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門番「なるほど、わからん」 宿屋の娘「剣は装備しないと意味がないよ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 10:30:53.64 ID:wTkvNOWh0
「見事だ勇者……だが私が死んでも第二、弟三の魔王が現れるだろう」

門番「魔王がそう言い残して、この世を去ってから明日で10年かあ」

門番「でも第二の魔王も現れないまま、今じゃすっかり平和になった」

門番「それもこれも全て勇者様のおかげだよ」

門番「明日の魔王討伐10周年を記念しての祭典で、勇者様が国民に剣舞を披露してくれるんだよな」

門番「うわああ、楽しみだなあ」

門番「はあ………楽しみだったなあ」

門番「僕の見張り中に、聖剣が盗まれるまではさ」

門番「やばい」



第一話『なぜ、勇者の剣は盗まれたのか?』
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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2 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 10:33:38.69 ID:wTkvNOWh0
初SSです。

・魔王や勇者のいる剣と魔法の世界観でエセ推理SSを書いていこうと思います。
・間違っても「よし、犯人を見つけてやろう」とか思って推理しないでください。
・矛盾があれば教えてくれると嬉しいです。
・表記方法など、問題あれば教えてください。
3 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 10:34:17.46 ID:wTkvNOWh0
事件発覚から3日前、王城門番控え室にて

上司「門番、門番はいるかー!」

門番「はい、ここにいます」

上司「お前に新しい仕事をやろう」

門番「勘弁してください。ただでさえ今は4日後の記念祭典のための警備で忙しいんですよ?」

門番「だいたい上司は人使いが荒いんですよ。僕なんて本来はまだまだ新人研修の期間なのに、こんなに労働させられて」

上司「黙れ、そして喜べ。その祭典のためのとても名誉な仕事だ」
4 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 10:34:50.91 ID:wTkvNOWh0
門番「名誉な仕事?」

上司「祭典では勇者様の剣舞が披露されるのは知っているな?」

門番「もちろんですよ! 魔王を討伐したときに装備していた、王家に伝わる伝説の聖剣を使っての剣舞でしょう」

門番「ずっと楽しみにしていたんですよ」

上司「うん。伝説の聖剣は終戦後、勇者様から国王に返却されて神殿に納められていた」

上司「その剣が祭典のために、この城の宝物庫に一時的に保管される。その警備をお前に任せたい」

門番「ゆ、勇者様の剣の警備ですか! 僕がそんな大役を任されるなんて……」

上司「上からの命令だ、詳しくは知らん。やるよな?」

門番「もちろんです! 見事に警備してみせますよ」

上司「うん、任せた」
5 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 10:35:36.40 ID:wTkvNOWh0
宿屋にて

門番「おじさん、娘はいますか?」

宿屋「おお、門番か。娘は外に出とるよ、っとちょうど帰ってきたか」

門番「おお、娘! 聞いてくれ、聞いてくれよ!」

宿屋の娘「なによ、君……嬉しそうだね」

門番「ああ、実は俺、すごい仕事を任されたんだよ」

宿屋の娘「へえ、話してみなよ」

門番「――という仕事を任されたんだ」

宿屋の娘「それは凄いね、おめでとう門番君。でも……まあ、いいか」

門番「なんだよ、何かあるのか?」

宿屋の娘「いや、なんでもないよ。ちょっと嫌な予感がしてね」

門番「おいおい、よしてくれよ。娘の嫌な予感はよく当たるんだから」

宿屋の娘「ごめんごめん、気を悪くしないでよ」

宿屋「しかし、それは凄い大仕事じゃないか。さすがは門番だな」

門番「まあ、運が良かっただけですよ」

宿屋「いやいや、門番は昔から優秀だったからなあ。よし、今日は仕事はやめてお祝いしよう!」

宿屋の娘「だめだよ、父さん。祭典を見るために遠くから人がやって来ていて、この宿もいっぱいで大変なんだから」

宿屋「おっと、そうだったな。わるいな、門番よ。また今度、祝わせてくれ」

門番「忙しいのなら僕は帰るとするよ。またね娘、おじさん」

宿屋の娘「待ってよ」

門番「うん?」
6 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 10:36:12.29 ID:wTkvNOWh0
宿屋の娘「私たちは祝ってあがられないけどね、君が自分でお祝いするのは自由」

宿屋の娘「どうせなら、うちで飲み食いしてお金を落としていきなよ。今なら他のお客さんも一緒に祝ってくれるしね」

門番「はあ、わかったよ。久しぶりに門番の料理を食べさせてもらおうかな」

宿屋の娘「たくさん食べて飲んでいきなよ、エリート門番君♪」

宿屋「ははは、今夜は忙しくなりそうだな」



門番「という事があったのが3日前」

門番「大仕事を任されたことに歓喜して、村中の人に言ってまわって早3日」

門番「今日の夕方に剣が移送されてきて、僕が見張りについて約2時間」

門番「移送される時にちらっとしか見れなかった剣を一目見ようと、こっそり宝物庫に扉を開けてみた」

門番「宝物庫の中には様々なお宝が納められていた! ※ただし伝説の剣は除く」
7 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 10:37:27.29 ID:wTkvNOWh0
門番「……僕、どうなるんだろ。死刑とかないよな? ないよな!?」

門番「いやいや、待て待て、少し冷静になろうぜ僕」

門番「盗まれたのは、もう仕方ないとして責任の重さを確認してみよう」

門番「伝説の剣は遥か昔、王国がまだ一つの部族の集まりに過ぎなかった頃より伝えられる聖剣だ」

門番「魔王を討てる唯一の武器であり、王族は元々は部族内での剣の保管係だった」

門番「時代が進むにつれて保管係の権威が増していって、王国が建国された時に国王を任されるまでとなった」

門番「つまり国王が権威を持っているのは、元を正せば聖剣を所持しているからなんだよな」

門番「では、国の権威の根源であり、今や平和のシンボルである剣を盗まれた門番はどうなるのか? なるべく客観的に判断すると……」

門番「死刑ですよねー♪」
8 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 10:38:14.36 ID:wTkvNOWh0
門番「待て待て待て。冷静冷静。僕は冷静だ」

門番「もしかして僕の見間違えじゃね? 案外、どこかの陰になって隠れてたりするんじゃないかな」

門番「よし、確認しよう。宝物庫の鍵を開けて、と」ガチャ

〜確認中〜

門番「聖剣………確認できません」

門番「ですよねー♪」

門番「死刑か………いやだああああああ! 死にたくないいいいいい!!」

門番「ていうか理不尽だろ、新人に国宝の警備とか一人でさせんな! 一人でできるもんじゃねえよ!」

門番「ちくしょおおお、死ぬのか僕! こんな事なら貯金使いきって遊んでおくんだったよ」

門番「美味しい物を食べておくべきだったよ。そう言えば美味かったな、娘の料理」

門番「娘だ、何より娘に告白しておくべきだったんだ、ちくしょう」

門番「うわああああ死にたくなああああい、好きだああああ娘えええええ」ジタバタ
9 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 10:38:49.84 ID:wTkvNOWh0
門番「はあはあ。一晩中、じたばたしてしまった」ゲッソリ

門番「冷静に考えたら、すぐ報告して犯人を捜すべきだったんじゃね?」

門番「たとえ犯人が見つかっても、俺は罰せられるだろうけどさ」

門番「僕一人よりも聖剣のが大事だよな。あれが無いと国がやばい」

門番「なのに俺は自分の身かわいさに罪を隠して、一晩中ジタバタという無意味な行為を……」

門番「だめだ僕、だめすぎだ」

上司「どうした? 何がだめなんだ」

門番「上司! いつからそこに?」

上司「うん? 今だ。そして時間だ、今から聖剣を祭典が行われる神殿前広場まで移送する」

門番「え、ちょっと待ってくださいよ」

上司「あまり時間がないから待たない。そしてのけ。移送係たち、鍵をあけて剣を運べ」

移送係たち「「はい!」」ガチャ

門番(終わった僕、短い人生だったよ。だって剣はもうは宝物庫には……)
10 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 10:40:05.90 ID:wTkvNOWh0
移送係A「聖剣を確認しました!」

門番(そう、確認できま………え!?)

移送係B「移送準備完了」

移送係C「これより移送します!」

門番「え、っちょちょ待って」

上司「待たない。そして行け、移送係」

移送係たち「「はい!」」

上司「うん、門番もごくろう。帰れ」

門番「え、だって聖剣は無くて僕は死刑でしょ?」

上司「お前は何を言ってるんだ?」

門番「え、え?」

上司「帰れ。そして寝ろ。今から寝れば、祭典までには起きれるだろう」

上司「だから早く、そのボケた頭を元にもどせ」

門番「は、はい」ポカーン

門番(いったい何がなんだか?)
11 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 10:40:41.13 ID:wTkvNOWh0
帰り道

門番「おかしい、あれだけ探しても剣は見つからなかった」

門番「それなのに、さっき宝物庫を開けたときはそこにあった」

門番「それも、あんなに分かりやすい正面の位置に」

門番「いくらなんでも、あれは見落とさないよ。むむむ」

門番「いや、そもそもわずかな時間でも剣が消えた事自体が不思議だ」

門番「宝物庫には結界が張られていて、扉から鍵を開けてしか入れない」

門番「昨日は僕は一晩中、扉の前にいて、他には誰も来なかった」

門番「扉の鍵が開けられたのは、二回。僕が剣を見ようとして、消失に気が付いた一回目。そして確認のための二回目」

門番「当然、どちらも人の気配はしなかった」

門番「なのに、剣は消えて、そして出てきた」

門番「むむむ………」

〜考え中〜

門番「なるほど、わからん」
12 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 10:41:28.95 ID:wTkvNOWh0
宿屋

門番「というわけなんだよ」

宿屋の娘「それで、君……どうして私にその話を聞かせるのかな?」

門番「それはだね」

宿屋の娘「まあ、わかっている事だけどね」

門番「え?」

宿屋の娘「大方、私に会いたかったからだろうね。聖剣を盗まれて死刑になると悲観した君は、私の事を考えていたんじゃない?」

宿屋の娘「死にたくない死にたくない、いやどうせ死ぬなら私に会いたいとか言ってね」

宿屋の娘「いや、そうだね。死ぬ前に私に想いを伝えておきたかった、とかの方が君らしいかな。どう?」

門番「……正解。なんで分かるんだよ!」

宿屋の娘「君の事は大方わかるし、知っているよ。君がどれだけ私を好いているかを含めてね」ニヤニヤ
13 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 10:43:25.05 ID:wTkvNOWh0
門番「な、なななな!」カオマッカ

宿屋の娘「落ちつきなよ、君……それにもう一つ正解があるよね?」

門番「な、そこまで分かってるの!?」

宿屋の娘「言ったでしょ? 大方わかるって。」

宿屋の娘「私に謎を解いて欲しいから、君はここに来たんだね」ニヤリ




ネクストコナンズヒント〜! 『最強装備』



というわけで前半終了
書き溜めと終了、もっと書いてから立てればよかった。
今日の夕方から明日の早朝までに後編書きます。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 12:01:50.36 ID:+Vi42waAO
ところどころ入る軽いノリに戸惑ったけど、続きが気になる
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 12:02:40.08 ID:TeB7bpHi0
カモン!まったく答えがわからねぇ
ファンタジー的に自意識があって散歩に行ってたとか?
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 12:04:59.94 ID:me9o3dQF0
勇者がピンチの時には聖剣がテレポして助けにいくんだな
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 12:54:20.65 ID:h/MqdmuIO
犯人はヤス
18 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:39:06.36 ID:wTkvNOWh0
SSだから軽いノリ入れた方がいいと思ってた
作風含めて色々と模索中

というわけで後編行きます。
19 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:39:42.22 ID:wTkvNOWh0
門番(娘はずっと、この宿屋の看板娘をやっていて学校に通っていなかった)

門番(だけど娘は頭が良い。それは学問を学んでたとか、そういう頭の良さではなくて)

門番(まるで見透かした様に、悪魔に見透かされた様に、答えを見つける頭の良さをもっている。だから僕は)

門番「そうだよ。僕は君に謎を解いて欲しいんだ」

宿屋の娘「わかった、解いてあげる。見返りは無しでね」

門番「いいの? 僕に出来る限りのお礼はするつもりだけど」

宿屋の娘「だって君が私に出来る事は、見返りで無くてもお願いすればしてくれるでしょ?」

門番「いや、それはまあ」

宿屋の娘「聞いてくれるでしょ? 私のお願いなら、いつでも」

門番「………はい」

宿屋の娘「よろしい、じゃあ考ようか」
20 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:40:17.25 ID:wTkvNOWh0
宿屋の娘「…………」

門番「…………」

宿屋の娘「剣は装備しないと意味が無いよ」

宿屋の娘「という事かもね」

門番「え、どういう意味?」

宿屋の娘「確信は持てないね。それに証拠もない」

門番「それでも娘の考えを聞きたいんだけど」

宿屋の娘「構わないけど、どうせなら真実の方が良いでしょう?」

門番「それは、まあ」

宿屋の娘「というわけで少し早いけど、広場に向かおうか。詳しくは歩きながら話すからさ」

門番「わかった。どうせ、祭典には行くつもりだったし、ちょうど良い」
21 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:41:27.10 ID:wTkvNOWh0
広場行きの道

宿屋の娘「さて、まず今回の謎についての話を始める前の事前知識」

門番「予備知識が必要なの?」

宿屋の娘「確認程度だよ、君……勇者についてはどの程度知っているかな?」

門番「勇者って、あの魔王を倒した勇者様?」

宿屋の娘「正確には倒したと言われている、だけどね」

門番「細かいなあ。そりゃ僕はその現場を見ていた訳じゃないけどさ」

宿屋の娘「……まあ、いいか。この場合は特定個人の現勇者についてでも、歴史上に何人か存在した勇者たちについてでも構わない」

宿屋の娘「質問の仕方を変えよう。君、勇者がどれだけ強いか知っている?」

門番「はあ? どれだけって、そりゃ世界一だよ。魔王を倒したんだから」

宿屋の娘「正解、彼は世界最強だ。じゃあ、そうだね……君と比べて、どれだけ強いと思う?」

門番「そんなの比べ物にならないよ。繰り返すけど魔王を倒した勇者様だよ?」

宿屋の娘「それも正解。君とは比べ物にならない」
22 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:42:01.52 ID:wTkvNOWh0
宿屋の娘「でも君はその年の、人間にしては強い方だよ。若くして、城の門番に就けるくらいに」

宿屋の娘「それに、学生時代にはずいぶんと魔法研究に入れ込んでいたのにね? それほど真剣じゃなかった剣技で就職できるくらいの才はあるんじゃないの」

宿屋の娘「でも、そんな君が比べ物にならないくらいに勇者は強い。君の理解の範疇を超えるほどにね」

門番「そんなに念を押さなくても、わかってるよ。勇者様が比較対象だと悔しくもならないし」

宿屋の娘「ごめんごめん。勇者の力が君の、人々の常識の外にあるという事がキモだからさ」

門番「勇者様の強さが? それって一体どういうこと?」

宿屋の娘「まあまあ。事前知識はここまでにして、次に行こう」
23 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:42:45.44 ID:wTkvNOWh0
宿屋の娘「状況を整理していこうかな。そもそも今回の事件について、発端に不審な点が多いね」

門番「それって、僕が聖剣を見ようと鍵を開けたときのこと?」

宿屋の娘「それは、発覚時のことだね。私の言う事件の発端は、君が任務を言い渡されたときの事だよ」

門番「そういえば、確かにおかしな話だとは思ったけど」

宿屋の娘「そう、おかしな話だよね。だって、そうでしょ?」

宿屋の娘「平時でさえ宝物がつまった宝物庫の見張りを若手門番に任せないよ。最低でも2人はいそうなものだけどね」

門番「そうだよ! あの宝物庫には聖剣のほかにもお宝がたくさんあった。ましてや、国のシンボルである聖剣があるのに」

宿屋の娘「君の様な新人に、鍵を持たせて見張りをさせるわけがない」

門番「そうだよ。もし僕が悪人なら、お金に困っていたとしても盗み放題じゃないか」

宿屋の娘「なのに君が選ばれたんだ。君の上司の『上』からの命令で」

門番「ちょっと待ってあの人は、上司は今でこそ門番長だけど戦中は軍でも上から数えた方が早いくらいの重要人物だったんだ。その上って……」

宿屋の娘「その重要人物に詳細を伝えずに、不可解な命令が可能な人物、誰がいるかな?」

門番「そんなの王族くらいしか、って王族が犯人!?」

宿屋の娘「3割くらいは正解なのかな。でもズレてるよ」

門番「3割? それにズレてるって?」

宿屋の娘「王族は犯人のグルだと思う。何人が協力したのかはわからないけどね」

宿屋の娘「ズレというのはね、君。この事件は、誰がやったのかは最重要ではない。なぜ消えた剣か、また現れたのか?」
24 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:43:28.58 ID:wTkvNOWh0
宿屋の娘「そう、せざるをえなかったのかが最重要の謎じゃないかい?」

門番「たしかに、そうだけど」

宿屋の娘「まあ、犯人という点で語るのなら協力犯が王族で、実行犯は別にいるね」

宿屋の娘「実行可能な人物、地理的な問題やアリバイ、動機から考えて」

門番「考えて?」

宿屋の娘「勇者だね」

門番「………えええええええええええええ!!」

宿屋の娘「くっくっ、中々に面白い反応をするね」

門番「だって、勇者様ってそんないきなり何故!?」

宿屋の娘「そう、何故か? そこが最重要だね。おっと、話している間に広場についてしまったね」

門番「うん、祭典には時間があるけど、もう人が集まってる」

宿屋の娘「出番だよ、君……そうだね、君の仕事仲間は近くにいるかな?」

門番「そりょあ、警備に当たっていると思うけど。今日に仕事が無いなんて僕くらいだよ」

宿屋の娘「なら、こう伝えて欲しい。」

宿屋の娘「先日、勇者様がうちの宿屋で食事をされた。その時に忘れ物を預かっている。その品は――――だとね」

門番「うん? よくわからないけど、娘の言うとうりにするよ」

宿屋の娘「ちゃんと渡ったのを確認したいから、直接会いたい。とも伝えてほしい」
25 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:44:06.42 ID:wTkvNOWh0
門番「直接って! 勇者様と会うつもりなの!?」

宿屋の娘「容疑者に、ちゃんと会って確認したいからさ」

門番「容疑者って……まあ、ダメ元で聞いてみるよ」

〜交渉中〜

門番「そんなバカな!」

宿屋の娘「どうだった?」

門番「会ってくれるってさ。……わけが分からない」

宿屋の娘「わかるさ、すぐに教えてあげるからね」


勇者の控え室前

門番仲間「勇者様。宿屋の人間を連れてきました」

勇者「入ってもらって」

門番仲間「ははあ! さあ、二人とも」

門番「う、うん」

宿屋の娘「………」

門番仲間「それでは私は警備があるので、これで」

ガチャ
26 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:45:03.05 ID:wTkvNOWh0
勇者「…………!?」

門番(この人が勇者様! 世界を救った伝説の戦士、本物の勇者様だ!!)

宿屋の娘「ごきげんよう、勇者様。今日は別件で参りました」

門番(別件って、おかしな言い方だな。確かに忘れ物を届けにきたわけじゃないけど)

勇者「用件を聞こうか」

宿屋の娘「私は気付いています。ただ確認のためにきました」

勇者「はあ、だろうな。そうだろうよ。でなきゃ、あんな単語は出ない」

勇者「驚いたぜ? 俺が宿屋で、ニセモノを忘れたなんて聞いたときはな」

門番(そうだ、あの時、娘は言った。その品はニセモノだと)

宿屋の娘「もちろん、あなたはうちの宿に来ていないし、ニセモノを忘れてはいないし。なぜなら、ニセモノはそのとき、まだ神殿に保管されていたのですからね」

勇者「ああ、そうだよ。ちくしょう、やっぱり全部見透かしているな」

門番「ちょっと待って。ニセモノが神殿にって、それってまさか!」

宿屋の娘「そもそも、おかしな話じゃないか。剣舞を含めた祭典は、ここ、『神殿前』広場で行われる」

宿屋の娘「城への一時、移送になんの意味があるのかな? 私には時間を、なにかの細工をする時間をかせぐためとしか思えない。ねえ、勇者様?」
27 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:46:32.50 ID:wTkvNOWh0
勇者「……はあ、わかった、わかったから早く話を進めてやれ。そっちの少年が気になって仕方が無いみたいだ。お前の話は回りくどいんだ」

門番「え、僕?」

宿屋の娘「まあ、いいさ。話を進めようか。君、さきほども言ったが実行犯は勇者だ。トリックは無い」

門番「無いって、そんなわけが」

勇者「そうだ。あれは難しい技なんだよ。技術の結晶だ」

門番「え、技術ってなんの話を?」

宿屋の娘「ある体術、暗殺術の流れを汲むその流派の奥義に『気殺(けさつ)』という技がある」
28 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:47:20.03 ID:wTkvNOWh0
勇者「その名の通り、気配を[ピーーー]、消す技だ。詳しく言えば、音はもちろん可能な限り空気を震わせない全身の動き、呼吸の調整、魔翌力の制御、その組み合わせによる超絶難技だぜ!」

門番「気配を消すって、まさか」

宿屋の娘「そう、いかに勇者と言えど神殿に、人に知られずに入る事は不可能だ。必ず
結界に引っかかる」

勇者「力まかせに突破なら可能だけどな。今回は隠密作業だから、神殿は無理」

宿屋の娘「だから、勇者は王族に働きかけて、聖剣を移送させた。おそらくは、ほんの数日前からの計画だ」

勇者「儀式の都合でな、俺には剣舞の直前に国王から聖剣が渡される手はずなんだ。それを5日前に知った」

宿屋の娘「勇者のとった行動は、こうだ。神殿から宝物庫への移送係に着いて歩いた」

門番「は?」

勇者「一般人程度じゃ、本気で気殺してる俺には気付けない」

門番「そんなのありですか?」
宿屋の娘「彼が勇者でないなら、無しだろうね。そうして気殺を使って彼は城に侵入し、宝物庫へも入っていった。聖剣安置の際の人々の隙をついて。」
29 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:48:11.40 ID:wTkvNOWh0
宿屋の娘「そして聖剣を回収したときに、予期せぬ自体が起こった」

門番「僕が扉を開けて、剣を見ようとしたんだ」

勇者「そうだ。ちょっと焦ったぜ」

宿屋の娘「そう、細工を施す前に、つまり剣を入れ替える前に君が入ってきたからね」

宿屋の娘「剣が無いことに気がついた君は一通り探した後、扉を出た。その間に勇者は剣を入れ替えて、次に君が再確認しようと扉を開けたときに外に出た」

宿屋の娘「この間、勇者はずっと宝物庫の中にいて、君の隣をすり抜けて去っていった。人間の域をはるかに超えた速さと静けさでね」

宿屋の娘「これは、ただそれだけのトリックだよ」

門番「すり抜けただけって、そんなメチャクチャな」

勇者「そう、そのメチャクチャな強さが俺さ」

門番「俺さって言われても………だけど、どうして剣を入れ替えるなんて事を?」

宿屋の娘「今から10年前ことだ、勇者はある罪を犯した」

門番「勇者様が罪って何を?」

勇者「俺だって、人間だよ。間違いの一つや二つは犯すさ」

宿屋の娘「よく言うよ。……代々、魔王が現れたおりに王家から勇者へと貸し与えられる聖剣、それをあなたは返さなかった」

宿屋の娘「大方、剣は使われてこそ意味がないとか思ったのかな? あなたの事は多くは知らないけどね」
30 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:50:02.06 ID:wTkvNOWh0
宿屋の娘「どんな理由にしても、あなたは聖剣を返さず、外見そっくりのニセモノを作って王に渡した。王はそれはニセモノと気付かずに、元の神殿に戻した」

勇者「最初は変えそうと思ってた。本当だ。ただ、怖かった」

門番(怖い? 世界最強の勇者様が怖いって、どうして)

勇者「戦いで多くの人が死んだ、大切な人が死んだ。仲間が、助けたいと思う人が死んだよ。あの時の俺にもっと力があれば、何人か救えていたのかもしれないんだ」

勇者「……この平和がいつまで続くのかは分からない。もしも、また戦いが起きたときに、力が足りないなんて理由で!」

宿屋の娘「人を失うのが怖い、と?」

勇者「そうだよ。力があれば救えるなんて思い上がりだとは分かってるけど、怖いもんは怖いんだ」

門番「勇者様……」

宿屋の娘「剣を盗まれていたんだ。ずっと昔にね。そして今回の祭典に限っては、勇者が剣を持っていてはいけなかった」

勇者「俺の力でニセモノを振るえば、壊れかねないからな。入れ替える必要があった」

宿屋の娘「王族に協力を仰いでね」

勇者「ああ、警備隊の前身となった軍部に強い発言権を持つ第二王子に、協力してもらった。聖剣がニセモノだって、ばれて困るのは王族も同じだからな」

宿屋の娘「共犯という訳だ。いや、仮に王家が君を罪人と認めても……」

勇者「………俺を捕まえる手段は、無いだろうな」
31 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:50:32.07 ID:wTkvNOWh0
門番「………」

宿屋の娘「君、これで謎は解決だよ。これで良いかな?」

門番「ああ、うん、娘は僕のお願いをかなえてくれた。ありがとう、娘」

宿屋「どういたしました、かな。じゃあ勇者。あなたに一つ言っておきたい」

勇者「ん、俺にか?」

宿屋の娘「理由はどうあれ、あなたのせいで私の門番の大きな心労をかかえた。謝って欲しい」

門番「ちょっと、娘! そんな、勇者様にむかって」

勇者「いや、そいつの言うとおりだ。勇者だって間違いを犯すし、そうしたら謝らなければならない。悪かった、許してくれ」

門番「わ、わかりました。許します、だから頭を上げてください!!」

勇者「これでいいか?」

宿屋の娘「ああ、私は満足したよ」

門番「それじゃあ、僕たちはこれで失礼します。………あの、勇者様」

勇者「ん?」
32 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:51:10.17 ID:wTkvNOWh0
門番「僕、小さな頃から勇者様に憧れていました」

勇者「じゃあ、失望したろ。こんなので」

門番「確かに、勇者様は思っていたよりもめちゃくちゃで、適当で、おまけに罪を犯してました」

門番「僕はあなたの考えていることが全く理解できません。でも、守れないのが怖いなんて言える勇者様は勇者様です!」

勇者「はあ? なんだそれ」

門番「だから、剣舞楽しみにしてます! それでは!!」

宿屋の娘「ということだ。さらばだ、勇者」

勇者「ああ、さらばだ」

ガチャ、バタン

勇者「…………はあ、中々おもしろい奴と一緒にいるな」

勇者「…………まあいい、そろそろ準備するか」

勇者「いっちょう、最高にかっこいい勇者様を見せて、名誉挽回と行こうか!」
33 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:52:29.65 ID:wTkvNOWh0
その夜、宿屋にて

門番「すごかったね! 勇者様の剣舞!!」

門番「なんかもう本当に同じ生き物とは思えないくらいに。カッコよかったなあ」

宿屋の娘「そうかい、それは良かったね」

門番「でも、今日だけで勇者様の色々な面を見れたよ。もちろん、それは良い面だけじゃなかったけどさ」

宿屋の娘「後悔してるかい? 私に謎を解かせたことを」

門番「ううん、それは無いよ。確かに、勇者様は正しいばかりの人じゃないけど、それでも強く優しい人だと思えたからね」

宿屋の娘「全ての人を守る運命を受けて、そのための力を持って戦う勇者。助けられないかもしれないという恐怖、ね」

門番「正直、僕にはスケールが大きいというか、考え方の規模が違いすぎて理解は出来ないな。今回残った、唯一の謎かもしれないね」

宿屋の娘「それをわかるのは、きっと彼1人だけね」

門番「………あの、僕程度の力じゃ何が出来るのかわからないけど」

宿屋の娘「娘だけは守りたいんだよ、っという感じかな」

門番「な、なんで分かるの?」

宿屋「それはだって君のことは大抵、分かるからね」


『なぜ、勇者の剣は盗まれたのか?』  A.最強装備だからです。

おわり
34 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/03(木) 15:56:33.26 ID:wTkvNOWh0
というわけで「超強い勇者様は本気出せば雑魚どもに見ることすら出来ないぜ!」という事件でした。
方法とか真面目に考えてた人ごめんなさい。
ここまで無茶なトリックはそうそう使わないと思うので、良ければ次も付き合ってください。



全6話構成を予定、増えるかもしれないし、減るかもしれないです。
一応、終わりまで考えて伏線とか張ってみたりしてます。
次は今週中には書けたら良いなと思ってます。
それでは、ありがとうございました。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 18:37:47.91 ID:2Hsi+fapo


無茶なトリックは、ほら、ひぐらしとかも無茶っていうか無理だから
ノリで無理やりにでも納得させっちまえ
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 23:52:32.22 ID:PswYj7pAO
真面目かと思ったらバカミスだったでござる。ファンタジー世界で本格ミステリーもおかしな話だが
でも嫌いじゃないから続き期待
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 13:05:02.39 ID:tCnErDuDO
ファンタジー×ミステリー?嫌いじゃない
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 08:05:57.44 ID:mUAyU8gS0
間が開いたけど今から投下します。
とりあえず出題編だけ。
色々と試行錯誤中です。
39 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:06:44.39 ID:mUAyU8gS0
事件発覚から1日前、「現れた聖剣事件」翌日、宿屋にて

宿屋の娘「ふう、やっと今日の仕事が終わったよ」

門番「お疲れ様。大変そうだったね」

宿屋の娘「祭典で世界中から人が集まっているからね、どこの宿屋も祭典中はこんなものさ」

門番「まあね。最近は魔法省の汚職問題や、東方大陸の自然災害みたいな暗いニュースが続いていたからね。みんな、この祭典を楽しみにしていたんだよ」

宿屋の娘「うちが繁盛する分にはありがたいんだけね。こう忙しいと少しまいるね」

門番「じゃあ、もしかして休憩時間が無かったりする?」

宿屋の娘「ん? 忙しいのは夕方から夜間にかけてで、日中の間は手が空いてるけれど」
40 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:07:18.34 ID:mUAyU8gS0
番「よかった。ところで娘、知ってるかな?」

宿屋の娘「なんだい、もったいぶった聞き方をするね」

門番「祭典の期間中は、市場でバザーが行われるんだよ。世界中の商人が集まるから、色々な物が見れるんだってさ」

宿屋の娘「それで君……私に何か言いたそうだね?」

門番「うん。明日は昼頃に少しだけ休みが取れそうなんだ。だから、その……」

宿屋の娘「一緒に市場を見て回りたい、というわけかな?」

門番「はあ、お見通しみたいだね。その通りだよ」

宿屋の娘「まあ私も興味はあるし、それは構わないけどね。デートくらい、もう少し男らしく誘えないものかねえ?」
41 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:08:04.18 ID:mUAyU8gS0
門番「う、面目ない」

宿屋の娘「ふふ、次からは気をつけるように」

門番「……はい」

宿屋の娘「では明日、楽しみにしているよ」

門番「うん、仕事が球形になったら一度、迎えに来るから一緒に行こう」

門番(娘とデート! 楽しみだなあ)

第二話『なぜ、布は燃えたのか?』
42 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:08:50.27 ID:mUAyU8gS0
事件当日、市場にて
門番「うわあ、すごい人だなあ」

宿屋の娘「なかなかに賑わっているみたいだね」

商人A「さあさあ、よってらっしゃい見てらっしゃい! 世にも珍しいマジックアイテムの数々!」

民A「おお、筒から火が出てきたぞ!」

民B「これがマジックアイテムか、初めて見たよ」

民C「すげえな。あれがあれば火起こしもラクラクになるぞ」

門番「今回のバザーは売っている商品や産地ごとに区分分けされていてね。この辺りはマジックアイテムの区画みたいだ」

宿屋の娘「ふむ、見慣れないものが多くあるね」

門番「うん、まだまだマジックアイテムは一般人には高級品だからさ。僕も初めて見るものが多いよ」
43 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:09:23.48 ID:mUAyU8gS0
宿屋の娘「あの火が出る筒なんか、一般家庭にあればずいぶん便利だろうね」

門番「魔炎筒(まえんとう)だね。あれはお城で使っているから僕も知ってるアイテムだよ」

宿屋の娘「不思議なものだね、ただ命じるだけで火が出るなんて。そうだ、君は学生時代、魔法の研究をしていたよね?」

門番「うん、僕自身は魔法は使えないけど」

宿屋の娘「じゃあ、あれの原理の説明をしてみせなよ」

門番「みせなよって言われてもね。まあ、たまには娘に何かを説明するのも悪くないか」

宿屋の娘「うん、君の格好いいところを見せてごらん」

門番「よし、じゃあ説明するよ。魔炎筒の中は未加工の魔石、サラマンダーの尾、ルーンで加工済みの魔石の三構造になっている」
44 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:10:08.95 ID:mUAyU8gS0
宿屋の娘「未加工と加工済みと違いは?」

門番「魔石は加工済みか否かで、役割が違ってくるんだ。未加工の魔石は、魔翌力を発生させるという魔石本来の効力を持つ」

門番「加工された魔石は、魔翌力を発しない代わりに何か特定の役割を持たせる事が出来る」

宿屋の娘「ふむふむ。この場合、この場合は火を出すという事だね」

門番「正確に言えば、『持った人が火を出したいと思った時に、小さな火が出る』というのが役割だね」

宿屋の娘「へえ、中々に細かいものなんだね」

門番「魔術ってのはそんなものだよ。そしてサラマンダーの尾はシンボルなんだけど、これは説明が難しいね」

宿屋の娘「シンボル?」

門番「魔法っていうのは魔翌力、理論、シンボルの3つが揃って始めて成立するんだ。魔翌力は魔法の源、理論によって役割が決められて、シンボルという条件によって実現する」

門番「これをそれぞれ、魔翌力を未加工の魔石、理論を加工済みの魔石、シンボルをサラマンダーの尾で代用したのが魔炎筒というわけさ」

宿屋の娘「つまりは魔法使いが火を出す原理と、同じ原理で火が出てるというわけだね」

門番「そう。逆に言えば、魔炎筒にできることを道具無しで出来るのか魔法使いというわけさ」
45 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:11:04.18 ID:mUAyU8gS0
宿屋の娘「へえ、さすがに詳しいね。魔学の成績が良かっただけのことはあるよ」

門番「いやいや、たいしたもんじゃないよ」

???「いや、たいしたものだよ」

門番「え? あなたは?」

役人「ワシは魔法省の役人だよ。新しい魔円筒を買いにきたら、君の説明が聞こえてきてね」

門番「魔法省のですか!? 拙い解説を聞かせてしまって申し訳ない」

役人「そんな事はない。魔道学園の生徒たちに見習わせたいくらいだ」

宿屋の娘「良かったね君……魔法省に認めらたよ」

門番「ちょっと、冗談はよしてくれ。本当にそんなんじゃないから」

役人「はっはっは、仲がよろしいことで」

門番「え、いや、そんな、こと、ありますけど」

宿屋の娘「君、落ち着きなさい」

役人「はっは、本当に仲がよい。じゃあ、ワシはこれで失礼をする」

門番「はい、ありがとうございました」

役人「しばらく、見て回ろうと思うのでまた会うかもしれんな。では」
46 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:11:34.73 ID:mUAyU8gS0
宿屋の娘「さて、私たちもいこうか。魔法省公認の解説係さん♪」

門番「いや、本当に勘弁してください」

宿屋の娘「ふふ、いいじゃないか。ん、あれは?」

門番「どうかした? 何が珍しいものでも見つけた?」

宿屋の娘「いや、本が売っているからね。あれも何かのマジックアイテムなのかな」

門番「ああ、あれは違うよ。本の形をしたマジックアイテムも多いけどね。あれは単なる本だよ。魔学の専門書、それの古本を扱ってるみたいだ」

宿屋の娘「なるほど。君は興味があるんじゃないかな?」

門番「興味はあるけど、学生時代ならともかく今の僕はただの門番だからさ。専門書なんて持っても仕方ないよ」

宿屋「いいじゃないか。興味があるなら、見ていこうか」

門番「じゃあ、少しだけ見せてもらおうかな」

商人B「さあ、どうぞ。ぜひ見ていってください」

門番「ふむふむ、おお、ああ、ふーん」

宿屋の娘「どうだい?」
47 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:12:04.12 ID:mUAyU8gS0
門番「うーん、値段が手頃なものは基本的なもので全部持ってる。逆に珍しくて欲しいものは原価とあまり値段が変わってない」

???「そうですよね!」

宿屋の娘「ん、あなたは?」

学生「ああ、失礼。自分は魔道学園の生徒です。祭典を見にきたついでに市場を覗いたら、魔学書なんかが置いてあって」

宿屋の娘「興味を持って見て見たら、欲しいものが全て高額だったということかな」」

学生「その通り。いやあ、残念です」

門番「魔学書は高いから、学生としては少しでも安く手にいれたいところだからなあ」

学生「そう言うあなたも学生ですか? 魔学書に興味を示すなんて学生か、魔法使いくらいでしょう」

門番「いやあ、僕はただの門番だよ。元学生だったんで、ちょっと見てただけさ」

学生「ああ、なるほど。失礼しました、つい声をかけてしまって。自分はこれで失礼を」

門番「いえ、気にしないでください」

学生「では」
48 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:12:46.85 ID:mUAyU8gS0
宿屋の娘「懐かしいね君……もしくは羨ましく思ったかな?」

学生「うう、本当に娘はなんでもお見通しだな」

宿屋の娘「君のことは大抵、知っているからね」

宿屋の娘「学生時代の君はずいぶんと熱心だったし、出来るなら魔道学園にも通いたかったんじゃないかい?」

門番「昔はね。今は門番に満足してるよ」

宿屋の娘「昔、か。まあいいさ、他を見て回ろう。君からのプレゼントを決めないといけないしね」

門番「え? プレゼント?」

宿屋の娘「デートの記念にね。買ってくれないの?」

門番「え、いや、そんな急に言われても」

宿屋の娘「買ってくれないの?」

門番「……買います」

宿屋の娘「うん♪ あまり高いものは選ばないから、安心しなよ」

門番「うん。今日はあまり持ち合わせが無いので、助かります」
49 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:13:42.59 ID:mUAyU8gS0
宿屋の娘「ふむ、となると別の区画に行った方が良さそうだね。マジックアイテムはどれも値が張るし、魔学の専門書は私には不要だから」

門番「じゃあ、順番に色々と回っていこうか」

宿屋の娘「うん、そうしよう」

〜1時間後〜

宿屋の娘「こうも色々なものがあると目移りしてしまうね」

門番「さっき見た指輪なんか、娘によく似合ってると思ったんだけど」

宿屋の娘「装飾品の類は好まないんだよ。どうせなら実用的なものが欲しいな」

本番「はあ、デートのプレゼントに指輪ってすごく良いと思うんだけどな」

???「プレゼントをお探しですか?」

門番「ああ、はい。あなたは?」

商人C「私は東方から来た商人です。この辺りは東方の王国から輸入した品々を扱った区分ですから」
50 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:14:10.56 ID:mUAyU8gS0
宿屋の娘「ほお、東方で商人を。見たところまだ若いのに」

商人C「まだまだ見習いですがね。それより、プレゼントなら東方の火織物はどうですかな? 向こうの店で売っているのは見たのですが」

門番「火織物か、悪くないかも」

宿屋の娘「火織物というと、あのきれいな赤色の布のことだね。決して自然界の炎では燃えないという」

商人C「そうです。あれなら値段も手ごろですし、綺麗で、燃えないから実用的です」

門番「そうだな。火織物の服や小物を買っても良いし、娘なら裁縫が得意だから布ごと買ってもいいね」

宿屋の娘「うん、気になるね。見にいってみようか」

商人C「では、案内します」


51 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:14:41.32 ID:mUAyU8gS0
商人C「ああ、あれです。あの店です」

商人D「お、いらっしゃいませ。火織物はいかかですか」

門番「うわあ、きれいな赤色だなあ」

宿屋の娘「う〜ん、これが火織物か。あれは?」

役人「おお、また会いました、ご両人」

門番「役人さん、奇遇ですね」

学生「こちらも、奇遇です」

門番「学生さんまで」

役人「見て回っていたら、このお店はあまり人がいなかったので逆に気になってね」

学生「自分もです。今も私たちしか客がいないようですね」

商人C「まあ、時間帯というのもあるんですよ。きっと」

門番「そんなもんですかね。ところで、娘。買うものは決まったかな?」
52 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:15:06.19 ID:mUAyU8gS0
宿屋の娘「いや、それより何か変な匂いがしないかな?」

商人C「変な匂い? しませんけど」

学生「いや、自分もします」

役人「ええ、確かに」

ぼわっ!

一同「「!?」」

商人C「そ、そんなバカな!?」

学生「火織物が…」

役人「燃えてるだと……」

商人D「な、なんで? は、それより水、水を!!」
53 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:15:47.88 ID:mUAyU8gS0
消火後

門番「はあ、はあ、なんとか小火で済んでよかった」

宿屋の娘「ご苦労様。消化係の才能もあるんじゃないかい?」

門番「それも勘弁。門番で満足だから」

商人D「それより、うちの商品が…」

学生「燃えないはずの、火織物がどうして急に燃え出したんだろう」

役人「う〜む」

兵士「小火の連絡を受けてやってきた。それについては城の取調べ室で聞かせてもらう」

学生「わかりました。けど自分じゃないですよ!」

役人「私が取り調べを? 私は魔法省の役人だぞ!?」

門番「仕方ないです、行きましょう。はあ、同僚に取り調べされるのか」

商人C&D「………」

宿屋の娘「………ふむ」
54 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:16:34.68 ID:mUAyU8gS0
〜〜取調べ中〜〜

兵士「結果から言おう。門番、宿屋の娘、学生。お前たちは帰っていい」

門番「本当ですか? よかったあ」

商人C「ど、どうして彼らだけが?」

兵士「火織物は自然界の火では決して燃えない。燃やすには魔法の火でなければならない」

兵士「持ち物を調べたところ、3人とも魔炎筒を持っていなかった」

商人C「ですが、学生は魔道学園の生徒でしょう? それなら魔法くらい」

学生「自分は研究職を目指してるんで。魔翌力は無いんですよ」

商人C「私だって、魔炎筒は持ってないし、魔法も使えませんよ」

商人D「私もだ。だいたい、私が自分の商品を燃やす理由がない」

兵士「Cは東方国の住人であるため身元がまだ確認できていない。確認次第、解放する」

兵士「Dは、もう少し詳しく話しを聞くために残っていてもらうだけだ」
55 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:17:00.57 ID:mUAyU8gS0
商人C「そ、そんな……」

商人D「早く戻らないと店が……」

役人「なら、私が犯人だと言うのかね! ふざけるなよ!?」

兵士「現場で魔法を使えるのは、あなただけです」

役人「いや、それはだね、その」

兵士「それに、あなたは魔炎筒を所持していましたよね? いずれにしても詳しく話しを聞かせてもらいます」

役人「いや、違うぞ、私じゃない。だいたい私が火織物なんかを燃やしてなんの意味がある!」

商人D「なんかとはなんですか、失礼な」

役人「うるさい! ワシは魔法省の役人だぞ、私なわけがない。帰る、解放しろ」

兵士「できません」
56 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:18:05.27 ID:mUAyU8gS0
取調べ室の外

門番「ふう、やっと解放された。もう休憩時間も終わりだし、このまま仕事に戻るよ」

宿屋の娘「………」

門番「いや、それにしても驚いたね。いきなり火織物が燃え出すなんて。やっぱり役人さんが燃やしたんだろうか」

宿屋の娘「そうだね君……君はこの事件の真相をどう考えているのかな?」

門番「えっと、いきなり燃えないはずの火織物が燃え出したて、燃やせるのは魔法使いだけ」

門番「魔法が使えるのは役人さんだけだろうね。魔法省は魔翌力、知識ともに優れたエリートしか入れないんだから」

門番「でも、役人さんが火織物を燃やす動機が無い」

門番「かと言って、他の人が燃やす動機も無いからやっぱり役人さんが怪しいのだろうか」



門番「なるほど、わからん」

宿屋の娘「私はわかった。聞きたいかい? この事件の真相をね」

ネクストコナンズヒント〜! 『燃える布』
57 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/13(日) 08:21:53.25 ID:mUAyU8gS0
というわけで前半終了
前回ほど無茶じゃないと思います、多分。
人物や設定に関して、ある程度したらまとめようかなと思い中。

近い内に後半書きます。それでは
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 10:03:24.29 ID:rLviwe9DO
素直クールな娘かわいいのう
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 11:54:56.91 ID:tB6RnBq7o
推理云々より娘が可愛いので読んでるのは俺だけじゃない…はず
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 12:05:57.93 ID:/O7vOu3lo
喋りや役回りがヴィクtうわ貴様何をするくぁwせdrftgyふじこlp
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/13(日) 12:09:33.07 ID:Jp828vCAO
ファンタジーだしsaga入れようぜ
魔力が魔翌力になっちまうよ
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 16:20:14.61 ID:BPlOS7uAO
ファンタジーでミステリーか
なかなか面白い試みだな
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 16:37:55.50 ID:boo1pQts0
期待してます
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 17:05:53.05 ID:XW36I9LB0
これ、売ってたのが本当に火織物かってとこが問題なんだろうか
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 19:30:34.88 ID:tFsb5xbzo
>>1
これ回答推理してもここに書かないほうが良いよね?
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 23:45:27.07 ID:8f3Vq5H+o
あたりまえだろ
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 00:29:41.25 ID:EoixgGmqo
魔法の仕組みを教えたってことはそこに意味があるんだろう
68 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/17(木) 08:53:56.63 ID:m8tSwE0p0
娘のキャラは書けば書くほどわからなくなってきた
生活臭のある小悪魔系という設定だったんだけど、生活臭出てないな

回答は自重してもらった方が良いのかな?
あれこれ推理を披露するのもミステリの楽しみな気がするけど
嫌がる人もいそうなので基本、自重の方向で
真面目に推理する話でも無いんだけどね

後編いきます
69 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/17(木) 08:54:51.49 ID:m8tSwE0p0
門番「もちろん、聞かせてほしいんだけど……真相がわかったなら取調べ中にでも言ってくれれば良かったのに」

宿屋の娘「言うと、拘束時間が長くなりそうだったからね」

宿屋の娘「それに、この事件はしかるべき捜査を行えばすぐに解決する類のものだからね。私が言わなくても、そのうち犯人も捕まるんじゃないかな?」

門番「と言う事は、やっぱり魔炎筒を持っていた役人さんが犯人?」

宿屋の娘「容疑者者の条件は、魔炎を放てることじゃない。火を放てるか、否かだよ」

門番「でも、普通の火では火織物は燃えない。いや、そもそも火を放つ道具を持っていても」

門番「近くにいた僕たちが気付かせずに、一気に炎をつけることなんて出来ない」

宿屋の娘「だから魔法で火を出した、と行きたいところだね。だけど、それは不可能なんだよ、君」

宿屋の娘「なぜなら、あの場に魔法を使える人間はいなかったんだからね」
70 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/17(木) 08:55:23.87 ID:m8tSwE0p0
門番「そんな馬鹿な! 魔法省の役人さんが魔法を使えないわけが」

宿屋の娘「あるんだよ君……知ってるよね? 魔法省の汚職問題を」

門番「汚職問題って、まさか」

宿屋の娘「今、問題になってるからね。あまり政治に関わりの無い私だって知っているよ」

宿屋の娘「魔術が使えない人間が、裏金で魔術省に就職しているんでしょう?」

門番「そうだよ。魔術省は本来、魔学と魔術の両方を兼ね備えたエリートだけの組織だけど

門番「最近、その資格が金銭で解決されていた事が公になってしまった」

宿屋の娘「あの役人もその口だね」

門番「どうして? 問題になっているからといって、役人全てが賄賂絡みとは言えないよ」
71 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/17(木) 08:55:56.54 ID:m8tSwE0p0
宿屋の娘「君、魔炎筒が欲しいかい?」

門番「あれば便利だろうけど、それとこれと何の関係が」

宿屋の娘「もしも君に、魔法の才があったのなら?」

門番「あ!」

宿屋の娘「そう、いらないんだよね。魔法使いに魔炎筒なんて」

門番「魔法省の役人が、火を出すなんていう基礎魔術を使えないわけがない!」

宿屋の娘「そうだね。だから、彼は汚職役人ということだよ」

門番「そんな、じゃあ早く兵士に知らせないと」

宿屋の娘「少し、落ち着きなよ。まだ事件は解決してない」

門番「ああ、そうか。でも、魔法を使えなくても、魔炎筒を持っていたなら話は同じじゃないか」

宿屋「近くにいた僕たちが気付かせずに、一気に炎をつけることなんて出来ない。君の言葉だよ」
72 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/17(木) 08:56:25.28 ID:m8tSwE0p0
門番「そうだった。ちょっと待って、じゃあ犯人は魔法も魔炎筒を使わずに、どうやって火をつけたの?」

宿屋「魔法も魔炎筒も使わずに、普通のマッチで普通の布に火をつけたんだよ」

門番「普通の布ってことは、あの火織物を偽物!?」

宿屋「だろうね。火織物は東大陸の特産で、全世界に輸出されているんだけれど、最近はその輸出が途切れつつある」

門番「そうだ、自然災害の影響で品薄になってると聞いたことがある」

門番「自然と値段も高騰気味らしいけど、あの店の火織物は手頃な値段だった」

宿屋の娘「私にとっては結構な値だったけどね。まあ、でもあまり綺麗な色には見えなかった」

門番「偽物だからだな。じゃあ、商人Dは詐欺師なんだな。これも報告しないと」

宿屋の娘「偽物を売っていたら、詐欺師という意味なら詐欺師になるかな」

門番「と言うと?」

宿屋の娘「あの商人Dは、自分の商品が偽物だと知らなかった。私はそう考えてる」

宿屋の娘「だって、そうじゃなければ、あんな売り方しないと思うよ」
73 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/17(木) 08:56:51.99 ID:m8tSwE0p0
門番「ごめん、娘が何を言っているのか分からないので最初からお願いします」

宿屋の娘「そう言うと思ってたよ。私は君の事を分かっているからね」

門番「うう、それは……その」

宿屋の娘「ふふ、じゅあ最初から行こうか。あの商人Cと商人Dは仲間だ」

門番「えっと、それは同じ商人という意味じゃないよね?」

宿屋「うん。おかしいと思わなかったのかい? プレゼントを探している人間を商人が見つけたなら、とりあえずは自分の商品を勧めるんじゃないかな?」

宿屋「少なくとも、私は旅行者を見かけたらうちの宿屋を勧めるけど」

門番「言われて見れば、二人とも東方人だし、顔も似てるような気がしてきた」

宿屋の娘「おそらくは客引きのためにでも周っていたんだと思うよ。そうやって人を少しでも集めてから、一種のパフォーマンスをやろうとしていたんだろうね」

門番「パフォーマンス?」
74 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/17(木) 08:57:40.78 ID:m8tSwE0p0
宿屋の娘「実際に火織物を火にかけると、どうなるんだい?」

門番「どうなるって燃えない、火が燃え移らないってだけで、特に面白い事は起こらないけど」

宿屋の娘「だと思ったよ。だから火織物に少量の油を染み込ませていたんだよ」

門番「油? ああ、そう言えばあの時にはおかしな匂いがしていた!」

宿屋の娘「ほんの少しだけど、言われて意識すれば気がつく程度には匂いはあったよね?」

宿屋の娘「だけど商人だけは、否定をした。油に気がつけば、これから起こる出来事がサプライズではなくなってしまうからね」

門番「そうか、わかったぞ。油をつけた火織物に、自然の火を放てば油だけが燃える」

門番「そうやって炎が治まった中から無傷の火織物が出てくれば、確かに見栄えは派手なパフォーマンスになる」

宿屋の娘「そうだね君……あの商品が本物の火織物だったのなら、そうなっていたろうね」

宿屋の娘「真相はこうだよ。あの商人たちは、別の商人から火織物を購入して今回のバザーの商品にした。あるいは別の商人から、バザーでの販売係を任された」
75 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/17(木) 08:58:10.55 ID:m8tSwE0p0
宿屋の娘「偽物であったせいか、もしかすると場所が悪かったせいもあって客が中々来ない」

門番「だから、商人は火織物に火をつけるパフォーマンスを考えて、実行した」

宿屋の娘「魔法でもなんでもない。商品の向こう側にいた商人Dなら、私たちの見えないところから火とつけることは容易い」

宿屋の娘「ところがそれは、火織物ではなく、ただの燃える布だった」

門番「取調べでは、魔炎筒の所持だけに注意していた。ただのマッチを持っていたとしても、無関係として取り上げられることは無かった」

宿屋の娘「それに加えて、他の容疑者が捕まりそうだからね。あの商人たちはしめたもの、とでも思っているのかな」

門番「自分たちも騙された側なんだから、素直に言えばよかったのに」

宿屋の娘「そうも行かないよ。祭典の行事で偽物を売っておいて、自分達も騙されたじゃあ済まない」

宿屋の娘「仮に許されても、事件が公になれば偽物を掴まされる商人なんて誰も相手にしない」
76 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/17(木) 08:59:05.11 ID:m8tSwE0p0
宿屋の娘「仮に許されても、事件が公になれば偽物を掴まされる商人なんて誰も相手にしない」

門番「客商売は信用が命って事かあ」

宿屋の娘「そのとおり。これが事件の真相だよ」

門番「なるほど。さすが娘だ、すごいや! って、そうだ。この事を上司に知らせないと」

門番「じゃあ、僕は仕事にもどるから、また今度。今日は付き合ってくれてありがとう!」

宿屋の娘「……やれやれ、行ってしまった」

宿屋の娘「せっかくのデートだったのに……さて、残念に思うべきは君か、私か。どっちだろうね」

宿屋の娘「まあ、私には分かってるけれど♪」
77 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/17(木) 08:59:36.41 ID:m8tSwE0p0
その夜、宿屋にて

門番「娘の言ったとおり、あの二人は仲間だったよ。商人と言っても駆け出しの商人で、他の商人から火織物を安く買い受けたんだって」

宿屋の娘「間抜けな二人だね。音に聞くほど美しくなかったから、私でも妙だと思ったのにさ」

門番「燃やすまで気がつかなかったし、確認しようとも思わなかったんだって」

門番「で、娘の言ったとおりのパフォーマンスを考えて実行して、気付いたというわけだ」

宿屋の娘「事前に商品の審査を怠った、君たち王城側の責任とも言えるけどね」

門番「……面目ない」

宿屋の娘「おかげで私はプレゼントを貰いそこねたよ。残念ながらね」

門番「あ、そうだった! ごめん、今度埋め合わせするから」

宿屋の娘「それなら、いいけど。残念だ」

門番「ああ、本当にごめんよ!」

宿屋の娘「ふふ、埋め合わせ。期待してるからね」
78 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/17(木) 09:01:02.15 ID:m8tSwE0p0
『なぜ、布は燃えたのか?』 A.燃える布だからです。

おわり
79 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/17(木) 09:09:00.46 ID:m8tSwE0p0
二回続いて、偽物ネタだったのが反省点。
魔法の解説などは今後のふりという事でお願いします。

今回もお付き合いありがとうございました。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/03/17(木) 10:05:05.12 ID:R6bSMqeAO
俺の予想通り娘が可愛いな
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/17(木) 11:35:48.10 ID:aEntsdhUo

今回の謎解きは良かったぜい
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/03/18(金) 07:07:44.66 ID:/jgw3e8AO
アリスっぽいとは思ったけど、ここまで終始ヒロイン側優位はアリスにもヴィクトリカにも出来ない芸当だ
何を言いたいかというと宿屋の娘可愛い
83 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:47:55.96 ID:CSGwMDv90
>>80
なかなかの推理力をお持ちのようだ。
>>81
ありがとう
魔法ありの世界ならではのトリックをもっとやっていきたい。
>>82
上でも言われたけどヴィクトリカっぽいのは、気がつかんかった。
でも確かに被ってるな。
門番を君呼ばわりするのだけでもやめれば良かったかもしれん。
アリスは有栖川有栖かな?
ゴシックは読んだことあるけど、有栖川は未読なんだ。


ちょっと思いついたので番外編を投下します。
84 : ◆T4kE1oY42E :2011/03/19(土) 00:49:55.61 ID:CSGwMDv90
番外編その1 『門番は娘のアイテム』

ある休日、宿屋にて

宿屋「うーん、困ったな」

門番「どうしたんですか、おじさん?」

宿屋「おお、門番か。なに、ちょっと客から苦情が来てな」

門番「苦情って、一体なにが?」

宿屋の娘「君か、ちょうど良いところに来たね」

門番「娘! 君に会いに来たんだけど、苦情があったんだって?」

宿屋「ちょうど今、その話をしていたところだ」
85 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:50:58.72 ID:CSGwMDv90
宿屋の娘「そのことで色々と考えたのだけれどね、父さん」

門番「その苦情っていうのは?」

宿屋の娘「そうだ君……そんなことより、これを君にあげよう。好きにしていいよ」

門番「あげようって言われても、これ……枕?」

宿屋の娘「たくさんある、全部持っていきなよ」

門番「いやいや、いくらなんでもこんなに要らないよ。しかもこの枕、ずいぶん傷んでるじゃないか」

宿屋「おいおい娘、なんでも門番に押し付ければいいってものじゃあ無いだろ」

宿屋の娘「いいから、私には考えがある。君はそのまま、東に向かって散歩でもしてくると良い」
86 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:52:01.83 ID:CSGwMDv90
門番「え? 古い枕をたくさん抱えて?」

宿屋の娘「たくさん抱えてね。いいから行って、しばらくしたら捨てていいから、それ」

門番「それに何の意味が?」

宿屋の娘「さあね。行けばわかるよ」

門番「まあ、娘に言われたら行くけどさあ」

宿屋の娘「散歩ついでに、東教会に行って修道女に会うことも忘れずにね」

門番「ん? とにかく、言う通りにしてみるよ」

宿屋の娘「いってらっしゃい♪」

宿屋「おいおい、何考えてるんだよ。あんなの押し付けて」

宿屋の娘「ちょっとしたお遊びかな。さてさて、どこまで上手くいくものかね」

宿屋「?」
87 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:52:33.39 ID:CSGwMDv90
東への道、移動中、3丁目にて

門番「言われたとおりに古い枕をたくさん抱えて散歩しているけれど、今の僕ってかなり変な人だよな」

門番「見回りの兵士に捕まって職務質問とかされたら洒落にならないよ」

門番「あ、あれは手作りのクッキーが絶品であることで有名な3丁目のおばさん!」

おばさん「門番じゃないか。何してんだい? そんな枕を抱えて」

門番「いえ、特に意味があるわけじゃないんだけど、その辺りに捨てようかなと。おばさんは?」

おばさん「いや、なに、薪を切らしていてね。オーブンが使えないから買いに行こうとしてたのさ」
88 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:53:15.96 ID:CSGwMDv90
同刻、宿屋にて

宿屋の娘「今朝、3丁目の道具屋まで買い物に行ったときの事だ。ふと、おばさんの家の薪置き場が目についた」

宿屋「いったい何の話だよ」

宿屋の娘「古い枕の話だよ。薪置き場には、薪がなかった。あれじゃあ、火はおこせない」

宿屋「はあ?」

宿屋の娘「ところで今日はおばさんの娘の誕生日なんだ。おばさんは、親族の誕生日には必ず手作りのクッキーを焼く」
89 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:53:58.10 ID:CSGwMDv90
三丁目、おばさんの家付近にて

おばさん「ところで、その枕いらないんだね?」

門番「ええ。捨て場所を探してるくらいですから」

おばさん「じゃあ、私がもらうよ。古い布はよく燃えるからね。薪代わりにちょうどいいさ」

門番「本当ですか? 助かりますよ」

おばさん「お礼にそうさね、少し待ってなさい。今からクッキーを焼くから、もって行きなさい」

門番「やった! ありがとうございます。」
90 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:54:48.24 ID:CSGwMDv90
30分後

門番「おばさんのクッキーをもらった」

門番「まさか、古い枕がクッキーに化けるとは。修道女に会ってから、帰って娘と食べようかな」

数分後、東教会

修道女「あれ? 門番だ」

門番「久しぶり、修道女」

修道女「めずらしいね。礼拝の日でも無いのに。なんか用?」
91 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:55:15.49 ID:CSGwMDv90
門番「別に用は無いけど、娘の家に行ったら散歩ついでに会って来いって」

修道女「だから言われるままに私に会いに来たの? 相変わらずだねえ」

門番「別に断る理由もないし」

修道女「理由があっても、あんたは娘の頼みは断らないでしょ。昔から、そうだもん」

門番「まあ、言われて見れば、そうかも」

修道女「ところで、あんたから甘い匂いがするんだけど?」

門番「甘い匂い? ああ、これだよ。おばさんからクッキーもらったんだ」

修道女「おばさんのクッキー!?」
92 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:55:47.02 ID:CSGwMDv90
宿屋にて

宿屋の娘「薪が無くて困っているところに、薪代わりの古い枕を持って現れた門番」

宿屋の娘「古い枕を渡す代わりに、手作りのクッキーを貰ってるはずだよ」

宿屋「そんな、上手くいくもんか?」

宿屋の娘「さあ? そうなったら良いな、くらいのものだけどね」

宿屋「門番に教会に行けって、言ったのは?」

宿屋の娘「正確には修道女に会いに行け、だよ。あの子は修道生活で甘いものに飢えていて、おまけにおばさんのクッキーに目が無いからね」
93 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:56:32.71 ID:CSGwMDv90
東教会にて

修道女「それ、ちょうだい」

門番「嫌だ。これは娘と食べるんだから」

修道女「また娘か、この娘ばか! 修道生活に耐える私に、ちょっとばかり恵んでくれたっていいじゃない!」

門番「知らないよ、この不良修道女。修道生活してるのなら、決められたもの以外は食べたらダメだろ」

修道女「いいから、ちょうだいよ」

門番「いやだ」

修道女「う〜〜ん、わかった。こうしよう。これと交換ね、それなら文句ないでしょ?」

門番「これって、聖なる書? いやいや、これ教会の備品なんじゃあ?」

修道女「いいの、一冊くらい大丈夫」

門番「そもそも、僕には必要ないんだけど」

修道女「いいから、交換しようよ。でないと娘に言うよ、あのこと」

門番「あのこと?」

修道女「昔、収穫祭のとき、門番が娘の部屋で」

門番「ちょ!? ま、待って、わかった。わかったから、待って!」

修道女「はい、交渉成立。ごちそうさま」
94 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:57:17.33 ID:CSGwMDv90
宿屋にて

宿屋の娘「十中八九、無茶な取引を門番に持ちかけてクッキーを奪おうとする」

宿屋「ああ。たしかにあの修道女なら、やりそうだ」

宿屋の娘「昔から、自分の要らない物を門番に押し付けて、交換だと言って門番から色々と取り上げていたからね」

宿屋の娘「と言っても、修道生活中の彼女が持っている物なんて、たかが知れている。そうだね……教会の備品、聖なる書あたりを押し付けられるんじゃないかな?」

宿屋「そんな上手くいくものかあ?」

門番「ただいま、娘。枕がクッキーになって、クッキーが聖なる書になったよ」

宿屋「うそ……だろ?」

宿屋の娘「ふふ、上手くいったようだね」

門番「上手くいったって?」

宿屋の娘「いいから君……そうだね、君はそのまま1丁目の剣士の家に行ってくるといい」

門番「え、でも今帰ったばかりで、娘とお話したり、したいんだけど」

宿屋の娘「剣士の家に行ってくるといいよ」

門番「…はい」
95 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:57:44.19 ID:CSGwMDv90
剣士の家付近にて

門番「なんなんだろ。せっかく娘と一緒に休日を過ごせると思ってたのに」

門番「あ、ここだな。ごめんくださいーい。剣士さん、いますかー」

ガチャ

元剣士「ああ、いるよ。もっとも剣士はやめたんだけど」

門番「え、そりゃまた、どうして?」

元剣士「魔王が倒れ、平和になって十年だ。剣士なんて時代じゃないんだ」

門番「まあ、確かに」

元剣士「今まで戦いばかりの人生だったからな。これからは神を信仰して、静かに生きていこうと思う」

門番「僧侶になるんですか!?」

元剣士「ああ、戦うのは疲れたんだ。それに、こんな俺でも神はきっと向かえてくれるからな」

元剣士「ところで、お前が持ってる、その本はもしかして?」
96 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:58:14.14 ID:CSGwMDv90
宿屋にて

宿屋「で、剣士のところに行かせたのは?」

宿屋の娘「正確には元剣士だね。来月から僧侶になるための修行に入るから、財産を処分して、その準備をしているところだ」

宿屋の娘「生活が一新するだろうからね、それまでの所有物が不要になった所に、これから必ず必要になる聖なる書をもった門番が来たら」

宿屋「なにかと取り替えてくれるってか? そんなに上手くいくかあ?」

宿屋の娘「あまり、自信は無いね。あの元剣士のことは、門番や修道女ほど分からないから」
97 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:58:51.22 ID:CSGwMDv90
剣士の家にて

門番「ああ、そうだ。いりますか? 僕には必要ないので」

元剣士「ぜひ! 代わりにそうだな、これを持っていってくれ。私には、もう必要ないものだ」

門番「これって……あなたの剣じゃあ?」

元剣士「ああ、私はもう剣を振らない。門番の君には使う機会があるだろう。貰ってくれ」

門番「……わかりました。大切にします」
98 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 00:59:42.09 ID:CSGwMDv90
宿屋にて

門番「ただいまー。聖なる書が剣になったよ」

宿屋「なんと!」

宿屋の娘「ふふ、上手くいったようだね」

門番「それで、娘。これから僕と一緒n」

宿屋の娘「考えるから少し待ってよ」

門番(やった! 一緒に出かけてくれるみたいだ)

宿屋の娘「………そうだね、君の職場に行くといいよ。1人で」

門番「1人で?」

宿屋の娘「1人で」

門番「……行ってきます。1人で」

宿屋の娘「いってらっしゃい、1人で。帰りに市場を見てくるように」

宿屋(門番よ、不憫なやつだ)
99 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 01:00:16.31 ID:CSGwMDv90

王城門番控え室にて

門番「はあ、休日だってのに僕はどうして職場にいるんだろうか」

上司「門番か。お前、今日は休日のはずなのに、ん? それは!」

100 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 01:00:46.46 ID:CSGwMDv90
宿屋にて

宿屋の娘「彼の上司は、東王国へ出張の予定で船の手配をしていたんだけどね。先日の自然災害の件で取りやめになっている」

宿屋の娘「そして、上司と元剣士は幼馴染で、幼い頃からともに剣を交えあった好敵手でもある」

宿屋の娘「友であり好敵手でもある男のの剣、手元に置いておきたくなっても不思議じゃないね」

宿屋(……やばい、わしの娘はちょっとおかしい)

101 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 01:01:29.21 ID:CSGwMDv90
王城門番控え室

上司「……という訳だ。その剣、譲ってくれないか?」

門番「上司と元剣士さんの間にそんな事があったなんて。わかりました、ぜひ貰ってください」

上司「いいのか?」

門番「その方が元剣士さんも喜ぶと思います」

上司「感謝する。お礼をしたいところだが、今は手持ちが」

門番「そんな、いいですよ。その剣も元々はただで貰ったようなもので」

上司「黙れ。私の気がすまない。ああ、そうだ、これを」

門番「これは?」

上司「東王国行きの船の乗船券だ。いつか使うといい」

門番(出張が中止になったから、いらなくなったものを押し付けれただけの気もするけど)

門番「わかりました。貰っておきます」

102 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 01:01:57.31 ID:CSGwMDv90

市場にて

門番「剣が乗船券になってしまった」

門番「さて、市場に来たはいいけど、何を買えとは言われてないしな」

門番「あ、東方国の商人だ。祭典が終わったのに、まだ帰らずに商売してる人もいるんだな」

門番「って、なんだあれ? 同じ枕ばかり並んでるぞ!?」

103 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 01:02:29.00 ID:CSGwMDv90
宿屋にて

宿屋「で、最終的にお前はどうしたいんだ?」

宿屋の娘「先の記念祭典で、東方国からも多くの商人がこの国にやってきている」

宿屋の娘「意気揚々と商売に来たものの、商品が全く売れず、帰りの船代すら出せない商人に私も会ったんだ」

宿屋の娘「その商人はね、この高級枕を大量に仕入れたけれど、売れ残って困っているんだってさ」

宿屋「!? お前、もしかして、それを狙ってたのか!?」

104 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 01:02:55.18 ID:CSGwMDv90
市場にて

商人E「まくら〜、高級枕はいりませんか〜。……うぅ」

門番「あの、どうかしました?」

商人E「あ、枕はいりませんか?」

門番「あ、いいです」

商人E「そうですか……実は商品を仕入れ間違えて、高級枕がこんなにいっぱい」

門番(前の一件といい、もしかして東方の商人ってダメな人が多いのか?)

商人E「仕入れの代金を払ったら、お金が無くなって、しかも商品が売れなくて」

門番(うわ、枕が1つ1000ゴールド!? そりゃ売れないよ)

商人E「商売を諦めて帰ろうにも、帰りの船代が無くて……うぅ、どうすれば」

門番「帰りの船? そうだ、これを」

商人E「乗船券だ! これを私に!?」

門番「東方国に行く予定も無いので貰ってください」

商人E「ありがとうございます! さっそく国に帰ります! では!」

門番「え、ちょっと。この枕は?」

商人E「あなたにあげますよ! では、さらばです!」

門番「……行ってしまった。そして、また大量の枕になってしまった」
105 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 01:03:31.25 ID:CSGwMDv90
宿屋にて

門番「はあ、疲れた。娘、もどったよ」

宿屋「……本当に枕を持って帰ってきた」

宿屋の娘「ふふ、ご苦労様」

門番「あの、色々あって結局、枕になったんだけれど」

宿屋の娘「その枕、貰っていいかい?」

門番「もともと君から貰ったものだし、こんなに枕ばかり持っていても仕方ないし、君が貰ってくれるなら助かるよ」

宿屋の娘「しかし、見事だね。ここまで上手くいくとは思わなかった」

宿屋「わが娘ながら、恐ろしい奴だ」

門番「え? 一体何のことを」

宿屋の娘「客からの苦情の話さ」

門番「?」
106 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 01:04:03.10 ID:CSGwMDv90
宿屋の娘「うちに泊まった客から苦情があったんだ」

宿屋の娘「枕が古すぎて寝られない、ってね」

門番「!?」

宿屋「たしかに我が宿の枕は大分傷んでいてな。そろそろ換え時だったが…」

宿屋の娘「全室の枕を換えるとなると、枕代もばかにならないからね」

宿屋の娘「タダで枕が新品になる方法を考えたんだ」

門番「じゃあ、もしかして最初から全部、娘の思い通りに」

宿屋の娘「半分以上、冗談のつもりだったんだけどね。そんな上手くいくわけがないしさ」

宿屋「そんなに上手くいったがな。古く痛んだ枕が、今じゃ高級枕だ」

門番「えっと、今日一日、僕はずっと娘に利用されてたってこと? 枕のために」

宿屋の娘「そういうわけ。ありがとう、門番♪」

門番「……どういたしまして」
107 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 01:04:53.35 ID:CSGwMDv90
宿屋の娘「とは言っても、せっかくの休みにタダ働きというのはかわいそうだし、こっちおいでよ」

門番「ん、なにかくれるの?」

宿屋の娘「私の役に立ってくれて、ありがとう、いい子いい子」ナデナデ

門番「///」

門番(娘がなでなでしてくれた! 今日の1日は無駄じゃなかったぜ、やっほー!)

宿屋(……休日を潰して人を働かせてた報酬を、頭撫でただけで済ませてします自分の娘が恐ろしい」

おわり
108 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/19(土) 01:06:39.87 ID:CSGwMDv90
RPGでよくある物々交換イベントが元ネタ
女の子の手のひらの上で弄ばれたいよね、という話です。

お付き合いいただきありがとうございます。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/19(土) 01:08:04.50 ID:/iEiuDPuo
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/19(土) 01:10:35.30 ID:UIzYTjMoo


俺は女の子の手のひらで弄ばれたい
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/19(土) 01:35:05.14 ID:eRR9/LX1o
良い子良い子されたいよ〜〜
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/03/19(土) 01:59:27.05 ID:8fp4ghrAO
わらしべ長者ならぬ枕長者とな
>>1
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/03/20(日) 06:30:52.78 ID:z0LjbNrbo
すげーおもしれー
娘可愛いけど門番も可愛いぞ
114 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:25:11.99 ID:SmiYyykK0
3話前半投下の前に、おさらいと自己満足の意味を込めて用語の補足、説明のための3行データベース
トリックの鍵が本文になくて、ここにだけ書いてあるという事はありません。
適当に目についた用語をピックアップしてるので、必ずしも今回の事件の鍵というわけでもありません。


門番(人)
本作の主人公。宿屋の娘、修道女とは幼馴染。
元々は魔法研究者になりたくて、そのための勉強を行っていたが色々あって断念。今に至る。
第一話のために門番にしたけど、実はもう門番である必要はない。

門番(仕事)
門番と表記されてるけど実際の仕事は、王城に仕えている兵士。
警察などの役割もこの王城兵が行っており、その幅広い業務の中の門番部門に所属している。
王城兵は元々は軍だったけど、戦争後に解体して現在に至る。

宿屋の娘
本作のヒロイン。父親との二人暮らし。門番、修道女とは幼馴染。
探偵係。モデルは特にないんだけど、ヴィクトリカと被ってると言われる。同意。
現実世界でいう義務教育を受けた後は、家業の宿屋を手伝っている。ある意味、最強キャラ

宿屋(店)
宿屋の娘と、その父の家業。
仕事としての宿屋は、宿泊施設の他に夜は食堂で飲食業としても営業している。
門番は大抵、ここで夕食を摂る。

宿屋(人)
宿屋の娘の父親。オッサンのイメージ。いつか娘も門番のところに嫁にいくんだろうな、くらいに思ってる。
たまに表記ミスで、宿屋の娘が宿屋になっているときがあるけど、オッサンが急に現れて
「それはだって君のことは大抵、分かるからね」とか言ってるわけじゃない。

魔法
使用するには魔翌力、理論、シンボルが必要。魔翌力はまんまMP。
勉強して理論を知って、特定のアイテム(シンボル)を装備して始めて魔法が使える。
門番は魔翌力が無いので魔法がつかえない。修道女は理論に詳しくないけど、魔翌力があるので魔法が使える。

東方大陸
東方国のある大陸。あまり細かな設定はない。
地震災害に見回れたという設定を作った日に、現実に地震が起こってしまったので自然災害に表記変更をした。
だめな商人が多い、かもしれない。

高級枕
適度にふかふか。1000ゴールド。
あまり売れなかったが、宿屋の客には評判が良いらしい。
宿屋の全室に配備してもあまったので、娘も使用している。
115 : ◆T4kE1oY42E :2011/03/21(月) 07:26:49.05 ID:SmiYyykK0
事件発覚当日、木曜日、東教会、祭具保管室にて

修道女「そうじ、そうじ、そうじの時間〜♪」

修道女「ふふふ、普段は面倒でたまらない教会の清掃だけど、今日はいつもと違う」

修道女「修道院長も僧侶様も留守にしていて、今この教会には私1人!」

修道女「この東教会に納められている風の精霊像さえあれば、魔法で教会中の埃を吹き飛ばしてあっという間に掃除終了! なんだけど、あれ無いな〜?」ゴソゴソ

修道女「先週の礼拝に使った後にここになおして置いたはずなんだけど……」

1時間後

修道女「隅から隅まで探したのに無い。なんで!? まさか盗まれちゃったとか?」

第三話『なぜ、聖霊像は盗まれたのか?』
116 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:27:51.03 ID:SmiYyykK0
事件発覚前日、水曜日、宿屋にて

門番「娘いる?」

宿屋の娘「私はここにいるけどね、君……毎日毎日、暇なのかい?」

門番「ちがうよ! 娘に会うために、休憩時間を利用してやってきてるんだ」

宿屋の娘「それを暇と言うんだけどね。まあ、いいか」

門番「ちゃんと仕事もしてるよ。ほら、知ってるでしょ? 昨日、付近の川辺に魔物を見た人がいるんだ」

宿屋の娘「うん、知ってる。街のみんなも少し不安になっているね」

門番「そこで僕たち、王城の兵隊が街に出て見回りをして、人々の不安を取り払ってるんだよ」

宿屋の娘「君は?」

門番「僕は、まあ、城の門番だけど」

宿屋の娘「それは忙しい仕事なのかな?」

門番「……暇、だけどさ」

宿屋の娘「ふふ、だろうね。まあ、気にしないでいいよ。暇なのはこちらも同じさ」
117 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:28:45.09 ID:SmiYyykK0
門番「たしかに、お客さんの姿が見えないな」

宿屋の娘「今うちに泊まっているのは、一人だけだよ。よくわからない客だけど、魔法使いかもしれないね」

門番「かもしれない、っていうのは?」

宿屋の娘「その1、洗濯物をあずかったんだけど上着の中に葉巻が入っていた。けれど火を着ける道具は入っていなかった」

門番「魔法で火をつけるから必要ないっていうこと?」

宿屋の娘「道具を別に持っているだけかもしれないけどね。ただ、普通は葉巻と火をつける道具は1セットにしそうなものじゃないかな」

門番「まあ、そう言われてみれば。」

宿屋の娘「その2、指輪をしていた。ちなみに客は男性だ」

門番「確かに魔法用のシンボルとして指輪を使用する魔法使いは多いけどさ、男でもファッションとして指輪くらいはするんじゃないの?」

宿屋「否定はできないね。ただ両手にいくつも指輪をしていて、一つ一つの形にも協調性が見られなかった」
118 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:30:18.24 ID:SmiYyykK0
宿屋の娘「その3は、あそこの本棚だよ」

門番「お客さんの暇つぶし用に開放してる宿屋の本棚だね。僕も何冊か寄贈した覚えがあるよ」

宿屋の娘「そうだね、確かに君はうちに本を何冊か寄贈してくれた。『精霊世界の構造と原理』だの『魔学史再考』だの、旅人が決して暇つぶしには読まない本をね」

門番「ごめん、そんなのしか家になくて」

宿屋の娘「あんなもの読むのは魔学者か魔法使いくらいのものだよ。だからさ」

門番「だから?」

宿屋の娘「例の客は、それを手に取って部屋に持っていったよ。物珍しげにね」

門番「ああ、だからか!」

宿屋の娘「一つ一つは些細なことだけど、この全てを重ねて考えると魔法使い、かもしれないというわけさ」

門番「なるほど、さすが娘だ」

宿屋の娘「魔法使いだから、どうと言うわけじゃないけどね。そうじゃないかと思っただけだよ」
119 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:31:03.17 ID:SmiYyykK0
門番「へえ、でも魔法使いかあ。やっぱり旅の途中なんだろうか」

宿屋の娘「さあ、特に話は聞いてないけど。それより、夜中にごそごそしていたりして、変な客でね」

門番「魔法使いは変わった人が多いっていうからなあ」

宿屋の娘「ところで君……仕事に戻らなくていいのかい?」

門番「ああ、そうだった! それじゃあ娘、また仕事が終わったら来るよ」

宿屋の娘「いってしまった。別に毎日、来なくてもいいのにね」

???「ごめんください」

宿屋の娘「はい、お泊りでしょうか?」

???「泊まる? まさか。魔法省大臣を父に持つ、この!天才!魔法使いのボクが! こんな宿に泊まるわけがないじゃないか!」

宿屋の娘「……その天才魔法使いが、なんの御用で?」

魔法使い「ここに父の部下が泊まってるはずなんだよ。案内してくれるかい?」

宿屋の娘「かしこまりました、こちらです」

宿屋の娘(魔法省大臣の息子の父の部下、という事は魔法省の役人。やっぱり魔法使いだったか。……わかってたけれどね)
120 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:31:33.34 ID:SmiYyykK0
宿屋の一室にて

宿屋の娘「お客様をお連れしました」コンコン

役人B「ああ、どうも」

魔法使い「君が父の部下かい? 今回はよろしく頼むよ」

役人「こちらこそよろしくお願いします。お父様には色々とお世話になっていますので」

宿屋の娘「では、私はこれで失礼します」

魔法使い「はっはっは! どんな魔物でもボクの炎で一撃さ!」

役人「いえ、今回は、その」

宿屋の娘(魔物? 噂の魔物の討伐にでも来たのか?)

121 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:32:36.88 ID:SmiYyykK0
翌日、事件発覚当日、木曜日、宿屋にて

修道女「娘、いる?」

宿屋の娘「私はここにいるよ。修道女か、久しぶりだね」

修道女「あんたが礼拝にでも出席すれば、もっと会えるんだけどね」

修道女「それはいいや。ちょっと聞きたいことがあるんだ。」

宿屋の娘「聞きたいこと?」

修道女「娘、あんた色々と物事を見抜くのが得意でしょ?」

宿屋の娘「苦手ではないかな」

修道女「じゃあさ、精霊像みつけて! 今日、掃除のときに使おうと思ったら無かったの」

宿屋の娘「精霊像というのは?」

修道女「この辺りには東西南北、それぞれに教会があるのは知ってるでしょ? 各教会にはそれぞれの精霊の像が納められてるのよ」
122 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:33:21.20 ID:SmiYyykK0
宿屋の娘「それぞれの、というのは?」

修道女「北教会には水の精霊像、南には火、西には土、そして東教会には風の精霊像があるんだ」

修道女「精霊像は手の平サイズの小さな像で、毎週の礼拝のときに出して拝んだりするんだ」

宿屋の娘「という事は、前回の礼拝日、つまり4日前の日曜日にはちゃんとあったんだね?」

修道女「そうなの。で私は毎日、教会の掃除をやらされてるんだけど今日は修道院長も僧侶も出かけていったからさ」

修道女「風の精霊像をシンボルにして使って、埃を吹き飛ばして掃除しようと思ってたんだ」

修道女「風の精霊像は、風に関するあらゆる魔法のシンボルになる優れものだからね。教会の大事なものだから、本当は掃除なんかにはつかっちゃいけないんだけど」

修道女「今日はうるさい修道院長がいないから。あ、シンボルってわかる?」

宿屋の娘「門番から聞いたことがあるよ。それにしても、相変わらず無茶をするね」
123 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:33:52.09 ID:SmiYyykK0
修道女「門番なんかは私の事を、魔法を無駄遣いしてるなんて言うけど、私からすれば有効活用だよ」

宿屋の娘「彼らしいね。それで、その有効活用をしようとしたら精霊像が無かった?」

修道女「そういうこと。なんか分かった?」

宿屋の娘「それだけの情報じゃ無理があるけど、普通に考えるのなら2つ」

宿屋の娘「修道女の勘違い、あるいは盗まれた」

修道女「うーん、私の勘違いってことはないから、やっぱり盗まれたんだ!」

宿屋の娘「まあ、どちらかは定かじゃないけれど。もう一度、調べてから盗難届けを出すのが無難かな」

修道女「隅から隅まで探したんだけどなあ」

宿屋の娘「個人で探していると、意外な盲点があるものだよ。もうすぐ、仕事が終わった門番がここに来る」

宿屋の娘「彼を連れていって、二人でもう一度探すといい。無ければ、盗難届けは王城務めの彼が出してくれるさ」

修道女「あんたが今から一緒に来て、探してくれればいいんじゃない?」
124 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:34:25.02 ID:SmiYyykK0
宿屋の娘「私には店番があるんだよ。それには教会は苦手だ」

修道女「本当に、教会に来ないよね。一回くらい私に会いに来てくれてもいいのに」

宿屋の娘「修道女から、こうして会いに来てくれるから大丈夫だよ。あ、もう1人のが北ね」

門番「娘! 会いにきたよ。あ、修道女もいる」

修道女「はいはい、私はついでですね」

門番「そういうわけじゃないけど」

修道女「まあ、いいわ。門番に話があったから、今から東教会に行くよ」

門番「え? やだよ。娘に来たんだから」

宿屋の娘「行ってあげなよ君」

門番「娘がそう言うなら、行くけどさ」

修道女「ほら、いくよ。この娘バカ! 詳しくは道中で説明するから」

宿屋の娘「この分じゃあ、今日はもう彼は戻って来ないかな。やれやれ、今日は静かになるね」
125 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:35:29.23 ID:SmiYyykK0
事件発覚、翌日、金曜日、宿屋にて

門番「大変だよ、娘!」

宿屋の娘「君か。昨日はお疲れ様。で、精霊像はあったのかい?」

門番「どこにも無かったんだ。すぐに盗難届けを出して、ほかの精霊像がある教会にも注意するよう言って周っていたんだ。そしたら」

宿屋の娘「文脈が察するに、他の精霊像もなくなっていた?」

門番「そうなんだ。北教会の水の精霊像がなくなっていたんだよ。」

宿屋の娘「ふむ。風に続いて、今度は水か。その精霊像も水のシンボルとして有効なのかい?」

門番「うん、水に関する魔法のほぼ全てのシンボルになるぐらいだからね。

門番「魔法を使うためには、魔翌力、理論、シンボルが必要だと前に説明したよね?」

宿屋の娘「ああ、シンボルは魔法の条件なんだね」

門番「そう、シンボルはあくまでも魔法の条件でしかない。ある魔法使いAが、基本的な火炎魔法を使うために、サラマンダーの尾を使った場合も、火の精霊像を使った場合も威力は変わらない」
126 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:36:02.10 ID:SmiYyykK0
宿屋の娘「それはどうしてかな?」

門番「サラマンダーの尾も、火の精霊像も火炎魔法を使うための条件をクリアーしてるからだよ。ただサラマンダーの尾を使うよりは、精霊像という優れたシンボルを使った方が魔法の難易度は下がるけどね」

宿屋の娘「魔法がそこまで上手くない修道女が、魔法で掃除という芸当をこなせるのも、精霊像という優れたシンボルが魔法の難易度を下げているからだね?」

門番「そういう事、逆に一流の魔法使いは『自分の体温』なんかをシンボルにして火炎魔法を使うんだ」

宿屋の娘「そこまでくると、シンボルいらずだね」

門番「もちろん、全ての魔法がそんな風に使えるわけじゃないけどね。例えば召喚魔法なんかの難しい魔法は一流の魔法使いでも、シンボルが必要になるから」

門番「って、ごめん。なんだか話しすぎたね」

宿屋の娘「いや、かまわないよ。それより、なんだか外が騒がしいね」

門番「たしかに。何かあったのかな? ちょっと聞いてくるよ」
127 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:36:52.52 ID:SmiYyykK0
同時刻、王城前にて

門番「この辺りに人が集まってきているみたいだ」

市民A「いやあ、やっぱり流石だよなあ」

市民B「俺は最初から信じてたけどよ」

門番「あ、すいません。何かあったんですか?」

市民A「ああ、そうだよ。あの川辺に魔物が出るって話、知ってるだろ?」

門番「ええ、近々、王城から兵を出して討伐予定ですけど」

市民B「それが旅人が倒しちまったんだってよ。魔法省の入る予定の有望株の魔法使いが1人でな」

市民A「しかも、その魔物がドレイクだったらしいぜ。襲われでもしたら大惨事だぜ」

門番「ドレイク!? あの強力な魔物がなんで、こんな人里近くに? しかもそれを倒した魔法使いがいるなんて」

市民A「なんでも魔法省大臣の息子なんだとさ。やっぱり血統が違うのかね」

市民B「最近は汚職問題で魔法省もダメかと思ってたが、やっぱり本物はやるもんだねえ」

市民A「おう、見直したよ」

門番(ドレイク討伐にはかなりの技量を持ったパーティが必要になる。それを単独でこなすなんて、とんでもない魔法使いがいるもんだなあ)

128 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:37:21.27 ID:SmiYyykK0
宿屋、食堂部にて

門番「娘、聞いてきたよ。あのね」

宿屋の娘「知ってる。あそこでバカ騒ぎしてる男から聞いたよ」

魔法使い「はっはー! もっとボクを敬うがいいさ! あの、ドレイクを倒したんだからね!」

市民C「すげー! さすが魔法省大臣の息子だ」

魔法使い「そう! 将来の魔法省を担う、このボクの炎がドレイクを焼き尽くしたのさ」

市民D「すごい、かっこいい!!」

ワーワーコンヤハエンカイダー

門番「なにあれ?」

宿屋の娘「ドレイクを倒した例の魔法使いだよ。そこらの人間を引き連れて、やってきてあんな感じで飲み食いを始めたんだ」

門番「なんで、ここに?」

宿屋の娘「うちに泊まっていた客、どうやら魔法省の人間だったみたいでね。向こうでバカ騒ぎしてる彼と一緒に戻ってきてね、金と彼を置いて、一足先に帰って行ったよ」

門番「魔法省の? じゃあ、やっぱり魔法使いだったんだ」

宿屋の娘「そうだね。宿泊費と飲食費を引いてもお釣りがくるほど、払って行ってくれたから、私としてはありがたいよ」
129 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:38:12.22 ID:SmiYyykK0
門番「でも、あれがドレイクを1人で倒した魔法使いか、見えないなあ」

宿屋の娘「同感だね。あまり強そうには見えない」

門番「ちょっと話を聞いてくるよ」

宿屋の娘「うん、そうしなよ」

門番「あの? ちょっといいですか」

魔法使い「なんだい! なんでも聞きたまえよ、このボクに!」

門番「あ、はい。どんな魔法を使ってドレイクを1人で倒したんですか?」
130 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:38:41.30 ID:SmiYyykK0
魔法使い「簡単さ。ボクの一等級火炎魔法で、一撃だよ!」

門番「え、それだけですか? 魔法でドレイクの翼を通じるとこ、肉体補助とか」

魔法使い「ボクは火炎魔法意外の魔法を使わない! 必要ないからだ!」

門番「じゃあ本当に火炎魔法だけでドレイクを?」

魔法使い「そう、ボクの美しい炎がドレイクを焼き尽くしたのさ!」

門番(確かに一種類の魔法しか使えない代わりに、その魔法に特化したタイプの異才型の魔法使いは稀にいる。それに風属性のドレイクは炎に弱い)

門番「わかりました。ありがとうございます」

魔法使い「もう良いのかい? なんでも聞いてくれよ!」


宿屋の娘「全部聞こえてたよ。声が大きいからね」

門番「一種類の魔法に特化した天才は確かにいるから、ありえない話じゃないよ」

宿屋の娘「うん、そうだね。どちらにせよ、ドレイクが倒された事実は変わらないよ」

宿屋の娘(ドレイク、ね)
131 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:39:12.85 ID:SmiYyykK0
翌日、土曜日、王城前にて

門番「ああ、今日も仕事だ。って、あれ? なんか騒がしいな」

市民A「おお、昨日の兄ちゃんか」

門番「どうかしました?」

市民B「ああ、また魔法省がやらかしたぜ」

市民A「昨日、見直したところだってのにさ」

門番「今度は何をしたんですか?」

市民A「魔道学院の不正入試に関わってたらしいぜ」

市民B「なんでも役人の親族を裏金でねじ込んでたとか。自分たちだけじゃなく、子供の立場まで金で買いやがるんだよ」

門番「そんな……魔道学院が不正入試なんて」

市民A「昨日の大臣の息子だってわかんねえぞ、これは」

市民B「いやいや、あれは本物だ。ドレイクをやっつけちまったじゃないか」

門番(魔道学院、僕が入るはずだった学校だ。もう僕には関係ないけど……ショックだ)

門番「仕事前なのに、テンションさがるなあ」

門番「今日は仕事が終わったら帰って、すぐ寝よう。元気の無い顔を娘に見せたくないから」
132 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:39:51.64 ID:SmiYyykK0
翌日、日曜日、宿屋にて

門番「た、大変だ!」

修道女「大変よ!」

宿屋の娘「どうしたんだい、二人とも」

門番&修道女「精霊像が」

門番「盗まれた」

修道女「返ってきた!」

門番「へ?」

修道女「は?」

宿屋の娘「話を聞こうか。修道女の方からね」

修道所「精霊像が返ってたのよ。今日、日曜日だから礼拝があったんだけど、精霊像が無いからどうしようと思って、ふと祭具室を見たら」

修道女「精霊像が戻ってきていたの。前に探したときは無かったのに」

宿屋の娘「へえ? 消えて物が戻る事件が最近の流行なのかな?」

修道女「なんの話よ?」
133 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:40:50.36 ID:SmiYyykK0
門番「いや、前にちょっと」

宿屋の娘「で君の方は?」

門番「ああ、うん。南教会から盗まれたんだよ、火の精霊像が!」

修道女「ええ!?」

宿屋の娘「ふむ、今度は火か」

修道女「風と水が戻ってきたのに、火が盗まれるなんて」

宿屋の娘「でも、おかしいね。東教会、北教会が被害にあっているんだ。教会の人だって、警戒していたんじゃないのかい?」

門番「うん、それが他の盗難と違うところなんだけど。教会の人達も入り口には注意していたんだけどね」

門番「犯人は入り口とは反対の壁に穴を空けて、そこから入って精霊像を盗んだみたいなんだ」

修道女「壁に穴なんか空けられたら、逆に気付きそうなもんだけど」

門番「どうやら木造部を燃やして穴を空けたみたいだね。それなら音はたたないから」
134 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:41:21.73 ID:SmiYyykK0
修道女「でも、この流れだと次は西教会の土の精霊像が盗まれるのかな」

門番「かもしれないね。4つある内の3つを盗んだなら、最後までいく可能性はある」

門番「それにしても次々と精霊像が盗むなんて、犯人は何をしたいんだろう? しかも風と水は返してくれたみたいだし」

門番「なるほど、わからん」

宿屋の娘「私はわかった。聞きたいかい? この事件の真相をね」


ネクストコナンズヒント〜! 『魔法省』
135 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:42:35.59 ID:SmiYyykK0
というわけで3話前半でした。

以下、簡易タイムチャート
日曜日 礼拝 精霊像確認
月曜日
火曜日
136 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/03/21(月) 07:46:54.90 ID:SmiYyykK0
途中で書き込んでしまった。


以下、簡易タイムチャート
日曜日 礼拝で精霊像確認
月曜日
火曜日
水曜日 魔法使いが役人を訪ねる
木曜日 風の精霊像の消失発覚
金曜日 水の精霊像の消失発覚 ドレイク討伐
土曜日 魔法省による魔道学院の不正入試の関与が発覚
日曜日 礼拝時に風、水の精霊像の返却が確認 火の精霊像の消失発覚


というわけで後半は近いうちに。
お付き合いありがとうございました。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/21(月) 15:13:38.80 ID:5M9IKJhSO
俺も軽くいじめられたいぞ!
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/03/21(月) 22:01:26.79 ID:hmed4COAO


>>83
亀失礼。俺のいうアリスは神様のメモ帳ってラノベのアリスです。
では、これからも楽しみにさせてもらいます
139 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:33:12.87 ID:Xq62fCBz0
時間があいてしまったけど、後半投下します。
140 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:35:35.86 ID:Xq62fCBz0
門番「本当に!? やっぱり、次は土の精霊像が盗まれるってこと?」

修道女「それなら、今からでも西教会に警備をつければ良いんじゃない」

宿屋の娘「その必要は無いよ。土の精霊像が盗まれることは無いよ」

門番「でも、これまでに4つの精霊像の内、風、水、火の3つが盗まれてるんだよ?」

宿屋の娘「だけど土は盗まれない。それよりも君には別にやるべき事があるんだ」

門番「やるべき事?」

宿屋の娘「そうだね君……もしもの事もあるし、あの魔法使いはあまり信用ならないからね」

門番「魔法使いってあのドレイクを倒した魔法使い?」

修道女「ああ、私も話を聞いたよ、それ。 魔法省大臣の息子って話じゃない」

門番「魔法使いが信用ならないって、じゃあこの事件には彼が関係しているってことかい?」

宿屋の娘「うん、そうなるね」
141 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:36:07.03 ID:Xq62fCBz0
修道女「わかった! その魔法使いが犯人だ」

宿屋の娘「30点。その答えは間違いではなけど、それだけじゃあ不合格だよ」

修道女「間違いじゃないなら、正解でいいじゃないの」

門番「そういうものでもないだろ。でも、そうなると魔法使いの他にも犯人がいるってこと?」

宿屋の娘「そう、この事件の主犯格とも言うべき人物がいるんだよ」

修道女「それは誰? 私の知ってる人?」

宿屋の娘「まあ、落ち着きなよ。その前に事件の整理をしておこう」

宿屋の娘「まず、事件の発端となった水の精霊像が盗まれたのは、日曜日の礼拝終了後から火曜日までの間だね」

門番「ん? ちょっと待って、最初に盗まれたのは修道女のいる東教会の風の精霊像だよ」

宿屋の娘「ちがうよ、君。それはあくまでも盗難が発覚したのが最初だったというだけだよ」

宿屋の娘「盗まれた順番では、水の精霊像の方が先だよ」
142 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:36:51.86 ID:Xq62fCBz0
修道女「ああ、そうか。霊像は普通、礼拝で使った後は保管室で次の日曜日まで保管するのよ」

修道女「日曜日以外に、精霊像を持ち出すことは無いわ。たとえ無くなっても、普通は次の日曜日までは気付かないってわけか」

門番「修道女が魔法で掃除をサボるなんて事をしなければ、発覚はもっと遅くなっていたということか」

修道女「ということは私のおかげで、早期発見につながったって事でしょ? ナイス私じゃない?」

宿屋の娘「ポジティブなのは構わないけどね、現実はむしろその逆だよ。君が掃除をサボろうとしたせいで、話がややこしくなった部分があるね」

門番「どういうこと? 修道女のおかげというのは癪だけど、早期発見に繋がったのは事実じゃないか」

宿屋の娘「この場合はね、発見されなくて良かったんだよ。だって現に、盗まれた精霊像は戻ってきているだろう?」

門番「ああ、そうか! もし、修道女が掃除に精霊像を使うなんて事をしなければ」

宿屋の娘「精霊像は誰にも知られずに盗まれて、誰にも知られずに返却されていただろうね」
143 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:37:36.90 ID:Xq62fCBz0
修道女「ちょっと待ってよ。いくら返したからといって、泥棒は泥棒でしょ。それも神聖なる精霊像を盗んだのよ」

修道女「私が見つけなかったら、罪を裁く機会が永遠に失われてたところじゃないの」

門番「その通りなんだけど、神聖なる精霊像を掃除の道具にしようとした人間が言うことじゃないだろ」

宿屋の娘「まあ、修道女の素行は置いておくとして、確かに正論だね。……罪は裁かれなければならないか。うん、正論だ」

門番「娘、どうかした?」

宿屋の娘「いや、気にしないで。続けようか」

宿屋の娘「最初に盗まれたのが水の精霊像、という話だったね」

宿屋の娘「ここでポイントとなるのは、精霊像事件とは別の騒動だよ」

修道女「別の騒動?」

門番「それってドレイクが出て、魔法使いが退治したっていうあれ?」

宿屋の娘「それじゃない。川辺付近に魔物が出た、という騒動だ」

門番「それって同じじゃないか? 川辺付近に出たドレイクを、魔法使いが倒したんだろう」

宿屋の娘「いいや、違うね。基本的に、ドレイクは川辺に生息する魔物じゃない。山や谷に生息する魔物だよ」

門番「!?」
144 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:38:09.03 ID:Xq62fCBz0
宿屋の娘「第一、川辺には遮蔽物が少ない。もし仮に、空を飛ぶドレイクが川辺に出たなら、その姿はもっと目撃されて、具体的な証言となっているはずだ」

宿屋の娘「川辺にドレイクが出たぞ、という具合にね」

門番「たしかに、そうだ。でも実際に聞いた証言は、水辺に魔物がいたという曖昧なものだった」

修道女「私も聞いたけど、たしかにドレイクだったなんて話は聞かなかったわね」

門番「でも、魔法使いがドレイクを倒したのは確かだよ。証人もいる」

宿屋の娘「この付近に魔物は少なくとも1体じゃなかった。ドレイクとは別に、水属性の魔物がいたはずだ」

門番「水属性の魔物? 川辺にいたから」

宿屋の娘「正確には水属性の魔物だから、川辺にいたんだ。いや、川辺に放したんだ」

宿屋の娘「水の精霊石を使って、召喚した魔物をね」

門番&修道女「!?」

修道女「ちょっと、どうしてそんな事がわかるのよ!」

門番「いや、待って。でも、たしかに精霊像なら召喚魔法という高度な魔法を使うシンボルになる」

門番「水の精霊像を使えば、水属性の魔物を召喚することが出来るのは本当だ」

宿屋の娘「そう、それが精霊像が盗まれ、そして返された理由だよ」
145 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:38:48.84 ID:Xq62fCBz0
宿屋の娘「金銭のために盗んだなら、売り払うだろうし、魔法のためになら持っておくだろうね。だけど、犯人はそうしなかった」

宿屋の娘「ただ一度だけ、召喚魔法が使えればよかったんだ」
宿屋の娘「ところで君……召喚魔法の使用に耐えるシンボルというのはどれくらい貴重なものなんだい?」

門番「召喚魔法はそれ自体が非常に高度な魔法だけど、それ以上に使用のためのシンボル
が数少ないことで有名なんだよ」

門番「それこそ、精霊像のような特別なアイテムじゃないと無理だよ。魔法省の所蔵物の中でもわずかだし、それも多くが博物館なんかで展示されてる様な物ばかりさ」

宿屋の娘「ということは一般の魔法使いが、用意できるものではないということだね」

門番「うん。そもそも召喚魔法自体、使いどころが少ない魔法だから必要ともされないのが現実だけど」

修道女「じゃあ、犯人はわざわざ魔物を召喚して野に放つたけだけに精霊像を盗んだってこと? で、使った後はバレないうちに返すつもりだった、と」

宿屋の娘「うん、それが犯人の目的だね」

門番「一体、なんのために? 犯人は誰なんだい?」

宿屋の娘「今から数日前、ある人物がこの街を訪れて、うちの宿に泊まった。君に話したね」

宿屋の娘「彼が水の精霊像を盗んだ犯人だ」
146 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:39:20.89 ID:Xq62fCBz0
門番「あの魔法使いかもしれないっていう? じゃあ、やっぱり魔法使いだったんだね」

宿屋の娘「ああ、後に魔法省の役人だってことがわかってね。私の予想は正しかったよ」

修道女「ちょっと、私にも分かりやすく説明してよ!」

宿屋の娘「じゃあ、時系列順に説明しようか。始まりは数ヶ月前、魔法省の汚職事件からだよ」

修道女「汚職事件? それが関係してるの?」

宿屋の娘「原因をさかのぼればね。まあ詳しくは君たちも知っての通りで、その結果、日に日に魔法省に対する国民の信頼は下がりつつある」

門番「祭典中に汚職役人を捕まえちゃったしね」

宿屋の娘「案外、それが事件の引き金だったのかもね。まあ、そんな中で魔法省の、おそらくは大臣か、それに近い人間が人気回復の作戦を考えたんだ」

宿屋の娘「役人Bはそのために、この街を訪れたんだよ。この王城に付近の街をね」

修道女「それが魔物を野に放つこと? それって逆じゃない。そんな事が国民に知れたら」

宿屋の娘「まあ、聞きなよ。その作戦のためには召喚魔法が必要だったけど、そのためのシンボルは持ち出せなかった」

宿屋の娘「それが秘密裏の作戦で、後ろめたい、人に知られる訳にいかない作戦だからね。博物館に展示されているような、貴重品を持ち出すわけにもいかなかった」

門番「だから、精霊像を盗んだんだね」

宿屋の娘「うん、精霊像を盗むこと自体はそれほど難しいことじゃなかったろうね。なんせ正真正銘、本物の魔法省役人である役人Bだから」

宿屋の娘「転移呪文なんかも仕えただろうし、そもそも教会には東西南北の教会には、それほどの警備がない。精霊像という貴重品を管理してるんだから、もう少し気をつけるべきじゃないかな」
147 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:39:58.19 ID:Xq62fCBz0
修道女「たしかに、私が掃除のために一々持ちだせるくらいだからね。身内や、一流の魔法使いが盗もうとしたら簡単に盗めるよ」

宿屋の娘「実際、盗んだんだ。北教会の水の精霊像を選んだ理由は特に無かったんだろうね。しいて言うなら、私の内、宿屋から最も近いのが北教会だからかな」

門番「召喚魔法で魔物を呼ばれば、属性は何でも良かったんだね」

宿屋の娘「そのはずだったよ。だけど、役人Bは知らなかったんだ。魔法省大臣の息子である魔法使いが、炎魔法の専門家であることを」

宿屋の娘「魔法省の作戦はこうだった。まず役人がいずれかの精霊像を召喚魔法で魔物を呼び、野に放つ」

宿屋の娘「それを、魔法省大臣の息子であり、これからの魔法省を背負うであろう魔法使いが討伐するんだ。人々は思うだろうね。やっぱり魔法省はすごい。これからの魔法省は実力を持った若者がいるから安泰だ、ってね」

門番「そんな……そんな事を魔法省が?」

修道女「ひどい自作自演ねえ。自分たち魔物呼んできて、退治してって。ほら凄いだろって」

宿屋の娘「退治された魔物もたまらないね。そうやって、次の日曜日までに精霊像を返して、証拠隠滅。精霊像が盗まれた事自体、気付かれないから、召喚魔法なんて考えも及ばないはずだった」

修道女「私のおかげで、目論見を打ち砕かれたけどね」

宿屋の娘「そういう事にしておこう。ただ、ここで手違いがあった。わかるかな、君」

門番「魔法使いさん、彼が炎魔法の専門家だった。水属性の魔物とは分が悪いってことだろう?」

宿屋の娘「さすがだね。役人Bは魔法使いとは初対面だったんだよ。彼らの会話を実際に聞いたから、これは確かだ。彼は魔法使いが炎魔法しか使えないことを知らなかったんだ。」
148 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:40:27.89 ID:Xq62fCBz0
宿屋の娘「レベルに圧倒的な差があれば、それでも問題は無いはずなんだけど、魔法使いが大したレベルではないのか、あるいは万が一を想定したのか。いずれにせよ、役人Bは別の魔物を用意することにした」

宿屋の娘「多分、そのときに水の魔物は処分されたんだろうね。勝手な話だよ。まあ、いいか。そうして役人Bは別の精霊像を盗むことにした」

修道女「我が教会の風の精霊像ってわけね」

門番「炎属性は風属性に強いんだ。だから、風を選んだというわけかあ」

宿屋の娘「そして、風属性のドレイクを召喚して、魔法使いに討たせた。話を聞いた感じだと、ドレイク自体が召喚魔法の影響下にあったんだろうね。彼は制限された力のドレイクを難なく倒して、英雄になったはずだった」

修道女「だった? 実際、英雄視されてたじゃないの」

宿屋の娘「役人Bもそう思ったろうね。だから彼は、精霊像を戻して街を離れた。全てが上手くいったと思ってね」

修道女「精霊像を盗んだのはバレてるけどね」

門番「いや、精霊像盗難事件は一般にまだ知らされてないよ。教会関係者しか知らないはずだ」

宿屋の娘「加えて、役人Bはあまり外出している様子は無かった。目立つ行動をさけたかったんだろう。もしかすると魔法使いである事も隠していたのかもね。私に見破られてはいたけど」

宿屋の娘「しかし、盗難発覚の他にも問題が起こった。魔法使いが英雄になり、役人Bが街を離れた翌日だ」
149 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:40:55.89 ID:Xq62fCBz0
門番「魔法省の魔道学院入試の不正関与が発覚したんだ! それでまた、魔法省の立場が悪くなった。魔法使いも、不正が疑われてたし」

宿屋の娘「発覚のタイミングが彼らからすれば最悪だった。おかげで作戦が水の泡だ」

修道女「私からするとざまあ見ろって感じだけどね。天罰よ、天罰。神様とか信じてないけど」

門番「おいおい、問題発言だよ。それは」

宿屋の娘「問題といえば、実はまだ問題があってね」

門番「?」

宿屋の娘「さて、どうして作戦が終わったに、火の精霊像が盗まれたんだろうか。なぜ、土ではなく、火なのか」

修道女「火と言えば、南教会は木造部を燃やして、穴が空けられて、そこから精霊像が盗まれたのよね……もしかして!?」

宿屋の娘「わかったかい? そう、他の教会から精霊像を盗んだのは優秀な魔法使いである役人Bだ。転移魔法を使えば、警備など問題にならない」

門番「そうか! 盗難に注意して、南教会の警備も厳重になっている。そんな中から役人B以外の、炎魔法の専門家が精霊像を盗むためには、強引な手段に出るしかなかった」

門番「炎の精霊像を盗んだのは、魔法使いなんだ! また召喚魔法を使って、魔物を呼ぶために」

宿屋の娘「だから、炎の精霊像なんだよ。彼は炎魔法の専門家だから」
150 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:41:44.30 ID:Xq62fCBz0
修道女「でも、そんな事して意味があるのかな? また魔物を倒したからって、スキャンダルが消えるわけじゃないだろうし。むしろ、わざとらしくて疑われるんじゃ?」

宿屋の娘「そこが問題だ。つまり、この場合の問題というのはね」

宿屋の娘「魔法使いがバカだってことなんだよ」

門番「バカってそんな、ストレートに言いすぎだよ」

宿屋の娘「いいや、バカだね。彼は、もう一度魔物を倒せば、また英雄になれるなんて考えているはずだ。少なくとも私はそう推理する」

門番「そうか。娘が推理するなら、彼はバカなんだろうね」

修道女「あんたもバカだけどね、娘バカ」

門番「ちゃかすなよ。って、待てよ。という事は、魔法使いは今まさに魔物を呼ぼうとしているってことか」

宿屋の娘「だろうね。さて、そのバカの魔法使いなんだけど、本当にちゃんと召喚魔法が使えるのかい? 使えたとしても、呼んだ魔物をちゃんと制御できるのかい? そもそも炎の魔物をどこに呼ぶつもりなのかな」

修道女「街中や森なんかで呼ばれたら大惨事ね。いや、でもそこまでバカじゃないでしょ」

門番「……でも、言われて見れば、バカそうだったけど」

宿屋の娘「言われなくともバカそうだったね。で、君のやるべき事は?」

門番「この事を上司に知らせないと!? バカがバカやらかしそうだって。ありがとう娘、また来るよ!」


151 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:42:42.34 ID:Xq62fCBz0



修道女「行っちゃったね」

宿屋の娘「ああ、行ってしまった」

修道女「……しかし、相変わらず何でもお見通しなんだね、娘は。お見それしました」

宿屋の娘「何でもじゃあないよ。分からないこともある」

修道女「本当に? 例えば?」

宿屋の娘「完全に分かることのほうが少ないくらい」

修道女「門番のことは」

宿屋の娘「それはわかる」

修道女「本当、相変わらず。ねえ、私のことは?」

宿屋の娘「……秘密なんだよね。だから言わないよ」

修道女「あちゃあ、バレてるか。やっぱり」

宿屋の娘「気付いてるのは私だけだよ」

修道女「じゃあ、いいよ。あんただけなら、大丈夫だ」
152 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:43:15.59 ID:Xq62fCBz0
その夜、宿屋にて

宿屋の娘「どうやら、お疲れのようだね」

門番「うん、あの後、大変だったよ」

宿屋の娘「話してみなよ。聞いてあげるから」

門番「あの後、娘に教えてもらった真相を上司に伝えて、王城兵で魔法使いを探したんだ」

門番「街中を探しても見つからなくて、最初の魔物の発見報告があった川辺にいったら、魔法使いを見つけたんだ」

宿屋の娘「召喚魔法は?」

門番「ちょうど、魔物が召喚されたところだった。しかも制御しきれずに暴走気味でね、死ぬかと思ったよ」

宿屋の娘「よく無事だったね君……どうやって魔物を倒したんだい?」

門番「いや、僕が倒したわけじゃなくて。なんとか逃げ回ってたら、上司がやって来て、ズバっと」

153 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:43:51.05 ID:Xq62fCBz0
宿屋の娘「ああ、なるほど。たしか、あの人は戦中に活躍していたんだったね」

門番「うん、すごい腕前だったよ。僕はまだまだだよ」

宿屋の娘「そうだね、まだまだよ」

門番「そこは、そんな事ないよ、って言って欲しかった」

宿屋の娘「知ってるよ。君の事は全部」

門番「///」

宿屋の娘「あえて意地悪してみたんだ」

門番(どうしよう、ちょっと嬉しい)

門番「でも僕も、娘のことは知ってるよ。全部とは言えないかもしれないけど」

宿屋の娘「ふふ、そんな事ないよ」

宿屋の娘「女の子は秘密が多いものさ」
154 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/05(火) 06:44:24.23 ID:Xq62fCBz0
『なぜ、聖霊像は盗まれたのか?』 A.魔法省の陰謀です。

おわり
155 : ◆T4kE1oY42E :2011/04/05(火) 06:48:39.76 ID:Xq62fCBz0
アガサ・クリスティのABCをファンタジー風にアレンジしたかった。したかった。
門番と魔法使いとの戦いは次回にちょっと描写します。
全6話予定だったから、これで半分のはずなんだけど1、2話増えるかもしれない。
番外編も増えるかもしれない。

それではお付き合いありがとうございました。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 08:02:02.74 ID:MgURAW5DO
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/05(火) 13:09:54.46 ID:XVJQRtVro

魔法絡めた推理物って成立させるの難しそうだけどがんばってね
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 14:20:23.96 ID:foBloT/IO

こういうの好きだ

ただsaga入れようぜ
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) :2011/04/05(火) 17:46:43.60 ID:GP/MvA0t0

面白いなこれ
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/04/06(水) 22:53:17.96 ID:PI8foGnAO
お気に入りのSSだ
オリジナルは伸びにくいけどがんばってくれ
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/07(木) 18:02:43.10 ID:f3MPGwe2o
生活が見えるようだ。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/04/20(水) 13:37:07.54 ID:mPB2umU1o
再開はまだか?
163 : ◆T4kE1oY42E :2011/04/20(水) 20:11:32.13 ID:z2vWEIiAO
間が開いてすまない
週末に更新を予定しています
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/20(水) 21:34:46.64 ID:T4wotEKDO
キター
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/04/20(水) 23:07:10.04 ID:mPB2umU1o
週末はまだかー
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/04/25(月) 06:02:07.81 ID:RBo8QhjIo
そして新たな週が始まった
167 : ◆T4kE1oY42E :2011/04/25(月) 09:51:06.00 ID:/ou498Ij0
間違えて書いた分を消してしまってテンションダウンしてた。ごめん
まだ全部書いてないんだけど、少しずつ低下していくことにします。
あと戦闘シーン書くとか言ってたけど無かったことにしてください。
168 : ◆T4kE1oY42E :2011/04/25(月) 09:51:37.11 ID:/ou498Ij0
門番「いくらなんでも、こんな絵だけじゃあ娘でも無理だよなあ」

門番「そもそも考えたって、わかるもんじゃないんだけど」

門番「立場上、断るわけにもいかないし」

門番「ああ、でも娘に昇進のことも言わないといけないんだ」

門番「ああ、どうすればいいんだろうか………うーん」

門番「なるほど、わからん」

第四話『お皿の中身は何か?』
169 : ◆T4kE1oY42E :2011/04/25(月) 09:52:20.61 ID:/ou498Ij0
聖像盗難事件から数日後、王城にて、事件解決の報告中

門番「この一連の事件は、魔法省によるイメージ回復のための自作自演です」

門番「一流の魔法使いにとって無いも同然の警備しかなかった各教会から、精霊像を盗み、それをシンボルとして召喚術を魔物を呼ぶ。」

門番「そして呼んだ魔物を、魔法省大臣の息子であり、時勢代の魔法省の顔となるであれおう魔法使いに倒させる。そうやって、新しい魔法省が強く頼りになることをアピールしようとしました」

門番「実際に魔物を呼び、魔法使いをサポートした魔法省の役人についてはただいま調査中です」

門番「この作戦は途中までは上手く行ったのですが、その翌日に例の不正入学の問題が明らかになってしまい、またも魔法省のイメージは悪化」

門番「もう一度、魔物を倒せばイメージ回復が出来ると考えた魔法使いは、サポートなしで単独で精霊像を盗み、魔物の召喚を試みましたが失敗し、呼んだ魔物が暴走。僕と上司で鎮圧しました」

門番「以上、今回の事件の報告です」

偉い人「ふむ、ご苦労。この事件の真相を見破ったのも君だったね」

門番「はい、そうです」
170 : ◆T4kE1oY42E :2011/04/25(月) 09:52:53.62 ID:/ou498Ij0
門番(本当は僕じゃないんだけど、娘には口止めされてるんだよな。ちょっと罪悪感が)

偉い人「その若さで大した推理力だ。これはお手柄だよ、君」

門番「はい、ありがとうございます」

偉い人「今は門番職だったね?」

門番「はい」

偉い人「ふむ、わかった。近々、昇進させるように上司に行っておこう」

門番「え、僕がですか?」

偉い人「それくらい当然のお手柄だよ。喜びたまえ」

門番「はい、ありがとうございます!」

偉い人「今日はもう下がっていいよ。近々、正式な知らせが届くだろう」

門番「わかりました。失礼します」

門番(どうしよう、昇進は嬉しいんだけど、僕の手柄じゃないんだよなあ。娘になんて言おうか)
171 : ◆T4kE1oY42E :2011/04/25(月) 09:53:24.82 ID:/ou498Ij0
偉い人「ああ、そうだ。君、少し聞きたいんだが」

門番「はい、なんでしょうか?」

偉い人「そうかしこまらなくていい。この絵を見てくれ」

門番「はい? 食事中の絵、ですか?」

偉い人「そうだ」

門番「ずいぶん痛んだ絵ですね。特にお皿の中身が箇所は損傷が激しすぎて、何を食べてるのかもわかりません」

偉い人「ふむ、やはりそうか」

門番「やはり、というのと?」

偉い人「実はこの絵に描かれているのは、私の妻でな。異国の地での留学中に、食事風景を描かせたものらしい」

門番「はあ」
172 : ◆T4kE1oY42E :2011/04/25(月) 09:53:51.70 ID:/ou498Ij0
偉い人「数年前、まだこの絵がちゃんと見れるものだったときに妻とこの絵を見ていてね。この時に食べたものがとても美味しかった、もう一度食べたいと言っていたんだ」

門番「ということは、最初からこんな状態ではなかったんですね」

偉い人「うむ。もうじき結婚記念日なのだが、そのときの話をふと思い出してな。この絵の料理を作らせて、妻を驚かせようと思ってな。倉庫から、この絵を探してきたら」

門番「この有様、というわけですか」

偉い人「そうなんだ。君、やはりわからんか?」

門番「うーん、この状態じゃちょっと無理ですね。でも、その話だと一度は完全な状態のこの絵を見られているわけですよね?」

偉い人「そうなんだが、肝心の皿の中身が一向に思いだせんのだ」

偉い人「だからこそ精霊像盗難事件を解決した、君の頭脳を見込んで頼みたい。この皿の中身をどうか調べてくれないか?」

門番「はい? でもこの絵を見ても分かりませんよ」

偉い人「そこをなんとか考えてくれ。どうしても妻を驚かせたいんだ」
173 : ◆T4kE1oY42E :2011/04/25(月) 10:06:34.87 ID:/ou498Ij0
門番「わかりました。出来る限りの努力はします」

偉い人「ありがとう。頼んだよ」

宿屋にて

門番「という事があったんだけど」

宿屋の娘「なるほどね。で?」

門番「いや、それで、ですね」

宿屋の娘「それで?」

門番「できれば、娘に考えてもらいたいんだけど」

宿屋の娘「ふうん。ときに君、昇進おめでとう」

門番「ありがとう。嬉しいよ」

宿屋の娘「そうだね、君。私も君の昇進の手助けが出来て嬉しいよ」
174 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/25(月) 10:07:27.21 ID:/ou498Ij0
門番「うん、娘のおかげだよ」

宿屋の娘「私のおかげ、か。まあ、いいさ。他ならぬ君の頼みだったしね。」

門番「今回の件は娘の功績を横取りしたみたいで、正直言って気が引けてるんだけど。でも娘は自分の事を黙っていて欲しいっていうし」

宿屋の娘「色々と面倒になるだろう。面倒なのは君と修道女くらいで十分だよ」

門番「面目ない」

宿屋の娘「じゃあ、そんな君の罪悪感を少しだけ軽くしてあげるよ」

門番「?」

宿屋の娘「私へのプレゼントを用意しておくように」

門番「うん、どのみち娘には何かお礼の品を用意しようと思っていたんだ」

宿屋の娘「うん、それは知ってたけどね。君のことだから」
175 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/25(月) 10:11:09.99 ID:/ou498Ij0
門番「で、この絵のことなんだけど」

宿屋の娘「………そうだね。正直、今はわからないよ」

門番「だよね、こんな絵だけじゃあ」

宿屋の娘「今は、ね」

門番「という事はわかるの!?」

宿屋の娘「さあ、でも考えてみるとするよ」

宿屋の娘「君だって気になるんだろう? この皿の中身がさ」

門番「うん、気になる。気になってる。だから、僕は知りたいんだ」

宿屋の娘「なら考えてあげよう。私がこの謎をといてあげるよ」
176 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/04/25(月) 10:13:27.65 ID:/ou498Ij0
今日はここまで
今までと少し違う構成なので、前中後の三部構成になると思います。
明日か、明後日には続きを投下します。

それではお付き合いおねがいします。
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/04/25(月) 10:59:00.37 ID:RBo8QhjIo
きてたー。

178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/06(金) 14:51:58.13 ID:PD4FoXvWo
時間ないのかね
179 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/05/13(金) 00:38:11.47 ID:5zCwx05I0
門番「ありがとう! 娘が引き受けたくれたからには僕は安心だよ」

宿屋の娘「だけど、これは考えるだけでどうにかなる類のものでも無さそうだからね。君にもしっかりと動いてもらうよ」

門番「と言うと?」

宿屋の娘「色々と調べることがありそうだからね、役割分担だよ。君が調べて、私が考える。お互いに得意分野だろう?」

門番「なるほど、娘との共同作業か。俄然やる気が出てきたよ」

宿屋の娘「うん、それなりに期待してるよ」

門番「任せてよ。で、何を調べれば?」

宿屋の娘「それについて、まずは絵をもう一度、確認してからにしよう」

門番「だけど、こんな痛んだ絵から細部のことがよく分からないと思うんだけど」

宿屋の娘「細部が不確かでも、そこから分かる事はあるものだよ」

門番「例えば?」
180 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/05/13(金) 00:39:14.03 ID:5zCwx05I0
宿屋の娘「まず、この絵のサイズ。一般家庭でちょっとお洒落に飾っておくには少し大きいね。私はあまり見たことは無いけれど、お城や美術館なんかに飾られているような感じの大きさだね」

門番「うん、油絵なんかを描くときの標準的なキャンバスのサイズじゃないかな。たしかに損傷が無ければ、美術館とかに飾ってあってもおかしくなかったかも」

宿屋の娘「ふむ、こんな絵を書かせるくらいだからその偉い人の妻という人物はそれなりの権力を持っているんだろうね?」

門番「僕も詳しくは知らないけれど、たしか王族の血縁者だったはずだよ。どの程度の近縁なのかはちょっと分からないね」

宿屋の娘「なるほど。となると、この絵の損傷についてだけど少し不自然に見えるね」

門番「不自然?」

宿屋の娘「立派な絵であったはずにも、関わらず損傷が激しすぎる。キャンバス全体を掻き毟ったみたいにボロボロになってるじゃないか」

門番「たしかに。それに引っかき傷みたいのがちょうど全体に行き渡ってるね」

宿屋の娘「人為的なものを感じるね。まるで、細部さえ分からなくなれば良かったといった感じだ。」

門番「という事は誰かが、この絵を傷つけたってこと?」

宿屋の娘「そうかもしれない、というだけだよ。案外、猫が爪とぎに使ってただけかもしれないしね」
181 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/05/13(金) 00:39:48.34 ID:5zCwx05I0
門番「そうだけど、いくらなんでも猫説はないでしょ?」

宿屋の娘「まあ、損傷の理由は置いておこうか。次に絵の内容についてだ」

門番「食事中の絵というのがかろうじて分かる程度だと思うけど?」

宿屋の娘「それだけじゃないよ。まず絵の中央には長テーブルが置かれている。食事している人間の数は、えっと5人かな」

門番「5人? 7人の間違いじゃない?」

宿屋の娘「食事の席についていない、人間が後ろに二人描かれているね。この二人はおそらく見張りか何かだよ。他の人間に比べて、あまりに直立不動すぎるし、服の色がこの二人だけ違う」

門番「ん? 傷だらけでよく分からないけど、言われて見ればずいぶんきっちり立ってるように見えるし、たしかに服装の色が違うね。座っている人はみんな青系の服を着てるけど、この立っている二人は黒い服だ」

宿屋の娘「王族関係者くらいになると食事中に見張りがいても不思議ではないだろうね。あと、食事中の人間の服の色が同じというのも気になるところだね」
182 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/05/13(金) 00:40:39.09 ID:5zCwx05I0
門番「たまたま着ていった服が同じだった、とかじゃないの?」

宿屋の娘「もちろんその可能性もあるんだろうけど、本気で言ってないだろうね、君?」

門番「え? 本気だったんだけど」

宿屋の娘「……はあ、まあいいよ。君、お葬式に行くときは何色の服を着ていく?」

門番「お葬式? そりゃあ、黒だよ」

宿屋の娘「なぜだい?」

門番「だって、そういう習慣だし、マナーだからさ。 あ、そうか!」

宿屋の娘「そう。つまり、件の婦人が留学した国では青い服を着る決まりのある行事があるのかもしれない。これは、その行事の際の食事風景、という推測が立つ」

門番「そういう習慣のある国を探せば、留学先の国もわかるんだね」

宿屋の娘「それだけじゃないよ。もし、その行事が掴めれば食べていたものも分かるかもしれないね。どこの国にもお祝いの日に食べる定番のものがあるだろうからね。」

門番「すごい! 完全に無理難題だと思ってたのに、なんだか出来る気がしてきた。さすがは娘だよ」

宿屋の娘「まだ手がかりを掴んだだけだよ。青い服を着る行事がある国、なんて調べるもの大変だろうしね」

門番「それでもだよ。早速、調べてくるよ」
183 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/05/13(金) 00:41:16.30 ID:5zCwx05I0
宿屋の娘「少し待って。話は最後まで聞いていきなよ」

門番「え? まだ他にわかったことが?」

宿屋の娘「いや、そうじゃないよ。夫人の留学していたのが、正確に何年前か知りたいんだ」

門番「何年前かが、関係があるの?」

宿屋の娘「あるかもしれないし、ないかもしれない。一応、調べておいてくれないか」

門番「うん、わかった。それじゃあ行ってくるよ。また夕方に来るから!」

宿屋の娘「ああ、待ってるよ。……行ったか」

宿屋の娘「さて、彼が材料を集めてくるまで考えは中断して、客室の布団でも干すとするかな」
184 : ◆T4kE1oY42E :2011/05/13(金) 00:46:21.77 ID:5zCwx05I0
今日はここまで。明日か明後日とか言いながら、3週間も開いてしまった。ごめん。
推理部分に矛盾見つけたり、時間無かったりで正直投げようかとも考えたけど
やっぱり完結させたいんで良ければお付き合いください。

三部構成とかの話は無かったことにして
この話の間は書けた分をちょっとずつ投下していく方式でやっていこうと思います。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/05/13(金) 00:51:58.14 ID:pHkPvEtvo

まってる
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/05/13(金) 01:13:02.39 ID:oQvTucGvo
きてたわー
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/13(金) 02:11:26.27 ID:hhEmw6kqo
おおー復活したか
これ以外のオリジナルSSがあっさり音信不通でHTML化しちゃったから、ここもそうなるかと心配してた
年度跨ぐと色々環境が変わるし、今はあれやこれやで忙しいだろうけど、ゆっくりでもいいから完結させてほしいよ
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 19:43:46.27 ID:aHPgOycUo
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/06/05(日) 13:33:30.45 ID:Axsq8Y1So
upオツ
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/06/08(水) 06:26:33.86 ID:4PqIEw3mo
そろそろ着てもいいころ・・・
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/13(月) 12:35:11.34 ID:Ztou2F0z0
20日までには書きます
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/06/13(月) 12:58:12.76 ID:qA/cFLBWo
まってる
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/06/20(月) 19:39:00.64 ID:D7VQ+G7oo
わたしまーつーわ
194 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/06/21(火) 05:08:49.24 ID:+VOnaEZx0
>>191は自分じゃないです。
でも待ってる人がいるので少しだけ描きました。

今回から「宿屋の娘」の表記を「娘」に変更しました。
195 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/06/21(火) 05:09:31.15 ID:+VOnaEZx0
王城にて

役人「わかりました。偉い人には、そのように伝えておきます」

門番「お願いします。……これでよし、っと


門番「僕が調べる事は2つ。夫人の留学先と留学期間を調べることだ」

門番「どちらも偉い人に直接聞けば解決するんだろうけど、会いたいと言ってすぐ会える相手じゃないからな。こうやって伝言を頼んで、向こうから来るのを待つしかない」

門番「とは言え、ただ待ってるだけってのも味気ない。娘がせっかくやる気を出してるんだしね」

門番「そうだな、留学期間は偉い人にあって直接聞くにしても、留学先くらいは例の青い服関連で見つけられるかもしれないな。あそこに行ってみるか」

王立図書館にて

門番「ここも久しぶりだな。学生の時には、よく来たものだけど」

門番「この本の匂いとか、落ち着くんだよなあ」

門番「おっと、いけない。青い服の着て食事を行う国について調べないと。各国の文化について乗ってる本から探していこうかな」
196 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/06/21(火) 05:10:12.48 ID:+VOnaEZx0
宿屋にて
娘「ふう、これでよしっと。布団を干すにはいい天気で良かったよ」

娘(彼の事だから今頃は図書館、というところかな。悪くない方法だけど、時間はかかりそうだね)

娘「私はその間に、買い物に行くとしようかな。店の食材がいくつか切れていたはずだからね」

市場にて

娘「そこのトマトを3かご、レタスを2玉、あとジャガイモをあるだけ貰おうかな」

八百屋「毎度あり! 少しオマケしといたから」

娘「ありがとう、助かるよ」

八百屋「はい、商品。重いけど、持てるかい?」

娘「大丈夫。こう見えても力は強いんだ」

娘(とは言え、若い娘が大きな荷物を持ってうろうろするのは不自然か。さっさと帰るとしよう)
197 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/06/21(火) 05:10:46.84 ID:+VOnaEZx0
帰宅途中、酒場前にて

娘「ん? 酒場の前に何かもめてるみたいだね。酔っ払いかな」

酔っ払い「わらひはよってまへんー! ふあ……zzz」

酒場の主人「ちょっとお客さん。こんなところで寝ないで。ああ、困ったなあ」

娘「どうか、しましたか?」

酒場の主人「ああ、娘ちゃん。いや、このお客さんが酔っ払っちゃってね」

酔っ払い「よってない、れふ……zzz」

娘「見事な酔っ払いだね。」

酒場の主人「そうなんだ。うちはこの通り、昼真っから営業してるから、こんな酔っ払い自体はしょっちゅうなんだ。普段なら店の中にでも転がしておくとこなんだが」

娘「女性は転がしておくわけにもいかないでしょうね。」

酒場の主人「そうなんだよなあ。見たとこ、身なりも良いし、飲んでる時もどっか世間ずれしてる感じだったから、きっとどっかのお嬢さまだと思うんだよなあ」

娘「お嬢様というよりも、奥様といった年齢のようですけどね。失礼ですけど、こんな店でお酒を飲んで酔っ払いそうには見えないね」

酒場の主人「ああ、うちに来たのも今日が初めてだよ。おかしいとは思ってたんだけど、金払いもいいから、言われるままに酒を出してたらこの様さ。どうしたもんかね」

娘「……わかりました。うちの宿に連れて行きます」
198 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/06/21(火) 05:11:13.68 ID:+VOnaEZx0
酒場の主人「本当かい? 助かるよ」

娘「うちは人を寝かせるのが仕事ですからね」

酒場の主人「ありがてえ。けど、自分で動きそうにないぞ、この奥様」

酔っ払い「zzz」

娘「一旦店に荷物を置いてから、また来ます。それまで起きていれば、それでよし。そうでなければ私がおぶっていきます」

酒場の主人「大丈夫かい? 眠ってる人間ってのは重さが違うぜ?」

娘「こう見えても力はありますから」

娘(たしかに服装からして、上流階級の人間であることは間違いなさそうだね。お金を持っているようだから、寝てる間に勝手に部屋に運んでも宿代は払ってくれるだろうね)

娘(おそらく二日酔いになるだろうから、看護してあげらばチップも望めるし、悪くない)

娘「それでは私は一度、家に戻ります」

酒場の主人「ああ、頼んだよ」

娘(それに、少し修道女に似てる気がする。まさか、ね)
199 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/06/21(火) 05:14:05.80 ID:+VOnaEZx0
短いけど、ここまで。
近いうちに時間とれそうなので、今月中に4話完結を目標にしときます。
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/21(火) 07:57:14.72 ID:moe3WXtDO
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/21(火) 09:37:13.97 ID:qUs0YvYDO
面白いな
続きがきになる
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/06/21(火) 13:44:15.96 ID:xLOY4scAO
次も期待して舞ってるよ
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/06/21(火) 15:41:10.85 ID:pSQwL0hlo
きてたわー
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage ]:2011/06/22(水) 20:58:38.64 ID:GpBLZdSM0
乙です。
205 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/01(金) 06:10:47.79 ID:JNdW6Mwo0
王立図書館にて

門番「う〜ん、一通り調べてはみたけど、やっぱり確定は難しいな」

門番「偉い人の夫人はたしか、王族と血縁関係のある家柄だったはず」

門番「ここ、中央国の王族は代々、原則的に東方国、西方国、南方国、北方国のいずれかに留学することが義務付けられているはずだ。」

門番「ただ、この義務が遠縁の夫人にまで適用されたのかは不明だな。他の小国に留学した可能性もある」

門番「正装が青い服という国家や部族は、一応存在するみたいだ。4大国の中では、北方国にそれらしき風習がある」

門番「東方や南方には見つけられなかったけど、調べ漏れの可能性は否定できない。西方にも特定の服装で食事をする行事があるらしいけど、この服装の色は本に載っていなかった」
206 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/01(金) 06:11:33.50 ID:JNdW6Mwo0
門番「となると北方が有力のように思えるところだけど、あの国とは戦争の少し前から国交が断絶してるんだよな。戦争の前からも良好な関係では無かったみたいだし、王族が留学に行くとは考えにくい」

門番「さて、とりあえず今日のところはこれくらいにしておこうかな。偉い人に会えたら、聞けることだしね。」

門番「さっきの伝言が偉い人の耳にもう届いてる頃だし、一度、王城に戻ろうか。今日会うことは無理でも、次に合う時間くらいは指定されてるかもしれないしね」

王城にて

門番「到着、と。ん、あれは?」

偉い人「おお、君か。絵の件について話をしたい事は聞いとるよ。だがあいにく、今から出張でね」

門番「それは、お疲れ様です」

偉い人「うむ。後日、私を訪ねるようにと役人に伝言しておいたので、詳しくは彼に聞いてくれ。ではな」

門番「あ、待ってください。お時間は取らせません。夫人の留学先と留学時期だけ教えてもらえませんか?」

偉い人「おお、確かにそれを言い忘れておったな。留学していたのは、10年と少し前。留学先はたしか、東方と聞いておるが細かな地方までは聞いてないな」

門番「10年と少し前の、東方ですね。わかりました、ありがとうございます」
207 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/01(金) 06:12:04.72 ID:JNdW6Mwo0
偉い人「うむ、こちらから頼んでおいて申し訳ないが、がんばっとくれよ。それでは、私はこれから出張なのでな」

門番「がんばってください。奥方もご一緒ですか?」

偉い人「いや、急な出張なんで私1人だよ。今頃は一人気楽も羽を伸ばしているんじゃないかね」

門番「中の良いご夫婦がそんな」

門番「冗談だよ。なんとしても結婚記念日までのは帰らんといけないので、これで」

門番「お疲れ様です」

門番(10年少し前の、東方国か。僕が調べた限りでは、青い服を正装にしていなかったはずだけど、やっぱり調べ漏れがあったんだ。細かな地方の風習までは調べ切れていないしね)

門番「とはいえ、大きな収穫だな。東方関係の資料を中心に当たればもっと情報が集まるかもしれない」

門番「まだ時間があるし、もう一度、図書館に戻って調べてみようかな」
208 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/01(金) 06:12:46.91 ID:JNdW6Mwo0
宿屋にて

娘「とりあえずベッドに寝かせて、と。少し服をゆるめて、これでよし。」

娘「困ったご婦人だよ、まったく。ん、この人のスカーフは火織物だな。貰い損ねたことを思い出したよ」

酔っ払い「zzz」

娘「まあ、いいか。あとはしばらく寝かせておけば良いかな。そろそろ食堂の方を開けないといけない時間だしね」

男性「すいません、店の人はいませんかー?」

娘「おっと、客か。今、行きます」

娘「おまたせしました。お泊りですか? それともお食事でしょうか?」

男性「そうじゃないんです。ここに酔った女性が運ばれたと酒場で聞いたのですが」

娘「あの婦人の関係者ですか?」

男性「あ、はい。ご迷惑おかけしました。こちらでお引取りいたします」

娘「それはよかった。よろしくお願いします、と言いたいところですけど」

男性「何か?」
209 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/01(金) 06:13:12.94 ID:JNdW6Mwo0
娘「あなたの事を疑うわけではありませんが、眠っているご婦人を男性に預けるのは少し抵抗がありますね」

男性「し、しかし私はたしかにあの人と知り合いでして!」

娘「ほう、どういったお知り合いですか?」

男性「私の雇い主の奥方ですよ。雇い主に言われて、町に探しにきたのですが、まさか昼からお酒を飲んでいるとは」

娘「わかりました。ただ婦人は今、休まれたところです。少し時間を置いてから起こして、連れて行かれるのが良いと思います」

娘「婦人が目を覚ましてからなら、私としましても何の問題もありませんしね」

男性「……わかりました。それでお願いします」

娘(なにやら、おかしな事になってきたね)
210 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/01(金) 06:13:43.22 ID:JNdW6Mwo0
娘(あの婦人、身なりや酒場での証言から推測すると、おそらくは地位のある人物、あるいはその妻といったところかな)

娘(酒場から家まで、人が尾行されている気配があった。私が彼女をおぶって宿に着いてから、知人だと言うあの男が訪ねてくるまでの間隔が短すぎることからも、あの男が尾行していたことは、ほぼ確実)

娘(彼女を起こすことに反対しなかったという事は、顔見知りという事だね。という事は尾行の理由は誘拐よりも、陰からの警護、監視といったところかな)

娘(仮に誘拐だとしても、私1人が逃げる分には問題ない。荒事になっても、じきに門番が来る時間だから、大丈夫だね)

娘(おそらくは、自由奔放な貴族の奥様が、下々の暮らしを面白がって、お忍びで遊んでいたというところだろうね)
211 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/01(金) 06:14:12.60 ID:JNdW6Mwo0
王立図書館にて

門番「東方国関係の資料は、この辺りだったな」

門番「今度は、東方国の中でも地方部の習慣を調べていかないと」

???「あれ、お前はあの時の。……奇遇だな」

門番「え? あ、あ、あなたは!?」

勇者「よう、祭典以来だな」

門番「勇者様!」

ザワザワ ユウシャサマ? ホンモノ?

勇者「……図書館では静かにな」

門番「あ、すみません。つい」

勇者「騒がしくするのも図書館に迷惑だな。出るか、茶くらいなら奢るぜ。急ぐ用があるなら無理にとは言わないが」

門番「いえ、急ぎません。お供します」

門番(図書館で調べ物はいつでも出来るけど、勇者様とお茶は今しかできないからね)
212 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/01(金) 06:14:44.25 ID:JNdW6Mwo0
喫茶店にて

店員「いらっしゃいませー」

勇者「コーヒー。お前は?」

門番「同じ物を」

店員「かしこましましたー」

勇者「……」

門番「……」

勇者「この前は、すまなかったな」

門番「え?」

勇者「祭典のとき、迷惑をかけた」

門番「そんな気にしてないです。それに前にも謝ってもらいましたし」

勇者「それでも、謝りたかったんだよ」

門番「は、はい」

勇者「……」

門番「……」
213 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/01(金) 06:15:24.17 ID:JNdW6Mwo0
門番(緊張して言葉が出てこない。どうしよう)

店員「おまたせいたしましたー。こちらご注文の品になります」

門番「どうも」

勇者「なあ」

門番「はい?」

勇者「自分から誘っておいてなんだが、図書館での用は良かったのか?」

門番「ああ、大丈夫です。本当に急ぐ用でも無いんで。こうやって勇者様とお茶を飲む方がずっと得がたい体験ですから」

勇者「得がたい体験たって、ただ喫茶店で茶飲んでるだけだろう」

門番「でも憧れの勇者様とこうやってお話できるだけで凄いことですよ」

勇者「お話たってなあ。何か聞きたい話はあるか」

門番「話してくれるんですか!?」

勇者「話せることならな」

門番「じゃ、じゃあ魔王を倒したときの話をお願いします」
214 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/01(金) 06:16:16.15 ID:JNdW6Mwo0
勇者「それは話せない話だな。他だ、他」

門番「え、なんでですか?」

勇者「勇者にも色々あるんだよ。で、他は?」

門番「色々ですか。じゃあ冒険の話を」

勇者「大雑把過ぎる。もっと絞れ」

門番「えっと、それなら、つらい冒険で諦めそうになった事とかは無かったんですか?」

勇者「色々とあったな。特に、北方国では堪えたぜ」

門番「北方国って魔物の味方をして、人間と対立した国家ですね」

勇者「ああ、そうだ。俺は大切な人を守りたいから旅に出て、魔物と戦った」

勇者「戦ってる内に、大切な人が多くなりすぎて、いつしか人間全体を守りたいと思うようになっていた」

門番「でも、北方国は……」
215 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/01(金) 06:16:47.47 ID:JNdW6Mwo0
勇者「そうだ、そこで北方国だ。守りたいと思っていた人間が敵だ。悪だと思っていた魔物の味方をしてやがる」

勇者「おまけに、旅を続けるうちに魔物の中にも話せる奴がいるのが分かった。人間の味方をする魔物もいた。敵でありながら、尊敬できる魔物もいた」

勇者「こうなるともう訳がわからなくなって、止めようかと思うこともあった」

門番「それで、どうしたんですか?」

勇者「どうもしないさ」

門番「へ?」

勇者「止めようかとも思ったけど、守りたい人がいたから止めなかった。人間とか魔物とか、訳がわからなくなったまま魔王と戦って、戦いが終わった。それだけだ」

門番「それだけって、そんな中途半端な」

勇者「旅の中で全ての問題が解決するわけじゃあないし、解決しなくても魔王とは戦えるんだ」

門番「それは、そうでしょうけど」

勇者「魔物の味方をした北方国が正しいとは思わないがな、人間の味方をした俺が正しいと思わないんだよ。ただ俺が強いから、勝った。それだけだ」

門番「それだけ、ですか」

勇者「それだけだ」
216 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/01(金) 06:17:17.07 ID:JNdW6Mwo0
門番「……貴重な話、ありがとうございます」

勇者「ああ、こんなので良かったか?」

門番「はい、十分です。全てが解決しなくても戦える、それはきっと実際に戦った勇者様にだけが出来る話だと思いますから」

勇者「実際には、何も解決していないのかもしれないがな」

門番「え?」

勇者「いや、なんでもない。ところで、さっきは図書館で何を調べようとしてたんだ?」

門番「ああ、実は……」

説明中

門番「という訳なんですよ」

勇者「……」

門番「勇者様?」

勇者「ああ、いや、それはきっと東方国の南側にある地方の歓迎の儀式だろう」

門番「え、わかるんですか?」
217 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/01(金) 06:17:57.41 ID:JNdW6Mwo0
勇者「勇者ってのは色々な場所でもてなされるからな、その手の習慣には詳しいんだ」

門番「なるほど!」

勇者「東方にはしばらくいたが、他にそれらしい習慣は無いと思うぜ。その時、食べたものは詳しく覚えてないが、たしか変わった味の豚肉を似た物だったはずだ」

門番「思わぬところで答えが! 勇者様、ありがとうございます」

勇者「たまたま知ってただけだ。かまわんさ」

門番「いや、でも何かお礼をしないと」

勇者「だから別にいいって」

門番「そんな事言わずに。そうだ、今夜の7時に酒場近くの宿屋に来てください。夕食をご馳走しますから」

勇者「はあ、わかったよ。ご馳走になろう」

門番「それでは、お待ちしてます。僕はこれで」

勇者「っておい。……行っちまったか」

門番(やった! まさか勇者様に会ってお茶できただけでなく、答えまで分かってしますなんて。今日はついてるぞ!)
218 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/01(金) 06:21:27.90 ID:JNdW6Mwo0
目標が必ずしも達成できるとは限らない、という言い訳を一つ。
残りわずかなので、もう少しだけお付き合いください。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/07/01(金) 06:31:49.22 ID:bTKcCuSto
きてたわー乙。
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/07/01(金) 19:23:29.69 ID:1PoN93vAO
おお、きてたか
続き期待
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/01(金) 21:51:50.53 ID:r42QI+KC0
面白いわー乙
222 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/03(日) 03:45:56.05 ID:/5Xtm6so0
宿屋にて

娘「そろそろあの女性を起こして来ようかな。あまり長居されると面倒なことになりそうだしね」

娘「失礼します」コンコン

酔っ払い、改め女性「う〜ん。あれ、私なんでベッドに寝てるの?ここどこ?」

娘「ここは宿屋です。酒場であなたが酔いつぶれていたので、ここまで運びました」

女性「へえ、それはご迷惑を。あ、頭いたい」

娘「水をご用意しています、どうぞ」

女性「ん、ありがと」ゴクゴク

女性「ぷはあ。いや、色々と見っとも無いところを見せちゃったみたいだね」

娘「いえ、人に休んでもらうのが仕事ですから。それより、お連れ様が見えています」

女性「あら、やっぱり? どうせこっそり着いて来てるとは思ってたけどさあ」

娘「お連れいたしましょうか?」

女性「いや、いいよ。もう少しだけ休んだら、行くから」

娘「かしこまりました」
223 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/03(日) 03:46:48.29 ID:/5Xtm6so0
女性「それよりさ、この枕って東方製じゃない?」

娘「ええ、そうです。東方の商人から仕入れたものです」

女性「やっぱりね。私も普段から東方製も枕を使ってるのよ。向こう留学したことがあるのだけど、そこで気に入っちゃってね」

娘「ああ、ではこの火織物スカーフは」

女性「うん、向こうで買ったのよ。さて、そろそろ行こうかな」

娘「では、こちらへ」

宿屋、待合室にて

女性「待たせたわね」

男性「いえ、ご無事で何よりです」

女性「ご無事って、ただ教会行って、酒場で飲んでただけよ。着いて来てたんでしょ」

男性「はい、それが仕事です」

女性「全く、たまには1人にしといて欲しいものよ……って!?」
224 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/03(日) 03:47:21.09 ID:/5Xtm6so0
娘「どうかされましたか?」

女性「こ、この絵、なんでこれがここに!?」

娘「ああ、知人が持って来たものですが」

男性「にしても、この絵はボロボロすぎますね。これを飾るつもりで?」

娘「まさか、ただ預かっているだけですよ。で、この絵が何か?」

女性「い、いえ。知っている絵に似てたから驚いただけよ」

娘「そうでしたか」

女性「それより男、この娘に宿代を払っておいて」

男性「かしこまりました」

娘(さて、どうするべきだろうか?)
225 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/03(日) 03:47:53.74 ID:/5Xtm6so0
娘(この2人にかまっていたせいで、食堂を開ける時間がせまっている。だけど、まだ下準備は済んでいない)

娘(このままだと開店が送れるのは確実。元々、チップ狙いでこの奥様を拾ったことから考えても出来るだけ大金をせしめたいところだね。せめて食堂の開店が遅れた分の損失を取り戻せるくらいにはね)

娘(好材料として挙げられるのは、この奥様がかなりの資産家と推測されること。そして、私に介抱されたという恩があること)

娘(このまま黙っていても、この男性はおそらくそれなりの大金を出してくれるだろうね。ここで問題となるのは、奥様がお金持ちという事に私が気付いている事を、この2人が気付いていないとい事)

娘(私の推理どおりなら、この奥様はお忍びでの遊び中。お目付け役か、それに近い立場であろう男性からすれば、なるべく印象に残さないように去りたいはず)

娘(となると法外の額は期待できない。おそらくは常識の範囲内でのお礼におさまるはず)

娘(私はすでにこの奥様の正体を大方、推理できている。それにあの絵の反応……少し気になることあるし、やってみる価値はありそうだね)
226 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/03(日) 03:48:53.26 ID:/5Xtm6so0
男性「では、こちらを」

娘「その前に、少し良いでしょうか?」

男性「なにか?」

娘「一応、規則で部屋を使われた方には宿帳を書いてもらう事にあっています。簡単なサインでも結構ですので、お願いできますか」

男性「いや、しかし」

女性「それくらいなら、かまわないわ。どこにサインすればいいの?」

娘「はい、では別の部屋まで」

女性「? まあ、いいわ。行ってくる」

男性「……はい、かしこまりました」
227 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/03(日) 03:49:22.94 ID:/5Xtm6so0
別室にて

女性「で、宿帳はどこに?」

娘「実は、うちの宿には宿帳なんてものはないんだよ。嘘をつくことになったのは謝るよ。
――――様」

女性「はあ? 一体、なんの事かしら?」

娘「ふふ、女性は嘘をつくのが得意とよく言うけどね。私は、人の嘘を見破るのが得意なんだ」

女性「……」

娘「実は私は修道女とは友人でね。昔から仲良くさせてもらっている」

女性「!?」

娘「推理、というほどの事でもないけれどね。ただの偶然、あとはあなたが迂闊すぎただけだね」

娘「あまり長話になると、あの男性が不思議に思うので手短にいこうか。まずは―――」
228 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/03(日) 03:49:49.61 ID:/5Xtm6so0
数分後、宿屋にて

門番「娘、戻ったよ」

娘「ああ、おかえり。一応、待っていたよ」

門番「一応って、ひどいな。そう言えば、宿の前で人とすれ違ったけど、お客さんが来てたのかい?」

娘「それについでは、後で話そうか。それよりも、まず君がするべき事は2つある」

門番「2つ?」

娘「1つ、君が調べてきたことを全て私に話すこと。この時、君が不要だと思った情報も全て話して欲しい」

門番「わかったよ。で、2つ目は?」

娘「すでに開店時間を過ぎているのに、まだ食堂を開ける状態じゃない。君は私に情報を伝えるのと平行して、店の手伝いをすることになるね」

門番「ちょっと、待って! まだ開いてないの? しかも僕が手伝いって」

娘「父さんが宿屋ギルドの会合で出かけているんだ。手伝ったら膝枕くらいならしてあげよう」

門番「やります」
229 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/03(日) 03:50:21.87 ID:/5Xtm6so0
娘「では、食堂へ行こうか」

門番「ああ、でも僕、勇者様にもうすぐここに来て欲しいって言っちゃったんだよ」

娘「……勇者、意外な名前が出てきたね」

門番「うん、これから話すことでもあるんだけどさ、実は勇者様に会ってさ。お世話になった俺に食事でもどうかと誘ったんだけど」

娘「なるほどね君、運がいいね」

門番「そうなんだ、まさか勇者様に会えるなんて」

娘「そうじゃないよ。彼が来ると、答えあわせが出来るのさ、私の推理のね」

門番「推理って、じゃあ答えがわかったの!?」

娘「それはまださ。でも問題を解く式は見つけたよ。あとはそこに、君の調べてきたことを代入していくだけさ」

門番「でも勇者様がいると答えあわせが出来るっていうのは?」

娘「詳しくは後にしよう。それよりも、口と手を動かしなよ」

門番「うう、わかったよ。じゃあ、今日のことを話すけど」

娘「ジャガイモの皮をむきながらお願いするよ」
230 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/03(日) 03:50:49.32 ID:/5Xtm6so0
宿屋、食堂部、前にて

勇者「ここ、だよな。まだ店が開いてないみたいだが」

門番「あ、勇者様!」

勇者「ああ、お前か。店から出てきたって事は、もうやってるのか」

門番「いえ、開店はまだなんですよ。いつもなら、やってる時間なんですが」

勇者「はあ?」

門番「とりあえず中に入って持っていてください」

勇者「開店してないのに、入っていいのか?」

門番「大丈夫です。どうぞ」

勇者「ああ」
231 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/03(日) 03:51:16.67 ID:/5Xtm6so0
食堂部、中にて

娘「やあ、いらっしゃい。じきに料理を出せるようになるから、待っていてよ」

勇者「お、お前は!?」

娘「まさか勇者に私の手料理を食べさせることになるなんてね」

勇者「まったくだ」

門番「じゃあ、僕もまだ手伝いがあるので」

娘「まあ、ゆっくりしていきなよ。閉店後に少し話したいことがもあるしね」

勇者「話したいことだと?」

娘「門番から聞いてるよね? 絵の話さ」

勇者「!?」

門番「娘、用意が出来たよ」

娘「よし、開店しようか。君も、もういいよ。後は私だけで十分だからね」

門番「うん。でも、忙しかったら声をかけてね」

娘「ああ、そうするよ」

勇者「……」
232 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/03(日) 03:54:34.98 ID:/5Xtm6so0
ネクストコナンズヒント〜! 『国』



というわけで残すは回答編です。
今日明日中に書きます。
それでは。

233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/07/03(日) 04:34:49.53 ID:F2M7K3/xo
乙なんだよ
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/03(日) 11:23:14.93 ID:hhWBe+ZXo
 乙
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/07/03(日) 13:06:47.53 ID:hAsM8UUuo
乙華麗
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage ]:2011/07/04(月) 11:00:36.00 ID:o6G9FF7S0
乙です。
237 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/05(火) 00:45:24.26 ID:7ffrtEBd0
前回の投下のときにコピペミスしてた
>>231の後

閉店後、食堂部にて

娘「さて、お客さんも全員帰ったことだし、そろそろ店じまいにしようか」

門番「娘、お疲れ様」

勇者「……」

娘「どうだった、勇者。私の手料理の味は?」

勇者「ああ、美味かったよ」

門番「でしょう? 娘の料理は絶品なんですよ」

娘「ふふ、かの勇者様の口にあって何よりだ」

娘「さて、始めるとしようかな。今回の謎解きをね」

ネクストコナンズヒント〜! 『国』
238 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/05(火) 00:46:06.36 ID:7ffrtEBd0
こっから今回の分


門番「ということは、やっぱりわかったんだね。あの絵の謎が」

娘「ああ、おそらくね。まずは君、ここにあの絵を持ってきてくれるかい?」

門番「うん、わかった。持ってくるよ」

勇者「おい、お前は気付いてるのか?」

娘「ああ、そうだよ勇者。私は知っている。じきにここに運ばれる絵は、君の想像通りのものさ」

娘「だけど、それで何かしようって訳じゃあないさ。ただ私が彼の望みを叶えたいだけなんだよ。この謎を解いて欲しいっていうね」

勇者「だが、それをあいつが知ったら……」

門番「娘、持って来たよ」

勇者「くっ!」

娘「ふふ、ありがとう。さあ、聞いてもらうよ勇者……私の推理をね」

門番「?」
239 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/05(火) 00:46:32.78 ID:7ffrtEBd0
娘「まずは状況の確認から行こうか。今回の件の依頼人は偉い人。君の上司にあたる人物だね」

門番「うん。といっても直属の上司ではなく、もっと上の位の人だけどね」

娘「ふむ。その依頼は破損した絵、食事風景が描かれた絵だけど、それに描かれた食べ物の断定すること。この絵は彼の奥さんが留学した時に描かれたもので、ここに描かれた食べ物を結婚記念日に用意したい事からの依頼だ」

門番「そうだね。だけど、絵の傷がすごくて何が描かれているのか、わからないんだ」

娘「ここまで依頼段階の状態だね。どうだい勇者、この絵に何が描かれているか分かるかい?」

勇者「いや、分からん。いくらなんでもボロボロすぎるだろ。見ても何もわからんよ」

娘「何も分からん、ね。まあいいさ。ここで私が出すべき答えは、この絵に描かれた食べ物が何か、という事だけどね。実はもう一つ、この絵には謎がある」

門番「謎?」

娘「見たままだよ。何故、この絵はここまで破損しているのか?ということさ」

門番「ああ、確かに。言われて見ればそれも謎だね。描かれたのが10年少し前ってことだけど、それにしても酷すぎる」

娘「そしておそらく、この2つ目の謎には重大な真実が隠されている」
240 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/05(火) 00:47:04.74 ID:7ffrtEBd0
勇者「……やはり気付いているのか」

娘「まあね。私を止めるかい、勇者様?」

勇者「いや、どうせ無駄だろう」

娘「ふふ、だろうね」

門番「ちょっと待って。その重大な真実って? 勇者様は知っているの?」

勇者「それは」

娘「まあ、それは後にして、話を続けようか」

娘「私はまず食べ物を断定するために、この絵が描かれた場所、つまり夫人が留学した国を推理することにした。詳しくは省くけど、この絵が描かれた場所は正式な食事のときに青い服を着る習慣がある、と私は推理したんだ」

門番「この黒い服を着て、立っている人が護衛。他の青い服を着ているのが食事をしている、おそらく王族やそれに近い人たちだったね」

娘「そうだよ。そして私は君に、夫人の留学先と留学時期を調べてくるように言った。君はまず、図書館で各国の習慣について調べた後に、運よくも偉い人本人に会って詳細を聞いた」

241 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/05(火) 00:47:31.82 ID:7ffrtEBd0
門番「図書館で調べた事は結局、無駄だったけどね。偉い人に直接会って、話を聞けたし、その後もたまたま勇者様に会えたから細かな地域まで特定できたんだから。夫人が留学していたのは10年と少し前、場所は東方の南側の地域だって」

勇者「ああ、間違いない。あの地方には、そういう風習があるから」

娘「ふうん。まあ、それについてのコメントは保留にしておいて、今回の重要人物でもある夫人についての話をしようか。というのも、重要であるにも関わらず彼女についての情報を不確かだからね」

娘「と言っても、推理をしようって訳じゃあないよ。君が運よく、偉い人や勇者と出会えたように、実は私はさっき思いがけない人物と出会ってね。そこでたまたま夫人についての話を聞くことが出来たのさ」

門番「思いがけない人物って?」

娘「ふふ、聞きたいかい?」
242 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/05(火) 00:48:04.02 ID:7ffrtEBd0
数時間前、宿屋、別室にて

娘「あまり長話になると、あの男性が不思議に思うので手短にいこうか。まずは衣服について。あなたが着ているものは、高価すぎる」

女性「高価? どこにでもある町民の服装だと思うけど?」

娘「たしかに、服装としては町民のものだね。だけど材質が違いすぎるよ。見る人が見れば、すぐにわかる。それどころか私はあなたを介抱しているんだ。触れば、その布がさらに高級である事が明白だ」

女性「布、ね」

娘「居酒屋の証言からすると、あなたはお酒を何本も飲みながら金払いは良かった。店内に転がった酒瓶と見たところ高級なお酒のものが多かったんだ。私も一応、飲食店に関わるものだから、分かる」

娘「それに居酒屋は、あなたが世間知らずと言っていた。おそらく高価な布で町民用の服を作らせ、高級な酒を何本も頼めるほどの資産を持ちながらの世間知らず。おそらくは会話がかみ合わない事があったんだろうね。一般庶民である居酒屋の主人と、庶民とは全く違う生活をしてきたあなたとでは」
243 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/05(火) 00:48:37.58 ID:7ffrtEBd0
女性「はあ、そんな事、よく分かるわね。確かにあなたの言うとおり、私は普通とは少し違う家庭に生まれたわ。だけど、そういう家って窮屈でね。今でもたまにこうやって、町で身分を偽って遊びたいときがあるのよ」

娘「その度に、あの男性に連れ戻されるというわけですか」

女性「まあね。心配なのは分かるけど、少し過保護すぎよね。私ももう子供じゃないのに」

娘「過保護という事は無いでしょう。あなたの身分を考えればね」

女性「なんの事かしら?」

娘「そうですね。あなたが酒に溺れた理由を当てましょうか」

女性「!?」

娘「外堀から埋めて生きましょうか。まずは火織物のスカーフ、あなたが寝てるときにじっくりと見させてもらったよ。東方の特産品、火織物。それ自体は特に珍しいものではありません」

娘「高級なものから、手頃な値段のものもあり、色が鮮やかで、燃えないというその性質からも人気が高い。私も一枚くらいは持っておきたいね」

女性「それが何か?」

娘「あなたのスカーフ、連合の国旗が刺繍されているね」

女性「刺繍?」
244 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/05(火) 00:49:48.98 ID:7ffrtEBd0
娘「そう、刺繍。元々、スカーフやハンカチに国旗が刺繍されることは珍しくない。対魔王軍連合の刺繍それ自体もありふれたものだ。戦中には東方国で大量に作られ、戦後は他大陸にも輸入されたからね」

女性「どこにでも、ある刺繍よね」

娘「今の話に限ればね」

女性「どういう事?」

娘「対魔法軍連合、つまり中央、東方、西方、南方の4国を中心とした連合は、戦争終了後に解体され、新たに北方を加えた世界連合として再構築された。つまり戦後、連合の国旗の刺繍が新たに生産される事は基本的には無い」

娘「だけど、戦中に作られたものは普通に今も流通している。だから私は最初、それを見ても何も思わなかった。よくある国旗の刺繍だな、くらいにしかね。だけど、あなたは留学中に東方でそのスカーフを買ったと言った」

娘「裕福な家庭にあるあなたが中古品を購入するとは思えない。だが、そのスカーフが生産、販売されていたのは戦時中の東方のみ。つまり、あなたは戦時中の東方にいた事になる」

女性「まあ、見事な推理ね。たしかに私は戦中に東方国にいたわ。だけど、それが?」
245 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/05(火) 00:50:32.80 ID:7ffrtEBd0
娘「戦中の留学は例外を除いて、禁止されています」

女性「!?」

娘「ただ、一つの例外、王族関係者を除いてはね」
246 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/05(火) 01:02:09.73 ID:7ffrtEBd0
女性「……」

娘「にも関わらず、あなたは留学と言ったね。戦争による避難ではなく、留学とね」

女性「本当に、たいしたものね。そう、確かに私は王族の関係者よ。それで? その王族関係者が街中で酔っ払ってたことをネタに強請るつもり?」

娘「まだ、あなたが酔っ払ってた理由を言ってませんよ」

女性「そ、それは」

娘「さて、王族関係者にのみ許された戦中の留学ですが、それも戦火が激しくなるにつれて、禁止されていく。というよりも王族が国に戻り、国民を導く役割が求められるにつれて自粛していったという感じでしたね」

娘「私を含めた国民全員が知っていますよ。東方の留学から、あえて危険な中央国に戻って、国民を導くという役目を率先して果たした王族関係者をね」

女性「それと、私が酔っ払っていた理由と何の関係が」

娘「あなたは言った。教会に行った後で、酒を飲んだとね。その王族関係者になら、あるんだ。教会に行くことで、酔っ払いたくなる理由がさ。言ったろう? 修道女とは友達なんだ」
247 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/05(火) 01:21:49.46 ID:7ffrtEBd0
女性「あの子、あの事をあなたに言ったの?」

娘「ああ、いや。これは私が勝手に気が付いたんだ。今みたいに推理してね。」

娘「彼女が、現王妃の隠し子だって事をね」

女性「……」

娘「修道女は少し前に起こった精霊像盗難事件の関係者だからね。それで実の子が気になった王妃様はこっそり城を抜け出して、我が子の姿を拝みに教会へと向かった。昔から王妃様のお転婆は有名だしね」

娘「事情を知っている側近の護衛は、王妃の信条を察して止めなかった。まあ影から護衛はしていたんだけどね。そして、教会で働く姿を修道女の姿を見た王妃は」

女性「母親と名乗れない自分が嫌になって、自棄酒したのよ」
248 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/05(火) 01:22:23.76 ID:7ffrtEBd0
娘「私の想像通りですね。王妃様」

女性、改め王妃「ええ、よく分かるわね」

娘「まあね。……姿を変える魔術、いや印象をぼかす魔術といったところかな」

王妃「ええ、私の顔を見ても王妃とは結び付けられないようになっているの」

娘「たしかにね。私もいくつかの証拠と、あなたの顔が修道女に似ていなければ気が付かなかったかもしれないね」
249 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/05(火) 01:23:04.69 ID:7ffrtEBd0
数時間後、食堂部にて

娘「という事があってね」

門番「王妃様!? そんな、バカな!?」

勇者「いや、残念ながらあの人ならあり得る。昔からよく城を抜け出してたからね」

娘「そういうわけさ」

門番「で、それが夫人とどう繋がるの? 僕は話の途中まで、その女性が夫人だったっていうオチだとばかり思ってたんだけど」

娘「そこまで話は上手くないさ。まあ、でも同じ事だよ。今回のお忍びを黙っておく代わりに、夫人の話を聞いたんだ。ほら、王族関係者なら王妃様も知っているはずだろ?」

門番「ああ、確かに。それで?」
250 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/05(火) 01:43:50.66 ID:7ffrtEBd0
娘「夫人の留学について詳しくは教えてくれなかったけどね。これだけは確認できた。夫人は、国王の年の離れた妹だよ」

門番「え?」

娘「つまり王族関係者と言っても、その地位はかなり高いようだね」

門番「それと今回の絵と何の関係が?」

娘「今年は戦争終結から10周年だ。その今から10年と少し前、という事は最大でも15年前に王族が留学していた。妙じゃないかい?」

門番「あ! そうだ、確かに。それくらいになると王族は留学を自粛して、国に戻って働いていた時期だ」

娘「そうだね。だけどそれも一旦、保留しておこうか。夫人が地位のある王族という事で明らかになる事があるんだよ」

門番「明らか?」

娘「王族が留学するのは4大王国のいずれか、つまり西方、東方、北方、南方のどれかだ」

門番「でも、それは東方って事で答えが出たはずじゃあ」

娘「それは嘘だよ。夫人と、そしてそれに気付いた勇者のね」
251 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/05(火) 01:44:20.93 ID:7ffrtEBd0
門番「!?」

勇者「ちっ」

門番「ちょっと待って、嘘ってどういう事? なんで嘘なんか? いや、そもそもどうして嘘だって」

娘「ちょっと落ち着きなよ君。ちゃんと説明するからさ」

門番「ああ、うんごめん」

娘「この絵をよく見て欲しい。傷のせいで食事風景がよく分からないけど、手の形くらいは分かるね」

門番「手の形? 別に普通にナイフやスプーンを持つ形だと思うけど……!」

娘「戦後、世界連合の成立したことによって各国の交流が盛んになり、その文化が交じり合った」

門番「そうか、今でこそナイフとスプーンで食事することは東方でも珍しくなくなったけれど!」
娘「当時の東方には、そんな文化は無い。正式な場で自国の料理を出している時にナイフを使うことなんて無いんだよ」
252 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/05(火) 01:45:02.68 ID:7ffrtEBd0
門番「ちょっと待って、じゃあ東方じゃないってことは」

娘「同じ理由で、南方もない。当時の南方は手づかみで食事をする文化が根強かった。小学校で私も習ったよ」

門番「という事は西方か! って待てよ、15年前の西方って」

娘「これも学校で習ったね。魔王軍との最激戦区て壊滅寸前に陥っているはずだ」

門番「でも、4大王国で残っているのは……」

娘「それが隠さなければいけなかった事だよ。戦争末期に、王族が北王国へ留学したいたという事実をね」
253 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/05(火) 01:48:06.27 ID:7ffrtEBd0
だめだ眠気が限界です。もう少しですごい中途半端なとこなんだけど
終わらすつもりだったんけど今日はここで勘弁してください。
254 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/05(火) 01:48:38.48 ID:7ffrtEBd0
あ、明日には終われますので
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/07/05(火) 04:12:01.32 ID:Ysrjd1Pr0
乙乙!
いいところで切るな…
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/05(火) 04:22:18.05 ID:ZUiC1on80
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage ]:2011/07/05(火) 04:59:04.63 ID:IvhqaMpL0
乙です。
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/07/05(火) 05:55:41.04 ID:90gotFSCo
おつなんだよ
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/05(火) 07:11:36.48 ID:jPQXBODAO
最近更新が多くて助かるよ
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/05(火) 08:12:43.03 ID:7FbgMTsAO
投下は嬉しいけどなんてとこで切るんだよw
261 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/06(水) 00:01:30.60 ID:CjKMkqxZ0
日付変わったけど書けそうに無いです。
もうちょっとだけ待ってください。
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/07/06(水) 06:25:06.47 ID:5hdmLFWLo
待ってるさー
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/06(水) 14:09:48.63 ID:ovJRp3D80
乙なんだよ
264 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/07(木) 02:41:00.64 ID:fIGoNeFE0
娘「それが隠さなければいけなかった事だよ。戦争末期に、王族が北王国へ留学していたという事実をね」

門番「そんな!? だって、北王国は人間でありながら魔族に味方した国家だよ? 魔族と最も激しく対抗した中央国の王族が北王国に留学できるわけがないよ!」

勇者「…」

娘「ここからは推理というより私の想像になるけれどね。これには我らが中央国、国王の意思が関係している」

門番「国王様の?」

娘「そうさ。ところで人間側の勝利で終わった前戦争の末期、その結果とは反対に人間は圧倒的に不利な立場にあったんだってね」

門番「うん、中央国に隣接する西方王国は壊滅状態になり、ここ中央国にも魔族が攻め進んで来ていて、敗色は濃厚だった」

娘「しかし、敗北の寸前、軍を離れ少数で行動していた勇者一行が魔王を破ったことによって、戦況は一変した」

門番「そうだよ。ここにいる勇者様がまさに人間を救ったんだ」
265 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/07(木) 02:41:34.71 ID:fIGoNeFE0
娘「ふむ。ところで君、戦中の事を思い出して欲しい。君の周りにこんな事を言う人がいなかったかな?」

娘「北王国に味方するべきだった、魔族と戦うべきじゃなかった、とね」

門番「それは……いたよ。残念だけど、そんな事を言う大人の人はたしかにいた」

娘「勇者の前でこんな事を言うのも憚られるのだけれど、それは馬鹿にできない意見だと私は思う。誰だって命は惜しいからね」

門番「でも、勇者様たちはそんな間にもずっと戦って、僕たちのために戦ってくれていたのに」

勇者「いや、いいさ。そう思う人間がいても不思議じゃない。それだけ、あの戦いはつらいものだった」

娘「そして、そう思う人間が王族であっても不思議じゃない?」

門番「え?」

勇者「……ああ、そうだよ」

門番「!?」

娘「ふふ、だろうね。当然、王族の留学には王族の家長、つまり国王の許しがいる。戦中という非常事態なら余計にね。つまり、夫人の北方国留学には国王が絡んでいると考えるべきだね」
266 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/07(木) 02:42:09.55 ID:fIGoNeFE0
娘「筋書きはこうさ。戦争末期、それまで主戦場であった西王国は魔族に滅ばされ、徐々に戦いの中心は中央国へと移っていった。そこで魔族の圧倒的な力を見せられた王族、国王は怖気づいたのさ。この戦いに勝ち目は無い、とね」

門番「そんな。あの時、国民みんなは勇者様たちが生きている限り、抗い続けようと頑張っていたのに、勝ち目がないなんて」

娘「戦争末期、それは勇者たちご一行が魔族の本拠地を旅していた時期であり、それは同時に勇者の活躍が報告されなかった時期でもある。あの当時、勇者の生存を心の底から信じていた人間がどれだけいたか?」

門番「え? でも僕や、僕の周囲の人達は」

娘「君はまだ子供だった。だから君は最後まで楽観的な希望を信じ続けることが出来た。大人たちもそんな子供に、進んで悲観的な事を言おうとはしないだろうね」

勇者「魔族の本拠地に入ってから、魔王と戦うまでの半年以上の間、俺たちは手紙なんてとても書ける状態じゃなかった。死んだと思われても不思議じゃない」

娘「そして、誰よりも悲観的だったのは、誰よりも現状を知っていた国王だった。彼らも人間だ、命は惜しい。自分たちから行動を起こしたのか、あるいは魔族、北方側からの連絡があったのか定かではないが、彼らは国民を捨てようとした」

娘「国王の近親者である夫人を人質とすることで、北方側と亡命の交渉をしたんだ。おそらく、この絵は亡命の契約が成立した時の絵じゃないかな?」

門番「嘘だ、国王様がそんな、だって」
267 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/07(木) 02:42:57.61 ID:fIGoNeFE0
娘「以上が私の推理と、想像だよ。ああ、そうだ君、聞きたいことがあるのだけれど」

門番「え、なに?」

娘「時間を戻す魔術、というのはあるのかい? この絵の時間を戻して修復できれば私の言ったことが真実だと証明できるのだけど」

門番「なくはないよ。でも、それは凄い大魔術で、かなりの使い手と大掛かりな儀式が必要なんだよ。とても絵の修復のために使うものじゃあない」

娘「だけど、この絵にはそれだけの価値があるんじゃないか? なんせ国王背信の証拠品だ。魔法省あたりに事情を話せば」

勇者「もういい、そこまでだ」

門番「勇者様?」

娘「なんだい? それとも君が私の答えあわせをしてくれるのかな?」

勇者「ああ、お前の言うとおりだよ。国王は国を裏切り、北方に逃げようとしていた」

門番「あの国王様が、どうしてですか?」

勇者「魔族の手引きだ。王族に国民を捨てさせることで、国民を絶望に突き落とそうとしたんだ。魔王は巧妙に、人の心を操る術に長けていたからな」
268 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/07(木) 02:43:32.60 ID:fIGoNeFE0
娘「くく、という事はこの絵にはやはり」

勇者「おそらく、夫人だけじゃなく国王かそれに近い人間が描かれていたはずだ。これが背信の証拠になりえると気付いた人間が、人物を特定できなくするために傷を付けたんだろう」

門番「じゃあ本当に、国王様は僕たちを捨てようとしてたんだ。……本当に」

娘「そうなる前、間一髪で魔王討伐の知らせが中央国に届いたから実現はしなかったんだろうね。残念だけど、これが真実のようだ」

勇者「ああ、真実だよ」
269 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/07(木) 02:43:58.96 ID:fIGoNeFE0
その夜、宿屋にて

娘「うかない顔をしているね」

門番「うん、やっぱりショックだよ。国王様が裏切ろうとしていたなんて」

娘「国王だけじゃなく、王族全体での亡命だったと考えるべきだけどね。それで君、それを知った今、どうするつもりだい?」

門番「……偉い人は、この事を知らなかったのかな?」

娘「だろうね。知っていたとは思えない。夫人は本来、その身分から考えても偉い人以上に地位のある人間、例えば他国の王族と婚姻関係を結んでいてもおかしくない。戦後の状況を考えれば、政略結婚に使われていた方が自然なほどだよ」

門番「そうならなかったのは、亡命の事実が他国に知られるのを防ぐため?」

娘「そもそも王族内での彼女の立場が微妙になったんだろうね。人質にした人間が戻って気締まったら、気まずくて仕方がないだろう。だから、善良で手元におけて、ある程度の地位の人間と結婚させたんだろうね」

門番「そうなのか。って、ちょっと待って、最初の目的だった絵に書かれた料理って結局なんだったの?」

娘「そもそも、結婚記念日にサプライズプレゼントをしようなんていう愛妻家の偉い人が、妻の好きな食べ物を覚えていなかったのはね、最初からそれが何か分からなかったからじゃあないのかな」

門番「分からなかった?」

娘「見た事の無い食べ物だったんだよ。食材自体が北方国、あるいは魔族固有の物なんだろうね」
270 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/07(木) 02:44:33.35 ID:fIGoNeFE0
門番「ああ、覚えていなかったんじゃ無くて、最初から分からなかったのか」

娘「そういう事」

門番「あれ? じゃあ僕は偉い人になって言えば良いのかな? まさか本当のことを言う訳にもいかないし」

娘「建前の上では、東方への留学という事になっているんだろう? なれ、勇者の言っていた豚の煮込んだものだと伝えればいいさ。夫人だって、これは違う私の食べたものは北方料理だ、なんて言わないだろうさ」

門番「良いのかな? それで」

娘「いいさ、それで。それよりも」

門番「なに?」

娘「どうするつもり、という問いはね。君の今後に関してだよ」

門番「僕の今後、それって仕事の話?」

娘「そうさ。気付いているだろう? 今回の件で人間への裏切りが明らかになった国王を始めとする王族たち。その人間たちが、王城仕えをする君の上司ということになる」

門番「うん、気付いてるよ。正直、つらい」

娘「だろうね。私は君の事はなんでも知っているから、君のつらさも理解できる。つらければ辞めてもいいと私は思うよ」
271 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/07(木) 02:45:18.10 ID:fIGoNeFE0
門番「それは……」

娘「…」

門番「…」

娘「まあ、すぐに答えを出さなくてもいい。今日は帰ってゆっくり休むといいよ」

門番「うん、そうする。娘、今日はありがとう」

娘「いいさ、君の頼みだったから。じゃあ、おやすみ君」

門番「うん、おやすみ娘」

娘「…」

娘「…」

娘「…」

娘「いるんだろう?」
272 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/07(木) 02:45:46.82 ID:fIGoNeFE0
勇者「やはり、気付いていたか」

娘「気殺か。適当にカマをかけただけなんだけどね」

勇者「どうだか」

娘「で、絵を回収に来たのかな?」

勇者「ああ、そのつもりだった。あいつが持っていってしまったけどな」

娘「彼が預かったものだからね。彼が偉い人に返すことになってる。あれをどうにかしたいなら、偉い人の屋敷にでも忍び込むといいさ」

勇者「あいつは気付いていなかったようだな」

娘「だから、私も言わなかったんだよ」

勇者「あの絵を傷つけた人間が、どうしてあの絵を放置していたのか? ボロボロにするくらいなら、そもそもどこかに捨てるなら燃やすなりすればいい話なのに」

娘「……ふふ、それが出来ない理由があったからね。勇者は気付いているだろう」

勇者「ああ。……もう行く。お前と二人で話すのは勘弁だ」

娘「お互い様だよ、勇者」


273 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/07(木) 02:46:15.42 ID:fIGoNeFE0


娘「さて、眠ろうかな。彼は気付いていないようだけど、膝枕忘れていたね」

娘「まあ、彼が言い出すまで、私のほうから絶対言わないんだけれどね。ふふ、彼はいつ思い出すのかな」
274 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/07(木) 02:48:19.02 ID:fIGoNeFE0
第四話『お皿の中身は何か?』A北方国の食べ物です。

おわり
275 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/07(木) 02:57:28.73 ID:fIGoNeFE0
おわったあああああああ
四話開始が4月25日だから、2ヶ月以上かかったことになりますね。付き合ってくれた方々、ありがとうございます。
リアルが忙しかったり、構想がめちゃくちゃになったりして投げようと思った事もありましたが
乙とか、面白いとかのレスを見るたびに頑張ろうと思えてきました。

実はトリックよりも、今後の伏線を張る事が目的だった今回の話ですが
謎自体の元ネタは、レオナルド・ダヴィンチの「最後の晩餐」です。
イエスが食べているものは魚という事が修復作業で明らかになった事がが元になってます。
酔っ払いの女性を偉い人夫人と思わせるというミスリードを狙ったんですけど、特に意味は無かったです。

次は番外編でも書こうと思っていますが、とりあえず未定。
全体の分量としてはこれで半分くらいかなと思っています。

それでは、お付き合いありがとうございました。
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/07(木) 07:21:51.55 ID:d4LUaAnAO
乙パイ
よくやった
次も期待してる
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/07/07(木) 07:56:56.33 ID:YVs6NjQZo
乙なんだよ。
ここだと板のルールが変わるか申告しない限りHTML化されないから
時間ができたときにでもまた書いて欲しいんだよ。
面白かったんだよ。
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/07/07(木) 22:19:11.72 ID:wuD0DEYAO
乙でした。
話が進んできたな。
今後にも期待
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/08(金) 01:47:09.14 ID:0Gw+k+XMo
一気に読んだけど回数重ねるたびにうまくなってると思う
すごく楽しいから次も頑張って!
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/09(土) 09:38:02.67 ID:2Kk+Tfkuo
北方だったのか。実は大使館という落ちだと思っていた。
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 18:39:35.47 ID:jXrr8mSt0

夫人だと思ってたよ
三か月放置だと申告してくる人がいるから気をつけて……
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2011/07/13(水) 01:44:41.24 ID:GsdKR/840
乙です。
283 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/31(日) 06:01:59.64 ID:tEpQps8u0
>>276
ありがとおっぱい
>>277
少しずつでも書いていきたいと思います。
>>278
次の話から一気に物語が進むような、そうでないような。
>>279
ありがとうございます。実は第一話書いてるときは酔っ払ってたので今読むと恥ずかしいです。
>>280
それは思いつかなかった。大使館の方が面白いと思う。
>>281
ミスリードにもうちょっと意味もたせたかったです。さすがに3ヶ月放置はしない、と思う。
>>282
ありです。
284 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/31(日) 06:03:25.33 ID:tEpQps8u0
番外編その2 『修道女はドーナツが食べたい』

ある日の宿屋にて

修道女「娘、いるー?」

娘「はあ……来たね」

修道女「なによ、ため息なんかついて。私が迷惑だって言うの?」

娘「修道長に説教された、なんて愚痴ばかり聞かされるのは迷惑かな」

修道女「うう、よく分かったね」

娘「修道女のこともそれなりには分かるからね」

修道院「でも聞いてくれるんでしょ?」

娘「気は進まないけどね」

修道女「まあ、娘もたまには女の子同士のおしゃべりをしとかないとね。いつもは門番と3人だからさ」

娘「せっかくの女の子同士のおしゃべりなら、愚痴以外の楽しい話題が聞きたいものだけどね」

修道女「いいじゃん、聞いてよ愚痴」

娘「待った」

修道女「ん? なによ、聞いてくれないの?」
285 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/31(日) 06:04:12.02 ID:tEpQps8u0
娘「私には仕事がある。修道女にはお使いがある」

修道女「お使い?」

娘「どうせ話をするなら、お茶でも飲みながらにしよう。私は今から急いで店の仕事を終わらせる」

修道女「ふむふむ」

娘「その間に君はお茶菓子の調達に行く」

修道女「調達って、私お金持ってないよ?」

娘「今日は3丁目のおばさんにドーナツをおすそ分けしてもらう手はずになっている」

修道女「え、本当に!?」

娘「嘘をつく話じゃなないよ。さあ、そういう訳だから私は仕事に戻る」

修道女「わかった。私はおばさんの家に行ってくる」

娘「うん、待ってるからね」
286 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/31(日) 06:04:44.35 ID:tEpQps8u0
3丁目のおばさん宅にて

おばさん「はい、これ。約束のドーナツね」

修道女「やった! おばさん、ありがとう」

おばさん「はいよ。あんたも仕事がんばりなよ」

修道女「これ食べたら頑張るよ。じゃあね」

修道女「へへ、久しぶりだな、おばさんのドーナツ。クッキーはこの前食べたけどね」

修道女「うーん、楽しみだなあ。早く娘のところに戻ろう。あ、その前にちょっと中身を確認しておこうかな」

修道女「ブルーベリージャムの乗ったドーナツが大好きなんだよね。あるかな?」

修道女「お、二つもある。それにチョコドーナツが一つと、砂糖をまぶしたのが一つかあ。どれも美味しそうだなあ」

修道女「ドーナツの数は合計4つ。宿屋のおじさんは甘い物を食べないから、私と娘で2つずつ。いや、待てよ。門番が来る可能性があるから、そうすると一人一つずつとして、余りが出る」

修道女「このドーナツはもともと娘が貰う約束をしていたものだから、余りのドーナツの所有権は娘のものになるよね?」

修道女「ブルーベリーのドーナツも食べたいけど、チョコも捨てがたいな。……よおし、それなら」
287 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/31(日) 06:05:32.84 ID:tEpQps8u0
宿屋にて

修道女「娘、ただいま」

娘「おかえり、遅かったね」

修道女「うん、おばさんと話し込んじゃって。待った?」

娘「いや、今お茶の準備が出来たところだよ」

修道女「へえ。あれ、カップが3つあるけど」

娘「ああ、今日は門番の仕事が昼までだからね。そろそろ来る頃だ」

修道女(読みどおり!)

修道女「そうなんだ。はい、これドーナツ」

娘「うん、どれどれ。美味しそうだね」

娘「ブルーベリージャムの乗ったものが2つ、砂糖がかかったシンプルなものが1つか」

修道女(本当はチョコドーナツもあったんだけど、それはもう私のお腹の中だからね。美味しかったなあ)
288 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/31(日) 06:06:03.80 ID:tEpQps8u0
修道女(もともと小さめの箱に4つのドーナツは、ほぼぴったりと納まっていた。そこから1つ無くなったとしても、不自然にはならない。最初から箱のスペースに余裕を持って3つだけ入っていたと思うはずよ)

修道女(それに3つという数は私、娘、門番の分にぴったり合う。あのおばさんは私たちの交友関係を知っているから、1人1つになるようにドーナツを用意した。娘ならそう考えるはず)

修道女(それに、2つあるジャム付きのドーナツではなく、チョコドーナツを食べたのにも考えがあってのこと。ジャムはドーナツにたっぷりと塗られているから、箱にもジャムが付着している)

修道女(ジャムが付着している箇所のは箱の半分にあたる。ジャムドーナツが1つだけなら、こうはならない。その箇所は3分の1におさまるはず。だからジャムドーナツを食べるのはダメ)

修道女(同じ理由で砂糖をまぶしたドーナツもダメ。まぶされた砂糖が箱に下に落ちているから。だけどチョコドーナツはチョコが生地の中に盛り込まれているもの。箱に付着するものはない)

修道女(完璧ね。いくら娘でも、私がドーナツをつまみ食いした事なんて分かるわけもない!)
289 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/31(日) 06:06:41.05 ID:tEpQps8u0
修道女「どっちも美味しそうだなあ、どっちにしようかなあ」

娘「なるほど修道女……相変わらず甘いものが好きみたいだね」

修道女「うん、もちろん。甘いもの無しで生きていけないよ」

娘「ドーナツをつまみ食いするくらいに好きなんだろうね」

修道女「!?」

修道女(ばれてる!? なんで?)

修道女「な、なんの事かしら?」

娘「ふふ、シラを切るのかい。そうだね、門番が来るまでまだ時間もあるし、少し話をしようか」

修道女「そんな事よりドーナツ食べようよ、ほらほら!」

娘「女の子同士のおしゃべりだ。まあ、聞きなよ」

修道女「いや、ドーナツ」

娘「聞きなさい」

修道女「は、はい」
290 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/31(日) 06:07:14.69 ID:tEpQps8u0
娘「さて、私はある状況証拠から修道女がドーナツを1つ盗んだ事という事実を推理した。おそらく本来のドーナツは4つ、左からジャムドーナツが2つ、盗まれたドーナツ、砂糖ドーナツの順番で納められていたはずだ」

修道女(当たってる! なんでわかるのよ?)

娘「この残された3つのドーナツ。一見、自然に見えるが、実は不自然な箇所がある。ジャムの付着だ」

修道女(それは、ちゃんと考えて対策ずみのはずだけど)

修道女「ジャムがどうかしたの?」

娘「ジャムが箱に付着することを考慮して、あえてジャムドーナツ以外のドーナツを選んだんだろうけどね。それでは不十分だったんだ。君はジャムが自然に付着している事を重視するあまり、本来あるべき場所のジャムを拭い取ってしまったんだ」

修道女「ジャムが本来あるべき場所?」

娘「ドーナツだよ」
291 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/31(日) 06:08:08.20 ID:tEpQps8u0
修道女「なに言ってんのさ? 見ての通り美味しそうなジャムがたっぷりかかってるじゃない」

娘「そうだね。たしかにジャムドーナツにはジャムがたっぷりとかけられている。ジャムを1つずつかけてから箱に入れたんだろうね。ドーナツの側面にもジャムが垂れている」

修道女「うん、すっごい美味しそう」

娘「一番左のジャムドーナツをA、もう1つをBとしようか。Aの左側面、箱の壁に面した部分にはジャムがたっぷりで当然、箱の壁にもジャムが付着している。Aの右側面はBの左側面に接しているから、そのジャムの量はすごい事になっているね」

修道女(………あ、しまった!)

娘「自分のミスに気が付いたかな? そう、他に比べてBの右側面のジャムはね、少なすぎるんだよ。まるで何かで拭いとったかのようにね」

修道女「う、それは」

娘「私はこう推理する。本来、ドーナツは4つあった。この箱にはきっちりと、やや詰め込みすぎの感があるほどに納められていたんだ。そこから1つドーナツを抜き取るとどうなるかな?」

娘「当然、抜き取られたドーナツと横のドーナツと擦れ合う。その結果、ジャムドーナツBの右側面に付着したジャムは、拭われるように、抜き取られたドーナツに付着したんじゃないかな?」

修道女「!?」
292 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/31(日) 06:09:19.90 ID:tEpQps8u0
娘「おばさんのブルーベリージャム、君の大好物だったね。美味しかったかな?」

修道女「いや、ちょっと待って。そんなの証拠が」

娘「今、認めたなら、この件は不問にしよう。どうだい」

修道女「ごめんなさい」

娘「うん、許す。門番も遅いし、もう始めるとしようか」





娘「実を言うとね、ドーナツが4つあったのは考えるまでもなく知っていたんだ」

修道女「ええ!?」

娘「もともと、おばさんに4つ欲しいと頼んでいたからね」

修道女「なにそれ、じゃあさっきの推理はなんだったのよ」

娘「ただのお遊びだよ。楽しかったろう?」

修道女「ぜんぜん」

娘「私は楽しかったよ。修道女で遊ぶのは久しぶりだからね」

修道女「ちょっと、今、でって言ったでしょ?」
293 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/31(日) 06:09:59.75 ID:tEpQps8u0
娘「まあ、いいじゃないよ。それより、問題だ。今度は君が推理してみなよ」

修道女「問題?」

娘「私は何故、おばさんに3つや5つでも無く4つのドーナツを頼んだのか」

修道女「あ、確かにそれおかしいよね。う〜ん、3つなら私、娘、門番の分って事で良いんだけど、そもそも私の訪問が突然だったから、その線は無し。娘と門番で2つずつ?」

娘「最初の答えの方が近いね。私、君、門番の分だよ」

修道女「へ、でも」

娘「そろそろ愚痴を言いに来る頃だろうと予想していたからね。気付いてないのかもしれないけど、君は毎年、精霊祭前のこの時期に愚痴に来るんだ。もし来なくても、呼びにいくつもりだったよ」

修道女「へえ、気付いてなかった。でもそう言えば精霊祭前はいつも愚痴りに来てるかも。でも、それだと3つじゃない? 4つ目のドーナツは?」

娘「君の分だよ」

修道女「あれ?」

娘「そもそも君がこの時期に愚痴を言いたくなるのは、精霊祭の前には節制生活が義務付けられるせいだろう?」

修道女「確かに。そんな事しなくても儀式自体はなにも変わらないのに、伝統だから決まりだからって、私にひもじい食生活をさせるんだから! だからお腹がすいてイライラしちゃうんだ」
294 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/31(日) 06:10:49.78 ID:tEpQps8u0
娘「だろうね。だから私は甘い物が好物にも関わらず、ただでさえ普段から修道女として禁欲的な生活をしている幼馴染に、たまにはドーナツくらい多めに食べさせてあげようかと思ってね」

修道女「え?」

娘「私は君以上に不信心だからね、教会の決まりなんて気にしないんだ。それよりも幼馴染を手助けしたいからね」

修道女「じゃあ、最初からあのドーナツは」

娘「君の分だよ」

修道女「「そんな……それなのに、私、意地汚い真似して」

娘「うん、そうだね」

修道女「そこは違うよって言ってよ」
295 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/07/31(日) 06:11:20.41 ID:tEpQps8u0
娘「反省したかい?」

修道女「うん、すごく」

娘「いいよ。だから、泣かないでね」

修道女「うん、ひっく、泣かない」

娘「ふふ、もう泣いてるよ」

修道女「うん、娘。ごめんね、ありがと」

娘「いいさ、それよりドーナツ食べよう。君の愚痴も聞いてあげるからさ」

おわり
296 : ◆T4kE1oY42E :2011/07/31(日) 06:16:08.75 ID:tEpQps8u0
なんかこう女の子同士の友情を書きたかったはずだった。
推理部分は家にミスドの箱があったから開けたら、空だったときに思いついた。
いつか別のスレ立てたら使おうと思ってたネタだったけど、謎解きのストックが無くなって来たの転用。


それではお付き合いありがとうございました。
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/07/31(日) 10:35:51.42 ID:Q+30bfZt0
乙!
修道女かわいいなぁ
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/07/31(日) 16:55:00.40 ID:Bq4NPmNAO
乙です
なんかほのぼのだな
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 18:33:26.20 ID:OTWqNUwIO
いいね〜
二人ともいい子だわ〜
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) :2011/08/11(木) 13:22:04.90 ID:uwdoWQeg0
途中まで読んだけど面白いなこれ
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/13(土) 00:51:44.16 ID:rYftC0rAo
最新まで読んでも面白いだろ?
302 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/08/24(水) 10:27:33.72 ID:ip3FBBbV0
今回も少しずつ書いていく方式で行きます。
毎日とは言わないまでも週に2、3回は書きたい。

それではまたお付き合いください
303 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/08/24(水) 10:28:33.05 ID:ip3FBBbV0
事件発生から数日前、宿屋にて

娘「ダンジョン?」

門番「どうやら潜ることになりそうなんだ」

娘「それはまた、どうしてだい? 冒険者にでも職を代えるつもりかな」

門番「まさか。そうじゃなくて、これもお城の仕事だよ」

娘「城の仕事でダンジョンという事はもしかして、聖なる洞窟の事かな?」

門番「毎年、精霊祭の日に王家の人間が、聖なる洞窟の奥にある王家の間で儀式を行うのは知っているでしょ?」

娘「もちろん。王族だけが足を踏み入れることの出来る特殊な結界が張られている場所だね。私たちのような一般人は直接見る事は出来ないけれど、そこで行われる儀式が精霊祭のメインイベントと言っていいよね」
304 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/08/24(水) 10:29:04.75 ID:ip3FBBbV0
門番「その通り。今はほとんど動いていないけど聖なる洞窟の中には侵入者を排除するための罠や守護者がいて、完全に安全というわけでは無いんだ」

娘「という事は王族の警備をするためにダンジョンへ? それなら凄い大仕事をだと思うけどね」

門番「ううん、僕がダンジョンに潜るのはその前、下見だよ。前日にダンジョンに潜って危険が無いか、確認しておくんだ」

娘「ああ、なるほどね。確かに君にはまだ王族のお供は早いからね」

門番「そりゃ僕はまだ未熟者だけどさ、これだって十分すごい仕事だよ」

娘「まあ、がんばりなよ。見事にやり遂げたら頭くらいは撫でてあげるからさ」

門番「本当!? やった、がんばるよ僕!!」
305 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/08/24(水) 10:29:40.08 ID:ip3FBBbV0
事件発生3日前

門番「という事があったから、なんとしてでもこの仕事をやり遂げたいんだ」

修道女「あんたは本当に変わらないわね、この娘バカ」

門番「何とでも言えばいいさ。今更、修道女に何を言われたって気にならないから」

修道女「ふうん。で、娘にはいつ告白するの?」

門番「え?」

修道女「あんたの気持ちなんてバレバレじゃん。さっさと告白すればいいのに」

門番「な、なに言ってるんだ! もしも振られたら僕はどうやって生きていったら良いんだよ!?」

修道女「このヘタレ」

門番「いや、だってさ」

魔法使い「はっはっは、なにやら賑やかですな」
306 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/08/24(水) 10:30:10.02 ID:ip3FBBbV0
門番「あ、うるさかったですか」

修道女「あんたがね」

魔法使い「いやいや気にしなくてもいいよ」

門番「あ、すいません。ダンジョン探索の会議なのに」

魔法使い「なあに、まだ定刻になっていないし、人も揃っていない。会議前の時間をどうしてようと自由さ。なあ、盗賊くん?」

元盗賊「元、だ。まあ、好きにすればいいが煩いのはかなわん」

門番「ごめんなさい」

修道女「なさい」

元盗賊「ふん」
307 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/08/24(水) 10:31:17.62 ID:ip3FBBbV0
ガチャ

戦士「んん? どうやら拙者が最後のようですな。これは申し訳ない」

魔法使い「ああ、君が戦士くんか。きっちり定刻だよ。気にする事は無いさ」

元盗賊「時間が惜しい始めるか」





門番(今日はダンジョン探索のためのパーティの会議。探索と言っても、聖なる洞窟の下見は毎年行われていて、すでにやるべき事のマニュアルも出来ている。そこまで気負うほど難しい仕事じゃない)

門番(だから今日の会議は確認と顔合わせの意味が大きいかな。パーティの構成は、戦士、僧侶、魔法使いのオーソドックスな構成に加えて、王城側の責任者として僕。以上4名でダンジョンを潜ることが事前に聞かされていた)
308 : ◆T4kE1oY42E [sage]:2011/08/24(水) 10:32:00.33 ID:ip3FBBbV0
門番(ただ唯一の誤算は……事前に決められた僧侶が、このよく知った修道女だということだ)

門番「はあ、どうして修道女なんだよ」

修道女「なによ、私だって立派な僧侶だもん」

門番「本当に大丈夫なんだろうか、このパーティで」

第五話『閉じ込めたのは誰か?』
309 : ◆T4kE1oY42E :2011/08/24(水) 10:33:00.98 ID:ip3FBBbV0
今日はここまで、これくらいのペースでだらだら書いていきます。
それでは、また後日
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 15:00:27.11 ID:n9fxGl1IO
楽しみにまってまする
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/25(木) 02:20:08.95 ID:XM+H7aono
修道女かわいい
この話でもっと好きに慣れたら嬉しい
がんばれ!
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/08/25(木) 11:39:24.36 ID:CtU2i1EAO
>修道女「なさい」
なにこれかわいい
313 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/08/26(金) 03:24:43.50 ID:V+XHlWB70
魔法使い「さて、それでは自己紹介から始めるとしましょうか?」

戦士「ふむ、それが妥当ですな」

元盗賊「俺もかまわん」

修道女「異議なーし」

門番「僕も異議ありません」

魔法使い「それじゃあ、まずは言いだしっぺの私からいきましょう。私は魔法使いと申します。基本的な魔法は一通り扱えますが、どちらかと言うと攻撃魔法よりも補助魔法が得意です」

門番「なるほど。洞窟内はほとんどの敵がすでに駆逐されていますから、戦闘特化の魔法使いよりも心強いですね」

魔法使い「ほお、若いのにわかってらっしゃるな。聖なる洞窟は内外を問わず、様々な結界に守られた場所なので、私のような魔法使いはパーティに必須さ。魔法省が私を選んだのも、そういう理由でしょうな」

門番「魔法省の方なんですか?」

魔法使い「ええ。毎年、この下見には魔法省から派遣された人間が1人参加する事になっているからね」

門番「へえ、そうだったんですか」
314 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/08/26(金) 03:25:34.81 ID:V+XHlWB70
元盗賊「魔法省、ねえ」

魔法使い「なにか?」

元盗賊「いや、最近は色々ときな臭いからな。あんたらは」

魔法使い「!?」

戦士「と、盗賊殿、失礼ですぞ!?」

魔法使い「いや、構わんよ。不祥事が続いてるのは本当のことだ」

戦士「しかし」

魔法使い「少しでも信用を取り戻すためには、今回は頑張らせてもらうさ」

元盗賊「ふん、足だけは引っ張ってくれるなよ」

門番(魔法省か。たしかに僕としても最近はあんまり良い印象が無いんだよな。ただこの人に限って言えば、話しやすそうだし、一緒に仕事するには悪くないかな。今のとこ元盗賊さんとはちょっと、やりにくい気がするな)
315 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/08/26(金) 03:26:19.53 ID:V+XHlWB70


戦士「では、気を取り直して、次は拙者がいきましょう。拙者は戦士! 先ほど、洞窟内の敵は駆逐されたという話が出ましたが、それも完全ではござらん。もしものときのために先陣を切って戦うためにパーティに加って次第」

魔法使い「ほお、これは頼もしい」

門番「戦士さんは王城兵ですよね。お城で見たことがありますから」

戦士「いかにも。拙者以外に城仕えの人間が同行すると聞いていたが貴方か! そう、拙者は普段は王城兵でしている。貴方とは管轄が違うようですがな」

門番「ええ、僕は警備担当なので」

戦士「拙者は剣術指導を主に」

魔法使い「王城の剣術指導か。本当に頼もしいじゃないか、ねえ?」

門番(僕が習ったのは別の人だったけど、王城の剣術指導なら腕は確かなはずだ。戦士としては申し分ない。東方国のなまりがあるから、向こうの人なのかもしれないな)
316 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/08/26(金) 03:27:21.13 ID:V+XHlWB70



元盗賊「ふん。次は俺か。元盗賊だ。普段は用心棒の真似事をしている。今回は城に金で雇われてここに来た。以上だ」

門番「あの、盗賊を止めた理由とか聞いていいですか?」

元盗賊「盗賊やってる時代でも無くなった。それだけだ」

門番(やっぱり無愛想で、少しとっつきにくい感じ。でもダンジョン探索に盗賊の技術は役の立つはずだ。それに王城が雇うくらいだから腕は確かなんだろう)
317 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/08/26(金) 03:28:13.05 ID:V+XHlWB70
門番「で、次は」

修道女「私」

門番「さっきから一言も会話に参加してなかったけど、どうしたの?」

修道女「んー、話を進みやすくするために黙ってた」

門番「おい」

修道女「修道女です。この探索には毎年、教会の中から一定以上の魔力のある子がランダムで選ばれるんだけど、今年は残念ながら私が選ばれてしまいました。回復、解呪を担当します」

門番「ランダムだったのか、どうりで」

修道女「私が選ばれるわけでしょ?」

門番「自分で言うなよ」
318 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/08/26(金) 03:29:06.17 ID:V+XHlWB70
修道女「あ、あと魔法も少しなら使えます。ちゃんと習ったわけじゃないからあまり得意じゃないけど」

魔法使い「ほう、大したものだ」

修道女「本当にたいしたものじゃないけど。まあ、こんなものかな。次は門番、ちゃっちゃと終わらせちゃって」

門番「わかってるよ」

戦士「さっきから聞いていると、お二人は知り合いのようですな」

門番「はい、幼馴染です。でも今回、一緒にパーティを組むようになったのは偶然です。ここに来るまで修道女が参加することも知りませんでした」

戦士「幼馴染ですか。中が良いわけだ」

修道女「どうでもいい方の幼馴染だけどね」

戦士「?」

門番「あ、無視してください。では、僕の自己紹介にいきましょう
319 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/08/26(金) 03:32:31.89 ID:V+XHlWB70
今日はここまでにします。
また近いうちに
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/26(金) 05:57:13.60 ID:zDaGfjLSO
乙ー
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/26(金) 07:00:02.28 ID:dusN13KSO

どうでもいい方wwww
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/08/26(金) 08:50:18.34 ID:/x+As7eAO


お互いにどうでもいい方の幼なじみだと思ってるのかな
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/26(金) 17:20:40.55 ID:0cptfj0Qo
片方にとってはどうでもいいんだろうな
もう片方にとってはどうかわからんが
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/08/27(土) 01:16:17.11 ID:2naPQLGI0
>>323を見た後に

>修道女「どうでもいい方の幼馴染だけどね」

ここ読み返して…いやまさか、そんなねぇ。
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/08/27(土) 13:06:09.85 ID:OHGYT4yAO
幼馴染みの三角関係って定番だよね
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 01:01:28.96 ID:R9QhNq9IO
どうした?
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 17:41:12.94 ID:6TC1Anh/o
すごい面白い。
漫画の原作みたいな感じ。
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328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2011/08/31(水) 03:06:57.44 ID:YYigAPEx0
門番「僕は門番です。さっきも言いましたが普段はお城の警備をしています。今回は、王城兵の仕事として探索に参加することになりました」

門番「立場上は責任者という事になっていますが、ダンジョン探索の経験もない未熟者です。みなさんの力を借りることになると思いますので、その時はよろしくお願いします」

魔法「うむ、こちらこそよろしく頼むよ」

戦士「拙者の方こそ」

盗賊「……」

修道女「仕方ないなあ」

門番「では、自己紹介の次に実際の計画についてなんですけど……」

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329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2011/08/31(水) 03:07:33.25 ID:YYigAPEx0
事件発生から2日前、宿屋にて

修道女「という事があってさ、私も門番と一緒にダンジョン探索することになった。驚いた?」

娘「少しはね。修道院の規則からいって君がいつかダンジョン探索に借り出されるのは予想していたけど、それが彼と同じだなんてね」

修道女「たしかに。まあ、私としてはラッキーかな。門番がいなけちゃ知らない人たちと長い間、地下深くで一緒だったんだから」

娘「あなり楽しい状況では無さそうだね」

修道女「だから知り合いがいるだけ、まだましかなって。たとえそれが門番でも」

娘「ふふ、ひどい言い様だ。あれでも彼は意外に頼りになる。知っているだろう?」

修道女「普段はヘタレな事と合わせて知ってる」

娘「それは違いない」

修道女「でしょ? あ、ヘタレと言えばさ」

娘「門番のことかい?」

修道女「そう、門番。あいつとどうなってるの?」

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330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2011/08/31(水) 03:08:04.70 ID:YYigAPEx0
娘「どうとは?」

修道女「門番ってさ、娘にベタ惚れでしょ」

娘「ああ、そうだね」

修道女「でも告白して来ないでしょ」

娘「ああ、そうだよ」

修道女「あのヘタレめ。で、娘は門番のことをどう思ってるの?」

娘「まっすぐな質問だね」

修道女「回りくどい事しても私じゃあ煙に巻かれるだけだもん」

娘「なるほど、賢明だ」

修道女「で?」

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331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2011/08/31(水) 03:08:33.77 ID:YYigAPEx0
娘「なにも無いよ」

修道女「何も無いの?」

娘「彼がヘタレだからね。それに、私としても今のままが心地よい」

修道女「なにそれ、つまんないよ」

娘「なら話はここまでにしよう」

修道女「えー」

娘「それより、私からも質問があるんだ」

修道女「ん、なに?」

娘「それは……」

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332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2011/08/31(水) 03:10:13.55 ID:YYigAPEx0
ちょっと短いけどここまで。
また近日中に。
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333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/31(水) 11:23:54.17 ID:PnTOB3L+o


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334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/31(水) 11:25:50.48 ID:PnTOB3L+o


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335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/08/31(水) 11:26:49.54 ID:Cmo4pm1so

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336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/31(水) 15:44:13.97 ID:m8SfxKLDO
分かった!!犯人は修道女だっ!!!
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337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/08/31(水) 16:37:23.49 ID:aUY8A8aAO
俺は魔法使いだと思うぜ!
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338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/31(水) 17:10:31.63 ID:PnTOB3L+o
いや、ここは娘だろ
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339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/31(水) 19:59:22.75 ID:rBTFWxdSO
お前ら予測は事件発生してからにしろwwww
犯人はヤス(キリッ
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340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/09/04(日) 17:37:08.31 ID:6a529HLjo
大丈夫?
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341 : ◆T4kE1oY42E :2011/09/05(月) 03:39:21.71 ID:d3I0crNI0
娘「……だから………」ヒソヒソ

修道女「ああ、なるほど。それは………」ヒソヒソ

娘「じゃあ………」ヒソヒソ

修道女「……娘が言うならそうするけどさ。それでいいの?」

娘「そういう状況にならないに越したことは無いだろうけどね。念のためさ」

修道女「ふうん、まあいいや。で、門番は?」

娘「そろそろ来る頃だね」

門番「娘、きたよー」

修道女「うわ、本当に来た」

娘「ね?」
342 : ◆T4kE1oY42E :2011/09/05(月) 03:40:13.13 ID:d3I0crNI0
門番「なんだ、修道女も来てたのか」

修道女「ダンジョン探索についてあんたと話し合いする約束があるからね」

門番「え? そんな約束してたか?」

娘「そう言って教会から抜け出してきたんだろう?」

修道女「あたり。サボれそうな時はサボらないとね」

門番「あのなあ。人をサボりの口実に使うなよ」

修道女「まあ、いいじゃん。それよりも娘、ご飯作ってよご飯。お金は門番が払うから」

門番「おい」

娘「いや、いいよ。今日は特別に二人にご馳走しよう」

修道女「やった、さすが娘だ!」

門番「え、いいの娘?」
343 : ◆T4kE1oY42E :2011/09/05(月) 03:40:54.42 ID:d3I0crNI0
娘「用意はしていなかったから、特別なものは出せないけどね。二人の任務成功を祝って、という事でどうかな?」

門番「うん。それならご馳走になるよ」

娘「あと、先行投資の意味も込めてね」

門番「先行投資?」

娘「君、もうすぐ昇進するだろう?」

修道女「え、そうなの?」

門番「……はあ、やっぱり娘には隠せないか」

娘「聖像の件で実績が出来たし、前回の絵の件でもお偉いさんに気に入られた。それに加えて今回の任務だ。おそらく、これが上手くいけば昇進という話になってるんじゃないかな?」

門番「うん、その通りだよ。まだ本決まりじゃないから誰も言うなって言われてるんだけど。まあ、今回の仕事次第かな」
344 : ◆T4kE1oY42E :2011/09/05(月) 03:41:23.65 ID:d3I0crNI0
修道女「へえ、本当なんだ。ねえねえ娘、何買ってもらうの?」

門番「僕が娘に何か買うのは決定事項なのか」

修道女「買わないの?」

門番「買うけどさ」

娘「いや、無理強いはしないさ。そうなるのじゃないかと、私が勝手に思っているだけの話なんだから。もちろん門番に貰えるのなら、なんでも嬉しいよ」

娘「いやいや、大丈夫だよ娘。門番はきっと娘が心の底から欲しいと思ってるものをプレゼントしてくれるからさ」

門番「ちょ、待て」

娘「たしかに、門番なら凄いものをくれるに決まっているよね。期待してるよ。」

門番「……はい、がんばります」

修道女「あはは、プレゼントのハードルあがっちゃったね」

門番「お前のせいでな」
345 : ◆T4kE1oY42E :2011/09/05(月) 03:41:57.03 ID:d3I0crNI0
事件発生前日

???「準備はいいか」

???「ああ、万全だ。こうして、パーティに潜り込めた時点でな」

???「たしかに、それには苦労させられたからな」

???「だが、これで」

???「ああ、奴らは終わりだ。どうあっても無事では済まない」

???「全ては明日だ。しくじるなよ」

???「もちろんさ」
346 : ◆T4kE1oY42E :2011/09/05(月) 03:43:03.64 ID:d3I0crNI0
今日はここまで。
なかなかダンジョンに入れない。
また近いうちに来ます。
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/09/05(月) 04:17:25.56 ID:HldM/x8Ko
おつん。
>>344
下のほうセリフ一個 娘になってるけど修道女だよね?
348 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/08(木) 11:42:16.96 ID:192KPWEO0
ご指摘感謝

訂正
× 娘「いやいや、大丈夫だよ娘。門番はきっと娘が心の底から欲しいと思ってるものをプレゼントしてくれるからさ」

○ 修道女「いやいや、大丈夫だよ娘。門番はきっと娘が心の底から欲しいと思ってるものをプレゼントしてくれるからさ」
349 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/08(木) 11:42:52.27 ID:192KPWEO0
事件発生当日、聖なる洞窟前にて

修道女「おっはよー。今日は私が最後なんだね」

門番「まあな」

魔法使い「ふむ、これで全員そろったようですな」

魔法使い「そのようですな」

戦士「拙者はもう準備万端でござる」

元盗賊「……」

門番「それじゃあ今回のダンジョン『聖なる洞窟』の特性について最後の確認をしておきましょうか」

戦士「うむ、念には念を、ということだな」

門番「まず今回のダンジョン、聖なる洞窟は1階から地下2階までの計3階層のダンジョンで、元々は王族が一人前として認められるための試練として作られたものです。かつてはこのダンジョンの最下層にある王の間に到達する事が王族として一人前と認められるための、一種の試験でした」

魔法使い「かなり前の風習で、現在は行われていないがね。それが形を変えたものが、現在の精霊祭の儀礼という説もあるが」
350 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/08(木) 11:43:23.90 ID:192KPWEO0
門番「ええ。その性質上、基本的にここで死亡することはありません。ダンジョンの全体に張り巡らされた特殊の結界の効果によって、一定以上のダメージを受けた人間は強制的に外に転移されることになっています」

修道女「強制転移されちゃうと、その人はしばらく中に入れないんだっけ?」

門番「正確には一週間、聖なる洞窟に入ることができなくなる。ただ、試練の風習が廃れて、現在の儀式だけが行われるようになってからは、安全のためにダンジョン内の罠の駆除が行われているんだ。現在では駆除不可能なわずかな罠が残るのみだよ」

戦士「それと試練用に作られたカラクリ兵どもがいるわけですな」

門番「ええ、それも大半は駆除されたようですが。稀に動いている機械兵が見つかる程度です」

門番「罠については、それが存在する場所や対処法が書き込まれた地図があるし、機械兵も数年に1度発見されるかどうかです。ですから、こうやってパーティを組めば危険はまずありませんよ。過剰気味の戦力と言えるくらいです」

元盗賊「簡単な仕事で、金がもらえるなら悪くない」

魔法使い「それと洞窟内では転移魔法の使用が制限される事を付け加えるべきだろう」

修道女「制限って、使えないの?」

魔法使い「人体を移動する魔法は、帰還魔法を除いて全て無効にされるよ。そうでなければ、いきなり王の間に転移すれば済むのだからな」

修道女「たしかに。じゃあ、帰り道は転移で帰れるんだね?」

魔法使い「ええ、帰還魔法は任せてください」
351 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/08(木) 11:43:53.63 ID:192KPWEO0
門番「罠については元盗賊さん、機械兵については戦士さんにそれぞれお願いします」

戦士「任された」

元盗賊「ああ」

修道女「で、万が一だけど怪我したら私が直す。で、門番が偉そうに指図するってわけだ」

門番「間違ってないけどさ、もうちょっと言い方が」

修道女「門番は偉そうにする係りです」

門番「はあ、もういいよ。確認はこんなものですね。では、そろそろ行きましょう」
352 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/08(木) 11:44:19.99 ID:slegVf7A0
王の洞窟、一階にて

戦士「ほお、これは中に入るとかなり広いですな」

魔法使い「ふむ、外部はいかにも洞窟といった感じだったが、中は洞窟いうよりも神殿のようだ」

門番「ええ、壁も床もきちんと舗装されてますね」

盗賊「しかも精巧な細工まで施されている。……さすが王族用か」

修道女「よくわかんないけど、魔力みたいなものは感じるね。これが結界かあ」

戦士「しかし、聖なる洞窟といっても、これだけの広さなら外から来た魔物が住み着いていてもおかしくなさそうですが」

門番「たしかに主のいないダンジョンに魔物が住み着いてしまう件は、過去に報告がありますが、ここは特殊の結界で守られているので大丈夫なんじゃないですか?」

修道女「たしかに入り口のとこには、中と違う感じの結界があったような無かったような」

門番「なんだよ、曖昧だな」

修道女「結界の見分け方なんて習ってないからさ。直感なんだよね」

魔法使い「いやいや、お嬢さんの言う通り。入り口には魔物よけの強力な結界が張ってありましたよ。あれでは魔物が中には入るのは無理でしょう」
353 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/08(木) 11:44:52.85 ID:192KPWEO0
修道女「ほらね?」

門番「なにが、ほらねだよ」

盗賊「待て、一つ目の罠が近い」

門番「ええ、最初の罠は強制送還の魔方陣ですね」

修道女「あれれ? 元盗賊さんって魔法関係の罠も解除できるの?」

元盗賊「解除は無理だ、だが、この罠はその辺りの石が何かを中心に投げてやれば」

修道女「あ、石が消えちゃった」

元盗賊「これでいい。いくぞ」

魔法使い「ふむ。魔力を溜め込んで自動で発動するタイプの魔方陣か。陣の中心に来た物体を無差別に飛ばすようになっているわけさ」

門番「ということは一度でも発動すれば、自然に魔力が溜まるまでは発動しないって訳ですね。あの魔方陣だと今日中は平気そうだ」
354 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/08(木) 11:45:38.59 ID:slegVf7A0
魔法使い「ご名答。んん、君は兵士にしては魔法に詳しいようだが」

戦士「門番殿は一時は魔学の研究者を志していたとか」

門番「え、どうして知っているんですか?」

戦士「会議の後に上司殿にあって、門番殿の話になりましてな」

門番「あ、なるほど。考えてみれば同じ職場ですもんね」

魔法使い「ほう、魔学の研究者を。それがどうして兵士に?」

門番「まあ、色々とありまして」

修道女「……色々ね」

355 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/08(木) 11:51:52.68 ID:192KPWEO0
盗賊「……待て。次のトラップだ。解除に少し時間がかかるタイプだ」

魔法使い「では待たせてもらおうか。しかし、ここまで順調のようですな」

戦士「ええ、拙者は肩透かしをくらった気分です。もちろん何も無いにこした事は無いのですが」

門番「機械兵が存在するのも地下1階からですからね。試練用に作られたという事を考えると、階が進むごとに難易度も高くなるんでしょう。最初はこんなもんです」

戦士「なるほど、気を引き締めてかからんとな」

修道女「みんな、がんばれー」

門番「修道女もがんばるんだよ」

修道女「私はがんばった皆を癒す係だからね。それまではがんばらなくても大丈夫かなって」

門番「でも、最低限は自分の身は自分で守らないと」

修道女「え? 守ってくんないの?」

門番「いや、そういうわけじゃあ無いけど」

修道女「よかった。もう娘しか守る気が無いのかと思ってた」

門番「そんなことないよ。ちゃんと修道女も守る、必ず」

修道女「期待してまーす♪」
356 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/08(木) 11:52:52.75 ID:slegVf7A0
今日はここまで。
なかなか事件を起こせない。
近いうちにまた来ます。
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/09/08(木) 12:39:29.10 ID:WFFXwBhKo
乙です
たまにはこういう冒険談っぽいのんびりしたのも悪くないと思いますよ?
ページや文字数の制限も無いんだしこれはこれで面白いので個人的にはOKです
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/08(木) 13:02:48.07 ID:pYltlh6IO
俺「期待してまーす♪」
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/09/08(木) 23:17:06.60 ID:+1jigp7wo
おつん
360 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/10(土) 03:27:16.96 ID:fKR2OeOP0
門番「ちゃかすなよ」

修道女「ちゃかさないと照れるくせに」

門番「う、うるさいな」

盗賊「これで、いける」

戦士「どうやら、終わったようですな」

魔法使い「では、行こうか」

門番「はい」






修道女「ねえ門番。1階にはあとどんくらい罠とかあんの?」

門番「えっと地図によると残された罠はほとんど無いみたい。もう少し歩けば、下への階段があるはずだけど」
361 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/10(土) 03:27:58.12 ID:fKR2OeOP0
戦士「お、あれでは無いですかな?」

魔法使い「ふむ、そのようだ」

修道女「なーんだ、ほとんど何も起こらなかったね」

門番「次からが本番だからな。いくぞ」

修道女「はいはい」

地下1階

修道女「降りてみたけど、見た感じはさっきと一緒だね」

盗賊「いや、待て」

門番「どうかしたんですか?」

盗賊「なにか妙だ」
362 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/10(土) 03:28:43.88 ID:fKR2OeOP0
魔法使い「私には何も感じないがね」

戦士「同じく」

盗賊「……おい、この付近に罠はあるか?」

門番「えっと、あそこの曲がり角のところに罠がしかけられているはずですが」

盗賊「それだけだな?」

門番「ええ、そうです」

盗賊「だとしたら、やはりおかしい」

魔法使い「一体なにが?」

修道女「私には上と同じにしか見えないけど? この壁とかも全く同じで」

盗賊「触るな!」

修道女「な、なに!?」

盗賊「そこの壁、罠が仕掛けられている」

戦士「し、しかし地図にはそんな罠については何も書かれてないが?」
363 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/10(土) 03:29:20.42 ID:fKR2OeOP0
盗賊「見てろ」グッ

パカッ

門番「壁を押したら、下に落とし穴が出来る仕掛けが!」

修道女「あぶなかったー。なんで地図にのってないのよ! 何度も人が来て、調査してるはずでしょ?」

戦士「書き忘れというわけではないでしょうし、今まで発見されなかった罠という事ですかな?」

魔法使い「いやいや、こんな分かりやすい場所の罠が発見されていないなど、考えられないでしょう?」

戦士「確かに。なら何故?」

盗賊「俺の見たところ、あの曲がり角に罠は仕掛けられていない」

門番「え、でも地図には」

盗賊「違和感はそれだ。地図と、実際に罠のある場所が食い違っていた」

門番「!?」
364 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/10(土) 03:30:20.91 ID:fKR2OeOP0
修道女「書き間違い、って事は無いのよね? という事は……どういう事?」

盗賊「まだ、何とも言えん」

魔法使い「ここでじっとしていても始まらん。とにかく移動しよう。食い違いがここだけなのか、それを確かめるためにも」

戦士「そうですな。行きましょう」

門番「わかりました。ここからは用心していきましょう。先頭は盗賊さん、頼みます」

盗賊「ああ」

門番「次に僕、修道女、魔法使いさん、しんがりは戦士さんにお願いします」

戦士「ああ、任された」


30分後


ヒュン!

門番「いきなり、矢が!」
365 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/10(土) 03:31:13.35 ID:fKR2OeOP0
魔法使い「ひぃ!」

盗賊「あぶない!」パシッ!

修道女「すっご。飛んでくる矢を受け止めちゃった。もう少しで盗賊さんに当たるとこだったよ」

魔法使い「死ぬかと思った」

戦士「これで3度目ですな」

盗賊「やはり、か」

魔法使い「またも罠の位置が食い違っているね……なぜだ!? このダンジョンはすでに何度も調査されてきて、完全に把握されているはずだ!脅威など何も無いはずだ!なのに、なぜ!」
366 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/10(土) 03:31:47.93 ID:fKR2OeOP0
戦士「魔法使い殿! 落ち着きなされ、このような時こそ冷静に」

魔法使い「うるさい! こんな事やってられるか。緊急事態だ。一旦、地上に戻るべきだろう!」

門番「魔法使いさん、それを決めるのは僕の仕事です」

魔法使い「なら、さっさと」

門番「いえ、戻りません。このダンジョンで命を落とす事はありませんから、このまま探索を続行します」

魔法使い「何だと! ええい、もういい。こんな場所にいてられるか、私は戻るぞ!?」
367 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/10(土) 03:36:39.78 ID:fKR2OeOP0
魔法使いさんにフラグが立ったところで、今日はここまで。
また近いうちににきます。

>>357
それではもう少し冒険させとこうと思います。
娘の出番ももう少し後に。
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/09/10(土) 05:24:30.29 ID:ufj3Ry0Uo
おつん
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/10(土) 09:53:12.72 ID:DCE++TSi0
魔法使いのフラグがわかりやすすぎるwwww
370 : ◆T4kE1oY42E [saga]:2011/09/16(金) 02:57:10.23 ID:gcRiaxpH0
ごめん
ちょいとリアルが忙しいのであと一週間くらい書けそうにないです。
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/09/16(金) 21:22:39.93 ID:9Cu8Nufwo
体に気をつけてな
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/10/11(火) 17:33:44.74 ID:+vdb8VL5o
生きてるかな・・・?
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/12(水) 00:49:17.00 ID:uaKb6oLFo
死んだら死んだって報告あるっしょ
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/15(土) 11:50:02.28 ID:5sqOxprDO
まだかな
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/17(月) 02:15:01.24 ID:pnQA5HXto
ひと月たったわけだが
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(三重県) [sage]:2011/11/05(土) 17:15:05.38 ID:Z56l4VfUo
死んだのかな?
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 22:57:38.41 ID:DALZAsnDO
ま〜だ〜〜?
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) :2011/11/27(日) 11:09:30.67 ID:shM6MR/ho
もう二ヶ月だ
ageちまおっと
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(三重県) [sage]:2011/11/27(日) 16:58:51.50 ID:8qd9yKCCo
上げる意味合いがわからない
来ないなら来ないで埋もれて消えて然り
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(中国地方) [sage]:2011/11/27(日) 20:45:19.83 ID:/XwZkUF6o
続ける気がある作者ならスレタイや専ブラとかのログですぐ見つけるから上げる必要は全然無い
上げて喜ぶのは乗っ取れとかごちゃごちゃ騒ぎたい第三者を集めたがる奴くらいだ
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/28(月) 23:37:09.62 ID:AYxsRSYdo
2chでガチになんなよ
ほら深呼吸
382 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 22:03:24.81 ID:A3WY1n+lo
もう来ないのかな・・・
383 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 22:50:05.07 ID:yqCV52bDO
来てくれると信じてまつる
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