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百合子「これで私の130連勝ね」美琴「128勝2引き分けよっ!訂正しなさいっ!」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:49:29.41 ID:hflxQzlu0
* ふと思いついた小ネタ(スレタイ含む)を書くスレ9 の>>140氏のネタを参考に、禁書外伝:超電磁砲の短編SSを書かせて頂きました。
* 原作と違って一方通行が女性です。
* 時系列の矛盾や原作崩壊やキャラ崩壊がありますのでご容赦下さい。
* 上条と百合子は冒頭から知り合いになっています。
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:51:09.06 ID:hflxQzlu0
学園都市のとある河川敷のほとりで、二人の少女がまるで巌流島の決闘の如く、互いに睨み合いながら向かい合っていた。

片や、うっすらと淡いピンク色に染まった白い長髪を靡かせ、勝ち誇った顔を浮かべる華奢な体躯の少女。
その肌は髪の色同様、不自然な程に白く、そして傷一つなく瑞々しい。
ただ一点、長い睫毛の下に宝石のように嵌めこまれた、深紅の大きな瞳だけが彼女の勝気な性格を表すかのように真っ赤に輝く。
折れそうな細腕をしっかと組み、長点上機学園の制服を身に包んだアルビノの少女は、相対する彼女より僅かに高い身長もあってか、相手を見下ろすような姿勢で仁王立ちしていた。

そしてもう片方は、対照的に悔しげに満ちた表情で白い少女をキッと睨みつける、常盤台中学の制服に身を包み、栗色をした短髪の少女。
悔しさからか、両手をきつく握り締め全身を小さく震わせながら、電撃系の超能力者らしく、全身から怒りで稲妻を纏わせている。

全く正反対の様相を見せる二人の少女だが、両者とも、普通に黙ってさえいれば誰もが認める可憐な美少女には間違いない。

「まっ、128勝だろうが130勝だろうが、どっちにしても私の全戦全勝で間違いないけどね」

フフンと鼻を鳴らし、自身の長髪を自慢げにかき分けながら、片方の白い少女はふんぞり返り、向かい合いって悔しげに顔を顰める短髪の少女に厭味ったらしく言い返す。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:52:04.10 ID:hflxQzlu0
「ぐぬぬ……」

頑然たる事実を突かれて返す言葉がないのか、栗色の短髪の少女は悔しさをムキ出しにして年頃の女の子らしからぬ歯ぎしりをする。

「今回はこの程度にしといてあげる。もうそろそろ当麻君の補習が終わる頃だから、迎えに行かなきゃならないし」

「ぐぬぬぬ…」

もはや低い野犬のような唸り声を上げ続けている短髪の少女に構わず、言いたいことを一方的に述べ尽くした白い長髪の少女は、くるりと彼女に背を向けると、そのまま道路へスタスタと歩き出す。

「まっ今回はイイ線いってたと思うから、また次に期待ってことで」

去り際に一度振り返り、勝者の余裕からか満面のほほ笑みを湛えたまま、白い少女はあたかも教師が生徒を諭すような口調で、慰めの言葉を口に出す。
だが、その言葉はプライドの高い短髪の少女にとっては、究極の侮辱に他ならない。

「…何が」

「ん?」

「何がイイ線いってたよっ! 毎度毎度…一方的にこっちの攻撃が無効化されてるだけじゃないっ!!」

短髪の少女は怒りで髪をハリネズミの如く逆立てながら、周囲に電撃をまき散らして絶叫する。

「一体なんなのよ…アンタの能力…いくら調べても…考えても、全然わからないッ…!」

ひとしきり電撃波を出し切り、一転して気力が底を付いたのか意気消沈してその場にへたり込む短髪少女。
その落ち込みように流石に可哀想に思ったのか、白い長髪の少女はすっと顎に手を当てて考え込む。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:52:46.20 ID:hflxQzlu0

「そうだね…もし私の能力を当てられたら、そっちの一勝ってことでいいよ」

ソプラノの柔らかい声質で、しかしその甘ったるい声色に致命的に不釣り合いな不敵な笑みを見せつけながら、白く淡い桃色の長髪の少女は一つの賭けを提示する。

「じゃあ、ね。御坂さん」

二度は振り返らず、そのまま少女は河川敷から立ち去り、さっさと雑踏の中へと紛れて去って行った。
白い少女の初めて出された唐突な提案に、暫くの間フリーズしていた御坂と呼ばれた短髪の少女。

「なんだってのよ…もう!」

彼女は独り残された河川敷の辺りで、ようやく我に帰って悔しげに呟いた。





「不幸だ…」

たった今ようやく補習地獄から解放された学ラン姿のツンツン頭の少年は、年季の入った中年リーマンのようなドンヨリとした溜息を深く吐く。

230万の人口の内、32万もの超能力者を有する学園都市。
その場所は、投薬や生体刺激、催眠などあらゆるカリキュラムを用いて人為的に``超能力``を開発する世界の中でも飛び抜けた一大能力開発機関。
大抵の生徒はスプーン曲げの一つ程度なら出来るようなるが、不幸にも全く能力が発現しない人間も当然現れる。
ツンツン頭の少年もその不幸な例に当てはまり、学園都市の高校に通いながらも、超能力を持たない無能力者の一人だった。

「げっ、終バスもうおわってんじゃん……。 歩くか」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:53:24.46 ID:hflxQzlu0
帰途に着こうとバス停の前に立ったはいいものの、その時刻表は無慈悲にも、彼が住む学生寮への路線バスの最終便が、つい先程行ってしまったことを記していた。
仕方無しに、暮れ始めの夕焼けの空の下、徒歩では結構な時間がかかる距離をとぼとぼと歩き出す少年。
だが、ほんのちょっと歩き出した直後、そんな少年を嘲笑うかのように、彼の靴にグチャッとした嫌な音がして、足に粘着物がまとわりついた。

「うえっ…今度はガムかよ…全くもって不幸だ……」

常人ならめげてしまうような立て続けに起こる災難。
しかしこの少年はもはや慣れてしまっているのか、手なれた風にポケットからティッシュを出すと、さっさと右手で拭き始める。
一見なんの変哲もない少年の右手には超能力とは違った、とある力が宿っている。今現在も彼に起こり続けている不幸の嵐は、他らならぬその右手のせいであった。
もっとも、そんなことを知る由もない少年は、生まれてから一度も手を差し伸べてくれない幸運の女神に心の中で悪態をつきながら、なかなか取れないこびり憑いたガムと悪戦苦闘を続けていた。
そこに、すっと綺麗なレモン色のハンカチを持った白い細腕が、彼の目の前に差し出される。

「よっ、相変わらず景気の悪い顔してるねっ! 当麻君」

彼が見上げると、そこには、先程まで河川敷で決闘まがいな事をしていた白い髪の少女が、ニコニコと邪気のない笑顔を浮かべながら立っていた。

「百合子か。あいにく上条さんは景気が悪いどころかリーマンショック級の不幸真っ最中なんですよ。ってそのハンカチは…?」

当麻と呼ばれた少年は仲の良い知り合いなのか、白い少女を自然に百合子と呼び返す。
その言葉一つだけで喜色を浮かべた彼女は、その真っ白な頬を照れからか、うっすらとほのかに桃色に染まらせる。
対照的に少年は沈んだ暗い表情を浮かべたまま、白い少女から差し出されたハンカチにふと疑問を呈す。

「そんなティッシュだとなかなか取れないでしょ? だからあげる」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:54:01.01 ID:hflxQzlu0
「いや、流石にそれは悪いからいい。落ちてたガムなんてばっちいもん拭いたら、二度と使えなくなっちまうだろ?」

そう言って、差し出されたレモン色のハンカチをやんわりと返そうとする当麻。

「いいっていいって、どうせ近所の店で買った安物だから、使い捨てにしたらいいんだし。 一枚くらい平気だよ」

だが、百合子と呼ばれた少女の方も、遠慮気味に返そうとした彼の手をぎゅっと押しとどめる。
だが、そんな気前が良すぎる彼女の言動に、当麻は逆に軽い嫉妬と不満を覚えた。

「…はあ、これだからエリート校に通うお嬢様は、ホントに金銭感覚が麻痺してるよな」

その言葉の意味を図りかねて、一瞬キョトンとした後、百合子はようやくどうやら自分が当麻に窘められている事に気がついた。

「いやいや、安物のハンカチ一つで金銭感覚云々はないでしょ? 単に当麻君がドケチなだけだから」

「……そうは思えないんだけどな」

「そうなの! それに当麻君が思ってるほど、私、お金遣い荒くないよ。なにせウチの父親に金銭関係ぜーんぶ握られてるんだから! お小遣いも少ないし」

当麻の言葉に頬をリスみたくぷっくりと膨らませながら、プンスカと怒って言い返す百合子。

「少ないって…月にどれくらいもらってんだよ」

だが、そんな彼女の言葉を全面的に信用できない苦学生の彼は、ジト目で彼女をまじまじと見つめる。

「幾らって…ほんの1万程度だけど?」

「……はあ」(一万で少ないとか……毎回スーパーの特売に一喜一憂してる俺とは天と地ほど差があるじゃねぇか)
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:54:41.23 ID:hflxQzlu0
「ちょっと何よ、その溜息」

先ほどガムを踏んづけた時と、負けず劣らずの深い溜息を盛大に吐いた当麻に、百合子はあからさまに馬鹿にされてる気がして言葉で噛み付く。

「いえ、ひしひしと庶民と金持ちの落差に嘆いていただけですよ、チクショウ」

ひとしきり悔しがった後、手をヒラヒラとさせ、特に他意はないと百合子に断りを入れる当麻。
そうして、彼は差し出されたレモン色のハンカチを受け取らずに、また靴にこびり付いたガムを落とす作業を再開し始める。

「それで結局、ハンカチは使わないんだね…」

「やっぱ悪いし、気持ちだけ受け取っとくよ。ありがとな、百合子」

「えへへ…」

結局ハンカチを受け取らなかった彼に、不満を抱いていた百合子だったが、不意にお礼に言われ、一転して頬を真っ赤にして、照れくさそうにモジモジして眼をそらす百合子。
その小動物のように目まぐるしくコロコロと変わる表情を見て、今まで沈んだ気分だった上条は、いつの間にか知らず知らずのうちに、つられて静かに笑顔を浮かべていた。





「で、俺になんか用でもあったのか?」

あれからガムの塊と格闘すること数十分。ようやくべとついたガムから解放されて二足歩行ができるようになった当麻は、道すがら自然と一緒に歩いていた百合子に話しかける。

「あっ、そうそう、すっかり忘れてたんだけど、これから二人で一緒にゲーセン行かない?」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:55:20.67 ID:hflxQzlu0
その言葉で本来の目的を思い出したのか、パチンと両手を叩いてから百合子は当麻を誘った。

「……いや、もう日も暮れかかってるし、今日は遅いだろ。 俺はともかく百合子は門限あるだろうし」

一瞬、首を縦に振ろうとした当麻だったが、ふと辺りを見回し、すっかり夕焼けも暮れて、そろそろ夜の帳が落ちつつあるのに気付いた彼は、その提案を遠まわしに断ろうとした。

「大丈夫、大丈夫! さっきメールで今日はウチの親、仕事で遅れるって分ったから!」

だが、そんな彼の言葉が全く聞こえてないのか、百合子は強引に彼の片腕を掴んで抱き寄せ、ぐいぐいと引っ張っていく。

「ちょ、ちょっと、そんな強引に引っ張るなって!」

「いいから、いいから、今度面白い新台が入ったんだよっ、早く行こっ!」

そう言って、当麻の意思におかまいなくどんどん進んでいこうとする百合子。
思わず抵抗しようとする当麻だが、その時不意にふにふにした柔らかく、そして暖かい何かが自分の腕に当たったのを感じ取る。

「ちょ、あたってる、あたってるって!」

その感触の正体が、彼女の慎ましやかだが確かに存在する胸だと気付いた当麻。
普段は鈍感を地でいく彼だが、流石に気恥ずかしさから彼女を振りほどこうともがいた。

「何が?」

「いや、ナニと申されましてもこっちの方からは正直に言いにくいといいますか…」

急にモジモジしだした彼に、百合子は密着していた姿勢を止めて、怪訝そうな顔をする。
その原因が、自分の胸云々のことにまったく気がつかないあたり、彼女も彼に負けず劣らずのそうとうな天然だった。

「? 変な当麻君」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:55:56.68 ID:hflxQzlu0
当麻の傍から見れば奇怪以外の何物でもない妙なしぐさに、可笑しさからクスリとほほ笑む百合子。
彼はそんな彼女のあどけない仕草をみて、断る気も失せてしまったのか、頭をボリボリと掻いて、今度は自分から腕をすっと差し出す。

「はあ、仕方ねえな…それじゃあ、俺で良ければ、気が済むまで付き合ってやるよ」

「うんっ!」

当麻から差し出された右腕を握って、百合子は嬉しげに彼をひっぱりながら駆け出した。





「百合子はホントこのゲーセンが好きだよな、気にいった台でもあんのか?」

百合子に腕をひっぱられるままついて行った当麻は、行き慣れた第七学区のとある昭和チックな古びたゲームセンターまでやってきて、素朴な疑問を口にした。

「んー、特に好きな台とかは無いんだけど、あえて言うなら、雰囲気かな?」

当麻の質問に、指に手を当てながら、百合子はあっけらかんと答えを返す。
その回答に、ゲームセンターにしては静かな周囲を見回して、当麻はなるほどと納得した。
置いてあるゲーム機からは盛大にテクノチックな電子音が響いているものの、それをプレイしている人影はまばらにしかない。

「そうだなあ……確かにここのゲーセン、古いタイプの台ばっかで人気ないよな」

彼は普段は、科学の最先端を行く学園都市らしい、最新のネット対戦機能やカードを使ったゲーム台が置いている、ゲームセンターで遊んでいた。
しかし、華々しく、そして人気があるがゆえに、ガラの悪い連中が多く、何かと絡まれることも多い。
逆にここは、人気がないゆえに落ち着いた雰囲気で、デートスポットとしては隠れた穴場だった。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:56:40.50 ID:hflxQzlu0
もっとも、百合子はさておきその手の話題に疎い当麻にとって、今現在の行動が、デートだという認識などこれっぽっちも無かったが。

「ここだと変なのに絡まれることもないし、ゆっくり気楽に遊べるってことか」

「そういうこと、今日はどれで遊んでく?」

「うーん……」

百合子の問いかけに当麻は、騒々しくライトを点滅させるゲーム台の山を見回しながら、自分の内ポケットにある心もとない薄い財布と相談する。
貧乏学生な彼にとっては、なるべく少ないコインでできる限り遊べる台で、そしてせっかく二人で来たからには協力プレイをしたい。
そう当麻が思案していると、ふと一台の、ド派手なスピーカーと床一面に矢印があるゲーム筺体が目に留まった。

「あれにしようぜ?」

「へー、ダンシングゲーム…矢印に合わせて歌って踊るゲームだね」

「これなら二人で楽しめんだろ?」

「うん、じゃあ、さっそくやろっ!」

DANCE DANCE REVOLUTIONと派手なネオン管で斜線に描かれた大文字のゲームの下で、二人は息を合わせて楽しげに踊る。
やりこんだ音楽ゲームマニアからすれば、素人丸出しで足を時々もつれさせる二人のダンスは、さぞ不格好で滑稽に映っただろう。
だが、無邪気に息を弾ませながら踊る少女と、それに合わせて踊る少年の姿は、そんな瑣末な見栄はどうでもいいと思えるほど、画面上のキャラに合わせて楽しげにステップを繰り返していた。

「あ〜、終わっちゃった」

「いやー、普段ダンスゲーなんてやんないから、足がもうパンパンですよ」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:57:17.86 ID:hflxQzlu0
能力を使えばともかく、素の運動神経は皆無な百合子と、普段はもっぱら格ゲーばかりをやり、ダンス方面はからっきしな当麻。
結局、数面プレイだけでゲームオーバーになってしまったが、二人はへとへとになりながらも不思議な満足感を味わい、顔を見合わせて満足そうに笑い合った。

「次はどれにする?」

「さすがに連チャンはきついから、今度は体を動かさない奴にしようぜ」

「じゃあ、あれがいい!」

先ほどのまでの疲れを感じさせないはしゃぎっぷりで、百合子は当麻の袖を引っ張りながら指差したのは、もはや説明が不要なほど日本中で流行し定着したクレーンゲーム。

「UFOキャッチャーね、あんまり常時不幸なスキル持ちの上条さんに期待しないで欲しいんですが」

「まーまー、一回ものは試しにやってみようよ?」

昔からこの手でゲームで景品をゲットした記憶が皆無な当麻にとって、あまり気乗りがしないタイプのゲームだったが、彼女に頼まれた手前、渋々と首肯する。

「……ン。じゃあ、やってみるか、マジで期待しないでくれよ?」

「私、あのクマのぬいぐるみがいいなー」

「わかった、わかったから袖をひっぱるのはやめてくれっ」

当麻の弱気な言葉が耳にまったく入ってないのか、無邪気に指でブルーのテディベアをさしておねだりする百合子。
女子高生とは思えないほど幼げな彼女の様子を見ながら、当麻はふと自分にもし妹がいればこんな風だったのかなと思い浮かべた。



「で、出口のちょうど地点で、クマの腕が引っかかって落ちてこないだと……不幸だ」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:57:59.91 ID:hflxQzlu0
UFOキャッチャーの前で、アクリル板ごしに目と鼻の先にある、引っかかって落ちないクマのぬいぐるみを恨めし気に睨む当麻。
一体どこをどう操作すればこうなるのか、実に幾何学的なポーズで出口の筒の間にクマのぬいぐるみは挟まったまま落ちてこない。
当麻は仕方無しに、隣で期待した眼差しで待っているであろう百合子に謝ろうとする。

「えいっ♪」

その時、ドゴンッと嫌な感じのする鈍い打撲音が周囲に響き渡った。
もしや、と恐る恐る当麻が隣に居るはずの百合子を見やると、そこにはUFOキャッチャーめがけて、格ゲーキャラ顔負けの飛び膝蹴りを筺体にコンボでかましている彼女の姿が。

「おおおおおい! 店のゲーム台相手になにしてんだよっ!?」

「ごめん、つい」

「ついじゃねーよ! 店員に見られでもしたらどうすんだっ…て?」

当麻が常識はずれな彼女を叱りつけようとしたその時、ガコンッという落下音と共に、クマのぬいぐるみがUFOキャッチャーの口から吐き出される。

「あ゛……」

当麻が絶句してる間に、百合子は何事もなかったかのようにそのぬいぐるみを取り出し、嬉しそうに両手で抱っこする。

「ありがとう、当麻君! 私、ずっとずっと大切にするね!!」

「……半分くらいは、百合子のキックで獲った気がするけどな」

百合子の感謝の言葉に、ひどく釈然としない気持ちを抱えながらも、当麻はやがて彼女の喜んでいる姿を見て、もうどうでもいいやと冷静な思考をゴミ箱に放棄した。


――――――――――――――――
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:58:34.27 ID:hflxQzlu0


それからひとしきり、レーシングゲー、格ゲー、シューティングとあらかたのジャンルをやり尽くした当麻と百合子。
もう目ぼしいのは無いなと当麻が思い始めたころ、彼はふと百合子が先ほど話した言葉が気になった。

「そういや、今日会った時にお前が言ってた、面白い新台ってのはどれのことなんだ?」

「えっと、あれあれ! いっぱい人が並んでる、あのゲームのことだよ」

彼女が指差す方向を、すっと当麻が眺めると、その場所には、閑散としているゲームセンターの中で唯一人だかりが出来ていた。
どうやら対戦型のゲーム台らしく、先ほどから電子音に交じって観客から歓声があがっている。
残念なことに観客が邪魔をして、ゲームの画面は見られないが、上の方にゲーム台の名前が、英字で一際大きく機械的なフォントが掲げてあった。
どうやら店の方もこのゲームの入荷を売りにしているらしく、周囲の壁には○月×日登場の最新台と盛んに煽り立てるポップが張り付けてある。

「BORDER BREAKっていうのか」

「ロボット同士を対戦させるアクションゲームで、何でも業界初の同時20人対戦が出来るらしいんだって」

百合子の説明に、ほんの最近まで二人対戦の初代バーチャロンで感動していた当麻としては、20人という数字がどうもピンとこない。
ほんの少し前の知識が、あっという間に化石化してしまうゲーム世界の進化の速さに、当麻は喜びよりも戸惑いを感じていた。

「ふーん、このゲーセンもこの手の新しい台を仕入れるようになったんだな」

「……そうだね、私的には嬉しさ半分、ちょっと残念って感じかな」

百合子の微苦笑めいた愁いを感じさせる寂しげな横顔を見て、当麻は彼女が言わんとすることを察する。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 02:59:26.48 ID:hflxQzlu0

「確かに、最新型で人気のゲーム台があるって広まったら、ここも表通りのゲーセンみたく人で溢れる様になるんだろな」

「お店としても人が少ないと儲からないだろうから、仕方ないんだろうけどね」

そうは言いながらも、やはりゲーム好きな彼女としては一度プレイしてみたいのか、うずうずした風に眼前の人だかりから眼を逸らさない。
そんな彼女の様子を見て苦笑しながら、当麻はチラッと腕時計の時間に目をやった。

「あの行列だと、まだまだ空きそうにないな……。 なあ百合子、今日はそろそろ止めにしねえか?」

「……うん、名残惜しいけどそろそろ家の親父も帰ってくるだろうし、今日はこれでお別れだね」

そういいながらも、袖を掴んだまま寂しげな表情をする百合子。当麻は、小さな溜息を吐いた後、彼女の頭を優しく撫でる。

「なに湿気たツラしてんだよ、また今度一緒にくればいいだけの話だろ?」

「……! うんっ! 今度もまた、二人で一緒にこよーねっ!」

「ああ、また今度なっ…!」

一転して満開の花のような笑顔を咲かせる百合子に、当麻は微苦笑を浮かべながらも、約束を交わした。



15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 03:00:57.77 ID:hflxQzlu0
以上、初回分の投下終了です。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/18(月) 03:28:26.51 ID:/fYd1XJvo
おてんばゆりこおおおおおおおおおおおおおおおおお
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [sage]:2011/04/18(月) 03:29:20.77 ID:JTLKq/hq0
正直一方さんがそのまま女の子になったようなSS読んだ後だからちょっと抵抗あるけど
青春は好物なので期待ww
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/18(月) 03:31:04.07 ID:/fYd1XJvo
>>17
>正直一方さんがそのまま女の子になったようなSS
kwsk

転校生?
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/04/18(月) 03:31:10.36 ID:QbEbfWbAO
すっごーい
なかなかやるな
いい腕ですこと
流石です
スモイ!

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 03:48:31.41 ID:Ws5u406DO
なんだこれ








面白
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 05:27:21.23 ID:2mwosa8DO
百合百合な電磁通行かと
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 06:04:14.01 ID:j/+ZRrrDO
>>21
今からでも遅くはないぞ!さあ始めようぜ!
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/18(月) 07:20:41.18 ID:VRfOslc1o
奨学金と完全下校時間が出てこなくて違和感。

頑張れ期待。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/18(月) 07:38:01.65 ID:rAQrphiH0
・・・ふぅ
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 09:35:25.73 ID:KC5tsgUDO
一方さん要素が皆無
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/18(月) 10:45:09.28 ID:zl7OSjfPo
いい感じに凶悪そうな百合子いいよー。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/18(月) 13:13:33.75 ID:US7UAlo+0
誰か書いてくれないかと思ってた。
期待してる!!
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/04/18(月) 18:04:14.79 ID:1UjQCuRAO
百合子に一方さン成分が見当たらないんだが
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 18:24:35.86 ID:wrDgTykSO
妹達という名前のオリキャラも、百合子という名前のオリキャラもうんざりだ
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 18:38:54.57 ID:txFFS5AAo
>>29
いい方法がある。
ブラウザを閉じるんだ。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/18(月) 22:42:54.73 ID:kuROzImS0
一通≠百合子って感じで・・・
これはこれでアリだな
百合子かわいいよ百合子
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 23:08:55.43 ID:hflxQzlu0
当麻と百合子がゲームセンターで遊んだ翌日。百合子に御坂と呼ばれた中学生の少女は、学校の帰りなのか独りファミレスで時間を潰していた。

「はっー、ホントに最悪だわ…」

そう独りごちりながら、全面的に不機嫌らしさを隠そうともせず、窓際の席から外を眺める御坂。
だが、その瞳は風景を映してはおらず、眼の中には先日も屈辱的な敗北を喫した宿敵の白い少女の姿があった。

(…あのウニ頭といい、百合子といい、どうしてもこうも私の前には規格外の連中ばっか現れるのかしら?)

ぼーっとした様子で、御坂は数か月前のとある昼下がりを思い返す。


――――――――――――――――


あの日、道を歩いていた御坂は、いかにもガラの悪そうな不良の男連中にナンパをされた。普通の少女なら危機的な状況だろうが、強大な超能力を持つ彼女は違う。
学園都市230万人の中でも頂点に位置するもっとも強力な超能力者、7人居るレベル5の第3位、御坂美琴、それが彼女の正体。
圧倒的な電撃使いの能力を持つ彼女にとって、目の前の男たちなど、路傍の石ころに等しい雑魚だった。
その日も、軽くあしらってやろうとしたその時、彼女と不良どもの間に、一人のツンツン頭の高校生らしき少年が唐突に割って入った。

「おー、いたいた! こんなとこにいたのか、ダメだろ、勝手にはぐれちゃ」

どうやら自分を助けようと、知り合いを装って割って入ったらしい、見知らぬウニ頭の少年。それが、美琴と少年こと、上条当麻との出会いだった。
その直後、まったく彼を知らない美琴が少年に突っかかり、演技がばれた彼は不良たちにイチャモンをつけられ、喧嘩になりかかる。

「こんな大勢で女の子一人を囲んでなさけねー、大体おまえらが声かけた相手、よく見てみろよ」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 23:09:57.70 ID:hflxQzlu0
そして、上条の口から放たれた、美琴にとって屈辱的な一言。

「まだガキじゃねーか」

(アイツがそもそも私のことをガキンチョ扱いしなければ、今の最悪な状況は無かったのよ……!)

その言葉にブチキレた美琴は、自慢の電撃で不良ども+上条を攻撃。彼女にしてみれば、ただの低能力者の不良たち相手、一撃で終わるはずだった、しかし。

「っぶねー、何だあ!? 今の」

信じられないことに、並の能力者なら一撃で沈むはずの電撃が、上条当麻にだけは全く通用しなかった。

(何がレベル0よ、何が無能力者よっ! あんなヘンテコで反則な能力を持っていて、ただの無能力者なわけないじゃない!)

あの後、彼の口から説明された右手の力を、今でも美琴は受け入れられずにいる。不思議な右手は、彼曰く、超能力や科学では説明できない不思議な現象を悉く打ち消す「幻想殺し」
その性質上、学園都市のシステムスキャンに引っかからないので、名義上はレベル0らしい。
だが、生来の負けず嫌いで努力を重ねただのレベル1から、名門常盤台のエース、学園都市のトップの最強のレベル5の電撃使いにまで上り詰めた御坂にとっては、インチキ的な力を持つ彼の存在自体が許せない。
その後、街中で偶然出会うたびに、御坂は当麻に勝負を挑みつづけた。もっとも、毎回不思議な右手の前に敗北を喫し続けたが。

(私は、自分より強いヤツが存在するのが許せないのよ…!)

上条からすれば、せっかく身を挺して助けた相手に絡まれるという不幸以外の何物でもない。
しかし、非常に自分勝手ではあるが、御坂にとってもレベル0にレベル5である自分が負け続けるのは、絶対に我慢ならない。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 23:10:53.16 ID:hflxQzlu0

そんな日々が数週間ほど続いたある日、御坂にとっては藪から蛇をつついた事態がやって来た。

「アナタね、私の友達の当麻君にさんざん理不尽に絡んでくれたのは…!」

御坂の能力が全く通用しない相手その2、鈴科百合子の登場である。
当麻の替わりに私が相手になってやると自信満々でのたまう彼女に、御坂は全力を持って叩き潰そうと能力を行使した。だが、結果はご覧のとおり。
上条当麻以上に正体不明の能力を操る彼女に、手も足も出なかった。
自慢の磁力を歪曲させて現出させた砂鉄の剣は弾き返され、全力の電撃波や、電気とコインを用いた必殺のレールガンでさえ、彼女に当たる直前、あらぬ方向に曲げられる。
相手は全くこちらを攻撃もせず、息ひとつ切らさずに涼しい顔で突っ立ているだけ。
なのに、御坂は何も出来ぬまま力を使い切り、最後は電気切れにさせられた。
結局、その後は今日にいたるまで、彼女に通算128連敗を喫している。

(思い返すだけで、またムカムカしてきたわ……!)

存在自体が反則的な、電撃自体を打ち消す幻想殺しを持つ当麻と違って、百合子の能力自体はあくまで何かの超能力らしい。
バトル中にそう察した御坂は、最初は相手に直接、能力の正体を問いただした。
だが、そんな御坂に返ってきた言葉は、この上なく彼女をこき下ろした痛烈なものだった。

「私はアナタの敵なんだよ? 自分の能力とか即、弱点に繋がる大事なことを、自らばらすわけないじゃない。もしかしてアナタ、結構オツムが弱いのかな?」

あれほど冷静に人を見下した表情で、メタクソに馬鹿にされたのは御坂にとって、生涯を通して初めてだった。
御坂は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の若白髪の女の正体を暴き、除かなければならぬと決意した。
御坂には相手の正体がわからぬ。御坂自身は、科学者でも何でもなくレベル5とはいえ一介の中学生である。
電撃を飛ばし、後輩と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 23:11:40.81 ID:hflxQzlu0
(アイツ絶対性根が腐ってるわッ、普段は可愛い子ぶってるけど中身は最悪よっ!!)

「…さん」

それ以来、あの手この手で御坂は百合子の能力の秘密を暴こうとしてきた御坂。
時には後輩で情報収集に長ける初春という少女に彼女のデータを調べて貰ったり、自分でも彼女が着ている制服から長点上機学園の生徒だと割り出し、違法承知で長点上機の学生名簿データにハッキングを掛けたりもした。
だが、結果は芳しくなかった。御坂が掴んだ情報といえば、彼女が鈴花百合子と言う名前で、長点上機学園高校に在籍する1年生、レベル4の空力使い(エアロハンド)だと言う、学生証明書にも載っている程度のありきたりなデータだけ。

(絶対にアイツの能力は、ただの「エアロハンド」なんかじゃない…もっと何か別の…おぞましい何かだわ……!)

「…み…坂…さん?」

だが、情報は手詰まりで、直接何度対決しても、正体どころかしっぽすら出さない老獪な相手に、御坂は格ゲーでいうハメコンボを喰らって延々と殴られ続けているような八方ふさがりの状態だ。

「あの、御坂さん…?」

「って、さっきから人が真剣に考えごとしてんのに何なのよっ!」

「すっ、すみませんーっ!」

一人思索に耽っている時に、横から何度も誰かに横から名前を呼ばれ続け、元々短気な彼女はとうとう堪らずに相手も見ずに怒鳴りつけた。
だが、返ってきたのは聞き覚えのある声と、謝罪の声。慌てて顔を上げると、そこには恐縮して頭を下げる後輩の顔があった。

「って初春さんじゃない!? こっちこそごめんなさい」

普段から傍若無人な美琴だが、流石に非の無い後輩に当たり散らすほど彼女は人が悪くない。すぐさま初春に謝り返す。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 23:12:23.41 ID:hflxQzlu0
その言葉を聞いて、おずおずと頭を上げた初春は、遠慮がちに口を開いた。

「あの、今…お邪魔していいですか?」

「いいわよ全然、どうせ私一人で暇だったから」

ざっくばらんに手をひらひらさせながら返した美琴の言葉に、ようやく初春も彼女が怒ってないことを察したのか、ほっとしながら美琴が座る席の向かい側に腰を下ろす。

「珍しいわね、アンタが佐天さんと一緒じゃないなんて」

美琴はそう言って、一人でやってきた彼女に、素朴な疑問を口に出す。
彼女の中では、いつもやたらと元気で黒い長髪、中一とは思えない発達した胸が印象的な佐天という同級生の少女と、この後輩といつも一緒に遊んでいる印象があった。

「今日はジャッジメントの仕事中で、ちょうど今、自主休憩中に入ったとこなんです」

初春は店員にパフェを注文しながら、しれっとそういって手を合わせる。

「ようはサボりってわけね…それで、私の姿が目に入ったと」

この子も見かけはおとなしそうなのに、結構やってることは図太いわね、と自分のことを棚に上げてつらつらと考える御坂。
先ほどまでの当麻と百合子に対して込み上げていた怒りは、彼女と話しているうちに、宙ぶらりんの状態のまま収まってしまったようだ。

「はいっ! それで御坂さんがご執心中の、例の人の新情報をお伝えしようと思って」

「ちょっと、それっホントっ!?」

突如入った吉報に、思わず嬉しさのあまり勢いよく大きな音を立てて席を立ちあがる御坂。そのあまりの喰いつきっぷりに話を振った側の初春は思わずひいてしまう。

「あっ、ごめん……」

「えっとですね、例の人、鈴科さんが普段通ってそうな場所が分かったんです」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 23:12:59.23 ID:hflxQzlu0

彼女の言葉を聞いて、御坂の中で一気に期待が膨らむ。

「それでそれでっ?」

「彼女、第七学区のとあるゲームセンターに結構な頻度で現れるそうですよ。何でも聞くところによれば、格闘ゲームでは彼女は向かうところ敵なしの凄腕ゲーマーだそうで。そこで彼女のプレイスタイルを研究すれば、何か攻略の糸口が掴めるんじゃないでしょうか?」

「……? うーん、せっかく教えてくれて悪いんだけど、あんまりアイツの攻略には役に立ちそうにないわね」

御坂がとても残念そうに愚痴をこぼすと、さぞ喜ぶだろうと思っていた初春はきょとんと首をかしげる。

「えっ、御坂さんはいつも鈴科さんって方と、ゲームで勝負されてるんじゃないですか?」

まさか校則でも厳しく禁止されている、能力を使った生身のバトルだと知る由もない初春は、不思議そうに美琴に尋ねる。今度は彼女が慌てふためく番だった。

「えっ!? あっ、そうよ、そうなのよ……あはははは。けどアイツとの対戦ジャンルは格ゲーじゃないのよね」

「はあ、そうですか。お役にたてずにすみません…」

「ううん。ありがとね、初春さん」


美琴の態度に若干けげんそうな顔をしながらも、すぐにしゅんとして謝る初春。そんな健気な彼女の態度を見て、美琴はひどく申し訳ない気持ちになる。
互いに黙り込み、嫌な沈黙が暫くの間続いた。どうも気まずい事態になったと御坂が思ったその時、初春の携帯がメールを受信をしたことを知らせ、鳴り響く。

<ハナテ ココロニキザンダユメヲ ミライサエオキザリニシテ〜

38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 23:13:50.76 ID:hflxQzlu0
「あっ、ちょっとすみません」

どこかで聞いたことのあるOP曲風の着メロが流れる中、慌てて携帯を開いてメールを読みだす初春。
その仕草は、年季の入ったサラリーマンと似ているな、と暇な美琴考えながら、頭の後ろに腕を組み、独りでぽつんと呟く。

「……大変そうね、風紀委員の仕事も」

合席する彼女の様子をじっと眺めていても失礼なので、美琴はしばらく彼女がメールとにらめっこしている間、次に出る漫画の新刊の発売日はいつだったかなと、どうでもいいことを考える。
数分後、メールの返信を終えた初春は、ポケットに携帯をしまいながら口を開いた。

「っと、すみませんでした。特に最近は、妙な事件が立て続けに起こってまして」

「妙な事件?」

事件と、聞いて今までだらけていた顔を引き締め、片眉をあげる美琴。
どこぞの体は子供、頭脳は大人な名探偵ではないが、彼女にはやたらと興味本位で面白そうな事件に首を突っ込みたがる悪癖があった。

「今立て続けに起こっている事件なんですが、工業用や警備に使われているロボットが、突然暴走して人を襲うんです。何の前触れもなく」

「それって愉快犯のハッカーがハッキングして遠隔操作してるとかじゃないの、もしくはウイルスとか?」

レベル5のエレクトロマスターだけあって、御坂は電気関係の知識とハッキングなら、よほどの相手でない限り、引けを取らない自信がある。
たとえ目の前の少女が、実は自分と同じかそれ以上の凄腕のハッカーだと知っていても、湧いて出た疑問を御坂は尋ねずにはいられなかった。

「いえ、それが…暴れていたロボットを拘束して、ジャッジメントの方で徹底的に調べてはみたんですが、解析しても全くそういう痕跡が無かったんですよ」

39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 23:14:52.73 ID:hflxQzlu0
「……それは、不思議な話ね」

「法則性、時間、いずれもバラバラ。正直なところ、いまだ犯人の特定ができてません」

「手詰まりってわけ、か」

「はい。ただ、それと関連してるどうかは不明なんですが、他にも奇妙な事件があったんです……」


――――――――――――――――


その後、御坂の後輩であり、風紀委員でもある白井黒子にサボりを発見され、引きずられながら仕事へと戻っていった初春。
一人とり残された御坂はひとまず会計を終えて、そそくさとファミレスから外にでる。
午後のやわいだ日差しの中、空をゆったりと雲が漂い、行き交う人々はみな平和ボケした顔をしている。
御坂にはとても、初春が言うような凶悪な事件が連日起こり、大変なことになっているとは思えなかった。
いつもならば事件に面白半分で調査に乗り出す御坂だったが、今の彼女は、さんざん打ちのめされた直後だけに気乗りがしない。

どうせ自分がちょっかいを出さずとも、あの優秀な後輩たちが所属するジャッジメントが勝手に解決してくれるに違いない。

そう結論を出した御坂は、先ほど聞かされた事件を頭の片隅へと追いやった。それよりも、今の彼女にはどうしても行きたい気になる場所がある。

「第七学区のゲームセンターね……今から、行ってみようかしら?」

行ってどうにかなるわけでもないが、ちょうど今、空にぷかぷかと浮かんでいる雲のように、なかなか所在すら掴めない白い少女の事を、御坂はいずれ叩きのめす為に少しでも詳しく知りたかった。



40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/18(月) 23:17:16.40 ID:hflxQzlu0
今回の投下はここまでになります。感想、指摘ありがとうございます。
出来る限りの修正をして、また投下させていただきます。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/18(月) 23:28:54.64 ID:zl7OSjfPo
いい塩梅の百合子だからこのままでいいよー。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/18(月) 23:47:20.60 ID:VRfOslc1o
普通に楽しんでるぞー。乙z
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/04/19(火) 12:26:39.05 ID:RCWRkyOAO
細かい話だが御坂がアンタと言うのは上条と黒子と(インデックス?)だけだった気がする
初春とか佐天には○○さん
一方通行は呼び捨て

面白いSSだし今後も期待してるんだぜ
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/19(火) 12:59:01.63 ID:luI96lQDO
百合子の名を借りただけのオリキャラやないですか
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/19(火) 13:21:11.77 ID:IuFZUn/io
そもそも百合子自体が、上条さんの妄想だろ
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/19(火) 13:21:43.19 ID:SA1H77I70
数か月で130戦か。ほぼ毎日絡んでるんだな
そして百合子の財布を握る父親はやっぱりあの人なのかね

>>44 気持はわかるが百合子自体オリキャラみたいなもんだろうよ
   とはいえやっぱりデフォは性格口調そのままの女版一方通行なんかな?
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2011/04/19(火) 13:50:28.79 ID:hQu53xpz0
>>34
メロスかww
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/04/19(火) 16:15:28.55 ID:FnWwatIAO
まぁ百合子といえば性格やら口調が一方さんで
外見は一方さんの女バージョン
ってのが一番イメージしやすいと思う
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/19(火) 23:39:50.29 ID:STZBAtV90
ほどなくして第七学区の一角にある、とある古ぼけたゲームセンターまでやってきた御坂は、妙に薄汚れ、古臭いゲーム筺体ばかりが並ぶこの店の雰囲気に馴染めなかった。

「百合子って普段からこんな辺鄙なとこに通ってるのかしら? 正直、趣味悪いわね」

丁度午後も下り、本来なら学生たちでにぎわっているはずのゲーセンの店内はがら空きで、最初来たときは潰れているのかと御坂は勘違いしてしまったくらいだ。
きょろきょろと辺りを見回しても、どこにも百合子らしき少女の姿は無い。彼女がいないのならこんな場所に長居は無用と、御坂はすぐに足早に立ち去ろうとする。
その時、誰かプレイしているのか、派手な戦闘音が一つのゲーム台から響き渡り、座っている椅子の横から、白い絹のように透き通る特徴的な長髪が、シッポのように揺れ動いてはみ出した。

「って、本当に居た!?」

「だれ? ってなんだ、誰かと思えば御坂さんじゃない」

御坂が発した急な大声に気付いた白い長髪の少女、百合子は画面から外にひょっこりと顔を出す。

「なんだとは何よっ! ちょうどいいわっ、ここで会ったが百年目。今日こそ決着をつけてやるんだから!!」

「んー、私はアナタと戦うのも、いい加減マンネリで飽きてきちゃったんだよね」

「あ、飽きて……!?」

頬をぽりぽりと掻いて、あからさまにつまらげそうな顔を浮かべる舐め腐った態度の百合子に、思わず店内で怒髪天を衝いて雷を落としそうになる御坂。
その一歩手前で、百合子はグーに握った手をポンともう片手に叩いて、さも名案が浮かんだとばかりに口を開く。

「どうせなら、私が今やってるゲームで勝負しない?」

「このゲームで? なになに、電脳戦機バーチャロン…ずいぶんと粗いグラフィックね」

50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/19(火) 23:40:28.79 ID:STZBAtV90
百合子が座っているゲーム台を覗き込むと、そこには今の最新型のゲームと比べると、お世辞にも流麗とは言い難い、いかにもポリゴンチックな角ばったロボットが、画面狭しと動き回って盛んに銃や剣やらで戦っていた。

「これは初代だからね。ほんとは向こうの最新ゲー、BORDER BREAKをやりたかったんだけど、ずっと満席で待ちぼうけてるのもアレだし、今はこっちで遊んでるの」

そう息を弾ませながらまくし立てる百合子。正直御坂にとっては百合子の事情など知ったことではなかったが、純粋にPS3などの最新の画質になれた彼女には、一見して旧世代のゲームは面白そうには見えなかった。

「こんな古いゲーム、遊んでて楽しいわけ?」

「むっ、確かに最新型と比べるとローポリだしカクカクしてるけど、面白さは折り紙つきなんだから! そうだっ、良かったら御坂さんもやってみない?」

そういって腕を掴んで、隣の対戦台に座らせようとする百合子に、御坂はとっさに体を引く。

「だ、だれがゲームなんか……」

「ふーん、そんなに私に負けるのが怖いんだ」

「!? いいじゃない、上等よっ! その伸びきった天狗の鼻、ポッキリへし折ってやるわ!!」

余りにも安い挑発に乗ってくる御坂に、百合子はこれだから彼女と一緒にいると面白いと内心で思いながらも、不敵な笑みを作って更に彼女を煽り立てる。

「ふっふーん、そう簡単には負けてあげないんだからね!」


――――――――――――――――


51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/19(火) 23:41:09.05 ID:STZBAtV90
「いざ、尋常に勝負よっ!!」

このゲームをプレイするのは初めてな御坂は、迷った挙句に直感的に名前がカッコいいと感じた真紅のいかにも高火力で防御力重視、鈍重な機体、ライデンを選択。
対する百合子は、使い慣れているのか惑うことなくライデンとは真逆の、軽量で一発でも当たれば終わりそうな貧弱な装甲を持ち、だがそれと引き換えに超速を誇る紫色の機体、バイパー2を選択した。

「バーチャファイト! れでぃ、ごー!!」

ノリノリで開始の宣言をする百合子を無視して、早速御坂が操るライデンが、先じて両肩の極太の二連装レーザーを豪快に撃ち放つ。
だが、それを難なく回避した百合子のバイパー2は、発射後の硬直時間を狙って一気にライデン目がけてビームバルカンを連射する。

「くっ、こんな豆鉄砲程度で沈まないんだから!!」

バイパー2のバルカンの直撃を受けても、流石は屈指の防御力を誇るライデンだけあって、薄皮一枚程度のHPしか削られなかった。
だが、にも拘らず、まるで既に勝負はついたとばかりに不敵な表情を浮かべる百合子。

「んふふっ、それはどうかな?」

「何ですってぇ!?」

百合子の挑発に、美琴は噛み付かん勢いで、ライデンが携帯する大型バズーカをぶちかます。相手の軌道を読んだ必殺の一撃。
だが、百合子のバイパーは嘲笑うがごとく、寸でのところで不可思議な動きで回避した。

「そ、そんな…外れた!?」

空中でジャンプをキャンセルし相手の一撃を躱す回避テクニック。バーチャロンをやりこんだゲーマーならば誰もが知っている技だが、初見でろくな知識もない御坂相手には、もっとも厭らしく、そしてこの上なく有効なテクニックだ。

「くっ、どうして一発も当たんないのよっ!?」

52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/19(火) 23:41:50.55 ID:STZBAtV90
無論、そんな技の正体を知る由もない御坂は、慌ててバズーカを連射するが、憎たらしいほどすいすいと避けられ、一発も当たらない。

「ふふっ、アナタの機体がいくら高火力でも、当たらなければどうということはないっ!」

そのままズルズルと百合子のバイパー2が逃げ回っているうちに制限時間が終わり、結局最初に一撃を喰らった御坂のライデンが残りHP差から判定負けを喫した。

「ま、負けたっ…!」

「まっ、このゲームをやりこんでる私に、今日が初めてのアナタじゃ勝つのはムリムリ」

「ひ、卑怯よっ、あんな逃げてばっかの戦い方! チキンだわっ!!」

御坂がゲーム台をバンバン叩きながら抗議すると、百合子は困った顔をしながら頬を掻く。

「って言われてもねぇ…私、もともと不必要に人を傷つけるのは好きじゃないんだ…それが例えゲームでもあってもね」

「そのいかにも手加減してやってますって人を見下した態度が、一番……私を傷つけてんのよっ!!」

その言葉に、何か感じるところがあったのか、百合子は一瞬動きを硬直させ、能面の様な無表情になった。

「……じゃァさ、本気で相手しちゃっても良いのかな?」

「っ……!!」

突然、先ほどまでの砕けた雰囲気から、一転して紅い瞳をギョロつかせ、怜悧な眼差しでこちらを見やる百合子に、思わず気圧されて御坂は息を飲む。

「……上等よっ!! 叩き潰してあげるから、さっさと来なさいっ!!」

一瞬でも彼女相手にビビらされたことを恥じながら、御坂は追加で百円硬貨2枚をゲーム台に滑らせ、コンティニューのボタンを叩きつけた。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/19(火) 23:42:25.29 ID:STZBAtV90





――――――――――――――――


「ったく! 百合子のヤツ、初心者相手にあそこまで本気でやることないじゃない…」

あの後、バーチャロンで百合子と再戦したものの、結局手加減無用の本気を出してきた彼女のバイパー2にフルボッコにされた御坂は、愚痴を吐きながらゲームセンターをトボトボと後にした。
時は完全下校時刻をとうに過ぎ、いつの間には辺りは闇の帳が落ち、辺りの路地も人通りがまばらになっている。

「はあ、もう最悪だわ。今日はもう、さっさと帰ろうっと……」

図らずも常盤台では厳罰必死である門限破りを犯した御坂は、ちょうど落ちてた空き缶を蹴っ飛ばしながら呟くと、その先にあった自動販売機にカコンとヒットする。
ふと何気なしに自販機に目をやった御坂は、自分が喉がカラカラなことに気が付いた。

(何でもいいけど、冷たいのがいいな…)

いつもはバクって商品を吐き出さない壊れた自販機相手に蹴りをかましている彼女だが、正常に動作していてる自販機にまで手を出すほど非常識ではない。
ごく普通に可愛いデザインの財布から500円硬貨を出して、自販機に入れようとする。その時、急に彼女の鼻腔は、その場にふさわしくないとある匂いを嗅ぎ取った。

「……何、この匂い…レモンの香り?」

転瞬、後ろから何かが勢い良く迫り来るの察し、咄嗟に身を躱す御坂。刹那、その場にあった自販機は何かの直撃を受け、粉々に四散する。

「誰よっ…いきなりッ…!!」

54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/19(火) 23:43:27.44 ID:STZBAtV90
砕け散った自販機には目もくれず、500円硬貨を握ったまま御坂は自分を狙ってきた相手を威嚇すると、そこには。

「……百合子…!?」

つい先ほど、別れたばかりの筈の白い少女の姿があった。柔らかで繊細な、淡い桃色の白い長髪、肌は脱色したかのような色白で、その容姿は人形の様に整っている。だが、その存在は余りに希薄で、華奢な躰に白いワンピースを纏わせ、その顔に貼り付いた表情は、亡霊の如く、人に本来あるべき一切の感情が抜け落ちていた。

「なんでアンタがっ…!?」

御坂は今まで勝負をすることはあっても、百合子の方からただの一度も攻撃を受けたことはなかった。
彼女が戸惑う間もなく、夜闇の中で、紅い瞳を燦々と輝かせるアルビノの白い美少女から、正体不明の光の弾丸が撃ち出される。

「……!!」

殺される。巨大な光弾を前にそう確信した御坂は、無我夢中で500円硬貨を弾丸にし、ありったけのレールガンを解き放つ。
音速を超える雷の猛撃が、光の砲弾を撃ち消し、そして圧倒的な疾さで白い少女に直撃する。
だが、稲妻の刃がその体を切り裂く寸前、フッと掻き消されるように白い少女の姿は闇に溶け去った。

「…そんな…!?」

相手が突然消え去った事に、驚きを隠せない御坂。一瞬テレポーターかと考えたが、今の様子は普段見慣れた彼女の後輩が使う能力とは、全く雰囲気が異なっていた。
辺りは先ほどの戦闘が嘘のようにシンと静まり返り、日常の風景に戻っている。その場には、破壊され尽くした自販機が残るのみ。
途端に冷静な思考が戻ってきた御坂は、つい先ほどまで居た筈の白い少女が、いつも会っている百合子とは致命的に違う箇所が一つあったのに思い当たる。

「アイツ…足が無かった……!?」

急に全身を支配する金縛りに似た震えを抑えながら、御坂はファミレスで初春から聞いた奇妙な事件を思い出す。

「あくまで噂ですけど、最近、白い女の子の亡霊を見掛けたって話があったらしいんです……」

閑散とした路地に呆然と立っていた御坂は今まで感じたことの無い、言いようのない未知の恐怖に襲われ、その場から一目散で足早に駆け去った。



55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/19(火) 23:48:41.09 ID:STZBAtV90
今日の投下はここまでです。御坂の一人称についてですがどうしても文脈に違和感が出る箇所以外は直しました。ご指摘ありがとうございます。
百合子のキャラですがあえて、今でのスタンダードな百合子像(一方口調・短髪)ではなく、話の都合上、とある理由を持ってそうしています、ご容赦下さい。個人的なイメージ的な外観は立華 奏っぽい感じです。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/19(火) 23:53:54.71 ID:STZBAtV90
時系列ですが補足を一つ加えさせて下さい。一応この話は上条当麻が禁書目録と出会う以前の話として書いています。すみませんでした。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/20(水) 00:31:48.56 ID:cvWtldBno
乙なんだよ
伏線一杯ありそうで楽しみなんだよ
ロングヘアの百合子はレアなんだよ

しかし改行が…凄いことになってるんだよ
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/20(水) 01:11:05.52 ID:UjcIZy2t0
>>57
すみません。こちらの環境(20インチワイド液晶)ではレイアウト崩壊は起っていないので
出来れば、どれくらいの字数で改行すれば良いか指導して頂けませんか?
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/20(水) 10:22:07.71 ID:BiF/xoPQo
別に改行気にならないけど
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/21(木) 00:13:58.84 ID:Z8/cRLMA0

「で、どうしても例の新作ゲーがしたいわけなんだな、百合子は」

数日前に百合子と連れ立ってゲームセンターに行ったばかりの当麻。先日と違って今日は補習が軽めに終わった彼は、比較的早い時間で下校できた。
だが、校門の手前で再び彼女に誘われ、そのとどまることを知らないゲームに対する熱情に呆れが混じった返事をする。

「うん、いつものゲームセンターはどうしてもダメだったから。前なんか門限ギリギリの2時間待ちで粘っても結局空かなかったし」

「で、色々調べて、例のゲームが入荷してあって、尚かつ空いてそうなデパート内のゲームコーナーに行きたいと。ホントにお前ってば、真性のゲームマニアだよな」

普段はどちらかといえば真面目な彼女だが、一度熱中してゲーム台にしがみついてしまうと聞き分けの悪い子供の様に、平気で門限や完全下校時刻を破ってしまう欠点がある。

「えへへ、ごめんね。毎度毎度付き合わせちゃって」

「……まあ、別にいいけどな」

あまり悪く思ってなさそうな百合子の謝罪の言葉を聞きながら、先日チラリと見たゲーム名を思い出そうとする当麻。

「BORDER BREAKだったっけ? お前がやりたいゲームってのは」

「うん! あれからネットで色々調べてみたんだけど、結構面白そうだったから。もう居ても立ってもいられなくなっちゃって」

「そんないつもいつもゲームばっかやってて、学校の宿題とか成績は大丈夫なんかよ?」

相変わらずうきうきとはしゃぐ百合子を、まるで兄がやんちゃな妹をたしなめるように、当麻は口を尖らせる。

「ちゃんと両立出来てるから大丈夫! これでも学校じゃ成績は上位の方なんだから!」

61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/21(木) 00:14:29.14 ID:Z8/cRLMA0
「ふーん、流石生まれつき優秀なヤツは頭の出来が違うってか」

ただでさえレベル0で奨学金も少なく勉強も不出来な当麻だが、彼なりに努力をしていないわけではない。
そんな自分に、あらゆる意味で対照的なレベル4の百合子に軽く言われ、思わず、ケッと嫉妬を隠さずに、言葉で噛み付く。
不機嫌に顔をぷいっと背ける彼の態度に、慌てて彼女は首をぶんぶんと横にふる。

「別にそんなんじゃなくて、仕方なしに勉強やらされるだけだから。家の親父、すっごく厳しくてさ…… さぼって成績がガタ落ちしたり、門限破ちゃったりすると、げんこつ+正座+説教のフルコースなんだ」

エリート校に通うお嬢様にしてはやんちゃなせいで、今まで受けた数々の説教地獄を遠い目をして思い出す百合子。
その気の抜けた炭酸のような様子を見て、当麻は先程までの認識を改める。
これまで何度も百合子に勉強を教えて貰っていた当麻は、生まれながらの秀才だとばかり思っていた彼女が、実は影で相応の努力をしていたことを知り、意外に感じる。

「百合子の親父、見るからにメチャクチャ怖そうだもんな…顔に入れ墨してるわ、筋肉モリモリのマッチョマンだわ…百合子は百合子なりに苦労してんだな」

当麻が、百合子とふとしたことから出会い、一緒につるむようになってはや一年。
上条自身は彼女の父とは、家にお邪魔した時に数回会った位だが、今でもはっきりと記憶に残るほど、強烈なインパクトを持つ人物だった。

「……ちょっと、いいかしら?」

二人がだべりながら歩いていると、ちょうど向かい側から歩いてきた御坂が、いつもの喧嘩腰とは違い、やや落ち着いた雰囲気で話しかけてきた。

「あっ、御坂さん」 「げっ、ビリビリ」

「だぁれぇがビリビリかっ!!」

「また勝負かよ? 相変わらずそればっかだなオマエ」

62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/21(木) 00:15:08.92 ID:Z8/cRLMA0
最初の頃にさんざん勝負をふっかけられ、百合子が替わりにバトルしてくれるようになるまではずっと逃げ惑う羽目になった当麻。
彼がうんざりした顔で言うと、御坂は珍しくその言葉を否定する。

「今日は違うってば! ……ねえ、百合子。急に変なこと聞くけどさ」

「なぁに?」

「……アンタって妹とか居る?」

いつもとは違い、真剣な面持ちで尋ねる御坂に、百合子はその問いを聞いて心底から聞く意味が分からないといった感じで、目を丸くする。

「へ? 私は一人っ子だけど、それがどうかしたの?」

「ううん、ごめんなさい。突然、変なこと聞いちゃって」

御坂の方も今の自分の質問が意図不明で不自然だったことに自覚はあったのか、普段のガサツな彼女からは信じられないほど素直に謝った。

「じゃ、じゃあねっ!」

一言そう告げた後、彼女は逃げるようにダッシュで人ごみの中を駆け去って行く。

「あっ、ちょっと!? いったい何だったのかな…御坂さん?」

「さーな、アイツの考えてることなんて、始終、上条さんには理解不能ですから」

後に残された二人は、何がなんだか訳が分らないと、不思議そうに顔を傾げあった。





(そうよね、あんな非科学的な現象、単なる幻覚に決まってる……最近疲れてるせいなのかな……)
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/21(木) 00:16:20.45 ID:Z8/cRLMA0

しばらく全力疾走したあと、何も逃げることは無かったんじゃと後悔しながら、御坂は足を遅めて歩き出す。
頭が冷え、自問自答しながらゆっくりと周囲を見回す御坂。
穏やかな昼下がりには道行く人で溢れ騒がしく、学園都市自慢の発電用の風車が今日も変わらず、日光に照らされながら、その白い巨体を誇示して回っている。
辺りに立ち並ぶコンビニや店先には、騒音公害一歩手前の宣伝用のスピーカーが安値だと囃し立て、そこには幽霊が入り込む余地などありそうに無い。

今の自分はおかしい、一回落ち着こうと彼女は立ち止まり、道側に設置されたベンチに座って深呼吸をする。

「そうよ…あれは全部、夢だったんだわ。私ったらバッカみたい! あんなにうろたえちゃって」

冷静になって座っているうちに、昨日、結局気になり幽霊の正体をネットで調べようと、学園都市の怪奇情報を纏めたHPを迂闊に読んでしまい、恐怖に襲われ一睡も出来なかったことが恥ずかしくてたまらなくなった。

「そうよ、もう一度あの場所に行ってみれば、あれがただの幻覚だったって証明できるわっ!」

仮にも人の英知の結晶、学園都市が誇るレベル5の超能力者である自分が、こんな体たらくであっていいはずがない、そう考え大きく立ち上がると、昨日の亡霊と出会った場所まで走り出す御坂。
ほどなくして、今日一日は意図的に避けていた、例の自販機の前まで辿り着いた。

「ふっ…やっぱ結局、私の夢だったってわけね」

そこには昨日の夜に幽霊に破壊された自販機の姿は無く、まるで新品のように輝く無傷の自販機がそこにあった。
一連の出来事を自分の思い違いだと確信し、ほっとして財布から硬貨を数枚取り出し、ジュースを買って乾いた喉を潤す御坂。

「……ふう、私ってば、ほんとバカ」

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/21(木) 00:16:59.87 ID:Z8/cRLMA0
そういって自嘲する彼女、その表情には先ほどまであった暗い影は無く、さっぱりとした笑顔で、飲み干して空になった缶をゴミ箱へと放り投げる。
ストン、とバスケの一流プレイヤーが決めたシュートのように鮮やかに決まり、空き缶はゴミ箱の中に綺麗に収まった。
そのまま、コンビニにでも寄って立ち読みでもしようと歩き始めた御坂は、ふと目の前の路面に、妙な黒ずんだ人影の跡が出来ていることに気が付いた。

「…!? 嘘……」

ちょうどその場所は、昨日御坂がレールガンで幽霊を吹き飛ばした場所と一致していた。
何かが背中を冷たい得体の知れないモノが蠢くような気持ち悪さが、彼女に再び襲い掛かる。

努めて冷静になろうと、その場に寄って黒い影を近くで調べようとしたその時、手前のデパートのビルからサイレンが鳴り響き、同時に人々がパニックになりながら出口から溢れ出てきた。
そこは、ついさっさ別れた上条と百合子が向かっていったビル。御坂は、表現しようのない胸騒ぎに突き動かされるように、そのビルに向かって一気に駆け出した。



65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/21(木) 00:17:44.60 ID:Z8/cRLMA0
御坂が怯え逃げ惑う人々の波を掻き分けながら、中に突き進んだ先は、悲惨な光景が広がっていた。
豪華に彩られていたデパートの正面玄関は、無残に破壊され、ショーケースやガラステーブルは滅茶苦茶に四散している。
電力系統を破壊されたのか、店内は非常灯のライト以外は全て消え、天井に設置された防火用のスプリンクラーが、床に大量の水をまき散らしていた。
辺りの床一体には、何物かが付けた、キャタピラらしき大きな軛が残されている。その時、ビル全体を鈍い揺れが続けて数度立て続けに起こった。
同時に、何かの破砕音や擦過音が不協和音の如く入り混じって上階から響き渡ってきた。

(上の階から音が…!? これは、今まさに誰かが戦ってるっ…!)

ここまで逃げる人々の顔の中に、当麻と百合子の二人は見なかった御坂は、内心の不安を押し殺して、止まってしまったエスカレーターを駆け上がる。

2階、何も居ない。

3階、誰も存在しない。

御坂が自分の足を必死に動かし、もがくように4階に駆け上がると、そこには倒れている百合子の姿と、彼女に必死に呼びかけている上条の姿があった。
そしてその後ろには、完全に原型を留めていないほどに破壊され尽くした、ロボットらしき鉄塊の山が築かれている。

「……!!」

一体どんな能力を行使すればここまで粉砕できるか、大型銃や鎮圧用の電気ロッドを装備した重警備型らしき駆動鎧の様なタイプの大型ロボット達は、見事にスクラップと化していた。
辛うじてそれが元人型であったことを示すように、乱暴にもがれたアームや脚のパーツが、周囲一面にばら撒かれている。
惨たらしい破壊の痕に、御坂はごくりと唾を飲む。この場に、不可解な右手以外はただの一般人の当麻と百合子しか居ないとなると、当然消去法で彼女がこの破壊劇を行ったことになる。

「これを、百合子が…!?」

ほんの一瞬、彼女の力に畏怖を感じる御坂だったが、すぐさま思考の外にやり、二人のそばに駆け寄った。
その場には、歯をカチカチとさせ、目を虚ろにさせて、その場で痙攣を起こしている痛々しい百合子の姿があった。
彼女にはまったく外傷らしき傷はないものの、まるでアナキラフィシー・ショックを起こしたかのように、当麻の呼びかけに答えず、小刻みに体を震わせ続けている。

「おい百合子っ!? どうしちまったんだよっ」

「ちょっと、大丈夫っ! 百合子っ!?」

御坂もそばに寄って、彼女の名を両肩を掴んで必死に呼びかけた。その時、先ほどまでまったく動かなかった唇が、わずかに形を変える。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/21(木) 00:18:30.63 ID:Z8/cRLMA0

「わ、わたしは…私は…百合子?」

「百合子…?!」

「私……百合子……。どうやるんだ?」

「アンタ、何言って…!?」

彼女は意味不明な譫言をいきなり始め、それまで必死に呼びかけていた二人は、思わずその尋常では無い様子に声を失う。

「ゆり…こ…百合子……思い出した! 私のやりかた」

焦点の合っていなかった瞳は、その言葉と共に理性の輝きを取り戻し、すっくとその場にスカートについた埃を払いながら、立ち上がる。

「……大丈夫だよ、二人とも、私はもう大丈夫だから!」

先ほどまで錯乱していた同じ人物とは思えない別人のような元気な声で、彼女は小さく微笑みながら上条と美琴に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

「大丈夫って、さっきまで顔を真っ青にしてガタガタ震えてたじゃねーか、ホントに大丈夫なのかよ!?」

「大丈夫だって、ちょっと…気が動転してただけだから……」

だが、そんな彼女の態度が上条には虚勢にしか思えず、心配そうに声を唸らせる。

「……この惨事、一体何があったの?」

辺りに逃げ遅れた人が居ないことを確認した後で、美琴は顔を顰めさせながら上条に尋ねる。

「いきなりこのヘンテコなロボットどもが乱入してきて、問答無用で襲い掛かって来たんだよ。俺が他の人たちの避難を手伝ってる間に、百合子がこいつらをあっさりと倒してくれた、らしいんだが…」
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/21(木) 00:19:30.18 ID:Z8/cRLMA0

その問いに、あくまで巻き込まれただけ、といつもの前置きを語った後で彼は簡素に説明をする。美琴はその後、言葉を濁らせている彼の言わんとすることを察した。

「帰って来てみると、様子がおかしくなって倒れてた、と」

「ああ……怪我はまったくないみてーだけど、な」

そう語りながら上条は、少し離れた場所で、瓦礫と壊れたロボットの残骸の山をじっと見つめる百合子を心配そうに眺める。

「…ねえ、もしかして百合子のヤツ……」

百合子も、あの白い少女の霊を見てしまったのかもしれない。突然、自分と瓜二つの亡霊が現れてその姿を見てしまえば、誰であっても怯える筈だ。
だが、美琴はその推理を言葉にして、今の明らかにショックを受けている彼女に尋ねるほど不躾ではなかった。

「ううん、何でもないわ」

途中まで出かかった言葉を飲み込んで、美琴も上条と同じように、百合子の後姿を心配げに見つめる。

「私は百合子…アナタは一体誰? 私は、それを知っている……?」

百合子はそう独り呟き、誰も居ない廃墟と化したホールをじっと、瞬きもせずに凝視し続けていた。



68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/21(木) 00:20:52.36 ID:Z8/cRLMA0
改行についてはIE、firefox、共に自分の環境では不具合が分からなかったので
申し訳ないですが全て投稿後、別途にまとめて見やすくして.txtで上げたいと思います。

本日分の投稿はここまでです、残すところあと僅かですが、もう少しだけ宜しくお願いします。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/21(木) 02:21:48.69 ID:4INWIwWDO
乙なんだよ!
でも更新するときはsageないでくれるとありがたいなぁ(チラッ
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/21(木) 20:52:47.15 ID:385Gytj50
過去、学園都市のとある研究所内に、天蓋をくり抜くようにして造られた中庭。
辺りは無機質な石棺の様な、コンクリートの壁が四方を覆うなかで、その人工的な庭だけは吹き抜けの天井から光を浴びて、植物や木々が生い茂らせている。
その中心には一際大きなレモンの木が、無数にその枝に黄色の果実をみのらせていた。
その下で、華奢で幼げな、白い長髪の少女がちょこんと木陰に座り、その実の一つを無邪気な顔をしてほうばっている。

「……よォ」

そこに、少女と同じく、全身が白一色で塗り固められたようなアルビノの短髪の子供が、彼女の隣に無造作に座った。

「スッパクはねェのかよ? そんなモンほうばッて」

レモンを傍らで夢中でリスのようにほうばる彼女に、呆れながら尋ねる白い子供。
元々悪い目つきをことさら鮫の如く細くしてまじまじと見やる子供に、白い少女はすっとレモンを差し出した。

「おいしいよ? 一緒に食べる?」

「要らねェよ、ンなモン」

白い子供は手を振ってそっけなく断るが、その拒絶の言葉を聞いた少女は途端に泣きそうになる。

「分かッた、食えばイインだろォ、食えば!」

仕方無しに白い子供は、少女の手からそのレモンを受け取り、すっと齧ってみせる。

「えへへ……どう? おいしい?」

(……まッじい)

内心毒づきながらも、その人懐っこそうに無邪気に笑う顔を見て、子供は罵倒の言葉を引っ込める。

「ねえ…」

「アアッ?」

レモンを食べ終わった白い少女は、親しげに彼の傍に体を寄せる。

「ずっとずっと、一緒に居よーねっ! 一方通行!」

「……ああ、ずッと一緒に居てやるよ」

白い少女はそう言って、子供に抱き着く。僅かな沈黙の後で、照れくさそうに一方通行と呼ばれた子供は、彼女に約束を交わした。


それは、今は永遠に果たされることの無い、過去の何処かに居た、ちっぽけな二人の話。


71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/21(木) 20:54:44.89 ID:385Gytj50
前回の最後に抜けていた一文です、今日はちょっと立て込んでましてここまでです。
不用意にsageてすみません、これからは更新時は見やすいよう、age進行で行こうと思います。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/21(木) 21:07:59.08 ID:pSjxJf+p0
俺が思いついたネタが一部使われているなんて感激だ。>>1がんばれ
あとできれば打ち止めと百合子の組み合わせがみたいなーって・・・・・・
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/21(木) 21:30:34.57 ID:E0URvKHn0
「ゆり…こ…百合子……思い出した! 私のやりかた」
これはどうみてもクラウドwクラウドすぎるww
「私、一方通行にはなりきれませんでした。
上条当麻さん……いつかどこかで、本当の一方通行くんに会えるといいですね」
とか言い出しそうで怖いぜ

木原父、過去のエピソードと盛りだくさんでした
次回もたのしみにしてます
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/21(木) 22:16:23.70 ID:x7OF3+Kto
乙!
なんだか謎っぽくなってきて続きが楽しみだ

あと、一方さんは「っ」はカタカナじゃない
百合子の口調と同じく、わざとだったらすまん
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/21(木) 23:21:35.57 ID:Z8/cRLMA0
>>74
わかりにくくて申し訳ないです、わざとです。
百合子がスタンダードな百合子ではないように、一方通行も正史と、とある一点が違っています。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:04:07.97 ID:uWTIuaRb0

「お姉様、あれほど危険なことに首を突っ込まないで下さいと、黒子はいつもいつも…!」

あの後、無残な廃墟となったデパートから出てきた3人は、出口からちょうど突入してきたアンチスキルに囲まれ、長時間拘束されて、取調室で質問攻めに遭った。
事件とは無関係で、たまたま遭遇したことを漸くアンチスキルに解ってもらえ、解放されたのはすでに深夜。
上条と百合子と別れ、へとへとになった美琴を待ち構えていたのは、自分の後輩であり、アンチスキルと同様、事件が起きたビル前へと駆けつけた、ジャッジメントの一員でもある白井黒子だった。

「わかった、わかったってばっ! 私が悪かったわよ」

ジャッジメントが利用する休憩室で、先ほどから延々と年下の後輩に説教される御坂。
アンタは私の母親か、と一言は言い返したかったが、そんな事をすれば十倍返しとなって返ってくるのは火を見るより明らか。
御坂はぐっと喉の奥から出かかった愚痴を飲み込んで、気の入っていない上っ面だけの謝罪の言葉を繰り返す。

「いいえ! お姉様はまったく分ってませんわっ! いくらお姉様が強いといっても、あくまで一般人ですのよ! もし、お姉様の身にもしものことがあったら黒子は…!!」

うっすらと目に涙を溜めながら、言葉を震わせる黒子の姿に、御坂は流石に申し訳なく思ったのか、彼女を抱き寄せる。

「ごめんなさい、黒子……今回は流石に軽率だったわ」

「お姉様……!」

その時、御坂の瞳にふと、黒子を抱き寄せた向かいの机の上に、ジャッジメントの捜査資料らしき書類が無造作に置かれるのが目に入った。
生来視力が良い御坂は何気なしに目を走らせると、そこに書かれたとある一行が目に留まる。

<<……今回の事件に関連性の高いと思われる、元特例能力者多重調整技術研究所に所属、現在は軍事・警備用ロボット及び駆動鎧の製造メーカー、メガテク・ボディ社に所属する研究者バストフを過去の違法研究容疑で逮捕、拘束…取り調べを行う…しかし、留置場にて首吊り自殺を図り、現在意識不明の重体……>>
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:04:58.36 ID:uWTIuaRb0

「お姉様?」

「なんでもないわ」

不自然なほど長時間、押し黙ったままの美琴に怪訝な声を出す黒子。そんな彼女に悟らせないように、御坂は更にボディランゲージが大好きな後輩をぎゅっと更に強く抱きしめる。

「お、おお、おねえさま…そんないきなりっ、黒子はまだ心の準備が、ああっ!?」

(特力研、メガテク・ボディ社……こうなったら直接潜入して、調べてみるしかないわね)

何やら、くねくねと気持ち悪く動き始めた後輩を無視して、御坂はあのロボットの暴走事件と関連があるはずの、白い少女の亡霊の正体を暴くことを密かに決意した。


――――――――――――――――


「……やっぱり何の手がかりもなし、か」

過去に置き去りの子供をモルモットにして、凄惨を極める違法な数々の人体実験をしていた、学園都市の暗部の一つである、特例能力者多重調整技術研究所。
過去のネット記事からその場所を突き止めた御坂は、門限破りを覚悟で私服に着替え、夜中にその場所へと携帯を頼りにやってきた。
だが、研究所が存在したのはもはや過去の話。五年以上も前に、既にアンチスキルに鎮圧、跡形もなく解体され、現在その地は、普通の自然公園へと生まれ変わっていた。

「平和ね…こんなに静かで落ち着いた場所は、学園都市じゃ珍しいんじゃないかしら」

深夜なので周囲に人影は無く、所々に設置された常夜灯が、一面に生い茂る木々を仄かに照らし出している。そこには、過去に行われた地獄の所業の傷跡はどこにも無い。
これ以上、この場所にいても無駄だと悟った御坂は早々に立ち去り、違う学区内にあるもう一つの調査場所、メガテク・ボディ社へと向かっていった。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:05:38.97 ID:uWTIuaRb0


――――――――――――――――


「…意外と警備が甘いわね…警備員の姿は無いし、ロボットの数も思ってたより大したことない。これなら…!」

持ち前のエレクトロマスターのハッキング能力を最大限に生かし、電子ロック、防犯カメラ、赤外線センサー、警備ロボットを掻い潜ってメガテク・ボディ社内部に侵入に成功した美琴。
駆動鎧や警備用ロボットを作っている会社らしく、人間の警備員の姿は無く、自社の自慢の警備用ロボットに深夜の防犯は全て任せている様だ。
だが、それはハッキングでロボットを無効化される術に長けた御坂にとっては、非常に好都合。

「この通路が、例の場所に繋がってるわけね」

経路図を会社の内部LANから閉鎖サーバーに侵入して入手し、プロの潜入者顔前の行動力で、会社が保持する内部秘匿情報を扱う隔離部屋に繋がる通路までやってきた御坂。
周辺の警備ロボを遠ざけセンサーを無力化し、まるで近所の散歩の如く堂々と彼女は闊歩する。
本来IDキーが必要な厳重な入口の防護扉を一瞬でクラックしてこじ開け、中へ入ろうとする御坂。
その時、彼女は不意に、背後にほんの僅かだが何者かの気配を感じとる。

(何か一瞬、後ろで動いた…! 誰か居るの…!?)

先日亡霊に不意討ちのバックアタックを仕掛けられたばかりの御坂は、すぐに振り返ってレールガンを構える。
だが、警戒しながら振り向いた先には、ただ暗い経路が闇の中で、無音に広がるばかり。
一瞬気を抜きかけた御坂だが、次の瞬間、誰も居ないはずの空間が歪んで、何者かが正体を現す。

「光学…ステルス迷彩……!?」
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:06:22.94 ID:uWTIuaRb0

どうやら軍事用装備を所持しているらしい謎の相手に警戒していると、そこには普段から見知った相手が姿を見せた。

「ステルス迷彩? 違うわ。これも、私の能力のちょっとした応用だよ」

「……百合子、なの? ど、どうしてここに…!? って、本人よね? 幽霊なんかじゃないわよね!?」

予想外すぎる相手の登場に、混乱しながらも、相手が百合子本人か、もしくはよく似た幽霊なのかを問いただす御坂。

「私は私だよ、鈴科百合子だってば。……こんばんは、御坂さん」

いつもと同じ佇まいで、静かに彼女の問いに答える百合子。
どうやら足もあるようで、少なくとも幽霊ではない事を確信した御坂は、内心ほっと胸を撫で下ろしながら彼女に問いかける。

「改めて聞くわ、どうしてここに?」

「一つ、どうしても、気になることがあってね……私に似た幽霊の正体を知りたくて、調べにきたの」

やはり、彼女もあのビルの事件の時、幽霊を見ていたんだ。
そう知った御坂は、あの時の疑念が真実だったことを知り、彼女がなぜ此処にいるのか、その動機に一応納得する。

「それで会社に一人で忍び込んだってわけなの? 私が言えた義理じゃないけど、アンタも結構大胆ね」

「御坂さんの方こそ、どうして?」

百合子の方からしてみれば、自分に似た幽霊との因縁が無い分、彼女が動く動機が見えない。当然の疑問に、御坂は手をひらひらと振って答えてみせる。

「私も同じ理由よ、科学の最先端を誇る学園都市に、亡霊なんて居るはずないわっ! その正体を暴いて、とっちめてやろうと思ったのよっ!」
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:07:10.83 ID:uWTIuaRb0

そう、と一言呟いて、通路を歩き出す百合子。御坂は自分も彼女に続いて、例の機密情報がある部屋へと歩き出す。

「……今回、暴走したロボット達には、全て一つの共通項があった」

「それって全て、ここの会社が製造したモノだったとか?」

歩きながら、まるで独り言のように小さく呟く百合子に、同じ歩調でついて行きながら、御坂は直感的に答えを述べる。

「正解。もっとも、会社側の公式声明では当社の製造部品に問題は無い、リコールはしないの一点張りだけれどね」

「……怪しいわね、何らかの関連があると思って間違いないわ」

「うん……だから、この会社の機密データを探れば、何かの真実を掴めるかと思って」

歩きながら二人は件の場所まで辿り着く。そこには大型の情本端末とデータバンクらしき機械が、人間の脳髄の様にコードを幾何学的に這わせて設置されていた。
御坂がさっそく情報を引き出そうと内部に入るが、何故か百合子は、入り口付近で氷像の如く、固まったまま入ろうとしない。

「……どうしたのよ? ここまで来て」

普段は桃色の唇を青く変色させ、立ち尽くしたまま痩せた体を、小刻みに震えさせる百合子。御坂の言葉に、小さく、消え入りそうな声を出す。

「……嫌、知りたくない……!」

「何いきなり、わけのわかんないこと言ってんのよ。 ……もしかして、あの百合子にやたらと似てる幽霊のこと?」

「……私は、怖い。真実を知ってしまうと、今までの現実が、全て嘘だったかも知れないって…」
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:07:48.10 ID:uWTIuaRb0

あの崩壊したビル内部で見た時と同じ様だ、と御坂は内心思いながら、彼女を励まそうとわざと場違いな明るい声を出す。

「ただの考えすぎよ、あのそっくりさんの亡霊に見覚えなんてないんでしょ?」

「……うん、そう…そうなんだけど……」

「一切合財調べて、スッキリしちゃいましょう。 あの亡霊の正体を暴いてね…!」

誰かが周囲に居ないか、百合子に一度様子を探ってもらっている間に、御坂は慣れた手つきで多段に掛けられたプロテクトを破っていく。
この事件の裏を握っているらしい、バストフ博士の名を検索、膨大なデータから抽出して、自身の知りたい情報を片っ端から探っていく御坂。

「……あった」

そこには、どうやらバストフ自身が記したらしい、機密データが詳細に残されていた。どうやら彼は、データを端末から隠滅消去する前に、アンチスキルに拘束されたらしい。
夢中になって、残されていた情報を目を滑らせながら、読んでいく御坂。そこには淡々と、特力研で彼が行った、悪魔の如き所業が事細かに載せられていた。

5年前当時、特力研に所属し、多重能力研究の傍ら、超能力者の思考データパターンを模倣し、電脳デバイスにする研究を行っていたバストフ。
彼は、十数名の超能力を発現させた置き去りの子供たちの脳髄を生きたまま頭蓋から取り出し、演算思考パターンを数式化してコピー。
演算データとしてデバイスにインプットし、特に結果が良かった一人の子供から生み出された思考パターンを、自動制御する駆動鎧の心臓部であるAIのデータパターンに活用したこと等が、記されていた。

「……っ…!」

御坂は淡々と記された人体実験の詳細を読み、深い憤りと、平然と生きた人間を研究の為に犠牲にするバストフの所業に、戦慄を覚える。
見張りから戻り、途中から表示された情報を御坂の脇でじっと見つめていた百合子も、同様の気持ちだったのか、怒りで整った顔をきつく歪ませる。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:08:24.65 ID:uWTIuaRb0

その後、思考データを入力された駆動鎧の暴走、アンチスキルによる特力研の鎮圧、解体により彼の研究は中断。
その後、前歴を隠し名前を変えながらも、持ち去ったデータを活用して、この会社の施設を無断で利用しながら、研究を続けていたらしい。
彼が最終的に目指した物、それは、駆動鎧の弱点である生身の人間を排除した、高度な思考能力を持つ自律AI搭載の駆動鎧。

「……それじゃあ、あの幽霊の正体は…犠牲になった子の演算データから生まれた、ウイルスみたいなモノ…なの?」

バストフが纏めた概要は終わり、文章の続きには、研究実験に使われた被験者の子供の名が、モルモットの如く並べて記されている。
犠牲になった子供の名前の一覧を読み、沈痛な気持ちになる御坂。その時不意に、彼女の傍で内容を黙読していた百合子が目を見開き、声にならない悲鳴を上げる。

「私の…名前…!?」

「えっ…!? そんな…」

彼女の言葉を聞いて、御坂は慌ててリストを読み返す。すると、そこには確かに犠牲者のリストの中に、スズシナユリコとはっきりと表示されていた。

「私が、すでに死んでいる……?」

「百合子、きっと同姓同名のただの別人だって…だから、そんなに…」

「そんなワケない!! だって、私はココにこうしてちゃんと生きているッ……!」

「百合子…?」

御坂の冷静な指摘に全く耳を貸さず、急に箍が外れたように大声を上げる百合子。直前の彼女とは全く異なる、血気走った態度。御坂は会話を途中で打ち切り、絶句する。

「私は生きてる。私は、鈴科百合子は、長点上機学園高校1年、15才でレベル4の風力使い…!!」
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:09:12.26 ID:uWTIuaRb0

あたかも自己暗示を掛けるかのように、自らのプロフィールを突然一人でベラベラと喋り出す百合子。

「学校にも私は通っているし、当麻君だって一緒に遊んでくれる…! 私の存在は幻想なんかじゃ無い…!」

「そう、この能力だって、小さい頃から受けた能力開発で…!?」

「能力開発…? 私は、いつ、超能力者になったの?」

何も思い出せない、それどころか、彼女は中学校以前の記憶が、まるで最初から無かったように、ぽっかりと抜け落ちていた。

「私、どこの小学校に行ってたの…? 学園都市に来る前は? 私の母さんは何でずっと昔から、居ないの…!?」

彼女はその場に頭抱えてへたり込み、赤い目を瞳孔ごと大きく見開き、小刻みに震え出す。

「何で……どうして、何も思い出せないの?」

「私は……私は……!!」

それまで細い折れそうな体躯を小さく震わせていた彼女は、何かを悟ったのか、急に立ち上がるとブツブツと独り喋り続ける百合子。

「何だ、何だよ、何ですか…何も最初から悩む必要なんて無かったんだ…」

「……百合子? 一体、どうちゃったのよ……!?」

急に自分を見失ったかの様な、挙動不審な態度を取りだす百合子に、御坂は強い不安を感じながらも、彼女を落ち着かせようと言葉を押し出す。

「行こう、御坂さん。私は……大丈夫だから」

御坂が不安げな表情を彼女を見つめると、百合子は一言だけ、言葉を吐き出した。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:09:56.84 ID:uWTIuaRb0
そう言うと彼女は、用は済んだとばかりに出口に向かって歩き出す。

「……ちょっと、待ちなさいよっ!?」

御坂はまだ全てを把握していないバストフの情報データを、纏めて素早くコピーし携帯に入れ、慌てて彼女の後を追い始める。


二人の少女が立ち去った後、無人になった部屋に忽然と白い少女が幽鬼の如く現れ、無言でじっと、その小さくなっていく後ろ姿を見つめ続けていた。


――――――――――――――――


「…ふわーわ、ったく、こんな早朝から誰だよ全く……はい、上条ですけど…?」

その日は祝日で、久しぶりに学校の始業時刻に追われることなく、ベットで熟睡を堪能していた上条当麻。
突然割って入ったけたたましく着信音を鳴らす携帯に、寝ぼけなまこを擦りブツクサ文句を垂れながらも、通話ボタンを押して話し始める。

固い受話器越しに、出てきた相手の声は、焦りを隠せない、野太い男の声。上条はそれが百合子の父親だと気づくのに若干の時間を要した。
途中までまだ半分夢の世界に意識が行っていた当麻だが、その予期せぬ内容に、一気に眠気が吹き飛ぶ。

「……百合子が…失踪したっ…!?」

電話を終えた当麻は、取るものも取り敢えず家から飛び出し、何かの事件に巻き込まれたらしい彼女の無事を祈りながら、捜し始めた。


――――――――――――――――


85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:10:39.30 ID:uWTIuaRb0
「居ない…居ないっ…何処にも居ねえっ…!!」

半年前、何気なしにとあるゲームセンターで出会って一緒に遊んで以来、百合子と親しくなった当麻。
いつの間にか彼女が居る日常が、自分にとって当然のようになっていた。そんな彼女が突然、失踪した。
当麻はがむしゃらに彼女が行きそうな場所を、片っ端から回ってみる。だが、行きつけの古びたゲームセンター、彼女が通う高校、二人で良く暇を潰した喫茶店、何処にも彼女の姿は無い。

「クソッ、どこに消えちまったんだよっ、百合子ッ!?」

息を切らせながらも当麻は、彼女の姿を求めて、走り過ぎて痛みを訴える足を無理やり動かそうとよろけながらも一歩踏み出す。
その時、曲がり角から御坂が通りかかり、当麻のただ事ではない様子を見て声を上げる。

「…っ、アンタ、そんな顔して一体どうしたのよっ?!」

「ビリビリ! 悪いが今日はお前にかまってる暇なんてねぇんだ、百合子がっ!!」

「落ちついて…! 百合子が、どうかしたっていうの?」

「どうやら数日前から家に帰ってないらしい、今、アイツが居そうな場所を片っ端から探してるっ…!」

その言葉を聞いて彼女は、彼女は何か納得したふうに顔を顰めさせる。

「やっぱり……!」

「やっぱりって、何か心当たりでもあんのかよっ!?」

「今は悠長に理由を説明してる暇なんて無いでしょ!? とにかく私は、今の百合子が行きそうな場所を知っている…!」

普段から勝負をしている以外は、百合子と一番接点が無さそうな御坂の予想外の言葉に、当麻は思わず顔をぐっと近づけて尋ね返す。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:11:14.39 ID:uWTIuaRb0

「ホントなのかっ、ビリビリ」

「御坂よっ! 私の名前は御坂美琴!! ついて来てっ、手遅れになる前に……!!」

御坂の言葉と真剣な面持ちに、当麻は取り敢えず彼女を信じてみることにした。今までとは正反対の方に走りだした御坂を、当麻は必死に傷んだ足で後を追いかけ始める。


――――――――――――――――


「こんな所に、百合子がホントにいんのかよっ…!?」

御坂に木々の生い茂る自然公園まで案内された当麻は、不安げに彼女に訴える。
彼の記憶では、今まで百合子はこの場所に来たことも語ったこともさえも、ただの一度もなかった。
こうして時間を無駄にしている間にも、彼女に身に危機が迫っているかも知れない。

「どうやら、ビンゴだったみたいね…ほら、あそこっ!」

「ホントかっ!?」

御坂はそんな当麻の愚痴を遮って、丁度中心部の辺りの木陰に、特徴的な白い髪の少女を見つけ出す。
当麻は彼女の指差す方を見やり、そこに彼女の姿を認めると、すぐさまその場所に駈け出した。

「百合子、無事だったのか…! さんざん心配してたんだぞ…!?」

当麻はほっとしながら百合子に呼びかける、だが途中まで出ていた安堵の言葉は、彼女の尋常ではない様子を見て、ピタリと止まる。

「…………」

一際大きく茂るレモンの木陰で、百合子はまるで、壊れた人形の様にじっとうずくまっていた。その昏く淀んだ深紅の瞳には、普段は灯っている光は欠片も無い。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:12:02.87 ID:uWTIuaRb0

「おい、一体どうしちまったんだよっ…百合子!」

「私は…なれなかった」

肩を揺さぶり、廃人の如くピクリとも動かない彼女を正気に戻そうとする当麻。だが、彼女は当麻の姿が見えていないのか、独りで独白するかのように、ポツンと呟いた。

「……?!」

「私は…鈴科…百合子にはなれなかった…」

「……何の話だよ、なれなかったって……!?」

「一つだけ…質問して、いいかしら?」

当麻が彼女の支離滅裂な言葉に、何と返せばいいのか途方にくれていると、傍らで心配そうに彼女を見守っていた御坂が、そっと口を開いた。

「……もしかして、アンタ、昔は鈴科百合子って名前じゃなかったんじゃない?」

遠慮がちに聞かれた、御坂の問いかけ。だがそれは、吸血鬼に撃ち込まれた銀の弾丸のように、彼女に致命的な何かを与えた。

「……ククク」

「百合子?」

「クくクくっ、ぎゃあはハははハハhaはははっッっ!!!!!」

突然、狂人の如く目をグルグルと廻しながら独り嗤い出す百合子。その普段の可憐な佇まいとは、かけ離れた錯乱する彼女の姿を見て、二人は信じられない様子で絶句する。

「そう…私は、今までずっと自分を死んだ百合子だと思い込んでただけ…」

顔に手に当て、自らを嘲笑するかのように、喉の奥から声を振り絞って白い少女は独り低い掠れた声で嗤い続ける。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:12:41.93 ID:uWTIuaRb0

「あははハはッ、本当にどうしようも無く不様……お笑い種だよなァ」

「百合子…!」

「……じゃない」

思わず声を荒らげて彼女の名を呼ぶ当麻、だが、彼女はその名を否定する。

「百合子……!!」

「百合子じゃねェ……俺は一方通行だッ…!」

木陰から立ち上がった彼女は、もはや二人の知る少女ではなかった。別人の如く、真っ赤な紅の瞳を燦燦と輝かせ、幽鬼の様に不気味に佇んでいた。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/22(金) 21:14:02.17 ID:uWTIuaRb0
今回の投下はここまでです。
90 :関西人(仮) [sage]:2011/04/22(金) 21:20:01.61 ID:d3piIRyJ0
一方通行きた!
これで勝つる!
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 21:29:27.70 ID:n7IRDzUT0
なんだと
ああだから百合子さんはひんぬーだったんだね
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/22(金) 22:10:56.18 ID:lBiqzSJm0
FF7のクラウドみたいだな
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/23(土) 03:03:00.67 ID:Ew3DhNuEo
木原君は女装させてたのか
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/04/23(土) 08:10:01.35 ID:BMtjCPcAO
正史と違うのが性別なのかもしれんぞ
まぁ元々が微妙だけどさ
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/23(土) 13:47:23.56 ID:LvcxE2m9o
これは間違いなくぶっちぎりの良スレ
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/23(土) 22:04:02.51 ID:EjCN94IC0
5年前、特能研に一人の少女が在籍していた。置き去りの子供だった彼女に名前など無い。
そんな名無しの彼女に備わっていた能力は、ありとあらゆる物質からの干渉を跳ね除け反射する「一方通行」。それが彼女の持つ強大な超能力であり、名前にもなった。
その力は最強に等しく、当時はレベル5の第一位と、畏怖を込めて研究者たちから、高く評価されていた。
強大すぎる危険な力を持つがゆえに研究者からはバケモノ扱いを受け、いわれのない憎悪を受ける。
彼女は心に強い傷を負い、能力を高める為、人体実験で他者を傷付ける事を強要され、深い孤独に沈んだ。
だが、そんな時にたった一人だけ、一方通行を恐れずに、無邪気に触れ合ってくれる白い少女が現われる。それが、鈴科百合子だった。

「百合子だけは、バケモノじみた力を持つ、俺を友達だと言ってくれた…アイツと…ずっと一緒に居たい。そォ心から願った」

初めて他者に心を開いた一方通行は、やがて今まで以上の絶対的な力を望むようになる。

「だから、絶対的な力があれば、百合子を守れると思った…誰も傷つけないで済む、そンな未来が手に入ると思ったッ……!!」

だが、現実は余りに酷く、そして皮肉な運命を辿った。
進んで実験を受け、さらにその演算能力を比類なく上げ続けた一方通行は優秀な成功体とみなされた。
逆に低レベルの能力しか発現しなかった百合子は不要な失敗作との烙印を押され、一方通行の知らぬところで、実験のモルモットとして殺されてしまう。

一方通行は、唯一の心の拠り所だった彼女を亡くした耐え難い絶望から、その日を境に自分であることを止めた。
体内の組織に伝える電気信号のベクトル操作で短かった髪の毛を彼女の様に伸ばし、顔面の筋肉や皮膚の形状を変えてまで自身の顔を彼女のモノに造り替え、一方通行は百合子になろうとした。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/23(土) 22:04:37.68 ID:EjCN94IC0

――――――――――――――――

一方通行の口から語られた、凄惨な自身の過去。上条と御坂は淡々と彼女の口から紡がれる悲痛な独白を、黙って聞くことしか出来なかった。

「俺が百合子になれば、百合子はずっと生き続ける。そう、思った。けれど、彼女はそれを望ンでなどいなかった……だから、私はもう、生きる意味が無い」

「……何馬鹿なこと言ってんだよっ! そんなわけ…あるハズないだろっ!!」

今まで押し黙っていた当麻だが、その言葉だけは許容できず、大声で否定する。

「そうよっ…!! それにあの亡霊はアンタの友達の百合子なんかじゃない!」

「………!」

「アレはアンタの親友なんかじゃない…ただの紛い物の…ロボット達を暴走させてる、ウイルスデータなのよ!」

御坂は声を嗄らす勢いで、一方通行の考えを真っ向から打ち消そうとした。
あの亡霊は、決して自分を騙る一方通行を恨んで、この世に舞い戻った百合子の悪霊などではない。
ビルからバストフのデータを持ち帰り、徹底的に白い亡霊を分析した御坂は、それだけは自信と確信を持って答えることができた。

「違う、アイツは百合子なンだ、俺が…見間違えるハズがねえッ……!!」

「姿はそうでも、アイツに彼女の優しい心なんて宿ってないわっ! アンタが大好きだった百合子って人は、無関係な誰かを平気で傷つけて、暴れ回るようなヤツだったわけ!?」

「……!!」

当麻は、無表情で人形のように立ち尽くす一方通行を、自分の胸に抱き寄せる。

「……俺にとっちゃ、例えオマエが本当は誰であったとしても、大切な友達なんだ…だから、頼む。自分で自分を[ピーーー]ような真似だけはしないでくれ……こっから居なくならないでくれッ!!」

御坂も駆け寄りながら、彼女を引き留めるかのように、一方通行の折れそうな細い背中にしがみつく。

「私もアンタが居なくなるなんて、死んでも嫌よっ…勝ち逃げなんて…絶対に、許さないんだから……!」

「………!!」

今まで無表情を貫き通してきた一方通行の顔が、二人の言葉に、初めて歪んだ。堰を切ったかのように、彼女は当麻と御坂に抱きしめられたまま、幼子のようにずっと泣きじゃくり続けた。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/23(土) 22:05:20.47 ID:EjCN94IC0


――――――――――――――――


その後、数時間してようやく落ち着き自分を取り戻した百合子を家へと送った当麻と御坂。
二人は衝撃的な彼女の過去を知り、彼女を追い詰め、今の境遇に走らせた研究者に対し、強い憤りを感じながら、それぞれ自分の寮へと帰宅する。


百合子を家に送った後、御坂からこれまでの全ての顛末を事細かに聞かされた当麻。
正直急に現れては消える、百合子の偽物の亡霊をどうやって倒すのか、そもそも幻想殺しが通用するのか、彼には見当がつかなかった。

「…アイツのこと、わかった気になってて…何にも見てなかったんだな、俺は」

ベッドにもたれ掛かり、松脂の様に深い無力感に包まれながら、静かに嘆息する当麻。もう時計の針は午後8時を回っていたが、全く食欲は湧かない。
かといって眠気は全く湧かず、手持無沙汰になった当麻は、何気なしにテレビのリモコンをいじって、適当にチャンネルを流し始める。

「今日はホントに、くっだらねー番組ばっかだな……」

画面上には全く悩みなどなさそうな面をしている芸能人が、寒いギャグを繰り返して笑いを誘っている。それが沈んだ気分の今の当麻には、理不尽だが深く不快に感じられた。
別のチャンネルにさっさと変えようとリモコンのボタンに手を伸ばすと、急にフッと一瞬部屋全体が暗闇に覆われる。

「……!? 停電…なのか…?」

当麻が呟くと同時に、瞬間的な停電だったのかすぐに電気は復旧した。だが、時を経たずして、窓の向こうから、何かが震えるような大きな音が地響きを立てて空気を揺るがす。
嫌な胸騒ぎを覚えた当麻は、いそいで窓に駆け寄り、閉じたカーテンを乱暴に開け放した。

「……! ビルが、沈んでくっ………!?」

窓越しのガラスから映る先に広がっていた光景は、遥か先の高層ビルが、深夜でもはっきりと分るほどの凄まじい勢いの炎と煙に撒かれながら、倒壊していく姿だった。
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/23(土) 22:05:51.44 ID:EjCN94IC0





あれから別れたはいいものの、結局学生寮の門限を立て続けに破る羽目になった御坂。
帰るに帰れない状態に陥った彼女は、仕方なしにファミレスで紅茶を啜りながら、独り時間を潰していた。
先程の百合子の一件が、脳裏に深く心にこびり付いた御坂。彼女が見せた心の闇と想像を絶する悲劇を知り、なぜ彼女があれ程までの強大な力を持ちながら、それを隠し、攻撃を嫌がったのかを今さらながら、理解する。
もう、彼女に勝負なんて挑む気に、御坂は二度となれそうになかった。
その時、立て続けに大きな振動と破砕音が遠くから響き渡り、瞬間的にファミレスの照明が落ちる。
何事かと他の客たちが騒ぐなか、御坂は状況を把握しようと、すぐさま会計を済ませて外に駆け出した。
近所の高層ビルに入り、屋上までエレベーターを使って昇った御坂は、非常口からビルの屋上へと躍り出る。
町全体を見下ろせる場所から彼女は周囲を眺めると、遥か先のビルから、盛んに激しい火の手が上がっている。
彼女はそのビルの姿を見て何かに気づき、ハッと息を飲んだ。

「あれは、メガテク・ボディ社……どうして!?」

一連の幽霊とロボット暴走事件の元凶である因縁深い、メガテク・ボディ社のビル。先日忍び込んだばかりの御坂は、そのビルの形状をはっきりと記憶していた。
彼女が注意深く様子を凝視していると、思わず耳をつんざくような爆発音の後、巨大なビルが、あっけなく、音を立てて崩れ去り倒壊する。

目の前で起こった大惨事に、御坂はしばしの間、言葉を失う。ビルが跡形も無く潰れ去った後で、彼女はその元凶に思い当たった。

「まさかっ…あの亡霊が…!?」

御坂は強い胸騒ぎを感じながら、すぐさまビルの屋上から降り去り、先程までメガテク・ボディ社があった場所に向かい始めた。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/23(土) 22:06:32.90 ID:EjCN94IC0
学園都市で起こった未曾有のテロに、町中は恐慌状態に陥っていた。大通りの舗装路を、大勢の完全武装したアンチスキルを満載した装甲車が次々と倒壊したビル跡へと向かい、人々は現場近くの場所から逃れようと走り回ってる。
その中を独り、御坂美琴だけは自身の足を使って、メガテク・ボディ社ビルへの道を走り続ける。
途中で御坂の行く手を阻むかのように、何度も暴走した警備ロボットが飛び出してきたが、そんな雑魚では彼女を止められるはずもない。
持ち前の数億ボルトに達する電撃とレールガンで全て完封勝利を収めた彼女は、やがて数日前までは巨大なメガテク・ボディ社のビルが建って居た筈の場所まで辿り着く。

廃墟と化したビルの跡地で、数多くのアンチスキルの部隊が、メガテクの工場内に数多く在庫として眠り、今は暴走し鉄の魔獣と化した巨大な軍事用ロボット達と、激しい戦闘を繰り広げていた。
悪夢の戦場と化した会社跡を、御坂は戦闘の間を掻き分け、時には此方を攻撃する軍事用ロボットをレールガンで粉砕しながら、彼女は全ての事件の元凶である、数多のロボット達を狂わせている白い少女の亡霊の姿を、銃弾が飛び交い、砂礫が舞う中で必死に探す。

「アイツさえ、アイツさえ倒せば…全部…解決するはずっ!」

その声に応える様に、突如、瓦礫の山の頂上に白い亡霊が姿を現す。
その姿は確かに百合子と瓜二つだったが、その顔には、この世全ての悪意を塗り固めたような笑顔の形相を貼り付かせていた。

「今度は逃がさないっ…! これで全てを…終わらせる……!!」

御坂は握り締めていた8個のコインを中空にばら撒き、連装式のレールガンを一気に彼女目がけて撃ち放つ。
一発一発が音速を超え、コンクリートの壁すらぶち抜く必殺の連撃が、白い少女の亡霊に全て外れることなく直撃した。
瓦礫の山を抉り取り、濛々と盛大な砂埃を月明かりが照らす中、立ち昇る。

「やった…!?」

一瞬、確かに相手を倒した実感を得た御坂だったが、直ぐ様その予想が外れたことを思い知らされる。

「な…なんなの…あれは…!?」

砂煙が晴れた先には、白い少女の亡霊の姿は無く、代わりにその場所には、数十メーターを超す途方もない巨体を持った、機械の魔獣が君臨していた。

その躰辛うじて人型を取っては居たもの、余りにイビツで醜かった。
全身を異なるロボット達のパーツから、継ぎはぎした様な装甲を持ち、両腕には大型のミサイルランチャーと巨大なビーム砲を生やし、頭部にはモノアイらしき赤い不気味な光を灯し、大きな牙を持つ頭が御坂を見下ろすように睨みつけていた。
脚らしきモノは無く、代わりに蛇のように図太いコードを下半身に這わせている。

「あ…ああ…!?」

御坂は化け物の巨体と威容に気圧され、思わず恐怖で硬直してしまう。
魔獣はそんな彼女に、背中に突き出た複数の管を不気味に光らせながら、その歪な顎を開き、膨大な光の粒子砲を容赦無く発射した。
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/23(土) 22:08:00.30 ID:EjCN94IC0


――――――――――――――――


現在交戦中のアンチスキルの部隊は、突如現れた巨大な機械の魔獣、そしてその口蓋から発射された、凄まじい威を持った夜を切り裂く光の柱、荷電粒子砲の威力に言葉を失う。

「嗚呼…あ、あの怪物はっ…あの光は……!?」

「…あんなモノが、市街地に直撃でもしたら…皆、死んでしまう…!!」

一刻も早くあの機械の魔獣を止めなくてはならない。だが、目の前には夥しい数の暴走したロボット達が途絶えることなく次々と溢れ出て、アンチスキルは魔獣の元にまで、すぐにはたどり着けそうも無かった。

「……Jesus!!」

白人男性らしきアンチスキルの隊員の一人は、出来の悪い3流SF映画の様な悪夢の光景に、必死に銃で応戦しながら、思わず天を仰ぎ絶叫した。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/23(土) 22:10:54.36 ID:EjCN94IC0
今日の投下はここまでです。次回でこの話は終りとなります。
短い間ですが、感想、ご指摘ありがとうございました。
今回の経験を、次のSS以降に活かしたいと思います。

わかり辛いですが、一方通行は元から女性でした(>>1にも明記してありますが)
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/04/23(土) 22:19:29.63 ID:WwFZ455AO
超乙
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/23(土) 23:43:09.39 ID:6qRcS5Oho
もう終わってしまうのか…
乙乙!
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/23(土) 23:47:07.87 ID:46ZTR2nDO
>次回でこの話は終りになります

え?




え?
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/23(土) 23:49:34.26 ID:j9NNX+SY0
クライマックス・・・!
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/24(日) 21:18:03.29 ID:OeTbKZhm0

「畜生っ、一体何がどうなってやがんだっ!?」

上条当麻は高層ビルの倒壊を目の当たりにして、咄嗟に彼は自宅の寮から飛び出した。
そこでは彼方此方で警備用と思われる大量のロボットが狂ったように暴れまわり、学園都市の街は、逃げ惑う人々で混乱の坩堝と化していた。
アンチスキルが必死に人々を護ってはいるが、数の差からか明らかに押されている。そんな中で彼は、逃げ遅れ、倒れてしまっている見知らぬ老人を助け起こす。

「大丈夫ですかっ…!?」

「こ、腰が抜けてしまって…」

恐怖と気の動転からか、足が竦んで動けない老人を担いで、アンチスキルが応戦している間に安全な場所まで運ぼうとする当麻。
だが、いかに彼が体力がある男子高校生と言っても、人一人を担いだまま走ることはできない。
そんな彼をせせら笑うかのように、アンチスキルが取りこぼした暴走ロボットの一体が、その鋼鉄の巨腕を当麻目がけて振り下ろした。

「っ…!! 避けれねぇ……!」

108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/24(日) 21:18:36.66 ID:OeTbKZhm0
だが、潰れたミンチになったのは当麻でなく、眼前の鋼の人形だった。彼が瞬きする間に、何者かが割って入り、その巨大な腕を体ごと弾き飛ばす。
十メートルほど後方に吹き飛ばされた暴走機械は、当麻の目の前で、次の瞬間には巨大な暴風を受け四肢をもぎ取られ、最後に止めを刺すかのようにボディを捩じり切られて惨たらしく破壊され尽くした。

「…? 百合子っ…!!」

巨大な暴走した警備ロボットを、赤子の手を捩じり切るようにいとも簡単にスクラップにしたのは、目元に泣き腫らした痕を痛々しく残した鈴科百合子…一方通行だった。

「当麻君…無事だったんだね…!」

当麻の無事を確かめると、彼に駆け寄る。遅れて慌てて駆け付けたアンチスキルに背負っていた老人の避難を任せた当麻は、彼女に現在の惨憺たる状況がなぜ起こったのか知っていそうなことを尋ねてみた。

「今、街中で警備や軍事用のロボットが暴走してる…今も、あの崩れ落ちたビルから次々と暴走したロボット達が出てきてる…!」

そう聞いた当麻の脳内で、全ての点と線とが繋がった。右腕をきつく震わせながら、倒壊したビルがあった、そして今も盛んに炎と煙の柱を上げている先を、キッと強く睨みつける。

「……暴走ロボット…! クソッ、全部あの亡霊の仕業だったのかっ!」

「…どこに行くつもりなのっ! 当麻クンっ!?」

炎が上がる先へと、すぐさま駆け出そうとする当麻。そんな彼を百合子は慌てて引き留めようとする。

「決まってる…!! こんな惨事を引き起こした、あの百合子の偽物の…ふざけた幽霊をぶち[ピーーー]!!!」

「相手はミサイルや重火器を持った軍事用ロボットなんだよっ…幻想殺しじゃ…勝てっこないよっ!」
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/24(日) 21:19:06.87 ID:OeTbKZhm0

「百合子……」

「逃げよう…一緒に…逃げようよっ…!!」

百合子は目に涙を溜めながら、悲痛な言葉を上げる。だが、当麻は済まなさそうに顔を横に振り、なだめる様に一度だけ、彼女の頭を優しく撫でる。

「悪い、それはできない……俺、真性の馬鹿だからさ。 百合子は、アンチスキルについて行って避難してくれ…!」

「当麻君…!!」

彼女の呼びかけに二度は応えず、当麻は夜空に昇る燃え盛る炎の元へと、走り去ってしまった。百合子は、呆然とその場に一人取り残される。

「私は……!!」

幻想殺しを除けは、ただの一般人そのものの力しか持たないレベル0の当麻。彼が行ったところで、何も出来る筈がない。だが、それでも誰よりも優しい彼は、誰かを助けるために危険な死地に向かった。

(……私は、こんな所で何をしてる?)

レベル5の強大な超能力、ありとあらゆる事象を反射できるベクトル操作能力「一方通行」という力を持ちながら、何もせず、過去の過ちから、逃げ続けている百合子。

「それでも…俺は…百合子の姿をした…アイツとは…戦えねェ…!」

だが、理性では解っていても、悟性と体は拒否し、金縛りに遭ったかのように彼女は寸部も動くことが出来ない。
そんな間にも、眼前ではアンチスキルの隊員が、罪の無い人々が、暴走した機械達によって蹂躙されていく。

(アンタが大好きだった百合子って人は、無関係な誰かを平気で傷つけて、暴れ回るようなヤツだったわけ!?)
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/24(日) 21:19:49.81 ID:OeTbKZhm0

「……! 俺は……私は……!!」

彼女の脳裏に、御坂の言葉が蘇える。百合子は、その言葉だけを頼りにして、死後硬直の様に固まっていた両脚を引き摺りながら、当麻の後を追い始めた。


――――――――――――――――


「……私、まだ生きてる?」

暫くの間気を失っていた御坂は、体に擦り傷を負いながらも、瞳を開いて瓦礫の上から月を見上げ、己が生きていることを不思議に思い、気の抜けた声を出す。

「無事だったようだな、御坂。ったく、一人で無茶しやがって……!」

「ど、どうしてアンタがここに……?」

その声が上条当麻であることを悟った御坂は、瓦礫から体を起こして、同じく瓦礫のせいで負った擦り傷だらけの彼の姿を不思議そうに眺める。

どうやらあの時、駆け付けた彼がとっさに瓦礫の下に押し込んで、自分を助けてくれたらしい。そう気付いた美琴は、自宅に帰ったはずの彼が、なぜここにいるかを問うた。

「お前と同じ理由さ。それより、悠長にくっちゃべってる時間はねーみたいだぜ?」

ふらつく御坂を抱えて立たせながら、当麻は厳しい表情で向こうを指差す。

「……! アイツ、アンチスキルを…!!」

御坂が彼の指先が指し示す方向を眺めると、そこには地獄が広がっていた。
先ほど御坂を殺しかけた巨大な機械の魔獣が、今度はアンチスキルの隊員達を次々と悪鬼の如く、全身の火器弾薬を持って甚振るように、一方的に攻撃し続けていた。
アンチスキルも必死に携帯のミサイルランチャーや銃器で応戦するが、その固い装甲の前に、全くダメージを与えられない。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/24(日) 21:20:31.45 ID:OeTbKZhm0

「あのままじゃ全滅しちまう…! こうなったら、腹を括るっきゃねーな…」

「腹を括るって…何をするつもり? 言っとくけど、実弾兵器の塊なアノ化け物相手じゃ、アンタの幻想殺しは全く役に立たないわよ…!?」

「知ってるさ…けど、このまま指くわえて、何もしないわけにはいかねえだろ? ……御坂、何でもいい、アイツに弱点とかねえか?」

上条の言葉に、御坂はもう一度目を凝らしながら、あの化け物の様子を観察する。僅か時間の後、彼女は何かに気付いたのか小さく声を上げた。

「……そうね、見たところアイツ、あの場所から全く移動できないみたい。 ……樹木みたいに、下半身が地面と直結して一体化してるから」

「なら、アイツのスパゲッティみたいなぶっとい体を支えてるコードを、根元からぶったぎってやれば…何とかなるんじゃねーか?」

当麻の説明を聞いた御坂は、コードが切断され、あの巨大な上半身を支えきれず自重で倒れ伏す化け物の姿を想像した。

「そうね…確かにそれならアイツを倒せるかもね…でもどうやって?」

その言葉に、上条は砂礫の下に駆け降りると、傍に放置してあったエンジンが点火されたままの、頑強そうな漆黒の鋼鉄を身に纏う大型トラックに飛び乗った。

「アンチスキルが乗ってきた、装甲車…!?」

どうやらアンチスキルが乗り捨てて放置してあったらしい大型の装甲車を、当然の如く無断でキーごと拝借した上条は、御坂に自分の案を披露する。

「俺がコイツを運転して、あの機械の化物の気を引いてる間に、隙を見て御坂がレールガンでどてっぱらに風穴をぶちあける、この作戦でどうだ?」

「それって作戦じゃなくてただの特攻だけど、このままみんなあの機械の怪物に殺されちゃうよりはマシかもね…!」
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/24(日) 21:22:03.34 ID:OeTbKZhm0

上条の乱暴すぎる提案に呆れながらも、御坂は首肯して不敵に笑って見せた。

「けど、アンタ装甲車なんて運転できたの?」

御坂の素朴な疑問に、上条は静かに笑ってニカッと白い歯を見せる。

「あんま上条さんをなめんなよ、今まで隠してたけど、実は国際A級ライセンスを持ってるんだぜ!」

「ホントなの! アンタ見かけによらず凄いじゃない、見直したわっ! それじゃあ早速、作戦開始よっ!!」

あっさりと当麻の眉唾物の言葉を信じた御坂はそう言うや否や、瓦礫の下に塹壕兵の様に身を隠しにかかる。

「まあ…ゲームの中での話だけどな…!」

自分の軽口を彼女が素直に信じるとは思わなかった上条は、冷静に真実を独白しながら、見様見真似で、装甲車を激しくホイルスピンさせ発進させる。

(上手くやんなさいよ……!!)

御坂が祈りながら見つめる中、上条が操る装甲車は、アンチスキルを壊滅させようと暴威を振るう機械の魔獣の前に突然踊りでる。
いきなり目の前に現れた黒い装甲車に、暴走した機械の獣は、煩わしい蠅を追い払うかのように、右腕のミサイルランチャーを発射した。

「うおおおおおおおっっ!!!」

誘導弾では無かったことも幸いしたが、上条は吠えながら、無免許であるとは信じられないハンドル捌きで装甲車でドリフトをド派手にかまし、見事に避けきって見せる。
180度旋回をして挑発するかのように目の前をちょこまかと砂煙を巻き上げながら走り回る装甲車に、魔獣は見事に挑発され、体全体を廻して怒りの咆哮を上げる。
丁度、御坂が潜む位置から、背を向ける状態となった魔獣は、武装の無い無防備な背中を彼女の前に晒した。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/24(日) 21:24:07.66 ID:OeTbKZhm0

「いい加減…! くたばりなさいっ!!!」

御坂はコインを盛大に夜空に舞わせ、残りの全電力を振り絞ったレールガンの一斉射撃を解き放つ。全ての光の砲弾が、その背中に吸い込まれたかに見えた、だが。
機械の魔獣の躰に届く直前、まるで目に見えない壁に遮られるかのように、レールガンが弾かれてしまう。

「…!! バリアー…!!!」

魔獣は、これまで一度も展開しなかった、背中に襞の如く無数に突き出てた管から、強力な誘電力場を発生させ、レールガンの悉くを防ぎ切った。

「くっ…!!」

余裕を持った動作でゆっくりと振り向いた機械の暴獣は、自らに牙を剥いた敵を屠るべく、悍ましい低い咆哮をあげながら、口蓋に光の粒子を集中させ始める。

「…荷電粒子砲……!!!」

学園都市が世界で史上初の実用化に成功した、科学の最先端を誇る最終兵器。
この世の全ての敵を薙ぎ払う光の槍が、今、再び美琴にその切っ先を突きつけた。
避ける間もなく膨大な光の柱が、彼女に目掛けて機械の悪魔の口内から撃ち放たれる。

「……!!」

その光を前に、美琴は今度こそ死を覚悟した。彼女の脳内の中で、走馬灯のように今までの人生がフラッシュバックする。だが、彼女が予測した自身の死という未来は来なかった。

直前にまで迫っていた光の槍は、何者かの力で反射され、自身が放った荷電粒子砲の直撃を受けた魔獣の頭部は、無残に跡形も無く一瞬で消し飛んだ。

「……? 百合子っ!?」

美琴が呆然と呟くと、その眼前には、彼女を庇うように白い少女が立っていた。
その表情は窺い知れないものの、しっかと立つその様子からは、惑いや怯えは感じられなかった。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/24(日) 21:24:42.88 ID:OeTbKZhm0
美琴が自身の窮地を間一髪で救ってくれた彼女に礼をしようとしたその時。
頭部を失い、無残な姿を晒していた魔獣が再び恐るべき生命力を持って活動を再開し、蠢き始める。

「アイツ…まだ生きて…!!」

美琴が戦おうと満身創痍の身体に鞭打ち前に進もうとすると、前に立つ白い髪の少女が、すっと彼女を止める。
そして、その唇から、再び立ち上がる魔獣に向け語りかけるかのように、一人言葉を紡ぎ始める。

「私は、もう鈴科百合子でも一方通行でもない…今の俺は、タダの抜け殻……」

首を失った魔獣は、その体躯に満載された、残りのミサイルのハッチを開け始める。

「だけど…当麻と美琴は…それでも必要だと言ってくれた…この俺を…今の私をッ!」

頭を亡くした機械の魔獣は、だらんと垂れていた両腕を掲げ、内蔵された火器の全てを彼女へと指し向ける。

「例えアナタが相手でも…二度と、私の大切な人を…傷つけさせはしないっ!!」

白い髪の少女は決意を述べ、機械の魔獣に宿る、もう一人の百合子に決別する。そして、その小さな背中から、漆黒に煌めく、禍々しい光の粒子の翼を大きく展開した。

「―――――――!!!!!」

天使が脱ぎ散らす翅の様に、百合子は背中から生え出た数十メートルにも及ぶ、漆黒の光の翼を刃の如く振り下ろし、首を失ってなお、全身から全てのミサイルを撃ち出そうと足掻く機械の魔獣目がけて叩き付ける。
刹那、膨大な力場を持った翼は、魔獣の巨体を展開したバリアーを貫き、その鋼鉄の装甲を、紙の様にバラバラに切り裂いた。


――――――――――――――――


115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/24(日) 21:25:13.03 ID:OeTbKZhm0
とある休日の学園都市。朝寝坊しがちな当麻は、その日は珍しく早起きをして、軽くトーストとコーヒーを腹に詰め込んで、とある場所へと足早に向かった。

「あの日の出来事が、みんな…夢みたいだぜ」

街中に出て、とある目的地にまで歩き出した当麻は、数週間前に起こったあの事件が、すっかり日常を取り戻した街からは微塵も感じられず、その落差に呆然としながら呟いた。

結局、あの暴走事件は、全てのロボットを狂わせていた機械の魔獣が、完全に粉砕されたことで収まった。
暴走したロボット達は、それ以来、二度と狂うことは無かったが、安全性の問題から一台残らず回収され、破棄されることが決定した。
ただ一人事件の真実を知っていると思われたバストフ博士はその後、搬送先の病院で死亡が確認され、データが残っていた本社も、社員諸共、全てビルの藻屑と消えたことにより、今回の事件の真実は、永遠に闇に葬られることになった。

道ゆく途中、花屋で弔い用の白いユリの花を一束買って、左手に持ち交差点の信号待ちをしていた当麻は、向かい側の歩道ですっかり知り合いとなった短髪の少女の姿を見つけた。

「よっ、御坂…お前も一緒みてーだな」

「ふーん、アンタも?」

「……まあな、やっぱり、お前もその花を選んだんだな?」

「ええ、安直かも知れないけど、この花が彼女に一番似合うかと思って」

同じく白いユリの花を手に持った御坂に、上条は小さく、そうだなと一言返す。二人はそれから共に黙ったまま、とある死者を弔うべく、以前何度か訪れた場所へと一緒に歩いて向かう。
あの日、百合子が自分の正体と、凄惨な過去を告白した、元特力研跡の自然公園へと。

自然公園にたどり着いた二人は閑散とした舗装路を歩きながら、周囲に静かに生い茂る木々をすり抜け、レモンの木がある中心部へと向かった。
そこには一人、白い少女が祈りをささげる様に両膝をついて、レモンの木の木陰で深く瞳を閉じて黙祷していた。
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/24(日) 21:25:40.10 ID:OeTbKZhm0

「百合子……先に来てたのか」

当麻の言葉に、白い長髪の少女はその瞳を開くと、小さく口を開いた。

「……ここは、彼女が一番好きだった場所なんだ。あの子はこのレモンの木の下で、よく嬉しそうに笑ってた」

当麻は何も言わずに黙ったまま、百合子を右手で胸の中に寄せ、彼女の凍えた心を暖める様に強く抱き締める。
幸運すら打ち消してしまう、何も掴めず与えることは出来ない、天使の加護から見放された幻想殺しの右手を持つ当麻。

しかし、今この瞬間だけは、その右手は一人の少女に確かな温もりを与えていた。



END
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/24(日) 21:30:32.17 ID:OeTbKZhm0
これでこの短編は終りとなります。
元ネタ・パロディは多々有りますが、マイナーなアニメ「幻影闘士バストフレモン」から名前などを拝借しました。
テキストファイルについては後日upさせて頂きます。
最後まで読んでくださった方、ネタを快く提供して下さった小ネタスレの>>140氏、本当にありがとうございました。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 21:47:02.75 ID:nnmyHGVDO
乙なんだよ!
終りなのが悲しいんだよ
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/24(日) 21:51:44.37 ID:4hQaEd8so

面白かった
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [age]:2011/04/24(日) 23:08:41.92 ID:OeTbKZhm0
レイアウトが崩壊して見える環境の方へ、txtファイルです。

http://wktk.vip2ch.com/dl.php?f=vipper4919.txt
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/24(日) 23:10:24.08 ID:11OxxHug0
>>1乙!!
超面白かった。 また毎日の楽しみが一つ減ってしまうのか…。
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/04/25(月) 01:53:12.58 ID:cWRSGafz0
乙!
面白かった
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