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とある未来の雑談風景 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 16:58:35.10 ID:hglBoKdQ0
・とある学校等を舞台に成人した禁書キャラたちが交流したり働いたり生活したりするssです。
・カップリングは今のところ上イン+αで上琴くらいしか決めていません。
・過度なあまあま成分やシリアス成分は多分ありません。
・グタグタとした日常話ばかりになる予定。
・未来設定ですので、苦手な方はご注意ください。
・キャラ崩壊がひどい気がする。

もしかしたらこんな未来もあるんじゃねーの? くらいでご覧いただけると幸いです。
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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エルヴィン「ボーナスを支給する!」 @ 2024/04/14(日) 11:41:07.59 ID:o/ZidldvO
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さくらみこ「インターネッツのピクルス百科辞典で」大空スバル「ピクシブだろ」 @ 2024/04/13(土) 20:47:58.38 ID:5L1jDbEvo
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暇人の集い @ 2024/04/12(金) 14:35:10.76 ID:lRf80QOL0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 16:59:04.54 ID:82pjHx/Bo













                   ∩  ∩
                   | | | |
                   | |__| |
                  / 一 ー \
                 /  (・) (・)  |
                 |    ○     |
                 \__  ─  __ノ 









      
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/05(土) 17:00:41.90 ID:hglBoKdQ0

 学園都市には様々な教育機関がある。
 少人数制の機密性の高い学校から総在籍数が一〇〇〇〇人を超える強大マンモス学校まで。
 
 数十年もの間、学園都市ナンバーワンの座に君臨し続ける名門・長点上機学園。
 強能力以上の高位能力を有することが入学条件でお嬢様学校としも名高い常盤台中学。
 稀有な能力の発掘・開発部門で上記二つの学校に引けを取らない霧が丘女学院。
 世界でも有数の教育機関が存在する学園都市であるが、勿論これらのような輝かしい実績を積む学校ばかりではない。
 
 優等生がいれば劣等性がいる。
 頭の出来がいい生徒がいれば頭の出来があまり宜しくない生徒もいる。
 強力な超能力を持つ者がいれば無能力と判断される者もいる。

 陽と陰。
 光と影。
 成績―――超能力が学園都市における人間を図る際の最大の価値基準。
 どれだけの大人があーだーこーだと策を練っても、悪習は簡単には消失しない。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/05(土) 17:03:01.21 ID:hglBoKdQ0

 学園都市は相も変わらず科学側の最高峰として魔術側と拮抗する最大勢力。
 ぐらりぐらりと天秤のようにあっちにこっちに傾いたり傾けられたりの繰り返しだ。
 それでも。
 かつての頃のような根の深い対立は解消されつつある。
 子供たちを苦しめていたこの街は変容を遂げようとしている。

 学園都市は今、大事な過渡期を迎えつつあるのだ。

 それは。
 かつて学園都市の闇に飲み込まれ傷つき傷つけられた彼らによって。
 かつて地獄の中をもがいてもがいてようやく小さな光を手に入れた彼らによって。

 


 
 そうして。
 『彼ら』の内の一人、一方通行。
 
 彼は、現在進行形で山のような期末テストの答案用紙に埋もれていた。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/05(土) 17:06:18.14 ID:hglBoKdQ0

 右手に持つ赤マッキーがフル回転で労働中。
 キュッキュと紙と赤マーカーが擦れる度に耳鳴りのような音がして鼓膜が痛い。
 本来ならば愛用のハイテックで解答の作業をしたいのだが、
 採点用にと事前に用意した赤ハイテックはすでに三本がその役目を終え、机の上の残骸と化していた。
  
 三本では足りなかったか。
 耳に痛い摩擦音に眉を潜めながら一方通行は後悔した。
 後悔先に立たずとは正にこの事である。

 
「―――調子ぶっこいて、一問一点、総数百問のテストとなンかにするンじゃなかったな……」

「テストはアンタが作ったんでしょ? 
 自業自得。ていうか生徒たちが泣いてたわよ。
 『まっしろしろすけのテスト。マジありえなかったんですけどぉー』って」


 一学年分のテストと格闘している男性教師に、彼の真ん前の位置にある机に座っている同僚教師が声をかけてきた。
 たかが1学年されど一学年。
 ゆうに三〇〇人を超える三年生の採点作業には多大な労力がかかる。
 だというのに、目の前の同僚女教師。
 御坂美琴は既に自分の仕事サクッと片付けて優雅に玉露茶に舌鼓をうっていた。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 17:09:20.80 ID:I8lM3kOlo
支援
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/05(土) 17:14:07.60 ID:hglBoKdQ0

 ちなみに、『まっしろしろすけ』とは生徒たちが愛を込めて命名した、
 極悪面に定評のある彼にはあまりにも似合わないあだ名である。
 勿論。
 日本国内の人間なら誰しもが知っている某映画に出てくる全身が真っ黒な物体か名の由来。


『全体が真っ黒だからあの丸っこいのはあの名前なんでしょ?』

『じゃあ、一方通行先生は肌も髪も服装も全部が白いからー……、』




『「ま っ し ろ し ろ す け 」だ よ ね !』




 嗚呼。現代の女子高生の連想能力はなんと富んでいるのだろう。
 とらわれない自由な発想は個性。
 大いに結構。
 それを伸ばしてやるのが教師である彼の役割だ。
 彼女らの無限の可能性を摘み取る行為は言語道断。
 『まっしろしろすけ』は生徒とのフレンドリーさが生み出した、一方通行への信頼の証でもあると言えて。
 一方通行自身も黙認しているがあまり笑えないの事実だった。
 最近では『長ったらしい』という理由で『まっしろ』とか『しろすけ』という略まで登場している。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/05(土) 17:18:48.92 ID:hglBoKdQ0

「もォ終わったのか?」

「おかげさまでー♪」

 
 ほぼ同人数の紙量の答案でも彼女のは簡単に採点できるものだったようだ。


「しっかし、あのクソガキども。初歩中の初歩の問題しか出してねェンだから愚痴るなっつーのォ」 

「いやぁー。さすがに六十分で百問ってのは無い無い。しかもアンタの指導教科、数学だし」

「たまには鞭も必要だろォが」

「鬼教師の名をほしいままにしているアンタは常に鞭鞭鞭ですけど?」

「ココのガキどもが延々と校則を破りつづけるのが悪い。悪い子にお灸は必須だろ?」

「……さっすが生活指導担当。もし私の学生時代にアンタみたいな先生いたら絶対嫌ってたと思う」

「ざーんねーンでーしーたァ。俺、結構人気者なンですゥー」

「それはこの学校に居る若い男がアンタと浜面さんくらいしかいないからよ」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/05(土) 17:34:55.42 ID:hglBoKdQ0

「……今のは地味に傷ついたぞ超電磁砲」

「ごめん。私ってば本当のことしか言えないのよ一方通行」
 

 二人が勤務するこの学校は学園都市で珍しくも無い女子のみが通う学校―――女子校。
 しかも常盤台中学と他四つの女子校が広大な土地を小さな街として作り、共有している内の一校でもある。
 女の子の女の子による女の子のための秘密の園・学びの園はその構成員のおよそ九・五割を女性が占める。
 年頃の乙女だけの世界に居る男性は『異質』とも言えるほど。

 一方通行が学校の女生徒にキャーキャーと地味に騒がれているのも、
 特殊空間において若い青年というキーワードだけで一定の女子の支持は得られる、というからくりが裏にあるため。


「しかも。背が高くて筋肉質で荒っぽい浜面さんのほうが実は、アンタより人気があるという事実」

「俺の心をこれ以上抉るのはやめてくれませンか?」

「『売却済』の証である左手薬指の指輪を隠さない男らしさも高ポイント」

「……いやいや。アイツ、スクールカウンセラーじゃン? 
 相談事を聞いてもらってちょっと好きなったっていう生徒が多いだけじゃン?」

「アンタは何処の『じゃん』よ」

「どっかの『じゃン』だろ」
 
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/05(土) 17:47:15.43 ID:hglBoKdQ0

「おいコラ、そこの自主休憩している堕落教師二人組。雑談ばっかりしてないで仕事に集中するじゃんよ、仕事に」

 いつの間にか雑談に花を栄えてた彼らの遠くから聞きなれた声での渇が飛ぶ。
 御坂は後ろを振り返り、一方通行は御坂から視線をはずし彼女よりさらに後ろに居る人物を見た。
 長い髪を一本に縛りする女性。
 懐かしい色気皆無のジャージ姿はすでに過去の遺物。
 きっちりの彼女自身の立場に相応しい、皺ひとつ無いスーツを着用していた。

「―――うわさをすると『じゃん』教頭先生が現れた!」

「よォ、『じゃン』じゃン」

「それが上司に対する口の聞き方か?さっさと期末テストの解答終わらせ……」

「私は終わってまーす」

「―――なら、仕事の速い御坂せんせにプレゼントじゃん。
 新しく来た大学の資料を校名順にちっきりかっちり進路指導室の棚に並べておく仕事を授けよう」

「えっ」

「ハッ。いい気味だ」

「解答作業が終わってない一方通行せんせーがいえることじゃないじゃんよ」

「……ぐっ」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 17:52:54.61 ID:bfXnjCOAO
ペロっ…この味は、俺得!
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 18:03:09.22 ID:DJJnc/1G0
嫌いじゃないわ
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/05(土) 18:08:03.87 ID:hglBoKdQ0

 職務中の小休憩はここまで。
 手に持っていた玉露茶の入っている湯のみに口をつけ一気飲みをすると、
 ありがたくも新しい指令を賜った御坂は学校宛の郵便物がごちゃに入っているダンボールを手に取った。
 悲しいかな。
 教師の仕事に終わりはなく次から次から手元に回ってくるのが現実なのだ。
 
 来年に受験を控えた二年生向けに作成されたパンフレットの数はそれこそ山の如く。
 ひとつひとつを重ねれば一方通行が睨めっこしている紙束の何倍もの厚さになる。
 同じ女子校でも内部進学がある常盤台中学と違い、彼女らの指導する学校には系列の大学又は短大、専門学校が無い。
 生徒たちは勉強して勉強して将来の進路を勝ち取る道しか用意されていない。

 言いづらいことであるが。
 この学校の偏差値は学園都市中の教育機関全て順付けしたとすれば、下から数えたほうが早いだはず。
 「生徒の頭の出来があまりよろしくない学校」である。
 生徒たちが望むに進路に極力いかせてやりたい教師心。
 進路指導は一般の学校よりも重要な位置にある。


「それじゃ、進路指導室いってきまーす」

「サボるなよー」

「サボりませんよ!」

 
 黄泉川愛穂と軽口を交わすと御坂はダンボールを持ち上げて職員室から出て行った。


「さて。さっさと面倒くせェことは終わらせるかァ……」

「期末の結果は来週のはじめに告知するじゃん。今日中に終わらせるんだぞ」

「……へいへい」

 
 止めていた右手を動かす。
 またキュキュキュという甲高い音がなる。
 次の中間テストの時には赤ハイテックを最低でも五本は用意しよう。
 
 仕事をする上での新しい注意事項を脳内にインプットすると、一方通行は再び答案用紙の山に埋もれるのだった。
 
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/05(土) 18:14:30.80 ID:hglBoKdQ0

・一方通行→学舎の園にある女子高の教師。3年次の数学担当で生徒指導担当。まっしろしろすけ。
・御坂美琴→同校教師。全学年の音楽担当。職員室の机の配置は一方通行の真ん前。
・浜面仕上→同校を訪れるスクールソーシャルワーカー。売約済。
・黄泉川愛穂→同校教頭。

今回は以上で
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 20:29:27.53 ID:0rg2Lgti0
なにこれ超俺得スレくさい
どれだけ遅くなっても良いから完結してくれ!全力支援
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 22:48:23.68 ID:KnebIQ3So
これは期待
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 22:55:09.00 ID:fYsffdYG0
これ上インなの?上琴なの?
18 :メインは上インになると思います [saga sage]:2011/02/05(土) 23:25:54.12 ID:kdMoWx1k0

 第二十三学区。
 航空・宇宙開発分野に特化したそこは学園都市の空からの入り口。
 
 一般学生の立ち入りが禁止されているため、
 ここで見かける人影は各航空施設の職員や空を行き来する航空機の乗員ばかり。
 そんな中。まったくもってそれらに関係なさそうな風貌を持つ女性が、
 学園都市外から『個人的な理由』で訪れる来客を乗せたプライベートジェットの到着を今か今かと待っていた。

 白いシャツに黒の革パンツ。
 シンプルな服装が、女性のグラビアアイドルにも引けをとらないスタイルの良さをより際立たせる。
 美容院に行くのが面倒くさくて胸元まで伸びた茶色の髪は、バレッタで一つに纏められていた。
 

「―――と、ようやく着いたみたいだね。
 あーもう、すっごく待たされたよ。暇すぎて死ぬかと思った」


 彼女の少し遠方。
 お目当てのプライベートジェットが滑走路に着陸しようとしている。
 待ち人の女性は暇つぶしを兼ねて吸っていた煙草を地面に捨てハイヒールの底で火元を消した。
 今回はエスコート役。
 しかも相手は妙齢の女性である。
 煙草の煙を携えてその手とる非常識をすることは憚られた。

 滑走路を走り、時間をかけて停止したプライベートジェットからようやく客人が下りてくる。
 
 
『やっほう。アニェーゼ=サンクティス。わざわざこのミサカが迎えに来たよ』


 こちらだと知らせるためにヒラヒラと手を振る。
 待ち人の女性の名は番外個体といった。
 イタリア語で声をかけられた来客こと―――アニェーゼ=サンクティスは、
 ポコンポコンと変わった靴音を鳴らしながら番外個体の元へと歩みを進めた。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/05(土) 23:44:27.87 ID:kdMoWx1k0
 
 アニェーゼは何時も通りの黒に灰色の十字が描かれている修道服姿。
 チョピンと呼ばれる三〇センチも厚底があるコルクの靴がやけに目立つ。
 番外個体の視線も自然と足元へと向かう。
 
 それは明らかに低いと分かる身長を誤魔化すためのアイテムなのかな? かな? 
 と、初対面で聞ける筈もなく。
 
 昔よりも多少の常識を身につけることに成功した番外個体は空気をよんでスル―することにした。

 彼女の『聞きたいけど聞けない』という内なる葛藤を知ってか知らずか。
 アニェーゼは流暢な日本語で番外個体に話しかける。

 
「イタリア語で話してもらえるのはありがたいんですけど、日本語で大丈夫です」

「あれ? おっかしいな。ミサカのイタリア語下手だった?」

「いいえ。大層なもんだと感心しちまうくらいに御上手でしたよ。
 ここは日本に在る学園都市ですから。
 ええっとつまり、こちらの言葉でいう『郷に入れば郷に従え』ってやつです」

「あーそゆこと。じゃあそうしてもらえる? 
 ミサカとしても馴染みのないイタリア語を喋るのはすごいかったるいし疲れるんだよねぇ」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/06(日) 00:01:01.26 ID:axnExcl80

「それなら小娘一人のために迎えに来ることだってかったるかったでしょう?」

「まーねぇ。けど、これもミサカの仕事だからね仕方ない」

「なんとなく予想は着きますけど、その仕事の具体的内容は?」

「アンタの送迎兼通訳兼監視がミサカの今日のクソつまらねえオ・シ・ゴ・ト」

「それはすみませんでした。
 けど、仕事の文句はアナタの上司に言って下さい。わたしにはどうすることも叶いませんので」

「えぇー。あのホスト崩れのクソ男にー? それはそれで面倒」

「結局、全部の事が面倒って感じじゃねえですか」

「ミサカは楽しいことは大好きだけど面倒くさいことは大嫌いだから」

「子どものような主張ですね」

「そっちのほうが人生楽しいよ?」

「はぁ。そうですか」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/06(日) 12:34:50.89 ID:axnExcl80
 
 番外個体もアニェーゼも。
 日本人の身に染みついている初見の場で必ず行われるであろう、
 名刺交換のような友好的な自己紹介すら行おうとすらしない。
 互いに建前という壁を突破らったかのような態度で会話を続けていく。

 番外個体は人種的には日本人であっても企業戦士という訳ではないし、
 アニェーゼはそもそもイタリア人であって、名刺交換という日本的文化に理解があるとも言えないため、
 至極、当然と言えば当然といえることもしれないのだが。

 早々に結論づけてすとするならば。
 彼女たちは、互いに回りくどい事を良しとしない性分なのだ。
 
「一応確認しておくけど、アナタの行き先って第十二学区でいいんだよね?」

「ええ。それと、出来れば第十三学区にもよりたいんですが」

「第十三学区ぅ? 寄り道でもしたいお年頃って可愛いお年頃って訳でもないのに?」

「アナタよりは若いと思いますけどね。
 系列の施設が新しく設立される予定なんで見学でもしちまこうかなと思いまして」



 カツカツカツとハイヒールの靴音の後ろを、ポコンポコンとチョピンの靴音がついていく。
 目指すは第七学区と他学区の交通を結ぶ唯一の路線であるターミナル駅。
 
 アニェーゼの送迎は建前でしかなく、
22 :前レスはなかったことに…… [saga sage]:2011/02/06(日) 12:39:37.97 ID:axnExcl80

 番外個体もアニェーゼも。
 日本人の血肉に染みついて離れない、初見の場で必ず行われるであろう、
 名刺交換のような友好的な自己紹介すら行おうとしない。
 互いに建前という壁を突破らったかのような態度で会話を続けていく。

 番外個体は人種的には日本人であっても企業戦士という訳ではないし、
 アニェーゼはそもそもイタリア人であって、名刺交換という日本的文化に理解があるとも言えない。
 至極、当然と言えば当然といえることもしれないのだが。

 早々に結論づるとするならば。
 彼女たちは、互いに回りくどい事を良しとしない性分なのだ。
 

「一応確認しておくけど、アナタの行き先って第十二学区でいいんだよね?」

「ええ。それと、出来れば第十三学区にもよりたいんですが」

「第十三学区ぅ? 寄り道でもしたいお年頃って可愛いお年頃って訳でもないのに?」

「アナタよりは若いと思いますけどね。
 系列の施設が新しく設立される予定なんで見学でもしちまこうかなと思いまして」


 カツカツカツとハイヒールの靴音の後ろを、ポコンポコンとチョピンの靴音がついていく。
 目指すは第七学区と他学区の交通を結ぶ唯一の路線であるターミナル駅。
 ここから徒歩十数分ほどの距離だ。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/06(日) 13:05:46.18 ID:axnExcl80

 「良いお天気ですね」「そうですね」という井戸端会議並の白々しい会話に用は無い。
 この場で必要なのは仕事に関すること。
 今日の日程の確認や注意事項、お互いの『立場』の確認。
 科学と魔術は未だに対立関係にある。
 本来ならば『そういうこと』は曖昧にぼやかしておくべきだが、今回ばかりは少し事情が異なってくる


「さきほど『監視』も仕事の内だと言っちまってましたけど、……えっとミサカさんでしたっけ?」

「『ミサカ』だとこの街だとわかりにくいからなぁ。
 そうだなミサカのことは『番外個体』若しくは『ワースト』って呼んで。
 あと敬語もさんづけもいらない。
 ミサカ、そういう畏まった感じってサブイボたっちゃうんだよねー☆」

「じゃあワーストで。口調に関しては諦めることをお勧めします。
 外人が喋る馴れねぇ日本語ぐらい大目に見てやるっつー度量がほしいってもんですよ、ワースト」

「あっはぎゃは! アンタも大概に言う事ズバッと言うねぇ、アニェーゼ=サンクティス!」

「それに関してはお互いさまだと思いますけど」


 何処となく性質が似たり寄ったりな二人のやり取りは年頃の女性のものにしては非常に残念で。
 今の時間帯が昼間で非戦闘地帯で興奮するには刺激が足りない。
 そんな条件のせいか、不幸中の幸いにして放送禁止の語呂の発言は今の所ゼロ。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/06(日) 13:24:42.34 ID:axnExcl80

「それで、監視がなんだって?」

「敢えて聞くことでもないかもしんねぇですけど、アナタは『裏』の人間だって認識でいいんですよね?」


 アニェーゼは科学側で最大のタブー事項である魔術を操る、魔術師の一人。
 魔術勢力の政略がない訪問――正しくはイギリス清教の政治的思惑が含まれないという意味になるが。
 魔術師である以上彼女が学園都市内を自由に動き回ることは許されない。
 監視がつくのは当たり前のこと。
 
 また、シスターの横を固める側の人間も魔術勢力へのそれなり知識が必要となり
 ―――学園都市の奥に足をつっこんでいる人物であろう、と考えるのが簡単。


「ぶっぶー。半分あたりだけど半分外れ」

「……半分外れ?」

「学園都市の『裏』。ここでは『暗部』って呼ばれてたんだけどさ。
 そんな辛気臭くてしかない玩具はもうずいぶんと前に解体されちまってるんだよ」

 
 暗部と。
 その名すら口にすること自体久しぶりかもね。
 
 番外個体は目の前に見えてきたターミナル駅を指差しながら呟いた。 
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/06(日) 13:35:08.60 ID:axnExcl80

「だから、ミサカは『裏』の人間なんかじゃない」

 
 そもそも既に暗部自体が存在しないから。
 白い髪の誰かさんやツンツン頭に誰かさんやらが暴れまわった結果だ。
 けれども。必ずしも『暗部』が担っていたもの全てを無くしてしまうことは不可能故に。 
 『暗部』ではなく『大人の事情』というような名称に分類されるようなものが新たに出来上がった。


「全てが全て綺麗さっぱりハウスクリーニングされた訳じゃないけど。
 『大人の事情』って言えるほどには『子どもたち』が
 クソまみれの泥くさい世界に引きずりこまれるような馬鹿馬鹿しい展開は無くなったかな」

「では、半分あたりっていうのは、
 アナタがかつて暗部が担当していたことを肩代わりしてやってるから、てとこですか」

「察しがいいね。話が早いやつはだぁぁい好き☆
 現状、『裏』と呼ばれる輩ってのは、ほとんど学園都市の治安維持部隊のやつらばかりだよ」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/06(日) 13:39:50.63 ID:axnExcl80

 じゃあつまりアナタは――、と。
 アニェーゼはピンと片手の人差指を立ててたどり着いた答えを発表した。

 
「アナタは機密部隊の軍人さん、ってやつですね」

「はい正解。ご褒美にペロペロキャンディーあげまちょうか?」

「いらねぇですよ、そんなもん」


 からかう様な笑みを浮かべた番外個体をアニェーゼはギロリとにらみつけた。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/06(日) 13:45:36.62 ID:axnExcl80

「魔術のことをなんとなく知っててある程度能力があって。
 そんで通訳できるくらいの頭の出来がいいやつ――ってことでミサカが選ばれたんだよね」

「はっ。それはそれはお気の毒さまでしたね」

「うわー。超嫌味っぽい言い方ー☆」

「当然です嫌味ですから」


 美しいバラには棘があるよりも更に刺々しさ全開の応対がつづく。
 それでいて「レディー・ファイッ!」的な展開にならずに済んでいるのは、
 女性としても人間としても成熟したことが反面。
 悪友のようなノリが悪くないと思うのが反面。
28 :×反面○半面 [saga sage]:2011/02/06(日) 13:58:12.85 ID:axnExcl80
 
 ターミナルに到着しても汽車が来るまでもう少し時間がある。
 そんな待機時間も女子的おしゃべりとはいい難いおしゃべりをすればすぐに過ぎていくはず。


「訪問目的は事前資料で読んで知ってるけど、それにしても、アナタも相当のモノ好きだよね」

「変わり者代表のようなワーストに言われるのは少し気にくわねえですけど、まぁ、否定はしませんよ」


 必要悪の教会があるイギリスから遠路はるばるやってきた理由。
 本来であればアニェーゼが選ばれることはあり得なかった。
 魔術師である彼女には不可能だとしか言えないことだった。
 けれども。
 彼女自身が「是非、自分を」と志願し何度も何度もトップの上司――最大主教に頼み込んでようやく実現したこと。


「本当なら今まで通り「何も知らない」シスターではなければならないのでしょうが、
 どうしてもやってみたくなっちまったんだから、仕方ないでしょう?」

「よくウチのトップとアナタのとこのトップが許したもんだ……」

「訪問初日からアナタの送迎兼通訳兼監視といった様々な条件がついていますけどね」

「先に言っておくけど監視は今日だけじゃないよ? 
 時に遠くから時に近くから。ミサカかそれとも他の誰かがアニェーゼ=サンクティスを二十四時間体制で見張ることになってる」

「素晴らしいほどプライバシーの配慮があったもんじゃないですね。
 まぁ、そんなこったろうと思ってましたよ。それくらいのことは覚悟の上で、私は学園都市に来たんですから」


 別に、それくらはいどうでもいい事柄だ。
 アニェーゼは番外個体から告げられた小言にさしたる興味を示さずさらっと受け流す。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/06(日) 14:18:23.32 ID:axnExcl80

「それほどまでして『学校の先生』になりたかったの? 教会経営の学校なんてそれこそ何処にでもあるっつーのに」

 
 アニェーゼの訪問目的。
 それは、学園都市内にある神学校で教鞭を振るう立場になること。

 彼女たちの目的地である第十二学区だ。
 神の存在などまったく頭の中に入れていない学園都市の中では、特に異彩を放つそこは。
 学園都市で唯一。世界中の神学校が密集する特殊エリア。
 
 ここは科学の街。
 神学校に通う生徒の全て全て、宗教を信仰しているとは言い切れない。
 比較宗教学や宗教を絡めた民俗学を主な学習としている学校も見受けられる。
 
 それでも、神の教えを元に教育を行う神学校も多数存在していて。
 それらの中に。イギリス清教派に属する教育機関もいくつか存在する。


「敵の陣地内にあるとこを選ぶあたり、ドM臭がプンプンにただようんですけど」

「会ってまだ一時間とたっていないのに人をドM認定しねえで下さい」

「じゃあドS?」

「さぁ。どうでしょうね」

 
 番外個体の軽口に乗ることもせずアニェーゼは己の決意を新たにするように口を開く。


「敵地のど真ん中にしろ。微妙な立場であるにしろ。
 わたしはここでやり遂げたいと思っちまったんですよ」


 世界の薄汚い部分を知らない、ただ神の教えに祈りをささげる一般のシスターが行うべきだろう。
 同じ魔術師であっても。
 日本人である天草式の連中や人に教えを説くのが上手いオルソラ=アクィナスのほうが適任だろう。

 それでも。
 アニェーゼは『己がすべきことだ』と立ちあがったってしまった。


「この学園都市で、子どもたちの未来を見届ける教師になりたいと、思っちまったんですよ」

 
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/06(日) 14:39:40.89 ID:axnExcl80

 アニェーゼは最近になって『置き去り』という存在があることを知った。
 学園都市出身の人間と面識を持つようになって十年以上たつのに、この年になるまで知ることはなかった。
 知ったのは偶然。
 たまたまその学園都市出身の知り合いとの会話で話題にあがったのだ。

 彼女は信じられなかった。

 学園都市は科学側最大の街であり世界有数の経済地域でもある。
 数十年先と言われている科学技術に囲まれた豊かな世界。
 ―――だというのに、科学の街にも親に見捨てられた子どもが、一人になってしまった子どもがいるなんて。

 かつて。
 一人ぼっちの孤独に耐えた自分には、どうしても『置き去り』を放っておくということなぞ出来なくて。

 孤独を背負う子どもは『置き去り』だけではないけれど。
 シスターとして子どもたちに手を差し伸べるのに行為を前にして、
 宗派も人種も立場も。それらものは関係ないことも、確かではないか。

 そう、結論に達した時、アニェーゼは新たな道を歩むために行動を起こし今日に至る。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/06(日) 14:45:47.18 ID:axnExcl80
 
「ちゃんちゃら可笑しいと笑って下さって結構ですよ。
 私自身、最近は頭のネジが飛んじまってる気すらしているんです。
 そしてその感覚すら、新鮮な空気を肺に入れる以上に清々しいと身体が認識しちまってるから始末に負えない」


 言葉とは裏腹に。
 アニェーゼは母性に満ち溢れた表情で笑みをこぼす。


「―――笑わないよ。
 それがアナタの生き方ならそうすればいい。
 問題さえ起きなければ、アナタは一介の教師として過ごせることが保証されているんだから」

 
 何か起きた時のために監視が為される。
 けれども何もなければ監視されるだけで、さらに食い込んだ行為をうけることは無い。 

 番外個体は偽善者は嫌いだ。
 けれど頭がおかしいんじゃないの? と言われるくらい馬鹿なお人よしは嫌いじゃなかった。
 だから。出来ることなら監視だけで収まればいいと思った。
 

「―――なんだかんだ話していたもう時間みたいだよ」


 電車が近づいてくる音が聞こえてくる。
 二人は出入り口付近まで近付いて、もうすぐ来るであろう電車に乗り込む準備をする。


「そういえば、第十二学区まではどのくらい時間がかかるんですか?」

「三十分くらいかな」

「三十分――、ですか」

 
 三十分後。
 それが、魔術師として生きてきたアニェーゼ=サンクティスが
 今までとは別の、新たな人生を踏み出す入口に立つ時間であった。


―――
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/06(日) 14:50:32.63 ID:axnExcl80

・アニェーゼ→第十二学区内の神学校の教師として赴任。
・番外個体→学園都市内の機密性の高い治安維持部隊に所属の軍人。アニェーゼの監視役。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 21:57:41.84 ID:DxBbfJoJo
魔術サイドktkr
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 23:23:58.98 ID:axnExcl80

『じゃあ、大間のマグロが食べたいかも!』

 
 電話口から聞こえてくる友人の開口一番は絶好長なまでに食欲旺盛全開であった。


「………………………」

『どうしたの短髪。急に黙り込んじゃって』

「……いや、その。もし聞き間違いだったら申し訳ないんだけど。
 アンタ、今さ。『大間産のマグロが食べたい』って言った?」

『うん、言った!』

 
 それはそれは明快な声での返答が。
 
 ですよね。
 聞き間違いじゃあありませんよね。


「――さすがに。そのセレクトは予想外すぎてビックリしたわ」

『そう?』

「そうよ。まぁ、アンタらしいっちゃアンタらしいけどねぇー」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/06(日) 23:43:38.77 ID:axnExcl80

 折角の御祝い事。
 自分に用意できるものなら何でも贈る。
 
 電話越しの友人――インデックスにそう提案したのは他ならぬ御坂自身だった。
 
 デザインも安全面も高水準で、若奥様方に人気の学園都市製のベビーカーでも。
 世界の食が集まると言われる第四学区で特に評判の限定品のお菓子の詰め合わせでも。
 インデックスが望むものなら、御坂は多少入手が困難なものでも用意するつもりでいた。
 
 つもりでいた。

 が。

 さすがに御坂も「大間産マグロが欲しい」と言われるとは思ってもなかった。
 
 これはもう。
 「予想外」の枠すら通り越している。
 出産祝いにマグロを所望する母が居ると予測できる人が居るなら、
 土下座してでもその顔を拝顔したい。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/07(月) 00:02:04.31 ID:jQUG0Mdd0

「なんかアンタが変なこと言うもんだから気ぃ抜けちゃったわ」

『むぅ。わたし「変なこと」言ったつもりはないかも……』

「変っていうか何というか……。ん。でも、りょーかいよ。
 物が物だから送るのが遅れるかもしれないけど、用意できたら直ぐに冷凍した状態で空輸で送る」

 
 そもそも一般人の御坂に入手すること自体可能なのか謎だが。
 とりあえずは築地のことを調べてみよう。
 もし無理だったら、ちょろっと私的人脈を駆使して手に入れるまでのこと。
 

『わーい! ありがとなんだよ、短髪!』

「いえいえ。どういたしまして」

『うふふふ。まっぐっろ、まっぐっろ、まっぐっろー♪』

 
 インデックスが即興でマグロの歌を歌い出す。
 それだけ食べたかったのだろう。 
 代物の内容は兎も角。
 贈る相手が喜んでくれるなら御坂も本望。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 00:23:12.86 ID:WS0zjM9go
面白い
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/07(月) 00:37:53.76 ID:jQUG0Mdd0

 出産祝いの話し後。
 そのままの流れで生まれた彼女の子供や配偶者の話題となる。
 
 十年来の友人とは言え。
 遠い異国の地で暮らすインデックス一家とはたまにしか会えない。
 生まれたばかりの赤ちゃんのことを上の子が不思議そうにみているとか。
 第二子がインデックスの旦那が切望していた女の子だったため、すでに猫可愛がり気味だとか。
 彼らの日常の話しを聞けるのは、御坂にとっても楽しいことだった。

 ただ。


『上の子は今ちょうど五歳だよ』

「……マジで? もうそんなに大きくなったの?」

『マジかも』


 この驚愕の事実を耳にした時ばかりは、
 御坂も、普段気にもとめていなかった時の流れの速さを嫌でも実感せざるおえなかった。

 第三次世界大戦が終結して十年以上が経過。
 インデックスが故郷へと戻り、彼女を追いかけるようにして上条当麻が渡英したのが七年前だ。
 気がつけば。
 インデックスと上条は夫婦となり二児の両親となった。
 御坂も大学卒業後は音楽教師として教育現場の第一線で奮闘する日々を送っている。 
 
 幼かった当時の自分が懐かしく思えるほどに。
 なにもかも、思い出が遥か彼方の遠くにあると感じるほどに。時は流れた。 
  

「そりゃあ、私も年を食うわけだ」

 
 そう言って。御坂は、ははっ、と笑い声をあげた。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 01:41:01.64 ID:WS0zjM9go
ほほう、上条さんが追いかけたのか
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 05:47:33.99 ID:pT4pQtTDO
頑張れ
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/09(水) 18:16:38.55 ID:6BC81Rld0
嫌いじゃないわ!
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 22:19:52.32 ID:cedehc260
良作乙。
大間産のマグロをだれに解体してもらうんだ、インデックス?

43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 22:51:40.29 ID:84aNWpkco
頭から丸かじり
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 23:12:53.74 ID:+ixAF2MAO
>>42
一緒に海原君を送れば解決
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/09(水) 23:45:16.92 ID:J7TSnzZJ0

『えー。さすがに言い過ぎじゃない? 短髪はまだまだ若いじゃん』

「全・然、言い過ぎじゃないっ。
 だって私もう二十五よ、にじゅーごぉっ!! いい加減彼氏の一人や二人欲しいっつーの」


 誰も、高身長高学歴高収入の三高男も、低依存低リスク低姿勢の三低男も望んではいない。
 芸能人並のイケメンでなくとも、己と背中を合せられるような高位能力者でなくとも。
 『好きだ』と思える人ならばどんな人だっていい、というのが御坂の本音。

 だというのに。
 未だに人生の桜が満開に咲く誇ることは一度としてなく。  


『短髪に彼氏が居ないのってさ、それこそ学園都市の七不思議のひとつかもしれないんだよ』

「…………いいですこと? インデックスさん」

『はい、何でしょうか? 短髪さん』
 

 七不思議とは世にも怖いモノとか珍しいモノを取り上げるものだろう。
 二十五と妙齢と評するに相応しいお年頃の女性の恋人の座席が長らく空席であることが、
 何故その中の一つに数えられなければならないのか。
 小一時間問い詰めたい。
 
 そもそも、学園都市の七不思議を担当する教育者は、
 水分を弾く弾力の肌を未だにお持ちである年齢不詳の合法ロリ教師だけで十分だ。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/10(木) 00:07:03.24 ID:sVbAun5H0

「私だってね? なにも好きで『居ない歴=年齢』なんて
 クソ寂しい人生送ってるわけ訳じゃぁぁああないのよ! 断じて!
 いい男が居たら即効で狩りに行く気満々よ? けどね、出会いがないの、出・会・い・がっ!!」

『えっと……し、職場の人とか?』

「はい残念! その選択肢は無いのよ、皆無!!
 ウチの女子校に居る男なんて全身まっしろの虚弱モヤシと「理后理后」しか言わない愛妻家野郎の二人しかいないんだから!!」

『oh……』


 中高大と女子校に進み就職先もこれまた女子校。
 
 男っ気がほぼ零の環境に居続けて早十数年の人生だ。
 これは御坂が自身が歩んできた道にある唯一の見落とし。
 或いは、取り返しのつかない選択ミス、とも言えなくもなかった。

 八割九割は自業自得。
 それでも残りの一割は天の巡り合わせの悪さのせいだと思う。そうだと思いたい。そうであってくれよ、なあ頼む。

 いっそ、イギリスのいい男でも紹介してくれないだろうか、とすら思ってしまう御坂である。
 
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/10(木) 00:38:07.13 ID:sVbAun5H0

 ウガァアアアア!!! と。
 御坂は携帯電話を握り締めたまま、勢いに身を任せて立ちあがった。
 ガタ―――ンと割と大きな音がしたが彼女は一向に気にしない。


「合コンだって行ってるのにとんと収穫は零なのだしさぁ!」

『そ、そうなの?』

「そーなの!」


 学園都市に―――いや、そもそも日本に。出会いなんてあるのか。
 あるんならもったいぶらさずさっさと目の前に提供しろよ、縁結びの神様。

 どんだけの賽銭をぶち込んだのかと。
 どんだけお守りを購入したのかと。
 
 縁結びなどにご利益があるとされる神社仏閣に相当の金銭を献上している御坂は、
 ちり一つ分の見返りに返ってこないことにすら、内心で悲しみと怒りを覚えるのだった。


「情けない男にしか出会えないとかマジあり得ない!!
 わたしが元・第三位の超電磁砲ってだけで震えあがったりしてさー!」

『……大変そうだね……』

「それにさ―――!」

『う、うん―――、』


 出るわ出るわ独身女性の寂しいような切ないような愚痴愚痴愚痴。
  
 友人に向かって出会いの無さを嘆く御坂は
 他のことをすっぱりさっぱり消え去ってしまうほどに、愚痴るのに精一杯になっていて。

 今、自分がどこに居るのか。
 今、周りにどんな人がいるのか。 

 彼女が立ったことの煽りを受けて床との正面衝突事故を起こした椅子。
 突然大声をあげたことにより職員室中の視線を一人占めしている状態。

 そして何よりも。


「おいコラ、誰が虚弱モヤシだ高齢処女野郎」

「……一方通行、さすがにそれはセクハラで訴えられるぞ」


 という、同僚二人組の同情に満ちた言葉に気がついて、
 脱皮の如く昼休み中の職員室から御坂が真っ赤な顔で逃亡を果たすのが、約三分後の話である。
 

――
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/10(木) 00:45:10.78 ID:sVbAun5H0

・インデックス→英国在住。上条当麻との間に二児を設ける。出産祝いに本間産マグロを所望。

>>42

マグロ解体する人も出てくる予定です。そのうち
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 05:39:25.57 ID:32tfpRMio
脱皮ってもしかしなくても脱兎の誤植よな?
50 :もしかしなくても誤植でした。脱皮してどうするんだよ俺…… [saga sage]:2011/02/10(木) 10:54:22.93 ID:sVbAun5H0

 浜面仕上はひとつの教育機関に雇われている訳ではない。
 数千の女生徒が暮らし学んでいる『学舎の園』の運営をしている、
 五つの女子校の共同出資で設立された団体で、主に学舎の園の管理を任されている部署で雇用されている。
 
 大人な達が意図的に作りあげた街には年頃の女の子しかいない。
 彼女たちの相談に乗る者は出来るだけ年の近い同性
 ―――親しみを持ちやすい『お姉さん』的な人が必然的に求められてるのも当然で。
 故に、それぞれの女子校では専属の年若い女性スクールソーシャルワーカー達が常勤で働いている。

 では何故。
 異性の浜面が別枠で採用されたのか、というと。

 やはり同性だけでは全ての女生徒の相談事をカヴァー出来ないからだ。
 特に恋愛相談の面において、貴重な男性側の意見を欲しがる女子生徒は実に多い。
 
 『いつもはお姉ちゃんに相談するけど、たまにはお兄ちゃんにも相談したいな』 

 全てが全てではないが。
 強いて言えば、こういう時が浜面の出番となる。  
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/10(木) 11:07:55.03 ID:sVbAun5H0

 月曜日は常盤台中学。
 火曜日はその右隣の女子校。
 水曜日はさらのその右隣の女子校。
 木曜日はさらにそのまた右隣の女子校。
 
 そうして一週間の最後の金曜日である本日は、
 旧来の知人たちが居る女子高の保健室が浜面仕上のお仕事場となる。

 五つあるどの女子校にも正式な籍を持たず、
 週に一回それぞれの保健室や相談室に出張する彼の勤務体制を、
 生徒達は親しみを込めて、

 
『浜面せんせいの出張!なんでも相談室』


  と、呼ぶ。

  余談であるが、この命名に酒の席で不服申し立てをした人物が一名いたりする。


「チッ、クソつまらねェな。そのまんまで捻りも何もねェじゃねェか!! あァン!?」

「自分一人だけ愉快なあだ名つけられてるからって拗ねないの、『まっしろ』せんせー」

「そうだそうだ。わかりやすくて俺は気に入ってるからいいんだよ、『しろすけ』せんせー」

「オマエらその奇妙なまでの連携の良さはワザとだろワザとなンだな、
 いィぜ今すぐその肌全部総ひっくりかえしてやるからそこに並べェェェえええ!!!」

「嫌に決まってんだろォォォォオオ!!?? 教職者の癖に暴力で物事解決しようとすんなよ!!」

「そんな真っ赤な血しか想像できない残虐エステこっちからお断りよっ!!」

「うるせェ! それ以外にもいつまでも嫁と仲良しこよしなラブラブリア充とか
 正直羨ましいンだよ畜生!! つー訳で今すぐ軽く滅べやはァァァまづらくゥゥゥゥゥゥン!!!???」

「よしやってしまえ一方通行。私が許す!」

「おォ任せろ」

「御坂!? 俺を裏切るのか!?」

「リア充は滅びて良し」(ニコッ

「そんな素敵な笑顔で悪魔の囁きを言わないでくださいぃいいいいい!!!」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/10(木) 11:21:15.54 ID:sVbAun5H0

「……浜面、アンタのことは忘れないわっ……!」(プークスクス

「おいそこの嘘泣き女! 後ろ手に目薬隠しもってんのバレバレですからね!? てか明らかに笑ってるだろ!?」

「俺は優しいからな。友人としての慈悲くらいはくれてやる。居もしねェ神への祈りの言葉は決まったか浜面?」

「おっかしいなぁ!! テメェの優しさなんて欠片も見当たらねぇんですけど!!!」

「俺だって彼女ぐらいほしいンですゥ。滅びろリア充」

「あっははははは!! 浜面さんの形相超わらえるー!」

「理不尽すぎるだぉぉぉおおおがああああああ!!!!!!」






「「そこの酔っ払い集団、お前ら(アナタ達)うるさいじゃんよ(のですよー)!!!!」」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 11:49:45.94 ID:LfyQBeoIO
この流れは電磁通行になるのか?
期待なんだぜ
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 23:52:08.96 ID:Fxhi5e2AO
この女子高には金曜日になるとキャーキャー騒ぎ出す生徒がいる(浜一的な意味で
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 22:55:36.69 ID:eetJ5eyto
wwktk
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/13(日) 08:32:51.15 ID:2zOULSuR0

 上司&大先輩の先生コンビの説教により、
 楽しい宴会の席でプラズマ元気玉を食らうなんて暴挙は回避された。
 
 昔と違い浜面は基本丸腰だ。
 動きやすさ重視で愛用しているジャージのポケットの中は空っぽ。
 ジーンズの後ろポケットに突っ込んでいた拳銃も車のキーロックを外す赤外線のアイテムも。
 少年時代に見につけていた『物騒な代物』は過去と言う路地裏に捨て去ったから。
 浜面はごく少数の手札すらも地面に投げ捨てた。 

 結果。
 身を守るのはそれこそ身一つだけで。
 だからこそ元・第一位さんと元・第三位さんからの能力使用ありのボケは全力でご遠慮願いたい。
 
 マジで止めて下さい。
 シャレになりません。
 こちとら家に帰れば愛しい愛しい妻が待っているんだよ。

 ちょっとリアルが充実していないからと言って無茶ぶりはやめて欲しい。
 ネタであったとしてもちょっと拾いきれない。
 というか。
 命をかけてまで拾いにいきたくもない。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/13(日) 08:45:28.27 ID:2zOULSuR0

「ははははは。能力ゼロの俺には刺激が強すぎるんですよでござーますよー……」

「浜面せんせぇー、何処にいっちゃってんのー?」

 
 2週間ほど前の悲喜劇の回想にふけっていた浜面を、目の前にいる女生徒が訝しげに見つめている。
 
 本日は金曜日。
 時間は給食後の長時間休憩――すなわち昼休み。

 城主の女性スクールカウンセラーを御機嫌を覗いながら相談室の一部を間借りして、
 『はまづら先生の出張! なんでも相談室inお茶目すぎる同僚連中がいる女子高』の真っ最中。
 
 昼休みを告げるチャイムが鳴ると同時に
 「たのもぉおおおーーーー!!」と元気よく相談室に入って来た女学生にお茶を出し、
 「さぁ、これからなんでも話してくれたまえ」と体制を整えたのが数分前だ。


「……あ」

「あ、じゃないよー。先生わたしの話し聞く気あんのー?」

「あるある、超ある」

「えー。なんかすっごい適当ないい方ぁ〜」

「悪い悪い、ちょっとぼーっとしちまってさ」
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/13(日) 08:54:15.31 ID:2zOULSuR0

「なぁにー? もしかして先生のとこ夜はお盛んなの? 
 だからぼーっとしちゃってるのか。いいねぇ新婚、羨ましいねぇ新婚」

「はいはい。好きに言ってろ」

「………えっ。もう嫁に愛想尽かされて一人寂しく処理してr」

「ラブラブだから! 俺んとこ超ラブラブだからっ!!!」

「チッ、つまんないのー」

「……お前なぁ、少しは恥じらいを覚えろよ」

 
 そんなんだから彼氏が出来ないんだ。
 女に大切なのは恥じらいだ、恥じらい。
 
 浜面が女生徒に向かって大人なアドバイスをすると少女がポツリと。


「けっ、せんせー爆破しろー」

「ちっくしょー、コイツ可愛くねぇ!!!」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/13(日) 09:05:14.58 ID:2zOULSuR0
 
 どいつもこいつも俺に優しくない。
 女生徒に見えないように目尻にじんわりと浮かんできた滴を消すため袖で目元を擦る。
 証拠隠滅成功のはず。クスクスと女学生が腹を抱え爆笑しているがきっと気のせい。

 
「お前ムカツク。さっさと相談してさっさと教室の自分のテリトリーに帰れ」

「先生は可愛そうなことに学舎の園の何処にも自分のテリトリーがないよね」

「貴女は相談をしに来たの? それとも俺の心をブロークンしに来たの?」

 
 女学生は年相応の弾けるような笑顔で笑い。


「両方!」

「最近の女子高生怖いよ!」
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/13(日) 09:43:04.71 ID:2zOULSuR0

「――とまぁ、世間話はこれくらいにしておいて」

「世間話!? 俺の身も心も抉ることが世間話程度のことなのかよぉ……」

「だって私しろすけ派だしー」

「なんだよそれ。派閥でもあるのかよここも」

「常盤台みたいな『派閥』はないよー。ただ、しろすけ派かはまづら派があるだけー」

「ファンクラブ的な?」

「ファンクラブ的な」

 
 派閥。
 
 それは常盤台中学にある独特な女子のグループ形成のことを言う。
 お嬢さまが作る同好会のようなもの、と言うと可愛げもあるのだが、
 実際は将来構造の根幹にまで関わることも多く、常盤台中学内での重要度は極めて高い。
 だからこそ常盤台中学での相談事は『派閥』に関することが多数を占める。
 時点で多いのは能力に関することだろうか。 

 「組織」「能力」に振り回される現状は今も昔も差ほど変わらない。
 くだらない価値基準が未だ根を張る学園都市。
 
 そんな風潮を変えるために『かつての子どもたち』が奮起しているのが、今。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/15(火) 09:26:25.46 ID:0Z5YcR1a0
麦野とか絹旗なにやってんだろ
絹旗は大学生な感じがするけど
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 10:38:12.90 ID:Gxha7pjE0
美琴は今でもアイドルなお姉様なのか、それとも任侠なお姐様になったのか気になるところだ
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 01:32:29.33 ID:/eMCPKAJ0
>>1まだー? 
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/26(土) 21:24:08.42 ID:bm2EvrZx0
>>1よこのスレ忘れてないか?
もうすぐまる2週間たつぞ
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 12:15:47.71 ID:O9Y/eVkIO
てーかこの設定だと上琴の入る余地ないよね
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 12:43:41.54 ID:a7W8GD5B0
まだか
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/28(月) 00:53:51.21 ID:ZDhXw7ZB0
 浜面が女学生と同年代の頃であれば、
 声を大にして真正面からアホで間抜けな口調で真実を提示するだろう。
 いや。彼自身の記憶にないだけで、実際におケツが青かった頃にいってのけていたかもしれない。
 
 『組織だの能力だの。下らねえもんだけで自分を見ようとするなよ』と。
 『それだけが価値じゃない。それだけが世界じゃない。それだけがお前の全てじゃない』と。

 大人になった今でも。
 吸いも甘いも一通り経験した今でも。
 その考えは変わらない。浜面仕上の根本は白く輝いたままだ。
 
 ―――付け加えて言うのならば、『彼ら』の土台は、ずっとずっと揺らいでいない。
 
 ただ。
 成長するにしたがって学んだことは。

  
(「くだらねぇ」の一言で全てを放り投げられたら楽だ。俺らも、子どもたちも。
 けど、それは一瞬の安定でしかなく、継続的な解決にはつながらない)

 
 真正面から壁をブチ破るだけが、術ではない、ということ。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 05:25:06.26 ID:KZYFRYUM0
まだー?
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/06(日) 09:15:47.28 ID:oueXE2Ms0
>>67>>1なのか?
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/06(日) 14:26:17.63 ID:e97bUMhG0
縺翫♀
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/07(月) 19:09:14.44 ID:DkMBob480
>>70
これなんてよむの?
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 22:01:18.41 ID:rwuSsJ8d0
打ち止め…打ち止めはまだかっ
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/03/19(土) 06:47:17.90 ID:k8LRbSwj0
>>1は無事ですか?
74 :  [saga sage]:2011/03/25(金) 16:01:22.75 ID:JNcZWEgE0
浜面は信じている。

自分のもつ価値は、その両の手で作り上げていくもの。
自分の命をかけていいと思えるものは、その両の手で掴み取っていくもの。

手のひらを泥にまみれさせ、大いに傷ついて。
ゆれる心を強く持ち、もがいてもがいてもがいて。
そうやって、手に入れたものこそが、宝になると、浜面は信じている。

ようやく己のものになった宝を。
時に、それを心無い他者が「ガタクタ」だと揶揄するかもしれない。
時に、それを意地悪な大人が「下らない」と失笑するかもしれない。

けれども。

過保護の親が愛し幼子に与えるような過剰の愛のように。
楽々とした状態で受領したものを、人は果たして「これこそが自分である」と胸をはれることなど、できるのであろうか。

自分の足で立っているものならば、首を横には振らないだろう。

子供というモラトリアムから脱却し、大人の世界に入り浸るようになった彼らもまた。
親が、教師が、学園都市が、ましてや天が。
己自身の道を、一から十まですべてを用意してくれることは無かったのだから。
75 :  [saga sage]:2011/03/25(金) 16:13:00.66 ID:JNcZWEgE0
スタートラインまでは庇護してくれる周囲の人が用意してくれる。
浜面仕上という少年もかつては、一本のまっすぐな白線の上に立っていた。

白線の名は様々。

ある人は学園都市とよんだ。
ある人は能力開発とよんだ。
ある人は暗部とよんだ。
ある人は――――。

浜面の足元にあった白線は、武装集団(スキル)だったかもしれない。

彼はそこから、暗部というコーナーを曲がり、走って走って。
滝壺理后という人を見つけた。

少年は見つけた。命にかけるに値する価値を、存在を。
そうして、白線の先にある宝を見つけた少年は青年となった。

ハリのあった肌はすこしくたびれた。
しゃんと筋の通っていた背中は、デスクワークばかりの仕事のおかげで猫背気味。
きらきらと輝く独特のきらめきはすでに過去の話。

十数年たった。
少年だった彼に、白線を与えてくれた大人、或いは周囲の人のように。
大人となった浜面仕上は、いま、誰かのための白線を引いてやる側の人間になった。
76 :  [saga sage]:2011/03/25(金) 16:16:59.98 ID:JNcZWEgE0
能力だけにとらわれるのはいただけない。
なんといったって、世界は広いのだ。
ロシア周辺で見上げた空の広大さといえば言葉に表せれない。
箱庭(学園都市)が全部だと感じるのは、感受性豊かな青少年には、本当にもったいないことなのだ。


(けど、やっぱ、一言で片付けられねえんだよなぁ)


77 :  [saga sage]:2011/03/25(金) 16:23:01.68 ID:JNcZWEgE0
あれほど、騒ぎ立てつばを吐き踏みつけた、「レベル」という概念。
―――それは、無能力者だけにとどまらず、能力の頂点にたつ超能力者ですら苦く思っていた。

だというに。
相も変わらず、「組織」「能力」に振り回される生徒たち。
『くだらない価値基準』。

そう、確かにそれは下らない。
今の子供たちだってそのことに鬱憤がたまっていないはずが無い。

なのに。それなのに。『相もかわらない』のは。
「はい、意味ないことですよ」 と簡単に言えるほど、軽いものではないから。


(―――確かに、力がすべてじゃない。……けれど)


けれど。
子供たちが『能力』『組織』『レベル』などといったものに、価値を見出してなら、話は別となる。
78 :  [saga sage]:2011/03/25(金) 16:28:13.79 ID:JNcZWEgE0
それが価値だ。
それが世界。
それが俺もしくは私のすべてだ。

数多転がっているものの中から、その生徒が『能力』を己が価値として選びとったのなら、尊重すべきであろう。

浜面にとって、それは否定する価値だったかもしれない。
生徒の誰かにとっては、それは生きる価値になるのかもしれない。

浜面仕上たちが学びとったのは、そういう物事の2面性。
価値の反転。
否定と肯定。

壁は壊せばいい。
―――なんていうには、『彼ら』には若さが足りない。
79 :  [saga sage]:2011/03/25(金) 19:05:54.55 ID:JNcZWEgE0
必要なのはもう一味加えてやること。
たたひとつの調味料を仲間に入れることで見事な変化を遂げる料理の如く。

『かつて子供だった彼ら』は学園都市というものに、たったひとつ加えてやる仕事人。

能力もまた生きる道である――と、認めようじゃないか。
能力以外のこともまた生きる道である――と、知ろうじゃないか。

二兎追うものは一匹を得ず、ともいうが。
その点は心配いらないだろう。
何せ、理性的で非常識なむちゃくちゃな大人がそろっているのだから。

俺はその中でも冷静沈着だと思っている浜面でさえ、
子供のころは銃を持ちATM泥棒をし、海外まで愛の逃避行を実行した型破りな人間である。
80 :  [saga sage]:2011/03/25(金) 19:14:19.32 ID:JNcZWEgE0
思考は回る。
ぐるぐると回る。

ああ、そういえば昔はこんなこともあったけっな。
そうそう、ほかにもこんなことがあったんだわ。

―――と、感慨深くなりそうになる心を浜面は持ち直す。

何せ、今、浜面の目の前には、


「せんせーってば、また現実逃避の妄想? ちゃんと仕事しようよお仕事ー!」


まったく自分の話に耳を傾けないスクールソーシャルワーカーに、
不満げな声をあげる女生徒が一人。

いい加減、ちゃんと彼女の話を聞いてあげなくては。
ぜんぜん傾聴がスタートできていない時点で、相談職としてヤバイ気もする。

はてさて今回は何の相談であろうか。


「あー。悪いな。春のうららかな気温にちょっと眠気がなぁ」

「春の陽気に負けるなー!」

「だから悪かったって。んで、今日の相談ってなんなんですか、おじょうさん?」

「…………んっとね、実はね―――」


そうして、ようやく、本日も無事はまづらせんせーの出張相談室は始まっていく。


今日も。明日も。あさっても。
浜面仕上は、生徒の話をききながら、ちょっとずつちょっとずつ、生徒の足元に見えない白線を引いていく。

そんな、日常。



―――
81 :  [saga sage]:2011/03/25(金) 19:18:04.98 ID:JNcZWEgE0

・浜面仕上→スクールソーシャルワーカーです。何度かカウンセラーと書いてしまったのはミスです。      
      嫁はもちろん滝壺理后。『学びの園』運営団体に雇用されている。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/28(月) 10:10:35.11 ID:64vdHCli0
>>1きてたー!
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/01(金) 19:14:17.04 ID:n09TinkL0
作者は書くときはageなよ
感想とか書いてもらえないぞ
84 :  [saga sage]:2011/04/11(月) 17:13:53.95 ID:Vgqw3Tw70
大通りから伸びる路地裏に面している薄汚い雑居ビル。
その建物の中に、『青少年お悩み相談室』なる意味不明なプレートが入口のドアにかけられている、
如何にも妖しげな雰囲気を漂わせる一室で、
番外個体が不機嫌極まりない声で、目の前にいる上司様に向かって悪態をついた。


「報告は以上」


徹夜で仕上げた報告書をテーブルの上に無造作に投げつけ、


「もうミサカ帰ってもいーよね?つーか帰らせろ今すぐ即効即決で!! 
 ここの所、働き蟻以上にカリカリカリカリカリカリカリ働かされてさー、
 いい加減こっちも疲れてんだよクソ上司」


「んだよ、声がいつも以上にとげとげしいぞ? 生理か?」


部屋にあるソファーに足を組んで座っているホスト風の男は彼女の言葉を華麗にスルー。
クスクスと意地の悪い笑みを浮かべながら、番外個体から報告書を拾い目を通しつつ、
堂々とセクハラ発言をかました。


「最低。超キモイんだけど。あり得ないですけど。今すぐ死ねよこの野郎」

「せっかく素体にそっくりな作りのいい顔してんだからあんまり下手な口調すんなよ。
 責められたいドマゾ野郎相手ならともかく。大抵の男に汚ねえ言葉遣いはマイナスってもんだ」

「余計な御世話だよ。
 ミサカに言わせれば、女の口調の一つや二つでケツ振って一目散に逃げる男なんてこっちから願下げ」

「たっく、相変わらず、可愛くねえほどに気が強いな、ワースト」

「アナタも相変わらずあの人並にデリカシーがないよね、第二位」

「オイ。いつも第二位っつーなって言ってんだろ」

「じゃあ、腐れホスト?」

「そっちも却下! つーか余計ひどくなってるだろうが!!」
85 :  [saga sage]:2011/04/11(月) 17:29:04.83 ID:Vgqw3Tw70
「あっはっはっは! 腐れホストねえ。言い得て妙じゃないのさ、垣根くーん?」


 聞きなれた第三者の声が二人の間に割ってはいてくる。
二人が振り返った先に、妖しさ100%配合の部屋の扉を開けて顔をのぞかせる一人の女性がいた。


「沈利」


番外個体が女性の名を口にし、腐れホストこと垣根帝督は眉を潜めて麦野に話しかけた。

 
「お前までそう言う? 全然、言い得て妙じゃねえっつーの」

「いやいや。どう見たってアンタの恰好はホストにしか見えないでしょう。
 馬鹿みたいに口は上手いし無類の女好きだし、案外、天職だったりするかもよ?」

「だよねー。ミサカもそう思う」


 思わぬところで同意者をみつけた番外個体は、先ほどとは打って変わって機嫌よく相槌をうつ。
 女性陣に『ホストだ女好きだデリカシーないくそ野郎』と、一秒単位で叩かれまくる垣根は、
 至極面倒くさそうにため息をはいて、そのまま気分を紛らわそうと胸ポケットにある煙草へと手を伸ばそうとした―――のだが、

86 :  [saga sage]:2011/04/11(月) 17:40:54.22 ID:Vgqw3Tw70
「ちょっと、垣根。なにしてるの?」


 そのたった一言で、垣根の手が止まる。
 ついでに両肩を微かに震えさせたあと身体を硬直された。
 
 いまの彼に漫画的な効果音を付け加えるなら『ビクッ』とかだろうな、と番外個体は口角をあげた。
 顔を固定したまま眼だけを動かせば、般若のような顔で垣根を見つめる麦野沈利さんが。
 両腕を前で組んだ状態で麦野が「なにしてるの?」と問うと、垣根はダラダラと汗を流す。

 そうして番外個体は思った。
 ざまぁぁああ、と。
 

(あっはぎゃは。いい気味だね垣根くゥゥゥン☆)


 せっかく。
 本当に、せっかくせっかく。
 久方ぶりとれた休暇は、なんともまあ傍若無人な上司様の性でチャラになった。

 人件費は削減しろと言われつづけているこのご時世。
 休日出勤をしたって手当も何も無いに広しい。
 誰が好き好んで、そんな無休の休日出勤やサービス残業を「やります!僕チンにやらせてください!」と尻尾を振るというんだ。
 
87 :  [saga sage]:2011/04/11(月) 17:58:34.90 ID:Vgqw3Tw70

 そして、更に番外個体の不機嫌度数を急上昇させた原因のもうひとつが。

 
(畜生、これじゃあ、またゼロからのスタートじゃん)


 良いなと思った男とのデートがおじゃんになったことたいして、内心でイライラしっぱなしなのである。
 らしくもなく。自分から頑張って頑張って頑張って約束を取り付けたというのに。
 彼女の努力は『休日出勤』という名の魔物に喰われてしまった。

 ミサカネットワークから負の感情を拾いやすいように製造されたのが、番外個体。
 そんな彼女が好いた惚れたという領域に足を突っ込むことは、本当に珍しいこと。
 垣根の言うとおり、素体に似た美しい容姿を持つ彼女に吸い寄せられる男は多いが、
 彼女はいつもそれらの男どもをくだらないとはねのけていた。
 
 しかし、今回ばかりはその『いつも』とは違っていて。

 
(……せっかく。もう少しでミサカも『好き』を知れそうなのに)


 自分から。
 このミサカから。
 『いいな』、と。そう思えたから。だから。


(あーあ。最悪)


 楽しみにしつづけた約束が無意味になってしまったことが、何よりも悔しく。
 やり場のない苛立ちが、ドタキャンせざるおえなくしやがった上司にぶつけても仕方ない、と子どもっぽく彼女は八つ当たりしているのだ。
88 :  [saga sage]:2011/04/11(月) 18:04:57.57 ID:Vgqw3Tw70
 すこしばかりセンチメンタルになっている番外個体を余所に、垣根と麦野の間には絶対零度の空気が漂っていた。
 
 
「ねえ、いまなにしようとした訳? 胸ポケットに手を伸ばそうとしてたけど」

「あ、えーっと、その」

「…………もしかして、煙草を吸おうとしてた、とか?」

「いいいいいい、いや、違う!!」

「だよねー! そうだよねー! 
 あんだけ『もう煙草は吸わない』って豪語してたもんなあ?
 私の目の前で堂々と宣言した癖に、人が見てないところでは煙草の味をかみしめてたとこ、そんなことしないよなー?」

「勿論だって!」

「…………本当でしょうね」

「お、おぅ」
 

 すごみのある麦野の低音につたれて、垣根の全身から更に汗が噴出する。
 麦野は仁王立ちのまま、ガタガタと小動物並に震える男を見下しながら、しばし無言を貫く。
 さきほどまでのえらそうな態度は何処へ行ったのかとも思ってしまうが、
 対麦野戦となると、この男はいつもこうだ。

 簡単に言えば、垣根帝督は麦野沈利の尻にしかれている、ということである。
 
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/06(月) 18:39:59.64 ID:D1GUHUYw0
おれは待ってるんだぞ
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