエルフの力を少しでも宿すハーフエルフを、人間は恐れる。
人間を穢らわしい生き物と信じて止まないエルフは、その血の流れるハーフエルフを嫌悪する。
結果、どちらからも疎まれるハーフエルフは隠れ里を作り外界との接触を断って生きるか、あるいは――、

騎士「……生きている者として、全ての尊厳を踏みにじられるか。そのどっちかだな」

騎士「…………」

勇娘「お父さん? どうしたの?」

騎士「いや、考え事だ。畑仕事や他のことは全て俺がやるから、勇娘は二人の世話をしてくれるか」

勇娘「うん、任せて!」
48 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 15:45:51.63 ID:26HSSYhZ0
二人の事を気にかけながらも、騎士は自身の仕事に精を出した。
今まで二人で暮らしていたのが、四人になるやも知れない。
狩りに畑仕事に、と、騎士は休む間もなく働く。体を動かしている間は何も考えなくて良いのが救いだ。
汗を流せば、自身が化け物であることも忘れていられる。近しい者に化け物であると知られる可能性も、忘れていられる。

勇娘は精一杯、あの二人の看病に勤しんでいた。まだ深い眠りに落ちているようだが、命に別状はない。
彼女のためにも二人のためにも、勇娘にはそろそろ《ヒール》程度の初級回復魔法を教えても良いかもしれない――、

そんなことを考えていた騎士の元に、勇娘が興奮した面持ちでやって来た。

勇娘「お父さん!」

騎士「どうした? 二人は良いのか?」

勇娘「二人とも意識が戻ったの! さ、早く来て!」

騎士「おい、引っ張るんじゃない……」

勇娘「はーやーくー!」

騎士「わかったから離してくれ……」
49 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 15:56:14.64 ID:26HSSYhZ0
《村長宅・二階客間》

ベッドから上半身だけを起こしたその少女は、窓の外を見つめていた。
奴隷商人から命からがら逃げてきて、追っ手からの容赦ない攻撃に心身共にボロボロになった末、辿り着いたのがこの小さな小さな村だった。
いや、村と呼べるのかすらも怪しい。畑に、家が一つだけ。大陸の端の端の端に、ぽつんと存在する、隠れ村……?
自分たちの世話をしてくれた娘は、大急ぎで部屋を出て行ったので何も聞くことは出来なかった。
こうして寝かせて貰えているということは、家主は悪い人物ではないのだろう……。
いや、そうと決めつけるのは早い。回復したところで人売りに売り渡そうと思っているのかもしれない。

少女「…………」

少年「ねーちゃん……」

知らず顔の険しくなった少女に、共に逃げ出してきた弟――血の繋がりはないが、自身を慕ってくれていた子だ――が不安げな声を漏らす。
少女は彼を安心させるべく、笑みをその顔に浮かべて彼の手を握った。
――大丈夫、何が何でも守り抜くから。

勇娘「……さ、お父さん早く!」

騎士「だからいい加減に手を離せと……」

そんなときだった。急に客間のドアが開き、世話をしてくれていた娘と、鎧に身を包み兜で顔を隠した謎の人物が姿を見せたのは。

少女「……あっ」

騎士「……確かに目が覚めたみたいだな」

勇娘「でしょ? さ、おねーさん、色々聞きたいけど良いよね?」
50 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 15:59:08.43 ID:26HSSYhZ0
少女「え、ええ……」

騎士「まずはお互いに自己紹介から始めないといけないだろうな。俺は騎士だ」

勇娘「その娘の、勇娘です! ぶいっ!」

少女「あ、はい……、私は……その……エルフ、です……」

騎士「……君は?」

少年「俺は……男、です……」

騎士「そうか。名乗ってくれてありがとう。それと……あまり緊張しないで良い。君たちの素性の想像はついているが、別にどうこうするつもりはない」

エルフ「え……」

勇娘「素性?」

騎士「勇娘、ここから先は難しい話になるから農作業をしておいてくれ」

勇娘「……はーい」トテトテ
51 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 16:05:09.84 ID:26HSSYhZ0
騎士「……さて、単刀直入に聞こう。君たちは奴隷だな?」

エルフ「っ」

男「……ねーちゃん」

騎士「心配はいらない。取って食うつもりはない」

エルフ「……助けて頂いたことは、本当に感謝しています……。ありがとうございました。でも……」

騎士「何度でも言おう、心配はいらない。たとえ君がハーフエルフだろうと、奴隷だろうと、関係はない」

エルフ「な、何故それを……」

騎士「かつては冒険者だったんだ。エルフとハーフエルフの違いはわかる」

エルフ「…………」

騎士「もう一度言う。心配はいらない。俺たちは君たちを客人として丁重にもてなそう」

男「え……?」

騎士「……君たちが望むのならば、ここに住んで貰ったって構わない」
52 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 16:10:47.75 ID:26HSSYhZ0
エルフ「……私たちが奴隷と知っていて、なぜ……?」

騎士「迫害される者の辛さは知っている」

エルフ「私を商人に突き出せば……、きっと懸賞金が入りますよ……?」

騎士「君は奴隷商人の所へ舞い戻りたいのか?」

エルフ「そんなわけではありません……、ただ、どうして……そんな優しい言葉をかけて下さるのかわからなくて……」

騎士「……安住の地を求め、俺たちはここへやって来た。ここに俺らと同じような人々の理想郷を作るのが目的なんだ」

エルフ「そう、なんですか……。理想郷……」

騎士「滅多に人が来ないから、住人の数が増えにくいのは難点だけどもね」

エルフ「…………」

騎士「さて、聞いてみよう。君たちはここに住むか? それとも、ここを出て彷徨うか?」

エルフ「…………私は……」

騎士「…………」

男「……ねーちゃん、俺は……、ここに住みたい……」

エルフ「男……」
53 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 16:19:55.49 ID:26HSSYhZ0
男「きっと、きっとこの鎧の人は悪い人じゃないよ。だってあの商人の人たちとは全然雰囲気も違うし……」

エルフ「…………」

男「もう逃げ回らなくても済むんだよ? だったら……」

エルフ「……私も、そう思う……けど……」

騎士「…………」

エルフ「……わたしは、その……」

騎士「……君は、心の底から人を信用しきれない。そうかな?」

エルフ「っ……ぁ、はい、そう、です……。生まれた時から、ずっと……疎まれて……いて」

騎士「加えて俺のこの姿が、余計君の不安を増長させているわけだ」

エルフ「……失礼ですけど、その……通りです」

騎士「わかった……。兜を脱ごう」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 16:25:24.18 ID:Ea1bLqQqo
wwktk
55 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 16:25:36.71 ID:26HSSYhZ0
本来ならば、兜を脱ぐという行為は、騎士にとっては自殺行為以外の何物でもなかった。
それは自身の顔をさらけ出すということで、それは《化け物》であることを知られてしまう可能性を飛躍的に高めるものだから。

しかし、騎士の心には、どうしてもこの少女を安心させてやりたいという思いが芽生えていた。
心情的にはまだ距離のある彼女にならば、顔を見られても構わないと思ったからなのか、それとも他に理由があるのか。
理由はわからないけれど、その時確かに、騎士は兜を外していた。


もう十数年、変化の兆しを見せることのなくなったその顔を、晒け出す。


騎士「……どうだろう。これで、少しは信用してくれたかな」

笑みを見せようと思ったが、長い間使っていなかったからか筋肉が凝り固まっておかしな顔になってしまった。
バツの悪い気持ちでハーフエルフの少女を見ると、彼女は動きを止め、じっとこちらを見据えているのが目に入る。

騎士「どうかしたか?」

エルフ「い、いえ……、その……」

騎士「……?」

男「ねーちゃん、もしかして……」

ジト目の少年が訝しげな声を出した。

エルフ「ち、違うわ……、違うから……」

男「何も言ってないよ……。でも確かに、カッコ良いよね」
56 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 16:31:06.54 ID:26HSSYhZ0
騎士「……俺も、人に疎まれていたから、この顔を晒すのは本当は怖いんだ」

エルフ「え……?」

騎士「でも、何だろう……、君になら見せても良いと思えたんだ。理由はわからない」

エルフ「ぇ、ぁ、ぅ……」

男「鎧のにーちゃん、それは……逆効果……」

騎士「……? まあ、とにかくだ。これだけで俺のことを信用してくれるかはわからないが、考えて欲しい」

エルフ「は、はい……」

騎士「……それじゃあ、兜を着けさせてもらうよ。勇娘には、この顔を見せたくないからね」


兜を着けた後、騎士は「後は二人で話し合ってくれ」と言い残し部屋を出た。
57 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 17:07:16.72 ID:26HSSYhZ0
エルフ「…………」

男「ねーちゃん、見とれてたでしょ」

エルフ「み、見とれてなんかないわよ」

男「……ねーちゃん、男の人にあんなに優しくされたの初めてだもん、しかたないよ……」

エルフ「…………ええ、そうね」

瞳を閉じれば、生まれてから今までその身に受けた仕打ち、全てが鮮明に思い出される。
どれもこれも、自身がハーフエルフであるのを良いことに好き放題にされてしまった、忌々しい記憶だ。
幸いなのは早期に奴隷扱いになったがために操を守りきれていることか。
しかし、鞭打ちや食事を与えられなかったこと、乱暴に扱われたことなど、やはり酷い扱いを受けていたことに変わりはない。

エルフ「……あの人は、信用できるのかな……」

男「それは、ねーちゃん次第だよ」

エルフ「……そうね」

ぎこちない笑みや、顔を晒す事への恐怖。
鎧の彼――騎士の言葉を聞いて、少女は少しだけ、彼を信用できるかもしれないと思った。

いや、信用してみたい――と、思った。
58 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 17:34:38.24 ID:26HSSYhZ0
勇娘「夜ごはんですよー」

エルフ「あ、ありがとうございます……」

男「ありがとー」

勇娘「ねぇねぇ、二人ともこの村に住むんですか?」

男「俺は住みたいと思ってるけど……」

勇娘「ほんと!? おねーさんは?」

エルフ「……私は、その……」

男「考え中だって」

勇娘「そっかぁ……。ずっとお父さんと二人きりだったから、近くに住む人が増えると嬉しいんですよねぇ」チラッ

エルフ「……あの、あなたは…………私がハーフエルフだって知っていますか?」

勇娘「はーふえるふ? ああ、ハーフエルフ! 知ってます! おねーさんハーフエルフさんなんですか?」

エルフ「……は、はい」

勇娘「うわーっ、すごーい!」

エルフ「……え?」
59 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 17:35:14.52 ID:26HSSYhZ0
勇娘「お父さんが昔教えてくれました。人間のたくましさとエルフの美しさを併せもった凄い種族だって」

エルフ「そんな、ことを……?」

勇娘「でも、人間もエルフもその凄さに気付かないから、ハーフエルフはみんなから差別されるんだって」

エルフ「…………」

勇娘「差別なんてばっかばかしい……。そう思いませんか? お父さんも昔化け物だとか何とか言われてましたけど」

エルフ「…………」

勇娘「自慢のお父さんなんですよ。優しいし、稽古もつけてくれるし、料理も上手いんですっ!」

エルフ「……あなたのお父さんは、素敵な人なんですね……」

勇娘「はいっ! あの、おねーさん」

エルフ「……なんでしょう?」

勇娘「ここを理想郷にするお手伝い、してくれませんかっ?」
60 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 17:37:26.89 ID:26HSSYhZ0
エルフ「理想郷……」

勇娘「はい! おねーさん凄い綺麗ですから、踊り子とかになればもう人気大爆発です!」

エルフ「踊り子って……」

勇娘「昼は仕事に精を出し、夜はみんなでバカ騒ぎ。いつかこの村で、そんな幸せな生活を送るんです。みんなでね」

エルフ「…………」

勇娘「おねーさんの踊りは夜のメインイベントで、仕事に明け暮れたみんなを笑顔にさせるんです! 素敵だと思いませんかっ!?」

エルフ「……ふふ。そうですね、素敵です」

勇娘「ですよね! お酒や果物食べて、バカ騒ぎ! いつか必ず実現させます! だから、その第一歩としておねーさんの力が欲しいです!」

男「……必要とされてるよ、ねーちゃん」

エルフ「…………」

騎士「やれやれ、やけにヒートアップしているな、勇娘」

勇娘「あ、お父さん!」
61 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 17:39:41.59 ID:26HSSYhZ0
騎士「すまない、勇娘が騒ぎちらして」

エルフ「あ、いえ……」

騎士「こいつの話は聞こえてきたが……、概ね俺も同じ気持ちなんだ」

エルフ「と、いうと……?」

騎士「君は、エルフの血を引いているだけある。文句なしに美しいと思う」

エルフ「そ、にゃっ……」

男「鎧のにーちゃん……だからそれは色々と……」

騎士「いずれこの村に人が増えた時、君の存在はきっと人々の癒しになると思う」

勇娘「ですです!」

騎士「それは勿論、俺にとってもだ。……だから、君の力が欲しい。当然、弟君もね」

男「へへっ」

エルフ「ぁ、ぅ……その……いきなり、そんな…………」
62 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 17:42:14.16 ID:26HSSYhZ0
騎士「考える時間はいくらでもあるから……、是非検討して欲しい」

勇娘「ですです!」

騎士「それじゃ、また後で食器を取りに来る」

勇娘「おねーさん、踊り子踊り子!」

騎士「調子に乗るな」ポカッ

勇娘「きゃふんっ」

スタスタ

エルフ「……な、なんなの、あの人……」

男「さぁーねぇ?」

エルフ「断りにくく、なっちゃったじゃない……」

男「といっても、ねーちゃんの心はもう決まってたんじゃないの?」

エルフ「…………」

男「ここはきっと、素敵な村になるよ。その手伝い、出来たら嬉しいと思わない?」

エルフ「…………」


弟の問いかけに、姉は小さく頷いた。
63 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/03(木) 17:44:32.81 ID:26HSSYhZ0
つーわけで
村に人が増えるよ やったね騎士ちゃん!
な感じの話でした、と。

騎士は鈍感なので自分の言葉が招く意味を解してない感じですな

今日の投下は終了、明日明後日は投下無しの予定。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 17:51:57.80 ID:tS1am0Jpo
おいやめろ余計なフラグ立てるな
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 17:52:17.12 ID:Ea1bLqQqo
おつ、らぶらぶこめこめおもしろかった
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/03(木) 18:26:39.24 ID:2y44X1DAO
乙ー
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 19:08:22.44 ID:tATfHnPAO
乙です
同じくフラグが怖いです
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 19:15:41.00 ID:8KYi/3wDO
それは鬱エンドフラグや…

乙乙
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 20:26:43.36 ID:PagBef7AO
期待どおりの面白さだったおつ!
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 21:58:19.06 ID:dJ7f87gho
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 22:59:37.82 ID:o/G77T560
乙です。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 11:29:18.18 ID:QpqV5y/lo
いいねイイネ乙だね
ハーフエルフなら寿命も長いだろうし・・・
73 : ◆V8UyFaPsi2 [saga ]:2011/02/05(土) 17:32:24.58 ID:YvYBtIQN0
勇娘「お父さんもあの人達が村にいてくれた方が良いと思ってたんだ」

騎士「ん? ああ……、そうだな。だがさっき語った理由は副次的なものだ」

勇娘「?」

騎士「彼女達にはこれ以上辛い思いをさせたくない……というとおこがましいかもしれないが、要はそういうことだ」

勇娘「……ここにいれば、誰にも差別されることもなにもないってこと?」

騎士「ああ」

勇娘「なるほど……。おねーさんが綺麗だから一目惚れしたってワケじゃないんだ?」

騎士「何をバカな」
74 : ◆V8UyFaPsi2 [saga ]:2011/02/05(土) 17:33:00.85 ID:YvYBtIQN0
勇娘「そういえばお父さんからお母さんの話って聞いたことないなあ」

騎士「話して楽しいことじゃないさ」

勇娘「いっつもそう言うじゃない。そろそろ教えてくれても良いんじゃない?」

騎士「……お前は、母親によく似ているよ」

勇娘「え?」

騎士「……そっくりだ」

勇娘「そうなんだ……。初めて聞いたな、そんなこと」

騎士「まあ、初めて言ったしな」

勇娘「もっと聞かせてよ! 馴れ初めのこととかさ」

騎士「それはまた、おいおいだ」

勇娘「ケチ」

騎士「…………」
75 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/05(土) 17:35:38.89 ID:YvYBtIQN0
騎士「……そういえばそろそろ食事も終わった頃か?」

勇娘「露骨に話を逸らすね。食器、取りに行こうか?」

騎士「いや、俺が行こう。もうそろそろお前は風呂に入れ」

勇娘「うへー……、水汲み面倒だなあ」

騎士「そう言うな。風呂は心の洗濯だ」

勇娘「じゃあ……お父さん、一緒に入ろっ」

騎士「断る」

勇娘「ひどっ!」

騎士「俺はいつも朝に済ましているからな」

勇娘「お父さん早起きだしねえ……。娘にも顔を見せないってどうなの?」

騎士「見て楽しいものじゃない」

勇娘「そればっかじゃん」
76 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/05(土) 17:37:43.06 ID:YvYBtIQN0
エルフ「……私は、素敵だと思いましたけど」

勇娘「あ、おねーさん」

騎士「君……、大丈夫なのか? わざわざ食器を持ってきてくれなくてもよかったんだが」

エルフ「はい、おかげさまで……。あと、これくらいはしないと……」

騎士「そうか、なら良いんだが」

勇娘「それよりおねーさん、聞き捨てならないことを言いませんでした? お父さんの顔見たんですか!?」

エルフ「え? ええ、まあ……」

勇娘「くぁーっ! 実の娘に見せないくせに美人なお姉さんには素顔を見せる父親の薄情なこと!」

騎士「そういうのじゃないんだがな……」

エルフ「……あ、それで、その……」

騎士「うん?」
77 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/05(土) 17:40:02.34 ID:YvYBtIQN0
エルフ「先ほどのお話なんですけど……」

騎士「ああ、そんなに急いで決める必要はないよ」

エルフ「いえ……、ご迷惑でなければ、その、是非この村に住まわせて頂きたいんです……」

勇娘「ほ、本当ですか!?」

騎士「無理はしていないな? 強制はしないぞ?」

エルフ「はい……。弟と一緒に決めたことですから」

騎士「そうか、それならば……心から歓迎するよ、エルフ」

エルフ「ぁ……」

騎士「呼び捨ては馴れ馴れしいか? 気を悪くしたらすまないな」

エルフ「い、いえ……それで……結構です」

騎士「そうか。では、君も楽に話してくれ」

エルフ「は、はい……」
78 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/05(土) 17:40:40.86 ID:YvYBtIQN0
勇娘「じゃあお風呂入れてこようっと。おねーさんも入りますよね?」

エルフ「あ、はい……、よろしければ」

騎士「遠慮することなんて無いぞ。君もこの村の一員なんだからな」

勇娘「そうそう。おねーさんたちの家も建てないとね」

騎士「そうだな。明日辺りから作業を始めるか」

エルフ「そ、そこまでしてもらわなくても……」

騎士「村人への餞別だ。色々試したいこともあるしな」

勇娘「お父さん、家建てるのにはまっちゃったしねえ」

騎士「回転扉なんてどうだろう」

勇娘「それはない」

騎士「地下室を作るのはどうだ」

勇娘「誰が穴掘るのよ」

騎士「……お前かな?」

勇娘「お父さんがやってよ!」
79 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/05(土) 17:43:25.95 ID:YvYBtIQN0
エルフ「……ふふ」

勇娘「?」

騎士「どうした?」

エルフ「いえ……面白い人たちだなって」ニコッ

勇娘「お父さんってばいつもこうなんですよ……」

騎士「悪かったな。しかし……それよりも、君、初めて笑ってくれたな」

エルフ「え? 私、笑ってましたか?」

騎士「ああ。……素敵な笑顔だった」

エルフ「ぇ、ぁ、そ、あぅ……」

騎士「さて、それじゃあ俺は明日の朝食の仕込みに入るとしよう」

勇娘「おねーさん、お風呂が沸くまでは上で寝てて下さい」

エルフ「す、すてきなえがお……えがお……」

騎士「……ん? 彼女、どうしたんだ?」

勇娘「さぁ?」
80 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/05(土) 17:46:21.69 ID:YvYBtIQN0
《翌日》

騎士「おはよう、二人とも」

エルフ「あ……。おはようございます」

男「鎧のにーちゃん、おはよう」

騎士「俺の名前は騎士だ。出来ればその呼び方は止めて欲しいんだが」

男「じゃあ騎士さんでいい?」

騎士「上出来だ。男君」

男「へへっ、なんかこっぱずかしいなあ」

騎士「そうか? それよりも、二人とも立って歩けそうか?」

男「俺は大丈夫だよ。ねーちゃんも大丈夫の筈」

エルフ「あ、はい……大丈夫です」

騎士「そうか。それじゃ、下で朝食を摂ろう」

男「はーい」

エルフ「ありがとうございます」

騎士「気にするな。下で待っているぞ」
81 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/05(土) 17:47:44.40 ID:YvYBtIQN0
男「……ねーちゃん、騎士さんにベタ惚れだね」

エルフ「ふぇっ!?」

男「さっきからずーっと見てたじゃん」

エルフ「そ、そんなことないわよ……?」

男「露骨に目線逸らすし。まあ、俺としては応援する他ないんだけどさ」

エルフ「……そんなこと、ないわよ?」

男「まだしらばっくれるのか」

エルフ「そんなことないって言ってるじゃない! 男のバカ、先に下行くわよ!」

男「はーいはい」

エルフ「ふんっ……」スタスタ

男「…………」


男「ねーちゃんには、幸せになってもらわないとなあ……」
82 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/05(土) 18:03:46.72 ID:YvYBtIQN0
《階下》

騎士「それじゃ、いただきますだ」

勇娘「いただきまーす」

エルフ「い、いただきます」

男「いただきます」

勇娘「お父さんが腕によりをかけて作ったんですよ、これ」

騎士「朝方にウサギを獲ってきた。新鮮だぞ」

男「あ、美味い」

エルフ「……本当。すごい……」

騎士「まあ、パーティでは料理担当だったからな」

勇娘「パーティ?」

騎士「……失言だ、忘れてくれ」

勇娘「気になるじゃない!」

男「それより俺は騎士さんがどうやって料理を口にするのかが気になる……」

騎士「ん? こうするんだ」

そう言って、騎士はウサギの肉を突き刺したフォークを兜の下に滑り込ませた。

勇娘「そこまでして顔を見せたくないわけ……?」

騎士「ああ」
83 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/05(土) 18:04:29.04 ID:YvYBtIQN0
騎士「ごちそうさまでした」

男「ごちそうさまでした!」

エルフ「ご、ごちそうさまでした」

勇娘「あー、ごちそうさまっと」

騎士「よし、それじゃ二人の家を建てるか」

男「あ、騎士さん、それなんだけどさ」

騎士「ん?」

男「厚かましいのはわかってるんだけど、ねーちゃんだけでもこの家に住まわせてくれない?」

エルフ「男!? す、すみません、この子ってば何を言っているんだか本当にもう……!」

騎士「……理由を聞かせて貰っても良いか?」

男「うん、ねーちゃんって他人からの好意を引き摺るタイプなんだよね」

騎士「…………」

男「で、多分家を建ててもらってもずっとこっちに居座ると思うんだよ。お二人の役に立ちたいとか何とか言ってさ」

エルフ「お、男……」
84 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/05(土) 18:05:22.14 ID:YvYBtIQN0
男「だったら、初めからお手伝いとかそんな役目で住まわせてやってくれないかな」

騎士「なるほど。良いだろう」

エルフ「え、き、騎士さん? それはいくら何でも……」

騎士「いや、家が賑やかなのは悪い事じゃない。当然男君も一緒だ」

男「え、俺も?」

騎士「ああ、そうだ。悪くないだろう、勇娘」

勇娘「うん、構わないよ」

騎士「……な?」

男「そっか、ありがとう、騎士さん」

エルフ「か、勝手に話が進んでいてよくわからないんですけど……」

騎士「一緒に暮らすということさ」

エルフ「ふぇっ!? い、一緒……!?」
85 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/05(土) 18:05:51.44 ID:YvYBtIQN0
騎士「まあ、君も年頃だからな……。無理にとは言わない。しかし、弟君が君のことを思って言ったことでもある」

エルフ「え、あのあの、それって一つ屋根の下、ですよね?」

騎士「そうなる」

エルフ「…………」

男「あ、騎士さん、ねーちゃんは嬉しくて思考停止してるだけだから」

騎士「嬉しい?」

男「うん、多分飛び上がるほど」

騎士「なるほど……確かに、俺も家族が増えたようで嬉しいな」

エルフ「家族!? そ、その場合は父親が騎士さんだとしたら母親は……!」

男「……ちょっとねーちゃんの頭冷やしてくるね」

騎士「ん? ああ、どうぞ」

勇娘「家族かあ……、ふふ、いいね、家族!」

騎士「……ああ、まったくだな」
86 : ◆V8UyFaPsi2 [saga sage]:2011/02/05(土) 18:08:52.27 ID:YvYBtIQN0
ガイアが俺に早く鬱を書けと囁いている……


まあ冗談はともかく、今回は真面目に
《家族が増えるよ やったね騎士ちゃん》

な話でした
悉く投下できないという言葉を破っている気がする。
まあいいか……。
まだまだ話は始まったばかりだぜいやっほう! 
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 18:35:44.46 ID:MBlnd06+o
先を見るのが怖くなってきた…
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 18:47:24.21 ID:ywlXpbhDO
さらに鬱フラグを…乙です
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 19:10:25.55 ID:MDekgVjCP
ほのぼのでもいいんだよ
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 21:46:34.47 ID:U/b7KVpDO
乙ーほのぼのなのに騎士は永遠呪いの解けないBADENDで
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 21:56:02.65 ID:h7b1sOkAO
鬱フラグが順調に増えて行く
乙です
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 22:17:40.16 ID:OrSQkwRAO
鬱フラグなんてあるか?
むしろ、これから騎士の怒涛の逆転劇が始まるフラグだろ
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/05(土) 22:42:52.25 ID:YvYBtIQN0
>>92
その言葉が聞きたかった……!

まあ騎士とその他がどうなるかはお楽しみだけど
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 23:00:17.53 ID:UjCnfKw5P
やったね騎士ちゃんが怖すぎる
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 23:06:41.89 ID:19E+U+E9o
やったねたえちゃんが鬱フラグすぐる
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 20:32:29.13 ID:Dqo2e/xO0
乙です。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 17:36:50.21 ID:gCUajSsDO
これは見届けねばなるまい
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 12:40:15.10 ID:r4xnkNTGP
まだかよ
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 16:47:34.67 ID:Rr5fYjOIO
まだだよ
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 04:11:32.69 ID:9MIaNY6o0
待ってる
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 19:12:25.48 ID:BWoSy9aIO
まだかなー
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 01:20:22.84 ID:lXmBQFmAO
納得いくまで吟味して下さい
ずっと待ってます
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 13:13:21.14 ID:x29yIokZo
マダー?
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 19:46:42.90 ID:BdqUVZaIO
読者 (このSSの)「全てを見届ける」

気長に待ってるよ
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/22(火) 12:31:00.21 ID:eh9obMVoP
最近こういうスレ多いな
書き始めたなら放置するな
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 14:47:09.69 ID:IjOSALEDO
最近多いわけではないけどな
半年位待ってればいいのに
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 08:29:45.86 ID:HrcHquSZ0
勇娘が何歳になれば騎士は生い立ちその他を話すのかな
早く読みたいでござる
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 22:25:47.20 ID:kJhxVzk+o
頼む!欝度は低めでたのむ!
せめて物語は幸せであってほしい。これもエゴだけど。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 11:25:09.99 ID:lUg5H90AO
期待
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 23:45:50.29 ID:fpkMSKXTo
生存報告plz
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/19(土) 22:16:00.77 ID:b5Q8e31DO
まさか津波に
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/03/31(木) 13:18:43.02 ID:IqIUCF6AO
待ってるぞ
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/03/31(木) 14:02:41.67 ID:KH6j/ZWjo
大丈夫か?
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/03(火) 15:09:07.46 ID:wsljdSVRo
まだかね
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/03(火) 21:58:47.45 ID:jzmCVuveo
まあだだよ
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