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暁美ほむら「最後に残った道しるべ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/04/08(金) 22:39:33.72 ID:4+5uQgBh0
暁美ほむら「最後に残った道しるべ」

未完SSだけどがんばっていけるとこまで投下する


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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:40:11.20 ID:4+5uQgBh0


暁美ほむらは目を覚ました。
ずっと夢を見ていたみたいだ。

夢の中でずっと思い出していた。記憶の旅にでていた。


私が初めてまどかと出会った日のこと…。

まどかに助けられたこと…。

まどかに助けられる私でなく、まどかを助ける私になりたいと願った時のこと…。

インキュベーターにみんなが騙されていることを知った、目覚めの朝。

インキュベーターに騙される前のまどかを、必ず救うと約束したあの日。

何度も何度も繰り返された私の闘い。



夢から覚めるたび、また最初のあの病室に戻ってしまうような、
そんな錯覚をする。


「まどか…」


ほむらは小さな声で呟き、約束した少女の名を呼ぶ。
ベッドから足を降ろし、両手を握る。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:41:20.77 ID:4+5uQgBh0
明かりのついてない暗がりに、彼女の部屋のホログラム空間には、
魔女の絵図がいくつも浮かんでいるのがうっすら見えた。


そのうち、”walpurgis”と書かれた図柄がある。
その絵図が示すは巨大な歯車。邪悪な顔。双方に生える翼。



ワルプルギスの夜の日がやってきた。



「必ず…あなたを…絶望の運命から救ってみせるわ…必ず…!」

両手を握り締めた力を強めながら、ほむらは言った。

今日が決戦だ。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:41:47.52 ID:4+5uQgBh0


光を失いかけた三日月が降りる、見滝原の町の夜空。


その夜の街明かりを、工場施設のクレーンの上にちょこんと座って見下ろしている、
孵卵器の姿があった。


これからこの街にやってくる運命のことを思いながら。

この街の魔法少女の運命のことを思いながら。


それらの事柄は孵卵器を通じて大概宇宙のことに繋がる。


町を包む闇と、そこに浮かぶ高層ビルの無数の白い明かりは、
白と黒のコントラストの世界のようだ。


「さあ、いよいよワルプルギスの夜がきた。」


孵卵器が、揚々といい始めた。だが、その身の回りには誰もいない。

クレーンの高台に吹き付ける、夜の冷たい風の強さが音で伝わってくるだけだ。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:42:53.31 ID:4+5uQgBh0
「暁美ほむら。なるほど君はこの時間軸の人間じゃない。
この街にワルプルギスの夜がやってくると予想した君の統計にもうなづける。」


孵卵器の赤い眼球に見滝原の街が映る。
その小さな獣の愛らしい姿とは裏腹に、孵卵器の意図は邪悪だ。


「だから君にはわかるわけだ。」


孵卵器の背が少しのびて。

蓄えたようにふくらんだ、ふっくらとした白い尻尾が、夜の空───宇宙にむかって
ピンとのびると。


「ボクが今回、この街を選んだってこともね。」


その獣の影の、卵の象徴を印された背中から黒い邪悪な何かが噴き出し、
破滅の運命を辿る町の月の夜空の闇に溶け込んでいったのを、
見た者は誰もいなかった。


闇と一体化した獣の眼が赤く光る。
その姿はまるで邪な黒猫で、魔女の使い魔とされる姿に近かった。


「楽しもうじゃないか。暁美ほむら。キミとボク、鹿目まどかの運命を捕るのは
どちらなのかをね」



魔法少女と魔女、鹿目まどかの運命を巡るほむらとインキュベーターとの闘いも。

次のない幕切れへ。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:43:42.69 ID:4+5uQgBh0


 魔法少女   まどか☆マギカ
 puella magi
 MADOKA
 MAGIKA

 SS:暁美ほむら「最後に残った道しるべ」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:44:47.97 ID:4+5uQgBh0


ワルプルギスの夜、当日。
見滝原の街は最後の朝を迎えた。

その朝はいつもの一日の始まりと何も変わらない。静かな朝だった。


ヴィクトリア朝風な町並みの、左右の二手に道の分かれたほむらの家の通りも、
同じように静かな朝日に包まれていた。


何も変わらないはずの日常。何も変わらない見滝原の景色。

それが今夜、迎える滅びの運命を知っているのは、制服姿で中学に登校していく
ほむらの一人しかいない。


それでも、ほむらは無表情で、いつものように学生鞄を手に、学校へ足を進めていた。




これからどんなことがあっても、その瞳に宿る決心が濁ることなどない。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:45:52.98 ID:4+5uQgBh0


見滝原中学も、いつものように一限目をスタートさせる。

学校の屋上に設置されたサイレンが、チャイムを快晴の空に響き渡らせる。
そのメロディーはウェストミンスターの鐘と同じだ。


授業がはじまると、ガラス張りで囲まれた教室を、ホワイトボードの前で教員が
出席をとりはじめる。


するとそこで。

「ん?なんだ…今日も美樹さやかは休みなのか」

教師の声が教室に行き渡った。


ここ何日か、教室の美樹さやかの机は空席が続いている。


そのことでクラスメートたちがひそひそ噂をはじめた声も、じっと黙って
席についているほむらの耳に入ってきていた。


美樹さん…最近どうしちゃったのかしら。
体調を崩されたのかしら。
今まで続けて休むことなんてない子だったのにねえ。
バカは風邪ひかないなんていうけど。


しかし、体調のことを思案するのは、噂の核心へ迫るための、
クッションの段階にすぎない。


やっぱり、仁美さんと上條くんの…。
ああ、それ。やっぱ本当なの?
タイミング的にそれしか考えられないでしょ。
美樹さん、上條くんが入院してた頃、よく見舞いに言ってたって話。きいた?
かわいそう…。



もうそんな噂話も、何度も同じ時間を巡ってきたほむらには聞きなれてしまった
ようなものだ。

だが、今日は…。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:46:35.57 ID:4+5uQgBh0
あれ?鹿目さんも今日はお休み?
鹿目さんも、ここ最近なんだかよく休んでるよね。
保健係がいないと、また暁美さんの仮病はじまるでしょ。
学級係も大変よねぇ。



クラスメートたちが知る由もないが、まどかは昨日魔女となった美樹さやかに
体を握りつぶされそうになったのだ。生身の人間のままで。

その衝撃で気絶して以来、自分がまどかを家に届けるまで、
まだまどかの意識は目覚めていない。



ほむらは横目で後ろのまどかの空席を見やる。
まどかとことを考えると、インキュベーターの言葉が脳裏によみがえってくる。


”今回、佐倉杏子の脱落には大きな意味があったね。
これでもうワルプルギスの夜に立ち向える魔法少女は君だけしかいなくなった。”


”もちろん、一人では勝ち目なんてない。この街を守るためには、
まどかが魔法少女になるしかないわけだ。”



───やらせないわ。絶対に。


私は諦めはしない。

あの口ぶりからすると、インキュベーターは、私が今夜仕掛けようとしている
ワルプルギスの夜に対抗すべく描いた最後に残った作成───道しるべ──には
まだ気づいていないみたいではあるが、まどかが今夜、インキュベーターの甘言に
惑わされないようにするためには、それ以上にも決然とした行動が必要だ。


それに踏み出る覚悟は出来ている。
私は、今夜、心を鬼にするだろう。




何度か繰り返された私の闘いも、本当に今回が最後になる。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:47:31.51 ID:4+5uQgBh0
「暁美…さん?」


私と、インキュベーターの闘い。
その決着が今夜つく。


「あの…暁美…さん?」


「えっ?」


ずっと頭の中で今夜のことを考えていたせいか、自分を呼び続ける声に
気づくのに時間がかかった。


ふと我に返り、ほむらは相手を見上げる。



授業の休み時間のようだ。
クラスメートの仁美が、自分の席の前で自分を呼んでいた。


「暁美さん…お話したいことが」


ほむらは無表情な目で仁美を見返す。「なにかしら」


かつての美樹さやかの友達でもある彼女。
ほむらは、彼女が原因でしばしばさやかが魔女になることも、またそのさやかに
使い魔にされていることも知っていたが、その仁美と直接話した機会はありない。

その仁美が私に何の用が。


「その…ききたいことがありまして…」


仁美は、クラスで沸き起こる噂話の中心の全てが自分であるみたいに、
縮こまった様子で、不安そうに話しかけてきていた。


「さやかさん…のこと…なんですけど…」


ほむらの表情は動かない。


「さやかさんが最近ずっと学校を休んでいることで…
暁美さん何か…知ってはいませんか?」


彼女はさやかがずっと学校に来ていないのを気にかけているのだろう。
だが、その要因に仁美自身が大きく関わっていることや、魔法少女のことを話すつもりも、
ほむらにはなかった。


ほむらは口を開けて答える。「私にはわからないわ」その口調はどこか冷たい。


魔法少女の問題は魔法少女で解決しなければならない。
たとえ美樹さやかが魔女になったことに関係あるとしても、
本当のことを教える必要なんてない。


そんなことを考えながら…ほむらは自分が日に日に、いや──ループする度に──
自分が人間じゃなくなっていくのを感じることがあった。
そして、ほむらは真実、もう人間ではない。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:48:20.95 ID:4+5uQgBh0
「そう……でしたか」


仁美は寂しそうに顔を落とした。その表情が髪の毛の影に隠れる。


「私、さやかさんが学校こなくなって……今日はまどかさんも学校にきてくれなくて…
一人で学校にきました。でも今まではずっと、三人でいつも一緒でしたのに…」


「…」ほむらは聞いているだけだった。


「私、最近になってずっと思っていたんです」


仁美の語調が少し、強くなる。
ほむらはまるで自分が批難されてるような感触を覚えた。


「まるでなにか、さやかさんやまどかさんが、違う国にいってしまったような…
いつもと、全然変わらないはずなのに、なんだか知らない人たちになってしまったように。
私一人だけを置いて…。そんな風に感じ始めましたの、今はっきり申し上げますが、」


仁美の目が、ほむらの無表情な顔をまっくず見据える。


「そんなふうに感じはじめたの、暁美さん、あなたが転校してきてからなんです。
本当に、暁美さん、何も知らないのですか……?さやかさんのこと、まどかさんのこと…!
本当に何も…?二人は私の、大事な友達なのです!」


今にして、ふとほむらは思った。
仁美は、さやかやまどかと、私よりずっと長い間、一緒にいた友達だったことを。

それなのに、魔法少女の世界に踏み入れて、日常が壊されていく二人のことに、
彼女が気づかないはずはなかったことを。


でも、それでも。

魔法少女の問題は魔法少女で解決しなければ……ならない。
その考えは変わらない。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:49:15.24 ID:4+5uQgBh0
ほむらは再び答えた。


「本当に何も知らないわ…」最初の冷めた口調とほとんど変わっていない。


その言葉を最後に、会話は途切れて。
悲しくなるような沈黙の時間が、しばらく続いた。


「わかりました…暁美さん。」

仁美はようやく言った。

「変なことを言ってしまい、ごめんなさい」

くるりと向きなおり、ほむらに背をむけ離れていく。

「でも…もし」

一言いい、そこで足をとめると。

「それでまどかさんやさやかさんに何かあって…あなたがそれを知っていて…
それで私にウソをついていたというのでしたら」

最後に付け加えた。

「私、あなたのこと、恨みますから……!」


その言葉は、余韻の一撃となってほむらの心の中にしばらく残っていた。
目を落とし、少し思いつめる。

彼女はさやかとまどかの友達として、本当のことを知りたいだけなのだ。
それなのに本当のことを知っている自分は、彼女は関係ないと、振り払った。


魔法少女のことを言い訳にして。


運命決するワルプルギスの夜まで数時間を切った。

だが、まだこの時ほむらは、きたる今夜に、自分が魔法少女である秘密を仁美に
知られることになろうとは、思ってもみなかった。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:50:23.99 ID:4+5uQgBh0


赤に燃える夕日が見滝原の街を照らしている。

ビル街はそのガラスが夕日を反射してオレンジ色に光り、
工業地域に広がる製鉄施設群は夕日を受けて大きな影をつくる。


それがこの町にもたらされる、最後の日の光だ。



鹿目まどかは、部屋のベッドで目が覚めた。

窓のカーテン越しに差し込んでくる夕日の光の筋は、一瞬まるでそれがそのまま
自分を天国に導いてくれるような気さえした。


目が半開のまま、まどかは頭を手で押さえる。



なにが、あったんだっけ……?

私……。



最後に覚えているのは……。
いつもどおり仁美ちゃんと登校していたら…。

杏子ちゃんが。魔女。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:51:26.79 ID:4+5uQgBh0
「さやかちゃん……!」


はっと息がつまり、ベッドから飛び起きる。「さやかちゃんは……!?」


「目が覚めたかい。鹿目まどか」

聞こえた声は、白い獣のものだった。
まどかのベッドのぬいぐるみと一緒になってちょこんと座っている。


「キュゥ…べえ……?」言いながら、まどかの声に絶望が交じる。

ここにキュゥべえがいて、でもさやかも、一緒に戦ってくれた杏子もいない。
その状況を考えるだけで一つの答えが出ようとしているからだった。


「美樹さやかのことなら、魔女になった美樹さやかを佐倉杏子が仕留めた。
自分もろとも自滅してね。」


キュゥべえが言い終える頃にはまどかの目からは涙がきらめき、零れ落ちていた。


「佐倉杏子が自滅するとき、彼女の魔翌力が美樹さやかの魔翌力と同化してしまったみたいなんだ。
美樹さやかの結界には、そのさやかと杏子の一つになったグリーフシードだけが残った。
暁美ほむらはそれを使わなかったから、放っておくとまた魔女が孵化するかもしれなかった
から、それはボクが回収しておいた。」

「ああああああああっ…」


まどかは両手で顔をおさえ、嗚咽を漏らして泣き崩れた。


「どうして?ひどい。ひどすぎるよ…。どうしてこんなことばかりが起こるの…?
さやかちゃんも、杏子ちゃんも…。あんまりだよ…!キュゥべえ…なんとかいってよ!
全部貴方のせいじゃない!全部っ!全部っ!貴方が…貴方さえ来なければ…さやかちゃんも
杏子ちゃんも、誰もこんなことにならなかったのに……!あなたさえ来なければ…
あなたさえ、こなかったら……!」


少女に泣き叫ばれても、キュゥべえの表情に変化はない。
そのキュゥべえが答える。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2011/04/08(金) 22:51:43.25 ID:irFToAiR0
これは期待
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:52:37.91 ID:4+5uQgBh0
「誰もこんなことにならなかった…というけど、まどか、逆にボクから言わせて
もらえば、ボクがこなかったら、さやかの願いは叶わなかったし、巴マミだって
今頃は死んでいたんだよ。その奇跡を、同意の上で成立させてるじゃないか。
まどか、ボクは釣りあいをきちんと取っているつもりだよ?」

「そういう問題……じゃ……ないよ…!」

「じゃあ、どういう問題なんだい」キュゥべえがきいた。

「同意とか…釣りあいとか…!そんなんじゃないよ…!あなたはずっと…
ずっとみんなのそばにいたじゃない……!」

涙に声を詰まらせつつも、言葉を絞り出す。

「貴方は杏子ちゃんがあんな想いで戦ってたのを知っていて、何もしようとはして
くれなかったの…?さやかちゃんが殺されそうになって、それでも何も言わなかったの…?」

悲しみに声が震えている。

「ずっとあの子たちを見守りながら…貴方は何も感じなかったの?
みんながどんなに辛かったか…わかってあげようとしなかったの…?」


釣り合いがとれてるとか同意の上だからとか、まどかにはってはそういう問題ではない。
そばにいたのなら……何か感じてほしかった。

もし小さな子どもが、井戸に落ちようとしているのを見たら、痛ましく感じて、
あわてて駆け寄って、救うだろう。だがそれは何も救うことによって父母と交際を
結ぼうなんて下心があるのではなく、名誉を得ようとしているのでもなく、助けなかった
悪名を取るのが嫌なのでもない。

理屈を越えた純粋な救いたいという心の働き、痛ましく思う心が人にある。
それがなければ、人間ではない。


だが、まどかの前にいるのは、まさにその人間でない存在なのだ。


「わかってあげようとするも何も、ボクには感情がないからね。
こればっかりはわかりようもない。」


「…」もうまどかは何も言わなかった。
絶望に打ちひしがれたまま、ベッドに座り続けている。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 22:53:26.77 ID:4+5uQgBh0
しかし、そのタイミングを見計らってインキュベーターは。
この少女の弁解を諦めた代わりに、自らの目標達成のための本題を切り出した。


「まどか。君は今夜、この町に何が起こるか知っているかい。」

「やめて!」まどかは叫んだ。両手で耳を塞ぐ。「もう聴きたくない!」

「今夜この町に、ワルプルギスの夜がやってくる。」

インキュベーターの声は、耳を塞いだまどかの脳裏に直接響いてくる。

最初からこの声から逃げる術はなかったのだ。
思えば、初めて出会った、あの時から。

「ああああっ…!」

まどかの絶叫が、部屋じゅうにこだましても、聞こえてくる声は呪いのように止まない。

「ワルプルギスの夜は今まで最強最大級の魔女だ。今夜、ワルプルギスの夜によって、
この街はそのほとんどを破壊されてしまう。」


どうして……そんな…ひどい…。絶望の連鎖が止まらない。


「君の家族も、学校のクラスメートも、街の人々も、このままでは助からない。
でもこの町に残された魔法少女は、暁美ほむらただ一人だけだ。彼女一人だけでは
荷が重過ぎる。彼女もそれを覚悟の上で戦うだろうけど、恐らく、暁美ほむらも今日の
闘いで死んでしまうだろう。」


もう……やめて…よ……。
あなたは、どうしてそんなひどいことばかり……するの。


「でも、君が魔法少女になれば別だ。君が魔法少女になれば、みんなを救えるかもしれない。
ワルフルギスの夜を打ち倒せるかもしれない。まどか。契約の準備は、いつでも
できているからね。」



行く先の未来が絶望に染まり、先のない闇になったとき。

放心したまどかは。まるで一瞬、神のいる天国と通じたような、奇妙な、
でも神秘的な感覚を覚えて。


自分の運命を悟った。

悪魔から啓示を受けたように。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [saga]:2011/04/08(金) 22:53:26.90 ID:irFToAiR0
目欄にsaga(sageではない)を入れれば、パー速の文字規制は回避できるよ。
魔力←こんな風に。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 22:55:34.20 ID:4+5uQgBh0
>>18
実はこの板使うのもはじめてなんで分からないことだらけですが、とりあえず頂きますね
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 22:56:04.99 ID:4+5uQgBh0


見滝原のビルの立ち並ぶ街の姿を。

暁美ほむらは眺めていた。


見滝原を照らす、燃える夕日はいまビルの奥へと沈んでいく。
その最後の光の一筋が、ほむらの目に映り。


そして消えた。




ついにきた。
私の最後の戦いが。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 22:56:44.42 ID:4+5uQgBh0


リビングの時計の針が、まっすぐ六時を差していた。


テーブルでは、温まったココアの湯気がコップからのぼっている。


「落ち着いたかい。まどか。」

父の知久が、優しく声をかけてくれる。「今日はもう、大丈夫なのかい?」

「うん…」湯気だつココアに目を落としながら、まどかは答える。
それから、負い目を感じているように小さくなって言う。

「パパ…ごめんね。昨日も今日も……学校休んじゃって…」

「まどか。」

父が名前を呼んでくれる。

「疲れているとき、無理するほうがダメだ。パパはね、学校のことよりもまどかのことが
心配なんだ。パパだけじゃない。ママも最近のまどかのことは心配してる。
最近、ちょっと疲れてきてない?」

もちろん、この聞き方は知久なりに、かなり角を立てないようにした言い方だ。
ここ数日間で、まどかが学校にいかなくなったり、部屋で泣いていたり、
放心したようにベッドに座りっぱなしだったり、その娘の元気のなくしていく様子を、
彼は知っていた。

父親は娘に何が起こっているのかを知りたかった。


「…うん……。」だが、まどかはしゅんと椅子で目を落とすだけだった。

本当のことを話したら、パパやママは、変な話、って、思うかな。
子どものする話で、現実の話じゃないって、そう思われちゃうのかな。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 22:57:46.36 ID:4+5uQgBh0
でも、今夜でこの家族も私もみんな死んじゃうのかもしれない…。
父親の、娘への想いが伝わったのか、それとも別の何かか。

まどかの重い口が、ゆっくりと徐々に、開いていった。「あのね、パパ…」

父は何もいわず、まどかが話すのをを待ってくれている。

「あのね、もし…」

まどかの口から魔法の世界の沈黙が解かれていく。
おどろおどろしい内容を告げるとき、不気味な何かが一瞬居間の空気を
伝っていった気がした。

「もし、ね…?自分が死ぬことで、宇宙のことが救えるなら…自分一人の命が、
それで死ぬことで宇宙のどこかにある他の文明の人たちのことを救えるなら……
死ねるのかな…?」

自分の話は、くだらない夢妄ごとに思われていることだろう。
ああ…わたし、にいってんだろう。まどかが恐る恐る父の顔を見上げると。

真剣な眼差しがまどかを見返していた。

「パパだったら死ねないね。」

父の答えを聞いたまどかは。

「そう……なの?」はっと驚き、思わず聞き返していた。

「そうさ。」

父は言った。

「宇宙のためだろうと何だろうと、パパにはまどかが全てなんだ。家族のことが全てなんだ。
まどかや家族を残して、宇宙のために死ぬなんて死に切れない。それと同じで、まどかが
宇宙のためになんかで死ぬことも許せない。家族だれ一人死ぬことが許せない。
まどか、宇宙なんて無限にあるものとその中で僅かしか生きられない人生の中で
一緒になってくれた人の命を天秤にかけるなんてこと、できるのかい?答えは決まっている」

最後に茶目っぽく笑ってみせ、一言付け加える。

「もしまどかが言うように、宇宙に別の文明の人がいるというなら、その人たちが
どう考えるかはわからないけどね」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 22:58:16.70 ID:4+5uQgBh0
「……くすっ」父の言葉にしばらく聞き入っていたまどかだったが、急にふっと小さく笑った。
久々に見せる彼女の笑顔は、まるで宝物のように。

父には見えた。
「こーら、せっかくパパが大真面目に答えたというのに、笑うことないだろう?」

「うん…ごめんね。パパ」まどかは笑いながら、その口元に握る手を添える。
少女らしい、女の子の仕草。

ここずっと、キュゥべえの言葉やその世界に浸からされて、魔法の国にいってしまった
みたいな倫理観にとらわれてた。

やっと、私たちの、人間らしい言葉と心に、触れた気がする。


インキュベーターの考えは単一固体の命より宇宙だ。
人間は違う。

宇宙なんて、無限なものを考えても仕方ない。
それよりも、一緒にいてくれた家族を、友達を救いたい。


「そして…ありがとう。パパ」


そういい、今度はめいっぱいニコっとまどかは微笑んでみせた。


その笑顔の仮面の下に、別の決意を固めながら。




ごめんね。パパ。
でも私決めたんだ。



でもそれは、宇宙のためとか、消耗品みたいに死ぬんじゃない。
私の、そして人のあり方を…。

インキュベーターに突き通して見せることで。




命を賭けて─────みんなを救いたい。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 22:59:07.92 ID:4+5uQgBh0


そして静かに、見滝原の町は夜になった。

まどかたちがよく立ち寄るカフェのデパート、見滝原中学、その通学路も、川辺の野原も、
川にかかるレンガづくりの橋も。

ひんやりとした夜風がそよぐ。
それは、嵐の前の静けさ。



ヴィクトリア朝風の街灯が並ぶ通りの、”暁美ほむら”の表札の家で。


暁美ほむらは、ホログラム空間の中央テーブルにワルプルギスの夜のデータ資料を
集めたものを並べていた。
今夜決行するであろう作戦のシュミレーションをするため。


その眼差しは冷酷なまでの紫の瞳で、覚悟の程を窺わせる。


今夜起こすであろう私の行動は、今までのどの時間軸よりも豪胆で、ダイナミックだ。

名づければ、”暁美ほむら史上最大の作戦”だろう。
そしてその中身は自分の名前通りのものだ。



ワルプルギスの夜。
繰り返される時間軸のなかの、最後の正念場。乗り越えなければならない最大の障害。

今度の時間軸では、その当日が来るまで、まどかを魔法少女になることから守った。
あとは、この魔物を倒すことだけが残された課題だ。


それだけに、ワルプルギスの夜と戦うための対策は緻密に練り上げなければ。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:00:07.31 ID:4+5uQgBh0
「今回のワルプルギスの夜…その第一波…。その最初の出現の対策はもう済んだ…」


資料を睨み、ほむらはぶづぶつと独りごとを言いながら。
次に見滝原市の地図に目を移す。頭の中に今夜のことがイメージされていく…。


「第二波…ここが問題…。ワルプルギスの夜、第二波の出現場所は…」


彼女はその地図の、ある一点に目をとめた。


「ここ……!」


そう声にだし、彼女が見つめた箇所には、盾と十字架の印が描かれていた。
そこに病院が建っていることを意味する印だ。


「そして…今度出現するワルプルギスの夜のタイプは…」


彼女はいままで繰り返し同じ時間を巡ってきたが、その度に出現するワルプルギスの夜の
タイプは若干ずつ違っていた。

今では、その法則性も見えてきている。
どの時間軸を辿ればどのようなワルプルギスの夜が出現するかの法則が。

「もし私の考えが正しいなら…」彼女は頭に考えをめぐらす。


今回のワルプルギスは今までの中でも最も強力…。
その攻撃パターンは、大型の刃物、放たれる炎、もしかしたらある程度破壊しても
傷を癒す再生能力も備えているかもしれない…。


そいつを今度こそ倒すためには。


…やるしかない。

それが私の、最後に残った道しるべ。



「おやおや…暁美ほむら。まさか本気で一人でワルプルギスの夜と戦う気かい」


声が聞こえた。
ほむらはその声の主を知っていたし、それが自分にとって最大の敵であることも知っていた。

招かねざる客。
それが当たり前のように、ほむらの部屋の円形状の椅子にいた。

私の今夜の作戦を覗きにきたのか。


「君も別の時間軸で戦ったことがあるなら、もう分かってるはずだろう。」

インキュベーターが話し始める。「君一人の力で立ち向っても、君は……死ぬだけだ」

死を魔法少女に告げても、顔は無表情で、白い尻尾を揺らしているだけだ。

「それに、ボクは前に君に言ったが、いくらイレギュラーでも魔法少女の無駄な犠牲は
止めたいんだ。だからボクはキミを止めにきた。それに、魔女になる前に死んでしまうのでは、
意味がないじゃないか。」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:01:55.01 ID:4+5uQgBh0
「…」返す言葉はない。顔が髪の毛の影に隠れている。


下向きのまま、ほむらはようやく口を開いた。「ええ…確かにあなたの言うとおりよ」

髪の毛に隠れているせいで、口元しか見えない。

「私一人でワルプルギスの夜を倒すことは難しい。でも、それを認めるのは癪よ……」

そこまで言うと。
顔を見あげて、横目でインキュベーターを殺意をこめ睨みつける。
             、、、、、、、、、、
「そのワルプルギスの夜の、産みの親の前で認めるのは特に……!」



インキュベーターの表情は動じない。
その顔の赤い眼球。ほむらの目がそこに映える。


緊張の沈黙が流れたあと。
インキュベーターは、ここは降参というように目を閉じると、静かに沈黙を破って言った。

「さすがは、イレギュラーの魔法少女、といったところだね。
何度も時間軸を辿っていると、分かるものなのかい?暁美ほむら。」


「インキュベーター(孵卵器)としての貴方の役割は少女を魔法少女に仕立て上げることだけ
じゃない。貴方に隠されたインキュベーターとしてのもう一つの役割───それは」

ほむらがインキュベーターを見下ろし、言う。

「孵化寸前のグリーフシード(魔女の卵)を身体の内部に溜め込み、一挙に産み出すこと。
そして、新月の夜にワルプルギスの夜を創り出すこと。」


厳然たる事実が、雷鳴のように二人の間を打ち、また沈黙の時が訪れた。


「ふ〜。」

インキュベーターが肩を落とし、息を吐いた。

「やれやれ、思った以上に何もかもお見通しなんだね。暁美ほむら。でも、それが分かった
ところで、どうなるというんだい。君にボクを止める手立なんてものはない。それに、」

いいながらインキュベーターは、余裕そうに動物の耳掻きの仕草をしてみせる。

「ボクの身体の構造自体、いわばその名の通り容量に限界があるポットみたいなものだ。
孵化寸前のグリーフシードはボクが身体の内部に回収していたが、それも一定量の限界を
超えたら、それはもう外に出させるしかない。いや、そういう風にシステムされてること
自体に、実は意味があると言うのがここでは正しい。」

「…」

「魔法少女と魔女の関係を考えてごらん。魔女は魔法少女に一方的に狩られるばかりだ。
でもそれじゃ、魔法少女が勝つ一方で、絶望を生み出せない。そこでボクらインキュベーターは、
少女を魔法少女に変えることの他にもう一つの役割も果たすんだ。それが、狩られた魔女の
孵化寸前のグリーフシードの回収だ。あとは君の予想どおり、ワルプルギスの夜を生みだす。
そうやって初めて魔法少女は魔女との戦いで大きなダメージを負い、魔力を消耗しきり、
ついには魔女になる循環ができあがる。ボクたちは過去に色々な試作をしたけれど、
この惑星では、こうするのが一番エネルギー回収の効率がいいと判断した。」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:03:15.74 ID:4+5uQgBh0
インキュベーターの赤い眼球がほむらをとらえる。


「暁美ほむら。キミとのお別れの時も近い。だから話そう。ボク自身の秘密のこともね。
キミは今回の戦いを失敗したら、また時間を巻き戻すことを考えるのかもしれないが、
それももう今回までだ。”エンフォーサー”が君の事でこの惑星に注目している。」

「エンフォーサー…?」

そんな単語をインキュベーターの口から聞くのはどの時間軸でも初めてのことだった。

「ボクたちインキュベーターを管理する強制者のことさ。キミらの社会の言葉でいえば、
支配者といえば分かってくれるかい?ボクは感情がないから、自分の意思でこの惑星に
やってきたわけじゃない。エンフォーサーの操作を受けてここにやってきた。」

どうやらそれは、むこうの文明の、インキュベーターより上級で、より強力な存在の話らしい。
孵卵器というハードウェアがあればそれを裏から管理するソウトウェアがいることの揶揄が、
今のインキュベーターの言葉の趣旨のようだ。


「ノルマを達成しないと」

インキュベーターは言った。

「ボクはエンフォーサーから、世にも恐ろしいような籠愛を受けるんだ。暁美ほむら。
ボクはボクで、譲れない理由があるんだよね」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:03:59.96 ID:4+5uQgBh0
10

夜になっても、まどかは部屋の明かりをつけなかった。

部屋の暗がりの中で、ベッドの動物のぬいぐるみたちが自分を見つめている気がする。


ベッドに腰掛けながら。
まどかは───キュゥべえに出会ってから今までのことを、思い出していた。


今になって思えば、キュゥべえは……悪魔だったんだ。
私たちのこと、全部メチャクチャにしてしまうために宇宙からやってきた…悪魔。


はじめは、魔女の危機から助けてくれた巴マミの大事な友達として、私たちに
近づいてきて。願い事を何でも叶えてくれるって誘惑してきて、魔法少女になって、
何もかもが手遅れになってから真実を突きつける。


私たちは悪魔にその魂が喰い物にされていたことを。

さやかちゃんも、マミさんも、私たちの生活も…。消耗品にされるため。



悪魔が……私たちから何もかもを奪っていったんだ……。

そして、私たちはキュゥべうが悪魔だと気づくのが、遅すぎたんだ……。


まどかに渦巻く感情は、悪魔への怒りではない。
それよりも、キュゥべえが悪魔であると見抜くことに遅れた自分のくやしさと、後悔と、
なぜか哀愁のようなものさえ、心で混ぜ合わさって破裂しそうで、行き場を求めている。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:04:49.66 ID:4+5uQgBh0
その悪魔の言葉が、頭の中にこだまして来る。

”まどか。いつかキミは最高の魔法少女として、最悪の魔女になるだろう。”


その預言はきっと当たるのだろう。
でも、全部その通りの意味にするつもりはない。


いま、まどかはピンクのパジャマの部屋着を片付け、
見滝原中学の制服を身に纏おうとしている。

でも、それは中学に通うためではない。


いかなくちゃいけない。
見せるために。

悪魔に。人の魂を。



いま、まどかは、自分が契約して魔法少女になることが、
どれほどのことを意味するのかを知っている。

それがそのまま悪魔との契約であることも知っている。


それを見越しているように、ほむらは転校してきて初めて出会ったあの日から、
ずっと私に伝えようとしてくれていた。忠告をしてくれていた。


その言葉も、よく覚えている。

”今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないことね。さもないと、
全てを失うことになる。貴女は、鹿目まどかのままでいればいい。”


ほむらちゃん…今なら私にそう言ってくれた意味、よくわかるよ。
ずっと私を、キュゥべえに騙されないように、守っていてくれていたんだね。

ほむらちゃん。ありがとう。


私が魔法少女になったら、いずらは最悪の魔女になって、何もかも壊しちゃうのかも
しれない。

でも…。
それは今夜、同じことだから。


まどかは、昨日杏子が言ってくれた言葉を思い出す。

”命を危険にさらすってのはな、そうするしか他に仕方ないやつだけがやることさ。”

”あんただっていつかは、否が応でも命がけで戦わなきゃならないときが来るかもしれない。
その時になって考えればいいんだよ。”


その時がやってきたのを、まどかは心にかみ締めていた。
私も、命がけで闘わなきゃならないときが。

今夜、やってくる。



鏡の前で制服に着替え、準備が整う。
最後にまどかは、髪の毛を黄色か赤色のリボンどちらかで結ぶのに、なぜだか一瞬迷った。
少し考えたのち、いつかママが選んでくれたように、赤色のリボンで髪を結んだ。

ほむらちゃんに、初めて出会った日の選択だからなのかな。


奇妙なことに、まどかは以前にもこんな場面を見たような気がする。
でも、まだはっきりとは思い出せない…。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:06:12.19 ID:4+5uQgBh0
「私…やっぱりウソつきだ……。ごめんね。もう、家には帰れそうには……ないから……」



ついに夜の見滝原町へ踏み出したまどかの前に。


同じ見滝原中学の制服を着た少女が。
闇のなかに立っていた。

その闇に溶け込むような黒髪は、かつての髪型のなごりで左右に分かれ、
夜風のなかでゆれていた。


暁美ほむらが自分を待ち受けていたように、そこには立っていた。


「……鹿目まどか」

ほむらは彼女らしい冷たい口調で小さく彼女の名前を呼ぶ。

「あなたの助けが欲しい。」


そういって、ほむらの右手が差し伸べられる。


そうだ…。
私、それのために、今こうしてほむらちゃんの前にいるんだ。
涙を腕でふき、ほむらを見つめ返すと。


「うん」


差し出された、彼女の手を受け持つ。「連れて行って。ほむらちゃん」

ほむらの表情は、複雑そうだった。「…ありがとう。まどか。」

まどかの手を握り、歩き出す。まどかもそれについて行く。

二人がこうして手を握り合うのは、ほむらが初めて魔法少女になってからの最初の
教室での自己紹介のとき以来だった。

でも、まどかにはその記憶はない。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:07:31.32 ID:4+5uQgBh0
やべ、ひとつとばした!
かきなおし!
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:08:27.04 ID:4+5uQgBh0
>>29の続き。

11

制服に着替えたまどかは、手に何も持たず家の廊下を歩いた。
あるのは家族と、この家と、そして自分自身との訣別の心持ちだけだ。


さようなら。パパ。

さようなら。タツヤ。

通り過ぎる家族に視線を送り、心の中で別れ告げる。
そして、制服姿で玄関にむかう。

玄関についたら、ちょうどそのタイミングで母親が家にもどってきていた。
鼻歌交じりにスーツ姿でヒール靴を脱いでいる。

めずらしく帰りに飲みにも寄らず、いつもより早く帰宅したらしい。

「あ…」まどかの足が止まる。

娘と目を合わすや、フッと母親が微笑みかけた。

「よ、まどか。ただいま〜調子はどうなのさ?ん…?」

まどかの様子の異変に気づく。「あれ、これからお出かけ?」


一瞬黙りこくって。
まどかは、小さく顎を引いてうなづいた。「うん…」

「んー、そうか」

母親はヒール靴を乱暴に脱ぎ捨て家にあがる。

「どこいくのかしらないけどさ〜、病み上がりなんだし無茶すんなよ〜」

まどかの肩の横を母親が通り過ぎる。「あ、知久、ポテトサラダ、今日ある〜?」

「はいはい。」父親の快い返事が後ろで聞こえる。「ママ、でも先に手を洗わなきゃ」

「あはは…」まどかは笑った。家では、いつものような家族の日常が。
今は最高の幸せのように感じられた。
そして最後のこの瞬間に、まどかはそれをめいっぱいかみ締めて。


制服のローハーを履き、かかとまで踏み入れ、玄関のドアに手をかけると。

「まどか」

外にでる手前、母親が急に振り向いて自分の名前を呼んだ。

「え…」きょとんとしたような、まどかの瞳が母親を見返す。

母親からはさっきのくだけた雰囲気は消えていた。
じっとまどかを見つめている。
一瞬まどかは、母親に何もかも見透かされてしまったような、そんな気持ちがした。

「ま、門限とかうるさいこといわないけどさ、」

その母親が娘に、またフッと笑ってみせると言った。

「用事すること済んだら、そしたら家に帰ってきなよ。」

その言葉にまどかは。

嗚咽が喉をこみ上げて、思わず口元を手で押さえて。
溢れ出しそうになる涙をこらえてすぐにドアの外側に出た。

そのあいだにも涙の雫が数滴こぼれ落ちてしまったかもしれない。

閉めた玄関ドアの向こう側で、まどかはしばらくその涙と戦いながら。

「ごめん…ごめんね…」

誰にも届かない声を絞り出していた。

「私…やっぱりウソつきだ……。ごめんね。もう、家には帰れそうには……ないから……」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:09:06.62 ID:4+5uQgBh0
ついに夜の見滝原町へ踏み出したまどかの前に。


同じ見滝原中学の制服を着た少女が。
闇のなかに立っていた。

その闇に溶け込むような黒髪は、かつての髪型のなごりで左右に分かれ、
夜風のなかでゆれていた。


暁美ほむらが自分を待ち受けていたように、そこには立っていた。


「……鹿目まどか」

ほむらは彼女らしい冷たい口調で小さく彼女の名前を呼ぶ。

「あなたの助けが欲しい。」


そういって、ほむらの右手が差し伸べられる。


そうだ…。
私、それのために、今こうしてほむらちゃんの前にいるんだ。
涙を腕でふき、ほむらを見つめ返すと。


「うん」


差し出された、彼女の手を受け持つ。「連れて行って。ほむらちゃん」

ほむらの表情は、複雑そうだった。「…ありがとう。まどか。」

まどかの手を握り、歩き出す。まどかもそれについて行く。

二人がこうして手を握り合うのは、ほむらが初めて魔法少女になってからの最初の
教室での自己紹介のとき以来だった。

でも、まどかにはその記憶はない。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:10:04.19 ID:4+5uQgBh0
12

「あのね…ほむらちゃん」

「…」彼女は無言ですっかり暗くなった街道を歩き続けている。

「その…私の助けが欲しいって…それってつまり…その」

どもりながら、まどかは言葉を紡ぐ。

「私も魔法少女になって…それでほむらちゃんと一緒に闘うって…
そういうこと…なのかな?」

「バカいわないで」

ほむらはピシャリと即答した。

「何度も言ったはずよ。あなたはあなたのままでいればいい。魔法少女になんて
なってはだめ。それの意味するところも、もう貴女はしっているはず」

彼女の口調は相変わらず手厳しい。

「う…うん…そうなんだけど…」

まどかはすっかり戸惑ってしまった。何か言うたびに言葉がつっかえる。

「でも…じゃあ…私と二人で戦うって…どうやって…?私、魔法少女でもないのに…
戦えそうな武器だって何も持ってきてないし…それに…ワルプルギスの夜って大型の魔女で…
たぶん一人の魔法少女だけじゃ勝てないって…」

それは今は亡き杏子の言っていた言葉の記憶だ。

しかしそれでもほむらは決然としたふうで答える。

「そこはあなたの心配することではないわ」

まるで何かの確信があるような口ぶりだ。

「魔法少女は私ひとりだけで十分。あなたは私の闘いを手伝って欲しい。
ワルプルギスの夜を倒す算段は、できることの限りを尽くして考えてきたわ。
だから心配しないで。あなたはただ、私のそばにいて援護さえしてくれればいい。
だから、闘いがはじまったら、決して私のそばから離れてはだめ。いいかしら?」

否定を許さないような凄みが言葉づかいに込められる。

「うん……わかった…」だから、まどかはついウソをついた。

それはきたるワルプルギスの夜との戦闘中に、ずっとまどかをそばにおいて置くことで、
あらぬインキュベーターの誘惑の甘言からまどかを守るための対策でもあり、ほむらの
今回の作戦が成功するために満たされなければならない必要条件の一つでもある。



しかし、それはともかくとして、まどかはふと肝心な疑問を思い出した。

「それで…ほむらちゃん…これからどこにいくの?」

行く先はほむらにまかせっきりで、向かう先は知らされていない。

訊かれると、ほむらは突然歩く足をとめた。
踵を返してまどかに向き直り、一言答える。「…買い物、といったところかしら」

その髪の毛がゆらっとなびいた。


でも返答は、まどかを困惑に陥れるだけだったらしい。「…買い…物……?」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:11:31.36 ID:4+5uQgBh0
13

まどかは、これからの決戦に向けて一体何を買い物するのだろうとは思っていたが、
ほむらに連れられて行き着いた場所はそのこと以上に不思議だった。

「ほむらちゃん……ここって…」

中学生の少女が買い物ときいて想像する場所は大方にしてコンビニか、デパートか、
まどかも例に漏れずそういったところを想像していたのだろう。


だが、ほむらが買い物と称してたどり着いたストアーはこう看板を掲げていた。


”軍放出品販売 ”


「武器が爆弾だけではあなたを巻き込むわ」

ほむらはそう言い。
当たり前のように軍放出品ストアーへ歩を進めていく。

「武器が必要なの。まどか。あなたの分もね」

「えっ…私!?」一瞬の混乱ののち、まどかはほむらに闘いを手伝って欲しいといわれた、
その意味をようやく理解したのだった。

それは今までみたいに誰か魔法少女の背にくっついている類の手伝いではなく。
文字通り戦うための武力が与えられるのだ。

もう慣れっこだし、なんて、そんなの嘘っぱちだったかも!

急にあらゆる疑問が嫌な予感と一緒に頭の中で理解されていく。


そういえば以前、ほむらはインキュベーターをまどかの目の前で射殺したことがあった。
その時は考えがいかなかったが、中学生がどうやって銃を入手したかの答えが出たわけだ。

魔法少女にならないのだから、確かに魔女と戦うのならズバリいって武器が
必要なのだろうが、いざ実際の場面に居合わせると想像していた気分とはまるで違う。


とはいえ、女子中学生を、軍放出品ストアーがその入り口を開けて迎え入れる
はずもない。

その入り口は固く閉じられている。
銃火器を置いている店だ。防犯対策もされているだろう。


しかしそう思った矢先、まどかが見たのは、ストアーの鋼鉄の柵に閉ざされた入り口を
無理やりこじあけようと大型のブルドーザーに乗り込み、レバーを操作してシャベルを
上昇させると、店へむけて一直線に発進させはじめたほむらの姿だった。

キャタピラが地面を動くたびに地鳴りがする。


ほ、本気なの!?ほむらちゃん!?


唖然としてただそれを見守るだけしかできないまどかの見てる前で、
ほむらは迫る鋼鉄の柵にひるむ様子もなくブルドーザーを押し進めていく。

まるでこの破壊的行為に慣れっこであるかのよう。

ついにブルドーザーが入り口の柵に激突したとき、塞いでいた鋼鉄の柵は
その枠組みごと外れ、ストアーの中に押し出された。柵と柵の隙間にはめられたガラスは
ほとんどが音をたてて木っ端微塵に砕け、ほむらはブルドーザーごとストアー内に
強引に押し入った。ストアーの中のあらゆる物という物がシャベルに押し出され、
鉄やらガラスやらの衝突音がガシャガシャと響き渡った。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:12:21.45 ID:4+5uQgBh0
そんなメチャクチャな入店の仕方にまどかは呆然と立ち尽くしてただ見ていることしか
できない。

襲撃ともいえるような入店を終えると、ほむらはブルドーザーを停止させ、
操縦席から降りた。

流れるような黒髪を手でなびかせ、まどかにほうに向き直ると、
手を差しだした。「来て」


来てといわれても…。
魔法少女を知らないまどかならそう答えただろう。


だが次の瞬間には二人の”買い物”がはじまっていた。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:13:04.95 ID:4+5uQgBh0
14

買い物かごのカートを運ぶ役割を任されたまどかは、軍放出品ストアーの
充実した軍用品の品揃えにあっけに取られながら店内を見まわしていた。

ほむらが率先して店内を歩き、棚に並べられた武器を選んでは次から次へとまどかの運ぶ
カートの中に詰め込んでいくのだが、その量の多さといったらまさに武器庫だ。

棚にはありったけの量のマシンガン、サブマシンガン、ライフルが置かれているし、
壁一面にも同じような銃器が横向きに掛けられているのに、ほむらはまるでその中で
自分が使いやすいものを熟知しているかのように武器を選別しながら手に取ると、
まどかに手わたし、それをまどかがカートに入れていくのだが、あまりにも次から次へと
即座に武器が手渡されるので、まどかも慌てふためいている。


Mossberg M500 散弾銃を。
Valmet M78 アサルトライフル。
IMI desert Eagle ハンドガンだ。
Beretta M92 ほむらのお気に入りである。
M67 手榴弾 手榴弾はほむらの対魔女戦の常用武器である。
      特に今夜は、大量の魔女も相手することになるのだからこれは欠かせない。
M18 Claymore 対人地雷 地面に突き立ててスイッチ遠隔操作するタイプの地雷だ。
            そのスイッチの接触具合ももちろんチェック済みである。


とくにクレイモア地雷は、今回ほむらが構想している対ワルプルギスの夜攻略作戦に
挑むにあたって、特に重要なアイテムの一つだ。

「ほむらちゃん…それは?」

それと、ワルプルギスという大型魔女との戦闘に欠かせないのは破壊力を誇る重火器で
あることなのはいうまでもない。

「ロケットランチャーよ」

ほむらは答え、四つの発射口のあるロケットランチャーを両手で抱え持つと、
まどかに手渡した。

「魔力であなたでも使えるようにするわ」

「私…使うの!?」
思わず驚きに声が裏返る。でも、条件反射で身長近くあるそれを受け取ってしまう。

「これも」ほむらはまだまだ武器を集める。「これも」「これを」次々にまどかに渡す。

その中にはRPGと呼ばれる対戦車破壊兵器や、女子中学生が持つには
大きすぎる大型のマシンガンもある。

ほむらはそうした兵器を肩に掛けたり背中に取り付けたりして、
徐々に自らを武装させていく。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:14:14.61 ID:4+5uQgBh0
すっかり魔法少女というより兵士のような姿になったほむらは、
一つハンドガンを取り出すとまどかを呼び寄せた。

「いい…まどか。ここが安全装置。これを外さなきゃ発砲できない、いいわね?」

「え…あ、うん」
ほむらは使い方を教えてくれるみたいだが、それが唐突であったのでまどかは戸惑った。

「そしたら」ほむらは弾倉を取り出す。「マガジンをガンに取り付ける」

カチャ!と音をたて、ほむらが実際に弾倉をハンドガンに装着してみせる。

「スライドを引く」慣れた手つきでハンドガンの遊底をいっぱいに引く。
またカチャと音がなる。
手を離すとバネの力で遊底は最初の位置にもどり、弾薬を薬室に送り込む。

この間約2秒。数千回と繰り返された動作なだけによどみはない。

「発射の準備がこれでできたわ」

ほむらは言うと、両手でそれを握り締めて構える動作をしてみせた。
このようにして撃てということらしい。

「魔女がやってきたら、躊躇せずに狙いを定めて撃ちなさい。
ワルプルギスの夜は、一瞬の迷いが命取りになる。たとえ魔女が魔法少女の成れの果てと
知っていても…もう魔女になってしまっては手遅れなの。割り切って殺しなさい」

そう告げながら、弾薬の詰められたハンドガンを、まどかに手渡した。

「…」何も言わずに、ゆっくりとまどかはハンドガンを受け取り、握る。

今夜、自分が固めた決意はほむらの考え方とは違うものになるだろうが、今日これを
使うことにはなりそうだ。たぶん。

いやだって…魔法少女じゃない私が戦いを手伝うっていったら、確かにこれしかないし…。


さて、ほむらの方は。

いつのまにか魔法少女姿に変身した彼女は、左腕の円形のラウンドシールドに
”買い物”したありったけの武器をつめ(容量の問題は、きっとそこにこそ魔法少女の
ミステリーがあるのだろう)、自らはハンドガンを手に、(これもばっちりスライドを引いてから)
サブマシンガンを肩に掛け、最後にロケットランチャーを持ち上げると、
彼女の完全武装が完了したのだ。


たった一人でワルプルギスの魔女を倒すための、ありったけの武力を身に着けた
魔法少女の姿がそこにはあった。




さあ、くるがいいわ、ワルプルギスの夜────。
必ず私一人の力で、ねじ伏せる!
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:15:13.31 ID:4+5uQgBh0
15−2.1 

月のない闇が降りる、見滝原の町の夜空。


そのビルの建ち並ぶ夜の街明かりを、工場施設のクレーンの上に座って見下ろしている、
孵卵器の姿があった。


これからこの街にやってくる運命のことを思いながら。

この街の魔法少女の運命のことを思いながら。


それらの事柄は孵卵器を通じて大概宇宙のことに繋がる。


夜の闇と、高層ビルの無数の明かりは、白黒のコントラストの世界のようだ。


「さあ、はじまるよ。」


孵卵器はわくわくしてるようにいい始めた。だが、その身の回りには誰もいない。

クレーンの高台に吹き付ける、夜の冷たい風の強さが音で伝わってくるだけだ。


「暁美ほむら。なるほど君はこの時間軸の人間じゃない。
この街にワルプルギスの夜がやってくるという君の統計もうなづける。」


孵卵器の赤い眼球に見滝原の街が映る。
その四足の獣の愛らしい姿とは裏腹に、孵卵器の意図は邪悪だ。


「だから君にはわかるわけだ。」


孵卵器の背が少しのびて。

何かを蓄えたようにふくらんだ、ふっくらした白い尻尾が夜の空───宇宙にむかって
ピンとのびると。


「ボクが今回、この街を選んだってこともね。」


その背に印された卵の象徴が発光すると、次の瞬間に黒い何かがそこから噴出された。
黒い何かは尻尾の指し示す宇宙にむかって放たれてゆき、夜の闇になじんでは
染まっていく。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:16:10.53 ID:4+5uQgBh0
「さあ!魔女たちの宴だ!」


大きな声で、孵卵器は呼びかけた。
夜の闇を染め上げていく黒い何かは、彼の中でずっと集められ温められ、
ついにその孵化する瞬間を待っていたグリーフシードの負の魔力であった。


「キミたちはずっと魔法少女に狩られる者だったが、今夜は魔法少女を狩る者たちだ。
一緒にお祭り騒ぎをしよう!存分にわるふざけをするといい!」


孵卵器は弾んだ声で楽しそうに煽るが、その声の音色は悪魔だ。



「キミたちは、いっぱい好きなだけ絶望と呪いを撒き散らして、迎え入れる準備をするんだ。
そうしたら、招待できるだろう!キミたちの求めてやまない、天国からの救済の大魔女を!」



見滝原の空から星の明かりが消えた。

照明が消されていくように。



かわりに、見滝原の地上に、ぽつぽつとあちらこちらに小さな灯(あか)りが煌きはじめたのを、
孵卵器は満足そうに見下ろしていた。

その数はどんどん増してゆき、まるで夜の地上に無数のたいまつが灯されていくようだった。


100から200の魔女が、ワルプルギスの夜に大魔女を天国から呼び入れるために
孵化をはじめた見滝原の街の光景は、幻想的で美しかった。


天国を呼び入れる魔女たちの儀式が、いまはじまった。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:17:40.51 ID:4+5uQgBh0
15.1

<次作予告>


鹿目まどか。
私は貴女のためだったら、鬼にも蛇になる。悪魔にさえ、魂を売るわ。

今夜が明けたら終わったら、地獄で会いましょう。

   
        次作 : 魔法少女まどか☆マギカSS

        暁美ほむら「最後に残った道しるべ」Bpart


        WRITTEN BY : RAZE LETTERING
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:18:46.75 ID:4+5uQgBh0
15.2

Aパートおしまい

Bパートでワルプルギスの夜編

書き溜めてあるんで近いうちに投稿できるかも(でも、推敲にとても時間がかかる)
ご愛読ありがとうございました。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/08(金) 23:19:58.93 ID:4+5uQgBh0
訂正

今夜が明けたら終わったら、地獄で会いましょう。 X
今夜が明けたら、地獄で会いましょう。      O
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga ]:2011/04/08(金) 23:30:14.02 ID:vocf9FT20

家出るときのシーンがやばい 泣きそうになった
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2011/04/08(金) 23:32:00.53 ID:dBDm7MM6o
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/08(金) 23:46:47.25 ID:QlWOTuxF0
乙!

ロケットランチャーは初代のバイオと3と同じ奴か…
RPGもバイオ4と5で使われてた奴であってるよね?
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県) [sage]:2011/04/08(金) 23:54:25.24 ID:HPdOtIv80
乙。QBの悪党っぷりがすげえ
天から無数の魔女ってDODを思い出すが、ほむほむ一人で大丈夫か?
と思ったけど、コマンドー式お買い物をするほむらなら、ただのカカシ扱いだな
そして、なんとなく首領への道の越智を彷彿とさせる予告・・・
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2011/04/09(土) 00:03:00.65 ID:+5FxasTv0
乙です
ロケランがあっても勝てる気がしないから困る
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/09(土) 00:09:39.27 ID:e1gX/FA20
ホマンドー
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 03:22:39.72 ID:IAlcijsZo
ほむんどークソワロタwwwwww
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/10(日) 12:46:18.65 ID:1qnGta4so
これは期待してみる。
タイプミスだと思うがM92じゃなくてM82な
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/10(日) 20:37:25.29 ID:M7Nml5Ar0
21日、放送ですね!
いやこんなwktkな気分は数年ぶりです。


>>44
肝心なあのシーンのときで、書き込み順まちがえてヘコんだw
>>45
thx!
>>46
すまん、今回のほむらの武器は原作中に関するスレの情報と映画「コマンドー」からとってます。
>>47
DODはわかりませんが、おおかた元ネタはそんな感じかも。
>>48
次回に乞うご期待!
>>49
10話みたとき、コマンドーネタしか思い浮かばなかった。
>>50
正直これが書きたかっただけかもしれんw
>>51
ベレッタM92のwikiで、暁美ほむらが使用しているとあるのですが、違うのかな?


さて21日に放送決定ということで、そろそろ続きを投下しようと思います
このSSを書き始めたきっかけは、「11話休止なったし続き予想してみるか」というものでしたので、
21日までに投下を終えないとある意味おじゃん…

まあ、次からその方針から離れ、だいぶぶっ飛んでくるのですが。
まだ投下がなかったら、推敲に苦戦してると思ってください。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/10(日) 20:39:54.63 ID:1qnGta4so
>>52
バレットM82と間違えた。ごめん。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/10(日) 21:22:56.77 ID:M7Nml5Ar0
15.3

暁美ほむら「最後に残った道しるべ」

Bパートはじめます


※刹那的にオリキャラが登場したりしますが、展開の大筋に関わりは持ちませんです
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/10(日) 21:26:28.98 ID:M7Nml5Ar0
16

ここは見滝原ではないところの街。

キュゥべえと契約した魔法少女は、見滝原市に限らず、その隣町でも、
もっといえば日本じゅう、世界じゅうにいるのであるが、多くの魔法少女が、
新月の夜に、”ワルプルギスの夜 ”という、超大型魔女が出現する現象が
あることを知っていた。


そして、自分たちが魔女と戦うのは、自分が魔法少女として生き延びるために
グリーフシードを回収し続けなければならない現状があるからというのも知っていたので、
多くの魔法少女が、”ワルプルギスの夜 ”と闘うことにメリットがないと信じていた。




大型魔女と戦えば、魔力の消耗が激しいし、もっとヘタすれば自分が死ぬかもしれない。
しかも、やっと倒せたと思ったら、通常の魔女と見返りも大して変わらない。


そのため、新月の夜がやってくる度に、魔法少女たちは、どうか自分の街には
”ワルプルギスの夜”が来ないように、と心で祈ることが多かった。


そして、不運にも、自分の街に”ワルプルギスの夜”がやってくると知った魔法少女は、
ほとんどの場合、最初から戦うのを諦めて街を見捨て、他の街へ出て行くしかなかった。


元のなわばりを捨て、新しいなわばりの街を見つけても、先にそこに住み着いていた
魔法少女とのなわばり争いになることは必至であるが、彼女らはみな、
生きるために必死であった。


時には魔法少女は、魔女と闘うのでなく、命がけで魔法少女同士で殺し合うことも
あったのである。



だが、中にはそうでない魔法少女もいた。

なわばり争いになっても殺し合いに至らず、うまく和解して共生を決めた仲のいい
魔法少女同士や、この街にワルプルギスの夜がくるときいて、慌てて逃げ出す
大概の魔法少女とは反対に、逆にその街を救いにいこうと考える魔法少女もいた。

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/10(日) 21:30:19.73 ID:M7Nml5Ar0
実は、見滝原の隣町に、ちょうどそのような例外的な魔法少女が二人いたのだが、
この二人の魔法少女と暁美ほむらが接触するようになったのは、また別の時間軸での話である。


「ねえ、しってる?」

と、一人の魔法少女がいった。背中に伸びる豊かなオレンジの髪。
くるりとしたオレンジの瞳。
そして、輝くソウルジェムの色はオレンジ。

「隣の見滝原町、あそこにワルプルギスの夜が出現するみたいね。大変だわ!」

「んー、ああ、知ってる」別の魔法少女が答えた。呑気そうな口調で。
この二人はいつも一緒になって魔女狩りをしている、なわばりを分かち合った
仲のいい魔法少女たちだ。

「でも、あの町、いま魔法少女が一人しか今いないらしくて」

と、オレンジ髪の魔法少女がいう。
隣町の運命のことを、心に痛めている様子が見て取れる。

「たった一人では、まず”ワルプルギスの夜”に勝とうなんて、絶対無理な話じゃない。
やっぱり、明日あたりにでも見滝原を捨てて、こっちの町に移って来るのかしら?その魔法少女。」

「んー、いや」
相手方の魔法少女が答えた。
ティーカップでインド農園産のダージリンの香りを楽しみつつ、ひとくち、口に含む。

その魔法少女は、腰まで伸びたストレートな美しい真っ白な長髪に、薄ピンクの色をした
瞳を持つ、まるで妖精のような容姿が彼女の特徴であったが、そののほほんと落ち着いた
様子もまた彼女の持ち味だ。

その平静さが滅多に失われることはない。
魔女戦においても。

その彼女の白色のソウルジェムが、紅茶を楽しむ円形テーブルでやわらかい光を
ほのかに放っていた。

「そこの魔法少女、一人でワルプルギスの夜と闘うようだよ」と、彼女は言った。

「まあ!」

オレンジ髪の魔法少女が悲嘆したように声をあげた。悲しそうな目を瞳に湛え、
わざとらしい仕草で両手を合わせる。ぶりっ子ぐせのある、ある意味魔法少女らしい
魔法少女のようだ。

「そんな、ひどい!一人で闘ったって、死んじゃうだけなのに?
ねえ、同じ魔法少女として、私たち協力しにいく?一人で闘うなんて悲しすぎるわ!
それに、私と貴女のコンビなら、ひょっとしたら倒せるかも──」

「いや…」しかし、白い魔法少女が、静かに否定の言葉を口にした。

いうまでもなく、その一言の意味するところは重い。

「私たちは、今回見滝原を見捨てようと思う」

「そしてその魔法少女を見捨ててると?」

オレンジ髪の彼女の口調が少しだけ険しくなった。

「それは違う」

白い魔法少女が答えた。「あの街には今夜、絶対近づかないほうがいい」

「ワルプルギスの夜が、そんなに怖いの?」

「いや」

再び否定の言葉。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/10(日) 21:32:36.51 ID:M7Nml5Ar0
「私があの街に近づかないほうがいいと判断したのは、実はさっき、
ワルプルギスの夜がはじまる前の夕方に、ちょっと見滝原町を見に行ったんだんだが…」

「まあ!貴女ったらやっぱり何だかんだいって、同じ魔法少女のことをいつも
心配にかけて、守ろうとするのね」感激したように目をキラキラさせる。

「それで」白い魔法少女が目をつむり、また紅茶を一口ふくんだ。

「それで?」オレンジ髪の魔法少女がきく。

白い魔法少女は、ゆっくりと、おちついた様子で紅茶のティーカップを皿に置くと。
うっすらと目をあけて、細目で告げた。秀麗な眉が際立つ。

「あの街はすでに”とんでもないこと”になっていた」

「どういうこと?あの街がとんでもなくなるのは、ワルプルギスの夜がしばまる、
これからでしょ?」怪訝そうに眉をつりあげ、オレンジ髪の魔法少女尋ねる。
       、、、、、、、、、、
「見滝原の町をあんなにしてしまったのはたぶんそこの魔法少女だろう…」

白い魔法少女が、紅茶に目を落として、まるで死んだ故人を思い出している
かのように、静かに語る。ご愁傷様ですといった口ぶりだ。

「とにかく、あの町の魔法少女は頭がイカレてるとしか思えない。正気じゃないよ、
完全にあれは。私たちには手におえん。いつかそいつとかち合うかもしれないことを
考えただけで寒気がする」

「一体、見滝原町で何がはじまるのよ?」オレンジ髪の魔法少女がきいた。

白い魔法少女は答えた。「第三次大戦じゃないか」


「…」

オレンジ髪の魔法少女は相手のものの例え方に納得していないようだったが、
とにかく、その町を諦めるしかないという趣旨には合意したようだ。

なぜなら、彼女が言ったことで大きな外れがあったことは、一度もないのだ。



「貴女って、そういえばキュゥべえになんて願い事したんだっけ?」

だから、そんなふうに話題を切り替えないと、ひとまずは白の魔法少女の
奇妙なものの言い方のせいで嵌まり込む会話の泥沼から抜け出せなさそうに
なかったのである。

「一つだけ叶えられる願いごとを、百にしてくれと願った」白い魔法少女が言った。

「そしたら?」

「一つだけ叶えられる願い事が百になるという願い事が、百回分叶った」

「チャンスが一万回になったけど、一度も生かせずに終わったのね」
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/10(日) 21:37:33.21 ID:M7Nml5Ar0
17

鹿目まどか宅のリビングルームから見える、窓の外の景色は、すっかり夜の闇に
染められている。

リビングルームの壁に掛けられた時計の示す、7という数字の示す時間になると、
いつもまどかは家にいて、リビングで父と話したり、弟のタツヤと遊んでやったり
している風景があったのに、それも最近ではほとんどなくなっていた。


ここずっと、学校にいかなかったり、夜の時間帯に無断で家を抜け出しては深夜に帰ってきて、
部屋で蹲ったり、泣き声が続いたり、放心したようにベッドにいつまでも座りっぱなしで
あることがしょっちゅうだった。


最近の娘がやつれ、精神消耗していくのを、父と母は知っていた。


いま二人はまどかのいない居間で、娘のことを話している。



「今日も、いっちゃったね…まどか」父の知久が先に、口を開いた。

対面する椅子に母の詢子が、すると静かに言った。「…ああ……」

弟のタツヤは両親の会話に参加しておらず、隣の部屋の布団で寝息をたてている。

「ま、」詢子がまた言った。「まどかは確かにいま、大きな壁にぶつかっている。
それも、まどかには乗り越えるには大きすぎるほどの壁なんだろう。でも、」

詢子のアイスティーのグラスが、カラランと氷の音をたてる。

「それはまどかが乗り越えなきゃいけない問題なんだろう。私たちが口を突っ込んでも
キレイな解決はつかないからねえ」

知久は小さく笑った。「ママの信念だったよね。」

「私たちにできることなんて、いっぱいがんばって、それでも幸せになれなくて傷ばかり
おって帰ってきたまどかを、いつでも迎え入れられるように見守っていることだけさ」


いいながら、一瞬、詢子の瞳に悲しみが映ったのを、知久は感じた気がした。
いつだって自信に満ちていた彼女が、こんな弱々しく見えたのは、初めてかもしれない。


「母親と娘といっても、通じ合わないものだよねえ」

詢子が天井をみあげると、耽るように言った。その声は震えていた。

「まどか、最後まで私に何も打ち明けてはくれなかったよ…それでいて…いってしまった」

諦めてしまったようなような口調で、思わず滅入る言葉をもらす母親を、
知久は支えようと、心から思った。

「いつまどかが帰ってきてもいいように、ボクたちが迎え入れるようにしよう。
いつ、帰ってきてもいいようにね」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/10(日) 21:42:23.06 ID:M7Nml5Ar0
18

時が尽きようとしている。

見滝原が今夜にも壊滅しようとしていることは、隣町の魔法少女たちの耳にも届いていたが、
そのうちでこの町のために増援にくると決めた魔法少女はいなかった。

正義の味方たちからこの町は見放された。
そうして、はじめて気づける。魔法少女はだれも、正義の味方でないことを。

魔法少女は、悪魔に魂を奪われ消耗されていく運命から少しでも逃れようと、
延命しようともがき、死体置き場の中をあがいている少女たちなのだ。

そこに見えるものは死人が死人を喰い死人が死人に復讐する呪われた世界観である。
その最大のステージが今夜の見滝原市で開催される。

招かれざる暗いスポット。


見滝原中学の制服を着た二人の生徒がいま、自分たちの町が、今にも死の町に変貌しようとしている
さなかであることも知らずに、一緒にになって歩いていた。

二人は、鹿目まどかと同じクラスメートである。
男子と女子の二人で、男子の方は松葉杖に支えられて歩いていた。

「いやぁ…なんだか、いつもこっちまで一緒にきてくれて、悪いなあ。」

男子制服姿の上条恭介は、一緒になって歩いてくれている同じ見滝原中学の女子制服
を着たクラスメートを前に、思わず照れ気味に頭を掻いた。

「いいえ。とんでもありません」

仁美は小さく微笑みながら、答える。

「私は、上條くんとこうして一緒にいられる時が好きですから…逆方向でもいいのです」

「…」バイオリン少年の顔がほのかに赤くなる。

それを受けて、自分の告げた言葉の恥ずかしさを覚え、少女の顔も紅顔に染まる。


そんな甘酸っぱい時が流れて。

上条は、そんなくすぐったいようなひと時を楽しむように、夜空を見上げると、
仁美の横で呟いた。「…星空が、綺麗だね」


何の物音もない。あるとすれば川辺を流れる水の音くらいしかない。
その静けさは、まるでこの世界には二人だけしかいないような錯覚を誘う。

二人が結ばれたあの告白の川辺と同じ道。
その道を、夜になってから二人っきりで歩いていた。

「ええ…綺麗…ですね」

すっかり雰囲気のムードにひたったような声で答え、仁美も一緒になって
夜空を見上げた。

見えるのは、雲ひとつない、星空の広がる宇宙の世界。

「まるでこの世界が魔法にかけられたみたいに…綺麗…。
このまま、本当に魔法の国にでも、いってしまえたら素敵ですね…。」
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/10(日) 21:45:21.78 ID:M7Nml5Ar0
「魔法か…」

上条は、同じ台詞を小さく呟いた。

「…そういえば…」

その言葉になにか心当たりがある。ふと、記憶の中のさやかの言葉が脳裏に蘇ってきた。
かつて二度と動かない、痛みさえ感じない程に麻痺した左腕が奇跡のように動くように
なったその直前、幼馴染から、言われた何か。

奇跡も、魔法も、あるんだよ。


そんなこと、いわれたっけ…。

思えばさやかとあんなことをいわれてから、ずっと会ってないな…。
それから、学校にも来なくなっちゃったし…。


「上条くん?」ふと仁美に声をかけられて、上条は我にかえった。
幼馴染の記憶を辿ってたら、いつの間にやらぼんやりしてしまっていたらしい。

「ん…ああ。ちょっと、仁美が魔法なんて、いうから、ちょっと思い出しちゃって…」

仁美が不思議そうに首を傾ける。「何を思い出したのです?」

「いやその…腕のことでさ、」

何故かはわからないが、上条はこの話を仁美にするのを後ろめたく感じた。

「さやかに奇跡も魔法もある、なんて、いわれたら…」

「さやかさんが…?」上条はその時は知らなかったが、仁美は最近親友がここずっと
学校を休み続けていることで、ずっとその理由を探していた。

「うん…そしたらさ、」

自分の腕を見つめながら、彼は少し笑っていう。

「どうも本当に奇跡も魔法もあったいで…その日の夜、何事もなかったように腕が
動き出しちゃってさ…あれ」


そこまで言って上条ははっとした。だが時は既に、何もかもが取り返しのつかない
段階に達していた。


今気づいたって、遅すぎる。
覆水盆に返らず。


「何…なんか…歌声のようなものが…聞こえる…そこらじゅうから…何の歌…?」


奇跡によって救われた彼は、今度は、巡り巡って呪いを受ける。
それが魔法に関わった者の逃れられない仕組みであり運命だ。。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/04/10(日) 21:47:28.05 ID:M7Nml5Ar0
ふと気づけば、つい前までは夜空に煌いていた星は全て消えうせ、希望はシャットダウンされた。
一点の光もない、黒い幕のような不気味な宇宙が天を覆い、世界から光の粒子法則は消えた。

いま見えるのは、イデアの全く期待できないむき出しの現実である。


そして聞こえる歌声。
人に理解できない声。



”HITOMIWOMIGOROSHINISHITEOKEBA”


”ANTANIWATASHINONANIGAWAKARU”


”NOROTTEYARU”


”SHINEBAII”


”MINNA HOROBIRO”



見滝原中学の二人は、天国を迎え入れる魔女たちの儀式にとりこまれた。
62 :That Angsty Celtic Music [saga ]:2011/04/10(日) 21:52:33.92 ID:M7Nml5Ar0
19

孵化器の放った魔女の卵は、百を越える数で見滝原に蒔かれ、孵化は同時にはじまった。

一つの卵が孵化すると、それに呼応するように、他の卵も反応して、孵化に次ぐ孵化が、
ゆっくりと、波紋のように、町に広がっていく。


ワルプルギスの夜、その第一波の幕開けだ。


この町に最後に残された魔法少女───暁美ほむらは、守るべき鹿目まどかの
手を引いて連れながら、見滝原のある地点を目指して進んでいた。


長く続く橋をずっと二人で歩き続ける。
橋は、下を走る車道の上に掛けられ、そこからは見滝原の景観がよく見渡せる。


ぽつぽつと、一つまた一つと次々に魔女が誕生していく光景が、よく見えた。
孵化する魔女の灯火が、ゆらゆらと煌いている。


しかし、ほむらはまるでそれらに構っていない。ただ前だけを見て、まるで自分のゆくべき
道しるべが見えているように、確固たる足取りで一歩一歩、ずっと橋を進む。


二人の向かう遥か先には、夜の暗がりではっきり見えないが、
見滝原でも最も高い、あのタワーのような建物が聳え立っている影が、うっすらとあった。


鹿目まどかは、見渡す限りの町の景色が、立ち並ぶ高層ビル群から、
広がる工業地帯の製鉄施設の鉄塔などに、産み付けられた魔女の孵化の灯りが
無数に浮いているのを、ただ無言で見ていた。

こんな恐ろしい風景を、今まで見たことがあっただろうか。

灯りの数は見ただけでも100を越えるだろう。それだけで終末的な景色なのに、
でもそれはまるだ人間世界のなかに、ほたるの国が生まれたようで、美しい。


でも、その美しさは魔女たちによってめちゃめちゃにされてしまう前の、
この町の有終の美そのものだ。

夜空を見上げても、星ひとつない。希望も何も、ない。


幻想と絶望の世界に残される。
そのあとでまどかの耳に聞こえてきたのは、不思議な音色の歌声だった。

何語かはわからない。当たり一面の魔女たちが、二人のまわりで、二人のわからない
言葉で何かをずっと歌っている。

少し違うのだろうが、しかし、こんな状況のことを四面楚歌というのかもしれない。
二人を囲う四方、近くから遠くまで、魔女たちは、何かを賞賛する合唱のように、
あるいはコーランのように。音色が優しく町に響き渡る。


終末の世界を謳う、それは魔女たちの賛美歌であり、これから起こることへ捧げられる歌だ。


賛美歌は、自分たちをいつか救う救済の魔女を天国から呼び寄せるために、招待するために、
歌われる。天にむかって。

救済の魔女が天から地に降り立ってきたとき、彼女が機嫌を損ねないように。
精一杯に出迎えるために。


そしてこの世界の全てを、呪ってしまうために。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/10(日) 21:55:56.23 ID:M7Nml5Ar0
「ほむらちゃんは……平気なの」

と、まどかは先を歩くほむらに、きいた。

その魔法少女の制服姿の背中には、武装したマシンガンが掛けられている。

「こんないっぱい…その…魔女が誕生して、私たちだけで戦えるの」

それがかつて希望を振りまき、奇跡を呼び起こし、そしてやがて絶望に堕ちていった
魔法少女たちの成れの果てだと思うと、まどかは余計暗い気持ちになってくる。

「本当のところをいうと、」ほむらは背を向けたままで答える。「隣町の魔法少女の増援に
少しは期待したのだけれど…それも無駄だったみたい」

「他の魔法少女の人たち…助けに来てくれないんだね…」まどかは寂しそうに言った。

「わざわざ身の危険を冒してまで来る魔法少女なんていないわ」

そんな愚かなことをするのは、巴マミか美樹さやかくらいなもんだ。

「もうわかってるでしょう。魔法少女が魔女を狩るのは、自分が魔女にならないために
かつての同胞を殺すしかないだけ」

まどかのしゅんとした様子が、背中からも伝わってくる。「そんなの…ないよ。ひどいよ。
元は同じ魔法少女なのに、殺しあうなんて。それを知っていて殺す魔法少女も、ひどい…よ」

「何もかもアイツの仕業ね」アイツとは、いうまでもなく孵化器のことだ。

まだまだ見滝原の街に灯される孵化の光は増していく。

「まどか。魔女のことについてなら、心配はいらないわ」

と、ほむらは強く告げた。
そこらじゅうから聞こえる魔女の歌声にも負けない強さで。

「このワルプルギスの夜を乗りきる算段はつけてあるの。戦いのことなら私は負けない。
でも、私がこの戦いを本当に終わらせるためには、」

そこまで言うとほむらは。
踵を返してまどかに向き直る。



「まどか。私と約束してほしいことがある。その答え次第で、私は容赦しない」

まどかは、今までで一番恐ろしいほむらの瞳を目撃した気がした。
そして予想もしなかった迫る死の形に、何の心の用意もできていなかった。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/10(日) 21:59:31.25 ID:M7Nml5Ar0
20

暁美ほむらはいま、過去の四週目か五週目だかの時間軸のことを思い出していた。


もう誰にも頼らない。
そう決め、全ての魔女を私一人で片付け、今度こそ私一人の力でワルプルギスの夜を
倒そうと挑んだ。


あの巡目で私は、まどかに悪魔に付け入る隙を与えないために、一言だけ忠告した。
その自分の言葉は今でも覚えている。


”まどか。貴女に奇跡を約束して、取り入ろうとする者が現れても、決して言いなりに
なってはだめ。”


迎えるワルプルギスの夜の決戦、私がまどかにしたその忠告はまるで無意味だった。


私がどんなに懸命に伝えようとしても。
みるみるうちにインキュベーターに誘惑され、思いのままに手の平で転がされるまどかが
最悪の魔女に転身するだけに終わった。


私の忠告はまどかの心に届かない。
そして迎えた今回の巡目。


転校した初日から、私は(用もない保健室の名目を使って)忠告を続け、
そして、魔法少女の隠された事実が徐々に明るみになることで、まどかが魔法少女になることは
今に至るまでは防げた。


でも。

それも今夜までだ。
町が死に、家族が死に、そして、私が一人で戦うときけば、まどかはもう私の忠告をきかない。


きっと動き出す。
だって、あなたはそれほどに、優しすぎるから…。


だから。
私は優しすぎる貴女のぶん、鬼にならなければならない。
つまり、忠告し続けるだけというのではまどかを止めるには甘い。


忘れないで。まどか。
その優しさが、もっと大きな悲しみを呼び寄せることもあるのよ。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/10(日) 22:06:07.54 ID:M7Nml5Ar0
いま、ほむらはまどかにむかって、最も辛辣な言葉をぶつけようとしている。

しかし、これを避けて通る道しるべはない。
ほむらは言った。


「約束して。今夜、仮に何があったとしても、絶対に魔法少女にならないと。
万が一私が戦いに倒れそうになったら…そのときは」

「え…」
言葉は槍になってまどかを刺す。

「私を見捨て、この町を見捨て、隣町へ逃げなさい。全部忘れてあなただけ、
今夜生き残るの。それを約束して」


「…」まどかは何も答えることができない。


静まり返った死の町にふく夜風は、世界に二人だけが取り残されたかのようで。


ほむらは、それでも辛抱づよく、どうかまどかから約束の言葉を聞き出せることを
願っていたが、しかし、ついにはそれを聞き届けることができなかった。

「どうしても約束できないというなら…」

「……え?」

ほむらは心で思った。今夜、絶望の運命からついに救われたまどかの姿を
見届けることができないまま、終わるのは最後の私の心残りだ。

でも、それでもいい。

ほむらの円形シールドから、手に一丁のハンドガンが取り出される。まどかの顔が、
一気に強張っていったのをほむらは堪えてまどかにその銃口をむけた。

「鹿目まどか。私はあなたのためになら…」

ほむらは告げる。まどかの顔が、恐怖に凍りついている。

「私は貴女のためになら、鬼にも蛇にもなる。悪魔にさえ魂を売るわ」

「ほむらちゃん…そんな…!」

「さあ約束して!」ほむらは遮って叫んだ。銃口は、まっすぐまどかの胸に
向けられたままでいる。「いったわよね。貴女は鹿目まどかのままでいればいいと。
さもないと、全てを失いことになると。それは、こういう意味よ」

ハンドガンの安全装置がゆっくりと外される。スライドが引かれ、弾薬が詰められる。

まどかの心臓の鼓動が一気に早くなる。

「ほむらちゃん…」

まどかはただ、彼女の名を呼ぶだけだった。他は、何もいえない。

「まどか。これが最後。」

ほむらはもう一度だけ、言った。

「愚か者が相手なら、私は手段を選ばない。そう前も言った。聞かせてちょうだい。
あなたの答えを」

引き金に手をかけながら、ほむらは心の中で泣きながら、ただ祈った。
まどかが、魔法少女になろうだなんてバカな考えをやめてくれる、その約束を
交わしてくれる一言がきけることを。

ただ祈っていた。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/10(日) 22:11:27.10 ID:M7Nml5Ar0
しかし────。


「ほむらちゃん…それは私が、」

静かに、まどかが口を開いて。

「魔女に殺されそうになった人たちを見ても、助けようなんて思わないで、
見殺しにしてってことだよね…」

言った。

まどかの語調は静かだ。命を脅かされた喋り方とは思えない落ち着きが感じられる。
それほど揺るがない磐石の、固い決心がまどかの中にはあった。


「この町の人がいっぱいいっぱい死んでいくのに、黙って見て、ってことだよね…
私のパパもママも、弟も殺されても何もしないでってことだよね…」


「そういうことよ」

ほむらも引かない。ここで負けてはいけない。

「貴女は諦めて。私ができる限りのことをする」

「ほむらちゃんに何かあったら…!?」

まどかが声をあらげる。怒りにも近い激情にかられているのが見て取れる。

「それでも私、見ていることしかできないの…!?」

氷の心は動かない。「そうよ」


すぐ近くで魔女の孵化が始まったらしく、そのほのかな光に二人が闇の中で照らされ、
お互いの顔が映った。


後ろ髪を風にふかれ、まどかを見下ろしているほむらの目と、決然とした覚悟でそれを見返す
険しいまどか目が。

ぶつかった。



「ほむらちゃん、最初に私たちが出会ったとき、いってくれたよね」

沈黙を破るように、ゆっくりとまどかが言った。

「自分の人生が尊いと思う?って。家族や友達を大切にしてる?って。
私、今だってそうだし、それをウソにするつもりもないよ…」

ほむらはただ黙って聞いていたが、銃を握りしめる目に、涙が浮かび始めていた。

「家族も、友達のみんなも、大好きで、とっても大事な人たちだよ。
だから、ほむらちゃんに何かあったら、私、みてるだけなんて、そんな約束、できない。」

一瞬だけ。
辺りで歌う魔女たちの賛美歌は、まどかとほむらの二人を祝福してるような感覚がした。


「だって、ほむらちゃんも私の大事な友達だから……!」


目に溜まっていたほむらの涙は頬をつたい、銃を向ける体は震えた。
彼女のなかで、ありとふらゆる感情が心の中であふれ出しそうだ。


「ありがとう……まどか」
ようやくほむらは答えた。でも、その声は嗚咽に震えている。

ありがとう…まどか。私のたった一人の……友達。

魔法少女を待ち受けるのは、いつだって悲しみだ。

「そして……さようなら。まどか」
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/10(日) 22:11:53.91 ID:M7Nml5Ar0
次の瞬間、まどかが見たのは、火を噴いた銃口の光だった。
発砲の雷鳴がとどろき、腹部に強い衝撃が走った。焼けるような痛みが身を貫く。

「あァッ…」苦悶の声が自分の喉元から漏れてるのが聞こえ。

最期に残った記憶は、身の崩れおちていく感覚と、地面におちた彼女を涙の目で見下ろす
ほむらの顔で。


まどかの意識は徐々に闇におちていった。
人形のように崩れたまどかの瞳から生気が消えた。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/10(日) 22:18:32.20 ID:M7Nml5Ar0
21

ハンドガンの引き金を引いたほむらは、その発砲の余韻から抜け出せないように、
しばらくずっと、倒れたまどかに銃口を向けているままだった。

その銃口からは煙がまだ立ち昇っている。


腕が動かない。


でも、こうするよりなかった。
まどかが魔法少女なるから、こうするより他の道はない。


その二人の、最後のやり取りを、橋の手すりのところで、白い獣がちょこんと座り、
遠くから眺めていた。


その気配に気づかないほむらでもない。


「暁美ほむら…」

キュゥべえの声が、少し上ずっていた。
ほむらのとった行動に、少なからず驚きを感じているようだ。

橋の手すりから飛び降りると、ヒタヒタ走って近寄ってくる。

「キミは、なんてことをするんだい。鹿目まどかを、殺しちゃうなんて!
これじゃあボクとしても、彼女との契約が取り結べないじゃないか。それに…」

ほむらの足元でキュゥべえが喚くが、彼女は何も言わない。

「ワルプルギスの夜はもう始まったというのに、せっかくの仲間を殺しちゃうなんて。
キミの考えがわからないよ。……おや。」


そこまで言うと、キュゥべえは何かに気づいたらしく、倒れたまどかの身体に、
前足をあてて触れた。

「なんだ、生きているじゃないか」トーンの高い声が響く。


ほむらが先ほどハンドガンから放ったのは、隠し持っていたただ一発だけの麻酔弾だ。
仮にそうだとしても、本物の拳銃から放たれた弾から受ける衝撃は女子中学生が
気絶に至るに十分であったろうが、ほむらには他に選択の余地はなかった。

どうあがいてもまどかは魔法少女になる。
なら、今夜は眠ってもらうしかない。契約を結ぶ口を封じるためだ。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/10(日) 22:19:39.77 ID:M7Nml5Ar0
キュゥべえは倒れたまどかに片足をあてたまま、敵対する相手の魔法少女を
赤い目で見あげた。

「これがキミの作戦かい。まどかを気絶させて、ボクに願い事をいえなくさせる。
まったくつまらない作戦だよ。今夜起こることを考えれば、そんなの無駄だろうに」

「まどかに撃ったのは麻酔弾よ」

ほむらの表情も声も氷の冷たさを取り戻していた。殺意を込めてキュゥべえを見下ろす。

「もっとも、貴方には本物の弾を使いたいけれどもね」

ハンドガンの銃口をキュゥべえの頭に突きつける。引き金に指がかかる。
しかしキュゥべえも全く動じない。身動き一つ表情一つ動かない。

「まどかの身体にそれ以上触れないで……」ほむらの殺意は本気だ。

「運命を変えられると思うかい、暁美ほむら…」

撃ち殺される前のキュゥべえが、最期にそう訊いた。

ほむらは答えた。「生憎、私は鹿目まどかのために悪魔に魂を売った女よ」

その悪魔当人にむかって、彼女は静かに告げる。

「今夜が明けたら、地獄で会いましょう」


静かに、キュゥべえの頭は吹き飛んでいった。四方に白い綿のようなものが飛び散っていった。 夜の風へと。



キュゥべえがいなくなり、まどかは意識を失い。
暁美ほむらの、一人孤独な戦いは、夜の闇へ続いていく。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/10(日) 22:22:39.52 ID:M7Nml5Ar0
21.1

これ以上投下すると推敲してない部分まで追いつきそうなのでひとまずここまで。
読んでくれた方に感謝!

Bパートはチャプター40まで書き溜めてますので、推敲が完了しだい徐々に投下の予定。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/10(日) 22:44:42.33 ID:Q0Jdi9cAO

第3次大戦期待してる。
推敲頑張って。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/04/10(日) 23:10:07.51 ID:8ONQNoBr0
仁美ざまああああああ
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 22:44:05.79 ID:04CCGquO0
21.2

そろそろ続き投下します
画像スレのネタバレ流出?のせいでもうネットするのもこえー!もう何もかもがこえー!

74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 22:48:45.04 ID:04CCGquO0
22

通算何十回目かのインキュベーター殺害を遂げたほむらは、
時間が迫ってきているのを理解していた。


今までの経験してきた時間軸では、ワルプルギスの夜の第二波───その本流たる、
歯車の大魔女の天からの召喚がはじまるのは、第一波がはじまってからの30分後ぐらいで
あったが、その半分近くは既に過ぎている。


それに、自分たちが安全圏にいられるのもこれまでのようだ。


夜の闇の空から、数個のグリーフシードがどこからともなく雨のように降り注いできた。
グサグサとその針先がほむらを囲うようにしていくつも地面に突き刺さり、
すでに孵化寸前の光を帯びている。


もうモタモタしてはいられない。いち早く行動しなければならない。
ハンドガンを手早くシールドにしまい、ほむらは昏睡に陥ったまどかを姫だっこの格好で
両手で持ち上げると、ずくにその場を離れて目的地へ向けて走り出した。


そのすぐ後ろで5、6個のグリーフシードが蠢きだし、強い光を放つと共に魔女の結界を
張り巡らせはじめた。


かろうじで、ほむら達はその結界に巻き込まれるギリギリの範囲から脱出することが
できたが、しかし、前方を見た瞬間、今度こそ魔女とかち合うことになる覚悟をした。


ほむらの進もうとする先で、10個近いグリーフシードが地面や橋の鉄柱のあちこちに
突き刺さっている。


ここを何もなしに突破するのは不可能だ。

いよいよね。
ほむらは心の中で毒づく。
孵卵器の撒き散らした魔女どもの相手をしなければならない。



それに加え、さらに夜空から2,3個のグリーフシードが、ほむらのすぐ背後に降り注いできた。
グサグサ地面に突き刺さり、ほむらの退路を断つ。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 22:55:51.48 ID:04CCGquO0
「…クッ!」戦いがはじまる。

黄泉から孵卵器を通じて還ってきた、魔法少女の絶望に枯れた死骸の亡霊たちを。
再び墓に戻してやらなければならない。


ほむらは抱えていたまどかを一度地面のコンクリートに寝かせつける。
そうもしている間に、孵化した魔女の結界にあっという間に二人は取り込まれる。


見滝原町の夜景が突然ゆらぎ、ぐにゃぐにゃになると、全く別の景色に変わってしまい、
魔女が名乗りをあげて出現してきた。



絵の具の魔女”ESCHER”


あたりの景色は、木の板に乱雑と塗りたくられた分厚いペンキのおどろおどろしい色が
取り巻く世界になった。

絵の具の塗り方は無秩序で、渾沌とし、調和はなく、その色使いは目に毒だ。

それがこの魔女の結界。


ペンキの海には、人の形をした死骸が呑まれ、埋もれていたり、彼女の記憶の
ありとあらゆる産物がそのペンキの中に沈み、やはり埋もれてしまっている。


ほむらの前に魔女が姿を現してきた。
魔女のまわりに絵の具の水滴がベチャベチャたれ落ちてくる。


この魔女の絵の具に呑まれたら、見事ペンキの住民の仲間入りを果たすが、
身も魂もきれいに色で染め上げられた挙句の末に窒息するだろう。


かわいそうなことに、ペンキと同体化した魔女は全身がドロドロ溶け込んでいて、
その目玉も腐食したように白目の部分がたれ落ちてしまっている。

元は彼女も魔法少女だったのだろうが、魔法少女になること自体、
こんな末路になる呪いを受け入れるということだ。



ほむらは円形シールドから軽機関銃を取り出し、魔女の頭へ向ける。
だが、それより先に魔女が大量の絵の具を吐き出してくるのが僅かに先だった。


「まどか!」


魔女は気絶して倒れている少女という格好の獲物をみつけたらしい。
そのまどかに向けて絵の具が一挙に流れ込む。


絵の具がまどかに到達するより先に、ほむらはまどかを抱きかかえ安全な場所まで飛翔して運んだ。
安全な場所まで移動すると、またそっと寝かせた。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/11(月) 23:00:06.18 ID:dxJnsXUY0
凄く待ってたんだよ、オリ魔法少女もいい感じだったよ
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 23:00:25.14 ID:04CCGquO0
「教えてやるわよ」怒りに震える声で言い、ほむらは手に取り出した軽機関銃、
FN MINIMI M249の銃口を魔女に向ると、カチャという音をたててスライドを引き、
派手にぶっ放しはじめた。


「まどかに弓引いた者は、誰であろうとこの私が許さない!」


だが、いくら機関銃が火を噴いても流れ狂う絵の具をベチャベチャとさせるだけで、
絵の具の奥に隠れて泳ぐ本体の魔女には一向に攻撃の手が届かない。

どうやら機関銃ではこの魔女との相性が悪いらしい。


ほむらは軽機関銃を投げ捨て、次にシールドからRPG対戦車兵器を取り出した。
いまや魔法少女と呼ばれ連想されるイメージから遠い戦い方だが、そんなことにほむらは
構ってはいられない。


RPGを肩にかかえ、狙いを定める。
先端に取り付けられた弾頭が、次の瞬間火をあげて発射されたのと、魔女がほむらにむけて
絵の具を放ったのが同時だった。


「喰らいなさい!」今の暁美ほむらは怒れる鬼神だ。名前の通り燃え上がる激情だ。


絵の具は、RPG現代兵器の前にあっさり消し飛び、本体の魔女をも貫くと、
炎を噴き上げたRPG弾頭の爆発によってその姿を消した。

ゆらゆらと、結界が徐々に薄れゆき見滝原の風景を取り戻していく。



現実世界に戻ったさなか、ほむらは再びまどかを抱え持ち、移動しようとしたが、
そのとき容赦なく数個のグリーフシードがさらに夜空から降ってきた。グサグサあたり一面に突き刺さる。

すでに孵化の準備が完了してる魔女の卵は、白く燃えている。
次々に魔女が誕生していく。

「くっッ…!!」

ほむらは歯軋りして唸った。

これ以上の魔女との戦闘は、想定外の魔力の消費となる。
ワルプルギスの大魔女が天から降りてくるより前にソウルジェムを濁したくはない。

だが、ほむらはすでに10近い魔女たちのグリーフシードに一遍に囲まれていた。



駒鳥の魔女”LIESELOTTE”

その性質は耽美。この世では、悪いことほど美しいと考えて疑わないので、
自分の悪さ、悪意に自覚がない。その割りにプライドも高い。スズメが天敵。
そのため、魔女はいつだって鳴り渡る鐘の奥に身を潜める。


貧寒の魔女”ROSINANTE”

その性質は沈滞。不幸かな魔女はいつも蝸牛のような動きばかりしてたから、
走り去っていく希望を一度も掴まえられなかった。そのせいで、魔女は希望を
追って動くこと自体が不幸だと誤解した。悪いのは自分の鈍足のせいだと教えてやろう。


夢妄の魔女”JULIANE”

その性質は苛性。彼女の長けたものをあげるとすれば、他人をいらいらさせることだけに
かけては天才的だろう。その生まれ持った強い腐食性に気をつけろ。酸の弾ける音が
聞こえたら、その音があなたの心を溶かすだろう。


陰の魔女”OTTILIE”

その性質は隠棲。ある時ひとつの願い事をしたら、代わりに魔女は人の目に耐えることが
できなくなった。だが、考えれば人の目なんてどこにだっていつもあるではないか。
影と一体化した今となっては「いつも私を見ている」という呟きもうわ言でしかない。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 23:06:03.55 ID:04CCGquO0
4、5体の魔女が同時孵化したとき、決断の時が迫っているのをほむらは知った。

つまり、今のタイミイグで、対ワルプルギス攻略法第一打に、踏み出るかどうか。という決断。
この作戦は、豪胆でダイナミックであるから、効力の面でいえば心配は全くない。


だが、間違ってはいけないのがその発動のタイミングだ。
それを誤れば、全て水泡に帰す。


ほむらは今いる場所から目的地の建物までの距離をざっと目視で計算する。
百メートル以上は確実か。二百メートルか。


やや厳しい。
まだそれだけの距離があるなかで、対ワルプルギス攻略法”第一打”に踏み出るのは
自殺行為かもしれないが、しかし、ほむらは賭けに出ることに決めた。


魔女はもう孵化している。



そうとなったら、あとは死ぬ気で走るだけだ。目的地にむかって。振り返りもせず。


ほむらの背後で魔女たちが動き出し、結界を張り出したのに感づくと、ほむらは腹を決めた。
まどかを抱え持ったまま、全速力で橋を走り出す。

「まどか、いくわよ!」眠りに落ちるまどかの寝顔に声がけをする。


とにかく逃げろ。安全圏まで。



いうまでもなく、今は見滝原じゅうの町が埋め尽くすグリーフシードの巣窟になっており、
自分の行く手を阻むだろうが、作戦実行に移れば道は開ける。


名づけて”暁美ほむら史上最大の作戦”───その第一打がいよいよ動き出す。
今までいいようにやられていた、彼女の最初の渾身の逆襲だ。


「はぁ…はぁ…」もともと走りは得意でないほむらの息が、はやくもあがり始める。
その艶やかな黒髪が、風に揺れる。


いよいよだ。

ほむらは左腕の円形シールドから、ある一つのスイッチを取り出した。
このスイッチが、ほむらの反撃、その第一打のトリガーとなる。


今夜はまどかと生きるも死ぬも一緒だ。

ほむらは目をぎゅっと閉じ、そのスイッチを力いっぱいに押した。




まず最初に起こったのは、地盤が震えるほどの爆発音に次ぐ爆発音の連続だった。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 23:09:46.95 ID:04CCGquO0
23

スイッチの正体は、きたるワルプルギスの夜の、その第一波──無数に孵化する
グリーフシードをまとめて爆破してしまうために、ほむらが予め見滝原じゅうの町の隅々にまで
設置しておいたクレイモア地雷の起動ボタンだ。


繰り返し経験してきたワルプルギスの夜の記憶から、ほむらはその第一波で街のどのあたりに
グリーフシードが集中して孵化しやすいのかの全てを統計し、編み出された傾向から予測される位置に
地雷を無数にも及ぶ数で設置しておく。



もちろんその破壊的な暗躍は、普段の人間社会の流れの中ではできない。
このため、ほむらは今回の時間軸がはじまったその当初から、夜には定期的に
軍放出品ストアーや自衛隊武器庫から地雷を”買い物”し、溜め込んでいた。


そしてワルプルギスの夜のはじまるその直前に、時間停止をしつつ地道に地雷を
設置する。

現実世界では三分ほどしかたたなかったそれが、ほむらにはまる一週間かけて
行われた作業なのである。


そして迎えた夜、見滝原の町は、大破壊の起爆剤を抱え持った、地雷原地帯そのものだった。


隣町の魔法少女が、”あの街はとんでもない”と言ったのも、彼女はそれを発見したからだ。


地雷は、魔力で威力増幅と、人目のつかぬよう隠蔽を施されていたが、魔法少女のソウルジェムの
反応まではごまかせない。


もし巴マミや杏子が生きていたら、この暁美ほむらの「”作戦第一打”」には
猛烈に反対するだろうが、今は彼女一人しかいないぶん、誰にも邪魔はされなかった。


未来を既に経験していることを生かしたこの地雷設置作戦は、救済を待ち焦がれ
ワルプルギスの夜に一斉孵化した魔女を、その孵化した瞬間から一掃し滅ぼす悪魔的奇手だ。



ほむらが地雷の起爆スイッチを起動させた瞬間、見滝原の街は、
その夜が昼に変わるほどに明るく燃え上がったという。


工業地帯、製鉄施設、ビル街、住宅街、立ち並ぶ鉄塔…。隅々まで設置された地雷群が、
同じタイミングで派手に大爆発を起こす。

全てが炎を噴き上げる。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 23:11:44.53 ID:04CCGquO0
そして…。

ワルプルギスの夜に煌いていた魔女たちのほのかな孵化の灯りは、
遥かに強い炎の強烈な明るみに一つ残らず呑まれた。



阿鼻叫喚…!地獄絵図…! 酸鼻の惨状!
みるみる内に孵化した魔女が燃やされ死に絶えていく。


天国のために歌われていた魔女たちの賛美歌は、スイッチ一つで焼き滅ぼされる、
魔女たちの断末魔の叫びの声に取って代わったのである。



かつてまどか達と巴マミが願い事について話したあのレンガ造りの川辺の橋も、
街頭と一緒に爆破の火に包まれ、水は炎の色になる。

まどかとキュゥべえが二人で話したあの噴水も、今は水の変わりに炎を噴き上げ、
噴水は噴火になって吹き飛んだ。



爆破からわずか一分間。

三百近くまで増えていた見滝原町の魔女は、その半減にまで滅ぼされた。
が、同時に見滝原の街も半壊状態に陥ってしまった。


爆発は、魔女はおろか一般人をも巻き込み、突然沸き起こった爆風に吹き飛ばさる人々がいたり、
おもちゃのように飛ばされていく車が宙でひっくり返ったりした。
町のデパートのショーウィンドーは全て風を受けて破裂し、工業地帯の製鉄施設はもろくも火と
一緒になって決壊した。



ワルプルギスの夜の始まりに、地表に現れた幻想的な松明の世界は、
今や魔法少女の力で一面に広がる火の海と化した、見滝原の壮観だった。


燃える見滝原。
灰の町。大気を包む熱。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/04/11(月) 23:14:15.77 ID:+nr+0qO20
ほむほむ怒りの田植え
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 23:14:22.60 ID:04CCGquO0
これではどっちがワルプルギスの夜なのかわからないが、ほむらもまた、
今は必死で走り続けていた。


自分まで爆発に巻き込まれては元も子もない。

唯一地雷をしかけなかったあの安全地まで、100メートル以上も離れていたあの時点で
スイッチを起動することに迷ったのは、その心配からだが、あの場面では他に選択の余地は
なかった。


ほむらは懸命に走る。
まどかを両手に抱え持ち、噴き上がる爆発に追いたてられながら、ただ懸命に走り続ける。

彼女が走るより、爆風の広がるほうが遥かに速い。
ほむらの後ろで爆音が轟くたび、橋がバラバラに砕け散っていく。


安全圏に飛び入るまであと50メートルくらいか。
目的地は、見滝原で最も高いあのタワーのフロアだ。


ここも爆発に巻き込まれるのも間もなくだ。
まどかとほむらの二人が、迫る炎の明かりに赤く照らされる…。
ほむらは歯を食いしばって走り続ける。熱が身体に伝わってきた…。



コンクリートの地面にヒビが入り、激しい地響きがする。


もう少し…。

「うッ!」

そう思った瞬間、また強烈な爆発音が轟き、背後から吹いてきた猛烈な暴風にほむらの
バランスが崩れ、前のめりに体が吹っ飛ばされた。


ほむらはそれでも足で地を蹴りつけ、目的地に届くことを祈りながら、体全体を前に投げ出した。


ズズズズ、っと地面に顔をうちつけて、目的地にギリギリ到達したほむらのすぐ後ろで、
爆発の勢いはついに絶頂に達し、どこまでも夜空高く、どこまでも明るく燃え上がっていった。



その爆発の衝撃から守るため、ほむらはまどかに上から覆いかぶさるようにしてまどかを
背中で守ったが、次の瞬間、大量の砂埃が爆風に乗って建物内に舞い込んできた。


「けほ…けほ!」顔面をすり傷だらけにしながらまわりの様子をみる。

爆発のダメージで天井が崩れ落ちたりするのはまずい。


外では、打ち上げられたコンクリートの断片や鉄くずの塊が、夜空を舞っている。
やがて重力に引かれ、塊の雨が降ってきて地面をうつたび、ほむらにはまるでそれが
スローモーションの中の光景のように見えた。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 23:17:39.25 ID:04CCGquO0
ひとまず、私たちは無事だ。

「まどか…生きてる?」

私は聞いた。まどかは私の体の下で、眠ったままだけど。
もし意識があったら、「死んでるんじゃない…?」と怒るのだろうか。



対ワルプルギス攻略法、”作戦第一打”はうまくいった。たぶん。

これで魔女たちも怯んで、そう簡単に大暴れできないはずだ。
むしろ町がもう灰になっているので呪いを撒き散らすことがもういらん。


さて、とにかくも、本当の戦いはこれからだ。
そろそろ”歯車の魔女”が天より君臨してくる頃合だからだ。


そしたら、爆破で怯んだ魔女たちも、またたく間に元気を取り戻すだろう。
英雄は、存在するだけで兵を奮い立たせるものだ。そして喜んで大魔女に魂を捧げるだろう。



”歯車の大魔女”が天から君臨するとき、どの時間軸でもそうであったように、
大いなる苦戦を強いられるのではあろが、とはいえ、繰り返しの経験のなかで、
どこに出現してくるかを予想できるのは尊いほどの強みである。



ほむらが第一打の作戦で唯一地雷を仕掛けなかった───安全地に選んだ場所に、
特別な意味があるのはいうまでもない。

それはほむらにとっても、ワルプルギスの魔女にとっても。


命かながらにやっと辿り着いたそこは。
見滝原でも最も高い、そして見滝原で、最も天に近い建造物。


かつて美樹さやかがよく見舞いに通い、バイオリンの天才少年が不治の傷に悩んでいた、
空に向かって高く聳え立つタワーのような、それは。


病院だった。



暁美ほむら史上最大の作戦。その”第二打”がもうじき動き出す。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 23:19:10.91 ID:04CCGquO0
24

病院タワーの上層階から暁美ほむらは。


火の海に焼け爛れた町の夜空を、その瞳に映していた。
両手にはまどかを抱え持ったまま。その黒髪が風にふかれ、ゆれている。


こんな高いところにまで、夜風にとって火の粉が舞い飛んでくる。




ワルプルギスの夜。

ほむらは心の中で呟いた。



天国から貴女が降り立ってくる頃、貴女が見るのは暁美ほむらという地上の地獄よ。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 23:21:42.87 ID:04CCGquO0
25

さて真っ赤にこんがり焼けた町の夜景を堪能しているのは、ほむらだけではなかった。

地雷の被害を被らなかった建物の屋上で、その眺めを無言で見下ろしているのは
暁美ほむら最大の敵のインキュベーターだ。



今でこそキュゥべえは無傷であるが、さすがの彼も、今夜暁美ほむらがまさかあんな行動に出るとは
思ってもみなかったので、爆破が続いている最中は、炎の中を逃げ回り、そして、何体も
その犠牲になり跡形もなく吹き飛んでいったことは記憶に新しい。


だが、それだけならまだマシだ。
今夜はイレギュラーなことがどうも多いようだ。



いまキュゥべえを最も驚かせているのは、魔法少女の、希望ならぬ爆風を振りまいた姿で
なければ、灰になった町の姿でもなく。


それを遥かに越すイレギュラーな出来事。


「まさか……」

と、キュゥべえが言った。露骨に意外そうな声で話す。

「キミがこの惑星にやってきていたなんてね。ティコ」

そこにはキュゥべえの他に、もう一匹の何者かがいた。

いや、第三者からみれば、同じ姿の白い獣が二匹いるようにしか思わないだろう。


キュゥべえが、”ティコ”と呼んだその獣は、無言で彼の後ろにちょこんと座っていた。


インキュベーター・ティコ。ティコとは、月面の南部に位置する巨大なクレーターの
名前であるが、本来別の惑星でのエネルギー回収に従事していた彼が、地球に寄ることを
決めた際に随時につけた自分のあだ名だ。


「キミの方のエネルギー回収ノルマは、達成できたのかい」と、キュゥべえが聞いた。


まあ、もちろん彼のことなら達成したんだろうが。
かつて人類が文明を持つより前の時代に、くじら座タウ星の生命体たちを根こそぎ
感情エネルギー化し、惑星ごと感情ガスの塊にしてしまった彼の実績には驚かされた。


ティコは、見た目はほとんどキュゥべえと同じある。
インキュベーターの白い獣の姿をしているが(この白い獣の姿は、彼らの文明の支配層たちが、
遺伝子操作で改変した姿であるらしい)、それでもよく見れば特徴の違う点も見られる。


一番分かりやすい相違点は、その額にある小さな赤色の逆三角形の印だろう。
(このマークは、支配層からの痛々しい溺愛の印である)。


ふっくら膨らんだ白い尻尾も、キュゥべえと同じであるが、背中にある孵化器の象徴は、
キュゥべえのように丸まった卵を象ったものでなく、三角形のマークが印されている。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 23:24:02.69 ID:04CCGquO0
ティコが初めて談じた。

「私は、エンフォーサーがこの惑星の虫に着目していると聞いて見に来たのだ」

「魔法少女を”虫”呼ばわりかい」

キュゥべえがすかさず口入れする。「相変わらずきついねえ、キミは」

尻尾をゆらゆら揺らしつつ、キュゥべえはティコの方に背を向けたまま話し続ける。

「手出ししないでおくれよ?この惑星でのエネルギー回収は、ボクの役目なんだから。
それに、今までにない膨大な採集が期待できそうなんだ。ボクたちの文明で
かつてあった第二次植民地時代のときの、あの殖民船のことでボクを根に持っていない
というのなら、どうか邪魔しないでくれるかな。ティコ?」

「エンフォーサーはその”膨大な”採集について、興味を深めている」

ティコは告げた。
その口はキュゥべえと同じで会話中でも動かない。つむがれたままだ。

「その視察のため、第7軍西艦隊がSol(太陽系)に接近中である。20時間で到着予定だ」

「鹿目まどか一人のために、そこまでするのかい?」

キュゥべえが口答えした。
わざとらしいほどの大げさめいた語調で言う。

「視察にしては、ちょっとやりすぎな気もするけれど」

「危機を孕む芽は、実のなるより先に摘んでおくというものだ」

ティコが諭す。その声に抑揚がない。
たとえ、どんな恐ろしいことを告げようとも。

「その虫がエネルギーに変わり、光栄ある献身者に昇華したら、あとは殺戮と絶滅の運命が
この惑星を待ち受けているであろう」
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 23:26:03.26 ID:04CCGquO0
26

佐倉杏子は夢うつつだった。

ふわふわ、意識の世界を浮遊してるようだ。


たぶん、霊魂が身体から抜け落ちているんだろう。
身体の感覚が全くないからだ。


宙に捕われてる。動けない。





どうしてこんなことになったんだっけ…?


頭が思うように動かない。はっきりと考えられない。


それが、自らの魂が魔女の卵へと堕ちていく、心の闇への旅のはじまりだった。





暗い記憶が蘇ってくる…。

やめてくれ。たのむよ…。
杏子は心の中で祈る。



やめろ!
そんなもの見せてくるな。このままでいさせて…目覚めたくない。


だが、固形化された魂がすでに自分のものでないように、心の記憶さえ自分の
思い通りにならない。記憶が自分のものじゃない。


悪魔どもが植えつけた心の種が杏子の殻を割り…。芽をだす。


無情にも、記憶が次々に蘇る。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 23:26:44.38 ID:04CCGquO0
見えるのは、杏子の願いで神父の話をきくようになった信者たちの、
無数に並ぶ空ろな顔だ。暗闇のろうそくに照らされた顔には表情がない。


親父は、毎日毎日懸命に信仰を説いていた。日に日に増えていく信者たちを見て、
最初だけは、やっと自分の信念が世間に通じたって信じていた。


でも、まだあの頃幼かった杏子でさえ、もう限界がある、長続きしそうにないって、
なんとなく、でも手痛いほどに分かり始めていた。



思えば当然だよな…。
人々は、奇跡という魔法で毎朝親父の教会に通ってただけで、その心にはまったく
親父の言葉なんて届いちゃいなかったんだからな。


表と裏で世界を変えるなんて、本当の意味で人の心ひとつ動かせやしなかったっつーのに、
叶うはずもない。


私は堪えきれなくなったよ。
親父は、信者は増えるのに、どうしてだ、って、いつも悩んで、頭抱えて
狂いそうになってた。


もう見てられなかったんだ。
私は、とうとう事実を話した。

なぜ親父の教会に、人がごったがえしたのかをさ。




...................................................
...................................................



ああ…そうか。

親父、わたし、魔女になっちまったよ。


いつか私をそう罵ったようにな。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/11(月) 23:28:31.36 ID:04CCGquO0
26.1
ふぅ…。予定より多く投下してしまったけれども、ここまでにしておきます。
読んでくれた方に感謝!

>>76
ありがとう。でも、彼女らはもう(予定では)登場しないです。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/11(月) 23:29:06.41 ID:FYMuSEVso
お疲れ様でした。
91 :76 [sage]:2011/04/12(火) 01:07:05.52 ID:c2KvJi1F0
お疲れさまです、登場予定なしは残念ですが
続きを楽しみにして待っています
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/13(水) 00:18:54.41 ID:txW8obsC0
26.1
今日の投下分はじめます
推敲は、このくらいまでが限界だった・・・。ご容赦!
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/13(水) 00:24:21.97 ID:txW8obsC0
27

魔女 ”VITTORIA VON SECKENDORFF”

法悦の魔女。その性質は愛憎。人魚の魔女と二体同心となった魔女。
二人には、愛することと憎むことの区別が分からない。魔女の片割れが
愛し、もう片方が憎む。魔女によって愛された者は、その愛を込めた槍に
突かれることで、焼きつく法悦へと導かれるだろう。


魔女の孵化がはじまり、結界の形成がはじまる。


見滝原の、見慣れた景色がみるみる内にに変貌し、ぐにゃっと歪んでいくのを、
仁美と上条の二人は。

恐怖に身を寄せ合って見ていることしかできなかった。



もし生き残りたければ、いますぐ結界から逃げ出す他に道はなかったが、
二人は恐怖に思考さえ凍っている。

だが、愛憎の魔女の本体はまだ姿を現さない。


「上条くん…これ…一体なんなのです…!?」

「わからない…わからないよ!」



はじめ、上条と仁美の二人は全くの暗闇の世界に囚われたのだと思った。
しかし、空間に浮く蝋燭に、ポッと順番に火が灯されていくと、世界の様子が次第に
明るみになってきた。

そうして目について見えたのは宙に浮かぶ大きな数多の林檎だったが、他にも見渡せば
自分たちがどんな場所にいるのかおぼろげに理解できてくる。


あたりに広がっているのは、教会のような礼拝堂の世界だった。

礼拝堂の壁一面には、色とりどりのステンドガラスが張り巡らされる。
無数のステンドグラスそれぞれに、剣を持った天使が描き出される。

そのステンドグラスを空間に浮かぶ蝋燭の火が照らし、結界に七色の光の筋をもたらす。
この幻想的な演出は、結界の魔女が神を感じとるため、人間のゴシック様式の教会を真似たものだ。


だが、騙されてはいけない。
ここは人を呪う魔女の結界である。


ゴーンと教会の鐘が幾つも並んでは鳴る。晩鐘の音を鳴り渡らせる。
紙絵のような白いハトが結果以内を何羽も飛び立ち、そして、鐘は処刑の始まりを告げた。


すると二人が見たのは、鐘の音がはじまると同時に唱えられだした、
聖歌隊の歌だった。

信者席に立ち並んで歌う聖歌隊たちが現れ、白いケープにベレー帽の姿で歌い始める。
どことなく、聖歌隊たちの姿は仁美に似ているようにも見える。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/13(水) 00:26:49.90 ID:txW8obsC0
歌の歌詞は人間に理解不能で、しかしそのおどろおどろしい音色は、二人にそれが呪いの歌と
認識させ恐怖させるのに十分に足りた。



”TEMOASHIMONIDOTOTSUKAENAI”


”WATASHINASHIJAIRARENAIKARADA”


”KONDOKOSOWATASHINOMONODA”


”MIMOKOKOROMO”


”ZENBU!”




使い魔 ”MARTIN”

法悦の魔女の手下。その役割は布教。法悦の魔女を満足させるための信仰を、
ひたすら説き続ける。生身の人間がその宣教に耳を貸してしまうと、狂気に
陥ってしまう。


使い魔 ”HOLGER”

元は人魚の魔女の手下。その役割は指揮。聖歌隊の歌の指揮をする。


使い魔 ”KLARISSA”

元は人魚の魔女の手下。その役割は聖歌隊。指揮に従って、
賛美歌を歌い続ける。その賛美歌は愛であり、裏返せば苦痛である。


使い魔 ”ANNE”

法悦の魔女の手下。その役割は演目。自分を残して現世に残った姉を探し求めて旅に出る、
夢と冒険の人形劇を見せてくれる。結末で、姉と再開した妹は姉もろとも心中する。


使い魔 ”ANGELA”

法悦の魔女の手下。その役割は刺殺。愛と憎悪の区別を見失った魔女のせいで、
天使には恋の矢の代わりに苦痛の槍を与えられた。



繰り広げられる呪いの歌が、結果内で盛り上がりを見せはじめる。
教会の最深部にある巨大なパイプオルガンが、聖歌のメロディーを奏で、
魔女の歌詞が連ねられた音符と楽譜が空間を飛び交う。


これ以上この結界に長居すれば命はない。
結果内の歌は、全て人を呪い殺すために高まっているのだ。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/13(水) 00:33:13.72 ID:txW8obsC0
非現実的な光景に、上条と身を寄せ合うことしかできない仁美だったが、
しかし、仁美は、なぜだかこの結界の中で、久しくきいてなかった親友の声を
聞いた気がした…。


なぜだろう。
全く声も、見た目も違うのに、なぜか仁美はその友人の名を呼んでいた。

「さやか……さん?」

久々に彼女に会ったような、そんな懐かしいような。
仁美には、さやかの泣いているような声が聞こえた気がしたのだ。


しかし、すでに結界の中に友情の入り込むような余地はなかったのである。


あるのは彼女への憎悪と、上条への歪んだ愛だけだ。


聖歌隊の歌声によって、ステンドグラスに描かれた天使たちが呼び起こされていく。
天使たちは息を吹き返したように、描かれた絵の中でうごめきだす。

そして天使たちは、ある者は手に剣、ある者は手に槍をもって、絵から空間に飛び出した。
パタパタと背の翼をはためかせながら、仁美と上条めがけて飛んでくる。


”MINNAHOROBIRO”


”SHINEBAII!”


聖歌隊の歌がさらに熱を帯びて盛り上がる。


「うわあああああ!!!」


次の瞬間、仁美が見たのは、自分の目の前で天使たちによって無残にもメッタ刺しに
されていく上条の苦悶の姿だった。


恐怖に息を呑み、目を見開く。「上条くん…!」

上条は今、魔女による痛々しい狂愛を、その胸に受け取っているのだ。
かつてのさやかの想い人の、苦痛の悲鳴が、結果内に響き渡る。

それでも、歌声はやまない。
それどころか、彼の悲鳴を受けてますます高まっていくようだ。


”MIMOKOKOROMO”


”WATASHINO...”


”NOROTTEYARU”


「やめて!!」仁美は必死の想いで、絶叫した。「やめて!!!さやかさん!!」

どうしてその名前を呼んだのか、それは彼女自身にも分からない。

「さやかさーーーーん!!!」

しかし、思いは届かなかった。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/13(水) 00:33:46.54 ID:txW8obsC0
天使たちは槍を構え、今度は仁美のまわりを囲いはじめる。
もう逃げ場はない。

微笑みかけている……天使たちが。


仁美は生まれて初めて死の恐怖を味わい…そして…かつての親友に殺されてしまう瞬間を目を閉じて待った…。


破裂音。
耳を劈くような爆音が轟く。すぐそばで。

しかし、痛みがない。
恐怖ながらも、仁美はゆっくりと目を開けた。


仁美を刺し殺すため一挙に飛んできた天使たちを、すんでのところで散弾銃で吹き飛ばし、
彼女を救ったのは、最近転校して仁美と同じクラスメートになった、暁美ほむらだった。

「暁美…さん…!?」

仁美のすぐ先に、つい最近同じクラスに転校してきた生徒が立っていた。

だが、普段と違うのは、その生徒が見滝原中学ではない制服を着こなし、
ダイヤ模様の黒タイツを履き、手にはショットガンを持って、飛び回る天使を次から次へと
撃ち殺していく様子だ。

別人だとも錯覚しそうだが、でも、やっぱりクラスメートの暁美ほむらだ。


私は何もしらない…そう、午前の学校の休み時間に言い張っていた暁美ほむらが。
いま、その秘密の全てを明かしている。

魔法少女としての姿を。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/13(水) 00:36:46.25 ID:txW8obsC0
28

魔女VITTORIA VON SECKENDORFF。

その結果に足を踏み入れたほむらの心境は複雑だった。


繰り返された時間軸のうちでさえ、佐倉杏子のソウルジェムが生み出す魔女と戦うのも初めてであったし、
二体同心の魔女が孵化するのを見るのも初めてだ。


人魚の魔女”OKTAVIA VON SECKENDORFF”からさやかの魂を呼び戻すため、
まどかを連れて魔女と戦った杏子が、最後に魔女もろとも心中した際、二人の魔力は混ざり合い、
一体化し、残るグリーフシードに収められた。


ほむらの記憶に、杏子の最期の言葉が思い出される。

”一緒にいてやるよ。さやか。”

その想いは、彼女の人生が閉じると同時に、魔女としてさやかと一体化することで叶えられた。


私はそれを回収しなかった。
結局その甘さが、インキュベーターに回収されてしまう事態を招き、今こうしてさやかと杏子の
合体魔女は孵化してしまったのだが、杏子の発する魔力の気配はかなり強い。


CHARLOTTEをも凌駕する。
ずっと孤独に生きていた杏子がどんな絶望に落ちたのかはほむらの想像に絶するが、
創りあげる結界は幼き頃の教会の記憶が色濃いように思える。


いずれにせよ、今は貴女であろうとも、破壊するしかない。

杏子。いま貴女はさやかと共にいて、それを邪魔されたくないのかもしれないけど、
そのさやかがまどかのクラスメートを呪ってやまないの。悪いけど、止めさせてもらうわ。


魔法少女の変身姿を、仁美というクラスメートに初めて披露したほむらは、
散弾銃を目元に構えると、結界を飛び回る天使たちを容赦なく銃殺していく。

その引き金が引かれるたび、銃口から凄まじい砲声が鳴る。

撃ち殺された天使はベチョっと音を立てて地面におち、ちぎれた羽を周囲に飛び散らせて終わる。
その死骸に割れたステンドグラスの破片が覆いかぶさる。


天使を皆殺しにしたほむらは散弾銃を投げ捨てた。
次に軽機関銃を取り出し、スライドをひくと結界じゅうの聖歌隊にむかって
豪勢に銃弾をぶっ放す。


次から次へと、使い魔たちは悲鳴をあげながら消し飛ばされていった。
どんどんその数を減らす。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/13(水) 00:41:55.39 ID:txW8obsC0
仁美は、そんなほむらの兵士の如く戦う姿を、唖然と目を見開いてみていることしかできない。
いつかほむらが、まどかに助けらていれた時のように。

不思議な雰囲気の人だと思っていたが、こんな秘密が彼女にあったなんて。


「下がっていなさい」ほむらは仁美にただ一言そう告げると、軽機関銃も投げ捨て、
ラウンドシールドからRPGを取り出し、肩に構えると、両足で宙に飛び、上空から
祭壇の神父めがけて弾頭を発射した。ミサイルが神父を祭壇ごとぶっ飛ばしてしまう。



布教の神父を殺され激怒した、魔女の本体がついに結果内に姿を現す。

その御姿は魔女とは思えないくらいに神々しい。

魔女が結果に現れてきたとき、結界の何もかもが光を放ち、煌いた。あまりの眩しさにほむらが思わず
手を額に添えて目を守る。

何たる過剰演出。杏子の幼き記憶はよっぽど神についてまじめらしい。

法悦の魔女は虹色のオーラに包まれ、、聖女の服装をした白い修道女のケープ姿でほむらの前に現れ、
背中に大きな天使の翼を広げ、右手に槍、左手に剣を構えている。


その名が魔女の姿に付加される。


”VITTORIA VON SECKENDORFF”


かつて殺しあった剣と槍がいま仲良く同時に振り回されるわけだ。
どんなに聖女の姿を真似ているとしても、魔女は魔女だ。


慈悲はいらない。

床に着地したほむらは、現代兵器のRPGを肩に構えて魔女にむける。
その発射に手をかけるまで、ほむらは躊躇しなかった。「食らいなさい!」
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/13(水) 00:48:22.91 ID:txW8obsC0
ロケットは煙をたてながら魔女をめがけて飛んでいったが、魔女は急に空高く羽ばたきだすと
それをかわした。

ほむらの手の内を、ある程度は知っているというように。


目標を外したロケットが教会のパイプオルガンにぶち当たり、破壊音を打ち鳴らして爆発する。
その衝撃で結界全体がぐらぐら揺れる。ステンドグラスがバリバリ割れて破片が結界に降り注ぐ。


宙に飛んだ魔女は翼を大きく羽ばたかせ、槍を突きたてるとほむらにむかって一直線に飛んでくる。
その槍が炎を帯びだす。

この槍に突かれると、焼き付く法悦を感じることになるが、ほむらはそれを受けるつもりは
さらさらない。ほむらもまた宙に飛び上がって槍をよける。

魔女の槍はほむらを外して地面を突き、地鳴りがしてそこにヒビが入った。
砕けた断片があたりに飛び散る。


一度はかわしたと思ったほむらだったが、それが油断だったようだ。

「ぐっ…!」

思いのほか切り替えしがはやく、ブンと振り切られた槍にほむらの身体があたり、
結界の壁に叩きつけられる。


「暁美さん!」仁美の悲鳴が聞こえる。


「やるわね…!」さすが元ベテラン魔法少女といったところか。手強い魔女だ。


しかしそうならば。
こっちとて、貴女の弱点も心得ている。


魔女が槍をつきたて、トドメを刺しにくる。

ほむらはゆっくりと地面に降り立ち、その場でRPGを手で放り投げた。
左腕の機械仕掛けのシールドが音を鳴らし、内側から一つの手榴弾がこぼれ落ちてくる。
ほむらはそれを手に握った。


手榴弾のピンを外し、槍で突いてきた魔女の動きを時間操作でとめ、
その顔の目の前に瞬間移動した。

「これ」
ほむらは言った。「食べるかしら」

ポロリと手榴弾が魔女の口元に入り込み、それを確認したほむらは魔女から離れた。


カチっと、ほむらのシールドが時計の音を鳴らした。


その数秒後、ほむらの背の後ろで腹の内部から爆破され炎上する、悶え苦しむ魔女の姿があったのち、
結果ごと徐々にステンドグラスと教会の世界は薄れていった。


ゆらゆらと景色が移ろい、見滝原の景色が戻ってくる。
戻った現実世界の夜の風をうけながら、ほむらはまた髪を手でなびかせた。



さようなら……杏子。そして、さやか。

私を許して。今日はまどかのために、私は鬼にも蛇にもなると決めたの。


地獄でまた会いましょう。



”いいんだ…… それで正解さ”


魔女の消えてゆく折、杏子の、囁いてくれるような声が、聞こえてきた気がした。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/13(水) 00:49:33.72 ID:+lheq66j0
記念の100

杏子……

101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/13(水) 00:50:54.65 ID:txW8obsC0
29

つい先ほどまで、見滝原の病院のタワーで歯車の魔女の到来を待っていた
ほむらだったが、ほむらのソウルジェムが、付近でoktavia von seckendorffと似た
魔力の反応を示すと、ほむらは戦いに出向くことを決めた。


病院タワーのすぐそば、その川辺ぞいで、クラスメートの上条と仁美が魔女の結界に囚われていた。
美樹さやかの魔力がグリーフシードに残存していて、このワルプルギスの夜に孵化したならば、
まっさきに二人を呪いに動き出したのだろう。


幸運だったのは、その場所が病院タワーの付近で、地雷爆破の餌食にならずにすんだということぐらいか。


魔女との戦いが終わり、ほむらは川辺の向こうの見滝原の景色を眺める。
炎の色に煌く川辺の向こうに広がるのは焼け野原と化した見滝原の終末的な光景だ。

まだ熱気を帯びている夜風に、ちぢれた火の粉が吹かれてく。


「幸運だったわね。あなたたち」

と、ほむらは助けた二人のクラスメートの方に向き直って、見下ろして言った。

「もう少し場所が違ったら、今頃バラバラになっていたわ」

それは魔女によってでなくほむらの地雷によってだが。


仁美と上条の二人は、疲れきって野原に尻餅ついている。
魔女の使い魔に、上条は身体じゅうを貫かれたが、ほむらが魔女を倒したことで一命を取り留めた。


「暁美さん、」

と、仁美が息を切らしながら彼女を呼んだ。この数分間、あまりにも色々なことが起きたので、
平静を保っていられるのもギリギリのところだが、とにかく今起こったことと、
彼女のことについて聞かずにはいられないようだ。

「さっきのは、一体なんですの?それに、暁美さん、その格好は…?」

それから、変わり果ててしまった見滝原の町に気づき、愕然とする。

「そんな……どうして…こんなことに…?」

「あなた達は、”魔女”に襲われていたのよ」

ほむらが答えた。その髪か夜風になびいている。

「この町がこんなふうになってしまったのも、魔女たちの仕業」

なびく黒髪を手でなぞる。

「そして私は、その魔女を狩る、魔法少女。ごめんなさいね。貴女は今朝、
私に全てを話してといった。それでも私は貴女に、このことを話さなかった」


破滅を辿る町の夜空の下で語られる、ずっと隠されていた真実。
いまそれが最後の戦いの前に明かされる。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/13(水) 00:53:32.54 ID:txW8obsC0
「…」仁美は半ば呆然として何の言葉も紡げない。
しかしそれも無理もない。魔女?魔法少女?

「私のこと、恨んでる?」

ほむらは仁美を見下ろしたまま、聞いた。

「…最初は、恨んでいました」

と、ようやく仁美は口を開いて言った。

「友達のさやかさんのことで…私、暁美さんならきっと何か知っていると思っていました。
それでいて私に話してくれないんだって…でも、」

ふっと、少しだけ悲しげな笑顔になる。「今…暁美さんは話してくれました。私、貴女の話…
信じますわ。そしてもう、恨んだりしません。…ありがとう、暁美さん…」

「そう…」

ほむらは一言いい、踵を返してその場を離れ始める。
その背中で、彼女ら二人に忠告を残して。

「もし今夜を生き残りたければ、今すぐこの町を出るか、私についていらっしゃい。
時間は残されていない。この町に死がやってくる」闇のむこうへ歩み始める。

「まって!暁美さん!」

先にいってしまうほむらの背中を、仁美は呼び止めた。
ほむらがピタと歩みを止める。

「まだ……隠していること、ありませんか…?」

仁美の声は、もう涙声になっていた。「さっきの魔女……美樹さやかさん…ですよね…?」

ほむらは立ち止まったまま、背中に夜風をうけて、無言だったが、間をおくと
静かに答えた。

「…そうよ」その声が、夜風にのる。「美樹さやかは上条恭介のために魔法少女となり、
そして、魔女に身を落とした」

ほむらは再び闇のむこうへ歩き出きだす。そして、闇へ消えてしまう。
仁美から彼女の姿はもう見えなくなった。

「うう…」彼女はその場に膝から崩れ落ちて。
手で口元を押さえるも、あふれ出す涙がとまらない。

「ごめんなさい……さやかさん……!私何もしらなくて……気づいてあげられなくて……
ごめんなさい……!」


一度魔女の口付けを受け、殺されかけたところを救ってくれた、さやかの
魔法少女の笑顔が、仁美には思い浮かんだだろうか。



私こそ……。



”GOMENNE ”




果たして宇宙の延命とその悲しみは、釣りあうのだろうか。

103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/13(水) 00:54:39.46 ID:txW8obsC0
30

私はさ、本当は…寂しかったんだな。


一家の無理心中を生き残っちまったとき…
まあ、今になって思えば、ゾンビなんだから、心中なんかじゃ死なないな。あはは…。


あれから、私は、自分一人だけでこの先ずっと生き抜いていくって決めたんだ。
この魔法は、自分のためだけに使うんだってな。




でも、私はまたしても……自分にウソついてたよ。

心の中ではさ…同じ魔法少女の仲間が欲しくて欲しくてさ……。



誰にも知られず、誰からも分かってくれず、ひたすら自分が生きるために魔女殺してさ。
オマケにその魔女が自分と同じ魔法少女の成れの果てなんて。

ひどい人生だよなまったく。
何のための魔力だ?何のために生きてたんだ?

私が死んだって、誰も知ったこっちゃないだろうし。



自分を分かってくれる誰かがずっと欲しかった。

親父の血ひいてんのかな… 魔法少女に血なんて意味ねえか。



昔の頃は、まだ意地張ってたし、なんていうか、らしくねえが、傷というか、
トラウマみたいなもんも…まだあったからさ。


マミとはうまくやれなかったなぁ…
私と違って、魔法少女になってからも他人のために魔法を使うアイツとは。

そして、私の生き方はそれで間違っているはずなかった。
間違ってるはずは…。この寂しささえどうにかしてくれれば。




さやか…あんたのせいだよ。

あんたのせいで、何もかも、心についてたウソも、思い出してしまったじゃんかよ。




ありがとうな…。



あんたのせいで、あたしは今こんなザマだし、次の孵化を待つしかねえんだろうが、
それまで、いやこれからもずっと一緒だ。



このちっぽけな、魂の卵のなかで…………。



さやか。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/13(水) 00:57:29.89 ID:txW8obsC0
31

午後7時53分。
見滝原の町に、宇宙からの刺客───インキュベーターによってワルプルギスの夜、
その第一波が始められてから、まだ一時間と経過していなかった。


インキュベーターは、第二波───歯車の魔女の天からの召喚が始まる頃合だと思っていた。


むしろ、思っていたよりも何十分か遅れている。


歯車の大魔女がいよいよ天から降り立つためには、その地上が呪いで満ち、魔力が蔓延している
のが望ましい。また、歯車の大魔女も地上の世界がそうなるのを待っている。

ところが、その地上で呪いを撒き散らすために孵化した魔女たちが、そのほとんどをほむらの地雷で
焼かれてしまい、阿鼻叫喚に騒ぐばかりで、呪いさえ撒かずに自分たちの断末魔の声ばかり
町中に交差させているので、まだ第二波が始まらない。


まさに魔女狩り。


「まったく…暁美ほむら。キミは…。」

と、キュゥべえは半壊状態の町を眺めつつ、ぼやいた。
その背中でふっくらした尻尾が動いている。

「キミのおかげで、ワルプルギスの夜がなかなか地上に降りて来れないじゃないか。天上で
機嫌を損ねているんだよ。彼女は。」

独り言をいうキュゥべえの後ろで、同じ獣の姿のティコが、無言でずっと彼を観察している。

「ま、それも、」キュゥべえは呟き続ける。「予想してたより少し遅れただけのことだ。」

町じゅうにばら撒かれた、300近いグリーシフードと孵化した魔女は、
ほむらの爆破で半数ほどに減少させられたが、それでも見滝原の町の様子が明らかに
変わり始め、次の段階へと進みだしたのを、 昂ぶりを覚えたようにキュゥべえは見下ろした。


「ほら、はじまった。」と彼は陽気に声を出した。


100近いグリーフシードと魔女から黒い湯気のようなものが立ち昇り、
夜空のある一点にむかって集まり始めている。


この町で最も天国に近い建物────病院タワーの上空にむかって。

105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/13(水) 01:01:07.24 ID:txW8obsC0
31.1

今日はここまで
読んでくれた方に感謝!引き続きご愛読いただけると嬉しいです。
次回から、歯車のアレが登場する・・・と思います。

当初はチャプター40で書き上げてましたが推敲の段階で新しいシーンが加わって現在42〜43に増えたかも
また、その先はまだ全く書いていないという・・・
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/13(水) 01:02:54.29 ID:AuY0CAw2o
お疲れ様でした。

魔女と化した魔法少女たちとか、色々切ないですねぇ………。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/04/13(水) 03:20:10.82 ID:1p0drIGb0
杏子……よかったね、というべきなのかどうか
続き待ってます
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/13(水) 07:54:30.93 ID:gD4RCvBJ0
もう日課になってるんだよ、続き楽しみにしています。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 00:52:04.25 ID:+Z74FcgT0
31.2

続き投下しまー
語彙の限界が垣間見える本日の投下分。orz
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 00:53:54.32 ID:+Z74FcgT0
32

ワルプルギスの夜。

その戦いが後半戦に突入したのを、ほむらは感じ取っていた。


町じゅうに散らばめられたグリーフシードに起こる、変調の兆。

天上の悪夢へのカウントダウン。


魔女の卵───無数のグリーフシードから黒い魔力が煙のように天空へと立ち昇り、
渦を巻きながら空覆う雲の一点に集められていく。


魔力を吸い上げるほど雲は分厚く、暗く、黒雲になる。
ワルプルギスの夜───その本体、あの”歯車の魔女”が降り立つ頃になると現れる天候の変調だ。


ワルプルギスが、結界を生成する準備をはじめている。


もう数分とたたずに、それははじまる。


いよいよ最大の魔女との対決だ。


「クッ…」ほむらは歯軋りをする。


本当のところをいえば、第一波の魔女の一斉爆破の時点で、第二波のワルプルギス本体が君臨するのを
防ぐつもりだった。

第一波で大量に魔女を一掃すれば、それができると思った。


だが、それは甘い考えだったらしい。

とはいえ、ひょっとしたらインキュベーターは自分が万策尽きたかのように思っているかもしれないが、
だとしたらそれが本日アイツが見せる最大の隙、落ち目になるだろう。


策ならある。
ワルプルギス本体、歯車の魔女に対抗する、作戦の第二打が。


幸運にも、グリーフシードから立ち昇る黒い魔力が、空にむけて一点集中している箇所は、
ほむらが統計の時点で編み出していた推定位置とピッタリだ。


これならいける。第二打は効力を発揮する。
ほむらの胸がかすかに期待に膨れる。

それがどれほどの効力を持つかは分からない。ひょっとしたら…それだけで倒せてしまうかもしれない。


だが、余裕があるともいえない。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 00:55:29.51 ID:+Z74FcgT0
ほむらのソウルジェムは、いま半分近くを黒色に濁らせつつ、紫に煌いている。
まるで、町の半壊状態と同調するように。


このソウルジェムは、かつてまどかに一度救われた。
私が魔女に身を落とす絶望から。



ほむらは寝かせていたまどかを再び抱きかかえる。


麻酔弾の効き目がいつまで続くかは分からないが、まどかが眠っている内に
ワルプルギスの夜の本体───歯車の大魔女を倒せるのが最ものぞましい。


インキュベーターが、まどかとの契約を成立させるために、彼女を覚醒させる
あらゆる手段に講じてくることは当然予想されるが、アイツらがまどかに近づいてきた
その瞬間に殺し続ければ希望はある。


そして、その戦いが終わったら───。

私はこの街を出るだろう。


必ず、あなたを守ってみせる。
ほむらはまどかを両手に抱え持ち、自らの最期の戦場へ向けて走り始める。

天に最も近い、あの聳え立つタワーに、戻る。

「ハァ…はあ」息をあげながら、死力を尽くして走る。

今夜立て続けに起こった戦闘や事故で、ほむらの顔はすり傷だらけだが、
本当の死闘はまだ始まってさえもいない。





あそこが、ワルプルギスの夜、歯車の魔女が君臨する最初の位置だ。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 01:01:48.68 ID:+Z74FcgT0
33

何よりも恐ろしいのは、それが完全な静寂のなかで起こったことだった。

見滝原の空を覆う黒雲から、一点の光が雲から降りてきた。だれひとり見たことのない、
白く清らかな光だ。目を奪われるほどの、綺麗な煌きであった。


一点の光は、地上のグリーフシードの黒い魔力を吸い集め、もくもくと自らを大きく
成長させ、……ついに時が尽きた。



そして、はじまった。

閃光。光の点はおのれを糧とするかのようにひろがり、目もくらむ白光が空に解き放たれた。
それは全方向へほとばしり、信じられない速さで闇を食いつくす。光球はふくれあがるに
つれて明るさを増し、悪魔が一気に空を呑みこもうとするかのようだ。


それは一段と速さを増し、地上へ迫った。


光が怒涛となって拡散するさなか、強烈な光にさらされた町は、
色を失い、白と黒の世界に変わっていく。またたく間に広がる白黒のコントラスト世界。


と同時に衝撃が来た。

深く鈍い衝撃──雷を思わせる衝撃波が訪れる。それは地獄の怒りさながら、
見滝原の大地の地盤を揺さぶった。熱風が一気に押し寄せる。

熱風は見滝原の何もかもを吹き飛ばし、地雷の爆破で燃え上がっていた炎を
町から全て消してしまうほどだった。高層ビルのガラスが一つ残らず破裂し、
キラキラとガラスの雨が宙に舞い飛んだ。


これが史上最も大きい、町ひとつ包み込む超大型魔女の結果の生成の光景だ。


強大な魔力が空間で猛威を振るい、地上のありとあらゆる建物やビルが、無重力空間にとらわれ
宙に持ち上げられていく。


結界が十分に形成されると、天上の序曲で少しだけ紹介されていたあの歯車の魔女が、
今こうして再び姿を現してきた。


まず最初に聞こえてきたのは、雲のむこうより轟く、巨大な歯車の廻りだす重厚な音の響きだった。


空を覆う、分厚い暗雲からその存在が地上に近づいてくるにつれ、金属音と地響きの唸りが増す。
なだれ込んでくる衝撃波。舞い込む強風が何もかもを乱し、ふき飛ばしてしまうと、
僅かに、雲から魔女の先端部分だけが見え始めた。

他の部分はまだ暗雲のむこうに隠れているが、幾重にも廻る歯車の一番下の部分だけが
ついに突き出てきた。


その絶対的な存在感で君臨する魔女が、その自らをたった一人で倒そうなどとしている
愚かな魔法少女にむけて、邪悪な声をあげてあざ笑い、暗雲の空に轟かせた。
だが、その言葉は人には理解できない。


”Sigruplaw , em llik tsum ouy , emag eht niw ot.”


天空から徐々に降り立ってくる歯車は、地上に近づくにつれ徐々にその全貌が
明るみになる。先端に見える歯車には、もっと遥かに巨大な歯車が幾つも連動して廻っている
姿があらわになってくる。


重厚な音を轟かせながら、歯車は今夜ずっと廻り続けるだろう。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 01:04:46.07 ID:+Z74FcgT0
魔女 ”WALPURGIS──(ICON OF SIN)”

歯車の魔女。その性質は原罪。世界じゅうの魔女の恨みと呪いを掻き集めて誕生する
大型魔女。その歯車の象徴する輪廻は、エントロピー増大の辿る命運を暗喩する。
その歯車が音を立てて廻るたびに、繰り返す運命は、実は同じでなく、徐々に徐々に
悪化して落ちていく一方なのだと。



魔法少女───暁美ほむらは、病院タワーの屋上庭園に立って、ワルプルギスを見上げていた。
こっからはワルプルギスの夜が実によく見える。

この屋上庭園は、かつて美樹さやかが、上条恭介を連れて昇った病院タワーの屋上で、
上条はそこで奇跡に治った腕で何年かぶりのバイオリンの演奏を披露していた。


その時は美しい庭園だったが。


いま、天上の魔女に最も近いこの庭園からは、自分を呑み込むように圧倒的で超大な
歯車の廻る光景が、視界いっぱいに広がってみえる。


それがどんどん近づいてくる。でかさだけでほむらを吹き飛ばせてしまいそうだ。


重厚な回転音は強さを増す。
悪意の歯車は、より邪悪な金属音の稼動音を打ち鳴らしだし、魔女としての最初の破壊行為を
いよいよはじめた。


歯車の回転が、町全体に渦を巻いているかのように、無数のビルが宙を浮遊し、
魔女のまわりをふわふわ漂う。


世界全体が大きく衝撃に揺れる。
建造物が地面から引っぺがされるたび、大地の怒れる怒号が響き渡り、亀裂が走る。

それでも、どんどん魔女の重力にとらわれる建造物の数は増していく。


この魔女には、それだけの力があることを、ほむらは知っていた。


それでも彼女は怖気づく様子を全く見せない。
強風に吹かれながら、頭上でガタガタ音を立て廻る巨大な歯車をただ見上げ。


対ワルプルギス攻略法”第二打”に打って出れるタイミングをじっと待ち続けていた。


ワルプルギスの夜。ここで会ったが百年目だ。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 01:08:00.73 ID:+Z74FcgT0
34

ワルプルギスの夜は完全にその全貌を現した。

結界に浮かぶその姿は、歯車つきの巨大なコマを思い起こさせる。


大きな帆を張ったような頭部は首で翼が双方に生え、魔女の浮遊を支える。
そのまわりを、魔力を象徴する輪が何重にも周回する。


巨大なその姿が降り立ってきたとき、ワルプルギスの夜は限りなく病院タワーの屋上庭園に
接近していた。


歯車部分の先端が庭園を突いてしまうほどだ。


ほむらが待ち受けていたのは、このタイミングである。


ここは最も天国に近いゆえ、最もワルプルギスの夜に近づける所であり…。
時間軸の繰り返しの中で、出現場所を読めるようになったその最大の利は。


敵が現れそうな箇所に事前に罠をしかけられるという点だ。



かつて上条恭介が、バイオリンを演奏していたあの花の庭園は、いま、
暁美ほむらが満遍なく地雷をぎっしり設置した地雷庭園になっている。



地雷がどれほどにワルプルギスに対して破壊力を発揮するかは分からないが、
いまままで戦ってきた攻撃手段の中では最も武力そのものに訴えたものだ。


天国から降り立ったワルプルギスの夜が見るのは地上の地雷地獄────


これが、ほむらの対ワルプルギス攻略法”第二打”であった。



歯車が頭上に迫り来るたび、吹き荒れる強風はいっそう強烈になる。
庭園に咲く花は全て散り散りになって吹き飛び、庭園に咲き乱れるのは地雷のみとなった。


ほむらは、自分が飛ばされないように耐えた。
地雷の起動スイッチを円形シールドから取り出す。


ワルプルギスの歯車の先端が、ついには庭園に衝突しようとしている…。


今にもこの建物が破壊されそうだ。
ドリルのように、歯車の先端が屋上から病院タワーを突こうとしている。


起動スイッチを手に持ち、ほむらは吹き乱れる暴風のなかを移動する。
みると、幸運なことに、庭園を囲っていた鉄の柵はきれいに全てどこかへ消し飛んで
しまっていた。


淵まで辿り着くと、160階建てもあるタワー屋上からの見滝原街の壮観が目前に広がる。
視界いっぱいに広がる、全壊状態になった街の全景。


何たる絶景だろう。

しかしほむらは躊躇しなかった。起動スイッチを押したあとは、両手で頭を庇い空中に
身を投じた。病院タワー、160階からのダイブ。そして地上へ。


それとワルプルギスの歯車の先端が屋上庭園に衝突するのが同時だった…。


カチっと、ほむらのシールドの機械装置が時を告げる。
そして、一瞬の無音。
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 01:09:59.19 ID:+Z74FcgT0
落下するほむらの頭上で、すさまじい爆発が起こった。火は速やかに燃え上がり、
屋上庭園のすみずみまで燃え広がる。


噴き上がる炎はワルプルギスの夜の機体を貫いて天空まで伸び、空を覆う暗雲は赤色に染まった。
圧倒的な火力。


火に貫かれたワルプルギスの夜が甲高いような不協和音をあげ、そして…一瞬、真っ二つに
割れてしまうかのように思われた…が、ワルプルギスは何とかこらえた。


炎と化した病院タワーから。
身を投げ出すことでほむらは爆発に巻き込まれることから逃れたが、
急速な落下の勢いは止まらない。


有無をいわさず落下を強いる重力の感覚が体をとらえる。
強すぎる突風は、みる視界全てをかすませる。


あんなに小さく見えていた見滝原の街が今はずっと大きく見える。
落下のスピードは想像を絶して速い。


円形シールドからワイヤー器具を取り出し、病院ビルの壁に引っ掛ける。
それに引っ張られ落下が止まり、身体が吊り上げられたら、ハンドガンでビルの
ガラスに数弾うちこむ。


銃弾でヒビ割れたガラスへむけて、ほむらは一気に身を投げ入れる。
ガラスの破裂する音がし、ほむらは頭からガラス破片をかぶったが、建物内へ戻ることができた。
そのことは成功したが、事態は既に次へ進んでいた。


いきなり床が斜めに傾きはじめる。
病室のあらゆる器具や椅子が床を滑り出し、ほむらめがけて落ちてきた。


結界全体の重力バランスがおかしくなっているらしい。
その理由もほむらは瞬時に理解した。


その上空で、爆破を受けたワルプルギスの重心が傾いていた。
バランスを保って廻っていたコマが、それを失って転ぶ寸前の姿のように。


結界の重力は、ワルプルギス本体の重力バランスと同調している。


爆発の衝撃を受けたワルプネギスの歯車の先端が、不協和音をたてながら、魔女の身体から外れ、
ボロボロと崩れ落ちた。それが歯車全体の調子を狂わせ、もううまく回転しなくなった。

ワルプルギスの受けたダメージのほどを窺わせる。



ほむらは、床を滑り落ちる点滴やら電子器具やらをよけたが、今度は寝台ベッドごとこちらめがけて
滑ってきたのにはさすがに応えた。

その下敷きになってしまうより先に、どうにか寝台の上に跨る。

「負けるもんですか!」

悪態をつき、病院内の廊下を走った。
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 01:12:03.18 ID:+Z74FcgT0
35

歯車を大きく損傷したワルプルギスは怒り狂った。
結界の上空に浮遊しながら、半壊の歯車を廻らせ続ける。


魔力が結界に充満するほどに、世界は厚い曇り空に包まれる。


怒れる魔女は、魔法少女にむけて、虹色の炎を発する。

炎はほむらをめがけてのびたが、時間停止したその刹那、魔法少女はワルプルギスが
ねらったのと全く真逆方向のビルの上にいた。


「こっちよ」


ほむらは言い、ワルプルギスむけて魔力をありったけこめたロケットランチャーを
魔女に向けて発砲する。


ロケットは煙の軌跡を描きながら空を切り、魔女へ突き進んだ。


図体が大きいぶん、攻撃をかわすことにワルプルギスは不利だ。


攻撃は命中し、炎上するワルプルギスからまた歯車が崩れ落ちる。

すさまじい不協和音が化け物の悲鳴さながら響き渡り、歯車の大部分を失ったワルプルギスの
機体の内部が露出されてきた。


ほむらは、ほのかに期待に胸を高鳴らせつつあった。

いける気がする。
今回こそ、ワルプルギスをこの手で倒せる、そんな確信がもて始めている。


かつて自分だけの力でワルプルギスを倒せたことは一度もなかったが、それでも
まどかに戦わせるつもりは毛頭ない。


気になるのは、ほむらの視界の先で、遥か遠くに見える小さなインキュベーターが、
ビルの上にちょこんと座ったまま大人しくこちらを見守っているだけなことが、
今までの時間軸の経験から考えると逆に不気味な気はする。


そろそろまどかに手を出し始める頃合のはずだ。



しかし、ほむらにはまだ、インキュベーターのことまで手を尽くす余裕がないことが分かった。


見ればワルプルギスの歯車部分は半壊していたが、その削れた部分に音符のついた
魔力の輪がかかる。破損部分の傷が徐々に修復される。ワルプルギスが元の完全な姿に
戻り始める。


今回の時間軸では、ワルプルギスが美樹さやかの魔力をグリーフシードから吸い上げている
ために、彼女の治療能力を使えるのだろう。


図体が巨大であるぶん修復に時間はかかるみたいだが、モタモタしてはいられない。
全快されてはこちらの魔力が持たない。


戦いは好調に進んではいるものの、ソウルジェムは大きく消耗され、その煌きは、
今ではドロドロした紫色になっている。魂が魔力に呑まれる。


もう一切の無駄も許されない。
残された魔力でワルプルギスを全壊に至らせるほどに戦えるかは分からないが、
ここでは一瞬の迷いが命取りになる。


ほむらは、この時感じ取れていたかもしれない圧倒的に不吉な前兆───
彼女の視界にとらえたインキュベーターが、キュゥべえでない別の惑星からの亜種──
その遥かに深遠で危険な気配に、気を回せるほどには余裕がなかった。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 01:13:40.25 ID:+Z74FcgT0
36

まどかは眠りの中で、夢を見ていた。


夢は悪夢だった。
目を覆いたくなるような凄惨そのものだった。


夢なのなら、まどかは思った。醒め欲しい。すぐにでも───

全部、なったことになってほしい─────。
もう、こんな結末は見たくない────。



それでも、まどかは見ているものから目を逸らすことができない。

こんな絶望に、たった一人で立ち向っていく少女の姿が、それがどんなに残酷でも、
逸らすことなんてできない。




変わり果てた町。死の世界と化した故郷。失われた全て。

空をぶ厚い暗雲が覆い、巨大な歯車の車輪が無慈悲な音をたててガタガタ廻る。


 
浮遊する強大な怪物。大型魔女。弩級の巨艦。
少女一人で戦わなきゃいけないなんて、あまりにもむごい。


みるみるうちに、少女は怪物に痛めつけられていく。


「仕方ないよ」声が言った。「彼女一人では荷が重すぎた」


まどかは、その声の主を知らない。「でも、彼女も覚悟の上だろう」


「そんな、あんまりだよ!こんなのってないよ!」


少女がまどかに向かって何かを叫んでいる。


「諦めたらそれまでだ」声が告げる。「でも、君なら運命を変えられる」


どこかで電灯の漏電する音が聞こえ、思いかけずまどかは耳を手で塞いだ。


「避けようのない亡びも、嘆きも、全て君が覆せばいい」
声は、塞いだ耳の脳裏に直接響いた。「そのための力が、君には備わっているんだから」


そそのかされ、まどかは一歩前に踏み出る。「本当なの」


少女が空中を転落しながら、必死にこちらに何かを伝えようとしている。


「私なんかでも、本当になにかできるの」
まどかの声に情感がこもる。「こんな結末を変えられるの」


「もちろんさ!」弾んだ声が答える。「だからボクと契約して───」


夢の終わりがきた。


「魔法少女になってよ!」


それが死を意味し、最悪の魔女になる真実を思い出した瞬間、
まどかの意識は目を覚ました。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 01:15:48.86 ID:+Z74FcgT0
36.1

今日はこままで。読んでくれた方に感謝!
次回でラスト投稿になるかも。

そして、原作アバンに繋げる予定です。
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/14(木) 06:58:56.38 ID:3dtD7A05o
お疲れ様でした
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 11:24:43.60 ID:+Z74FcgT0
>>119
ありがとうございます〜

一応、書き込んでおきます。
このSSは、タイトル通り、11話の予想SSという形で書き始めました。
でも今回の投稿分や、以降の投稿分は、すでに投下をはじめた4/8の時点で全て書き終えていたので、いわゆる話題の「ネタバレ流出」の中身を見て書いたわけではないです。

いや、一応、ね?
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/14(木) 20:44:46.62 ID:cWXANmo40
お疲れさまです、続きを待ってるんだよ
これが終わった後の次のSSは魔まマじゃないのかな?
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 21:32:14.49 ID:+Z74FcgT0
ただいま推敲ぼちぼち開始中・・・

>>121
thxです。今はまどマギ絶賛ドツボハマリ中なので、次もSS書くことあったらまどマギだと思います

また今作も40〜45チャプターで終わりますが、それでも「未完」なので、続きを投下することもあるかもしれません・・・が、ひとまず今作を投下するとこまで投下したら、ホマンドー動画を製作する作業に戻ると思います;)
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/14(木) 21:37:05.48 ID:z22boMOd0
>>122
素材としては様々にやりがいがありそうですからなー。
「魔法少女まどか☆マギカ。それは群馬県見滝原市で繰り広げられる、魔法少女と魔女の壮絶な戦いの物語である!」
とか
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2011/04/14(木) 23:33:46.13 ID:sYvtBhsH0
乙です
どうあがいても絶望、という言葉がこれほどあてはまることもないんではないかなあ
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 23:36:10.99 ID:+Z74FcgT0
>>123
いろいろ書きたいですねー。もっと脳筋っぽくSS書いたり百合モノとか書きたかったり。

最終投下いきます!
チャプター45くらいとかぬかしてたけどいざ終えてみたら40ピッタだった・・・\(^o^)/


126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 23:38:14.06 ID:+Z74FcgT0
37

まどかがふと目を開けると、そこは自分の寝室だった。

ベッドでぬいぐるみを手に抱いている。


ぬいぐるみを抱いたまま背を起こした彼女は、はぁ、とため息をついた。

「夢オチぃ…」


朝がはじまる。
目覚めたばかりのせいか、自分の家が白黒の世界のように霞んで見える。


いつもの日課で、まどかは中庭を通り過ぎつつ父親に声をかける。

「おはよう、パパ」返事がない。

廊下を歩いてまどかは、次に母親のいる寝室のドアを、力強くバタンと開ける。
これもやはりいつもの日課だ。


筋金入りで朝に弱い母親を起こすのは並大抵なことじゃない。
特別な措置が必要だ。


スリッパで窓まで歩き、まずカーテンに手を掛ける。

いつもママの布団にのしかかって「朝ぁ〜」と叩くタツヤの姿は、今日はないみたいだ。
まだタツヤも眠っているのかな。


ふぁサァっと、まどかは両手でカーテンをいっぱいに広げて朝日を迎え入れる。
途端に広がった目前の光景が、浮遊する町の破損物とビルだったとしても、
まどかに実感がまだ沸かない。


「起きろおぉぉおぉ」勢いよく布団をめくりあげる。

次の瞬間には、朝日に悶えながら目を覚ます母親の姿が。


あるはずだった。


「え…」

しかし、その代わりにまどかが見たのは、ベッドで血まみれになって倒れ、
二度と動かない体になった母親だった。


血が凍りつくのと同時に、一気にまどかの意識が覚醒に導かれていく。


何もかも思い出した。
今日、私たちに何が起こるのか。

破滅する見滝原…死の運命…家族と友達の喪失…ワルプルギスの夜。

魔法少女。転校生のほむらちゃん。そして…キュゥべえ。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 23:41:01.41 ID:+Z74FcgT0
もう、何もかも手遅れになってしまった。

「そんな……!」悲痛な叫びをあげる。「そんな……いやだよ!こんなの…こんなのやだよ!」

死に物狂いの想いで家族を探す。「パパ…!タツヤ…!」


しかし、悪い予感ばかりが当たった。


みると、中庭は悲惨なほどに破損し、瓦解していた。元の跡形もない。
瓦礫の下敷きになって父親は…死んでいた。目に生気がない。中庭に染まる血。


「やだぁぁああああ!」


まどかの悲鳴が家にこだましていった…。

その叫びに呼応するように、結果内の様子が変貌しはじめる。

まどかの”記憶”としての家は、形を失くし今では床がチェス盤の白黒に変わっていく。
天井も壁も形を変えた。
気がつけば、ワルプルギスの結界の空間に閉じ込められる。


希望はついえた。絶望。
私が守りたかったものすべて。死んだ。なくなった。帰るところもない。

「ぁああああああぁぁ…」

まっさらな白い床に座り込んで、ただ一人、まどかは泣き崩れた。
結界の中は孤独で。
反響していくその泣き声も誰の耳に入らない。



このまま朽ち果てるまで嘆きが続くだろう。
ずっと。死ぬまで。世界が閉じるまで。このワルプルギスの結界で、永遠に。



そう思ったさなか……

希望の光がぽろりとまどかの体からころび落ちた。


それがゆっくりと宙を舞い、次第にチェス盤の地面に落ちて行く様子を見るうち、
まどかの心の内に何かが湧き上がってくる。


それは勇気か。光明。負けん気。冷えることのない魂の熱。

ほむらから授かった、最後に残った道しるべ。



まどかの体からこぼ落ちたそれは、花のついた麻酔弾だった。
眠りにおちてしまう前、ほむらから撃たれ体に受けたものだ。



いま、それがまどかの希望の灯になっている。



そうだ…。
どんなに絶望の闇が押し寄せたとしても、それを振り払って進もうとする少女がいる。
誰もわかってくれないで、たった一人で。


その麻酔弾の羽が、絶望と戦う少女の姿を思い起こさせる。
それがそのまままどかの希望の灯となる。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 23:42:12.87 ID:+Z74FcgT0
ほむらちゃんは、私を契約させないために…心を鬼にして私を眠らせたんだ。
そして、今……ほむらせちゃんは今もワルプルギスの夜と戦っている。



まどかは麻酔弾を握り締め、立ち上がる。

ほむらちゃんは、今もその絶望と必死に闘いつづけているんだ。



ほむらちゃん。心の中で彼女の名を呼ぶ。
私の大切な友達。




助けなきゃ。



いま私は絶望のどん底にいるけれど、ほむらちゃんもそれは同じなのに、戦い続けている。

マミさんも、家族を失ったこんな孤独と悲しさのなかでずっと魔女と戦い続けていて。
それでもマミさんは私たちに優しくて。

杏子ちゃんも、それが絶望だって知りながらもさやかちゃんのために戦ってくれて。

みんなみんな、絶望に立ちむかっていった。






なら、私ももう立ち止まらないよ。

目から零れる涙は止まらないが、まどかは手で顔を拭き、ひとり、立ち上がる。
闇と闘うため。闇に立ち向う友達を、助けるため。


絶望のなかでも冷え切らない、その少女の素質。魂の灯火。
それは、生きるという熱。

絶望で、暗くなればなるほど、希望の光は明るく輝くとでもいうように。



いかなきゃ────。ほむらちゃんを迎えに。



目覚めた心は、走り出した。

未来を描くため。



まどかは結界のなかを走り出す。
白黒のチェス盤の床を。結界の中を。

白と黒の、コントラスト世界は、今では希望と絶望のコントラストを
象徴してくれているかのようだ。


希望は絶望へ。そして、絶望は…希望へ。


魔法少女でない生身の少女の息が、はやくもあがりはじる。
それでも。まどかは立ち止まろうとしなない。絶対に立ち止まらない。



難しい道でも立ち止まらない。
もう何があっても、くじけない。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 23:44:46.54 ID:+Z74FcgT0
38

ワルプルギスの結界が町を覆ってから、1時間が経った。

魔法少女と歯車の魔女の、破壊に次ぐ破壊の最終決戦は、まだ続いている。


だが、それも終盤に差し掛かる。


ほむらの武力が底を尽きようとしていた。魔力も僅かしか残されていない。
ソウルジェムに残された魂の輝きは残りほんの一点だ。


限界の近いほむらに対して、ワルプルギスもかなりのダルージを受けている。
さやかの魔力を使い、損壊した部分の修復させるも、ほむらの連続的な怒涛の攻撃には、
それがおいつかない。


だが、持久戦に持ち込めば勝ち目はない。


ソウルジェムが燃え尽きたら、全ては終わりだ。


これまでで最も悲しい結末が、迫りつつあった。



また一人、魔法少女が、その一生を終えて魔女として生まれ変わろうとしている景観を、
インキュベーター・ティコは、このように語った。


「宇宙の寿命を延ばすということの意味は」


続く戦いのさなか、魔法少女の顔は傷だらけで、血に塗れていた。


「キミたち虫けらに話すには到底理解の及ばぬ話だろう」


ワルプルギスの放つ炎を受けた魔法少女の苦痛の声がきこえる。


「お前は世界が誕生した瞬間など想像できるか?我々が神になれるのは、ものを作り出す力があるからだ。
だが、ものを作るには時間が要る。そして時間には制限がある。キミなら魂が燃え尽きる。生命体なら
脳内のニューロンが退化する。だが我々にはそのような制限がない。我々の制限は、この宇宙が滅びる
ことだけにあるのだ。」


それでも魔法少女はまだ闘い続ける。交わした約束のため。


「三つの内、答えは明らかだろう。宇宙は永遠に拡大するか、無限に安定するか、
宇宙は閉じた状態で結局はくずれるのだろうか。人類は何百年もこの問題を解決する
情報を持っていた。ただ、その情報を選択する意思と知性が欠けていたのだ。
だが我々はすでに理解しているのだ。我々の自由は、この宇宙が閉じることだけで
限られている。そして宇宙が閉じるのはお前の魂が尽きる最後の一息と同じ、必然なのだ。
だが、その前に何かを作り出して、逃げる時間がまだある。」


ティコは無情に話し続ける。


「我々は宇宙の外側へ逃げだすことが目的なのだ。どうだ、宇宙を延命させる意味が少しは
理解できただろう。」


その赤色の丸い目はどこまでも冷酷に深い。


「我々は、逃げることで神になれるのだ。」
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 23:46:11.25 ID:+Z74FcgT0
39






         ABAN  TITLE 






39.9
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 23:47:13.87 ID:+Z74FcgT0
40

ぐるぐる、白黒の結果世界が渦巻いている。


鹿目まどかは、息を切らしながら、白黒のチェス盤の通路を、ずっと走っていた。



彼女の足音と吐息の他は、何の音もない。静寂。無音。
閉じ込められた結界の世界。

走る姿の影がチェス盤に映る。


「はぁ…はぁ…」


出口を求め、まどかは走るが、チェス盤の通路は果てしなく続いている。
だが、走りをやめるわけない。


白黒世界の結界を、ずっと走り続ける。
魔女の結界は、果てしなく広い。

どこをあてに走ったらいいのかは分からないが、ぼんやりしてはいられない状況だ。

白と黒の、円形に花咲く無数の表象や、無限に連なるタイルの壁や、白黒の柱が乱雑する道、
全てを走りぬけ、ようやく見つけた。


「はぁ…はぁ…」息をあげながら、天井の鉄材に取り付ついた”非常口(EXIT)”の
光る緑色の文字を、立ち止まって見つめる。


おそらくここから外に出れるだろう。


”EXIT”の標示の前で一度息を吸い、覚悟を決めると示された出口への階段を、
まどかは一歩一歩のぼりつめる。


その階段もピアノ盤のように白と黒が一段ごとに入れ替わる。


出口の扉の前に行き着いた。




扉から外に出るまで、まどかは、外の世界がいかに終末的であるのかをまだ知らなかった。

かつて、美樹さやかが通いつめていた病院タワーの窓ガラスに、無数のビルの浮かぶ
破滅的な光景が反射して映される。


まどかが扉を押すと、奥の鉄チェーンの歪む音がして重い扉が開いた。
外にでるため、まどかは最後まで力いっぱい扉を押し出す。


その途端目前に広まった光景に、思わずまどかがはっと息をのんだ。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 23:48:35.58 ID:+Z74FcgT0
分かったのは、ワルプルギスの結界が想像を遥かに越えて無限大ということだった。

まどかがようやく出たのはちっぽけな小屋に過ぎず、それも世界樹のように巨大な樹の
上に巣箱のように置かれていたにすぎない。


その巨大な樹木の生える外側を、全壊した町のビルと断片とが囲うように浮遊し、
空はどこまでも分厚い黒雲が覆っている。



その上空で、巨大な金属の歯車が半壊状態で回転している。廻るたび、不気味な不協和音がやまない。
大きな帆を張ったような頭部は逆さの状態で浮かび、首に生えた翼が機体の浮遊を支える。


ワルプルギスの夜──超弩級の魔女の全体のまわりを、
強大な魔力の輪が何週も回り、煌々と輝いていた。


まどかは、空間に浮いた橋を手すりまで前に出ると、結界を見渡した。
そして、遠くのビルにほむらの立っている姿を目にとらえる。


まどかが思わず声をあげた。


壊れた町の電灯が、終末的な赤色を発しているなか、ほむらは、自分より遥かな偉容を誇る
その巨体にむかって、飛び立った。


空に浮かぶワルプルギスの影にほむらの姿が吸い込まれていく。





        ”いつか君が 瞳に灯す 愛の光が───(時を越えて)”



飛んでくるほむらを、ワルプルギスはビルで迎えうった。

少女よりずっと大きいビルそのものがほむらに正面からぶつかる。
ガラスの砕け散る音がこだまする。


ビルは別の建物に落下して衝突する。鈍い轟音と地鳴りが響きわたる。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 23:49:52.05 ID:+Z74FcgT0
からくもビルとの激突からは逃れたほむらだったが、追い討ちをかけるように
虹色の炎がほむらを容赦なく追ってきた。

ほむらは、最初の一撃はよけることができたが、次に迫りかかる攻撃はよけきれず、
シールドで炎から身を守った。
しかしそのシールドも炎の攻撃の前に今にも消し飛んでしまいそうだ。




     ”滅び急ぐ 世界の夢を 確かにひとつ 壊すだろう───”



「ひどい!」

まどかが悲痛の叫びをあげる。

「仕方ないよ」

すぐ横に座っていたキュゥべえが、まどかに口添えした。

「彼女一人では荷が重すぎた」

まるで本心からほむらを痛んでいるような声を装う。「でも、彼女も覚悟の上だろう」




        ”躊躇いを 飲み干して 君が望むモノは何────?”



ワルプルギスの攻撃の勢いは止まらない。
歯車を廻しながら炎が放たれる。炎はついにほむらをとらえ、ほむらは宙の中を吹き飛ばされた。

ほむらの悲鳴があがる。

どこまでも飛ばされ、世界樹の樹木の枝に叩きつけられる。衝撃音がして砂埃が舞い飛ぶ。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 23:51:12.01 ID:+Z74FcgT0
ほむらの痛めつけられていく姿に、まどかは耐えられずキュゥべえに訴えかける。

「そんな、あんまりだよ!こんなのってないよ!」



      ”こんな欲深い 憧れの 行方に儚い 明日はあるの────?”


世界樹の枝でほむらの表情が弱っている。悲しそうにこちらを見つめる。
そのほむらと目が合った瞬間、まどかは心から泣き叫びたい気持ちになった。


そのほむらが、自分にむけて何かを必死に伝えようとしている。


だが、遠すぎて聞こえない。
まどかを圧して存在する、巨大な樹木と浮かび上がるワルプルギスを前に、
もう声が届かない。

まどか、そいつに耳を貸しちゃダメ─────ッ!!




       ”子供の頃夢に見てた 古の魔法のように───”

  

「諦めたらそれまでだ」

代わりに聞こえてくるのは誘惑の声だ。「でも、君なら運命を変えられる」




       ”闇さえ砕く力で 微笑む君に 会いたい───”
 


悪魔の声に魅惑され、まどかの瞳に、ありもしない希望が灯る。

どこかで町の電灯が漏電する音が聞こえ、まどかは思わず耳を塞いだ。


「避けようのない亡びも、嘆きも、全てキミが覆せばいい」

しかし、耳を塞いでも、誘惑の声は脳裏に直接響いてくる。

「そのための力が、キミには備わっているんだから」




      ”怯えるこの手の中には 手折られた花の勇気───”



甘言そそのかされ、まどかは一歩前に踏み出る。「本当なの」




      ”想いだけが 頼る全て───光を呼び覚ます願い───”



ほむらが宙を落下しながら、こちらに向かって何かを必死に叫んでいる。

騙されないで。ソイツの思うツボよ─────!
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 23:52:24.24 ID:+Z74FcgT0
「私なんかでも、本当になにかできるの」

まどかはワルプルギスの夜という巨大な絶望を眺めながら、言った。
歯車の怪物に対する自分は、あまりにもちっぽけだ。

「こんな結末を変えられるの」その声に情感がこもる。


「もちろんさ!」キュゥべえの弾んだ声が答えた。「だからボクと契約して───」


悪魔の一言が告げた。表情はかわらないで、尻尾と首だけ陽気に振って。


「魔法少女になってよ!」


運命の核心。そのキュゥべえの声が空虚に響きわたり、世界の音を奪っていった。
まるで、まどかの決心を世界が待っているように。静まり返り…。


静謐としている。


魔法少女になる。
それが意味するのを考えると、まどかの心が一気に弱気になる。
もし自分がそうなったらの未来を想い、悲しげに目を落とす。


しかしそれは、本当の気持ちを奮い立たせる前のほんと気の迷いだ。
決意するための、バネみたいなものだ。


誓ったように心を決めた闘志がまどかの瞳にやどる。


その終末のとき、そよ風が静かにふいて、まどかの髪を小さく揺らした。
もう迷いはない。

そよ風は、そのまどかの心情を表すようだった。




そして。

魔力がまどかを包み込んだ──────。




悲しい命運を全て受け入れて。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 23:53:45.75 ID:+Z74FcgT0
40.1 

<次作予告>


私、魔法少女になる。

でも私は、貴方が思うような魔法少女には、ならない。
消耗品にも魔女の卵にもならない。

貴方は言ってくれた。
魔法少女は、希望を振りまく存在だって。

私は、そんな魔法少女になる。
希望を振りまく魔法少女になるために、貴方と契約する。




   
        次作 : 魔法少女まどか☆マギカSS

        鹿目まどか「魔法少女の力量を超えて、その日みる夢」


        WRITTEN BY : RAZE LETTERING
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/14(木) 23:55:26.80 ID:+Z74FcgT0
40.2

以上、SSはここでひとまず終わりです。
最後までお付き合い頂いた方、読んだくれた方、心より感謝!

ここまでしか書き溜めてません
予告しただけに続きの構想はありますが、完成して日の目をみるかどうかはわからんね

たぶん、そのまま21日の最終回にお任せするかも・・・。

ほむほむが一人でえらいがんばってるSSがあったぜーみたいに残存してくれたらこれほど嬉しい
ことはない。


SS:暁美ほむら「最後に残った道しるべ」
執筆期間 : 8日 (3/31〜4/7)
サイズ : 127kb (4/7時点 ) → 141kb(4/14時点)
投下、推敲期間 :(4/8〜4/14)



SPECIAL THANKS

#madoka
irc.rizon.net 

シソーラス類語辞典
ttp://thesaurus.weblio.jp/ 

Puella magi wiki
ttp://wiki.puella-magi.net/Main_Page
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/14(木) 23:57:19.76 ID:3dtD7A05o
お疲れ様でした。

ぁぁ・・・・・・・・・切なすぎますね・・・・・・・・・・。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/15(金) 00:09:44.48 ID:7cDTfCS3o
うおおお…乙です
鳥肌がとまらない
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/15(金) 16:49:07.31 ID:UYgyAv+DO
乙!

でも実際ここでまどかが魔法少女になったら最低だよな
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/15(金) 21:48:32.53 ID:xplf3CmK0
>>138
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
原作はどうなるかのなぁ・・・。
>>139
ありがとう!
鳥肌まだ立てて頂いて嬉しいです ;)
>>140
thx!
原作もそうなっちゃうのかなぁ・・・。

そしてSSWikiで紹介してくださった方に、心より感謝です。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/23(土) 13:17:54.41 ID:p78R4y/go
このSSが一番アニメに近かった気がする
というか似すぎててびっくりしたwwww
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga ]:2011/04/30(土) 00:09:47.74 ID:ngG+s5br0
>>142
自分も最初だけ真面目に予想するつもりで、でも途中から完全にコマンドーにしちゃってたんだけど本編でもコマンドーになるとは思わなかった!

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