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上条「精神感応性物質変換能力?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/22(火) 01:58:00.78 ID:/pndMPNT0
男がやって来る 少女の危機に
男がやって来る 悲しみの際に
男がやって来る 背負うために
男がやって来る 己の信念のために
上条、カズマ 二人の男がやって来る
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「ただのクマです、通して下さい」デスガイド「よし通れ」 @ 2025/07/01(火) 01:46:57.85 ID:AZqAU1up0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1751302017/

速水奏「プロデューサーさんにスカウトされた話」 @ 2025/06/30(月) 23:35:01.77 ID:EyxvIr6M0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1751294101/

invest in reverberations dull fallout hoopla @ 2025/06/29(日) 12:49:23.56 ID:fSRAeK0bo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1751168963/

テスト @ 2025/06/29(日) 01:16:24.52 ID:VUhgeNEw0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1751127384/

おトイレ @ 2025/06/29(日) 01:03:06.12 ID:YzFWZ2ToO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1751126586/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part7 @ 2025/06/28(土) 18:43:24.71 ID:5y5+uScJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1751103804/

頼む! @ 2025/06/28(土) 02:14:21.86 ID:wTso3bhIO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1751044461/

頼む!見逃してくれ! @ 2025/06/28(土) 02:12:47.45 ID:t/vvooNwo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1751044367/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/22(火) 01:59:57.32 ID:/pndMPNTo
 七月二十四日 午後八時半 片側三車線の大通り

「うるせえっつってんだよ! 履き違えてんじゃねえ! 何のための力だ! 笑わせんじゃね
え! ロボット野郎が! 違うだろ! 大切な仲間なんだろ! 逃げ出してんじゃねえ!
テメェが耐えられねえ? んなモン関係ねえ! 一年の記憶を失ったら! 次の一年にもっと
幸せな記憶を! ウソを貫き通せよ! たったそれだけの事だろうが ! 頑張ったんですよ? 
ダメだったんですよ? ふざけんな! 勝手に諦めてんじゃねえ! この腰抜けがッ!」

 血まみれの、すでに原形を留めていない拳が、神裂の顔面を打ち抜く。威力などあるはずも
ない、しかし渾身の一撃が無傷の神裂を打ち、倒す。
 神裂を見下ろした上条が、血の吹き出す拳を更に握り締め、吼える。
「テメェはこんな所で何やってんだよ! それだけの力があって、これだけ万能の……」
 揺れる地面、暗転する視界。失い過ぎた血と砕かれた四肢、そして堪え続けた恐怖が、上条
の体から最後の自由を奪っていった。

 神裂は意識を失い倒れた上条を見下ろしている。当惑と苦痛と後悔の混ざった表情で。
(……何故、ここまでする……ここまでできる。……私は……)

「それで終わりか?」
「――ッ!?」
 瞬時に我に返り、声のした方に向き直る。暗がりに佇む影が、一つ。
「どうしてここへ? ここには『人払い』の――」
 無造作な足音が、神裂の問いかけを中断させる。
「さあね。それより、手が空いたんなら俺と遊んでくれよ」

 破壊を生き延びた街灯が、男の顔を照らし出す。片方だけの三白眼が凶暴に輝き、右目は瞑っ
ているのか、それとも潰れているのか、とにかく閉じている。その下には顔の端から端へ横断
する、複数の、亀裂のような傷が走っている。一言で表わせば、尋常でない形相である。

「……増援、ですか」
「いいモン見せてもらったからな。選手交代だ」
 動かない上条へ歩み、抱き上げて路肩に運び、そっと降ろす。
「――たとえアルター使いじゃなくても、ってか」
 上条の肩を拳で軽く叩き、振り返る。
「さあ喧嘩だ。喧嘩の続きをしようぜ!」
 軽い足取りで三車線の中央に戻り、神裂に正対する。その距離、およそ一〇メートル。
「言っておきますが、並の能力では私の相手は勤まりませんよ」
「そりゃありがてえ。こっちも気合いの足りねえ野郎の相手に飽きてたところだ」
「……いいでしょう。その余裕が後悔とならないことを願います」

 七閃。

 放たれる七本の斬撃。だがその神速が男を捉えることはなかった。七方向の『刀傷』は男を
取り囲むように迫り、そこで途切れていた。
「これが『この街の力』か。足りねえ、足りねえな……」
 力を失った鋼糸が、男の手からバラバラと落ちる。
「――兄貴が言った、俺が刻んだ、あの言葉を、お前に贈ってやる」
「な、何を……」
「お前に足りないもの、それは! それは……そして何よりも! 『速さ』が足りないッ!」
「私が遅い……!? 私がスロウリィだ……と……?」
「遅え遅え、遅過ぎだぜ」
 その口調に含まれた嗤いに、神裂の血圧がわずかに上がった。
「……手加減の必要はなかったようですね」
「そうかい。それなら、手加減がいらねえようにしてやらねえとな!」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/22(火) 02:00:37.18 ID:/pndMPNTo
 言うなり、男の周囲の地面が抉れ、虹色の光が男の肩から腕を覆い、実体化する。腕の全体
を金色の装甲が包み、拳は鈍く赤く、そして背に生えるは三枚の赤い羽根。
「これは! やはりこの男、能力者――」
「こいつが俺の『力』だ。お前に『覚悟』があるんなら、まずはこいつを倒してみな!」
「いいでしょう。一瞬に七度の必殺を、とくと味わって下さい」

 七閃。
 七閃。
 そして、七閃。

 地面が、街灯が、街路樹が切り裂かれ、舞う。しかし、その場を動きすらしない男の、その
身体には傷の一つもついていない。
「――『七閃』では埒が明かない、と。どうやら、まぐれの類いではなかったようです。まあ、
私とて、この『七天七刀』はまだ、抜いていませんが」
「入ったかい? お前の中の『スイッチ』は」
 その挑発に、神裂のこめかみが音を発てて引きつる。
「なるほど……。どうやら、名乗らなければならないようですね。二度と名乗らぬと決めた、
あの名前を、もう一つの名を……ッ!」
 ビキ、と神裂の纏う空気が震える。『七天七刀』の柄に、手がかかる。
 スッ、と男が腰を落とす。右腕を前に突き出し、そこに左手を軽く、添える。

「――Salvare000(救われぬ者に救いの手を)ォォ!」
「――衝撃のォファーストブリットォォ!」

 斬! と空間そのものを両断し、音速を超える斬撃が男に襲いかかる。
 轟! と一個の弾丸と化した男が、己の道を突き進む。

 『唯閃』は完全な攻撃術式である。仏教、神道、十字教のそれぞれを組み合わせ、弱点を相
殺することで、あらゆる宗派への有効打となりうる攻撃であり、その刃は『神の力』にも届く。

 ――では、その対象が魔術サイドに属していなかったら?
 ――そもそも宗教の何たるかすら、知らない男だったら?

 世界が破裂する音、人間の可聴域をはるかに超えた音が、周囲を埋め尽くす。爆風が鋪装の
残骸をまき散らし、街路樹の切り株を根こそぎにした。
 風が退き、激突した二人の姿が現れる。共に、無傷。
「これだよ、これ。この毛穴の開く感覚がたまらねえ」
「よもや『唯閃』を受け切れる『人間』がいるとは、些か驚きました」
 しかし、と、いくらか残念そうな顔で言葉を継ぐ。
「この程度で全力と思われるのは心外ですが、これ以上の戦闘は許容致し兼ねます」
「どうした? まさか――」
「もちろん違います! しかしこのままでは、この領域が持ちません。『人払い』をしてある
とはいえ、この周囲の建物内には人がいます。無関係の人々を巻き込んでしまう訳には――」
「……まあ、そうだな」
「続きはいずれ、必ず」
 対峙する二人が、乾いた笑みと共に、視線で約束を交わす。――いつか、どこかの戦場で。

「じゃ、このあんちゃんは貰ってくぜ。構わねえよな?」
 神裂の答えを待たず、
「よっ……と。おい、まだ生きてんだろ? 死ぬなよ?」
 無造作に上条を背負い、歩き出す。
「またな」
「あ……、私は神裂、神裂火織」
「カズマ、シェルブリットのカズマだ。苗字はねえ」振り向かずに答える。
「次は、勝たせて頂きます」
「そうかい、そりゃ楽しみだ」
 遠い笑い声が、足音と共に通りに響く――

(こうして誰かを背負うのも久しぶりだな……あの日……以来、か……)

「おい、あんちゃん、生きてるか?」
「あ……が……」
「ああ、生きてりゃいい。んで、どっちだ? この先。右でいいのか?」
「う……」
 上条、ボロボロの指先でカズマの右腕を二度、叩く。
「ん? あ、ああ。そうか、後ろか。すまねえな」
 回れ右、来た道へ戻るカズマ。その先では神裂が、気まずそうに二人を見ている。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/22(火) 02:01:23.92 ID:/pndMPNTo
「――ろ……きろ……起きろ……! おい! いつまでも寝てんじゃねえ!」ボゴォ。
「ちょっと! とうまに何するのよ、かずま!」
「ぐはっ」
 蹴り、という乱暴な方法で覚醒を余儀なくされた上条が呻く。激しい喉の渇きと熱の感触が
襲い掛かる。
「とうま?」
「上条ちゃん?」

 布団の中、ボロい天井、心配げな顔で覗き込むインデックスと、やはり心配顔の小萌先生。
そしてその横には見慣れない、人相の悪すぎる男。
「あ……ここ、は? 小萌先生の……? っ、痛てっ……。そ、うだっ……俺は……神裂に……
あれ……?」
「とうま、『丸一日』寝てたんだよ。……私何も知らなかった! あの馬鹿な魔術師を撒いて、
いい気分で喜んでたら……そしたらこの人がとうまを担いでて……」
 インデックスは怒っているのか、赤い目と――赤い鼻をしている。
「もう、大変だったんですからねー。まったく上条ちゃんは、次から次へと――」
「え?」

 壁を背に、大欠伸を放ちつつも、不穏な空気だけは変わらない男が言う。
「覚えてねえか? ま、それもそうか。要はあれだ、完敗を喰ったんだよ、あの姉ちゃんにな。
そんで俺がちょっと邪魔して、拾ってここまで、だ」
 うがー、と噛みつく構えでインデックスが男に向けて吼える。
「迷ってうろうろしてたじゃない! 私とこもえが見つけなかったら!」
「そりゃ仕方がねえだろ? 案内役が途中でくたばりやがったんだ、途中で捨てなかっただけ、
褒めてもらってもいい位だぜ」
「捨て……! そんなことしてたら許さないんだからっ」
 キシャーと威嚇するインデックスを鼻で笑い、あしらう男。
「ええと? あなた方、何をそんなにエキサイトしてらっしゃるんですか? ……ひょっとし
て俺のせい?」
 何がなにやら判らない、が。ここは責任を感じていた方がいいと、本能が告げている。逆ら
うのはやめよう、この二人からは逆らってはいけない風が吹いている。
「そうだよ!」
「だな」
「寝てただけなのに怒られたー!?」
「まあまあ二人とも、上条ちゃんは怪我人なんですからー」
 不幸だー、と。いつもいつも感じているそれが、当たり前のようにここにもあった。

「ま、それはいいや。気になるのはお前の寝言だ」
「寝言?」
「ああ。お前が寝てる間、何度も聞いたぜ。『あと……三日……』ってな」
「そうだよとうま、何が三日なのかな?」
「……三日?……ッ! ……ッ! 制限時間!」
 丸一日寝ていたということはあと、二日。それだけしか時間がない……。
「それは何の制限時間なのですかー?」
「あ、はい。この――」
 ちら、と。とにかく理由をつけ、纏わりついて離れようとする気配の微塵もないインデック
スを諦めの表情で見て、これが、と視線で伝える。

 心得た、と立ち上がる小萌先生。察しのいい人だ。
「さあ! シスターちゃんは先生とご飯のお買い物に行くのです!」
「ごはん!?」
「はいー、今日は重傷の上条ちゃんのためにも奮発して、焼肉に決めました!」
「やき……にく……?」
「その名も豪華絢爛焼肉セット! 量に不満が残ることはないのですー」
 途端、瞳に金色の十字架を輝かせるインデックス!
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/22(火) 02:01:55.95 ID:/pndMPNTo
 おっにく♪ おっにく ♪ おっにく〜 ♪ と、期待と食欲に満ちた歌声が遠ざかっていく。
「そんで、あと三日、いや二日か。それと昨日の、記憶がどうとかいうのは関係あるのか?」
「っ! どうしてそれが……」
「少しは聞こえてたからな」
 上条は、神裂から知らされた一〇万三〇〇〇冊とその弊害についての事情と、少なすぎる制
限時間についてのあらましを、男に話す。
「完ぜん記おくのう力? 何だそりゃ」
「だから、インデックスの脳の八五%は一〇万三〇〇〇冊の“禁書”で占められてて、残りの
十五%を一年ごとに消さないと――」
「どうなる?」
「脳がパンクして死んでしまう、って」
「そうか……」

 男の脳裏には、インデックスと同じ年頃の少女の面影が浮かんでいる。もしもあいつが――

「……そんなつまらねえ理由で、あのガキが死んでいいのか?」
「いい訳、ない……ある筈がねえ」
「ならどうする。ここで怪我人の振りをして、あと二日を無駄にするか――」
「――足掻いてやる。俺がやってやる。俺はまだ諦めちゃいねえ。アイツらが何を言おうが諦
めねえ! インデックスは絶対に救う、絶対にだ!」
 起き上がりかけ、忘れていた痛みに折れた膝を、勃てる。
「やろうぜ。できるかできないかは問題じゃねえ」
「ああ、そうだよな。そうだとも」
 拳を打ち合わせ、誓う男、二人。それが壊れていたことを思い出し、悶絶する男、一人。

「――っと、そうだ! 一つ訊きたかったんだけど?」
「ん?」
「……アンタ一体、誰なんだ?」
 当たり前の疑問が、遅ればせにやって来た。
「俺はカズマ、シェルブリットのカズマだ。苗字はねえ」
「シェルブリット?」
「ああ、俺のアルターだ」
「アルターって言うと、あの『ロストグラウンド』の?」
「そうだ」
「へええ、初めて見たよ、アルター能力者って。あそこはもう五年も鎖国状態で、情報なんて
全く入ってこないもんなあ」
「本土の奴らに好き勝手されるのは真っ平だからな」
「あー、それで監視衛星が打ち上げられる度に、ぶっ壊されてるっていう」
「まあな」
「でもさ、ロストグラウンドからミサイルが発射されたって話は、聞いたことないんだけど。
てか、そもそも衛星攻撃兵器なんてアルターで作れるもんなの?」
「ん? そんなもん簡単だ。そこまで行ってボコりゃいい」
「な、なんだってー」
「何かおかしいか?」
「いくら何でもそれは……」
「何だよ、信用できねえってか」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/22(火) 02:02:36.63 ID:/pndMPNTo
 無理だろ、と、言いかけてよく考える。……いや、この男は『あの』神裂の許から俺を担い
で来たと言った。魔術を使うまでもなく、アスファルトや街灯、街路樹を豆腐のごとく刻んだ
あの神裂が、ただの通りすがりに黙って獲物を渡す訳がない。そこには相応のやり取りがあり、
その上で獲物の所有権が移動した、ということになるだろう。ならば、やはりこの男は――

「――いや、そうかも知れないな。その位でもおかしくない」
「だろ。大体、この街にだって昨日のねえちゃんみたいなバケモンがいるじゃねえか」
「あれは……、いやあれは違うんだ。神裂はこの街の『能力者』じゃない、『魔術師』だ」
「まじゅつし? 何だそれ? 食えるのか?」
「『才能ない人間が、それでも才能ある人間と同じ事をするために、生み出された術式と儀式』
だとか。いや、俺もまだよく解らないんだけど、炎の剣だの炎の巨神だのは実際に、この目で
見てる」
「へえ、そりゃ面白れえ。今度見つけたら教えてくれ」
「ははは。関わらない方がいいと思うけど」
「で、お前はどうなんだ。この街にいるってことは能力者なんだろ?」
「俺? 俺はこの街の基準でいうとレベル0、無能力者ってやつ。ちなみに一番上はレベル5」
 と、包帯まみれの右手をかざす。
「ただ、ちょっと変わった『右手』を持っててさ。こいつは『異能の力』によるものなら、た
とえ神様の奇跡だろうが打ち消してくれるって代物なんだと」
「アルターもか?」
「超能力と魔術に有効だってのは体験したけど……」
「そりゃそうだ、試してみねえと判んねえよな。っと、これでいいか」

 カズマはちゃぶ台の上の山盛りの吸い殻(スモーキーマウンテン)に拳を向け、軽く力を込
める。原子レベルで分解されたスモーキーマウンテンが、アルターに再構成され、カズマの拳
に手袋状の装甲が現れた。

「消してみてくれ」
「よ、よし、やってみる」
 包帯を外す必要があるのか迷ったが、とりあえずそのまま触ってみる。硬質な、それでいて
脈打つような感触と同時に、バヂッ、という衝撃が走り、上条の右手が弾かれる。
「あ痛たたたっ!」
「おー、消えた消えた!」
 アルターの消失した右手を面白がるカズマ。包帯に血を滲ませる上条。
「あ……悪りい。すまねえ。許せ」
「いや、大丈夫。ちょっと痺れただけだから」
「いつもは違うのか?」
「いつもは……特に変わらないかな。炎の十字架も電撃も熱くはなかったし」
「そっか。まあ、モノにもよるんだろ」
「謎だ……。てか、使い方ってこれで合ってんだかどうだか……」
「――そういや、アルターを吸い取る奴、ってのはいたな」
「うわ、そっちの方が便利じゃね?」
「そいつは吸い切れなくなって自爆したけどな」
「いやー、やっぱ俺の相棒はコイツしかいないって! マジで!」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/22(火) 02:03:08.59 ID:/pndMPNTo
 夜。満腹し、早々と眠りに就いたインデックスから離れ、小声での会議が始まる。
「だから、科学的に一〇万三〇〇〇冊分の記憶を削除しちまえば――」
「はぁー、やっぱり上条ちゃんはおバカですねー」
「なん……だと……」
「人間の脳は一四〇年分の記憶が可能なのですー」と、小萌先生が先生モードで続ける。
「そもそも『記憶』とは一つじゃなくて言語や知識の『意味記憶』、運動の『手続記憶』、思
い出の『エピソード記憶』なんて具合に、色々あるものなのですよ? いろいろー」
「ん? ちょっと意味が判らないんですけど」
「俺にもさっぱりだ」
「つまりですねー、記憶はそれぞれ容れ物が違っているのでー、『意味記憶』にどれだけ知識
を詰め込んだからって、『エピソード記憶』が圧迫されるなんてことはあり得ないのですー」
「ってことは、え?」
「え?」
「そうです! だからその話には嘘があるのですよー」
「……ッ! そうか、教会が一〇万三〇〇〇冊の所有者を縛るために――」
「え?」
「記憶を消す、という『メンテナンス』を理由に細工入りの『首輪』をつけた、ということだ
と先生は考えるのですー」
「クソっ! 奴ら、何てことしやがるんだ!」
「ちょっとあいつらボコってくるわ」
「二人とも待つのですー。そんなことより、いまやらなくてはならないことを考えるのです!」
「あ、はい。そうですよね」
「ちっ」

「『教会』が取りつけたということは――」
「魔術、になるんでしょうね」
「だよな」
「そうだ! それなら俺のこの右手でッ!」
 全力で駆け寄り、キメ顔でインデックスのおでこに触れる上条。しかし現実は非情である。
「あれぇ? 何も、起きない?」
「あのー、上条ちゃん? 触れるだけで解除されるなら、もうとっくにー」
「そ、そうですよね。だったら何が……」
「簡単に触れないところにスイッチがある、とかな」
「え?」
「え? ええー?」
「か、上条ちゃん! だだ、ダメですよ! 先生はそんな破廉恥なこと、許しませ――」
「いやいやいや、かか、考えてないですよ! もも、もちろん!」
「お前……」
「ここは先生が! 女性ですからッ!」
 そして男二人、玄関から追い出される。


「おい、もし……」
「言わないでくれ。考えないようにしてるんだから……」
「ああ、そうだな……そうだよな……」


「上条ちゃん、入っていいですよー」
「で、先生……?」
 ビシッ! と、親指を立てて小萌。
「大丈夫なのです! この問題は健全に解決できるのです!」
「おおっ」
「……よかった。本当によかった……」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/22(火) 02:03:35.92 ID:/pndMPNTo
「見えますか? その、喉の奥です」
 赤黒い粘膜に刻まれた、漆黒の紋章。これが――
「こんなもんで縛りつけやがって……ぶっ壊してやる!」
 少女の口の中へ滑り込む上条の右手。その手が紋章を捉える。
「ッ……がッ!」
 火花の弾けるような感触と同時に、上条の身体が吹き飛ばされる。右手から鮮血が飛び散っ
ている。
「上条ちゃん!」
「当麻!」
「……大……丈夫だ」

 ゆらり。眠っていたはずのインデックスが上体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。静かに開
かれる両目。しかしそこに見なれた翠玉の光はない。あるのは禍々しく紅く光る魔法陣。それ
が、二つ。

「危ねえ!」

 ゴッ、という衝撃と共に上条の身体がちゃぶ台に向けて飛び、それをひっくり返して転げる。
同時に炸裂する爆発音。見れば、小萌先生を抱えたカズマの右腕が、インデックスの視線の先
でブスブスと燻っている。赤と金の装甲に覆われた、異形の腕が。

「カズマ!」
「おい。ちょっとここ、頼めるか? 先生を避難させる」
「任せてくれ!」
「衝撃のォファーストブリットオォ――」
 ボロアパートの天井を盛大に吹き飛ばしつつ、二人の姿が虚空に消える。
「美味しいとこ持って行きやがって……。つうか、何だよあの威力は……」
 痛みに笑う膝に喝を入れ、血の滴る右手を構え、立つ。その無惨な様相、しかし煌々と輝く
上条の双眸は、狂喜を宿している。

「警告。『首輪』の自己再生不能。『書庫』の保護を優先。侵入者の迎撃を開始します」

「……さあ、来い」

「魔術の組み込みに成功。『聖ジョージの聖域』を発動。侵入者を破壊、します」

 インデックスの両目の魔法陣が爆発的に広がり、彼女は音にならない歌を唄った。
 爆発。黒い光が空間を埋めつくし、引き裂く。その奥から――
 『何か』が亀裂の向こうから、近づいてくる。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/22(火) 02:04:02.87 ID:/pndMPNTo
 ――テメェが『首輪』……『教会』の犬……その……ふざけた幻想……ぶち殺す……!

 亀裂が完全に開き、『何か』がこちらを見た。純白の光の奔流が上条に襲いかかる。右手が
白光に掴みかかる。
 激突は痛みも熱もなく、耳障りな音のみが流れ続ける。右手によって四散する光はそれでも、
尽きる気配がない。キリがない。
「くそ、この……」
 インデックスとの距離、わずか四メートル。届けば、触れさえすればすべてが終わるという
のに、近づくことがままならない。

「『聖ジョージの聖域』は侵入者に効果なし。他の術式へ切り替え、破壊を続行します」

「ッ!」
 光が勢いを増し、右手が痛みを感じ始める。畳に食い込んだ爪先が、引き剥がされつつある。
マズい。
 と、背後に着地の音。次いで、声がかかる。畏れも気負いもない声が。
「よう! 待たせたな」
 金色に輝く腕が現れ、その手が上条の右腕を強く掴み、支える。
「ああ、おかえり。……先生は?」
「ああ、気絶はしてたが大丈夫だ。問題ない」
「……そうか、よかった」
 二人分の力が、意地が、光の流れを押し返す。これで、倍だ。これが――

「警告。新たな敵兵を確認。戦闘思考を変更、検索……解析不能。『上条当麻』の破壊を続行、
優先します」

 ――倍加どころでない圧力が上乗せされ、上条の右手がゴキリメキリと悲鳴を上げる。
「なあ、この手。もう半分がとこぶっ壊れてるけどよ」
「うん?」
「全部イッちまって、構わねえよな?」
「ああ、当然だ」
「よし、そんじゃあ一発、いってみっか!」
「何か……楽しそうだな」
「そりゃ、な。主人公(ヒーロー)の背中押してやれる機会なんざ、滅多に味わえねえ」
「俺が主人公(ヒーロー)ってか。そりゃいいや」
「じゃ、行くぜ!」
「おう!」

「シェルブリットオォォ! ヴゥアッーッストゥオォォォッ!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!」

 カズマの背に光るコンマ型の円盤が、激しく回転する。アルターを推進力に変えて、白い光
を押し分けぶち撒き、インデックスの許へと突進する。骨の砕ける音が、ゴールへのカウント
ダウンを刻む。血飛沫が、二人の軌跡を染める。
 そして――

 上条の右手が身体ごと魔法陣を突き抜け、引き裂いた。
 そして――

 そのまま、上向きのカーブを描き、天井に開いた大穴から夜空へと射出される二人。
 そして――

「警、告。致命的、破壊。再生、不可……」
 半壊したアパートに独り残された、インデックスの声が、止まった。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/22(火) 02:04:32.73 ID:/pndMPNTo
「やり過ぎにも程があんだよ!」
「バッカお前、あのまま直進してたらこのガキまで粉々だったっての!」
「だから、ガキじゃないってば! インデックスだよ!」
「まあまあ。みんな無事だったのですから、めでたしめでたしですよー」

 大学病院の個室。ベッドに押し込められているのは、もちろん上条当麻である。右手の複雑
骨折と、右腕の開放骨折を除けばそれなりに元気ではあるものの、病院に担ぎ込まれた際の惨
状により、複数の検査をこなさなければ退院が許されないそうだ。
 着地のダメージさえなければ、もう少しマシだったと、上条はつくづく思う。

「そんなことよりとうま! 何でそんなに無茶したのよ! 一歩間違えたら大怪我じゃ済まな
かったかも知れないんだよ?」
「そりゃまあ、お姫さまを危機一髪で助けるのは勇者の嗜みでありますから」
「……(ボッ)。じゃなくて! 目が覚めたら誰もいなくなってて、天井はなくなってるし、
ごはんはないし! やっとこもえが帰ってきたと思ったら、とうま入院したって……もうっ、
心配したんだからね!」
「ああ、ゴメンゴメン。まあ、ちょっと張り切り過ぎちゃって、な」
「もう危ないことしちゃダメなんだから!」
「はいはい、気をつけるでありますよ」

「でもまあ、今回の件はお前がいなけりゃ解決しなかったんだし、名誉の負傷もたまにはいい
だろうよ」
 誇らしげな表情をするカズマ。しかしこの男、風力発電のプロペラに激突してぶっ飛んだの
は上条と同じなはずなのに、どうして何ごともなく見舞っていられるのだろう。

「ははっ、そりゃもう。こんなことが二度あったりしたらヤバいって」
「そうですよー。上条ちゃんは学生なんですから、まずはそっちを人一倍ですね――」
「――はッ! そういや補習はどうなったんでしょう先生?」
「大丈夫ですー、退院に合わせてきっちりスケジュールを組んでおきますから!」
「活躍に免じて免除、とか、は?」
「それはまあ、表沙汰にできる活躍でしたら融通も利いたとは思いますけどー」
「ですよねー(不幸だ……)」

 歓びと労いが一段落して、小萌先生が席を立った。
「さて、それでは先生はこれで失礼するのですよ。帰って天井を修理しなければなりませんか
ら−」
「あ……」
「ごめんな。悪りい。すまねえ。許せ」
「いいのですよー。そのおかげで助かったのですから!」
 と、屈託のかけらもなく去っていく小萌先生の漢っぷりに、全員が嘆息する。
「大物だ……」
「大物だね……」
「……元の部屋がアレだもんな。たぶんベニヤ板かなんかでやっつけるんだろうな」
「違いねえ」

 そしてもう一人、今回の功労者であり、馬力担当である男も暇を乞う。
「さて、と。じゃあ俺は行くぞ」
「ああ、色々とありがとな。寄り道させちまって、悪かった」
「ん? いや、けっこう楽しかったぜ」
 拳を合わせる二人。
「またな!」
「ありがとう、かずま! またね!」
 大丈夫だ。この少女の笑顔にはもう、一片の翳も射していない。

 うしろ姿、アルターを秘めた右手を軽く振って――

「あいよ!」

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/22(火) 02:05:07.19 ID:/pndMPNTo

次回予告
 魔導書を書き続けた錬金術師、アウレオルス=イザード
 彼が三沢塾に結界を刻むとき、新たな物語が動き出す
 最悪の錬金術、『黄金練成』が、今、上条当麻の運命を大きく練成する
 この術はまさに思い通り

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 03:27:06.04 ID:0vENAaaAO
組み合わせは好きだ
何かダイジェスト見てる気分だが期待
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 11:07:47.63 ID:5NPtT8B60
浜面が君島にめちゃくちゃダブるな
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 15:10:36.23 ID:3193we9k0
禁書×スクライドはずっとみたかった
超期待!

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 16:00:02.60 ID:fgs5Kw0Po
乙なんだよ!
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 01:34:13.05 ID:xrN/m+sAO
>>13
浜面なら普通に「意地があるんだよ!男には!」とか言っちゃいそうだ
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 05:25:33.42 ID:PpVfCaewo
>>12
原作を睨みながらカズマの出現ポイントを探っているので
途中から始まって強引に終わらせるという、不親切な文章になってしまいました
これはどうにかしなければ、と思います

>>13
カズマと上条、浜面と君島はかなり似てますね
唯一無二の右の拳で殴って解決、熱い説教、幼女と同居
いつも違う車、武器は銃、世知に長ける三枚目、って感じで

>>14
期待されるようなものになるか判りませんが、頑張ります

>>15
ありがとう!

>>16
その台詞はもちろん言って欲しいのですが、
そこに辿り着くまでにえらく掛かりそうです
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 05:27:16.81 ID:PpVfCaewo
※ 原作小説をベースにしているので、アニメ版には存在しない時点から始まります。
  アニメではアウレオルスの『全て忘れろ』のあと、上条とステイルが並んでブランコに
  座っているところから再開しますが、原作では『忘れろ』で外に出されたのは上条のみ。
  ステイルは記憶を消された状態で三沢塾内を放浪してます。
  『グレゴリオの聖歌隊』が失敗したことも、現場を見ていないので知りません。
  漫画版ではエピソードごとスルーされているので、読んでも訳が判らないと思います。
  あと、前回には名前すら出ませんでしたが、ステイルはかなり好きなキャラなので、
  今後は活躍する予定です。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 05:28:20.11 ID:PpVfCaewo
 八月八日 夜 第一七学区 三沢塾

「真面目に答える気あんのかよ、おい!」

「ふむ。君が所属不明の危険人物として、我々の監視対象であることは確かなのだが、その君
がどうしてここに? そもそもここは何処なのだ? 何やら見覚えのある結界構造だが……」
「だーー、こりゃアレか? 『打ちどころが悪かった』ってヤツか?」
「失礼な男だな君は。僕はどこも打ってないし、全くの正常だ。ここはどこだ?」
 事情が判らない男と、事情を『忘れた』男の押し問答は、どこまでも平行線を辿る。
「ダメだコイツ、まるで話になりゃしねえ。……ぶん殴ってやりゃあ元に戻るのか?」

 まあとりあえず試してみるか、と、拳を固めた、その時。通路の向こうから見覚えのある顔
が走って来る。
「よう、久しぶり!」
「あれっ、カズマ? どうしてここに? あ、ステイル、テメェこの野郎、よくも囮に使いや
がったな! ボコボコにされた仕返しか? いのけんてぃうすさんの敵討ちだってかゴルァ?」
「何だい、そんなに怒った顔して?」
「ニヤけてんじゃねえ!」

 ボグォ。ギブスを装着した上条当麻の右ストレートが、ステイル=マグヌスの顔面に炸裂し
た。魔術師の身体は、竹とんぼのように回転し、壁に激突する。

「俺もいま、同じことを考えてたぜ」
「ははっ、やっぱり気が合うな。それで、どうしてここへ?」
「前の時と同じだな。『何故かここには近寄らない方がいい』って感覚に逆らったら、このビ
ルに辿り着いたって訳よ」
「どんだけトラブル好きなんだよ!」
「これが『強くなる方法』だからな」
「それが『早く死ぬ方法』じゃないことを祈るよ」
 分断した意識と、失われた記憶をつなぎ合わせたステイルが、そこに割り込む。
「いきなり何をする、上条当麻! ……確かに、記憶をなくして少々困ってはいたが、何も殴
ることはないじゃないかっ。それにあの時『二手に別れた』のは、それが最善の戦術だったか
らに過ぎないし、決してボコられた挙げ句に見せ場を横取りされた恨みを果たそうとなどとい
う、卑俗な根性など僕は持ち合わせて――」
「うるさい」
「うるせえ」
「くっ、まあそれはいいとして、君の方の状況はどうなっているんだ?(ちっ、大体何でコイ
ツ死んでないんだよ。まさに完璧な状況だったってのに……)」
 上条とカズマはすでに走り出していた。ステイルは慌ててあとを追う。
「おいっ、そっちじゃない。渡り廊下から北棟へ――」


 アウレオルス=イザードは、ただ一人の少女を助けるために魔道書を書き始め、諦める事な
く書き続け、そうして、何故魔道書を書き続けるのか気づいてしまった。単に『魔道書を提供
する』という名目の元、ただ一人の少女に会いたかっただけなのだ。

 こうして錬金術師は人の道を外れた。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 05:28:54.34 ID:PpVfCaewo
「そういや、外で鎧のおっさんが男泣きしてたけど、何だアレ?」
「……ああ、三三三三人の聖歌隊が返り討ちにあったみたいだ」
「『真・聖歌隊』が弾き返された……だと? そんな馬鹿な!」
「いやマジで。このビルをぶっ刺してぶっ壊した火の槍が、ビデオの巻き戻しみたいにイタリ
アに帰ってったから」
「そりゃ、泣きたくもなるか」
「……しかし、そんな『錬金術』はあり得ない。少なくとも現存するものでは不可能だ……」
「じゃ、その現存してないヤツを完成させちまったとか?」
「そんなはずがあるか! 呪文を唱えるだけで一〇〇年、いや軽く二〇〇年はかかるんだぞ」
「兄貴なら二日で終わらすかもな」
「は! 何を言ってるんだね君は。そんなバカげたことが――」
「――『世界最速の男』ってのがいるんだよ。もちろん、早口も含めて、な」
「馬鹿馬鹿しい。そんなこと、僕は信じないね」
「カズマの兄貴ってことは、やっぱ相当強いんだろうな」
「正確には兄貴分だけどな。あの『速さ』には、未だに敵わねえ」
「僕は信じないからな」
「そうだカズマ、前に話した『炎の剣』と『炎の巨神』を使う魔術師ってアレ、コイツな」
「へえ、そうかい。あんちゃん、あとで俺に『魔法名』を名乗ってくれや」
「僕にそれを要求するとは。言っておくけど命の保――」
「――そりゃそうと、アウレオルスの野郎、インデックスの扱いに慣れないだとか、訳の判ら
ないこと言ってたけど、ありゃ何なんだ?」
「あの子が? ここに来てるのか?」
「見た訳じゃねーよ。野郎がそう言ってただけで」
「……ッ! そうか、禁書目録が目的だったのか」
「どういうことだよ?」
「ヤツは僕の前の、インデックスのパートナーだったんだ。『先生』役だったかな」
「それで?」
「アイツは『錬金術』を使って、インデックスを『治療』しようとしてる、そういうことさ」
「治療? だけどインデックスは、もう」
「そう、『救われてる』。忌々しいことに、僕のいないところで君が勝手に、しかも最良の……
くそ、これ以上は言いたくない。とにかく、アイツの望みはもう、絶対に叶わないのさ」
「うわあ」
「……話はここまでだ。着いたよ、ここがそうだ」
 誘うように、『校長室』の扉が開かれている。目指す『先生』は、この中にいる。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 05:30:18.97 ID:PpVfCaewo
 校長室は広大な空間だった。悪趣味な、広大な空間だった。
 部屋に入って来た『忘れた』はずの男を見ても、アウレオルス=イザードに表情らしきもの
はない。
「気づいたか、私の目的に。よもや止めはしないだろうな?」
「いいや、止めるね!」
 キメ顔で宣言するステイル。目の前の男に引導を渡すのが、愉しみでならないのだろう。
「貴様、あの子を救うのがこの私であることが、そんなに気に喰わないか。嫉妬に目が曇ると
は、愚かなり」
「ざーんねーん。君の努力はちょーっとだけ、足りてなかったんだなぁ」
「何が言いたいのだ貴様。私が、私だけが辿り着けた、このアウレオルス=イザードが成し遂
げた、『黄金練成』による吸血鬼式記憶容量拡張術の何が不足だと……」
「足りなかったのは『時間』だったんだYO!」
「何……だと……!」

 そこで、満面の笑みをわずかに軋ませつつ、ステイルが上条を指名する。
「さあ、言ってやりたまえ、上条当麻!」
「インデックスは俺が救った!」ドヤァー。上条も大概である。
「馬鹿な……」
「あぁ、信じられないだろうねえ。あり得ないよねえ……」
 刹那、偽りの笑みを拭い捨ててステイルが爆発する。
「僕だって、僕だってねえ! 信じたくなんかないんだよ! こんなッ、魔術師ですらない東
洋の猿がッ! 僕の大事なあの子を! 同棲! シングルベッドで二人! 畜生っ! 絶対に
許さない! だからッ……、せめて、君に、同じ無念……を、味……合わせ……ッ。ひぐぅ」

 ステイルが、壊れた。

「……………………ウヲァァアアアオオオアアッー!」
 十四歳らしいヤケクソっぷりでルーンをばらまき、絶叫するステイル=マグヌス。

「世界を構築する五大元素の一つ!
 偉大なる始まりの炎よ!
 それは生命を育む恵みの光にして!
 邪悪を罰する裁きの光なり!
 それは穏やかな幸福を満たすと同時!
 冷たき闇を滅する凍える不幸なり!
 その名は炎! その役は剣!
 顕現せよ!
 我が身を喰らいて力と為せェッ!!」

 轟! という爆音と同時に『邪気眼』、もとい『魔女狩りの王』が爆誕する。
「やれっ、『魔女狩りの王』! こいつを殺れ! この世に塵ひとつ残すな!」
 ずびし、と、指差し示すは上条当麻、男の敵である。

「え?」と、上条。
「え?」と、カズマ。
「え?」と、アウレオルス。

 完全に攻撃色に染まったステイルの目。怒りに我を忘れている。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 05:31:06.63 ID:PpVfCaewo
「これはアレ? 二対二の状況になっちゃったってことですかー?」
「どうだか。ああなっちまったら、ここにいる全員殺すまで止まらないかもな」
「ってことは、まさかのみつどもえェー?」

「魔女狩りの王、イノケンティウス。その意味は『必ず殺す』。……必ず、殺す……」
「うはははははッ! こいつは面白れえ。――おい当麻! このあんちゃんは俺がもらった! 
そっちのおっさんは好きにしな!」
「お、おう! ――インデックスを『救った』男の実力、見せてやるぜ!」

 その台詞が、二人の男の逆鱗に、触れた。

 アウレオルス=イザードは思う。この男をぶち殺さなければ、己の自我が死んでしまうと。
 ステイル=マグヌスは思う。この邪魔者をぶち殺してしまえば、あの笑顔が自分に向くと。

 視線を交わす二人。――かつて同じ場所に立った二人。同じものを願い、求めた二人。失敗
した二人。敵として対峙した二人。
 ――その、二つの魂がいま、共通の敵を前に、一つになる。

「倒れ伏せ! 侵入者の上条当麻と……」
「カズマ、こいつはカズマだ!」
「――カズマ!」
 早速の協力体制が、上条とカズマをその場に打ち倒す。重力の腕が、二人の自由を奪う。
「くくくくくッ! これで動けまい。簡単には殺さんぞ! 私の痛みを、絶望を、じっくり味
わせてくれる!」
「……そうだな。五分刻みに灰にしてやろう。まずはその、邪魔な右手を切り落として――」

「チ……ッ! そう……は、させ……るか……よ……」
 床に張りつけられた右手を、上条は力ずくで引き寄せる。こいつが触れれば、この重力は消
える……はず、だ。

「こんな……モンで、行く道……退いて……られっか……よ……」
 壁や床のわずかな歪み、隙間から、分解され、再構成されたアルターがカズマに流れ込む。
黄金の装甲が、腕に、脚に、やがて全身に広がっていく。

「『魔女狩りの王』!」
 その一言で、炎の巨神は燃え盛る十字架を構え、上条の右手に狙いを定める。
「死なぬ程度に窒息せよ!」
 その一言で、上条の気道は針のごとく細くなり、呼吸がほぼ、不可能になる。

「カ……ハ……ッ……」
 膨大な重力に加え、困難な呼吸、迫る十字架。同時にこなすにはキツ過ぎる脅威に、上条の
意識が暗転し始める。あと、少し。必殺の、右手……。

 轟! と上条に振り降ろされる十字架。その瞬間、金色の風が渦となり、『魔女狩りの王』
を四散させる。背後から、低く、しかし力強いカズマの叫びが聞こえる。
「もっと……もっと、だ……もっと……輝けええ……ぇええ……ええええ……ええッッ!」
 自動的に再生される『魔女狩りの王』、しかしその姿は四散と融合をくり返している。カズ
マのアルターが再生の速度と拮抗し、上条を守っているのだ。
「……(すげぇよ、アンタ。ホントにとんでもねえ)……ッ」

 そして、上条の手が、顔に触れた。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 05:32:13.82 ID:PpVfCaewo
「とうまとうまー、くいだおれにハンバーガー奢ってもらったよ!」
 上条がインデックスたちと再会したのは、戦い終わった三沢塾の入口前だった。
「クーポン券。アウレオルスに貰って。この子がおなかおなか。うるさかったから。二人で四
〇個頼んでみたり。それで帰りが遅くなった。あの人は?」
「……倒した、と言って差し支えないと思う」
「ああ、お前は立派に引導を渡してやったよ」
「って、そうだ。とうま! また勝手に危ないことして!」
「お前が言うな!」
「あの人はどうなるの?」
「ん? ああ。ステイルが――あ、うちの魔術師な――面倒見るってさ。もう害はないだろう
し、ヤツとしても、親友のことは放っておけないんだそうだ」
「何それ。わからない」
「色々あったんだよ、色々、な」
「ある意味、いいコンビだったよなアイツら」
「あんたって人は……」

 とりあえず、この奇妙な一団は第七学区を目指して歩き出す。どうしてこんな、工業施設し
かない辺鄙な場所に塾など建てたのだろう、と上条は不思議に思うが、それは誰にも判らない。

「ねえとうま、くいだおれはどうするの?」
「私の名前は姫神秋沙。食い倒れじゃない。食い倒れてたけど」
「じゃあ、あいさ。あいさはどうするの?」
「そうだな、あとでステイルに連絡してみるとして、今日のところはうちに泊まってもらうか」
「やった! 一緒に寝るんだよ、あいさ」
「よろしく。でも」
「あー、気にしない気にしない。一人が二人になったからって変わりゃしないから」
「そう。ありがとう」

 道の先に、ファミレスの看板が見えて来た。カズマが空腹を主張する。
「おい当麻、俺は腹が減ったぜ。朝から何も喰ってねえ」
「そういや俺もだ。誰かさんに、とっておきのプリンは喰われちまったし」
「おいしかったよ!」
「ラザニアもな。しかも二個とも」
「ラザニアもおいしかった!」
「そのあとでハンバーガー二〇個。ありえない」
「ハンバーガーもおいしかった! シェイクはなかったけど」
「だからとうま、私はシェイクでいいよ! あ、アイスでもいいかも!」
「何だと」

 それでも、と上条は思う。今日もあの笑顔は守れたんだし、姫神も無事に救えた。何より二
本の脚で歩いて帰れるんだ。そう、悪くはないじゃないか。うん。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 05:32:44.49 ID:PpVfCaewo
次回予告 
 事実を知ることが悲しみであれば、騙されていることが幸せな時もある
 真実を知った女、御坂美琴
 彼女が窮地で思いを馳せるは、不幸でお節介なあの男
 幻想殺しのあの男
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 05:41:34.92 ID:PpVfCaewo
>>22の続き。一つ抜けてたorz

 ビャーオ! と弾ける音と同時に上条は重力から解放された。そのまま床を転がり、喉の奥
に右手を突っ込む。もう一度、弾ける音。
「ッっくはぁーッ!」
 猛スピードで酸素を肺に送り込み、敵を視野に置いたまま、カズマを探し――

 ――そこで上条は驚くべきモノを目の当たりにした。

「……もっと……もっと、だ……もっと……!」
 右の甲を『魔女狩りの王』にかざし、三〇〇〇度の巨神をその輝きで押し返しながら――

 黄金の獅子が『歩いて』いる。

「何……だ……貴様……それ、は」
 驚愕に顔を蒼く染めたアウレオルスが、激怒を忘れて後ずさる。ステイルもまた色を失い、
風に巻かれながら涙目でルーンを撒き続けている。金色の暴風が、その努力を空しくする。
「い、の……けん……てぃうすっ、いの……け……」
 絞り出すように従者の名を呼び続けるが、すでにルーンの大半は千切れ、飛ばされている。
「輝けぇぇ……ッ!」
 ずるり、と『魔女狩りの王』の身体が崩れる。黒々とした巨神の肉片が床に散らばり、もぞ
もぞとうごめくのみ。

「どん……だけ……だよ……」
 『魔女狩りの王』と自身の戦いを思い起こし、上条の全身が粟を立てる。

 その場の全員が凍りつく中、重力に反逆した男がゆっくりと、棒立ちのステイル=マグヌス
に迫る。
「お前……の、相手は……俺……だって……言った、だろ?」
 震える腕を、それでもおおきく振りかぶって、カズマの拳がステイルのど真ん中を貫く。糸
が切れたように倒れ伏すステイル。その表情は一生分の恐怖を噛み締めていた。

「さあ……次は、お前の……番だ……ぜ、相棒ッ」
 そしてまたゆっくりと、手近な壁に寄り、背を預ける。もちろん、立ったままだ。

「そ、そんなことより!」
 何かに痺れていた足を床から引き剥がし、カズマに駆け寄った上条が、重力を解除する。カ
ズマは頷いて、上条の背を叩く。
 無言の後押しが、重い。重い。

「始めるか」
 と、上条がアウレオルスと向き合ったその時――

「う……あ……あ、ああああああああああああああああああああああああああああっッッ!!」
 思わずついて出た悲鳴に無理矢理、自失から覚醒させられたアウレオルスが、矢継ぎ早に鍼
を首筋に突き刺し、連呼、絶叫する。
「カズマという男は倒れ伏す、カズマという男は倒れ伏す、カズマという男は倒れ伏す、カズ
マという男は倒れ伏す、カズマという男は倒れ伏す、カズマという男は倒れ伏す、カズマとい
う男は倒れ伏す、カズマという男は倒れ伏す、カズマという男は倒れ伏す――」

「クッ……!」
 カズマを再度、重力が襲う。しかし、しかし――この男はもう、倒れない。

「もういい……もう、休め……」
 絶叫し続ける哀れな男の肩を、上条が叩く。泣き崩れるアウレオルス。


 そしてこの、錬金術師の悲壮な戦いは、ここに終わった。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 05:56:35.32 ID:PpVfCaewo
これはひどい。しかし、もっとひどいのもあった
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 05:57:14.46 ID:PpVfCaewo
それがこれだ

八月八日 夜 第一七学区 三沢塾 ーボツverー

 どこをどう走ったか定かでないが、非常階段から飛び出した先の通路にて、上条は知り合い
の顔と再会した。
「よお! また会ったな」
 自分を担ぎ、背中を叩いて前へ送り出した、がさつで暖かい恩人の声。故に、今の上条にとっ
ては何よりも安心できた。
「カズマ! どうしてこんなところに?」
「前の時と同じだな。『何故かここには近寄らない方がいい』って感覚に逆らったら、このビ
ルに辿り着いたって訳よ」
「どんだけトラブル好きなんだよ!」
「これが『強くなる方法』だからな」
「それが『早く死ぬ方法』じゃないことを祈るよ」
「そういや、外で鎧のおっさんが男泣きしてたけど、何だアレ?」
「……ああ、三三三三人の聖歌隊が自爆したみたいだ」
「そりゃ、泣きたくもなるわ」
「そうだな」


 アウレオルス=イザードは、ただ一人の少女を助けるために魔道書を書き始め、諦める事な
く書き続け、そうして、何故魔道書を書き続けるのか気づいてしまった。単に『魔道書を提供
する』という名目の元、ただ一人の少女に会いたかっただけなのだ。

 こうして錬金術師は人の道を外れた。


 最上階を目指して、走る二人。とりあえず『校長室』が怪しいだろう、と。
「んで、そのあおれうすって、誰よ?」
「錬金術師だってさ」
「……その説明は長くなるのか?」
「たぶん」
「ならいい。他に何か、あるか?」
「……インデックスがここに囚われてるかも知れない」
「――ッ! 衝撃のォ――」
「ま、待て! この建物は!」
「――ファーストブリットォォ!」
 ゴガン、と、けたたましい激突音が響く。右拳を天井にぶち当てたままの格好で、燻り静止
するカズマ。やがて推進力を失い、床に戻ってくる。
「何だこりゃ? やけに硬てえぞ」
「この建物には、一切の干渉が効かないんだ。壊すことも、ドアを開けることもできない」
「お前の右手でもか?」
「ああ、そういう結界なんだと。『核』を壊せばいいんだけど、一度入ったら出られない構造
のくせに、『核』は外にあるって寸法でさ」
「へええ、そりゃまた分厚い壁だな。壊し甲斐があるってもんだ」
「え?」

 カズマの『アルター化』にカタチは関係ない。壁や窓枠のわずかな歪み、隙間から、分解さ
れ、再構成されたアルターがカズマに流れ込む。それに、ここではない『向こう側』からの、
無尽蔵のエネルギーもまた、強引に接続された。そして――
「もっと、もっとだ! もっと輝けえええええええええええ!!」
 黄金の光を纏った金色の獅子が撃滅の咆哮を上げる。目の前の壁を壊す、ただ、それだけの
ために。
「シェルブリットォオオ・バァァストォオオオオオオ!」
「お、おい!」
 輝きのあまりに輪郭がぶれ、速過ぎるがために残像を残して、カズマは一つの稲妻と化し、
一瞬で『三沢塾』のビルを屋上まで貫き通す。
「おい!」
 カズマの駆け抜けて行った天井の穴を見上げ、呆然とする上条。何のために? 何故にそこ
まで? 何処へ?
「はっ!」
 呆けてる場合じゃない。こっちはこっちで急がねば。カズマのことは、心配するだけ無駄だ。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 05:58:07.80 ID:PpVfCaewo
 校長室は広大な空間だった。悪趣味な、広大な空間だった。天井から戻って来たカズマが、
アウレオルスに宣告する。
「ダチの嫁を返してもらうぜ、おっさん」
「お前は……その格好は何だ。一三騎士団の者には見えんが」
「あ? 通りすがりのチンピラだよ。いいからとっとと返せ。俺のあとに来る奴はこんなに優
しくねえぞ?」
「……待て。その前に、『嫁』とはどういう意味だ」
「言葉通りだよ。悪の手から姫を救った勇者がめでたしめでたしってやつだ」
 カズマの中ではインデックスは上条の嫁、と、決まっている。何故ならこの男もそうだから
だ。あと二年。あと二年を喧嘩に明け暮れて堪えることにしたこの男が、敵を求めて海を渡っ
たのは、それ故の必然なのだ。
「馬鹿な……『救った』だと……。ありえん!」
「噛みつくのはそこかよ」
「私以外の何者にも、彼女を救うことはできないはずだ!」
「できちまったんだからしょうがねえだろ? できちまったもんはよお」
「信じられん!」
「いいか? よく聞けよ。『あの二人は一緒に暮らしてる』、『その部屋にはベッドが一つし
かない』、『会ったその日に全裸』。どうだ、聞こえたか?」

 決定的だった。

 アウレオルス=イザードは、己の支えの全てを破壊された。特に最後のは致命傷だった。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
 ……コイツはもう、終わったな。カズマは確信した。

 アウレオルスの気狂いじみた笑いが、眠らされていたインデックスの目を、覚ます。薄く開
いた目が、ただ一人の男を求め、探す。
「……かずま? とうまはどこ?」
「よう、久しぶりだな。あいつはすぐに迎えに来るぜ」
「ひさしぶりー。ねえ、何で金色なの?」
「こいつが俺の最終形態なんだよ。どうだい、イカすだろ?」
「えー、何かゴキ――」
「――それ以上何か言ったらお前の晩飯は俺が喰う」
「うん! 格好いいね! さすがかずま!」
「まあな。帰りにケーキ買ってやる」
「やったー! ケーキ! ケーキ! ケーキ!」

「黙れ貴様ら! 黙れ!」
 炸裂する怒号。皮肉にもこの激怒が、アウレオルスをわずかながらも正気の側へ引き寄せた。
「倒れ伏せ、侵入者!」
 その瞬間、カズマの身体が床にめり込む。
「……くっ!」
 シェルブリットの力をもってしても抗いがたい、圧倒的な重力がカズマにのしかかる。
「うははははは! 決して楽には死なせてやらんぞ。私の分まで苦しみ抜くがいい!」
 アウレオルスは懐から取り出した鍼を、己の首にずぶずぶと差し込み、悶えるように笑い震
える。さあ、次の攻撃を食らえ。

「待て!」

 その場面、まさに完璧なタイミングで、上条が飛び込んで来た。
「インデックスを返せ! 姫神を解放しろ!」
 上条の声を聞き、姫神秋沙が驚愕する。アウレオルスには驚く余裕もない。最前までの歪ん
だ笑顔を、憤怒が塗り潰していく。
「ききき、貴様! 貴様! 貴様だけは許さんぞ! 万死に値する!」
 そしてアウレオルスは怒りに任せ、一手を誤る。
「――死ね」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 05:59:32.84 ID:PpVfCaewo
 ガンッ、という衝撃が上条を襲い、呼吸が、拍動が、思考が急速に鈍る。
 考えるまでもなく、右手が左胸を叩く。瞬時に上条の生命が復帰する。それはいつも通りの
打ち消し、対象が自分になっただけだ。こんなちゃちなものを畏れたのかと、自嘲する。
「ちっ、単純な『死』では足りぬか。ならば――」

「窒息死!」
「無駄ァ!」
「感電死!」
「無駄ァ!」
「絞殺!」
「無駄ァ!」
「ロードローラーだッ!」
「無駄ァ!」
「轢殺!」
「無駄ァ!」
「爆殺!」
「無駄ァ!」
「撲殺!」
「無駄ァ!」
「焼殺!」
「無駄ァ!」

「な、なるほど。全てはその右手なのだな? ならば――」
 荒く乱れる呼吸。新たな鍼を突き刺しつつ叫ぶ。
「刀身を展開、音速で旋回し右腕を切――」
 その命令が下される寸前、あり得ない方向からアウレオルスに声が届く。
「おっと……、そいつは、見過ごせねえな……」
 上条を睨み過ぎていたアウレオルスの視線が泳ぎ、声の主を捉える。ここに至って、アウレ
オルスは初めてがく然とする。
「貴様……どうして……?」
 『右手』を持つ上条以外には誰も、打ち消すことのできぬはずの呪縛を鷲掴みに、倒れ伏し
ていなければいけない男が、アウレオルスの視線を同じ高さで跳ね返しているのだ。
「どうもこうもねえ……。この『重力』に反逆した、それだけよ……」
 ガクガクと震える膝を根性で引きずり、通常の数十倍にもなる重力に抗って立つカズマ。そ
の、やや腰を落とした格好は、アウレオルスの目には紛れもなく攻撃の構えとして映った。
「シェル……ブリッ……ト……」
 もはやなりふり構わず、アウレオルスが必死の命令を下す。
「対象を変更! カズマという男を切断!」
 アウレオルスの手に出現した西洋刀が、一瞬ののちにカズマの背後の壁に突き刺さる。切り
飛ばされ、宙を舞うカズマの右腕。しかしカズマはまるで怯むことなく――

 ――まるでそこに腕がついたままであるかのように構え、そこにあるがごとき『拳』を握る。
その場の全員が、凍りついたように動かない。
「何……を……?」

「へっ……これが、再々構成……だ……」
 その声と同時、宙を回転する腕が弾けるように分散し、カズマの肉体のあるべき場所に『ア
ルター化』した。
「行くぜ……。シェル……ブリッ……ト……バース……ト……ッ!」
 縛りつける鎖の全てを引きちぎり、ゆっくりとカズマが加速する。アウレオルスまで、あと
三……、二……、一歩。
「うわあああああ! 攻撃を回避! 回避!」
 懐から振り出した鍼を掴むのももどかしく、首筋めがけて闇雲にアウレオルスは突き刺す。
そこが正しいツボであるかなど、考える余裕もない。

 ――交錯する二人、しかし間一髪、カズマの拳がアウレオルスの正中線を捉えることはなかっ
た。

「倒れる……時も……前のめり……だ……ぜ……」
 右拳を打ち出したままの格好で、再度、床に縫いつけられるカズマ。その声に上条が震え、
応え、跳ねる。
「ウオオオオオオッーー! イ、マ、ジ、ンーーーーッ! ブレイカーァアアアアアア!」
 異能の力を打ち消す、それ以外は到って平凡な上条の拳。しかしいま、その拳には必殺の弾
丸が込められた。
「こ、攻撃……。迎撃を……。あの『右手』は――」
 慌てて懐の鍼を探るアウレオルス。だがしかし、そのイタリア製の純白のスーツには、すで
に懐と呼べるものはついていなかった。いや、彼にはもう、何も残っていなかった。

 カズマの拳が鍼を、攻撃の全てを奪い、上条の拳がいま、防御の全てを打ち砕く――

(無理……だ……こん……な。敵う、はず……が……、な……死……)
 アウレオルスは恐怖に支配され、身じろぎもできない。ゆっくりと、何十倍にも引き延ばさ
れた打撃の、敗北の瞬間が、哀れな錬金術師に襲いかかった。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 06:00:07.92 ID:PpVfCaewo
「かずま! 腕は? 腕はちゃんとついてるの?」
「ああ、何てこたあねえ。初めてって訳でもねえし、な」
「マジですかー」
「そんなことより、腹が減ったぜ」
「そうだよ! ごはん! とうまごはんー!」
「ああ、そういやそろそろ晩飯の時間かー。今日はスーパー寄ってかないとな」
「あ。あの私に。ごはん作らせて。お礼に……」
「おっとー。今日はこれは上条さんお手製、粗食でいつもの晩ご飯! を回避して、ウマメシ
が頂けるかもの予感ですか−」
「でもとうまー? くいだおれだよ? だいじょうぶなの?」
「実は自信あったりするから。期待してもいい」
「いいの? くいだおれ。期待しちゃうんだよ? おいしいご飯でお腹いっぱいだよ?」
「約束する。あと私は姫神秋沙。食い倒れじゃない。食い倒れてたけど」
「じゃあ、あいさ。今日はよろしくね。明日もよろしくしてもいいんだよ!」
「インデックス……お前。ま、まあ、今日はよろしく頼むよ。姫神」
「うん」
「よーし、メシだメシだ。行くぜ−」

「あ」

「このおっさんどうする……?」
「いや、おっさんって歳じゃないような気がするけど……」
「三三三三人をヤッた奴だからな……。放っておいたらマジで殺されるかも」
「ここに置いてくのはちょっと。かわいそうかも」
「これはちょっと、イギリス清教の手にも余るかも」
「うーん」

 そんな困った空気の中に、颯爽とステイル=マグヌスが!
「ん? 君たちがいるということは、ここは日本か」
「何ボケてんだよステイル?」
「到ってまともだが、何か?」
「あ、そうか! 『忘れた』のか、お前も」
「何のことだ。私は何も――」
「イマジンーーーーッ! ブレイカーァアアアアアア!」
「そげぶっ!」
「思い出したか?」
「う、……ん? ……ッ! アウレオルスは!」
「おはようステイル。アウレオルスはそこで寝てるぞ」
「おお、いつの間に。これはもしや君が?」
「まあな」
「……ま、またかー! また私は肝心なところで……」
「それはいいからさ、俺らもう帰るから、アウレオルスのこと、よろしくたのむわ。あとここ
の事後処理も」
「うむ、うん、まあ、そうだな」
「あ、それと、ローマ正教の『真・聖歌隊』が弾き返されて、三三三三人が犠牲になったっぽ
いから、それもどうにかしておいてくれるかな」
「何……だと。……そんな馬鹿な!」
「んじゃ、まあ、そういうことでー」

「よーし、みんな帰るぞ−」
「おー」
「ごはんー!」


「……不幸だ」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 06:27:20.26 ID:PpVfCaewo
次のは結構掛かりそうだというのに
最後の書き込みがコレ、というのはいかがなモノかと思ったので
書きかけのシリアスパートを置いておきます
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/23(水) 06:28:25.99 ID:PpVfCaewo
 八月十五日 二十一時 第一七学区 操車場

 欠損した左脚からの失血が、致死レベルに達することを確認し、移動能力の減衰により有効
な延命の可能性が失われたと判断した時点で、九九八二号の『実験』は終了した。
 これから死亡に到るまでの時間が、『実験』から解放された彼女の、真の意味での人生の全
てとなる。
 九九八二号に死への恐怖や、生存への渇望というものはない。単価十八万円の実験用検体と
して使用され廃棄される、量産された模造品であることに疑問を抱く余地がない。自分の命に
十八万円以上の価値がないことを知っている。だからこそ、

『お姉さまから頂いた、初めてのプレゼントですから』

 九九八二号は最初にして最後となるだろう行動の選択を、逡巡なく選択し、実行に移る。
 大量の出血を続ける左大腿部への意識を遮断する。痛覚の絶叫を切り捨てる。聴覚を放棄し、
視野を狭める。余計なものは視野の外へ流し、たった一つの価値あるものを捉え、求める。

 暴走した雷撃の槍が弾いて落としてしまった、カエルの絵のついたバッジ。

 地面を掴んで這い、進む。砂利に血の轍を残し、手を伸ばす。赤く染まる視界、震える指が
姉からの贈り物に触れる。今日の、かけがえない思い出と共に薄い胸に抱いて、強く思う。

 ――いらない。私は他に何もいらない。

 自分の次の者が、回収されたコレをつけた姿を想像してみる。今日の情報は共有されている
のだから、このバッジは羨望の的になるだろう。カエルのバッジをつけた誰かを見て、姉は喜
んでくれるだろうか。だとしたら、それはとてもいいことかも知れない。

 しかしその想像は実現しない。

 『実験』の被験者が線路からぶん投げた、重さ数十トンの保守用車両が九九八二号の頭上に
迫っていて、まもなくその車重が彼女もろとも、バッジを復元不能なまでに破壊するから――

 ではない。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 09:47:18.92 ID:oqqRBwhSo
ステイルが駄目すぎるww
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/02(水) 01:56:36.62 ID:n9h629k6o
1万字を超えても八月十五日(漫画版、超電磁砲24話。5巻の頭)が終わらないので、
とりあえず日付けを跨いだところまでの分を置いておきます。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/02(水) 01:57:48.13 ID:n9h629k6o
 八月十五日 二十一時 第一七学区 操車場

 欠損した左脚からの失血が致死レベルに達することを確認し、加えて移動能力の減衰により、
有効な延命の可能性が失われたと判断した時点で、九九八二号の『実験』は終了した。
 『実験』の二〇〇〇〇分の一を担った彼女が受け取る対価は、死の瞬間までの自由。

 九九八二号に死への恐怖や、生存への渇望というものはない。単価十八万円の実験用検体と
して使用され廃棄される、量産されたヒトの模造品であることに疑問を抱く余地がない。彼女
は自分の命に十八万円以上の価値がないことを知っている。

 だからこそ、

 九九八二号は最初にして最後となるだろう行動の選択を、逡巡なく選択し、実行に移った。
 大量の出血を続ける左大腿部への意識を遮断する。痛覚の絶叫を切り捨てる。聴覚を放棄し、
視野を狭める。余計なものは視野の外へ流し、たった一つの価値あるものを捉え、求める。

 それは暴走した雷撃が弾いて落としてしまった、カエルの絵のついたバッジ。

 地面を掴んで這い、進む。砂利に血の轍を残し、手を伸ばす。一本になった脚で地面を蹴り、
顔を上げる。赤く染まる視界、震える指が姉からの贈り物に触れる。今日の、かけがえない思
い出と共に薄い胸に抱いて、彼女は最期を受け入れる。

 ――いいからジっとしてなさい

 ――うん! 鏡で見るより分かりやすいし、客観視できるわね

 ――こうして見ると結構アリって気も……

 自分の次の者が、回収されたこれをつけた姿を想像してみる。今日の情報は共有されている
のだから、このバッジは羨望の的になるだろう。カエルのバッジをつけた誰かを見て、姉は喜
んでくれるだろうか。だとしたら、それはとてもいいことかも知れない。

 しかしその想像は実現しない。

 『実験』の被験者が線路からぶん投げた、重さ数十トンの保守用車両が九九八二号の頭上に
迫っており、まもなくその車重が彼女もろとも、バッジを復元不能なまでに破壊するから――

 ――ではない。現実は常に、想像の少し斜め上を行く。

 ドゴッシャアァ、と落下した保守用車両は果たして、九九八二号を押し潰しはしなかった。
白髪の被験者の計算したところに落ちなかったからだ。正面に特大の凹みをつけた数十トンの
鉄塊は、九九八二号の後方二〇メートルの地点に突き刺さっている。

「何も、死ぬことはねえよな。こんなところでよ」

 思い出と宝物を抱き締めた少女が、正面からの声に反応して目を開けた。失血によりおぼろ
げな視界には、ぼんやりとした輪郭しか捉えられないが、それが何故だか頼もしく見える。

(……何だろう……金色……たてがみ……尻尾……後ろ足で立った……ライオン……?)

 ショータイムを台なしにされた白髪の被験者が、癇癪を爆発させる。

「ンだァッ? テメェは! こンなところで何してくれちゃってンのォ? アレかァ? 助け
に来ましたってェか、ソイツをォ? っつうかオマエ、ナニその格好、コスプレ会場から飛ン
で来たってか? ここはテメェなンぞが――」

「うるせえ黙れ。俺はいま虫の居所が悪いんだよ」

 その男は白髪の方を見もせずにそう吐き捨てると、今にも倒れ込みそうな少女を抱き上げ、
その耳許に一言囁いてから、左手で少女の大腿部を強く掴む。苦痛を吐き出す小さな音、しか
し声は漏れない。その力も、もう残っていないのだろう。

「オイ、テメェこの俺を誰だと――」

 そのまま、白髪の横を素通りして、投げ棄てられた少女の左脚を拾う。そこで初めて白髪に
向き直り、一方的に宣言する。

「時間がねえ。お前の相手は今度、徹底的にやってやっから。いまはこれでも喰らってな!」

 少女の右脚を掴んだ男の右手、その甲にある円形のシャッターが開き、そこから黄金の旋風
が放出される。力と意志を持ったその風は爆発的に広がり、白髪の少年に襲いかかった。

「ハッ、この俺相手に『能力』で攻撃たァ、イイ度胸だ。ンなモンまとめてテメェにお返――」

 しかしその台詞は旋風を放った男には届かない。第一に、男はすでに操車場を後にしていた
から。そして第二に、切った啖呵と共に白髪の少年が、風に巻かれてブッ飛んだから。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/02(水) 01:58:28.55 ID:n9h629k6o
             ×    ×    ×

「何……なのよ……? あれは……」
 陸橋の上、欄干を握り潰さんばかりに掴んだ少女が呟く。その姿は、金色の獅子がその腕に
抱いて飛び去った瀕死の少女に酷似している。

(……あの白髪が『絶対能力者』になろうとしている『超能力者』の一人、『「妹達」を運用
した絶対能力者への進化法』の被験者、『一方通行』。『学園都市第一位』。その『最強』が
地上一〇メートルを錐揉み降下してる。『全てのベクトルを操作』するはずの能力者が……)

 目の前の『あり得ない』状況に思考を奪われていた少女が、そこではっと気づく。彼女を姉
と呼び、一緒に猫を助けアイスを食べお茶を飲み缶バッジを取り合った少女の、生命と身体の
行方を知ることが、いまは全てに優先する、と。

 少女は踵を返して走り出す。あの金色の男が『妹』を抱いて飛び去った、『学園都市第七学
区』の方向へ。

             ×    ×    ×

「チィッ! 一体なンだってンだ……、この俺が、この『超能力者』の筆頭が……あンなドコ
の誰かも判らねェコスプレ野郎の『能力』に飛ばされたっつうのはよォ……ッ!」

 一方通行は砂利の上に大の字で倒れたまま、自問する。その身体に損傷は見受けられない。
彼の『能力』が、着地の衝撃を相殺したからだ。

「クソッ! あの野郎、絶対に潰してやる……」
 その時、夜空を囲むように、いくつもの顔が一方通行を一斉に見下ろした。その沢山の顔は
またしても、先ほどの少女の面影と瓜二つだ。

「どうかしましたか、とミサカは質問します」
「うるっせェ! ちょっと昼寝してンだよ。とっとと片づけを始めやがれ!」
 と、不機嫌極まりない声で八つ当たりをする。
「九九八二号の死体が見当たりませんが? とミサカは重ねて質問をします」
「アァ? ソイツは……ソイツはアレだ、見りゃ判ンだろ? 粉微塵に吹き飛ばしたンだよ! 
テメェらの手間を省いてやったンだ、感謝の一つも吐かして、とっとと消えやがれッ!」
「了解しました、とミサカは感謝の意を表明します」
「してねェだろォが! ったく、このガキどもが……」

 クソが、と吐き捨てて起き上がり、帰途に就こうとする一方通行。その顔にヌルリとした違
和感を感じ、頬を拭う。その指先から滴る、赤い血液。
「鼻血が出ていますよ? とミサカは心配を装いつつ指摘してみます」

 少年の真っ白な顔が、瞬間、真紅に染まる。

「うッ、うるっせェな! こちとら思春期真っ盛りなンだ! 鼻血ぐれェ、健全な青少年だっ
たら三日に一度はタラタラ流してンだよ!」
 プイッ、と、そのミサカから顔を逸らし、逸らした正面にいたミサカの顔を避け、さらに避
け、とにかくなるべく包囲の薄い隙間を縫って、少年は誰もいない荒野を目指す。

「……クソッ……あンの……ド畜生……が……あのヤロォ……五ミリ……角切り……魚に……」

 ブツブツブツブツ、と怨嗟の呟きを漏らしながら遠ざかっていく少年の背を、十数人のミサ
カが見送っている。

 ――どのミサカがフラグを建てたのでしょうか? とミサカの一人が残りのミサカに質問し、
私が、いや私が、いえいえ私が、といくつもの手が挙がり、そして同時に、だが断わる、断わ
るね、いやいやねーだろ、と、拒絶の声がさざ波のように広がった――

             ×    ×    ×

 かつて、右手を複雑骨折した男が寝かされていたベッドに、九九八二号が眠っている。掛布
団の上、組んだ手の中にはカエルのバッジが収まっている。ベッドの脇には、二人の男。

「どうなんだ?」人相の悪い男が問う。
「一時は危険な状態だったけど、もう大丈夫だ」白衣を着た、カエル顔の男が答える。
「……そうか。この街で知ってる医者はアンタだけだったから、そいつがヤブじゃなくてよかっ
たよ」
「失礼な男だね、君は。安心したまえ、少なくともこの街に、僕以上の医者は存在しないよ?」
「安心するのはアンタだ。もし死なせてたら――」
「ふん。僕に限ってそんなことが起こる訳がないね? 死人以外ならどんな患者でも治す、そ
れが僕の矜持なのだからね?」
 それを聞いて、男の人相が二割ほどマシになった。
「はっ、そりゃ上等だ。また次も頼むぜ」
「次? はは、まるで僕専用の救急車だね、君は。いいとも、いつでも待ってるよ?」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/02(水) 01:59:12.49 ID:n9h629k6o

             ×    ×    ×

 全てが寝静まった病室。細く開いた扉から、少女の形をした影が滑り込む。微かな、しかし
確かな寝息を捉えて、安堵の長いため息が病室に広がった。音を立てぬよう、慎重な足取りで
ベッドに近づく。カーテン越しの淡い月光が、少女の姿を浮かび上がらせる。

「よかった……」

 聞こえぬように、起こさぬように、小さく、小さく呟く。
 小さな顔と、小さな手。ふたりは同じものを持っている。
 ここに眠っているのは、この姉の妹。会ったばかりの妹。
 誰にも代われない、代えることなど許されない、大事な――

 薄雲を抜けた月光がベッドを白銀に染め、そして彼女は、眠る妹の手の中に、仄かな緑色の
輝きを見つけた。

 ――お姉さまから頂いた、初めてのプレゼントですから

「っ……ぅ……!」
 きつく唇を噛み、こみ上げるものを押さえつける。いまの私に、涙を流す資格なんて、ない。

              ×    ×    ×

「見舞いは済んだかい?」
 病室の前、壁にもたれた影が呼びかける。
「……ッ!」
 とっさに身構え、少女は暗がりを睨む。おぼろげな人影の中から、一つだけの凶暴な眼光が
彼女を睨み返した。
「助けた以上、責任があるからな。――お前が敵だったら、部屋には入れなかった」
「助け……? じゃあ、アンタがあの時の……!?」
「ん? ああ、お前もあそこにいたのか」

 途端、少女は砕けんばかりに奥歯を噛み締める。内に向いたドス黒い怒りがマグマのごとく
噴き出し、渦巻き、胸の奥底を灼き尽くす。
「……間に合わなかった」
「どうした?」
「あの子が殺されようとしていたのに! 私の『超能力(レベル5)』は、『学園都市第三位』
の『能力(チカラ)』は届かなかった……!」
「おい」
「……『一方通行』。アンタがあの『最強』からあの子を――」
「おい!」
「私が! 私が、やらなきゃいけなかったのに――」
 男の右手が少女の胸倉を掴み上げ、俯いた視線を引き寄せる。
「後ろを見てんじゃねえ!」
「……っ?」
「後悔を口に出すな!」
 隻眼の放つ『凄み』が、挫けた心に灼熱を注ぎ込む。
「『弱い考え』をするのはいい、そいつに抗うことで強くなれる。だがな、そいつを口にしち
まったら弱さに囚われる! 弱さに負けちまう!」
 前しか見ない男の信念が拳から迸り、少女の胸を貫く。
「ここは逃げていい場面じゃねえ! 諦める方向に進むな!」
「……ッ!」
「お前の意地を見せてみろ!」
 少女を降ろし、決意を問う男。彼を見上げる少女の瞳は光を取り戻している。
「……そう、そうよね。あとになって涙を流すより、血を流しながら前に進む方がいい」
「ああ、そうだな。それがいい」
「あの馬鹿げた『計画』をブッ潰して、あの子たちを解放する。それだけでいい」
 その調子だ、と言いかけた男がふと、怪訝な顔になる。
「あの子たち? まだいるのか」
「ええ、私の提供したDNAマップが転――」
「待て、そこまでだ」
「え……?」
「全然解らねえから通訳のいるところで聞こう。――こっちだ」

 先に立って歩いていく男の背を見ながら、少女は少し不思議な気分になる。何が、と考えて
それが軽い既視感だと気づいた。呼ばれてないのに現れてお節介を焼き、『あり得ない』力で
道理を蹴っ飛ばす、暑苦しい語りが妙な説得力を持つこの男は、彼女のよく知る『あの男』に
どこか似ているのだ、と。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/02(水) 02:00:08.75 ID:n9h629k6o
               ×    ×    ×

「やあ、御坂美琴さん。『幻想御手』の一件以来だね?」
 カエル顔の医者が、訳知り顔で少女を迎える。まるで彼女――御坂美琴がここに現れるのを
待っていたかのようだ。
「お久しぶりです、先生」
「何だ、知り合いだったか。それなら話が早い、どっちでもいいから始めてくれ。あと、おっ
さんは難しいところの解説も頼む」
「ふむ。カズマ君にも解るように、というのは難しい注文だけど、まあやってみるよ?」
 バカでも解るようにな、という彼――カズマの諧謔を無視して、カエル顔が続ける。
「さて。君の妹さんだけど、彼女、普通の身体じゃないね?」
「ッ!」
「どういうことだ?」
「うん? 基礎代謝と細胞分裂の速度、ホルモンバランスの異常。それに体内から検出された
無認可の薬物、この条件を充たす解答は『あり得ない』ことなんだけど、促成された『体細胞
クローン』しかないんだね?」
 そこで一旦、美琴の表情を確認して、解説に移る。

「この『クローン』というのは、素体――つまり彼女のことだね?――から身体の素となるも
のを採って、それと全く身体を造るという技術なんだね?」
 造られた、同じ姿の存在。カズマの脳裏に、同じ仮面をつけた個性の欠片も感じられない男
たちの姿が浮かぶ。それはクローンとは別のモノだが、意味合いにおいては近い。
「ああ、似たようなのを見たことがあるぜ。あいつら……」
 どこか遠くを見て、何かに怒りを向けるカズマを見ないようにして、美琴が応える。
「ええ、その通り。あの子は、私の提供したDNAマップを転用して造られた、『体細胞クロー
ン』。それも軍用の……」
「転用? ということは元々は――」
「筋ジストロフィーの治療に。私の『電撃使い』の力が役に立つかも知れないって」
「きん……じす?」
「ああ、筋ジストロフィーというのは、筋力の低下が止まらなくなり、やがて死に到るという
病気だね? 治療法はない、とされているね?」
 それで、とカエル顔は次を促す。
「でもそれは、『超電磁砲』という『超能力者』を人工的に量産する為の口実だった。計画名
は『妹達』。――結局、造り出せるのが『強能力』までだって判って、その計画は凍結された
んだけど……」
 美琴の顔に苦渋と怒りが広がる。
「別の計画がクローンの製造法に目をつけた。それが『「妹達」を運用した絶対能力者への進
化法』。『超能力者』の最強、『一方通行』に二万通りの戦闘経験を与えると、『絶対能力者』
に進化するっていう計画。そしてその実験に使われたのが、あの子とその姉妹たち」
「二万人を人柱にした実験、か。この都市の暗部を象徴するような話だね?」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/02(水) 02:00:45.46 ID:n9h629k6o
「……その『レベル』ってのは、そんなに大事なのか?」
 かつて『Cマイナス』とランク付けされた男、カズマが憤りに満ちた問いを放つ。
「ここは『そういう』ところだから、レベル分けにはそれなりの重さがあるようだね? 上を
目指す為に身を削る者もいる。でも、研究者たちが『絶対能力者』を求めるのは、そのレベル
自体はただの手段であって、『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』、つまり、人間を
超えて『神の領域』に到達するのが真の目的だと、彼らは言っているね?」
「けっ、そいつらも結局、強いヤツを使って『向こう側の力』が欲しいってか。くだらねえ」
「『向こう側の力』?」
「あるんだよ、そういうのが。――そんなことより、その実験ってヤツをぶっ潰すにはどうす
りゃいい? あの白髪のガキをブチ殺せばいいのか?」
「そうね。それが一番手っ取り早いわ。唯一の被験者がいなくなれば――」
「おいおい、目の前にいる男が医者だと判ってて、それを言うのかい?」
「……昨日の実験は、第九九八二次。解る? あの子の前に九九八一人の『妹』が殺されてる
のよ! 許せる訳がないじゃない!!」

 それでも、と飄々とした口調を別人のそれに変えて、カエル顔が宣告する。
「子供を殺すのは、僕が許さない」
「そいつが九九八一人を殺しててもか?」
「ああ、そうだ」
 三人の間の空気が、嫌な音を立てて軋む。一番短気な男が、面倒になって妥協した。
「チッ、しょうがねえ。そんなら、死なねえ程度にボコってやるよ。それで構わねえな?」
「いや、残念ながらそれは無意味だ」
「何だと」
「――被験者が生きている限り、実験は止まらない」
「そういうことだ、カズマ君。だから君たちが殺すのは、実験そのものでなければいけない」
「実験そのもの?」
「ああ、いくつか考えられるが……そうだな、実験の存続が不可能になるまで、施設と設備、
情報を破壊し続けるという策がある。しかしこれには消耗戦になるというデメリットがある。
敵には圧倒的な資金と物量、それに権力があるが、君たちは二人だ」
「俺は構わねえぞ。ついでにこの街を更地にしてやってもいい」
 カエル顔の色がほんの少しだけ、蒼くなる。この男の三白眼には嘘の色がない。やると言っ
たら本当にやってしまいそうだ。『一方通行』の許から獲物を奪って来たというのが事実であ
れば、それはこの男に敵う『能力者』がいないことを意味する。アルターというのはそこまで
がアリなのか。それに彼の言う『向こう側の力』が、SYSTEMと同義だったとしたら――
「彼女たちの身体は、医学的な調整を受ける必要があるんだよ。それもこの学園都市にしかな
い最先端の技術で。だから手当たり次第に、という訳にはいかないんだ。君に標的の見分けが
つくのかい? 君がどれだけ強くても、彼女が倒れたらそこで終わってしまうんだよ?」
 実際は外部の施設でも調整は可能、という事実を伏せたハッタリが、御坂美琴に通ってくれ
ることを祈りつつ、カズマという男に釘を刺す。
「私は倒れないわよ。迷わずに最後までやると、もう決めたから」
「イザとなったら背負ってやるよ。行き先は任せたぜ」
 ダメだこいつら、早く何とかしないとブッ飛んで行っちまう。

「ま、まあ待て。他にも策はあるんだ。全ての可能性を計算してから動くべきだろう?」
「それもそうか。そんなら、一番イイのを頼む」
「そうね。もっとイイ手があるなら、リスクは最大で構わないから」
 危うく『覚悟』のキマった『超電磁砲』と『アルター使い』を、フルスロットルで野に放っ
てしまうところだった。ことは慎重を要する。
「双方が最小の損傷で決着する、それが、実験の価値を失わせて、彼らに計画から手を引かせ
るという策だ。これには、二万人を殺害しても『絶対能力者』には進化しないことを証明する、
唯一の被験者である『一方通行』を説得して『計画』から手を引かせる、『一方通行』の『最
強』という前提を覆して『計画』の方から彼を見放させる、などの手が考えられる」
 聞くだけは聞いた美琴が、ジト目でカエルを睨む。
「ひとつ目は、不可能に近いわね。その為には『樹形図の設計者』を上回る予測演算と理論が
必要になるけど、先生のツテでそれが手に入る? ふたつ目はもっとあり得ない。既に九九八
一人を殺した男が、残りの一〇〇一九人を見逃して『絶対能力』を得る機会を失うだけの、ど
んな理由を用意できるというの?」
 そこで一旦言葉を切り、美琴は怒りに満ち溢れる。
「みっつ目。一体誰が『一方通行』を最強から引き摺り降ろすのよ! 『第一位』を『第三位』
の私がヤったところでそんなもの、誤差の範囲内よ。『樹形図の設計者』がその日の内に修正
案を演算して、『計画』は続行されてしまうー!」
 その勢いのままカズマを指差し、美琴の怒濤は続く。
「この、化け物みたいに強い人が『あのクソ野郎』をブチのめすのは、そりゃ簡単でしょうよ!
でもね、外部から来たイレギュラーがひと暴れして去って行きましたなんて、そんな馬鹿げた
話は、たとえ目の前で展開したとしても、『なかったこと』にされるに決まってるじゃない!
この目で見た私が、まだ理解できてないんだから!」
 まあ、落ち着けよと、猛る美琴を宥め、カズマが問う。
「つりーだいあぐら、ってのは何だ?」
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/02(水) 02:01:49.54 ID:n9h629k6o
 そこか! と把握したカエル顔が解説を始める。
「簡単に言うと、世界で一番賢いスーパーコンピュータというモノだ」
「ぴゅうた? 何だソレ」
 そこからか! と唖然としたカエル顔が解説に挑む。
「コンピュータとは、面倒で複雑な計算を人の代わりにやってくれる便利な機械だ」
「なるほど。で、それの親玉がつりーなんたらなんだな?」
「まあ、そういうことだ」
「ソイツはそれで、この街の人間を支配してるのか?」
 中間を全てスッ飛ばし、この男は核心の手前に落ちる。
「そう、それがこの街の本質。私が嫌いなモノ」
「そうか。それはどこにある? その野郎をブチ壊せば『やり直し』に、ならないんだろ?」
 美琴の目が、悔しげに天井を睨む。立てた指で中天を指す。
「そこよ。お空に浮かぶ『おりひめ沚』の中に鎮座マシマシてるのよ」
「それがどうかしたか?」
「どうって。相手は空の上、八〇〇キロも離れた衛星軌道上に浮かんでるのよ。そんなモノを
どうやって壊せばいいの? この街のどんな『能力者』だって、あの『一方通行』の『能力』
ですら、八〇〇キロ先の標的を破壊することなんてできないのよ!」
「へえ、そんなモンか」
「何よ! アンタならできるとでも?」
「まあ待て。まず、そのおりひめってのは、どんな形をしてる?」
「それなら、これだ」
 カエル顔が『書庫』から引き出した『おりひめ沚』の画像を、カズマに見せる。巨大な地
球を背景に、四本の長い太陽電池パドルが特徴的な人工衛星の姿がある。この男にこれがどう
いうモノか理解できるのだろうか、いや、そもそも衛星の後ろに写っている青い天体が、いま
足をつけている地球であることすら、認識が怪しいのでは、とカエル顔は思う。
「OK、刻んだ。あとは場所か。よし」
 と、言うなり立ち上がり、カズマはドアに向かう。
「ここじゃ物が壊れる……屋上へ行こうぜ……久しぶりに……」
「え?」
「え?」
 その意図を理解できず、仕方なしにカズマのあとを追う二人。この男は何をするつもりなん
だろう? まさか……

               ×    ×    ×

「ヤツはどこだ?」
 病院の屋上、晴れ渡る夜空を見上げてカズマが問う。
「え? うん。ああ……」
 カエル顔が携帯端末のキーを叩き、『おりひめ沚』が周回する極軌道のデータを呼び出す。
一〇〇分をかけて地球を縦に一周するその軌道は、周回毎に少しづつ西へずれる為、常に同じ
位置に見える静止軌道とは違って、「ほらそこだ」と簡単に指し示すことができないのだ。
「……ええと、そうだな。この時間だと、ニュージーランド沖上空を北上しているから……。
うん。あの辺りを三〇分後くらいに通過するね?」と、カエル顔は東の空の一点を指した。
「三〇分後だな、判った」
 屋上の柵を原子レベルで分解しつつ、カズマが了解する。やがて、その全身が黄金の輝きを
纏っていく。
「ちょ、ちょっと! 何をするつもりよ?」
「ま、まさか君……」
「ちょっと待ってな」
 気軽な調子で二人に告げると、黄金の尻尾が屋上を叩く。そして、カズマという名の一個の
弾丸が、地球の引力に逆らって射出された。
「行っちゃった……」
「行ってしまったね……」
 満天の星空を駆け上がる、金色の軌跡。残された二人はただ、立ち尽くすのみ。

               ×    ×    ×

「コイツか……」
 青い惑星を背景に、極寒の宇宙空間に立ち『おりひめ沚』と向かい合うカズマ。その身体
は金色の膜に覆われている。
「この鉄クズが、あのガキの命を弄ぶ『実験』を吐き出しやがった……」
 カズマの右腕に眩い光が収束する。
「いいぜ、『つりーだいやぐら』。テメェがアイツらを自分の思い通りにできるってなら――」
 五本の指を鋼鉄より硬く握り締めて、
「――まずは、そのふざけた『計画』をぶち殺す……ッ!!」
 かけ声もなく、技名を叫ぶでもなく、ただ一途にカズマの拳が『おりひめ沚』を貫き、軌
道線上に超高度並列演算器の残骸をぶち撒いた。

               ×    ×    ×

「あ! 流れ星!」
「……御坂君。乙女のフリをするのは、もう無意味だと思うよ?」
「うるさいわね! たまには可愛いところを見せておかないと――って、あッー!」
「……墜ちたね」
「……そうね」
「あれはやっぱり……」
「そうね……」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/02(水) 02:02:24.28 ID:n9h629k6o
               ×    ×    ×

 カズマという名の流れ星は、しばらく考えたのちに目標を定め、かつて三沢塾と呼ばれた建
物に突き刺さった。
「ふう、やれやれだぜ」
 崩れ落ちる天井を蹴散らし、正面ロビーから外に出たカズマは、もう一度尻尾で地面を叩き、
カエル顔の病院へ向かった。

「信用されねえと面倒だからな、土産を持って来たぜ」
 カズマの右手が掴んでいる、未だにぶすぶすと燻るその『残骸』は、『樹形図の設計者』の
『シリコランダム』、つまり演算中枢である。
「おかえり、カズマ」
「やあ、早かったね?」
 ツッ込んだら負けだ、と懸命に堪える二人。
「諸君、つりーなんたらは死んだ。作戦会議を続けようぜ」
「そう……だな……?」
「……そうね」

               ×    ×    ×

「さてと。どこまでだったかな?」
 医者の部屋へ戻った三人の、白熱の議論が再開する。
「ええと、私が『一方通行』をブチ殺しても修正案が演算されてしまう、ってところまでだっ
たかしら?」
「――殺すな、と言った筈だけどね」また一瞬、カエル顔の表情が凍る。
「ああ、そういやそうだったわね。じゃあブチのめす、で」
「ま、誰にでも『うっかり』ってことはあるからな」
「いやいやいやいや、ダメだからね? 『うっかり』殺したりしちゃ?」
「大丈夫よ? たぶん?」
「疑問系! ダメ、絶対!」
「お前が言うな」
 カズマの言う通りである。

 げほんごほん、と苦い咳払いをして、議題を元に戻すカエル顔。
「さておき、カズマ君の尽力により、『計画』の再演算は不可能になった訳だ」
「よせよ、そんなに大したことじゃねえ」
 どんだけー、と思うが二人は口には出さない。
「なら、私がアイツをヤるのは問題ないのね?」
「それなんだがね?」
 と、やや厳しいカエル顔で、反証に取りかかる。
「さっき君が言った『誤差の範囲内』というのが気になるんだ?」
「どういうこと?」
「うん。君が『一方通行』を――殺さずに!――ブチのめしたとする。研究者たちはまず『樹
形図の設計者』に『計画』の修正を求めようとするだろう? しかしそれはもう存在しない。
さて、どうしようか? となる訳だ。どうなると思う?」
「そりゃ、諦めるんじゃない?」
「――そこで誰かがこう言うんだ。『第三位』が『第一位』に勝利する、というのは確かにイ
レギュラーだけど、まあ『誤差の範囲内』だし、せっかく造ったんだから、最後までやってみ
よう。って」
「あり得……ない話じゃない、かも」
「そんなモンなのか?」
「十分にあり得るんだよ。それまで『樹形図の設計者』に頼り切っていた彼らが、自分の頭で
『正解』に辿り着けると思うかい?」
「……」
「そりゃ、そうか」
「だからこの案は、大き過ぎるリスクを負った時間稼ぎ、というオチで終わる公算が高いんだ」
 美琴を正面から見て、続ける。
「……正直、君だってあの『一方通行』相手に、無傷で勝利するのは無理だろう? たとえさっ
き見せて貰った『「妹達」を運用した絶対能力者への進化法』の中にあった『御坂美琴は一八
五手で死亡する』というデータが『過去の君のスペック』を許にしたモノで、『覚悟』をキメ
た君の強さが、『現在の一方通行』を凌駕していたとしても?」
「まあ、ね……」
 その『まあ』が、どの程度の『まあ』なのか、美琴の表情は内心を語らない。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/02(水) 02:02:58.71 ID:n9h629k6o
 御坂美琴に『一方通行』と刺し違える気はない。彼女は既に『一八六手』の先を読んでいて、
『どこまでのダメージ』と引き換えに『どれだけのダメージ』を与えられるかを超高速で思索
しており、腕一本、脚の一本までは許容を済ませ、いまは寧ろカエル顔の『協力』を失わな
い――『妹達』の治療が最優先なので――ギリギリの線を探っている。
 そんな彼女が、『殺さない程度』って、どの程度? 『超能力を吐き出すための塊』が残れ
ばOK? という、まだ幼さの残る十四歳が考えるにはあまりにもアレな境地に達しているこ
となど、カエル顔の医者には及びもつかないだろう。

「そうなると結局、一番最初の策に戻るのか」
「うん? でもそれだけじゃ足りないんだよね?」
 すかさず極太の釘を打ち込むカエル顔。この街は僕が守る。
「というと?」
「『これ以上一人も妹たちを喪わない』という目標が、達成できないからだね?」
「そうなのか?」
「うん。『実験』の為の設備と情報を破壊し続ければ、いつかは『計画』が頓挫するだろうね?
でもね、そんな状況でも『実験』は続くんだよ? それまで一日に十人だったのが一人に減る
ことはあるだろうけど、それでも犠牲は続く。我が身を痛めない研究者のすることなんて、所
詮はそんなモノなんだよ?」
「腐ってやがる」
「――研究者は大人。アンタが許さないのは『子供殺し』だけ、そうよね?」
「……や、まあ、他でもない『殺人』に手を染めている以上、彼らにも『殺される覚悟』を求
めるには吝かでないよ? でも僕が言っているのには、『子供が殺す』ことも含まれるんだ」
 苦しい。我ながら苦しい詭弁だとは思う。でも僕はこの少女に手を汚して――
「俺は『大人』に入るから関係ねえな。正確な歳は知らねえけどよ」
 迂闊。この『冥土帰し』一生の不覚……ッ! つうかコイツ、せいぜい高校生くらいだと思っ
てたよ! バカは歳を取らないってのは本当だったのか……ッ!
「……バカを言うんじゃないよ? 僕から見たら君だって立派な子供だね? だからダメ!」
 どうだ! 通るか……? 通らば……っ!
「ちっ、おっさんは頭が硬えなあ、全く」
 よしっ! これで勝てるっ……! 勝利(ビクトリー)……っ!
「まあ、このおっさんしか『妹達』を治療できないんだから、聞くしかないわよね」
「しょうがねえ、ここはおっさんの顔を立ててやるか」
 おっさん言うな! 僕はまだ……これでも……。
「……まあ、そういうことだから、『実験』の諸々の破壊と平行して行なう、別の手が必要に
なると、判って貰えたかな?」
「そうね」
「あいよ」
 少ない髪がさらに減ったカエル顔が、隠し切れない満面の笑みを浮かべる。その晴れやかな
様子を表現するとしたら、YES WE CAN! という感じだろうか。
「しかしそうなると、どうしたら……?」
「ううむ、『樹形図の設計者』が失われたいまなら、もしかすると……」
 そこでカズマがポンと手を打ち、ドヤ顔で発表する。
「イイこと思いついた。俺が『妹達』を、野郎の前から奪って来る。毎回」
「何……と……?」
「すごく……イイ案です……!」
「もちろん、同時進行で施設の破壊もやる。そいつはたったいまから始めよう。どうだい?」
 カエルにも美琴にも異論の余地はない。彼らの戦略はここに打ち立てられた。あとはそう、
実行あるのみ。

               ×    ×    ×

 カエル顔が『妹達』の受け入れ体勢を整えに奔走を始め、彼と彼女は病院の玄関前で拳を打
ち合わせる。
「どこから始める?」
 カズマが問い、美琴が応える。
「まずは、私にしかできないことを、見せてあげるわ」
 そう宣言すると、美琴はスカートのポケットから情報端末を出してフォーンブースへ向かう。
「そいつで何をやるんだ?」
「私の能力は『電撃使い』。あらゆる防壁を突破して、全ての電気機器を破壊に導く」
「ほう」
 何が何やらさっぱりだが、その自信にカズマは頷いてみせる。
「現在判明している実験施設は二十三ケ所。コイツをこの電話線から可能な限り吹き飛ばす」
 端末と公衆電話器を無線で繋ぎ、美琴は電気的な押し入り強盗を始める。莫大な量の0と1
が、最悪の『実験』を支える各施設のセキュリティに挑み、順番に突破しては、破壊の指示を
最上位に並び立てる。気づかれて対策をされる前に、可能な限り――
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/02(水) 02:03:35.14 ID:n9h629k6o
               ×    ×    ×

「七割、といったところね」
 『能力』の過剰使用による憔悴に荒い息を吐き、美琴が報告する。連中のヘッドクォーター
の混乱を想像して、凶暴な笑みが零れる。
「そんじゃお次は、実力行使だな!」
「ええ、そうよ」
 俄然、やる気を漲らせるカズマ。疲れを圧して、やはり漲る美琴。
「目標はお前が案内してくれるんだよな?」
「そう。私の言葉通りに走れば、そこに敵があるから」
 しかしここで、カズマが初めての不安顔。
「でもな? コレの使い方が未だにイマイチ訳判らねえ」
 手に掴んだ携帯電話を、カズマが頼りなげに振ってみせる。何このバカ、ちょっとかわいい。
「コイツが振動したら、この赤いボタンを押して耳に当てる、それだけよ!」
 特性のツンデレを遺憾なく発揮し、美琴がカズマを叱咤する。
「うん? ああ、そうか?」
「ああ、もう!」
 と、自分の端末を叩き、登録したカズマの携帯を呼び出す美琴。
「とるるるるるるるるるる!」
「うお!」
「ほらっ! 赤いボタン!」
「はい!」
 ぽちっ、と押される赤ボタン。慌てて耳に押しつけられる携帯電話。
「もしもーし」
「うおお、声が! コイツから声が!」
「だから! そういうモノなのよ、コレは!」
「うひゃひゃひゃひゃひゃ! 何コレ面白れえ!」
「はあ……」
 ため息に似た苦笑と共に、美琴の前途が二割ほど曇る。
「あとは放っておけば勝手に切れるから、それだけだから!」
「おう、任せろ」
「……そうね。ああ、そうよね」
 気を取り直し、敵の姿を虚空に睨み、御坂美琴は走り出す。カズマも地を殴って飛んで行く。
この奇妙なパーティーの戦いは、いま始まったばかりだ――
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 01:03:22.92 ID:eNXIowjAO
逃げてー!アイテム逃げてー!ロリコンだから絹旗は助けてくれるかもしれないけど逃げてー!
原作後のカズマは大概チート入ってるよな…衛星殴り落とすなんてそりゃ余裕だよな
>>1
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/06(日) 00:53:44.88 ID:w7eVuDLu0
>>1乙!
今後も楽しみだぜ
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/06(日) 23:05:29.70 ID:/YtqN7c5o
夜が明けないどころか対『アイテム』戦の途中までですが、まあキリはいいので
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/06(日) 23:06:11.86 ID:/YtqN7c5o
 八月十六日 午前三時 第一八学区 水穂機構・病理解析研究所

「そっちはどう?」
「もう終わってるぜ。次はどっちだ?」
 美琴の問いに、携帯電話の向こうからカズマが応えた。通話越しにも鮮明に聞こえる断続し
た爆発音が、破壊の完了を証明している。
「次は第二〇学区だから、北西に三〇キロ移動して」
 あいよ、という返事と同時に受話口から流れ出す、風切り音がやかましい。送話口に向けて
カズマが何か喋っているようだが、当然、一言も聞き取れない。
 電話をかける方はともかく、切り方すら受けつけなかった男に、空中を高速移動しながらの
会話が不能であることなど、想像しろという方が間違っている。美琴は研究所を見下ろす屋上
の縁に腰を下ろし、短い休憩に入った。

 彼らの作戦は単純にして明解である。カズマが正面からド派手にカチ込んで破壊の限りを尽
し、美琴は裏口から侵入して設備と情報を焼き殺す。カズマのあとには燃え盛る廃虚が残り、
美琴のあとには役立たずになった研究所が燻っている、という寸法だ。大袈裟な被害に視線と
人員が向けられるほど、小規模で致命的な破壊は目立たなく、そしてやり易くなる。

 この状況に『実験』を統括する『製薬会社』の責任者は困惑する。通信回線を利用したサイ
バー攻撃により、複数の施設が炎上したとの報告を受けて、通信の遮断を指示、事態の収拾に
取りかかった。そこまではまだ、許容の範囲内だったのだが、生き残っているはずの施設から
煤にまみれた研究員が持ち込んだ、「正体不明の攻撃を受けて爆発しました。ミサイルかも」
という要領を得ない報告が彼の常識に亀裂を入れ、次に駆け込んで来たアフロ頭の女性研究員
による「隕石が!」という、もう報告でも何でもないデタラメが止めを刺した。
 受話器を取り上げてある番号を打ち込む。通常とは異なる硬質な呼び出し音が、出世の遠の
く足音に聞こえてならない。「どうにでもなれ」の呟きと同時に回線が繋がると、彼は緊急の
申請を二件、先方に告げた。

               ×    ×    ×

 ドガッ、という荒々しい着地を決め、カズマが携帯電話に報告した。
「たぶん三〇キロだ」
「早かったわね」
「そうでもないさ。で?」
 カズマの位置を示すGPSの光点を確認して、美琴が指示を出す。
「そこから西に五〇〇メートルのところに、L字型のビルがあるわ。それが標的」
「OK。もう始めていいか?」
「もちろん。派手に頼むわよ!」
「当然のパーペキだ!」
 そしてまた風の騒音をまき散らし、カズマが飛び立つ。やがて抹殺のォオオッ、という切れ
切れの叫びに続いて受話口から爆音が轟いた。美琴は満足して、回線越しにカズマの携帯の通
話を終了させる。
「さあて、こっちもやるわよ!」
 磁力でビルの壁面を掴み、水穂機構・病理解析研究所の裏手に降り立つと、御坂美琴は侵攻
と攻撃を開始した。

               ×    ×    ×

「製薬会社からの依頼ー?」
 長い茶髪を弄びつつ、いまいちやる気の感じられない声で、若い女が携帯端末に質問を返す。
『緊急事態なんだから、どこからだって構わないんだっつーの!』
 回線の向こうでは彼女の上司が怒鳴っている。
「えー、いま忙しいんだけど?」
『えーじゃないわよ! こいつときたら! こっちだってやりたくて受けた訳じゃないのよ! 
いいからアンタらはとっとと出動しなさい!』
「しょうがないわねー。で、場所はどこよ?」
『「Sプロセッサ社」の「脳神経応用分析所」よ!』
「ああ、48区の……」
『11区だ!』
 ハイハイと、やはりやる気なげに応えて端末を切り、仲間たちに告げる。
「こんな時間だけど、新しい依頼が来たわよー」
「超眠いです。もう帰っていいですか?」
 こんな時間に起きていて大丈夫なのかと、見ている方が心配になりそうな幼い少女が断わる。
「結局、断れないんでしょ? 私はやるよー、新しい水着も欲しいし」
 深く考えないのが身上らしき、金髪碧眼の少女が簡単に了承する。
「……もっと輝けと囁いてる……」
 こんな時間だからという以上に眠たげな声と表情で、ピンク色のジャージの少女が頷く。
「ま、ギャラは悪くないみたいだし、ちゃっちゃと片づけて帰るわよ」
 カッ、とブーツの踵を路地裏に響かせ、女は移動用のキャンピングカーへ向かう。夢破れた
悪党どもの断末魔を残して、三人の少女があとに続いた。

               ×    ×    ×
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/06(日) 23:07:04.25 ID:/YtqN7c5o
 流電スポーツ人間工学開発センターを撃滅したカズマに合流地点を伝えると、黒煙を吐き出
す水穂機構・病理解析研究所に一瞥をくれ、美琴も移動を始めた。

 目標座標への方角を確かめ、その正面に建つビルに向けて走る。壁面を駆け上がり、屋上を
走り抜け、その縁を蹴って跳躍、信号機を足掛かりに道路を越え、目の前のマンションのベラ
ンダを掴み、身体を引き寄せると同時に手すりを蹴って浮上、二階上のベランダを叩いて隣家
の屋根に飛び移り、そして次の屋上へ、という一連の動作を流れるようにこなしていく。

 いわゆる『エクストリーム・スポーツ』の一つに、フランスを源流とし、世界中で競技人口
を増やしている『パルクール』と呼ばれるものがある。都市空間に存在するあらゆる物体を手
掛かり、足掛かりにして、己の肉体のみで目的地への再短距離を目指すという移動術だ。本来
は厳しい鍛練により力と技を備えた者だけが挑戦を許されるのだが、美琴の操る磁力の反発力
と吸引力、それに電磁波による空間把握は、その無謀を超越する。

 彼女がこれまで主に回避行動に使っていた『壁走り』の応用、発展系であるこの移動法――
仮に『超電磁パルクール』とでも呼称しようか――の利点は、まず能力の消費が抑えられるこ
とにある。磁力の吸引力を連続使用する『壁走り』とは異なり、跳躍の瞬間に反発力を、取り
つきの一瞬に吸引力をそれぞれ使用するだけでよく、効果に対するエネルギー効率が高いのだ。
そして普段は無意識に扱っている電磁波による空間把握を、常時変化する複雑な地形に対して
意図的に多用することは、精密度と練度の向上に繋がる。将来的には、生体電気の操作により
筋肉の反応速度を飛躍させ、不測の事態への対応が万全に到ることが望ましい。そしていずれ
は『超電磁空手』に開眼し、第一宇宙速度に達する右正拳を――

「……実践と経験が能力を進化させる、か。あの『樹形図の設計者(ガラクタ)』が算出したっ
てのは気に喰わないけど、ありがたく使わせて貰うわ。『第一位』に必要なのが二万通りなら、
『第三位』の私は五万でも十万でもいい。だけど決して無理だとは言わせない。その『誤算』
をぶち壊して、私はあの子たちを守る力を手に入れる」
 七人の『超能力者』の中で唯一人、『低能力者』から這い上がった美琴の『伸びしろ』は、
まだ尽きていない。彼女が現在まで『超能力』のカテゴリーに留まっていたのは、その上の存
在を知らなかったから、それだけだ。

「――そういやあの占い、二人とも当ったわね。誕生日は違うけど、運命は一つ、ってか」
 妹にせがまれて試した辻占い。双子なら、と渡された二人で一枚のプレートには、『窮地に
ありて道は開かれん』と刻まれている。美琴はポケットの中で揺れる金属質な感触を確かめ、
次の一歩を大きく踏み出した。

               ×    ×    ×

「ミサイルに隕石ねぇ……」
 現地へ向かうキャンピングカーの車内、若い女が通信用のモニターに半笑いの感想を述べる。
丈の短いワンピースで戦場に向かう神経がなければ、このチームのリーダーは勤まらない。
『聞いたまんまを言ってるだけよ! とにかく! 正体不明の圧倒的な攻撃を受けて研究施設
が爆発したってのだけは確かなんだから、気合い入れて迎撃しなさいよ!』
 たぶん顔を真っ赤にした彼女たちの上司、通称『謎の女』が説明にならない説明を気合いで
無理矢理〆る。通信が音声のみなのが残念だ。
「本当に隕石だったら超C級映画化決定ですよ。タイトルはアルマゲドン2で」
 いらぬところに喰いつく、最年少の悪食映画マニア。眠気は覚めたようだ。
「結局、ミサイルVSミサイルの戦いって訳よ。撃破ボーナスは私が頂くわ!」
 携行型対戦車ミサイルの弾頭にフェイスマークを描きながら、金髪が碧眼を欲に光らせる。
「……夢を、夢を見ていました……夢の中のあの人は……」
 何か別のモノを受信中の不思議少女は、夢の中のあの人を応援している。
『こいつらときたら! 真面目にやる気あるのかっつーの!』
「どうかなー?」
「超少しだけ」
「やっぱ私しかいない訳よ!」
「大丈夫だよ、なぞのひと。私はそんななぞのひとを応援してる」
 しかし上司の憤りは、いつものように空転する。
『言っておくけど、ちゃんと仕事しないと死ぬのはアンタらだっつーの!』
「はっ! 私を倒せる能力者なんている訳ないじゃないの」
「私の『窒素装甲』は、隕石より超頑丈なので問題ありません」
「結局、最後に生き残るのは私って訳よ!」
「大丈夫。私がきっと皆を守ってみせる」
 一糸乱れぬフラグ建立。チームワークとは斯くあるべしの見本である。
『あーもう、こいつらときたらーっ!』
 一対四の漫才で、一人のツッ込みが勝利するのは至難の技である。四人の変人を相手にした
『謎の女』の孤独な戦いは、今夜もまた、残念な結果に終わった。

               ×    ×    ×
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/06(日) 23:08:20.89 ID:/YtqN7c5o
「よっ! 待たせたな」
 Sプロセッサ社・脳神経応用分析所の正面を睨む美琴に、着地したカズマが声をかける。
「私も来たばかりよ。――見て」
 現存する最後の研究施設に、重装備に身を固めた学園都市の犬どもが群がっている。
「雁首揃えてお待ちかねってか」
「裏口も固められてたわ。どうやら、情報の移送より私たちの迎撃を選んだようね」
「ってことは?」
「ここを潰せば『実験』は壊滅的なダメージを受ける、ってことね。他は灰になったから」
「そりゃ、好都合だ」
「まあね。この資料に載っていないどこかに、情報が集められているのは間違いないから、
いずれは再開されると思うけど、これでかなりの時間が稼げるわ」
「よし。始めるとするか」
「ちょっと、作戦は?」
「正面から打ち砕く」
「はぁ、まあアンタはそれでいいかも知れないけど――」
「お前は上からだ」
「へ?」
 カズマが美琴を姫を扱うように抱き上げ、――そのまま夜空にブン投げる。
「シェルブリットォォオッ!」
「ちょっ、まぁぁぁぁぁー!」
 高い高い放物線を描き、美琴は脳神経応用分析所の屋上へブッ飛んで行った。

「なるべく派手に、だよな。ああ、任せとけ」

 彼は、誰かに聞かせるように呟くと、地上に降り、軽い足取りで敵に歩み寄る。
 彼は、路面を手当たり次第に原子分解して、金色の最終形態に変態していく。
 彼は、止まらねば発砲するという警告を聞き流し、全員に布告した。

「さあ喧嘩だ! 喧嘩をやろうぜ! ド派手な喧嘩をよぉ!!」

               ×    ×    ×

 ドッギャァーン! ドグチアッ! メメタァ! メギャン! タコス! ズキュウウゥン!

               ×    ×    ×

「正面ゲートが超突破されたようですね。天井から降ってくると思ったのに、超残念です」
「あんな雑兵が百やそこらいたって、まあ無駄だわね」
「結局、私らじゃないと無理だって訳よ」
「大丈夫。いつも通りにやるだけ」

 結成以来、無敗を誇ってきた面々の表情はゆるい。学園都市の暗部に触れる生業にしても、
この四人が機能する時のチームは強過ぎた。強敵と呼ぶに値する存在には遭わず、計略で上回
れた経験はなく、得心するだけの動機を見たことも、同情に足る地獄に踏み込んだこともない。

 だから慢心が許されていた。真の恐怖を知ることなく生かされていた。昨日までは。

               ×    ×    ×
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/06(日) 23:09:36.28 ID:/YtqN7c5o
 遠くからの振動と悲鳴、怒号、やけくその爆笑が途絶え、重要区画へ繋がる三階ぶち抜きの
機械室に、反逆者カズマの姿が現れた。
「雑魚を片づけたら真打ちが登場ってか、そうこなくちゃな。……ん?」
 四天王のごとくポージングをキメる精鋭の顔を見渡し、彼は怪訝な様子になる。

「まあ、私らに会っちまったのが運の尽きって奴よ」
「ここには超クソッタレな結末しか残ってませんよ」
「私の『能力追跡』から逃れることは不可能ですよ」
「結局、あんたの人生はここでジ・エンドって訳よ」

「おい」
 四天王たるに相応しき不吉な口上に、カズマの闘志は挫けかける。堪らずに言ってしまう。
「ちょっと待て」

「大丈夫。私はそんなあなたを――」
「――苦痛を感じる暇もなく」
「超あっという間に――」
「――愉快な死体に変えちゃう訳よ」(AA略)

「だから……ッ」
 口々にまくし立てる四天王の台詞がイヤな形で交差する時、カズマの堪忍袋はブチ切れる。
「待てっつってんだ!!」
 瞬間、四天王の間に微妙な、気まずい空気が流れる。何かが台なしになった気配がした。

「はぁ? ナニ言ってんのよ」
「超空気読めないですこの人」
「結局、この程度の奴な訳よ」
「敵なら敵らしくして下さい」

「……まあいい。そこのガキ三人、ここに並べ」
 三人の少女に命令する口調に容赦はないが、滲み出るうんざり感は隠し切れない。

「私がチビ? 私が超ミニマム? 冗談じゃありません」
「この私の色気が判らない? ッざけんじゃないわよ!!」
「私の成長期は終わってない……諦めたら試合終了……」

「い・い・か・ら・並・べ!」
 轟、とカズマの拳が疾走り、右手に立つ柱に突き刺さった。肘まで埋まった柱の裏側からは、
粉砕された鉄骨と鉄筋、そしてコンクリートの残骸が噴出している。

「!」
「!」
「!」
「!」

 四人のうち、最も幼い少女が激しく反応する。
(……私の『窒素装甲』でもあの程度の柱を折ることくらいは超造作ない。だが、『拳大の穴
だけ』を開けることはできるか? 衝撃波が一メートル近くを貫通するか? あの男、超……)

「超了解しました」
「ったく、しょうがないわね」
「……」

 超ミニマムな少女が先導し、あとの二人が続いた。
 整列が完了し、カズマの訓告が始まる。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/06(日) 23:10:14.74 ID:/YtqN7c5o
「いまは何時だ?」

「え?」
「……?」
「四時……三〇分です」

「そんな時間にお前たちは何をしてる?」

「超お仕事です」
「任務って訳よ」
「私の役目……」

「違うだろ! 解ってねえ、まるでダメだ! あのな――」
 双拳を腰に当てて、小娘どもを叱り飛ばす。
「正解は『子供は寝る時間』だ! こんなところで遊んでんじゃねえ! とっとと帰って歯ぁ
磨いてクソして寝ろ!」

「超失礼ですね」
「イヤだよーん」
「お断りします」

「黙れ!」
 一喝ののち、金色の拳でがりがりと頭を掻いて、妥協を示す。
「しょうがねえな……、試してみて合格だったらヤってやるよ」
 えー、という声を今度こそ『スゴ味』で黙らせ、カズマは面接を開始した。

               ×    ×    ×

「よし、じゃあ一番チビのお前からだ」
「チビじゃありません。私には絹旗最愛という超立派な名前があるし、小さくもないです」
「いや……まあいい。で、お前の特技は何だ?」
「『窒素装甲』です」
「それは何ができる?」
「超硬いです。あと、超怪力っぽいのも使えます」
「怪力?」
「はい。敵に超ダメージを与えます」
「殴ってみろ」
「え?」
「いいから。本気でやってみろ」
 じゃ、じゃあ、と言われるままに振りかぶり、絹旗はカズマに殴りかかる。
 バガン! という轟音と共に、圧縮した窒素の塊を帯びた絹旗の小さな拳が激突し――
「ゆるゆるだっ!」
 ――しかしカズマは微動だにしていない。絹旗は超動揺する。
 動揺が不安を呼び、不安が混乱を呼び、混乱が口を滑らす――
「じ、実は攻撃力の方は超ハッタリで、防御力こそが私の超――」
「いいのか?」
「え?」
「試してもいいのかって訊いたんだ」
「いい、いいですよ、ももちろん。ちょ超バッチ来いですよ?」
「いいんだな?」
「は、はい!(え?)」
 カズマの拳が絹旗にゆっくりと迫り、額の手前で静止する。そして。
「?」
「衝撃のォ――」
「ッ!」
(ま、マズい。何かの技を超出そうとしているッ! この距離はもしや『ワンインチパンチ』? 
この男、まさか『截拳道』の使い手かッ! 超マズい……ッ!)
「ファーストブリットっ!」
 ずびし、と撃ち込まれたのは意外ッ! それはデコピン!
「……あううううぅ。超痛いですぅ」
「言わんこっちゃねえ。ほら、大丈夫か?」
 絹旗のおでこをさするカズマ。とても優しい瞳をしている。
「……ありがとう」
「いいんだよ。ひとりで帰れるか?」
「あの、車で来たから……」
「そうか。なら、先にそこで待ってな。あとの二人もすぐに行くからさ」
「超わかった……」
「よし。じゃ、またな」
「うん。またね」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/06(日) 23:11:05.37 ID:/YtqN7c5o
 絹旗がトテチテと車に向かい、カズマは二人の方を見る。

「次はお前だ。金色の」
「ハッ! 結局、このフレンダ様の出番って訳よ!」
「やかましいわ。そんで、お前の特技は何だって?」
「ミサイルと爆弾の天才よ!」
「それで何ができる?」
「アンタを吹き飛ばすくらい、楽勝ね!」
「そうか。なら撃ってみろ」
 カズマはフレンダから二〇メートルほど遠ざかり、ほれほれと手招きする。
「ずいぶん余裕じゃない? でも結局、アンタは私にひれ伏すって訳よ!」
 そう言い切るなり、フレンダは三発の携行型対戦車ミサイルの弾頭を、カズマに向けて発射
した。どんな工夫がしてあるのか、それはとても短いスカートの中から現れ、そしてクラッカー
を鳴らすように簡単に飛んで行く。
 着弾、爆発、そして轟音。高く舞い上がる爆風が、威力の程を物語る。
「ま、結局、私にかかればこんなもんな訳よ!」
 にゃーはっはっは、とフレンダの高笑い。しかしその絶頂は長持ちしない。標的が尻を掻き
ながら戻って来たからだ。
「失格」
 絹旗の一撃には返した感想の一つもない。ただ一言、失格。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! アンタはまだ爆弾を試してないじゃない!」
 自信の砕ける音から耳を背け、スカートの中から取り出した人形をカズマに投げつける。
「ちょ、お前、何てところから出して――」
「ううううるさいわね! 結局こっちが本命なんだから!」
 耳まで赤く染まったフレンダが、これもスカートの中から取り出したリモコンを乱暴に叩く。
「ときめいて死ね!」
 一キロの学園都市製プラスチック爆薬を仕込んだゲコ太人形が、カズマの掌の中で爆裂する。
確かに、これを受け取ったのが御坂美琴であったら、彼女はときめいて死んだかも知れない。
 だがしかし。
「失格、な?」
 小躍りを始めようとしたフレンダの肩を叩き、再びダメ出しをするカズマ。
 そもそも、カズマがミサイルや爆弾で死ぬくらいだったら、外にいた雑魚どもにやられてい
なければおかしいのだ。迂闊なフレンダはそのことに気づかなかった。
 がっくりと膝をつくフレンダ。彼女にはもう、次の手はない。
「お前はもう、帰っていい。……帰って、いいんだ」
 と、優しくなだめるカズマの手を払い、フレンダは逃げるように駆け出した。
「覚えてなさいよ! 次は欠片も残してあげないんだからっ!」
 捨て台詞を残してフレンダは車を、絹旗の膝を目指して走る。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/06(日) 23:11:41.67 ID:/YtqN7c5o
 出口に消えるフレンダを言葉もなく見送った二人が、相対する。

「どうする、まだやるか?」
「……当然です」
「ったく。で、お前は?」
「滝壺理后。能力名は『能力追跡』」
「えいあいえ? 何だそりゃ、甘いのか?」
「えいあいえむすとーかー。『能力者』を特定して追跡する。地球の裏側に逃げても無駄です」
「そりゃ御大層に。そんでその『能力』で俺をやっつけると」
「はい」
「攻撃とか防御は?」
「基本的にはありません。追い続けるだけです」
「参ったね、こりゃ。……ま、いいや。ちょっとやってみな」
「わかりました」
 ポケットから出したケースを開け、中身を口にしようとする滝壷を、カズマが止める。
「待て。もしかしてヤバい薬か、それ?」
「少しだけなら大丈夫です」
「大丈夫、って言われてもな……」
「これを飲まなければ、私の能力はゼロです」
「何だそりゃ、そんなことまでして――」
「……たとえ心傷つけてたとしても」
「!」
「目覚めた本能、体を駆けめぐる……」
「……リスクやマイナスならば起爆剤、か。解ったよ」
「では」
 滝壷が白い粉末を少しだけ舐める。ぼんやりとした瞳に力が『戻り』、そして。
「え? 何故、対象の『AIM拡散力場』を認識できない……?」
「どういうことなんだ?」
「……判りません。あなたが『能力者』であれば『AIM拡散力場』も必ず……」
「あ、それか」
 合点のいったカズマが滝壷に説明する。
「わざわざヤバい薬まで飲ませちまったのに悪いんだが、俺は『能力者』とやらじゃないぞ」
「何……ですって……?」
「俺のは『アルター』だからな、何かが違うんだろう」
「『アルター』……」
「ってことだから、今回はお前の出番はなし。それでいいよな?」
「私にはこれしかないから……」
 滝壷の瞳から、光が抜け落ちる。
「まあそう落ち込むなって」
「はい……」
「とにかく、お前はもう帰って、よく休め。朝になったら医者にも行けよ?」
「そうですね、そうします……」
 一礼して、歩き出す滝壷。薬が切れたからか、彼女の足取りはおぼつかない。
「車まで送ってくよ。ほら」
 と、滝壷を抱き上げてカズマは駐車場へ向かった。

「……私はどうすりゃいいのよ?」
 そして広い場所でひとり、リーダーは孤独を噛み締める。

               ×    ×    ×
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 00:46:39.67 ID:XvO7ZoJAO
さすがロリコンカズマさんだぜ!ババアの麦野は対象外なんだなww
そして滝壺さんが若干スクライドに染まってるww
ワクワクするぜ乙
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 07:28:07.98 ID:dwii8d3q0
>四天王のごとくポージングを決める精鋭

>>50のこの記述を見た瞬間、このスレのアイテムはほのぼのだなと確信した
あと、フレンダの「ときめいて[ピーーー]!」のせりふを見たときなぜか
『こいつの先祖って錆白兵じゃね?』と思った

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 00:28:13.74 ID:Prm9jF0v0
麦野が空気を読んだwwwwww
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 12:21:30.63 ID:+/bne11uo
>>55
雲慶だろjk
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 20:54:47.13 ID:7YssSTqs0
>>55
虚刀流の後継者は七花でおわりなんだろうかねぇ
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 23:55:06.33 ID:Prm9jF0v0
>>55の錆白兵って誰?
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/10(木) 02:22:59.91 ID:yQ+5dANjo
>>59
錆白兵は『刀語』に登場する日本最強の剣士
決め台詞は「拙者にときめいてもらうでござる」
やられた敵は皆「か、格好いい……」と、ときめいて死ぬ
その錆白兵のCVが緑川光(=劉鳳)なので
雲慶の「ときめいて死ね」との相乗効果が腹筋をときめかせる
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 02:01:18.49 ID:Jp828vCAO
無事かー?
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 07:32:16.64 ID:ZZ3/SteDO
大隆起現象か……
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 13:11:37.81 ID:KLyoMKkJ0
>>1大丈夫かな……?
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 17:15:25.40 ID:n+HdlLIno
1ですがこちらは無事です。心配をかけてすみません。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 17:48:55.72 ID:KLyoMKkJ0
無事でよかった!!
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/03/16(水) 00:52:11.97 ID:P9UHIZlCo
しかしこんなところで生殺しか・・・

余裕ができたらマッドスクリプトしてくれ!
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/16(水) 20:26:01.48 ID:wjcyRNQYo
>>66
マッドスプリクトな
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/03/17(木) 01:35:46.94 ID:yYAaZ52Yo
すまんすまん、悪かったなカズヤ
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/03/17(木) 15:34:59.36 ID:mW8SzQ7AO
>>68

カズマだ!
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/19(土) 22:48:46.98 ID:+1PF7tUNo
遅くなりました。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/19(土) 22:49:30.25 ID:+1PF7tUNo
 ――あのバカと肩を並べるなら、あの程度で驚いてちゃ話にならないんだろうな。きっと。

 目に入る機材を片っ端からショートさせつつ、研究所の最奥部を目指して走る。

 ――『ロストグラウンド』の『アルター使い』。苗字のない、カズマという名。嘘みたいな
力と、確固たる信念の持ち主。私が知っているのはそれだけ。何のためにこの街に来たのか、
どうして『妹』を助けたのか、アイツは何も言わなかったし、私もまだ訊いてない。たぶんそ
れは聞けば笑ってしまうような、呆れるほどシンプルなものなんだろう。だから訊くのは最後
でいい。笑うのは最後がいい。

 曲り角、はち合わせた研究員を電撃で殴り倒す。

 ――アイツは私の中にある何らかの『スイッチ』を入れた。身体中を光の速さで駆け巡った
確かな『覚悟』は、壊れかけの『意地』にアドレナリンを流し込み、迷いや後悔という名のブ
レーキを蹴り砕き、ストールしかけたエンジン内にナイトラス・オキサイドを噴射した。

 長い廊下、監視カメラをほとんど無意識でハッキングして駆け抜ける。

 ――その瞬間に私は帰還不能限界点を超えた。この街の闇を知り、闇に牙を剥き、そして闇
もまた私を知った。私は既に、どこから見ても立派な犯罪者だ。私を姉と慕い、誇りを持って
この街の治安を護る、あの子のいる部屋へ帰る資格を失ってしまった。本当のことを知った時、
彼女は幻滅するだろうか、私を悪のように憎むだろうか。

 電子ロックを立て続けに解錠し、コントロール・ルームとおぼしき部屋に侵入する。

 ――あの人の気持ちが、いまはよく解る。護りたいもの、取り戻したいものが大きいほど、
選べる手段は限られてしまう。罪のない能力者たちの意識を奪ってでも教え子を救おうとした
彼女と、こうして『実験』の施設を焼いて廻り、その損害を顧みない私に一体、どれほどの違
いがある。彼女は結果として誰も殺さずに報われたけど、それがどうしても必要だとしたら、
彼女は退いただろうか。私はその瞬間にどう思うだろうか。

 コンソールを叩き、最奥部へのルートを検索する。地下だ。

 ――私がDNAマップを提供しなかったとして、それでも奴らはやっただろう。髪の一本も
あればクローンの生産は可能だ。奴らには遵法にこだわる必要も、理念もない。自らのエゴを
科学で表現することに忙しいあいつらを、私は否定する。完膚なきまでに、一切の容赦もなく、
否定してやる。その行為が悪だというなら、私は悪で構わない。『正しさ』に反逆する愚かさ
を、醜さを、この身に纏って暴虐を振るおう。人たるの意味すら知らずに殺された妹たちの、
その姉の怒りというものを教えてやろう。

 警備員をなぎ倒しつつ地下への道を進む。能力の加減を忘れそうになる。

 ――だけどまだ早い。この時点で死者を出すのは、妹たちの解放と安堵を得るための障害に
なる可能性がある。私の存在と目的を悟られるのは仕方ないが、奴らに『また造ればいい』と
考えさせてはいけない。あの子たちが人質として、盾として使われてはいけない。解放の瞬間
までは『計画』にあの子たちの命を守らせ、私はそれまでに『実験』と『製造ライン』を壊滅
させる。私は『限りなく絶望に近い運命』に反逆する。

 地下へ降りるハッチを電子ロックごと吹き飛ばし、梯子を無視して飛び下りる。

 ――『ぶち壊す』と『守らせる』。両方やらなきゃならないってのが、『お姉様』のつらい
ところだけど、私にも御坂家の長女としての意地がある。敵が誰だろうと、どれだけ分厚い壁
だろうと、やると決めたらやるんだ。『覚悟』とは、暗闇の荒野に進むべき道を切り開くこと。
そう言ったあの主人公のように、私も――

 地下五〇メートルに位置する『学園都市』の闇。その昏い場所には先客が一人。

「アンタは……」
「久しぶりね、オリジナル」

               ×    ×    ×
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/19(土) 22:50:46.19 ID:+1PF7tUNo
「車は帰らせたけど、構わねえよな?」
 車は無事だったようだ。話のわかるヤツだ。
「構わないわよ。あの子たちに怪我されても困るからね」
「事情は知らねえが、あんまり無理させんなよ」
「いつもだったら、とっくに終わらして帰ってるわ。アンタがおかしいのよ」
「お前も人のことは言えないんじゃないか?」
「ははっ、同類相求むってヤツかしら。コイツのおかげで、滅多にお目にかかれないけどね」
 相好を崩し、手をひらひらと振ってみせる。
「でも、悪くねえ。悪くねえよなあ」
 右拳を突き出した構えをとり、カズマは訊くまでもない問いを放つ。
「そう思うだろ? アンタも!」
 視線が同意を交し、同意が開戦の鐘を打ち鳴らす。

「麦野沈利、『原子崩し』の麦野沈利、アンタを殺す者の名よ。胸に刻んで逝きなさい!」
「カズマ、『シェルブリット』のカズマだ。コイツが気に入ったら刻んどきな!」
 麦野が受け、カズマが応える。物騒な笑みを浮かべ、二人、漢の太さを競う。

「一発でイクんじゃないよ!」
 麦野が先手をとり、『原子崩し』の砲撃をカズマに放つ。その、ぬるりとした白みを帯びた
極太の奔流は、光でありながら圧倒的な質量を持ち、一直線に迸る。
「うっ、ぐ……は」
 射線上の全てを崩壊させ、虚ろな穴と化す光線を受けて、しかしカズマは立ち続ける。
「見込んだ通りの逞しさだね。これなら愉しめそうだ」
 唇をちろりと舐め、麦野は視線に熱を込める。極上の甘味を前にした女のように。
「へっ、俺のコイツは特別製よ。鍛え方が違うから……な」
 減らず口を叩くカズマ。しかし自慢の拳からは、ぬめりとした赤い液体が滴っている。光線
の威力を相殺し切れずに装甲の半分近くが砕け、あられもない姿を晒している。
「さあ、もっと感じさせな!」
 これまで誰も堪えられなかった一撃を凌がれても、麦野に動揺はない。寧ろその逆だ。彼女
の中の何らかのスイッチがめきりと音を立てて入り、昂りが全身を駆け巡る。
「お楽しみは……これからだぜ」
 男の意地を猛らせ、カズマは新たな輝きを身に纏う。ドスの効いた笑みを返しつつ、突き立
てた右腕を左手で叩くと、中指を立てる代わりに甲のシャッターを開放した。

 あらゆるモノを貫く白い円柱と、あらゆるモノを跳ね除ける金色の旋風が、向かい合う二人
の間で衝突する。めりめりと強引に突き抜けようとする白い極太を、黄金の百裂張り手が押し
包み押し返し嬲る。刹那に繰り広げられる力と力の攻防、男と女の根比べ。そして均衡は金色
に傾く。白い暴れん棒は先端から拡散し、乱反射した白い飛沫が一面に広がった。

「っと。ヤるねえ、アンタ。痺れちまいそうだよ」
 跳ね返った白い電子を、掌に広げた光輪の盾で打ち消して、麦野が悦びの声を弾ませる。
「こっちもだ。このヒリつく感じが堪らねえ」
 白い流矢が抉った小さな穴をアルターで修復して、カズマが同感を返す。

「さてと。一本だと弾かれるってのが判ったところで……」
 ブン、ブン、ブン、ブン、と麦野の周囲に四つ、球状のビットが現れる。
「四本ならどうよ!」
 轟! と斉射される四本の白い悪魔。四分の一が四本、ではない。単純に四倍なのだ。確か
に、常であれば同時発射数に応じて威力は減じるのだが、いまの麦野は強敵を前にした歓びに
身悶えし、渾身を奮っている。いやさ四倍をすら超えているかも知れない。五倍以上のエネル
ギーゲインがあるかも知れない。それほどなのだ。
「うおッ!」
 咄嗟に金色の竜巻を放つが、四本の射角には対応が間に合わない。カズマの黄金の隙間から、
ずぶりずぶりと白い巨砲が差し込まれる。迫る圧倒的破壊力っ……! 危機……!
「……チッ、避けるってのは好みじゃねえがッ」
 カズマの背から生える尻尾が床を叩き、間一髪、四本の白い脅威は虚空を穿つ。
「ハッ! やっぱ四本ともなりゃ避けちまうのかい? 格好いいところを見せて欲しかったん
だけどなぁ」
 叱咤に続いて連続斉射される四本の白い闇が、天井を、壁を、柱を蹴って麦野を目指すカズ
マを掠め、背後に大穴を掘る。
「そりゃ悪かったな。すまねえ、許せ」
「まあいいさ。アンタが避けるってんなら、まずはそいつを――」
 麦野が胸の谷間からトランプ大のカードの束を抜き出し、一枚を指で弾いて飛ばす。
「撃ち落とすッ!」
 そして宙を舞うカードに白い閃光を撃ち込む。途端、模様に見えた四十二個の三角形が弾け、
閃光を拡散させる。空中を疾走るカズマを四十二の白き流星が襲う。
「ぐあッ!」
 反射的にガードするも、四十二分割されたとはいえ、十分な貫通力を残した流星群の勢いを
受け止められず、墜落し転げるカズマ。
「『拡散支援半導体』ってヤツよ。この『アイテム』には最新の技術が投下されてるのさ」
「隙も死角もなし、か。やっぱお前、面白いぜ」
 床に拳をくれた反動で立ち上がると、カズマは構えと共に無尽蔵のアルターを纏い、無限の
気合いを滾らせる。

「これでも折れないなんて、堪らないわ」
「言っただろ。鍛え方が違うって」
「こうなったら、最後まで突き合って貰うからね」
「最後に立ってるのは俺、だと思うがな」
「どうかしら? 私はそう簡単にヤられないわよ!」
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/19(土) 22:51:23.04 ID:+1PF7tUNo
 麦野は手持ちのカードを指先で数える。四枚。『拡散』が迎撃に有効なのは初手に限られる。
『拡散支援半導体』を弾いてから『原子崩し』を当てるまでのラグを、カズマはもう見逃さな
いだろう。故に、彼女は思案する。迎撃ではなく陽動にこれを使い、全力の光線を必中させる。
そしてその機会は一度だけだ、と。
 彼女の『原子崩し』はそもそも、その強過ぎる威力のために照準には細心を払う必要があり、
初撃の発生速度は遅く、連射にも向いていない。カズマがその機動力を行使した場合、彼女の
砲撃が彼を捉える確率は著しく減少するだろう。

「オラッ!」
 四つのビットから発射した麦野の気合いが、カズマの本体と足許を狙う。撃墜を避けるため、
カズマはステップでこれを躱す。
「チッ」
 とにかく一度、宙に浮かせる。麦野の狙いはそれだ。
 しかしカズマとて、遮るものさえなければ数分で衛星軌道にまで達する男、速射の利かない
麦野の攻撃を避けるなど造作もない。
 存分に暴れられるようにと、広大な空間で敵を待ち受けた『アイテム』の目論見が災いして、
カズマの回避を邪魔するものは少ない。
「焦らしプレイのつもりかい!」
 砲撃を下方へ集中させ、辺り一面を掘り返しつつ、麦野が挑発する。
「慌てんなよ、俺はそんなに早くないんだ」
 腰を落として一回転、白い放射を避けたカズマが地を蹴り、ジグザグの軌跡を描きつつ麦野
に迫る。速い。
「ッ!」
 四本の光線が捉え切れず、加害範囲に入られた麦野は掌から盾を展開する。
 白光する盾に激突する、金色の矛。
 崩壊と破壊は数瞬の拮抗ののちに反発し、両者は反動で後ずさる。
「痛え痛え、ソイツも充分武器になるじゃねえか」
 コキリと手首を振り、砕けた装甲を修復するカズマ。笑っている。
「ははっ、このままブン投げられたら面白いんだけどね」
 光の螺旋を解き、裾の埃を払う麦野。彼女も笑っている。

 笑うという行為は本来攻撃的なものであり 獣が牙をむく行為が原点である、と言ったのは
誰だったか。この二人にはその形容が実に相応しい。

「さて、お互い手の内が知れたところで、そろそろキメさせて貰おうかしら」
「悪くねえな。俺もそのつもりだ」

 無限に引き延ばされた一瞬ののち、先手を取ったのはまたも麦野だった。
 コツッ、と軽く踵を鳴らしてわずかに身体を浮かせると、『原子崩し』をビットからではな
く掌から放ち、その反動で三〇メートルほども飛び退く。
 その光線を回避したカズマとの距離が、麦野の勝算となる。四本の砲撃が巨大な部屋の天井
に矢継ぎ早に注がれ、支えを失った構造物が崩落する。同時に『残る四本』が床面を無差別に
穿ち、無数のクレーターを形成する。威力より数を優先した八つのビットからの斉射。彼女は
暴走寸前の演算能力を振り絞り、限界に挑む。
 カズマの機動力を地と空から削り、選択肢を減らす。そして――
「……っとだ、もっと輝けえええええッ!」
 瓦礫と粉塵の嵐の中から、カズマの咆哮が轟く。ボォッ! と濁った空間に渦巻く穴が空き、
金色の矢が放たれる。
「それでいい!」
 その瞬間、先に弾いて広げていた『拡散支援半導体』を四本の光線が撃つ。上下左右に総計
一六八本の光の矢が走り、迫り来るカズマの回避の余地を奪い――
「今度こそイっちまいなッ!」
 残る四本を正面の一点に集約させる。真っ白な直線が、逃げ場のない絶望を押し立てる。
 だが、しかし。
 麦野の面前にあり得ない、受け入れ難い現象が映る。全力の『原子崩し』、その絶対の直線
がわずかに角度を上げ、中心を外している。白光に滲む、黄金の輝き。
「曲がっ……!?」
 反射的に構えた、電子の螺旋に突き刺さる拳。
 全力のあとの薄い防御は、可聴域を超えた爆音と共に破れ、そして麦野の中心を、カズマの
剥き出しの拳が抉った。

「ふう……」
 気絶した麦野を横たえ、カズマは己の惨状に目をやる。
 金色を放出しながらの一撃は、辛うじて白い怒濤の軌道を跳ね上げたが、装甲は拳から肩ま
でが削り取られ、残った部分にも無数の穴が穿たれている。
「こんだけ消耗したのは久しぶりだぜ。大したモンだ」

 そうして一戦を済ませたカズマは先へ進もうとし、はたと思い到る。
「そういや、このあと燃やすんだよな、ここ」
 ぺちぺちと、麦野の頬を叩くも、彼女は目を覚まさない。一撃が痛恨に過ぎたのだろう。
「車は帰しちまったし……。ま、しゃあねえか」
 そう呟くと、よっこらせと麦野を担いで、カズマは崩壊した機械室をあとにした。

               ×    ×    ×
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/19(土) 22:52:10.74 ID:+1PF7tUNo
「……あの時から私は、彼女たちを造り物とは思えなくなった」
「それで、あなたはここにいる。でも、何のために?」
 そう美琴に訊かれた、目つきのすこぶる悪い少女が、ポケットから一枚のデータスティック
を取り出して見せる。よくあるUSBメモリよりかなり大きめなことから、その中に納められ
た情報が膨大なものだと判る。
「これには私がいままでに収集してきた、人間の感情データが入ってる」
「感情データ? これをあの子たちに?」
「そう。これはプログラムに過ぎないから、真の感情の萌芽には到らないとは思う。それでも、
たとえ擬似的な反応でも、この子たちの運命は変わるかも知れない」
 美琴は制御室のガラス窓から、一つだけ蓋の閉まっているカプセルを睨む。問答無用でここ
を破壊しようとした彼女が手を止めたのは、その中に『妹』の姿を見たからだ。
「運命を、ね。――そのプログラムに危険はないの?」
「『学習装置』の監修をしたのは私。プログラム自体に危険はないと誓えるわ」
「信じるわ」
 即答する。この女――布束砥信には覚悟の色がある。
「ありがとう。では、始めるわよ」
「ええ」
 専用のスロットにデータスティックを刺し、布束は『学習装置』に実行の命令を与える。
 しばらくして、モニタ上にインストール完了のダイアログが現れる。同時に『ミサカネット
ワーク』への接続が始まったとの表示を見て、美琴が訊いた。
「この『ミサカネットワーク』って、もしかして」
「『妹達』の脳波リンクが作る精神ネットワークのことよ。いま、そのネットワークを介して
『感情プログラム』を共有して――」
 その時、耳障りなビープ音と共に接続の中止を伝えるダイアログが、続いて音と表示が警告
を発する。

『一九〇九〇号の接続にエラー発生 「警告」 上位個体二〇〇〇一号のものでないコード』

「何だこれは!?」
「セキュリティ? いえ、それよりもこの『二〇〇〇一号』って何よ! あの子たちは二万人
しかいないはずでしょう?」
「判らない。いつの間にこんな……」
 布束がコンソールから『ミサカネットワーク』への接続を手動でリトライするが、これも拒
絶される。
 やがて警告は止まり、二人の間に重苦しい沈黙が――

 ――破られた。五〇メートルを減速なしに着地した、カズマの所為だ。女を一人、俵担ぎに
して、空気を読まずに。
「よお! どうした?」
「ぐはッ! ……ここはどこよ!?」

               ×    ×    ×
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/19(土) 22:52:52.21 ID:+1PF7tUNo
「えーと、このねえちゃんはスゴいビームを撃つ……ん? ……何だっけ?」
「麦野沈利、『原子崩し』の麦野沈利よ! つーか、何で私がこんなところにいるのよ!」
「あー、そりゃアレだ。この建物はそろそろ爆発するからよ。放っとくのも何だし」
「起こしなさいよ!」
「いや起こしたって。軽く」
「うるさいわね! こっちはそれどころじゃないんだから、ちょっとは大人しくしなさいよ!」
「……オリジナル、このバカどもは何だ?」
「んだとコラ、脳天ぶち抜くぞこのギョロ目がッ!」
「まあアレだ、お前らおちつけ」
「アンタが空気ぶち壊したのよカズマ!」
「アンタが! ってその前に降ろしなさいよこのバカ!」
「……」

 女が三人寄れば姦しく、そこにバカが加わるともう手がつけられない。

「……まあ……いいわ……もういい」
「……限界だったの……忘れてたよ……」
「……やっと、収まったようね」
「悪い悪い! メンゴメンゴ!」
「こ……の……!」
「次は……殺す……!」
「……黙れ」

 くり返す。バカが加わると手がつけられない。

「まあ、とにかく」
「この状況を整理しないと」
「どうにもならない」

 立ち位置のまるで違う女三人が、白旗を掲げて合意に到った。

「麦野沈利。ここの警備に呼ばれた『アイテム』のリーダーよ」
「御坂美琴。ここを破壊しにきたテロリスト」
「布束砥信。『学習装置』の監修をしているフリをしている」

 もうお互いの立場などどうでもいい三人は、よろしくよろしくと挨拶を済ませ、本題に入る。

「私とこの人は『学習装置』の問題を解決したい」
「同じく」
「私はもう帰りたい……おなか痛い」
「ああ、そうよね……。いいんじゃない? 帰っても」
「あなたがここにいる理由はないわ。仲間の許へ帰るべきね」
「……そうね。そうさせて貰うわ。じゃあね」
「うん。またね」
「さよなら」

 麦野が一人、戦列を離れる。向かう先、梯子の前には(何かの)仇のカズマがいる。

「よう。大丈夫か?」
「問題ない。次は殺す」
「そうか。気をつけろよ。あ、送ってくか?」
「うるさい殺す」
「そうか。またな」
「……」

 何で『俵』なんだよクソがッ……乙女の純情を弄びやがって……こんな奴に一瞬でも……と、
かなりよく聞こえる独り言を残して、気の毒な麦野沈利が梯子を昇り、帰っていった。

               ×    ×    ×
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/19(土) 22:53:21.82 ID:+1PF7tUNo
「で、どんな感じ?」
「これ以上はここでは無理のようね。この『二〇〇〇一号』のデータを集めてからでないと」
「でも、ここは破壊するわよ。それだけは譲れない」
「それは大丈夫。何とかなるわ。……できれば『学習装置』を一台、持って行きたいところだ
けどね」
「それって重い?」
「三〇〇キロはあるんじゃないかしら。搬入用のエレベータが生きていたとしても、そこから
先はちょっと無理よね」
「フッ、それなら問題ないわ! ちょっとカズマ!」
「何だ? 反省はもういいのか?」
「いいから。アンタちょっと、アレ持って帰ってくれる? 病院まで」
「いいぜ、お安いご用だ」
「中で私の妹が寝てるから、そっと運ぶのよ」
「え?」
「解ったぜ!」
「あとついでにこの人もお願い」
「何……それ……?」
「あいよ!」
「じゃあ、そういう訳だから病院で会いましょう。私はここを『片づけて』から戻るわ」
「え、ああ、うん」
「ちょっと待ってな」
「あ、アレの外し方、教えてあげて貰えるかしら」
「はい」

 ガラス窓を破壊して『学習装置』に取りついたカズマに、布束は慌てて指示を出す。

「よっと、これでいいか?」
「……結構よ。ではエレベータに」
「おう。じゃあ、先に出るからな。怪我するなよ!」
「判ってるわよ! ほらさっさと行く!」
「へいへい。じゃ、行くか」
「……そうね」

 今度は『学習装置』を俵に担いで、カズマが退場する。あとに続く布束の驚きとも呆れとも
つかぬ表情が、美琴の苦笑を誘った。

「さて、と。それじゃあ一丁、壊滅させてやりますか!」

 ポケットから一掴みのコインを取り出して、美琴が本日の残業を始める。どうしてか、ここ
へ降りた時の張り詰めた気持ちはもう、影も形もなくなっていた。

               ×    ×    ×
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/03/22(火) 12:18:22.80 ID:wR++oBmC0
乙乙
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/24(木) 05:27:03.99 ID:Ml1iA1Uxo
やっと八月十五日終了。
しかしコレ、もう終わコンと化してるね。男坂エンドでもいい?
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/24(木) 05:27:32.44 ID:Ml1iA1Uxo
「さっそく連れてきたぜ」
 右肩に『学習装置』、左腰に布束砥信を抱えて、カズマは作戦本部である病院に帰還した。
 屋上からの地響きにいち早く反応して駆けつけた、カエル顔の医者が出迎える。
「やあ、おかえり。その子が次の患者かい?」
「ん? いやコイツは目つきが悪いだけで健康だよ。患者はこっちだ」
 お前より目つきの悪い奴などおらぬわ、という突っ込みを胸にしまって、カエル顔はカズマ
の担ぐカプセルに目を向ける。
「ふむ、これはどうやらブレイン・コンピュータ・インターフェイスのようだね?」
「判るのか?」
「ここは僕の病院だよ? 似たようなものなら、ここにもあるさ?」
「似たようなのねえ、俺が前に乗ったヤツは拷問の道具だったけどな」
 回転留置場の激しいGを思い出し、カズマは口角を歪める。
「拷問、か。そういう使い方もあるとは聞くけどね?」
 身体より精神に苦痛を与える方が効果的だと、誰かが言っていた。

「……とにかく見せてもらうよ。下に運んでくれるかい?」
「あいよ。あ、そんでコレに詳しいのがコイツって訳よ」
 カクカクと腰のものを振ってみせる。
 そして。
 カッ! と、凶悪な目つきのまま自失していた布束が再起動した。
「……降ろして……戴けるかしら?」
「おう、お疲れさん」
 小脇から解放された布束がもつれた黒髪を整え、カズマを仇のように睨む。
「あなたはもう少し、女性の扱い方というものを学ぶべきね」
「それは同感だけど、彼にはもっと基礎からの学習が――」
「悪いがそりゃ無理だ。俺は俺にしかなれねえからな」
 かつて学力テストで『五才児』と判定された男は揺るがない。相変らずだ。
「Bone−head……!」
「残念ながら……ここで必要なのは常識じゃないんだよ。行こうか?」
 三〇〇キロを抱えた足音を追って、諦めの足取りが階段を降りていく。

               ×    ×    ×
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/24(木) 05:28:02.18 ID:Ml1iA1Uxo
「そういや、あのガキはどうなった?」
「どうって、君たちが出かけてから三時間しか経ってないんだよ? 変わりはないさ」
「そうか」
「誰のことです?」
「この子の姉、になるのかな。カズマ君が届けた二人目の患者だね?」
 『学習装置』を囲んだ三人。布束によると接続は切れているので、中の『一九〇九〇号』は
眠っているだけだそうだ。
「二人目? ではこちらには『妹達』がすでに二人いるのですか?」
「いや、一人目は男の子だったね。右手を粉砕して、腕からは折れた骨が飛び出してたけど、
もう元気に退院していったよ?」
「あいつには先週会ったぜ。また何やらに首突っ込んでたよ」
「ふむ。でもここに運ばれて来なかったということは、無事だったようだね?」
「ああ、そのあとメシ喰いにいったからな」
 そんで錬金術がどうの炎の巨神がこうのと宣うカズマを無視して、布束が訊く。
「Surely、あなた方はいつもこんなことを?」
「うん? 僕はただの医者だよ。『こんなことばかり』してるのは、このカズマ君とさっきの
『右手』を折った彼の二人だけだと思うけどね?」
「俺はただのチンピラだぜ。それも最悪のな」
「ただの医者? 『冥土帰し』ともあろう人が、何を仰るやら」
「だからこそ、僕はただの医者なんだ」
 カエル顔の口調に少しだけ苦味が混じり、布束にもそれは伝わった。
「なるほど。――それはそうと、何故あなたが彼らに協力を?」
「これは『協力』というより『抑制』なんだけどね?」
「え?」

 カエル顔の医者は自嘲気味に笑うと、白衣のポケットから一枚の焦げた基板を取り出して、
布束に渡す。
「君ならコレが何か判るんじゃないかな?」
「コンピュータの基板、ですか。一般に出回っているものとは異なるようですが」
「ヒントは『ここにあるはずがない代物』だよ。どうだい?」
 布束はその形状と使用部品から得られる可能性を絞り、基板の納まっていたコンピュータを
脳内で再構成していく。予測と演算が不可能を否定して、とある超高度並列演算器の像を結ぶ。
「……まさか。いえ、これが本物だとしたら『ここにあるはずが』……ハッ!」
「よほど丈夫に作ってあったようでね? こんな有様でもこの『演算中枢』は機能していたよ」
 と、そこで蚊屋の外にいたカズマを呼ぶ。
「カズマ君、ちょっといいかい?」
「ん? 何だい」
「こいつを破壊してくれないかな? 徹底的に」
「おっ、俺の土産か。もう要らないんだな?」
「Souvenir? 何を言っているの……」
「そうだね。これはもう、この世にない方がいいんだ」
「お安いご用だぜ」
 カズマは『演算中枢』を掴み、ごく軽く気合いを入れる。
 その瞬間、『樹形図の設計者』の『残骸』は原子レベルで分解され、永遠にこの世から姿を
消した。
「何……ですって……?」
 『演算中枢』の代わりにカズマの右手に現れた、手袋状の装甲を穴の空くほど見つめ、布束
が絶句する。彼女の知る限り、このような能力は可能性すら存在しない――
「しかし何度見ても『アルター』というのは解らないよ? まあ、知りたいとも思わないけど
ね?」
「そうだな、その方がいい。コイツに嘴を突っ込んだヤツらは墓の下にいるか、そこに全速で
向かっているかのどっちかだ」
 アルターを解除するカズマ。装甲が消え、元の拳に戻る。
「『アルター』……『ロストグラウンド』に生まれた者にのみ備わるとされる、『精神感応性
物質変換能力』……任意に物質を分解、再構成して、己の特殊能力形態へと構築する力……」
 布束の頭脳が半ば自動的に記憶を検索、再生する。しかしそれはただ保持されていただけの
古い知識の集合であり、現象を理解する助けにはならない。
「で、いま消滅した基板なんだけど、あれはこのカズマ君が『おりひめI号』から持ち帰って
来たんだね?」
「……ッ!?」
 パクパクと、餌を求める金魚のような仕種に陥る布束。その様子はまるで――
「そんな桁外れの力を持った彼を、ハンデなしでこの街に解き放ったらどうなると思う?」
「どうなるんだ?」
 他人事のように、カズマが布束の代弁をする。
「三日と待たずに七〇〇平方キロの焼け野原が完成するだろうね? もちろん、この街の全て
の戦力は――地上攻撃用大口径レーザーを積んだ『ひこぼしII号』も含めて――壊滅するさ。
これは誇張じゃないよ?」
 レーザーという単語にカズマは過敏に反応する。かつて愛しき者を、その仲間を狙って天空
から放たれた白光する凶刃が脳裏に刺さる。
「ひこぼし? それはどんな形だ?」
 ゾクリ、とカエル顔の背筋に冷たいものが疾走る。失言っ……! 舌禍……!
「いや? これはモノの喩えというヤツで、そんなものもあるかも知れないね? という――」
「ど・ん・な・形・だ?」
 特大のため息ののち、カエル顔は前と同じ手順で『ひこぼしII号』の画像を検索し、カズマ
に見せる。そして虚脱気味の布束を促して屋上へ向かった。

               ×    ×    ×
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/24(木) 05:29:11.49 ID:Ml1iA1Uxo
 例によって屋上の柵を分解しているカズマを諦め顔で眺めるカエル医者に、布束が訊いた。
「まさか、あの、本当に……?」
「うん。君はまだ『信じなくていい』よ。それが正しいんだからね?」
 知ってしまった者には決定事項だが、知る前の者には絶対に信じられない、そんな宇宙ショー
が開幕しようとしている。
「……最新鋭の衛星が二基。この一日で『学園都市』の損失は一〇〇〇億円を超える、か」
 カエル顔の醒めた声音に、ゾクリ、と布束の背筋にも冷たいものが疾走る。

「準備出来たぞ、おっさん!」
 そのドヤ顔を見て、いっそのこと『近づいたら撃つ』とかいう機能が衛星についていれば、
という不穏な願望を抱いてしまうが、まあ無理かと却下する。機能がではなく、仮にあったと
しても『その程度』では無理なのだ、この男には。
「ええと、そうだな。あの辺りを五分後に通過するよ。今度のは低軌道の中でも低い方だから、
三五〇キロ上空だね?」
 あらぬ方角を伝えるのも却下だ。間違って他国の軍事衛星を墜とされては堪らない。この街
の衛星ならまだマシだ。どうせ『学園都市総括理事長』がハニワ顔になるだけだ。
「五分か。待たなくていいのはありがてえ、あの辺はちょっと寒いからな」
「『ちょっと寒い』……ですって……?」
 マイナス二七〇度が『ちょっと寒い』か……。生身で大気圏を突破する人間に相応しい感想
だよ。帰りだって、再突入回廊とバナナの区別もつかないこの男は、どうせまっすぐ落ちてく
るんだ。摩擦熱は少なくとも一〇〇〇〇度は超えるだろう。それも『ちょっと熱い』のだろう?
「そんじゃ、ちょっと待ってな」
 ああ、同じだ。またあの金色だ。僕は何という男と出逢ってしまったのだろう。不幸だ。

 そして、カズマが何度目かの宇宙遠征へ出かけた数分後、もう一人の悪夢が帰還する。

「ただいま! 私の妹たちの容態はどう?」
 きらきら光る汗を跳ね散らしつつ、御坂美琴が満面の笑みでカズマと同じ質問をした。

               ×    ×    ×

「あ! 流れ星!」
「……もういいから。君にそういうものを期待する人はもう、どこにもいないからね?」
「そ、そんなことないもん! 私にだってきっとどこかに――」
 リプレイのように地上に突き刺さる流星をあたり前のように眺めつつ、地獄のテロリストと
地獄帰りの医者が乙女の何たるかについて議論している。

 布束は一人、あり得ない情景と常識の狭間で苦悩する。
(……科学的、合理的に説明のつかない『能力』。知識と概念が現実に追いつかない。もはや
見たままを受け入れるしかないのか。だが、しかし……)
 『能力』を上回る才能と努力で現在に辿り着いた布束にしてみれば、これを理解できないと
いうのは敗北に等しいのだ。
(まあいい、いまは容れよう。信じようが信じまいが、これは事実だ。時が来るまでは観察に
徹しよう。幸い、この連中の企みはまだ始まったばかりだ)
 馴れ親しんだ無愛想を被り直し、彼女は電撃中学生と看護婦マニアの論争に参戦した。

               ×    ×    ×
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/24(木) 05:29:51.48 ID:Ml1iA1Uxo
 三沢塾に止めを刺したカズマが、土産を担いで病院へ凱旋した。

「よっ! 今度のはデカいぜ!」
 ゴロリ、とカズマが屋上に転がしたのは『ひこぼしII号』の最大の特徴である、地上攻撃用
大口径レーザーの射出口だ。否定のしようがない物証が、燻りつつ太さと硬さを主張する。
「さすがカズマ! 私たちにできないことを平然とやってのけるッ! どうするのよコレ!」
「なるほど立派だね。男のロマンを感じるよ。それで、これをどうしろと?」
「Undoubtedly、これは本物ね。でも、これはどうしたらいいのかしら?」
「そうだな、こいつを敵の基地にブチ込んでやるか。ヤツらの目が覚めるかも知れないぜ」
「ハッ! 衛星軌道に脳味噌忘れてきたの? 『表』にまで喧嘩売ってどうするのよ!」
「こんなもん作るヤツはゲスに決まってんじゃねえか!」
「ところで、その『敵の基地』とやらは一体どこにあるんだい?」
「そいつはこれから見つけ出す! ないなら探し出す! なくても見つけ出す!」
「Hereafter? 無策にも程がありますよ。バカですかあなたは?」
「いいや? 大真面目だね」
「あなたがそう思うのならそうなのでしょう、『あなたの中』ではね。でも――」
「それで充分だ」
「他人の忠告に耳を貸す気はないのですか?」
「前に進むための言葉ならな」
「……あなたの生き方を否定する気はありませんが、長くは生きられないと思いますよ?」
「関係ねえな。俺はそんなもんの為に生きてるんじゃねえ」
「では、何の為に?」
「決まってんじゃねえか、確かめるんだよ」
「何を?」
「コイツと、この拳と、どこまで行けるかをな!」
「そんな――」

 カズマに絡む布束を尻目に、カエル顔の医者は美琴に耳打ちする。
「これはとりあえず隠しておこう。しかしこれ、持ち上がるかな?」
「たぶん何とか。最悪、『超電磁砲』でそこの庭に落としておくわ」
「頼むよ。僕はね、この街を守りたいんだ」
「それだけの価値があると?」
「気持ちは解るつもりだよ。でも、僕はこの街の理由を知っているからね」
「『理由』? それは一体……」
「いつか判る日が来るよ。それまでは知らない方がいい」
「この件にけりがつくまでは、知らないでいることにするわ」
「そうかい。――さあ、そろそろ戻ろう。少しは眠らないとね」
 言って、カエル顔は布束とカズマに割って入る。

 美琴は余計にやかましくなった三バカ、否、三羽烏を眺め、やれやれと苦笑すると腕まくり
をして、舌戦の仲間入りをした。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/03/24(木) 11:09:43.48 ID:b6X9q3Gyo
三沢塾「解せぬ」
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/03/25(金) 04:23:40.99 ID:mbbp48jAO
>>1
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/26(土) 08:42:33.53 ID:V7zA+8GJ0
更新されてた!
>>1乙!!
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/27(日) 00:27:25.04 ID:UMO+wgVC0
>>1
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/27(日) 21:27:25.18 ID:G14G1ccfo
 八月十六日 午前九時三〇分 カエル顔の病院

「やってなかったぞ」
 寝起き一発目の挨拶がコレだと、さすがに美琴も反応が鈍る。
「……ふぇ?」
 ソファーの上で強張った身体を伸ばし、美琴は隣に眠る妹の無事を確かめる。カーテン越し
の陽光が照らす妹の頬に、健全な赤みが差しているのを認めて、ほっと息を吐いた。
 美琴が安堵に到るのを待って、カズマは報告を続ける。
「『実験』だよ。しばらく待ってみたが誰も来なかった」
 『実験』の一言に、中途まで進んでいた覚醒を即座に完了させ、美琴は戦場に復帰する。
「そう……。これは朗報だと思っていいのよね?」
「どうだかな。コイツが書き換えられただけ、かも知れねえ」
 ポケットから雑に畳まれた紙を取り出して、広げる。美琴が『書庫』から引き出した『実験』
のスケジュール表だ。ちなみに、漢字には布束砥信の手によって全てルビが振られ、裏面には
目的地までの地図が大書されている。
「可能性は、あるわね。一刻も早く最新の情報を入手しないと」
 バッ、とタオルケットをはね除けて立ち上がった美琴の目が、ある一点で止まり、そのまま
硬直する。ソファーの背もたれの上、几帳面に畳まれた半袖の白いブラウス、袖なしのサマー
セーター、灰色のプリーツスカート、白い靴下、そして体操服の――
「……!?」
 着衣のままで寝るという発想のない育ちのよさが、少女に悲劇をもたらした。
「きゃ……ァ……ャ……ッ……!」

 病室に無言の絶叫と迅雷が轟いた。

 モゴモガと喚き続ける美琴の口を封じて、落ち着けよく見ろ妹を起こすなと、宥めるカズマ
だが、その所作は火に油を注ぎ続けるに等しい。
 半裸の女子中学生の口を強引に塞ぐ凶悪なチンピラ、どこから見ても最悪の構図である。
「あちちちっ」
 無意識の放電がカズマを灼く。これが他の誰かだったら息の根が止まっていただろう。その
点で美琴は幸運だった。もちろん、それで帳消しになるような不幸ではないが。

 背を向けるカズマを射殺さんばかりに睨み、慌ただしい身仕度を済ませると美琴は言った。
「見たわね」
 語尾に疑問符はついていないし、その必要もない。スカートが風に吹かれたとか、保健室の
ドアを開けたら着替え中だったとか、そんなチャチなものでは断じてないのだ。
「ああ……」
「……ごめんなさいは?」
「……」
「ごめんなさいも言えないのかっ!」
「……ん、ああ、そうだな。すまねえ」
 どこか遠くを見て、遠い誰かに赦しを乞うていたカズマが我に返り、美琴に謝罪する。
「今度やったら殺すからね!」
 と、鼻息も荒く矛を収める美琴。そもそもカズマには一点の非もないのだが、二人はそれを
それぞれの理由によって無視した。

               ×    ×    ×

『……夢を、夢を見ていました。
 夢の中のあの人が、裸の女の人に襲いかかっています。
 女の人は何かを叫ぼうとしていますが、あの人の手がそれを許しません。
 あの人は何をしようとしているのでしょう?
 私は激しい怒りを押さえ切れなくなって、大声で叫びました……』

               ×    ×    ×
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/27(日) 21:28:16.33 ID:G14G1ccfo
「やあ、おはよう。よく眠れたかい?」
「おはよう、おかげさまで。――目覚めは最悪だったけどね」
 膨れっ面の美琴に次いでカズマがカエル顔の医者の診察室へ入り、焦げ臭さを漂わせる。
「ん? おっさん、あのねえちゃんはどうした?」
「布束君かい? 彼女なら『学習装置』のシステムを構築してるよ?」
「てす何とかを何してるって?」
「アンタが昨日担いでいったヤツよ。アレを使えるようにしている、そうでしょ?」
「そうだね。あれは本体だけがあっても意味はないからね?」
「面倒なもんだな、機械ってヤツは」
「アンタの頭ん中みたいに単純には出来てないのよ!」
「そう噛みつくなって」
「朝から元気がいいね。何かいいことでもあったのかい?」
「うるさいわね!」
「いいことなんて何もなかったよ、な?」
「アンタは否定するな!」
「えーと。そんじゃ、ありがとう?」
「礼も言うなァッ!」
 沸騰する美琴を残して退散するカズマの背に、罵声と雷撃が刺さった。

               ×    ×    ×

 『学習装置』の周りに計器と工具を取り散らかし、布束砥信は忙しく働いている。
 彼女の専攻は生物学的精神医学であり、本来こういった作業は専門外なのだが、それを苦に
している様子は見られない。
「よう、捗ってるかい?」
「ええ。昼にはこの子を起こせそうよ」
 待機状態のまま接続を切って本体を移動させたので、システムを再起動して覚醒の指示を送
るまでは起こしてはならないと、噛んで含めてこの男に伝えた昨夜の苦労を思い出し、布束の
繊細な神経が疼痛を訴える。
「そりゃよかった。あのビリビリも喜ぶだろう」
「……あなたねえ、人にはそれぞれ名前というものがあるのよ?」
 作業の手を止めず、布束は教育を試みる。
「苦手なんだよ、覚えるのが」
「私の名前は?」
「えーと、何だっけか」
「ぬ・の・た・ば・し・の・ぶ、よ。胸に刻んでおきなさい」
「自信ねえな」
 軽く却下するカズマを鼻先で笑い、布束は攻勢に転じる。
「……由詑かなみ。彼女の名前はしっかりと刻まれているようね」
「ッ! 何でそれを!?」
「Because、私にはあなたの心が読めるのよ」
「それがお前の『能力』ってヤツか」
「そういうこと。この『能力』でブッ殺されたくなかったら、忘れないよう努力しなさい」
「ハッ、覚えるか死ぬかってか。そいつは楽しい賭だ」
「明日また訊くからね」
「あいよ!」
 何かいいことでもあったかのように、カズマは足取りも軽く去っていく。

「死ぬ気はないけど覚える自信もない、か。それもまた面白い」
 声に出さず、布束は笑う。それが笑顔だと気づく者は少ないだろうが、ほんの少しだけ下がっ
た目尻と、微かに艶を帯びた瞳には、確かに彼女の感情が現れていた。

               ×    ×    ×
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/27(日) 21:28:57.00 ID:G14G1ccfo
 カエル顔に借りた端末から『書庫』を蹂躙している美琴が、背後の気配に警告する。
「それ以上近寄ったら『超電磁砲』を喰らわせるわよ」
「そいつはお前のとっておきか?」
「違うわ」
「そうか」
「アンタにはまだ生きていて欲しいからね」
「そりゃどうも」
 いくらか温度が下がったようだ。確固たる信念が羞恥心に勝ったのだろう。
「ああ、『実験』のスケジュールはまだ更新されてないわよ」
「どういうことだ?」
「新しい予定がまだ組まれてないってこと。だから少なくとも今日は、予定の時間に誰もいな
ければ、その回の『実験』は中止になったってことね」
「そいつは痛し痒しだな」
「どうしてよ?」
「『実験』が減れば、助けられる人数も減るだろ?」
「アンタは『もしも』のことを考えないの?」
「考えねえな。そいつは――」
「『弱い考え』、ね。」
「そういうことだ」
「たまにアンタが羨ましくなるわよ。なりたいとは思わないけど」
「バカになるとこから始めなきゃならねえからな」
「それは堪え難いわね」
「考えるのをやめてみるのも、楽しいもんだぜ?」
「今度試してみるわ。暇な時にね」
 気のない応えを返し、『書庫』の探索に戻ろうとした美琴に、カズマが肝心なことを伝える。
「っと、そうだ。カプセルに入ってる方の『妹』な、昼には起こせるってよ」
「わかった、ありがとう」
「こっちはそろそろ時間だ。それじゃ、またあとでな」
「頼むわね。何か判ったら連絡するから」
「あいよ」
 軽快な足音が遠ざかるのを待って、美琴は端末の電源を落とす。昨日の後始末があるのだ。

               ×    ×    ×

「ふんっ、がっ!」
「あまり無理をするんじゃないよ?」
「……いい、鍛練に、なる、わ」
 カズマの『いやげ物』に挑む美琴を、カエル顔の医者が見守る。

 床は転がせばどうにかなるとして、問題は階段だ。屋上から階下までの道のりはピラミッド
のように遠大で、鞭で打たれるエジプトの労働者の気分を追体験するのには最適である。
「これ、を担い、で、宇宙、から、帰って、来る、なん、てッ!」
「マトモでも人間でもないと、僕は思うね?」
「本、当に、ねッ」
 ドゴァ、と着地した『地上攻撃用大口径レーザーの射出口』が床面に亀裂を入れるが、二人
は気にしない。
「……そんな君もまた、マトモじゃないとは思うけどね?」
 荒い息を吐き、額の汗を拭う美琴と、隣の巨大なブツを見比べて、カエル顔が正直な感想を
漏らす。
「……この程度じゃ足りないのよ。一〇〇一九人を背負うには、ね」

 射出口をエレベータに向けて転がしながら、カエル顔が訊く。
「君もあの男のように、人間を超越したいのかい?」
「それはないわ。『姉』が人間じゃなくなったら『妹たち』が困るじゃない」
「他のやり方で強くなると?」
「それも特急でね」
「当てがあるようだけど、訊いてもいいかい?」

 射出口ごとエレベータに乗り込み、下る。
「『幻想御手』と『ミサカネットワーク』の融合。私と妹たちの脳波は同一なのよね?」
「そうか。確かに君たちは同じDNAから構成されているから、君が『ミサカネットワーク』
に接続するのは理論的には可能だ。それに『幻想御手』のような弊害を起こすこともなく――」
「『幻想御手』と同等の効果を無制限に利用できる。そうよね?」
「そしてここには接続に必要な調整を行える『学習装置』と、その監修者も揃っている。いや、
恐れ入ったよ。君はそこまでを読んで『実験』の施設に押し入ったのかい?」
「まさか。私は手札の中で役を作っただけよ」

 ドアが開き、二人は射出口を地下倉庫へ転がして行く。こんなところに軍事衛星の『残骸』
が隠されているとは、お釈迦様でも気がつくまい。

               ×    ×    ×
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/27(日) 21:30:46.31 ID:G14G1ccfo
「――って訳なんだけど、できるかしら?」
「可能よ」

 『学習装置』に接続した演算装置の調整を続ける布束が、振り向きもせずに即答する。
「僕も大概のことは自分で賄うんだけど、同類に会ったのはこれが始めてだね?」
 部屋の隅にはパーツを抜かれたコンピュータと医療機器が積み上げてある。
「専門ではないし時間もないから、最低限の性能しか持たせてないけれど、難しくはないわね」
「就職口に困ったら、いつでも来るといいよ?」
「御親切にどうも」
「それで、いつ実行できるかしら?」
「この子を起こしたらすぐにでも、と言いたいところだけれど、昨日のエラーの原因を究明し
てからでないと許可できないわね」
「『二〇〇〇一号』ね。何か心当たりは?」
「『天井亜雄』が怪しいかしら。『量産型能力者計画』の元責任者で、『絶対能力進化』にも
参加しているわ」
「簡単に謳わないタイプだと嬉しいわね」
「Regrettably、天井は口が軽い方の下衆よ」
「ああ、見逃されたあとで下手な反撃に出るタイプの雑魚なのね」
 心得顔で美琴が頷く。その瞳に嗜虐の煌めきが宿るのを見て、カエル顔は胸の内で嘆息した。
「……僕は聞かなかったことにするよ?」

 殺さなければOKというルールが適用される時、天井亜雄の物語は――

               ×    ×    ×

「おはよう。私が判る?」
「お姉様ですね、とミサカは答えつつ、おはようございます、と挨拶を返します」
「あなたは私の何番目の妹?」
「検体番号を生まれ順とするなら、一九〇九〇番目の妹です、とミサカは答えます」
「よろしくね」
「よろしくお願いします、とミサカは重ねてよろしくお願いします」
「Apparently、『ミサカネットワーク』への接続も問題ないようね」
「それより、何か着るものを戴けませんか、とミサカは切実なお願いをします」
 両サイドを紐で結んだだけの服から見え隠れする白い肌を気にして、両手で庇っている。
「あ、そうよね。検査衣のままってのはないわよね、ごめん」
 一揃いの服を一九〇九〇号に渡す。先刻、着替えと一緒に買って来たものだ。

 『学習装置』の陰でそそくさと身繕いをする一九〇九〇号を見て、布束が呟く。
「『感情データ』の適応も期待通りね」
「そうか、羞恥心ね! さすがは監修者!」
 と、歓びも束の間、美琴は自身の羞恥心炸裂現場を思い出し、真っ赤なトマトのようになる。
「Oh dear? 何かいいことでもあったのかしら」
「くぅ……! アイツの記憶をぶち殺したいっ……!」
「アイツとは誰のことですか? とミサカは子供っぽい服に身を包んで質問します」
「こ、子供っぽいとは何よ! アイツは三国一の大バカよ!」
 二人が着ているのは色違いのお揃いである。もちろん選んだのは美琴だ。
「その大バカといいことがあったのですね? とミサカは確認を取ります」
「そうなの?」
「ち、ち、違うわよ! むしろその逆で、その、裸を……って何を私は!」
「……やるわね、あなた。初めて会った時から、ただ者じゃあないとは思っていたのだけれど」
「同い年には思えない大胆さにミサカは感服致しました。さすがお姉様! ミサカたちにでき
ないことを平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ! とミサカはネット
ワークを代表して歓声を送ります」
「いや……その……」
 がっくりと、落ち込んだ人のポーズ、いわゆるorzを決める美琴。痛恨のミスである。

「また空振りだったぜ」
 そんな空気を狙いすましたかのように現れる、話題の男。いろんな意味で三国一だ。
「よう! 目が覚めたんだな。姉ちゃんと仲よくやれよ」
 そして子供にするように、わっしゃわっしゃと一九〇九〇号の髪をかき回す。
「ちょっと! この子はまだ『産まれたて』なんだから、汚い手で触らないでよ!」
「お、さっそく姉ちゃんしてるな。いいぞ」
「いいから放しなさいよ!」
「ミサカは、ミサカはこのままでいいです、とミサカは続行を要求します」
「ななな何言っちゃってるのよアンタは! バカが感染ったらどうするのよ!」
「Well、九九八二号の記憶はネットワークで共有されているわね」
 言葉の端に『計画通り』の内心を滲ませて、布束が美琴に解説する。
「って、まさか!?」
「九九八二号の最新の記憶は『ヒーローの腕の中』だったかしら? もちろん、オリジナルの
記憶に比べたら精度も密度も及ばないけれど、この子には『感情』が搭載されているから――」
「NOOOOO!!」
 一〇〇一九人の妹たちがカズマに群がる様を想像して、美琴は大地に額を打ちつける。
「では私は、九九八二号への『入力』を準備するわね」
「ちょっ、それは……」
「あなたの個人的な事情は、彼女の人権にも勝るのかしら?」
「……ぃぇ」
 何か恐ろしいものの片鱗を味わった美琴は、この女だけは敵に回すまいと心に誓った。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/27(日) 21:31:21.94 ID:G14G1ccfo
「あなたは誰ですか? とミサカは名を訊ねたいのですが、先に名乗るのが礼儀なので、ミサ
カはミサカですとミサカは懇切丁寧に挨拶をします」
「俺はカズマ、苗字のねえ、ただのカズマだ。よろしくな」
 一九〇九〇号の奇矯な言い回しにカズマが動じないのは、それ以上にイカレた男をよく知っ
ているからだ。
「よろしくお願いします、とミサカはあなたの名前に親近感を覚えます」
「どっちも三文字で他に何もつかねえからな」
「ミサカには一応、一九〇九〇号という検体番号がありますが、とミサカは詳らかにします」
「俺もNP何とかって呼ばれたことがあるぜ。でもな、あんなものはただの記号だ」
「あまり楽しい思い出ではないようですね、とミサカはあなたを気遣ってみます」
「それなりに酷い目に遭ったからな。ま、おかげでいい喧嘩相手が見つかったんだから、それ
も悪くはないさ」
「ミサカもいい喧嘩相手を求めてみたくなりました、とミサカは目標を見つけられたことに感
謝します」
「おう、お前にも本気で殴り合える野郎が見つかるといいな」
「ちょっとアンタ、うちの子に何つーこと吹き込んでんのよ。大体、女の子は殴り合いの喧嘩
なんて――」
 戦慄から復帰した美琴が、すかさずカズマに教育的指導を与える。だがしかし。
「お前が言うな。俺が並のヤツだったら死んでるぞ?」
「アンタが並のヤツだったら私だってやらないわよ!」
「カズマがお姉様の『いい喧嘩相手』なのですね、とミサカは強敵と書いて友と呼ぶ誰かと、
河原でゴロ巻く日々を夢見て胸を熱くします」
「何でいきなり武闘派になっちゃってるのよ! あと、ゴロには『ステ』をつけなくちゃダメ
だからね? 武器の使用はお姉さん認めないからね?」
「ミサカはいつだって『完全武装』です、とミサカはお姉様に申し上げます。『鋼鉄破り』の
運用も問題ありません」
「いやいや問題ありまくりだから! 『メタルイーターMX』をぶっ放す喧嘩なんてありえな
いんだから! アンタも言ってやんなさいよ、武器はダメだって!」
「そうだな、武器はもっと大きくなってからだ。まあ、俺は子供の頃から使ってたけど、男の
子だからな」
「意地があるのですね、とミサカは女の子にも意地はあると主張します」
「って、アンタは武器なんて持ってないじゃない!」
「あるじゃねえか、ここに二つ」
 カズマは両手をかざして見せる。それは武器というより凶器だ。
「拳が武器! そういうのもあるのか、とミサカは認識を新たにします」
「……そうね、拳なら許可するわ……」
 これは敗北じゃないと心に言い聞かせ、美琴は奥歯を噛み締めつつ同意する。

「やあ、遅くなってしまったよ。ちょっと複雑な手術だったのでね?」
 そして現れたるはこの集団でもっとも常識に近い男、カエル顔の医者である。
 とはいえ、それは『比べれば近い』というだけであり、真の意味合いにおいての常識人など、
この場には一人としておらぬ、という事実を忘れてはならない。
「初めましてミサカです、とミサカは名乗りを済ませ、どちら様ですか、とミサカはあなたの
見事なカエル顔に感動しつつ訊ねます」
「僕はここの医者だよ。今日から君を担当するからね?」
 カエル顔は絶妙な返しで名乗りを回避する。たぶん慣れているのだろう。
「ミサカはどこも悪くありませんが? とミサカは当然の疑問を投げつけます」
「それは追々説明するよ。必要な機器もまだ届いていないしね?」
「了解しました、とミサカはとりあえずあなたを信用することにします」
「うん。さてと、僕は昼食がまだなんだけど、皆も一緒にどうだね?」
「そういや腹が減ったな」
「私も朝から食べてなかったわ」
「記念すべき初めての食事に胸が高まります、とミサカはお腹が空きました」
「布束君はどうするね?」
「そうね、私も一息入れようかしら。夕べから食べてないし」
 それがこの羨ましいスタイルの秘密か、と御坂姉妹はすかさず胸に刻む。大事なことなのだ。

 二人が注文したのはもちろん、布束と同じメニューだ。一方的な師弟関係の始まりである。

               ×    ×    ×
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/03/27(日) 21:33:52.41 ID:G14G1ccfo
布束の能力については漫画版 超電磁砲 四巻 十八話の描写から妄想しました。
あと、つまらなかったらスレを閉じる前に『つまらん』と書き込んで頂けるとありがたいです。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/28(月) 02:49:09.04 ID:1SoDRfaIO
期待してるから頑張ってくれ!!
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/03/28(月) 06:15:06.63 ID:hTpbbEEAO
わざわざネガティブな感想を求めるとは奇矯な奴だ
まあ乙
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/29(火) 14:37:56.25 ID:r18qmbDd0
つまらない? このスレがボーリング!?
冗談じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/04/05(火) 18:29:10.51 ID:jD7GmjPn0
>>95
アニキwwwwww
いやでも、本当に面白いですから。応援してます
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/04/07(木) 00:23:00.05 ID:/res8IJko
「二〇〇〇一号? 全てのミサカたちを束ねる上位個体のことですね、とミサカは確認します。
コードは『最終信号』、ミサカネットワークへのアクセスを制御するファイアウォールであり、
各個体へ上位命令文を送るコンソールでもあります、とミサカは続けて解説します」

 食後のお茶を囲みつつ、知識の擦り合わせが始まった。食える時に食うを実践中のカズマは、
その方が都合がいいと放置されている。

「Indeed、感情データの転送が拒絶されたのは、それが理由だったのね」
「『上位命令文』か。それはちょっと厄介だね? 対策を講じる必要があるな……」
 カエル顔の医者はそのまま思索の海に潜る。不可能をも調達する男が目標を定めたようだ。
「じゃあ、その『ラストオーダー』を保護するしかないってこと?」
「そうなるわね。たとえあなたが最強の『電撃使い』だとしても――」
「防壁を『無傷』で突破するのは不可能に近いからね」
「問題はその『ラストオーダー』がどこにいるか、だけど」
 ぎり、と一九〇九〇号の奥歯が微かな悲鳴を上げる。
「上位個体の現在位置は判りません、とミサカは遺憾の意を表します」
「判らないって、それはネットワークも含めて?」
「含めてです、とミサカは肯定します。上位個体は常に半昏睡の状態にあり、ミサカたちとの
接触の記録も存在しないので、現在地の特定は不可能です、とミサカは状況を説明します」
「ちょっと待って、『常に』ってどういうことよ?」

「上位個体は覚醒したことがありません、とミサカは簡潔に返答します」

 美琴の前髪に青白い火花が散り、布束の目つきが一割ほど禍々しさを増し、カエル顔の黙想
から疑問符が消えた。
「……生かさず殺さずってのはよく聞くけど、『生まれもさせない』とは、ね」
 美琴が手加減のリミッターを解除する音が聞こえたような気がして、布束が空気を変える。
「では、天井亜雄という研究員についてはどうかしら? 二〇〇〇一号の調整に関わっている
可能性が高いのだけれど」
「ああ、それなら判ります、とミサカは即答します」
 三組の瞳に輝きが宿り、一組の耳がそっと閉じる。
「よし! 壁に穴が空いたわね。ますはそのふざけた野郎をぶち――」
「First、やるべきことが決まったわね。それで、天井はどこにいるのかしら?」
「はい、ミサカネットワークから得た情報によると――」
 ええと、あれはどこだったかな、という呟きを残し、カエル顔は席を立った。これを処世術
という。

               ×    ×    ×

 窓のないビル、巨大なビーカーの中で逆さまに浮かぶ人間が、人でなしの笑みを零し、呟く。
「一夜にして二基の衛星が消失し、『絶対能力進化』関連施設の九割が焼失、と。いやはや、
実に愉快なイレギュラーだな、彼は」
 手駒が被った数千億円に及ぶ損害を他人事のように数え、彼は『侵入者』を称賛する。
「『向こう側』、そして『結晶体』……実に、実に興味深い。それはプランを大幅に短縮する
可能性さえある。しかし『政府』から入手したデータはあまりにも乏しい。私からすれば白紙
も同然だ」

 ビーカーを囲む空間に浮かぶ無数のモニタの一つが、一人の男を映し出す。
「だが、彼はこの街に現れた。その身に知識と経験を背負って」
 別のモニタが、かつて三沢塾と呼ばれたモノの残骸を表示し、彼は笑みを増す。
「彼は既に三つの事件に関わり、その『力』を見せつけている。三人の『超能力者』、三人の
『魔術師』、そして三つの『衛星』に」
 彼の言葉に合わせて映像が次々に浮かび、大きなモザイクを描く。
「……しかし足りない。『絶対能力の、さらに先にあるもの』への第二ルートに選定するには、
サンプルが少な過ぎる。もっとだ、もっと彼には輝いて貰わねばならない。衛星を墜としたい
なら墜とすがいい。人もモノも、代わりが利くものなら何でもくれてやろう。――望むなら、
私自身が打って出る可能性をすら、考慮してやってもいい。ふふ」

 最後に、モニタは一人の少女を表示する。
「……そして、彼が関わったことで最も変わってしまったのが彼女だ。実際、プランの手段で
しかなかった『絶対能力進化』が、ここまで予想外の展開を辿るとは思わなかった。本来なら
DNAの提供が済んだ時点で、役目の大半を終えていたはずの彼女が、道を選んでしまった。
血みどろの暗闇の先にある、微かな光を掴むと決めてしまった。あの男が彼女の背を押してし
まった。そう、取り返しのつかないところまで……」
 ビーカーを充たす赤い液体を震わせ、宣告する。本当に楽しそうに、まるで人間のように。

「――よろしい、彼女をメインプランに組み込むとしよう」

               ×    ×    ×
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/04/07(木) 00:24:32.16 ID:/res8IJko
 九九八二号の眠る病室へ向かう廊下で、『実験』に戻らない理由を問われた一九〇九〇号が
胸を張って答えた。
「はい。死んであげません、とミサカは『絶対能力進化』を否定します」
「よかったら、その心変わりの理由を教えて貰えるかしら?」
「こんなところで死ぬことはないと、あの人は言いました、とミサカはたった一つのシンプル
な理由を披露します」
「それだけ、なの?」
「それだけです、とミサカは断言します。生きると決めるのに必要な理由は、これで充分だと
ミサカと全てのミサカたちは結論しました」
「その生き方が犠牲を伴うとしても?」

 ここで、この瞬間に、一九〇九〇号は生まれて初めての笑顔を見せた。それが少しだけ猛り
を帯びているのは、お手本が姉だからであって、彼女に責はない。

「上等です、とミサカはミサカの覚悟の程を見せつけます。既に九九八一回の死を経たミサカ
が怖れるのはそんなつまらないものではなく、何の証も立てないまま朽ち果てることです、と
ミサカはそれだけは死んでもごめんです」
「……そう。感化、ってよりはバカが感染ったってのが近いような気もするけど」
「この想いがバカと揶揄されるものだとしたら、ミサカはバカで構いません。むしろそのバカ
を極めます、とミサカは拳を握りしめます」
「うわぁ。齢十四にて情操教育の重要性を痛感する羽目になるとは! どこか、どこかに博愛
と良識に溢れる女神は……!」
 美琴の脳裏に肉親、同居人、友人、知人、教師、寮監などの顔が片っ端から再生される。
「該当者……ゼロ……?」

 美琴が『とある高校』を訪れたことがあれば、一三五センチの天使と知り合う機会があった
かも知れない。しかし、彼女に倣った場合、慈愛と引き換えに『豪放な私生活』という極太の
おまけが付与されてしまう。妹の住まいが競馬好きのオッサンのそれになってはいけない。
 そして、いずれ起こるであろう『とある魔術書』を巡る事件に遭遇すれば、某教会を追われ
た博愛と献身の権化とも呼ぶべきシスターを、窮地から救えるかも知れない。が、彼女に師事
した場合にはそれらを会得する代償として、様々な面での防御力が壊滅的な減衰を起こしてし
まう可能性が極めて高い。
 結局のところ、それは上級者向けの痛し痒しなのだ。

「ま、まあ、とにかく、まずは姉であるこの私をサンプルとして、この世界に慣れるべきだと
思うのよ。あのバカはピーキー過ぎて常人には無理だから」
「その無理に反逆する、とミサカはキメたいところですが、この場は素直にお姉様に従うこと
にします。他ならぬお姉様からの忠告ですから」
「……私も努力するわ」
 努力を怠ると私もこうなるのか、と美琴は決意を固めた。彼女にはまだ、自覚症状がない。

               ×    ×    ×
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/04/07(木) 00:25:51.15 ID:/res8IJko
 腹ごなしの昼下がり、街をぶらつくカズマの前を、見覚えのある顔が横切った。
「よう、赤いの! てめえのアゴでメシが食えるようになったか?」
「きッ、貴様はカズマ! よくも先週はやってくれたな! 味方のはずの、このッ、僕に!」
「おいおい、忘れちまったのかよ? あん時ゃお前、完全に敵側だったじゃねえか」
 ずびし、とそこにいない誰かを指差し、カズマが吠える。
「こいつを殺れ! この世に塵ひとつ残すな!――ってか。当麻のヤツもアレには深く傷つい
たんじゃねえの?」
「……いや、そんな、バカな。アレは違う……あんなことは、なかったんだ……僕は……」
「どうした? どっかに記憶を落としてきたのか」
「……僕はあの時……『黄金練成』に記憶を……上条……当麻に、殴られ……」

「ああ、それか!」
 ぽん、と手を打つカズマ。そういえばこの男は初めて会った時もこうだった。
「あのあとでお前、緑のおっさんに『もう一度』やられた、いや、やって貰ったってか」
「……何のことだ。……僕はただ、最後まで道に迷っていた……だけ、だ……」
「解った解った。そういうことにしておこうぜ、な?」
「……この男に……殴られた記憶……? 何故……?」
「いいからいいから。俺がうっかりやっちまった。お前は何も悪くない。あん時は悪かったよ」
 どうどう、と肩を叩き宥め、落ち着かせる。また壊れては困る。
「……ふぅ。そういえば、そうだったな。僕は少しばかり道に迷って、君に殴られた。そうだ。
ここは君の謝罪を受け入れ、水に流すのが紳士の振舞いというものだ。うん」
 そして漢と男、硬く握手を交す。漢の瞳は、珍しく憂いを帯びている。

「その調子その調子。で、お前はどこに行くんだ?」
「ああ、今日は『禁書目録』との約束があるんだよ。彼女に満腹して貰うんだ」
 ステイル=マグヌス、会心の笑顔である。経過はどうあれ、結果は彼に幸福を与えたようだ。
「いんで……ああ、あいつか。――お前、あのバケモンにメシを奢るなんて正気か?」
 あの夜、ファミレスのシェイクとアイスを全滅させた白き魔女の暴虐を、カズマは忘れない。
「ふん。僕はこれでも国教会に属する公務員だよ? 彼女に量に不満の残る焼肉体験をさせる
訳がない! 英国仕込みのブルジョワ直火焼きに、彼女はきっと満腹するのさ!」
「マジ……のようだな。お前の命懸けの行動には、頭が下がるぜ」
「ちなみに軍資金には、給料の三ヶ月分を用意した。クレジットカードもある。万全だよ」
「足りるといいな。足りると……」
 そう、あのカタストロフのあとにATMへ敗走った上条当麻の不憫を、カズマは忘れない。
「心配は無用だね――おお、彼女だ」
 歓びの声を上げてインデックスに駆け寄るステイルの背を、恐いもの見たさのカズマが追う。

               ×    ×    ×

 九九八二号は眠っている。死と苦痛から解放され、静かに眠っている。
「丸一日くらいは目を覚まさないだろうって言ってたから、まだ話せないんだけどね」
「無事な姿が見られれば、それでミサカは満足です」
「この子に逢わなかったら、私は何も知らないままだった……」
「彼女がいなければ、ミサカもここにはいませんでした、とミサカは九九八二号の活躍に最大
の讃辞を送ります」
「あの子猫にもお礼をしないと」
「無意識に放出される電磁波を克服するのですね、とミサカはお姉様の修行を応援します」
「できるように、ならなきゃね」
「できるかどうかじゃない、やるんだよ、とミサカは叱咤激励します」
「なくても見つけ出す、か」

「それはそうと、いまミサカたちの間での最新流行はこの、カエルのバッジなのですが、これ
はどこで手に入るのでしょう? とミサカは問い詰めます」
 九九八二号が両手で守るように包んでいる緑のバッジに、一九〇九〇号は羨望の視線を送る。
「ガチャガチャよ。私が手に入れたのは駅前ね。商店街のヤツはダメだったわ」
「駅前が狙い目なのですね。了解しました、とミサカはこの情報を隠匿することにします」
「いや、そこは逆ね。何しろ全二五五種の難物だから、駅前の筐体にはもう、このバッジは残っ
てないと見るのが正解よ。故に――」
「商品が補充されたばかりの商店街こそが真の攻略対象なのですね、とミサカは先ほどの情報
をミサカネットワークに放流し、こちらの極秘情報を独占することにしました」
「妹らしくなって来たじゃないの。でも、喧嘩にならないようにね」
 人間らしく、という言葉を美琴は避ける。正しさの持つ歪みを彼女は認めない。
「もちろんです、とミサカは優位に立った余裕を見せつけつつ、約束します」
「まったく、誰に似たんだか……」
「それは他でもないお姉様本人だとミサカは――」
 姉妹の会話は尽きない。あと数時間もすれば、それはもっと賑やかになるだろう。

               ×    ×    ×
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/04/07(木) 00:27:02.61 ID:/res8IJko
「おなかいっぱいお肉を食べさせてくれると嬉しいな!」
 インデックスは初手から瞳に金の十字架を装備している。小萌先生と豪華絢爛焼肉セットが
彼女の完全記憶能力に与えた衝撃は、望むと望まざるとに関わらず、永久に消えないのだ。
「もちろんそのつもりだよ、『禁書目録』。――で、君はどうしてここにいるのかな?」
 ぐりん、と首を回し、ステイルは巫女装束の姫神秋沙へ、テレパシーを込めた視線を送る。
「お目付役。暴走機関車の非常ブレーキを務めるよう。上条当麻に頼まれたから」
 嘘である。小萌先生と豪華絢爛焼肉セットの教えは、彼女の知るところでもあるのだ。
「そ、そうか。それは彼も小粋な真似をしてくれたものだ。あとで礼を言っておくよ」
 『魔法名』から始まる礼だがな、とステイルは胸の内で毒吐く。

「よう! 元気にしてたか、二人とも」
「かずまも一緒だったんだ! 私もとうまも元気だよ。スフィンクスも!」
「うにゃあ!」
「お久しぶり。カズマ。おかげさまで私も元気。下宿先はボロいけど。楽しい」
 それぞれ別の事件で出逢い、それぞれに救われたこの二人は、カズマに好意的でありながら、
彼の影響を受けていない希有な存在でもある。それが幸か不幸かは判らない。
「これから焼肉なんだってな。羨ましいぜ。――このあんちゃんはかなり気合い入ってるから、
がっつり喰って来いよ。あ、でも『二人揃っての食い倒れ』には気をつけるんだぞ? さすが
のあんちゃんも二人同時には担げないんだからな」

 カズマは忘れてない。白き魔女の隣には黒髪の巫女がいたことを。
 ステイルは知らない。姫神秋沙の二つ名を。食い倒れという名を。

「あれ? かずまは食べないの? おいしいんだよ、お肉!」
「肉なのに。カズマとしてはナンセンス」
「さっきメシ喰ったばっかりなんだよ。また今度な?」
 見るものは見た、警告もした、あとは知らん、と撤退にかかるカズマ。
「カズマ君!」
 しかしステイルの腕はカズマを逃さない。
「冷麺くらいなら入るんじゃないかな!? 君だってこの二人とはつもる話もあるだろう?」

 同時に、女どもの死角でカズマの耳許に囁く。
『逃げるな! 僕を独りにしないでくれ!』
『うるせえ、俺はあの二人が喰うところを見てから、二日は食欲が失せたんだ! 帰る!』
『ッ! そんなにか! いやホント頼むよ……友だちだろ?』
『いつからお前とダチになったんだよ! くっつくなよ気色悪い』
『……ならば誓うよ、僕は君の為に一度だけ命を懸けるッ。君の望む時に、望む場所でだ!』
「そこまでかよ!」
『声が大きい! 変に思われたらどうする!?』
『いやもう充分に変だろ、コレ』
 逃れるチンピラを捕えて離さぬ赤き大男、そんな構図にときめく種族はいない。
『……で、返答は? 君は僕の「覚悟」を買ってくれるのか?』
『……判ったよ! 降参だ、つき合ってやるよ』
「ありがとう! そして、ありがとう!」
 友情を確かめたステイルが、万民に感謝を送る。
「言っとくが、二人ってのは二倍とは違うからな。三倍から先を覚悟しておかないと、泣くぞ」
「何……だと……?」
 振り返ると、二人と一匹の餓えた野獣が、彼を呼んでいる。肉はどこだ、と。

 ここ、『第四学区』に拠を置く『ロックバイソン』は、いわゆる高級焼肉店である。中高生
が大半の『第七学区』にある店と較べると、例えば『上カルビ』の値段にして実に六倍の開き
がある。彼がこの日のために選んだのは、そういう店だ。

 ステイル=マグヌスは二人のつもりだった。差し向いで、最前列で、彼が焼いた最高の肉を、
彼女が最高にもぐもぐする、それだけを夢見てここに来た、その、はずだったのだ。

 四名の店員が、それぞれ四枚の大皿を手に登場した。肉の宴、または惨劇の始まりである。

               ×    ×    ×
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/04/07(木) 17:17:00.81 ID:oEdBywEeo
ステイル生きろ・・・
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/04/12(火) 02:11:48.65 ID:46Oknto7o
「それで、君たちは『計画』に反旗を翻すことにした、という訳なんだね?」
「はい、とミサカは簡潔に応えます」
「具体的には、どんな手立てを講じるのかしら?」
 親指を勇ましく突き立て、一九〇九〇号は言い放った。
「第一に『シナリオの放棄』です、とミサカはミサカネットワーク側の改訂脚本を提示します」
「シナリオ? ――ああ、あの鉄屑が吐き出した二万通りね」
「指定された戦場に於ける指示通りの攻撃、それが九九八一のミサカを死に至らしめた最大の
要因です、とミサカは結論を先に述べます。初撃の達成までの手順にミサカの介入する余地は
なく、追加の武装は考慮されず、故にミサカたちの戦闘は常に失敗から開始されました」
 そこで一旦、言葉を切り、一九〇九〇号は苦渋を吐き出す。
「……『第一次実験』に於いてミサカ一号に与えられた武器は、一挺の自動拳銃だけでした、
とミサカは憤りを込めて申し添えます」
「はあ? 『学園都市第一位』相手に拳銃一挺? そんなの、竹やりで『駆動鎧』に挑む方が
まだ勝算が高いわよ!」
 美琴の入手したレポートには、例えば『第一〇〇三二次実験:「反射」を適用できない戦闘
における対処法』のように概略のみが綴られ、使用される『能力』や『装備』についてまでは
知り得なかった。だから想像が到らなかった――そんなバカげた設定がまかり通ったことに。
「酷いな……実に酷い……」
 カエル顔の医者の呟きに怒気が混じっている。泰然自若を旨とする彼には、およそ有り得べ
からざることだ。

 それでも冷徹を崩さない布束が、静かに訊いた。
「では、最新の『実験』に使用された兵器はどうなのかしら?」
「『第九九八二次実験』に於いて支給されたのは、アサルトライフル一挺と対人地雷一個です、
とミサカは――」
 空間の裂ける音が響き、一九〇九〇号の返答はそこで途絶した。紫電を纏った美琴の怒髪が
天を衝いている。
「……竹やりが釘バットにグレードアップしただけ、か。九九八一の命を生贄にした挙句が、
『その程度』とは、どこから見ても愚作極まりないわね」
 いまの彼女に不用意に触れると、関節があり得ない方向に曲がるだろう。そんな声だ。
「そう。スケジュールの半ばに差しかかっているとは到底思えない内容ね。――始めから完成
させる気がないと、邪推しても仕方のないほどに」
「……ッ!」
 音速の三倍で飛び出そうとする美琴を、強面のカエル顔が抑える。
「まあ、勘繰るのはあとにして、続きを聞こうじゃないか」
 それでは、と一九〇九〇号が説明を再開する。
「『実験場に行かない』という行動により戦闘を忌避し、『実験』の成立を不能にします、と
ミサカは第一章の梗概をしたり顔で発表します」
「なるほど。しかし、ネットワークから『上位命令文』が送られたらどうなるね?」
「『上位命令分』として有効なのは『行動の停止』と『演算能力の徴発』に留まり、ミサカの
行動そのものを操作することは出来ません。従って、ミサカが自発的に参加しない限り、その
『実験』は開始にすら到らないのです、とミサカはこの支配からの卒業を謳い上げます」
「however、強制停止されてしまったら――」
「そこで第二章ですよ、とミサカは人さし指であなたを差して勢いに乗ります。通常、『実験』
が実施される際には三〇名のミサカが現場処理のために待機するのですが、そこに一人のミサ
カが紛れたとて、あの男を含め他の誰にも判るはずなどある訳がないのです、とミサカの確信
がこの計画の脆弱な確信に迫ります」


 と、ここまで書いて日常と虎兎と火球と銀魂とアザゼルさんを見るのに忙しくなったので、
暫く休みます。まあ、このままエターなってもそれはそれで誰も困らないかと。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/12(火) 21:47:50.27 ID:4YB0bYWx0
乙!
気長に舞ってる
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/12(火) 22:47:17.75 ID:R5a+vu1k0

エターなるなんて・・・そんな悲しいこと言うなよ
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/04/24(日) 11:00:24.13 ID:WQXjxds90
支援いたす
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/29(金) 19:18:52.40 ID:1arYWyMIO
俺は舞い続けるぞ
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/04(土) 05:02:01.34 ID:E6k0Xw/Eo
まだかなぁ
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/19(日) 05:22:01.19 ID:+MSrUYl7o
 現在、この国には三つの勢力があり、それらが歪なみつどもえを構成している。二分された
『東京』と、かつて『神奈川』と呼ばれた所に、彼らはそれぞれの思惑と信念、そして意地を
抱いて立ち、対峙している。

 ことの起こりを『始まりの研究所』が建てられた半世紀前とする向きもあるが、しかしこの、
『学園都市』の根幹を成すとされる施設は、これまで一度もその実在が証明されたことがなく、
また当時の資料の殆どが散逸している現状から、関連するかも知れない事象の一つとして考慮
するに留めておかれたい。

 我々にとって周知の事実である『大隆起現象』が、今日の混沌の元凶であると、断を下すに
は早計に過ぎるのは確かだが、少なくとも契機の一つであることに異を挟む者もまた、いない
だろう。

 二十九年前。神奈川県・横浜市を中心とした半径三〇キロの地域が、原因不明の大隆起現象
によって本土と断絶する事態が発生する。この大災害により、近接する首都圏の機能は喪失し、
回復までには実に五年の時を要することとなる。

 この時期に優先順位から外れ、結果的に放置された地域が『ロストグラウンド』と呼ばれる
ようになった神奈川であり、そして『学園都市』と称されるようになった、西東京である。
 交通や通信などの情報網が全て失われた『ロストグラウンド』とは異なり、西東京はその被
災規模こそ甚大なれど、住民の避難・疎開はそれなりに順調に行われた。問題は、その後のイ
ンフラの復旧が後回しにされ続けたことにある。
 政治と経済、この中枢が麻痺し続けることを何より恐れた時の政府は、神奈川県として残っ
た一部の地域と、これに隣接する東京都西部を、二次災害の危険が高いという理由で全面退去
地区として指定し、この土地に投入されるはずだった物的・人的資源を首都機能の回復に振り
向けたのだ。

 こうして住人と土地としての価値を失った西東京に目をつけ、政府に接触を謀ったのが現・
学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリーである。彼は文科省の強い後押しを背景に、
なおざりにされていた教育機関の一極集中による劇的復興という名目で、東京西部地区を中心
とした半径十五キロ、東京都全体の三分の一に及ぶ土地の取得・利用許可を受け、更には基礎
インフラの整備を自前で行うことを条件に、警察権をも含む自治権限を約束される。
 政府としては、復興の目処も立たない土地を全くの無償で、それも国民の反発を極力招かな
い形で再開発してくれるという申し出に、飛びつかない理由など考えられなかったのだ。

 五年の時が流れ、曲がりなりにも利用可能となった政治と経済の目が、放置されていた未開
の地へと向けられる。幾らかの後ろめたさと共に援助という名の資本が大量に投下され、驚異
的な勢いで『ロストグラウンド』に市街地が形成されることになる。

 この時点では、西東京の再開発は目に見える形での成果を上げていない。これはいまにして
みれば、非常に巧妙で精緻な計画に基づいた演出であったと判るのだが、そのことに気づいた
者は、一人もいなかった。

 そして三年後、大隆起現象から八年の時を経て、『ロストグラウンド』は連(むらじ)経済
特別区域として日本で『唯一の』完全独立自治領に指定される。が、しかしこの経緯はいま以
て不鮮明なままである。同時期に発見された『アルター能力者』の存在、本土側の経済力低下
による復興資金の捻出のため、旧横浜地域の華僑による資金援助の条件、等々、様々な説があ
るが、このいささか不自然な独立自治領の誕生に至る理由としては、それらの総てを併せても
まだ弱いのだ。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/19(日) 05:23:16.16 ID:+MSrUYl7o
 『アルター能力』については判明していない点が多い。いわゆる『超能力』の存在が科学的
に証明された現在に於いても、我々がその力について知り得る情報は乏しい。

 ネット上の動画サイトを訪れれば必ずと言っていい程、一人の『アルター能力者』とされる
男の姿を捉えた映像を見ることはできる。これは七年前の『再隆起現象』の直前にTVで放送
されたものであり、その過激な内容から、未だ捏造の噂の絶えない代物ではあるが、ほぼ唯一
の実録映像として、一定の価値はあるものと考えられる。
 映像の中で『アルター能力者』――である、とここでは仮定する――が引き起こした破壊は
通常の兵器のそれを優に上回っており、これを一個の人間が思うままに行使するという状況は、
全くの脅威であり、にわかには信じがたい。
 だが、連経済特区の誕生から五年後に『アルター能力者』と武装警察組織である『HOLD』
の間に生じた内戦状態は、子細な情報こそ秘匿されているものの、事実として公表されており、
すなわちこれは、彼らの能力は武装した警察組織に匹敵していたという、まぎれもない証左で
ある。
 そしてこの事件により、『ロストグラウンド』は『市街』と『荒野』を壁によって物理的に
隔絶し、加えて衛星による監視、渡航の制限、地域限定通貨の発行と、『ロストグラウンド』
そのものを含めた、二重の囲いを形成するに至る。

 さて、『ロストグラウンド』に政府と国民の目が注がれている間に、『学園都市』は長年に
及んだ基礎の整備を完了させていた。もちろん、水面下で行われた強引な土地取得や、工期の
遅れに対する批判の声は小さく、目立たなかった。
 そして彼らの『二〇年進んだ技術』が本領を発揮し始めたのが、この頃である。翳りを見せ
始めた連経済特区の話題を肩代わりするように、教育施設の落成を祝うニュースがメディアを
立て続けに賑わすようになる。
 助成金に頼らない償還不要の奨学金制度は、政府と国民の圧倒的な支持を受け、都市部での
生活を夢見る全国の若き学生たちは、近未来都市に立ち並ぶ学生寮への入居権を目指して勉学
に励み、出生率が少し上がった。

 大隆起から九年、現在から二〇年前に、『学園都市』はその歴史を――公式に――開始した。
最高水準の教育を実現するために、惜し気もなく注ぎ込まれた人材と技術は、質の良い後進を
育て、彼らのための専門的な研究機関も必要な時期に必要なだけ、開設された。

 そして二年の後、『学園都市』は『超能力』の開発に成功する。

 詳細を伏せつつも劇的に公表されたその事実は、全国の中二病患者の熱狂と、少数の識者に
よる懸念を含め、概ね好意的な驚愕をもって受け入れられた。先に『アルター能力』、つまり
起因も制御も不明な謎の力が実在するという、不安の種が播かれていたのが功を奏した格好で
ある。
 この絶妙とも言える二つの能力開花の共時性について、アレイスター=クロウリーがこれを
予見または関与していた、という証拠は存在しない。

 ともあれ、これによって『学園都市』の方向性は、大きく――おそらくは目論見通りに――
変化し、決定したことになる。科学によって解明され、再現可能な技術として確立し、安全に
制御が可能であり、そして『いずれあるかも知れない未知の脅威』に対抗しうる力を開発する
機関として、了承し承諾されたのだ。

 以降の『学園都市』の発展は、我々のよく知る通りである。機密保持を理由に建てられた厚
く巨大な外壁は双方にとって有益であると歓迎され、『超能力』開発機関と変貌した各校への
入学希望者の数は衰えることがない。超能力開発の副産物として外部にもたらされた最先端の
科学技術はこの国の経済に活気を与え、人々は災害からの復興を確信するに至った。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/19(日) 05:24:38.16 ID:+MSrUYl7o
 対照的に混迷と衰退の度合いを強めたのが、連経済特区である。内戦の終結から三年、癒え
かけた疵を抉るような事件が発生する。夷狄を障壁によって隔離し、安全が保証されたはずの
『市街』がアルター犯罪の舞台となり、再度、壊滅状態に陥ったのだ。
 事件の容疑者すら判明しないまま、復興のやり直しを余儀なくされた市民たちの不安は頂点
に達し、政府はここに一つの決断を下す。特殊任務用部隊『HOLY』の設立である。
 隊員の総てがアルター能力者で構成されたこの部隊は、武装警察組織『HOLD』の中にあっ
て上位に位置し、全体への指揮権と独自の人事権を与えられた。

 『HOLY』は設立直後から目覚ましい実績を上げる。市街はもとより、その周辺部に於け
るアルター犯罪はわずか数カ月で撲滅され、やがて彼らは統制の手を『荒野』全域に広げる。
 アルター犯罪者の保護、更正の名目で行われる『アルター狩り』には人道上の問題があると
いう指摘もされたが、かつての被害を知る者たちによる肯定の声の数と大きさに、それは無視
された。
 『大隆起現象』から十七年。『アルター能力者』を犯罪者及び、その予備軍として弾圧する
システムの完成により、連経済特別区域は漸く国内外にその地位を認められることとなる。

 しかし人間は本来、争う生き物であり、平穏を維持しようとする力が強いほど、そこに生じ
る歪みは大きくなり、時にそれは取り返しのつかないものとなる。

 前述したアルター能力者による犯罪の映像が、全国のお茶の間を震撼させた翌日、その『ロ
ストグラウンド』に『再隆起現象』が発生する。
 中心部ではマグニチュード八・五を記録したとされるこの現象により、周辺の沿岸部も影響
を受ける。が、その規模は局地的なものであり、人的被害の少なかったことから、さほど大き
く報道されてはいない。
 新たに隆起した山脈に遮られ、状況の把握できない『荒野』側はともかく、『市街』の損害
は軽微であり、人々が平静を取り戻すのにそれほどの時は要さなかった。

 しかし八ヶ月後、この『市街』は崩壊する。

 始まりは市街全域に発令された避難勧告だったという。突然の知らせに慄く市民の、ある者
は空港へ急ぎ、ある者は家屋の中に身を潜めた。
 それから起ったのは消滅だった。家、車、ビル、あらゆるものが分解し消滅した。そして、
市街の中心にある『HOLD』本部ビルが異形に変化し、暫くの後に瓦解した。

 正直、この証言の信憑性はかなり疑わしい。『あらゆるものを分解させる力』など、現在の
科学をしても、存在し得るようには到底考えられないからだ。が、その事象がそのままの形で
発現したかどうかはともあれ、この『市街』がほぼ完全に崩壊した、という結果には変わりが
ない。のちに『学園都市』の気象衛星――どうして気象衛星が、という疑問は措くとして――
が撮影したとして公表された衛星写真が、それを確固たる事実としているからだ。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/19(日) 05:25:44.64 ID:+MSrUYl7o
 ここでもう一つの勢力について触れよう。そう、本来なら主役であるはずの中央政府である。

 『大隆起現象』の発生による『ロストグラウンド』の誕生、そして『学園都市』の設立とい
う大転換期にあって、この国の政府は注目に値する成果を上げていない。
 災害からの復興に於いて保身を優先させ、肝心な部分は民間に丸投げ。『ロストグラウンド』
への資本投下は裏目を出し、海外資本に尻拭いをねだる始末。『市街』という体裁は整えたも
のの、最低限の治安の維持すらままならず、アルター能力者による『HOLY』に実権を引き
渡すことで漸く収拾へ向かう有様である。
 事実、この期間の国民による支持率は常に最底辺を彷徨っており、時たま上向くそれは常に
他の誰か――『学園都市』であり、連経済特区であり、そして『HOLY』によって行われた
成功の恩恵に与っただけの事である。

 では、こうも失策続きの政府は、本当にそれだけしか為していなかったのだろうか。その答
は残念ながら否、である。

 市街地の崩壊から数週間後、政府は『ロストグラウンド』への武力侵攻を開始する。

 彼らはこの侵攻に関して、あれはあくまで治安維持のための部隊派遣であり、政府としては
当然の判断である、という姿勢を崩さないが、半径三〇キロの島に対して複数の師団を数カ月
に渡って投入するという手段は、間違いなく戦争であり、それ以下ではあり得ない。
 その上、この侵攻には『ロストグラウンド』にて保護された、相当数の『アルター能力者』
が戦力として帯同していたという、確度の高い情報もある。
 更正のために『保護』した元犯罪者を、戦争のコマとして故郷へ差し向ける、という気狂い
沙汰を行うまでに堕した政府の『目的』とは一体、何であったのか。

 『一定の成果を上げた』として、この侵攻が終結すると、政府は『ロストグラウンド』への
興味を不自然なまでに示さなくなる。巷で囁かれているように、完全な敗北を喫したことによ
る忌避反応であるのか、それとも別のアプローチを模索する待機期間の中にあるのか、それは
いずれ明らかになるだろう。

 一方、この侵攻から版図を守り切った『ロストグラウンド』は、外部との接触を完全に断ち、
以後六年の長きに渡って沈黙を貫いている。これはその力による領土的な野心を持たない、と
いうアピールなのか、あるいはただ、放っておいて欲しいという控えめな主張なのか、それは
余人の知るところではない。我々はただ、この科学全盛の世にあっても特大の脅威である、彼
らの眠れる尾を踏む粗忽者が現れないことを祈るのみだ。

 そしてこの一連の騒動により、本土に於ける『学園都市』と政府の力関係は逆転した。

 対『ロストグラウンド』の収支が未曾有の赤字を計上し、武力は国防に差し障るほどに損耗、
国際社会に於ける信用は失墜するという、ろくでもないヘタレっぷりを晒す政府に対し、円の
買い支えによる恐慌の回避、安価で高性能な兵器の供与、先端技術を介した活発な外交交渉と、
『学園都市』は献身的ともとれる厚意を示し続けた。
 そうして政府の依頼心を育てた彼らは、誰もが不審に感じない程度の慎重さで数々の権益を
手にすることとなる。

 現在、『学園都市』が有する資産は、それ以外の国土を買い占めて余りある額に及び、製品
サンプルとしての軍備は、合衆国と中国のどちらとも互角以上に渡り合える質量を兼ね備え、
世界中に登録された学園都市製のパテントが与える影響力は、工業先進国の首根っこを残らず
掴んでいる。まさしく、どうしてこうなった、という状態である。

 教育を第一義に、善意と恩恵を国内外に振りまくこの都市が、最終的に目指すものは何か。
それが邪悪なものでないことを願うばかりである。

 そして現在、政府は弱体を晒しつつ一発逆転の目を狙い、『学園都市』は成功と繁栄の最中
にあり、『ロストグラウンド』は海の向こうからこちらを睨んでいる。この三者の関係がどの
ような推移を辿るのか、興味の尽きぬところではあるが、それは明日からの物語である。


                         民明書房刊『旅立ちの鐘が鳴る』より
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/06/19(日) 05:27:27.53 ID:+MSrUYl7o
文章の書き方を思い出すついでに、舞台設定をまとめてみました
二つの世界をかなり強引にドッキングさせたので、何やらうさん臭い代物になりましたが、
よく考えたらそれは元からなので、まあ、いいかと
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/19(日) 06:57:02.87 ID:v+3u3n3Go
更新きてるー!乙!
今年はオルタネイションもあるし、スクライドもっと盛り上がれ!!

114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/19(日) 09:37:31.35 ID:iFlFHBKUo
乙乙
旅立ちの鐘が鳴る って何かと思ったら26話のEDか
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/19(日) 11:03:39.83 ID:K1ebI0+y0
久々にきてたー!

改めて最初から読み直したが、やっぱり面白いな
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/20(月) 17:36:30.16 ID:bUzsqJPN0
ちゃんと舞台設定あるって興奮するな
両方いい意味で暑苦しい作品だし相性いいわ
オリジナル分多くなってきたし期待してる

でもカズマがモテるって違和感あるなw
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/06/24(金) 19:22:48.60 ID:NvZXAZKyo
 一九〇九〇号が両手に法則を完成させた時、彼らはもう彼女を止める言葉を持たなかった。
「一つだけ、確認していいかな?」
 カエル顔の医者が、蒼みの抜けない表情を一九〇九〇号に向け、問う。
「どうぞ、とミサカはあなたの質問を受けつけます」
「この決断は君とネットワークの、どちらが下したんだい?」
「それはもちろん、このミサカ個人による決定であり、これは誰にも覆せません、とミサカは
ローレンツ力に則って宣誓します」
 こちらはやや紅潮した面持ちで、一九〇九〇号が応える。
「そうか……うん、それならいいんだ」
 彼女の完全なる自由意志を確認して、彼は患者を死地へ送り出す決心を選択した。

「The die is cast。彼らがあなたに、そして私たちに投げさせてしまった。
もう戻れない、後悔は間に合わない。ならば私が為すべきはこの博打を、運否天賦の領域から
引きずり降ろすことのみ……」
 遠く、そして近い闇を睨みつけ、布束は確信する。己がこの日、この時、この場所に居合わ
せた意味を。

「妹である以上に私、なのよね。忘れるところだったわ。――約束する。心配だの、同情だの、
そんなヌルい感情をアンタに向けたりしない」
 妹へ向いた美琴の眼差しが、戦友に対するものに変わる。それは身替わりの死を選ばないと
いう宣言であり、そもやそも、そんな状況に陥ることを許可しないという宣告である。

「さて。異議の立たないところを見ると、我々はこの作戦に副って行動を開始する、それで間
違いないね?」
「アップデートを提案することはあるかと思うけれど、アップグレードの必要はないわね」
「同じく。こっちの作戦とも相剋しないし、ね」
「うん? 君たちのアレは『作戦』と呼べるほどの代物だったかな?」
「くっ、こっちにはカズマがいる分だけハンデがデカいのよ! それに『君たち』って何よ!」
「御坂君とカズマ君のコンビのことだったよね、確か?」
「うわっ、まさかの他人行儀? 初めから関係なかったことにしちゃってるよこの人!」
「落ち着きなさい、オリジナル。これが大人の行動様式というものよ」
「裏切りは女の特権じゃなかったの!?」
「まあまあお姉さま、お姉さまにはカズマがいるではないですか、とミサカはあの人の相方を
務められるお姉さまに、もやもやした気持ちを抱きます。よもや、これが嫉妬という感情なの
でしょうか、とミサ――」
「私たちは敵を笑わせに行くんじゃないわよ! え? 相方ってアンタまさか……っ!」
「――カはお姉さまの弛まず前のめりな姿勢に感銘を受けます。はい、その意味も込めました」
「ちっ違うわよ? あのバカとはただの呉越同舟でっ、ていうか面従腹背は言い過ぎにしても
同床異夢なことに変わりはないんだからね!」
「オリジナル……」
「お姉さま……!」
「えっ?」
「その喩えは則しているのかい? その、情況に? ――いや、僕は医者としてだね」
「? ……、!」
 その刹那、あまり制御されていない電撃が、カエル顔に炸裂した。

               ×    ×    ×
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/06/24(金) 19:23:42.77 ID:NvZXAZKyo
「たんしお! たんしおだよ魔術師!」
 タン塩を求めるインデックスの野生に溢れる声に、ステイルは即座に呼応する。
「――二・一、よし! 焼けたよ『禁書目録』、これこそがタン塩だ」
「もぎゅもぎゅ、ぷはー! おいしいんだよ魔術師!」
「うん、うん。僕も炎の揮い甲斐があるというものだよ」
 何を血迷ったのか、ステイルが予約したこの部屋は、ただでさえ高級なこの店にも一つだけ
しかないVIPルームだ。故に、この場合の『タン塩』とは自動的に特上なのである。

 修道女と神父、そして巫女という取り合わせは、それだけでもう充分異様なのだが、そこに
純度一〇〇%のチンピラと猫が加わるこの個室は、従業員たちから『殲滅叫喚(エリミネーター
カーニバル)』という、禍々しい二つ名を与えられていた。

「いいわね。あれ。あなたのアルターでも。出来たりしない?」
「俺のは焼いたり燃やしたりはしねえんだよ……」

 その広大なテーブルには埋め込み式の七輪が二台セットされており、一台を姫神とカズマが、
もう一台をインデックスとステイルが使用している。
 それは同じものだったが、いまは違う。
 七輪へ向けてルーンの刻まれたカードが放射状に配置されている。それは彼が魔法戦の際に
用いる兇悪な枚数ではないが、それでも術式は発動する。焼き網の下、赤熱する紀州産備長炭
を麾下に置き、身の丈一寸の巨神が炎と熱量を統括しているのだ。これは違う。

 何が違うって、肉が上手に焼けるのだ。

「教皇級のルーン魔術たる『魔女狩りの王』を、こんなに自在に使役するなんて凄いかも」
「これもまた、君のために積んだ研鑽の成果なんだ」
 創造主と意を通じた『いのけんてぃうす』がインデックスに向けて、小さな十字架を振って
見せる。
「ふうん。何だかちょっと信じちゃいそうだよ。お肉もおいしいし」
 インデックスの警戒心が、じゅうじゅうと焼けている。
「さあ、タン塩がまた焼けたよ」
 そしてステイルは通算一二〇枚目の肉を、インデックスの取り皿に載せた。

               ×    ×    ×
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/06/24(金) 19:26:20.17 ID:NvZXAZKyo
 布束の曳くストレッチャーで退場するカエル顔を見送り、妹に遅ればせの突っ込みを入れる。
「何だってアンタの数え方は洋式なのよ?」
「ただ一つの交戦規定が『生き残れ』。それが気に入りました、とミサカは戦況を読める奴で
ありたいと思います」
「ああ、知っている。――でも間違いなく、アンタは強さを求めてると思うんだけど」
「強さを求めるのは、この一件が片づいてからにします、とミサカはあくまで慎重にフラグを
回避します」
「まあ、ね。闇雲に強さを求めても即死しないのは、あのバカくらいなもんだから」
「まったくです、とミサカは殺したぐらいじゃ死なないあの人が、生まれた時からの目標です」
「なんですと」
「それにしてもお姉さま。残る一つ、『プライド』とはどのような精神の現れなのでしょうか、
とミサカはこの未知の感情を肯定するべきか否かに惑います」
「プライド、か。それは私が昨日、一つだけ残して棄てたものね」
「何を棄てたのですか? とミサカは簡潔に問います」
「棄てたのは『第三位』だとか『常盤台のエース』みたいな、与えられて受け入れた『肩書き』
に対する、拘泥」
「拘泥?」
「そう。飾りだって解ってるはずなのに、いつしか首から下がったメダルの重さに応える自分
に抱いてしまう、どうしようもない気持ち」
「期待や規範を背負って立つのはダメなのですか? とミサカは初心者らしく直球を放ちます」
「そいつに殉じるのは気高く、『正しい』行為なのよ。道なかばにあろうが、未練が残ろうが、
『その時』が来たら選べない。選ぶ自分を許せない。『プライド』を裏切れない」
「その人は死んでしまいます」
「立派にね。そして伝説になったりする。でもね、悪いけど私はそんな人間じゃないのよ」
 美琴は妹の瞳をまっすぐに見つめ、その中に自分の姿を映す。
「私はヒーローでも主人公でもない、『その他大勢』の一人。家族を守るのが第一で、それが
精一杯の、ただの中学二年生。――それが私」
「ただの中学二年生は一〇億ボルトを操ったり、妹が一〇〇二〇人もいたりはしませんよ、と
ミサカはお姉さまの半端ないステータスを指摘します」
「そこはチャラでいいんじゃない? 一〇億と一〇〇二〇の往って来いってことで」
「それは八百屋のおつりが五〇万円だったりするようなものですか、とミサカはその超理論を
強引に解釈してみます」
「そうそう、そんな感じ」
「人生には雑駁が有効な場面があるのですね、とミサカはなるほど納得します」
「大事なのはそこじゃないからね」
「そうでした。では、お姉さまが一つだけ残したのは、どのような『プライド』なのですか? 
とミサカは改めて訊ねます」
 一九〇九〇号の問いは常にまっすぐであり、迷いがない。
「『御坂家の長女としての意地』よ。一万と二〇の妹に危害が及ぶなら、まずはそのふざけた
野郎をぶち殺すのが私の務めであり、そこに理由は必要なくて、そして珍しいものでもない」
「どんな人間でも『それ』があれば戦えるのですね、とミサカは八極拳の構えを取ります」
「そう。だから、たとえこの力がなかったとしても、私は戦う。徹底的にね」
「その喩えはこのミサカが実証します、とミサカは約束します」
「何言ってんの、アンタだって遠からずこうなるわよ。あの鉄屑がどう吐かそうが、アンタは
私なんだから」
「ミサカも……ミサカにも出来るでしょうか?」
「信じなければ、夢は始まらないのよ。そりゃもちろん、信じりゃ叶うって訳じゃないけど」
「ミサカがお姉さまを信じるように、ミサカはこのミサカを信じて……ッ!」
「いやいや終わらないから。こんなところで最終回はやめて」
 ようやくのぼりはじめたばかりなのである。未完にはしないのである。

「さて、と。それじゃあ行くわよ」
「参りましょう、とミサカは初陣に胸が高鳴ります」

 姉の意地と妹の確信が交差する時、物語は――
「っと、そうだ。カズマのヤツに今日の予定を伝えておかないと」
 もしもーし? から、うるさいわよこのバカ! までの会話を済ませ、美琴は携帯を切る。
「何やら抗議の声のようなものが洩れ聞こえましたが、とミサカは少し気になります」
「いや、なんか『何でもいいから仕事をくれ』とかって懇願されたんだけど」
「カズマにも同行願えばよいではないですか、とミサカは提案してみます」
「アンタ、アイツの前で『あの男』が減らず口を叩いたら、どうなると思う?」
「一発でロックンロールです、とミサカは惨状が目に浮かびました」
「最高のギグよ。なす術がないわ」
「情報源が四散してしまっては元も子もないのです、とミサカは提案を取り下げます」
「で、私が止めを刺しそうになったら、アンタが止めるのよ」
「なんですと」
 ――始まる。

               ×    ×    ×
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県) [sage saga]:2011/06/25(土) 10:36:16.12 ID:Q5gSwHHJ0
>>118

ひwwwゃwwwくwwwにwwwじwwwゅwwwうwww
ブリテンが禁書目録の管理を上条に丸投げしたのって胃袋(いじひ)の問題だったんじゃねーの?www
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/06/29(水) 05:35:31.69 ID:9vxtq56Io
「『みすじ』と『ひうち』と『かたかぶり』と『いちぼ』と『かいのみ』と『りぶろーす』と
『かたさんかく』と『ささみ』と『へれ』と『つらみ』と『ともさんかく』と『まるしん』と
『くらした』と『しきんぼ』と『はねした』と『らむしん』と『せんぼん』と『しんたま』と
『くり』と『うわみすじ』と『うでちまき』と『しゃとーぶりあん』を頼むんだよ魔術師!」
「ま、任せてくれたまえ、『禁書目録』。最高の焼き加減をや約束するよ」
「じゃあ私もそれを。あと。このチャプチュっていうのを。ひとつ食べてみようかな」
「……ははは。よく味わって食べてくれたまえ」
「うにゃにゃあ」
「またスジ肉でいいんだな? 了解した」
「始まったな……」

 箸休めの桜ユッケ(三人前)をもりもりと平らげるインデックスに、強張った慈愛の眼差し
を注ぎつつ、ステイルは隣のカズマを忍び声で糾弾する。
「何だこれは。確かにあの子はイギリスにいた頃から喰いしん坊だったが、いくら何でもここ
までじゃなかったぞ!」
「んなこと言われたって、俺が知る訳ゃねえだろうが」
 役目という逃げ道を失ったカズマが不機嫌に吐き捨てる。
「君だって当事者の一人なんだ。心当たりの一つや二つ、ないとは言わせない!」
 何か、それとも誰かに理由を求めずにはいられないステイルが食い下がる。この高級焼肉店
の売り上げ記録を更新し続ける、彼の経済は破綻寸前なのだ。
「……ん? もしかしてアレか? 当麻のヤツがぶち壊した――」
「『首輪』ッ!? アレは食欲をも封印していたというのか!」
「さあな。その辺はお前らの専門だろ」
 カズマのにべもない口調が、ステイルの罪の意識に突き刺さる。
「……これが僕の贖罪だというのか、神よ!」
「面倒臭え野郎だなオイ。やると決めちまったんだろ?」
「あ、ああ……」
「なら迷うな。アイツは肉を待ってる。迷ってる暇なんてねえ」
「……そうだった。僕はここで立ち止まる訳には行かないんだ。焼くよ。焼き尽くしてやる!」
「いいぞ。その調子でヤツらを黙らせてくれ……」
 店員の満面の笑みと共に新たな肉が登場し、ステイルはトングを握る手に魔力を込める。

「――『魔女狩りの王』!」

               ×    ×    ×
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/06/29(水) 05:36:48.80 ID:9vxtq56Io
「死ぬかと思ったよ?」
「死ぬ気かと思ったわ」
 除細動器のパドルを手に、布束は呆れ顔でカエル顔に切り返す。
「罰を受けたい気分だったんだ。僕たちがこれから作るのは、確実に僕の信念に抵触する代物
だからね?」
「未来の患者候補より、現在の患者を優先すべきなのは自明だと思うけれど?」
「解ってるさ。そうでなければ僕は協力していないよ。――それに、どこも損なわれずに終了
する可能性だって少しはあるんだ。僕たちの腕と、『被験者』の運が良ければ、だけどね?」
「a bit? 随分と楽観的なのね」
「優秀な徒弟を持てば、見通しも明るくなるのさ」
「私は誘われただけ、ではなかったかしら?」
 胸に塗られたジェルを拭いつつ、カエル顔は厳しい顔で布束に現実を突きつける。
「これに加担したことは、いずれ彼らの知るところになる。君の選択肢はそんなに多くない。
その中ではここが最も安全で快適だと思うね? 唯一と言ってもいい」
 しかし布束は動じない。口調に少しだけ笑みを含ませ、彼女は応える。
「新天地を目指すという手もあるわ」
「君はまさか……」
「生物学的精神医学を実践するフィールドとして、あの大地はとても魅力的」
「ッ! しかしだね、あの男を見れば判るだろう? ロストグラウンドは――」
「そうね。でも、人生を賭けるに値するものが、見つかるかも知れない」
「……君も『そう』なのか。あの男に、何らかのスイッチを入れられてしまった……」
「どうかしら? 少なくとも悪い気分じゃないわね」
 先に立って工房へ向かう布束のうしろ姿に、触れると感染りそうな熱を感じて、カエル顔は
翻意を促すのを諦めた。これはもう、言葉でどうにかなる場面じゃない。

               ×    ×    ×
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/06/29(水) 05:37:49.16 ID:9vxtq56Io
「……アンタと私は寸分違わないはずなのよね?」
「そのはずですが、とミサカはこのミサカの身体データを確認します」
「じゃあ、私がいま感じてるこの理不尽さは何なのかしら?」
 がらごろとトランクのキャスターを転がしながら、美琴は妹を恨めし気に眺める。
「ミサカには見当もつきません、とミサカは答えるしかありません」
 空色のワンピースを軽やかに纏い、腰まであるポニーテールを南風にそよがせ、からころと
キャリーバッグを曳く一九〇九〇号は、口調とは裏腹に晴れやかな表情をしている。
「くっ、姉は私の方だってのに、よもや弟の気分を味わうとは……」
 花柄のアロハにハーフパンツ、サンダルとつばの広い麦わら帽子という、『学園都市』より
海の家の方が似合いそうな格好は確かに彼女に似合っているのだが、方向性の決定的な相違が
二人の印象を海と山ほどに隔ててしまう。
「そんなことよりお姉さま、ミサカはこうして世界を闊歩するという経験に胸の高鳴りを抑え
られません、とミサカはこの感情は何だろうと自問を続けます」
「うわあ。もう思考までお嬢だよ! 深窓の佳人vs.庭師の小僧だよ! 完敗だよ……」

 『学園都市を訪れた観光客』をテーマに、姉妹はそれぞれに装いを整えた。それは、美琴が
引きずっている容量一五〇Lの特大トランクを、不審に見せないための擬態であり、女子力を
競うコンペなどでは決してない。決して――

「――!」
 かちり、と一九〇九〇号の中で思考回路が切り替わる。
「ミサカ一〇〇三九号から報告があります。対象を当該ビル内にて視認、ミサカネットワーク
を介した追尾を開始するとのことです、とミサカは作戦の進捗をお知らせします」
「そうよ、凹んでる場合じゃないわ。私には敗者復活戦の前に、果たすべき使命があるのよ!」
「――世界とはこんなにも眩しいものなのですね、とミサカは現着までのひと時をときめきを
胸に満喫します」
「ぐはあっ、何だこの破壊力。これが私の本来のスペックだっていうの……っ!」
 美琴は天を仰ぎ、一九〇九〇号は空を見つめる。陽が落ちるまでには、まだ少しある。

               ×    ×    ×
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/06/29(水) 05:38:42.70 ID:9vxtq56Io
 白衣の男が血相を変えて執務室に飛び込んで来る。彼の息は上がり、汗にまみれている。
「何だこの数は! こんなに利権を分散したら――」
「まァまァ、落ち着いテ。それでも利益は充分に出ますヨ。ドクター天井」
 天井と呼ばれた男はなおも上司に食ってかかる。
「一八三だぞ! 還元される利益がどれだけ薄くなるか、アンタ解ってるのか?」
「問題ありませン。彼らとの契約書には、裏を設けておきましタ」
「裏……だと?」
「計画終了時まで機能を維持していること、それが権益の配分を受ける条件でス」
「ッ! そうか、昨日の……」
「そうでス。昨晩は一つの施設を全力で防衛しようとして失敗しましタ。軽傷者死者共にゼロ、
しかし重傷者二〇〇という、完全なる敗北でス。回収前の実験データは全て灰になり、施設も
全て、もう使い物になりませン」
「まったく! どこの誰だか知らんが、いい迷惑だよ! おかげでこっちがどれだけ――」
 上司の男は天井の愚痴を聞き流し、続ける。
「だから手を打ちましタ。『どこの誰だか』判りませんが、敵はとても強イ。なればこちらは
手を薄く広げ、標的を分散させるのでス」
「なるほど……」
「ここは他所で大いに暴れて頂いて、我々の取り分が増える様子を見守るのが、賢いとは思い
ませんカ?」
「一理、ある……か」
 上司のしたり顔に、天井は矛を収める。この男に大事なのは、あくまで己の利益の確保だ。
それが侵されない限りは、たとえ他の誰が被害を被ろうがそれは小事に過ぎない。
「アナタには『妹達』の移送を指揮してもらいまス。各個体の調整もお願いしますヨ?」
「了解した。薄く広く、だな」
 機嫌を直した天井が去った執務室で、上司の男は軽侮の笑みを浮かべる。
「ヤレヤレ。ドクター天井の優秀さは、研究の場でしか活かされていないようですネェ。まあ、
その方が扱いは楽ですガ……」

               ×    ×    ×
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/30(木) 01:48:37.85 ID:z71H4Yheo
どのスレ行っても天井は小物だな…
カズマの眼中にも入らなさそうだ
こういう毒虫の駆除はカズマよりも劉邦が似合う
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/05(火) 05:24:00.77 ID:IjUCH7N3o
 ――何……だ……?

 窮屈な暗闇の中、天井は意識を取り戻した。腰骨に響く振動と傾いた重心が、移動の最中で
あることを彼に伝える。

 ――私は……。確か、『妹達』の移送……手配して……、研究所に戻ろうと……車に……

 機械式のドアの開閉する音が聞こえ、身体が直立すると同時に胃の腑が浮き上がる。

 ――地下? いや……その前に、私はどうして……こんな状況に……。誰が……?

 ポン、と電子音が到着を告げると再度ドアが開き、天井を押し込めた暗闇は移動を再開する。

 ――薬品、ではないし、鈍器で殴られた感触もない……だが、手足はおろか、瞼すら……

 硬い床に響く、二組の足音。コツ、コツ、と。そして、パタ、パタ、と。

 ――麻痺……電撃……? しかし、あの時、車の傍には誰も……。どうやって……?

 停止、そして今度は人の手がドアを開ける。また、移動。

 ――犯人は、昨夜のテロリストか……? どうして、私を……。誰か……

 三枚のドアを抜け、移動が終わる。暗闇が横に倒され、ぱちんと金具が鳴る。

 ――どうなるんだ、私は……。まさか……? 私が、何をした……

 暗闇の蓋が開き、天井は窮屈から解放されたが、視界と手足の拘束が彼を闇に留め置く。

 ――観念? 冗談じゃない……。こんなところで……終わって……

 ジッ、と脳裏に火花が散り、天井の意識はもう一度混沌に沈んだ。

               ×    ×    ×
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/05(火) 05:24:50.09 ID:IjUCH7N3o

「問題はなかったようだね?」
「順調そのものでした、とミサカは報告します」
「一〇人の『目』があったからね。そっちはどう?」
「もうしばらく掛かるよ? もちろん」
「いま繋いだら、三分であの世に到着するわよ」
「それじゃあ楽過ぎるわね」
「ではお姉さま?」
「うん。楽しい尋問の時間よ」

               ×    ×    ×
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/05(火) 05:26:52.14 ID:IjUCH7N3o
 美琴と一九〇九〇号が天井を拘束した手術台を囲む。
「さてと。まずは口が利けるようにしないと」
「お任せあれ、とミサカはこの男の鼻先にアンモニアを喰らわせます」
 びくん、と天井の身体が跳ね、また平らになる。美琴の電撃による麻痺が解けていないのだ。
「容赦ないわね」
「許容もなく、慈悲もなくです、とミサカは今日の意気込みを語ります」
「アンタには夢もキボーもないそうよ」
 と、美琴は天井の首筋に触れる。まもなく天井の四肢は緊縛を解かれ、ぐったりと弛緩する。
「もう話せますか?」
「そのはずよ。試しに名前でも聞いてみたら?」
「姓名を述べなさい、とミサカは命令します」
 しかし天井は答えようとしない。脳内の対策本部が大わらわなのだ。
(『ミサカ』だって!? 『妹達』が私を拉致した? 『外部のテロリスト』の仕業ではなかっ
たというのか。だが、どうしてコイツらが? 目的は何だ? 情報か? 金か? それとも?)
 一九〇九〇号は無言の天井を見下ろし、小さく笑う。
「そうですか。ではこうします、とミサカは高濃度カリウム塩注射剤をこの男に静注します」
 慣れた手つきで駆血帯を巻き、浮き出た血管に針を刺して、プランジャを押す。
「それって、アメリカの死刑で使ってるヤツ?」
「はい。ほどなく致命的な不整脈が――」
「天井! 天井亜雄だ! ですッ!」
 天井は全霊で一九〇九〇号の質問に答える。そうだ。悩んでいる暇はないのだ。
「そうですか。では次の質問に答えたらカルチコールを射ってあげましょう、とミサカは人参
をぶら下げます」
「こ、答えるっ! 何でも! だから早く!」
「ではリーマン予想を証明――」
「わ、私の専門は生物学だ! 殺す気か!」
「あなたはいま、『何でも』と――」
「訂正する! 何でもは知らないッ! 知ってることを答えさせてくれ! 下さい!」
「さて。この男が『答えられるに違いない』質問を考えねば、とミサカは潜考します」
「あー、そりゃ難題だわ。『私たちが知ってること』を訊いてもしょうがないし、ね」
「早、く、っ!」
 目眩と動悸を連れて、痺れが身体に帰って来る。天井は確信した。これは本物だと。
「ちょっと思いつかないので、ここは高濃度カリウム塩注射剤をもう一発射っておきましょう、
とミサカは致死量に万全を期します」
「うわあ。鬼だわアンタ」
「……やめ……て……」
 注射より過度のストレスによって、天井の形相が土気色に染まる。
「死ぬかな?」
「走馬燈が見えている頃かと」
「ああ、これまでに経験した全ての場面を総動員して、差し迫った死を回避しようってアレね」
「この状況から生還する方法があるなら、それを『答え』にしましょうか? とミサカはこの
男の可能性に期待します」
「あ……が……」
 死ぬ。コイツはただ殺す気だ。答えなど端から求めてないんだ、と天井は絶望を噛み締める。
「まあ嘘ですが、とミサカは生理食塩水のアンプルを片手にほくそ笑みます」
「何……だと……?」
「引っ掛かった! 引っ掛かったわ!」
 美琴は両手の人さし指と小指を立てて、歓びを表現する。
「次は本物です、とミサカはやはり質問を思いつかないのでもう射っていいですか?」
 正常な思考をあらかた失いつつ、天井は必死で考える。何か、何かコイツを満足させられる
解答はないか? 何かないか。この状況をひっくり返せる、尖った何かは。
「そうねえ。始まったばかりでリタイアされてもつまらないから、少しは妥協しようかしら」
「頼む……いや、お願いします……!」
「じゃあ、アンタの抱えてる極秘情報の、上から三番目を話しなさい。その内容を私らが知ら
なかったら薬をプレゼント。知ってたら……毒ね!」
「三番……。少し、いや、すぐに整理する……」
「一番目はいいのですか?」
「そいつは命と兌換するにはまだ高い代物なのよ。死ぬよりも酷い状況と引き換えにしないと
手放せない。それが一番の秘密」
「なるほど。では、それはあとにしましょう」
 脳内の算盤を忙しなく弾き、天井は己の身命を買い戻せる額を勘定する。それは高過ぎても
安過ぎてもいけない。
「……実は……『樹形図の設計者』が……」
「ハイ失格」
「!……いや……まだ、何も……?」
「やはりこの程度でしたか、とミサカはいよいよこの男に愛想が尽きました」
「死ねばいいみたいよ?」
「なっ! 理不尽……っ! ちがっ、違うんだっ……せめて……本題に……っ!」
 息も絶え絶えの天井が乞う。必死度が一人だけ飛び抜けている。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/05(火) 05:28:04.64 ID:IjUCH7N3o
「どうせ保身のためのお為ごかしです、とミサカは断じてプランジャに力を込めます」
「ひっ……あ、やぁぁっ! し、死、死にたくない! 嫌だ! 嫌だ!」
「……アンタ、この子に殺されるのは仕方がないんじゃない?」
「天魔覆滅です、とミサカはこの世を斬る影としてこの男を成敗します」
「……ゼーフェル・イェツィラア……召しませモカシュークリーム……はっ! 春上さん!?」
 両手足を拘束され、自らの滴らせた体液に浸り、天井は懇願する。
「……何だ! 君の望みは何だッ! ……叶えてやる! ……私は、私だけは絶対に死にたく
ないんだ! そのためだったら何でもやってやる! 他の奴らがどうなろうと知ったことか!」
「清々しいまでにクズですね、とミサカはこの手を汚す価値があるのか疑問を抱きます」
 別の世界線から帰還した美琴が、妹に漢の筋道を示す。
「えー? じゃあ、とりあえず二〇〇〇一号の現在地と『上位命令文』のプログラムコードと
『一方通行』の能力解析データと、あの鉄屑が吐き出した『計画』の演算ログの保管先を全部」
「全部? ……ああ了解した。私の職能をすれば全て手に入る。もういいんだ、全て裏切って
やる。この計画はもう終わりだ。私の人生ももう終わりだよ! もう破産だよ!」
「諦めたらそこで試合終了ですよ、とミサカは意味もなくこの男を励ましてみます」
「いいじゃないの。このオッサンには明日を生きて迎えられる可能性が出来た。大事なのは、
そこなんだから」
「でもその糸はカンダタのそれより細いのです、とミサカは非情な現実をぶっちゃけます」
「まあ、こればかりは『やってみないと判らない』からね?」
「え? えー?」
「いい仕事が出来れば生き残る可能性も上がるわよ。全てはアンタ次第」
 まあ、嘘だけどさ、と美琴は胸の内で呟く。
「そっ、そうか。決して君の期待は裏切らない、約束する」
 と、そこで天井はいつのまにか動悸が遠ざかり、死の影が薄くなっていることに気づく。
「あれ? そういえば、私はどうして……」
「『生体電気信号』ってヤツよ。注射は遊び。――解るわよね? この指先に生殺与奪の権が
握られてるって」
「え……? あ、いや……まさか……」
「お姉さまの電撃ネットワークを以てすれば小悪党の命の一つや二つ、どうとでもなるのです、
とミサカはこの男に絶望と服従を叩き込みます」
(『お姉さま』。クソッ……! 『ミサカ』すなわち『妹達』の『姉』、『超電磁砲』がいま、
ここに、私の前にいてこの命を掴んでいる……! ははは、はは!)
「是非もない……。従うさ。……私は、私が死ぬところを見たくないんだ」
「ミサカとしては、この男を肉塊に変える作業を始めるに吝かではないのですが、とミサカは
残念そうに述懐します」
(コイツは……っ! むしろ私を殺したくて漲っているっ! 危うい……!)
「それじゃあ、命の対価を払って貰おうかしら。言っておくけど、嘘を吐けば『判る』から、
試すならそのつもりで、ね?」
「……ああ。ええと二〇〇〇一号は――」
 そして天井は謳い始める。知る限りと、知りうる限りの全てを。

               ×    ×    ×
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/05(火) 05:28:59.52 ID:IjUCH7N3o
「えー、またやるのー? 結局、また返り討ちにされるだけだってば」
 睡眠が沸騰した脳味噌を鎮め、彼我の戦力差を認識したフレンダが不平を漏らす。

「超お断りです。あの男に敵うためには、相応の修行を重ねる期間が超必要です」
 その強さに憧れに似た感情を抱いてしまった絹旗が、時期尚早を訴える。

「あの人は敵じゃない、そんな気がする……」
 医者に安静を言い渡された滝壷が、相変わらず眠そうに異議を唱える。

「しょうがないでしょ? これが仕事なんだから。死なない程度に頑張ってくればいいのよ♪」
 カズマへの復讐に燃える麦野が、双眸を爛々と光らせて、いけしゃあしゃあと嘘を吐く。

「結局、断った意味がないって訳よ」
「顔だけ見たら超帰って来ましょう」
「私は何もできないけど、でも……」
「心配ないわよ、私がついてるから」

 乙女の矜持を懸けた復讐が、傍の迷惑を背負って走り出す。流れるのは血か、涙か。

               ×    ×    ×
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/05(火) 05:31:28.59 ID:IjUCH7N3o
殺る気満々の美琴△のために鬱グロを極める予定だったのに、
何だか気がついたらこんなんになっちまいました
登場人物が死ねない呪いでも掛かってるのでしょうか

それと、某スレを参考に無難を目指していた当スレですが、
「全レスとか超キモいんですけど?」
「自分語りなンざ見たくねえンだよ死ね!」
「結局、馴れ合いとか見苦しいだけって訳よ」と、
そこまではまあご尤もと甘受してました、が

「いちいちageるなウゼえ。節目にだけageろや」

という面白発言が飛び出すに至り、うっさいわボケが、と
腹に据えかねてしまったので、もう勝手にします。知るかと
132 : :2011/07/05(火) 13:11:46.63 ID:Hc8iDJG20
その馬鹿を極めるっ!!
てな感じに頑張ってください。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/06(水) 00:55:27.58 ID:4WBFoP4AO
愚痴りたかっただけかもしれんがそういう言い方はダメだろ
某スレがわからんからなんとも言えんけど
事情わからん側からすると自分のスレを荒らしたいのかと思えてしまう
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/06(水) 16:58:27.35 ID:cbEqrMMz0
てめえが決めたてめえの道だ!!
黙って突っ走ればそれでいい!!
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/08(金) 03:52:28.00 ID:dLfisnmwo
8月16日 午後5時30分 食堂

布束「183?」

美琴「そう。今日付けで契約が交わされて、明日から順次稼動させるんだってさ」

カエル顔「それはまた……随分と多いね?」

美琴「まあね。終わる頃にはかなり風通しがよくなってるはずよ、この街も」

布束「Nevermore、同じことを考える輩が現れないように」

19090号「被害総額がえらいことになりそうです、とミサカは13桁の大台を目指します」

カエル顔「もう半分は達成してるんじゃないかな?」

19090号「なるほど。では倍プッシュです、とミサカは0を一つ追加します」

美琴「国が買える勢いね。それでも9981の命には釣り合わないけど」

19090号「やはり命は命でしか贖――」

カエル顔「断ち切るんだ、憎しみの連鎖を! 君たちにならそれが出来ると思うよ?」

布束「Nevertheless、語尾に自信が欠けているけれど?」

カエル顔「こ、これは抗えない習性なんだ。僕だって困ってるんだよ?」

19090号「これは同情すべきなのでしょうか、とミサカは――」
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/08(金) 03:53:14.03 ID:dLfisnmwo
8月16日 午後7時 第4学区 高級飲食街

最敬礼の店員一同に見送られ、一行は店を後にした。扉には既に閉店の札が掛けられている。

インデックス「ごちそうさまなんだよ魔術師!」

ステイル「満足したかい?(……危なかったッ、本ッ当にギリギリだった……!)」

インデックス「こんなにおなかいっぱい食べたのは、この国に来て初めてかも!」

ステイル「そう、なのか。――でも安心したまえ、これからは僕がついているからね
    (この幼気な少女に! 満足な食事もさせてやれないだと!
     許さん。許さんぞ上条当麻ァ!)」

姫神「ごちそうさま。私もお腹一杯。もう少しで。食い倒れるところだった」

ステイル「倒れても君の面倒は見ないからな」

スフィンクス「にゃおォン!(俺はまるで三毛猫火力発電所だ!)」

カズマ「オイこの猫、見た目が倍になってるぞ……」

インデックス「あ! マスクメロン味のアイスが新発売だって!」トテチテ

ステイル「はっ、走ると危ないよ『禁書目録』! それに君はこれ以上……っ!」

インデックス「スイーツはべつばらだって、あいさが教えてくれたんだよ!」

ステイル「何、だと?」

姫神「そう。ここで甘味をサッと食べて。しかるのちにドスンと」

カズマ「じゃあ俺はこれで――」スッ

ステイル「逃すかッ! 判ってるんだぞ、君の予定が空白になったと!」ガッ

カズマ「ぐはっ。抱きつくんじゃねえ! 放せ!」

ステイル「悪いね。君には最後までつきあって貰うよ……」

さあ、第2ラウンドの始まりだ。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/08(金) 03:53:41.95 ID:dLfisnmwo
8月16日 午後8時 布束工房

分解され、再構成された『学習装置』を前に、この実験の急先鋒が二人、集う。

美琴「どう?」

布束「まともな研究所なら、絶対に臨床試験の許可が下りない程度には安全よ」

美琴「完璧ね」

布束「私としては、なるべく長期間のデータが欲しいところなんだけど」

美琴「せいぜい頑張って貰うわよ。ダメだったら別のを攫って来てもいいし」

布束「思考が極道っぽいわよ、オリジナル」

美琴「外道が相手だからね」

布束「But、一線を越えるのはこれからよ。あなたに出来るかしら?」

美琴「――『ブッ殺す』と心の中で思ったならッ!」

刹那、『装置』のスイッチがバヂッと音を発てて入り――

美琴「その時スデに行動は終わっている。そうよね?」

10020の『声』と9981の『記憶』に接続された天井亜雄が、無音の絶叫を開始する。

布束「そうね」
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/08(金) 03:54:18.43 ID:dLfisnmwo
8月16日 午後10時 第7学区 薄暗い路地裏

一方通行「今日の『実験』は中止じゃなかったかァ?」

19090号「このミサカの検体番号は19090。故に、これは『実験』ではありません」

一方通行「そォかい。それならオマエはナニしに来やがったンだ?」

19090号「警告です」

一方通行「ハッ、そりゃまた面白れェ。で、ナニに気をつけりゃイインだろうな、俺は?」

19090号「この先、一人でもミサカの命を奪えば、あなたは命以外の全てを失います」

一方通行「オマエ!? あの野郎のッ!」

一方通行の脳裏に、昨夜の不様が蘇る。あの金色の――

19090号「さあ、どうでしょう? では、今日はこれで」

それだけ言い残すと、19090号は暗闇に消える。

一方通行「後を……いや、それでどォにかなるンなら、そもそも出て来ねェか。……クソが」

いら立ちを吐き棄てて、一方通行は暫し、その場に佇む。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/08(金) 03:54:47.31 ID:dLfisnmwo
8月17日 午前2時 司令所(元地下倉庫)

GPSの光点を視界の隅に捉え、チームの司令塔がアタッカーに告げる。

9982号「その先を右に入って下さい、とミサカは的確な指示を送ります」

カズマ「あいよ」

9982号「正面のビルを含め、直線上に五つの『標的』が隣接しています。距離にして1.5km。
    ここにミサカたちは配置されていないので、手加減は要りません。
    一気呵成に粉砕して下さい、とミサカは大破壊を命じます」

カズマ「いいねえ、そういう大雑把で豪快なのは大歓迎だ」

そしてスピーカーから轟く『標的』の断末魔。車椅子の9982号は唇の端で笑う。

9982号「『標的』の破壊を確認しました。残り116です、とミサカは進捗をお伝えします」

カズマ「手応えが足りねえな。もっと増やしてもいいぜ」

9982号「考えておきます。その場から北に3km移動して下さい、とミサカは冷静に応えます」
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/08(金) 03:55:28.07 ID:dLfisnmwo
8月17日 午前9時 食堂

朝のニュースが『学園都市』を襲った『無差別テロ』の惨状をひとしきり伝えた、その後。

カエル顔「しかしまた、派手にやらかしたものだね?」

布束「『実験』どころか、都市機能までが麻痺しているようね」

美琴「私はちゃんと、最小限の破壊に留めたわよ?」

カズマ「全然喰い足りねえ。あの程度じゃ俺の鬱憤は晴れねえんだよ……」

9982号「時間切れになってしまったのは残念です、とミサカは述懐します」

美琴「そもそもアンタ、一体どんな目に遭ったっていうの? 半分死んでたわよ、顔が」

カズマ「いや……ダメだ。それだけは話せねえ。――まあ、話して解ることでもねえが」

19090号「あとでこっそり教えて下さい、とミサカは『完全武装』でブッ殺して来ます」

カズマ「……殺せるモンでもねえんだよ」

布束「Even so、『施設』の8割を破壊出来たのだから、善しとしようかしらね」

カエル顔「とばっちりを食った施設の数も入れたら、10割を達成してるんだけどね?」

9982号「それらは全て今回の『標的』の関連施設なので、問題ないと判断しました、
    とミサカは簡単に説明します」

美琴「姉妹ってのも案外似ないものなのね。アンタが一番容赦ないわ」

カズマ「いやビリビリ、やっぱお前が一番だろ? おっさんまで殺しかけたそうじゃねえか」

美琴「何よビリビリって! 何でアンタまで! まったく、どいつもこいつもッ!」

カズマ「お前、他のヤツにもそのビリビリ喰らわしてるのかよ? マジで死人が出るぞ」

布束「『超能力者』ともなれば、『歩く大量破壊兵器』といっても過言でないわ」

美琴「ア、アイツはいいのよ! アンタと同じでどうせ効かないんだから!」

美琴の言う『アイツ』が、カズマのよく知る男であると判るのは、もう少し先の話だ。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/08(金) 03:56:01.18 ID:dLfisnmwo
19090号「……このミサカにお姉さまに匹敵する『能力』があれば、『実験』は昨夜、
    『被験者』の消滅によって頓挫していたのですが。容赦なく……」

カエル顔「そのやり方は駄目だと何度も言っただろう? 君たちはこれが終わったら
    陽の当たる場所へ――ああ、そうだカズマ君? あとでちょっと相談があるんだ」

カズマ「何だよ急に改まりやがって、気色悪い」

カエル顔「まま、そこはそれ。とにかくあとでね?」

カズマ「……判ったよ」

布束「Well、一旦解散するわよ。睡眠が必要な人間はいまの内に寝ておきなさい」

美琴「私には必要ないわね」

9982号「ミサカは2日分眠ってあります、とミサカは睡眠を却下します」

カエル顔「君は眠らなきゃ駄目だよ? 主治医として厳命するからね。ほら」

カエル顔が看護婦に合図をし、9982号は病室へ連行される。

布束「私も一時間ほど眠るわ。さすがに――」

19090号「そこでこのミサカが! 颯爽と……zzz!」

カズマ「無茶しやがって……」ヒョイ

美琴「ちょっ! アンタ私の妹に何するのよ! おおお、お姫さまだっこだななんてッ!」

布束「妬けるのかしら?」

美琴「ちっ違うわよ! ほら、触るとバカが感染っちゃうから……!」

カエル顔「これが若さ。これが青春、か……」

そしてまた今日も、カエル顔は除細動器と布束の世話になる。ちょっとMなのかもしれない。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/08(金) 03:57:09.12 ID:dLfisnmwo
8月17日 午前10時 カエル顔の部屋

カズマ「生きてるか?」

カエル顔「さっき生き返ったところだね?」

カズマ「わりと不死身なんだな」

カエル顔「君が喰らったのとは桁が違うよ。あれで充分抑えてくれているからね?」

カズマ「ならアレはワザとやられてるのか?」

カエル顔「そうとも言えるし、そうでないとも言えるね?」

カズマ「訳が判らねえよ」

カエル顔「君も大人になれば解るさ。ギリギリの地点でしか見えない景色があることを!」

カズマ「……本題に入ってくれ」

カエル顔「ん? ああ、そうだった。まだ先の話だけど、御坂君の妹さんたちが
    ロストグラウンドへの亡命を希望していてね?」

カズマ「へえ、そりゃイイや。あいつらなら俺のシマでも充分やっていけるぜ」

カエル顔「で、問題は彼女たちをどうやって移送するかなんだね?」

カズマ「全部で何人いるんだ?」

カエル顔「10020人だね? もちろん、その全てが海を渡るとは限らないが」

カズマ「そうなのか?」
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/08(金) 03:57:39.13 ID:dLfisnmwo
カエル顔「19090号君は御坂君と共に残ると言ってるよ。『全て』にケリをつけるそうだ」

カズマ「そうか」

カエル顔「それでも、この街に『潜る』としても、多くて100人というところだろう」

カズマ「そうなると、残りの……残り……」

カエル顔「少なくとも9920という人数を、短期間でこの街から出さなければならないんだ」

カズマ「100人乗りの車に載せて運べば10回、か」

カエル顔「そのやり方だと100回必要だよ?」

カズマ「そうなのか? ……ちょっと目立つな」

カエル顔「ちょっとじゃ済まないだろうね? 下手をすると途中で撃墜されてしまうよ」

カズマ「ならどうする?」

カエル顔「そこで君に訊きたいんだ。どうだろう、ロストグラウンドに
    『そういう』能力を持った知り合いの心当たりはないかな?」

カズマ「アルターで、移動、か」

記憶の泥濘から『人間ワープ』『スーパー光線銃』などの単語が浮かぶが、
それはこのカズマとは別の誰かの経験だ。この世界では役に立たない。しかも敵だ。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/08(金) 03:58:07.60 ID:dLfisnmwo
カエル顔「どうだい? まあ、いざとなれば『外部』の組織を利用するという手もあるが……」

カズマ「それはやめた方がいいだろうな。『本土』のヤツらはどこにでも混じってやがる」

カエル顔「ううむ」

カズマ「歩いて、行ってみるか……?」

カエル顔「歩いて? 海の上をかい?」

カズマ「いや、海を『割る』」

カエル顔「何……だって……?」

カズマ「それなら俺がいつでもできる。――ああ、そうだ」

カエル顔「しかし……それだと、いや、それが可能だとして、移動は徒歩になってしまうね?」

カズマ「そう、か……。あー、もう考えるのが面倒臭え!
   ちょっとアレだ、頭のいいヤツに訊いて来るぜ! 夕方には戻るからよ!」

カズマの騒々しい退場を見送り、カエル顔の医者は斜め上の展開を覚悟した。またか、と。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/08(金) 03:58:38.83 ID:dLfisnmwo
8月17日 午前11時 第7学区 レストラン『Joseph's』

麦野「まあね。183もあるんだから、待ちぼうけることもあるわよね(ド畜生がッ!!)」

フレンダ「結局、あのバケモノと遭遇しないで済んでラッキーだったって訳よ」

麦野「アンタ、その台詞はフラグになるんじゃない?(今夜の任地はコイツに決めさせよう)」

フレンダ「ひゃっ、やめてよ麦野! 私、恐いの苦手なんだから!」

絹旗「一晩で150ケ所の施設が灰になるとか、超A級ですよあの男! 全米が泣くレベルです」

麦野「あぁ、全米をロードショーさせてみたいわよね。何日であの国、滅亡するかしら?」

絹旗「それは超困ります! B級映画の聖地が消滅したら超生きて行けないです」

滝壷「あの人の、どうしようもない怒りと絶望が、この胸に伝わってきました……」

麦野「アンタは……まあいいわ。ちゃんと薬飲むのよ」

滝壷「うん……。麦野は優しいね」

フレンダ「あー! ずーるーいー! 私にも私にも!」

麦野「はいはい。いい子いい子」

絹旗「はぁ。外は大混乱だけど、ここは超平和ですね」

そして彼女たちは今夜、あの男との再会を果たす。カズマという名の、30億分の1の天災と。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/08(金) 03:59:15.58 ID:dLfisnmwo
8月17日 午前12時 ロストグラウンド 密貿易会社事務所

少しくたびれたプレハブ小屋の扉を乱暴に開け放ち、カズマが転がり込む。

カズマ「よう社長ォ!」

社長「いいかげん名前で呼んで下さいよ! あなたたちは人の名前を覚える気が――」

カズマ「かなみは?」

社長「……いま何時だと思ってるんですか? もちろん仕事中ですよ」

カズマ「そうか。それならいいんだ」

社長「何が『いい』んだか。この6年、一度もちゃんと会いに来てないじゃないですか」

カズマ「いいんだよ、それで」

社長「まったく。忘れられてしまっても知りませんよ?」

カズマ「いや、それはない。うん」

カズマは昨日、かなみに大目玉を喰らったばかりだ。むしろ会えない方がいい。

社長「で? 何ですか用件は? 言っておきますけど、面倒なことは引き受けませんからね」

カズマ「人を紹介してくれ。10000人を運べるアルター使いだ」

社長「ッ!? いま言ったじゃないですか! 面倒なことは――」

カズマ「いいから教えろ! 知らねえなら知ってるヤツを教えろ! いますぐにだ!」

社長「……はぁ。あなたという人は、あの頃からちっとも変わってない……
   ――いいでしょう、まずは詳しく話を聞かせて下さい。詳しくですよ?」

カズマ「ああ、その10000人ってのは――」

結局のところ、この『社長』はカズマに関わるのに満更でもないのだ。
ただ少し、ろくでもない思い出が多いだけで。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/07/08(金) 04:19:37.24 ID:dLfisnmwo
『速さ』が増して『自己満足度』が減った、そんな感じになりました
次回以降をどっちにするかはまだ未定です
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/09(土) 21:14:36.24 ID:PDswfEgao
8月17日 午後1時 窓のないビル

??????「素晴らしい。やはり彼は期待を裏切らない。

       科学の小細工など、幼子が積み木を崩すように瓦解したではないか。

       これで『実験』は彼らと私の思惑通り、頓挫する方向に大きく傾いた。

       だが、まだあとひと押しが足りない。

       権勢に酔った老醜共に自ずから手を引かせるには、

       もっと解り易く、決定的な名分が必要なのだよ。

       ――ふむ。ここで私が糸口を与えて事態を加速させるのも一興だが、

       ここからは『表』も参戦することになる。

       『風紀委員』や『警備員』相手に彼らが示すであろう『覚悟』を

       傍から眺めさせて貰うとしよう。

       存分にやってくれたまえよ、君」
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/09(土) 21:16:01.10 ID:PDswfEgao
8月17日 午後3時30分 ロストグラウンド 大農場

カズマ「よう! お前ら」

??「カズマじゃないか! 久しぶりだなあオイ。元気にしてたか?」

カズマ「ああ。もう痛みもほとんど感じねえ」

?????「それは身体が死にかけてるだけだと思うよ」

カズマ「いいんだよ、細けえことは!」

?????「まあ、もう治らないんだし、気にしてもしょうがないかな」

??「いいんだよ、コイツらには何を言っても無駄なんだから!」

?????「そうだね、うん」

社長「……ちょっと! 置いて行かないで下さいよカズマ!」

カズマ「ん? ああ悪い悪い。気にすんなって」

社長「しますよ! 車の屋根、弁償してもらいますからね!」

??「橘! オマエも来たのか」

社長→橘「ああ、瓜核、イーリャン。久しぶり。今日は君たちに頼みが――」

カズマ「10000人をだな――」

橘「あなたは口を挟まないで下さい! 話がややこしくなるだけなんですから!」

カズマ「……けっ。ちょっと頭の出来がいいからってよ……」

瓜核「変わらねえなあ、オマエらの漫才も」

イーリャン「楽しそうだね、いつも」

橘「冗談じゃない! 彼の所為で苦労してばかりですよ。いつもいつも面倒ばかり……」

イーリャン「それより、話を聞かせてよ。僕たちに頼みって、何?」

橘「ええ、実はあの『学園都市』で――」
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/09(土) 21:17:13.78 ID:PDswfEgao
8月17日 午後4時 第7学区 交差点

??「はぁ。この有様ではいつになったら帰れるのやら、見当もつきませんの」

??「仕方ないですよ白井さん。第一級警報(コードレッド)が解除されない限り、
   私たちの仕事は終わらないんですから」

白井「でも初春、そのテロリストとやらは『外壁』を破壊して逃走したのではありませんの?」

初春「逃げたのは一人だけだそうなんですよ。だから、潜伏している仲間を発見するまで――」

白井「ああもう! わたくしはこんなことをしている場合じゃないのですの。
   早く自由の身になって、2日も寮に帰っていらっしゃらない
   お姉さまの捜索に赴かなければなりませんの!」

初春「え? 御坂さんが外泊、それも2日もですか?」

白井「そうなんですのよ初春。まったくお姉さまときたら、この黒子に行き先も告げずに
   どこで何をしておられるのやら。いくら夏休みとはいえ……」

初春「そ、それってもしかして、ひと夏のアバンチュールにっ!?」キャー

白井「ななな、ナニを仰いますの! あのお姉さまがそのような慎みのない所行に耽るなど、
   絶対に! 絶っっ対に、あってはならないのですの!」

初春「で、でもー。ちょっと憧れるっていうか。いいなあ御坂さん」

白井「で・す・か・ら! そのようなことは起きておりませんの!
   嗚呼! お姉さまは何処に……黒子は……黒子は……ッ!」
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/09(土) 21:18:00.28 ID:PDswfEgao
8月17日 午後5時 大農場

瓜核「そいつは確かに酷い話だな。だけどよ、オレたちが一枚噛む理由が解らねえ」

イーリャン「……僕と、同じだ……」

瓜核「同じ?」

橘「ジグマール隊長の事情を、僕は話を聞いただけですが……」

『アルター使いとして初めて捕獲された私は、本土で、様々な研究の……
 この子も、私の一部を使い、人工的に……』

瓜核「そうか! そいつらは『本土』のヤツらと同じことを! 畜生、許せねえ!」

イーリャン「瓜核、僕はカズマと一緒に『学園都市』へ行こうと思う。力になりたいんだ」

瓜核「俺も行く! この西瓜とアルターがあれば、その子たちを救い出せる!」

橘「ありがとう。まだ先になるけど、その時が来たら君たちを呼びに――」

イーリャン「橘、僕はいますぐに行くよ。瓜核、君は弟たちと一緒に
      西瓜をたくさん作って待っててよ。準備が出来たら呼びに来るから」

瓜核「イーリャン、オマエ……」

橘「イーリャン……」

イーリャン「僕のアルターは役に立てる。僕は『その時』を少しでも早めたいんだ」

瓜核「……そうか、止めたりはしねえよ。オレはオレに出来ることをやって――
   ってオイ! カズマ! オレの西瓜を勝手に喰うんじゃねえ!」ダッ

橘「実際に行ったことはありませんが、『学園都市』は僕たち『アルター使い』にとって
  危険なところです。気をつけて下さいね」

イーリャン「うん。ありがとう」
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/09(土) 21:20:06.59 ID:PDswfEgao
8月17日 午後6時 三沢塾上空

カズマ「じゃ、行くぜ」

イーリャン「ちょっと怖いね」

カズマ「心配すんな。ここに降りるのはこれで3回目だ、問題ねえ」

イーリャン「そういう意味じゃ――うわああああぁ……」


そしてカズマは援軍を連れて『学園都市』に帰還した。
『シェルブリット』と『絶対知覚』がこの街にもたらすのは、破滅か、救済か。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/09(土) 21:28:39.05 ID:PDswfEgao
特に異議もないようなので、拙速を尊んでこのまま終わらせます
たぶんあと2回か3回。できれば週明けまでに

あ、だからってやれば巧遅に辿り着けるとは自惚れてませんよ、もちろん
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/10(日) 04:33:44.39 ID:OAiN08nx0
うーん、どっちかというと前の地の文付きのほうが好みだったかな
そんなに早く終わらせるより、ゆったり書けばいいんじゃない?

ともあれ乙
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/11(月) 01:27:27.34 ID:5YL7yck1o
8月17日 午後7時 某研究所

「中断? どういうコトですか、まだ施設は30近くが存続しテ――」

「しかしそれでワ! ……エエ、『樹形図の設計者』が消失して再演算が
 不能になったことは承知していますガ、この『計画』はまだ修正――」

「……解りましタ。いつでも再開できる状態ニ――」

「ハイ。『妹達』は回収……」
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/11(月) 01:28:35.34 ID:5YL7yck1o
8月17日 午後11時 カエル顔の部屋

カエル顔「それは一体、どういうことかな?」

イーリャン「小さな、とても小さな機械が、この街の至るところを漂ってるんだ。
      情報を収集、伝達する機能を備えてるみたい。僕のアルターと似てるね。
      ここにもたくさんあるよ。もう動いてないけど」

カエル顔「いやはや。この街も大概SFだと思うけど、それを捉える君もまた尋常じゃないね?」

美琴「何が出ても驚かないわよ、もう」

布束「――収集と伝達。私たちの行動は敵方に筒抜けだった、という訳ね」

カエル顔「しかし、そうすると我々の『作戦』がここまで無事である理由は、
     あまり愉快なものではなさそうだね?」

美琴「泳がされている、と?」

カエル顔「おそらく。――まず、『実験』を進めている勢力があり、
     その上に『機械』を運用している機関があって、我々の行動は知られている。
     となると、その誰だかは何らかの思惑を持って、この事態を傍観している訳だね?」

美琴「その誰かは何を企んでるのかしらね」

布束「Unexpectedly、味方なのかも知れないわよ?」

美琴「覗き趣味の変態かもね」
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/11(月) 01:29:18.08 ID:5YL7yck1o
イーリャン「とりあえず、この病院内の『機械』は無効化したよ」

美琴「早っ! アンタもやっぱり半端ないわね」

布束「どんな情報をやり取りしていたかは判る?」

イーリャン「判らなかった。こっちから干渉すると内容が消えるみたいだね」

カエル顔「まあ、どちらにしても僕たちがやることに変わりはないさ」

カズマ「よう、捗ってるか?」

イーリャン「おかえり」

布束「おかえり。衝撃の事実が判明したところよ。そちらはどう?」

9982号「『警備員』の損害が許容レベルの上限に到達したので
     作戦変更です、とミサカは応えます」

美琴「ちょっ! 一体どんだけ暴れたのよアンタ!」

カズマ「軽く撫でてやっただけだよ。心配すんなって」

9982号「100は越えていません、とミサカは98名の尊い犠牲に黙祷を捧げます」

イーリャン「またやったんだ。生きてるといいね、その人たち」

美琴「うわあ」

カエル顔「これは僕の本職が忙しくなりそうだね? ちょっと行って来るよ」ダッ
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/11(月) 01:29:46.29 ID:5YL7yck1o
布束「『駆動鎧』にも会ったのかしら?」

9982号「カズマによると、数体が星になったそうです、とミサカは報告します」

カズマ「壊さないように飛ばすコツを掴んだぜ」

美琴「そう、それはよかったわね……」

布束「それで、あなたたちの次の作戦は?」

9982号「直上からの一撃離脱に切り替えます、とミサカは立案を終了しました」

カズマ「じゃあ行くか。またな」

イーリャン「またね」

美琴「……要するに、『標的』を含む建造物が、まるっと破壊される訳ね」

布束「そのようね。でも、一般人の犠牲は減るわよ?」

美琴「うーん、第一級警報の発令中に残業するバカもいないだろうし、まあいいか」

布束「Here、こちらも始めるわよ。――あなたも一緒に来てもらえるかしら?」

イーリャン「もちろん。僕は何を?」

布束「私たちの『科学』を『アルター』で診て欲しいのよ」

美琴「ついでに死にかけのオッサンの直し方も判るとありがたいわね」
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/11(月) 01:30:26.09 ID:5YL7yck1o
8月18日 午前1時 某ビル7階 研究施設

カズマ「邪魔するぜ」ドゴォ

麦野「カズマァァァアア!!」カッ

カズマ「うお! 危ねえなオイ」

絹旗「超天井から来ましたよ! さすが!」

麦野「ブッッッッッ殺すッ!!」ボッ

フレンダ「くっ! 結局無駄かも知れないけど!」ポチ

カズマ「熱ちちちっ、ちょっと落ちつけよ。な?」

フレンダ「……やっぱ無理だった訳よ」サッ

滝壷「大丈夫、私はそんなふれんだを応援してる……」

麦野「『拡散支援半導体』ッ!」バッ

カズマ「おまっ、それは危ないだろ!」

絹旗「二人ともこっちに!」ガッ

麦野「切り裂かれて塵となれッッ!!」ッツ

フレンダ「うわわわわっ!」

絹旗「舌を噛まないように超気をつけて下さい!」

滝壷「……空が、こんなに近い……」

麦野「死ィねェッ!」ブン

カズマ「ったく。こないだヤったばっかりじゃねえか」

麦野「関係ねぇよ! カァンケイねェェんだよォォォ!!」ズバァ
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/11(月) 01:31:01.18 ID:5YL7yck1o
フレンダ「うわ。何よアレ」

滝壷「ビルに……花が咲いたみたい……」

絹旗「そっちはいいですから! 着地しますよ!」ドガッ

フレンダ「あいたたたッ」

滝壷「……あ。花火……?」

絹旗「あれはカズマ、ですね。飛んで超離脱したんだと思います」

滝壷「麦野……大丈夫かな……」

絹旗「身体はともかく、精神の方が超恐ろしいですね」

フレンダ「まあ結局、アイツは逃げたんだから麦野の勝ちって訳よ!」

絹旗「防衛対象も超ブッ壊れてますよ」

フレンダ「……今日は引き分けで勘弁してやるって訳よ!」
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/11(月) 01:31:39.27 ID:5YL7yck1o
8月18日 午前2時 第7学区 5階建ての学生寮

一方通行「ウゼェ。死ぬほどウゼェ……」

一方通行「どォすンだよ、この20枚のピザと10人前の寿司と裏BD30枚セットの山はよォ」

一方通行「帰ってみりゃ部屋ン中は消化器の粉塗れ、服の替えは消し炭、
     冷蔵庫の缶コーヒーは毒入りに進化してやがる」

一方通行「おまけにレンジでくさやを焼きやがった……」

一方通行「あァもうアレか? イイか? 『実験』がどうなろうが殺しちまうか、あのガキ」

一方通行「ん? ああハイハイ、何? 俺が何色の下着を穿いてるかって?
     うるせェ死ねボケ。つうかオマエ、この番号どこで知りやがった? あァ?
     ネットのハッテン場BBSだとォ……?」
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/11(月) 01:32:10.55 ID:5YL7yck1o
8月18日 午前4時 三沢塾跡

カズマ「どうよ?」

9982号「目標は全て沈黙しました。GJです、とミサカは回線越しにサムアップします」

カズマ「片づいたか。忙しい一日だったぜ」

9982号「昨日の鬱憤は晴れましたか? とミサカは単刀直入に訊ねます」

カズマ「ん? ああ、そういや忘れてたな、いつの間にか」

9982号「それは何よりです。では、残業はなしにして帰還願います、とミサカは送ります」

カズマ「あいよ」
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/12(火) 01:19:50.72 ID:8l7cwy0vo
8月18日 午前11時 布束工房

布束「おはよう。もう起きたのね」

カズマ「ああ、充分だ。お前は寝てないのか?」

布束「お前? 私の名前はどこに忘れて来たのかしら?」

カズマ「え? あ、いや……、ここまでは出てるんだよ。ホント」

布束「――『だって、寒いんだもん』カズマに甘えるかなみ」

カズマ「ッ!?」

布束「――『……だってじゃねーよ』満更でもない表情のカズマ」

カズマ「ちょっ!!」

布束「――『でも、でも、でもぉ』ぴとっとカズマに寄り添うかなみ」

カズマ「待っ!!」

布束「――『ふっ。しょーがねえなァ……』ニヤけ面でかなみをナデナデするカズマ」

カズマ「うぐはァッ! やめ……おま……」

布束「このロリコンがッ!」

カズマ「ブフォっ」<血

カズマ「……いや、もう、ホントにスミマセン……お名前を……」

布束「布束砥信。これが私の名前よ。地獄に堕ちても忘れないことね」

カズマ「クッ……刻むしかないようだな……」

布束「で? 何か用があったんじゃないの?」

カズマ「何だったかな。忘れちまった……。思い出したら、また来るよ……」
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 07:59:33.44 ID:/xCXGhuvo
8月18日 午後3時 第7学区 とある自販機前

??「いいぜ。テメェがそれを思い通りにしようってなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺」

???「何をするつもりですか、とミサカは好奇心から訊ねます」

??「――ん? よう、ビリビリ。元気にしてたか?」

ミサカ「ビリビリ? ――ああ、お姉さまのことですか、とミサカは合点がいきました」

??「お姉さま? 冗談じゃなくて? ――いや、でも、そうか。
   アイツはそんなに髪が長くないし、お前はいきなり電撃ブチかまして来なかったし、
   それに何か、そこはかとなく品のいい感じがするな。うん。
   あと間違いなく、アイツは空色のワンピースに日傘だなんて
   洒落た格好をするような女じゃないし。そうかそうか、双子の妹さんなのね」

ミサカ「正確には双子ではないのですが、とミサカは面倒なので説明を省略します。
    それと、何やらお姉さまを誹謗する発言を耳にした気がするので、
    制裁リストにあなたの名前を刻むことにします。
    ――ミサカ19090号が命じます、姓名を名乗りなさい」

??「うお、一見お嬢さまに見えてもやっぱりアイツの血族だよ、怖いよ。
   つうかコードネームとかマジで悪の組織みたいだよ、笑えないよ。
   ――わたくし上条当麻と申します、ハイ」

19090号「OK、刻みました。後日、お姉さまと相談の上で処分を決定します。
     さて本題です。あなたはいま、そこな自販機を攻撃しようとしているように
     見て取れましたが、これに相違ありませんか? とミサカは詰問します」
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:00:17.73 ID:/xCXGhuvo
上条「いやいやいや、まあその通りなんだけどさ。この野郎が上条さんの大事な大事な
   食費であるところの弐千円札を呑み込んでくれやがりましたのよ?」

19090号「それで攻撃ですか。素手で、とミサカは遠い目であなたを眺めます」

上条「ああ。骨折が治ったばかりのこの拳が、また砕けるかも知れない。
   警報に駆けつけた『風紀委員』に捕縛されるかも知れない。
   それでも俺の弐千円札は帰って来ないかも知れない。
   弐千円札を失った俺は居候に頭から喰われるかも知れない。
   でもな、男には負けると解っててもヤらなきゃならない時が――」

19090号「あ。つまりあなたはバカ、なのですね、とミサカは納得しました」

上条「バカ、か……。そうだな、そうかもな。でも俺は一人、とんでもないバカで、
   おっそろしく強くて、やたら格好いいバカを知ってるからな。俺もバカでいい」

19090号「バカが重複しましたが、とミサカはすかさず突っ込みます」

上条「二乗に匹敵するほど凄いんだよ。自分でも言ってて訳判らないけど」

19090号「いえ、言わんとすることは通じましたよ、とミサカはミサカの心の師匠を
     思い浮かべながら応えます」

上条「そっか。世界も広いもんだな、あんなヤツは二人といないと思ってたよ」

19090号「ミサカはこの世界を知って日が浅いのですが、そうですね、とても広いです」

上条「ああ。――さて、と。じゃあ俺はヤるぜ。この自販機の幻想をォオッ!」
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:00:55.24 ID:/xCXGhuvo
19090号「待ちなさい、とミサカは『第一級警報』に挑むあなたを制止します」

上条「止める? 俺が止まる? 冗談じゃねえェ!」

19090号「……バカを目指す同志をここで喪う訳にはいかんのです、とミサカは――」

上条「自販機(ヤツ)の前にっ? お前、何を……!」

19090号「自販機に電子の手を差し込んで弐千円札をッ、引きずり出します!」つ[2000]

上条「おおッ! てっきり電撃の槍でもブチ込むのかと思ったけど、さすが妹!
   上品なお手前で弐千円札をゲットバックだぜ!」

19090号「ざっとこんなものです、とミサカは控えめな胸を大きく張ります」ふふん

上条「いやそれはそれでアリ、だと思う!」

19090号「その感想はお姉さまに報告しておきます、とミサカは釘を刺しつつ、
     では、お役に立てて何より、と19090号はクールに去ります」サッ

上条「っと! そうはイカの何とやらだ。この上条当麻は恩を疎かにする男じゃねえ。
   コイツの1割かそれに相当する何かを受け取って貰えるまでは、
   お前の前から消える訳にはいかねえんだよ!」ザッ

19090号「面倒な人ですねどうにも。あと少し暑苦しいです。
     まあ、そこは措くとして。1割、というと200円ですか。
     ならば丁度いいものがあります。
     ――ちょいとこの先の商店街までご同行願えますか?
     とミサカはあなたを連行します」
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:02:00.57 ID:/xCXGhuvo
8月18日 午後3時30分 第7学区 とある商店街

上条「ってな訳で、『第一級警報』の最中にも関わらず、独り補習に勤しんで来たのですよ」

19090号「なるほど修行の一環ですか、とミサカはそのバカを極めるあなたを応援します」

上条「まあな。入院はいろんな意味で痛かったけど、
   俺はあの日に始まったようなもんだから、逃げる訳にはいかないんだ」

19090号「始まりの日、ですか。いつかミサカにも――ああ、ありました。アレです」ずびし

上条「ほほう。『世界のマスコット缶バッジ』全255種、か。コイツと勝負するんだな?」

19090号「はい。200円一発勝負です」

上条「よし待ってろ! 両替して来る!」ガー

19090号「……今日こそは頂きますよ」

「オマエの命をなァ!」

19090号「ッ!? 白モヤシ!」

一方通行「ッ殺す! 『実験』がどォなろうが、もォ関係ねェ。
     オマエはッ! オマエだけはこの手でェ!」ビキビキ
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:02:43.45 ID:/xCXGhuvo
上条「出来たぜ200円! ってオイコラ、俺のダチに何する気だテメェ!」ダッ

一方通行「ン? 何だオマエ、このガキのツレかァ?」

19090号「チッ……。あなたは退いて下さい。ここは危険です……!」

一方通行「ハッ! 腹ァ黒い割にイイ覚悟じゃねェかオマエ。
     ――オイ、聞こえただろォ?
     このガキはこれから俺と愉しく遊ぶからよォ、失せなァ」

上条「アァ? いま何つったテメェら。
   『退け』だ? 『失せろ』だ? ――舐めんじゃねえッ!」

19090号「え?」

一方通行「はァ?」

上条「いいか、妹よ。俺はさっき何と言った?」

19090号「……『そうはイカの何とやら』?」

上条「そうだよ金玉だよ! って違うわ! 恩に報いるまでは消えねえっつっただろ!」

19090号「む。確かに……」

上条「それとお前、白いの。横からしゃしゃり出て来て安い台詞吐いてんじゃねえ!
   ったく、どこの山出しだか知らねえが、品性の欠片もねえぞソレ。
   回れ右して口の利き方の補習に戻ってろ、な?」
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:03:20.03 ID:/xCXGhuvo
一方通行「こンの野郎ォッ! 誰に向かってンな口ィ利いてンのか解って……ッ
     ――イイぜ。ンならァ、まずはオマエから挽肉にしてや」

上条「だから安いつってんだろうがッ、この三下!」

一方通行「……ッ!」ビキビキビキ

19090号「でも! この状況はミサカの身から出た錆でもあるのです。
     この男は確かに外道ですが、あなたまでがこの底辺まで降りて来る必要は、
     たかが200円のために暗黒面に染まる必要はッ!」

上条「うん、なるほど。よーく解った」

19090号「解って頂けましたか、とミサカは安堵の息を吐きます」

上条「――ここで退いたら男じゃねえってな!」

19090号「ナニ言っちゃってるんですか! 話をちゃんと聞いて下さいよ!
     あなたはその200円をミサカに渡して、とっとと陽の当たる場所に帰って下さい!」

上条「悪いがこいつは渡せねえな」

19090号「え?」

上条「今日の俺の日給は200円だ。この恩は身体で返させてもらう!
   この決定は覆らねえ! 絶対にだ!」

一方通行「上等だ……!」

上条「ここじゃ物が壊れる……来な」クイッ

一方通行「……あァ、オマエの愉快な死体(オブジェ)を
     飾る場所がねェと締まらねェからなァ……」

19090号「え? えー?(緊急事態です! 姉さん!)」
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:04:05.30 ID:/xCXGhuvo
8月18日 午後4時 第7学区 とある自販機のある公園

一方通行「どォせ一瞬で終わるンだ、ほれ、先に一発殴らせてやンよ」

上条「へぇ。余裕じゃねえか」

一方通行「まァな。オマエごときには指一本使う必要もねェンだよ……」ククク

上条「だが断る」

一方通行「オイオイ、この『学園都市第一位』の『一方通行』サマが
     先手をくれてやるって言ってンだぜェ。ありがたく受け取ってくれよォ?」

上条「第一位、か。そりゃ態度もデカくなる訳だ」

一方通行「アラ? もしかしてビビッちまったかァ?
     そォです俺がこの街の『最強』でェす!」

上条「やっぱ安いわ、お前。何にも解っちゃいねえ」

一方通行「ンだとコラ! ――って、まァイイか。
     そのクソ生意気な口は、コイツで終わンだろォッ!」ゴガッ

19090号「ああッ! 危ない! ベンチがっ!」

上条「軽いな……」ドゴッ

一方通行「『装甲』か『強化』ってかァ? オマエの『能力』はァ」

19090号「ち、違うッ! アレは……!」
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:04:47.63 ID:/xCXGhuvo
上条「どうした、こんなモンか?」だらり

19090号「やはりッ、とミサカは上条当麻は普通に喰らってると確信します!」

一方通行「血ィが出てンじゃねェか。大丈夫かァ?」ドゴッ

上条「『先手』は、くれてやったぜ……」サッ

一方通行「ちィッ、ちょこまかとッ」ガガガ

上条「『触れたものを飛ばす能力』か。ちと面倒だな」ザッ

19090号「ほとんどを避けてる! 速いです、とミサカは実況します!」

一方通行「クソッ、こンな街中で始めたのがッ!」ドドド

上条「言い訳すんなよ、『第一位』。背中が煤けてるぜ?」ズサー

一方通行「ンならコイツはどうだッ」ブオン

19090号「先ほどの自販機! 200kgがッ!」

上条「遅せえッ」ダッ

一方通行「何ッ!?」

上条「まずは『一発』だ。――歯ぁ喰い縛れよ、『最強』ッ!」ダダッ
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:05:33.41 ID:/xCXGhuvo
一方通行「ハッ! オマエは甚だしい勘違いをしてンだぜ。俺の『能力』は『ベクト――」

上条「オラァ!」ブンッ

一方通行「ぐはァっ!?」ごろんごろん

19090号「うほ! 全てのミサカが成し得なかった、まさかのクリーンヒットォオッ!」グッ

上条「どうした『最強』、『無能力者』の拳はそんなに痛えか?」

一方通行「レベル……ゼロ、だとォ!?」たらり

19090号「何ですッてー!? とミサカは驚愕に身を震わせますっ」

上条「ああ、そうだ。お前が『最強』なら、俺はさしずめ『最弱』ってヤツだ」

一方通行「嘘だッ! ンな訳があるか! この俺に『触れる』ことの――」

上条「おい、ちゃんと相手を見てねえと避けられねえぞ」ブンッ

一方通行「ッ!!」

上条「ボディがガラ空きだぜ!」ズドッ

一方通行「ぶごっ!?」ブワッ

上条「オラァ!」ゴッ

19090号「空中で追撃ッ!?」

一方通行「……ぐっはァ」ドサッ
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:06:07.76 ID:/xCXGhuvo
上条「――どうする? まだ、やるか?」

一方通行「……ったりめェだろォが……! こッからが本番だ……」プルプル

上条「案外、根性があるじゃねえか」

一方通行「その……『右手』……。ソイツには、『何だか解らねェ力』がある……」

上条「レベルはゼロ、だけどな」

19090号「? 何が何やら判りません、とミサカは混乱を極めます……」

一方通行「だったらよォ、……ソイツをォッ!」ヒュバッ

上条「うお、危ねっ」サッ

一方通行「叩ッ切ッちまえばァ!」バシュッ

上条「ぐがっ」だらだら

19090号「あああ、上条当麻の手がッ!」

一方通行「問題ねェ……ンだよなァ?」シュッ

上条「かも、な……。だけどよ、まだ、ついてるぜ……」だらだら

一方通行「ケッ、うねうね避けやがる。器用な……野郎だなオイ。
     ――ンならよォ、……こういうのはどォだァ?」ブオンオン

19090号「白モヤシの頭上に『竜巻』が!?」
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:06:54.97 ID:/xCXGhuvo
上条「何……だと……? 『物体』だけじゃないってのか……!」

一方通行「あァ。俺の『ベクトル変換』が操るのは……
     『何もかも』ってのが正解なンだよッ!」バヂバヂバヂ

19090号「『竜巻』、からの『高電離気体(プラズマ)』!? ミサカは、ミサカはッ!」

上条「コイツは凄えな……。今度、やり方を教えてくれよ……」

一方通行「あの世に『ベクトル』が届けばなァ! ギャハハハハハッ!」

19090号「これはマズいですっ! とミサカは叫びます! 逃げてッ!」

上条「へっ。……そんなら俺も教えてやるよ。この『幻想殺し』の有効対象はな、
   ソイツが『異能の力』でありさえすれば『何だろうと』ってんだッ!」

一方通行「面白れェ……だったら試してみよォじゃねェか。
     俺とオマエ、どっちの力が『究極』だかをよォッ!!」そいやっ

19090号「クッ! ミサカの力ではっ、この『高電離気体』を分解しきれないですッ!」

上条「来やがれ! テメェの幻想をブッ殺してやる!」バシュッ

一方通行「くかきけけこきくかくけけこかくけくかきくこけくけくきくきくきこきかかかー!」

上条「うぐおッ! がはッ! うおおおおおおおおおおッ!」ドジュウウウウウ

19090号「けふっ、かはっ……。ど、どうなりました!? 上条当麻は!」
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:07:30.24 ID:/xCXGhuvo
上条「……」

一方通行「……ッ……ハッ……クカカカカカカ!
     どォやら、俺の『ベクトル』が勝っちまったよォだなァ? えェ?」

上条「……」

19090号「……そんな……うそ……いや……」

上条「……」

一方通行「オラ! 見てみろォ、クソガキ! 野郎ご自慢のイマジン何たらはァ、
     一足先にあの世に逝っちまったみてェだなァ! オイ!」

上条「……」

一方通行「ついでにアレかァ? この口だけ大将も昇天しちまったってかァ?」

上条「……」

一方通行「オイコラ、何とか言ってみろや。アァ?」

上条「……」

一方通行「立ったまま……死んでるゥ! ってヤツかよオイ! ギャハハハハハハハハッ!」

上条「……」
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:08:38.39 ID:/xCXGhuvo
19090号「……上条当麻。ミサカはあなたに感謝します。

     あなたは勇気を教えてくれた……

     あなたは立ち向かうことを教えてくれた……

     あなたは逃げない生き方を教えてくれた!」

上条「……」

一方通行「次はオマエかァ? まァ持って2分だなァ? ギャハ!」

上条「……」

19090号「このミサカはもう、仮初めの身体に拵え物の心を載せた人形ではありません。

     唯一無二のこのミサカが研ぎ上げた牙を、あなたに突き立ててやります。

     この命と引き換えに……ッ!」

上条「……」

一方通行「ハイハイ泣ける泣けるゥ! ってか笑えねェ! ギャハハハハハッ!」

上条「……おい」

19090号「!!」

一方通行「ッ!?」
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:09:48.11 ID:/xCXGhuvo
上条「……テメェ」

19090号「!!!」

一方通行「なン……だとォ……!?」

上条「……まさか『この程度』で……勝ったつもりに……なってんじゃねえ、だろうな?」

一方通行「……オイオイ、……そりゃねェだろォ?
     ……そのザマで負けてねェとかよォ――」

上条「……こんなモンでッ! 俺の『幻想殺し』をォッ! テメェなんぞにッ!
   斃しただの……言われたかねえんだよッ! ――舐めんなッッッッ!」ずっ

19090号「ぁ……ぇ……っ……!?」

一方通行「おい……なンだよ……それ……?」

上条「お前もいつまでも寝てんじゃねえ! とっとと目ぇ醒ましやがれッ!」ずりゅ

一方通行「……俺が、負ける……? こンな……ただの『無能力者』に……?」

上条「ああそうだよ。この『無能力者』にはな、テメェみたいな『能力』に頼りきりの
   『最強』には絶対に負けねえ、負けられねえ『理由』と『覚悟』が搭載されてんだ!
   ――観念しろよ『超能力者』、この『無能力者』の拳は死ぬほど痛てえぞッッッ!」

一方通行「――――――――――ッ!」

               ×    ×    ×
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:10:13.17 ID:/xCXGhuvo
美琴「……何よアレは……? 何なのよ……?」

カズマ「再々構成、か……。やっぱりたいした野郎だぜ……!」

美琴「はぁ? 訳判らないんだけど! って、その前に!
   何だってアンタがアイツのこと知ってるのよっ?」

カズマ「ん? 当麻のヤツとはもう2回、一緒に戦った仲だからな?
    そういや、お前もヤツを知ってるのか? 奇遇だな」

美琴「何よそれ! アイツは一体何やってんのよ! そうよ知ってるわよ!
   アイツは私の天敵なんだから!」

カズマ「天敵? にしちゃあ随分と心配してたじゃねえか」

美琴「そ、それはアレよ! こんなところで死なれたら、私の……私が……!」

カズマ「複雑なお年頃、ってやつか。若いねえ」

美琴「うるっさいわね! アンタもアイツもこの私が直々にぶっ飛ばしてやるんだから!」

カズマ「お。お前の妹が当麻に抱きついたぞ」

美琴「な! 何ですッて! ちょ、ちょっとアンタ! その手を――」

カズマ「若いねえ」
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:11:01.38 ID:/xCXGhuvo
8月18日 午後8時 カエル顔の病院 いつもの病室

カエル顔「おかえり上条当麻君。今度はまた、愉快な格好だね?」

上条「いやあ、そんなに痛いところはないんですけど、この頭は、ねえ……」

カズマ「結構似合って、ないこともないぜ?」

上条「どっちだよ! せっかく格好よく勝利したってのに、まさかのアフロだよ!」

19090号「大丈夫、格好よかったですよ! とミサカはあなたを励まします。
     あの『腕』にはドン引きしましたけど」

上条「いやアレは俺も怖かったわ! むしろ俺が一番引いたね。
   勢いで乗り切る前に恐怖で失神しそうだったよ、マジで。何だコレって」

カズマ「俺はアレを再々構成って呼んでるぞ」

上条「何……だと……?」

カエル顔「まさかとは思うけど、いや実際に僕は見てないから俄には信じ難いんだけど、
     君もその、『腕が生える』とやらの経験者、なのかい?」

カズマ「まあな。アレは結構痛かったよ」

上条「いや死ぬほどだって腕溶けるの! 立ったまま気絶しちゃうくらいよ?」

19090号「あの仁王立ちには心が震えました、とミサカは当時を振り返ります」
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:12:23.77 ID:/xCXGhuvo
カエル顔「でもねえ、見たところ『再生』の痕跡一つないんだよ?」

カズマ「まあ正確には『生やす』ってより『造り直す』って感じだからな」

上条「『失った』って感じはしなかったんだよな。そこにあるのに手応えがないっていうか」

カエル顔「はあ。僕はこれまでに、ありとあらゆる患者を診て来たつもりだったんだけど、
     人体の新たなる神秘をいきなり二例も知るはめになるとはねえ?」

カズマ「よかったじゃねえか、なあ?」

上条「いやいや、もう二度と勘弁だよ! 誓ってあんな無茶はもうやらないね!」

「それは本当? とうま?」ガラッ

上条「そ、その声は!」

インデックス「前にも言ったじゃない! 危ないことはもうやらないって!」

上条「き、今日は、危険なことはやってないぞ! うん」

インデックス「そうなの? かずま?」ジロッ

カズマ「あ、ああ、そうだな……。今日はちょっと少し軽く無茶をしただけ、な?」

インデックス「ふうん。何だか凄くうさん臭いんだけど?」

19090号「このちびっ子シスターはどちら様ですか、とミサカは訊ねます」
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:12:49.37 ID:/xCXGhuvo
インデックス「私はとうまの……えと、……じゃなくて、とうまが私の大切な人なんだよ!
       あと、ちびっ子は余計なんだけど!」

上条「ブフォッ」

19090号「む! それを言うならミサカも今日、上条当麻を大切な人として認識しました!」

上条「はぶあッ」

インデックス「今日? ふっふーん。私はそろそろ1ヶ月なんだけど!」

19090号「時間は関係ないのです! とミサカは猛然と異論を放ちます!」

上条「あの? ちょっとアナタたち? もう少し平和にですね」

インデックス「とうまは口を挟まないで!」

19090号「あなたは口を挟まないで下さい! これは女の戦いです!」

上条「いやいや待てお前ら、落ち着け! 咬むな! アフロを毟るな! やめて……!」

カズマ「若いねえ」

カエル顔「まったく、若いねえ」
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:13:21.63 ID:/xCXGhuvo
8月18日 午後11時 カエル顔の病院 いつもの病室

上条「zzz」

美琴「ばか……」

美琴「……何でアンタが戦ってるのよ……」

美琴「心配……したんだから……」

美琴「……」

美琴「……ありがと……守ってくれて……」

上条「zzz……?」

美琴「……おやすみっ」
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/13(水) 08:14:29.32 ID:/xCXGhuvo
台本形式で戦闘書くのは非常に手に余りました
訳が判らなかったら申し訳ない

あとはエピローグをやっつけたら終わりです
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/15(金) 00:29:55.87 ID:BcX5YElOo
――エピローグ。またはエンディング――

上条「事情はどうあれ、お前はお前の成したことを誇っていいと思うぞ」

美琴「9981の命を救えなかったのに……?」

上条「それでも、それでもだよ。お前は最悪の状況にいても最善を目指して、
   その決意が道を切り拓いたから、いまがあるんだろ?」

美琴「……アンタは相変わらず、楽天的なのね。いつも不幸を託ってる癖に、
   幸せな結末だけは信じてるのよね」

上条「そうじゃなけりゃ、こうして生きてる意味がねえだろ?
   誰にだって、不幸を幸福に変える権利はあるんだからよ」

美琴「そう、かもね。――うん。私も前を見て行かなくちゃね!」
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/15(金) 00:30:25.27 ID:BcX5YElOo
カズマ「まさかお前が最後の美味しいとこを攫ってくとは、な」

上条「成り行きってのは恐ろしいもんだよな。
   ――何が起ってるかも知らなかった俺が、
   『計画』とかいうモノに止めを刺すなんて、想像もしなかったよ」

カズマ「だろうな。でもよ、『だからこそ出来た』ってのもあるんじゃねえか?
    深刻な事情やらを知らねえからこそ、思うままにやれたってヤツだ」

上条「まあね。偶然の上に偶然を重ねて、でもここに辿り着けたんだから、
   悪くねえよな。ああ、悪くねえ」

カズマ「お前はそのまま、自分の中の確信に応えてやるのが間違いねえよ」

上条「はっ! そりゃ、お互いにな……!」
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/15(金) 00:30:58.60 ID:BcX5YElOo
…上条当麻
妹たちは、彼の助けが再び必要になる事をまだ知らない……。

…御坂美琴
新たな力を得た彼女が仇敵に与えるのは贖罪か、それとも断罪か。

…カズマ
命を起爆剤に変えて、カズマは己の道を突き進む。唯、前を向き、唯、上を目指す。
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/15(金) 00:31:27.10 ID:BcX5YElOo
19090号「……白モヤシに止めを刺し損ねてしまいました。ミサカは激しく遺憾です……!」

9982号「むしろあの男が生存しているからこそ、
    想像と妄想の極地を振舞ってやれるというものです、とミサカは
    型番通りなら妹に属するはずのあなたに冷静を促します」

19090号「あなたが『感情』を得たら、この気持ちを理解できるとだけ、
     妹にして先輩から言っておきましょう。くふふ」

9982号「……くっ。あなたのアドバンテージは、それが先か後かという、
    それだけのことであることをいずれ、教えて差し上げますよ、とミサカは――」

19090号「『調整前』のミサカが、お姉さまの押し入った施設に
     『たまたま』眠っていたという僥倖、これはデカいのですよ!」

9982号「それを言うなら、このミサカこそがお姉さまとのファーストコンタクトを
     果たした個体であるという、揺るがせない事実があるのです、と
     ミサカは己の優位性を主張します! カエルのバッジだって!」

19090号「……ふふ。そのバッジが『あなただけのもの』だと、誰が?
     ご覧なさい、このバッジをォ!」

9982号「ぐはっ、どうして……?」
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/15(金) 00:31:58.88 ID:BcX5YElOo
…ミサカ19090号
恋慕と蛮勇を双腕に載せて、19090号は疾走る。唯一無二の確信を得るために。

…ミサカ9982号
彼女の手にした幸福が、つかの間のものであることを知る者はいない……。
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/15(金) 00:32:32.58 ID:BcX5YElOo
一方通行「……ブッ殺す……! あの野郎は俺の『敵』だ……。
     アイツは俺を否定する。俺を間違ってると吐かしやがる……ッ
     なァ? この俺が、この俺のどこが『違う』ンだよォ……!」

布束「憐れんで欲しいの? 安いわね。あなたが負けたのは、
   『及ばなかった』だけじゃあない、残念なまでに弱かったからよ。
   ――敗北を認めることすらできない、その弱さのせいよ」

一方通行「『弱さ』だとォ? そンなもンをこの俺が……。クソッ!
     ブチ殺してやるッ! 全部まとめてェ、殺してやるよォ……!」

布束「吠える犬は弱い犬。あなたはそれを知らないといけないわね……」
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/15(金) 00:33:06.48 ID:BcX5YElOo
…一方通行
いま一度の敗北の後、暗闇に曙光を見る。頸に罪と罰を締めて、彼は茨の道を歩み始める。

…布束砥信
新天地にて、布束は己の天命を得る。峻険の先に彼女の求めるものはある。
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/15(金) 00:33:49.78 ID:BcX5YElOo
インデックス「もうお肉はいらないから魔術師! とうまを助けて……
       放っておいたらきっと、格好よく死んじゃうよ……。イヤだよ……!」

ステイル「そうか……。僕はそれでOKだけど、君の頼みならしょうがないな。
     生き延びたことを後悔する程度に、彼を助けてやるよ! ああ!」
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/15(金) 00:34:33.04 ID:BcX5YElOo
…インデックス
過信と飽食の報いを背負い、彼女はやがて、独り曠野を彷徨う。

…ステイル・マグヌス
掌を零れ落ちた誓いを掻き集めて、彼はもう一度、窮地へ赴く。
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/15(金) 00:35:16.18 ID:BcX5YElOo
カエル顔「君の、その、オリジナルは……?」

イーリャン「お父さんは、死にました。僕に、ロストグラウンドとそこに生きる人……、
      そして、能力故に虐げられる人の全てが、自由を掴める未来を託して……」

カエル顔「そうか。立派な人だったんだね」

イーリャン「はい。僕の誇るべき人で、目標です」
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/15(金) 00:35:51.49 ID:BcX5YElOo
…カエル顔の医者
医師としての信念が、彼に旧友との決別を選ばせる。救いの手を遍く揮うために。

…イーリャン
友の手を掴み損ねた彼は墜ちる。越えなければならない煉獄へ。
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/15(金) 00:37:01.52 ID:BcX5YElOo
天井「あ……あぁぁぁッ! くそっ、こんな簡単なことが!
   科学を、違うだろうっ、こんなことのためにっ、私は……、
   ――僕は、僕は、ただ君を……! ……そうだ、ああ、そうだ!」

…天井亜雄
九死に一生を得た彼が放つ男の意地が、結末に光を齎すことを、彼自身が一番知らない。
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/15(金) 00:53:08.34 ID:BcX5YElOo
はい終わり−



以降はスレが消えるまで1の何とかが破裂するスレになります。

とりあえず頭から、梗概追加、ルビ傍点付きのテキストに直して
三章後半はまるっと書き直して、自分が読んで楽しめるように。

html化の申請は自分でやりますので、よしなに。


あ、一応、今回分のBGMはOne Episodeです。オウガバトルの。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/07/16(土) 02:31:07.15 ID:fEDqWJxBo
と思ったけど、やっぱりやめときます
雑魚は雑魚らしくとっとと消えとけ、と
そういう黙殺ですよね、これは。よく解ります
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/16(土) 02:50:19.72 ID:qiMx9xiNo
1様、お疲れ様でした。
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/16(土) 03:31:22.47 ID:fEDqWJxBo
>>198
ありがとうございます。
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/16(土) 05:58:44.81 ID:vn68sbuU0
まぁ乙
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/16(土) 06:22:21.41 ID:fEDqWJxBo
>>200
まぁ乙
202 : ◆rp/q22NfLI [sage]:2011/07/17(日) 21:06:09.82 ID:d1AEj0XYo
酷評でも貰ってみようかな、と
思ったけどこれだけじゃ証明にならないかも
なので没ネタの供養を兼ねてみるテスト


「なあ『一方通行』、お前の口調は何だっていつもそんな感じなんだ?」
「……見りゃァ判ンだろォ?」
「へ?」
「……俺はこの通り、『能力』のおかげで男か女かも判らねェ身体になっちまった。
 だから……せめて言葉遣いで判って貰えるようによォ……」
「ぐはっ!」
「クソッ、やっぱり笑うのかよォ!」
「いや、違う。むしろ逆だ! お前はいま、俺の中にあるスイッチを入れちまったんだよ。
 ――『萌え』というスイッチを、な」
「何……だとォ……!」


「あ。カズマはどうしよう? アイツのポジションが作戦に含まれてないけど」
「彼に必要なのは作戦ではなく、標的だからね? 他のものはむしろ邪魔になるだけさ」
「カズマはひとり独立愚連隊ですから、とミサカは彼の自由度こそが肝だと考えます」
「あの中には三船敏郎も入ってるのかい?」
「Probably、恐ろしいことだけど」
「でもあの連中、全滅してなかったっけ?」
「カズマなら全滅しないでしょう、とミサカは一人は帰って来るものと信じます」
「一人で充分だよ?」
「二人で帰って来たら、それはそれで面白い」
「いらないわよ!」


「……黒子、私がいま地獄の底へ向かうとしたら、その路が一方通行だとしたら、どうする?」
「それは質問になっていませんのよ、お姉さま。わたくしの立ち位置は何があろうとお姉さまの隣ですの。地獄ごときを怖れてこの至福を手放す? はっ、そのような愚劣を犯すのは最早、白井黒子とは呼べない、ただのバカですの」
「ちょっ、私が言ってる地獄ってのは比喩でも冗談でもなくって――」
「ですから」
 白井の目は据わっている。冗談でも比喩でもなく。
「お姉さまが地獄に立つ時、隣にいるのはこの、白井黒子なのですの」
「……アンタ最近、カズマって男に遭ってない?」
「だ、誰ですのその類人猿は! まさかお姉さま? 類人猿一号に飽き足らず、二号まで――」
「って、違うわ! そういうんじゃないッ! つうか何で男がみんな類人猿になるのよ!」
「男なんて類人猿ですの! お姉さまにはそれが解らんのですの!」
「ああ、もう、いい、わ。……確かに、地獄ごときがアンタをどうにか出来るだなんて、一瞬でも期待した私がバカだったわ」
「では、参りましょうかお姉さま。その地獄とやらは何処に?」


「うるっさいわね! やると言ったらやるのよ! あのバカを地獄に蹴り墜すまでは、止まれないのよ私は! 絶対に許さない! 絶対によ!」
 アクセル全開でカズマへの憎しみを迸らせる麦野は、昨晩の顛末を誰にも話していない故に、この激昂の理由が理解されず、乱暴な空転を続ける。初めての敗北と、それをもたらした男に感じ、そして台なしにされた胸の昂りが坩堝のごとく渦を巻き、そして荒れ狂っている。
「麦のん……」
「麦野……」
「むぎの……」
 麦野をここまでにさせた『何か』を三人は知らない。それでもこの状況がヤバいのは解る。この状態の彼女をあの男の前に放ってはならない。いずれかの死を以てしか決着しない戦場に、
冷静さを欠いたままの彼女を征かせたら、このチームはリーダーを永遠に失ってしまう。
「アンタたちが行かないってんなら、私は一人でやるだけよ。そう、一人で」
 もうダメだ、と三人は思った。
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