このスレッドはSS速報VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

魔法少女まどか☆ブレード - SS速報VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/08(金) 22:48:04.41 ID:4JaEv9bJ0
魔法少女まどか☆マギカと宇宙の騎士テッカマンブレードのクロスオーバーSSです。

*現状、まどか☆マギカは10話までの設定に基づいております。クライマックスまでのプロットは既に立ててはいますが、本編の展開次第ではリスペクトして若干展開を変えるやもしれません。あらかじめご了承ください。
*テッカマンブレードは、一部のみ設定変更している箇所があります。また、映像を見たのがだいぶ昔なもので忘れてたり設定間違いだったりする点が若干あるかもしれませんが、ご寛恕の程をよろしくお願いします。
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

2 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/08(金) 22:50:32.67 ID:4JaEv9bJ0
「――戦わないのかい?」

 白い生物がこちらに問いかける。
 
「――いいえ」

 元より応える義理なんてなかったけれど。彼女は答えた。

「私の戦場は、ここじゃない」

 全てを見限ったかのように。
 全てに興味を失ったかのように。
 素っ気無く言い捨てると、彼女は左手の盾を起動すると――忽然と消え失せた。
 
「……消えた? どういう仕掛けなんだろうね」

 白い生物は訝しげに首を傾げたが、
 
「……ま、いいか。僕のノルマも達成できたし、そこら辺を気にしてもしょうがないよね」

 きゅっぷぃ、と満足げに息を吐くと、白い生物もこの地球から去ろうとしかけて――
 
 突如の爆発音に驚いて、振り向いた。
 仮に岩を風で断ち割ったならば、このような音がするだろう。押し寄せた突風に押し流されないように踏ん張りながらも、その白い生物は音のした方角を見やる。
 そして、目を見張った。といっても、そのような表情をすることはこの生物にはできないが。

 そこに「ある」のは、魔女クリームヒルト=グレートヒェン。
 全ての平和と救済を願った少女から生まれた絶望であり、最強にして最悪の魔女。
 それはあらゆる生命を取り込み、自らの結界で共に幸せな夢を見ながら破滅させる。
 この惑星の科学力では、ロクに対抗できるものなど存在していないはずの「それ」は。
 
 今、大きく傾ぎ、亀裂の入ったその身体に悲鳴を上げていた。
 
 ――否。魔女だけではなかった。魔女が睨む視線の先、人間サイズのモノが空中で静止しながら対峙している。
 それは、一言で言うならば鎧騎士だった。白く鋭角的な装甲に身を覆い、凶悪に尖った刃が両端についた槍で武装している。
 魔女に比べるとはるかに小さいはずのそれは、やがて両腕を交差させた。 それに伴い、肩と腕の装甲がスライドして展開する。
 そして――
 ご、という唸りと共に、大気が振動した。
 空間の歪みすら生じる程のエネルギーの渦に、魔女と騎士の間の空間は純粋な力のみが荒れ狂う力場と化していく。
 
「ボル――」
 
 高揚に雄叫びを上げるように。
 或いは悲痛に泣き叫ぶように。
 白い騎士が吠える。

 それに応えるように、母が泣く子をあやすように、魔女は騎士を抱きかかえるようにその触腕を伸ばし――

 直後。限界まで凝縮されたエネルギーの渦が吠えた。
 騎士の叫びと共に。

「テッカァァァーーーーーッ!!!」

 一瞬という時間を以て、発された力の奔流は。
 弾ける光と共に、魔女と騎士を包み込んだ。
 
 
 
 
 
 ――これは、既に終わってしまった物語。
 暁美ほむらが諦めた物語。
 
 故に、次の話を始めよう。
 
 魔を手繰る少女たちと、宇宙を駆ける騎士。
 呪われた宿命を背負った者たちの運命が、ここに交差する――
3 : ◆YwuD4TmTPM [saga sage]:2011/04/08(金) 22:51:01.40 ID:4JaEv9bJ0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
 
 
 ああっ、すいません! ちょっと考え事してて……――
 
 ――助けて!――
 
 テックセッタァァァー!!――
 
 まずは、一仕事片付けてからでいいかしら?――


 
 次回、「夢の中で会った、ような……」
 
 仮面の下の涙を拭え。
4 : ◆YwuD4TmTPM [saga sage]:2011/04/08(金) 22:52:07.86 ID:4JaEv9bJ0
以上で導入は終わりとなります。
次の投下は…か、月〜火曜くらいまでには必ず!
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/08(金) 22:56:43.20 ID:KoDBN7oe0
総合スレでのレスを見かけて以来、ずっと、待ってたんだぜ!!
期待するッ!!!
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 01:17:16.88 ID:dn0iiaF30
期待するけど、もう少し書きためてからスレ立てて、一気に投下すれば良かったのでは?
とにかく期待
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/10(日) 01:26:47.65 ID:AgqmKE7W0
まあここはなかなか落ちないんだしゆっくりやればいいよ
8 : ◆YwuD4TmTPM [sage saga]:2011/04/11(月) 22:15:34.51 ID:+nr+0qO20
 ――夢を見ている。
 わたしは、ただただ焦燥感に駆られながら、暗闇の中を走り続けていた。
 
 ――どうして走っているのか?
 
 答えは得られない。
 だけど、わたしは何かを探していた。何かを求めていた。
 それが何かはもう思い出せないけれど。
 だが、それはとても大切なモノだった。
 だけど、もうそれはわたしには決して届かないモノで。
 
(……もう、いいのかな)

 ふと、そんな言葉が心をよぎる。
 そういえば、随分と長い道を辿った気がする。

 ココロはゆっくりと、タールのようにくろくくろく。ねばねばとヨゴれていって。
 カラダをムシバむケガレはどろどろとニクをひきさき、ホネをくだく。
 タマシイはくずレるスナのようにさらさらとトケテイッテ、ぐるぐるぐるぐるカクハンカクハン。
 
 ……ああ、もういいや。
 
 しあわせなゆめのなかで、みんなといっしょにねむろう。
 みんないっしょなら、きっとだれもさびしくないよね。
 だから、まずはおともだちをつくらないと。
 
 そう思って、たくさんお友達を作っていたら。
 
 それは突然現れた。
 白い鎧に身を覆い、当たったらいかにも痛そうな槍を持った、さながらに御伽噺の騎士さんみたいで――
9 : ◆YwuD4TmTPM [sage saga]:2011/04/11(月) 22:16:23.98 ID:+nr+0qO20
「……ふえ?」

 そして、鹿目まどかは目を覚ました。
 
「……夢オチぃ?」

 唇の端から筋を引いていた涎の跡を、袖でごしごしと拭うと、もそもそと身を起こす。
 お気に入りのぬいぐるみをぎゅっと胸に抱きしめながら、まどかはぼんやりとした頭で考えた。
 変な夢だ。変な夢を見た。
 とても幸せなような、とても辛いような、そんなあれやこれやがごちゃまぜになった、そんな夢。
 説明するにはたくさんの事がぎゅぅっと濃縮されて雪崩れこんだみたいで、言葉にするどころか考えようとするだけでわけがわからなくなる。
 
 ……まずは起きないと。
 
 寝起きの頭で考えたって答えなんて出るはずも無い。眠い頭で勉強しても頭に入るもんかってママも言ってたし。
 フワフワとヘリウム風船のように浮ついた思考を引っ張り戻すと、まどかはゆっくりとベッドから降りた。

 いつも通りに寝起きの悪いママをちょっと手荒に揺り起こして、いつも通りに着替える。
 パパの作った朝食はいつものように洋風で、いつものように美味しくて。
 そして今日も今までと同じようにさやかちゃんとの待ち合わせ場所に行くのだ。

 それは、ちょっと退屈だけどかけがえのない日常。

 昨日もそうだった。
 だから今日もまた、いつも通りの一日になる。
 そう、思っていた。
 何の根拠もないのに、そう思っていた。
10 : ◆YwuD4TmTPM [sage saga]:2011/04/11(月) 22:17:18.06 ID:+nr+0qO20
 学校へ続く道。一人で歩くには広くて、自転車で走るにはちょうどいいけど、車だと少し狭い。そんな道をまどかは小走りに駆け抜けていた。
 よく整地されたアスファルトに日の光が反射してぴかぴか光る。時折瞳を貫くそれに目をしばたたかせつつも、足は止めない。
 待ち合わせ場所はもうすぐだ。ややギリギリの出発だったが、早足ならば十分間に合うだろう。
 だが、まどかはもう一つの事を考えていた。
 
(……なんだったのかなあ? あの夢)

 夢らしく荒唐無稽なストーリーだったが、妙に生々しくてリアルだったような気もする。
 さやかちゃんと仁美ちゃんに相談してみようかな。夢占いとか、そういうの詳しかった気がするし。
 ぼんやりと考えをめぐらせつつ、うん、とまどかは胸中で(ついでに実際にも)大きく頷く。
 だが、そのせいだろう。
 
「――ふぎゃっ!」

 鼻先にボスッと衝撃が走り、視界の中を星が舞う。
 お世辞にもあまり色気のない悲鳴を上げながら、まどかは尻餅をついた。
 
「ああっ、すいません! ちょっと考え事してて……」

 半ば条件反射で謝りつつも、まどかは顔を上げる。
 ちょっぴり涙目になって歪む視界の中、そこに青年が一人立っていた。
 どこかいかめしく、鋭い雰囲気をたたえている、という印象の青年だ。赤いジャケットを羽織り、色の薄いズボンといった出で立ち。
 しかし何よりも彼の印象を剣呑にしているのは、顔の生々しい傷跡だろう。それは、ちょうど左目を縦に貫くように走っており、まどかにはまるで涙を流しているように見えた。
 
「いや、こちらこそ不注意で悪かった。大丈夫か?」

 すると、青年は膝立ちになってこちらに視線を合わせてくる。
 なんだか急激に気恥ずかしくなって、まどかは慌てて立ち上がった。

「あっ、はい! 大丈夫です、もう全然大丈夫です!」

 ぱたぱたと服についた土埃を払い落とすと、無意味にガッツポーズなどしてみたりする。
 それが可笑しかったのか、青年は頬の力を抜くと口元を笑みの形にした。
 
「そうか。それは良かった」
「あ、あはは……」

 照れ笑いしながらも、とりあえず自分の失礼は取り繕えた事に安堵するまどか。
 と――
11 : ◆YwuD4TmTPM [sage saga]:2011/04/11(月) 22:17:50.68 ID:+nr+0qO20
「――Dボゥイ!」

 横から響いた声に振り向いた。
 見ると、一人の女性がこちらに小走りに近づいてくる。
 その人物は、白いタートルネックのインナーの上から青年と同じ赤いジャケットを羽織っていた。もっとも、青年のジャンパー型とは違ってこちらはチュニック状の形だが。
 
「――ああ、すまないアキ。今行く」

 女性の方に視線を向けて返事を返すと、青年はゆっくりと立ち上がった。
 そして、もう一度こちらに笑みを向けて小さく手を振ると、青年は女性――さっきの発言からするとアキ、という名前なんだろうか――と去っていく。
 ぱちくりとまばたきして、まどかはそれを見送っていた。
 
「――Dボゥイ?」

 さっきの、アキという女性が言った言葉。
 言葉通りに解釈するならば、それはさっきの青年の名前、となるんだろうけど――。
 
「……変わった名前だなぁ」

 見た感じ日本人っぽいのに。もしかしたら愛称か何かなのかもしれない。
 そんな事を考えてると、ふとハッと気づく。
 時間はだいぶ過ぎ去っていた。
 
「いっけない!」

 このままでは、さやかと仁美との待ち合わせどころか学校の門限すら危ういかもしれない。
 小走りから全力疾走にレベルを上げて、まどかは走り出した。
12 : ◆YwuD4TmTPM [sage saga]:2011/04/11(月) 22:18:40.27 ID:+nr+0qO20
Aパート前半が以上となります。小出しで申し訳ないorz
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/11(月) 22:28:43.02 ID:BJF6ziJQo
いいぞ
14 : ◆YwuD4TmTPM [sage saga]:2011/04/11(月) 23:48:20.20 ID:+nr+0qO20
あ、ちなみに冒頭のQBはブラスターボルテッカの余波で消し飛んでます。
割とどうでもいい事ですが、一応
15 : ◆YwuD4TmTPM [sage saga]:2011/04/12(火) 00:05:44.99 ID:K2ix8fCx0
あと、Aパート前半にもうひとつ追加です



「あーっはっはっはっ!」
「うー、そんなに大笑いすることないじゃない」
「さ、さやかさん。そんなに笑っては悪いですわ」

 三者三様の声が響く。
 ひとつは可笑しくてたまらないといった風な大笑い。
 ひとつはめそめそと落ち込み。
 ひとつはおろおろとおたついている。
 一つ目が美樹さやか、二つ目がまどか、三つ目が志筑仁美のものだ。
 
「だってさー。変な夢見たからどんな夢かと思ったら、暗闇の中を走り抜けてて白い騎士様が助けに来てくれた、だよ?
 今どきそんなピュア夢見るのってまどかくらいっしょ?」
「うー、さやかちゃん、意地悪だよぅ」
「いやいや、とんでもない! あたしはむしろ褒めてるんだよ?」

 首と、ついでに腕をぶんぶんと振って否定すると、さやかはぐぐっとコブシを効かせながら語り始めた。

「心がスレるような出来事ばっかりの現代社会!
 その荒波に揉まれるも、ヨゴレを知らぬ真っ白けのけなまどかの心!
 いやー、あたしは心動かされました。よくやった、感動した!
 さっすがあたしの嫁ぇー!」

 妙な流行語も取り混ぜつつ一息で言い切ると、がばちょ、とさやかはまどかにしなだれかかる。

 わたわたと慌てるまどかに、「まあ、これが禁断の愛ですのね」とうっとりしながらズレた見解を呟く仁美。
 そんなこんなのうちに、学校はもうすぐそこまで迫っていた。
16 : ◆YwuD4TmTPM [sage saga]:2011/04/12(火) 00:07:16.39 ID:K2ix8fCx0
今度こそ以上となります。
次回投下は木〜金曜辺りに行う予定です。
17 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/12(火) 00:07:56.11 ID:K2ix8fCx0
と、更新したのお知らせするために一応ageたほうがいいのかしら
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/04/12(火) 17:12:06.86 ID:E3hGL7HAO
これからラダムの侵攻が始まって、魔女・ラダムの両方と戦っていくのかな。
それともラダムは滅ぼした後か?

何はともあれ乙!
19 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/14(木) 22:15:20.93 ID:z22boMOd0
 おおむね晴れている空の下、見滝原は午後半ばの流れへと移り変わっていた。
 整然として、それでいて厳格な都市計画の下で建設されていた建築物の群れの間を、蠢くように人が行き来していく。
 そんな見滝原の、駅前のデパート。
 その中のフードコート内のベンチに、Dボゥイは腰掛けていた。
 ベンチ前の通路を横切る人の群れ。少し向こうのショッピングモールで蠢く人だかり。
 それらをぼんやりと眺めながら。
 と、
 
「Dボゥイ」

 声に振り向くと、アキがこちらに近づいてきている。
 彼女はそのままこちらの隣に腰掛けると、片手ずつに持っていた紙コップの片方をこちらに渡した。
 中に入っているのはコーヒーだ。近くのドリンクバーから調達してきたもののようで、温かい湯気と共に香ばしい薫りを放ってくる。
 
「ありがとう」
「どういたしまして」

 礼を言いつつ受け取ると、一口ぶんだけ口をつけた。
 じんわりした熱が、唇から舌、舌から喉、喉から胃へと伝わっていくが、やがてはそれもまた消えていく。
 
「……平和な街ね」

 唐突にぼそりとアキが呟く。
 横へと視線を走らせると、彼女は紙コップの中の真っ黒な水面をじっと見下ろしていた。
 
「ずっとここにいたら、ラダムの事も忘れてしまいそうなくらいに……」
「今の地球に、安全な場所なんかどこにもないさ」

 眉尻を下げた表情で、アキは身体を縮こませた。猫背のまま爪先を立てながら、

「ごめんなさい。私たち、休暇でここに来たんじゃないものね。……本当なら、ここで一息つく暇も無いはずなのに」

 一息。
20 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/14(木) 22:15:47.29 ID:z22boMOd0
「本当に、この街にいるのかしらね」
「チーフの分析では、奴がここにいる事は間違いない」
「だけど、どうしてテッカマンがラダム獣の一匹も引き連れずに?」
「わからない」

 アキがこちらに視線を向けてくる。だが、その意味はこちらを咎めるのではなく、後に続く言葉を待っているのだろう。
 だから、Dボゥイはそのまま続けた。
 
「だが、この街には何かがある。そんな気がするんだ」
「何か?」
「ラダムでさえも、慎重にならざるを得ない……そんな、『何か』、が……?」

 言いよどんだ。
 それは、一つの声が聞こえたからだ。
21 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/14(木) 22:22:47.53 ID:z22boMOd0
『――けて――』
『――助けて!』

 拡声器か何かで叫ぶような、耳をつんざくほど大きな声ではない。むしろ、声の大きさそのものはささやきにも似た微弱なものだ。
 だが、それははっきりと聞こえてきた。

「どうしたの、Dボゥイ?」

 こちらの変化を悟ってだろう。アキが訝しげに尋ねてくる。
 
「……いや」

 首を傾げながら、ゆっくりと周囲を見渡す。

(……気のせいだったのか?)

 だが、その疑念はすぐに否定された。
 
『助けて!』

 がたり、と――
 立ち上がったのは無論、Dボゥイだった。

「ねえ、どうしたの? Dボゥイ」

 さっきよりも不安の色を少しだけ強くにじませて、アキ。
 
「声が聞こえる」
「声?」
「……いや、『感じる』と言った方が近いな」

 耳に当てていた手を離す。先ほど聞いた時から当てていた手だ。
 本来なら聴覚を阻害するはずのそれを、だが全く意に介することなく『声』は変わらずにDボゥイにささやき続けていた。
 
「テレパシー? ひょっとしてラダムの……?」
「いや、そこまではまだわからない。どうも、助けを求めているみたいだったが……」

 そこまで言って、再び声が聞こえた。
 先ほどよりも強い声だ。
 
『助けて! ――まどかっ!』

 反射的に或る方向を睨むと、Dボゥイは走り出した。
 
「こっちだ!」
「わ、わかるの?」
「なんとなく、としか言えないが……!」

 かくして、二人は走り出した。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/14(木) 22:25:44.82 ID:FkrT+asWo
ヌッ
23 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/14(木) 22:42:18.93 ID:z22boMOd0
 Dボゥイとアキが移動を開始する数分前。
 まどかもまた、さやかと共に立ち入り禁止区域の工事現場を走り抜けていた。
 頭の中をぐるぐる巡るのは、たった一つだけだ。
 
 ――どうしてこんな事に!?
 
 学校からの帰り道、さやかちゃんが上条君に送るCDを買うのをいっしょにやってたわけで。
 そして、試聴コーナーで良さそうな曲を聴いてたら『声』が聞こえたわけで。
 声に従って歩いてたら、突然白い獣(?)が落ちてきたわけで。
 それを狙っていたっぽいのが転校生の暁美ほむらちゃんなわけで。
 そんなとき、さやかちゃんが消火器で颯爽と助けに来てくれたわけで。
 それで、こうして全力疾走で逃げてるわけで。
 
 うん、わけがわからないよ!
 
 ある意味現実逃避にも近いセルフツッコミをかましながらも、まどかの足は止まらずにいた。
 いたが、そろそろ限界だ。元より体育はからきしというほどではないがかなり苦手な部類ではある。
 そうでなくとも、中学二年生の女の子が全力疾走で走り抜けられる時間なんてそう長くはない。
 隣のさやかも似たようなものだったようだ。こちらがペースを緩めたのを認めると、共に立ち止まってぜいぜいと息を切らしていた。
 
「……ったく。あの転校生、何考えてるんだっての」

 ばくばくと暴れる心臓を宥め賺しながらも、さやかは悪態をついた。
 
「秀才とか天才とかと変人は紙一重だっていうけどさ。コスプレして通り魔なんてのはそんなもんで片付けられないわよ」

 反論するにもこちらはさやかの倍は息が上がっていたので、まともに喉も動きそうになかった。なので、代わりに心の中でつぶやく。
 
(……でも、私にはほむらちゃんが悪いことを考えてるようには見えなかったけど)

 思い起こすのは、キッと強い瞳でこちらを見据えるほむらの顔だ。
 鬼気迫るものを感じたのは確かだが、不思議と邪な感じはしなかったのだ。
24 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/14(木) 22:52:26.43 ID:z22boMOd0
 と――
 
 カツーン……
 
 足音が響いた。

「…………」

 泣きそうな顔で、まどかはさやかを見る。
 さやかの方は言うと、眉に無理やり力を込めて身構えた。

 宙にゆっくりとジャブを二発。
 ついでにボディーブロー。
 とどめにアッパー。
 
「よ、よーし。来いっ」

 もう何というかとてつもなく色々と駄目そうな雰囲気だったが、敢えてまどかは口に出さずにおいた。
 そのまま数秒。
 息すらも止めて作り出した沈黙の中、変わらずに足音は響く。
 
「……来たくないなら来なくてもいいんだよー……」

 弱気が顔を出したのか、ぼそりと眉尻を下げながらさやかが呟いた。
 暗がりの中、差し込む光の中に現れたのは。
 
「……君は、今朝の?」
「Dボゥイ……さん?」

 今朝に会った、Dボゥイという青年だった。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/14(木) 23:08:02.86 ID:K+1Z+X/X0
ん?ここまでか?
26 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/14(木) 23:21:04.52 ID:z22boMOd0
「しかし、なぜ君たちがここに? ここは危険だぞ」
「ごめんなさい……」

 先頭にDボゥイ、まどかとさやか、そして殿にアキ。
 そんな隊列を組みつつ、四人は人気の無い工事現場の中を歩いていた。
 
「俺に謝らなくてもいいさ。……だが、本当にどうしてこんな所に?」

 自分の声がまどかを威圧しているとでも思ったのか、Dボゥイは幾分か語気を和らげながら口を開いた。
 
「よ、よくわかんないんですけど――」

 呟きつつ、天井を眺める。
 シミの数を数えようかなんて考えが頭をよぎったが、結局のところただの現実逃避だ。
 意を決して、まどかは大きく息を吸った。
 
「この子が、なんだか私を呼んでたみたいで……」
「あ、そういやあたしも聞いてなかったな。まどか、その生き物、なに? 猫とも兎ともつかないけど」

 言われて、腕の中を見る。
 傷だらけのその生き物は、まどかの手でぶるぶると震えながらその身を丸めていた。
 
「……声だって? 君も聞こえたのか?」
「ええと……Dボゥイさん、も?」

『!!』
「ど、どうしたの?」

 突如、びくりと腕の中の生き物が身体をひときわ震わせたのを見て、まどかは慌てて視線を下ろした。

 ――瞬間。
 世界が、崩壊した。
 
27 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/14(木) 23:28:47.15 ID:z22boMOd0
>>25
今日はもうちょっとだけ続くんじゃ
28 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/14(木) 23:30:57.18 ID:z22boMOd0
 ぐらぐらと身体が揺れる。倒れまいと踏ん張ろうとしたけれど、硬い地面が見つからなかった。自分の足がなくなってしまったのか、はたまたわたしの知らない間に地球がなくなってしまったのか。
 ようやく視力が回復すると、まどかは自分が尻餅をついているのだと気づいた。目を瞬かせながら、きょろきょろと首を回すと――
 周囲の状況は一変していた。
 
 鉄のフェンスだったモノは圧縮されたようにひしゃげた形に変わり。
 壁は、クレヨンの落書きのように不自然に歪んだ色をしている。
 地面は油の油膜のようにぐにゃぐにゃとした光沢をしていて、触ると絵の具のようにぬめぬめとしていた。
 ……虹の色を、ここまで醜悪に感じたのは、生まれて初めてだった。
 
「な、に……これ」
 
 唾が絡んでまともに動かない喉を、意識を総動員して無理やり動かす。結果、気管がひりひりと痛んでしまうことになるが、この状況ではその痛みすらも有難かった。
 そうでもなければ、目の前にいる――もしかしたら「ある」が正しかったのかもしれないけれど――モノに、圧倒されて思考さえ凍りついてしまいそうだったから。
 
 それは化け物だった。そう呼称するだけで全てが事足りる。そんな化け物だった。

 ――カイゼル髭を生やした毛虫。
 
 そんな言葉がまどかの脳裏をよぎる。馬鹿げていた。とびっきりに馬鹿げていた。
 
「な、何よ。何なのよ、これ!」

 隣にいたさやかも似たような調子で、恐慌めいた声で叫ぶ。
 
「Dボゥイ! これって、もしかして……!」
「……いや、おそらく違う。こんな妙な小細工は、『奴ら』はやらない」

 Dボゥイとアキの二人はというと、緊張しながらも落ち着いた様子だ。
 ひょっとしたら、二人はこんな異常事態には慣れっこなんだろうか。
 
「Dボゥイ、さん……」
「下がってくれ、二人とも。……アキ。二人を頼む」
「ええ、でも気をつけて」
「大丈夫だ。遅れは取らない」

 まどかとさやかの手を引きながら後退するアキに、Dボゥイは力強く頷いた。
 
29 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/14(木) 23:36:19.14 ID:z22boMOd0
 三人から正面の化け物の群れへと視線を戻すと、ゆっくりとDボゥイは身構えた。
 懐へと手を伸ばす。指先へと伝わる冷たく硬い感触。

 それは、テッククリスタル。
 
 彼らテッカマンの証にして、テックセットするために必要なデバイス。
 だが、その紅いクリスタルはDボゥイ自身のモノではない。
 
(ミユキ……)

 クリスタルの本来の持ち主へと、Dボゥイは想いを馳せた。
 ……時は、十数日前に遡る。
30 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/14(木) 23:58:21.77 ID:z22boMOd0
「ペガスは連れて行けない、だって?」
「そうだ」

 聞き返すDボゥイに、彼は頷いた。
 ハインリッヒ・フォン・フリーマン。Dボゥイたちの直属の上司にしてスペースナイツの長である男。
 場所は、テキサス基地。
 スペースナイツの総本部の、そのまた司令室だ。
 
「何故ですかチーフ。ペガスがいないとDボゥイは……」
「落ち着いてくれ、アキ。まずは私の話を聞いて欲しい」
「…………」

 アキが口を閉ざしたことに頷くと、フリーマンは口を開く。
 
「まず、知っておいてもらいたいのは、今回の任務は隠密作戦、ということだ」

 言って、フリーマンはこちらとアキの顔を交互に見やった。
 
「テッカマンエビルが、日本の見滝原へと単独で潜入している――この情報は、間違いの無い事実ではあるが……」

 一息。
 
「この街は、現状ではラダムの危機には晒されていない。我々スペースナイツは、名目上は対ラダム専門のチームである以上、本来はラダム以外の理由を以て動くことができないのだ」
「だから隠密作戦か」
「そうだ」

 再び頷くと、フリーマンは話を続けた。

「そのため、今回はDボゥイとアキに行動してもらう事となる。現状、最近のラダムの活動は沈静化しつつあるが、それでも余談を許さない以上全ての戦力を投入するわけにもいかない。
 ……だが、ペガスは忍び込ませるにはあまりにも無理難題が多い。そのため、今回においては同行を断念せざるを得ないのだ」
「でも、それじゃあ彼は戦えません」

 かつてテッカマンダガーとの戦いで、自らのテッククリスタルを破損したDボゥイは、ペガスのサポートなくしてテックセットを行うことはできない。
 それはつまり、エビルとの交戦は不可能である、ということに等しいのだ。
 
「無論、それに対する対策は打ってある。……Dボゥイ」
「…………」

 いつになく真剣な表情で――この男が真剣でないときなど今までも、そしておそらくはこれからもない気はするが――こちらを見てくるフリーマンに、Dボゥイは何も言わずにその視線を正面から受け止めた。
 
「我々は、テッククリスタルをもう一つ所持している」
「――まさか、チーフ! それって――!」
「俺に、レイピアの……いや」

 アキの言葉を遮って、発せられたDボゥイの声。
 それは、背筋が震えるほど張り詰めた意志の力が込められていた。

「ミユキのクリスタルを使えと、それでテックセットを行えと、そういう事だな? チーフ」
「……そうだ」
「私は反対です!」
 
 だんっ! と机を叩いてアキが身を乗り出す。

「あれは、彼女がたったひとつ、Dボゥイに遺してくれたものです! それを、こんな事で使ってしまっていいわけが――」
「了解した、チーフ」
「ちょっと、Dボゥイ!?」

 再びこちらを遮ったDボゥイに、アキは怒りを込めた視線を向ける。
 それでいいのかと。
 たった一つ残された、妹の形見だというのに。
 そんな事に使ってしまっていいのか、と。
 
「確かにそれ以外に手はなさそうだ。――それに」

 ぐっと拳を握りこむ。手が血の気を失うほどに。
 
「……俺はラダムを滅ぼす。如何なる代償を払おうとだ」
31 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/15(金) 00:04:07.89 ID:LCy3WTZC0
 ――そして、時間は現在へと回帰する。
 
(――ミユキ)

 懐に忍ばせた、今は亡き妹の名を口にしながら独りごちた。
 
(俺はお前を守ることが出来なかった。……だが)

 ぐっと手の中のクリスタルを握りこむ。クリスタルが手指に食い込んで痛みが走るが、そんなことはどうでもよかった。

(だが、今は。今だけは。その力を少しだけ俺に貸してくれ。俺のためだけじゃない)

 かっと目を見開く。化け物の群れは、もうすぐそこまで迫っていた。
 
(俺の後ろにいる人たちを守るために――!)

 もう、迷いは無い。
 懐のクリスタルを素早く掲げると、彼は叫びが、退廃的な空間の中へと響き渡った。
 
「テックセッタァァァーーー!!!」 
32 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/15(金) 00:11:55.23 ID:LCy3WTZC0
 瞬間、Dボゥイの身体は光に包まれた。
 ビキビキと音を立てて、身体がテッカマンである彼の本来の姿――素体へと変貌していく。
 それも一瞬で終わると、今度はクリスタルから発される光によって、光子変換物質で形づくられた強固な装甲が、彼の身を補強する。
 変身は、それで終わり。
 ぐ、と全身に力を込めてからゆっくりと緩めると、彼は叫びを上げる。
 
「テッカマン――ブレードッ!!」
 
 それはさながらに、騎士の口上のように響き渡った。
33 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/15(金) 00:12:29.28 ID:LCy3WTZC0
Aパートは以上となります。
長引いて申し訳ないorz

次回は、日曜〜月曜くらいになりそうです。
34 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/15(金) 00:15:23.43 ID:LCy3WTZC0
また、設定改変箇所は
「ミユキのクリスタルが完全な形で残っていた」
という箇所になりますです。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/15(金) 00:37:35.43 ID:5O3sggLOo
おつ
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/15(金) 00:43:39.84 ID:pTiQrf430
乙!
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/15(金) 02:31:55.13 ID:RqHec4Ic0
乙です。
ブレード原作に比べると、ラダムの攻勢がまだ緩やか、もしくは謀略重視なんだろうか?
頑張れタカヤ坊…『宇宙の騎士(テッカマン)』を舐めるなよ!!
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/15(金) 03:10:01.43 ID:WN4kIRLm0
同じ宇宙人同士、QBの種族や魔女のシステムをラダムも知っていて、調査に力を注いでるんじゃないかな

そうなるとQBの反応が楽しみだ

乙!
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/15(金) 09:54:52.58 ID:Q1RU7f8No
乙ー
スパロボWにおけるラダムによる対ゾンダーシステムだったり、
電撃文庫:水晶宮の少女のようにラダム虫排斥可能な生態だったり
色々対策があるよなー
40 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/17(日) 18:11:20.43 ID:ng2NqTaP0
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」

 そして。暁美ほむらもまた、走っていた。
 全力疾走なところもまた同じ。だが、その顔に浮かぶ焦りの色はより色濃く。
 
 ――しくじった。
 
 美樹さやかの存在を考慮の外に置いてしまった。
 それ故に、今こうして彼女を見失い、追いかける羽目となってしまったのだ。

 ――魔法を使って追いかけるか?

 いくら見失ったといえど、彼女たちは所詮ただの一般人だ。魔法少女である自分ならば、いとも容易く彼女を細くできるだろう。
 だがそれは、あの悪魔に自分の魔法を見られてしまう、ということでもある。ヤツに自分の手の内を晒すことは、可能な限り避けたかった。
 それ故に、こうして魔法を使うこともなく工事現場「だった」空間の中を走っている。
 臆病な判断を下した自分が呪わしかった。こんな事になるなら、魔法を使ってでもまどかを捕まえておくべきだったのだ。
 
 ――魔女の結界。
 つい先ほど展開したそれは、工事現場一帯をすっぽりと包み込んだ。
 魔女の結界に捉えられた人間は、魔女に食われてエサとなる運命が待ち受けている。
 ……急がなければ、いつ彼女らが毒牙にかかるともしれないのだ。
41 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/17(日) 18:14:13.33 ID:ng2NqTaP0
「――!」

 見えた。
 若い女と一緒にいる、鹿目まどかと美樹さやか。
 そして、使い魔の群れと対峙しているこれまた若い男。
 ただの人間が使い魔、しかも郡体と戦おうなのど無謀でしかないが、逆に好都合だ。
 今なら、まどかだけでも確保して逃がすことができるかもしれない――
 自らの異能を以て、この状況を打破せんと、暁美ほむらはゆっくりと身構え……
 
「テックセッタァァァーーー!!!」

 そこで、ほむらの思考は凍りついた。
 男が上げた叫びに、では無論無い。
 声と共に走った閃光。そこから現れた、鎧騎士に、だ。
 
「テッカマン――ブレード!!」

 完全に出て行くタイミングを逃し、ほむらは呆然と立ち尽くす。
 こうしている間にも、騎士は使い魔の群れに飛び込んでいった。

「アレは……なんなの?」
42 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/17(日) 18:19:40.45 ID:ng2NqTaP0
「はぁぁーっ!」

 迫る使い魔の群れを、Dボゥイ――テッカマンブレードが吹き飛ばす。

 ――テッカマン。
 外宇宙生命体ラダムが、他惑星への侵略を効率的に行うために生み出した生物兵器。
 本来ならば、ラダムの敵である人類へと振るわれるその力は。
 今は、人間を――後ろにいる仲間たちを守るために使われていた。
 
 まず、正面から飛び込んできた使い魔に拳をぶち込む。人間の枠を超えた怪力をねじ込まれた使い魔は、吹き飛びながらばらばらに四散した。
 今度は、左右から一匹ずつ。一方は拳に砕かれようとも、もう一方が取り付くという腹積もりか。
 その意図を見抜いたブレードは、左右の肩に手をかざすと再び叫んだ。
 
「テックランサー!!」

 肩の光子変換口から、テッカマンの標準兵装である短槍――テックランサーが射出される。
 二振りのそれらを両手に取ると、ブレードは左右の使い魔に正確な狙いでランサーを突き出した。
 勝利を確信していたであろう使い魔ニ匹は、自分の思惑が叶わずに終わった事にすら気づかないまま、頭を貫かれて消滅する。

「やぁぁーーっ!」

 散ったそれらに一瞥すら投げないまま、ブレードはランサー二つを合体させると、高速で振り回しながら使い魔の群れを薙ぎ払った。それはさながらに白い暴風だ。
43 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/17(日) 18:28:19.47 ID:ng2NqTaP0
「ま、まどか。何あれ。変身……してた、よね?」
「……う、うん」

 まどかとさやかは、突如鎧姿に変身したDボゥイ――たしかテッカマンブレードと名乗っていたが――が、化け物の群れと果敢に戦うその姿を、半ば呆然と見つめていた。

「あの人……なのかな。あの鎧の人」
「たぶん……そうだと思う」

 時折放たれる気合の声。
 それは、間違いなくDボゥイ自身のものだった。
 
「さあ、彼が食い止めてくれている内に一旦下がりましょう」

 二人の肩を優しく抱くと、アキは平静な口調でまどかとさやかに語りかける。

「で、でもあの人をあんな危ないところに一人だけにしちゃ……」

 焦った顔でこちらを見上げてくるさやか。
 だが、アキは泰然と微笑みを返した。
 
「彼なら大丈夫。このくらいの相手なら遅れは取らないわ。さあ、早く」

 そこまで言うと、アキは二人の手をとって後方に引っ張っていく。
 手を引かれながらも、まどかは一度だけ後ろを振り向いた。
 
 ブレードは、変わらずあの化け物を薙ぎ払っている。
 だが、まどかが思っていることはそれとは別のところにあった。
 
(でも、あの人、どこかで……夢の中で会った、ような……)

 理由もなく湧き上がるデジャヴに首を傾げながらも、まどかはアキとさやかに着いて歩き出した。
44 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/17(日) 18:40:40.95 ID:ng2NqTaP0
「ぬんっ!」

 裂帛の気合と共に、ブレードはもはや何十体目だかの使い魔を切り裂く。
 そのまま後ろから襲い掛かろうとしていた一体を振り返らずにランサーで貫くと、周囲を見渡した。
 
(ひとつひとつは、ラダム獣にも及ばない程度の強さでしかない。だが……それ以上に、数が多すぎる!)

 こちらが思考を巡らすのにもお構いなしで跳躍する使い魔を、再びランサーを振り回して薙ぎ払う。
 
(『アレ』を使うか……? だが、既に囲まれたこの状況では……。それに何より、『アレ』を使えばそれ以上にあの三人が危険に晒される)

 ブレードに対抗するだけではと悟ったのか、アキ達の方へも向かおうとする使い魔をランサーを投擲して両断。
 武器を失い、素手になったブレードに、今こそ好機とばかりに殺到する使い魔たち。

(……どうする……!?)

 ブレードの声には、焦りが滲み始めていた。
 
 だが――。
 
 ズドン!
 
 突如別の方向から響く銃声と共に、使い魔のいくらかが吹き飛んだ。
45 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/17(日) 19:01:44.85 ID:ng2NqTaP0
と、ちと家事が入ったので少し間を空けます
46 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/17(日) 19:29:38.66 ID:ng2NqTaP0
「――!?」

 思いがけない乱入者に、ブレードも使い魔たちも一瞬我を忘れて静まり返る。

「危ないところだったわね。……あなた達も」

 物腰柔らかな声を発しながら陰から現れたのは、少女だった。
 特徴的な、亜麻色にも見える髪を二つおさげにしている。くるくるとカールした癖っ毛が、まるでバネか何かのようにも見えた。
 目は柔和に細く、おおよそこの戦場の雰囲気には似つかわしくはなかった。

「……でも、もう大丈夫!」

 自信に満ちた声と共に、にっこりと笑う。
 そして、まどかが抱いている白い獣を見ると、
 
「あら……あなた達が、キュゥべえを助けてくれていたのね。ありがとう」
「え、えっと、わたし…」
「……その子は、私の友達だから」
「あの……わたし、この子に呼ばれて!」

 その言葉に、何か合点が入ったかのように少女は目を細めた。
 
「そうなのね。……まあ、そこの騎士さんとも積もる話はあるけれど、その前に――」

 すぅー…と深く息を吸うと、少女は黄色く輝く卵型の宝珠を取り出した。

「――まずは、一仕事片付けちゃっていいかしら?」
47 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/17(日) 19:45:44.08 ID:ng2NqTaP0

 そして、少女はゆっくりと宝珠を掲げる。奇しくも、それは先ほどのDボゥイとよく似通っていた。
 一際宝珠の輝きが強くなると、彼女の姿が変化していく。
 
(まさか、これは――!)

 一人戦慄したブレードは、腰のテックワイヤーでランサーを引き戻すと、身構えた。
 
(テックセット!?)

 まさか、自分と『奴ら』の他に、新たなテッカマンが誕生していたとでもいうのだろうか。
 そんな事を考えている間にも、彼女の変化は終了する。
 黄色・黒・白を基調としたベレー帽とブラウスと裾の短いスカート、という格好だ。腰につけたコルセットのせいで、豊かな胸がなおのこと目立った。
 
(いや、違う……? だが、なんだ? これは……)
 
 どことなく、音楽隊か何かを連想させるその少女は、くるりと踊るように回転。
 すると――
 まるで魔法のように、大量の――少なく見積もっても数百は下らないだろう――マスケット銃を空中に顕現する。
 
「さあ――」

 少女は、オーケストラの指揮者のように、スッと片手を挙げ――。
 
「いくわよ!!」

 振り下ろした。
 すると、同時に銃の群れが一斉に銃声の咆哮を上げて――。
 
 ブレードの周囲の使い魔の群れを、根こそぎ撃ちぬいた。
48 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/17(日) 19:46:59.08 ID:ng2NqTaP0
以上でBパート前半は終了となります。
次回は…最終回放映までには一話終わらせたいので木曜に。
49 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/04/17(日) 21:02:43.22 ID:ng2NqTaP0
あと、割とどうでもいいですが「いくわよ!」って掛け声がどうしても「いくわよ〜ん(某ボロット調で)」で脳内再生されるのはどうすればいいのでしょう
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/18(月) 01:05:26.97 ID:j5WKSo5a0
乙です
マミさん来たぁぁぁぁぁぁぁ!!
そう言えば、エビルも来てるんだよね。
シンヤ坊もQBのエマージェンシーコールに引き寄せられて来て、
いきなりの魔法少女&テッカマンの乱戦、とかなったりして、

続きに期待です
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/18(月) 01:31:46.15 ID:S7rxPfVf0

そういえば魔法少女も一種のテッカマンだよね、人体改造的な意味で
52 : ◆YwuD4TmTPM :2011/04/21(木) 21:37:42.08 ID:hOamhiE60
申し訳ありません、少々ペースが遅れています。
なんとか今日中には仕上げたいと思いますが、遅れたらごめんなさい
53 : ◆YwuD4TmTPM :2011/04/21(木) 22:04:14.71 ID:hOamhiE60
 もうもうと上がる土煙。
 成長していく生物のように蠢くそれも、やがては周囲に溶けて散っていく。
 周囲には、雨粒の跡のように無数の弾痕が穿たれている。だが、あれだけの数を射撃してブレードには傷一つないのは、彼女の腕が成せる技なのだろう。
 直後、軽やかな音を立てて、彼女が着地した。油断なく周囲に視線を走らせている彼女に合わせ、ブレードも周囲へと感覚を馳せていると――
 
 ふとした瞬間に、世界は復元された。
 
 あの悪趣味で退廃的な景色は消え去り、元の工事現場へと戻っている。
 彼女が穿った弾痕の跡すらなく、テックセットしたブレードと装束姿のマミがいなければ、今までのことがそっくりそのまま夢ではなかったのかと疑ってしまえるほどに。
 
「元に戻った……のか?」
「ええ。……ありがとう。あなたがいなかったら、私は間に合わなかったところだったわ」

 どう反応していいかわからず無言でいると、あ、と何かに気づいたように口に手を合わせる。
 
「ごめんなさい、名乗りもせずに失礼だったわね。……私は巴マミ。この見滝原を守る魔法少女よ」
「魔法……少女?」
「ええ、そうよ。詳しくはあそこにいる三人も加えてゆっくり説明して――」

 声が途切れる。
 同時に、ブレードとマミは同じ方向へと振り向いた。それは、まどか、さやか、アキの三人がいる場所のさらに向こうの、土砂が小高く積もれた小山。
 そこから、小さな物音が聞こえたからだ。
 そこにいたのは――。
54 : ◆YwuD4TmTPM :2011/04/21(木) 22:04:42.24 ID:hOamhiE60
「…………」
 
 一人の少女だ。
 紫を基調とした装束に身を包み、長く艶やかな黒髪が美しい。
 その少女は、厳しい目つきでまどかと、その腕の中の獣――マミの話だと確かキュゥべえ、といったか――そして、ブレードを睨んでいた。
 
「て、転校生? アンタまたまどかを狙ってきたのねっ」
「ほむら……ちゃん?」

 眉を逆立てて身構えるさやかと、それとは対照的に怯えた表情を見せるまどか。
 そんな二人をよそに、口を開いたのはマミだった。
 
「魔女なら逃げたわ。今回は譲ってあげるから、追うなら速くしなさい」
「私が用があるのは魔女じゃないわ。そこの――」
「あら、思ったより察しが悪いのね。――見逃してあげるから早く消えなさい、って言ってるのよ」

 変わらない微笑を称えたまま、マミはぴしゃりと少女――暁美ほむらの言葉を遮った。
 両手は空手のままだが、ほむらが何かの素振りを見せれば容赦なくあの銃撃を見舞うだろう。

「…………」

 ほむらはしばらくは我慢強く対峙していたが。
 やがて、ブレードをもう一度強く睨むと、身を翻して通路の陰へと消えた。
 
「へん、何よ。スカしちゃってさ」
「……さあ、説明する前に、まずはキュゥべえの怪我を治さなきゃならないわ。悪いけど、みんなこっちに来てもらえるかしら?」

55 : ◆YwuD4TmTPM :2011/04/21(木) 22:40:22.01 ID:hOamhiE60
 治療といっても、彼女の治療は医療キットを使うようなそれではない。
 マミがキュゥべえに手をかざすと、淡い光が漏れてみるみるうちに白い獣の傷がふさがっていく。それは、本当に魔法のようだ。
 やがて全ての傷が癒えるとキュゥべえはその四本の足ですっくと立ち上がった。
 
『……ふぅ。ありがとうマミ。助かったよ!』

 頭から漏れるのは少年のような声。
 それは、Dボゥイがデパート内で聞いたそれと同じものだ。

「ふふ、どういたしまして。でも、まずは私よりもこの子達とあの騎士さんにお礼を言うべきじゃないかしら? キュゥべえ」
『おっと、これは失礼したね』

 そして、その白い獣はまどかとさやかに向き直った。

『ありがとう、まどか、さやか』

 最後に、Dボゥイ――既にテックセットは解除している――とアキの方にその紅い瞳を向けると、
 
『……そして、ありがとう。テッカマン』
「…………」

 無言のまま、Dボゥイとキュゥべえは視線を交錯させる。
 なぜ、この獣が自分のことを知っているのか。
 だが、その思考はさやかの素っ頓狂な叫びで中断された。
56 : ◆YwuD4TmTPM :2011/04/21(木) 22:43:17.41 ID:hOamhiE60
「え、え!? なんであたし達の名前知ってるの? ていうかあの化け物って何? なんかDボゥイさんは変身するしこっちの人は魔法少女とかなっちゃうしっ!!」
「ええと、落ち着いてね? 一つ一つ説明していくから」

 鼻息荒く詰め寄るさやかをステイステイと落ち着かせながら、マミは続けた。
 
「簡単に言うと、さっきの騎士さんが蹴散らしていた化け物を『使い魔』っていうの。そして、その親玉が『魔女』。
 こいつらは、人の負の思念から生まれてきて、一般人を自殺などの"死"に誘うのよ。
 そして、それを狩ることで人々を守るのが、私たち『魔法少女』」
「でも、魔法少女って……そんなの、聞いたことないわよ。私たち」
「それはそうね。私たちは人知れず活動してるし、魔女や使い魔は基本的に普通の人には見えないから」

 戸惑い気味に声を漏らしたアキにも、頷いてマミは続けた。
 どことなく、少し得意げにも見える。
 そして最後に、マミはまどかとさやかに顔を向けた。
 
「そして、キュゥべえが見えるということは、あなた達にもその才能があるってことよ。鹿目さん、美樹さん」
「そうだね。……ねえ、まどか、さやか。僕は君たちにお願いをしたいんだよ」

 そう言うと、キュゥべえはかくんと可愛らしく小首を傾げる。
 
「僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ!」
57 : ◆YwuD4TmTPM :2011/04/21(木) 23:03:51.09 ID:hOamhiE60
「魔女と使い魔。そして……魔法少女、か」

 アキの言葉に、Dボゥイは無言を返す。
 あの後、少女たち三人を家まで送り届けた二人は、夜の見滝原を歩いていた。
 
「ラダムだけでなく、そんなものまでいたなんて、ね」

 ふう、と息をつくと身体の各所に熱い疲労が噴出してくる。
 なんだかんだで、今日はハードだった。思いがけないことだらけでもあったし。
 
「……どうしたの? Dボゥイ。そんな難しい顔をして」
「……いや、なんでもない」
「ふぅん。……ねえ、私が仮に魔法少女になって、あなたと戦えるように、って願ったら……あなた、どうする?」

 悪戯っぽくこちらを覗き込んでくるアキに応えて、Dボゥイは想像力をめぐらせる。
 一番最初に浮かんだのは、魔法少女のアキをまたいで通るラダム獣だった。
 わけがわからない。
 
「想像もつかないな」
「……はっきり言ったわね。しかも即答で」
「う……すまない、アキ」

 眉間に皺を寄せるアキに小さく謝りながら、Dボゥイは空を見上げた。
 スペースナイツの本拠地と、そしてあの宇宙にいた頃と変わることなく、星空は輝いている。
 
(…しかし、……魔法少女、か。エビルの一件は、これに絡んでいるのか……?)

 だが、星たちはDボゥイの疑問には答えずに、ただ瞬きを返すのみだった。
58 : ◆YwuD4TmTPM :2011/04/21(木) 23:07:14.94 ID:hOamhiE60
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 テッカマン。強大な力を持つその存在。
 ブレードを危険視したほむらは、Dボゥイの真意を確かめるべく、行動を開始する。
 一方、マミはまどかとさやかを引き連れて魔法少女体験ツアーを開始する。
 結界の中に潜む魔女。未だ現れないラダムのテッカマン。
 果たして、その中に隠された真実とは!?
 

「あなた、一体何なの?」
「あの子、放っておけないわ」
「ティロ・フィナーレ!!」
「ボルテッカァァァーーー!!!」

次回「やっぱり、気づいてないのね」

仮面の下の涙を拭え。
59 : ◆YwuD4TmTPM :2011/04/21(木) 23:09:10.41 ID:hOamhiE60
今日は以上となります。
やっと一話終わり。思ったより日にちがかかった……

次回は、日曜〜月曜くらいの投稿になると思います。
なにか描写があいまいでわかりにくかった場所の質問とか感想とかありましたら遠慮なくどうぞー
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/22(金) 00:09:42.70 ID:JQ+CZDOu0
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 01:08:35.49 ID:xleVOsHO0
QBがテッカマン知っているのかwwww乙です
62 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/04/22(金) 11:04:34.13 ID:aoHeboqAO
最終話視聴。

……うーん、リスペクトしようにも仕切れんなこれ。
かといってテッカマンの「設定上の」強さを適用するわけにもいかんし。

ただまあ、クライマックスでアンケートということで……

63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) :2011/04/22(金) 11:08:47.30 ID:aoHeboqAO
みんなで力を合わせたハイコートボルテッカと、奇跡で手にした圧倒的な力で叩き潰すブラスターボルテッカ、どちらが好きでしょうか?
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 11:21:58.25 ID:GEkC6+al0
みんなの力で奇跡を起こしてハイコート&ブラスターボルテッカでオーバーキル
65 : ◆YwuD4TmTPM :2011/04/22(金) 16:11:00.24 ID:5DZaGWPw0
オーケーブラザー。全部載せということだな?
任せろ!
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/23(土) 21:07:39.31 ID:1yMNjjMl0
まどかによって再構成された世界
テッカマンブレードに謎の少女「ホムラー暁美」や異星の生物「インキュベーター」加えて「スペースナイツ」が結成される。Dボゥイとホムラーは時に反目し合いながらも、地球を狙う悪党星団ワルダスターの魔の手と戦い続けることになる

いやあのラストだとそういうことに
67 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/04/23(土) 21:43:39.38 ID:pinLwOJt0
>>66
ほむらがソウルフルなアフロに…
68 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/04/23(土) 21:44:08.63 ID:pinLwOJt0
さて、ちょっと早いし分量もやや少なめですが第二話投下です
69 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/23(土) 21:44:35.04 ID:pinLwOJt0
 暁美ほむらは、考えていた。
 今いる場所は自室内にこしらえた空間。一人での考え事や、調達してきた武器をひとまず隠したりするのに使っている場所だ。
 広い部屋にはたくさんの椅子と机が放射状に規則正しく配置され、まるで時計か何かのようにも見える。
 そして、壁、床、天井は一面白で統一されており、どことなく生活感の無い模型じみた雰囲気を漂わせていた。
 
「…………」

 考えているのは、この前に目にしたあのイレギュラーだ。
 たしか――テッカマンブレード、と名乗っていたか。
 
(あの時使い魔に見せた近接戦闘能力だけでも、私や巴マミはもとより、まだ契約を行っていない『彼女』や、未だここにいない『彼女』を凌駕しかねない実力)

 そして、使い魔の群れがいよいよ押し寄せると、彼はチラリとまどか達の様子を伺いながら戦っていた。
 まどか達に使い魔の攻撃が行かないように――とも考えたが、振り向かずに槍を投擲して使い魔を寸断したことから考えると、それもおそらくは違うだろう。
 となれば考えられる答えは二つ。
 
 じっと息を潜めていたこちらに気づいて、警戒していたか。
 或いは、あの槍の他に、何かそれ以上の切り札を持っているか、だ。
 
(あの逡巡は、私に見せることを迷ったのか、それとも使うのを躊躇ったのかしら?)

 自分の攻撃のように、他人を巻き込む危険の高い広範囲攻撃……となれば、納得はいく。
 いずれにせよ――。
 
「確かめる必要があるわね。あのテッカマンを」
 
70 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/23(土) 21:46:15.14 ID:pinLwOJt0
 暁美ほむらは、考えていた。
 今いる場所は自室内にこしらえた空間。一人での考え事や、調達してきた武器をひとまず隠したりするのに使っている場所だ。
 広い部屋にはたくさんの椅子と机が放射状に規則正しく配置され、まるで時計か何かのようにも見える。
 そして、壁、床、天井は一面白で統一されており、どことなく生活感の無い模型じみた雰囲気を漂わせていた。
 
「…………」

 考えているのは、この前に目にしたあのイレギュラーだ。
 たしか――テッカマンブレード、と名乗っていたか。
 
(あの時使い魔に見せた近接戦闘能力だけでも、私や巴マミはもとより、まだ契約を行っていない『彼女』や、未だここにいない『彼女』を凌駕しかねない実力)

 そして、使い魔の群れがいよいよ押し寄せると、彼はチラリとまどか達の様子を伺いながら戦っていた。
 まどか達に使い魔の攻撃が行かないように――とも考えたが、振り向かずに槍を投擲して使い魔を寸断したことから考えると、それもおそらくは違うだろう。
 となれば考えられる答えは二つ。
 
 じっと息を潜めていたこちらに気づいて、警戒していたか。
 或いは、あの槍の他に、何かそれ以上の切り札を持っているか、だ。
 
(あの逡巡は、私に見せることを迷ったのか、それとも使うのを躊躇ったのかしら?)

 自分の攻撃のように、他人を巻き込む危険の高い広範囲攻撃……となれば、納得はいく。
 いずれにせよ――。
 
「確かめる必要があるわね。あのテッカマンを」
 
71 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/23(土) 21:46:49.62 ID:pinLwOJt0
 日が落ちるのはもう少し先であるはずだが、既に街灯はアスファルトに煌々と光を投げかけている。
 そんな見滝原の夕暮れの中を、Dボゥイとアキは歩いていた。
 Dボゥイが両手に下げているのは、近くのスーパーの買い物用ビニール袋だ。
 中に詰まってるのは、惣菜、カップ麺……と、いわゆるインスタント食品や出来合いの食料がぎっしりと詰まっている。
 それもこれも、二人ともに料理を作るスキルがないためであるのだが、ない物ねだりをした所でしょうがない。
  
「ごめんね、出来合いのものしか出来なくて……」
「いや、気にすることじゃない」

 歩道橋を二人で上りながら、目の端を下げて謝るアキに、Dボゥイは気にするな、と返した。
 と、二人はひとつの異変に気づいた。
 歩道橋の上。階段を上りきったL字カーブ部分に、一人の人影が見えたのだ。
 夕日を背負って、逆光の中に立つ彼女を、二人は知っていた。
 
「君は、この前の……?」
「ほむら」
「………?」

 どう反応すればいいのか考えあぐねていると、彼女は再び口を開いた。
 
「名前よ。私は暁美ほむら」

 一息に喋りきってふう、と吐息すると、彼女――ほむらはこちらをじっと見据えてくる。
 表情は、眉根を寄せた真剣なものだ。
 
「……あなた、一体何なの?」
72 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/23(土) 21:47:16.36 ID:pinLwOJt0
「…………」
「勘違いしないで。あなた達の事情になんて興味はないわ」

 そこまで言うと、突如彼女の姿が消え失せた。
 
「ただ……まどかを傷つけるつもりなら、私はあなたを許さない」
「!?」

 背後から聞こえた声に、Dボゥイは振り向く。
 彼女は、変わらないまま背後から話しかけていた。
 
「……さあ、答えて」
(瞬間移動……か?)

 お互いがお互いを警戒しながらも、そのまま時間が過ぎていく。
 と――
 
「………!」

 突如、ほむらの顔が跳ね上がる。
 そのまま、ある方向をじっと睨むと、ぼそりと呟いた。
 
「どうやら、答えを聞く暇もないようね」
「何だって?」
「魔女の結界に誰かが侵入してる。おそらく、巴マミね」

 Dボゥイに視線を元に戻しながら、ほむらは口を開く。

「そして、彼女は鹿目まどかと美樹さやかを伴っている」
「なんだと!?」
「そんな……いくらなんでも危険すぎるわ。どうしてそんなことを」
「巴マミは自分の孤独を癒すために戦いに身を投じていた。
 なら、仲間候補である鹿目まどかと美樹さやかを見つけた今、血気に逸って見せ付けているでしょうね。魔法少女の華やかさを」

 目を見開く二人をよそに、冷めたように目を細めて続けるほむら。
73 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/23(土) 21:49:14.84 ID:pinLwOJt0
「……どうするのかしら? テッカマンブレード」
「……マミの所に案内してくれ。彼女には、言わなければならないことができた」
「そう。なら、案内してあげるわ」

 強い視線をこちらに注いでくるDボゥイに臆することなく、ほむらは髪をかき上げながらその視線を正面から受け止めた。

「だけど、一つだけ誓って。まどかを、魔法少女の運命から守ると」

 そしてゆっくりと半歩下がり、
 
「できないと言うのなら……あなたを、ここで倒す。あなたの力は、不確定なままにしておくには危険すぎるわ」

 じゃき、と彼女が構えたのは――拳銃だ。
 中学生にはとことん似合わないそれを慣れた構えで構え、照準してほむらはこちらを睨む。
 悲壮な決意と、覚悟を、その瞳に宿しながら。
74 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/23(土) 21:55:30.11 ID:pinLwOJt0
今日は一旦ここまで。続きは明日投下します
75 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/04/24(日) 11:21:17.42 ID:43cR/dDz0
でも、これDボゥイが買い物袋提げたままって思うとかなりサマにならないよなぁ…
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/24(日) 21:40:38.28 ID:43cR/dDz0
「…………」

 身構える。
 
「私を倒そうというのなら、無駄よ。あなたが変身するのに、あの結晶が必要なことはわかってる」

 だからこそ、ここで仕掛けたのだ。
 ギチリ、と空間が軋みそうなくらいに緊張が二人の間に満ちていく。
 だが、
 
「いいわ。案内して」
「アキ!?」

 沈黙を破ったのは、アキだった。
 驚いて振り向くDボゥイをよそに、アキは口を開く。
 
「ここでお互いに時間を浪費しても仕方ないでしょう?」
「……ついてきて」

 了解と受け取ったほむらは、足早に階段を降りると、路地の隙間へするりと消えていく。

「アキ。……何故あんなことを?」
「先走ってごめんなさい。でも、時間がないのは事実よ」

 それに、と彼女はさらに続ける。
 
「あの子は、きっと悪いことを企んでる子じゃない。そんな気がするの」
「……何故わかるんだ?」

 聞くと、アキはじっとこちらの目を覗き込んできた。
 意図がわからずにぱちくりとまばたきするDボゥイに、アキは大きくため息をつく。
77 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/24(日) 21:41:07.47 ID:43cR/dDz0
「やっぱり、気づいてないのね」
「………?」
「あの子、最初に会った頃のあなたと同じ目をしていたもの」
「……俺に?」

 ええ、と頷くと、アキは眉尻を下げて微笑んだ。
 
「だから……あの子、放っておけないわ」

 あなたの力になりたいから。
 同じ覚悟を背負った目をしている彼女を、見過ごすことは私にはできない。
 などと話していると――
 
「……ついて来るの? 来ないの?」

 当のほむらが、路地の陰からこちらを覗き込んでいた。
 
「ええ、ごめんなさい。今行くわ」

 足早にほむらへ駆け寄るアキの背中を見ながら、Dボゥイは独りごちた。
 
(俺と同じ目……か)

 ならば、
 
(一体彼女は、どんな宿命を背負ったんだ……?)

 その問いに答えられるものは、未だいない。
78 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/24(日) 21:41:53.31 ID:43cR/dDz0
わずか2レスですが、今日はここまで。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/24(日) 22:00:22.81 ID:yhA1AoqS0

この世界がよくわからない
科学技術…宇宙開発はどうなってるのとか…
人類はどの程度ラダムと接触しているの?とか
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 22:10:53.16 ID:llgFyZAf0
投下乙!!

シンヤ坊の登場にも期待だ!!
81 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/04/24(日) 23:31:26.11 ID:43cR/dDz0
>>79
科学技術はそこそこ未来、程度ですね。
スパロボ型なクロスオーバー形式を意識しているので、あまり深く考えずに見ると作者が喜びますww

また、基本世界設定はブレードに準じてます。
なので、オービタルリングも存在してます。
ただ、見滝原はラダムの攻撃にまったく晒されていなかったため、まどか達にとってはラダムは「なんか実感湧かないなぁ」という感じです。テレビの向こうの紛争地域見てる気分というか。
そこらの説明描写入れようかなと思ってたんですが、テンポがどうしても悪くなるので結局入れられませんでした。すみません
82 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/04/25(月) 08:34:50.43 ID:Qzm6MVk50
>>80
ありがとうございます。
シンヤ坊もばっちり出ますのでご安心を。
ネタバレ都合上、いつとは言えませんがそう遠い先のことじゃないですよ!
83 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/04/25(月) 18:45:48.85 ID:K8BpyVYU0
というか、改めてブレードを見直したら時系列めちゃくちゃだな…orz

えーと、ブレード側の設定としては本編との相違点は、

・レイピア=ミユキは既に死亡済み。
・だがテキサス基地は崩壊しておらず、地球がラダムに占拠されたわけではない。

辺りでしょうか。
今後気づいたら追加していくことと思いますのでorz ご寛恕の程をよろしくお願いします
84 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/04/27(水) 06:43:47.41 ID:7s70/Vl60
すいません、再びペースが遅れております。
今週中にはどうにか…

また、第二話から地の文をやや簡潔になるようにしてみましたが、第一話と比べてどちらが読みやすいでしょうか?
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/27(水) 14:58:34.94 ID:fiUtA1/I0
一話の形式のほうが読みやすいなぁ
86 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/30(土) 00:09:02.90 ID:iXlauhwH0
 Dボゥイと暁美ほむらの邂逅から時をいくらか遡った、見滝原繁華街の一角にあるファストフード店。
 時計は昼下がりと夕暮れの境界線を示している。周囲のテーブルにも学校帰りの学生や、仕事を終えたスーツ姿の客らがひしめき合い、なかなかに忙しい光景だ。
 
「いやー、なんかワクワクしますよね! こういうの」
「さ、さやかちゃん。遠足じゃないんだから……」 

 ウキウキとした調子で身体を揺らすさやかに、それとは対照的にやや気後れした調子でまどかが横から応じる。
 とはいえ、まどか自身も期待感に胸を躍らせているのは同じだったりするのだが。
 それもそのはず、今日は巴マミが魔法少女がどういうものであるかを見せてくれる体験ツアーの日だからだ。
 一人用のテーブルを二つ連結した向こう、つまりまどかの対面に座るマミは、その様子にくすくすと笑っていた。
 
「うふふ。ところで、二人とも何か準備があるって言ってたけど、どんなものを用意してきたのかしら?」
「あたしはコレですね。一応護身用ってコトで」

 さやかは脇に床に置いてあったスポーツバッグを持ち上げると、端から柄を覗かせているバットを示した。
 そして、まどかは。
 
「わたしは……これです」
 
 ごそごそと鞄の中を探ると、一つのものを取り出した。それは、
 
「……ノート?」
「ね、見てもいいかな?」
「うん」
 
 一冊の大学ノートだ。
 灰色の表紙に、蛍光ペンであちこち装飾が描かれたその中身は、
 
「あら、これ私のコスチューム?」
「はいっ。変身した後の姿どうするか迷っちゃったら困るから、今のうちに考えておこうかなーって……」

 マミが興味を示してくれた事に、まどかは笑みを得て、だがしかし。

「…………」
「…………」

 沈黙が降りる。
 
(……しまった!)

 まどかは笑み顔のまま凍りついた。
 自分の空想好きな性分が災いして、こんな風に会話が滑ることは何度かあったから、自分でも気をつけていたつもりなのだけど。

(また、やっちゃった)

 なんというかすぐにでもトリプルアクセルで土下座して全力で逃げ出した気持ちに駆られるが、なんとか(ぎりぎり)堪えて、まどかはじっとりと脂汗を浮かべながら、さやかとマミの顔色を窺っていた。
 視線の先にいる二人は、まどかのノートを覗き込んだまま、無表情のまま無言でいる。
87 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/30(土) 00:09:57.17 ID:iXlauhwH0
 否、一つの変化はあった。
 二人のだんだんと頬が餅のようにぷくーっと膨らんで来て、
 
「……ぷ」

 あ、漏れた。
 
「あはははは、まどからしいやー!」
「い、一生懸命描いたのに笑うなんて二人ともひどいよう」

 涙目になってまどかは訴えるものの、さやかは慣れた調子で「あはは、ごめんごめん」なんて謝っていた。
 だが、さやかはふと真顔になると、
 
「……でもなんであたしのだけマミさんやあんたと違って鎧姿なの?」
「えっと、だってさやかちゃんってかわいいって言うよりカッコいい感じだから、Dボゥイさんみたいなカッコいい姿になるのかなって」

 男で少女っていうのもなんだか変な話ではあるけれど、と心の底で付け加える。
 
「……おい、それってあたしが女らしくないってことかい」
「あわわわわ、ごめんなさいっ」

 ドスの効いた声で詰め寄るさやかを押さえながら、あわあわと謝るまどか。
 その対面で、でも、とマミが口を開いた。

「でも、あんな姿になる魔法少女なんて私は見たことがないわね。……キュゥべえ、何か知らないかしら?」

 マミが横に視線を向けると、モグモグと一匹フライドポテトを齧っていたキュゥべえが答える。
 
『彼は魔法少女じゃないね。あれはテッカマンといって、魔法少女とは異なる存在なんだ』
「え? でも変身の仕方とかよく似てたよね……うーん?」
「こう、シュバッと掲げてビカーッと光ってグワガシーン!と変身するとことか、確かに似てるよね」

 おおむねその通りだけど、なんでも擬音で表現するのはさやかちゃんの悪い癖だと思うの。
 胸中で我知らずまどかが呟いていると。
 
 ………ポゥ。
 
 マミのソウルジェムが、輝いていた。
 決してムーンウォークではない。
 
「あれ、マミさん、なんだかソウルジェムの光り方が変わったような?」
「ソウルジェムはね、結界を探知するレーダーの役割も兼ねているの」

 目聡くソウルジェムの変化に気づいたさやかに、微笑んで答える。
 ソウルジェム。魔法少女であることの証。
 それは魔法少女そのものであるかのように、キラキラと美しく輝くのだ。
 
「……と、いうことは……」

 まどかの声にも緊張の色が混ざる。

「つまり魔女が近くにいるっていうことね。……ようやく尻尾を掴めたわ。今度こそ仕留めてみせる」
「おおっ、つまり魔法少女体験ツアー、開始ですねっ!」
88 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/30(土) 00:24:11.89 ID:iXlauhwH0
 ……そして、時間は現在へと回帰する。
 
 暁美ほむらの先導で、Dボゥイとアキの二人は路地裏へと走りこんでいた。
 
「ほむら、この辺りなのか?」
「そのはずよ」

 開発がもたらした弊害である、廃ビルがちらほらと見える路地裏。
 表面から見れば綺麗な見滝原も、少し裏側へ踏み込めばこのような光景はよく目にすることができるのだ。
 と、空間のある一点へと視線を走らせて、アキは小さく息を吐いた。
 一人の人間が、倒れている。
 若い女だ。スーツ姿なのを見ると、仕事帰りのOLといったところか。
 
「待って、あの人――!」

 アキの声でDボゥイとほむらも異変に気づくと、足早にOLへと駆け寄る。
 
「おい、大丈夫か――」
「触らない方がいいわ。このまま放って置いた方が彼女のためよ」

 助け起こそうとしたDボゥイを遮って、ほむらが呟いた。
 
「どういうことだ?」

 問いにはすぐに答えずに、ほむらはOLの首筋に注意深く視線を這わせる。
 やがて、何かを見つけたように目を細めた。
 
「……やっぱり。魔女の口づけね」

 疑問符を浮かべているDボゥイとアキに振り返ると、ほむらは再び口を開く。
 
「巴マミから説明は聞いてるわよね? 魔女は人間を『食う』と」
「ああ」
「彼女はその魔女からエサ候補として目星をつけられたってことよ。その人間にはこの魔女の口づけと呼ばれるマークが浮き出る。大元を断たないと、死に誘われるのは変わらないわ」
「…………」

 無言で腕組みをするDボゥイに、再びほむらが語りかけた。

「急ぎましょう。既に三人は結界の中にいる」
「ああ」

 小さくDボゥイは頷くと、アキに振り返った。
 
「アキ、その人を頼む。目を覚ますような事があったなら、何とか抑えていてくれないか」
「わかったわ。あなた達も気をつけて」
「ああ、わかってる。……行くぞ、ほむら」

 アキをその場に残すと、Dボゥイとほむらは廃ビルの中へと足を踏み入れる。
 その二人の後ろ姿は、やがて闇に溶けて消えた。
89 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/30(土) 00:25:17.54 ID:iXlauhwH0
Aパートはここで終了となります。

>>85
というわけで地の文増し増しでいってみようかと思います
90 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/04/30(土) 00:28:09.32 ID:iXlauhwH0
と、書き忘れましたが今日はここまでとなります。続きは日曜くらいに
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/04/30(土) 00:39:53.10 ID:O28J/UtE0
乙。
明日か…
最初の通学中の雑談にラダム侵攻の話題入れれたら良かったのにね
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/04/30(土) 16:14:43.84 ID:or1w2f9AO
>>91
ラダムの気配が全くないからね

でもこの後からでも、ニュースなりまどかの両親の会話なりでほのめかしていけばいいんじゃね
93 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/01(日) 14:25:12.86 ID:oIyxPa5B0
投下しますね。

>>91
>>92
ホントニネorz
もうちょっと後でそこら辺のフォロー入れようかと思います。
94 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/01(日) 14:25:40.97 ID:oIyxPa5B0
 魔女の結界の中を、三人は進んでいた。
 通路の内部は進む者達の嫌悪感を煽るかのようにねじれ、折れ曲がり、原色から原色へと目まぐるしく色を変える。
 そんな道中の三人にも容赦なく使い魔の群れが襲い掛かるが、それらの全てはマミの銃撃によって蹴散らされていった。

 華麗に、優雅に、そして凛々しく。
 
 踊るようにステップを踏みながら魔女の眷属を駆逐していく様は、まるでミュージカルか何かに見えるほどで、ここが命がけの場なんだとうっかり忘れそうなくらいに、まどかとさやかは、『魔法少女の戦い』に見入っていた。

「……ふう」
 
 使い魔の最後の一匹を撃ち抜くと、マミは油断なく周囲に視線を這わせ――本当に周囲に何もいないのを見てとると、ゆっくりと息を吐いた。
 
「奥に進むに連れて使い魔も多くなってきているわね。……二人とも、怪我はないかしら?」
「傷一つないですよ、マミさん! ばっちりバリヤー効いてましたし!」

 こちらに問いかけてきたマミに答えて、さっき見せたバットを掲げる。
 マミの魔法によって強化されたそれは、ファンシーな装飾がされてはいるもののその力は折り紙つきだ。
 
「そう、それはよかったわ。もうすぐ最深部に着くから……」
「そこに、魔女がいるんですか?」
「そうよ」

 マミは、こちらを遮ったまどかにも優しく頷いて答える。
 
「そろそろ正念場になるから、張り切って行かないとね」

 幾重にも重なる扉を潜り抜け、三人は広い空間へと躍り出る。

 そして、そこに――魔女は、いた。
95 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/01(日) 14:26:26.50 ID:oIyxPa5B0
 初めに感じたのは、鼻をくすぐる甘い香り。
 それらは、周囲を何十、何百と埋め尽くす薔薇から発せられているものだ。
 床も、壁も、天井をも埋め尽くすそれらは、見る者を圧倒する神聖じみた凄みを持っていた。
 そして、その何重もの薔薇のヴェールの向こうで、魔女は呆けたように足元の薔薇をじっと注視している。
 それだけならば、薔薇園の中で儚げな美女がアンニュイな午後を過ごしている……とでも思えただろう。
 
 最も、その美女の頭は溶け崩れた粘土細工のようになっているのだが。それも、台から床に叩きつけた有様に、だ。
 崩れた頭から覗く紅い光は、複眼か、はたまたそれもまた薔薇なのか。
 背中から生える蝶の羽は、その醜悪な姿からは毒蛾を連想させた。
 
「うっわ、グロい……」

 この上なく簡潔な感想を漏らすさやかと、
 
「あ、あんなのと戦わなきゃならないんですか……?」

 不安を顔に貼り付けた表情でこちらを見つめるまどか。
 
「大丈夫、私は負けないわよ。だって、」
 
 スッと前に出ると、マミは使い魔を蹴散らしたときのように二人の周りに結界を張る。
 その顔に浮かぶのは、少女にして戦士の微笑みだ。

「――私、こう見えても魔法少女なのよ?」

 そしてそのまま二人を残すと、ふわりと魔女の前に降り立った。
96 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/01(日) 14:27:11.14 ID:oIyxPa5B0
 ――その異形の名は、薔薇園の魔女ゲルドルート。
 その性質は不信。
 力の全てを自らが育てた薔薇のために使い、結界に迷い込んだ人間の生命力を吸い上げて薔薇に分け与える、受動的に人間を捕食する魔女である。
 大きさは……数メートルはあるだろうか。
 
 敵対者の存在を認めた薔薇園の主は、ゆっくりと鈍重な動きでマミへ向き直った。
 そして、背中の蝶の羽を羽ばたかせると、さっきと比べると冗談のように機敏な動きで魔女はマミに肉薄する。
 だが、そのくらいはマミも予測済みだ。
 
「はっ!」

 大きく横っ飛びにステップを踏んで魔女の体当たりをかわすと、崩れたバランスをさらにバク宙で立て直した。
 ズズン、と地面をその身体で抉りながら、五歩ほどの距離をスライディングして魔女も止まる。
 ……直撃しようものならば、ひとたまりもなく一瞬で踏み潰されるだろう。
 
 引きつった肺を落ち着かせるように深呼吸。口の中に溜まった唾を嚥下する。
 アドレナリンの苦味に思わず頬に力が入る。
 だが、それを無理やりに笑みに歪ませると、マミはスカートの端をつまんでちょこんとお辞儀してみせた。
 まるで、ダンスパーティで相手を見つけた少女のように。
 直後、スカートの中から長大なマスケットライフルが落ち、ざくりと銃口を下にして地面に突き刺さる。
 次に脱いだ帽子をぶん、と振るうと、さらに大量のマスケット銃がマミの周囲に顕現した。
 
「さて――」

 場は整った。名乗りの口上のように朗々と言葉をつむぎながら、彼女は足元の銃を引き抜き、構える。
 
「最後まで付き合ってもらうわよ!」
97 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/01(日) 14:28:01.47 ID:oIyxPa5B0
 言い終わると同時、引き金を引く。
 ズドン、と銃声が響き、放たれた銃弾は魔女の身体の表面で爆ぜた。
 続いてもう一撃。これもまた魔女の身体に痕を穿つ。
 さらに銃撃。
 銃撃。銃撃。銃撃。
 銃撃銃撃銃撃銃撃銃撃銃撃銃撃銃撃銃撃銃撃!!
 
 最後のひとつの銃を使い切ると、マミは硝煙の中に消えた魔女を油断なく睨む。
 ……だが、それ故に、反応が一瞬だけ遅れた。
98 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/01(日) 14:28:50.41 ID:oIyxPa5B0
「――――ッ!?」
 
 不意に、踵が自分の意に反して持ち上がる感触に、思わずマミは足元に視線を走らせる。
 見ると、足元の地面から次々に使い魔が顔を出し、マミの身体を駆け上がっていく。それは、さながらに種の発芽を連想させた。
 
「この……!」

 腕を振るって振り払おうとするも、身体にへばりついた使い魔は少女の力だけでは如何ともし難く。
 
「……ッ!」

 やがて、毛虫のように纏わり着いた使い魔たちは一本の薔薇の蔓へとその姿を変えた。
 それは、ググッと万力のようにマミの身体を縛り上げる。
 ギシギシと骨が軋み、知らず苦鳴が漏れた。
 
「くっ……!」

 そして次の瞬間。
 マミは宙を舞っていた。
 ごうごうという耳鳴りと共に三半規管が悲鳴を上げ、吐き気とも、寒気とも、或いは恍惚ともつかぬ感触がぞわぞわと皮膚を這い回る。
 その刹那の後、拘束されたマミは壁に叩きつけられた。
 
「か―――は」

 視界が白黒に瞬き、肺が痙攣して喉から笛のような音が漏れる。
 呼吸どころか、息を止めることすらできないような苦痛。
 
99 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/01(日) 14:29:18.15 ID:oIyxPa5B0
「ま、マミさん――!」

 遠く響くまどかとさやかの声。
 そうだ。私は独りなんかじゃない。こうして、私を応援してくれる人がいるから、私は戦えるんだ。
 ぼやけた視界の向こうにいるはずの、後輩候補二人へとマミは視線を投げて――
 
 ――そこで、彼女の意識は戦慄と共に凍りついた。
 
 二人を守っていた結界が、解けている。
 あの叩きつけられた時の衝撃で、集中が乱れたせいだ。
 もはや、あの二人を守るものは何もなく。
 今現在の彼女たちは、屠殺場の中にいる子羊となんら変わりない。
 それを裏付けるかのように、使い魔は鋏を手に二人の後ろから飛び掛った。
 
「鹿目さんッ!! 美樹さんッ!!」
「――え?」
「――ん?」

 さっきまでの泰然とした仮面をかなぐり捨てて叫ぶ先輩に、少女二人はゆっくりと後ろを振り向く。
 だが、鋏の切っ先は、もはや眼前まで迫っていて――
100 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/01(日) 14:30:36.81 ID:oIyxPa5B0
今日は以上となります。
続きは、火〜水曜くらいにまた。
あと、今回のBパートは三回に分けることになるかと思います。

窮地に陥るまどかとさやか。果たして彼女らの運命は…?
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/05/01(日) 14:31:59.57 ID:CanJl5Ri0
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/05/01(日) 16:00:30.36 ID:LWRoT6GAO
くそぅ良いところで区切られた…

乙! 次回楽しみにしている
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/03(火) 22:36:41.17 ID:Dlyc+y8m0
「テックランサーッ!!」

 ――そして、二人に届くこともなく寸断された。
 振り向いた二人の視界の中。己と使い魔の群れに割り込むように、その人の背は入り込んでいた。
 次の瞬間。今度は薔薇の蔓に縛られたマミの方へ、手にしていた槍を投じる。
 くるくると回転しながら、緩いカーブを描いて飛ぶそれは、紙を切るようにたやすく蔓を両断した。
 そして、ゆっくりと彼はこちらに振り向く。
 白い鎧姿。仮面の向こうに見える緑色の瞳。マミとは正反対に無骨で、だが力強さを感じるシルエット。
 その人物は、こちらの姿を認めると仮面越しに口を動かした。
 
「三人とも、無事だな?」
「――Dボゥイさん!」

 両断され、黒い煙と化して消える蔓を解きながら、マミはまどかとさやかを後ろに守りながら魔女と対峙する騎士――テッカマンブレードをその視界に捉えていた。
 
「……ありがとう。危ないところだったわ」
104 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/03(火) 22:37:33.47 ID:Dlyc+y8m0
 安堵の息をつきながら、マミは礼を言う。
 だが、ブレードの反応は彼女の予想とは違っていた。
 腰からのワイヤーを放って投げた槍を回収した彼は、こちらに首だけ向けると、

「……マミ。君には後で話さなければならないことがある」
「……え?」

 こちらを鼓舞しようとするでもなく。ただ、静かな口調で呟いた。
 でも、それも少しの間だけのこと。
 
「だが、まずは……」

 巻き上げたワイヤーの先端に括りつけられた槍――テックランサーを再び握ると、今度こそブレードは魔女へと向き直る。

「こいつらを片付けてからだ!」
 
 吼えると同時。再び四方八方から飛び掛って来た使い魔の第二波を、ランサーを高速で回転させながらなぎ払った。
 
「――ええ!」

 マミも応じると、まどかとさやかの周囲に再び結界を展開する。
 今度こそは、手抜かりはしない。
 痺れていた肺を、震えていた手指を元通りに動かし、再び少女は銃を取った。
105 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/03(火) 22:38:18.89 ID:Dlyc+y8m0
 まどかとさやかが結界で保護されたのを確認すると、ブレードもまた跳躍した。
 背部のスラスターが咆哮を上げ、身体が重力をねじ伏せるだけの推力を得て飛び上がる。
 そのまま、魔女から十メートル程の距離で一旦停止すると、ブレードは目を細めた。
 
(あれが、魔女か――!)

 大きさはラダム獣より一回り大きいくらいだろうか。
 その外見の醜悪さ、そして触手による攻撃、というところもよく似てはいるが――
 そう独りごちる前に、魔女の突撃が来た。
 
「くっ!」

 身を翻して回避する。
 音もなく通り過ぎた魔女を視線で追いながら、ブレードはビリビリと襲い掛かる風圧に戦慄した。
 
(バーニアの類もなく、羽根を動かすことすらもなく飛行するか……!)

 確かに、出鱈目な存在だ。
 加えて――。
 
「ぬんっ!」

 背後から迫り来る使い魔――こちらは地上を這いずる毛虫型とは違い、布オバケに蝶の羽根を生やした個体だ――をランサーでぶち抜いた。
 使い魔の攻勢もまた、止むことはなく。
 現在のブレードは、使い魔と魔女の波状攻撃に晒されていた。
 
(やはり数が多い……まずは雑魚か、大元をどうにかしなければ)
106 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/03(火) 22:39:09.73 ID:Dlyc+y8m0
 だが。
 
(これだけの広さを持つ空間ならば……!)

 いける。
 
 再び迫る使い魔を前に、ブレードは叫んだ。
 
「クラッシュ――イントルード!!」
107 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/03(火) 22:40:54.12 ID:Dlyc+y8m0
 叫ぶと同時。ブレードに一つの変化が起きる。
 まず頭部横、アンテナ状の角が後ろに倒れた。次に、脇下のフィンが展開。
 そして、全身の装甲が変形し、全バーニアユニットが一つの方向を向いていく。

 クラッシュ・イントルード。それは、テッカマンの超高速機動戦闘形態。
 理論上という前置きがつくものの、その最高速は亜光速にすら匹敵する。そのスピードたるや、ただ余剰エネルギーで発される衝撃波だけでラダム獣の群れを粉々に破壊できる程だ。
 
「うおおおーーーっ!!」

 最高速には程遠いものの、音を背後に抜き去るスピードで天駆ける白騎士が乱舞する。
 その身は既に肉眼で捉えられるようなレベルではなく、ただ余剰エネルギーであるフェルミオン粒子の残滓と、それらが現れるたびに粉々に砕け散って消える使い魔たち残骸だけが、何が起きているのかを物語っていた。
108 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/03(火) 22:42:16.21 ID:Dlyc+y8m0
 そして。

「……何、これ」
「え、え、何? 何が起こってるの?」

 結界の中からそれらを眺めていたまどか達には、何が起こっているのかも見当もつかなかった。
 それはそうだろう。彼女達からしてみれば、ピカピカと辺りが緑色に光ったかと思うと、勝手に使い魔が砕け散って結界がびりびり震える、ということくらいしか知覚できないのだ。
 既に戒めが解けたマミも、ぽかんと使い魔を蹴散らすブレード(の発する残光)を見つめていた。
 魔法少女としての経験、そして生まれ持った射手の素質である生来の目の良さから、『何をしているか』は何とか理解できたものの、未だ思考はそこから停止したままだ。
 ――あんな馬鹿馬鹿しいを通り越して荒唐無稽な戦い方、魔法少女ができるはずがない。
 キュゥべえが言っていた、『テッカマンとは魔法少女とは違う存在』という言葉が、今はよく理解できた。
109 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/03(火) 22:43:05.62 ID:Dlyc+y8m0
と、風呂行ってきますので一旦休憩です
110 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/03(火) 23:43:35.26 ID:Dlyc+y8m0
 と――。
 
「■■■■■――――!!」

 突然、魔女が掻き毟るように上げた咆哮に、思わずマミは振り向いた。異変に気づいたブレードも、空中で一旦停止して油断なく様子を窺う。
 幾重もの銃撃をその身に浴びて、小揺るぎもしなかった魔女が。
 今は、大きくたじろぎ、狼狽していた。
 その目線は、マミでもブレードでも、無論まどかやさやかでもなく、周囲をせわしなく駆け回っている。
 
 その周囲は、クラッシュ・イントルードによって見るも無惨に破壊されていた。
 まるで巨大な獣が暴れたかのように、爪跡のような傷跡が幾重にも走っていた。
 そして、その中にあるのは――。
 
 ――ズタズタに切り裂かれた、幾輪もの薔薇の花。
 
 瞬間、マミの魔法少女としての思考がめまぐるしく回転を始める。
 
 ――使い魔が持っていた剪定鋏。
 ――まるで蝶と茨を組み合わせたかのような形の魔女の口付け。
 ――結界の最深部を埋め尽くす、薔薇の花。
 ――そして今、魔女が狼狽している原因は?
111 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/03(火) 23:45:10.47 ID:Dlyc+y8m0
(そういう……ことね!!)

 一つの解答へと行き着いたマミは、ブレードへと振り向いて叫ぶ。
 
「Dボゥイさん! 奴らの弱点は、周囲の薔薇よ! それを破壊すれば、平静を崩せるはず!」

 そう。
 薔薇園の魔女ゲルドルートにとっては薔薇園がすべて。
 大事に結界の奥にしまい、決して色褪せないよう使い魔たちに世話をさせ続けてきたその薔薇は、おそらく魔女にとって命より大切なものなのだろう。
 それが破壊されつくされればどうなるか。想像には難くない。
 
「おうっ!」

 ブレードは頷くと、再びクラッシュ・イントルードへと移行する。
 ただし、今度は壁や地面、天井をかすめるように、魔女を中心としたゆるやかな螺旋の軌道を描きながら、だ。
112 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/03(火) 23:46:19.43 ID:Dlyc+y8m0
「■■■■■――――!!!!」

 爛れたように垂れ下がる魔女の顔が、さらに大きく醜く歪んでいく。
 そこから発せられるのは、タールのようにどす黒い殺意と狂気。
 魔女の目に映るのは、自らの領域である薔薇の園をズタズタに破壊しつくし、蹂躙する忌々しい騎士のみだ。
 
 ――そして、それこそが魔女の犯した致命的なミス。
 
「――惜しかったわね?」

 マミが自らの襟に巻いた、細いリボンタイをほどき、引き抜く。そして、
 
「はっ!!」
 
 投擲。
 それは、一瞬で数倍・数十倍にも伸び、マミの意のままに魔女へと殺到した。
 濁流のようなリボンに絡み取られ、ようやく魔女は自分が罠にはまったのだと自覚した。
 だが、時は既に遅し。ぎりぎりと締め上げるリボンによって、魔女の動きは完全に封じられたのだ。
 地面に落ちていたマスケット銃を手に取る。

 そしてそのまま、マミは大きく跳躍した。
 跳躍の軌道が上死点に差し掛かったその瞬間。先ほど拾った銃が、より巨大なものへと変貌する。
 現実世界には古今東西存在するはずのない銃。それを手に取り、ゆっくりと狙いを定める。
 
113 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/03(火) 23:46:47.44 ID:Dlyc+y8m0
「Dボゥイさん! 今よ!」
「うおおおおおーーーーっ!!」

 呼応するように、ブレードもクラッシュ・イントルードを解除。
 両手を腰溜めに構えると、全身にあらん限りの力を込める。
 その刹那、ピシリとブレードのショルダーアーマーに線が入る。
 重い音を立てながら展開するショルダーアーマーから顔を覗かせたのは、昆虫の複眼を連想させる、レンズとも宝珠ともつかない緑色の球体。それは、合計で六つあった。
 
 キィィィン、と高い音を立てて緑色の燐光がレンズへと集まっていく。

「ティロ――」
「ボル――」
「フィナーレ!!」
「テッカァァァーーーーーッ!!!」

 そして、マミの巨大な銃から放たれた弾丸が魔女を貫き。
 ブレードの肩から放たれた、緑色の奔流が魔女を跡形もなく消し飛ばした。
114 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/03(火) 23:47:29.45 ID:Dlyc+y8m0
今日はここまで。次回は今週水曜〜金曜となります。
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/03(火) 23:50:27.73 ID:1vzYN48ho


二人ともオーバーキル過ぎね?ww
特にマミさんは魔翌力節約すべきなのにww
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/05/03(火) 23:57:27.07 ID:qcCayJIi0

>>115
呪いや絶望でソウルジェムが濁るなら
マミさんは厨ニ力である程度それを防いでいるとみた
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) :2011/05/05(木) 18:40:45.75 ID:sv2Vr5Ar0
おっつ
なるほどQBがラダムを知らないはずはない

ところでSSとは直接関係ないんだけど、ミユキのクリスタルのかけら持ったまま
テックセットして大気圏外まで移動しちゃったって回は、第何回だっけ?
ふと気になりだしたんだが、26〜38話を早送りしながら見ても見つからない
気になって気になって仕方ないんだ、誰か教えてくれ……
118 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 18:53:19.97 ID:Ma9f8Ge/0
>>115
ほら、カッコいいですしw

>>116
Dボゥイのように魔女への明確な憎しみがあれば別ですが(もっともあっという間に魔女化しちゃうでしょうけど)
ある程度浸れないとやってけないでしょうしねえ、魔法少女なんて。

さて、19:00から投下いたします
119 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 19:00:35.83 ID:Ma9f8Ge/0
 魔女が消滅し、そして解け崩れるようにあの狂った世界も崩壊する。
 そして、世界は再び帰還した。
 
「…………」

 無言のまま、ブレードはテックセットを解除したDボゥイは、
 
 ――カツーン。
 
 と、背後から聞こえた物音に振り向いた。
 そこに落ちていたのは、黒い黒い、卵型の石。
 
「……これも、ソウルジェムか?」
「違うわ。それはグリーフシードよ。魔女が落とすもので、魔法少女のソウルジェムを回復させるものなの」

 黒いソウルジェム――グリーフシードを拾い上げて眺めるDボゥイに、穏やかに教えながらマミが近づく。
 距離にして約三メートル。そこまで近づいて、マミは足を止めた。
 
「それで、話って何かしら?」
「………」

 ゆっくりと振り向くと、Dボゥイもまたマミへと歩み寄る。
 その表情に浮かぶのは、勝利を分かち合う喜びでもなく、戦いが終わった安堵でもなく――
 ただ、むっつりとした苦い顔だ。
120 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 19:03:46.96 ID:Ma9f8Ge/0
あ、ちなみに投下中でも雑談は気兼ねなくどうぞ
121 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 19:05:21.59 ID:Ma9f8Ge/0
「え、えーと……どうしたのかしら?」

 気圧され、魔法少女の変身を解きながらマミは後ずさった。

「……俺が」

 まどかやさやかには聞き取れないくらいの小声で、静かにDボゥイは事実のみを告げる。
 
「俺が後一歩遅れていたら、あの二人は助からなかった」
「…………!」

 びくり、と。
 全身を大きく震わせて、マミはさらに一歩後ずさる。
 もはや彼女の心の中では、勝利の余韻も何もかも木っ端微塵に打ち砕かれていた。
122 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 19:08:46.75 ID:Ma9f8Ge/0
「俺は、魔法少女じゃない。だから、君たち魔法少女と魔女の戦いがどんなものかも知らない」

 一歩。
 マミが後ずさる。

「……だが、それが死と隣り合わせの、文字通り命がけであることはわかる。……それに、君はあの二人を巻き込んだんだ」

 二歩。
 Dボゥイが歩み寄る。

「……だが、それが如何に孤独で辛い戦いであるかも、俺にはわかるよ」
 
 雨に濡れた子犬のように、震えながら俯くマミに、Dボゥイは膝立ちになって目線の高さを合わせた。
 そのまま、逃がさないように力強く、しかし諭すように優しくマミの両肩をつかむ。
 
「だけど……仲間が、友人が欲しいというのなら、やるべき事は違うだろう?」
「あ………」

 初めて、マミがこちらを見た。
 頼りなげに震えるその瞳は、たまった涙が波紋のように震え。
 ひび割れ、くしゃりと歪んだその表情は、さっきまで凛としていた戦士としてのそれではなく。
 ここにいるのは、ただの十五歳の女の子だ。
123 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 19:10:12.22 ID:Ma9f8Ge/0
「わた、私……」
「……すまない、俺も言葉が過ぎた」

 かたや自ら孤独な戦いに身を投じ、しかしスペースナイツの仲間達と共に戦うことができた自分。
 かたや孤独を恐れ、しかしその孤独が癒されることはなく、目の前の蜘蛛の糸にすがってしまった彼女。
 今の自分になら、理解できる。ずっと独りぼっちで戦い続ける辛さを、苦しさを、その悲しさを。
 だからこそ、こんな行為に出てしまった彼女を咎めこそすれ、責めることはDボゥイにはできなかったのだ。

「それに、君が謝るべき相手は俺じゃない」

 不意に、Dボゥイが視線あらぬ方向へ外した。
 マミもそれを追いかけると――そこには、まどかとさやかの二人がいた。
 
「鹿目さん……美樹さん……」
「マミさん……」
124 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 19:11:01.37 ID:Ma9f8Ge/0
「……ご、ごめんなさい。私が至らないばっかりに、あなた達を危ない目に遭わせちゃったわね」

 謝ってくるマミに、二人も慌てて首を横に振った。

「そ、そんなことないです!」
「そうですよ! 今日はたまたまちょっと失敗しちゃっただけですって!」
「ううん、いいのよ。この埋め合わせはまた今度、ね?」
 
 まだ目の端に涙が滲んではいたが、それでもにっこりと、首を傾げて微笑むマミ。
 その微笑ましい光景に、Dボゥイも我知らず安堵の息をつく。
 と、さやかが何かに気づいたようにこちらに向けて口を開いてきた。
 
「でもDボゥイさん、なんでまたここがわかったんです?」
「私が案内したからよ」

 不意に――。
 どこからともなく声がすると、フワリ、とこれまたどこからともなく彼女はマミの前に降り立った。

「転校生!?」
「ほむらちゃん!?」

 降り立ったその少女の名を、まどかとさやかがそれぞれの呼び方で叫ぶ。
125 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 19:11:37.09 ID:Ma9f8Ge/0
「…………ッ!」
 
 身構えたのは、無論、マミだった。
 足元のキュゥべえを抱き上げると、己の身体で庇うように抱きしめる。
 
「何しに来たの? またキュゥべえをいじめに来たのね?」
「まどかが既に接触した以上、もうそいつを潰しても何の意味もないわ」
「……ッ」

 潰す、という言葉に反応して、マミの姿勢がいっそう固くなる。
 ギリ、と軋む音すら発しそうな程に眉根に皺を寄せたその顔は、敵意という色、ただ一つに染め上げられていた。
 
「それに、言わなかったかしら? 今日の私は、彼を案内しただけ」
「彼……?」

 一瞬、訝しげな表情をしたマミは、
 
「…………!?」

 ハッとしたように、一人の人物へと視線を注ぐ。
 その先にいたのは――Dボゥイだ。
 
「……そう。そういうことだったのね」
126 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 19:12:26.94 ID:Ma9f8Ge/0
 暁美ほむらは、Dボゥイを案内してここに連れてきた。
 ということは――二人は、協力関係にあるということだ。
 キュゥべえを殺そうとする者と、協力しているテッカマンブレード。
 ……マミにとって、敵と断じるには、十分理由だった。
 
「……マミ?」

 そんな事は知らず、Dボゥイは心配そうに歩み寄るが――。
 マミは、さっきと同じように後ずさった。
 さっきと唯一違うのは――それに込められた、明確な敵意と拒絶の意志だけ。

「……大丈夫です。一人で帰れますから」
「…………」

 くるりとこちらに背を向けてキュゥべえと共に去るマミを――。
 無言のまま、Dボゥイは見送っていた。
127 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 19:13:08.84 ID:Ma9f8Ge/0
一旦ここまで。
続きは21:00〜22:00くらいにまた投下します。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/05(木) 19:25:20.04 ID:UHPKiRsVo
ならば一旦乙
マミさん頑なやね
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/05(木) 21:24:41.20 ID:tGqnKDir0
投下乙
原作と似た流れになってるな〜
「敵」の言うことを冷静に受け止められるのかどうか、マミさんの課題やね
130 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 21:44:17.53 ID:0DR0ip660
大変長らくお待たせしました。21:50から投下再開します。
131 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 21:50:09.26 ID:0DR0ip660
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 沈む夕日は確かな温もりを与えてくれていた。
 まるで、これが最後だから、とでも言うように。

「…………」

 マミの自宅であるマンションの一室。
 窓から見滝原の街並が一望できるリビングの片隅で、マミは膝を抱えて座っていた。
 
 お洒落なテーブルの上に乗っているのは、これまた可愛らしい、三つの手作りケーキ。
 今日の魔女退治が終わったら、まどか、さやかの三人で食べようと、そう決めていたはずだったのに。
 もう、全ては台無しになってしまった。
 
 ぎゅうっと自分の身体を抱きしめながら、膝をより垂直に立てて縮こまる。
 そうやって無限に小さくなれば、この世から消えてなくなれるのかな、と、そんな愚にもつかないことを考えながら。
132 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 21:51:06.27 ID:0DR0ip660
「……ダメね、私は。本当にダメ」

 数時間前には弾むように高鳴っていた心は、今は鉛よりも重く。
 滾りに滾らせていた熱い想いが抜け落ちた胸は、ぽっかりとした寒い空虚感に苛まれる。
 フェルトに染み込む水のように、じわじわと心を蝕む後悔に喘ぎを覚え、息苦しさから逃れるように、マミは自分の膝の間に頭を深く埋めた。
 
 孤独だった。寂しかった。いつも傍には大切な友達であるキュゥべえが居てくれるのに、私はいつまでも孤独から逃れられずにいる。
 寂しい、とマミは思った。一度思い浮かべてしまえば、それは怒涛のように有無を言わせずに他の感情を踏み潰し、押し寄せてくる。
 背筋が凍りつくほどに、心が寂しさに覆われていた。
 
 何度乗り越えようと思っても、何度忘れようと願っても、何度振り切ろうと足掻いても。
 その苦味を伴う塩辛さは、初めから何も変わり映えすることのなく。
 それは哀切を伴うほどに、いっそ笑い出したいくらいに、かつてのままで。
133 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 21:52:25.05 ID:0DR0ip660
「………ぐすっ。ひぐっ、ふくっ、ふぇぇ」

 身体の奥から溢れてくるものを押し留めるように、スカートに顔を押し付ける。洟を啜る。だめだ、耐えられない。

(父さん……母さん……)

 記憶にある、今は亡き両親の顔を思い出しながら、マミは泣いた。
 頭の奥で、コーヒーカップに放り込んだ角砂糖のように、何かが溶け崩れていく。
 使命、建前、意地、プライド。そんな自分を護ってきた鎧が、バラバラと剥がれては消えていく。
 ……このまま独りでいることが、どうしようもなく怖かった。

「……ねえ、キュゥべえ。私ね」

 呼ぶ。友の名を。
134 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 21:53:14.31 ID:0DR0ip660
『なんだい?』

 返事は、すぐに帰ってきた。
 ずっと横にいたわけだから、当たり前ではあるのだが。
 
「私ね、みんなを守りたいから、魔法少女としてずっと独りで戦ってきたの」
『うん』
「でもね。一緒に戦ってくれる仲間が、一緒にいてくれる友達が欲しいって思ったのも、本当なの」
『うん。それで?』
「だから、鹿目さんと美樹さんに、魔法少女としての生き方とか、色々教えてあげたいな……って思っていたんだけど」

 ――――仲間が、友人が欲しいというのなら、やるべき事は違うだろう?――――
 
 自分が去る前。Dボゥイが自分に言ってくれた言葉がリフレインする。
 魔法少女とは異なる、圧倒的な異能を持った騎士。
 暁美ほむらと協力関係にある、キュゥべえの、そして自分の敵。
 だけど。
 あの言葉だけは、不思議とマミの胸から離れてくれることはなかった。
135 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 21:54:11.19 ID:0DR0ip660
間違ってたの……かな。私」
『残念だけど、僕からはその辺はなんとも言えないな』
「そっか」
 
 返されたのは、彼女にとっては何の影響ももたらさない一般論。期待はしていたけど、どこかでこんな答えだと半ば解っていた気もする。
だが。

『……でも、あのテッカマンには気をつけた方がいいかもしれない』

 続いて告げられた言葉は、マミにとって予想外のものだった。
 頬に残る涙の痕を拭うことも忘れて、マミは顔を上げる。
 
「……Dボゥイさん、を?」
『そうだよ。第一テッカマンは本来人間を守るなんてことするはずがないし、何より彼は暁美ほむらと共に現れたんだ。何か裏があるかもしれないよ』
「……ちょっと待って」
『なんだい?』
136 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 21:55:13.86 ID:0DR0ip660
 キュゥべえは律儀に自分の話を中断して、小首を傾げながらこちらの顔を覗き込んできた。
 だが、そんなことはマミにはどうでもよかった。
 この白い獣は、たった今、何か致命的なことを言った。

「今の、どういうこと?」
『ん? 暁美ほむらと一緒に現れたことかい?』
「その前」
『テッカマンには気をつけたほうがいい?』
「その間」
『……テッカマンが人を守るはずがない?』
「……それよ」

 それだ。
 そういえば、テッカマンは魔法少女とは異なる存在だとキュゥべえは言っていたが。
 じゃあ、そもそもテッカマンとは何なのだろう。
137 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 21:56:13.60 ID:0DR0ip660
『ああ、そうか。そういえば言ってなかったね。じゃあその辺について僕の知ることを教えておこうかな』

 言うと、キュゥべえはぴょんとテーブルに飛び乗ってくる。
 ケーキに触れないように位置取りしてくるのは、彼なりの優しさなのだろうか。
 
『ねえ、マミ……』

 こちらをじっと覗き込んでくるキュゥべえ。
 仮に、この獣に表情があったとしたら、得意げにしたり顔、といった顔をしていただろう。
 だが、キュゥべえにそんな「機能」はなく。
 また、マミもそれに気づけるほど「真実」にたどり着いているわけでもなかった。
 そして、キュゥべえは再び思念を放つ。
 
『――"ラダム"って、知ってるかい?』
138 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 21:56:47.63 ID:0DR0ip660
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
 他者への疑惑は己を苛み、己への嫌悪は友への信頼を蝕む。
 ならば少女よ、銃を取れ。
 己の孤独を癒すために。己の恐怖を殺すために。
 だが知るがいい、魔を手繰る少女よ。
 恐怖とは、自らの危機を告げる警鐘でもあるということを。

「え、ええと。お名前を聞いてもよろしいですか?」
「急がないと、三人が危ないわ!」
「……一体何だっていうの?」
「黒い……テッカマン?」

次回「もう何も怖くない」

仮面の下の涙を拭え。
139 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 21:59:07.46 ID:0DR0ip660
今日の投下分はこれで以上です。

ラダムとテッカマンの関係をキュゥべえから明かされたマミ。
果たして彼女の選ぶ道とは……?
そして、「あの展開」は果たしてどうなるのか。

原作展開からの分岐点には、もうすぐそこに迫っています。
次回もまたお楽しみに!

あ、ちなみに投下は土曜日〜日曜日になりそうです。
140 : [sage]:2011/05/05(木) 22:01:19.89 ID:5dEf3Xbko
面白いけどスレ開くまではやてブレードとのクロスかと思ってた

永遠の孤独は名曲
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/05(木) 22:02:16.43 ID:UHPKiRsVo
マスカレードも良いよ!


乙だよ!
142 :IPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 22:04:45.06 ID:5dEf3Xbko
レーズンも良いよね

乙なのです
143 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 22:05:06.83 ID:0DR0ip660
>>117
キュゥべえの正体からすると、知らない方がおかしいですね、確かに。

>>128
原作よりもほむほむへの敵愾心増し増しなマミさんとなっております。
シナリオ展開上仕方ないのですが、今は耐えて次の展開を待ち望んでください!

>>129
ミユキの一件があるので、年の近いマミさんにはDボゥイは優しいですね。
しかし、今回の一件でそれもどう作用するのか……?

>>140
あの電撃大王に載ってた剣道漫画でしたっけ?
すみません、あまりよく読んでないもんでうろ覚えです。
144 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 22:07:44.48 ID:0DR0ip660
>>141
>>142
ENERGY OF LOVEもLONELY HEARTもいいよ!
特にLONELY HEARTは個人的にほむらのキャラソンにしたいくらい歌詞がハマってる名曲。

まどかとROUND ZERO(仮面ライダー剣第一期OP)と同じくらいハマってると思ってます個人的には
145 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/05(木) 22:08:25.93 ID:0DR0ip660
すいません、上に>>140も追加でorz
146 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 08:31:22.33 ID:Gxb3JhwE0
大変長らくお待たせしました。

8:35から投下を始めます。
147 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 08:36:52.36 ID:Gxb3JhwE0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 見滝原の、とあるビジネスホテルの一室。
 ここ見滝原を訪れてからの拠点としているその場所に、Dボゥイはいた。
 安いホテルでシングルではあったが、そもそも軍資金自体がそう多くは用立てられなかったので仕方ない。
 節約は美徳……かどうかは知らないが、リソースの節約は後々になって役に立つものだ。
 
 ともあれ――彼は、その部屋の中のベッドに腰掛けて、手のひらを――正確にはその手に持っているモノをじっと見つめていた。
 手の中にあるのは、鈍く光を反射する黒い石。
 昨日のマミの話だと、グリーフシード、といったか。
 あの後、結局渡しそびれて自分で持っていたものだったのだが。

(やはり、似ているな)
148 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 08:38:14.97 ID:Gxb3JhwE0
 まぶたで闇に閉ざした視界に映るのは、マミが持っていた黄色く光り輝く宝珠――ソウルジェム。
 類似した形状、同じ異能を持つ持ち主。エトセトラエトセトラ。
 魔法少女と魔女という、本来相反するはずである者同士が持つそれは、驚くほど似通っていた。
 
(そして、テッククリスタル)

 これもまた、同じ異能を持つ者であるテッカマンが持つシステムボックス。
 この似通った三つが、果たして如何なる意味を持つのか。現在のDボゥイにはまだ見出しかねていた。
 
(どうにも、キナ臭いな。杞憂であってくれればいいんだが)

 だが、自分の予感は悪いものに限ってよく当たる。
 自嘲気味に独りごちると、Dボゥイは再び目を閉じた。
 そして、見滝原の夜が更けていく。
149 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 08:39:16.28 ID:Gxb3JhwE0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 少々時間が進み、翌日。
 人々の流れが仕事から帰宅へと変わり始めていく、そんな時間。
 
「あ、マミさん!」
 
 ちょうど下校しようとして脱靴場から出たマミは、自分を呼ぶ声――ついでに聞き覚えのある声に振り返った。
 さやかだ。彼女は、一緒にいたまどかを伴いつつ、こちらに小走りで駆け寄ってくると、

「マミさんも、帰りですか?」
「ええ、そうね。鹿目さんと美樹さんも今からかしら?」

 マミは笑みで答えた。
 あんな事があっても、この後輩二人はまだ自分を慕って声をかけてきてくれる。
 今まで孤独だったマミにとって、既に二人はかけがえのない存在となっていた。
 
「ところで、この後のことなんだけど……」
150 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 08:39:58.69 ID:Gxb3JhwE0
 この後、というのは他でもなく、魔法少女体験ツアーのことだ。
 暁美ほむらやブレードと鉢合わせになる事態は出来る限り避けたかったので、予定の練り直しと打ち合わせの打診のつもりだったのだが、
 
「……あー、すいません。今日あたし、ちょっと寄るところあるんで……」
「そ、そうなの?」

 ツアーの誘いと勝手に解釈したらしいさやかが、ポリポリと頬を掻きながら申し訳なさそうに謝ってくる。
 ズキン、と心が軋むが、それで勝手に傷つくのはあまりにも自分勝手だ。
 だが、表情には出ていたようで、まどかが助け舟を出してきた。
 
「じゃあ、一緒に帰りましょうよ、マミさん!」
「あ、じゃあそれで! 途中までは同じ道ですし!」
「ええ、ありがとう。鹿目さん、美樹さん」

 笑顔で礼を述べる。
 わあい、と笑顔でハイタッチする二人に、かなわないなあ、とマミは思った。
 と――。
151 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 08:41:05.53 ID:Gxb3JhwE0
……あら? 鹿目さんに美樹さん?」
「あ、仁美ちゃんだ!」

 ちょうどマミの背後から現れた、緑がかってゆるくウェーブがかかったロングヘアーの少女に、まどかは声を上げた。
 いかにもお嬢様、といった身振りで、彼女はマミを見つめながら首を傾げて見せた。
 
「こちらの綺麗なお方はどなたですの?」
「マミさん、こっちの子は仁美ちゃん。わたしとさやかちゃんの親友なの!」

 我が事のように嬉しそうにまどかは言葉を続ける。

「仁美ちゃん、マミさんはね、私達の先輩でとっても優しい人なんだよ!」
「しかもカッコいいという才色兼備! くぅ〜、あたしにもおこぼれとか回ってきたらなぁ」

 対する仁美はというと、ぼんやりとこちらの三人を眺めていた。
152 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 08:41:57.70 ID:Gxb3JhwE0
 と、何を思ったのか突然遠い目になると、
 
「ああ……鹿目さんたら、美樹さんだけでなく年上のお姉様まで篭絡されて……。
 ああ、いけませんわ、禁断の三角関係だなんて……」
「ちょ、仁美ちゃん! ななな何言ってるの!?」
「うふふふふふふ」
「ま、待ってー! なんか嫌な予感がするよぅ!」

 スキップしたまま、スキップにしては異様なスピードで去っていく仁美を、慌ててまどかは全力疾走で追いかける。
 自分がずっと願ってやまなかった、ただの中学生の女の子としての日常。
 それが、今マミの目の前にあった。

「あーあ、また仁美の悪い癖が始まった。ああなるとしばらくしないと治まらないからなー……」

 はぁー、と吐息しながら、やれやれとかぶりを振るさやか。
 
「まぁ、悪い子じゃないんでできればマミさんも大目に見てもらえると――あれ?」
153 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 08:42:49.52 ID:Gxb3JhwE0
 ふとマミへと視線を走らせたさやかは、彼女の表情に驚きの声を上げる。
 彼女が、涙を流していたからだ。

「……って、マミさん? ど、どこか痛かったりするんですか!?」
「……え? あ、あはは。大丈夫よ、大丈夫。ちょっと夕日が目に差してきちゃったもんだから」

 涙を慌てて拭うと、マミはにっこりとさやかに笑いかける。
 胸が温かいモノで満ちていくのを、静かに感じていた。
 
 そう、マミは今幸せだったのだ。
154 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 08:43:28.60 ID:Gxb3JhwE0
一旦ここまで。続きはまた夜になるかと思います。
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/08(日) 10:59:02.94 ID:vmjJyL1b0

マミさんももう少し余裕を持てたらなぁ
色々といっぱいいっぱいなんだよね
156 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 19:02:56.68 ID:nt6BD5+m0
お待たせしました。
19:10より投下します
157 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 19:03:50.67 ID:nt6BD5+m0
>>155
大人であるDボゥイとアキがいるということで、マミさんの年上属性は今回はやや抑え目となっております。
その分可愛らしさ増し増しで行きますよ!
158 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 19:20:06.35 ID:nt6BD5+m0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 黄昏の放つ光が、のっぺりとした殺風景な病室を赤く照らす。
 春の風は未だに温かさを分けてきてくれているが、日が沈めばあっという間に冷えてしまうだろう。
 
「あ、窓閉めるね、恭介」
「うん、ありがとう」

 カラカラと音を立てて窓を閉めながら、さやかは後ろにいる人物へと振り返った。
 目前には線の細そうな少年が、病室のベッドに臥せったまま、CDプレイヤーから伸びるイヤホンを耳に嵌めていた。
 彼の名前は上条恭介。
 
 美樹さやかの、不断の存在。

 幼い頃にコンサートで彼のバイオリンを聞いてからというもの、その音楽に惹かれ、そして彼に惹かれ、以来こうしてずっと一緒で育った。
 それは幼馴染? 恋人未満? 腐れ縁? ……それとも、ただの友達?
 わからない。わからないけれど、美樹さやかにとっての一番の幸せは、この少年の傍らにい続けること。
 それだけは、間違いのない事実だ。
159 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 19:20:32.40 ID:nt6BD5+m0
 穏やかに微笑む彼の顔に、我知らず気恥ずかしくなったさやかは照れ笑い混じりに視線を下に落とし、そして、
 
「……ッ」

 笑みが少しだけ強張ったのを自覚した。
 それは、恭介の右腕――痛々しく包帯が巻かれた、その右腕を、また目にしてしまったから。
 
 ――二ヶ月ほど前のことだ。上条恭介は、交通事故に遭った。
 
 それだけならよくある――ことではないが、それでもただの事故として片付けられただろう。
 だが、現実は予想以上に残酷だった。
 
 恭介は――右腕が不随となったのだ。

 バイオリニストにとって、腕はそのまま命に等しいもの。
 さやかには、今でも鮮明に思い出せた。事故に遭った直後、右腕が動かないと自覚したときの恭介の絶望に染まった瞳を。

「――さやか」
「……え?」

 だんだんと思考の中にドス黒いものが混じり始めたところで、さやかは恭介の声によって我に返った。
160 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 19:21:00.48 ID:nt6BD5+m0
「そんな所に立ってないで、こっちにおいでよ。……一緒に聞こう?」
「あ、うん。ごめんごめん」

 照れ隠しのように、或いは誤魔化すように笑い混じりに返すと、さやかは恭介の横にある椅子に腰掛けた。
 はい、と恭介が差し出してきたイヤホンの片方を受け取ると、宝石を扱うかのようにそっと片耳につける。
 イヤホンから漏れてくるクラシックは、さやかの知らない曲だった。
 ……というより、間近にいる恭介にドキドキしていてロクに頭に入らなかった、という方が正しいか。

 恭介が事故に遭ってからというもの、さやかは彼の元へ何度も通っては、土産代わりに買ってきたCDを一緒に聞く、ということを繰り返していた。
 何度も何度も、それが、それだけが、自分にできることだからと。彼にわずかでも笑顔が戻ってくれるなら、それでいいと。

 数少ない、二人だけの時間。二人っきりの空間。
 その事実にさやかの心は甘く溶けそうになり、
 
「…………ッ」

 声を、息すらも殺して涙を流す恭介に、冷たく現実へと引き戻された。
 そして心に後悔を刻む。
 こうして彼が悲しんでいるというのに、自分は――。
161 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 19:23:08.39 ID:nt6BD5+m0
(……なんで)

 涙を流す恭介に、気づかないフリをしながら。
 心の奥の奥、厳重に幾重も鍵をかけた深い深い心の底で、彼女は独りごちる。

(なんで、恭介なのよ)

 かみさまというものが本当にいるのなら、将来有望だったバイオリニストである彼に、何故こんな過酷な運命を背負わせるのか。
 大いなる試練? そんなものクソクラエだ。
 
(……あたしだったら、よかったのに)

 何の取り得もない、自分だったなら。
 きっと、悲しむ人間はずっと少なくて済んだだろうに。
 
 夕日は西の向こうに沈み、気がつけば空は紫色になっている。
 ヒュゥ、と風の音が窓越しに聞こえてきた。
 
 それは冷たくて、まるで泣き声のような、音だった。
162 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/08(日) 19:23:59.97 ID:nt6BD5+m0
Aパート前半は以上となります。
次回は、火曜日〜水曜日くらいになるかと思います。
163 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/10(火) 21:30:23.81 ID:UJmSQBac0
お待たせしました。
21:40より投稿開始します。
164 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/10(火) 21:39:46.71 ID:UJmSQBac0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 同時刻。その冷たい風を、同じく受けている者がいた。
 キュゥべえだ。
 彼が今いる場所は、ちょうどさやかがいた病院の屋上。
 寒暖を自覚することはこの白い獣にはできないが、毛並みが乱れるのは少し嫌だ。
 
(暁美ほむら。僕と契約していないにも関わらず、魔法少女である少女、か。でも、それよりも)

 ため息をつくように、キュゥべえはぺたん、と尻尾を床に落とした。
 
(まさかテッカマンがここに現れるとはね。あんな野蛮な文明とかちあうと面倒だから、接触は避けてたんだけど)

 と、今度は考えるように尻尾をゆらゆらと揺らし始める。

(でも、あのブレードというテッカマンもまた妙だな。たったあれっぽっちの個体数の宿主のためだけに、わざわざ己の戦闘力を限定するような方法、あのラダムが取るとは思えないんだけど)

 首をひねる。
 
(暁美ほむらといい、さすがにイレギュラーが多すぎるね。このままじゃ僕の予定が狂っちゃうかもしれない)

 ならば。
 
(……なら、狂う前に時計の針を進めなきゃ、ね)
165 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/10(火) 21:42:31.19 ID:UJmSQBac0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「……ふぅ」

 さやかが恭介の病室へ行くのを見送ってから十数分後。
 まどかは、待合室のソファに腰を下ろしていた。
 安物ではあるものの、スプリングとスポンジの感触は少し歩きつかれた身体には心地いい。
 
「…………」

 ぼんやりと目の前を行き来する患者・見舞い客・看護士さんやお医者さんを眺め、据え付けられたTVから聞こえてくる音を右から左に流しながら、考えるのはこの間のこと。

 颯爽と戦うマミ。
 魔女に苦戦し、こちらを見て叫ぶマミの顔。
 突然割り込んできたブレード。
 なんだかよくわからない内に、魔女をやっつけた二人。

 とことん、現実感から乖離した時間だった。

「……だけど」

 巴マミや、Dボゥイにとっては、アレが普通の日常なのだ。
 あんな怖い化け物と戦い続けている二人に、ずっとそんな事も知らず安穏としてきた自分が嫌になってくる。
166 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/10(火) 21:44:09.66 ID:UJmSQBac0
 でも。
 
 何のとりえもないわたしだけど。
 マミさんやキュゥべえは、わたしが魔法少女として優れた素質を持ってるって言ってくれた。
 尊敬できる先輩と、みんなの為に一緒に戦えるんだって、そう言ってくれた。
 そんな時に、

「――それでは次のニュースです。連合軍による第三次オービタルリング奪取作戦は、ラダムとの交戦により失敗、連合軍は撤退を余儀なくされ――」
 
 TVから漏れるニュースの声が、いやに耳に残った。

 ラダム。
 
 地球外から襲来してきて、大気圏上層部をぐるりと囲むオービタルリングを占拠している、謎の宇宙人。
 その程度のニュースから得た知識しか、まどかは持ち合わせていない。
 日本で生まれて育ち、ラダムの襲来になんてついぞ遭ったことのない彼女にとっては、それはどこか遠い世界の出来事だった。
 だけど。
 ああして魔女を見た今では、それも違うと、そう思える。
 ああいった脅威は、さまざまな所に転がっているのだ、と。
167 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/10(火) 21:45:25.35 ID:UJmSQBac0
 そう考えていると、
 
「――隣、いいかな?」

 そんな声が横から聞こえた。
 
「ふえっ!? あ、はい! どうぞ」

 慌てて声の方向に向き直ると、そこには一人の青年が立っていた。

「ありがとう。礼と言ってはなんだけど、これをどうぞ」

 言って、渡してきたのはフルーツジュースの入った缶だ。
 
「え、え? い、いえ、ここまでされなくても大丈夫ですよぅ」
「ははは、気にしないでくれ。たまたま自販機でアタリが出ちゃってね。処理に困ってたんだ」
「そういう事なら……どうも、ありがとうございます」
 
 受け取ったジュースの封を開けて、中身をちろちろと舐めながら、まどかは隣の人物を見やる。
 緑色がかった黒髪の、線の細そうなハッとする程の美青年だ。黒いジーンズに、黒いシャツ。その上から青いジャケットを羽織っている。
 だが、なぜかその紅い瞳は見る者をゾクリとさせる、そんな危険そうな色を宿していた。
168 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/10(火) 21:46:10.68 ID:UJmSQBac0
すいません、ちょっと風呂行ってきますのでもうちょっと後に再開します
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/10(火) 22:12:44.83 ID:1g8OCoyNo
子安きたぁぁぁ?
170 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/10(火) 22:17:43.69 ID:UJmSQBac0
20分から再開します。
171 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/10(火) 22:20:55.39 ID:UJmSQBac0
(わあ、なんだか綺麗な人……ちょっとDボゥイさんにも似てる、かな?)

 力強くもむっつりとして真っ直ぐ彼とは、色々と対称的かもしれない。
 そこまで思考を走らせて、まどかはぶるぶると首を激しく振った。
 一体何を考えているんだ、自分は。
 ごまかすように一口だけ缶の中身を呷ると、まどかは口を開く。

「えーと、この辺の人……って感じじゃないですよね。こちらには何をされに来たんですか?」
「そうだね。探し物と……待ち人、ってところかな」

 微笑んだまま告げる彼に、まどかはぱちくりと目をしばたたかせた。

「待ち人?」
「そう、待ち人。最も、来るかどうかはわからないけど」

 そうですか、と相槌を打つとはて、と首をひねる。

 ――探し物はともかく、わざわざ遠出してまで待ち人?
172 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/10(火) 22:25:55.99 ID:UJmSQBac0
 その時だった。
 初めの時のように、頭の中に声が響いたのは。
 
『まどか! さやか! 大変だ、すぐに来てくれ!』
(え、ええっ!? 突然どうしたの、キュゥべえ?)
『早く!!』

 早口に、ついでに大声で捲くし立てると、キュゥべえのテレパシーはぷっつりと途切れた。
 なんだろう、と首を傾げるものの、とにかく緊急の用事のようだ。
 ジュース缶を胸に抱いたまま、ばたばたと慌ててまどかは立ち上がった。
 
「ご、ごめんなさい。ちょっとわたし、急用が出来たのでこれで……」
「ああ、話に付き合ってくれてありがとう」

 ひどく失礼なことをしてしまった、と現在進行形で後悔するものの、彼は笑って許してくれた。
173 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/10(火) 22:32:05.06 ID:UJmSQBac0
 ひどく失礼なことをしてしまった、と現在進行形で後悔するものの、彼は笑って許してくれた。
 
「あのっ。ジュース、ありがとうございましたっ。美味しかったです」

 小学生のごちそうさまの挨拶みたいなお礼を告げて、くるりとまどかは駆け出し――
 かけて、またくるりと回れ右した。
 
「それと、ええと。お名前を聞いてもよろしいですか?」

 何故、自分がこのような行動に走ったのか。
 後になって思い返しても、まどかにはよくわからなかった。
 
 だけど。
 青年は、柔らかく笑うと名乗った。
 
「――シンヤ」

 告げながら、ゆっくりと立ち上がる。
 
「相羽シンヤ。それが、僕の名前だよ」
174 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/10(火) 22:33:06.83 ID:UJmSQBac0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 同じくキュゥべえからのテレパシーを受け取ったさやかは、足早に病院外の敷地の一角に走り込んだ。
 そこには既にまどかとキュゥべえがいる。
 もっとも、まどかもたった今ついた様子で息を切らせていたが。
 
『こっちだ! まどか! さやか!」
「もう、急にどうしたってのよ?」

 鬱々とした気持ちのところに来たのはある意味タイミングがいいが、やっぱり恭介との二人っきりの時間を邪魔されたのには少し腹が立つ。
 口を尖らせるさやかをよそに、キュゥべえは思念を送ってきた。
 
『急に呼び出したりしてごめんよ。でも、アレを見てよ!』

 言って、なんだろうと視線を上げ――
 
 さやかの意識がひび割れる。
 まどかも似たようなもののようで、戦慄したように身体をわななかせていた。
175 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/10(火) 22:34:01.77 ID:UJmSQBac0
「あれって……まさか」
「グリーフシード……!? な、なんであんな所にあるのよ!?」

 そう。
 病院の駐車場の一角。
 まるで、「誰かが落としたかのように」無造作に、それはあった。
 
 グリーフシード。悲嘆の種。
 それは、魔女が落とすものであり、またソウルジェムの穢れを吸い取るものであり。
 ――そして、魔女の卵でもある。
 
「え、ええと。とりあえずマミさんのところに持っていって……」
『ダメだ! 下手に触れると孵化してしまいかねない!』

 おろおろとしながらも提案するまどかを、キュゥべえはいつになく強い口調でぴしゃりと遮った。
 
「じゃあまどか! マミさんを呼んできてくれない? あたし、ここでアレを見張ってるから!」
『………………』

 何故か無言のまま、不満げにこちらを見上げてくるキュゥべえに首を傾げつつも、さやかは首をめぐらせてまどかの返事を待つ。

「う、うん! わかったよ!」
『……じゃあ、僕もココに残るよ。最悪の事態になった時、さやかを魔法少女にしてあげられるからね』
「そうならないといいけど……じゃ、まどか! そうならないためにも頼んだわよ!」
「うん!」

 だっ、と精一杯の速さでマミの方へと駆け出すまどか。
 
 ――斯くして、運命の分岐点は胎動を始めた。
176 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/10(火) 22:36:36.02 ID:UJmSQBac0
今日の投下分は以上となります。

さて、だんだんと役者が集結しつつあります。
原作では悲劇となってしまいましたが、この話ではまどかは、さやかは、そしてマミさんはどのような運命を辿るのでしょうか。

次の話もお楽しみに!

なお、次の投下は木曜〜金曜になります。
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/11(水) 01:38:27.81 ID:M5c98Qef0
投下乙です

シンヤ坊キタァァァァァァァァァ!!

しかも因縁のシャーロッテ戦とは…子安がどういう動きをするのか、目が離せねェぜ!!
178 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/13(金) 23:22:39.31 ID:qCrupSPQ0
すいません、こちらゴタゴタしてて遅れそうです。
土日になんとかまとめて仕上げたいと思います
179 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 18:39:13.38 ID:krcvXml30
お待たせしました。

今日はちょっと多目の投下です。
(途中に休憩は挟みますが)

180 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 18:39:45.00 ID:krcvXml30
『――怖いかい、さやか?』
「ちょっとだけ、ね」

 まどかが走り去ってから十数分後。
 駐車場の縁石に腰掛けながら、さやかとキュゥべえはじっとグリーフシードを見つめていた。
 今はまだ、それは何の変哲もなく転がるただの黒い石のままだ。

 だが、一度孵化すればそれは魔女を産む猛毒となる。
 そうなった場合、自分はどうなってしまうのか。
 そして、この病院にいる人々、何より恭介はどれだけの危機に晒されるのか。
 
 ――考えただけで、ゾクリと背中が粟立つ。
 
『君が願い事を決めてくれたのなら、今すぐにでも僕が魔法少女にしてあげられるんだけど。それなら、マミが間に合わなかったとしてもこの病院にいる人たちを何とか守り通せるかもしれないよ』
「…………」

181 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 18:42:49.11 ID:krcvXml30
 こちらをじっと見上げながら、キュゥべえは囁いてきた。
 それは、実際にさやかにとってはとても悩ましい誘いだった。
 ここで魔法少女になれば、マミを待たずに魔女と戦える。
 みんなを、恭介を守ることができる。
 
 だが。
 
「……今は、いいかな。うん、まだ遠慮しとく」

 さやかは否定した。

『どうしてだい? 君は、この病院の人たちを守りたくないの?』

 キュゥべえの問いに、さやかは背を丸めて、じっとアスファルトを見下ろしていた。
 
「マミさんが、言ってたんだ。『願い事はよく考えて決めなさい』って」
『…………』

 無言のままのキュゥべえをそのままに、遠い目をしながらさやかは話を続ける。
 それはまるで、自分に言い聞かせているかのようだった。

「願い事ってさ。すごく大事なことだって思えるんだよね。だからマミさんもああやって釘を刺してきたんだと思うのよ」

 だから、

「ここでなし崩し、みたいな感じで魔法少女になっちゃたら、きっとあたし、後悔すると思うんだ」

 そこまで言って、さやかはキュゥべえに向き直った。
 その表情には、さっきまでの迷いは感じられない。
182 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 18:45:31.34 ID:krcvXml30
「だけど……まあ、そうすると決めた時には、よろしくね。キュゥべえ」
『それはもちろん任せて欲しいな』

 いつもの冗談めかした笑顔のまま、口調だけは軽く告げるさやかに、キュゥべえはこくりと頷く。
 と、さやかは一つのことに気づいた。
 
(……あ、そうだ。Dボゥイさん達にも知らせとかないと、マズいよね)
 
 あの転校生はいけ好かないから嫌いだけど。
 自分達を守ってくれたあの人たちなら、きっと自分たちに力を貸してくれる。
 さやかは大きく頷くと、早速携帯を取り出してダイヤルを押し始めた。
 
「……アキさんですか? ……あたしです、さやかです」

 電話に向かって喋り始めたさやかをよそに、不意にキュゥべえはグリーフシードへ振り向いた。
 それは、ゆっくりと胎動を始めている。
 孵化する前兆だ。

「……ええ、病院の近くにグリーフシードがあったんで見張りに……。このままじゃ、また魔女が現れて病院の人たちが危ないんです」
『さやか』
「はい、まどかがマミさんを呼びに行ったんで、手伝ってもらえると……」
『さやか!』
「……ほへ?」
『来るよ! グリーフシードが孵化する!』

 瞬間。
 世界が、崩壊した。
183 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 18:48:29.12 ID:krcvXml30
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「まったく……いくらなんでも、無茶しすぎよ。二人とも」
「ごめんなさい……」

 叱咤の色が混じった視線でこちらを見つめてくるマミに、思わずまどかは身体を縮こませた。
 どう言い訳しようと、自分とさやかがやった事はどうしようもなく危険な行為だからだ。
 
 だが、
 
「……でも、今回はそれが逆によかったわね」

 続く言葉は叱咤ではなく、優しい言葉だった。
 それは、マミのにっこりとした花のような笑顔から発されている言葉だ。
 
「ありがとう、鹿目さん」
「は、はいっ」

 何の取り得もなかったはずの自分の行動が、こうやって誰かの役に立てた。
 とりわけ、マミという頼れる憧れの人に褒められた。
184 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 18:51:30.65 ID:krcvXml30
 まどかの胸が、じんわりと熱い幸福感で満たされていく。
 そして、それは巴マミという少女もまた同じだ。
 
 今、魔女と相対して戦えるのは自分だけ。
 その事実に、巴マミの心は燃え立つような高揚感に支配されていく。
 それは恐怖を駆逐し、それは心を熱く奮い立たせてくれるもの。
 だが、同時にそれは、死への恐怖すらも駆逐し、人を死に誘うものでもある。
 
 ――それを油断と呼ぶことを、この時のマミはまだ自覚していなかった。

 だからだろう。
 
「彼らの忠告を無駄にするつもりかしら? 巴マミ」
 
 本来ならすぐに気づくはずの、乱入者にすらすぐには気づけなかったのは。
185 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 18:56:17.98 ID:krcvXml30
「……暁美さん、何のつもりかしら?」

 だが、それでもマミは冷静さを保ったままだった。
 それをわずかに疑問に思いつつも、ほむらは言葉を続ける。

「今回の魔女は私が討つ。あなたはまどかと共に戻りなさい」

 そして。
 
「言いたいことはそれだけかしら? 暁美さん」
「……!?」

 ほむらは驚愕した。
 巴マミの、こちらを射抜いてくる視線の色に、だ。
 今までの怒りを含んだ目ではなく。
 それは氷のように冷たく、鋼のように強靭な、純粋な敵意。
 このような目をする巴マミを、暁美ほむらは今までには見たことがなかった。

 だからこそ。
 自分を絡めとる帯の群れに、気づくのが一瞬遅れた。
186 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 18:58:28.57 ID:krcvXml30
「ば、馬鹿。こんなことやっている場合じゃ……」
「見え透いた芝居はやめてくれないかしら? あなたがラダムと結託していることはわかっているのよ」

 ラダム。
 日常で聞き慣れていると同時に、魔法少女としては聞き覚えのない単語に、暁美ほむらは目を丸くする。
 
「……何を、言ってるの?」
「とぼける気? ……まあ、いいわ。あなたの事情は後でゆっくり聞いてあげる。それまで、おとなしくそこで待っていなさい」

 それだけを言うと、興味を失ったかのようにマミはくるりと背を向ける。
 そして、一連のやりとりを見ていたまどかが、恐る恐る声を上げた。

「マ、マミさん……?」
「大丈夫よ鹿目さん、暁美さんには危害は加えないわ。ただそこで待っていてもらうだけ」

 まどかに穏やかな微笑みを向けると、手を差し出した。
 
「さあ、一緒に行きましょう?」
「…………」
187 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 19:01:40.76 ID:krcvXml30
 差し伸べられた手と、縛られて吊るされたほむらを交互に見ながら、おろおろと迷うまどか。
 
「やめなさい、巴マミ! 今度の魔女はこれまでとは勝手が違うのよ! だから……!」

 これまでの冷静さを捨てて、焦燥も露に叫ぶほむらに、一瞬まどかの瞳が揺れる。

 だが。
 
「鹿目さん?」

 こちらを笑顔のまま見つめてくるマミに対して、抗う言葉をまどかは持ち合わせてはいなかった。

「………はい」

 ゆっくりと、差し出された手に自分の手を重ねる。
 
「駄目よ、まどか! それ以上は駄目! 待ちなさい!!」

 必死に叫ぶほむらだったが、その叫びはまどかの心までは届くことはなく。
 そして、二人はさっきと同じように駆け出した。
188 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 19:05:04.54 ID:krcvXml30
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 そして。
 暁美ほむらは独り取り残される。
 
「…………ッ」

 無駄だと理解してはいたが、懸命にもがいた。
 だが、拘束は無情にも一向に解ける気配はない。
 それはそうだろう。本来ならば、この拘束は魔女すらも行動を封じられる代物。
 魔法少女としてのスペックは限りなく低いほむらに、この拘束をどうにかできる術など、あるわけもなかった。
 
(また……また、守れないの? 私は……)
189 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 19:08:34.89 ID:krcvXml30
 心に浮かぶのは一つの風景。

 ――それでも、私……魔法少女だから。

 強大な魔女と対峙しながらも、勝てるわけがないとわかっていたはずなのに。
 それでも穏やかに微笑んでみせた、「彼女」。
 
 ――さよなら、ほむらちゃん。

 そうやって、「彼女」は笑いながら、当たり前のように死地へ赴き。
 ……そして、当たり前のように、儚く命を散らした。
190 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 19:13:30.44 ID:krcvXml30
(……ッ!)

 喉がひりひりと焼け付く。唾がひどく苦い。
 忘れていた塩辛さを、ギリリと歯を食いしばって噛み殺す。
 
 そして。
 
 そんなほむらの視界に、ひとつのものがよぎった。
 
 それは、若い男の人影だった。
 
(……?)

 瞳に映ったのは一瞬のことで、チラリとだけ見えたそれは、再び奥へと消えていったが。
 その人物が持つ、赤い瞳だけが、妙にほむらの心に残っていた。
191 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 19:14:01.99 ID:krcvXml30
一旦ここまで。

続きは、22:00ごろに投下開始します
192 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 22:01:54.77 ID:krcvXml30
お待たせしました。22:10より投下します
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/15(日) 22:05:45.17 ID:eQBs13vno
どうも支援レスが必要ない板だと合いの手がいれにくい
194 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 22:10:28.81 ID:krcvXml30
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 結界の中を、まどかとマミの二人は進んでいた。
 
 視界の端では、キャンディーの頭をした看護婦の使い魔が、あたふたと奥へお菓子の山を運んでいく。
 その横を、チョコレートの身体をした使い魔が、ふらふらとあちこちを徘徊する。

 ……壁面もドアもそこかしこも、みんなお菓子で形作られた病院。
 
 本来なら夢やメルヘンで彩られていそうなそれは、まどかの目には、形になればやはり不気味で奇怪なものに映った。

 そして、使い魔の姿が見えない一角まで歩いたとき。不意にまどかが立ち止まった。
195 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 22:17:42.39 ID:krcvXml30
「あの……」
「なにかしら?」

 胸に手を重ね、しばらく目を伏せて考え込んでから、まどかはいつになく真剣な目で口を開く。

「色々、願いについてわたしなりに考えてみたんです。
 やっぱり、考えが甘いのかなって思ったりもしてますけど……」
「ううん、そんなことないわ。聞かせてくれるかしら?」

 シンと静まり返った通路の途中。
 まどかの声の他は、何も聞こえない。

「わたし、人に自慢できるような取り得って、何もないんです。勉強もできないし、体育だって別に得意なわけでもないし……」
「……」
「嫌だったんです、そんな自分が。誰の役にも立てず、ずっとこのまま過ごしていっちゃうのかなって」

 そう言うと、まどかは辛そうに目を伏せた。

 誰かのためになりたい。
 誰かの役に立ちたい。
 
 ずっと、それだけを夢見てきた彼女は、マミの目には眩しく映る。
196 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 22:23:31.49 ID:krcvXml30
 そんな事を思うと、不意にまどかは顔を跳ね上げた。
 今度は、嬉しそうな笑顔で。

「でも、マミさんと会えて、すごく嬉しかったんです。ずっと誰かのために戦うマミさんを見て、ああ、わたしもこんな風に生きていけたらなあ、って思えて、
そして、わたしも魔法少女になれるかもっていうのが、わたしも誰かの役に立てる生き方ができるっていうのが、もしもわたしにそれができたなら、それはとっても嬉しいなって」

 何のとりえもなく、空っぽで無意味だった自分。
 そんな自分に中身をくれたのは、自分に価値を見出すことができたのは、間違いなくマミのおかげだった。
 
 凄まじい戦いぶりと、圧倒的な強さを持つテッカマンブレード。
 だが、彼は自分からはずっと遠いところにいる人のように見えた。

 だけど、巴マミは。
 彼女のような生き方が、もし自分にもできたなら。

「だからわたし、魔法少女になっちゃうだけで、願い事って叶っちゃうんです!」
197 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 22:28:05.36 ID:krcvXml30
「…………」

 そうすると今度は、何故かマミの方が沈痛に表情を沈めて顔を伏せた。

「……マミさん?」

 何か失礼なことを言ってしまったのだろうか。
 そう思って不安げに訊ねるまどかに、マミは再び顔を上げた。
 
「……私、あなたがそんな風に憧れる魔法少女なんかじゃないわ」
「……え?」
「ホントは、あなたが思っているほどいいものじゃないのよ。魔法少女なんて」

 ゆっくりと向き直る。
 その表情は、まどかが今までに見ていた巴マミとは違っていた。
 
 辛そうに顔を歪め、今にも泣き出しそうな、そんな表情だ。
 
「ずっと独りで戦わなきゃならないし、私だって家ではいつも泣いてばかりよ。
この前だって、Dボゥイさんが一歩遅れてたら、あなたも、美樹さんも危なかった。危険な目に合わせちゃいけないって怒られて。
どうすればいいのか、本当は私はどうしたかったのか、よくわからなくなったの」
「…………」

 黙ったままのこちらを見て、マミは唇を歪める。
 それは、笑っているようにも、泣いているようにも見えた。
 
 ――おそらくは、両方なのだろう。
198 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 22:39:53.17 ID:krcvXml30
「……ごめんね。幻滅したでしょう?」

 浅くため息をつきながら、自嘲するマミ。
 だが、

「そんなことないです!!」

 まどかは、これまでになく強い調子で否定してきた。
 
「……え?」
「わたしにだって、何が正しいのかなんてよくわかりません。
でも、わかってることが一つだけあります」

 すう、と息を吸うと、いつもの彼女からは想像もつかないくらいに強い瞳で、口を開く。

「マミさんは一人じゃないです!」
199 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 22:43:31.45 ID:krcvXml30
 そう。
 さやかちゃんだっているし、仁美ちゃんも、Dボゥイさんも、アキさんも。それと、今は喧嘩しちゃってるけどきっとほむらちゃんだって。

 と、そこまで言ってから、恥ずかしかったのか急にしどろもどろになると、

「そ、そりゃ、わたしなんかじゃ頼りないかもしれないけど…
それでも、マミさんと一緒にいることくらいなら出来ます!」
200 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 22:56:38.53 ID:krcvXml30
 蒼穹の青空のような笑顔を、マミは見た。
 陽だまりのように暖かくて、何もかもを許し、全てを包み込んでくれるような、少女的にして母性的な、とうとい笑顔を。
 
 それは、あまりにも温かくて。
 それは、自分にはないもので。
 それは、本当に羨ましくて。

 知らず、ぽろぽろと涙がこぼれた。
201 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 23:19:42.66 ID:krcvXml30
「あ、あはは……ダメね、私は。先輩として恥ずかしくないように振舞わなきゃいけないのに……」
「マミさん……」

 涙を拭おうとしてもそれは後から後から次々に零れ落ちてくる。
 やがて、マミは目をこするのを諦めると、涙に濡れた顔でまどかの両手を手に取った。
 
「ねえ……私と一緒にいてくれる?」

 揺れる瞳が迫る。

「一緒に、戦ってくれる?」

 不安そうに、雨に濡れる子犬のように、涙に濡れた瞳でこちらを見つめてくるマミ。
 だが、まどかはそれを綺麗だと思った。
 
 本来の彼女の姿。等身大の、十五歳の少女であるマミを見て、まどかは幻滅も失望もすることはなく。
 ただ、彼女への評価に「可愛い」が加わった程度だ。
 彼女の弱さを見ても、なおもまどかは巴マミを素敵な人だと思った。

「――ええ!」

 この人と一緒なら、きっと何だってできる。そう思って。
 
「じゃあ……魔法少女コンビ、誕生ね」

 そう言って微笑むマミは、まるで陽だまりのように温かい人に見えた。
202 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 23:21:58.46 ID:krcvXml30
「あ、あはは……ダメね、私は。先輩として恥ずかしくないように振舞わなきゃいけないのに……」
「マミさん……」

 涙を拭おうとしてもそれは後から後から次々に零れ落ちてくる。
 やがて、マミは目をこするのを諦めると、涙に濡れた顔でまどかの両手を手に取った。
 
「ねえ……私と一緒にいてくれる?」

 揺れる瞳が迫る。

「一緒に、戦ってくれる?」

 不安そうに、雨に濡れる子犬のように、涙に濡れた瞳でこちらを見つめてくるマミ。
 だが、まどかはそれを綺麗だと思った。
 
 本来の彼女の姿。等身大の、十五歳の少女であるマミを見て、まどかは幻滅も失望もすることはなく。
 ただ、彼女への評価に「可愛い」が加わった程度だ。
 彼女の弱さを見ても、なおもまどかは巴マミを素敵な人だと思った。

「――ええ!」

 この人と一緒なら、きっと何だってできる。そう思って。
 
「じゃあ……魔法少女コンビ、誕生ね」

 そう言って微笑むマミは、まるで陽だまりのように温かい人に見えた。
203 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/15(日) 23:25:10.82 ID:krcvXml30
今日はこれで以上となります。

さあ、三話もBパート後半を残すのみ。
あとはジェットコースターのように滑り降りるのみです。

次回もお楽しみに!
また、次はちょっと間を置いて水曜〜木曜になるかと思います
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/15(日) 23:31:15.70 ID:eQBs13vno
乙、ここまでは原作通りでマミるート一直線。
エビル、どう動く?
205 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 20:16:27.92 ID:2eUuHLjz0
お待たせしました。20:20より投下開始します
206 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 20:21:13.13 ID:2eUuHLjz0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 一方その頃、同じ魔女の結界の中を走り抜ける者たちがいた。
 Dボゥイとアキだ。
 
(三人とも、無事でいてくれ……!)
  
 さやかからの携帯の連絡を受け、そして突然電話がぷっつりと途絶えたのが20分ほど前の事。
 そして全力で急行し、そして程なく魔女の結界の入り口を見つけて飛び込んだのが5分前。
 ……既に、何が起こっていたとしても不思議ではないほどの時間が過ぎていた。
 
 道中、マミとまどか達と同じように使い魔に遭遇したものの、テックセットしたブレードが斬り伏せ、アキが銃で撃ち抜きながら、尚も足を緩めることはない。。
 そして程なく、二人は使い魔の気配も消えた廊下へとたどり着く。
 ……暁美ほむらが拘束されている場所へと。
 
「……ブレード?」
「その声は……ほむらか。待っていろ、今解いてやる」
207 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 20:27:44.51 ID:2eUuHLjz0
 ブレードのランサーが一閃すると、あれ程どうしようもないくらいにほむらを拘束していたはずの、マミのリボンは呆気なく切り裂かれた。
 尻をぶつける……なんてことはなく、ほむらは軽やかに受身を取ると、

「一応、礼を言っておくわ」

 髪をかき上げつつ、礼を述べた。
 
「いや、無事でよかった。……だが、一体誰がこんな事を?」

 問いを放ってくるブレードに、ほむらは大きくため息ををひとつ。
 忌々しい、というよりは、自分の迂闊さを呪う風でもあったが。

「巴マミよ。またまどかと一緒に魔女と戦おうとしていたから、制止しようとしたら拘束されたわ」
「…………」

 黙り込むブレードを見上げながら、ほむらは続けた。

「……私のことを、ラダムと結託した、と言ってたけど」
「!!」

 ハッと顔を上げてこちらを凝視する二人に、ほむらは目を細める。
 やはり、彼らとラダムは無関係ではないのか。
208 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 20:32:03.13 ID:2eUuHLjz0
「なぜここでラダムなんて持ち出してくるのかがよくわからないけど、ね」
「……何にせよ急がなければならない」
「ええ」

 突っ込まれるのを避けるかのように、通路の奥へと視線を走らせるブレードに、ほむらは肯定を返した。

 彼らの事情になんて興味はない。
 ただ、まどかを守るのにその力を利用できるのなら、それでいい。

 だが。
 ふと、言葉が漏れた。
 遭えて理由をつけるなら、まどか以外はどうでもいいものの、無駄な犠牲は避けたかった、ということなのだろうけれど。
 
「一般人も迷い込んでるみたいだし、ね」
「一般人だと?」
「ええ」


「――赤い瞳の、若い男だったわね」
209 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 20:35:46.08 ID:2eUuHLjz0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 瞬間。
 空気が、変わった。
 うなじがぞわぞわと総毛立ち、背筋が凍りついたかのような錯覚にゾクリとして、ほむらは思わず身を縮こませる。
 
 その元凶である強い気質は、目の前の騎士から発せられていた。

 その目は、こちらを捉えていない。
 その意志は、こちらを穿っていない。
 その槍は、こちらに向けられていない。

 なのに。
 一歩間違えればこちらが八つ裂きにされそうだった。
210 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 20:40:52.69 ID:2eUuHLjz0
「……いくつか質問があるが、構わないか?」
「……え、ええ」

 言葉だけは静かに、だが殺気すら含んだその声に、気圧されて後ずさりながらほむらは返事をした。

「そいつの髪型は?」
「ショートボブだったわ。ちょうど、美樹さやかと同じような」
「髪の色は? 緑がかった黒か?」
「……ええ。知ってる人なの?」
「最後のひとつ。……確認するが、そいつは、この奥に、行ったんだな?」
「ええ、このままじゃまどか達とかち合ってしまうでしょ……ッ!?」

 言い終える前に。
 ブレードは奥へと飛び去っていた。

 バーニアスラスターから発される、爆風めいた風に思わず目を閉じる。
 刹那の後に目を開くと、既にブレードは目の前から消え去っていた。
 ……否、奥から聞こえてくる破壊の音からして、使い魔を蹴散らしながら一直線に進んでいるのだけはわかったが。
211 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 20:44:18.27 ID:2eUuHLjz0

「大丈夫?」

 呆然と立ち尽くしていると、アキが後ろから話しかけてきた。

「……ええ」

 視線だけ向けて返すと、ほむらは再びまどかとマミが、そして今ブレードが消えた廊下の先を見やる。
 ブレードのあの反応が、腑に落ちなかった。
 状況が切羽詰っているのはこちらも同じだが、ブレードのそれは。あの鬼気迫る、悪魔じみた殺気は、自分とはまた違うものを感じたのだ。
 あの赤い瞳をした男が、何か鍵を握っているのだろうか。
 
「そう。……私達も急ぎましょう。早くしないと、あの三人が危ないわ!」
「……一体、何だっていうの?」
 
 疑問を発したほむらに、アキはこちらに振り向く。
 その目は、今までに見たどんな彼女よりも、強い視線だった。。
 そして、彼女は一言だけ告げた。
 
「テッカマン、よ」
212 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 20:46:50.03 ID:2eUuHLjz0
夜食のために一旦ここまで。
続きは、22:00あたりからです。

あと、合の手レスもご遠慮なくどうぞー
213 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 22:02:55.16 ID:2eUuHLjz0
お待たせしました。22:10より投下します
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/18(水) 22:04:49.75 ID:S12cRWDlo
よし、頑張れ



見てる人少ないのかなぁ、テッカマンはやっぱ知名度低いのか……
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/18(水) 22:11:39.54 ID:EHCFYJJo0
少なくとも俺は居るぜ
216 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 22:12:27.89 ID:2eUuHLjz0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 魔女の結界の最深部。
 周辺一帯が甘ったるそうなケーキで埋め尽くされたその場所で、マミは魔女と対峙していた。
 
 名は、お菓子の魔女シャルロッテ。
 その性質は執着。
 全てを欲しがり、そして決して諦めることはない魔女。
 あらゆるお菓子を作り出せるが、大好物のチーズだけは作り出すことができないという、矛盾した能力を持つ。
 故に、使い魔を使ってチーズを探させるのだ。
 もっとも、使い魔もチーズが何かなど理解できていないので、やはり彼女がチーズにありつける日は遠いのだが。
217 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 22:18:25.24 ID:2eUuHLjz0
 そんな魔女――見た目は愛らしい、ただのぬいぐるみに見えるが――を、マミは見据えている。
 以前の魔女、薔薇園の魔女ゲルドルートの時と、魔女の違いこそあれ似たシチュエーション。
 だが、たった一つだけ決定的に違っているものがある。
 
 それは、幸福感に包まれたマミの表情だ。
 気分はこれまでになく浮き足立ち、頭の中はこれからまどかやさやかと共に歩む魔法少女としての人生でいっぱい。

 ――もう私は一人じゃない。私の後ろには、可愛い後輩達がいてくれている。
 
 理由も何もない万能感がマミの心の奥底より湧き上がってくる。
 今までの魔女との戦いも、これからあるであろう魔女との戦いも、これからの輝かしい未来に比べれば、全てが取るに足らないことのように思えた。

 ――だが、それはただのまやかし。
 けれど、その事実に気づく術を、今のマミは持ち合わせていなかった。
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/18(水) 22:23:19.40 ID:gR8qgGPSO
俺も見てる、頑張れ。
219 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 22:23:35.04 ID:2eUuHLjz0
「マミさーん!」
「マミさん! ガツンと一発、やっちゃってください!」

 黄色い二人の声援が、背後から聞こえる。
 
「オッケー……分かったわ!」

 振り返るマミ。その表情に浮かんでいるのは、自信に満ちて生き生きとした笑み。

「今日という今日は、速攻でカタを付けるわよ!!」

 瞬間、マミの身体が光に包まれた。
 魔法少女への変身を瞬時に終わらせると、マミは全身から一斉に湧いて出たマスケット銃を構える。
 魔女も表情の見えない黒い目でマミの姿を認めると、周囲から一斉に使い魔たちを呼び出す。
 
 ――そして、黄の銃火と黒い奔流が激突した。
220 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 22:28:09.50 ID:2eUuHLjz0
 真正面から来た使い魔の顔面に弾丸がめり込み、新たな一つ目を形作る。
 次に、後ろから飛び掛った使い魔は、たった今撃ち切ったマスケット銃の銃床で殴り飛ばされた。
 横から跳ねる使い魔には、殴り飛ばした勢いを利用して放った回し蹴りが直撃。
 このような調子で、圧倒的な勢いでマミは使い魔の群れを殲滅していく。
 
(身体が、軽い……)

 撃ち抜く。撃ち抜く。殴り飛ばす。撃ち抜く。蹴り飛ばす。撃ち抜く。撃ち抜く。撃ち抜く。
 
(こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて……!)

 地を跳ね、空を駆け。圧倒的な勢いで敵を翻弄し、一つも残さず叩き潰す。
 
(――そう、もう何も――!)

 もう、何も怖くない。
 
(だって、私。もう、独りぼっちじゃないもの――!)

 それは高らかに宣言するように。
 或いは自分に言い聞かせるように。
221 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 22:31:22.60 ID:2eUuHLjz0
 そんなマミの華々しい戦いぶりに、まどかとさやかが見惚れていると。
 気がつけば、使い魔は全滅していた。
 残るのは、椅子の上にちょこんと腰掛けたままマミを見つめている魔女だけだ。

 無力な、ぬいぐるみのような魔女。
 使い魔の弱さ、そして見た目の脆弱さから、マミは最大の失敗を犯した。
 
「折角のところ悪いけど――」

 警戒を欠いて、一直線に突撃したのだ。
 これまでとは全く違う、今までにも取ったことがないスタイル。
 無駄だらけで、拙くて、ただ華々しい「だけ」の戦闘方法。
 
 マスケットで殴り飛ばし、零距離から撃ち抜き、そして上に殴って打ち上げる。
 
「一気に決めさせて――!」

 上空高くを舞い、そして落ちてくる魔女にさらに銃撃で追撃した。
 貫いた弾丸はリボンへと変わり、ほむらにしたのと同じように、リボンタイで拘束する。
222 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 22:35:29.21 ID:2eUuHLjz0
 その間、何も抵抗らしい抵抗などない。
 
 ――なんて弱い魔女だろう。
 
 ――なんて私は強いんだろう。
 
 ――それは当然、私にはあの二人がついていてくれているから。
 
 ――あの子達がいてくれるなら、私は何にだって負けない。
 
 ――魔女にも、悪い同業者にも、そして暁美ほむらにも、ラダムにも。
 
 
 
 これまでに、何も抵抗しなかった魔女なんていなかった。
 それを、マミは自分が抵抗すら許さない程に苛烈に叩きのめしたからだ、とそう思った。

 そう、思い込んでしまった。
223 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 22:38:25.30 ID:2eUuHLjz0
(一撃で決める――!)

 そう、一撃で。自分の全身全霊をこの一撃に込めて、アニメや漫画の主人公のように見栄え良く、華々しく、カッコ良く。
 
 掲げたマスケット銃に魔力を集中させる。
 そこから現れたのは、巨大なマスケット銃。否、そのフォルムはもはや大砲だ。
 以前の薔薇の魔女のときより二回り以上も大きいそれを構えると、拘束されたまま身じろぎひとつしない魔女へと狙いを定める。
 
 既に、マミの目にはばらばらに四散する魔女の姿しか映っていない。
 
「ティロ――」

 引き金を絞る。
 そして。
 
「フィナーレ!」

 巨大な弾丸が砲口から飛び出し。
 
 それは、狙いを寸分も違わずに魔女を貫き。

 瞬時に拘束へと変化した弾丸は魔女をがんじがらめに縛って縛って縛って。
 
 
 
 そして。
 
 
 
 巨大な魔女が、口から。
224 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 22:41:04.11 ID:2eUuHLjz0
「………え?」

 顔が、迫る。
 白粉塗りの、目の周りが原色で彩られた、ピエロのような滑稽さと毒々しさを備えた顔。
 
 口が、開く。
 てらてらと唾液に濡れた、牙が。
 マミの頭を、噛み砕こうと。
 
 それを、マミは凍りついた思考のまま、ただ見ていることしか出来なくて。
 
 
 
 そして。
 
 
 
 魔女の顎は閉じられた。
225 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 22:57:28.87 ID:2eUuHLjz0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 ――否。
 
 閉じられる、筈だった。
 
 ぺたん、とマミが尻餅をつく。
 魔女の牙は、彼女の頭を噛み砕く寸前で止まっていた。
 
 ゆっくりとマミの視線が上へとずれていく。
 
 
 
 ……魔女の脳天から刺さった槍が、魔女を地面に縫い止めていた。
 
「あの槍って……」
「Dボゥイさ! …………ん?」

 期待に満ちた声音で上を見上げたまどかとさやかは、段々とその語気をすぼめていった。
 
 そこにあるのは、見慣れたはずの、全身を鎧で覆ったシルエット。
 だが、そこにいるのは、見知った白い騎士ではなかった。
 
 各ディテールはより一層鋭角的に、禍々しく尖り、何よりも。
 
「――黒い、テッカマン?」

 さやかが我知らず呟いた言葉に反応して、黒いテッカマン――テッカマンエビルは、赤い瞳を細める。
 それが、仮面の下でニヤリと笑ったように見えて。
 
 ゾクリと、さやかは身体を震わせた。
226 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 22:59:04.04 ID:2eUuHLjz0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
 一度離れた道は、決して二度と交わることはなく。
 拒絶を胸にに、殺意を矛先に込め、騎士たちは対峙する。
 それは決して終わることのない、哀しきマスカレード。
 
「テッカマンエビルゥゥゥーーーッッ!!!」
「死ねぇっ! ブゥレェェドォォォーーーッッ!!!」
「なんか、カッコいいですよね! 正義のヒーローって感じで!」
(……あれ? でも、あの時確か……)

次回「罪滅ぼしになどなるはずもない」

仮面の下の涙を拭え。
227 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 23:01:37.96 ID:2eUuHLjz0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
 一度離れた道は、決して二度と交わることはなく。
 拒絶を胸にに、殺意を矛先に込め、騎士たちは対峙する。
 それは決して終わることのない、哀しきマスカレード。
 
「テッカマンエビルゥゥゥーーーッッ!!!」
「死ねぇっ! ブゥレェェドォォォーーーッッ!!!」
「なんか、カッコいいですよね! 正義のヒーローって感じで!」
(……あれ? でも、あの時確か……)

次回「罪滅ぼしになどなるはずもない」

仮面の下の涙を拭え。
228 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/18(水) 23:04:42.43 ID:2eUuHLjz0
以上で第三話終わりです! いやあ、長かった……

次はバトルが大目になりそうですね。流血描写などがありますが、まどマギとブレードを見てる読者様からすれば大丈夫だろう、とは思っています(Twin Bloodくらいの描写です)。

投下は、早くて土日。遅くても来週水曜までには。


>>214
>>215
>>218
ようこそおいでくださいました。
拙い文書きではありますが、ごゆるりとお楽しみくださいませ。
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/18(水) 23:08:33.14 ID:gR8qgGPSO
投下乙です。

次回も楽しみにしてるよ。
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/18(水) 23:10:26.20 ID:EHCFYJJo0
投下乙です

シンヤ坊きたぁぁぁぁぁぁ
しかし、ラダムの戦士と化したシンヤが何故マミさんを?
真相は如何に?次回も待ち切れねぇぜ!!
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/18(水) 23:10:39.92 ID:S12cRWDlo
劇団乙カレー


次回、早くも紅白テッカマン邂逅?
232 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/23(月) 22:43:44.38 ID:CWDjIEZN0
お待たせしました。
22:50より投下開始いたします。

また、今回お届けする四話におきましては、以前のようなAパート、Bパートなどでの区分けが困難になりそうです。

そのため、場面の節目節目で切る形となり、話の進行するスピードは以前よりもやや遅くなります。ご了承ください
233 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/23(月) 22:50:38.87 ID:CWDjIEZN0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 ぺたりと尻餅をついたまま、マミは呆然と目の前の光景を見ていた。
 魔女シャルロッテは、頭から顎までを槍で一文字にぶち抜かれ、地面に縫いとめられている。

 まるで、銛に貫かれた魚のようだ。
 
 現実に即応できない頭で、マミはそんな事を考えた。
 思考が凍りつく。頭の中のギアが石を噛んだかのように機能不全を起こす。
 しっかりと目の前のものが余さず見えているのに、それでも理解が追いつかないことがこの世にはあったのだと、マミは一種の感動すら覚えた。
 
 かろうじて認識できたのは、頭上でこちらを見下ろしている黒いテッカマンが、マミが食い殺される寸前に槍を投げて妨害した、ということ。ただそれだけ。
 何故? 彼は味方なのか? でも、テッカマンは。ラダムは。そう、敵。でも何故?
 断片的なまま繋がりを得ることのない思考が、浮かんでは解けて消えていく。
 マミは、未だ答えを出せずにいた。
234 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/23(月) 22:55:23.00 ID:CWDjIEZN0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「……Dボゥイさんじゃ……ない?」
「み、味方とか仲間とか、なのかな?」

 不安そうな視線で、さやかとまどかの二人は頭上の黒いテッカマンを見上げていた。
 ストレートに考えるなら、ブレードの仲間のテッカマン……と考えるのがよさそうだけど。
 だが、素直にそう信じるには、黒いテッカマンが放つ気配は――なんというか、禍々しいの一言に尽きた。
 
 礼を言うべきなのか、油断せずに静観するべきなのか、それとも逃げるべきなのか。
 彼女らもまた、結論を出せずにいる。
 
 と――。
 
「■■■■■■ーーーー!!!」

 突如響き渡った絶叫に、少女達は身をすくめた。
 見ると、地面に縫いとめられていたはずの魔女が、ゆっくりと鎌首をもたげて、黒いテッカマンを忌々しげに見上げている。
 無理やりランサーを引き抜いたと及ぼしき傷口からは、ドス黒い体液がぼたぼたと零れ落ちていた。
235 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/23(月) 23:00:11.31 ID:CWDjIEZN0
「………ッ」

 息を呑む。
 血、体液。
 生と死を連想させ、グロテスクさを伴うそれらは、まだ中学生であるまどかとさやかには、少なからずの恐怖と嫌悪の感情を呼び起こす。
 
 そんなことには全く気づかないまま、魔女シャルロッテは己の傷を再生させると、再び牙を煌かせてテッカマンエビルへと踊りかかった。
 対するエビルは、動じた様子を全く見せないままに、ショルダーアーマーへと手を当てると――そのままアーマーを外し、手甲のように構える。
 
 魔女は、一直線に騎士と交差し――
 ――そして、四つに切り裂かれた。
 
 エビルの構えているショルダーアーマーには、一つの変化がある。
 先端から、剣のように刃が伸びていたのだ。
 
 ショルダーラム。テックランサーが使用不能なときに近接戦闘を行うときのための、テッカマンエビルの専用武装である。
236 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/23(月) 23:06:31.81 ID:CWDjIEZN0
 だが、執着の名を冠する魔女がそのような事で止まるわけもなく。
 再び元通りに再生、いや蘇生すると、再びエビルへと殺到する。
 
 だが、それに対してもエビルは動揺した様子はなく。
 ただ、うんざりとした調子で、一言だけ、侮蔑するように吐き捨てた。
 
「"残り滓"ごときが……」

 そしてその言葉は、誰に聞こえるともなく空気に溶けて消える。
 仮に耳に入ったとしても、誰もその意味を解することは今は叶わなかっただろうけれども。
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/23(月) 23:11:50.51 ID:CWDjIEZN0
 魔女が、迫る。
 忌々しき邪魔者を、今度こそ食い殺さんと。
 魔女は思考する。
 ――さっきは剣で邪魔されたが、今度は大丈夫だ。
 切り裂かれたとしても、口から新たな個体を吐き出して、それで食い[ピーーー]だけのこと。
 見ろ、奴は無防備にこちらに身体を向けているじゃないか。
 
 ――だけど。
 あの胸に灯る赤い光は、一体なんだろう?
 
 魔女が思考し終えるよりも先に、エビルの咆哮が響く。
 
「ボルテッカァァァーーーッッ!!」

 そして次の瞬間。
 執着の魔女シャルロッテは、肉片ひとつも残さずにこの世から消失した。
238 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/23(月) 23:12:31.60 ID:CWDjIEZN0
 魔女が、迫る。
 忌々しき邪魔者を、今度こそ食い殺さんと。
 魔女は思考する。
 ――さっきは剣で邪魔されたが、今度は大丈夫だ。
 切り裂かれたとしても、口から新たな個体を吐き出して、それで食い殺すだけのこと。
 見ろ、奴は無防備にこちらに身体を向けているじゃないか。
 
 ――だけど。
 あの胸に灯る赤い光は、一体なんだろう?
 
 魔女が思考し終えるよりも先に、エビルの咆哮が響く。
 
「ボルテッカァァァーーーッッ!!」

 そして次の瞬間。
 執着の魔女シャルロッテは、肉片ひとつも残さずにこの世から消失した。
239 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/23(月) 23:16:04.26 ID:CWDjIEZN0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 ズシン、と重い音を立ててテッカマンが着地する。
 そのまま、彼は傍らに突き刺さっていたランサーを引き抜くと、まどかとさやかの二人へと歩みを進め――。
 
「――待ちなさい!」

 そして、マミの声に立ち止まった。
 恐怖に一度は折れた心を必死で立て直し、勇気を振り絞って、マミは叫ぶ。
 立ち止まったエビルに対して、油断なく銃を構えると、マミは続けた。
 
「あなた達ラダムは、一体どういうつもりで――」
240 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/23(月) 23:18:47.57 ID:CWDjIEZN0
 だが、マミの誰何の声は最後まで続かなかった。
 無造作に振るわれたエビルのランサーの一撃で、吹き飛ばされたからだ。
 ……咄嗟に銃を撥ね上げたから間に合ったものの、そうでなければ確実に首を刎ねられていただろう。
 
「きゃああーーーっ!?」

 吹き飛ばされ、地面に叩きつけられて、苦痛に悶絶したままマミは身じろぎする。
 
「マミさん!」
「な、何よあんた! あんたもテッカマンなら、テッカマンブレードと同じように正義の味方なんじゃないの!?」

 まどかは、吹き飛ばされた先輩に悲鳴をあげ。
 さやかは、その下手人をきつく睨むと、眉を逆立ててまくし立てた。
241 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/23(月) 23:21:13.72 ID:CWDjIEZN0
 だが、エビルはそれらを無視すると、未だ動けずにいるマミに対して、吐き捨てるように短く呟いた。

「焦らなくても、お前の始末はしてやるさ。……"紛い物"」

 その言葉を聞いたまどかは、目の前の状況にくらくらと眩暈を覚えつつも、心のどこかで首を傾げる。
 
(紛い物って……?)
 
 紛い物。マミさんが? それとも、魔法少女が? そして、何の?
 目まぐるしく乱舞する思考は、
 
「――さて」

 目の前のテッカマンが、こちらに向き直ったことで中断された。
242 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/23(月) 23:29:40.42 ID:CWDjIEZN0
「お前、今何と言っていた?」

 赤い目がこちらを睥睨する。
 ――正確には、さやかを、だ。
 
「――え?」

 突然のことに、恐怖を感じるきっかけさえ失って、呆けた返事をさやかは返した。
 
「確かに聞こえたぞ。……"Dボゥイ"。そして、"テッカマンブレード"、と」
「あ……あの」

 片手にランサーをぶら下げたまま、ゆっくりと、死神のようにエビルはさやかへと近づいていく。
 禍々しく、そして容赦なくこちらを串刺しにしてくる殺気に完全に気圧され、さやかは震えながら後ずさりした。
243 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/23(月) 23:30:35.68 ID:CWDjIEZN0
「どうした? 答えられないのか?」

 さやかは答えない。答えられるわけがない。
 目の前にこれ以上なくはっきりとして迫り来る死のイメージに、恐怖に顔を引きつらせたまま、ただ後ずさりするだけだ。
 ……だが、それがいけなかった。
 
「あっ!」

 足元にあったウェハースの欠片に気づくことができず、不運にもそれに蹴躓いて尻餅をついたのだ。
 
「……ほう、そうか。ならば……」

 酷薄に仮面の下で目を細めると、エビルはランサーを大上段に振り上げた。
 
「手足のひとつでも切り落とせば、もっと素直になれるかもなぁ!?」
「…………ッ!」

 ついに正視することすらできなくなるほどに、膨れ上がった恐怖に押し潰され。
 さやかは身体を丸めると、ギュッと目をつぶった。
244 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/23(月) 23:32:14.63 ID:CWDjIEZN0
今日はここまでとなります。

魔女の危機が去ったと思えば、今度はテッカマンエビルが新たな敵となり。
果たして、さやかの運命は!?

次回もまたお楽しみに!

なお、次の投下は水曜〜木曜くらいになりそうです。
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/23(月) 23:38:16.99 ID:iYouuXido
乙。



無粋は承知であえて突っ込ませてもらうと、魔女を殺したら結界は消滅するのでは……?
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/23(月) 23:42:25.19 ID:CWDjIEZN0
…おう(ポン)。

その、今回は演出の都合上ということで……
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/24(火) 08:57:51.92 ID:oDBr7SCP0
乙だぜ!!

やっぱりシンヤ坊はシンヤ坊だった
早く来てくれDボゥィ!!このさいランスさんでも構わないから!!(鬱クラッシャーの方だけども)
248 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/05/26(木) 21:22:55.53 ID:wVoK3WRB0
大変長らくお待たせしました。
21:30より投下いたします。
249 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/26(木) 21:24:56.85 ID:wVoK3WRB0
いかん、sageのままだった
250 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/26(木) 21:31:37.38 ID:wVoK3WRB0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 そして。
 
 その声は。
 その叫びは。
 その意志は。
 
 彼方より発され、此方にて響いた。

「うおおおおーーーーーっっ!!!」
「何っ!?」

 エビルは声の方向へと、振り上げていたランサーを反射的に構える。
 
 ――ギィィィィン!!

 手のひらから伝わる不快な衝撃。
 反応弾にすら耐える、テッカマンの装甲をやすやすと貫くテックランサー。
 超振動・単分子の刃によって構成されたそれは、同じランサー同士で触れ合うと耳障りな共鳴音を発する。
 そう、今この時のように。
 
 そして、この攻め方。
 妬ましいくらいに真っ直ぐで、それでいて力強い攻撃。
 この戦い方の持ち主を、エビルはよく知っていた。
251 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/26(木) 21:38:47.23 ID:wVoK3WRB0
「Dボゥイさん!」
「間一髪だったか……。みんな大丈夫か!?」

 ギリギリと鍔迫り合いながら、横から乱入してきた者――テッカマンブレードは、視線はエビルから外さぬまま、まどか達を気遣った。

「フフフ……ハハハハハハハ!」

 声色を狂喜の一色に塗りつぶし、エビルはランサーを大きく振り払って跳躍すると、歓迎するように両手を大きく広げた。
 
「嬉しいな、兄さん。やっぱり俺を追ってきてくれていたんだね?」
「黙れっ、エビル!」

 喜びに満ちたエビルの声とは対称的に、憎しみと敵意に満ちた声でブレードは応じた。
 そのまま殺意の切っ先を黒いテッカマンに向けて、

「お前たちラダムの邪悪な思惑は、すべて俺が打ち砕く!」
「フフフ……こんな残り滓の結界の中で、というのは癪だが……今日こそ決着をつけてやろう、裏切り者ブレード!」

 ブレードの、闇を切り裂くような叫びと。
 エビルの、光すら食い尽くすような叫びが、交差する。
 
 それは、さながらに騎士の名乗りのように。

「うおおおおーーーーーっっ!!!」
「はああぁぁーーーーーっっ!!!」

 そして、白と黒の騎士は激突した。
252 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/26(木) 21:51:25.42 ID:wVoK3WRB0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 ――ギィィィン!

 再び、あの耳障りな音が響く。
 さっきよりもより強く、より大きな音だ。
 
 同時に、二人の周囲にあったケーキの山が、飴のように溶け崩れたり、氷砂糖のように木っ端微塵に砕けて消えていく。
 テッカマンの超音速戦闘によって発生する衝撃波によるものだ。

 その荒れ狂う衝撃の中で、二人のテッカマンは戦闘を行っていた。

 互いを切り裂かんと、殺意を込めた穂先を振るい。
 その穂先を、拒絶を込めた柄で打ち払う。
 
 死角から突き込まれてくるランサーを、ブレードは見切った。逆手に装着した盾――テックシールドを跳ね上げるようにエビルのランサーにぶつけて受け流し。
 そして、首筋から袈裟懸けに斬り込もうとランサーを振りかぶる。

 だが、エビルはさらに動いた。盾で受けられ、ブレードの身を切り裂くことなく流れる太刀筋を、手首を返し、捻ることで強引に流れを変える。
 点を突く動きから、線を斬る軌道へと、だ。
253 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/26(木) 21:56:05.55 ID:wVoK3WRB0
(く……!)

 咄嗟の機転にしては洗練され過ぎた動作。
 つまり、最初の突きはフェイントだ。
 突きから横薙ぎへと形を変えるそれを、ブレードは振りかぶったランサーを下に打ち下ろすことで受け流した。
 
 ――ギィィィン!
 
 再び響く音。
 
 まるで、ピアノの最高音だけを出鱈目に連打しているかのような音だ。
 跳ね上げ、伸びきった両腕を、ブレードは引き戻そうとして――。
 
「……がっ!?」

 エビルの放った直蹴りを、まともに胸に受けて吹き飛ばされた。

 二撃を受け、二つの武器を引き戻そうとした所での蹴り。

(二撃ともにフェイントとは――!)
254 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/26(木) 22:08:01.77 ID:wVoK3WRB0
 バーニアスラスターをふかし、大きく身を振るうとブレードは姿勢を安定させようとする。
 だが、勢いは殺しきれずに足は地面に突き刺さり、がりがりと床を削った。
 
「くっ!」
「逃がさんぞぉ!ブレードォォォーッ!!」

 エビルの開閉式スラスターが展開・咆哮し、一直線にこちらへと突っ込んでくる。
 こちらへと、切っ先を突きこむ軌道。
 着地して安定を失ったこちらには、ランサーやシールドで受けるという選択肢はない。
 故に、ブレードは大きく跳躍してエビルの一撃をかわそうと、背部スラスターの出力を上げようとした。
 
 だが。
255 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/26(木) 22:17:17.41 ID:wVoK3WRB0
「ひっ!!」
「!!」

 背後から、そしてぞっとするほど近くから響くまどかの悲鳴に、ブレードは凍りついた。
 エビルの軌道は、自分と少女たちの二つを貫く軌道。
 つまり、
 
(ここで俺が避ければ、後ろの彼女たちは……!)

 逡巡は一瞬。
 だが、その一瞬ですら、ブレードにとっては許しがたい逡巡。
 
 ブレードはキッとエビルを見据えると、背部バーニアを稼動させる。
 だが、それは飛び上がるためでなく。
 自分が、あの二人がいる場所へ吹き飛ばされないようにするためのものだ。

 そして。
 
 ――――ドシュッ!
 
 おぞましく、生々しい音と共に。
 ブレードの背中から、一本の刃が生えた。
256 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/26(木) 22:18:35.34 ID:wVoK3WRB0
今日はここまで。
次回は、土日くらいの投下になるかと思います。

また、次に読むときは「永遠の孤独」の脳内再生の準備をお勧めいたしますw
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/26(木) 22:29:09.09 ID:wUy2Wh3SO
乙です。

曲どころかキャストの声まで脳内再生バッチリでした。
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/05/28(土) 00:08:53.09 ID:0OsmsAX30
乙です。
テッカマンブレードはスパロボにも2回ほど出てきたから少しずつ知名度が上がってきていると信じたいです。
それにしてもマイクが壊れるほどのボルテッカのシャウト聞いててまどかたちは大丈夫だろうかww
259 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/05/29(日) 17:55:29.77 ID:dein4JFl0
すいません、現在難産で遅れています。

火曜までにはなんとか仕上げますので…
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/05/29(日) 22:47:57.87 ID:LYrHRHzG0
気長にどうぞ。
 
じっくり練り上げて納得いくものを期待しますよ。
261 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/05/31(火) 22:20:42.66 ID:oHP4Xb1n0
大変長らくお待たせしました!
22:30より投下開始します
262 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/05/31(火) 22:32:49.35 ID:oHP4Xb1n0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「ぐ……が……ッ!!」

 ごぽり、と重い音を立てて、貫かれたブレードの腹から漏れた血が、周囲を赤く染める。
 
「苦しそうだな、ブレード?」

 ニヤリと、目を細めるエビル。
 
「次の一撃で、今度こそ楽にしてや――」

 言いながら、ランサーを引き抜こうとして、
 
「――む?」

 感じた違和感に、視線を下ろした。
 深々と刺し貫かれたランサー。
 それが、接着剤で固められたかのように、がっちりと固定され、動かなくなっていたのだ。
 何のことはない、少し力を込めて引き抜けば、無理やりにでも抜ける程度のもの。
 
 ……だが、致命的な隙を作るには十分すぎる時間だった。
 
「――!」

 ブレードの意図に気づいたエビルが、ハッと顔を上げる。
263 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/05/31(火) 22:38:12.67 ID:oHP4Xb1n0
 ――視界に入ったのは、振りかぶられたランサーの尖端。
 
「お……ああああああっ!!」

 ――――ズシュッ!
 
「が……は……ご……っ!!」

 防御する間もなく、突き出されたランサーは。
 そのまま、エビルの胸を貫いた。
 
 ばしゃり、と盛大に噴き出した血が、ブレードの白い貌を斑の赤に染めていく。
 
「ぬうぅぅぅ……!!」
「ぐうぅぅぅ……!!」

 槍を握る手に力を込め、二人はより深く、お互いを刺し貫く。
 ギチギチと甲殻が軋む音と、ごぼごぼと血が盛大に吹き出る音。
 そして、二人の獣じみた唸りが辺りに響いた。
264 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/31(火) 22:41:34.77 ID:oHP4Xb1n0
「でぃ、Dボゥイ、さ……」

 鼻を侵してくるのは鉄の臭い。
 すぐそこに迫るのは死の臭い。
 二つの臭気に理性を削り取られ、まどかは恐慌を起こす一歩手前のままで、震えながらテッカマン二人の凄惨な死闘をただ見つめていた。
 
 次の瞬間。
 まどかの視界が、横にブレた。
 
 否、ブレたのは自分の身体の方だ。
 こちらの腕を力強く引っ張って、戦いの場からより離れた方へと連れて行く者がいた。
 その人物は、こちらとさやかに振り返ると、一言だけぼそりと漏らす。

「逃げるわよ」
「ほむらちゃん!?」
「ちょ、ちょっと転校生! あんた、Dボゥイさんを見捨てて行くつもりなわけ!?」

 抗議の声を上げるさやかに、ほむらがうんざりと視線を向ける。
 それは、「まだわかってないのか、この馬鹿は」と言いたげで、
 
「……彼が、なぜあの一撃を避けなかったか。まだわからないの?」
「…………」

 その言葉の意味に気づいたのか、口を固く結んだままでさやかもほむらの後に続いた。
265 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/31(火) 22:46:07.56 ID:oHP4Xb1n0
 その様子を察知したのかどうかはこちらからは判別できなかったが、
 
「ウ、オオオーーーッ!!」

 力を蓄えていたブレードの推進器が力強く吼えると、ブレードの身体は爆発的な加速を得た。
 エビルもそれに抗おうとブースターが火を吹くが、
 
「――がっ!?」
 
 させじと、ブレードの右手がエビルの頭を鷲掴みにする。
 片手が空いたことで、貫くためにかかる力は弱まるが、
 
「ぬうぅぅ………!」

 ギシギシと骨格が軋み、エビルの上体が傾いでいく。
 それに呼応するかのように、じりじりとエビルは後ろに押されていた。

 テッカマンに搭載されているバーニアユニットは、大出力とそれに耐えうる耐久性を実現するために基本的に固定式だ。
 故に、姿勢制御は四肢を使って行う。水中で姿勢を保つ要領で、四肢を動かすことによる反作用を利用するのだ。
 だが、今このときのように、それが行えない状況であったならば。
 
(押し負ける……!)

 推力が上に向いた分だけ、横方向への力が弱まっていくのだ。
  
 そしてお互い貫かれた格好のまま、二人の騎士は。
 エビルの十数メートル後方にある、溶けかけのケーキのオブジェの中に突っ込んだ。
266 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/31(火) 22:51:49.25 ID:oHP4Xb1n0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 二人が突っ込んだケーキが、戦いの余波であちこちが弾けて散っていくのを眺めながら、まどかは呆然と呟いた。
 
「ほむらちゃん、あれ、なんなの?」
「…………」

 まどかの問いに、ほむらは沈黙して答えない。
 ほむら自身も、答えるべき回答を持っていなかったからだ。
 と、そこへ聞き覚えのある声なき声が語りかけてきた。


「前にも言っただろう、まどか。あれはテッカマンだよ」
「キュゥべえ!?」
「ッ!!」

 足元からこちらを見上げてくるキュゥべえに、まどかは驚きの声を上げて。
 対するほむらは、敵意に満ちた眼差しで白い獣を刺し貫いた。
267 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/31(火) 22:55:55.00 ID:oHP4Xb1n0
「おっと、ここで僕を攻撃するのはやめて欲しいな、暁美ほむら。君だって、あそこのテッカマンの矛先が自分達に向いた時のために、余力は残しておきたいだろう?」
「…………」

 皺が寄った眉根に、より力を込める。
 ふつふつと苦味を伴って煮えたぎる感情は、この白い悪魔を八つ裂きにせよと声高らかに訴えてきた。
 だが、この白い獣の言っていることは状況としては正しいという、理性の囁きにほむらは従った。
 ――――それでも、武器を抜こうと構えた腕を下ろすのには、数秒を要したが。

「……ねえ、キュゥべえ。テッカマンって、一体なんなの?」

 ほむらの後ろについてきていた、さやかがキュゥべえに向かって問いかける。
 それは、ほむらもまた知りたい疑問だった。
 情報源があいつというのは極めて不本意ではあるが――。
268 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/31(火) 23:00:36.63 ID:oHP4Xb1n0
「君たちは、ラダムを知っているかな?」
「ラダム……?」

 まどかには、聞き覚えのある単語だった。
 病院の待合室で、さやかを待っていたときに見たニュース番組を思い出す。
 その横で、さやかが再び口を開いた。

「確か、オービタルリングを占拠して地球に攻撃を仕掛けてる、って宇宙人だっけ?」
「うん。そうだね。テッカマンというのはね――」

 一旦話すのを止めて、キュゥべえはじっと三人を見つめた。
 感情の見えないガラス球のような、赤い瞳で。

「テッカマンとは、ラダムの所有する惑星侵略のための生物兵器なのさ」
269 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/31(火) 23:06:36.96 ID:oHP4Xb1n0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「―――げほっ! ごほっ、ごほっ……」

 じんわりと血の味が混じった痰が口の中に湧いてくる。
 もしかしたら、さっき吹き飛ばされたときにどこか傷つけたのかもしれない。
 それがどれだけの苦痛か、衝撃か。
 受けたダメージはどれだけ致命的なものなのか。
 ――致命傷であるなら、自分が死ぬのは一体何秒後か。
 
 それら全てを頭の外に捨て去って、マミはよろよろと上体を起こした。
 頭は未だぐらぐらする。平衡すら保てない身体を、銃を杖にすることでなんとか支える。
 ぜ、とも、ひ、ともつかない呼吸の音を吐きながら、マミが己に言い聞かせるのはただ一つの言葉。
 
「守ら……なきゃ」

 Dボゥイさんも、あの暁美ほむらも、頼りにできない。してはいけない。
 鹿目まどかと、美樹さやかの二人を守れるのは、自分だけだ。
270 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/31(火) 23:07:53.13 ID:oHP4Xb1n0
あ、やべ。キュゥべえの会話は『』でくくるようにしてたのに、忘れてた…
271 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/31(火) 23:10:18.90 ID:oHP4Xb1n0
 自分、だけなんだ。
 
 もし守り通すことができなかったら……また、自分は独りぼっちに逆戻りになってしまう。
 
 それだけは。それだけは、嫌だ。
 また独りになるくらいなら、いっそ――――。
 
 だから、守るんだ。私が守ってあげなくちゃいけないんだ。
 
 呪文を唱えるかのように、言霊を紡ぐかのように、マミは。
 ゆっくりと立ち上がると、ケーキのオブジェだったモノを突き破って上昇する白と黒を見上げた。
272 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/31(火) 23:12:52.64 ID:oHP4Xb1n0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「生物……兵器?」
「……そんな。Dボゥイさんが……」

 呆然と呟くまどかとさやか。
 そんな彼女たちのことはお構いなしに、キュゥべえは説明の文句を並べていく。

『そう、生物兵器さ。彼らの強さは見ただろう? 単体のテッカマンが相手であったとしても……マミと暁美ほむら。
この二人が仮に協力して当たったとしても、勝てる可能性は決して高くはないと言わざるを得ない。
それほどまでの強さなんだ、テッカマンは。ましてや、既に二体ものテッカマンが目の前にいる。こちらには数の優位さえ存在しない』

 と、ここでキュゥべえはまどかとさやかを期待の眼差しで見上げてきた。

『でもまどか、さやか。もし君たち二人が魔法少女になれたなら、対抗することもできるかもしれない。
特にまどか。君が魔法少女になれば、相手がテッカマンだろうときっと敵じゃない強さを持てる。それだけの魔力が、君にはあるんだ』
「わたし、に……?」

 我知らず、まどかは自分の胸に手を当てていた。
 わたしが、みんなを助けられる。
 さやかちゃんもマミさんも、ほむらちゃんも、みんな。
273 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/31(火) 23:16:14.20 ID:oHP4Xb1n0
 まどかの瞳から恐怖の感情が消えていくことに戦慄して、ほむらは叫んだ。
 
「ダメよ、まどか! そいつの口車に乗ったら……!」

 だが、その叫びは他ならぬキュゥべえによって中断される。

『おや、暁美ほむら。じゃあ他にこの状況を脱する術を君は持ち合わせているのかな?
どうやら君はまどかを魔法少女にしたくないようだけど、このままじゃ魔法少女になる以前にみんな奴らに殺されてしまうよ?』
「…………ッ!」

 ギリリ、と歯噛みする。
 受け入れたくないが、事実だった。
 あの赤いテッカマンがこちらに牙を剥けば、自分や巴マミでは足止めできるかすらも怪しい。
 ……だが、それでも諦めるわけにはいかないのだ。私は。

「さあ、二人とも。奴らから地球を守るためにも、急いで! 早く僕と契約を!」
「地球を……」
「守る……」

 ふつふつと、少女二人の心が万能感に燃え上がる。
 今ここで魔法少女になったなら、みんなを助けられる。
 それどころか、ラダムを追い出して地球を救うことすらできるかもしれない、と。
274 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/31(火) 23:16:57.72 ID:oHP4Xb1n0
 だが、その瞬間。
 まどかの脳裏に、一つの象形がフラッシュバックする。
 自分達を庇い、腹を槍に貫かれるブレードの姿を。
 思えば、彼が駆けつけてくれたときに最初に言っていたのは、いつも「大丈夫か」と、こちらの安否を心配する声だった。
 ……あの不器用そうながらも優しさを備えた青年が。
 荒々しくも力強い、白いテッカマンが。

 ――地球を侵略しにきた悪い宇宙人だなんて、そんな風に見えたのだろうか?

「……違うよ!」
『……まどか?』
「たとえラダムが悪い宇宙人だったとしても、それでもDボゥイさんは、ずっとわたし達を守るために戦ってくれてたんだよ!」
『…………』
「だから、Dボゥイさんと力をあわせて、みんなで一緒にがんばればきっと――」

 そんなまどかの呼びかけは、
 
 ――――ズドン!!
 
 突如轟いた、銃声によって中断された。

「――――マミさんッ!!」
275 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/05/31(火) 23:18:36.31 ID:oHP4Xb1n0
今日はここまでとなります。
キュゥべえの誘惑を振り切ったまどか、だがそこに鳴り響く銃声……
果たして、マミの行動は如何なる結果をもたらすのか。

次回もまたお楽しみに!

なお、次回投下は早ければ明日、遅くても土曜には投下いたします。
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/31(火) 23:27:51.19 ID:YCEiDPUDO
乙!
こいつらなんでテッカマンが殺しあってるんだとか思わないのか
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/01(水) 00:08:02.74 ID:vrBLrmLR0
乙だす
マミさんが……誤解は解けるんだろうか
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/06/01(水) 23:20:33.48 ID:miXN88YP0
>>276
非常事態だから頭が回らないってのもあるだろうし、考えてたとしてもラダム=敵って考えだから、「敵の考えなんか理解してもなぁ」とか考えてるのかも。
279 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/06/02(木) 14:38:37.84 ID:XYv4VjDu0
まどか&さやか:状況に思考が追いついていない
ほむら:イレギュラーな事態にどう行動すべきか考えあぐねている
マミ:そもそもふっとばされて人事不省

というところでしょうか。

QBがどう考えてるのかについては…ちょっと先のネタバレも含むのでここでは伏せるということで。

とりあえず次の投下は今日明日のどちらかになりそうな感じです。
280 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 22:03:21.17 ID:fNbpC42f0
大変長らくお待たせしました!
22:20より投下開始いたします。
281 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 22:22:07.55 ID:fNbpC42f0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 白と紅の閃光が、幾重もの螺旋を描きながら高速で上昇していく。
 その戦いは、英雄やヒーローがするそれのような、高潔さや華麗さは微塵も存在せず。
 あるのは、惜しむことなく振るわれる、人外の異能の力と。
 魂すら凍りつかせるような、殺意の応酬だけだ。

 あるときは連打。
 あるときは力任せ。
 あるときはフェイント。
 
 その全てを応酬に乗せる。
 火花が散り、音が弾け、だがお互いの勝負の行方は互角という名の境界線上から一歩も動くことはない。
 高い金属音が周囲の雑音を、散る火花が周囲の視線を、二人から遮断していく。
 まるで結界だ。

「ぬんっ!」
 
 真上からの斬り下ろし。さらに勢いを殺さずに肘打ち。右半身を突き出したことによる反動を利用した左回し蹴り。腰を捻って放つ本命の刺突。
 それらすべてをかわし、押さえ、打ち、弾いて、エビルは一歩下がる。
 
「……ッ!」

 追撃に移りたいところだが、伸び切ったこの体勢では一拍置かなければならない。
 故にこそ、エビルはバックジャンプで下がったのだろうが。
282 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 22:28:07.43 ID:fNbpC42f0
「昔はこうして、よく稽古をしたねぇ…兄さん!!」
「シンヤ…!」

 エビルが――否、相羽シンヤが、楽しげに語りかける。
 対するブレード――相羽タカヤは、袈裟懸けにランサーを斬り込み、そして受け流された。
 
「あの時、俺の一撃をかわさなかったのも、後ろの人間どものせいかい?」
「……!!」
「ふふっ、図星か。あんな不完全な生き物にいつまでもこだわるなんて、そんなくだらないことをしているから、隙ができるのさ!」
「貴様……!」

 挑発。そうだとわかっていても、それはDボゥイの感情を熱く煮沸させた。
 放つ一撃はもはや乱打となり、その代償に精度を著しく欠いていく。

「貴様……!」
「それとも……『あいつ』を救えなかった罪滅ぼしのつもりなのかなぁ? 今度は間に合わせてみせる、なんてねぇ!」

 刹那。
 タカヤの中で、何かが断裂した。
283 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 22:34:00.57 ID:fNbpC42f0
「テッカマンエビルゥゥゥーーーッッ!!!」
「フフフ……死ねぇっ! ブゥレェェドォォォーーーッッ!!!」」

 憎悪と狂喜、愛情と殺意を交錯させ、お互いは一撃を放つ。
 狙うは必殺。
 自分の身は一切省みることなどなく、ただ相手を殺めること以外は考えてない、そんな一撃だ。
 だが、しかし。

「……むっ!?」
「……何っ!?」

 不意にブレードから見て左手側、地上の方から一条の光が掠めた。
 そして、数瞬だけ遅れて、
 
 ――――ズドン!

 と、銃声が響く。
 この技の持ち主を、ブレードはよく知っていた。

「マミ!?」
284 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 22:37:08.10 ID:fNbpC42f0
 地上を見下ろすブレードの目には、よろめきながらもこちら――自分なのか、それともエビルに対してなのか、あるいは両方かは判別がつかなかったが――を睨みつけ、銃を構える、黄色の魔法少女の姿があった。
 その目は、強迫観念と恐怖で塗り固められ、まるで幽鬼のようにも見える。
 
 そして。
 今度こそ明確に憎悪を滾らせて、エビルはマミを睨み据えた。

「貴様ぁ……一度ならず二度までも、俺の邪魔をするか……!」
「……ッ!」

 放たれた憎悪と殺意は、容赦なくマミを串刺しにして。
 マミの身体を、逃げることすら許さずに地面につなぎ止める。

「出来損ないの分際で、俺達の間に入ってくるな!」

 叫ぶと、エビルは構えを取る。
 両肩を引き、胸を誇示するように突き出す構えだ。
 その意図を明確に察知したブレードは、動揺を含んだ叫びを放つ。

「……! 待て、エビル! よせ! やめろ!!」
「ボルテッカァァァーーーッッ!!」

 叫びと共に、エビルの胸のボルテッカ射出口から、赤い光が爆発した。
285 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 22:43:13.83 ID:fNbpC42f0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 赤い光が、テッカマンに収束していく。さっきの魔女にとどめを刺した技と同じものだろう。
 当たれば、あの魔女と同じように、巴マミを形作っていたモノはこの世から消失する。

 そのテッカマンの放つ殺気に竦み上がり、すぐそこに迫る死の恐怖に怯えながらも、どこかで無感動に、ぼんやりとマミは上を見上げていた。
 「ああ、これは死ぬな」とマミは思った。
 それはとても怖くて、独りになるよりはってさっき思ってたのに、いざそうなると震え上がりそうなくらい怖くて、
 同時に、「ああ、これで終わるんだな」という、奇妙な安堵も、なぜか同時にあった。
 質量さえ伴った圧倒的な光が殺到する。
 これで終わり。ゆっくりと、自らに閉幕を告げるように、目を閉じようとして――。
 
「……え?」
「何っ!?」

 ……そして。
 この後の、刹那に近い時間をマミは一生忘れることはないだろう。
286 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 22:48:04.32 ID:fNbpC42f0
 半ば以上まぶたで閉じられた視界の中。
 不意に、こちらに割り込んでくる背中があった。
 そして次の瞬間。その人の肩が、断ち割られ、展開していく。
 一瞬だったはずのそれらは、スローモーションのようにゆっくりと、マミには知覚できた。
 
「――Dボゥイさん!」

 その人の名を叫ぶ。
 こちらに背を向ける彼は、答えずに叫びを放った。
 力ある言葉を。

「ボルテッカァァァァーーーーーッッ!!!」

 そして。
 紅と碧の奔流が激突した。
287 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 22:54:55.93 ID:fNbpC42f0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 初めに放たれたのは、光。
 それらに薙ぎ払われるように、地面が波打った。
 そして、数瞬だけ遅れて破砕が生じる。
 衝撃と爆発により、空が割れ、音は砕けた。
 光は力となり、音は圧力へと変化し。そして、風は爆発を伴って全てを吹き飛ばし、洗い流す。

「きゃああああああっ!!」
「わあああああああっ!!」

 頭上を飛び去っていくオブジェだったもの。
 ともすれば自分の身体ごと吹き飛ばされそうな強風に。
 ただただ恐慌して、まどかとさやかはうずくまりながら絶叫した。
 だが、次の瞬間。

「――――ッ!?」

 不意に飛び出した影二つが、まどかとさやかを押し倒す。
 衝撃からこちらを守るように覆いかぶさるそれは、

「――ほむらちゃん!?」
「アキさん!?」

 名を呼ばれた二つの影は、答える代わりにぎゅっと少女二人の身体を強く抱きしめる。
 
 駆け抜けた光は大気を焼いて押し上げ、加速を続けながら周囲へ展開していく。
 白く泡立つような響きと共に、爆風として周囲を焼き尽くす音の群れは、風と共に螺旋を描き、宙へと舞い上がった。
 その二つは高速で、競うかのように、巻き上げた土くれと共に舞い踊る。
 そしてそれらが通り過ぎた後は、全てが空へと巻き上げられ、周囲にはただ残響が低く響いていた。
288 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 23:04:40.48 ID:fNbpC42f0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 そして。
 激突の余波が完全に過ぎ去った事を確認して、アキは身を起こした。

「…………」

 一瞬、自分がどこにいるのかわからなかった。つまりは、それ程までに跡形もなく破壊しつくされた、ということだが。
 自分が気絶していたのではないかと錯覚さえするが、身体の下にいるさやかが身じろぎしたことと、未だチリチリと熱さを伴っている空気から、それ程時間が経っていたわけではない、と判断した。
 傍らを見ると、自分とそっくりの表情で(と、アキには確信できた)、ほむらが周囲を見回している。
 
 と。
 
 ガラガラと音を立て、瓦礫の中から二つのものが身を起こした。
 ブレードと、エビルだ。
289 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 23:17:38.25 ID:fNbpC42f0
 ガギン、とランサーを杖代わりに大地に穿ち、よろよろと二人の騎士は立ち上がる。
 お互いに、満身創痍である。
 装甲は光で焼き焦げ、爆発でひび割れ、そしてボルテッカ発射口は、完全に融解して使い物にならなくなっていた。
 シンメトリーであるかのような錯覚さえ覚えるほどに対称的な二人だったが、一つだけ大きな違いがある。
 ブレードがその片腕に抱きとめている、マミの存在だ。
 二人のダメージに反して、彼女には擦り傷程度で大きな負傷は全く見られない。
 その事を確認すると、ブレードはゆっくりと息を吐く。
 
(うまくいったか……)

 エビルのボルテッカに自分のボルテッカをぶつけ合わせて相殺、そして衝撃の余波からは、自分の身を挺してマミを庇う。
 一歩間違えれば自分ごと消し飛びかねない危険な賭けだったが――だからといって彼女を見捨てることは、ブレードにはできなかったのだ。
290 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 23:20:30.07 ID:fNbpC42f0
 ガギン、とランサーを杖代わりに大地に穿ち、よろよろと二人の騎士は立ち上がる。
 お互いに、満身創痍である。
 装甲は光で焼き焦げ、爆発でひび割れ、そしてボルテッカ発射口は、完全に融解して使い物にならなくなっていた。
 シンメトリーであるかのような錯覚さえ覚えるほどに対称的な二人だったが、一つだけ大きな違いがある。
 ブレードがその片腕に抱きとめている、マミの存在だ。
 二人のダメージに反して、彼女には擦り傷程度で大きな負傷は全く見られない。
 その事を確認すると、ブレードはゆっくりと息を吐く。
 
(うまくいったか……)

 エビルのボルテッカに自分のボルテッカをぶつけ合わせて相殺、そして衝撃の余波からは、自分の身を挺してマミを庇う。
 一歩間違えれば自分ごと消し飛びかねない危険な賭けだったが――だからといって彼女を見捨てるなど、ブレードにはできなかったのだ。
291 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 23:25:46.75 ID:fNbpC42f0
「おのれ、ブレード……貴様ッ」

 怨嗟の声を上げながら、緩慢とした動作でランサーを引き抜くエビル。
 だが、しかし。
 それが切欠であるかのように、周囲の景色が溶け崩れていく。
 まるで、熱に溶ける水飴のように。
 
「これは……」
「結界が、解けていく……」

 ほむらの声を肯定するかのように、崩れる速度は加速していき。
 そして、周囲は元の病院の駐車場に戻った。

「ちっ……この勝負、預けたぞ! ブレード!」

 言い捨てると、素早く身を翻してエビルのブースターが咆哮する。
 次の瞬間、エビルの姿はどこからも消え去っていた。
292 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 23:28:35.31 ID:fNbpC42f0
「おのれ、ブレード……貴様ッ」

 怨嗟の声を上げながら、緩慢とした動作でランサーを引き抜くエビル。
 だが、しかし。
 それが切欠であるかのように、周囲の景色が溶け崩れていく。
 まるで、熱に溶ける水飴のように。
 
「これは……」
「結界が、解けていく……」

 ほむらの声を肯定するかのように、崩れる速度は加速していき。
 そして、周囲は元の病院の駐車場に戻った。

「ちっ……この勝負、預けたぞ! ブレード!」

 言い捨てると、素早く身を翻してエビルのブースターが咆哮する。
 次の瞬間、エビルの姿はどこからも消え去っていた。
293 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 23:35:10.27 ID:fNbpC42f0
「待てッ、エビル! ……ぐっ」

 エビルが飛び去った方角に、ブレードも手を伸ばしたが。
 ガクリと膝が力を失い、そのまま膝を着く。
 それに呼応するかのように装甲が解けていき――傷だらけのDボゥイの身体が露になった。
 
「でぃ、D、ボゥ、イ、さ……」

 その拍子に我に返ったのか、朦朧としていた意識のままで、Dボゥイに抱きかかえられていたマミが身じろぎした。
 
「怪我はないか? マミ」

 雨に濡れた子犬のように、ぶるぶるとマミは震えていた。
 まるでぬくもりを求めるかのように、その手をDボゥイへと伸ばし。
 
 ――だが、Dボゥイに触れたその手は、不意にヌルリと滑った。
294 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 23:47:33.05 ID:fNbpC42f0
「……え?」

 慣れない、否、慣れた感触であったはずだが思考が追いつかず、マミは目の前に手指をかざす。
 その手を濡らしていたのは――他でもなく、血だった。

 ドクドクと溢れる血。
 私がこの世界に身を投じたときも、それは血にまみれていた。
 強い衝撃と共に何が起こったのかすらもよく理解できないまま、車の後席に押し込められた私。
 周りを見ても、あるのは脳を侵す油の匂いと、肌を焼く炎の熱さだけ。
 否、ひとつだけある。
 鼻をつく鉄のニオイ。
 車の前部座席。
 滑稽なくらいにくしゃくしゃに潰されたそれは、使用後は丸めてポイ!が売り文句だった掃除用具のCMを連想させた。
 鼻をつくのは血のニオイ。
 パパとママだったモノが放つニオイ。
 
 ――――それは、死のニオイ。
295 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 23:48:33.63 ID:fNbpC42f0
いかんな、やたらめったらに重い。
どうしたもんか
296 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 23:51:19.61 ID:fNbpC42f0
「……え?」

 慣れない、否、慣れた感触であったはずだが思考が追いつかず、マミは目の前に手指をかざす。
 その手を濡らしていたのは――他でもなく、血だった。

 ドクドクと溢れる血。
 私がこの世界に身を投じたときも、それは血にまみれていた。
 強い衝撃と共に何が起こったのかすらもよく理解できないまま、車の後席に押し込められた私。
 周りを見ても、あるのは脳を侵す油の匂いと、肌を焼く炎の熱さだけ。
 否、ひとつだけある。
 鼻をつく鉄のニオイ。
 車の前部座席。
 滑稽なくらいにくしゃくしゃに潰されたそれは、使用後は丸めてポイ!が売り文句だった掃除用具のCMを連想させた。
 鼻をつくのは血のニオイ。
 パパとママだったモノが放つニオイ。
 
 ――――それは、死のニオイ。
297 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/03(金) 23:59:47.24 ID:fNbpC42f0
 
「あ……あ……ああ……!!」
「……!?」

マミの変化に、Dボゥイは訝しげに目を細める。
真っ青な顔色のまま、マミはガタガタと身体が震え始め、ガチガチと歯を鳴らし。
そして、不意に、マミの瞳孔がキュッとすぼまる。

「ああああああっ!! いや、いや、嫌ぁ! 母さん!! 父さん!! あああ!! あああああああああ!!!」
「ッ!? どうした、マミ!?」

 いやいやと大きくかぶりを振り、皮が裂けそうなくらいに爪を立ててDボゥイの身体にしがみついて、マミは絶叫した。
 ――恐慌状態だ。
 
「やだ、やだ、やだぁっ! 父さん! 母さん! 私を置いて行かないで! 私を、独りにしないで!!」
「落ち着いてくれ、マミ! ――落ち着け!」

 少女が出すには大きな力で暴れるマミに、Dボゥイは力でマミの身体を抑え込むと、マミの顔を両手で包んだ。
 無理やりにでも、視線を合わせるためだ。
298 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/04(土) 00:04:04.05 ID:nK713Vpk0
「あ……あ……ああ……!!」
「……!?」

マミの変化に、Dボゥイは訝しげに目を細める。
真っ青な顔色のまま、マミはガタガタと身体が震え始め、ガチガチと歯を鳴らし。
そして、不意に、マミの瞳孔がキュッとすぼまる。

「ああああああっ!! いや、いや、嫌ぁ! 母さん!! 父さん!! あああ!! あああああああああ!!!」
「ッ!? どうした、マミ!?」

 いやいやと大きくかぶりを振り、皮が裂けそうなくらいに爪を立ててDボゥイの身体にしがみついて、マミは絶叫した。
 ――恐慌状態だ。
 
「やだ、やだ、やだぁっ! 父さん! 母さん! 私を置いて行かないで! 私を、独りにしないで!!」
「落ち着いてくれ、マミ! ――落ち着け!」

 少女が出すには大きな力で暴れるマミに、Dボゥイは力でマミの身体を抑え込むと、マミの顔を両手で包んだ。
 無理やりにでも、視線を合わせるためだ。
299 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/04(土) 00:15:47.30 ID:nK713Vpk0
「大丈夫だ、マミ。俺も、君も、もう大丈夫だ」
「……あ……」
「大丈夫だ、マミ。俺は、死なん。決してな」

 ところどころ血に濡れた顔で、Dボゥイは微笑みかけた。
 それは、歴戦の戦士のみが出せる、そんな力強く温かい笑みだ。

「Dボゥイ、さ……」

 溢れる涙に揺れ、恐怖に曇ったハシバミ色の瞳が、ゆっくりと焦点を取り戻していく。
 ひきつけを起こしたかのようにびくびくと震えていたその身体は、次第に落ち着きを得て行き、そして。

「…………あ」

 ぷっつりと。
 極限まで張り詰めていた、緊張の糸が切れたマミは。
 そのまま、気を失った。
300 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/04(土) 00:18:11.94 ID:nK713Vpk0
「……大丈夫なの?」

 聞きなれた声に振り返ると、そこにはやはり見知った顔がいる。
 アキだ。
 
「ああ。気を失っているだけだ。怪我はない」
「違うわよ、あなたの事」
「……傷の方は自己修復でほぼ癒えている。だが……少し、血を出しすぎた、な」

 ゆっくりと息を吐く。
 身体の痛みと、限界駆動を課した肉体の疲労。そして、血液の欠乏による眩暈が、大挙してDボゥイへと襲い掛かってきていた。
301 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/04(土) 00:19:28.05 ID:nK713Vpk0
「……大丈夫なの?」

 聞きなれた声に振り返ると、そこにはやはり見知った顔がいる。
 アキだ。
 
「ああ。気を失っているだけだ。怪我はない」
「違うわよ、あなたの事」
「……傷の方は自己修復でほぼ癒えている。だが……少し、血を出しすぎた、な」

 ゆっくりと息を吐く。
 身体の痛みと、限界駆動を課した肉体の疲労。そして、血液の欠乏による眩暈が、大挙してDボゥイへと襲い掛かってきていた。
302 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/04(土) 00:21:27.49 ID:nK713Vpk0
「……肩を貸してくれないか? アキ」
「ええ」

 一も二もなく了承してこちらに肩を貸してくるアキをありがたく思いながら、ゆっくりとDボゥイは立ち上がった。
 だが、ふと腕の中を見やる。
 時折泣きじゃくるようにヒクッ、と身体を振るわせつつも、ようやくマミは安らかな顔を見せ始めていた。
 さっき顔を抱え込んだときの跡――赤い手形を、少々申し訳なく思いながら袖でぬぐい、Dボゥイは独りごちた。
 
(今度は、間に合った、か)

 そして、すぐに後悔と共に顔をしかめる。
 
(……馬鹿か、俺は。罪滅ぼしになど、なるはずもないのに)
303 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/04(土) 00:25:10.13 ID:nK713Vpk0
今日は以上となります。

いくらなんでも重すぎとはいえ、何回二重投稿やってんだ俺orz

ともあれ、一旦危機を脱した魔法少女とテッカマンブレード。
次はどのような戦いに身を投じるのでしょうか。

次回もまたお楽しみに!

なお、次回は火曜までには投下しますね
304 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/06/07(火) 18:24:05.31 ID:F9KTCmP/0
すいません、作業データが入ったUSBを置き忘れてましたorz
とりあえず失くしたってことはないので、明日投下します。申し訳ありません
305 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/06/08(水) 17:55:38.90 ID:i6kOleWm0
申し訳ありません、腰を傷めてしまい、少々お休みをいただきます…
来週中にはなんとか復帰しますので・・・
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/09(木) 01:12:14.60 ID:YBCSV11f0
無理しないで今はご自愛ください。
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/14(火) 22:53:32.64 ID:G3XRxYM50
一気に読んだけど凄い好みだった

打ちひしがれたマミさんの復活に期待
308 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/14(火) 23:55:30.52 ID:LsUO5mec0
大変お待たせしました。
少々短いですが投下開始いたします。
309 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/14(火) 23:56:08.88 ID:LsUO5mec0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 ――まずそこにあったのは、闇だった。
 深い、深い、他の生存を許さないとでも言うような黒一色の、深淵のような闇だ。
 
 そんな闇の中、マミは傷つき倒れたまま、目の前の光景を見ていた。
 否、ただ見て聞くだけ以外の一切を許されなかった。
 
 耳に響く音は咀嚼。
 骨を砕き、肉を裂き、臓腑を潰し、腱を噛む、そんな音。

 聞こえるのは捕食の音。
 ――既に骸と化した鹿目まどかを、魔女が噛み砕く音。
 物言わぬ彼女は、じっとこちらを見ていた。
 骨を晒し、内臓をこぼれさせた身体で、曇ったガラスのように白濁した瞳が、こちらを見ていた。

 確かなひとつの意志を貼り付けたままただこちらを見つめてくる、まどかの瞳と目を合わせることができずに視線を逸らすと、今度は美樹さやかと視線が合った。
 ――黒いテッカマンの槍に貫かれた胸を、赤く染め上げたさやかと。
 彼女も、ホルマリン漬けにされた魚のようにこちらを見つめてくる。
 その瞳に刻まれた問いもまどかと同じ。
310 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/14(火) 23:56:39.85 ID:LsUO5mec0
 ――どうして?
 
 ――どうして、守ってくれなかったんですか?
 
 ――どうして、わたし達が死ななきゃいけなかったんですか?
 
 ――どうして、マミさんだけ生きてるんですか?

「ごめん――なさい――」

 しゃくり上げる嗚咽に肺を震わせ、背中を駆け上がって肩で暴れる寒気に身を震わせながら、マミが口にするのは謝罪の言葉。
 守れなかった。
 自分の力を過信したばっかりに、守れなかった。
 そのせいで、誰も助けられず、また私は独りぼっちに――。
311 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/14(火) 23:57:16.41 ID:LsUO5mec0
「――うそつき」
「……え?」

 そして、その思考は。
 骸となったはずの、まどかが発した声で中断された。
 
「マミさんの、うそつき」
「ち、違うわ。私は――」

 みんなを守りたいから。そして、独りになるのは怖いから。
 だから、ずっと戦ってきたのだ。

「嘘。本当は、否定したいだけでしょう?」

 今度は、串刺しにされたさやかが口を開いた。
 鮮血に染まった唇が、死蝋と化した白い肌に、赤い赤い三日月を描く。
 そして、物言わぬ死者と化したはずの二人は歌うようにこちらへと語りかけてきた。

「あなたは、結局自分だけが助かりたかっただけだということを」
「守りたい大切なものなんてあなたには最初からない。自分に言い訳するために、あったフリをして目を逸らしてるだけ」
「ふふふふふ」
「うふふふふふ」
312 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/14(火) 23:58:16.84 ID:LsUO5mec0
 くすくすと笑いを漏らす二人に、
 
「――違う!」

 からからに痛む喉を酷使して、マミは叫びを返す。
 
「違う! 違う違う違う!! そんなこと、そんなこと、私は……」
「――本当に?」
「そうなのかしら?」

 そして。
 背後から聞こえてきた声に、今度こそマミは心を凍りつかせた。
 油の足りない機械のように、身体を軋ませながらゆっくりと振り返る。
 そこに立っていたのは、くしゃくしゃにつぶれた二つのヒトガタ。
 だが、それらはマミがよく知っているモノだった。
 
「父さん……母さん……!?」
「本当に独りが怖いというのなら、こっちに来なさい、マミ」
「ええ、大丈夫よ。父さんと母さんがちゃんと連れてってあげるから」
313 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/14(火) 23:58:45.46 ID:LsUO5mec0
 言って、差し出される手を、
 
「い……いや……」

 拒絶の言葉を吐いて、マミはよろよろと後ずさる。
 
「どうして一緒に来ないんだい、マミ?」
「ずっと一緒にいられるのに、どうして? それとも……」

 ――独りでもいいから、生き延びたいのかしら?
 
 それは呪いのように、凶悪な悪魔のイメージを以ってマミの心をズタズタに食い荒らす。
 怖い。
 何もかもが、怖い。
 
「だ、誰か――」

 呼吸が浅い。
 泣きじゃくるように、笛のような音を漏らす喉を総動員して、マミは声を張り上げた。
 
「誰か、たすけてぇぇぇっっ!!」
314 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/14(火) 23:59:35.65 ID:LsUO5mec0
 その声はどこにも響くはずはない。
 誰に届くまでもなく、ただ波紋のように周囲の空気を揺らし、消えるだけ。
 
 だが。
 その声は、外から響いてきた。
 
 人間離れしたシルエット。
 華やかさには程遠い異形。
 だが、確かな力を持つ者。
 
 その人物は、槍で闇を払うと、ゆっくりとこちらに振り向く。
 
「――――!!」

 その人に、何かを叫ぼうとして。
 そして、マミは悪夢から帰還した。
315 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/15(水) 00:00:55.40 ID:OqbajaAv0
今日の投下は以上となります。
なんか長々としたマミさんいぢめな文となってしまった……ごめんよマミさん。

次の投下は木〜金辺りになるかと思います。
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/15(水) 00:02:46.89 ID:kirj06Qco

悪夢はこうまとめて来たか……
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/15(水) 00:39:13.89 ID:WuFGl1yp0


マミさんマミマミ
実際、本編でも陰で気に病んでそうだよね、両親を救えなかった事を
Dボゥイ……たのむぜ。この世界では少女達を救ってくれ
318 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/06/15(水) 23:25:30.00 ID:LjSXieg20
外伝とかに使えないかなーとおりこ二巻読了しました。

……うん、使える。使えるんだけど……
これ、おりことキリカが死ぬ未来しか見えないのですが。


>>316
談義スレでたまにクダを巻いてますww

>>317
他人思いですからね、マミさんは。
319 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/06/16(木) 00:47:28.90 ID:OwVXeSau0
いかん、そして忘れてた!
一日遅れだけどハッピーバースデイですアキさん!
320 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/06/20(月) 11:52:42.11 ID:GLjV22NS0
すいません、仕事の方が忙しくなってきていて予定より執筆が遅れています。
もうしばらくお待ちくださいませ
321 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/23(木) 22:34:54.15 ID:Pwb/odKc0
大変長らくお待たせしました。
22:45から投下開始いたします
322 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/23(木) 22:45:14.90 ID:Pwb/odKc0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「――――は」

 最初に視界に入ったのは、既に見慣れた天井。
 そして最初に自覚したのは、吐き気にも似た覚醒。
 焦燥感にも似た熱さが喉を駆け上がり、知らず、吐息と共に舌を出す。
 だが、同時にぞくりとした寒さが身体を走って、マミは汗に濡れた自分の身体を抱きしめた。
 ぎゅっ、と足を縮めて身体を丸める。
 まるで胎児のように。
 そんな事を考えている間にも、呼吸はゆっくりとではあるが平静を取り戻してくれた。
 
「――大丈夫?」

 横から聞こえた声にマミは振り向くと、そこにはマミの見知った顔がいる。
 湯気を上げている蒸しタオルの入った洗面器を抱えたその人物は、

「……アキさん?」
「よかった。目が覚めたのね」
323 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/23(木) 22:52:52.31 ID:Pwb/odKc0
 身体の内側に押し込めた緊張感を吐き出すかのように、ゆっくりと吐息する。
 目を弓の形にするアキに釣られて思わずこちらも安堵しかけるが、彼女のそばにいるもう一人の人物がいないのに気付いて、

「あの、Dボゥイさんは……」
「ホテルの方で休んでるわ。さすがにあなたの所で休むわけにもいかなかったから」

 こちらを気遣うような表情。
 そんなアキの顔を正視することができずに、マミは視線を下した。

「……ごめんなさい」

 そうしたマミの反応に、アキの笑顔が変わる。
 それがどんな変化であるのか、マミには読み取りきれなかったが。

「……どうして謝るのかしら?」
「私のせいで、Dボゥイさんに怪我を――」
324 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/23(木) 22:56:47.88 ID:Pwb/odKc0
 言い終わる前に、マミの頬を高い音が通り過ぎた。
 震えるように揺れるマミの身体。
 一瞬遅れて赤みが差していく頬を押さえながら、マミは右手を振り切った体勢のアキを見つめていた。
 そのアキが口を開く。
 ゆっくりと――自ら確認するようにゆっくりと、息を吐きながら。
 
「まあ……こんな所、かしらね」
「アキ、さん……」

 熱を帯びて赤く染まる片頬に手を当てながら、目を伏せるマミ。
 その肩を、がっちりとアキは掴んだ。
 かつての、Dボゥイのように。
325 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/23(木) 23:03:33.04 ID:Pwb/odKc0
「勘違いしないで、マミちゃん。彼が怪我をしたことについては、私はあなたを責めるつもりなんて全くない。
確かに彼はいつも無茶してばっかりだけど、絶対に、泣いている女の子を見捨てられるような人じゃないから」

 真っ直ぐに強く、だがその内に優しさを込めて、アキはマミの瞳を覗き込む。
 マミは、首を振るわけでもなく、じっと、そしておずおずと、こちらを見つめ返してきていた。
 考えているのだ。彼女の言葉の、真意を。

「私が怒っているのはね。あなたが周りに耳を貸さずに、独りで戦おうとしたこと」
「…………」
「ほむらちゃんから聞いてるわ。あなたが、独りになることを恐れていた、ってことを」
「暁美さん、が?」
326 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/23(木) 23:09:48.24 ID:Pwb/odKc0
 意外な人物の名に、マミは目を丸くする。

「……ねえ、マミちゃん。あなたの中の仲間や友達って、自分と肩を並べて戦う者だけを指すのかしら?」
「…………」
「一緒に戦うわけじゃなくても、あなたの無事を祈って待ちながら、自分にできることしたりとか。
戦う以外にもいろいろな方面からサポートしたりとか、そんな『戦い』だってある。
……それは、マミちゃんにとっては仲間じゃ、ないのかしら?」
「そんな! そんなことは、ないです……」

 思わず否定しようとしかけて、マミはだんだんと語気を弱めていく。
 ――あの二人を巻き込んで、危ない目にも合わせて。
 ――そんな私に、それを否定する資格なんて、きっと、無いんだ。
327 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/23(木) 23:14:04.39 ID:Pwb/odKc0
 ドロドロとした自己嫌悪の底なし沼に沈んでいこうとするマミを、
 
 ――優しく、アキが抱きとめた。
 
「あ……」
「大丈夫よ、――大丈夫」

 つぶやきながら、背中に回した腕に力を込める。
 それは、マミでない誰かに語りかけているようでもあり。

「――決して、あなたは孤独なんかじゃないわ」
「アキ、さん――」
328 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/23(木) 23:19:19.31 ID:Pwb/odKc0
 ――あったかい。
 渦巻いて嵐のように吹き荒れる感情の中、一言だけで終わるような、そんな想いを漏らしながら、マミはゆっくりと目を閉じる。
 染み込んでいる微笑をだんだんと強くしていきながら、そして。
 
 その瞳から、涙が一筋だけこぼれた。
329 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/23(木) 23:20:39.40 ID:Pwb/odKc0
本日は以上となります。

マミさん関連はこれで一旦一段落。
次はまどか&さやかにスポットライトです。

次回もまたお楽しみに!

次は土日…くらいでいけたらいいなぁ。なるたけ一週間以上は空けないようにするつもりです。
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/23(木) 23:24:13.69 ID:8ANjGzLWo
乙っち乙まど


これにて一件落着……?
さぁ、後は「もう皆、死ぬしか無いじゃない!」と言う重大イベントががががが
331 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/06/27(月) 15:10:56.65 ID:3ZmzGcVm0
すいません、さらに仕事が忙しくなっております。
今週中には続きを投下していくつもりですので、もう少々お待ちください
332 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/30(木) 21:15:08.24 ID:WUNQZmxc0
大変長らくお待たせしました!

21:20より投下開始いたします
333 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/30(木) 21:21:30.31 ID:WUNQZmxc0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「いいですか!? つまりですね、料理とは火力こそが正義であり――」

 先生の授業――というか愚痴――を右から左へと聞き流しながら、さやかは頬杖をついて窓の外を眺めていた。
 少し離れた位置にあるまどかの席は空席だ。
 一緒に登校はしたものの、ホームルームの時間に具合が悪いということで保健室に引っ込んでしまったのだ。

 原因は、考えるまでもなく昨日のことだろう。
 あの出来事の数々は、これまでの自分の価値観を木っ端微塵に打ち砕くには十分すぎた。
 
 華麗に戦うマミ。
 だが、危うくあと一歩で、命を落とすところだったマミ。
 黒いテッカマンと、それに狙われたときの恐怖。
 そして、颯爽と助けに来てくれたブレードと、黒いテッカマンの死闘。

 それらは不思議と他人事みたいで、何か心のどこかが麻痺してしまったような気がする。
334 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/30(木) 21:26:46.71 ID:WUNQZmxc0
 だが。
 
「力……か」

 魔法少女やテッカマンのように、あれだけの強い力があれば。
 あるいは、みんなを、恭介を、守ることができるのかもしれない。
 
 と、そんな事をさやかが考えていると。
 
「――先生。具合が悪いので保健室で休んでもよろしいでしょうか」

 不意に聞こえた、ほむらの声で我に返った。
 振り向くと、当のほむらは既にドアをくぐり、外に出るところだ。

 保健室――ということは、考えるまでもなくまどかに会うためだろう。
 元気づけに行ったのか、それとも空気も読まずにまた魔法少女になっちゃだめよーなんて警告しに行ったのか。
 
 ……まあ、あいつがまどかを想う気持ちは少なくとも本物のようだし、ここは一先ず様子を見てもいいだろう。
 でも、またまどかを悲しませたなら、その時は今度こそとっちめてやるつもりだけど。
 
 独りごちると、さやかは大きく頷いた。
335 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/30(木) 21:31:22.05 ID:WUNQZmxc0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「平熱よりはちょっと高い――かしらね。一応大事取って休んどく?」
「……はい」

 体温計を透かすように掲げながら告げる保健室の先生の言葉に、まどかは頷いた。

「じゃ、先生はちょっと用事で出てくるけど……ちゃんと休んでるのよ?」
「はい」

 外へ去っていく先生を見送ると、まどかはベッドの方へと向き直る。
 靴を脱いで、いかにも清潔そうなベッドに腰掛けた。バネがギシギシと不満げに軋む音が耳に障る。
 ぽふん、とそのまま上体をマットレスに預けると、ぎゅっと身体を丸める。
 じくじくと血と膿を流していた心は、それだけで幾分かマシになってくれた。

「……ッ」

 そして、麻痺していた心は再び後悔という痛みを取り戻す。
 涙が際限なくあふれ出てきた。瞼を強く閉じて抑えようとしても、一向に止まる気配もない。
336 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/30(木) 21:37:34.52 ID:WUNQZmxc0
「マミさん……」

 呟くのは、尊敬する先輩の名前。
 ……あと一歩で命を落とすところだった、魔法少女の名前。

 こんな頼りない自分でも、彼女の力になれると思っていた。
 どうしようもなく無価値な自分でも、何かができると思っていた。

 思い込んで、しまった。

 ……だが、蓋を開けてみればどうだ。
 あの黒いテッカマンが乱入してこなければ、マミは魔女に首を噛み千切られていて。
 ブレードが助けに来なければ、黒いテッカマンにみんな殺されていた。
 ……そして、わたしがグズグズしている間に、マミさんは死にかけて。
 Dボゥイさんにも怪我をさせてしまった。

「私の、せいだ……」

 思いを馳せれば馳せるほど、自己嫌悪が虫のように心を食い荒らしていく。
 だがそこへ、

「――あなたが気に病むべきことなんて、何もないわ」

 暁美ほむらが入ってきた。
337 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/30(木) 21:44:05.53 ID:WUNQZmxc0
「ほむらちゃん……?」

 真意を測りかねたまどかの言葉には応えずに続ける。

「巴マミ周囲の忠告に耳を貸さず、勝手に命を賭けて、そして――」

 だが。

「そんな言い方、やめてよ!」

 その声は、他ならぬまどか自身によって中断された。

「マミさんは、いつも独りぼっちで戦ってきて、ずっとずっと辛かったのを耐えてきたのに……」

 顔を上げたまどかは、涙に濡れてはいたが――はっきりと怒りの意志を以て、こちらを睨んできていた。

「なのに、どうしてほむらちゃんはその気持ちをわかってあげられないの!?」
「――――ッッ!!」
338 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/30(木) 21:49:42.43 ID:WUNQZmxc0
 煮沸した感情が、喉を駆け上がる。
 何か、とてつもなくドス黒く、熱い何かを吐き出しそうになるのを、ほむらは歯を食いしばって自制した。
 その表情に気圧されたのか、――或いは、怯えたのか。
 まどかもまた口をつぐむと、それ以上は口を開かなかった。
 
「……あなた、は」
「……ほむら、ちゃん?」

 錆付いた機械のように、歯を軋らせるように、ぎこちなく声を発するほむら。

「あなたは、優しすぎる」
「……え?」

 罵られるか、それこそ怒鳴られるかと思っていたけれど。
 返されたのは、意外な言葉だった。
 その真意を尋ねようと、まどかは口を開こうとするが、しかし。
 
 ほむらは既に保健室から出ようとしていた。
 ただ、出る間際。こちらに首だけ振り向いて流し目でまどかを見やると、短く、彼女は告げる。
 
「放課後、話があるわ。巴マミの家に、美樹さやかを連れてきなさい、まどか」
339 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/06/30(木) 21:54:11.10 ID:WUNQZmxc0
ひとまず今日はここまで。
まどかSSで一度書いてみたかった「まどかに否定されるほむら」をひとまずやれましたっと。

さて、次回は情報交換パートです。
お互いの事情に触れ、少女たちとスペースナイツはどのような想いを抱くのでしょうか。
次回もまたお楽しみに!

また、次回はおそらく土日くらいに投下することになるかと思います。
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/30(木) 23:19:52.08 ID:4n2sJ8z3o
乙っち乙ほむ!


ほむ×まどの関係がうちの子達より自然な気がする……俺も頑張ろう
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/01(金) 23:04:54.91 ID:FnpdygXF0
エビルは赤い。
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/02(土) 02:17:09.60 ID:JdDmmisQo
いや赤と黒どっちがメインの色かって言ったら黒だろエビルは
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/02(土) 07:43:12.00 ID:+i3KlCqV0
「ジョセフ・ジョースター!!貴様、見ているなッ!?」(本編を)
(「赤い戦慄エビル」なんだけどね・・・)
344 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/05(火) 13:08:36.99 ID:I4JNxCRp0
大変長らくお待たせしました。
これより投下開始いたします
345 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/05(火) 13:09:18.01 ID:I4JNxCRp0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 そして放課後。
 マミのマンションのリビングで、テーブルを囲む面々がいた。
 
 集まったのは、まどか、さやか、ほむら、マミ、Dボゥイ、アキ、そしてキュゥべえ。

「……あなたまで呼んだ覚えはないのだけど?」
『ひどい言い草だなあ。僕だって色々と知りたいことがあるからここに来たっていうのに』

 じろりと白い獣を睨みながら、不機嫌を隠そうともしないほむらに、だが全く臆することも遠慮することもなく白い獣が応じ

る。

「――それで、何から話しましょうか」

 停滞しつつあった空気を打ち砕くように、アキが口を開くと、
 
「はい! はいはーい!」

 勢い良く、さやかが手を上げる。

「じゃあ、さやかちゃんからね」
「あ、どうもです、アキさん! それでですね――」

 急に、さやかは神妙な表情になると――Dボゥイへと視線を向けて、口を開いた。

「――あの黒いテッカマン、なんなんですか?
 なんか、Dボゥイさんとは敵同士、みたいでしたけど……同じテッカマンなのに」
 
 さやかの言葉と同時に、周囲の視線が――キュゥべえまでもが――Dボゥイただ一人に集まる。
346 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/05(火) 13:09:49.03 ID:I4JNxCRp0
「…………」

 対するDボゥイは、無言のまま。
 
「Dボゥイ」
「いや、いいんだ。アキ」

 そして、何か言いかけたアキを片手で制すると、彼は口を開いた。

「奴は、テッカマンエビル。ラダムの尖兵たるテッカマンの中でも、前線指揮官級のテッカマンだ」
『やっぱりわからないな。どうして、ラダムのテッカマンである君が、同じラダムと戦うんだい?』
「…………」

 キュゥべえが口を挟むと、Dボゥイは透かすようにキュゥべえの無表情を見つめる。
 ――やはり、この獣はラダムとテッカマンについて知っている。
 何故だ?
 
「……そうだ。テッカマンは、ラダムが惑星侵略のために作り上げた生体兵器だ」

 びくり、とまどかが身を震わせる。
 思い出してしまったのだろう。
 エビルの瞳に宿っていた狂気と、殺意を。
347 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/05(火) 13:10:23.30 ID:I4JNxCRp0
「ラダムは、異星へ侵略するための第一歩として、その星に生きる生物を捕獲・洗脳、そして改造し、テッカマンに変える。
 幸いにも、俺は洗脳される前に奴らの支配から脱することが出来たが、な」
『……なるほど。君もまた暁美ほむらと同様、ラダムのイレギュラーということだね。だから、テッカマンエビルは君のことを

「裏切り者」と呼んでいたわけだ』

 キュゥべえが納得したようにぱたぱたと尻尾を揺らす横で、まどかが何かに気づいたように、あ、と声を漏らした。

「……でもそれって、テッカマンエビルって人も、Dボゥイさんと同じように元々人間だった、ってことですか?」
348 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/05(火) 13:10:51.00 ID:I4JNxCRp0
 途端に、場がシンと静まり返る。
 場の雰囲気の変貌に、まどか自身が戸惑ってきょろきょろと忙しなく視線を巡らせた。
 
「え、えーと……」

 何か、まずい事言っちゃったのでしょうか。わたし。

「……そうだな。奴も元々は人間だったのだろう」

 おろおろとしているまどかに助け舟を出すように、Dボゥイが口を開く。

「……だが、もはやテッカマンとなった時に、人間としてのあいつは死んだんだ。あいつは、ラダムのテッカマン、テッカマン

エビルだ。
 ――それ以外の、何物でもない」

 それだけ言うと、Dボゥイは唇を横一文字に結んだ。
 まるで、それ以上の話を拒否するかのように。
349 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/05(火) 13:11:42.67 ID:I4JNxCRp0
 と、そこで視線を感じて、Dボゥイはその方向へと首を巡らせる。
 視線の主は、さやかだった。

 彼女は、瞳をきらきらと輝かせて、こちらを見つめている。
 裏切り者として憎しみを投げられたことも、人外の化け物として恐れられたことも、共に戦う仲間として信頼を向けられたこともある彼ではあったが、この手のタイプの視線、というのはあまり経験のないものだ。

「どうしたんだ? さやか」
「え? あ、いや、その。なんか、かっこいいなーって。悪と戦う正義のヒーローっぽい感じで!」

 てれてれと頭を掻きながら、だがそれでも嬉しさを強く表に出しながら、さやかは素直に憧れを口にする。
 それは、思春期の少年少女にとってはごくごくありふれた思いではあったが、

「…………」

 マミは、Dボゥイの顔が一瞬――本当に一瞬――だけ、苦く強張ったのを見逃さなかった。

「…………?」 

 予想外ではあったその変化に、マミは首を傾げる。
 なぜ、彼はあんな表情をしたのだろう。

(以前、鹿目さんの前で私がそうだったように、彼もまた、自分の孤独を恐れていたから?)

 ……だが、マミにはそれもまた違うように思えた。
 あの表情から垣間見えたのは、心のもっともっと奥深くに根差す、深い悲しみの色だ。
 その悲しみを晴らすために、自ら孤独な戦いへと身を投じる程の。

「俺から話せるのは、このくらい、だな」

 様々な想いを心の奥に放り込んで、深くDボゥイが息を着く。

「――それで、君からも何か言いたいことがあるんじゃないのか? ほむら」 
350 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/05(火) 13:14:22.79 ID:I4JNxCRp0
今日はひとまずここまでです。
おのれメモ帳の右端折り返し。

さて、次回は情報交換の後半パートです。
新たな敵、ラダムを踏まえてのほむらの考えとは?

次回もまたお楽しみに!
次回投下は…土日までにはなんとか投下したいと思います。
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/05(火) 13:42:00.49 ID:ugnkpNCfo

タカヤの事情をQBに知らせる必要は無いか。
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/05(火) 17:18:42.08 ID:RYm/kIYh0


さやかの純粋な瞳が哀しい
Dボゥイのやってる事は、家族を殺し、友を殺し、師匠を[ピーーー]事だからなぁ……
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/05(火) 22:03:55.34 ID:3XKk9u/0o
これ以上 失うものなど もうないから
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/06(水) 01:03:33.73 ID:Sdwl/Ijho
もう何も 恐くない
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/08(金) 06:54:02.99 ID:9D8HHvTD0
「それも、貴様が信じる人の心とやらの力か・・・
 しかし、人の心を信じたお前がやって来た事は何だ!?
 人として最大の罪、肉親殺しではないか!!!

 もはや残るは私1人・・・この私をも手に掛けてみるか!?この兄をも!!」
356 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 19:05:36.20 ID:Fg4kVj5n0
お待たせしました。

19:10より投下開始いたします
357 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 19:12:56.61 ID:Fg4kVj5n0
 その言葉と共に、一同の視線がほむらの元へと集中する。
 ほむら本人はというと、何か黙考するかのように目を閉じたまま。
 
「…………」

 一息。
 ゆっくりと筋肉と肺を弛緩させ、高揚しかける精神を落ち着かせる。
 
 ――自分の忠告を聞かなかった巴マミは、あの時に死亡するはずだった。
 だが、彼女はこうして、無事なままでここにいる。
 ラダムという新たな敵が現れたものの、こうして無事にここにいる。
 同時に、彼女を諦めていた自分が、ひどく卑しいものに感じられて、ほむらは我知らずスカートの裾をギュッと握り締めた。
 
 一息。
 力が抜け、自然体に戻った身体に再び力を込める。
 
 ――まだ、自分は無表情の仮面を被っていられているだろうか?
358 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 19:16:02.11 ID:Fg4kVj5n0
「単刀直入に言うわ、巴マミ。
 ――これからの魔女退治に、私とDボゥイを同行させて欲しい」
「――え?」
「ちょっと転校生、あんた昨日の今日でどういう風の吹き回しよ?」

 驚きの声を上げたのは、マミではなく、まどかとさやかだった。
 当のマミは、真剣さを宿した「魔法少女」としての瞳で、
 
「理由を聞いてもいいかしら?」
「簡単よ。
 ……あのテッカマンがもう一度私たちの前に現れたとき、私、或いはあなた単独だけでは、勝てないどころか逃げることも足止めすることすらできない。
 私はそう結論したわ」
「………………」

 マミの瞳が細められる。
 それが怒気を孕んでいないのは、実際にあのエビルの一撃を受けたのもあるのだろう。
359 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 19:19:40.50 ID:Fg4kVj5n0
「? よくわかんないわね。そこら辺はDボゥイさんに頼んじゃえばいいんじゃないの?」
「……美樹さやか。じゃあ、そもそも何故ラダムのテッカマンはここを訪れたと思うのかしら?」
「へ?」

 首を傾げるさやかに、ほむらは再び言い直す。

「奴は、確かにブレードとの戦いを楽しみ、望んでいる風ではあったわ。
 ……でも、それならば何故、テッカマンエビルは直接ブレードに戦いを挑まずに魔女の結界に入っていたのかしら?
 あなたからブレードの情報を聞き出そうとしていたところからも考えれば、ブレードが結界の中にいることは知らなかった――つまり、エビルはブレードと戦うために魔女の結界に入ったのではないのは明らかだわ」

 それはつまり、
 
「……彼の目的は、魔女や魔法少女がらみ、ということかしら?」
「そう考えるのが自然だわ。そしてもう一つは、テッカマンエビルがあの時退いた理由。あなたはどうしてだと思う?」

 ほむらの言葉に、マミは、ふむ、と思考を走らせた。
360 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 19:26:03.59 ID:Fg4kVj5n0
 ――あのときのボルテッカの応酬で大きなダメージを負ったから?

 だが、マミはこれは違う、と思った。
 あの時、確かにエビルは満身創痍ではあったが、それはブレードもまた同じこと。
 むしろ、自分を衝撃から庇ったためにブレードの方がよりダメージが大きかったはずだ。
 魔法少女を始末することが彼の目的ならば、あの時にマミは無理だったとしてもほむらを始末する事もできたはず。
 それをしなかった理由は――
 
「――魔女の結界。それが解けたからね?」
「……というよりは、人目につく場所で戦うことを嫌っている、と言った方が近いでしょうね。
 どういう理由かは知らないけど、彼は人目につかない場所で魔女や魔法少女を殺すことを目的としている。
 そこから考えれば、魔女退治の時はできるだけ私、あなた、Dボゥイの三人で動くようにした方がいいと考えるわ」

 ほむらの提案の意味を吟味して、マミは再び考え込む。
 それは、ほむらだけでなくブレードの助力を得て魔女退治できるということでもあり、彼女からすれば願ってもないことではあったが、
361 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 19:30:26.50 ID:Fg4kVj5n0
「でもさ、それっていつまで続けるの? Dボゥイさんだってずっとこの街にい続けるってわけじゃないでしょ?」

 横槍を入れてきたのは、さやかだった。
 それは、まだほむらが信頼に値しないということなのか、
 或いはいけ好かないほむらがいつの間にか仲間となっているような、話の方向が気に入らなかったのか。
 おそらくは、両方なのだろうけれど。
362 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 19:33:48.73 ID:Fg4kVj5n0
「……二週間後。この街に、ワルプルギスの夜が来る」
「!!」

 驚愕に目を見張らせるマミと、それとは対称的に表情に疑問符を浮かべる一同。そして、相変わらず無表情のキュゥべえ。

「マミ。ワルプルギスの夜、というのは何だ? 魔女の一種か?」
「ええ。超弩級の、強力な魔女です。街ひとつ程度なら、簡単に跡形もなく破壊してしまえるくらいの」

 噂には聞いていたけどまさか実在していたなんて、と独りごちるマミをよそに、ほむらは一同を見回しながら口を開いた。
 
「私の目的は、そいつを倒すことよ」
「確かに、ワルプルギスの夜が相手となると私やあなただけでは勝てるかどうかは不安が残るし、さらにテッカマンの襲撃も加味すれば勝てるかどうか厳しいところだわ。
 ……だけど、Dボゥイさんの力もあれば、きっと大丈夫ね」

 けれど、Dボゥイさんに依存するような事にはならないようにしないと、と鼻息荒く心の奥底で張り切ったりもしつつ。
 そんなことはおくびにも表情に出さずにいるマミに、ほむらは言葉を返した。
363 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 19:41:29.22 ID:Fg4kVj5n0
「ええ、そうね。だから、私から提示する期限はワルプルギスの夜を討伐するまで。
 それまでのグリーフシードの配分は、あなたに任せるわ」
「……なんか腑に落ちないなー。あんた、何か隠してるんじゃないの?」

 相変わらずつっかかってくるさやかを心底鬱陶しそうに眺めて、ぷい、とほむらは視線を逸らす。
 
「……答える必要はないわ」
「ほほう、裏事情についてはダンマリですかい。
 でもそれで協力しろー信じろー、なんて虫が良すぎませんかよほむらちゃん?」

 ほむらの態度に、ひっそりと額に青筋を浮かべつつ、さやかは黒髪の少女を睨みつける。
 だが、Dボゥイはその言葉に、何故か居心地が悪そうに身じろぎした。
 横にいたアキは、笑みを含んだ横目で、
 
「耳が痛いでしょ、あなた」
「……ノーコメントだ」
「???」

 それはさておき。
364 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 19:44:29.28 ID:Fg4kVj5n0
と、食事なので一旦空けます。
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 19:52:33.00 ID:S4YYCoFio
さやかのウザさは安定してるな…
366 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 20:26:12.48 ID:Fg4kVj5n0
お待たせしました。20:30より再開します
367 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 20:30:32.01 ID:Fg4kVj5n0
「……ただし、ひとつだけ。絶対に譲れない条件があるわ」
「何かしら?」

 今までで一番真剣な表情をしたほむらに、同じく神妙な顔でマミが応える。
 
「『まどかを魔法少女にしないこと』。そして、『まどかを魔法少女に誘わないこと』
 これが、私が協力する絶対の条件」
「え?」
「ちょっと転校生、あんた――!」

 まどかが呆然として、さやかは親友への仕打ちに思わず立ち上がりかけて――
 
「この席にあなた達を呼んだのも、私の見ていないところで勝手に魔法少女としての契約を結ばないようにするためよ。……美樹さやか」
「…………ッ」

 ほむらの強い意志を込めた瞳に気圧されて、踏みとどまった。
 
『理解できないなぁ。戦力が欲しいからマミに協力を持ちかけたのに、どうしてまどかが僕と契約するのは止めるんだい?
 まどかが魔法少女になれば、きっとテッカマン以上の力になれるのに』

 キュゥべえも便乗して口を開きかけるが、

「あなたの意見は聞いていないわ」
『…………』

 これはにべもなく遮られた。
368 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 20:45:31.89 ID:Fg4kVj5n0
「でも、でも……ほむらちゃんやマミさんやDボゥイさんが、怪我したり傷ついたりしていくのを見てるだけなんて……
 わたし、そんなのやだよぅ……」

 ぽつり、と。
 ずっと目を伏せていたまどかが、ぼそりと漏らした。
 
「わたし、何の取り柄もないし、役立たずだし。
 でも、それでもマミさん達と一緒に戦えれば、こんなわたしでも何かの役に立てるのかなって、そう思ってた、のに……」
「まどか……」

 心配そうに見つめるさやかを、まどかはその双眸を震わせながら見返す。
 口は笑っているように見えたが……
 どちらかというと、単に引きつっている、と言った方が近いのかもしれない。
369 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 20:52:30.33 ID:Fg4kVj5n0
「でも、おかしいよね。そう思ってたのに、今は傷ついたり、死にそうな目にあうかもしれないって思うと、すごく怖いの。
 ……マミさんやほむらちゃんだってそんな怖い目にあっても乗り越えてきたっていうのに……わたし、最低だよね」

 震えは肺へ、そして肩へと伝播し。
 そして、軽く咳き込むとまどかは顔を手で覆い隠す。
 
「ごめんなさい……わたし、弱い子で、ずるい子で、ごめんなさい……」
「…………」

 そんなまどかに、ほむらが何も声をかけられずにいると。

「……鹿目さん」

 まどかの身体を、優しく抱きしめた者がいた。
 マミだ。
370 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 20:58:06.78 ID:Fg4kVj5n0
「大丈夫よ、鹿目さん。今のままのあなたでも、私にとって、あなたはかけがえのない大切な後輩よ」
「マミさん……」
「ねえ、鹿目さん。魔法少女としての力を振るえるようにならないと、一緒に戦ったことにならない、なんて事はないと思うの」

 震えながら見上げてくるまどかを、マミの眼差しは優しく包み込む。
 
「確かに、魔女と戦うには魔法少女の力や、テッカマンとしての力が必要になるわ。
 ……だけど、戦うって本当にそれだけかしら?
 たとえば、そばで応援してくれたり、そんなやり方でもそれは立派なひとつの『戦い』だと、私は思うわ」
「…………」
「……なんて、これはアキさんからの受け売りなんだけどね」

 最後に、ぺろりと舌を出してマミは話を締めくくった。
371 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 21:01:42.39 ID:Fg4kVj5n0
「…………」

 それを眺めていたほむらは、心にズキリと痛みが走るのを自覚する。
 だが、彼女はその痛みを押し殺した。
 
 そう、これでいい。
 
 私は、まどかを破滅の運命から救い出せればそれだけでいい。
 そのためならば、私は手段を選ばない。

 必要なら何だって利用してやる。
 邪魔をする奴がいるのなら、相手が誰であろうと殺してみせる。
 私自身の命を捧げるのだって構わない。
 
 だから、これでいい。
 彼女に好かれたいなんて、そんな思い上がりは、私には必要ない。
 そんな資格は、私には無い。
 
 むしろ。
 それで彼女が幸せになれるというのなら、蛇蝎の如く忌み嫌われたって――
372 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 21:04:54.53 ID:Fg4kVj5n0
「……まどか。魔法少女になるということは、人を外れた力をその身に宿す、ということよ。
 それは、たくさんの不幸を引き付けてしまうわ。
 もしかすると、その不幸はあなたの周りの人……友達や家族をも、巻き込んでしまうかもしれない。
 ……あなたは、家族が大切ではないの?」
 
 ……なんて卑怯な言い方だろう。
 彼女が家族を大切に思っていることを逆手にとって、私はこんな事すら口にしている。
 ああ、これじゃああの忌まわしいキュゥべえと、なんら変わりばえしないじゃ――。
373 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 21:07:27.88 ID:Fg4kVj5n0
「……そうだな」
「……え?」

 唐突に横から掛かってきた声に、ほむらは思考を中断して声の主を見た。
 口を開いたのは、Dボゥイだった。
 
「家族は……仲間は、大切にした方がいい。
 でなければ、いつか後悔する事になる」
「…………」

 思わず黙り込む一同の中、

(まただ)

 マミは、今度はアキが表情を沈ませたのを見逃さずにいた。
 それが、どうしてなのかはまだわからないけれど。

 だけど、今のDボゥイの言葉には、何かひどく重々しい、そんな意味が込められているような、そんな気がした。
 その言葉に隠された真意を、少女たちが知るのはもう少し後のことになるのだが。
374 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 21:09:09.29 ID:Fg4kVj5n0
(……あれ? でも、あのとき確か……)

 家族、という言葉で、まどかは何か思い出しかけた。
 さやかちゃんがあの悪いテッカマンに狙われて、Dボゥイさんが助けに来たあのとき。黒いテッカマンは確か、Dボゥイさんの事を――
375 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 21:15:40.68 ID:Fg4kVj5n0
「……あーっ!」

 そして、まどかは突然素っ頓狂に上げられたさやかの大声で、我に返った。

「ど、どうしたの? 美樹さん」
「す、すいません、マミさん。でも、一番大事なこと忘れてたんです」
 
 言って、さやかは立ち上がって向き直る。
 Dボゥイ、マミ、ほむらの三人に対して、だ。
 
「改まって、どうしたんだ? さやか」
「あの、その。助けてくれて、ありがとうございましたっ!」
 
 一息に息を吐き出すと、勢い良くぺこりと頭を下げる。
 それは、ほむらが一瞬あっけに取られる思い切りがよくて、
 
「あ、あの。私も。助けてくれてありがとうございました」
 
 横にいたまどかも、慌ててちょこんと頭を下げる。
376 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 21:20:13.54 ID:Fg4kVj5n0
「ああ、だが、君達が無事なのが何よりだ」

 虚を突かれたように瞬きしてから、微かに笑みを滲ませるDボゥイと。
 
「……別に。礼を言われるようなほどでもないわ」

 ふぁさ、と髪をかき上げて、だがバツが悪そうに視線を逸らすほむら。
 
 そして、マミは。
377 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 21:26:46.17 ID:Fg4kVj5n0
 呆けた表情のまま、ぽろぽろと、砂を溢すように涙を流していた。
 
「ちょ、えええ!? な、なんかマズいことやらかしました? あたし!」

 わたわたと慌て出すさやかに、横に首を振りながら、涙声でマミは応じる。

「違う、違うの。わた、私、嬉しくて……」

 そして。
 顔を両手で覆うマミの頭を、ぽん、と優しく叩く者がいた。
 誰だろう、と顔を上げると。
 滲む視界の中、優しくこちらを見つめ返してくるアキの顔があった。

「……マミちゃん」
「………?」
「良かったね」
「……はい!」
378 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 21:31:10.65 ID:Fg4kVj5n0
 その光景を、少し眩しそうに見つめていたほむらは。
 唐突に、一つの事実に思い当たって我に返った。
 
(……そういえば、キュゥべえはどこに?)

 まるで、ほむらをあざ笑うかのように。
 あの白い獣は、忽然と姿を消していた。
379 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 21:36:37.31 ID:Fg4kVj5n0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 同時刻。
 夕焼けの赤に染まる見滝原タワー。
 その半ばの鉄骨に、白い獣がいた。
 そして、横にもう一人。
 チョコスティックをぽりぽりと齧りながら、同じく鉄骨に腰掛ける、赤髪をポニーテールにした少女もいる。
 
「……ふーん。テッカマンにイレギュラーの魔法少女、ね。しばらく顔出してねー内に、妙なことになってるんだな」
「危険だと言わざるを得ないね」
「お前が何かを断定するなんて、珍しいこともあるもんだな。……なんか隠してるんじゃないのか?」
「どうしてそう思うんだい?」

 表情を見せずにこちらを見上げてくるキュゥべえに、何か言い返すのも不毛な気がしたので、少女はそれ以上追及はしなかった。

「……ま、探りくらいは入れといてやるさ」

 言って、ぽんぽんと身体についた土埃を払いながら立ち上がる。

(しかし……久々の里帰りか。ちょうどいいから、マミの奴にも顔見せとくかね)

 夜へと移り変わろうとしている時間の中、地で蠢く街の明かりを見下ろしながら――。
 赤髪の少女は、にやりと微笑んだ。
 
 ――彼女の名は、佐倉杏子。
 彼女もまた、魔法少女である。
380 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 21:37:33.96 ID:Fg4kVj5n0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 一つの憧れを胸に少女は剣を取り。
 一つの問いを胸に少女は銃を取る。
 その宿命を知ることはなく。
 その決意を知ることもなく。
 
「どうして、あなたは戦えるんですか?」
「人を叩いたら叩いた手も痛くなっちゃうじゃないですか」
「ぐぬぬ」
「――食うかい?」

次回「こんなの絶対おかしいよ」

仮面の下の涙を拭え。
381 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/10(日) 21:45:46.02 ID:Fg4kVj5n0
以上でさらに長かった四話も終了となります。
一話で32kb、二話で35kb、三話で37kb、四話で58kbって最終話行く頃には100kbとか行ったりせんだろうな自分。

さて、この四話で全体構成としては折り返しとなります。

エビルの思惑とは?
キュゥべえがラダムを敵視する理由とは?

次々と明らかになっていく謎。
虚淵氏の言葉をお借りして、次回からのジェットコースターな展開をどうぞお楽しみください。

第五話ですが、一〜二週間ほど時間をおいてから投下となります。
具体的に日程を詰められたらお知らせしますので、気長にお待ちくださいませ
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 21:46:40.58 ID:g9hiFGsPo
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/10(日) 21:56:39.20 ID:P10bkXRdo
乙!
ジェットコースターとな、急転直下ばっちこい!
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/11(月) 00:59:14.15 ID:qx5UrpQR0
家族の件では、タカヤは・・・・まあこの時点ではまだ、全滅しては居ないわけだが。

「仮面の下の涙をぬぐえ」
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/11(月) 07:33:57.38 ID:pN10U61r0

QB『ボクと契約して、テッカマンになってよ!』
じゃ無かったか。
今日気が付いて一気読みさせていただきましたが、そういえば初期の、クリスタルで変身していた頃のテッカマンブレードは、変身が解けると全裸になってたと思うんですが、その辺りはどうしているんでしょうか?
386 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/07/11(月) 08:28:56.20 ID:As/nPuyJ0
えーと、シリアスな空気の維持が著しく難しくなるのでそこはなかった事でおねげーします。

「壮絶! エビル死す」でも変身解けたシンヤは服着たまんまでしたし
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/11(月) 23:13:25.72 ID:pN10U61r0
>>386
おk
ツマランツッコミすまんかった。
388 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/19(火) 16:35:17.63 ID:3Te7wmXZ0
大体の目処立ちました。
土日あたりにでも第五話を投下していきます
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2011/07/24(日) 23:43:45.67 ID:WWVsgyDR0
投下マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
390 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/07/25(月) 15:13:39.42 ID:XpaqC/fB0
申し訳ありません。熱中症やらかしてダウンしてたのでもうしばらくお待ちください。

みなさんも水分・塩分補給は忘れずに……こういうのって動いてるときは全く大丈夫でも休憩取った瞬間ばったり倒れる形でキますので
391 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/26(火) 23:42:45.88 ID:TP9piZwH0
大変長らくお待たせしました。
23:50より投下開始いたします
392 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/26(火) 23:51:59.55 ID:TP9piZwH0
「驚いたな」

 拳を握り、そして開くのを繰り返しながら、Dボゥイは素直に感嘆の声を漏らしていた。
 つい前までは、迂闊に身体を動かすだけで背筋を打ちのめすような痛みが走っていたはずの身体が、今は何の問題もなく動かせる。
 掌に落としていた視線を上げると、Dボゥイは再び口を開いた。
 
「ここまで治癒できるとは、思わなかった」
「これくらいの怪我なら、私でも治せますから」

 答えたのは、マミだった。
 彼女は魔法少女の姿をとっている。より強力な治癒を施すならば変身していた方がいい、と本人は言っていたが。
 ――あの作戦会議が終わった後、マミはDボゥイの治療を申し出た。
 
 それは、Dボゥイの負傷が自分の責任にある、ということもあったが、それよりも、少しでも彼の役に立ちたい、という思いもまたあったのだろう。
393 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/26(火) 23:57:01.45 ID:TP9piZwH0
「ありがとう」

 淡く笑みを含めながら礼を言ってくる彼に、マミは我知らず、どきりとした。
 
「ど、どういたしまして。え、ええと、それで――」
「?」

 顔を赤くしながらもじもじと身じろぎするマミに、Dボゥイは首を傾げる。
 
「できれば、上に何か着ていただけると……」
「……あ」

 そういえば、上半身は裸のままだった。
 スペースナイツで戦っていたときはバイタルを調べるためにこのような事はしょっちゅうだったので、そこらの意識がある意味で麻痺してしまっていたのだ。
 
「あ、ああ。すまないな、マミ」

 いそいそと上着を着込むDボゥイに慌てて背を向けながら、マミは口を開く。
394 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/27(水) 00:00:41.32 ID:R2vgbZhO0
「傷の方は、ほぼ完全に治っています。テッカマンに変身したとしても、きっと問題なく戦えるでしょう。ただ――」
「ああ、ボルテッカはしばらくは使えないだろうな」

 途中から言いよどんだマミの後を継いで、Dボゥイが頷いた。
 完全に人体から外れた機構である、テッカマンの切り札――反物質砲ボルテッカ。
 Dボゥイの身体は癒すことができても、それを復元することは如何にマミであっても不可能で、それにはもはやテッカマンの身体が持つ自己修復機能に任せる他はなかったのだ。
 そして、しょんぼりと目を伏せるマミの頭を、上着を着終えたDボゥイがぽんぽんと軽く叩く。

「大丈夫だ。遅くとも、ワルプルギスの夜と戦うまでには回復させてみせるさ」
「はい。そして、もう一つ、なんですが……」

 だが、マミはさらに言い辛そうに語気をすぼめていった。
 ……そして、その理由に、Dボゥイは心当たりがあった。
395 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/27(水) 00:06:37.19 ID:R2vgbZhO0
「……身体の内部がボロボロなんだろう? それこそ手がつけられないくらいに」
「――ッ!」

 跳ね上げるように顔を上げて、マミはDボゥイの顔を見る。
 その顔には、後悔の色はなかった。
 諦観すら、なかった。
 
「気づいてたんですか?」
「自分の身体だ。そんな事にも気づかないほど俺は馬鹿じゃない」

 本来ならばあり得るはずのない、同じテッカマン同士で行われる戦闘。
 そして、通常では考えられない程の頻度で繰り返されるテックセット。
 それらの行為が、Dボゥイの身体に癒えようのない損傷を刻んでいくことは、明白だった。
 ……本当は、この傷の真相はまた別の所にあったのだが、それをDボゥイが知るのはしばらく後――新たな力と、新たな十字架を背負う時となる。
396 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/27(水) 00:11:51.53 ID:R2vgbZhO0
「この事は、他には?」
「言っていません。……アキさん、にも」
「……そうか。できれば、この話はここだけにしてくれると有難い」

 再び、マミはDボゥイの顔をのぞき見る。
 傷だらけの身体で、凍てつく孤独すらもものともせずに戦いに身を投じているはずのその顔は、ひどく静かだ。
 
 ――どうやったら、こんな風に戦うことができるんだろう?
 
 その疑問は、マミの心に波紋のようなさざめきを生み出す。
 
「………ひとつだけ、聞かせてください」
「なんだ?」
「どうして、あなたは戦えるんですか?」
「…………」
397 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/27(水) 00:17:15.01 ID:R2vgbZhO0
 無言。
 こちらをしっかりと見据えながらも、わずかに――本当に、ほんのわずかに、彼の瞳が揺れる。
 
「ラダムに、この地球を渡すわけにはいかな――」
「嘘です。――いえ、それだけじゃないはずです。
自分の身体がボロボロになっても、こうしてずっと戦い続けるのは――みんなを守りたいとか、そういうのよりも……何か、もっと切実な理由があるはずなんです」
「…………」
「私も、そうだったから。魔法少女としてみんなを守りたいとか、そういうのを建前としていても、本当は孤独であることや、願い事によって私だけが助かってしまった事から目を逸らしたくて……」

 そう。
 両親を救えなかった後悔。
 自分だけが生き残ってしまった悔悟。
 私の正義は、そんな掃き溜めの中で産声を上げたものだった。
398 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/27(水) 00:20:35.50 ID:R2vgbZhO0
「だから、Dボゥイさんが戦っている理由を知りたいんです。そうすれば、私も戦うための理由を、見つけ出せるかもしれないから」

 逆なのだ。彼と私は。
 否応なしに戦いの運命に巻き込まれたという共通点はあっても。

 孤独から逃れたいために戦っていた私。
 戦うために孤独の中へ自ら身を投じた彼。

 まさに、同質にして正逆。
 
 だからこそ、知りたい。
 自ら、あの冷たい孤独の中へと身を投じて、それでも戦い続けていられる彼のことを。
399 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/27(水) 00:25:17.27 ID:R2vgbZhO0
「…………」
「Dボゥイさん?」

 だが、Dボゥイはより険しい、苦々しい表情でマミを見るだけだった。
 
「……まず、君は一つ勘違いをしている」
「……え?」
「俺は、そういうモノを見つけ出せたから戦えているんじゃない。
 ……俺にはそれ以外に何も見つけられなかったから、戦う以外の生き方ができない。ただ、それだけだ」
「…………」
400 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/27(水) 00:25:45.13 ID:R2vgbZhO0
 『嘘だ』と断じて詰め寄ることは簡単なはずだった。
 だけど、できなかった。
 彼の瞳が、ひどく深い悲しみをたたえているように見えたからだ。
 
「だから、俺のようになろうとするのはやめろ。
 怒りと憎しみ以外に何も残るもののない、俺のようには……」
401 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/27(水) 00:27:39.73 ID:R2vgbZhO0
今日はここまでとなります。

自分を見つめなおし、これからの戦いに対して新たな心構えで挑もうと決意したマミさん。
ですが、のっけから拒絶されたりと前途多難。がんばれマミさん!

次回は、木〜金曜日辺りに投下いたします。
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/27(水) 00:44:54.66 ID:1JvCxavUo
乙マミ
……まぁ、Dさんも辛いからなぁ
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/07/27(水) 00:57:58.87 ID:DK7S9mKco
乙。息災のようで安心した。夏もまだまだこれからだし、気を付けてなー。

今後のマミさんの見せ場に期待。
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/27(水) 01:00:26.99 ID:o9KG65VCo
テッカマンブレードUなんて無かった
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 09:00:14.81 ID:dlg07m8/0
「Dボゥイも相羽タカヤも
もう死んだ!」
「俺はテッカマンブレードだ!」
「だがノイ・ヴェルダーのテッカマンブレードだ!」
は有りだと思うんだ
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 18:05:27.31 ID:YORzTset0
考えてみたら、ブラスター化したらかなり早い段階でマミさんたちのことは…
その時のことを想像したらなぜかゾクゾクしてきた
407 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/29(金) 21:42:03.48 ID:C0V0F8mM0
お待たせしました。
21:50より投下いたします
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 21:47:29.13 ID:pvWnX+Qro
待ちかねたぞタカヤ坊…!(ガタッ)
409 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/29(金) 21:50:22.65 ID:C0V0F8mM0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 さやかは、シンプルながらも洒落っけのある、スポーティな手提げ鞄を片手に、病院の廊下を早足で、ついでに足音を立てないようにつま先立ちで歩いていた。
 目的は勿論、日課のように続けている恭介への面会だ。
 昨日はマミの家での作戦会議(と、さやかは呼んでいる)で一日空いてしまったものの、そのブランクを取り戻すために今日はいつもより奮発したのだった。

 部屋の番号を頭の隅でひいふうみい、と数えながら、やがてさやかは目的の場所へとたどり着く。
 上条恭介の、病室へと。
 
 扉の前で深呼吸を三回。
 高揚と気恥ずかしさに高鳴っていた胸は、それだけでも気休め程度には静まってくれた。
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/29(金) 21:50:43.36 ID:FzScRV3+o
待ってました!
今VIPでもまどか×テッカマンブレードでやってるから出張してたかと思ったwwwwwwww
別人だったのね
411 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/29(金) 21:56:44.56 ID:C0V0F8mM0
「恭介、いる?」

 声と共にノックを二回。
 だが、いつもならすぐに返ってくるはずの、彼の声は無い。

「………?」

 なんだろう。リハビリ云々はないと恭介から聞いているし、ご不浄の方は事前に看護士さんにこっそり伝えてもらうように頼んでいる。

(……ひょっとして寝てたりとか?)

 なら、起きるまでちょっと傍らで待ってみようかしら。
 などと、少し不埒なことを考えてみたりもしつつ。
 
 そして、そっと音を立てないように、片目で覗けるくらいにだけ、さやかは引き戸を開けた。
412 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/29(金) 21:57:23.11 ID:C0V0F8mM0
>>410
それは初耳ですね。今度見に行ってみよう
413 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/29(金) 22:08:13.00 ID:C0V0F8mM0
 その片目に映ったのは、さながらにオレンジ色の画用紙に貼り付けた影絵のように見えた。
 茜色の夕焼けをバックに、どこか遠い目で、窓の外をぼんやりと見つめる上条恭介がそこにいた。
 
「…………」

 思わずその姿に見惚れていたさやかは、ここに来た目的を思い出して慌ててぶるぶると首を振る。

「な、なーんだ。恭介ったら返事してくれないと困っちゃうじゃん」

 照れ隠しの仮面を被りながら、ふざけ混じりに彼の傍ら――この部屋においての自分の定位置へと、さやかは歩み寄った。
 
「…………」

 いつもなら柔らかく笑ってくれるはずの恭介は、今回は何故か、無言のままで答えなかった。
 その様子に心の中で首を傾げつつも、さやかは手提げ鞄の中からお土産であるクラシックCDを取り出す。

「え、えーと。昨日来れなかったこと怒ってたりするかな? ふふふ、そのくらいはこのさやかちゃんでも予測済み。
 ほら、今日は休みの分奮発して――」
 
 元気付けようと弾んださやかの声は。
 
「――さやかは、僕を虐めているのかい?」

 底冷えのするような、恭介本人の声によって打ち砕かれた。
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/29(金) 22:08:27.84 ID:NLZAdi9so
>>410
もう落ちてるね
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/29(金) 22:09:49.70 ID:FzScRV3+o
>>414

落ちてないよ?

とりあえず投下終わったらURL貼るっす
416 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/29(金) 22:17:07.64 ID:C0V0F8mM0
「……え?」

 唇は笑みの形のまま強張り、数秒間だけ時間を止めた肺が痛みを訴える。
 身体の重心が滑る様にずれていくのを感じたが、倒れ込むのはなんとか自制した。
 
「僕の手はもう動かないのに、もう直りやしないのに……」

 ギリリ、と骨が軋みそうなくらいに力を込めて、恭介は歯を食いしばり、左の拳を握り締める。
 だが、彼の右腕は麻酔でもかかったかのようにだらりと脱力したままだ。

「どうして、さやかは僕にまた音楽を聴かせようとするんだよ!」

 涙混じりに声を漏らしながら、恭介は肩の力だけでだらりと伸び切った腕を叩き付ける。
 その位置は偶然にも、さやかが取り出したCDケースがあり。
 
 ――そして、恭介の右手は、容易くプラスチックのケースを割り砕いた。
417 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/29(金) 22:25:00.55 ID:C0V0F8mM0
「――――」

 言葉が、出なかった。

 心の中は、そんな事にも気づけなかった不甲斐なさとか、単純に恭介に竦み上がる自分だとか、そんな色々なものがない混ぜになっているというのに。
 自分の声帯は強張ったまま、一向に何も言ってはくれない。
 
 やっと喉が動いてくれた頃には、既に自分の心は誤魔化しで塗り固めた仮面を被っていて。

「あ、あはは。ごめん、恭介の気持ちも知らずに、勝手なことしちゃったね、あたし。
 ごめん、ほんと空気読めなくってさ……」
 
 目頭が痙攣する。
 もう、限界だ。

「ほんと、ゴメン。あたし、看護士さん呼んでくるから――」

 言って、さやかは逃げるように席を立ち。
418 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/29(金) 22:33:43.25 ID:C0V0F8mM0
「待って、さやか!」

 背中からの恭介の言葉に、影を縫いつけられたかのように足を止めた。

「ごめん。さやかが、悪いわけじゃないのに……さやかは、全く悪くなんてないのに、僕は酷いことを言った」
「…………」

 振り向く。
 涙は、辛うじてまだ顔を出してはいなかった。
 
「……ねえ、恭介」

 ゆっくりと、彼の傍らへと近づく。
 病室のドアからそこまでは、たった三歩で着くはずなのに、何故か今はその距離がどうしようもなく遠く感じた。
 
「……何か、あったの?」

 ゆっくりと顔を覗き込む。
 彼の顔は、照り返してくる夕日で影絵のように、その表情を隠していたが、今はそれが有難い。
 ――彼の顔を見てしまったら、今度こそ自分も泣き出してしまいそうだったから。
419 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/29(金) 22:41:01.16 ID:C0V0F8mM0
「……父さんが。父さんが、『もう諦めなさい』って僕に言ったんだ」
「…………!」

 恭介の父親のことは、さやかも知っている。
 厳格な中にも優しさを滲ませている人で、ある意味で親友であるまどかの父親とは正反対な人だった。
 恭介のバイオリンを薦め、時には叱り、時には励ましてくれる、そんな父親だと、さやかは恭介が嬉しそうに話すのを聞いたことがあったのだ。
 
 その父親が、『諦めろ』と、そう言った。
 それは、つまりは……そういうこと、なのだろう。

「主治医さんの話じゃ、『もう奇跡か魔法でも起こらない限り、無理だろう』って……。
 それを聞いて、僕は、もうどうしたらいいのかわからなくなって……!」
 
 数日前には、柔らかく笑いながら一緒に音楽を聴いて、心地よい時間を共有させてくれた少年は。
 今はただ、子供のように泣きじゃくり、血を吐くように己の心を吐露する。
420 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/29(金) 22:52:55.07 ID:C0V0F8mM0
 そして、彼の手を握りしめながら、さやかは一つのことを考えていた。
 密度の濃い記憶が目まぐるしく渦巻く思考の中で、いくつもの台詞がフラッシュバックしていく。
 
『美樹さん、あなたは彼に夢を叶えてほしいの? ……それとも彼の夢を叶えた恩人になりたいの?
 同じようでも全然違うことよ、これは』

『君が願い事を決めてくれたのなら、今すぐにでも僕が魔法少女にしてあげられるんだけど』

『私の見ていないところで勝手に魔法少女としての契約を結ばないようにするためよ。……美樹さやか』

 ゆっくりと、さやかは閉じていた目を開ける。
 その瞳に、はっきりとした決意を燃やしながら。
 
「――あるよ」
「……さやか?」

 急にトーンが変化した彼女にやや戸惑いながら、恭介は顔を上げる。
 そんな彼の手をしっかりと握り締めながら、さやかは恭介の瞳と真正面から向き合って。
 
 ――まるで、叙勲を受けて誓いを口にする騎士のように、誇り高く言い放った。
 
「あるんだよ! 奇跡も! 魔法も! なんだってある!!」

 ――だが。
 それは、或いは悪魔の誘惑に膝を屈してしまったようにも、見えた。
421 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/29(金) 22:54:43.70 ID:C0V0F8mM0
今日はここまで。
そしてAパート前半も以上で終了となります。

完全にバイオリニストとしての夢を絶たれ、絶望に落ちる恭介。
そんな彼を前に、さやかは一つの決意を固めました。

そんなさやかちゃんの運命の行く先とは、果たして?

次回もまたお楽しみに!

なお、次回は土日か月曜日あたりに投下する予定です。
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/29(金) 23:01:06.56 ID:FzScRV3+o
乙彼……



マミの惨状を見てなお……そんなに死にたいか美樹さやか……!
8話のほむらからまどかへのあの台詞を聞かせてやりたいですね


前述のスレ↓
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1311931840/
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/07/29(金) 23:03:21.19 ID:hlhI9VYUo
乙!
やっぱり契約しちゃうか…ここからどう転がるやら。
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/07/29(金) 23:06:39.70 ID:zjoXFEkE0


さやかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
>>422
そっちも教えてくれて乙
425 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/07/29(金) 23:07:44.96 ID:C0V0F8mM0
>>422
ありがとうございます。

中盤から後半にかけてはさやか☆ブレードな展開になるので乞うご期待!
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/07/30(土) 12:23:09.66 ID:ujpp5fel0
乙ですー。
ブラスター化して恭介のこと忘れちゃうとかいう展開だったら…
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/01(月) 02:49:43.45 ID:4ncxB/MUo
テッカマセランスさんも出てくるのかな
428 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/01(月) 22:32:06.56 ID:fCfZ0MWK0
お待たせしました。
22:40より投下開始いたします
429 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/01(月) 22:42:00.70 ID:fCfZ0MWK0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「……鹿目さん? 聞いてますの?」
「……えっ!? ご、ごめん。ちょっと上の空だった」

 ぼんやりと忘我していたまどかは、仁美の声で我に返った。
 街路樹が規則正しく整列する通学路。その並木道の中を、まどかと仁美は二人で下校している。
 さやかは恭介の見舞いのために一人別行動、マミはDボゥイの治療ということで早めに帰ってしまい、ほむらの方はというとやはりこちらも早々に帰って、結局捕まらず、だ。
 
「ただでさえ、最近おつき合いがよろしくなくて寂しいですのに……」
「ごめん……」

 ふう、と物憂げにため息をつく仁美に、まどかは小さい肩幅をより小さく縮こませる。
 魔法少女と魔女、そしてテッカマンとラダムの一件に巻き込まれたが故に仕方ないことだったとはいえ、その分この親友との関わりが疎かになってしまっていたのは事実だった。
 
「いえ、鹿目さんにも何かワケがあるのでしょうし、あまりお気になさらず」
「う、うん。ありがと、仁美ちゃん。ええと、それで……」

 言葉を一旦切ると、まどかは仁美を上目遣いに見上げる。
430 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/01(月) 22:44:51.35 ID:fCfZ0MWK0
「何の話だったかな? 仁美ちゃん」
「この前の一件ですわ。鹿目さんのお母様は、どんな事を言ってらしたのか、と」

 そういえば、一週間ほど前――仁美からそんな相談を持ちかけられていたのを思い出す。
 たしか、ラブレターの返事をどうすればいいか、というものだった気がする。
 それで、即決即断一刀両断な母に相談したところ、答えは確か……
 
「うん、それなら『直接コクれもしないんじゃ駄目だ』って」
「そうやって割り切れれば楽なのですけれどねえ……」

 どうやらあまり参考にはならなかったようで、仁美はふう、とため息をつく。

「まあ、お母さんの言う事だから……仁美ちゃんも、自分なりの方法を考えてみるといいんじゃないかな。きっと、それが一番正しいんだと思う」
「そう……ですのね」

 なぜか、真剣に考え込みながら仁美はうんうんと頷く。
 見知らぬ人からのラブレターの返事ひとつに、こんなに真剣に考えるなんて仁美ちゃんって礼儀正しいんだなあ、さすがお嬢様。などとも思いつつ。
431 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/01(月) 22:49:13.24 ID:fCfZ0MWK0
「そういえば、鹿目さんの方はどうなんですの?」
「え?」

 急に向きを変えた話の矛先に反応し切れず、再びまどかは呆けた声を漏らす。
 
「それとなく噂になってますわよ? 若い殿方とご一緒されたりしてるとか」
「ちょ、ちょちょちょちょ」

 鯉のように口をパクパクとさせながら、まどかは慌てて仁美の話を遮った。
 瞳を蟻のように忙しなくグルグルと走りまわせながら、まどかは仁美の肩をがくがくと揺さぶる。

「だ、だだだ誰から聞いたの? それ」
「う、噂ですわよ。でも、そんなに慌ててるってことは、何か心当たりがあるんですの?」
「うっ……」

 ずい、とこちらの目を見つめてくる仁美に、思わずまどかはたじろぐ。
 目の前にいる親友の表情は、面白がっている様子はなく、あるのは純粋な心配の念だ。
432 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/01(月) 22:54:23.15 ID:fCfZ0MWK0
「う、うん。この前、危ない目に遭ったところを助けてもらった人で、そこからまた色々あってたまにお話を聞いたりしてるの」

 多分、嘘は言ってないよね。うん。
 
「それならいいのですけれど……あまり度が過ぎると、いろんな方にご迷惑をかけてしまいますから気をつけないといけませんわ」
「うん。ありがとう、仁美ちゃん」

 それから、他愛もない雑談に興じたりしつつ。
 気がつくと、二人の足は既に帰り道の分岐点まで進んでいた。

「それでは、私は帰り道はこちらですので……」
「うん。……仁美ちゃんは、これから用事?」
「ええ。ピアノに書道にお花のお稽古が一気に」

 はあ、めんどくさいわ。と、お嬢様らしからぬ感想と共にため息を漏らす仁美に、大変だなあ、とまどかは素直にそう思った。
 そうして、また明日、と別れて、まどかは一人帰り道を歩く。
433 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/01(月) 22:57:06.60 ID:fCfZ0MWK0
「『それも一つの戦い』……かぁ」

 あの時、マミが言ってくれた言葉。
 それを思い起こして反芻しながら、まどかはぼんやりと想いを巡らせた。
 
 戦うための力を得て、戦いに身を投じるだけが「戦い」ではないのだと。
 憧れのあの人は、そう言ってくれた。
 
 だけど。
 
 ――――それなら、わたしはマミさんやほむらちゃん、Dボゥイさんたちのために、何ができるんだろう?
 
 ただ応援し、見ていればそれでいいのか。
 それとも、何にも関わらず、目と耳を閉じてうずくまっていればいいのか。
 それとも、自分の想像の外にある別の何かか。
 
 少女は未だに、答えを出せずにいる。
434 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/01(月) 22:57:42.34 ID:fCfZ0MWK0
 と。
 ふと、まどかは歩みを止めた。
 視界の端をかすめて、今しがたすれ違った人の群れ。
 その中に、見知った姿を見かけたからだ。
 
「あ、あのっ!」

 くるりと180度転進すると、まどかはその人の背中で声をかける。
 
 その人影は、ゆっくりとこちらに振り向いた。
 
「君は……」
「は、はいっ。わたし、鹿目まどかです。え、えーと……」

 一旦、言葉を止めて、まどかは彼の顔を見上げた。
 
「シンヤさん、ですよね?」
435 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/01(月) 22:59:51.28 ID:fCfZ0MWK0
さて、今日はここまでとなります。
仁美と別れたまどかは、病院で会った「なぞのせいねん」シンヤと再び邂逅を果たします。

この出会いは、果たして二人にとってどのような意味を与えられるのでしょうか。

次回もまたお楽しみに!

また、次回は水曜に投下いたします。
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/08/01(月) 23:03:28.71 ID:m64gT4tio
続き来てたー! 乙!

ヤバい…その御方はヤバいで、まどっち…
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/01(月) 23:08:56.65 ID:2QI9E6/Jo
お疲れっ!



……テラ子安さんはやばすぎるがな
お兄ちゃん早くきてぇぇ!
438 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/03(水) 23:58:33.24 ID:Xdjiirc70
お待たせしました。0:10より投下いたします
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/04(木) 00:09:52.42 ID:oPSBYviPo
これは待機せざるを得ない。
さやかちゃん来るか……?
440 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/04(木) 00:11:01.43 ID:X9nCRQnt0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「しかし奇遇だね。またこんな所で会うなんて」

 手近な公園の中。
 日陰でありながら、見上げると木から漏れた太陽が瞳を灼く。
 そんな中のベンチに腰掛けながら、まどかとシンヤの二人は話をしていた。

 目の前の少女に、病院ではない別のどこかで会ったような気もするが、シンヤには思い出せない。
 まあ、それほど重要なことでもないだろう。
 ……目の前の少女くらいの人間など、既に百人単位でその手にかけているのだし。

「は、はいっ」

 対して、まどかの方は緊張の混じりのいっぱいいっぱいだ。
 見知らぬ若い男と話す、というのは彼女にはあまりない経験ではあったからだ。
 Dボゥイもまたその若い男ではあるのだが、不思議と彼からは男性的な感じはあまり受けなかった。
 むしろ、彼から感じられたのは兄が妹を見るような、そんな感じだ。
441 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/04(木) 00:15:50.13 ID:X9nCRQnt0
「シンヤさんは、探してる人は見つけられたんですか?」
「はは。まあ、何とかね」

 声に出して、本当に嬉しそうにシンヤが笑う。
 だが、
 
「…………ッ」
 
 突然胸を押さえると、顔をしかめた。
 
「……どうしたんですか? な、何か具合が悪いとか」
「いや、そういうんじゃないよ。ちょっと、怪我をしていてね。大した傷じゃない」
「怪我って……」

 思わず言葉に詰まるまどか。
 だが、彼女は何かを察したように、ぽん、と手を打つと、
 
「……もしかして、その探してる人と喧嘩しちゃったとか?」
「……まあ、そんなところ、だね」

 何故か含みのある笑いで応じるシンヤに首を傾げたものの、まどかはそのままの姿勢で話を続ける。
442 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/04(木) 00:19:05.56 ID:X9nCRQnt0
「うちの母も言ってました。『男にゃ、ゲンコツ交わして初めて分かり合えるものもあるのさ』って」
「それはまたずいぶんと、豪気なお母さんなんだね」
「ええ、それはもう」

 当人の与り知らぬところで、しみじみと頷く。
 だが、まどかは顔を上げると、指を一本立てて口を開いた。

「でも、やっぱり暴力はよくないですよ」

 その瞬間。
 シンヤが、笑みを消した。
443 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/04(木) 00:25:24.68 ID:X9nCRQnt0
 たったそれだけで、何故か背筋が凍る程の異様な迫力がかもし出される。
 思わずびくりと身を震わせたものの、真面目に聞いてくれているのに勝手にビビるなんてそれこそ失礼だよね、とまどかは勇気を奮い立たせた。

「……続けてごらん?」
「は、はいっ。え、えーとですね――」

 促されて、まどかは慌てて頭の中で言うべき言葉を組み立てた。
 そして深呼吸一つ。
 落ち着いてくれた心のまま、まどかは再び口を開く。
 
「はい。喧嘩であっても、やっぱり暴力はよくないと思うんです」

 何故ならば。
 
「だって、人を叩いたら叩いた手も痛くなっちゃうじゃないですか」
「…………」

 一瞬、呆気にとられた顔で、シンヤはまどかを見つめて――。
444 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/04(木) 00:31:42.50 ID:X9nCRQnt0
「…………ぷ、ははははは」

 やがて、笑いに身体を震わせ始めた。
 
「え、えーと……何かおかしなこと言いましたか? わたし」

 前にもこういうことあったなーなどとも思いつつ。
 タラリ、と汗を一筋垂らしながら彼女は恐る恐るたずねる。
 
「い、いや。笑ったりしてごめんよ。ちょっと、昔のことを思い出してね」
「そうなんですか……」

 立てていた指をへんにゃりと曲げて、気恥ずかしさに思わずまどかは視線を逸らし――。
 そして、その表情が凍りついた。
445 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/04(木) 00:36:50.77 ID:X9nCRQnt0
 通りを横切った人影。
 柔らかそうなウェーブの、緑がかった髪。
 ぼんやりと眠たげな目。
 そして、自分と同じ、見滝原中の制服。
 
「――仁美ちゃん!?」
「どうしたんだい?」
 
 思わず立ち上がったまどかに、シンヤは訝しげに応じる。
 
「あ、あのっ。わたし、また急用ができちゃったので……!」
「ああ、早く行って来るといい」
「は、はいっ。ごめんなさいっ」

 一息に頭を下げるまどかに、どうどうと手を振りながらシンヤが返す。

「いや、いいさ。それより、また会う事があったらもう一度話したいかな」

 一息。
 
「不思議と、君にはまた会える気がするよ」
「……え?」

 それってどういう意味ですか、と顔を上げた時には。
 既に、シンヤの姿はまどかの目の前から消えていた。
 
「……?」

 首を傾げるものの、すぐに思い直して、まどかは親友を追うために公園を走り去った。
446 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/04(木) 00:42:57.66 ID:X9nCRQnt0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

『……珍しいな、シンヤよ』

 そして。去っていくまどかの背中を眺めていたシンヤに、彼にだけ聞こえる、謎の声が呟きかける。

「何がだい? 兄さん」

 だが、そんなものに微塵も驚く様子を見せず、シンヤは口を開く。
 
『事情を知らぬ者とはいえ、お前がタカヤとの戦いを否定されて冷静でいられるとはな』
「…………」

 その声に、黙したままシンヤは答えない。
 
 ……否。ゆっくりと上を見上げると、一言だけ呟いた。
 
「『人を叩いたら叩いた手も痛くなる』」
「………?」
「僕たちが喧嘩したとき、よく父さんはそう言って聞かせてたのを思い出してね。なんだか、毒気を抜かれちゃったのさ」

 ク、と笑いの息を漏らしながらシンヤもまた公園を後にする。
 その後姿は、やがて夜の闇に溶けて、そして消えた。
447 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/04(木) 00:45:44.20 ID:X9nCRQnt0
今日はここまでとなります。
また、Aパートもここまでとなります。

ひとまず、偶然によって交差した少女と青年の運命は再び分かれました。
さて、これが後にどんな影響を与えるのか?

そして、仁美は一体どうなってしまったのか。
次回もまたお楽しみに!

また、次回は木曜〜金曜の投下となります。
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/04(木) 00:59:25.24 ID:AfLf/uAwo

志筑わかめちゃんも相葉さんちの娘さんも見事な海藻ヘアーでしたねそういえば
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/04(木) 01:01:35.65 ID:oPSBYviPo
お疲れさんです。
二人の会話に少し胆が冷えたが、
シンヤ坊は結界の中のまどっちを覚えてなかったのね。
出くわしたのがさやかちゃんだったらgkblの展開だったのかもしれん……
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/04(木) 04:39:51.66 ID:Cf7UM1RAo
マミさんならマミっちゃいそうだな
451 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 19:33:21.19 ID:Lxq3BJJ10
大変長らくお待たせしました。

今夜21:00ごろより投下いたします
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/06(土) 19:37:50.74 ID:Z8iTfUfno
待ってましたっ
453 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 21:02:07.26 ID:Lxq3BJJ10
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 さて、まどかとシンヤの邂逅から少しだけ時間を遡る。
 ちょうど、まどかと仁美が分かれ道で別れた時間帯だ。
 
「…………」

 だんだんと周囲が小奇麗になっていく道を、仁美は歩いていた。
 行く先は、自分の家である高級住宅街だ。
 
「……はあ」

 ため息をひとつ。
 帰った自分を、スケジュール帳の中ですし詰めになって待っている習い事、レッスンの数々もまた、自分を陰鬱な気分にさせるのには十分ではあったが、彼女のため息の理由は別のところにあった。
454 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 21:12:37.60 ID:Lxq3BJJ10
 さっきの友人とのやり取りの記憶を反芻する。
 心の中で反響し続けているのは言葉だ。
 
『直接コクれもしないんじゃ駄目だ』
『仁美ちゃんも、自分なりの方法を考えてみるといいんじゃないかな。きっと、それが一番正しいんだと思う』

「……見透かされてるのでしょうか、私」

 無論、まどかはそんな事はないだろうが、それでも自分の汚い心の底が垣間見られたような気がして、仁美は肩を縮めた。
 は、ともう一度息をつく。
 だが、前のそれとは違って、今度はそれ程陰鬱な気を含ませてはいなかったが。
455 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 21:16:46.48 ID:Lxq3BJJ10
「恭介君……」

 想い人の名を口にすると、仁美はぎゅ、と胸先を握り締める。
 制服のブラウスがくしゃくしゃになってしまったものの、そんなことはどうでもよかった。
 
 ――そう。志筑仁美は、上条恭介に恋をしていた。
 
 この前の相談も、ラブレター、というのはただの口実でしかない。
 本当は、ロクに想いも告げられずにいる自分をどうにかしたくて、だが自分ではどうにもできないのを打破したいがために、まどかの母の知恵を借りるためのものだった。
456 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 21:25:16.63 ID:Lxq3BJJ10
 だが。
 上条恭介には、幼馴染の美樹さやかがいる。
 昔馴染とはいえ、毎日のように足繁く通っているという事は、彼女もまた、自分と同じ想いを抱いているのだろう。

 ……ならば。
 自分の想いを伝えるということは、今まで築き上げてきた、さやかとの関係を破壊してしまう、ということにはならないのだろうか?
 
 仁美は、それが怖かった。
 恭介への恋と、さやかとの友情。
 仁美にとっては、どちらもこの上なく自分にとって重要で、大切なものだ。
 どちらかを取れ、だなんて、そんな事は考えもしなかった。

 そして、考えたくも、なかった。
 
 そのまま、仁美は歩き続ける。
 
 だが、その行き先はさっきとは違った。
 自分の家がある高級住宅街とは逆の方向――繁華街や、廃ビルが立ち並ぶ区域だ。
 
 そして、歩き続ける仁美の首筋。
 そこにあるのは、一つの印。
 
 
 
 ――それを、ある者は『魔女の口づけ』と呼ぶ。
457 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 21:34:52.50 ID:Lxq3BJJ10
と、食事なので22:00まで小休止です。
458 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 21:57:15.12 ID:Lxq3BJJ10
戻りました。22:00から再開します
459 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 22:00:38.61 ID:Lxq3BJJ10
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「――それで。話って、なに」

 暁美ほむらは、いつもと変わらない無表情で目の前の人間に問いかける。
 
「いくつか、君に訊ねたいことがある」

 目の前の人物――Dボゥイは、それに答えた。
 二人と、アキがいるのはホテル内の一室だ。
 切れかけた蛍光灯で点される部屋の中は薄暗く、やや埃っぽい空気の中で、ベッドに腰掛けるほむら、鏡台の前の椅子に座るアキ、そして近くの壁に背中を預けて立つDボゥイ、という綺麗な三角形を描いて三者は向き合う。
 
「…………」

 そして、ほむらはDボゥイの言葉に身構えるように目を細めた。
460 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 22:07:09.35 ID:Lxq3BJJ10
「あの三人の前じゃ、話にくいだろうと思ったんでな」

 言って、Dボゥイは懐から何かを取り出すと、ほむらへと示すように差し出す。
 
「それは……!」
「グリーフシード。マミは、これをそう呼んでいた」

 一瞬だけ狼狽の色を見せるほむらに、淡々とDボゥイが口を開く。
 
「どうして、あなたがそれを持っているの?」
「この前の魔女――薔薇のヤツだな。そいつを倒したときに手に入れたものだ。マミには結局、渡しそびれたままだったけどな」

 ゆっくりと、Dボゥイはグリーフシードを再び懐に戻すと、ほむらの方を見た。
461 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 22:12:38.85 ID:Lxq3BJJ10
「……どういうことだ? ソウルジェムとグリーフシード。魔法少女と魔女という、対極にいるはずのものが生み出すこの二つが、なぜこんなにも似ている?」
「………ッ!!」

 頭をガツン、と殴られたような衝撃に、ほむらは今度こそよろめいて手をついた。
 自分が幾重もの苦難と挫折を乗り越えた先ある真実。
 それに、彼はあっさりとその手前までたどり着いてしまったのだ。
 
 ……否。
 もしかすると、彼だからたどり着けたのかもしれない。
 テッカマンブレードという宿命を背負った、彼だからこそ。
462 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 22:19:41.56 ID:Lxq3BJJ10
 ほむらの中で、もぞり、と何かが身をもたげる。
 このまま全てを彼に打ち明けてしまいたい、という欲求だ。
 誰も信じてくれなかった、そして受け入れることはできなかった真実を、目の前の彼なら受け止めてくれる、花の蜜のように甘い誘惑。

 だが。
 本当に、彼は真実を受け止めてくれるのだろうか、という疑念もまた、ほむらの中で蠢動していた。
 彼はラダムと戦うということはハッキリしているものの、それ以外は依然として謎のままだ。
 最悪、彼自身が魔法少女を敵と断じて敵に回る可能性だって、ある。
 
 どちらが自分を正しい方向へ導いてくれる思いなのか。
 ほむらには、それをまだ決めることはできなかった。
463 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 22:24:21.90 ID:Lxq3BJJ10
「……いま、は」

 乱れた呼吸を落ち着かせて、喉の奥から声を絞り出す。
 
「話せないわ。……今は、まだ」
「……そうか」

 様子を伺うように、上目遣いでこちらを見つめてくるほむらにはそれ以上何も言わず、Dボゥイはそのまま会話を切り上げる。
 
「……それと、私からも一つ、気になることがあるの」
「なんだ?」

 誤魔化したわけではないが、話題を変えるほむらに再びDボゥイはこちらに目を向けた。
464 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 22:29:42.61 ID:Lxq3BJJ10
「キュゥべえのことよ」
「あの白い獣か。俺を……いや、テッカマンを知っているのは気にはなるが」
「ええ。私が気になっているのは――」

 さっき程深刻ではなさそうな顔のDボゥイに、ほむらは続ける。
 
「――あいつは、テッカマンを明確に『敵』と認識していた」
「……それが、何かおかしい事なの? ラダムは人類すべての敵でしょう」

 微妙に認識が噛みあわないままの表情のまま、三人は顔を付き合わせる

「あいつにとって、地球人類の敵とかどうかなんて、どうでもいい瑣末事よ」
「…………」

 Dボゥイの表情が、鋭さを増す。
465 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 22:32:53.88 ID:Lxq3BJJ10
「……ごめんなさい。けど、事実よ。
 あいつが何かを強く断定するなんて事自体、そうそうある事じゃないの。
 だって、悪魔っていうのは嘘をつかないけど、何事もあやふやなままにしたがるでしょう?」

 ほむらは手っ取り早い例え――実際は比喩でもなんでもない、ただの事実だが――を提示しつつ、続ける。
 
「なのに、キュゥべえはテッカマンエビルを見た時に、明確にラダムを敵と断じて鹿目まどかと美樹さやかを魔法少女にしようと焚きつけていたわ。
 ……単に、まどかを魔法少女にしたいがためにやった、って解釈することもできるけど、それでも腑に落ちない」
「キュゥべえは、ラダムを地球に侵略している、ということとは別の理由で、ラダムと敵対している、ということか?」
「ええ。その理由が何なのか、はまだわからないけど――あいつと、ラダムとの間に何か秘密があるのは間違いない」
466 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 22:38:01.30 ID:Lxq3BJJ10
 三者が真剣な顔のまま、数秒の沈黙が訪れる。
 その沈黙を破ったのは、ひとつの歌だった。
 
『交わした約束 忘れないよ 目を閉じ 確かめる』

 低いバイブレータの振動音と共にその存在をしめしたのは、ほむらの携帯電話だった。
 
「……まどかからだわ」

 年頃の少女にしては素っ気無いくらいにシンプルな携帯を手に取ると、慣れた手つきでほむらは着信ボタンを押す。
467 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 22:53:38.86 ID:Lxq3BJJ10
「まどか? どうし――」
『ほむらちゃん! 大変なの!』

 電話の向こうから聞こえてくるまどかの声は、これ以上ないくらいに切羽詰っていた。
 
「……どうしたの?」
『あ、あのね。仁美ちゃんに魔女の口づけがあって、それで仁美ちゃんがたくさんの人たちと、洗剤を混ぜて危ないことしてたから、それを止めたら追いかけられて、怖くて――!」

 まどかの説明は、半ば支離滅裂としていたが、大体向こうの状況がどんなものであったかは想像がつく。

 つまり、志筑仁美に魔女の口づけがあったのを見つけて、洗剤による集団自殺を止めたところ、その集団から追いかけられて逃げ回っている、ということだろう。
468 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 23:04:51.98 ID:Lxq3BJJ10
「落ち着いて、まどか。今どこにいるの?」
『う、うん。再開発区域のところの、廃ビル。今、小部屋のところで隠れてるの』

 息を切らせているものの、走る音も聞こえず、くぐもったような声なのはそのためか。
 
「わかったわ。すぐに向かうから、あなたはそのまま隠れていて。私が助けに来るまで、絶対に出て行ったりはしないで」
『う、うん。わかっ――』
「まどか!?」

 ぶつり、と、突然まどかの声が途絶えた。
 耳に聞こえてくるのは、無機質なビジートーンだけだ。

「急に途絶えた?」
「この前のさやかちゃんの時と同じような感じ、ね」

 つまりは。
 
「『魔女の結界』……!」
469 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 23:05:33.95 ID:Lxq3BJJ10
 すっくと、ほむらは立ち上がる。
 その表情には、さっきまでの狼狽は微塵もなく。
 あるのは、堅い決意を抱いた戦士のそれだ。
 
「一刻の猶予もないわ。すぐに向かわないと……!」
「アキ。マミに連絡を頼む。……俺は、ほむらと共に急行する」
「ええ。気をつけて」

 慣れた様子で、三人は自分の成す事を自覚し、それを実行するために行動に移そうとしていた。
 そんな中、ほむらは一つのことを考える。
 まどかのことだ。
470 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 23:06:00.62 ID:Lxq3BJJ10
 集団自殺を止めた、と彼女は言っていた。
 並大抵の、ただの中学生が成せる勇気では到底できないようなことだ。
 
 故に、ほむらは確信を持ったのだ。
 今の彼女と。
 凛々しく華やかな、もはやほむらしか知る者はいない、彼女。

 どちらも、何一つ変わることのない、同じ『鹿目まどか』であると。
 
(まったく……)

 苦笑交じりに吐息すると、記憶の中、自分の無力を嘆いていたまどかを思い出す。
 
『わたし、何の取り柄もないし、役立たずだし――』

(……誰が、無力の役立たずですって?)
471 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 23:06:43.61 ID:Lxq3BJJ10
 間違いもいいところだ。
 魔法少女としての力なんて、そんなものは全く関係なく。
 
 
 彼女は、何よりも、強い。
 
 
 だからこそ。
 自分が守らなければならないのだ。
 ――たとえ、そのために何を代償にする事になろうとも。
472 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/06(土) 23:08:17.24 ID:Lxq3BJJ10
今日はここまでとなります。

魔女の結界に囚われたまどかの運命とは?

そして、お待たせしました。次回はさやかちゃん登場です。
次回もまたお楽しみに!

なお、次回は日曜〜月曜の投下となります。
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 23:57:30.56 ID:pqoW+O51o
乙カレー空間

緑の子がエリーに引っ張られた原因をそう持ってきたか…
理由としちゃ一番しっくりくるね。

それにしても、ここんとこ定期的に投下されとりますな。
見習いたいもんです。
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/08/07(日) 08:37:30.36 ID:sr5PsB2yo
乙です。

不安で一杯のマギカ世界なのにDボゥイ(と、アキ)が居るだけで凄く安心して見ていられる。
不思議だわ、 本物のヒーローが居るとこうも違うものか。

あと、遅ればせながら、マミさんとDボゥイの絡みは凄く良かったです。
続きも楽しみにしてます。
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 11:37:10.05 ID:VCmcpHo2o

QBとラダムは捕食者同士で対立してるのかな?肉食獣の縄張り争いみたいだ。
476 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/08(月) 23:59:26.57 ID:aQ6mWYot0
お待たせしました。
0:10より投下いたします
477 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/09(火) 00:09:17.46 ID:WnUSdt2l0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 ほむらが決意を新たにしたのと、ちょうど同時刻。
 まどかが指定した場所にほど近い、廃墟の立ち並ぶ再開発区域。
 そこに立ち並ぶビルの隙間を縫うように飛ぶものがあった。
 
 デッサン人形のような身体に、片方だけ翼が生えているそれは、一見すると天使のように見えたかもしれない。
 だがソレをが何であるかを知ったならば、誰しもがその評価を撤回することになるだろう。
 ――魔女の使い魔という、正体を。
 
 その使い魔は、右に左にと曲がり、さらには上下に軌道を揺らしながら飛行していく。
 時々後ろを振り返ったりしているのを見ると、何かに追われているのだろうか。
 
 それを肯定するかのように、使い魔の頭をかすめて高速で飛んでいったものがある。
 それは、剣だ。
 緩く湾曲した刀身に、護拳のついた柄と、軍刀のようなフォルム。
 ライフル弾のように乱れ飛ぶそれらを間一髪でかわしながら、必死で使い魔は逃げていた。
478 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/09(火) 00:22:10.72 ID:WnUSdt2l0
「こンの、小さくて当てにくい上にすばしっこいってズルいでしょーがっ」

 勝手な理屈をこねながら、使い魔を追い続ける剣の主――美樹さやかは、林立するコンクリートの隙間を駆け抜ける。
 だがその姿は、いつもの見滝原中の制服ではない。
 青と白を基調とした、動きやすそうな格好を、さらに純白の外套で包んでいる。
 まぎれもなく、魔法少女としての装束だった。
479 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/09(火) 00:31:56.90 ID:WnUSdt2l0
 白いマントをはためかせ、地面だけでなく壁を蹴って跳躍を繰り返しながら、さやかは使い魔を追う。
 元より、大きさと飛んでいるというハンデがあるにも関わらず、両者の距離は開くどころかじりじりと縮み始めていた。
 
 そんな中、使い魔の何度目かの右左折を追う。
 そして、さやかは唇の端をにやりと吊り上げた。
 目の前に広がる道が、細いまっすぐな一本道だったからだ。
 これで、標的は路地を曲がって逃げるというカードを封じられた形になる。
480 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/09(火) 00:36:46.10 ID:WnUSdt2l0
「これでぇ!」

 裂帛の気合と共に、剣がさやかの求めに応じて現れる。
 それをくるりと手の中で器用に一回転させると、逆手に握った剣を槍投げの要領で振りかぶった。
 
「とどめだぁーーーっ!!」

 腰から肩へ、肩から肘へ、肘から手首へ、そして手首から指へ。
 間接を経るごとに爆発的に速度と力を強めながら、強烈なスナップで剣は一本の矢と化す。
481 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/09(火) 00:46:47.05 ID:WnUSdt2l0
 だが。
 
「待て待て待て」

 使い魔を貫くはずだったそれは、突如突き立ったモノに弾かれて砕け、そして霞のように消えた。
 
「なっ……!?」

 手ごたえ十分な一撃を防がれて衝撃を受けながらも、さやかは上を見上げる。
 さっきの声の主、自分の獲物を邪魔した者を探すためにだ。
 程なく、ビルの縁に腰掛けている少女を発見する。
 
 コートのような真紅の装束に身を覆い、長い髪をポニーテールにして流している。
 片胡坐をかいたその少女は、左手で頬杖を突き、右手はさっきのさやかのそれのような投擲の姿勢で止まっていた。

(――間違いない。コイツも魔法少女だ)
 
「あんたは……?」
「なにを頭悪いことしてるんだよ、ボンクラ」
 
 こちらの誰何の声には答えずにニヤリと笑うと、真紅の魔法少女は口にくわえたチョコスティックをパキン、と噛み折る。
 
 ――これが、美樹さやかと佐倉杏子の最初の出会いだった。
482 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/09(火) 00:50:14.62 ID:WnUSdt2l0
短いですが今日はここまで。
全国(たぶん)十万人のあんさやファンの方お待たせしました。ついにあんこちゃんとさやかちゃんの邂逅です。
原作ではこの後戦いに発展したこの邂逅ですが、されどこの話はまどか☆マギカではなくまどか☆ブレード。如何なる展開になるのでしょうか。

そして、次回は先行したブレード&ほむらVSエリーちゃんの戦いとなります。
次回もまたお楽しみに!

また、次は火曜〜水曜辺りに投下いたします
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/09(火) 01:10:25.98 ID:lWxXoz5Lo
乙です。

早くも蒼と紅の邂逅ktkr!
一方、タカヤ坊とほむほむは意外に苦戦しそうな予感が…
なんとなくだけど。
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/09(火) 01:20:05.60 ID:d3hluBVzo
トラウマ盛りだくさんですからねぇ……
エリーちゃんって、ほんと便利。お疲れ。
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/10(水) 23:49:10.47 ID:fPHG+Z9w0
すいません、今日は面接だったので投下は木曜〜金曜となります。
486 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/08/10(水) 23:49:37.68 ID:fPHG+Z9w0
酉なかった…落ち着け俺
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/08/11(木) 00:26:34.39 ID:A4B1fIHTo
了解。待ってるよ。
488 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/08/11(木) 23:33:15.70 ID:2IUkyTsY0
祝☆不☆採☆用☆

_(:3 」∠)_


何はともあれ、明日にはなんとか投下できそうです。畜生…
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/11(木) 23:49:32.97 ID:E7cer7Ruo
……お祈り申し上げます
無理せず行こうぜ
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/12(金) 00:28:37.19 ID:nIczDHEr0
>>1…お前もか……
俺、明日の投下見届けたらラダム艦に単身特攻するんだ…
491 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/12(金) 20:40:39.19 ID:QhaQe7Xu0
戦ヴァル3も欲しいし、TF6ももうすぐ発売だし、まどマギ設定資料も欲しいしで収入のある生活に早く戻らないといかんのに…_(:3 」∠)_

ともあれ、21:00から投下予定です
492 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/12(金) 20:56:03.73 ID:QhaQe7Xu0
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「――あったか?」
「見つけたわ。これですぐにでも踏み込めるはず……そっちは?」
「大丈夫だ。こちらは片付いた」

 気絶させた自殺未遂者の最後の一人を、慎重に寝かせながらDボゥイはほむらの方へ振り向く。
 ――現場に到着したほむらとDボゥイを待っていたのは、ゾンビ映画のように生気のない顔で襲い掛かってくる老若男女の面々だった。
 だが、幼い頃から武術を学んでいたDボゥイからすれば、心得のない者が何人束になろうと敵ではなく。
 二分と経たないうちに、魔女の口づけを受けた者たちは皆一様に当て身を食らわされてのびていたのだった。
493 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/12(金) 21:00:18.62 ID:QhaQe7Xu0
「これも全て、魔女のせいで起こった事なのか?」
「……ええ、そうよ」
「…………」

 ほむらの肯定に、ギリギリとDボゥイは憤怒に拳を軋ませた。
 しばらくそれを無言で見つめていたほむらは、ゆっくりとかぶりを振る。
 
「時間がないわ。早く行きましょう」
「――ああ」

 二人が行く先は、魔女の結界へと通じる空間の歪み。
 極彩色に、狂うようにねじれていく穴を前に立つと、Dボゥイの叫びが響いた。
 
「テックセッタァァァーーー!!」
494 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/12(金) 21:23:23.23 ID:QhaQe7Xu0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 そして、ちょうどその頃の、魔女の結界内。
 
 電話の途中で魔女の結界へと引き込まれたまどかは、ぶるぶると震えながら縮こまっていた。
 魔女が怖かったのではない。
 頭の中に聞こえてくる、自分を糾弾する自分。
 目を閉じても、両手で耳を塞いでも響いてくるその声に、只々まどかは怯えていた。
 
『いいじゃない、このままずっと守られていればさ』
「ち――違う……」
『嘘つき。だって――』

 ――――怖いんでしょう?
495 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/12(金) 21:30:12.57 ID:QhaQe7Xu0
『戦うことも。傷つくことも。魔女も。ラダムも。テッカマンも』
「そんな、ことは……」

 否定を口にしようとするも、頭の中に響く声はお構いなしに続けてくる。
 
『魔法少女も、Dボゥイさんも、マミさんも、ほむらちゃんも』
「やめて……」
『ほんとはみんな怖くて、関わりたくなんてないくせに』
「もう、やめて……!」
496 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/12(金) 21:44:42.61 ID:QhaQe7Xu0
 絶望に心を、恐怖に理性を食い潰されながら、まどかの正気の糸が切れようとしていた、その時だった。
 
「――まどかっ!」

 こちらに呼びかける、ほむらの声。
 それと共に、肌を打つような乾いた音が数度、響く。
 それが銃声――マミの使うマスケット銃ではなく、現実に存在する銃――だと気づいた頃には、魔法少女の装束に身を包んだほむらが、まどかの下へと駆け寄って来ていた。
 
「ほむらちゃん!」
「まどか! ……大丈夫?」

 肩で息をしながら、ほむらはまどかの身体に異常がないかぺたぺたと確認する。

「う、うん。わたしは大丈夫。でも、魔女が――」

 心配そうに、まどかが全てを言い終える前に。
497 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/12(金) 21:55:13.63 ID:QhaQe7Xu0
「うおおおおーーーーッ!!」

 聞き覚えのある気合と共に、使い魔のいくつかが真っ二つになって散華する。
 その声の方へと視線を投げると、テッカマンブレードが魔女と相対していた。
 デッサン人形に片翼をつけたような、ホラー映画じみた見た目の使い魔を、ある時はランサーで切り裂き、ある時は斧のような脚で蹴り砕く。
 薔薇の魔女の時のようにクラッシュ・イントルードを使わないのは、使い魔の注意を一手に引き受けるためだろう。

「魔女たちは、彼が引き受けてくれているわ。あなたは、早く安全な所に隠れていて」
「――ねえ、ほむらちゃん」

 言いながら、油断なく魔女を見上げるほむらに、まどかは不安そうに問いかける。
 
「――なに?」
「わたしって……やっぱり、ずっと守られているだけの、役立たずなのかな?」
「そんなわけ――」

 反射的に言い返しかけて、言葉に詰まる。
498 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/12(金) 21:59:24.71 ID:QhaQe7Xu0
『あなたは、鹿目まどかのままでいい』

 転向初日に自分が言い放った一言が、頭の中でリフレインし続けた。
 あの時は、それでいいと思っていた。彼女は、ずっと自分が守ればいい、自分に守られ続けていればいい、と。
 
 だが。
 
 それならば、何故自分は「そんなわけがない」と言いかけたのか。
 本来は死ぬ運命だったはずの巴マミが、死なずに生き残れたから?
 それとも、利用するだけのつもりだったはずの、『彼』の影響?
 
 それは、どちらとも言えるし、どちらでもないとも言えるような気がした。
 それが自分にどんな変化をもたらすのか。
 ひどく恐ろしい気もするが、それでも自分は前に進まなければならない。
 
 なぜなら、鹿目まどかを守ることが、自分の宿命なのだから。
499 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/12(金) 22:08:43.57 ID:QhaQe7Xu0
「そんなわけ、ないじゃない」

 照れくささ半分、怖さ半分で、まどかから視線を逸らす。
 そんなほむらに、思わずまどかは笑顔を浮かべかけて――。
 
 その顔が、一瞬で戦慄に変わった。

 ほむらの後ろ。
 たった三歩くらい距離で、魔女がこちらを睥睨していた。
 
「ほむらちゃん! 後ろ!」
「――――ッ!?」

 まどかの言葉に、ハッとしたようにほむらが後ろへと振り返る。
 視界に飛び込んだ魔女は、何かの予兆のように、その身体がじんわりと光り始めていた。
500 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/12(金) 22:13:39.23 ID:QhaQe7Xu0
「くっ――」
「まどかッ! ほむらッ!」

 魔女の攻撃の意志を感じたのか、ブレードもまた、使い魔の群れを一太刀でなぎ払うと、バーニアを咆哮させて攻撃から庇うために二人と魔女の間に割って入る。
 魔女は、カメラのフラッシュのように閃光を放ち――
 
 背後に庇っていたはずの、まどかが。
 いつもからは想像できないくらいの素早さで、身を翻し。
 ほむらを光から庇うように、ギュッと抱きしめるのを。
 
 ほむらは、スローモーションのように、ただ見ていることしかできなくて。
 
「まどかぁぁぁーーーっっ!!」

 爆発するように増大する光に、網膜を焼かれながら。
 喉が痛むのにも構わずに、ほむらは絶叫した。
501 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/12(金) 22:22:25.94 ID:QhaQe7Xu0
今日は一旦ここまで。
魔女の攻撃を受けたブレードとまどか。

この後、はたしてどうなるのか。
そして、さやかと杏子の出会いの先には何が待ち受けているのか?

次回もまたお楽しみに!

なお、次回は土曜日に投下いたします。
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/12(金) 23:10:08.62 ID:6HuA2Rw3o
投下来てたのか。乙華麗サマー!

こちらも気になるが、向こうのさやかちゃんとあんこちゃんは
バトってる最中なんじゃろか…
ほむほむがこっちだと、止める人がいない…ような…
今後の展開に期待
503 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/13(土) 22:06:37.93 ID:A9eO5O460
23:00から投下開始いたします
504 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/13(土) 23:00:03.72 ID:A9eO5O460
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

『なあ、いい加減に機嫌直せよ、■■■』

 皮膚に染み込んでくるように、その声は聞こえた。
 体中に電流が走ったかのように、まどかは全身をびくりと震えさせる。
 聞き覚えのある声。だが、今までに聞いたことのない、口を尖らせて様子を窺うような、そんな声。
 
 視界に飛び込んできたのは、まどかの知らない場所。
 カーテンを揺らす海風が鼻をくすぐる。辛うじて、女の子の部屋、というのはわかったけれど。
 だが、それなのにひどく懐かしく感じる場所だった。

 その部屋の中、自分の前にDボゥイが立っていた。
 慌て半分、落ち込み半分という、いつものむっつりとした顔からは似ても似つかない表情で、こちらを窺い見ながら。

 ……いや。ひとつだけ、明確に違う点があった。
 彼の左目を縦に貫いていた傷跡。
 目の前の彼には、そんなものは何もない。
505 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/13(土) 23:03:35.08 ID:A9eO5O460
『ノックもしないで勝手に部屋に入ったこと、謝るからさあ。いい加減口利かないの、やめてくれよ』
『そんなんじゃだめだめ。■■■って、昔っから一度ヘソを曲げたらテコでも動かないんだから』
(…………え?)

 同じく、聞き覚えのある声。
 だが、まどかは驚愕に心を戦慄かせてその方向を見る。
 
 ドアの前にもたれかかりながら、相羽シンヤがそこにいた。
 いつも感じていた凍りつくような威圧感はそこにはなく。
 あるのは、軽薄に、だがとても楽しそうに弾んだ声。
506 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/13(土) 23:09:34.81 ID:A9eO5O460
 ――何故、ですか?

『なんだよ、シンヤ。ならお前ならどうするんだ?』

 ――何故、今になって、こんな残酷なものを見せるのですか?

『決まってるだろう? 次はバーンと勢い良く開けちゃえばいいのさ。あはは、これなら■■■といえどももう無視なんてできないってわけさ!』

 ――もう、あの頃に戻ることなんてできないのに。

『――って、■■■? なんか目つきが怖いんだけど』

 ――もう、あの日を取り戻すことなんてできるはずがないのに。

『お、おい■■■。それはヤバい。ヤバいってばあっ!』

 知らず、涙が流れる。
 怖くは、なかった。恐怖なんて、微塵もなかった。

 今の幻が何を意味するのかは、今のまどかにはわからなかったけれど。
 ――ただ、悲しかった。とても、哀しかった。
 溢れて止まらない涙を拭おうと、まどかは目頭をこすろうとして――。
507 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/13(土) 23:13:35.88 ID:A9eO5O460
「ああああああああああああああああああああッ!!」


 突然の、ブレードの絶叫によって我に返った。

 怒りと憎しみに満ちた声を、切り裂くように迸らせながら、ブレードは宙を掻き毟る。
 叫ぶ。何もかも掻き消すように、絶叫する。
 ブレードは右手のランサーを振り払い、暗幕を引き剥がすように、使い魔を一掃していった。

 
「ラ ダ ム ゥゥゥーーーーーッッッ!!!!」
 

 騎士から渦巻き、溢れ出るそれは殺意。
 何もかもを焼き尽くす怒りと、あらゆる物を凍りつかせる憎悪がないまぜとなった殺意。
 触れるものに絶望的な恐怖と、身を切られるような切なさを感じさせる、そんな殺意だった。

 自らの心を怒りと憎しみで焼きながら。
 仮面の下、憤怒に染まったその瞳が、炎のように赤く輝いた。
508 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/13(土) 23:19:16.71 ID:A9eO5O460
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「な、何やってんのよあんた。早くしないと使い魔が――!」
「だから、使い魔だろ? なんでここで倒そうとしちまうんだよ」

 路地裏の中、二人の少女の声が交錯する。
 焦燥に染まった美樹さやかの声と、それとは対象的に辟易としたような佐倉杏子の声が。
 
「なっ…魔女に襲われる人たちを、見殺しにするつもりなの!?」
「だ・か・ら。そうは言ってないっての」

 ひょい、と身のこなしも軽やかに数メートルはある高さから飛び降りると、杏子はびしりと、さやかの眉間に指を突きつけた。

「――いいかトーシロ。使い魔ってのは、原則魔女の元に戻ろうとするもんだ。なんせ、結界イコール自分のねぐらだからな」

 びし、とさやかの額を指先で突っつきながら、続ける。
509 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/13(土) 23:24:13.78 ID:A9eO5O460
「つまりだ。アレを適当に泳がせて後を尾ければ、晴れて魔女ごと一網打尽ってわけ。――だってのに、棒切れ追っかける犬ッコロみたいに頭悪いことやってるボンクラがいるときた」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」

 とりあえず、指摘は正しいのは理解できる。できるが――。

 なんというか、目の前のコイツにそれを言われるのはやたらめったらに腹が立つ。

「はあ、まったく……マミからそんなことも教わってないのかよ。お前」
「――え?」

 沸点に達しかけていた頭が冷える。
 
「あ、あんた……マミさんを知ってるの?」
「さーて、どうだかなー。別に馬鹿に教える謂れはねーしなー」
「―――この野郎」

 そして、再びリミッターを吹っ切って突沸する。
 ビキビキとこめかみが疼くのを感じながら、さやかは拳をギュッと握り締めた。
510 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/13(土) 23:31:59.33 ID:A9eO5O460
 そして、再びリミッターを吹っ切って突沸する。
 ビキビキとこめかみが疼くのを感じながら、さやかは拳をギュッと握り締めた。
 
「あ、ちょうどいいや。お前ちょっとマミの所まで連れてけよ」
「――ッ! 誰が――!」

 とりあえず掴みかかろうとしかけたさやかだったが――。

「――美樹さん? 佐倉さん?」

 背後から聞こえた声に、スゥー……と身体の熱が引いていくのを感じる。
 振り向くと、そこにいたのは見慣れた、黄色い魔法少女。
511 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/13(土) 23:35:44.75 ID:A9eO5O460
「ま……マミさん?」
「その姿……あなた、契約したのね。美樹さん」

 ゆっくりと、こちらを見るマミの目が半目になっていく。
 
(お、怒ってる……)
「おう、マミ。久しぶりだな」

 じんわりと、血よりも濃い脂汗を流すさやかをよそに、杏子は気楽に軽く片手を上げた。
 
「……仕方ないわね。美樹さん、あなたには言わなきゃいけないことがあるけど、まずその前にやる事があるわ」

 あの時のDボゥイさんもこんな気持ちだったのかしら、と胸中で一人ごちながら、マミは続ける。
512 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/13(土) 23:39:14.50 ID:A9eO5O460
「――アキさんから連絡があったわ。鹿目さんが魔女の結界に囚われているの。Dボゥイさんと暁美さんが先行してくれているけど」
「なっ――。まどかが!?」
「誰だ? そいつ」

 戦慄するさやかと、それとは対称的に訝しげに声を漏らす杏子。
 
「そこの美樹さんの親友よ。――そして、私の大切な後輩で、お友達」

 胸に手を当てて、少しだけ表情を和らげるマミに、ふうん、と杏子はあまり気のない反応を示した。
 
「ま、乗りかかった船だ。ちょいと手伝ってやるさ」
「な、あんたの手なんて借りなくても――」
「ありがとう、助かるわ」

 さやかの言葉を打ち消して、マミはあっさりと杏子の申し出を受け入れた。
513 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/13(土) 23:41:34.47 ID:A9eO5O460
「ちょ、マミさん!?」
「手勢は多ければ多いほど有利よ。――それに、ね。どうにも、嫌な予感がするのよ」

 斯くして、三人の魔法少女が路地裏を駆け抜ける。
 目指すのは、魔女の結界だ。
514 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/13(土) 23:43:07.85 ID:A9eO5O460
今日はここまで。
そして、Bパート前半もここまでです。

はてさて、まどかが見た白昼夢の正体とは。
暴走を始めたブレードは果たして止められるのか。

信号機トリオは間に合うのか!?

謎が謎を呼ぶまどか☆ブレード。次回もまたお楽しみに!
また、次回は日曜〜月曜となる予定です。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/08/15(月) 20:48:23.05 ID:EfomA+Vuo
乙乙
いま最初から見てようやく追いついたよー

面白かったからいってみるんだけど、投下の際にはageてみては?
下の方で人目に付かないのが惜しい出来
516 : ◆YwuD4TmTPM [saga age]:2011/08/15(月) 21:05:38.74 ID:K/Iy/YAQ0
>>515
はて、age入れないとageらんないのかしら。

ともあれ、今日は22:00より投下いたします
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/08/15(月) 21:13:49.25 ID:EfomA+Vuo
あ、すまない。かなり上の方でどうするか疑問符浮かんでたようなので言ってみたんだが、よく見たらサガだったか
チャチャをいれてしまったけど、楽しみよー
518 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/15(月) 22:01:05.93 ID:K/Iy/YAQ0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「うおおおおおおおおおーーっ!! ラダムゥゥゥーーーッ!!」

 その瞳の色を碧から紅へと変えたブレードは、掻き毟るように槍を振るい、周囲の使い魔を貫き、断ち割っていく。
 本来ならば、木漏れ日のようにその顔を覗かせた希望に、安心するべき場合のはずだが、しかし。
 その後ろで、まどかは金縛りにあったかのように全身を強張らせていた。
 吹雪の中に迷い込んだような錯覚すら覚える。それほどの凍りつくような気配。それなのに、汗は全身から間欠泉のように噴出している。その膝は、今にも崩れ落ちて倒れそうなくらいに力を失い、ガクガクと震えていた。
 見れば、あのほむらまでもが青を通り越して白くなった顔で脅え、震えている。
 ぎゅっ、とほむらの背中に自分の腕を回す。そうでなければ、ブレードの発する気配で、自分が消えてなくなってしまいそうだったからだ。
519 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/15(月) 22:05:07.46 ID:K/Iy/YAQ0
 そして、ブレードに対して衝撃を受けているのは、魔女もまた同じだった。

 ――なんなんだ。なんなんだコイツは!?

 魔女は、自分の体を納めている、モニタ状のハコを使い魔に運ばせながら、戦慄していた。
 名は、ハコの魔女エリー。
 その性質は情景。
 外部から己を遮断し、閉ざすことで自己を保っている魔女だ。
 されど、ガラスの部屋の外はいつも青く澄み渡って見えて。
 だから、魔女は憧れたもの全てを自分の部屋に閉じ込めるのだ。
 一度自分の領域に入ったなら、どんなモノでも彼女には見透かせる。
 だからこそ、彼女は自分が見えたものを、ほんの少しだけ他人にも見せてやるのだ。

 己がどれだけ醜いかをそいつに見せ付けるために。

 そして絶望する様を指をさしてあざ笑うことで、ほんの少しだけ魔女は外への溜飲を下げるのだ。
 中には、逆上して襲い掛かってくる者もいた。
 だけど、怒りに染まって精細を欠いたやつなんて、怖くもなんともない。
520 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/15(月) 22:12:39.50 ID:K/Iy/YAQ0
 ――冗談じゃない。こんなヤツの相手なんて、してられるもんか!
 
 ブレードを怖れたエリーは、自分の結界ごと逃亡することを決めた。
 ――だけど、ただ逃げるんじゃダメだ。それじゃ面白くない。
 最初に捕まえた少女。あいつは、ちゃんと持って帰らないと。
 独りごちながら、魔女は一人の少女に目を向ける。
 ほむらの腰を抱きながら、後ろで無力にぶるぶる震えている、まどかを。
521 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/15(月) 22:18:55.73 ID:K/Iy/YAQ0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「で、Dボゥイさん。もういいよ、もうやめてよ。こんなの、絶対おかしいよ!」

 ほむらの後ろから顔を覗かせながら、まどかはブレードへと呼びかける。
 その雄たけびはもはや獣じみたものへとなっており、振るわれるランサーの太刀筋も、いつもの業のキレを失い、ほとんど力任せに振るっているようなものだ。
 その瞳の赤い残光は、さながらに血涙のようだった。

 怖かった。そして同時に、ひどく哀しかった。
 無口で無愛想ながらも、ふとした時に優しさを見せてくれる彼が、あんなに憎しみに満ちた顔をしているのが、たまらなく哀しかった。
522 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/15(月) 22:25:48.71 ID:K/Iy/YAQ0
 ――だからこそ。反応が遅れてしまった。

 突如、ほむらの腰にしがみついていたまどかの腕が、力任せに離される。
 
「――え?」

 呆然と声を発したのは、他でもないまどかだった。
 自分の意志に反して後ろに移動していく身体。
 ――その肘と足首に、使い魔が取り付いていた。
 
「や―――」

 ひどく絶望的な冷たい何かが、まどかの背筋をぞわぞわと這い回り、今度こそまどかは恐慌の声を上げた。
523 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/15(月) 22:38:54.50 ID:K/Iy/YAQ0
「やだ、やだぁっ! ほむらちゃん! Dボゥイさん! 助けて、たすけてぇっ!!」
「ま、まどかっ!」

 まどかの上げた叫びに、一瞬でほむらは忘我の彼方から帰還する。
 使い魔に連れ去られようとしているまどかを助けようと、ほむらは跳躍と共に己の能力を行使しようと構えかけて――。
 ガクン、と膝に溜めた勢いが消えて、ほむらは戦慄した。
 見ると、まどかと同じように、自分の足首や肩にも使い魔が取り付き、動きを阻害している。
 
(しまっ――)
 
 驚愕に思考を凍りつかせて、ほむらは目を大きく見開いた。
 自分の能力は、敵対者に触れられてしまうと、思うように働かせることができない、という弱点を持つ。
 故に、自分の能力は封じられた形となり――
 
 魔法少女としては、能力を除けば何もかも最低クラスの自分が、脚も腕も動かせない現状を打破できる術がないのだ。
 
(ど――)

 どうすれば、と散逸した思考をかき集めながら、ほむらは戒めを解こうと必死に抗う。
 ――既に何かの術をかけられたのか、まどかの身体は使い魔に引っ張られてゴムのように伸び始めていた。
524 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/15(月) 22:46:27.41 ID:K/Iy/YAQ0
 大岡裁きのように引っ張られ、ぐにゃりと歪みながら伸ばされて。
 恐怖に歪んだ表情と声とは裏腹に、まどかは静かに思考していた。
 
(どうして、こんなことになっちゃったんだろう)

 自分は、何を間違えてしまったのだろうか。
 
(最初から、全部間違えちゃってたのかな。わたし)

 身体が、千切れそうなくらいに伸びていく。
 その先端を握っている使い魔は、片羽の天使のような姿で、ゲテゲテとおぞましく哂っていた。
 聞いたことがある。
 天使は、人を救うためではなく、罰を与えて罪を裁くためにいるのだと。
 
(――そっか)

 ぼんやりと、天を見上げる。
 その頬を、一筋だけ涙が伝った。
 
(わたしが、嘘つきだったから。だから、きっとバチが当たっちゃったんだ)

 心を絶望と諦観に染め上げながら、まどかはゆっくりとその目を閉じようとして――
525 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/15(月) 22:53:53.40 ID:K/Iy/YAQ0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
 
 その音は、唐突に響いた。乾いた破裂音。例えるならそんな音だ。
 その音は、四回響いていた。
 そして、まどかの四肢を捕まえていた、使い魔の頭の全てに一つの穴が穿たれ。
 次の瞬間、それらが一つ残らず弾けて消し飛ぶのを見て、ようやくまどかはその音が銃声であった事に思い当たった。

 支えと平衡を失い、落下しようとする自分の身体を、細長くのびる黄色い何かが、そっと優しく自分の身体を包み込む。
 次の瞬間、すぽーん、と快音が響きそうなくらいにまどかの身体が高く飛び、そのまた次の瞬間には、誰かの腕に抱きかかえられていた。
 そして、まどかはその腕の主を、よく知っていた。
 
「――マミさんっ!!」
526 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/15(月) 22:54:46.21 ID:K/Iy/YAQ0
今日はここまで。

バッチリ間にあった三人組。さあ、反撃開始の狼煙を上げるのは今この瞬間です。
次回もドウゾお楽しみに!

また、次回は火曜日に投下いたします。
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/15(月) 23:00:31.61 ID:IbfMhlXlo
乙乙
ヒーローは遅れてやってくる!


大岡裁きとはまた独特な例えを使いますね
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/08/15(月) 23:07:58.35 ID:EfomA+Vuo

瞬殺されないエリーちゃんとか俺得
529 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/16(火) 22:05:53.91 ID:3EB6EAMc0
うお、ママンボウの孵化作業してたらもうこんな時間に。

今日は23:00からの投下です
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/16(火) 22:08:42.53 ID:W/7ggYYMo
ママンボウ使いの俺待機

あれはなかなかに面倒な孵化作業だったなあ・・・
531 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/16(火) 22:50:17.20 ID:3EB6EAMc0
と、都合により15分ほど遅れます。申し訳ない
532 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/16(火) 23:20:44.80 ID:3EB6EAMc0
「危ないところだったわね。でも、もう大丈夫……って」

 これ、最初に会ったときにも言っちゃってたわね。と、くすくす笑う先輩。
 その表情には、この前にテッカマンと対峙していたときの、あの恐怖と強迫観念が張り付いていた面影はない。
 
「暁美さん。そっちは大丈夫かしら?」
「……ええ。まどかが大丈夫なら、こちらは何とでもなるわ」

 身体にへばりつかれていても、所詮は使い魔だ。
 まどかの無事が約束された以上、急ぐ必要も既になく。
 どれだけ束になろうとも、魔法少女の敵ではない。

「そう。なら――二人とも。本命は任せたわよ!」
「二人……?」

 マミの言葉に、訝しげにまどかとほむらは首をかしげて。
 やがて、その意味に気づいたほむらが、ハッと視線を上に跳ね上げた。
533 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/16(火) 23:27:36.06 ID:3EB6EAMc0
「……まさか!」

 ほむらの声を肯定するかのようにそれはやってきた。
 頭上に聳える天蓋。その中心から、二つの光点が飛来する。

 一つは紅。
 一つは蒼。
 
 やがて、次第に大きくなっていく紅の光は人間のシルエットを形作る。
 雲霞の如くに存在する使い魔を、多節槍へと槍を変形させ、縦横無尽に振るって薙ぎ払う。
 風圧で暴れる赤毛のポニーテールが、まるで炎のようだ。
 自由落下を遥かに凌駕する加速度で突っ込む赤――佐倉杏子は、標的を見定めるとニヤリと唇の端を釣り上げた。

 一意専心。狙うは魔女の首、唯一つ。
534 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/16(火) 23:35:21.37 ID:3EB6EAMc0
「お――――りゃあッ!!」

 槍を構え、宙を駆ける杏子は、一つの紅い矢へとその身を変える。
 だが、その狙いは惜しくも外れ、槍の穂先は魔女を運んでいた使い魔を貫くに留まった。
 その結果に、チッ、と杏子は舌打ちする。
 九死に一生を得た魔女は、ほっと安堵して逃げ出そうと試みた。
 だが、杏子とてただ外したわけでは無論ない。
 宙に絵を描くように、その指が複雑に印を切る。
 すると次の瞬間、槍衾と鎖によって形作られた壁が四方八方から伸び、魔女を四方八方から閉じ込めた。
 
「とどめは譲ってやる。外すなよ、ボンクラ!」
535 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/16(火) 23:45:15.60 ID:3EB6EAMc0
 魔女を戒めた紅い魔法少女は、遥か頭上にいる蒼い光へと声を張り上げる。
 聞こえるかどうかすら怪しい距離だったはずだが、答えはしっかりと返ってきた。
 
「こンの――」

 使い魔で構成された幕の中、杏子が開けた大穴を潜りながら、蒼いシルエット――美樹さやかは、怒りまじりに声を上げる。
 白いマントをはためかせ、杏子に比べれば直線的であるものの、その分速いスピードで、さやかは魔女へと一直線に突撃した。
 
「――人をボンクラ連呼すんなって言ってんでしょうがぁっ!!」

 そして。
 蒼い閃光は、容易く魔女を貫いた。
 
 その剣先を深々とハコの中に埋めながらも、それでもさやかの進みは止まらない。
 そのまま、井戸のような結界の底へと到達すると、さやかは魔女を容赦なく地面に叩き付けた。
 
 衝撃でハコがばらばらに砕け、使い魔と同じ、デッサン人形のような肢体をした魔女の身体が露になる。
 それを前にして、最後の一撃を放つために、大きく剣を振りかぶった。
 
「これで――とどめだッ!!」

 技術も何もなく、薪割りか大根斬りのように剣を振り下ろす。
 だが、それでも魔女に引導を渡すには威力は十分に過ぎた。
 一撃で、魔女の身体を袈裟懸けに断ち割ると、その断面からドス黒い液体が噴出してきた。
536 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/17(水) 00:19:44.64 ID:ZhDTckMA0
「うええっ!?」

 反撃はともかく、それは予想外だったのか、さやかは素早く身を翻すと、返り血のつかない場所まで素早く後退する。
 二つに断ち割られた魔女は、ビクン、ビクン、と大きく数度痙攣すると動かなくなり――
 同時に、非日常は日常へと帰還した。
537 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/17(水) 00:21:39.27 ID:ZhDTckMA0
短いですが、今日はここまで。次回で第五羽も終わり、また様々に日々は変化していくだろうけど、果たして?

次回もまたお楽しみに!
なお、次回は木曜〜金曜あたりに投下します。
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 00:38:39.87 ID:jvLaF5/3o
乙おつ!

信号機トリオが活躍してる場面を見るのはやっぱいいな…
539 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 19:06:27.57 ID:JtE2jCED0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' B L A D E
                                              /. //´
                                              //
                                            /


なんとなくぺたりと。
まあそれはともあれ、今日は21:00〜21:30からの投下です
540 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 19:07:34.27 ID:JtE2jCED0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /


と、もう一回微調整
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/19(金) 20:38:37.57 ID:hVjRP/bQo
タイトルロゴまで完成していた…だとォ!?

待機しとく。
542 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 21:07:51.63 ID:JtE2jCED0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「グッ……!」

 ガキン、と、テックランサーがリノリウム張りの床に穴を穿つ。
 床に着きたてたそれに、杖のように身体を預けながら、ブレードはゆっくりとかぶりを振った。
 
「俺は……」
「魔女によって、幻覚を見せられていたようですね」
「マミ」
 
 背後から近づいてきたマミの姿を、ブレードはその瞳で見た。
 荒々しくも恐ろしい赤から、元の緑に戻った瞳でだ。

「ありがとう。今度は、お前に助けられたな」
「……え?」

 マミは、まさかいきなりブレードからの感謝の声が来るとは思っていなかったのか、一瞬きょとんと呆けた表情をした。
 だがすぐに、かあ、と顔面を朱に染めると、

「あ、いや。お礼をされる程のことじゃ、ないですから」
「?」
 
 言ってくるりと背を向けるマミに、ブレードが首を傾げる。
 そして、その背後では、
543 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 21:20:34.01 ID:JtE2jCED0
「いやあー、ホント間一髪だったねえ!」

 さやかが、気楽そうにひらひらとまどかに手を振っていた。
 時折、ポーズを取ってみたりする辺り、かなり浮かれているようにまどかには見えた。

 だが。
 
「……どうして」

 怨嗟のような声は、まどかの背後から響いてきた。

「どうして、あなたが契約してるのよ! 美樹さやか!!」

 ギリ、と歯を軋らせ、凄絶な形相をしながら、ほむらはさやかを睨む。
 そして、まどかはその表情に見覚えがあった。
 
(保健室の時のと、おんなじだ)

 保健室で見せた、色々なものがないまぜになって、だけど身体の内から噴出してこようするそれを必死で押さえているような、そんな表情だ。
544 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 21:28:15.60 ID:JtE2jCED0
「暁美さん、美樹さんはね――」
「――いえ、いいです。マミさん。あたしから、話しますから」

 助け舟を出すように口を開くマミを、さやかが制する。
 
「――あたしの大切な人がさ。ずっとずっと打ち込んで頑張って上達させたモノを、ただの理不尽で失ってしまいそうになってた」

 胸に手を当てて、訥々とさやかは語っていく。
 その表情は、さっきまであったふざけた調子は全く無い真剣なものだ。

「あたしは、それが我慢ならなかった。
 そんなつまんない事で、大切なモノが永遠に失われてしまうなんて、耐えられなかった。
 
 ――もちろん、『私にはそれしか無かった』なんて言い訳はしないよ。
 でも、あたしはこうするのが一番だと思ったから、そうしたの」
545 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 21:38:17.36 ID:JtE2jCED0
「ほーんと、馬鹿なヤツだよ。惚れた男のためにたった一つの願い事使っちまうなんて、さ」
「う、うるさいな! だいたい、あたしは恭介が男なんて一言も――」

 文字通りに横槍を入れてくる杏子に、さりげなく墓穴を掘りながら、ぎゃいぎゃいとさやかが反応する。
 だが、それでもほむらは退く姿勢も見せずに食い下がってきた。
 
「あなたは……あなたはわかってない! 一度魔法少女になってしまったら、そんな願いすら後悔に変わってしまうっていうのに――」
「――あのさ」

 不意に、こちらの瞳をさやかが見つめてくる。
 何もかもを見通してしまいそうな、蒼穹の瞳で。
 
「それなら、あんたは後悔したの? まどかを守ろうとしたってこと」
「――!?」
546 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 21:43:58.97 ID:JtE2jCED0
「なぁに驚いてんのよ。日ごろのあんたの態度見てれば、まどかのためにあんたは行動してるんだってことくらい、あたしでもわかるわよ。
 ――そして、多分だけど、あんたがまどかのために魔法少女になったんだ、ってこともね」
「……美樹さやか。あなたは――」
「別に、転校生が何を願ったのかってのを知りたいわけじゃないわよ。
 ――ただ。あんたが、自分の願いに対して後悔してないっていうんなら、あたしの願いを否定する事は絶対に許さない。
 あたしが言いたいのは、それだけ」
「――――ッ」
547 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 21:52:26.86 ID:JtE2jCED0
 その瞳を揺らしながら、ほむらはさやかを見る。
 今にも泣き出しそうな表情で、何かを言おうと口を開きかけては閉じるのを繰り返すと、
 
「……帰るわ。もう、これ以上ここにいる必要はないもの」
「あ、ちょっと転校生――」

 いきなり背を向けたほむらを、思わずさやかが掴んで呼び止めようとした。
 だが、ほむらはその腕をスルリと避けると――
 
 ――ほむらはその場から掻き消えた。
 目が眩む閃光もなく、こちらの視線を隠す煙も、音もなく、本当にただ"消えた"のだ。
548 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 22:09:15.21 ID:JtE2jCED0
「――ちぇ。なんだっていうのよ、全く」
「ところで――」

 ついさっきまでほむらがいた場所を睨みながら、唇を尖らせるさやかに、テックセットを解除しながらDボゥイが問いかけた。
 
「あの娘は、一体誰なんだ?」
「あ、すいませんDボゥイさん。そういえば、紹介まだでしたね」

 さやかが言い終えるのと同時に、全員の視線が一人に集まる。
 ポニーテールの紅い魔法少女、佐倉杏子に、だ。
 その杏子はというと、
 
「……ふぅん。さっきのが暁美ほむらで、この漫画のヒーローみてーな兄ちゃんが、テッカマンブレード、ね。
 ――ほんとに強いのか? さっきでは無様晒してたみたいだけど」
「なっ、あんたね! 転校生のことはともかく、Dボゥイさんはほんとのほんとに強いんだからね!」
549 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 22:11:29.71 ID:JtE2jCED0
 ほむらちゃんの事はともかくなんだ、とまどかが一人ごちるのをよそに、さやかは一人ヒートアップしていく。
 その剣幕をどこ吹く風で、杏子はひらひらと受け流すと、
 
「へいへい。ま、この際だから自己紹介しちゃおくけどよ――。
 あたしは、佐倉杏子。隣町を縄張りにしてる、魔法少女さ」
「……縄張り?」

 聞きなれない、単語に、ブレードが聞き返す。
 
「あー、まあその辺りは後で説明しとくさ。
 まあその、なんだ――」
 
 頭をわしわしと掻きながら、杏子は手帳ほどの大きさの小箱を出した。
 それは、チョコスティックの入っている菓子箱だ。
 その箱の中から、親指だけで器用にスティック一本だけを取り出すと、杏子はDボゥイに差し出した。
 
「――食うかい?」
550 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 22:16:23.72 ID:JtE2jCED0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 心より願え、真実を得んと。
 心より誓え、決してその目を背けることはないと。
 役者たちが揃いし時、全ての歯車は動き出し。
 その瞬間、少女たちは運命の悪意を見る。

「あなたに預けるわ」
「……いや、ひょっとしたら邪魔して欲しいのかな、僕は」
「ふざけんじゃねえぞ、てめえ……!」
「奇跡を起こし、みんなに希望を与える魔法少女なんだろう?」

次回「そんなの、あたしが許さない」

仮面の下の涙を拭え。
551 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 22:20:13.90 ID:JtE2jCED0
というわけで、第五話はこれで終了となります。

最後の魔法少女、佐倉杏子も加わった魔法少女たちとスペースナイツ。
ですが、その身に背負わされた宿命は今にも彼女達を飲み込もうとしていました。

その残酷な運命を目の当たりにしたとき、魔法少女は、Dボゥイは、運命に対してどう向き合っていくのでしょうか。
次々と伏せられたカードが明らかになっていく魔法少女まどか☆ブレード。
次回もまたお楽しみに!

なお、次回は土曜日〜日曜日の投下となります。
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/08/19(金) 22:33:36.06 ID:fdnnZb1zo
AAでタイトルロゴまでできるとはこの御方、できる……!
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/19(金) 23:38:30.58 ID:hVjRP/bQo
乙華麗!
杏さやの仲もそれほど険悪じゃなさそうでよかた。
マミさんの方はすっかりタカヤ坊にお熱やないか…無理もないけど。

しかしまどマギクロス物を見てると痛切に感じるな…
本編に足りなかったのは事情を知ってて頼りがいのある大人だったのだと。
554 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 23:45:53.81 ID:JtE2jCED0
>>552
やる夫スレにも興味があって、AAいじりの練習してたらできてましたw

>>553
さやかちゃんは頭に上った血が下がると恐ろしく頭が冴える子になる気がします。6話の教会や7話のほむらとの会話を見ると。
杏子が険悪でないのは……魔法少女軍団に敵対させてしまうと、どうしてもブレードが出張ってあんこちゃんVSブレード&魔法少女ズで杏子に鉄拳制裁して解決的な展開にならざるを得ないのでそれを避けたかった、というのがありました。
そも、さやかと険悪になったのはマミさんの死があってこそなので、マミさんがフォロー役になればなんだかんだで上手くいくコンビになりそうですし。

長いですがこれにて。
555 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/19(金) 23:50:46.24 ID:JtE2jCED0
追記。

>>553
マミさんについては…その、Dボゥイに対する印象をさやかちゃんと差別化しようとしたらああなっちゃったというかw
でも、ちゃんとマミという人間の糧となっていくよう、テンプレ的な味気ない描写はしないように心がけていくつもりです。
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/08/20(土) 00:01:38.29 ID:HBCHdqBno
>>554
確かにあんこちゃんが悪ぶってたら全員で止めてそうな感じだ、ここはww
ともあれお疲れさんでした
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/20(土) 00:32:08.45 ID:p2Pb/+7do
>>555
そらエビルとの戦いの中でああやって守ってもらえたのならば、
俺でも惚れてしまいますよこれはw
ましてやマミさんの場合は独りでずっと戦ってきて、
年頃の異性と接する機会なんかはほぼ諦めていた訳で。

今後も期待してますぜ。
558 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/22(月) 23:29:13.68 ID:rapTIgEy0
現在、第六話のプロット構成中です。
土日には投下できるように予定しておりますのでもうしばらくお待ちください。

…オーズもいよいよ最終回かぁ
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/22(月) 23:56:35.02 ID:XB2FxdJco
まどかSS書きはニチアサ視聴者が多い……メモメモ
かく言う私もだが



欲望と無私の板挟みになったオェージくんは全てを忘れて比奈ちゃんの押す車椅子で揺れる事になるのでしょうか……
そして(むしろこっちが肝心)少女戦士巴マミの初恋(かなぁ)の行方はっ!?
560 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/26(金) 23:10:26.23 ID:3cPS4xBq0
再び別所で面接受けてやっぱり撃沈したりしつつ。
EVA劇場版破見て泣いてからY-TYPEと東方星母録最終章見て再び泣きつつ。

お待たせしました、プロットが仕上がったので、明日には投下開始します。
秋にはタッグフォース5にオーフェンと境ホラ新刊に境ホラとP4アニメ化と目まぐるしいですね。
561 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/28(日) 19:15:15.36 ID:vBVKw/Gy0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /



昨日はすいません、腹痛やらかして寝込んでいました。
ともあれ、今日は21:00ごろより投下開始いたします。
562 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/28(日) 21:21:31.99 ID:vBVKw/Gy0
「―――ほむらちゃん?」
「……ッ」

 横からのまどかの声で、ほむらは現実へと引き戻された。
 忘我から浮上した意識で、未だ定まらずにぼやけた視界に目じりをこする。
 二人が歩くのは、学校からの帰り道。
 さやかはマミと杏子の特訓を受ける為に別行動で、珍しく二人っきりだ。

「この前のこと、考えてたの?」
「……ええ」

 軽く頷きながら、ほむらはついさっきまでの思考を反芻する。
 あの時に現れた、契約をして魔法少女となった美樹さやか。
 ……そして、彼女が自分に言い放った言葉。
 
『それなら、あんたは後悔したの? まどかを守ろうとしたってこと』
『なぁに驚いてんのよ。日ごろのあんたの態度見てれば、まどかのためにあんたは行動してるんだってことくらい、あたしでもわかるわよ。
 ――そして、多分だけど、あんたがまどかのために魔法少女になったんだ、ってこともね』
『別に、転校生が何を願ったのかってのを知りたいわけじゃないわよ。
 ――ただ。あんたが、自分の願いに対して後悔してないっていうんなら、あたしの願いを否定する事は絶対に許さない。
 あたしが言いたいのは、それだけ』
563 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/28(日) 21:29:41.89 ID:vBVKw/Gy0
「………ッ」

 知ったような口をと歯噛みしながら、ほむらは心を煮沸させる。
 そして、それ以上にほむらは自分が許せなかった。
 他ならぬ自分自身の失態で、まどかを危険さらしてしまったこと。
 そして、自分に言葉を投げかけてきた美樹さやかに、何も言い出せなかったこと。
 これら二つが、大きな重責となってほむらに重くのしかかってきていた。
564 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/28(日) 22:05:36.39 ID:vBVKw/Gy0
 ……だが。
 今回のことも、そしてお菓子の魔女シャルロッテのときも、薔薇の魔女ゲルドルートのときも。
 自分ひとりでは、まどかを守りきることはできなかっただろうことも、また事実だ。
 
 そして、おそらくは彼女達はたどり着いてしまうだろう。
 魔法少女の、呪われた宿命と末路に。
 
 『そうなってしまった過去』を、ほむらは今でも鮮明に思い出せる。
 みんなに理解してもらい、協力することを諦める切欠になった、あの事件を。
565 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/28(日) 22:30:18.51 ID:vBVKw/Gy0
「ほむらちゃん」

 そして、まどかの言葉で再び我に返る。
 
「また、一人で全部抱え込もうとしてたの?」
「…………」
「ねえ、ほむらちゃん。わたし、最近思ったの。ほむらちゃん、みんなに冷たく当たったりするけど、本当はそんな子じゃないんだって」

 ……きっと、この時の自分は驚いた顔をしていたのだろう。
 それを見たまどかは、ふんわりと目を弓にして微笑むと、
 
「だってほむらちゃんって、張り詰めた糸みたいにずっと一生懸命なんだもん。わたし以外のことには寄り道する余裕なんてないって感じで。
 ……でもね、ほむらちゃん。それって、みんなを心配させちゃうんだよ?」
566 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/28(日) 23:00:22.33 ID:vBVKw/Gy0
 そんなわけが、と返そうとしたけれど、できなかった。
 
「さやかちゃんだって、ほむらちゃんには何か深い理由があるんだってことには気づいてる。
 もっと勘がよさそうな、マミさんや杏子ちゃんも、Dボゥイさんもアキさんも、きっと気づいてるよ。
 けど、みんなほむらちゃんの理由については聞いてこないよね。
 ……なんでだと、思う?」
「…………」

 こちらの沈黙を、わからない、という意味にとったのか、まどかは続けてきた。
567 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/28(日) 23:06:00.54 ID:vBVKw/Gy0
「それはね。みんな、ほむらちゃんを信じてるからだよ。
 きっといつか、話してくれるんだって」
 
 だから、ね?
 
「ほむらちゃんも、みんなを信じてあげようよ。
 確かに、みんな完璧じゃないかもしれないけど、それでもみんなで頑張ればきっと大丈夫だよ」
 
 そして、まどかは笑う。
 何の穢れもなく高潔に、まどかは笑う。
 何も知らないくせに高慢に、まどかは笑う。
 
 そうした結果、あったのは破滅だけだったというのに。
 
 ……だけど。
 今までとは決定的に違うものが一つだけある。
 
 テッカマンブレードの存在だ。
568 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/28(日) 23:25:18.68 ID:vBVKw/Gy0
 みんなで協力しようとして、失敗し。
 今度は一人で戦おうとして、やはり失敗した。
 
 ならば、今回に限って現れたあのイレギュラー。
 信じるべきか、否か。
 
 ゆっくりと考え、思考し……そして、ほむらは答えを出す。
 
 再び失敗する恐れを乗り越えて、もう一度歩みだす勇気を。
 何もかも喪うかもしれない、自らの知らない未来へと踏み出す覚悟を。

「――まどか」
「なに? ほむらちゃん」

 ゆっくりと口を開くと、まどかは変わらず答えてくれた。
 
「みんなに、話したいことがあるの。
 大事な……そう、とても大事なこと」

 この決意が、この覚悟が、一体どのような結果をもたらすのか。
 それはまだ、誰も知らない。
569 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/28(日) 23:26:34.25 ID:vBVKw/Gy0
今日はここまでとなります。

まどかとの会話で、過去に思いを馳せるほむら。
まどかからの励ましを受けたほむらは、やがて一つの決意をしました。

はてさて、これが一体どう作用することになるのか…?

次回もまたお楽しみに!

なお、次回は火曜〜木曜に投下いたします
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/08/28(日) 23:35:01.78 ID:7ep/LPA7o
乙です。
スレ主さんの描くDボゥイやアキはしっかりしてるので次回が楽しみです。
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/29(月) 00:19:26.42 ID:GTnTDXb7o

頼りになる大人が居れば流れは変わるんだろうな
572 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/08/29(月) 19:09:11.52 ID:I96YufN+0
ブレードとエビルがfigma化決定…だと…!?
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/29(月) 19:18:21.86 ID:VPgUjQOXo
な んだって
そ れは
ほ んとうかい?



もう、皆買うしかないじゃない!
ソルテッカマンが出たら俺、マミさんにフェルミオン砲持たせるんだ……
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/29(月) 22:53:37.71 ID:EPDQKVlao
アーマープラスのは出来はいいけど遊べないから困る
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/08/30(火) 15:45:56.48 ID:gGqlR0jpo
あれ、て事はマジで同スケールでまどか勢と並べられるって事か……

素晴らしい
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
576 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/08/30(火) 17:18:06.96 ID:ICbfWCFV0
figmaだと1/12スケールらしいので、ブレード(身長232cm)で大体19.3cm程度になりますか。

だいたい1/144スケールと1/100スケールを並べたような身長差になりそうですね。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 18:29:11.21 ID:iU8loLUoo
ブレード勢までfigmaで出るのなら、>>286の燃える展開を再現するしかないじゃない!

ボルテッカのエフェクトパーツは是非とも欲しいところ。

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
578 : ◆YwuD4TmTPM [SAGE]:2011/08/31(水) 19:12:41.83 ID:1aBgSIiq0
しかし困った。俺のやり方だと短く刻んで投下していくから告知がかなり目に付いてしまう…
一旦告知が消えるまで見合わせた方がいいかなぁ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/09/02(金) 11:25:33.99 ID:jKyjN1HA0
一旦投下してみて、気に入らなければ消えた後再投下するのもありなんじゃないかな!
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/03(土) 01:22:05.45 ID:uCGehznio
ちゃう!煽ってる訳じゃないんだ!「ー」を打ち間違えたんだぁっ……!
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/03(土) 01:22:48.83 ID:uCGehznio
誤爆


もうやだ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 00:08:56.23 ID:HOAneW6S0
…おお。告知が消えた。
というわけで明日か明後日には投下いたします
583 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/07(水) 08:50:20.81 ID:uIMDskzg0
お待たせしました、今日の21:00前後に投下いたします。
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/07(水) 17:54:53.20 ID:+6nbB/o/o
待ってたぞタカヤ坊!
585 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/07(水) 20:59:53.54 ID:as1OFF1P0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /



はじまるよ!
586 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/07(水) 21:00:45.74 ID:as1OFF1P0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「おーい、生きてるかー?」
「……んあ?」

 ぺちぺちと乾いた小気味のいい音と、音と共に伝わってくる微かな痛みでさやかは我に返った。
 ぼやけた視界の中で、見覚えのある赤いポニーテールがゆらゆらと踊る。
 
「えーと……」

 忘我から目覚めたばかり故にか、いまいち前後の状況が思い出せない。
 かりかりと頭をかきながら上体を起こすと、すぐ傍らに頬杖をつきながら胡坐をかく杏子へと向き直る。
 
「さっきお前がのびた時ので、一旦休憩入ったんだよ。ま、今しばらく休んどいた方がいいんじゃねえの?」
「……あー」

 だんだんとはっきりとしてくる頭と共に、前後の記憶が蘇ってくる。
 そもそもの発端は、マミが特訓しようと言い出したことだった。
 魔法少女に成り立てでペーペーの自分のために、いくらかでも戦う術を持つためだ。
587 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/07(水) 21:03:06.90 ID:as1OFF1P0
 とはいえ、射手のマミは体術に長けているわけではないし、同じ近接戦闘型の杏子に教えを請うのはなんだか癪に障るしで、どうしたものかと考えあぐねていたのだが――。
 そこに、Dボゥイに白羽の矢が立った。
 テックランサーを使っての身のこなしは言うに及ばず、なにより尊敬するDボゥイから教えてもらえる、ということでさやかの心は高鳴っていたのだ。
 
 だが、それが良くなかった。
 決して、Dボゥイの指導が下手だったというわけではない。

 なんというか――彼の指導は『濃い』のだ。
 
 わからない点を聞けば、丁寧に解説してくれる。
 ちょっとしたコツまできっちりと教えてくれる。
 
 だが、三時間以上も休みなしでみっちりと組み手を繰り返す、というのはさすがに応えた。
 しかも、お互いに素手とはいえこちらは魔法で身体能力をブーストしているのにも関わらず、テックセットもしていない彼に対して、とうとう一本も取れないままというのは色々とヘコむ。
 終いには、やけくそ気味に全力で突貫してみたが――。
 勢いそのままに投げ飛ばされ、程なく昏倒して今に至る、というわけだ。
588 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/07(水) 21:38:34.24 ID:as1OFF1P0
「……はふぅ」
「なんだよ、もうへばったのか?」
「いや、そういうんじゃないけどさ。なんかハードだなあって」
「……ま、そりゃそうだけどよ」

 頷いて、杏子が傍らに腰を下ろす。
 裾が擦り切れた半ズボンから覗く足をぶらぶらと揺らすと、

「テッカマンがどーだかは知らんが、あの兄ちゃんが相当な手錬であるのは本当みたいだな」

 それなりにベテランといえる杏子も、魔法少女として戦いに身を投じてからは三年の経験を持っている。
 だからこそ、Dボゥイの洗練された足運びや型を見て、彼の腕がどれ程のものなのか、直感的に見抜くことができたのだ。
 あれは、それこそ小さい頃からトレーニングを積んできた者の動きだ。
 
 如何に魔法少女が人間の域を超えた身体能力を持っていたとしても、それを動かすのは人間の頭脳だ。
 それは、どれだけ強力な能力を持っていたとしても、洗練された技術と最適化された戦術がなければ無意味であるとも言える。
 まあ、その典型的な例が、まさに今目の前にいるわけだが。
589 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/07(水) 21:56:46.51 ID:as1OFF1P0
「ふふん。これであんたもちょっとはDボゥイさんがほんとに強いんだってことがわかったみたいね」
「ボコられてるのがお前本人でなきゃもうちっと様になるんだけどなー」
「うっ……」

 グサリ、と急所を刺し貫かれて固まるさやかを、にやにやと笑いながら眺めやる杏子。

 それはさておき。
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/07(水) 22:27:21.92 ID:h4QyVLJ0o
どうした?
591 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/07(水) 22:39:11.67 ID:as1OFF1P0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「ね、ところでさ。杏子」
「あん?」

 身体をじっとりと濡らしていた汗がだんだんと乾き始め、身体がひんやりとしてきた頃。
 おもむろに、さやかは口を開いた。

「あんたさ、なんで魔法少女になったの?」
「………」

 途端、スッと杏子は目を細める。
 
「……聞いて、どうするんだよ?」
「どうするって、そりゃあ……」

 頭をめぐらせる。
 学力ではサッパリな自分の頭では、明確に言葉にはできなかったけれど。
 
「だって、気になるじゃん。その……友達、なんだし?」
592 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/07(水) 22:50:07.71 ID:as1OFF1P0
 途端、杏子は呆けたように目を丸くした。
 虚を突かれたかのようにきょとんしたその瞳は、だんだんじっとりと細くなっていくと、
 
「……お前さー。よくそんなクッサイ台詞をさらっと言えるよなー」
「なっ、それどういう意味よ!? 大体ねー、あんた言うのか言わないのかどっちなの――」

 思わず売り言葉に買い言葉で口を開きかけるが、
 
「――言わねえよ。絶対、お前には言わねえ」

 冷たく告げられた杏子の言葉に、そのまま踏みとどまった。
 
「……杏子?」
 
 いつもの飄々と憎まれ口を叩く彼女とは正反対の、凍った鋼のような表情に戸惑いながら、さやかは不安そうな声を上げる。
 
(……言ったところで、どうなるってんだよ)

 自分に言い聞かせるかのように微かに独りごちると、杏子はさやかに背を向けて歩き去った。

 残されたのは、蒼の魔法少女、ただ一人だけ。
593 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/07(水) 22:56:21.29 ID:as1OFF1P0
今日はここまでとなります。
なんだかんだで根っこの相性がいいのか打ち解けていくさやかと杏子。
ですが、それでも踏み込めない領域というのは誰にでもあるわけで……

次は、Dボゥイとマミの会話パートとなります。
次回もまたお楽しみに!

次回はちょっと間を空けて月曜日となります。
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/07(水) 23:00:41.64 ID:h4QyVLJ0o
乙彼


……まだ親密度も好感度も足りないかwwwwwwww
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/07(水) 23:28:49.95 ID:m68dgWXto


タカヤさんは昔からガチで鍛えてたもんなぁww
596 :なすーん [なすーん]:なすーん
                     __        、]l./⌒ヽ、 `ヽ、     ,r'7'"´Z__
                      `ヽ `ヽ、-v‐'`ヾミ| |/三ミヽ   `iーr=<    ─フ
                     <   /´  r'´   `   ` \  `| ノ     ∠_
                     `ヽ、__//  /   |/| ヽ __\ \ヽ  |く   ___彡'′
                      ``ー//   |_i,|-‐| l ゙、ヽ `ヽ-、|!  | `ヽ=='´
                        l/| | '| |!|,==| ヽヽr'⌒ヽ|ヽ|   |   |
  ┏┓  ┏━━━┓              | || `Y ,r‐、  ヽl,_)ヽ ゙、_ |   |   |.         ┏━┓
┏┛┗┓┗━━┓┃              ...ヽリ゙! | l::ー':|   |:::::::} |. | / l|`! |i |.        ┃  ┃
┗┓┏┛     ┃┃┏━━━━━━━.j | l|.! l::::::ノ ,  ヽ-' '´ i/|  !|/ | |リ ━━━━┓┃  ┃
  ┃┃    ┏━┛┃┃       ┌┐   | l| { //` iー‐‐ 'i    〃/ j|| ||. |ノ        ┃┃  ┃
  ┃┃   ┃┏┓┃┗━━━.んvヘvヘゝ | l| ヽ  ヽ   /   _,.ィ ノ/川l/.━━━━━┛┗━┛
  ┃┃  ┏┛┃┃┗┓     i     .i  ゙i\ゝ`` ‐゙='=''"´|二レ'l/″           ┏━┓
  ┗┛  ┗━┛┗━┛    ノ      ! --─‐''''"メ」_,、-‐''´ ̄ヽ、              ┗━┛
                   r|__     ト、,-<"´´          /ト、
                  |  {    r'´  `l l         /|| ヽ
                  ゙、   }   }    | _|___,,、-─‐'´ |   ゙、
                    `‐r'.,_,.ノヽ、__ノ/  |  |      |、__r'`゙′
                            |   |/     i |
                             |          | |
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/13(火) 22:17:59.51 ID:Q50+Ym4Jo
火曜日になってしまった。

Dボゥイとマミさんの会話は凄く好きなんで楽しみに待ってますよ!
598 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 17:02:51.90 ID:IQQE/fZl0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /


お待たせしました。今日の21:00に投下開始します
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/15(木) 17:22:58.06 ID:RieH/ys1o
キター!
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/15(木) 17:31:11.18 ID:6klk1kmdo
ktkr
601 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 20:56:23.68 ID:XvfzaK4f0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /


はじまるよ!
602 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 20:58:28.47 ID:XvfzaK4f0
PSパトレイバーとPSダンバインがアーカイブ配信されないかなーと思いつつ。

月〜水は頼まれてた仕事が忙しくて書けませんでした、すいません。
603 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 21:01:44.44 ID:XvfzaK4f0
 一方で、マミは廊下を歩いていた。
 四人で特訓を行っていた場所である、今は通う者のいない廃校の廊下を、だ。

 開発・区画整理が盛んな見滝原では、人の流れの移り変わりからここのように見捨てられたかのような廃墟も、また存在する。
 古いものの壊れそうなほどに老朽化しておらず、だだっ広いこの空間は、魔法少女としての訓練を行うにはぴったりの場所なのだ。
 とはいえ、徒手空拳での組手だけという内容上、今回において使っているのは体育館だけだ。

 今はまだ休憩時間。さっきまで突っ込む→吹っ飛ばされるの繰り返しをバスケのドリブルみたいに繰り返していたさやかがのびてから、まだそれ程時間は経っていない。
604 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 21:06:09.95 ID:XvfzaK4f0
(ええっと……)

 きょろきょろと辺りを見回す。
 杏子とさやかとは別に、彼はこの辺りで休んでいたはずだ。
 忙しなく周囲に視線を走り回らせていたマミは、ひとつのものを目にした。
 
 薄暗い廊下から、外の光が漏れている場所がある。
 目を凝らしてよく見ると、それはドアが半開きになっているからであり、この辺りの扉はすべて閉め切られていたことから考えると、導き出せる答えはただ一つだ。
605 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 21:10:10.82 ID:XvfzaK4f0
 思わず唇が緩みそうになって、慌てて手をやって元通りに戻す。
 孤高の魔法少女を気取ることはもうやめたものの、それでも、彼の前でだらしのない表情はしたくなかったからだ。

 こほん、と咳払いをひとつ。
 ついでに肩についた埃をぱたぱたと払って、ついでに深呼吸。
 
 そして、
 
「Dボゥイさん、お茶はいかがですか?」
 
 マミはゆっくりと扉を開けた。
606 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 21:18:40.93 ID:XvfzaK4f0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「――――」

 言葉が止まる。
 それは、扉の先に彼がいなかった、というわけではなかった。
 ベンチに腰掛けている彼は、さすがにいつもの赤いジャケットは脱いで身軽なシャツ姿であったものの、取り立てて変わった格好というわけではない。
 では、なぜマミは言葉を止めたのか――?
 
 それは、腰掛けたDボゥイが手の中の紙片に視線を落としていたからだ。
 紙片はどうやら写真のようだったが、それに映っているのが何なのかはマミには見ることが出来なかった。

 そのままの姿勢で、マミは沈黙する。
 お互いに微動だにしないその沈黙は、ともすれば永劫に続くかのようにマミには感じられた。
607 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 21:26:17.84 ID:XvfzaK4f0
 だが、その沈黙は程なく破られることになる。
 というのも、入ってすぐにDボゥイはこちらの気配を察したからだ。
 
「――む。どうしたんだ、マミ?」
「……あ、いえ。喉が渇いたかなって思って、紅茶を――」
「ありがとう。じゃあ、少しもらっていいか?」
「あ、はい」

 口元を緩ませて微笑むDボゥイに、狼狽混じりに返しながら、マミは傍らに腰掛ける。

「あの、その写真――」
「……ああ、これか」

 マミの問いかけに応じて、Dボゥイは手の中の写真をゆっくりと持ち上げた。
 それを了承の証だと受け取って、マミは写真に向かって目を凝らす。
608 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 21:36:18.85 ID:XvfzaK4f0
 写真の向こうには、こちらに向かって微笑む一人の少女がいた。

(きれいな人……)

 それがマミが最初に抱いた印象だった。
 年齢は、自分と同じくらいか、少し上だろうか。
 ゆるくウェーブがかかった、艶やかで緑がかった髪が印象的だ。
 奔放そうな快活な表情と、触れれば消えてしまいそうに華奢で儚げな雰囲気が同居しており、どこか浮世離れした魅力がある。
 
(一体、誰なんだろう)

 マミの中で、好奇心と、焦燥感にも似た感情が巻き起こる。
 本当ならば、こんなことを聞くのははしたない事なのかもしれないけど、それでもマミは敢えて口を開いた。
 
「この人は――?」
「――俺の妹だ。……ラダムのテッカマンに、殺された」
「――!」
609 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 21:50:05.71 ID:XvfzaK4f0
「――ごめんなさい」
「君が謝ることじゃないさ。話したのは俺だし――あいつを殺したのは、ラダムだ」
「…………」

 ラダム、という言葉に確かに宿る怒りと憎しみ。
 それを、マミは黙って見つめていた。
 
(――もしかしたら、彼が戦う理由というのはこれなのかもしれない)
 
 だとすれば、多くの部分で合点がいく。
 肉親の死がラダムによって引き起こされたものならば、ラダムを憎むのもまた当然だろう。
 もし、自分の両親の死が魔女によるものであれば、おそらくは自分もまた魔女への憎しみと、復讐への焦がれにその心を焼いていただろうから。
 
 だが、それでもおかしい点がひとつだけあった。
610 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 21:54:51.53 ID:XvfzaK4f0
(――なら、どうしてあの時、Dボゥイさんはあんな顔をしたのかしら)

 それは、マミのマンションのあの時。
 
『なんか、かっこいいなーって。悪と戦う正義のヒーローっぽい感じで!』
 
 無邪気で純真な、さやかの憧れに満ちた瞳を見た時だ。
 あの時の彼は、確かに哀しみが宿った表情をしていた。
 もし、彼が戦う理由がただの復讐であったのなら、そんな表情をするのだろうか?
 
 思考の海へと沈もうとするマミだったが、それはDボゥイの声によって中断された。
 もしかしたら、沈んだ顔をしている自分を気遣って話題を変えてくれたのかもしれない。
611 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 22:02:38.63 ID:XvfzaK4f0
「そういえば、ほむらの呼び出しについてだが――」
「え、ええ。大事な話がある、って言ってましたね。
 ……一体、なんの話なんでしょうか」
「……さあ、な」

 何故か言葉を濁すと、Dボゥイはゆっくりと目を閉じて紅茶の入った紙コップを啜る。
 それは、まるで悟られるのを拒むかのように見えた。
 ……ひょっとしたら、彼はほむらの話す事というのを知っているのかもしれない。

「……あの。休憩中にごめんなさい。私、佐倉さんと美樹さんにも差し入れてきます」
「ああ、頼む」
612 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 22:03:29.49 ID:XvfzaK4f0
 Dボゥイの返事を背に受けながら、足早に、だがゆっくりとマミは廊下に出た。
 後ろ手にドアを閉めながら、ふぅ、とため息をひとつ。
 ――そして、未だズキズキと痛む胸を押さえた。
 いや、痛むのは胸ではなく心だ。
 
 なぜ痛みを得るのかというと、それはきっと、わかってしまったからだろう。
 
 ――写真の中の妹を見る時の彼の瞳と、こちらを優しく見つめてくれる時の彼の瞳。
 それが、同じものであったということに。
613 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/15(木) 22:05:59.01 ID:XvfzaK4f0
今日はここまでとなります。

テッカマンブレードの戦う理由について思いを巡らせるマミ。
しかし、それは同時に自らの恋の行く末を感じ取ってしまうことでもありました。

さて、次回はいよいよ魔法少女たちが一同に揃います。
明かされる真実。そしてその背後に潜む残酷な宿命に対して、魔法少女たちはどう向き合っていくのでしょうか?
次回もまたお楽しみに!

また、次回は金曜〜日曜となります。
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/16(金) 20:56:04.35 ID:8ZY5mCGVo
乙彼様です!


……マミさんハートブレイク?
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/16(金) 22:36:30.07 ID:kkwFciF1o
乙です。

予想してた事とはいえ、マミさんの淡い恋心は…アキもいるし仕方がない事なのか。
しかし、結果はどうあれ気持ちは伝えて欲しいと思う、マミさんファンとしては!

…さて、身悶えしながら続きを待つとします。
616 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/19(月) 16:28:44.80 ID:F3wpXFjI0
すいません、予定よりやや遅れています。

火曜日の21:00より投下できるかと思います
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/20(火) 01:09:34.83 ID:zrdXSg3Q0
今日か、待ってる
昨日スパロボW買ったけどブレードの避けること避けること
618 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 21:04:37.02 ID:ZymRPhf80
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

お待たせしました。21:30より投下開始いたします
619 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 21:28:20.65 ID:ZymRPhf80
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「……で。なんだってあたし達を呼び出したわけ?」

 両手を腰に当て、勢いよく息をつきながらさやかが問いかける。
 特訓の帰りから直接この場所に来たため、着ているのは見滝原中学の制服のままだ。

「ええ。最初に言ったとおり、重要な話をするためよ。美樹さやか」

 対するほむらもまた、制服姿のままで応える。
 彼女達魔法少女と、まどか、Dボゥイ、アキの三人を加えた七人が集まっているのは、歩道橋の上だ。
 高速道路をまたいで鎮座するそれの周囲は、人気はない。
 だが、びゅんびゅんと風圧を伴いながら弾丸のように飛び交う車が、都会としての喧騒を作り上げていた。
620 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 21:38:34.31 ID:ZymRPhf80
「――やっぱり、あなたは私達の知らない何かを知っているのね? 暁美さん」
「…………ええ」

 マミの問いかけに答えるには、今度は幾許かの逡巡を要した。
 決意を鈍らせるのは、ひとつのイメージ。

『――みんな、死ぬしかないじゃない!』

 錯乱し、涙に濡れた瞳で、こちらに殺意を向ける"以前の"巴マミのイメージだ。
 
(…………)

 落ち着け、とほむらは胸の中で独りごちる。
 失うかもしれないという恐れ。それを乗り越えると、今しがた誓ったばかりじゃないか。

 浅くなっていた呼吸を落ち着けて目を開けると、周囲は皆一様にこちらを覗き込んでいる。
 待っているのだろう。自分が告げる、真実を。
 
 魔法少女が背負う、呪われた宿命を。
621 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 21:40:34.49 ID:ZymRPhf80
「美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子」

 一人ずつ、ほむらは名前を呼んだ。
 彼女達の名前を。
 共に、過酷な運命を歩むことになる魔法少女の名前を。

「あなた達は――」

 一息。

「あなた達は、このソウルジェムが一体何なのか、考えたことはあるかしら……?」

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
622 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 21:49:26.30 ID:ZymRPhf80
「……魂、だあ? コイツが?」

 告げた真実に対して返ってきたのは、予想通りの懐疑の声だった。
 
「――やっぱり、信じられないかしら?」

 ため息交じりにつぶやくと、マミが言いにくそうに声を上げる。

「あの……ね、暁美さん。あなたを疑うってわけじゃないんだけど……」

 言うと、マミはしばらく言葉を探すように宙に視線を走らせ――やがて、諦めたようにため息をついた。
 
「ええ、ごめんなさい、暁美さん。正直、信じるには途方もなさすぎるわ」
「気にしなくていいわ、巴マミ。こんな話、すんなり受け入れられる方がおかしいんだもの」

 そう。
 魔法少女に変身するためのキーとなるソウルジェム。
 それが文字通りの魂で、無くなったら死ぬなんてことがすんなりと信じられるわけがない。
 むしろ、すんなりと受け入れられたらこちらが戸惑うくらいだ。
623 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 21:59:22.31 ID:ZymRPhf80
 さやかの方はと言うと、現実感を失ったかのように、え? え? と声を上げながらきょろきょろとこちらやマミ、杏子を交互に見ている。
 Dボゥイの方は――疑いの声も、驚きの声も上げることなく、むっつりと押し黙ったままだった。アキは、こちらを心配そうに見つめている。
 
 今のところは、大丈夫なようだ。
 誰にも気づかれないように、こっそりと安堵するとほむらは続けた。
 
「――だけど、事実よ」

 誰一人欠けることなく集った魔法少女たち。
 そして、突如現れたテッカマンブレードというイレギュラー。
 その全てに信を置き、だからこそ、ほむらは手加減なく真実をつきつける。
 
「だから、証拠を見せてあげる。ソウルジェムに隠された秘密の、ね」
624 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 22:14:20.41 ID:ZymRPhf80
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「――まどか」
「……ほむらちゃん?」

 傍らにいた少女の手に、小さなそれを掴ませる。
 呆けたようにぼうっとしていた彼女は、自分に意識が向いたことに驚きの声を上げた。

 無理もない。ただの中学生であるまどかには、こんな話は荷が重過ぎるのだから。
 だが、だからこそ、これを行うのはまどかでなくてはならないのだ。
 
「これって――」

 手の中でもわかる、煌々と脈打つように紫色の光を放つそれは、

「ええ、私のソウルジェムよ」

 あっさりと肯定する。
 
625 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 22:29:03.42 ID:ZymRPhf80
「まどか。あなたにはこれから、しばらく――そうね、10分くらい走って離れてもらうわ。それが過ぎたら、戻ってきて」
「……え?」
「ちょ、ちょっと転校生! あんた、そんな事したら――」

 慌てて声を上げるさやかに、答えるほむらの声は静かだった。

「ええ。私は死ぬわね。大丈夫よ、まどかが戻ってきてくれれば元に戻るから」
「ば、馬っ鹿じゃないの!? なんであんたがそんな事する必要があるのよ!」
「たとえ言葉で言って聞かせても、あなた達に幾許かの疑いが残ってしまうことは避けられない。なら、実践してみせるしかないわ」

 髪をかきあげながら、無造作に告げるほむらに、おずおずとまどかが声をあげる。
 
「でも……でも、わざわざほむらちゃんの命を危険に晒さなくても――」
「――まどか」

 皆まで言う前に遮って、ほむらはまどかを見た。
 その瞳は、煮えたぎる感情も、それを覆い隠そうとするガラスのような冷たさもない。
 だが、それには鋼のように強固な意志が見て取れる。
626 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 22:37:48.78 ID:ZymRPhf80
「あなた、言ったわよね。みんな、私を信じてくれてるって」
「……う、うん」

 頷く。意味を図りかねるようにこちらを見つめ返してくる親友に、ほむらはゆっくりと続ける。
 
「その言葉を、私も考えたの。
 ――そして、これが私のたどり着いた答え。
 それじゃ、不足かしら?」
 
 たとえ残酷な真実であったとしても。
 きっと、みんな乗り越えてくれる。
 魔法少女としての力も、何もかもが、誰よりも弱い私ですら耐えられるのだから。
 だから、彼女達に賭けようと、そう思った。
627 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 22:47:22.94 ID:ZymRPhf80
「ほむらちゃん……」

 そして、まどかは気づいた。
 ソウルジェムを包むほむらの手。
 それが、小刻みに震えていることに。

(ほむらちゃんも、怖いんだ……)

 その事実は、なぜか安堵を伴ってまどかの胸の中に落ちた。
 それは、一つの確信をもたらしたからだろう。
 
 機械のように冷徹に、鋼のように強靭に戦いに身を投じる彼女。
 心に映っていたそれはただの虚構であり、目の前にいる彼女は間違いなく、一人の人間であると――そう思うことができたから。
628 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 23:00:34.05 ID:ZymRPhf80
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「――俺がついていなくて良かったのか?」
「ええ。最悪の場合、ここは戦場になる。あなた達には、そうなった場合に備えて欲しいし……それに、そうなったとしても、最悪でもまどかに危険が及ばなくて済むから」

 覚悟していたとはいえ、それでも恐怖に震える胸を落ち着かせながら、小声でほむらはDボゥイに答える。
 魔法少女達三人はというと、固唾を呑んでこちらを見つめていた。

「……信じるんじゃなかったのか?」
「信じるわ。だけど……信用するってことは、リスクから逃げるための方便じゃない。そうでしょう?」
「……そうだな」

 肯きながら、Dボゥイはほむらを見る。
 
 ソウルジェムに隠された、魔法少女の秘密。
 それは確かに、衝撃的なものだった。
 
(――だが、本当にそれだけか?)

 思い出すのは、ホテルの一室での一件。
 あの時、ソウルジェムとグリーフシードの類似性について尋ねたとき、ほむらはひどく狼狽していた。
 
 ソウルジェムが魔法少女であるいう真実。
 魔法少女に隠された秘密がそれだけだというのならば、なぜ、あんなにも彼女は狼狽したのだろうか。
 
 ――ソウルジェムと、グリーフシードの類似性。
 ――鏡合わせのように、対極の性質を持つ魔法少女と魔女。
 ――もう一つの隠された秘密を話さないほむら。
 ――『最悪、ここは戦場になる』という言葉。
 
「…………」

 ひどく、破滅的な予感を感じ取ってDボゥイは眉に力を込める。
 うっすらと垣間見えた、本当の真実。

 だが、それが本当のことであったのならば。
 
 ――なんという、過酷な宿命だというのだろうか。
629 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 23:16:30.68 ID:ZymRPhf80
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「――――そろそろ、ね」

 ほむらの言っていた、十分の刻限。
 その訪れを、時計も見ることなく感じ取って、マミは声を上げる。
 何故時計もなしにわかったかというと、答えは簡単だ。
 ばくばくと鳴る自分の鼓動。それが、嫌でも秒針代わりになってくれたからだ。

 ほむらは、既に動かなくなっていた。
 彼女の言っていることが真実なら、既に彼女は死んでいる。
 だが、誰も確認しようとしなかったのは、彼女の言う真実を目の当たりにしたくなかったからなのかもしれなかった。
 
「……あの、Dボゥイさん」
「なんだ?」
「確認、してもらえませんか? 情けないけど、私、ちょっと……」
「……ああ」

 彼女を責めはせずに、Dボゥイはゆっくりと歩み寄る。
 右の手指に触れた頬は、ぞくりとするほどに冷たかった。
 慣れた、否、慣れてしまった感触。
 
 それは、死という感触だった。
630 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 23:19:10.30 ID:ZymRPhf80
「……死んでいる」
「――――!!」

 引きつったように、少女達は息を漏らす。
 彼女の話が真実だったということに。
 あっけなく、自分たちもまた死ぬのだという事実に。
 そして、自分達が信じ切れなかったばかりに彼女がこうせざるを得なかったことに。
 
「落ち着いてくれ、みんな。ほむらの話が本当だったのなら、まどかが戻れば元通り蘇るはずだ。
 ――だから、落ち着け」

 周囲に言い聞かせた後、Dボゥイは腕の中のほむらを見る。
 その顔には、恐れはなかった。
 眠っているかのように、落ち着いた顔だった。
631 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 23:30:37.94 ID:ZymRPhf80
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 一方で、まどかは走っていた。
 人気の無い見滝原の夜を、走り続けていた。
 走って、走って、走って。
 そして、完全に意気が上がってへたり込んで、やっとまどかは刻限の10分が過ぎた事を知った。
 
「はあっ、はあっ、はあっ……」

 ばくばくと暴れる心臓を押さえる。
 大きく開いた口から突き出す舌。そこから、唾液が雫となってアスファルトの歩道に落ちた。
 
(もう、戻らなきゃ――)

 休んでなどいられない。
 向こうでは、みんながほむらの言っていたことの真偽を確かめたところだろう。
 もし、ほむらの言葉どおりだったとしたなら、既にほむらは死んでいる。
 そして、ソウルジェムを持った自分が戻らない限り、ずっとほむらは死んだままだ。
 
 大きく息をつき、ごくりと唾を嚥下すると、まどかは顔を上げて――。
 思わず、固まった。
 
(――あれ?)

 誰もが見落としていた誤算が、ここにあった。
 人が見られる風景は、昼と夜とで完全に別物となることに。
 とりわけ、中途半端に土地勘があるならば、それはより深く混乱を招く元となる。
 
 深夜徘徊なぞしない、学力はともかくただ善良な生徒であったまどかは、その陥穽に深く陥ることとなった。

(――元いた場所って、どこだっけ?)

 つまりは――まどかは、道に迷ったのである。

(ど――)

 どうしよう、と泣きそうになる前に、
 
「……まどかちゃん?」
 
 背後から声がした。
 ここ数日で聞きなれたその声は、

「――シンヤ、さん?」
632 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/20(火) 23:32:59.12 ID:ZymRPhf80
今日はここまでとなります。

魔法少女の真実を、その命を懸けて示したほむら。
さらに隠された真実の一端に感づいたDボゥイ。
一方で、再びシンヤと邂逅するまどか。

その決意の向こうに待っているのは、破滅か、それとも未来か。
息もつかせぬ魔法少女まどか☆ブレード。
次回もまたお楽しみに!

なお、次回は木曜辺りの投下となります。
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/09/21(水) 00:19:00.69 ID:b6azTVAi0
乙です
Dボゥイが魔法少女の真実を知った後QBにどういう反応をするのか気になるな
ラダムと似たような奴をみたら物凄く荒れ狂いそう
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/22(木) 00:05:28.34 ID:XhK637Yvo
乙です。

この大事な時にまどかが道に迷い、シンヤ登場っって…
この偶然は必然とでも言いたくなるような展開とタイミング、テッカマンとかあの頃のアニメを凄く思い出すわ。

ともあれ続き待ってます。
頑張ってください。
635 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/22(木) 21:14:44.53 ID:Hlkx+WZ10
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

お待たせしました。22:00より投下開始いたします
636 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/22(木) 22:19:55.30 ID:Hlkx+WZ10
 目覚めは水面に浮上する感覚に似ている。
 温かいまどろみの中から、冷たい空気の中へと浮かび上がる感じだ。
 
 蠢く筋肉、軋む腱。それらすべてに意識を走らせて、ゆっくりとほむらは目を開いた。
 こちらの胸の中。ぐりぐりと固い何かが擦り付けられる感触がある。
 
 霞む視界を下に移すと、そこにあったのはまどかの頭だった。
 ほむらちゃん、ほむらちゃん、と嗚咽を混じらせてこちらの名前を呼びながら、一心にこちらの胸にすがり付いてくる。
 
(――ああ。また、まどかを泣かせちゃった)
 
 呟くと同時に、心にまず去来したのは、ぼんやりとした後悔だった。
 周りを見回すと、さやか、マミ、杏子の三人もまた、こちらを心配げに覗きこんでいた。
637 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/22(木) 22:33:06.48 ID:Hlkx+WZ10
 そして、Dボゥイは――。
 何故か、こちらに背を向けていた。
 ……いや、違う。
 彼は、ずっと見据えていたのだ。より、奥にいる者に対して。
 
 その人物もまた、Dボゥイを見つめている。
 黒いジャケット、緑がかった黒髪、そしてゾクリとするほど危険な色を宿す赤い瞳――。
 
 ――待て。
 
 思わず流しそうになった認識を、ほむらは呼び戻した。

 ――コイツ、前にも見たことがある。

 ガリガリと意識を逆立てて、記憶を探る。

 そうだ、あれは確か、お菓子の魔女の結界で――。
 
 低いうねりを伴って回転を始めるほむらの思考は、だがその人物が発した声によって一時だけ中断された。
638 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/22(木) 22:43:03.52 ID:Hlkx+WZ10
「――久しぶりだね、兄さん。"残り滓"共に遅れを取ったんじゃないかって心配したよ」
「あ、あの。シンヤさん。案内してくださって、ありがとうござ――」
「まどか」

 言い忘れていたと、慌てて礼の言葉を述べようとするまどかを、Dボゥイが制する。
 その声は、鋼のように冷たく、そして硬い声音だった。
 
「早く、下がるんだ」
「――え?」

 いつになく真剣なDボゥイの声に、まどかだけでなく、魔法少女達までもが目を白黒させる。
 
「Dボゥイさん、急に何を――」

 訝しげに尋ねるまどかの声は、続くDボゥイの言葉で凍りついた。
 
 
 
「――――何のつもりだ、エビル」
639 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/22(木) 22:59:09.63 ID:Hlkx+WZ10
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「――――ッ!?」

 ザッ――。
 凍りついた思考の中で、だが本能と身体に刻まれた経験に従い、魔法少女達は各々の構えを取る。
 瞬時に赤青黄の閃光が走ると、魔法少女としての装束姿となったマミ、さやか、杏子が現れた。
 アキは、蘇生した直後でまともに身体が動かせないほむらを抱き上げて、まどかの手を引きながら安全な位置まで下がっている。
 
 前衛後衛の陣形を組んだフォーメーション。
 だが、対するエビル――シンヤは全く意にも介した様子もなく、わずかに片眉を上げるだけだった。
 
「へえ――こんなに"紛い物"共を侍らせるとは、兄さんもまた隅に置けないな」
「――そんな冗談を言うためだけにここに来たというのか?」
「ふふっ。そんなに怖い顔しないでくれよ。ここに来たのは本当にただの偶然さ。もっとも――いつかは接触するつもりではあったけど、ね。
 ――それにね。今回はただの忠告に来たのさ。戦いにきたわけじゃなくね」

 本当に、本当に残念なことだけどね、と涼しい顔でシンヤは続ける。
 だが、その表情の裏にあるのは獲物を前にした肉食獣のそれだ。
640 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/22(木) 23:10:11.37 ID:Hlkx+WZ10
「僕の目的は、この近辺で最も強大な"残り滓"――ああ、君たちは"魔女"と呼ぶんだったかな。
 ともあれ、僕の目的は最も強大な魔女、『ワルプルギスの夜』を葬り去ることさ」
「――まさか、貴方……私達に共闘しろっていうの?」

 油断なく銃口を向けながら、敵意を漲らせてマミが口を開く。
 だが、
 
「黙れ、女。出来損ないの分際で、俺達と並び立とうと思うな」
「――――ッ!!」
 
 ギロリ、とこちらに向けたシンヤの瞳に穿たれて、マミの足はその場に縛り付けられた。
 以前の時に感じていた恐怖。
 克服しただったはずのそれが、じわじわとマミの心にまとわりついていく。
641 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/22(木) 23:21:30.23 ID:Hlkx+WZ10
「――待てよ」

 だが、それは程なくして中断された。
 それまで沈黙を保ってきた杏子の声によって、だ。
 その表情は、いつもの飄々としたものとは似ても似つかない真剣なもので、
 
「あたしはさ。正直ラダムがどーとかこーとかは知らねえ。
 ……だがな。それでも聞き捨てならねえ事がある」
 
 ヒョゥ、という風斬りの快音と共に、槍の切っ先をシンヤへと向けると、
 
「今。――てめえ、『兄さん』って言ったよな。……どういうことだ」

 言われて、虚を突かれたようにシンヤはDボゥイを見た。
 その瞳にわずかに宿った逡巡を感じ取ると、ク、と笑みの息を漏らし、
 
「なんだ。てっきり知っているのかと思ったら、まだ言ってなかったのか。
 ――そのままの意味さ。僕の双子の兄は、そこの裏切り者ブレードだ」
「テ――」

 メエ、と、一触即発に気を昂ぶらせながら、杏子は槍を強く握り締める。
642 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/22(木) 23:43:09.73 ID:Hlkx+WZ10
「待って、杏子ちゃん!」

 だが、そんな杏子をまどかが制した。

「まどか! お前、邪魔してんじゃ――」
「怒りに任せて一人で行ってもダメだよ。それに――まだシンヤさんには、聞きたいことがあるの」

 いつになく静かで、だが同時に強い言葉で杏子を押しとどめると、まどかはシンヤへと向き直った。
 
「――どうして、魔法少女を"紛い物"と呼んで、魔女を"残り滓"って言うんですか?」
「……ふうん。この状況なのに、ずいぶんと冷静で聡いんだね、君は。
 まあ、それは――」

 言いながら、ニヤリとシンヤは笑みを強くした。

「僕よりも、もっと適任な奴がいる。
 ――そうだろう? インキュベーター」
『……やれやれ。まさか、ラダムとこんな所で接触してしまうとはね』

 その声――思念は、背後から聞こえた。
 
「――キュゥべえ!?」
643 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/22(木) 23:45:21.10 ID:Hlkx+WZ10
今日はここまでとなります。
段々と解き明かされていく真実。運命という悪意は、次第に魔法少女たちとスペースナイツを飲み込もうとしていました。
そして、キュゥべえの口から語られる(離せないけど)テッカマンと魔法少女の関係とは……?

次回もまたお楽しみに!
なお、次回は土曜日〜日曜日に投下いたします。
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/23(金) 00:07:35.50 ID:3V7hxXlqo
シンヤキターこれは次回期待せざるをえない
645 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/25(日) 21:59:16.19 ID:1BMj6KVz0
申し訳ありません、次回は明日に投下いたします。
さすがにホライゾン配信の誘惑には勝てなかったよ…
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 17:22:48.10 ID:kXxmHD0IO
ホライゾンなら仕方がないなあ、おい
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/26(月) 17:23:41.10 ID:uBxL0HtPo
内藤ホライゾンしか連想できないおっおっ( ^ω^)
648 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/26(月) 22:09:00.79 ID:R8GO+jWR0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

お待たせしました。22:30より投下開始いたします。

そういやベルさんとまどか、賢姉とほむほむが同じ声なんですよね。
ほむら「コンセントにチ○コ突っ込んで痺れ死ぬといいわ! 素敵!!」
とかあったらいいですね
649 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/26(月) 22:39:00.60 ID:R8GO+jWR0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

『暁美ほむら、テッカマンブレード、そして一同に揃った魔法少女とラダム。どうしてこうもイレギュラーな事が連続して起こるのやら』

 ゆらゆらと尻尾をはためかせながら、キュゥべえはぶつぶつとつぶやいた。

「キュゥべえ、今までどこに――」
『マミ、どうして君は戦わないんだい? 相手はラダムのテッカマンだよ?』
「それは――」

 わずかに逡巡を滲ませながら、マミはシンヤと白い獣を交互に見る。
 確かに、ラダムとテッカマンは自分達を狙う恐ろしい敵だ。
 ……だが、あのテッカマン――今は、気配はともかく姿形はただの人間にしか見えないが――は、『自分の目的はワルプルギスの夜を倒すこと』だと言っていた。
 それは、奇しくも自分達と全く同じものであり。
 
 だからこそ、マミはなぜテッカマンが自分達の命を狙うのかが理解できなかった。
 故に――戦いを成すには、どうしても越えられぬ逡巡を生んでしまうことになったのだった。
650 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/26(月) 22:58:45.87 ID:R8GO+jWR0
「ねえ、キュゥべえ。どうして、テッカマンの人たちは魔法少女を"紛い物"と呼んで、そして――」
「――だめっ!」

 続く問いかけに、ハッと我に返ったほむらが叫びを上げる。
 
「だめよまどか、それ以上を尋ねては――!」

 まどかがたどり着こうとしている真実。
 それは、全てを破滅へと誘う、パンドラの箱。
 
 それを、よりによってみんなが集っているここで開けては――。
 だが、ほむらの叫びが終わるより早く、まどかは問いかけを終えていた。
 
「――魔女のことを、"残り滓"って呼んでいるの?
651 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/26(月) 23:21:22.68 ID:R8GO+jWR0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

『なんだ、聞きたいことっていうのはそれだけなのかい?』

 大して気負う様子も見せずに、キュゥべえはいつもの無表情で尻尾を揺らす。
 
「……ッ!」

 ほむらは歯噛みした。
 この後に来る破滅を予期しながら、せめてまどかだけは守ろうと、未だ本調子でない身体でまどかの方へ歩み寄る。
 
『それは簡単さ。なぜなら、君たち魔法少女のソウルジェムは、その魂が絶望に染まった時、グリーフシードへと姿を変える。
 つまり、君達が絶望した後の成れの果てが魔女なわけだから、テッカマンの言っている"残り滓"という表現はある意味で正鵠を射ているとも言える』
「――――え?」

 その悪魔のような事実は、身構えることすら許さないまま、少女達の心を穿った。
652 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/26(月) 23:37:56.27 ID:R8GO+jWR0
「――嘘」

 青を通り越して真っ白に染まった顔で、マミはぶつぶつとつぶやく。
 
『嘘なんてついてないさ、マミ。暁美ほむらの話したことはすべて真実だし、僕も事実に反した事は何一つ言っていない
 ――どうしたんだい、マミ? どうして事実を告げられただけで、そんなにショックを受けるのさ?』

 がくりと膝をつくマミを、キュゥべえはしばらく見つめていたが。
 やがて興味を失ったかのように視線を逸らすと、白い獣はまどかへと向き直った。

『そして、もうひとつの問いについてだけど――それもまた、単純なことさ。
 ――君たち魔法少女は、ラダムのテックシステムを元にして作られた対ラダムシステムなんだから。
 だから、ラダムである彼は、君たちをそんな侮蔑的に呼ぶんだろうね』
653 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/09/26(月) 23:44:01.58 ID:R8GO+jWR0
今日は以上となります。
告げられた残酷な真実。そして告げられる驚愕の事実。

次は、ラダムとキュゥべえとの因縁が明かされるパートとなります。
次回もまたお楽しみに!

なお、次回は木曜日あたりに投下されます。
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/26(月) 23:51:13.04 ID:PisTLZNxo


まさか魔法少女が対ラダムだったとは
本体をソウルジェムにすればテックシステムから逃れられるって事か・・・?
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/27(火) 06:03:43.53 ID:k7aXWEkLo
乙です。
相変わらず気になるところで引きになるなぁ。

しかし、対ラダムシステムとは…
元々はそっちが主でエネルギー回収云々が副産物なのか?

Dさんがいるからあんまし酷い事にはならないと思うが、続きが気になってしょうがないな。
656 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/01(土) 20:05:02.89 ID:nV073qE80
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

お待たせしました。明日21:00より投下いたします
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/10/01(土) 20:55:59.24 ID:xJFXjTrq0
対ラダムって聞くとWのイバリューダー思い出すな
あれ、原作知らずに参戦作品も書いてなかったらオーガンはブレードのキャラだと思うかもしれん
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/01(土) 21:18:44.92 ID:lolhl5NSO
明日か、楽しみだ
魔法少女が対ラダムシステムってことは、他の地域の魔法少女はラダムと戦ってる訳か…
659 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/02(日) 21:02:05.65 ID:hOJO6P2e0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

はじまるよ!
660 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/02(日) 21:24:00.02 ID:hOJO6P2e0
 キュゥべえの言葉。たった今放たれたものを、ほむらは心の中で一度唱えなおした。
 ……魔法少女は、ラダムのテックシステムを元にして作られた対ラダムシステム……。
 それは、ほむらの予測を大きく超越したものであり、だからこそ、ほむらは問いかけを放つ。
 
「――なんですって?」
『なんでも何も、そのままさ。暁美ほむら。前にも言った通り、ラダムというのは星のすべてを食い荒らし、あまつさえ他の惑星を侵略するための前線基地としてしまう。
 なぜなら、彼らのやり方である現住生物の洗脳・支配というやり方は、新たに霊長のピラミッド構造に一切手をつけることなく、そっくりそのまま生物の頂点に立てる。
 もちろん、こんな文明を野放しにするわけにはいかない。だから、僕たちインキュベーターは彼らに対抗するための手を打った』
661 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/02(日) 21:42:40.02 ID:hOJO6P2e0
 ゆらゆらと尻尾を揺らしながら、白い獣の話は続く。

『だけど……結果はすべて失敗。このテックシステムを模した魔法少女システム――精神中枢たる"魂"をクリスタル媒体に移植することで、ラダムからの精神干渉を防ぐテックシステム――もまた、彼らに勝利するには至らなかった』
「――待って」

 そして、その思念をひとつの声が止めた。
 まどかだ。

「なら――どうして、キュゥべえは戦っても勝てないとわかってるのに、魔法少女を未だに生み出し続けているの?」
『そりゃそうだよ、まどか。だって、魔法少女の役目は、ラダムと戦うことじゃないんだから』
662 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/02(日) 21:55:46.03 ID:hOJO6P2e0
「……何よソレ。ラダムに対抗するための魔法少女なのに、戦うわけじゃないってどういうことなのよ」
『だから、そのままの意味だよ。まだわからないのかい?』

 もうとっくに気づいてるだろうに、と軽い口調で言ってくるキュゥべえに、重い音を立てながらDボゥイの思考は回り始めた。
 
 ――対ラダムのために生み出された、テッカマンのテックシステムを模した魔法少女システム。
 ――だが、生み出されたときはともかく、今はラダムと直接戦闘するのを目的とはしていない。
 ――ならば、魔法少女に課せられた目的とは何か?
 
 うなじの辺りに寒気を感じる。
 恐らくは――この思考の果てにあるものがどんなものであるのかを、直感的に感じ取ってだろう。
 だが、止まるわけにはいかない。
 何も知らないままでは、間違いを起こしたことにすら気づけないからだ。
663 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/02(日) 22:17:45.69 ID:hOJO6P2e0
 ――そして、魔法少女に化せられた魔女となる運命。
 ――ラダムとは、現住生物を改造・洗脳することで星を侵略する。
 ――そして、魔女とは――
 
 ゆっくりと。
 ゆっくりと、Dボゥイは得た答えを繰り返し確認した。
 そして、飲み込んだ答えはすぐに感情を煮沸する。
 ふつふつと、喉の奥から熱さを伴った苦味がこみ上げてくるのを感じながら、Dボゥイは肺を震わせて叫んだ。
664 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/02(日) 22:30:32.05 ID:hOJO6P2e0
 ゆっくりと。
 ゆっくりと、Dボゥイは得た答えを繰り返し確認した。
 そして、飲み込んだ答えはすぐに感情を煮沸する。
 ふつふつと、喉の奥から熱さを伴った苦味がこみ上げてくるのを感じながら、Dボゥイは肺を震わせて叫んだ。
 
 それは、咆哮だったか、罵りだったか。
 何の言葉であったかは、Dボゥイ自身にもわからなかったが――
 白い獣が何か返すのを待たずに、Dボゥイは飛び出した。
 歩道橋の手すりにちょこんと座ったそれには、たった半歩の距離を詰めるだけで手は届く。彼が突き出した指先は、驚くほど簡単に白い毛皮を掴んだ。
 力任せに持ち上げて宙吊りにしても、キュゥべえは無表情のままで悲鳴の一つも返さない。だが、それに構うことなく顔を近づけ、Dボゥイは軋るような声音で、うめくように告げた。
 
「――キュゥべえ、貴様……ッ!!」
『君は気づけたようだね、テッカマンブレード』

 韜晦の素振りすら見せずに、暢気につぶやくキュゥべえの身体を振り、掴んだ頭に握力を込める。
 それで押し黙った相手を睨みつけるDボゥイに、おずおずとさやかが問いかけた。
665 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/02(日) 23:11:06.07 ID:hOJO6P2e0
「あの、Dボゥイさん。一体どういうことなんで――」
「こいつの目的は――」

 呪うように、Dボゥイはつぶやく。
 
「地球すべての生命を滅ぼすことだ」


_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
666 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/02(日) 23:21:34.88 ID:hOJO6P2e0
「確かに、魔法少女そのものは当初はテッカマンとの戦闘を想定して作られた。――だが、それだけでは魔法少女システムはラダムのテックシステムには及ばなかったんだ。
 ――だが、テッカマンの模倣である魔法少女にはひとつだけ、テッカマンにはない特徴がある」
 
 それは、
 
「……ソウルジェム?」
「そうだ。魔法少女の魂であり、命そのものであるそれの性質――ソウルジェムが絶望に染まった時、グリーフシードになると共に魔女になるという性質に、こいつらは着目した。
 そして、魔女は人間や他の生命体の命を食うことで生きている。
 ――ここまではいいか?」
「あ、はい」
667 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/02(日) 23:28:32.28 ID:hOJO6P2e0
「そしてもう一つ。ラダムとは、その星の生命体を捕獲・洗脳することで他の星を侵略する生物だ。
 ――つまり。『ラダムに捕まる前に』その生命を死滅させてしまえば、奴らも何もできなくなる」
 
 一息。Dボゥイは、叩きつけるように白い獣を投げ捨てる。
 
「『ラダムに侵略させない』。ただそれだけのために、魔法少女を魔女にして、洗脳するための生物をテックシステムに捕獲される前に皆殺しにする。
 ――――最悪の、焦土戦のための爆弾。それが、この魔法少女システムの正体だ!」
668 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/02(日) 23:30:51.50 ID:hOJO6P2e0
今日はここまでとなります。

さて次回はあんこちゃんやマミさんとの会話パートとなりそうです。
次回もまたお楽しみに!

次回は、ちょっと確約はできませんが火曜日辺りの投下になると思います。
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/02(日) 23:36:29.28 ID:9IB7/0cmo


インキュベーター容赦ないなぁ
しかしこんだけ執拗に対策するって事はインキュベーター自体に脅威なのか?ラダム
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 23:38:08.44 ID:zyNA5Su/o

星間航行能力と攻撃的な特性を併せ持つ種族だからなぁ。
縄張りがぶつかると面倒なんだろう。
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 00:12:13.13 ID:M4sJqDTSO

ラダムにしろインキュベーダーにしろ、どうして宇宙にはろくな生物がいねぇなぁ…
まだバジュラの方が可愛いげがあるわ
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 12:28:13.59 ID:CYBn6jiDO

インキュベーター達がヤバいくらい合理的だww
ここまで頭のいいインキュベーターは初めてかもしれんwwwwww
673 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/08(土) 22:13:31.88 ID:/OI9vZl30
お待たせしました。
明日に投下いたします
674 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/09(日) 21:14:27.78 ID:mbq8c4eM0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

はじまるよ!
675 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/09(日) 21:22:32.61 ID:mbq8c4eM0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「そういう事だ、ブレード。我らラダムとしても、テッカマンの素体となる人間どもを間引かれては迷惑この上ない。
 ――だから、"残り滓"と"紛い物"すべてを潰すために俺が来たのさ」

 シンヤはその赤い瞳を酷薄に細くしながら、唇の端を吊り上げた。
 その視線の先には、焦点の合わない瞳でへたり込んだマミがいる。
 
「――人間を守るだと? 笑わせる。お前達こそが、同族を殺し、あげくの果てにはその守る対象であった人間を食い荒らす化け物だというのに」
「貴様――!」

 色めきたち、テッククリスタルを手にするDボゥイを恐れる風でもなく、シンヤはくるりと背を向けた。

「ふふっ。どうやら少し長居しすぎたか。
 次に俺が殺す時まで、しばしの別れだ、ブレード。"紛い物"どもは今ここで死ぬか、後で俺に討たれるか――どちらか決めておくことだな。
 フフフ……ハハハハハハ!」
676 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/09(日) 21:33:05.45 ID:mbq8c4eM0

 背を向けて、闇に溶けて消えるシンヤの姿。
 消えたその後しばらく立っても、Dボゥイはそれを苦々しく睨みすえていた。
 だが、その彼の肩を軽く叩く手があった。
 ん? と、振り向くと、視界の端に特徴的な赤毛が映る。
 
「きょう――」
「――ふざけんじゃねえぞ、てめえ――!」

 Dボゥイが彼女の名を言い終えるより速く。
 杏子の拳は、Dボゥイの顔面を捉えていた。
677 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/09(日) 22:23:43.82 ID:mbq8c4eM0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「がっ――!」
「ちょ、杏子、あんた何を――!!」

 身構える間もなく殴り飛ばされたDボゥイの苦悶と、驚き半分、怒り半分で声を上げるさやか。
 その二つの声は、
 
「ふざけるなよ……!」

 凶暴に歯を剥いた彼女の唸りにかき消された。

「あって、いいわけがねえだろうが……」

 そう言うと杏子は、よろめいたDボゥイの胸倉を掴むと、ひったくるようにこちらに引き寄せる。
 
「兄弟同士で殺しあうなんざ、そんなもんあっていいわけがねえだろうが!」
678 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/09(日) 23:16:45.19 ID:mbq8c4eM0
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「杏子……」

 その鬼気迫る形相に勢いを削がれ、困惑と不安を新たに表情に混ぜたまま、さやかが呟く。

「なんでだよ、なんでなんだよぉ! なんで……そんな事やってるのに、お前は平気でいられるんだよ!」
「…………」

 沈黙を答えとして返すDボゥイに、さらに杏子は襟首を締め上げて引き寄せる。
 ご、という鈍い音と共に、二人の額がぶつかりあった。
 
「……黙ってんなよ。答えろよ」
「……家族だったからこそ、俺は……奴らをこの手で倒さなければならないんだ」
「――――!」

 そして。
 このとき初めて、杏子はDボゥイの瞳を見た。
679 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/09(日) 23:25:53.09 ID:mbq8c4eM0
 それは、哀しみを奥にたたえた目だった。
 心の奥底に刻まれた哀切と、何もかもを焼き焦がす憤怒。
 そして、それらに苛まれながらも、こちらを見つめ返す瞳の力は、こちらがたじろぐくらいに力強く。
 
「――それが、俺があいつらにしてやれる唯一のことなんだ」
「ぐ、ううう――――」

 その瞳に穿たれながら、杏子はゆっくりとDボゥイの襟首を解放する。
 じわり、と目尻から涙が滲み出る。
 唸りと共に、喉の奥から這い出してきそうな嗚咽を噛み殺した。

 ――駄目だ。
 
 自分では、この男を動かすことはできない。
 なぜなら、こいつは一度たりとも自分の運命に背を向けたことがないからだ。
 悲しみも怒りも全て真正面から受け止め、だがそれでも心折れることなく戦い続ける。
 どれだけの呪われた宿命であったとしても立ち向かっているこの男を、自らを悪と嘯くことで逃げてしまった自分では、動かすことはできない。

 哀しく、そして残酷なまでに強い視線に戦くように、杏子は二歩三歩と後ずさりすると……
680 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/09(日) 23:28:35.94 ID:mbq8c4eM0
「………っ!」
「杏子っ!」

 まるでDボゥイから逃れるかのように、身を翻して歩道橋を駆け下りていった。
 思わず呆けたように一瞬見送ってしまったさやかは、すぐに我に返って、咄嗟に追いかけようとした。
 だが、その前におずおずとDボゥイの方を見ると、
 
「あの、Dボゥイさん……」
「行ってやってくれないか、さやか。――俺の言葉では、余計に頑なにしてしまうだけだろうから」
「……はい」

 その言葉に、神妙な面持ちでさやかは小さく会釈を返す。
 そして、パッと素早く踵を返して走り出した。
 
 走り去ってしまった杏子を――友達を、追いかけるために。
681 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/09(日) 23:30:18.23 ID:mbq8c4eM0
今日はここまで。

次はマミさんとDさんの会話パートとなります。

次回もまたお楽しみに!

なお、次回は速ければ明日、遅くても木曜くらいには投下できるかと思います
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 23:53:50.62 ID:bnkeJNINo

タカヤはメンタル面が強過ぎなんだよな。苦痛に耐えて折れる事無く立ち向かう。
それが悲壮さを増幅してるんだけど…
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/10(月) 00:05:04.08 ID:UbwY563bo


そういや杏子もある意味家族を自分が殺したようなもんだったな
もし「時の止まった家」に杏子やマミがいたら・・・ってふと思った
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/10/16(日) 23:15:17.58 ID:akptYvbYo
マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/10/16(日) 23:16:07.13 ID:akptYvbYo
マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
686 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/16(日) 23:52:38.27 ID:O8MR4VB40
お待たせしました。明日投下いたします
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 14:57:54.16 ID:0T4nIP8IO
ガタッ
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/10/17(月) 18:38:28.29 ID:TiMJxvF6o
ソワソワ
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/17(月) 18:39:46.09 ID:P4IlGu17o
(やだ……チカン……!?)
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/10/17(月) 19:26:46.91 ID:D3WrBPgAO
まだ…なのか…
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/17(月) 19:27:42.57 ID:zxcED5aao
日付けが変わる瞬間辺りでしょ、確認とかあるだろうし。
692 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/17(月) 20:45:03.31 ID:o6dbezn30
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

大変お待たせしました。21:00より投下開始いたします
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/17(月) 20:53:42.52 ID:zxcED5aao
ウェヒヒヒヒ!
694 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/17(月) 21:01:27.12 ID:o6dbezn30
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 無言のまま、Dボゥイは唇の端に滲む血を拭った。
 痛む頬は未だ痺れを残しているが、とりあえずは大事はない。
 心配そうにこちらを見るアキに、大丈夫だ、とかぶりを振ろうとしたが、しかし。
 
「だから……Dボゥイさんは戦えてるんですね」

 横から響いてきたマミの声に、それを中断して視線を向けた。
 
「マミ?」

 ぎゅっ、と自分の身体を抱きしめ、視線を地に這わせたまま、マミの独白は続く。
 俯いたその顔は、能面のように無表情で、瞳の色は灰色にくすんでいた。

「どんな過酷な運命でも、どれだけ残酷な仕打ちを受けても、それでも折れず諦めずに戦い続ける。
 家族を失っても、家族と戦うことになっても……」

 ……だから。
 今ならわかります。
 
「私は、あなたみたいには、なれない」
695 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/17(月) 21:15:30.37 ID:o6dbezn30
 細かく身体が震えだす。錯覚としての寒気すら伴うそれは、すぐに体幹から全身へと伝播していった。

「自分だけ助かったって事実から逃げ出したくて魔法少女として戦って、それで少しでも誰かを助けられたらって思って、ずっと、そう信じてたのに……」
「マミ」
「蓋を開ければ、私はただ同族殺しを繰り返していただけで、そしていつかは私も人を殺す魔女に成り下がる……」
「マミ」
「でも、でもそうだとしたなら、ただ死ぬのがいやというだけで、そんな卑しい理由で契約した私は、何なんですか?」
「マミ」

 そこで初めて、マミは視線を上げた。
 潤んだ視界の中、さっきよりも近づいてきているDボゥイに向かって、叫ぶ。
 
「言ってみてくださいよ! 私は、どうすればよかったの!?」
「マミ」

 心の奥で、チリチリと何かが黒い煙を出して燻り続けていた。
 わかっている。こんなことに意味はない。Dボゥイさんが悪いわけなんてなく、ただ私が八つ当たりしているだけだということに。
696 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/17(月) 21:29:04.31 ID:o6dbezn30
「自分だけ助かってしまった私は、どうすればよかったんですか? あのまま、父さんや母さんと一緒に死んでいれば幸せだったんですか!?」
「マミ」
「――――!」

 鼻先が触れ合いそうな、唇が重なり合いそうな至近距離まで来て、ゆっくりと右手を振り上げたDボゥイに、そしてその言葉に込められた強さに、思わず、びくり、と痙攣したように、あるいは泣きじゃくるように、マミはたじろいだ。
 先ほどまでの勢いを失い、浅く速く呼吸を繰り返しながら、ぶるぶると震えながらマミはDボゥイを見つめる。

 そして、彼の腕は――。
 ゆっくりと、優しくこちらの頭にその手を重ねた。
 
「そうだ、マミ。それでいいんだ。お前は人間なんだから、それでいい」
「――――え?」
697 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/17(月) 21:43:20.72 ID:o6dbezn30
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「私が……人間……?」

 ゆらゆらと揺れるマミの瞳をじっと見つめながら、Dボゥイは言葉を続ける。

「そうだ。過去への後悔に涙を流し、そして己の宿命に悩むことができるお前は、間違いなく人の心を持った人間だよ。マミ。
 ……決して、人間以上でも、人間以下でもない」
「…………」

 その瞬間だった。
 呆然と、目を見開いていたマミの貌が、クシャリと壊れたのは。
 それは、ずっと堪えていたものがあふれ出したかのように。
 
 震える手が、Dボゥイのジャケットをぎゅっと握り締めた。少女は歪んだ顔を擦り付けるように、溢れ出す涙を隠すように、Dボゥイの胸に頭を押し付けると、嗚咽を漏らし始める。
698 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/17(月) 22:11:29.15 ID:o6dbezn30
「私、ずっと魔法少女として戦っていれば、誰かの役に立っていれば、生きていていいんだって、こんな私でも生きることを許されるんだって、ずっとそう思ってたのにっ」

 血を吐くように、彼女は泣き続ける。
 
「怖いんです。何もかもが怖いんですッ。次の瞬間には、私も魔女になるかもしれない、みんなに襲い掛かって、誰かを傷つけたり殺めたりしてしまうかもしれないって思うと、怖くてたまらないんです!」
「……そうだな」

 静かに、肯定する。
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/10/17(月) 22:23:40.33 ID:7WP1oW4Fo
そういえばタカヤ坊も30分超えたら魔神になるよな
反応弾直撃でも無傷、超音速を遥かに超える速度で、反物質兵器を標準装備して人間サイズ・・・
魔女の結界内で暴走したら終わりじゃね?
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/17(月) 22:37:29.21 ID:zxcED5aao
即興かな? 泣いてるマミさん愛おしい
701 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/17(月) 22:37:43.16 ID:o6dbezn30
「だがな、マミ。これだけは、聞いていてくれ。
 悲しみと後悔を原点として戦うのはいい。
 ……だが、戦うことを過去への償いとするのはやめろ」

 視線を下ろすと、続きを促すかのように、マミの瞳がこちらを見上げてきている。
 だから、Dボゥイはそのまま話を続けた。
 
「過去に溺れ、悲しみに溺れて、戦いに逃げるな。マミ。
 過去を悔いるのなら、現在を以て後悔を埋めろ。
 悲しみに包まれるのならば、それを乗り越えられるくらいに強くなれ。
 ……死を怖れるのなら、その最後の一瞬まで生命を燃やすんだ」
702 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/17(月) 22:55:48.87 ID:o6dbezn30
 そう。
 後悔しない過去などない。
 心を貫かない悲しみなどない。
 怖くない死など、あるわけがない。
 
 だがそれでも、それらを前にしても、胸に曲げられないものを残した者にこそ、この異形の力は奮うことを許されるのだ。
 
 だから、
 
「いつか自分が不幸を撒くモノに堕ちるならば、それを怖れて座り込むのでなく。
 ――それら不幸を帳消しにするくらいの、幸せをみんなに渡してやればいい。
 お前達なら、それができるはずだ」
 
 なぜなら、
 
「お前達は、絶望を振りまく魔女と戦い、みんなに希望を与える魔法少女なんだろう?」
703 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/17(月) 23:04:26.36 ID:o6dbezn30
今日はここまでとなります。

弱気になり、未来を恐れるてもいいと受け入れ、目の前のことから逃げ出してはいけない、とマミさんに諭すDボゥイ。

次はマミさんとの会話パート後半となります。多分、次の次かそのまた次辺りでこの第六話も終わることかと。

次回もまたお楽しみに!
なお、次回は土曜日となります。
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/10/17(月) 23:32:10.69 ID:D3WrBPgAO
おつ!次も楽しみにしてる!
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/10/22(土) 20:03:09.07 ID:ggyzsytZo
マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
706 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/22(土) 21:54:24.83 ID:XJgv6oks0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

お待たせしました。23:00より投下開始いたします
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/22(土) 21:55:45.87 ID:6apY952lo
きたあああああああああ
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) :2011/10/22(土) 22:55:56.67 ID:owcjhkpMo
!?来たか
709 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/22(土) 23:03:18.28 ID:XJgv6oks0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 道端からわずかに響く虫の声。夜特有の冷たく湿った風が、ツンと鼻を刺激する。
 そんな、闇の帳に覆われた街の中を、さやかは駆け抜けていた。

「はっ、はっ、はっ……」

 口から漏れる息は熱く、湿っている。
 この前までの自分なら、既に息が上がって動けなくなっているはずの距離を二倍以上更新しつつ、さやかは未だに走り続ける。
 
「杏子! あんた、何処に――!」
710 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/22(土) 23:20:25.70 ID:XJgv6oks0
 右へ曲がり、左へ曲がり、まっすぐ突っ切り、それらを不規則に幾度繰り返したのか。
 さやか自身、それらが記憶から薄れそうになっていた頃だった。
 さやかの前には白い建造物が見えていた。
 否、性格には、白かった、と言うべきだろう。
 その建造物は、所々黒く焼き焦げていたからだ。
 よく目を凝らしてみると、焼き焦げたその建物には、色とりどりのステンドグラスなどが見て取れる。それはつまり、
 
「――教会?」
711 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/22(土) 23:50:01.37 ID:XJgv6oks0
 そして。
 探し人は、そこにいた。
 教会の中の、礼拝堂の真ん中。
 ステンドグラスで淡く色つけされた月光に照らされて、赤毛の少女、佐倉杏子は周囲をゆっくりと見回していた。
 その顔は、安堵と辛さが入り混じったもので、
 
「変わってないな……ほんと」
「――杏子?」

 ぼんやりと呟く杏子を、さやかは不安げに見つめた。
 そして、さやかの声に反応して杏子がこちらへと首を向ける。
 ……もしかすると、最初からこちらには気づいていたのかもしれないが。
712 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/23(日) 00:14:43.35 ID:rKJ3KnnY0
「――よう」
「……ここ、知ってるの?」
「……まあ、な。それより、お前いいのかよ。魔法少女があんなんだって聞かされた割には、ずいぶんと冷静じゃないか」
「えーと、まあ、そこら辺はなんというか驚いたり凹んだりするタイミング見失ったというか。
 そんな事よりさ、あんたなんであの時に逃げたのよ? ……というか、なんでそもそもDボゥイさんに殴りかかったりしたの?」
「…………」

 さやかの問いかけに、しかし杏子はすぐには応えず、じっと上を見上げていた。
 その視線の先にあるのは、蒼く、まあるい月。
 何かを幻視したかのように目を細めるその仕草は、月の光も相まって妙に艶かしい。
713 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/23(日) 00:24:05.68 ID:rKJ3KnnY0
「――話すと長くなるぞ。いいのか?」
「うん」

 あっさりと即答するさやかに若干瞬きするも、気を取り直したように、杏子は近くの長椅子に腰掛けた。

「ただの昔話だ。――なんのことはない、ただの馬鹿の昔話だよ……」
714 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/23(日) 00:30:08.84 ID:rKJ3KnnY0
今日はここまでとなります。
おそらく次回かそのまた次でこの第六話も終わりです。
そして、この話のラストにはちょっとドッキリサプライズが待っている……かも、しれません。

それでは、次回もまたお楽しみに!
なお、次回の投下は火曜日辺りとなります。
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/23(日) 01:41:19.12 ID:5YdhEdmmo
716 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/25(火) 23:20:17.07 ID:avMYSn7F0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

お待たせしました。0:00より投下開始いたします。
読んだ後はホライゾンの生配信も公式サイトで見ようぜ!
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/10/25(火) 23:30:48.16 ID:vCx90PrYo
キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!
718 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/26(水) 00:00:39.19 ID:bufL8L6d0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 Dボゥイに誰よりも早く反応したのは、マミではなく、

『――理解できないなあ』

 傍らにちょこんと座る白い獣だった。
 
『魔女になるっていう結果は変わりやしないのに、どうしてそんな事をするんだい?
 ただの欺瞞でしかないじゃないか』

 それだけ言うと、白い獣はまどかへと向き直る。
 
『ねえ、まどか。今話した通り、君の力を以てすれば、この星がラダムに『感染』しきってしまうのを阻止することができるんだ』
「――ッ」

 小さく、まどかが息を飲む。

『それだけじゃない。君が魔女になったならば、この太陽系どころか、数光年規模の距離の生命体すべてを駆逐してしまえる。これがどれだけ素晴らしい結果をもたらすか――』
「ふざけないで!」

 小刻みに震えるまどかに代わって声を上げたのは、ほむらだった。
 ふらふらとおぼつか無い足取りを気力で無理やり奮い立たせると、怒りと敵意に満ちた目でインキュベーターを見据える。
719 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/26(水) 00:08:55.40 ID:bufL8L6d0
「お前たちインキュベーターは、どこまで人を食い物にしようと――」
『食い物? そう言われるのは心外だなあ、暁美ほむら。
 僕たちインキュベーターは、この宇宙をラダムから守るために尽力してるんだよ?
 そりゃ、確かにこの周辺の生命すべてを死滅させるのは事実だ。
 けど、君たちはその犠牲でどれだけの星がラダムの魔の手から逃れられるか、考えたことはあるのかい?
 わからないなら、ちゃんと示してあげるけど――』
「………黙れ」

 インキュベーターの声を遮ったのは、Dボゥイだった。

「……黙れ、キュゥべえ。
 ラダムと同じく、人の心と誇りを踏み躙るお前を――」
 
 振り向きながら、宣言した。
 
「俺は決して許しはしない!」
720 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/26(水) 00:13:49.00 ID:bufL8L6d0
『……人の心だって? ただの感情のうねりであり、精神疾患でしかないそれに、何の価値があるっていうんだい?
 個体のエゴから脱却できず、それどころか同種族同士での低レベルな争いにかまけてばっかりいる、君たち人類こそラダムに近しいじゃないか。
 まったく、そんな風にただの個体のエゴの塊でしかなかったからこそ、僕たちとラダムは相容れなかったというのに』
「ああ、そうだな」

 静かに、認める。
 
『おや、急にどうしたんだい? 僕の予想では、君はムキになって否定してくるものと――』
「――だが。だからこそ、お前たちはラダムを一度たりとも止めることができなかったんだ、インキュベーター」
『――――』

 キュゥべえの――インキュベーターの動きが、ぴたりと止まる。
 それを厳しく視線で射抜きながら、Dボゥイは続けた。
 
「そして、お前達の企みは、俺が――」

 言いかけて、止める。
 
「『俺たち』が、打ち砕く」
『――――ふうん。なら、そうしてみせるといいさ、テッカマンブレード。
 まどか。もし、この宇宙の為に犠牲になる気になれたなら、いつでも呼んでよ!』

 それだけを告げると、キュゥべえは風に溶けるように、その姿を消した。
 
721 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/26(水) 00:20:27.80 ID:bufL8L6d0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 一方その頃、或る魔女の結界の中。
 
 その結界の主たる魔女は、迫り来る危機に戦慄していた。
 魔女の名は、影の魔女エルザマリア。
 その性質は独善。
 全ての生命のために、惜しみなく祈りを捧げ続け、そしてその姿勢を決して崩さないまま、あらゆる命を平等に死へと誘い、引きずり込む。
 その引きずり込まれた命のなれの果てである使い魔たちが見せる、一挙一足乱れぬ統制の取れた連携と数の暴力は、あらゆる魔女の中でも一歩抜きん出た力を持つ。

 その、はずだった。
 
 だが、その無敵の軍勢は、成す術もなく蹂躙され、引き裂かれ、叩き潰されていた。
 目の前の、ただ一人の騎士によって。
722 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/26(水) 00:28:00.76 ID:bufL8L6d0
 だが、その無敵の軍勢は、成す術もなく蹂躙され、引き裂かれ、叩き潰されていた。
 目の前の、ただ一人の騎士によって。
 
「オメガ様にも困ったものだ。今になって私に、奴への監視を命じられるとは。
 ――フン。だから、初めからエビル如きには無理な大役であると進言したというのに」

 薙刀のような槍を片手に下げ、ベージュ色の装甲を身に纏う騎士――テッカマンは、やれやれと独りごちた。
 その口調は、ここではない誰かへの愚痴であり。
 それはつまり、目の前の魔女と使い魔が全くの脅威足りえないことを暗に物語っていた。
 
『■■■■■――――!』

 音にならない咆哮を上げながら、使い魔たちの第二波がテッカマンへと殺到する。
 
「チッ……。狩られるだけの"残り滓"共如きが。私の気を散らせるな!」

 鬱陶しそうに吐き捨てると、テッカマンの両肩から、数条の閃光が走る。
 小型化された大量のテックランサーであるそれらは、大挙して殺到する使い魔たちをズタズタに引き裂いた。
723 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/26(水) 00:29:37.53 ID:bufL8L6d0
「――――!」

 声にならない悲鳴を上げ、魔女は初めて祈りの姿勢を崩してたじろいだ。
 巨木のような影を使って目の前の脅威を飲み込もうとするも、それもまたランサーによって一刀両断にされる。
 
 そして、もはや眼前まで歩み寄ったテッカマンは、がしりと、魔女の首を鷲掴みにして吊り上げた。
 
 既にそんな感覚は残ってはいないはずだったが、吊り上げられた魔女は、弱弱しくテッカマンの腕を握り、苦鳴を漏らす。

「まったく、面倒なだけの雑魚であったわ。
 貴様、それに見合うだけの苦痛を味わうだけの覚悟は――」

 そこまで言って、テッカマンは酷薄に赤い瞳を細めた。
 
「――いや。これは、使えるやもしれんな……。
 喜ぶがいい、"残り滓"よ。貴様の身体は、この私が有効に活用としてやるとしよう」
 
 くつくつとこみ上げる笑いを漏らしながら、宇宙の騎士は名乗りを上げる。
 
「――この私、完璧なテッカマンたるテッカマンランスがな!」
724 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/26(水) 00:30:09.36 ID:bufL8L6d0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 ある少女は一つの決意を手にし。
 またある少女はひとり現実を背に立ち尽くす。
 そして、傷ついた少女の悔恨は、いともたやすく締観へと変わり行き。
 今、絶望の花の息吹と共に、蒼き騎士が産声を上げる。

「それでいいの? マミちゃん」
「向き合ってください。あなたの中の気持ちと」
「ただの、下衆な勘繰りだ。違うか?」
「……ダメなんだよ、もう」

次回「もう、一緒にはいられない」

仮面の下の涙を拭え。
725 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/10/26(水) 00:32:03.67 ID:bufL8L6d0
以上で、第六話は終了となります。
キュゥべえとの決別を経て、より絆を深め合うDボゥイと魔法少女たち。
ですが、そんな彼らの前には新たな波乱と脅威が迫っていました。

次回もまたお楽しみに!
また、次回は少々の充電期間を経て、11/12ごろの投下となります。
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/26(水) 00:32:16.08 ID:WyjCZhlGo

ランスさんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/26(水) 00:55:19.82 ID:QkiKcgSa0
テッカマセさんktkr
きっと今回も至近距離からボルテッカ撃っちゃうんだろうな…

乙です
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/10/26(水) 04:04:11.27 ID:qbtPRtMyo
フッ、この至近距離からのボルテッカでは一溜りも・・・何ィ!?

乙です
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/10/27(木) 00:45:44.19 ID:GFvR0ZMWo
乙です。

何故だろう、シリアスで熱い話だというのにランスさんが出てきただけで何故か可笑しくなるww
ネタに毒され過ぎだなあ。

さて、ネタはともかく真面目な感想。
舌戦とはいえQBに一矢報いたのはスっとした。
さすがDボゥイだ。
730 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/11/10(木) 09:58:41.52 ID:+sMgvZzU0
まどか映画化も確定しましたね。ブレード&エビルのfigma化も合わせてめでたい限り。

ランスさんは言われるほどテッカマセにはならない…はず。多分。うん。

さて、現在は七話の大まかなプロットも立ってAパート前半の執筆中です。
12日に投下いたしますのでもうしばらくお待ちを。
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 15:19:00.61 ID:CPtj4c/eo
新作は新世界なのかループの一つなのか
732 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/12(土) 21:30:26.68 ID:x+DKJIi40
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

大変ながらくお待たせしました。22:30より投下開始いたします。
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/12(土) 22:09:01.47 ID:0bA3HH0xo
キター!!
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 22:12:07.52 ID:GQytUBHOo
ボォォォオオルウウゥゥゥゥ・・・
735 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/12(土) 22:33:21.81 ID:x+DKJIi40
「魔法少女、魔女、そしてインキュベーター、か。報告では聞いていたものの、未だに信じ難い話ではあったが…」

 低い声が響く。それは、数瞬の後に返る鈍い反響を伴って末尾がぼやけていた。
 昨日、魔法少女たちが特訓に使った体育館。ろくに照明もなく、昼でも薄暗い片隅に、幾つかの濃い影がある。
 まどかを含めた魔法少女たちと、スペースナイツの二人だ。
 
「事実だ、チーフ」
 
 続けて声を上げたのは、Dボゥイだった。
 彼が視線を向ける先、アキが操作する端末の画面の中にいる中年の男――フリーマンは、
 
「うむ。君たちの報告、及び彼女らの証言から総合して考えて、この結論に辿りつかざるを得ないだろう」

 それは、
 
「――インキュベーター、そして魔女は、ラダムに続く人類の脅威だと」
736 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/12(土) 22:46:20.42 ID:x+DKJIi40
「…………」

 脅威。
 その言葉に、マミはピクリと小さく震えて身体を縮こませた。

「……あの」
「何だ? さやか」

 そろそろと手を挙げたさやかに、スペースナイツの面々が顔を向ける。
 
「それって、あたし達魔法少女も敵になるってこと……なんですか?」

 背筋にヒヤリと冷たいものを感じながら、さやかは不安そうに周囲を見回した。
 だが、
 
「心配するな、さやか。俺達は、お前達と戦うつもりなんてない」
「へ?」

 ぱちくりと、さやかは瞬きした。
737 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/12(土) 23:02:01.78 ID:x+DKJIi40
「でも、魔法少女は、魔女に……」
「ああ、そうだな。だが、それは今そうなるというわけじゃない。
 ならば、その時が来るまでに足掻くだけ足掻けば、何かしらの答えが見つかるかもしれないだろう?」

 それに、と置いてアキが続ける。
 
「ラダムのテッカマンというのは、何も最初の……Dボゥイや、エビルのようなものだけじゃないの。
 今現在も、ラダムのテックシステムに囚われ、素体テッカマンとして改造を受けている人たちはこの地球に数千、数万といるわ。
 だから、私達は彼らが完全にラダムへと取り込まれる前に、本元であるラダムを叩いて素体テッカマンとされている人達を助けなければならない」
「その通りだ。君達魔法少女もまた、その論理が当てはまる。
 むしろ、ラダムによる洗脳を受けていない分だけ、脅威性は彼らよりも低いと言えるだろう」
738 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/12(土) 23:15:58.61 ID:x+DKJIi40
 何より、とDボゥイはさやかの頭に手を置くと、しゃがみこんで視線の高さを合わせた。
 
「君達は人の心も、強さも弱さも合わせ持っている『人間』だ。
 ……それを忘れるな」
「……はい!」

 力強く頷くさやかの横、フリーマンが口を開く。

「そして、インキュベーター自身が魔法少女システムを『テックシステムの模倣』と言っている以上、現在こちらが解明できているテックシステムの情報が、何かしらで魔法少女が魔女となることを食い止める鍵となるかもしれない」
「……なんですって?」
739 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/12(土) 23:26:02.53 ID:x+DKJIi40
「本当だ、ほむら。現に、限定的ではあるがテックセットを行う技術も完成している」

 そのまま、Dボゥイは説明を続けた。
 テッカマンダガーとの戦いで自分のクリスタルが破壊されたこと、そして、その過程で生まれた相棒であるサポートロボ、ペガスの存在を、だ。
 
「あの時に得られたデータを用いれば、ソウルジェムがグリーフシードへと変化するメカニズムを突き止めて、それを阻止する事が可能になるかもしれない」

 それはつまり、
 
「魔法少女となったお前達でも、まだ希望はあるってことだ」
740 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/12(土) 23:32:25.01 ID:x+DKJIi40
「…………」

 かすかに震えながら、ほむらは視線を落とす。
 そして彼女は、迷うように、目線だけをちらちらと上目遣いにした。
 その様子は、いつもの凛々しさとは食い違って、ひどく頼りなげにおどおどとしているようにも見えたが――。
 
 その手を、優しく、だが力強く取った者がいた。
 まどかだ。
 
「よかったね、ほむらちゃん」
「――うん」
741 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/12(土) 23:34:24.19 ID:x+DKJIi40
今日はここまでとなります。
怒涛の展開となる七話。
そのプロローグは、これまた希望を感じさせるものとなりました。

さて、キラリと見えたこの希望、この先も輝き続けるのか、はたまた無情にも踏み躙られてしまうのか。
次回もまたお楽しみに!

なお、次回は来週土曜日となる予定です。
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/19(土) 19:39:28.31 ID:2EQST42xo
さて・・・ボルテッカ発射体勢で待機だ
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/19(土) 21:31:58.42 ID:LbnyCCKx0
テックランサーはもう構えた
744 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/19(土) 22:42:35.23 ID:N/Qwt23W0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

お待たせしました。23:30より投下開始いたします
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/19(土) 22:44:25.67 ID:2EQST42xo
くらえ!ボルテッカー!
746 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/19(土) 23:30:30.84 ID:N/Qwt23W0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「で、とりあえずは改めて協力体制構築ってところか。実質は大して変わんねーけどさ」

 翌日、見滝原中学への通学路の途中。
 制服姿のまどかとさやかに並びながら、杏子は空を見上げながら呟いた。

「でも、大人って建前とかもすごく大事なんだってママが言ってたし、しょうがないんじゃないかな?」
「て、ゆーかさ」

 ずい、と顔を乗り出して、さやかが割り込んだ。
 
「あんた、なんでついて来てるわけ?」
「あん? なんだよ、あたしだけ仲間ハズレにしようってか?」
「この時間帯じゃ悪目立ちしすぎだってのよ、あんたの格好は!」
747 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/19(土) 23:42:14.60 ID:N/Qwt23W0
 言われて、杏子は周囲を見回した。
 周りにいる人間――いずれも、自分と同じくらいの年齢の少年少女たちだ――は、好奇を込めた視線をこちらに投げかけてきている。
 周りに林立する人の群れには、みんな白を基調とした見滝原中学の制服を着ていた。
 緑色のパーカーに、腿の半ばで破れたダメージジーンズという出で立ち、そして身にまとう蓮っ葉な雰囲気は、いわゆる山の手の学校でもある見滝原中学の生徒たちにとっては、確かにやたらと浮いているのは否めない。
 
「あ、ははは……まあ、気にすんな」
「ああもう、この際もういいけどさ」
「…………」

 何故か、沈んだ表情のまどかに、二人の視線が集中する。
748 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/20(日) 00:07:42.68 ID:jslDZIOh0
「どうしたの、まどか?」
「……魔女のことについて、考えてたの」
「…………」

 さやかと杏子の二人の眉が、山なりの弓から平坦な直線へと形を変える。
 
「あの時、『魔法少女はいずれ魔女になる』ってことばっかりに気をとられてたけど、それってつまり、みんなが戦って、やっつけた魔女も、元々は魔法少女だった、ってことだよね……」
「まあ……そうだね」
「だったなら、私達……」

 言いかけて、際限なく重苦しくなっていく雰囲気を感じ取り、まどかは慌ててかぶりを振った。
 
「ご、ごめんね。朝から嫌なこと考えさせちゃって……」
「いや、気にするこたぁねーよ。何だかんだで、一度は考えなきゃいけないことだし……」

 よーするにだ、と杏子は前置きして続けた。
749 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/20(日) 00:19:53.55 ID:jslDZIOh0
「確かに、あたしら魔法少女はキュゥべえの奴に色々弄くられて、人間とは言えない身体にされちまった。
 同様に、Dボゥイの奴もラダムに改造されてテッカマンにされちまってる。
 だけど、あいつは自分の事もあたしらも『人間だ』って言ってたし、魔女やラダムやキュゥべえに対してはわかりやすいくらいに人間とみなさず敵愾心バリバリだったろ?
 じゃあ、Dボゥイの奴はどこで人間か否かを見分けてるんだってことになるよな。
 ――そこ、何だと思うよ?」
「――心?」
「そ。つまり、あいつは肉体じゃなくて魂とか精神とか心とか、そういうもんで踏みとどまれるか、で人間か否かを判断してるってことなんだろうさ。
 ……まったく。なんでまたあんなに馬鹿みてーに真っ直ぐ生きられるのやら」
750 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/20(日) 00:36:24.16 ID:jslDZIOh0
 馬鹿って言うんじゃないーなどとまたぎゃいぎゃい口喧嘩を始めた二人を横目にすると、ふとまどかは一つの気配に気づいた。
 振り向くと、そこにいたのは見知った顔だった。
 
「あれ、仁美ちゃん。おはよう」
「あ、鹿目さんに美樹さん。おはようございます。
 それと、ええと、そちらの方は…?」
「あのね。この人は杏子ちゃんって言って、私達のお友達なの。
 ちょっと色々あって、学校には行ってないんだけど……」
「まあ……そうなんですか。
 では、私はこれにて」
751 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/20(日) 00:45:43.13 ID:jslDZIOh0
 そのまま一礼して去っていく仁美だったが、

「……変だね」
「うん、なんだか今日は様子が変だよね、仁美ちゃん」
「そうなのか?」

 訝しげに首を傾げる二人に、杏子が問いかける。
 
「杏子ちゃんがいたなら、またいつもの悪い癖が出そうだなぁーって思ってたんだけど」
「うん、いつもなら『ああっ、巴お姉様だけでなく佐倉さんまで……まさかまさかの四角関係だなんて、もはや私などでは至れぬ高みに昇ってしまったのですねぇーっ!』とか言いそうなもんなのに」
「お前らの友人への信頼値はなんなんんだよ。あとさやか、くねくねしながら語んな気色悪い」

 そして再びガルルルルとガンを飛ばしあう二人から視線を外して、まどかは既に見えなくなりつつある仁美の後姿を見送った。
 
 スペースナイツとの協力。この上なく強力な力を持つテッカマン。そして、魔法少女の真実を知っても、なお砕けることのなった自分達の絆。
 恐れるものなど、既にもう何も無い。
 
 そのはずなのに、何故かまどかには一抹の不安を隠すことができなかったのだ。
752 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/20(日) 00:46:45.60 ID:jslDZIOh0
今日はここまでとなります。

次回もまたお楽しみに!
なお、次回は再び来週土曜となります。
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 14:40:51.39 ID:GZMJ/MwXo
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 03:01:48.85 ID:QPQiL77o0
見つけたぞ良ブレードSSを・・・このスレには守るに値するものがあるのだ!
755 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/11/26(土) 21:14:07.35 ID:KS5fhqk00
すいません、ちょっと今日は色々と用事が詰めていたため、明日に投下致します
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/26(土) 21:24:01.65 ID:am+h3pj4o
すまないと思うなら素直にボルテッカーを食らってもらおうか!
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/26(土) 21:33:02.08 ID:bVLK7g8T0
この至近距離からのボルテッカではひとたまりも…何ぃ!?
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/27(日) 08:49:43.20 ID:/lnFjf0Yo
よしピカ○ュウ!かわしてボルテッカだ!



……テッカニンも使えるべきだと思うんだ
759 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/27(日) 20:51:40.35 ID:F10yVI5B0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /


>>758
だが今育ててるのはガッサとモルフォン…!

まあそれはともかく、22:00に投下開始いたします
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/27(日) 20:56:44.61 ID:7/D04lcBo
よし!ボルテッカを使う!
761 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/27(日) 22:10:00.60 ID:F10yVI5B0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 一方その頃、マミは他の魔法少女たちとは別に、ただ一人で登校への道を歩んでいた。
 なぜ一人で登校しているのかというと、それは考えたいことがあったからだ。
 アスファルトの道を踏みしめながら、マミは一つのことを頭に思い描く。
 
 それは昨夜、アキと共に帰宅の途に着いていた時のことだった。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「――で、彼の今までの経緯はこんな感じね」
「………………」

 暗闇の中を街灯が白く照らす歩道を、アキとマミは並んで歩いていた。
 あの話し合いの後、Dボゥイとアキがまどか達を家に送り届ける時に、マミは予めアキに頼んでこの組み合わせになるようにしてもらったのだ。
 それには無論、理由があった。
762 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/27(日) 22:25:24.82 ID:F10yVI5B0
(――あの人のことが、知りたい)

 あの歩道橋での事件から、マミはずっとそう欲していた。
 彼が、どんな道を歩んで、どういう風に強くなったのか。
 だが、それは以前のように「彼のようになりたいから」ではない。
 
 自分の進む道を自分で決めるために。
 そのためには、触れて、感じられるものすべてを理解したい。
 マミは、そう思ったのだ。
 
 そして、彼女から聞かせてもらった彼――Dボゥイの過去。
 それは、想像を絶する壮絶なものだった。
 
763 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/27(日) 22:45:57.82 ID:F10yVI5B0
 同時に、もう一人、新たな人物についても。
 その人物の名は相羽ミユキ。
 Dボゥイの妹であり、テッカマンブレードに続いて二人目の、ラダムの洗脳から逃れられたテッカマン、テッカマンレイピア。
 
 そんな彼女との再会と――永遠の別離をも。
764 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/27(日) 23:19:58.97 ID:F10yVI5B0
「…………ッ」

 胸を突き刺されたような幻痛に唇を噛む。
 自分の決意に背は向けないものの、それでも容赦なく「知るべきではなかった」という後悔はマミの心を苛んだ。
 
「大丈夫? マミちゃん」
「……はい」

 心配そうにこちらの表情を覗き込んでくるアキに、微かに息を荒らげながらも、努めて平静を保ちながら、マミは答える。
 すると、いい? と前置きしながらアキはこちらに語りかけてきた

「マミちゃん。たとえ、目の前にあるのがどんな困難だったとしても、その問題が何であって、ちゃんと何をすべきか判断できたなら、後は解決するか諦めるかの二つしかないわ。
 それを殊更に深刻ぶったりして勿体つけるのは、ただ浸って酔いたいだけ人のすることよ。
 いい? 物事を見くびるのは論外だけど、深刻に考えすぎても駄目。
 自分が今までに培ってきたスタイルを見失わずに、けれど過信もせずに臨めば、解決するために前に進むにしろ、諦めて逃げてしまうにしろ、必ず道は開けるわ。
 そして、どちらの道を選んだとしても、それを選んだことに後悔こそすれ、誇りを失わないようにしなさい。そうじゃないと、あなた自身を貶めることになってしまうから」
 
765 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/27(日) 23:56:47.24 ID:F10yVI5B0
「……私、ずっと不安だったんです。
 もしかしたら、私をあの人が助けてくれたのって、ただ『妹さんと似ていたから』ってだけだったのかな、って」
「大丈夫よ。彼は、そんな理由だけで誰かを代わりにしようすることを自分に許さないから」

 だから、とでも言うようにアキは微笑んだ。
 
「自身を持ちなさい、マミちゃん」
766 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/27(日) 23:58:00.40 ID:F10yVI5B0
一旦今日はここまでとなります。
次回はマミ&アキの後編となる予定。

次回もまたお楽しみに!
また、次回は火曜日に投下いたします。
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/28(月) 00:24:20.91 ID:8W1fneZio
おつかれ様どす。


ここの影響があった訳じゃないと思うけどまたスパロボJ始めました。
初登場時の守る必要ないNPCブレードさんを何故か守ってしまう……
768 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/29(火) 22:55:13.70 ID:utH7t2n40
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

お待たせしました。23:30より投下いたします
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/29(火) 23:00:42.57 ID:jEqDGw410
では迎撃します
770 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/29(火) 23:34:59.55 ID:utH7t2n40
 まあ、そこらは私も人の事言えないのだけどね、と肩にかかった髪を払いながら、アキは締めくくる。
 それを聞き終えると、マミは真っ暗な空を見上げた。
 薄曇で、星は見えず、月の光だけがおぼろげに透けて見える。そんな夜空だ。
 
「…………」

 静かに目を閉じる。
 おぼろげにしか行く道は見えず、全てが霞を掴むかのように不確かであやふや。
 まるで、自分の心のようだ。
 けれど、いつかは星空になるのだと、心のどこかで信じてもいる。
 
 そして、ゆっくりとマミは目を開けた。
 目を閉じていたのはたった数秒だけのはずなのに、月明かりはさっきより少しだけ明るく、そして潤んで見えた。
771 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/30(水) 00:00:16.41 ID:GMA7myQT0
「アキさん」
「ん、何?」

 マミは、瞳に決意を込め半ば睨むようにアキを見つめた。
 だけど、それでもアキは変わらず柔和な笑顔を返してくる。
 
 ……ひょっとすると、今自分が考えていることも見透かされてるのかもしれないけれど。
 
「……私、Dボゥイさんの事、好きです」
772 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/30(水) 00:41:13.11 ID:GMA7myQT0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 対するアキは、表情を少しだけ強張らせた。
 だが、それが怒りから来るものではないことは、心配を滲ませた声音が証明している。

「……それでいいの? マミちゃん」
「はい」

 その視線を真正面から受け止めて、マミは頷いた。
 
 何故、マミがDボゥイではなく、アキに自分の思いを伝えたのか。
 それは、知ってしまったからだ。
 Dボゥイが立ち向かうラダムの強大さと、同じテッカマンである己の身の危うさを。
 だが、弱者を決して見捨てない彼に自分の気持ちを伝えれば、どんな結果であれ、きっと彼はその思いを守ることにも全力を尽くすだろう。
 ……それは、自分が彼の重荷となってしまうということだ。
 
 だから、マミはDボゥイ本人ではなく、アキにその思いを打ち明けたのだった。
 
773 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/30(水) 01:13:27.65 ID:GMA7myQT0
「……それに、きっとあの人は私の弱さを支えてくれるけど、あの人の弱さを私には支えさせてくれそうにないですから」
「そっか」

 アキは、こちらを見つめてくるマミの顔から視線を逸らすと、なるたけその表情を見ないようにしながら、そっと抱きしめた。
 胸の中でこちらを見上げてくる気配を感じるが、それすらアキは無視して、マミの頭を腕の中に埋めさせる。
 
 声をかけることも何もなく。ただ、大丈夫だ、と身体で示した。
 そうしていること数秒、ゆっくりと、本当にゆっくりと、マミはこちらに体重を預けて、
 
「――うあ」

 あ、とも、え、ともつかない声を喉から発して、嗚咽もなく、身体を震わせることもなく、マミは泣いた。
 だが、それでも柔らかく、アキは何も言わずにマミの頭を撫で続けた。
 
 何度も、何度も。
774 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/11/30(水) 01:14:19.36 ID:GMA7myQT0
今日はここまでとなります。

さて、次回は過去回想から抜けて、まどか達のパートです。
様子のおかしかった仁美ですが、果たして…?

次回もまたお楽しみに!

なお、次回は土曜日ごろに投下いたします。
775 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/12/06(火) 22:51:43.65 ID:IzgEgxG00
お待たせしましてすみません。

木曜日に投下いたしますのでもうしばらくお待ちください
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟県) [sage]:2011/12/07(水) 13:08:42.96 ID:lw0wKKwco
待ってるからな
777 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/08(木) 21:24:56.59 ID:VXN/JNMA0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /


お待たせしました。22:30より投下開始いたします
778 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 22:15:25.03 ID:yO4QWRHCo
お?来たか
779 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/08(木) 22:31:50.76 ID:VXN/JNMA0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 そして、杏子もまたぼんやりと空を見ていた。
 登校するまどか達と別れたのは数時間前。太陽は南中近くに上り、空気はじりじりと初夏の暑さを伝えてくる。だが湿度は低く、いわゆるカラッとした陽気の中だ。
 眼下を蟻のように往復する車の群れが叫ぶ騒音をどこか遠くに感じながら、杏子はゆっくりと目を閉じる。
 
(変わらねえなぁ。一年前に、マミの奴と別れてから全然変わってねえや)

 一年前。
 師事していた魔法少女のマミと袂を別った日。
 ――そして、自分が孤独となったあの日。
 
 ちくり、と。
 鼓動のように脈打って胸を刺す幻痛を、杏子は無視した。
780 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/08(木) 22:39:32.67 ID:VXN/JNMA0
 ……そう、あの日だ。
 
 いつものように家に帰って、返事がないのを訝しんだ自分が最初に見つけた、もう動かない母と妹。
 冗談のように広がる赤に浸かるそれらは、どこまでも現実感に欠けていて。
 それは、どこか水遊びすら連想させた。
 
 そして。
 いつも家族みんなで団欒していた、食堂のテーブル。
 その上に、見慣れないオブジェがあった。
 風に揺れる風鈴かキーホルダーみたいに。
 かつて、自分が憧れていた男は。
 
 まるで何かに謝るような顔で、くるり、くるり。
781 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/08(木) 22:54:45.09 ID:VXN/JNMA0
「――――ッ!!」

 全身が引き攣るように脈打ち、口の中へと逆流した胃液を、吐き出す寸前で杏子は飲み込んだ。
 わずかに喉が焼ける感触と、背中や関節が軋むような痛みに、ゴホゴホと咳き込む。
 犬のように舌を出し、舌先から唾液の雫が二滴、三滴。
 それで、発作めいた軋みはやっと治まってくれた。
 
「はっ、はっ、はっ――――」

 激しく乱れた息を抑えながら、杏子は身体をぎゅっと丸め、縮める。
 数分もして、それはやっとゆっくりとした呼吸へと変わり行き。
782 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/08(木) 23:03:06.32 ID:VXN/JNMA0
「――――はは」

 そして、杏子は力無く笑った。
 それは嘲笑であったのか、それとも憐憫であったのか、自分にもよくわからない。
 ただ、過去に思いを馳せ、忘れていた、否、思い出さないように目を逸らし続けていた哀しみを反芻する。
 忘れようとして、ついに忘れることはできなかった、苦味を伴う塩辛さ。

 気づいてしまえばなんてことはない。父への憧れ、その理想への誇り、そして家族の絆。
 自分が大切に守ってきて、だが守りきれなかったもの。
 それら全てが、雪のように溶け崩れて消えてしまう程度の脆いものでしかないのだと、自分に対して証明したかったのだ。
 汚し、貶めて、それが守ろうとするに値しなかったのだと、自分に言い聞かせたかったのだ。
 そうすれば、少しは楽になれるかもしれないから。この胸を引き裂きつづける耐え切れない痛みが、多少なりとも和らごうと思ったのだ。
 
 ……痛みの原因となるものを、貶める事で。
783 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/08(木) 23:16:18.42 ID:VXN/JNMA0
 だが。
 杏子は知ってしまった。
 耐え切れないはずの痛みと苦しみを余すことなくその身体に受けながら、それでも折れる事無く立ち向かう馬鹿がいることを、杏子は知ってしまった。

 ――Dボゥイ。
 
 マミや自分と同じく、ラダムという理不尽に家族を奪われ。
 そして、人間の敵となって牙を剥いた、かつて家族だったモノを、己の手で打ち滅ぼさなければならない。
 だから、杏子は彼を受け入れることができなかったのだ。
 自分が耐え切れなかったはずの痛みを受けながら、未だ癒えずに血を流し続けている心の傷を自ら抉り続ける彼が見ていられなかったから。
 だけど、結局、あいつを曲げることは自分にはできなかった。
 幾重もの哀しみで打たれ、鍛えられた、鋼の意志を持つあいつを、自分は変えることができなかった。
 
 そして。
 どうしようもなく、杏子は自覚してしまった。
 なぜ、頑ななまでにDボゥイを拒絶するのか。
 なぜ、あの強さに背筋が凍るような脆さを見出してしまうのか。
 
「――あいつ、父さんにそっくりなんだ」
784 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/08(木) 23:17:19.82 ID:VXN/JNMA0
今日はここまでとなります。
ベテラン組の回想も終わったところで、次はついにさやかちゃん登場です。
次回もまたお楽しみに!

なお、次回は週末〜火曜日あたりに投下いたします。
785 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/10(土) 11:39:37.02 ID:98Bw1JHAO
そろそろかなぁ、まだかなぁ…
786 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 11:42:35.00 ID:cRwAQ7qSO
>>1が来るまで大人しく待ってろ
787 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 13:37:02.22 ID:2h8y0HAX0
まってるぜー
788 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 14:40:28.20 ID:5Y0KDFmIO
乙乙
789 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 22:55:20.24 ID:C4LJVx04o
乙です。
相変わらずこう、読んでるだけで胸の奥がきゅぅうっとなるような展開ですな。
長らく視てないブレードの本編が頭ん中で蘇るわ。(あの頃のあかほりは神懸かってたなぁ)
790 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/13(火) 22:03:58.20 ID:mx1A5F8S0
ホライゾンの新刊を読み込んでたら色々と創作意欲がッ。
23:00より続きの投下いきますよー
791 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 22:09:33.21 ID:wDRiwsSw0
ktkr
792 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 22:11:43.99 ID:b/aqURwzo
お、来たか
793 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/13(火) 23:00:46.66 ID:mx1A5F8S0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

はじまるよ!
794 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/13(火) 23:01:19.68 ID:mx1A5F8S0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 そして、その数時間後。
 気温は暑さから温さを感じさせる穏やかなものへと変わり、ちょうど昼から夕方へと移り行く時間帯。
 人の群れは下校する生徒たちを主流とし、その足取りは朝と比べるとのんびりとして、思い思いのペースだ。
 その流れの中に、まどかとほむらの姿もあった。
 
「美樹さやかはどうしたのかしら? まどか」
「うん、仁美ちゃんがお話したいことがあるって言うから、そっちに行ってたよ」
「……そう」

 美樹さやかと、志筑仁美の会話。その内容は、すでにほむらにも見当がついている。
795 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/13(火) 23:06:43.85 ID:mx1A5F8S0
(……上条恭介ね)

 少女二人が恋をにその心を燃やす相手。
 間違いなく、仁美がさやかを呼び出したのはその恋についてだろう。

 ――そしてそれが、美樹さやかが魔法少女から魔女になる遠因となるであろうことも。
 
 だが、ほむらはそれを阻止しようとするつもりはなかった。
 必要がないからだ。
 
 たとえ、あらゆる手段で仁美を止めたところで、それは必ず歪みをもたらす。
 そして、その歪みに美樹さやかという少女の心は耐え切れないだろう。如何なる道筋を辿ったとしても、魔法少女という矛盾はやがて彼女の心を食い尽くす。
 もし、止められるタイミングがあったのならば、それは彼女が魔法少女になろうとするあの時しかなかった――と、ほむらはそう考える。
796 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/13(火) 23:13:41.60 ID:mx1A5F8S0
 つまり――。
 美樹さやかは、既に行き詰っているのだ。
 
 徒労感と共に、脱力しながらほむらはため息をつく。
 
 そんなほむらの気持ちを嘲笑うかのように――。

「――あ、さやかちゃん?」
「――まどか? ……それに、転校生?」

 トボトボと俯き加減に歩く、美樹さやかがそこにいた。

(…………)

 陰鬱に心の中でうめきながら、ほむらはまどかとさやかを交互に見る。

 
 だが。
 ――美樹さやかは行き詰っている。
 なぜ、その結論を導き出そうとする度に、知らず心が軋むのか。
 その理由を、ほむらはまだ理解していなかった。
797 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/13(火) 23:22:57.20 ID:mx1A5F8S0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 日が山の間にその身を半ばまで浸からせている。
 だんだんと先細っていく温もりは、夜風へと変わりつつある風と相まって余計に寒さを助長させた。
 
 まどか、さやか、ほむらの三人がいるのは、先ほどの邂逅の現場から数百メートル程離れた陸橋の下だ。
 さやかの様子にただならぬものを敏感に感じ取ったまどかは、さやかと共にこの場所まで移ってきたのだ。

「お邪魔かしら?」
 
 とほむらが聞いても、ううん、とさやかが否定したのだけは、意外に感じたが。
798 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/13(火) 23:34:05.79 ID:mx1A5F8S0
「ねえ、さやかちゃん。何があったの?」
「……仁美が、さ。恭介のこと、好きなんだって言ってきてさ」
「…………」

 やはりか。

「三日後の放課後に告白するから、どうするのか自分で決めてください、って」
「さやかちゃん……」
「あたし、さ。その時ちょっとだけ、思っちゃったんだ。
 ……あの時、仁美を助けなければよかったのかなって」
 
 は、と震えながら息をつきながら、さやかはぎゅっと己の身体を抱きしめた。
 それは、恐れをかき消そうとするのと同時に、自分が何か恐ろしいものへと変わってしまいそうになるのを必死で押しとどめようとしているようにも見えた。
799 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/13(火) 23:47:09.08 ID:mx1A5F8S0
「参ったなあ……」

 はは、と空虚に笑いながら、さやかは続ける。
 
「ほんとに、参ったよ……」
「なぁに似合わねえツラしてんだよ、ボンクラ」
「――え?」
 
 聞きなれた声は、横から聞こえた。
 驚いて振り向いた先、滲み出た涙で歪んだ視界の中にいるのは、
 
「きょう、こ――に、マミさん?」
800 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2011/12/13(火) 23:48:43.16 ID:mx1A5F8S0
今日はここまでとなります。
ここからしばらく、さやかちゃんのターン!となります。
次回もまたお楽しみに!

次の投下日は木曜〜週末を予定しております。
801 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 01:50:13.84 ID:h2VzFqxp0
乙ー
タカヤ坊とQBの感情の件でイバリューダーとオーガンのやり取り思い出した
勇者王のJとZマスター最終戦のやり取りも重なった
802 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 03:24:10.25 ID:IEZYjUfno
Wは名作だな
803 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 03:11:11.85 ID:BL72X1SFo
マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
804 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 22:13:52.42 ID:qLYpbmwX0
すいません、風邪で寝込んでいました。
木曜〜週末に投下いたします
805 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 09:00:46.01 ID:pAbxe7ZSO
体大丈夫かしら…
806 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 19:10:55.54 ID:0Z3Gh0yHo
ゆっくりでいいのでご自愛下さい。
今年は寒いので無理なさらないよう。
807 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/24(土) 22:36:53.56 ID:RwIXcvOl0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

ちょっぴり短めですが、22:45より投下開始いたします
808 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/24(土) 22:46:23.81 ID:RwIXcvOl0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「おうよ」

 ひらひらと手を振りながら、杏子は口調だけは軽く言葉を返した。

「な、何よ。立ち聞きしてたわけ?」
「ごめんなさい、美樹さん。佐倉さんと一緒に話してたら、ちょうどあなた達を見かけたものだから」
「あ、いや。別にそんな」
「おいおいずいぶんと対応に差がねえか?」

 皮肉げに口を笑みの形にすると、杏子は片目だけを開けてさやかの表情を窺う。
 先ほどよりはマシになったものの、それでもその顔には暗いものが宿ったままだ。
 それは、崩れながらゆっくりと傾いでいく塔を連想させた。
809 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/24(土) 22:50:11.34 ID:RwIXcvOl0
……惚れた男、ねえ)

 さっきまで聞こえてきていた断片的な単語や彼女の表情から、さやかに一体何があったのか、というのは大体察しがつく。
 人間であることをやめてしまい、魔法少女となった自分では、彼の隣にいるには相応しくない、と、そう思ってしまっているのだろう。
 ……だが、己の恋心をそんな建前で押さえつけられるはずもなく、それはどう足掻いても心に大きな傷を残す。そしてそれは、癒えることなく膿んでいくだけという、呪いにも似た傷だ。
 だからこそ、彼女は逡巡しているのだ。自分がどうするべきなのかを。
 だけど、問わなければならない。彼女が何をすべきなのかを。
810 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/24(土) 22:56:32.65 ID:RwIXcvOl0
「で、さやか。お前、どうしたいんだ?」
「どうしたい……って」
「諦めるにしても真正面からタイマン張るにしてもさ。どっちにするか決めねえと。
 ……何が最悪かって、白紙のまんまで時間切れが一番最悪なのは考えるまでもねえ、ってのは、お前の頭でもわかってるだろ?」

 その言葉に、さやかは顔を沈めて俯いた。
 そして、その沈みかけていた首を、
 
「で」
「でもじゃねえ。――いいか?」

 目の前の赤毛の少女は、襟首を掴んで強引に引き上げた。

(何を――)

 わからない。
 どうして、コイツは何をいきなり怒り出しているのか。
811 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/24(土) 23:01:31.80 ID:RwIXcvOl0
「いいかあ?」

 荒らげた杏子の叫びが、さやかの身を震わせた。

「お前、何もかも全部に背中向けて逃げるのかよ!?」
「――――」
「お前、魔法少女になったんだろ?
 ヤバい目に会うってわかってても、それでもやりたい事があったから、それでも汚したくねえモノがあったから、あの白饅頭に頭下げたんだろ!?
 なら――」

 一息を吸い、杏子は続ける。
 
「その願いを、こんなつまんねえことに浸って台無しにするなよ!」
812 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/24(土) 23:07:22.78 ID:RwIXcvOl0
 身体を震わせたままで、さやかは心の中に言葉を作る。
 
(あたしは……)

 どうしたいんだろう?
 わからない。
 大して理解しないまま、なんとなくでヘラヘラしていて、いざって時には嘆いてばかりで、ずっと自分勝手で。
 だけど、本当にあたしがやりたい事は――。

「あたしは……!」

 しゃっくりをするように口を開き、さやかは何かを言おうとした。
 だが、その動きに呼応するように、彼女の身体を受け止めた者がいた。
 
「――美樹さん」
 
 優しく、そしてふわふわとしてやわらかな感触。
813 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/24(土) 23:11:42.03 ID:RwIXcvOl0
「……マミさん?」
「さっきのように浸ってるのはもっと駄目だけど、焦って結論を出そうとするのもよくないわ。
 自分の決断が、どんな意味を持つのか。自分の目の前にある状況が、どんなものなのか。
 それを見失っては駄目よ」
「…………」

 腕の中で震えていたさやかが落ち着いていくのを感じ取り、マミは目を弓にして微笑んだ。
 下ろした視界の中、心細げにこちらを見上げてくる彼女の顔が見える。
 その表情はまだ自信がなく、おどおどしたものではあるが、
 
(……迷い、戸惑っているってことは、まだ諦めてはいないってことよね)

 なぜか、マミにはその事がとても嬉しく感じられた。
814 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/24(土) 23:17:04.38 ID:RwIXcvOl0
「ねえ、美樹さん。
 志筑さんは、『自分の気持ちと向き合ってください』って言ったのよね?」
「……はい」
「じゃあ、どうして彼女は『諦めてください』って言わなかったのかしら?」
「それは……」

 熱を持った頭を働かせて、さやかは考えを巡らせる。
 その様子に、マミはくすり、と嫌味のない笑みを漏らしながら続けた。
 
「きっとね。彼女もまた、迷っていたんじゃないかしら。
 今のあなたと同じ悩みを持って、ね」
「――え?」

 呆然とさやかがこちらを見返してくる。
815 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/24(土) 23:21:06.13 ID:RwIXcvOl0
「――仁美が?」
「ええ。だって、あなたが魔法少女になってから初めての魔女退治で、魔女の刻印を受けていたのはその志筑さんでしょう?」

 思い返す。
 確かに、あの時に仁美は魔女の刻印を受けていた。
 
「魔女はね。害意や憎しみを持つ人間でなく、悩み、苦しみ、それらに対して心が疲れ果てて弱ってしまった人間を狙うの。
 もし、あの子が単に恋人が欲しいだけの人だったなら、それ程までに悩んだりなんてするかしら?」

 揺れていたさやかの瞳が、だんだんと波紋を失っていく。その様子を見届けながら、
 
(……届いて)

 心中で願う。
 一人ぼっちなまま、恐れを覆い隠していた自分。
 これは、それに別れを告げた自分の最初の一歩だ。
 魔法少女として華々しく戦うわけじゃないけど、それでも人間として誰かを助けられるということの。
816 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/24(土) 23:35:48.18 ID:RwIXcvOl0

「ねえ、美樹さん。
 志筑さんは、きっとこう言いたかったんじゃないかしら?
 
『どちらが選ばれても、どちらが選ばれなくても、そのために私はあなたを恨みませんし、見下したりもしません』

 って。
 この上なく不器用ではあるけど、自分の恋とあなたと友達のままでいたいって思いを両立させる、あの子なりの答えなんだと思うの」
 
 だから、

「大丈夫。萎縮なんてせずに、堂々と真正面から受けて立てばいいのよ。
 もし、その後であなたが泣きたくなったなら――」
 
 口の端から、笑みの息が漏れる。
 
「うちにいらっしゃい。みんなで一緒にお茶して、ケーキを食べて、今までの自分に『ありがとう』って言ってさよならして。
 ――また、次のあなたを続けにいきましょう?」
817 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/24(土) 23:38:16.72 ID:RwIXcvOl0
今日はここまでとなります。
Dボゥイたちとの邂逅により、魔法少女たちの心も確実に変わり行きつつあったり。
さて、まださやかちゃんのターンは続きます。
次回もまたお楽しみに!

そして次回は…少々年末故に不確かですが、一月の第一週までには投下できるかと思います。
818 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 06:46:19.64 ID:5kw/8r1Yo
乙テッカァァァ!

知らず知らず魔法少女達がDボゥイに救われるているように、
Dボゥイも救われて欲しいな…
819 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 18:31:10.37 ID:d3BOh+zl0
乙です。

自分の願いや過去から目を逸らしてきた杏子が、Dボゥイとの出会いを経て
さやかに「自分の願い≒気持ちに背を向けるな」と言うとは…何というか、感慨深い。
マミさんはさやかを励ましつつ、同時に仁美のこともフォローしてるね。
そういえば、杏子は第六話でDボゥイを殴った後、さやかに自分の過去を話したのかな?

寒い日が続きそうなので、どうか健康第一で。
820 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2011/12/27(火) 19:55:37.18 ID:M5VLzoFj0
遅まきながら。

>>818
「救う」ではなく、「変わってゆく切欠になる」という風になるように心がけて書いてます。
あくまで、魔法少女たち各々の心構えや考え方を変えられたのは彼女自身である、という感じで。
そしてDボゥイについては…乞うご期待ということでww

>>819
あ、原作と丸被りする部分は省略していたのでわかりにくかったですが、あのときに杏子は自分の過去をさやかに話してます。わかりにくくて申し訳ない。
821 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/01/09(月) 17:17:04.57 ID:dRT8cUZd0
すいません、バイト先決まったりなんだったりで時間がうまく確保できないでいます。
今週末には何とか投下いたしますので、しばらくお待ちください。
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2012/01/09(月) 23:32:05.80 ID:XNWO/1L9o
日々の生活を優先して無理せずやって下さい。
待ってるよ〜
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/01/18(水) 01:22:12.45 ID:vKFYl+EBo
マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
824 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/01/18(水) 19:11:14.73 ID:r+8EmQfA0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /


お待たせしました。21:00ごろより投下開始いたします
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/18(水) 19:16:31.13 ID:luZicT1lo
来た!

ってかいつも
>マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
の後に予告が来てる気がするのは俺だけか?
826 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/01/18(水) 21:00:25.84 ID:r+8EmQfA0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 翌日の朝。
 見滝原中学のとある教室――まどか達三人が通う教室は、朝のHRを終えてにわかに活気付いていた。
 
 賑やか好きな年頃の少年少女たちにおいてはそんなことは大して珍しくもないのだろうが、今日に限ってはその他に一つ原因があるのだろう。
 というのも、
 
「なあ上条。お前もう戻ってきても大丈夫なのか?」
「うん。完全に本調子ってわけじゃないけど、家でずっと引きこもっていても身体がなまるだけだから」

 上条恭介が、数ヶ月ぶりに学校に戻ってきたのだから。
 
827 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/01/18(水) 21:32:08.08 ID:r+8EmQfA0
「…………」
 
 人だかりの向こう側。
 そこで男友達と談笑する恭介を、さやかは頬杖をつきながら眺めていた。
 あの時に見た絶望の表情も今となっては嘘のようで、穏やかなその様子は事故に遭う前とほとんど変わらない。
 ……いや。ちょっと痩せたかも。
 
 ふう、と息をついて天井を見上げた。
 思い出すのは、夕べに無い頭を総動員して考えた「告白」までの段取りだ。
 ………ええっと。
 
 とりあえずまずは声をかけてから屋上にでも呼び出して、そして時間にはきっちり三十分前にはご到着で待機。
 その後それっぽい事言って、微笑んで抱き合ってみたりもして。あとはお互いがどこまで脳内ブレーキかかるかが肝心なわけだけど、ボーダーラインってどこらへんだっけ? ここ? そこ? そ、それともあの辺かな? えええっ、そこまでいけるの? ええ? えええー?
828 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/01/18(水) 21:41:35.91 ID:r+8EmQfA0
「……さやかちゃん?」
「へ?」

 既に計画の確認から取らぬ狸のナントヤラへとトリップしていたさやかは、横から来た親友の声で我に返った。
 
「なんか、考え事してたと思ったらよだれ垂らしながらニヤニヤしちゃったりしてたから、声かけたんだけど……大丈夫?」
「え、あ、ああ、うん。大丈夫大丈夫」

 慌てて唇の端を袖で拭いながら、さやかはこちらを覗きこむまどかにコクコクと頷く。
 
(……いかん)

 これじゃ緊張してるのか気が緩んでるのかわかりゃしない。
829 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/01/18(水) 21:56:02.88 ID:r+8EmQfA0
「それより、もうそろそろ声かけた方がいいんじゃないかな? ホームルームもうすぐ終わっちゃうよ」

 え、嘘。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 そして。

「……ん?」

 ふと横から感じた気配に、恭介は振り返った。
 巡らせた視線の先にいるのは、
 
「どうしたの、さやか?」

 傍らに立つさやかに、そういえば病院にいた頃はいつもこんな距離だったなあ、と笑みを混じらせながら、恭介は問いかける。
 だが、さやかの様子はこれまでとは違っていた。
 顔は額まで温度計のように上気し、ときおりかくかくと震える様は洗濯機の脱水モードのようだ。
 
「えーと……」

 いつものような彼女のおふざけともなんだか違う雰囲気に、戸惑いながら恭介は言いよどむ。
830 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/01/18(水) 22:15:05.74 ID:r+8EmQfA0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 対するさやかは、心のダイナモをギュンギュンと回していた。

 ……ええと。この後するのは何だったか。確か計画ではまず告白して――って正にそのための計画なんでしょうがコレー!
 馬鹿じゃないの!? てゆーか馬鹿じゃないの!? 順序ってもんを知りなさいあたし! ――ハイわかりましたごめんなさぁーい!
 なんかだんだんワケわからなくなってきてるけどここは一つ落ち着くのよあたし。だからまずは屋上に連れて行って――いや違う。そもそもホームルームもう終わるんだから今から行ったって先生に怒られるだけじゃないのさ。
 ええと、まずは――ええっとお――。
 
「あの、さやか? 何か言いたいことでもあるの?」

 それだあー!
 それよ恭介。さすが恭介。まずは言葉よね。コミュニケーションの基本は会話。
 つまりアレよ。現状においては恭介と屋上で会う約束すりゃいいわけよ。うん、完璧。こういうので完璧とか言うのってちょっと虚しいけど完璧は完璧。
 だから、ここはまずちゃんと話をしないと――。
 
 頷いたさやかは、すぅ、と息を吸い込んで深呼吸すると――。
 
「今日、さ。放課後に、屋上でちょっと話があるの。いいかな?」
831 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/01/18(水) 22:20:18.86 ID:r+8EmQfA0
今日は以上となります。
次回は明日〜明後日に投下予定。学校パート後半となります。
次回もまたお楽しみに!
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/01/27(金) 21:26:15.54 ID:7kKw5uqu0
続きまだかな・・・
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/01/28(土) 15:58:16.52 ID:PEjTf90u0
ひ、引継ぎとか光ネクストへの工事とかプロバイダ関連の諸々とかどうにか終わった…

お待たせしました、21:00より投下開始いたします。
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/01/28(土) 19:06:40.99 ID:M5es0hOIO
待っていたぞブレード!
835 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/01/28(土) 21:07:02.04 ID:PEjTf90u0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

はじまるよ!
836 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/01/28(土) 21:10:48.04 ID:PEjTf90u0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

(さやかちゃん、大丈夫かな……)

 二つほど席を隔てた向こうで、一世一代の告白の約束をとりつける親友を、まどかは心配そうに見ていた。
 時折、さやかが配線間違えたように硬直したり、電源が落ちたかのように痙攣して固まったりするものの、まどかの目には、おおむね恙無く約束をとりつけているように見える。多分。きっと。おそらく。
 
「――心配ですの?」
837 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/01/28(土) 21:34:45.41 ID:PEjTf90u0
「あ――仁美ちゃん」
「ええ、御機嫌よう。さやかさんの方も、やっと自分で一歩踏み出せたようですわね」
 
 言って視線をずらす仁美につられて、まどかもまた同じ方向を見ると、酸欠にでもなったかのようにふらふらと覚束ない歩調で、自分の席へと戻るさやかが見えた。
 
「……あの。仁美ちゃん」
「ええ、なんでしょうか。まどかさん」
「……よかったの? これで」

 まどかの言葉に、ぴくりと仁美は反応する。
838 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/01/28(土) 21:42:54.01 ID:PEjTf90u0
 だが、それ以上の反応は見せずに、ただ上品に微笑むと、
 
「確かに、私が上条君とお付き合いしたい、というだけだったならこんな事をする必要なんてありませんわね」
「だったら……」
「ですけど、そのためにさやかさんに消えることの無い後悔を植えつけてしまうのは、嫌なんですの。
 ――だからと言って、上条君を諦めるなんてことはしたくない。と、そう思ったらこういう形が一番いいと考えたのですわ」

 だから、と彼女は続ける。
 
「このやり方も、言ってみれば私のわがままなんですのよ?」
839 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/01/28(土) 21:46:17.54 ID:PEjTf90u0
「―――」

 息が詰まる。
 高揚して胸から込み上げ、漏れかけたそれを、
 
「――そっか」

 まどかは、なるたけ優しく飲み込んだ。
 
「ありがとう、仁美ちゃん」
「だから、ただのわがままですのよ?」
「うん、それでもいいから」

 頷いて、まどかもまた微笑んだ。
840 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/01/28(土) 21:53:13.82 ID:PEjTf90u0
今日はここまでとなります。
次回は、戦闘主体の第七話後半パート。
まったりしつつの溜めを経て一気に加速するストーリーをお楽しみに!

次回は明日投下します
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/01/28(土) 22:41:45.34 ID:LH5hU2Kdo
おっつー!

そろそろランスさん登場か……全裸待機
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/01/29(日) 20:52:15.28 ID:JrIUUMRG0
すいません、体調不良のため投下を明日に延期します
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/01/29(日) 21:29:46.43 ID:DwGIeASzo
私は一向に構わん!
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/01/31(火) 02:06:22.03 ID:VuI2VG6Co
おういえーす
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/02/03(金) 09:25:35.07 ID:9jnC9m6D0
長らくお待たせしました。
本日21:00より投下開始いたします
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/02/03(金) 13:10:07.29 ID:NrGxCnS3o
了承待機
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/02/03(金) 16:16:24.63 ID:H5R2h/yro
待つしかないようだな!
848 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/02/03(金) 21:08:45.19 ID:9jnC9m6D0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

はじまるよ!
849 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/02/03(金) 21:22:10.03 ID:9jnC9m6D0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「告白……か。すまないな、その辺の事に関しては俺では力になれなくて」
「いえ、きっともう大丈夫ですから」

 時間は夕暮れ前。
 曇天の空は太陽の位置を隠しているものの、わずかに日の光は陰りを生じている。
 
 そんな中、マミは自分の家でDボゥイの治療を行っていた。
 とは言っても、彼に無数に刻まれた損傷を癒すのではなく、体機能に支障をきたしそうなものだけを選んで治癒する形だ。
 一時凌ぎではあるが、それでも行うのとそうでないのとでは雲泥の差があった。
 
850 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/02/03(金) 21:36:57.67 ID:9jnC9m6D0
 さやかの計画では、今日の放課後に告白、という手筈だった。
 つまり、あと一、二時間後だ。その後は、マミの家でお茶会である。
 そのために、今日は学校を休んで準備を行っていたのだ。
 
「ワルプルギスの夜との決戦も近いですし、心残りがあっちゃ駄目だって思ったんです」
「そうか」
「……はい」

 目を弓にして頷きながら、マミは治療を再開した。
 Dボゥイの背中を撫でるように平手をかざしていた彼女は、しかし、
 
「マミ。何か俺に言いたいことがあるんじゃないのか?」
「――!」

 図星を突かれて、鼓動を跳ね上げた。
851 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/02/03(金) 21:50:39.79 ID:9jnC9m6D0

「……どうして、そう思ったんです?」
「本来なら、今日はさやかのためのお茶会なんだろう? なら、その準備の時間の只中に俺の治療を挟むなんてことは、いつもの君ならやらない、と思ってな」
「…………」

 一息。
 ただそれだけの時間を置いて、マミは口を開く。
 心の中でいまだに燻り続けているものを吐露するために。
 
「……実感がないんです。キュゥべえと戦わなきゃいけないんだってことに」
852 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/02/03(金) 22:26:08.18 ID:9jnC9m6D0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「……だが」
「もちろん、彼にとって私は都合のいいように動くただの駒でしかなかったんだ、って理解してます。
 ……でも」

 胸に手を当てながら、続けた。
 
「それでも、キュゥべえは私の大切な友達なんです……」

 はあ、と深く息をつき、マミはそっと己の肩を掻き抱いた。
 
「情けない、ですよね。他のみんなは、ワルプルギスの夜との決戦に向けて覚悟や決意を固めているのに、私だけがちゃんと振り切れていなくて――」
「マミ」
「――?」

 続けようとしていたのを中断して、マミはDボゥイを見やる。
853 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/02/03(金) 22:58:01.99 ID:9jnC9m6D0
言っただろう、マミ。お前は人間だ、と」
「Dボゥイさん……」
「まどか達や俺達に会うまでの間、あいつといて、どうだったんだ?」
「それは――」

 背筋を丸めて身体を縮こませながら、マミは口ごもった。
 だが、目の前の青年はそんな心情を正確に言い当ててくる。

「――楽しかったんだろう?」
「――――」
「マミ。確かに、お前とキュゥべえは敵同士となった。
 ――だけど、だからと言って今までの事をなかった事にしようとする必要はないんだ」

 不器用に、だけど優しくマミの頭を撫でながら、Dボゥイは続ける。
854 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/02/03(金) 23:02:31.49 ID:9jnC9m6D0
「たとえ欺瞞だったんだとしても、あの時はキュゥべえといられて楽しかった。幸せだった。
 それなら、それでいいんだ。思い出までも捨て去る事はない。
 ――そんな悲しい生き方はするんじゃない」
「……Dボゥイさんみたいに、ですか?」

 マミの言葉に、Dボゥイは一瞬だけ言葉を止める。
 だが、その沈黙は長くは続かなかった。
 
「……そうだ。
 ラダムへの怒りと憎しみを生きる理由とした俺は、肉親殺しの罪を背負いながら地獄へと堕ちるだろう。
 そんな生き方は、お前達には相応しくないんだ」
「……そんなの、勝手過ぎます」
「そうだな。
 だが、俺はこうも思うんだ。
 ――俺達にも他に選ぶ道があったのだろうか、とな。
 お前の言うとおり、これは俺の勝手な押し付けだ。だけど、だからこそ、お前達に託したい」
855 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/02/03(金) 23:15:46.01 ID:9jnC9m6D0
 Dボゥイの瞳が、マミの瞳をじっと射抜く。
 その目の色は、圧倒的な強さでラダムを討つテッカマンブレードでも、鋼の意思で過酷な運命に立ち向かうDボゥイでもなく。
 それは、おそらくは――罪という名の仮面の下に隠された、人並みに弱さを抱える、普通の青年の瞳だった。
 
「俺と似た運命を背負いながら、それでも俺とは違う道を選ぶことを。
 怒りや憎しみはない何かを胸に生きていけるということを。
 ――それは、俺にはもうできない事だから」

 いずれにせよ、自分にはもはやラダムを滅ぼす以外の道は残されていない。
 だが、もしも。
 俺にも、シンヤにも、ミユキにも、ケンゴ兄さんにも、他のみんなにも、別の道を選ぶことができたという可能性があったのなら。
 少なくとも、俺達は『こうするしかなかった』という諦めを否定することができたならば。
 
 それは、間違いなく幸せであると、Dボゥイは思ったのだ。
856 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/02/03(金) 23:23:17.02 ID:9jnC9m6D0
「……でも、そんなの悲しすぎるじゃないですか……」

 瞳に涙をためながらこぼすマミに、Dボゥイは柔らかく微笑んだ。
 
「たとえもう会えなくなったのだとしても、俺はお前達の心の中に生きる。
 ……ラダムの手先となる前の俺の家族が、まだ俺の心の中にいるようにな」
 
 その言葉に、マミはややあってから目を伏せて、しかし確かに応じた。
 
「Dボゥイさん。私は、あなたが託してくれたモノのために頑張って生きていきます。そして絶対に――」

 そう、絶対に。
 
「『死ぬしかない』なんて、そう思いません。だから、約束してください」

 言いながら、Dボゥイと向き合うマミは、手を差し出した。

「――絶対に、諦めないって」
「――ああ」
 
 そして、少女の手を、騎士が握って、約束を交わす。
 ――否、約束ではなかった。
 何故ならば、その約束は決して破られないと、お互いがお互いに確信していたからだ。

 決して破られることのない約束。
 
 それを、『契約』と呼ぶことを、マミは知っていた。
857 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/02/03(金) 23:29:49.49 ID:9jnC9m6D0
今日はここまでとなります。
Dボゥイから願いを託されそして自分自身に答えを出すことができたマミさん。
死亡フラグ乙とか言ってはいけませんよ?

さて、次回は待ちに待った戦闘パート。
そしてさやかちゃんのターン!
そんな次回もお楽しみに!

なお、次回は火曜〜木曜あたりの投下となります。
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/02/04(土) 00:27:12.42 ID:z8dL6RBwo
乙乙
早いね楽しみ
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/04(土) 10:43:23.88 ID:tr8xhHYSO
死亡フラ…乙
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/02/12(日) 15:08:45.69 ID:UxlMnRA00
すいません、風邪をひいたのでしばらく延期させてください
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/02/13(月) 01:18:32.68 ID:y8kk67cXo
うぇいうぇい
862 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/02/19(日) 06:49:43.75 ID:dl7kMsev0
体調も回復してきましたので、今週中に投下いたします
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/02/19(日) 09:27:17.49 ID:65oDe4UOo
了解!
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/19(日) 12:33:22.62 ID:/XUiqFMIO
はーい
865 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/02/27(月) 19:37:03.24 ID:Co7NBAAL0
figmaブレード&エビルの発売日決定したり、アーマープラスでソルテッカマン2号機の予約開始してたり、まどポの杏子の魔女姿が判明したりと色々動きがありましたね。


それはそれとして、本日22:00より投下開始いたします
866 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/02/27(月) 21:58:34.44 ID:Co7NBAAL0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

はじまるよ!
867 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/02/27(月) 22:17:31.01 ID:Co7NBAAL0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 同じ頃。
 
 見滝原中学の屋上で、さやかは上条を待ち続けていた。
 うろうろ、うろうろと行ったり来たりを繰り返したり、屋上のフェンスの四隅を歩き回ってみたり。
 それはまるで、
 
『……動物園のトラじゃねえんだからよー。もうちょい落ち着きゃどうなのさ』
『う、うるさいわね。しょうがないじゃない』

 呆れた調子で割り込んできた念話に、図星を突かれてたじろぎながらも、さやかは睨み返した。
 
868 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/02/27(月) 22:44:22.48 ID:Co7NBAAL0
…すいません、ちょっと体調が悪化してきたので続きは明日投下させてください。
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 23:00:12.42 ID:9IegC/nSO
>>1にもそろそブラスター化が必要かもしれないな…
イ`
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/28(火) 00:55:51.07 ID:HWxOpTwF0
さやかのターンktkr
気長に待ってるから無理のないペースでな
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/02/28(火) 02:54:03.92 ID:quptwJRM0
>>1がラダムの支配下に…!
記憶を失わない程度に頑張ってくれ
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/02/28(火) 15:48:12.51 ID:HQolFlFMo
ゆっくりでもええんやで?(ニッコリ)
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/02/28(火) 16:34:24.67 ID:I4fo5N4Io
無理してちょっと投下するよりも
休んで一気に投下して欲しいと思うのは俺だけだろうか?(´・ω・`)
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/07(水) 18:11:53.68 ID:n5BaBxsE0
>>1・・・ゆっくり休んでくれ・・・何もかも忘れて・・・
875 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/03/08(木) 21:06:17.47 ID:/KOGE2nV0
なんとか復活の目処がつきました。喉の風邪は結構長引くなぁ…

週末にまとめて投下いたします。

そしてAmazonにもついにfigmaブレードの項目追加! 身長が低いのがちょっと首傾げますが人気なようで嬉しいですね。
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 23:24:14.24 ID:0x4t7BDs0
期待して待ってるぜ・・・(´・ω・`)
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/03/22(木) 21:36:29.95 ID:+O8jlBT40
すいません、バイト周りの環境が色々と変化してきてるのでそっちの対応に追われてます。
もうしばらくお待ちくださいませ
878 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/03/30(金) 17:46:18.61 ID:gecK4ZrR0
お待たせしました。今日の九時ごろより投下開始いたします
879 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/03/30(金) 17:46:52.37 ID:gecK4ZrR0
いかんage忘れた
880 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/03/30(金) 21:09:17.89 ID:gecK4ZrR0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

はじまるよ!
881 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/03/30(金) 21:09:52.13 ID:gecK4ZrR0
『だいたい、なんであんたまでついて来るのよ。気が散って集中できないじゃない』
『集中できねえのはあたしがいようがいまいがどうせ変わらんだろ。
 それに、後からどうだったって聞かれても、さやかじゃさっぱりわけがわからん説明しかできねえだろうしさ』
『うっ……』

 指摘の悉くが矢の如くグサリとクリティカルして、さやかは押し黙った。
 魔法少女美樹さやか、奇しくも戦う前から落ち武者スタイルである。
 ぐぬぬ、とうめくさやかをケケケと邪悪に笑って見下ろしながら、杏子は少しだけ懐かしそうに目を細めた。
882 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/03/30(金) 21:17:16.36 ID:gecK4ZrR0
 少しだけ思い出す。
 全てが崩れ去り、失われてしまったあの日より前。
 こうやって、口論にも似た遣り取りを楽しんでいたあの時を。

 瞼を閉じて、今はもうないものを反芻していた杏子は、ふと、目の前の気配の変化に顔を上げた。
 見ると、さやかはさっきとは打って変わって神妙な顔でこちらをのぞきこんできている。
 
「な、なんだよ急に。気色悪りーな」

 思わず念話するのも忘れて、杏子は居心地悪そうにもじもじと身体をくねらせた。
 だが、さやかはそれには構うことなく口を開いた。
883 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/03/30(金) 21:17:40.75 ID:gecK4ZrR0
と、ちょっと風呂に行きますので少し休憩
884 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/03/30(金) 22:54:03.42 ID:gecK4ZrR0
再開します
885 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/03/30(金) 22:56:46.09 ID:gecK4ZrR0
 
「……杏子はさ。なんであたしのためにそこまで世話焼いてくれるの?」
「そりゃあ、おめーを適当にからかうのが面白いから――」

 あくまで飄々とした態度を崩さずに、だが視線は逸らしながら杏子は嘯く。
 そこへ、さやかはさらに鋭く切り込んできた。
 
「あたしは、あんたの妹でも、あんたの鏡でもないよ?」
「――!!」
886 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/03/30(金) 23:25:54.32 ID:gecK4ZrR0
 ざくり、と。
 心の奥の奥へ、わずかな隙間を縫って穿たれた一撃に、杏子は硬直した。
 
「失われてしまったあんたの家族はもう取り戻すことはできない。あたしがどうなったところで、あんたの過去が消えるわけじゃない」
 
 動けずにいる杏子に、さやかは訥々と語りかける。
 
「――もう一回言うよ。あたしは、美樹さやか。杏子の家族でも、杏子の過去でもないよ」
「――わ」
 
 ふつふつと、喉を苦みばしったものが走り回る。
 逃げ場を求めて吐き出しかけた息を、だが杏子はぐっと飲み干した。
 その一瞬後、
887 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/03/30(金) 23:38:12.08 ID:gecK4ZrR0
「わかってるってんだよ、ンなこたあよ!」

 怒気混じりにぶちまけた。

「意味わかんねーよ、馬っ鹿かお前!? 大体お前なんざモモにも親父にもこれっぽっちも似てねえっての!」

 一息に言い切って、肩で息をする杏子を、さやかはじっと見返す。
 それを、杏子はバツが悪そうに受け止めると、
 
「……そうだな。お前は、モモでもあたしでも、それらの代わりでもねえ。お前は、お前なんだよな。さやか」
「そうだよ? 今頃気づいたのかい? 杏子ちゃーん?」
「うるせー」

 にやにや笑いながらこっちの顔を覗き込むさやかを、杏子は軽く牽制する。
 と――。
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/03/30(金) 23:58:40.89 ID:gecK4ZrR0
「――!」

 突如、脳裏に訪れたザラついた感触に、杏子は表情を引き締めた。
 さやかも、同じくさっきまでの笑顔を引っ込めている。
 
「杏子、これって――」
「ああ」

 頷き一つを返すと、二人は懐のソウルジェムを取り出した。
 己の魂たるその宝石は、主に何かを訴えかけるように、強く脈打つ光を放っている。
 
「間違いねえ。魔女が近くにいやがる」

 そのまま、杏子は素早く身を翻すと、
 
「この分ならマミやほむらの奴も感づいただろうしな。んじゃ行ってくるわ」

 お前の告白現場を見られないのは残念だけどな、と締めた杏子の背中に、
 
「――待って。あたしも行く」

 さやかの言葉が突き刺さった。
889 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/03/31(土) 00:08:12.49 ID:PgBGyIvd0
「――はぁ? 馬っ鹿かお前。何考えてやがるんだ!」

 憤怒の形相で振り返った杏子は、つかつかとさやかの目の前まで歩み寄る。
 
「あの上条ってのに告白するんだろ? 今から行っちまうと間に合わなくなっちまうぞ!」
「だからだよ。
 あたしは、恭介が好きだし、そのために魔法少女になった。
 だけどね。もし魔女を放っておいたら、誰かがその犠牲になるかもしれない。
 そうなった時、『やっぱりあの時行っておけば』って後悔するなんてこと、あたしは絶対にイヤだよ」
 
 ゆっくりと、さやかはかぶりを振った。
 
「そうなるくらいなら――あたし、恭介に振られてでも、誰かを守り通せる方がいい」
「……この馬鹿野郎が」

 ため息混じりにつぶやくと、杏子は再び正面に向き直った。

「――行くぜ、『相棒』」
「――うん。行こう、『相棒』」

 最初から決められていたかのように、阿吽の呼吸で呼び合うと。
 二人は、同時にソウルジェムを高く掲げた。
890 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/03/31(土) 00:15:38.67 ID:PgBGyIvd0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 ――それから、きっかり五分後。
 閉じられていた屋上の扉が、先ほどよりも勢い弱く、よたよたと開いた。
 
「――ごめん!」

 謝りながら入ってきた、線の細い、松葉杖をついた少年――上条恭介は、慣れない松葉杖を操りながら、扉の向こうへと歩みを進める。
 
「ごめんよさやか、ちょっと遅れてしまって。それで――」

 話ってなんだい? と続けようとして。
 
「――あれ?」

 ようやく、恭介は屋上に誰もいない事に気づいた。
 ゆっくりと周囲を見回す。彼女の事だから、もしかしたら隠れてのドッキリくらいは警戒してもいいかもしれないが、その気配も何もない。
 
「さやか……?」

 何やら、言い知れぬ不安を感じて。
 恭介は、不安げに待ち人の名前を呼んだ。
 
 だが、その言葉に答えられるものは、今はいない――。
891 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/03/31(土) 00:17:12.51 ID:PgBGyIvd0
今日はここまでとなります。
魔女討伐へと赴くさやか&杏子。

迎え撃つは影の魔女。

果たして、この対決の行く末は?
そして、暗躍するランスさんの思惑とは?
次回もまたお楽しみに!
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/31(土) 00:19:23.49 ID:6gEsaVxyo
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/31(土) 12:32:20.13 ID:1L94smc90

もうすぐこのスレも一周年だ
894 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/04/01(日) 07:15:56.08 ID:ROl+Q+ic0
円谷もアイレムも四月馬鹿ネタをやらない…こんなの絶対おかしいよ!

>>893
最初の予定では去年の12月ごろに完結させる予定ではありました。
早く進めてかないとネorz
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/08(日) 23:59:56.67 ID:1SJ9rslt0
駆け込みで祝1周年
俺は最近このSSを知った者だけど、引き込まれて一気に読んでしまったよ
今後の展開も楽しみ
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/09(月) 02:05:39.03 ID:H66CSZ4a0
しばらくチェック出来てなかったけど、キテタ!
乙です。


魔女化も内輪揉めもなく、物語の主人公的思考で頑張ってる魔法少女たち。

多少クロスオーバー補正が入ってるとは言え、
しっかり導いてくれる大人が居るとこうも変わるのか……。

まあその大人の中に、自分達より悲惨な状態の人が居て、それなのに泣き言を一切漏らさず、
真っ直ぐに己の人生を突き進んでるってのがデカいかもですがww
こういう、生き方の手本(手本にしちゃ駄目ですが)が身近に居て、一緒に戦ってくれるってのは心強いよなあ。


でもその代わり、魔女より数段厄介なテッカマンにまで狙われて地球がヤバい。
少なくとも救済の魔女と同等以上のレベルのヤツが複数とか…。

テッカマセランスさんの動向に期待です!
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/11(水) 03:51:34.88 ID:i2X/Aha1o
マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/04/11(水) 18:52:42.76 ID:C3Ir9ZPy0
すいません、年度始めでバイトの方が忙しかったので。週末に投下いたします。
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/12(木) 21:24:38.71 ID:fUyYWY9Qo
生存確認乙
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/21(土) 00:35:48.37 ID:5EJUaS3x0
続き期待していますよ
しかし魔法少女システムとテックシステムって結構共通点多いよな
ラダムとQB,片方は侵略でもう一方はやり方はどうあれ宇宙のため…目的は正反対でも手段は共通点が多いよな
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/04/24(火) 23:01:24.90 ID:St/aUxvxo
>>220
よし、頑張ってくれ
同時期(そっちが若干早い)に始めたのにもう900とか差がついたなぁ……応援してるぞ
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/04/24(火) 23:01:45.21 ID:St/aUxvxo
あー……誤爆したけどここの>>1へのレスだから良いよな、な
903 : ◆YwuD4TmTPM [age]:2012/05/02(水) 16:19:51.17 ID:1YDPLlm70
大変長らくおまたせしました。

本日21:00ごろより投下開始いたします
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/02(水) 18:51:24.86 ID:dL+WT7rvo
何をしているセイバー!アックス!全裸待機だ!
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/05/02(水) 20:28:19.42 ID:asy9M2sAO
愛すべきバカばっかりの某学園百合剣客バカ漫画とのクロスかと思った
906 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/05/02(水) 21:02:14.97 ID:1YDPLlm70
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /


はじまるよ!
907 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/05/02(水) 21:13:50.42 ID:1YDPLlm70
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 空間がある。
 白一色で塗りつぶされた、何もない、作り物めいた空間だ。
 地面は影絵のように黒一色で、回廊のように細く長く伸びている。
 人工物のようになめらかなそれは、何かの腕を連想させた。

 そして、その腕の向こう。ちょうど掌に当たる部分に、魔女はいた。
 黒く塗りつぶされた影の身体は、祈りの姿勢を保ったまま微動だにすることはない。
 それはひとつの永遠のカタチ。決して混ざり合う事のない、白と黒のコントラスト。

 それに対峙するのは、赤と青の魔法少女。
 ここに来るまでに結構な数の使い魔を蹴散らしてきたのか、その装束はところどころが裂け、その身体は擦り傷だらけであったが、その瞳に宿る闘志は微塵も揺らぐことはない。
908 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/05/02(水) 21:21:41.35 ID:1YDPLlm70

「いた!」

 びし、と剣先で魔女を示しながら、さやかが口を開いた。
 横に並び立つ杏子はというと、ひゅおん、と槍の穂先で鋭く風を切る。
 
「気をつけろよ。あれが本体と決まったわけじゃねえんだし」
「わかってるわよ」
 
 飛びかかろうと腰を低く沈めたところに釘を刺されて、不満そうにさやかを唇を尖らせた。
 
(とはいえ、このまま千日手ってわけにもいかねえよなぁ。さて、どう仕掛けるか……)

 ひいふうみい、と彼我の距離を測りながら、杏子は思案する。
 だが、次の瞬間。
 
「―――!?」
 
 地面を割って躍り出た影の獣の顎が、二人のいた場所を噛み砕いた。
909 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/05/02(水) 22:00:56.13 ID:1YDPLlm70
 天を仰いだまま、鰐のようなカタチをした影の獣は、勝ち誇るかのように口の端から欠片を零しながらバリバリと咀嚼する。
 そのまま、勝鬨ともつかぬ雄叫びをあげようとしたその刹那。
 
 ――ダガカカカッ!!
 
 その喉に、いくつもの杭が突き刺さる。
 
「―――■■■!」

 音無き苦鳴を漏らしながら、使い魔は今しがた自分を狙ってきたモノ――蒼い魔方陣で宙に形作られた足場を駆けながら、数本の剣を携えた魔法少女を睨んだ。
 
「さすがに……ッ」

 白い外套を翻しながら、いくつもの剣を呼び出して使い魔へと剣を投げる。
 
「あてずっぽうじゃうまく当たんないかぁっ!」
910 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/05/02(水) 22:38:47.58 ID:1YDPLlm70
 腕の一振りで三降りの剣を投擲し、返す刀でもう二振りを放つ。
 そして、投げ尽くした剣を補充しようとしたさやかは、上から来る気配に素早く身を翻した。
 それから数瞬だけ遅れて、少し前まで自分のいた場所を小さな使い魔の群れの奔流が散弾のようにバラバラにしていく。
 回廊に上下逆に張り付いて駆けていくさやかを視界に捉えながら、先ほどの鰐は怒りの唸りを漏らし――
 
 そして、そのまま八つ裂きに切り裂かれた。
 
「――ぷはあっ!」

 腹の内から切り裂いた少女――杏子は、素潜りから浮上したかのように息を吐く。
 
『あんまり考え事しすぎてても押し切られるだけじゃないの?』
『うるせ』

 からかい気味に念話を飛ばしながら駆けていくさやかに、苦笑気味に杏子は毒づく。
911 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/05/02(水) 22:47:19.05 ID:1YDPLlm70
『シンプルに行こう。お前本丸を叩く役。あたし有象無象をなんとかする役』
『……大丈夫なの?』

 心配げなさやかの声にも一理はある。
 同じスピードを武器とする者同士でも、防御に優れるさやかとは対照的に、杏子は攻撃を追求したスタイルだ。
 本来ならば、こちらから攻めるのは得意でも守るのは不得手なはずである。
 
『お前じゃそそっかしいから何匹か見落とすだろうしよ』
『……むか。じゃあいいわよ、とっとと取って返して助けに行くから待ってなさいよ』
『おうおう、ゆっくり待っとくぜさやか』

 いつもながらの口喧嘩じみたやり取りをしながら、一瞬――ほんの一瞬だけ、二人は視線を交わし合う。

『――――』
『――――』

 言葉はいらない。
 ただ、それだけで意思を通じさせるには十分だからだ。
 
 故に、その一瞬後、
 
『それじゃ――』
『おっ始めるぞ!!』
 
 二人は、それぞれの目標へと疾走した。
912 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/05/02(水) 22:48:21.06 ID:1YDPLlm70
今日はここまでとなります。
切って落とされた影の魔女との決戦の火蓋。

もうしばらく、二人の少女の大立ち回りを御覧くださいませ。

それでは、次回もお楽しみに!
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/03(木) 00:48:47.86 ID:oeb/nV/jo
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/05(土) 05:00:08.94 ID:m8H6blc80
乙だ!
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/20(日) 21:51:55.55 ID:7IPsTSWZ0
次はマダカナー
ランスさんはどう動くんだろう
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/21(月) 01:01:09.77 ID:kn153079o
楽しみにしてたけど、ここまで更新が遅いと凄い萎える
しかも待たせるだけ待たせて内容が短いのはちょっとね・・・
いい作品なだけに残念
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/21(月) 01:08:01.71 ID:ogu+uF6jo
急かさずゆっくり待つのも乙なもんですよ。エターナルよりはゆっくり更新される方がいい。
お気に入りがエターナル時のガッカリ感はハンパ無いからなぁ…
918 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/05/21(月) 08:58:30.14 ID:BsUwu0q80
すいません、単車でコケたりPCの電源が吹っ飛んだりでネットに対応できてませんでしたorz
今週土曜に、八話の終わりまで投下いたしますのでもうしばらくお待ちください。
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 19:53:44.53 ID:xJ/nT3R8o
生存報告乙
920 : ◆YwuD4TmTPM [age]:2012/05/26(土) 21:59:43.36 ID:cFJySCaJ0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /


お待たせしました。
23:00より投下開始いたします。
921 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/05/26(土) 22:58:16.34 ID:cFJySCaJ0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 杏子は回廊の上を走っていた。
 流れていくモノトーンの中、空には黒い影がある。
 それは、影の獣たちだった。それも、小型のそれらで編成されたそれだ。
 
「面倒だよなあ、おい!」

 苦笑の息を吐きながら、杏子は手の中で槍の柄を滑らせる。
 狙うのは、空を滑りながらこちらへと向かってくる二体だ。
 しなやかな体躯に力を蓄え、杏子は槍の穂先を突き出した。
 彼我の距離は約10メートル。本来ならば、届くことがあるはずがない距離だが、
 
「!」

 狼のような姿をした影の獣が、眉間を貫かれたまま溶けて消える。
 貫いた杏子の槍。それには、一つの変化があった。
 槍が幾重にも分離し、多節となって長く伸びていたのだ。
 
 だが、もう一匹はまだ生きている。風を巻きながら、杏子の後方から飛び込もうとした影の獣は、しかし。
 
「!?」

 不意に生じた打撃によって、地面に叩きつけられた。
 骨を砕き、肉を割る衝撃が脳天から足先へと貫通する。
 
「伸びるのは刃先だけじゃねえぞ?」

 ニヤリと口の端に笑みを浮かべながら、杏子は先ほど影の獣を打ち据えたもの――槍の石突を戻した。
 その視線は、潰した後の使い魔には既に向けられてはいない。
 彼女が見据えているのは頭上。そこにいるのは、新手の使い魔たちだ。
 
 その数、十五匹。
 
 それだけではない。先ほどの一撃で感づかれたのか、より遠くから使い魔の群れが迫っている。
 杏子はしかし、恐れを感じさせない笑みで応えた。
 
「照れちゃうねえ、どうも」

 直後。一瞬だけ、遠くで光が走るのを杏子は見逃さなかった。
 その色は、青。
 
 青い魔法少女が、一直線に魔女へと向かっている。
922 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/05/26(土) 22:59:14.63 ID:cFJySCaJ0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 魔女エルザマリアは、祈りの姿勢からゆっくりとその頭を上げた。
 そして地面無き空を駆けるさやかを捕捉すると、その身体から枝分かれ幹のようにその身体を変形させる。
 突如周囲が暗くなった事に気づいて視線を向けるさやかに、
 
「―――■■■■■!!」

 その影の触手を一斉に放つ。
 上下左右前後合計四十六つの黒弾が、空を切って青の魔法少女へと殺到した。
 
 だが、美樹さやかはそれを恐れることはない。
 ギャ、という高い音を靴から軋ませ、前傾を深くすると、
 
「―――!!」

 加速した。

 正面を薙ぎ払う影の乱舞に、一本の矢と化して身を切り込んだ。
 槍衾のような黒の線の中を、拙く、だが力強く、強引に駆け抜けていく。
 爆ぜる影。外套をはためかせる風。軋む靴の音。瞳から漏れる残光。先鋭化していく意識。それら全てを後ろに置き去りにしながら。
 お互いにバレルロールを描きながら青と黒の追跡は続く。
 放たれ続ける黒弾を振り切り、回避し、時には剣で叩き落とす。
 そして、魔女は第四波の黒弾を放とうと身を震わせた。
 装填される。
 
 だが、それに対してさやかは、今度は回避を選ばなかった。
 脚を振り上げ、高く身体を跳ね上げる。
 それは、首を中心とした円軌道だ。
 
 バク宙の姿勢のままで、さやかは大きく背を反らし、両腕を大上段に振りかぶる。
 その手の中にあるのは、一際重く、頑丈な両手剣だ。
 
「どっ――せぇぇぇい!!」

 斬撃の音と感触は、卵が割れるときのそれに似ていた。
 縦一文字に振り抜かれた軌跡が、影の魔女を両断する。
 
923 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/05/26(土) 22:59:40.30 ID:cFJySCaJ0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
 
 そう、両断した。
 そのはずだった。
 勝利の確信を持った笑みを浮かべたさやかの顔は。
 
「――え?」

 刹那の後、驚愕へと張り替えられた。
 断ち割った魔女の身体。
 
 その断面から、今までのモノトーンですらない、機械じみた金属の光沢を放つ触手が湧き出したからだ。

(……違う)

 咄嗟のことに身体が反応できないまま、さやかの意識の底は、どこかで冷静に呟いた。
 
(これ……"魔女"じゃない!)

 確信を持って、さやかは断じた。
 それは、魔女と対峙した時の、どこか爬虫類めいた異物感。
 それが、全く感じられなかったからだ。
 
 代わりに感じるのは、異様さに欠ける代わりに、はっきりと感じ取ることができるもの。
 
 それは、「悪意」だった。

「さやかぁーーーっっ!!」

 焦りを含んだ杏子の叫びをどこか遠くに聞きながら。
 さやかの意識は、こちらに殺到した触手の群れの中に消えた。
924 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/05/26(土) 23:00:07.89 ID:cFJySCaJ0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 ズド、と湿った音がする。
 杏子の槍が、新たに魔女の身体から現れた触手を穿った音だ。
 
「――――せ」
 
 幽鬼のような形相で、杏子は振り抜いた槍をさらに高速で突き込み、空いた左手で触手を引きちぎる。
 
「――――えせ」

 全力での動きで息が上がりながらも、杏子は怯むことなく攻撃を続行する。
 
「返せ――!」

 抗うように震える触手の反撃に眉をゆがめるが、それでも杏子はその手を止めない。
 
「返せ、返せ、返せよ! さやかを返しやがれ!」

 叫びながら、杏子はさやかの身体を取り込んでひとつの樹のようになった触手へと槍を振るう。
 その一撃で、樹の表面に綻びが出来たのを、杏子は見逃さなかった。
 
「さやかっ!」

 槍を手放し、両腕をその綻びにねじ込む。
 ともすれば手ごと砕けそうになるだけの力の反発を受けながら、杏子は強引にそれをこじ開けていった。
 
 無機質な金属の色に染め上げられた視界に入ったのは、彼女の青みがかった髪の色。

(あれか――!)

 身の半ば以上を樹の中にねじ込み、杏子はさやかの身体を掻き抱いた。
 変身が解けた制服姿ではあったが、それはまだ温かく、ゆっくりと脈打って鼓動を返している。
 そして、

「ん……」

 小さく呻きながら身じろぎした。

 生きている。
 
 歓喜に顔を歪ませながら、杏子は全身に力を込めて、さやかの身体を樹から引っ張り出した。
 
「……杏子?」
「馬っ鹿野郎。だから言っただろうが、油断すんなってさ」

 薄く目を開けるさやかに肩を貸しながら、杏子は照れ隠しの憎まれ口を叩く。
 それは、いつものように繰り返されて、そしてこれからもいつものように繰り返していく、何処にでもあるやり取り。
 
 だが、今回だけは決定的に違う点があった。

 さやかが、杏子を突き飛ばしたのだ。
925 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/05/26(土) 23:00:34.67 ID:cFJySCaJ0
「おい――」

 声に怒気が灯りかけた杏子の心は、
 
「――ダメなんだよ、もう」

 ゾッとする程に底冷えしたさやかの声で、一気に冷却された。
 
「お、おい。どうしたんだよ急に。らしくないじゃんか」

 どこか、絶望的に予感めいたものを感じながら、杏子はさやかを見る。
 今までになく、諦観に沈んだその目は、ひとつの記憶を想起させた。
 
 ――「あの日」の、父の目と同じだった。
 
「た、たかが一回ミスっただけだろ? そんなに落ち込むことは――」

 引きつったような笑みと、不安に揺れるその瞳は、どこか媚びるようですらあった。
 そんな顔をしないでくれと、頼むからあの時の父と同じ顔をしないでくれと。
 
 だが、それに応えることはなく、さやかは口を開く。
 
「魔法少女は、いつか魔女になる。
 あたしなりにさ、覚悟もして、頑張っていこうって、そう思ってたんだけど……」
 
 言いながら、彼女はひとつの動きを行う。
 懐から、何かを取り出す動きだ。
 その動きは杏子も知っていた。変身のための道具、ソウルジェムを取り出すためのものだ。
 
「もう、あたしは――」

 握った拳が、ゆっくりと開かれる。
 
「"魔法少女"でも、"魔女"ですらも、なくなっちゃった――」

 さやかの掌の上にあったもの。ソウルジェムであるはずのもの。
 青く輝くそれを見て、だが杏子はゾクリと戦慄した。
 
 それは、最近になって見慣れたものだった。
 
 天駆ける呪われた騎士にのみ与えられる結晶。
 
 ――テッククリスタル。
 
「さやか。あんた、まさか――」
「こうなっちゃったら――あたしは、もう、あんた達とは一緒にはいられない」

 一歩ずつ下がりながら、さやかは。
 
「テック――」

 手の中の、クリスタルを振り上げた。
 
「――セッター」

 次の瞬間。
 さやかの周囲で荒れ狂い始めた突風に、杏子は吹き飛ばされた。
 半ば反射的に受身をとって身を起こす。
 
「さやか――!」

 クリスタルを掲げた姿勢のまま、ちらりと、さやかはこちらを見た。
 その頬を涙で濡らしながら。
 幽かな微笑と悲哀を篭めて。
 美樹さやかは、別れの言葉を囁いた。
 
「――――ごめんね」

 それが最後だった。
 風と共に青い光に包まれるさやかに、杏子は、
 
「さやかァァァーーーーーっっっ!!!」

 喉の痛みすら構わずに、力の限り叫んだ。
926 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/05/26(土) 23:01:13.17 ID:cFJySCaJ0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 その身は既に人にあらず。
 その身は既に痛みを覚えず。
 その頬を流れるのは、雨か、血か。
 ――おそらくは。それは、一筋の涙。

『最悪の事態になりかけてると言わざるを得ないね』
「……きっと、俺は間違っているんだろうな」
「傷つくのは、怖くないから」
「フッ、この至近距離からのボルテッカならばひとたまりも……」

次回「この命の使い道」

仮面の下の涙を拭え。
927 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/05/26(土) 23:03:38.49 ID:cFJySCaJ0
七話はこれまでとなります。

魔女の身体から現れた謎の触手へと絡め取られ、テッカマンへと変貌してしまったさやか。
それに対峙する杏子は、そして魔法少女たちとスペースナイツは、どのような選択を選び取るのでしょう。

そして、ランスさんのうんめいやいかに(棒読み

次回もまたお楽しみに!

次回は、少々間を空けて二〜三週間後くらいになるかと思われます。
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [saga]:2012/05/26(土) 23:05:30.17 ID:Yn13kHBR0
乙です!
次回ついにランスさん登場かw
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/26(土) 23:47:53.76 ID:31Sji2rno
次回予告でランスさんが既に終了してる件
この至近距離からの乙ではひとたまりも…何ィ!?
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/27(日) 04:23:20.51 ID:zOxZjgE+o

お約束を真っ当するランスさんには尊敬の念を禁じ得ないな
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/27(日) 10:14:19.53 ID:BZVhSWi1o
乙!
ラムダドライバ発動したガウルンさんに特攻したり、幼女にクリティカルで一撃で屠られたり
クロスだとランスさんはみんなの心のオアシスや!
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/05(火) 22:00:40.86 ID:2QHa0yeQ0
pixivでこのssの絵が・・・支援
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=20875435
933 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/06/07(木) 19:32:43.11 ID:QQ6t6PvG0
7/10からニコニコ動画でブレード配信……だと……?

>>932
やっぱりこういうのを見ると嬉しくなりますねー。しかもだいぶ初期の頃に描かれていらっしゃるようで。
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/16(土) 14:09:46.16 ID:V1uAh4vk0
もうみんな見るしかないじゃない!
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/06/16(土) 14:17:49.21 ID:TNHbXBARo
Uもだ!
Uのテッカマンのデザインはどれも好きだから楽しみだ
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/06/16(土) 14:21:48.38 ID:wdziT/9Jo
初代テッカマンもよろしく!
タツノコは設定が意外とハードなんだよなぁ
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/16(土) 14:37:49.26 ID:XKraw1Vko
キャシャーンとかもそうだな
あれもテッカマンブレードもどっちも良リメイクだったな
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/16(土) 21:22:16.45 ID:HjT/3gnoo
マダーチンチン
939 : ◆YwuD4TmTPM [age]:2012/06/17(日) 21:47:08.34 ID:WtY48RhT0
おまたせしました。23:00辺りに投下いたします
940 : ◆YwuD4TmTPM [age]:2012/06/17(日) 23:05:08.78 ID:WtY48RhT0
 風が吹き荒れる。
 濁流のように荒々しく、渦を巻きながら全てを押し流そうと殺到する。
 
 だが、杏子には、それが目の前の彼女の泣き声にも聞こえた。
 
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 光に包まれたさやかに最初に訪れた変化。
 それは、変貌だった。
 
 ビキリと音を立てて皮膚の表面が硬質化し始め、昆虫や甲殻類を思わせる外殻に身体全体が覆われていく。
 その相貌は、素体テッカマンと呼ばれるモノだ。
 
 続いて、戦闘用テッカマンとしての証であるアーマーを全身へと纏っていく。
 ブレードやエビルなどの他のテッカマンと比べると、丸みを帯びて女性的だが、だがより堅牢で頑強な装甲へと変化していく。
 それは、鎧というよりは儀礼的な甲冑を思わせた。
 
 一瞬でそれらの変化を完了すると、余剰エネルギーによる水蒸気を吐く身体を一振りし、身を包む外套を翻すと、さやか――否、テッカマンは名乗りを上げる。
 
「テッカマン――オクタヴィア!!」
 
 愕然とする杏子を前に、オクタヴィアは対峙する。
 三眼のバイザー状の装甲に覆われたその顔は、どんな表情で杏子を見ているのか。
 それは、誰にもわかることはなかった。
941 : ◆YwuD4TmTPM [age]:2012/06/17(日) 23:16:05.79 ID:WtY48RhT0
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 瞬時に、杏子は動いていた。
 頭では未だ逡巡が残っていたが、それを為せたのはひとえに杏子が積み上げた魔法少女としての戦いの経験によるものだろう。
 手首のスナップで多節展開した槍をしならせ、横薙ぎに打ち払う。
 たったそれだけの動作で、鋭い曲線を描いて飛ぶ石突はまるで独自の意思を持っていたかのように、オクタヴィアの腕に巻きついた。
 
(――とったっ!!)

 確かな手応えと共に確信する。
 多節槍による戒めは、そう簡単に解くことはできない。がっちりとロックされ固定されたそれは、テッカマンより数倍巨大な魔女であろうと束縛できるだけの強度を持つ。
 そうして束縛してから、槍の穂先で確実に仕留める。彼女の勝ち筋のひとつだ。
 勝利の予感と共に、杏子は大きく跳躍し――。
 
 次の瞬間、視界が大きくブレた。
 
(――な!?)

 吐き気がするような浮翌遊感と酩酊感。
 それら二つを同時に感じながら、杏子は反射的に受け身をとる。
 そして、刹那の後に襲いかかった背中の衝撃に、ようやく自分が投げ飛ばされたのだと自覚した。
 攻撃のチャンスを逃してしまったのは失策だし、致命的なミスではあったが、そうでなければ地面に叩きつけられて致命打を受けていただろう。
942 : ◆YwuD4TmTPM [age]:2012/06/17(日) 23:33:05.47 ID:WtY48RhT0
「――っの、馬鹿力がっ!!」

 咳き込みながら悪態をついて、杏子は立ち上がった。
 頭がぐらぐらと揺れるのにも構わず、休みを与えまいと跳躍する。
 パワーで圧倒されるならば、スピードで上回っていくだけだと判断したのだ。
 フェイントを二重に混ぜ、左右にステップを踏みながら距離を詰める。
 十分な加速を持って肉薄し、槍を突き出す。
 急所は避けているとはいえ、それは手加減抜きの本気の一撃だった。
 
 だが――。
 オクタヴィアは目の前から消えていた。

「!?」

 どうやって、と、どこに、の二つの疑問を杏子は頭で交差させる。

 そして。
 その悪寒は、背後から来た。
 
「―――ッ!!」

 反応が遅れた。構えの対応が間に合わない。
 だが、それでも杏子は後ろへと首だけを振り返らせる。
 
 そこにいたのは、ほんの一瞬前まで正面にいたはずの、オクタヴィアだった。
 
 その手には、自分の武器であろう、大ぶりの片手半剣が握られている。
 それは、魔法少女のときの細身の軍刀めいたフォルムからは程遠い、牛の首でも落とすような、無骨なナタを思わせた。
 
 パワーでも、スピードでも、圧倒されてしまった。
 それはつまり、
 
(止められない――?)

 目の前の騎士の物言わぬ三つの目を見つめながら、杏子はそんな事を考えていた。
943 : ◆YwuD4TmTPM [age]:2012/06/17(日) 23:33:47.64 ID:WtY48RhT0
すいませんが、体調がいまいち芳しくないので今日はここまでです。
投下できなかった分は明日の夜に投下いたします。
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 23:43:46.83 ID:CTe56XBWo

テッカマン化すると、紛い物の魔法少女や魔女を圧倒出来るのか…
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/06/17(日) 23:52:38.97 ID:ZKFQY8pao
だって本気だしたら理論上亜高速のスピード出せるレベルの騎士だし…
しかしテッカマンオクタヴィアいいな、乙
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/06/17(日) 23:56:04.64 ID:ftffhLcPo
乙彼様です
武器の名前で来るかと思ったけど、考えてみれば「U」のテッカマンとかはそういう縛り外れてましたっけね
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/17(日) 23:59:53.67 ID:T7ndJuR3o
確かUのテッカマンは主人公組は四季に因んだの名前だったな
テッカマンデッドはまぁデッドだから…
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/06/18(月) 03:25:49.44 ID:Mf4jf/SAO

核の直撃で無傷だったり大気圏突入余裕な存在なんて勝てないよぉ
関係ないけどふと知る人ぞ知るテッカマンのオマケの音声ドラマ思い出した
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/06/18(月) 03:45:09.98 ID:Pzo96mVPo
Dボゥイが赤ちゃんプレイする例のアレかい?
950 : ◆YwuD4TmTPM [age]:2012/06/18(月) 23:32:33.31 ID:Bvn8YkfB0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /


おまたせしました。投下開始いたします
951 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/06/18(月) 23:44:28.99 ID:Bvn8YkfB0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 だが、予想していた傷と痛みはやって来なかった。
 反射的に閉じていた瞼を開くと、そこには今にも振り下ろされそうになっている青い騎士の剣を、一本の槍がその刃で跳ねあげている。
 ギチギチと想像を絶する膂力が拮抗しあって軋ませる中、杏子はその者の名を口にした。
 
「ブレード!?」

 杏子の声に、飛び込んできた赤と白の騎士、テッカマンブレードはそれに返事を返すことはなく、
 
「う――おおォォ!」

 気合と共に、拮抗が緩んだ隙を逃さず、オクタヴィアの剣を大きく振り払った。
 
「俺の知らないテッカマンだと……? 奴らめ、一体今度は誰を――」

 言い終わる前に、オクタヴィアの一撃が来た。
 縦一文字に振りぬかれる刃を、だがブレードは最小限の動きで対処する。
 逆手に装着した小盾、テックシールドを刃に滑らせるようにして剣の腹に密着させると、
 
「ふんっ!!」

 腰を軸にした回転運動によって、大刀の一撃を打ち払う。
 打ち払った反動で身体の左半身が開いていくものの、

「―――!」

 それを、ブレードは右足を前に出した半身の構えとすることで打ち消した。
 しかも、自らの獲物であるランサーを地面に突き刺し、手放して、だ。
952 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/06/18(月) 23:58:51.71 ID:Bvn8YkfB0
「…………!?」

 一瞬の逡巡の後、
 
「―――!!」

 オクタヴィアはブレードの意図に気づく。
 ブレードが、武器すらも通じない間合い、即ち密着しそうなほどにまで距離を詰めたことに。
 機動性を半ば度外視しての重装甲を持つ自分には、最高速で優れてはいても瞬時の加速性には目の前のブレードには数段劣ってしまう。
 何より、自分の腕は未だ剣を手放して伸びきったままの体勢だ。今この時の体勢では、ブレードの攻撃を防御する術がない。
 
 そして、オクタヴィアがそれ以上の思考を巡らせる前に、
 
 ――ガギン!!
 
 と、ブレードの両手が彼女の身体を捕らえた。
 右手に首筋、左手で右腕。
 さらに、踏み出した右足は軸足にしていた自分の左足を踏みつけて固定している。
 
「終わりだ――!!」

 ブレードが叫ぶと同時。
 ガコン、と硬い音を立てて、彼の両肩が展開した。
 
 そこにあるのは、大小六つのフェルミオン収束口。
 
「ボル――」

 とどめの一撃を放たんとするブレードの声と共に。
 キィィィン、と高い音を立てて、六つの孔に緑色に光る粒子が収束していく。
 
「テッ――」

 カ、と最後の音を発する前に。
 
「やめろぉーーーっ!!」

 ブレードの背を、杏子が突き飛ばした。
953 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/06/19(火) 00:21:10.41 ID:WpZQKPl/0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「――な!?」

 さすがに予想外だった衝撃に、ブレードの身体は大きく傾ぎ、たじろいだ。
 その隙に、オクタヴィアは大きく跳躍して距離を取る。
 
「杏子! お前、何を――」
「だって――」

 一息。大きく息を吸って、杏子は続けた。
 
「あいつ、さやかなんだよ!!」
「な……!?」

 何だと、と次の言葉を呟き終える前に。
 ブレードは、ひとつの気配を鋭敏に感じ取った。
 
「――!!」

 丸太を抱えるように杏子の腰を抱くと、ブレードもまたバーニアを咆哮させて大きく距離を取る。
 その刹那の後、
 
 ――ガガガガガガッ!!
 
 と、二人が一瞬前まで立っていた場所を、いくつもの弾痕が穿った。
 
「これは……」
 
 シュウシュウと硝煙を放つそれは、よく見ると細かい針が数百、数千と突き立っているのが見て取れる。
 疑問が確信へと変わる前に、そいつの声は響いてきた。
954 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/06/19(火) 00:22:30.86 ID:WpZQKPl/0
今日は(というか、昨日の投下としての分は)以上となります。

次もまた土日の投下になるかと思います。

次回もまたお楽しみに!
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/19(火) 00:31:21.18 ID:zfikql4Co
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/19(火) 01:21:37.97 ID:XhhforAm0
乙です
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/06/19(火) 02:20:40.96 ID:IeHZAWe9o
乙カレー
958 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/06/26(火) 00:48:41.63 ID:g7uRISW50
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

はじまるよ!
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/26(火) 00:49:12.36 ID:Nl9D395Eo
待ってました
960 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/06/26(火) 00:59:12.39 ID:g7uRISW50
「クックックック……その紛い物の言う通りだ、ブレード」
 
 声の主へと素早く視線を走らせると、篝火を象った像の頂上に、そいつはいた。
 
「お前は――テッカマンランス!」

 ランサーをワイヤーで引き戻しながら、ブレードは声の主の名を叫んだ。
 
「どういう事だ――魔法少女は、テッカマンには変化できないはずだ!」

 上にいるテッカマンランスにランサーの先端を向ける。
 答えが返ってくることを期待していたわけではないが、彼は愉悦を滲ませて目を細めて返答した。

「フン。確かに、奴ら"紛い物"共がソウルジェムと呼んでいる変異クリスタルは、我らラダムによる干渉を受けることはない。
 ――だが」
 
 言って、懐から小さな何かを取り出すのが見えた。タールのように黒ずんでいる卵型のそれは、
 
「グリーフシード……!」
「その通り。奴らの成れの果てである"残り滓"の核となるものだ。
 ――そして、こんな事も知っているかな? "残り滓"は、弱い個体の"紛い物"を喰らい、強大化していくということも」
「―――!」

 ブレードは、テッカマンオクタヴィア――さやかと向き合った。
 そこから感じる、一つの気配に気づいたからだ。
 
「まさか――」
「そのまさかよ! 私は、グリーフシードとソウルジェムを合体させる事で、対ラダム化プロテクトを突破したのだ!」
961 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/06/26(火) 00:59:38.64 ID:g7uRISW50
 ランスの台詞が終わると同時に、オクタヴィアの斬撃が頭上に来た。
 ギン! と耳障りな音が響き、オクタヴィアの剣とブレードの槍が交差する。
 そして次の瞬間、オクタヴィアの膂力に耐え切れずにボコリ、とブレードの足元の地面が陥没した。
 追撃として放たれたランスのテックレーザーを、オクタヴィアを弾き飛ばしたブレードは風車のように回転させたランサーで受ける。
 さらに踏み込んできたオクタヴィアの刺突を頭を沈めてかわすと、ブレードはさらに跳躍して距離をとった。
 
「フッ、数の不利に加え、その新たなテッカマンは貴様の元仲間。果たして、貴様にこの状況を切り抜けられるのかな?」
「ぐっ……」

 否定したいが、事実ではあった。
 テッカマン二体を前にしての勝算は決して多いとはいえず、加えて今の自分にはまださやかを倒すべき敵か、助けるべき味方か、という答えを出せていない。
 
「では、そろそろ終わりだ。死ぬがいい、裏切り者ブレード!」
「―――!」
 
 言い終えると同時に突進してくる二人を捌き切ろうと、ブレードはランサーを分離させて身構えた。
 だが、予測していた衝撃がやってくることはなかった。
 周囲はモノクロのように静謐な世界へと変貌し、ランスもオクタヴィアも突貫する姿勢のまま微動だにすることはない。
 訝しむブレードを、ひとつの声が遮った。
962 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/06/26(火) 01:00:22.47 ID:g7uRISW50
「退きましょう」
「……ほむら!?」

 驚きとともに、ブレードが振り返る。
 そこには、杏子の手を引いたままこちらを見据える暁美ほむらがいた。
 
「これは……なんだ? 魔法か?」
「話は後よ。今は、撤退して態勢を立て直さなければならない」
「なっ……お前、さやかを見捨てて行く気かよ!?」

 杏子の台詞に、ほむらがゆっくりと振り返った。
 
「この場に居残って、何か状況を覆す一手を、貴方は打つことができるの?
 そんな無謀な賭のために、あなたとブレードを失うわけにはいかないわ」
「……くそっ」

 ほむらの言葉を否定しきれずに、杏子は忌々しく地面を蹴る。
 杏子がこれまでの戦いの経験から培ってきた勘は、確かに撤退することを彼女自身に訴えかけていた。

「……確かに、それしか方法はない、か」
「気をつけて。私の手を離してしまったら、あなたの時もまた止まってしまうわ」

 苦々しくブレードはつぶやくと、ほむらと杏子を抱えて踵を返した。
 だが、この場を去る直前に、杏子はブレードの肩越しに、時が止まったまま動かないさやかへと叫んだ。
 
「待ってろよ、さやか。――絶対に、絶対に戻ってくるからな!」

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

「―――!?」

 一瞬でブレードが目の前から消えたことに、オクタヴィアは制動をかけた。
 罠の可能性を疑って周囲に気を飛ばすが、ブレードと杏子の気配は既にない。
 
「……逃げた、か」
「…………」
「フフフ、フハハハハ! 後は、このまま一気に紛い物共と裏切り者ブレードを始末するのみよ!」

 勝ち誇って高笑いをあげるランスを尻目に、オクタヴィアはある一点を無言で見つめ続けていた。
 さっきまで杏子がいたはずの、その位置を。
963 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/06/26(火) 01:01:54.97 ID:g7uRISW50
今日の分、そして八話Aパート前半はここまでとなります。
次は一旦さやかから離れて魔法少女とDボゥイたちの会話パートとなります。

次回もまたお楽しみに!
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/26(火) 01:05:29.62 ID:Nl9D395Eo

ランスさん絶好調ですねwwこれも全てオチを付ける前振りにしか見えない。
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [saga sage]:2012/06/26(火) 17:43:48.82 ID:bsiDRY650
もうランスさんというだけでかませな最期しか思い浮かばないw
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/06/27(水) 14:51:33.38 ID:y2kXaf7L0
ランスさんはホントにこういう役回りが似合うなww
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2012/07/05(木) 00:54:19.07 ID:ilDIRCpC0
早く続きが読みたい・・・
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/05(木) 14:23:19.29 ID:i5CMdsgDO


ランスの声優知らないけど、かませっぷりでアミバっぽく再生されて困る……


969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/07/05(木) 15:37:07.43 ID:p2rCEgI7o
承太郎でヘンケン艦長でマイヨ・プラートだよ
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/06(金) 13:18:04.39 ID:35Vx7/IDO
マジかよww
971 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/07/09(月) 21:08:55.34 ID:yCoN2iMg0
大変おまたせしました。
明日に投下いたします
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/10(火) 23:41:59.79 ID:JZbXXWDK0
どうした?作者なんかトラブルでも
973 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/07/11(水) 10:36:13.50 ID:0dMlTByc0
すいません、力尽きて寝てました。改めて今夜投下いたします
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/11(水) 22:42:59.21 ID:qqpO7XBs0
>>1大丈夫か?あまり無理するなよ
975 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/07/12(木) 00:01:53.25 ID:iGm+r6rR0
    __i⌒i__     i⌒i__i⌒i_        .i⌒i            /⌒,
  /´ _____ )    |  __   _)      |  |     __/  /___
  |  |  ____   i⌒i |  |  |  |    i⌒i  |  |  i⌒i (__   ___)
  |  | (___ `,. |  | |  |_.|  |__  / /  .|  |  ヽ `、  /  /
  |  |   __|  | .ゝィ |  _   ___ ) ` ´  |  |   ` ´  /  〈   i´ `i
  |  | /´._  _ノ    |  | |  | i⌒ 、       ゝィ   _    \ ` /  /
  / / / / |  |_   / / / /_ヽ \     _,-一´ )   _,-    、_
 ゝ_ノ ゝ_ノ 、__) ゝ_ノ ^ 、____ ィ   ( ̄ _,---イ  ( ̄ ,__入 __)
                            ̄          ̄
 P U E L L A M A G I  __i⌒i__      ○                       / ̄// ̄/
 M  A  D  O  K  A (__  __)     ○,   _i´ `i__             /_//_/
  B  L  A  D  E     __|  |___  ,´ `、,/ ,` (_   _  `  i⌒i  \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /_  _/_ ̄/_ _
               (__  __) ヽ    /    /  /  〉  〉 ヽ `、  \       // //__/ //__//__/
                   __|  |___   /  , ´     /  /  /  /   ` ´      ̄/  // /__/_  /
              i´  _   __)  |  |      ゝ_ ノ _/  /   ∧   __/  //   ̄,  ' ´   \
              !  (_)  |      |  、__   (__ ノ  <  > /   //  ,  ' ´ /__/\__\
              ゝ、__,イ       ゝ、___)           ! ヘ ! /.  //, ' 
                                               /. //´
                                               //
                                             /

はじまるよ!
976 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/07/12(木) 00:02:24.67 ID:iGm+r6rR0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

『最悪の事態になりかけてると言わざるを得ないね』
「…………」

 ふぅ、と身体を大きく上下に揺らして――最も、この生物に呼吸など必要ないはずだが――キュゥべえは、告げるように呟いた。
 それに沈黙で答えた者たち――魔法少女たちと、スペースナイツだ――がいるのは、もはや作戦会議室と化した感のあるマミの部屋だった。
 これからどうするか、と話しあおうとした矢先に、白い獣がひょっこりとやってきたのだ。
 
『まさか、グリーフシードを使用して魔法少女をテッカマン化させる手段があったなんて、僕も思いもしなかったよ』
「勝手な事言いやがって――」

 呪いめいたうめき声を漏らしたのは、頭に包帯を巻いた杏子だった。
 テッカマンオクタヴィアとの戦いで負傷していたものの、マミの治療術によって一応戦いに支障が出ない程度には回復している。
 だが、キュゥべえはそんな杏子を無視して、Dボゥイへと向き直った。
 
『それで、君はこれからどうするんだい? テッカマンブレード』
「…………」

 Dボゥイは黙して答えない。
977 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/07/12(木) 00:13:40.12 ID:iGm+r6rR0
 Dボゥイは黙して答えない。
 既にキュゥべえはさやかを魔法少女でなく、テッカマンとしてしか見ていないのは明白だった。
 魔法少女にでなく、テッカマンであるDボゥイに対してのみ聞いているのもそのためだろう。

『僕としては、美樹さやかの排除を頼みたいんだけどね』
「――てめえっ!!」
「佐倉さん。今は落ち着いて」

 激高した杏子を宥めると、マミは横目でDボゥイを見る。
 
『……まあ、いいや。僕がやるべき事はやったし、後は君たちの好きにするといい』
 
 答えを待たずにキュゥべえが去った後も、しばらく何かを考えているかのようにDボゥイは目を伏せていた。
 
「……俺は、全てのラダムを滅ぼす」
「――!」
 
 ザッ――と音を立てて、発条仕掛けのように杏子が身構える。
 だが、Dボゥイは続けて口を開いた。

「だが――釈然としない部分があるんだ」
「それって……?」
「さやかの攻撃を受けた瞬間だ。
 テッカマンは、通常増幅されたエゴによって、衝動はより強くなっているはずなんだが……。
 ――どういうわけか、あの時のさやかからは、殺気どころか何の感情も何も感じなかった」
「つまり、さやかは元に戻せるかもしれないってことか?」
「そこまではわからない。……ただ、今の彼女はラダムテッカマンとも、魔女とも違う存在だ。何かしら、俺達がまだ見つけていない突破口があるかもしれない」
「それだけわかれば十分だ!」

 さっきまでの不機嫌が嘘のような上機嫌ですっくと立ち上がる杏子。

 だが。
 
「――それは、それだけのリスクを払うだけの価値があるものなの?」

 そんな杏子を制するように口を開いたのは、黒衣の魔法少女、暁美ほむらだった。
978 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/07/12(木) 00:15:33.10 ID:iGm+r6rR0
今日のところは以上となります。

次回は今週土日に投下予定です。


ブレード配信も始まって、ホライゾン二期も始まって、今まさに脳内アニメ歴が確変中な今日この頃。

979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/12(木) 07:00:55.75 ID:Kj0hc/b/o
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/12(木) 16:53:03.08 ID:YLBP2reT0

DボゥイはQBに対して、どういう感情を抱いているんだ?
敵対してるとはいえ、ラダムと似たようなやり口の奴を見たら、もっと殺気だった対応でもおかしくなさそうだが…
981 : ◆YwuD4TmTPM [saga]:2012/07/12(木) 18:06:22.52 ID:iGm+r6rR0
>>980
年長者の手前、嫌悪感はあれど取り乱したり激昂したりすれば魔法少女たちにも影響を与えるので抑えてます。
あと、QBを殴り倒しても状況は好転しないだろうことも理解してるので。
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/16(月) 00:25:58.45 ID:7i5bvsaq0
どうした?今週投下予定のハズだが…
間に合わなかったか?
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/17(火) 08:32:10.02 ID:OOelmMrDO
まぁ、ニコ動でブレード配信されはじめたし
それでも見て待ってようぜ
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/07/17(火) 19:56:58.56 ID:N/OIEGw20
すいません、メインのデスクトップのマザボが逝ったので現状HDDから原稿のサルベージ作業中です。
今週中にはなんとか投下しますのでもうしばらくお待ちください
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/07/18(水) 00:28:51.94 ID:8MTIPmKC0
データ消失しないよう気をつけてね
それでエタった作品はかなり多いし
投稿は遅れてもいいから焦らずゆっくりと慎重に
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/07/23(月) 18:52:42.97 ID:mHwc3k8F0
>>945
通常でも極超音速を遥かに上回る。あと亜光速じゃなくて最大で光速域な
987 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/07/23(月) 22:34:36.64 ID:X9tqMOJo0
原稿データ回収できました!
HDDもガタが来ていたようで回収完了後数時間でカチカチ断末魔を…あぶねえ。

現在執筆に入りましたのでもうしばらくお待ちください
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2012/07/29(日) 15:41:22.59 ID:1zACcegd0
大丈夫か?
しっかりな
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) :2012/08/01(水) 00:54:17.81 ID:+FKUTPHW0
そろそろ次スレ立てるべきか
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/08/07(火) 22:52:20.91 ID:/FJQ0VZd0
UP主、ちゃんと生きてるか?
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/08/08(水) 00:04:05.65 ID:tENh1zUBo
今はフォーマット中なんだろう
992 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/08/09(木) 22:47:14.55 ID:22XkESRt0
投下のメドが立ってきたので、8/12(日)に投下いたします。
とはいえ、新スレ立ててになりそうですが
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/09(木) 23:07:51.91 ID:KwQXsCQFo

新スレは立てなくて大丈夫かな?
994 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/08/10(金) 10:09:18.96 ID:6bnr19GT0
>>993
こちらで立てますので大丈夫です
995 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/08/12(日) 23:29:58.92 ID:VyTSlKb90
HTML化依頼出しましたので以降は次スレでお願いします
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/13(月) 00:57:30.92 ID:4V+OHxG6o
埋め
997 : ◆YwuD4TmTPM [sage]:2012/08/13(月) 06:36:21.62 ID:MmzqS9Uw0
あ、忘れてた。次スレは

魔法少女まどか☆ブレード Part2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1344781478/

になります
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/13(月) 21:01:02.94 ID:D7RPXtJ9o
埋め
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/08/13(月) 22:50:11.20 ID:BdiM8cL+o
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/14(火) 00:38:44.43 ID:wPP2OKouo
>>1000なら仮面の下の涙は拭われる
1001 :1001 :Over 1000 Thread
☆.。 .:* ゜☆.  。.:*::::::::::::::::゜☆.。. :*☆:::::::::::::::::: 。.:*゜☆.。.:*
:::::::::::::=:。.: *  ・゜☆  =:☆.。 .:*・゜☆.  。
:::::::::::::::::::::::::.:*゜☆  =:. :*・゜☆.::::::::::::☆
。.: *・゜☆.。. :* ☆.。:::::::::::::::.:*゜☆  :。.:・゜☆.。
::::::::::::::::: *=@☆.。::::::::::::::::::::::::::::::.:*・゜☆    =磨K☆.。
:::::::::::::::::::.:*・゜☆  :. :*・゜☆.::::::::::::::::::::::::::゜☆.
:  =: :   *  ゜☆.。::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
☆.。 .:* ゜☆.  。.:*::::::::::::::::゜☆.。. :*☆:::::::::::::::::: 。.:*゜☆.。.:*
:::::::::::::=:。.: *  ・゜☆  =:☆.。 .:*・゜☆.  。
:::::::::::::::::::::::::.:*゜☆  =:. :*・゜☆.::::::::::::☆
。.: *・゜☆.。. :* ☆.。:::::::::::::::.:*゜☆  :。.:・゜☆.。
::::::::::::::::: *=@☆.。::::::::::::::::::::::::::::::.:*・゜☆    
:::::::::::::::::::.:*・゜☆  :. :*・゜☆.::::
   ::  !ヽ  :
   :     !ヽ、    ,!  ヽ
                 ,!  =]‐‐''   ヽ:
   :   / ´`)'´    _      !、
            lヽ /   ノ    , `     `!:
       lヽ、  /  Y    ,! ヽ-‐‐/          l
.     =@>‐'´`   l   ノ   ヽ_/          ノ:
      ,ノ      ヽ =@           _,イ:
    '.o  r┐   *   ヽ、 ヽ、_     ,..-=ニ_
    =@   ノ       ノヽ、,  !..□ /     ヽ
     ヽ        .ィ'.  ,!    ハ/    、   `!、    七夕に…
      `ー-、_    く´ =@    /     ヽ  
         ,!     `!  l              ヽ、__ノ    このスレッドは1000を超えました。もう書き込みできません。
         l     `! `! !              l
          l  . =@ ,=@ヽ、 、_ ,ィ      ノ               
         l、_,!   し'   l =@  `l     =@               ://vip2ch.com/
1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
姫神「浮気しちゃ。ダメだよ?」ギュッ上条「もちろん」ナデナデ @ 2012/08/14(火) 00:16:57.84 ID:Rf5CECjSO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1344871017/

家でくつろいでたんだが… @ 2012/08/14(火) 00:06:35.14 ID:Yk7V6wBz0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1344870394/

殴られ屋 @ 2012/08/13(月) 23:39:17.02 ID:dJQJRmi3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1344868756/

さやか「全てを守れるほど強くなりたい」 @ 2012/08/13(月) 23:31:39.04 ID:7b73m8yk0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1344868298/

【咲】京太郎「……五黄土星?」 @ 2012/08/13(月) 23:27:00.37 ID:hVmwcDP70
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1344868020/

安価で幼馴染みをデートに誘う @ 2012/08/13(月) 22:19:49.06 ID:jEYIU8vH0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1344863988/

【咲:安価で】京太郎「ワイルド・ウェスト?」【西部劇!】 @ 2012/08/13(月) 21:41:12.64 ID:kCjQ1TvP0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1344861672/

遺書 @ 2012/08/13(月) 21:17:23.15 ID:HLeGg7o70
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1344860242/



VIPサービスの新スレ報告ボットはじめました http://twitter.com/ex14bot/
管理人もやってます http://twitter.com/aramaki_vip2ch/
Powered By VIPService http://vip2ch.com/

570.00 KB   
VIP Service SS速報VIP 専用ブラウザ 検索 Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)