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男「顔が消えた……」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :平凡化 :2011/04/05(火) 17:02:55.49 ID:u8ovdTw/0
男「なんでだ……?」

男「目もない。鼻も無い。口唇も……」

必死に顔をまさぐるが本来ある筈の感触はなかった。

そこにあるのは顔の形をしたモノだけ。

母「あんた、いつまでそこに突っ立ってるんだい?早くどけな」

男「か、母さん……俺……俺、顔が……!」

母「はあ?寝ぼけた事言ってないでさっさと、朝ごはん食べなさい」

男「……え?」
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寝こさん若返る @ 2024/05/11(土) 00:00:20.70 ID:FqiNtMfxo
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第五十九回.知ったことのない回26日17時 @ 2024/05/10(金) 09:18:01.97 ID:r6QKpuBn0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715300281/

ポケモンSS 安価とコンマで目指せポケモンマスター part13 @ 2024/05/09(木) 23:08:00.49 ID:0uP1dlMh0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1715263679/

今際の際際で踊りましょう @ 2024/05/09(木) 22:47:24.61 ID:wmUrmXhL0
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誰かの体温と同じになりたかったんです @ 2024/05/09(木) 21:39:23.50 ID:3e68qZdU0
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A Day in the Life of Mika 1 @ 2024/05/09(木) 00:00:13.38 ID:/ef1g8CWO
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真神煉獄刹 @ 2024/05/08(水) 10:15:05.75 ID:3H4k6c/jo
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愛が一層メロウ @ 2024/05/08(水) 03:54:20.22 ID:g+5icL7To
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2 :平凡化 :2011/04/05(火) 17:04:32.88 ID:u8ovdTw/0
妹「あ、おはよ、兄ちゃん……って、そんなうなだれてどうしたの?」

男「え、いや……い、妹?」

妹「ん?」

男「いや……何でもない」

妹「変な兄ちゃん」

気付いていない?

だって、顔のパーツが無いんだぞ気付かないはずが……
3 :平凡化 :2011/04/05(火) 17:05:02.43 ID:u8ovdTw/0
男「まあ、口自体が残っていただけでも助かった」

妹「……?」

目玉焼きを口に運ぶ。

そこでひとつの違和感に気が付いた。

……味がしない。

今度は、米を口にするが、やはり味が無い。

妹「今日もおいしいよ、お母さん」

母「妹はいい子だね〜。息子はまずそうだね?」

男「あ、いや……おいしいよ、うん。おいしい」

妹「?……今日の兄ちゃん、やっぱりおかしいよ」

男「……」
4 :平凡化 :2011/04/05(火) 17:06:22.12 ID:u8ovdTw/0
部屋に戻って、愛用のお菓子を食した。

男「っ……!」

どうやら、問題があるのは自分の味覚らしい。

一体どうなってるんだ。

顔が消え、味覚が消え……

男「とりあえず、他に変わったことがないか調べないと」

部屋にある思いつく限りのものを調べていく。
5 :平凡化 :2011/04/05(火) 17:07:37.49 ID:u8ovdTw/0
いくつか分かった事がある。

ひとつは、俺の過去の写真だとか、そういった類のもの。

その全てから俺の顔だけが消えていた。

もうひとつは、中学生以降の学生証、免許証、それらが消えうせている。

男「制服やスーツはちゃんと残っているのに……」

おかしい事だらけだ。

とりあえず、職場へ向かおう。

そこで何か手がかりが得られるかもしれない。
6 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:08:39.03 ID:u8ovdTw/0
用を足して、身なりを整えると俺は職場へ向かった。

俺が勤めるのは絵のデザインを主とする企業だ。

少ない人数でやり繰りしているが、そこそこの評価を得ている会社でもある。

そこで俺が担当しているのは、一般企業向けにデフォルメされた人の絵を描く仕事。

今回の件にそれが何かしらの関係があると俺は踏んだのだ。

絵の描きすぎで変な夢だとか錯覚だとかを見ているのかもしれない。

だから、俺は普段より早く家を発った。
7 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:09:32.14 ID:u8ovdTw/0
通勤には電車を利用しているが、乗り込んだ車両には人っ子一人もいなかった。

ラッシュの時間帯でないとは言え、それは非常に異様であった。

だが、耳を澄ませば、話し声が聞こえてくる。

?「ねえ、あの人。すごく変な顔をしてるわねえ」

?「ええ、本当に。すごく変な顔」

?「よしましょう?可哀想よ」

周りを見回すが、人がいるわけではない。

だが、三人程の人の声がたしかに俺の耳に届いている。

?「あら、見て。あの挙動不審じゃない?」

?「本当。挙動不審」
8 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:09:58.72 ID:u8ovdTw/0
何を思ったのか、俺はその声がした方へと近づいた。

だのに、声を発すると思われるものは何一つ見当たらない。

幻聴だろうか。

仕方がないので、目の前の席に座ろうとした時、頭につり革がこつと当たった。

?「ぎゃああああああああああああああああああ!」

その途端に、甲高い悲鳴が車両全体に響き渡った。

?「ちょっと!なにするのあなた!本当に汚い!本当に汚い!」

?「可哀想。本当に汚い」

何が起こったのか分からない俺は周りをあちこち見回す。

それでも、声の正体は見当たらない。
9 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:11:23.04 ID:u8ovdTw/0
?「あなた!謝ったらどう!?どうしてそんな風で居られるのかしら!」

?「本当、謝ったらどう」

そう言われても周りには誰もいないんだ。

新手の心霊現象だろうか。

そんな事を考えていると、さっきの声とは違う声が聞こえた。

?「ちょっと、ねえ、お兄さん」

?「こっちよ、こっち。お兄さん、あなたの上よ」

どうやら、声の主らは俺の上にいるというのだ。

しかし上を見上げても、あるものは天井とどこぞやの企業の広告。

それと、つり革。
10 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:12:26.90 ID:u8ovdTw/0
そこで俺は至極妙な質問をした。

男「つり革……さん?」

?「そうよ!つり革よ!なんて間抜けなの!?今の今まで気付かないなんて」

?「本当にそう。なんて間抜けなの」

ヒステリックに悲鳴を上げるつり革と、ただ相槌をうつつり革。

A、Bと名付けよう。

?「あのつり革さんはいつもああなの……そっとしててあげて」

そしてこのつり革にはCと名付けよう。
11 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:13:06.20 ID:u8ovdTw/0
A「ねえ、あなた!いつまでぼけっとしてるの!?謝りなさいよ!警察を呼ぶわよ!?」

B「本当。警察を呼ぶわよ」

果たして、つり革に警察が呼べるのであろうか。

だが、この高音は非常に耳に障る。

早く黙ってもらうためにも俺は謝罪の言葉を述べた。

男「先ほどのご無礼、すみませんでした」

ああ。

つり革に頭を下げる自分のどれだけ滑稽な事か。

A「謝って済むのなら、警察は要らないのよ!」
12 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:13:55.45 ID:u8ovdTw/0
その後も、土下座をしろ、金を寄こせなどと言ってきたが無視を決め込んだ。

C「同じつり革として、恥ずかしいわ」

Cは心底申し訳なさそうに呟いた。

男「しょうがないさ。どこでも同じようなものだから……」

そんな事よりも、このつり革には尋ねたい事がある。

男「ちょっといいかい?」

C「ええ、何かしら」

男「君らは一体何者なんだ」

俺は単刀直入に問いかけた。
13 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:15:22.90 ID:u8ovdTw/0
C「わたしはつり革よ。そして彼女達も同じつり革」

男「そんな事あるはずが無いだろう。つり革がしゃべるなんて聞いたことが無い」

C「でも、残念ながらこれは現実なの」

現実?

これが?

確かに俺は、この腐りきった世の中で、こういうことを待ち望んでいた。

そういう節がある。

でも、実際に俺の前に見えているものはなんだ?

恐怖だ。

こんなものが現実なわけがなかった。
14 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:16:33.26 ID:u8ovdTw/0
C「だけど……」

Cはその続きを言いよどめた。

何かに迷うように。

しばしの沈黙の後、再びCが話し出す。

C「そうね。確かに夢ということもあるかもしれない」

男「そうとしか考えられないな」

C「ええ、だけど醒められるかしら?あなたは少しばかり夢に漬かり過ぎている」

男「それは何のことさ?」

C「さあ。わたしはこれを楽しんだほうが言いと思うわ」
15 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:17:33.35 ID:u8ovdTw/0
話が噛み合わない。

所詮、CもAのように侵されたものなのだろう。

ちょうど、電車が駅に着いた。

男「じゃあ、僕は行くよ」

C「ええ、さようなら」

俺は急ぎ足で電車を降りる。

あんな所はもううんざりだ。

駅を離れるまでAの叫び声は聞こえていた。
16 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:18:10.90 ID:u8ovdTw/0
K「やあ、少し疲れた顔をしているね。どうしたんだい」

職場に入ると友人のKに声を掛けられる。

男「なあ、俺の顔におかしい所はないか?」

K「ん?だから、少し疲れた顔をしているよ」

男「そうじゃなくて……」

K「そうじゃなくて?」

男「……」

結局、聞けずじまいに終わった。

言っても無駄だろう。

家族ですらあの反応だ。

Kの反応に期待は出来なかった。
17 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:18:38.34 ID:u8ovdTw/0
机に腰を下ろし、過去に製作した絵や画像を確認する。

特に今回の事に関係ありそうなものは見つからない。

のっぺらぼうを描いた覚えもないし、もちろん僕にとってつり革なんて専門外だった。

コンピューター保存してある大量の落書きの中には一枚や二枚はあるかもしれないが。

一通り見終わって、休息をとっていると、同僚のYさんに声を掛けられた。

Y「ねぇ、男さん、男さん」

男「なんだい?」

Y「元気が無いようだけど、どうかしたんですか?」

男「……気のせいじゃないかな」

Y「そうは見えません」
18 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:19:11.36 ID:u8ovdTw/0
今日は顔の事で何かを言われることが多い気がする。

そこまで悪いのか?

というか、どこにそれを判断する顔がある?

それとも、疲れると顔をパーツが取れる事が……馬鹿な考えはやめよう。

男「……いや、本当になんでもないから」

Y「む……そうですか……」

残念そうにYさんは自分の席に戻っていった。
19 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:19:45.16 ID:u8ovdTw/0
K「おい。ちょっとひどいじゃないか」

Yさんとの会話を聞いていたのかKがなにやら言ってくる。

K「Yさん、きっと君に好意を抱いているよ」

男「……」

K「それに君気付かなかったろう?」

男「何に?」

K「Yさん、今日は香水を変えたとかで張り切っていたぞ」

男「……そうか?」

全く気付かなかった。

というか、誰がどんな匂いなんて気にした事も無かった。
20 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:20:27.29 ID:u8ovdTw/0
K「君も酷い男だね」

男「……ちょっと嗅いでくる」

K「いやいや!それはまずいだろう!?」

男「冗談だよ、冗談」

K「はぁ……まあ、冗談言えるくらいなら大丈夫かもね」

Kが笑う。

つられて俺も笑った。

男「少し経てばすぐに直るよ」

K「そうだね。でも、無理はするなよ」

男「ああ」

ついに、この問題は一人で解決しなくてはならないものになってしまった。
21 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:21:05.01 ID:u8ovdTw/0
今日の帰りにちょっと居酒屋へ寄らないかとKに誘われたが断った。

電車には乗りたくなかったので、タクシーを捕まえる事にした。

運「どこまで行きます?」

行き場所を告げると、タクシーは走り出した。

運「すんませんなー。先のお客さんがタバコ大量に吸ったんでちょっと臭いですわ」

男「いえ、別に気にならないので構いませんよ」

むしろ、タクシー独特の臭いもなく心地がいいくらいだ。

上手く臭いが中和されたんだろうか。

運「そうですか?私にはちょっときついですわー。禁煙やって言うたのに」

男「マナー悪い人はどこにでもいますからね」

朝のつり革を思い出す。

あれは人じゃない……だろうが。
22 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:22:31.03 ID:u8ovdTw/0
家から5分ほど離れた所で、タクシーを降りる。

まだ時間もあるので、公園で時間を潰すことにした。

公園にいるとつらい仕事の事も忘れられる。

今日のことも忘れられる気がした。

そして、公園には誰もいなかった。

電車での事がデジャブとなり、声が聞こえるたびに身体をびくっとさせる。

どうしても、今日の出来事がフラッシュバックしてしまう。

居た堪れなくなった俺は、早々に公園から引き上げ、帰途に着いた。
23 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:23:43.66 ID:u8ovdTw/0
玄関を開けるといつもの我が家だった。

怖いくらいにいつもの我が家であった。

違和感の無い事に違和感を覚え、それがひたすらに怖かった。

怖くなった俺はリビングには行かず自分の部屋に戻った。

このストレスを取り除く為に何か食べたくなった。

俺はお菓子を必死に貪った。

味は相変わらず無かったが、臭いも無いような気がした。

だけど、心だけは落ち着いた。
24 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:24:30.11 ID:u8ovdTw/0
しばらくしてからリビングへ向かう。

妹「おかえりー、兄ちゃん」

妹が出迎えてくれた。

男「おい、制服ぐらい着替えとけよ」

妹「なら兄ちゃんもスーツ着替えなよ」

男「……ここはお互い様という事で」

昨日までと変わらない会話。

変わったのは俺?

自分の精神がどんどんと削られていく中、家族で囲む食事は本当に心が癒された。

だから、今は考えないでおこう。

Kに言った通り、少し経てば直っているかもしれない。
25 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:24:57.10 ID:u8ovdTw/0
そろそろ就寝にしようと思ったが、ひとつやらなければならない事があった。

本当に嗅覚まで無くなっているのか確かめなければ。

俺は夜食の包装を次々にとっていくと、片っ端から臭いを嗅いでいった。

男「…………」

これには絶句するしかない。

俺はついに嗅覚まで失ってしまった。

願わくば、これが夢であること。

部屋の明かりを消し、目を閉じた。
26 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:25:25.74 ID:u8ovdTw/0
――目が開く。

日差しが部屋の中を明るく照らしていた。

今日はとてもいい朝だろう。

でも何かを忘れている気がした。

何かを忘れている気がして、鏡を見ると顔が無かった。

怖くなってお菓子を食べると、全てを思い出した。

でも、何か忘れたままな気もした。

だけれど、気にせず部屋を出た。
27 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:27:14.87 ID:u8ovdTw/0
妹「おはよー、兄ちゃん。もう元気そうだね」

男「昨日は、ちょっとおかしかったな」

妹「病院は行ったの?」

男「いや、病院は……」

妹「何はともあれ、よかった。よかった」

母「話してばかりいないでご飯食べなさい」

妹「はーい」

二日目で大分と慣れたのか、普通に過ごせるような気がした。

少なくとも顔も味覚も嗅覚が無くとも生きる上で大きな障害にはならない。

さすがに、視力や聴覚となると大変だが、証明書の類が見つかるまでは保留するしかなかった。
28 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:28:49.39 ID:u8ovdTw/0
妹「兄ちゃん」

男「なんだ?」

朝食を食べ終え、部屋に戻ろうとした時、妹に呼び止められた。

妹「何かあったら、わたしに言ってね。いつでも力になるからさ」

男「…………ああ」

いつもなら何か言い返してやるところだが、今だけは素直に受け取っておいた。

それはとても情けなかったが。
29 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:29:56.52 ID:u8ovdTw/0
部屋に戻り、愛用のお菓子が切れそうな事に気が付いた。

確かそれは駅のホームで買ったものだったので、今日は仕方が無く電車で行く事にする。

結局そのお菓子は売っていなかったので、適当にスナック菓子を買っておいた。

家を出た時間は昨日と変わらないが、今日は他の乗客も多く見られる。

やはり、昨日のつり革は悪い夢だったのだろう。

そう思い、乗り込んだ。
30 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:30:38.51 ID:u8ovdTw/0
電車の中で人は他人に無関心だった。

音楽を聴く者、本を読む者、電話をする者。

そして同様に誰もが俺に無関心だった。

今ここで俺が倒れてもそれを気に掛け助ける者がいくらいようか。

上へ行く者の足は手でつかみ、下へ行く者の手は蹴落とす。

俺はそれがひどく嫌いだった。

それを思い出した。

いつの間にか、周囲に人はいなくなっていた。
31 :平凡化 [sage]:2011/04/05(火) 17:31:44.45 ID:u8ovdTw/0
気付けば、聞き覚えのある声が近くからしている。

A「ああ!苦しかったわ!」

B「本当。苦しかった」

案の定昨日のつり革であった。

A「あの邪魔虫!この私をつかむなんて許せない!」

C「……」

昨日同様、Aは煩く喚いている。

声はしないがCもどこかにいるのだろう。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/05(火) 17:36:08.69 ID:u8ovdTw/0
以上がVIPで書いていたものを少し校正したものです
遅筆でミスも多いので書き溜めてから一気に投稿する形をとりたいと思います
あと、ぶっちゃけ活字に慣れているなら安部公房読んだほうが百倍楽しいです
これはネットSS用に変換した劣化版ですので
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/05(火) 17:55:31.39 ID:3jV5qWpQ0
充分面白いぞ
期待してる
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 19:36:40.67 ID:MgURAW5DO
もう立てたのか
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 20:35:21.67 ID:MaJoBVrko
期待
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/04/06(水) 00:28:20.81 ID:EkyspkPAO
おお!探しにきて良かった!楽しみー
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:31:49.59 ID:EJh7FIYpo
男「……つり革さん」

なぜ呼んだのかは分からない。

ただ無性に声を掛けたくなってしまった。

A「あなた!昨日の失礼な男!」

B「あら、本当。失礼な男」

男「……」

A「まあ、いいわ!私、今は機嫌がいいから!」

とてもそうとは思えないが。

しかし、相手にするのも面倒なのでそういうことにしておこう。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:32:59.95 ID:EJh7FIYpo
C「また、会ったわね」

男「会いたくて会った訳じゃないさ。むしろ、嫌なくらいだよ」

C「そう……でもこれから会う機会は増えるでしょうね」

男「それは勘弁願いたいなあ」

一体このつり革は何なのだろうか。

何もので何を知っているのだろうか。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:35:37.86 ID:EJh7FIYpo
C「私は何も知らないわ。あなたが知るまで知らない」

男「……っ」

まさか、心の中で思った事に返事されるとは思ってもみなかった。

それにさっきの言葉の意味もよく分からない。

男「俺が知るまで?」

C「そのままの意味よ。あなたが知れば私も知る。それだけ」

このつり革と話していると頭が混乱してくる。

……つり革と会話する事自体がおかしいのだろうが。

今、俺の感覚はきっと狂っている。

少なくともこの混乱がどこか心地よく感じるくらいには狂っていた。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:36:35.34 ID:EJh7FIYpo
男「……とりあえず、君にはもう何も聞かないでおくよ」

C「そう。別にいいんじゃないかしら」

Cはどうでもいいように答えた。

男「いや、最後にひとつだけ聞かせてくれ」

C「どうぞ」

俺はひとつの疑問を素直に尋ねる。

男「周りの人はどうして消えたんだい?」

C「……人なんて最初からいなかったでしょ」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:37:34.49 ID:EJh7FIYpo
いや、何を言っているんだ。

だってAはさっき、自分を掴むなと叫んでいた。

俺が掴んでない以上ここには誰かがいた事になる。

俺「どうしてそう言えるのさ」

C「人がいないことに理由なんて無いわ」

そう言い、Cは続ける。

C「例えば、あなたのそばに常にYがいるとは限らないし、あなたは一々理由を尋ねたりしないでしょ」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:38:41.77 ID:EJh7FIYpo
男「……なんでYさんの事を……?」

C「あなたが知っているからよ」

それだけ答えると、Cは黙り込んでしまう。

気付けば、周りは人々が戻っていた。

Aの叫び声もいつの間にか止んでいる。

そしてついに、駅を出るまでにAの声が聞こえる事はなかった。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:39:55.69 ID:EJh7FIYpo
K「大分良くなったみたいだね」

俺が職場につくと、Kは開口一番にそう言った。

男「ああ。もう何ともないよ」

K「そうか、それは良かった」

しばしの間、Kと話していたら、Yさんが話しかけてきた。

Y「もう大丈夫なんですか」

男「うん。昨日はごめんね」

Y「いえ!私のほうこそ何だか……」

Yさんが何度も頭を下げる。

本当になんとも思っていないのに……むしろ、こっちに非があるだろう。

俺がそう伝えると、ようやくYさんはこちらに顔を向ける。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:40:35.56 ID:EJh7FIYpo
Yさんの顔はどことなく赤らんでいた。

Y「あ、あの!」

口を開いたYさんは、目の前に二枚の紙を出して見せる。

Y「明日の休日、一緒に映画……見に行きませんか?」

Yさんは俺の顔を不安そうに見やりながら、そう口にした。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:41:33.73 ID:EJh7FIYpo
……そうか。

そういえば、明日は祝日だったな。

などと考えていると、足にわずかな痛みを感じる。

見るとKが俺の足を踏みつけていた。

俺は即座にその足を払うと、別に構わないと答える。

Yさんからチケットを受け取り、簡単に予定を決めた後それぞれの持ち場へと戻った。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:43:03.61 ID:EJh7FIYpo
貰ったチケットを見ると、それは最近TVで話題になっている映画のチケットであった。

たしか、恋愛映画だったような気がする。

原作が少女マンガだなんだだと、TVで言われていた。

果たして付き合ってもいない男女がこういうものを見るというのはどうなのだろう。

少し思考を巡らしてみるが、妹以外とそういった経験が無い俺には何も分かる訳がなかった。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:43:58.24 ID:EJh7FIYpo
帰りは電車に乗る事にした。

やはりタクシーは高くついてしまうし、お菓子の補充もしなくてはならなかった。

相変わらず人はいなかったし、Aも煩かったが目を閉じてやり過ごした。

最後までCとは話さなかった。

結局、お菓子は見つからなかったので、すぐに駅を出た。

あそこには長くいたくなかった。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:45:59.22 ID:EJh7FIYpo
家に着き、自分の部屋戻ると不思議な事が起こった。

いつもスーツをかけてあるハンガーから声がしたのだ。

そしてその声はつり革のAを想起させるものだった。

俺は急いで金切り声をあげるハンガーの口(と言っても何処にあるかは分からなかった)を押さえる。

男「何でここにいるんだ!」

荒立った俺の声の何倍も大きな声でAは答えた。

A「あなたがいるからよ!それより汚い手で触らないでくれるかしら!」

B「本当。汚い手」

どうやら、Bも一緒のようだ。

ということは……
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:47:33.64 ID:EJh7FIYpo
C「こんにちは……いえ、こんばんは、ね」

やはりCもいる。

男「君らがなんで僕の部屋にいるのさ!?」

C「もう質問はしないんじゃないの?」

男「それとこれは訳が違うだろ!」

C「勝手ね。Aみたい」

Aみたいだといわれて腹が立ったが、ここで口論しても仕方が無い。

少し頭を冷やすとCに懇願する。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:48:35.16 ID:EJh7FIYpo
男「頼む……教えてくれ」

傍から見たら非常に奇妙な光景だろう。

しかし、そんな事を気にする余裕はもうなかった。

男「お願いだ……」

C「……さっきAが言った通りよ」

男「俺がここにいるからとでも言うのか?」

C「そう。それ以上は私も知らない」

言い返そうとして、やはり口をつむぐ。

ここでCの言い分を疑うとして、俺は何を信じればいいのだ?
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:49:45.52 ID:EJh7FIYpo
俺にはもう信じる他に選択肢が無かった。

男「ああ、信じるよ……」

C「そう……」

Cは少し悲しそうに呟いた。

少し悲しくなった俺はお菓子がまだ切れていない事を思い出す。

俺は引き出しからお菓子を取り出し、それが無くなるまで食べた。

いつの間にかAの声は聞こえなくなり、自分が呼吸する音だけが聞こえるようになる。

それからリビングへ向かった。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:50:38.88 ID:EJh7FIYpo
リビングでは妹がテレビを見ながらソファーに寝転がっていた。

妹「あ、兄ちゃん、おかえり……ってまた顔色悪くなってるし……」

男「ああ、ちょっとお酒を飲みすぎてね。それより……」

さっき俺の部屋から声が聞こえなかったかを尋ねた。

あそこまで大きな声だったんだ。

普通ならここまで声が届いているはずだ。

妹「ん?そんな声聞こえなかったけどなー……お酒のせいじゃない?」

男「はは。そうかもしれない」

妹「もぅー。しっかしりてよ、兄ちゃん」

俺の肩をぱしっと叩くと、妹はまたソファーへ横になった。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:51:11.47 ID:EJh7FIYpo
部屋で俺は考え事をしていた。

今ハンガーを見ても何も異常は無く、一向にAらがしゃべる様子はない。

電車での体験がトラウマになり奇妙な幻覚を見てしまったのだろう。

俺は早々に問題をそう片付け、部屋の明かりを消した。

明日はYさんと映画を見に行くのだ。

つまらない事を考えるのは余計だと思った。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 03:56:31.12 ID:bFiPeBIyo
ああ、名前欄付け忘れた・・・

夜になって頭が変にならないと何も書けないのでだいたいこの時間に投稿する事になります
毎朝新聞掲載の小説読むみたいに読んでいただければ…
というのは冗談ですが、今週いっぱいは日が変わる以前の投下はなさそうですのであしからず
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/06(水) 09:12:50.26 ID:keUrsHNzo
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/07(木) 05:23:06.64 ID:I3Xz+jsuo
三日目の朝。

ちょうど戌の刻を迎えた頃、俺は部屋の騒々しさに目を覚ました。

部屋のあちらこちらで声が飛び交っていたのだ。

その声はどれもAのものだった。

頭の中に鳴り止まない目覚まし時計が入ったような、そんな煩さ。

俺が苦痛に頭を抑えるのもお構いなしに、それは止む気配がなかった。

この耳を聾する騒音どもを黙らせようと、俺はクローゼットを開け放ち、

Aだと思われるハンガーをぱきっと真っ二つにするのだが、やはり音は鳴り止まない。

次はデスクから鉛筆を取り上げそれもへし折るが、静まるどころかAの悲鳴で更に音のレベルが上がる。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 05:23:58.95 ID:I3Xz+jsuo
音で溢れかえる部屋から抜け出しリビングへと足を踏み入れる。

まだ日が昇って間もない時間だったため、家族はそこにいなかったが、

部屋に戻ってもまたあの煩い声に苛まれると思いここで心身を落ち着かせることにした。

いまだに部屋のほうからは騒がしい声が聞こえる。

しかし、母も妹も起きてくる様子はなかったし、近所の人達が文句を付けに家に押しかけてくるなんて事もないので、

これは俺にだけに聞こえるのだろうと思った。

これが身体の異変に関係があると思いついた俺は、早くどうにかしなければと思うのだが、

解決策を思いつくことはなかった。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 05:24:39.13 ID:I3Xz+jsuo
このまま事が収束するのをリビングで待ちたい気持ちでいっぱいだったが、今日はYさんとの約束がある。

俺は適当にティッシュを耳に詰め込み、自分の部屋に戻った。

Aの声が聞こえてくる事は無かったので、作戦が功を成したのだと悦喜したが、

よくよく気をつけてみると声は既に鳴り止んでいた。

不思議に思った俺は、しかし悪い事ではなかったので気にせず、クローゼットから私服を見繕いそれに着替えた。

必要なものをポケットに詰めリビングへと戻った後、食パンとコーヒーで軽く腹ごしらえをし、

まだ六時を回ったところだったが家を出る事にした。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 05:26:42.25 ID:I3Xz+jsuo
映画を見に行く事とその前に食事をとることは決めているが、他の事を具体的には決めていなかったので、

下見をするのもいいと思ったのだ。

この町には映画館など大層なものはありはしなかったため、Yさんの住む隣町まで俺が向かう事になっていた。

エスコートはYさんに任せても問題は無いのだろうが、男としてかく恥はなるべく少ない方がいい。

そのために少しでも隣町の地理をしっておこうという事だ。

もちろん、電車に乗ることになるのだが、そのことは今の俺に大きな恐怖感を与えた。

今朝の部屋のような状況になれば平静を保っていられる保証は無い。

その場でとち狂い、紺色の御役人にこの身を囚われることだってあるかも知れなかったからだ。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 05:27:32.61 ID:I3Xz+jsuo
結果、その不安が現実になる事はなかった。

つり革が話す事も、人が急にいなくなる事も無く隣町へと無事着くことができた。

安堵のため息をついた俺は町へ繰り出した。

きっと今日はいい日になる。

そう思った。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 05:28:09.39 ID:I3Xz+jsuo
駅を降りるとまず巨大なデパートが見えた。

少し先にはずらりとマンションが建ち並んでいた。

俺は、将来こんな所に住んでみたいだとか、でもやはり土地が高いだろうなとか、

それでも少し離れた所ならそんなにしないだろうだとかと頭に浮かべながら、町を回った。

今日訪れる事になる映画館の周りにはいくつか飲食店があるようだ。

都合を考えると、ここで昼食をとることになりそうだと思った。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 05:29:17.07 ID:I3Xz+jsuo
時計を見るとまだ待ち合わせの時間まで三時間ほどあった。

いくらなんでも早く来すぎてしまったと後悔しながら辺りを散策していると、映画館の裏に金券屋を発見した。

暇つぶしに何か映画でも見ようと、ケースの中に入った券を物色する。

今日見る映画の予習でもしようかと考え、人気があるからか他より少々値段のする券を、

高いと言っても缶ジュース一本分くらいだったので、購入した。

それはYさんに対する裏切りにもなるかもしれないが、映画の途中で寝てしまい内容が何も分からなくなるよりは、

二度見てでもその内容について知っているほうがいいと思ったのだ。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 05:29:49.62 ID:I3Xz+jsuo
映画館へ入ると、売り場で先ほど手に入れた前売り券を引き換えた。

あと数分で始まるというので急いで劇場へ向かった。

早い時間だからか、既に多くの人がこの映画を見終えたからか、他の客はあまりいなかった。

席に着くと場内の照明が落ち、間もなく映画が始まった。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 05:31:30.66 ID:I3Xz+jsuo
その映画がなぜ話題になったか分かった気がした。

主人公は高校に通う女子なのだが、彼女はある日AIについて研究している父からロボットの世話を任される。

そのロボットは自分と同じくらいの年頃の少年だった。

少年は最初、赤ん坊の様に気持ちを外に出していたが、主人公が面倒を見るうちに

(機械的であることは否めないが)段々と普通の人間らしくなっていった。

そしてロボットの世話を焼く内に彼女は少年に恋をし、少年の世話に関してより没頭する。

と言ったよくありそうな物語であるのだが、最後がとても衝撃的だった。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 05:32:57.49 ID:I3Xz+jsuo
中々少年は機械らしさを払拭できないでいたが、時間とともに主人公は世話に大きな執着をみせ始めた。

ついに主人公は自分の部屋から出てこなくなる。

心配した父親が部屋を覗くとそこには抱き合い笑いあう二人の姿があった。

しかし主人公は父親の言葉にただ幸せだと答えるばかり。

めげずに言葉を投げかける父とただ同じ言葉を繰り返す娘。

そんな場面がフェードアウトしながら映画は終わった。

かくして彼女は幸せを得たのだった。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 05:33:38.69 ID:I3Xz+jsuo
映画を見終えた俺は待ち合わせ場所へと来た。

時間には少し早かったが、こういった時は少し早く着いておくべきだとも言うし、それも悪い気はしなかった。

とりあえず、これで映画のほうは大丈夫。

むしろ、うっかり話してしまわないように気をつけなければ。

そんなことを頭に浮かべていると、やがてYさんがやって来た。

俺は立ち上がると彼女の元へ向かった。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 05:40:39.46 ID:I3Xz+jsuo
諸事情で少なくなった
今日中にもう一度投稿したい
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/07(木) 21:02:33.98 ID:SZ0hYs7do
待ってる
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/07(木) 23:58:42.21 ID:rAnkZm2Ko
Yさんに連れられて、あまり人気がしない裏路地にはいると、一軒の飲食店があった。

どうやらここで食事をするようだ。

店はそば専門の店のようで、何何そばといった類の名前がメニューに陳列している。

Y「ここのお店とても美味しいんですよ」

そう言って店内限定定食と書かれたところを指で指す。

Yさんの言うとおりここは定食を注文することにした。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/08(金) 00:00:40.14 ID:cvtk32lMo
定食が届くまでYさんと世間話をした。

最近の政治がどうだとか、海外では今こんなことがあるだとか、

上に立つものが本当に無能だとか、そんなネガティブな話が続いた。

女の人と二人でいてこんな会話は少し味気がないと思ったが、それは事実であったので仕方がないことだった。
人は使用する物を区分けし、使用する人も区分けした。

Y「男さんと二人っきりの世界ならいいのに……」

俺はそれに頷いた。

そう思ったのだ。

いや、本当は一人になりたかったのかもしれない。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/08(金) 00:02:41.44 ID:cvtk32lMo
Yさんの顔はみるみる内に赤く染まっていった。

自分で言った事が恥ずかしかったのか、はたまた俺が頷いてしまったからかもしれない。

ちょうどそこで定食が届けられる。

お互いぎこちない気持ちでそれを食べ始めた。

その後の会話は少し明るいものになったような気がした。

やはり俺には味がしなかったが、おいしいかと聞くYさんに俺は頷く以外できなかった。

半ば諦めた気持ちになっていたけれど、どうにかしなければと思った。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/08(金) 00:04:28.02 ID:cvtk32lMo
飲食店を出ると、すぐに映画館へ向かった。

朝来たときとは違い大変な混雑だったので、俺がYさんの分の券も引き換える事にした。

チケットを引き換え、Yさんのもとへ戻るとYさんは大きな紙の筒をひとつ抱えていた。

Y「ポップコーンを買ったんです。すみませんが、コーヒーは持ってくれませんか?」

Yさんは椅子の上に置いてあったコーヒーのコップを2つ僕に手渡し、席に着く。

俺もその隣に腰を下ろした。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/08(金) 00:05:19.18 ID:cvtk32lMo
Y「何時からですか?」

男「十三時二十四分からだから、あと十五分くらいあるね」

Y「どうせなんでもう中へ行っておきませんか?」

俺もYさんに賛成して今日二度目の劇場へ足を踏み入れる。

やはり朝とは違い結構な人数がいるようだ。

上映前になるとほとんど席も埋まるんじゃないだろうか。

俺たちの座る席は少し左よりで後ろの方のエリアだった。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/08(金) 00:06:43.85 ID:cvtk32lMo
上映の時間になり、スクリーンにオープニングの映像が映し出される。

朝とは何の違いも無く(それは至極当然のことである)ストーリーは進んでいった。

Yさんの方を見ると真剣な様子で映画に集中していたが、

こちらの視線に気が付いたのか、ちらっと俺の方を見ると軽く微笑んでくれた。

そのまま物語りは終盤へと入った。

しかし、クライマックス直前のシーンで主人公の世話するロボットが朝のものとは違う動きをする。

ロボットの少年は家を飛び出し、住宅街を駆け抜け、街を出て、まるで獣のように走り続けるのだ。

当然であるがそれは至極奇妙な事である。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/08(金) 00:09:38.95 ID:cvtk32lMo
走り続けるロボットの前に巨大な壁が立ちはだかった。

それは比喩的な壁ではなくコンクリートでできた正真正銘の物質的な壁だった。

ロボットが後ろを振り向くとそにも同様に壁、そして右を向いても、左を向いても壁がロボットの行く手を妨げた。

ロボットは犬が吠えるように壁の中で叫び続ける。

物語はそこで止まったままだった。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/08(金) 00:12:47.00 ID:cvtk32lMo
至極不審に思った俺は後ろを振り向き、映写機を見やるがどこも変わった様子は見つからなかった。

だが、違う事に気が付く。

あれだけいた客たちがその姿を消して、映画館はもぬけの殻になっていた。

隣を見るとYさんは映画を見ている。

どこかほっとした俺は、しかしどこか不安だったのでYさんの名前を呼んだ。

そして振り向いたYさんに顔は無かった。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/08(金) 00:14:33.88 ID:cvtk32lMo
俺は驚いてあっと声を上げる。

そうするとYさんがどうしたのか俺に尋ねた。

自分の顔に気が付いていないのか何ともない様子で話しかけてくるYさんに俺は答えられずにいた。

耳にはYさんの声とロボットの少年の声が聞こえている。

顔の消えたYさんが俺に話しかけ、その度に少年が大きく叫び声を上げた。

俺はこの現実から逃げるように瞼をと強く閉じるが、それでもYさんのような何かは俺に話しかけるのをやめない。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/08(金) 00:16:10.44 ID:cvtk32lMo
不意に彼女は俺の肩に手をあてた。

男「もういい加減にしてくれ!」

そう叫ぶと、彼女は驚いた顔をして、すぐにすみませんと謝り頭を下げた。

それから周りからざわめきが聞こえ始める。

いつのまにか元に戻っていた事に気付いた俺は映画が終わるまで恥ずかしい気持ちで過ごす羽目になった。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/08(金) 00:17:07.92 ID:cvtk32lMo
映画が終わり、Yさんに謝罪の言葉とその言い訳を述べる。

Yさんは少し笑うと「きっと悪い夢でも見ていたんですよ」と許してくれた。

この後買い物でもしようかと提案したが、Yさんが念のため家に帰って休んだほうが言いというので、それに従うことにした。

Yさんと別れ、電車に乗る。

また、いつか一緒に出かけられるだろうか。

そんな事を考えているうちに電車は足を動かし始めた。

映画での事は悪い夢だったんだ、そう思い込む事にした。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/12(火) 09:13:34.59 ID:hg85bHKvo
まだかな
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/14(木) 22:56:46.62 ID:dSOU2q5Z0
これいいな
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/04/24(日) 00:37:06.17 ID:5pFqgoqAO
逝ってはならぬ
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/05/05(木) 00:08:50.11 ID:+3qZjl8+o
まだか
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/07/04(月) 23:44:28.90 ID:LgjinDiso
…………待ち遠しい…………
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/11(月) 08:54:18.27 ID:IN54rlhFo
スゴクヒキコマレーター
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