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美琴「ねぇ……いつになったら、アンタは許されてくれるの?」 一方通行「…………」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/04/19(火) 00:56:04.73 ID:Rw61si6d0
SS書くのは二回目。
電磁通行で未来設定(だいたい原作から六年後)。
昨日、一昨日と総合に投下した者です。
見切り発車で、どんな風にするかは完璧には決めてません。
とりあえず今から総合に投下したのを加筆修正した奴を投下します。
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俺の遺伝子白濁汁をくらえっ @ 2025/06/17(火) 17:40:37.60 ID:q3DDvkJnO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750149637/

スイカバー @ 2025/06/16(月) 23:54:53.05 ID:7An/VCwoo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1750085692/

全レスゾーンゼロ @ 2025/06/16(月) 17:23:39.88 ID:/JulHR0so
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1750062219/

バームくんへ @ 2025/06/11(水) 20:52:59.15 ID:9hFPsRzXO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1749642779/

秘境 @ 2025/06/10(火) 00:47:53.81 ID:BDVYljqu0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1749484073/

【安価】上条「とある禁書目録で」鴻野江「仮面ライダー」【禁書】 @ 2025/06/09(月) 21:43:10.25 ID:qDlYab/50
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749472989/

ツナ「(雲雀さん?!)」雲雀「・・・」ビショビショ @ 2025/06/07(土) 01:30:36.87 ID:AfN9Rsm0O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749227436/

【安価コンマ】障害走を極めるその5【ウマ娘】 @ 2025/06/06(金) 01:05:45.46 ID:RaUitMs20
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749139545/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/04/19(火) 00:56:37.52 ID:kp7ZC2Fy0
GOGO
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/04/19(火) 00:58:50.36 ID:2IRXYZ9AO
期待して舞ってる
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/04/19(火) 00:59:20.91 ID:NERKuBJAO
期待して舞ってるますよ。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/19(火) 01:00:20.73 ID:50jXd55c0



ピピピピピピピピピ――――!!



――けたたましい音がした。

「ん、うぅー……?」

暖色系の壁紙で彩られた部屋の隅に置かれたベッドの中で、一人の女が呻き声を上げた。

黄緑で、所々にカエルのシルエットがプリントされているパジャマを着ているその女は、
とてつもない大音量に、すっかり目を覚まさせられてしまった。

音の原因である目覚まし時計を止めるために、女はゆったりした動作で起き上がる。

「あーはいはい。すぐに止めるから黙ってなさいっての」

まったく面倒ね、とぼやきながら彼女は時計を持って操作する。

「…………ふわぁぁああ………………」

大きく欠伸をして、彼女は首筋を触る。

そこには、黒色のチョーカーのようなモノがある。

部屋から廊下に出た途端、リビングと台所へと続くドアから、
何やら香ばしくて良い匂いとジュージューと何かを焼いている音がした。

「……うわ、アイツもう起きてる」

そんな事を呟きつつ、そっとドアを開ける。

中に入って少し進めば、食事の時に使う大きなテーブルの上に、
トーストやサラダ、カリカリに焼けたベーコン、それに目玉焼きがあるのを見つけた。


6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/19(火) 01:03:08.30 ID:ynLdIV2A0
「……あちゃー」

またやっちゃったな、とちょっぴり反省する。

するとそこへ、





「おォ、起きたか」





キッチンの方から、一人の青年が現れた。

特徴的な白髪と真紅の目で、黒いスーツの上に青を基調としたエプロンを纏っている。

首には、女とお揃いのチョーカーのようなモノがある。

「えーっと、ゴメン。また用意させちゃったわね」

女――御坂美琴が謝ると、

「別に。気にしちゃいねェよ。
どォせその分、オマエに回すからな」

青年―― 一方通行は、それだけ言うと席につく。

美琴も、げんなりした顔をしながら隣に座る。

彼らは様々な家事を当番制にしているのだが、
美琴はあまり当番を守れず、一方通行がしてしまう。

……まぁ、その代わりに後でたっぷり押し付けられるが。

「「……いただきます」」

二人で声を揃えて、朝食の合図をする。





「「……ごちそうさまでした」」

朝食が終わり、美琴は立ち上がると、外に設置されている郵便受けに向かう。


7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/19(火) 01:04:17.85 ID:HuLO7Zlt0
リビングを出て廊下をまっすぐに進み、玄関から外に出てみると、少しだけ寒かった。

季節としてはもう春だが、そう簡単に気温は変わらないらしい。

新聞新聞、と呟きながら美琴は郵便受けの扉を開ける。

「……っと、ん?」

中を覗いてみると、見慣れた新聞の他に、何か手紙のような物があった。

それを手に取り、しげしげと眺める。

珍しく、そして懐かしい人物からの手紙だった。

んー? と思いつつ彼女は新聞とそれを持って家の中に入る。

もう一度リビングに戻ると、台所で一方通行が食洗機のスイッチを入れていた。

「ねー。アンタ宛てに珍しい奴から手紙来たわよ」

「あァ? 誰だ?」

エプロンを脱ぎ、畳んで棚にしまいながら一方通行が聞いてきた。

「当麻とインデックス」

とりあえず質問に答えると、一方通行はほォ、とだけ言った。

「アイツら何て?」

そう言われ、手紙の封を開ける。

「はいはい。えっと、読み上げるわよ?
……『よう、二人とも元気か? 俺とインデックスは相変わらずだ。(以下中略)。
……実はさ、今度久しぶりに学園都市に帰って来る事になったんだ。
それで、出来ればで良いから一週間ぐれーそっちに泊めてくれないか?
浜面は今滝壺の件でまずいし、ホテルとかは使えないんだ。……よかったら連絡してくれ』……だって」


8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/19(火) 01:05:02.30 ID:HuLO7Zlt0
どうする? と言った目で見ると、

「……まァ、別にイインじゃねェか。部屋は余ってるし」

「……そうね」

美琴は同意すると、手紙をテーブルに置く。

「……さて、と。オラ、とっとと着替えて来いよ」

「はいはい」

シッシッ、と手を振る彼に適当に返しながら、彼女は自室に戻る。





しばらくして、一方通行と美琴は第十学区へと車を走らせていた。

「……あとどれくらいで着くかな」

助手席に座っている美琴の質問に、

「……そォだな、もう十分もねェだろ」

答えながら、一方通行はアクセルを踏む。

昔は杖をついていて運転など出来なかった彼だが、今ではそれも出来るようになった。


9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/19(火) 01:06:16.42 ID:ynLdIV2A0
「にしても……何でアイツらケータイ使わなかったのかしらね?」

何となく湧いて来た疑問を口にすると、

「……そりゃあオマエ、そン時はまだ使える状況じゃなかったンだろ」

面倒そうにしながらも、丁寧に一方通行は答えた。

「今はアレだろ、確かイタリアでテロを起こそうとしてる
『魔術結社(マジックキャバル)』を、ローマ正教と協同で潰しに行ったンじゃなかったか?」

上条当麻とインデックス。

この二人はほんの四年前から世界中を旅している。

始めの頃は、世界をもっと知りたいという二人の好奇心のための旅だった。

しかし、その道中で出会った人々を脅かそうと目論む魔術師達と戦っている内に、
世界中の人々を魔術師から助ける事が旅のメインになってきてしまっているらしい。


10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/19(火) 01:07:56.59 ID:HuLO7Zlt0
「あー、そうだったわね。……最後にアイツらに会ったのっていつだったけ?」

一方通行は少し考えると、

「……確か、浜面と滝壺の式の時だったな。
もォ、かれこれ大体二年前ぐらいになるかァ?」

「あれ、もうそんなになる?」

存外、時は経つのが早いものだ。

「完璧にそうなってるなァ」

そう言って一方通行は車を止めた。

「ほれ、着いたぞ」

いつの間にか、目的地に着いていた。

「……よいしょ、っと」

後部座席から、大量の花束を取り外へ出る。

「……じゃ、行くか」

一方通行も同様に花束を手に取り、駐車場の反対にある建物の中へと入る。

建物の看板には、『学生墓地』と書いてある。


11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/19(火) 01:09:05.43 ID:6+gkxxMw0





「……じゃ、私こっちから回るから」

「………………おォ」

建物に入り、エレベーターに乗った二人は、目的の階に着くと二手に別れた。

何せ、回る墓がかなり多いのだ。

二人で一つずつ回ると時間がかかる。

そんな訳で、美琴は一方通行と別れて歩き出した。





学園都市にある墓地は、一言で言うなら『シンプル』に尽きる。

墓地、と言っても骨壷の入っただけのコンパクトな墓石しかない。

パーティションで区切られた『ブース』の中で暗証番号を入力すると、
それがエレベーターやリフトによって運ばれるという仕組みだ。

「…………」

美琴は、いつも通りに暗証番号を入力して墓を呼び出す。

「……よっ、と」

そっと墓に添えてある花を取り替えた。

一応、墓に花を添える事も許されている。

ただし、定められた数以上を供えるとダストシュートに放り込まれてしまう。

ちゃんとその事に気をつけておかなければならない。

(……久しぶりね。一ヶ月ぶりぐらいかしら)

美琴と一方通行は、月に一度花を取り替えにここを訪れている。

もはや習慣と言っても良いだろう。


12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/19(火) 01:10:23.98 ID:6+gkxxMw0
(……ねぇ)

美琴は心の中で、墓に向かって話しかけた。

別に返事がない事は分かっている。

でも、そうしたかったのだ。

(私、ちゃんと約束守れてるかな)

辺りには、誰も居ない。

ただただ、静かだった。

(…………アイツはもう大丈夫よ?
何てたって、この美琴さんが付いてるもの)

でもさ、と思う。

(やっぱり……アンタが居てくれた方が良かったわ)

最後の一言だけが口に出た。





「…………打ち止め(ラストオーダー)」





「…………」

その頃、一方通行は順調に墓を回っていた。

墓の花を新しい物に取り替える時に、彼はただ謝罪をしていた。

ゴメンな、とだけ。

(あと、二十人か)

美琴と別れて半分を回る事になっている。

向こうも、こちらと同じぐらいは終わらせているだろう。

そう考えて一方通行は次の墓へと歩き出す。

ほんの少し歩いただけですぐに目的の場所に着いた。


13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/19(火) 01:10:53.10 ID:6+gkxxMw0
他の墓と同様に暗証番号を入力して、墓石を出す。

(……よォ、久しぶりだな)

一方通行はあらかじめ添えてある花を取り替える。

何となく、思った。

今こうしている様子を、この墓に眠る女が見たら何と言うか。

(……どォ考えても、『あなたには似合わないよ、ギャハ☆』とかだろうな……)

いや、もしかしたら嫌がるのかもしれない。

最期まで、自分を困らせる奴だったと思う。





『……ん』

『!?』

『ふふ……あなたのそんな顔を間近で見れて、ミサカは大満足だよ……』





(………………なァ)

一方通行は、墓石に向かって話しかけた。

(……オマエのあの行動は、結局どういうつもりだったンだ……?)

『彼女』の呼び名を、一方通行はそっと呟く。

「…………番外個体(ミサカワースト)」

呟きは辺りに小さく反響し、消えた。

一方通行は瞳を閉じた。

脳裏に浮かぶのは、誰もが幸せを感じていた四年前――全てが終わった、二年後の事だった。


14 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/04/19(火) 01:13:33.31 ID:qF/YK/fK0
以上が総合に投下した分です。
次回はいつ来るかはわかりません。
本命でやってるスレがあるので、基本そっち優先になります。
一応なるべく早く来れるように努力はしますが。
それでは皆様、またいつか。次回は早速『過去編』です。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/19(火) 01:16:30.02 ID:M///IBI50
本命スレも見てるぜ!乙です!

電磁通行で俺得わっほうと思って来てみたら…
打ち止めと番外個体が気になるな
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/19(火) 01:17:05.67 ID:Nqm6BHIto
やはり俺得乙

本命・・・気になるじゃないか
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/19(火) 01:21:40.16 ID:l2wv9J15o
お、総合の奴か
スレ立て乙

期待
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/04/19(火) 01:38:12.17 ID:2IRXYZ9AO
なかなかやるようだな…

要するに 超乙
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/04/19(火) 02:03:05.81 ID:RSQhFWAFo
乙、超期待
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽) [sage]:2011/04/19(火) 05:41:37.29 ID:JLDK3XZAO
乙!

電磁通行の時代が来てるのか
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/04/19(火) 06:17:12.52 ID:98649Fy30
他のSSでほんわりして、ここ覗いたら目から汗が出そうになった。
すごく期待。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/19(火) 08:39:20.49 ID:yJ6PYrOU0
最近電磁通行増えて、人生が楽しい
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/19(火) 10:24:42.39 ID:As8sXzCIO
これは良作になる気が
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/23(土) 21:55:33.36 ID:PIK803uQ0
期待してますえ
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 01:56:59.12 ID:8euB+97IO
26 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/04/24(日) 18:41:34.74 ID:5+iyvEyH0
どうもお久しぶりです。
今から投下開始。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/24(日) 18:43:27.64 ID:ZFazd5cJ0





三月一日。

日本の高等学校ではこの日、卒業式が行われる。

それはもちろん、ここ学園都市も変わらない。

進学する者。浪人して、新たに挑戦する者。就職する者。

皆、それぞれの進路を歩み出す。

仲間との別れを惜しみながらも、新しい出会いを求めて、笑顔で進む。

「………………」

そんな日のお昼、御坂美琴は第七学区の公園のベンチに腰掛けていた。

周りには誰もおらず、自販機で買った缶コーヒーを両手で抱えている。

普段、彼女は自販機を蹴り飛ばして商品を手に入れている。

しかし、今日は珍しく普通にお金を入れて商品を購入した。

今日の彼女は、そんな日課のような行動が出来る精神状態ではなかったのだ。

何故ならば。





「………………フラれちゃったんだなぁ」





つい今しがた、彼女は初めて『失恋』したのだ。


28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/24(日) 18:45:22.26 ID:/tHSHNDT0





時を遡ること数分、この公園に二人の男女が立っていた。

女の名はもちろん御坂美琴。

名門、長点上機学園に所属する、七人の超能力者(レベル5)の中の一人。
通称、『超電磁砲(レールガン)』と呼ばれている少女だ。

対する男の名は上条当麻。

その辺にあるごく平凡な高校の制服を着た、元・高校生だ。

この二人の間には現在、何とも言い難い空気が流れていた。

一体何があったのか。

この二人の仲を簡単に知る者がいれば、こう言うだろう。

あるいは、二人の――正確には上条の抱えている事情を知る者ならば、
この空気から何となく状況を理解したのかもしれない。





先程、美琴が上条に告白した。

『好きです、付き合って下さい』というような、ストレートな告白だった。

たったそれだけを言うのに、彼女はこれまで相当な苦労をしてきた。

それを言えたのは、今日上条が高校を卒業したからだ。


29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/24(日) 18:48:26.30 ID:ZFazd5cJ0
卒業後に彼がどうするかを、彼女は一切聞いていない。

聞く以前に、最近はまったく連絡もつかず、会う事も出来なかったのだ。

もしかしたら、このまま学園都市を出て、どこか外の企業に就職するかもしれない。

上条は無能力者(レベル0)だ。

大学など、行ったところで特に意味は無い――そう、考えているかもしれない。

仮にそうなったら、もう上条と話す機会すら、そうないだろう。

そんな事を思った美琴は、この日学校の卒業式をサボった。

適当な事を言って休んだ彼女は、
とある高校の卒業式へと向かい、
終わったところを見計らって、上条を捕まえてきた。

そうして、この公園で『告白』したのだ。

美琴は、まっすぐに上条の目を見て答えを待った。

なかなか返って来ない答えに、内心とても緊張している。

そして――

上条の口が、動いた。



『……ゴメン』の一言の形に。



『No』――それが、上条当麻の答えだった。


30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/24(日) 18:56:00.31 ID:5+iyvEyH0





「…………」

「…………」

二人は黙る。

美琴は俯き、上条はまっすぐに彼女を見つめている。

とにかく重い空気が、場を支配する。

しかし、その沈黙もすぐに破られた。

「…………そっか」

美琴はゆっくりと顔を上げた。

その顔は、どこかスッキリとしたものだった。

「……あの子、よね?」

「――――あぁ」

唐突な質問だったが、どういう意味かちゃんと分かったらしく、上条はあっさりと答えた。

美琴はそれを聞いて笑みを浮かべた。

上条は、何を言えばいいのか分からないといった顔をしている。

「御坂、その……「やめて」

上条が必死に何かを言おうとしたのを、美琴は遮る。

「何も言わないでよ。私が余計惨めになるだけよ?」

下手な同情は、逆に相手を傷付けてしまう。

その事を理解したらしく、彼は口をすぐに閉じた。


31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/24(日) 18:58:04.26 ID:PIC/hoaB0
「ねぇ……『恋人』じゃなくて、『友達』としてはこれからも付き合ってくれる?」

確認するように尋ねると、

「……当たり前だろ」

当然だ、とはっきりした口調で返された。

それを聞いて、美琴は満足そうに上条を見る。

「じゃ、これからもよろしくね。
…………あの子の事、泣かせたら承知しないわよ?」

「……あぁ、約束する」

力強い返事に、美琴は親指をビシッと立てた。

「よろしい。――じゃ、連れて来て悪かったわね。もう、帰って良いわよ」

上条はそれを聞いて、右手を差し出した。

「……じゃあな、頑張れよ」

「……うん、アンタもね」

その手をギュッと握り締めた。

たくさんの――それこそ世界中の人を救った、ありとあらゆる幻想を殺す右手。

かつては、彼女も救われた。

その時以来、彼の『特別』になりたいと、ずっとずっと願っていた。

……結局、ただの『友達』で終わってしまったが。


32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/24(日) 18:59:34.13 ID:Q77LLY7+0
「さてと……じゃあな。
インデックスが待ってるから」

「…………あ」

手を離し、少し躊躇いながらも、後ろを向いて上条は歩き出した。

その背中を、美琴はじっと眺める。

世界を知らなかったちっぽけな少年は、いつの間にか逞しく、頼りがいのある青年になっていた。

「またいつか会えるわよねーっ!?」

思わず、叫んでしまった。

上条は立ち止まると、振り返った。

「――あったりまえだろ!!」

彼は、笑って叫び返した。

そうして、美琴の前から姿を消した。





「――――バイバイ、当麻」





美琴は一人で、小さく呟いた。

その目には、何の後悔も無い。


33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/04/24(日) 19:01:06.12 ID:bW0u31Nr0





「…………ハァ」

そんな訳で、現在に至る。

もうお昼だが、昼食にする気にはなれなかった。

(……あーあ。これ苦いわね)

先程から、チビチビと飲んでいる缶コーヒーを評価してみる。

とある人物が、最近気に入ったモノだとか
言っていたので買ってみたが、正直苦すぎて飲めたものじゃない。

若干イライラしながら、彼女は空き缶をごみ箱に投げる。

能力で磁力を操り、きっちりと入れた。

(……ま、いつまでも考え込んでたって仕方ないか)

そんな事を、思う。

はっきり言って、フラれる事は分かっていた。

この二年間で、良く理解出来たのだ。

自分とあの白い少女――インデックスでは、あの青年との繋がりに、決定的な何かが違うんだと。

それはもう、思い知らされた。

だから、この機会にスッパリと諦めたかった。

そうして、気持ちを切り替えて行きたかった。

そうだった、のだが。

(……やっぱり、堪えるなぁ)

そんな簡単には、気持ちというのは変わらないモノらしい。

やれやれ、と美琴はベンチに背を預けて、

「――よォ、ンなトコで何してンだオマエ?」

突如、声がした。

物凄く聞き覚えのある声だ。

おそらく、色んな意味で一生忘れる事はないであろう、その声の主を、美琴は見る。

「見ての通り、くつろいでんのよ」

そいつの名は一方通行(アクセラレータ)。

美琴よりも上の序列に君臨する、第一位の超能力者である。


34 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/04/24(日) 19:02:10.29 ID:bW0u31Nr0
今回はこれにて終了。
それではまたいつか。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 19:06:09.94 ID:TzwjrFTL0


過去編導入はまぁ、予想通りと言うかよくあるパターンと言うか、正直これ以外のパターンが難しい
これから先をどう進めるのか、期待して待ってる
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 19:36:10.35 ID:8HTZCQyDO


超期待
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 19:43:43.96 ID:bFlUGukSO
いいところで…!
全力で支援する。舞ってるぞ!
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/24(日) 19:48:43.00 ID:fVA1Wkr40
乙です〜
この雰囲気を見ると美琴と一方通行はある程度和解してる感じなのかな?
気になる気になる
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 20:42:38.78 ID:b7XsKbNG0
乙ですー

原作 御坂もこれだけきれいだったら好きになれるのに…

40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/24(日) 22:31:52.93 ID:35sZtD5Wo
泉の女神「あなたが落としたのはこの綺麗な超電磁砲?それともこちらの汚い超電磁砲?」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 22:45:02.06 ID:WdfBqXyho
黒子「両方ともですの」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 22:49:16.84 ID:eMCiizmFo
原作美琴ってどっちかってとこれに近いと思うんだが
それとも釣りか
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 23:13:46.21 ID:MuP16MLIO
>>38
和解もなにも美琴が長点に在籍してるってことは原作とは完全別ものなんじゃないの?
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 23:45:53.61 ID:HLeK0fgCo
>>43
長点って高校じゃないの?美琴の進学先は既に決定してるの?
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/25(月) 00:43:32.02 ID:cbPrfo2S0
>>43
でも最初に打ち止めと番外個体の事が出てきたし、あの計画自体はあったんじゃないのかな
まあそのうち分かるだろうけど
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/25(月) 05:48:53.10 ID:uv7RNj5IO
>>43
過去編といっても原作よりは未来の話なんだし
上条→高3 御坂→長天に入学って流れになるんだろ
47 :熊鮭 [sage]:2011/04/25(月) 09:00:26.88 ID:dB7RqU1t0
まあ原作御坂もこんな感じなんだが 
もし上条に振られた時は その場でなくと思うんだよな

その最後のお願いみたいなかんじで こう抱きついて泣くみたいな
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/25(月) 12:03:12.17 ID:2H4MObrCo
>>47
そうか?
美琴はその場では意地と見栄張って「そっか」とかで終わりにするけど
後で後悔するタイプだと思うんだが

その場で泣いてすがるような真似が出来るなら、徹底スルーなんかされてないよ
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/26(火) 00:27:47.45 ID:wdHPPdbm0
此処が某スレとどう異なる電磁通行になるのか楽しみにしてる。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(佐賀県) [sage]:2011/04/26(火) 00:44:53.21 ID:LMZhJfhxo
似たような流れしか思いつかないし差別化は難しいな
俺なら諦めて放棄する
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/26(火) 11:28:05.49 ID:es6Y0N0Uo
>>1
期待してる。


>>50
そのありがちなレスも諦めて放棄しとけよ
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/27(水) 18:38:39.78 ID:2pG4mFn40
和解シーン、ほのぼの編、シリアス編、ラブコメ編、どれも全力で待ってる
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/04/28(木) 23:32:16.41 ID:yjbnAUb50
期待して待ってるアル
54 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/05/02(月) 22:41:18.40 ID:N3MfKSq+0
どうも。相変わらず少ないけど投下します。
話はさっぱり進んでないです。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/05/02(月) 22:44:30.08 ID:bW+nHXJ60
「……で、そういうアンタこそ、ここで何してんの?」

美琴は空を眺めながら、同じ長点上機学園の制服を着た、元・先輩に尋ねた。

「卒業式、終わったんでしょ。
打ち止め達とお祝いに行くんじゃなかったの?」

脳裏にふと、自分と良く似た顔立ちをした少女の笑顔が過ぎる。

「別に。アイツらは黄泉川の奴を拾いに行った。
で、俺は挨拶やら何やらで一旦別れちまったからここで合流すンだよ」

一方通行はつまらなそうに答えた。

「……ふーん」

美琴も、あまり気の無い返事をする。

「ま、良いわ。……どうせだから、あの子達が来るまで話相手にでもなってよ」

一方通行は、面倒そうに眉をひそめる。

この青年、仲の良い人間以外にはいやに社交的に振る舞うが、
長年の知り合いには本来の――トークスキル皆無の、無愛想モードになるのだ。

こうなった彼は、大概の事を『今忙しいンでェ』の一言で放棄する。

しかし、美琴は知っている。

この男が、自分やそのDNAを受け継ぐ少女達には、そう無下には出来ない事を。


56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/05/02(月) 22:47:46.53 ID:R06iUiAj0
「……あのガキ共が来るまで、だからな」

一方通行は、美琴の予想通りの答えを返す。

「はいはい。……ほら、座んなさいよ」

隣のスペース(かなり近距離だ)を叩き、座るように促す。

「…………」

一方通行は無言で腰を落ち着かせた。

美琴とかなりの距離を置いて、だ。

これまた予想通りの行動に、美琴は内心苦笑する。

「……チッ。何笑ってンだよ気持ち悪ィ」

訂正。どうやら顔にも出ていたらしい。

「いや、何でもないわよ? ……っていうか、女の子に『気持ち悪い』なんて言うのは失礼よ」

「あーハイハイ。失礼しましたァ」

特に悪びれた様子もなく、彼は適当な調子で答えた。

やれやれ、と美琴はため息を吐く。

それから二人は、取り留めのない世間話を展開した。

自分の元・後輩がこの前こんな変態的な行動をしてきて、近頃困っている。

もういい加減、引導を渡せばどうだ。

この缶コーヒーが今マイブームだ。

最近、妹達の一人とこれこれこういう事があった。

…………とにかく、どこまでもくだらない雑談を繰り広げていた。


57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/05/02(月) 22:53:51.20 ID:tRm9wI/H0
「そういえばさー、アンタが前にオススメだ、って言ってたコーヒーだけど……」

「おォ、飲ンだのか? 上手かったろ?」

少し話題に出しただけで、彼はちょっとだけ上機嫌そうになった。

そんなにお気に入りか、と美琴は苦笑いする。

「……うん、まぁ、悪くはなかった……かな?」

本当のところ文句ありまくりなのだが、言わないでおく事にした。

この青年、意外にナイーブな一面もあるのだ。

「ハッ、当然だよなァ。何てったって、この俺が勧めンだからなァ」

最近はなァ、といきなりノリノリで缶コーヒートークを
始めてしまった青年を見て、美琴は内心しまったと後悔する。

彼はあまりおだてると、逆に調子に乗りやすくなるのだ。

そんな訳で、美琴はたっぷり十分ほど、缶コーヒーのお話をどっぷり聞かされる事になった。


58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/05/02(月) 22:55:40.22 ID:tRm9wI/H0





さて、しばらくして。



「――あー!あの人はっけーんっ!! ってミサカはミサカはダッシュ!」



話に小さく花を咲かせていた二人の耳に、まだ幼げな少女の声が届いた。

すると、一方通行は話を中断し、声のした方へと素早く振り向き、立ち上がった。

そこには、こちらに向かって目下のところ超特急で走ってくる、中学生ぐらいの少女がいた。

後から遅れて、その少女に顔立ちがそっくりな、大学生ぐらいの年齢に見える女性が来ていた。

「いやー、探したよーってミサカはミサカはあなたに接近……あれ? お姉様?」

「んー? 何であなたがお姉様と一緒に居んの?」

少女の名は打ち止め。

この四月から中学生になる、美琴のクローン『妹達』の一人だ。

もう一人の女は番外個体。

これまた『妹達』の一人で、ナンバリング的には
一番末っ子(ただし、肉体的には美琴を抜き去って長女だ)となる個体だ。


59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/05/02(月) 22:58:08.50 ID:tRm9wI/H0





「……何て言うか。ホントに良かったんですか、お昼一緒で」

国産の安物のスポーツカーの後部座席で、美琴は遠慮がちに聞いてみた。

あの後、久しぶりに会った妹と楽しく談笑していた美琴だったのだが、
どうせだから一緒に昼食はどうだ、と誘われ、彼女達の保護者の車に乗せてもらっている次第である。

「気にするなよー。打ち止めもそっちのがうれしいじゃん?」

そう答えたのは、運転席でハンドルを握る黄泉川愛穂だ。

「そうだよ、ってミサカはミサカは肯定してみる。
お姉様とご飯食べるのなんて久しぶりだもん! ってミサカはミサカは今からワクワク!」

美琴の隣に座る打ち止めは、発言通り、今から期待に胸を膨らませているようだ。

「ま、たまにはこんなのも良いんじゃない?
どうせ五人でも六人でもあんまり変わんないし、さ」

さらにその隣にいる、番外個体がどうでもよさそうに賛同する。

「そうね。どうせならお姉さんも一緒に居た方が良いわよね?」

助手席に座る芳川桔梗が、柔らかく微笑んで打ち止めと番外個体を見る。

「うんっ! ってミサカはミサカは頷いてみたり!」

「べっつにぃ。このミサカとしてはどっちでも良いよ」

二人の対応はまったく別々の物だったが、どちらも嬉しそうにしている。

「…………」

そんな五人の様子を尻目に、一方通行はぼんやりと窓から外を見ていた。


60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/02(月) 22:59:49.55 ID:nHvYk2c2o
社交的な一方通行も
おだてて調子にノる一方通行も想像できねぇwwwwwwww期待wwwwwwww
61 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/05/02(月) 23:01:43.63 ID:z0Ena5/S0
はい、以上です。
区切りが短い気はするけど、そこはまぁ見逃してください。

それはそうと、長点は高校だったと自分は記憶していますが、違ったらごめんなさい。
とりあえずこのSSの中じゃ、高校という扱いでよろしくお願いします。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/02(月) 23:02:51.20 ID:QtQw3V66o

もう和解してる感じなのか
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/02(月) 23:23:21.44 ID:1cNXC2Q9o

社交的な一方通行見てみてぇwwwwww
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/02(月) 23:30:58.99 ID:e1pFXvHKo
6人乗りのスポーツカーって中途半端な用途的に結構贅沢だよね
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/05/02(月) 23:50:15.41 ID:hHi8TeDP0
乙! 可愛い一方さんだな
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/04(水) 18:05:56.71 ID:c4rAWJmco
長点上機は間違いなく高校だよ。
布束さんが言ってたから間違いない。

乙!
何故御坂が上条を呼び捨てにしているのか気になるが……
明かされるのかな?
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/04(水) 23:27:57.54 ID:s/8AxRHo0
御坂姉妹かわいい!
一方さンもかわいい!
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 03:13:47.57 ID:JG56h53/o
>>66
上条さんが留年したため先輩でなくなりました
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/06(金) 09:21:47.37 ID:KjwFI791o
アンタや馬鹿とかで呼んで無いことへの疑問なんじゃ?
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/06(金) 20:00:10.78 ID:x79H+D76o
好きだった人との別れとして名前で呼ぶことのどこがおかしいんだ?
71 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/05/14(土) 19:35:25.44 ID:7LFURwTn0
どうも、皆様。
久しぶりの投下開始。
話は相変わらず進まない。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/05/14(土) 19:36:36.92 ID:7LFURwTn0





「さ、一方通行の卒業祝いじゃん! ガンガン食べるぞー!」

「おーっ! ってミサカはミサカは早速お肉に手を出してみたり!」

黄泉川の声と共に、美琴の右隣の打ち止めは、七輪の上の数枚のカルビ肉と野菜を取り、皿に載せた。

ここは、第七学区の地下街にある焼肉屋の座敷席である。

「……オイコラ。何・で・俺の皿に野菜ばっか載せてンのかなァ、お嬢ちゃン?」

「けけっ、あなたにはお肉なんてもったいないもん、ってミサカはミサカは健康に気を遣ってあげる☆」

余計なお世話だコラァ! と、美琴の目の前では、互いの箸を交差させて争うモヤシっ子と目付きが悪すぎる女性が居た。

「いやはや、にしても何て言うか寂しいもんじゃんよー」

打ち止めの右隣で、昼からビールをグビグビと飲む黄泉川が、ちょっぴり残念そうに呟く。

「四人も居たのにね。また一人っていうのは寂しいかしら?」

美琴の左隣でウーロン茶をチビチビと飲む、芳川が言った。


73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/05/14(土) 19:38:21.09 ID:7LFURwTn0
一方通行と打ち止め、それに番外個体は、今日から一緒に黄泉川の家を出ていくらしい。

芳川については、ほぼ半年前から新しい職を見つけており、黄泉川家からはもう出ている。

まぁそんな訳で、また一人暮らしじゃんよー、と黄泉川が酒を煽るように飲むのも仕方ない気がする。

「たまのたまにゃツラ見せに来てやるから、ンな辛気臭ェ顔してンじゃねェよ、ウザってェな」

声のした方を見てみると、何とかアオザイ美女(自分のクローンに言うのも何だが)から
数少ない肉を守ってみせた一方通行が、満足気にそれらを頬張っていた。

「うぅー! 一方通行ー!」

感無量、と言った様子で黄泉川は右隣の一方通行に抱き着いた。

もしかしたら、既に少し酔っているのかもしれない。

「抱き着くな、うっとうしい」

口ではそう言っているが、一方通行もどこか寂しそうだった。

「ヨミカワだけずるいよー、ってミサカはミサカはあなたに突撃!」

言うや否や、打ち止めは立ち上がって一方通行を後ろから抱きしめた。

離れろ馬鹿と言いながら、一方通行は二人を引きはがそうと奮戦する。


74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/05/14(土) 19:39:48.24 ID:BOIMYO9Q0
「そういえば打ち止め。そろそろ学校の準備とか始めるの?」

何となく気になったので聞いてみた。

「うーん、まぁ四月までには早いところ終わらせたいなー、ってミサカはミサカは今の内に計画を練ってみる」

……つまり、まだ何も考えてないらしい。

大丈夫かしら、と一人不安に思うが、まぁ問題ないだろう。

何せ彼女には、それはそれは優秀な父親兼母親がいるのだから。

「まずはその口調なんじゃないのー? 上位個体も、ミサカ以外の下位個体も厄介だね」

けらけらと笑う番外個体。

「……ところで、アンタは学校とか行かないの?」

それより問題はこっちだ、とばかりに美琴は見た目姉な妹に聞いてみる。

「んー? そうだねぇ――」

番外個体は少しだけ間を空けると、

「この人に嫌がらせするのがミサカの生きがいだからなぁ。
それにミサカとしてはこの人に寄生してた方が嫌がらせにもなるし楽だし、ね」

どこまでも人の悪い笑みを浮かべて、答えた。


75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/05/14(土) 19:41:27.29 ID:GY7JiZBq0
はぁ、と美琴はため息をこっそりと吐く。

何と言うか、怒る気にもならない。

一方通行がお金持ちであるが故に、だ。

もし彼がそんなに経済的に余裕がなければ、
少しはこのだらしない妹に喝を入れる気にもなるのだろうか、と思う。

「それって逆に言えば一生この人と一緒にいたいって事なんじゃ……ってミサカはミサ、痛ーっ!?」

「なーに言ってんだか。こちとらそっちとは百八十度違うっつーの、チビスケ」

「あた、あたたたっ! 何? あなたもあの人もどうしてこんなにチョップ多用なのーっ!? ってミサカはミサカはーー!!」

と、美琴が考えている内に、何やら愉快な姉妹ゲンカ(ただし妹が一方的に優勢)が繰り広げられていた。


76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/05/14(土) 19:44:36.84 ID:/vkmjMm40
「……ったく、イイ加減にしとけ」

そこへ呆れたように一方通行が割り込む。

途端に番外個体は、熱が冷めました、といった表情で打ち止めから離れて座る。

「オイ、クソガキ。大丈夫か?」

優しさを感じる声色で、一方通行は打ち止めに話し掛ける。

「うん、大丈夫。それよりもうちょっとこうしてたいな、ってミサカはミサカはあなたに抱き留められてみる」

何と言うか、この二人のやり取りは微笑ましいものだ。

「……まったく、過保護だねぇ」

やれやれ、と番外個体は何とも分かりやすいリアクションを取ると、ガツガツと肉に食らいついた。


77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/05/14(土) 19:47:53.53 ID:/vkmjMm40





「……にしても、新居ねぇ」

タン塩を頬張り、美琴は呟いてみる。

「一戸建てってどんな感じなのかな、ってミサカはミサカは今からドキドキしてみる」

と、美琴の隣に戻って来た打ち止めが言った。

「あれ、アンタ知らないの?」

自分の住む家について知らないとは、どういう事だろうか。

「俺しか家は見てねェンだよ。
……っつーか、そこのクソガキ共は俺が家を決めた後に、一緒に来るなンて抜かしたからな」

一方通行が、嫌そうな顔で野菜を食べながら答えた。


78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/05/14(土) 19:49:11.63 ID:IlRxr7030
「へぇー。っていうか、一戸建てなの?
てっきりマンションか何かかと思ってたわ」

「別に。そっちのが料金安かったからな」

学園都市では、建築関係の『実験』として、家を格安で提供している場合もある。

一方通行達が住むのも、そういった『施設』らしい。

「どうせならお姉様も見に来ない?」

ちょうど焼き上がったホルモンに箸を伸ばしながら、番外個体が誘った。

「へ? でも今日から引越しじゃ……」

「いや、荷物とかはもう送っといてあるんだよね。
……あぁーあ、誰か荷物を整理するの手伝ってくれないかなぁ」

番外個体はチラリ、と美琴を見る。

要するに、引越しの手伝いをしろ、と言いたいようだ。

「……ま、良いけどさ。お昼ご馳走になっちゃったし」

何よりやる事も無いし。

手伝うわよ、と告げると、彼女はガッツポーズをした。

「よっしゃー、これでちょっとはミサカの働く分が減るや」

「……言っとくが、サボったらお仕置きな」

窘めるように、一方通行は告げる。

「えー、ミサカ真昼間からそういうのはなー」

「……よォし、歯ァ食いしばれ」

「わー襲われるー」

わりと目が笑っていない一方通行と、余裕しゃくしゃくの番外個体は、第二ラウンドを始めた。

これ止めなくて良いのかな? と思う美琴だったが、放っておく事にした。

黄泉川や芳川、打ち止めさえもがそれを特に気にしてないところから鑑みるに、これぐらいは日常茶飯事らしい。

「……ホント、仲良いのね」

呆然と騒ぎを眺めながら、美琴はポツリと呟く。


79 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/05/14(土) 19:53:20.53 ID:oGMVpi4y0
はい、以上です。
話があまり進まないのは許してやって下さい。
とにかく、またいつか。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/05/14(土) 21:21:30.35 ID:5Kid9x2q0
乙!!

こんなに仲が良いとは………私もうれしいj…げふんげふん
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/14(土) 21:55:05.08 ID:hEWtTE3b0
乙!一方さんかっけぇ
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2011/05/17(火) 19:33:28.58 ID:lQ4ayahh0
乙!芳川が働いている・・だと・・
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2011/06/04(土) 02:24:55.54 ID:USsj5nqZo
マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
84 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/06/04(土) 17:08:02.62 ID:KIIqZfaB0
どうも。
長らくお待たせいたしました。
これより投下開始。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/04(土) 17:09:47.73 ID:KIIqZfaB0





「ふーん。立派なものねぇ……」

美琴は目の前を見て、感嘆とした様子で呟いた。

「ホントだねぇ。ちょっとあの人には似合わなさそうな感じだよ」

いつの間にか隣に来た番外個体が、うんうんと頷く。

その視線の先にあるのは、学園都市では珍しい、二階建ての立派な一軒家だ。

赤い色の屋根は、一方通行にはあまり合わなそうな明るい雰囲気を醸し出している。

その隣には、どんな車種でも入れられそうな大きすぎるガレージがあって、
ここまで乗ってきたスポーツカーを、芳川が頑張って納めようと奮闘していた。

「……別にイイだろォが。安かったンだから」

と、何やら不機嫌な様子の一方通行が玄関の鍵を開けた。

そこへ、打ち止めが彼の隣に並んでこちらを見た。

「そうだよ、あの人にだってこういう色に憧れる一面があったって良いじゃん、ってミサカはミサ痛ーっ!?」

後方から突如としてやってきたチョップに、打ち止めは驚愕の表情を浮かべた。

「よォし、打ち止めァ。訳の分かンねェ事を抜かす子にゃお仕置きだァ」

「……い、いくらなんでも理不尽じゃない、ってミサカはミサカは実は図星だったりしたのかなって推そ……ひっ。
分かった、分かったからその拳を引っ込めて、ってミサカはミサカはあなたは聞いてないっぽいから全力で大逃亡!!」

待てやクソガキィィィ!! とか随分とドタバタした音が玄関から届いてきて、
その場に残されてしまった二人は苦笑せざるを得なかった。


86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/04(土) 17:11:59.50 ID:7Bo2Fisf0





しばらくして、ようやく一方通行達の鬼ごっこが終わり、引越し作業が始まった。

美琴達はそれぞれ三つに別れて、荷物を片付ける事となった。

「……うん、しょっと」

掛け声と同時、美琴は能力を行使する。

対象は、『調理器具』と乱雑な文字で書かれているダンボール箱だ。

彼女は磁力を操り、台所の一方通行にそれを見事にパスしていく。

「ん。これで全部ね」

そう呟くと、台所でダンボールの中身を仕舞っている一方通行の援護に向かった。

台所にはたくさんのダンボールがあって、一方通行を取り囲んでいた。

「ねぇ、手伝ったげようか?」

ちょっとだけ意地悪な調子で、美琴は一方通行に聞いた。

「……やっぱり番外個体ってオマエの遺伝子をきっちり継いでるよな」

「あら、あっちよりは優しく相手してあげてるつもりだけど?」

言ってろ、と一方通行は能力を駆使してとんでもない早さで綺麗に荷物を片付けていく。

美琴も黙って手伝い始めた。

(……それにしても)

美琴はチラリと、黙々と皿やフライパンを収納している青年を見る。

(……ホント、考えてみれば不思議な話ね)

昔――全てが終わった頃の、二年前の自分はこんな光景を想像出来なかっただろうな、と思う。

正直、美琴は今も違和感を感じる。

それでもこの男と気軽に接する事が出来るのは、おそらくは打ち止め達の存在のおかげだろう。


87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/04(土) 17:14:26.62 ID:7Bo2Fisf0





二年前、妹達から全てを聞き、美琴は当初戸惑った。

一方通行の事に、ではない。

彼を庇おうとした、大多数の妹達に、だ。

何故だ、と聞いた覚えがある。

あの男はどんな理由にせよ、楽しんで殺していたではないか、と。

そう言われた彼女達を代表して、打ち止めが答えた。

――確かに、それは一方通行も認めている事だ。

その事自体は許されて良い訳ではないし、自分達も許すつもりはない。

……しかしながら、これまでの間に自分達は彼に助けられもした。

もう、その『借り』は彼を憎むに憎みきれないほどに増えてしまった。

だから、一様に彼を責めるような事が出来ない、と。

美琴はそう言われて、黙り込んだ。

それは、そうなのかもしれない。

確かに、話を聞く限りでは、一方通行は妹達を助けてきた。

彼女達にとっては、それでもう十分なのだろう。


88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/04(土) 17:16:23.29 ID:Yris+Cp60
しかし、それでも。

ふと、美琴の脳裏に浮かんだのは、二人の少女の姿だ。

押し潰されて死んだ、初めて出会った妹達。

路地裏で血流を操作されて爆死した、一万三十一人目。

やはり、どうしても許せはしなかった。

どうやったって、彼に対して理解などは出来ない。

彼女達に何も――『実験』を止める事も、その後の事件で守る事も――
出来なかった自分が言って良い事ではないかもしれない。

彼もまた、あのツンツン頭の少年のように、『恩人』なのだから。

その違いは、美琴が知っているか知らないかだけだ。

でも、やっぱり。

そう思い悩んでいた時、打ち止めはこうも言った。

いつまでも過去の事を引きずって欲しくない。

美琴にも、一方通行にも。

せっかく勝ち取った未来があるのだ。

全てを洗い流すのは不可能だろうが、それでもほんの少しでも構わない。

彼に、普通に接してやって欲しい。

もうこれ以上、あの少年が傷付く姿を見たくない。

どうか、どうか――――――





89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/04(土) 17:17:29.86 ID:Yris+Cp60





「――――――イ、オイ!!」

「………………………………へ?」

気が付けば、一方通行に強く肩を揺すられていた。

キョトン、と目の前を見た。

少しだけ、焦った顔をした青年が視界にいる。

「へ? じゃねェよ。何ぼーっとしてンだオマエ」

やれやれ、と一方通行はあからさまなため息を吐いた。

美琴は僅かにむっとして、

「悪かったわね。ちょっと白昼夢見てた」

とだけ言って、さっさとダンボール箱を開ける。

一方通行は訝しげにこちらを見たが、すぐにまた作業を再開した。


90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/04(土) 17:20:05.32 ID:aR3Jn14B0





さて、数時間後――――

「打ち止めぁぁぁああ!!」

「ヨミカワぁぁぁあああ!! ってミサカはミサカは感動の別れを演出してみる!!」

辺りはすっかり夕闇に包まれていた。

引越し作業が完全に終わり、六人は外に来ていた。

…………別れの時が、来たのである。

「はいはい。別に一生の別れじゃないんだから、いつまでも抱き合わないの」

呆れた声で芳川が告げると、

「桔梗は冷たいなぁ、もう」

「まったくだよ、ってミサカはミサカはヨシカワを批難してみる」

「言ってなさい」

ブーイングを受けても、芳川は全く動揺しない。

ちぇー、と何やらぼやきながらも、打ち止めと黄泉川は離れた。

「……じゃ、一方通行、打ち止め、番外個体。たまには顔見せに来るんだぞ」

夕日に照らされた黄泉川の顔には、ほんの少しの寂しさが含まれた笑みが浮かんでいた。


91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/04(土) 17:24:43.71 ID:KIIqZfaB0





「……っと、御坂、送ってこうか?」

車に乗ろうとした黄泉川の言葉に、美琴は少し考え込む。

ここから現在の寮までの距離だと、着くのに一時間はかかる。

別に帰り道で暴漢などに出くわしたとしても問題無いが、一時間歩きっぱなしというのも辛い。

「えっと、じゃあ」

「えー、せっかくだからお姉様ともうちょっと話したい、ってミサカはミサカはわがままを言ってみる」

と、美琴の言葉は、打ち止めに途中で遮られてしまった。

「オイ、クソガキ。わがままだって分かってンなら言うなよ」

「いいじゃんか、部屋はあるんだし、ってミサカはミサカは
別の部屋の居心地のテストも兼ねてるって大義名分を出してみたり」

どうやら、泊まっていけばどうだと言っているようだ。


92 :すみません、以下が抜けてた。 [saga]:2011/06/04(土) 17:29:36.64 ID:aR3Jn14B0
「…………たまには、な」

「ミサカはそれなりに来るからね! ってミサカはミサカは安心の言葉を伝えてみる!」

「ま、このミサカはもう来ないかも……はいはい、そんな睨まないでよ親御さん」

そんな三人に、黄泉川は安心したように息を吐いた。

そんな黄泉川に、芳川はクスリと笑い、

「……それじゃ、またいつか会えたら会いましょう」

「……おォ。無茶すンなよ」

「あなたに言われたくはないわね」

「そうだよ、ってミサカはミサカはヨシカワに賛同してみる」

「あァ、そォかよ」

彼らは実に普段通りの調子で語らう。

それを見て、黄泉川は笑った。

ただ、楽しげに。

そして、

「――――じゃ、お別れじゃん」


93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/04(土) 17:31:52.39 ID:aR3Jn14B0
「……ま、最終信号(ラストオーダー)が言う事にも一理あるね」

「オイ」

賛成派の番外個体を、一方通行はじっと睨む。

おぉ怖、と彼女は大仰なリアクションを取ると、

「別にさ、こっちは良いじゃんって言ってるだけだよ。あとは、さ」

番外個体はこっちをチラリと見た。

どういう意味か分かった美琴は微かに笑うと、

「……ま、お言葉に甘えちゃおっかな」

「やったー! ってミサカはミサカは勝訴の大回転!」

そんなに嬉しいか、と美琴は、スケート選手ばりにくるくると回りに回る少女を見て思った。

「決まったみたいじゃんよ」

黄泉川はそう言うと、運転席の芳川に合図した。

「……それじゃ、またなー!!」

「バイバーイ! ってミサカはミサカはこれでもかってぐらいに手を振ってみたり!!」

打ち止めは車が見えなくなるまで手を振り続けた。


94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/06/04(土) 17:35:26.73 ID:3GzMvVkg0





「……悪い、な」

彼女達が去って、一方通行が申し訳なさそうに言った。

美琴は笑って、

「そんな気にしなくても良いわよ。……ん?」

ふと、マナーモードにしておいたケータイが震えているのに気付いた。

嫌な予感がしたが、彼女はそれを手に取り、相手が誰かも見ずに通話ボタンを押す。

すると――――

『お、姉、様ー。どちらにいらっしゃるのですかー!?』

しつこいぐらいに聞いた覚えのある、少女の声がした。

その名も、白井黒子。

最近になって、さらにややこしい相手になってきた、常盤台中学の三年生の少女だ。

「……またウチの寮に勝手に侵入したのね、アンタは」

美琴はうんざりした調子で返した。

この少女と美琴は、実に長い付き合いである。

美琴は昔、常盤台中学に所属していて、黒子とは寮のルームメイトだった。

現在はルームメイトでも何でもないが、
それでも良き友として、先輩後輩として、パートナーとして、二人は交流が続いている。


95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/06/04(土) 17:36:31.09 ID:2UC3nVuM0
『侵入とは人聞きが悪いですわ。私はただ、お姉様と久しぶりに愛を育みに来ただけですの』

何やら不満そうに反論されたが、美琴は無視する。

黒子は普通にしていれば、それはそれは立派なお嬢様になるが、
自分に対して……その、ちょっとアブノーマルな趣味を持っていた。

「黙れ変態。それと、私は今日帰らないから」

きっぱりとした口調で告げると、黒子は発狂したように叫びを上げた。

……彼女の今のルームメイトを、少しだけ心配する。

黒子は何やら喚いて、

『何故、どうして、Why!? ……はっ、おのれあの類人猿かーっ!!』

「違うわ馬鹿。今日は打ち止め達の家よ」

『何ですとーっ!? ならばという事は……何という天国!! 私も今すぐ向かいますわ!!』

今から何か想像しているのか、電話の先の少女は息が荒い。

ハァ……と彼女は大きくため息を吐いた。

自分のクローンの事を受け入れてもらえたのは良いが、それが余計にこの少女の症状を発展させてしまった気がする。

というか、そうに違いない。


96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/04(土) 17:39:57.38 ID:zae6005f0
「……悪いけど、打ち止め達は引越してるから。黄泉川先生の家に行ってもいないからね」

理路整然と告げた途端、黒子はなぬーっ!? と叫んだ。

……元気なヤツ、と美琴は称賛してみる。

『くっ!! でしたら場所を……』

たじろぎながらもちゃっかりと聞いてきた黒子を無視して、美琴はさっさと通話を終えた。

「……あれ、か?」

一方通行が憂鬱そうに聞いてくる。

彼にとっても、あの変態は天敵らしい。

「ん。まぁ、ここは分からないだろうから、そんな震え上がらなくていいわよ」

そう言って、美琴は最年少の妹(身体的に)を見てみる。

彼女は見事に震えていた。

「そ、そそそそう、ならよ、よよ良かった、ってみ、ミサカはミサカはあ、安心してみる」

……黒子による被害は、拡大しつつあるらしい。

番外個体も震えてはいなかったが、

「……まぁ? 仮に来たとして? このミサカがボコボコにするけどね?」

「……口調がめちゃめちゃになってるぞ」

一方通行と美琴は、特大のため息を同時に吐いた。


97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/04(土) 17:41:12.93 ID:zae6005f0





「ねぇー、面倒だし出前にしようよー」

「うるせェ。引越し初日からンな贅沢が出来るか」

ソファーにぐったりと寝転がった番外個体が台所に向かって声を掛けると、
そちらの方から、調理中だから話し掛けンな、という青年の声が帰ってきた。

「どうせ、金ならいくらでもあるくせに」

呟くと、彼女は目を閉じた。

(……まったく、たいした親御さんだこと)

少しでも倹約的な生活をする事で、将来、最終信号が独り立ちしても問題無いようにするつもりなのだろう。

……たいした過保護っぷりだねぇ、と番外個体は呆れ返る。

と、そこへ。

「まぁまぁ。あの人のご飯は美味しいじゃんよ、ってミサカはミサカはヨミカワの真似をしてみるじゃん」

その過保護対象が、テクテクと歩いて来た。

番外個体はけだるげにそちらを見て、

「……うっさいチビスケ」

なにおう!? と何やら喚いてきたが、無視を決め込んだ。


98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/06/04(土) 17:45:06.23 ID:bViJNri10
「アンタ達って……仲が良いんだか悪いんだかよく分かんないわ」

「「仲良しに見える? (ってミサカはミサカは対抗意識を燃やしてみる)」」

対面に座っているお姉様(オリジナル)の台詞に、見事にハモって反応してしまった。

「息ぴったりじゃん」

「今のは偶然! ってミサカはミサカは認めない!」

「まったくだね」

ふん! とそっぽを向く最終信号に対して、番外個体はからかいの笑みを浮かべる。

ケンカするほど仲が良いってヤツ? とかお姉様が言ってきたが、気にしない事にする。


99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/06/04(土) 17:47:50.64 ID:wCSihBy90





「オラ、メシだぞ」

やがて、料理長が料理を持って来た。

能力を使っているらしく、彼は人数分の皿を風で浮かせたりしてテーブルに置いている。

「はーい、ってミサカはミサカは元気よく席に着いてみたり!」

テレビを見ながら美琴と談笑していた打ち止めは、待ってましたとばかりに勢いよく座る。

「くけけっ。ミサカのヤツだけ毒入りだったりして」

適当に言いながら、番外個体も座る。

「そォ思うなら食うなよ」

「やっだなー、食べなかったらあなたの料理スキルを馬鹿に出来ないでしょ?」

抜かせ、と一方通行も席に着く。

「ほら、お姉様も座って、ってミサカはミサカは席を叩いてみる」

「はいはい、そんなに慌てなくてもご飯は逃げないって」

言われて、美琴もさっさと席に着いた。

「じゃ、早速だけど」

打ち止めは手を合わせた。

あぁ、とどういう事か分かった美琴と番外個体も打ち止めに続く。

一方通行も、やる気なさげに同じようにする。

へへー、と打ち止めは笑うと、

「「「――いただきます!(ってミサカはミサカは宣言してみたり!)」」」

一人だけ言ってないような気がしたが、良しとする。


100 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/06/04(土) 17:49:41.76 ID:wCSihBy90
はい、以上です。
これからもゆったりしたペースで更新となりますが故、あまりお気になさらずにお待ちください。
それでは、またいつか。
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/04(土) 17:50:31.20 ID:w3C1D4n5o
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄) [sage]:2011/06/04(土) 17:53:15.54 ID:W9K7TOQAO
乙!
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/04(土) 17:54:54.10 ID:aIxa5vTO0
乙。この平和な時間が逆に辛いな…
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/04(土) 17:58:02.17 ID:JFH4S8Mw0
乙!!
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/04(土) 18:48:16.70 ID:ct1E6CDa0
おつ
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/06/04(土) 19:16:24.28 ID:l9rvMVjUo
コテまで付けて気持ち悪いな
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/04(土) 19:17:25.87 ID:3sT9rI5No
>>106
ageてまでそんな事書き込む奴は吐き気がするな
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/05(日) 12:30:15.71 ID:hcpXSV4io
乙!
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/16(木) 05:05:00.03 ID:jnekTS2a0
支援
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/03(日) 21:09:47.51 ID:y5HFAENl0
支援
111 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/07/14(木) 23:01:04.19 ID:nuSUC9GX0
どうも、お久しぶりです。今から投下開始。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/14(木) 23:03:26.65 ID:fK22V8pK0







『――――た、わっ、わーっ! いい加減シャワーのお湯攻撃はやめて、ってミサカはミサカはー!!』

『くくく……。甘い、甘いね最終信号!
ミサカの本命は熱いお湯じゃなくて……その後に切り替わる冷たいお水じゃああああ!!』

『ぎゃあああっ!! つ、冷、冷たいィィィィいいい!? ってミサわぶっ!?』

……何やってんだか。

とある一軒家の脱衣所の後ろ、風呂場から聞こえた声――もとい絶望の悲鳴を背に、美琴は脱衣所を出た。

夕食を終え、三人で風呂に入った訳なのだが、
(精神的には)子供二人の相手をするのが面倒になったために脱走した次第である。

「よくもまぁ、二年も面倒見れたもんね」

素直に、彼女達の保護者(と言っていいか分からないが)のこれまでを称賛する。

……ついでに、これからの分も。


113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/14(木) 23:05:08.50 ID:fK22V8pK0
「にしても、すごい家ね」

この家の風呂場、実験という名目のおかげで色々と設備が素晴らしい。

第二十二学区にあるようなモノとまでは行かないが、それでも十二分にすごい。

パネルをタッチするだけで、様々な薬効のあるお湯が出せたり、
ただの風呂を泡風呂に変えたり、果ては擬似的な夜景を出したりまでも出来る。

おまけに小さなサウナまであったし、湯舟は三人で浸かっても手足がきっちり伸びる大きさと来た。

はぁー、と美琴は嘆息する。

温かい湯で体がポカポカして心地良い。

後は少し外気に触れれば最高に良い気分になれるだろう。

出来れば、アイスなんかを食べながら。

もちろんながら、そんな物は引っ越し仕立てのこの家にはない。

あるのは、朝食用に残った僅かな食料だけだ。

……せめて夜風にでも当たろっかなー、と美琴は現実を少し残念に思いながら、二階へと向かう。


114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/14(木) 23:08:00.60 ID:EvPlJCF40







「………………」

同じ頃、同じ家の二階のベランダにて。

この家の家主、一方通行は空を見上げていた。

美しい、と思える夜空がそこにはある。

都心部から少し離れた場所にあるおかげか、ネオンによって星の光が遮られる事はなかった。

……正直、星空は嫌いだ。

というよりも、最近になって嫌になった。

彼は近頃、夢を見るのだ。

酷く現実味に溢れ、絶望的な夢を。


115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/07/14(木) 23:11:52.97 ID:XEc1zYWA0










そこはあの日――十月三十日の、ロシアの広大な大地だった。

白銀の世界に立つのは、当然のように一方通行だ。

そして目の前には、あの大天使と風斬氷華がいる。

『――命令名(コマンド)「一掃」、投下』

不思議な声音で、大天使は裁きとばかりに攻撃を開始する。

知っている。

あの日の時点の自分では、これを防げなかった事を。

星がまるごと降り注ぐような一撃に、一方通行は地に臥せられた。

この後の流れも、覚えている。

二度目の『一掃』をどうにかするため、一方通行は突っ込む。

しかし、『一掃』は発動されず、大天使は力を制御出来ずに爆発した。

そして――――

『抑え込めェェェえええええええええええええええッッッ!!』

一方通行は叫ぶ。

あの時と同様に。

そうして起爆する直前、風斬の力を借りて、どうにか被害を最小限に押し止める。

後は、番外個体と彼女に預けておいた打ち止めと合流し、風斬から打ち止めを救う手立てを聞く。


116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/07/14(木) 23:12:54.23 ID:Eujcyuz90







――――現実では、そうだった。







117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/14(木) 23:20:01.96 ID:nuSUC9GX0
『番外個体?』

一方通行は雪原を進む。

身体はボロボロだったが、杖を突く速度は変わらない。

とにかく、大切な少女達の乗っている車を探す。

辺りには、あの大天使の爆発に巻き込まれたらしい、まともに動きそうにない装甲車やら戦車がある。

もしかしたら、彼女達の乗る車もさっきの戦いで雪に埋もれたか、それとも――――?

少年は慌てて別の可能性を打ち消す。

そんな事、あるはずがない。

この世に、神様とやらがいるというのなら。

一度ぐらい、慈悲というのをよこすだろう。

そうだ、そうに決まっている。

そうに、決まっている!

一方通行はさらに杖を突く速度を上げる。

足元をよく見れば、車の走った跡が僅かに雪の上に残っている。

それを辿れば、ちゃんと希望はある。

少年は進む。

ただ、前を見据えて。

数分、数十分、あるいは数時間か。

時間の感覚が掴めなくなるほど、歩き続けた。


118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/14(木) 23:28:26.13 ID:fK22V8pK0
ビクリ、と少年の肩が震える。

突如、脳に直接響くような声がする。

――本当は気付いているんだろう? これが彼女達だと。

だから、ありえない。

混乱しながらも、一方通行は脳内で謎の声と対峙する。

何故なら、自分の動きや思考は全て――――

――いや、それは残念だが根拠にはならんよ。

反論が途中で遮られる。

自信に満ちた、己が絶対だと主張するような声は、続ける。

――君が人間でいられる理由は単純さ。これは『夢』だからだ。

愕然とする一方通行を無視して、声は響く。

――そう、これは君の『夢』。君が一番恐れる事。

それを、ただ流しただけの物。

この声も、君のイメージした者が具現化されただけだ。

一方通行はぼんやりとしか聞いていなかった。

これが、『夢』?

ならば、お前は何をイメージして作られた。

ふむ、と声は少しの間を置く。

そして、答える。

――君が望む『裁き』を下す者、かな?


119 :申し訳ありません。117と118の間に以下が抜けてました。 [saga]:2011/07/14(木) 23:32:45.97 ID:fH8K1Lw+0
そして、

『――――――――――――ァ?』

杖を動かす手が、止まる。

呆然と、馬鹿みたいに口を開く。





目の前には、二人――おそらくは少女だ――の絶望的な姿があった。





ぶちまけられた後、すり潰されたらしい、内臓のような物。

頭は半分消失し、眼球二つは揃っていない。

もはや人間の原形を留めず、車内をたっぷりと赤に染めたそれらを、一方通行はただ凝視する。

違う。こいつらは、違う。

しばらくして、一方通行の脳裏を過ぎったのはそんな言葉だった。

だって、そんなの。

あるはずないだろう。

きっと、偶然同じような車に乗って移動していたところに、運悪く巻き添えを喰らったロシアの人間だ。

第一、彼女達だとしたら自分の代理演算にも影響が出る。

そうだ、そうに決まっている。





――違うだろう? 一方通行。





120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/14(木) 23:35:21.28 ID:5OGzTvu30
一方通行は、言葉を失う。

何も言わず、何も行動せず。

完全に沈黙する。

やがて、彼はそっと上空を見る。

そこには、変わらず星空がある。

大きく、息を吐く。

いつの間にか、辺りは雪原ではなく、夜空のように黒く、先が見えない大地に変化していた。

『……ざ…………なよ』

俯き、ぶつぶつと言葉を紡ぐ。

――何かな?

癇に触る声に、一方通行は空を仰ぐ。

『ふ、ざけンなァァァあああああああっ!!!!』

叫び。絶叫。

そんな単語を思い出す。

何が『裁き』だ。

偉そうに語るな。

誰がこんな形の物を頼んだ。

ふざけた『夢(妄想)』が。

黙っていろ。


121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/07/14(木) 23:40:27.61 ID:s6CW9jSc0
本当に、一方通行は眼力で人を殺せそうな気持ちになる。

さっさと目が覚めろ、と強く願い、片手の杖が潰れてしまうのではと錯覚するほどに拳を握る。

途端、身体が淡く光り始めた。

その光は、冷めた闇の底を温かく照らしてくれているように感じた。

そうして少しずつ、足元から消えていく。

戻っている。

確証はないが、自信があった。

安心して胸を撫で下ろす。

ただの、作り物だ。

ざまあみやがれ、と嘲笑う。

ゆっくり、ゆっくりと身体が消える。

足、杖と両手、胸元。

そして、残すは頭だけとなる。

一方通行は安堵して瞳を閉じる。

後は、ベッドでいつも通りにクソガキの起床を促す声を聞くだけだ。







――ふむ。君は、『正夢』というのを知っているかな?







思い出したような声が頭の中に届き。

そこで、彼の意識は現実に戻る。


122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/07/14(木) 23:42:40.03 ID:s6CW9jSc0










(……くっだらねェ)

まったく、馬鹿馬鹿しい。

あんな、たかだか夢如きで一方通行は揺るがない。

そもそも、あれからもう二年も経つのだ。

今更、そんなふざけた事があるはずもない。

元凶は全て消し去り、後はただ普通に生きるだけだ。

考えすぎは良くない。

不安が一を殺し、全を殺す。

そう自分を納得させて、一方通行は音もなく振り返る。

「……で、オマエは何してる?」

そこにはいつから居たのだろうか、妹達の元となった人間が立っていた。

「何って、夜風に当たりにちょっとね」

軽い調子で言うと、彼女は勝手に隣に並ぶ。

少しだけ、一方通行は距離を置く。

「何よ、嫌われてるわね」

「……俺とオマエは、別に仲良しこよしやるよォな関係じゃねェだろ」

そう、人々は何やら『和解』などと言うモノを自分達はしたと思い込んでいるようだが、そうではない。

少なくとも、一方通行はそう考えている。

この女が、何も気にせず自分に接している訳がない。

ただ単に、打ち止めのような一部の連中が悲しむから、こいつは自分に耐えて接しているのだ。

だから、調子に乗るな。

自分がこれやその関係者に何をしたか、ちゃんと忘れるな。


123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/07/14(木) 23:45:09.06 ID:SQD6zdnp0
昼の時のような事だって、本来ならばありえないと思う。

彼女を見かけたら、基本は避けるようにしていた。

つい話し掛けてしまったのは、この女が珍しく落ち込んでいるように見えたからだ。

世間話に付き合ったのも、ちょっとした気まぐれに過ぎない。

「……あっそ。まぁ、良いけどね」

つまらなそうにそれだけ言うと、彼女は空を見上げた。

月明かりに照らされるその横顔には、一切の感情がないように思えた。

何だ一体……? と一方通行は小さく眉をひそめる。

あくまでそうするだけで、何も聞かない。

単に面倒だった。

しばし、沈黙が流れる。

どちらも何も言わない。

だが、特には気にならなかった。

元々、そこまで話をする仲でもない。

ただ、二人は空を見上げていた。

「あのさぁ」

「………………あァ?」

突如とした切り出しに、一方通行は戸惑いながらも答える。

いつもならば、こういう時は特に何も起こらないというのに。

今日のこいつは、何かおかしい。

そんな風に思う彼の事など知らず、彼女は続ける。


124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/07/14(木) 23:46:10.90 ID:SQD6zdnp0
「今日、さ。アイツに『好きだ』って言ったんだよね」

……………………。

「……ふーン」

とりあえず適当に相槌を打っておく。

アイツ、というのが誰なのかは簡単に分かった。

ようやく行動したわけだ、とも思ったし、なるほど、それで昼や今はこうなのか、とも思った。

「結果は聞かないの?」

「聞いて欲しいか?」

返した途端、彼女は口を閉じた。

しかし、それもほんの僅かの間だ。

「……ふん、嫌味なヤツ。えぇ、えぇ、そうですよ。物の見事に美琴さんはフラれましたよー」

憎々しげに、彼女は空を睨んだ。

一方通行は呆れたように息を吐くと、

「……何でそンな話する。言っとくがフォローなンざしねェぞ」

一方通行には、生憎と色恋沙汰など分からない。

少し前まで、家族という物さえ知らなかったのだ。

もう一段階上に到達するのは、まだまだ先のように思える。


125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/14(木) 23:49:57.22 ID:fK22V8pK0
「誰がんなモン期待するか。……単に誰かに聞かせたかっただけよ。
偶然にもその一番目がアンタだった、ってだーけ。運が悪いと思いなさい」

あァそォかよ、とだけ言った。

まぁ、そんなところだろうと予想は出来ていた。

……あの野郎は生きてるかね、と一方通行はあの無能力者の事を思う。

今頃、どこぞの皮被りの魔術師にバラバラにされかけながら、追われているかもしれない。

いや、奴の性格だったら何もしていないか。

あのどこか気に食わない同僚は、どこまでも自分の想い人本位な男だ。

「……ったく、あぁ馬鹿馬鹿しい。今思い出すとイライラしてきた。
っつー訳でイライラが爆発する前に寝るわ。そっちもさっさと寝たら? 明日から忙しいんでしょ?」

そんじゃねー、と彼女はどこかスッキリしたような笑顔で言うだけ言って立ち去る。

止める間もない。

どうやら、愚痴を零しに来ただけらしい。

イイ迷惑だ、と一方通行はしばらく立ち尽くす。


126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/14(木) 23:52:20.09 ID:EvPlJCF40
(……上条当麻、ね)

憎たらしいが、一応『戦友』という区別の付き合いの人間。

彼は、選択した。

世界でただ一人の相棒を。

はたして、どれだけの人間が涙を飲むのだろうか。

はたして、そこには何人――あるいは何十、何百、何千か――の元・人形が居るのだろうか。

(――――くっだらねェ)

何を保護者気取りしているんだろうか。

確かにまぁ、気にはなるが。

馬鹿馬鹿しい。

一方通行は首を横に振る。

自分には、今そんな事を気にする暇はない。

打ち止めの中学校入学に関しての準備。

番外個体のニート化阻止。

これからの学園都市のための仕事。

やる事はたくさんある。

くだらない『夢』の事など、もう頭から消えていた。

(忙しくなる、か)

彼は微かな笑みを浮かべ、月を仰ぐ。

暖かみのある月光を受けたその顔は、彼自身も見たら驚くであろうほどに穏やかだった。


127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/14(木) 23:54:58.53 ID:5OGzTvu30










ぼんやりと、一方通行は白い壁を見つめていた。

ここは、墓地の入口に設置してある休憩所だ。

新品同様に設置してある灰皿を見れば、ここにどれほどの割合で人間が訪れるかがよく分かる。

一方通行は深く息を吸う。

自分の担当する分が終わった彼が、ここで同居人を待ち始めたのが確か二十分ほど前。

そろそろ向こうも終わらせて、ここを通るはずだ。

昔の事を思い出すのは、一度止める事にする。

彼はあまり昔話は好きではなかった。

それなのに思い付くのは、過去の事ばかりだ。

この場所にいると、不思議と頭の中にそれだけが出てきてしまう。

(……俺は、いつまで未練たらたらなンだろォな)

一方通行は笑う。

自嘲するように。

憐れむように。

「よォ。終わったか」

ちょうどそこで、美琴が戻ってきた。

彼女はこちらに気付くと、

「ん。行きましょ」

「……あァ」

先に行く彼女に遅れて、一方通行は歩く。

二人は少しだけ名残惜しそうにしながらも、急ぎ足で建物を出た。


128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/14(木) 23:57:18.56 ID:EvPlJCF40







「……」

「……」

第十学区を出て、学園都市の中でもトップクラスの大学の近くへと向かう車の中。

そこには現在、黙りこくった一組の男女がいた。

もちろん、男は一方通行、女は御坂美琴だ。

二人は何も話さない。

いつもの事だった。

あの毎月の習慣の後は、こんな空気が流れるのが常だ。

そしてこの沈黙を破るのが誰なのかも、いつも決まっていた。

「……そういえばさ、滝壺さんの予定日ってもう近いのよね」

「そォだな。もォ一ヶ月近いだろ」

美琴に話し掛けられ、一方通行は適当に答える。

いつだって、話題を振るのは彼女からだ。

「やっぱ何かお祝いとか要るわよね?」

「……かもな」

答えながら一方通行はハンドルを操り、カーブを曲がる。

脳裏に、二人の人物の顔が思い浮かぶ。

しっかり者の、お腹がだいぶ膨らんだ妻に、だらし無さすぎる馬鹿夫。

まるでマンガなんかにいそうな夫婦だ。


129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/15(金) 00:00:20.79 ID:kLskEmJG0
大通りに出たところで頭上にある赤いランプが青に変わり、一方通行はブレーキを踏む。

平日だからか、通りには制服を着た学生はいない。

と思っていたのだが、サボリか何かなのか、ちょうど中学生ぐらいの少女達の集団が歩いていた。

「今日は何時ぐらい?」

「いつも通りだ」

中学生の集団は、笑顔で通りを歩いていた。

無意識にそれらを眺めながら、一方通行は答える。

美琴がその視線に気付いたらしく、その先を見た。

楽しそうに歩く少女達を視界に入れて、すぐに彼女は何も言わずに目を逸らした。

「――そ。先生によろしく言っといてね」

「……あァ」

信号が、変わる。

一方通行はペダルを踏む。

いつの間にか、集団はもういなくなっていた。


130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/15(金) 00:00:40.18 ID:LACRDplT0
大通りに出たところで、頭上にある赤いランプが青に変わり、一方通行はブレーキを踏む。

平日だからか、通りには制服を着た学生はいない。

と思っていたのだが、サボリか何かなのか、ちょうど中学生ぐらいの少女達の集団が歩いていた。

「今日は何時ぐらい?」

「いつも通りだ」

中学生の集団は、笑顔で通りを歩いていた。

無意識にそれらを眺めながら、一方通行は答える。

美琴がその視線に気付いたらしく、その先を見た。

楽しそうに歩く少女達を視界に入れて、すぐに彼女は何も言わずに目を逸らした。

「――そ。先生によろしく言っといてね」

「……あァ」

信号が、変わる。

一方通行はペダルを踏む。

いつの間にか、集団はもういなくなっていた。


131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/15(金) 00:02:57.38 ID:kLskEmJG0







時は進み、ギリギリまだ午前と呼べる時間帯。

一方通行は第七学区のとある病院の中を歩いていた。

右手には、A4サイズの茶封筒を抱えている。

カツッ、カツッ、カツッ……。

革靴が床を叩く音だけが、暗く、長い廊下に響く。

ここは通常の病棟ではない。

ある医者が、特殊な患者を診るために用意した病棟だ。

一方通行も、何度か世話になった事があった。

おかげで、入口の案内図よりもこの場所に詳しい気がする。

そんな、とてつもなくどうでもいい事を考えながら、一方通行は歩く。

目的の部屋には、まだ着かなかった。

いっそ能力でも使おうかとも思ったが、何だかもったいない気がした。

まだ能力使用可能時間は約五十分もある。

だが、この後の『仕事』の事を考えると温存した方が良いに違いない。

と、ここで一方通行の足が止まる。

ようやく、目的の部屋に着いた。

一方通行はドアの前に立つ。

左拳を握り、腕を挙げる。

二度、ノックした。

返事が来る、よりも早く彼は部屋に入る。


132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/15(金) 00:04:27.73 ID:LACRDplT0
「――やぁ、今日は何の用かな?」

その事に特に怒りもせず、部屋の主は椅子に深々と座っていた。

そいつは『医者』だった。

どこかカエルを思わせる顔をした、優しげな風貌の彼は立ち上がる。

座ったらどうだい? と応接用のソファーを勧められたが、一方通行は首を横に振る。

そうかい、と『医者』は頷く。

予想通りだ、と言わんばかりの反応だった。

相変わらず辛気臭い部屋だな、と一方通行は感想を心の中で漏らす。

窓は閉め切られ、ブラインドによって日光が遮られているせいか、鬱屈とした雰囲気がする。

「電極の調整――って訳でもなさそうだね? だったらあの子もいるはずだし」

「資料を返しに来た」

短く答えて、一方通行は手の中の茶封筒を横に長い机に放り投げた。

見事にそれは机の上に乗っかり、勢い余ったのか、中身をさらけ出す。

それは、どこかの見取り図のように見えた。


133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/15(金) 00:07:08.27 ID:LACRDplT0
それに対し、『医者』は目を細めて、

「……そうか、もうそこまで終わったのかい」

どこか感慨にふけった様子で、彼はボソリと呟いた。

「いや、まだ半分だ。今日で終わらせる」

「……そうか」

『医者』は振り返り、窓の方に体を向ける。

その背中は、何か重たい荷物が降りたような、安堵に満ちているように感じた。

「そっちとしちゃ、昔のダチの日記を読まれるのは嫌なのか?」

何となく思った事を聞いてみる。

特に意味はない。

「いや? 気にはしないさ。……それに、『彼』はもういない」

やけに強く、きっぱりとした声だった。

背を向けているので表情は分からないが、きっと彼は口元を緩ませているに違いない。

「そォか」

青年はそれだけ言って、背を向けた。

ドアノブに手を掛け、回す。

「おや、もう行くのかい?」

引き止めるような声に、前に押し出そうとした手を止めた。

しかし、一方通行は振り返らない。


134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/15(金) 00:08:54.95 ID:LACRDplT0
「……のンびり茶でも飲む仲じゃねェだろ」

「それもそうか」

淡々とした調子で答えると、あっさりと引き下がった。

おそらく、分かっていて言ったのだろう。

一方通行はドアを押す。

ギィ……と重い音と共に扉は開く。

そのまま、彼は一歩踏み出そうと――

「……少しは、吹っ切れたかな?」

動きが、止まる。

何かを言おうとして口を動かすが、そこからは何の音も出ない。

一方通行はノブを握ったまま、しばし逡巡すると、

「…………さァ、な」

明確ではない答え。

いつもの事だった。

いつまで経っても、良い返しは出来ない。

話は終わった、と言わんばかりに一方通行は歩き出す。

後ろの『医者』は何も言わない。

ただ、視線を投げ付けるだけだ。

一方通行はさっさと部屋から出た。

そうして振り返り、ドアをゆっくりと閉める。

見慣れた顔は、こちらをじっと見ていた。

ドアが完全に閉まりきる直前、彼は小さく呟く。





「じゃあな、『冥土帰し(へヴンキャンセラー)』」





それは、どこか刺のある口調だった。


135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/07/15(金) 00:11:16.41 ID:hj63U58G0







とある病院の一室。

そこでは、一人の男が何もせずに立ち尽くしていた。

(『冥土帰し』、か)

先程の客人が残した言葉を、彼は反芻する。

誇りある呼び名。

彼の生き方を表す、一つの名。

そして、忌まわしい呼び名でもある。

彼は、自分を『医者』と呼ぶ事さえも許せなかった。

それでも『医者』と名乗るのは、彼なりの償いと意地によるところが大きい。

「……やれやれ」

深々と、息を吐く。

茶封筒を机の引き出しにしまい込み、ただの『医者』はブラインドを久しぶりに上げてみる。

途端に部屋の中に強烈な光が差し込み、思わず目を閉じた。

少しずつ目を慣らして、彼は窓から空を見上げた。

今日は、雲一つない晴天だった。

数日ぶりに見る青い空は、ただただ目に痛い。


136 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/07/15(金) 00:13:27.27 ID:TnEQ0Qxj0
以上で、一ヶ月ぶりの投下を終えます。
明日か、一週間後か、また一ヶ月後か。
次回はいつになるか分かりませんが、少しは早く来ようと思います。
それでは、またいつか。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 00:16:34.16 ID:rtJFG6SDO
なんで県名とかID変わったりしてるの…………?



久しぶりの投下乙、最近あっちの方ばっかで待ってたよ
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 00:55:53.24 ID:Eymu5M8g0
ぶちゃけもう放棄したのかと思ってたよ…
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/16(土) 18:22:04.16 ID:PgceFvcOo
完全に内容忘れてたから>>1から読み直したわ
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/16(土) 18:22:41.13 ID:PgceFvcOo
完全に内容忘れてたから>>1から読み直したわ
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/18(月) 01:14:48.17 ID:JTu5PY+B0
電磁通行発見!
寝る前にいいもん見つけたヽ(´∀`)ノワーイ
明日読むべ
おやすみ
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/13(土) 01:36:25.95 ID:YzNmJFFb0
ゆっくりでも一向に構わんよ〜
143 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/08/16(火) 20:36:01.73 ID:0hj43Xr40
どうも皆様。
久しぶりに投下開始。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/08/16(火) 20:38:36.03 ID:apmrYREI0










とある学区の一軒家。

そこの二階のベランダに、青年は居た。

陽気な青空の下、彼は何故か女物の下着を手にしていた。

誤解が無いように言っておくが、青年は下着泥棒だとか、女装趣味のある人という訳ではない。

彼の足元には、色々な衣類などが入った籠がある。

そう、彼は単に同居人達の物も含めた洗濯物を干しているだけなのだ。

本当のところ、青年の持つ特殊な能力を使えば、
洗濯など乾燥も含めて五分で終わるのだが、それは電気の無駄遣いになる。

そんな訳で、たまにはアナログもイイか、と結論を出して現在に至るのだ。

「じゃ、行ってきまーすっ! ってミサカはミサカは大声で伝えてみる!」

籠の中身を半分ほど干したところで、突如幼い少女の声が下からして、青年―― 一方通行は手を止めた。

手摺りから見てみると、見た目小学生高学年ぐらいの少女が、馬鹿みたいに手をぶんぶん振っていた。

一方通行は少女を見据えると、

「おォ。気をつけろよ」

ベランダから、はっきりと聞こえるように言った。

打ち止め――そう呼ばれていた少女は何が嬉しいのか、えへへー、と笑うと走り出した。

そして少女が完全に消えて、彼はまた手を動かす。


145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/08/16(火) 20:40:57.17 ID:x556Od6X0
今日、打ち止めは四月からの中学校生活のために、制服を姉の知り合いから受け取る事になっていた。

本当のところ、青年も付いていこうと思ったのだが、
いつまでも世話をする訳にもいかないと考えて、一人で行かせた。

一応、大丈夫のはずだ。

電車やバスの乗り方は完全に覚えているはずだし、もしも道に迷ってもケータイで助けを求めるように言ってある。

たぶん、大丈夫だ。

……たぶん。

「よし、終わった」

そうこうしている内に、籠は空になった。

パタパタとはためく洗濯物を、青年は満足げに眺めた。

それから、何となく辺りを見回す。

近くには、ここと同じような家が建っているが、まだ誰も住んでいない。

この家のある学区は、さらに都市面積を増やした街で新しく開発された場所で、主に住宅を設置するのが目的らしい。

それほどまでに、学園都市に住む人が増えたのだ。

遠くを見れば、マンションなども見える。

徐々に、ご近所さんなども出来るだろう。


146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/08/16(火) 20:43:04.41 ID:x556Od6X0
「……面倒な事になるだろォな」

さて、次は掃除でもしようか、と杖を突いて家の中に入る。

一応、書斎か何かにしようと考えている部屋に入り、ベランダへの窓を閉める。

床にある空のダンボールを欝陶しげに蹴り飛ばしながら、部屋を出た。

引越ししてから二日ほど経つが、いい加減ゴミを片付けなければならない。

そんな事を考えながら、廊下に出る。

二階の構成は、玄関に通じる階段から見ると、廊下右側と左側に二部屋ずつ(あとトイレが右側の一番奥にある)、計四部屋からなる。

その内右側が同居人二人の部屋で、手前が打ち止め、奥が番外個体である。

左側は、手前が空き部屋で、奥がベランダにも繋がる書斎となる。

そんな訳で書斎から出た一方通行は、一階に降りるために右に向かう。

木で出来た階段を、音を立てながら降りる。

一階の構成は、玄関から見ると、奥にリビングへの扉があり、
廊下左側に三部屋(とトイレ)、右側に階段と、その中に物置にでも使えそうな小さな部屋がある。

ちなみに左側の手前が一方通行の部屋で、残りは全て空き部屋である。


147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/08/16(火) 20:45:34.86 ID:2MuGaAQv0
自分の部屋を通り過ぎて、一方通行はリビングに入る。

リビングは広々としていて、入って右側に大きなソファ、サイドテーブル、テレビが順にある。

少し奥には食事用のテーブルがあって、さらに進むとキッチンがある。

扉を開けてすぐ左には脱衣所兼洗面所があって、普段はスライド式のドアでリビングと仕切られている。

一方通行は右を見る。

そっちではテレビの電源が入っていて、ちょうど朝のニュースがやっている。

ソファの方には、見慣れた人物が退屈そうにテレビを見ていた。

「で? 今日もオマエは家でゴロゴロか?」

とりあえず適当に声を掛けながら、ソファの方へと歩く。

そうして、いつものアオザイを着ている女――番外個体の隣に座る。

「何? 文句でも?」

面倒そうにこちらをチラリと見て、番外個体はつまらなそうな顔でテレビに向き直る。

ふー、と軽く息を吐いて、一方通行もテレビを見る。


148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西) [saga]:2011/08/16(火) 20:47:48.91 ID:JNlPm9VX0
「……いつまでも俺が居る訳じゃねェンだから、ちっとは独立したりしよォとか思わねェのか」

これで何度目だろう、と思いながらもいつもの台詞を言った。

ぼんやりと画面を眺めながら、この先もいつも通りにくるな、と何となく思う。

「やだなぁ、あなたはミサカを一生養うんだよ。嫌だって言っても寄生するからね」

小さく舌打ちをする。

このアマは……などと思いながらも、一方通行は引き下がらないで適当に告げる。

「……人間ってなァ、結構簡単に消えるンだぜ。嬢ちゃン」

さぁ、どんな返しで来るか。

どう来ようと、上手く論破してやる。

……。

………………。

………………………………。

はて? と一方通行は不思議に思う。

いつまで経っても、返事が無い。

これはどうしたのだろうか。

いつもならば、こういった言葉に何かしらは屁理屈を抜かすのに。

気になった一方通行は番外個体の表情を窺い、目を丸くした。


149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/16(火) 20:51:55.61 ID:EpbiIq+g0
「――――――――――――――」

彼女は何も言わず、じっと無表情で一方通行を見ていた。

これは、さらに珍しい。

あの番外個体が無表情だ。

思わぬ光景に、一方通行も黙ってしまう。

ニュースの方では、脳天気な芸能ワイドが始まっている。

とても場違いなそれだけが、この場所の音を満たしていた。

「……くくっ。そうだよねぇ、人間って案外簡単に消えるよねぇ」

と思った途端に、いつもの嘲笑の類の顔に切り替わった。

「……何だよ」

薄気味悪い、と素直に思う。

何か強烈な違和感があった。

「べっつにぃ。第一位様は正論吐くなぁ、って」

どうでもよさそうに答えると、よっ、と掛け声と同時に番外個体は立ち上がる。

そのまま自然な動作でリビングを出ようとした。

「ドコ行く」

「んん? ちょいと麦野のトコに」

麦野、というのは番外個体の数少ない友人(本人も珍しい事に素直に肯定した)の一人だ。

いわく、よく分かんないけど気が合うんだよね、とのことだった。

「じゃ、行ってきまーす」

「……おォ」

声と共に、リビングの扉が閉まる。

残された一方通行の後ろでは、やかましいテレビの音が響いていた。


150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/16(火) 20:52:51.10 ID:JiWoGoJQ0
一方通行はしばらく扉を見つめると、

「……何だったンだ、あれ?」

訳分かンねェ、と呟きながらテレビを消して、寝転がった。

誰もいない空間は、とても静かだった。

周りにまだ人が住んでいないせいか、外からも何も聞こえない。

完全な静寂。

こんな事、そう無い気がする。

……何だか、眠くなってきた。

(いや、寝たらこの後……)

眠りかけてから、ふと大事な予定を思い出し、思い止まる。

が、やっぱり眠いモノは眠い。

(掃除は……寝てからで、イイ……かァ)

もう一眠りしてしまおう、と一方通行は睡魔に負ける事にした。


151 :腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo :2011/08/16(火) 20:54:25.85 ID:JiWoGoJQ0
以上で今回は終了。
……もう少し早く(出来れば一週間に一回ぐらい)来れるようにします。
それでは、またいつか。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/08/16(火) 21:47:19.91 ID:5nkXPYne0
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/16(火) 21:47:41.08 ID:w2emUB2SO

どんだけ遅くても待ってるよ
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/16(火) 22:27:52.17 ID:3AAmIK2IO
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/08/17(水) 03:03:51.70 ID:ttnVGqhMo
同時にスレいくつも抱えすぎだぜ乙
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/23(日) 12:08:09.81 ID:rfNSN7o+0
腹パンはまだか…!
間に合わなくなっても知らんぞおおお!!
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/07(月) 21:53:24.87 ID:AG8joP9W0
今は二ヶ月で消えちゃうから気をつけてねー
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 01:03:26.99 ID:nS6PRMEvo
>>157
既存スレは3ヶ月だ
どっちにしろあと10日程度だが
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