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梓「モンスターハンター?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/09(水) 09:37:55.06 ID:YdrHANSAO
 以前、VIPにて少しだけ、導入部程度を書いた物です。

 未完のままがずっと気持ち悪く、かと言って携帯で書き溜めをする余裕も無く。

 無責任でいい加減なことですが、なんか続きを書きたくなったんで書きます。

 書けるときにポツポツと書きたいことを書くつもりなので、基本投下するペースというものは自分勝手な形になります。

 チラ裏の落書きとでも言いましょうか、お見苦しくないように努めたいと思いますので、どうか存在することをお許しください。
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713353246/

木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1713351945/

いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713279251/

【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713277692/

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713183168/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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エルヴィン「ボーナスを支給する!」 @ 2024/04/14(日) 11:41:07.59 ID:o/ZidldvO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713062467/

2 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 09:43:13.81 ID:YdrHANSAO
 “街の人たちが困ってるんだって!”

 お姉ちゃんはそう言った。

 “居場所がわかったらしいよ! これはもう、狩りにいくしかないよね!”

 愛用している双剣を携えて。

 “また、すこしだけひとりきりにしちゃうけど…、”

 申し訳なさそうな表情をして、私の頭をそっと撫でてくれて。

 “ちょっとだけ待っててね! 私と違ってしっかりしてるから、平気だよね!”

 そんな、聴きたくもない別れの言葉を告げて。

 “──それじゃあ憂っ、いってきます!”

 お姉ちゃんは、『陽炎龍』の討伐に出かけた。

 お姉ちゃんを含めた律さん、澪さん、紬さんの4人のパーティーは、
 その日を境に帰ってこない。

憂「…お姉ちゃん……あとどれくらい待てば、“ちょっとだけ”になるのかな…」
3 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 09:47:26.43 ID:YdrHANSAO
 コンコンと、部屋の戸を叩く音が聞こえた。

 眺めていた写真を机に戻して、私は来訪者へ返事をした。

梓「憂、起きてる?」

 友達の梓ちゃん。
 お姉ちゃん達のグループ『HTT(ハント後ティータイム)』の後輩で、私のお友達。

憂「梓ちゃん、おはよう」

 私はイスを引いて梓ちゃんに座るように促してから、すぐに台所に向かって三人分の紅茶を淹れる。

憂「純ちゃんはまだかな?」

梓「鍛冶屋さんに改良を頼んでたから、朝一で受け取ってから来るって昨日言ってたよ」

憂「そっか」

 ポットとカップをトレイに載せて持って、私も席に着く。

梓「いよいよだね」

憂「…うん」

 淹れたての紅茶を一口含んでから、梓ちゃんがひと息ついて言った。

 私はそれに、やや緊張した声色で返す。

 今日は、私のハンター試験。その最終。

 これを無事修了すれば、私はギルドから認められて晴れて、「ハンター」の仲間入りが出来る。
4 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 09:49:38.26 ID:YdrHANSAO
憂「受かると、いいな」

梓「受かるよ。憂なら間違い無く」

憂「お姉ちゃんは、一度落ちてるんだ」

梓「…唯先輩は、やる気がないと受からないからだよ」

憂「梓ちゃんは一回?」

梓「まぁ、ね」

 梓ちゃんは気まずそうに紅茶を飲んで場を誤魔化す。
 その横には、綺麗に手入れをされたボウガンが寄り添って佇んでいる。

純「──おっまたー!!」

 けたたましい音を立てて、部屋の戸が開け放たれた。
 会話の闖入者は満面の笑顔をそのままに、戸を閉めると「やっほう!」と手をあげて挨拶してきた。

梓「純うるさい」

純「いやぁー、ごめんねごめんね〜! 戻ってきた“この子”があんまり可愛かったから嬉しくてさぁ〜!」

 純ちゃんは高いテンションのまま、背中に担いだ太刀を下ろして頬ずりを始める。

純「あぁ…この反り、鋭さ、やっぱり『黒刀』は良いなぁ〜」
 うっとりと恍惚の表情を浮かべる純ちゃんに、私は苦笑いを返して紅茶をすすめた。
5 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 09:52:50.84 ID:YdrHANSAO
 純ちゃんは、梓ちゃんがHTTに加入した時期にハンターになってから、無所属のまま色々なパーティーに客員として参加している、ソロのハンター。

 一緒にクエストをこなした事のある梓ちゃんは、純ちゃんを「動きは粗いけど、攻める時と退く時の判断力が速くて生存能力が高い」と評価してる。

純「はぁ〜っ、憂のお茶は美味しくて染みるぅ〜」

 紅茶の感想を貰ってから、私は時計を見て身仕度を始める。
梓「もう行くの?」

憂「うん。教官さんに、午前中に行くって言ってあるから」

 まだ私は「ハンター」じゃないから、鎧も武器も持っていない。
 ポーチに僅かなアイテムを収めて、準備は完了する。

純「おっ、じゃああたしたちも見送りに行きますか!」

梓「……憂、大丈夫?」

 梓ちゃんが、顔を覗きこんでくる。
 その「大丈夫?」は多分、これからする試験に対してじゃなくて。

 私がお姉ちゃんと同じ位置に立つ。その事への心遣い。

憂「うん、大丈夫だよ。…梓ちゃんも純ちゃんも、ありがとう」

 そして私は、訓練所の扉を叩く。
6 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 10:34:24.64 ID:YdrHANSAO
教官「──止めえぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」

 闘技場に教官さんの声が木霊する。

憂「ハァ…ハァ…ハァ…」

 肩で息をする私の前には、地に伏せる『怪鳥』の姿があった。

教官「お見事! よくぞ『怪鳥』イャンクック、並びに『桃毛獣』ババコンガを討ち倒した!」

 教官さんが試験を終えた私に讃辞をくれる。
 正直なところ、メゲそうになるくらい辛かったけど、梓ちゃんたちに教わったことや、教官さんとの試験で得た知識、そしてなによりも、私はあのお姉ちゃんの妹だっていう自信が、私に力をくれた。

 お姉ちゃんなんかがクリアした試験だから……って意味ではなくて、
 私の、尊敬する、大好きなお姉ちゃんは、もっと、ずっと先に居たから、

 私は、こんなところで負けていられなかった。

教官「憂よ。オマエは良くできた教え子だった。神童と呼ばれたあの唯の妹ならば納得ではあるが、オマエは同期では一番よい成績を上げているぞ」

憂「そんな、褒めすぎですよ……えぇっ!?」
7 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 10:37:00.00 ID:YdrHANSAO
 なんかもの凄いことをさらりと告げられた!

憂「神童…ですか? お姉ちゃんが?」

教官「うん? 話した事はなかったか?」

 一度もありません。

教官「ふむ。実は唯の試験にはあるトラブルが有ってだな」

憂「とらぶる?」

教官「お手伝いさんが檻を間違えてしまって、唯はババコンガの後にイャンガルルガと闘うハメになってしまった」

憂「ええぇっ!?」

教官「勿論、我輩はすぐさま試験を中断し唯を救出しようと向かったのだが……」

憂「…向かったのだが?」

教官「我輩が得物を持って駆けつけた時には、既にイャンガルルガは虫の息だった」

 …まさか。
 クック用に準備された装備で、イャンガルルガを倒しちゃうなんて。

教官「しかし、申し訳ない事に、ギルドからは“『黒狼鳥』では試験の条件が違う”というお達しで、その試験では唯を合格させることは出来なんだ」

憂「あ……」

 だから。お姉ちゃんは、一度試験に落ちたんだ。
8 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 10:38:36.62 ID:YdrHANSAO
 《えへへー、試験落ちちゃったよ憂〜》

 あの日、お姉ちゃんが試験から帰ってきた日のことを思い出す。

 お姉ちゃんはすり傷と土埃だらけで、そんなに怪我をするくらいなら、ハンターになんてならないで欲しいと思った。
 でもお姉ちゃんは、

唯「ハンターになるとね、沢山お金が稼げるようになるんだよ。ウチはいまお父さんもお母さんもいないから、ちょっとでもお金が有ると困らないよね!」

 と言い、そのまま次の試験を受けて、合格した。

 “困らないよね”

 その言葉の意味を、私は理解していた。

 “憂が大きくなったとき、何をするにも困らないよね”

 そう。
 お姉ちゃんは、
 私を養うためにハンターになった。

 ……私のせいで、お姉ちゃんは…。
9 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 10:39:47.09 ID:YdrHANSAO
教官「その次の試験は正しく、正規のモンスターを準備した。本来はこちら側の不備であるから再試験について、我輩はギルドに殴り込みにいくところだったのだが」

 この人なら、本当に殴り込みに行っただろうな。

教官「唯は嫌な顔一つせず、問題無しに試験をクリアしてみせた。本当に、大したものだった…」

 教官さんから、こんなにお姉ちゃんのお世辞を聞くとは思っていなかった。…なんだか嬉しいな。

教官「──兎に角! こうしてオマエも無事試験をクリアし、ついにハンターの仲間入りとなった! これから先、オマエは様々なクエストをこなし、様々なモンスターと出遭い、様々なハンター達と共に人生を歩むことだろう!」

 教官さんが、厚いククリの刃をもつ短剣を差し出す。

教官「オマエのこれよりの狩猟人生に、倖多くからんことを祈る!」

 短剣の柄頭には、教官さんのマークがある。
 お姉ちゃんたちも同じものを持っていた、この訓練所で、この教官さんに教えと認可を授かった証拠。普段は素材の剥ぎ取りなどに使ったりするらしいけれど。


教官「──これにてハンター認可試験、修了ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
10 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 10:43:36.83 ID:YdrHANSAO
梓「──憂っ!」

 訓練所を出たところで、待っていてくれた梓ちゃんと純ちゃんと合流する。

純「随分はやかったね? 試験どうだった? ババコンガにくちゃいのヤラれてない? 教官泣いたりしてた?」

梓「純うるさい」

憂「あはは…。大丈夫、ちゃんと合格できたよ、ほらっ」

 純ちゃんの勢いに、梓ちゃんは声をかけるタイミングを失ったみたい。

 純ちゃんも梓ちゃんも、私のこと心配してくれたんだね。

純「おー! 教官ナイフ!」

梓「それ、本当に役に立つから大事にね。クエストでのサバイバルでもそうだし、モンスターを剥ぎ取る時にも使えるから」

憂「うん、知ってる。……ねぇ、2人とも」

純「ん?」

梓「なぁに、憂」

憂「ありがとう」

 お姉ちゃんが帰ってこなくなって、茫然自失としていた私を支えてくれた2人。
 彼女たちが居なかったら、今頃私はどんな人生を送っていただろうか。

 もしかしたら、人生を、やめてしまっていたかも知れない。
11 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 10:45:20.47 ID:YdrHANSAO
梓「…私はべつに、なにもしてないよ」

 梓ちゃんの言葉に、純ちゃんもウンウンと頷く。

梓「人はね、自分で立とうとしなくちゃ、支えられても立てないんだよ」

 まっすぐに。
 私の眼を、梓ちゃんの黒瞳が見つめている。

梓「自分から歩こうとしなくちゃ、歩いたりも出来ない。……だから、いま憂が“そこ”に立っているのは、憂が頑張ったから」

憂「梓ちゃん…」

梓「でも、まだ道は長いよ。いま憂は、唯先輩までの道の、そのスタート地点に立っただけなんだから」

 うん。
 …でもね?

憂「お姉ちゃんが居なくなった後、なにもすることがなくて、なにもする気が起きなくて、そんな私が、“お姉ちゃんのあとを追って見よう”って言い出したのは……梓ちゃんたちが居てくれたからなんだよ」

梓「憂…」

憂「…だから、心から言うよ。──ありがとう」
12 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 10:46:40.37 ID:YdrHANSAO
純「だあぁぁぁ! 辛気臭い!!」

憂「じゅ、純ちゃん?」

純「あのさっ! せっかく憂がハンター試験に合格したって言うんだから、もっとはしゃごうよ、もっとはっちゃけようよ!!」

 純ちゃんがモップヘアーをブンブン振り回して騒ぎはじめる。

梓「…そうね、たしかにちょっと雰囲気暗かったかも」

 梓ちゃんがため息まじりにそう笑うと、純ちゃんは私と梓ちゃんの手を取って引っ張りだした。

純「でしょでしょ!? めでたい日なんだからさっ、美味しいご飯でも食べてパーッと騒ごうって!」

梓「純はいつも騒がしい気がするけど」

純「あんたらが暗いからじゃー!! ……ぅおっほん。とにかくね、アイルー食堂にでも行くとしましょうか」

梓「奢り?」

純「そんなバカな」

梓「ケチ臭っ」

純「じゃあ梓が出してよ」

梓「憂の分だけね」

純「ケチ臭ッ!」
13 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 10:50:17.10 ID:YdrHANSAO
教官「ふむ。ならばここは我輩が持つとしようか」

純「うわっ!」

憂「き、教官さん?」

梓「どうして急に背後から……訓練所は平気なんですか?」

教官「いまはお昼休みだ」

 教官さんは腕を組んでピンと背筋を伸ばしてから、私を見た。

教官「憂にハンター祝いをやらねばいけないのでな、食事をするなら、ついでにそのままやろうとな」

憂「そっ、そんなお祝いだなんて…」

教官「なぁに、憂は成績トップであったし、素質も充分にある。将来この村を引っ張ってくれるであろう未来ある若者への先行投資というわけだ! フハハハハハハ…ゲホゲホ」

憂「素質なんて……」

梓「ここは貰っておいたら? せっかくの好意なんだから」

憂「……わかり、ました。よろしくお願いします」

教官「ヌァハハハハハハッ! 任せい任せい!!」

純「御馳走様でーすっ!」
14 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 10:53:42.88 ID:YdrHANSAO
 結局その後、食堂で教官さんが「食券・上」を振る舞ってくれて、全員でお料理に舌鼓を打ってから、
 鍛冶屋さんで「マフモフ装備一式」と片手剣「ボーンククリ」を揃えてプレゼントしてもらった。

 武器が片手剣なのは、私が試験中に片手剣ばかり使っていたことと、教官さんの「オマエは常に広い視野をもち、かつその場の状況に対応できる能力がある」
 と言ってくれた。

 本当に私って、みんなのお世話になりっぱなしだなぁ……と少し考えてしまう。

梓「それじゃあ今日は、私たちかえるね。」

憂「あ…うん、わかった」

純「え〜? 今日は朝まで騒ごうよってばぁ〜」

梓「憂は疲れてるんだってば…ってお酒臭っ!? 純あんた黄金芋酒飲んだ!?」
15 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 10:55:01.05 ID:YdrHANSAO
純「いやぁ、そこにお酒があったなら、飲むしかないでしょ」

梓「どこの登山家だあんたは! …あぁもう憂ごめん、私純のこと送って行くから、ここで」

憂「うん、また明日ね」

 梓ちゃんは小さい体全体を使って、気付けば千鳥足な純ちゃんに肩を貸すと、フラフラと帰路を歩き始めた。

純「やぁ〜ん、このままじゃあずにゃんに送りニャンコされちゃぅ〜」

梓「そんなこと言ってるとネコートさんの前に連れて行くよ?」

純「はいごめんなさい目ぇ覚めましたマジ勘弁してください説教地獄は死ぬほどイヤDEATH!!」

 なんて楽しそうな会話を去り際に聞きながら、私も自分の家に帰ることにした。
16 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 10:56:45.09 ID:YdrHANSAO
憂「ただいま」

 暗い、だれも居ない部屋に向けて帰宅の言葉をかける。
 まだ夕方前だけど、外に出るときは家中の木戸を閉めるため、家には光らしき光は無い。

憂「よいしょっ…と」

 窓を開けると、途端に陽が射し込んできて部屋中に光が満ちる。
 ベッドに腰を下ろして、ため息をひとつ。
 そのあとに買ってもらった装備品を、私用のボックスに収納していく。

 いまは使われていない、それでも手つかずに掃除だけしてあるお姉ちゃんの部屋には、お姉ちゃん用のボックスがある。
 一度覗いたことがあるけれど、すごく沢山のアイテム、素材、武器や鎧が収められていて驚いてしまった。

 こうして今日、実際にハンターになった今ならわかる。
 あのボックスにはお姉ちゃんの人生が籠められてる。

 だから私は、お姉ちゃんの持ち物に手を出すことはしない。
 それは“お姉ちゃんに追いつく”という目標のためでもあるし、『お姉ちゃんの人生』というものを、私が勝手にかき乱しちゃいけないと考えたから。
 多分お姉ちゃんだったら、貸してと言ったら貸してくれるのだろうけれど。

憂「……お姉ちゃん……」

 今日を最後に、私はお姉ちゃんのことで泣くことを止めようと思う。
17 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 11:33:34.76 ID:YdrHANSAO
 翌日。
 私は目が覚めてから、朝食を食べて家の掃除をして、そして装備品とポーチを身に着けてから、家を出る。
 村の広場の前にはもう梓ちゃんと純ちゃんの姿があって、私に気付くと手を振ってくれた。

純「さぁ〜てぇ、今日は記念すべき憂の初めてのクエストの日ね!」

憂「うん」

梓「それじゃあ、集会所に入って村のギルドマスターに挨拶しにいこう」

憂「ギルド…」

梓「『ハンターズ・ギルド』ね。正規のハンターは必ずここに所属することになるから」

 訓練所の試験がそもそもギルドの管轄だから、どうやっても自動的にそうなる。
 たまに“ギルドの許可なく狩猟を行うハンター”がいて、そういう人たちは、非正規のハンターと言うことだ。

純「せいきのハンターになってクエストヴァージンをこなしちゃおう!」

梓「憂、まだお酒の抜けてない子は放っておいて行こうか」

憂「う、うん…」

純「む、無視はやめてえぇ〜!」
18 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 11:34:36.45 ID:YdrHANSAO
憂「お邪魔しまーす…」

 木戸を押し開けて集会所の中に入ると、やや薄暗い、松明で照らされた空間が広がっていた。

純「どもども〜」

梓「お久しぶりです」

 先に入っていった2人が、周りの人たちに挨拶をしながらキョロキョロと当たりを見渡している。
 ギルドマスターさんを探しているのかな?

梓「あの、マスターって今日はいらっしゃいますか?」

受付「あぁ、マスターなら端っこでトレジィ相手に管巻いてますよ」

梓「ありがとです」

純「あー、またフられたのかなぁ」

 苦笑いをして部屋の奥に向かう2人を追うと、軽装の鎧を纏った妙齢の女性が、黄色のヘルメットをつけたお爺さんに絡みついて困らせていた。

 髪が長くて、整った顔立ちをしていて。眼鏡をつけたその女性は、お酒で表情が歪んでいることを差し引けば、同性の私から見ても、とても綺麗な人なようだった。

梓「昨日のうちに今日挨拶にくるのはわかっている筈なのに……なんでギルドマスターまで酔いつぶれてるんですか」

純「“まで”ってのはあたしも入ってるね梓さんや」
19 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 11:36:12.11 ID:YdrHANSAO
梓「マスター……“さわ子さん”! 新人が挨拶に来たんですから、しっかりしてくださいっ!!」

さわ子「……ん〜?」

 すわった眼で梓ちゃん、純ちゃん、私を順に一瞥していくと、ゆっくりと顔を一度うつむかせる。
 そして勢いよくガバッと立ち上がると、まるでさっきまでの態度が嘘だったように、
 女性は凛とした表情を形作り、その端正な顔立ちの映えを咲かせた。

さわ子「ようこそ、ハンターズ・ギルドへ! 私はこの村のギルドマスターのさわ子よ」

憂「あっ……憂、です」

 やっぱり、綺麗な人だった。
 それに私は、この人に会ったことがある。

さわ子「憂ちゃん……唯ちゃんの、妹さんよね?」

 ──やっぱり。
 私はこの人とお姉ちゃん…HTTが一緒に居るところを、観たことがあるはずだ。

憂「はい。HTTの唯は、私のお姉ちゃんです」
20 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 11:37:37.53 ID:YdrHANSAO
さわ子「なら無理に格好良く振る舞う必要ないわよねぇ」

 と、張っていた背筋を曲げて、まるでアイスクリームがとけるようにその場に崩れ落ちるさわ子さん。

梓「もぅ、だらしがないです!」

さわ子「だってぇー、朝方まで飲んでたからシャンとしてるの辛いのよー」

梓「自業自得じゃないですか」

さわ子「う〜……、私帰って寝るわねぇ」

純「それは良いんですけど、憂のギルド登録をしてください」

 純ちゃんに言われて、さわ子さんが懐から一枚の羊皮紙を取り出す。
 それを開いて一度眺めたあと、私に向けて差し出した。

梓「もう準備してたんですか?」

さわ子「憂の人柄は普段のあなた達の会話から聴いて大体理解してるし、あの唯ちゃんの妹が性格に難有りとは思えないからねぇ」

 普通、新人のハンターはギルドマスターと面接をして認められないと、認可証は貰えないらしい。

純「楽しただけなんじゃ?」

さわ子「そんなことないわよ。…ほらほら、私はもう帰るから、キチンと憂ちゃんの面倒を見てあげるのよ」
21 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 11:42:28.60 ID:YdrHANSAO
憂「あっ、あの!」

 認可証を受け取って、集会所を去ろうとしているさわ子さんの背中に声をかける。

 それはさわ子さんだけではなくて、この集会所にいる人達みんなへの、挨拶。

憂「よろしくお願いします!!」

 深くお辞儀をして、これからギルドにお世話になることへの礼を、自分への区切りも込めて放つ。

 さわ子さんは小さく笑うと、ヒラヒラと手を振って去っていく。
 私は周りの人達から拍手をもらったので、改めてお辞儀を返した。

純「…さぁ〜て、手始めに何行こっか?」

梓「初めからいきなり狩りをするのは難しいから、まずは採取系の依頼を探して、地道に土地勘を稼いでいこう」

 梓ちゃんと純ちゃんが私を挟んで会話を始める。
 私は実践的な“狩り”についてはある程度の知識しかない初心者だから、経験者の2人がいてくれるのは本当に心強い。

純「じゃあ一番近い『雪山』にでも行きましょうかねぇ」
22 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 11:43:56.91 ID:YdrHANSAO
 鼻歌まじりに受付へ向かう純ちゃんを、私と梓ちゃんは目線を合わせてから追う。
 純ちゃんの動作から依頼の請負方を教わっていると、不意に集会所の戸が開いた。

 “集い会う場所”なのだから誰が来ても不思議ではないのだけれど、視線を向けた先には、私にすごく馴染みのある人物がいた。

憂「和ちゃん…」

和「う…憂?」

 お互いに、驚きを隠せない。 お姉ちゃんが居なくなった、帰らなくなった後、ふさぎ込んでいた私を真っ先に心配してくれたのは、和ちゃんだった。
 本当は、幼馴染みの和ちゃんだって辛いはずなのに。

 それでも私は、梓ちゃんや純ちゃんたちが支えてくれるまで、立ち上がることが出来なかった。
 和ちゃんはお仕事が忙しくなったのか会いに来ることは少なくなって、だけど月に一度は必ず手紙をくれていた。

 私がハンターを目指し始めた頃には、お仕事で別の村に行っていて、ついに今日まで会うことはなかったのだけど。
23 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 11:45:17.28 ID:YdrHANSAO
憂「…お久しぶりです。…その、元気そうで、良かった」

和「………」

 なにか話さなくちゃと思って、私は話しかけてみるけれど、和ちゃんの表情は複雑そう。
 その辛そうで苦しそうな表情の意味は、私もわかってる。

和「その格好……ハンターになったのね、憂」

憂「…うん。つい昨日、試験に合格したの」

和「…憂には憂の人生があるんだから、私は何をとやかく言うつもりは無いわ。……いいえ、私には言う権利すら無い」

憂「──あれは! 和ちゃんのせいじゃ…!」

和「わかってる。憂がそう言ってくれるのは嬉しいし、すごく気持ちが軽くなる。…でも、私はあの時に自分が負った責任から逃げるようなことはできないの」

 和ちゃんがうつむいて、胸に抱いた資料を強く握り締めた。
 表情は読めないけれど、声は、震えてる。

 ──『古龍観測所』。
 和ちゃんが所属している団体で、仕事の内容は名前の通り。

 唯お姉ちゃん達が最後に向かったクエストは、『陽炎龍』の討伐。

 それは、和ちゃんが持ってきた依頼だった。
24 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 11:49:05.00 ID:YdrHANSAO
和「…憂」

 震えを押し殺した声で、私の名前を呼ぶ。

憂「なぁに、和ちゃん」

和「“ハンターになる”、って事の意味は、わかってるのよね?」

 その質問には、ひどく答え辛い。
 きっとどんな言葉を選んでも、和ちゃんを傷つけてしまう。

 …だけど、だけどね?

憂「わかってるよ。…後悔なんて、絶対にしないから」

 私はお姉ちゃんの歩んだ道程を、同じように歩んでみたいと思った。
 その気持ちに嘘は無くて、選んだことにも後悔は無い。
 正直なところ、あまり未来の事なんて考えていないのだけど…、

憂「…死んだりなんか、しないから。遺される辛さは、よくわかってるから」

梓「憂…」

 私のいく未来は、決して暗くない。
 だって私には、梓ちゃんも、純ちゃんもいるんだから。

憂「──だから、泣かないで、和ちゃん」
25 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 11:50:23.49 ID:YdrHANSAO
 そっと、涙ぐむ和ちゃんを抱き締める。
 私よりは大きな体が、怯えてるみたいに震えている。

 ずっと、とても悔やんでいたんだと思う。
 自責の念で自分を殺してしまいそうなくらい、嘆いていたんだと思う。

 私には、和ちゃんをその後悔から救ってあげるだけの力は無いけれど。

憂「…辛いなら、私に言ってね。苦しいなら、私に甘えて。……私だって、和ちゃんの幼馴染みなんだから」

 痛みを分け合うのは、不可能じゃないよね?

和「…ごめんなさい」

憂「ううん。いいよ」

和「ごめんなさい、ごめんなさい」

憂「謝らなくていいよ。だから代わりに……もっと強く抱きしめて」

 腰に回された腕に、力が籠もる。

 私も返すように、背中に回した腕に力を籠める。

 梓ちゃんも、純ちゃんも、
 集会所のみんなが見てる中で少し気恥ずかしかったけれど、
 私たちは、和ちゃんが落ち着くまでそのままでいました。
26 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 11:52:21.48 ID:YdrHANSAO
和「……恥ずかしいところを見せちゃったわね」

 一段落して、いつもの冷静さに戻った和ちゃんが眼鏡をなおしつつ言う。
 冷静な口振りだけれど、目元は頬は真っ赤になってる。

純「いぃえ〜、滅多に見られないものが見れて大満足ですよぉ〜?」

 純ちゃんが意地悪そうな笑みを浮かべてる。
 見れば他の集会所にいるみんなも、なんだか生暖かい視線を向けてきているような。

梓「…どうなるかと思いましたが、昔みたいに仲直りができたなら良かったです」

 私と和ちゃんの間に流れる微妙な空気を察してくれた梓ちゃんがあいだを取り持つように笑いかけてくれる。
 自然、私たちも笑顔を返した。

和「……話しを蒸し返すみたいで悪いんだけど、私はやっぱり、“あの事”に関しての自分を許すことは出来ない」

梓「の、和さん…」

和「だから私は、いまでもあの古龍を捜してるの」

憂「…!」

和「古龍種、『陽炎龍』テオ・テスカトル。その確認された中でも特級のキングサイズの存在を…!」
27 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 11:53:24.45 ID:YdrHANSAO
 信念。

 眼鏡の奥のその瞳に、圧倒的な気迫を宿して和ちゃんはその名を告げる。

 テオ・テスカトル。
 灼熱を身に纏い、
 劫火の息吹を放ち、
 舞い降りた大地を灰燼に変えてしまうという、生きた天災。

 お姉ちゃんたちHTTが闘ったのは、その中でも突然変異のように巨大な存在だったらしい。
 お姉ちゃんたちと消息と共に姿を消したその龍を、和ちゃんは以来ずっと、探し続けていたらしい。
 各地を転々として、地道に人脈を広げて、あらゆる情報を集めては分析を繰り返して。

 ……私がふさぎ込んでいる間、和ちゃんはずっと闘っていた。
 倒すチカラこそ無くとも、せめてその居場所だけでも突き止めてやろうと。
 それは、日常的にお姉ちゃんたちに対する自責に襲われる行為であるにも関わらず。

 ……やっぱり和ちゃんは、すごい人だなと、心から感じた。
28 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 12:46:14.62 ID:YdrHANSAO
和「古龍はもともと、発見されること自体が稀な存在だから、大分骨が折れてるんだけどね」

 真剣だった表情を一転させて、薄く笑みを浮かべて肩をすくめる和ちゃん。

梓「和さんが村に戻ってきたのは、関係してるんですか?」

和「あ……それは一応、関係有るかな…」

 梓ちゃんの質問に、どこか気まずそうにしてるのを見て、私は話題を切り替えることにした。

憂「和ちゃん。しばらくは村に居られるの?」

和「あ、うん。昔住んでた家は引き払っちゃってるから、さわ子さんの家に厄介になるの。休養も兼ねて、暫くはいるつもりよ」

憂「じゃあ、クエストから帰って来たら一緒にお茶しよう? 夜までには戻るから」

和「ありがとう。それじゃあ、お呼ばれするわね」

 上手く話題を逸らせたことに安心してため息を吐く。
 と、和ちゃんが私たち3人をマジマジと見つめてることに気が付いた。

和「あなた達、いまからクエストにいくのよね?」

梓「えぇ、雪山に」

純「ポポノタン穫りに!」

和「それじゃあ……はい、これあげる」
29 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 12:47:23.41 ID:YdrHANSAO
 和ちゃんが手荷物から取り出したのは、赤い色の液体が入ったビン。
 雑貨屋さんなどで売っているので、私もよく目にする。ハンターにはとてもポピュラーなアイテムだ。

純「おっ、ホットドリンクですね!」

和「鬼人薬よ」

純「あれー!?」

梓「雪山に行くからついホットドリンクかと……」

 …私もホットドリンクかと思ってた。

和「ギルドから支給されるものを貰っても嬉しくないかと思って」

純「それはまぁ…嬉しいですけど」

梓「本当にもらっても良いんですか?」

和「ええ。人から貰っただけで、私には使い用が無いものだから」

 私と、梓ちゃんと、純ちゃんに、和ちゃんから3つずつの鬼人薬が配られる。

純「──んじゃま、餞別ももらったことだし、一丁いきますかぁー!!」

梓「はしゃぎ過ぎて雪山で迷子になったりしないでよ」

 先にクエストに向かう2人を追って、私も集会所を後にする。背後で、和ちゃんの声が聞こえた。

和「憂……気をつけてね」
30 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 12:48:34.86 ID:YdrHANSAO
 狩猟区域『雪山』。

 自然の創り出した、荘厳な氷と雪のお城。
 『火山』と並び、万物の生きることを許さず、限られた者のみがそこに立つことを許される場所。

 ハンターはまず、雪山を支配する「冷気」という敵とどう闘うか。そこを考えないといけない。

純「着いたー!」

 麓に設営された「ベースキャンプ」に着いたところで、純ちゃんが両手を上げて気分の高翌揚を表した。
 私に並ぶ梓ちゃんも、心なし楽しげに見える。

梓「…こうして憂と一緒にクエストに来られるなんて、なんか不思議な気分」

憂「私も…、いまこうして隣に梓ちゃんや純ちゃんが居ることがすごく嬉しいよ」

 和気あいあいと、会話を弾ませながら道を進んで行く。
 今日の目的は採集だから、比較的みんな緊張感が薄くなってる。
 湖を見渡せる場所に出て、立ち止まって会話を楽しむ。

梓「一応、憂は武器演習でここに来たことあるよね?」

憂「うん。この辺りまでだけど」

純「武器演習って……あー、ギアノスの虐殺だっけ?」

梓「…イヤな言い回ししないでよ」

純「事実じゃん」

梓「向こうから襲ってくるから、身を守るために迎撃してるんだよ」
31 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 12:52:23.06 ID:YdrHANSAO
純「──そろそろ洞窟入って上登ろうか」

 純ちゃんの言葉に同意して、私たちはポーチからホットドリンクを取り出した。
 口に含むと、やや粘度のある苦い液体からトウガラシの辛味が出てきて、それが喉を通り過ぎると途端に熱が四肢や五臓六腑に染み渡ってくる。
 すぐに頬が火照ってしまい、なんだか恥ずかしくて2人に視線を向けた。

純「……あー不味い。もういらないっ!」

 一気飲みを終えた直後、眉間にシワをよせた純が盛大に叫んだ。

梓「純てば、飲むたびにそう言ってるよね」

純「だってさ梓、コレの原材料知ってる?」

梓「言ったら拡散弾撃つからね」

純「“にが虫”と“トウガラシ”だよ? 2つをすり鉢でゴリゴリ潰した液体が…」

梓「言わないでって言ってるのに!!」

 ……私も聞きたくなかったな、原材料。

純「まぁ、梓はこっそり“ハチミツ”を混ぜて飲んでるみたいだから、にが虫の味なんてわかんないだろうけどね〜」

憂「えっ、そうなの?」

梓「こ、こっそりじゃないもん! こうした方が美味しくなるからしてるんだもん!」
32 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 12:53:22.82 ID:YdrHANSAO
 そして、私たちは雪山の攻略に取りかかる。

純「こーやって割れ目のトコをほじくり返すとぉ……ほーら! 氷結晶のご登場ー!」

梓「純、狙って言ってるよね」

純「え? なにが? ワタシ純真無垢ダカラワカンナーイ」

梓「くっ…!」

憂「あ、おじいさんこんにちわ」

山菜ジィ「おフォ? こりゃこりゃ、こんにちわ」

純「ねぇねぇ梓ちゃん、いったい何のことなのか、理解しやすく面白おかしく教えてくれないかなぁ〜?」

梓「わ…私しらない! 私は純みたいにエッチじゃないもん!」

純「ちょっと待てぃ。それじゃあたしがエロテロリストみたいじゃないか」

梓「そんな露出の多い鎧きて、同じようなものじゃない!?」

純「コンガ馬鹿にしちゃいけないよ!? それに鍛冶屋の造ってくれる鎧って露出はどれも似たようなものじゃん!」

梓「私のザザミはそんなことないもん!」

憂「なにが採れるんですか?」

山菜ジィ「フォフォ、氷結晶じゃよ」
33 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 12:54:21.23 ID:YdrHANSAO
純「あっ、ガウシカみっけ」

憂「か…狩るの!?」

梓「憂緊張しすぎ。…でも、少しずつ慣れておくのもいいかも」

純「それじゃあ一丁、狩りますかー! おニューの愛刀、“黒刀”の切れ味を御覧あれぃ!」

梓「じゅ、純! 声が大きいって!」

純「あ」

憂「……逃げて行っちゃったね」

梓「純が驚かせたからね」

純「……フフッ、無駄な殺生をしなくて済んだわ」

憂「狩る気満々だったよね?」

梓「黒刀を使いたくてしょうがないんだよね?」

純「むっきー! いいのいいの、本来今日のあたしの目的はポポなんだから! 今日は帰ってポポパーティーなんだから!」

梓「草でも摘もうか」

憂「うんっ」

純「無視しないでってばぁ〜」
34 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:03:24.14 ID:YdrHANSAO
憂「あ。ポポだ」

純「ぃよしっ! パーティー確定!」

梓「甘く見てると痛い目みるよ」

純「いやいや、いくらなんでもポポ相手に遅れをとるとかないから…」

ポポ「………」ガキィン!

純「…なん…だと…?」

梓「ポポが象牙(?)で黒刀を弾いた!?」

ポポ「プフォー!」

純「みぎゃー! 潰されるぅー!」

憂「純ちゃんっ!」──ザシュザシュザシュ、ザシュンッ!

ポポ「プォッ……プォォォ……」ドスゥン

憂「ふぅ……間に合ってよかったぁ」

梓「(…一呼吸の間にポポを仕留めた……これが教官が絶讃した憂の狩猟能力……ゴクリ)」

純「うわぁーん! 憂ありがとぉぉぉー!!」

梓「(…侮ったせいで仮にも初心者に助けられた……これが我流で鍛えた純の狩猟能力……ガックリ)」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 13:04:47.41 ID:UWZg58pmo
>>1
どれだけ待ち望んだことか
36 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:04:57.50 ID:YdrHANSAO

 それはとても穏やかな時間でした。

 初めてのクエスト、初めての剥ぎ取り、初めての飛び降り。

 梓ちゃん純ちゃんに連れられて、雪山中を散策して回って。
 私は、お姉ちゃんがハンターをしていて、毎日楽しそうに過ごしていたことを思い出した。

 友達と一緒になにかを達成するって言うことは、こんなにも心が弾むことだったんだ。
 だから、HTTに入ってみんなと狩りに出掛けてたお姉ちゃんは、いつも疲れてはいても楽しそうな表情をしていたんだ。

 お姉ちゃん。
 私、すこしだけお姉ちゃんに近付けた気がするよ。
37 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:15:39.19 ID:YdrHANSAO
純「憂ー、そっちは何かとれたー?」

 ちょっとひらけた場所で私たちは手分けして採取をしていた。
 出てくるものは草や石ころばかりだったけど、それでも何かが手に入るのはなんだか楽しく感じる。

憂「…あれ? 曇ってきた?」

 そして“それ”は、突然に現れた。

純「──危ないッ!!」

 地を揺さぶる衝撃。
 突き飛ばされた私が眼にしたのは、白銀の世界には似つかわしくない、虎を思わせる黄色柄の巨体。

 知っている。
 私は“コレ”を、知っている。

 いつか、村を脅かしたことがある。
 その時はお姉ちゃんたちが討伐の依頼を買って出て、見事に村を救ってみせた。

憂「───」

 “それ”と視線が合った。
 獲物を見つけたことに歓喜しているのだろうか。
 聴く者には恐怖と戦慄しか与えない轟音を放つ。

 『轟竜』ティガレックス。
 血と肉を好み、殺戮を悦とする、絶対の強者。
38 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:16:42.27 ID:YdrHANSAO
憂「純ちゃん!!」

 あと一秒、避けるのが遅れていたら私はティガレックスの巨体に圧し潰されていた。

 じゃあ、その“一秒をくれた人”はどこに?

憂「純ちゃん、純ちゃん! 純ちゃん!!」

 必死に辺りを見渡す。
 すぐ目の前にティガレックスがいるけれど、私は身を挺して私を救ってくれた友達を探さずにはいられない。

 いない。
 そんなはずない。
 “ティガレックスの下”にだなんて、いるはずがない!

 ズドドン! ズドドン!

 突然、数発の矢弾がティガレックスの側頭部を打ちつけた。
 視線を向けると、梓ちゃんが動揺を隠せないながらも、照準を覗いて的確にティガレックスを射撃している。

梓「──憂!!」

 梓ちゃんが叫ぶ。

梓「純なら後ろに転がってるから、はやく起こして逃げて!!」

 慌てて後ろを向くと、純ちゃんが恥ずかしい格好にひっくり返って目を回していた。

 私を助けるとき一緒に跳んでいて、その後のティガレックスの叫びで吹き飛ばされたみたいだ。
39 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:18:41.89 ID:YdrHANSAO
憂「純ちゃん!」

 急いで駆け寄って、頬を叩く。
 こうしている間にも、今度は梓ちゃんが身挺して私たちを庇っている。

 わかっていた、
 わかっていたことだけど!

 ──なんて弱いんだ私は!!!

憂「純ちゃん立って! 逃げよう!」

 意識を取り戻した純ちゃんに肩を貸して、ティガレックスから逃れられる道を目指す。

 ギャアァァァァァン!!

 ティガレックスの、さっきとは違う叫びが聴こえた。
 走りつつも視線を向けると、ティガレックスが額から夥しい血液を流しているのが見えた。
 梓ちゃんの猛攻がティガレックスに重傷を負わせて、3人で逃げるチャンス!
 …そうおもったのに!

 ギシャアアアアアアァ!!!

 怯んだはずのティガレックスは、その直後に梓ちゃん目掛けて這いずるような突進を始めた!
 怒ってる。異常なほどに速い。弾切れを起こした梓ちゃんは、対応することが出来ない。

憂「梓ちゃん──!!!」
40 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:22:44.29 ID:YdrHANSAO
??「ハッハー! 弱い者イジメはカッコ悪いぜ坊主ー!」

 不意に、聴こえた声。

 どこから? 誰の?
 その疑問にはすぐに答えを見つけることは出来なくて、
 梓ちゃんを襲おうとしていたティガレックスの慟哭が、雪山に響いた。

 ギャアァァァァァァ…!

 ティガレックスが怯んで後退する。
 見れば、ティガレックスの片目に深々と、「ブーメラン」が突き刺さっていた。

??「ブーメランがっ!」

 さっきの声が悲鳴をあげる。なんだか、投げて戻ってくるのを期待していたみたい。

憂「梓ちゃん!」

 折角生まれた隙を無駄には出来ない。
 声をかけたら梓ちゃんはすぐに起き上がって、私たちのところまでやって来た。

??「洞窟に逃げろ! ヤツの巨体ならまず入ってはこれない!」

 やっぱりどこから聴こえてくるのかわからないけれど、
 声は的確な指示をくれているので、それを信じて走り出す。
 冷静さを取り戻したティガレックスは私たちを追ってくる──でも、謎の声の言った通り、顔がつっかえて鼻先すら入ることが出来ない。

 九死に一生を得た私たちは、ティガレックスが私たちを諦めて去るのを見届けた後、やっと腰を落ち着けることができた。
41 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:25:57.09 ID:YdrHANSAO
 全員が、その場に尻餅をつく。
 ほんの数分の間に起きた出来事が、あまりにも壮絶過ぎて。

純「ん…ごめん、気絶なんかしちゃって」

 純ちゃんが申し訳なさそうに謝る。
 …え? なんで?

梓「私も…ちょっと調子にのって撃ち過ぎちゃった」

 梓ちゃんまで、謝る。
 ねぇ、待って。

憂「なんで2人が謝るの? 純ちゃんが気絶したのは私を庇ったからで、梓ちゃんが弾切れしたのは私たちを庇うためだったのに」

 …全部私が、足を引っ張っただけなのに。

梓「さっきのは、憂のせいじゃないよ」

憂「ど、どうして?」

梓「憂は今日、初めてのクエストだったんだよ? 先輩の私たちがフォローするのは、当然でしょ?」

純「そうそう。…あたしたちは憂がなんでもそつなくこなせる子だって言うのは知ってるよ? だけどね、」

梓「だからって、そのことに憂が責任を感じる必要なんてないんだからね?」

 優しく、そう諭された。

 …私は、親しい友人に言われたことで、たしかにそうだったかも知れないと、認めることが出来た。
42 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:27:40.80 ID:YdrHANSAO
純「いやぁそれにしても、ティガが出てくるなんて思って無かったからビックリしたぁー」

梓「本当……正直、さっきはもうダメかと思ってた」

 汗が冷えて身震いする梓ちゃんの顔が、目に見えて青ざめてる。
 さっきは私も純ちゃんも、助けに動き出すことなんて出来なかった。
 梓ちゃん自身も身動きは取れなくて、本当にあのブーメランの人には助けられた。

 あのブーメランがなかったら、私たちはいま、こうして3人集まって居られなかっただろう。

??「いやぁまったく、無茶をする子猫ちゃん達がいたもんだぜ」

 不意に、洞窟の奥から声が聴こえた。
 さっきと同じ声。だけどさっきとは違い、声の主は私たちの前に出てきてくれた。

憂「あ、あなたは…?」

??「オレか? オレはかつて、ジャンボ村の英雄と呼ばれたハンター……の永遠のライバルと呼ばれた男だ!!」

 その自己紹介に、純ちゃんがズッコケてみせる。

梓「英雄本人ではないんですね…」

ライバル「フッフッフッ、だがオレはもうすぐその英雄を超える予定でな。…おっと、こいつは少し喋り過ぎちまったかな?」
43 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:30:49.83 ID:YdrHANSAO
 ライバルハンターさん。
 チェーン系の鎧を着ていて、腰には私と同じ片手剣を装備している。あの片手剣はカラスの羽のような、真っ黒な刃がついてるけど……なんだろう。

 因みにライバルハンターさんは、“因縁の相手”との決着をつけに雪山まできたのだけど、そこで私たちを見かけたから助けてくれたようです。

憂&梓&純「どうもありがとうございました」

ライバル「ハハッ、良いってことよ。女の子を守るのは、男の宿命みたいなものだからな」

 そう気さくに笑ってくれて、ティガレックスに遭遇した私たちの暗かった気持ちが、すこし明るくなった気がする。

ライバル「なんだかモメてたみたいだが、ハンターなんてのは職業がら、さっきみたいなピンチには幾らでも陥る。なにせ自分から死地に飛び込んでるんだぜ?」

 先輩ハンターとしての弁を、熱く語ってくれた。

ライバル「だからって、怯えるなよ? 怯えて足が竦んだら、そこで人生終了だからな? …自分を責めずに、仲間を責めずに、ピンチになったらまず生き残ることを考えろ。要は死ななきゃ良いんだ、簡単だろ?」

 一通りの事を言い終えたらスッキリしたみたいで、額の汗を拭いつつ、彼は私たちに指示をくれました。
44 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:32:55.76 ID:YdrHANSAO
ライバル「子猫ちゃんたちは今日はもう帰りな。今日は良い勉強が出来て、実りがあっただろ?」

 それはティガレックスに遭遇したことなのか、ライバルハンターさんのお説教を聴いたことなのか、私には判断がつかない。

純「でも、外に出たらアイツ追いかけて来ませんかね…?」

ライバル「むん? ……仕方ない、宿命ついでだ。先にオレが外に出て、山頂付近で少しヤツと遊んでやろう。その隙に子猫ちゃんたちはキャンプまで戻ったらいいぜ」

梓「あ、危ないです!」

純「吹っ飛ばされちゃいますよ!?」

ライバル「なーに、アイツの弱点は知り尽くしているさ。アイツは首周りに重要な血管が集中していて、刃物による傷に極端に弱いんだよ。…おっと、こいつは少し喋り過ぎちまったかな?」

 それはどんな生き物も共通な弱点な気がしますが、深く考えないことにします。

憂「本当に……大丈夫ですか?」

ライバル「フッフッフッ、任せておけ子猫ちゃんたち! それじゃあな、アディォス!!」

 ライバルハンターさんが外に出た直後、ティガレックスの叫びが洞窟の中にまで伝わってきた。きっと外で待ち伏せていたんだ。

 ……どうか、ライバルハンターさんに精霊の加護がありますように…。
45 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:34:37.50 ID:YdrHANSAO
ライバル「…とは言ったものの」

 今一度、戦場へと馳せ参じたライバルハンターは、迫り来る脅威から全力で逃げつつも独り思案していた。

ライバル「怒り狂うコイツを、オレ1人で惹きつけていられるかねぇ」

 飛来してきた礫をくぐり抜けるように回避し、接近してきたソレをすれ違い様に斬りつける。

ライバル「倒すことも出来なくは無いか……だが、アイテムは『アイツ』との一戦に取っておきたい…」

 そもそも彼は、“因縁の相手”のとあるモンスターを目当てに雪山を訪れたのだ。
 現在繰り広げている『轟竜』との戦闘は、甚だ予定外な事態である。

ライバル「──っと」

 惹きつけて、惹きつけて。
 遂に目的の山頂にたどり着いた。
 そこで彼は初めて、正面から『轟竜』と相対した。

ライバル「そんなことも言ってられないようだな! …よく覚えておけよ『轟竜』、このオレの顔を! オマエを冥府に送る、伝説の男の顔をなぁッ!!」

 高らかに、名乗りを上げた。
 それは彼なりの自信の表れであり、彼の持つハンタースキルが、相応に高いことを示していた。

 そんな、ライバルハンターの背後に。
 もう一体の『轟竜』が姿を現したのは、
 彼が不運だったとしか言いようが無い。
46 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:35:23.18 ID:YdrHANSAO








 「…おっと、こいつは少し喋り過ぎちまったかな?」








47 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:40:01.83 ID:YdrHANSAO
純「なんとか、帰ってこれたみたいね」

 何の問題も無く、私たちはベースキャンプにたどり着いた。

 ライバルハンターさんは無事だろうかと、今は遠い山頂へと視線を向ける。

憂「………」

梓「憂、帰ろう」

 ライバルハンターさんは「帰れ」と言った。
 なら、心配だからといってこのままここに居る事は、囮役を受けてくれたライバルハンターさんの意志に反してしまう。

純「いまだったら、日が暮れる前には帰れるよ」

憂「うん…、そうだね」

 最後に雪山に向けて深くお辞儀をして、私たちは村への帰路についた。

梓「(…もっと…)」

純「(…強くならないとね…)」

憂「(大切な人を、守れるくらいに…!)」

 狩人としての、一つの思いを胸に灯して。
48 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:41:58.93 ID:YdrHANSAO
梓「ただいまです…」

 集会所に帰ってきた私たちは、揃って盛大にため息をつく。
 はしゃいで、襲われて、逃げ惑って。
 とても疲れてしまった1日だから、無理も無いかもしれない。

さわ子「あ、おふぁえりなはい」

 集会所の中央にあるテーブルに座って食事をしていたギルドマスター…さわ子さんが、くわえ箸をして出迎えてくれた。

和「…さわ子さん、行儀が悪いですよ」

 その隣で一緒にお鍋をつついているのは和ちゃんだ。
 ……なんでここでごはんを食べているんだろう?

純「ただいまーっ。さわ子さんはまたここでディナーですか」

さわ子「ギルドのまかないなんだから良いじゃなぁい」

梓「どうせ昨日もここで飲んでいたんじゃないですか?」

さわ子「そうよ」

和「………」

 和ちゃんが呆れてる。

さわ子「折角だからあなた達も食べていきなさいよ。おいしいわよ?」
49 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 13:43:36.56 ID:YdrHANSAO
憂「ただいま」

 もうすっかりと日の暮れた時分。
 結局あの後、私たちはさわ子さんに押し切られるかたちで会食となった。
 雪山で起きたことをかいつまんで話したら、ギルドの皆さんは驚いて声をうしなっていた。

 例の、HTTが討伐したとき以来、『雪山』ではティガレックスの目撃情報は出ていなかったと、さわ子さんが教えてくれた。
 和ちゃんも、早急に確認と警戒を行わなくちゃと──

和「おじゃまします」

憂「うん、いらっしゃい」

 私のあとを追って家に入ってきたのは和ちゃん。
 朝の約束を守るために、食後にこうして来てくれた。

 家に灯りをつけて、テーブルの方へ導く。
 私は紅茶を淹れるために、部屋の奥へと進む。

和「……初めてのクエストで大変な目に遭ったわね、憂」

憂「あ…うん。すっごく怖かった」

和「朝にあんな事話したばかりだから、憂の話を聞いて背筋が凍ったわ」

 ふぅ…と、見えないけれど、和ちゃんが大きな嘆息を吐いたのがわかる。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/09(水) 13:52:14.85 ID:YdrHANSAO
 以上までが、以前に書いた導入部と言える投下になります。

 此処から、続きにあたるお話を書かせていただきます。

 なんとも中途半端では有りますが、
 そしてとてもスロゥなペースになってしまうとも思うのですが、
 どうか生暖かい目で観てもらえたらと淡くけれど切にお願い致します。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 13:59:51.64 ID:DrC000/AO


ライバルに死亡フラグがバリバリな気がするんですが気のせいですか?
知りたいので、続き待ってます
52 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/09(水) 15:11:42.16 ID:YdrHANSAO
憂「はい、和ちゃん」

 雪が積もりやすいこの村は、夜になるとよく冷える。

 だから熱めに淹れた紅茶をゆっくりとカップへと注いで、和に渡した。

和「ありがとう。……うん、やっぱり美味しいわ」

 やんわりと、頬を綻ばせてくれたのが嬉しくて。
 自然と私も笑顔になって、2人で他愛のない会話に花を咲かせた。

 昼間は、ドタバタとしていたから話せなかったけれど。
 大好きな、幼なじみなのだから、手紙では書けなかったようなことやここ最近のこと。話したいことは、それこそ山のようにあった。

和「と、もうこんな時間……憂、申し訳ないけど…」

憂「あ、うん。ごめんね、長々と付き合わせちゃって」

和「ううん。私も久しぶりに憂とゆっくり話せて嬉しかったから」

 帰り支度をして、帰ろうする和ちゃんを玄関さきまで見送る。
 確かさわ子さんの家に泊めてもらうと言っていた。ここで別れを惜しまなくても、いつでも会える。

和「あ…そうだ憂」

憂「なに?」

和「私は竜人族の先輩からこの村での大型モンスターに関する情報を管理するように言われているから、なにか知りたいことが有ったらいつでも訊いてね」

憂「うん、ありがとう!」
53 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/10(木) 08:10:17.17 ID:a6tSO0SAO
 明けた次の日。

 まだ陽が昇りはじめたばかりの時分、私は農場でお花に水をあげる。
 肌寒いとはいえ、私はこの朝の時間帯が好き。
 今日はどう過ごそうかななんて考えながら、畑のお世話をしたりして。

 ここは、お姉ちゃん達『HTT』専用の農場。
 村専属のハンターさんには、こうして村から特別な施設の利用を許可されるんだとか。
 でも、お姉ちゃん達『HTT』は村専属のハンターと言うわけではなくて、ちゃんと村には村の専属ハンターさんが居る。
 けれど、その人がもう使わなくなったと言うので、村の許可を得て譲ってもらったと言っていた。

 お姉ちゃん達の手が入らなくなった農場は、アイルーさんたちだけじゃ治め切れないくらい荒れ放題になっていて、今日まで私が代わりに手入れをしてる。

 おなじみ『HTT』の梓ちゃんはハンターになった時、記念にご両親に自分専用の農場を用意してもらったらしくて、そっちの手入れだけで手一杯なんだとずっと嘆いてた。

 そうしたら昨日、さわ子さんと和ちゃんから「あなたもハンターになったんだから、手入れついでに使わせてもらいなさい」と言われて。

憂「…それじゃあアイルーさん、トレニャーさん。改めて、これからよろしくお願いします」

 朝の一仕事を終えたあと、地べたに腰を下ろしてひと息ついて、一緒に休んでいた猫さんたちに挨拶をする。

 今日から、私が治めることになった農場。

 お姉ちゃんが見たら驚くような、素敵な場所にしてみせよう。
54 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/03/10(木) 08:47:35.66 ID:a6tSO0SAO
「憂ー」

 パタパタと、農場の入り口から駆けてくるのは件の梓ちゃん。
 なんでもお父さんとお母さんがどちらとも凄腕のハンターで、ギルドの間では『キリン夫婦』と呼ばれる有名な人なんだとか。

憂「梓ちゃん、おはよう」

梓「おはよう。…もう畑の手入れは終わった?」

憂「うん、アイルーさんたちに手伝ってもらったからすぐだったよ」

 にゃあにゃあと、私の言葉に合わせて猫さんが胸を張った。

梓「ごめん…私ももっと手伝えたらいいんだけど……」

憂「だ、大丈夫だよ。私、お世話したりするの好きだから」

 梓ちゃんが表情を曇らせてしまったので、慌てて言葉を紡ぐ。
 嘘じゃない。
 多分、世話役なのは私の性分なんだ。

憂「ところで──」

 お姉ちゃん達のことが有って、梓ちゃんだって凄く落ち込んだ。
 ただ私が、いまにも死にそうな状態だったから、立ち直るのが早かっただけで。
 いまも梓ちゃんは時々、ネガティヴな考えに囚われてしまいがちになる。
 確実に、私も梓ちゃんも、まだお姉ちゃん達のことを引きずっている。

 でも、引きずってはいても、私たちは確実に、前に進んでる。

 その為に私はハンターを目指したのだし、梓ちゃんのお陰で私はハンターになれたんだから。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 07:59:30.33 ID:EoixgGmqo
ところで、>>1は無事なのか?
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/16(水) 11:59:51.48 ID:vCPiEoDWo
他の人達もだけどみんな無事でいますように…
>>1早く元気な姿を見せておくれ
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/03/18(金) 01:36:24.23 ID:/zZJPKilo
vipで期待してたんだけど、落としちゃったと思ってた

タイトル見た瞬間テンション上がってしまったww
たのんだ>>1
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/03/20(日) 13:35:52.08 ID:KzTKAB6AO
 私生活が慌ただしくなってしまい、正直なところ未だに余裕がありません。
 書くまではまだ時間がかかってしまいそうなのですが、取り敢えずと>>1は生きております。

 宜しければ、もう暫くの猶予をいただけたらと願う次第です。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/20(日) 17:50:41.83 ID:InqrMeqBo
>>58
生存してるならいいよ、このスレを始めてみたときから待つのは慣れてる
60 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/04/04(月) 06:39:47.34 ID:y5P/UMLAO
梓「今日は、どこにいく?」

憂「雪山が危険狩猟区域になっちゃったもんね…」

 昨日遭遇した、ティガレックスは強い。
 その獰猛な食欲から、餌を求めてわりと広範囲を生息域にする飛竜だけれど、一定の場所に好んで住み着くことは少ない。
 けれど、一度“餌場”と認めた場所になら、何度でも、唐突に、現れることが多いそうだ。

 お姉ちゃんの部屋に有った「狩りに生きる」のバックナンバーを読んで得た知識だけれど……。

梓「いまは、ギルドに『轟竜』を狩れるだけの人材がいないんだって言ってた」

 さわ子さんは「私だったら狩れるのに…」って愚痴を漏らしていたけれど、和ちゃんが宥めて制止していた。
 ギルドマスターという立場は、責任を負うために狩猟に行ける機会が少ないそうだ。

憂「じゃあ今日は、密林にでもいかない?」

梓「あ、いいね。私好きなんだあそこ」

 もう少し陽が昇るのを待ってから、寝ぼけ眼の純ちゃんを連れて私達はクエストに出発した。

 クエストの目的は、『特産きのこの納品』。
61 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/04/04(月) 07:13:45.68 ID:y5P/UMLAO
純「イェーイ着いたー!」

梓「いや、着いたーじゃなくて」

純「あはん?」

梓「私たちが必死に帆船の舵取りをしてたのに、グースカグースカと爆睡してたのは何故なのかなぁ」

純「失敬な、ちゃんと私だって“船漕いでた”もん!」

梓「弾が勿体無いから通常弾でいいよねコラ逃げるな」

 純ちゃんが梓ちゃんに追われてる。
 そんな仲の良い2人のやり取りを見ながら、私は辿り着いたこの場所の景観を眺めた。

 狩猟区域『密林』。

 木々と水と太陽とが織りなす、生命の楽園。

 海と見紛うほどに広い湖を船で超えた先に在る、動植物たちが元気いっぱいに活動している。

 基本的に温暖な気候で、繁殖期と呼ばれる最も暖かい季節には、草食肉食を問わない多くの生き物たちが子供を育てるために集まってくる。

 その時には、採取関係のクエストも多くなるそうだ。

憂「のどかなところだねぇ」

純「いやいや全然! 憂、見てるなら助けて!」
62 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/04/04(月) 16:16:48.52 ID:y5P/UMLAO
憂「『特産きのこ』って、たまに売ってたりするあれ…だよね?」

梓「そうそう。ちょっとエリンギににた食感の」

純「マツタケよりも食欲をそそる匂いの」

憂「そんなに簡単に集まるのかな…」

梓「あ、それは心配ないよ」

純「湿地帯なところが多いから、日陰を探したらポンポコ出てくるからねぇ」

憂「そ、そう言うものなんだ」

純「けど、個人用に持って帰るのは検閲でダメなんだよね…」

梓「物価とかに関わるからね。採取で持って帰れるのは、ハンター生活に必要なものだけって決まりがあるから」

 なんだかムズしい。

63 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/04/04(月) 17:26:27.65 ID:y5P/UMLAO
純「コンガ発見!」

梓「キノコ食べてる……邪魔、かな」

憂「かっ、狩るの?」

純「ハンター試験でババさん狩ってるわけだし、問題ないって」

梓「あ、でもフンには気をつけてね? 臭いのが得意な純ならともかく、私たちは消臭玉持ってないから油断しちゃダメだよ」

純「まてぃ。それじゃあまるであたしが特殊な性癖をもってるみたいじゃないの」

梓「え? だから一式造ったんでしょ?」

純「謝れ! 全国のコンガ一式の皆さんに謝れ!!」

憂「あ……気付かれちゃったね…」

梓「純…」

純「あ、あたし!? いまのあたしが悪いの!?」

憂「と、とにかく狩ろう? 意外と数が多いよ?」

純「納得がいかない……」
64 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/04/04(月) 20:31:01.25 ID:y5P/UMLAO
憂「ふぅ…ちょっと疲れたね」

純「まさかドドブランゴでもないのにあんなに徒党を組んでいるとは……」

憂「ドドブランゴ?」

梓「雪山に生息してる、コンガの親戚みたいなお猿さんのことだよ」

純「あたしの目指す次の一式の相手だね」

梓「純てば…そんなにお猿さんが好きなんだ…」

純「違うから! 体格とか行動とかが似てるから得意なだけだから!」

憂「…すごいね、2人とも」

梓「え?」

憂「装備を一式を造れるくらい、得意なモンスターがいるんだもんね。素直にすごいなって思うよ」

純「うーん…褒められるようなことじゃ……」

梓「…もしかして憂、羨ましい?」

憂「……少し、だけ」

梓「じゃあ、これから憂が気に入るような装備が有ったら、ちょっと造るの目指してみようか」

純「そだねー」

憂「え…いいの?」

梓「もちろん。ゆっくりでいいから、見つけていこう」

憂「う、うん!」

純「コンガ一式オススメだよ!」

梓「純、黙って」

純「この扱いの差は……」
65 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/04/05(火) 09:52:13.13 ID:O3Nt1fjAO
梓「採掘できそうなポイントみつけた」

純「あたしのピッケルグレートが唸るぅぅ!」

梓「またそんな高いアイテムなんか買って……ピッケルは消耗品なのに」

純「消耗する事を恐れていたら、ハンターなんてやってられないわよ──」

 純ちゃんのピッケルが折れてしまった。

純「まだまだぁ!」

 純ちゃんのピッケルが折れてしまった。

純「ぐっ…このぉ!!」

 純ちゃんのピッケルが折れてしまった。

純「う、うそ……持てるだけ持ってきたのに…?」

 純ちゃんのピッケルが折れてしまった。

純「うわーん! 梓のばかー!!」

梓「なんで私!?」

 純ちゃんの心が折れてしまった。
66 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/04/05(火) 11:28:01.23 ID:O3Nt1fjAO
梓「…? 憂は採掘しないの?」

憂「あ…う、うん。農場もあるし、いまはとくに必要無いかなって」

純「ピッケルないんだったら最後のピッケルグレートあげるよ?」

憂「大丈夫、ありがとう純ちゃん」

純「そういえば憂、やけに荷物多くない?」

梓「私も思ったんだ。なにが入ってるの?」

憂「あ、その…この間みたいなことが有った時の為に、多めに薬草とかを持って来てて…」

梓「あぁ…」

純「心配性だねぇ憂は」

梓「慎重なんだよ。でも、ハンターが狩りをして生きていくのには、とても必要な素養だとおもう」

憂「あ、あはは…」

純「──じゃあ、あたしたちで憂の分までカッチンカッチンしてあげますか!」

梓「そうだね、有って困るものじゃないし」

純「そぉりゃあぁぁ──!!」

 純ちゃんのピッケルが折れてしまった。
67 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/04/06(水) 06:51:23.83 ID:ndBPS1rAO
梓「…まぁ、こんなところかな」

憂「いっぱい採ったねぇ」

純「まだだ…まだキノコが足りない…!」

梓「もう籠いっぱいに持ってるじゃないの」

純「ポッケポイントが欲しくて」

梓「他の物探せば良いのに…」

憂「…あ、純ちゃん! あそこにまだキノコ生えてるよ?」

純「了解センキュー!」

梓「アオキノコかマヒダケしか無い気がする」

憂「一つくらいは……アレ?」

 静かな、湖岸で波打つ水の音しか聴こえなかった場所に。

 ──キシュキシュキシュ──

憂「梓ちゃん、なんか聴こえるんだけど…」

 唐突に、気配も無く混じり込む、異音。

梓「へっ? まさかモンスター…」

 キシュキシュキシュ、キシュキシュキシュ

梓「──!」

 梓ちゃんにも“音”が届いたのか、顔を引き締めると背に下げたボウガンを音もなく抜いた。
 それを見て、私も腰の剣に手を添える。

 キシュキシュ、キシュキシュ

 ヤオザミの発する呼吸音にも似て、けれどもその大きさ、存在感は比較にならない。これは──。

梓「来るよ、ダイミョウザザミが!」

 梓ちゃんが叫ぶ。
 と同時に、地面からゆっくりと土を盛り上げて出てくるのは、赤色の巨体。
68 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/04/06(水) 07:11:25.36 ID:ndBPS1rAO
 ダイミョウザザミ。

 『盾蟹』と称される、大きくて存在感があり、この地域ではの甲殻類では代表的なものの一種。
 体を覆う甲殻は赤を基調に白の模様が入っていて、自然界ではとても目立つ。

 けれど何よりも目を惹くのは、その巨体が背負う“竜の頭蓋”──

梓「憂、来るよ!」

 私たちを視界に捉えた途端、ダイミョウザザミは臨戦態勢に入る。
 多分ご飯を探しに来た場所に、都合よく居たのが私たちなんだろう。
 ハンターとして、迎え撃つために私たちも戦わないといけない。

 散開して、回り込むように左右へと駆ける。
 ザザミは逡巡する様子を見せたあと、標的を──梓ちゃんに決めた。

 グルンと、ザザミの背がこちらに向けられる。
 背負っている頭蓋骨が、私を睨んだような気がして、少し怖い。
 けれど、怯んだりはしない。

 梓ちゃんが狙われているんだから、私の方へ注意を惹きつけさせないと!
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/04/25(月) 14:04:08.57 ID:4E6Yj94po
作者は消えたのか……
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/17(火) 12:40:59.58 ID:r3C+i/5xo
一ヶ月以上か、
気に入ったSSは片っ端からエタる…
71 :>>1 [sage]:2011/05/27(金) 03:25:36.51 ID:tQWNuLWAO
 生存報告を果たせなくて済みません。>>1です、生きています。

 地震や家族の入院やで私生活が慌ただしかったのですが、
 ここまで生存報告が遅れた理由は自分の持つ管理意識の低さが大きいです。
 生活がやや落ち着きを取り戻し、のろまと愚図と愚鈍と言える自分なのですが、また細々と書き始めたいと考えております。
 その間、御迷惑を御掛け致しますがどうかウロボロスの体躯並みに長い目で見ていただければと思う次第です。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 07:54:45.53 ID:TMXex22Lo
>>71
生存報告乙乙、気長に待ってる
73 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/05/31(火) 06:47:59.57 ID:iMJypVEAO
梓「…!」

 ドンドン、ドンドン!

憂「やあぁっ!」

 自分が攻撃の対象になっても怯まない梓ちゃんは、ダイミョウザザミの鋏をかわして、隙が出来た懐を的確に射撃していく。
 私はと言えば、ザザミの気を惹くために背に負っている殻に向けて何度も切りかかっているのだけど…。

 硬い! “堅い”と記した方がいいかも知れない。

 骨なんて言うのは、風化してしまったら脆くなってしまうものなのに、ダイミョウザザミの背負っている頭殻は生前──モノブロスの頃よりも、大きさも硬さも格段に強くなっている。

 それは、甲殻種が体内から出す酸性の分泌液によって、溶かされた骨が宿主に合わせて大きく、また、広がって出来た隙間を別の分泌液が補強するからだと、『狩りに生きる』に書いてあった。

 脆くなんてない。どれだけ全力で剣を振るっても、良くて僅かに削れるくらいだ。

 剣の刃が打ち負けてボロボロになってきてる。
 そろそろ、一度砥石を使いたいけど──。

74 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/05/31(火) 06:48:27.22 ID:iMJypVEAO
梓「…!」

 ドンドン、ドンドン!

憂「やあぁっ!」

 自分が攻撃の対象になっても怯まない梓ちゃんは、ダイミョウザザミの鋏をかわして、隙が出来た懐を的確に射撃していく。
 私はと言えば、ザザミの気を惹くために背に負っている殻に向けて何度も切りかかっているのだけど…。

 硬い! “堅い”と記した方がいいかも知れない。

 骨なんて言うのは、風化してしまったら脆くなってしまうものなのに、ダイミョウザザミの背負っている頭殻は生前──モノブロスの頃よりも、大きさも硬さも格段に強くなっている。

 それは、甲殻種が体内から出す酸性の分泌液によって、溶かされた骨が宿主に合わせて大きく、また、広がって出来た隙間を別の分泌液が補強するからだと、『狩りに生きる』に書いてあった。

 脆くなんてない。どれだけ全力で剣を振るっても、良くて僅かに削れるくらいだ。

 剣の刃が打ち負けてボロボロになってきてる。
 そろそろ、一度砥石を使いたいけど──。

75 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/05/31(火) 07:12:12.41 ID:iMJypVEAO
梓「──憂ッ!!」

憂「え?」

 梓ちゃんの叫び声。
 気が付いた時には、ダイミョウザザミが旋回をしていて、勢いのついた鋏が私を横から殴ろうとしていた。

憂「───」

 簡単に。足と地面が離れて吹っ飛ばされる。
 浜辺に着地するけど、受け身なんて取れなかった。

梓「憂ー!!」

憂「…だ、大丈、夫…!!」

 横殴りにあう時、盾を滑り込ませて体への直撃は防いだ。

 でも、ギリギリだった。

 無理な体勢で行ったガードに、右腕が悲鳴をあげている。
 また同じ事をしたら、多分、右肘の関節が壊れちゃうと思う。

憂「ふぅ、ふぅ…」

 呼吸を落ち着けながら、ポーチを開いて中から小さな革袋を取り出す。
 使うのは「生命の粉塵」。

 漢方の容量で造り出された、使用者だけでなく周囲に居る者の生命力を活性化させ、回復をもたらす薬。
 こうしている間にも梓ちゃんが独りで戦っている。高価なお薬だけど出し惜しみはせずに、躊躇い無く使う!

 粉塵を適量、口に含んで飲み込む。あとは、体にかけるように風にのせる。

 瞬く間に、体の痛みが引いていった。

梓「これ…粉塵? 憂、こんな高価な薬……」

 梓ちゃんにも届いたのか、足取りが軽くなったように見える。
 大丈夫、まだ戦える!

76 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/05/31(火) 12:52:31.53 ID:iMJypVEAO
憂「やっ!」

 少しだけ砥石を使う時間を貰ってから、梓ちゃんに加勢する。
 梓ちゃんの猛攻で身体の至る所に傷や破損をつくったダイミョウザザミは、叫び声をあげ、口から泡の飛沫を出して暴れ回っていた。
 いわゆる、「怒り状態」らしい。

 怒りに身を任せている間は隙が大きいけど近寄らない方がいいよと梓ちゃんが言うので、ダイミョウザザミ初心者の私はその言葉に従って、一定の距離を保って梓ちゃんと並んでいた。

 ガンナーとしては狙い撃ち放題らしく、梓ちゃんは嬉々として弾を撃ち込みまくっている。
 そして、ダイミョウザザミが目に見えて瀕死になってきたところで、梓ちゃんが言った。

梓「そう言えば、純の姿が見えないんだけど……」

憂「私も気が付いたら居なくなってて…どうしたんだろう?」

 会話をしながらも、梓ちゃんは手慣れた手つきでダイミョウザザミの足下にシビレ罠を設置している。完全に動きを捉えているみたいで凄い。

 ビリビリと痙攣しているダイミョウザザミに、2人で捕獲用麻酔玉を投げて狩猟完了。

憂「もしかして、私が見てない間に他のモンスターに襲われちゃったんじゃ……」

梓「………」

 ポツリと洩らした一言が、私たちの心に不安を広げていく。
77 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/06/01(水) 11:01:00.74 ID:AeAT951AO
梓「純ー、純ー!!」

憂「純ちゃーん!」

 密林の中を駆けながら、私たちは姿の見えない純ちゃんの名前を呼び続ける。

 けれど返事は無く、声につられて寄ってきたファンゴたちが徒党を組んで襲って来る。

梓「邪魔!」

 通常弾を乱射して、片手剣を振り回して、私たちは駆ける。

 けれど、見つからない。

憂「…純ちゃん…!」

梓「純てば…本当に危機察知能力だけは高いから、滅多なことにはなってないと思うけど……」

 恐慌状態に陥りそうな私に、梓ちゃんが慰めの言葉をくれる。
 でも、梓ちゃんの表情も決して明るくは無い。

山菜ジィ「…ほや? 嬢さん方、こんなとこでどうしたね? なにやら汗だくでお急ぎのようじゃが」
78 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/06/01(水) 11:08:35.60 ID:AeAT951AO
 不意に、背後から声をかけられる。
 振り返るとそこに、この『密林』を担当する山菜組のおじいちゃんがいた。

憂「あ、あの、純ちゃ…友達とはぐれてしまって、全然見つけられなくて……」

 簡単に事の経緯を説明すると、少し思案したおじいちゃんは、背中に背負ったカゴから小瓶を取り出して、私に差し出してきた。

山菜ジィ「ほじゃったら、儂がイイモノをやろう。便利なモンじゃから、好きに使うとえぇ」

 おじいちゃんのくれた小瓶は、「千里眼の薬」。
 その名の通りの視力だけでなく、聴覚や嗅覚等の感覚を鋭敏にさせて、細かな気配まで探れるようになると言う、超人薬。

憂「え…あの…良いんですか?」

山菜ジィ「今日は気分がイイんでな、特別じゃよ」

 グッ、と、笑顔で親指を立ててみせるおじいちゃん。…なんか格好良い。

梓「憂、ここは…」

 梓ちゃんの言わんとする事を理解して、私も頷いて返す。

憂「……それじゃあおじいちゃん、これ、有り難く貰わせてもらいます。良かったらまた今度、お礼をさせて下さい」

山菜ジィ「えぇよ、えぇよ。ジジィが勝手にしとることじゃて、若いハンターさんが立派に育ってくれるんならそれでえぇよ」

梓「私達、ポッケ村に住んでるんです。もしも宜しかったら、訪ねてもらえれば…」

山菜ジィ「五月蠅いのぅ! えぇっていったらえぇんじゃ! わしにはもう用は無いんじゃからさっさと居なくならんか!!」

 ……怒られた!?
 さっきまで「気分がいい」って笑っていたのに…!?
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/01(水) 12:48:22.16 ID:re8hF88do
投下おつおつ
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/06/04(土) 23:11:46.97 ID:W7DpZVoSo
投下乙です
81 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/06/05(日) 11:20:17.66 ID:xrEySMOAO
梓「憂、どう?」

憂「……うん、感じる。純ちゃんなのかは解らないけど──大型のモンスターと、そのすぐ傍に人の気配…!」

 追い払われるようにおじいさんと別れた私たちは、すぐに貰った薬を服用した。

 そして、次々と密林を移動しながらも交戦している様子の二つの気配を、探り当てる。

梓「憂、案内お願いっ!」

憂「うん!」

 いま二つの気配があるのは、密林から陸続きで繋がった小島の辺り。
 梓ちゃんと私がダイミョウザザミと戦っていた、すぐ隣のエリアだ。

 私たちが純ちゃんを探している間に点々とエリアを移動していって、遂にはそこに追い詰めたみたい。

 ……純ちゃんの方が追い詰められている、って可能性は、いまは考えないでおこう。
82 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/06/05(日) 14:55:30.63 ID:xrEySMOAO

 ゴアァァァ────!!

憂「…!」

梓「この声…!!」

 小島は見晴らしが良くて、向かっている最中に遠くからでも様子を確認することが出来た。

 視線の先、小島の中心。
 両腕を大きく広げて体を大きく見せようとしているその体勢は、怒り状態へ入った時の仕草だ。

 本来は鮮やかな、自然界ではとても目立つ「桃色」の体毛を持っているはずだけれど。

 そこに居たのは全体が灰色に色褪せて、一部は抜けてしまったのか禿げて薄くなっている場所すらある──

 ──年経た老猿(シルバーバック)、『桃毛獣』のババコンガ。

梓「純ー!!」

 梓ちゃんが、太刀を抜き対峙している彼女の名を呼ぶ。
 ここからじゃ、横顔が僅かに見える程度だったけど。
 私たちが来たことに、少し安堵しているような表情をしている。

 純ちゃんは遠目から見ても解るほどに、疲弊していた。
 私たちはシルバーバックに近付くや散開して、今度は純ちゃんを庇うように注意を引きつける。

憂「純ちゃん、遅れてごめんね!?」

純「いやー、今回ばかりは死ぬかと思ったー!」

梓「みんなあとでミーティングだからね!」

 シルバーバックのババコンガは、この3対1の状況になっても逃げる様子はない。

 ──むしろ、私たちを逃がす気はない、みたいだ。
83 :梓「モンスターハンター?」 :2011/06/06(月) 11:50:48.89 ID:tL6kjOsAO
 私も梓ちゃんも、この対峙する年経たババコンガが、戦闘のできる距離まで近付いて初めて、普段確認されている『桃毛獣』よりも“大きい”ことに気が付いた。

 普段のババコンガに見られる粗暴さ、獰猛さは年を経たからか形を潜めていて、
 円熟した猛者のような雄々しさを身に纏っている。

 見れば、全身には古くなった、けれど確かに大きな傷が幾つもある。
 縄張り意識の強い牙獣種の中で、幾度となく戦いを続けてきた証しなんだろう。

 怒り状態で顔に赤身がさしているにも関わらず、ピクリともせずにジッと私たちの動きを観察している事からも、警戒心の強さはよく解った。

憂「(……強いなぁ……)」

 「そのモンスターのハンターに対する警戒具合から強さは判断できる」と、訓練所で教官さんから教わったことがある。
 その言葉から察するに、このババコンガは相当に強い。

 怒りに歪んだ双眸は畏怖と嫌悪を撒き散らし。
 人の胴より太い両腕に備わる鋭い爪は、密集する木々を簡単に薙ぎ払えるだろう。
 異常に発達した尻尾は通常の倍近くは長く、蛇のようにしなやかに鎌首を擡げている。

 大太鼓のようなお腹が、息を吸い込むことで瞬発的に更に膨れ上がる──!
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 00:35:26.63 ID:Tfq8QrvUo
このスレが更新されてると、仕事の身の入りが違うわ
85 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/06/08(水) 10:51:03.88 ID:3CI7tulAO
純「避けて!!」

 純ちゃんの言葉が私や梓ちゃんに届くと同時。
 ババコンガが轟音を伴う放屁を繰り出し、私たちは距離をとる為に各々後方へ跳んだ。

 下方へ向けての、ババコンガが『ババ』たる由縁の“糞を巻き込んだ放屁”は瞬間的な暴風を起こして、土や落ち葉を巻き上げた。

梓「にゃあああああぁ──ッ!!」

憂「梓ちゃん!?」

 糞と土の入り混じった煙幕で不明瞭な視界の中、梓ちゃんの可愛い悲鳴が聴こえてきた。
 声のした方──煙幕の届かない上空を観ると、ババコンガの後ろ、お尻の近くに立っていた梓ちゃんが放屁を避け切れずに空高く吹き飛ばされてる!

梓「…く、臭いよぉー…」

 受け身を取るため無駄な動きはせずに、慣性に身を任せたまま、落下しながら泣いてる…。

純「憂そっち行ったよ!」

憂「うん!」

 前方に盾を構えた直後、四つん這いで煙幕から飛び出してきたババコンガの頭突きが私の盾と正面衝突した。

憂「痛っ…」

 まだ千里眼の薬の効果が残っていたから、視界を潰されてもババコンガの位置は解った。

 落下中で無防備な体勢の梓ちゃんや、独りで戦っていて疲弊してる純ちゃんを狙わなかったことは嬉しいのだけど、
 ババコンガの巨体から繰り出される頭突きは、想像以上に強い衝撃だった。
 ダイミョウザザミとの戦いで痛めてしまった右腕では、少し辛い。

憂「やああぁー!!」

 勢いを殺がれて停止したババコンガ、その隙だらけの頭目掛けて…

 振り下ろす!
86 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/06/08(水) 11:51:35.87 ID:3CI7tulAO
 ゴツ、とした音が聞こえたと思ったら。

憂「……え?」

 私は地面に倒れ伏していた。

憂「な…んで…!?」

 声が出ない。息ができない。頭が痛い。起き上がりたいのに力が入らない。目に映る地面がグラグラと揺れている。

純「う…憂!?」

 煙が晴れたのか、純ちゃんが私を見て叫んでる。
 私が攻撃した気配を見せたはずなのに、私が倒れていて驚いているんだろう。

 なんで、私は倒れてるんだろう。
 隙だらけだったババコンガに、攻撃することなんて出来なかったはずなのに。

 ……?

憂「尻……尾…?」

 ガアァ────!!!

 雄叫びをあげるババコンガ。
 その周囲をギュルギュルと世話しなく動いている、長い長い尻尾の先、ババコンガは、尻尾で“石”を掴んでいる。

 アレで死角から頭を殴られたんだ。
 通常ババコンガは、その器用に動く尻尾を使ってエサをとったり、また堅い木の実を食べる為に道具として石を用いたりする。
 年を経ることで体や手足が肥大化して猿種特有の器用さが失われないように、代わりに尻尾を進化させていったんだろう。

 特に、このシルバーバックの尻尾は突然変異だと思えるくらいに長く、また自在に、しなやかに動いている。
 石を持てば、遠心力も加わりそれは強い武器になるだろう。

 こうして実際、私は地に伏せているのだけれど。
87 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/06/09(木) 10:03:29.79 ID:yjBm2tKAO
梓「憂から離れなさい!!」

 ドンドン! ドンドン!

 ババコンガからの追い討ちが私に加えられるよりも早く、復帰した梓ちゃんがボウガンを連射する。

 腕に爪に、頭に眉間に、間断なく狙撃されたババコンガは、たまらずよろめいて後ずさった。

純「うりゃあっ!!」

 その隙を逃さず、太刀の届く間合いまで駆けた純ちゃんが、力一杯に抜刀しながら攻撃を繰り出す──が、

純「…随分と器用さんね、おたく」

 ガキンと、尻尾に持った石で攻撃を防いだ。
 純ちゃんは鍔迫り合うも、ババコンガもこれ以上は下がろうとしない。

純「まだまだぁ!」

 尻尾を押し上げ、純ちゃんは太刀を振り回して続けざまに攻撃を放つ。

 一撃、二撃、三撃、四撃五撃六撃七撃八撃九撃十撃──!

 その全てに対して、ババコンガは尻尾を使って防御、あるいは受け流していた。

 けれど、別方向からは梓ちゃんの掃射が、これも間断なく続けられている。

 明らかに行動力が落ちている。注意が私から逸れている。
 この機会を、この好機を! 逃す理由がどこにある!!

 動いて私の体! こんな時に寝てる場合じゃないの!
 頭が痛くても、視界がちゃんと定まらなくてもいい! だって相手(ババコンガ)は目の前にいるんだから!!

 動け私の体! 急げ私の体! 梓ちゃんの弾だってもう少ない、純ちゃんの体力だってもうもたない、多分これが最後のチャンスでここが最後勝負所なの!

 深呼吸して、体に力を込めて、痛む右腕で上体を起こして。

 あとは全力で──駆ける!
88 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/06/09(木) 18:34:08.96 ID:yjBm2tKAO
憂「ッ…!!」

 一歩踏み出した瞬間に、ババコンガは私を視界に捉えた。
 それに気付いた梓ちゃんと純ちゃんも、私が走り出して居るのを視認する。

 ……梓ちゃん純ちゃん、また私のせいで迷惑かけて、ごめん。本当にごめんなさい。

 だから“ここ”は──私頑張るから!!

憂「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

 息を吐き出しながら一歩、また一歩と近付いていく。
 2人の攻撃が激しかったのか、思ったよりも距離がある。

 ──ババコンガが体を揺らした。
 私に対して危険を感じて、迎撃の意思を見せている。
 無理をして走っているせいで、何かされても避ける術がない。いま立ち止まってしまったら、また走り出せるかわからない…!!

 ゴガアアアアアアアッ!!?

憂「!?」

 両腕を上げて攻撃体勢に入っていたババコンガが、突然悲鳴をあげて手を後ろに回した──

純「──太刀っていうのは、叩けば叩くほど強さが増していくモンなのよ」

 見れば、長かったはずの尻尾が根元近くで切断されている。…純ちゃん、かっこいい!!

 ドドンッ!!

 ガァ…!!

梓「隙だらけですよ、お猿さん」

 痛みのあまりに悶絶しているババコンガの眉間に、梓ちゃんの矢弾が勢い良くつき刺さる。…梓ちゃんも素敵だよっ!!

 ゴ…ガ…アア…!

 そしてババコンガは、私に無防備な姿を晒す。

89 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/06/09(木) 18:42:35.15 ID:yjBm2tKAO

 駆けて、跳んで、大きなお腹を蹴って更に跳んで、

 この巨大な『桃毛獣』の顔と、同じ高さまで辿りつく。

 深く、深く息を吸う。

 そうして酸欠になりそうな脳に酸素を送ってあげて、私は。

憂「──はああああああああああああああああああああああッッ!!!」

 喉元目掛けて、剣を。

 強く、強く、強く。
 すぐに固い感触に当たり、右手の力も加えて、更に深く。

 深く、深く、深く。

 体が半分めり込んでしまうほどに、全力を叩き込む。



 永遠にも感じる一撃の時間。
 けれどそれは、ババコンガが地に沈むことで終わりを迎えた。

 肩で息をして、全身が返り血で染まった私はまず、
 駆け寄ってくれた友達二人に、「ありがとう」と言った。

90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/11(土) 02:56:36.47 ID:AJs8EKcdo
投下乙!
91 :梓「モンスターハンター?」 [sage]:2011/06/16(木) 07:52:25.89 ID:1sTytspAO

 ◆

 機敏に動く尻尾を相手に、あたしはまさに一進一退。

 こっちの攻撃は巧みに防がれて、あっちの攻撃は紙一重でかわす。

 けど正直ジリ貧だった。
 丸一時間ちかくぶっ続けで鬼ごっこと戦闘を繰り返してたあたしは、負けないまでも決定的な一撃か与えられないでいる。

 何度も何度も叩いて叩いて、そして極限まで切れ味を追求して鍛えまくった『太刀』。
 その工程を思い出す様に、自分の在るべき姿を思い出す様に、
 『太刀』は酷使されれば酷使されるほど、柔軟な刀身が硬質化していき、究極的にその切れ味を増す。

 その硬質化した『太刀』に、己れの“魂をのせた”斬撃──唯一無二の必殺技、「気刃斬り」。

 それを繰り出すタイミングが掴めない。
 「気刃斬り」は武器も使い手も著しく消耗しちゃうから、ここぞという時まで放つのが躊躇われる。

 憂が倒れてるから、しっかりとトドメを刺さないと、窮地に陥ったババコンガが何をしでかすかわかったもんじゃない。
 けど、倒れている憂を手当てしてあげるにははやく倒さないといけなくて……

 あぁもう! 今日はこのバカ猿のせいで散々だバカヤロー!! 集めたキノコも食べられちゃうしぃっ!!

 ……?

 憂? 立って平気なの?

 …ちょ…まさか…やる気? 本気?

 ……えぇい! わかった! 憂に任せようじゃないの託そうじゃないの! この戦いの決着を!
 もしうまくいかなくても、あたしが惹きつけて梓と2人逃がしてあげるってば!

 …さぁさぁババコンガ!
 アンタがいま悠長に振るっているその尻尾は今日、、あたしの黒刀の餌食になる!!

 ◆
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/20(月) 10:44:23.21 ID:+xp2GUFIO
フルアカムに太刀で参加したい
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