このスレッドはSS速報VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

御坂「トウマ……君?」蛇「学園都市……か」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/20(日) 17:44:47.12 ID:sbrdjlQZo
こちらでは初めまして。
GEPがまだSSを取り扱ってた頃、そこに禁書×MGSのSSを書いてたものです。

「移転したから今のスレはHTML化しますね」
と運営の中の人から言われたのでこちらで再開させていただきます。

設定・時系列

とある魔術の禁書目録
アニメ第1期から若干原作の流れを汲みつつパラレルワールド化

メタルギアソリッド
1と2の間


禁書とか言いながら科学よりです(笑)

修正入れつつ、最初から書きこんでいきますのでよろしくです
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713613334/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 17:47:55.92 ID:sbrdjlQZo
プロローグ


俺、上条当麻は病院の前にいる。
インデックスとの一件で記憶が亡くなってから幾度もお世話になったあの病院だ。
あのカエル顔の先生に変態扱いされそうになる始末だ。

上条「あの先生、まだいるのかな…?」

エントランス前から病院を見上げながらポツリと呟く。

というのも、三沢塾事件などがあった翌年。
俺はちょっとした事情で学園都市から離れた。
行き先は海外がほとんどで、行く先々で戦争が起きた。
そこで俺は科学と魔術との対立が思っていた以上に、
深かったのを実感した。
このままでは、世界中を巻き込む大戦争が起こる。
そうなれば魔術師・能力者関係なく沢山の犠牲者が出てしまう。
それはなんとしても食い止めなければいけない。
そこで俺は二つの勢力を落ち着かせるため、それぞれに属する
グループの一つ一つに交渉をして休戦協定を結ばせた。
そりゃ一人だけってのは無謀だったから、ステイルや土御門、
それから御坂達にも手伝ってもらい。
そしてなにより俺が持つ右手の能力によって、今のところは
勢力間のストレスは少ないものになっている。
……何人かの仲間は失ってしまったが。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 17:48:23.85 ID:sbrdjlQZo
おっと、危うく感傷に浸ってしまうところだった。
これから「あいつ」のお見舞いだってのに、
悲しい顔してちゃいけないな。

そう、今回この「冥土返しのいる病院」に訪れたのは、いつも通りの
入院ではなく、俺の仲間…いや、それよりもっと大きな存在になった奴のために
来たのだ。
一度戦争巡りから学園都市に帰ってきてから…もう1ヶ月くらい経つのか。

あいつ、元気にしてるかなぁ…

などと心配をしながらエントランスに入っていく。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 17:49:03.64 ID:sbrdjlQZo
受付でアイツのいる病室を教えてもらい、その部屋の前にたどり着こうとした時、
中からあの人が出てきた。

「んっ?君は確か……」

目の前にいる俺を見て彼は言った。

普通の人に比べて目が離れていて、口も大きめ。良く言えば愛嬌が持てる、
悪く言えばただのカエル顔のおっさんだがこれまで受け持った患者はほぼ全て
救ってきたというのだ。「冥土返し」という異名も持つほどだが、
とてもそうは見えないし……

「ん〜、怪我をしているわけではなさそうだし……
あっ、さては入院中に目星をつけたナースとこれから」

こんな発言を入院する度に聞いた。だからいまいち実感がわかない。

「いやいや違いますって。今日はちょっとお見舞いに……」

分かってはいた発言とはいえ、やはり聞くと苦笑いが出てしまう。

「ふむ……なんだ、そうなのか。残念だね……」

あの、ものすごいしょんぼりオーラ出されるのやめてくれませんかね?
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 17:49:34.20 ID:sbrdjlQZo
「ところで、お見舞いに来たと言ったね?」
「ええ、この部屋の中にいる奴に」

そういって俺はあいつがいる部屋のドアに目を向けた。
ドアノブの少し右上に「ミサカミコト様」という名札。
こいつに会うために、多いときは3日に1回はお見舞いに来たりしたが、
全て面会謝絶。最近になってお見舞いが出来るようになった。
そして今日、久々にアイツと顔を合わせられるわけだ。

「しかし、君も聞いているとは思うが……」

そういうと、先生は少し沈んだ表情を浮かべた。
その理由は、俺も知っている。いや、俺のせい…なのかもしれない。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 17:51:46.61 ID:sbrdjlQZo




第1部「とある少年の帰還報告([ピザ]リーフィング)」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 17:52:14.69 ID:sbrdjlQZo
訂正




第1部「とある少年の帰還報告(デブリーフィング)」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 17:53:28.92 ID:D8Ft3WFn0
sage と saga 両方いれとけよ
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 17:53:55.75 ID:sbrdjlQZo
今から1ヶ月前の話。
ちょうど俺が学園都市に戻ってきた時の事。
戦争の歯止め役となって以来、俺の行いが
どっかの軍需産業あたりには気に入らなかったらしく行く先々で襲われる
ようになった。
ネセサリウスの連中に援助してもらいつつの交渉の旅だったが、それも限界が
来てしまい。一度学園都市で身を隠したほうが良いという結論の元に俺は
故郷に戻ってきた。
しかし、その故郷でさえも俺の安息を守ってくれなかった。
どうやら学園都市の上層部が俺の妨害していた奴らと手を組んでいたらしい。
考えてみればそれは筋が通る。ここは科学の街。アンチスキルの装備やらは
レベル0、つまり学園都市外の人でも扱える武器。それはすなわち軍用兵器。
ということは……そういうことだ。
とはいっても、俺を追っているのはどうやらアンチスキルではない。黄泉川先生
には一度話をちらつかせたが、嘘をついているようには見えなかったし、
何より装備がアンチスキルとは程遠い。なんというか、そう。
軍人ではなく、暗殺専門という感じが見て取れた。
そういうことで、学園都市の中でも転々とする毎日を過ごしている。あの
マンションの部屋もすでに売り払った。
ちなみにインデックスはこの状況では俺に預けていられないとの命令で、
イギリスに帰っていった。まぁ、狙われているのが俺だけなのに巻き込むわけに
もいかないからな。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 17:55:34.81 ID:sbrdjlQZo
「はぁ……全く気が休まらないなぁ」

その日泊まることにしたホテルのベッドに寝そべりながら愚痴をこぼす。
何せ部屋が一番上の階にあるスイートだ。こんな状況で落ち着けるほど、
この上条さんは優雅な暮らしをしていなかった。
ところで、どうして貧乏学生だった俺がこうしてスパイのような生活が出来る
のかというと、仲間のおかげである。時々実年齢に疑問を感じてしまう声の
持ち主である白井が俺の状況に見かねて経済的な援助をすると言い出した。
なんでも、親父さんがどこかの会社の重役をやってるらしい。
まぁ、御坂を除けば常盤台中学に通うのは裕福な家庭で育ったお嬢様ばかり。
特に白井に至っては、あの独特な口調だからな。性癖は……この際置いておこう。

「本当、助けてもらってばかりだな……っと」

両足を振り上げ、勢い良く体を起こす。しかし、何もしようがないな……。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 17:56:31.86 ID:sbrdjlQZo
と、そこに玄関のドアをノックする音が聞こえてきた。
昔の俺なら何の迷いもなくドアに向かっていったが、これまでの経験が
そうはさせてくれない。同じような状況である時はホテルマン、ある時は宅急便
を装った追っ手にやられそうになったからな。受付には用があるときは電話
してくれと頼んだはず。とすると……

「私ですの」

この口癖。やれやれ、噂をすればなんたらだな。
ドアを開けると、先ほど言った救い主が目の前に立っていた。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 17:57:36.06 ID:sbrdjlQZo
「ご無沙汰しておりますの」
「よう、元気そうだな」

援助を申し出てきたときは、そりゃもうびっくりした。
外見は学園都市を出る前とそれほど変わっていないだろうと思っていたが……
たった3年ですっかり変わっていた。
髪はあのツインテールから神裂のようなポニーテール(?)に変わっていて、
服装もあの制服から黒のシャツに白のミニスカート。おまけに黒のハイソックス。
あの時は目を疑ったな。

「しっかし、今のその姿。昔のお前からしたら想像できないな」
「それだけ私も淑女になれたということですの」

皮肉のつもりで言ってみたが、軽くスルー。あの頃は、それこそ目の敵とでも
思わせるくらいぞんざいな態度だったんだが…。

「で、今日は一体どうしたんだ?」
「ふふっ、今日は少し昔話でもしようかと思いましてですの」

昔話…ねぇ。そういうのは、まだするもんじゃないと思うのは俺だけか?

「……まあいいや。とりあえずここじゃなんだ。入ってくれ」
「そうですわね」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 17:58:38.43 ID:sbrdjlQZo
「ったく、用があるなら連絡ぐらい入れてくれ。声をかけてくれるまで、
マジでヒヤッとしたんだからな」
「あら、それが助けている人への恩返しの言葉ですの?」

言葉にややトゲがあるが、表情を見た限り怒ってはいない。まぁ、3年間の
俺の状況を知った上で援助してくれたんだから向こうも俺の気持ちの理由も
分かっていてのことだろう。

「で、話って?」
「……お姉さまのことですの」

お姉さま、か……。こいつにとってのその言葉は、アイツ以外には存在しない。
俺がまだ学生だった頃は、いつでも「お姉さまお姉さま」と呟いているぐらいに
アイツのことばっかり考えていたみたいだからな。

「お姉さまのことは、貴方もご存知ですのね?」
「そりゃあ……な……」

忘れたくても……忘れられるかよ。

「その、お姉さまのことで最近噂が」
「なっ?!あいつは!」

白井の言ったことに驚きを隠せず、つい声を荒げてしまう。

「分かっておりますの。ですが少し落ち着きなさい。今の貴方はなるべく隠密に
行動しなければならなくて?」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:00:35.70 ID:sbrdjlQZo
……何も言えなかった。
しかしアイツ、…アイツはもう……

「先日、この学園都市内で異常な電磁波が記録されましたの。
その地区担当の風紀委員が調べました所、現場には気絶して倒れていた方
がいらして、これは電撃系の能力者による犯行と断定されました。
ですが、私達も独自で調査をしましたところ、今この学園都市に暮らしている
『電撃使い』には少々無理な犯行ですの」
「えっ?」
「なぜなら…犯行で確認された能力レベルは…レベル5」
「っ?!」

レベル5…超能力者は、この学園都市277万人のうちたったの7人しか
存在していない。その中でも、電撃系の能力者は…俺の知っている限りただ1人。

「だけど、それは…」

「ええ、分かっています。この学園都市の電撃系能力者の頂点とも言える、
『超電磁砲』という異名をとられていた、常盤台中学のエース。」

「……御坂美琴は」
「…すでにこの世には、もう――」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:01:08.16 ID:sbrdjlQZo
それ以上は、白井は口に出さなかった。
いや、出せなかったのだろう。
だって、コイツがあれほど慕っていた「お姉さま」。










御坂美琴は、戦死しているのだから。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:03:31.24 ID:sbrdjlQZo
「……ですが、もう亡くなっているとはいえ状況はお姉さまが犯人だとしか思えま――」
「ふざけるな!!御坂はもう死んだんだぞ!!!お前だってそれは分かってるだろ?!」

会話を無理矢理ぶっちぎる。
今までそう思ってた。そう思うしかなかった。なのに……なんで今更……

「私だって!!」
「っ?!」

「私だって……お姉さまはもうずっと亡くなっていると思っていましたわ!
でも……心のどこかでまたお姉さまに会えると信じ――」
「そんなことあるわけないだろ!!だって、アイツは……」

御坂美琴は死んだ。それは何より、俺が一番分かっている。だって

「アイツが、アイツが死んじまう瞬間を俺は見届けたんだぞ!!」
「っ?!」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:10:41.24 ID:sbrdjlQZo
俺が学園都市から離れて翌年。
なんと、ビリビリが俺の元にやってきた。
アイツいわく

「アンタがアタシから逃げられるのかと思ったら、大間違いなんだからね!!」

だそうだ。やれやれ、最初にケンカしてからもう何回も負けてるはずなのに
懲りない奴だな、ホント。でも、今まで戦争という非日常の中、ほとんどの時間を
たった一人で過ごしてきた俺には、この時のビリビリには本当に感謝していた。
まさか、夜遅くにふと目が覚めて涙がこぼれただなんて知られたら、
笑われちまってただろうけど。


その時俺はインドにいた。そこから、宗教間での紛争が絶えないアラビア地方の
ある国に向かうためだ。
どうしてそんな所に用があるんだと思うかもしれないが、この紛争は科学側と
魔術側の代理戦争と化しているためだ。
現地で仕入れた情報によると、科学側には学園都市張りのID化された武器やら
一部の能力者が流され、魔術側には少数派集団がこの戦争に勝って
名を上げるために躍起になっているそうだ。そこにどんな思いがあっても、
無関係の人までをも巻き込むなんて俺は許さない。
そういうわけで、俺とビリビリはまず魔術側の交渉をすることにした。
だが…その途中でゲリラの襲撃に巻き込まれてしまい、御坂は………。
あいつは最期に、俺へこんなことを言っていた。

「純粋に人を助けたい気持ち……ずっと持ち続けて…なさ 」

死因は爆発の衝撃を諸に食らってしまったこと。幸運なんだろうか分からないが、
俺は奇跡的に打撲で済んだ。だが代わりに大切な仲間、いやそれ以上の存在を
失った。この時ほど、自分の不幸を呪った事はない。それまでにも、
俺を助けてくれた人達の何人かは犠牲になったが、ここまでの悲しみは…ある
はずなかった。だって、じゃじゃ馬ではあったけどアイツとの仲は悪くは
なかったんだぜ?

ふざけんなよ…何が戦争をやめさせるだ!!!仲間一人救えない奴が。何だ?
世界を救うだ?冗談もいい加減にしろよ!!!

御坂を失ってからの俺はしばらく自暴自棄になっていたが、あいつが遺してくれた
言葉の思いをもう一度考え直して再び戦地に向かった。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:11:53.27 ID:sbrdjlQZo
「……そうでしたの。そのようなことがあったと知らずに私は……」
「気にするな。別に白井が悪いわけじゃない」
「ですが……」
「もう、気にするな」

でないと…俺はまたアイツの死で押し潰される。
だから、今はほかの事を考えさせてくれ。

俺の思いが通じたのか、白井は一度口を閉ざした。
おそらく、御坂が俺の所に行こうとした時にこいつも猛反対したんだろう。それでも
止められなかった自分の責任、とか考えているのかもしれない。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:13:12.83 ID:sbrdjlQZo
「とりあえず、その『ミサカミコト』を探そう。今はそれだけだ」

暗い雰囲気を吹き飛ばすため、俺は話を変えてみた。

「分かりましたわ。ですが、一度風紀委員の方に出向いていただきたいんですの」
「出向くって言ったって、俺が街中に出たら……」
「大丈夫です。きちんと風紀委員の方から護衛を出しますので。さすがに連中も
街中で、複数を相手に仕掛けてくるとは思えません」
「それもそう、か」

ずっと戦地にいたせいか、なんだか少し嫌な予感がしなくもないが、
ここは白井の言うことに従おう。

「では、私はパトロールがあるのでこれで」
「あぁ、気をつけてな」

その言葉に白井は微笑んだ。だが次の瞬間、とんでもないことを言ってくれた。

「あぁそうそう、殿方一人がこのような広い部屋にいると退屈でしょうし……
こちらから護衛と称して若い女の子にお世話をさせましょうか?そうそう、お帰りの際は
ストレス発散と運動もかねて」
「い、いいから!!とっとと行ってくれ!!!」

予想もしなかった言葉に思わず声が上ずってしまった。
俺の反応を見てクスリと嫌らしく笑ってくれた白井はそのままテレポートで
どこかに消えていった。

いくら戦場を巡ったとはいえ、まだまだ上条さんはウブな男の子なんだからな……
まったく。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:13:43.97 ID:sbrdjlQZo
とりあえず、いったんここまで〜
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:38:32.42 ID:sbrdjlQZo
さいか〜い
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:39:53.88 ID:sbrdjlQZo
翌日、ホテルのチェックアウトを済ませてエントランスから出ると右腕に緑色の
腕章をつけた学生が待ち構えていた。

「上条当麻さんですね。白井先輩からの指示で、
あなたを第一七七支部にまでお送りします」
「おぉ、ご苦労さん」

あいつの名前が出たので、とりあえず肩の力を抜いた。
しかし、あの白井にも後輩が、ねぇ……。あの時はあの性癖もあって色々と心配
だったが、どうやら心配し損じたみたいだな。

……御坂が聞いたらなんて言うだろうな?
………やめよう。こういうことを考えただけで自分に腹が立ってくる。

「……どうかしましたか?」

不安そうな目で俺の顔を覗いてくる風紀委員。いかんいかん。不幸属性の
上条さんですけど、それを他人にまで押し付けるのは良くないな。

「あぁ、ごめんごめん。ちょっと、昔のことを思い出しちまってな…」
「は、はぁ……」

それにしても、はじめてみる顔だな……って当然か。3年間ここには
いないんだから、その間に入ってきた奴の顔なんて分かるわけがない。

「で、昨日白井から聞いた妙な噂の話なんだけど……」
「はい。それじゃあ移動中にお話しますね」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:40:56.43 ID:sbrdjlQZo
新米風紀委員さんの話によると。例の電磁波事件の犯人さんは、
白井が帰った後にもまた同じような犯行を行ったらしい。前の事件と比較しても、
同じ時間帯・同じ手口・同じ格好をした被害者というらしいのだが…

「その事件の被害者の服装が全く同じなんだけど、その服装はこれまで学園都市では
見たことのないものだ、と……」
「はい。アンチスキルの戦闘服に似ているようにも見えるのですが、特別な理由
がない限りアンチスキルは出動はしませんので」
「う〜ん……要するに、今回の事件にはアンチスキルのような公的な何かにも関係してる
んじゃないかってことか?」
「おっしゃるとおりです。」

だとしたらそれこそ、アンチスキルじゃないけど風紀委員じゃない所が扱った
方が良いんじゃないか?
……いや、そんなよわっちい物じゃないもんな風紀委員は。

「着きました、こちらです」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:41:36.02 ID:sbrdjlQZo
着いたのは周りとほとんど変わらない普通のオフィスビル。風紀委員は学園都市の外でいう
警察みたいなものだから、なんか特別分かりやすい建物でも用意されているのかと思っていた
が、違うようだ。やっぱりスキルアウトからのテロ対策だろうか。

「白井さん、上条さんをお連れしました」
「ご苦労様。じゃあ貴方はパトロールに行ってくださいまし」
「はい」

俺を中に入れてくれたあと、案内してくれた子はすっと姿を消した。

「あれ…?」
「あぁ、あの子もテレポートの使い手ですの。でも、レベル的にはまだまだな所ですけど」

相変わらず手厳しいな、コイツは。

「全く、そのプライドは相変わらずね」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:58:47.45 ID:sbrdjlQZo
と、給湯室から一人女の人が出てきた。…うわぁ、すっげぇ美人。

「…?どうしたの?さっきから私のことジロジロ見て」
「っ?!い、いやぁ、なんでも…ないっす」

いかん。ついうっかり見惚れてしまった。だぁもう、こういうことするから
いらない疑問を持たれるんだろうが。

「固法先輩。あまりその方と触れ合いますと、食われますわよ?…それとも、
それが目的で――」
「そんなわけないでしょ。初めて会った人に好意を抱くほど、
私は落ちぶれてなんかいないわ」

以前にも見たことがある別人のような、なんというか薄気味悪い顔で話しかける
白井に対し、その人はまるでこの会話が日常茶飯事だと言っているようにあっさ
りとスルーしていた。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:59:13.34 ID:sbrdjlQZo
この人は、固法美偉という人らしい。
らしいというのは、今白井からざっと紹介をされて初めて知ったからだ。
なんでも、高校時代にこの第一七七支部の風紀委員として活動していて
今は地元の大学生だそうだ。

…ん?ちょっと待てよ?

「でも、今風紀委員じゃない固法さんがどうしてここに?」
「あぁ。長い休みになると、こうしてここでくつろいでるのよ。
まだまだ出来の悪い後輩がちゃんと仕事をしているのか確かめるのも兼ねてね」
「固法先輩も相変わらず手厳しいですの…」
「もう冗談よ。でも白井さんって暴走する所があるから、ちょっと心配なのよね」
「初春のような後輩を複数持つと、そうそう命を張るような行為は出来なく
なりますのよ」

白井は座っていた椅子によりかかり、天井を見上げながらつぶやいた。

「あらあら。ここに来たときの貴方に言ってあげたいわね」

…なんというか、風紀委員も大変なんだなぁ。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 18:59:49.72 ID:sbrdjlQZo
「ところで上条さん。ここにきていただいた理由は他でもありません。
例の電磁波事件に関することですの」
「あぁ、それなら護衛に来てくれた子に聞いたよ。なんでも、
被害者の詳細が全く見えてこないんだろ?」
「その通りですの」

白井の話はこうだ。
襲われた被害者の詳細を調べようと、初春って子に頼んで書庫を
調べたそうだがデータには一切なし。スキルアウトの可能性も考えた
ものの、アンチスキルに似た格好をしている事から考えてその線は
なし。だがこの学園都市において、外からの不法侵入はほぼ無理と言っていい。
もしかして、魔術側からの刺客か?しかし、今までの行動からして
能力者一人に絞って狙う理由が見つからない。

「なあ。とりあえず、その被害者の服装を見せてくれないか?」

何はともあれ、白井がここに呼んできたって事はその事件が、俺にも
関係があると見越してのことだろう。だったら、まずは状況を調べさせて
くれねぇと。

「ちょっと待って。風紀委員でもない貴方がどうして事件を知ろうとしてるの?」

すかさず固法さんからの突っ込みが入る。そりゃそうか。俺とは初対面だし、
この様子じゃ白井は俺の事情について話してはいないようだしな。

「まあまあ固法先輩。この方は昔、私や初春の間では
『事故発信(トラブルメーカー)』と呼ばれるくらいに事件に巻き込まれていた
方ですの。今回の事も彼に関係しているかもしれませんから、
念のためにですのよ」

ぼかしを入れつつ、白井がフォローを入れてくれた。

しかし、事故発信ってなんだよ?
そりゃ昔から色々と首突っ込んでは巻き込まれ、だったけどそこまで
とはなぁ………。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 19:00:39.06 ID:sbrdjlQZo
「ふぅん…。それなら良いかな」

とりあえず固法さんもそれで引き下がってくれた。

「では、少々お待ちくださいまし。…初春」
「はい。今事件現場の写真を探している所です」

積まれた段ボール箱の向こうから、飴玉のような甘ったるい声が聞こえた。
どうやら、そこに白井が言っていたウイハルという子がいるようだ。声は
さっき言ったとおりだが、なかなかな切れ者みたいだな。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 19:01:06.81 ID:sbrdjlQZo
「白井さん、見つけました」

白井の呼びかけから数十分経った頃。
あの声が再び支部に響いた。
呼びかけに応じて、白井がダンボール箱の向こう側に歩いていった。

「ところで、上条君…だっけ?」

白井の方に目を向けていたとき、ふと俺に声がかかる。固法さんだ。

「はい、なんでしょうか?」
「あなた、なんだか事情がありそうだけど一体どうしたの?事故発信の
噂は私も聞いてたけど、ある時からぱったり話にならなかったじゃない。
一体何があったの?」

やばい、感付かれてるか。
ってか、俺の『異名』を知ってたんですか、貴方も。

「あぁ…その前に、なぜ貴方の顔がこんなに近くに見えるんでせうか?」
「そんなことどうだって良いじゃない。それより、今は私の質問に答えなさい!」
「いやぁ、答えたいのは山々なんですが…」

だ、ダメだ。どうしても視線が下のほうに行ってしまう…
だぁ!!ダメだダメだ!!これ以上変な誤解を上条さんはして欲しくは
ないんですよ!!!

「えっ?どうして下のほうをチラチラと…っ?!!!」

次の瞬間、俺は宙に浮いていた。……妙に左頬が痺れながら。はぁ、男の性って
ホントに嫌になるなぁ……
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/20(日) 21:44:22.60 ID:sbrdjlQZo
今日はここで打ち止め〜
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 21:45:04.49 ID:D9iM0mQRo
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 03:37:19.64 ID:5z6ol0tAO
乙です。

美琴……(ToT)
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/21(月) 05:16:33.07 ID:9nAxLhjXo
おはようございます、それではさいか〜い
34 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 05:17:04.19 ID:9nAxLhjXo
あっ、とりま鳥つけとこ。
35 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 05:17:45.38 ID:9nAxLhjXo
「あいててて……さすがに、元とはいえ風紀委員のビンタは効いたなぁ」
「また貴方の『恋愛始動』(フラグメイカー)の能力が発動したんですのね。
全く懲りませんこと」

……一体何を言いたいのかよく分からんので、聞かなかったことにしよう。

「ところで、写真の方はどうなってるんだ?」
「今、初春が印刷してますの。紙媒体にしたほうが良いかと思いまして」
「ふ〜ん」

別に画像を見せてくれるだけでも良いんだが…まぁ、それは心の中にしまっておこう。
36 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 05:19:09.64 ID:9nAxLhjXo
「白井さん、出来上がりました」

そう言ってこちらに先ほどのウイハルという子がやってくる。
なんというか、頭の花が妙に気になる…。

「あれ……?貴方は――」
「初春。この人は上条当麻さん。この事件に関係しているかもしれないと思って
私が連れてきたんですの」
「あぁ、貴方があの……」

……目の前の女の子にかわいそうに見られているような気がしたが、そんなことは
気にしない。

「で、初春。写真はどうしましたの?」
「あ、はい。これですね」

彼女が持ってきた画像を机の上に広げた。

画像は事件現場の様子だ。男か女かは分からないが、数人が少し黒焦げになって
倒れている。衣類の損傷が激しいのと、画像が少し粗いせいかはっきりとは見えない。

「ん〜、これでは少し分かりづらいですの」
「すいません。でも、担当支部からもらったのがこれだったので……」
「仕方ありませんの。上条さん、これどう思いますの?」
「どうって言われても…はっきり見えないから何とも言えないなぁ」
「そう、ですわねぇ……」

どうやら、空振りだったようだな。
37 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 05:19:43.19 ID:9nAxLhjXo
「あっ、そうだ」

ウイハルさんがふと声を上げた。

「それと支部からのメールにこんな伝言がついてました」
「伝言?一体なんと書かれてましたの?」
「えっと…
『被害者の背中に英語で「パトリオッツ」と書かれていた』そうです。
これってどういう意味ですかね?」
38 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 05:20:14.44 ID:9nAxLhjXo
――今、なんて言った……?

「パトリオッツ…ですの?えっと、日本語では」
「『愛国者たち』」
「「えっ?」」

俺の一言に、目の前の二人がこちらに向いた。

「カミジョウ…さん?」

初春さんがこちらに声をかける。だが、俺にはそれに答えられる余裕がなかった。

そうだ、思い出した。
背中に「パトリオッツ」と書かれたユニフォーム。アンチスキルと似ているわけだ。
あいつらは…あいつらは…

「あいつらは…俺を狙ってる集団だ!!!」

                             −第1部・完−
39 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 05:34:35.84 ID:9nAxLhjXo





第2部『とある機関からの暗殺者』
40 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 05:35:35.92 ID:9nAxLhjXo
「?!」

俺の事情を知る白井が、俺からの予想外の言葉に立ち上がった。
一方ういはるさんは、何のことか分からず慌てた様子を見せている。

「ちょっと待って!上条君が狙われているってどういうこと?!」

先ほどの会話が気になっていたのだろう。給湯室で、来客用のコーヒーを作って
いた固法さんがこちらの話に加わってきた。

「あぁ、その…」

しまった。奴らの名前が挙がってしまったために、つい叫んじまった。

「お言葉ですが…。もうこれ以上隠し続けるのは……」

さすがにもう隠すのは無理、か。仕方ない。
そう判断した俺は、二人にもこれまでのいきさつを話した。御坂の死だけは抜いて。

「なるほど、かくかくしかじか……というわけですね」
「その言葉を実際に口にする人を初めてみましたわ……」

真剣に聞いていた初春さんの言葉に、白井は苦笑いしていた。

「なるほどね……。ネットで
『戦争を止めるなんてバカな真似してる日本人がいるぞwww』
ていうのを見たことがあるけど、それが貴方だったとはね…


今、固法さんの素顔を見てしまった気がするが、気にしないでおこう。
41 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 05:36:01.67 ID:9nAxLhjXo

    愛      国      者      た     ち  

俺を追い回している連中の名前だ。俺が戦争の交渉を始めてすぐに狙われるよう
になった。武器も持たず、ましてこれといった能力もない俺はそいつらから
逃げることしか出来なかった。前に書いたとおり、土御門達に助けてもらって
なんとか凌いできたがそいつらによって何人かは犠牲になった。
・・・・・・御坂もそのうちの一人だ。
愛国精神あふれるような名前ではあるが、その実態は全く違う。ゲリラやテロは
当たり前。俺だけを消すためだけに、繁華街で銃を乱射してきたこともあった。
それだけなら紛争地帯でのレジスタンスも同じようなことはしていたが本当に
こいつらの憎い所は、それをこの学園都市においてもやってきたことだ。
戦争に紛れ込んでの活動はもちろん許せないが、それ以前にこの街での活動
がもっと許せない!!

「…ちょっと良いかしら?」

ふと、固法さんが口を開いた。


「それだけの無法集団がこの街で暴れまわっているのなら、風紀委員はもちろん
アンチスキルにだって情報は入ってくるはずよ?」
「確かに、最近私達が出動するような事件はありませんからね」

初春さんもそれに頷く。

「それは、私が彼にバックアップをかけているからですの」

俺がどう答えていいか悩んでいる時に、白井が割って入ってきた。

「バックアップ?」
「はい。この方がこの学園都市に戻ってきたのは今から1ヶ月前。その直後に
私の所にやってきて私に援助を求めてきましたの。いきなり何を言い出すのか
分からず、気が動転してしまいましたがお姉さまのs」
「白井!!!」

気がついたら大声を上げていた。
42 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 05:36:50.97 ID:9nAxLhjXo
だって、アイツの……
御坂のことだけは2人に話していなかったからだ。正確
には出来なかったといった方が良いのだろうが。

「あ、あの……御坂さんがどうなったんですか?」

初春さんが恐る恐るといった感じに聞いて来た。
しかし、俺にそれを答えることは……できなかった。

「なんでもありませんの。とにかく、事情を話してくれた上条さんを無下にする
ことも出来ませんので私は彼に安全な住居を提供することにしましたの」

昨日の俺の話を思い出したんだろうかは分からないが、白井も話を反らしてくれた。

「そう…そうだったの…」

疑問を投げかけてきた固法さんも、どうやら納得してくれたようだった。

「えっと…とにかく!!そういう連中がなんでこういう事件に巻き込まれている
かが不思議なんですよねぇ〜アハハハハ…」

場の重い空気に耐え切れず、思い切って空元気を出してみた。
戦場でずっと気が沈んでいたから、せめてこの学園都市の中では少しでも明るく
いたい。そんな思いからだった。

と、そこに…

「こんちわ〜っ。初春いる〜?」
43 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 06:12:09.73 ID:9nAxLhjXo
俺にとってはありがたい雰囲気の女の子が、支部のドアを開けてきた。

「あっ、佐天さんっ」

呼びかけられた初春さんがそれに答える。

「おっす。さぁ〜て、今日はどんな…色……」

突然やってきたサテンという女の子の語尾が小さくなっていった。

「はぁ〜、佐天さん。ここは馴れ合いの場ではなくてですの。」
「まぁまぁ、そう固いことを言わないの」

白井のため息交じりの言葉に、固法さんがすかさずフォローする。
…本当に、風紀委員って大変なんだなぁ…。
44 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 06:12:47.06 ID:9nAxLhjXo
新たに入ってきたこの名前は、佐天涙子という。元気なのは俺にとっても、
この場にとっても良いことなのではある。
が、さっきから後頭部にものすごいプレッシャーを感じるのですが、気のせいでせうか?

「上条当麻さん、というんですね。これからもよろしくお願いします!」
「あっ、あぁ…こちらこそ、な…」

威勢良く挨拶が終わり、俺と彼女は握手を交わす。

あの、佐天さん?その明るさは良いことなんですけど…。
白井からは不気味な笑みを浮かべられるし、固法さんからは逆に睨まれるし。
…はぁ、不幸だ…。
45 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 06:16:20.56 ID:9nAxLhjXo
それから白井と固法さんと相談した結果、これからあの電磁波事件と同じような
ことが起こりそうになったらすぐ連絡してくれることになった。ということで、
男子がただ1人の場にさすがにいづらくなってきた上条さんはここで退散しまし
たとさ。

それから、白井に教えてもらったホテルに向かっていたのだが……

やれやれ、またか…。
ずっと命の保障が出来ないところにいたせいか、
ちょっとした違和感にも感付くようになっていた。
どうやら、つけられているようだな…。

数は…3人。真後ろにいるため、どういう格好をしているかはさすがに確認でき
ないが見通しの良い通りを歩いているんだから、変な格好ではないことは確かだ。
まぁこんな所で仕掛けてくるほど連中もアホではない。紛争地帯ではまるで
過激派のような奴らだったが、ここに来てからはそのような振る舞いを一切行わ
ない。なんというか、カメレオンに追い掛け回されている気分だ。

しょうがない、あれやるか。

そう思い至った俺は、通りから路地裏に向かって走った。
46 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 06:23:12.86 ID:9nAxLhjXo
路地裏に入ってからも、もちろん全速力。

どうやら尾行していた連中もここに入ってきたようだな。

さて、ここは学園都市。あれだけ逃げ回っていたこともあり、
路地裏のどこを曲がればいいかは一応頭に入っている。

とりあえず、クネクネ曲がってかく乱させるとしますか。

俺は路地裏という路地裏を駆け回り、なんとかあの3人からまくことが出来た。

撃ってこないだけマシとはいえこれだけしつこく追い回されるのも嫌になってくるな。
まぁ、今日はなんとかなったんだからよしとしよう。

……と思っていたが、1発の銃声がその幻想をぶち殺してくれた。
47 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 06:23:39.88 ID:9nAxLhjXo
弾は、息が切れて座り込んでいた俺の足元に当たった。

ついに手段を選ばなくなってきやがったか。

「いよう、交渉人。いや、今は逃亡犯とでも呼んだほうがいいか」

挑発の後に気味悪く笑い出す男。時代に似つかわしくないリボルバーを持っていた。

ちっ、相手が能力者でも魔術師でもないから手の出しようがないな。

弾が当たらないよう、俺は身を翻して近くの荷物の裏に隠れた。
が、直後。俺の頬に何かがかする。
当たった所に手を当てると、手には血がにじんでいた。

「隠れたって無駄だ。こちらには跳弾というものがあるんだからな」

跳弾。
拳銃の弾は、発射された後なんらかの物体に衝突したら
大抵は弾が破壊されてしまう。しかし、中には衝突の角度が浅かったりすると、
弾は破壊されずにその角度を保って反射をする。
それによって建物などに隠れていても体に弾が命中してしまうことがある。
俺はそれで死んでいく奴を何人も見てきたが、跳弾というものは狙って出来るものではない。

「くそっ…ハッタリかましやがって」

「ハッハ、今のはただの偶然だとでも思っているのか」

男がそう言った直後、火薬の爆発音とともに、また俺の頬に弾がかすった。

「だから、言ってるだろう?その傷は偶然なんかじゃないってな」
48 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 06:58:41.98 ID:9nAxLhjXo
どうやら俺を追っていた連中は相当ヤバいらしい。
これならまだ、昔のように能力者の集団に追い掛け回されたほうがいい。
だが今を見てみろ。相手は1人とはいえ、確実に…
俺を殺そうとしている。

「いつまで隠れているつもりだ!隠れていたって仕留めることはできるんだぞ?」

……不幸、だな。
俺はついに諦め、両手を上げて立ち上がり男の前に姿を見せた。

「ふっ。聞き分けのいい奴だ。」

通りからの光のせいか、男の顔は良く見えない。だが、笑ったような気がする。

「さぁ、地獄への切符だ!ありがたくもらっておけ!!」

くそっ、ここまでか…。俺にはまだ、やることが残ってるのに…!
どうしようもなくなった俺は瞼を力いっぱい閉じた。
49 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 06:59:08.92 ID:9nAxLhjXo
しかし、発砲音が聞こえない。弾が俺の体のどこかに、かすることもない。

一体どうしたんだ?

「うがぁぁぁぁぁぁ?!」

代わりに聞こえてきたのは、先ほどまで余裕でいた男の、断末魔。
その声が聞こえ、何が起こっているのか目を開けてみると。
そこには…

「ウソだろ…?」

ありえない光景だった。
まず、男の右腕が切り落とされていた。
地面に落ちていた腕には、俺を殺すために用意されていた拳銃が握られていた。
次に、その男の前…
つまり、俺と男の間に立っていた一人の女の子。
見覚えがあった。
ルーズソックスに、ミニスカ。ベージュ色のカーディガンにオレンジ色の髪。
そして、彼女の右腕にあるもの。

どうやって作ったかは分からないが、日本刀の形をした『武器』が握られていた。

「くっ!!邪魔が入った、また会おう!!」

予想外の人物が出現したことで混乱したのだろうか、男はそのまま通りへ走り去っていった。
残されたのは、俺と…女の子。
見覚えがないわけがなかった。

「ウソ…
だろ…?」

なんでお前がいるんだ…



「ウソだと言ってくれよ、御坂ッ−−−−−!!」


                                       −第2部・完−
50 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 07:43:17.21 ID:9nAxLhjXo
一旦打ち止め〜
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 08:13:00.32 ID:CVc0A2eKo
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 08:56:28.46 ID:9nm/qpDio
この辺までは記憶に有るな
53 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 18:45:19.00 ID:9nAxLhjXo
復帰〜
再開の前にレス返し

>>8
久々だったんでついやっちまったぜw

>>31,32,51,52
乙あり
結構前のものなのに記憶ある人がいるのか、マジthx
54 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 18:46:08.19 ID:9nAxLhjXo
ではさいか〜い
55 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 18:47:51.85 ID:9nAxLhjXo





第3部 『英雄との初対面(ファーストコンタクト)』
56 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 18:48:50.06 ID:9nAxLhjXo
あれからすぐ、風紀委員が駆けつけてきた。その理由も、例の電磁波が検出
されたことにより、だそうだ。
そりゃそうさ…なんたって俺は、アイツを…死んだはずの御坂美琴を
この目で確かに見たからな。白井から初めてこの事件を聞いた時は、考えたくもなかった。

アイツは死んだ。だって、俺がその瞬間を見届けてやったんだ。
その死んだ奴が今更現れてもらっても信じられるはずがない。
死んだ奴が蘇ったとでも言うのか?馬鹿馬鹿しい。
魔術という物は確かに存在する事は十分分かっているが、まさか死者蘇生の
術があるとでも言うのか?

ふざけんな…ふざけんじゃねぇ…

「そんな話聞きたくもねぇよ!!!」
「ひゃう?!」

アイツが今戻ってきたところで、一体何になるってんだ……

「あ、ああああの!上条……さん?」

声をかけられてふと前を見る。そこには、肩を震わせて俺を見る初春さんがいた。

「あっ…ごめん。いきなり大声出しちゃって」
「い、いえいえいえ!そんな滅相もない!!」

――最悪だ……
御坂が関係する事件の取調べが始まった。
57 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 18:49:17.91 ID:9nAxLhjXo
「ハァ……」

ホテルのベッドにうつぶせになり、ためいきをつく。
取調べはすんなりと終わったものの、最後まで初春さんの目は
怯えたものだった。それを見た佐天さんには、思いっきし睨まれる始末。

「不幸……だな」

ため息混じりに呟く。
いや、分かってる。これは不幸なんかじゃない。突然御坂が現れた
ことに動揺した俺が悪い。分かってはいても、やるせなくなる。

「不幸を唱えるのは結構ですが、まずは自分を変えることが一番では
ないですの?」

突然の他人の声に、思わず体を返して起き上がる。ベッドの前に白井が立っていた。

「なんだ、白井か…。おどかすなよ…」
「……それが貴方のご挨拶ですの?全く相変わらずですこと」
「……で、その白井さんがこの不幸体質の上条さんに何用なのでせうか?」

思わぬ客とはいえ、見知った奴が来たことに少し安心する。
だから、心配させまいと少し冗談を言ってみる。
その言葉に白井はなんともいえないといった表情を浮かべる。

「そうですわね。ここに来た理由は、貴方への説教ではありませんの。
……例の事件について、新しい情報が入りましたの」
58 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 18:49:44.99 ID:9nAxLhjXo
白井の話では、感知した電磁波の数値はやはりレベル5級の物らしい。
そして被害者、つまり俺を殺そうとした男の正体は、どうやら書庫のデータ
に記述されていない者だそうだ。

「つまり、外部から侵入してきた奴の犯行の可能性が高い、っていうのか?」
「そうです。スキルアウトの話も浮かびましたが、この学園都市内で武器を
所持できるのはアンチスキルのみ。もちろん、どこからかの横領の可能性も
否定は出来ませんが」
「でも、スキルアウトって言ったら前に大勢が捕まったんじゃなかったのか?」

これも、白井から聞いた話だ。
俺が学園都市から発ってすぐ。名前は忘れたが
スキルアウトの集団が武装蜂起するとの情報が入り、
その前にアンチスキル主体の元で一斉摘発が行われた。それにより、
その集団にいたスキルアウトは全員逮捕されたそうだ。
59 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 18:53:14.63 ID:9nAxLhjXo
「そうです。それに、その集団に武器を横領していたグループもこちらの
調査で判明し、関係者は全て逮捕されておりますの。さらに、この事件を教訓に
武器の横領を防ぐために所持している人にしか使用できないようそれぞれの
武器に固定のIDコードを入力するようになりましたの」
「他の誰かに勝手に使われないようにするため、か。なんだかどこかで聞いた
ことがある話だな」
「そうですわね。学園都市での武器IDチェックが、今では世界中の兵器に
応用されていますもの」

管理された兵器で戦争をする。俺が各国を飛び回っているときも、ある時を
境にそんな風になっていった。
60 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 18:53:41.77 ID:9nAxLhjXo
「じゃあ俺を殺そうとした奴は、一体どうやってここにきて、どうやって武器を
持ち込んだんだ?」
「そこが…謎ですわね」

それからしばらく沈黙が続いた。先にそれを破ったのは、白井だった。

「とにかく、事件の情報はこんな所ですの。」
「あ、あぁ。分かった、わざわざ来てもらってすまないな。メールしてくれれば
済んだ話なのに……」
「お姉さまの事は、私にも関係ありますの。ですから、お姉さまが認めた
殿方がそのような状態では私も気が気ではありませんの」
「えっ?それってどういう――」
「では、私はパトロールがありますのでこれで」

そういうと、白井はお得意のテレポートで姿を消した。
お姉さまが認めた……殿方?

「いったいなんのこっちゃですか」

でも、白井が来てくれたおかげで少しだけ気分が晴れた気がする。

「しっかし、なんというか。貧乏学生だった上条さんに、
ここはやっぱり落ち着かない所ですな」

なんて愚痴がこぼれちまうくらいに。
61 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 19:01:41.86 ID:9nAxLhjXo
慣れないながらも高級なベッドで休んだ翌日。
出歩こう……と思っていたが、援助的な交際実施中の白井から

『まだ貴方を狙った犯人は捕まっておりませんから、じっとしているですの』

というモーニングコール。

――やれやれ、気分転換しようかと思っていたんだが。
しかし、自分の命はもちろん他人にまで危険な目に合わせるわけには
いかないので、素直に従うことにした。

「とはいっても、暇だなぁ」

ベッドに寝ながら、テレビ鑑賞をしていたもののさすがに飽きてきた。
あの大食いシスターがうちに転がりこんでから特にそうだったが、
貧乏生活を過ごしてきた上条さんには携帯のWebサイトを見たり、
携帯ゲーム機を買う余裕など一切ないわけです。
あの部屋にいた頃は、色んな物があって退屈はしなかったが
それも全部売却済み。この街から出る時に上層部から
それなりのアフターケアがあったものの、それをあてにできるはずもなく。
今はテレビを消し、ただぼ〜っと天井を見上げている。
62 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 19:07:19.01 ID:9nAxLhjXo
と、携帯が震え出した。神裂だ。

「もしもし?」
『ご無沙汰しています』
「あぁ、久しぶりだな。どうしたんだ?」
『あの……今よろしければそちらに向かいたいのですが』
「かまわねぇけど、なんで?」

『えっ……?えぇっと、それはその……』

神裂らしくない、しどろもどろな話し方。なにかあったのか?

「まぁいいや。」

そう切り出し、ホテル名とこの部屋の番号を彼女に伝えた。

『わ、分かりました。…それではすぐに向かいますごしゅじ…』

最後の方が聞き取れないまま、電話は切れた。
……な〜んか嫌な予感がするのはなぜでせうか?
63 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 19:40:10.33 ID:9nAxLhjXo
電話から30分後。
フロントから来客の知らせが届いた。

『昼間からお楽しみのようですね』

と、最後にニヤニヤしたような口調で言っていた……ますます嫌な予感
が強まる。

そして、部屋の玄関がノックされた。
神裂だから、俺の命が危ないとかそういうことはないとは思うが、
やはり気になってしまう。だが考えていても埒が明かないので、
玄関ドアを開けてみる。

「よう、久しぶり…だ……アレ?」

ドアを開けて、目の前にいたのは確かに神裂だった。
しかし、いつもの格好とは程遠い。そしてさらに、こんなことをのたまいやがった。

「あ、愛と魔術の堕天使エロメイド…さ…サルヴァーレ・カオリン…降臨」
64 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 19:41:21.49 ID:9nAxLhjXo
人間、呆然とする時ホントに口が開いてふさがらないんだなぁ…。
今、神裂さんはなんとおっしゃいましたか?
堕天使?エロメイド?サルヴァーレ?

「あの……神裂さんは一体何をなさっているのでせうか?」

恥ずかしがってはいるものの、ちゃっかりポーズまで決めちゃってるし。

「あ、あああの!これには深い訳があって!!」
「わ、分かった分かった。とりあえず落ち着こう、な?」

そう言って、ふと周りを見る。
突然の大声がよっぽど響いたんだろうか。
このフロアの部屋にいる人や、ルームサービスを提供するホテルマンまでもが
皆、こちらを向いている。中には俺を見て耳打ちしている人までいらっしゃる……。

――はぁ…不幸だ…。
65 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 19:47:52.88 ID:9nAxLhjXo
少し慌てているカオリン、もとい神裂を部屋の中に引き入れた。
とりあえず、なんでこうなったのか聞いておかないとな。

「で、サルヴァーレ・カオリンは一体何故そのような格好なのでせうか…?」
「そ、それは……土御門が、えっと……」

またも尻すぼみな言葉。

「土御門が、なんだって?」
「つ、土御門が……

『かみやんを元気付けるためにはこの服を着るしかないぜよ!!』

と言ってきてですね」

土御門…お前って奴は……
目のやりどころに困るじゃないですかこの格好……

「で、ですね。神裂さんはそれだけのためにここへ?」

なるべく彼女から目を反らして言った。でないと、視線がどうしても首から
下のほうへ向かってしまう。

「あの…一体どうしたのですか?さっきから全然こちらを向いてくれないのですが」

彼女からの言葉に、一度チラッと彼女を見てみる。
恥ずかしさと不安でいっぱいの視線をこちらに向けていた。

「そ…それは」

だめだ、やっぱりそっちに視線を持っていけない。

「何か、お困りなのですか?なんでもお話ください」

あの…こっちに近づかないでくれませんか?今その姿目に入ったら…

「聞いているんですか?……っ?!!」

あぁ……前にもこんなことあった気がする。
でも、前は平手打ちだったのにどうして今回はピアノ線で切り刻まれてるんだ?
――はぁ…不幸だ…
66 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:10:00.20 ID:9nAxLhjXo
「申し訳ありません。貴方の気持ちも知らずに、勝手な行動を…」

未成年の純情な幻想をぶち殺されてからややあって。
サルヴァーレ・カオリン、もとい神裂さんお得意の七閃によって、俺は全身ボロボロである。

「まったく、カミやんもカミやんだけど、ねーちんもねーちんだにゃ〜」

神裂が正気を取り戻した後、彼女はすぐに土御門に連絡。
一体何事か、とすぐにかけつけてきたが…目の前の光景にあきれ……
その感想が先ほどの言葉だ。
ちなみに、土御門が服を持ってきたため神裂はいつもの格好に戻っている。

「ねーちんが大事な聖職者だってのは良く分かるぜい。
でも、カミやんはまだまだ若いんだからねーちんがあんな格好じゃ
ああなってしまうのもしょうがないにゃ〜」
「あ、あなたがこうしろと言ったからしたんですよ!!!元はといえば、
土御門が悪いんです!!」
「あ〜ねーちん。俺は確かにその格好で行けばカミやんも元気になる
と言ったぜい?なんにも悪いことなんか言ってない筈なんだがにゃ〜。
ねーちんはカミやんを傷つけるんじゃなく、元気付けるためにここに
来たんじゃないのかにゃ〜?」
「そ…それは……」

ありゃりゃ、完全に土御門の術中にはまっちまったな。
しかし、元気付けるったってどういうやり方が……まさか、な。
67 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:10:29.82 ID:9nAxLhjXo
「まぁ、過ぎたことは置いておいて。カミやん」
「な、なんだよ?」

急にこちらに話しかけてきた。

「大事な話ってのも、確かにあるぜ?」

……こりゃマジな話みたいだな。

「最近異常な数値の電磁波が観測される事件が多発してるのは知ってるだろ?」

土御門の口から、この話が出てくるとは思わなかった。
でも、こいつはどこからともなく現れてはどこから仕入れたか分からない
情報を俺に提供してくれる。
御使堕しの時も、俺をボコボコにしてくれたが結局は自分の命を張ってでも手助け
してくれた。だから、なぜ電磁波事件の話を知ってるかは口にしなかった。

「それでカミやんを襲ってきたものの、片腕落とされて逃げていった男もいただろ?」
「あぁ、自由に跳弾を使って俺を殺そうとしてきた。でも、能力者じゃないんだろ?」

昨日の話で、そいつが外部の人間だということは明白だからな。

「その通り。そしてそいつも、今までずっとカミやんを狙ってきた『愛国者達』
のメンバーなんだ」
「なんだって?!」

確かに俺は何度も何度も襲われ、殺されそうになった。けど、それは全て複数で
の犯行だった。それがいきなり1人になったってことは……

「出来るだけ穏便に、かつ確実に俺を殺すため?」
「ああ、その通りだ。敵にも余裕がなくなってきたんだろうぜ」
「……ますます外を出歩けなくなりそうだな、こりゃ」

たった一人、しかも無能力者と分かったにしても奴は相当手ごわい腕前なのは分かった。
68 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:10:58.48 ID:9nAxLhjXo
「だから、こちらからも強力な助っ人を用意した」
「強力な助っ人?」
「そう。カミやんを狙ってる『愛国者達』を最もよく知ってる人物にゃ〜」

そう言う土御門の顔に笑みがこぼれる。こりゃ、よっぽどの腕前の持ち主みたいだな。

「で、誰なんだ?その助っ人ってのは?」
「ちゃんと呼んであるぜぃカミやん。お〜い、おっさん」

土御門がこの部屋の玄関に続く廊下に向かって声をかける。
すると、ゆっくりとしたペースで足音が聞こえてきた。

「紹介するぜ。数々の戦争で活躍してきた伝説の傭兵……」

土御門がやってきたおっさんに対して、まるでジャーンという効果音がつく感じに両腕を
傾ける。

「ソリッド・スネークだ」

土御門が言う前に、その人が自分の名前を述べた。


                                       −第3部・完−
69 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:16:08.19 ID:9nAxLhjXo






第4部『優れた機関は二の手が早い』
70 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:16:36.72 ID:9nAxLhjXo
「あ…貴方が…。あの…」

俺の説得によって仲間になってくれたレジスタンスの中で、こういう噂を耳にしたことがある。

『世界のどこかで、お前さんと同じように無意味な戦争が起こるのを止める「伝説の傭兵」がいる』

俺と同じ考えの人がいる。噂だったとはいえ、その時の俺には十分勇気付けられた。
まさか、実在していたなんて…本当に会えるなんて。

「君が、『戦争を駆ける交渉人』の…。話は聞いていた、よろしくな」
「か、上条当麻です!!ホントに会えるなんて、すっごい感動です!!!」

目の前の存在に、思わずテンションがあがる。握手のために差し伸べられた彼の手を
力いっぱいに握り締めた。

「ふっ、俺は歓迎されるような男じゃないさ」

スネークさんはなんだか微妙な笑顔を浮かべていた。

「で?君を追っている『愛国者たち』について君の話を聞かせてくれないか?」

俺は、憧れの存在の人に全部話した。
71 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:17:02.60 ID:9nAxLhjXo
どうして  交  渉  をしようと決意したのか。


   奴   ら   に狙われるようになった時期。


      大    切    な    存    在    を失ったこと。

誰かに事情を説明する時、どこかしらを抜いて説明していたが、今回は包み隠して話すのをやめた。
なぜだか分からないが、この人に嘘をついてもいずれバレると思ったからだ。

「……そうか。君も辛い経験をしているんだな」

そう言ってスネークさんは、泣くのを必死に堪える俺の肩に手を置いてくれた。
その手はなぜか、少しだけ震えていた。

「じゃあ、今度は俺が知っている『愛国者達』(パトリオッツ)について話す番だな」
72 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:22:06.76 ID:9nAxLhjXo
「なるほど。戦争によって潤う軍需産業だけでなく、学園都市はおろか
他の大国までも操作できてしまうほどの組織。それが『愛国者達』だったのか」

一緒に聞いていた土御門が、スネークさんの説明をまとめた。

「戦争によってたくさんの生命が消えてしまうというのに…なんてはしたない連中なんです」

側の壁に寄りかかって聞いていた、神裂の手に力が入るのが見えた。

「そうだ。特定の人間の利益が、無関係の人間の命によって生み出されるなど
もってのほかだ。ましてや武器を持ち人の命を奪う奴に、人を殺めることに何の
ためらいも持たなくなったら…どうなると思う?」

戦争で、命の大切さを見失ってしまったら…
いくつもの場所で、さっきまで楽しそうに話してた連中が死んでいくのを俺は
何度も見てきた。それに対して何にも思わなくなったら

「ただの『殺人兵器』になってしまう」

土御門が付け加える。その答えに、スネークさんも頷いた。

「俺は戦場の中でしか自分を見出せない。戦うことでしか自分自身が生きている
と実感できない。『伝説の傭兵』なんて異名もあるが、言い方を変えれば単なる
『殺人兵器』だ。お前さん達のような次の世代に、そんな風にはなってほしくない。
だから、俺は『愛国者達』を潰さなければならないんだ」
「スネークさん……」

俺たちに向けられた思い。まだよく分からないが、それが覚悟を決めた決意だ
ってことは、スネークさんの目から分かった。
73 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:22:33.44 ID:9nAxLhjXo
「で、ツチミカドと言ったな。俺はこれからどうすればいい?」
「そうだにゃ〜。俺達は事件の究明をするから、カミやんの護衛をしてくれない
かにゃ〜?」
「分かった」

スネークさんの返事を聞いた土御門の、口角が上がった。

「じゃあカミやん。外に出歩く時は、そのおっさんと一緒に行動するんだぜぃ?」

そう言って、土御門と神裂は部屋を後にした。
――しっかし、アイツ…マイペースだよなぁ。
74 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:23:18.42 ID:9nAxLhjXo
とりあえず外出できるようなので、気分転換に散歩に出かける。

「しかし、学園都市は周りに比べて30年ほど技術が進んでいると聞いたが、
それほど見た目は変わってないようだな」

周りを見渡しながらスネークさんがつぶやく。

「まぁ、どっかの未来系漫画みたいに、空中に自動車が走っていたりとかそういう
ことはないんですよ。変わったと言えば、この街の大半が能力を使えることですね」
「んっ?能力……?」

彼がこちらに目を向けた。

「ええ。この街のほとんどが学生なんですが、ここではみんな学校で能力をアップ
させるための訓練をするんです。そしてその能力によっていろいろな所に就職
していくんですよ」
「ということは、君やツチミカドも?」
「そうなんですが、俺達学校では落ちこぼれ組だったんですよ・・・」
「ほう……」

なんだか、意外な感じに見られている気がする。

「あの……」
「いや、戦争で交渉が出来る位だから相手を説き伏せるような頭脳を
持っていたのかと思っていたんだが、そうでもなかったようだな」
「アハハ……」

――ご冗談キツイっすよ……
75 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:24:12.34 ID:9nAxLhjXo
「あれ……?上条さん?」

駅のほうにある繁華街へ歩いていると、ふと声がかけられた。
その方向に振り向いてみると、言葉通り花がある初春さんと白井だった。
風紀委員の腕章をしているから、パトロールの途中だろう。

「おう、白井。初春さん」
「こんな所にうろついてて大丈夫ですの?」
「大丈夫だって。路地裏とか変なところにいない限りは襲われることもないだろうさ」

それに、1人ではないからさすがに奴らも……。

「……あの、そちらの方は?」

初春さんがスネークさんを見ながらおそるおそる聞いてきた。
どうしよう、本当のことを言ってしまったら向こうの立場上連行されることに
なっちまうな。さて、どうしたもんかな……。

「あぁ、この人は――」
「当麻の伯父のボブだ。いつもコイツがお世話になってるな」

俺が答えようとした時、ボブ伯父さん、もといスネークさんが割って入ってきた。

「あぁ、伯父様でしたか。これは失礼しました。私、風紀委員の白井黒子と申します」
「同じく風紀委員の、初春飾利です」

納得した白井の言葉に、初春さんも続く。

「これはご丁寧に。ところで、俺は外部の人間で最近ここに来たばかりなんだ。
だから、『ジャッジメント』って言うのが少し分からないんだが、教えてくれるか?」
「そうでしたの。これは失礼いたしました。では、少しお時間よろしいでしょうか?」
76 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:24:55.42 ID:9nAxLhjXo
「……なるほど。スキルアウトと呼ばれる荒くれ物を捕まえたりするのが
『風紀委員』ということか。警察みたいなもんだな」
「そうですわね。でも、この学園都市は学生の街でありますから風紀委員は学生
が勤めておりますの」
「学生が・・・しかし、そのスキルアウトとの体格差とかで不利なんじゃないか?
君の場合、少し背が低いし」

すげぇ、たった1回の説明で理解どころか質問までしているよ。
あの説明じゃ、俺には半分も分かってなかったかも……

「良い質問をありがとうございます。でもご安心を。私達には
能力というものがありますの。例えば……
伯父様。手をこちらに差し伸べていただけますか?」
「あぁ、こうか?」

言われたままスネークさんは右手を差し伸べる。
すると、その手の上に白井が自分の左手を重ねる。

「では、行きますわよ」

そう言った瞬間、俺の左側にいたスネークさんの姿は消えて右側に立っていた。

分かってはいたけど、久々に見る彼女の能力にはびびっちまうな。
長らく学園都市から離れてたから、かな。

「……テレポーテーションって奴か」

しかし、自分が望んでもいないのに移動していたことをスネークさんは全く驚かない。
77 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:25:31.53 ID:9nAxLhjXo
「そうです。ここでは『空間転移』という風に呼ばれておりますの。……それにしても、
初めてテレポートされたのに驚かれないのですね?」
「あぁ、ここに来る前にちょっとばかし情報をかじっていたんだ」
「なるほど。そういうことで――」

瞬間、俺たちの目の前で爆発の音と煙が上がった。

「白井さん!!」

その方向に目を向けた初春さんが叫ぶ。

「初春!行きますわよ!!」

白井と初春さんは爆発現場へと走っていく。
どうする、俺も現場に行くか…。
だが俺が前に進もうとした時、手前10センチの所に何かがぶつかる。また、銃弾だった。

「くそっ?!こんな所にもか?!」

俺は慌てて周りを見回す。だが、周囲には爆発現場のやじ馬しか見当たらない。

「トウマ!ここは一旦逃げるぞ!」
「わ、分かりました!!」

護衛役のスネークさんに促され、俺達は駅前遊歩道を後にした。
78 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:27:17.63 ID:9nAxLhjXo
駅からずいぶんと走った。おかげで息は切れるし、座り込んでから力が出ない。
スネークさんはというと、周りを警戒しているのか俺達がいる路地裏から周囲を
確認している。

しかし、連中も場所を選ばなくなってきたのか…
妙に爆発とタイミングが合っていた気がするが、それも関係あるのか?
…しかも、昨日もそうだったが今日も銃器で殺そうとしてきた。
これも、連中の…愛国者達のしわざなのか?

「よし、追っ手はないようだ。立てるか?」

こちらにやってきたスネークさんが差し伸べてきた手に捕まりつつ、俺は立ち上がった。

でも、おかしい。
今まで奇襲や尾行しかやってこなかった奴らがどうして今更、しかもこの学園都市
で狙撃しようとしてきたんだ?こんなどこで何をしようと、監視されているこの街で?

「なぁ、スネークさん」
「ん?どうした?」
「俺を追ってる連中のことは知ってますね?」

確認のために聞いてみる。

「あぁ。愛国者達……ここでは、パトリオッツと呼ぶんだったな」
「それで、貴方の目的は――」
「パトリオッツが引き起こす戦争を止める、それが俺の役割だ。
といっても、俺はお前さんみたいな英雄なんかじゃない。単なる殺し屋さ」
「じゃあ…殺し屋の貴方がなぜ護衛なんか?」

『俺は戦争にいなければ自分を見出せない』

昨日彼が言っていた言葉だ。
もちろん、今言った質問が失礼なんじゃないかと聞かれたらそうだと答える。
でも、それだけは聞いておかなければならない…そんな気がしたんだ。

「トウマの言ってることは正しいな」

やはり突っ込まれたか、といった感じでスネークさんがため息をつく。

「そうだな…戦争を止める次の世代を守るため…という所か。
全く、俺には向いちゃいないんだがな」

そう言うと、彼は壁に寄りかかってタバコを取り出した。ラッキーストライク。
確か、俺に協力してくれた兵士達の中にもこれを吸っている人が吸っていたっけ。

「んっ?トウマも一本吸うか?」
「あはは、やめときます」
「そうか。まぁ、確かお前さんも未成年だから仕方ないか」

スネークさんは右ポケットから『ジッポ』と呼ばれるライターを取り出し、
口にくわえていたタバコに火をつけた。ここじゃあ電子ライターがほとんどだから、俺もあまり見た事がなかった。

「で、気になるのがあの銃だ」

……彼の一言で、一気に雰囲気が引き締められた。気さくなおじさんではあるけど、
やはり戦場を駆け抜けてきた人である。俺を見つめる瞳に隙なんてない。

「ツチミカドから銃の情報はあらかじめ聞いていたが、ここじゃ銃なんて一般人が
扱える物じゃない。しかも、おそらく連中が使ってきたのはスナイパーライフルの
一種だろう。そんな物を一体どこから?」

白井も言ってたが、ここで銃の横領などほとんどできない。
まして、アンチスキルは事態の沈静化を行う部隊。これまで
その活躍ぶりを目の当たりにしてきたが、狙撃など一度も行われていない。では、一体誰が…?

「そいつらがもし公的機関だとしたら…どうするにゃ?」
「っ?!」

突然の会話の割り込みに、俺とスネークさんは路地裏に入ってきた方へ振り向く。そこにいたのは、土御門だった。

「なんだ…土御門か。おどかすなよ……」
「なんだとはなんだ、カミやん。新しい情報を手に入れたってのに、その反応は
ないんじゃないかにゃ〜?」

「新しい、情報……?」

スネークさんが返した。

「そう。さっきカミやんを撃ってきたスナイパーのことなんだが……」
「どうやら、妹達が絡んでるみたいぜよ?」
79 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:38:13.68 ID:9nAxLhjXo
「シスターズが?!」

この話で聞くことはないと思っていた『妹達』という単語。
彼女達は「絶対能力進化」が中止されてから、あまり知らせを聞いていない。
寿命が短いとかいう話を聞いたことがあり、生命維持のためにてっきり研究所に
戻ったと思っていたが…

「なぁ、土御門。確か妹達はあれから研究所に戻ったって話しじゃなかったのか?」
「カミやんの言うとおり。彼女達は一度研究所で調整を施されとる」
「一度?」

スネークさんが尋ねた。

「妹達は調整を済んでからまた違う研究所に移送された。で、そこでまた
大規模な改造が施された」
「大規模な……改造?どういうことだ、絶対能力進化が終わったんだからもう
彼女達は――」
「うんにゃ。カミやんの予想はそこからはずれとる」

そう言うと、土御門は俺達2人に近づく。

「そして、改造を終えた妹達には別の異名をつけられた。
『狙撃人狼』…スナイパー・ウルフと」



                                       −第4部・完−
80 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 20:38:42.31 ID:9nAxLhjXo
とりあえず、いったんここまで〜
81 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/21(月) 22:11:31.72 ID:9nAxLhjXo
今日は打ち止め〜
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 22:59:51.91 ID:CVc0A2eKo
おつかれ〜
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 22:59:52.06 ID:Bzinr5d2o
乙ー
MGS1のメンバーが出て来て楽しいな
明日も楽しみにしとくぜ
84 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 02:16:51.52 ID:dm6QjcUco
>>1仮眠からの復帰のお知らせ

>>82-83
おつありー
85 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 02:19:17.39 ID:dm6QjcUco










第5部 『過去の事件の悪夢(さいげん)』
86 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 02:19:47.64 ID:dm6QjcUco
「スナイパー・ウルフだって?!」

土御門の最後の一言に食いついたのは、スネークさんだった。

「あんたが忘れるわけないよな?……シャドー・モセス事件を」

シャドー・モセス事件?聞いたことがないな……

「なぁ、そのシャドー・モセス事件って一体?」
「あぁ、カミやんにはまだ話してなかったな」

そう言って、土御門はその事件について詳しく説明してくれた。
かつて、ある孤島の施設で戦争を引き起こそうとするテロ集団が出現。
詳しいことはまだ調べてないみたいだが、結果的にその集団は壊滅。
唯一確認できたことは、その集団の壊滅につながったのがたった一人
施設に乗り込んだ男。

「それが俺だ」

土御門の説明が終わってから間を空けずに、スネークさんが喋った。

「以来、ソリッド・スネークは『伝説の傭兵』と呼ばれるようになった」
「昔の話だ。それに、その呼び方はよしてくれ」

事情を知らないんだろう土御門の失言に、スネークさんの顔が一瞬こわばった
気がした。
87 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 02:37:25.45 ID:dm6QjcUco
「とにかく、おっさんの知っている連中の名前がどうして使われているのか
もっかい調べてみる。それじゃあ、また後でな」

土御門はニッカリとスマイルを浮かべ、その場を後にした。
それにしても、スネークさんは『伝説の傭兵』って言葉に敏感だよな。
一体どうしてなんだ?そういえば、俺の話を聞いた後に「お前も辛いことが
あったんだな」って言ってたよな。ってことは、スネークさんにも辛い過去
があってそれがキーワードにつながっている、って言うのか?

「そういえば、一つ聞き忘れていたな」

ふと、スネークさんが話しかけてきた。

「昨日、トウマを殺そうとした奴。どんな風貌だったか覚えてるか?」
「あぁ…逆光で顔までは見えなかったけど、確か黄土色の肩から膝まであるコート
を着てて……あとリボルバーって言うのかな。カウボーイがよく持ってた銃を
使ってきてました」
「……そう、か」

俺の説明を聞き終えたスネークさんはさっき火をつけたタバコを地面にほうり投げた。

「偶然……とはいかんだろうな」

偶然……さっきのスナイパー・なんちゃらといい、今の説明の反応といい。まさか…

「まさか…シャドー・モセスで聞いた名前がここでまた聞くことになるとはな」
88 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 02:37:56.18 ID:dm6QjcUco
タバコの煙とため息を兼ねて、スネークさんは長く息をはいた。
そういうことか。
今俺の目の前にいるソリッド・スネークが解決させたシャドー・モセス事件。
そのテロ集団の背後にいた『愛国者達』は俺を追ってもいた。そしてそいつらは、
ここ学園都市の上層部にも関係している。ならば、ここであの事件を再現させる
こともできるはず。スネークさんの言葉が何よりの証拠だ。

「これは、俺達の考えていた以上にとんでもないことになりそうだな」

路地裏から見える一直線の、狭く見える空を見上げながら彼はつぶやいた。

「ところで、トウマやツチミカドが言ってた『シスターズ』って一体何のことだ?
お前さんに妹さんがいるのか?」
「あぁ、妹達のことですか。そういえば、まだ説明してませんでしたっけ」
89 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 02:38:30.65 ID:dm6QjcUco
「……なるほど。強い力を持つ能力者が更なる力を手にするために必要な人材、
それが『妹達』ってわけか」
「えぇ。でもその計画は俺がぶち壊してそのまま中止になった」
「しかし、クローンの寿命の短さゆえに一度研究所で調整を受けてから愛国者達の
操り人形である上層部に再び注目されてしまった、ってわけか」

相変わらずこの人は適用力が凄いな。

「でも、クローンと聞いて何も驚かれないんですね?」

「クローンという言葉はずいぶん昔から聞いている。それに、前の事件でクローン
のような連中とも対峙してたからな。俺の中でも、当たり前になりつつあるってことだな」

前の事件……シャドー・モセス事件のことか。

……ちょっと待て。もし妹達が本当に『愛国者達』の手先になっていたとしたら。
妹達は確か2万種もの戦闘データを作成するため、そのデータ分の人数を作られたはず。
そして、俺が計画を中止させたのがちょうど1万人くらい、御坂妹の『出番』が
回ってきた時だった。つまり、まだ1万人弱が生き残っていることになる。
そいつらが全員、敵だってのか?

「どうした、トウマ?肩が震えてるぞ?」

いくらなんでも無理だ。今まで単独か、もしくは集団といっても10人程度でしか
襲撃されたことがない。それが1万人もの妹達に一斉に狙われることがあったら……

「おい、どうしたトウマ!!しっかりしろ!!!」

スネークさんが俺の両肩に手を置いて俺を前後に揺らす。
だが、今の結論に至った俺にそれにさえ反応できなかった。
……今まで戦争で『死』の瞬間を味わいそうになった。ここでだって2度も狙われた。
だが、これほどまで精神的に追い詰められたことなどない。

「ここにいたのですね…と、ミサカは久々の再会に喜びつつも淡々と言いのけます」
90 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 02:38:59.32 ID:dm6QjcUco
人の声を聞いてこれほどまでに背筋が凍ったことはなかった。
再会。普段ならそいつとの再会は喜ぶべきものだが…そのような感情など今は
持ち合わせておらず。今あるのは……恐怖だった。

「やはり気づいたのですね。と、ミサカは自分達の今の立場を貴方に再確認します」
「トウマ!!一体どう言う事だ?!説明しろ!!!」

呆然と立ち尽くす俺に対し、スネークさんが怒鳴りつけてきた。一刻も早く事態を
知り、収拾をつけたい。そんなところだろう。

「スネークさん。貴方がそのスナイパー・ウルフと対決したと言ってましたけど、
その人は何人いましたか?」
「何人って1人だけだったが……ちょっと待て?!!まさか?!!」

スネークさんもこの事態に気づいたらしい。今までより声に焦りが出たような気がした。

「そう。貴方がたの考えている通りです」

妹達の一人が俺達に言い放つ。

「あなた方は今、この学園都市の中で私達1万人弱もの妹達…いえ、狙撃人狼と
対峙しなくてはならなくなっていた。と、ミサカは真実を突きつけます」

改めてそれを聞いちまうと、頭が痛くなってくる。ついに顔見知りにさえも命が
危うくなってきちまったんだからな。
91 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 02:39:25.47 ID:dm6QjcUco
「トウマ、隠れてろ!!」

そう叫んだ瞬間、スネークさんが彼女のほうへ猛ダッシュをかけた。
俺だって、まだ死んだわけじゃないし死にたくなんかない。咄嗟に物陰に隠れた。
次の瞬間、何かを殴りつけるような鈍い音が聞こえてきた。
音の方向へ物陰から目を向けると、そこには直立不動のスネークさんとうつ伏せで
倒れている妹達の一人がいた。

俺が物陰に隠れるまで、3秒も経たなかったはず。その間に、彼は彼女に近づいて
何らかの方法で彼女を気絶させたのだろう。さすがは、歴戦を生き残ってきた人だ。
だが、現実は甘くなかった。

「なるほど。貴方にもこの状況で外出できるほどの余裕があったということですね。
と、ミサカは倒されたミサカを見ながら状況を分析します」

俺の背後。数人の妹達がいつの間に立っていた。両手で持つ機関銃を俺の後頭部に
向けて。

「クッ!しまった!!」

敵が潜んでいたことに気づかなかったスネークさんの顔に焦りが浮かんだ。

「私達シスターズには、ミサカネットワークという独自のリンクシステムがあります。
それを使えば、例え一人が倒されたとしても援軍をすぐに呼ぶことが出来るのですよ。
と、ミサカは余裕の口調であなた方に言い放ちます」
「ふざけんな……」
「はい?」

俺の声が聞こえなかったのだろう。銃口を俺に向ける妹が問い返してきた。

「ふざけんじゃねぇっつってんだろ!!」

俺はそう叫んだと同時に体を後ろに向け、機関銃に対しトウキックをかます。
見事に命中し、機関銃は妹の手からその後方へ飛ばされていった。
92 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 02:39:51.72 ID:dm6QjcUco
できれば、こいつらに手を出したくなかった。だが、命には代えられない。

「なんでお前達がこんなことしなくちゃならねぇんだ?!あの時からお前達は
解放されたんじゃなかったのか?!」

俺の叫びの後、スネークさんから俺を叱責する声が聞こえた気がする。
だが、熱くなっていた俺にそれは聞こえているはずはなかった。

「あのまま命を捨てる運命にいたミサカ達を助けていただいたことは感謝いたします。
と、ミサカはあなたへの恩を忘れたわけではないということをアピールします」
「だったら!!もうこんなことをするのはもうやめてくれ!!!
一方通行から殺されなくなった意味がねぇじゃねぇか!!!」

いつものように淡々と話す御坂妹と、無駄にアツくなっている俺。
勝負の世界で、どっちが勝ってどっちが負ける…つまり、死ぬか。それはもう
分かりきっていた。

「ですが、私達は元々学園都市の上層部に従う者。ですから、上の指示には絶対に
従わなければならない。と、ミサカは当たり前のことを貴方に説明します」
「上層部が……『愛国者達』がなんだってんだ!!お前達は切り捨てられることも、
道具にされることもなくなったんじゃなかったのかよ?!!」

「……もう貴方と話すことはありません。と、ミサカは失望と諦観を持って
貴方に対して発言します」

そして、俺と話していた以外の妹達が一斉に銃口をこちらに向ける。
93 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 02:40:39.79 ID:dm6QjcUco
話し合えなかった、か。

「良いぜ……」

彼女の一言で、一旦俺も落ち着くことが出来た。
しかし、考えは変わらない。いや、変えない。

「お前達『妹達』がそういう考えってんなら…」
「まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す!!」

そう言い放って俺は銃口を向ける『狙撃人狼』に突進する。

「やめろ、トウマ!!!やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」

……護衛役のスネークさんには申し訳ないが、俺の不幸ってかなり深刻なもんだからな。
銃を持ってる連中に、丸腰で攻めるなんざ無謀にもほどがある。
しかし、そうせずにはいられなかった。たとえ、自分の命が危険にさらされていても。

しかし、俺は撃たれることはなかった。
なぜなら…目の前にいた彼女達が一斉に感電してしまっていたからだ。
慌てて俺は足を止めて眩しさに目をつぶり両腕でガードする。

「一体これは?!」

戦闘のプロであるスネークさんにもやはりこの状況に戸惑いを隠せないでいたみたいだ。
しかし、俺にはこの光景が誰の仕業かはすでに分かっていた。

「やれやれ、あなた達が敵に掌握されていたなんてね」

感電したショックで倒れた妹達の後ろから、聞き覚えのない、機械で処理した
ような声が聞こえた。

「くっ?!新手か?!」

それに気づいたスネークさんがコートの中から銃を取り出し、声がした方向へ
銃口を突きつける。

「やめた方がいいわ。それに、私は貴方の敵じゃない」

銃を向けられても女の口調で話すソイツは余裕でいた。
しかも、私は敵じゃないとまで言い張ってきた。

「お前の名前は?」
「……そうね、ディープ・スロートって名乗っとこうかしら」
94 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 02:41:27.71 ID:dm6QjcUco
ディープ・スロートという訳の分からない名前を言ってきたその女。
顔は今まで見たこともないようなマスクをつけているため確認できない。
が、服装は以前見た時と同じ……常盤台の制服。

「お前!!ビリビリじゃないのか?!」

彼女が死んでから、この名前を口にするのは何度目だろう。
ずっと死んだと思っていた。いや、そう思うしかなかった。
しかし、レベル5級の電磁波に今のような電撃。
そんな大層な芸を使えるのは俺の知っている限りただ1人。ビリビリしかいない。

「……残念ね」

だが、目の前の女はこう口にした。

「御坂美琴はもう死んでるわ」

ああ、そうさ。そんなこと分かってる。でも…

「でも!!今の攻撃だって、学園都市ではあいつぐらいしか!!!」
「そう、確かに『超電磁砲』の異名を取ってた彼女しかできないはずね?でも……」

一呼吸を入れて、彼女は突き放すように言った。
95 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 02:41:54.88 ID:dm6QjcUco
「それが間違いだったとしたら?」

……訳が分からない。
レベル5の電撃使いがまだいる?しかし、能力者の情報を完璧に把握しているはずの
学園都市において間違いがあるはずがない。じゃあ一体…?

「それと、そこのおじさん?」
「なんだ?」

目の前にいる存在にもスネークさんは態度を変えない。彼女が危険な存在ではない、
と分かっていてのことだろうか。

「これから先、あの悪夢が貴方を襲うけど…」
「気をつけなさい」

そのまま彼女は路地裏の奥のほうへ行ってしまった。

「ま、待ってく――」

追いかけようとした時、目の前に腕が伸びてきた。スネークさんの右腕だ。

「目的はどうあれ、奴は敵じゃない。それに無駄な詮索は体力を削るだけだ」

的確な助言に、俺はうつむくしかなかった。

                                       −第5部・完−
96 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 02:42:28.50 ID:dm6QjcUco
その後、電磁波をキャッチした風紀委員が5分ほどで現場に到着した。白井達は
駅前の爆発事件を担当しているらしく、今回は固法さんがやってきた。

「一応、正式な風紀委員ではないけど…職業病って奴かな?
気がついたら仕事してるんだよね」

そう言って苦笑いする彼女に、俺は少し安堵感を覚えていた。が、同時に今のは
悪夢じゃない現実なんだということを再認識させられた。

現場は現役の者に任せて、俺とスネークさんは第一七七支部で事情聴取を
することになった。担当は固法さん。支部が担当する地域で二つの事件が同時に
起こってしまい、さすがに手が足りていないのだろう。

「じゃあ、二人同時に今回の電磁波事件について事情聴取を始めます」
97 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 03:27:19.49 ID:dm6QjcUco
スネークさんはともかく、途中錯乱していた俺は見た事をはっきりと覚えておらず
それで手間取ってしまったため、聴取が終わったのは2時間後のことだった。

「お疲れ様。お二人とも、何か飲みますか?」

固法さんも疲れているだろうに、それを表に出さずむしろ俺達の心配をしてくれた。
こんだけ美人で気が利く女性だってのに彼氏の話がないなんて、と現場から帰ってきた
白井が愚痴っていた。

「じゃあ、俺はミルクコーヒーで」
「俺はブラックで頼む」

俺、スネークさんの順に注文が出される。それを聞いた固法さんはささっと給湯室へ
消えていった。

「しかし、まさかディープスロートって単語も出てくるとはな…」

スネークさんが独り言のようにつぶやいた。

「あの…ソリ…ソリティア・スネークさん?」

先ほど見かけた『ボブ伯父さん』がとんでもない人だったとついさっき知り、
それに反省したんだろうか、恐る恐る初春さんがスネークさんに声をかけた。

でも……ソリティアって……
98 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 03:28:40.20 ID:dm6QjcUco
「スネークでいい。で、どうしたんだいお嬢ちゃん?」
「えと、なんで初めてお会いした時に偽名を使ったんですか?それもボブ伯父さんって」
「あぁ、つい最近見た映画を真似てみたんだ。俺みたいな殺し屋の護衛役と何者かに
狙われる純粋な少年が出る奴だ。最もボブ伯父さんってのは少年が言ったブラフ
だったんだがな」
「な……なるほど」

へぇ、スネークさん映画好きなんだな。ちょっと意外だ。

「それともう一つですが、さっき言っていた『ディープ・スロート』というのを
詳しく聞かせてくれませんか?」
「初春。仕事熱心なのは結構ですが、もう少し相手の状況を組み込むべきですのよ?
お二方は先ほどまでずっと事情聴取を受けていたのですから、その結果を見てからで
よろしいのではないですこと?」

少しばかりこちらの疲労も考えてほしいなぁ……なんて考えていた時、白井が初春
さんを咎めてきた。さすがに経験値がたまってくれば場合の判断力(ひらたく言えば、
空気を読む力)がついてきたんだろう。

「あっ、すいません。疲れていたはずなのに……」

白井の説教にはたと気づいたんだろう、初春さんは萎縮してしまった。
99 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 03:29:19.70 ID:dm6QjcUco
「あぁ、気にするな。これくらいどうってことはないさ。
で、ディープ・スロートについてだったな……」

ディープ・スロート。
かつてアメリカで起きた政治スキャンダルの内部告発、つまり裏切った人物のあだ名
だそうで、それがいつの間にか「情報提供者」のことを指すようになったらしい。
スネークさんが関わった事件、つまりシャドー・モセス事件でもこの言葉が使われて
いたそうだ。

「つまり、貴方がたを援護した方は『狙撃人狼』と関わりあいのある人物、
すなわち学園都市上層部からの『裏切り者』というわけですか」
「そういうことだな。クロコとか言ったか?なんだかブランド品の素材に
使われていそうな名前だな」

スネークさんの発言に、思わずシーンとしてしまう。初春さんに至ってはまるで
頭の上に?マークが出来上がっているような、ぽかんとした表情を浮かべていた。

「……私はワニではありません。黒い子と書いて黒子と言いますの」

だが白井はすぐにスネークさんのボケに気がついたようだ。言われても気分がよろしく
ないみたいだが。
100 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 03:30:01.54 ID:dm6QjcUco
「悪い悪い。ご愛嬌という奴さ」
「そうですの……。まあいいですわ」

これ以上相手にしても無駄。そう考えたんだろう。彼女は無理やり話の腰を折った。

「とにかく!今風紀委員に出来る事は『裏切り者』(ディープ・スロート)の発見。
これの捕獲ですの。愛国者達は、我々にとっても敵ですから、一刻も早く彼女を捕まえなくては」
「はいはい。意気込むことは良いけど、ちゃんと休んでおかないといざって時に
力が出せないわよ」

話している最中、周りに炎でも見えるかのような白井だったが、そこに固法さん
のお叱りが入る。

「うぅ……気合を入れるだけでも十分違いますのに」
「ダメダメ。それをする必要はなくはないけど、やりすぎると自分の疲れ具合が
分からなくなったり、周りを見る余裕がなくなってしまう物よ」

ごもっともです、固法さん。
白井もそれに反論できず、しょぼくれて自分のデスクに座った。それを見ていた
初春さんは思わず苦笑い。
……なんというか、白井も変わっていない所があるもんなんだな。
101 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 04:09:23.44 ID:dm6QjcUco
その後、支部で1時間ほど休息を取り、俺とスネークさんは昨日と同じように、
白井に言われたホテルにたどり着いた。
ここに来るまで、いつ『狙撃人狼』に狙われているか分からなかったために神経を
ずっとすり減らしていた為、部屋に着いたらすぐにベッドに寝そべった。

「はぁ、しんどい…」

ため息のように俺は呟いた。
しかし、スネークさんはというと疲れた様子が全くない。それどころか置いてある
荷物の中にあったケースを物色していた。

「スネークさん、何やってるんです?」

気だるい感じに俺は聞いてみた。

「これから状況が悪くなるだろうから、準備をしておこうと思ってな。
事前にツチミカドに頼んで武器を調達してもらったのさ。やはり、用意してもらうと
楽で良いな」
102 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 04:09:55.68 ID:dm6QjcUco
いつの間にそんな事を頼んでたんだ?ってかその銃は一体どこから手に入れたんだ?
それを聞こうと思っていたが、何せルートが土御門経由だ。聞かない方が身の為だな。

「そうだ。お前さんにも一応こいつを渡しとく」

そう言うと、スネークさんは俺に何かを投げ渡してきた。

「これ…拳銃?!」
「そうだ。トウマは生き延びる悪運が強いが、今日みたいに無謀な行動をしてもらっては
俺が護衛を頼まれた意味がなくなるからな。それに俺が動けなくなってしまうこともある。
だから、念のためだ。ちなみに、銃を扱ったことはあるか?」
「一応、戦争でこういうハンドガンタイプは使ったことあります。といっても、
訓練にしか使ってません」
「そうか。しかし、使ったことがあるのなら初心者ってわけでもなさそうだな」

とはいっても、こっちに来てからそういう物騒な物は全く見向きもしなかったのに。
……この学園都市で、まさか一般的な学生だった俺が武器を持つなんてな。そりゃ、
俺にはこの『幻想殺し』っていう物があるけど、それ以外は他の無能力者と同じ。
それでも平和に生きてきたこの街で…まさか銃撃戦みたいな事が起きようとしてるなんて。
なんというか………やるせないな。
103 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 04:10:25.93 ID:dm6QjcUco
「とりあえず、お前さんは少し休んだほうが良い。あの動揺振りを見せられたら、
こっちにまで影響が出てしまいそうだ」
「分かりました。じゃあお言葉に甘えて………」

そういい残して、俺は目を閉じた。明日があるかどうかさえも不安になる。
まさかこの平和な街で、そんな風に考えようとは思いもしなかった。

                                       −第6部・完−
104 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 04:10:52.95 ID:dm6QjcUco
とりま一旦ここまで〜
105 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 04:12:21.50 ID:dm6QjcUco
訂正 第6部のタイトル 『明かされる真実(キーワード)』を >>95-96の間に追加
106 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 07:51:18.96 ID:dm6QjcUco
少しだけさいか〜い
107 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 07:52:00.08 ID:dm6QjcUco







第7部 『助っ人との情報収集(ブリーフィング)』





                        
108 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 07:52:51.13 ID:dm6QjcUco
翌朝。
朝っぱらから風紀委員からのけたたましい呼び出しを受け、いつもの支部に
スネークさんと出かける。腰に銃をつけながらの移動は、やはり違和感がある。
目的の場所についてみると、そこにいたのはいつもの風紀委員のメンバーに
アンチスキルの黄泉川先生、それと見覚えのない男性がいた。
その人はまるぶちメガネをかけており、研究者や科学の先生が着ているような
白衣を着ている。ちなみに、その下は紺色のタートルネックと黒のジーンズだ。

「オタコンじゃないか?!」

俺には初対面の男性に向かって、スネークさんがうれしそうに近づいていく。

「やぁ、スネーク!!まさかまた出会えるとは思いもしなかったよ」

それに気づいた男性は立ち上がってスネークさんと握手を交わす。どうやらスネーク
さんの知り合いみたいだ。でも、名前がオタコン…?日本人ではなさそうな顔つき
だけど、それにしたって不思議な名前だな。

「あっ、失礼。僕はハル・エメリッヒ。スネークとはシャドー・モセスで知り合ったんだ。
気軽にオタコンって呼んでくれ」

オタコンと呼ばれた人が俺に向かって自己紹介を済ませる。って本名がまるで違うじゃねぇか。

「あの……おたこんって一体何なんですか?」
「あぁ、アメリカで定期的に行われる『オタク・コンベンション』の略だ。僕は
日本のアニメが大好きでね。スネークと知り合うきっかけも、そもそも日本の
ロボットアニメを見てからなんだ」

はぁ〜、オタクな外国人ねぇ。でも、服装を見た感じあんまりそうは見えないけど。

「で、オタコン?お前なんでこんな所に呼ばれたんだ?」
「……それは私がご説明いたしますの」

今まで資料をじっと眺めていた白井が突然自分の椅子から立ち上がった。
109 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 07:53:18.60 ID:dm6QjcUco
どうやらこれまでの電磁波事件、及び俺・上条当麻襲撃事件の情報交換というのが
今回の議題らしい。
オタコンがここに来た理由は、何でも以前研究していた物を学園都市が注目し、
ここに招待してきたんだとか。で、たまたま休暇だった時にシャドー・モセス
事件の関係者でもあった事から風紀委員からの呼び出しを食らったそうだ。

「まず、電磁波事件についての情報を。初春さん」

ちなみに、会議の議長は何故か今日も支部にいた固法さん。しかし、場数が豊富
なんだろうか、ものすごく様になっている。

「はい。電磁波事件とは、レベル5級の電磁波が観測され、風紀委員が現場に
急行すると数名が感電して気絶している事件を言います。電磁波の犯人、つまり
他人を電気で気絶させた疑いの強い人物ですが、レベル5級の電磁波というデータ
から判断して…」

そういうと、俺のちょうど目の前にいた初春さんの口が止まり、俺の方に視線を
移してきた。たぶん、これから出そうとしている人物の名前に敏感であろう俺への
配慮なんだろう。しかし、俺は彼女と一度目を合わせ、頷いた。

――気持ちはありがたいけど、きにしなくて大丈夫だ

という念をこめて。
110 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 07:53:47.71 ID:dm6QjcUco
それを見た初春さんはしっかりと頷き、再び資料に目を通す。

「事件の容疑者は、別名『超電磁砲』で有名な御坂美琴さんと仮定されます。
ですが、ご存知の方もいるとおり、御坂さんは今から2年前に外国にて死亡が
確認されております。ですが、学園都市の書庫にアクセスしても他の電撃使い
の能力者にレベル5級の人は存在しません。現在報告できることは以上です。」

一通り説明を終えた初春さんは、そのまま席に座った。

「初春さん、ありがとう。じゃあ、次。上条君の襲撃事件についてだけど」
「それは、当事者である上条さんが話した方が良いっすね」

固法さんが俺のほうへ振り向く前に、自ら説明をかってでる。これについては俺が
誰よりも知ってることだからな。

「私、上条当麻は数年前からこの学園都市を離れ外国にいました。ここを発った
理由は色々あるので省かせていただきますが、外国での戦争が起こるか起こらないか
の緊張状態を目の当たりにした俺は戦争を止めさせるため、それぞれの派の代表に
交渉を始めました。結果的にこの戦争は停戦条約の締結によって終わったんですが、
これにより戦争を終わらせた俺に対する襲撃が起こりだしたんです。…先ほどの話に
あった御坂美琴もその時に死んでいます」

御坂の名前を出した瞬間、議場の空気が重くなった気がした。
111 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/22(火) 07:54:59.92 ID:dm6QjcUco
「その後、学園都市に戻ったほうが良いということで1ヶ月前にここに戻ってきた
のですが、ここでも襲撃はとまりませんでした。この1ヶ月で平均週2回ペースで
襲撃に遭い、今週に至っては本気で自分の命が危ない所にまで追い込まれました。
ところが、さきほどの電磁波事件の犯人であろう人が過去2回にわたり助けてくれて、
1度だけその人と話す機会がありました。驚いたことにソイツは御坂にそっくりだった
のですが、ソイツ曰く『私は御坂美琴ではない』そうです。ですが、電磁波事件の
原因にもなっているレベル5級の電撃による攻撃を実際に俺も見ています。それと
もう一つ、彼女はこうも言ってました。『書庫にも間違いがあるかもしれない』って」

やはり、御坂に似た人物と記録は厳正にチェックされる書庫に不備があることを
話すと風紀委員やアンチスキルの方々は相談をし始める。

「以上で上条さんが知っている話を終わります」

話すことはほとんど話し終えた。……さすがに妹達の件は言わないでおこう。未だに
俺が信じられないから……な。

結局この会議では、スネークさんとオタコンの自己紹介。それと、スネークさんは
引き続き俺の護衛を、オタコンは初春さんと共に情報処理を担当することになった。
黄泉川先生曰く

「ちょっと頼りない奴だけど、良い男じゃん?」

と早速お気に召されたご様子で。
とうのオタコンはというと、初春さんと早速打ち解けているみたいだし。スネーク
さんも

「あいつはいざって時に頼りになる。それに意外にユーモアがあるしな」

と彼を推している。しかし、どうもオタコンのことを好きになれずにいた。
とはいえ、この日は久々に平和なまま時間が過ぎていった。
昨日、あれだけ明日を怖く感じていたから…余計平和な時がよくかんじるんだろうか。


                            −第7部・完−
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 18:19:33.10 ID:m25sx2gZo

シャドーモセスか・・・・・
懐かしいな
久しぶりにやってみよう
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 18:53:06.78 ID:Ey55afyIO
移転待ってたぞ
114 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 18:14:09.03 ID:WBYuh9Xpo
そろそろさいか〜い
115 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 18:15:08.35 ID:WBYuh9Xpo







第8部 『コンタクト、コンフリクト』







   
116 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 18:16:04.15 ID:WBYuh9Xpo
情報交換のための会議から1週間。
あれからどうなったかというと、なんとも不思議なことに襲撃がぴたりと止んで
しまったのだ。それに合わせるように、電磁波事件もパタリと発生しなくなった。
一体これはどういうことだ?なぜ俺を殺さずに1週間も放置するんだ?
この日、なんとも気味の悪い敵の動きについてスネークさんと協議していた。

「相手が力を蓄えるようになったのか、それとも一旦身を隠さなくてはならなくなったか」
「でも、あいつらはこの街じゃテロ行為は1度もやったことないですよ?
俺を襲うのは、いつも路地裏とかの人目につかない場所でしたし」
「となると、こちらからの対策が進んでいることを知って一旦身を潜めただけか」
「でも、こちらからの対策と言ってもオタコンが加わったことくらいですよ?」
「オタコンの情報処理能力をなめちゃいけないぞ。あいつはたった一人で国の
重要施設にハッキングすることができるんだ。今の時代、それもこの街でアイツ
がいらないと思われるはずがない」

確かにスネークさんの言うとおり、先週オタコンが風紀委員に加入して以来、初春
さんとの情報処理能力(白井曰く、大半がハッキングのためらしいが)は恐ろしく
高いものになったらしく、俗に言うサイバーテロって奴の防犯にかなりの貢献を
したらしい。

「それにオタコンの力もあるだろうが、何より狙いがトウマだけじゃなくなった
事が一番だろう」
「えっ?それってどういう――」

ことですか? と口にする前に、気づいた。

「目標を殺るにはまず障害を取り除く必要がある。……そう、俺が奴らにとっての
障害というわけだ」

つまり、詳細が未知数のスネークさんを観察してデータを収集し、来るべき時に
備えている。ということか。

「もしそうだとしたら、奴らは一体いつ動き出すと思います?」
「さあな。それは俺にも分からん」

そう言って、ベランダに歩を進めるスネークさん。1週間同じ部屋にいれば、もう
分かってしまう。喫煙タイムだ。ベランダに出ると、彼は右ポッケからタバコと
ジッポを取り出す。にしても、あれだけ動きがあった連中がここまであっさりと
諦めることはないだろ。
……それとも、一度諦めたと見せかけて学園都市から離れるのを待っているのか?
ベッドに仰向けになり、もう目に馴染んだ天井を見つめながら俺は考えていた。
117 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 18:19:10.77 ID:WBYuh9Xpo
ぼ〜っとしていると、スネークさんが突然部屋に戻ってきた。まるで、何かに
察知したみたいに。一体どうしたんだ?スネークさんの焦りの表情なんて、
最後に襲われた時くらいから見てない気がする。ということは……こりゃ冗談
じゃすまされなさそうだな。

「どうしたんです?」

ベッドから飛び起き、枕近くにある棚から銃を取り出す。念のために残弾も確認しておく。
……まぁ一度も使ったことがないから8発あって当たり前だが。

「どうやら久々のお客さんらしいな」

スネークさんも着ていたコートを脱いだ。その下には、今まで見たこともない
戦闘服のような格好。そして右手で腰につけていた拳銃を、左手で胸から何か
取り出した。手のひらより大きなナイフ。初めて目にするスネークさんの光景に、
彼が言う『お客さん』が普通ではないことを思い知らされた。

「別にケンカしようってわけでもないわよ」

誰もいなかったはずのベランダの方に、とっさに銃口を向ける。
そこにいたのは

「ディープ・スロート……」

『彼女』だった。
これまで顔を拝められずにいたが、ようやくその顔を見ることができ……なかった。

「そのマスクは――」

スネークさんが彼女のつけるマスクを見て呟いた。
薄い水色のマスクに覆われた彼女の顔。それは、ちょうど目の辺りが少しへこんで
黒くなっており、眉間に当たる部分にはオレンジ色の光を放つ物体が不気味な感じで
こちらを見つめていた。

「ソリッド・スネーク。シャドー・モセス事件を終わらせた『伝説の英雄』」

前回同様性別が分からないような機械的な声。だがマスク以外はこれまで出会った
時と同様、俺にはもう見慣れている制服と髪。だが、コイツ自身は『アイツ』…
御坂ではないと断言していた。

「このマスクにも、見覚えがあるでしょうね」

……どういうことだ?なんでマスクとスネークさんに関係があるんだ?

「で?お前さんはそのマスクを俺達に見せびらかすためだけにここに来たわけか?」

禁句にもなりつつあったキーワードを聞いたためか、マスクをかぶった人物に対する
口調が少し荒くなっていた。

「怒らせてしまったようね、ごめんなさい」

俺が思っていたアイツではないと俺自身に断言させるがごとく、彼女は素直に謝った。
あいつだったら、多少なりとも反抗すると思っていたが…その前触れすらなかった。

「そう。今回ここに来たのは、忠告のためよ」
118 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 18:19:37.90 ID:WBYuh9Xpo
「忠告だと?」

スネークさんは銃とナイフをしまいながら、目の前の人物に問いかける。

「ええ。貴方達に、つい1週間前まで襲ってきた連中のことよ」

連中…愛国者達のことか。やはり、彼女も奴らと関係があるのかもしれない。

「今日の夜12時。奴らは動き出すわ」

口調を変えることなく彼女は言う。もっとも機械音声なのであまり口調が変わった
ように聞こえなかっただけかもしれないが。

「今まで貴方達を襲ってこなかったのは来るべき時への準備期間。どうしてそうするか
の理由は分からなかったけど、必ず決行してくる」
「それを知らせに来た、ってわけか」

一体どこからそんな話を聞いてきたかは分からないが、とりあえず彼女に合わせてみる。

「貴方達にはまだ死んで欲しくはないから。それじゃあそういうことで」

そう言うと、彼女はベランダから突然飛び降りた。
慌てて俺達は後を追うが、ベランダに着いた時にはすでに下を見渡してもその姿はなかった。
119 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 18:23:57.31 ID:WBYuh9Xpo
その後、白井と黄泉川先生に連絡し、ホテルのロビーに集まってもらった。
ちなみに、スネークさんはまたコートを羽織っている。

「……要するに、その方は一言貴方に申すためだけに部屋へ来たんですの?」
「あぁ、そうだ。どっからその情報を手に入れたのか結局分からずじまいだった
けどな」
「でも、もしそれが本当だとしたら妹達が一斉にお前に襲い掛かってくることに
なるかもしれないじゃん」

黄泉川先生が口を挟む。
どっからそんな考えが出てきたのか疑いたくなるが、この1週間妹達を含む連中が
一人も攻撃してこなかったことを考えるとそれもありえなくはない。

「そうなると、武器装備がさらに必要になってくるな」
「武器装備って…襲い掛かってくるのが分かってるんだったらアンチスキルに任せる
のが普通じゃん?いくらハンサムなニイチャンだからって、あたし達を出し抜こう
とするのは良くないじゃん」

事情をよく知らない黄泉川先生がスネークさんに噛み付いちまった。
あちゃ〜、あの時の自己紹介でそれほど詳しく話していなかったからなぁ。
一般人と思っていたのに、突然武器がどうのこうのじゃあ怪しいと思っちまうよな。

「まぁまぁ、黄泉川先生。この方は先日支部に来た方で、上条さんの護衛をして
おりますの。アンチスキルは個人だけでなく、この街全体の治安維持が目的ですから
わざわざ頼むこともないかと…」

スネークさんを睨みつける黄泉川先生に、白井が恐る恐るって感じに説明する。

「それとこれとは話が別じゃん!」

だが、黄泉川先生は勢いよく立ち上がって白井に怒鳴りつける。
逆にヒートアップさせちまったみたいだな、こりゃ…。

「上条から前に話聞いて変だなとは思っていたけど、この前の話し合いでそれは
納得出来たじゃん。だけどな、コイツがどういう経験したって言ったってまだ
子供じゃん!それをなんだ…ある組織から守るために用意されたのがこの男一人
だけ?冗談にも程があるじゃん!!」

場所が場所だけに、周りからの視線がこの辺りに集まってしまう。
部屋でやるべきだったか……でもそんなこと言ってらんねぇ。
120 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 18:24:55.07 ID:WBYuh9Xpo
「関係ねぇ……」
「何?」

俺のつぶやきに黄泉川先生の顔がこちらに向く。

「関係ねぇっつってんだろ!!!」

突然の怒号に黄泉川先生はもちろん、他の人たちも思わず驚いていた。

「あぁそうさ!俺はアンタに比べたらまだまだガキだ!!みんなを守りたいとか
言っておきながら、一番身近にいた奴を守れないぐらいバカな奴さ!!!」
「けどな、俺はこうして生きてきてる!!みんなに助けてもらいながらだけど、
俺をつけ狙う奴らからずっと生き延びて来た!!」
「それに、誰かが傷つくとこなんて見たくないんだ!!アンタだって、それが嫌で
アンチスキルになったんじゃねぇのかよ?!」
「ふざけるな!!青二才のお前に何がわかるってんじゃん?!」
「あぁ、分からねぇよ!!!先生に何があったかなんて聞かねぇ!!でも、これだけ
は言わせてもらう!!生半可な理由なんかでアンチスキルに入ったんじゃねぇだろ?!」

黄泉川先生が俯いた。

「トウマ。そのくらいにしておけ」

少しの沈黙を破ったのは、それまで目をつぶって黙っていたスネークさんだった。

「お前さんのは説得ってより、説教だな。自分の感情を押し付けてばかりで、
最後に至っては自分の意見を無理矢理貫こうとしている。今までよくそんな感じで
意思が固くなっていた奴らを懐柔させてきたもんだ。下手をすれば逆上して殺され
かねん」

……言われてみれば、そうだった気がする。
異能の力なら何でも打ち消せる幻想殺しなんて『能力』持ってるけど、外に出てみれば
そんなものは存在しないといってもいい。一部を除いたら、皆能力や魔術なんて
使うことはなかったからな。だけど、この右手の力を持ってたことに少し自信過剰
になっていたのかもしれない。だからこそ、俺は……
トラウマにもなっている『あの光景』を思い出し、歯を食いしばる。

「……まぁ、ずっと死と隣り合わせにいたんならもう少し自分の命を大事にしろ。
それをしなかったら、自分はおろか他人を守ることなんてできなくなるぞ」

――何も言い返せなかった。

                                       −第8部・完−
121 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 18:25:43.04 ID:WBYuh9Xpo
今日はここで打ち止め〜

ここら辺までは大丈夫かな(淡々と話が進んでない的な意味で)
122 : ◆FMYPc6cKQE :2011/02/23(水) 21:37:16.02 ID:WBYuh9Xpo
たまにはageてみる
123 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 22:46:17.16 ID:WBYuh9Xpo
さいか〜い
124 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 22:46:44.92 ID:WBYuh9Xpo









第9部『対立、和平、そして出現』









        
125 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 22:47:13.80 ID:WBYuh9Xpo
結局話し合いは今夜、決戦直前にもう一度やることになった。最後があんな調子
だっただけに、ホテルのロビーには気まずい空気が流れているような気がした。

そして、夜。部屋に集まったのは、俺・スネークさん・白井・固法さん・初春
さんとオタコン、合わせて6人。黄泉川先生がいないのは、

『相手が上層部に関係する妹達のためにアンチスキル筋からの情報漏えいを
避けるためですの』

と、白井の弁。

「おそらく戦うことになるのは初春とオタコンを除く4名のみ。相手の人数はこれ
に対して1万人弱…」
「まさに『多勢に無勢』ね」

戦力状況を冷静に分析する白井に対し、ため息でもつくように固法さんが呟いた。

「でも、いくら人数が多いからといっても、女の子二人とも相当強いんだって
カザリから聞いたから対した事はないんじゃないの?」

ネガティブになりかけていた風紀委員達をフォローするオタコン。
つーか、いつの間に初春さんを名前で呼ぶようになったんだ、オタコン…

「オタコンさん、残念ですがそうも行かないんですよ」

だがフォローのきっかけである本人から口出しが入る。

「シスターズ…いえ、スナイパー・ウルフ達には独自のコミュニケーションシステム
が組み込まれているんです。詳しくは分かりませんが、それによってテレパシー
だったり、敵の位置・動き・状態までも瞬時に把握して計算することが出来るんです」
「ブリーフィング知らずとはな。ますます手が重くなってきたな」

御坂妹が言ってた「ミサカ・ネットワーク」。
それを使って、以前は計画のための捨て駒として生きていた妹達。それを俺は
確かに潰したと思ってた。
寿命を長くするための調整のはずが、まさかまた『平兵士』(ポーン)として
使われることになるとは、彼女達も想像していなかったに決まってる。
1回でダメでも、また同じようにすればいい。そうすれば、戻ってくる。

――だが、俺の希望は次の一言によって粉々に砕かれた。

「問題は、スナイパー達をどれだけ減らせるかだな」

その声の方向に目を向ける。……スネークさんだった。
126 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 22:47:45.83 ID:WBYuh9Xpo
スナイパータチヲヘラス?
スナイパーハ…シスターズ。ヘラス…シスターズヲ?

「お言葉ですが、ス……さん。…でその様な…は…」

白井が何か言っているように聞こえる。
だが俺にはそれを聞き取る余裕などなかった。

「……あぁそうさ。確かに今の妹達は俺を狙ってきたよ」

いつの間にか俺は、床を見ていた。
いつの間にか俺は、声が出ていた。

「あんたにとっちゃ、あいつらは俺の命を狙う敵だろうな」

怒り。それを通り越して、自分が吐き出す言葉がおかしく感じてしまう。
ちょうど、錬金術師に右腕を持ってかれた時と同じように。

「上条……君?」

固法さんに呼ばれた気がする。
いつの間にか俺は、足が前に出ていた。

「だがな……あいつらが俺の仲間だってことは変わらねぇんだよ」

いつの間にか俺は……憧れていたはずの人物に対してこれまでにないくらいに
睨みつけていた。そして、胸倉を掴んでいた。
しかし、こちらの剣幕に目の前のおっさんは顔色一つ変えることはない。
それどころか、俺を睨み返している。

「言いたいことはそれだけか?」
「なにっ?」
「お前の『説教』はそれでおしまいかと聞いているんだ」

なんだ……一体何が言いたいんだ?

「俺はあくまで雇われてお前の護衛をしている。お前さんの都合など、こっちには
一切関係ない」
「なっ?!」

冗談だろ?もっと冷静に、臨機応変に対応してくれる人だとばかり思ってたのに……。
俺の命だけ助けるけど、他の奴はどうでもいいだって言うのか?!

「っざけんじゃねぇ!!何が雇われてだ!!」

これまで以上に、頭がカァ〜っと熱くなってくる。

「自分の任務をやり遂げんのがそんなに重要かよ……俺だけ守られたって、他の奴
が傷つくんだったら……んなもん俺自身が許さねぇ!!!」
「あんたは何か?!自分は殺人鬼って言えちまうくらい、人を傷つけたり、殺す
ことに何も感じねぇのか??!」

一度目線をずらし、呼吸を整える。

「そんな非常識な考え方持ってんだったら…」
「俺が、その思考(げんそう)をぶち――」
「甘ったれるのもいい加減にしろ!!!」
127 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 22:48:13.94 ID:WBYuh9Xpo
突如響き渡る怒鳴り声。
一瞬誰が言ったのかよく分からなかった。
だが、目の前にいる人物の、息が荒くなっていた。

「俺だってこんな選択はしたくない。だがな!そうしなければ、お前が知ってる
他の連中が余計に巻き込まれるかもしれないんだぞ!!!?」
「っ?!」

それは……俺が一番嫌っていることだ。

「他人を一人一人守ろうなんて考えるのは正義の味方が考えることだ。そんな
考え方を持っていてよく今まで生き残ってたもんだ。……いや、どうせ誰かが
犠牲になっているんだろうな」

……こ、この野郎!!

「……何分かりきったような口叩いてんだ、畜生!!!」

戦時中に失った「アイツ」のことを言われたんじゃあ、もう我慢できねぇ!!!
即座に右ストレートを顔にお見舞いしようとこぶしを振りかぶる。だが次の瞬間。
何故か俺は天井を見ていた。……いや、正確には倒されたのだ。

「お前さんはまだ若い。熱くなることは一向に構わないが、それで他人に迷惑を
かけてしまうかもしれないということを忘れるな」

俺を見下ろしながら、スネークさんは忠告する。
それが正論ということを分かっているだけに、反論できなかった。

「くそっ!!」

そんな俺に出来ることと言えば、今の部屋から一目散に逃げ出すことくらいだった。
128 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 22:49:02.34 ID:WBYuh9Xpo
ホテルの屋上。今のご時世なかなか屋上に出られる機会がなくなってきてるが、
このホテルは屋上がドームになっているのでほぼ24時間開放されているらしい。
それが今の俺にはすごくありがたかった。ドームの中は庭園っぽい感じ。
中央に噴水があり、それにあわせて歩道が交差している。噴水近くにあるベンチに
腰掛けると、なんだかどっと疲れが出てきた。ついさっきまでヒートアップ
しまくってたからなぁ。当たり前か。

「やぁ、ここにいたんだね」

首をゆっくり後ろに曲げると、そこにはオタコンがいた。

「ちょっと話しておきたいことがあってね」

そういうと、彼は俺の右隣に座った。
しばしの沈黙。目の前の噴水の音が静かに流れていた。
129 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 22:49:32.15 ID:WBYuh9Xpo
だが、それにも俺は耐え切れなくなり――

「他のみんなはどうしてます?」
「彼女達かい?全員目を丸くしてたよ。よっぽど君のブチ切れる所が珍しいんだね」
「……そうですか」
「あぁ、そうそう。スネークも少し反省しているみたいだ。いくら君から仕掛けてきた
からって、CQCをすることもないだろうに」

アルファベット3文字のような、聞きなれない単語に思わず首をオタコンに向けた。

「シーキューシー?」
「Close Quarters Combat。日本語だと『近距離戦』とか『白兵戦』って感じかな。
誰か一人とケンカした時とかで互いに銃とかの飛び道具を持ってない場合、
殴り合いかナイフで斬りあうでしょ?スネークは世界の武術をCQCに応用してて、
これがなかなか強いんだ。たぶん、彼が倒された所を僕は見たことないかも」

ケンカで負けなし、か。
130 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 22:50:01.20 ID:WBYuh9Xpo
「昔の俺とちょっと似てますね」
「んっ?どういうことだい?」

CQCについて力説していたオタコンは、こっちに目を向けた。

「少し前にこの学園都市を出るまで、俺はここに在籍する単なるダメ学生でした。
おまけに、何かある度に因縁やら事故やらに巻き込まれて……ホント、『不幸だぁ』
ってのが口癖になってたんです」
「その時に、部屋にいた白井とかに出会って…その間にもいろいろあって。でも、
気がついたらここの上層部から海外旅行のプレゼントがあったんです」
「へぇ〜、政府からのサプライズねぇ……。で、どこに行ったんだい?」

それから30分。いや、それ以上の時間が俺の思い出話によって埋まっていった。
まぁ、旅行というには全然楽しくなんかなかったけど。……この際なので、御坂
の話もした。
131 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 22:50:32.18 ID:WBYuh9Xpo
すると、オタコンは納得したような表情をする。

「あの……どうかしたんですか?」
「いや。スネークと君ってホントに似てるんだなぁって思ってさ」
「えっ、どういうことですか?」

その一言から始まったオタコンとスネークさんの昔話に、俺はさっきまでの行動を
ひどく後悔することになった。
今から1年ほど前。
北アメリカの北西にあるアラスカという地域にあるシャドー・モセス島にて
「FOXHOUND」という特殊部隊によるテロが発生。その島にあった兵器「メタルギア」
と呼ばれる物を奪われ、下手をすれば核攻撃が行われるという事態になった。この
事件に関わっていたのが、今目の前にいるオタコンと事件を無事解決させたスネーク
さんだった。
結論を言うと、テロ集団が欲しがってたメタルギアは破壊され、設計図などの情報も
全て捨てたという。だが、その代償としてこの事件で知り合った女性の命を
失ってしまったそうだ。本人からは詳しく聞いていないが、オタコンが見た感じ
その人の死はスネークさんにとって相当ショックなものだったらしい。

――同じだ。俺が御坂を死なせてしまったように、スネークさんも大事な人を失った
ことがあったのだ。そんなことも知らず、俺はなんてことをぶちまけてしまったんだ……。
知ったような口を、とかほざいてたけど、その辛さが分かるからこそ、ああいう風に
言ってくれていたのに。

「そうそう。スネークはこんなことを言ってたよ。

『人を殺してショックを受けないのは、異常者だけだ。
罪悪感のない殺人は新たな殺戮を生む』

って。彼は決して殺人鬼なんかじゃない。兵士としてしか生きていけない
悲しい男なんだよ」

さっきの自分の暴走ぶりに腹が立ってくる。結局俺は独りよがりで、
自分の主張しか通そうとしない奴なのか。今までの俺の行いが次々に思い出され、
俺自身に嫌気がさしてきた。

「だからこそ、そんな境遇になるのは自分だけでいい。次の世代、つまりトウマ
達にそうさせないように彼は頑張っているってわけさ」
「……素直に謝って、許してくれますかね?」

だめもとで聞いてみる。
すると、オタコンは初めびっくりしていたものの、すぐに笑顔になった。

「今君が考えたことをきちんと言えば、大丈夫。なんたって彼は、柔軟な発想の
持ち主なんだから」

その一言で、いくらか……いや、かなり気分が晴れた気がした。
132 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 23:01:31.75 ID:WBYuh9Xpo
「これで、カミやんも大人への第一歩が踏み出せたかにゃ〜?」
「土御門……」

いつも通りだが、コイツはホント、どっからともなく現れてくる。

「……で、今夜の作戦のことだが。 一応ねーちん達に連絡はした。ただ、野暮用
で時間には間に合わないかもしれんそうだ」

野暮用……。
それが一体なんなのか、とここで聞いたらそれこそ野暮なもんだろう。

「まぁ、オッサンの言うとおり武器は一応仕入れることはできたぜぃ」
「ホント、ツチミカドの後ろに誰がいるんだか気になってくるね」
「それを聞いちゃいけないぜぃ、オタコン」

こいつはいつだってこんな調子。でも、今はそれが羨ましく見える。

「さて、カミやん。『善は急げ』って聞いたことあるよな?」
「……自分が良いと思ったら即行動しろ、だったっけ?」
「そう。ってなわけで、その舞台、セッティングしておいたにゃ〜」

そう言って、土御門は俺達の後ろ、入り口のほうに目を向けた。それに合わせて
振り向いてみると、ここへ入ってきた時の自動ドアの前に、さっき部屋にいた
みんながいた。もちろん、スネークさんも。
133 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 23:01:59.21 ID:WBYuh9Xpo
「土御門、お前……」
「カミやん達に声をかける前に伝えておいたんだぜぃ。作戦の最終確認もかねてにゃ」

そう言うと、いつも通りのしてやったりといった感じに笑う。全くコイツにはかなわねぇな。

「トウマ」
「は、はいっ!!なんでしょう?」

先ほど怒らせてしまった人からの声に、思わず立ち上がってしまう。

「そう固くなるな。……さっきは悪かった」
「そ、そんなっ!スネークさんの言ってたことは正しいし、俺がムキに
なっちまったのがいけなかっただけで……」
「まぁそう自分を責めるな。確かにお前さんはムキになったが、それは俺にもいえる。
お互い様って奴だ」

――そういうものだろうか……。

「それに、クローンって言葉にはどうしても過敏に反応してしまう。
それがいけなかったのかもしれないな」

クローン……。そうか、妹達は元々御坂の……。でも、どうしてだ?

「とにかく、作戦前に仲間割れなんてしてる場合じゃなかった。だから、
これだけは言わせてくれ。すまなかった」

スネークさんはそのまま頭を下げた。……こんな俺に対して。
134 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 23:02:27.48 ID:WBYuh9Xpo
「こっちこそ、すいませんでした!!」

つられて俺も、勢いよく頭を下げる。

「スネークさんにあった事を知りもしないで、分かりきったような感じで
ぶちまけちまって……。ホントにすいませんでした!!」
「いや、俺の方こそ……」
「はいはいそこまで。おっさんもカミやんも、これ以上謝ってばっかじゃ
無限ループもいいところぜよ」
「ははっ、ツチミカドの言うとおりだね。……えっと、こういうのを
なんて言ったっけ?『献花良性ばい』だったかな?」
「オタコン、それは『喧嘩両成敗』ぜよ……」

オタコンと土御門の即席漫才に雰囲気が少し軽くなった気がした。

「まぁ、これから命を懸けて戦うんだ。背中を任せるぜ、相棒」
「こっちこそよろしくお願いします、スネークさん」

スネークさんと堅く握手する。
『御坂美琴』(ディープスロート)が漏らした、敵の作戦決行まで
残り2時間を切っていた。
135 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 23:02:54.50 ID:WBYuh9Xpo
同じ日の、午後11時半頃。俺達は学園都市内唯一の貨物倉庫にいた。
そう、妹達の命を救った場所。相手側からの場所の指定がないため、
大規模な戦闘でも被害が少ないようにということでたまたまここに決まったんだが
……やれやれ、皮肉だよな。あいつらを助けたこの場所で、今度はあいつらと
戦わなくちゃならねぇんだから。

『みんな。通信機の感度はどうかな?』
「あぁ、良好だ」

俺とスネークさん、それに白井と固法さんはオタコンが用意したイヤホン型の
通信機をつけている。なんでも普通のものと違って、周りの雑音に邪魔されずに
はっきりと聞き取ることが出来るらしい。

『よし、僕はカザリと周辺のチェックをしているんだけど……今のところ動きは
ないようだね』
「しかし、レーダーも使わずにどうやって連中の位置を把握するんだ?」
『それについては、私が説明します』

通信に、初春さんが割って入ってきた。
計画通り、今この場にいる4人が前線に、あとの2人はあの支部でサポートを
している。ちなみに土御門は

「他にやることがあるから、ちょっと抜けてくにゃ〜」

と言って、屋上で姿を消した。
136 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 23:03:22.08 ID:WBYuh9Xpo
『狙撃人狼には「欠陥電気」という能力があり、AIM拡散力場によって
ほんの微量ですが電流と磁場を放出しているんです。それを利用して、ここで
彼女達の位置を把握できるように検出器を設置しました』
「なるほど、すでにレーダーは用意してあったってことか」
『そうだね。でも短時間にここにある物だけで作ったから、あまり期待はできない。
そうだなぁ…反応があった地点から大体半径1キロの誤差が生じるね』
「なんとも言えない誤差ね」

……AIM拡散力場、か。仕組みは全く分からねぇが、風斬の事もあったから
そういう物があることだけは納得できる。

「で、今はどうなってるんですの?」
『えっと、まだ反応は…あっ!」
「どうした?!」
『スネーク!!君達のいる所からや…キロ……ザザッ』

突然通信に砂嵐が鳴り出す。

「どうしたんですの?!!初春!オタコン!!」

白井が必死に連絡を取ろうとするが、向こうからは全く声が届いてこない。
一体これはどういうことだ?

「無駄です。骨伝導を利用した通信機といえども、電波妨害をされては使い物に
なりませんもの」
137 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 23:03:53.68 ID:WBYuh9Xpo
俺達の後ろから聞こえてきた、聞きなれない声。
その方向へ4人同時に目を向ける。

そこにいたのは、一人の女性。肩の後ろまで伸びた黒い髪で、
ベージュ色のダウンコートを着てる。それ以外は、ライトの逆光のせいでよく見えない。
ここに来るくらいだから俺達とこれからやりあうつもりなんだろうけど……

「えぇ、そうですね。この格好は戦闘では不向きですものね」

なんだ?……今俺、独り言でも言っていたのか?

「ふふっ、そんなことありませんわ。貴方はきちんと口を閉じてましたよ」

また……それに口を閉じてたのは俺も分かってる。じゃあ一体?

「そこの貴方。初対面の相手とは、まず自己紹介が第一にすべきかと思いますが?」

後ろから、白井の声が聞こえる。その声には、声をかけた相手に対する警戒心が
はっきりと取れた。
138 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/23(水) 23:04:23.27 ID:WBYuh9Xpo
「そうね、ごめんなさい。自己紹介なんてする機会があまりなかったから、ついね」

対する相手の口調には、警戒なんて一切ない。むしろ、余裕があるようだ。

「私には……もう自分の名前なんてないような物。でも、みんなからはこう呼ばれてるわ」

名前がない……いったいどういうことだ?

「私の異名は『心理掌握(メンタルアウト)』。よろしくね、上条当麻君」


                           −第9部・完−
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 00:19:42.90 ID:m9SelUWAO
乙。

楽しみにしてる!
140 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/25(金) 06:40:00.98 ID:FCYftQcfo
突発的にさいか〜い
141 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/25(金) 06:40:27.17 ID:FCYftQcfo







第10部『敵からの自己紹介(プレゼント)』





    
142 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/25(金) 06:41:29.24 ID:FCYftQcfo
「心理掌握ですって?!」

目の前の女から出た言葉に、固法さんがたじろぐ。

「心理掌握と言えば、学園都市のトップ・7人のレベル5の中の第5位。お姉さま
には負けておりますが、相当の実力ですわ」
「えぇ、確かに御坂さんに負けては『いました』よ」

白井の説明に、心理掌握からのわざとらしい訂正。
……ダメだ、あの微笑みが妙にムカついてくる。

「ふふっ。『元』3位の人を踏みにじられるのが嫌なようですね」
「こ、コイツっ?!」
「待て、トウマ!!挑発に乗るんじゃない!!!」

拳を握り締め女に突進しようとした時、スネークさんに止められる。

「心理学的な部分に長けているんだ。うかつに動いたら相手の思う壺だぞ」

的確なアドバイスに、歯を食いしばりつつ腕から力を抜く。

「私の能力をもう見極めるなんて……なかなかですね、スネークさん」
「……聞かせてもらうがむせ――」
「どうやって無線を封じたのか、どうやってここにいると分かったのか。そして、
なぜ私がここにいるのか。ですね?」

またか……。どうやら奴は人の心を読めるみたいだな。
143 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/25(金) 06:42:14.56 ID:FCYftQcfo
「無線封鎖は妹達……いえ、狙撃人狼の方々に協力してもらってこの一帯に電磁波
をかけてもらってます。場所が分かったのは……勘ですね」

心を読める奴が勘、とはね……。これだけバレバレなウソを普通につかれたのは
初めてだな。

「それと、ここにいる理由でしたね……それは」

心理掌握の口が止まると、周りに隠れていた妹達が姿を現す。
それまで笑顔を浮かべていた彼女の表情が…ガラッと変わった。

「上条当麻。アンタを抹殺するためだよ」

な、なんだっ?!表情どころか、口調も雰囲気もまるで別人だぞっ?!どうなってやがる?!

「ハッハッハ!教えてやるよ、アタシの力を!!」

その瞬間、心理掌握が姿を消した。

「何?!消えた?!」
「どこを見ているんですか?私はここですよ」

とても敵とは思えないほど優しく聞こえる声が俺の後ろから聞こえる。
その方向へ体を反転させ…ようとしたのだが。
後ろからの風。その次に、同じ方向から聞こえてくる風を切る音。その直後、
俺の左頬から生温い液体が流れ始めた。何かに切られた?でも、一体誰が…?

そう思いつつも、条件反射で自分の体を右に傾ける。すると、後ろから俺を切ろう
とした人物が現れる。だが、予想外の人だった。
144 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/25(金) 06:53:42.51 ID:FCYftQcfo
「固法先輩っ?!!」

白井が俺と同じように、驚きを隠せていない声を上げる。
慌てて受身を取ろうとしたが、タイミングが遅れ右肩からモロに倒れこんじまった。
地面に叩きつけた肩がものすごく痛い。だが、今はそんなちっぽけな悲鳴なんか上げられねぇ。
だが、俺が倒れこんだ直後。俺に向かって一直線に突っ込んできた固法先輩が突如方向を変えて
またも切りかかろうとしてきた。その手には、一体どうやって手に入れたかは分からないが、
とても女性が持つには大きすぎるサイズのサバイバルナイフ。くそっ、立ち上がろうにも右腕が
痺れて動けねぇ!!!

「か、上条君……逃げて……」
「先輩、失礼しま――」

緊急事態によりやむを得ずスカートの中から鉄の棒を掴んだ白井。だが……

「無駄だ。お前等の考えていることはお見通しなんだよ」

そのすぐ後ろに姿を表した心理掌握。固まった白井に向けられた手には銃が握られていた。
……どういうことだ?!なんで固法さんが……どうして心理掌握が白井みたいに空間転移
出来てるんだ?!!

「さぁてお別れの挨拶は……こうしましょうか?」

また、また口調が丁寧になった。すると

「サヨナラ。モウニゲナクテモイインダヨ??」

固法さんからこぼれたのは、棒読みとはいえこっちからしたら信じられないようなセリフ。

「くそっ……」

無我夢中で俺は逃げる。が、何かにつまずきまた倒れてしまう。

「フフッ。往生際が悪いですよ、上条さん?」

それを嘲笑うかのような心理掌握の笑い声。ゆっくりと固法さんが近づいてくる。
そして俺の前に立つと手にもつナイフを高く挙げた。くそっ、これで俺の人生
おしまいっていうのかよ……。覚悟を決め、来るであろう痛みに耐えるために
俺は目をつぶり、歯を食いしばった。
145 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/25(金) 06:59:55.61 ID:FCYftQcfo
だが、切られたり刺されたりする代わりに金属同士がぶつかる時の甲高い音が
聞こえてきた。ゆっくり目を開けると、固法さんと最初に会った時の格好をした
スネークさんが見えた。

「ふんっ!」

そして次の瞬間、スネークさんは俺から見て右側に体を動かす。それによって、
固法さんはバランスを崩してスネークさんとは逆側によろける。それを見計らって
だろうか、スネークさんは空いていた左手で固法さんの首に上からチョップをかます。
一瞬だけうめいた固法さんは、そのまま地面にうつぶせに倒れた。

「こ、固法さん!!」
「心配するな、気絶させただけだ。それより、ケガは?」
「あぁ……なんとか」

ぶつけた右肩の痺れもだいぶ取れてきた。これなら心配は要らない。
それにしても、なぜ固法さんがいきなり襲ってきたんだ?

「ふふっ。突然の裏切りに驚いてるみたいですね」

俺達にとって予想外の事態が起こっても、なお余裕……いや、むしろさっきより
それが増しているような心理掌握の声。……そういうことか。

「ええ、そうです。その方にはちょっとだけ手伝ってもらっただけです。と言っても
ちょっと強引にですけどね、フフッ」

敵じゃなければ思わず見惚れてしまいそうなウインクとスマイル。
……やはりそうか。こいつはレベル5の心理系の能力者。その実力で、固法さんを操って
いたというわけか。

「そういうことです。さすがに『戦場を駆け巡る交渉人』というだけありますね」

どこまでも余裕を貫くこの女。しかし、彼女の能力はいわば『自分の意のままに人を操る
ことも出来る』というめんどくせぇ物。……一体どう動けばいい?と、その時……

『ス……ク。……ウマ、聞こえるかい?!聞こえたら応答してくれ!!』
「オタコン?!」

やった。通信が出来るようになった!!これでいくらかは……

「あら?通信が出来るようになったみたいですね。でも、それがどういう意味か
お分かりですよね?」

……これも相手の作戦のうちってわけか。
146 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/25(金) 07:00:46.72 ID:FCYftQcfo
直後、足元に数回何かが跳ねるような音がした。見ると、地面に一部穴が出来ている。

「奴らが戻ってきたか!!クロコ、この子を頼む!!」
「分かりましたが、貴方はどうなさいますの?!」
「……用意した甲斐があったってもんだ」

そういうと、スネークさんは肩にかけていたバッグを地面に置く。
中から出てきたのは、茶色のライフル。トリガーがある部分の上に、なにやら
黒い筒がついていた。

「スネークさん……まさか?!」
「こいつは麻酔銃タイプのスナイパーライフル、モシン・ナガンだ。お前さんに
説教されて急遽こっちを用意してもらったんだ。結構貴重だから、ツチミカドの
奴がものすごいブーイング垂れてたぞ」

中から出てきたのはスコープがついてなければ猟銃と勘違いしてしまいそうな銃。
スナイパーライフルは大抵黒い物だと、レジスタンスの狙撃兵が言っていたが
こういう物もあるのか……。

「とにかく、狙撃屋は俺に任せてお前さん達はあいつを頼む」

そう言って、スネークさんは走り出した。
147 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/25(金) 07:07:56.34 ID:FCYftQcfo
「では、固法先輩を安全な所へ――」
「……ねぇ、私の事忘れないでくれないかな?」

注意を反らしていた心理掌握にもう一度目を向ける。あの豹変から、ずっと変わらず
微笑んでいる。が、その笑顔の裏にものすごく恐ろしいオーラがあるし、不自然に頭を
傾けている。まるであまりの怒りに力を抜かれたかのように……さっきからあまりに
敵がコロコロ豹変するせいで、俺と白井は二人とも固まってしまった。

「どうしてみんな、私を無視するんですか?」

今度は俯いた。

「な、なにっ?」
「どうしてみんな、私に近づこうとしないんですか?」

わけも分からないことを言い始めてる。こいつ……一体なんなんだ?

「あぁ、そうか……貴方達もそうやって私の事を怖い人だって思うんですか」

心理掌握の言っていることが全く分からない。白井を見てみると、やはり同じようだ。
目は見開かれ、口がほんの少しだけ開いている。

「そう。そんなに私を化け物扱いするなら……」

突如、自分自身を『化け物』と言った彼女の後ろにあるコンテナが宙に浮き出す。
こ、こいつ……心理的な能力しか持っていないんじゃなかったのか?!!

「なってやろうじゃない……化け物にでもなんでもなぁ!!!」

そう言い切るや否や、コンテナが俺達に向かって投げ出される。

「ま、まずいっ!」

俺は風紀委員二人を抱え、スネークさんとは反対方向に走り出す。その直後、
コンテナが俺達のいた場所に放り出され轟音と共に地面と激突した。スライディングで
間一髪逃れた俺達は再び敵を睨みつける。

「くそっ!お前、心理系の能力者じゃなかったのか?!!」
「ククク……何を言ってるんだ?」

まただ……また心理掌握の様子が一変した。

「アタシについていたあだ名は確かに『心理掌握(メンタルアウト)』。でも、今は
違う」
「ど、どういう事ですの?!」
「アタシはもっとすごい存在になったんだよ。そう、他人の心理を自分のものにする
だけじゃない」

どういう事だ……?確か、能力者が持てる能力は1つが限界のはずじゃ……

「えぇ、貴方の考えてる事は確かに正しいわ。私は確かに心理掌握。でもね・・・
今のアタシはこう名乗らせてもらうよ」

「…………


   『   心      念        制      圧
   (   サ    イ    コ  ・ マ ン テ ィ ス   )』

ってな!!!」


                           −第10部・完−
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 18:29:49.08 ID:TDFLwbqmo
乙。
モシン・ナガン=麻酔銃ってわけじゃないけど。
149 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 02:52:51.21 ID:F4KJ96RNo
復帰〜

>>148
自分でも調べてみたけど、これは「=」で結べないわな^^;
ということで訂正入れる
150 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 02:54:23.93 ID:F4KJ96RNo
>>146

こいつは麻酔銃タイプのスナイパーライフル、モシン・ナガンだ。



こいつはモシン・ナガンというスナイパーライフルを麻酔銃向けにカスタムした物だ。
151 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:05:56.66 ID:F4KJ96RNo
ではさいか〜い
152 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:06:30.97 ID:F4KJ96RNo
「心念……制圧……?」
「そうよ。今の私はもう心だけしか読めないことはない」
「今の私にはそれに『念動力(テレキネシス)』も使うことができるんですよ」

一旦ぶっきらぼうな感じになったと思ったら、また元の雰囲気に戻っている。
どういうことだ……?

「そんな……多重能力は現実では不可能となっているはずですのよ?!」
「それはなまくら科学者が出した迷信にしかない」
「現に、貴方達の目の前にいるじゃない?……『多重能力者(デュアルスキル)』
がさぁ!!」

次の瞬間、周りのコンテナが一斉に宙を舞いだす。

「まずい?!」
「上条さん!固法先輩をこちらに!!」
「分かった!!」

すぐさま固法さんを白井に託し、お互い逆方向へ走り出す。すぐに白井は能力を
使ってどこかに消えてった。その直後、さっきと同じようにコンテナが元いた
場所に落下され、辺りに聞き心地の悪い金属音とほこりが舞う。

「し、白井っ?!」
『上条さん!!私達は安全な場所に避難いたしましたの!!!』

無線から二人の無事が本人から伝えられた……良かった。

「ふんっ……あの女共には逃げられたか」

コンテナを地面に叩きつけた張本人は、悔しそうに顔を歪める。

「……まぁ良いでしょう。元々貴方の抹殺が目的なのですから」

だが俺のほうに振り向いた時の心念制圧の顔は、またも笑みをこぼしていた。
……さっきと違い、その笑みには影がはっきり見える。

「へっ、いくら周りの物ぶつけようったってそうは……っ?!」

な、なんだっ?!左腕が……動かねぇ!!!

「うふふっ。私、他人の心を読んだり操ったりできるんですけど、こんな風に
動きを封じ込める事だってできるんですよ?」

なっ?!金縛りまで出来ちまうのかよ!!ちっ、全く右腕まで動いてくれねぇ!!!

「無駄ですよ。いくら貴方に『幻想殺し』の力があってもその動作を司る神経を
こちらが操ってしまえば動くことはありません」

ゆっくり……だが着実に目の前にいる得体の知れない死神が近づいてくる。

「うふふっ。今までのように覚悟を決めることも無理みたいですね。
……大丈夫、すぐに楽になりますよ」

そういうと彼女はコートのポケットから拳銃を取り出し、俺の左目の前に
突きつけた。俺のすぐ後ろにあるライトでその銃が金色のボディに輝きを含んでいた。

くそっ!!動け、動けよチクショウ!!!

「じゃあ、貴方の物語はこれでおしまい。さようなら、上条当麻さん?」

目の前の絶望から逃げたいのに、目をつぶることさえ出来ない。

……くそっ!!!
153 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:07:11.31 ID:F4KJ96RNo
「っ?!」

だが拳銃から弾が飛び出すことはない。それどころか、心念制圧は後方に跳んで
いった。その直後、心念制圧がいた場所に閃光が走った。そして、金縛りが解け
俺は尻餅をつく。

今の閃光、まさか……

「やはり現れましたね、『裏切り者』」

俺の斜め後ろから来た電流。その方向へ首を傾けると、あいつがいた。

「私が裏切ったんじゃない。貴方達が裏切ったのよ」
「ふふっ。ご冗談はよしてください。貴方が私達を裏切った事実は変わりません」

突き出された右手。その周りには、小さいながらも電流がうずめいている。

「そろそろ正体を彼に明かしたらどうですか?」
「……私はもう死んだも同然。誰にも私自身を知らせたくはない」

……なんだ?この二人、やっぱり仲間だったのか?

「確認のために聞かせてもらいます。貴方は一体何をしにここへ来たんですか?」

相手の心理を読み取ることが出来るはずなのに、わざわざ確認を取っている。
さっきの様子の変わり具合といい、一体どうなってるんだ?

「貴方を殺す」

そういった瞬間、どこからか風が吹き出す。……いや違う。周りのちりが彼女の前に
集まりだしている。そして集まったチリは、見たことがある『刀』へと形を変えた。

「どうしようもありませんね。じゃあこう返すとしましょう」

戦う相手が変わっても、一瞬とも口調や表情を変えずに奴は話す。

「……お前に私は倒せない」

だがまた、心念制圧の口調が自信たっぷりなものになる。その言葉にムカついた、
かどうかは分からないがディープスロートは突進をかける。だがそれを見計らって、
心念制圧がまたコンテナを宙に浮かせ、ディープスロートの前に盾代わりに持っていく。
しかし、その盾は刀によっていとも簡単に二つに割れてしまった。
154 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:07:37.28 ID:F4KJ96RNo
割れたコンテナの一方が俺のほうに転がり込んでくる。

「やべっ!!」

俺は咄嗟に左に飛び出す。コンテナが別のコンテナにぶつかり、二つがそれぞれ
嫌な金属音を響かせる。あ、あぶねぇ……。と、何かが地面に叩けつけられる音
がした。その方向に振り向いてみるとディープスロートがうつ伏せになっていた。

「ハッ!お前にどんな能力があろうとこの私に指一本触れることすらできないんだよ!!」

ディープスロートが持っていたはずの黒い刀はどこかに消えてしまっている。
あんなことを言われたら俺は黙っていられないが、どうしてかディープスロート
はぴくりとも動こうとしない。これもあいつの能力だっていうのか?
155 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:08:51.71 ID:F4KJ96RNo
「さあて……これでおしまいにするか」

静かにこの決闘の終わりを告げた心念制圧は、ゆっくりと浮き上がった。そして、
ゆっくりと左腕を空に向ける。

「私なんかにケンカを売ったことをあの世で後悔するんだな!!」

心念制圧の言葉と共に、左腕が振り下ろされる。その瞬間、倒れていた
ディープスロートを中心に地面が押し下げられた。それはまるで鉄球をぶつけ
られているかの様だった。

「グっ!!……がはっ!!!」

真上からの急激な力に、ディープスロートの悲鳴が上がる。
……くそっ、やるしかねぇか!!俺はひしゃげたコンテナに向かって走り出す。
そして足場になりそうなところをつたって上に上がり、心念制圧に向かって飛び上がった。
だが、それを黙って見てるような奴ではなかった。

「無駄だって言ってることが分からないみたいだな!!」

あと1メートル弱。もう少しで触れられる所まで行ったのに、俺は真下に
落下させられてしまった。
156 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:09:33.50 ID:F4KJ96RNo
「ぐぁっ!!」

背中から叩き落され、全身が痺れ始める。さらに、真上にいるあいつは
先ほどのディープスロートと同じように右手を振り落とす。すると、急激に俺の
体は想像以上に重くなり、周りの地面がミシミシときしみ始める。錬金術師に
同じような事をやられたことがあったが、その時に比べたら尋常じゃねぇほどだ。
指一本動かすことが出来ねぇ!!

「……ほう、この攻撃を生身で受けても気を失わないとはね」

目の前で右手をこちらに向けている心念制圧がとても余裕そうに言ってる。

はっ、こちとらいろんな修羅場を抜けてるもんですからね。生ぬるい体はしてませんぜ。

「だが、今度は違うぞ!」

また、全身が急激に重くなる。

くそっ、こんな……ところ……で――
157 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:10:12.83 ID:F4KJ96RNo
「…ま……ウマ……トウマ、しっかりしろ!!」
「うっ、うう……」

強い声で叫ばれる俺の名前に、ゆっくりと目を開ける。

「気がついたか!何があったか説明してくれ!!」

スネークさんだった。周りには白井、固法さん、土御門、神裂が俺を見ている。
そうか、俺心念制圧に気絶させられて……

「そうだ、あいつは!!!」

俺と同じように倒れているはずのディープスロートを確かめるために体を
起こそうとする。しかし、全身の痛みが襲い動けない。

「じっとしていろ!!その体じゃあしばらく安静にしていた方が良い」

スネークさんに両肩を抱えられ、ゆっくりと俺は横たわる。

「あいつは、ディープスロートは?」
「また現れたんですの?!」

固法さんに肩を貸す白井が首を突っ込む。
俺が起きるちょっと前に目を覚ましたのだろうか、固法さんはひどく疲れた顔を
している。

「いや、俺達が駆けつけた時には誰もいなかったが?」
「そ、そうすか……」

いないという知らせに少々がっかりする。だが無事かどうかは分からないが、
とりあえず生きてはいる。それが分かっただけでもいい。
158 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:11:00.49 ID:F4KJ96RNo
俺達は一旦、泊まる場所になっているホテルの部屋に集まった。で、ボロボロに
なっている俺はベッドに寝かされ、ここにはスネークさん、オタコン、白井、
土御門、神裂がいる。ちなみに固法さんはすぐに病院に搬送されたらしい。

「そういえば、土御門達はどうしてここが?」
「あぁ、オタコン達から連絡が来てな。で、飛んできてみれば同じ顔した女の子
がいっぱいいて」
「それで、そこにいる方と協力して退治していました。もっとも、その途中で男
が割って入ってきて全員撤収していきましたけど」
「男……?」

俺はここに来てから今まで3回も襲撃されている。1つ目と2つ目は路地裏、
3つ目はこの貨物置場。そして襲ってきたのは妹達と心念制圧と……それまで
見たこともなかった男。

「あぁ。今時珍しくリボルバータイプの拳銃を使ってる奴だったにゃ〜」

リボルバー。あの男もリボルバーを使っていた。もしかしたら……

「土御門」
「んっ、どうしたカミやん?」
「その男って確か髪が白くなかったか?」
「あぁ。確か・・・髪は白くて、M字型に禿げていたにゃ〜。」
「……やっぱりそうか」

ここら辺じゃあまり見かけない白髪に、リボルバー。となると、あいつしかいない。
159 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:11:28.95 ID:F4KJ96RNo
「カミやん。その男知ってんのか?」
「あぁ。ここ最近連続で襲撃にあってきたけど、最初に俺が襲ってきたのが
そいつだった」
「そうなると、その男は上条さんがおっしゃっている方と同一人物ということに
なりますわね」

つまり、そいつも『愛国者達』の一員ということになるのか。んっ?スネークさん
とオタコンがなんか相談してるぞ?

「どうしたんだおっさん達?二人してこそこそと相談なんかして」

俺のように気づいた土御門が声をかける。

「あぁ、実はその男……少々覚えがあってね」

苦笑いを浮かべながらオタコンが答える。
160 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:12:10.57 ID:F4KJ96RNo
「ご存知なんですか?」
「うん。そいつもシャドー・モセス事件で会った事があるんだ。そいつの名前は
リボルバー・オセロット。みんなが言ってる男と同じように、
そいつもリボルバーの使い手だ」
「リボルバー・オセロット……ってことは!!」
「あぁ、そうだ。俺達が追っている連中と、トウマを狙ってる連中。二つが同じ
組織ということになる」

『愛国者達』…奴らは武器の生産企業だって聞いてはいたが、それどころか戦争
を起こそうとまで考えてたってことか。ちくしょう、これじゃあ俺がやってきた
ことを真っ向から否定されているみたいじゃねぇか!

「それに、スナイパー・ウルフにさっき言ってたサイコ・マンティス。そいつら
の名前もあの事件で出てきている」

愛国者達のつながりを確定させたスネークさんが付け加える。

「……つまり、一連の事件は過去の物の真似事、というわけですのね?」
「そうだ。そうなれば、オタコンがここに招かれた理由も分かってくる」

……確か、オタコンは学園都市の上層部が招待してきたと言ってた。過去の事件、
シャドー・モセス事件のように今この時が動かされているとしたら。あの事件の
目的は確か……

「シャドー・モセス事件が起こった原因は、メタルギアの存在。それに一番
関わってた僕がここに呼ばれたのだとしたら……メタルギアは完成しているか、そ
れに近い状態になってることになる」
「しかし、そのメタルギアという物に学園都市がどうしてそこまでこだわるので
しょう……?」

白井が疑問に思うのも分かる。ここは言ってしまえば人間兵器の工場になっても
おかしくない。ここにいる人の半数以上が能力者で、レベルが高い連中はその気
になれば人を殺すことだってできる。目の前で俯いて考え込んでいる白井でさえ
もだ。

「白井の言うとおりだ。言っちゃ悪いけど、ここは戦争を起こすことだって
できる奴がわんさかいる。それなのに、なんだってそのメタルギアってのに執着
するんだ?」

俺自身が疑問に思っていたことを、事件の関係者である二人にぶつけてみた。

「……お前さんたちには説明してなかったことがあるな」
161 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:13:03.70 ID:F4KJ96RNo
窓際の壁に寄りかかっていたスネークさんが体を起こして、こちらにやってきた。

「話していない、こと…?」
「なんだおっさん。隠し事とはちぃ〜とばかしずるいんじゃないかにゃ〜?」

土御門がいつものようにふざけた感じ……のようなそれでいていつもより声の
トーンが低い感じでスネークさんに首を突っ込む。

「あぁ、すまない。これを話すには少し長くなってしまうから、話そうか迷って
いたんだ」

とうのスネークさんは気にしていないみたいだが。

「メタルギア……それを一言で言うなら二足歩行が出来る、核専用戦車。つまり、
こいつを手にすればいつでも、どこからでも核ミサイルを発射させることが出来
る」
「核…搭載戦車……ですって?」

核に、戦車。ここではあまり馴染みのない言葉だったんだろうか、白井が目を見開
いている。

「なぜ学園都市がその様なものを?!ここでは、この日本では『非核三原則』と
いう物がありますのよ?!!」

白井らしくない、とても焦っているような態度。それだけ日本、特に学園都市に
は核なんて言葉は聞くこともない、ということか。

「しかし現状、大国の軍人さんはこの国に『原子力』っつー物を日本によこして
る。言葉は違っても、物自体は全然違ってない」
「で、ですが!!」
「お、落ち着け白井!そのメタルギアって兵器が本当にあったとしても、それを
使ってないとしたらまだ完成していないかもしれない。……それに核を発射させ
るのだってそれ相当の準備が必要だろ」

俺の言葉に、白井はゆっくりと座っていた椅子に腰を下ろす。その顔は、あまり
納得できていないみたいだが。

「うん、トウマの言うとおりだ。でも、君達と連絡が取れなくなったのは、
電磁波による電波妨害だってことは知ってるよね。それとカザリから聞いた
んだが、この街には『超電磁砲(レールガン)』と呼ばれる人がいるらしい。
……僕があれの設計に携わっていたことがあるから知ってるんだが、あの
メタルギアにもレールガンが使われているんだ」
「「な、なんだって(ですって)?!」」

俺と白井が同時に声を上げる。

レールガンと呼ばれるあいつは、とっくに……。
だけど、この一連の襲撃で俺を救ってきた奴はあいつに似ている。だが、本人は
御坂美琴じゃないって言ってた。じゃあ一体……
162 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:13:57.19 ID:F4KJ96RNo
「ははぁなるほど。妹達を利用してレールガンを完成させようとしているってわけ
だ」

土御門の説明はあっているようにも思える。一方通行の事件で見たあの紙には

『超電磁砲6人分の能力は、欠陥電気2万人分のそれと一致する』

と書いてあった。単純計算で、御坂の能力は御坂妹達3千から4千人ということ
になる。でも、俺を何度も助けてくれたディープ・スロートの存在はどうなる?
あいつもレベル5級の能力者だって話だから、あいつ自身を利用すれば……でも、
こちらに情報を流してくれたことからして、元々は属していたけど、ってことか。
心念制圧も奴を裏切り者と言っていたし……

「……上条さん?聞こえてますの?」
「えっ?!あぁ、ごめん。考え事してた」
「……ディープスロートと呼ばれる方についてですわね?」

……思ってたことが口に出ちまってたのか?なんか最近多い気がする……。

「確かに、最近の電磁波事件の動きから見てディープスロートがレベル5である
ことには間違いありません。ですが、その方と『愛国者達』の関係はまだこちら
でも把握できておりませんのよ?」
「だけど!心念制圧はそいつのことを『裏切り者』って言ってたんだぞ!!それ
を聞いたらどう考えたって関係してるとしか思えねぇだろ!!」

つい口調が怒りっぽくなっちまった。それを見た白井が、心底呆れたようにため
息を吐く。

「……上条さん。いくらその方がお姉さまに似ているかと思っておられても、貴
方がいつもおっしゃられる様にそれは幻想の他ありませんわ。今はそれよりも、
『愛国者達』の情報を少しでも多く手に入れることが先決ですわ」
「うん、クロコの言うとおりだ。情報関係だったら僕やカザリに任せてくれ」

そう言ってオタコンは自分の左手を胸に当てた。

事件や『裏切り者』の正体とかが気になり、静かに見守るなんて少し嫌になって
くるが、ここはそうするしかなさそうだな……
163 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:16:22.64 ID:F4KJ96RNo
2日後。オタコンからすぐに来てくれという知らせが届き、すぐに第一七七支部
に向かった。どうやら、『愛国者達』のメンバーについていろいろと分かったら
しい。

「今回学園都市の書庫などを検索したところ、いわゆる『愛国者達』のメンバー
について様々な情報を得られました」

会議は、初春さんの声から始まった。

「まず、2日前に初めて現れた『心念制圧』についてです。彼女はこの学園都市
で『心理掌握(メンタルアウト)』と呼ばれるレベル5の第5位で、呼び名の通
り心理系の能力者です」
「ですが、先日私と上条さんはは彼女と直接戦いましたけれども、彼女は他人の
心の読み取りや操作だけでなく、心理系の能力だけでは出来ないはずの『念動力
(テレキネシス)』までも使用してきました。彼女の周りのコンテナを道具など
一切使わずに浮き上がらせたり、放り投げるなどの攻撃をしてきたことから、あ
くまで推測ですが2種類の能力を使い分けることができると思われます」

実際に心念制圧の力を目の当たりにしてきた白井が付け加える。

「ですが、学園都市の関係者ならばご存知の通りいわゆる『多重能力者
(デュアルスキル)』は現在の研究では実現はほぼ不可能という結論が出されて
います」

そう、1人の能力者が持てる能力は1つが限界。それ以上の能力を利用しようと
すると『自分だけの現実』を創り上げるために使用者の脳が能力の演算に耐え切れ
なくなって破壊されてしまう。……たしかそんな話だった気がする。
164 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:30:06.90 ID:F4KJ96RNo
「あぁ、初春さん良いかな?」
「はっはい、どうぞ」

すかさず言うべきことを言うために議長に発言の許可を求める。

「そこで、俺自身の想像ですが、心念制圧の中に2人以上の人格が存在する
んじゃあはないでしょうか?」
「それは、一体どういうことですの?」
「白井。心理掌握は時々話し方に違和感がなかったか?」

俺の問いかけに、白井が左手の人差し指をあごに当てた。

「う〜ん確か……最初はおしとやかな方に思えましたが時々荒っぽい話し方をされて
いたような気がしますの」
「そう。それに、直接相手したから分かるんだけど、彼女自身が持つ2つの能力
を同時に使ってこなかった。俺には心を読み取ってきたり、金縛りをしてきたり、
コンテナを念力で投げつけてきたりしてきたけど、攻撃の一つ一つに違和感を
感じたんだ」
「違和感、ですの?」
「あぁ。例えば俺を金縛りにしてきた時、念力で俺を吹っ飛ばすなりすることが
できたはずなのに、彼女は俺に向けて銃を向けてきた。それに、途中で介入して
きたディープスロートに対しては心を読み取ろうとしなかった」

俺の見てきた情報を聞いて、白井はさっきのように考え込み始めた。

「……それってつまり、サイコ・マンティスは能力ではなく『人格』を使い分けて
るってことかな?」
「それはまだ分からないけど、そうかもしれない」
「……解離性同一性障害の可能性が高いかもね」
165 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:30:45.16 ID:F4KJ96RNo
初春さんの隣に座っているオタコンは、聞き慣れない言葉を口にした。

「…かいりせい、なんだって?」

なんかの病気、のような気もするがイマイチ聞き取れなかったのでもう一度聞き
してみる。

「解離性、同一性障害。トラウマとか精神的に攻撃を受けてなる神経症の一つだ。
僕は精神科医じゃないからあくまでネットから仕入れた情報なんだけど、虐待や
大切な人の死とかで精神的に重い出来事を体験した結果、それがトラウマとなり
それによるストレスから逃れようとする。その時に本来の性格とは全く違う人格
が形成されるらしいんだ」

自分自身とは別の人格……。そう考えると、心理掌握にあと1人と話し
ているような気分になったのが納得できる。

「そういえば、彼女は『どうしてみんな、私から逃げるの』という風に漏らして
いました。過去に何かトラブルが起こったことを考えると、その線は可能性が出
てきますわね」

逃げる……つまり、彼女はずっと孤独だったということなのかもしれない。そう
考えると……なんともやり切れなくなっちまう。

「私達も、解離性同一性障害についてもう少し詳しく調べてみます。ですので、
今は彼女については結論を急ぐことはないと思います」

初春さんが重くなっていた雰囲気を変えようと一声かける。それを見た白井は、
一瞬目を見開いて何とも言えなさそうに苦笑いをしている。
166 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:31:21.58 ID:F4KJ96RNo
「次に、狙撃人狼達の後に現れた男についてですが」
「それについては、俺から話したほうが良さそうだな」

そう言って、前と同じように黒色のコートを身にまとったスネークさんが立ち
上がった。

「ここにいる奴のほとんどは昨日話したから分かると思うが、俺がスナイパー・
ウルフとの狙撃戦をしていた時にツチミカド達と同時に奴が現れた。奴の名前は
『リボルバー・オセロット(回転銃猫)』。シャドー・モセス事件で戦い、今も
生きている敵だ。あいつはリボルバーという銃弾が外にむき出しになっている、
今じゃああまり見かけない銃に愛着を持ってるらしく、最初に奴と戦った時はま
るで西部劇にでもいるかのようだった」
「で、あの貨物置場で現れたオセロットは、高らかに自分の存在を俺達に見せ付
けてきたが、どういうわけか全く攻撃してこなかった。それどころか、その時ま
で飛び交っていた銃撃も奴の一声で止み、さらにウルフ全員が一斉に撤退してい
った」
「その時にそのガンマン気取りのおっさんが言ってたのが『情報収集はこれで十
分だ』だったぜよ」
「情報収集……?一体何のために?」
「さあな。それはこれから俺やオタコン達が調べ――」
「あの、それについて気になる情報を手に入れたんですが……」
167 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:32:31.21 ID:F4KJ96RNo
急に割り込んできた初春さん。その手には、見たところ10枚以上はありそうな
紙束があった。

「気になる情報?」
「はい、まだその他に証拠が見つかってないので噂程度にしか信じられないと思
いますが……」
「どんな情報でもまずは知ることが第一ですの。初春、聞かせてちょうだい」
「わ、分かりました」

白井の促しから始まった、初春さんが手に入れた『噂』。それは、学園都市……
いや、下手をすれば世界中を巻きこんぢまうような恐ろしい話だった。
スネークさん達が度々口にしていた『メタルギア』。俺はそれが兵器、というこ
とくらいしか聞いていなかった。それが初春さんによれば、ひょっとするとこの
学園都市で製作されているのではないかということだった。その計画の名は……
168 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 03:42:01.64 ID:F4KJ96RNo
急に割り込んできた初春さん。その手には、見たところ10枚以上はありそうな
紙束があった。

「気になる情報?」
「はい、まだその他に証拠が見つかってないので噂程度にしか信じられないと思
いますが……」
「どんな情報でもまずは知ることが第一ですの。初春、聞かせてちょうだい」
「わ、分かりました」

白井の促しから始まった、初春さんが手に入れた『噂』。それは、学園都市……
いや、下手をすれば世界中を巻きこんぢまうような恐ろしい話だった。
スネークさん達が度々口にしていた『メタルギア』。俺はそれが兵器、というこ
とくらいしか聞いていなかった。それが初春さんによれば、ひょっとするとこの
学園都市で製作されているのではないかということだった。その計画の名は……
169 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 04:01:41.11 ID:F4KJ96RNo
「『核載戦士量産計画(メタルギアプロダクトシフト)』…」

初春さんの口から出た、まるでゲームに出てきそうな名前の言葉。全然ピンと来
ねぇけど、なんかヤバそうってのはわかる。学園都市が隠し通してやってること
だからな。

少しの沈黙の後、顔が真っ青になっていたオタコンが突然立ち上がった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。メタルギアはあの事件で破壊したし、設計情報と
かは全て僕達が消し去ったはずじゃ……」
「……だが、メタルギアなんて言葉がシャドー・モセス島から遠く離れた日本に偶
然聞けるはずがない。おそらく、どこかの誰かが情報を流したんだろう」
「もし、仮にそうだとしてもその『シスターズ』とやらに情報を集めさせる意
味がわか――」
「その件についても、この計画の内容に書かれています。『「核載戦士(メタルギア)」
を作成する上で重要なのは、核弾頭をあらゆる場所に発射させることが出来る兵器……
超電磁砲が必要だ』と」
「っ?!超電磁砲だって?!」

『超電磁砲(レールガン)』。それはかつて、妹達に対するオリジナルの御坂が
呼ばれていた異名。確か、高圧電流を流すことによってできる力を使い、物体を
高速で発射させることが出来る兵器……だと聞いたことがある。俺があいつに
何度も追いかけまわされていた時にもそれを見たことがあるから、ウソだとかは
思わない。
170 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 04:02:14.78 ID:F4KJ96RNo
「その超電磁砲を完成させるために必要な電力が、妹達にあるかどうかを確かめ
たい。というわけだ?」
「はい、この計画書にはそう書いてありました」

妹達は御坂の代わり。一人一人の能力はあいつとはかなり劣ってるが、それが集
まったらどうなるか。……こういうことか。

「ふむぅ、まずは妹達の行動をこちらでも把握しないことには――」

結論付けようとする白井の言葉をさえぎって、部屋中に響き渡る警告音。初春さ
んはそれを聞いて、すぐさまダンボール箱向こうのPCへと向かっていった。
171 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 04:02:40.51 ID:F4KJ96RNo
「な、なんだ?!どうしたんだ?!!」
「この警告音、確か担当する区域で何か異常が見つかったらパソコンから知らせ
てくれる奴だ。この前の事件で、無線が通じなくなってから鳴りっぱなしだった
からよく覚えてるよ」

解説してくれるのはありがたいが、のん気にしていていいのか、オタコン……。

「白井さん、セブンスミスト付近で電磁波を感知しました!能力レベル5級の物
です!!」
「レベル5……電磁波事件と一致します!!これから向かいますわ!!さぁ、
行きますわよ!!!」
「は、はい!」

事件発生の知らせ。それも俺達も一番気にかかっている奴が関係しているかもし
れないと知ってか、白井と以前俺を案内してくれた後輩風紀委員は能力を使って
消えていった。
172 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 04:03:14.51 ID:F4KJ96RNo
それからというもの、俺はこの第一七七支部で暇を持て余している。事件の一報
を聞いて俺もそこに向かおうとしたのだが、オタコンや土御門に「疫病神は留守
番するのが一番良い」と言われちまい、しかたなくここで待機しているのだ。

……にしても、なんか起こってるのに動かないでいるのはホントに辛いもんだ。
やることもないし、ソファに寝っ転がっていよう。

全く意味のない事をひたすらやり続けること3時間。出動していた白井達が
戻ってきた。

「お疲れ様です、白井さん。それで状況は?」
「それが……」

気のせいだろうか、どうも浮かない顔をしている。一体どうしたんだ?

「どうしたんだ?」
「……なかったんですの」
「…何が?」

ぼそぼそと少し周りがうるさかったら聞き取れなかったような声。顔も俯きつつ
ある。何かあったことは確かだけど、一体何が「なかった」んだ?

「…クロコ。今コーヒー入れるから、そこに座っててよ」
「申し訳ありません、オタコン」

と、それまで口を閉じていたオタコンが白井に対してねぎらいの言葉をかける。
173 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 04:03:40.78 ID:F4KJ96RNo
しかし、これじゃあ向こうで何があったか聞きようが――

「って、お前がいるじゃないか」
「はい?」

すっかり忘れてた。白井ばっかりに気が向いていたせいで彼、『新米』風紀委員君の
存在をすっかり忘れていた。

「先輩があんな状態だし、お前自身もちょっと辛いかもしれねぇけど現場がどう
なっていたのか聞かせてくれねぇかな?」
「……分かりました」

白井に聞かせてはまずいということで、俺・スネークさんと新米君は一度支部の
前にある廊下に出た。

「で、何があったんだ?」
「そ、それが……白井先輩と現場、あっその路地裏だったんですけど……着いてみたら
一面にびっしり……」

あったことを順序良く説明できないくらいに慌てふためいている新米君。こりゃ、
学園都市では滅多にないことが起きていたみたいだな。

「びっしり、どうした?」
「……壁、地面、それからパイプに。あらゆる所に血がついていたんです」

……まさに血の海、か。俺は血が飛び散る瞬間まで見てきたせいでそれほど衝撃
はないけれども、まだ風紀委員になって間もないであろう彼には想像を絶するこ
とだったんだろう。額に変な汗をかいている。

「血がそこら中に飛び散っていた惨劇に出くわした、と。他には?」

スネークさんが先を促す。相手のことを思いやらないひどいやり方かもしれない
が、こうでもしなければ話をする意味がない。それに、電磁波事件に関係があり
そうな話はこちらも知っておかなければならない。

「あ、あとは……そうだ。白井さんと周辺を捜索したんですが、あるはずの物がな
かったんです」
「あるはずの物?」
「……遺体です」
174 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 04:04:21.83 ID:F4KJ96RNo
彼の口から放たれた、ここには似つかわしくない言葉にスネークさんと顔を見合
わせる。
そこらじゅうに血痕が飛んでいるのなら、とても被害者が一人だけでは成り立た
ない。人間の血液は衝撃で飛ばされる物はあるけど、ほとんどが血だまりになる
ことが多い。それも、その血液の持ち主だった人物の周りに。
ところが、その遺体が全くその場に存在しなかったというのはおかしな話である。
しかも、その血しぶきだっておかしな話だ。これまでの電磁波事件では、被害者
は黒焦げにはなっていても切りつけられたりすることはなかった。それが、今回
はまるで他の違う誰かがやったかのように手口が違う。とはいっても、俺達が事
件を知ったきっかけが『レベル5級の電磁波』であるのだからそういうことはな
いみたいだけど。

「つまり、現場に駆けつけてみたら何かあったことは確かだが、何も証拠が見つ
からなかったと?」
「……あっ、いえ。証拠は一応持ってきました」
175 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 04:04:48.59 ID:F4KJ96RNo
そう言って彼はビニールのパックを取り出した。中に入っていたのは、真っ黒な
ゴーグル。

「こ、これって?!」

見間違うはずがねぇ。妹達が頭につけてる、あのヘンテコなゴーグルだ。

「それ、どこで?!」
「えっ、えっと……現場だった路地裏の入り口でしたけど」
「『愛国者達』か……」

スネークさんの言うとおりだ。これではっきりした。
事件を知るきっかけになった、あの電磁波から考えて事件を起こしたのは
『裏切り者』。それと、何人やられたのかは分からないが被害を受けたのは
『愛国者達』に含まれる妹達。
一度は助けたのにこういう結果になっちまったのは許せねぇ。だけど、妹達にも
命を狙われたことを考えると、安心してしまっている俺もいる。複雑だ。

「スネークさん、早速白井達に伝えましょう!」
「あぁ、待ちに待った情報だからな」

そう言って、スネークさんと俺が支部に戻ろうとした時。

「あ、あの……」

さっきよりかは落ち着きを取り戻した新米君が、変な一言を告げた。

「『らりるれろ』って……何のことですか?」


                           −第11部・完−
176 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/26(土) 04:06:12.20 ID:F4KJ96RNo
またタイトル忘れた……>>151-152の間に追加




第11部『不可思議(ミステリー)』







   
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 08:56:01.63 ID:myfLvYtEo
おつかれ〜。
次も楽しみにしてるぜ。
178 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:25:00.98 ID:94xgnOlSo
不定期にさいか〜い
179 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:26:40.81 ID:94xgnOlSo










第12部『全ては奴らの思う壺』









   
180 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:28:07.38 ID:94xgnOlSo
「えっ?」

突然出てきたのは、ら行の一列。俺も、スネークさんもこの大事な時にギャグを
かました覚えがない。

「あの、新米君?らりるれろってなん――」
「いや、なんでもない。それより、クロコが体調悪いからパトロールをしてきて
くれって言ってたんだが……」
「あ、はい。分かりました。それでは、失礼します」

意味不明な言葉を残して、彼はお得意の能力で一瞬のうちに消えた。にしても、
スネークさんがいきなり俺の目の前に右手の平を突きつけてきたものだから、
思わず口が止まっちまった。あの訳の分からない言葉を聞いてから、だよな?
そんなに重要な言葉だったんだろうか…?

「……とりあえず、中に入ろう」
「あっ、はい」

本人に聞いてみないと分からない疑問を抱きつつ、部屋に入る。入ってすぐに、
スネークさんはソファに座ってコーヒーを飲んでいたオタコンに声をかけ、
二人で何か相談をし始めた。さっき言ってた『らりるれろ』って言葉についてか?

「あの、二人ともなんかあったんですか?」

俺に背中を向けていた2人に声をかける。
181 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:28:40.62 ID:94xgnOlSo
「あぁ……ちょっと思っていた以上に事態が大きくなってきたみたいでね……」

俺の声に気づいて説明してくれたオタコン。その顔は、それまで見たことがない
ほど真剣な顔だった。

「どういうこと……?」
「……みんな。今から説明したい事があるから聞いてくれないか?」

少し弱弱しい声でオタコンがこの場にいた全員に声をかけた。

「……これから話すことを他の風紀委員には話すな?」
「あぁ、さっきスネークとトウマと話していた彼から聞いた言葉の中に、禁句と
も言えるキーワードがあってね」

キーワード……

「らりるれろのことか?」

キーワードを言い当てた俺に、オタコンが頷いた。

「その『らりるれろ』、僕達が『愛国者達』のことを調べていた時に何回も出て
きた言葉でね……。ちょっと気にかかってたんだ」
「でも、その暗号に一体どのような意味があるんですの?」
「俺とオタコンが、アメリカで情報収集していた時にな。関係者に事情聴取のよ
うな事をしていたんだが……俺達が『愛国者達』の事を聞く度に全員『らりるれろ
って?』という答えを返してきたんだ」
「そう、それがどうも気になってね」

さっきみたいな事がアメリカでもあったってのか。

「つまり、『愛国者達』が学園都市と絡んだ後になんらかの策をとったと?」
「うん、たぶんクロコの言うとおりだね。何をしたかってのはまだ分からないけ
ど……」
「でも、変じゃないですか?」

会話を静かに聞いてた初春さんがここで異議を唱えた。

「何がですの?」
「だって、私や白井さん、それに固法先輩はちゃんと『愛国者達』って言えまし
たよ?同じ風紀委員なのに、どうして彼だけそんな風に返したんでしょう?」
「う〜ん、変だなぁ……」
182 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:29:09.00 ID:94xgnOlSo
つまり、風紀委員の中に『愛国者達』をうまく言えない奴とそうじゃない奴がい
るってことか?でも、どうして?

「そういえば……」

少し部屋が静かになっていた時、ふと白井が思い出したかのようにつぶやいた。

「どうした、白井?」
「そういえば、上層部からの新しい計画として今後学園都市の住民になる学生に
対して入学前の能力検査で何かを彼らに与えるということを聞いた事があります
の」

学園都市が?そんなの初耳だぞ?

「それっていつぐらいからだ?」
「う〜ん、よく覚えておりませんが確か2年前に正式な告知が出ておりました」

2年前…俺が学園都市から離れてた時か。

「それに、先ほど上条さん方とお話されていた風紀委員。彼はまだ1年ですの。
もしかしたら、その計画と何か関係が?」
「そう考えるのが妥当だね。よし、これから僕は他のジャッジメントにも聞いて
みることにするよ」
「それでしたら、同じ風紀委員の私たちの方が都合が良いですの。こちらでも、
他の支部の方にも聞き込みをしてみますわ」
「じゃあ私も他の支部に連絡を入れてみます」

そう言うと、初春さんとオタコンはいつものパソコンへ、白井はテレポートで行
動を開始していった。
183 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:29:35.69 ID:94xgnOlSo
1時間後。出かけていった白井が戻ってきた。

「どうだった?」
「やっぱり思ったとおり、他の支部の1年も同じような反応をされましたわ」
「こっちもテレビ電話で聞いてみましたけど、1年以外の人は普通でした」
「こうなると、学園都市の計画も関係してそうだね」
「ジャッジメントの中に『愛国者達』からの情報統制がされている奴がいるって
ことか」

『らりるれろ』……今度からは気をつけてみるか。

「今日はそんな所か。何にもしてないけど、もう上条さんは疲れましたよ」
「全く、能力を何回も使った私の身にもなってくださいまし」
「あっ、悪い……」

そうだ、白井は今日働きづめだったか。それに、さっきまでどんよりと落ちこん
でたじゃねぇか。

「悪い、白井。お前の事全く考えずにあんなこと言っちまって……」

だが、俺の失言に口をへの字に曲げていた白井から出たのはため息だった。

「そう他人に対して素直になることはよろしいですの。ですが、それは人に勘違い
されかねないことをお忘れなく」
「あ、あぁ……」
184 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:30:02.69 ID:94xgnOlSo
と、白井が今度は何とも言えなさそうな顔でため息をついた。

「上条さん。貴方にはお姉さまという存在がありますのよ?」
「……御坂?」
「そう。お姉さまは貴方にとって、貴方はお姉さまにとって大切な存在ではあり
ませんの?貴方の優しさが悪いとは言いませんけれども、時にその優しさが人を
傷つけるんですの。……それに、お姉さまのことですわ。他の女の方に優しくさ
れてらっしゃる貴方を見たら、きっとカンカンになってらっしゃると思われます
わ」
「うっ……」

よく分かってらっしゃる……。外国周ってた時も女性兵士に一声かければすぐに
口をヘの字に曲げていたからなぁ。

「ですが、その優しさは上条さんの良さでもありますわ。お姉さまが貴方を追い
かけて外国に飛んでいってしまうくらいですもの。お姉さまも貴方の良い所は分
かっていらしたと思いますわ。ですから……」

途中で止まった白井の言葉。その目から零れそうな涙が、彼女の後ろからの日光
で輝いている。

「もっとお姉さまを大切に思ってくださいまし」

涙と同時にこぼれたのは、白井なりに精いっぱいっぽい笑顔。

……なんかしてやりたいけど、それじゃあ早速白井のアドバイスを裏切っちまう。

「し、白井。あのさ――」

だが、突然の爆発音が俺の言葉をとぎらせた。
185 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:30:29.27 ID:94xgnOlSo
「な、なんだ?!」
「っ?!」

白井と俺はすぐに窓に駆け、外の様子を確認する。

……信じられない光景がそこにあった。
晴れの日にはいつも飛んで、ニュースや上層部からの知らせを教えてくれる、
御坂が毛嫌いしていた飛行船。その飛行船から煙が上がっていた。

さっきの爆発音はあれだったのか?!

「あっ!!」

飛行船の様子を見ていた白井が声を上げた。それにつられて俺も飛行船に目を向
けてみる。そこには、先端をこちらに向けた飛行船があった。って、こっちに
向かって来てんじゃねぇか?!

「皆さん、早くここから避難してください!!」

白井の叫びにも似た声に全員がこっちを向いた。

「どうした?!」
「こちらに飛行船が墜落します!!ここは危険ですから、安全な場所に避難しま
しょう!」
「えっ……?!!」

学園都市が運営する飛行船が墜落するなんて、誰も考えた事がない。それを示す
かのように初春さんが絶句している。俺ですら信じられないくらいだから。

「今はとにかくここから出るぞ!!」

呆然としている初春さんに活をいれ、俺達は支部を後にした。
186 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:30:59.65 ID:94xgnOlSo
数分後。俺達はなんとか難を逃れられた。
だが……

「……一体なんですの、これは?」

もはやここは学生が暮らすような町並みではなかった。第一七七支部から出て左に
200メートルほど離れた所から見える景色は、まさに地獄絵図。墜落した飛行船
はあっという間に炎に包まれてしまい、周りの建物にも燃え移っている。現場から
は、悲鳴・呻き声・泣き声などの様々な声。目に見えるのは、倒壊したビルから避難
する人々。肩を担がれて歩く人も何人かいるようだが……中には片腕がどこかに
消えていたり、顔が血まみれになってまるでゾンビみたいな奴もいる。
……こんな光景を日本で、しかもここで見る事になっちまうとはな……。

「うっ…」

初春さんの気持ち悪そうな声。だが、目の前の惨劇に俺は呆然とするしかなかった。
そこに聞こえてきたのは、俺の後ろからこんな状況に似つかわしくない笑い声。
すぐに振り向いてみると、そこにいたのは……

「オセロット?!」
「ハッハッハ。スネーク、久しぶりじゃないか」

俺を狙った張本人、回転銃猫を見た途端にコートの中から銃とナイフを取り出し
、突きつけるスネークさん。けど、銃を向けられたというのに奴はそれに余裕の
笑みまでこぼしてやがる。
187 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:31:25.76 ID:94xgnOlSo
「おいおい、久々の対面だというのにごあいさつだな」
「あれは貴様の仕業か?!」
「あぁそうさ。だがここじゃ武器を持つ事も一苦労だからな、ちょいと手伝って
もらったよ」

回転銃猫が話し終えると同時に、奴の後ろにさっきまで話していた新米君が
テレポートで現れた。

「えっ…?!貴方がどうし――」
「貴様ら。ジャッジメントに『愛国者達』について聞き込みをしてただろう?」
「なんでお前がそれを……ッ?!」
「そうさ。学園都市が最近始めた計画。あれにちょいとばかり仕掛けをつけさせ
てもらったんだよ。もし誰かが『愛国者達』の事を嗅ぎまわっているようなら、
その連中を排除するようにな」
「排除ですって?!」
「あぁそうとも。貴様らは邪魔な存在でしかないんだ、ここで消えてもらおう」

そう言い放ってから、回転銃猫は右足を半歩下げて身構え、腰につけている
リボルバーを取り出した。切り落とされたはずの、右手で……。

「くっ、全員伏せろ!!」

スネークさんの叫び声。すぐに俺も弾が当たらないように膝を折り曲げ、顔を前
に向けたまま前に屈んだ。そしてその直後に銃声が辺りに響き渡った。
188 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:31:53.86 ID:94xgnOlSo
「っ?!白井さん!」

耳に刺すように聞こえた銃声の後に聞こえてきたのは、白井を呼ぶ初春さんの悲
鳴にも似た声。何が起こったのか確かめると、白井が両手を左右に伸ばし、俺の
前に立っていた。……右脇腹から血を流しながら。なんだよ、これ……

「グッ!」

同じ光景を俺の横から見ていたスネークさんが再び銃を構えた。けど、やはり目
の前の殺し屋に焦ってる様子はない。

「だ、大丈……夫……ですか、上条さん?」

息を絶え絶えにしながら、振り返って俺の無事を確認する白井。口から血が流れ
出ているにもかかわらず、目の前にいるツインテールの女の子は余裕があると
言いたそうに口角を上げている。……眉間に力が入っているようだが。

なんで、また……

「し、白井っ!!」
「おおっと交渉人。そこを動くとどうなるか、分かっているだろう?」

白井、つまり俺に対して銃を向ける目の前の殺し屋の言葉にはたと気づいて周り
を見てみる。そこには、いつの間に集まっていたのだろうか、大勢の学生達が俺
達を中心に円になっていた。彼ららしくない、まるで死んでいるかのような目を
こちらに向けながら。その光景に俺は唖然とし、その場を動く事が出来なくなった。
189 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:32:19.86 ID:94xgnOlSo
「そう、それでいいんだよ。ここはもう、貴様が思っていたような安住の地など
ではないのだよ」

失ったはずの右腕をゆっくりと下ろしながら、勝ち誇った口調で言い放つ回転銃猫。

「貴方たちの目的は……一体何なのです?」
「ふっ、撃たれてもなお喋る気力があるとはな。いいだろう、我々がここに来た
目的を話してやろう……メタルギアをもう一度我々の手にするためだ」
「っ?!メタルギアを?!!」

なおも銃とナイフを構えていたスネークさんが、初めて驚きの声を隠さなかった。

「そう、貴様によって破壊されたメタルギアだったがそれで終わりになどさせな
い。あらかじめREXのデータを残しておいたのだよ。シャドー・モセス島にあ
ったとは物とは別に、な」
「なんだって?!」
「それにここは他に比べて技術革新が施されている。メタルギアを復活させるど
ころか、さらに強力なものを完成させるくらいたやすくできるくらいだ。これを
利用しない手はない。それに、学園都市の連中は情報を隠し通す事が得意なよう
だからなぁ、ずいぶんとスムーズに事が進んだ」
「……まさか」
「さすがはREX設計の第一人者。そう、メタルギアはもう完成しているのだよ」

白井の足が震えている。横腹から血を滴らせているのに、どうしてお前は立ち
続けてるんだ……?

「それもREX以上の性能だ。コードネームは「JEKE」。日本人が最強だと
言い続けてきた零戦に我々がつけた物だよ。皮肉な事にな」
「メタルギア……ジーク……」
190 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:32:53.89 ID:94xgnOlSo
また、俺は……

「全ては……最初……から」
「そういうことだよ、リボンつきのお嬢ちゃん。……さて、俺も忙しいのでな。
そろそろ失礼させてもらうとしよう」

白髪のクソ野郎は、俺たちに対して背を向けた。

「しかし、学園都市というのは恐ろしいものだな。1度ならず二度もこの腕を
移植してくれたんだからな」

もう、誰も信じさせなくする言葉を残して……。
191 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:33:27.54 ID:94xgnOlSo
『あぁ、その男の腕を復元させたのは私だね』

あれから、俺たちの敵になってしまった学生達も同時にその場から消えていき、
命の危険からとりあえず逃れられた俺達。すぐに初春さんが病院に連絡し、重傷
の白井は例の病院に搬送された。初春さんとオタコンは付き添いで一緒に救急車
に乗っていったが……去り際のあの一言が妙に気になって俺はその場に残った。
その後、白井の容態と敵に塩を送ったという事実を確かめるために電話をかけた。
その答えがさっきの一言である。

『君の言いたい事は分かる。だが私は医者、自分だけの考えを押し通して命を救
わないなんて真似はできないね』
「だ、だけど……!!」
『彼が君達……いや、私達にとっても敵であることは君の話でよく分かった。
だけど、医者から治療行為を取り上げたら簡単に殺人者に……言ってしまえば
私達の敵と同じになってしまうんだね』

分からない話ではない。……けど、納得なんてできるはずがない。
平等な治療行為をする、それを肝に銘じている冥土帰しに対して俺ができたのは、
じっと奥歯を噛み締めることしか出来なかった。

『そうだ、脇腹を撃たれた彼女だけどね。弾は無事に摘出して、なんとか跡が残
らないようにできたね』
「そうですか……」

喜ぶべきだろうけど、さっきまでの話がそうさせてくれなかった。

『ただ、これだけは言わせてほしいね。私は医者で、人を救わなくてはならない。
でもね、決して君達の敵になったわけではない。それだけは覚えていてほしいね』
「……分かりました」

やるせなくなり、電話を切ってから携帯を持つ手をぶらっとさせる。携帯はゆっく
りとホテルの絨毯の床に落ちていった。
192 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:33:54.36 ID:94xgnOlSo
「クソッ!!」

携帯が落ちると同時に、やるせなくなった怒りをぶつけるために壁を思い切り
殴った。

どうして俺じゃなくて、他の奴が傷ついちまうんだよ?!
今まで不幸だ不幸だって嘆いてたが、こんな所にまで不幸になっちまうのかよ?!
傷つけんならまず俺をやれよ!!

ますます怒りがたちこめてきて、もう一度壁を殴ろうとする。
だが、勢いをつけるために後方へ持っていった腕はそのまま動こうとしなかった。
スネークさんがつかんでいたからだ。

「その辺にしておけ」

俺の右腕に上から片腕でつかんでいるだけだが、腕は全く動こうとしない。

「だ、だって――」
「その辺にしておけと言ったんだ。聞こえなかったのか?」

俺の言い訳をさえぎる様に、スネークさんはさっきの言葉を繰り返す。でも、言葉
に若干怒りが含まれている。しかたなく右腕の力を抜いて下ろす。

「とりあえず、さっきの話を俺にも話してくれ。情報はできるだけ多い方がいい」
193 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:34:26.62 ID:94xgnOlSo
「……なるほど、オセロットの腕が戻っていたのは、お前さんも世話になってた
医者がやっていたと」
「ざっとそんな所です」
「まぁ、俺達にとってはそれは良い話ではないな」
「当たり前じゃないですか!!」

カッとなって座っていたベッドから立ち上がる。

「学園都市全体が奴らの手に落ちていたんだと分かったら、一体誰を信じれば
いいんです?!」
「待て待て。そいつはちょっとばかり話が早すぎるんじゃないか?」
「なんでですか?!」
「仮に、ここにいる連中全員が敵だと仮定したらクロコ達や、この前俺につっかかって
きた巨乳の女性は一体どう説明する?」
「うっ、それは……」
「それに、俺達が寝泊りしてるホテルの従業員が襲ってくるに決まっている。だが
今の状況から見ればここは、避難所だってことはお前さんも分かるだろう?」

確かに、学園都市に来てからホテルだけ襲われた事はない。なんでなのかは分からない
が……

「思いもしなかった人に裏切られた時の気持ちは俺にも分かる。一度立ち止まって
冷静に現実を見つめる事も悪くはない。……だがな、それで疑心暗鬼になって
しまうのは、お前さんにも、他の仲間にとっても全くと言っていいほど良い影響
にはならないぞ。疑心暗鬼になった人間から出てくるのは、弱音か現実逃避だけだ」

……ごもっともだ。
194 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:34:53.60 ID:94xgnOlSo
「じゃあ、どうすればいいんです?」
「ふむ、難しい質問だな」

スネークさんは腕を組み、天井を見上げた。
そうしてしばらく部屋が静かになった後、スネークさんは俺に向きなおした。

「そうだな。見聞きした事実に隠れている、もう一つの事実に目を向けることだな。
さっきの話だったら、その医者は敵であるオセロットを助けたが、味方のクロコだ
って助けている。そこから判断して、医者は完全な敵ではないという結論ができる」

『決して君達の敵になったわけではない』

少し前に聞いた冥土帰しが言ってた言葉が自分の中で響いた。

「……どうやらお前さんにも思い当たる節があるみたいだな」
「えっ、ええ。まぁ…。本人からも同じような事聞いてたんで」
「なら、それだけを信じればいい。下手な邪推をしていたら、何もできなくなる」

スネークさんが右ポッケに手を入れている。

「で、でも相手が一番信頼していた人だったらどうするんです?」
「……質問するのは良い事だが、まずは自分で考えるようにしておけ」

不機嫌そうに眉をしかめるスネークさん。

――自分で考える……か。
195 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:35:19.96 ID:94xgnOlSo
と、いきなりスネークさんが右耳に指を当ててしゃがんだ。

「トウマ。あのイヤホンつけておけ」

言われるがままに胸のポケットに入れておいたあのイヤホンを取り出して、左耳に
かける。……オタコンだった。

「こちらスネーク。どうした」
『スネーク。今どこに?』
「あぁ、トウマとホテルの部屋だ。トウマもこの通信を聞いている」
『そうか。それなら話が早い』

そうしてオタコンは一呼吸おいた。

『スネーク、トウマ。また新たな情報を手に入れた。メタルギアがある場所が
分かったんだ』

あいつが言ってた『ジーク』のありか、か。

「オセロットの話を聞いてから4時間ぐらいしか経ってないのによく見つけたな」
『あぁ。カザリに手伝ってもらったんだ』

あの娘が?……どうみても、俺より年下にしか見えなかったけど。
196 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:35:57.87 ID:94xgnOlSo
『しかし彼女はすごいね、セキュリティレベルが高いはずの情報を携帯ゲーム機
一つで探り当てたんだから』

携帯ゲーム機で?!あのコントローラーに画面つけた奴か、2画面を同時に見る
奴で?!!そんなことできるのかよ……。

『全く、1流ハッカーもびっくりの早さだったよ。彼女、その内全世界から注目
されそうだね』
「それは……すごい話だな」

ほとんど分からないけど。

「で、お前たちは今どこに?」
『あぁ、病院じゃまずいから近くの喫茶店にいるよ。休憩ついでにね』
「そうか」

……オタコンもちゃっかりしてる。
197 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:36:27.87 ID:94xgnOlSo
『それより、さっき言った情報の話だ。どうやらJEKEは第7学区にあるみた
いだ』
「第七学区に?!」
『あぁ、それも地下に格納庫付きの基地があるらしい。情報ではそこに隠されて
いるらしい』
「格納庫って……」

もう、学園都市には隠し事だらけにしか思えなくなってきたぞ……。

『しかし、まさか破壊されたあの支部の近くに、敵のアジトがあったとはね。
これじゃあ奇襲をかけられても仕方ないか』

奇襲か……あれ?

「そうだ!学園都市の飛行船が墜落したってのに、全然外は騒がしくないけど……」
『あぁそれね。これは僕のハッキングで分かった事なんだけど、この第七学区に
だけ通行規制と情報統制がかかってるらしいんだ。おかげで何度も見つかりそうに
なって苦労したよ』

無線越しに、オタコンのため息が聞こえた。

「完璧な情報統制に隠密行動……そのうちどこかのオブジェクトから赤い光が放た
れそうだ」
『ハハハッ、じゃあ二人ともこれからサングラスを携帯しておかないとね』

……スネークさんが言ったジョークらしいものが、オタコンのツボにはまったみた
いだ。

「話を戻そう。……相手はこの街全体、対して俺達は少数派。これから
どうすればいい?」
『そうだね……やっぱりあれしかないかな』
198 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:36:55.48 ID:94xgnOlSo
「スニーキング・ミッション……か」
「……あの、なんでせうかそれは?」

なんかミッションって聞いて危ない橋を渡るような感じはするけど……
す、すにーきんぐ?

『漢字で表すと、「潜入行動」ってとこかな。スネークはシャドー・モセス事件
もそうだったけど、敵地に独りで、しかもできるだけ隠れながら情報を集めたり、
必要な時はそこにある物を破壊するのが得意なんだ』
「……好きでやってるんじゃないんだが?」

ものすごく呆れたとでも言いたげな、スネークさんのため息が吐かれた。

『ゴメンゴメン。まぁ得意ってのは語弊があるから、その専門の人って言った
方が良いね』

独りだけで敵地に、か……。

「で、敵のアジトにはどうやって行けばいい?」
『調べたんだけど、正面からは無理みたいだ。入り口らしき物が全く見当たら
なくてね。でも通風孔らしき物があるようだ』
「通風孔?」
『うん。トウマ、第七学区ってやたらと風力発電機が建ってるだろ?』
「あぁ……そういえば……って、まさか」
『そう。その発電機、表では学園都市の発電に使われているようになってる
みたいだけど、実際は地下世界専用のものらしい』

ますます学園都市が信じられなくなってきた……
199 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:37:29.88 ID:94xgnOlSo
「つまり、潜入経路はその発電機からってことか」
『そうだね。でも気をつけて。今そこは――』

「警備員がうろちょろちょろしてて侵入しにくくなってるにゃ〜」

突然聞こえた、俺のでもスネークさんのでも、ましてやオタコンの物でもない声。
……まぁ、語尾で誰か分かったけど。

「土御門か……おどかすなよ」
「はっはっは、すまんなカミやん。俺も一応はスパイってことを改めて知って
ほしかったんだぜよ」
「……ツチミカド。お前さんも俺たちの無線を聞いていたみたいだな?」

そういえば……まるでオタコンが言おうとしていた事を先取りした言い方だった
ような。

「あぁそうだぜよ。ついさっきやる事が片付いたんだが、飛行船の話を人づてに
聞いてにゃ〜。それでオタコン達に会って、さっき無線機をもらってきたんだぜい」
「なるほど。……ということはさっきまでの話はもう?」
「あぁそうだにゃ〜蛇のおっさん。映画のナンセンスなギャグまではっきりと
聞こえてたぜよ」
「うっ……」

ナンセンスなギャグと言われたからだろうか。スネークさんが少し顔をしかめて俯き、
ベランダにしょんぼりしながら出ていった。……意外と子供な部分もあるんだな、
スネークさんにも。
200 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:37:56.64 ID:94xgnOlSo
『ま、まぁ無線で会話も拾えるんだから、今はそっとしておこう』

それ、本人に聞こえるところで言っていいもんじゃないだろ……。

『さて、これから君達にやってもらいたいことは二つ。一つ目は「愛国者達」の
アジトに潜入、JEKEを発見次第破壊する事。もう一つは可能な限り
「愛国者達」について情報を手に入れてほしい』
「情報収集はオタコン達の得意分野じゃないのか?」
『それが、どうあがいても「愛国者達」につながるような情報だけは見つからな
くて。たぶん、情報は独立したネットワークにあるんだろう』

ね、ネットワーク……確か、インターネットが関係していたような……

「……要するに、情報はあるかもしれないが見つけられそうにないってことか?」
『うん、そうだね』
「……でもオタコン。この作戦に参加するのは、俺達だけなのか?」
「心配いらないぜい、カミやん。ちゃんと助っ人を用意したぜよ」

オタコンへの質問に、代わりに答えを出した土御門。

「お前が言う助っ人って、やっぱり……」
「まったく、僕達がわざわざ助けに来たってのにずいぶんな言い方だね」

予想通りだ。だが、突っ込みたいところは山ほどある。

「いつ戻ってきた?どうやって入ってきた?!なんで学園都市にテロしかけてきた
奴までここにいるんだ?!!」
「はぁ……少し落ち着いたらどうです。上条当麻」

われながら的確なツッコミだと思ったが、神裂にため息をつかれてしまった。

「これが落ち着いていられるか?!」
「あぁ、前もってフロントにねーちん達が来るから通しておくように俺が
伝えておいたんだにゃ〜」

……部屋を使っている俺達に全く話を通してなかったのに。なんだかここも
危なく思えてきたぞ。
201 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:38:30.62 ID:94xgnOlSo
改めて今の部屋の状況を説明しよう。
今この部屋にいるのは、私こと上条当麻と俺の護衛役を務めるソリッド・スネーク
さん。あと悪友の土御門元春に、インデックスの件でとりあえず同盟を結んだ
ステイル・マグヌスと神裂火織。そして……どうしてここにいるのか、なんで
イギリス聖教の二人と一緒なのか分からないが、かつて学園都市でたった一人で
テロ行為を行った魔術師、シェリー・クロムウェル(ちなみに、名前はついさっき
自己紹介で知った)の6人だ。
土御門によると、シェリーはイギリスに連れて行かれた後、しばらくの間謹慎を
食らっていた。だが、つい最近それを解かれたんだそうだ。なんでも、謹慎中の
行動に問題がなかったことから監視付きでの自由な行動の許可をイギリス聖教の
連中が取ったらしい。

「いくらおりこうさんでいたからって、元テロリストを簡単に釈放しちまって大
丈夫なのか?」
「さぁね。とりあえずは信用する事にしてるんだ。あの事件以来……ね」

俺からの疑問にうつむきつつ疲れた感じにつぶやきながら、ステイルは自分自身
の着ている服に入れた何かを探している。

「ステイル。私はタバコの臭いが嫌いなんだよ。吸うんだったら、そこのおっさ
んみたいにベランダで吸いな」
「はいはい、分かったよミス・クロムウェル」

シェリーからの文句にため息混じりに答えたステイルは、しぶしぶとベランダに
出て行った。

「さてオタコン。俺からの援軍はこんな感じだ。詳しい話を聞かせてくれ」
『あぁ、分かった』
202 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:39:21.30 ID:94xgnOlSo
『この作戦は、まず複数の風力発電機から侵入。そして地下の格納庫に潜入して
『核載戦士(メタルギア)』、ジークを発見次第これを破壊してください』

途中から通信に入ってきた初春さんから始まった作戦会議。土御門が持ってきた
通信機により、後からやってきた魔術師トリオにもこの無線が聞けるように
なっている。

「潜入って事は、できるだけ相手に見つからないようにだよね?もし見つかった
らどうするんだい?」
『その場合は、敵を排除してくれ。ただし、できるだけ隠密にね』

ステイルからの質問に、オタコンが説明を付け加える。

「なるほど……ですが、そうなるとステイルやシェリーに問題があるような気が
しますが」
「まるで僕達を問題児扱いしてるような言い方だね?」
「貴方達にスパイは不向きと言いたいだけです」

口調はおだやかではあるが、ベランダにいるステイルを見る神裂の目は明らかに
鋭くなっている。日頃から目つきが怖いからたぶん本人は気づいていない。

「まぁまぁ、ねーちんもステイルもそのへんにして。だが、ねーちんの言ってる
事も一理あるな」
『そこで、複数のグループに分かれての行動となるんです。一つは潜入班、
もう一つは陽動班です』
「どういうチーム分けだ?」

ベランダに出てから、説明をずっと黙って聞いていたスネークさんが初めて口を
開いた。
203 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:39:49.27 ID:94xgnOlSo
『潜入班にスネーク、トウマ、ツチミカド。陽動班にはステイル、カオリ、
シェリーというチームで行ってくれ』
「つまり、魔術師の私らはオトリってわけかい?」
『言い方を変えればそうなるね』
「やれやれ…学園都市の連中というのは、こうも人遣いが荒いとはな」

呆れたようにぼやくシェリー。とはいえ3人のうち二人は、潜入はおろか運動で
さえもまるで出来なさそうな格好だ。それならむしろ、好き勝手に暴れまわって
くれた方が良いだろう。
服装といえば、今日の神裂の格好はいつもとちょっと違う。あの純情な高校生に
は危険すぎた、裾を絞りまくってわざと腹を出した白Tシャツの上に金色のライ
ンが入ったデニムのジャケットを羽織っている。だが、ジーンズと同じように右
腕は露出している。まぁ寒がりではないんだろうけど、あれってやっぱわざとな
んだろうか?ふと、服を破ってる神裂を想像してみる。

……あれ、なんかにっこり笑っているような気がしてきたぞ。

「どうしたんです?私の顔に何かついていますか?」
「あ、あぁ。ジャケットが気になってさ」
「あぁ、これのことですね」

神裂が右腕でジャケットを持ち上げる。

『オホンッ、話を進めて良いかな?』
「あっ悪い」

うっかりしてた。今は『状況説明(ブリーフィング)』だった。
204 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:40:16.55 ID:94xgnOlSo
『じゃあこれから潜入班をA班、陽動班をB班というようにしよう。まず風力
発電に同時に侵入する。それで、こっちに連絡を取ってからB班は陽動を始め
てくれ』
「侵入者を相手に分からせるように、ですね?」
『そう。で、B班が攻撃を開始したらA班は行動を開始するんだ』
「でも、場所は分かるのか?」
「それなら大丈夫だカミやん。地下基地の図面はちゃんと持ってきたぞ」

そういって土御門が取り出したのは、1メートルくらいの黒い筒。蓋を開けて中
から出てきたのは両腕いっぱい広げたぐらい大きい紙。紙には敵地の配置図が書
かれていた。

本当に、こういうのを一体どこから手に入れてくるんだ?こいつは。

「オタコン達にも、この図面のデータをさっき渡しておいた」
「ほう、これでメタルギアの場所も分かるってわけか」

いつの間に戻っていたんだろうか、土御門と二人でしゃがんで配置図を眺めてい
た所に俺の上からスネークさんが話しかけてきた。

『あぁ、たぶんJEKEは最深部の広い空間の場所にあると思う』

すかさず土御門がその部分を指差した。

「で、敵の戦力は?」
『それが未知数。相手の情報統制には恐れ入るよ』

あまり嬉しくない知らせに、スネークさんはため息をつく。
205 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:42:33.48 ID:94xgnOlSo
「だが相手側にいるシスターズは、この前でだいたい1/4の戦力を削っている。
それだけでも悪い話ではないだろう」
『そうだね。でも、相手がシスターズやサイコ・マンティス、それにオセロット
だけではないと思う』
「学園都市が匿うくらいだから、それ相当の戦力は持ってるはずだ」
「なぁに、科学なんかに頼ってきた連中なんかに僕達が負けるはずはないさ」

ステイルの何気ない愚痴に、スネークさんがステイルのほうに振り向いた。

「ステイル、とか言ったな?」
「そうだけど、何か?」
「お前さん、タバコに火をつける時に何を使ってる?」
『お、おいスネーク……』

オタコンが慌てて会話に割って入るが、そんなことを気にするようなスネークさ
んではなかった。

「何って、ジッポだけど?」
「そのジッポはもちろんライター、マッチ、タバコ、葉巻、灰皿。それは全部何
のおかげで出来てると思う?」

うっかり言ってしまった失言に心底後悔している様子のステイル。だがスネーク
さんの怒りはまだ収まらない。

「魔術師だかなんだか知らないがな。科学だからと言って、なんでもかんでも見
切りをつけるもんじゃあないぞ」
「貴方が科学側だからこそ言えることだね。けど、魔術なんてありはしないと
のたまう連中がいることも確かだよ。風水、占星術、占い。これらは全部魔術だ。
それを信じないのも魔術を否定している事と同じだと思うけど?」

だがプライドの高いステイル。負けじと反撃しだした。
206 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:43:22.98 ID:94xgnOlSo
ていうか、なんか嫌な予感がする……
前は俺とスネークさんで、口論も喧嘩も全てスネークさんの勝ちだった。だが、
自信過剰といっても良いほどのステイルが素直に負けを認めるとは……全く思え
ない。絶対魔術を使ってくるに決まってくる。
止めに入るタイミングを見計らいながら、土御門に目配せする。どうやらこいつ
も同じ事を思っていたらしく、口を閉ざしたまま首を縦に振った。だが、そんな
以心伝心もスネークさんの次の一言ですっかり役立たずになってしまった。

「科学にだって良い所はあるぞ。タバコ、ライター、服……そして忘れてはいけ
ないのが、ダンボールだ」
「……な、なんだって?」

さっきまで眉をしかめていたはずのステイルもこの拍子抜けっぷり。もちろん、
この場にいた他の奴や俺もポカンとしていた。

「ダンボールというのは、物を運搬するときによく使われる。だがな。ダンボール
は潜入の時に重宝するものだ。ダンボール箱を大事に、いかに愛情を注ぐかで俺
達に力を貸してくれるかが変わってくる。俺は単独潜入をこれまで何度もやって
きたが、いつもダンボール箱には助けられたんだ」
「ダンボール箱って……あんなの、ただの紙でしょ?」
「ただの紙だとバカにするんじゃあない。いかに敵に見つからずに進む潜入では、
あれをかぶって動き回れば敵には見向きもされない。それにだな――」
『アハハ……こうなった時のスネークはもう止められないからなぁ。十分なくら
い話させてあげよう』

オタコンの乾いた笑いが、無線越しに聞こえた。もしかしなくても、スネークさん
ってある意味変態さんだったんだな……。


                           −第12部・完−
207 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:51:45.83 ID:94xgnOlSo









第13部『とある学生の潜入捜査(スニーキングミッション)』









   
208 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:52:12.20 ID:94xgnOlSo
「こちらスネーク、潜入準備地点に到着した」

スネークさんからの(内容はともかく)大がかりな演説が終わってから少しして。
俺達はさっそく2つの班に別れて行動を開始した。俺のいる潜入班、A班には俺、
上条当麻と土御門、そして潜入のプロであるスネークさんがいる。ステイル達は
陽動班、B班に入って別の場所から侵入、陽動を開始する事になった。

「協力するのは癪だけど、あれだけ熱弁されたらやらざるを得なくなるね。それに、
あのおじさんとはタバコの話でまた盛り上がりそうだし」

そういえば、ブリーフィングで神裂の服装をじっと見ていたとき、ベランダの2
人はタバコの銘柄について盛り上がっていたっけ。まぁ、今それを思い出す必要
もない。これがいわゆる「それはまた、別のお話」って奴か。

「んっ?どうしたカミやん。こんな時に頷いて」
「いや、なんでもねぇ。ちょっと考え事してた」

土御門に声をかけられ、もう一度前の光景に目を向ける。
こいつの話では警備員の警戒が厳しくなっていたらしいが、今数えただけでも2、
30人くらい。こっちの作戦に気づいて、なんだろうか。

『こちらB班、どうにか予定のポイントに着いたけど警戒が厳しいねぇ。格好が
格好だけに、隠れながら進むのに苦労したよ』

ステイルからの準備完了との無線。

『よし。じゃあ、始めてくれ』
『了解。Fortis931!!』
『Salvare000!!』
『Intimus115!!』
209 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:53:19.97 ID:94xgnOlSo
3人の、それぞれの魔法名が無線から聞こえてくる。同時に、カードが散らばる
音・あのデカい日本刀が抜かれる音・地面が崩れる音が聞こえてきた。

「んっ?どうした11班!!」

その直後、目の前で見張りをしていた警備員の1人、黄泉川先生の声が辺りに響
く。どうやら、警備員の方々も気づいたようだ。まぁ、ただでさえあの3人は目
立つ格好をしているし、本気を出しちまったみたいだから気づかない訳がないだ
ろう。

「よしっ!見張りがほとんどいなくなった。少し待ってくれ」

そうすると、スネークさんが俺達の右方向に隠れながら歩いていった。

「いったい何をする気なんだにゃ〜?」

……そうか、土御門はまだあれを見ていなかったっけ。俺には体で覚えさせられた
ようなものだからすぐにピンと来たけど。

そうこうしているうちに、スネークさんは1人だけ残っていた見張りのすぐ後ろ
にまで近づいていた。そして、次の瞬間。うっかり瞬きをしていたら見落としそ
うな速さでスネークさんは見張りの首をつかんでそのまま地面に叩きつけた。

「がはっ!」

まさにあっという間だった。俺もあれを使われたと思うと、背筋が凍る思いだ。

「よし、二人とも。行くぞ」

しばらく呆然としていると、スネークさんからの無線が聞こえて来た。
210 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:53:46.05 ID:94xgnOlSo
「こちらスネーク。無事に内部に潜入できた。3人とも無事だ」
『OK。B班のみんなもそろそろ潜入できそうだね。彼らから連絡が入ってからが
勝負だね』
「分かった。それまでここで待機しているとしよう」

予定されていた待機地点に難なく到着できた俺達A班は、オタコンからのB班潜
入完了の合図までここで待つ事になっている。しかし、陽動をかけたとはいえこ
うも基地ががら空きになるとは思えない。

「にしても、簡単すぎるくらいに上手くいったぜよ」
「あぁ。おそらく途中で食い止めるんじゃなく、奴らは俺達が狙っている獲物の
近くに待機しているんだろう」

待ち伏せ、か……確かに俺達の戦力は前の操車場での一戦で向こうも把握している
はず。けど……

「見張りはおろか、監視カメラさえ一つも見当たらなかったのは変じゃないか?」
「それか……俺も少し気にかけていたんだ。メタルギアの隠し場所以外をすでに
放棄したのか、それともよほど守れる自信でもあるのか……」
「はたまた、すでにもぬけの殻……か」

もし連中がもうここからいなくなっていたら最悪の事態だ。だが、核載戦士ごと
持ち出すのは大がかりになるだろうし……

『たぶん、全員が逃げたとは考えにくいです。妹達は研究所で調整をしばしば行
わなければいけないですし、そもそも核載戦士の持ち運びを隠し通す事はほぼ不
可能です』

クローンである、彼女達の情報をくれる初春さん。
211 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:54:11.96 ID:94xgnOlSo
「なるほど。逃げるんだったら、シスターズを放棄するか。もしくは調整用の機
器を持ち出さなければいけないと……そう考えると、放棄した方が手っ取り早いだ
ろう」
『そうだね、スネーク。ここは陽動班の様子を……』
『こちら陽動班!!なんだか知らないが、同じ顔で同じ格好をした連中がうよう
よ出てきたぞ?!』

オタコンの声を遮るシェリーからの悲鳴。どうやら、連中はギャーギャー騒いで
る方に繰り出して来たみたいだな……。

「ねーちん、大丈夫か?!」
『ええ、少し時間はかかりますがなんとかします!!』
「分かった。だが、できるだけ血を流すような真似をするな。『無血開城(ノーキ
ルノーアラート)』だ、頼んだぞ」
『ああ。まだ僕達にはやる事がたんまり残ってるからね!!』

ステイルからの元気ある声。やっぱりこいつらは頼りになる。

『よし。じゃあ作戦通り、A班はそこで待機しててくれ』
「分かった。何かあったら連絡する」
212 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:55:08.64 ID:94xgnOlSo
数十分後。3人とも壁に腰掛けて待機していた時、無線のコール音が辺りに
鳴り響いた。

「こちらスネーク」
『こちらB班神裂。多少相手を傷つけはしましたが、なんとか無事に片付けら
れました。……もちろん気絶させただけですが』

1万人もいる妹達がたった3人の魔術師によって片付けられた。
そりゃあ一人一人の力と比べたら簡単に片がつきそうだけど、いくらなんでも1
万人をたった数十分で……そう思うと、敵にならなくて良かったと心底思う。

『よし、じゃあA班は予定通りに奥に行ってくれ。それからB班は、最短ルート
を進んでA班と合流するんだ。上手くいけばJEKEがある格納庫の手前で合流
できる』
「分かった、作戦を再開する」

そうして一旦無線が切られた。

「さて、これからの俺達A班の進むべきルートなんだがざっと20分はかかるみ
たいだにゃ〜」

敵にいつ出くわすか分からぬこの状況で、それでもいつものような口調の土御門。
20分って、この基地どれだけデケェんだよ……とか余裕をこく俺も俺だが。

「だが洗脳された学生達がまだどこにいるか分からん。それ以上はかかることは
覚悟しておいた方が良いな」
「『愛国者達』がキーワードって言ってた、あの?」
「あぁ、そうだ。しかし奴らがここまで手を加えていたとはな……。とにかく今は
目的地に進もう」

スネークさんに促され、俺達は基地の奥へと脚を進めていった。
213 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:56:06.20 ID:94xgnOlSo
「……誰もいない、のか?」

そう思えてきてしまった。歩き始めてから約10分。もう格納庫まで半分くらいの
所まで来たというのに、敵はおろか監視カメラの一つも見当たらない。人がいない
のはともかく、ここまで無防備な警備で良いとは全く思えないんだが……

「ふむ。今まで部外者は誰も知る事なんてなかったから、必要なかったんじゃな
いのかにゃ〜?」

とは土御門からの意見。確かに機密である場所ではあるが……

「そうだとしても、今歩いているこの通路は少し広すぎやしないか?」

確かに、今A班が歩いている通路は見た感じ5人が横一列に並んで歩けそうな幅
がある。

「二人とも、そこで待っててくれ」

と、前を歩いていたスネークさんが右手で制する。

「どうしたんです、いきなり?」
「アレを見ろ」

そう言われて指差した方向に目を向ける。少しずつ右にカーブしている通路の壁
には、5メートル間隔に何やら縦に四つ穴が開いた銀板が置いてある。

「あれが一体どうしたんだぜよ?」
「まぁ見てろ」

そう言ってその銀板の前に立ち、ポケットから葉巻を取り出しライターで火をつ
けた。そして葉巻を口にして前に煙を吐いた。すると…

「なるほど、赤外線センサーか」
「あぁ、前に同じような物を見た事があってな。もしかしたらと思ったんだが、
やはりな」

どうやらこのセンサー。ランダムに赤外線の出る高さが変わるらしい。でも赤外
線なんて見えねぇもんをどうすりゃ――

「ふっふっふ、心配後無用だぜぃカミやん。こんなこともあろうかと用意してお
いたんだにゃ〜」

そういって土御門が取り出したのは、妹達がつけているような普段つけるには不
恰好っぽいゴーグル。

「ほぅ、サーマルゴーグルとはな。お前さん良いもの持ってるじゃないか」
「いやぁそれほどでもないにゃ〜」
「さ、さーまる……ゴーグル?」
「普通では目に見えない赤外線が、こいつをつけることによって一目瞭然なんだ
ぜぃ」

それがあるならさっさと出しておけよ……。
214 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:56:43.96 ID:94xgnOlSo
結局センサーの罠は事前に用意をしていたこちらの圧勝。しかし、あれにもし
触っていたら一体どうなっていたんだ?もしかして……あの部屋が閉め切られて
有毒ガスが充満?はたまた突然天井が迫ってきたり、いきなり壁からナイフが
飛んできたり?そう考えただけで寒気がしてきやがった……。

「とりあえず、センサートラップはクリアだぜぃ」
「……にしても、やけに簡単すぎじゃなかったか?」
「そりゃこっちがこういう代物を持ってるなんて想像してないからだ。普
通は目に見えないもんだからあんな風に抜け道があっても気づかないもんだ」
「まぁ、こちらの用意周到さが勝ったというところなんだろうな」

次の部屋を歩きながらの会話。また何かトラップでもあるんじゃないかと思ったが、
今のところまだ3人とも何かに気づく様子はない。しかし、まるでもぬけの殻
みたいな敵地に、俺はなんでか知らねぇが違和感を持っていた。

「なぁ、土御門」

それが俺だけなのか、試しに土御門に聞いてみる。

「んっ?どうした、カミやん?」
「回転銃猫って実は抜けてるんじゃないか?」

俺の疑問に対して、目の前のサングラスかけた金髪の男はなんだか呆れたような
表情を見せ、ため息をつきやがった。

「カミやん。山猫のおっさんの頭は一目瞭然。あれで全く抜けてなかったらそれ
こそショックだぜよ」
「髪の毛のことを言ってんじゃねぇ!!それにあれがズラなのかもどうでもいい
!!俺が言いたいのはだな――」
「あれだけお前さんを狙ってきた連中の一人がここまで失態を晒すわけがない、
ということか」

俺のツッコミの声がうるさすぎたんだろうか、スネークさんが少し機嫌悪そうに
俺の代わりに説明してくれた。

「確かにこの静けさは異常だにゃ〜。敵の本陣といったら、敵がうじゃうじゃ
いても良いはずなんだがねぇ」

この野郎、俺のツッコミをスルーしやがった……。この疲れを返してくれ。

「しかしオセロットの事だ。俺達がZEKEの所に行った時に仕掛けてくるんだ
ろう。それに奴のことだ。罠や奇襲だけじゃあないだろう」
「どういうことだ、おっさん?」
「いや、確かな事は言えんが俺はあいつに出し抜かされた事があってな。それで、
なんとなくだ」

なんとなく、という曖昧さ。これが普段の土御門や青ピが言うなら信頼できない
が、ここでは……それこそ『なんとなく』だが信じる事が出来た。それしかな
かったのかもしれないが。
215 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:57:12.96 ID:94xgnOlSo
「思ったより遅い合流だったな」

とはスネークさんからの一言。合流の予定になっていた地点にA班が到着してから
おおよそ10分くらい経ってようやくB班のステイルたちがやってきた。

「すまないね。ちょっとこの中に方向オンチがいてね。だいぶ迷ってしまったんだよ」

気だるそうにつぶやいたステイルはその暑苦しそうなローブからマイルドセブン
とジッポを取り出し、箱に入っていたタバコに火をつけた。

「ハッ、そりゃ一体誰の事を言ってるんだろうかね」

ステイルの愚痴に対して、シェリーが呆れたようにステイルを見ながら言った。
……神裂も大変だな。

『とにかく、これで6人とも合流できた。あとは、ZEKEの破壊だけ』
「オタコン、状況はどうなってる?」
『そう聞いてくると思って調べておいた。この先は一本道で、地下らしくない広
々とした通路が続いてる。敵の動きも今のところないみたいだけど、気をつけた
ほうが良いね』
「待ち伏せの可能性もある、というわけか」

なら、とっとと核載戦士をぶっ壊しに……

「行かないといけませんね」

突如辺りに響いた女の声。聞き覚えのある声に、後ろを振り返る。そこにいたの
は……

「お久しぶりですね、上条当麻さん」

心念掌握だった。

「いよいよ敵も本領発揮というわけか」

思わぬ敵の襲来にもスネークさんは動じない。

「あら、驚かないんですね。伝説の傭兵さん?」
「こういう場面には何度も立ち会っているおかげで慣れてしまったからな」
「そうですか。さすがですね、伝説の傭兵さん」

わざとらしく禁句を連発する彼女。さっきまで動じなかったスネークさんだったが、
その挑発に対して少しだけ眉をしかめている。

「てめぇ!一体何しに来やがった?!」
「何をしに、とは無粋な質問ですね。いとしの彼女の元に、貴方を迎え入れよう
としてきたんですよ」
「なっ?!」

……こいつ、御坂の事を知ってる?!でも、あいつはここでなく、外国で死んだん
じゃ……まさか?!

「ふふっ、分かったみたいですね。貴方の恋人、御坂美琴は……


  私  が  殺  し  ま  し  た  」
「っ?!」

衝撃。俺の頭がその二文字に思いっきり叩かれたような気分になり、その場に立
ち尽くすしかなかった……。

                           −第13部・完−
216 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 04:59:52.56 ID:94xgnOlSo









第14部『過去(トラウマ)からの脱出』









   
217 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 05:00:20.08 ID:94xgnOlSo
あの時。そう、俺の目の前であいつは『いなくなった』。

「当麻、危ない!!」

俺が前に気を取られていた時。突然真横から砕けたコンクリートの塊がこちらに
飛んできた。あまりに急な事に前方に銃口と視線を向けていた俺は御坂からの声
にようやく気づいたが、もうすでに塊はすぐ近くにまで飛んできていた。その瞬
間に対して出来た行動といえば,両腕を顔の目の前に出して目をつぶったくらい.
いつも不幸ばかり嘆いていた俺らしくない,もっとよけるくらいしろよと突っ込
みたくなるくらいだがそれくらい余裕がなかった.だが…次に来るべき衝撃が一
向にやってこない.代わりにやってきたのは電流が空気中に流れる音,コンク
リートが砕け散る音,そして……

「あうっ!!」

美琴からの悲鳴だった.何があったかを確かめるために目を開けた後,俺は目の
前に広がっている光景が一瞬理解できなかった.学園都市では『常盤台の超電磁
砲』という異名を持っていた超能力者,御坂美琴が髪を真っ赤に染めて横たわっ
ていたからだ.

「み,美琴っ?!」

慌てて俺は駆け寄る。美琴の周りには撃たれた右胸から流れた血がたまっていく。

「しっかりしろおい!!」

倒れた美琴の頭を少しだけ抱え上げ、俺の左腿にそっと寝かせる。
218 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 05:00:50.39 ID:94xgnOlSo
「と、当麻ぁ……ゴフッ!!」

俺に顔を向けようとするが、その直後に吐血した。それも結構な量だった。

「何もしゃべんじゃねぇ!!どこ撃たれたか見せ――」

見せてみろと言おうとしたが、それから後に続く言葉が出せなかった。苦しいは
ずの美琴が俺に向かって笑顔を見せていたからだ。

「も、もう……いいから」
「なに弱気になってんだ?!お前らしくねぇよ!!」
「…うまく…呼吸……できなくなった、みたい…」

激しい息切れをしつつ美琴は言った。……肺に穴が開いている。兵士から聞いていた
話をふと思い出していた。

「ここから基地にすぐ戻ればまだ間に合うだろ?!しっかりしろよ美琴!!」

戦争という場所では、命の保障なんてない。笑い合っていた奴がいきなり狙撃
されたり、ブリーフィング以降会わなかった奴がデブリーフィングで亡き骸と
なって再会したり。仲間との別れにはもう慣れていたはずだった。だが、彼女
だけは違った。

「フフッ、当麻に膝枕…ケホッ…して……もらっちゃった」

けど、当の本人は死ぬかもしれないというのに笑っていた。
219 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 05:01:17.20 ID:94xgnOlSo
「お前……」
「前から…ずっと…やってもらおう…って思って…たん…だけど」

もういい、喋るなという俺の忠告も聞いてくれない。

「こんな時に…叶っちゃう…なんて」

ずっと笑顔だった。涙を流しながらも、嬉しそうだった。

「ごめ………ん、ね?」
「な、何言ってんだ。これくらいだったらこれからいくらでも……」

いくらでもしてやるから。そう言おうとしたけど、急に視界がぼやけ、
声が出なくなった。

「泣かない…でよ。交渉人が……聞いて…呆れるわ」

何が交渉人だよ。大切にしたい奴一人守れない馬鹿がそんなもんになれる
わけなかったのによぉ……。

「でも…あんたは…人を助けたい…って思ったから…今こうして…いるんでしょ?」
「…あぁ」

声が裏返らないようにするので精一杯だった。涙を拭う暇なんてなかった。
220 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 05:01:57.84 ID:94xgnOlSo
「だったら……」

ゆっくりと、優しく未琴が俺の右手に手を重ねた。

「純粋に人を…助けたい…って気持ち…ずっと…持ち…続けて…な さ――」

言い切ろうとした直前だった。彼女の腕から力が抜け、同時に両目が閉ざされたのは。

「…美琴?おい、しっかりしろよ美琴」

軽くゆすってみるが反応はない。

「…冗談、だろ?」

もう感情を抑えつけるのも限界だった。

「なぁ美琴!学園都市に居た時みたいにいきなり電撃流してみろよ、おい!!
ビリビリ!!!」

ゆすり方も声も乱暴になっていった。

「先に逝ってんじゃねぇよ!!!!」

失う悲しみ。ふがいない自分への悔しさ。それが一気に押し寄せてくる。
それに対して抵抗なんてできない。ただ、出来たのは

「ちくしょう!ちくしょう!!ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

空に向かって大声で叫ぶことだけだった。
それ以降、俺がその場面で何をしたかはよく覚えてない。覚えてるのは銃撃が止
んですぐに駆けつけてきた仲間に助けられてたことくらいだ。
221 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 05:02:49.00 ID:94xgnOlSo
それが御坂美琴との最後の会話だった。それを仕向けた張本人が今、目の前にいる。

「本当は貴方を狙ってたんですけど。勇敢にも彼女、見事弾道に割って入ってき
たんですよ。素晴らしい方だったんですね」
「くっ…」

その敵は自分がやった事をまるでそれが「罪」ということが分かっていない様子
でいつものように笑いやがっていた。

「当時は私、スナイパーもしておりましたから。普段は『目標』をやりそびれる
ことはなかったんです。ですから、上司の方にはこっぴどく叱られたんですよ」

あくまで笑顔。自然なスマイル。それだけを見てるんだったらまるで天使の笑顔
に見えるが、今こうして俺が見ているのは凍りついた、堕天使の微笑って言って
もいい。

「お前…」
「フフ、怯えてるんですよね。私に」

こいつは心を読める。前からそれは分かっていたんだが、それを改めて知らされ
ると少し鳥肌が立ち、口の中が渇いてくる。

「安心してください、すぐに楽にしてあげますから」

そう言うと、心念制圧は左腕をこちらに向けた。その手に拳銃を持ち、銃口を俺
に向けながら。

「さぁ……」

彼女の目がゆっくりと細くなり、それに連れて銃口が目線と重なっていく。だが、
こんな所で死んでる場合じゃない。行かなければ、あのバケモノの所に。

「……無駄です。貴方に私は倒せない」
「声に出さないでも答えてくれてありがたいね。けど……」

目を閉じ、一つ深呼吸をする。心念制圧の目が鋭くなっていくように見えるが、
それにビビってなんかいられない。ゆっくり息を吐き終えてからゆっくり目を
開け、彼女を睨む。

「けどな……俺には不幸がつきまとってる。ただの不幸なんかじゃねぇ。大切な奴
が死んでも、俺をあっさり死なせてくれやしねぇって『不幸』がなぁ!!!」

言い切った瞬間、俺は心念制圧に向かって突進した。だけど、不思議なことに
ずっと感じていたはずの不安が今はあまり感じられない。

「そうですか。では、お望みどおり……死になさい」
222 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 05:04:17.22 ID:94xgnOlSo
目の前で火薬の爆発する光と音が放たれた。だが狙われていたはずの俺に肝心の
弾が来る様子もない。

「っ?!」

初めて、心念制圧が俺たちに対して初めて焦った顔をしている。こっちにしてみ
ればこの上ないチャンスだ。すかさず俺は銃が握られている右手を自分のそれで
掴んだ。

「くっ!!…どうして貴方は無傷なんですか?!」
「……お前さん達、俺達を外野にしたまま決闘をしないでくれるか?」

と、後ろから聞こえて来た声の主。スネークさんだ。後ろを振り返ってみると、
ちょうど俺、いや心念制圧に対して拳銃を構えている。

「まさか、私が撃った弾を?!」
「馬鹿言え。弾じゃなく銃を狙ったまでだ」
「そんな………はっ?!」

急に彼女が目を見開いた。視線を俺に向け、状況が理解できてないっぽい顔をし
ている。

「心が……読めない……」

……そりゃそうだろう。異能の力ならなんだって消せる俺の右手に触っちまって
るんだから。

「なぜ、なぜなの……」

だが様子がおかしい。いくら能力が使えなくなってるからって、ここまで
ビビってる顔をしなくてもいいはずなんだが。

「どうして……読めないの?」

まるでさっきまでの余裕がどっかに行っちまった。別人になったといっても良い
位だ。……どうする?

「どうして、どうして……うわぁぁぁぁ!!」

突然叫んだと思えば、俺の手をひっぺがすためにつかまれた腕を振り回す。いく
ら男と女で力の差があるって言っても、少し油断したら離しちまいそうな勢いだ。

「離して!!離してください!!」

豹変。そんな言葉がぴったりだ。俺に対して怯えている。そんな気にもさせる。
だがここで離すわけにはいかない。この瞬間のために俺はこいつに触ってるんだ
から。
223 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 05:06:25.23 ID:94xgnOlSo
「どうした心念制圧!!いつもみたいに俺の心を読んでみろよ!!!」
「わぁぁぁぁ!!」

握りつぶさず、それでも離さないよう必死につかみながらも送った挑発は見事に
スルー。まさか狙いがここまで上手くいくなんてな。

「いや、いや!いやぁぁぁぁ!!」

心念制圧の悲鳴が木霊となって辺りに響き渡る。その瞬間、糸が切れた操り人形
の様に彼女は倒れた。

「……能力に頼りすぎてたんだな、コイツ」

後ろからゆっくり歩いてきた土御門が目線を彼女に向けながら口にした。

「どういうことだ、土御門?」
「そのままさ。心念制圧は心を読むことなんて簡単に出来る。それが当たり前に
なってた。だが」
「自分自身の能力に依存しすぎて、それを失ったことによるショックがでかすぎて
こうなったって事か」

続いてスネークさんも歩み寄ってくる。

「おっさんの言うとおり。今まで出来た事が突然出来なくなったんだからな、カ
ミやんのおかげで」

そう言われて、ふと自分の右腕に目を向ける。
ずっと使えていた物をある日突然使えなくなったり、奪われたとしたら…。それ
も、そいつが自身のアイデンティティーを掌ってるとしたら。…あまり考えたく
ない結果になるだろう。

「さって、心念制圧ちゃんは先に病院にでも送っておくとしますか」

と、土御門が倒れていた彼女を抱え上げ左肩に載せた。

「時間はかかるだろうが、コイツは大事な証言者だからな。ほったらかしにして
おくにはもったいない。そうだろ、オタコン?」
『あぁ、そうだね。彼女はいわば捕虜。そのまま逃がすにはちょっと惜しい。出
来るだけ愛国者達についての情報が聞ければいいんだけどね』

いつの間に開いていたんだろうか、無線越しにオタコンの声が聞こえてきた。た
ぶん、土御門の奴が前もってつないでいたんだろう。こっちはそれどころじゃな
かったしな。

『じゃあサイコ・マンティスの身柄は僕らが責任を持って届けるよ。みんなはそ
のまま進……く……』

突然耳に響く砂嵐のような雑音。前にもあったこんなジャミング…ってことは――
224 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 05:06:52.17 ID:94xgnOlSo
「全員散らばれ!!」

スネークさんの号令で、俺達は四方八方に別れ、近くにあるスペースに隠れる。
するとその直後、俺達が歩いてきた方向つまり基地の入り口側から一斉に火薬の
破裂音と金属の塊が俺達に襲い掛かる。愛国者達が牛耳ってた学生達と警備隊の
ような格好をした奴らが一斉に発砲してきたのだ。

「こいつら、一体どうやって銃を?!」

俺の疑問に対し、オタコン達が説明を始めた。

『愛国者達の私設兵だと思い……!前々から……電磁波事件の被害者と同じ……
をし……すから、たぶんそう……ザザッ』
「だがどうすりゃいい?!これじゃあ身動き取れないぞ?!」
「心配するなトウマ!!」

突然無線越しにではなく聞こえた声に、目の前に目を向けると何やら長くて重そ
うな銃器を担いでらっしゃるスネークさん。次の瞬間、銃器の先端についていた
物体が轟音と共に発射され、数秒たたない内に敵グループがいた付近に炸裂する。
それによって少しの間銃撃が止んだ。

「行けっ、トウマ!!」

状況を把握するのに精一杯だった俺に、スネークさんからの喝が入る。慌てて彼
に目をやると土御門と一緒に追っ手達に向かって発砲していた。

「ほら行けカミやん!!カミやんがこんな所で止まっちまってたらあいつらを逃
がしちまうぞ!!」
「行きますよ、上条当麻」

先に格納庫に歩き始めた神裂が俺の横を通り過ぎる時に声をかける。確かに全員
立ち往生してたら潜入の意味がなくなっちまうけど…

「だからって……」
「見苦しいぜカミやん。何かとてつもないことを他人を巻き込んでやり遂げる
ためには多少の誤差なんて見逃すもんだ!」
「けど!」
「もたもたしてたら時間がなくなる。それに僕達はここにいたら色々とまずい。
早く行こう」

神裂に続いてステイルも目の前を通り過ぎていく。

目の前にいる仲間が死んでしまうかもしれない。御坂が死んでから俺の心はその
ことに対して異常に敏感になっていた。目の前で死なせるくらいなら俺が代わり
になればいい。気がつけばそんな風にまで考えてしまっていた。それがいかに甘
い考えかはスネークさんから身をもって教え込まれていたはず。けど、いざその
場面に遭遇してみるとやはり考えが巡ってしまう。自己犠牲なんて危なっかしい
考えが。
225 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 05:07:49.93 ID:94xgnOlSo
『トウマ。スネークがいるなら心配ない。早くJEKEを止めに行こう』
「…クッ」

だけど。オタコンからの命令に対して歯を食いしばりながら目をつぶった時。


『立ち止まるな、バカ当麻!!』


聞いたことがある声が真後ろから聞こえた。すぐに振り向くがそこには背中を
向けたステイル達しかいない。

「……美琴?」

だがアイツはいるはずがない。じゃあ…裏切り者?いや、もうどっちでも良い。
今の一言でなんでか分からねぇけど吹っ切れた。そうだよな美琴。今からやる
ことだって「人を助ける」ことだよな。すっかり忘れてたぜ。

「土御門!スネークさん!!」

一呼吸置いてから2人に背中越しに声をかける。聞こえているか分からないが、
ここで振り向いてはいけない気がした。

「絶対に生きて帰ろう!!」

それだけ言って先に行った魔術師3人の下へ駆け出した。
5分くらい走り続け、ようやく目的の部屋が見えてきた。そこにあったのは…

「こっこれは……」

4人全員が目を丸くする。格納庫にあったのはロボットだ。だが、学園都市で
よく見かけるようなチャチな物なんかじゃない。2本の足でしっかりと床を踏
みしめているそれは腕がなく、ベージュ色のような塗装で無機質な、だけどそ
れだけに怖さを思わせる何かがあった。それにこのロボット、かなりデカい。
ゆうに5メートルはあるような気もする。

「どうだね諸君?初めてお目にかかるJEKEの程は?」

久々の対面。回転銃猫(リボルバーオセロット)が核載戦士(メタルギア)の
左足の影から姿を現す。

「ふざけんな回転銃猫!目的が何なのかわからねぇが、こんな危険な物とっと
と捨てやがれ!!」
「ンハハハハハ。何を言うか交渉人」

笑わせるとばかりに目の前の野郎は高笑いをする。
226 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 05:08:17.69 ID:94xgnOlSo
「全く、科学者達がこれほどの物を作っていたなんて」
「ですが、ここで破壊をすれば良いこと」
「調子に乗られても困っちまうからね」

科学にあまり良い印象を持っていない連中3人が愚痴をこぼしながら自分の魔
術の準備をする。
「そういうこ…っ?!」
だがステイルの手が止まった。

「慌てるな、若造。今日は特別ゲストを用意しているのでな」

ステイルの手をじっと見てみると、魔術発動のためにいつもばらまいていたカ
ードに何か棒みたいな物が刺さっている。いつの間に?

「紹介しよう。学園都市レベル4であり、我々愛国者達への出資者の娘。そして
愛国者達の同士……」

回転銃猫の横に突然現れたのは、小柄で見覚えのある赤いリボンとそれによって
後ろに束ねられた赤茶色の髪の女の子。

「瞬移斥候(テレポート・スパイダー)だ」

そう、白井だった。


                           −第14部・完−
227 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 05:08:43.72 ID:94xgnOlSo
とりあえず一旦打ち止め〜
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 05:13:39.74 ID:Vvdk1CVIO
この時間にこの投下量とは…
乙かれさまですの
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 06:00:12.13 ID:p7yThwjIO
乙です
そろそろ第一部から読み直すか
230 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:34:50.53 ID:94xgnOlSo
乙ありですの!

>>228
修正しつつの書き溜めの投下だからまだまだいけるんですの

>>229
間違いあったら遠慮無くぶちこんでほしいですの
231 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:35:32.75 ID:94xgnOlSo









第15部『御坂美琴』









  
232 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:35:59.57 ID:94xgnOlSo
「……し、シライ?」

たぶん、このデカイロボットを見た時より目が丸くなっていると思う。いったいど
ういうことだ? なんでこんなことになってんだよ。

「申し訳ありません、上条さん」
「どういうことか説明してくれ……スパイダーって? クモがなんだってんだよ?」

頭が真っ白。今の状況がまさにそれだった。

「……全ては科学者達の思惑通りだったわけか」
「えっ?」
「その女は君の味方であり続けた。それは僕達にも証明できる。だけど、それが
ブラフだった。全ては科学者達に情報を送るスパイとしての行動にしか過ぎなか
ったってことさ」
「……つまりは、私達がどう動こうと相手の思う壺というわけだったんですね」

とどめの一言が神裂の口からこぼれる。

「ウソだろ? なぁ白井、ウソだよな? 俺をここに匿ってくれたのも、御坂の
事も……隣にいるそいつから俺を守ってくれたのも全部ウソだったのかよ?!」

格納庫に俺の怒声が響き渡る。俺の問いかけに対する白井の反応は俯いて黙って
いるだけ。代わりに答えを出したのは……奴だった。

「そういうことだ交渉人。貴様に今一番近い存在であるこの娘を大いに利用させ
てもらったよ。……しかしおかしいと思わなかったのか? 貴様の居場所をどう
して我々が把握できていたのか、ホテルだけが何故安全地帯になっているかと思
いもしないとは」

そうだ。回転銃猫以外に俺が襲われた時はいつも白井も一緒にいたはず。それに
前に回転銃猫が言っていた「パンドラの箱を開けた」ってのはその言葉を広めて
しまったことだと思ってたが、まさかそれも白井が?だがやっぱり信じられない。
どうしてそんな真似をしたのか。本人に聴いてみるしかないか。

「本当なのか、白井?」
「……オセロットの言った通りですわ」
「……なんで、こんな真似を?」

出来るだけ冷静に言葉を紡ぐ。今の眉をひそめている白井から、スパイになるこ
とを自分から選んだようには見えないのもあってだ。仕方なくやらされている。
そんな風に俺には感じられた。やがて白井は顔を俺に向け、噤んでいた口を静か
に開いた。

「私の父は学園都市では名高い武器商人です。お父様によって学園都市の軍事力
は日本のそれを遥かに上回るかのようになっていました。……ですがちょうど貴
方が学園都市に戻られる直前に愛国者達が学園都市との連携を取るようになり、
バイヤーを失った白井家はみるみるうちに荒んでいきましたわ。その時彼らが、
私達の命と引き換えに生え抜かれた。これが一連の流れですの」

抑揚をつけず、あくまで棒読みに説明をした白井は小さめにため息をついた。

「つまり、あんたも愛国者達の奴隷っていうわけね?」
「……その通りですの」

シェリーを一目見て白井が一瞬だけ目を丸くするが、すぐに落ち着いた口調に戻
った。と、ここで厚めの布が叩かれる音が聞こえてきた。回転銃猫が拍手をして
いたからだ。

「素晴らしい説明だな、スパイダー。だがお前の出番はもうない」
「どういうことですの?」

自分の、そして親の敵にもなりつつある男を睨みつけながら白井は言い放った。
だが対して回転銃猫は不気味に笑っていやがる。

「何をとぼけている。お前がこうして愛国者の一員に慣れたのが一体なんのため
だ?そこにいる愚か者を抹殺するための準備が必要だからだよ」
「っ、そんな?! 取引はそこまでとは!!」
「何を言う。奴隷同然のお前達に口を出す資格などない」

そう言い放つと、俺に銃口を向けた。だがその直後。

「し、白井?!」

なんと俺と回転銃猫の間に白井が割って入ってきたのだ。
233 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:38:57.08 ID:94xgnOlSo
「ほう。自ら銃弾を受けに来ようとは。この前はわざとはずしてやったが、今回
は違うぞ」

ゆっくりと、撃鉄が起こされる。銃についてあんまり分かってはいないけど、確
実にあの野郎は白井の頭を狙っている。止めないと。

「白井! 何やってんだ!!」
「何も言わないでくださいまし!!」
「なんでだよ?! なんでそんな風に命を粗末に扱おうとすんだよ!!」
「……これは上条さんへのせめてもの罪滅ぼしですの」

言いながら白井はゆっくりと俯く。

「私の……私のせいでお姉様の大切な方が死んでしまおうとしている。それは、
亡くなられたお姉さまに対する冒涜ですわ」

声を出していくと共にそのトーンが上がり、壁を作るために真横に伸ばしていた
両腕の震えが徐々に増していった。

「私はお姉様を……御坂美琴様を尊敬し、愛しておりました。お姉様が上条さん
の元に行かれ、訃報を聞いた時は正直に申し上げると私、貴方を憎んでおりまし
た。愛しのお姉様がなぜ死んでしまったのか、どうして上条さんが守っていただ
けなかったのかと」
「……ですが、後でお姉様が安らかな顔でお眠りになったと聞いた時、恨みは全
て消えました。代わりに抱いたのはお姉様の遺志を継ぐという決心。その為なら
この生かされている命を捧げる覚悟にありますわ」

前を向いたまま静かに白井は言った。けれど、口にした言葉の一つ一つから彼女
の覚悟がどれだけの物かがはっきりと伺えた。
だが無情にも殺し屋はその手を止めようともしない。

「おしゃべりはそれくらいか? では望みどおりにしてやろう」
「白井っ!!」

無駄だって分かっていながらも、白井に向かって左足を上げる。死ぬ覚悟なんて
冗談じゃない。けど……これも必要な犠牲っていうのかよ、土御門!

発砲音が響き渡る寸前ぐらい。伸ばした右手が白井の肩に乗り、俺は彼女を抱き
かかえながら前に転がった。そして銃弾が発射されるが……おかしい。狙われて
いたのに、俺の体に当たるどころかかすめてもいない。つぶっていた目を開け、
前を見てみると……そこにいたのはディープスロートだった。

「貴様か…『裏切り者(ディープスロート)』」

こいつの事、あのヤロウも知ってたのか?

「貴方達の好きにはさせない」
「何を言う。すでに計画も最終段階にまでたどりついている。それをどうやって
止めようというのだ」
「……私の能力を甘く見ないで」

静かに言い放つと、右腕をゆっくりと核載戦士に向ける裏切り者。すると、右腕
から電流が流れ始める。……まるで美琴がやっていたのと同じように。

「……おねえさま」

ふと俺に抱えられた白井を見る。うまく言葉が出せていない。と、俺の手をどけ
て立ち上がった。

「お姉様なんですの?」

白井の質問に気づき、裏切り者がこちらに顔を向ける。その反動でつけていたマ
スクがはずれ素顔があらわになる。……それは美琴だった。

「み、美琴?」
「……ごめんなさい。私は貴方達が知ってるミサカミコトじゃないの」

確かに今の『御坂』の口調は美琴とは程遠い。けど、声や顔形は瓜二つだし何よ
り持っている能力が美琴とほぼ同じ電流使い。でも……美琴は死んでいるはず。

「今はそれだけしか言えない。時間が来たらゆっくり話させてもらうわ」

だけど一瞬だけ。ほんの一瞬だけ見せた『御坂』の笑顔は他でもなく美琴の物
だった。

『御坂』が前に向き直すと、右腕に帯びていた電流がさらに強くなった。

「この一撃で……!」
234 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:39:23.86 ID:94xgnOlSo

『御坂』は飛び上がった。そして右腕を一度後ろに振りかぶり、電流を核載戦士
に投げつけるかのように前に振りつける。その瞬間、まるで雷明のような眩い光
が押し寄せ、俺は思わず目を閉じる。目を閉じている間も、放電の音は鳴り続い
ている。

「一体何が起こってるんだい!?」
「分かりません。でもこれだけの力、魔術でもあまり見た事はありません!」

少し経ってからか、やっと電流が収まった。あまりの高い威力だったのか、格納
庫の照明が全てパンクしてしまい真っ暗で何も見えない。これだけの電流を食ら
ったら例え堅い軍事兵器でもひとたまりもないはず。だが……突如何かのモーター
音が響き渡る。地面に着地した『御坂』はこの音に信じられない様子で叫ぶ。

「そんな……計算では今の攻撃で破壊されるはずじゃ!?」
「ハッハッハ。所詮予測は予測。こちらも貴様の攻撃が来ると予測して、貴様か
らの電流で起動するようにセットしておいたのだよ」

なんてこった。破壊するはずが核載戦士が起動しちまった!!スネークさん達に
知らせねぇと!!
すぐに俺は無線を飛ばした。

「オタコン、まずい!!核載戦士が起動しちまった!!」
『なんだって?!スネーク達は今どこに?』
「分からねぇ。まだ銃撃戦の最中かもしれない」

今から連絡してもすぐに来てくれるわけではない。どうすればいい?

『ステイル達はそこにいるね?』
『あぁ、僕達は彼の近くにいるよ』
『よし。トウマ、ステイルたちと協力して核載戦士を止めてくれ。出来るなら
破壊も』
「分かった。やってみる!」

だが通信を切った直後。核載戦士の後ろから、轟音と赤い光と煙が放たれ始めた。

「なっなんだなんだ?!」
「上条さん、核載戦士が!!」

なんとあの巨体がゆっくり浮き上がっていく。それに合わせて核載戦士のすぐ上が
アラームを鳴らしながら開いていく。
235 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:40:00.85 ID:94xgnOlSo
「オタコン!核載戦士が飛び上がろうとしてる!!」
『メ、メタルギアが?!そんなことが……』
「どうすればいい!!」
『とにかく地上に出られると危険だ。逃がすな!!』

オタコンからの怒号が聞こえた直後、今度は魔術師達が一斉に何かを叫ぶ。そして
ステイルが放った『魔女狩りの王』が核載戦士に牙を向く……が。

『(警告、警告。半径10メートル圏内ニ異常な高温物体ヲ察知。コレヲ敵性ト認メ、
直チニ迎撃シマス)』

浮かび上がりながら機械の化け物がこちらにその『体』を向ける。と、それからす
ぐに右肩部分に設置されている大砲のような物の根元が光り始めた。

「っ?! みんな離れて!!」

何かに気づき、『御坂』が全員に叫ぶ。その直後、砲台から光と共に何かが打ち出
され魔女狩りの王が一瞬砕け散り、すぐに元の姿に戻った。

「ふん。所詮は機械。この僕の魔術にかなうはずはない!!」
「(……目標ノ破壊ハ困難ト推定。代替トシテ他ノ目標ノ捜索ヲ開始シマス)」

よく聞き取れない英語のようなアナウンスが流れると、今度は赤色の太いレーザー
が照射されだした。その光が俺達それぞれに当てられると、レーザーは途切れて
再びアナウンスが流れる。

『(目標、上条当麻ニ変更。攻撃、開始)』

何を言ってるかは全く分からないが、今確かに俺の名前が聞こえた。それに反応
して化け物を睨みつける。が、もちろん化け物はひるんだりなんかしない。そし
て次の瞬間、化け物の背中からいくつものミサイルが発射されてこちらに向かっ
てくる。俺は向かって右に走り出し、前に転がったりしてミサイルをやり過ごす。

「伏せろ、上条当麻!!」

突然聞こえた命令に反射的に従う。すると、ミサイルが空中で次々に爆発し、俺
の周りの床に傷が付きだす。

「上条さん、大丈夫ですの?!」

テレポートで俺ごと別の場所に移動した白井が俺を気遣う。

「あぁ、なんとか……」
「やっかいなことになりましたわ。このままでは近づく事も不可能です」
「だからって、ほっとくわけにはいかねぇだろ!」
「ですが!攻撃の前にやられてしまっては元も子もありませんのよ!!」
「んな事いったって……」
236 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:40:27.20 ID:94xgnOlSo
口論している間にも頭上が開かれた核載戦士は天井に吸い込まれるように消えて
いく。

「私が破壊する」

その口論に割って名乗りを上げてきたのは『御坂』だった。

「あのバケモノは私のせいで動き出してしまった。これからあれが行った事は
全て私の罪になる」
「そんな、お姉様は何も悪い事は!ただ核載戦士を破壊しようとしただけで!!」
「白井さん、だっけ?」

白井の叫びに割って『御坂』が白井の苗字を言った。今まで美琴は白井の事をいつ
も黒子と言っていたから、白井にはトゲのないはずの一言に絶句していた。

「……はい。そう、です」
「……気を悪くさせてごめんなさい。でも起動してしまったからってだけじゃない
の」
「それは一体どういうこ――」
『トウマ、聞こえるか!!』

突然無線越しにスネークさんの声が割り込んできた。

「スネークさん!!土御門は?!」
『心配ない。サイコ・マンティスも無事だ。今そっちに向かってる。状況はオタ
コンから聞いているが……遅かったか』
「すいません……」
『いや。まだ手の打ちようがないわけじゃない。そこにシェリーはいるか?』
『私ならここにいるけど、どうかしたの?』

無線越しにシェリーの声が入ってくる。

『お前さんの手品を脱出の時に少し貸してほしい』
『……なるほどね。お安い御用よ』

少し間が入ってから、何か分かったように鼻で笑うシェリー。彼女の魔術は確か
巨人を作ることが出来たはず。巨人、地上への出口…そういうことか。

『エリスを生み出し、全員を乗せて開いた出口から抜けようって魂胆かい?』
『そうだ。それ以外に方法はない』
237 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:43:05.20 ID:94xgnOlSo
だが今度はステイルが割って入ってきた。

『だけど、来た道を戻るっていう一番最初の道があるんじゃない?』
『残念だけどそれは出来ない。おっさんと俺がドンパチやっちまったのと追っ
手がこっちに来てるのもあってUターンは不可能ぜよ』
『なら、シェリーにお願いするしかありませんね』

それを聞いたシェリー本人は、自分が頼られてそれはそれは嬉しそうに胸を張って
いる。対照的にステイルはタバコの煙と一緒にため息をついていた。

「私は先に行きます」

だが『御坂』は従わない。それ所か、一人地上への穴の真下に歩いている。どこに
何しに行くかは予想がついているが、一応聞いてみるか。

「おい、どこに行くんだよ」

俺の呼びかけを聞いて、『御坂』は立ち止まる。そして、一呼吸分の間を置いてか
ら顔をこちらに向けずに話し始めた。

「私は自分でけりをつけにいく。あのロボット、ジークは私の存在から生まれた物
よ」

核載戦士のルーツは『御坂』だって……?
238 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:47:45.69 ID:94xgnOlSo
「それは一体どういうことですの?」
「……元々核載戦士(メタルギア)は核兵器をどこからでも発射でき、どこにでも標的
にすることが出来るように開発された軍事兵器」
「そうだ。メタルギアは冷戦時代の、米ソという二大勢力による軍事的均衡を破壊でき
る凶悪な兵器」

いつの間にかスネークさんと土御門、それからスネークさんに担がれた心念制圧が到着
していた。

「それをソリッド・スネーク、貴方が破壊してきた」

どういうことだ……?学園都市側の関係者の『御坂』がなんでここまで核載戦士に詳しい
んだ?

「科学者達がとてつもない兵器を作っている話は聞いたことがある。でもこの件に関し
ては科学者達内部で話がついていたみたいだから、僕達が出ることはなかったけど」
「ええ。必要悪の教会内の時事資料にそんなことが書かれてあったわ」
「ですが、その兵器と貴方にいったい何の関係が?」

神裂が『御坂』に問いかける。もう外は夜明けなのか、出口からの光で『御坂』が照ら
されていく。

「あの機体には超電磁砲が搭載されている」
「超電磁砲だって?!」
「超電磁砲ですの?!」

俺と白井が声をそろえて驚く。

『御坂』が言う責任、核載戦士に搭載された超電磁砲と…学園都市の中だったらなんで
も有り得てしまうという事実……まさか、そんなこと。

「……あの機体にあるデータの一部は『御坂美琴』が生きていた時の物なの」
239 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:48:13.20 ID:94xgnOlSo
考えたくはなかった。

「つまり、核載戦士は御坂美琴そのも――」
「やめてくれ!!!!」

それ以上は聞いていられず、目をつぶり耳を両手で塞ぎ、裏声になりつつ叫んで話を無
理やり終わらせる。

「もう美琴は死んだんだ!!なのに……なんで今さらあいつが出てくるんだ!!!」
「上条さん……」
「……残念だけど、まだ話は終わってないわ」

聴きたくない気持ちを抑え、歯を食いしばりながら顔を上げる。心なしか、少し『御坂』
がぼやけて見える。

「でも御坂美琴、『超電磁砲』は……オリジナルじゃない」
「オリジナルじゃない……お姉様はお姉様ですの!!例え貴方がお姉様に瓜二つなお方で
もお姉様を侮辱することは私が許しませんわ!!」
「やめろクロコ!!!」

スネークさんの一喝に白井がビビり、怒りで取り出した針を何本か落としてしまう。

「続けてもいい?」
「……あぁ」
「『超電磁砲』は学園都市の頂点である超能力者に君臨する。けど、彼女には欠点があっ
た」
「……感情的になると電流が漏れることか?」
「そう。それだけじゃないけど、一番はそれね」
「そりゃあアイツが感情の制御が出来てない所があったからじゃないか?」
「でも考えてみて。他人を操ったり、攻撃を封殺したり、闘ってる相手の存在を消してし
まう人がいる中で、どうして子供のような彼女が超能力者でいられたのかしら?」

当たり前すぎて疑問にも思わなかった。

「答えは簡単。あの娘は身代わりだったから」
240 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:48:41.19 ID:94xgnOlSo
「  身  代  わ  り   ……?」

もう何が真実なのか分からなくなってきた。今まで見聞きしてきたマスコミの情報も、当
たり前だと思っていた常識も。人から聞いた話も。

「そう。あの娘はそもそも存在するはずがなかったの」
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!!」
「ではお姉様は……お姉様は人間ではなくなんだというんですの?!存在するはずがな
いだなんて、まるで妹達のような―――」

そこで白井が息を飲んだ。

「そう。その通り。御坂美琴は私のクローン。私がオリジナルの……『御坂深琴』」

膝から力が抜け、そのまま地面に落ちた。

「私の名前は深い琴って書いて『深琴』って言うの。紛らわしいよね……ホント」
「……美琴に仲良くなってもらってた二人には本当に感謝してるし、申し訳ない
って思ってる」
「だから、その気持ちを証明したいから……私を行かせて?」

寂しそうな、だけど優しい笑顔を御坂は向けた。まるで……死に際の美琴みたいに。

「分かった……」
「……ありがとう。そうだ、二人の名前聞いてなかったっけ。なんていうの?」
「……白井……黒子でございます」

嗚咽しそうになりながらもそれを我慢した声で白井は自己紹介をした。

「しらい、くろこ。うん、素敵な名前ね。貴方は?」
「上条、当麻」
「えっ?」

俺の名前を聞いて、御坂の様子が変わった。

「トウマ……君?」
「……えっ?」

初めて会ったはずなのに、御坂はどうもそうではないみたいだ。俺は小さい頃の
記憶を失ってるから分からないけど。

「そっか、トウマ君か……」

よく分からないながらも、御坂のその嬉しそうな顔からして何かあったってこと
は分かる。やがて、御坂はこちらに向きなおす。

「……二人とも。ありがとう」

そう言った直後、御坂を中心とした球状に電流が流れ始めた。

「御坂様!!」
「……さよなら」

そう告げて、地上へと浮き上がっていった。
241 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:52:20.10 ID:94xgnOlSo
「シェリー。作戦通りに行くぞ!!」
「了解だよ!!」

威勢の良い声で返事をし、シェリーは前にも見たようにチョークで床に何かの文
章と絵を描いていく。そして全てを書き終わって立ち上がると書かれた物が赤く
光り始めると同時に、地面が音を立てながら震え始めた。

「さぁエリス!!私達のために起きやがれ!!!」

そう叫んでシェリーはジャンプした。その直後シェリーの真下が崩れ、そこから
岩石で出来た巨人が姿を表す。

「よし!全員ゴーレムに乗るんだ!!」
「カミジョーとか言ったわね。魔方陣を消した時みたいに、エリスに手を出した
らただじゃすませねぇぞ!!」
「言われなくても分かってる!!」

そうだ。今はとにかく核載戦士を、けりをつけると言った御坂を止めなきゃなら
ねぇ。うだうだしてらんねぇなぁ!!!

全員が巨人の腕や肩に乗ると、エリスと呼ばれる巨人は天井の穴に飛び上がり、
両腕を壁に突き刺しつつ地上へと上り始めた。

「全く、君の魔術を地下で連発されたら落盤が起こりそうだよ」
「なぁにぃステイル。そんなにエリスが嫌なら、自分だけで登ってみな!!」
「やれやれ……」
242 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:52:47.98 ID:94xgnOlSo
苦笑いしながら首を横に振り、ステイルはいつものように煙草とジッポを取り出
す。だが、今回はうまくジッポに火がつかない。ステイルの顔がしかめ始めた時、
横から火がつけられたジッポが差し出された。

「ついてないみたいだな」

同じように煙草を口にしていたスネークさんだった。

「全くだ」

差し出された火種に、ステイルが煙草を近づけて火をつけた。

「まったく。ステイルだけでも煙いというのに、あのおっさんまで喫煙しやがる
とはな」
「良いじゃないですか、シェリー。私はもう慣れていますから」
「そりゃあんたが長いこと喫煙者とコンビ組んでるからでしょ?」
「そうですね」

巨人の左肩に立つシェリーと、その横で片膝を立てて座る神裂。

「おね……御坂さんは大丈夫でしょうか?」

不意に隣にいた白井が俺に声をかけた。

「……分からねぇ。でもなんとなく無理してる気がする」
「上条さんもですか。実を言うと、私も同じ事を感じておりました」
「さっきの超電磁砲っぽい奴もそうだ。これはとっとと核載戦士をぶっ壊さなければ
ならねぇ」

土御門の一言に、俺も白井も頷く。
243 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 07:53:13.99 ID:94xgnOlSo
「う、う〜ん……」

と、土御門の横、ちょうど巨人の右肩で横たわっていた心念制圧がゆっくりと
目を覚ました。その様子を見て白井が眉をしかめる。

「大丈夫なのですか?一度捕虜にしたとはいえ、レベル5の能力者を放っておく
のは」
「ふっふ〜ん、そのへんはバッチリ対策を取ってるぜちっこいねーちん」

少しの間、白井が止まった。

「ちっこいねーちん……それはもしかしなくとも私の事を指しておられるのです
か?」
「んっ?そうだぜよ」
「は、はぁ……」

明らかにひいてる顔をしてるけど、そんなこと土御門はお構い無しのようだ。

「ここは…?」
「目が覚めたか心理掌握。いや、心念制圧っつったか」
「貴方は……あれ?」

心念制圧はこめかみ辺りに自分の左手を当てる。

「心が…読める」
「だからって妙な真似したらいかんぜよ。ここには戦闘のプロばっかりだからにゃ〜」
「……あいにく、上条さんに組み倒された時からそんな気は失せております」

あ、あれ?女性の皆さんの俺への視線が急にヒヤッとしてきやがったんですが……
俺は何も悪い事はしてないしてませんする気もありません三段活用?!

「ふふっ、自業自得。ですよっ」

……久々にこの言葉を使いたくなってきた。

――不幸だ…。


                              −第15部・完−
244 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:02:03.88 ID:94xgnOlSo
「……そうですか。核載戦士はもう」
「あぁ。今、御坂……いや、ディープスロートが後を追ってる」
「……御坂深琴さん、ですね」
「ご存知だったのですね?」

戦意喪失した捕虜、心念制圧にも今までの出来事を説明した後。彼女にも御坂深琴と
の接点があることが分かった。

「ええ。操車場ではお互い敵として考えていましたが……元々、深琴とは友人だった
んです」
「どういうことだ?」
「……少し話が長くなりますが、かまいませんか?」

少し眉をしかめて俺を見る心念制圧に俺は即座に頷いた。
もう少しで地上に出ようとしていた時、俺達は想像を絶する御坂の過去を知ること
になる。
245 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:02:59.15 ID:94xgnOlSo
深琴は元々郊外のごく一般の家庭に生まれた明るく、素直な女の子だったらしい。
だが幼い頃から電撃を発する能力があったそうだ。その情報をキャッチした学園都市は
小学校に入る前の深琴を招待し、あらゆる能力強化を受けた。この辺りは美琴も同じだった
って聞いたことがある。だがちょうど中学に入る直前、ある科学者が深琴の元にやってきた。

『こ、これほど素晴らしい能力を残しておく訳には行かない。ぜ、ぜぜ是非私の研
究に協力してくれないか?』

研究の詳しい事をその時には聞いていなかったが、深琴は何も問題はないと踏んで
即OKを出した。

「……その頃から深琴は何故か暗い性格になっていきました」
「理由はよく分からなかったのか?」
「ええ。その時にご両親の訃報もなかったので、どうして性格が変わったのか本当に
分かりませんでした」
「その辺は超電磁砲って呼ばれてた姉ちゃんにも関係してくるんじゃないか?」
「はい。最も、それが理由だったと知ったのはつい最近のことでしたが……」

深琴に協力を依頼した人物。
そいつの研究は、『高レベル能力者が持つ能力の恒久化の実現』。つまり……超能
力者のクローンを創りあげる事だった。そうしてソイツは深琴のDNAから、一人
のクローンを生み出す。

「それが……お姉様だったのですね」
「はい、その通りです」
「けどクローンが生まれたからってそれがオリジナルにとって変えられるなんて変
な話じゃないか?」
「……ええ。ですが、彼女自身から聞けたのはここまでです。その先はいつも話し
てくれませんでした」
「……フルチューニング」

土御門が聞いたこともない単語を呟いた。

「なんだそれ?」
「ミサカ00000号(フルチューニング)。妹達の中で最初に生み出された試作型の奴がいる
って話は聞いたことがある。最も、その後突然行方不明になってその存在すら都市伝説扱い
されてるみたいだが」
「じゃあ何か? お前は美琴がそのフルチューニングだって言いたいのか?」
「あくまで可能性の話だ」

そこまで断言はしない、と言いたげに苦笑いを浮かべながら土御門は言う。
246 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:03:28.30 ID:94xgnOlSo
「……それと、この話にはまだ続きがあるんです」
「続き、ですの?」
「はい。ここからは私が実際に見聞きした話ですが―――」

心念制圧だけでなく、たくさんの友達と楽しそうにしていた深琴が一変して独りで
いることが多くなった。それでも変わらずに彼女と接していた心念制圧。深琴の方
も親友にだけは変わらずにいた。が、ある日。いきなり深琴から『もう私にかまわ
ないで!!』と拒絶の意思をぶつけられた。

「私達はずっと一緒だ、一生親友だって思っていたのに、本当に何の前触れもなく
言われました……」

徐々に心念制圧の眉がしかめてきた。

「その時は何が起こったのかも分からず、深琴に聞いても答えてもらえませんで
した。でもどうしても私を拒絶する理由を知りたくて、自分で調べてみたんです。
……まさかあんな事になっていたなん――」
『た、大変だ!!ZEKEの行き先が分かったぞ!!!』

突然鼓膜にオタコンからの怒声が響き、思わず顔をしかめてしまった。

『場所はどこだ?』

静かにタバコを吸っていたスネークさんが慌てるオタコンに影響されることなく
喋りかける。

『もし核載戦士がこのまま直進していくと、第10学区の原子力施設に向かっている
ことになります!!』
「なんだって?!」

初春さんからの衝撃の報告。核載戦士はさっきも見たように空を飛ぶことも出来
る。まさか地上に出てから飛ぶのを止めるはずがないし、空だったらほとんど障
害物もない。

『もしかしたらそこから核弾頭を利用するのかもしれません!!』
「バカな!!一つ間違えばこの学園都市どころか日本中が放射線にさらされるぞ!」
『あぁ!だが、もし成功して他の国に核が落ちたら……』
『全面核戦争が……勃発する』
247 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:05:37.09 ID:94xgnOlSo
全面核戦争(最悪のシナリオ)。広島や長崎に落ちた原爆よりさらに強力な物が、
世界中に、それまでの兵器と同じようにためらいなく落とされる戦争―――。急
激に喉が渇き、背中に嫌な汗が出てきた。

『と、とにかく!取り返しがつかなくなる前にZEKEを止めてくれ!!』

けど向こうが空路に対してこっちは陸路しかない。どう考えてもこのエリスでは
追いつけない。どうすれば――――。考えを巡らせていると、いつの間にか大通り
の手前にまで巨人は辿り着いていた。だがそれに気づいた瞬間、前がいきなり眩し
くなる。とっさに目をつぶり、右腕を顔の前にあげて眩しさをやわらげる。

「なっなんだ?!」
『止まれ!そこを動くな!!』

光の方向から、拡声器越しの声。大通り一面に車を止めた黄泉川先生達警備員だった。

『昨日はよくもなめたマネをしてくれたじゃん? それ相当の報いを受けるって
覚悟は出来てるじゃん?!』

先生の一言で、警備員の持つ銃が俺達に向けられる。

「全く、僕達は今それどころじゃないっていうのに……」
『こっちは重傷者だって出てるじゃん!!それにやられっぱなしじゃあこっちの
気がすまないじゃん!!』

最悪だ。ステイルの言うとおり、今警備員と相手してたらそれこそ取り返しのつ
かないことに―――。
248 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:06:04.15 ID:94xgnOlSo
『――こち――空中――ダメだ――』

拡声器越しに、警備員の無線が聞こえてきた。

「空中……」

何が原因かはすでに分かりきっていた。核載戦士だ。

「先生!話を聞いてくれ!!」
『お前?!子萌ん所の!』

岩の巨人から飛び降り、警備員達の方へ叫ぶ。黄泉川先生も無線から気をこっちに
向けてくれた。

「今学園都市の上空に、恐ろしい兵器が飛んでる!!」
『それはもうこっちも把握してるじゃん!!』
「ならなおさら聞いてくれ!!そいつは原子力の施設に向かって飛んでる。目的は
そこにある核だ!!」
『か、核だって?!』

聞き慣れない、だが日本人なら誰でも知っているその言葉を聞いて先生以外の警備
員達がうろたえ始めた。

「あぁそうだ!そいつは武器としての核だけじゃない。研究や発電に使われてる原
子力だって核弾頭にして打ち出すことが出来ちまう!!」
「考えてくれ!空だって飛べる二足歩行のロボットがほうしゃのう持ったもんをど
っからでも、どこにでも核を落とすんだ!!それは、この学園都市だって例外なん
かじゃねぇ。学園都市の平和を守るアンタらがそれを見過ごしても良いってのかよ!」
『……っ』

そこで俺は一つ呼吸を置いた。

「俺達が警備員にケガさせちまったのは謝ります。でも今この状況を見逃したら怪我
どころじゃない。たくさんの、何の関係もないはずの人達が犠牲になっちまうんです。
家族や友達……恋人を失ってしまう悲劇が何万何千と起こるかもしれない」
「それをただ放っておくなんて真似は俺には出来ない!だから、だから俺はその引き金
になりかねないアレを止めなきゃならないんです!!」
「お願いです、俺達を行かせてください!!!」

叫んだ勢いそのままに。俺はひざまずいて額を地面に叩きつけた。これで何が起きてる
かを見ることは出来ない。後は聞き手がどうするかだけだった。
249 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:06:36.21 ID:94xgnOlSo
『フッ……』

聴覚を研ぎ澄ましていた所、初めに聞こえて来たのはため息だった。

『分かった。アンタの事情はそれなりに聞いてるじゃん。なんで無能力者のアンタが狙
われなきゃいけないんだって思ってはいたけど、そういうことじゃん?証拠はまだ出し
てもらってないけどここはアンタの言うこと、信じてみるじゃん?』
「せ、先生っ!」

最高の返答に俺は顔を上げた。だが次の瞬間、拡声器がハウリングを起こす。聞き心地
などあり得ない位の音量に、思わず目をつぶって耳を塞ぎそうになる。

『けどな!!!それはお前達を無罪放免にするってわけじゃないじゃん!それを忘れない
じゃん!』
「はい!!」

俺は威勢良く返事をした。それに満足したんだろうか、黄泉川先生がこちらに背を向けた。

『よし!全員聴け!!これより取り締まる目標ををあの化け物に変更し、それまでこい
つらと共同戦線を組むじゃん!!異論はないじゃん?!』
「「「ありません!!!」」」

学園都市が誇る警備員達の、寸分狂いもなくハモった声が鼓膜に響く。
250 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:07:02.54 ID:94xgnOlSo
「お見事だにゃ〜交渉人カミやん」

俺の左肩に土御門が寄っかかる。なんというか、素直に嬉しそうな声だった。

「良い大演説を聞かせてもらったぞ、『戦場をかける交渉人』」

その反対側、つまり右肩にスネークさんの手が乗せられる。

「そんな……大演説だなんて。俺は単に俺が思ってることをぶちまけただけですって」
「いや、違うな。少し前のお前さんはただ自分の主張が正しいという事を相手に強制
させようとしていただけだった。それが例え善、正義だったとしてもやってることは
奴隷に対する命令と何も変わらない。だがさっきのは違った。何よりも違ったのはな、
トウマ。お前さん自身が非を認めたからだ」
「警備員達に怪我させた事、ですか?」
「あぁそうだ。自分の意見を押し付けてばかりだったお前さんには自分が犯したミス、
無礼、過ちを省みようともしなかった。さっきの交渉、初めはそんな感じだったが、
お前さんが深呼吸してからはガラリと変わった。相手に思い込ませるんじゃない。相手
を納得させる。交渉で最も重要な事をやってのけたんだ。一流の交渉人ここに誕生だな」

一流なんて言われても実感はわかず、照れくさくなってくる。けど認めてもらったんだ。
一言言わないと。

「ありがとうござい―――」

その時だった。突然コール音が鳴り響く。俺達はすかさずスピーカーに注意を向けた。

「こちらスネーク。どうしたオタ―――」
『す、スネークさん!!上条さん!!大変です!!!』

かけてきたのは核載戦士の動向を探っていた初春さん達だった。

「どうしたんだ?なにかあった?」
『―――さらにまずいことになった』

今度はオタコンの声。二人とも明らかに声が震えている。

「ZEKEが施設の近くに?!」
『いや、スネーク。それだけならまだ良かったかもしれない』
「それだけ? 一体どういうことぜよ?」
『確かに、核載戦士は目標の原子力施設近くの広い空き地に到着したようです。ですが、
その近辺に人影が……』
「人影?! 風紀委員は一般人の避難をさせたんじゃないのか?!」
『あぁ。どうやら首脳陣はZEKEを確認してからすぐに全区域に避難命令を出してる。
それにここに来る情報によれば避難率はかなり高い。でもたった一人避難してないの
がいるんだ』
251 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:08:06.13 ID:94xgnOlSo
……まさか。

「オリジナル……」
『えっ? ツチミカド、今なんて?』
「オタコン。今その人影に強力な電磁場が確認できるか?」
『そうだけど、どうしてそれが?』

そこでスネークさんも気付いたようだ。

「まさかさっきZEKEを追っていった……」
「あぁ、間違いない」
「御坂深琴が……終わらせようとしてる」

あの兵器を生み出してしまった責任を果たすために。

『み、御坂さん?! どうして御坂さんの名前が?!』

『いないはずの御坂』の名前を聞いて初春さんがさらに慌てている。

「その事は後でゆっくり話すよ!! じゃあ今からそこに向かう!!!」
『あっ、上じょ―――』

強引に無線を切って俺は警備員達の方に駆け出した。
252 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:08:33.96 ID:94xgnOlSo
「現在あの化け物がいる地区には空中部隊もいるが、さっきの無線の通りほぼ無力じゃん」

警備員の護送トラックの中。スピードが出ているのかかなりゆれている。その中でも
黄泉川先生は何ともなさそうに車内にあるテーブルに置かれた地図に指していた。

「一般市民の避難はほぼ完了。風紀委員と我々が出動、と行きたかったが新米達が現在
行方不明。混乱してるせいであまり期待は出来ないじゃん」
「申し訳ありません……」

風紀委員という言葉を聞き、白井が眉をしかめながら先生に頭を下げる。

「別に白井のせいじゃない。おそらく相当用意していたんだろうじゃん、奴らも」
「……はい。大々的に告知していた計画の裏に起きた事ですから、おそらく理事会も手中
に」
「弱ったじゃん。これじゃあ私達がやってることは裏切りになっちまうじゃん」

じれったそうに黄泉川先生は髪をワシャワシャとかきむしる。と、その横にいた人が
彼女に対面する。

「で、でも。私達しか真実を知らないのですから私達がやるしかありませんよ」

メガネをかけ、髪を後ろに長く結んだ女性。……あれ?なんかどっかで見た事があるような
気がするけど、どこだったっけ?

「……そうじゃん。鉄装の言うとおりじゃん」

結構おどおどしながらのてっそうさんの発言に黄泉川先生もふっと笑みをこぼした。
253 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:08:59.78 ID:94xgnOlSo
「で、戦況確認じゃん」

だがすぐに厳しい表情に戻った。

「私達警備員はここにいるだけで20人弱。武装は64式7.62mm小銃、AT4、
MK3A2手榴弾にスタングレネード。AT4は一部だけだが、それ以外は全ての警備員
が常備してるじゃん」
「じゃあおっさんに用意した武器を紹介していくじゃん。まずはコルト・ガバメントに
M4アサルトライフル、それからRPGとスティンガー、あとはモシン・ナガンだにゃ〜」
「……だてにダンディーな兄ちゃんは修羅場をくぐってないじゃん」
「フッ、まぁな」

黄泉川先生がスネークさんに対して不敵に笑った。

「あとトウマにベレッタM1951を渡しておいた」
「ほ〜、カミやんも学園都市でガンマンになってたなんてにゃ〜」
「気持ち悪い言い方するんじゃねぇ。これは護身用だし、まだ発砲してもねぇよ」
「……非常時だから仕方がないけど、むやみやたらに使うじゃないじゃん」

ため息をついた黄泉川先生が俺に釘を刺した。

「分かってます。俺だって撃ちたいなんて思いたくもない」
「ん。それならいいじゃん」
「相手はあの機械だけじゃないかもしれませんからね……」

ふと、鉄装さんが俯いた。

「いくら学園都市の治安の為とはいえ学生に銃を向けるなんて」
「心配はいらない。業者に怒鳴り込んでゴム弾を用意してもらった。バズーカやグレネード
を使わない私らは最悪気絶させるだけですむじゃん」
「そ、そうですか。よかった……」

心底安心したみたいに、てっそうさんはほっと胸を撫で下ろした。それより俺は、
黄泉川先生の発言にあることを思い出していた。
254 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:09:26.60 ID:94xgnOlSo
学園都市にいた頃の俺は周りから『説教』と言われる位に自分の思いをぶつけ、それを
無理に押し通してきた。ステイルや神裂、シェリーに美琴……例外はあったがその説教
相手の思いを捻じ曲げちまってきた。そんな悪い癖は『学園都市(ふるさと)』を離れ
ても同じだった。けど……そこに起きてしまった美琴の死。俺はそれまで説教すること
で相手を納得させることが出来たなんて思い上がっちまってたけど、あの悲劇が起こっ
た後俺はどれくらいか分からないくらい後悔していた。全員を助けたい。その思いであ
そこまで来たのに俺は結局一番守りたい存在を守れなかった。だけど、土御門も言って
いた。

「デカい事をやるためには、多少の犠牲は仕方ない。けどそれにいちいち構ってたら目
標にはいつまでもたどりつけない」

見方を変えれば死んだ奴に対する冒涜かもしれない。だけど、ここでちゅうちょしてい
たらもっとたくさんの、それこそ全世界の人々が死んでしまうかもしれない。そう考え
たらいつまでも美琴が死んだからって落ちぶれていられない。それに……美琴ではない
けど、あいつはまだ死んでない。

『あと5分ほどで目的地に到着。全員用意されたし。繰り返す―――』

運転していた警備員からのアナウンスが聞こえてきた。

「よし。じゃあ全員準備するじゃん。……今から私達は『最終戦争(ハルマゲドン)』
を食い止める使者になるじゃん!」

警備員隊長の号令にその場にいた全員が頷いた。
255 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:09:53.25 ID:94xgnOlSo
時刻は分からない。だけど、学園都市にはもう朝日が挨拶を済ませていた。到着した車
から出た時に眩しさに目をつぶりそうになるが、それを我慢して走った。そして、

「御坂っーーーー!!」

俺はもう会えないだろうと思っていた奴と瓜二つの人の名前を叫んだ。御坂深琴と美琴
(核載戦士)が対峙していたのは何か大きな施設があったであろう広い空き地。あちら
こちらから煙が挙がっていた。そして目の前に原子力施設がある。それに背を向ける形
で深琴は立ち塞がっていた。

「ど、どうして?!」

俺達の存在に気づき、深琴は目を丸くしながら叫んだ。……本気で一人で片付けような
んて考えやがってたのか。

「これはおね……御坂様の問題でもありますが同時に学園都市、いえ世界全体の問題で
もあります!私達も加勢いたしますわ!!」

横にいた白井が言いたかった事を全部言ってくれた。

「全員!目標はあの機械の化け物じゃん!!あの女の子に一発でも当てたら―――」

警備員隊長の号令がかかっている時、突然どこからともなく甲高く単調な音が鳴り出
した。

「なっ、なんだこの耳障りな音は?!」

周りを見回して音源を探していた時。白井が力が抜けたように膝から地面に落ちた。

「し、白井?!」
「こ、これは……キャパシティダウンですの。でもどうして」

聞き慣れない単語に思考を巡らせていた時、無線の呼び出し音が鼓膜に響きだした。

「こちら上条!」
『トウマかい?!今そっちからキーンって音が聞こえるね?!』
「そうだけど、それがどうしたんだ?」
『それはキャパシティダウンと言って能力者の能力を使えなくする学園都市が開発した
装置です!』
「……で、ですがキャパシティダウンはスキルアウト内の能力者への対策として警備員
に配備されたはずでは?」

顔をしかめながら白井が説明を加える。ってことは警備員の中にも―――
256 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:10:21.75 ID:94xgnOlSo
「……ZEKEか」
「えっ?」

俺達の真後ろにいたスネークさんが呟いた。

『そうだ。その音はここにも聞こえてきてね。どこが音源なのか調べてみたんだ。……
音源はZEKEの中にある』
「そ、それでは御坂様は……あっ!!」

白井の予想通りだった。能力者である御坂深琴も地面にへたり込んでいた。それを好機と
ばかりに核載戦士は前に、つまり原子力施設へと足を進め始めた。

「くっ!撃ち方始め!!!」

直後、横にいた警備員達の一斉射撃が始まった。全部とは言えないが、ほとんどが目標に
命中してはいる。が……

「びくともしておりませんの……」

生身の人間はおろか、ヘリだって蜂の巣どころではないはずなのに。核載戦士はまるで何
も起こっていないかのように平然と歩いている。

「なら!重爆撃班用意!!」

今度はAT4を担いだ人達が構えだした。

「てっーーー!!」

合図と同時に全てのAT4が発射された。一直線に核載戦士に向かっていった弾丸は全て
が命中し、核載戦士も歩みを止めた。

「よし!次だ!!」

だが……

『目的達成ヘノ害虫ヲ確認。目標ヲ変更シセン滅ヲ最優先トシマス』

あのアナウンスと共に核載戦士はこちらに向き出した。

『キャパシティダウンノ効果ハホボゼロと確認。コレヨリ「超電磁砲」ヲ使用シ、敵ヲ
セン滅シマス』

そして、さっき見たように核載戦士の右肩から電流が空中に放たれ始めた。まずい!

「黄泉川先生!早く逃げろ!!」
「な、何を言ってるじゃん?!これからが勝負だって時に!!」
「早く逃げてくれ!!でなきゃあんたらは一瞬で灰になっちまうぞ!!!」
「なっ?!どういうことじゃん?!」

ダメだ、そうじゃない!早くここから逃げてくれ!!説明してる暇なんてねぇんだよ!!!
257 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:10:49.32 ID:94xgnOlSo
『充電率30パーセント。目標、警備員部隊。ロックオン。発射マデ10秒』

10秒しか時間はない。全員が逃げ切れるにはとてもじゃないが少なすぎる。

「くそっ!」
「あっ、上条さん!!」

間に合うかどうか。それはおろか、間に合ったとして攻撃にどう対処すればいいのか。
そんなことを考えることなく俺は走った。考えるより先に足が動いていた。

『発射5秒前―――』
「させるかよぉぉぉぉ!!」

核載戦士の右肩の上を舞う電流がさらに大きくなる。

『3、2、1―――』
「くっ!!」

ギリギリの所でなんとか核載戦士と警備員の間に割って入れた。そしてとっさに俺は
右腕を前につきつけた。

『発射(ファイア)』

もうだめかと目を閉じる寸前。誰かが俺の前に立ち塞がった。その直後、轟音と共に
超電磁砲は発射された。しかし、俺はおろか後ろからも衝撃や音がしない。どういう
ことか確かめるために目を開くと、

「ハァ、ハァ……無茶は。しないでよ、もう」

肩で息をしながら両手を横に突き出した深琴がいた。

「どうして―――」
「超高速で発射される超電磁砲の弱点は他の磁場に影響を受けやすいことにある。だ
から私が今こうしてここに立って私の中に電流を流して磁場を作った。その磁界がさ
っき発射された超電磁砲の軌道を反らしたってわけ」
「で、でもキャパシティダウンってのが―――」
「私も『常盤台の超電磁砲』と同じ超能力者なの。あれくらいで封じ込められるわけ
ないもの」

―――こういう所は美琴(クローン)と同じってわけか……。

「なんにせよ助かった。ありが―――」

感謝のために頭を下げ、上げなおそうとした瞬間。俺の右頬にキツイ一発がお見舞い
された。
258 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:11:22.56 ID:94xgnOlSo
「……えっ?」

前を見ると、左腕を振り上げている深琴。……わずかながら目が潤んでいる。

「感謝される覚えなんてない!!」

潤んだ目をぎゅっと閉じ、俺に向かって叫ぶ。

「どうして貴方は、トウマ君はいつもいつも自分自身の危険を顧みずに突っ走ったり
するの?! どうして無茶ばっかりするのよ!!」
「っ――」

―――確か、同じような事を美琴(アイツ)にも言われたことがあった。あの時は次
にこう言われたな。


「「心 配 す る 私(ア タ シ) の 身 に も な っ て よ !!」」


一瞬だけ、深琴と美琴がかぶって見えた。あの時は逆切れしちまったけど、今はこう
するしかないですか。そう思い立ち、俺は笑みをこぼしながらミコトの頭に右手を置
いた。

「それはお前も同じだろ?」
「……えっ?」

突然何をされたのか分からない、って感じにミコトは目をぱちくりさせた。

「白井も言ってたじゃねぇか。あの核載戦士は深琴が生み出したものだけど、今はも
うお前だけの問題じゃねぇ……今までお前には仲間なんていなかったかもしれねぇけ
ど、よく見てみろよ」

そう言って後ろを振り返る。そこにいたのは全員笑顔を浮かべ、中にはサムズアップ
を決めている俺達の『戦友』達。

「なっ?もうお前は独りなんかじゃない」
「トウマ、君……うん」

すでに涙を流していた深琴だったが、頷いた後の彼女はもう笑顔を取り戻していた。
259 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:13:09.91 ID:94xgnOlSo
「さて―――」

一呼吸置いてから核載戦士に目を向けなおす。

『超電磁砲発射の影響ニヨルシステムリブート完了。目標ヲ固定。セン滅ヲシマス。
武器ノ変更ヲ―――』

超電磁砲は深琴のおかげで使えないも同然。けど、それだけが奴の武装なわけがない。

「どうするの?」
「どうするっつっても―――」

―――待てよ?

「御坂、あの核載戦士には美琴のデータがあるんだよな?」
「えっ、そうだけど……」
「……賭けてみるか」

一呼吸置いて呟き、俺は核載戦士に向かって歩き出した。

「っ!? トウマ君?!」
「大丈夫。なんとかなる」

そんな保障なんてどこにもなかったが自然にそう口にしていた。何歩か歩いてから立ち
止まり、俺は奴に向かって叫んだ。

「おい、ミサカ!!」

もちろん奴からの返答なんて期待もしていない。

「俺だ!上条当麻だ!! 聞いてくれ!!!」

そこでまた一呼吸置いた。

「お前はもう死んだと思ってた。けどまだお前はその機械の中で生きている!そうだろ?!」
『……武装ノ状態確認、完了』
「生きてるんだったらよぉ! もうこんなことするのはやめてくれよ!!」
『目標、カミジョウトウマ』

―――やっぱりダメなのか。諦めかけたその時。
核載戦士の左肩から爆煙が上がった。それも断続的に2回。

「っ?!」

弾が飛んで来た方向に首を回すと、スネークさんと土御門がバズーカ砲を構えていた。

「援護は任しとけ、カミやん!!」
「トウマ、今のでレーダーは潰した!!無茶はするなよ!」
「は、はい!」

よく見ると、そのレーダーのような物から電流が漏れ出している。

『レーダーノ不能ヲ確認。スコープニヨル視認ヲ開始シマス』

次の瞬間、空気の抜ける音の後にハッチらしき物が開きだす。

「っ?!」
「そ、そんな?!!」

そこにいたのは―――

「な、なんてことだ……」
「ど、どういうことじゃん?」
「お、お姉……さま?」

そこには、漫画でしか見た事のないような人間一人が入る大きさの試験管。
その中に何かの液体に満たされた一人の女の子。肩から下は曇りガラスで
よく分からないが、オレンジ色の髪に挿した見覚えのある花の髪留め。

「そ、そんな――」

膝に力がなくなり、そのまま地面に落ちた。

「これが……核載戦士量産計画の真相よ」
「なんで、なんで美琴がいるんだよ!!!!」

まぎれもない御坂美琴。核載戦士にはデータだけでなく、美琴そのものに同化しちまっていた。
260 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:15:03.00 ID:94xgnOlSo
「私も初めて実際に見るけど……知りたくもなかった」
『クライアントノ目覚メヲ確認。脳波ノトレースヲ開始シマス』

死体であるはずの美琴(クローン)がまぶたをゆっくりと開き始めた。

『トウ……マ……』
「なっ?!」

それまで無機質で英語を話していたアナウンスから、忘れるはずもない
口調に変わった。

「あれが貴方のクローンなのね、深琴……」
「ええ、そうよ」

いつの間にか隣には心念制圧も立っていた。

「そう。あれが御坂美琴……私のフルチューニング」
『やっぱり……か』

開きっ放しだった無線が土御門の呟きを拾った。

「つくづく呪われてるわ、私達」
『当麻……なの?』

み、こと―――。

「ダメッ!あれはもう貴方の知ってる美琴なんかじゃ―――」

深琴が俺に向かって叫んでいるが、それに耳を貸すことなく再び俺は
核載戦士に近づいていった。

「美琴。本当にお前……なのか?」
『アタシ以外に誰が―――』

親しみのある憎まれ口が叩かれようとした時、前を見た美琴の目が大きく
開かれた。

『っ?!』
「美琴?」
『……誰?』

後ろに俺も振り向いてみると、そこにいたのは深琴(オリジナル)。

「あぁ、アイツは―――」
『どうして……?』

―――なっ、なんだ?
261 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:15:40.00 ID:94xgnOlSo
『どうして私がそこにいるの?!』
「何言ってるんだ、おま―――」
『妹達(シスターズ)でも、打ち止め(ラストオーダー)でもない。どうして私が
そこにいるわけ?!』

―――どういうことだ? まるで深琴の存在を今まで知らなかったような
感じだけど。

『当麻!騙されないで!!』
「な、何言ってんだいきなり」
『あいつは……そこにいる「アタシ」はアタシじゃない!!』
「そりゃ確かにそうだけど」
『アタシはアタシしかいない!そこにいるのは偽者よ!!』

この時は何故か俺は落ち着いていた。

「お前の言うとおり、あそこにいるのは御坂美琴じゃあない」
『そうよ! そうに決まって――』
「だけど、アイツも正真正銘の『ミサカミコト』だ」
『えっ?!』

交渉ってのはただ相手をひれ伏させるんじゃない。客観的な事実を元に相手の思考を
封じ込ませることが重要だ。

「あいつの名前はお前と一字違いの『御坂深琴』。お前の『美』って字がアイツの場合『深』って字なんだ」
『……』
「そしてもう一つ。アイツはまぎれもなく美琴のお姉さんだ」
『なっ―――』

そう、客観的事実をつきつければ相手は何かしらひるみ始める。そこからが本番だ。

「お前から『妹達』が生まれたように、お前自身も深琴から生み出されたクローン」
『いや、それ以上言わないで……』
「俺もさっきまで知らなかった事だけど……美琴。お前は『常盤台の
超電磁砲』だけど、オリジナルなんかじゃない」
『いや、いや―――』
「そこにいるのも、死んだはずのお前とこうして会話が出来たのも全
部―――」
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

突如。電流が撒かれはじめる。

「っ?! 美琴!?」
『私がクローンなわけない!!ちゃんと幼い頃の記憶だってある!!
それが全部作られた物だって言うの?!』
「落ち着け!! まだ話は―――」
『もういいわ……』

―――しまった。 交渉としては最悪のルートにたどり着いちまった。
262 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:16:09.37 ID:94xgnOlSo
それは、交渉される側が逆上すること。こうなっちまったらもう交渉
どころじゃねぇ。

『そこにいるアタシの偽者を倒せばいい……』
「っ!? やめろ、美琴!!そんなことしたってお前はもう―――」
『うるさいうるさいうるさいうるさい!!!』

核載戦士の、ちょうど腰元あたりに着いている機関銃。それが発砲され
始めた。

「うっ!! 美琴!!!」
『アタシは今まで一人で超能力者になった。恋人だって手に入れた』
『それを邪魔する人はみんな―――』

『ア タ シ が 殺 す』

―――くそっ。

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
「トウマ君、危ない!!」

先ほど乱射されていた機関銃の弾が俺に向かって一直線に地面を蜂の巣に
しつつ放たれ始める。
交渉人の失敗、それすなわち死。最悪の終わり方なんて―――

「してたまるかっ!!」

とっさに右側に飛び出す。受身を取った頃にはさっき俺がいた場所にも銃
弾が命中していた。

『殺す殺す殺す殺ス殺スコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコ
ロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコ
ロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコ
ロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコ
ロスコロスコロスコロスコロス―――』

まるでさっきまでの美琴じゃないくらい、今の美琴の目には力が入ってい
なかった。

「……いいぜ」
「てめぇがみんな殺してやるって言うんなら……」
「まずはそのふざけた考え方(幻想)をぶち殺す!!!」
263 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:16:55.50 ID:94xgnOlSo
『上条さん!今の核載戦士はレーダーが使えません。よって後方からの攻撃に
集中してください!!』
「分かった!!」
『トウマ!陽動は俺たちに任せろ!!』

無線越しに轟くスネークさんの怒号と共にRPGの砲弾が打ち出される。高速で
目標の核載戦士に向かっていった。だが衝突する直前、電流によって砲弾は弾
けた。

「ありゃ〜……これはまずいにゃ〜」

額から汗を流しているかのように少し声が震えている土御門。すぐに奴とスネーク
さんは同時に左右に散開した直後。元の場所に眩いほどの電流が炸裂した。その場に
いた全員があまりの眩しさに目を閉じる。

「くっ!!」

目を開けると、そこの地面が焦げている。

当たればいっかんの終わり、か……

「逃さない!!」

人が変わってしまった俺の恋人は、そう叫んでから核載戦士に搭載されているガトリング
を回転し始めた。

「あたしの邪魔をするやつは……みんな殺す!!」

――無意識に右手に力が入ってしまった。

「おやめくださいお姉様!!このような事をしても誰も喜ぶはずがありませんの!!」

悲鳴のような声で白井が叫ぶ。白井も俺と同じように、変わってしまったアイツを見て
いられないのだろう。

「邪魔するなぁぁぁぁぁ!!」

ガトリングが火を吹き始める。

「みんな逃げてっ!!」

深琴の合図で4人が一斉に、バラバラに逃げる。俺は右に、白井と心理掌握は左に、
深琴は自らの能力を使ってバリアを張ってやり過ごした。だが銃弾は深琴よりさらに
後方に傷跡を残していく。

「くっ、全員散開じゃん!!」
「「「YES, MA'AM!!!」」」

隊長の一声で何十名もの警備員達が一斉に散らばる。銃の嵐はそのまま直進していき、
俺達を載せた警備員の車両を粉砕していった。
264 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 08:18:13.51 ID:94xgnOlSo
とりあえず一旦打ち止め〜ってその前にミスってたorz
>>262-263の間に追加



昔やっていたように、殺戮兵器と化してしまった美琴に俺は右腕を突きつけた。

「私も!!今のお姉様はもう私の知っているお姉様ではございませんの!!」

ふっと白井が音もなく突然現れた。

「白井っ?!大丈夫なのか!?」
「キャパシティダウンはお姉様……いえ、御坂美琴様が目を覚ます時にすでに
装置は作動していないみたいですの」
「えぇ! 私もあちらさんの次の一手が手に取るように分かります!!」
「こっちも万全ね!」

白井、心念制圧、深琴の順に準備は万端だと告げてきた。

「上条君。今はもう『心理掌握(メンタルアウト)』ですよ?」

――さいですか。

『トウマ、聞こえるかい?!』
「オタコンか?」
『あぁ、電波妨害も止まったみたいだ。いよいよ最終決戦というわけだね』

最終決戦――

「余計な事は考えないで」

不意に心理掌握から声をかけられた。

「えっ?あっ、あぁ悪い……」
「今のあの娘は貴方の知ってる子じゃない。それだけ考えてください。ね?」
「……分かった」

前の俺なら普通に薄気味悪く思っただろう。けど、今の俺に彼女なりの心遣い
に隠しながらも感謝をした。

「うふっ、どういたしまして。でも……薄気味悪いってひどいと思いますよ?」

……とりあえず、他の事は考えないようにするか。
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 12:31:20.56 ID:Vvdk1CVIO
乙かれン
もしかしてこのまま最後まで行く気か?
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 13:16:40.86 ID:2Qz//czuo
長丁場乙。
いよいよ物語りも佳境に迫ってきたかな。
267 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/27(日) 19:50:46.45 ID:94xgnOlSo
書きためるため当分の間投下はなしのお知らせ
そして乙ありなんだよ!

>>265
前はこの辺りで/(^o^)\だったから終わらせるんだよ!

>>266
こっからどうすべきか正直悩んでるorz
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 22:07:14.17 ID:2Qz//czuo
>>267
気長にまってるぜ〜。
269 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/02/28(月) 20:16:33.94 ID:pMuzBLOko
あぁ、唐突に全くジャンルが異なるSSが書きたくなる病気が発症してしまったorz

両立できっかなw
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 22:07:06.63 ID:Kwn1ZxXEo
おい
連れてってくれよ
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 00:49:02.93 ID:R0xP+36AO
乙かれ!

出来ればフルチューニングの美琴さんに救いを……
272 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 16:44:04.55 ID:QMXbsaaIo
とりあえず、こっちを終わらせてから書くんだよ!!

ってことでさいか〜い
273 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 16:45:05.61 ID:QMXbsaaIo
『上条さん!今の核載戦士はレーダーが使えません。よって後方からの攻撃に
集中してください!!』
「分かった!!」
『トウマ!陽動は俺たちに任せろ!!』

無線越しに轟くスネークさんの怒号と共にRPGの砲弾が打ち出される。高速で
目標の核載戦士に向かっていった。だが衝突する直前、電流によって砲弾は弾
けた。

『……まずい』

額から汗を流しているかのように少し声が震えている土御門。すぐに奴とスネーク
さんは同時に左右に散開した直後。元の場所に眩いほどの電流が炸裂した。その場に
いた全員があまりの眩しさに目を閉じる。

「くっ!!」

目を開けると、そこの地面が焦げている。

当たればいっかんの終わり、か……

『逃さない!!』

人が変わってしまった俺の恋人は、そう叫んでから核載戦士に搭載されているガトリング
を回転し始めた。

『あたしの邪魔をするやつは……みんな殺す!!』

――無意識に右手に力が入ってしまった。

「おやめくださいお姉様!!このような事をしても誰も喜ぶはずがありませんの!!」

悲鳴のような声で白井が叫ぶ。白井も俺と同じように、変わってしまったアイツを見て
いられないのだろう。

『邪魔するなぁぁぁぁぁ!!』

ガトリングが火を吹き始める。

「みんな逃げてっ!!」

深琴の合図で4人が一斉に、バラバラに逃げる。俺は右に、白井と心理掌握は左に、
深琴は自らの能力を使ってバリアを張ってやり過ごした。だが銃弾は深琴よりさらに
後方に傷跡を残していく。

「くっ、全員散開じゃん!!」
「「「YES, MA'AM!!!」」」

隊長の一声で何十名もの警備員達が一斉に散らばる。銃の嵐はそのまま直進していき、
俺達を載せた警備員の車両を粉砕していき、轟音と共に車から光と煙が上がった。
274 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 16:45:37.02 ID:QMXbsaaIo
『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

さらに銃撃は続く。今度は白井達へと銃口が向けられていった。

「さ、捕まってくださいですの!!」
「ええ!!」

だが狙われたと分かった瞬間、お得意の空間転移で二人は消えていった。

『クッ!!』

続いて陽動係のスネークさん達から再び砲弾が飛び出し、それらは目標の両脚に
炸裂した。

『調子に……乗るな!!』

だがレーダーとは違いビクともしない。それ所か敵の目は完全に二人に向けられ、
同時に超電磁砲から静電気が飛び始める。

『ツチミカド、散開だ!!』
『了解!!!』

それぞれが左右に飛び出した直後。光、爆発、煙そしてえぐられた土が宙に舞う。
ここまで見て、美琴は俺に対して攻撃してこない。じゃあ俺が飛び出せば――

『それはダメです!!』

さっきから開きっぱなしだった無線越しから聞こえてきたのは心理掌握だった。

「なんでだよ?!」
『いくら制御しているのがあの人だとしても、核載戦士には貴方の抹殺がプログラム
されているんです!』
「う、嘘だろ?!」
『いえ、残念ながら本当です。それにいつ制御システムが再起動するかも分かりません。
申し訳ありませんが貴方は――』

――当事者でありながらこの場を眺めてろ、ってことかよ!!

『……その通りです』
「クッ!!」

ふざけやがって……。
275 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 16:46:16.46 ID:QMXbsaaIo
その後、戦闘は1時間以上続き、俺はその間心理掌握の忠告に従って破壊された車両の
後ろ側に避難して事の成り行きを見守っていた。スネークさん・土御門や警備員達陽動係
によりほんの少しずつではあるが核載戦士にダメージが加わり、ついに超電磁砲が吹き飛ば
された。本来ならこれで喜べるんだが、相手はあの『常盤台の超電磁砲(レールガン)』。
そんなモノが必要ないのはこれまでの経験上分かっていたことだ。

「深琴さん危ない!!!」

これからどうなるかを考えていた時。心理掌握からの悲鳴っぽい声を聞いて前を向くとと
核載戦士は御坂深琴に機関銃を向け銃弾を発射していた。

『アンタなんかに……アンタなんかに!!』

対して、電磁波で作ったのだろうバリアーでやり過ごす深琴。

「もうやめなさいこんなこと!!私を倒したってトウマ君はよろこ――」
『アイツの事を気安く呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

その瞬間、核載戦士を中心に稲妻が回り始める。そしてそれはやがてデカイ図体を
包み込んだ。

「おい!逃げろ!!」

とてつもなくヤバい感じがする。そんな嫌な予感がよぎり、立ち上がって深琴に対して叫んだ。

「……私だって彼女と同じ超能力者(レベル5)の電撃使い(エレクトロマスター)よ?
こんなことで怖気付いたりなんかしない」

だが深琴は余裕シャクシャクで、口の角が上がっていた。

『警告、機体ニ損傷ヲ及ボス電流値ヲ感知』

唐突に感情のこもっていない音声が聞こえて来た。

『えっ?!どういうこと?!!』
『クライアントヘノダメージ回避ノタメクライアントノ強制スリープヲ開始シマス』

さっき心理掌握が言っていた事が的中しちまった。

『やっ、やだ!!まだ私には――』
『強制スリープ、開始』

音声の後、美琴が再び機体の中に消えていった。

『い、いや!!当麻!!当麻ぁぁぁぁぁぁ!!!』

恋人の悲鳴が虚しく響き渡り、核載戦士は再び自動操縦兵器へと変わった。
276 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 16:46:50.95 ID:QMXbsaaIo
「なんだ?一体何が起こってんだ??」
『たぶん、JEKEは自身が破壊されるのをためらったんだろう……それにしても
人工知能のような物が搭載されていたなんて、信じられないな』
『オタコン、今はそんな悠長な事を言ってる暇はないぞ!』
『そうだね、スネーク。急いでJEKEを停止させないと』

でもあれだけ攻撃を食らっといて倒れないようなのをどうやって――

『兵器状況ノ確認ノ結果、超電磁砲ノ使用不可ヲ確認。任務続行ハ不可能』

また、機械的な音声。だが今度はこっちにとっちゃありがたい話だ。だが――

『任務……変更』

核載戦士は俺達に背を向け、そのまま前進していった。

『どういうことですの?』
『まずい!!そのまま前進させるな!!!』

スネークさんがどこからともなく新たな兵器を取り出した。さっきのバズーカとは
違ってずいぶんコンパクトだけど、あれでどうやって?

『クッ!!』

それを右肩に掲げたスネークさんは前に素早く走りだした。

『ツチミカド!!援護頼んだ!!!』
『分かった!!』

援護を頼まれた土御門もスネークさんと一緒の兵器を同じように取り出した。その
直後、核載戦士の機関銃が火花を吹き始める。

『そうか!!JEKEは原子力施設の破壊に切り替えたのか!!』
「な、なんだって?!」
277 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 16:58:26.60 ID:QMXbsaaIo
「なんだ?一体何が起こってんだ??」
『たぶん、JEKEは自身が破壊されるのをためらったんだろう……それにしても
人工知能のような物が搭載されていたなんて、信じられないな』
『オタコン、今はそんな悠長な事を言ってる暇はないぞ!』
『そうだね、スネーク。急いでJEKEを停止させないと』

でもあれだけ攻撃を食らっといて倒れないようなのをどうやって――

『兵器状況ノ確認ノ結果、超電磁砲ノ使用不可ヲ確認。任務続行ハ不可能』

また、機械的な音声。だが今度はこっちにとっちゃありがたい話だ。だが――

『任務……変更』

核載戦士は俺達に背を向け、そのまま前進していった。

『どういうことですの?』
『まずい!!そのまま前進させるな!!!』

スネークさんがどこからともなく新たな兵器を取り出した。さっきのバズーカとは
違ってずいぶんコンパクトだけど、あれでどうやって?

『クッ!!』

それを右肩に掲げたスネークさんは前に素早く走りだした。

『ツチミカド!!援護頼んだ!!!』
『分かった!!』

援護を頼まれた土御門もスネークさんと一緒の兵器を同じように取り出した。その
直後、核載戦士の機関銃が火花を吹き始める。

『そうか!!JEKEは原子力施設の破壊に切り替えたのか!!』
「な、なんだって?!」

全面核戦争は免れたけど、今度は学園都市があぶねぇじゃねぇか?!

『……そうだ!!』

俺が背中に嫌な汗をかいていた時、心理掌握が何かに閃いたみたいだ。

『上条さん!!さっきは隠れていてと言いましたが、今度は貴方の番です!!』
「ハァ?!今度はって……」
『イイですか?敵が例え機械でも、中に人間がいます。彼女をもし機械の呪縛から
解くことが出来れば核載戦士を止めることも出来るのでは?』
「確かにそうだけど――」

そんなことをしたら生きていないはずの美琴は……

『貴方が懸念することはよく分かります。でもそれをしなかったらこの街は滅びて
しまいます!!』
「で、でも……」

こんな形であれ、また再会出来た恋人との別れをいまさら惜しんでしまう。

『……それに彼女も貴方の思いを否定してくれています』
「っ?!そんな!!」
『今は耐えてください……これが、これが私達がしなければならない事です』
278 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 17:33:21.67 ID:QMXbsaaIo
奥歯を噛み締め、握っていた右の拳に力が入る。

「……分かった。お前の言う事には従う」
『……ありがとうございます』

目を閉じ、堪える怒りを深呼吸と共に吐き捨てて力を抜く。その間に陽動係は
呪われた機械の捨て身の攻撃を食い止めていた。

「どうすればいい?」
『あの機械から彼女を脱出させなければなりません。あの方々と協力してあの機械の
ハッチを開かせてください』
『分かった!!スネーク、聞こえたね?!』
『あぁ!!やってみる!!アンチスキルもツチミカドも手伝ってくれ!!』
『了解!!』
「了解じゃん!!」
「「Yes,sir!」」

号令と共に警備員達が一斉に動き出す。

「AT4部隊!!構え!!!」

すかさずバズーカを抱えていた奴らが寸分の狂いなく砲門を核載戦士に向ける。

「てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

隊長の合図と同時に全員のバズーカから煙と弾丸が放たれる。弾丸は全部とは
いかなかったがほとんどがハッチに命中し、爆発した。

『……前方ニ敵ヲ確認。コレヨリ――』
「小銃部隊、突撃!!」
「「Yes,ma'am!」」

敵が行動パターンを切り替えようとすると同時に、残りの警備員達が一斉に走り出し、
持っていた銃で攻撃を始めた。しかし、弾が当たっても全く核載戦士に効いている様子
はない。

『殲滅、開始』

止まっていた機関銃が再び猛火を吹き始めた。だがそれを予想していたのだろう、突撃
した人達はその瞬間に左右に展開し始め銃弾の群勢をやり過ごす。以降はその繰り返し
とスネークさん土御門コンビの応戦だった。やがて金属の悲鳴が辺りに響き始め、ハッチ
が壊れて地面に落下した。
279 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 20:28:51.35 ID:QMXbsaaIo
『よし!トウマ行け!!』
「了解!!」

合図と共に俺は大地を力強く踏みつけてかけ出した。こっちの方向は核載戦士の死角だ。

「うぉぉぉぉぉ!!」

やがて核載戦士のすぐ後ろにまで近づき、そこからスライディングで前方へと進めた。

「っ!!」

そしてこれまで以上に大地を踏みしめ、美琴のもとに飛び上がり、なんとか上手く着地
出来た。だが……

『警告。ハッチ内ニ侵入者ヲ確認。排除ヲ最優先』

突如核載戦士が今まで以上のスピードで全身を左右に揺らし始めた。

「うぉっ?!」

慌てて美琴が入っている試験管に捕まる。

『カミやん!!そこで手を離すんじゃねぇぞ!!!』
「んなこた分かってる!!!」

必死に試験管にしがみつくが、向こうは諦めるなんて言葉を知らない。とその時、

「トウマ!!しっかり捕まってろよ!!」
「えっ?!」

振り向こうとするか否か。横から銃が撃たれる音がして、その直後に試験管にヒビが入った。

「スネークさん?!」
「安心しろ!!お前さんに当てたりはしない!!!」

――いやそうは言ってもこの状況ですよ?!!

『彼の言うとおりにして下さい』
「んなこと言ったって!!」
『彼は、スネークさんは貴方を撃とうとはしていません。その試験管を撃ってるんです』

いや分かってるけどムチャ言う――

『警告、クライアント保護装置ニ損傷アリ。迎撃しつつ保護の強化を実――』

機械の音声を銃声が掻き消す。2発目の弾丸はまた試験管に当たり、さらにヒビを大きくする。

「よし、後はお前が壊せ!!」
「グォッ!!こ、このっ!!!」

両腕を封じられているので、振り回される勢いに合わせて左膝を試験管にぶち込んだ。すると、
試験管は音を立てて割れ、中の液体が飛び出し始めた。

『危険、クライアント保護装置ノ崩壊ガ開始。応急措置を――』
「くっ!!させるかよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

試験管ガラスのすぐ内側から壁のような物が飛び出す。

「こんのぉぉぉぉぉぉぉ!!」

その壁に両腕を挟まれつつも、それに構わず美琴の両肩をつかむ。そして渾身の力をこめて恋人を引っ張り上げる。

「うぉぉぉぉぉ!!!!」

もう、どうなっているかもこの辺りはあまり覚えていない。そこからはっきりと覚えているのは
地面に激突した時の衝撃と勢い余って放り出された美琴の姿だった。

「み、美琴……」

激突の衝撃で右肩がイッちまったらしい。動かそうにも鈍い痛みが襲ってくる。

『……クライアント消失。コレヨリ自爆装置ヲ起動シマス』
「なっ?!カミやん逃げろ!!」

土御門からの叫びも遠くのほうから聞こえてくる。ヘヘッ、我ながら脱臼だけで動かなくなるとは情けねぇ……

「上条さん!!」「カミやん!!!」「トウマ!!!!」「トウマ君!!!!!」「立て!!立つんじゃん!!!!!!」

――クソッ……
280 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 20:31:02.41 ID:QMXbsaaIo
突然だけど、ラストスパートのために書きため入るんだよ!
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 22:28:58.61 ID:ZI8UMCCHo
いよいよラストか……乙!
282 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 22:48:00.15 ID:QMXbsaaIo
ここでちょいと先に質問

このSS終わらせたらこの先どんなネタやってほしい?
283 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 22:58:27.60 ID:QMXbsaaIo
というわけでちゃっちゃと終わらせるんだよ!!
284 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 22:59:00.24 ID:QMXbsaaIo


























――諦めるなっつっただろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
285 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 22:59:27.42 ID:QMXbsaaIo
















「っ?!」

聞き覚えのある、瓜二つの人間がそこにいてもこの口調には間違いなく当てはまる人物の
声。

「ぐっ……おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

この『声』に応えるべく気合を出せる所まで出して左腕に力をいれる。

「あったりまえだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

もう痛みは感じない。代わりに右肩から右腕全体の感覚がなくなっていく。
そして、俺は立ち上がり

「美琴ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

愛する人のもとに駆け出していく。
286 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 22:59:54.71 ID:QMXbsaaIo














「全治3週間。しかし脱臼だけで入院を擦る必要がないと思うんだけどね?」
「い、いやぁ……アハハハハ……」

乾いた笑いが診療室に響き渡る。





















その後。
間一髪の所で俺は核載戦士の巻き添えから難を逃れた。爆発に吹き飛ばされて
地面に叩きつけられた後に振り返ると、核載戦士だった奴は上半身を吹っ飛ばして
立ち尽くしていた。これが『立ち往生』という奴だと救急車に搬送される途中に
スネークさんから聞いた。

「あの……先生。それよりアイツは」
「彼女の事かい?……もうしばらく眠りについていそうだ。こればかりは私にも
分からないんだね。だが、命に別状はない。それだけは確信を持って言えることだね」
「そうですか……」

安心したいんだが、複雑な気持ちで笑顔にもなれない。

「ただね、ここから先は私でも未知数の世界なんだね」
「えっ……?」

助からない命は全くないという伝説を持つ医師はそう、ポツリと呟いた。

「だから、病院の全力をかけて治療に当たる。だから、当分彼女とは会えないね」
「そ、そうですか……」
「まぁ暗い顔をするんじゃあない。何かね?僕の実力を疑ってるんだね?」
「い、いやそういうわけじゃあ……アハハ」

この人には何度苦笑いをさせられたんだろうか。恐れ入りますよ上条さんは。

「じゃあ僕はこれで」
「あっあの!!」

この場を去ろうとする冥土返しをドアの前で立ち止まらせる。

「何かね?」
「治療は、どのくらいかかりますか?」

俺の質問に対して彼は目線を外す。そしてもう一度俺と視線を合わせた。

「……そうだね、最低3週間はかかるかもね」
「分かりました」
「まぁ君も心配だろうから、その間にもちょくちょく来てもらっていい。ただし、
面会謝絶だってことは忘れないでね」
287 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 23:00:25.73 ID:QMXbsaaIo
そして、この「ミサカミコト」の病室前になる。

「君に責任があるというなら……僕にも責任があるね」
「先生?」

しばらくお互いうつむいての沈黙が過ぎて、目の前の人が口を開いた。

「あの時……君が僕に電話をくれた時、医者から治療行為を取り上げたら
簡単に私達の敵と同じになってしまうんだと言った。でもその選択は間違い
だったかもしれない」
「その選択のせいで今度は2人も、いや3人もの命を危険にさらしてしまった。
僕のワガママと言ってはなんだが、こちらとしては患者は増えたほうがいい。
が、それは間違いだったんだね」
「……先生」
「上条くん、だったね。君はまだ若いし、僕もそんなに長くはない。他人の命を
助けられても、『冥土返し』といえども僕だって寿命がある。これからは医者が少し
だけ楽になるような社会を創ってほしいんだね」

神にも逆らえるかもしれない存在が、今は単なる爺さんになっちまっていた。

「頑張ります」
「うん……期待してるよ、『戦場をかける交渉人』(ネゴシエーター)君?」

改めて言われてしまうと、なんだか照れくさいな。

「アッハハ」
「じゃあ面会していくんだね。これから僕は仕事があるんでね」
「先生……ありがとうございました」

そう言って俺は深々と頭を下げた。

「こらこら。老い先短いと言ったって、まだ過去のものにしちゃダメだね」
「えっ……?」

予想外の言葉に俺は頭を上げる。

「これからもよろしくおねがいします、だね?」
「……はい」

そう言うと、先生は静かにその場を去っていった。
――よし。心に決めたことだ。一旦深呼吸して……
俺は2、3度深呼吸して目の前にドアに向けて握りこぶしを作り、軽くドアを叩いた。
288 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 23:00:54.73 ID:QMXbsaaIo



「あっ、とーま遅〜い」
「いや遅〜いって、ここに来るまでに上条さんには色々とあってですね」

引き戸を開けると、お馴染みの金色のアクセサリーを施された白い修道着を着た少女……
ではなく、女性が出迎えてきた。

「も〜っ、レディをどれだけ待たせる気なんだよ?」
「姿がそれっぽくても言葉遣いがなっちゃいませんよ、インデックスさん」
「うっ、それはそうなんだよ……」

痛いところを突かれたのか、ショボーンとしてしまった。

「まぁ、相変わらずの大食いは変わってないみたいだけどな」
「う、うるさいんだよ!!これでもダイエットしなきゃって食事を減らしてるんだよ?!」
「ハァ?お前がか??」

確かにあの大量の食料が一体どこに行くのか不思議な体型の持ち主だったが、ついにコイツも
そんなことを考えるようになったのか。

「……誰?」
「あっ、たんぱ……じゃなかった、みことが起きたんだよ!!」
「やれやれ……」

どんな魂胆で減量し始めたのか問いただしてみたかったけどまぁいいか。

「よぉ、起きたかビリビリ」
「えっ?」
「……って言ったって分からないよなぁ」

先生からこの状況は知らされていたけど、どうしたらいいもんか。

「みこと、この人はねぇとうまって言うんだよ?」
「とうま……?」
「そう、完璧な不幸体質の上条当麻でございます」

そう言って王妃に対する騎士のように片膝をつけて挨拶する。

「ぷぷっ、とうまったらどこからそんなキザな真似を覚えたんだよ?」
「き、キザって言うな!!」

そんな俺と修道女の漫才をポカンと見つめているオレンジ色の髪の少女。





御坂「……トウマ、君?」
289 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 23:01:36.42 ID:QMXbsaaIo


















「……私です」
「はい……計画は表向きには失敗に終わりました」
「……ええ」
「しかし私にこんなプレゼントをくれるとは……あの医者もなかなかの者です」
「……はい。ソリッド・スネーク及びその仲間達は一足早くここから立ち去ったそうです」
「ええ……」
「もうメタルギアの計画も順調に近づいております、これをどこかが流入すれば我々の計画も」
「……はい」
「念のため完全人工知能制御は延期させたほうがいいでしょう。ですが、量産化には文句ない
くらいの成果が」
「はい……もちろんですとも」
「それでは引き続きこの地を観察させていただきます」
「それではまた……『ソリッド・スネーク』」


To be continued to Metal Gear Solid 2 and more...
290 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 23:10:21.88 ID:QMXbsaaIo
いん(ry「ちょっとちょっとちょっと!!」

???「んっ?なんだいきなり……」

いん(ry「いきなりって……どうしてこんなひどい結末にするんだよ?!」

???「ひどいって何が?」

いん(ry「何がじゃないんだよ!!!どうしてたんぱつがあんな最期なんだよ!!!」

???「……それを言うならなんでお前さんも勝手に御坂のこと死なせてるんだよ」

いん(ry「えっ……?さいごって漢字は『最期』じゃないの?」

???「はぁ……これだから大飯食らいは」ブツブツ

いん(ry「なんか言った?」(#^ω^)ビキビキ

???「イイエナニモイッテオリマセンヨウンウン」

???「っと、とりあえず自己紹介と後書きを書いておこう」

沢羽根「俺の名前は沢羽根優作。この>>1の外の人だ。……えっ?中の人はって?」

沢羽根「   こ   ま  け   ぇ   こ     と    は    (ry」

いん(ry「良くないんだよハゲ!!!」

沢羽根「ハゲとは失礼な!!最近若干頭が気になりだしたけどまだ違うわい!!」

いん(ry「ハゲ症候群」

沢羽根「……」orz

沢羽根「気をとりなおして……ここから本当の>>1がお話しするんだよ!!」

いん(ry「アタシをパクるな〜!!」ガブリ

沢羽根「いいいい痛い痛い痛いたたたたたたたたたたた……頭を噛むのはやめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!!」
291 : ◆FMYPc6cKQE [sage saga]:2011/03/04(金) 23:13:34.35 ID:QMXbsaaIo
ということで 

仮タイトル【御坂「トウマ……君?」 蛇「学園都市……か」】 → 本タイトル【とあるとしでの核載戦士(メタルギア)】

はこれで本編は終了なり〜!

……正直作り出してからここまでかかると思ってなかったんだよorz
だから所々文体があやふやだったり、設定があべこべだったり。。。
でも……座右の銘は「こまけぇこたぁ(ry」だから気にしないでね★(テヘペロ









……すいません、じゃんじゃん叩いてやってください。
292 : ◆FMYPc6cKQE [saga]:2011/03/04(金) 23:16:11.85 ID:QMXbsaaIo
おっと訂正

本タイトル【とある都市での核載戦士(メタルギア)】




さて、スレがかなりあまってしまったしこれからどうしようかねぇ
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 00:29:48.19 ID:Jw0JLGWN0
ごめん、インデックスじゃないが俺も良く分からない
とりあえず美琴も深琴も何らかの形で生きていることは分かるんだが
インデックスといる「ミサカミコト」は記憶喪失になった美琴ということでいいのか?
で、最後の「……私です」ってのは深琴か?
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 01:08:11.13 ID:ZPd13otAO
この後の後日談やNGシーン集が見たいな〜(チラッ
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 01:10:10.90 ID:ZPd13otAO
後日談とか楽屋ネタみたいなギャグが読みたい
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 01:11:33.60 ID:ZPd13otAO
連投すまんorz
297 : ◆FMYPc6cKQE [saga]:2011/03/05(土) 08:03:54.90 ID:ivP89o8eo
>>293
エピローグにミコトについては詳しく描写する予定だったからもう少し待ってほしいんだよ
で、最後についてはMGS1を詳しく調べると分かる。早い話がggrks……サーセン

>>294-295
よっぽど大事な事だって分かったんだよww
自信ないけど試してみるんだよ
298 : ◆FMYPc6cKQE [saga]:2011/03/05(土) 10:05:38.21 ID:ivP89o8eo
突っぱねたけど、最後の一人会話の部分をもうちょい詳し目に+αでお送りするんだよ!

楽屋ネタは出来るけど……あと何かあったかな?
299 : ◆FMYPc6cKQE [saga]:2011/03/05(土) 10:07:30.29 ID:ivP89o8eo
学園都市にオレンジのカーテンが差し込まれる。

午前6時。
学生の街とはいえ、中心部は精錬されたスーツを着こなす社会人や真面目
な学生達で賑わってきている。そんな中、どの学区か分からない路地裏に
古めかしい携帯を持つ男がいた。

「……んっ?まだ私に話があるんですか?」

今どき珍しい、画面と番号キーとアンテナがついた携帯。科学の最先端の
そのまた先を行くこの街で一体どのようにして手に入れたのだろうか?
300 : ◆FMYPc6cKQE [saga]:2011/03/05(土) 10:53:42.81 ID:ivP89o8eo
『その名前もいいかもしれんが、私もそこ独特の暗号名が欲しくなったのでね』
「ほう……貴方がそのような事を」

独特の暗号名……それはこの街で度々口にされた『超電磁砲(レールガン)』、
『空間転移(テレポート)』、『回転銃猫(リボルバー・オセロット)』など
四文字の漢字をあえてカナで読むこの街独特の言い回しだ。

「しかしまたどうして?」
『なに、こちらが掴んだ情報によるとそこの都市伝説で「救世傭兵」と呼ばれる
男がいるらしいのでな』
「……ふん、貴方らしい。よっぽどあの男の事が気になるのですな?」

スピーカーから男の笑い声が聞こえる。

『あの男……ソリッド・スネークと私は「兄弟」なのだからな』
「なるほど……兄弟愛という奴ですか」

左手で携帯を耳に向ける白髪の男は歯を向きだしにして笑っていた。
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 11:09:12.85 ID:gsaYRFqLo
>>6
これは吹く
302 : ◆FMYPc6cKQE [saga]:2011/03/05(土) 11:31:16.13 ID:ivP89o8eo
『で、だ。オセロットも少しは考えてくれんかね?』
「ふむ……そうですね」

だんだん水色に染まり始めた空を仰ぎながら、回転銃猫と呼ばれる男はしばしの無言を通す。

「……そうですね、『完全皇帝』というのはどうでしょう?」
『私をバカにしてるのかね?』
「いえいえ、滅相もない」

言葉とは裏腹に、語尾に笑みを浮かべている。

『兄弟の中で私がそうだとしても、それを名乗ってしまうのはどうかと
思うが?』
「ふむ……」

正直に言えば他人の事なんてどうでもいい。それを言外に表すように男は肩を
落とした。
303 : ◆FMYPc6cKQE [saga]:2011/03/05(土) 11:52:03.69 ID:ivP89o8eo
番組の途中だけど用事をすませるから離脱するんだよ!
304 : ◆FMYPc6cKQE [saga sage]:2011/03/07(月) 01:20:35.64 ID:V6/NbwP8o
「もうしばらく考えさせていただけますかな?貴方に相応しい物を見つけてきます」
『……ふむ、分かった』
「それでは失礼します……ソリダス・スネーク」

初めてこの場に出たあの男に関係の有りそうな名前を残してオセロットは電話を切った。それに続けて携帯を胸ポケットにしまう。

「よほど兄弟との接点がほしいようで……フッフッフ」

何かおかしかったのだろうか、オセロットは笑いを隠しきれなくなったようだ。胸ポケットに手を入れたまま、彼の肩が震えている。だがそれもすぐに収まり、再び空を見上げ

「……さて、どこから見られているか分からないような街とはおさらばするか」

と呟いてその場を立ち去った。
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 02:02:57.85 ID:fTBOFUSAO
乙乙乙
一応、まだ続くの?
続くのなら俺歓喜
306 : ◆FMYPc6cKQE [saga sage]:2011/03/23(水) 18:41:44.46 ID:fw78q19ko
一応生存報告……
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/23(水) 19:47:26.77 ID:sOPjW1AIO
生きてたか良かった
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/26(土) 18:02:00.10 ID:S3txOYuAO
良かった ご無事で
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 20:20:27.18 ID:9Tdk4X7IO
pixivにもいたね
310 :沢羽根優作 ◆FMYPc6cKQE [sage]:2011/04/22(金) 02:29:30.13 ID:roP563QZo
生存報告が一時ネタ出なかった件……
まさか最後にカキコして4日後にこんな事になってしまうとは思いもしなかった
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/23(土) 21:25:14.13 ID:xEnhFhHmo
無理しないようにな
いつまでも待ってるぞ
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/04/24(日) 21:14:35.10 ID:8f63mjCAO
焦らず自分のペースで行きましょう。
ムリだったらムリと諦めてもオレは文句を言いませんよ
313 :沢羽根優作 ◆FMYPc6cKQE [sage]:2011/05/03(火) 21:55:19.62 ID:MVqxxrQUo
とりあえず生存報告

>>311-312
ありがとう。その言葉を聞いたらホッとしたよ。
マイペースを維持してはいるけど、諦める気は
全くないっす。待たせた挙句「やめます」は無責任だし。
とにかくネタが出るまでじっくりやってみようかな
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/05/03(火) 21:58:06.00 ID:RitaetSso
よかった、身体に気をつけてな
まったり待ってるさ
315 :沢羽根優作 ◆FMYPc6cKQE [sage]:2011/05/03(火) 22:04:40.16 ID:MVqxxrQUo
>>314
身体は健康体wwww
モチベが上がらないだけっすね
301.75 KB   
VIP Service SS速報VIP 専用ブラウザ 検索 Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)