このスレッドはSS速報VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

哀川潤にうってつけの日 【戯言バナナフィッシュ】 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/28(月) 14:14:18.66 ID:PxaCltfE0
 戯言シリーズとグラース・サーガのクロスssです。
拙い文章ですが、お付き合い頂ければ幸いです。
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

寝こさん若返る @ 2024/05/11(土) 00:00:20.70 ID:FqiNtMfxo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715353220/

第五十九回.知ったことのない回26日17時 @ 2024/05/10(金) 09:18:01.97 ID:r6QKpuBn0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715300281/

ポケモンSS 安価とコンマで目指せポケモンマスター part13 @ 2024/05/09(木) 23:08:00.49 ID:0uP1dlMh0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1715263679/

今際の際際で踊りましょう @ 2024/05/09(木) 22:47:24.61 ID:wmUrmXhL0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1715262444/

誰かの体温と同じになりたかったんです @ 2024/05/09(木) 21:39:23.50 ID:3e68qZdU0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715258363/

A Day in the Life of Mika 1 @ 2024/05/09(木) 00:00:13.38 ID:/ef1g8CWO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715180413/

真神煉獄刹 @ 2024/05/08(水) 10:15:05.75 ID:3H4k6c/jo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715130904/

愛が一層メロウ @ 2024/05/08(水) 03:54:20.22 ID:g+5icL7To
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715108060/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/28(月) 14:33:40.70 ID:8rqRTGVx0
戯言シリーズと聞いて
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/28(月) 14:34:42.30 ID:PxaCltfEo



 ズイガンは毎日自分自身に向かって呼びかけた。
「ズイガンよ」
「はい」
「覚めてあれよ」
「わかりました」
「その後では」彼は続ける「言葉にだまされるな」
「わかりました、わかりました」

                   ――無門関――


4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/28(月) 15:30:45.78 ID:PxaCltfEo
 今ここにある物語は、以前私が映画の脚本として発表しようと思い書いたもの

であるが、およそ10年間という長い間、私はこの物語を発表する決意がつか

ずにいた。というのも、この脚本はSが死んでからすぐに執筆し始めて、1948年

の11月の、空気が刺すように寒い水曜日の夜に書き終わったのだが、この作品が

出来上がったまさにその瞬間、まるでそれをずっと待ってましたといった風に、部屋の

隅にある古い壁時計がその重々しく低い響きを、私の頭の中に流し込んだからである。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/28(月) 15:39:41.84 ID:PxaCltfEo
それは例えるならば、庭先にあるまだ完全に熟していないような青いりんごを衝

動的にもぎ取ってだめにしてしまい、その後すぐに後悔の気持ちが胸に湧き

上がってくる感じと似ていた。その鉄槌下す音にも似た響きを聞いた私は、なんだか

自分が運命のレールから脱線してしまったような罪悪感を覚え、もしかしてこの作品を

書いてはいけなかったのではないか、このことはまだ私の胸に秘めておかなければ

ならなかったのではないかと、すぐに考え込み始めた。それは夜が明けて部屋に朝の

まぶしい日差が差し込んでも依然として続き、私は断続的にその啓示的思考に苦しんで、

食事をとることはおろか寝ることさえできない始末だった。そういったひどく苦しい

生活が約1週間を過ぎたころ、私ははたはたくたびれながらも、ひどく憔悴しきった脳を

無理やり働かせて、とりあえずこの作品を机の引き出しの奥に眠らせておこうとようやく

決断を下したのであった。一般常識を重んじるような素晴らしい紳士淑女である読者の

皆さんには、このことがいかにも非科学的で馬鹿らしく、私が哀れにも変な新興宗教にはまって

しまった作家に思えるかもしれない。だがこの作品を発表するか否かといった決断は、

私にとって今までの人生をかけるほどに重要なものであったのだ。残念ながらこの

気持ちを理解してくれるのは、今は亡きわが兄にして偉大な詩人であったシーモアか、あるいは

各地に散らばった、あの憎たらしくも、いとおしい(これは私の本心である)私の4人の兄弟たちだけだろう。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/28(月) 15:45:07.35 ID:PxaCltfEo
 加えて私にこの作品をいままで発表させまいとしていたものは、私にいわゆる良心というもの

(私は作家であり、すなわちカフカの言うように善良な人間ではない、私にそんなものがあるのか

信じるかはあなた次第である)があるならば、それが私の家族のこの作品に対する反応を予測し、

私に対する激しい詰問とSへの深い思い入れといったものを呼び覚ましてしまうということをわかっていた

からであろう。

それは私が休暇を利用してニューヨークにある実家に帰った際、私を見るや否や仕返しとばかりにフラニー

とゾーイーがマックス・ミュラーの「東洋の聖典」の全集を一冊一冊私にむかって投げつけて、

映画の公開停止を要請されるのが怖かったわけではない(むしろ私はそれを喜んで受け入れる気でいるのだ。)

私がなぜいまさらになってこんなものを出す気になったのか、私がこの作品を通していったい

何を伝えたいのかといった質問を、リビングという法廷で永遠とされ続ける恐怖におびえ、あのひやりと

冷たいながらもどういうわけか懐かしい、一種の宗教施設のようなアパートメントに戻れなくなるのを

ひどく怖がっていたのだ。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/28(月) 15:50:32.58 ID:PxaCltfEo

 あれからたっぷりと10年がたった今、私はこの作品を世に出す絶好の機会だと

思っている。Sが私たちの中で大きすぎる存在になりすぎていた昔とは違い、今ならば

どんなに仔細で複雑な質問だったとしても、私はすべて冷静に受け入れて、非常にうまく

答えを返せる気がしているのだ。それはまさに、子供の頃は高くて取れなかった食器棚の

上のお菓子を、数年が過ぎた後では、いとも簡単に手に入れることができるように。だが、もしも

私が怠惰にこれ以上の時間に甘んじることになるならば、私は背中を痛めた老人に成り下がり、

悔恨の念と一緒に棺おけに閉じ込められ、ミイラになるまで二度と出てこれないこと必定

である。私はなんとしても今、この瞬間にここでこの作品を公開しなければならないと、半ば

脅迫観念さえ感じているのだ。だからといって私に焦りがあるかというと、実はそうではない。

いまの私の顔には、ZがSに以前言っていた、あのアルキメデスが浮翌力の原理を発見したときの

「エウレカの顔」にも似た、とても穏やかな表情が広がっているようにさえ思える。私の心には

ただただ太陽が頭上でさんさんと輝き続け、爽やかな風が森を通り抜けて、よく茂った深緑の木々を

わずかに揺らすばかりなのである。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/28(月) 15:55:22.70 ID:PxaCltfEo
 さて、ここら辺で私の個人的な事情の含まれるはしがきは一旦やめにすることに

しよう。読者の皆さんは私が先ほど語った話の中に、しきりに出てきたSや、

わがグラース一家のことについての記述が少なからず気がかりとなっているかもしれない。

その期待に十分に応えるためにも、私はこの作品がどういったものかご説明することに

しようと思う。

 私がこれから読者の皆さんにお披露目申し上げようというのは、実は短編映画などという

ものでは全くとしてなく、どちらかと言えば散文で書かれたある一家の記録映画、と言うような

ものなのであるが、それにしても映画として強度を保っているか非常に怪しい代物なのである。

というのも実はこの作品、もともとは一人の男 ――つまるところ シーモア=S のことだが―― が

その妻とフロリダに二度目のハネムーンに出かけた際の出来事を描いたものであった。ここで

知らない読者のためにも、大まかなあらすじを述べておこう。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/28(月) 16:00:44.82 ID:PxaCltfEo

 1948年のある日、夫妻はフロリダのある海岸沿いのホテルに泊まっていた。彼の

妻はホテルに一室で母とファッションや夫の行動について電話で取り留めのない

話を続ていた。一方のSは一人孤独にビーチに取り残されている。だがそんな様子を

心配したのか、友人の娘である幼いシビルが彼を促し、一緒に海に入ってわずかな時間

遊ぶことになる。彼は水の中でシビルにバナナフィッシュの話を聞かせる。

以下はSの言った台詞をそのまま抜粋したものである。


「あのね、バナナがどっさり入ってる穴の中に泳いで入って行くんだ。入るときにはごく

普通の形をした魚なんだよ。ところが、いったん穴の中に入ると、豚みたいに行儀が悪く

なる。ぼくの知ってるバナナフィッシュにはね、バナナ穴の中に入って、バナナを78本も

平らげた奴がいる」

シーモアによると、バナナフィッシュはそのままバナナを食べ過ぎて太ってしまうので、

二度と穴の外へは出られなくなり、バナナ熱にかかって死んでしまうという。しばらくして彼は

シビルと別れ、妻のいるホテルの部屋に戻っていく。そして彼女の眠るベッドの隣で、トランクから

取り出した拳銃を使って、自分のこめかみを撃ち抜いて自殺してしまう。


 この作品は、おおよそこういった、一見表面上は難解かつ不可解でありながらも、その奥底には

多くの葛藤や矛盾がある意味深長なフィルムなのであったのだが、これを多くの関係者や本人たちを

集めて全編を見させたところ、この映画を公開するなどもってのほかだと私に強く警告を発したの

である。その理由というのも、自分たちがこんなへんてこな物語の中で、あらゆる人の目にさらされる

のは耐えられない、どうせ出演させれるのならもっとましな作品にしろ、と言うのである。もちろん私は

このことに断固反対し、この物語が事実を忠実に再現したもので一切の皮肉は入っておらず、私は兄の

思いを鑑賞者に伝えたいだけなのだと熱弁したのだが、彼らはもしも公開することがあったのなら訴える

準備もしてあるといった様子で、依然として私に突っかかって来たのだ。一緒に抗議してくれるような

優しい友人(主として私の家族や兄弟のことだ)もいたが、それだって右手の指の数を数えるほどで、

結局事態が良い方向に向かうことはなく、私はこの作品の公開を断念せざるを得なかったのである。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/28(月) 16:05:07.89 ID:PxaCltfEo
 そこで私は、何とかしてこの作品をまったく別な形に変えて発表しようと試行錯誤を

重ねた。前回のような過ち(私は全くとしてそうは思っていないのだが)を犯さないために

登場人物もできるだけ少なくして、なおかつSがどんなことを悩み、またどんなことを考えて

生きていたかを十分に鑑賞者に伝えられるような、そんな作品に変えてしまおうと考えた

のである。それが今から紹介する物語であるのだが、おそらく読者にとってこの話が

いささか現実味を伴わない、非日常的な、いわゆる架空の絵空事のように思えてならない

かもしれない。念のために言っておくと、この話はシーモアがホテルで自[ピーーー]る直前に書いたと

思われる、ビーチでのある神秘的な出来事を記した日記の部分を、私がきわめて「忠実に」再現して

作った映画であるのだが、Sの葬式の後に初めてZからこの日記を渡されて読んだ時は、

いささか不謹慎ながらも思わず顔を引きつらせながら床に落としてしまったほどなのだ。

そこにはまさに、信じるにしてはサイエンスフィクションのように思えてならず、加えてカフカの

「変身」ほどに不条理ではないが奇妙な人物であり、それでいてシラノ・ド・ベルジュラックのような

心意気あふれるようなある日本人女性とSとの対話が、一語一句抜けることなく記述されていたの

である。正直に胸のうちを明かすと、私は今でも狐につままれたような思いを抱えていることを

否定できないし、かといってこのことを厳然たる事実としてとららえてよいものか非常に困惑しているのだ。

できるだけ現実に基づいた物語を書こうと思う人間ならば、果たして世に出していいものかどうか

ためらうのが当然だろう。そして事実また実際にためらったのである。しかしそれでも私がこの作品を

公開に踏み切ったのは、私がSが少なくとも日記に架空の話をでっち上げるような、そういった

人間ではないことを嫌というほどに知っていたからだ。ここでそのことを裏打ちするような出来事を

紹介したいが、あまりに時間がかかりすぎ、また彼についてのエピソードが数え切れないほどに膨大なため、

残念ながらここでそれらを紹介することはできない。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage saga]:2011/03/28(月) 16:08:21.94 ID:PxaCltfEo
さらに補足として付け足しておくならば、私自身が彼の性格や思想といった

ものを正確に描写できる自信がないことも、ひとつの大きな原因としてあるのだ。

私はここ何年も彼についての小説、あるいは彼の作品を盛り込んだ詩集といった

ものを書いて出版しようとしているのだが、いざ机に向かって書き始めようとすると、

何時間もSとの過去の思い出に浸るばかりで、結局一向に文章がまとまる気配を見

せない状態になってしまうのだ。それは10年前と比べれば私の中の彼の存在が幾分

元の大きさに戻ったといえども、今でもSがちょうどあの「マクベス」のバンクォーの幽霊

のようにしばしば頻繁に私の記憶から出たり入ったりするからである(おそらくこのことは

私だけではなく、私の兄弟たちも同様だろう) そしていつも、私に意味深な言葉を

投げかけて、何気ない微笑を浮かべながら去っていくのである。強いて言うならばSとは

こういった男であり、私たち家族や友人、さらには見知らぬ他人までもが困っている時に

颯爽と現れ、まるでその場にいたかのように問題の根底を瞬時に理解して、われわれに

的確なアドバイスといったものを残していく。しかもそれでいて彼にはまったく気取った

ところはなく、むしろ私たちの直面していた困難が解決されたことをまるで自分のことの

ように喜ぶような、一種の悟りを開いた解脱者や隠者と言われる人たちと同等、といっても

過言でもないような人物であった。 
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/28(月) 16:12:57.33 ID:PxaCltfEo

Sについての記述はここまでにしておこう。私はこれ以上彼について語ろうと

するならば、有名人の名前をちらつかせてこれとの親交をひそかに誇る

あの手の中でも、最も悪質なやり口となってしまって、まったく正確さを損なった

ひどく抹香臭い言葉をここに書いてしまいかねない。それにこの映画にはもう一人の

主役、読者にとっては注目の的になること請け合いの、作中の神秘的要素を担う

一人の主演女優を皆さんにご紹介する必要があるからである。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage saga]:2011/03/28(月) 16:24:46.15 ID:PxaCltfEo
といっても実際に私が彼女についてわかっていることは少なく、そしておよそ

その外見や特徴というものが世間一般からみてどの例にも当てはまらない

ことから、私は彼女を想像することがままならないという状況に陥っているのだ。

私が彼女について知っていることといえば、まず彼女は日本人でありながらも、

ここアメリカのある研究機関で生まれたこと、彼女が比較的若い人物であること、

J・Aというイニシャルであること、請負人という仕事(これはエージェントのような仕事だろうか)

をやっていること、アメリカ人男性と比べると背は劣るが、その立ち姿は見るものに気品

というものさえ感じさせること、彼女のその鋭い目の奥には、およそ才気(エスプリ)と

言われるものが燃えるようにして存在していること、――そしてここからが問題の箇所

なのだが――Sによると、全身をさながらスペインのフラメンコダンサーの着るような、情

熱的でエナメルを塗りたくったように光る、真っ赤なスーツで全身をかためて、髪も同じような色に染まっているという。

そんな人物が真昼のビーチにたたずんでいたら、明らかに客たちの注目の的に

なってしまって、フロリダのちょっとした新しい観光名所になりかねないのと思えて

ならないが、これもまたまるで鏡の国の御伽噺のようであるのだが、彼女の姿は

「魂のような存在」となって21世紀の未来からSのところへ送られてきたらしく、

普通の人には見えないようになっているというのだ。このいささか異常すぎて

滑稽にさえも感じる話に、ほとんどの読者は大きな違和感を感じざるをえないかも知れないし、

それは至極当然のように思われる。しかしそんな思いを抱きながらも、なぜ私が半信半疑で

この話をかたくなに信じて込んでいるかというのは、先ほど言った通りSは自分の日記に

作り話を書き込むような人間では決してなかったということ、彼が日記の本質という

ものを他のの誰よりも分かっていたということ――そしてここからが最も大きな理由

であるのだが――私にはこの物語の書かれた日記の部分が、Sが自殺する前に

私たちに残した、「遺書」といわれるものではないか、と考えている――否、私は確信さえしている――からである。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/28(月) 16:33:48.38 ID:PxaCltfEo
 私のこの映画に対する創作意欲や作品に対する異常なほどの情熱といったものは、

九分九厘この動機のために生まれているといっても過言ではないだろう。

Sが何を思って彼女と会話していたのか、彼はそこで彼女からどんなアイデアを得たのか、

そして彼は何を意図してそれを私たちに伝えようと残したのか、私には未だにうまく

理解できていないのである。断片的には分かったつもりでいても、いざそれを口に出したり

書いたりしてしまうと、それらは瞬く間に霧のように拡散して消えてしまい、そこには実に

嘘臭い抜け殻のような死骸しか残らない。そういったなにか根底にあるものをつかみ損なって

しまうような状態を、長い間私は漂っているのだ。だからこそ私はこの物語の解釈を、

あなたがた読者に委ねたいと思っている。私はこの作品を発表して、現在1958年に

生きている世界のあらゆる人間のために、そして彼女が来た時代である21世紀の遠い

未来のまだ生まれていない日本の読者にまで、この映画を手に取ることのできるような

準備をしなければならない使命感を強く感じている。そしてある日、そのうちの一人が、

この作品の根底に眠る真理といったものをがっしりとつかんで、それをそっと彼や

彼女の胸の中にとどめておいてくれるならば、私にとってこれほどうれしいことはないのである。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/28(月) 16:35:40.30 ID:PxaCltfEo

 最後に読者が誤解しないように、老婆心から一言申し上げておこう。これは

お粗末ながら私がこの物語から掴み取れた1つの断片に過ぎないのだが、

この作品における二人の主要人物の関係を幾何学に例えて説明するならば、

彼らの間の二点の最短距離は直線ではあらずして、その二点を通る円の弧である。

そしてその大きな円を構成するものは、もちろん運命や偶然といった神秘的なものも

わずかに含まれてはいるものの、その主要な材料というのは、純粋にして複雑な「愛」

というものであり、決して哀しみといった類いから成り立っているわけではないのである。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/28(月) 16:44:04.00 ID:CAtdFprAO
哀川翔だと思ったら
哀川潤だったでござる
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/28(月) 16:57:46.00 ID:PxaCltfEo
とりあえず今日の分は終了です。
次回から哀川潤が登場します。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/03/28(月) 23:25:50.32 ID:scnMMPM40
ユヤタンかと思ったら本家の方だった
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 10:54:43.21 ID:LlZ4UAcio
>>18
鏡家サーガもつっこもうと思っていたんですが、対抗できる程のキャラがいないんですよね
一作目のフリッカー式にして主人公死んでますし……・
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 19:02:26.00 ID:LlZ4UAcio
 1948年3月18日、31歳の青年シーモア・グラースは、燦々と輝く太陽の下、

まだ十分に暖かいとはいえない春風に当たりながら、バスローブにくるまって

砂浜に寝転がっていた。彼はゴムでできた浮き袋を枕代わりにして、自分の

真っ白なローブに砂が付くことにお構いなしといった風に、仰向けにどっしりと

横たわっていた。その目は青空に浮かんでいる大きな積乱雲に向いているようで

あったが、およそ生気と言うものは感じられなかった。顔は青白く、まるで石のように

血の気がない。その体はじっとしていてまったく身動きもせず寝転んだままで、

胸が動いてないことから呼吸もしていないように見える。両手はちょうどおなかの

辺りで右手を上にがっしりと組まれており、まるで何かに祈りをささげているようである。

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 19:03:36.45 ID:LlZ4UAcio
もし近くで水遊びを楽しんでいるちょっとした知り合いたちが、このような彼の様子に

気づいたならば、すぐさま駆け寄って彼の意識を確認して、急いで近くの

ホテルボーイを呼びに行こうとしたであろう。しかし彼らをそういった行動に走らせないのは、

唯一シーモアの生存を証明するところ――つまるところ彼の口が――断続的に、

せわしなく動いていたからである。彼の小さな口からは、周囲で日光浴を楽しんでいる

人々にも聞こえるかどうか分からないほどのかすかな大きさで、低いうめきにも似た響きが

漏れ出ていたが、その発音はおよそ英語のそれとは異なっていて常人には理解しがたい

ものであった。唯一彼の言っていることを聞いて瞬時に分かる者がいるとするならば、

それはその身を釈迦の定めた戒律にささげた仏教徒か、東洋仏教を長年のわたって

研究しているような日本の教授か、あるいは彼の兄弟たちだけであっただろう。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 19:52:23.09 ID:LlZ4UAcio

 水平線から押し寄せてくる波の勢いは、先ほどよりも強くなっているらしく、

押し寄せては子供たちの作った小さな砂の城の一部を奪っていった。

昼に近づいているためか、空から降り注ぐ光線も強くなって、

足元の砂を焼いている。そんな太陽の真下で遊ぶ観光客たちは、

彼とはまったく別世界に住んでいるといった様子で、それぞれの

関心事に力を注いでいた。隣には真っ白なパラソルの下で、まだ年端も

行かないような若い女性が、連れの男性にしきりに大声で話しかけている。

相手もそれをわかったというように大げさにうなずいて、作り物のような

笑みを浮かべる。そして話題がなんだったか分からないうちに、

まるで二人の間に秘密を共有されたといった風に、互いに下品な

大笑いをし始めた。そんな様子がビーチのあちこちで行われている中、

シーモアは依然として空を眺めているようであったが、依然として

その眼差しに光はなかった。まるで彼自体が、どこかの美術館から

砂浜まで運ばれてきた、等身大の彫刻といった具合である。そんな中、

ふと突然、シーモアの顔の上に細長く黒い影が差した。しかし彼は

それに気づかなかったのか、口をせわしなく動かしているだけで、

依然として身動きひとつとることはなかった。

影の主はすぐそれに気づいて、彼に話しかけた。


「祈ってんのかい?」


女性の独特な、低い声が響く。
 
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 19:56:24.15 ID:LlZ4UAcio
 もっと鏡を見て
「See more glass ?」


彼は急いで上半身を起こした。

そして声の主のほうに振り向いて、「やあ!」と短く言った。

シーモアはその人物の背後に高く上がっている、未だぎらぎらと

砂浜を照りつけている陽光に視力を奪われながらも、何とかして

自分に呼びかけた人物を見た。そこにはおよそビーチには不釣合いと

思われるような、奇妙な――それでいて雰囲気になんだか気高いもの

がある――女性が立っているように見えた。まず目を引くのはその

燃えるような赤いスーツである。彼女はワインレッドのそれを上下とも

身に着けていたが、どんなパーティーでもそんなものを着たがる婦人は

決していないだろう。加えてこの暑さだというのに、彼女は汗のしずくの

一滴たりともその額に流さずに、いかにも涼しげといった感じで、凛々しく

たたずんでいるのである。髪はやや長く、、燃えるようだが赤毛とは一線を

画す深い朱色であり、風に吹かれて炎のように揺らめいているように見える。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 19:58:28.78 ID:LlZ4UAcio
そしてその小さな顔立ちは、間違いなくハリウッドにいるような

第一級品の美女のそれであったが、わずかながら東洋の神秘的なものが

混じった印象で、彼女は今、その中心に位置する二つの鷹のような細く鋭い

目をもって、人間の内側までを見透かすようにして彼の顔を見つめ続けていた。

「失礼だけど、以前君と会ったことがあったかな?」

彼はやや警戒したように言った。

「いや、正解だよ。あんたとはまったくの初対面さ。だけどあたしの方は

あんたのことを、ずいぶん前から何度も何度も知ってる。ああ、誤解しない

ように言っておくけど、あたしは別にあんたの勤めてた大学の生徒だったって

わけじゃねーからな。あたしは生まれてこのかた、プレップスクールにさえ通ったことがねーんだから」

彼女は荒々しい話し方で言い終えると、微笑を浮かべて彼を見た。

「じゃあ僕のことは、噂にでも聞いたのか?あるいは僕の兄弟たちから

かな?なんにしろ、ここで君みたいな人と出会えたのを喜ぶとしよう。」



25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 20:00:35.94 ID:LlZ4UAcio
彼女は半ばあきれ果てたように言った。

「あんたのそういうところは正直感心に値するよ。感心しすぎて内心うんざり

するかもしれないけどな。あんたに言うとおり人間誰しも七つの美徳のうちひとつくらいは持ち

合わせてるって言うんなら、あんたのは間違いなく謙虚さだろうね。まあだからこそ―」

彼女はにやりと笑って、「あたしはあんたに会いに来たんだけどな」

それを見たシーモアは、一瞬不思議そうな表情をしたが、すぐに元の微笑に

戻って立ち上がろうとする。「歓迎するよ。3月だって言うのにフロリダは暑いだろう?

年中この調子なんだ。まったく困ったもんだよ。今、何かよく冷えた飲み物を持ってくるよ。ええと、ミス……」

「ジュン・アイカワだ。くれぐれも名前で呼んでくれよ。さもないとあんたの

命の保障はできないぜ。なにせ名前で呼ぶのはあたしの敵だけだからな。

近頃は苗字で呼ぶやつが多くて…… まあ、んなこと言ってもあんたには

関係ない、か。好きに呼んでくれりゃあいい。」そう言い終えると、彼女は

思い出したように付け加えた。「あ、飲み物はお構いなく。今さっき、2リットルの

ペットボトルを10本がぶ飲みしてきたんだ。さすがにもう飲みたくないんでね」

哀川潤は、わざとらしく自分のお腹を確かめるようにさすった。そしてゆっくりと

砂の温度を手で確かめながら、シーモアのすぐ横に座って胡坐をかいた。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 20:02:47.10 ID:LlZ4UAcio
「そいつは驚いたな。まるでサーカスの曲芸師や大道芸人みたいだ。今まで

そんな人見たことないよ。君はそれでいて、実に引き締まった体をしているね、ジュン。

はじめに君を見たときは、目の前にヨーロッパで活躍する女優が現れたかと思ったよ。

肌も白くて髪も燃えるように真っ赤だしね。でも今気づいたけど、なんだかアジア系の

血も混じってるみたいに見えるよ。間違ってたら悪いんだが、ひょっとして君は日本人かい?」

彼女は一瞬あっけにとられたような顔をした。そしてすぐさま相手をたたえるようにして、

甲高い声で笑い始めた。

「いやー。お見事。ここまで正確に当てられるとは。少なくともあんた、

迷子探偵ぐらいにはなれるってあたしが保障するよ。一応聞くが、どうして分かったんだ?」

「以前友人から日本人の教授に出会ったことがあってね、偶々会って

ちょっと話をする機会があったんだ。そのときの印象がとても強くて、

失礼かもしれないが、彼と君がすごく似ているように思えたんだ。そんなたいしたことじゃないよ」

彼女は突然そのことに興味がわいてきた様子だった。

「そいつは珍しいこともあるもんだな。まだアメリカには、そんなに大勢も

日本人の偉い教授さん方が来てるっつう時代じゃないのに…… ついでにその人の名前も聞いていいか?」

27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 20:05:23.48 ID:LlZ4UAcio
 「確かMr.Sai…… 何とかって言う名前だったかな。なんだかとても不思議な、

つかみ所のないような人だったよ。真夜中にあるバーで会ったんだけど、

なんだか急ぐ用事があったみたいで長くは話せなかったんだと思う。

僕のほうもそのときは酔っ払っていたから、詳しくは覚えてないんだ。悪いね」

「いや、別にいいんだ。ちょっと古い知り合いかと思ったんだけど、全然違かったみたいだな」

彼女はやや引っかかりを覚えたような顔をしていた。「まあ、そうだとしても、あたしにはもうどうでもいいんだけどな」

シーモアは彼女の顔をちらりと見た。彼には哀川潤が昔の悲しい思い出に

その身を浸らせているように思えた。そのことに責任を感じたのであろうか、

シーモアは口元は歪み、白い歯が見えていた。彼はその場の重い雰囲気を

一変するために、努めて明るい声で彼女に言った。

「そうだ。君は日本人だと言っていたけど、日本はいったいどんなところなのかな?

僕は芭蕉や一茶の俳句がすごく好きなんだけど、残念ながら一度も行ったことが

ないんだ。長い休みが取れれば行こうと思っていたんだけどね。君は日本のどこに住んでいるんだい?」

「悪いがあたしは日本人だが、日本で生まれたわけじゃねーんだ。あたしは

何を隠そう、ここアメリカでめでたくおぎゃあと生まれたんだよ。んでヒューストンの

ある研究機関でクソ親父たちに育てられて、今では世界中で請負の仕事やってるってわけ」

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 20:07:31.13 ID:LlZ4UAcio
「それは驚きだな。どうりで君は、ここら辺じゃ見慣れないような変わった服を

着ている訳だ。アメリカ全土を回ったとしても、そんなの扱ってるところは

まずないと思うよ。一体全体、君はどこでそんなものを見つけてくるんだい?」

「いやこいつは確か、アメリカで作らせたもののはずだ。確か26回目の

アトランタオリンピックに依頼で警護に行くときに、ちょうど着る服がなかったんだ。

その前にリビアで仕事して、テロリストとちょっとやりあってな。そこらじゅう破れちまったんだ。それで知り合いに頼んで……」

「待って、待って!」シーモアはあわてた風にして聞き返す。

「アトランタオリンピックなんて聞いたことないよ!それはアメリカで行われたっ

てことかい?それに26回目ってことは、じゃあ君は、もしかして『未来』からこのビーチに来たってことかい?」

「お、さすが大学教授。飲み込みが早いな。やっぱあんたはさっさと軍人なんか

辞めて興信所開いたほうがいいって。絶対そのほうがあんたに向いてるぜ。」

彼女はにやにやと笑う。「あたしの友達に九渚友っつうやつがいるんだけど、彼女に手伝って

もらって過去に行く装置を作ってもらったのさ。いわゆるタイムマシンってやつ。知ってるだろ?

1895年にH・G・ウェルズが発表した『タイム・マシン』。まあ正直使える条件がかなり

狭すぎてまだ一度も役に立ってなかったんだけど、今回その条件が見事全部クリアされたわけ。それがここってわけだ」


29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 20:09:24.03 ID:LlZ4UAcio
「未来じゃそんなものまで作ってしまうのか!そりゃ本当かい?。じゃあ条件が

あえば、あのソクラテスをはじめとして、仏陀やムハンマド、さらにはキリストのいた

紀元前までさかのぼって、真相をこの目で確かめられるってことじゃないか!」

彼は興奮した様子で、目を輝かせて言う。「君たちはなんてすごいものを発明したんだ!」

「だから条件が合えばって言ってるじゃねーか。でも今のところタイムスリップが

できるとわかってんのは、今あんたとあたしのいる1948年3月18日の、太陽に

熱されたここフロリダのビーチでの数分と、あたし生きてる時代のある場所しかねーんだ。まあそここそが、今回の依頼の舞台なんだけどな」

「そうなのか。それは残念だな…… そういえば脇においていたけど、君が

未来から来た人間ってことは、僕はこれから何年後かに君に合う可能性もあるってことかな?」

「残念ながらそれはねーよ。あたしが生まれたのはあんたが死んでから

数十年先の未来だからな。これはすでにあたしの未来で記録されている確定事項だ。

いまんところ変わることはねーだろ。だからあんたとあたしが生きて会う機会はないけど、

それを気にする必要はねーよ。今こうして会ってるわけだしな。さてと……」

彼女は不意に立ち上がって、少しよろめいた。そしてスーツの尻に付いた砂の粒を

払い落とすと、依然として驚きの表情をしているシーモアの方に、真剣な顔つきをして向き直った。


30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 20:10:54.31 ID:LlZ4UAcio
「今回あんたにはるばる会いに来たのはほかでもない、あたしの仕事をちょっとばかし

手伝ってもらいたいからなんだ。正直なところ、今回の依頼はほかと比べてちょっと、

というよりかなり厄介なんで、あたしだけでは達成できねーような代物なんだよ。そこであんたに助太刀してもらおうってわけだ」

彼は考えるようにして黙り込んだ。ついでわずかに残念そうな悲しい顔をしてつぶやいた。

「僕はできる限りは君に協力したいと思ってるよ。こうして何かの縁か、君がわざわざ

会いに来てくれたわけだしね。でも、世界中を飛び回っているような君と比べて、

僕のできることはものすごく限られている。正直に言って僕は君の役に立つとは到底思えないんだけど……」

それを聞いた彼女は高笑いをする。「だからこそいーんだ。確かにあたしはあんたより

あらゆる面で勝っているだろうよ。頭脳も身体能力も運もさ。あたしはだてに人類最強を

名乗ってるわけじゃねーし、事実そういうように作られたわけだしな。」

もう彼女は笑っていない。

「でもだからといって、あんたの能力が全部意味ねーってことにはならねーだろ。

あんたの持つもつすべてが1かゼロってことはねーんだ。あたしとあんたの間に

差がありすぎて錯覚してるだけでだけで、あんたの知恵とか力は確かにあんたの

中にあるんだよ。それにそういうものさしで図れねーものも絶対あるはずだろ?

大きさや強さは問題じゃねーんだ。そして今回の依頼で実際に求められているのは、
そういった強いも弱いもひっくるめた、あんた、シーモア・グラースなんだよ。これはあんたがいなきゃ解決できねー問題なんだ」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 20:17:35.52 ID:LlZ4UAcio
シーモアはしばらく彼女の声に聞き入っていた。彼はその余韻をたしかめ、

目を閉じてまるで頭の中で反芻しているように長い間沈黙を守っていた。

二人の間には重い雰囲気が漂っている。もはや彼と彼女とっては、

周りで騒ぐバカンスに来た客たちのあわただしい喧騒や、上空を飛ぶ鳥の鳴き声、

さらには涼やかな波の音まで無に帰したようであった。

そしてその張り詰めた時間が永遠に続くとさえ思われた時、

ようやくシーモアはゆっくりとその口を開いた。

「オーケー、ジュン。僕はできる限り君に協力することにするよ。僕にまだ何ができるか

わからないけど、とにかくベストを尽くすことを約束するよ。」彼は立ち上がり、

微笑を向けて続ける。「それで、僕はどうしたらそこへいけるのかな?」

哀川潤は度を越して気持ち悪いほどのにやにや笑いを浮かべてシーモアに言う。

「うっし!じゃあ早速行くか!思い立ったが何とかって言うしな。最初はちょっと痛むけど

、慣れればなんてことなくなるから我慢しろよ!さあ歯ぁ食いしばれ!」

その瞬間彼女の右手がシーモアの腹部にドスっと鈍い音をさせて当てられたかと思うと、

彼の体にものすごい電撃が走る。その間悲鳴を上げる暇は与えられずに、彼の意識は次第に遠のいていく。

彼が最後に聞いたのは、このタイムマシン、スタンガン型なのがネックだよなぁ、という哀川潤の不条理な独り言であった。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/31(木) 11:17:18.53 ID:AZ4bCRiFo
予想通りです
すみません。これが私の限界です。もう書けません。
サリンジャー視点には無理があったんですね。無難に鏡家サーガに
しておけばよかった……
つーかまず読みづらいし、面白くないですね。。。

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/16(土) 19:38:31.50 ID:Vux1K16DO
グラース・サーガ知らないけど面白そうだと思って読んでたのにもう終わり…だと…?
33.54 KB   
VIP Service SS速報VIP 専用ブラウザ 検索 Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)