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キャスター「宗一郎様。 ここは…学園都市ですわ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/25(月) 03:12:54.56 ID:GjrvZVV5o
聖なる盃は天の逆月を模し、泡沫の日々を幾度も幾度も繰り返していく。

ありとあらゆる可能性が交差したそれは誰が傷つくこともない優しい夢。

けれど――夢にはひとつの決まりがある。

夢はいつか覚めるもの。


夢の終幕は少年と少女が駆け出すことで始まった。

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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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2 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/25(月) 03:28:26.22 ID:GjrvZVV5o
――ある一人の女の話をしよう。

それは神代の時代に生まれた魔道の王女の話だ。

外の世界を知らずに育った美しい姫。

けれど彼女は外の世界に興味などはなかった。

生まれ育った国を愛し、父である王を愛し、朗らかな民を愛して生涯を終える事に満足していた。


けれど。

王女のそんなささやかな望みは無惨にも踏みにじられることとなる。


ある日、栄光と地位と宝物を求める外界の“英雄”が船に乗って現れたのだ。

王女は“英雄”を支持する愛と美を司る女神に呪いをかけられてしまう。

"英雄"を愛するように呪いをかけられた王女は命じられるがまま国の宝を盗んだ。

それは父を裏切り、国を裏切り、民を裏切ること。

王女の心が悲鳴をあげる。

しかし――呪いが解けることはない。

“英雄”と共に異国の地へと逃げ出した王女。

追っ手から逃げるため、自ら連れてきた幼い弟をその手で殺し海にまいた。

王女の心が血の涙を流す。

けれど――呪いが解けることはない。

約束を違えたと怒る"英雄"の自尊心を満たす為、王女は幾人もの人間を殺した。

王女の心が絶望で張り裂ける。

それでも――呪いが解けることはない。

魔導の王女は"英雄"の私利私欲を満たす為だけに魔術を使い、自らの手を血に染め続けた。

ただ“英雄”に付き従う王女はまるで死人のようだった。

しかし“英雄”は痩せこけた王女を見ても何も思わなかった。

――“英雄”にとって王女とはただの便利な“道具”でしかなかったのだ。
3 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/25(月) 03:30:49.78 ID:GjrvZVV5o


やがて。


"英雄"は“道具”がこれ以上自らの出世の役に立たないと察し切り捨てようとした。


もはや王女に帰る場所はない。

王女は“英雄”の足元に縋りつき懇願する。

捨てないでください――と。

その様を見た英雄は顔を歪め、侮蔑の言葉を王女に吐きかけた。


“何を言うか恐ろしい異国の魔女め。 私はおまえを愛した事など一度もない”


その時。

ようやく王女の呪いが解けた。

けれどもう遅すぎる。

何もかもが遅すぎる。

幼く美しかったはずの王女は遠い異国の地で忌み嫌われる魔女へとなっていた。

恐れられ、侮蔑され、迫害される悪しきモノとしての役割を強要され――


王女は魔女となった。


燃えさかる城を後にして、魔女は彷徨いながらただ願う。

それがもはや叶わぬ願いだとは判っている。

けれども願わずにはいられなかった。

誰か私を救ってください――。

誰か私を助けてください――。

誰か私を帰してください――と。

しかしその願いはどれ一つとして叶えられることはなく。


魔女は異国の地を一人で彷徨い続け、その生涯を終えた。
4 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/25(月) 03:55:09.11 ID:GjrvZVV5o
―――目眩がした。


空を見上げれば天の逆月がゆっくりと割れだしている。

終わりの刻が始まったのだろう。

秘蹟を紡いでいた指先が、光の粒子となり還っていく。

貝紫のローブに身を包んだ魔女がそれを見て、小さく溜息をついた。


この夢が終わればどうなるかなど魔女には判っていた。

もとよりここはありとあらゆる可能性を内包した輪廻する夢物語。

その軛から解き放たれれば、事象は全て収まるべきところに帰結する。

先の戦争において【英霊】として呼び出された魔女は敗者であり、共に戦った一人の男も敗者だ。

それが帰結すればどうなるかなど言うまでもない。

この世界が終わるのと同時に魔女は【座】へ還ることとなり、男は死者として荼毘に付されるだろう。

こればかりは如何に魔女とてどうすることも出来ない。


魔女の胸が張り裂けそうに痛む。

失ってしまう。

愛する男を。

平凡な日々を。

ようやく掴むことが出来た桃源の夢を。

それら全てが消えてしまうのだ。

小さな嘆息が魔女の口より漏れる。


『そう――もう終わりなのね』


この優しい夢の世界で魔女は幸せだった。

本当に幸せだった。


けれど、それはもう終わる。

【座】へと還ってしまえば、今のこの感情すら消えてしまう。

魔女はそれが判っていて――けれど、それでも男を想っていた。

この身が欠片となり、光となり、"座"に戻るその瞬間までただ男を想っていたかった。


『お別れです   様。 あぁでも…私はもっともっと続けていたかった。 ずっと貴方と共に居たかったんです』


万感の想いを込め、胸の内で愛する男の名を呟いて。

その時だった。


『よぉキャスター。 調子はどうよ?』


けけけ、と底意地の悪そうな笑い声がどこからともなく聞こえてきたのだ。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2011/04/25(月) 07:12:23.77 ID:IghukECmo
キャスタースレとは珍しい
6 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/25(月) 07:16:01.96 ID:GjrvZVV5o
やがてゆっくりと人の形を模した黒い影が揺らめきながら現れた。

『……たった今最悪になったわ。 消えなさいアヴェンジャー。 そもそも貴方こんなところで油を売っている場合?』

『うわ怖え。 相当嫌われてるみたいだなオレ。 まぁそれも当然の話か』

殺意が見え隠れする魔女の言葉を聞き、黒い影、反英雄アヴェンジャーは何がおかしいのか楽しげに肩を震わせる。

『あぁもう欝陶しいわね。 何? ここに至って何か話でもあるの? ならさっさと言いなさいな』

苛立った魔女の問を聞き、アヴェンジャーは僅かに押し黙ってから声を発した。

『まぁ話っていうか提案なんだ。 あー…笑われそうでちょっと怖いんだけどさ』

そしてアヴェンジャーはゆっくりと魔女にこう問いかけた。


『なぁキャスター。 アンタはさ―――平行世界ってあると思う?』


平行世界。
突拍子も無い筈の言葉を聞いた魔女は話にならないとばかりに溜息を漏らした。

『ハァ。 坊や……貴方ね。 私に魔導の講義をするつもり? そんなものは無数にあるわよ。 想像しうる事象は全て実現しうる事象なの。 そもそもこの繰り返す4日間が平行世界のようなものじゃない』

魔女はあっさりとその問を肯定し、その答えを聞いたアヴェンジャーはケラケラと笑いだした。

『ケケケ。 そうだよな。 考えてみりゃアンタだけは全ての絡繰を見抜いていたんだものな。 まぁともかくだ、本題はここからなんだぜ?』

からかうようなアヴェンジャーの言葉を聞いて魔女が冷ややかに続きを促す。

『……なら先に本題とやらを話しなさいな。 その持って回った言い方は貴方を形作っている坊やの影響なの?』

『ヒヒ。 かもね。 確かに時間もないことだし手っ取り早く言うぜ? 今、オレに残された魔力を使えばだな』

そこまで言うとアヴェンジャーは勿体ぶるかのように言葉を区切り。

魔女にひとつの可能性を提示した。


『アンタ達をこことは違う異なる世界へ送り込むことが出来ると思うんだよな』

7 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/25(月) 07:16:45.84 ID:GjrvZVV5o
アヴェンジャーの提案は神代の魔女とて思いも寄らぬものだった。
けれど、魔女はその提案を聞いて手放しで喜びはしなかった。
しばし沈黙し、考えをまとめてから魔女は静かに口を開く。

『…そうね。 確かに今の貴方は聖杯を兼ねているもの。 可能かもしれないわ。 けれどね。 ――坊やも魔術師の端くれなら判っている筈でしょう?』

『あぁ。 等価交換……だろ? 神秘と奇跡には相応の代償が必要。 無償の協力なんて魔術に関わる者にとって有りえない。 遠坂にうんざりするほど言われたよ』

魔術師として召喚された魔女が、それを自ら破ることは出来ない。

『なら私が言いたいことも判るでしょうに。 私は今回の件に何も関わっていないのよ? 私がしたことといえばせいぜい見送りくらいだもの』

だから無理なのだ。と魔女は言う。
自分はそのような選択をとることは出来ないのだと。

しかし。

その魔女の言葉を聞いてアヴェンジャーがふぅと息を吐く。

その口調はアヴェンジャーであってアヴェンジャーではなく。

最後の聖杯戦争の勝者であるとある少年の口調そのものだった。

『なぁキャスター。 オレはさ、この結末を迎えることが出来てホント嬉しいんだ。 そしてそれはアンタが傍観者に徹してくれていたからこそだろう?』

それは事実だ。
魔女は絡繰を全て見抜いていた。
しかし魔女はただ平穏な日々を過ごすだけに務めていたのだ。

『アンタは何もしないということをしてくれていたんだ。 その気になれば、それこそ永遠にこの"聖杯戦争"を続けることだって出来たはずなのにさ』

『だからそれは…… 言ったはずよ? 私が何もしなかったのは貴方や坊やの為を思ってのことじゃない。 ただ私のマスターが望まなかっただけ』

『だとしてもだよ。 前から思ってたけど割と頭固いんだなアンタ。 とにかく、オレはもう充分にアンタに協力してもらってたってことになる。 だからこれはアンタに借りを返すようなもんさ』

そう言われて、魔女の心がぐらりと揺れた。

それは胸の内の心の奥底からだ。

まだ続けることができるかもしれない。
まだあの人と共に居られるのかもしれない。

魔女ではなく只の女として未来を求める声が漏れ聞こえてきたのだ。

英霊という己の役割を優先させるべきか。
惚れた男への感情を優先させるべきか。

板挟みの思考に混乱し、魔女は声を震わせる。

『ま、待って。 待って頂戴。 困るわ。 いきなりそんなことを言われても…… そ、そうよ。 宗一郎様にお伺いを立ててからじゃなきゃ……』

けれど悠長に答えを待つ時間は残されてなどいない。
アヴェンジャーの幽体が、魔女の幽体が欠けていく。
それが意味することはもう間もなく全てが終わるということだ。

その様を見たアヴェンジャーはハァと溜息をつき。


『キャスターのサーヴァント』 


堂々とした声で魔女へ最後になるであろう問いを投げかけた。
8 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/25(月) 08:12:06.84 ID:GjrvZVV5o

『輪廻の車輪より切り離された英雄。 座より召喚されし英霊よ。 アンタの運命は誰と共にある? アンタの杖は誰の為にあるんだ?』


アヴェンジャーは魔女に問う。

『……そんなの決まってるわ』

問われた魔女の胸に浮かび上がるは一人の男の名。

そしてまるでそれを見越したようにアヴェンジャーが問いを続けた。

返ってくる答えは判っている。

しかしそれでも。

かつて一人の少年に問いかけた騎士王のように朗々と問いかけた。


『問おう。 貴方は誰のサーヴァントか?』


『私は……誰の……?』

千々に乱れいていた魔女の思考はその一言でもって、まるで魔法のように静かになった。

そしてゆっくりと魔女は顔をあげて返答をする。


『答えるわ。 アヴェンジャーのサーヴァント。 私の運命はマスターと共に。 私の杖はマスターの為に』


魔女は大切な男の名をゆっくりと唇に乗せる。


『そして私のマスターは――葛木宗一郎様よ』


魔女は自らのマスターの名を告げ、それを聞いたアヴェンジャーがニヤリと笑いを形作る。

『けけけ。 そうだよ。 オレはアンタのそういうとこ嫌いじゃないぜ。 惚れた恋人の為に命すら投げ出すのも惜しまない癖に、変なところで悩んでしまう馬鹿っぽいとこがさ』

『……今だけは言わせといてあげるわアヴェンジャー。 坊やなんかに無様なところを見せてしまったのは癪だけど』

魔女のその言葉を聞いてアヴェンジャーが盛大な笑い声をあげる。


『ヒヒヒヒヒ。 確かに見物だった。 と、そろそろ俺のマスターが五日目に辿りつく頃だ。 じゃあなキャスター。 せいぜい浮気されないよう気をつけな』


アヴェンジャーは相も変わらず憎まれ口を叩き。

そしてそれが魔女とアヴェンジャーの交わした最後の言葉だった。


――――パキンと天が割れ、月が砕けた。


それは繰り返された四日間に終止符が打たれた音。

けれど。

桃源の夢はまだ続く。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/25(月) 09:07:10.15 ID:2lmbjUaD0
キャス姐さん好きだし、楽しみなんですが。
もしよろしければ、ある程度書きためしてから投下して頂けたら嬉しいですし、
そのほうが、読みやすいと思います。
10 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/25(月) 09:12:05.31 ID:GjrvZVV5o


  「……ター ……スター …・・キャスター」


抑揚のない声が魔女の心を揺らす。

この声を聞き間違えたりなどするわけもない。
呼ばれている。
愛する男が呼んでいるのだ。
今すぐにでも起き上がり、返事をしようと思うものの身体は一向に動こうとしない。

ならばこれは桃源の夢の残滓なのかもしれないと魔女は思う。

もしそうならばなんと残酷な仕打ちなのだろう。
そうぼんやりと胸の内で考えていた時だった。

  「目を覚ませキャスター」

魔女の頬にゴツゴツとした冷たいなにかが当てられた。
それが掌なのだと判った瞬間、急激に魔女の感覚が現実に引き戻された。

  「……宗一郎……様?」

目を開いた先にいるのは愛しい男。

  「あぁ……夢なのでしょうか? またこうやって宗一郎様の顔を見ることができるなど……」

魔女は思わずそう呟きながら男の顔に恐る恐る手を伸ばす。
まるでガラス細工を扱うような繊細さでもって小さく白い手が愛しい男の頬を撫でた。
指先に返ってくるその感触から、男が確かにここに存在しているのだと判り魔女の瞳にじわりと涙が浮かび上がる。

数瞬か数時間か。

魔女が落ち着いたのを見計らってから男が淡々と問を投げかけた。

  「事情は理解しているか? これが夢かどうか、ここがどこなのかすら私では判別できん。 おまえはどうだ?」

そして、ようやく魔女は気付いた。

ここが男と女が共にいたお山ではないということに。
廃ビルかそれとも工事現場か?
どちらにしろ人っ子ひとり見当たらない寂しく荒れ果てた屋内だった。

  「……ここは?」

そう呟いた時を待っていたかのように、そして同時に様々な“記憶”が魔女に流れこんできた。

アヴェンジャーとの問答。
そしてそれとは別に用意された知識。
この感覚には覚えがある。

“英霊”は“座”より召喚される際、その時代に馴染めるよう最低限必要な知識が用意される。
そして今、魔女の頭の中を駆け巡る情報はまさしくそれだった。
此処で初めて魔女は己がいる場所の名を知った。

まずは男の疑問に答えよう。
そう思った魔女は静かに自分たちがいる場所の名を口にした。



「宗一郎様。 ここは…学園都市ですわ」



――かくして“魔術”と“科学”が絡みあう学園都市に魔女と男が降り立つこととなる。

男の名は葛木宗一郎。
魔女の名は葛木メディア。

続きが始まる。
二人が求めるは人間らしい平穏、穏やかな日々。

それが叶うかどうかはともかくとして。
今この時より学園都市で二人の日々が始まったのだ。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/04/25(月) 09:15:29.18 ID:GjrvZVV5o
えー。 書き溜めは一応七割程してあるのだけれど修正しながら順次投稿してるから速度の件は許して欲しい。
とりあえず一旦ここまでにしときま。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/25(月) 09:37:52.80 ID:VDJUIj850
最近ホロウやった俺得物語はここか
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/25(月) 12:03:58.91 ID:SxCCVXlDO
おお、これは期待
楽しみにしてる
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鳥取県) [sage]:2011/04/25(月) 13:00:58.20 ID:iSWKXwxmo
あの五日目って普通にセイバーとか存在してるんだよなぁ
キャス子さんも普通に暮らしてるような気がするんだけど
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) :2011/04/25(月) 16:43:38.43 ID:xaEk53GAO
>>14
ヒント:エクリプス

あれが本編後の5日目なわけない
もしそうだとしたら本編台無しじゃん
16 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/25(月) 23:44:09.95 ID:Ba1LraOvo
>>10


ここは男が存在していた世界ではないとキャスターが説明をする。

この地は学園都市と呼ばれているということ。
科学技術が発達した超巨大都市であるということ。
8割が学生というのこの都市には隠された側面が幾つもあるということ。

超能力と魔術。
科学とオカルト。
相反する二つの領域。

そんな世界に転移してきたのだとキャスターは言う。

常識というものを持ち合わせている者からすれば、それは荒唐無稽にも程がある話だ。
けれど長身痩躯の男は驚きを見せることもなく、ただ静かに話を聞くに務めていた。

そして――葛木宗一郎はすべての話を聞き終わると


「……そうか。 大凡の事情は理解した」


ただそれだけを口にした。

その言葉に込められた意味は一体どのようなものか。
無表情な葛木の顔からはどんな感情も読み取れず、キャスターに怯えがはしった。

「どうしたキャスター。 言いたいことがあるのなら遠慮をするな」

葛木にそう問われ、キャスターの肩がビクリと震える。
抑揚のない声というものは、その実どのような恫喝よりも心を圧迫するものだ。
後ろめたい思いをその胸に抱える者ほど、この声に畏れを抱く。

つい先程まで再開の歓喜に震えていたキャスターだったが、今胸の中で渦巻く感情は罪悪感だった。

考えてみれば葛木はキャスターの願いに巻き込まれただけにすぎない。

自らに望みがないと言い切る葛木のことだ。
新たな世界を望んでいなかったことも充分に考えられる。

ならば同じではないか?

姫を無理やり外界へと連れ出した“英雄”。
男を無理やり異世界へと連れ出した“魔女”。

自分は――あれほど嫌い、恨んでいた“英雄”と同じことをしてしまったのではないか?

嫌悪感と罪悪感に苛まれているキャスターは葛木の目を見ることが出来ない。
俯きながら、恐る恐る口を開くのが精一杯だった。

「申し訳ありません宗一郎様…… 私の勝手な願いに宗一郎様を巻き込んでしまい……」

「………」

葛木宗一郎は理解出来なかった。
目の前で不安気に瞳を伏せている女が何を思って、何故謝ったのか。
それが彼女の過去に起因するものだと知らず、けれどそれを聞き出そうとも思わず。

葛木はただ己の思っていることをそのまま口にした。


「何を謝ることがある? 言ったはずだ。 私に望みなどない。 お前が望むことならば、私はそれに手を貸すまでだ」


葛木宗一郎は嘘をつかない男だ。
その嘘偽りのない言葉はキャスターにとって何よりも嬉しいもの。

思わず葛木の胸の中に飛び込もうとしたキャスターだったが。
それは続く葛木の言葉で押しとどめられた。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/26(火) 00:11:55.46 ID:FeMjd8wAO
期待してる、期待してるが上条マンセーにだけはしないでくれ……
18 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/26(火) 00:13:59.90 ID:JWja9gJvo

「だが問題がある」

そこまで言ってゆっくりと立ち上がる葛木。

もとよりこの男は現実がどのような姿を見せようが、戸惑うことはない。
葛木にとって、現実とはただ理解するだけのものでしかなく、そして理解が出来ないのならばそれでもいいと思っているのだ。

葛木のいう問題とは現実的な懸念だった。
既にこの男が見据えているのはこの地でどのようにして暮らしていくのかということだけ。

「見知らぬ土地で生活を始めるのは難があるだろう。 私に出来るのは教員の真似事だけだ」

そう、今の彼等には住居どころか戸籍すらない。
身一つで何処とも知れぬ新世界で生活を始めるなど、葛木宗一郎とて初めてのことだ。

しかしその葛木の懸念は

「宗一郎様、心配は無用です。 私がこの地の管理者に話を通してきますわ」

紫闇のローブのフードをかぶりながら静かに請け負うキャスターにより解消された。

「……そうか」

この地の管理者という言葉に葛木宗一郎は聞き覚えがない。
どのような意味をもつことなのかすら判らない。

けれどそれが自らの理解では及ばぬ問題であるということを理解した葛木は只一言


「だが……無理はするな」


それだけをキャスターに告げた。
葛木の朴訥な気遣いを聞いてキャスターの口元が幸せに緩む。

「えぇ……お任せください宗一郎様。 すぐに戻ってまいりますわ」

空間転移という高度魔術によりゆらりとキャスターの姿が歪みだす。

そして次の瞬間キャスターの姿がかき消えた。

キャスターの向かう先。
それは学園都市の管理者の元だ。

キャスターは既に地を走る龍脈の先にある巨大な結界を感知していた。
そこにあるのは入り口も出口もない閉じた結界。

並の魔術師ならば接触しただけで廃人になる強力な結界である。

けれど。

神代の魔女であるキャスターに魔術の防壁など何の役にもたたない。

幾重にも編みこまれた魔術防壁を苦も無く突破して。

キャスターは学園都市の管理者、“アレイスター・クロウリー”のもとへ到着した。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/26(火) 00:35:42.45 ID:pAxvRkwPo
そうだよなー
神代の魔術師からしたら魔術サイドは皆アレだよなー
実力者のステイルとか、ルーンの復活レベルだし。

期待!
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/26(火) 00:46:27.98 ID:IkBS9PaUo
メディア姐さんの望みはダンナとの平穏な暮らしだから、放っておけば相互不干渉が出来るはず。
というか、幸せになってくれ。
21 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/26(火) 00:58:35.72 ID:JWja9gJvo

世界最高峰の魔術と科学の防壁で守られたここは難攻不落の要塞。

ここは学生たちからは窓のないビルと呼ばれ、事情を知る者は虚数学区などと呼ばれている。

巨大な部屋の中央に設置されているのは人体の脊柱のような円筒状のカプセル。


赤い培養液に満たされたその中には一人の“人間”がいた。
その“人間”はかつて世界最強の魔術師と呼ばれ、今は世界最高の科学者だ。

男なのか女なのか、老人なのか子供なのか、まるで判断のつかない不可思議な面貌をした“人間”。


名をアレイスター・クロウリーという。


培養液に満たされたカプセルの中で、アレイスターがゆっくりと瞳を開いた。

「――ここに至るというイレギュラーな事態は126パターンほど想定していたが、そのどれにも当てはまらないとはな。 いや……だからこそイレギュラーと呼ぶべきか」

培養水に呟きが溶け、同時に空間に滲み出るようにねじくれた銀の杖が出現した。

アレイスター・クロウリーを少しでも知る者ならば、それが意味することの恐怖に顔を引き攣らせるだろう。

それはアレイスター本人が自ら造りあげたアレイスターの為の魔術霊装。


その名も“人の五感を奪う魔法の棒《blasting rod》”


ねじくれた杖をそのままに、アレイスターは闇の中へ静かに言葉を投げかけた。

「戦闘よりは会話を望みたいものだが。 応じる気はあるのかね?」

その声は広大な部屋を覆う闇に吸い込まれていく。
静寂の中、コポリと音を立てて水泡がゆっくりと昇り。


「驚いたわ。 気付かれるつもりはなかったのだけれどね。 貴方本当に人間なの?」


闇の中より柔らかい声が返ってきた。
程なくして暗いローブを身に纏った魔女がゆらりと現れる。

「……ほぅ」

目前に立ったその姿を見てアレイスターの目が僅かに細まった。

「ふむ。 守護天使に近い存在ではあるようだが。 どうやら違うようだ」

アレイスターは一見でもって目の前に現れた存在の本質を大まかながらに看過した。

目の前の存在は人の姿をとってはいるが人ではない。
あまりにも密度が違う。
違いすぎる。

エイワスやヒューズ・カザキリに限りなく近いようではあるが、何処かが決定的に違っている。
そこまでを瞬時に理解したアレイスターの口元が『笑み』を形作った。

「ふむ。 惜しいことをしたな。 気付かないフリをしてればどうなっていたのだろうか?」

アレイスターの空恐ろしいその笑みを見て、魔女も返礼とばかりに微笑する。


「あら、挑発のつもり? でも残念ね、今日は挨拶に来ただけなの」

22 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/26(火) 01:40:59.49 ID:JWja9gJvo
目前に現れた霊的存在が放ったその言葉はアレイスターであっても本質の把握が出来ないものだった。

「……挨拶? そのような慣習は初耳だが?」

アレイスターが疑念に満ちた声をあげるなど、いったい何処の誰が想像するだろうか。
けれど魔女はそんな反応も織り込み済みだというように口を開いた。

「いいから最後までお聞きなさい。 貴方は知らないかもしれないけれど私のいた地ではそんな習わしがあったのよ。
 魔術師がその地に腰をおろすのなら、その土地の管理者に話を通しておいたほうが面倒が減るじゃないの」

「ふむ。 君は自らを“魔術師”と呼ぶのか。 そのような“魔術師”の慣習も初めて聞く。 
 つまり……君はこの学園都市に私の許可を得たうえで留まりたいと。 そういうことか」

「えぇそうよ。 この地において私は客分だもの。 考え得る中で最善な方法を選んであげたつもりよ?」

「……成程な。 それにしては穏やかではない対面の方法を選んだようだが……まぁそれは今更言うべきことではないか。
 さて返事をする前に一つ聞きたいことがあるのだが」

それはアレイスターの好奇心から生まれたものだ。

アレイスターは魔女に問いかける。


「もし私が望まぬ答えを口にしたならば――君はどうするのかね?」


その問を聞き魔女はおかしそうにクスクスと笑いだした。
殺気を隠しながら魔女が笑い、そしてアレイスターもそれに気付いていながら笑う。


「あら、面白いことを言うのね貴方。 返ってくる答えなんて判りきってるでしょうに?
 どうするかですって? そんなの……望む答えを口にさせるまでのことよ」


魔女の言葉の端から、僅かにこぼれる殺気。
常人が受けたならばそれだけで心臓が麻痺していよう。

高位の霊的存在を試すなど正気の沙汰ではない。
けれど“人間”アレイスターもまた正気や狂気などといった尺度の遥か彼方にいるのだ。


「そうかね。 さて答えよう。 君をこの地に受け入れるかどうかだが――」


魔女の答えが気に入ったのか、アレイスターは静かに笑いながら口を噤んだ。
23 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/26(火) 01:53:17.43 ID:JWja9gJvo
それは僅か数秒の沈黙。
しかし、この場に第三者がいれば恐怖のあまり発狂してるだろう。

それほどまでにその静寂は重く、危険を含んでいた。
そして、ゆっくりとアレイスター・クロウリーが続きを口にする。


「もとより拒む理由もない。 好きにするがいい。 ……私の計画の邪魔をするならば話は違ってくるがね」


それを聞いた魔女が僅かに息を吐く。
その答えは魔女にとって満足なものだった。

「感謝するわ優秀な魔術師さん。 私も貴方と同じよ。 日々の邪魔をしないならば私から干渉することは有り得ません」

その言葉を最後に魔女の姿が陽炎のように揺らぐ。
言質をとった以上、もはやここに用はないということだろう。

魔女の姿が霞み、そして現れたときと同様にかき消えた。


本来の姿を取り戻したその部屋の中でアレイスターがゆっくりと言葉を紡いだ。


「ふむ――久しく忘れていたものだ。 この感情が緊張と高揚というものだったか」


その口元には依然“笑み”が浮かんでいる。
果たしてアレイスター・クロウリーが魔女キャスターと出会い何を思ったのか。
それはアレイスターの胸の内に秘められ、決して表に出ることはない。


ふと、アレイスターは何かを思い出したかのようにこう呟いた。


「とはいえ学園都市に目的も定かではない魔術師が現れたのならば――彼等に忠告をしておかねばならんか」


ブンと音を立てて暗闇の中にモニターが浮かび上がる。

「彼等と学園都市は協力関係にある以上、黙っているわけにもいかんだろうな。 ふむ、僅かながら心が痛む」

アレイスターはそう楽しそうに嘯きながらモニターを見る。


そこに映っているのは二人の魔術師だった。
凡百の魔術師ではない。

二人の魔術師の所属先はイギリス清教第零聖堂区の必要悪の教会《ネセサリウス》だ。
それは魔術関連の事件捜査と魔術師・魔術結社の殲滅、処分を任務とする組織であり、対魔術専門の国際治安維持機関。

特にこの二人の男女は禁書目録と、とある少年に対して多大な思い入れがある。
彼等が新たな魔術師の存在を知れば確実に何らかの行動を起こすだろう。


「さて、どうなるか。 この結果次第ではプランを大きく変更する必要が出るかもしれんな」


モニターに映った神裂火織とステイル=マグヌスを見てアレイスター・クロウリーは闇の奥で密やかに笑った。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/04/26(火) 02:02:00.66 ID:JWja9gJvo
今日はここまで。
次は近日中に。

読みづらいとことか改善できそうなとこあったら教えてくれね。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/04/26(火) 02:11:18.65 ID:FugLr6ffo
おつ
特に投下量制限していないのならこの1レスの文章量を3レスくらい分けてもいいかも
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/26(火) 02:24:16.66 ID:6sAS9Mzmo

また楽しみが一つ増えた
キャスターと葛木は良いキャラだよなぁ
悪人だけど善人だけど悪人っていう感じ
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/26(火) 04:14:04.52 ID:iXt9H7XL0
おつ
キャス子さんと葛木は好きだから続きが楽しみだww
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/26(火) 10:45:58.53 ID:8HLZLJDDO

文章量はケータイから読んでるんで適量。

魔術師としてのキャスターと嫁さんとしてのギャップに期待w

次回も楽しみにしてます
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/26(火) 12:58:38.05 ID:IfbAz1Ib0
葛木先生は最初だけなら聖人とも渡り合える、のだろうか
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/26(火) 17:05:09.93 ID:ZWsOvhMN0
>>29
キャス子に強化されれば結構いけそう

発条包帯装備の葛木先生が思い浮かんだ
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/04/26(火) 18:34:27.80 ID:Mw47eknWo

またタブが増えた
書き溜めも多いらしいし超期待
32 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/27(水) 18:01:40.37 ID:yrqsx3mfo
>>23


神代の魔女がこの地の管理者と面会をしてから半日後。


第八学区にある一つの不動産屋に若夫婦が飛び込みの客として現れた。

暇を持て余していた不動産屋の主人は大喜びで話を進めていく。
もともと第八学区は学生よりも教職員の為のものであり、同時に最も多くの妻帯者が暮らす場所でもある。
とはいえ学生が八割を占めるこの学園都市で既婚者向けの物件は中々売れない。
常に空き部屋を抱えていた不動産屋が喜ぶのも当然だった。

それでも一応身元を確かめてみれば、一式の書類が差し出された。
それは間違いなく学園都市公式のもの。
旦那とおぼしき男は一つ隣の学区にある高校の教師として転任してきたと書いてあり、もはやこれ以上疑う余地もない。
不動産屋はにこやかに笑いながらポン!と音を立てて大判を押した。


――その書類が実は魔術により洗脳された学園都市上層部の者の手により作成されたなど誰が知ろうか。


かくして賃貸物件に新たな入居者が引っ越してきた。
新しいわけでもなく古いわけでもない、ごく平凡な間取りをした既婚者向けの2LDKマンション。


そのマンションのドアには、どこぞの剣士が見たならばニヤニヤと笑いつつ皮肉のひとつでも言いそうな真新しい表札が掲げられることとなったのだ。
33 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/27(水) 18:16:51.73 ID:yrqsx3mfo


パタパタとスリッパを鳴らしながらパステルカラーのエプロンをかけた新妻が小走りでかける。
向かう先はこれより出勤する夫のもと。

「宗一郎様? どうぞこれを。 今日のお弁当ですわ」

「あぁ。 すまない」

暖色のナプキンに包まれた弁当箱を差し出され、簡潔に礼を言いながらそれを鞄の中に詰める夫。
そんな夫の様子を新妻がチラリと上目遣いで伺う。

「あ、あの……宗一郎様?」

「なんだキャスター?」

夫の静かな声に促され、新妻は不思議そうにこう問いかける。

「本当に良いのですか? 宗一郎様がお望みならば何も働きに出られることもないのです。 私とて魔術師の端くれ、金銭の心配などする必要は……」

働きに出ずとも良いのだと夫に告げる新妻。
それは事実だ。
夫の前だからこそ自らを魔術師の端くれなどと謙遜したが、こと魔術に関することならば新妻に敵うものなど現世にいる訳がない。

この新妻は錬金術すら片手間でやり遂げてしまうのだ。

鉛を純金に変えるという錬金術の象徴ともされる『大いなる業』はこの地でも存在している。
だがそれは七兆円近い費用と三年以上の期間が必要になるのだ。

そんな『大げさな魔術』を――この新妻は指を振るだけでやり遂げてしまう。
それがどれほどふざけた話かなどもはや説明する必要もないだろう。

けれど、新妻の提案を聞いた夫は僅かに首を振った。

「そういう訳にもいかないだろう。 生活の為に労働をし、糧を得る。 それが社会の理だ」

そう言って提案をあっさりと却下する夫。

「……え? あ……も、申し訳ありません 出過ぎた真似を……」

慌てて前言を撤回する新妻が畏まるが、夫は妻の少々過剰な反応を気にすることもなく静かに出発する旨を告げた。

「いや、気にすることはない。 そろそろ時間だ。 行ってくる」

「は、はい! 行ってらっしゃいませ!」

ペコリと頭を下げ働きに出る夫の背を名残り惜しそうに若妻が見つめ続ける。
そしてその背中が完全に雑踏に消えるまで見送ってからようやく。

ふにゃりと新妻の頬が緩んだ。

隠そうにも隠しきれない微笑の原因は先程の夫の言葉。
聞き方を変えればそれは妻を養うために働きに出るのだ、とも聞こえるわけで。
新妻の脳内では既にそのように変換されている。

「ふふ……うふふ! そうよこれよ! これなのよ! 誰にも邪魔をされない二人の生活こそ私の望んでいたものなのよ!」

ニマニマと夫の言葉を数十回と反芻してから屋内へと戻り、そこで僅かに溜息をついた。

新妻の目に飛び込んできたのはガランとした室内。
これから二人の愛の巣となる部屋にしては物寂しいにも程がある。
それも当然、昨日飛び込んできたばかりなのだ。
部屋の中には僅かな寝具程度しか見当たらない。

可愛いものが大好きな少女趣味の新妻にとってこれは少々我慢がならなかった。

パステルカラーのエプロンをしたまま腕まくりをして、新妻がフンと鼻息を荒くする。
これからやることはたくさんあるのだ。
部屋の整理、日常品の買出し、神殿の構築、魔術による結界――そしてもう一つ。


「今日は時間がなくて出来合いのものを詰めちゃっただけだしね。
 宗一郎様に恥をかかせるわけにいかないし。 明日から自分の手で作ったお弁当をお渡ししなきゃ」


そう呟いて新妻の目がキランと光る
目標が決まったのだ。

神代の魔女、稀代の英雄である新妻・キャスターがこれより全力をもってとりかかるもの。

――それは美味しい愛妻弁当の作成という難行である。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/27(水) 21:14:10.95 ID:sF8Jcer3o
キャスターさんが幸せそうでなによりだ…
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/27(水) 21:42:09.66 ID:5BneFlTso
文体も好みだしキャス子も可愛い
支援
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage saga ]:2011/04/28(木) 00:22:08.43 ID:zt5oKQma0
面白そうな組み合わせですね。
期待してますよ!
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/28(木) 09:05:41.41 ID:npjQxPGV0
二次ではありがちだが、士郎にかわってキャスターの料理師匠になれそうなのは誰だろう……
……神代の魔女もとい、魔術師すら驚愕しそうな炊飯器料理w
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/04/28(木) 10:06:12.77 ID:asr+HwUO0
魔術を組み合わせた料理を作れる天草式の方々とか……
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/28(木) 11:34:07.12 ID:wDlAKgwAO
葛木さんの無色っぽさには惚れる
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄) [sage]:2011/04/28(木) 23:45:42.01 ID:H18LHnXAO
キャスターがフィアンマレベル倒せるのって
あんまり想像出来ないなー・・・

キャス子の料理は素敵な料理になるのか、
未現物質になるのか果たしてどうなる?
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/04/28(木) 23:59:01.22 ID:YFPMrsFuo
hollowで士郎から料理の手解き受けてたから大丈夫じゃない?これもその後の話だし
その前だと未来物質というより、暗黒物質って感じだったらしいけどな。それでも旦那さんは食べ切っていたという……
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/29(金) 01:52:21.80 ID:ua3vygi2o
キャス子は英霊だから人間が勝てるわけない
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/29(金) 02:07:34.82 ID:9mgHsKFJo
人間に負けてるがな、キャス子
魔術師を人間じゃないって言うなら別だけど
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/29(金) 05:39:43.82 ID:BD2o5+0AO
キャスターは型月世界最強クラスの魔術師だぞ
公式でも魔術戦なら蒼崎青子すらかなわないって言われてるし
凛に負けたのは魔術戦で魔術を捨てて殴りにくるっていう想像外の行動とられたからでしょ
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/04/29(金) 06:37:04.26 ID:9mgHsKFJo
戦い、それも試合じゃなく殺し合いで想定外の行動を取られたから負けた、なんて言い訳にもならないけどな
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/29(金) 07:43:44.10 ID:KwhO9uToo
強さ論議は不必要に白熱するからなあ。
しかし、キャス子さん可愛すぎるだろ…
奥様モードと魔術師モードのギャップがええわぁ
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/29(金) 10:37:47.92 ID:n9K4VygGo
魔術サイドから見たら、キャス子さんはとんでもない人だろうな。
正体知ったら驚愕どころの騒ぎじゃないだろ
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/04/29(金) 10:48:34.08 ID:fW/ikdWao
キャス子さんとやらがどれだけ凄いのか判らないから、ガンダムで例えてくれ
49 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/29(金) 11:01:30.67 ID:n5OWCmJDo
>>33


とある高校の職員室で快活な笑い声が響いた。

「あっはっは! あの月詠センセがお疲れとはねぇ。 こりゃまた珍しいものが見れたじゃん」

笑い声の主は体育教師、黄泉川愛穂である。
モデル顔負けのプロポーションを持っているくせに、無造作に束ねた長髪や緑色のジャージという何とももったいない女教師だ。
そんな黄泉川に向かって桃色の髪をした幼女がぷりぷりと頬を膨らませた。

「もう黄泉川センセー…笑い事じゃなかったんですよ? ほんとに大変だったのです!」

正確にいえば幼女ではない。
彼女の名前は月詠小萌。
信じられないことにこう見えてもれっきとした成人であり、ついでに教師でもあるのだ。

「いやぁー。 正直月詠センセの話は眉唾じゃん。 センセの教え子の静かな女の子……
 確か姫神秋沙っていう女の子だっけ? その子が大怪我をして倒れたって言うけどさ。 今日も元気に学校に来てるらしいじゃん? 」

「うっ…… それは…… で、でもほんとなのです! 姫神ちゃんのお腹からですね! 血がドバーっと出たんですよ!
 それで先生がビックリしてたら上条ちゃんと神父さんが来てですね! それから…」

月詠小萌はぶんぶんと上下に腕を振りながら体験談を語り出す。
まるで駄々をこねる子供のようなその様を見て、黄泉川愛穂は少し困った。

なにせこの月詠小萌という同僚は見た目に反して熱血教師の魂を持っているのだ。
判らないのなら判るまで、懇切丁寧つきっきりに教えるというスタンスは別に教え子だけに限った話ではない。
別に小萌の話に付き合うのが嫌というわけではないのだが、今日は少しばかり事情が違う。

このままでは小萌自身が困りそうだと察した黄泉川は、両手をあげ降参のポーズをとりながら話を変えた。

「まぁまぁ月詠センセ。 それはともかくとしてさ、それよりもこんなとこでのんびりしてて時間は大丈夫なのかじゃん?」

「しかもその神父さんは未成年なのに煙草吸ってたんですよ! だから先生は…… って時間? 何のことです?」

唐突にそんなことを言われてキョトンとした顔で首をかしげる小萌。
それを見て黄泉川はハァと溜息をついた。
50 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/29(金) 11:02:16.28 ID:n5OWCmJDo

「まったくもう……しっかりしてほしいじゃん? 月詠センセーは今日赴任してくる教師の教育係になったじゃんか。
 今朝の職員会議で言われてたじゃんよ。 もう忘れちゃったのかじゃん?」

「ふぇ? ……今朝の職員会議?」

オウム返しにそう呟いて数秒後、小萌がワタワタと慌てだす。

「……た、大変です! うっかりしてたですよー!」

小萌が慌てふためきながら名簿、筆記用具、教材といったものを教員机の上からかき集めだす。

「まずいです! まだろくにお話もしてないのですよ! それじゃあ黄泉川センセ、次の休み時間にですー!」

そう言って駆け出そうとする小萌だが、その背に黄泉川の優しそうな声がかかった。

「あー、ちょっと待つじゃん月詠センセ? もしも新人にナメた口聞かれたらあたしに言いなって。 
 あたしがきっちり上下関係叩き込んでやるじゃん」

笑いながら拳の骨をポキポキと鳴らす黄泉川愛穂。
ふざけたように言いはしたが、黄泉川の目は真剣だった。

そう、月詠小萌は幸か不幸かどこからどう見ても幼女にしか見えない。
その癖そんじょそこらの学者顔負けな博識をもつ小萌は、露骨な嫌がらせの標的にされることも少なくない。
つい先日も学会で小萌に恥をかかされた他校の教師により、教え子たちの目の前で毒舌を吐かれたということを黄泉川愛穂は聞いていたのだ。

けれど、そんな黄泉川の心配が伝わったのか小萌はふんわりと笑った。

「心配してくれなくてもだいじょぶなのですよー。 どんな人だって話しあえば判るはずなのですー」

小萌の笑顔を見てガシガシと頭をかいて黄泉川も笑う。

「……ハハ。 こりゃいらない心配だったみたいじゃん。 って……月詠センセ? 時間はいいのかじゃん?」

からかうような調子で黄泉川が小萌に問い、今度こそ小萌の焦りが最高潮に達する。

「あああ! そうです! こうしちゃいられないですよ――!!」

ダダッ!と音を立てて駆け出す小萌。

「こらー! センセの癖に廊下を走るなじゃーん!」

黄泉川の注意の声は廊下の向こうを曲がっていく小萌に届いたかどうかは判らない。
けれど小萌ならまぁ何とかなるだろうと黄泉川愛穂は安心する。

そして、広い教員室で一人になった黄泉川は肩をぐるぐると回しながら安っぽい事務椅子によりかかって思ったままの感想を口にした。

「こりゃ先生も災難だ。 大覇星祭直後のバタバタしてる時期に転任だなんて、運が悪いとしか言いようがないじゃんよ」

災難な先生とは、新任の教師のことか月詠小萌のことか。
どちらにしろ、この高校に新たな一人の教師が教卓に立つこととなったのだ。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/29(金) 11:56:39.26 ID:n9K4VygGo
>>48
アムロが初めてジャブローに行ったとき、ジムが並べてあるところにターンエーが置いてあるくらい。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/29(金) 12:02:52.47 ID:4rd/CcJEo
>>48
08小隊に陸ガンの代わりにνガンくらい
53 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/29(金) 12:04:22.37 ID:n5OWCmJDo

とある高校のとある教室。
そこで異変が起きていた。
常日頃テンション全開アクセルフルスロットル学級崩壊寸前な学生達がゾンビのようにぐったりとしていたのだ。


「うっだー……。全身筋肉痛でたまらへんで…… たまっとるのは乳酸だけやぁ……」

机に突っ伏したまま弱音を吐いたのは、自称クラスのお笑い担当青髪ピアス。

「おいやめろって。 おまえがそんなダルそうだとクラスの皆にも無気力が伝染っちまうだろ?」

そんな青髪ピアスの切れ味のないボケに返事をしたのは、ウニの様にツンツンな頭をした少年――上条当麻だった。

「いやいや何を言うとるんやカミやん。 僕の主張はクラス全員の主張も兼ねてるんやで?」

クラスメイト、特に男子の殆どは青髪ピアスと同じように机に突っ伏したり、椅子を並べてその上で寝転んでいたり、床に寝そべっていたりという酷い有様だった。
それを見て上条当麻はハァと溜息をつく。

「おまえらさぁ……やる気抜けすぎじゃね?」

しかし、そんな上条のひとり言に青髪ピアスの気の抜けきった言葉が返ってきた。

「そりゃそやろー。 何せつい先日まで大覇星祭やったんやで? 気力体力その他諸々べっこりマイナスになるのも致し方なしや」

大覇星祭。
それは学園都市で催された七日間に渡る超大規模な運動会のことだ。

全身全霊でそれに取り組んでいた学生たちの緊張の糸が切れるのも仕方のないかもなと上条当麻は納得するが。

「まぁ気持ちはわかる。 ただこんな場面を吹寄が見たりしたらなんて言うかと思うとなぁ」

上条が吹寄と言った途端、クラスの男子たちがピクリと反応した。

吹寄制理。
美人で巨乳なのにちっとも色っぽくない鉄壁女。
男子の間で密かにそう呼ばれていた吹寄だったが、先日その株が急上昇した。
原因は上条当麻にある。
不幸な事故から水をぶちまけ吹寄をびしょ濡れにしてしまい、濡れ透けなシャツから見えた可愛らしいブラがギャップでヤヴァイ!と男子たちの間で高評価だったのだ。

クラスのそこかしこから

「……オレンジだったよなぁ」
「あぁ……それに黄色もな」
「チェック柄って最強だよなぁ……」

なんて邪な呟きが漏れ聞こえている。
ちなみにその間、女子は虫でも見るような軽蔑しきった目で男達を見ていたのは余談である。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/04/29(金) 12:23:00.12 ID:fW/ikdWao
>>51-52
おk把握した チートキャラだな
55 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/29(金) 12:44:13.02 ID:n5OWCmJDo

教室の至る所から吹寄のブラについてボソボソと意見を交換しあっているという、吹寄制理本人が見たらぶちきれそうな光景を見て上条当麻はぶるると身を震わせた。

「おまえら目を覚ませって。 吹寄さんはマジでおっかないんですよ!? 俺なんか下手したら椅子でぶん殴られて死んでたんだっての!」

そんなことを言ってピンク色の脳内の男達を何とか現実に引き戻そうと頑張る上条だが

「どうせカミジョー属性発動したんだろ」
「きっと着替え中の場面にでも凸ったんだろ」
「しかも今まさに服を脱ぐ場面とかだろ」
「殴られて当然だろ? むしろ殴られろ」
「ていうか俺が殴りてえ」

恨みがましげな呟きを四方八方から浴びせられがっくりと肩を落とす。

「ドンマイやでカミやん。 闇討ちとかされんぶんだけマシだと思わなあかんよ?」

ヘコんだ上条にどうでもいい感じで青髪ピアスが慰めの言葉をかける。

「……だからさぁ! おまえらは俺にどんな評価してんだっての! だいたい吹寄がこんな場面を見たらなんていうか想像してみろよ! 何故か最終的にその責任が俺になるんだっての!」

我慢しきれず声を荒げる上条当麻にクラスの注目が集まった。
と、青髪ピアスがニヤリと笑う。
上条の背後に何者かがいるのを発見したのだ。

「いっやぁー全然想像つかへんわ。 ほんまに吹寄がそんな事言うんやろかね? カミやんの思い込みちゃうん?」

「は? なわきゃねーだろ? そうだな……『なによこの無気力感は! しゃっきりしなさい! ……ハッ! まさか上条! また貴様の仕業か!』くらいは絶対言うって」

腕組みをしてうんうんと頷く上条に注がれるのはニヤニヤと笑う青髪ピアス他、男子一同の視線。
違和感に気付き、口を開こうとして、そこでようやく上条当麻は背後からのプレッシャーに気づいたのだ。

「なーんてな? 冗談だってば冗談。 さーてと! 俺は予習でもすっか……な……」

誰にともなく言い訳をして、この場より離れようする上条の肩がガシィッ!と背後より掴まれた。

「……上条。 いい報せと悪い報せがある。 どっちから先に教えて欲しい? ちなみにそれ以外の返答は却下」

押し殺した冷たい声による二者択一。
その声の主が誰かなど言うまでもなく、上条の額に嫌な汗が浮かぶ。

「……いい報せからお願いします」

「正解よ。 貴様の予想は間違ってなかった。 この惨状を見れば確実にあたしはそう言ってたでしょうね」

「えっと……正解したご褒美に解放ってのは……無し?」

「無し。 じゃあ次は悪い報せの番ね。 ……朝っぱらから人のブラの話題って……何考えてんのよ!」

肩を揉むかのように上条当麻の両肩に添えられた吹寄制理の手はまるで万力のように標的を固定する。
とはいえ上条の背後に立ち、両手で肩をおさえたままの吹寄に出来る攻撃は少ない。
両手は当然封じられているわけで、残ってる部位はせいぜい膝と足――いや、もう一つ忘れてはならないものがあった。

後に吹寄おでこDXと呼ばれることになる部位が上条当麻を襲う。
ズガン!と音を立てた吹寄渾身の頭突きが炸裂した上条当麻は

「こうとうぶっ!?」

と叫びながら教室の床にぺちゃんと倒れそうになったが――
56 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/29(金) 12:46:02.56 ID:n5OWCmJDo

そんな上条当麻をふわりと支える一人の少女がいた。

「大丈夫?って言いたいけど。 今のは君が悪い。 やられて当然。」

言葉をぶつ切りで話すような不思議な喋り方をする少女が上条当麻を抱き抱えていた。

「わ、悪い……って姫神!? もう入院してなくても大丈夫なのか?」

驚きの声をあげる上条当麻に姫神と呼ばれた少女はコクリと頷いた。

黒髪ストレートに人形のような整った顔をした美しい少女の名は姫神秋沙。
かつて上条当麻に助けられ、以降なんとなくほのかにアピールしたりしている健気(で薄幸)な少女である。

「平気。 面白い顔をしたお医者さんも太鼓判押してくれた。 それよりも。」

そこまで言って姫神が上条の耳元に顔を近づける。

「ナイトパレードの約束。忘れないでね。」

そう囁かれ上条はドギマギしまくりだった。
なんせ目の前に姫神の顔があるわけで。

「お、おぅ!? 任せとけって!?」

何を言われたのかも判らないくらいにテンパリながらもそう返事を返すのが精一杯だった。
姫神は何で上条当麻がこんなに顔を赤くしてるんだろうと不思議に思い、そこでようやく顔が近いのだということに気付く。

ほのかに顔を赤らめて姫神がゆっくりと上条から離れていく。

空気の読める男子たちは姫神には聞こえないように、しかし上条には聞こえるように舌打ちを送り。
吹寄は親友である姫神を毒牙にかけたな、と言わんばかりに上条を睨んでいた。

それに気付くも言い訳のしようがなくて上条当麻は大いに焦りながら天を仰いだ。

「な……なんなんですかこの状況? 別に上条さんは何もしてないんですよ!?」

そしてお決まりのあの言葉を言おうとして――ちょうどそのタイミングで教室のドアがカラリと音を立てて開いたのだ。
57 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/29(金) 13:29:02.18 ID:n5OWCmJDo


「大覇星祭の後だからって怠けてちゃダメダメですよ―! みなさん今日も元気に勉強しましょ―!」

教室のドアを開けて入ってきたクラスの担任、月詠小萌が幼女のような舌っ足らずの声で生徒達に話しかけた。
そんな小萌の言葉を聞いてクラス――主に一人が異様に盛り上がった。

「キタ―――! ボクの小萌センセーや――!」

「はいそこ黙りやがれですよー。 静かにしないとコロンブスの卵1週間ですー」

はしゃぐ生徒に苦笑しつつも手慣れた口調で注意をしながら、小萌がクラスの注目を集める。

「さて、出席をとる前にですねー。 幾つかお話しすることがありますー。 
 まずは土御門ちゃんから数日お休みになるって連絡があったのですがそれだけなんですねー。 理由を知ってる人はいるですかー?」

小萌の言葉を聞いてようやく土御門の欠席に気づいた青髪ピアスがキョロキョロと辺りを見回した。

「あれ? ほんまや。 そういや今日は見んかったね。 というか大覇星祭の時もちょいちょい途中で消えてたような。 何でやろ? カミやんは知っとる?」

「どうだろな? サボりじゃね?」

不思議そうな青髪ピアスの疑問をあやふやにごまかしながら上条当麻は土御門のことを思う。
上条は土御門が休んでいる理由を知っているのだ。
けれどそれをクラスメイトや小萌に教えることなど出来やしない。

土御門が休んでいる理由。
それは先の戦闘、学園都市に持ち込まれた霊装を巡った事件により魔術を使用したからに他ならない。
魔術師である土御門が能力開発を受ける。
それは即ち体内に爆弾を仕掛けることと同じである。

致死的な欠陥を抱えたまま土御門は魔術を使い、あまつさえその状態で魔術師と戦闘を繰り広げたのだ。
その傷は数日で完治するわけもない。


とはいえ、上条はこっそり見舞いに行ったので土御門の容態について心配はしていなかった。
というか病室に入ったら何故か土御門の義妹がナース服を着てるという気まずい状況に遭遇したわけで……


なんかこれ以上考えるのが馬鹿らしくなって上条は土御門のことを頭から追いだした。
放っておいても数日もすりゃいつもみたいにニャーニャー言いながら登校してくるってことは確定してるのだ。

そう思った上条が視線を教卓にやるのと、小萌が口を開くのはほぼ同時だった。


「そしてですねー。 もう一つのお知らせはですねー。 今日から新しい先生が着任されたってことですー」


それを聞いた途端に学生たちが騒々しくしゃべりだした。

「聞いたかカミヤン!? 新しい先生やて! ボクには見えるでー! 眼鏡とボディコンが似合うナイスバディな紫おねーちゃんがぁ!」

「ほんっと相変わらずだな。 おまえロリコンじゃねーのかよ?」

「ちゃうでカミヤン! ボクはロリもいけるだけやって言うたやないか! 何ならボクのストライクゾーンをもう一回説明しよかー?」

「あぁ……あの長いやつか。 いや、遠慮しとくわ」

「なっ!? 酷いでカミやん! 言わさせてくれや! ボクぁあれくらいしか持ってないんやで!」

さっきまでの気怠い空気は何処へやら、クラスメイトの間では新たな教師に対する予想で持ちきりだった。
やれ割烹着が似合う洗脳系美少女だの、やれ金髪朱眼の我様だの、いやいや着物に革ジャンなツンデレ系だの。
男女問わずして勝手な期待を寄せていた。

そんな中でもわりかし冷静な生徒といえば

「馬鹿らしい。 漫画じゃあるまいし、そんな奇天烈な先生がいてたまるもんですか」

豊満な胸を腕組みの上に乗っけたまま鉄壁不機嫌顔でそんなことを口にする吹寄制理と

「大変。 また影が薄くなる。 そんな予感がする。」

ボソリと窓際で悲しいことを呟く姫神秋沙くらいか。

とにかくクラスの中は何時まで経っても静まろうとはしない。
そんな状況にも慣れているのか、月詠小萌が軽く溜息をついた。


「もーみんな静かにするんですよー? えっと…そ、それじゃ葛木先生ー? 入ってきてくださいですよー?」
58 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/04/29(金) 13:54:21.29 ID:n5OWCmJDo
小萌の呼びかけと同時にカラリと教室の戸が開く。
入ってきたのはクラスの男子たちの興味津々熱烈歓迎な願望とは違い、男性だった。


――透明


生徒達の第一印象を端的に現すならそんな言葉が相応しかったはずだ。
足音はなく、気配もなく、ありとあらゆる感情すらも感じさせない長身痩躯の男。
老竹色のスーツと何の飾り気もない眼鏡は印象を更に薄くし、男はまるで枯れ木のようにも見える。

男は自身に集中する視線を気にすることもなく、月詠小萌の隣に立つと静かにただ一言。


「今日より倫理を担当する葛木宗一郎という」


それだけを言うと口を閉ざす。
倫理の教師として新たに着任した男の自己紹介はたったそれだけのものだった。
59 : ◆CERO.HgHsM :2011/04/29(金) 14:06:39.33 ID:n5OWCmJDo
今日はここまで。

このSS、割とfate寄りってことを理解して欲しい。
このSS、割とfate寄りってことを理解して欲しい。

大事なこと。
単純な踏み台にはしないよう頑張るよ。
それじゃあ。

次回も近日中に。

>>25
意見thx
レスを分割しようと思ったのだけれど、そうすると何だか逆に混乱しちゃいそうだったんでこのままの投下量で行くと思う。
せっかくの意見採用できずスマヌイ。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/29(金) 14:14:47.63 ID:UTs9ETEIo
乙!
まー、神代の魔術師にとっては10万3000冊がどうしたって話だわな。
しかし葛木せんせー愛想のかけらもなくぶれないなww

次回も楽しみにしてますよー
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/29(金) 14:43:08.72 ID:qUc/tf4AO
キャスターって魔術じゃゼル爺より上だよな


上条は腕か切れても骨が折れまくっても数日で直る……不思議!
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/29(金) 14:47:08.76 ID:4rd/CcJEo


土御門いると雰囲気でそっち系の人間ってばれそうだな
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/04/29(金) 14:59:56.20 ID:cOxht+mYo
乙乙
こっから本格的なクロスが始まっていきそうだなww
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/29(金) 15:12:03.28 ID:0pTVMGZqo
ていうかこっちの世界にも士郎たちが居るのかが気になるな
魔術師の風習が違うから、居たとしたら凛とか桜の扱いも変わってそうだ
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/29(金) 15:20:06.02 ID:MSgjIPnP0

これは神スレに化ける予感
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/04/29(金) 16:13:04.96 ID:stFX3PeAO
>>64

平行世界だから、いなくても問題ないと思う。
Fateだけならまだしも月姫の魔術師勢は危険すぎだろ。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/29(金) 19:07:42.33 ID:jJK4JV9e0
青髪…ライダーじゃあないんだよ
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/04/29(金) 20:26:04.24 ID:SfZHtuwI0
そういえばキャスターはこっちに習って、魔法名名乗るのかな?

キャスターの魔法名はなんになるんだろうか?
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/29(金) 20:29:03.61 ID:qUc/tf4AO
我が全てはあなたと共に歩むために
とか?
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/04/29(金) 21:11:35.24 ID:MSgjIPnP0
>>69
不覚にも感動した
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/29(金) 21:45:47.67 ID:ZI4gRrgDO
たしか魔法名はイギリス正教だけじゃね?
魔法名の数字って、何番目にそれを名乗ったかだし。
そんな仕組みを敵対勢力や異教とシェアするのは変
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/04/29(金) 22:26:52.53 ID:SfZHtuwI0
>>71
アウレオルスのようなローマの人たちも魔法名持ってるし。
土御門は必要悪の教会に所属しているけど、陰陽師で立派な異教徒だと思いますけど……
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/30(土) 00:39:03.59 ID:Odao2q1Mo
魔法名の番号って被らないようにって設定はあったような気がするが名乗った順なんて設定あったか?
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/30(土) 02:47:36.20 ID:Iznx6OIDO
>>72
そういえば、ヘタ錬もローマ所属だったね。
シスターや司教のイメージが強すぎたわ。
でも闇咲は魔法名ないし、土御門が例外でしょ。
>>73
なんか掲示板の議論を勘違いしてたみたい。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/02(月) 02:20:31.10 ID:UdFxf8SS0
あのー>>1さん違うならキッパリ否定してくださいね

都城王土が学園都市に来たSSをお書きになられた方でしょうか?
この書き込みをする前にまとめていたサイトを見ていたのですが
その酉とまったく同じ酉が一度付いてたので偶然でしたら
申し訳ございません
ちなみに名前はセロテープと名乗っていました
もう一度言いますが違うならキッパリ否定してください
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/02(月) 17:36:53.01 ID:5wK7sEnIO
キャス子さんの真名聞いたら魔術側卒倒するだろうなぁ
ヘタ練の反応こそ見てみたかった
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/03(火) 03:31:52.41 ID:w4m4SaJso

禁書でも型月でもMUKASIの魔術師(に限らないが)はチートだからなあ…
技術大系の違い(たとえば禁書サイドでの空間転移や飛行はそこまで難しくない)はあるし、
禁書魔術の方は退化するだけじゃなくて進化している面もあるから一概には言えんが、
それでも化け物クラスだろうな…
78 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/04(水) 07:57:15.63 ID:mInbiI9zo
>>58


ぐるぐるどちゃどちゃ とろけてきえる。


グツグツと音を立てる鍋をかき混ぜるは神代の魔女キャスターである。

彼女が今煮込んでいるもの。
それは秘薬でも神酒でもない。
むしろそういった類の物であるならどんなにか楽であるか。

それは世間一般では和食の定番と呼ばれたり、男を喜ばせる手料理堂々第一位と呼ばれていたりもする。
そう。
簡単に見えて奥が深い煮込み料理―――肉じゃがだった。

竹串でジャガイモを突っつけば、ほっこりと煮込まれたそれにすんなりと刺さっていくのを見て、ホッと安堵の息をつくキャスター。
煮込み具合は理想的だ。

けれど、問題は味である。
果たして煮汁は美味しいかどうか。

おたまにすくった煮汁を小皿に移し、まるで三三九度のようにツツ…としとやかに味見して

「……。 不味くはないと思うのだけれど…… なにがいけないのかしら?」

不思議そうにキャスターが首をひねった。
どうやら思うとおりの味ではなかったらしい。
小皿に残った煮汁をシンクに流しながらキャスターが恨み言をつぶやく。

「まったく……口惜しいわ。 最後まで坊やから教わる事が出来れば、今頃こんな苦労はしなかったはずなのに……」

かつて――キャスターはある少年に料理の教えを乞うたことがある。
しかしそれは唐突に帰宅してきた某赤い悪魔のせいで、途中にて中断されてしまったのだ。
結局、肝心な味付けは教わることが出来ず、その日は終わってしまい。
以降、機会に恵まれることもなく。

今現在、キャスターの料理の腕前は中途半端な状態で停滞していた。

肉じゃがに使う食材の選別と適切な切断法までならば少年に教えられたため自信はある。
けれど、そこまでがキャスターの限界なのだ。

と、キャスターの視線が鋭くなる。
どうやら怒りの矛先を見つけたらしい。
彼女の怒りを受けるのは台所のシンクの上、開かれているある一冊の本だった。

「だいたいね。 曖昧なのよ。 魔道書《グリモワール》だってもう少し丁寧に書いてるわ。
 いったいどういうことなの? "適切な量"だの"うっすらキツネ色"だの"程よい加減で"という指示は? こんなので意味が通じる訳ないじゃない」

だんだんと怒りが高まってきたのか、にらめっこしていた料理本に文句を言い出す神代の魔女。
とはいえ、幾ら物言わぬ本に恨み言をぶつけても返事があるわけもない。

「ハァ…… しょうがないわね。 食材も足りなくなっちゃったし、お昼ごはんを食べたら買い物に出かけなきゃ」

ポツリとそう呟いてからキャスターは微妙な味のする肉じゃがを皿に盛ると、残りにはラップをかけて冷蔵庫の奥深くに隠す。
どうやら失敗作は夫には出さず自分のお昼ご飯にするつもりらしい。
一人でモグモグと肉じゃがを食べるキャスター。


……後に彼女はこの地で二人目となる料理の師を見つけることになるのだが、それはまだもう少し先の話である。
79 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/04(水) 08:45:24.65 ID:mInbiI9zo

あまりにも簡潔すぎる自己紹介。
愛想といったものが何一つ見られないそれを聞いて

「なんやまぁ……ずいぶんと堅そうなセンセやねー……」

思わず青髪ピアスがボソリと呟いた。

静まり返った教室の中に響いたその感想は、学生たち全員の心情を代弁していたらしい。
はしゃぐのが好きな生徒達にとって厳格を絵に描いたようなその男は、どうにもとっつきづらそうに見えたのだ。
そしてそんな空気を察してオロオロとしだしたのは、葛木宗一郎本人ではなく月詠小萌だった。

「こ、こら――! そんなことを言ってはダメなのですー!」

思ったことをそのまま口にしてはダメなのです!という続く言葉を喉の奥に飲み込んで注意を促す小萌。
しかしその注意の言葉は随分と歯切れが悪い。

正直なところ、青髪ピアスの感想は小萌も思わず頷きそうになるほど的を射ていたのだ。
けれどまさか職場の先輩である自分が肯定するわけにもいかない。
かといって「そんなことは言ってはダメです!」なんて叱るというのも逆に肯定をしているようで。

本来ならば事前に用意された打ち合わせの時間でもってお互いの情報交換を軽くすませておくべきだったのだが、小萌はそのことをうっかり忘れてしまっていたのだ。
これではフォローしようがない。
学生達が感じているであろう新しい教師に対しての苦手意識をどうやって払拭すべきか。

「え、えーっと葛木先生はですねー。 転任してきたばかりの見習い先生なんですー。 だからしばらくはクラス毎に担任の先生が補佐することになってるんですよー」

取り繕うように無理やり言葉を続けながら小萌は頭の中で良い解決案を必死に探しはじめる。

そして……

「そ、そうです! 皆さんは葛木先生に質問とかないんですかー?」

それは名案に思えた。
生徒達と雑談を交わせば、お互いの心の距離も縮まるはずだ。
そう考えた小萌の提案は――どうやら失敗だったようだ。

誰も手を挙げない、静まり返った教室の中で

「…転校生ならともかくさ。 普通、先生に質問なんてそんなにないわよね」

吹寄制理がクラス全員の心の声を代弁してズバリと確信をついた。
80 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/04(水) 09:32:30.17 ID:mInbiI9zo

「あうう…… 吹寄ちゃんまで……」

がっくりと肩を落とす小萌。
と、葛木が落ち込んでいる月詠小萌に声をかけた。

「月詠先生」

「は、はひっ!?」

ビシリと背筋を伸ばす月詠小萌。
その幼女らしい見た目も相まって、まるで教師に叱られる小学生のように見えたと上条は思ったがそんなことは口が裂けても言えない。

「気を使われることはありません。 私は自身の見た目に対し他者がどのように思うか、おおよそ理解しているつもりです。
 私への質問も無いようですし、授業を始めてもいいのでしょうか?」

「そ、そんなぁ…… ちょっと待ってくださいですよ葛木センセー…… まだ質問が……質問が……ありませんねー」

依然、静まり返ったままの教室では誰も手を挙げていない。
それ以上は何も言えなくなり、小萌はただでさえ小さい体をさらに小さく縮こまらせてしまう。



そんな小萌を上条当麻は黙って見ていたが、やがて辛抱しきれなくなった。

「……なぁ、おまえら? いいんかよ?」

上条は小さく呟きながらぐるりとクラスを見渡して。
皆まで言うな!と言わんばかりの強い視線がそれに応えた。

思い起こせば大覇星祭で彼等が獅子奮迅の頑張りをみせたのも小萌のためだ。

今この瞬間――クラスの心が再び一つになった。


「葛木先生!! 質問です!!!」


ズババババッ!と手があがった。

それも一本や二本ではない。
この教室にいる生徒達全員が競うように手をあげていた。
というか、指名されるのを待っていられずクラスメイトたちは手をあげると同時に次々と質問を投げかけていた。

「先生おいくつなんですか! あと健康食品や通販に興味ありますか!!」

「ええと。好きな食べ物とか。嫌いな食べ物は?」

「好きな女性のタイプどんなんやろか!! 属性で言うなら何萌えなんすか!!」

口々に葛木に質問を投げかける教え子たちを見て、小萌はフルフルと肩を震わせていた。

「み、みんな……感激です……先生は感激なのですよー! 」

……まぁ。
実際のところ学生たちは葛木という教師にたいして興味はない。
小萌が悲しむところを見たくないというのが本音なのだが、今それをあえて口にする必要もないだろう。
81 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/04(水) 10:27:30.85 ID:mInbiI9zo
そして葛木宗一郎はそんな様を見ても何一つ表情を変えなかった。

槍衾のような挙手と質問の嵐を見て、僅かに何事かを考え。
そして出席簿を開きながら淡々と口を開いた。

「静かに。 他の授業の妨げになる。 出席も兼ねて呼んでいくので呼ばれた者は席を立つように。 最初の質問は吹寄だったか」

「え? あ、はい」

名前を呼ばれ立ち上がる吹寄を見て葛木が出席簿にチェックをいれ

「年齢は25。 健康食品、通販番組への興味は特にない。 以上だ。 座っても構わん」

それだけを言うと視線を出席簿にはしらせる。

「次だ。 姫神」

「はい。」

「好きな食べ物という質問だったな。 特別に好きな食品や嫌いな食品はない。 以上だ」

出席のチェック、そして質問への回答という合理的な判断のもとに葛木が学生達をひとりひとり名指ししていく。

「次」

「はいはーい! ボクやでボク!」

名前を呼ばれるよりも早く青髪ピアスが手をブンブンと振ってアピールをしていた。

「静かにするように。 好きな女性のタイプという質問だったな。 特に考えたことはない。 属性などというものも同様だ」

「ちぇー。 なんや残念やな。 ボクはありとあらゆる属性カバーしとるし? どんな属性持ってても話合わせられる自信あったんやけどなー」

けれど青髪ピアスの言葉は葛木に届いてるのかいないのか。
次なる生徒の名を呼び出席簿にチェックをいれて、簡潔に質問に答えるといったことを繰り返す倫理の教師。

ほとんどの質問に「特に無い」で返答をする葛木と心の距離が縮まったかと問われれば微妙なところではあるが……
それでも、この教師とどのように接すればいいのかということをおぼろげに学生達は察する。

「さて……。 これで欠席者を除いて全員の出席を確認した。 質問がまだある者は再度挙手をするように」

出席を全てとり終わった葛木が学生達に向かい静かに問いかけた。
新たに手を挙げる学生は居なかったものの、そこかしこでザワザワと交わされているのは今しがた葛木が答えたことについての噂話だった。

「25ってのは驚きやねー。 意外と若いんやなぁ。 ちゅーかあの落ち着きっぷり40超えてる言われても信じてまうで?」

「っていうかさ……答えになってない答えが多すぎじゃない?」

「個性がないのが個性。なんかそんな感じ。」

「なんか……イヤな個性だなそれ……」

「ふん。 貴様のはた迷惑な個性よりはマシよ」

「ぐっ……さっきのことまだ根に持ってるんですか吹寄サン?」

青髪ピアス、吹寄制理や姫神秋沙、上条当麻も噂話に興じているようだ。
次第に話の中身が脱線していくのは若者の特権なのだろうか?

「そういやさっき葛木センセも恋人いないゆうてたけど……うちの先生たちは独り身多すぎるんやないやろか? そんなら、この際ボクと小萌センセが付き合うってのはどうやろ?」

「こらー! 誰と誰が付き合うですかー! 先生はまだ独り身でもいいんですー!」

生徒達のそんな噂話を耳聡く聞きつけてプンスカと怒り出す小萌。
そんな小萌を横目で見ながら不意に上条当麻の脳裏に減らず口のような冗談が浮かび上がった。

「恋人はいないけど奥さんはいますよー……なんちゃって」

おちゃらけながらそんなことを言う上条をじろりと見据えるのは鉄壁巨乳な吹寄だった。

「上条当麻……貴様脳が働いてないの? 脳の栄養には糖分が有効だって言うし、身体中の穴という穴から角砂糖を流しこんであげようか?」

恐ろしいことを提案されて、ひぃ!と身体を縮こませる上条当麻。
その時だった。
82 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/04(水) 10:40:53.93 ID:mInbiI9zo


「上条か。 その通りだ。 妻はいる」


予想外の返答が教壇から返ってきた。

「へ? …………………………………妻?」

ボソリと上条当麻が呟き


「「「「TUMA!?」」」」


次の瞬間、クラス中のそこかしこから驚愕の声が返ってきた。
ちょっと待ってくださいなんで小萌センセーまで驚いてんの?なんて心中で突っ込みながらも上条当麻が再度確認をとる。

「えーと? 葛木先生? 確認したいんだけどさ。 恋人はいない。 けど……奥さんはいるってこと?」

信じられないような顔をしたままそう問いかけた上条に、至極当然だとでもいうように葛木が答える。

「そうだ。 もとより恋人という関係では無いため、わざわざ訂正はしなかったが。 籍をいれたのはつい最近だ」

その一言で教室がシーンと静まり返った。
それは誰かに何かを期待する空気だ。
静まり返った教室の中で静かに青髪ピアスが立ち上がる。

「えー……皆さん? とりあえずここはボクにお任せってことでええやろか?」

クラスを見渡して皆の確認をとる青髪ピアスと上条の目があった。

「あぁ……。 むしろあの鉄壁な先生を崩せるかもしれないのはお笑い専門のお前だけだ」

そう上条当麻が背中を押し、それにアイコンタクトでこくりと頷いた青髪ピアスが静かに息を吸い込んでから。


「……って奥さんっっ!!! おるんかーいっっっ!!!」


そりゃもうものすごいエアーツッコミをぶちかました。
大覇星祭にツッコミの種目があったならば間違いなく優勝していたであろう完璧なツッコミだった。

けれど葛木という教師はそんな渾身のツッコミをされても表情ひとつ変えずに

「あぁ。 今しがたそう言ったはずだが。 それと今は授業時間内だ。 騒ぐのは控えるように。 用がないなら座りなさい」

「なっ……なんやて……!?」

全力全開のツッコミをあっさりスルーされた青髪ピアスが信じられないような声をあげる。

「強敵や…… あのセンセのツッコミ殺しは一級品やで…… ボクのアイデンティティが……」

敗者を慰め称えるように上条に肩を叩かれながら青髪ピアスが着席し、そしてゆっくりとクラスのざわめきが収まっていく。

と、上条当麻はようやく気付いた。
葛木の左手の薬指に指輪があることにだ。
目を凝らさないと気付かないほどの、地味な白金の指輪。
この寡黙な男の妻って一体どんな女の人なんだろうな?と上条当麻は不意に不思議に思っていた。

葛木はそんな上条の想像など知る由もなく、出席簿の代わりに倫理の教科書を持って教壇に立つと。

「では授業を開始する」

その言葉と共に倫理の授業を始めたのだ。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/05/04(水) 10:45:48.82 ID:mInbiI9zo
一旦休憩。
今日中にもう一度投下出来たらいいなぁってところ。

>>75
ごめんなさい。
そうです。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/05/04(水) 10:57:43.57 ID:zjU2kOY5o
投下おつ
今日後半も期待してます
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/04(水) 11:20:35.47 ID:TaXJdEGSo

さすが葛木、ぶれないなぶれないww
原作からしてこんな感じだけど、上条さんの明るいクラスと合わさると違和感が凄いww
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) :2011/05/04(水) 14:41:14.23 ID:8H7nzfwAO

葛木センセー25だったか
若いなぁ

小萌テンテーより若いんじゃねえか?
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/04(水) 20:06:33.15 ID:7mPbAGT50
葛木センセーぶれないなぁ。
こんなんでも融通の利かない堅物、てわけでもないから生徒人気は上々、て話だったはず。
まあ上条さんのクラスとはカラーが違うっぽいか。

>>83
マジすか。
あの都城王土クロスは、個人的に禁書系クロスで至上の逸品だと思っとります。
予告編の大覇星祭編、今でも心から待ってますんで。
オリアナに対して君臨者にして支配者である都城王土がどう相対するのか、とか楽しみ過ぎる。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/05(木) 00:53:43.77 ID:Sf5KeySBo
自分以外には結構優しいからな、葛木。
自分の事になると誤字一つでテスト中止させたりするし、夫としての立ち振る舞いに悩んだりしてるからな
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage]:2011/05/05(木) 16:48:08.84 ID:LRzGFwZb0
キャスターさんいじらしいねぇ
つづき期待。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/05/05(木) 16:57:24.12 ID:yDD7o0MYo
禁書勢のバカなノリとキャスター組の温度差が面白いな
新妻キャス子の奮闘に期待
91 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/06(金) 16:36:43.17 ID:IQkoqkCho
>>82


昼下がり。
学園都市の大通りは既に一足早く授業を終えた学生達で賑わっている。

そんな中を一人の女性が美しい長髪を緩やかに揺らしながら歩く。

ゆるやかなロングスカート、そしてデニムのジャケットといった扮装は肌の露出こそ少ないものの、だからこそそのスラリとしたスタイルを際立たせていた。
清楚な雰囲気を漂わせるその美女とすれ違った青少年たちは鼻の下を伸ばしながらヒソヒソと噂話を交わし始める。


「……おい、見たか?」

「見た見た! 超美人じゃん! 外人みたいだけどやべえな。 顔もキレイだし腰も細いし。 俺あんな感じの人超好みだわー」

「え? いや確かに美人だったけどそっちじゃないって。 なんか耳尖ってなかった?」

「あれ? そうだった? 言われてみればそんな気もするような……」


そんなことを囁きながら遠ざかっていく美女の後ろ姿を名残惜しげに見つめる少年たち。
しかし、当の本人はそんな視線には全く気付いてはいなかった。

「さてと。 ひと通り必要なものは手に入れたと思うのだけれど……あと足りないものは何だったかしらね? 石鹸とかのストックはしておくべきなのかしら?」

スーパーのビニール袋やら洋服店の紙袋やらを両手いっぱいにぶらさげながら、やけに所帯染みたことを自問自答する美女キャスター。
彼女が神代の魔女であるなど誰が信じようか。

と、よく見ればキャスターの両の腕はプルプルと震えだしていた。
どうやら少々買いすぎたようで、彼女の細腕はそろそろ限界を訴えているようだ。

「……一息入れようかしら? せっかく買ったのに、落としでもしたら元も子もないものね」

見れば目の前にあるのは公園のようだ。
これ幸いとばかりにキャスターが公園に立ち入り、荷物をベンチの上にどさりと置く。

白くたおやかなその手には袋の紐により圧迫され、赤い線が幾本も走っていた。
まさしく箱入り娘であったキャスターにとって、このような肉体労働などは不得手の中の不得手である。

ならば強化なり転移なりの魔術を使えばいいはずなのだが、キャスターは魔術を使うつもりは無かった。
そもそもこのような些少なことで魔力を消費するなど馬鹿らしいにも程がある。

それになによりキャスター自身がこの疲労を望んでいたのだ。

「……そうね。 宗一郎様が働いてくださっているんですもの。 私もそれなりに苦労をしなければ申し訳がたたないわ」

優しく微笑みながら自らの手をさすりだすキャスター。
頬に浮かんだその穏やかなその笑みは、まるで聖母のように美しかった。

と、不意にキャスターは立ち上がると辺りを見回し始める。
何かを探しているらしい。
92 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/06(金) 16:39:46.27 ID:IQkoqkCho

「ええと。 確か自動販売機というのがそこら辺に生えているはずだけれど」

どうやら喉が乾いていたらしい。

キャスターはそんなことを呟きながらキョロキョロと辺りを見まわし、目的のものを見つけて近寄っていく。
そこにあるのは学園都市の何処にでもある自動販売機だった。
しかし、キャスターは額にシワを寄せて訝しげにそれを見つめだす。

そしてたっぷり一分近く自動販売機を見据えて一言。

「機械……ねぇ。苦手なのよねこういったのは」

魔術に属する者の御多分に漏れず、キャスターも科学的な道具が苦手である。

以前、居を構えていた柳洞寺はそういった意味では非常に過ごしやすい場所だった。
しかし今居を構えているのは、科学技術の最先端を詰め込んだ学園都市。
掃除機とかテレビといった生活用品なら何とかなるものの、それ以上の電気機器になると少々キャスターの手には余るのだ。

「確か……ボタンを押すと飲み物が出てくるんだったわよね?」

自分に自分で言い聞かせるように確認しながらキャスターがおそるおそる指を伸ばす。
ひとつ肝心なことをキャスターは忘れているのだが、それに気付くことはなく。

ポチリ。

ボタンを押すが自動販売機はうんともすんとも言わない。

「あら? 何よこれ? 壊れてるのかしら? ボタンを押しても反応しないじゃない?」

ポチポチとボタンを繰り返し押してみるも、そもそもお金をいれていないのだから反応するわけもない。

「……困ったわね。 どうすればいいのかしら?」

ふぅ、と嘆息をしながら頬に手を当てるキャスター。

と、不意にキャスターの背に声がかかった。
93 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/06(金) 16:40:26.27 ID:IQkoqkCho


「あのー? 何か困ってたりしてます?」


振り返ったキャスターの目に飛び込んできたのはショートカットとツインテールの二人の少女だった。
二人の少女は教育が行き届いているらしく、キャスターの青い瞳を見ても驚いたりはしない。

「ええっと。 日本語、分かります?」

「……」

ショートカットの少女にそう問いかけられ、咄嗟に何といえばいいのか判らず言葉につまるキャスター。

「お姉様? どうやら見たところヨーロッパ系の方のようですし、英語ならば通じるかもしれませんのよ?」

そしてそのキャスターの反応を見て、ショートカットの少女の隣にいたツインテールの少女がそう提案をした。
その一言から自分がどのように見られているのかをキャスターは察し、日本語で返事をする。

「あら、気を使ってもらわなくても大丈夫よお嬢さん達。 それより助かるわ。 実は……この街に越してきたばかりでちょっとコレの具体的な使い方が判らないのよ」

そう言って困った顔をしながら自動販売機を指差すキャスターだったが、その日本語が流暢すぎたのかツインテールの少女が胡散臭げに眉をひそめた。

「……自動販売機の使い方が判らないんですの?」

世界各国で共通なはずの自動販売機。
それの使い方が判らないなんておかしいとツインテールの少女は訝しむが、そんな少女の足をベシンとショートカットの少女が踏んだ。

「あふっ!? 何をするんですのお姉様!? そういったプレイはベッドの上でお願いいたしますわ!」

「こーら黒子? そんな言い方しないの。 見た感じ外人さんなんだし、そんなこともあるかもしれないでしょ? っていうか変な誤解を招くような発言をするんじゃないの」

そう言うとペチンとツインテールの少女の鼻先をデコピンで弾いてから、ショートカットの少女が自動販売機を見聞しだした。

「んー…… 反応してないなー。 どうやらお金呑まれたみたいですねー」

アハハとキャスターに笑いかけるショートカットの少女。
そう言われ、ようやくキャスターは己の間違いに気付いた。

「お金? そうだったわ。 ごめんなさい、私うっかり……」

しかしキャスターの説明はショートカットの少女にて途中で中断される。

「大丈夫ですって。 よくあるんですよこのオンボロ自販機。 だから……こういう時は」

そう言ってジリと距離をとるショートカットの少女。
一体何をするつもりなのかさっぱり判らずキョトンとした顔のキャスター。
そして、ツインテールの少女の額には冷や汗が浮かんでいた。

「お、お姉様? まさかとは思いますけど……」

しかし、ツインテールの少女の言葉は最後まで呟かれることがなく。
94 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/06(金) 16:41:45.98 ID:IQkoqkCho


「ちぇいさ――っ!!!」


ズバコン!と見事な回し蹴りを自動販売機に叩き込むショートカットの少女。
同時にガラコンと音を立ててジュースが自動販売機から吐き出される。

「はい。 どーぞ」

ニコニコと笑いながらショートカットの少女がキャスターにジュースを手渡す。

「え、えぇ……どうも?」

差し出されるがままジュースを受け取るキャスター。

と、そこでようやく目の前で行われた問答無用の一撃に呆気にとられていたキャスターが我に返る。

「ねぇ貴女…… そんなことしたらスカートの中が丸見えになるんじゃないの?」

思わずそんなことを口にするキャスターだったが。

「え? あぁダイジョブですよ。 だってこの下短パンですし」

ぴらりとスカートをめくり短パンの端を見せるショートカットの少女。
公衆の面前……というわけではないものの、天下の往来でスカートをめくるというその行為に呆然とするキャスター。

「……そ、そういうものなのかしらね? ……パンツじゃなければ恥ずかしくないってこと?」

ショートカットの少女の堂々としたその振る舞いを見て、キャスターは赤面しながらそんなことを呟いてしまう。

95 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/06(金) 16:42:18.44 ID:IQkoqkCho

と、そこでツインテールの少女が口を開いた。


「はぁ……お姉様の短パンに対する信頼感は異常ですの。 はしたないからお止めになってくださいと何度黒子が言ったことか……」

がっくりと肩を落としているツインテールの少女を見て、あ、やっぱり周りの人間は苦労してるのね……なんて思うキャスター。

「っていうかさー。 この自販機、お金飲み込みすぎなのよ。 なのに全然修理されないし。 おかしくない?」

「……まぁ確かにそうですわね。 わたくしも最近千円呑まれましたし」

「だよねー。 あ、そういえば知ってる? なんと二千円札を呑まれた馬鹿がいるのよ」

「もしかして……その馬鹿とは大覇星祭最終日にてお姉様がフォークダンスのお相手に選んだあの類人猿ですの?」

ツインテールの少女がジトっとした恨みがましい視線をショートカットの少女に送る。

「……え? あは、あははは? 判っちゃう……かな?」

「ムッキ――!!! なんですのその照れ笑いは! お姉様!? どういうことかキッッッッチリ説明してほしいですの!!!」

キャイキャイとはしゃぎだす二人の少女。

「…………」

キャスターはそんな少女達に挟まれたまま、口を開くことも出来なかった。
多分、若さとかそういった眩しいアレに圧倒されているのだろう。

「まぁまぁ黒子。 その話はおいおい……ね」

プンプンと怒るツインテールの少女の怒りを慣れた手つきでうやむやに誤魔化しながらショートカットの少女がキャスターに向き直った。

「あ、それじゃー私たちはこれで。 慣れない街で大変かもしれないですけど頑張ってくださいね」

「まぁお姉様!? 話をそらそうとしても無駄ですのよ? 今日は絶対に最後までお話を聞かせていただくですの!」

まるで仲の良い姉妹のようにショートカットとツインテールの二人の少女がキャアキャアと喋りながらその場を離れていく。


「えぇ……応援……ありがとう?」

残されたキャスターは何がなにやら判らず、ぽかんとした顔でそんなことをつぶやくのが精一杯。
そして少女たちが消え、そこでようやく手に残されたジュースの缶に気付く。

そういえば喉が乾いていたのだ。
パキっとプルタブの音を響かせながらキャスターがジュースの蓋を開け、ゴクリと飲んで

「ぐっ……ふっ……!?」

ごはっとジュースを吹き出した。

「な、何よこれ!? ……いちごおでん? 秘薬だってここまで不味くはないわよ!?」

とはいえ、これは少女からもらったジュースであるわけで、捨てるのも忍びなく。
腰に手をあて、涙目になりながらいちごおでんを飲み干すキャスター。


数分後、ストロベリーな匂いのする息を吐きながらキャスターが息も絶え絶えにひとり言を口にする。

「この世界だと……魔術師じゃない女の子でも秘薬を飲んだり、必修科目に護身術がはいってるのかしらね?」

女の子という単語が若干苦々しげなのはご愛嬌だ。

肉体年齢2?歳。
葛木よりも年上なことを気にしているキャスターのその呟きは、どことなく哀愁が漂っているような気がしなくもなかった。
96 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/06(金) 16:48:27.65 ID:IQkoqkCho
ネクスト明日。
多分。


なんとなく安価つけるの恥ずかしいから全角にさせてもらいま。
>87
べた褒めされるとなんとも気恥ずかしい。
そして続きは正直絶望的かもしれないですごめん。
大覇星祭編って群像劇が強調されてる上に二巻にわたり前後編に別れてるから、クロスするとなると量が凄まじい事になる予感で。
時間さえあれば書いてはみたいと思うけれど、まずはこっちを終わらせるのを優先させてもらいますー。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/06(金) 17:31:27.49 ID:ZT2nxNbIO
おおっ!来てたか
投下乙です
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/06(金) 17:36:17.20 ID:z6VSWxPQo
乙ですー
あかん、乙女なキャス子さん可愛い!
あかんてこれは!

原作のどのキャラと絡んでどうなっていくのか楽しみ。
次回も楽しみにしてますよー
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage]:2011/05/06(金) 19:17:27.77 ID:gp/ZU72M0
乙だよん

>パンツじゃなければ恥ずかしくないってこと
どこかであったようなww

>世界各国で共通なはずの自動販売機。
飲料の自動販売機は台湾だけで見たな(空港と高速のSAにあった)
他では見たことがない。

きっぷの自動販売機は結構いろんな国にあるけれど、ドイツは逆なんだよ。
先に全部選んで合計金額が表示されてからカネ(またはカード)カード入れるんだよ。
他の人のやり方見てようやくわかった。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2011/05/06(金) 20:25:10.91 ID:UgbXphBT0
キャスターさん肉体年齢たしか28歳だったっけかな? すばらしい年齢で止まっておるわ!

>>99
ドイツの自販機のがいいなww 実際に金銭が飲み込まれたことあるからそう思うww
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/06(金) 22:16:16.95 ID:PD4FoXvWo

キャス子さんの機械音痴っぷり可愛いww
魔術師関連の人たちは原作でも中世で文明レベル止まってる人が多いからな
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/05/07(土) 00:30:16.19 ID:IUZAHnPxo
fateじゃ魔術=科学で出来る事、だもんな
そりゃ魔術を廃して科学に馴染もうとすればこうなり得るわなwwwwww
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/07(土) 01:16:12.83 ID:ZL9m8/RBo
乙乙
キャスターの顔でなく、耳に目がいくとはできる学生だなww
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 12:14:44.81 ID:sJqGvAig0
キャス子さんかわゆす。
現代人であるはずの遠坂さんもアレだったんだから、キャス子さんならこれくらいやってそうだな。
聖杯からの知識に自動販売機の使い方なんてものまであるとも思えんし。

>クロスの続き
うぅむ、続きは難しいスか。そりゃ残念。
まあ確かに原作からして2巻構成だし、登場人物も王土関連で布束さんと妹たちやら一方通行やらあわきんやらとやたら増えそうですしね。相当な大作になりそうだ、という気はしてました。
まあ、1年でも2年でも待ちますので、いつか書いてくれると嬉しいです。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 17:18:40.81 ID:rUNKOSbDO
海外の自販機の小銭飲み込み率は異常。リアルに外国の自販機は小銭が正しく戻ってこない。日本だけかな?安心してお札突っ込めるのは?
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 23:09:51.87 ID:QpjSqKVf0
>>1
この世界は王土達が来た世界と同じ?
もし同じなら物語にまったく関わらなくていいから登場させてほしい
キャスターが通り過ぎてった信号の前にいた通行人AとB程度でよいのですが
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/08(日) 02:31:01.71 ID:bImxFaz8o
要望を出すとか紳士的じゃないぜ。
それにその手のは人選ぶし、書き手縛るから結構辛い。書き手がやりたいっ!ってなら別だけど
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/08(日) 02:53:19.32 ID:q0lVtQgWo
前作の話持ち込むの止めようぜ……
前からのファンが大量にわいて、そうじゃない人が嫌悪感で出て行くとか結構あるんよ?
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/05/08(日) 11:36:19.51 ID:A6KLspTAO
俺は上条わっしょいじゃなかったらそれでいい
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/05/08(日) 11:54:25.82 ID:fFFHjjvHo
前の作品がどんなもんか知らないけど
わざわざ他の作品と混ぜて混乱するような事態を
招くような自分勝手な要望レスするなよ
111 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/08(日) 13:34:35.65 ID:BHQeRw1Wo
>>95


スピーカーから流れるチャイムの音がとある高校に鳴り響いた。

途端、競うように廊下に流れでてくる少年少女達。
教室に詰め込まれていた学生にとって、待ち遠しい昼休みがやってきたのだ。
購買に走る者、中庭に出る者、屋上へ向かう者。
そこかしこから楽しそうな話し声が溢れ出し、高校を満たしていく。

だが休み時間というものは学生に限った話である。
教師には明確な休み時間というものがない。
急な用件が入れば昼休みを返上して仕事をしなければならない、なんとも忙しない職業なのだ。

教員室ではパソコンに向かい仕事を続けている教師が一人。
その特徴的な容姿は50メートル向こうからでも判るだろう。

ジョアを片手に焼きそばパンを食べながら器用にキーボードを叩いているの月詠小萌だった。
彼女が今作成している文書は葛木宗一郎の授業についての報告書だ。

と、小萌の手が止まりモニターの上を何度も視線が行き来する。

「えーと。 記入漏れとかもありませんよねー? ……うん、ようやく終わったですよー」

小さい身体を精一杯背伸びさせながら小萌がホッと一息ついて。
その時

「おっ? それって上にだす報告書じゃん? えーとなになに……」

そんなことを言いながら小萌の背後からヒョコリと黄泉川愛穂が現れ、そのままモニターに打ち込まれた文字を目で追っていた。

「わわっ! 黄泉川センセー? 驚かさないでくださいですー!」

驚く小萌。
だが、黄泉川は小萌の小さな頭の上に顎を乗っけたまま気にもせずテキストファイルを眺めて

「へぇ〜…… 月詠センセの太鼓判かぁ〜。 どうやらなかなか上出来な新人のようじゃん?」

少しばかり驚いたようにそう呟いた。

「太鼓判なんて恥ずかしいですよー。 でも、葛木センセーの授業は本当にしっかりしてたのです。 先生も驚いちゃいました」

照れながら黄泉川に返事をしつつ、小萌は先刻の葛木の授業を思い出す。

葛木宗一郎の倫理の授業は要点をしっかりと抑えていた。
更には教科書の内容を頁通りに消化していくだけではなく、生徒自身に思考をさせることを目的としたその教え方は、今後の同僚としても非常に頼もしいものだったのだ。
ただ、難点を一ついうとするならば、愛想のかけらもない語り口調のせいで生徒達が少しばかり萎縮していたことか。
とはいえ、それは時間が解決してくれるものだと小萌は確信している。

「それより黄泉川センセー? もしかして心配してくれてたのですか? 大丈夫なのですよ、葛木センセーはちゃんとした先生なのです」

そう自分のことのように誇らしげに言い切る小萌を見て黄泉川がおかしそうに笑う。

「はいはい判ったってば。 ったく、月詠センセってばクラスの生徒に入れ込むだけじゃなく、今度は新人教師にも入れ込むつもりなのかじゃん?」

そうふざけて冗談を飛ばす黄泉川。
てっきり慌てた否定が返ってくるかと思ったのだが……

「………」

小萌は俯いたまま何も言おうとしない。
112 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/08(日) 13:42:51.14 ID:BHQeRw1Wo

「ちょっとちょっと!? 月詠センセ? それはダメだってば! 教師同士が職場内恋愛ってまずいじゃんよ!」

慌てながら小萌の顔を覗き込む黄泉川。
しかし、小萌は別に色事で悩んでいるわけではなかった。

「実は…………ですよ」

ポツリと小萌が言葉を口にするが、その声は消え入りそうなほど小さい。

「え? なになに? なんて? 声が小さくて聞こえないじゃん?」

そう言って口元に耳を近づける黄泉川に小萌は己の不安を口にした。

「実は……葛木センセーと何だか全然話せないのですよ。 ちょっと話しかけづらいセンセーなのです……」

小萌はショボンとした顔でそんな悩みを打ち明ける。
確かにあの厳格とした空気は人を選ぶ。
ほんわかとした優しい小萌からすれば、あのような種類の人間は最も苦手な部類に属するのだ。

しかしそんな小萌の悩みは

「あっはっはっは! なーんだ、そんなことか。 小萌センセが恋愛沙汰かと思って心底びっくりしたっての! まったく、驚かせないでほしいじゃん?」

黄泉川愛穂の快活な笑い声で吹き飛ばされた。

「わっ笑うなんて酷いですよ黄泉川センセー! せっ先生はですね! 先輩として葛木センセーともしっかりお話ししなければならなくてですね!」

大笑いする黄泉川を見て小萌がぷくりと頬をふくらませるが、それでも黄泉川の笑いは止まらない。

「あははは……月詠センセってばどうしちゃったのさ? 思春期の子供じゃあるまいし、私たち大人には大人なりの打ち解け方ってのがあるじゃんか」

「……へっ? 大人なりの打ち解け方……ですか?」

目の端に涙をためながら笑う黄泉川の言葉を聞いても意味が判らずポケッとした顔をする小萌。
そんな小萌を見て黄泉川はニヤリと笑うと、不意に指先で宙空の何かを掴んだ。
メロンのようなその大きな胸を揺らしながら、その手をゆっくりと口元に近づけると

「月詠センセが忘れるはずもないじゃんか。 センセが大好きな“アレ”のことじゃんよ?」

そのままクイクイとその手を傾けたのだ。
113 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/08(日) 13:49:11.04 ID:BHQeRw1Wo


パカリ、と葛木宗一郎が蓋を開けた。

弁当箱の中に並んでいるのは見目麗しい店売りの惣菜の数々だ。

そのまま広告にでも使えそうな豪華な弁当箱の中身だったが、それを見ても葛木の顔色はピクリとも動かない。
箸を手に取り、静かに両手を合わせ、後はもう機械的に中身を胃に収めだす。

工業用の機械にて均等に切り分けられカットされた野菜、化学調味料にて味付けされた肉を咀嚼しながら葛木はふと思った。
恐らくこの味は美味という部類に入るのだろう。
けれどこれは自分の好みではない――と。

それ以上特に何を考えることもなく弁当を食べおわると、湯呑みを掴んだ葛木が立ち上がる。
食後のお茶を飲むために教員用のポットに向かおうというのだ。

けれどその葛木の行く手、ポットの前に小柄な同僚である月詠小萌が立ち塞がった。

「あ、あの……葛木センセー?」

「はい。 何でしょうか月詠先生」

「え、えーとですね……何というかですね……」

問いかけてきた小萌に向かいあい、湯呑みを手に持ったまま葛木が静かに返事をする。
けれど小萌はまるで蛇に睨まれたウサギのように固くなっていた。

「……もしかして先程の私の授業についてのご指摘でしょうか?」

「ふぇ? ち、違、違いますですよー!! 葛木センセーの授業は全然ばっちり問題なかったですよ?」

「そうですか……ありがとうございます」

丁寧な言葉づかいで小萌に礼を返す葛木。
けれど小萌は続く言葉が喉から出てくることもなく、ただそこで立ちすくんでいた。

「………」

「………」

無言のまま教員用ポットの前に立ち、そこから退こうとしない小萌。
無言のまま湯呑みを持ち、小萌がポットの前から離れるのをただ待つ葛木。

1分ほどそのままの状態が続いてようやく、このままでは何時まで経っても埒があかないと気付いた小萌が本題を切り出した。

「え、えーとですね…… 葛木センセーは今日学校が終わった後、何か用事があったりするんですか?」

親と子ほど離れている体格差で見上げるようにしてそう小萌が問いかければ

「いえ。 特にこれといった用事はありません。 帰宅しようと思っていますが」

簡潔な答えが葛木から返ってきた。
それを聞いて小萌の顔がホッと緩んだ。

「それならちょうど良かったです! 今日、葛木先生の歓迎会をしたいと思ってるんですよー。 えっと……どうですか?」

それは子供には(法律上)真似の出来ない親睦の深め方である。
いわゆる飲みニュケーションというやつだ。
しかし、その小萌の提案を聞いて僅かに葛木の言葉が詰まった。

「……申し訳ありません。 アルコールを飲まないという訳ではないのですが、今日は辞退させてもらおうかと」

断りの言葉を口にしながら、葛木が小さく頭を下げる。

「あ……そ、そんな! 気にすることないですよー! 謝らないでくださいですー」

そんな葛木の様を見て、慌てる小萌。
と、二人の背に不思議そうな声がかかった。
114 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/08(日) 14:21:57.32 ID:BHQeRw1Wo

「えぇー? なんでじゃんよ? せっかく今日はもう一つの方の仕事の休みもとれたっていうのにさー」

携帯電話のスイッチを切りながら二人の間に割って入ってきたのは黄泉川愛穂だった。

「もう、黄泉川センセー。 無理を言ってはいけないのですよ?」

心強い味方が現れたせいか、小萌の顔がにこやかな笑みを取り戻す。
けれど、黄泉川は葛木と小萌の顔を交互に見ながら不満そうな声をあげる。

「そうはいうけどさ、歓迎会なのに主役が不在ってのはおかしな話だってば。 葛木センセもそう思うじゃん?」

どうやら黄泉川も己の歓迎会に参加するつもりだったのだと察した葛木が静かに口を開いた。

「仰るとおりです。 ですが連れ添いがいるもので。 妻を放って私だけ外で食事をとるつもりはないのです」

厳かにそう言い切る葛木を見て、ようやくそのことに気付いた小萌がしまったといった顔をする。

「そうでした…… 奥さんがいたんですよねー。 それじゃあ無理ですよねー……」

はぁ、と意気消沈する小萌。
しかし、それを聞いて黄泉川があっけらっかんとこう言った。

「んー…… それさ、奥さんも誘えばいいだけの話じゃん?」

黄泉川の提案を聞いて小萌がポンと手の平を叩く。

「黄泉川センセー! ナイスアイデアです! えと、どうですか葛木センセー? それでもやっぱりダメなのですかー?」

「………」

そう小萌に問われて、葛木は僅かに沈黙する。
そして、カチャリとメガネのつるを押し上げながら

「……えぇ。 妻が嫌がらなければですが。 是非お願いします」

意外にもあっさりと肯定の意を示した。
それを聞いて朗らかな笑みを浮かべながら黄泉川がバシバシと葛木の肩を叩く。

「なーんだ、思ったよりか話が通じるじゃんか! そうそう忘れてた、体育教師の黄泉川愛穂じゃんよ! これからよろしく葛木センセ!」

そう言ってぶんぶんと葛木の手を握り上下に振る黄泉川。
葛木は腕をなすがまま振り回されながらも

「いえ、こちらこそ。 若輩ですがよろしくお願いします黄泉川先生」

快活な体育教師へ礼儀正しい挨拶を返した。
その畏まった挨拶を聞いて黄泉川は愉快そうに笑う。

「あはは! 見た目は全然違うってのに葛木センセと話してると何だか災誤センセを思い出すじゃんよ。
 と、そろそろこっちは次の授業の準備の時間じゃんか。 そんじゃ月詠センセに葛木センセ、歓迎会楽しみにしてるじゃんよ!」

そう言って、豊かな胸を揺らしながらこの場を去ろうとする黄泉川に小萌が近づくと、こっそりと耳打ち。

「黄泉川センセー……ありがとですよ」

耳元で囁かれたその小さな声を聞いて

「あはは。 ったく同僚なんだから気にするなじゃん?」

黄泉川は笑いながら教員室を後にした。
残された小萌はトポトポと湯呑みにお茶を注いでいる葛木にもう一度話しかけてみる。

「えーと……葛木センセー? それじゃあ今日は歓迎会ってことでよろしくです!」

「はい。 配慮していただき感謝します」

抑揚のない声での返事ではあったが、やはりさっきよりも全然緊張の度合いは低い。
この僅かな時間だけで随分と距離が縮まったのではないか?
そう小萌が思った時だった。

「先生。 私。今日はどうすれば。」

葛木とはまた質の違う抑揚のない声が小萌にかけられたのだ。
115 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/08(日) 14:54:35.44 ID:BHQeRw1Wo
振り返る小萌。
そこに立っていたのはプリントを抱えた姫神秋沙だった。

「わわわ。 姫神ちゃん? どうしてですかー?」

「どうしてもなにも。 今日は私がプリントの回収係。」

そう言って課題のプリントをどさりと回収ボックスに置く姫神。
そして月詠小萌は腕を組んでウンウンと唸っていた。

「あうー。 どうしましょう姫神さんのことをうっかり忘れてたですよー。 学生さんと教師が一緒に居酒屋は問題ありますよねー……」

そう、今も姫神秋沙は月詠小萌の家に居候中なのだ。
近いうちに学生寮に移り住む予定にはなっているものの、それにはまだもう少し時間がかかるのだ。

となると今度は葛木ではなく小萌の方に問題が生じたことになる。
まさか学生を酔っ払った教師が連れ回すわけにはいかないだろう。

飲みニュケーションならやはり居酒屋ですよね!だと思い込んでいた小萌にとって、これは想定外の問題だった。

「……小萌先生。 私なら大丈夫。 だから気にしないで楽しんできて。」

そう小萌に進言する姫神だが、当然のことながら小萌が頷くはずもない。
悩む小萌に声をかけたのは意外なことに葛木だった。

「月詠先生。 事情は少々判りかねますが、居酒屋に学生を連れ込むのは私も感心しません。 またの機会を待つというのはどうでしょうか?」

「はぅ。 やっぱりそうですよね……残念です」

そう言ってハフーと溜息をつく小萌。
だが

「えっと。 小萌先生の家もダメ? 居酒屋が問題なら。それで解決するはず。」

今度小萌に救いの手を差し伸べたのは姫神だった。

「さ、さすがは姫神ちゃんなのです! それです! それですよ!それなら問題は全て解決……してないのです。
 それでも先生たちに囲まれたら姫神ちゃんは気まずいんじゃないですか?」

姫神の提案を聞いて弾けんばかりの笑顔を見せるも、すぐに思案顔になる月詠小萌。

そう、結局場所がの問題が解決しただけなのだ。
小萌の家で歓迎会をするということは即ち教師陣の中にポツンと姫神秋沙が一人いるということになる。

けれどそんな小萌の肩をポンポンと姫神が叩く。

「大丈夫。 私。気まずいとか。出番がないとか。そういったことには慣れてる。」

何とも涙ぐましいことを口にする姫神。

「そっそんな! そんな悲しいこと言っちゃだめなのですよ姫神ちゃん! むー……どうすればいいですかねー」

月詠小萌が頭を抱える。
複数の教師に囲まれる一人の生徒という図はやはり可哀想だ。
せめて一人でも姫神と仲の良い友達が参加でもすれば話は違うのだが……

小萌がそこまで考えていた時だった。

偶然。
本当に偶然、とある生徒が教員室の前を通りがかった。
どうやらその生徒は教員室に立っている姫神の後ろ姿を見て不思議に思ったらしい。


「あれ? 姫神じゃねーか? どうしたんだ? プリント忘れて怒られてんのか? ……って何だよ? 人の顔見るなり嬉しそうな顔しやがって?」


のんびりとしたその男子学生を見て、かすかに姫神の口元はほころび。
そしてその声を聞いた小萌もまたにっこりと笑った。


「フッフッフ……こりゃまたいいところに現れてくれやがりましたね上条ちゃん!」


「ヒーロー登場?」


「…………はぁ? 何の話ッスか?」


そこに立っているのは意味が分からないといった顔をした上条当麻だった。
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/05/08(日) 15:08:17.48 ID:BHQeRw1Wo
今日はここまででガンス。
リアルがちょいちょい忙しいので予告通りに投下できねえ。すまん。
ドイツの自販機の話題とか普通に面白かったぜや。
次も近日中に投下予定。
日常はぶちぎりだけど見せ場は一気にいく形になるんでもうちょい待ってておくんなせえ。

そんで、以前のクロスを覚えてくれてる人がいるのは嬉しいんだけれども、極力その話題は控えてくれたら嬉しいです。
まぁ横着して同じ酉使った自分が一番悪いんです。めんご。

>106
全角安価でごめん。
この学園都市は以前のクロスとは全く別物の学園都市という方向性で一つよろしく。
さすがにクロスをクロスするのはちょっと俺の力量じゃ余裕で無理です。
別物として考えてるから混乱しちゃうんだ。
そーりー。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/08(日) 15:16:20.10 ID:enri6Eyqo
更新おつですたー
■■さんが健気で 泣 け る っ !

しかし、キャス子さん、同僚の女性との飲み会でどうなるんだろう。
家内でございますとくるくる幸せダンスを踊るのか、警戒感あらわに猫のようにフーッ!と威嚇するのか。
なんにしても続きが楽しみで仕方ないです。
リアル大事にしてください!でも投下をお待ちしております!

次回も楽しみにしてますよー
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/08(日) 15:21:21.32 ID:bImxFaz8o

濃いキャラ多い禁書の前でも葛木はぶれないな
ギャップというか、違和感というか不思議な感じが笑えるww
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage]:2011/05/08(日) 16:11:53.83 ID:lgb6lrdJ0
乙っす。
姫神とキャスターの組み合わせは騒動発生の予感ww

>>116
ドイツの自動販売機のネタだと、タバコ。
今はどうなってるか知らないけど、10年前に初めて行った時、何故かトイレに置いてあった。
一律5マルク。(当時で350円ってところかな)
これは確か先にコイン入れてレバーをがちゃんと落とすヤツだった。
マールボロとかラッキーストライクとか5つくらい横一列に並んでたのだが、
その一番端っこに同じように並べてあったのはコンドームww
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/08(日) 18:47:08.87 ID:O7fYZsZ6o
キャス子さん、小萌先生の年齢にびびるだろw
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/08(日) 19:01:16.20 ID:FsQs9pNko
セイバーに相当する着せ替え役は誰になるのか
ポジ的にインデックスだけど

キャス子と姫神&上条の遭遇はどっちもヤバそうなんだよなぁ……
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/08(日) 21:21:11.57 ID:q0lVtQgWo

葛木は人付き合い苦手に見えてどこでもやっていけそうだな
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/05/08(日) 23:58:28.39 ID:A6KLspTAO
葛木って土御門とやったとしてもキャスターの支援なしでも瞬殺出来そうだよな
20数年殺人術叩き込まれたって設定だったはずだし、タイマン殴り合いじゃ勝ち目ないよな
124 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/09(月) 14:07:12.51 ID:LIdxkXbdo
>>115

最新設備のマンションが整然と並び、そしてそのマンションの目の前を走る道路の一本向こう側には昭和を思わせるトタン屋根のアパートが連なっていた。

随分とアンバランスな印象をうけるこの区画は第八学区と呼ばれている。
教職員の為に用意された居住用のスペースだ。

古臭いアパートが立ち並ぶ中に、今にも倒壊しそうなオンボロアパートがひとつあった。
老朽化が著しいだけではなく、壁の一部からはビニールシートやベニヤ板が見えるという廃屋すら裸足で逃げ出しそうなそのアパートこそが月詠小萌の自宅である。

普段ならば家主の小萌と居候の姫神がここで寝食を共にしているのだが、今日は少々事情が違うようだ。


「ねぇとうま? コンロ用のガスボンベってこれ?」


少女の声と共に上条当麻の背後からガスボンベが差し出される。

「おっ、サンキュー。 ええと、ここをこうして……と」

それを受け取って座卓の上にあるコンロにボンベをセットするのは上条当麻である。
その時、上条の背中にかかったのは少し不安そうな先程の少女の声。

「ねぇねぇとうま? 私、全然関係ないんだけどいいのかな?」

声の主、それは白地に金の刺繍が入った修道服を着た銀髪の少女だった。
少女はそんなことを言いながら胸に抱いた子猫と共にコロコロと畳の上を転がりだす。

「あん? 今更気にすんなよインデックス。 小萌先生がいいって言ってんだからさ。 だいたいお前がついてくるって言い出したんじゃねえか」

「うぅー…… だってだって! とうまだけこもえのところでご飯なんてずるいんだよ! 私だってとうまやあいさと一緒にご飯食べたいもん!」

そう言うと、まるでリスの様にぷくりと頬をふくらませる少女。

少女の名は禁書目録《インデックス》。
完全記憶能力という特異体質でもって10万3000冊もの魔道書を記憶している謎多き少女である。

そんなインデックスに向かって上条はハァと溜息をつく。

「嘘つけ。 どうせ飯目当てなんだろ?」

そんな殊勝なことを言っても騙されませんよ、なんて顔をしながら肩をすくめる上条を見てインデックスの眉毛が吊りあがった。
ガバリと小さな身体を起こすと

「むっ! なんなのその言い方!? まるで私が食欲魔人みたいなその対応! ひどいんだよとうまは意地悪なんだよ!」

全身でもって怒りを表現する。

「まるでも何もまさにそのまんまじゃねーか……ってインデックス!! ガチガチ歯を鳴らすな! 怖いから!」

焦る上条当麻。
見ればインデックスは、シャーと胡乱気な声をあげながら上条を威嚇していた。
上条を噛もうとするインデックス、そして噛まれまいとする上条が座卓の周りをグルグルと回り始める。
そんな見慣れた光景を目にした子猫――スフィンクスと呼ばれている三毛猫は退屈そうにニャオンと一声あげた。
125 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/09(月) 14:27:11.65 ID:LIdxkXbdo


鶴の一声ならぬ猫の一声にて少年の頭にガブガブと齧りつく少女を見て

「はは。 相変わらず月詠センセのクラスは面白いガキ共ばっかで羨ましいじゃん」

黄泉川が羨ましそうに月詠に声をかける。

「元気なのはいいことですなんですけどねー。 それにしても上条ちゃんの周りには女の子が転がり込みすぎですよー」

そう言って小萌は困ったような苦笑いでもってそれに返答する。

「アハハ。 大丈夫だって。 まっ、もし女の子を泣かすようなことしたならアタシが遠慮無く拳で可愛がってやるじゃん」

「ダ、ダメなのです! ただでさえおバカちゃんな上条ちゃんの頭を叩いたら取り返しの付かないおバカちゃんになっちゃうですよー」

冗談なのか本気なのか判らない黄泉川の宣言を慌てて小萌が止めに入り、

「私も。小萌先生の意見に賛成。」

そして小萌の隣にいた姫神も黄泉川の体罰に否定的な意見を述べていた。

「ありゃりゃ、二対一か。 まったく冗談だってのに、これじゃあちょいと分が悪いじゃんよ」

片目をつぶりながら黄泉川はあっさり前言を撤回し、そしてチラリと姫神を流し見る。

「それよりさ、料理なら私達がやるって言ってるじゃん? 子供は子供らしくあっちに混ざってくりゃいいじゃんか。 味には自信あるんだって」

黄泉川の言葉は、台所に立って包丁を動かしている姫神に向けられたものだ。
けれどそんな黄泉川の言葉を間髪入れずに姫神は否定する。

「ダメ。 炊飯器で料理なんて聞いたことがない。 そもそも。炊き込みしか出来ない炊飯器じゃ。作れる料理も限られてるし。」

「おっ! 言ってくれるじゃん? 何だか意地でも炊飯器テクを見せたくなってきたってばさ。 実は今、煮込みハンバーグっていうのを構想してるんだけど実験もしてみたいし」

姫神にすげなく否定された黄泉川は不敵に笑いながら緑のジャージを腕まくりすると炊飯器を持ち上げる。
しかし、そんな黄泉川を止めたのは小萌だった。

「まぁまぁ黄泉川センセー。 姫神ちゃんの料理は私が保証するですよー?
 それにせっかく姫神ちゃんが自分から手伝ってくれてるのです。 先生達は姫神ちゃんのお手伝いを頑張ればいいのです」

そう言われ、黄泉川は持ち上げた炊飯器と姫神と小萌を交互に見比べると

「……ちぇっ。 そうまで言われちゃあ退くしかないじゃんか」

やれやれと言った顔で引き下がる。

「まぁそんならさ。 力仕事になったら手を貸すから何でも言いな」

「……えっと。 マグロを解体しているわけじゃないから。 それに今日のメインはお鍋。 なら先生たちは。下地の準備をお願い。」

「よしきた! さーて月詠センセ! 私たちは下地の準備じゃん!」

「あぅ……黄泉川センセー。 張り切るのはいいですけど、目の前に立たれちゃ先生は何も見えないですよー」

小鉢や添え物といった手の込んだ料理は姫神に任せることにして、黄泉川と小萌が鍋にいれる下地を作りだす。
途中、座卓やその他諸々の準備を終わらせたインデックスが

「ねぇねぇあいさ。 私は何か手伝うことあるのかな?」

なんてそら恐ろしいことを言い出したりしたが

「スト――ップ!! レッドカードですよインデックスさん! 家庭スキル0のおまえが関わるとろくなことにならないっての!」

上条当麻のファインプレーが光ったりと。
まぁそんなこんなで鍋の準備も終わり、後はもう歓迎会の主役である葛木宗一郎とその奥さんを待つばかりである。

「あ、そういや小萌先生? 葛木先生には何時に集合って言ったんすか?」

ふと、上条がそう小萌に問いかける。

「七時ですよー。 残り五分四十秒ってところですねー」

秒刻みで時間が判る体内時計を持つ小萌がそう答えると、それを待っていたかのように

ビビビー!と、防犯ベルよりもやかましい古ぼけたチャイムの音が部屋に鳴り響いたのだ。

126 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/09(月) 15:58:31.89 ID:LIdxkXbdo

「どうやら到着したみたいですねー。 とと、大事な主役を忘れてました!」

小萌はそう言うと押入れの中に潜り込む。
一体どうしたのだと見れば、小萌は押入れの中から一升瓶を引きずりだしているところだった。

「むー……重いです。 黄泉川センセーヘルプなのですー。 と、上条ちゃーん? 先生はですね、今ちょっと手が離せないので代わりに応対して欲しいのですよー」

「え? あ、リョーカイっす」

小萌に言われ、歯型をくっきりとそこかしこに残したままの上条当麻が立ち上がる。

とはいえ、何と言えばいいのやら。
ていうかこういう時に部外者である俺がドアを開けちゃマズイんじゃねーの?、なんて思いながらも上条当麻が立ち上がろうとして。

「ちょっと待って欲しいかも! とうまのせいでお手伝いできなかったんだし、それは私に任せて欲しいんだよ!」

そんなことを言いながらインデックスがドアに向かう。

「ちょ、ちょい待てインデッ」

思いがけないインデックスの行動に驚いた上条はその暴挙を止めることが出来なかった。
ガチャリとインデックスが音立て付けの悪いオンボロドアを押し開ける。

そこには立っているのは当然のことながら無表情な葛木宗一郎だった。

「いらっしゃいなんだよ? あなたがくずき? 私の名前はインデックスって言うんだよ? 
 とうまのことをよろしくね!って…… あれ? 私何だかあなたに似ている人を知ってるような……」

物怖じしないインデックスは一息にそう言うと、うーんと頭をかしげだす。
その背後から

「インデェェックスゥゥ!!! おまえ何考えてんだってのぉぉぉ!!!」

ダダダッ!と足音をたてながら上条当麻が現れた。
まるで宇宙人を捕獲するように背後からインデックスを羽交い絞めにしている上条を見て、ようやく葛木が口を開く。

「………上条か。 月詠先生は外出中か? それと、そちらの方とはどのような関係だ? 兄妹には見えないが」

「えぇ!? え、えっーっと……ですね……」

何と答えればいいのか判らず上条当麻は焦りだすが、そんな上条の心情をインデックスはまるで察していなかった。

「私ととうまは兄妹じゃないんだよ? ただ一緒に住んでるだけだし」

「ちょっと!? インデックス!? おまえ何言って!」

「上条。 その話は本当か?」

キラリと葛木の眼鏡が夕陽を反射して光った。

「え、えっーと……まぁ色々と事情がありましてですね……」

否定が出来ずしどろもどろになる上条。
インデックスと共に暮らすまでの事情を事細かに説明出来れば話は違うだろうが、常人である葛木にインデックスがどうだのなんて言えるわけもない。
ましてや上条当麻自身に過去の記憶はないのだ。

倫理の教師である葛木がそれを追求しないはずはない。
これってもしかしてお説教パターン!?不幸だぁぁぁ!!なんて上条が内心で叫び声をあげていると

「……そうか。 話せぬのならばそれでいい。 詳しくは聞かん」

葛木はあっさりと上条当麻に投げかけた質問を取りやめた。

「え? あの……葛木先生? それだけっすか?」

「あぁ。 話せるのなら話せ。 だが、無理やりに聞き出そうとは思わん」

おそるおそる上条がそう問いかけてみると葛木は静かに答えを返してきた。
よ、よかった……話の判る人でホント助かった……と上条当麻はホゥと息をついて。

そこでようやく葛木の背中に隠れるようにして立っているもう一人の存在に気付く。
どうやら手鏡か何かで髪が跳ねたりしてないかチェックしているようだ。
誰だろう?と疑問符を浮かべた上条当麻の表情に気付いた葛木が静かに口を開いた。


「そうだな。 先に紹介しておこう。 妻のメディアだ」

127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/05/09(月) 15:59:36.85 ID:LIdxkXbdo
たった3レス。
ごめーんね。
今日はここまで。
次回も近日予定。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/09(月) 16:01:10.85 ID:XTmTbg1xo

インデックスはキャスターの正体に気づけるんだろうか?気になる所
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/05/09(月) 16:06:03.71 ID:JN3DNu6Po
メディアって言っちゃってるし、ドキドキ
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/09(月) 16:14:26.34 ID:XE+cXscIO
なんと言う良い所でのお預けっ……。
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/05/09(月) 16:25:01.16 ID:S+8CYQiAO
まぁ本人からしてデパートで真名連呼してたしなぁ。
真名隠すのは聖杯戦争の常套手段ってだけでしょ。
そもそも本家からして真名隠す気がない奴も多かったがwwwwww
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/09(月) 18:42:52.35 ID:M8cvK4Xlo
キャス子
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/09(月) 20:20:06.08 ID:rKPfToxro
キャス子さんは、インデックスには同情しそうな気がする。
自分の意志に関係なく利用されるなんて、彼女のトラウマだもの。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/09(月) 23:31:52.63 ID:f4/diOQI0
妻と紹介されたらキャス子さんはまたトリップしそうだなぁ。
インさんはキャス子さんに何か感づくのかね。型月世界では、霊体化してなければ、魔翌力の塊のサーヴァントに魔術師はすぐ気付く、とかって話だったと思うけど。
キャス子さんがアレイスターを魔術師とすぐに見破ってたから、ある程度は共通項があるのだろうか。

しかし、大覇星祭後ってことは、時系列的には上条さんがイタリア旅行行く前くらい? バトル展開とかはあるんかな。
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/05/10(火) 00:26:51.93 ID:ctqvY6CAO
魔翌力ハンパないだろうから気づくんじゃない?
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/11(水) 13:37:52.51 ID:tNZAZOUuo
>>131
ぶっちゃけ真名なんて明かされても、余ほど有名な奴じゃないとわからないしな
仮に知ってる奴でも、名前を聞いて本人?って思う奴ほとんどいないだろうしな
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/05/11(水) 14:02:46.67 ID:1Z3/AcMv0
小萌先生とか、心理学にかかわる人なら「メディア・コンプレックス」は知っていると思いますけど、
さすがに本人とは思わないでしょうね。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/11(水) 21:47:39.98 ID:+oigiji+0
まあ初めて会った人に「こんにちは、佐々木小次郎です」とか名乗られても、親がファンなのかなぁ、としか思わんしね、普通。
ランサーの兄貴は日本じゃ知名度が低いからプラス補正を受けられない、とかって話だったと思うけど、メディアさんだって大概マイナーだし。
まあこの作中ではとりあえずインさんが何か勘付くか否か、てとこですか。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/12(木) 04:04:24.98 ID:tRcoOZaDO
楽しみ
140 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/12(木) 15:37:05.30 ID:r/L0WgiFo
>>126


妻を紹介する――葛木宗一郎がそう言うと、部屋の奥から幾つもの声が飛んできた。

「おっ! 噂の新妻じゃん!? ほら、月詠センセ! 何ぼんやりしてるんだってば!」

「わわわっ! 引っ張らないでくださいですよ黄泉川センセー」

「私も。 なんというか興味ある。」

あっという間に玄関口に幾つもの顔が並びだす。
団子のように縦に並んだその様を見て驚いたのか、葛木宗一郎の後ろに控えていた小さな影の肩がビクリと揺れた。

けれどすぐに落ち着きを取り戻したのだろう。
小さな咳払いと共に葛木の背後より現れる女性を見て、皆一様に驚きの表情を浮かべた。

そして

「へぇ……まさか国際結婚とは思ってなかったってばさ。 やるじゃん葛木センセ。 しかも相当な美人さんじゃんか」

その場に集まった皆の心の声を黄泉川がそう代弁した。


清楚で貞淑といった言葉が似合いそうな雰囲気を放つ葛木の妻は興味津々な目に囲まれた状態で


「皆さま、お初にお目にかかります。 私は宗一郎様の妻……もう一度言いますわね。 
 宗一郎様の妻のメディア、そう―― 葛 木 メ デ ィ ア でございます」


完璧な若奥様スマイルを浮かべながら一言一句に力を込めての自己紹介をした。

「えっと……今なんで同じことを2回言ったんでしょう?」

少しばかりクドい自己紹介を不思議に思ったのか小萌がそう首をかしげながらそう呟いた時だった。
上条当麻は腕の中で羽交い絞めにしていたインデックスがやけにおとなしいのに気付く。
どうしたんだ?と思って見てみればインデックスは葛木の妻をじっと見つめて


「…………ひょうか?」


ぽつりとそう問いかけたのだ。

風斬氷華。
それはインデックスの友達で、そして上条当麻がその身を呈して救った一人の少女の名だ。
けれど、今その名前が出てきたことが上条は全く理解できなかった。

「ひょうかって…… もしかして風斬のことか? そんなわけないだろ。 どうしたんだよインデックス?」

「あれ? なんでだろう? なんとなくそう思ったんだけど…… 何でそう思ったんだろ?」

上条がそうインデックスに聞いてみればインデックス本人もキョトンとした顔で首をひねっていた。

「勘違いだろ、どう考えてもよ。 まず顔からして違うじゃねーか。 だいたい風斬はもっと若かったし胸だって……」

やれやれコヤツめ、なんて顔で上条当麻が風斬氷華と葛木の妻との差異を説明しようとして――固まった。
葛木の妻の笑顔が何か凄い怖かったのだ。

「あらどうしたのツンツン坊や? 口篭っちゃって。 どうぞ続けなさいな?」

オホホと顔では笑っているものの、その険の混じった声は明らかに気分を害している。
そして上条当麻の背後からは三者三様の呆れた声。

「……上条ちゃん? デリカシーというものがなさすぎですよ……」

「まったくじゃん。 さらには悪気がないってところが余計タチ悪いじゃん」

「私が言いたいことはひとつ。 胸の話は。やめてほしい。」

4人の女性からの冷たい視線に晒されてヒィィとその身体を小さくする上条当麻。
と、その時上条の腕の中でモジモジとインデックスがその身をよじった。

「ねぇとうま? いい加減下ろしてほしいかも。 私は猫じゃないんだよ?」

「ん? ……あ、悪ぃインデックス。 そういや羽交い絞めしたままだったな」

その困ったような声に場の空気は緩和されたらしく、冷たい視線が和らいだのを感じて上条当麻は安堵の息を吐きながらインデックスを解放する。
と、インデックスは今度は葛木をじっと見つめていた。
141 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/12(木) 15:41:05.39 ID:r/L0WgiFo

「お、おい……インデックス?」

まさかこいつまた変なことを言い出すつもりじゃ……なんて上条が思った直後だった。


「思い出したんだよ! この人ってあの人に似てる!」


インデックスが葛木宗一郎をビシッと指さしていた。


「インデックスさん! おまえはどんだけ予想通りの反応してくれるんだっつーの!」


上条は思わず突っ込みながら、葛木を遠慮無く指差すインデックスの頭をペチポコと軽くはたく。

「ったく。 人を指指すのはやめなさい。 ……ってかあの人じゃわかんねーよ。 誰に似てるって?」

はたかれた頭をさすりながらも得意げな顔をしたインデックスが口を開いた。

「とうまはニブチンなんだね。 もう忘れちゃったの? ほら、8月の終わりにあった人。 とうまが私を縛った日に会った人に似てるんだよ」

そう言われて上条の頭の中でパチンと音を立ててそれが思い出された。

「……あー。 まぁ言われてみればそうだな。 確かに似てる……か?」


8月の終わりに上条当麻とインデックスは黒いスーツに身を包んだ無骨で寡黙な魔術師と出会った。
闇咲逢魔。
インデックスの頭の中に収められている魔導書を求めた一人の男だ。

けれど上条当麻は何故かインデックスのその感想に素直に頷くことはできなかった。


「うーん。 なんとなく雰囲気は似てるような気がするけど。 でもなんか違うような気がするんだよな……」


確かに言われてみれば葛木宗一郎と闇咲逢魔の印象は似ている。
けれど何処かに決定的な違いがあるんじゃないか上条当麻は思う。
しかしその違いを上手く口にすることは出来なかった。

そんなことを一人で考えていた上条当麻は背後に光る目に気づいていない。
インデックスの口から飛び出てきたのが結構な問題発言だったということにだ。

「上条ちゃーん? 縛ったってどういうことですー? 先生は上条ちゃんにそんなアブノーマルな事を教えたつもりはありませんよー?」

ぷくっと頬をふくらませて小萌が上条当麻に事情の説明を迫り。

「場合によっては。魔法のステッキを使わざるを得ない。」

何処から取り出したのか、バチチ!と物騒な音を立てる魔法のステッキ(別名:スタンガン)をその手に姫神が静かに上条に向って一歩踏み出す。

「アッハッハー。 さっそく可愛がってやる理由が出来たみたいじゃん?」

黄泉川愛穂はにこやかに笑いながらぽきぽきと拳を鳴らしてたりで。

「え? えええ? ちょっと待ってくださいですよ? これは誤解でして話せばわかりますって!」

口々にそんなことを言いながら近寄ってくる影にダラダラと冷や汗を流す上条当麻。
というか話せばわかることではあるのだが、魔術関連のことについて迂闊に口にすることができない。

……つまりは誤解を解くことがそもそも不可能だというわけで。

「ぎゃあああ!?」

不運な少年の悲痛の声が夕暮れの第八学区に響くこととなった。
142 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/12(木) 16:03:06.30 ID:r/L0WgiFo


「ふ、不幸だ……」

身体のそこかしこからプスプスと白い煙をあげながら、ペチャンと玄関口に倒れた上条当麻が息も絶え絶えにそう呟いた。

「ほら上条? そこで転がってたら葛木センセ達が入れないじゃんよ? 判ったらさっさと立って中に入るじゃん」

黄泉川の情け容赦ない声に引きずり起こされるようにして上半身を起こした上条の目の前には、葛木宗一郎が立っている。
今しがた目の前で行われた上条当麻のお仕置きタイムにも特に反応は示していないようだ。

……うん。やっぱり闇咲のおっさんとは違うよな。 もし目の前にいたのが闇咲のおっさんなら仲裁にはいってくれると思うんだよなぁ。

なんて上条当麻が一人思っていた時だった。


上条当麻の背筋が/視線を感じ。

ゾクリと震え上がり/全身が強張った。


それは敵意や殺気の篭ったものではなく。
喩えるならば、実験動物を眺める学者のような酷薄な視線。
果実を選定するかのごとく人という存在を天秤にかけて測っている眼差しだ。

上条当麻の本能が警鐘を鳴らす。

瞬時に立ち上がり、拳を握り。

視線の発生源を追う。

その眼差しは葛木から発せられているのではなかった。
魂の価値を値踏みするかのようなその視線を発しているのは――葛木宗一郎の妻、メディアと名乗った美しい女からだった。


「へぇ……随分と面白い子達が揃っているのね。 特に……貴方は面白いわ。 セイバーのマスターも特異だったけれど、貴方も負けず劣らず特異じゃない」


そう葛木の妻がポツリと口の中で呟いたのを上条当麻は確かに聞いた。
インデックス、そして姫神秋沙もその範疇に入っているのだということが判り、上条当麻が右の拳を握りしめる。
幸か不幸か、葛木の妻の不穏な視線に気付いたのは上条当麻だけだったらしい。

もし、この女が敵だとしたら――。
上条当麻の全身が緊張し、次なる展開を待ち受ける。
けれど、そんな上条の緊張は。

「……はぁ。 ダメね。 悪い癖だわ。 これじゃあ前と変わらないじゃないの」

葛木の妻の自嘲するかのような呟きにより肩透かしを食らった。
もう視線からは何の感情も読み取れず、先刻の視線が嘘のように葛木の妻は静かな顔でそこにいた。

何が何だか判らず、玄関口に立ち尽くしてしまう上条当麻。
と、上条が凝視していたのに気付いた葛木の妻が口を開いた。

「坊や? いつまで玄関に突っ立っているつもり? 貴方が部屋に入らなければ宗一郎様が困るでしょうに。 ほら邪魔よシッシッ」

「あ、あぁ……」

ぎごちなく生返事をしながら上条は二人が通れるように進路をあける。

「失礼します」

玄関口をくぐる直前、静かにそう言葉を発する葛木と

「宗一郎様? お靴ならば私が揃えておきますのでどうぞお先に行ってくださいな」

甲斐甲斐しく葛木の世話をやこうとする葛木の妻を見て上条当麻は訳がわからないといったようにポツリと


「な、何だったんだよ……さっきのは?」


そう呟いた。
けれど上条がどんなに考えても答えが出るわけもない。
上条当麻の心にしこりを残したまま、歓迎会は始まろうとしていた。
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/05/12(木) 16:03:33.12 ID:r/L0WgiFo
next明日ー。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/12(木) 16:13:07.65 ID:vcUBIsnUo

清楚で貞淑とか、どこぞで門番してる暗殺者もどきが大爆笑しそうな評価だなww
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/12(木) 16:37:17.76 ID:CEi7KxGLo
やだ、上条さんが三択どれ選んでも改造されてタイガー道場行きになっちゃう……
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/05/12(木) 17:44:52.41 ID:0ipsPBipo
おつかれー
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/12(木) 20:21:06.29 ID:kCSlRX+IO
>>145
袴竹刀装備の美琴とブルマインデックスが待ち構えてるんですね
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/05/12(木) 20:37:49.67 ID:rDnPk7Mlo
キャス子さんと上条勢力は喧嘩してほしくないなあ
冷蔵庫をジャンクにするくらいで押さえてください
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/12(木) 20:39:51.66 ID:Un8wLGiro
男女平等パンチでキャス子さんが消えませんように・・・!
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/12(木) 21:10:48.72 ID:jlZo0HQuo
>>148
とりあえず双方にケンカする理由がないからなぁ。
その辺りは安心している。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/05/12(木) 23:09:16.50 ID:8OcYTdk30
>>147
何それ見たい
152 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/13(金) 15:22:43.44 ID:qnMkiMffo
>>142


まるでコインを裏返したかのように態度を豹変した葛木の妻の後ろ姿を見つめながら、上条当麻は立ち尽くしていた。
こちらに背を向け、葛木の靴を揃えているその姿はあまりにも無防備すぎる。

俺の勘違い…って訳でもないと思うんだけどなぁ? なんて上条当麻が首をひねっていると

「上条ちゃーん? どうしたんですかー?」

「とうまー! 早くこっちに来るんだよー! もう私はお腹ぺこぺこなんだよ!」

部屋の奥、居間から声が投げかけられる。
どうやら既に皆の準備は整っているらしく、まだ部屋の中に入ってこない上条を待っているらしい。
その弾んだ声を聞いて、上条当麻は深呼吸よろしく大きく息を吐いた。
何はどうあれ、この楽しそうな空気を自らブチ壊すこともないだろう。

「悪ぃ小萌センセーにインデックス! 今行くって!」

そう言って上条当麻は考えることをやめにした。
何があっても全力で皆を守ればいいだけのことだよな。そう上条当麻は胸の中で呟きながら玄関口をくぐっていく。
153 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/13(金) 15:33:43.88 ID:qnMkiMffo


時節は9月の終わり際。
日中はそれほどでもないが、夕方になれば風を肌寒く感じるそんな季節。

小萌宅の居間にある大きなちゃぶ台の上には、グツグツと食欲を誘う音と共に鍋が湯気をあげていた。

思わずそれを見てゴクリと喉を鳴らす上条当麻。
その隣ではインデックスが猛獣のように目を光らせて鍋の中を凝視している。

しかし、まだ箸を伸ばすわけにはいかない。

「えー、それではですね。 今日は葛木センセーの歓迎会なのですけども、ちょっとした事情がありまして生徒さんたちやシスターさんも一緒なのです。
 その事情というのはですね。 今、先生と一緒に住んでいる姫神ちゃんなんですが……」

小萌による歓迎会の挨拶やら説明やらが長々と続いているのだ。
葛木の妻、メディアに向けた説明のつもりらしい。

「ねぇとうま。 こもえのお話って後どれくらい続くのかな? 私はお腹へったんだよ?」

インデックスの視線の先には、むしゃむしゃと猫缶に頭を突っ込んでいるスフィンクスの姿。
どうやら一足早く猫缶を開けてもらったらしい。

「おまえなぁ……猫缶喰ってる三毛猫を羨ましそうに見るなっての。 もうそろそろだろうから我慢しろって」

小萌の説明を半分くらい聞き流しながらも、話が終わりそうな雰囲気を察して上条当麻がそうインデックスに囁く。
そして、上条当麻の予測通り小萌の説明は締めの言葉に入っていた。

「……というわけなのですね。 さて、それじゃあ葛木センセー! 主役として一言お願いするですよー!」

そう小萌に話を振られる葛木宗一郎。
しかし葛木は突然の指名にも戸惑うこと無く静かに口を開いた。

「月並みな台詞で申し訳ありませんが…… このような席を設けていただいた月詠先生と黄泉川先生に深く感謝しています。
 私も先生方を見習い、教師としてより一層精進する所存です。 どうかよろしくお願いします」

葛木宗一郎は自らを注目している同僚や教え子達に向かい、そう言いながら会釈をする。
教壇に立っている時とまるで変わらない堅苦しい言葉。
だが、今この場にいるメンツはそれを聞いても緊張などはしていなかった。

「まったく葛木センセってばホント真面目じゃん。 郷に入っては郷に従えって言うしさ、今日くらいは飲んで食っての無礼講でいこうじゃんよ」

ドドドン!とビール瓶やら一升瓶をちゃぶ台の上に置きながら黄泉川愛穂がニマリと笑う。
そしてそれを聞いた葛木は僅かに何かを考え、そして

「無礼講……ですか。 なるほど。 確かに一理あるかもしれません」

「……とはいえ、上条ちゃん達未成年はアルコールはダメですから勘違いしないでくださいねー。 それじゃあいいですか?」

葛木の言葉を引き継いで、ペチンと両の手を合わせる小萌。
それを見て、皆一様に手を合わせて。

「ではでは皆さん楽しみましょー!」

その言葉と共に葛木宗一郎の歓迎会が始まった。
154 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/13(金) 15:52:16.79 ID:qnMkiMffo


「いただきなんだよ!」

「おいコラ! いきなり肉を三枚重ねでもってくんじゃねえっての!」

「そんなことを言いながら。君もこっそり二枚重ねしてる。」

主に肉を中心とした銀髪腹ペコシスターと、ツンツン頭の腹ペコ男子がメインとなって和気あいあいと騒ぎ出す少年少女たち。

一方、大人達は

「地ビールなのでちょっとクセがあるですけど、美味しいですよー。 葛木センセーどうぞですー」

「これはどうも。 ありがとうございます」

ビールの瓶を両手で持った小萌が、葛木の持つグラスにトクトクと金色の液体を注いでいるところだった。
葛木宗一郎に酌をしている小萌を見て、出遅れた!といった顔をしたキャスターがムゥと口をへの字に曲げる。
そんなキャスターに向かって声をかけたのは黄泉川愛穂だった。

「奥さんも呑めるんじゃん? だったら恨みがましげな目で月詠センセを見てるんじゃなくてグラス出しなってば」

瓶を持って注ぐジェスチャーをしている黄泉川を見てキャスターがアワワと慌てながらグラスを差し出す。

「そ、そんな! 別に宗一郎様へのお酌を私がしたかったのに……なんてこれっぽっちも思ってないです!」

「いやいや、そんな嘘はつかなくてもいいじゃんよ。 丸分かりじゃんか。 こりゃ葛木センセは愛されてるねぇ」

面白そうに笑いながら黄泉川がキャスターのグラスにビールを注いでいく。
コポコポと白い泡を立ち昇らせながらグラスがあっという間に汗をかきだす。
そして、そんなグラスをコトリとちゃぶ台の上に置いた葛木が瓶を持って小萌に話しかけた。

「では、月詠先生もどうぞ。 あまり注ぐのはうまくありませんが」

「わ、ありがとうなのですよー」

葛木が小萌のグラスに注ぎ返せば

「くっ…… 仕方ない。 仕方ないのよ。 あれは職場の同僚への単なる返礼。 それだけなのよ」

「おっととと。 危ないってば奥さん。 よそ見してちゃあこぼれちゃうじゃんか」

キャスターは悔しそうに歯噛みしながらも黄泉川のグラスにビールを注ぐ。
大人達のグラスにはビールが行き渡ったのを見て、小萌が待ってました!とばかりに。


「さて、それじゃあ! 乾杯!なのですよー!」


4人の大人たちはその言葉と共に腕を伸ばし、己のグラスと相手のグラスの間で心地良い音を鳴り響かせた。

155 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/13(金) 16:04:56.33 ID:qnMkiMffo
ぶつかりあったグラスは、キィン!と澄んだ音を立てる。
そして大人達はそのまま各々自分のペースでグラスを傾けだした。

「んぐっ、んぐっ、んぐっ………ぷっはぁ―――!」

いの一番に飲み干したのは、やはり月詠小萌である。

「……っかぁ〜! 生きかえりますねぇ〜!」

ギュッと目を閉じたまま、幸福ど真ん中な顔をした小萌がそう言って。

「いやぁ〜まったくその通りじゃん。 それにさすがは月詠センセ。 このビールもそんじょそこらの居酒屋顔負けな上物じゃんか。
 と、葛木センセ。 葛木センセはどう思ったじゃん?」

二番目にグラスを空にした黄泉川がそう葛木に話しかける。
静かにグラスを空にした葛木宗一郎は、

「えぇ。 生憎私は居酒屋に行ったことはないのですが、これが上等なものであるということくらいは判ります」

ゆっくりとそう口にした。

「へぇ〜いい飲みっぷりしてたのに葛木センセは居酒屋行ったことないんだ。 やったじゃん月詠センセ? 新しい飲み仲間が出来たじゃんよ」

葛木の答えに少しばかり驚くも、すぐにそう言って楽しそうに小萌にそう声をかける黄泉川愛穂。
と、その時葛木の妻の様子に気が付いたのだ。
葛木の妻はグラスの半分ほどを飲んだところでホォ、とした顔で不思議そうにグラスの中を見つめていた。

「ありゃ? どうしたんじゃん? もしかして口に合わなかった?」

そう問われ、キャスターはグラスを持ったまま慌てて首を振った。

「……え? あ、そうではないの。 あまりこういったお酒には慣れていないから驚いたのよ。
 日本酒なら少しは飲んだことがあるけれど、まさか口の中でシュワシュワするお酒とは思ってもみなかったわ」

「へぇ〜。 やっぱり外国だとワインとかがメジャーなのかじゃん?」

「そうね。 私がいた国ではお酒といえばディオニュソスの造ったワインくらいだったかしら。
 あれも美味しかったけど、このシュワシュワするお酒も美味しいわ。 スッキリするお酒っていうのもいいものね」

「むむむ。 ディオニュソスといえば酒の神バッカスの別名ですよねー?
 聞いたことが無いメーカーですので気になるですー。 もしかして現地でしか販売していないブランドですかー?」

「えーと…… まぁそのようなものかしらね。 でも残念だけど今手に入れるのは不可能だと思うわ」

「あぅぅ。 そうなんですかー。 残念ですねー。 一度でいいから飲んでみたかったのですよー」

目尻をほんのりと赤くしたキャスターが神代の思い出を語れば、間髪入れず酒好きな小萌がそんな話に食いついたり……と。


歓迎会はゆるやかに、穏やかに、平穏に進んでいった。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/05/13(金) 16:05:28.85 ID:qnMkiMffo
next明日ー?(予定)
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 16:09:44.51 ID:SCiTR4NIO
乙です
期待してます
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 19:32:40.89 ID:skOlKk9vo


考えてみれば男が上条さんと葛木先生しかいないのか………もう少し男手が必要だな、ここは俺が犠牲になろう
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/13(金) 19:34:49.79 ID:hhEmw6kqo

待ってるよ
酒飲みたくなってきた……
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/15(日) 13:20:40.11 ID:u9TwcX990
そういえば魔翌力の塊であるキャスターさんは、上条さんパンチをくらったら消滅してしまうのだろうか。
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/15(日) 13:23:51.26 ID:4bUYIHf3o
その辺は作者次第じゃない?
体は魔翌力で作ってるから消せるけど魂は消せない、だから魔翌力込めればまた具現化できる
受肉してれば普通の人と同じなので消せない、全て消せると作者次第でその辺はかなり変わってるし
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/18(水) 20:52:13.15 ID:yJZB9S09o
これは続きが楽しみだ
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/05/19(木) 16:20:13.26 ID:4pLjJzMAO
携帯からで酉無いんだけど1す。
ごめんな逃亡って訳じゃないのよ。
明日あたりには再開する!
多分いや絶対。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/19(木) 17:50:46.79 ID:JRJYY1Zoo
待ってるよ!
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/19(木) 22:50:12.89 ID:4bQTv7FFo
待ってるよん
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/05/19(木) 22:54:20.87 ID:mWs9kTFAO
全裸待機
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 21:43:51.74 ID:mvUc/J3DO
この夫婦は酒強そうだな
168 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/22(日) 13:56:33.07 ID:WsmueK3So
>>155

同刻。

学園都市二十三学区にある国際空港、そのロビーのど真ん中で一人の男が不機嫌そうな面持ちで待ちぼうけをくらっていた。
2メートルを越える長身、赤く伸ばした髪、両手の十本指で光る銀の指環、右目の下にはバーコードの入れ墨。
そのくせ着込んでいるものは神父服というとんでもない格好をした男だ。

彼の名はステイル=マグヌス。
イギリス清教の組織、“必要悪の教会”所属の魔術師である。

今、ステイルが苛立たしげに見つめているのは出入国管理ゲートだった。
チラリとロビーの中央に設置されている時計を仰ぎ見てみれば、飛行機が到着してから既に40分が経過している。

「……遅すぎる。 何をやっているんだ」

誰にともなく愚痴をこぼしてみるも、ゲートの向こうには誰の姿も見えない。
無性に煙草が吸いたくなるステイルだったが空港ロビーは全面禁煙。
気を紛らわせることもできず、赤髪の神父はガシガシと頭をかくと機械音痴な同僚への恨み言を胸の中で呟いた。

それから10分程が経過した頃だろうか。
ようやく、ゲートの向こうに待ち人の姿が現れた。


待ち人は、おっかなびっくりといった様子でゲートをくぐろうとして――


ビーッ!とゲートに内蔵されている金属探知機が音を立てている。
警告音と共に現れた屈強な警備員に事情を聞かれ慌てている待ち人の姿を見て、ステイルはハァと溜息をついた。
歩み寄ってみれば


「ま、待ってください! 私は壊すつもりはなかったのです! それにそもそも私はこの機械に触れてもいないのですよ!?」


同僚はおかしな弁解を警備員に向かって必死にまくしたてているところだった。

「……君は一体何をやっているんだい?」

そうステイルが問いかけてみれば

「ステイルですか。 遅れました。 とりあえず貴方からも彼らに私が無実だということを言ってやってください」

そう言ってステイルに振向いたの声の主はとんでもない美女だった。
腰まで届く長髪をポニーテールに束ね、モデル顔負けのスタイルをアシンメトリーにぶったぎった珍妙なシャツとジーンズに包んでいる。

美女の名は神裂火織。

ステイルと同じく"必要悪の教会"所属の魔術師である。
だが、ステイルは困った子犬のような顔をした神裂を見て、やりきれないと言わんばかりにもう一つ大きな溜息をついた。

「……神裂。 パスポートは持っているんだろう?」

「ぱすぽーと……ですか? えぇ持っています。 ですがステイル。 まず、今はそれよりもこの場を乗り切ることのほうが重要だと思うのですが」

「……いいから見せてやれ。 それで万事丸く収まるんだ」

「は、はぁ……?」

そうステイルに言われ、ジーンズのポケットに無造作に突っ込んであったパスポートを取り出し、警備員に見せる神裂。
差し出されたパスポートをどれどれ?と警備員がチェックしだし――その目が驚きで見開かれた。
169 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/22(日) 14:01:08.95 ID:WsmueK3So
数分後、ステイルと神裂は咎められることもなく空港のロビーを後にしていた。
愛刀である七天七刀を肩にかけた神裂火織が、前を歩くステイルの背に弁解の言葉を投げかける。

「世話をかけましたステイル。 どうも飛行機は苦手なのです。 くぐっただけで門が壊れたときには本当にどうしようかと……」

「……神裂。 壊れてなんかいない。 あれは金属探知機だ。 君が身につけている七閃にでも反応したんじゃないかな」

ステイルはいちいち振り返るのも億劫とばかりに背で答える。

「なるほど金属探知機ですか……」

それを聞いて神裂は神妙な顔で頷いていた。
しかし、まだ彼女の問は終わってはいなかった。

「ですが、まだ疑問は残ります。 私が見せたぱすぽーとです。 それとこれに一体何の関係性があったんでしょうか?」

小首をかしげる神裂に、ステイルが投げやりにそう返事をした。

「疑問に思うならそれを開いてみればいいさ。 スタンプは押されているかい?」

背で答えるステイルに言われるがまま、パスポートをペラとめくる神裂。
ステイルの言うスタンプはどのページにも見当たらない。

「……いえ何も。 白紙ですが?」

「それが答えさ。 必要悪の教会から発行されたパスポートは特別製だってことだよ。
 君だけじゃない、僕のパスポートにも出入国のスタンプは押されないし、当然インデックスの持っているパスポートも白紙だろうさ」

カチリと煙草に火をつけ、紫煙に目を細めながらステイルが説明を続ける。

「特別なのはそれだけじゃない。 これがあるから僕達は他国に武器や霊装を持ち込めるのさ。 そうじゃなきゃ税関で余裕でストップされている筈だ。
 まぁ世界中を飛び回る僕達への便宜だよ。 さっきの騒動は君が入国時にうっかりそれを出し忘れていたせいだろうね」

そこまで言うと、ふぅと白い煙を緩やかな風に混じらせながらステイルが立ち止まった。

「なるほど、そういう絡繰だったのですね。 ……? どうしたのですかステイル?」

今知った、と言わんばかりにコクコクと頷いてた神裂に問われ、立ち止まったステイルがポツリと呟いた。

「機械に疎い君のことだ。 どうせ遅刻した理由も空港の近代施設の使い方が判らず、マルチモニターの操作パネルなんかに手間取っていたんだろうという想像はつくさ」

「うっ……」

まるでその現場を見ていたかのような指摘に神裂は喉を詰まらせる。
まさしくステイルの指摘通り、神裂は飛行機が到着してからロビーに辿りつくまでに随分と難儀し、その結果一時間弱の遅刻をしてしまったのだ。
思わず弁解をしようと口を開きかける神裂だったが、それよりも早くステイルが静かに二の句を告げた。


「けれど……そんなうっかりはこれっきりにしてほしいね。 正体不明の魔術師がこの学園都市に潜んでいるんだ」


ステイルの言葉が緊張を帯びているということに気がつき、神裂は黙して続きを待つ。

「学園都市に魔術師が忍びこむ。 まぁ、これだけの話ならたいして珍しいことじゃない。
 別に学園都市は鎖国しているわけでもないんだ。 それなりに手を凝らせばこっそり忍びこむことも充分可能だろう」

そう言うとステイルは新たな煙草を口に咥える。
しかしその表情は苦虫を噛み潰したように歪んでいた。

「けど、それがわざわざ僕達だけに知らされたとなれば話は別さ。 言ってみればこれは学園都市の統括理事長からの指名だろうね。
 ご丁寧に刺突杭剣《スタブソード》の件で留守番だった君にもだ。 ……気を引き締めろよ神裂」


安心して背を預けられる数少ない同僚にそう声をかけるステイル=マグヌスだが、どうにも嫌な気分が拭えない。


脳裏に甦るは統括理事長――アレイスター・クロウリーの言葉だった。
170 : ◆CERO.HgHsM [sage saga]:2011/05/22(日) 14:50:26.76 ID:WsmueK3So

『――学園都市に一人の魔術師が居を構えた。 今更、言うまでもないことだろうが科学サイドと魔術サイドは相互不干渉だ。 故に君達に動いてもらおうと思うのだが』

教えたはずのないステイルの携帯が鳴り響き、電話口に出た途端だった。
雑音めいた不快な声がステイルの鼓膜を揺らす。

『……随分と唐突ですね。 それに電話とは思いもしませんでしたよ』

知らず、ステイルの顔が強張る。
声の主が誰かなど聞き返す必要もない。
男のような女のような、老人のような子供のような、そんな喩えようのない声をもつ者などこの世界に二人といるはずもない。

『ふむ。 本来ならばこちらに来て貰いたかったのだがな。 些か支障が生じたせいで、このような方法でしか連絡をとれないのだ』

『……そうですか』

アレイスター・クロウリーの言う支障。
それは窓のないビルへの案内人という役目をもつ結標淡希が現在入院しているということだ。
しかしステイル=マグヌスはわざわざそのことについて追求しようなどとは思わなかった。
電話口の向こう、アレイスターはステイルの考えを見透かしているかのように言葉を続ける。

『それと――唐突という君の意見だが。 まずは慣習に従い世間話でもしたほうがよかったかね? 君はそのような茶番は望まないものだと思っていたが?』

『えぇ。 その通りです。 先程、君達――と仰ってましたがそれはいったい?』

突然のアレイスター・クロウリーからの連絡にきな臭い予感を感じながらもステイルは問いかける。

『おかしなことを聞く。 学園都市の住人と接点のある魔術師などそう多くはないはずだが?』

『神裂……ですか』

『そうだ。 それの運用を阻んでいたのは刺突杭剣だったはず。 しかしそれは伝承の交差による存在しない霊装ということは言うまでもないだろう。 ならば問題はないはずだ』

そしてアレイスターは簡潔な情報をこちらに送るとだけ言い残し、連絡を断ち切ったのだ。


ビープ音を返す携帯電話を手にしてステイルは考える。
言い知れぬ不安が残っている。
世界で20人に満たない聖人を呼べという命令にもとれるアレイスターの言葉。
いったい何を思い何を考えアレイスター・クロウリーはそんなことを言ったのか。
あの“人間”が何を考えているかなどステイルは知りようがない。

けれど結果として、ステイルはアレイスターの望み通りに神裂を呼んだ。
戦力として考えれば彼女程心強い味方はそうはいない。
ましてや学園都市に潜むという魔術師の狙いが定かでない以上、当然の選択だ。


しかしやはり今も尚、漠然とした不安がステイルの胸の中で燻っている。
何もかもが曖昧であやふやなまま、動いている気がしてならない。
そんなステイルを見て、神裂は静かに話しかけた。

「私のことはともかくとして。 ステイル? 貴方こそ先日の戦いで傷を負ったと聞きました。 無理はしないでください」

「ん? ……あぁ、オリアナ=トムソンとの一戦のことか。 問題はないさ。 僕にできる治癒魔術はせいぜいが火傷の怪我を治すくらいだけどね。
 ……どうやらあの変な顔をした医者は随分と凄腕だったらしい」

そう言って指先に火を灯し、煙草に火をつけて炎の魔術師が歩みを再開する。
気遣われるのはごめんだ、と背で語るステイルの後ろ姿を見て僅かに神裂が微笑んだ。

「そうですか。 安心しました」

僅かに歩調を早め、ステイルの隣に並ぶ神裂。

学園都市に現れた魔術師の目的が判らぬ以上、事が起きてからでは遅い。
なにせ、この学園都市には彼等がその身を賭してでも守りたい人々がいる。

必要悪の教会《ネセサリウス》に所属している二人の魔術師、ステイル=マグヌスと神裂火織が夜の学園都市の中へと消えていく。

必要悪の教会《ネセサリウス》。
それは“悪い魔術師から市民を守る”という方向性に特化しすぎた必要悪の部署だ。
それが十字教旧教三大宗派の一つイギリス清教第零聖堂区であり。
そしてこの部署に所属する魔術師の使命を一言で表すならば。


 魔 女 狩 り 


という言葉が最も相応しい。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/05/22(日) 15:47:29.46 ID:WsmueK3So
次、明日。
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/05/22(日) 17:52:32.57 ID:YagSO2ymo

相対するのは魔女ってレベルじゃねーぞって感じの魔女だがwwwwww
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/22(日) 18:26:45.60 ID:5708ROndo


あ、明日だってこれは期待
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/22(日) 20:32:57.50 ID:VtbAvvyU0
キャス子さんを魔女と呼ぶのは地雷やぞー。
正直、ステイルでキャスターさんと勝負になる図が思いつかんなぁ。ステイルに限った話でもないけど。
葛木先生も、初対戦限定なら強化無しでもねーちんとガチれそうな人だし。2回目以降は流石に強化が必須だろうけど。
うぅむ、勝負になるのだろうか。
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/22(日) 21:01:52.71 ID:06UvvZEvo
英霊VS聖人か
キャス子さん魂吸ってない状態だよね?
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/05/23(月) 01:27:37.14 ID:MiorXapAO
対魔翌力が横行してるサーヴァントにとっては幻想殺し()だしな
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2011/05/23(月) 01:33:08.07 ID:OvVx6/UHo
Fateの設定微妙に忘れてるが、性交渉で術者とのラインがどうこうで魔翌力供給できるんじゃなかったっけ
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/23(月) 05:03:44.22 ID:enDB9ycXo
供給できるが魔術師じゃない葛木じゃ回復量は大してないだろうな
神殿は作ってるかもしれないけど……家は龍脈の上にあるのかね?
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2011/05/26(木) 18:58:07.45 ID:EIwQttyAO
明日まだー?
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/05/28(土) 13:18:03.66 ID:5QYraoZAO
キャスター好きだから嬉しいなぁ
続き待ってます
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage]:2011/05/29(日) 20:23:48.24 ID:pVrbbu/60
まだかなー
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/05/30(月) 02:27:34.24 ID:GHmOpo4AO
待ってるよー
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/05/31(火) 00:58:22.09 ID:o514LA1AO
一だけど逃走じゃないよ。
ちょっとここ数週間リアルが忙しくてまとまった時間がとれないだけなんだ。
ごめんねー。
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/05/31(火) 18:43:29.41 ID:0EbjdWpAO
待ってるよ!!
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/31(火) 20:50:03.12 ID:Hx2lGKFIO
しゃーないさ
待ってるよん
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/02(木) 10:30:16.37 ID:yljlluYSO
いつまでも舞ってるぜ
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/02(木) 22:06:18.12 ID:/C9mEKix0
待ってる
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/06/05(日) 13:42:56.14 ID:pHUuacaAO
待ってるよ
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/11(土) 21:04:32.03 ID:lDtcY8nc0
キャス子 ファンとしては続きを待ているのである。
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/12(日) 23:27:37.07 ID:17W+nIExo
追いついた。期待
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/06/19(日) 03:55:11.81 ID:IaWC2BFV0
待っとるぜよ
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/20(月) 21:33:22.48 ID:zz1DA1kEo
追いついた、期待
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/06/25(土) 20:06:08.73 ID:S/JXO4kAO
マダー?
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/06(水) 06:50:14.42 ID:rMfoLua00
キャス子は まだ?
195 :LX [saga sage]:2011/07/12(火) 22:20:52.58 ID:XOIWWCEW0
そろそろ2ヶ月だねー

ダメかなぁ

期待してるんだがなぁ
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/13(水) 02:21:07.44 ID:pqcnbOes0
せめて報告を…
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 10:14:34.03 ID:UkjyjhLDO
待つべし
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage]:2011/08/01(月) 21:50:22.30 ID:P5fBv7Xy0
生存報告よろ
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/08/21(日) 02:09:36.43 ID:QxEbgE5Ao
来るかな?
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