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助手「私ってもしかしていらない子ですか?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/04/18(月) 03:25:34.28 ID:k0Glf3bq0
たったら書く
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 03:28:49.99 ID:HstG7xJco
おう、存分に書くといい
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/04/18(月) 03:33:09.61 ID:k0Glf3bq0

魔導士「いや、そんなことないって」


助手「でも、研究のテーマすら教えてもらってなかったですし……」


魔導士「いや、それはそもそもこの研究所はだな……」



時は少しさかのぼり、某国魔導研究所の昼下がり。
その一室にて。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/04/18(月) 03:36:31.44 ID:k0Glf3bq0

使い魔「おーい、さっき言ってた魔導書持って来てやったぞ」


魔導士「ああ、ご苦労さん。そこに積んどいて」


使い魔「おう」


この研究所では、研究テーマごとにチームを組んで研究を行う。
研究テーマの有用性によって人数の大小や設備、予算などが変化するのだ。
二日前に発足したこの研究室のチームは二人と一体。
魔導士とその使い魔、そして助手。
所属する人員は実質二人の、この研究所で最小の研究室だ。


魔導士「ふぅ。よし、一服しよう。助手、茶でも入れてきて」


助手「はーい」パタパタ


使い魔「で、どんな具合だ?」


魔導士「組んでみた魔導式がうまく使えない。早速行き詰ったな」


使い魔「どれどれ。うーん、このままだとこのくだりで魔翌力がつっかえるな」


魔導士「うん。そこにうまく魔翌力の通り道が作れないんだ」


使い魔「だが文献を見る限りでは、そこの式構成はこれで間違いないはずだぞ」


魔導士「そうなんだよなあ」

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/04/18(月) 03:47:45.23 ID:k0Glf3bq0

魔法の研究は主に二種類に分けられる。一つは、魔翌力そのものの性質を探る研究。
もう一つは、新たな魔法、つまり魔法の構成式を開発する研究だ。
そして、このチームの研究は後者にあたる。


助手「はい!お茶持って来ましたよー」


魔導士「ああ、ありがとう」


助手「で、ここの研究のテーマって何なんですか?まだ聞いてないんですけど」


使い魔「あれ?お前、教えてなかったのか?」


魔導士「うん。別にいいかなって思って。」


使い魔「あー、まあ確かにまだ言わなくていいかも知れんが」


助手「ちょ、ちょっと!ひどいですっ!私もチームの一員なんですよ?」


魔導士「ああ、今から教えるよ。じゃあ使い魔、頼んだ。」


使い魔「俺かよ」


魔導士「うん。今何か閃きそうなんだ。頼むよ」


使い魔「ったく。わかったよ。」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/04/18(月) 03:58:41.38 ID:k0Glf3bq0

助手「お願いしますね。」


使い魔「よし、ちょっとこっち来い」


白い狼の姿をしたこの使い魔は、体を起こすと備え付けてある黒板のもとへと向かう。
そして、あくびをしながら人の形へと姿を変え、


使い魔「んじゃまず、この世界の端っこには何があるか知ってるな?」


助手「は、端っこにですか?」


使い魔「ああ、まずそこからか」


使い魔はしなやかな動作で白のチョークを持ち、一つ円を描いた。
人の姿での動きにもなれたこの高位の使い魔は、現在は銀髪の青年の姿をしている。
もっとも、この姿も数ある彼の姿の一つに過ぎないのだが。


使い魔「俺たちの世界を、ずぅっと上から見たらこんな感じなんだが」


助手「あ、知ってます!その円盤を二人の巨人が下から支えてるんですよね」


使い魔「そう言われてるな。だが、誰もそれを確認したことはない。なぜだと思う?」


助手「えっと、世界がとても広いから、ですか?」


使い魔「違う。この世界はお前が思ってるよりずっと狭い」


助手「え、えーっと……分かりません」


使い魔「この世界の端っこにはな、見えない壁があるんだよ。
そいつのせいで世界の裏側なんか覗けないんだ」


助手「壁、ですか?」


使い魔「ああ。俺とアイツは実際にその壁があることを確認してる」

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/04/18(月) 04:11:41.82 ID:k0Glf3bq0

世界の外側の国々である"外縁国"出身の魔導士とその使い魔は、
実際にその足で世界の縁へと赴いたことがある。
この助手も魔導士と同国の出身のはずなのだが、


助手「へー。はじめて聞きました」


使い魔「お前は知ってると思ってたけどな。」


助手「いえ、初耳です。それで、その壁がどうしたんですか?」


使い魔「俺たちはその壁の向こうに行きたいんだよ。」


助手「もしかしてそれがここのテーマ、ですか」


使い魔「そうだ。今んとこ壁を通り抜ける魔法を作るのが目標だな」


助手「へえー。でもそんなこと出来るんですか?」


使い魔「多分な。世界の裏側、俗に言う魔界の生物もたまにこっちで見つかってるしな。」


助手「魔物ってやつですね。でも、なんで壁の向こうに行きたいんですか?」


使い魔「それはアイツに説明してもらおうかな。おーい、そこんとこどうなんだー?」


本をにらみつけながら二人の会話を聞いていた魔導士が顔を上げる。
駄目だ閃かない、と呟いて目をこすりながら言うには、


魔導士「もともとの目的は人探しだ。今は違うけどな」


助手「人探し?」


魔導士「うん。こっちで見つからないからもしかして魔界じゃないか、と思って」


助手「いや、いくらなんでもそれはないと思うんですが」


魔導士「でもなんか妙にそんな気がしたんだよ。」


助手「は、はあ」


あまり知られていないが、彼に限らず魔導士たちは魔翌力に関して非常に敏感だ。
大魔導士の勘は絶対に外れないという言い伝えがあるが、それはもしかしたら
この魔翌力に対する感覚が関係しているのかもしれない。

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/04/18(月) 04:23:25.07 ID:k0Glf3bq0

魔導士「それで、手始めにちょっと調べてみたんだが、そもそも、
    例の壁ってのがどうも魔法による結界の一種みたいなんだよな。
    魔法自体が割と最近見つかった魔界由来の技術って言われてるし、」ペラペラ


助手「え、えっと、その……」


魔導士「それに魔物がこっちで見つかるってことは、壁を越えてるわけだろ?
    もっとも連中が本当に魔界の生物ならの話なんだが、それについての話は省こう。
    まあ、なんやかんやで連中は確かにこの世界の生物ではない、と判断したわけだ。
    そこで俺は壁を超える魔法があるって仮説のもと、様々な魔法結界に対する……」ペラペラ


使い魔「おーい、脱線してるぞ」


魔導士「…の結界の性質に一番近いと考え……おっと、すまん」


助手「あの、でも今は違う目的なんですよね?」


魔導士「うん。探してたやつが見つかったからな。
    今は好奇心で研究してる、と言っておこうか」


助手「見つかったんですか。良かったですね」


魔導士「うん。元気そうだし、まあ良かったかな。ちょっとひっかかる点はあるけどな」


助手「ひっかかる点?」


魔導士「まあ、それについてはいいだろ。お前に言うことでもないし」


助手「お、教えてくれないんですか?研究自体もお二人で出来るみたいですし、
   わ、私ってもしかして……」


さて、ここで冒頭へと戻ろう。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/04/18(月) 04:37:19.97 ID:k0Glf3bq0

魔導士「いや、それはそもそもこの研究所はだな、ただ研究するだけの施設じゃないんだよ」


助手「はい?どういうことですか?」


魔導士「ここは研究者の育成も兼ねてるんだ。まあ、今のお前は研究者の卵。
    あとはそうだな、学生って言葉もあてはまるかもな」


助手「研究者の卵?学生?」


魔導士「うん。研究者の卵であり、そして学生だ。」


助手「で?」


魔導士「え?」


助手「それとこの数日の間、私にお茶くみしかさせなかったのと何の関係が?」


魔導士「うっ」


助手「それにそれはテーマを教えなかった理由にはなりませんっ!
   むしろ研究者の卵だからこそ研究のテーマをしっかり理解させておくべきじゃないですか!?」


魔導士「そ、それはだな……」


助手「だいたい何が学生ですか!響きのよさでごまかそうとしてるのが見え見えです!」


魔導士「くっ」


10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/04/18(月) 04:47:16.22 ID:k0Glf3bq0

いつの間にかフクロウに姿を変えた使い魔は、面白そうに首をかしげながら
止まり木の上で二人のやり取りを見ていた。
そしてひとしきり楽しんだ後、魔導士の心に直接話しかける。


使い魔『押されてるな。助けてやろうか?』


魔導士『た、頼む……』


ところで、この魔導士は研究者としては優秀と言っていいだろう。
声を出さずに会話するこの魔法も、彼がまだ他の研究者に魔法を教わり始めた時期に独自に開発した高度な魔法だ。
もっとも彼としては、こんなところで役に立つとは思っていなかっただろうが。


使い魔「まあまあ、落ち着けって。これにはちゃんと理由があるんだよ」


助手「理由?ほんとに"ちゃんとした"理由なんでしょうね?」


使い魔「もちろんだ。まあ考えてもみろ。今のお前に魔法に関する知識があるのか?」


助手「そ、それは、ない…ですけど」


使い魔「そうだろ?まずお前は魔法の知識を身につけんといかんわけだ。
    あいつが学生って言葉を使ったのもそういう訳だ。ごまかすためじゃない。ここまではいいか?」


助手「……一応、納得できます」


使い魔「で、だ。まったく魔法の知識のない学生に手伝える部分は今んとこなかったんだよ」


助手「じゃあ、私はやっぱり…」


使い魔「待て待て。"今んとこ"って言ったろ?
    これからお前に手伝ってもらうことは山ほどある」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/04/18(月) 05:02:42.41 ID:k0Glf3bq0

助手「こ、これからですか?」


使い魔「ああ。実を言うと、俺たちも今まで少し忙しくてな。お前にかまってる時間がなかったのさ。
    研究のベースになる魔導式を急いで組まないといかんかったからな」


助手「えっと、何ででしょう?急ぐ必要があったんですか?」


使い魔『ここまでくれば大丈夫だろ。あとはお前がなんとかしろ』


魔導士『うん。助かった』


魔導士「それは俺から説明しよう。」


短い交信でバトンタッチを済ますと、使い魔は小さくやれやれ、と呟いて窓から出て行く。
使い魔の動きを目で追いながら、魔導士が言う。


魔導士「なるべく早く成果を出さないといけなかったんだよ。
    明日の発表でこの研究をアピールして、研究費や人員、設備、その他もろもろを手に入れる為にな」


助手「え?それって普通に下さいって言ってもらえないものなんですか?」


魔導士「それが、なかなかそうはいかないんだよなー。優秀な人間や研究費は、みーんなお偉方の方に流れていくんだよ。
    特に俺は今年研究過程に進んだばかりだからな。コネなんて何もない」


助手「なるほど。ところで、なんかさっき行き詰ったとかって言ってませんでしたっけ?大丈夫なんですか?」


魔導士「ただ研究の経過を発表するだけだからな、それっぽいものがあれば問題ない。
    それに、今回は副産物を用意してるしね」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/04/18(月) 05:21:23.14 ID:k0Glf3bq0

助手「副産物?」


魔導士「そうだ。俺たちが作りたいのは結界解除の魔法だが、明日発表する式には、
    新型結界魔法の式を組み込んである」


助手「新型魔法?それにどんな意味が?」


魔導士「一つ目の狙いは予算。テーマからは外れるけど、新型魔法だったら出来ましたよってアピールするわけだ」


助手「なるほど、その新型魔法が副産物ってわけですか。」


魔導士「うん、その通り。自分で言うのもなんだが、これが結構良く出来た魔法なんだよ。
    これでしばらくの間、最低限の予算は確保できる。テーマ外だが、一応成果を出したわけだからな」


助手「ほうほう。それで、他の狙いは?」


魔導士「実は組み込んだ新型魔法は、表向きは完全な式だが、一つ重大な欠点を仕込んでる。
    まあ、実際に使えばわかるけど、わざと複雑な式にしたから優秀な魔法使いにしか使えない。」


助手「あの…何言ってるかわからないんですけど……」


魔導士「まあ、聞け。魔法を研究する権利は、まずその魔法の発見者および開発者に与えられる。
    だから、この新型魔法を研究したければここに来るしかないわけだ」


助手「ふむふむ?」


魔導士「つまり、式の欠点に気づいたり、実際に使うことが出来た優秀な人間が、
    このチームに加わる。かもしれない。」


助手「人員の確保、という訳ですか?」


魔導士「そういうこと。でもここに来る可能性があるのは二人だけだと思ってる」


バサバサ



使い魔「その二人の様子を見てきたぞ」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/04/18(月) 05:34:22.89 ID:k0Glf3bq0

魔導士「ああ、おかえり」


助手「うわっ!お、おかえりなさい」


使い魔はわざと助手の鼻先をかすめるように飛んで、魔導士の肩にとまった。
そして、ふう、と一旦息をついてから再び止まり木に向かって羽ばたく。


魔導士「で、どうだった?」


使い魔「片方はお前の予想通り、何を研究するか決めかねてるみたいだ」


魔導士「はは。レベルの高い研究をしたがってるんだろ?あいつはプライド高いからな」


使い魔「でもあいつがお前の研究室に来るとは思えないがな。」


魔導士「うん。実は俺もそう思う。」


一人目の候補は、研究所始まって以来の天才と呼ばれる少女だった。
なぜかこの研究室の主を、さっきの表現を使うなら学生時代から敵視しており、何かにつけてつっかかってくる。
魔導士はおろか、直接は被害のない使い魔までもが辟易するほどだった。


彼女の日ごろの行いを思い出した一人と一羽は、軽く笑いあってからため息をつき、
次の話題へと移った。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/04/18(月) 06:12:19.45 ID:k0Glf3bq0

魔導士「で、もう一人は?」


使い魔「あっちは…うーん、多分駄目だな」


魔導士「駄目?なんで?」


使い魔「あいつはずっと自室で瞑想してるみたいだ。研究とかどうでもいいみたいだぞ」


魔導士「はあ、あいつらしいな。自分の研究室も立ち上げず、所属する研究室も決めず……
    ホント何でこの研究所に来たんだろう」


使い魔「魔法を教わりたかっただけなんじゃないのか?
    まともに制御できる魔法を学べる施設って多分ここくらいだろ」


魔導士「なるほど、確かにそのフシはある。まあ、あいつは正確には面白い魔法が使いたいってだけだろう。
    まだここの研究過程で面白い魔法が見つかるかも、って期待してるんじゃないか?」


二人目の候補は、一人目とは対照的に落ちこぼれの変人と呼ばれている男。
つかみどころのない男で、魔法の実技以外の教科はすべて落第ギリギリの成績で、
今年、エリート少女やこの魔導士と共に研究過程へ進学した。
しかし、実技の腕はとびきりで、魔法を教える側の研究者や教師たちを上回る程だった。

ここで二人の会話を聞いていた助手が、ある疑問を口にした。


助手「あの、その二人は本当にここに来る可能性あるんでしょうか?」

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/04/18(月) 08:43:39.06 ID:iI9IH5mDO
期待
目欄にsagaで魔力とか書けるよ
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/18(月) 09:36:06.62 ID:k0Glf3bq0
>>15

忘れてた。これでいいんだっけ?
実は俺あんまり書き込みとかしないんだ。スレ立てとかも初めてだし



使い魔「どうだろうな?おれはどっちも来ないに賭ける」


魔導士「お?じゃあ俺は、変人だけ来るに賭ける」


助手「じ、じゃあ私は両方来るに賭けます!」


使い魔「うまくバラけたな。勝った奴は、一週間食事当番免除で」


魔導士「もらったな」


助手「でも、本当にふたりとも来なかったらどうするんです?
   ちゃんと研究出来るんですか?」


魔導士「大丈夫大丈夫。来ないなら来ないでお前にその穴は埋めてもらうさ」


使い魔「はっはっは。そりゃ名案だな」


助手「ええっ?でも話を聞く限りその二人って超優秀なんじゃ……
   悔しいですけど、今の私じゃお役に立てないみたいですし」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/18(月) 10:04:26.66 ID:k0Glf3bq0

魔導士「安心しろ。普通にしてればちゃんと一人前になるから。
    無理だとか言うなよ?それは何回も何回もやってみて、それでもダメだったとき言う言葉だ。」


助手「は、はいっ!がんばります!」


使い魔「はは、どっかで聞いた言葉だな」


魔導士「別に受け売りでもいいだろ?これ、結構気に入ってるんだ」


助手「?」


使い魔「まあ自信持っていいぞ。お前は多分才能あるから。だからこそわざわざ遠くの外縁国からスカウトしてきたんだし」


助手「あ、ありがとうございます」


魔導士「よし、じゃあ今日はもう少し明日の準備をして終わりだ。
    助手は今日までは何もしなくていいから。ただし、明日からはきついぞ?」


助手「はいっ」


魔導士「よっし。じゃあ使い魔。ちゃちゃっと終わらせて休もう」


使い魔「おう」


結局、発表の準備が完了したのは夜があける頃なってからだった。
助手も夜遅くまで、手伝えることはないか、寝ぼけ眼で研究室に張り付いていたが、
さすがに眠たくなったのか、何回目かのそろそろ寝たらどうかという提案に頷いて自室に戻った。


さて、肝心の発表会だが、当初の狙い通りしばらくの間の予算は確保できた。
ここで、場面を発表直後の研究室へと移そう。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 10:08:43.91 ID:HstG7xJco
魔翌力
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/04/18(月) 10:09:46.56 ID:HstG7xJco
魔力
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/18(月) 10:34:26.78 ID:k0Glf3bq0

助手「発表会って案外すんなり終わるんですね。もっと時間かかるものだと思ってました」


使い魔「いや、たまたま前の方の順番だっただけだぞ」


魔導士「うん。俺たちが勝手に帰ってきただけで、発表自体はまだ続いてるな」


助手「か、帰っちゃったんですか。そんなことして大丈夫なんですか?」


魔導士「うん。聞きたくないなら帰っていい。今日の発表はそんなもんだよ。
    もちろん帰りにくいっていうか、実質帰っちゃいけない発表会もあるけどね。各分野の権威ばっかり集まったときとか」


助手「へえー。じゃあ今日の発表は何の発表だったんですか?」


魔導士「予算の承認だ。基本的には去年から引き続き同じテーマで研究するとこが発表するんだ。
    去年の成果はこうでした、今年もがんばるのでお金下さいってね」


使い魔「ちなみに数日前に出来たばかりのこの研究室から発表出来たのは、こいつの数少ないコネのおかげだ。
    準備期間がやたら短かったのは、本来は俺たちに関係ない発表会だからだな」


助手「そ、そうまでしてお金欲しかったんですか?」


魔導士「ちょっと抵抗あるけど、まあそうだな。そもそもの予算が少なすぎたんだよ。
    それに例の新型魔法も早いとこ発表したかったしな。あの二人が研究室に所属する前に気を引いておきたかった」


助手「なるほど。それで、例の二人は来ますかねー」


魔導士「使い魔、あいつらの反応はどうだった?」

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/18(月) 10:50:34.34 ID:k0Glf3bq0

使い魔「エリートの方はすぐに仕込みに気付いたみたいだぞ。やっぱり、無駄に優秀だな」


魔導士「マジか。もっと複雑な式にすればよかったかな」


助手「あの、もう一人の方は?」


使い魔「さあ?あいつは何考えてるか分からん」


魔導士「まあ、それはいつもだな。さすが変人」


使い魔「例年通りなら、発表された魔法をあとで片っ端から試すだろ」


助手「その時にその人の気を引ければってことですね」


魔導士「予想通りなら、あいつの生まれて初めて失敗する魔法になるはずだ。
    それで気を引けるかは微妙だが」


助手「そういえば気になってたんですけど、なんでその二人が候補なんですか?」


魔導士「ああ、まず今日俺たちの発表を聞いてた人間はおそらく多くない」


使い魔「そうだな、ざっと様子を見たとこ聞いてたのは会場に居た半分ってとこだったな」


魔導士「知名度も何もない研究室だからな、当然だ。その半分もほとんどは聞き流してるだけだろ」


使い魔「多分この発表を真面目に聞いてたのは、関わりのある研究者とか同期だけだ」


助手「あっ、わかりました!その中で仕掛けに気付いて、かつ研究室に所属してないのがその二人ってことですね」


使い魔「そういうことだ。他は仕掛けに気づいてもスルーだろうな」


魔導士「それはそれでショックなんだよな。あの魔法、結構自信作なのに」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/18(月) 11:43:40.36 ID:psiJFKy2o
支援
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/18(月) 18:14:19.59 ID:k0Glf3bq0
魔導士は一瞬だけ悲しそうな顔をしてから、ふと助手の方を見た。
少し疲れているのだろう。どことなく気だるそうな表情だった。


魔導士「さて、昨日言った通り、今日からお前に魔法の知識を教える」


助手「ほ、本当ですか?」


魔導士「うん。でも、あまり浮かれるなよ。これが危険な技術であることに変わりはない。
    より難しい魔法を使うことよりも、より正確に魔法を使うことを常に意識すること」


助手「はいっ」


魔導士「よし。じゃあ使い魔、あの本をこいつに」


使い魔「おう。持ってきたぜ」


狼の姿をした使い魔がくわえて来たのは、手帳のような本だった。
小ぶりだが、しっかりした拍子が付いていて、どこか不思議な雰囲気がある。


助手「これ、私にですか?」


魔導士「うん。魔法のメモ帳。プレゼントだ」


助手「わあっ!うれしいですっ!ありがとうございます。」

24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 19:28:31.97 ID:iI9IH5mDO
sageじゃねーよsagaだ
よく見ろ
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/04/18(月) 20:41:05.17 ID:nIeeF+pDO
sage sagaって入れれば下げつつ魔力とか書けるよ
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/04/19(火) 00:06:26.94 ID:jFQE/45t0
>>24
>>25
sagaか。把握した



使い魔「そんなに嬉しかったか?まあこっちとしては贈ったかいがあったが」


助手「はいっ!私、あまり贈り物とかもらったことなかったので。
   大切に持っておきますね」


魔導士「言っておくが、それは実用品だぞ。メモ帳だから、使ってもらわないと贈った意味がない」


助手「でも、使ったらその内ページがなくなってしまいます。もったいないですよ?」


使い魔「使わない方がもったいないだろ。それに"魔法の"メモ帳って言ったろ?」


助手「っていうことは、何か面白い仕掛けがあるんですか?
   例えば、書いたことが全て現実になる!とかだったらいいんですけど」


魔導士「そんな神話級のアイテム俺が持ってるわけがないだろ。
    だいたい、メモ帳だって散々言ってるじゃないか」


使い魔「そのメモ帳はな、いくら書いてもページがなくならないってう魔法のアイテムだ。
    自動的に見たいページを開く機能とか、書いた本人しか文字が見えない機能とかもつけてみた」


魔導士「これ使ってしっかり勉強しなさいってことだ。ちなみに、俺もだいたい同じのを持ってる。
    思いついたことや覚えておきたいことはすぐにそいつに書くと良い。便利だぞ」


助手「分かりました。なくならないんだったら遠慮なく使えますね」


魔導士「うん。じゃあ早速、簡単に魔法の仕組みから」


助手「よろしくお願いします」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/19(火) 00:34:20.07 ID:jFQE/45t0

魔導士「まず、式ってのが魔方陣の設計図にあたるものだ。これに従って魔方陣が描かれる。
    そして、魔方陣は魔力を通す通路の働きを持っている。分かるか?」


助手「はい。魔導式っていうのも式と同じものですか?」


魔導士「うん、その通り。で、魔方陣を通って出てきた魔力に、何かのきっかけが
    与えられることで魔法が完成する。おおざっぱにはこんな感じだ」


助手「なるほど。それできっかけっていうのは?」


魔導士「それは人によるかな。同じ式でも、きっかけとして長い詠唱が必要な奴もいれば、
    簡単なイメージや掛け声で十分な奴もいる」


助手「ちなみに魔導士さんは?」


魔導士「モノによるな。 
    ……ろうそくに灯をともす程度ならイメージだけで十分かな」


助手「し、しょぼいですね」


魔導士「やかましい。研究者には大魔法なんか必要ない」


助手「この、魔導士さんは、強い、魔法が、使えません、っと」カキカキ


魔導士「あ!お前、何メモってんだ!」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/19(火) 00:52:45.69 ID:jFQE/45t0

助手「あはは。いいじゃないですか、私にしか読めないんでしょ?」


魔導士「最初に書くことがそれかよ」


助手「まあ思い出ってことで、ね?」


魔導士「あーもー、わかったよ。実際、俺は大魔法は使えんしな」


助手「え?本当だったんですか」


使い魔「こいつは体質的に、一度の魔法で使える魔力の量が少ないんだよ。
    持ってる魔力の量自体はなかなかなんだがな、勿体ない」


魔導士「しょうがないだろ、体質なんだし。そんなことより次、式の基本的なルールについて、」


こうして、講義は夜中まで続いた。
助手は非常に熱心で、わからないことをかたっぱしから質問する。


助手「はい!質問」


魔導士「はい、何?」


助手「この二つは同じ効果の魔法の式ですよね?なんでここんとこが異なってるんです?」


魔導士「考えられるのは二つだな。アプローチが違うか、自分用の式に改良したか」


助手「はい!では、アプローチが違うっていうのは?」


魔導士「A地点からB地点へ行くのに、C地点を経由するかD地点を経由するか。
    道のりは違っても得られるものは変わらない。」


助手「なるほど、確か式は魔力の通路の設計図だって言ってましたね」


魔導士「その通り。」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/19(火) 01:10:36.24 ID:jFQE/45t0

助手「はい!では自分用に改良っていうのは?」


魔導士「魔力が同じ通り方をするなら式を書き換えても問題ない。一口に魔力って言っても、
    個人で微妙に組成が違うから、より自分の魔力が通り易い式に書き換えたわけだ」


助手「それは魔法じゃなくても同じですね。
   例えばこのペン一つとっても、いろんな形がありますし」


魔導士「そうそう」


助手「はい!じゃあ次の質問です」


使い魔「おい、今日はもうこの辺にしとこうぜ」


助手「えー?もうちょっとだけ……」


魔導士「いや、今日はここまでだ」


使い魔のありがたいフォローに、内心ほっとしたこの魔導士。
魔法を用いて、心の中でこっそりと短い会話を交わすのだったが、


魔導士『助かった。』


使い魔『安心すんなよ。これが終わったら自分の研究だ。ちゃんと手伝ってやるから』


魔導士『な、何?』


計画性のない魔導士に変わって、スケジュールを管理するこの使い魔は、
容赦なく追撃の言葉を加えたのだった。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/19(火) 01:20:36.87 ID:dwHfy88Po
頑張れ〜
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/19(火) 01:32:08.65 ID:6cog1v7Do
追いついた
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/19(火) 01:47:02.06 ID:jFQE/45t0

助手「もうちょっと勉強したかったです……」


使い魔「ま、そう言うなよ。お前は飲み込みも早いみたいだし、しっかり勉強すればいい魔法使いになれるぞ」


助手「ほ、ホントですか!?やった」


魔導士「うん。センスはあると思うぞ。でも、もう少し自分で考えたり、調べるようにしろ。
    今日みたいに質問するだけじゃ伸びないぞ」


助手「は、はい」


魔導士「さて、ちょっと茶でも入れてきてくれ。自分の研究に戻る前に一服だ。
    いいだろ?使い魔」


使い魔「ああ、いいだろ。俺も休憩を入れたかったところだ」


助手「はーい。じゃあ行ってきます」


ガチャ

バタン


助手が扉から出て行ったのを確認した後、使い魔が言う。


使い魔「で、正直あいつ、どう思う?」


魔導士「魔法を学問として見る場合、少なくとも俺よりは上だな。
    実技の方はまだ未知数だけど」


使い魔「そこまで買っていたのか?突然、外縁国の教会からスカウトなんかしてくるから、
    最初は一目ぼれでもしたのかと思ってたぞ」


魔導士「ある意味一目ぼれだったさ。あんな才能めったにないぞ。
    あの教会で、アイツの手帳に書いてあった式見たかよ?上級魔法の式を見よう見まねで組んでたんだぞ」

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/19(火) 02:02:21.90 ID:jFQE/45t0

使い魔「ああ、あの爆破系の魔法か?確かにあれには驚いたが」


魔導士「手帳にはもっといろいろあったぞ。何か得体の知れないものを召喚する式とかな。
    いきなり、魔法使いにあこがれてるんです、とか言ってはにかみながらあの物騒な手帳を見せられた」


使い魔「そんなのもんもあったのか。そりゃどっちにしろ野放しには出来なかったな。危なすぎるだろ」


魔導士「うん。それに、」


彼の言葉をさえぎるように扉が開く。
開いた扉からティーセットを持った助手と、金髪の少女が入ってきた。


助手「お客さんですよー」


魔導士「……おっ」


エリート「……フンッ」


使い魔「相変わらずツンツンしてんな」


助手「扉の前でずっと入りたそうにうろうろしてたので、連れて来ちゃいました」


エリート「ちょ、ちょっとあなたっ!」


部屋に入ってからずっと魔導士をにらみつけるようにしていたこの優秀な学生だったが、
助手のこの言葉で、顔を真っ赤にして慌てだした。


魔導士「プッ」


使い魔「はっはっはっ、わ、笑ってやるなって」


魔導士「うははは、お前こそっ」


エリート「い、いいかげんにしなさいっ!!」


使い魔と魔導士は、扉の前でうろうろしている姿を想像して、
普段のきびきびした印象とのギャップに笑い出してしまったのだった。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/19(火) 02:21:28.69 ID:jFQE/45t0

助手「あ、あの、それで何のご用でしょう?」


魔導士「そうそう、フフッ、な、何の用なんだ?」


エリート「笑うのをおやめなさい!」


魔導士「ちょ、ちょっとだけ待ってくれ、頼む!」


使い魔「よ、よし、だんだん収まってきたぞ」


しばしあって笑いはおさまった。もっとも収まるまでには、
うっかり入りにくそうにしている姿をもう一度思い浮かべてしまったりして、もう一度小さな笑いがあったのだが。


魔導士「で、改めて、何のようなんだ?」


エリート「この研究室で研究をさせてほしいと思って来ましたの。光栄に思いなさい!」


使い魔「えー、数ある研究室の中で、当研究室をお選びになった理由は?」


エリート「そ、それは、その」


魔導士「……やっぱり、気付いたのか?」


エリート「な、何を言ってるんですの?」


魔導士「まあまあ。気付いただけか?使ってみたのか?」


エリート「……両方、ですわ」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/19(火) 02:41:57.83 ID:jFQE/45t0

使い魔「まったく、簡単に言ってくれるな」


エリート「とりあえず使えただけですわ。あの魔法は何ですの?まったく制御出来ませんわ」


魔導士「うん。式としては一応形になってるのに、制御できない。不思議だろ?」


エリート「あなた、あの式をわざと組み込みましたわね?
     あの結界解除の魔法にあの式は丸ごと不要ですわ」


魔導士「はあ。そこまで気付いたのか。お前の言う通り、あれはたまたま出来た副産物だ。
    予算の為にあれを発表しておきたかったから、無理やり組み込んだんだ。」


エリート「当然ですわ。あの部分だけ違和感がありましたもの」


魔導士「まったく、どうやったらぱっと見でその違和感がわかるようになるんだよ」


エリート「才能ですわ。そして、ここに来た理由ですが、」


ここで使い魔が彼女の言葉をさえぎった。
彼女の行動は、完全に彼らのシナリオ通りだった。


使い魔「式に欠陥があるのはわかる。でも一応は形になってるから何処が違うのかわからない」


魔導士「これを解決するには時間が必要だと感じた。だが、本格的に研究する権利は俺の研究室が持っている」


助手「そこで、この研究室で協力しながら、研究しようと考えた、ってとこですね」


エリート「なっ。」


使い魔「おおむねシナリオ通りだな。あの式を無理に組み込んだのは、お前を誘い出す目的もあったんだ」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/19(火) 02:53:01.25 ID:jFQE/45t0

エリート「は、計りましたわね!」


魔導士「は?何言ってるんだ?」


エリート「そうやって誘い出して、私のここでの研究成果を奪うつもりなんですわ!
     そして、自分が研究の権利を持ってるのをいいことに理不尽な命令をするつもりですわね!
     しまいにはあんなことや、こんなことまで……!」


助手「あ、あの、この人大丈夫ですか?」


魔導士「うん。こうやって突っかかってきたりするのは日常茶飯事かな。
    あと多分、こいつの趣味は被害妄想だ」


助手「は、はあ」


エリート「そこに直りなさい!この不届き者!私が成敗して差し上げます!」


魔導士「まあ、落ちつけよ。協力してくれるなら、お前に研究の権利を貸してもいい。」


エリート「え?」


魔導士「共同研究者って形でいいか?それなら俺の下に付く必要もないし」


エリート「ほ、本気で言ってるんですの?」


魔導士「うん。どうせ、交渉するつもりだったんだろ?手間が省けたな。
    そのかわりきっちり協力してもらうけどな。」


エリート「何をたくらんでますの?」


魔導士「純粋に協力が欲しいだけだ。ああ、そうそう、今までの研究資料があるんだけど、持ってく?」


エリート「け、研究資料って!研究者の命をそんな簡単に」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/19(火) 03:17:09.33 ID:jFQE/45t0

魔導士「お前が一からそろえるより、もらった方がいいだろ。
    お前でも簡単にそろえられる量じゃないしな」


エリート「…どうして、あなたはそう……」ボソ



魔導士「ん?何?」


エリート「なんでもありませんわ。明日からここに来ます。
     それでよろしいですわね?」


魔導士「うん。それで問題ない。よろしくな」スッ


どことなく苛立っているようだが、とりあえず協力の約束を取り付けることに成功した。
魔導士は右手を差し出し、明日から共同研究者となる人物に握手を求めた。
しかし、


エリート「ッ!」


パチンッ


魔導士「痛っ!」


エリート「見てなさい!絶対に見返して差し上げますわ」


当の相手はその右手をはねのけ、捨て台詞をはいて出て行った。
こうして研究室には、呆然とした三人のみが残された。
珍しく語気を荒げた助手が言う。


助手「今のはさすがに失礼じゃないですか!?」


使い魔「相変わらず分からん奴だな。何が気に触ったんだ」


魔導士「さあ。まあいつも通りと言えばいつも通りだ。
    明日からは同じ研究室だし、じきなれるだろ。さて、今日はもう寝よう」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/19(火) 03:42:07.78 ID:jFQE/45t0

助手「今のはさすがに失礼じゃないですか!?」


使い魔「相変わらず分からん奴だな。何が気に触ったんだ?
    見返すってなんのことだ?」


魔導士「さあ。まあいつも通りと言えばいつも通りだ。
    明日からは同じ研究室だし、じきなれるだろ。さて、今日はもう寝よう」


使い魔「待て。お前はこれから研究だろ?」


魔導士「おい、もういい時間だぞ?今日はもういいじゃん」


助手「あ、これから研究なら手伝いますよ!」


使い魔「ああ、そうだな、早いうちから複雑な式にも慣れておくか」


魔導士「ちょ、本気かよ?」


使い魔「助手がこんなにやる気なのに、お前は眠りたいってのか?」


助手「さあ、早く始めましょう!何だか、わくわくしてきました!」


魔導士「……わかったよ。だがあまり長くはやんないぞ。明日はあのツンツン女も来るしな」


助手「今日教わったことがどのくらい理解できたか、それがどのくらい役に立ちそうか。
   確認出来るいい機会ですね」


使い魔「あいつ、よっぽど魔法に興味があるみたいだな」


魔導士「つくづく研究者向けだな。ところでお前、アイツを利用して俺を働かそうとしてないか」


使い魔「こうすれば断れないだろ?」


魔導士「……くそ、覚えてろよ。よし、やるならやるぞ。そして寝る!」


こうしてこの研究室の夜は更けていったのだった。
そして、次の日の朝、エリート少女は新たな研究室を発足させ、彼らの共同研究者となった。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/19(火) 09:03:49.87 ID:1iT+dYPpo
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/04/19(火) 10:42:27.45 ID:Jsmy5C63o

続き楽しみに待ってる
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/04/22(金) 05:20:25.14 ID:WFqoyjqt0

結局彼らは、うたた寝を繰り返しながら、研究室で一晩を過ごしたのだった。しかし、早朝になってから、
遂に本格的な睡魔に屈した魔導士が最初に眠り始め、それにつられるように助手も眠ってしまった。

朝と言うには少し遅い時間になった現在、睡眠をとる必要のない使い魔が、
文献調査の折に入手した異国の冒険譚を読んでいるだけである。


魔導士「……ん、ああ、もうこんな時間か…」


使い魔「おお、やっと起きたか」


突っ伏していた顔を上げてつぶやいた魔導士に、フクロウの姿をした使い魔が言った。
魔導士は、くちばしで器用にページをめくる使い魔の姿を横目に見ながら、あたりを見回す。


魔導士「あれ?助手は?」


使い魔「その辺の床で寝てるぞ。そろそろ起こしてやれ。もうすぐ昼前だぞ」


魔導士「ああ。……おい、起きろ、朝だぞ」


助手「うーん。あ、おはようございます」


魔導士「床で寝るくらいなら、自分の部屋に戻ればよかったのに」


助手「いえ、もう一歩も歩けないくらい眠かったんですよ。
   椅子から降りて床に寝そべるので精いっぱいでした」


魔導士「お前がそんな根詰める必要はないぞ?
    というか、俺にも朝方まで研究する必要なんか無かったはずなんだけど」


使い魔「いいじゃないか、だいぶ捗っただろ?」


魔導士「うーん、まあな。確かに研究は進んだ」


使い魔「なら、それはそれで悪くはないだろ。ところで、朝食はどうする?」


魔導士「なんか納得できない。ああ、俺もう朝は食べなくてもいいや。
    ……そう言えば賭け、負けちまったな」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 05:33:52.47 ID:WFqoyjqt0

魔導士が、ふと思い出したように言った。


使い魔「そう言えばそうだな。まさかあの譲ちゃんが訪ねてくるとは思わなかった」


助手「ってことは勝者なし、ですか?二人とも来る、に賭けていた私も負けですし」


使い魔「いや、そうとも限らん。研究内容の最終決定は今日までだからな」


魔導士「うん。今日までに来ればお前の勝ちだな。でもアイツの性格考えると、もう望み薄だな」


助手「そう言えばその人、どんな方なんですか?何でも、変わり者だということでしたけど」


使い魔「どんなって言われてもな。何考えてるのかよくわからんとしか言えないんじゃないか?」


魔導士「うん、そうだな。ただ、気になったことは何よりも優先して片づける性格なんだ。
    正しくは性格と言うより、行動パターンってとこかな」


助手「じゃあ、昨日のうちにここに来なかったってことは」


使い魔「多分アイツの気をひけなかったんだろうな。
    まあ、俺ははもともとあまり期待してなかったけどな」


魔導士「残念だな。あいつの魔法の技術を貸してほしかったんだけど」


助手「そういえば、これからの食事当番はどうします?エリートさんにも当番回しますか?」


コンコン


そのとき、扉をノックする音が研究室に響いた。


魔導士「ん?客か?」


使い魔「多分あの嬢ちゃんだな。今日から来るって言ってただろ」


助手「あ、私、出ますね」
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 05:43:38.70 ID:WFqoyjqt0

ガチャ


変わり者「やあ、おはよう。ちょっと話がしたいんだけど」


助手の開けた扉の外には、ぼさぼさ頭の大柄な青年が立っていた。
思いがけないタイミングで登場したこの男の姿に、内心驚きつつ魔導士が答える。


魔導士「ああ、おはよう。もうほとんど昼だけどな。」


変わり者「昼食まではおはよう、日が暮れるまではこんにちは、そして眠るまではこんばんは。
     僕のルールだ。覚えておいてくれ」


使い魔「めんどくさい奴だな。とにかく中に入れよ。話をしに来たんだろ?」


変わり者「面倒とは失礼だね。これまで僕がずっと守ってきたルールなんだ。では、入らせてもらおう。
     そうそう、部屋に入る時は右足から、というのもまた僕のルールなんだ。ところで……」


大柄なこの青年の陰に隠れるようにして、昨日の少女が立っていた。


変わり者「扉の前で入りづらそうにしていたけど、もしかして彼女と先約があったのかな?
     それだったら僕は出直すけど。」


魔導士「ああ、来たか。堂々と入ればいいのに」


使い魔「なんだ?また入りづらかったのか?」


エリート「そんなことないですわ」
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 06:00:01.25 ID:WFqoyjqt0

助手「ちょっと緊張しちゃっただけですよね?昨日は扉の前でそう言ってましたし」


エリート「い、言ってませんわ」


勝手ににやけた表情になるのを抑えつけながら使い魔が言う。


使い魔「なあ。あいつってあんな奴だったっけ?」


普段通りの表情を保ったままの魔導士が答えるには、


魔導士「もともとあんなだったと思いこめ。今までの完全無欠の優等生のイメージを消すんだ。
    それで笑いはおさまる。今はどんな魔法よりも有効だ。記憶を書き換えろ」


使い魔「お、おう。また機嫌損ねても面倒だしな」


そんな様子を目を細めながら眺めていた青年が言う。


変わり者「おや、僕の知らない間に随分仲良くなったようだね。
     どうやって仲良くなったのか、僕にも教えてほしいな」


魔導士「おっと、すまん。ほったらかしだったな。
    先約ってわけじゃないぞ。とりあえず二人とも、座ってくれ」


エリート「ええ」


変わり者「そうさせてもらうよ。」


魔導士「それで、お前の話っていうのは?」


全員が席に着いたのを確認して、変わり者に問う。
彼が答えるには、


変わり者「それはもちろん、あの魔導式のことさ。僕に対する挑戦だったんだろう?」


魔導士「まあ、そんなところだな。どうだった?」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 06:04:52.11 ID:FHbRO5hSO
C
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 06:14:38.06 ID:7C5eOSjDO
もう来ないかと思ったぜ
しえーん
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 06:16:22.42 ID:WFqoyjqt0

変わり者「不完全な制御しか出来なかったよ。正直、発動自体にも難儀したほどだ。
     完全な式なのに、制御できなかったのは初めてだ」


魔導士「不完全には制御できたのか。相変わらず常識が通用しない奴だ。
    まあ、お前は不完全な式でもほぼ完全に制御する変態だからな」


変わり者「褒め言葉と受け取っておこう。変態という呼び方には疑問があるけどね。」


青年の回りくどい物言いに、しびれを切らして、使い魔が言う。


使い魔「それで、本題は?無駄話をしに来たわけじゃないだろ?」


変わり者「ああ、もちろん違うとも。あの魔法を制御する方法を聞きに来たのさ。
     今回は潔く負けを認めるよ。それも僕のルールだからね。」


魔導士「制御する方法?そんなのないぞ」


変わり者「……君は魔法に対する非凡な才能を持ちながら、
     まるで魔力に呪われたようなその体質のせいで、魔法を行使する力に欠ける。」


魔導士「何言ってるんだ?いきなり」


変わり者「逆にその力に長ける僕を、見返したかったんじゃないかな?
     自分はお前に使えない魔法を開発したぞ、ってね」


魔導士「まあ、その意図もないとは言えないけど」


変わり者「君は僕をその知識で打ち負かしたかったんだろう?その目的はもう達したじゃないか」


魔導士「だから、ないって」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 06:26:47.11 ID:WFqoyjqt0

変わり者「……」


魔導士「はあ、お前からも言ってやってくれ」


魔導士は彼の疑っているような表情にため息をつくと、その青年の隣に座った少女に声をかける。
少しむっとした表情を浮かべた後、彼女は言った。


エリート「彼の言ってることは本当ですわ」


変わり者「おいおい、君は彼の味方をするのかい?」


エリート「腹立たしいことに、私が見た限りあの式には何一つおかしいところはないですわ。
     もっとも、表面上は、ですけど」


魔導士「うん。形の上では完全なんだけど、どこかに重大な欠陥があるんだよな。
    そして、それがどれなのかは俺にもわからない」


使い魔「とある目的のため、見掛け上完全な式に、正体不明な欠陥を仕込んで発表したのさ」


魔導士「仕込んだって言い方には語弊があるな。俺自身どこに欠陥があるかわからないんだし」


エリート「その欠陥がどこなのか研究するため、
     私はここで共同研究者と言う形で研究することにしましたの」


魔導士「おっと、ちゃんとここのテーマに協力してくれるのを忘れるなよ?」


変わり者「ふむ。なるほど、それで君がこの研究室にいるのか。しかし、残念だな。
     せっかく面白そうな魔法だと思ったのに。制御するすべがないとはね」


また何処となく不機嫌そうな少女と、納得いったような表情を浮かべる青年を見比べながら、
使い魔は、こちらからの提案を切り出した。


使い魔「そこで、俺たちからお前に提案だ。お前もここの共同研究者にならないか?」


変わり者「僕が?僕は研究の分野に関しては何の役にも立たないよ?知ってるだろう」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 06:35:18.21 ID:WFqoyjqt0

魔導士「だが、お前の協力が欲しいんだ。お前はここの研究テーマを知ってるか?」


変わり者「世界の縁にある壁を壊すことだろう?なんとも無謀なテーマじゃないか」


一応僕も発表は聞いていたから、と青年は得意げに言った。


魔導士「そう、とても大きなことだ。式を組むのに、俺の知識では足りないかもしれない。
    だからまずエリートの力を借りることを考えた」


使い魔「そして、俺たちの魔力では組んだ式が使えないかもしれない。そこで、お前の力を借りようと思った。
    で、お前ら二人を誘うネタに、この式を利用しようと考えたわけだな」


変わり者「じゃあ、僕たちが今ここに居るのは予定通り、と言ったところなのかな?」


彼も少女同様不機嫌になるのかと思いきや、やられた、といったような表情。
二人は正直に自分たちの予想を答える。


魔導士「いや、俺はお前しか来ないと思ってた」


使い魔「俺はどっちも来ないと思ってたぞ」


魔導士「あれ?そう言えば助手は?
    俺たち、みんなでお前らが来るかどうかで食事当番の免除を賭けてたんだけど」


使い魔「お前らが二人とも来るってのに賭けてたのが、その助手なんだが……いないな」


その時研究室の扉が開いた。
扉の外から、甘い匂いが漂ってくる。


助手「皆さん!お腹すいてませんか?昼食代わりに、パンケーキを焼いてきましたよ」


変わり者「ああ、いい匂いだ。遠慮なくいただくよ」


エリート「私も一枚いただきますわ。その良く焼けているのを下さいまし」


魔導士「お、気が利くな。でも良かったのか?せっかく食事当番免除だったのに」
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 06:46:29.34 ID:WFqoyjqt0

助手「……あ…」


使い魔「忘れてたのか」


助手「まあ、いいですよ。私が作ったパンケーキで喜んでくれる人が居たんですから。
   別に損はしてないです。」


助手は、いつのもはにかむような笑みを浮かべる。
心の底から嬉しそうなその表情に、そういうもんかな、と魔導士が頭をかきながら言った。


魔導士「そっか。お前がいいなら、いいんだけど」


助手「ただし!今日の夕飯は私は作りません!せっかくの食事当番免除ですから!」


使い魔「ああ、まあいいだろ。じゃあ、おい、そこの譲ちゃん。
    お前が今夜の食事当番だ」


エリート「いやですわ。どうしてそうなりますの?」


魔導士「俺は昨日、使い魔は一昨日食事当番だったんだ。
    助手は賭けに勝って免除だから、次はお前だ」


エリート「そもそも私はあくまで共同研究者。正確にはここのチームメンバーではありませんわ。
     その私がどうしてこの研究室の食事当番を……」


使い魔「でも、お前のチームって、今お前一人だろ?じゃあどっちにしろ、
    今夜の食事は自分で作らないといけないんじゃないのか?それとも食堂に行くか?」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 07:00:44.43 ID:WFqoyjqt0

研究所には大小さまざまな区画があり、一つの区画に一つの研究室と一つの調理場、
そして、チームメンバーが生活する部屋がある。
また、小規模なチームは一つの区画をいくつかのチームで共同で使うことも多く、今は彼らもそのようなチームの一つだ。
食事は基本的にこの調理場で、各チームが自分たちで作ることになっている。


食堂も一応存在しているがいわゆるお偉方の根城で、ほとんどの研究者はそこで食事をしようとは考えない。
名のある研究者たちが食事しながら討論している横で、楽しい食事、などまず不可能だからだ。
場合によっては、食事中に突然、聞いたこともない理論についての意見を求められることもある。


エリート「そ、それは…!いえ、でもあなた方の分まで食事を用意する義理はありませんわ」


魔導士「まあまあ。一人分も五人分も手間は変わらないって。
    それに今日作れば、明日からしばらくは食事の用意をしなくていいんだぞ?」


研究者としては優秀な部類に入るこの二人だが、食事中に急に話しかけられるのには辟易していた。
特に、この少女は広く優秀と知られているだけに、意見を求められる回数も非常に多かったのだ。


助手「そういえば、私は食堂で食べたことないですね。行ってみようかなあ」


魔導士「や、やめとけ。俺もそんなこと考えて痛い目にあった」


エリート「そ、そうですわ。あそこで食事なんかしたら、しばらく魔法の魔の字も聞きたくなくなりますわ」


助手「え?食堂ですよね?食事するところなんですよね?」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 07:08:26.74 ID:WFqoyjqt0

不思議そうな顔をしていた助手は、どうしても食堂に行ってみたいようだったが、
他の四人からの半時間ほどの説得を受けてようやく諦めた。
ひと段落したところで、使い魔が言う。


使い魔「それで、俺たちのこの当番制と、毎日自分の食事を用意するのと、お前はどっちがいいと思う?」


エリート「くっ、分かりましたわ。作ればいいんでしょう、作れば!五人分でよろしいですわね?」


変わり者「おや?僕も頭数に入っているのかい?」


魔導士「ああ、そう言えばまだお前の意思を確認してなかったな。
    俺たちの共同研究者として、力を貸してほしい。頼めるか?」


変わり者「ふむ。では、条件が一つ。研究で生まれた新しい魔導式は、全て僕に教えてほしい。
     せっかく君や彼女と協力するんだ、なるべく多くのの独創的な魔法を習得したい」


魔導士「もちろん。期待にこたえられるよう努力しよう」


変わり者「嬉しいね。それじゃあ、君から何か条件はあるかな?」


魔導士「そうだな、まず一つ目、形だけでいいから、エリートの研究室に所属して欲しい。
    俺たちのチームと人数をそろえ、二つのチームが対等な立場だと外にアピールしたい」


変わり者「ああ、何も問題はないよ。確かに彼女はプライドが高いから、
     外部の人間から君の下に付いたと思われるのは嫌だろうしね」


魔導士「よくわかってるじゃないか。意外と周りのことも見てるんだな。
    それと、これは出来たらでいいんだが」


変わり者「ん?何だい?」


魔導士「俺の助手に魔法の使い方を教えてやってくれないか?
    俺は実技の教師としては向いてないからな」


変わり者「いいよ。まあ、僕にもちゃんと務まるかはわからないけどね。」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 07:18:00.33 ID:WFqoyjqt0

魔導士「やるだけやってみてくれ。俺からは以上だ。これから、よろしく頼む」スッ


握手を求める魔導士の右手を見て、青年は一度他の三人の方に目を向けた。
そして、視線の先でのやり取りを眺める。


使い魔「なあ、ところでお前、ちゃんと料理できるのか?」


エリート「し、失礼な。も、も、もちろん出来るに決まってますわ」


助手「そうですよ、使い魔さん。女の子なんですから、料理くらい出来るに決まってますよ。
   ですよね、エリートさん?」


エリート「え、ええ!」


眺めながら、青年は薄く笑う。これは楽しいことになりそうだ、と呟き、
そして、青年の右手をしっかりと握るのだった。


変わり者「こちらこそよろしく。僕でよければ、喜んで力を貸そう。」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 07:29:14.02 ID:WFqoyjqt0



助手は、使い魔とエリートとのやり取りをいったん止めて研究室を見渡した。
魔導士と変わり者、エリートと使い魔がそれぞれ雑談している。
窓際の魔導士たちに耳を傾けてみた。


変わり者「ところで、さっきから気になってたんだけどあの剣は?かなりの業物のようだけど」


魔導士「お、わかるのか?実は昔、少し剣を学んでてな。その時に養父がくれたんだ」


変わり者「へぇ。実は僕は昔、魔法剣士に憧れてたんだ」


魔導士「おお、奇遇だな。俺なんか今も憧れてるぞ。だが単純な剣術の方はあまり才能なくてな」


変わり者「なんだ、僕たち結構似た者同士なんじゃないかい?僕もそのクチだよ。
     魔法を混ぜたらいけるんじゃないかって考えたんだろう?」


魔導士「そうそう。まあ、残念ながら例の体質のせいでそれも無理だったんだけどな」


変わり者「お気の毒に。僕はどうやっても剣を握ったまま魔法が使えなくてね。
     単純に向いてなかったんだろうね」


魔導士「そうか。お前も魔法に関して出来ないことがあるんだな。
    よし、今度一緒に剣を振ってみるか?久々に体動かすのもいいだろ」


変わり者「いいね。しかし、僕は君のことを誤解してたよ。もっと気難しくて堅苦しい奴だと思ってた」


魔導士「それはお互いさまだ。俺はお前のこと、何も考えてないちゃらんぽらんだと思ってた」


変わり者「はは、言ってくれるじゃないか。ところでこの間、外縁国の将軍とお会いしたよ。
     確か君は、」


二人は剣術の話題で盛り上がっているようだ。
今度は、目の前の二人の会話に耳を傾けてみた。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 07:52:20.92 ID:WFqoyjqt0

使い魔「なあ、いい加減認めろって。お前ホントは料理なんか出来ないんだろ?」


エリート「出来ると言っているでしょう。しつこいですわね」


使い魔「じゃあ、ここで一つ、俺の推理を聞いてくれ」


エリート「推理?ええ、いいですわよ。聞いて差し上げましょう」


使い魔「お前が今まで毎日、わざわざ食堂で食事していた理由についてなんだが」


エリート「うっ」


使い魔「お前は言ったよな?あそこで食事をしたら、魔法の魔の字も聞きたくなくなるって」


エリート「た、確かに言いましたが、それが何か?」


使い魔「じゃあ、何でいつも食堂で飯食ってたんだ?俺が聞いた話によると、
    お前が進学する前に居た研究室は、自分の食事は自分で用意するのが普通だったとか」


エリート「その通りですわ。みんな自分で料理したりしてましたわ」


使い魔「"みんな"自分で料理していたのに、お前は食堂に通っていた。それはなぜか?
    お前は、自分の料理は食えたもんじゃないと考えているんだ!」


エリート「ち、違いますわ!私は先輩研究者の皆さんと、研究の話がしたくて、」


こちらは、エリートの料理の腕前の話をしているようだ。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 08:04:28.47 ID:WFqoyjqt0

助手「ふふっ」


エリート「?」


使い魔「どうした?急に笑ったりして」


助手「いえ、この研究室に付いて来てよかったなと思いまして」


エリート「そう言えば、あなたは外縁国の教会に居たと言ってましたわね。
     向こうでは何をしてましたの?」


エリートに質問に、助手は少しためらってから答える。


助手「向こうでは、そうですね、ただの雑用ですかね。私は孤児でしたので、いらない子扱いでした。
   私の唯一の楽しみは、教会に隠してある魔導書をこっそり読むことでした」


使い魔「そうだったのか……俺はその時は別件で中央皇国に行ってたからなあ。
    その話を聞くのは初めてだ」


助手「そしたら、魔導士さんがふらっとやって来て、その魔導書を強引に持って行ったんです。
   その時に、助手として付いて来ないか、って誘ってもらったんですよ。嬉しかったなあ」


暗い顔をしていた助手だったが、当時のことを思い出して、
はにかみながら少しだけ嬉しそうな表情になって言った。


エリート「もしかして、いやなことを聞いてしまったかしら?」


助手「いえ、大丈夫ですよ。でもあそこにいた間は辛かったから、
   ……だから、ついて来て本当に良かったって思ったんです」


エリート「そうでしたの……」


使い魔「まあ、今が楽しいんだったらそれでいいだろ?辛かったことなんて忘れちまえ」


重い空気を変えようと、軽い発言をした使い魔。
助手が抗議の視線を向けながら、再び悲しそうな表情をして言う。


助手「そういえば最初、二人とも全然かまってくれなかったのが悲しかったんですよ。
   結局ここでも私はいらない子なのか、って」


使い魔「う、すまん」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 08:14:59.92 ID:WFqoyjqt0

ここで窓際に居た二人が三人のもとへやって来た。


魔導士「お?どうした使い魔。なにかやらかしたか?」


変わり者「心なしか、空気が重いね。こういう時は余計なことを言わない。僕のルールだ」


魔導士「お前それ、口に出して言ったら意味ないだろ」


助手「あはは、ホントですよ」


魔導士「ところで、お前もさっきみたいな暗い顔しない。こっちの気が滅入る。
    そんな風に、いつも通りへらへらしてろ。」


助手「あ、は、はい!って、いつもへらへらしてますか?」


こまごました文句を言い始めた助手を無視して、魔導士が再び全員を座らせる。
そして、それぞれに今後の方針を伝える。


魔導士「よし、まず変わり者!お前は研究室所属決定の書類を提出しろ。
    期限は今日までだ。忘れるなよ」


変わり者「ああ、そうだったね。忘れるところだったよ」


魔導士「お前は当分、助手について魔法を教えてやってくれ。
    あと、室内で攻撃魔法を打つのは禁止だからな」


変わり者「了解。それも忘れないようにするよ」
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 08:27:00.04 ID:WFqoyjqt0

魔導士「ホントに忘れるなよ。次、使い魔!お前には文献調査を頼みたい」
    

使い魔「はあ、よりによって苦手分野だな。何を調べる?」


魔導士「この前の中央皇国の文献について、さらに詳しく調査してくれ。
    八百年前の"孤王"の結界についてだ」


使い魔「おう。まあ、最善を尽くそう。」


魔導士「ああ、頼んだ。エリート!お前には特に指示は出さない。出しても聞かないだろ?」


エリート「よくわかってますわね。あなたの指図なんか受けませんわ」


魔導士「ちゃんとこっちのテーマについても研究してくれるなら、後は好きにしていい。
    二つのテーマを並行して研究することになるが、当然、出来るだろ?」


エリート「誰に聞いてますの?もちろん出来ますわ」


魔導士「頼りにしてるぞ。最後、助手!お前はまず必要な技術と知識を身につけてもらう」


助手「は、はい。頑張ります」


魔導士「さっきも言ったが、魔法の使い方については変わり者に教われ。
    知識に関しては俺が教える。残りの二人にも、適宜質問するなりして技術と知識を吸収しろ」


助手「わかりました!」

59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 08:36:51.20 ID:WFqoyjqt0

魔導士「よし、いい返事だ。俺は、助手に知識を教えつつ、お前らからの情報をまとめて、
    式を構成する。何か質問は?」


魔導士の問いかけに、まず変わり者が手を挙げる。


変わり者「じゃあ質問だ」


魔導士「どうぞ」


変わり者「研究の過程で生まれた魔法なんだけど、どのタイミングで僕に教えてくれるのかな?」


魔導士「ああ、それならあいた時間に俺のデスクワークを手伝ってもらうから、その時だな。
    研究が苦手だといっても、何も出来ない訳じゃないだろ?」


変わり者「はあ、楽できそうだと思ったら、結局デスクワークをやるのか。
     まあ、出来る限りはやってみよう」


魔導士「ああ、そうしてくれ。他に質問は?」


次に、助手が手を挙げた。


助手「はい!」


魔導士「なんだ?」


助手「私はどういう日程で動けばいいんですか?」


魔導士「そうだな、午前中は技術、午後から知識で動いてくれ。
    お前には、変わり者を逃がさず俺のところに連れてくる仕事も兼ねてもらおう」


助手「えっと、午前中に魔法を教わった後、変わり者さんを連れてくればいいんですね?
   分かりました」


魔導士「よし、他に質問がある奴はいないか?」


ここで、誰も手を挙げなくなった。
その様子を見た魔導士が言う。


魔導士「よし、じゃあおのおの行動を開始してくれ。行くぞ、助手」


助手「はい!」


こうして、本格的に彼らの研究が動き出したのだった。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/22(金) 08:46:03.30 ID:WFqoyjqt0

よし、今日はここまで。
とりあえず、メインになるキャラクターが全員登場した。
が、ここからはあまり考えてないのでややノープラン気味になる

多分、しばらくは助手の修行(?)パートと研究パートを繰り返すという、
これまで以上に冗長な展開になるはずだ


では最後に、登場人物に対する一言コメントをば


魔導士
使うかわからないけど厨二設定あり

助手
ここまで出番が少ない気が

使い魔
特に描写がない時は人間の姿

エリート
金髪お嬢様は正義

変わり者
作者のお気に入り

以上
では、さようなら


61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 08:54:54.31 ID:+fP/dPXDO
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 10:55:06.98 ID:pW5LPzLJo
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/04/22(金) 11:31:59.88 ID:ZDsgo/lbo

次も楽しみに待ってる
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 21:27:37.97 ID:Uas+99WQo
これは面白そうだな
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 23:25:24.82 ID:3jEZDVEGo
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/04/30(土) 00:57:26.77 ID:eKgumjfq0

そしてまた朝を迎えた。
結局昨日は、スケジュール担当の使い魔の了解を得て、エリート作の料理を五人で食べた後で解散した。
また、使い魔によって疑問視されていた彼女の料理の腕だが、彼女は見た目は普通なのに何の味もない
ある意味奇跡の料理を作ったのだった。


エリート本人と、「不思議な料理ですね」などと言っていた助手以外の三人は、口には出さないものの
彼女が何らかの魔法によって味を消ごまかしたのだろう、という共通の見解を持っていた。


魔導士「はあ」


使い魔「どうした?最近ため息が多いぞ」


魔導士「いや、なんか胃もたれがな」


使い魔「ああ、昨日のか」


厳密には生命体ではないこの使い魔は、本来食事は必要ない。
ただ、食べるという行為を好むため、味さえあれば何でも食べるという、
主に残飯処理に有用なスキルを持っていた。
が、しかし、


使い魔「味がしないっての恐ろしいな。食べたくないと思ったのは生まれて初めてだ」


魔導士「はは、流石のお前でも、味がなかったら無理か?」


使い魔「ああ。不味い料理でも味さえあれば楽しめるものなんだがな。
    味のない食べ物なんて、口に入れたいとも思わないね」


魔導士「そんなもんなのか。しかし、あいつにも出来ないことがあったんだな」


使い魔「まあ、完璧な人間などいないってことだな。こうして関わってみると、意外な弱点も多いな。
    天才なんて呼ばれててもやっぱり人間ってことなんだろ」
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 01:10:49.20 ID:eKgumjfq0

魔導士「実はあがり症なところとかもな。そういや、昔やった発表会でも顔真っ赤にして声震わしてたな。
    当時は、具合でも悪いんだろうと思ってたけど」


使い魔「へえ、そんなことがあったのか。まあ、今のうちにもっと弱点を見つけておけ。
    将来、アイツをゆするネタになるかもしれん。さて、俺はそろそろ行くぞ」


冗談めかして言った使い魔は、夕食には戻る、と伝えて出て行った。
普段なら朝食をとっているこの時間だが、あくまで原因不明だが全員が朝食はいらない、と言ったため、
今朝は少し早めに各々で行動を開始した。


助手と変わり者はこの区画にある空き部屋に、エリートも調べ物をしに研究所内の図書館に行ったため、
今、ここには魔導士一人だった。


魔導士「はあ。」


魔導士「おっと、本当に最近ため息が多くなったな」


魔導士「……独り言も増えたか?しかし、」


魔導士は誰もいない研究室を見渡し、つぶやいた。


魔導士「……やることがない。暇だ」


他のメンバーから何らかの情報が得られるまでは、彼はやることがなかった。
今までの研究資料を整理して、新たな発見を探そうともしたが、この資料は"人探し"が目的だったころ、
つまり研究室を立ち上げる前から集め、研究していた資料だ。
数十分で、もう新しい発見はない、と言う結論に達した。


魔導士「……助手の様子でも見に行くか」
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 01:17:26.70 ID:eKgumjfq0

結局、やっと魔法が使える、とはしゃいでいた彼女の様子を思い出し、
その様子を見に行くことにしたのだった。


ちょうど研究室を出た時だった。


ドオォォォン


そこまでは大きくないものの、爆発音がこの区画に響き渡る。
慌てて魔導士は、音が聞こえた部屋に駆け込んだ。


魔導士「おい!大丈夫か!?」


助手「……あ、魔導士さん」


変わり者「おっと」


魔導士「おい変わり者、室内で攻撃魔法は使うな、と言ったはずだが」


変わり者「ああ、すまないね。ろうそくに火をつける程度の炎魔法だから、大丈夫だろうと思ったんだよ。
     わざわざ人気のない部屋も選んでいたしね」


魔導士「ろうそく?そんなもんどこに、」


言いかけた魔導士は、足元にろうそくの残骸らしきものを見つけ、口をつぐむ。


魔導士「……何があった?説明してくれ」


変わり者「さあ?」


魔導士「笑ってる場合じゃないぞ。答えてくれ」
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 01:24:07.41 ID:eKgumjfq0

薄笑いを浮かべて答えた変わり者に、魔導士が詰め寄る。
変わり者がなだめつつ言うには、


変わり者「ま、まあまあ。落ち着いてくれ。本当にわからないんだよ。
     彼女が放出した魔力が、一気に膨れ上がったんだ」


魔導士「魔力が一気に?……助手」


助手「はっ、はい!」


魔導士「お前がこの魔法を発動した過程を説明してくれ」


助手「え、えっと、まず式から魔方陣を展開して、魔力を注入。
   後は、きっかけを作って魔法を発動、です」


魔導士は、あごに手をやり、何も問題はないなと呟く。
そして助手に次の疑問を投げかけた。


魔導士「じゃあ、何をきっかけにして魔法を発動したんだ?」


助手「はい、精神集中をしながらの詠唱を長めに、です。
   変わり者さんが、最初だから念入りにって……」


変わり者「ちなみに、さっきも言ったが、使った式は火をともす程度の炎魔法。
     全ての魔法使いが最初に覚えるといわれる基本中の基本だよ」


一つの可能性に思い当った魔導士が言う。


魔導士「……特異性」


変わり者「ん?何だい?」


魔導士「最近発見された魔力の性質の一つだ。一定量以上の魔力が狭い場所、例えば人間の中などに
    集まると、その組成に応じて特殊な性質を持つらしい」
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 01:38:45.25 ID:eKgumjfq0

変わり者「なるほど。その特異性とやらだと思うのかい?僕も持ってるのかな?」


魔導士「多分持ってると思うぞ。研究によると、全ての魔法使いが何かしら持ってるらしい」


変わり者「へえ。でも僕には自覚ないんだけどな」


魔導士「俺だってないぞ。気付かないうちに何か影響を受けてるんだろ。
    はっきりと特異性が確認される魔法使いは珍しいらしい。まあ、それはいいとして」


魔導士が助手に向きなおる。
助手が、びくり、と体を震わせる。


助手「あ、あの……」


魔導士「うん、大丈夫。お前に落ち度はない。
    次は、この式を試してみてくれ」


助手「は、はい。この式は?」


魔導士「ただ魔力を放出するだけの式だ。何か効果があるわけでもないから、
    暴走の心配もないし、特に詠唱もいらない。厳密には魔法ですらないしな」


助手「はい。やってみます」


練習用の短いワンドを構え、てまどいながらも魔方陣を展開する。
すぅ、と息を吸い、軽く腕を振って発動させる。


魔導士「……うーん」


変わり者「あれ?おかしいね」


助手「ど、どうしましたか?」


魔導士「いや、こいつの言ってた、魔力が膨れ上がる感じ?っていうのがしなくてな」


変わり者「ああ。でも、あの時は確かに感じたんだよ」
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 01:45:19.61 ID:eKgumjfq0

魔導士「うん。普通はあの炎魔法であの威力なんて出ないからな。
    魔力を増幅させる何らかの働きがあったのは間違いない。何か条件があるのか?」


変わり者「可能性はあるね。集中の程度や、詠唱の有無とかどうかな?」


魔導士「とりあえず、外に行くぞ。また爆発なんてシャレにならんからな」


魔導士の提案に従って、研究所の奥にある広場へ向かった。
研究所には、ところどころにそのような広場があり、魔法の練習や実験は主にそこで行われる。


魔導士「さて、まずは仮説一。集中の程度が発動の条件である」


変わり者「というわけで、だいたい最初の魔法と同じくらいの集中で魔力放出の式を使ってみてくれ」


助手「お、同じくらいの集中って言われても、なかなか難しいですね」


魔導士「魔法使いには必須の技術だぞ。特に俺たち研究者は、何度も同じ条件を作り出す必要がある場合も多い」


変わり者「まあ、最初はだいたいでいいよ。少しずつ練習すればいいさ」


助手「わかりました。やってみます」


先ほどと同じく、なれない操作で魔方陣を展開させる。
そして、今回は数十秒ほど集中してから、杖をふるう。


魔導士「さっきと同じだな」


変わり者「微妙に放出量が多い気もするけど、集中によって放出量が増えるのは一般的な傾向だしね」
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 01:56:17.91 ID:eKgumjfq0

魔導士「うん。……集中量による変化はほぼなし、と」


助手に贈ったものと同じ、魔法のメモ帳に簡単にメモする。
そして、


魔導士「じゃあ、次だ。仮説二。詠唱の有無が発動の条件である」


変わり者「もう言うまでもないかな?今回はさっきと同じ詠唱をしてから魔力放出の式を使ってくれ」


助手「分かりました。さっきよりは分かりやすい条件ですね」


今回は基本の操作に、彼女独特の歌うような詠唱を加える。
そして、発動された魔法だが、


魔導士「……変化なし、と」カキカキ


変わり者「最初と同程度の放出量だね。ところで、その詠唱はどこで身につけたんだい?
     基本はもう教わってるとは聞いてるけど、その詠唱は魔導士君から教わったものじゃないだろう」


助手「はい、これは私の独学です。まだここに来る前に、教会の魔導書で覚えました」


変わり者「教会の魔導書?教会は魔法の存在を認めていない筈なんだけどな。
     そういえば、その詠唱は何となく聖歌の響きに似ているね」


助手「私も詳しいことはわからなくて……。魔導書は今、魔導士さんが持ってる筈ですけど」


変わり者「本当かい?ぜひ見てみたいな。興味がある」


魔導士「ああ、その話は後でしてやるよ。それより次、仮説三。特定の式を含むのが条件である」


このような繰り返しが昼前まで行われたが、結局、彼女の特異性の発生条件は不明だった。
ここで、変わり者が言う。


変わり者「今日はもうこのくらいにしておかないかい?もう昼前だ。
     今日は僕が食事当番だから、昼食も用意しないといけないしね」
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 02:06:25.71 ID:eKgumjfq0

魔導士「そうだな。よし、じゃあ行くか」


助手「ま、待って下さい」


歩き出しかけた二人を助手が止める。


魔導士「ん?どうした?」


助手「あの、最後にもう一度、ろうそくに火をともすのに挑戦したいんですけど」


魔導士は最初止めようとしたが、少し考えるようなそぶりを見せて言う。


魔導士「んー、まあいいだろ。やってみよう」


変わり者「大丈夫なのかい?いつまた暴走するかわからないんだよ?」


魔導士「多分、こいつの特異性は発動条件が厳密に決まってるんだろ。
    これだけの回数発動しなかったんだ、次でたまたま条件を満たす可能性は低い。」


変わり者「まあ、君が言うならそうなのかな?それじゃあ、僕らはのんびり見守るとしようか」


魔導士「いや、といっても完全に安全だとは言い切れない。いざって時は俺たちで抑え込む」


変わり者「了解。それじゃ、ちょっと気をつけないといけないね」


魔導士「うん、頼む。よし、ろうそくはここに立てとくぞ。
    準備が出来たらはじめてくれ」


助手「はい。うぅー、言ってはみたものの、やっぱり不安だなあ」


ろうそくから少し距離を開けて、助手。そして、彼女を挟むように残りの二人が立つ。
少し不安そうな面持ちで杖を構え、助手が言う。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 02:13:14.28 ID:eKgumjfq0

助手「い、行きます!」


魔法の発動に少しは慣れたのだろう。
最初とは比べ物にならない速度で魔方陣を展開する。ワンドを用いて魔力を魔方陣に注入し、
そして、


助手「〜♪〜〜♪〜♪〜」


最初より少し短めな詠唱の後、腕を振って魔法を完成させた。


ボッ


小さく音を立てて、ろうそくに火がつく。


助手「や、やった!やりましたよ!わたし、初めて魔法を成功させました!」


魔導士「うん。これでもう魔法使いを名乗れるな」


変わり者「おめでとう。僕も初めて魔法を使った時を思い出したよ」


助手「はあー、良かった。また暴走したらどうしようかと思いましたよ」


魔導士「だが正直、いつ暴走するかわからない。特異性の発動条件がわかるまで、
    室内での魔力の使用を一切禁止する」

75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 02:24:34.75 ID:eKgumjfq0

助手「そうですか……。ということは、私はまだ実験のお役には立てないんですね。
   知識の方も全然足りてませんし……」


現在研究しているような新たな式を作る、という過程において、
魔力の通り方、および式の構造を調整するために、実際に式に少量の魔力を通す実験を行うことは多い。
室内での魔力の使用を禁じるということは、この作業にはほとんど関われないということを意味していた。


魔導士「そんなことないぞ。もう基本的な式の組み方は知ってるんだからな。
    それさえ知っていれば、もしかしたら何か閃くかもしれない。」


変わり者「そうそう。大勢の努力も、一人の天才の閃きに敵わないってこともあるしね。
     まあ、そんなに落ち込むことでもないさ」


魔導士「そういうことだ。それにどうせ、実験には精密な魔力量の操作が必要だ。
    禁止されなくても、まだお前がかかわるには早い」


助手「うぅ、そう言われるとますます悔しいです。
   こうなったらその魔力量の操作っていうの、すぐに身につけて見せますからね」


魔導士「あと特異性の発動条件の問題があるのも忘れるなよ?
    いい機会だ。自分でその条件について調べてみろ。研究の進め方の練習になる」


助手「わかりました。そっちもすぐにつきとめて見せます!」


変わり者「まあ、張り切るのはいいけどあせらないことだね。僕も出来る範囲で協力するよ」


魔導士「よし、それじゃあ戻るか」


広場から研究室に戻る途中、魔導士は疑問に思っていたことを変わり者に尋ねた。


魔導士「そういえば、なんですぐにこの研究室に来なかったんだ?
    お前のことだから、発表会のあったその日に訪ねてくると思ってたのに」
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 02:37:16.60 ID:eKgumjfq0

変わり者「ああ、ちょっと世界の縁まで、君の魔法を試しにね」


魔導士「はあ?何だって?」


変わり者「だから、君の発表した結界解除、あれを試しに行ってたんだ」


聞き返した魔導士は、自分の耳が正しく機能していたことを確かめると、
メモ帳を取り出し、先を促した。


魔導士「で、どうだった?そもそもあの式使えたのか?うまく魔力が通らなかったはずだが」


変わり者「ああ、つっかえてたところには無理やり穴をあける感じで魔力を通したよ。
     まあ、結局結界を解除することは出来なかったけど」


魔導士「何も変化なかったのか?」


変わり者「いや、薄まる感じ、とでも言うかな。変化があったのは確かだね」


魔導士「薄まる、か。完全に解除できなかったのは何が原因だ?魔力量?
    いや、こいつに無理だった時点で式に問題があったと考えるべきだな。
    やっぱりあのつっかえる部分で魔力のロスがあったんだろう。
    例の新型魔法も無理に詰め込んでたしな。ということは、」ブツブツ


変わり者「ああ、自分の世界に入っちゃったか。こうなると人の話きかないんだよね」


急に歩みを止めて考えだした魔導士を見て、変わり者はやれやれ、と頭を振る。
助手も考え込む魔導士の姿を見て言う。


助手「ですね。どうしますか?」


変わり者「とりあえず僕は昼食を作ってくるよ。落ち着いたら研究室に連れて来てくれ」


助手「わかりました。では、またあとで」


変わり者「うん。後で」
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 02:50:06.19 ID:eKgumjfq0

場面は変わって、早朝


三人がいたのとは別の広場で、
エリートは精神を集中させながら詠唱をしていた。


エリート「はぁっ!」


ブゥゥゥウン


エリート「よし、いい感じですわね」


短い掛け声とともに魔法を発動させる。
薄緑色の障壁が展開された。例の結界魔法に彼女なりの改良を加えた式だったのだが、


ピシッ


エリート「っ!」


パリーーーン


しばらくの後、障壁にひびが入って砕けてしまった。


エリート「だめでしたわね……。でも、以前の式よりは格段に制御しやすくなりましたわ」


再び場面が変わって前日、夕食後


エリート「ちょっとよろしいかしら?」


魔導士「何だ?…うっぷ……」


腹を押さえ、なんとなく顔色が悪い魔導士だったが、彼女はそれには気付かない。


……というふりをして言う。


エリート「あの結界について、詳しい説明をまだ聞いてませんわ」
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 04:06:57.80 ID:eKgumjfq0

エリート「あの結界について、詳しい説明をまだ聞いてませんわ」


魔導士「ああ、あの結界の?まずどこまで知ってるんだっけ?」


エリート「従来の結界より強度が比べ物にならないくらい高いこと。
     後は、物理的、魔力的な衝撃の両方に効果があること、ぐらいですわ」


魔導士「発表した内容は知ってるんだったな。そう言えば普通の結界の仕組みは知ってるか?」


エリート「言ってしまえば魔力を固めて壁にするだけですわ。
     ただし、物理的衝撃には物理、魔力的衝撃には魔力に対応した結界でないと効果がありませんけど」


魔導士「そうだな。基本的には新型も同じだが、こっちはその壁に特殊な性質を付与してある」


魔導士の表現を聞き、エリートが一瞬考えて言う。


エリート「例えるならば材質が違うといったところですわね」


魔導士「うん、ちょうどそんな感じだ。
    この魔方陣を通って展開された魔力は、あらゆるエネルギーを打ち消すんだ」
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 04:56:54.84 ID:eKgumjfq0

エリート「……これは、素晴らしい発見と言わざるを得ませんわね」


魔導士「世界の端っこにある壁がちょうどそんな感じなんだよ。
    "壁"って感じじゃなくて、前に進めなくなるっていうか」


エリート「本当に同じ結界だとしたら、"歩く"という運動のエネルギーが打ち消されるわけですわね」


魔導士「そうなるな。そこで、この不思議な魔力を薄めることが出来れば、壁の向こうに、」


自分のテーマについて話し始めた魔導士の口を、エリートがさえぎった。


エリート「そっちの話は後ですわ。それで、その結界が制御できない理由は思いつきませんの?」


魔導士「はあ。ちゃんとこっちのテーマについても調べてくれよ?で、理由として思い当たるのは、」


うんざりしたような顔をしながら、魔導士はこれまでの研究データを取り出す。
ノートに記されたそれは、実験の条件や日付、気付きや発見などが事細かに記録されている。
ページをめくり、目的の記述を探し当てた魔導士が言う。


魔導士「あった、ここだ。結界には壁を作るための魔力と壁の形を保つための、そうだな、柱とでも言おうか。
    この二種の魔力を使う。で、俺はこの柱の部分に問題があると考えてる」
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 05:19:13.96 ID:eKgumjfq0

エリート「どういうことですの?もっと詳しくお願いしますわ」


魔導士「壁の方にはさっき言ってた魔力、柱の方には従来通りの魔力を使ってるんだが、
    柱の魔力が壁の魔力によって打ち消されている可能性がある」


エリート「柱にも同じ魔力を使えませんの?」


魔導士「やってみたけど駄目だった。むしろ、従来魔力の方がマシだな。
    とりあえず思いつくのはそこ。あとは俺のテーマじゃないし考えてない」


エリート「わかりましたわ。要するに形が保てればいいんですわね」


魔導士「俺の考えではな。まあ、この研究資料はお前に渡すから。
    わからないところとか、読めないところとかあったら聞きに来てくれ」


エリートは差し出されたノートを受け取り、ざっと中を眺めた。
ぱたん、とノートを閉じて言うには、


エリート「意外と字が綺麗ですわね。ざっと見た限り、読めないところはないようですわ。
     わからないところは有るはずありませんし、聞きに来ることはないですわ」


魔導士「そうかい。うまくいったら俺にも教えてくれよ?ちゃんと手柄はお前に譲るからさ」


エリートは、ふんと鼻を鳴らして、


エリート「当然ですわ。まあ、すぐに完成させますから見てなさい!」


と宣言して去ったのだった。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 05:32:03.53 ID:eKgumjfq0

そして、徹夜で式を組みなおし、誰もいないであろう早朝に試すことにしたのだった。
わざわざ人のいない時間帯を選んだのは、天才と呼ばれる自分が魔法を失敗するのを見られたくない
という心理の表れであったのだが、


見習いA「やっぱり魔法の練習はこの時間に限るッスね」


見習いB「そうね。この時間だったら誰もいないものね」


エリートがいた研究室の後輩にあたる二人がやって来た。
そして、ちょうど帰り支度をしている最中の彼女を見つける。


見習いA「あっ、先輩。何してるんスか?」


エリート「ひゃっ!」

82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/04/30(土) 06:37:45.11 ID:eKgumjfq0

二人の存在に気づいていなかった彼女は、悲鳴を上げてしまった。
そして、自分に話しかけた相手が誰なのか気付き、慌てて取り繕う。


エリート「こ、こほん!急に話しかけないで下さいまし」


見習いA「そんな驚かないでもいいっしょー。かわいらしい悲鳴上げちゃってー」


エリート「お黙りなさい!」


見習いB「おはようございます、先輩。先輩も魔法の練習ですか?」


見習いA「先輩が練習するわけないッスよね。式見ただけでその魔法を習得できるって聞いてるッスよ」


エリート「え、ええ。まあそうですわね。ここには今研究してる魔法の実験に来ましたの」


見習いB「おお、どんな魔法スか?見せて下さいよ」


もちろん完成してない魔法を見せられるわけがない。
しかし彼女は、式を見ただけで魔法を覚えられるといった手前、断れなかった。
どうしたものかと思っていると、


見習いB「こら。研究の成果を簡単に見せられるわけないでしょ?あんまり先輩を困らせないの」


見習いA「ちぇー。わかったッスよ。
     そういえば先輩、あの魔導士の研究室に入ったんしょ?どうなんスか?」
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/05/01(日) 02:52:39.21 ID:FSNfxRrZ0

思わぬところで助けが入ったが、次に続いた見習いAの言葉は認めることが出来ないことだった。


エリート「彼の研究室に入ったわけではありませんわ。
     私は共同研究者として自分の研究室で研究してますの」


そう、魔導士の研究室に入ったわけではない。決して彼の下に付いたわけではないのだ。
彼女としては、そこだけは認めるわけにはいかなかった。


見習いB「そういえば先輩、昔からあの人を目の敵にしてましたね。
     もしかして、何かあったんですか?」


エリート「いえ、何かあったわけではありませんわ。ただ気に入らないだけですの」


とは言うが、実際は彼を目の敵にする確かな理由がある。
魔法の知識でも技術でも、あの魔導士は彼女に及ばない。
だが、彼は彼女に対してどこか余裕のある態度を崩さなかった。

彼女は、あの魔導士から評価されていないと感じていたのだった。
この研究所の他のだれもが、彼女をとびぬけた天才だと評価するにもかかわらず、だ。

自意識過剰と言われるかもしれないが、実際に彼以外の全員からそう評価される彼女にとって
それは我慢ならないことだった。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 03:02:06.49 ID:FSNfxRrZ0

見習いA「おおーう、怖いッスねー。俺も機嫌を損なわないようにしないといけないッスね。
     先輩の才能があれば、将来、間違いなく大物になるっスからね」


見習いB「そうだね。先輩は研究所始まって以来の天才だものね。
     嫌われて、将来研究しづらくなったりしたらいやだもの」


この研究所の誰もが、彼女がいずれ世界一有名な研究者になると考えている。
そして実際そうなることも可能だろう。


エリート「もちろん、大物になるつもりですわよ。そしてあの魔導士を見返しますの」


見習いB「見返す?そんなことしなくても、あの人は先輩を認めてますよ」


見習いA「そうッスよ。会うたびいっつもアイツすごいよなって言ってるッス」


エリート「あら?彼と話したことがありますの?」


見習いB「はい。ここで魔法を練習していると、ときどき通りますよ」


見習いA「向こうから、お前らエリートんとこの見習いだろ、って話しかけて来たッス」


見習いB「ときどき三人で先輩のこと話すんですよ」
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 03:15:56.25 ID:FSNfxRrZ0

エリート「わ、私のこと?」


見習いB「はい。まあ、内容なんかなくて、ただ先輩ってすごいなって言いあってるだけですけど」


エリート「そんなはずありませんわ。彼は、」


その時だった。
近くを歩いていた人影が、三人に声をかけたのだ。


魔導士「よう。久しぶりだな、お前ら」


エリート「きゃっ!」


魔導士「ああ、お前だったか。何の話してたんだ?」


噂をしていた本人の登場に驚くエリート。
急に上がった悲鳴に若干驚きながら魔導士が言った。
まさか、あなたの話をしてましたなどと言えるわけもなく、


見習いA「先輩に魔法を教えてもらってたんスよ」


見習いB「先輩もここに実験しにきてたみたいで」
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 03:25:53.87 ID:FSNfxRrZ0

魔導士「へえ。実験ね」


エリート「そ、そうですわ。昨晩、私なりに式を書き換えたものを試してましたの」


魔導士「おお、後で詳しく聞かせてくれ。ところでお前、朝食どうする?」


エリート「朝食、ですの?」


魔導士「うん。みんな今朝はいらないって。
    今日はお前は食事当番じゃないけど、もし食べたければ朝食は自分で用意してくれ」


エリート「私も要りませんわ」


魔導士「そうか。じゃあ俺は散歩に戻るぞ。お前も実験終わったなら一緒に行くか?」


エリート「わ、私は……」


今まで噂していた手前、なんとなく気まずい。
エリートは返答に詰まって見習いたちの方を見た。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 03:43:43.45 ID:FSNfxRrZ0

見習いB「行ってきていいですよ、先輩。練習は私たちだけでも出来ますから」


見習いA「そうッスよ。せっかくだから一緒に歩いてくるといいッス」


エリート「わ、わかりましたわ。参りましょう」


魔導士「うん。ああ、それとどこか出るなら一声かけるとか書置きするとかしてくれ。
    緊急で連絡したい時に困る」


エリート「ええ、そうしますわ。ああ、じゃあ今のうちに言っておきますわ。
     今日は昼頃まで調べ物をしに出てきます。昼食までには戻りますわ」


魔導士「うん、了解。じゃあ、戻ってきたら実験の結果、聞かせてくれ」


エリート「ええ。それでは二人とも、もう行きますわ」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 03:53:14.50 ID:FSNfxRrZ0

見習いA「どうなるッスかねー」


見習いB「どうなるだろうね」


見習いA「俺はやっぱり、先輩はあの人のこと気になってると思うッス」


見習いB「うん。そうだね。先輩、近くにいたら絶対あの魔導士さんのほうを見てるもの」


見習いA「やたら目の敵にするのは、先輩なりのアプローチってとこッスかね」


見習いB「だけど魔導士さん、先輩の言うこといつも流してるものね。
     頑張ってアプローチしてるのに、流されちゃってるんだから腹が立つのだと思うわ」


見習いA「まあ、あれがアプローチってのもどうかと思うッスけどねー。
     露骨にうんざりされてるじゃないッスか」


見習いB「好きな子をいじめちゃう、みたいな感じじゃないのかな?」


見習いA「なーるほど。先輩はあの人のどこが気になってるんスかね?
     先輩、そういう浮いた話しないッスからねー」

89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 04:14:45.28 ID:FSNfxRrZ0

見習いB「そうね。あの人は、先輩に対して滅多に下に出ないわよね。先輩にそんな態度とるのあの人だけでしょ。
     やっぱりそのあたりじゃないのかな」


見習いA「あー、確かに。そういえば魔導士さんは、あいつ"も"すごいよな、って言い方するッスね。
     見返してやる、ってその辺関わってくるんスかね?」


見習いB「そうね。先輩は魔導士さんに認められてないと思ってるんじゃないかしら」


見習いA「先輩の被害妄想癖を考えるとあり得るッスね。魔導士さんが下に出ないから、
     むしろ見下されてると思ってる、とか」


見習いB「うん、きっとそうだと思うわ。まあ、なんにせよ、仲良くなれるといいね」


歩き去る二人の姿が見えなくなったころ、見習いたちは会話を終え、
彼らがこの研究所へ来た目的、とある将来の夢の為、本来の目的であった魔法の練習を始めるのであった。

90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 04:40:36.67 ID:FSNfxRrZ0

場面を戻して昼前。

変わり者「さて、と」


助手、魔導士の二人と別れ、昼食の用意をはじめようとする彼だったが、


変わり者「どうしようかな。料理はあんまり得意じゃないんだよね」


メニューをどうするか困っていた。


変わり者「うーん、パンケーキあたりが無難なんだろうけど、昨日と同じというのはいただけないね。
     二日続けて同じものを食べないのは、僕のルールだしなあ」


しばらく考えていた彼だったが、よし決めた、と呟くと食堂に向かった。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 05:01:00.18 ID:FSNfxRrZ0

魔術において世界的な権威を多く有する、この研究所のある意味中枢ともいえるこの食堂。
食事時になると、ここにお歴々が集い互いの研究や高度な魔法についての議論が交わされる。

食事中の一般の研究者や見習いにも、容赦なく話が振られるここは、
議論の類が苦手な彼にとって、地獄のようなものであるはずなのだが、


変わり者「やあ。来たよ」


給仕娘「あら、久しぶり」


変わり者「久しぶりかな?二日ほど来なかっただけのはずなんだけどな」


給仕娘「そうだっけ?あんたほぼ毎日来てたからさー」


変わり者「ここの食事はおいしいからね。それに僕は料理は苦手だから」


給仕娘「でもここってあんたみたいな出来の悪い研究者が来るところじゃないじゃない?
    よくこんなところ通ってるわね」
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 05:07:53.33 ID:FSNfxRrZ0

娘は変わり者に無遠慮な質問をぶつける。
青年はあまりにもまっすぐな質問に、笑いながら答える


変わり者「はは、出来が悪いとは失礼だね。まあ、事実そうなんだけど、
     だからこそ、僕を放って置いてくれるのさ。僕が研究の分野に明るくないことは有名らしいから」


給仕娘「あはは。随分思い切った開き直り方をするじゃない」


まあいいじゃないか、と笑って、
変わり者が本題を切り出す。


変わり者「それで、実は研究室の食事当番なんだけどさ、何を作っていいかわからなくて。
     何か僕でも作れる簡単な料理はないかな」


給仕娘「なんだ、今日は食事に来たんじゃないのね。うーん、簡単な料理ねー」


顔を伏せ、しばらく考え込んだ給仕娘だったが、
何か閃いたらしく、ぱっと顔を上げていった。


給仕娘「じゃあ、今朝作ったスープを持っていくといいわよ。
    パスタでも茹でて入れたらいいんじゃない?」


変わり者「へえ、なるほど、それは美味しそうだね」


給仕娘「でっしょー?このスープもこの食堂の自信作なんだから。
    絶対美味しいわよ」
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 05:15:51.96 ID:FSNfxRrZ0

変わり者は簡単にレシピを教わり、鍋ごとスープを受け取った。
少しの間他愛もない話をしていたが、やがて研究室の話題になり、


給仕娘「で、新しい研究室とやらはどう?」


変わり者「面白くなりそうだよ。扱いも悪くないしね」


給仕娘「でもあの優等生二人と同じ研究室なんでしょ?息苦しいんじゃないの?」


変わり者「僕が研究の役には立たないのをわかった上でスカウトしたらしいよ。
     僕の魔法の腕を見込んで、だそうだ」


給仕娘「おかしなこと言うわね」


変わり者「何でも難しい魔法を扱うらしい。それでなるべく優秀な魔法使いが必要なんだってさ」


給仕娘「あはは、さらっと自分を優秀とか言うのね」


変わり者「ああ、その点に関しては自信があるからね。研究の方はさっぱり駄目だけど、
     魔法の腕のおかげで、まだ魔法に関わっていられるのさ」


給仕娘「そっかー。ちょっとうらやましいわね」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 05:26:10.52 ID:FSNfxRrZ0

変わり者「だから、君にも出来るよ」


給仕娘「は?」


変わり者「研究なんかさっぱりの僕にも魔法に関われるんだ。
     例え魔力なんかなくたって、研究に関われるさ」


給仕娘「な、何言って……」


変わり者「いろんな研究の話が聞きたいから、ここで給仕なんかしてるんだろう?
     魔力がないから、見習いにすらなれないってわかった後でもね」


言い返そうとした娘だったが、返す言葉が見つからずに口をつぐむ。


給仕娘「……はあ。ホント嫌になるわよ。昔っから何でもお見通しなんだから」


変わり者「長い付き合いだからね。それに君は単純だから」


給仕娘「言ってくれるじゃない。……でも、私には無理よ」


娘が諦めたように言った。

魔力がないというのは、研究者としては致命的な弱点だった。
あらゆる式を試せないため、魔法に関する実験を何一つ行えないのだ。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 05:44:42.82 ID:FSNfxRrZ0

変わり者「そうか。まあ、気が向いたら僕らの研究室を訪ねてくるといいよ。
     あの二人に紹介してあげるから。面白い話が聞けるかもしれないよ」


娘が、ウインクするように右目をつむって答える。


給仕娘「この仕事はこの仕事で楽しいのよ。
    あたしは、今の生活に満足してるわ。だから、気が向いたら、ね」


変わり者「そうか、わかった。無理強いしてもいけないしね。さて、僕はそろそろ行くよ」


給仕娘「はいはい。また料理で困ったら来るといいわ」


娘は後ろ手に手を振って歩いていく変わり者を見送った。
変わり者が扉を開け、出ていく。


給仕娘「"部屋を出入りするときは必ず右足から"
変わんないわねー、あいつも」


給仕娘「今の生活に満足してる、か。どこまで本気なのかな、あたしは」


一方、自分たちの区画の厨房に着いた変わり者。
先ほどのやり取りを思い出しながら、独り言を言う。


変わり者「心が揺れる時右目を閉じる癖、直ってないのかな。
     だったら、やっぱり未練があるんじゃないか」


変わり者「出来れば、何らかの形で研究に関わらせてあげたいんだけどなあ。
     この研究室に入ったのには、あの二人ならそれを許してくれるかも、という目論見もあったんだけど」


変わり者「……はあ。とりあえず昼食を作ろう。遅くなるといけないしね」


変わり者「えーっと、分量は……」
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 06:06:33.53 ID:FSNfxRrZ0
広場から研究室に向かう通路では、壁にもたれかかった魔導士が考え事を続けていた。
彼の隣では、助手も壁にもたれかかってぼんやりと魔導士の横顔を眺めている。


魔導士「ということは、まず式から例の新型結界の式を取り除いいて……
    これだけで大分効率が良くなるな。
    まあ、結界解除の式に無理やりあの結界の式を組み込んでいたわけだから、
    効率が悪くなってたのも当然だが、」ブツブツ


助手「いやー、でもホント……」


魔導士「とりあえず、エリートの実験の話と使い魔の調査結果を聞いてからだな。
    もしかしたら、従来の結界解除の式とはかけ離れた式になるかもしれないな。
    変わり者の言うことが本当なら、おそらくあの新型結界と世界の壁は同じか、
    そうでなくとも近いもののはずだから、」ブツブツ


助手「完全に私の存在が目に入ってませんね」

97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 06:33:46.67 ID:FSNfxRrZ0

変わり者と別れてから、だいたい一時間と言ったところだろうか。
しばらく待っても考えるのをやめない魔導士に対して、助手は目の前で手を振ってみたり、
寸止めで平手打ちをしてみたりしたが、この男は全く反応を示さなかったのだ。
ついには目を閉じて黙考を始めた彼に対して、助手は、


助手「よーし、こうなったら思い切って、本当にひっぱたいてみましょうか」


魔導士「……うん。よし、考えがまとまった。これからの研究が楽しみだな」


助手「ひえっ!」


まさに右腕を振ろうとした瞬間、魔導士が自分の世界から戻って来た。
突然のことに、助手は右手を上げたまま動きを止めるしかなかった。


魔導士「ん?何してるんだ?」


助手「いえ、その、私はここに居ますよー……み、みたいな感じです」


魔導士「あ、ああ、そうなのか」


助手「そんなことより、そろそろ戻りましょう。魔導士さん、だいぶ長いこと考えてましたよ」


魔導士「うん。考え出したら止まらないのは癖なんだよな。
    考えながらでも、他のことを同時に出来るのが理想なんだが」
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/01(日) 06:37:54.80 ID:FSNfxRrZ0

むう。続きが思いつかない。

キリ悪いけど、ここまでにしよう
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/01(日) 07:16:43.52 ID:v/unF68Yo
乙!
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/02(月) 00:00:26.86 ID:dpFAb4uoo
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/05/02(月) 00:24:38.20 ID:7PCzcp3v0

言いながら歩き出した魔導士に、助手は慌ててついていく。


助手「あくまで考えるのはやめないんですね。
   さしあたっては、考えながらでもちゃんと視界に入ったものを見るようにして下さい」


魔導士「ちゃんと見えてるぞ。目に見えるものを見落とさないのは、研究においても重要だ」


助手「見えてるんだったらちゃんと反応してくださいよ?
   見えてるものを無視するなら、見えてないのと変わりません」


魔導士「必要のない情報を無視するのもまた重要だ。
    それに、気になったことはなるべく早く片付けたいだろ?」


助手「ああ、それはわかるような気がしますね」


魔導士「そうだろ?後回しにはしたくないのさ。
    ところで、そろそろここにも慣れたか?」


助手が反応した隙を突いて、魔導士は話題を差し替える。


助手「とりあえず生活には慣れましたよ。魔法については、まだわからないことだらけですけどね」


魔導士「まあ、最初はそんなもんだろ。心配しなくても、ちゃんと教えていくから」
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/05/02(月) 00:36:32.78 ID:7PCzcp3v0

助手「はい。お願いしますね」


魔導士「うん。とりあえず最初は魔法を楽しんでくれ。何事も興味がないと続かないからな。
    あの変人だったら、いくらでも面白い魔法見せてくれるから頼んでみるといい」


助手「おお、ぜひ見たいですね。明日にでも頼んでみます」


魔導士「おう、そうしろ。ところでお前は、」


助手「はい?」


魔導士「ああ、やっぱりいいや」


助手「えー?言って下さいよ!気になるじゃないですか」


魔導士「いや、お前の、なんというか深いところの話になるからさ。
    あんまりいい気分にはならないだろうし」


気がつけば、もう研究室の前まで来ていた。
魔導士は扉を抜けると、いつも座っている椅子に腰かける。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 00:45:41.79 ID:7PCzcp3v0

助手「いいですよ、聞いても。そのかわり、私も後で魔導士さんに同じこと聞きますからね」


彼の隣のいすに腰掛けながら助手が言う。
しばらく迷った後、部屋に他に人がいないのを確認してから魔導士が言う。


魔導士「お前はさ、あの教会に来る前はどうしてたのかな、と思ってさ」


助手「……教会に来る前ですか。どうしてそんなこと聞くのか、教えてくれますか?」


魔導士「俺も昔は外縁国の孤児だったからな。お前はどういう生活してたのかと思って」


助手「あそこに行く前は、そうですね……」


口ごもる助手に、魔導士は慌てて声をかける。


魔導士「ああ、言いたくないなら言わなくていいぞ」


助手「いえ、そうじゃなくて。実はよく覚えてないんですよ」

104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 00:54:59.59 ID:7PCzcp3v0

魔導士「よく覚えていない?」


助手「はい。五年前くらいにあの教会に拾われるまではよく覚えてないんです
   だから、話せないんですよ。でも、たまに知らない光景を夢に見るんです」


魔導士「夢?」


助手「はい。たぶんまだ家族がいたころの。お父さんとお母さんと、あとお兄ちゃんかな?
   弟かもしれないですけど、とにかく兄弟と一緒に居るんです」


魔導士「……そうか」


助手「あ、ちょっと!しんみりしないで下さいよ。これは私の、多分いい思い出なんですから。
   さ、次は魔導士さんの番です。魔導士さんはどうしてたんですか?」


おそらく無理して明るくふるまおうとしているのだろう。
魔導士は、そんな彼女をなんとなく見ていられなくなって、視線を外しながら言う。


魔導士「一番古い記憶は、両親に連れられて旅してた事だな。両親は多分、行商人の類だったんだろう。
    二人とも、俺と同じ真っ赤な目をしてたのはよく覚えてる」
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 01:06:11.81 ID:7PCzcp3v0

助手「へえ、そう言えば珍しい色ですよね」


魔導士「後は……多分十年前くらいかな?魔導戦争で両親が死んで孤児になった」


今からちょうど二十年ほど前、外縁諸国と中央諸国の間で戦争が起きた。
優れた技術力をもって外縁国を植民地のように扱う中央国に、外縁国が戦いを挑んだのだ。

外縁国で魔力を制御する術、魔法が発見されたことが開戦のきっかけになったといわれており、
有史以来、初めて戦争に魔法が使われたこの戦争を、現在では魔導戦争と呼んでいる。

しかし、この時代の魔法は制御することが非常に困難で、互いの国で魔力による荒廃が進み、
長く続いたこの戦争は八年前、遂に勝者のないまま終戦を迎えた。



助手「そうですか…戦争で……」


魔導士「うん。戦時中だからな、それ自体は割とよくあることだ。それで、
    しばらくはある村で世話になってたんだが、そこを訪れたある軍人に養子に迎えられて今に至る」
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 01:15:30.85 ID:7PCzcp3v0

助手「……魔導士さんも大変だったんですね……」


魔導士「まあな。こらこら、しんみりしてくれるなよ?俺もよく覚えてないくらい昔のことだ。気にするな」


助手「あっ、すみません」


魔導士「ああ、そうそう。ちなみに、その村に居た女の子が前に言った探し人だ」


助手「えっと、そ、そういえば、どうしてその人を探してたんですか?」


重くなった空気を無理やり変えようと、助手が話題を変える。
不器用な気づかいに苦笑しながら魔導士が答えた。


魔導士「ある人物からの頼みごとでな」


助手「ある人物、ですか?」


魔導士「うん。断るわけにはいかなくてさ。俺自身も気になってたし」


助手「なるほどなるほど。その人とは仲が良かったんですね」


魔導士「まあ、うん。そうだな」
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 01:26:24.04 ID:7PCzcp3v0

それからしばらく、二人はこれからのこと、研究や魔法のことを話して過ごした。
そうしているうち、研究室の扉が開かれる。


エリート「ただ今戻りましたわ」


魔導士「ああ、おかえり。調べ物は済んだか?」


エリート「……残念ながら、収穫なしですわ」


魔導士「そっか。ああ、昼食がそろそろ出来るはずだ。
    それまでさっきの実験の話、聞かせえくれ」


エリート「ええ」


エリートは魔導士から預かった研究資料の、一番新しいページを開く。
新しくエリートが書き込んだそのページを示しながら、


エリート「今朝の実験では、壁の形を固定する魔力を強度を高めた高密度のものにしてみましたの」


魔導士「ほう」
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 01:41:19.19 ID:7PCzcp3v0

エリート「結果はここに書いてある通り、密度を高めるほど結界の制御時間は延びましたわ」


魔導士「ふむ。それで、お前はこの結果にどういう考察をするんだ?」


エリート「そんなことより、もう一つの実験ですわ。こちらのページを」


エリートが研究資料のページを一つ戻す。
さっきのページにあったものとはまた違った式が書き込まれている。


エリート「この実験では、壁と柱の両方に例の新型結界の魔力を使いましたわ」


魔導士「ん?俺が試したときは、それは逆に制御しづらくなったはずだが」


エリート「実際にどう制御できなくなるのか、この目で確認しておきたいと思いましたの。
     誰かさんの走り書きを読んだだけじゃ、わからないこともありますわ」


魔導士「はいはい。それで、お前はあれをどう見る?」

109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 01:54:04.82 ID:7PCzcp3v0

エリート「従来通りの制御は確かにできませんわ。
     しかし、私はこれに新しい制御の形、その可能性を見ました」


魔導士「ふむ。詳しく頼む」


エリート「ええ。まず、どう制御できないかについてですが、」


エリートは、開いたページに描かれた図を指さしながら続ける。


エリート「このように、形を保つだけならこちらの方が容易に出来ましたわ」


魔導士「うん。確かに壁の形を保つのはこっちの魔力の方がはるかに楽だった」


エリート「以降、そういう重要なことは研究資料に書いていただきたいですわね」


魔導士「はいはい、わかったよ。それで?」


エリート「……その態度は気に入りませんが、まあ今はいいでしょう。
     問題は、この壁をある一定の空間に固定できないことですわ」


魔導士「そうだな。守りたい空間に出せない結界なんて意味ないもんな」
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 02:03:02.15 ID:7PCzcp3v0

エリート「ええ。広がったり縮んだり、左右に動いたり、くるくる回ったり。
     とてもじゃありませんが、結界として役に立ちません」


魔導士「それで、新しい制御の形、とは?」


エリート「簡単ですわ。あらかじめ、結界を張る空間を指定すればいいのですわ」


魔導士「空間を指定、ね」


あごに手を当てて考える魔導士。
しばらくした後、人差し指を立ててエリートに言う。


魔導士「いいアイデアだが、問題が一つ。空間に固定するすべは、今のところない」


これは重大な問題だぞ、と付け足しながらエリートのほうを見る。


エリート「もちろんわかっていますとも。だからその方法を調べに行って来たのですわ」


魔導士「で、結局収穫はなし、だったな。まあ、一日や二日で結果は出ない、か」

111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 02:19:46.65 ID:7PCzcp3v0

エリート「そうですわね。まあ、半年ほどで形にして見せますわ」


魔導士「完全な制御までを目指すのか?」


エリート「ええ。今日の実験でも、私程度の魔法の腕があれば、
     高密度の魔力を用いて数秒程度の制御ならば出来ると確認出来ましたの」


魔導士「うーん、多少心もとないが、ギリギリ実用範囲内か?」


エリート「言っておきますが、私も一応は上級の魔法使いに入りますわ。
     私に使えても、大多数の方は発動すらできない筈ですの」


魔導士「ところで散々言ってるけど、俺のテーマにも協力しろよ?」


協力するという条件を忘れているのではなかろうか。
ふとそう思った魔導士が釘を刺す。


エリート「もちろんですわ。
     あなた、この結界と世界の壁が同質のものである、と考えているのでしたわね」
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 02:25:04.02 ID:7PCzcp3v0
>>110
差し替え

魔導士「いいアイデアだが、問題が一つ。空間に固定するすべは、今のところない」



魔導士「いいアイデアだが、問題が一つ。魔方陣から離れた空間を指定するすべは、今のところない」
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 02:40:50.36 ID:7PCzcp3v0

魔導士「ああ。そうだが?」


エリート「では、何らかの現象によってこの結界が世界の端に固定されている、とは考えられませんの?」


魔導士「うーん」


目を閉じ、上を向いて考える魔導士。
結局、出した結論はこうだった。


魔導士「考えにくい、と言うのが率直な意見だ。……だが、」


助手「でも、」


二人が発言しようとしたのはほぼ同時だった。
慌てて助手が言う。


助手「あ、すみません。つい」

114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 03:00:51.76 ID:7PCzcp3v0

魔導士「いや、意見があるなら言ってみるといい」


エリート「そうですわ。議論を交わさなければ成長できませんわよ」


二人に促されて、助手は口を開く。
そしてその内容は、魔導士が言おうとしていたこととほぼ同じだった。


助手「でも、実際ずうっと昔から、あの結界はあそこにあるんですよね?」


魔導士「ああ。文献を見る限りではな」


助手「じゃあ、空間を指定して結界を固定する作用は存在している可能性が高いんじゃないですか?」


エリート「ええ、そうですわね」


魔導士「続けてくれ」


助手「でしたら、空間の指定を外すというような、その、アプローチ?
   も出来るんじゃないか、と思ったんですけど……」


自分の言葉に今一つ自信か持てないのだろう。
言葉の最後のあたりは近くに居ないと聞き取れないほど小さかった。
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 03:12:59.97 ID:7PCzcp3v0

魔導士「その通りだな。俺が考えていたことと同じだ」


エリート「……まあ、及第点ですわね」


助手「よ、良かった〜。変なこと言ってたらどうしようと思ってました」


魔導士「はは。変なことでもかまわんから、言っていいんだぞ」


エリート「そうですわ。未知の原理については、そんなことに限って本当のことだったりしますの」


魔導士「まあとにかく、そういうアプローチも考えておくか。
    いい意見だったぞ、助手」


助手「は、はい!ありがとうございます」


助手がそう言った時だった。
扉の外からいい匂いが漂ってきた。

116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 03:26:44.76 ID:7PCzcp3v0

魔導士「ん?なんかいい匂いがするな」


助手「ホントですね。きっと昼食が出来たんですよ」


エリート「そう言えば今日はまだ何も食べてませんわ」


ガチャ


扉の開く音の直後に、トレーに昼食を乗せた変わり者が入ってくる。


変わり者「やあ、お待たせ。遅くなってしまったね」


魔導士「いや、いいタイミングだったぞ」


エリート「待ってましたわ。実は空腹でしたの」


助手「ホントにいい匂いですね。スープパスタですか?」


変わり者「ああ。食堂からスープを貰って来たんだ」


魔導士「ほー、あのスープか。俺、あれ好きなんだよな」
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/05/02(月) 03:36:15.13 ID:7PCzcp3v0

全員が席に着いたところで食事が始まる。
食べながら、変わり者が魔導士に言う。


変わり者「ああそうだ。今のうちに教会の魔導書の話をしてくれないかい?」


魔導士「構わないぞ。簡単に言うと、あれには教徒たちの"祈り"を集める方法が書いてあった」


変わり者「どういう意味だい?」


魔導士「教徒たちの祈りの言葉、あれに式の一部が組み込まれている」


変わり者「ほう」


魔導士「教徒の言葉と、神父の言葉。二つが合わさって一つの式になるんだ」


助手「え?そんなことが書いてあったんですか?」


魔導士「うん。お前が読んだ魔法、あれには神術と書かれていたが、それの使い方と、
    そしてそれ以外の文章には今言ったようなことが隠して書かれてた。お前が読んだのは神術の部分だけだな」


助手「そうだったんですか。そう言えば、今言ったような言葉を使う式もあるんですか?」

118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/05/02(月) 03:49:02.13 ID:7PCzcp3v0

話を聞いていた助手が疑問を投げかける。
同じく耳を傾けていたエリートが言う。


エリート「私たちが普段使うのは文字から魔方陣を展開する式ですわね。
     式と言ってもいろいろありますの。このような言葉を使ったり、文字通り数式のようなものまで」


助手「へえ。おもしろいですねー」


エリート「戦闘用の魔法には、これらを組み合わせて使うこともありますわ。
     新しい式を作る途中では、普通使われないような形式のものを試すこともありますわね」


変わり者「しかし非常に興味深いね、その魔導書は」


魔導士「で?お前が興味あるのは何の話だ?今みたいな珍しい式か?神術とやら独特の魔法か?」


変わり者「もちろん、そのすべてさ」


魔導士「ああ、現物は俺の部屋にあるから見に来るといい。
    神術は基本的に面白い式の組み方してるからな。かなり特殊な魔法になってるぞ」


変わり者「ほう。それは楽しみだ。でもどうやってあの魔導書を見つけたんだい?」
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/05/02(月) 03:59:27.25 ID:7PCzcp3v0

エリート「それは私も気になってましたわ。魔法を否定する教会に魔導書があるなんて普通考えませんもの」


魔導士「ああ、さっき言った祈りの言葉、まずあれに式の一部を見つけたんだよ」


助手「祈りの言葉、ですか。そう言えば不思議な響きだと思ってました。 
   なんだか吸い込まれるような」


魔導士「いかにも。この式は神父の言葉の式と合わさって魔力を吸いとる式になる」


変わり者「魔力を?でも祈りの言葉はそこまで長い言葉じゃないだろう?」


エリート「そうですわ。人の魔力を吸いとるほどの複雑な式を隠せるはずありません」


魔導士「ああ。だから、あらかじめ不完全な魔方陣を張ってあるのさ」


助手「……教会の床の、あの不思議な模様……」


魔導士「その通り。教会で祈る教徒たちは、その言葉で必然的にその魔方陣を完全な形にしてしまう。
    魔方陣に触れた状態で、だ」

120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 04:19:42.48 ID:7PCzcp3v0

想像を超えた事態に、三人は押し黙る。
魔導士は言葉を続けた。


魔導士「それで気になったのさ。信者の皆様の"信仰心"はいったいどこへ向かうのか、って」


助手「それで私のいた協会に来たんですね」


魔導士「うん。休暇を利用してな。例の人探しと、あと里帰りも兼ねて」


エリート「それで、結局集められた魔力はどこに向かうんですの?」


魔導士「……残念ながら、不明だ。集めた魔力は神父が何かに捧げるらしい」


変わり者「何か、とは?」


魔導士「いや、それがその何かを直接呼び出して捧げるみたいなんだ」


エリート「神父から直接、ですの……」


魔導士「その何かの召喚式も例の魔導書に乗ってたけど、
    さすがに俺も得体のしれない何かを呼び出す勇気はなかった」
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 04:29:41.36 ID:7PCzcp3v0

変わり者「……へえ。魔導書に、ね」


魔導士「お、おいおい、ためすなよ?ホントにシャレにならん」


エリート「そ、そうですわ!何が出てくるかわからないんですから!」


不意に変わり者が噴き出す。
そのまま笑い始めた彼を、残りの三人は呆然と見つめる。


変わり者「ふふふ、いや、ごめん。あまりにも真剣に止めるからさ。もちろん冗談だよ」


魔導士「ふーっ。笑えない冗談だな。何を呼ぶかわからない召喚魔法は危険なんだぞ」


エリート「そうですわ。たちの悪いのを呼び出したら、一瞬で灰にされますわよ」


助手「…召喚魔法……。…あっ……」


何かに気付いた助手が恐る恐る言う。


助手「あの、もしかして、」


紙を取り出し、何かの式を書き始めた助手。
他の三人は黙って式を眺める。


助手「これって、やっぱり召喚魔法ですかね?」
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 04:40:53.89 ID:7PCzcp3v0

魔導士「あ、この式って……」


助手「はい。私の手帳に書いてた、あの式です」


変わり者「へえ。これが神術とやらの式か。確かに特殊な式だね」


エリート「見るべきはそこでなありませんわ。これは……」


変わり者「ああ。結論から言うと召喚魔法だよ。それも多分まずいものを呼ぶ」


助手「……やっぱり。ど、どうしましょう?」


魔導士「お、お前、まさか」


助手は涙目で、頷く。
しばらくしてからポツリと言った。


助手「はい。試しました。」


魔導士「……それで?どうなったんだ?」
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 04:50:37.05 ID:7PCzcp3v0

助手「あ、あの、強い風が吹いただけで、特に何も……」


変わり者「うーん。どう思う?」


エリート「少なくとも、それほど危険なものは呼んでないと思いますわ」


魔導士「失敗した可能性もあるぞ。ここに来る前の話だから、正しい魔法の使い方は知らなかったはずだ。
    というか失敗であって欲しい」


変わり者「失敗、か。強い風っていうのは気になるところだけど。
     とりあえず大事にはならないと思うな」


魔導士「そうだな。お前がまだ生きてる時点で、まあ大丈夫だろう」


助手「え?どういうことですか?」


エリート「この世界に召喚されたものは、召喚した人間が帰すまで帰れませんの。
     だから、召喚したものにあった縛り方をして、従わせますの」


魔導士「もし縛られなかったら、召喚されたものは召喚した人間を殺して自分の世界に帰るんだ。
    この世界は居心地が悪いらしい」
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 05:01:11.85 ID:7PCzcp3v0

助手「よ、良かった……」


助手はぺたんと座りこみ、涙声で言った。


パコン


魔導士「良くない」


魔導士は、助手の頭を叩いて言う。


魔導士「罰としてお前は一週間食事当番だ」


助手「え、ええ?そんな、せっかく賭けに勝ったのに」


魔導士「お前の飯がうまいのが悪い」


助手「な、何ですかそれっ!?」


魔導士「お前に文句を言う権利はない。
    知らなかったとはいえ、自分で自分を殺しかけたんだ。反省しろ」
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 05:10:17.81 ID:7PCzcp3v0

助手「は、はい…」


魔導士「じゃあ、おれはもう自分の研究に入る。変わり者と助手は落ち着いたら来てくれ。
    エリートは、引き続き好きなようにやってくれ」


言い終えると魔導士は去って行った。
落ち込んだ様子の助手に、二人が声をかける。


変わり者「まあ、済んだことは仕方ないさ。幸い何事もなかったようだしね」


エリート「これに懲りたら、安易に知らない式を試さないことですわね。
     今回のことは、いい教訓になったと思うといいですわ」


助手「……わかりました。ありがとうございます」


変わり者「あまり落ち込んだらだめだよ。彼の反省しろ、という言葉は、
     彼なりの心配から出た言葉だしね」


エリート「これからの行動で挽回なさい。彼もきっとそれを望んでますわ」
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 05:20:19.04 ID:7PCzcp3v0

助手「はい。……よしっ」


助手は涙をぬぐうと、勢いよく立ちあがった。


助手「行きましょう!一度の失敗でめそめそしてられません!」


変わり者「ははは。その調子だよ。さあ、行こうか」


エリート「じゃあ、私ももう自分の研究を始めますわ。
     では、また夕食のときにでも」


助手「はい。またあとで」


変わり者「ああ。後で」


127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/02(月) 05:24:24.49 ID:7PCzcp3v0

今日はここまで。

ゴールデンウィーク明けくらいにまた来ます
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/02(月) 10:58:31.22 ID:rQLe+v4DO
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/02(月) 12:43:12.51 ID:lq1gsogko
乙!
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/02(月) 21:37:51.60 ID:gE1b+Md2o
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/05/04(水) 22:22:08.40 ID:EFDy1cufo
支援待機
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/05/10(火) 04:34:47.39 ID:2dLsuTk00

ひと足早く三人と別れた魔導士は、いつも使っている机で資料を片づけながら、
さっきのやり取りを思い出して言う。


魔導士「まったく」


魔導士「……ばつが悪いな」


魔導士「まあ、いい。切り替えよう。さて、この本は、」


そして、ちょうど資料の整理が終わったころに、助手と変わり者が近づいてくる。


変わり者「やあ、来たよ」


助手「というわけで、よろしくお願いします」


魔導士「おう。ああ、そうそう、」


魔導士は、机から一冊の本を持ちあげると、変わり者に渡した。


魔導士「これがさっき言ってた魔導書だ」
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 04:45:50.41 ID:2dLsuTk00

変わり者「ほう、これが……」


魔導士「そこに書いてある魔法、いや神術の式はおもしろいだろ?」


変わり者「そうだね。全体的に上下の作用が強調されてるみたいだ」


魔導士「うん。天への祈り、あるいは天からの恵みや怒りを具現化する術、だそうだ」


助手「でも、魔法であることに変わりはないんですよね?」


魔導士「うん。ただ教会は魔法を認めてないって言ったろ?」


助手「じゃあ、あくまで魔法ではない、っていうスタンスなんですね」


魔導士「そうだな」


変わり者「……ふむ。面白いな。あの聖歌に似た詠唱もカモフラージュなのかな?」


魔導士「そうみたいだな。
    確か、これは魔法の詠唱ではなく祈りの歌です、みたいな記述があったはずだ」


助手「えっ、そうだったんですか?知らなかったです」
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 04:54:30.64 ID:2dLsuTk00

変わり者「君は、はなからこれを魔導書だと思ってたんだろう?
     きっと、内容まで細かく読んでなかったんだと思うよ」


魔導士「それはいただけないな。そんなだと、どんな重要な情報を見逃すかわかったもんじゃない」


確かに彼女が読んでいたときは、ほとんど流し読みのようにして知識を身につけたのだった。
その自覚がある助手は、魔導士の言葉にうなずく。


助手「えっと、次から気をつけます……」


魔導士「そうしろ。……ああ、こらそこ。メモは禁止だ。もちろん持ち出しも」


メモを取ろうとしていた変わり者が、不機嫌そうな顔をして手を止める。


変わり者「わかったよ」


魔導士「悪いな。実はそれ、教会から盗んできたようなもんだからな」


変わり者「盗んだ?君が?結構荒っぽいこともするんだね」


魔導士「まあ、場合によってはな。……さて、助手」


彼は、魔導書を読むのに本格的に集中しだした変わり者から視線を切り、助手に向きなおった。
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 05:02:03.31 ID:2dLsuTk00

助手「はいっ」


魔導士「突然だが、お前に課題を与えようと思う」


助手「課題、ですか」


魔導士「うん。といっても、お前以外の見習い連中が全員やることだけどな。
    もちろん、俺たちも昔やったことだ」


ここは、研究を行う施設である一方、新たな研究者を育てる施設でもある。
ここの見習い達の、見習い卒業試験とでもいうようなものが、彼の言う課題だった。


魔導士「お前には二つの新しい魔法を作ってもらう」


助手「二つ、ですか。どんな魔法でもいいんですか?」


魔導士「一つは攻撃魔法、もう一つは何でもいい。
    攻撃魔法は研究者でも使えるようにならないといけないんだ。一応は戦闘の技術だからな」


助手「自分で式を作れ、ってことですよね?」
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 05:11:18.63 ID:2dLsuTk00

魔導士「その通り。期限は三年間だ。結構あるだろ?
    それまでに魔法を開発し、かつ三年後の筆記試験に合格すればはれて見習い卒業だ」


助手「了解ですっ。なんかホントに学生みたいですね。ちょっとわくわくしてきました」


魔導士「よその学生みたいに羽目外すなよ?で、この課題と試験の為に俺が知識を与えるわけだ」


助手「なるほど」


魔導士「じゃあ、始めようか。今日は魔力の構成について」


魔導士は、早速講義を始める。
助手も先日贈られたばかりのメモ帳を開き、準備を終えた。


助手「はいっ。お願いします」


魔導士「まず、純粋な魔力は白色か黒色の二種類ある。これは知ってるか?」


助手「はい。たしか白は攻撃魔法にだけ、黒は強化魔法や回復魔法にだけ使うって書いてありました」
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 05:28:30.53 ID:2dLsuTk00

魔導士「そうそう。一般的な白魔法と黒魔法のイメージとは逆になるんだ。それについてはよく知ってたな。
    ただし"だけに"ってわけじゃないぞ。黒で攻撃魔法の発動も可能だ。」


助手「えっ?そうなんですか?」


魔導士「ただし、効力は著しく低くなる。まあ、よくあるひっかけだ。こういうの、試験に出るぞ?」


助手「き、気をつけます」


助手はメモ帳に何事か書きこみながら言った。
魔導士は、書き終えるのを待ってから話し始める。


魔導士「それで、俺たち魔法使いってのは、この二種類の純粋な魔力+不純物を体内に持っているわけだ」


助手「不純物って何ですか?初耳です」


魔導士「黒と白以外の色がついた魔力だ。例えば、炎に触れた魔力は、元が黒でも白でも赤くなる」


助手「ああ、聞いたことあります。面白いですよね、魔力って」
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 05:39:29.84 ID:2dLsuTk00

助手は、先ほどからメモ帳に何かしら書き続けている。
そしてメモを取り終え、次の話を待つ彼女に魔導士は言う。


魔導士「じゃあ、問題。水に触れた魔力は青くなるんだが、この青魔力を炎に触れさせると?」


助手「赤くなるんじゃないんですか?いや、でももしかして青のまま……?」


魔導士「はは、さあな。どっちだと思う?」


額に手を当て、考える。
しばらく唸った末答えを出した。


助手「うー。よし、決めました!答えは、赤くなる!」


答えた助手の言葉に、間髪いれず魔導士が言う。


魔導士「はい、不正解。正解は青のまま、だ」


助手「ああ、もう!」


助手は悔しそうに言って、机に突っ伏す。
数秒後、顔を上げて言った。


助手「試験ってこういうことを聞くんですか?」


魔導士「うん、そうだな」
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 05:49:56.51 ID:2dLsuTk00

助手「もしかして、ひっかけ問題も多かったりします?」


魔導士「ああ、お前はそういうの苦手そうだな。大丈夫だ。
    ひっかけだろうが知ってれば解ける。頑張れ」


助手「もちろん、頑張りますけど。ひっかけかー」


不安そうな顔に苦笑する魔導士。
その頭の中に、聞きなれた声が響いてきた。


使い魔『おーい、俺だ。今、大丈夫か?』


魔導士『おお、お前か。ちょっと待ってくれ』


助手に、ちょっとだけ休憩だ、と告げると、
彼は窓際の、外がよく見えるお気に入りの位置に移動した。


魔導士『何処まで行ってたんだ?』


使い魔『中央皇国まで行ってきたぞ。もうまもなく戻る』
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 05:56:07.61 ID:2dLsuTk00

中央皇国。エリートの祖国である世界最大の国で、世界の中心に近い位置にあることからこう呼ばれる。
とある天才科学者の活躍もあって非常に高い技術力を有するが、魔法に関しての発展は遅れている。

使い魔は、この国の大昔の王である"孤王"の言い伝えについて文献を調査してきたのだった。


魔導士『そうか。どうだった』


使い魔『あいかわらず見たことないものばかりだったぞ。
    まあ、詳しい話は戻ってから直接しよう』


魔導士『そうだな。じゃあまた後で』


使い魔『おう』


こうして二人は通信を終えた。
魔力で目に見えない糸電話を作り出すこの通信魔法は、内緒話や離れての会話に便利ではあるのだが、
魔法である以上、直接話すより消耗が大きいのだった。


魔導士がしばらくぼーっと外を眺めていると、助手がやって来て言った。


助手「お茶持って来ましたよ。変わり者さんにも、」


魔導士「おお、気がきくな。ありがとう。あと、今そいつに話しかけても無駄だ。
    魔導書を読み終えるまで、多分何にも反応しない。」
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 06:11:03.35 ID:2dLsuTk00

変わり者は、魔導書を見たまま、ページをめくる時以外は一切動かない。


助手「集中してますね。考え事してる魔導士さんみたいです」


魔導士「……俺ってこんなか?」


助手「魔導士さんはこれに加えて、ぶつぶつ独り言を言うので、もっと気味悪いです」


魔導士「ははは。気味悪いとか言うなよ。……さて、そろそろ再開するか」


魔導士は笑いながら椅子を持ちあげ、元の机に戻る。
助手も彼に続いた。


魔導士「さて、魔法使いは黒と白の魔力とそれ以外の不純魔力を持っていると言ったが、
    それらの割合は個人で大きく変化する。この割合を魔力構成と言う」


助手「ふむふむ」


魔導士「で、不純魔力が少なければ少ないほど、また黒か白のどちらかに偏れば偏るほど、
    式との兼ね合いで扱いやすく、コントロールが容易になる」


助手「つまり、不純魔力なしの真っ黒か真っ白が一番いいんですね?」


魔導士「うん、その通り」
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 06:18:39.85 ID:2dLsuTk00

助手「はいっ!質問」


ここで助手の質問タイムが始まった。こうなると次の話にたどり着くまで時間がかかる。


魔導士「なんだ?」


助手「なんで不純魔力が入るとだめなんですか?」


魔導士「言葉の通り、不純だからだ。基本的に魔方陣には純粋魔力しか通らない。
    つまり全魔力のうち、不純魔力の分ロスが出る」


助手「なるほど」カキカキ


メモを取り終えると、助手は再び右腕を大きく挙げる。


助手「質問いいですか?」


魔導士「どうぞ」


助手「黒か白のどちらかに偏るほどいい、っていうのは何故ですか?」

143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 06:27:36.55 ID:2dLsuTk00

魔導士「基本的な式には、黒型と白型があるのはわかるな?」


助手「はい。この間教わりました。ちゃんと覚えてますよ」


得意げな助手の顔に、にやりとして魔導士が言う。


魔導士「そうか。偉いぞ」


助手「あ、ありがとうございます」


魔導士「それで、これらは言葉の通り黒魔力だけ、あるいは白魔力だけを通す魔方陣を展開するんだったろ?」


助手「ああ、なるほど。前聞いたときは、黒魔力や白魔力の意味が分かりませんでした。
   仮に黒魔力十割の魔力構成の人がいたら、黒型の式でロスなく全魔力を通せるってわけですね」


魔導士「そうだ。そして黒四割で白六割の魔力構成の奴は、黒型で四割、白型で六割しか通せないわけだ。
    これだとロスが大きいよな?だから、偏るほどいいんだよ」


助手「じゃあ、もう一つ。式との兼ね合いで扱いやすい、っていうのはどういう意味ですか?」


魔導士「さっきの例だと、込めた力の六割が、とか言われても加減が難しいだろ?単純にそういうことだ」
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 06:34:24.94 ID:2dLsuTk00

助手「えっと、じゃあ、」


こうしてさらにいくつかの質問に答えていく。
質問の答えに満足した助手が言う。


助手「なるほど、よくわかりました。……すいません、たくさん質問しちゃって」


魔導士「いいさ。自分で調べるのも大切だってわかってるんだろ?」


助手「はい。ああ、そうだ」


助手が何かを思い出したようだ。
なかなか言い出さない彼女に、魔導士が先を促して言う。


魔導士「なんだ?言ってみろ」


助手「いえ、また質問なんですけど……」


魔導士「いいよ、答えてやるから」


助手「えっと、じゃあ遠慮なく。魔力構成ってどうやったらわかるんですか?」

145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 06:42:14.45 ID:2dLsuTk00

魔導士「うーん。そうだな、しばらくしたら感覚でわかるようになるんだが」


助手「感覚?」


魔導士「うん。黒型と白型の式を色々扱ううちに、自分の魔力構成がなんとなくわかるんだよ」


助手「そうですか……。私の特異性について手がかりがつかめるかも、と思ったんですけど」


魔導士「ああ、なるほど。
    よし、じゃあ明日からは午前中に変わり者に手伝ってもらって魔力構成を突き止めよう」


助手「わかりました。そうします。あ、そう言えば魔導士さんはどういう魔力構成なんですか?」


魔導士「俺はだいたい白と黒が半々だ。非常に扱いにくい。最悪だ」


助手「えっと、その、どんまいです」


魔導士「まあ、不純魔力がほとんどないみたいだから少しはマシだがな。それにときどき便利だ」


助手「ときどき?どんな時ですか?」


魔導士「主に実験の時だな。同じ魔法を黒型と白型の両方の式で、ほぼ同じ魔力量で発動できる」


助手「モノは考えようってことですか」


魔導士「そういうことだ。さて、今日はこのあたりにしておこうか。多分そろそろ……」
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 06:52:55.78 ID:2dLsuTk00

ちょうど魔導士がそう言った時、あけっぱなしの窓からフクロウが入って来た。


使い魔「ふう。到着だ。こっちは涼しくていいな。中央皇国のあたりは暑くてかなわん」


魔導士「おかえり」


助手「おかえりなさい」


魔導士「さて、こいつも帰って来たところで、いったんみんなを集めるか」


使い魔「おっ、ミーティングってやつか」


魔導士「うん。助手はエリート呼んで来てくれ。俺はこいつを連れていく」


魔導士は、まだ魔導書から目を離さない変わり者を指さして言う。


助手「はいっ。了解です」


魔導士「あ、そうだ使い魔。部屋に菓子があるから持って来てくれ」


使い魔「おお、いいね。任せろ、すぐに取って来る」


こうして全員が集められ、ミーティングが始まったのだった。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/10(火) 06:56:07.36 ID:2dLsuTk00

今日はここまで。予定より投下が遅れてしまったぜ

今回は話が進まなかったなー。次回から話に動きが付けられるといいんだけど
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 08:46:50.07 ID:Z9JAWTKDO
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 13:01:27.62 ID:TgHIA0Avo
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 22:40:05.09 ID:eUM5k4dro
やっと動き出すのか期待してる
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/05/16(月) 03:37:11.11 ID:khSvTnVP0

研究室の中央、食事をとる際に使っているテーブルに五人は集まった。
全員が席に着いたのを見て、魔導士が言う。


魔導士「よし、全員来たな。今日はここでミーティングを行う」


エリート「ミーティングっていったい何を話しますの?」


魔導士「もちろん現在までの成果やこれからの予定だ」


使い魔「このメンツだと、ときどき話をしておかないと暴走しかねんだろ。特にお前はな」


自分の持ってきた菓子に手を伸ばしながら、人の姿になった使い魔が言う。


エリート「なっ!そんなことありませんわ!」


変わり者「ところで、僕や助手くんは何も話すことはないよ?今日は何もしてないしね」


魔導士「それは俺もそうだ。まあ、今日はさわりだけってことで。じゃあ使い魔、頼む」


使い魔「じゃあ俺からの報告だ。孤王の結界について。まず、孤王を知らない奴はいるか?」


助手「あの、すみません。私は聞いたことないです」
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 03:42:56.77 ID:khSvTnVP0

使い魔の問いかけに、助手が手を挙げる。
使い魔が口を開く前に、エリートが簡単に説明する。


エリート「私の出身国、中央皇国の昔の王ですわ。若いころは偉大な王でしたけど、
     晩年は人を信用しなくなって城にほとんど人を入れなかったとか。それで孤独な王、"孤王"と呼ばれていますわ」


中央皇国には、中央部を統べる皇帝と、東西南北にひとりずつ、全部で四人の王がいる。
この孤王は、当時東の土地を任された王であった。


使い魔「文献を調べたところ、この時代に中央皇国の国教となった教会の連中くらいしか入れなかったらしい」


助手「へえー。孤王はご飯とかどうしてたんですかね?自分で料理してたんでしょうか?」


魔導士「うーん。そうじゃないのか?城の中にずっと、ほとんど一人でいたわけだし」


変わり者「自分で食事を作る王、か。何だかシュールだね」


エリート「り、料理……。私も練習しないといけませんわね」ボソ


使い魔は、助手の一言で変わってしまった流れを断ち切るように言った。


使い魔「こらお前ら、話の腰を折るな。とにかく人が入れなかったわけだが、これは城に結界を張ってたと考えられる」


変わり者「結界?そんなはずはないと思うけど。魔法が発見されたのは最近の話だよ?
     それに、まともな制御が出来るようになったのも魔導大戦のあとの話だしね」
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 03:48:33.00 ID:khSvTnVP0

エリート「そのはずですわね。その時代に結界を張れるとは考えにくいですわ」


使い魔「だが文献には、城の中に入ろうと思っても進めなかった、という記述がある。この感覚は……」


使い魔が言い終わる前に、変わり者がポツリと漏らす。


変わり者「……世界の縁にある結界と同じ感覚だね」


使い魔「ああ。俺たちはこの"孤王結界"と例の壁は同質のものであると考えてる」


魔導士「文献の中には魔方陣らしきものが見られた、と言う記述もあったからな。
    そこから読み取れた情報を何とか形にしたのが、例の新型結界と言う訳だ」


エリート「信じられませんわね。式と魔方陣を用いる方式は、魔導大戦の後半にようやく発見された技術のはずですのに」


使い魔「それで、今回もう少し詳しく文献を調査してきたわけだ。ここからが本題だぞ」


使い魔はこほん、と咳をして続ける。


使い魔「結論から言う。今回わかったことは一つ。
    孤王結界は現代の魔法よりも、さらに高度な制御方式が取られている可能性が高い」


変わり者「ふむ、興味深いね。どういうことだい?」
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 03:54:54.81 ID:khSvTnVP0

変わり者「ふむ、興味深いね。どういうことだい?」


使い魔「文献によると、巨大な光の円が観測されている。これはおそらく魔方陣だ。それも現代魔法よりもはるかに巨大な」


魔導士「なるほど。今までは結界の一部だと思ってたが、魔方陣と考えれば……」


魔導士がいつものように自分の世界に入ってしまう前に、使い魔が締めくくった。


使い魔「光の円の中に見られたという模様から考えて、これが魔方陣なのはほぼ確実だ。
    この未知の制御方式によって、あの魔法は制御されていると思われる。報告は以上だな」


使い魔は報告を終えると、席について菓子に手を伸ばす。
一応進行役の魔導士が言う。


魔導士「というわけらしい。他に報告があるやつは?」


この問いかけに、全員が沈黙をもって返答した。
エリートに向かって、魔導士が言う。


魔導士「お前からは何かないのか?」


エリート「まだ話すほどの成果はありませんわ。今日はこれまでの研究データを検証して、とっかかりをつかんだだけですし」


魔導士「そうか。じゃあ、短いが今日はここまでだな。最後に今後の予定について俺から一つ」
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 04:00:36.82 ID:khSvTnVP0

立ち上がり、全員を注目させてから魔導士は言った。


魔導士「二ヶ月後、改良した結界解除魔法を試しに外縁国に行こうと思う。さしあたって、エリート」


エリート「なんですの?」


魔導士「予定日から一カ月くらいは、新型魔法の研究より解除魔法の方に力を入れてもらいたい」


エリート「ええ。かまいませんわ」


魔導士「使い魔は明日からは俺のサポートとスケジュールの管理を頼む。残りは今まで通りだ。
    それと外縁国では俺の養父のとこに世話になる予定だ。なにか質問は?」


変わり者「期間はどのくらいを予定してるんだい?」


魔導士「馬車を使って一週間で、養父のところに付く。そこから縁まで更に約一日。
    養父のところを拠点に、縁までは何往復かする予定だ」


変わり者「長いね。飛行魔法を使えば半日でつくけど?」


魔導士「助手はその魔法使えないだろ。使えたとしても半日で行けるのはお前くらいだ」


変わり者「ああ、そうか」


魔導士「他に質問は?……ないようだな。俺からは以上だ」


この後はしばらく雑談した後、食事をとって解散。
こうして、彼らの一日が終わった。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 04:05:54.15 ID:khSvTnVP0

解散後、魔導士の私室にて


魔導士「……いや、その式だと効率が悪すぎる。火の玉すら出せないぞ」


助手「あっ、確かにそうですね。じゃあここをこうして……」


魔導士「うん、それならいい感じだな。もう少しここを……」


助手は、式を作る課題についてのアイディアを聞いてもらっていたのだった。
何処からかふらふらと戻って来た使い魔が二人に言う。


使い魔「おいお前ら、そろそろ切り上げろ。もう夜も遅い」


魔導士「そうだな。今日はここまでにしよう」


助手「確かにもう遅いですね。では、ありがとうございました。魔導士さん、使い魔さん、おやすみなさい」


魔導士「うん。また明日」


使い魔「いい夢見ろよー」


助手が部屋を出る。
扉のそばまで言って見送った魔導士が、自分の机に戻りながら言う。


魔導士「ふう、やれやれ」


使い魔「今日は何の話だったんだ?」
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 04:16:56.57 ID:khSvTnVP0

魔導士「不純魔力を利用する式を作りたいんだと。例えば、赤魔力から炎の力を取り出す、って具合に」


使い魔「ほう。うまくすれば魔法の効率が上がるな。お前もそういうの好きだろ?」


魔導士「俺は体質的に、魔力を最大効率で使う必要があるからな。今回のは不純魔力の少ない俺にはあまり関係ないが。
    それで、中央皇国はどうだったんだ?」


使い魔「特に変わりはないな。ああ、そういえば東の王が病にかかってるらしい」


魔導士「東王ってことは孤王の一族だな。タイムリーな話題じゃないか」


使い魔「まあ、王が死んでも第一王子が後を継ぐだけだろうな。あそこの第一王子は優秀らしいしな」


魔導士「他の王子達はどうなんだ?」


使い魔「第二王子は愚か者、第三王子は気が弱すぎる、というのが一般的な意見みたいだな。
    第一王子は政治の手腕もさることながら、軍事的才能も武人としての力量もずば抜けてるらしい」


魔導士「ふーん。まさに王の器だな。何でも出来る天才っているもんなんだな」


使い魔「まあ、一人ですべてこなす天才である必要はないけどな。お前も昔同じこと言ってただろ」


魔導士「うん。このチームも俺に出来ないことを丸投げするために作ったんだしな。
    それでも、何でもできる天才ってのにはやっぱり憧れがあるな」
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 04:22:10.70 ID:khSvTnVP0

使い魔「ほう、憧れか。あの嬢ちゃんや変人みたいな奴らにか?」


魔導士「あの二人も凄いとは思うが、俺の考える天才っていうのはもっといろいろ出来るやつのことだな。
    それを目指した結果、今の中途半端な俺があるわけだが」


使い魔「なるほどな。あの二人はあくまで一部分だけだと考えてるんだな」


魔導士「そういうことだな。ちなみに助手には期待してるぞ。この手で天才を育て上げるってのも面白そうだろ?
    もっとも、どうなるかはアイツの才能にかかってるんだけど」


助手の話になったところで、使い魔はある質問をすることにした。
忙しくて後回しにしていたが、それは魔導士にとっては重大なことのはずだった。


使い魔「そういやお前、助手と言えば"あのこと"は聞いてみたのか?」


使い魔の言葉に、魔導士は一旦黙りこみ、いつもよりも長く、大きく、そして深いため息をついた。
そしてポケットからいつものメモ帳を取り出しながら、答えた。


魔導士「案の定、"覚えてない"そうだ。教会で会ったときから違和感あったんだよな」


そう言って手帳を開き、眺める。ここでまた小さくため息が漏れる。
魔導士が開いたメモ帳には、彼自身の字でこう書いてあった。
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 04:33:47.81 ID:khSvTnVP0

『よう、俺。お前がこれを読んでいるときは、もうこれを書いたときの記憶はないはずだ』


『事情は伏せるが、これから自分の記憶の一部を封じる。俺の、そしてお前の判断だ、文句は言わないでくれ』


『それと、すまないが一つ頼みがある。探してほしい人物がいるんだ。昔世話になった村の、あの一家の娘だ』


『彼女についての記憶は最低限残しておくことにする。顔を合わせれば、ちゃんと彼女のことを認識できるはずだ』


『彼女の口から再開までの経緯を聞くことで、記憶が戻るようにしておいた。記憶が欲しけりゃあの娘を探せってことだ』


『これを読むころには覚えてないだろうが、これも俺の、お前の意思だ。面倒だろうが頼まれてくれ』


ふう、と息を吐いて魔導士は手帳を閉じた。
そして椅子にどっかりと座りなおして言う。


魔導士「本当に"こいつ"は何考えてるんだろうな」


使い魔「さあな。何かがあったんだろう、としか」


魔導士「それに肝心の娘を見つけたまではいいものの、そいつも記憶喪失ってどういうことだよ」


使い魔「確かに、どいつもこいつも記憶喪失だな。お前に関しては自爆みたいなもんだが」


魔導士「自爆、ねえ。反論はできないな。俺としては"こいつ"と俺とは別の人間って感覚だがな」
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 04:45:40.34 ID:khSvTnVP0

使い魔「どっちもお前だろうよ。そこにもしっかりとそう書かれてるんだろ?」


魔導士は、まあ確かに、と使い魔の言葉を肯定し、
手帳を眺めながら言った。


魔導士「教会で会ったときから、不思議に思ってたんだよな。向こうも俺を覚えてないみたいだったし」


使い魔「手帳とお前の記憶によると、お互いに知り合いのはずだしな。現にお前は一目見てわかったんだろ?」


魔導士「うん。仕方ないから、とりあえず助手として連れて来た。魔法使いとしての才能もありそうだったしな」


使い魔「前も言ったが、いきなり連れて来たから、最初は一目ぼれでもしたのかと思ったぞ」


魔導士「前もそんなことも言ってたな。
    ……しかし、この時の俺に記憶を消す魔法が使えたとは思えん。というか、今ですら無理だぞ」


使い魔「記憶と一緒にその魔法も封じたんだろうな。
    お前なら記憶を消す魔法があれば、そこから記憶を戻す魔法も作れるだろ?」


魔導士「そうだな、確かに不可能ではない。
    ……改めて聞くが、お前は何も知らないのか?考えてみたら、お前がいつ使い魔になったのか知らないぞ」


使い魔「確かに記憶を失う前からの付き合いだが、何も知らんぞ。お前が記憶を消したのすら、知ったのは最近だ」
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 04:55:45.68 ID:khSvTnVP0

魔導士「……まあ、信じるよ」


使い魔「……どうも。さあ、もう寝ろ。寝不足は研究にも支障をきたすぞ」


魔導士「うん。そうするよ。明日からは俺も忙しいだろうしな」


この後二ヶ月間、彼らはひたすら研究に時間を費やした。
その結果、いくつかの発見を経て、結界解除の式の試作品をいくつか完成させたのだった。

そして、世界の端っこに向けて出発する日が来た


助手「えーっと、持っていくものは……」


魔導士「おい、準備は出来たか?そろそろ出発するけど」


助手「はい!今行きます!」


ドタドタ


助手「お待たせしました」


助手が外に出た時は、他の全員は準備を終え、
彼女を待っているところだった。


使い魔「やっと来たか。遅いぞ」


助手「ごめんなさい。遠出するのって初めてで、準備に手間取っちゃいました」
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 05:10:03.24 ID:khSvTnVP0

変わり者「あれ?君はこれから向かう国から来たんじゃなかったかい?
     あそこから来たなら十分遠出だと思うけど」


助手「ああ、普通の遠出はこれが初めてなんですよ」


エリート「普通の?どういう意味ですの?」


その疑問には、先に馬車に荷物を積み終えた魔導士が答えた。


魔導士「こいつは俺が飛行魔法で連れて来たんだよ。魔力のロープでぶら下げてな。
    だいたい一日半くらいずっと飛んだんだったかな?」


エリート「ぶ、ぶら下げてって……。そんなことして大丈夫でしたの?」


魔導士「いやー、速度も高さも出ないし大変だったぞ」


助手「こっちも、地面すれすれだし揺れるしで大変でしたよ」


助手は当時の状態を思い出してか、気分が悪そうな顔をして言う。


魔導士「というわけで、今回は馬車での移動になったわけだ。その時と違って急ぐ必要もないし」


エリート「な、なるほど。良くわかりましたわ……」


変わり者「それで、その時はどうして急いでたんだい?」
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 05:17:28.58 ID:khSvTnVP0

魔導士「ああ、例の教会の魔導書を強奪した帰りだったんだよ。
    助手も見方によっては、教会から誘拐して来たようなもんだったし」


エリート「な、なんだか聞いてはいけない単語が聞こえたような気がしますわ……」


変わり者「君も意外と無茶するんだね。まあ、詳しくは聞かないことにしておくよ」


魔導士「うん。そうしてくれると助かる。まあ、機会があったら話してやるよ」


使い魔「俺は正直、無茶って単語で済ますのはどうかと思うんだがな」


そのとき、ひと足早く馬車の方に歩きだしていた助手の声が聞こえて来た。


助手「皆さん!早く行きましょう!私、馬車に乗るのって初めてですっ」


変わり者「まあ、あの様子を見る限り、本当に誘拐したわけではないと思うな。強奪はともかく」


魔導士「さ、いいからいいから。行くぞ」
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 05:28:33.46 ID:khSvTnVP0

変わり者「ああ。僕らの研究がどの程度進歩したか、気になるところだしね」


使い魔「お前は研究に関してはほとんど何もしてないだろうが。
    まあ、だがお前の感想は気になるな。実際に改良前の式を試したのはお前だけだからな」


エリート「あ、ちょっと!置いていかないで下さいまし!に、荷物が重くて……」


魔導士「ああもう、お前は先に馬車に乗ってろ。荷物は運んどいてやるから」


エリート「え、ええ。あ、ありがとう……」


助手「皆さーん!早くー!」


こうして彼らは外縁国に向けて旅立った。

これは彼らは知る由もないことだが、この日の早朝、中央皇国の東王が病によって逝去したのだった。
これを引き金に、ただ研究者としての生活を続ける筈だった彼らの運命は、大きく変わることとなる。

もちろん、これも今の彼らには知る由もないことであった。
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/16(月) 05:37:09.45 ID:khSvTnVP0

今日はここまで
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/16(月) 06:42:24.06 ID:ukhGuCr6o
乙!
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/16(月) 08:13:15.41 ID:fJFTxnYDO
乙!
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/16(月) 16:59:19.41 ID:HAfbPFMHo

すごい時間に来たなww
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/16(月) 22:34:02.63 ID:8f8Xe4p0o
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/05/25(水) 04:19:38.57 ID:W0X0+vQB0
>>168
俺はこの時間が標準だぞww




魔導士「こっちだ!急げ!」


助手「はぁっ、はあっ」


エリート「も、もう走れませんわ」


変わり者「参ったね。そろそろ限界みたいだよ」


魔導士「……このあたりで迎え撃つしかないな」


変わり者「そうみたいだね。助けを呼びに行った使い魔君は間に合わなかったか」
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 04:28:51.48 ID:W0X0+vQB0
約一日前・早朝
研究所を出発してから七日目の朝


魔導士「おーい、そろそろ出発するぞー」


変わり者「了解。今日は僕が最初の御者だったね」


使い魔「さってと、俺は先に乗ってるぞ。今日は中で本の続きでも読んでるかな」


魔導士「次の御者はお前だからな、使い魔。今日はこの前みたいにごねてもだめだぞ」


彼らは男性陣の三人が、交代で馬車の御者を務めることにしていた。
数日前、使い魔は持参した本の続きを読みたいがために、この役割をボイコットしかけたことがあったのだった。


使い魔「わかってるって。この前だってちゃんと交代しただろ?」


変わり者「あの日ごねてた時間の分、後で長めにやってたし、まあいいんじゃないかな」


使い魔「まあ、お前がいいならいいけど。交代までの時間が延びて割を食うのはお前だしな」


軽口を言いあう内に、女性二人の準備も終わる。
全員が乗り込んだ後、馬車が動き出した。
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 04:32:51.26 ID:W0X0+vQB0
助手「たしか、今日到着する予定なんですよね」


魔導士「うん。今日の夕方には着くはずだ。だいたい半日後だな」


助手「いよいよ研究成果を試す時が来ましたね。気合入ってきました!」


魔導士「そうだな。だが気をつけろよ?十分制御出来るようになったが、まだ特異性の発動条件が不明なんだぞ」


あれから二カ月、結局彼女の特異性は一度も発動することはなかった。

そのことに加え、十分な技量を身につけたことと変わり者の口添えによって、
助手はつい二週間ほど前に室内での魔法の使用が解禁されたのだった。

助手が少し声のトーンを落として言う。


助手「ああ、そう言えばそうですね。わかりました。気をつけます」


魔導士「まあ、それでもこの短期間にあそこまで出来るようになったんだし、お前は十分に優秀と言っていいと思うぞ」


助手「ほ、ほんとですか!?」
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 04:40:23.10 ID:W0X0+vQB0

御者台から聞いていた変わり者が口をはさむ。


変わり者「それには僕も同意するよ。連日ほぼ徹夜で練習してただけのことはあるね」


助手「もちろん指導が良かったっていうのもありますよ。変わり者さんには感謝してます」


変わりもの「はは。そう言われると悪い気はしないね。おかげさまでここのところ寝不足だったけどね」


その会話を聞いていた残りの三人は、顔を見合わせて言う。


魔導士「おい、おかしいぞ。つじつまが合わない」


使い魔「ああ。助手って毎日、夜は遅くまで俺たちのところに研究の相談しに来てたよな?」


エリート「え?そんなはずありませんわ。その時間は私に相談に来てたはずですわ。
     あなたたちにばかり負担かけたくないからって」


魔導士「……意味がわからん。あいつ、三人いるのか?」


使い魔「……」


エリート「……」


魔導士「……」
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 04:46:18.06 ID:W0X0+vQB0

使い魔「ま、まあ人並み外れた努力をしてたってことだな。きっとそうだ」


魔導士「そ、そうだな。それも多分、時の流れをゆがめるレベルで努力してたんだろ」


エリート「普段の努力を見る限り、頭ごなしに否定できないのが恐ろしいですわね……」


魔導士「アイツは常識外れの努力家だからな。どこからあのモチベーションが出てくるんだか」


エリート「……多分、誰かの役に立てるのがうれしいんでしょうね。あの子の過去を考えると」ボソ


使い魔「ん?何だって?」


エリート「いえ、なんでもありませんわ」


助手「皆さん、何の話してたんですか?」


変わり者の会話にひと段落させた助手が言う。
三人はなんとなく、その場をなあなあにしてごまかすことにしたのだった。
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 04:51:59.25 ID:W0X0+vQB0

魔導士「なに、大した話じゃないぞ」


エリート「それにしても、結構な長旅でしたわね。流石に疲れましたわ」


使い魔「到着まで油断するなよ。まだ何があるかわからないんだからな」


魔導士のごまかしの言葉に、すかさずエリートが次の話題を切り出した。
そして、使い魔がその話題を膨らませる。


助手「え?何かあるかもしれないんですか?」


魔導士「よし、食いついたな」ボソ


助手「はい?」


魔導士「ん、なんでもない。外縁諸国は中央諸国と比べて治安が悪いからな、旅してると盗賊とか出たりするんだよ」


助手「盗賊、ですか?教会に居たころはそんな話あまり聞きませんでしたけど」


魔導士「ああ、まああそこは外からの情報が入りにくい環境だからな」


助手「なるほど。盗賊ですか……。もし出たら怖いですね」


エリート「まあ、確かにまだ注意は必要でしたわね。到着まで盗賊や魔物が出たりしないといいですわね」
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 04:56:46.95 ID:W0X0+vQB0

使い魔「並みの盗賊や魔物なら、出たところで問題ないだろ。ここには撃退できるだけのメンツがそろってる」


魔導士「そうだな。おい、変わり者。そいつらへの対処に関しては頼りにしてるからな」


変わり者「はいはい。よっぽどじゃなければ、僕がいなくても十分だと思うけどね」


使い魔「むしろよっぽどでない限りは、全部お前に手早く片づけてもらいたいんだがな。俺には戦闘能力はないし」


エリート「そうですわね。私も戦闘は苦手ですから、とばっちりが来る前に何とかしてほしいですわ」


助手はしばらく不思議そうな顔をしていたが、急にあっと声をあげて言う。


助手「ちょ、ちょっと待って下さい!聞き流してましたけど、魔物も出るんですか?」


魔導士「うん、たまに。魔物が縁の向こうの生き物だ、って説は前に話したろ?」


助手「そ、そう言えば、縁に近い外縁国ではたまに出るって聞いた覚えが……」


変わり者「出たとしても大丈夫さ。君も自分の身を守れるくらいの魔法はもう使えるからね」


魔導士「うん。まあ大丈夫だろ。多分だけど」


助手「うー、なんか不安なんですが……」


エリート「魔物が出る確率なんて、盗賊に十回襲われる確率よりはるかに低いですわ。安心なさい」
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 05:00:29.68 ID:W0X0+vQB0

不安がる助手に魔導士が言う。


魔導士「んー、じゃあせっかくだし、ちょっと戦闘向けの技術でも練習するか?」


冒険譚のページを、ぺらり、とめくりながら使い魔が言う。


使い魔「お前は助手の練習にかこつけてヒマつぶしたいだけだろ」


魔導士「ははは、その通り。で、どうする?損にはならないと思うぞ?」


助手「えーっと、じゃあ、やってみたいです」


私も退屈してたとこですし、と呟いて、助手はこの提案を受けることにした。


魔導士「よし。じゃあそうだな、俺の得意技、多重魔法でも教えるかな」


ぼんやりと景色を眺めていたエリートも、便乗して言う。


エリート「ではせっかくですし私も。連鎖魔法、なんていかが?」


助手「はい、ぜひお願いします」
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 05:04:59.00 ID:W0X0+vQB0

魔導士「まず多重魔法だが、複数の魔方陣を展開しておいて、必要に応じてそれらに魔力を流す。
    こうすれば、式から魔方陣を展開するまでの時間が省ける。簡単だろ?」


助手「なるほど。手数を増やすってことですか?でも魔方陣を展開したまま保つのって難しいですよねー」


魔導士「慣れれば簡単だぞ。戦闘は速度と手数っていうのが俺の持論なんだ。戦闘する機会はあんまりないけどな」


助手「では、連鎖魔法と言うのはどんなものなんですか?あ、ちょっと待って下さい。メモをとるので」カキカキ


いつも通りメモをとる助手。
彼女がこれまでメモした文章は、この魔法のメモ帳でなければとっくにページがなくなっている量だ。

メモを取り終えたところで、エリートが言う。


エリート「……メモは取り終えましたわね。連鎖魔法は、魔法によって別の魔法を発動させる技術ですわ」


助手「うーんと……もっと詳しくお願いできますか?」


エリート「簡単な例だと、魔方陣の形をした魔法ですわ。魔方陣を飛ばすような攻撃魔法を見たことがありまして?」


助手「この間、変わり者さんに見せてもらった魔法がそんな感じでしたかね?」


御者台から変わり者が言う。


変わり者「そうだね。それは確か、加速魔法の魔方陣の形をした炎魔法だったはずだよ。連鎖魔法の初歩だね」


助手「式の構成とかきっかけの取り方とか、色々難しそうですね」
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 05:11:05.65 ID:W0X0+vQB0

エリート「他にも炎魔法の飛び散る火の粉や、攻撃魔法が通った軌道などで魔方陣を描いて発動したりしますわね」


魔導士「そこまでになると、上級魔法使いクラスの技術だな。魔方陣型の魔法は複合魔法とも呼ぶ。
    まず複合魔法のレベルを習得するといい」


助手「はいっ!頑張ります」 


こうして助手は馬車に乗っている間、二人から教わった技術を練習することにした。
二人に加え、変わり者からもアドバイスをもらって練習するがなかなかうまくいかない。


助手「だめですね……。うまくいきません」


魔導士「当たり前だ。そんな簡単にマスターされてたまるか」


変わり者「僕もその二つをマスターするのには、それぞれ二日くらいかかったよ」


エリート「練習を続ければ出来るようになりますわ。もうなんとなくコツをつかんでいるようですから」


助手「わかりました。とにかく練習あるのみ、ですね」


そのとき、ゆれる中の読書で酔ったらしい使い魔が言う。


使い魔「ところでお前ら、そろそろ馬車をとめて食事にしないか?もうメシの時間だ」


魔導士「ふむ。そうだな、一旦馬車降りてメシにするか。使い魔も具合悪そうだし」


川原を見つけ、馬車を降りる一行。
適当な場所に前日に寄った町で購入した食料を広げる。
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 05:16:22.51 ID:W0X0+vQB0

魔導士「はあ、ずっと座りっぱなしだったから、体があちこち痛むな」


変わり者「確かにね。まあ、ここでしばらくのんびりしていこうか」


エリート「ええ。たまにはゆっくりするのもいいですわね」


こうして、それぞれ思い思いに昼食の時間を過ごすことにした。
気持ちのいい風や、川を水の流れる音。くつろぐにはちょうどいい場所だったのだ。


助手「…えーっと、これで、こうして……」


そんな中、食べながら練習を続ける助手を、魔導士が咎める。


魔導士「こらこら、食事中くらいは練習やめろ」


エリート「そうですわ。行儀が悪いですわよ」


助手「あ、ごめんなさい。…でも、もう少しだけ」


魔導士「……はあ。わかったよ。ちょっとだけだぞ」


助手「はい!ありがとうございます」
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 05:20:06.84 ID:W0X0+vQB0

同じころ、ちょうど彼らの後ろの方で、食べ物に片っ端から手を出しながら使い魔と変わり者が話している。


使い魔「よしよし。食ってたらようやく調子が戻って来たぞ」


変わり者「具合が悪いとかいう割には、よく食べるね。僕は乗り物に酔ったら食欲がなくなるんだけどな」


使い魔「そもそも俺には生物としての食欲なんて存在しないからな。食事は娯楽の一種みたいなもんだ」


変わり者「ふーん。娯楽ねえ」


使い魔「まあ、俺たちみたいなのは基本的に死なないからな。食事や睡眠、その他もろもろは不要なんだよ」


変わり者「見方によっては便利な体だね」


使い魔「その分、ヒトの感覚が理解できなかったりもするぞ。運動の楽しさとか、寝具に対するこだわりとか」


変わり者「寝具に対するこだわり?」


使い魔「なんだ、全員ってわけじゃないのか?魔導士の奴、寝具だけは絶対に最高級品を使うんだ」


自分の話題になったのを察して、後ろから魔導士が割り込んでくる。


魔導士「睡眠の質を高めるのに重要なんだ。あれに慣れすぎたせいか、この旅の間はよく眠れなかったぞ」
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 05:25:22.94 ID:W0X0+vQB0

助手「へぇー。そうなんですか?私も研究所に戻ったら寝具をそろえてみようかな」


使い魔「この際言っておくが、その前にちゃんと睡眠をとれ」


極端に睡眠時間が短い助手の身を案じて使い魔が言う。
助手が反論して言うには、


助手「わからないことや出来ないことがあったら嫌じゃないですか!寝てる暇なんてありません!」


エリート「その向上心は認めますわ。でも、体調を崩したら元も子もありませんわよ?」


変わり者「君が人の心配をするなんて珍しいね」


エリート「倒れられでもしたら、雑用がいなくなりますからね。一応、心配して差し上げますわ」


変わり者「はいはい、そうかい。まあ、僕は好きで付き合ってるから構わないよ」


魔導士「俺も構わないぞ。大した負担じゃない。だが、確かに体には気をつけろよ?」


エリート「あなた方がそうやって付き合うから、彼女が眠れないんですわ!」


と、エリート。
変わり者が一旦場を鎮めようとして言う。


変わり者「まあまあ、落ち着きなよ。せっかくのんびり出来る時間が台無しだよ?」
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 05:30:00.96 ID:W0X0+vQB0

魔導士「そうそう。見ろ、せっかく雲ひとつないいい天気なんだ、……ん?」


助手「どうしたんですか?」


魔導士「いや、ほらあれ」


魔導士が指を指す方向。
雲ひとつない青空を舞う影が二つ。いや、三つ、四つ、どんどん増えていく。


エリート「まさか……」


魔導士「使い魔っ!」


使い魔「今やってる!」


戦闘の力をほとんど持たない代わりに、高精度の探知能力を持つこの使い魔。
すぐに魔力の網を拡げ、影を捕捉する。


使い魔「魔力の反応がある。間違いなく鳥型の魔物だ!」


助手「ま、魔物が出たんですか!?」


変わり者「まずいね。あの数を相手するのはさすがに無茶だよ」


エリート「ど、どうしますの?」


魔導士「まだ少し距離がある。馬車の荷物を持って来い。ただし、最低限だぞ。荷物持ってあの森まで走れ!」
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 05:33:58.03 ID:W0X0+vQB0

食料や水などの最低限の荷物を抱え、森まで逃げ込む。
魔導士は、あの鳥型の魔物は翼が邪魔になって、森の中の獲物を襲うのが困難だと判断した。
この森に逃げ込むことで、翼をもつあの魔物をやり過ごそうとしたのだ。


助手「な、なんとか避難できましたね……」


魔導士「さて、どうするか」


変わり者「空を押さえられてるね。飛行魔法で突破するわけにもいかないか」


助手「といっても、何もしないでずっとここに居るわけにもいかないですよ」


魔導士「使い魔、連中を突破して助けを呼んでくることは可能か?」


使い魔「ああ、出来るぞ。ただし、連中の目をかいくぐらないと駄目だ。時間がかかるな」


エリート「食料は多くありませんわよ。今日のうちには到着する予定でしたから、当然ですわね」


使い魔「助けが来るまでおそらく一日弱。まあ大丈夫だろ、死にはしないはずだ」


魔導士「……助けを呼んで、ここに居るのがベストだな。幸い、思ったより大事じゃないみたいだな」


その時、先頭を飛ぶ魔物が彼らの上空を通過する。
その羽ばたきで生じた風圧が、森の木々を彼らを打つ。

すでに彼らの存在を把握していたようで、彼らのちょうどま上のあたりで八つの影が旋回する。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 05:40:12.10 ID:W0X0+vQB0

魔導士「比較的こっちの生物に近い魔物だな。ただ大きいだけの鳥ってところか」


助手「これが……魔物ですか…。実を言うと、一度見てみたいと思ってたんですが……」


使い魔「なんだ、お前が呼んだのか?ほら、元いた場所に返してこいよ」


助手「ち、違いますよっ!拾って来た犬みたいに言わないで下さい!」


使い魔は、自分の冗談を必死で否定する助手の姿を見て笑う。
しばらくしてから笑うのをやめて、姿をフクロウに変え、


使い魔「さて、冗談はさておき、そろそろ行ってくる」


魔導士「うん。頼んだぞ」


変わり者「気をつけてね」


使い魔「まあ、のんびり待っててくれ。連中はこの森に入ってこれないようだしな」


エリート「こんな状況でのんびりなんで出来ませんわ。なるでく急いで欲しいですわね」


使い魔「はいはい。そんな真面目に返すなよ」


魔導士「ああ、そうだ。定期的に交信魔法で連絡してくれ」


使い魔「了解」
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 06:03:12.72 ID:W0X0+vQB0

飛び立った使い魔を見送って、エリートが言う。


エリート「まあ、何とかなりそうですわね」


魔導士「そうだな。まだ油断は出来ないけどな」


変わり者「さしあたっては身の危険はないね。一旦落ち着けるっていうのは大きいよ」


助手「とりあえず、使い魔さんから連絡があるまではここで待機、ですよね?」


エリート「そうなりますわね」


こうして、当面の危機を脱した一行だった。
しかし、彼らは一つ大きな見落としをしていたのだった。

結果的にその見落としによって、数時間後、彼らはより大きな危機に見舞われることとなるのだった。
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/05/25(水) 06:12:31.74 ID:W0X0+vQB0
今日はここまで
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/25(水) 11:38:46.66 ID:P5AuOqXWo
乙!
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/25(水) 13:34:58.71 ID:3qFkTtI1o

なんでこの時間が標準なんだよwwww
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/26(木) 15:08:26.77 ID:zLFGS9BWo
乙した

続きが気になるワクワク
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/05/29(日) 23:15:23.77 ID:f23Uqi7AO
まーだー?
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/06/02(木) 09:01:42.40 ID:9ZEtUtUAO
C
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/05(日) 04:52:32.96 ID:jFp6dGI30

魔導士『そうか。わかった、気をつけて進んでくれ』


変わり者「使い魔くんからの連絡かな?」


魔導士「うん。もう少しで森から抜けるらしい」


言って使い魔都の交信を終了する。
約一時間おきに入って来る連絡によると、今のところは順調に進んでいるらしい。

いまだ上空を飛び回る魔物を眺めながら、助手が言う。


助手「まだ上を飛んでますね……」


変わり者「そろそろ暗くなるのにね。鳥型の魔物なのに夜目が利くみたいだね」


助手「じゃあもしかしたら、魔界って暗いのかもしれませんね」


魔導士「ああ、それは有り得るな。今のところ確認する手段がないけど」


同じく魔物を眺めていたエリートが言う。


エリート「それにしても、まさか本当に魔物に遭遇するなんて思いませんでしたわ」
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/05(日) 05:01:17.66 ID:jFp6dGI30

魔導士「それも魔物の"群れ"だ。群れる魔物なんてなかなかお目にかかれないぞ」


エリート「そう言えばそうですわね。魔物は基本的に単体で現れると聞いてますわ」


魔導士「個の生物としても十分強力だからな。群れる必要なんてないんだろ」


変わり者「ならどうして今回は群れで現れたのかな?」


魔導士「さあな。うまく魔界に行けるようになったら、次は連中の生態でも研究してみるか?」


助手「あ、それ面白そうですね!」


エリート「私は反対ですわ。そこらの猛獣よりはるかに恐ろしい生物、簡単に研究できるとは思いません」


変わり者「ああ、それもそうだね。じゃあその時は僕がボディーガードをやるよ」


魔導士「おお、それは助かるな」


彼らはそのまま他愛もない会話を続ける。
命の危険が無いとわかったとたん、魔物に対する恐怖心は退屈に変わってしまったのだった。
それを裏付けるように、魔導士がポツリと言う。


魔導士「……しかし、退屈だな」
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/05(日) 05:05:37.12 ID:jFp6dGI30

エリート「そんなこと言ってる場合でして?現在進行形で命の危険に迫られてましてよ?」


一行の中では、比較的危機感を保っているエリートが立ち上がりながら言う。


魔導士「そうは言ってもなあ」


変わり者「現状ではここに居れば生存はほぼ確実だからね。僕も正直、退屈になってきたところだよ」


エリート「もう!あなた方は本当に危機感が足りませんわ!」


魔導士「お前だって、今まで呑気にだべってただろうが」


エリート「そ、それは……確かにそうですが、しかし!」


魔導士「まあまあ、落ち着けって」


ここで宥めるように助手が言う。


助手「そうですよ。怒ると疲れますよ?ここは何があってもいいように、体力を温存したほうがいいんじゃないですか?」


エリート「む、それは一理ありますわね……」


助手「そうでしょう?ほら、座って下さい」


エリート「え、ええ」


また口うるさく文句を言われるのだと思っていた二人が漏らす。


変わり者「おお、助手くんがうまくやってくれたね」


魔導士「だな。こんなすんなりおとなしくなるとは思わなかったぞ」
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/05(日) 05:09:14.25 ID:jFp6dGI30

魔導士「はいはい」


変わり者「わかったよ」


その時だった。再び使い魔からの連絡。
森から抜けたという連絡だろうか、と思いながら魔導士が交信を開始する。


魔導士『どうした?さっきの連絡からそんなに時間は経ってない筈だぞ』


使い魔『よく聞け、ちょっとまずい事になったぞ』


魔導士『まずいこと?なんだ?』


なるべく冷静に。そう自分に言い聞かせながら言う魔導士。
使い魔が答える。


使い魔『他の魔物が森に入った形跡があるんだ。魔物はそこの鳥だけじゃない』


魔導士『確かか?』


使い魔『かなり大きな生物だ。大きさからみて魔物だろう』
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/05(日) 05:15:20.83 ID:jFp6dGI30

魔導士『……なるほど。もっと詳しい状況を頼む』


使い魔『足跡から考えて数は四体、そのうち一体はかなり大きい。多分狼のような生き物だ。
    森に進入した時間は不明。森の中にあるけもの道のような部分を進んでるようだ』



魔導士『そいつらの現在位置は?お前の探知魔法では探れないのか?』


使い魔『やってみたが駄目だ。ここからじゃ遮蔽物が多すぎて、短い距離しか探れない。それで、どうするんだ?』


頭の中で状況を整理し、方針を考える魔導士。
やや間を置いて使い魔に指示を出す。


魔導士『わかった。お前はそのまま助けを呼びに行け。こっちはこっちで何とかしてみる』


使い魔『……大丈夫なのか?』


魔導士『数は四体なんだろ?今のメンバーなら、やりようによっては対抗できるだろ』


使い魔『わかった。無理はするなよ』
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/05(日) 05:16:17.60 ID:jFp6dGI30

使い魔『……大丈夫なのか?』


魔導士『数は四体なんだろ?今のメンバーなら、やりようによっては対抗できるだろ』


使い魔『わかった。無理はするなよ』


声は出さずとも表情に出ていたのだろう。助手が魔導士に声をかける。


助手「大丈夫ですか?何だか怖い顔してますよ?」


後の二人も、状況が変化したのを察して魔導士のもとへと近づいてきた。


変わり者「何かあったんだね?」


エリート「ほーら、言わんこっちゃないですわ。で、何があったんですの?」


魔導士は、自分を落ち着けるよう息を吐き、状況を説明する。


魔導士「この森の中に、あの鳥とは別の魔物がいる可能性がある」
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/05(日) 05:20:33.12 ID:jFp6dGI30

助手「……魔物が?」


変わり者「ほう、それはまた」


エリート「それはまた、じゃないですわ。どうしますの?」


魔導士「まずは冷静になってくれ。今から俺が持ってる情報を話す。まず数は、」


魔導士は三人に情報を話し終えると、次にこれからの行動の指針を話し始める。


魔導士「さて、これからどうするかだが、まず状況を整理しなおそう」


エリート「そんな悠長なことしてる暇はありませんわ。いつ襲われるかわかりませんのよ?」


魔導士「こらこら、冷静になれってば。まずは各自出来るだけ広範囲に探知魔法をかけるんだ。
    それから森の端に沿って少しだけ移動するぞ」


助手「それに何の意味が?」


魔導士「いいからいいから。探知魔法に反応があったらすぐに言うんだぞ」
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/05(日) 05:22:32.68 ID:jFp6dGI30

言葉の通り移動を開始する魔導士。
不思議に思いながらも残りの三人も後に続く。
上空では彼らを狙う魔物たちも羽音を立てながらついてくる。


魔導士「やっぱり、あいつらは夜目がしっかり利くようだな。
    ということは、移動できる領域が制限される。意味はわかるか?」


変わり者「あまり開けた場所や森の外には出れないね。空から襲われちゃうから」


助手「なるほど。……それってかなりマズいんじゃないですか?」


魔導士「森に入った狼は四体。移動が制限された状態で逃げ続けるのは厳しいかもな」


エリート「だからといって魔物四体を相手取るのは難しいですわよ?」


変わり者「いっそ鳥を倒して森の外に逃げるっていうのはどうだい?
     ここからなら一方的に攻撃できるんじゃないのかな?」


助手「障害物があるのはこっちからも同じです。飛び回る敵に攻撃を当てるのは簡単じゃないかと思います」


エリート「そうですわね。ここに居る全員が中級程度の魔法で攻撃し続ければ、
     魔力が空になって立ち上がれなくなる頃には倒せるかもしれませんけど」
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/05(日) 05:25:49.02 ID:jFp6dGI30

変わり者「ああ、そうか。じゃあ、広範囲魔法で一気に」


魔導士「この距離でそんなの使ったらお前自身もただじゃ済まんぞ。それに俺たちまで巻き込む気か?」


変わり者「うーん、あまりいい手ではないようだね」


魔導士「うん。最初からそうしなかったのには理由があったんだよ」


助手「じゃあ、どうするんですか?いつまでもここに居るわけにはいきませんよ?」


エリート「ですわね。もたもたしてると囲まれるかも知れませんわ」


変わり者「確かにね。森の外に出られない以上、森の入口のここは壁を背にしてるようなものだよ」


魔導士「まあ、簡単には囲まれない筈だ。まだ少しだけ時間がある。連中は体が大きいらしいから、
    木が密集しているこの森では移動しにくいはずだ」


変わり者「そう言えば、けもの道みたいになってるところを通ってるんだったね」


エリート「でしたら、木がもっと密集してる地点に居ればいいのではなくて?」


魔導士「それだとこっちも身動きが取りにくい。危険だな」


助手「そうですね。その状態で囲まれたら逃げようがないです」


変わり者「木が密集してる地点でも、魔物が物理的に進入不可能、なんてところはないだろうしね」
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/05(日) 05:32:45.69 ID:jFp6dGI30

魔導士「……打って出るか」


魔導士がつぶやく。


エリート「じょ、冗談じゃないですわ!魔物を四体も相手取るなんて!」


魔導士は、エリートの反論を手で制して続ける。


魔導士「この状況では、俺たちは森の中で魔物と鬼ごっこするしかないんだよ。それも命がけのな」


エリート「逃げればいいでしょう!立ち向かうなんて危険すぎますわ」


魔導士「狼の魔物から?助けが来るまでか?」


エリート「そ、それは……」


魔導士「普通の狼同様鼻が利くかもしれないし、頭もいいかも知れない。
    こいつらから最低半日、逃げ切る確証はあるのか?」


エリート「確証と言うならそちらこそ!魔物をうまく倒せる確証はありますの?」
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/05(日) 05:40:43.20 ID:jFp6dGI30

おっと、ミス
>>195>>196の間に

エリート「状況を合理的に判断しただけですわ。それでも、まだ命の危険があるのは間違いないですからね。
     あなた方も、そこは認識しておいてほしいですわね」

を追加してくれ





魔導士「確証はないな」


エリート「でしたら……」


魔導士「だけど、鬼の数を減らしちゃいけないってルールがない以上、やるべきだ。この鬼ごっこを有利にするためにはな」


まだまくしたてようとするエリートを変わり者がなだめる。


変わり者「一旦落ち着こう。さっきから君は少し冷静さに欠けるように見えるよ」


エリート「っ!しかし!」


助手「落ち着きましょう。言い争ってるだけじゃ何も変わりません」


エリート「……ええ、わかりましたわ…。取り乱して申し訳ありませんでした」


助手「命もかかってますし、仕方ないですよ。まず、魔導士さんの話を聞いてみましょう?」


変わり者「そういえば、こんな状況なのに君はやけに冷静だね」


助手「こんな状況だから、です。慌ててもいいことないですから」


魔導士「今日は珍しく頼りになるな。さて、落ち着いたところで俺の計画だが……」
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/05(日) 05:47:36.75 ID:jFp6dGI30

魔導士が自分の計画を話す。


魔導士「……ということだ。どうだ?」


変わり者「一応、問題はなさそうだね」


エリート「ですが、不安要素もありますわよ?」


助手「そうですね。まあ、そこは今から詰めていくつもりなんでしょう?」


魔導士「もちろん。まあ、歩きながら話そう。探知魔法を切らすなよ、配置はさっき言った通りだ。
    移動はなるべく狭いけもの道を使うぞ」



地形を把握しながら、計画を煮詰める。
ほとんど計画がまとまったころ、魔導士が最大の懸念を口にする。


魔導士「さて、大体はこれでいいな。あとは、敵がこれから増える可能性だな」


変わり者「そんな可能性があるのかい?」


魔導士「もともと滅多に出ない魔物が、確認出来るだけで十二体。何があってもおかしくない」


助手「そういえば、魔物が出るのは盗賊に襲われるよりはるかに確率が低いはずでしたね」


魔導士「そうだな。もともと八体出た時点で、そこから増える可能性もあったんだ。
    明らかな異常事態だったのに、見落としてた」
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/05(日) 05:54:31.78 ID:jFp6dGI30

エリート「確かに。案外、今なら魔界に行き放題かもしれませんわね」


魔導士「はは、それだと俺たちの研究の意味がなくなるな」


助手「それで、魔物がこれ以上増えたらどうするんですか?」


魔導士「どうしようもないな」


助手「ど、どうしようもない?」


魔導士「うん、どうしようもない。魔物が増え続けてるなら多分、助けすら来ない。
    俺たちを救助するよりも、縁に近い村や街の防衛に戦力を割くだろうからな」


変わり者「まあ、しょうがないね」


エリート「そうでないことを祈るばかりですわね」


魔導士「おう、お前も冷静さを取り戻したみたいだな。いい傾向だ」


エリート「あ、あの時は我ながらどうかしてましたわ。今はもう大丈夫、なにも問題ないですわ」


魔導士「そうか、頼りにしてるぞ。よし、地形の把握ももう十分だろう。行くぞ!」
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/05(日) 06:04:05.22 ID:jFp6dGI30

今日はここまで。

前回の投下と間が開いてしまった。待っててくれた人もいたようで申し訳ない
ちょっとリアルが忙しかったのです

で、ここに来れない間にちょっと書き溜めておいたから
明日また来ます。

では
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/05(日) 08:13:38.28 ID:CKO+BHXmo
>>1
おかえり
208 :!ninja [sage]:2011/06/05(日) 08:47:16.79 ID:+ZBGOHWgo
相変わらず凄い時間に乙!
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/05(日) 23:02:23.61 ID:jFp6dGI30

>>208
今日は早めに来たぞww




計画開始から二時間後。
狭いけもの道を進む一行。


エリート「……来ましたわ。正面から三体」


魔導士「三体か。残りの一体は確認出来るか?」


変わり者「僕の探知範囲には残りの一体はいないみたいだね」


助手「同じく、です」


魔導士「近くにはいない、か。悪くないパターン……チャンスだな。よし、突撃だ!」
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/05(日) 23:10:22.24 ID:jFp6dGI30

――回想、三時間前


魔導士「まず基本的にはこちら四人で魔物一体を集中攻撃。これを四回繰り返す」


変わり者「どうやって?僕らが攻撃してる間、他の三体が大人しくしてるはずないよ?」


魔導士「そこで、なるべく狭い獣道を移動する。向こうも獣道の上を移動してる筈だから、
    こうすれば相手をするのは先頭の一体だけになる」


助手「確かにそうですね。でも、四体がまとまって行動しているとは限りませんよ?」


魔導士「願ったり叶ったりだな。そのときは普通に各個撃破すればいい」


エリート「魔物が獣道を通ってなかった場合は?私たちのいる道の外側から襲われたり、囲まれるかも知れませんわ」


魔導士「なるべくそうならないようにする。が、その時は獣道の上を走って逃げる」


変わり者「魔物から走って逃げられるのかい?」


魔導士「けもの道を通らないなら、体の大きい魔物連中はあまり速く移動できない筈だ。
    追いつきたければ獣道に入るしかない」
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/05(日) 23:18:10.35 ID:jFp6dGI30

変わり者「ふうん。おびき出すわけか」


魔導士「その通りだ。けもの道に先回りされて進路をふさがれる場合もあるが、
    一体くらいなら四人全員でありったけの魔法をぶつければ、簡単に突破できるはずだ」


助手「じゃあ、想定できる内の最悪のパターンは?」


魔導士「そうだな……獣道の上で前後から二体ずつに挟まれるパターンかな。突破も逃げるのも難しい」


助手「その場合はどうするんですか?森に逃げ込むんですか?」


魔導士「本当に最悪の場合はそうだな。可能なら前後どちらかを突破して回り込みたい」


助手「どうしてですか?」


魔導士「森の中の移動しにくい場所に入ったら危険だ。正面の一体だけを相手にする状況にして攻撃するか、
    向こうは移動し難くこちらは移動しやすいという状況を作って逃げるか」


助手「なるほど。でも場合によっては正面を相手しているうちに獣道を外れて、
   逃げられたり背後にまわられたりして、例の二体ずつに挟まれる形になったりしませんか?」


魔導士「じゃあ、向こうが獣道を外れる前にこっちから近づいて、魔物の両脇に結界を張って逃がさないようにしよう」
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/05(日) 23:24:04.40 ID:jFp6dGI30

エリート「だったら、なるべく早く敵の位置を探らないといけませんわね。
     広範囲に探知魔法を使いますの?」


魔導士「そうだな。四人で範囲を分担して広範囲を探知する」


エリート「具体的には?」


魔導士「獣道の上の細長い範囲を探知するのが一人。道の外の両脇を残りの三人、だな」


エリート「では、私がけもの道の上を担当しますわ。細長く探知魔法を展開するのは複雑な操作が必要ですわ。
     そのような魔力の操作はお任せなさい」


魔導士「うん。精度は低くていいから、とにかく長い範囲で道の上を動くものを探知してくれ」


エリート「わかりましたわ」


魔導士「道の外は遮蔽物が多くて探知可能範囲が狭くなる。
    魔力の大きい変わり者が一人で右側、俺と助手で左側を担当する。これでどうだ?」


変わり者「うん、いいと思うよ」


助手「頑張ります」


魔導士「よし、じゃあ魔物との遭遇パターン別に細かいところを詰めるぞ。
    いくつかのパターンは今やったから、まずは……」


――回想終了
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/05(日) 23:26:35.13 ID:jFp6dGI30

魔導士「全員、走れ!全力でだぞ!」


狼たちはじわじわと距離を詰めるつもりだったのだろう。
こちらに走って来る四人に対応が遅れたようだった。


魔導士「打ち合わせ通り、俺がひるませる!エリートと助手は結界を張れ!」


エリート「お任せなさい」


助手「はい!」


短い掛け声とともにエリートが緑の障壁を魔物の両側に展開した。
短めの詠唱を終えた助手も、続いて両側に結界を張る。


魔導士「多重魔法"光球連打"!」


素早く八つの魔方陣を展開し、かわるがわる魔力を流し込んで光球を打ち出す。そして同時に新しい魔方陣を展開し続ける。
一度使った魔方陣は効力を失って消滅するため、普通は新しく魔方陣を張りなおすのだが、これにはその際の時間のロスがない。


放たれた光球は雨のように先頭の狼に降り注ぐ。
たまらず犬のそれにも似た悲鳴を上げる。
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/05(日) 23:29:12.96 ID:jFp6dGI30

魔導士「全員、走れ!」


狼たちはじわじわと距離を詰めるつもりだったのだろう。
こちらに走って来る四人に対応が遅れたようだった。


魔導士「打ち合わせ通り、俺がひるませる!エリートと助手は結界を張れ!」


エリート「お任せなさい」


助手「はい!」


短い掛け声とともにエリートが緑の障壁を魔物の両側に展開した。
短めの詠唱を終えた助手も、続いて両側に結界を張る。


魔導士「多重魔法"光球連打"!」


素早く八つの魔方陣を展開し、かわるがわる魔力を流し込んで光球を打ち出す。そして同時に新しい魔方陣を展開し続ける。
一度使った魔方陣は効力を失って消滅するため、普通は新しく魔方陣を張りなおすが、この魔法にはその際の時間のロスがない。


放たれた光球は雨のように先頭の狼に降り注ぐ。
たまらず犬のそれにも似た悲鳴を上げる。
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/05(日) 23:34:55.10 ID:jFp6dGI30

変わり者「では、止めは僕が」


魔導士が稼いだ時間を使って、大きな魔方陣を展開する。
慌てて魔導士がくぎを刺す。


魔導士「おい、加減しろよ?木を倒して森が開けたら空から襲われるぞ!」


変わり者「わかってる、よっ!」ビシュッ


答えながら右腕を振りおろす。
放たれた大きな光球は轟音を立てながら敵に迫り、そして直撃。

先頭の狼が崩れ落ちるように倒れた。


魔導士「よし!残り二体だ!一気に行くぞ!」


変わり者「了解!」
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/05(日) 23:41:51.85 ID:jFp6dGI30

魔物の戦力が想定よりも低かったことも要因の一つだが、
ものの数十秒で最初の一体を倒してしまってからは、一方的な展開だった。

二体目は森へと逃れようとしたが、結界に阻まれているうちに魔法の直撃を受けた。
三体目も戦意を喪失して逃げだそうとしたが、魔導士と変わり者はそれを許さず追撃を加えた。

追撃の最中に変わり者が転倒したことや、追いつめられた三体目から魔導士が引っ掻かれた事を含めても、
被害はゼロと言ってよかった。


エリート「や、やりましたわ!」


魔導士「ふう。いまくいったか。いってて。引っ掻かれちまったか」


変わり者「大丈夫かい?」


魔導士「うん、問題ない。お前こそ思いっきりずっこけてたけど大丈夫か?」


変わり者「ああ。ちょっと恥ずかしい思いをしただけさ」


助手「とりあえずほとんど怪我がなくてよかったです。でも、まだ後一体。油断はできませんね」


魔導士「うん。使い魔からの連絡にあった、大きな一体がまだどこかに居るはずだ。全員いますぐ探知魔法を張りなおせ」
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/05(日) 23:46:07.25 ID:jFp6dGI30

変わり者「了解。さて、と。この魔物たちはまだ生きてるみたいだね」


魔導士「だな。瀕死だが息はある。やっぱり魔物は普通の生き物より頑丈なんだな」


言いながら魔導士は、腰の剣を引き抜く。


変わり者「止めをさすんだね。じゃあ、こっちは僕が」


変わり者を同様に剣を抜く。


エリート「……まあ、生かしておくわけにはいきませんわよね」


変わり者「ここで生き延びた魔物が、この先どこかで被害を出さないとも限らないからね」


助手「……そうしなきゃいけないってわかってても、やっぱり可哀想ですね」


エリート「そうしなきゃいけないってわかるだけでも上等ですわ」
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/05(日) 23:51:46.67 ID:jFp6dGI30

魔導士が剣を振り上げたまさにその時。
最後の力を振り絞って、狼たちが遠吠えを始めたのだった。


ウォォオオオオオオオオン


魔導士「な、なんだ?」


変わり者「遠吠え?どうしてこんなタイミングで?」


遠吠えが止んだ時、魔法使いたちがよく知る"ある感覚"が周囲を包みこむ。


エリート「っ!?」


助手「この感覚は…」


魔導士「魔力が動いてる…?なんだ、何が起きた?」


エリート「魔法ですわ!今の遠吠え、あれが何らかの魔法を発動させたんですわ!」


助手「魔物が魔法を?」


変わり者「この感覚だと強化系の魔法だね。一体何を強化したっていうんだ?」


魔導士「こいつら、死んでるな。自分の肉体を強化したわけではないのか」


その時、再び遠吠え。
それは遠吠えと呼ぶにはあまりにも大きいものだった。衝撃波と言ってもいいほどの空気の振動が四人を包む。
しつこく彼らの上空を飛んでいた八体の魔物たちも、蜘蛛の子を散らしたように逃げて行った。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/05(日) 23:56:16.30 ID:jFp6dGI30

今回はここまで

次回がいつになるかはわからないけど
なるべく近いうちに投下しに来ます

では
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/06(月) 00:46:10.60 ID:E5pKkiOHo
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/06(月) 01:31:27.22 ID:oSRJx+Czo

ボス戦か
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/06(月) 07:02:41.06 ID:FHAHDE1qo
乙!
早いと早いでびっくりするなwwww
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/06(月) 13:00:25.31 ID:v6r8A7kYo
乙した
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/08(水) 23:16:50.05 ID:jfUsWDeC0

衝撃が過ぎ去ったあと、よろけながら四人は立ち上がった。


エリート「今のは、まさか……」


魔導士「間違いなく残りの一体だな。こいつら、死ぬ間際に自分たちのボスに強化魔法をかけたんだろう」


変わり者「ふむ。興味深いね。魔界の生き物ともなれば、普通に魔法が使えるのかな?」


助手「あいたたた。それで、どうするんですか?」


魔導士「とりあえず場所を移すぞ!急げ、多分ここの位置は最初の遠吠えでばれてる」


助手「じゃあいっそ、ここで迎え撃てばいいんじゃないですか?」


魔導士「いや、今の戦闘で結構魔力を使った。連続の戦闘は危険だ」


変わり者「そうだね。それに向こうには命がけの強化魔法が三重に掛かってるんだ。
     僕も出来れば相手にしたくない」


助手「わかりました。じゃあ、早く行きましょう!どこに移動するんですか?」


魔導士「敵はあと一体。もう獣道に居る意味もないし、どこでもいいだろう。重要なのはこの場を離れることだ」
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/08(水) 23:20:12.42 ID:jfUsWDeC0

四人は獣道を通って距離をとる。
最後の狼は、ゆっくりと仲間たちの亡骸のある方へ移動を始めた。

走りながら変わり者が言う。


変わり者「後は助けが来るまで逃げ続けるのかな?」


助手「もう鳥の魔物もいなくなりましたし、このまま森の外に走ればいいんじゃないですか?」


魔導士「いや、森の外だと隠れる場所がない。万が一、奴に見つかったら逃げ切れないぞ」


助手「ああ、そっか。じゃあ、やっぱり逃げ続けるしか?」


エリート「魔力が回復するまで逃げて、飛行魔法で森の外に逃げる、というのは?」


魔導士「なるほど、空か。まあまずは、とにかく……」


ズズ…ン


助手「あ、あれって……」
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/08(水) 23:22:18.02 ID:jfUsWDeC0

獣道を小走りで移動する一行は、遠くから大きな何か音を聞いた。
その方向を見た四人の目に巨大な影がうつる。


助手「た、探知魔法は必要なさそうですね」


エリート「……ええ。あの大きさなら離れた位置に居ても肉眼で確認出来ますわ」


魔導士「あんなところに居るってことは、もともと鬼ごっこには参加してなかったみたいだな」


変わり者「使い魔君の連絡によるとあんなに大きくはなかった筈だよね?
     強化魔法っていうより、巨大化魔法かな、あれは」


魔導士「はは、笑うしかないな。空に逃げても高度や距離によっては捕まるんじゃないのか?」


エリート「と、とりあえず、もう探知魔法は切りましょうか」


魔導士「そうだな。仮にあれ以外の魔物がいたとしても、もう逃げ出してる頃だろうし探知魔法はもう必要ない。
    ここは魔力を温存しよう」


エリート「他の魔物……実際に鳥たちは一目散に逃げて行きましたわね」
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/08(水) 23:24:23.67 ID:jfUsWDeC0

魔導士「うん。魔物の増加という最大の不安要素がなくなったのは、まあ良しとしよう。
    よし、一度このあたりに隠れよう。作戦タイムだ」


四人は、これからどうするか、その方針を決めかねていた。
結局、ひとまず身を隠して全員で話し合うことにしたのだった。


魔導士「さっき言いかけてたんだが、逃げるにしても戦うにしても、とにかく体力と魔力の回復が必須だ」


エリート「ええ。しかし、この状況でゆっくり休めるとは思えませんわ」


助手「それにのんびり話してる時間もありません。今はゆっくり遠吠えのあった位置を目指してるみたいですが、
   いつこちらの匂いを嗅ぎつけるとも限りませんよ」


変わり者「でも、今の状況であれと対峙しても、逃げることも戦うことも出来ないのは間違いないよ」


魔導士「となると、まずはなんとか見つからないようにしないといけないのか?」


エリート「そうなりますわね」


変わり者「でも、どうやって?」


助手「難しい問題ですね。やっぱり相手は鼻も頭もいいでしょうし」
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/08(水) 23:30:49.62 ID:jfUsWDeC0

しばらく考えていた魔導士が言う。


魔導士「よし、俺が何とかしてみよう」


助手「とりあえず、どうするのか話して下さい。でも、無茶な行動だったら止めますよ?」


魔導士「うん、大丈夫。別に無茶じゃないとも。ただ、魔法で雨を降らせるだけだ。簡単だろ?」


エリート「雨を?どうしてですの?」


魔導士「昔、本で読んだんだが、雨が降ると匂いが消えて鼻が利かなくなるらしい。
    匂いを消して隠れていれば、魔力を回復させる事が出来るはずだ」


変わり者「ふむ。それで?回復した魔力でどうするんだい?」


魔導士「飛行魔法で逃げよう。これなら魔力の回復さえ待てばいい。体力と魔力の回復が必須だと言ったが、
    この場合体力の回復は諦めることになる。まだ少し冷える季節だから、雨で体力を消耗してしまうし」


変わり者「要するに時間を稼ぐ訳か。魔力は他の要素に関係なく、時間経過だけで回復するからね。良いと思うよ」
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/08(水) 23:35:11.41 ID:jfUsWDeC0

エリート「この状況じゃ、ゆっくり休んで体力回復なんて無理ですわ。私も反対意見はありません」


助手「じゃあ、少しづつ交代で雨魔法を使って……」


助手の話に魔導士が口を挟む。


魔導士「こらこら。俺が何とかしよう、って言ったろ」


助手「え?」


魔導士「雨を降らすのは俺に任せろ」


エリート「何言ってますの?あなた、さっきの戦闘で結構魔力を使ったでしょう」


魔導士は答える前に魔方陣を展開し、詠唱を経て魔法を完成させる。
周囲一帯に雨が降り始めた。


魔導士「お前と助手も結構消費したろ?最大強度の結界を張ってもらったからな。
    ここは俺が適任だ。俺は魔力量が多いから」


変わり者「じゃあ、僕も交代で手伝うよ。僕だって魔力量は多いし」
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/08(水) 23:38:47.31 ID:jfUsWDeC0

魔導士「待て、お前はもし奴と戦闘になったとき戦えないと困る。余計な消費は避けて欲しい」


助手「でしたら、魔導士さんも休んでください。
   戦闘できそうなのは、変わり者さんと魔導士さんだけですし」


魔導士「いや、実戦で使えそうなのはさっきやった魔法くらいだが、多分あいつには通じない。
    あれは所詮、初級魔法を連発するだけだからな」


助手「え?でもさっきは、」


魔導士「あれとはサイズが違いすぎる。もっと強い魔法なら通じるだろうが、俺は中級魔法程度しか使えない。
    それも使い慣れてないから実戦では役に立たないんだ。発動時間も精度も威力も、話にならない」


助手「でも私は戦闘はほとんどこなせませんし、魔力を温存しても意味ないです。
   だから、やっぱり私も交代で手伝います」


魔導士「意味ならあるぞ。その温存した魔力で空を飛ばなきゃいけないんだから。
    お前は特に飛行魔法は使い慣れてないし」


エリート「ですが、やっぱりあなたも休まないといけないでしょう?魔力を使いすぎると、
     急速に体力を失って動けなくなりますわ」


魔導士「その時の為に、お前にも魔力を温存してもらう。
    俺が動けなくなったら、お前と変わり者と二人で俺を連れて飛んでほしい」
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/08(水) 23:41:47.90 ID:jfUsWDeC0

変わり者「なるほどね。それで、いざというときは自分を置いて逃げろ、というわけだね」


助手「な、何言ってるんですか?」


助手は、思わず大きな声をあげる。
笑いながら少しだけ悔しそうな顔をして、魔導士が言う。


魔導士「お見通しだったか。まあ、最悪の場合はそういうことだ。察しが良くて助かるよ」


助手「ぜ、絶対ダメです!」


魔導士「大丈夫だって。そうならないように皆に魔力を温存しておいてもらうんだから。
    あくまで本当に最悪な場合に備えて、だ」


変わり者「しっかり魔力が回復してれば、一人抱えて飛ぶくらいは簡単だよ。まあ、任せておいて」


助手「……本当に大丈夫なんですか?」


魔導士「大丈夫だって。もちろん確実に、とは言えないけどな」


エリート「わかりましたわ。ただし、限界だと思ったら張り倒してでも交代しますからね。
     あなたもそれでいいですわね」
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/08(水) 23:44:47.01 ID:jfUsWDeC0

助手「……はい。でも、本当にもう駄目だと思ったら、」


魔導士「わかったってば。まあ、その時は頼むよ」


まだ納得していない様子の助手。
他の二人がよそ見している間に、こっそり変わり者が魔導士に話しかける。


変わり者「本音は、女性陣を優先的に休ませたい、ってところかな?」


魔導士「何言ってるんだ、お前は。ただ、こうするのがベストだと判断した。ただそれだけだ」


変わり者「ああ、そうかい。じゃあそういうことにしておくよ」


魔導士「そうしろ」
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/08(水) 23:47:12.87 ID:jfUsWDeC0

それから数時間、彼らは雨の中で移動と休憩を繰り返した。
今はもう敵は単体、見つからないことを重視して、あえて獣道を外れ、木の密集している場所の中を進む。


ザァアアアア


魔導士「はあ、やっぱり雨が降ると冷えるな。寒い」


休憩していた変わり者が、魔導士に話しかける。


変わり者「それで、どんな調子だい?」


魔導士「魔力、体力共に問題はない。今のところはな。ただ……」


変わり者「ただ?」


魔導士「奴との距離が少しづつ近くなってる。俺たちが雨の中にいるのに気づいたらしい」


変わり者「大丈夫なのかい?」


魔導士「今は移動しながら雨を降らす範囲を増減させて、こっちの位置を誤魔化してる」
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/08(水) 23:54:13.11 ID:jfUsWDeC0

変わり者「ごまかしが効かなくなったら?」


魔導士「これは攻撃魔法と違って燃費がいいから、いざとなったら俺でも森全体に降らすことが出来る。
    それで何とかなるだろ。今はまだ、俺も温存しておきたい」


変わり者「そうか。そういえばさっき見てて思ったけど、雨魔法はかなり使い慣れてるみたいだね」


魔導士「ああ、この魔法、お気に入りなんだ。ほら、"雨の論文事件"って覚えてるか?あれ、俺が犯人なんだ」


変わり者「はは。あれ、君だったのか。窓あけるたびに雨で論文がだめになるって、お偉方がカンカンだったよ?」


魔導士「まあ、かわいらしい悪戯だ」


変わり者「見てる分にはね」


魔導士「だろ?……ん?おい!あれ!」


変わり者「あれは……こっちに走って来てる?」


魔導士「早く二人に知らせろ!逃げるぞ!」
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/08(水) 23:57:27.01 ID:jfUsWDeC0

狼は、雨の中心に一行がいると推測し、彼らめがけてまっすぐに走って来たのだった。



大狼「グルルルル……」



魔導士「走れ!早く!」


変わり者「まったく、こんなことなら日頃から運動しておくんだったよ」


エリート「そんなこと言ってる場合じゃありませんわよ!」


助手「こ、このままじゃ、追いつかれますよ!」


この狼は、その高い知能をもって、いろんな方向から近づいたり、逆に離れてみたりなどして、
雨の降る範囲の変化を観察し続け、遂には彼らの居場所を突き止めたのだった。


四人は、もちろん魔物から逃げるのだが、
木々をなぎ倒しながら迫る魔物から簡単に逃げられるはずがなかった。

こうして、現在へと場面が戻る。
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/09(木) 00:06:33.77 ID:9X+d376U0

魔導士「こっちだ!急げ!」


助手「はぁっ、はあっ」


エリート「も、もう走れませんわ」


変わり者「参ったね。そろそろ限界みたいだよ」


魔導士「……このあたりで迎え撃つしかないな」


変わり者「そうみたいだね。助けを呼びに行った使い魔君は間に合わなかったか」


魔導士「なんとか飛行魔法で逃げれないかな?」


変わり者「かなり無茶だね。この距離だと飛んでも捕まるよ」


息を切らしながら、エリートと助手が言う。


エリート「もう戦うしかありませんわね」


助手「私も……私に出来ることをやってみます」


残りの二人も臨戦態勢に入る。


変わり者「さて、僕も全力で行くよ。今回はふざけてる余裕はなさそうだ」


魔導士「まったく、頼もしい連中だ。俺だけサボるわけにはいかないな」


迎え撃つ彼らに、遂に魔物が追いついた。
魔物は獲物を追い詰めるのを楽しむように、ゆっくりと距離を詰めてくる。

こうして、この巨大な魔物と四人は対峙することとなったのだった。
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/09(木) 00:13:37.15 ID:9X+d376U0

今日はここまで。

予定ではもう次の展開に入ってる筈だったんだけど
書いてたら長くなってしまった

次回の投下はいつも通り未定
時間はこのくらいか、あの時間帯かどっちかなんで
思いついた時にでも目を通していただければ

では
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/06/09(木) 00:35:34.83 ID:ukPQHeL70
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 06:53:08.33 ID:pGZpa8Mmo
乙!
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 09:00:09.00 ID:Ke94egP4o
乙!
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/09(木) 13:09:01.69 ID:9ZflzAM9o
ああん、いいとこで


乙した
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 18:30:37.27 ID:Evm98k0Ko
乙〜
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/14(火) 00:24:05.06 ID:uQApeAao0

大狼「グルルル……」


狼は木々の間を縫って、弧を描くように獲物の周囲をゆっくり移動する。
決してすぐに飛びかかることはしない。その視線は、最も弱った獲物を見極めようと鋭く光っている。

重く、へばりつくような不快な空気が四人を包む。


助手「やっぱり大きいですね……。あの前足、熊の何倍の太さでしょうか?」


エリート「戦うとはいっても……こんなの、一体どうやったら倒せますの?」


魔導士「まずはやってみよう。駄目だったらその時考えるさ。研究にしたってトライ&エラーが基本だろ?」


変わり者「そうだね。案外、さっきの三体みたいにすんなり倒せるかもしれないしね」


エリート「今回はたった一回のエラーが命に関わりますわ。すこし慎重になりませんと」


軽口をたたいても、重い空気は解消されない。
お互いにらみ合いを続けるそんな中、最初に動いたのはこの男だった。


変わり者「……水魔法 "水鞭" 」


雨で湿った空気から水分を集め、鞭の形にして操作する。
素早い魔方陣の展開から、発声をきっかけとして発動されたそれは、ゆっくりと移動を続けていた狼の右の前足に絡みつく。
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/14(火) 00:28:30.87 ID:uQApeAao0

魔導士「いいぞ!おまけだ!」


簡単な氷結魔法で絡みついた水を補強。
さらに追撃するべく、複数の魔方陣を展開し発動した。


魔導士「多重魔法 "光球連打" 」


大狼「ゴアアア!」ブンッ


魔導士「ッ!」


エリート「危ないっ!」


狼は氷の枷をいとも容易く破壊し、魔導士に襲いかかる。
向かってくる無数の光球をものともせず、その巨大な前足が振るわれた。


ガキィン!


直撃するかと思われたその攻撃を、エリートがとっさに張った障壁で弾く。
魔導士の命を救ったその障壁は、その一撃で音を立てて崩れてしまった。


魔導士「サンキュー。助かった」


エリート「どういたしまして。しかし、恐ろしいですわね。一撃で結界が粉々ですわ。かなり強めに張りましたのに」


変わり者「拘束もあの程度じゃ通じないね。少しくらいはは時間が稼げると思ったんだけどな」


助手「き、来ますっ!」
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/14(火) 00:35:15.05 ID:uQApeAao0

四人を一直線上にとらえての突進。
エリートと変わり者は右、助手と魔導士は左へとそれぞれ走る。

狼は助手と魔導士を追うように軌道を変えた。


魔導士「だめだ、間に合わん!助手!飛べっ!」ドンッ


助手「え?きゃっ!?」


ズザザザザッ


助手「……いったたた。ひどいですっ!いきなり突き飛ばすなんて!」


魔導士「ふう、間一髪だったな。悪かったって。緊急事態だ、怒るな」


魔導士は素早く起き上がり、
文句を言う助手をなだめながら状況を確認する。


魔導士「しまったな、分断された。二人はどこだ?」


助手「魔物の姿も見えません!私たちを追いかけて来た筈なのに」


魔導士「俺たちを通り過ぎて、そのまま走って行ったみたいだな」
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/14(火) 00:38:03.94 ID:uQApeAao0

助手「あっ!あれ、見て下さいっ」


魔導士「エリートと変わり者……。二人とも無事みたいだな。おーい!」


助手「エリートさんが足を怪我してるみたいですね。とにかく、早く合流しましょう」


魔導士「……あれは…」


助手「魔物!?いつの間にあっちに?」


魔物は助手と魔導士を一旦通り過ぎた後、大回りしてエリートと変わり者のもとへ向かったのだった。
足を怪我した、すなわち弱った獲物を狙って。


魔導士「くそっ!こっちに気を引くぞ!」


助手「はいっ!」


魔導士「ダメージは見込めないが…… "光球連打" !」


助手「行きますっ!初級風魔法 "風刃"っ 」


魔導士「だめだ!効いてない!」


助手「もっとです!もっと攻撃しましょう!とにかくこっちに気を引かないと」


魔導士「うん、わかってる……うっ!?……」ガクッ


助手「魔導士さん?大丈夫ですか?魔導士さんっ!?」


魔導士「……こんなときに魔力切れか……目が…かすむ」
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/14(火) 00:41:27.76 ID:uQApeAao0

一方、二人の魔法など意に介さず、獲物を狙って前足を振り上げた狼。
視線の先には、怪我をした獲物とそれを助けようとする愚かな獲物。


変わり者「早く起きるんだ!逃げないと!」


エリート「駄目ですわ。起きたところで走れそうにありません」


大狼「グオオオオ!」ブンッ


変わり者「くっ!」ブゥゥン


ガキィィィン!


変わり者「いいから立つんだ。ほら、肩を貸すから」


エリート「……ええ」


大狼「……?」ピタ


エリート「止まった?どうしましたの?」


変わり者「っ!そういうことか!まずい!」


狼か向きを変える。
身動きのとれなくなった魔導士が新たな標的となったのだ。
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/14(火) 00:45:19.65 ID:uQApeAao0

大狼「グガアアアア!」ダッ


変わり者「待て!」


エリート「駄目ですわ!もう攻撃魔法が間に合いません!」


向かってくる魔物をまっすぐに見る助手。
気配を感じた魔導士も、何とか立ち上がって臨戦態勢をとる。


助手「こっちに走ってきますよ!」


魔導士「……どこだ…よく見えない」


助手「あっちです。正面」


魔導士「くっ!」ガクッ


助手「だ、大丈夫ですか?」


魔導士「…大丈夫だ。……なんともない」


助手「なんとかしないと……私が…なんとか」


大狼「グオオオ!」ブン


魔導士「っ!」ブゥゥン


助手「はぁっ!」ブゥゥン


魔導士が広範囲に薄く張った結界と、助手の高強度の結界。
二人でかろうじて攻撃をしのぐ。
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/14(火) 00:47:57.65 ID:uQApeAao0

魔導士「はあっ、はあっ。このままじゃジリ貧だな」


助手「私が何とかしますから……絶対……」


ブワアアァァァァァァ!


魔導士「な、なんだ?」


助手「大丈夫です。絶対、役に立って見せます」


魔力が膨れ上がる感覚。
突然のことに驚く魔導士を尻目に、助手は素早く複数の魔方陣を展開する。


助手「確か……こんな感じ…。多重魔法 "光球連打"っ!」


ドガガガガガガ!


大狼「…グ…ガ……ガアッ…」


魔導士「……お前がやってるのか?助手……」


あふれるほどの魔力によって放たれた光球は、魔導士のそれよりもはるかに強力だった。
魔物がはじめて怯む様子を見せる。
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/14(火) 00:50:44.94 ID:uQApeAao0

助手「そして……こうやって…。複合魔法 "瞬火"っ!」シュッ


大狼「グゴオオオオっ」ブシュ


エリート「これは?一体何が?」


変わり者「助手くんがやってるのか?彼女の特異性が発揮されているみたいだけど」


光の球の合間に、すばやく魔方陣を模した形の炎を打ち込む。
威力は高くなかったが、その魔法は正確に魔物の左目を射抜く。


助手「後は……そう、多分こう……」


魔導士「何するつもりだ?」


変わり者「あれは……」


エリート「そんな、あんなこと……」


助手の合図で光の球が軌道を変える。
魔物に向かう直線から、魔物を囲う円の動きへ。そしてその軌道が擬似的に魔方陣を作り出す。
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/14(火) 00:54:30.37 ID:uQApeAao0

助手「連鎖魔法・神術 "招雷"っ!」


カッ!

ズドドドォォォン!


上下の動きが強調された魔法、神術。
神の怒りを表現した雷が上空から魔物に落ちる。


変わり者「す、すごい……」


エリート「こんなの……私たちでも出来ませんわよ…」


合流しようとしていた変わり者とエリートは、
二人に駆け寄りながら言った。


魔導士「倒した、のか?」


助手「うっ」ドサッ


魔導士「お、おい?」


助手「ちょっと魔力を使いすぎちゃったみたいです。疲れちゃいました」
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/14(火) 00:57:45.41 ID:uQApeAao0

合流してきた二人が言う。


変わり者「大丈夫かい?」


エリート「怪我はありませんの?」


魔導士「俺は魔力切れで倒れただけだ。助手も…まあ似たようなもんだと思う」


変わり者「そうか。なら一安心だね。それにしても、さっきのは凄かったね」


助手「火事場の馬鹿力ってやつですよ。あんなの、もう一生出来ません」


エリート「それはそうかもしれませんわね。むしろ毎日のようにやられたら困りますわ」


魔導士「ともあれ、今度こそ助けを待つだけか?」


変わり者「もう何もないといいけどね」


エリート「嫌なこと言わないで下さいまし……」
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/14(火) 01:03:44.24 ID:cWFwrmn2o
結局特異性はなんでしょね
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/14(火) 01:05:00.31 ID:uQApeAao0

大狼「………」ピク


助手「え?」


大狼「グ……ガアアアア!」ガバッ


魔導士「くっ!」


変わり者「生きていたのか!」


エリート「よ、余計なこと言うからですわ!」



……ズバッ!



大狼「ガ……アァ…ア……」


ドシャァァ!


助手「え?」


変わり者「……?」


エリート「何ですの?」


魔導士「はあ、間に合ったか……」
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/14(火) 01:08:17.57 ID:uQApeAao0

大きな影が飛び込んできたかと思えば、あっという間に魔物を両断してしまった。
あっけにとられる三人。そして、一人胸をなでおろす魔導士。

振り返った影が言う。


養父「よう!元気にしてたか?息子よ」


魔導士「まあ、ぼちぼちだな」


養父「まったく、なってねえな。戦場ではとどめは確実にさせって教えたろうが」


魔導士「……う、そうだったな…」


影の正体は魔導士の養父。
身長二メートル近い白髪混じりの大男。
弱っていたとはいえ、巨大な魔物をたった一振りで倒してしまった。

ともあれ、こうして彼らは生きて森を出ることになったのだった。
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/14(火) 01:15:37.86 ID:uQApeAao0

今日はここまで!

さて、次回の投下ですが今週はちょっと忙しくなりそうっす。
可能であればちょくちょく短めに投下しますんで。
だいたい一週間後までくらいには何かしら投下する予定です

では
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/14(火) 01:32:23.16 ID:cWFwrmn2o
把握
乙でした
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/14(火) 03:44:52.34 ID:KmmrYed4o
乙!
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/14(火) 22:58:05.10 ID:A7SM5lmLo
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/15(水) 01:26:50.10 ID:OHXuwbvpo
乙した
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/15(水) 01:40:37.31 ID:Xwm0x3wHo
こういう覚醒的なアツい展開は大好物だわ
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/15(水) 10:06:38.15 ID:qdFjhv4oo
乙!
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/06/15(水) 23:37:00.75 ID:JW+uhojm0
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/22(水) 00:24:35.77 ID:N6Ve05gx0

魔導士「やれやれ。それにしても思ったより遅かったな。何かあったのか?」


養父「しょうがねえだろ。この森に向かって魔物の大群が行進してたんだぜ?
   流石の俺たちも全部切り倒すのは骨が折れたぞ」


助手「大群が?」


養父「おうよ。もっとも、途中から何かから逃げるように逆向きに移動してたがな」


魔導士「ああ、それは多分この狼のせいだろうな。そうだ、使い魔は無事なのか?」


養父「おう、無事だぞ。かなり無茶したみたいだがな。今は俺の屋敷で休んでる」


魔導士「そっか、無事か。戻ったら礼を言わないとな」


養父「ああ、そうしてやれ。……さて、うん、四人全員居るみてえだな。おお、見知った顔もいるじゃねえか」


動揺の表情を見せながら、
変わり者が言う。


変わり者「お、お久しぶりです」
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/22(水) 00:29:21.50 ID:N6Ve05gx0

魔導士「ん?ああ、そういやこの間会ったって言ってたな」


養父「おう。こいつはなかなかの剣士だったぞ。
   魔法使いってのは、剣を握ったこともねえ奴ばっかりだと思ってたがな」


変わり者「君の養父の軍人ってこの方だったのかい?」


魔導士「あれ、言わなかったっけ?」


養父「まあ、話は後にしようや。さっさと帰ってうまい飯でも食いたいね。ほれ、行くぞ」


助手「そ、そうしたいのは山々なんですが……」


魔導士「魔力の使い過ぎで動けない。指一本動かすのもしんどい」


エリート「私も足を怪我してまして……。今は魔法で痛み止めして誤魔化してますが……」


養父「はあーっ、情けねえな。おーい、副官!こっちに何人か人よこしてくれ!」


副官「そんなに大声出さなくても聞こえてますよ、閣下」


養父「おお、そこに居たか」


すらりとした黒髪の女性が姿を現す。
今まで体の大きな養父の陰に隠れて見えなかったのだ。
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/22(水) 00:33:38.99 ID:N6Ve05gx0

副官「それで、この方たちを運べばよろしいんですね?」


養父「ああ、そういうことだ」


副官「すぐに手配します。さて、お久しぶりですね、中尉」


魔導士「……お、お久しぶりです、大佐」


副官「すぐに人が来ますから、もう少しここで待って下さいね。さあ閣下、いいかげんに私たちは外に戻りますよ」


養父「何言ってやがる。誰か残ってないと危ないだろ。こいつらは今、ほとんど何も出来ないんだぞ」


副官「ご安心ください。魔導隊からの報告によればもう魔物はいません。
   この森に余すところなく探知魔法をかけた結果ですから、信頼できる情報ですよ」


エリート「あ、余すところなく?一体どれだけの人数出来ましたの…」


養父「……むう。いいだろ、戻ってやるよ」


副官「そうして下さい。大体魔物が出たとはいえ、遭難者の救助程度にあなた自らが駆けつけるとか何考えてるんですか?」


養父「おいおい、俺は息子の迎えに来ただけだぜ?」
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/22(水) 00:37:31.93 ID:EB2ddapfo
新キャラ来たか
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/22(水) 00:38:31.97 ID:N6Ve05gx0

副官「あくまで個人的な出迎えだ、と?」


養父「おう、そうだ」


副官「だとしたら、その個人的な用事に軍を動かすべきではないですね。立派な職権濫用ですよ」


養父「だって魔物の群れだろ?単体じゃなくてよ。俺一人だったら疲れるじゃねえか」


副官「そういう問題じゃありません。軍を動かすなら然るべき者に任すべきでしたし、
   そもそも魔物の群れ程度、閣下一人で大丈夫じゃないかって話です」


養父「ああ、まあそうだな」


副官「そうだな、じゃありません!今回の件、誰が処理すると思ってるんですか!
   遭難者の救助のために軍のトップが直々に、おまけに森に単騎で突撃した理由をでっち上げなきゃいけないんですよ?」


養父「ああ、まあ適当に俺が居なかったことにして書いとけよ。どうせその報告書、最終的に処理するの俺だし」


副官「そうはいきません。大体閣下はいつも……」


養父「ああもう、小言は後で聞いてやるよ。さ、戻るんだろ?いくぞ」


副官「……わかりました。では後ほど"たっぷりと"」


養父「な、何……?」


ザッ、ザッ、ザッ
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/22(水) 00:43:10.25 ID:N6Ve05gx0

歩いていく二人を見送り、
魔導士がしみじみと言う。


魔導士「はは、変わってないなー」


助手「にぎやかな人ですね、魔導士さんのお父さん」


エリート「あの方があの"将軍"?魔導戦争で有名な、あの?」


変わり者「そうだよ。彼があの英雄さ。まさか魔導士君の養父があの方だとは思わなかったよ」


助手「あの……」


助手が魔導士の裾を引っ張る。
振り返った魔導士に助手が尋ねた。


助手「魔導士さんのお父さんって、どんなことした方なんですか?」


魔導士「そうか、お前は昔のこと良く覚えてないんだったな。親父のこと知らなくても無理ないか」


助手「ごめんなさい……」


魔導士「謝ることないさ。別にお前が悪いわけでもない」
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/22(水) 00:45:16.83 ID:N6Ve05gx0

変わり者「あの人が魔導戦争を終わらせたんだよ。
     普通は将官は全員将軍って呼ばれるけど、この国ではその言葉は主にあの人を指すんだ」


助手「戦争を終わらせた?どうやってですか?」


魔導士「それがもう無茶苦茶だ。常識では考えられん」


変わり者「全世界に対して宣戦布告したんだよ。個人的に」


助手「はあ。え?こ、個人的に!?」


変わり者「そうだよ。こんな馬鹿な争いをまだ続けるなら俺を倒してからにしやがれ、ってね」


魔導士「んでもって、魔法と銃が発達したあの時代に、たった一人で剣一本握ってやりたい放題」


助手「そ、それでどうなったんですか?」


エリート「手っ取り早く言えば、それがきっかけでみんな馬鹿馬鹿しくなって戦争が終わりましたわ」


助手「はあ。なんかあっけない終わり方ですね」


魔導士「まあ、端折るとそうなるな。当時はもう嫌戦ムードだったから、最後のひと押しってところかな」
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/22(水) 00:49:30.58 ID:N6Ve05gx0

変わり者「当時の魔法はまだ制御の技術、今で言う式や魔方陣が発達してなかったんだ。
     だから魔法で戦争するたび、お互いの国土が荒れていた」


魔導士「それを考えると、孤王の結界ってほんとオーバーテクノロジーだよな。どうなってたんだか」


エリート「それで、将軍たった一人を倒すためにあちこちで国土が荒れたらしいですわ」


魔導士「しかもそこまでやっても倒せないんだもんな。そりゃ馬鹿馬鹿しくもなるよな」


助手「いくらなんでもちょっと信じがたい話なんですけど……」


魔導士「俺だって悪い冗談だと思いたい。でも間近で親父が戦ってるとこ見たらな」


変わり者「へえ、うらやましいね。あの人が戦ってるとこ、みたことあるのかい?」


魔導士「うん。といっても訓練だけどな。当時は日常的に人が宙を舞う光景が見れたぞ。親父にぶっ飛ばされてな」


変わり者「人が宙に?僕もこの間、少し稽古つけてもらったけど……かなり手加減されてたんだね」


魔導士「そりゃそうだろ。おっ、迎えが来たみたいだ」


魔導士と助手、痛み止めが切れたエリートの三人は肩を借りて森の外に向かう。
ただ一人普通に歩ける変わり者も後に続き、森の外で馬車に乗り込んだ。
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/06/22(水) 00:56:04.63 ID:N6Ve05gx0

今日はここまでで。
遅くなったうえに短めで申し訳ないですが。

このくらいの長さの投下があと二、三回くらいで新展開に突入する予定です。
が、書いてると予定より長くなることが多いので、あくまで目安として気長にお付き合いいただければと。

次回ですが、リアルの方がひと段落したので割と早めに来れると思います。

では
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/22(水) 02:02:06.07 ID:QrSpg07so
>>1
楽しみに待ってるぜ
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/06/22(水) 02:35:50.77 ID:E+22ku110
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/22(水) 03:28:07.23 ID:v5DdWkDFo
乙したワクワク
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/06/22(水) 21:59:23.02 ID:qzEErBb50
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/23(木) 18:14:05.12 ID:0U7qlOdNo
乙!
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/01(金) 00:25:32.02 ID:WRbcnI3P0

魔導士「俺たちが乗って来た馬車、無事だったんだな」


エリート「荷物もそろってますわね」


養父「お前ら、そろそろ出発するぞ。準備いいか?」


変わり者「ええ、大丈夫です」


副官「御者は閣下が務めます。ぜひ自分がやりたい、と」


魔導士「ああ、サンキュ……いや、ありがとうございます、大佐」


副官「まだ言葉づかいがしっかりしてないようですね、中尉。まあ、いいでしょう。それでは、後ほど」


ザッ、ザッ、ザッ


養父「さあ、行くぞお前ら。この俺に馬をひかせるなんてそうない機会だ。喜べ」


魔導士「はん。親父のことだ、どうせたまにはこんなのもいいか、とか思いついただけだろ?」
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/01(金) 00:28:34.07 ID:WRbcnI3P0

養父「おう、その通りだ。人の心を読む魔法でも教わったか?ええ、中尉?」


魔導士「その呼び方はやめろって」


エリート「そういえば中尉って、あなた軍人でしたの?」


魔導士「うん。魔法技術士官って形だけどな。あの研究所に居るのも超長期の出張って扱いになってる」


養父「軍人なんてやめとけっつったのによ。魔法の勉強なら、別に軍に入らなくても出来るだろうに」


魔導士「そうもいかなかったんだよ、立場的に。俺はお前の息子だからな」


養父「ふん、俺はお前に気をつかわれた訳か?生意気な」


と、まんざらでもなさそうな表情の将軍。

しばらくの間、おのおので他愛のない会話や居眠りをして馬車の上の時間を過ごす。
何がきっかけだったか、思い出したように変わり者が言う。


変わり者「そう言えば将軍の養子のうち一人は、勉強ばっかりで剣を全然振らないって噂を聞いたことがあるね」


魔導士「全然振らなかった訳じゃないけどな。前言ったけど魔法剣士ってのにあこがれてたから、剣の方もほどほどには」
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/01(金) 00:30:30.72 ID:WRbcnI3P0

エリート「そういえば、肝心の剣がからっきしって話してましたわね」


魔導士「む。確かにそんな話したが、からっきしってわけじゃないぞ?」


養父「がはは。お前は剣の才能ねえからなあ。
   ……さて、魔力を使い果たしたとか言ってたから実は心配してたんだが、その様子じゃ平気そうだな」


魔導士「今回の場合は使い果たしたっていうより、急に使いすぎたのがまずかったみたいだな」


助手「私も多分そんな感じですね。もうだんだん調子が戻ってきました」


魔導士「そうか?俺はまだ少し目がかすむかな」


養父「ところで、最近の魔法ってのは凄えんだな。あのでっかい雷、あんな大きな魔物まで倒しちまうんだから」


助手「ああ、あれは火事場の馬鹿力っていうか……」


養父「何?嬢ちゃんがやったのか?こりゃ意外だなあ」


魔導士「そう言う親父は一太刀で切り伏せてたじゃないか。まあ、あれはたまたま特異性が発動したんだよ」
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/01(金) 00:35:49.82 ID:WRbcnI3P0

養父「あん?ああ、特異性か。覚えてるぜ、うん。なんかあの……特殊能力みたいなやつだろ?」


魔導士「そうそう。お前のと違ってこいつのは発動条件が不明だから、運が良かった」


エリート「お前のと?」


魔導士「親父も魔力があるみたいでな。ちゃんと特異性まで確認出来るんだ」


変わり者「へえ。でも閣下が魔法を使うなんて聞いたことないけど」


養父「まあ、そりゃ使った事ねえからな」


魔導士「親父の特異性は、自動で強化魔法と治癒魔法が最高の効率で掛かるんだ。だから戦闘に関してはほぼ無敵」


養父「ほぼ、じゃねえ。無敵だ」


魔導士「いーや、俺がいつか絶対に倒す」


養父「はっ、いつになるやら。剣の鍛錬をしないどころか、魔法も研究とやらばっかりで訓練なんてしてねえくせに」
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/01(金) 00:40:26.03 ID:WRbcnI3P0

魔導士「魔法は学問。一つの知識を身につければ一つ強くなれるんだ。
    剣を振りまわすだけ、魔法を撃ちまくるだけが強くなる手段じゃないのさ」


養父「そうかよ。まあどうせ、お前は知識を身に付けたところで大したことねえレベルなんだろ?」


魔導士「そんなことないぞ。……でもそうだな、強くなっても上には上がいると言っておく」


養父「ふん、そうかよ。だが学ぶだけでなく実践が必要なのは剣も魔法も変わらねえだろ」


魔導士「う。それはそうだが」


養父「それになーにが上には上が、だ。魔法使いの頂点に立つぐらいしないと俺には勝てねえぞ」


魔導士「はあ。そんな簡単に言ってくれるなよ」


しばらく言いあいを続ける二人を見て、
目を細めて助手が言う。


助手「仲がいいんですね。ちょっとうらやましいです」


エリート「…そうでしたわね、確かあなたは……」


助手「はい。私はお父さんの顔も良く覚えてませんから」
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/01(金) 00:42:05.53 ID:WRbcnI3P0

養父「おお、だったら俺の養子に来いよ。嬢ちゃんなら大歓迎だぜ」


魔導士「待て。お前もう増やさなくていいだろ。俺を合わせて既に三人だぞ?」


養父「だってよ、やめとけって言ってんのに三人のうち、二人は軍人になっちまうし」


助手「あはは。考えときます」


魔導士「助手、お前まで……。絶対に駄目だからな」


養父「いいじゃねえか。増えて困るもんでもなし。何が気に食わねえんだ?」


魔導士「そいつが俺の助手だからだ。それも優秀な。お前の養子になんかさせるか」


エリート「あの、何言ってるかわかりませんわよ?」


魔導士「あの"将軍"の養子って立場は結構複雑なんだよ。周囲の目とかな」


変わり者「あの将軍が養子にする人物って言ったら、確かに相当優秀だってイメージ持たれるね。で、それが?」
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/01(金) 00:44:35.89 ID:WRbcnI3P0

魔導士「そんなプレッシャーのかかる環境に助手をやりたくない。俺がそれでどれだけ苦労したか。
    まだこれからこいつには伸びてもらわないと困る」


養父「ほう。随分入れ込んでるじゃねえか」


魔導士「まだ未熟だが、研究分野では伸びしろ込みで俺以上。戦闘技術もお前に匹敵するかもしれないぞ、変わり者?」


変わり者「そうだね。今回の件を見る限り、可能性はあるね」


助手「でも、それはたまたまですよ?」


エリート「あの魔力に関してはたまたまでも、高難度の魔法技術を次々と成功させたのは間違いないですわね」


魔導士「だろ?この才能は手放せない。こいつは俺にとって必要な人材。つまらんことで潰すわけにはいかない」


助手「必要な人材……」


養父「ふむ。そうか?冗談のつもりだったんだが、そこまで力説されるとなあ」


魔導士「う。ま、まあ、そういうことだ」
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/01(金) 00:48:19.28 ID:WRbcnI3P0

養父「がはは、そうかいそうかい。まあ、いいだろ。さあ、そろそろ着くぞ」


変わり者「ほう」


エリート「ここが…」


助手「きれいですねー」


三人の反応を見て、魔導士がつぶやく。


魔導士「ようこそ、森の王都へ」


世界の最も北西に位置する外縁国。
魔導士の出身国であるこの国の王都は、深い森の中にある。
つたの這う外壁と門を抜けた先には、さながら巨大な庭園のような街並みが広がっていた。
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/01(金) 00:59:55.22 ID:WRbcnI3P0

えー、今日はここまでになります。


以下色々と言い訳。
ぐちぐち言い訳してんじゃねーよ、って方はスルーしてください。

ちょっと熱出してしばらく寝込んでました。
熱はもう下がったんですが、書き溜めなどあるはずもなく。

しかし前回、次は割と早く来るとか言っておきながらもうすでに一週間。
書き溜めるまで音沙汰ないのはさすがにまずいと思い、近況報告(?)がてら超短いですが今回の投下となりました。


次こそはなるべく早く来たいと思ってます。

では
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/01(金) 01:09:37.81 ID:TW05Jq1Ro
キテター*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*


無理せずに乙した
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/01(金) 01:30:27.10 ID:5v6wXwNpo
>>1
少なくとも三ヶ月は待てるからいつ来てもイイぜ!
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/01(金) 20:46:05.70 ID:tMgoe25fo
相変わらずの時間だな乙
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/02(土) 07:35:11.88 ID:KPDeyjKHo
なにグチグチ言ってんだこのやろう!
熱がもう下がっただ?バカいってんじゃねぇ!!
何かよくわからない身体にいい物がたくさん入ってる緑とか赤とかそんな色したもんをタップリ食わせて
食わせたら何の味もしねぇお菓子のようなものを1〜3こを口の中にいれて飲み込むまで水攻めにしたあげく
糞熱いのにお前の意識がなくなるまでベッタリとくっついててやる!!
おっと、尻の安全だけは保障するぜ
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/07/02(土) 22:20:18.26 ID:Ykq5+Jxp0

人へった?
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 14:11:36.83 ID:1wIF54V+o
乙!
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:29:44.66 ID:Abk7aDtd0

養父「到着だ。ここが俺の屋敷。良く帰ったな、息子よ。そして客人たち、歓迎するぜ」


副官「お帰りなさい。馬車での移動にしては早かったですね」


魔導士「御者が馬をせかしまくったもので」


養父「がはは。いいじゃねえか、早く着いたんだしよ」


副官「それで、閣下。この後はどうするのですか?」


養父「俺は馬車を置いてから城によって来る。お前はこいつら案内してやってくれ」


副官「私が、ですか?」


養父「おう。しばらくはお前の仕事も少ないし、それにたまには息抜きがいるだろ」


副官「わかりました。それではお言葉に甘えて」


養父「じゃあ、俺は行くぜ。お前らとはまた飯のときにでもゆっくり話すとしよう」


魔導士「ああ、また後で」
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:30:52.95 ID:Abk7aDtd0

将軍を見送った後、振り返った副官が言う。


副官「さてと。改めて自己紹介しようかな。私はこの国の軍人で、階級は大佐。
   血は繋がってないけど将軍の娘、そこの魔導士君の姉ってことになってるよ」



助手「あれ、何かさっきと雰囲気が」


副官「今はプライベートだからね。このあたりの切り替えは君にも徹底してほしいんだけど?」


魔導士「努力はしてるよ。俺はどうもそういうのは苦手なんだよな。根っからの職業軍人ってわけでもないし」


エリート「将軍の娘ってことは、あなたも養子ですの?将軍に実子はいないと聞いてますが」


変わり者「その聞き方はデリカシーがないと思うけど……」


エリート「あっ」


副官「いいよ、今さら気にしないし、その通りだからね。君からは話してくれなかったんだ?」


魔導士「別にわざわざ言うことでもないかなって」


副官「ふうん。さて、とりあえず皆の休んでもらう部屋に案内しようかな。そのあとに一通り屋敷の中を回ろう」
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:32:24.99 ID:Abk7aDtd0

言って向きを変える副官だったが、ふと動きを止めて魔導士に言う。


副官「そうだ。君の使い魔、今は空いてる部屋で寝てるよ。あとで様子を見に行ってあげてね」


魔導士「うん。もちろん」


副官「ああ、それとあんまり皆の相手してる時間がないから、途中から妹に引き継ぐね。
   父さんは息抜きしろって言ってたけど、私はちょっと仕事があるんだ。ごめんね」


魔導士「相変わらず大変そうだな」


副官「主に父さんフォローでね。あの人は色々と型破りだから。君からも何か言っといてよ」


魔導士「わかってるだろ?無駄だ」


魔導士の言葉に、副官はあきらめの表情と小さなため息。


副官「そうなんだよね、ホントに困ったもんだよ。さ、そろそろ行こうか」


そして歩きながら、お互いに自己紹介をすます。
そのまま雑談をしながら、屋敷の中を見て回った。
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:34:09.22 ID:Abk7aDtd0

副官「それで、旅は楽しめたかな?」


魔導士「そこそこかな。魔物に襲われるなんて非日常さえなければなお良し、ってところかな」


副官「ふうん。まあ、生きてるんだしいいんじゃないかな。怪我もないみたいだし」


助手「か、軽いですね」


副官「あはは。父さんと仕事してると色々あるからね。魔物くらいでは驚かなくなっちゃった」


エリート「へえ。色々、ですか。例えばどんなことがありましたの?興味がありますわ」


変わり者「ああ、そうだね。僕も聞いてみたいかな」


副官「うーん。まあ、魔物関係で言えば中型の魔物を父さんが素手で殴って倒したり、とか?」


魔導士「ああ、あれか。俺も聞いたことあるな。ほんと無茶苦茶だよな」


副官「私は目の前で見てたよ。さすがの父さんも、拳が痛いって言ってた」
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:35:49.80 ID:Abk7aDtd0

助手「魔物って素手でも倒せるんですね……」


副官「あんまり大きくない魔物だったからね。真似しちゃだめだよ?」


魔導士「するかよ」


副官「あと魔物繋がりでは……そうそう、昔も魔物の群れが出たことがあるって言ってたっけ」


エリート「それは珍しいですわね。魔物は滅多に群れない筈ですのに」


変わり者「単体でも十分強力だからね。群れる必要がないんじゃないかな」


魔導士「魔物の群れ?俺はそんな話聞いたことないぞ?」


副官「そうなんだ?私も詳しくは聞いてないよ。聞いたのは、私がここに来たばかりの頃、魔物の群れが出たことがあるって程度だね」


魔導士「じゃあ、俺がまだここに来てない頃かな?機会があったら詳しく聞いてみるかな」


こうして一通り部屋を見て回る一行。
全員に用意された部屋を見て回ったところで、副官が言う。
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:39:02.16 ID:Abk7aDtd0

副官「ごめん、そろそろ私は行くね」


助手「案内ありがとうございました」


副官「いえいえ、どういたしまして。しばらくしたら妹が来るはずだから、ここで待っててね。それじゃ」


コツ、コツ、コツ


変わり者「忙しそうだね、あの人は」


魔導士「まあ、優秀な分余計にな」


エリート「確か大佐って言ってましたわね。あの年齢で大佐なんて普通あり得ませんわよ」


魔導士「努力の成果だろうな。親父のコネだけで階級を上げてる思われないようにって、頑張ってるそうだ。
    俺が思うに、他の要因もあるけど」


助手「他の要因って?」


エリート「多分、単純に軍人不足ですわね。あの戦争以来、どこの国でも軍人になりたがる人間が減ったと聞いてますわ」
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:41:00.30 ID:Abk7aDtd0

魔導士「親の世代があの長い戦争を経験してるからな。わざわざ自分の子を死なせようとは思わないんだろ」


変わり者「将軍も君に、軍人なんてやめとけばいいのに、って言ってたね」


魔導士「今になって、昔お袋が反対してた気持ちがわかった、とも言ってたぞ」


メイド「あの、兄さん……」


どこから現れたのか、メイド服の少女が魔導士に声をかける。
完全に不意を突かれた魔導士は、思わず声を上げた。


魔導士「うわっ!……なんだお前か、びっくりした。相変わらず影が薄いな」


メイド「結構前から居たんですけど……」


助手「ぜ、全然気づきませんでした」


エリート「え、ええ」


変わり者「僕もだよ……」


メイド「えっと、いらっしゃいませ、お客様方。姉から屋敷を案内するようにと、」


メイドの言葉をさえぎって、魔導士が言う。


魔導士「ああ、かしこまった話し方しなくてもいいぞ。客とはいっても、俺の友人だからな」
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:42:38.44 ID:Abk7aDtd0

メイド「うん。兄さんがそう言うなら。それで、私はどこを案内したらいいの?」


魔導士「そうだな、休む部屋はもう案内されたから……まあ、適当に歩きまわればいいんじゃないのかな?」


メイド「ええと、兄さんがそう言うなら」


魔導士「俺は使い魔のところに行ってくる。こいつらの案内、頼んだぞ」


メイド「うん」


スタ、スタ、スタ


メイド「じゃあ皆さん、こっちへ」


助手「はい」


エリート「それにしても、立派なお屋敷ですわね」


メイド「建物自体は昔からある者ですよ。建てられた当時は、騎士団の本拠地だったとか」


変わり者「へえ。ところどころに訓練所があるのはその名残かな?ちょっと気になってたんだけど」


メイド「そうですね。父さんや兄さんはありがたく使ってるみたいです。地下には牢なんかもありますよ」
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:44:59.27 ID:Abk7aDtd0

助手「牢、ですか。まさか今も使ってたりします?」


メイド「今は使ってませんよ。昔はよく兄さんや姉さんがお仕置きで閉じ込められたりしてましたけどね」


変わり者「彼が?彼はあまり悪さをしないイメージだったけど」


メイド「悪さはしませんでしたが、やれと言われたことを無視してましたね。それで父さんが怒って、というパターンです」


エリート「あの副官さんも、悪い事をしなさそうな感じでしたが」


メイド「姉さん、かなり丸くなったんですよ。昔は父さんの言うことに何でも反発してましたから」


変わり者「へえ、意外だね。君は閉じ込められなかったのかい?」


メイド「私は二人を見て、何をしたら怒られるかわかってましたから。たまに三人で悪戯して閉じ込められることはありましたけど」


少し離れた位置から彼らの様子をうかがっていた魔導士が、
目を細めて言う。
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:47:06.82 ID:Abk7aDtd0

魔導士「なんだ。ちゃんとあいつらとも話せてるじゃないか。心配して損したな」


使い魔「昔は俺とも口きいてくれなかったもんな」


魔導士「っ!使い魔」


使い魔「よう。なかなか見舞に来ないから、俺から来てやったぞ」


魔導士「意外と平気そうだな。良かったよ」


使い魔「正直、ただ飛び疲れただけだからな。ゆっくり眠ればいいだけのことだ」


魔導士「そうか。こっちも心配して損したな」


使い魔「それにしても、アイツも変わったな。昔はホントにほとんど誰とも話さなかったのに」


魔導士「そうだな。まだちょっと心配だけどな。……さて、早いとこ皆と合流するとしようか。
    アイツが俺の恥ずかしい過去話とかしださないうちにな」


使い魔「ははは。そりゃ急がないと危ないぞ。話のネタが尽きたら、そこに行きつく可能性が高い」
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:50:35.59 ID:Abk7aDtd0

結局彼らが合流したのは、使い魔がわざとらしくないタイミングで合流しようと主張したために、
魔導士の過去話が始まる直前と言う危険極まりないタイミングだった。

合流した一行は、そのまま何事もなく屋敷を回り終え、一旦自由時間になった。


魔導士「じゃ、俺はちょっと眠る。メイド、飯の時間になったら起こしに来てくれるか?」


メイド「はい。そのかわりちゃんと起きて下さいね」


魔導士「ん、ああ」


変わり者「僕も少し眠るとしよう。さすがに疲れたよ」


エリート「そうですわね。良く考えると、死んでもおかしくない出来事がありましたし」


助手「それじゃあ、私も部屋に戻ります」


魔導士「とりあえず今日と明日はここでゆっくりしよう。それ以降の計画は今日の飯の後に」


メイド「食事の用意が出来たら、私が起こしに行きますね」


使い魔「俺もさっきの部屋でもう少し休むか。じゃあ、解散ってことで」
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 00:51:34.12 ID:vz2bOTiNo
来たか
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:52:18.52 ID:Abk7aDtd0

一方、そのころ
北西外縁国王城内


親衛隊長「こちらでしたか、将軍」


養父「ん?若造の使いっぱしりじゃねえか。どうした?そろそろ帰ろうと思ってたんだが」


親衛隊長「王がお呼びです。それと、お若いといっても、城内で堂々と王を若造呼ばわりはやめていただきたいのですが……」


養父「がはは。俺は若造って言葉が王を指すとは一言も言ってねえけどな。お前の中では我が国の王は若造ってわけだ」


親衛隊長「将軍…」


養父「おっと、おふざけが過ぎたか。悪かったな、そんな困った顔するなって。で、王が呼んでるんだな?」


親衛隊長「ええ、王がお呼びです。緊急とのことでしたので、急がれたほうがよろしいかと」


養父「緊急?……そうか、すぐに向かうとしよう」


親衛隊長「では、こちらへ」
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:54:53.50 ID:Abk7aDtd0

親衛隊長の案内によって、招かれた先は王の私室。
乱暴にドアをノックしながら言う。


養父「俺だ。緊急だと言うから、急いできたぞ」


青年王「ああ、入ってくれ」


北西外縁国を治める若き王は、迎え入れた男に座るように促した。
自分の養子三人と同年代の王を正面に見据え、養父が言う。


養父「それで、何があったんだ、若造」


青年王「いいかげんに若造はやめてほしいのだがな。それに王に向かってため口というのもどうかと思うぞ」


養父「然るべき場面では然るべき話し方をするとも。うちの副官も、切り替えが大事だ、みたいなことを言ってたぜ」


青年王「……まあ、いいだろう。早速だが本題だ。お前を呼んだのは……」
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/08(金) 00:56:19.51 ID:Abk7aDtd0

事の経緯を話す王。
緊急とはいっても大したことはないだろう、そう思っていた養父は、自らの見通しが甘かったことを悟った。


養父「……話はわかった。今回の要件はこれだけか?」


青年王「細かい用ならいくつかあるが、それどころではない事態だ。これが片付くまでは、他のことはどうでもいい」


養父「わかった。じゃあ俺は失礼するぜ。色々やることが出来ちまった」


青年王「ああ」


そして部屋を出た養父は、大股で歩きながら
誰にも聞かれないように言うのだった。


養父「これだから、軍人なんてやめとけって言うのに」
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/08(金) 01:05:40.82 ID:Abk7aDtd0

今日はここまで。
いつもより気持ち長めの投下でした。

次回ですが少しだけ書き溜めがあるので、うまくいけば土日に来ます。
…ただし、手こずったらいつも通りだいたい一週間後です。


>>291
減った増えたは関係ないのです。
そう!一人でも読んでくれる人がいれば、それだけでモチベーションにつながるのです!

と言うのは建前で、もちろん多いほうが嬉しいけどね。
真面目な話、減ってもないし増えてもいないんじゃないかなーと。
これには減ってないといいな、っていう希望も含まれてますが。


それはそうと
>>290
なんだこれww
リアクションに困るwwww
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 01:07:59.82 ID:vz2bOTiNo
まあこの時間じゃ反応しにくいのは確かだなww

フラグ怖いのう
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 01:19:10.10 ID:j2bR8TOco
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 08:19:27.79 ID:sCb5Wz9IO

待ってるぜ
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 09:41:37.75 ID:gPHMhWJMo
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/08(金) 11:10:04.55 ID:mw5fROfPo
乙した

姉妹に期待
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 23:24:27.58 ID:I+Gl7Q0/o
乙!
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/07/10(日) 22:40:21.84 ID:pRk7zI2W0
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/10(日) 23:20:11.00 ID:Ue9naTMg0
――数時間後、養父の屋敷


助手「えーっと、これがこうでこっちがこう、かな?」


持参した本とメモ帳を広げ、魔法の知識を詰め込む助手。


助手「いや、でもそれだとここがつっかえちゃいますね。うーん、それじゃあ…」


コンコン


助手「あ、はーい」


ガチャ


メイド「助手さん、食事が出来たので呼びに来ました」


助手「はい、すぐ行きますね」


メイド「これ、魔法の勉強してたんですか?」


助手「はい。余った時間に勉強しようと思って」
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/10(日) 23:21:46.83 ID:Ue9naTMg0

メイド「頑張りすぎてないですか?兄さんのところはまだ行ってないのでわかりませんが、あとのお三方はぐっすり寝てましたよ?」


助手「私、早く魔導士さんの役に立てるようになりたいんです。そうじゃなかったら、私はいらない子ですからね、捨てられちゃいます」


メイド「いらない子?兄さんがそんなこと言ったんですか?」


助手「いえいえ、私が勝手にそう思ってるだけです。せっかく必要な人材だって言ってもらったんです。ここが頑張りどころですよ」


メイド「……そうですか。とにかく、食事の準備は出来てますからね。きりのいいところで食べに来て下さい」


助手「はい。わかりました」


その足で魔導士を起こしに行くメイド。
目的地にたどり着き、扉をノックする。


コンコン


メイド「……やっぱり、相変わらず寝起き悪いんだ」


コンコン


メイド「兄さん、入りますよ」
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/10(日) 23:23:28.75 ID:Ue9naTMg0

ガチャ


メイド「起きて下さい。食事の準備が出来ましたよ」


魔導士「……ん、そうか。ありがとう」


メイド「あの、ちょっと話があるんですが」


魔導士「話?急ぎか?」


メイド「早いうちに聞いておいたら、兄さんの為になるかもしれません」


魔導士「うーん。じゃあ、今聞こう」


メイド「実は、助手さんのことなんですけど」


魔導士「うん」


メイド「あの人、少し頑張りすぎなんじゃないですか?」


魔導士「そうか?確かにそのきらいはあるが、悪い事じゃないと思うぞ?」
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 23:24:06.47 ID:dtwLVtN2o
そういやスレタイだったないらない子
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/10(日) 23:25:25.55 ID:Ue9naTMg0

メイド「でも、役に立てなければ自分はいらない子だからって、捨てられちゃうから、だから頑張るんだって言ってました」


魔導士「あいつが?確かか?」


メイド「間違いありません」


魔導士「ん、そうか。それはよろしくないな」


メイド「はい。今の助手さんはやらされてる状態です。決して自分からやっているわけではありません」


魔導士「そして自分ではそれに気づけない、と」


メイド「一種の強迫観念ですからね。どうするんですか?」


魔導士「んー。……だめだ、すぐには思いつかない。でもそれは早いとこ何とかしないとだな」


メイド「そうですね。とりあえずは、しっかり気にかけてあげて下さい」


魔導士「当然だ」


メイド「では、ひとまず食事に行きましょうか。もう皆さん、今頃は食堂に向かってる筈ですよ」


魔導士「うん、そうだな」
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/10(日) 23:28:30.72 ID:Ue9naTMg0

二人が食堂に着いたときには、食堂には全員が集まっていた。
魔導士はもうすっかり見慣れた顔ぶれを見やり、その近くの席に腰掛けた。


魔導士「よう。ゆっくり休めたか?」


使い魔「眠りすぎて首が痛い」


変わり者「たっぷり寝たとも。まだ少し眠いくらいだよ」


エリート「右に同じ、ですわ」


助手「えっと、まあそれなりに」


魔導士「……ま、全員しっかり休めたみたいだな。で、親父はまだ来てないのか?」


使い魔「まだだ。早く飯を食いたいんだがなー」


魔導士「親父が来るまでの辛抱だ。我慢しろ、我慢」


メイド「姉さんの言った通り、兄さんは相変わらず寝起き悪かったですよ」


副官「まあ、そうだろうね」


魔導士「最近は結構すぐに起きれてると思ってたんだがなー」


その時、養父が食堂に入って来る。
珍しく真面目な表情。不思議に思う彼の養子たちをちらりと見て、養父が言う。
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/10(日) 23:36:04.75 ID:Ue9naTMg0

養父「問題が起きた。残念だが、客をもてなしてる場合じゃなさそうだ。悪いがメイドは少し席を外してくれ」


メイド「は、はい」


魔導士「何かあったのか?」


養父「中央皇国の東王領で反乱がおきた。反乱軍は即位式前に第一王子を殺害。第二王子を新王として祭り上げたようだ」


エリート「そんな!」


魔導士「東王領か。そう言えばちょうど一週間くらい前に王が亡くなったと聞いてたけど」


変わり者「確か、あそこには三人の王子がいたはずだね。将軍、第三王子はどうなったんです?」


養父「第三王子は行方不明。だが、恐らくはもう……」


突然のニュースに重い空気が流れる。
ここで、養父の行動を不思議の思った副官が、その疑問を口にした。


副官「父さん、どうしてお客さんにそれを?あの子を外に出したってことは、一般に知られちゃまずいんじゃないのかな?」
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/10(日) 23:38:13.71 ID:Ue9naTMg0

養父「反乱軍はすでに東王領のほとんどを占拠した。そして、奴らが占拠した地域には誰も立ち入れない。何故だと思う?」


使い魔「誰も立ち入れない、か。なるほどな」


助手「まさか…」


変わり者「一体どういうことだい?僕にはピンとこないんだけど」


魔導士「親父。一応、詳しく聞かせてくれ。誰も立ち入れないとは?」


養父「不思議な壁があるそうだ。そこに差し掛かると、前に進めなくなるらしい」


変わり者「"孤王結界"?そんなばかな」


魔導士「孤王は過去の東王だ。あり得ない話じゃないな」


養父「お前、その結界を解除する方法を研究してるんだろ?どうだ、解除できるのか?」


魔導士「正直、わからない。まだその魔法は未完成なんだ」
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/10(日) 23:45:10.14 ID:Ue9naTMg0

養父「だが、他に手段はないらしい。残念だが、お前も一応この国の軍人だ。拒否権はねえぞ」


魔導士「やるだけやってみるが、成功は保証できない。これが正直なところだ」


養父「失敗は許されねえぞ。結界は少しずつ広がってる。そして反乱軍はその支配領域を拡大し続けているってわけだ」


副官「外から干渉を受けない結界……。どうしようもないね」


助手「それじゃ、そのうち他の国にも……」


養父「ああ、そうなるだろうな。皇帝は、他国を交えて余計な争いが起きる前に、反乱軍を鎮圧したいと考えてるらしい」


魔導士「待ってくれ。一つ問題がある。あの魔法は俺一人で使える魔法じゃないんだ」


助手「というより、個人で使える魔法じゃないんです」


エリート「研究を進めても、結界を破るのに魔力がどの程度必要なのかは判明しませんでしたわ」


変わり者「そこで、僕らは四人分の魔力を使う式を作ったのです」


養父「ああ、知ってるとも。だから中央皇国はお前ら全員に協力を要請してる」
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/10(日) 23:48:11.31 ID:Ue9naTMg0

魔導士「どうしてそれを?」


エリート「多分、私の報告書ですわね。中央皇国の研究者は、研究の概要をまとめて国へ提出することになってますわ」


魔導士「ああ、なるほど。今後は俺にも一言かけてから提出してくれ。その研究の半分は俺の研究だ」


エリート「む、悔しいですが言い返せませんわね。確かに、考えが足りませんでしたわ」


使い魔「で、それはそれとして、お前らはどうするんだ?こいつは協力せざるを得ないみたいだが」


変わり者「僕らが居ないとどうしようもないんだろう?選択の余地はなさそうだ」


助手「私は魔導士さんの助手ですからね。もちろん協力します」


エリート「祖国の問題ですわ。断れるわけないでしょう」


全員の意思を確認した養父が、
不機嫌な顔をしている魔導士に小さな声で言う。


養父「いい仲間に恵まれたみてえじゃねえか」


魔導士「喜ぶべきかわからないな。結果的に厄介事に巻き込んだ形だし」
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/10(日) 23:49:57.39 ID:Ue9naTMg0

養父「な、だから軍人なんてやめとけっつったろ?」


魔導士「はあ。今になって後悔してるよ」


養父「これに懲りたら、落ち着いたあたりで退役するんだな」


魔導士「うん、まあそれも考えとくよ」


養父は小さく笑って、また真面目な表情に戻る。
そして、今度は大きな声で全員に告げるのだった。


養父「全員、今日はもう飯食って寝ろ。明日の早朝、中央皇国・皇帝領へ出発する。質問は?」


変わり者「移動の手段とかかる時間は?」


養父「うちの魔法隊が飛行魔法で運ぶ。かかる時間は五日程度だ」


エリート「飛行魔法で?詳しく説明をお願いしますわ」
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/10(日) 23:55:38.64 ID:Ue9naTMg0

養父「見た方が早いぞ。明日のお楽しみだ。多分この方法で移動するのは世界で初めてだぜ」


助手「あの、なんかいやな予感がするんですけど」


使い魔「俺もだ。まあ、諦めるしかないな」


養父「他に質問は?……ないなら以上だ。さあ、改めてメシにしよう」


彼らは一度席を外したメイドも交え、食事を済ました。
そしてその晩、思いがけず訪れた事態をそれぞれ思いながら目を閉じたのだった。
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/11(月) 00:01:42.79 ID:svmytxLF0

今日はここまで

次回ですが、ちょっとこの頃またごたごたが続いてるので、
早くなるかもしれませんし、遅くなるかもしれません

いつも通り、だいたい一週間後位までにはって感じでよろしくです


珍しく予告通りに投下出来てほっとしてる>>1でした。
では
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/11(月) 02:40:16.83 ID:tdnNZJuso
乙乙
気長に待つよ
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 20:23:51.63 ID:k8/1QwSzo

問題だらけになってきたな
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/15(金) 10:56:11.57 ID:2F77rVZvo
乙した
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/16(土) 22:58:05.12 ID:/YKn+fhP0

魔導士「で、これで飛ぶのか?」


養父「そうだが?」


目の前にあるのはただ巨大なだけの籠。
立ちくらみを抑えながら魔導士が言う。


魔導士「ただのかごにしか見えないんだが。ホントにこれで移動するのか?」


養父「中央皇国には気球ってのがあるらしい。暖めた空気で風船膨らまして飛ぶんだと」


魔導士「で?」


養父「そいつも人が乗る部分はこんな籠みてえなもんだ。今回はこの籠を魔法隊の隊員が十人がかりでぶら下げて飛ぶ」


助手「あの、経験から言わせてもらうと、多分これかなり揺れますよ」


使い魔「……俺は鳥になって自力で飛ぶことにするか」


エリート「そこっ!卑怯ですわよ!」
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/16(土) 22:59:15.24 ID:/YKn+fhP0

使い魔「卑怯ってことはないだろうが。自力で飛ぶのも、それはそれで疲れるんだぞ」


変わり者「僕も自力で飛ぼうかな。これは確かに乗り心地が悪そうだ」


魔導士「諦めろ。飛行魔法で五日の距離だろ?いくらお前でもきついと思うぞ」


一通り反応を楽しんだ養父が言う。


養父「これが現状で一番早い移動方法だ。文句言ってんじゃねえ」


副官「これに乗って、あなた方と閣下、それから私と魔法隊が中央皇国へ向かいます。準備はいいですか?」


魔導士「いつでも行けます。やっぱり今一つ気は乗りませんが」


副官「軽口をたたく余裕があるなら問題なさそうですね。では、行きましょうか」


副官の合図で魔法隊が浮遊し、配置に付く。
次の合図で籠を魔力の帯で持ち上げ、そして最後の合図で一行を大空へと導いた。
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/16(土) 23:00:38.83 ID:/YKn+fhP0

魔導士「う、思ったより高く飛ぶんだな。これは怖い」


助手「や、やっぱり揺れてますよ……」


エリート「それに、相当な速度ですわ。落ちたらただじゃ済みませんわ」


変わり者「あの、閣下。本当にこれ、大丈夫なんでしょうか?」


養父「ん?まあ大丈夫だろ、多分」


魔導士「大佐、あなたがついて居ながらどうしてこんなことに?」


副官「私が口を出す前に、閣下が命令を下したからです。でも、私が口を出したとしてもこの展開は変わりません」


魔導士「なぜです?」


副官「これが一番速いからです。ところで、ちょっと情けないのではないですか?この程度で怖気づいているようでは……」


グラッ!


副官「きゃっ!…あ……」


魔導士「……」


副官「こほん。それで、予定では昼ごろまで飛んで休憩、それから夜まで飛んで一泊を繰り返します。他に質問は?」
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/16(土) 23:02:41.57 ID:/YKn+fhP0

魔導士「は?えっと、し、質問?」


副官「ええ。他に質問は?」


魔導士「い、いえ、特にありません」


副官「それから、さっきのことは忘れた方が身のためです」


魔導士「う。……さっきのこと?なんのことでしょう?」


副官「よろしい。覚えてないなら問題ありません。到着は予定通り五日後です。それまでにしっかり気を引き締めておくこと」


魔導士「了解」
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/16(土) 23:03:55.42 ID:/YKn+fhP0

――中央皇国・東王領


伝令「……なお、現在までに東王領のほとんどを支配下に置くことに成功。目立った抵抗もなく計画は順調とのことです」


第二王子「御苦労。さがれ」


伝令「はっ」


伝令を聞いたのは、玉座にだらりと腰掛けた第二王子。
大きなあくびをしてから、まるで他人事のように隣の人物に言う。


第二王子「だそうだ」


宰相「今のところは問題ないようですな。しかし、そろそろ中央でも動きがあるでしょう」


第二王子「すで手は打ってあるんだろう?」


宰相「もちろんですとも。この結界がある以上、向こうの行動も限られますからな」


第二王子「ふ。頼りにしてるぞ」


宰相「ありがたきお言葉」
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/16(土) 23:06:53.63 ID:/YKn+fhP0

第二王子「ところで、どうして私を王に祭り上げた?何故弟ではないのだ?」


宰相「……あの方は少々気が弱い。こういう荒事には向いておりません」


第二王子「単にあれよりは私が向いている、ということか?」


宰相「そうなりますな」


第二王子「ふ、ははは。そうまではっきり言うとはな。私がいいというのではなく、あれが向いてない、と」


宰相「気を悪くされましたかな?」


第二王子「むしろいい気分だ。比べられるのはいつもの事だ。兄や弟に比べて劣る、とな。
     何であれ、お前は私の方が優れているというのだ、どうして気を悪くしようか」


宰相「左様ですか。安心しました。てっきり、私めはあなた様の気分を損ねてしまったかと」


第二王子「ふ、いけしゃあしゃあと。まあよい。私は少し休む。後は任せたぞ」


宰相「はっ」
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/16(土) 23:09:49.21 ID:/YKn+fhP0

宰相「ふん、愚か者めが」


隻腕の男「おいおい、ちょっとあんた気を抜きすぎじゃねえの?」


宰相「居たのか。相変わらず気配のない奴め。気味が悪い」


隻腕の男「あれ、ずいぶんな言われようだねえ。それより、さっきみたいな発言は控えちゃくんねえかね?
     どこで誰が聞いてるかわかんないんよ?」


宰相「今この城に居る人間はすべて私の手の内だ。何も問題はない」


隻腕の男「へえ、そりゃまた大層な。あの坊ちゃんも可哀想にねえ」


宰相「何故自分が祭り上げられたかもわからないようだ。愚かとしか言いようがない」


隻腕の男「おいらにゃどうでもいい事だがねえ」


宰相「まあ、あの男を祭り上げることにはいろいろとメリットがあるのだ。それで、配置は済んだのか?」


隻腕の男「問題ねえよ。坊ちゃんも可哀想だが、中央の連中も可哀想だねえ、こりゃ」


宰相「さあ、中央の連中がどこまで出来るか、見物だな。ふふふ、はははは!」
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/16(土) 23:15:27.18 ID:/YKn+fhP0

今日はここまで。

次回ですが、ちょっと投下スタイルを変えてみようかと。
一回当たりの投下量を減らして頻度を挙げる方向で考え中

というわけで、しっくりくるスタイルになるまで不規則になるかもです。
どんなに遅くなってもいつも通りの一週間後くらいまでには確実に投下しますので

では
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/16(土) 23:30:38.95 ID:OIXnEpUGo
深夜とか多いもんな
やりやすいようにやってくれ乙
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/16(土) 23:47:12.69 ID:nxxidLcTo

失踪しなければどんな形でもいいよ
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 00:45:18.30 ID:4SpTnLa3o
乙です!
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/17(日) 04:48:43.38 ID:lIoqymEOo
乙した

姉さんかわええ

無理せずに
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/07/20(水) 23:04:25.87 ID:yfJyvxrw0

なかなか進んできてるなぁ
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/25(月) 23:35:21.11 ID:Ej7hK6Gu0

――中央皇国・皇帝領


養父「ふう。とりあえず予定通りに到着だ」


助手「やっと到着ですね。それにしても、公園の真ん中に着陸するなんて……」


変わり者「随分目立っちゃったね」


エリート「私はこれには最後まで慣れませんでしたわ。帰りは別の方法で、ゆっくり帰りたいですわね」


使い魔「お疲れさん。魔導士の奴も口数が少ないままだし、そっちも大変そうだったな」


魔導士「ほっとけ。どうやら俺はこういう乗り物には弱いらしい」


"籠"から降りた一行はそれぞれ空での五日間の感想を口にする。
そうこうしている内に、最初に降りるなりどこかへと姿を消した副官が戻って来た。


副官「さて今後の予定ですが、将軍閣下と私はこのまま皇帝に謁見します」


魔導士「我々は?」


副官「あなた方四名は帝都の宿で待機するように、とのことです」
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/25(月) 23:38:24.37 ID:Ej7hK6Gu0

魔導士「宿に?ここでの我々の扱いは?」


副官「あなたは一応は軍人扱い、他三名は客人扱いになっています。あなたには客人の護衛をしてもらう形になります」


魔導士「なるほど。了解」


副官「それから、一応魔法隊からも隊長以下三名を護衛として出します。あなた方は隊長の指示に従うように」


魔導士「了解」


荷物を運び出す間に、副官は魔法隊と魔導士にいくつかの指示を出し、
養父と一緒にこの場を離れた。


魔導士「あっちにいる軍人さんが案内してくれるとさ」


助手「それじゃ、早く行きましょう。人が多すぎてなんだか落ち着きませんし」


使い魔「んじゃ、行くか」


空からの訪問者に奇異の目を向ける人々をかき分けるようにして進む。
人ごみをようやく抜け、変わり者が後ろを見やりながら言う。


変わり者「はあ。すごい人だかりだったね」

347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/25(月) 23:40:14.36 ID:Ej7hK6Gu0

助手「あんなたくさんの人、初めて見ましたよ。それにしても、あの籠から降りて来た私たちには集まってこないんですね」


エリート「人ごみの外側に居る人間は、中心に何があるか知らないことが多いですからね」


魔導士「人ごみなんてそんなもんだろ。たくさん人が集まってるから自分も、ってな」


エリート「あの方々は、そこに何があるかなんてどうでもいいんでしょうね。なんとなく腹立たしいですわ」


使い魔「ほう?それはつまり、その中心に居るべき私が無視されるなんて、ってことか?」


エリート「そ、そんなこと!」


使い魔「なんだ、違うのか?てっきり注目されたかったのかと思ったぞ」


エリート「そんなことありませんわ!私はただ……」


魔導士「はいはい、そこまで。使い魔、余計なこと言ってからかうなよ。そいつはすぐムキになるんだから」


使い魔「それも余計なことだけどな」
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/25(月) 23:41:21.56 ID:Ej7hK6Gu0

魔導士「え?」


エリート「待ちなさい!一体誰がすぐムキになるんですの!?」


使い魔「ほらな」


魔導士「ああもう。現に今ムキになってるだろうに」


使い魔「さあ、頑張ってご機嫌とるんだな」


助手「あの、えっと、えっと、ところでここって不思議な街並みですよね!?」


急にそんなことを言い出す。
あまりにも不自然な話題の切り替えだったが、魔導士はこれ幸いとその話題に食いついた。


魔導士「それはだな、ここが中央皇国のそのまた中央ってのが原因だ」


助手「へぇ、そうなんですかー。もっと詳しく聞きたいなー」


魔導士「えっと、意図的に世界各地の文化的な建築物や街並みが混在した空間になるようにしているらしいぞ」


エリート「……あらゆる文化の中心地、ということらしいですわ。あまり評判は良くないですが」
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/25(月) 23:48:13.61 ID:Ej7hK6Gu0

魔導士「そ、そうそう。あと、どんな国の人間もここでは平等、ということを表現する意図もあるそうだ」


助手「へぇ、そうなんですかー」


使い魔「ほう、知ってることを話さずにはいられない体質を利用するとは。腕を上げたな」


魔導士「お前ほんと覚えてろよ」


ひと段落ついたところで変わり者がつぶやく。


変わり者「それはそうと、宿ってどういうところなんだろうね」


魔導士「宿か。多分、かなり上等な宿だ」


変わり者「上等な?」


魔導士「うん。それも世界最高といっていいレベルで」


変わり者「へえ。どうしてそう思うんだい?」


魔導士「この街に宿はいくつもあるが、この付近の宿っていったら一つしかない」
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/25(月) 23:51:49.38 ID:Ej7hK6Gu0

エリート「ま、まさか……」


魔導士「多分あそこだろうな」


変わり者「凄いところなのかい?」


エリート「すごいなんてもんじゃありませんわ!各国の王族が皇帝領に訪問した際に宿泊する施設ですわ!」


魔導士「なんでも小規模な街を再現してあるとか。それを宿なんて呼ぶのはちょっと無理があると思うんだが」


使い魔「客扱いとは言ってたが、まさかそこまでとはなあ」


エリート「ただ豪華なだけでなく品のある装飾!部屋どころか建物単位で割り当てられる個人スペース!
     騒がしい街の喧騒から離された立地!それでいて大通りへの豊富なアクセス!
     そして…」


魔導士「わかったわかった。遊びじゃないんだぞ。そこに宿泊するに値する働きを期待されてるんだからな」


エリート「わ、わかってますわよ」


魔導士「ま、あそこに行けるなんて俺も驚いてるぞ。俺みたいなさほど階級も高くない軍人が行けるとこじゃないし」
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/25(月) 23:53:36.62 ID:Ej7hK6Gu0

変わり者「ああ、それでさっき自分がどう扱われているのか確認してたんだね」


魔導士「そういうことだ」


使い魔「お?そういや助手の奴はどうした?」


そのとき、ふと振り返った使い魔が言った。
助手の姿が見えないことを確認した変わり者が、使い魔に答える。


変わり者「あれ?さっきまでいたはずだけど」


魔導士「……はあ。あいつ、はぐれやがったな」


エリート「こんな人ごみの中を歩くのは初めてでしょうし、まあ仕方ないですわね」


使い魔「どうするんだ?」


魔導士「そうだな……。よし、俺が探してくる。お前たちは先に行っててくれ」


変わり者「了解。護衛の隊長さんには僕らから言っておくよ」


魔導士「ん、頼んだ」
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/26(火) 00:01:13.85 ID:hWMltKdU0

今回はここまで。

さて、一週間でどのくらい書けるのか実験したところ、
大体15〜25レスくらいが限界の模様です。

今回は今まで通りの投下ですが、
しばらくは5〜8レスを週に3回ほど投下でやってみようと思います。


では
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/26(火) 00:48:34.61 ID:6OI26CRyo
把握乙
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/26(火) 02:12:46.25 ID:n/5m0UXeo
乙です!
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/26(火) 08:19:14.98 ID:Q8Rqd+mIO

楽しみにしてるよ
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/28(木) 23:42:42.90 ID:hhKNGixA0

助手「あ、あれおいしそうな食べ物ですねー。このあたりの町並みは北西外縁国に似てますね」


少女「ねえおねえちゃん。さっきからひとりでどうしたの?」


助手「え?あれ、ここはどこですか?皆さんは?」


少女「さあ。おねえちゃん、ずっとひとりでしゃべってたよ?」


助手「ど、どうしよう……。皆さんとはぐれちゃいました…」


少女「まいごになっちゃったの?」


助手「そ、そうみたいです」


少女「ここでまってたらいいんじゃない?」


助手「うーん。ちゃんと合流できますかね?」


少女「うん。おねえちゃんがそうねがうなら」


助手「ふふ。願うなら、ですか?」
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/28(木) 23:44:27.65 ID:hhKNGixA0

少女「うん。ねがいはいつかかなうんだって!」


助手「そうですか?いつか、じゃあちょっと困りますけど……まあ、じゃあそうしてみますね」


少女「うん!ねえねえ、おねえちゃんはこのまちになにしにきたの?」


助手「えーっと、そうですね。大きなお仕事があるんですよ」


少女「そうなんだ。がんばってね」


助手「はい。頑張ります」


魔導士「ここに居たか。やっと見つけたぞ」


不意に聞きなれた声。
助手は、少女と話していて下に向いていた視線を上げた。


助手「あ、そちらも迷子ですか?」


魔導士「そんなわけあるか。お前を探しに来たんだよ」


助手「ああ、良かったです。こんな広い街ですし、もう皆さんに会えないかと思いましたよ」
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/28(木) 23:45:52.04 ID:hhKNGixA0

少女「ほら、さがしにきてくれたでしょ?じゃあ、あたしはもういくね」


助手「あ、はーい」


少女「お仕事頑張ってね。助手さん、魔導士さん」


タッ、タッ、タッ


魔導士「ん、今の……」


助手「どうしたんですか?」


魔導士「ん?俺、あの子に名乗ったかなと思って」


助手「しばらく話してましたし、きっと私が言ったんだと思いますよ」


魔導士「ふーん、まあどうでもいいか。さ、行くぞ。皆と合流しよう」


助手「はい」
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/28(木) 23:49:17.73 ID:hhKNGixA0

――中央皇国・宮殿


養父「お久しぶりです。皇帝陛下」スッ


副官「……」スッ


皇帝「うむ、顔を上げよ。ここは人払いを済ませてある。必要以上にかしこまる必要はない」


養父「ああ、そうかい。形式ばった挨拶なんか知らねえから安心したぜ」


副官「閣下!いくらなんでも皇帝陛下に対してそんな言葉づかいは…」


皇帝「構わぬ。その男とは旧知の仲だ。それに余は客人をこの国の作法に従わせようなどと傲慢なことは思わぬ」


養父「そういうことだ。しかし、人払いなんかしていいのか?一応かつての敵国の軍人だぞ?」


皇帝「問題ない。それにどうせ警護など意味をなさぬからな」


養父「ああ、まあ俺が本気で殺る気ならそうだろうな」
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/28(木) 23:50:24.48 ID:hhKNGixA0

副官「な、なに物騒なことを……」


皇帝「ふ、相変わらず正直な男よ」


養父「それで、今回は何の用なんだ?わざわざ二人だけ呼んだ理由は?」


皇帝「それなのだが、少し問題が起きてな。先に方針を伝えておこうと思ったのだ」


養父「問題?」


皇帝「うむ。思いの外情報が漏れるのが速い。東王領での反乱が、既に諸外国の知るところとなってしまったのだ」


養父「ほう、それで?」


皇帝「まず前提として、この反乱は可能な限り中央皇国のみの力で解決しなければならぬ。皇国の力が衰えたと思わせてはならぬからな」


副官「しかし……いえ、失礼。私が口を出すことではありませんでした」


皇帝「構わん。言ってみよ」
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/28(木) 23:56:06.02 ID:hhKNGixA0

副官「ええ、それでは。しかし、諸外国から援軍の申し出が来ている、と言う訳ですね?」


皇帝「ほう。どうしてそう思ったのだ?」


副官「反乱軍の支配領域は現在も広がり続けています。反乱軍の手が迫っている国からの言葉は無視できないでしょう」


養父「それでどうなるんだ?どうもその辺の話には疎くてなあ」


副官「つまり、迅速な解決のため援軍の受け入れを望む。こう言われてしまえば簡単には断れません」


養父「ほう。なるほどな」


副官「しかもその援軍も、中央皇国の内情を探るための戦力にならないスパイばかり、という可能性もあります。
   援軍の受け入れはメリットが少ないでしょう。いえ、むしろデメリットの方が多いと言うべきかもしれません」


皇帝「それに借り物の軍というのは扱いにくいものだ。特に結界の中で孤立する可能性が非常に高いこの状況ではな」


養父「ふむ、状況はわかった。で、方針ってのは?」
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/07/28(木) 23:59:08.18 ID:hhKNGixA0

えー、非常にキリが悪いですが今回はここまでです
今回以降こういうぶつ切りの投下が多くなると思います

では
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 00:01:26.49 ID:gLCbGwy6o
ぐぬぬ
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 07:42:28.09 ID:gVn20+wto
むむむ
乙!
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 08:12:54.07 ID:DHnBD+MIO
ぐぐぐ
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 08:26:58.38 ID:48gjLgMXo
むぐぐ
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/01(月) 13:57:58.39 ID:TgqGwd9bo
乙した
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/08/02(火) 11:27:12.19 ID:uaAUa8qw0
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/13(土) 23:45:37.62 ID:gADbRFWM0

皇帝「うむ。そう難しい話ではない。この国としては他国からの援助を受けていない、と主張したい。
   その際、この方針に基づいて我々の間にいくつかの合意が必要なのだ」


養父「回りくどい言い方はよせ。どうして欲しいんだ?」


皇帝「そうだな、まあ簡単にいえば口裏を合わせてほしいのだよ」


養父「……ほう。とりあえず聞こう。具体的には?」


皇帝「まず、諸君らの連れて来た軍人。彼らは援軍として来たのではない。こう主張してもらいたい」


養父「だが、俺たちはかなり目立つ手段でこの国に急行したんだが。うまくごまかせるのか?」


副官「閣下の仰る通り、今回すでに二十人弱が空から入国しています。軍が来ていないと主張するのは難しいかと思いますが」


皇帝「諸君らには例の四人の護送を依頼した、と言うことにすればよい。もとより二十人程度、援軍と呼ぶにはいささか数が少ない。
   むしろ護衛の兵だと言われた方が納得できる数であろう」


養父「なるほどな。お前はどう思う?」
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/13(土) 23:47:35.48 ID:gADbRFWM0

副官「そうですね。実際にも、飛行魔法を使える魔法隊員に代わる代わる飛ばせただけですし、問題ないでしょう」


養父「だが、俺たちの存在はどうするんだ?流石に護送に俺が直々にってのは無理があるぞ」


副官「お言葉ですが、普段の行動をお忘れですか?閣下の場合、旅行がてら同行したと言われても今さら誰も驚きません」


養父「そうか?今回は一応真面目に駆けつけたんだがなあ。無駄になったが、それこそ後から援軍を来させる準備までして来たってのに」


副官「日頃の行いです」


養父「……まあいいだろ。じゃあその件はそれで決まりだ。で、他には?」


皇帝「では次に、彼らの作った魔法、それを技術として買い取った形にしたい」


養父「はあ?なんでまたそんなことを」


皇帝「我が国の技術ではない以上、それは国外の技術だ。それはつまり、国外からの援助と捉えられ得る」


副官「買い取るということは、技術を提供した報酬として正当な額が彼らに払われる、と考えてもよろしいのですか?」
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/13(土) 23:48:32.53 ID:gADbRFWM0

皇帝「当然だ」


副官「でしたら、こちらから交渉してみましょう。閣下も、それでよろしいですか?」


養父「ああ、良いだろうよ」


皇帝「では、これで最後だ。技術を運用するには技術者が必要だ。だが残念ながらこの国には彼らの技術を運用できる技術者がいない」


養父「となると、最後はあいつらか?」


皇帝「そうだ。いない、とすれば当然技術者を雇う必要がある。そこで例の四人を、技術者としてこの国で雇用しよう」


養父「あくまで買い取った技術と自国で雇った技術者を使っただけ、というわけか?」


皇帝「四人のうち三人は民間人。彼らについては何の問題もない。
   そして残りの一人も技術士官。許可があるならば、技術士官が他国に"技術協力"をすることにも何の問題もあるまい」


養父「つまりは技術協力とやらの許可も出しておけ、と。どうだ、それでいけそうか?」


副官「技術士官の制度は作ったばかり。恐らく問題ありません。はっきり言ってまだ色々と緩いですからね」
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/13(土) 23:49:31.07 ID:gADbRFWM0

養父「他国で技術者として働くってのもどうにかなるのか?」


副官「技術交流の範囲の中ならば可能でしょう。つまりは、解釈次第で大抵はどうにでもなるということです」


養父「強引だな。まあ、いいだろ。これも決まりだ。すぐに手配を頼む」


副官「はい。では、一足先に失礼させていただきます」


コツ、コツ、コツ……


皇帝「手間をかけさせてしまってすまぬな」


養父「構わねえさ。ああそうだ、一つ聞かせろ」


皇帝「うむ。いいだろう」


養父「どうしてそこまで"自国の力"にこだわる?素直に援軍に頼るのも、そこまで悪い手じゃねえと思うが」


皇帝「そうだな。……話は変わるが、この世界のことをどう思う?」
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/13(土) 23:58:09.01 ID:gADbRFWM0

養父「は?……そうだな、一言で言うなら、相変わらず、だな。あの戦争を経験しても、人は成長しなかった。
   相変わらず、争いの種はあちこちにはびこってやがる。今のところは実際に争いまで発展してないようだがな」


皇帝「まったく同意見だ。いまだ中央と外縁での対立は深い。まったく愚かしいことだ」


養父「で、それはちゃんと俺の質問の答えに関係してるんだろうな?」


皇帝「もちろんだ。
   ……この世界は一つになるべきなのだと思わぬか?そうすれば醜く、意味のない争いは消えるはずではないか?」


養父「まあ、昔っから喧嘩してる連中がいまさら仲良く出来るってなら、そうなるかもしれねえな」


皇帝「大きな争いを経験した今ならそれが可能だと思わぬか?現に今人々は争いを嫌っておる。その証拠に大多数の国が軍人不足だ」


養父「つまり、お前さんは今なら可能だと踏んでるわけか」


皇帝「その通りだ。さて、今こそさっきの質問に答えようではないか。今この国が求めているものは"力"だ。
   よって衰えを見せぬために、他国の力など借りず、この国の力のみで反乱を鎮めねばならぬ」


養父「力?……話が見えねえな。さっきの話とどう繋がる?」
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/14(日) 00:06:46.78 ID:uhRAW2IP0

皇帝「力、と一口に言っても、その種類は様々だ。他を滅ぼす力、何かを守る力。それに何かを主張するにも力が必要だ」


養父「それはそうだな。俺もかつて、自分の持つこの力に頼って終戦を主張した」


皇帝「余は世界を争いのない一つの世界にしたいと考えておる。そのためにまずは争いを止める力が必要だ」


養父「ふむ。どっかで喧嘩してる連中がいたら脅しつけてやるんだな。
   いい加減にしねえと両方ともぶっ飛ばすぞ、とでも言ってやるわけだ」


皇帝「そう、それが一つ。争いを嫌っておるとはいえ、いつ争いが発生するとも限らん。
   そしてもう一つは、ひどく曖昧だが世界をまとめる力だ。捉えようによっては、争いを止める力と重なる部分も多い」


養父「難しいな。まとめるってのにも力が必要なのか」


皇帝「争いがなくなっただけでは世界が一つになったとは言い難い。
   少なくとも世界の隅の名もない小国では世界をまとめることは出来ぬ。世界の中心の大国であるこの国ならば、可能やもしれぬ」


養父「その口ぶりだと、絶対に可能だとは考えてねえみたいだな」


皇帝「歴史上、この世界ではそのような試みがなされたことがない。今はまだその手段を模索している最中だ。
   だが、この国が力を持った国であることは、おそらく重要な要素だと考えている」
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/14(日) 00:08:06.92 ID:uhRAW2IP0

養父「手段を模索している最中、ねえ」


皇帝「例えば、帝都の街並みに世界各国の特徴を取り入れたりしてみたが……」


養父「ああ、ありゃ失敗だわな。はっきり言って何がしてえのかわからねえよ」


皇帝「その通り。こちらとしてもどうすればいいのかわからぬのだ」


養父「迷走中ってやつか」


皇帝「……ともかく、今この国が衰えたと思わせるわけにはいかぬのだ。これが質問の答えだ」


養父「ふん、いいだろう。とりあえず今の話、信用しようじゃねえか。だが、今回守るその力、悪用しようものなら……」


皇帝「わかっているとも。この名に誓って、その力を悪用したりなどせぬ」


養父「ならいい。ああそうだ、今回の件、相応の見返りを期待してるぜ」


皇帝「ああ、その期待には応えてみせよう。無論、表向きには何の報酬もないが」


養父「そんなもんうまい酒と食い物で十分だ。後は俺が死ぬ前に、一つになった世界ってのも是非拝ませてくれ。じゃ、俺も失礼するぞ」
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/14(日) 00:11:17.18 ID:uhRAW2IP0

今日はここまで

テストやら集中講義やらでかなり間が空いてしまいましたが、
ようやく夏休みになりました

盆明けくらいまではまだ少し忙しいですが、
それ以降はしばらく時間があると思うのでちょくちょく来たいと思います

では
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/14(日) 02:57:29.68 ID:ObjZbFxa0

追いついた
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/14(日) 03:01:33.86 ID:LObsZ21Qo
キテターーーーーーーー!!!!

リアルを優先しろよ
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/14(日) 12:17:16.80 ID:E6Rmfvuuo
乙した
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/08/21(日) 14:15:53.80 ID:17E3Wl1AO
まだか…
舞っているぞ!
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/24(水) 23:20:38.55 ID:9HUdN88c0

――宿・魔導士の部屋


魔導士「さて、と。待機って言われてもやることないよな。お前はどうするんだ?」


使い魔「こんなこともあろうかと、冒険譚を一冊持ってきてるぜ」


魔導士「ああ、なるほどな。俺は……そうだな、今のうちに今回使う魔法式の確認をしておくかな」


使い魔「珍しく慎重だな。普段は、数撃ちゃ当たるとか言ってその辺りは適当なのに」


魔導士「まあな。今回は失敗するわけにはいかないだろ。親父の面子的にもな」


使い魔「大丈夫だとは思うけどな。実際に研究所での小規模な実験は成功しただろ?」


魔導士「うん。だがそれはあくまで小規模な実験だ。もしかすると、規模が小さいゆえにミスが目立たなかっただけなのかもしれない」


使い魔「ふーん。ま、ほどほどにな。頑張りすぎてもいいことないしな」


魔導士「……そうだ、それで思い出した。助手のことなんだが」


使い魔「ん?アイツがどうした?」
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/24(水) 23:22:21.44 ID:9HUdN88c0

カッ!


魔導士「ぐっ!なんだ!?」


突然部屋の中に閃光。
驚きながらも、魔導士は手元にあった剣に手を伸ばす。


シュッ


魔導士「うっ!」


だがその手が剣を握る前に、彼ののど元には鋭い刃物が突き付けられていた。
魔導士の生殺与奪の権を握った修道女風の女が静かに言う。


修道女「動かないで下さい」


使い魔「ちっ!」スッ


魔導士「よせ!余計な行動をするな。動くとやられるぞ」


修道女「賢明な判断です。私の話を聞いていただけるなら、何も危害は加えません」
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/24(水) 23:23:43.72 ID:9HUdN88c0

助けを呼ぼうと動き出した使い魔を、魔導士が止める。

実戦経験はほとんどないものの、一応は養父のもとで戦闘の心得を学んでいた魔導士は、
すぐに自分たちとこの修道女との戦力差に気付いたのだった。


魔導士「話を?まあ、聞くけど。ていうか、こんな脅迫まがいの状態じゃ聞かない訳にはいかないしな」


修道女「これは失礼しました。この状況で大人しく話を聞いていただくには、これがベストな手段だと思いましたので」


使い魔「それにしたって、突然部屋の中に転移してくるなんて何考えてるんだ」


魔導士「まったくだ。それで、その話とやらは?」


修道女「ええ、ある方から伝言を預かっております。あなたの助手の、あの女性について」


魔導士「助手について?アイツがどうかしたのか?」


修道女「"彼女は、魅入られている"。それがあの方からの伝言でございます」


魔導士「ちょっと待て。どういうことだ?」
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/24(水) 23:25:06.84 ID:9HUdN88c0

修道女「あの方は、これだけで理解していただけるとお考えです。
    むしろ理解した上でのことでしょうが、一応の警告としてお伝えしておきたいとお考えになったようですね」


使い魔「なんだ?何を言っている?」


魔導士「さっぱりわからん。"あの方"ってのは俺の知り合いなのか?」


修道女「少なくとも、直接お会いしたことはないかと存じます。もしかすると、じきに会うことになるかもしれませんが」


魔導士「良くわからないが、とりあえず了解した、と伝えておいてくれ」


修道女「かしこまりました」


魔導士「それで?」


修道女「と、おっしゃいますと?」


魔導士「用事はそれだけか?」


修道女「ええ、その通りでございます」
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/24(水) 23:26:46.24 ID:9HUdN88c0

使い魔「……。それだけ伝えるために、わざわざ部屋の中まで転移魔法で来たのか?しかも刃物まで突き付けるとは」


魔導士「とりあえずその刃物、いい加減おろしてくれないかな」


修道女「ああ、これは失礼しました。さて、なぜこのような手段をとったかですが、それにはもちろん理由がございます」


使い魔「……とりあえず聞こうか」


修道女「あの方は、あなた方だけにこの伝言を伝えたかったのです。
    それも、なるべくこの伝言が伝わった、ということが他に知られないように」


使い魔「あなた方?俺もか?」


修道女「その通りでございます。そして、そのためにはあなた方が二人だけになったこの瞬間、
    速やかに事をなすべきだ、という結論に至ったのです」


魔導士「ちょっと物騒な方向にずれてるような気もするが、まあもういいや。
    用事はもう済んだんだろ?なんか一気に疲れたから休みたいんだが」


修道女「ええ、それではそろそろお暇することにしましょう。彼女には努々気をつけますよう。
    では、失礼いたします」
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/24(水) 23:31:15.54 ID:9HUdN88c0

言って修道女は二人から数歩離れる。
そして何事かを呟いて魔法を詠唱すると、渦巻く光の中へと消えていった。


魔導士「はあ、なんだってんだ一体」


使い魔「やたらと物騒な修道女だったな。"あの方"ってのは教会の関係者か?」


魔導士「多分そうだろうな。しかも、あんな短い詠唱で転移魔法を使う手だれを配下におく程の人間だ。
    しかし、魅入られている、か。やっぱり俺には心当たりがないぞ」


使い魔「そういやお前、アイツが来る前に何か言いかけてなかったか?」


魔導士「ん?そうだっけ?あー、良く覚えてないや。また思いだしたときにでも言うから」


使い魔「そうか、わかった。忘れたってことは大したことじゃないんだろ」


魔導士「いや、結構大事なことだった気がするんだけどな。
    なんかさっきの修道女の事が気になってな。あ、変な意味じゃないぞ?」


使い魔「ほう。実は俺もだ。なんだか、どこかで見たことがあるような感じがしてな」


魔導士「んー。まあ、多分気のせいだろ。さて、もう俺は休む。さっきも言ったけど、なんか一気に疲れちまった」


使い魔「おう。ま、せっかくの高級ベッドだ。ゆっくり休むんだな。」
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/24(水) 23:34:29.45 ID:9HUdN88c0

――???


修道女「ただ今戻りました」


???「ああ、お帰り。どうだった?」


修道女「何の事だかさっぱりわからない、という顔をしてらっしゃいました。
    恐らく、演技で作った表情では無いかと」


???「一応確認しておくが、彼で間違いないんだよね?」


修道女「ええ、あの使い魔がつき従っていることがその証拠でございます」


???「つまりは、彼は本当に何のことかわからなかったのか。ふむ、これは思わぬ事態だな」


修道女「それだけでなく、あの使い魔……。あれも同じような反応でした。
    もっとも、あれは昔から演技が上手ではありましたが」


???「彼らが何故こちらに居るのか、その辺りが関係してそうだね。
    なんにせよ、情報が足りないね。先代のころから向こうの情報は全く入ってきてないし」


修道女「本当に知らなかった、またはしらばっくれているだけ。あるいは記憶をなくした可能性も。
    とにかく、特殊な事情があると考えるべきでしょう」
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/24(水) 23:37:54.12 ID:9HUdN88c0

???「記憶を失う?そんなことありえるのかな?」


修道女「記憶喪失自体は割とありふれていますが、彼ら二人ともの身に起きる、となるとかなり低い確率でしょうね。
    今日の二人の、あるいはどちらかの態度が演技だった可能性も捨てきれませんし、あくまで可能性の一つということで」


???「まあ、しばらくは静観するとしよう。我々にとっては幸いなことに、彼らは大きな騒動に巻き込まれたみたいだしね」


修道女「中央皇国の内乱、ですね。確かに彼らの真意を探る機会となり得ますが……」


???「これが、例の彼女が魅入られた結果、だとしたら大変だね」


修道女「仰る通りでございます」


???「しかし、残念ながら対抗策は何もない。彼らの動向を探るのが、今できる唯一の事だ。
    それについては、君に任せるとしよう」


修道女「かしこまりました。では、私はこれで」

389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/24(水) 23:46:52.57 ID:9HUdN88c0

今日はここまで。
遅くなってすみませんでした。


ずっと書いててどうも地の分は苦手っぽいということで最近は殆ど台本形式だったんですが、
かといってそれだけで描写するには力不足でした。

と言う訳で、戦闘場面やその他台本形式では伝わりにくいところでは、
今回のように思い出したように地の文が出てきます。
ご了承ください。


さて、次回はイレギュラーがなければ三日後位に。
毎回のように言ってますが、遅くとも一週間後くらいには来ます。

では

390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/25(木) 00:34:51.00 ID:6kIONqF+o
乙した
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/25(木) 01:04:02.30 ID:MQ2cvSkjo
違和感ないしやりやすいようにやってくれ乙
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/25(木) 01:19:35.70 ID:4QYKz6lSO

おつ
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/25(木) 07:17:25.50 ID:oL9VCzXho

やりやすいようにやってくれ
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/30(火) 00:55:48.66 ID:VSjhPZTz0

――翌日
中央皇国軍本部・会議室


副官「まずはあなた方に紹介する方がいます。こちらは中央皇国軍・魔法剣士の隊長です」


魔法剣士「はじめまして。ご紹介にあずかった通り魔法剣士隊の隊長、一応は軍属で階級は少佐。
     今回の作戦の現場指揮は僕が執らせてもらう。どうぞよろしく」


変わり者「へえ、魔法剣士隊長か……」


エリート「失礼ですが、一応軍属とはどういう?」


魔法剣士「この国には最近まで軍と別に騎士団ってのがあってね。
     ごく最近軍に組み込まれたんだけど、僕みたいな元騎士団員はまだ立ち位置が少し曖昧なんだ」


エリート「なるほど、騎士団の……。納得しましたわ」


副官「では、早速ですが作戦の概要を説明します。今回の作戦は少人数での内部調査。
   あなた方の最も重要な任務は、少佐が指揮を執る調査部隊に同行し侵入口と脱出口を作ることです」


魔導士「同行ということは結界の中まで?」
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/30(火) 00:56:48.27 ID:VSjhPZTz0

副官「その通りです。今回の調査対象は、結界内部の魔力が集中している五か所のポイント。
   ここは結界の外縁付近に近く有事の際には即退却できるため、危険度は低いと考えられます」


魔法剣士「君らが結界の外に待機するとなると、何かあったとき内部と連携が取れずにすばやく脱出できない可能性があるんだ」


魔導士「なるほど。だとすれば確かに同行した方が部隊としての危険度は低い」


副官「危険度は少ないとはいえ、民間人である三人はその身をを危険に晒すことになります。
   同意できない方は申し出てください。一応、同行しない形のプランもありますから遠慮なくどうぞ」


エリート「私たちが同行すれば調査部隊の危険が減るのでしょう?私は同行しますわ」


変わり者「同じく。それに、いざって時は自分の身は自分で守るよ」


助手「私も皆さんに付いていきますよ」


副官「わかりました。協力感謝します。危険があった場合、あなた方四人は中尉の判断で結界内部から脱出してください」


魔導士「その脱出に値する"危険"の基準は?」
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/30(火) 00:57:58.11 ID:VSjhPZTz0

副官「あなたに一任します。ただし、今の時点で結界を破る力があるのはあなた方のみです。
   何があってもあなた方四人だけは確実に脱出すること。よろしいですね、中尉」


魔導士「了解。最悪の場合、他の調査部隊員は?」


魔法剣士「さっき大佐から説明があったように、君たち四人だけは確実に脱出しなければならない。つまりはそういうことだ」


魔導士「…了解」


魔法剣士「まあ、心配しなくても僕たちは自分で何とかするから安心してくれ」


副官「さて、説明に戻ります。作戦の決行は四日後。侵入地点は現在はまだ未定ですが、本日中に決定します。
   最初に説明した通り調査部隊に同行し侵入口を作成。内部で調査を終えたら、脱出口を作成してもらいます」


魔導士「その調査の期間は?」


副官「現場の判断に任せますが、調査が終了しない場合でも五日をめどに帰還してください」


魔導士「了解」
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/30(火) 00:58:34.76 ID:VSjhPZTz0

副官「なお、例のポイントで魔力が急激に高まった後、結界が拡がってポイントも外側に移動するようです。
   魔力の高まりを感じた場合は、結界が拡がる前に脱出すること」


エリート「なるほど。結界を出るまでの距離が長くなると危険ですものね」


変わり者「ああ、確かにいきなり退却距離が長くなるなんて御免こうむりたいね」


助手「あの、ちょっと質問いいですか?」


副官「どうぞ」


助手「魔力の高まりの後に結界が拡がると言うことは、そのポイントは恐らく結界の形成に関係してるんですよね?」


魔法剣士「その可能性は高いね、確かに。それを調査するのが今回の作戦なんだけどね」


助手「はい、それはわかってます。でも実際にそうであるとわかった場合は、ええと、その……」


魔法剣士「今回の作戦は調査以外の行動は行わないのか。もしそのポイントで結界を消去できるとわかった場合はどうするのか。
     聞きたいのはこんなところかな?」


助手「あっ、はい、そのとおりです」
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/30(火) 01:00:31.97 ID:VSjhPZTz0

副官「もし"確実に"結界を消去できるのであればしてもらいますが、そうでない場合はそのまま、です」


魔法剣士「どうするかの判断は僕に任せてもらうよ。その判断のために魔法にも詳しい、僕ら魔法剣士隊が調査するんだ。
     研究所に所属する君たちにも意見を求めることがあるかも知れないから、そっちのほうもよろしく頼む」


副官「また、調査するのは五か所のポイントのうち一つですが、どのポイントを調査するかは侵入地点によって異なります。
   これも本日中に決定し、連絡します」


魔法剣士「明日、また君たちに集まってもらって連絡するという形になると思う。それと、明日は少し訓練してもらう」


変わり者「訓練?一日で終わるような訓練でしょうか?」


魔法剣士「ああ。さして体を動かすようなこともないから、女性陣も安心してくれ」


助手「よ、良かった」


エリート「ええ。まったくですわ……」


使い魔「まあ、でもお前らは少し体動かした方がいいんじゃないのか?研究所に居たころは少しずつ間食が増えてたようだが」


助手「そ、それは……」


エリート「よ、余計なお世話ですわ。でも体を動かさない訓練って一体どんなものですの?」
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/30(火) 01:01:32.58 ID:VSjhPZTz0

魔法剣士「 "ドクター"が新兵器を開発してね。新型の拳銃だそうだ。
     護身用に君たちに持たせるから、ドクターの実験がてら使い方を教わってくれ」


魔導士「ドクター、か。皇国を技術大国にした天才科学者……。一応は俺たちと同業者だな。一体どんな奴なんだろ?」


魔法剣士「あー、まあ変わった人だよ。明日の実験、もとい訓練にも立ち会うそうだから、その時に会えるさ」


副官「では、簡単にですが説明は以上です。詳しくは資料を配布するので目を通しておくように。では、解散」


魔法剣士「じゃあ、僕は失礼する。作戦中はよろしく頼む」


コツ、コツ、コツ


使い魔「にしてもあの隊長さん、只者じゃないな」


魔導士「だな。もともと騎士団って言ってたし、馬術に剣術に……まあ、たいがいの武術は出来るんだろうな」


変わり者「それに加え、魔法もだね。それも魔法剣士隊長ともなれば剣も魔法もかなりの腕前だろうね」


エリート「心強いですわね。正直、ちょっと不安でしたが少しは安心できそうですわ」
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/30(火) 01:02:17.74 ID:VSjhPZTz0

魔導士「それでも油断するなよ。どこでなにがあるかわからない。もしかしたら戦闘になることだってあり得る」


エリート「そう考えるとあの新型結界、無理にでも完成させておきたかったですわね」


変わり者「確かに完成してればもう少し安心できたかもね」


使い魔「なんだかんだでここ最近はこっちの研究ばっかり手伝ってたからな。どういう心境の変化だ?」


エリート「ただ今回行う筈だった実験に間に会わせたくなっただけですわ。ある程度形になってないと実験の意味がありませんから」


魔導士「とか言いながら、本当はこっちの研究がちょっと面白くなっちゃったんだろ?」


エリート「そ、そんなこと……ないこともないですけど」


助手「ともあれ、いよいよ四日後ですね」


エリート「私たちの研究、思わぬところで使う事になりましたわね」


使い魔「いつの間にか"私たちの"なんて言うようになったか。結構結構」
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/30(火) 01:02:53.35 ID:VSjhPZTz0

エリート「まあ、とりあえずは私の研究仲間として認めてあげますわ。光栄に思いなさい」


魔導士「はは。多少丸くなったのはいいが、相変わらず偉そうだな」


助手「それで、私たちももうこのまま解散ですか?」


魔導士「ああそうだ、今回使う式を少し直してみたんだ。悪いけど少し付き合ってくれ。四人いないと実験もできないんだ」


変わり者「四人で使う式だからね、まあ仕方ないさ。当然付き合うとも」


助手「もちろんいいですよ」


エリート「仕方ありませんわね。といっても、どうせ退屈でしたし構いませんわ」


魔導士「よし、じゃあ飯食って俺の部屋に集合だ。おい、使い魔どこ行くんだ。当然お前も手伝うんだぞ」


使い魔「ち、やっぱりか」


魔導士「さてと、失敗への不安もありはするが、俺はやっぱり四日後が楽しみだ。
    ま、当日に向けて頑張ろうじゃないか」
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/08/30(火) 01:04:09.33 ID:VSjhPZTz0

今日はここまで。

次回はまた三日後くらいの予定です。


では
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 01:06:58.10 ID:dS+BqQ0Bo
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/30(火) 02:27:49.85 ID:cWeXGTAJo

楽しみにしてるよ
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 16:11:49.33 ID:p27QEmQSo
面白い
支援
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/09/06(火) 14:08:50.99 ID:CwRgMi5AO
次は3日後…そう言って>>1は行方不明になった…
台風に巻き込まれたか
生存報告頼むます
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 00:48:14.88 ID:9wAc0FRF0

――さらに翌日
中央皇国軍本部・会議室



魔法剣士「ああ、来たね。じゃあはやいとこ用件を済まそうか」


魔導士「昨日の話の続きですね」


魔法剣士「さて。本題に入る前に、今日は作戦に参加する調査隊メンバーを連れてきている。軽く自己紹介でも済ませてくれ」


使い魔「ふうん。随分人数が少ないんだな。もともと少数だとは聞いてたが」


魔法剣士「まあね。僕以外には魔法剣士隊から六人。それと君ら五人で計十二人だね」


使い魔「おっと。俺は頭数に入れないでいいぞ。ただの使い魔だからな」


魔法剣士「へえ、使い魔?人型の使い魔とは珍しい」


使い魔「いや、これは俺の数ある姿の一つだ。人前に出る時はこの姿が一番都合がいいんだ」


魔法剣士「ふーん、なるほどね。それにしても、複数の姿をもつ使い魔なんて、下手すると魔物より珍しいんじゃないかな?」
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 00:49:06.65 ID:9wAc0FRF0

使い魔「ん、そうなのか?」


魔法剣士「そもそも使い魔を使役する魔法使い自体が珍しいし、それに使い魔と言っても色々だ。
     魔法で作った魔力生物だったり、普通の動物だったりね。君みたいなのは滅多にお目にかかれないな」


使い魔「そういえば、他に使い魔を連れてるやつはなかなか見ないな。……っと、向こうは自己紹介が終わったようだぞ」


魔法剣士「ああ、ありがとう。……さて、自己紹介も終わったところで三日後の侵入経路を説明しよう。この地図を見てくれ」


魔導士「東王領の地図ですね。で、この曲線が結界ですか?」


魔法剣士「ご名答。まず前提として、昨日の深夜に結界の拡大が確認されたばかり。
     これまでの周期で考えると作戦中にまた拡大する可能性は低い。そこで、ここの山脈に沿うようなルートで侵入する」


魔導士「ということは調査対象のポイントは、山脈近くのこのポイントですか?」


魔法剣士「そう。というより、侵入経路も調査ポイントもここしかあり得ない。他は向こうの拠点になったであろう地点に近すぎる」


エリート「大丈夫なんですの?話が出来過ぎてる気がしますわ」
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 00:50:01.84 ID:9wAc0FRF0

変わり者「ふむ。確かにうまく誘いこまれたような気がしないでもないね」


魔法剣士「もっともな意見だが、この決定は覆らない。次に結界の拡大が起これば、結界が他国の領土に届く可能性がある」


魔導士「なるほど。ならば仕方ないか……」


魔法剣士「当初の予定より作戦の危険度は上昇したと言っていい。そこで、作戦の最重要目標を"生還すること"とする」


魔導士「ということは最悪の場合、調査が出来なくても構わない、と」


魔法剣士「そうだね。調査がうまくいったとしても、もう他国の介入があるまでに反乱を鎮圧出来る可能性は低いし。
     今回ので結界の解除まで成功すれば、また話は別だけど」


助手「他国の介入?」


魔法剣士「他国の領土にまで結界が届くと、もう介入は避けられなくなるのさ。できればそれまでに手を打ちたかったんだけど。
     まあ、それはこっちの事情だから気にしないで」


助手「あ、はい」


魔法剣士「で、作戦中は調査隊メンバー六人は二人ずつの三ペアで周囲の警戒に当たる。
     僕は君たち五、いや四人の警護及び全体の指揮を担当する」
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 00:51:13.63 ID:9wAc0FRF0

魔導士「我々四人のやるべきことは昨日の説明の通りですね?」


魔法剣士「ああ。それで、このあと君たちには昨日言ってた訓練を受けてもらって、明日の朝にはもう移動を開始する。以上だ。
     ……ああそうそう、訓練は一時間後に始まる。時間までに野外訓練所に集合してくれ」

411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 00:51:56.28 ID:9wAc0FRF0


――同時刻
東王領・宰相の執務室


少女「こんにちは」


宰相「……一体いつの間に入って来たのだ?」


少女「どうでもいいでしょ、そんなこと」


宰相「今日は何の用だ?」


少女「うん。あなたの敵は、あなたの考えてるばしょからはいってくるみたいだよ」


宰相「確かか?」


少女「あたしがうそついたこと、ある?」


宰相「ふむ、確かに。思えば東王の急逝の情報もお前がもたらしたものだったな」


少女「でしょ?」
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 00:52:37.75 ID:9wAc0FRF0

宰相「ふん。それで、これもお前の主の望みなのか?」


少女「あるじ?んー、あの人はそんなのじゃなくて、おともだち、かな?」


宰相「ほう?」


少女「だからあの人のおねがいはかなえてあげるの。今日のことも、あの人のおねがいをかなえるためなんだよ」


宰相「……友達、か。まあよい。さあ、用がすんだら帰れ」


少女「うん。きょうの用事はこれだけだから。じゃあね」


ガチャ、バタン


宰相「あの少女からもたらされた情報……。これまでそのすべてが的中している。今回も信憑性は高いと言っていいだろう。
   ……それにしても、あの少女は何者なのだ?」


宰相「……それに、奴のいう"友達"とやら。今のところ打つ手は何もないが、警戒せねばならんな」
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 00:53:32.05 ID:9wAc0FRF0

―― 一時間後
野外訓練所


科学者「ようこそ。君たちが今日の実験に付き合ってくれる人たちだね?」


助手「えっと、こんにちは」


魔導士「こいつが……」


エリート「噂の天才科学者…?」


変わり者「思ってたより普通の人だね」


科学者「さあ、これが君たちに預ける新開発の銃です。弾丸に回転を与えることにより、命中精度を向上。
    さらに銃身も短くして取り回しも良くしてあります。それに伴い反動も大きくなっているのですが、
    弾薬の燃焼ガスを利用することでこの反動、および銃口の跳ね上がりを抑制することに成功しています。
    また、装弾数を上げるために……」


助手「こ、これは……」


エリート「どこかでみたことがある状況ですわね」


魔導士「?」
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 00:54:34.57 ID:9wAc0FRF0

科学者「おっと、失礼しました。さて肝心の使い方ですが、狙って引き金を引く。以上です」


使い魔「ざっくりした説明だな。そんなんでいいのか?」


科学者「普通の銃として使うならば、これ以上の説明は必要ないでしょう。
    ただ、あなたたちに渡す銃の銃身……その直接弾丸に触れる部分には特殊な素材を用いてあります」


変わり者「特殊?一体どういう風に?」


科学者「魔力が通り易い素材です。聞いたところ、魔法使いたちが使う魔方陣と言うものは魔力の通路だそうですね?」


魔導士「ああ。魔方陣の中の模様に見える線はだいたい魔力の通り道だ。それがどうかしたのか?」


科学者「その通路を通る魔力どうしが相互に干渉して、魔法としての効果が生まれる。
    ならば、もしこの銃の銃身に魔力の通路を作ることが出来たなら?」


助手「面白いですね。形こそ魔方陣じゃないけど、うまくすれば魔法を発動することが出来ます。えっと、そうですよね?」


魔導士「そうだな。だが、お前の言った通りうまくすれば、の話だ」
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 00:55:22.82 ID:9wAc0FRF0

エリート「ええ。今のところ銃身にうまく魔力の通り道を形成する、なんて特殊すぎる式はありませんし」


変わり者「でも、夢のある話だと思わないかい?」


使い魔「お前はこういうの好きそうだもんな。だが、簡単にはいかないと思うぞ?」


魔導士「確かに興味深くはあるけどな」


科学者「興味を持っていただければ十分です。その使い方も今回の訓練で試していただければ幸いです。
    では、お伝えすることは以上ですので、各自射撃訓練を行ってください」
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 01:08:03.40 ID:9wAc0FRF0

今日はここまで。

さて、お久しぶりです。>>1でございます。
三日後とか言いながら二週間弱開いてしまってごめんなさい。

次はまた三日後、と言いたいところですが、
遅くても一週間後ってところでお茶を濁すことにします。

>>406
台風は全く関係ないです。
情けないことに、なぜかモチべが急に上がらなくなっただけで。
心配してくれてありがとう。


次からはもし遅くなりそうならここに連絡します。
では




417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 01:09:07.97 ID:uVgkGFlCo
乙ローカルルール変わったから気をつけてくれ
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/12(月) 08:58:34.89 ID:hrHmpjMxo
乙した
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/12(月) 17:50:49.95 ID:NQGTNdsAo

魔法銃はロマン
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/18(日) 08:45:30.77 ID:+gX/2QvBo
wwktkしすぎて夜も眠れない
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/19(月) 00:38:19.32 ID:FJwc/+ls0

――三日後・馬車内


魔法剣士「さあ、そろそろ到着だ。準備しておいてくれ」


魔導士「いよいよか……」


変わり者「僕の準備は万全だよ」


使い魔「本当か?ついさっきまで例の銃で遊んでたくせに」


エリート「まったく、呆れますわ。まるで新しいおもちゃを手にした子供みたいですわね」


変わり者「君だって夜中までこの銃に使える魔法式とか楽しそうに考えてたじゃないか」


エリート「むっ」


魔導士「はいはい。もうめんどくさいからその辺にしとけ」


助手「……あ、もう着くみたいですよ」
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/19(月) 00:39:36.74 ID:FJwc/+ls0

――中央皇国・東王領 結界の境目


魔法剣士「じゃあ、手筈通りに」


魔導士「了解。さあ、始めるぞ。使い魔はいつも通りサポートを頼む」


使い魔「おう」


変わり者「じゃあ、まずは僕が」


最初はこの変わり者。軽く深呼吸してから動き出す。
うすい靄のような光が拡がるように進み、魔力の通路たる魔方陣の、その外枠を形成した。


使い魔「よし。第一段階の一番魔力の制御が面倒な部分は完璧だ。そのまま魔方陣の大枠を保ってくれ」


変わり者「ああ。任せてくれ」


エリート「では、次は私が」


次にエリート。この日の為に改良を繰り返した式から、魔方陣の展開を試みる。
今度の靄は先ほどのように拡がらず、魔方陣の内側に複雑な模様を描き出した。


使い魔「これも問題なく成功だ。流石、難しい式を扱いなれてるだけはあるな」


エリート「ええ。この程度、当然ですわ」
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/19(月) 00:40:18.75 ID:FJwc/+ls0

助手「私も始めますっ」


三番目は助手。念入りに集中しながらゆっくりと仕事に取り掛かる。
彼女の生み出した薄い光は、既に展開された魔方陣になじむように溶け、一つの魔方陣としてより強く結びつけた。


使い魔「いいぞ。お前は特別な技術を必要としない分、しっかりと全体を見る必要がある。頑張れ」


助手「はいっ」


魔導士「さて、最後は俺だ」


そして最後に魔導士。手早く行動を開始する。
彼によって魔方陣の中心の最後の一点が描きこまれ、魔方陣が遂に完全のものとなった。


使い魔「これで魔方陣は完成だ。今、全体の維持を保っているのはお前だ。気を抜くなよ」


魔導士「わかってる」


魔法剣士「ほう。これは凄いな。四人で一つのコントロールできる魔方陣を展開するのか」
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/19(月) 00:41:39.48 ID:FJwc/+ls0

魔導士「さあ、ここからが本番だぞ。三、二、一、今だ!」


掛け声に合わせて、変わり者とエリートが一気に魔力を注ぎ込む。


変わり者「いけっ!」


エリート「はっ!」


二人に合わせて助手も魔力を高め、魔方陣に発生した歪みを打ち消していく。


助手「う、やっぱり一人で全部は厳しいですか……」


使い魔「む。おい、魔導士。少し歪みが残ってるが、どうする?」


一般に上級に分類される魔法使い二人分の魔力。
負担にならないように式で調整されているとはいえ、それでも一人でせめぎ合う魔力を全て制御するのはまだ難しかったようだ。

打ち消しきれなかった魔力が、魔方陣に歪みを作り出してしまう。
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/19(月) 00:43:01.05 ID:FJwc/+ls0

魔導士「どの程度だ?」


使い魔「まあ、お前が言ってた許容範囲よりやや小さい、ってところか」


魔導士「なら、何とかするのが俺の仕事だ」


使い魔「いけるのか?」


魔導士「計算上は許容範囲をわずかに上回る歪みでも俺の方で打ち消せる。
    そういう風に許容範囲を設定しておけば、たいがいの危機は回避できるからな」


魔導士は魔方陣全体の制御と並行して、手元にもう一つ小さな魔方陣を展開した。
そうしてその小さな魔方陣から、歪みが生じた部分に外側から直接魔力を打ち込んで安定させていく。


使い魔「お見事」


魔導士「どうも」
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/19(月) 00:43:58.71 ID:FJwc/+ls0

使い魔「ふむ。……安定したみたいだな。これなら大丈夫だろう」


魔導士「さて、じゃあ仕上げに移るか」


魔導士の担当する魔方陣の中心。
これまでは魔方陣を維持するためにそこへ魔力を集中させて蓄えられていた魔力を、一気に外側へ放出する。
放出された魔力は、魔方陣の内部で干渉しあい、そして、


魔導士「よし、成功だ!」


魔法剣士「綺麗だな。虹色の光、か」


助手「良かった…。うまくいきましたか」


四人がかりで発動された魔法。
魔方陣の縁から虹色の光が溢れだし、結界を分解していく。
こうして魔導士たちの研究の成果が、東王領への道を切り開いた。
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/19(月) 00:59:46.97 ID:FJwc/+ls0

今日はここまで

次回は、いつも通り一週間後には多分ってことでよろしくです。
投下の頻度も量も下がってるので、最低でも以前くらいには戻したいと思ってます。


>>420
そう言ってくれるとすごく嬉しい。
励みになるよ。ありがとう。
だがしかし筆が進まねえ。助けてくれ

428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/19(月) 01:03:10.38 ID:X1fLXa1Bo
流石にそれは助けようが無いなww
頑張ってくれ乙
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/19(月) 01:11:56.09 ID:v14P2YJZo

完結してくれればいいさ
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/19(月) 18:03:14.71 ID:bRskm07Io

焦らなくても大丈夫だぜ
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/13(木) 18:14:54.36 ID:bo7BMswDO
待ってる
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/21(金) 08:53:08.21 ID:1zoiFS8AO
一ヶ月…エタかな
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2011/10/22(土) 12:22:31.97 ID:k4ePCMm60
設定が凝っててイイな
待ってる
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/23(日) 04:03:11.16 ID:usi9mjRAO
数ヶ月分の乙を込めて
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東海) [sage]:2011/11/14(月) 18:53:02.95 ID:h6OfSHbAO
もうすぐ2ヶ月か…
だがまだ諦めんぞ!それまで全力で舞っている!!
436 :名無しさん エル・プサイ・コングルゥ :2011/11/15(火) 22:51:49.72 ID:YYVvImyF0
シュタゲのSSだと思った・・・。
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟県) [sage]:2011/11/29(火) 19:49:15.32 ID:0HHvmDg/o
こない
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) :2011/12/04(日) 23:55:48.10 ID:Ud32WA2bo
>
439 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/11(日) 21:26:06.38 ID:3i1XZ8ih0
待ってるからな!
440 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 09:50:19.56 ID:UtDvm8VAO
いつまでも
舞って…やるぜ!
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