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幼女「ゆーたっ!」「ぼくは魔法使いだよ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆ackVh57YJ. [sage]:2011/04/30(土) 00:46:35.01 ID:QetZ2pS40
こんな世界をご存知だろうか――

剣と魔法が蔓延り、人々がその知恵と勇気を振り絞りながら逞しく生きている世界を。

古の人々が作り上げた英知の結晶を糧に、日々を生きながらえている世界を。

脆弱で惰弱で軟弱な人類が作り上げた文明が存在する世界を。

そんなものをはるかに凌駕する、神聖で高等な存在がいる世界を。

……そして全てを恐怖と混沌に陥れる、異形のものが確かに存在している世界を。

それら全てを生み出し、育み、見守る世界の樹がある世界を。

ぼくは知っている。

このぼくこそが知っている。

きみたちは知らないだろうから。

このぼくが語るべきなのだろう。

今ぼくが知らない世界でも、誰もが、彼もが知らない世界も。

見る事になるのだから。

傍観者ではなく主観者として。

この少女とともに………………始まる。
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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

2 : ◆ackVh57YJ. [sage]:2011/04/30(土) 00:47:48.65 ID:QetZ2pS40

チリーン

「……ん」

チリリーン

「……………」

チリリリリリリリーン

「……ふぁ、誰? 」

チリリリリリリリリリリリーン

「はぁい、いますいますよ」

ガチャッ

男性「ちわー、魔送宅配便っす。えーっと、あて先こちらでよろしいっすよね? 判子もらえますか?」

「あ、はい。…………あ、サインでもいいですか」

男性「あ、おっけーすよ、ではこちらに……はい、はい。ありがとうございましたー」

ガチャン

「ぼく宛か、誰からだろ? てかでっか……」ポンポン

「うーん……姉さんからか、何がはいってるのかな」ビリビリ

ぼくは、箱を開けた。ぼく宛に、あの姉さんからの荷物が届いたんだ
どうあがいたって、ぼくはこの箱を開ける運命にあった

それがパンドラの箱とも知らずに、哀れなぼくは

「…………」

幼女「すぅ……すぅ……」

戸惑うことも躊躇うことすらもせずに

「おっ、女の子〜〜〜〜〜〜ッ!?」

幼女「ん……むにゃ」
3 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/04/30(土) 00:48:25.87 ID:QetZ2pS40




――――第一章・ぼくが知らない物語。


4 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/04/30(土) 00:49:49.71 ID:QetZ2pS40


「ま、まって、なにこれ。ぼくわかんない、あは、あはははは」

「てかなんで箱の中に女の子が入ってるの? おかしいよね?」

幼女「……ん、ふぁあ〜」

巨大な箱の中から現れたのは3歳くらいの女の子、身には麻のワンピースを着けている
ショートの輝くような銀髪を少し乱して
まだ寝ぼけたまぶたの間から、蒼天のような曇り一つない蒼い眼が右に左に動き、周囲を見回していた

「あ、ごめん。起こしちゃったかな」

幼女「ひっ……」

「だ、大丈夫だよっ! ぼくはなにもしないから、さ」

幼女「んー」ジーッ

「うぅっ……」

幼女「……ゆーた」

「えっ?」

幼女「ね、ゆーただよね? るーはね、るーっていうんだよ!」
5 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/04/30(土) 00:50:33.56 ID:QetZ2pS40

「ルー、ちゃん?」

幼女「そー、ねーねがいってたー」

「ね、ねーね?」

幼女「うんっ! ゆーた、よーしく!」

「ちょっ、ちょっと待ってもらっていいかな……ゆーた、ってぼくのこと?」

幼女「ちがうの? ゆーたはゆーたー」ニパッ

「オーケイ……百歩譲ってぼくがゆーたってことにしよう、それで、よろしくって?」

幼女「?? るー、きょーからここにすむんだよ! ねーねがそーしなさいって!」

「……へっ?」

ガチャッ

妹「ただいまーっ! もーお兄ちゃん? 洗濯物取り込んどいてっていったじゃ……な、い」

「あ、妹。おかえり」

幼女「おかえいー」
6 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/04/30(土) 00:52:02.95 ID:QetZ2pS40

妹「えっ? な、や、そ、そんな……あ、ありえない……おおおお兄ちゃんのこ、ここ子供……?」

「いや、違うって何でそうなるんだよ、髪の色も目の色も違うだろ?」

妹「う、嘘……だったら……ここで…………」

幼女「ひっ」

「ス、ストーップストーップ!! な、なにしようとしてるの!?」

妹「はっ!? あ、あれ、お兄ちゃんどうしたの? わたしは何して……」

「はぁ……とりあえず、むこうで話そうか」
7 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/04/30(土) 00:52:53.16 ID:QetZ2pS40



「……っと、いうわけなんだけど」

妹「へぇ、そういうわけなの……って、どういうわけなのよっ!!」ドンッ

「ビクッ! い、いやさ、ほら、ぼくも詳しくはわからないし……それに」

「あの子を放っておくわけにもいかないじゃないか」チラッ

幼女「わぁー、このおうちおおっきーね!」キラキラ

(どこにでもあるようなレンガ造りの家だけど……)

妹「ま、それもそうよね……」

「だろ? だからさ、しばらく様子見にしないか?」

妹「お兄ちゃんがそういうんなら……わたしはいいけど……」

幼女「ね、ね、ゆーた。あそぼ、あそぼっ!」グイグイ

「ああこら、ルー、服引っ張っちゃ駄目だろ?」

幼女「うー……わーった! だかあ、あそぼっ!」

「わかったわかった、何して遊ぶ?」トットット

妹「むー……なんだか腑に落ちないなぁ」
8 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/04/30(土) 00:53:52.17 ID:QetZ2pS40



幼女「すぅ……すぅ……」

「はぁーっ、やっと寝付いたよ」

妹「お疲れさま、お兄ちゃん。これ、紅茶」カチャン

「ああ、ありがと」カチャッズッ…

妹「なんだか、不思議な感じのする子よね。ルーちゃんって言うんだっけ?」

「うん、自分ではそう言ってたね」

妹「んー、やっぱりお姉ちゃんに連絡したほうがいいんじゃない?」

「そうだね……やっぱりあの子の口からじゃあ伝わってないことも多いだろうし」

「あの子が何者なのか、も聞かないとね」

妹「もう……変なことに巻き込まれてないといいんだけど……」

「ふ、不吉なこと言わないでよ……、ま、とりあえず姉さんに連絡してみる」ガタン

ぼくは立ち上がってタンスの引き出しに手をかけた
そして中から両手に収まるほどの人形を取り出す

「えーっと……集中……」
9 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/04/30(土) 00:55:01.84 ID:QetZ2pS40

これはぼくの姉さんが開発した一種の魔道具で
人形に流した魔力が、人形の中で変換され
同じ波長の対となる人形に送られるという代物らしい

よくはわからないが、その魔力に音声を乗せて姉さんと話すことができるのだ

「…………姉さん?」

『やぁ、その声は我が愛しの弟。どうだい、元気かな?』

無表情な人形の口が開き、饒舌に語り始めた

「うん、元気だけど。姉さんは?」

『あっはっはっ! 僕は元気に決まってるじゃないか。有り余ってすぎるほどさ」

「そう? それなら良いんだけど」

『にしてもどうしたんだい? 改めて僕に連絡を寄越すなんて』

「いや、そんな大したことじゃないんだよ。ただ」

『ただ?』

「自分のしたこと、ゆーっくりと胸に手を当てて考えてみて欲しいんだ、ただそれだけ」

『…………』
10 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/04/30(土) 00:56:10.44 ID:QetZ2pS40

「………………姉さん?」

『我が弟よ』

「なに?」

『心の優しい我が弟が、万が一、億が一にも、世界樹なんて存在しえなかったという仮説ぐらいありえないし』

『仮定として置くにも愚か過ぎると思うが……もしかして、怒ってるのかい?』

「うん」

『なっ……!? ばっ、馬鹿な……』

「だから、きちんと事情を説明してもらえるね?」

『わ、わかったよぅ……こほん、いいかいアレは……』

『――いや、あの子は先日、僕がある場所へ赴いたときに発見したんだ』

『そこがどこか、は聞かないでくれよ?』

「うん、わかってるよ。国家機密なんでしょ」

『ふふ……流石は我が弟、実に聡明だ。僕は鼻が高いよ』

「それはいいから」

『……久しぶりだというのに、ずいぶんと冷たいんだね? 昔は僕がいないと言って泣きじゃくっていたというのに』

「それもいいから」
11 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/04/30(土) 00:57:31.64 ID:QetZ2pS40
『う……うぅぅ、ぐすん……』

「…………」

(泣いてたのは姉さんのほうだったと思うけどな)

『ひっく……うっく……』

「……ちょっと冷たすぎたよ。謝るから、ほかのことも教えてくれる? ごめんね」

『……ん、わかった』

『こほん、ともかくだね。詳しくは同封してある手紙に書いてあったと思うのだけれど』

「手紙……? ちょっとまってね」ガサゴソ

「あぁ、あったよ……ん? このペンダントなに? 銀色の石が付いてる奴」

『それは僕が作り出した魔道具だよ、非常に高価で貴重なものだ。決して無くさぬようにしてほしい』

『……所謂、日々学業に励む我が愛しの弟へ向けた、俗に言うプレゼントなるものだ』

「ふぅん……ありがとう」

『ふふふ、喜んでもらえて嬉しいよ』

『では……名残惜しいが、しばしの別れだ。僕はまたすぐに出かけるのでね』

「そっか、またしばらくは帰ってこれないの?」

『……残念ながら、ね。僕はあまり力にはなれないが、困ったことがあればいつでも連絡をくれ』

「……うん、じゃあ、ね」
12 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/04/30(土) 01:01:32.79 ID:QetZ2pS40
そこでぷつんと、文字通り糸が切れたように人形はうな垂れた

妹「結局、重要なことはわからずじまいね」

「いや、そうでもないよ。あの姉さんのことだ、手紙にきちんと書いてくれてるはず」ピリピリ

『やあ、僕は今、王国の研究室でこの手紙を書いている。この手紙が届く時には、もう一つの大きな荷物が同封されているだろうね。
 あっはっは! いや……すまない、迷惑をかけるつもりではなかったんだ。できれば僕自身が処理したかった問題であったし
 そうすべきでもあったのだろう、だがその子にも事情があってね、やむなくそちらに預けることにした。
 一応、僕が躾けてあるからね。あまり粗相はないことだろう。
 それにもうすぐ学校が始まるだろうが、決して一人ぼっちにさせないように
 授業中は魔導士のところへ預けに行くといい、あいつには事情を話してある。では、よろしく頼むよ』

妹「……結局、重要なことはわからずじまいね」

「…………そうだね」

ぼくは、手紙と人形を握り締めたまま肩を落とした

妹「もう、今日は遅いし寝よっか」

「うん……おやすみ」

妹「おやすみ、お兄ちゃん」

トットットッ……バタン、パスッ

(……また、何かの事件に巻き込まれてるのかな、姉さん)

(職業柄、そういうのは仕方ないけど……やっぱり心配だな)ゴロン

ジャラッ

(これ、何のための道具なんだろう……それにこの銀色の石、暗いところでもほのかに光ってる)

(……ふぁ、何だか眠くなってきたな)ジャラッ

?「―――むむぅ……」

(……? あれ、誰だろ。なにか……きこえた――ような―――)


13 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/04/30(土) 01:03:22.68 ID:QetZ2pS40
幼女が書きたかっただけです
ついでにファンタジーも書きたかったのです

後悔はしていま……すん
14 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/04/30(土) 18:31:42.30 ID:QetZ2pS40



「くぅ……くぅ……」

どすんっ

「ぐほぉっ!?」

幼女「おきおー! あさだよゆーたー」

「げほっごほっ……ル、ルー……わ、わかったから、はやく上からどいて……」

幼女「ん」ゴソゴソ

「ふぁ……はぁ」

幼女「おはよ! ゆーた!」ピシッ

「おはよう、ルーは朝から元気だね」ナデナデ

幼女「えへへっ、あとねっ! ねーたんがごはんっていってた!」

「そっか、じゃあ行こう」

幼女「うんっ!」
15 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/04/30(土) 18:34:31.69 ID:QetZ2pS40

パタパタパタ

妹「あ、お兄ちゃんおはよ」

「おはよ」

幼女「おはおー!」

妹「ルーちゃん、ちゃんとお兄ちゃん起こしてくれたのね? えらいえらい」ナデナデ

幼女「にひひ」テレテレ

「じゃ、いただきますをしようか」

妹「いただきます」

幼女「いただきまーっす!」パンッ

「いただきます」

妹「そういえばお兄ちゃん」

「ん? なに?」

妹「今日から学校だよ、もしかして忘れてた?」

「…………」
16 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/04/30(土) 18:36:14.93 ID:QetZ2pS40

妹「急がないと遅刻しちゃうよ?」

「い、いやさ、今日はルーが来たばっかりで忙しいし……」

妹「授業に必要なもの準備してるの?お兄ちゃん、 友達少ないんだから注意してよね」

「やっぱりルーを置いていくわけにもいかないしね、致し方ないけどぼくは休むべきなんだよ」

妹「お弁当も用意してあるから、ちゃんとルーちゃんの分も」

幼女「おべんとっ!? るーの分もあるのっ!?」

妹「うん、もっちろん! わたしも学校あるから、みんなで行くのよ」

幼女「わぁーっい!」

「なっ、ちょっ待ってよ! 流石にルーを学校に連れてくのはまずいんじゃ」

妹「なに言ってるのよ、お姉ちゃんが魔導士さんに預けろって言ったのよ」

妹「魔導士さんの研究室に預かってもらえばいいでしょ?」

「そ、そうだけど……さぁ」

幼女「ゆーたっ! いこっ! がっこうっ!」

妹「そうよ、お兄ちゃん、学校はちゃんといかないと」

「う……わかったよ、いけばいいんでしょ……いけば」

妹「わかればいいのよ。あ、ルーちゃん牛乳こぼしちゃってる」フキフキ

幼女「んー」

「……はぁ」
17 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/04/30(土) 18:38:18.29 ID:QetZ2pS40



「さて、ここで補足説明しておこうか」

「ここ、魔法学園はその名の通り魔法学を勉強し、数多の魔法使いを輩出する場所」

「これまでの魔法は、高位の魔法使いが弟子を持つことによって伝えられていたんだけど」

「先の大戦……中央大陸戦争を治めた六賢人のリーダーであるところの賢者様によって」

「この魔法学園が創られ、多くの人々が魔法を学べるようになったんだ」

「……そうだね、大戦のことについても少し触れておこうか」

「世界には大きく分けて4つの大陸が存在する」

「一つはここ、大戦の中心となった剣の国と魔の国がある中央大陸」

「一つはここより南方、熱帯の気候で様々な種族が共存する南大陸」

「一つはここより北方、永遠に春の来ない冬、鉱物などの資源が豊富な北大陸」

「そして最後の一つ……世界を生みだした世界樹が自生する、始まりの大地」

「そのうちの中央大陸、魔の国と剣の国の間で起こった世界を揺るがすほどの戦争だった」

「さっきも言ったけど、それは世界中から集まった六賢人たちによって終戦となったんだけどね」

「……あれ、話がずれてるかな。まあいいや、このままいこう」

「戦争の傷跡は40年経った今でも各地に残ったまま、剣の国とぼくらの住む魔の国の間にも」

「いざこざは減ってはきたけれど、まだ完全に仲直りとはいかないみたい」

「そんな中、ぼくらは国の復興に向けて魔法学園で魔法を勉強し、世界の理を学んでいるんだ」
18 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/04/30(土) 18:39:35.16 ID:QetZ2pS40
妹「……お兄ちゃん? 随分と長い独り言ね」

「い、いや、世界史のおさらいだよ。気にしないで」

妹「ふぅん?」

幼女「あははっ! ゆーたへんなのー」

「あははは……にしても」

「やっぱりぼくら、奇異の視線で見られてないかな?」

妹「それは……こんな小さな子連れてるんだから……はっ!? も、もしかして」

「ど、どうしたの?」

妹「わ、わたしたちの子供だと思われてるんじゃないっ!? や、やだ……そんな……」モジモジ

「……それはないよ、ぼくらは赤髪でルーは銀髪なんだし」

幼女「るーはゆーたもねーたんのかみも、きえいだとおもうよー!」ニパッ

「あはは、ありがとう。ルー」

妹「う、うふふっ……そんな、綺麗だなんて……」モジモジ

「あっ、そろそろ魔導士さんの研究室だね」

妹「失礼しまーす」コンコン

幼女「しつえいしまーすっ!」
19 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/04/30(土) 18:50:12.67 ID:QetZ2pS40

?「ふっふっふ……よくきましたね、我がラボへ。歓迎しますよ」

扉一枚隔てた、決して広くはない研究室内は
多色多彩の液体が封じられたフラスコ
怪しげな煙を噴出している壷などが置かれていた
そしてそれらの中央に立ち尽くす無精髭、ロクに手入れのされていない白髪天パ眼鏡の男

「今日は何を作っていたんですか? 魔導士さん」

何を隠そう、彼が魔導士さんだ

魔導士「ふふっ、これですか? これはですね……この液体から発する蒸気を吸い込むだけで」

魔導士「肉体と精神を分離させるという……魅惑の妙薬なんですよ」

妹「それはまた……すごいものを作ってますね……」

幼女「なにあえー! おいしいのかなー?」

魔導士「ふむ? おや……この子が……」キュポッ

「ええ、姉から聞いているんですよね……ってなんで蓋あけたんですか」
20 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/04/30(土) 18:54:15.37 ID:QetZ2pS40

魔導士「…………」パタッ

「魔導士さん?」

妹「も、もしかして?」

「な、なに自分の作った薬にやられてるんですかっ!? 大丈夫ですかしっかりしてください!」キュッ

妹「お兄ちゃんっ! わたしがっ」

妹「……<キュア>」パァァッ

魔導士「……ぐ、ぬぅ」

妹「よかった、意識は元に戻ったみたい」

「もう……驚かさないでくださいよ」

魔導士「ふっはっはっ! いやはや、我ながら会心の出来ですね!」

幼女「あはは! ゆーた、このひとおもしおいねっ!」

「こ、こら、ルー……」

魔導士「いや、いいんですよ。素直なのはいいことです」

「すみません……」
21 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/04/30(土) 21:11:50.59 ID:QetZ2pS40

「すみません……」

魔導士「それで、何か私に御用があって来たんですよね?」

妹「は、はい。わたしたちの授業が終わるまで、ルーちゃんを預かってもらいたくて……」

魔導士「はっはっ、そんなことですか。いいですよ」

「ほんとですか? ありがとうございます」

魔導士「ところで……ゆーた、なる人物についてなのですが……」

「どうやら、ぼくのことみたいです……どういうわけかはわかりませんが……」

妹「初めてあったときから、お兄ちゃんのことゆーたって言ってるみたいなんです」

幼女「ねっ! ゆーた、あれなに?」

「あ、こら、勝手に触っちゃいけないよ」

妹「わたしたちも気が動転してて……詳しくは聞かなかったんですけど」

魔導士「ふむ……では聞いてみましょう」
22 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/04/30(土) 21:12:27.78 ID:QetZ2pS40

幼女「わっ!」ガシャン

「ル、ルーっ!? 大丈夫?」

幼女「うぅ……へーき……」

魔導士「あぁっ!? それは万物の姿をカエルに変える薬っ!」ボンッ

妹「ルーちゃん!」

幼女「へーきだよっ、るーつよいもん」ウルウル

「ああ……手、怪我してる」

妹「任せて、<ヒール>」パァッ

幼女「ふあ……」

妹「うん、もう大丈夫よ」

幼女「わ、なおってう! ねーたん、あいがとーっ!」

妹「ふふっ、どういたしまして」

「よかったね、ルー。今度は勝手に触っちゃダメだからな?」
23 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/04/30(土) 21:36:36.47 ID:QetZ2pS40
幼女「うん……ごめんなさいっ」

妹「いい子ね、ルーちゃんは」ナデナデ

幼女「えへへ」

「……ってあれ、魔導士さんは?」

カエル「わいもうカエル、おうちにカエル。ゲコゲコ」

「ああっ! また魔導士さんが自分の薬にやられてっ!」

妹「え、えぇ〜。わたしもう嫌よ? 疲れちゃったもん」

幼女「あははっ! かえうちゃんかぁーいいね!」

カエル「グゲー」
24 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/04/30(土) 21:40:06.42 ID:QetZ2pS40


「はぁ……」

「あの後なんとか元に戻った魔導士さんに、ルーを預けて家に帰ろうかと思ったけど」

「妹がぴったり教室まで付いてくるものだから帰るに帰れなかったよ」

「そんなこんなで絶賛授業中」

「今は実技の時間なんだ、場所は魔法実演所……はぁ、憂鬱だなぁ」

生徒1「おい、おいって、紀伊店のか」

「あ、あぁごめん。何かな」

生徒1「何って呼ばれてんぞ……欠落回路さん」ニヤニヤ

「……わかった、ありがとう」

笑顔でお礼を言って、ぼくは前へでた

先生「次はお前の番だ、お前の属性は土だったな?」

「……はい、一応そうらしいです」

先生「何だその返事は? 俺が赴任してきたばかりだといって馬鹿にしているのか」

「いえ、そんなことはないです」
25 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/04/30(土) 21:40:59.14 ID:QetZ2pS40

先生「……俺はな、生徒の目を見てそいつが何を考えてるかわかるんだよ」

生徒たち「クスクス……」

先生「こんなくだらない授業、はやく終わってしまえばいいなんて思ってんだろ?」

「…………」

ぼくは黙って曖昧な笑顔を作った

先生「ふん、まぁいい。やる気がないなら出て行け、少しでもやる気があるなら」

先生「……そうだな、土属性の真骨頂、錬金で石を真鍮に変えてみせろ」

生徒2「ぎゃははは、せんせー、そいつにんなことできませんよ!」

生徒3「そうっすよwww」

先生「うるさいっ!! ……いいからやってみろ」

「……はぁ」

嘆息してぼくは手ごろな石を手に取った
そして集中する
26 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/04/30(土) 21:42:28.61 ID:QetZ2pS40

先生「……どうした、はやくしろ」

生徒たち「クスクス」

ぼくを差別するような視線、あざ笑うかのような視線、無関心な表情
様々な生徒たち、腕組みをしてぼくのアクションを待つ先生

(やればいいんだろ……やればさ)

ピキピキッ

手に握り締めた石に変化が起こる
だが、先生以外の表情に変化はなかった

先生「……っ、これは……」

「……できましたよ」

そういってぼくは手を開いた

先生「こんなにはやい練成は見たことがない……それにこれは……」

さきほどまで石が握られていたぼくの手には

石の面影など一切の欠片もなく
27 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/04/30(土) 21:47:11.04 ID:QetZ2pS40

透き通るような薄紫色の結晶が握られていた

先生「……結晶」

生徒2「ぎゃはっ! 錬金しようにも土属性魔法を使おうにも、お前はそれしかだせねんだなっ!」

生徒1「流石は欠落回路ってとこだな、期待を裏切らない奴だ」

「…………」

ぼくは困ったような笑みを浮かべて、ただ黙り立ち尽くすしかない

先生「お前……いや、いい。よくやったな、よし! 次だ!」

そう言われてぼくは下がる

生徒1「……ふん、たまには期待を裏切ってくれても、いいんだぜ」

「残念だけど、その要望には答えられない、かな」

「どうあがいたって、ぼくにはこれ以上の魔法は使えそうにないしね」

生徒1「…………つまらん奴だな」

そして、彼は沈黙を決めこんだ

「……それはぼくが言いたいよ」

ぼくも、黙り込んだ
28 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/04/30(土) 21:54:53.71 ID:QetZ2pS40
あのあの、地の文ってないほうがよろしいでしょうか
みてるひといたら意見言ってくだしあ
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/30(土) 22:48:17.26 ID:jITWzvnNo
見てるよー
自分は今のままで問題ないと思う
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/30(土) 23:28:12.64 ID:9x3gP4wDO
期待
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/05/01(日) 02:05:30.92 ID:2TAggbgAO
久々に本格的なファンタジーで期待
32 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/01(日) 12:26:36.62 ID:ohHDccGc0


「うーんっ、くはぁー……」ノビー

「やっと午前の授業が終わったよ」

「歴史をただなぞっていくだけの授業になんの意味があるんだろ」

「ああいうのは常識だと思うんだけどなぁ……」

「さっ、魔導士さんのところに行ってお昼にしよう」

「失礼します」コンコンッ

ノックして部屋を覗き込んだ瞬間、全身毛むくじゃらの魔導士さんとルーが戯れていた

幼女「きゃははっ! おいさんへんなかおーっ!」グイグイ

魔導士「こ、こらっ! やめなさいっ、引っ張るんじゃありませんっ!」

幼女「きゃわわっ!」ツルッ

「わっ!?」ドスッ

?「ふぎゅっ」
33 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 12:27:41.96 ID:ohHDccGc0

「ん……? だ、大丈夫? ルー」

幼女「ふぇ……だいじょーう……」

「あー、鼻打っちゃったのか。よしよし」ナデナデ

幼女「うー」

魔導士「おや、ゆーたくん。……ということはもうお昼ですか」

「あ、あれ? ぼくの名前はゆーたになっちゃってるんですか? 魔導……士さ……ん?」

妹「お兄ちゃーん、ルー、いる? お昼食べにいこー………………」ガチャッ

魔導士「ああ妹くん、ちょうどお昼にしようと思っていたところなんですよ」

妹「……ひっ、きゃああああああっ!? な、生首が浮いてるっ!?」ブンッ

妹は手近にあった壷を掴んで思い切り投げつけた

魔導士「げぼらっ」ゴスッ

その壷は首から下が完全に消えてしまっている魔導士さんに直撃し、一撃で昏倒させる
34 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 12:28:10.52 ID:ohHDccGc0
「お、落ち着いてっ! あれは魔導士さんだよ」

妹「へ、へっ?」

幼女「あははっ! おいさんねむっちゃったよ!」ペチペチ

魔導士「ぶくぶくぶく」

魔導士さんは白目を剥いて口から泡を吹き出していた

妹「ああっ! ご、ごめんなさいぃぃ!」

「あはは……お昼はもう少し後になりそうだね」

?「…………」サッ

「……ッ」バッ

窓の外を何かが横切ったような気がして、ぼくは瞬時に振り向く

(何だ?)カチャリ、カラカラ

なるべく音を出さないように近づき、窓を開けた

子リス「チチチチ」

窓枠には片手に収まるほどのリスがいた

「……リス? なんでこんなところに……あっ」

子リス「チチッ」トトト

「行っちゃった」

「何だったんだろう?」
35 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/01(日) 13:47:38.11 ID:ohHDccGc0


辺りは建物の影になっているためか薄暗く
昼だというのに不穏な空気が漂っていた

?「おい……勘付かれたか?」

?「いえ、大丈夫よ」

?「かっ! ほんとかよ」

そこには如何にも怪しげな3人組が身を寄せ合って会話をしていた

服装はというと、もう春だというのに3人が3人とも
ロングコートにマフラーを着用していた

さらに3人には特異な共通点があった
素顔を隠すように、自分という存在を隠すように、顔全体を隠す仮面を着けているのだ

そのうち、泣き顔の仮面を着けた何者かがくぐもった声を発した

泣き顔「ええ、もちろんよ。進入の手はずは整っているし、誰にも気づかれていないわ」

それに対して、怒り顔の仮面を着けた何者かが答える

怒り顔「かかっ!! そいつは僥倖」

そのやり取りをみていた無表情の仮面をつけた何者かも会話に加わる

無表情「へっ、運なんかじゃねぇ。俺たちだから出来たんだ」

泣き顔「うふふっ、そうね……じゃ、これ以上ここにいれば怪しまれるでしょうし」

怒り顔「かっかっ! そうだな、あとは潜伏して機を待つだけだ」

無表情「だなっ、んじゃまたあとで」

各々が頷いて、3人は一斉に消えた
36 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 13:56:35.72 ID:ohHDccGc0



「ふぅ、あのあと意識を取り戻した魔導士さんとルーと妹でお弁当を食べて」

「今は午後の授業に向けて教室へ向かっている最中」

「ほんとはこのまま帰ったってぼくは構わないんだけど……」

「今日は得に嫌な感じがするんだ」

「何かはわからないけど……っと」

「教室に戻る前に、トイレに行こう」

トットット

「……誰もいないみたいだ」

「ま、そこまで警戒する必要なんてないと思うんだけどね」

「なんたって魔法学の本拠地、魔法学園」

「全大陸から選りすぐりの魔法使いたちが挙って集まるような場所なんだから」

「セキュリティも万全、ねずみ一匹進入する余地すらないんだしね」

誰に言うまでもない独り言を吐き出しながら、用をたそうとするぼく
37 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 13:58:19.29 ID:ohHDccGc0

?「―――えぇいっ!! もう我慢できんぞ!」

「っ!?」

突如、どこからか女性の声が響き渡り
警戒するどころか、驚きのあまり硬直してしまった

?「貴様ッ! よくもわらわをこのような下賎な場所へ連れてきおったな!」

「だ、誰っ!?」

すぐ近くで聞こえているはずなのに、誰も、人影一つ見当たらない
焦りのあまり、胸の辺りが高熱を発しているかのように熱い

?「いまのいままでは我慢しておったが……もう辛抱ならん!」

――うん? 胸の辺り?

気になって服の内側を見やると、姉さんから貰ったペンダントが光を発していた
否、ペンダントではない。取り付けられた銀色の石から発せられていたのだ

ジャラッ

「これ……?」
38 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 13:59:39.03 ID:ohHDccGc0

石「むっ! やめい! 触るでないっ!! そ、そんな汚らしいも、ものを触った手でっ」

石「わらわに触れるなどっ! 万死に値するっ!」

手に持った石がさらに熱を発する

「熱っ」ジャラッ

思わず手を離してしまうぼく

「ご、ごめん」

なぜぼくは石に謝っているのだろう
こんなところ誰かに見られたら、ぼくはもっと馬鹿にされちゃうんだろうな

石「ふ、ふんっ! わかればよいのだ」

熱は徐々に収まっていった

「ところで……きみは何物なの? もしかして精霊?」

石「むむ……ま、まぁそのようなものだの」

「へえ〜! ぼく、精霊なんて初めてみるんだけど、姿は見せられないの?」

石「う? うむ……この石にはわらわの力だけを封じておっての。この石から具現化することはできぬのだ」
39 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 14:33:25.00 ID:ohHDccGc0

「ふぅん、そうなんだ……それにしたって姉さんは何でそんな石をぼくに……」

石「ふんっ、あの忌々し……い、いやあやつの考えることなど、わらわにわかるはずもあるまい」

「ま、そうだね……ぼくもわからないし……えーっと、きみのこと、何て呼べばいいかな」

石「ぬ……そうだの、ミリア……とでも呼んでもらおうかの」

「ミリア……オーケイ、いい名前だね」

ミリア「ふ、ふんっ! あ、当たり前であろうっ」

「あ、熱っ!」

また石が熱を発し、ぼくの胸の辺りに焼けるような痛みを伝える

ミリア「ほれ、こんなところで話こむのもなんだしの、はやく場所を変えようではないか」

「ぼ、ぼくは用をたしたかったんだけど……」

ミリア「つべこべ言わずにはようせい! このようなところにいつまでもおりとうないのだっ!」

「もう……仕方ないなぁ」

ぼくは手を洗ってトイレから出ることにした
40 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 14:45:20.88 ID:ohHDccGc0


先生「よし、では魔法学についての授業だ」

先生「お前たちはこの学園に入って数年だろうから、基礎知識は完璧のはずだ」

先生「なので今日からは応用について、そしてもっと本質に近づいた授業を行う」

先生「……そうだな、まずはお前。魔法の基礎と属性の特色を説明してみろ」

「……ぼくですか?」

生徒たち「クスクス」

先生「こら、静かにしろ。そうだ、お前以外に誰がいる」

「……はい、わかりました」ガタッ

「まず、魔法というものは生物に宿る魔力を消費し、適切な手順を踏んで世界に具現化させたものです」

「魔の法則にしたがって魔力というエネルギーを代価に万物に干渉する、という感じですね」

先生「そうだ、いわば人の知恵と経験が発見した世界の理、それが魔法だ」
41 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/01(日) 15:04:30.93 ID:ohHDccGc0

「……次に属性についてですが」

「現在、世界には大きく分けて6つの属性が存在しています」

「火、水、土、風、光と闇。本来、人に扱えるものは闇を除いた5つであると聞いています」

「力の象徴である火は、破壊力、殲滅力に優れており、また主要なエネルギーとして世界中で使われています」

「知恵の象徴である水は、心を潤し、傷を癒す。高い防御性能が特徴ですね」

「命の象徴である土は、無機物から有機物までもを生み育て、戦闘としてはオールマイティな強さをもっています」

「土の特権といえば錬金、物質変換から魔力によって物質を生み出すことも可能です」

「勇気の象徴である風は、主に補助魔法が主要です。また力のある風使いは天候すらも操れるとか」

「そして光と闇、これらはいまだに謎が多く、扱えるものも極小数」

「光は癒し、浄化、解呪など。闇は消滅、汚染、呪いなどの効果があると言われています」

先生「ふむ……その通りだ」

生徒1「自分に出来ないことも詳しいんだな、そんな雑学をいくら詰め込んでも上達しないぞ」

生徒たち「クスクス」

「…………」

またもぼくは黙って微笑む
42 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/01(日) 15:16:24.42 ID:ohHDccGc0


先生「よし、いいぞ。座れ」

ミリア(……ふん、さきほどから思っておったが、いけすかぬ輩どもだの)

(仕方ないよ、本当のことだし)

ミリア(貴様は悔しゅうないのかっ!? わらわにはこのような屈辱、辛抱ならんぞっ!?)

(……ふふっ、ぼくのために怒ってくれてるの? ミリアは優しいね、ありがとう)

ミリア(うぬっ……べ、別にそういうわけではないがの)

石がほのかに暖かくなる

ミリア(とっ、ともかく、いつまでも馬鹿にされてるのではわらわが許さぬからのっ!!)

(あはは……わかった、わかったよ)

ミリア(貴様は……わらわの、勇者……なのだからの)

(……? 何か言った?ミリア)

ミリア(な、なんでもないわっ!)
43 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/01(日) 16:41:38.43 ID:ohHDccGc0

ミリア(大体な、貴様には向上心というものが足りんのだ)

ミリア(よいか? 貴様の力は貴様が思っているものよりもずっと……)

ミリア(っておい、聞いておるのか?)

「…………」

先生「――応用といってもそれは個々の想像力による、すなわち智とは力」

先生「破壊に溺れるだけでは真の魔法使いとは――」

ミリア(どうかしたのかの……急に黙りおってからに、わ、わらわが何か怒らせるようなこと言ったかの……)

(……ミリア、きみはぼくと同じ景色を見ていたんだよね)

ミリア(っ!? ま、まぁみておったぞ……ぜ、全部ではないからのっ!?)

石が熱くなる、その温もりは少なからずもぼくの不安を打ち消してくれた
44 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 16:42:11.00 ID:ohHDccGc0

(あの子リス……覚えてる?)

ぼくは教室の窓から見える子リスに目をやる、誰もそれを視認してはいないようだ

ミリア(ぬ、ぬ? ああ、あやつか。魔導士とやらのとこでみたやつだの。うむ、覚えておるぞ)

(おかしいよね、この学園は魔よけのために動物が入れないよう結界が張り巡らされてるんだ)

ミリア(と、言うことは……?)

(そ……あいつはただのリスじゃないッ!)ガタッ

先生「な、なんだ? どうした」
45 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 16:43:13.28 ID:ohHDccGc0

バリンッ!

だけどぼくはそれに瞬時に答えることはできなかった
ぼくが立ち上がった瞬間、窓ガラスは砕け散り、黒い影が進入してきたのだ

「先生ッ! 逃げてください!」

やっと声になった言葉を叫び、ぼくは駆け出す

?「うふっ、察しがいいのね。だけど遅かったわ」

侵入者は奇怪な姿をしていた。ロングコートに長くたなびくマフラー
そして……泣き顔の面

泣き顔「良い子の皆ー、忠告よ。少しでも抗う素振りを見せたなら」

泣き顔「少しでも動くのなら」

泣き顔「この先生の顔は、ぐっちゃぐちゃのスクラップになっちゃうからね? うふふっ」

そういって、侵入者は先生の顔を掴んで持ち上げた
46 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 17:07:48.42 ID:ohHDccGc0


「…………」

冷や汗がしたたり落ちる

ミリア(どうする……? やつは相当のてだれのようだの。貴様一人では到底敵うまい)

(わかってる、わかってるよ)

『―――ザザッ―侵入者――学園内に何者かが侵入しました――各教員は生徒の――――ザザッ』

(これは……通信魔法だね。よかった、これですぐ助けが来てくれるよ)

ミリア(ふん……そう上手くいくとよいがの……)

泣き顔「うふふっ……」

侵入に気づかれてしまったのだ。ならば侵入者は焦らねばならないだろう
増援に来られてまずいのは奴なのだから

先生「ぐっ……がぁっ……きさまらっ! 何が目的、だっ!」

泣き顔「あら、先生……口の利き方がなってないわ、人に物を頼むときにはそれなりの礼儀が必要でなくて?」

先生「ふっ……犯罪者に……礼儀など不要だ。ぐっ、がぁぁぁっ!?」

メギメギメギ

骨が軋むような嫌な音が先生の顔面から発せられる
47 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 17:10:44.93 ID:ohHDccGc0

声からして泣き顔の侵入者は女だろう、なぜ五指で掴んだだけであの巨体を持ち上げることができる?

(それはきっと――)

ミリア(奴も……魔法使いなのであろうな)

(だけど……あんな無骨な魔法なんてぼくは知らない。形式も方式も、ここで習ったものとは違う)

ミリア(わらわも……いや、見たことがないわけではないがの……だが――しかし)

ミリア(何故、奴らのような輩がここに――)

(……? ミリア?)

泣き顔「さて……」チラッ

泣き顔の目線がぼくへ注がれる

仮面の奥底から覗く目つきなど、ぼくには見えないが

それは明確な悪意と殺意を持ってぼくに向けられていた

泣き顔「そこのぼうや? 何を考えているのかしらね?」
48 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 17:12:02.12 ID:ohHDccGc0

「……やだな、別にあなたをどう倒そうかなんて思ってませんよ」

両手を広げて、ぼくは先生に視線を向ける

生徒2「お前っ!? なに馬鹿なこと言ってんだ! 下手に挑発して俺ら全員殺されたらどうすんだ!」

泣き顔「うふっ……うふふっ……面白いことを言うわね」

泣き顔「あなた、無能そうに見えて存外頭が切れるのね……そういう子、お姉さんは好きよ」

「あはは……そう言ってもらえて嬉しいですよ、流石に動物が人間になるなんて、予想すら付きませんでしたけどね」

「……そうだ、ぼくを好きだといってくれるのなら、その仮面を外してもらえますか?」

「その仮面の下はさぞかし美しいお顔が隠されているのでしょう?」

泣き顔「……うふふ、うふふふっ! そんな手には乗らないわよ。ね? 先生?」メギッ

先生「ぐあああああああっ!?」ポシュッ

「……っ」

泣き顔がさらに力を込めると、先生の手に浮かび上がっていた光の玉が消滅する
ぼくとの会話で先生への注意をそらし、その隙に先生が魔法を当てる

それが瞬時に思いついたぼくの作戦であった
49 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 17:15:11.60 ID:ohHDccGc0

先生はぼくの意を汲んでくれたが、こんな稚拙な作戦通用する相手ではなかった

泣き顔「うふふっ、まあいいわ。お姉さんの目的はね、こんなおっさんなんかじゃないの」

泣き顔「ぼうや……あなたが首にかけているるペンダント……お姉さんに渡してもらえる?」

「くっ―――」

思わぬ要求に、ぼくはたじろぐ

生徒2「お、おい! 何だかしらねぇけど、さっさと渡しちまえよ! お前のせいで皆が危険な目にあってるんだぞ!?」

「だけど……」

ミリア「よい、これ以上貴様を危険に陥れるなど、わらわの本意ではない」

「っ!? ミ、ミリア」

生徒1「なっ……石が喋ってるだと?」
50 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 17:25:59.17 ID:ohHDccGc0

泣き顔「うふふっ……よかったわ、本物のようね」

ミリア「……貴様は何故わらわを欲する?」

泣き顔「うふ、知ってどうするのかしら? あなたにはどうすることもできないのよ」

ミリア「いや、興味本位での……、もとより貴様が素直に答えるとは思っておらん」

「だ、駄目だよミリア……ぼくは……」

「……せっかく友達になれたきみをっ! 渡しはしない!」

ぼくは手を振り、空中に礫状の結晶を5つ作り出す

それらは横に扇のように広がって、発射された

泣き顔「――ッ!? 先生がどうなってもいいのかしらッ!?」ガバッ

泣き顔は先生を盾にして、その後ろへと隠れる

ぼくはそれを予測していた

泣き顔「!? ど、どこを狙って――がはぁっ!?」ドスッ

扇状に広がって射出された結晶は、先生と泣き顔を綺麗に避けた
そして
51 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/01(日) 17:32:40.89 ID:ohHDccGc0

泣き顔「跳弾っ!?」

教室の壁に跳ね返って、泣き顔の背中に突き刺さったのだ

先生「……ぐ、ぬぉぉっ!!!!」ブンッ

泣き顔「がっ……あっ……」ドスッ

思わぬ方向から攻撃を受け、泣き顔が怯んだ隙に

先生は泣き顔の腕を掴んで背負い投げた

背中から激しく打ち付けられた泣き顔は、力尽きたようにその場に伏せる

先生「はぁっ……はぁっ……」

先生「お前等っ!!! いまのうちに逃げろっ!!!」

生徒たち「ひっ……わぁぁぁぁっ!!」ドタドタ

先生の言葉によって、硬直が切れた生徒たちは思い思いに教室から駆け出していった
52 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/01(日) 17:33:10.16 ID:ohHDccGc0
一旦休憩、また夜きます
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/01(日) 18:05:01.21 ID:UMnbtOly0
乙!
期待
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 21:12:23.65 ID:r9UhDufDO
読みやすいし期待
55 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/01(日) 22:34:55.60 ID:ohHDccGc0
>>54 読みやすいですか? そいつぁよかったです
期待してくれてありがとう
ぼちぼち始めていきますよ、全然書き溜めてないけど
56 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/01(日) 22:35:22.24 ID:ohHDccGc0

憔悴したざわめきが遠のいていく

そしてあとに残ったのは先生とぼくと……

ぼくによく突っかかってくる生徒と泣き顔の4人だけとなった

「先生っ! 大丈夫ですか」

先生「あ、あぁ……なんとかな。助かったぞ、礼を言う」

生徒1「っ!? おい、気をつけろ!」

いつもは冷静な彼が声を荒げる

泣き顔「んふっ……うふふっ……うふふふふふふふっ!!!」ユラァ

ミリア「ふん……気味の悪いやつだの」

泣き顔はゆらりと起き上がると、狂ったように笑い始めた

先生「何がおかしいっ! お前にもう逃げ場などないぞ!」

泣き顔「うふふふふふふふふふふふふふっ! 逃げ場? お姉さん、今逃げるつもりはないのよ」

笑い続けながら両手を広げる、泣き顔の仮面には小さなヒビがついていた
57 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/01(日) 22:36:15.21 ID:ohHDccGc0
泣き顔「久しぶりにカチンと来ちゃったわ……」

泣き顔「逃げるなんていわずに、死ぬまで戦い続けましょうよ!!!!」ドッ

彼女を中心に水が巻き上がる

いくら魔法使いでも、無から有を作り出すことはできない

彼女は、自分の魔力を膨大な水量へと変化させているのだ

先生「ぐぉっ! なんだあいつ、魔力の量が尋常じゃないぞっ……!」

生徒1「……へぇ、やるじゃないか」

ミリア「お、おい! 貴様等!」

「わかってる……! 来ますよっ!」

大蛇のようにうねりくねり、渦巻く水流は10本にも達し

その1本1本が執拗にぼくらに襲い来る

「くぅっ……! 避けるだけで精一杯だ……」ザバッ

先生「あいつっ、俺たちを溺死させるつもりか?」チャプン

生徒1「くそっ……もう脛まで水が上がってやがる……!」ザッザッ
58 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/01(日) 22:38:06.57 ID:ohHDccGc0
「どうしてだ、教室にはいくらだって隙間があるっていうのに……!」ブオンッ

ミリア「……結界だの」

「えっ!?」

ミリア「わらわはああいうタイプの魔法使いを見たことがある、と言ったはずだの?」

ミリア「そしてそやつらは自分有利な戦場を作るために地形操作を行う」

先生「なるほど……俺も聞いたことはある」

泣き顔「うふふっ! のんびり話してる暇なんて、あげないんだからっ!!」グオン!

10本の水流が1本の水流へと収束し、巨大な奔流となってぼくらに襲い掛かる

生徒1「くっ……! 避けられねえ!!」

「うぐぅっ!!」ガッ

万事急須、一瞬の判断でぼくは足元の水を結晶化させ、薄紫色に輝く盾を作り出した

真正面から塞ぐ関ではなく、流れを受け流す盾として

先生「おいっ!! 無茶するな!」
59 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/01(日) 22:56:25.98 ID:ohHDccGc0

「くぅ……! ミ、ミリア! その結界を破壊する方法はっ!?」

ミリア「あ、あぁ……確か……結界を維持するための何かがあったのだ」

生徒1「何かっ!? 何かってなんだよ!」

ミリア「ええい、黙っておれ! いま思い出しておるのだ!」

「がぁ……くそ、もう……持たない」

泣き顔「うふっ、うふふふふっ!! 死んじゃえ、死んじゃえぇぇっ!!!」

ミリア「そう……そうだ、地形を変化させるのは己の魔力……それを維持するには」

ミリア「魔道具を身に着けておかねばならぬ……! それは恐らくあの仮面だのっ!!」

生徒1「 わかった、あれだな」フィンッ

「っ!? か、体が軽く……」

生徒1「俺の属性は風だ、……と言っても補助は大の苦手なんだがな」

生徒1「ないよりマシ……そう思ってくれ、欠落回路さん」
60 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/01(日) 23:10:23.65 ID:ohHDccGc0

先生「よし、俺が道を確保する。……お前、あいつの動きを一瞬だけでいい、止められるか?」

「……オーケイ、わかりましたよ。一瞬、一瞬だけですからね」

生徒1「十分、十分すぎて笑えてくるぜ」

そういって彼は、流されてきた礫状の結晶を拾ってにやりと笑う

泣き顔「うふふふ! 今更何をしようと無駄よ! ぼうやたちに、もう勝ち目なんてないんだからっ!!」

「それは、どうでしょうねっ!!」バッ

ぼくは盾を捨て、水流の下に潜りこむ

泣き顔「うふっ! 逃げたって無駄よ!」

「逃げたんじゃない、逃げるためにあなたに勝つんだ!」シュォォオ

両手で水面を叩き、ありったけの魔力を流し込む

そして水面から結晶が、塔のように伸び、水流を防いだ

本来は透き通るような結晶は、なぜだか曇っていた

ミリア「水流を防いだっ! だがそう長くはもたんぞ? どうするのだっ!」
61 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/01(日) 23:26:09.28 ID:ohHDccGc0

「大丈夫っ! ぼくは……もう1人じゃないんだから!」

泣き顔「うふふっ! 2度防いだからって調子に乗らないで頂戴!」

泣き顔は水流を自分の周囲に戻すと、大きな波を作った

巨大な波は天井まで届くほど高くなり、ぼくらに襲い掛かった

生徒1「先生ッ!」

先生「おうっ!」

波はぼくらに覆いかぶさり、全てを流しつくした

泣き顔「うふふ、うふふふっ!」

生徒1「そう簡単には、やられてやんねぇぜっ!? <ウィンド!>」ブォン!

炎の風を纏い、なんとか波を凌いだ彼は

真空の刃を生み出して彼女へ飛ばした

泣き顔「うふ、聞かないわよ? そんなものっ!」

だが、彼女の足元から水が浮き上がり、真空の刃を防いだ
62 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/01(日) 23:33:33.52 ID:ohHDccGc0

泣き顔「うふふ? ……っ!? もう一人はっ!?」

先生「ここだぁっ!!!」ザバァッ

水中に身を潜めていた先生が飛び上がる、両手には小さな火の玉が掲げられていた

泣き顔「下から!?」

先生「頼んだぞ!」

「はいっ!」

泣き顔「上からもっ!」

もう一つ生み出した結晶を足場に、塔のように伸びた結晶へ飛び移る

そこから礫を撃ち出した

始めての実戦で狙って撃ち出す……というほど上手くはいかなかったが

それでも結晶は彼女へと向かって軌道を描いた

泣き顔「くっ……!」

ぼくの精一杯の攻撃にも関わらず、彼女はなんとか首を振ってそれを避けた
63 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/01(日) 23:48:09.68 ID:ohHDccGc0

「ああ、外しちゃいました。あとはよろしくお願いします」

緊張で高鳴る胸を押さえ、ぼくは結晶から飛び降りる

先生「おう、任せろ!」ゴォォッ

直径1mほどまで膨らんだ火炎球が、先生の手を離れて彼女へと向かう

泣き顔「っ!? シールドッ!!」

火炎球は溜まった水を蒸発させながら、彼女の作った水の盾に衝突する

多量の水蒸気が発生し、燃えるほどの熱気が衝撃波となって辺りに放出された

泣き顔「はぁっ……はぁっ……! く、前が見えないわ……」

生徒1「うおおおおおおっ!!!」ブオンッ

防御に気をとられ、疲労した彼女に向かって彼は駆け出した

風を身に纏い、目にも留まらぬ速さで駆け抜ける

蒸気が散り、彼の通りすぎたところから霧が晴れていく
64 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/01(日) 23:48:44.46 ID:ohHDccGc0

生徒1「はぁっ―――!」グオッ

一瞬で間合いをつめた彼は、彼女に向かって手に持った結晶を叩き込む

泣き顔「お姉さんはね―――ここで負けるわけにはいかないのよっ!!!」グサッ

だがそれは、彼女の腕に突き刺さり、仮面へ届くことはなかった

泣き顔「くぁっ……!」

生徒1「ちっ……くそっ!」

走りぬけるスピードが収まるわけもなく、彼は結晶を握り締めたまま彼女の横へ倒れこむ

それでも、彼は彼女の方向へ振り向き、腕を掲げた
そして彼女も彼を殺そうと水流を操ろうとする

2人の動作はほぼ同時で、一瞬であった

バシュゥッ!

何かが撃ち出されるような音がして、2人は同時に倒れ伏せた
65 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/01(日) 23:58:50.15 ID:ohHDccGc0
今日はおしまいです、てかこいつら戦闘慣れしすぎですね……
まぁいいです……ゆーたくんは頭の冴える子なので!

あと生徒1くんにまともな名前をつけてあげようかと

>>68で、別にそこまで主要でないのでどんなんでも構わんです
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/02(月) 00:02:48.23 ID:dpFAb4uoo
67 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/02(月) 20:09:41.70 ID:YIoboxVJ0
いやはや、ぼくのスレを読んでくれる方は恥ずかしがりやさんばかりでいけない!

……はい、9時くらいから投下しだします
68 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/02(月) 21:07:34.65 ID:YIoboxVJ0


生徒1「ぐがぁっ……!」ドサッ

泣き顔「……ッ!」ドサッ

「水が……引いていく」

ミリア「やった、ようだの」ホッ

先生「いや、まだだ……今のうちに拘束しておくぞ」

床に残った焦げあと、散乱した机や椅子、そして水浸しになった教室

慣れない運動に疲労困憊のぼくら、唯一先生だけが疲労の表情を見せない

「……大丈夫?」トットッ

生徒1「ああ、先生が奴の周りの水を消し飛ばしてくれていたからな……致命傷は受けなかった」

ミリア「なるほど、だの」

「攻撃に使う量の水を、瞬時に生み出せなかったってことか」

生徒1「……あの女、不安定な状態で撃ち出したとはいえ、頭部に直撃したんだ」

生徒1「しばらくは気を失っていてくれるだろう」

ミリア「そうだといいのだが……」
69 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/02(月) 21:14:33.56 ID:YIoboxVJ0

「…………?」

ミリア「む? どうかしたかの」

「いや、魔力によって作られた水なら……術者の意識が失われたとき、それは消滅するん……だよね」

ミリア「うむ……魔力を保持し循環させる魔道具がなければ、必然とそうなるだろうの」

「じゃあ、何故」

先生「……? おい、なんだこいつ。おかしいぞ」

「どうかしたんですか?」

ミリア「っ……!? これは……」

先生「ああ、僅かだが、体の表面が溶けて……」

その瞬間、ぼくは視界の隅で何か動くものを捕らえた――

「先生ッ!」

途端、大声を張り上げ、先生を突き飛ばそうとするが

先生「ぐ、がぁぁぁぁぁぁあああああッ!?」

だがそれすらも間に合わず、何かが先生の肩を貫いた
70 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/02(月) 21:27:45.83 ID:YIoboxVJ0

生徒1「な、なんだっ!?」

?「あらあら、うふふっ……。お姉さんのコピーを倒しちゃうなんて、存外強いのね。ぼうやたち」

「コ、コピー? な、何を言って」

?「うふっ! 分かってるんでしょう? 水属性の魔法使いが、己の姿を変えることなんてできない」

?「なら、必然。ソレが人ではなかったというだけのこと」

?「賢いぼうやなら、薄々感づいてたんじゃないかしら?」

生徒1「……き、さまぁぁぁぁああ!!!」ダッ

?「あら? こちらのぼうやは少々おつむが弱いみたいね」スッ

何者かが手をあげただけで、彼の動きは止まる

生徒1「ッ!? 水が、足に絡まってやがる!」

?「うふふ、ぼうやには仮面を壊してくれちゃった借りがあるのよね」

?「でも、お姉さんは優しいから……一発で許してあげちゃうわ」

ドスッ!!
71 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/02(月) 22:11:12.50 ID:YIoboxVJ0

鈍い音がして、彼の姿がぐらりと揺れ

腹部から鮮血を噴出しながらその場に倒れた

「あ……あぁ……?」

床に溜まった水と、赤黒い血が混ざり合って

辺り一面に真っ赤な水溜りを作り上げた

ミリア「くっ! 貴様っ! 何をしておる、はやく逃げるのだ!!」

「あ……うぁ……」

こんなの、知らない

ぼくが知ってる物語はこんなのじゃない

みんなが元気で、笑っていて、一緒に魔法について勉強して

馬鹿にされたりもしたけれど。誰も、彼も、決して血なんて流さなかった

?「うふふっ……血を見ただけでかわいそうなくらい震えちゃって……」

?「かわいーんだ……うふっ」ベロッ

流れるような水色の髪に、スカイブルーの瞳が一息でぼくに近づき

その首筋を、冷たい舌が舐めあげた

「……ッ!?」ゾワッ
72 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/02(月) 22:54:26.16 ID:YIoboxVJ0

ミリア「……やめ、ろ……よい、わかった。わらわを持っていけ」

「な、ミリ、ア……?」

ミリア「圧倒的な力の差、今の貴様では到底敵うまい」

「そ……んなことっ!」

?「本当に、そういえるのかしら? お姉さんを目の前に、身動き一つ取れないぼうやが?」

「ぐっ……」

ミリア「どうした、はやくしろ。ほかの魔法使いが駆けつけてくるやもしれんぞ?」

?「うふっ……残念だけれど、それはないわ。お姉さんの仲間が手を回しているもの」

ミリア「っ……やはり、か」

「ミリアっ……!」

?「うふふ、じゃあお言葉に甘えて、頂いていくわね」

女性の細長く、繊細な指がぼくの首元に伸びる
73 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/02(月) 23:14:55.75 ID:YIoboxVJ0

??「そうはさせませんよ」トスッ

?「っ!?」サッ

「あ……、ま、魔導士さんっ!?」

魔導士「すみません……面白い実験体を見つけたので、観察していたんです。おかげで遅くなってしまいました」

妹「お兄ちゃん!」

「妹までっ!?」

?「……ッ、いつの間に」ツー

彼女の透き通るような白い頬に、一筋の赤い線が走る

忌々しげな瞳で魔導士さんを睨みつけるが、魔導士さんは胡散臭げな笑みを浮かべただけだった

?「あなた……そう、あなたが魔導士、ね」

魔導士「おや、私の名前を知っているのですか」

魔導士「しかし私は貴方の名前を知りません、ご無礼を承知で言わせてもらいます……」

魔導士「貴方は、どちらさまでしょうか? よほど名の知れた魔法使いとお見受けしますが」

?「うふっ……数多の魔法、世界中のありとあらゆる妙薬を手中に収め」

?「攻め入る魔物を一掃……その無差別さと残酷さによって付けられた名は死線……」

?「私の隣に人は要らない、不必要とまで言い放った、悪名名高い魔導士さん」

?「うふふふふふっ! いいわ、教えてあげる……お姉さんの名前は」

?「水魔……よ」
74 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/02(月) 23:45:09.43 ID:YIoboxVJ0
あうあう、限が悪いとこまでしかかけなかったので今日はここまでです
おつかれっした
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/03(火) 00:05:55.01 ID:5eiNVyoeo
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/03(火) 05:48:09.38 ID:lFp7EO9DO
おつおつ
77 : ◆ackVh57YJ. [sage]:2011/05/03(火) 14:46:53.17 ID:fqfDMCSl0

魔導士「ふっふっふ……はっはっはっは!! 水魔さん、ですか? いい名前ですね」

水魔「…………」

魔導士「くくくっ……いや、すいませんね。では本題に移りましょうか」

魔導士「こちらの用件はただ一つです……どうか、私に免じてここは引いてもらえませんか」

水魔「うふっ! お姉さんが素直に頷くとでも?」

魔導士「いやぁ、頷いてくれないと困りますねぇ」

魔導士「でないと、私は一つの死体を生み出すことになってしまいます」

魔導士「くっくっ……死体を生むというのも面白い表現ですね?」

水魔「うふふ……お姉さんにとっては面白くもなんともないのだけれど」ゾワッ

78 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/03(火) 14:47:49.65 ID:fqfDMCSl0


「凄い威圧感……」

ミリア「死線の実力は……衰えてはおらぬようだの」

「そ、そうだ妹。ぼーっとしてる場合じゃないんだ、治療を頼む!」

妹「う、うんっ」

生徒1「ぜ、ひゅー……ひゅー」

先生「ぐ、はぁ……はぁ、どうして、魔導士さんがここに……?」

妹「理由はあとでお話します、今は大人しくしていてください。<ヒール>……」

79 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 14:48:19.89 ID:fqfDMCSl0

水魔「……うふ、いいわ。ぼうやのペンダントは見逃しといてあげる」

水魔「もう一つの目標は、なんなくクリアできそうだしね」

魔導士「さて、そう簡単に行きますかね?」

水魔「…………うふふっ」

魔導士「……まさか」

魔導士さんの顔から余裕が失われる

魔導士「アレを連れてきているのですかッ……!?」

水魔「うふ……さぁ、どうでしょうね?」

魔導士「やめなさい! 賢者様を殺すことがどういうことか……、分かっているのですか!?」

水魔「お姉さんたちが賢者に手を出せないと踏んでのことだったのでしょうけど……」

水魔「それはとんだ思い違いだったわねっ! うふふふふふふふっ!」

ゆらぁと水魔の姿が歪む
80 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 14:50:24.43 ID:fqfDMCSl0

魔導士「ちぃっ!」ブンッ

魔導士さんが腕を振ると水魔の右腕が爆発した

水魔「ッ! がぁっ! ……うふ、うふふふふふふ……!」

痛みに顔を歪ませたのも一瞬、その姿はすぐに消えうせた

魔導士「くっ……逃げられましたね」

「ま、魔導士さんっ!? どういうことなんですか」

魔導士「……恐らく、奴等の狙いはルーちゃんとゆーたくんのペンダント……そして賢者様です」

「ル、ルーもですか!? それで、ルーはどこに」

魔導士「すみません……ルーちゃんは賢者様のところに……」

「そっ! それじゃっ!」

魔導士「ええ、私はすぐに賢者様のところへ向かいます」

魔導士「皆さんはここで、待っていてください」

「ぼくも行きます!」
81 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 14:52:13.21 ID:fqfDMCSl0

魔導士「……いえ、ゆーたくんはそのペンダントを……決して手放さないでください」

魔導士「奴等のうち一人は無力化していますが、ほかに仲間がいないとも限りません」

「ですが……」

ミリア「……その辺にしておけ、これ以上そやつを困らせるな」

ミリア「死線の異名はそやつが他人を見下しているがために付いた名ではない」

ミリア「死ぬのは自分ひとりでいい、馬鹿で愚かな優しさが他人にデッドラインを引かせたのだ」

「……ミリア」

魔導士「ふ、はっはっはっ! 大丈夫です、そう簡単には死んじゃえないんですよ。私は」フォ……

魔導士さんの体が柔らかな風に包まれていく

妹「……魔導士さん」

妹「ルーちゃんを、お願いします」

魔導士「……ええ、任せてください」フォンッ

そういい残して、魔導士さんの体は虚空へ消えた
82 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 14:52:50.95 ID:fqfDMCSl0


大勢の生徒が廊下に倒れている中

彼女だけは、おぼつかない足取りながらも両の足で立ち歩いていた

その通り道には水のあとが線を引くようにたなびいている

水魔「はぁ……はぁ……」ヨロッ

水魔「あいつがいるってことは……炎魔は失敗した、って訳ね」

水魔「あの子は大丈夫なようだけど」

水魔「っ……ぐ……」

水魔「……腕一本で済んだのなら、安いものだわ」

ニュルッ

左手から生み出された水が、水魔の右腕にまとわりつき

傷口を癒し始めた

水魔「うぐ、かぁっ……はぁ……」

額には玉のような汗が吹き出ている

やがて、痛みは治まり余裕が生まれた

水魔「炎魔は……いいわ、自分でなんとかするでしょうし」

水魔「……待っていて―――」
83 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 15:27:40.91 ID:fqfDMCSl0


豪勢な装飾品、年代モノの調度品

ぱっと見回すだけで位の高い人物の部屋だと察することができるだろう

そんな中に、ルーはいた

幼女「ねーねー、じっちゃ。ゆーたと、ねーたんと、おいさんは?」

老人「大丈夫だよ。またすぐに会える」

幼女「さっきかあ、そえばっかい! つまんないのっ!!」プンプン

女性「……賢者様」

老人→賢者「秘書、どうかしたか」

女性→秘書「国に連絡がつきません……向こうでも何か起こっているようです」

賢者「……智の国の奴等め。少数精鋭というわけか、俺の庭で好き放題やりやがって」ガタッ

秘書「っ……! 駄目です、賢者様」

賢者「離せ、俺が終わらせる」

秘書「やめてください……」
84 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 15:28:44.04 ID:fqfDMCSl0

幼女「……?」キョロキョロ

賢者「ん、どうかしたかい?」

幼女「なにか、くうよ?」

ガタッ

秘書「っ!?」

賢者「秘書、下がれ!」

ドゴォォン!

秘書「きゃぁっ!?」

パラパラ……

砕かれた瓦礫が、3人を襲う

しかしそれは賢者の生み出した水の盾によって防がれていた

?「お前がっ! 賢者だな!」

壁を突き破って現れた人影は、無表情の仮面にブラウンのコート、赤いマフラーを身に着けていた

ところどころに砂埃を被ってはいるが、烏の濡れ羽色の髪は艶やかなままであった
85 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 15:29:23.37 ID:fqfDMCSl0

賢者「そうだ、と言ったら?」ゴゥッ

賢者は両掌に、まばゆい閃光を放つ青白い炎を顕現させる

無表情「……ッ、おれはっ! お前を殺してみせる!!」ダッ

コートの下から取り出した短剣を二刀逆手持ちにし、一息で賢者に詰め寄る

無表情「はぁ――ッ!」ブンッ

賢者「ふんッ――」

右から襲い掛かる短剣を軽く避け、続いての追撃をバックステップでなんなくかわすと

賢者は青白い炎を襲撃者へ向ける

無表情「くッ!?――」

それは閃光を撒き散らして、爆ぜた
86 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 16:08:44.57 ID:fqfDMCSl0

軽々と吹き飛ばされた襲撃者は、壁に激しく打ち付けられてずり落ちる

賢者「ふん……威勢がいいだけのガキか」

無表情「…………」

事切れたかのようにピクリとも動かない

当たり前だ、世界最高クラスの魔法使い

六賢人のリーダーである賢者の一撃をもろに食らって立ち上がれるものはそういない

幼女「あぅ、じっちゃ! あぶないよ!」

無表情「…………」カクン

賢者「なんだとッ!?」

見えない糸に引っ張られるかのように、襲撃者の体が立ち上がる

そしてゆっくりと、賢者に向かって歩み始めた

賢者「なぜ、立ち上がってこれる!」ゴゥ!

仮面の外れたその顔は、恐ろしいほどの笑みを浮かべていた
87 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 16:16:46.03 ID:fqfDMCSl0

賢者「なぜ、この状況で笑っていられる!」

焦りと畏怖の表情で、賢者は両手を広げた

すると賢者の周りに、いくつもの青白い炎浮かび上がる

それらは輪となって賢者の前に浮かんだ

?「ケラケラケラケラケラ」

賢者「なぜ、俺を殺そうとする!」シュオオ

両手を前に、そして左手を残して右手を引く賢者

一瞬で土の矢と弓が生成され、その弓に冷気が纏い始める

渾身の魔法なのだろう、力を込めすぎているせいで賢者の腕は徐々に氷つき始めていた

秘書「ッ! 賢者様ぁ!?」

秘書が悲痛な叫びをあげるが、極限まで集中している賢者には届かない

賢者「俺はお前が恐ろしくて堪らない」

精一杯に弦を引いた右手には、ヒビが生じていた
88 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 16:20:00.48 ID:fqfDMCSl0

?「ケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラ」

賢者「お前の底知れぬ力が恐ろしい!」

賢者と襲撃者を隔離するかのよう、白く光る壁が現れた

秘書「や、やめてください! 賢者様!」ドンドン

秘書は壁を執拗に叩くが、傷一つ付けらることはなかった

賢者「お前は必ず、俺の仲間を殺すだろう。それが俺にとって死よりも怖いことだ」

賢者「ならば俺は消し炭になろう、お前もろとも」

?「ケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラ」

賢者「いくぞ! 俺の敵!! 俺の全てをかけて、お前を葬る!」

キュィィィィィィィィィィィイイイン

耳を劈くような音がして

世界は光に包まれた
89 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 16:35:36.60 ID:fqfDMCSl0



?「うぐっ……あ、がはっ……」

秘書「そ、んな……」

幼女「じっちゃ? どこいっやったの?」

その場に残ったのは、苦しげに血を吐く襲撃者と

賢者によって守られた秘書とルーだけであった

秘書「賢者……様ぁ」

水魔「……うふふっ、勝手に自滅してくれるなんて。天下の賢者様も存外脆いのね」

突如現れた人物に秘書は視線だけをやった

秘書「あ、なたは……?」

水魔「うふ、いいのよ……気にしなくて、さぁ、ゆっくりおやすみなさい」

秘書「ふぁっ……あっ、んん」パタリ

幼女「ね、じっちゃが、どっかいっやったの! おねーたん、しあない?」

水魔「うふふっ、じゃあお姉さんが教えてあげよっか!」

幼女「おねーたん、しってうの!?」

水魔「ええ、もちろんよ。ほら、一緒に行きましょ?」

幼女「うんっ!!」
90 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/03(火) 16:39:29.75 ID:fqfDMCSl0
うしうし、あとちょっとで一章終わる!
きっと多分恐らく
そして一旦休憩

また夜来ますね
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/03(火) 20:42:46.31 ID:iAo7cNKDO
92 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/03(火) 21:26:05.35 ID:fqfDMCSl0
読み直すと色々ひどいなぁ、展開早くしよう、テンポ良くしようとか思って書いてたんですけど
もっと日常的なものやキャラ同士の絡み書いたほうが良かったかなぁ

どうですか、こんなものですかね?
気になったところあったら言ってください、しょっちゅう覗いてるんで即効返します
あ、投下は10時からで、はい
93 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 22:00:06.30 ID:fqfDMCSl0



世界に、まばゆい光が放たれた少し前

魔の国・首都―城下町―

ダッダッダ……

憲兵「おいっ! いたか!?」

憲兵「いや、こっちにはいない」

憲兵「糞ッ! このままじゃ減給間違いなしだぞ、はやく見つけろ!!」

憲兵「分かってる! ちったぁ黙って探せ!」

…………

?「……いったな」

幼女「………………ローグ」

ローグ「……どうした、リン」

胸元に、淡く光る石を携えた少女は答える

リン「しっぱい」

ローグ「……そうか」

リン「いくの」

ローグ「ああ」

リン「そう」

ローグ「闇属性魔法……<インビジブル>」スゥ

2人の姿は消え

リン「…………」バサァッ

何かが羽ばたく音だけが、虚空から伝わるだけだった
94 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 22:01:08.56 ID:fqfDMCSl0


校内の廊下を、襲撃者を抱えた水魔と

ルーが並んで歩いていた

幼女「ねー、どこいくの?」

水魔「学校の外よ」

幼女「そのひと、じっちゃとたたかってた、ひとだよ?」

水魔「ええ、知ってるわ。だから捕まえたのよ」

幼女「おねーたん、なんで、おててけがしてうの?」

水魔「悪い奴等にやられちゃったのよ」

幼女「ふーん! いたいの?」

水魔「ええ、とっても……」

幼女「いたいんだ! じゃーね、うんとね、いたいのいたいの、とんでけっ!!」

幼女「むむむ〜」

水魔「うふふっ、ありがとう、もう大丈夫よ」

幼女「えへへっ!」ニパッ
95 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 22:01:44.34 ID:fqfDMCSl0

フォンッ

魔導士「……どこへ行くのですか?」

一筋の風が吹くと

水魔の行く先に、魔導士が立っていた

水魔「……うふ、どうせ聞いてたんでしょう? お外よ、今日はいい天気だからね」

幼女「あっ!! おいさん!」トテテッ

水魔「駄目よ、ルーちゃん」ガシッ

幼女「あぅ……どーして? るー、おいさんとあそぶの!」

水魔「あの人はね、ほんとはとっても悪い人なのよ」

魔導士「おやおや、ひどい言い草ですね? 私たちの生徒を傷つけ」

魔導士「我が恩師を殺し、挙句の果てには児童誘拐」

魔導士「さらにその罪を擦り付けようとしている。流石の私も黙っているわけにはいけませんね」ゾワッ

幼女「……おいさん、こわい」

水魔「っ……! うふふ、いやね。短気な男は嫌われるわよ」

水魔は余裕めいて笑って見せるが

そんなものはちっとも、これっぽっちも通用しなかった
96 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 22:04:09.57 ID:fqfDMCSl0

魔導士「それはいいとして。さて、聞かせてもらいましょうか」


魔導士「ソレを連れて、どこへ行くおつもりですか」


凍るような、平坦で抑揚のない声

人間味のないその言葉は、水魔を怯ませるだけに十分なほどだった

水魔「……ッ」

水魔はあまりの威圧感に押され、たじろぎ、呼吸を忘れる

否、忘れているのではない。出来ないのだ

たかだか分身ごときで、そこいらの魔法使いより圧倒的な魔力差を見せ付ける水魔であっても

死線の前では死に怯える一人にすぎない

魔導士「ソレは恐ろしいほど強力なものです。ただ力を欲するだけの人間が扱うものではありません」

魔導士「人に近しい容姿をしていようが、貴様ごときがコントロールしていいものではない」

魔導士「わかったか? わかったならソレを私たちに返せ」

魔導士「竜人を道具にするな!! 身の程を弁えろ!!」
97 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 23:45:22.43 ID:fqfDMCSl0
水魔「……うふ、何を勘違いしていらっしゃるのかしら?」

魔導士「なんだと?」

水魔「そう怒らないで頂戴、貴方が取り乱すなんて相当なものね」

水魔「何か、竜人に深い思い入れがあるようだけれど。そんなのお姉さんには関係ないわ」

水魔「この子がお姉さんたちに必要なわけじゃないの、あなたたちの国が欲しがっているのよ」

魔導士「……」

水魔「否定はできないでしょう? 幼生の竜人であっても」

水魔「戦局を覆すほどの力を持っているものね」

水魔「ま、それはいいパートナーが見つかればの話でしょうけど」

魔導士「ふっふ……はっはっはっは!」

突然、声を上げて笑う魔導士を水魔は怪訝な目で見つめる
98 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 23:47:17.59 ID:fqfDMCSl0

魔導士「そんなもの、とっくのとうの昔っから、はなっからいるんですよ」

魔導士「ですがね、私たちは彼等を国へ引き渡すつもりはありません」

魔導士「お国同士の小競り合いなどに興味もありません、眼中にもないのです」

魔導士「戦争などという細事、子供のお遊び、大いに結構。いつまでもやっていてください」

水魔「な……にを言って……」

水魔「あなたたちの身勝手な戦争で、どれだけの人が苦しんだと思っているの!?」

水魔「書面上の平和をいつまでも続けて、仮初の平和に溺れて!」

水魔「その癖馬鹿みたいに小競りあって! そのために何人の人が死んでいったと思うの!?」

水魔「わたしは大戦を見たことなんてないわ。だけどその爪痕に取り残されて」

水魔「死んでいった人は死ぬほど見てきたのよ」

水魔「だから、二度と戦争なんて起こさせない!
99 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 23:51:30.96 ID:fqfDMCSl0

幼女「あぅ……あぅ」

魔導士「ふふ……冗談ですよ、少し言い過ぎました」

魔導士「私としても戦争は食い止めておきたいのですよ」

魔導士「私が信じたものを守り通すために、障害となるものですから」

水魔「目的は同じ……というわけにはいかないわよね」

魔導士「ええ、ルーちゃんの件を私に一任してくれるのであれば、済む話なんですが」

水魔「冗談、あなたなんか信用できるわけないわ」

魔導士「ふっ……はっはっ! これは手厳しい! 実を言えば、私は貴方とのいざこざもなくしておきたいのですが」

水魔「うふふ……またまた、面白い冗談ね?」

魔導士「冗談ではありませんよ……障害の芽は、ここで摘んでおきますっ!!」
100 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/03(火) 23:52:44.36 ID:fqfDMCSl0

水魔(来るッ!! だけどこちらは圧倒的に不利……! ここは逃げるしか)

リン『……そと、きて』

水魔『リンっ!? ということはローグもッ……!』

魔導士「余所見をしている余裕なんて、あるんですか?」ボシュッ

魔導士が放つは炎と風の合成魔法、高速で飛び、触れた場所を爆発させる

水魔の右腕を千切り取った魔法だ

水魔「――くっ!」

一瞬の判断で水魔は窓ガラスを突き破った

ルーを左手で抱え、水で作り出した手で襲撃者を掴みながら

だが、それは万全というわけには行かなかった

ドォンッ!

運悪く、魔導士の一撃が水の手に衝突し、爆散する

水魔「ちィッ!!」
101 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 00:35:23.71 ID:4iZKUHrl0

水の手を構成する水が吹き飛び、中ほどから手がちぎれることになった

?「…………」ドサッ

水魔は焦るように再び手を伸ばすが、体はすでに宙に浮いていた

届くはずもなく、水魔は消えた

魔導士「くっ……!」

バサッバサッ……

何かが羽ばたく音が遠のいていく

魔導士「やれやれ、逃してしまいましたか」

魔導士「どうしましょうか、ね」

首を捻って、軽く思案

魔導士はしばらくその場に立ち尽くしていた
102 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 01:17:09.59 ID:4iZKUHrl0



タッタッタッ

「はぁ……はぁ……はぁっ……! 魔導士、さん!」

ミリア「魔導士っ!」

魔導士「……ゆーたくん…………ミリア」

「すごい、光がして……それで気になって出てきたら……皆倒れてて……ガラスの割れる音がして……」

ミリア「落ち着け落ち着け」

ぼくは気が動転して、うまく話すことができなかった

それを察して、魔導士さんがぼくに状況を伝えようとする

魔導士「いいですか。落ち着いて聞いてください、奴等にルーちゃんをさらわれてしまいました」

「ッ……!」

ミリア「……ふむ」

ぼくは、思わずいきり立ってしまいそうになる体をどうにか押さる
103 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 01:18:47.18 ID:4iZKUHrl0

魔導士「本当に申し訳ない……私は今から奴等を追いかけます」

「魔導士さん……」

そう、魔導士さんは悪くない。さっきだって必死にルーを助けようとしてくれていたのだろう

それに今も

魔力の消耗が激しいのだろうか、いつもは優しげな微笑を浮かべているが

今はその微笑すらも強張っている

「……この人は?」

ミリア「この学園の生徒ではなさそうだの」

魔導士「さぁ……、私にも分かりかねますが。間違いなく生徒ではないでしょう」

魔導士「訪問にきてたまたま奴等の襲撃に見合わせた……そして巻き込まれたんでしょうね」

魔導士「傷が深かったので軽く手当てをしておきました」

「そうなんですか……」

魔導士「では私はもう行きます、その人を安全なところまで逃がしておいてください」

そういって魔導士さんは再び消えた
104 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 01:20:50.51 ID:4iZKUHrl0

?「…………かは」

ミリア「む……意識が戻ったようだの」

?「ん……く、っつぅ!?」

「っ!? だ、大丈夫ですか?」

?「……こ、こは? おれは一体」

「気を失ってたみたいですよ、どこか痛むところはありますか? 一応手当てはしてあるみたいですけど」

?「体中が痛いけど……大したことない、大丈夫だ」

「ところで……こんなところで何をしていたんですか」

?「……? 何をって……あれ、なんだっけ」

「え?」

?「……そう、おれの名前は……盗賊、のハズ。だけど……」

「も、もしかして」

盗賊「ああ! 記憶喪失って奴だな!」ニコッ

「それ、笑顔で言うことじゃないからね!?」

どうやらこのお方、かなりポジティブなようだった
105 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/04(水) 01:30:32.94 ID:4iZKUHrl0
やべえwwwwww
書きつつほかのSSみてたらミリアの名前被ってたwwwwww
オリ名で被るとかwwwwぱねえwwwしかも俺のが後だしwwwww

堪忍です……けして故意で被せたわけじゃあないんです

っと言ってあげて深夜のノリで今日はおやすみ、お疲れでした
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/04(水) 08:48:02.82 ID:QOAr+uwDO
107 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/04(水) 11:28:17.28 ID:4iZKUHrl0
今日中に一章終わればいいなー、なんて
なぜか早く起きれたので投下してくます
108 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 11:29:23.62 ID:4iZKUHrl0


盗賊「なあ、お前の付けてるそのペンダント、綺麗だな」

「うん? そうだね」

ぼくは友達が宿る……というのもおかしな話だが

ミリアの意志が詰まっている銀色の石を優しくなぞった

ミリア「ひぁぁっ!?」

盗賊「うぉっ!?」

突然、嬌声をあげた石に盗賊は過剰に驚いた

「び、びっくりした。どうしたのミリア」

ミリア「び、びっくりしたのはわらわのほうだ!! い、いきなり何をしおる!!」

盗賊「お、おい! 石が喋ったぞ! すっげーな!」

「だ、だって、全然喋ってくれないものだから……」

ミリア「だって、ではない! わらわは狙われておるのだぞ!? やすやすと正体を曝け出す阿呆がおるかっ!!」

「ご、ごめん……」
109 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 11:30:19.91 ID:4iZKUHrl0

盗賊「すげぇ! すげぇなおい! どうなってんだこれ?」ヒョイッ

歳はさして変わらないようだが、好奇心旺盛の大きな瞳が幾分か幼くみせる

ミリア「こ、これっ! 気安く触れるでない! ひゃぁっ!? や、やめろ! そんなとこ……んっ!」

「ちょ、盗賊……それくらいにしといてよ」ドキドキ

盗賊「お、お? ごめんごめん。変な声だすのが面白くて、ついな!」

ミリア「何が、ついな! だ!! もう貴様はわらわに触れるでないぞ! よいな!」

盗賊「ちぇー……いいじゃん、ちょっとくらい」

ミリア「駄目だと言ったら駄目なのだ!」

盗賊「ぶー」

ミリア「膨れても駄目だ」

盗賊「ちっ」
110 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 11:31:10.48 ID:4iZKUHrl0

ミリア「」ビキッ

ミリア「舌打ちしたなっ!? よかろう、貴様ぁ! そこに直れぃ! こやつが貴様の礼儀を正してくれるわ!」

「えっ!? ぼくが!?」

ミリア「当たり前だ! わらわの勇者であるところの貴様が、わらわに対する無礼を正す」

ミリア「当然の義務であろう!」

「んなむちゃくちゃな……」

盗賊「ふぅーん……じゃあ、教えてよ」

盗賊「れ・い・ぎ、って奴をさ、勇者?」ズイッ

ずい、と盗賊はその顔をぼくに近づける
111 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 11:32:33.85 ID:4iZKUHrl0

染み一つない肌にぷっくりとした唇、端整な顔立ち、イケメンと言うには少し全体的に輪郭が丸い気もするが

それになんといっても特徴的なのは大きな瞳だ。漆黒の黒目に柔らかな光が差し込み反射している

輝いた目をしているとでも言うか……だが人為的に生み出した光源ではなく

悪魔で自然体、ずっと見つめられているとそのまま吸い込まれそうなほど黒かった

実際、瞳に映るぼくは、その瞳に捕らえられた瞬間、その中に吸い込まれ閉じ込められているのである

さらに烏の濡れ羽色に艶めく短めの髪から発する、甘い香りがぼくの鼻腔をくすぐり

なぜだかぼくの心音はいつもよりまして大きくなっている、そんな気がする

ミリア「でぇぇぇぇえい!!! 何を男相手にどきどきしておるのだぁぁぁぁっ!?」

「う、わ、わ」

ミリアが発した大声で、ぼくは後ずさりする

盗賊「おい! 何を勘違いしてるかわかんねえけど」
112 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 11:33:17.80 ID:4iZKUHrl0
盗賊「おれは女だぞ!」

ミリア「へっ?」

「え?」

盗賊「えっ?」

盗賊「なんだよその反応は!!」

ミリア「ほ、ほう……そうなのか、わ、わらわはてっきり男児かと……」

「う、うん……ちっちゃいしね」

盗賊「ち、ちっちゃいいうなぁっ!! これでもちゃんと胸はあるんだぞっ!?」

ミリア「ああ、そうだの。うむ、別に幻想を見るのは悪いことではない」

「…………ぼくは身長のこと言ったんだけどね」

盗賊「や、やめろぉ! おれをそんな目でみるなっ!!」

「そんな目って……どんな目だよ」
113 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 11:34:01.11 ID:4iZKUHrl0

盗賊「ぐ……いいぜ! 証拠を見せてやる!」バッ

盗賊はコートのしたに来ていたシャツを捲り上げる

「おわぁっ!?」

ミリア「ふむ……サラシを巻いておるのか、どおりで小さいわけだの」

盗賊「動きづらいからな! って、お前はなんで目逸らすんだよ」

「あ、あたりまだろっ!? おお、女の子がそんなことするもんじゃない!」

盗賊「……? 〜〜〜ッ!? な、なんだよ……調子狂うじゃんか」プシュー

頭から湯気でも出そうなほど、顔を赤く染める

ミリア「……ふん、恥ずかしいならもとよりしなければよかったのだ」

盗賊「う、うるさいなっ!」
114 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 11:44:23.02 ID:4iZKUHrl0

盗賊「で、でもこれでおれが女だってこと、わかってくれたよなっ!?」

「あ、ああ、うん。わかった、わかったよ」

「こんなかわいい子が、男なわけないじゃないか」ニコッ

拗ねたように声を荒げる盗賊に、ぼくは笑顔で優しく宥める

盗賊「か、かわいいって言うな! お、おれ、はっ!!」

盗賊「そ……その……おれ、は」ボシュッ

ミリア「ああもう、よいよい。これ以上いじめてやるな勇者よ」

「ぼくはいつから勇者になったのさ……」

ミリア「ふん、最初からに決まっておろう。して盗賊」

盗賊「なんだよ……」

ミリア「魔導士からの頼みでの、貴様を安全な場所へ連れて行くのがわらわたちの役目なのだ」

「そう、きみを送ったら、ぼくたちはすぐに行かなきゃいけない場所があるんだ」
115 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 12:16:19.60 ID:4iZKUHrl0

盗賊「行かなきゃいけない場所?」

「ぼくたちの家族が、悪い奴等に攫われたんだ。そいつらはきみを傷つけた奴等だと思う」

盗賊「そいつらが、おれの……記憶を奪った……やつら、なのか?」

ミリア「さあの、だがこれだけは言える。奴等は強い」

ミリア「本来ならばわらわは止めるべきなのだが、こやつがどうしてもと言うのでな。……それに」

盗賊「それに?」

ミリア「機は早いほうがよいのでな……少々強引だとは思うがの」

盗賊「ふーん、何だかよくわかんねーけど」

盗賊「急いでるんだろ? だったらおれも行くぜ!」

「えっ!? そ、それは駄目だよ。危険すぎる!」

ミリア「お遊びでいくのではないのだぞ? ましてや、勇者はまだまだひよっこ」

ミリア「己の面倒すら見れぬのに、貴様を意識している間もないのだぞ?」
116 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 12:21:41.02 ID:4iZKUHrl0

盗賊「ああ、大丈夫だぜ。さっきおれの荷物を調べてたんだけど」

盗賊「一応、武器なんかも持ってるし。記憶はないけど、きっと体は覚えてる」チャキッ

そういって盗賊は二刀の短剣を取り出すと

くるくると器用に回転させて見せた

「だけど……」

盗賊「だいじょーぶだいじょーぶだって! おれたち、もう友達だろ?」

盗賊「友達が困ってんのに、黙って見過ごせるわけねーよ!」

「……友達、か」

ミリア「ふん、好きにさせておけ」

「うん、ありがとう。盗賊」

盗賊「おっしゃっ! 決まりだな、行くぞ勇者っ!!」ダッ

「あっ、ちょ、待ってよ!」ダッ
117 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 13:44:26.04 ID:4iZKUHrl0


バサァッバサァッ

昼過ぎの暖かな日差しと、柔らかな風が水魔の濡れた体を徐々に乾かしていく

リン『だいじょうぶ』

水魔「……ええ、でも……あの子が」

ローグ「……構わん、あとで俺が行く」

幼女「……うっ、ひくっ。ゆーたぁ……」

そんな中、ルーは水魔の膝の上で大粒の涙を流していた

ローグ「…………」

リン『なかないで』

幼女「……うぅ、ひっく」

3人を乗せた何かは、上空へ舞い上がり高度を増していく

そして太陽に近づき、いまのいままで隠されていた姿が段々とあらわになっていった

ローグ「……やはり昼間では……」

そうぽつりと呟いた瞬間

ローグは地上から光る何かを視界の隅に捕らえた
118 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 13:45:59.30 ID:4iZKUHrl0

ローグ「……リン、下だ」

リン『うん』

濃い紫色の鱗、紅く爬虫類のような瞳、鋭い爪を携えた両手足

太陽を覆い隠さんと大きく広げられた両翼、長くしなやかで強靭な尾

伝説の生物である、ドラゴンの姿がそこにはあった

ドラゴンは地より飛来する何かを旋回することでなんなくと避ける

それは、光り輝く複数の矢であった

ローグ「まだ来るぞ」

リン『……』

水魔「ちょ……なんなのっ!? あれ!!」

水魔が悲痛な叫びをあげるも

ドラゴンを狙撃する光の矢は一向に収まる気配はしない

ローグ「落ち着け……恐らくは先刻の光と関係するのだろう」

リン『なにか、わからない』
119 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 14:29:27.78 ID:4iZKUHrl0

水魔「そ、そうね、あの光……賢者が最後に放った光に似てる……、ッ!?」

水魔「ちっ……あの老いぼれ、最後の最後にやりやがったわね」

ローグ「何か分かったか」

水魔「ええ、あれは恐らく……拠点防衛用魔法陣、それもとびっきり強大な」

水魔「賢者の死とともに発動することになっていたのでしょうね」

水魔「そして今の使用権を持つ人物は……魔導士」

ローグ「……奴か。リン、まだくるぞ」

リン『……っ、だめ、ろーぐ、よけきれない』

リン『りょうが、おおすぎる』

ローグ「……<グラビティ>」

ローグの手から黒い塊が生み出され、それはゆっくりと降下していく

ちょうどドラゴンの真下に来た辺り

そこで黒い塊ははじけるように広がった

光すらも捻じ曲げ、万物を押し付ける強力な力が光の矢を弾き落とす
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 18:05:06.55 ID:U/Q/oTMDO
しえーん
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 19:39:22.71 ID:Pzlw5vHDO
面白い魔法の小道具頼む!歴史学者の人?
122 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 19:57:28.25 ID:4iZKUHrl0
>>121
残念ながら違いますお……
あと面白い魔法の小道具……武器みたいなもんですかね? 考慮しておきます

急な外食に誘われて出かけておりました、ぼちぼち投下してくます
123 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 19:58:40.50 ID:4iZKUHrl0

水魔「どうするのよ! あれの射程距離は尋常じゃないわっ!!」

ローグ「わかっている」

そういうと、ローグはどこからともなく円錐状に尖った黒光りするランスを取り出した

水魔「ローグ……っ!?」

ローグ「あいつを殺さねばならんのだろう、ならばやることは一つ」

リン『もたない』

ローグ「リン、降下しろ」

リン『わかった』

水魔「正気っ!? この矢の中を降下するなんて!?」

ローグ「黙っていろ、舌を噛むぞ」

重力にひきつけられるが如く

その竜は、急降下をはじめた
124 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 20:01:34.37 ID:4iZKUHrl0



芝生が生い茂り、綺麗な花を咲かせる花壇

生徒たちの憩いの場となるはずの校庭は、剣呑な空気に包まれている

魔導士「ふふっ、戻ってきてくれるようですね」

その理由は明確であった

学園の敷地内に張り巡らされた魔法陣

それらは絶えず淡い光を放ち、光の憲兵を作り出していた

矢と弓を装備したもの

剣と盾を装備したもの

百を優に越える光の軍団がそこに存在していたからだ

壮観であった、達観であった

この学園すべてが魔導士の手中に納まっているかのように思えた

事実、それは真であろう

だがその男は、そんなものに興味などなかった、感慨に耽っている暇などもなかった
125 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 20:02:57.40 ID:4iZKUHrl0

魔導士「さぁ、かかってきなさい」

魔導士「ソレを貴方たちに渡すわけには、いかないのですから」

所詮、己が目的を果たすための道具にすぎないのだから

たとえそれが、恩師の残した最後の英知であろうとも


空にひとつの筋が見えた

紫色の、実に不吉な色だ

それを見据えて、魔導士は懐に手を差し入れ

魔導士「…………」

ゆっくりと引き抜かれた両の五指の間には

計8本の鈍く光るメスが握られていた

それはこれより敵は八つ裂きにされる、という明確な敵意をも孕んでいた
126 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 20:22:34.92 ID:4iZKUHrl0

その敵は紫の軌跡を描きながら、地上から放たれる幾千、幾百もの矢をかいくぐってこちらへ近づいてくる

今が夜であったならば、さぞかし幻想的な景色となっていただろう

だがそれも所詮は幻想だ

魔導士「私に武器を使わせるのですから」

魔導士「精々あがかせてもらいましょう」バッ

魔導士は両手を虚空に広げ、手にしたメスを放つと

それらは宙に浮き、鋭利な刃先で敵を射線上に捕らえた

魔導士「ですが、この程度の武器を使ったところで私に勝ち目はないでしょう」

魔導士「何せあのドラゴンを相手にするのですから」

魔導士「ふっふっふ……はっはっはははははははは!!!」

ローグ「…………」

竜にまたがり、ランスを手にした敵がこちらへ向かってきていた

その距離は数十メートル、魔導士の間合いである
127 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 20:23:26.76 ID:4iZKUHrl0

魔導士「行きますっ……」フォン

周囲に広がったメスの一つ一つが高速で回転し、風を切り裂く

そして

リン『ろーぐ』

竜が鳴いた

ローグ「はぁ――!」

魔導士「ちっ――!」

魔導士の眼前から竜は消え、騎手だけが魔導士と合間見合った

ローグ「……やはりな、お前ならば秘策は用意してあると」

魔導士「それはそれは、とんだ過大評価ですよ」

ローグ「リンを逃がしてよかった、まさか"竜殺し"を使うとは思わなかったがな」

魔導士「くっくっ……」

ローグ「リン、"竜殺し"の範囲は十メートルほどだ、下がっておけ」

リン『わかった、ろーぐ、きをつけて』
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) [saga sage]:2011/05/04(水) 20:47:28.49 ID:4iZKUHrl0

魔導士「……さて、どうしましょうかね」

ローグ「…………正直、リン無しでお前に勝てるとは思っていない」

魔導士「ふふ、それが過大評価なんですよ、私はそんな大それたものではありませんから」

魔導士「そして貴方は自信を過小評価している。いえ、私に隙を見させるため、ですかね」

魔導士「貴方たちは私を殺さなければ逃げられない」

魔導士「貴方の言い分を信じるならば、竜を使うことを放棄した貴方に、勝ち筋はありません」

ローグ「…………」

魔導士「魔の国……首都を攻めたのでしょう? 単独で、そしてある魔道書を盗みとった」

ローグ「ふん、よく喋る奴だ……どうせ国の通信魔法でも傍受していたんだろう」

魔導士「ふふふっ……人聞きの悪いことを言いますね。ま、その通りなんですが」
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) [saga sage]:2011/05/04(水) 20:57:25.12 ID:4iZKUHrl0
魔導士「それで、私が言いたいのはですね」

魔導士「その太古より伝わりし、古の大魔法使いが記したその魔道書に眠る」

魔導士「禁呪とやらを使うのでしょう? それで私の物語を終わらせる」

ローグ「ふっ、どうした? 今更怖気づいたか」

魔導士「……まさか?」

魔導士「それは仮定の話です、選ばれてもいない貴方に禁呪が使えるとは限りませんから」

魔導士「前置きはそのくらいでいいでしょう? さぁ、はじめましょう」

ローグ「いいだろう……いざ、参る」

魔導士はメスを抜きさり

ローグは片手でランスを振るった
130 :酉付け忘れてた ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 21:10:49.67 ID:4iZKUHrl0

魔導士「水風合成……<ライトニング>ッ!」

ローグ「遅い」ヒュッ

魔導士の高速詠唱の隙をつき、ローグは突きを繰り出す

数メートルの距離など無しに等しく、その矛先は真っ直ぐに魔導士へ突き刺さった

はずだった

魔導士「くくっ――」

ローグ「ちぃっ――」

ローグが貫いたのは電気を帯びたメス、カキンと弾かれたメスはそのまま刃先をローグに向け

雷撃を放った

そしてさらに

魔導士「炎風合成<エクスプロージョン>」

ローグの真後ろへと回った魔導士が、次手を繰り出す

ローグ「ふん……<グラビティ>」

それに対し、ローグはランスを地面に突き刺すだけであった

ただそれだけの行為で、周囲に強大な力場が作られ、魔導士の魔法がローグに届くことはなかった
131 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 21:21:53.61 ID:4iZKUHrl0

魔導士「くっくっ……汚い手を使いますねぇ」

ローグ「お前も……な、<インビジブル>」スゥッ

魔導士「姿を隠しながら言う返しですかっ!? 水土合成<マッドレイン>」

メスを宙に投げると、一瞬で暗雲が立ち込め、泥水が振ってきた

ローグ「ちぃっ……」

それは地面を泥沼にし、消え去ったはずのローグの姿をも曝け出す

そしてさらには泥沼化した地面によってローグの身動きを縛ろうとする

ローグ「…………ッ」

だが完全に足を止められる前に、ローグは宙へ飛んだ

魔導士「愚考でしたね……炎土合成<メテオ>」

いつのまにか周囲に張り巡らされていたメスが、ローグへ向かう

そしてそれらは紅く赤熱し

燃え盛る隕石となって襲い掛かった

ローグ「ッ!?」
132 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 21:54:07.05 ID:4iZKUHrl0


ドゴォォォォォン……

すぐ近くで大きな音とともに地響きが伝わってくる

「……きっと、校庭だ」

盗賊「校庭!? それってどっちだ!」

「あっち……まってて、魔導士さん、ルー!」

ミリア「派手にやらかしおって……魔導士のやつ、無茶しすぎだの!」

ミリア「急げ勇者! 肺から血がでようともその足を止めるでないぞ!」

「はぁっ……はぁっ……そんな無茶だって」

盗賊「大丈夫だって! 肺から血が出たって死にはしないっ!」

「でもやばい状況になるのは間違いないよねっ!?」

少し先を行く盗賊に、ぼくは気力を振り絞って突っ込む

盗賊「おっと」トッ

「わぷっ」ドンッ

突然、急ブレーキをかけた盗賊に、ぼくは慌てて抱きつくような形で衝突した

盗賊「あたっ…………? 〜〜っ!? ど、どこ触ってんだ!!」

「ぐはっ」バキッ
133 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 21:54:38.00 ID:4iZKUHrl0

「ご、ごめんっ! でも、ふ、不可抗力だよ!? 盗賊がいきなり止まるから!」

盗賊「あ……あぁ、ごめん。おれも悪かったよな、いきなり殴るなんて」

ミリア「ええい、何を遊んでおる! それより盗賊、何かあったのかの?」

盗賊「ん? そうそう! 見てみろよあれ!」

盗賊が指差すは濛々と白煙が巻き上がっている、無残に焼け焦げた校庭だった

そこには2人の人影が見え……1人は膝をつき、1人はそれを立ち尽くして見下ろしていた

「何か話してるのかな」

盗賊「ちょっと窓開けてみようぜ……気づかれないようにな」

??「――お前―――だ――――」

??「―――で――それで――」

盗賊「ちっ、 まったく聞こえねえな」

「そうだね……」

ミリア「……っ!? この感じ」

「どうしたのミリア」
134 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 22:18:09.65 ID:4iZKUHrl0

ミリア「間違いないの、ルーはこの近くにおる」

「本当っ!? ど、どこに」

盗賊「…………あっ、あれ見てみろよ!」

「あれ――は?」

ミリア「……ドラゴンだの」

盗賊「あれに乗ってる、ちっちゃい女の子がルーちゃんじゃねえか?」

「……そうだ、あれ。ルーだよ」

ミリア「だが……どう助けるか、だの」

「だよね、ドラゴンに……ぼくらが勝てるわけ」

盗賊「でも、やるっきゃねえよ」

盗賊「あんなちっちゃい子を攫うなんて、許せねえ!」

ミリア「……翼だ」

「えっ?」
135 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 22:22:48.80 ID:4iZKUHrl0

ミリア「翼を狙うのだ、勇者」

「だ、だけどぼくの魔法じゃ、翼すら貫けるかどうか」

ミリア「よいか、貴様の魔法は結晶術ただ一つだの? 貴様はそこで諦めておらんか」

「それは……その……こんなの、応用のしようがないじゃないか」

ミリア「よく考えるのだ、あの生き物を相手に傷を付けられるのは同族くらいであろうよ」

ミリア「浅はかな知恵で出来る、人らしいことをしてみろ」

「……人らしい、小汚い手……」

盗賊「何だか嫌なこというなぁミリア、人だって、知恵ばっかりに頼らなくても」

盗賊「絶対、でけーことできるっておれは思うぜ!」

盗賊「だ、だからさ。お前にも、きっとできる。もっと自分を信じてみろよ」ポリポリ

恥ずかしげに頬を指で掻く盗賊

その様が実に似合っていて、ぼくは思わず微笑んでしまった

盗賊「なに笑ってんだよ!」

「ははっ、いや別に。……うん、わかったよ、やってみる」
136 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 22:44:47.52 ID:4iZKUHrl0


白煙が少しだけ晴れ、2人だけには互いの状況を確認することができた

魔導士「がッ――はぁ――!?」

膝をつき、肩から血を噴出しているのが魔導士で

ローグ「はぁっ……くっ、無傷とまでは行かなかったか」

まだ少し余裕めいたまま、立っているのがローグ

ローグ「消滅魔法<バニッシュ>」

ローグ「お前は魔法を使いすぎたんだ、だから俺ごときに最上級魔法を打ち破られる」

魔導士「くくっ……これでいいんですよ」

魔導士「それで? 貴方は私をどう殺すのですかね」

ローグ「…………まだ仕掛ける気か」

魔導士「ふ、ふふっ、そこまで警戒しないでくださいよ。私にはもう力が残ってはいません」

魔導士「自分の回復に専念するだけで、精一杯なんですから」ドサッ

その場で横になり、肩の切り口に手を乗せる魔導士

ローグ「……その言い分だと、まるで死ぬ気などないように思えるが」

魔導士「ふっふっふ……はぁーっはっはっは!!! その通りですよ」

魔導士「私の役目は時間稼ぎ、ようは貴方たちの逃亡を邪魔すること」

魔導士「さて、一番おいしいところを差し上げます。あとは任せましたよ……勇者くん!!」
137 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 22:45:14.24 ID:4iZKUHrl0

「う、ぉぉぉおおおおおおおお!!」

校舎の屋上から、薄紫色に輝く結晶が伸び、その上を誰かが走っている

ローグ「…………!?」

リン『なに……?』

幼女「……あっ、ゆーたっ! ゆーたぁぁぁああっ!!」

水魔「な、何をするきなの!?」

「はぁっ!」

その人物は紫色の龍鱗で覆われた、ドラゴンの上に飛び乗った

「……っ! ごめんね!!」

そして、その両手をドラゴンの翼に叩きつけ

翼は、氷つくかのように結晶に覆われていった
138 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 23:03:40.95 ID:4iZKUHrl0


リン『きゃっ……』

ローグ「リンッ!!」

バランスを崩した紫鱗の竜は、体勢を立て直すこともできずにそのまま墜落した

もちろん、ぼくもその落下に身を任せることになるが

それでもルーを掴む手を離さない

盗賊「勇者っ!」

「盗賊っ!!」

空中に飛び上がった盗賊が、ぼくとルーを抱えて校庭の植え込みへと飛び込んだ

綺麗に手入れされていた植え込みが、落下の衝撃をある程度吸収してくれて

ぼくらは無傷とは言わずとも、無事に着地することができた

幼女「ゆーた……ゆーたっ!! こわかったよぅ……ゆーたぁ」

「よしよし、もう大丈夫だ……ぼくが、助けてあげるから」

盗賊「うまく行ったな! やっぱ、やれば出来るんだよ!」

ミリア「うむっ! それでこそわらわの勇者だのっ!!」

「あははっ……さて」
139 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 23:04:38.59 ID:4iZKUHrl0

「魔導士さんから、離れてもらおうか」

ローグ「お前……なぜそいつ等の味方をする」

盗賊「……え、おれ?」

ローグ「…………」チャキッ

「離れろって言ってるんだよ!」ピキッ

牽制のため、注意をこちらに向けるため、ぼくは結晶の礫を男に向かって発射する

ローグ「…………」サッ

(よし、こっちを見たな)ダッ

ぼくは走り出し、敵の視線を引きつけ、逃げながらも礫を発射する

ローグ「小ざかしい」

だがそれも、まったくもって効果をなしていないようだった

(それでいい)

全力で逃げながらも、ぼくはある場所へ誘導する

ローグ「何をたくらんでいるかは知らんが……行くぞ」
140 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 23:06:23.57 ID:4iZKUHrl0

敵がランスを掲げ、突進の構えを取った

ミリア「いまだのっ!!」

「オーケイ! 万全だ!」

パキッパキキッ

ローグ「っ!?」

上から降ってきた結晶片に敵は気づいたようだ

だがもう遅い

校舎の屋上から伸びた巨大な結晶は、根元から折れて

ちょうど敵の真上に降り注いだ

ドゴォォォオオン

大質量のソレが、敵を押しつぶし完全に完璧に粉砕する

結晶と共に
141 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 23:30:23.85 ID:4iZKUHrl0

結晶と共に

「やった……っ!?」

だが、その言葉に返事はない

土煙が晴れるまで、ぼくは永遠に近い時間を味わっていた

盗賊「駄目だっ!! 避けろっ! 勇者!!」

突然の叫声に驚く間もなく

ぼくは円錐形の風穴が空く

はずだったのに

「なん、で……」

盗賊「ごふっ……」ボタッ

ローグ「なっ……お前」

「盗賊っ!?」

ぼくに突き刺さるはずだったランスは、ぼくを庇った盗賊に

深く、突き刺さっていた

ミリア「…………ッ」

盗賊「が、はぁ……だ、大丈夫かよ」
142 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 23:31:03.53 ID:4iZKUHrl0

「な、んで……なんで……」

盗賊「ばぁーか、んな顔してねえ、で……はや、く……逃げろ……」

盗賊はそういってぼくに手を伸ばすと、事切れたかのように手を落とした

その途中で、ぼくのペンダントは千切れてしまったが、ぼくは気づかない

「そんなこと言ったって……」

ローグ「ちっ……邪魔が入ったな」

「おま、え……お前」

ローグ「次は外さない、リン」

リン『うん』パキィッ

紫鱗のドラゴンの翼を覆っていた結晶が、割れて散った

敵はドラゴンの首にまたがると

ローグ「全力でやっていい、どうせ……あいつは化物だ」

リン『……わかった』ゴォッ

「お前ぇぇえええええっ!!」ダッ

ぼくは走りだす、無我夢中に

だけどその最後のあがきさえ
143 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 23:32:00.46 ID:4iZKUHrl0

幼女「ゆうしゃよ」

ぼくにはできなかった

「ルー……?」

ルーはそれ以上何も言わずに、ぼくの前へと歩いてきた

手にはペンダントを握り締めて

幼女「やつにかちたいか、とうぞくのかたきを とりたいか」

「あぁ、当たり前じゃないか。でも、ぼくには……」

幼女「あまえるな!」

「っ!? ル、ルー?」

いや、違う

幼女「きさまのちからで、わらわたちのちからで、きさまののぞみをかなえるのだよ」

「ミリ、ア……?」

ローグ「やれ」

リン『…………』コォォォオ

幼女「さぁ、のぞめ きさまのほしいちからを」

そしてぼくらは、暗黒の炎に焼かれた
144 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 23:53:59.46 ID:4iZKUHrl0


ローグ「ふん……あっけなかったな」

水魔「竜人の子も、一緒に焼いちゃったわね」

ローグ「もとより、魔の国の戦力になることを恐れての誘拐だ」

ローグ「手に入らぬのなら、消してしまっても構うまい」

リン『…………』

水魔「……あの子は……大丈夫なの?」

ローグ「ああ…………この程度では死なん」

ローグ「なぜ、奴を庇ったのかはわからんが」

水魔「……やっぱり、賢者の一撃で記憶が……」

ローグ「…………あとで回収しておけ」

水魔「ええ…………? っ!? ローグ、何か。変よ」

ローグ「……!?」

ルー『――――』クキュルルルルルル

甲高い鳴き声が木霊する

反響するように、悲しげな声が――
145 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 23:54:27.46 ID:4iZKUHrl0

「……」

黒煙にまぎれて、その輝くような鱗が光を放つ

白銀の鱗、鈍い銀色の爪を供えた両手足、蛇腹上に幾重にも重なった厚い甲殻、傷一つない美しい翼、強く逞しい一本の尾

ローグ「な……に……?」

白鱗の竜が、その両翼によって盗賊とぼくを守ってくれていた

「……ぼくは、守る力が欲しかった」

「何もできないぼくが、守られてばかりじゃなく、大切な誰かを守るために」

「ありがとう、ルー……助けてくれるんだね」

「一人で何もできないのが、歯がゆくて情けないけど」

「ぼくたちで……一つになれるんだよね」

ローグ「お前…………竜と契約できたのか……」

リン『…………』

「でも、いまは戦わない」

「盗賊を助けるのが、先決だからね」

ルー『そう、だの』バサッ

ローグ「……逃がすかっ! リン」

リン『うん』
146 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/04(水) 23:55:38.10 ID:4iZKUHrl0

二頭の竜が翼を広げて、一斉に飛び立った

それは……この世のものとは思えないほど神々しく

鱗に乱反射する光によって、一つの楽園にも見間違えるほどだった

バサァッバサァッ

だが、それもほんの少しの間

飛べもしない人間は、名残惜しむかのように手を天に伸ばし

魔導士「……ふっ……はは、はっはっは!」

魔導士「おめでとう、勇者くん」

魔導士「これできみたちは再び一つになれた」

魔導士「これもまた……運命なのだろうね……」

魔導士「ふふ、私は少し疲れてしまったよ……では、また、会おう」

楽園から、混沌の淵に落ちていった――
147 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/05(木) 00:08:28.10 ID:lUmb9LOQ0


あれから、どれほど経っただろう

追跡者はいまだ羽ばたきをやめる様子はない

「ルー? 大丈夫?」

ルー『うむ……なんとかの……』

ルー『だが、このままでは埒があかんぞ』

ここはどこだか分からない、闇雲に飛んで逃げて

いつのまにか海に出ていた

すっかり夜も更けていて、おまけに雨なんかも降っている

盗賊「…………」

腹部を貫かれていた盗賊だが、傷口に布をあて出来もしない回復魔法を試そうとしたところで

その血は勝手に止まっていた

「盗賊も、何か能力を持ってるのかな」

ルー『さぁの……それよりも後ろの奴等をなんとかしてくれまいか』

「そうは言われたって……」

ぼくは仕方なしに人の頭サイズの結晶を生成し、後ろへ放り投げた

だが、すぐにパキィンと小気味いい音が聞こえて、結晶は海へと落ちていった
148 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/05(木) 00:09:12.81 ID:lUmb9LOQ0

「はぁ……どうしろって言うの」

ルー『やかましい! 仮にもわらわの勇者であろう! すぐにそんな弱音を吐いてどうするのだ!』

「だってー……」

ルー『むぅ……まったくこやつは…………………………』

「ん? どうしたのルー、急に黙り込んじゃって」

ルー『落ち着いて聞いて欲しいのだが……』

「あ、やー……うん、言わなくてもわかったよ」

ぼくらの前方には、巨大な竜巻が出現していた

ルー『どうりで上手く飛べぬと思うたのだ』

「もっと早く気づこうよっ!?」

ルー『ぬっ! わらわの責任にするというか! もとはといえば貴様がちゃんとした目的地も告げずに逃げようと――』

「あ、ちょ、やば」

ルー『』

ゴォォォォォオオ

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああっ!?!?!?!?!」

ルー『のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああっ!?!?!?!?!』

こうして、ぼくの知らない物語は終わった

ここからはぼくが作っていく物語になる

そう……ここで終わらなければ
149 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/05(木) 00:10:22.80 ID:lUmb9LOQ0




――――第一章・ぼくが知らない物語。了


150 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/05(木) 00:12:07.12 ID:lUmb9LOQ0
終わったッ!やったッ!第一部完ッ!!!

思ったより長くなりましたね、お付き合いしてくれた方はありがとうございました
次回の>>1先生の活躍にご期待ください。では
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/05(木) 06:09:11.02 ID:EAeyqV1DO
ゆーた=勇者か
乙!
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 07:17:17.67 ID:s95ZnTi00
そこに気づくとはやはり天才・・・
153 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/05(木) 11:01:48.66 ID:lUmb9LOQ0
>>151
この物語で最高難易度の謎を解いてしまうとはな……やりおるわ

↓さっきかんがえたぼくのせっていしりょうしゅう!

<<かわいい幼女とその他の人物紹介っ!!>>

■幼女1・ルー

銀髪ショートで蒼眼の女の子
自分のことを<るー>と呼ぶ、少々舌たらずだが元気で明るい子

銀の竜鱗をもつ銀竜に変身できちゃう

■幼女2・リン

紫髪のロングで紅眼の女の子
無表情で、必要限以上のことを喋らない、従順でクールな子

濃い紫の竜鱗を持つ紫竜に変身しちゃう

■その他1・ぼく

地味に赤髪という設定だったり、ぼくっこ()
物語の主人公、基本的にはこいつ目線
土属性の魔法使いだが、結晶しか生成できずに虐められていた
そのせいか少し自信が欠落している

別名・ゆーた、勇者、欠落回路

■その他2・ミリア

ゆーたの姉が作った魔道具に埋められし石に潜む、自称精霊
一人称はわらわで、少々口が悪い
竜化したルーに乗り移るなどよくわからんこともできたり
容貌は不明

■その他3・妹

ゆーたの妹、お世話好きで甲斐甲斐しい女の子
基本的に妹キャラは仲間になりません
ぼくはドラクエ6でターニアは絶対仲間になると思っていました、絶対に許さない
家族が大好きで、ゆーたに対してはちょっとヤンデレ気味になったりもする
いつかは分からないけどきっと再登場します

属性は水・ただし回復専門

■その他4・姉

容姿・不明、僕っ娘
気取った喋り方で弟を溺愛している
王室の研究室で働いているとのこと
色々不明

■その他5・魔導士

無精髭、白髪天然パーマで眼鏡着用・イメージ的に白衣のつもりだったのだけど、描写がなかった
姉と友達、怪しげな薬を生成してはことごとく自分に使用されてしまうという可哀想な体質
胡散臭い微笑を常に浮かべており、丁寧な口調がさらに胡散臭く感じさせる
そんな魔導士だが魔法の腕は最高レベル

六属性のうちの、炎風水土のフォースエレメントを操り、死線と恐れられてたり。故賢者の弟子
154 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/05(木) 11:02:21.40 ID:lUmb9LOQ0

■その他6・先生

その名の通り先生、炎属性
熱血気性だけどたまに空回りしちゃう
以上

■その他7・生徒1、2、3、達

生徒1君はなぜか出張ってきたけど即リタイア、風属性
生徒2君はよくいる嫌味ーなキャラ
生徒3君は草を生やしにきただけの一行キャラ
生徒たちはクスクス笑ってるだけの背景

■その他8・仮面三人集

泣き顔の本名は水魔、水で自分のコピーを作るなど魔力量がぱないお姉さん
水色の髪、水色の瞳で多分恐らくきっと、きょちち
魔導士に右手を千切られた、おのれ魔導士

怒り顔さん、本名炎魔は威勢のいい割にすぐにリタイアしてしまった可哀想な人
魔導士さんに実験の材料にでもさせられてしまったのだろうか
そのご かれのゆくえをしるものは いなかった

無表情はおれっ娘、賢者の一撃を食らって立ち上がるというタフな耐久力
でもやばくなると枷が外れて暴走しちゃう

■その他9・賢者、秘書

賢者は40年前の大戦を治めた六賢人のリーダーであるところの魔法学園創立者にして校長
六属性中、闇を除いた五属性を操るも無表情との対決によって自滅
恐らくチートキャラの一員になる予定のはずもあっけなく終了

備考・仲間思い、爺、噛ませ犬

秘書は眼鏡のクールビューティーな知的美人、スーツが良く似合うハズ
ヒールで踏まれたいと願う教員生徒も少なくはなかったとな

■その他10・盗賊

新しく仲間に加わった元気で少しおつむの弱い、女の子←ここ重要
自分では女扱いしてもらいたいと主張しているが
女扱いされることに慣れておらず、いざとなると赤面する

記憶喪失のようだがポジティブで素直な女の子←ここ最重要

備考・ちっちゃいて言うと怒る、実はきょちち←ここが重要、サラシ、ハァハァ

■その他11・ローグ

なぜか名前がローグになってしまった人
リンちゃんにまたがり、その手にもった極太のランスであんなことやこんなことをする
死んだような眼でクール(暗黒微笑)な人

属性は人に扱えるはずのない闇属性、まぁなんか色々あったんでしょうね、いろいろ

NAGEEEEEEEEEEEEEE!!! 興味のある人は読んでみてくださいね
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 13:48:43.92 ID:p9dYedoIO
盗賊いただきます
156 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/05(木) 19:51:56.21 ID:lUmb9LOQ0
>>155
生娘なので大事にしてあげてください

では今日の投下をば
157 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/05(木) 19:52:27.80 ID:lUmb9LOQ0



――――第二章・始まりの終わりは始まり。


158 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/05(木) 19:53:39.64 ID:lUmb9LOQ0

ザザーン

男「あぁ、こんな辺境の地で貴方にめぐり合えたのは、まさに奇跡と言えましょう」キラーン

男「どうかよろしければ、このわたくしめと……ご一緒しませんか?」キラーン

女性「( ゚ω゚ )お断りします」タッタッタッ

男「ああっ! 美しいお方! 何故!何故わたくしに振り向いてくれないのですっ!?」キラーン

…………。

男「……行ってしまった」

男「ったく、しけたとこだぜ」

夜の港町

海の男たちが心と体を癒すための町

かすかに聞こえる漣の音と、喧騒に賑わうこの町が

今回の俺様の目的地

男「女はいいんだが、ガードが固くていけねえ」

男「こういうのにも慣れてんのかね、このイケメンな俺様が通用しないってなあ相当だが」

男「けっ……あほらし、酒でも呷りながら海岸行ってみるか」
159 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/05(木) 19:54:21.26 ID:lUmb9LOQ0


ザザァ……

男「ん〜♪ んん〜♪ ふぅ〜ん〜〜〜♪っと」グビッ

男「かーっ!! 港町だけあって美味い酒が集まってんなぁ!!」

男「ま、おかげでなけなしの金がぶっ飛んだってわけだが」

男「今はそんなことどうでもいい、俺様はさいっこうに気分がいいからな!」

男「ん〜〜ん〜〜……ん?」

男「おっ……? なんだぁありゃあ」

男「ひっ、人だっ!! ……っと、まてまて」

俺様は顎に手をあてニヒルに笑う

男「行き倒れ……見た目はただのガキのようだが、金目のものを持っているかもしれねぇ」

男「っと〜、どれどれ〜……ん? このガキ、女か……? それにこんな小さな女の子も、あとは男か」

男のガキは、離れまいと女と女の子を抱きしめていた

気を失いながらもよくやる……と思いつつも俺様はそいつらの体を探った
160 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/05(木) 19:54:58.40 ID:lUmb9LOQ0

男「…………ちっ、金目のものは持ってなさそうだな、お」

男「この子、ペンダントを大切そうに握ってるな、こりゃあ相当の値打ちもんかもな」

男「ぬっ……おおおおおっ!!!」

男「かってぇ! こんなちっちゃな子にこんな力があんのかよ……」ガシッ

必死に女の子の手を開こうとする俺様の腕を、倒れていた女が掴みかかった

男「ひっ!?」

?「……かはっ……げほっ! げほっ……た、頼む……たすけ、て……」

女は咳き込みながらもそういうと、力尽きて砂浜に身を横たえた

男「…………か、わいい、な。……い、いやいや何言ってんだ」

縋るような瞳に、俺様の心は動揺してしまう

男「ああっ!! クソったれ、ほんっと今日はツイてねぇ!」
161 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/05(木) 19:57:15.56 ID:lUmb9LOQ0


ザザァ……ザザーン

「っく……」

どこからか波の音が聞こえる

「こ……こは」

頭がぐらぐらする、長時間シェイクされたような気分だ

「……そうだ」

徐々に意識が覚醒していくに伴って、激痛が全身に走った

「ルー……盗賊っ! ミリアっ……! つぅっ!」ガバッ

はっとなって身を起し、自分の体を見て始めて気づく

「シーツ……? ソファで寝てたのか」

さらには服も変わっていた、肌触りのいいシャツに短パン、いずれもぼくのものではない

「……皆、いないみたいだ、どこに行ったのかな」モゾッ

何とか助かったことに安堵感を覚えつつ、見知らぬ場所に対しての不安感も覚える

ぼくは起き上がって、決して広くはない部屋の中を探索することにした
162 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/05(木) 19:58:16.43 ID:lUmb9LOQ0

ザバァッ

「ん……? 水の音……誰かいるのかな」

カチャッ

音を頼りに突き進む、そして扉を開けて中に入り、ぼくは辺りを見回す

そしてあるものを見つけ出した

脱ぎ捨てられた衣類、ぐちゃぐちゃになった下着、そして晒し木綿

悪い予感がする……回れ右をしてドアノブに手をかけようと……

カラカラカラ

幼女「あ、ゆーたっ! め、さめたの!? おはよっ!!」トトトッ

「ル、ルーっ!?」

肩越しに見つけた、首からペンダントをさげたルーは

全裸でぼくに向かって突進してきた

「ぐほっ!?」
163 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/05(木) 19:58:54.39 ID:lUmb9LOQ0

ぽっこりとしたおなか、ゆで卵のようにぷにぷにの柔肌

銀髪に滴る雫と、紅く紅潮した頬がなんとも可愛らしい

が、そんな感情は腹部に訪れた衝撃によって吹き飛ばされた

「ル、ルー……く、苦しいよ」

幼女「ね! ゆーたも、おふおはいおー?」

盗賊「あー、こらルー? ちゃんとお風呂に浸かってからでろよー……」

カラッ……

「え」

盗賊「な」

顔に張り付いた髪、華奢な体に伝う水、流しきれていない石鹸の泡、へそに溜まった水

大きなその二つ膨らみが色濃く生み出している影

陰と陽が見事に調和し、幻想的とまでは言わずとも、それは見とれるに十分値するものであった

盗賊「う、うおわぁぉぉぉあっ!?」ザバンッ

「……ッ!?!? ご、ごめんっ!!」

ぼくらは同時に赤面し

ぼくは顔を背け

盗賊は湯の張ったバスタブにその身を投げ入れた
164 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/05(木) 19:59:51.72 ID:lUmb9LOQ0

幼女「あははっ!! とうぞく、へんなのー!」

「えっ!? お、わぁっ! ル、ルー!? 押すなって!」

幼女「むー? ゆーたもおふお! みーんなではいうのー!」ズイズイ

「わ、わわわわっ!?」ザバァッ

幼女「きゃははっ!!」ザブンッ

無理やり、ルーに押し込められる形でぼくはバスタブの中に入った

盗賊(な、何かの間違いだこれはっ!!)ブクブク

そこまで広くないバスタブで、ぼくと盗賊は向き合うように浸かっていた

お互いの足が交差して、ぼくの足先がぷにぷにとしたものに触れているのは秘密だ

「ルー……服がびちょびちょになっちゃったじゃないか」

幼女「んー? ごめんなさぁい」

盗賊「な、なんだよお前……そんな平気そうな顔しやがって……」

盗賊は真っ赤な顔で、唇を尖らせた
165 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/05/05(木) 20:00:37.02 ID:lUmb9LOQ0

「そ、そんなことないよっ! 内心、凄いどきどきしてるよ、だ、だって……その」

盗賊「その……なんだよ」

「盗賊、凄く綺麗、だったからさ……あの……えっと、ごめん」

盗賊「っ!? ななななななに言ってんだよおまえっ!?」ザバッ

突然立ち上がって錯乱する盗賊

「いや、あの……」

居た堪れなくなって、そっぽを向いてぼくは頬を掻く

湯船に浸かっていたもろもろが、ぼくの眼前に露見していたのだ

ここではあえて語るまい、語れるほどぼくに知識などない

盗賊「ひっ……あっ……うぅ……」

顔をさらに真っ赤にして、盗賊は泣きそうになりながらも湯船に体を沈めた

「ああっ、も、もうぼくでるよ!!」

幼女「だーめー! えっとね! ひやくまでかぞえないと、だめなの!」

「じゃ、じゃあ今度! 今度二百まで数えよう? それでいいよねっ!?」

盗賊「う、うん……そうだな……」

幼女「ぶー、じゃー、るーもでるー!」

「うん、よしじゃあ出ようか」

ぼくは早口でそういって、バスルームを後にした
166 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/05(木) 20:03:36.02 ID:lUmb9LOQ0
ふむ……表現力に欠けますな……
ということで今日は終わり、GWもあけちゃいますねー
投下量も減り、投下間隔も伸びるかもしれませんが、よければお付き合いください
では
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/05(木) 20:48:29.65 ID:EAeyqV1DO
この後サラシ失踪事件が…

乙!
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 21:01:09.55 ID:p9dYedoIO
盗賊ありがとうェ

大切にします
169 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/06(金) 17:04:23.21 ID:r1CdmLEi0
宣伝乙ですが
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1304492630/

上記うrlでオリジナルクロスなるものをやっております
現在、◆Oamxnad08kさんが投下中なので是非みに来てください
ぼくも書きます! 興味があれば是非是非是非!!!


宣伝乙でした
170 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/07(土) 12:09:20.45 ID:V1tiJFAt0


「ああ、どうしよ」

せっかく誰かが着替えさせてくれた替えの服も、びしょぬれだ

幼女「あははっ! ゆーたぬえぬえだねっ!!」

そうは言うが、ルーはぶかぶかなTシャツ一枚だ

気を抜けばすぐにでも脱げてしまいそうなほど、このシャツの持ち主は相当ガタイがいいらしい

「もう……今度からあんなことしちゃ駄目だぞ」

幼女「うー……ごめんなさぁい! でも、るーは、ゆーたたちとみんなで、おふおしたかったの!」

「ぼ、ぼくは構わないけどさ……盗賊が怒るだろ?」

幼女「んー? とーぞくおこってないよ? うえしそーだった!!」

「真っ赤にして、怒ってたじゃないか。怒られるのはぼくなんだぞ?」

幼女「むー、わーった! ゆーたおこあえうの、いくない!」

幼女「るー、がまんしてゆーたとはいう!!」
171 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:09:47.46 ID:V1tiJFAt0

「えっ……あー、まぁ、それでいいか」

「ところでルー、そのペンダントどうして持ってるの?」

幼女「こえ? んーっとね、るーずっとこえもってたの!」

「へぇ……それ、ぼくのなんだ。返してくれる?」

幼女「むぅ……こえ、るーの、たいせつなもの!」

幼女「でも、ゆーたにもたいせつなあ、かえしてあげうっ!!」ニパッ

満面の笑みを浮かべて、ルーはペンダントをぼくに渡す

「……あはは、ごめんね。ルーはいい子だ、ありがとう」ナデナデ

幼女「えへへーっ!!」

?「おーっと、家族団らんのところ悪いが」

?「荷物運ぶの手伝ってもらえっか?」

「っ!?」

気配を感じさせずに、何かがぼくの真後ろにいた

咄嗟に振り向いて後ずさる、ついでにルーの手を引っ張り、引き寄せる
172 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:10:29.22 ID:V1tiJFAt0

?「はっ、んな警戒すんなって……命の恩人に礼もいえねえのか? 最近のガキはぁよ」

「それじゃあ……あなたが……」

?「おーよおーともおーともさ! 子供3人とはいえ、背負ってくるのは大変だったぜ」

?「見ろよ、腕ぱんぱん。足ぱんぱん。腰は痛むは頭痛はするわ」

?「いいこと無しってんだぜ……ったくよぉー」

「あの……助けてくださったことにはお礼をいいます、ありがとうございました」

ぼくはしっかりと見合って、続ける

真っ赤な顔に金色の短髪、綺麗に整えられた顎鬚に長めのモミアゲ

瞳の色は……虚ろな目によって判断しづらいが、恐らく翡翠色。あとやっぱり濁っている

「あと……もしかして酔ってます?」

もしかしなくてもその通りだろう

?「ばーろぉー!! 酔ってるわきゃねーだろーがよー」

「酔ってる人ほどそういうんですよ」
173 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:10:56.68 ID:V1tiJFAt0

?「んなことより、荷物運べ荷物ぅうううー!」

「あぁ、はい」

酔っ払いと雑談をしている場合ではないのだ

手提げに入った荷物を抱えてぼくは男の人に付いていく

そのぼくの後ろを、とてとてと覚束ない足取りでルーはついてきた

幼女「るーももつ?」

「ん? じゃあこれ持っていってくれる?」

ぼくはパンが入った紙袋をルーに渡す

幼女「うんっ!」

とてとてとて、ずっと見続けていられるような光景だな

なんて漠然と考えて、ぼくは木製の机の上に荷物を降ろした

「そういえば、名前まだ聞いてませんでしたけど……なんて仰るんですか」
174 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:11:47.22 ID:V1tiJFAt0

?「ん……? 俺様か? 聞いて驚け見て笑え! 俺様こそが天下に名を轟かせしイケメン4人集が一人!」

?「傭兵様たぁ! 俺様のことよ!!」

「あはははははははははははははは」

傭兵「笑ってんじゃねえっ!!」

「理不尽だっ!!」

傭兵「さぁ、俺様は名乗ったぜ。次はそっちの番だろ」

幼女「るーはね! るーっっていうの!! でね、うんとね、ゆーた!」

ルーは自分、そしてぼくを元気良く指差して言った

傭兵「ゆーたぁ? まーた変わった名前だな」

「いや、まぁ……それでいいですよ、もう」

傭兵「ゆーた、ゆーた……うん、いいな。割としっくり来るじゃねえか」

「……ところで、この荷物なんなんですか」

傭兵「ん? あー、まぁ見りゃわかる」
175 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:12:38.30 ID:V1tiJFAt0

「そうですか」ガサッ

ぼくは自分が運んできた手提げの中を探る

「……これって?」

手触りのいい、二つのなんといえばいいのか……山のような形に膨らんだ布、のようなもの

傭兵「はっはっは!! そいつは盗賊のだよ、女性用下着だ」

傭兵「わざわざ買ってきたんだぜ? ま、このイケメン様にかかれば造作もないことだがな」

「へっ? あっ、わ、っとと」

そういえば見たことはある代物だ、妹のはもっと小さかったけど

傭兵「ちなみにあいつの胸の大きさ、教えてやろうか?」

「いっ、いいいいいですっ!!」

慌ててぼくは手提げの中に押し込む

「ル、ルー。盗賊にこの荷物届けてあげて」

幼女「るー? わーった! いってくう!!」トトト
176 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:13:40.38 ID:V1tiJFAt0

傭兵「……いい子じゃねえか、お父さん」

「ええ、ほんといい子ですよ、あとあなたにお父さんと呼ばれる筋合いはありません」

傭兵「はははっ! 冗談なのか、まだ警戒してるのか……ま、どっちだっていい」

傭兵「よほどひどい目にあったようだな」

「…………」

ぼくは、きゅっとペンダントを握り締める。さっきからミリアは黙ったままだ

傭兵「何があったかは知らん。が、行くあてなんてないんだろ」

傭兵「探ったところ何も持ってないようだったしな」

「はい……」

何故ぼくらの荷物を探ったのかは置いておいて

そこまで警戒するべき相手ではないようだ

傭兵「……ああ、クソ。俺様はもう寝るぞ。お前の着替えはそっちの袋に入ってる」

傭兵「この俺様にやりたくもないことをやらせたんだ」

傭兵「風邪引いてぶっ倒れました、なんてオチ。許さねえぞ」
177 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:14:45.63 ID:V1tiJFAt0

そういうと、傭兵さんは床にそのまま転がっていびきをかき始めた

「……わざとらしいって言うかなんて言うか」

不自然ないびきに、ぼくは苦笑しつつ

その巨体にシーツをそっとかけた

幼女「ゆーたっ! るーね、ちゃあんととどけてきたよっ!!」

「うん、ありがとう、ルー。だけどね、少し静かにしよっか」

幼女「なんでー? あ、よーへーおねむしてう、しーっなの?」

「そうだよ、起しちゃ可哀想だからしーってしててね」

幼女「うんー」

少し声を抑えて、返事をするルー

ぼくはその頭をそっと撫でてあげることにした

幼女「えへへ」ナデナデ

しばらく撫で続けていると、不意に声を掛けられた
178 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:15:52.18 ID:V1tiJFAt0
盗賊「……勇者、風呂、あがったぞ」

しっとりと濡れた髪をタオルで拭きながら

下着と丈の長いYシャツを着ただけの盗賊は、覚束ない足取りで部屋に入ってくる

「あ、う、うん……って、盗賊、大丈夫? ふらふらしてるけど」

敢えて服装に文句は言わない、文句なんてないし

Yシャツが薄手のものなのか、さっきぼくが取り出した下着、上下セットの下着が

軽く透けて見える

ぼくは動揺を隠すので精一杯であった

盗賊「うっせー……ちょっとのぼせただけ、だから」

幼女「とーぞく、ぐあいわういの?」

盗賊「あー、大丈夫だって。すぐ直るからさ」

……そういって、盗賊はルーを抱き上げた
179 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:16:26.93 ID:V1tiJFAt0

盗賊「ルーはおれに任せて、お前は風呂いってろ」

引き締まった太ももに視線が行ったりもするが、ぼくは何とか邪念を振り払う

「……うん、そうするよ」

幼女「うー、るーもおふおー」

盗賊「ルーはさっき行っただろ」

普通に会話は成立するのに

盗賊はぼくと目を合わせようとはしない

(やっぱ、嫌われたんだろうなぁ)

ぼくは落ち込みながら、変なことばかりを考えてしまう自分に嫌悪感を覚えながら

着替えを持って風呂場へ向かった
180 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:16:53.59 ID:V1tiJFAt0



誰がぼくの入浴シーンなどを欲するだろうか

故に割愛

風呂をあがると、ソファに座った盗賊がぼーっと天井を眺めていた

「盗賊……?」

盗賊「……お、あがったか、早いんだな。やっぱ男の子は烏の行水って言うもんな」

「うん、それもあるけど……はい」

盗賊「ひゃっ!? な、なんだよ」ピトッ

「あははっ、変な声。逆上せたって言ってたでしょ、だから濡れタオル」

「まぁ、有効かどうかは知らないけどね……」

盗賊「ん、あぁ言ってたな。ありがと」

まだ天井を見上げながら、濡れタオルをきちんと額に乗せる盗賊

「……ルーは?」

盗賊「寝たよ」
181 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:17:26.92 ID:V1tiJFAt0

「寝かしつけてくれたんだ?」

盗賊「まーな、でも疲れてたみたいだし、そんな苦労はしなかった」

「そっか……ありがとう、あと……その」

盗賊「なんだよ、言いたいことがあるんならちゃんと言え」

「……ごめんね、ぼくのせいでひどい目にあわせちゃって」

盗賊「っ!!」グイッ

「!?」

いきなり立ち上がった盗賊、ぼくは胸倉を掴まれる

やっと合わせてくれた目は、少しだけ……赤かった

幼女「えへっ……ゆーた、とーぞく……みんなでおふお……たのしーね」

……ルーの寝言、張り詰めた空気に不似合いな寝言に

幾分か盗賊は我に帰ったようだ
182 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:17:56.59 ID:V1tiJFAt0

盗賊「ごめん……」

盗賊はぼくを掴んでいた手を離し、再びソファに座り込む

「謝らないでよ、ぼくの立つ瀬がない」

盗賊「そうゆーところなんだよ、おれがむかつくのは」

そう言って、足を両腕で抱え込む

盗賊「記憶を失ってたおれと一緒にいてくれて」

盗賊「話をしてくれて、見知らぬおれを助けようとしてくれてた」

盗賊「あの時だって、おれがまともに戦えてりゃ」

盗賊「足手まといにならずに済んだんだ」

「そんなこと……盗賊はぼくを庇ってくれたんじゃないか」

盗賊「違う、庇うことしか、できなかったんだ」

盗賊「その結果がこれだ」

盗賊「お前はおれを助けるために、魔導士って奴を置いて」

盗賊「自分の生活をも置きさって、こんなとこまで逃げてきた」

「それは……ぼくが望んだことだ」
183 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:18:28.75 ID:V1tiJFAt0

盗賊「違う違う違うっ!! お前とは会ってまだ数えるほどしか経ってないけど」

盗賊「お前は平穏な日常を欲していたはずだ」

ぎゅっと、唇を強く噛む盗賊

痛々しいほど

「……うん、否定はしない」

盗賊「じゃあ、全部自分が悪いみたいに言うなって」

「……それはきみのほうだよ」

盗賊「おれのほう……?」

「ぼくはただ、謝っておきたかったんだ。きみを守れなかったこと」

「きみに……怪我をさせたことを」

「だけどね、きみは自分が全部悪い風に言ってるよ」

「記憶を失って、怖い目にあって、よく知らない相手とこんな遠くまで来て」

「不安で仕方なくって、それでもぼくに不安を押し付けたくなくって」
184 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:20:45.12 ID:V1tiJFAt0

盗賊「…………」

「全部背負い込もうとしてるんだよね……」

「でも、それはきみが優しいから、優しい女の子だから」

盗賊「〜〜っ!」

恥ずかしがって、膝に顔を埋める盗賊

そんな姿を見て、ぼくも羞恥で顔が歪む

だけど、誰もそんなぼくを見ていない

「……ぼくだって、男だ。だから、辛いことの3分の2くらいは」

「ぼくに持たせてくれない、かな?」

盗賊「はは、なんだよ……それ。頼もしいんだか、頼りないんだか……」

「あははは……そうかもね、だけどぼくはもっと強くなる」

「それまで、待ってくれる?」

盗賊「………………ばーか、お前はほんとのほんとにばーかだ……」

「……そうかな? 自分では自覚があまりないんだけど」

盗賊「……は、そりゃ……おめでたいことで…………たく、ちっとは気の利いた……台詞いえよ……な」コクン

急にうとうととしだした盗賊に、ぼくは何も言わずに肩を貸した

よほど疲れていたのだろう、心も、体も
185 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 12:21:48.69 ID:V1tiJFAt0

しばらく黙っていると、盗賊はぼくの肩に頭を乗せながら

静かに寝息を立て始めた

「……おやすみ」

ぼくはそういって盗賊の体を支えると、膝の上に頭を乗せた

そうして、ゆっくり、優しく、起さないように髪を撫で始める

「昔は、妹にもよくしてあげたなぁ」

大丈夫かな、妹は……魔導士さんがいるから大丈夫だと思うけれど

それでも心配だ

「何年振りだろ……」

膝枕なんて、すごい久しぶりだから足がしびれるかも

「……にしても」

と、ぼくは独り言を続ける

「いい趣味してますね? 傭兵さん」

傭兵「ぐ、ぐおー……ぐおおー」

「わざとらしいんだから……」

それでも、空気を読んでくれていたのだから、まだマシなのかな

ちょっと恥ずかしかったけど……今はこのままでもいいや……
186 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 19:35:31.99 ID:V1tiJFAt0


傭兵「おーい、起きろ。朝だぞー」

「……くぁ」

盗賊「んっ……ふぁ」

幼女「とーぞく、ずうい!!」

盗賊「ん……どうした、ルー」

幼女「ゆーた! るーにも、るーにも!」

「あえ……おはようございます」

盗賊「むー……?」

傭兵「ゆうべは おたのしみ でしたね」

盗賊「んなっ!?」

盗賊「ちちちち、ちがっ!!」

「んー……あ、おはよう盗賊」

盗賊「お、おう」

傭兵「なーにが違うんだか、お熱いこってぇ! はっはっは!」

盗賊「う、うっせえぞ!!」
187 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 19:36:22.95 ID:V1tiJFAt0
幼女「うぅーっ!」ドンッ

「あたっ!? ど、どうしたのルー」

幼女「るーも、ゆーたのおひざ、のうの!!」

「いたっ、いたたたた。こら、ルー」

傭兵「ま、隠さなくたっていいさ、仲がいいのはいいことだしなぁ?」

盗賊「だからっ!! そんなんじゃねえって!!」

「そうだ、傭兵さん……昨日聞きそびれたんですけど、ここってどこなんですか」

傭兵「んー? どこってそりゃ、南大陸だろ」

「み、南……大陸……?」

傭兵「そうだ。えーっと確か南大陸のー……っとここだここ」

そういって、地図取り出して南大陸の西側を指し示す

傭兵「アキドナ港ってとこだよ、主に山のほうで作られる作物やら物資を全国に運んでる」

傭兵「それなりにでかい港だぜ? 聞いたことくらいあるだろ」
188 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 19:37:17.45 ID:V1tiJFAt0

盗賊「ま! おれは知らないけどな!」

「聞いたことはあるにはありますが……いや……でもこんな遠くまで……?」

傭兵「……お前等、一体どこからきたんだ?」

「……中央、大陸。魔の国の、魔法学園のある場所です」

傭兵「はぁっ!? 中央大陸の魔の国っていやぁ、こっから航路と陸路で少なくとも3日はかかるぞ?」

傭兵「そんな距離をお前等、荷物も無しにどうやって来たって言うんだ?」

「えと……あの、今は……いえません」

盗賊「え? そんな距離をおれたちは一日で来たっていうのか?」

「そうなるね」

盗賊「へぇー、よくわかんねえけど。凄いな!」

傭兵「はーっ……やれやれ、頭が痛いぜ……」

傭兵「ま! 乗りかかった船だしな、最後まで焼けるだけのおせっかいは焼いてやる」

「と、いいますと」
189 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 19:38:12.59 ID:V1tiJFAt0

傭兵「俺様がじきじきにご教示してやろう」

傭兵「金もねえ! 当てもねえ! 先立つものなんざ欠片もねぇ! そんなお前等がすることをは?」

幼女「あいっ!!」

傭兵「お? じゃー、言ってみろ」

幼女「おなかすいたっ!!」

傭兵「がくっ……パンがあるから勝手に食べな」

幼女「わぁいっ!」

(がくって口に出す人初めてみた)

盗賊「はいっ!! お宝を拝借する!」

傭兵「うん、実に非現実的な考えだな、次」

「ええと、働く……ですかね」

傭兵「そうなるよな! ちょっと不安だったぜ? 俺様は。よしじゃあ少年」

「はい?」
190 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 19:38:41.81 ID:V1tiJFAt0

傭兵「俺様がここにいるわけ、検討つかないか。ヒントは俺様の職業と港だ」

「……そうですね、船の護衛……魔物退治……大きな町のようですし、魔物退治の線は薄いですかね」

「あとは、港町というくらいですから、港には大陸中の情報が集まる」

傭兵「うんうん。まあ、そんなモンだろうな」

傭兵「俺様は食い扶持を稼ぐためにこの町へ来た」

傭兵「要するに依頼を探しにきたってわけなんだがー」

「それで……ぼくたちに手伝えと、気の重くなるような話ですね」

傭兵「そうなるな。ただ、あの子を連れてというわけには行かねえけどよ?」

盗賊「あ、ルー。おれにもくれないか」

幼女「んー、いーよー」

「でも、ルーを一人にするのも……」

ミリア「……ふむ、なにやら難航しておるようだの」

傭兵「? 何だ、誰かほかにいんのか」

「あー、えっと。このペンダントです」
191 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 19:39:46.71 ID:V1tiJFAt0

ミリア「ふんっ、わらわが寝ておるうちに何を勝手に話を進めておるか」

傭兵「……喋る、石か……はっはっ! そりゃいい! 俺様の目に狂いはなかったって訳だ」

ミリア「何者だ……? こやつは」

「傭兵さん、倒れてたぼくたちを助けてくれたんだ」

「にしても、寝てたんだ……ずっと黙ってたから、心配してたんだよ」

ミリア「ふ、ふんっ! 心配するのは当たり前だのっ!」

ミリア「あの子のことならば心配無用だ。ああ見えて頑丈だからの」

「で、でも……」

傭兵「俺様は構わねえんだが……」

(そんなこと言っちゃっていいの?)

ミリア(……仮にも竜人なのだ。いざとなれば竜化が出来る)

(でも……竜を見たとき、盗賊と傭兵さんがどう思うか……)

ミリア(知らぬ、わらわには関係ない。それで離れるのであればそれもまた一つの道)

ミリア(貴様はすでにあの子と契約してしまった。それは逃れることのできぬ運命よな)

(なにを、物騒なことを……)
192 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 19:40:25.10 ID:V1tiJFAt0

傭兵「おいおい、どうしたいきなり黙り込みやがって……」

傭兵「結局は、魔の国に戻りたいんだろ? お前たち」

「できれば、そうしたいですけど」

盗賊「おれはどっちでもいいぜ、どうせ記憶もないんだ。どこ行ったって同じだし」

傭兵「もしかして、このおちびさんが馬鹿なのは記憶がないからかぁ?」

「そ、それは……どうでしょう。思い出だけがなくなってるだけみたいですし……」

盗賊「うがーっ! おちび言うなっ!!」

傭兵「馬鹿なのは否定しないんだな?」

盗賊「うっ、うるせー!!」

「まーまー」

幼女「もくもく」
193 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 19:41:14.66 ID:V1tiJFAt0

傭兵「おしっ! んじゃま、目的は決まったな」

傭兵「しばらくはお前たちは俺様と共に依頼をこなし」

傭兵「金が溜まったらお前たちは自国へ帰る」

傭兵「そんでそっからは何しようが自由だ、盗賊の記憶探しをしようが学校に通おうが」

傭兵「俺様の知ったこっちゃねえ」

「……オーケイ、それでお願いします。十分すぎるほどですし」

傭兵「はっはっはっ! 割と腹ぁ括ってんだな、ガキの癖によ!」

「一日で、多すぎることを経験しましたからね」

「大変不本意ながらですけど……前に進むには働くしかなさそうです」

幼女「おしごとー? るーもいっていいのっ!?」

傭兵「あーいいぜ? ちゃあんと俺様が守ってやっからよ!」

「ふ、不安だなぁ」
194 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 19:42:31.43 ID:V1tiJFAt0

幼女「だいおーぶっ!! るーがみんなをまもってあげうかあねっ!」

「あはは……それは心強いね」

盗賊「おー? ルーは誰かさんと違って頼もしいなぁー」

「え、それぼくのこと?」

傭兵「はっはっは! 頼りにしてるぜ」

傭兵「じゃ、ま。まずは着替えからだな」

傭兵「少年は……俺様のお古だ、光栄に思え? 盗賊とルーちゃんは宿の主人に娘がいたから」

傭兵「お古をもらってきてあんだ。そいつで我慢してくれ」

幼女「わぁっ! おふく? るーのおふくー!」

「はぁ、光栄ですよまったく」

盗賊「う……あ、あのよ」

傭兵「どうかしたか?」
195 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 19:43:38.44 ID:V1tiJFAt0

盗賊「そ、その……おれのサラシ、は? この下着、なんだか合わなくて」

傭兵「あー、洗濯中。その下着大きさ合わなかったか? うーん、自信あったんだけどよ」

盗賊「えっ、ちょっ、待てよ! なんでおれのサイズ知ってるんだよっ!?」

傭兵「えっ?」

盗賊「えっ?」

傭兵「わかんねえ?」

「ぼくに振られても……わかりませんよ」

傭兵「まじで? 紳士のたしなみだろ?」

盗賊「なにそれこわい」

傭兵「ちなみに俺様の目測によればCからおぶぁっ!?」ドスッ

盗賊「ふーっ……! ふーっ……!」

「よーし、ルー。あっちで着替えようねー」

幼女「うんっ!!」
196 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 22:10:26.51 ID:V1tiJFAt0


「うん、終わり」

幼女「えへーっ! ね! ゆーた! にあってう?」クルッ

ルーはご機嫌なのか、その場でくるっと一回転してみせる

白い袖なしのワンピースの裾がふわりと浮き上がり

傷一つない肌が白く光る

「うんうん、とっても似合ってるよ」

幼女「にひひ」テレテレ

恥ずかしいけど嬉しいのだろうか、腕を後ろに組んでにこにこしている

それに対しぼくはカーゴパンツにゴツゴツとしたベルト、黒いシャツ

その上から、丈が異常に長くて袖広のジャケットを羽織っている

何だかとっても恥ずかしい格好だ

傭兵「おーう、どうだぁ? カッコイイだろー」

幼女「あははっ! ゆーた、かっこいー!」

「な、なんなんですかこれ。ちょっと派手すぎじゃないですか? それになんだか重いですし」

最後に革のグローブを着けて完成……らしい

傭兵さんの趣味はいまいちぼくには理解できない
197 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 22:11:47.02 ID:V1tiJFAt0

傭兵「俺様のお下がりだからな! 派手すぎてちょうどなんだよ」

そういって、軽くぼくの格好を見て「うん、サイズはちょうどのようだな」と頷いた

傭兵「重いのはあれだ、繊維に金属を混ぜてあるからだな。なかなかに頑丈だぜ」

「またまた……高価そうなものを」

こんなの、ぼくにとっては恥ずかしすぎて死んでしまう

軽く嘆息してから傭兵さんを見やると……これまた派手な格好をしていた

フードつきの黒いコートを羽織り、肘のところまで袖を捲って滑り止めのグローブをつけている

そこまではいい、まぁ普通だろうが。さらに全体を見てみよう

シルバーのリング、ブレスレット、チェーン、イヤリング

数えきれないほどの装飾品、歩くだけでジャラジャラとうるさい

「どうしてお古がこれで、今の服装がそれなんですか」

傭兵「俺様は気づいてしまったのさ……」

「どんなしょうもないことをですか?」
198 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 22:12:11.77 ID:V1tiJFAt0

傭兵「男の癖に露出なんて流行らないってな……やはり男はこう……どっしりというか」

傭兵「頼りがいのある、きゃーっ! 傭兵さんすてきー! 抱いてっ! って言われるようじゃねえと」

幼女「きゃー! よーへーさんすてきっ! だいてー!」

傭兵「お? こんなところにぴちぴちギャルが、さぁ俺様の腕にしがみつきなっ!」

幼女「きゃははっ! よーへーちかあもちーっ!」

「あーもう……なんだかどうでもいいです」

ミリア(ぷっくくく……ま、馬子にも衣装だの……)

(なんだよぉ……ミリアまで)

ミリア(いや、くくくく……! 似合っておるぞ……実にな、ぷくっむごががが)

ミリア(むごむご、ええいっ! 何をするーっ!!!)

盗賊「お、おーい? も、もう着替えすんだか?」

バスルームで着替えていた盗賊が、遠慮がちに声を掛ける
199 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/07(土) 22:12:55.03 ID:V1tiJFAt0
「ん? ああ、もう大丈夫だよ……っていうか皆気にしないと思うけど……」

盗賊「お、おれが気にするんだっつの! ちょっとは気を利かせろよなっ!」

カラカラッ

バスルームから控えめに出された足は、太ももまでを覆い隠すニーソックス

そしてショートパンツに革のベルト、寝巻きに着ていたワイシャツという出で立ちであった

盗賊「ったく……なんでおれがこんな格好……」

傭兵「しょうがねえだろ? 文句なら宿屋の娘に言うんだなー」

盗賊「べ、別に文句はないけど……そ、その……」

盗賊はぼくの顔をちらちらと見やる

盗賊「変……じゃないか?」

ミリア(…………ほう)

「いや、そんなことないよ。すごく似合ってる」

少なくとも

ぼくなんかよりはずっと

盗賊「そそそそそうか! それならいいんだっ!」

幼女「あはは! とーぞくうえしそー! るーもうえしーっ!」

傭兵「おう、お前等。そろそろ行くぞ」

「ほら、いくよ。ルー、盗賊……ってどうしたの」

幼女「うんっ!」

盗賊「いい、いや? なんでもないぜ! ちょっと先に外出ててくれ」

「ふぅん? じゃ、先行ってるよ」

盗賊「お、おう」
200 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/07(土) 22:14:37.86 ID:V1tiJFAt0
悩みに悩んだメンバーの衣装なのだけど……ぼくにファッションセンスはないようですね!

ということで終わり、盗賊がかわいく書けない!不思議っ!
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 23:07:49.76 ID:N1MijRxDO
202 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/08(日) 23:22:41.81 ID:8m5zVbbi0


ガヤガヤ

宿を出てすぐ、ぼくらは大通りの前にいた

「うわぁ……すっごい人だなー」

幼女「ひと、いっぱい!」

「あ、ルー。ちゃんと手繋ごうね」

幼女「うんっ!!」

傭兵「おう、お前等。この辺の土地勘はまったくねんだから、俺様から離れるんじゃないぞ?」

「はい、わかってますよ」

ミリア(……わらわたちを襲った奴等、奴等もこの辺りにいるのだろうかの)

(どうだろ、奴等がぼくたちと同じヘマをしたとは考えづらいけど?)

ミリア(ぬっ!! わらわが情けないヘマをしたというのかっ!?)

(べ、別にそこまでは……)

ミリア(むぅ……まぁよい、くれぐれも気をつけるのだぞ)

(……ぼくは大丈夫だと思うけどなぁ)

盗賊「わ、悪いっ。待たせた」

「あ、盗賊。……ってあれ、そのコート」

盗賊は、初めて出会ったときに着ていた、ブラウンのコートを羽織っていた

それは度重なる不運によってボロボロではあったが

盗賊「やっぱりよ、何だか記憶の手がかりになりそうだし」

盗賊「それに、とっても大事なものの気がするんだ、流石にマフラーは暑いからやめたけどな」

傭兵「ふぅん、そんなもんかねぇ」

幼女「ね、ね! はやくいこー?」

「ああ、まってよルー」

傭兵「あ、待てよお前等。どこ行くかわかってんのかぁっ!?」
203 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/08(日) 23:26:55.25 ID:8m5zVbbi0



幼女「あははっ! ね! ね! ゆーたっ! あえなにっ?」

「ル、ルー……お願いだから待って……」

傭兵「おい……ちゃんとお守りしろよ」

「そんなこと言われましてもですねー……」

盗賊「あれはだな、おさかなさんだ」

幼女「おさかなさんっ! あはっ! しんだよーなめ、してうね!」

盗賊「そうだなー、死んでるからなー」

傭兵「……どうしてこう、馬鹿は元気だけがとりえなのかねぇ?」

「傭兵さんもたいがいだと思いますけど」

傭兵「んだとぉ!? こらぁ!!」

「冗談ですって、にしても、見た目の割りに体力ないですねー」

傭兵「ほっとけ」

傭兵「やっぱ、インテリなぼっちゃんは運動苦手なんですかねー?」

「あははー、ぼくは魔法使いですからね」
204 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/08(日) 23:29:37.62 ID:8m5zVbbi0

傭兵「けっ! 言い訳があっていいな! お前は」

「傭兵さんも年齢っていう言い訳があるじゃないですか」

傭兵「うるせぇ!! まだ28だっつの!!!」

「……こいつは驚きました。てっきり30は越えてるかと、まぁギリギリですけどね」

傭兵「ほぅ……よほどイケメンになりたいと見えるな?」グッ

「殴られてイケメンになれるなら、苦労はしませんよ」

傭兵「ぐぎぎぎぎ……たく、かわいげのねえ奴だ」

「それは残念です、これでも嫌味100%デレ0%を目指して突っ走ってるんですけど」

傭兵「それ俺様に対してだけだよな? あと残念がるところじゃねえし突っ走んな」

「あははは、傭兵さんは面白いですね」

傭兵「俺様は面白くねぇっ!! 何で悲しゅうてこんな男と言い争わなきゃならんのだ」
205 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/08(日) 23:32:55.63 ID:8m5zVbbi0

ミリア(な、なにやら元気だの……)

(ちょっと、嬉しくってね)

同年代ではないが、随分と久しいのだ

こうやって、しょうもないことで言い合える相手がいるのは

ずっと……学校では一人だったから、妹がいたとはいえ別学年だし

「ほんと、ずっとこうだったらいいのにね」

傭兵「ん? なんか言ったか」

「いえ、何でもないですよ。ほら、ルーと盗賊見失っちゃいますよ。おじさん」

傭兵「だからっ28だっての!! ……くそ、妬みか? イケメンな俺様に対する妬みなのか?」

「まったくもって根本的なところから見当違いですよ」

傭兵「あ、おい! まてこら、そっちじゃねえっての!!」
206 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/08(日) 23:37:24.72 ID:8m5zVbbi0
なんかクソ重いんですけど

傭兵さん攻略ルートにもって行きたい! でも幼女増やしたいんでお蔵入り!!
207 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/08(日) 23:39:50.39 ID:8m5zVbbi0
なんかクソ重いんですけど……

傭兵さん攻略ルートに行きたいけど、幼女増やしたいのでお蔵入り!!
208 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/08(日) 23:42:54.62 ID:8m5zVbbi0
きゃー、多重投下とか恥ずかしい
209 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/09(月) 23:57:23.35 ID:aB1oxZu+0


傭兵「何で目的地に着くまでにこんな時間かかってんだよ!」

「ま、まーまー」

盗賊「てへっ?」

幼女「てへー!」

「2人とも、こういうところは初めてっぽいですし、興奮しちゃったんですよ」

傭兵「んなこたぁわかってる、ったく……先が思いやられるぜ」

盗賊「苦労してるんだな……傭兵も」

幼女「くおうしてうんだね! よーへーはっ!」

傭兵「おめーらのせいだ!!!」

「ところで、せっかく酒場に来たんですし何か食べていきましょうよ」

傭兵「そうだなー……っておい、なにさり気なくたかろうとしてんだ」

「…………あ、あの席空いてるねー」

傭兵「無視してんじゃねぇっ!」
210 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/09(月) 23:57:49.63 ID:aB1oxZu+0

盗賊「あー、おれもちょうど腹減ってたんだよな」タタッ

幼女「るーも、るーも!」トトトッ

傭兵「おいこらっ、勝手に決めんな!」

店員「いらっしゃいませー」

幼女「いあったいました!」

店員「あら、可愛らしい子ですね」

傭兵「いいえ……可愛いものを可愛いといえる、そんなあなたが可愛らしいのです」キラーン

傭兵「こんなしみったれた酒屋も、あなたがいるだけで一際輝いて見えます」キラーン

傭兵「どうですか? お時間があればこのわたくしめと……」キラーン

盗賊「……なあ勇者、こいつ何言ってんだ? おれ馬鹿だからわかんねえや」

「さぁ、ぼくにも理解できないよ」

店員「ええ、そうですね。またの機会に」

店員「ご注文はお決まりになられましたか?」

傭兵「ああっ! つれないお方だ……だがそこがいいっ!!」
211 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/09(月) 23:59:01.78 ID:aB1oxZu+0

盗賊「……? 店員さん、メニューほとんど品切れになってるんだけど」

店員「申し訳ありません……最近、食物が手に入りにくくなってるんです」

「……そりゃまた、一体どうしてですか?」

店員「この辺りの食物は、南大陸の中央部あたりから届けられてるんですが」

店員「……主要な道路に魔物が巣くっているようで」

「なるほど、南大陸は貧しい民が多いと聞きます」

「護衛を雇えるほどの商人ならいざ知らず、一般農家ならば運送も厳しいでしょうね」

ミリア(ふむ……魔物の凶暴化、というわけかの)

盗賊「ならちゃっちゃとやっつけちゃえばいいじゃん」

店員「ええ……お国のほうでも兵をだしたり、依頼を出したりなどしてるんですけど」

店員「これが依頼書です」

傭兵「どれどれ……懸賞金もでかいな、それだけ魔物が強力で、梃子摺ってるってわけか……」

店員「では私はこれで、ご注文がお決まりになられましたらおよびくださーい」

「ありがとうございます……ところで、傭兵さん……」

傭兵「あん? ……お前、もしかしてこの依頼を受けたいとか言うんじゃねえだろうな?」
212 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/09(月) 23:59:38.19 ID:aB1oxZu+0
「……ま、その通りです。気になるっていうのもあるんですけど」

「やっぱり、皆が困ってるのなら……助けてあげたいかなって」

盗賊「……そーだよな、やっぱやるんならそーゆーのがいいぜ!」

傭兵「おいおい……ひよっこども、何勝手に決めてんだ?」

傭兵「そりゃ、上手くいきゃあ一発で旅費は稼げるだろうよ」

傭兵「だけど……下手すりゃあ一発でお陀仏になるんだぜ?」

「承知の上です、それに打算がないわけではないですし」

傭兵「……聞いてやる」

「まず重要なのが魔物が強力なこと、そして次に国が大々的に協力者を求めていること」

「つまり同じ目的を持つ人が集まるというわけだよね」

盗賊「うん……? ああ、そうだな。それがどうかしたか?」

「なら、誰かが失敗してもほかの誰かが成功できる、でしょ?」ニコッ

傭兵「……はぁん、なるほど」

盗賊「なるほど! たとえおれたちが失敗したとしても、ほかの奴等が倒してくれるってことだな!」

「うん、ま、そういうこと」

ミリア(……せこいのう)

(あはは、ほめても何もでないよ)

ミリア(ほめとらんわ……)

盗賊「じゃ、決定だなっ!!」

傭兵「はっ! どうにでもなれってんだ」

幼女「うー……おなか、すいたー」
213 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/10(火) 00:00:39.36 ID:YB7FCK2c0


傭兵「うし、受ける依頼も決まったことだし、軽くこの大陸について説明しとっか」

傭兵「この南大陸ってなぁ始まりの大地の下、中央大陸の右下あたりにある」

傭兵「東西に長く、東部が北に伸びる、まあ簡潔にいえばL字型だ」

傭兵「その西部の港といえばこのアキドナ港だな」

傭兵「前にも説明したと思うが、主に南大陸の内陸から送られてくる物資を」

傭兵「中央大陸に運送したりしてる、南と中央を繋ぐ貿易港だ」

傭兵「そしてここみたいな主要な町に置かれている国営の酒場、この店なんかがそうだ」

傭兵「国が酒場を経営してるってのも妙な話なんだけどよ……」

傭兵「ま、そりゃ国ができるまでの名残らしいわ、俺様も詳しくは知らん」

傭兵「んでその酒場がなぜに国営されてっかと言うと」

傭兵「ここには大陸中の冒険家やら傭兵たちが挙って集まる」

傭兵「所謂、情報交換の場として成り立ってるってわけだな」

傭兵「そして国やら地方やらから依頼が張り出される」

傭兵「もちろん、依頼の内容は国が把握しているし、犯罪だってそうそう起せねえ」

「……大雑把に見えて、割としっかりしてますね」

盗賊「なんだかよくわかんねーけど、すげーな!」モグモグ

傭兵「お前はそれしかいえねーのか……?」
214 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/10(火) 00:01:37.91 ID:YB7FCK2c0

「はい、あーん」

幼女「あーん、もくもく」

「ちなみに補足説明しておきますと、南大陸の国って言うのは」

「一国家ではなく、正式名称は『南大陸国連合』元からあったたくさんの国が」

「一つになろうと協力し、条約を結び、規格やら通貨やらを共通にしていったものですね」

盗賊「うんうん、何事においても協力って大事だよなぁ〜」モグモグ

傭兵「わかった振りして一切理解してないっての、一番厄介だからな?」

幼女「こくん、あー」

「はいはい」

盗賊「こら、ルー。ちゃんと自分で食べなって」

幼女「えー」

盗賊「えー、じゃないだろー?」

幼女「とーぞくも、ゆーたにたべさせてもあえば、いいよっ!!」

盗賊「えっ、い、いや、お、おれはいいよっ!」

「あははっ、ほら、盗賊。あーん」

盗賊「なっ!? ば、ばかっ!! 子供扱いすんなよなっ!!」

傭兵「かーっ……寂しいねぇ」

幼女「あい、よーへー! あーんっ!」

傭兵「お、ルーちゃんは優しいなー、あーん」

幼女「えいっ!」

傭兵「ちょっ!? あぶねぇ! フォークごと投げる奴がどこにいる!!」

幼女「あははっ!」

ミリア(まったく……一番寂しいのはわらわだというのに……)

(……うん? なんか言った? ミリア)

ミリア(なんでもないわいっ!!)

盗賊「もうっ……!」
215 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/10(火) 00:02:30.79 ID:YB7FCK2c0
幼女成分が足りない、死んでしまう
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 05:46:19.01 ID:gUCnhAwe0
頑張れ応援しているぞ
217 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 00:54:14.43 ID:u4J6YlFy0


傭兵「うしっ! 準備は整ったな?」

「はい、ばっちしです」

盗賊「おれもだぜ!」

幼女「るーも!」

傭兵「んじゃしゅっぱ〜っつ!」

「おー」

盗賊「おー!!」

幼女「おーっ!」

傭兵さんの明るい掛け声に合わせて、それぞれが声をあげる

酒場で例の依頼を受けたあと、ぼくらは旅の準備をし

翌日に出発することにした

そして今日、ぼくらはアキドナ港町を後にすることになった

傭兵「依頼書によると、こっから歩いて2日ってとこかな」

「……野宿する必要がありますね」
218 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 00:55:05.74 ID:u4J6YlFy0

盗賊「キャンプみたいで面白そうじゃんか! おれはちょっとわくわくしてきたなっ!」

幼女「かんぷかんぷー!」

傭兵「お気楽なもんだな? 実際はそう生易しいもんじゃねえんだぞ」

「賊に教われでもしたら……」

傭兵「ま、この一番街道を通る限りは安全だろうぜ」

「一番街道の途中に、小さな町とかあったりしないんですか?」

傭兵「あるにはあるぜ、だが……お前等のおかげで俺様の持ち合わせは至極心もとないんだ」

盗賊「まー、それならしゃーないな! 旅の基本は節約だ!」

幼女「せつやくせつやくー!」

傭兵「たまにはちゃんとしたこと言えんだな?」

盗賊「ったりめーだろ! 馬鹿にすんなよなー!」

ミリア(何を今更臆病になる必要があるのだ?)

(当たり前だよ、ルーやミリア、それに盗賊だって狙われてるかもしれないんだ)

(ぼくは皆を守りたい)
219 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 00:56:01.85 ID:u4J6YlFy0

ミリア(ふ、ふんっ! 口先だけ一丁前になりおって……だがなぜ盗賊を気にかける?)

(……盗賊だけ記憶がないなんておかしいと思わない? 魔導士さんが手当てしたとはいえ……)

(そこまで傷は深いと思えなかった、盗賊が何かしらの能力を備えてるだけかもだけど)

ミリア(心的なショックを受けた、とか)

(その可能性も否めないよ、何をされたかはわからないけど)

(……だから、夜くらいは安全な宿に泊まりたかったんだ)

盗賊「おいっ、勇者! なーに暗い顔してんだよー」

「ん……ちょっとね」

盗賊「あんまし、くよくよ考えても仕方ないぜ?」

盗賊「それに……」

「うん?」

急に言いよどむ盗賊に、首をかしげるぼく
220 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 00:57:34.78 ID:u4J6YlFy0

「お前が言ったんだぜ、辛いことの3分の1くらいは」

盗賊「おれに持たせてくれる、ってさ」

「言ってないような気もするけど」

盗賊「似たようなこと言ってたろ、ま、つまりはそういうことだ」

盗賊「だからさ、お前ももっとおれたちを頼れよな?」

傭兵「俺様は頼られるどころか、いいようにこき使われてるけどな?」

それは無視しておく

「……そう、だね。うんわかったよ」

「ぼくらは仲間だからね」

幼女「るーもっ? るーもなかまっ?」

盗賊「ああ、もっちろん」

幼女「えへー!」

「よし、先のことばっかり考えるのはやめ」

盗賊「そんときそんときで何とかなるよなっ!」

傭兵「ほんっと、楽天的だなお前は……ま、いいことなのかもしれねーが……」
221 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 00:58:11.73 ID:u4J6YlFy0

幼女「えっとね、うんとね、あのおっきなきまで、かけっこ、しよー?」

盗賊「お、いいな。ほら勇者、お前も行くぞ」

「えー」

幼女「いくよー! よーい、どーんっ!!」タタッ

傭兵「だからっ! 勝手に行動すんなっ!!」ダッ

盗賊「はやくしろよー、おいてっちまうぞー!」ダッ

「まったく……しょうがないな」

旅の荷物を背負いなおして、ぼくは走り出す

ミリア「その威勢が、いつまで続くかのぅ……」

ぽつりと呟かれたその言葉は、青く晴れ渡る大空に吸い込まれていった

……数分後

「はぁ……はぁ……もう駄目だ……」

ミリア「やはり、こうなるだろうとは思っておったが……」

傭兵「……なんなんだよ、あいつ等。化けもんかよ」

ミリア「それはまた、言いえて妙だの。その通りと言っても過言ではないが」

盗賊「おっそいぞー! おっさん! はやくしろよなー!」

幼女「あははー! おっさん!」

傭兵「う、うるせーぞ! 待ってろお前等ぁ!!」

ミリア「やれやれ……先が思いやられるの」

……足手まといになるのは、ぼくのほうかもしれなかった
222 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 01:00:56.18 ID:u4J6YlFy0


ローグ「……リン」

リン「なに」

真っ暗な部屋の中で、男は相棒に語りかける

いつもの抑揚のない声で

ローグ「疲れたか」

それに対して、少女は小さく首を振った

暗闇の世界でローグがそれを見てとれたかどうかは怪しいが

無言と気配でそれを感じ取ってはいた

ローグ「……そろそろ、出てきてはくれないか」

リンではない、暗闇のどこかに潜んでいるハズの何かにローグは語りかける

物音一つ感じない、生命の波動を感じない。気配も何も

それは安心できることなのだろうか? いや違う

恐怖するべきことなのだ
223 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 01:01:56.35 ID:u4J6YlFy0

ローグ「……お前の力を借りたい」

知らずのうちに冷や汗が湧き出す。竜の子と契約しているローグであっても

『人の身でありながらも、竜と対等である』人外が相手ではどうすることもできない

ローグ「また一人竜の子が契約した、真相を知れば奴等は俺たちの計画を邪魔するだろう」

ローグ「俺は剣の国へ向かわねばならん。それに……」

ローグ「学園襲撃の際に、あれの記憶が消された」

ざわっ……

空間が大きく歪む、もちろんそんなわけがあるはずもないが

?「え〜!? 盗賊ちゃん、記憶なくなっちゃったんですかぁ〜っ!?」

かつっ、かつっと音がしてその何かは現れた

ほの白い光を連れて

ローグ「……そのようだ、賢者と合間見えてな」

?「ふ〜ん、そーなんですかぁ」
224 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 01:03:10.65 ID:u4J6YlFy0

ローグ「賢者は死んだ、だがあいつは今、竜の子らと行動を共にしている」

?「あっちゃぁー、やっちゃいましたね。ローグちゃん」

?「あの子を連れ出して、更に記憶を吹き飛ばしちゃうなんて……」

?「それこそ計画が破綻しちゃうんじゃないですかぁ? ま、あたしにはどうだっていいんですけどねん」

ローグ「…………だからこそ、お前に頼んでいる」

?「あはっ! 人にモノを頼むときはぁ……」

?「ちゃあんとしないと、ね?」ニコッ

ローグ「…………」ゾクリ

リン「……」

何かは、無言でローグの前に立つリンを、興味深げに見つめる

?「うん? どうしたんです? リンちゃん」

リン「ろーぐに、てだしはさせない」

?「あはははっ!! いいですねーローグちゃん。大事にされてますねー」

ローグ「…………この通りだ」

そういって、ローグは軽く頭を垂れた

それでいいのかと言えばよくないのだろうが、何かは別段気にしてないようであった
225 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 01:04:33.08 ID:u4J6YlFy0

「うーん、ま、いいですよ、リンちゃんに免じて頼まれてあげますっ!」

?「しょうがなし、ですよ〜? あははは」

何かの足元に、幾何学的な模様が描かれた円が広がり

瞬く間のうちに、その姿はこの空間上から消えうせた

ローグ「……ふぅ」

リン「…………」

黙って、ローグの顔を見上げるリン

ローグ「…………」

その頭に手を載せ、少々乱暴に撫でるローグ

その2人の表情には、本来浮かべられるはずのない笑みが浮かんでいた……

なんてことはない
226 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/11(水) 01:07:56.99 ID:u4J6YlFy0
>>216
応援レスほど嬉しいものはありませんぬ、ありがとうありがとう

なんか最近まじ重いですね?
ちゃんと投下できてるか不安です
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/11(水) 22:20:53.10 ID:ZSi/x3OIO
乙!できてるよー
228 : ◆Fq2QReZI2Y [saga sage]:2011/05/11(水) 22:57:08.25 ID:u4J6YlFy0
よかったよかったです
そして今日は軽い短編っぽくなりました
漠然と意識していた生と死に始めて向かい合う心中を上手く書けてるといいなー
229 :間違えた^q^ ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 22:57:42.96 ID:u4J6YlFy0



盗賊「なー、まだかよー」

傭兵「まだに決まってんだろ、何度目だよその質問」

盗賊「だってよー……」

ミリア「体力は無尽蔵でも、根気のほうはからっきしのようだの」

「あはは……」

盗賊「だってよ、さっきから似たようなとこ歩いてんぞ? そろそろ着いてもいい頃なんじゃね」

傭兵「もともとは森だったところを、無理やり切り開いて開拓して作った道なんだぜ」

傭兵「景色を眺めようが、気がめいるだけだと思うぜー」

盗賊「うがー……」

幼女「らん♪らんらん♪」

盗賊「ルーはいいな、楽しそうで」

幼女「うんっ! みんなとおさんぽ! たのしいよっ!」

傭兵「はっはっ! ちっとはルーちゃんを見習えってこった!」

盗賊「散歩にしちゃ、距離が長すぎるぜ……」

幼女「……?」キョロキョロ
230 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 22:58:24.31 ID:u4J6YlFy0

「うん……? どうかした、ルー」

幼女「ね、ね! あっちにおいけがあうよ!」

盗賊「へぇ! そりゃいい! ちょっと休憩にしようぜっ」

傭兵「おいこら、ちゃんと皆で行こうな」

「あ、待ってよルー、盗賊」

傭兵「……はぁ、もうちょっとは年長者の言うことを聞くもんだぜ……?」



幼女「わーっ! きえいっ!!」

盗賊「ほんとだ、飲めんのかな?」

「……よっと、どうだろうね」

傭兵「っこらっしょ、っと……お? ほんとにあったのか」

傭兵「へぇ……崖の割れ目から、水が沸いてるのか」

ミリア(……害はなさそうだの、だが……少しばかり嫌な気配を感じるぞ)

(それって)

ミリア(恐らく、魔物だ。あまり長居はできんぞ)

傭兵「……飲めそうだな、水筒に入れておけ」ヒュッ

「は、はい」パシッ

盗賊「…………ぷはっ!」パシャッ

幼女「あははっ! きもちいーね!」

盗賊「ふーっ、生き返るぜー」
231 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 22:59:27.94 ID:u4J6YlFy0

傭兵「この傷跡……随分と新しいな、鋭利な爪かなんかだ」

「……と、いいますと」

傭兵「魔物だろうな、ここの湧き水は魔物さんにも人気の穴場らしいぜ」

ミリア「やはりの……」

「自然の恵みは、世界に生きる生物全てのものに与えられるものですからね」

ザザッ

「ちょっとくらい、魔物さんも大目に見てくれますよ、きっと」

ガサッ

ミリア「あの堕落しきった低俗な生物共に」

ミリア「そのような寛大な心を求めようというなど……なかなかの愚考だの?」

「……ぼくから彼等に対する要望だよ……いや、希望かな?」

傭兵「言ってる場合じゃねーよ、来るぞっ!」

狼「グルォォォオオ!!」

「敵は獣族……数は見えているだけで4〜5体、リーダー格の狼を中心に徒党を組む」

大狼「…………グォォオ」

傭兵「っは! 解析だけなんざ誰でもできらぁ」シャキィ

ぼくらは戦闘態勢に入る、といってもぼくは武器なんざ持ち合わせちゃいないが

傭兵さんは、背中に掛けたバスターソードを片手で引き抜いて魔物と対峙する
232 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 23:00:01.49 ID:u4J6YlFy0

「盗賊、ルーを頼むよ」

盗賊「まっかせとけ!」

幼女「あはっ! わんちゃん!」

ミリア「……ここいらはこやつらの縄張りだったというわけだの」

ミリア「あの傷跡は差し詰め、縄張りを示すためのマーキングだったのであろう」

「ま、そうなるね……となると簡単には逃がしちゃくれない、かな」

傭兵「戦うっきゃねーだろ? さぁ、かかってこいよ!! 犬ッコロ!!!!」

狼「グルル……ガァッ!!」

一斉に2匹の狼が傭兵さんに飛び掛る

傭兵「お――らぁっ!!」ブゥン!

俊敏な獣族といえど、それを更に上回る攻撃ならば避けようがない

力に任せた高速の一振りでそれらは一刀両断、文字通り只のモノへと変貌した

「豪快ですねー、ちょっと羨ましいですよ。非力なぼくにとっては」

ほかの2匹がぼくに襲い掛かる間、ぼくは軽口を叩いてみた

が、それは意味を為さない

内心では、自分でも驚くほどに恐怖していた

狼「グルォォオオッ!!」

透明色でありながらもどこか濁った唾液をその口角に滴らせ、飛び掛る狼は大きく口を開けた

それに対してぼくは、素早く後退する

両手から、魔力の塊を落としながら
233 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 23:00:42.24 ID:u4J6YlFy0
「……上手くいけばいいんだけど」

狼「グルォッ!?」

ぼくの思いが通じたのか、それは成功に終わった

ぼくの手から離れた魔力の塊は、すぅ……と地面に接触したと同時に、一面に結晶を生み出す

傭兵「足止め、ねぇ……結局は俺様任せになるのか?」

「当たり前じゃないですか、美味しいところは年長者に譲らないと」

傭兵「そいつは、お気遣い大変痛み入りますねっと」バシュッ

結晶に足を封じられた狼は、バスターソードにより首を切断され

赤黒い血を噴出しながら事切れた

「さ、あとはリーダーさんだけだね」

盗賊「やったなっ!」

傭兵「っ!? おいっ!! 盗賊、後ろだっ!!」

ガサッ

狼「グルォオオオ!!」
234 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 23:01:25.59 ID:u4J6YlFy0

盗賊「んなっ!?」

幼女「…………」

草陰に隠れた狼が、後方に控えていた幼女と盗賊へ襲い来る

2体……? いや、3体!

「間に合う……かっ!!」

苦し紛れの一投、瞬時に生成した結晶の槍は、狼の一匹に命中

大きく広げた口内を貫通し、木へ突き刺さった

だが、倒せたのは一匹、たったの

盗賊「――らぁっ!!」シュッ

狼「ギャゥッ!?」

振り向きざまの一撃、短剣で首を切り裂いた盗賊は横転してそれを避ける

盗賊「くっ……ルーッ!! 逃げろ!」

幼女「あ、う」

「間に合わない――ッ!」

狼「グガァッ!!」
235 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 23:02:14.71 ID:u4J6YlFy0

…………

幼女「めっ!!!!」

狼「グ、ググ……」

そのとき、信じられないことが起こった

傭兵「……? どうしたんだ、狼が動きを止めたぞ」

盗賊「ルー……?」

「これは、いったい」

腰に手を当て、精一杯の怖い顔で、ルーは狼を睨んでいた……と表現するのも憚られるほどだが

幼女「いたいいたいしちゃ、めっ! だよ!」

狼「グァァ……」

幼女「でも……なかま、いっぱい、しんじゃった、ね……ごめんなさい」

幼女「だかあ、もうわういことしちゃ、めっ、なの」

幼女「また、なかま、いっぱいしんじゃう……かあ、だめ、だよ」

申し訳なさそうに、悲しそうにルーは狼に声を掛ける

すると、どういったことだろうか

大狼「ウォォォーーン」
236 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 23:02:44.36 ID:u4J6YlFy0

狼「「「ウォーーーン」」」

狼「クルルル」ペロッ

幼女「きゃはっ! くすぐったいよ〜っ!」

大狼「ガウッ!」

狼「グアッ!」

狼はじゃれるかのように、ルーの頬を一舐めすると

仲間と共に森の中へと消え去っていった

「……なんだったんだ? 一体」

盗賊「よくわかんねーけど、助かったってことだよな」グデー

傭兵「そういう、こったな」チャキッ

ミリア(……あれは、<チャーム>といった能力の一つだの)

(<チャーム>?……魅惑するとかって意味だよね、確か水だか光だかの魔法にあった気がする)

ミリア(わらわは魔法には疎いが……ま、似たようなものであろうな)

ミリア(貴様とルーが契約したことにより、あの子の潜在能力も開花しはじめておる)

ミリア(<チャーム>もそのうちの一つだの。魅惑するというより、手なずける、意志の疎通)

ミリア(そのように言ったほうが、正しいと思うが)
237 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 23:03:31.61 ID:u4J6YlFy0

幼女「ゆーたっ!」

「ん、どうした? ルー」

幼女「わんちゃんの、おはか、つくうよ」

「……そうだね、そうしよう」

盗賊「ああ」

傭兵「…………」

ミリア「……その必要はない」

「……? ミリア?」

幼女「? だえ?」

ミリア「きちんと話すのはこれが初めてかの、ルー」

幼女「ゆーたのそえ、そえがおはなししてうの?」

「う、うん」

ミリア「だが長ったらしい話はやめにしておこうかの、貴様等、魔物をよく見てみろ」

盗賊「なんで……って、なんだあれ!?」

「……死骸が、黒くなって、崩れ落ちてる」
238 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 23:04:25.93 ID:u4J6YlFy0

ミリア「魔より生まれ、闇へと帰るモノ、それが魔物であり異形のモノの運命」

ミリア「運命などと口にするのはどこが歯がゆいがの……それは変えようのない事実だ」

幼女「わんちゃんっ!!」

幼女「あう……あ、ぅ……」ポロポロ

幼女「ふぇ……ひっ、くっ」

「……よしよし」

幼女「うあっ……ふああぁぁあっ!!」

幼女「やく、そく……した、の!」

幼女「うぇぇ……うっ……」

「そっか……じゃあ、お墓だけ。中身はなくっても、気持ちだけでも……」

幼女「うんっ……! うっ……ん!」

その後、ルーは目を赤く腫らしながらも

ぼくらと狼のお墓を作った

傭兵さんはどこか後味の悪そうな顔をしていたし

ミリアはミリアで、今のうちに慣れておくべきだとか言ってるし……

自分の命のために、相手の命を奪う

それは当たり前のような略奪にして強奪

だけれど決して正しいとは言えない

「いつか……わかってくれる日が来るのかな」

幼女「……いーぬーのーおまわいさーん♪」
239 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/11(水) 23:06:40.34 ID:u4J6YlFy0

わからないのが幸せなのか、割り切れるのが幸せなのか

竜の子として、力を目覚めさせようとしているルーだからこそ

死について、生き延びることについてちゃんと理解して欲しい

何も知らずに、穢れることも汚れるこもせずにいて欲しい

それらは矛盾してぼくの思考をぐるぐると掻きまわす

矛盾思考

幼女「……ゆーた」

「ん、どうかした?」

幼女「ゆーたは、きえないよね」ギュッ

ルーは、ぼくのジャケットの裾を強く握り締めた

「ああ! 当たり前だとも」

なるだけ元気良くぼくは答える

この小さな子とぼくの願いは、互いに引き寄せ合う願いなのだ

契約の内容なんて、関係なく

決して離れることはないだろう

幼女「ずぅーっと、ずっと」

「一緒、だね」

ぼくはにこりと笑うと、ルーも太陽のような笑みを浮かべた

「じゃ、いこっか、皆待たせてる」

幼女「うんっ!」

そしてぼくはぽつりと

「……子育てに悩む親って、こんな気持ちなのかなぁ」

場違いにて位置外、そんな立場すらも間違えているような独り言を

呟いて、歩み始めた
240 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/11(水) 23:10:47.18 ID:u4J6YlFy0
随分前の話だけど、実家の犬が死んで
当時4歳だった従姉妹が凄い勢いで泣きながら、お兄ちゃんって言って縋ってきたときは
不覚にもげふんげふん

……おっと、誰か来たようです
241 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/12(木) 18:56:30.45 ID:r5bpBEOz0
えと、ネタ募集したりとかしてもいいですかね?
番外編をちょくちょく挟みながら行きたいんですがー……
242 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/13(金) 20:25:22.84 ID:OSBhLLz90


……はぁっ、はぁっ

あ、姉さん

やっぱり、こんなところにいたんだね

うん、姉さんはどうしたの? 目、赤いよ

なんでもないよ、ちょっと悲しい夢を見たんだ

ふぅん、どんな夢?

そうだよ、君がどこか遠くへ行っちゃう夢

ぼくが?

ああ

ぼくは……

どこにも行かないよ
243 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/13(金) 20:26:00.33 ID:OSBhLLz90


盗賊「おい――おいって」

盗賊「起きろよー」

「う、ん……」

幼女「ゆーたっ!! あさだよっ!」ドンッ

「ぐぼぁ」

毎度のことながら、ルーの起し方は少々乱暴だ

「あたた……おはよう……」

傭兵「やーっと起きたか、ほらさっさと出発すっぞ」

「あっ、ちょっと待ってくださいよ!」タタタッ

盗賊「ふぁーっ! いや、よく寝た」

傭兵「何がよく寝た、だ。見張りの番をすっかりすっきり忘れやがって」

盗賊「あ、はははー、ちゃんと起してくれないのがいけないんだ」

傭兵「……どの口がほざきやがる」

盗賊「ごめんなさい」
244 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/13(金) 20:26:54.08 ID:OSBhLLz90

ミリア「まったく……暢気なものだの」

「あはは……ふぁ」

盗賊「やけに眠そーだな?」

「うん? いや、ちょっとね」

ミリア「ちょっとも何もあるまい、ずぅっと起きておったのだろう?」

「うっ……」

ミリア「阿呆が、考えることが単純すぎるわ」

傭兵「んだよ、起きてんならずっと見張ってくれりゃあよかったんだ」

「実を言うと……眠れなかっただけ、なんだけどね」

ミリア「ふん、臆病な貴様らしいの……ふぁ」

ミリア「わらわはしばらく寝るぞ、用があれば……いや、起すな、絶対にな」

盗賊「いいなぁ、おれももうちょっと寝てたかったぜ」

「ぼくも」

傭兵「緊張感のない奴等だなぁ……」
245 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/13(金) 20:27:59.42 ID:OSBhLLz90


――道中――

★よーへーちゃんにじゅうはっさい!

「傭兵さんって28歳なんですよね」

傭兵「あ? そういったろーが」

盗賊「へぇ、おれはもっと歳食ってるかと思ったぜ」

幼女「よーへー、わいとわかいっ!」

傭兵「うっせーぞお前等!」

「もうすぐ魔法使いになれますね」

盗賊「? 無理無理! 傭兵なんか馬鹿そうだし、魔法使いなんて絶対無理だろ!」

傭兵「……少年、一発殴らせろ」

「やだなぁ、何も怒ることないじゃないですか」

盗賊「ルーが見てるんだぞ、暴力はよくない」

傭兵「……はぁ、もういいよ。そういやお前等はいくつになるんだ?」

「ぼくは17歳ですよ」

傭兵「ほんと、ガキの癖に生意気だよな」

盗賊「へえ、17だったのか。おれは19だぜっ!!」

「え、年上?」

傭兵「……俺様は、年齢詐称ってよくないと思うな」

盗賊「何だよその反応はっ!! 子供扱いすんなよなっ!!」

幼女「るーはね! るーはねっ! えっとね、うんとね!」

幼女「るーたんななじゅういっさい!!!!」

盗賊「えっ」

傭兵「えっ?」

幼女「なにそえこわい」

「……えっ?」
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 20:34:21.70 ID:NaMnEr4IO
俺「えっ」
247 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/13(金) 21:09:44.09 ID:OSBhLLz90

★こどもあつかいすんなよなっ!!

盗賊「あー、眠いーおなかすいたー」

「わかったわかったよ、あとちょっと歩いたらお昼しよう? ね?」

傭兵「またか? しょーがない奴だなー」

盗賊「えー? もう昼だぞ!」

「ほら、飴あげるからさ」

盗賊「ばっ! 飴なんかで釣られるかよ! 子供扱いすんなよなっ!!」

「でも食べるんだ?」

盗賊「うん、いちご味おいしい」

幼女「るーもっ!」

「はいはい」

傭兵「まったく、お前は我がままばっかりだな」

盗賊「うー……だっておなか減るのは仕方ないじゃん?」

傭兵「それにしたってもう少し堪え性をだな……」

「そうだよ盗賊、我慢しなきゃ……ちょっとはルーを見習おうよ」

傭兵「それで19だと? もう20になるような奴がそんなんでいい訳ないだろ」

「それにぼくより年上なんだしさ、もっとしっかりしてよね」

盗賊「う……うぅ……」ガクリ

幼女「とーぞくっ!」ナデナデ

盗賊「うぅ、ルーぅぅ……」

幼女「おとなに、なえよ!」グッ!

盗賊「わあああああああんっ!!」
248 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/13(金) 21:20:18.62 ID:OSBhLLz90
★まほうつかいであるために

傭兵「潔癖を保った男性は、30歳で魔法使いになれる」

「ええ、世間ではそう言うようですね」

傭兵「なら、お前は魔法使いとは呼ばないのか」

「え? ぼくは魔法使いですけど」

傭兵「っていうこたぁ、人は潔癖を保ったまま30歳にならずとも魔法使いになれるってわけだ」ニヤニヤ

「はぁ、そうですけど」

傭兵「……糞、余裕そうな顔しやがって!」

「からかわれるネタを一つ潰せたからって、あまり嬉しそうにしないでください、いい大人の癖して」

傭兵「うっせ! ……うっせ!!!」

「でも、否定しなかったってことは傭兵さん……あれなんですね」

傭兵「ぎくっ!?」

「擬音を口に出さないでください、……でも以外ですね」

傭兵「何がだよ?」

「結構、女たらしかと思ったら、実は純情なんじゃないですか」

傭兵「う、うおおおおっ!! やめろっ!! 俺様に純情だなんていうのはぁああぁあっ!!」

「そんな歳までうぶな人、ぼくは初めて見ました」

傭兵「やめろっ! やめろっ!! うごごごごごご」

盗賊「なにやってんだ? お前等」

幼女「うちゅーの ほーそくが みだえう!」
249 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/13(金) 21:28:02.48 ID:OSBhLLz90

★まほうつかいであるために・2

盗賊「でもよ」

「うん?」

盗賊「勇者って自分では魔法使いって言ってるわりに」

盗賊「結晶作る以外の魔法使ったことないよなっ!」

「…………」

盗賊「へっ? おれ、なんかいけないこと言った?」

「………………………………………………………………」

盗賊「え、おいちょっ、どうしたんだよ」

「あははははは、いや、なんでもないよ、うん」

盗賊「そ、そうか? それならいいんだけどよ」

「…………ぼくがなにしたっていうんだよちょっと魔法使えるからってすぐあいつらは調子に乗るんだそんなの出来たって大したことないのに」

「そりゃ結晶しか作れないよ?だから何なのぼくは皆より頭よかったし詠唱だっていらないんだよそれなのに何が欠落回路だよ馬鹿にしやがって畜生畜生畜生」

盗賊「おい? なにすげー早口でぼそぼそ喋ってんだよ」

傭兵「……人には触れてはならんものがあるのさ」

幼女「わ、ゆーた! あたまのうえに、くおいせんがはしってうよ!?」
250 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/13(金) 21:30:43.42 ID:OSBhLLz90
ストーリーの方針がちゃんと決まるまで、ちょくちょく小ネタ書いてくます
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 23:02:00.19 ID:aHPgOycUo
252 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/15(日) 15:05:24.32 ID:47t6jaij0


―― 一番街道

「……うーん」

盗賊「どうだ? なんか見つかったか?」

「いや、なーんにも」

盗賊「かれこれ1時間は探し続けてるぞー……」

幼女「まものさん、いないねっ!」

ガサガサ

「っ!」

傭兵「おう……お前等か」

「何だ、傭兵さんですか」

傭兵「何だとは何だ」

盗賊「どうだ? なんかいたか」

傭兵「あっちにも足跡一つついてねぇぜ」

「謎の魔物による襲撃……轟音がしたかと思えば次の瞬間にはやられている」

傭兵「報告書によればそのようだな、しっかし、魔物の種族がわからねんじゃあどうしようも……」

「漁夫の利を得るにはまず、魔物の生息地と行動範囲を調べないと……」

傭兵「……残念だが、ほかにも俺様たちと同じことを考えてるやつがいるみたいだぜ」

「……それは、まぁ想定内でしたけど」
253 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 15:06:05.13 ID:47t6jaij0

傭兵「ざっと4組ってとこだな、人の痕跡が残っていた、ったく……やれやれだぜ」

盗賊「ほかにも誰かいんのか!」

「そのようだね」

盗賊「んじゃ、そいつらに聞けばいいじゃんか」

傭兵「……はぁ、そういう訳にゃいかんだろ? 奴等も多額の賞金目当てだ」

傭兵「獲物の情報を、快く教えてくれるわきゃねぇ」

「よほどのお人よしか」チラッ

傭兵「相当の馬鹿でなけりゃあな」チラッ

盗賊「……なんでおれを見るっ!!」

う、うわぁぁああああああっ!!!

「っ!?」

傭兵「人の声っ!」

盗賊「行ってみようぜ!」

幼女「おーっ!」

……

?「…………」サッ

254 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 15:06:30.25 ID:47t6jaij0



冒険家「ひ、ひぃっ!!」

?「クケーッ!!!」

冒険家2「く、くそっ! こんな化けもんが相手だなんて、聞いてねぇぞ!!」

「……っ! あれは」

曲がった嘴、強靭な翼、そして……獅子の下半身

傭兵「グリフォンっ!?」

盗賊「なんだそりゃ」

幼女「といさん!」

「グリフォンは山中に住む魔物なのに……」

傭兵「言ってる場合か! 助けるぞ!」

冒険家「く、来るなぁっ!!」

グリフォンの鋭利な爪が、冒険家に襲いかかる

傭兵「少年っ!!」

「はいっ!」

その寸でのところで、ぼくらは一斉に動き出した

「これでも――くらえっ!!」

撃ちだされるは例によっていつもの結晶

グリフォン「クカッ!」

だが今日のは一味も二味も違う
255 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 15:06:56.51 ID:47t6jaij0

盗賊「うおっ、結晶が破裂したぞ!」

「魔力を封じ込めてたんだ、ちょっとした衝撃ではじけ飛ぶようにねっ!」

傭兵「上出来だぁ! オラァッ!!」ブゥン!

グリフォン「グギャッ!」ガキンッ

傭兵「ちっ! 受け止めたか!」ギリギリ

冒険家「ひ、ひいいいっ!」ダッ

冒険家2「うわあああっ!!」

傭兵「あっ! てめーらっ!!!」

グリフォン「クカカカッ」ブゥン

傭兵「おわっ!?」

盗賊「傭兵っ!!」キンッ

盗賊「うおっ、何だこいつ、かてぇっ!!」

「……くそ、一筋縄じゃいかないようだね」

力の差は歴然

グリフォンの羽毛によって、斬撃は有効打にはならない

「ミリア……いや、それじゃ駄目だ」

傭兵「ちっ、くしょおっ!!」ブンッ
256 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 15:07:38.44 ID:47t6jaij0

グリフォン「クケケ」キィン

そしてグリフォンは飛翔する

盗賊「うわわっ!」

傭兵「のわぁっ!」

風圧に押され、二人は地面に叩きつけられた

「盗賊! 傭兵さん!」

盗賊「だ、大丈夫だ、それよりあいつをどうにかしないと!」

傭兵「空とばれちゃあどうしようもねえぜっ!?」

「撃ち落すしか……!」ピキピキ

「はぁっ――!」パシュゥ

グリフォン「クカー!」

傭兵「駄目だっ! 風圧が強すぎて届かねえ!」

盗賊「どうすんだよっ!」

「……傭兵さん! 盗賊を飛ばしてくださいっ!」

傭兵「んなっ!?」

盗賊「……わかった、頼むっ! 傭兵!」

傭兵「そうは言ったってな……」

盗賊「ごちゃごちゃ言ってたってどうにもならないだろ! やるっきゃない!」

「お願いします!」
257 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 15:08:12.87 ID:47t6jaij0

傭兵「ああもう、やりゃあいいんだろやりゃあよ!」グッ

盗賊「よっし、準備は出来たぞ! 合図を頼むっ!」

「オーケイッ! ――はぁっ」ピキピキピキ

ぼくは、瞬時にいくつもの結晶を生み出す

それらはぼくの周りに浮かび上がり、円を描きながらスピードを増す

「いっけぇっ!」バシュウ

グリフォン「クケケッ!?」バギンッ

風を切り裂いて進み、風に呷られた瞬間、それらは……爆ぜた

「いまっ!」

傭兵「っしゃあっ! 飛べぇっ!! 盗賊ゥゥウ!!」ブオンッ

盗賊「う、うわわわわっ!」ヒュンッ

グリフォン「グギャギャッ」

炸裂した結晶に怯んだグリフォンは、羽ばたきを止める

それによって身にまとっていた高圧の風もまた、吹き止んだ

盗賊「うお、おおおおおおおおおおおっ!!」バシュゥ!

盗賊が叫び、グリフォンの羽に一撃を与えた

グリフォン「クキュウッ」

「よしっ!」ブンッ

更に、結晶で生み出された槍が、グリフォンへと襲い掛かる
258 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 15:08:57.14 ID:47t6jaij0

グリフォン「クカカッ」サッ

傭兵「バランスを崩したぞ!」

盗賊「おおおおおおわわわわわっ!」ヒュンッ

傭兵「うおおおおっ!?」ドサッ

盗賊「い、てててて」

傭兵「おい馬鹿っ!! さっさとどけっ!!」

盗賊「わ、悪い」

グリフォン「グギャッ」ドサッ

「来るよっ!」

傭兵「くそ、あれだけやっといてかすり傷一つかよ」

グリフォンの翼からは、かすかではあるが確かに血が噴出していた

盗賊「だけどこれで、まともに戦えるな!」

グリフォン「クカーッ!!」ドッドッドッ

傭兵「真正面から……か」チャキッ

盗賊「あいつの羽毛は硬い、狙うなら足元だな!」

「はぁ、はぁ……オーケイ、盗賊、頼んだよ」

盗賊「まっかせとけっ!」

傭兵「うるぁっ!」ガギィン

盗賊「ふっ――!」シュバッ
259 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 15:09:42.35 ID:47t6jaij0

「すぅ、はぁ……よし、足の肉質は柔らかいようだね」ピキピキ

「……弓矢なんて、使ったことないから……当たるかどうかわかんないけど」ギギッ

お粗末なものだけど、結晶の弓に魔力の弦、それに魔力を凝縮させた矢

それを担いで、ぼくは深呼吸をする

「――っ!」バシュッ!

グリフォン「クガガッ」バキィンッ!

「羽毛に弾かれた……けど、効いてる!」ギギッ

「……うぐっ!」シュゥッ

盗賊「勇者っ!? どうした!」

傭兵「ちぃっ!! お前の相手はこの俺様だっ!」グオンッ

「だ、大丈夫……ちょっと魔力の消費が激しかったな」ギギッ

「次は……必ず当てる!」

グリフォン「グギャギャッ!」ザシュッ

傭兵「ぐおっ!」

盗賊「傭兵っ!?」

傭兵「ちっ……足をやられた……!」

傭兵「俺様に構うな! 少年を援護してやれ!」

盗賊「……わかった!」
260 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 15:10:34.98 ID:47t6jaij0

「…………」ギギギッ

しっかりと見定め、目的を一直線に見据える

「目標をセンターに入れて……スイッチ! ないけどっ!!」バシュゥッ!!

グリフォン「グッギャアアアッ!?」

「当たったっ!」

矢は、グリフォンの前足に命中し、内部から炸裂した

盗賊「ば、っか! 逃げろ!」ダッ

グリフォン「グガガガガッ!!!!」ザシュッ

盗賊「がぁっ!?」

「盗賊っ!? ぼ、ぼくを庇って……!」

盗賊「は、やくっ! 逃げろ!」ドクドク

「あ、あああぁっ……!」

また、またなのか

ミリア、助けてよ、ねぇ、ミリアっ!

「……いや」

グリフォン「グカカカッ」ドスッドスッ

「頼ってばかりじゃ、駄目なんだっ……!」ピキッ

ぼくは、扱い易いサイズの剣を生み出し、構える

傭兵「馬鹿野朗っ!! 何やってんだ!!」

「……」チャキッ
261 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 15:11:12.74 ID:47t6jaij0

「うおおおっ!!」ダッ

グリフォン「グアッ!」ガキンッ

上段からの切り下ろし、しかしいとも容易く防がれ、弾かれる

「あああっ!!!」ザシュッ!

突き、切り上げ、全て有効打にはならない無効打

グリフォン「グギッ」ガシッ

グリフォンの爪が、ぼくの体を掴む

「ぐはっ……」ギリギリ

尋常じゃない力、異常なまでの痛み、爪はぼくの体に食い込み、引き裂き、押しつぶす

「うぐぁ……」

盗賊「ゆ、うしゃ……!」

傭兵「ちっ……! 糞っ!」ヨロッ

傭兵「うらぁぁああああっ!!」ザシュゥ

グリフォン「グガガガガガッ!!」ブオンッ

傭兵「がはっ!?」ドサッ

「……傭兵、さん」

駄目だ、目の前が霞んできた

激しい痛みが襲い掛かってくるのに、体中が麻痺してくるような感じもする
262 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 15:11:51.21 ID:47t6jaij0

パキッ

「…………」ピキッ

グリフォンの腕が、凍りつくかのように結晶化していく

もう、魔法を使う魔力なんて残っていないのに

その結晶は、いつもの薄紫色ではなく、ひどく黒ずんで見えた

グリフォン「グギャッ?」

ミリア「……ふん、貴様にしてはよくやったとほめてやりたいが」

「……ミリ、ア……?」

ミリア「貴様は一つ、重要なことを忘れてはいまいか?」

「重要な……こと」

幼女「ゆーたっ!?」

「あ……ルー……」

幼女「ゆーた、いじめちゃ、めっ! るー、おこうよ!!」バッ

小さな体で、精一杯に、ルーがぼくを庇うように立ちふさがる

両手を広げて

グリフォン「……グガッ」

しかし、グリフォンが怯んだのも一瞬

二瞬目には、ルーをなぎ払おうと爪を振り上げた

「ルーッ!!」
263 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 15:13:49.00 ID:47t6jaij0

?「グルォォオオッ!!」ガブッ

グリフォン「クキャッ!?」

「……!? お、狼……?」

狼「グルル……」

大狼「グォォ……」

幼女「わんちゃんっ!」

ミリア「……ほう?」

傭兵「……こないだの、か」

盗賊「へ、へへっ! なんだよ……面白くなってんじゃん……」

大狼「ガウッ!!」ガシュッ

グリフォン「グギャッ!」

「……これは一体……うぐっ」

幼女「ゆーた、だいおーぶ?」

「うん、大丈夫だよ、ルー」

ぼくはルーの頭を撫でようと、手を伸ばし

その銀髪に触れた

だけど、ルーの綺麗な髪は、すぐさま赤で汚れてしまう

「……あ、ごめ、ん、汚れちゃったね……あはは」ゴシゴシ

服で血を拭う、だけど血の色をした赤は一向に消える様子はない

幼女「ゆーたっ! ゆーたぁっ!!」

悲しげな目でぼくを見つめるルー

……どうして、そんな目をするのさ
264 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 15:14:31.11 ID:47t6jaij0

ミリア「……貴様が馬鹿だからに決まっておろう」

「ぼ、くが……?」

ミリア「当たり前だの、パートナーを無視して戦う馬鹿がおるか」

「……パート、ナー」

ミリア「この子の力に頼ること、避けておるようだが……」

ミリア「それはまったくもっての筋違いだ」

ミリア「貴様の運命がこの子と共にあるように、この子の運命も貴様と共にある」

「運命、ディスティニー……オーケイ」

ミリア「ふざけとる場合か、……さぁ、ここでやらねば全滅するぞ?」

「……そう、だね」ヨロッ

幼女「ゆーたっ!?」

「ルー……ぼくに、また力を貸してくれるかな?」

幼女「……うんっ!」

満面の笑みを浮かべて、ルーの体が光り輝いた

そして

ルー『』クキュルルルルルルル

金属を擦り合わせたような、甲高い声が聞こえて

銀の竜鱗に身を纏った竜が、そこにいた
265 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 15:15:50.66 ID:47t6jaij0
あー……学園ファンタジー物にすりゃよかったです、と今更後悔
二部をそれにしよう、そうしよう、うん
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/15(日) 18:15:46.57 ID:F57h/m0F0
このタイトル見たとき童貞が30歳を越えるとを連想させたけど違うんだな
267 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/15(日) 19:56:00.76 ID:47t6jaij0
残念ながら違うんですねぇ!
30歳魔法使いが幼女ときゃっきゃうふふするのもまあ悪くはないかも
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/19(木) 17:31:18.03 ID:TVjJe6j80
せっかく傷口を作ったんだから
魔物の血を結晶にするとかできねーの?
269 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/19(木) 22:00:35.94 ID:R/Fvk+4B0
結晶化は接触技なので、触れたものしかできなかったり!
危険で近寄れなかったってことですね
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/24(火) 08:40:10.87 ID:+9kWsCLv0
マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
271 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/25(水) 17:48:12.23 ID:wyHQ08si0

グリフォン「グゴガガガ」

ルー『……臆したか』クルルル

「はぁっ……ぐぅ……」

駄目だ、まだ意識が朦朧としている

アバラでも折れてるんじゃないか、ってくらいの激痛が体を襲う

盗賊「げほっ……だ、大丈夫か?」

「……はは、盗賊こそ」

盗賊「おれは丈夫なことだけが取りえだかんな」

盗賊「にしても、驚いたぜ。あれってドラゴンだろ?」

肩を貸してもらってやっと、起き上がれる

「……うん、黙っててごめんね」

盗賊「いや……かまわねーよ」

盗賊「でもすっげーよな! お前、竜を召還できたのか!」

「……へ?」

盗賊「どうしてかくしておく必要があったんだよ! やっぱアレか? 奥の手は最後までとっておく! ってことか!」

「う……うん…………?」
272 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/25(水) 17:49:12.02 ID:wyHQ08si0

盗賊「そーかそーか、ならしゃーなしだな」

(……もしかして、ルーが竜化したことに気づいてない……?)

盗賊「うん? どーかしたか?」

「い、いや……なんでも……!? ごほっ!?」

吐血、赤黒い血が地面に吐き出され

口内に鉄の味が充満する

盗賊「っ!? だ、大丈夫かよっ!」

折れた肋骨が肺にでも刺さったかな? 痛いって感触しかしないけど

ルー『……』キュィィィィィイイ

更に朦朧としだした意識の淵で、透き通るような音を聞いた

これは、なんだろう

体に染み渡ってくるような、そんな感じ。どんな感じと聞かれても、そんな感じとしかいいよがない

暖かい

盗賊「なんだ? この音」

ルー『……<癒しの鈴音>』

「……凄い」

盗賊「傷が治ってる……!」
273 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/25(水) 17:49:44.52 ID:wyHQ08si0

ルー『竜人の持つスキルだの、そこまで高性能とはいえぬが』

傭兵「おう、お前ら! 平気か?」

盗賊「あぁ! 問題ないぜ!」

「傭兵さんこそ……ま、平気そうですね」

傭兵「はっ、ちったぁ心配しろっての」

傭兵「にしてもおったまげたなぁ! これってルーちゃんなんだろ?」

盗賊「えぇっ!? まじでっ!」

「……うん、ルーは竜人って種族で、竜化できる力を持っているんだ」

「この鈴の音も、竜人のもつ力……らしいよ。ちなみに海を渡ったのも竜に乗って、だ」

傭兵「なるほどな……そりゃ伝説の生き物にのりゃあの程度、1日もかからんわなぁ」

盗賊「へぇ〜……何だか嘘臭いなぁ」

「ははっ……それが嘘でもないんだな」

「盗賊を守れたのも、ルーが力を貸してくれたおかげなんだよ」

「ルーがいなきゃ、皆死んでたかもしれない」

盗賊「……そっか、ま、おれは信じてやるよ!」

「うん、ありがとう」
274 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/25(水) 17:50:12.29 ID:wyHQ08si0

傭兵「……細けぇ話はあとだ」

傭兵「敵さんもそろそろ痺れを切らすころだぜ?」

グリフォン「グガッ! グガガッ!」

様子見に徹していたグリフォンが、雄雄しく翼を広げた

ルー『ふん……圧倒的力の差を見せ付けられてなお、立ち向かうか』

「……勇気と無謀は別物だ、ってね」

ルー『何をえらそうに……なら貴様が教えてやることだの』

「そだね、よっし……じゃあ、やろっか」

ルーに手伝ってもらい、なんとかその背中へ乗る

「……前乗ったときも思ってたんだけど」

「きみの背中に乗ると、何だか力が沸いてくるんだ」

ルー『……それはわらわも同じだの……、勇者』

「ん?」

ルー『いや、なんでもない。ゆくぞっ!』バサッ

「う、わっ!」

ルー『ぬっ!?』

「ちょ、ちょっと待って! バランス、悪いっ!」

ルー『こ、これっ! ちゃんと乗らぬかっ!!」

「そんなこと言ったってっ!」
275 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/25(水) 17:51:45.98 ID:wyHQ08si0

傭兵「何やってんだ……お前等」

盗賊「いーなー、楽しそうだなっ!」

グリフォン「グガー……」

飽きれ果てる周囲

だが待って欲しい、ぼくにそんな視線をぶつけられても……

?「あーあ……見ていられないね」

突如、どこからともなく声が響き渡った

?「気になって様子を見にくればこの様だよ、しっかりしてくれないかな、ルー」ゴゴゴ

地面が揺れているのだろうか、謎の人物とその周囲の木々が小刻みに動いていた

当然、ぼくの口を割って紡ぎだされる言葉は

「誰……?」

だった

?「ふふ、随分と久しいね……我が愛しの弟」

漆黒のローブに目深にかぶったフード

……? 聞き覚えのある声だ

「姉、さん……?」

まさか

……まさかね
276 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/25(水) 17:52:33.62 ID:wyHQ08si0

姉「そう、そのまさかだ」

「……どうして、ここに?」

ルー『ふん……』

盗賊「誰?」

傭兵「俺様に聞くなよ」

姉「ま、積もる話もあるだろうし」ゴゴゴ……

ぴたっ、と揺れがおさまる

時が止まったかのように

グリフォン「グギャッ?」

次の瞬間

ゴーレム「……ゴオオオオオオオオオオオッッ!!!」

この世のものとは思えないほどの雄たけびをあげて、土の巨人が地面より這い出でた

「へ……?」

盗賊「……う、おっ!?」

傭兵「んだこりゃあ……?」

唖然とするぼくら

三者三様に姉さんを見やるも、皆が眼にする光景は巨人の肩に悠然と立つ姉さんの姿だった

当たり前だが

姉「一瞬で終わり、だ。すまないね魔物クン」
277 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/25(水) 17:53:22.00 ID:wyHQ08si0

姉「……人形遣いの名の下に命じよう、ゴレゴル、やっちゃえ」

ゴレゴル「オオオオオオッ―――!!」

巨人の周囲から

大地が裂け、木々が避け、大気が割ける

全長10mほどの巨人が手を振り上げ

姉「ぱーんち」

振り下ろした

グリフォン「グガガアガガギュアッ!」

ぺちんと、気の抜けたような音がしたかと思うと

グリフォンの体は地面に叩きつけられていた

「ビンタじゃないか」

ルー『ふー……やれやれ、あの阿呆が。また目立つようなことをしおって』

グリフォン「グギャ……ガ」

最高に目立つビンタを食らったグリフォンは、無残にも地面にクレーターを作り

その中心部で力なく倒れていた

もう、虫の息と言ったところだろう

ルー『……降りるぞ?』

「うん、お願い」
278 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/25(水) 17:54:28.94 ID:wyHQ08si0

ゆっくりと、ルーは高度を下げて地に降り立つ

そしてぼくがその背中から降りると、すぐ近くにいた竜の姿はもうなかった

幼女「ふん、きさまがもっとずっと、うまくのりこなせていれば」

幼女「こやつなんぞに、てまどることは、なかったのだ」

「む、無茶言わないでよ……」

幼女「さいしょは、うまくいっておったろうに」

「あれはさ、無我夢中だったからね……ていうか」

「ルーは? その体に戻ってもミリアのままなんだ?」

幼女「む……かわまぬだろう? それに、あのこはねておる」

「ふうん……?」

そういいながらも、ぼくらは翼の折れ、目も虚ろなグリフォンへと近づく

幼女「きをつけろ、まだあがくやもしれん」

「……」

無残であり、無様であった

雄雄しく羽ばたいていたあの姿は、いまや見る影すらもない
279 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/25(水) 17:55:13.10 ID:wyHQ08si0

「わかんないよな、何で人を襲っていたのか」

幼女「さあの、じゃくしゃをおそうのが、まもののほんのうだが」

「……弱者、人、だよね」

幼女「そうなるの」

「殺すか、殺されるか、かぁ」

人と魔物の共存なんて夢のまた夢、理想にするのも甚だしい愚想

「実際問題、人が栄えすぎたんだろうね」

栄えすぎた結果が、魔物の住処を奪いさることになった

幼女「だが、そのはんえいをてばなすことも」

「捨てることもできないけどね」

「だから、ごめんね」シュウッ

ぼくは結晶で無骨な斧を作り出す

グリフォン「ガー……ガー……」

そして、さきの巨人さながらに大きく振りかぶり

「ふっ――」

肉質の柔らかいところへ、一息で振り下ろした
280 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/25(水) 17:58:52.06 ID:wyHQ08si0
うん……? なんか日本語おかしいですや
遅くて申し訳ありません、なかなか時間がなくてですね……
ゆっくりゆったりとお付き合いくだされば嬉しゅうございますですます
281 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/28(土) 23:14:52.53 ID:dI6QLkT60



シュウゥゥ

頭部を切断された魔物が、溶けて消える音がする

返り血を浴びた体がひどく震えながらも、ぼくは黙ってそれを見ていた

幼女「さながら、くるしまぬように……といったところかの」

「……まさか、ぼくはそこまで優しくないよ」

そういってぼくはなんと無しに空を見上げる

翼さえ折れてなければ、楽に天へ昇れただろうか?

コトッ

何かが落ちる音がした

それにつられて音のしたほうを見やると

幼女「……ふむ、これはちょうどいい、しょうこになりそうだの」

「くちばし、かぁ」

両手で抱えてみる

「……おもっ!」

幼女「ひんじゃくな……」

やれやれ、とため息交じりに言われても、ねぇ?

姉「あああああっ!! あいたかったよ我が弟ぉ!」

ダッシュ、そしてダイブ
282 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/28(土) 23:15:20.11 ID:dI6QLkT60

「ぐほぉうっ!?」

体全体で支えるも、衝撃だけは殺しきれない

「こ、この衝撃も随分と久しぶりだなぁ……」

姉「んんん……ああ、やっと会えたね」グリグリ

「大げさすぎるよ、姉さん」

姉「大げさなわけ、あるもんか。どれほど待ち望んでいたことか……」

傭兵「あぁーと、感動? の再開んとこ悪いんだが」

傭兵「どちら様だ? こちらの美しい女性は」

「ぼくの、姉ですよ」

盗賊「へぇー、傭兵、口説かないんだな」

傭兵「ばっか! おめぇ、俺様の印象が悪くなるようなこというない!」

傭兵「俺様は、恋する乙女や純情な子を口説こうなんて野暮な性格してねえよ!」

「姉さんのは……恋なんてものとは違うと思うけど……?」

姉「もちろんだとも、僕のは恋だなんてちゃちなものじゃないね」

姉「愛情だよ愛、聖母よりも深い慈愛さ」ぎゅ〜っ

「く、苦しいよ」

幼女「やれやれ、まったくなにをしにきたのだ?」

姉「ふふ、決まっているじゃないか」
283 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/28(土) 23:16:06.90 ID:dI6QLkT60

姉「きみたちを守りに来たんだよ」


「守りに、きた……?」

姉「ああその通りさ、この中で魔の国襲撃事件を知っているのは弟クンだけかい?」

盗賊「えと、一応おれもその場にいたぜ」

姉「ふむ……そうかい、じゃあそこのきみは?」

傭兵「俺様は南大陸を旅してたんでな、流石に大陸違いの情報まではしらねえ」

幼女「わらわはいうまでもなかろう?」

姉「そうだね、なら一応説明しておこうか」

姉「先日、中央大陸における魔の国が、何者かによって襲撃され、国宝を奪われた」

姉「それだけじゃないけどね……率直に言う、魔の国だけじゃない。剣の国も襲撃された」

「っ!?」

幼女「ふむ」

盗賊「……へぇ?」

傭兵「そりゃまた……なんで」

姉「さあね、と言いたい所だが」

姉「きみたちには我が愛しの弟を救ってくれた恩があるからね」
284 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/28(土) 23:16:54.94 ID:dI6QLkT60

姉「狙いは魔の国の、国宝であるところの魔道書に並ぶ、剣の国の国宝」

姉「……聖剣だよ」

「聖……剣?」

盗賊「なんだそりゃ」

傭兵「……聞いたことはあるぜ、確か世界樹が生み出した剣だとかなんとか」

姉「ま、それは伝説さ、真相は定かではないがね」

姉「重要なのはこの二つが盗まれたということ、そして」

「襲撃者が不明、だってこと」

姉「その通り」

盗賊「……? 悪い奴等が誰だかわかんねえんだろ? 探さなくていいのかよ」

姉「もちろん探しているさ、国の精鋭がね」

姉「……だが、難しいのは国同士の問題なのさ」

傭兵「つまり……」

姉「魔の国は剣の国に奪われたと疑っている」

「剣の国は……魔の国によって奪われたと疑っている」

盗賊「……はぁ? なんでそうなるんだよ」
285 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/28(土) 23:18:00.12 ID:dI6QLkT60

傭兵「二国は長年争ってきてんだ」

「いつ、崩壊するかもしれないギリギリのボーダーラインを引いてね」

姉「ちょっとした疑惑や、事件が、それを崩壊させるのさ」

盗賊「崩壊……」

姉「そう、今まさに戦争が起きようとしているんだ」

「っ!? せ、戦争……」

傭兵「……まじかよ」

盗賊「戦争……人が、いっぱい、死ぬの、か?」

姉「ああ、死ぬ。第一次大陸戦争の比じゃないくらいにね」

盗賊「じゃあ、じゃあさ! おれたちになにか、できることはないのかよ!」

姉「ないね」

盗賊「そ、んなことねえよ!」

姉「きみにできることは何もない、あるとすれば」

姉「何もしないこと、だ」

盗賊「なに……言って」

姉「きみはね、戦乱を大きく乱すような物なのさ」

「姉さん」

姉「いま中央大陸へ行ったとして、更に多くの人が死ぬだけさ」

「姉さん」

盗賊「お、おれが……?」

姉「それに考えてもみてごらん、言っちゃあ悪いけど僕やきみみたいなのが行ったところで」

姉「誰一人救えやしないんだよ」
286 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/05/28(土) 23:19:23.48 ID:dI6QLkT60

「姉さん!」

姉「ふふっ……すまない、昔、きみにそっくりな人がいてね」

盗賊「いや、別に気にしてねえぜ」

幼女「……きがすんだか? ならはやくいどうすべきだの」

幼女「きさまがでばるくらいだ、よほどの『てき』がきておるのだろう?」

姉「ふふ、ま……そうだね、じゃあいこうか」

姉さんはそれだけ言って歩み始めた

そういえばあの巨大なゴーレムはどこへ消えたのだろう、疑問は残るが……

そういえばついでに、そういえば

「あ、傭兵さん」

とぼくはすっかりすっきりすぱっと空気になっちゃっている傭兵さんに声を掛ける

傭兵「……すっかりすっきりすっぱり空気な傭兵さんに何か頼みごとか?」

「心読まないでください」

「このくちばし、運んでくれません?」

傭兵「ようやっと出番かと思いきや」

「にっこり」

ぼくは微笑み

傭兵「……………………わーったよ」

「傭兵さんは優しいですね?」

傭兵「うるせぇっ!!!!」

傭兵さんは吼えていた
287 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/05/28(土) 23:20:15.53 ID:dI6QLkT60
尾張揚げ
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 23:58:58.85 ID:rW3FUM8DO
平板だな!
289 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/04(土) 00:58:30.56 ID:qkRN9PaI0

★あこがれ

――道中

「そういえばさ」

姉「うん?」

「姉さんは、何からぼくらを守るつもりなわけ?」

姉「そうだね、弟クンにあいつと関わりは持ってほしくはないんだけど」

姉「強いて言えば……さいっこうに屑な輩さ、最低最悪とでも言っておこうか」

「へえ、よく知ってるんだ?」

姉「いいや、風の噂で聞いただけさ。勤め先が勤め先なだけにね、色んな情報が舞い込んでくるのさ」

「そうだったね……王室研究室の仕事、ほっぽりだしといて平気なわけ?」

姉「えっ? ああうん、僕のことだから大丈夫だよ」

幼女「なにがだいじょうぶなのだ……」

「あはは……」

「にしても、また敵かぁ」

幼女「いぜんおそってきたやからは、みょうなかめんをつけておったな」

姉「仮面? そりゃまた、随分と古風な感じがするね」

盗賊「……」ピクッ

「だよね、正体を隠すにしても、もう少しまともな手があったんじゃないか、って思うよ」

盗賊「……!」ピクピクッ

幼女「こどもじゃあるまいに……このごろは、ああいうのがはやっておるのかの」

姉「最先端のファッションは、木っ端庶民の想像がつかぬ方向へ進化しているようだね」

盗賊「そっ! そんなことないと思うぞ!」

「どうしたの、盗賊、いきなり」

盗賊「カッコイイじゃんか!? 男なら一度は憧れるものだろ!」

傭兵「なにに熱くなってるかわからねーが、お前は自分が女だと主張してたじゃねーか」
290 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/04(土) 00:59:23.73 ID:qkRN9PaI0

盗賊「そう、だけどさぁ! わっかんねえかなぁ!?」

傭兵「わっかんねーよ」

「ぼくもさ、こんな格好だけど、あれはないと思うよ」

傭兵「んなっ!? 少年! それは俺様にファッションセンスがないということかぁっ!!」

「ということもなにも、その通りじゃないですかぁー」

傭兵「んだと! てめぇこら、そこに直れ! 俺様の服装をほめてくれた女の子たちに謝れ!」ダッ

「うわっ、ちょっと来ないでくださいよ! てかほめてくれた子なんているんですか!」ダッ

幼女「やれやれ、さわがしいやつらだ」

盗賊「あ、おい! お前等っ!」

盗賊「……いっちまった、絶対かっけーと思うんだけどなぁ」

姉「……ふふ、そうだ、いいことを教えてあげようか」

姉「あの仮面は、ダーカーザンブラックが好きな>>1という奴がパクったものなのさ」

盗賊「は……? なに言ってんだ?」

姉「くく……ふふふ、いや、別に理解する必要はないよ」スタスタ

盗賊「???……てか、あの仮面ってなんなんだよ」

盗賊「がぁーっ! くっそぉ、わっけわかんねー」

盗賊「おいっ! 待てって、おれを置いてくなぁー!!」ダダッ
291 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/04(土) 01:06:15.96 ID:qkRN9PaI0



姉「あぁ、やっぱり弟クンの隣は居心地がいいね」

「いきなり何いってんの」

幼女「ほうっておいてやれ……」

「まあ、でも……以前とまったく変わってなくて安心したよ」

姉「……そうかい? そういってもらえると嬉しいよ」

幼女「……ふん、おとうとのことになると、せっそうがないところも、な」

姉「ふふん、その通りだね」

幼女「なにをえばっておるか」

盗賊「……」

傭兵「なんだ、やけに不機嫌そうだな」

盗賊「……べっつにぃー」

傭兵「ふぅん、そうかい、まあ俺様にゃ関係ねーがな?」

盗賊「あんだよその顔は……」

傭兵「お前こそなんだっての……て、ん?」

「どうかしましたか?」

傭兵「これ……血の痕だな」

盗賊「っ! 人間のか!?」

傭兵「さぁな……とりあえずあっちに続いてるようだぜ」

幼女「ふむ、どうする?」

「どうするも何も……」

「言ってみるしかないよ!」

盗賊「そうこなくっちゃあな! いくぞ!」

傭兵「ああおい、待てって」

「こっちだ……」

大地に染みこんだ黒い血は、街道を逸れて続いていた

幼女「しかし、かいどうをそれぬかぎり、まものにおそわれることなど……」

傭兵「……大手商人を狙った盗賊団に襲われたのかもしんねえ」

「そんな……それなら国のほうで情報なりなんなり公開されてても」

「とにかく、急ごう、あまり乾いてない、最近のもののようだしね」
292 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/04(土) 01:08:43.74 ID:qkRN9PaI0



冒険家「がっ……はぁ……はぁ」

道の脇、大きな木の根元に血の元所有者がいた

「っ!? 大丈夫ですか!」

盗賊「うお……ひでぇ……」

盗賊は思わず目を逸らす

それも無理はない

まず真っ先に目に付いたのは七本の杭

それは男の体を食い散らかすように突き刺さり、穿たれ

文字通り、地面に縫い付けていた

まだ息があることに驚くが

「……こーいうことに使うものじゃないよ、杭ってのは」

幼女「これはまた、えげつないの……」

傭兵「こいつ、さっきグリフォンに襲われていた……にしても、ひでぇ」

血、血、血

服は元の色がわからなくなるほどの赤黒に染まり

原型を止めることもなく無残に破れていた

ぼくは、酸化した血の鉄の臭いに顔をしかめ、吐き気を覚えながらも、男に一歩近づいた

「……今、助けますから」

冒険者「が……は、ははは。さっきの子、たちか」

生気が感じられない瞳からは幾筋のも涙が流れ落ち、顔についた血を流していく

どこか諦めながらも、縋るような表情

両手の甲、両肩、両足、腹部に杭が刺さっていなければ

救いを求めるように手を伸ばしていただろう
293 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/04(土) 01:09:18.30 ID:qkRN9PaI0

冒険者「……助けて、くれ」

最後にそういったのだけは、聞こえていた

ズガッ

「―――げほっ」

盗賊「あ……」

傭兵「っ!」

幼女「ゆうしゃっ!?」

腹部に滴るぬるリとした温い感触

一度は味わった、血の感触

一歩遅れて達した、壮絶な痛覚

ぼくの腹部に

男と木を貫いて

杭が穿たれていた

姉「―――あ、ああああぁっ!?」

姉「またっ!? またなのかっ!」

傭兵「落ち着け! 囲まれてるぞっ!!」

盗賊「のあっ! んだこいつ等っ!! 気持ち悪い動きしやがって!」

幼女「くぅ……まだ、ちからが……」

幼女「しっかりしろっ! きさまが、きさまがここでたおれて、どうするっ!!」

悲鳴にも近い叫び声、金属が擦りあわされる音

ひどく頭が痛んでぼくは、その場に倒れた
294 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/04(土) 17:59:27.10 ID:qkRN9PaI0



――???

暗黒の世界の中、ぼくは目が覚めた

いや、目が覚めたという確証はない、何せ眼前に広がるのは闇ばかりだからだ

意識が覚醒した、と言っておこう

「こ、こは……ぐっ」

痛む、体が痛む、主に腹が

それでも無理に体を動かそうとすると、ギチッと音がした

どうやら後ろ手に縛られているみたいだ

足は何とか動く

「まったく、何だって言うんだ」

思わず一人ごちるも、それでどうこうなるというわけではない

「盗賊、傭兵、姉さん……ルー?」

皆の名前を呼んでみる、だが返事はない

別の場所に囚われているのだろうか、捕まっていなければいいけれど

ほかに人の気配はしない、ここは牢屋、牢獄、どちらにせよ最悪であることに変わりはない

「あーあ、まいったなぁ」
295 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/04(土) 18:00:06.44 ID:qkRN9PaI0

ためしに魔法を使ってみる

が、反応はない、魔力が切れているわけでもないので

詰まるところ、この拘束具になんらかの妨害効果がついているのだろう

「ロクに魔法も使えないこのぼくに、ご苦労なことで」

皮肉めいて呟く、何か喋っていないと、さっきのアレを思い出しそうで



怖い


死ぬのが

「杞憂って奴だね、木っ端庶民であり最低レベルの欠落回路に何の恐れを抱く必要があるんだろ」

全身にあの痛みが

縫い付けられるように、そのまま地獄へ突き落とされるような痛みが

「はは、詰みって奴かな。どうせこんなもんさ」

ぼくもまた、あの冒険者のように絶望して死ぬのだろう

「何が勇者だよ、何が……」
296 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/04(土) 18:00:54.86 ID:qkRN9PaI0

ぼくに何か出来るみたいに思わせといて

「……っは、最悪だなぼく。勝手に思い込んで、勝手に幻滅しやがって」

そう、幻滅

幻想も何もかも、たった今滅されたのだ

「現実を見据えろ、現況の元凶を想像しろ、何があった? 何をすればいい?」

まずはあの冒険者、あれは恐らく

「餌、か。ぼくらをおびき寄せる」

あるいは、邪魔だったのかも知れない。ぼくらを捕まえるために

「ほんと、手間のかかることをするね」

ということは、なんらかの組織が動いているのか?

なぜなになんのため

「ま、それはわかる、ルーとミリアだろうね」

学園襲撃の際に奴等が求めたもの、ペンダント、そしてルー

あの敵は、黒髪の男はなんと言っていたっけ?

そうだ、魔の国の戦力になることを恐れて、だ
297 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/04(土) 18:02:50.27 ID:qkRN9PaI0

「それだけ……? たったそれだけのことで、こんなところに戦力を分けるのか?」

ルーとミリアだけじゃないのかもしれない

何かが引っかかる

第一、ぼくらは大仰に魔の国へ戻ることができないし

姉さんは何故かぼくらを見つけれたけど、それはペンダントに細工でもしてあったのだろう

敵の、真の目的がわからない。幽閉する理由、考えられるは

「ぼくらを懐柔する、か……いや、そもそも」

ぼくなんて、どうでもいい……か

「魔の国の戦力にしたくないなら、真っ先に殺す」

手当てする必要なんてない

てことは、懐柔って線が一番かな

学園襲撃をたった数人で実行してしまう奴等だ、相当人手不足なのだろう

「はは、あほらし……こっち側についたほうがいいんじゃないか、って思ってるよ。ぼく」

あの紫竜、そして銀竜

ニ匹の竜が揃えばこれ以上ないほどの戦力になるだろう

盗賊や傭兵さんを見逃してもらって……、次は多分、奴等は戦争にも色々関わることになるだろうから

それで妹を助けさせてもらう、そしたらもう用はない、さっさと裏切って逃げ出す
298 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/04(土) 18:03:56.89 ID:qkRN9PaI0

「流されちまったほうが、楽だよなぁ」

?「そうでもござらんよ」

パチンと、空気が弾けた

?「流されるもの、意外と疲れるものでござるよ」

「……いたんですか」

?「ハッハ! すまぬが気を殺させてもらった」

?「拙者は侍……流れ流され気の気ままに旅する浪人にござる」

「侍さん、ですか」

侍「応」

「それで、侍さんはどういった経緯でここに?」

侍「ハッハ! いや、恥ずかしながら拙者。無一文でござってな」

侍「商人の馬車に忍び込んでみれば、強盗に出会いこのざま」

侍「うっかり眠りこんでしまっていたのでござるよ」

「そいつはうっかりですね」
299 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/04(土) 18:05:37.08 ID:qkRN9PaI0

侍「応、うっかりはちべえもびっくりでござるな!」

「ははは」

……独特な喋り方をする人だなぁ

侍「いやあすまぬ、拙者の一族は皆、このような語り口でござってな」

「っ……! 心を読まないでくださいよ」

侍「ハッハ、すまぬすまぬ、して、まだ名前を聞いてなかったでござるな?」

「あ、そうですね、えと、ぼくは魔法使いです」

侍「ふむ、魔法使い殿でござるか……言いづらいでござる……」

「……なんかすみません」

侍「いやいや、そうでござるなぁ。……うむ、勇者殿。がよろしかろう!」

「何でそうなるんですか? どこから出てきたんですか?」

侍「ハッハ! さきほど、勇者殿の口からでていたではござらんか」

「ああ……まあ、そうですけど」

侍「うむ、勇者殿。いい響きでござるよ、しばらくの間ではござるが」

侍「是非、仲良くしてもらえると幸いでござる」

「……ですね、よろしくお願いします」

侍「応っ!」
300 : ◆ackVh57YJ. :2011/06/04(土) 18:06:29.95 ID:qkRN9PaI0
尾張揚げ
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/04(土) 19:03:38.50 ID:PEV5KcrDO
上げてくれると、助かるわ
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/05(日) 00:10:54.22 ID:nto01saSO
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/05(日) 00:12:09.62 ID:nto01saSO
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/05(日) 01:01:10.84 ID:m11aLE9IO
あぁ?
305 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/07(火) 00:10:56.04 ID:J93dZ4Y00


――牢屋

「さてさて、どうしましょうか」

侍「……そうでござるなぁ、ひとまず明かりが欲しいところでござるが」

「明かり、ですか。まあそれもそうですね、こう暗くっちゃあどうしようも」

侍「応。しかし生憎ながら拙者、火を起す術を持っておらんでござる」

「ぼくも、ですよ」

侍「おや、勇者殿は魔道の心得があると盗み聞いたでござるが」

「魔法にも色々あるんですよ、ぼくに光や炎系は使えませんし」

「それに……使えたとしてもこのざまですよ」

ギチッと音がする、それはもう慣れてしまった感触であった

侍「左様でござるか……ふむ、拙者は明かりなどなくても構わんでござるけれど……」

侍「勇者殿のため。いたし方あるまい、あまり騒ぎ立てるのは症に合わんでござるが」

牢屋内の空気が蠢き、狂い、騒ぎ出す

「侍さん? 一体何を……」

侍「いやはや、足枷をつけぬとは。拙者も随分と舐められたものでござるよ」

侍「否、あってもなくても同じでござるがね」

そして、何かが高速で擦られた音がして

恐らく右方向から、目を刺すような光が発せられた

「ぐっ……まぶしっ」
306 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/07(火) 00:13:21.51 ID:J93dZ4Y00

侍「ふむ、今の業。華ッ火騒陽<<かっかそうよう>>というのはどうでござろう」

「さいっこうにダサいですよ、その名前」

侍「応……、いやあ手厳しい。痒いところに手が届く、足で火花を散らすとはよく思いついたものだと自負していたのでござるが……」

「手じゃなくて足って言っちゃってるじゃないですか」

「あと意味が逆ですよ」

侍「おや、そうでござったか。失敬失敬、ハッハッハ」

侍さん豪快に笑ったあと、次にバギンッと何かが砕ける音がして

「…………はは、とんだ力技ですね」

ぼくは呆れた

何だ、まだちょっとだけチャンスはあるようだ

侍「いやあ、お恥ずかしい限りでござる」

「いえ、嬉しい限りですよ」

砕け散った鉄格子に向かって歩き出す

足取りは軽い、だって、なんてったって

――これで、物語はまだ続くから

侍「さて、流れ流され気の気ままに」

「流し流して気の赴くままに」

侍「一丁脱獄と洒落込もうではござらんか」
307 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/07(火) 00:14:01.39 ID:J93dZ4Y00



――???

侍「こちらSAMURAI――聞こえるでござるか」

「……聞こえますよ、そりゃ」

侍「敵の気配多数、大佐、指示を頼むでござる」

「状況に応じて適切に対処せよ」

侍「ラジャー、でござる」

「……あの」

侍「どうされた、大佐殿」

「やめませんか、これ」

侍「応……大佐殿はノリが悪いでござるな」

「スニーキングは遊びじゃねえんだよ」

侍「ハッハ、これは手厳しい」

侍「本場のスネークは遊びほうだいでござるがね」

「ゲームでもリアルでも、素人は遊んじゃいけませんよ……」

出発早々、頭が痛い

「で、敵はどのくらいいるかわかりますか?」

侍「応、しばし待たれよ」
308 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/07(火) 00:16:04.34 ID:J93dZ4Y00

・・・・。

侍「4人と言ったところでござろう」

「……半分冗談で言ったんですけどほんとに分かっちゃいますか、凄いですね」

侍「何、大人になれば誰でも出来るようになるでござるよ」

「それは大人に対して、過剰な幻想を抱くことになりますけど」

侍「ふむ、五感を研ぎ澄まし周囲の様子を知る……容易周答<<よういしゅうとう>>!!」

「色々無茶がありますよ」

侍「左様でござるか……うぅむ、なかなかにむつかしいでござるな」

「ていうか当て字ばっかですね。もう少しまともなネーミングを……」

侍「遺憾千万……なかなか格好がつかぬでござる」

「わざわざ業名なんてつけなくとも、十分格好つくと思いますけどね」

侍「! そうでござるか! いやあ、拙者、危うく自信喪失するところでござったよ」

「……まあ少しくらい大人しくしてもらったほうがいいんですけど」

閑話休題。こんな生産性の無い話を続けていてもしょうがない

「侍さんは、脱走したあとどうするんですか?」

侍「拙者でござるか? うむぅ……まずは拙者の愛刀を取り返さねばならんでござる」

「愛刀ですか」

刀というものを実物でみたことはないけど
309 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/07(火) 00:17:48.47 ID:J93dZ4Y00

どうやらそれが侍さんの得物らしい

侍「応、如何せん、刀を持たぬ武士とは格好がつかぬでござるからな」

「また格好ですか」

格好を気にするなら……とぼくは侍さんを見やる

よれよれの浴衣を羽織り(何かの本で見たことがある)

ロクに手入れのされていないボサボサの髪を後ろで束ね

さらには、無精髭に痩せこけた頬

「まあ旅を続けていたら気にする暇なんてないんでしょうけど」

侍「うむ……そこが流浪人の辛いところでござるよ、して……」

侍さんは、浴衣の中で組んだ腕を伸ばして、顎をさすった

侍「勇者殿はどうなさるつもりでござるか?」

「ぼく……ですか」

侍「応」

「仲間を探しますよ、もしかしたら捕まっているかもしれませんし」

侍「ふむ? 盗賊殿、傭兵殿、姉上殿、それにルー殿でござったかな?」

「ええ……にしても、よく覚えてますね」
310 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/07(火) 00:19:32.17 ID:J93dZ4Y00

無意識のうちに垂れ流していた独り言を、きっちり覚えられているのは少々恥ずかしい

侍「ハッハ! いやあ、今にも挫けそうな声音でござったから、忘れたくとも忘れられぬでござるよ!」

「うぐ……」

侍「しかし、それだけ挫けそうな心を支えてくれたのも、その仲間たちでござろう」

「……はい、大切な友達ですしね」

侍「……相分かった! ならば拙者も手伝うでござるよ」

「え、いやあの、別にいいですよ。これ以上ご迷惑をおかけするわけには」

侍「連れないことを言うなでござる、拙者らも」

侍「ともだちでござろう?」

侍「ここであったのも何かの縁、助け助け合い共に友の流れを変えようではござらんか」

「友達、ですか」

侍「応!」

「いいんですか? ぼく、結構友達使い荒いですよ」

侍「ハッハ、拙者でよろしければ、使うだけ使うがよろしかろう!」

「……ありがとうございます」

侍「では、まだみぬとものため」

侍「いざ、推して参ろうぞ!」
311 : ◆ackVh57YJ. :2011/06/07(火) 00:22:09.35 ID:J93dZ4Y00
唐翌翌翌翌翌揚げ
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県) :2011/06/07(火) 18:34:31.40 ID:BW967bpdo
5時から一気に読んだもっと書け、お願い
313 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/11(土) 00:10:20.22 ID:iJom8Hd60

侍さんは軽く地面を蹴って走り出す

足音一つ、衣擦れの音さえも聞こえないほどに

山賊A「……ん?」

侍「破ッ!」

山賊A「……っ!?」

これまた物音一つ立てずに巨体の男を悶絶させた

侍「ふむ、暗闇より襲来する天の制裁……闇間天制<<あんかんてんせい>>……」チラッ

「ちら見しないでください、これまた現状と意味が真逆ですし当て字はやめろと」

侍「むむ……、勇者殿は文句が多いでござるよ」

「多くもなりますよ……っと、いきなりすぎてびっくりしましたが、これであと3人ですかね?」

侍「応、しかしながら、闇間天制は完全な不意打ちでござるから……」

「もしかしてですけど、以前から業名考えちゃってたりします?」

侍「……!」

「その通りなんですね……」
314 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/11(土) 00:11:20.97 ID:iJom8Hd60

侍「い、いやぁ、男には誰しも、そういった類の思考があると思うのでござる!」

侍「勇者殿にもあるでござろう!?」

「あー……そりゃありましたけど」

侍「うむうむ、そうでござろう」

「まあ、つけようとして挫折したんですが」

侍「ふむ? ならば拙者「お断りします」

侍「ひどいでござるよ……」

「当たり前じゃないですか、変な名前つけられちゃあ黒歴史どころか人生の汚点です」

侍「くぅ……うぐ」

「な、何で泣くんですか? ちょっと言い過ぎた気もしますけど……」

侍「いい名前が思いつかなかったのでござる……」

「断るって言ってるのに無理やりつけようとしないでください」

侍「情報というか、イメージが少なすぎるでござるよ」

「もういっそ、知られないほうがいいかもしれません」

侍「ふっふ! ともだちに隠し事はなしでござるよー」

「ちょ……なんですかその手は、気持ち悪いですから近寄らないでくださ」

山賊B「誰だっ!」
315 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/11(土) 00:12:01.75 ID:iJom8Hd60

「っ!?」

侍「なっ、何奴っ!?」

「それ、見つかる側が言う言葉じゃないですよ!」

山賊B「おい!! 捕虜が脱走したぞぉーっ!!」

「ああもう! 逃げますよ侍さんっ!」

侍「お、応っ!」

山賊B「ま、待て!」

ぼくらが走り出すのを合図に、リアルな鬼ごっこが始まった

敵は大柄な男、服装なんぞに目をくれてやる暇なんてないが、きっちりと帯剣していたのだけは見えた

山賊C「いたぞ! 逃がすな!」

山賊D「あっちに行ったぞ!」

侍「ハッハ! 童心に帰った気分でござるよ!」

「言ってる場合ですかっ!!」

廊下を突き進めば進むほど敵の数は増えていく

さすがの侍さんでも、あの数を素手で相手にするのは厳しいだろう

「はぁっ! はぁっ! し、っつこいな!」

このままではこちらの体力が先に尽きてしまう
316 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/11(土) 00:12:46.93 ID:iJom8Hd60

ぼくは意を決し、無数の尖った結晶を廊下にばら撒いた

侍「おお、まきびしでござるな! 勇者殿は忍者スタイルを極めていたのでござるか!」

「はぁっ……な、何言ってんだこいつ」

侍「むむ! 勇者殿、扉が見えたでござるよ」

「ちょ、ちょうどいいですね、侍さん先に行ってください」

侍「応、合点承知でござる!」ガチャッ

「……どうですか」

侍「ふむ……この先に人の気配はしないでござるな」

「了解です」

山賊F「待てぇ!」

「待つわけないだろ」パタン

「ふっ―――」ピキピキッ

扉に触れた瞬間、凍りつくように扉が結晶に覆い尽くされた

侍「ほほう、なかなか興味深い魔法でござるな」

「……そんないいもんじゃないですよ、これは」

「はぁー……そりゃああれだけ騒げば気づかれるでしょうけど、準備体操くらいさせてくれたっていいだろ……」
317 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/11(土) 00:14:04.88 ID:iJom8Hd60

侍「まったくでござるなぁ」

「あんたのせいですよ?」

侍「そうでござったか! ハッハ、これは失礼した!」

「まったく……と」

「ここはどこですかね」

いくつもの積み上げられた木箱、パンパンに膨れ上がっている麻の袋がいくつも転がっている

一見するに、ここは物置なのだろうけど

侍「ふむ、そのようでござるな」

「……」

侍「うん? どうかしたでござるか、勇者殿」

「ごく自然と心を読むのはやめてくださいって」

侍「あれ? 出ちゃってたでござるか? いやぁーうっかり心読でちゃってたでござるかぁ! てひひ!」

侍「あ、あの、勇者殿? この拙者の肩に置かれた手はいった……ちょっ! やめてっ! でござる!」

「……はぁ、もういいですよ。無駄に魔力使っちゃいますし」

侍「くわばらくわばらでござる……お?」

「何余計なもの見つけたんですか」

侍「反応が冷たいでござるね……と、そんなことより」
318 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/11(土) 00:14:45.82 ID:iJom8Hd60

侍「あったんでござるよ! 拙者の刀!」

「へぇ、よかったじゃないですか」

侍「応! いやぁ、これでやっと武士らしくなれるってもんでござる」ガチャッ

そういって侍さんが掲げた刀は

「……なんですかそれは」

侍「拙者の愛刀にござるよ!」

それは3mを優に超える大太刀、立派な鞘にその刀身を納め、物々しい雰囲気を纏っていた

「凄い大きいんですね、こんなの扱えるんですか……?」

侍「むふん、見た目ほど重くないでござるよー、勇者殿も持ってみるでござる」ガチャッ

「お、わ、ちょっ!?」ガシャンッ

「い、いきなり何もたせてんですか!」

侍「おやあ、勇者殿には少々重すぎたでござるかね?」ニヤ

「……うぜぇ」

(あはは、そうですね)

侍「ホンネとタテマエがすり替わっているでござるよ」

「そんなことないですよ、まあそろそろいい加減にしてくれると嬉しいんですが」

侍「応……」
319 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/11(土) 00:16:06.88 ID:iJom8Hd60

「…………ここは山賊たちが盗んだものを保管しておく場所みたいですね」

侍「うん? 何か探しているのでござるか?」

「ま、念のためですよ、大事なものがここにおいてないか」

侍「なるほど、拙者も手伝うでござるよ」

「いえ、さっきからずっと探してましたけど、どうやらないようですし」

侍「そうでござるか……ん」

「どうかしましたか」

侍「何処からか、風の音が聞こえるでござる」

「……そりゃまた……まあ、侍さんのことですから、信用しますけど」

侍「……ここでござるね」バキッ

「宝物庫に抜け道は付き物ですけどね……隠し通路を数秒で見つけちまうのもどうかと思います」

侍「ハッハ、頼もしい仲間でござろう?」

「ゲームがつまらなくなるチートキャラですよ」

侍「役立ったのにその返しでござるか!?」

「やれやれ……これだからゆとりは」

侍「年齢的には勇者殿がゆとり世代ドストライクなんでござるがね……」

「まあこれで、先へ進めますね……よっと」トッ

「わ、結構狭いですよここ……」

侍「あ、ちょっと待って欲しいでござる!」

「どうかしたんですか?」

侍「刀が邪魔で、通路に入れないんでござるよ」

「……」

侍「いやはや……これは困った」

「……」

侍「どうしたものでござるか」

侍「え、あの、勇者殿? どこへ行かれるのでござるか!?」

侍「お願い! 待って! 待って欲しいでござるぅ!」
320 : ◆ackVh57YJ. :2011/06/11(土) 00:17:40.10 ID:iJom8Hd60
>>312 ありがとう、頑張りますよ
ついでに唐翌翌翌翌翌翌翌翌翌揚げ
321 : ◆ackVh57YJ. [sage]:2011/06/12(日) 16:05:38.73 ID:Mm2kXuWRo



――隠し通路

「入り口をぶっ壊すなんて、どういう神経してんですか」

侍「だってそれ以外に方法がなかったんでござるよ」

「またばれたらどうするつもりなんで……うぷっ」

「むー、むー」

侍「シッ! 静かにするでござるよ」

「ぷあっ……」

「どうかしたんですか……?」

侍「……この気配、もしやと思ってはいたが」

侍「いやしかし、何故このような場所に」

いきなりの剣呑な雰囲気に、ぼくは思わず黙らざるを得ない

侍「……何か聞こえないでござるか?」

そういわれてぼくは耳を澄ます

「……とくに」

侍「誰かいるでござるよ、気をつけるでござる」

「……オーケイです」
322 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/12(日) 16:06:20.41 ID:Mm2kXuWRo

侍さんが先行し、その後ろをぼくがついて行く

大太刀を背にかけているにも関わらず、物音一つ立てない

その背中を見ながら、ぼくは息を殺して進む

しばらく進むと、ふと侍さんが立ち止まった

侍「この辺りでござる」

もう一度耳を澄ますと、微かに話し声が聞こえた

声が聞こえるほうに視線をやると、隙間から何かが見えていることに気づく

?「あーあ、また――――。」

誰かがいる、誰かが誰かと話している

否。それは話し声と言っていいかどうかもわからない

一方的な台詞だった

侍「ッ!? 待つでござるよ、勇者殿!」

頭に血が上って、呼吸が荒くなって、何も考えられなくなったぼくは

侍さんを押しのけて通路から飛び出した

?「あれれ? おにいさん、脱走してきちゃったんです? 駄目じゃないですかぁ」
323 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/12(日) 16:06:52.48 ID:Mm2kXuWRo

「お前、は……何を」

?「あはっ! みてわからないんですかぁ? 殺戮ですよ」

にこやかに微笑む、鎧を身に纏った少女

太陽のような笑顔に屈託のない瞳

それに対し

「お前、は……誰を」

?「やだなぁー、おにいさんのお友達なんでしょ?」

?「もう忘れちゃったんですかぁ? あはは」

そう、それに対して少女の傍らには、血だまりに沈んでいる人物がいた

腹部が食い破られたように喰い散らかされ、まだ綺麗なピンク色をした臓器がはみ出ている

表情は絶望にゆがみ、頭部は無残にも砕かれ

首はもとある場所より大きく捻じ曲がっていた

その肉塊は、ぼくの知る彼女と

随分とかけ離れていた

?「盗賊ちゃんですよぉー」

唯一、それを何者かと証明できたものは、盗賊が着ていたコート
324 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/12(日) 16:07:48.25 ID:Mm2kXuWRo

?「はぁ、さっちん憂鬱です。こんな化物、いくら喰らったところで」

?「全然まったくピクリとも満足しちゃえないんですもん」

「盗賊……」

ぼくはそれに近づき、傍らに膝を付いた

気持ち悪い

砕けた頭部から垂れ流される、脳漿が

ぬるりとした、生暖かい、血が

ぼくの、憎悪が

「―――死ね、お前こそが、化物だ」

?「ええ、そうですよ。あたしこそが――」

侍「失礼、すまぬが、黙ってはくれぬか、人外」

瞬間、何かが砕ける音がした

ゴギッ

侍さんのとび蹴りにより吹き飛ぶ化物、軽やかに着地する侍さん

侍「……勇者殿、気持ちはわかるが、ここは引いて欲しいでござる」

「でも」

侍「ハッハ! なあに、気にすることはないでござる」

侍「拙者、負ける気など毛頭ござらんから」
325 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/12(日) 16:08:46.07 ID:Mm2kXuWRo

?「あたたあ〜、もう……なんなんですか一体」

侍「……久しぶりだな、人外」

?「あら? あらあら? 侍ちゃんじゃないですか!」

侍「わざとらしい」

?「あははっ! そんな冷たいこと言わないでくださいよぅ!」

「……」

?「やだなぁ、そういう目。さっちんこわーい」

?「仲良くしましょーよ! じゃあまずご挨拶からですね!」

?「あたしはサキ、気軽にサキちゃんって呼んでくださいねー、別に人外でもいいですけど〜」ムスッ

「……こんにちは、人外。ぼくは」

侍「勇者殿、こんな奴の言葉に耳を傾ける必要はないでござるよ」

「………………」

人外「勇太さんですよね? 竜人の子から聞きましたよぉ」

「…………えー?」

人外「末永くお付き合いいただけると嬉しいです! ほら、さっちんって友達少ないですから〜」
326 : ◆ackVh57YJ. [sage saga]:2011/06/12(日) 16:09:50.73 ID:Mm2kXuWRo

侍「勇者殿! はやく!」

人外「あはっ、侍ちゃんが相手してくれるんです? やったぁ!」

「……ッ! すみません、侍さん、……盗賊ッ」ダッ

人外「あらあら」

侍「よいのか、そう簡単に逃がしてまって」

人外「まー、あんまりよろしくないんですけどぉ。侍ちゃん相手なら仕方ないっていいますかー」

侍「……」

人外「でもでも、よおく考えたら共喰いになっちゃいますよね〜、ね?」

侍「ほざいていろ」

人外「あはっ、そうですねぇ。じゃ〜あ〜……」

人外「いただきますっ!」ニコッ

侍「侍……推して参るッ!」
327 : ◆ackVh57YJ. :2011/06/12(日) 16:11:07.19 ID:Mm2kXuWRo
あげ
急展開すぎわろち
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/12(日) 18:04:52.93 ID:rzuoeRjDO

ありきたりだが、ドキもハラハラだな!
329 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/06/18(土) 20:18:34.85 ID:3T7DGjkYo



――???

ここがどこかも分からない

無我夢中で走っていた

方向感覚なんて当の昔に置き忘れてしまったようだ

「はぁッ――はぁッ――」

しばらく走り続けるが、さすがに息が続かなくなって立ち止まる

そして襲い来る猛烈な――吐き気

「おぐぅ……げぼぉっ! ぐっ……うぇ……」

吐き出すものも、ただの胃液しか出てこなくなった

もうそろそろ血が出てくるかもしれない

「……畜生」

これで2人目だ

ぼくの前で誰かが死ぬのは

必死でその恐怖を抑えて

必死でここまで走って

必死で……2人を見捨てた

吐き出す胃液もなくなって、ぼくは盗賊の血で汚れた手で口元を拭う
330 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/18(土) 20:19:35.26 ID:3T7DGjkYo

「は、はは……」

ほんとに死んでたんだ、よな

ちゃんと確認した

あれで生きているハズがない

頭が潰れて、腸が引きずり出されていたのだから

圧倒的な死を、どうにか無視して

無残な死に、目を向けた

「馬鹿げてる」

夢であって欲しい

そうだ、本当は圧倒的な死を……人外に直面したとき、ぼくは死んでいたんだ

今は死んだあとに悪い夢を見ているだけなんだ

「……って、何言ってんだ。ぼくは」

目を背けたかった

顔を逸らしたかった

怒りを忘れたかった
331 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/18(土) 20:20:41.85 ID:3T7DGjkYo

見ていない振りでもできればよかったのに

知らない振りでもできていればよかったのに

それができれば

恐怖に飲み込まれなかったかもしれない

「いや、どちらにしろ、同じだったんだろうぜ……」

ゆっくりと、頭を上げる

山賊B「おいッ! 見つけたぞ!」

山賊D「よくやった! ふぃ〜、これで命だけは助かったな」

絶望した人間に

「希望なんか、ちらつかせるもんじゃあないんですよ」

……侍さん

ぼくみたいな奴は、貴方みたいな人に出会わなければ良かったのかもしれません
332 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/18(土) 20:22:15.10 ID:3T7DGjkYo

山賊D「あんだ、抵抗しねえみたいだな」

山賊B「あーどうせ餓鬼一人、何もできねえよ。さっさと連れ戻そうぜ」

その通りでございますよ

シャキィン

瞬間、金属が鳴いて

山賊D「……が、あ」

山賊B「……ん、おい、どうした……うぐっ」

ドサリと重い音がした

傭兵「よーう、助けに来てやったぜ。少年」

「傭兵……さん?」

そこに立つ金髪の男性は、曖昧な笑みを浮かべていた
333 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/18(土) 20:25:56.04 ID:3T7DGjkYo



――空き部屋

傭兵「……ん、誰もいないみてーだな」

「……」

傭兵「ほらよ、水くらいは飲んどけ」

「……はい」

渡された水筒を開け、少しずつ冷たい液体を口へ流し込む

胃酸の味で埋め尽くされた口内が洗浄され、幾分か感覚が元通りになった気がする

傭兵「落ち着いたか?」

「少し、ですけど」

傭兵「んじゃま……そこまで狼狽してる少年に聞くのもなんだが」

傭兵「何があったか、教えてくれるか?」

「…………」

無言で頷くぼく

震える体を何とか静め、やっとの思いで口を開く

「盗賊が……殺されました」

傭兵「ッ!? ……そう、か」

額に手を当て、壁に持たれかかる

あの惨状を見ていないだけ、傭兵さんは幸せだったろう
334 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/18(土) 20:31:12.68 ID:3T7DGjkYo

「……次はぼくから質問させてもらいますよ」

傭兵「…………」

無言の了承、思ったより動揺しているようだったが構わず続ける

「ぼくが気を失ったあと、どうなったんですか」

傭兵「……ああ」

傭兵「まず、少年が刺されたあと、訳のわからん奴らが現れた」

「……記憶の淵に、皆が戦っていたのを聞きました」

傭兵「妙なお面をつけた奴らだった。少年が言っていた学園を襲撃した奴らの仲間だろうな」

「かも、しれませんね」

傭兵「そんで俺様たちは戦ったよ、少年のあねさんはお前が刺されたことによって取り乱してたがな」

「姉さん……」

傭兵「……まあ後は想像付くだろ? 俺様たちは分断され、俺様は生き延びて今ここにいる」

傭兵「すまねえが……あねさんはどこにいったかまではわからねえ……」

「盗賊は……捕まって……」

思い出そうとしたところで脳裏が真っ白になって立ちくらむ

傭兵「大丈夫か!?」
335 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/18(土) 20:39:10.18 ID:3T7DGjkYo

……脳が拒絶している、あの光景を思い浮かべることを

心配そうに駆け寄る傭兵さんに支えてもらって、なんとか立ちなおす

「は、はは……ざまぁないですよね」

自嘲気味に笑う

今、傭兵さんの目にぼくはどう映っているだろうか

「言っちゃあなんですがね、言い訳なんですがね、突然だったんですよ」

「全部全部ぜー、んー、ぶ」

傭兵「少年」

「ルーが突然家にやってきて、突然あいつ等に襲われて」

「でもその中で生き延びようって、生き延びるために決意を固めようって」

「これでも腹括ってたんですよ」

「この手で直接魔物を殺したときに。あぁ、これが"この世界"なんだなって」

「生半可な気持ちじゃ駄目なんだなって」

「……けれど、こんなの……簡単すぎますよ……突然すぎて全部あっという間もなかったんですよ……」

「どうしてあんな風に人が死ねるんですか……そんなの、知りたくなかったですよ」

堕落したい落ちぶれたい落ちぶれたままでいたかった

最初から諦めていれば何も知らなければ何も知ろうとしなければ

バッドエンドを見る前に死ねていたのかもしれなかった
336 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/18(土) 20:43:15.40 ID:3T7DGjkYo

傭兵「それで」

「……」

傭兵「そのままで」

「…………」

静かにゆっくりと

胸倉を掴まれた

傭兵さんの顔はひどく歪んで……笑っていた

悲痛な、笑みだった

傭兵「"俺"はなあ、落ち込んでる奴を見当違いな説教で立ち直らせたり」

傭兵「自分の正義や考えを押し付けたりなんてしねえよ」

「……やめてくださいよ、苦しいじゃないですか」

傭兵「だがな」

体に、重い衝撃が走る

一瞬遅れて、一度瞬きをして、体が地面に叩きつけられる

そうしてやっと自分が殴られたことに気づく

傭兵「今だけはお前に押し付けてやる」

傭兵「……俺は、ひじょーにむしょーに腹が立ってしょうがねえんだ!!」
337 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/18(土) 20:47:59.81 ID:3T7DGjkYo

「……やめろよ、痛いじゃんか」

傭兵「そうか? きっと盗賊はもっと痛かっただろうな」

「…………」

傭兵「そりゃあ死ぬほどの痛みだからな」

「……そうだよ、死んじゃったんだし」

傭兵「じゃあお前は、盗賊を殺した奴にし返そうなんて思わねえのか?」

「……殺されたから殺して、殺したから殺されて」

傭兵「はっ! 笑わせんな、復讐なんて非生産的なんていうつもりかよ?」

「皆、大体そう言うよ、復讐なんてばかげてるってさ」

傭兵「俺様はそうは言わねえがな……お前はそう言うのか?」

「……まさか」

傭兵「お前は少し考えすぎだ、馬鹿みたいに、愚直にな」

傭兵「馬鹿みたいになるなら、もっと方向性を変えろよ」

傭兵「あのとき道にあった血痕を見て、誰かの危機を感じ取ったときみたいによ」

傭兵「……あいつを助けたいと思ったんだろ? 盗賊だってそうだった」

「はん……そうだよな、思えばあれが間違いだったんだよ」

「あそこで、自己満足のために皆を危険に晒すわけには行かなかった」
338 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/18(土) 21:03:42.76 ID:3T7DGjkYo

傭兵「結果的には間違いだったかもな」

傭兵「だが、人としては間違っちゃあいなかった。って俺様は思うぜ?」

「そう、かもね」

傭兵「そう思えるんなら話ははええ、あとは自分で」

傭兵「やりたいことを見つけてみろよ」

ザリッ、底の固い靴が床を抉るように擦る

「……どこ行くんですか」

傭兵「生意気な輩に、一泡吹かせてやろうってな」

「そんなの、無茶ですよ」

傭兵「かもな」

「なら」

傭兵「勝てなくても、倒せなくても、殺せなくても」

傭兵「そいつらの思い通りにだけはいかせねえ」

「……何を」

傭兵「俺様の思い通りには行かなくて、奴等は順風満帆」

今度は、悪餓鬼のような笑みを浮かべて

傭兵「そういうのって、すげえムカつくだろ?」

……その言葉には、全面的に同意できた
339 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/06/18(土) 21:04:20.06 ID:3T7DGjkYo
幼女成分が足りないんだけど?
なしてこうなったし
340 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/06/22(水) 21:58:28.72 ID:6oBOvdq1o

――大部屋

人外「あはっ、あはははははははははははっ!!」

ザッギンガギン!

侍「何がおかしい! 人外!」

ガリッギィン

人外「何がおかしい? おかしくなんかありませんよ、楽しいんです!」

幾度の攻防、幾百のつばぜり合い

侍「拙者は少しも楽しくはないがな!」

人外「あはっ! そういいながらもこっちは随分と楽しそうですよぉ!?」

幾千の必殺

人外「ほらほらっ! <<すらーっしゅ>>!」

大鎌の一閃、対し侍は

侍「――ッ!? <<七天八刀>>ッ!!」

3mもの大太刀は八つの衝撃波を生みだす
341 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/22(水) 21:59:16.25 ID:6oBOvdq1o

それらは大鎌の衝撃を打ち負かし、人外へと向かった

だが

人外「そーれーはっ! もう見飽きちゃいましたよぅ!」

なぎ払われる人外の大鎌

空を切り裂くかのように振るわれたソレは、一瞬のうちにして衝撃波をかき消した

侍「いつみても奇怪な技だ」

人外「それもそうですねぇ、さっちん的にあんまし使いたくない技なのです」

侍「ふっ……拙者がそのような技でやられるとでも?」

人外「思っちゃいませんよ、ただ当たってもらっちゃ困るだけなんですって」

人外「……おいしくいただくのに、全身が欠けちゃお話になりませんからね」ニタァ

侍「……っ、毎度の事ながら、悪寒がするな」ゾクッ

人外「そういえば侍ちゃんと戦うのは何度目でしたっけ?」

侍「覚えておらん、思い出したくもない」

人外「あはは、そういわないでくださいー。さっちん傷ついちゃいますよぅ」

人外「侍ちゃんが思い出せないなら、さっちんが思い出しちゃいますよ?」
342 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/22(水) 21:59:42.60 ID:6oBOvdq1o

侍「……ッ! <<七天月光>>!!」

月弧のごとく弧線を描く大太刀

刀身が煌き、星をも砕く一撃が人外へと襲い掛かる

人外「んーっとですねえ……そうでした! あのときの侍ちゃんはかわいかったですよねー」

しかしそれは、凄まじい音を立てる大鎌によって防がれた

人外「あはは、思い出すだけで笑えてきちゃいます、何でしたっけ? パパ上? ママ上?」ブオンッ

侍「――っく!」

鎌が一振りされるだけで、侍は数メートル吹き飛ばされることになった

人外「あら、あらあら? さっちんってば意外と記憶力あるんじゃないかしらん?」

侍「黙れ……!」

人外「あはは、やっぱり勇太さんのせいですねぇ。似てますよ、すっごく」

人外「もしかして、いらぬ世話焼いちゃったのはそのせいだったりします?」

侍「……黙れ!!!」

侍「<<七天双打>>ッ!」

繰り出されるは神速の双突き
343 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/22(水) 22:00:15.14 ID:6oBOvdq1o

人外「<<すまーっしゅ>>!!」

対し下から上へ突き上がる大鎌

人外「あはははは! 楽しいですねぇ?」

侍「戦を楽しいなどと、思ったことなどない!」

人外「なあに言ってるんですか、【殺人鬼】さん♪」

侍「黙っていろ、【殺人鬼】」

大鎌の殺人鬼と

大太刀の殺人鬼

人外「さっちんのはただ殺人じゃないですよう? ……生きるための殺害です♪」

人外「だーかーらー、侍ちゃんみたいな殺戮とはちがうんですぅー、だって」
344 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/22(水) 22:00:45.78 ID:6oBOvdq1o



人外「人は喰らい生き延びるために殺すんですもん」


345 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/22(水) 22:02:24.02 ID:6oBOvdq1o

侍「人外なぞに、喰われてたまるか……ッ!」

快楽殺人鬼は鋭爪を表し

人外「あうー……久しぶりに運動したからおなか空いちゃいましたぁ……」

人喰い殺人鬼は牙をむく

侍「勇者殿……すまぬでござるな、友を探すという約束は守れそうにないでござる」

人外「あは、大丈夫ですよぅ。勇太さんはさっちんのお友達が優しく捕らえてくれちゃいますから♪」

侍「……ッ、なら、拙者にもその友達とやらを会わせてもらおうか」

人外「いいですよ? 侍ちゃんも大切なお友達ですし。でもぉ、もうちょっとだけ」

人外「遊んでから行きましょう♪」
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/23(木) 00:07:55.60 ID:Qpctc6+DO

でも、7レス以上は欲しいな!
347 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/06/25(土) 00:16:40.37 ID:nbGhaDaBo



――廊下

「……」

傭兵「……別に無理してついてこなくたっていいんだぜ? 少年」

「それはぼくの身を案じてですか、それとも非力なぼくへの嫌味ですか」

傭兵「っは、嫌味に決まってんだろうが」

「ならついていきます」

傭兵「天邪鬼だな」

「貴方にそういわれるのが頭にくるだけですよ」

傭兵「ははっ、そいつは結構結構」

「…………どこに向かっているか、だけでも教えてくれませんか」

「場合によっては無理にでも引き止めるかもしれません」

傭兵「んー? なにお前、俺様が盗賊殺した奴と戦おうとしてるって思ってんのか?」

「だって、奴等に一泡吹かせてやるんでしょう?」

傭兵「おうともさ、……一泡吹かせるために奴等の目的を破綻させる」

「目的……って……ルーですか」
348 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/06/25(土) 00:18:16.41 ID:nbGhaDaBo

傭兵「そうとは限らねえが……その線は十分にあるだろうぜ」

「ですが、奴等の計画にぼくらは邪魔になると」

傭兵「じゃあ何故お前は生きているんだ?」

「……それは」

傭兵「……まあそれもおかしいっちゃあおかしいよな」

傭兵「襲撃者は竜化して逃亡を図る少年たちを執拗に追いかけた」

傭兵「その襲撃者と同じ仲間ならば真っ先に少年は殺されるはず」

「……ぼくも、おかしいとは思ってました」

「イマイチやつらの目的がつかめないんですよ」

傭兵「っま! いくら悩んでたってどうしようもねえ」

傭兵「実は少年を助ける前に、山賊の皆さんがご親切に教えてくれたんだ」

傭兵「ルーちゃんたちの居場所をな」

「……親切な山賊なんて、聞いたことないですが」

傭兵「世の中には色んな奴がいるからなあ」

傭兵「数発ぶんなぐりゃあ大人しくなって、可愛いもんだぜ?」
349 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/06/25(土) 00:18:47.03 ID:nbGhaDaBo

「男には厳しいですよね、傭兵さんって」

傭兵「ったりめえだろ! ……っと、きぃつけろ。ここいらのハズだぜ」

「……」

無言で頷き、知らずのうちに唾を飲み込む

ぼくらの目の前にあるのは古びた木製の扉

くすんだ金属のドアノブに手をかけ、軋む扉をゆっくりと開いた

傭兵「……!」スッ

「っ!!」バッ

最初に傭兵さんが飛び込み、ぼくは後方を確認して音を立てずに扉を閉める

「どうです、傭兵さん」

傭兵「……暗いな、ちょっと待て、直になれる」

ぼんやりと薄暗い、埃だらけの小部屋

微かな物音と自分の呼吸音だけが部屋の静寂を打ち破る

傭兵「あれは……ルーちゃんっ!?」

「ルー!?」
350 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/06/25(土) 00:19:20.65 ID:nbGhaDaBo

幼女「むーっ! むー!」

白い布を噛ませられ、小汚い椅子に縛り付けられているルー

ぼくらに気づいた途端、暴れるように体を揺さぶった

「大丈夫?……ちょっと待ってね、よいしょ……」

まずは鋭く尖った結晶を生み出し、椅子とルーを縛り付けてある縄を引き裂く

そしてルーを立たせ、唾液に濡れた布を外してやって微笑む

「遅くなってごめんね、ルー」

幼女「あ、う……ぅぅう」

大きな瞳に浮かび上がる、大粒の涙

それらを押し止める関が、崩れ落ちたかの様に一斉にあふれ出す

「……よしよし」

幼女「ひぐっ……うぇえええ、ゆーたぁ……」

痛々しいほど強くぼくのシャツを握り締め、離れまいとするルーを強く抱きしめる

傭兵「なんにせよ、無事でよかった」

「……そうだ、ミリア、ミリアは!?」

辺りを見回しあの小うるさいペンダントを捜し求める

傭兵「……? なんだ、この箱。微かに動いてるような」パカッ
351 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/06/25(土) 00:19:46.18 ID:nbGhaDaBo

ミリア「っぷはあ! ふぃ〜、やっと気付きおったか!」

「ミリア!!」

ぼくはルーを抱っこした状態でペンダントの元へ走り寄る

ミリア「む、貴様! わらわの勇者ともあろうものが、簡単にやられてしまうとは……情けない」

「はは……そんなこと言ったって」

ミリア「……ん、何を笑っておる! 笑ってごまかされるとでも思うてか!」

「い、いや? そんなこと……あるかな」

ミリア「まったく! 貴様という奴はいつもいつも…………」

「ん、どうかした?」

ミリア「……心配ばかりかけさせおって」

「…………ごめん」

ミリア「ふん、わかればよいのだ」

満足気に鼻を鳴らし、黙りこくるペンダント

それに片手で持ち、自分の首へとまわす

幼女「るーがつけたげう!」
352 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/06/25(土) 00:20:39.92 ID:nbGhaDaBo

「そう? ルーに出来るかな?」

幼女「できうもーん」

「はは、じゃあお願いしようかな」

幼女「うんっ!」ニパッ

長らく忘れていたような笑顔

満面に咲く純粋な笑顔

それだけでぼくは

「あと十年は戦える……ッ!!」

傭兵「……少年、なにやら奇怪な電波を受信しているところ悪いが」

傭兵「勘付かれたようだな……」
353 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/06/25(土) 00:21:13.86 ID:nbGhaDaBo

殺気

ミリア「これは、さきほどの」

悪意のある悪意

「ぼくを刺した……奴?」

そして悪寒が走った

ミリア「馬鹿者ッ!! 動けぇ!!!!」

「――ッ!?」

咄嗟にルーを抱きかかえて横へ飛ぶ

幼女「ひゃっ!」

瞬間、床を突き抜ける木製の杭

寸でのところで飛んだため、ぼくの体は地面に強く打ち付けられた

「ぐぁ……!」

ミリア「はやく、起き上がらぬか!」

傭兵「急げ少年! また来るぞ!!」

「!?」

大地は揺れ、次に来る攻撃の規模と危険性をぼくに伝える

「ごめんっ! ルー!」

幼女「ゆーたっ!?」
354 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/25(土) 00:21:50.36 ID:nbGhaDaBo

せめて、ルーだけでも

その考えは間違いであっても

ズゴッベキメキメリ

一斉に飛び出すいくつもの杭

一つ一つが大木のように太く、一撃必殺のごとく威力を含んでいた

「くっ――!」

ぼくは散らばった木片を体中に浴びながらもそれらを回避する

幼女「ゆーた! だいじょおぶ!? ひゃっ!!」

「ルーッ!!」

伸ばした手も届かず、ぼくの視界は茶褐色に埋め尽くされた

傭兵「少年! 無事か!!」

「ぼくは無事ですっ! 傭兵さんは!?」

傭兵「俺様も閉じ込められちまったようだ! わりぃが助けは期待しないでくれ」

「……はい、どうかご無事で!」

ミリア「ぬぅ……分断されてしまったの」

パラパラ……

ようやく止んだ木屑の雨、埃が徐々に晴れて明瞭になる視界

天井から光が差し込み、建物は木っ端微塵に砕け散ったことを思い知らされた
355 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/25(土) 00:22:31.77 ID:nbGhaDaBo

「きたな……!」

ザッ

同時に鳴った3人分の足音

??「ぬっはっは!! このおれっちたちから逃げ出そうなんざ百年はやいわぁ!」

双子「親分まじかっけーっす! まじリスペクトっす!」

双子「親分まじっべーッスよ! まじ最高ッス!!」

親分「やかましい! おれっちのことはおやびんと呼べと言っただろ!」

双子「うっす! おやびん!」

双子「うッス! おやびん!」

ミリア「な、なんなのだ……あやつらは……」

「ぼくに聞かれても……」

双子「おやびん! こんな奴等分断せずともよゆーだったんじゃないっすか?」

双子「そうッスよ! おやびんの手にかかればこんな餓鬼!」

親分「ばっかヤロー! さっちんさんにつかめぃろっつわれたろうが!」

双子「はっ!? そうだったっす!」

双子「すっかり失念してたッス!」
356 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/25(土) 00:22:56.19 ID:nbGhaDaBo

ミリア「……」イライラ

親分「ったくてめぃらってやつぁ……」

双子「おこっちゃやーっす! おやびん!」

双子「おんびんにしてくださいッス! おやびん!」

ミリア「ええいっ!! さっきからやかましい輩だ!」

ミリア「ごちゃごちゃ言わずにかかってこい!」

「ちょっ!? ミリア! 戦うのはぼくだよ!? 何挑発してんの!」

ミリア「やかましいわ! この程度の障害、乗り越えられずに何ができる!」

双子「おやびん! どうするっすか!」

双子「さっさとやっちゃいましょうッス!」

親分「まあ待て、こいつはおれっちに任せねぃ!」

親分「おめーらはもう一人のほうを任せたぜぃ!」

双子「わっ、おやびん楽そうなほうを取ったっすね」

双子「まじないッスわ、ありえねえッス」

親分「じゃかあしい! いいからとっとと行けぃ!」

双子「ぴゃーっす」

双子「びゃーッス」

素早く杭から杭へ飛び移っていく双子
357 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/25(土) 00:24:07.46 ID:nbGhaDaBo

そして後に残ったおやびんと呼ばれ……呼ばせていた大男

親分「いよぉ、覚悟はできてっか?」

「張りぼての継ぎはぎだらけなもので間に合う程度のですか?」

おちゃらけて自虐

……駄目だね、格好つかないし

親分「のう坊主、いっちょここは穏便にいこうじゃあねぃか」

「……それをぼくが承諾するとでも?」

これ以上の自虐は流石に呆れ果てられる

親分「へっ! いいぜぃ! んなら気が済むまでボロクソにやられちめぃな!」

親分「五体不満足だろうがぁ生きてりゃ問題ねぃ!」

親分「存分に絶望させたらぁ!!!」

ここで少しは主人公らしくならないと!

「……ッ!」

ミリア「来るぞ!!」
358 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/25(土) 00:25:42.28 ID:nbGhaDaBo
若干夏バテ気味っす、皆水分補給はしっかりするんですよ?
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/25(土) 08:45:34.57 ID:/TkEHNhIO

お大事に
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/25(土) 10:00:07.54 ID:eUpkScxDO

どういう場所か?
イメージしにくいな!
361 : ◆ackVh57YJ. [sage]:2011/06/25(土) 10:32:09.55 ID:nbGhaDaB0
山奥にあるアジトで、杭によって周りを囲まれている状況っす
建物はぶっ壊れてます……ううん、まだ分かりづらいか
362 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/06/29(水) 18:15:44.50 ID:H1NAQAflo

大地が揺れ、魔力の奔流が渦巻く

親分「水土合成! 木属性ぃ!」

「……合成魔法!!」

ミリア「下だの!」

ズガッ!!

真下からの一撃、それを横っ飛びに避けて礫を発射

親分「ぬりぃ! そんな魔法おれっちにはきかにぃぜ!?」

「効くなんて思ってないですよ!」

横転、起き上がって前進

距離を離されるのはこちらに取って不利になる

だが杭によって作られた檻はさほど広くはない

「なら……!」

ミリア「突貫!」

「あるのみっ!!」

走りながら両手に結晶の剣を生成

蛇行しつつ徐々に距離をつめる
363 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/06/29(水) 18:16:26.24 ID:H1NAQAflo

親分「ぬっ」

「らあっ!」

左手の剣を放り投げ、尚も前進

親分「ふんぬ!」パキッ

いとも容易く左手で砕かれた剣

「避けるべき、だったよ。それは!」

親分「なにぃ!?」

砕かれた瞬間、中に閉じ込められた高圧の魔力によって周囲へと破片を撒き散らす結晶

それは大男の眼前で砕け散ったため、破片をもろに顔面へと浴びる

親分「ぐっ!」

「……はぁっ!!」

手で顔を庇い、視界が防がれている大男へ剣を振り下ろす

親分「……ぬりぃ、<<死角柱>>ッ!」

「ッ!?」

一瞬、まさに一瞬だった

眼前の敵を切り捨てようと、見開かれていた目に何かが地面よりせり上がってくるのを捉えた
364 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/29(水) 18:16:58.47 ID:H1NAQAflo

ミリア「下がれ!」

「言われなくともっ!!」

瞬時の判断でカカッとバックステッポ

そして体を掠めるようにつきあがる杭

「――間一髪!」

ミリア「馬鹿者! 安心しとる場合か!」

親分「ぬらぁっ!!」

「ごふっ!?」

腹部に生じる重い衝撃

巨体から繰り出される渾身の蹴りに、ぼくの貧弱な体はいとも容易く吹き飛ばされる

「……っがぁ、げほっ!」

凄まじい嘔吐感が襲い、腹部を押さえてへたり込む

しかし、幸いなことに吐き出すものは残っていなかった

ミリア「合成魔法にしては……速すぎる!」

そう、何とかかわせたものの完全に予想外であった

ほぼノーラグでの襲撃、無詠唱によって生み出された杭

合成魔法というものは普通、ニ属性の魔法を反発しないように相殺しないように

均等に混じり合わせて初めて新たな属性であり、強力な魔法を生み出すことができるのだ
365 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/29(水) 18:17:31.43 ID:H1NAQAflo

親分「数少ねぃ手段から唯一突ける隙、不意打ち」

それがあの一瞬で出来るはずがない、賢人クラスでない限り

ましてや、山賊を統べる程度の男に

親分「瞬時に思いつき瞬時に行動しちまう、そこは評価してやろうじゃねぃか」

ぽきりと首を鳴らしながら大男は悠然と立ち尽くす

親分「そう……【欠落回路】にしちゃあ上出来、だがそこまででぃ」

「ぐ……は、はは。ぼくも以前はそこまでだって思ってましたよ」

親分「何ぃ……?」

「右足、見てみてくださいよ」

親分「これぁ……、結晶ッ!? てめぃいつの間に……!」

「少し考えれば分かるでしょう? 蹴られたときですよ」

親分「ちっ! 避けるそぶりをみせねぃと思ったら……小ざかしぃ野朗だ」

「っは、なんとおっしゃってくれても構いませんが、あまり乱暴に扱わないほうがいいですよ」

「それ、さっき爆発した剣と同じように作ってます。少しでも衝撃を与えたら……」

「ボンッ! ……まー足が吹っ飛ぶくらいの威力はあるんじゃないですかね」

立ち上がり、余裕めいて両手を広げる
366 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/29(水) 18:18:20.12 ID:H1NAQAflo

親分「はんっ! 調子こいてんじゃねぃよ」

親分「もうおめぃにおれっちは捕らえられねぃ」

ミリア「勇者、貴様……魔力を使いすぎて」

「…………」

がくつく足に鞭を打って、なんとか平静を保とうとする

正直言って、力を使いすぎた

ミリア「馬鹿者!! 己の力を制御できずにどうする!?」

親分「情けねぃ……所詮は【欠落回路】所謂【欠陥回路】なんとだって呼んでやらぁ」

「…………欠陥回路のほうが字面的にかっこいいですよね」

親分「そうけぇ? なら【欠陥回路】の坊主よ」

「何ですか【欠陥回路】の親分さんよ」

ミリア「……なっ!?」

親分「やっぱ気づかれちまうよなぁ」

「……いうなれば、そこまでしか分からないってことですよ」

親分「おれっちにも坊主が欠陥品ってことしかわからねぃよ」

ミリア「あの詠唱速度……単調な魔法、ふむ……確かに」

親分「だがそれだけでぃ……もう一度いうぜぃ? 坊主」

親分「ここは穏便に済まそうじゃあねぃか」
367 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/29(水) 18:19:33.99 ID:H1NAQAflo

「穏便に済ましたところで、ぼくらがどうなるっていうんですか」

親分「すぐには死なねぃよ」

「結局死ぬんじゃないですか」

親分「まあ待てぃ、それは坊主たちが反抗しなけりゃってぇ話でぃ」

親分「何もあの人外を相手にしてぇなんて、血迷ったこといわねぃもんなぁ?」

「――ッ!」ゾクッ

名前だけで、その言葉だけで背筋が凍りつく

「……は、それは卑怯じゃあありませんか」

親分「おれっちも今日まで生きていた人間がむごたらしく食われるのを、見てぇとは思わねぃよ」

親分「だが一つ言っといてやる……さっちんさんは」

親分「『さっちんは〜竜を喰らってみたいです!』だそうだぜぃ?」

ミリア「――竜を喰う?」

「……ッ」

親分「坊主の傷を治してあるのも、竜人とその騎士を万全な状態で打ち負かすためだろうぜぃ」

「なら尚更……ここで貴方に負けるわけにはいかなくなりました」

親分「まあ待ちねぃ……おれっちの話にはまだ続きがあんのさ」

ミリア「……よかろう、言ってみろ」

「ミリア?」

ミリア「聞くだけだ。もし交渉が決裂すれば……【奥の手】を使わせてもらう」

親分「……ありがてぇこった、んだば遠慮なくさせてもらうぜぃ」
368 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/29(水) 18:21:14.12 ID:H1NAQAflo

★せつめいおつ

幼女「ふぁぁい! るーの、【せつめいおつっ!】 のこーなでぇすっ!」

ミリア「どんどんぱふぱふ」

幼女「ええとうんと……せつめいのきをのがしたけど、さくちゅーでせつめいすんのもあえなので」

ミリア「しょうもないコーナーを特設しての説明だ、軽く見流してくれても構わん」

幼女「だ、そうでぇす!」

幼女「し、し……しんこうやくは、るーと!」

ミリア「ミリアで伝えさせてもらう」

幼女「ついでに、とくべつげすととして、りんたんにもきてもあいました!」

リン「よろしく」

幼女「よーしくおながいします!」

ミリア「……ふん」

幼女「みいあ! そーゆーたいどはめっ!ってゆーたがいってたよ!」

ミリア「…………」

幼女「もーっ!」

リン「きにしてない」

幼女「あう……りんたんがそーゆーなあ、しかたないのです」
369 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/29(水) 18:21:41.23 ID:H1NAQAflo

幼女「でわっ! さっそくのせつめいです! りんたん!」

リン「しゅじんこうのあだなでもあった、【欠落回路】についてのせつめいを」

幼女「あいっ! けつあくかいおってゆーのは、えっと……うんと」

幼女「こう……あえがあーなって……うぅ、みいあー」

ミリア「……ふん、仕方あるまい。直々にわらわがご高説してやろうではないか」

リン「じぶんでいうことじゃ、ない」

ミリア「やかましい! これだから……ぶつぶつ」

幼女「みいあ、つづきをっ!」

ミリア「分かっておる……して、【欠落回路】であったか?」

ミリア「まず魔法の基礎として、魔法の発現までには三つの要素がある」

ミリア「一つは【魔力】、一つは【詠唱】、一つは【回路】」

幼女「ほえー」

リン「しってる」

ミリア「魔力についての説明は省こう、では詠唱についてだが」

ミリア「詠唱は魔法の形、性質を構成するためのものなのだ。無詠唱というものがあるが、
    あれは既に構築してある詠唱を利用して発動するものであって、完全に詠唱を必要としないわけではない」

ミリア「そして回路、これは人……まあ魔物にも扱えるものがいるがの、それらにもとよりある魔力変換のためのもの」

ミリア「主に魔力変換のための要素であるな、また魔力を安定させたり制御させたりもするぞ」

ミリア「回路と詠唱は深く結びついておってな、回路と詠唱が合わぬと魔法は生み出せぬ」
370 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/29(水) 18:22:12.34 ID:H1NAQAflo

幼女「へえー」

リン「じょうしき」

ミリア「先ほどからうるさい奴だ……そして【欠落回路】と呼ばれる魔法使いは」

リン「うまれながらにして、かいろがけつらくしている」

ミリア「その通りだ、故にそれらの魔法使いは詠唱を必要としない」

ミリア「何故回路が欠落しているのにも関わらず、魔法を制御できるのかはわからぬが」

ミリア「単一の魔法しか使うことができず、その魔法もまた特異なものが多い」

ミリア「【欠落回路】だからと言って弱いわけではないぞ? 勿論わらわの勇者は強いがな!」

リン「でも、ろーぐよりは、よわい」

ミリア「なんだとぅ!? やるか貴様っ!」

幼女「どうどう、みいあ、めっ!」

ミリア「……ふんっ!」

リン「……」

幼女「さてっ、きょーはここまで! せつめいおつでした!」

幼女「しんこうは、るーと」

ミリア「ミリアと」

リン「リン」

幼女「で、おおくいいたしましたっ! ではっ、しーゆーねくすとあげいんっ!!」

ミリア「さらばだ」

リン「ばいばい」
371 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/29(水) 18:23:06.23 ID:H1NAQAflo

……

ローグ「リン」

リン「ろーぐ?」

ローグ「よくやった」

リン「うん」

ローグ「後でお菓子を買ってやる」

リン「……うん」ギュ

ローグ「服を掴むな、歩きづらい」

リン「……」パッ

ローグ「……今日だけだぞ」

リン「…………うん」ギュッ
372 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/29(水) 18:25:59.16 ID:H1NAQAflo
おわり、さみし
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/29(水) 20:09:39.76 ID:yljmUS4DO
どんどん、面白い魔法で、魔法対戦だな!
君に任せた!がんばれ!
374 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/30(木) 19:41:00.28 ID:iDGsEKo0o



――同時刻

傭兵「……」

何十もの杭に囲まれた柵の中

傭兵は自分の得物であるバスターソードを地に刺し佇んでいた

額からは血と汗が滲み、火傷を負った左腕を庇うような仕草もしている

ヒュンッ――!

そのすぐ隣を赤い影が走る

傭兵「うおおおおおっ――!」

バスターソードを軸に回転するように避けようとする、が

双氷「きひっ!」

上空を覆う青い影

傭兵「しまっ――! がああああああああ!?」

鋭い爪によって背中を切り裂かれる、だがそれだけに留まらず

噴き出た瞬間、侵略されるように血液が凍りつく

それによって血の漏出は免れるが、傭兵に壮絶な痛みが襲い掛かる

傭兵「ぐぁ……!」

何故このような非効率的な攻撃を仕掛けるか

それは勿論、苦しみを与え続けるためだ
375 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/30(木) 19:41:26.27 ID:iDGsEKo0o

双氷「もーあきらめるッスよー」

双火「きひひっ、そーっすよそーっすよ」

傭兵「けっ……侮るなよ、犬っころが……!」

火と氷の獣人

更に双子と来た

傭兵(レアってレベルじゃあねーぞ、とっ捕まえて売りさばきゃ相当の値段にならあな)

幼い顔つき体つき、されども戦闘能力はすでに立派な獣人

とっ捕まえるほどの余裕もなければ確実に勝てるという補償もない

それでも……と傭兵は痛む体に鞭を打ち、2匹の獣を力強くねめつける

双氷「わんわん、それならもっと遊びましょうッス」

氷犬がじゃれつき

双火「わふわふ、諦め悪い奴も嫌いじゃないっす」

火犬が尻尾を振った

傭兵「いいぜ……」

傭兵「人様にゃあ決して敵わないってこと、本能に叩き込んでやるよォ!!!」

獲物が雄たけび

そして狩りが始まった
376 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/30(木) 19:42:33.75 ID:iDGsEKo0o



――同時刻・崩壊した大部屋

ガラッ……ゴトゴト

侍「……っ、一体全体、何が起こったのでござろうか」

人外「あはっ、どうやら始まったようですよぅ?」

至近距離、目と鼻の先

まじでキスする5秒前

侍「――閃進ッ!」

侍は己の眼前に存在する物体が何かと確認した瞬間

高速で後退した

人外「うぅっ……侍ちゃんひどいです、さっちん傷ついちゃう〜」

やーん、とくねる人外

侍「……」

無言で大太刀を構える侍

再び緊迫した空気が世界を支配する、が

人外「ふぃ〜、もういいですよぅ、さっちん疲れちゃいましたから」

それも束の間

侍「逃げるつもりか」

人外「逃げるんじゃないです〜! ……見逃してあげる、んですよ? くすっ」

あどけない少女の顔で、ひどく妖艶な笑みを浮かべる人外

侍「……そうだな、そういうことにしておいてやろう」

人外「あはは、じゃあ今回はさっちんの勝ちですね!」
377 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/30(木) 19:43:04.09 ID:iDGsEKo0o

侍「勝手にしろ」

人外「んふふ〜、わーい勝った勝った〜、これで97戦23勝21敗53分ですねー」

人外「あらやだ、さっちん勝ち越しじゃないですか〜、リーチですよリーチ」

侍「待て! 正確には94戦22勝20敗52分だろう!?」

人外「ええ〜……何言っちゃってんですか侍ちゃん……」

侍「拙者が子供だったころのはカウントされぬ!」

人外「ちっちぇですねぇ〜」

侍「……それだけは譲れぬ」

人外「あは、しょうがないですねぇ……でもま、100戦までの戦績ですし」

人外「楽しみにしていますよ? 侍ちゃん♪」

侍「拙者も、楽しみにしておくぞ、人外」

突如、人外の足元に浮かび上がる魔法陣

それらに刻まれた幾何学的な模様が回転すると、人外の姿が虚空へ消えた

侍「……ふーっ」ドサッ

緊張の糸が切れたせいか、その場に腰を下ろす侍
378 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/06/30(木) 19:43:31.23 ID:iDGsEKo0o

侍「いかぬいかぬ……はやく瓦礫の中より勇者殿のご友人を助け出さねば」

とそこまで呟いて

侍「あいや待たれよ……、…………」

ジョリジョリと顎鬚をさすりしばし思考

侍「……いないでござる」

せめて死体だけでもと考えたが、それすらも叶わず

侍「拙者の六感も鈍りだしているのかもしれんでござる」

情けなくため息をつく、さきほどまでの彼とは打って変わった様子

なぜなら、今は格好良くみられる必要がないからだ

侍「うむむ……」

更に思考し

そして感じる違和感

侍「なるほど、あっさり手を引いたと思えば」

忌々しげに呟く

侍「閉じ込められた、というわけでござるか」

世界が歪み、ぼやけたように曖昧になっていく

孤立した空間内で、男は一人、取り残された
379 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/06/30(木) 19:45:33.51 ID:iDGsEKo0o
みじかっ!おわり
>>373 毎度毎度レスをありがとうございま
ご期待に添えられるかどうかわかりませぬが一層精進してまいりますので
生ぬるい目で見守っててください、では
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/30(木) 21:20:47.54 ID:h60uwFpDO

楽ーしーみ!
面白いよ!
381 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/03(日) 02:25:03.94 ID:W2vJMGmeo

――数分後

傭兵「はーっ……はーっ……」

双火「にひっ、もーおわりっすか?」

双氷「きひっ、もーおわりッスね?」

傭兵「……けっ! 犬ッコロにゃあ俺様の崇高な策が見破れねえようだな!」

双火「な、なんだってー!? それはいったい、ど、どういうことっすか!」

双氷「そ、そんな素振り、まったくなかったッスよ!?」

傭兵「ふっふっふ……はーっはっはっ!!」

双火「何がおかしいんすか!」

双氷「ま、まさか……その余裕」

双火「!? 何か気づいたっすか? ヒョウ!」

双氷「気づかないんスか……? エン」

双火「もったいぶらずにさっさと教えるっす!」

双氷「それは……わからねーッス!」

双火「……なら仕方ねーっす」

傭兵「……よしじゃあ、俺様が教えてやろう」
382 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/03(日) 02:25:34.82 ID:W2vJMGmeo

双火「ほんとっすか!?」

傭兵「おう本当だ、そっちの赤いの、こっちこい」

双火「わかったっす!!」

双氷「えー、エンだけずるいッス」

とたとたと尻尾を振りながら走る双火を、文字通り指をくわえて見送る双氷

傭兵「よし、耳かせ」

双火は赤みがかった茶色の獣耳をピンと起て、言葉を待つ

双火「わくわく」

傭兵「……馬鹿につけてやる薬はねーと言うが、どうやら本当のことらしいな」

双火「えっ? それってどーゆーことっす……きゃふん!」

が、その期待には腕を絡め取られ、首元にナイフを突きつけられるといった行為で返された

双氷「っ!? エン! おのれ、どういうつもりッスか!」ググッ

傭兵「おーっと、動くなよー」ギチッ

咄嗟に駆けつけようとした双氷に、双火を盾にして牽制

双火「うぅ……ヒョウ! こいつ、うそつきっすよ!!」

双氷「みりゃあわかるッス! 大丈夫ッスか、エン!」

双火「だいじょうぶじゃないっすよぉー! 放せー!」
383 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/03(日) 02:26:07.80 ID:W2vJMGmeo

傭兵「お、おぅっ……ば、馬鹿、尻尾振るな、地味に痛、気持ち、おふう」

ぺちんぺちんと双火は傭兵の股間部分を尻尾で叩きつけている

双氷「は、犯罪の臭いがするッス! はやくエンを放すッスよ!」

傭兵「うるせぇ! 俺様は女のガキなんかにゃ興味ねえんだよ!!」

双火「放すっす! このろりこん! へんたい! どーてー! がるるっ!!」

傭兵「ぐ、こら、暴れんな!」

暴れる双火を無理やり押さえつけて、地面に突き刺さったバスターソードへ近づく

双火「ぐぬ……し、しかたないっす……ね」

双氷「!? エン、やめるッス! それだけは!!」

傭兵「……動くなよ? 抗う素振りを見せたら、すぐさま」

傭兵「殺すぜ」

双火「ひっ……わ、わかったっすから」

双火「うごかないす、うごかないっすよ〜……」

傭兵「ようし、いい子だ……って、ん」

傭兵「うおう!? あっちぃ!」

双火「にひっ! <<オーバーヒート>>っ!」

瞬間、赤く紅く燃え上がる双火

その炎は爆発的に燃え広がり、傭兵の体を焼いた
384 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/03(日) 02:27:15.03 ID:W2vJMGmeo

傭兵「っちィ!」

何とか双火から離れ、服に燻る煙をはたいて消す

傭兵「勘弁してくれよ、俺様の自慢の顎鬚が……」

ちりちりと焦がされてちりちりとなった髭をつまみつつ、そんなことを言う

双氷「きひひ、そっちのがお似合いッスよ、おじさん」

双火「にひひ、その通りっすよ、おじさん」

傭兵「誰がおじさんだゴルァ!! って、お前」

怒りの表情から一気にいぶかしむ表情へ変わる傭兵

傭兵「なに服脱いでるわけ? その歳で痴女かよ」

その視線の先には一糸纏わぬ姿へと変貌した双火の姿が

全身ヒダルマになったおかげで、己の服ごと燃やしつくしてしまったのだ

双火「なにいってんのかわかんないっすけど、ばかにされた気がするっす!!」

双氷「だからやめろって言ったッスよ、エン……ギリギリアウトッス」

傭兵「なんだかカタコト喋ってるみたいだ」

傭兵「にしてもあれだなー、服着てても着てなくても変わんねえんじゃね?」

傭兵「どうせ戦闘になりゃ燃やしちまうんだろ、なら最初っから着てなくてもよお」

双火「お、お前はっ、いつまでも見てんじゃねえっす!」ゴォッ

両手に特大の火炎球、双火はそれを躊躇うこともせず投げつけた
385 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/03(日) 02:28:19.80 ID:W2vJMGmeo

傭兵「うおっ!? っぶねえな、何怒ってんだよ。んなの気にするような性質かよ」

双火「別にお前以外なら気にしねえっすよ!! がるるる……!」

双氷「落ち着くッスよ、エン。なんだかツンデレ風味が混じってるッス」

双火「つん……でれ? むむ、ヒョウはたまによくわからないことをいうっす」

傭兵「ガキにデレられたところで俺様の食指は働かねえよ?」

双火「お前もよくわかんねっす! でもむかつくっすからだまっとけ!」バッ

双火は唸り、閃光のように駆けだす

双氷「あっ、エン。勝手に動いちゃ駄目ッスよ」

傭兵「けっ! 最近の若いもんは堪え性がねえっつうか……なんつうか」

傭兵「だがなあ、このままじゃ俺様がやられちまう……はあ、仕方ねえ」

双火「ふっ!」

右下から振り上げる火炎爪

それを持ったナイフで軽くいなす傭兵

続いて、双火は炎を纏った拳を鳩尾へ叩きつけようとする、が

傭兵「よっと」

炎を苦にせず手首を掴んで、双火の体ごと捻り宙に浮かす

双火「わきゃっ!?」

傭兵「おら! しっかり防げよォ!!」

双火「!?」

体性を崩したままの双火に強烈な蹴りを叩き込む
386 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/03(日) 02:29:23.73 ID:W2vJMGmeo

双火「ぐぁ!」

咄嗟に両腕をクロスさせて防ぐも、その小柄な体は数メートル吹き飛ばされることとなった

双氷「エンッ!」

双火「っ! だ、だいじょうぶっす!」

ジャリッ……傭兵の靴が砂を噛み、全裸の双火が牙を?く

場に漂う緊張感の中、傭兵が先に口を開いた

傭兵「……俺様はよぉ、変なとこで育ったせいか。自分の本能を抑えるのが苦手だったんだわ」

双火「ケモノみたいな奴っすね……」

傭兵「そ! だからよ、自分でスイッチの切り替えが出来るように修業したんだよな」

傭兵「大変だったぜ、断食やらオ○禁から貫徹まで」

双氷「花も恥らうお年頃な少女の前で、下ネタ連発するのはマジでやめて欲しいッス」

双火「なにいってんのかわかんないすけど、そこまで大変そうじゃなさそうっす」

○ナ禁はきつい、割とガチで

傭兵「んで、これからお前等に見せてやるのは押さえ込んだ本能の一つだが……」

傭兵「俺様としちゃ不本意なんだわ、最高にだっせえし……」

傭兵「それに、お前等を殺しちまわねえとも……限らんからな」
387 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/03(日) 02:29:50.20 ID:W2vJMGmeo

双火「……さっきまでエンたちにてこずってくせに、よく言うっす」

双氷「……あたしたちも本気を出してたって訳じゃないんスよ?」

傭兵「っは! 上等! んじゃ行くぜ……? <<闘争本能>>ォォオオ!!!」

ドンッ!! と力強く地面を踏み砕き、バスターソードを引き抜き駆けだす傭兵

一瞬で彼の纏う空気が変貌し、目つきは全てを射抜かんとするほど、鋭かった

双火「っ!?」

双氷「散るッスよ! エン!」

圧倒的な威圧感に怯んでいた双火と双氷は、左右に飛ぶ

しかし

傭兵「う、お、ォオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

双氷「なぁっ!?」

全速力で駆けていたにも関わらず、ワンステップで方向転換し双氷へと襲い掛かる

それでも獣人、見事な反射神経で強烈なバスターソードの一撃を軽々と避けた

双氷「……すっげぇ、威力ッス!」

その一撃は地面を砕き、砂埃をあげ破片を勢いよく撒き散らす

当然、双氷と傭兵どちらにも破片は襲い掛かるが彼はそんなもの見えてすらいなかった

傭兵「ァァァァァアアアアア!!!」

すぐさま双氷が飛び移った方向へ横一閃

双氷「速すぎる!?」

寸でのところで回避されるが、双氷は剣圧によって姿勢を崩す
388 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/03(日) 02:30:32.13 ID:W2vJMGmeo

双火「ヒョウ!? わぁあああ!!」

姉妹のピンチを悟ってか、双火は傭兵に小さな火炎球をいくつも投げつけた

傭兵「ぬお、オオオオオっ!!」

しかし、それらに見向きもせず、怯みもせず

彼はただひたすら剣を振り続けた

双氷「しま――!?」

地に仰向けに倒れる双氷の腹を踏みつけ、バスターソードを掲げる

傭兵「ウォォォォォオオ!!!!」

双火「ああああああああぁぁああっ!!」

瞬間

横から飛来する、赤い影

猛烈な勢いで傭兵にタックルをかましたのは双火

傭兵「っがああぁあ!?」

痛烈な叫び声とともに吹き飛ばされる傭兵

双火「ヒョウッ! はやく立てるっす!」

双氷「エン……! 恩にきるッスよ!」

すぐさま立ち上がり、地面でもがく傭兵に、両手より凍てつく冷気を発する

するとピキピキ……と音を立て、凍える風は瞬く間に傭兵の手足から自由を奪った
389 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/03(日) 02:32:02.14 ID:W2vJMGmeo

双氷「な、なんなんスか……こいつ」

双火「ひ……人が、ここまでかわれるんすか……?」

ピシッ

傭兵「ぐ……ぉ、ォオオオオオ!!!」

双火「っ!? ヒョウの氷にヒビがはいるなんて!!」

双氷「くっ! さっさと始末するッスよ!」

傭兵「がぁあああああああああああああああッ!!!!」

バギンッと小気味良い音を立てて、粉々に砕け散る氷

傭兵「っらあぁああ!!」

驚く間もなく傭兵は起き上がり、土を蹴り上げて双氷の目を潰す

双氷「っ!? 目が、目がぁ〜〜!」

双火「っこのぉ!!」

炎を最大限までに溜めた双火の正拳突き

双火「なっ、剣を捨て……!」

だが

その渾身の一突きは、傭兵が地面に突き刺したバスターソードの刀身が受けきった
390 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/03(日) 02:32:29.56 ID:W2vJMGmeo

双氷「おぐっ!? が、ぁ」

双火「ヒョウッ!!」

双火は双氷の腹に、傭兵の膝蹴りがめり込んでいくのを捕らえた

重い衝撃が双氷の体を突き抜ける

腹部から手足へ、脊髄へ、脳へ

分散されることなく全てから全てへ平等に痛みと衝撃が駆け抜けた

それも、内臓が破裂するレベルを超えている

常人であらば

即死であったろう

双氷「あ……ぐ……」

獣人である彼女は、まだ辛うじて息はあるものの、もう立ち上がる気力すら残されていない

双火「ひ……あぁ……」

傭兵「ふーっ……ふーっ……」

双火「く、るなぁ……! くるな!」
391 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/03(日) 02:33:25.56 ID:W2vJMGmeo

彼の目は血に餓えていた

彼の体は血を求めていた

そして、彼女は……ただひたすら死に怯えていた

狂ったような男に、姉妹を痛めつけられても

真っ先に浮かび上がる感情は憎しみではなく恐怖

それほど彼の本能は底なしに黒く、凶暴で狂乱であった

手がもげようとも、皮膚が焼けようとも、足が腐り落ちようとも関係なかった

ただひたすらに、強欲に、貪欲に、彼は勝利だけを求めた

勝つことだけを祈った

それが闘争本能

生きるための障害を全て殺す

たかだか子犬に勝てるわけがなかった

ちょっかいを出す相手を間違えてしまったのだ

剣を引き抜き、ゆっくりと双火へ向かう傭兵

双火「いや……くるなぁっ!! こないで、こないでぇぇえええええ!!」

彼女は失禁していた、恥らうこともせず

恐らく気づいてすらいなかったのだろう

情けなく垂れ流されたそれは、ただただ、湯煙をあげて地面に黒い染みを広げていった

傭兵「ひゃはははははははははぁあああははあははは!!!」

狂いに狂って、酔いに酔って、男は勝利を手に入れる

振り上げた剣を、子犬に突き刺して

双火「ひぐっ……あぅ、ぐ……ぁ……」

そして……目の前が真っ暗になった
392 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/03(日) 02:34:51.55 ID:W2vJMGmeo
あー……魔法とか考えないほうが戦闘描写楽〜、乙でした
393 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/04(月) 14:17:37.37 ID:LOOha8Cpo


――同時刻

「……つまり」

親分「そ、おれっちたちの組織も一枚岩じゃねぃってこった」

ミリア「……結局は、どちらも世界を破滅へ導くだけではないか!」

親分「ちぃとちげぇな……おれっちたちは破滅させたいわけじゃねぃ」

親分「あれの力を、完全に物にするのさ。そして然るべき場所へ然るべき方法を取って封印する」

親分「そのためにおめぃらの力も必要なのさ、あちらさんは何考えてっかわかんねぃがな」

「ふざけるなよ……! そんな危険なことに、力を貸せるわけがないだろ!!」

親分「おーっと、そうかっかしなさんな。何も無償で力を貸せ、なんていわねぃよ」

ミリア「……わらわたちに何かメリットがあるとでも?」

「…………」

親分「おう、もちろんあるともさ。なあ坊主? 組織の一員になれば」

「人外に狙われることが、なくなる」

親分「そう! 補償するのはおめぃらの命」

親分「おれっちの仲間になりゃあ、おめぃらは人外に襲われることもねぃ」

親分「どうでい? やぶさかではないだろう? 特に……坊主は」
394 : ◆ackVh57YJ. [saga ]:2011/07/04(月) 14:18:52.22 ID:LOOha8Cpo

「…………そう、ですね」

ミリア「勇者……! 貴様ッ!!」

「落ち着いて考えてみてよ、ミリア」

優しく諭すぼくの額からは、冷や汗が流れ出ていた

「……人外ってのはとんでもなくヤバイ奴なんだよ」

「存在自体が異常だ、生存していることが間違いだ」

「あんなのに狙われちゃ……皆、皆、みーんーな」

「喰われちまう」

手の平にじっとりと汗がにじみ出てくるのが分かる
体中がぞわぞわとする

ミリア「しかし……わらわたちにかかれば」

「ぼくたち? はは、まともに戦えないぼくらなんか、文字通り」

「餌食になるだけさ」

認めたくない、が、認めざるを得ない
あれは人じゃあない、まさしく人外だ
所詮人であるぼくに勝ち目なんてないのだ

「あれには勝てないよ、人である限り、例え竜人であったとしても」

ミリア「くっ……」

親分「坊主がなかなか話が分かってくれる奴で嬉しいぜぇ」
395 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/04(月) 14:20:14.01 ID:LOOha8Cpo

親分「そうでい、おめぃらに選択肢はねぇ」

親分「なあに、封印と言っても大したことするわけじゃねぃ。人外を相手にするのにくらべりゃ」

親分「毛ほどのもんでぇ」

「…………」

ギリッ、と痛々しい音がした。それは誰が出した音かはわからない
相当、悔しかったのだろう、自分のふがいなさを悔やむ気持ちだけは痛いほど伝わった

ミリア「……勇者……、いや、もう何も言うまい」

ミリア「貴様の好きにしろ。わらわは、貴様を信じる」

「……ありがとう、ミリア」

親分「さぁ、そうときまりゃあ……こほん」

親分「ようこそ!! 我等【智の国】は、竜とその騎士を歓迎する! 仲良くやろうじゃねぃか」

「っ………、……え?」

さぞかし下卑た笑みを浮かべているであろう大男に、皮肉の一つでも投げてやろうと面をあげた時
ぼくは、目を疑った

ミリア「……? どうした、勇者よ」

疑って訝しんで呆気に取られた

親分「どうかしたけぇ? うっ、げぽぉ」

吐血

親分「……がはっ……? なに……が?」
396 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/04(月) 14:20:40.22 ID:LOOha8Cpo

驚愕したのは大男も同じであった、いや、度合いで言えば大男のほうが数倍であったろう
何せ、気配も音も何も感じれず
その背中には一本の短剣が突きたてられていたからだ

「……そん、な……なんで」

「盗賊……」

ミリア「な、に……?」

ぼくの視線の先には、大男の影から現れた人物は



紛れもなく盗賊だった



盗賊「だいじょ、うぶ……か? 勇者」

ひどく狼狽している様子なのに

口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた

親分「……!? あがぁ、ぐああああ!?!?」

突如、絶叫をあげる大男
驚いてそちらに目を向けると、盗賊が刺した短剣を捻り傷口を抉っていた

親分「ちィッ!!」

咄嗟に後ろ蹴りを放ち、回避した盗賊と距離を離す
397 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/04(月) 14:21:27.82 ID:LOOha8Cpo

親分「ちっ……面倒なことになっちまった……いいかぁ坊主! さっきの話、忘れんじゃねぇぞォ!?」

追いかけようとする盗賊との間に杭を打ち、遮蔽物とする
そして気づいたときには、すでに大男の姿はどこにもなかった

盗賊「はは、尻尾巻いて逃げやがったぞ」

「…………ねえ」

盗賊「図体でかい割りに、大したことなかったなー、な? 勇者」

服装は変わらずあのぼろいコート、白いYシャツには血の染みと、破れた腹部から盗賊の白い肌とヘソが見えている

「盗賊……」

盗賊「なんだよ、おれたち勝ったんだぜ? もっと嬉しそうな顔しろよ」

そういって、痛々しいほど顔をくしゃくしゃにして笑った
いつもの笑みとは大違いだ

「きみは……」

盗賊「ははっ、変なヤツだなあ勇者は」
398 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/04(月) 14:22:58.53 ID:LOOha8Cpo









「本当に、盗賊なの?」



違和感違和感違和感しかない
誰なんだよ

このぼくのいまのめのまえでわらっていたおんなのこっていったい、ぜんたい

誰だって言うんだ

盗賊は死んだ、ぼくが目にした、ぼくがそう語った
砕けた頭部を見た破裂した脳を見た垂れ落ちた内臓を見た絶えず流れる血を見た

生きてる、はずがないじゃないか

希望すらも抱けない絶望をこの両目に刻み付けたじゃないか

生きてて、欲しいと願うことすらできなかったのに

盗賊「おれは……おれだよ」

縋るような目を細めて、笑った

そんな目でみないでくれ

まだぼくを苦しめるって言うのかい?

「嘘だよ……だって……きみは」

「死んだじゃないか」

そういうと、盗賊の体はぴくりと震えた
399 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/04(月) 14:28:26.07 ID:LOOha8Cpo

盗賊「死んでないぜ? ほら、触ってみろよ。おれ、ちゃんと生きてるぜ? 息してるぜ?」

盗賊「幽霊なんかじゃねえよ? お前等を恨んで取り憑いたりしねえよ?」

ゆっくりとぼくに近づいて、ぼくの手を取った
その手は温かく、乾いた血と大男の湿った血がこびり付いていた

「盗賊……?」

盗賊「ああ、おれは盗賊、お前等の仲間で、友達で」

盗賊「…………人間だ」

こつん、と盗賊の額がぼくの右肩にぶつかる
同時に漂う髪の匂いも、肌触りも
盗賊のものだった。少々血なまぐさいのを除いて

「…………」

盗賊「なあそうだろ? そうだって言ってくれよ」

手を離して、今度はぼくの体にしがみつくように服を掴む
その顔は、見えない

「うん……そうだね、盗賊」

盗賊「ひっ……く、ぅ、ぐすっ……ありがと」

「どうしたの、何が悲しいの、何で泣いてるの。ぼくを頼ってごらん? ぼくに言ってごらんよ」

盗賊「おれ、は……【化物】なんかじゃねえよな……? ちゃんとした、【人間】なんだよな?」

「……そうさ、きみは【化物】なんかじゃない【人間】だ」

もう、どうだっていい
何が起こってたって構わない

「生きてた……盗賊が……」

盗賊「生きてるよ……おれ、ちゃん、と……なんで、だろ……うっ、ぁああ! ひっく……」

ミリア「…………」

「よかった……! ほんとうに、ぼく、も……うぅ」

本当に、何もかも突然すぎる
何がなんだか脳が追いつけないほど

だから、泣いた

気が済むまで、ぼくらは
400 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/04(月) 14:29:58.08 ID:LOOha8Cpo
なんだよwwwこれww厨二臭すぎるんですけどーwwwww誰が書いてんだよwwwwwwwきめえwww


ぼくです
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/04(月) 16:55:57.88 ID:jplyxezDO
盗賊生きてて、良かった!
グロは控えめに、明るく、楽しくでお願いします!
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/04(月) 23:17:38.57 ID:uatUCKEIO
暗いつうかシリアス成分多いな
スレタイ見てくる奴らにゃ好まれんだろう
明るい話も書きやがれださい
403 : ◆ackVh57YJ. [saga ]:2011/07/06(水) 20:34:46.82 ID:DUNsmcIWo



――数分後

盗賊「……ぅ、ぐすっ」

「落ち着いた?」

少しだけ赤い目をしてるだろうぼくは、そう言って笑ってみせる
ぼくらが泣き始めて1分くらい
ぼくは、しがみついてぐずる盗賊を見て、すぐ冷静になった

何故かは分からないが、胸元の辺りから負の想念が発せられているのに気づいたのもそのときだ

盗賊「……すこ、し」

「よかった」

それにしても、平民の女の子より鍛えられているハズの盗賊の体は
やはり歳相応に柔らかかった、本当に盗賊なんだなと実感できた

さらに、知らぬうちに、ぼくも抱きしめ返していたため
今頃になって恥ずかしくなってしまった自分がいる

盗賊「へ、へへ……おれのほうが、年上なのにな。お姉さんなのにな」

「そんなの、関係ないさ。盗賊は女の子だろ?」

盗賊「なっ!?」

大きく目を見開いて、ぼくから一気に離れた
その両目が所在なさげに空を泳ぎ、相変わらずの白い頬は真っ赤に紅潮している

盗賊「そ、そう……だけどよ、ほらなんつーか、その……えと」

「?」
404 : ◆ackVh57YJ. [saga ]:2011/07/06(水) 20:35:50.26 ID:DUNsmcIWo

ただただぼくは、疑問符を頭に浮かべて微笑む

盗賊「ずりぃよ……そーいうの……」

ぼそりと呟かれたその言葉を、ぼくの耳が捉えることはできなかった

「ん? ごめん、よく聞こえなかった」

盗賊「なっ! なんでもねーっ!!」

ゴゴゴゴゴゴ

ぷいとそっぽを向く盗賊、突然の行動にぼくは困惑するばかりだ

「どうしたのさ……」

盗賊「しらねー!」

完全に気分を害されてしまったようだ
軽く嘆息しようとし、まだ問題は残っていることに気づく

ゴゴゴゴゴゴゴ……

「……ねえミリアさん」

ミリア「……ゴゴゴゴゴゴ」

「怒ってます?」

ミリア「……さあのう」

厳かな雰囲気を漂わせる効果音を、ずっと口ずさんでいたミリアさん
どうやらこちら様も気分を害されているようだった
405 : ◆ackVh57YJ. [saga ]:2011/07/06(水) 20:36:43.73 ID:DUNsmcIWo

「あの、何に怒ってるかわかんないけど、年上ならではの大人の器量で包み込んでさ」

「何とか機嫌を直してもらえたらなぁ、なんて」

ミリア「そうか、わらわももうおばさん……ってんなわけあるかぁあああああああ!!」

「ひぃ」

ミリア「まだまだぴっちぴちだ!! ぴちぴちぴっちくらいぴっちぴちだあああああ!!」

「どうどう」

ミリア「あーもうまったく! なんなのだ一体!! 次から次へと!!!」

ミリア「人助けをしにいって!! ミイラ取りがミイラになって!?」

ミリア「勇者は刺されるわ箱に閉じ込められるわ訳のわからんいざこざに巻き込まれるわ!」

ミリア「挙句の果てにこのざまだ!!………………」

「このざま?」

ミリア「そう、だ……昔の貴様なら、わらわをないがしろになど、しなかった……」

「……? ミリア?」

ミリア「なんでもないわ! ほれ、さっさとルーを探しにいかぬか!」

「あっ!! そ、そうだった!」

すっかり失念していた
だが待って欲しい、あれほどの話しを聞かされた後にすぐさま平常に戻れるだろうか?
恐らくは無理だろう、致し方あるまい

ミリア「……昔の、か」

何て見苦しい言い訳をしていたら、またミリアの呟きを聞き逃してしまった
まあ、いい。どうせ問うたとしても「やかましい!」の一言で一掃されてしまうだろう
406 : ◆ackVh57YJ. [saga ]:2011/07/06(水) 20:37:34.22 ID:DUNsmcIWo

盗賊「ん……どっからか声が……」

盗賊の一言で、ぼくは思想の渦から引っ張りあげられる

?「おぉい!!」

盗賊「ほらっ、傭兵じゃねーかな?」

傭兵「少年!! 無事か!?」

耳を澄ましてみると、杭に塞がれた向こう側から、聞き覚えのある声が響いてきた

「……! はいっ、傭兵さんこそ!」

傭兵「っは! 誰に向かって言ってんだ? イケメン4人集の一人、傭兵様だぜ!?」

「……えー、っと。はい、そんな設定ありましたね」

傭兵「設定言うな! ま、無事ならいいんだ。ちょっとそこどいてろ」

「? えぇ、はい。っと、離れましたけど」

傭兵「行くぜ……? ぬぉるぁあああああ!!!」

傭兵「<<ハンサミング>>ッ!!!!」

せっかくなので説明しておこう!
サミングとは格闘技における反則技! 目潰しのことだ!!
親指という意味もあるッ!!

ここで言う<<ハンサミング>>という技はァ!
それはすなわち、ハンサムにのみ体得できる究極奥義!

木製の杭に対して何をどう目潰しを使ったのかはわからないが
しょうもない技名を叫んだと同時に、杭の壁は盛大に砕け散り
その穴から見知った男が現れた
407 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/06(水) 20:38:01.14 ID:DUNsmcIWo

傭兵「フッ……また詰まらん物を突いてしまった」

「下ネタのつもりですか? いい加減にしてください」

傭兵「吸いません」

「…………」

傭兵「すんません……」

「あれ」

そういえば、とぼく

「あの糞ハデなコート、どこに置いてきちゃったんですか」

所々破れ、そこから生傷があらわとなっている姿を見て、思わずそう聞いた
すると

傭兵さんは「ああ」と少し情けない顔をして「落としちまった」とだけ言った

「ふうん、別にいいんですけど。耳障りな音が減って清々します」

傭兵「まあ俺様も構わんが……まだ替えはあるしな」

「……勘弁してください」

今から耳が痛くなるような話だった
ぼくが頭を悩ませていると
ずい、とぼくの肩越しに盗賊がひょっこりと顔をだす

盗賊「へへ、なんだよ傭兵。すげーぼろぼろじゃん」

傭兵「」

あ、しまった
408 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/06(水) 20:38:29.85 ID:DUNsmcIWo

盗賊「ん、どうしたよ? 急に青ざめたような顔して」

傭兵「で、で」

盗賊「んでんで?」

傭兵「出たぁああああああ!!!!!!!」

盗賊「ひっ!?」

傭兵「で、出やがったな! すいませんでした! そ、そりゃあ化けて出られるようなことしちまったかもしれねえが!」

傭兵「別にお前のサラシを実は盗んだわけじゃないんだが、あれは出来心だったんだ! 俺様は悪くねぇー!!」

尋常じゃないくらい、動揺している
みていて面白いのでしばらくこのままにしておこう

盗賊「……はぁ?」

傭兵「気絶してたときにこっそり胸触ったりしなかった!! 今では反省しているが後悔はしていな」

傭兵「おぐっ」

もうほとんど言い切ってしまったようなものだが
傭兵さんのパニっくからの独白に終止符を打ったのは

盗賊「ふーっ……ふーっ……!」

盗賊の渾身で会心の一撃、綺麗に鳩尾へ決まる掌底

?「やれやれ、まだ人外がいるかもしれないというのに、暢気なものだね」

呆れ果てた嘆息交じりの声

「姉さん! 無事でよかった……それにルーも」

ミリア「ふん……遅かったではないか」

相変わらず、深くフードを被った姉さんは、その背中に眠ったルーを乗せて現れた
409 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/06(水) 20:39:04.58 ID:DUNsmcIWo

姉「すまないね、何分」

姉「あの最低最悪である人外を相手にするんだ、準備は万全でさえ十全に満たないのさ」

盗賊「……あいつなら、もうどっか行っちゃったよ」

姉「へぇ? それは残念。対人外近接戦闘用殺戮人形を呼び出す術式を組んだというのに」

「またえげつないものを……」

ミリア「貴様……随分と前に似たようなものを作って失敗したであろう……」

姉「いやいや、残念。あれならば人外を大陸ごと葬れるというのに」

ミリア「無視するでないわ!! それは既に人形ではなく兵器だ!!!」

姉「……まぁ、それはいいよ。置いておこう、閑話休題だ」

ミリア「貴様ぁ……」

恨みがましい声を放つが、姉さんは毅然として無視していた

姉「少し……真面目な話をしようか」

姉「弟クン、僕たちに伝えなきゃいけないことがあるんじゃないかな?」

……大きく心臓が跳ねた
そう、さっきから話すタイミングを探していたのだ
それを、一瞬で見抜かれたことに驚く

「姉さんは凄いね」

姉「あぁ、姉は強しだ、万能なのさ。なんてったって君の姉なんだよ?」

ミリア「煮ても食えぬところは本当にそっくりだがの……」

姉「何か言ったかい」

ミリア「おお、くわばらくわばら」
410 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/06(水) 20:39:43.56 ID:DUNsmcIWo

盗賊「話ってなんだよ? 勿論おれにも聞かせてくれるんだろうな?」

「……オーケイ、わかった、わかったよ、今から話すからさ」

改めて、ぼくは5人(……人と呼べるかわからないもの1つと昏睡しているのが2人だが)
と向かい合う
どうせ、傭兵さんは倒れながらもしっかりと耳をそばだてているのだろう

構わず始める

「単刀直入に言うよ、ぼくらを狙った奴等の目的が分かった」

最初の語り口だけで皆が息を飲むのがはっきりと伝わった

盗賊「……目的」

「そう、目的。ぼくやルー、ミリアを狙う目的」

「聖剣と魔道書を盗み取った理由」

「それは……」

焦らすように語る、もったいぶって語りだす

「至上最悪の災厄、不可避の天災」

歌うように口ずさむ、それが語り部としての役目

「邪竜の完全復活さ」
411 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/06(水) 20:40:29.47 ID:DUNsmcIWo



一体どれほどの間眠りについていただろうか
闇と静寂に包まれた中で、彼女は目を醒ました

双火「……ん」

ぱちくりと瞬きをする音だけが耳に伝わる
それを二度、三度繰り返したところで、ようやく頭が覚醒してきたようだ

双火「あ……そっか。エンたち、は……あいつに」

負けたのだ

言葉に出さずとも、明確に刻まれた結果だ
エンはすぐ傍に出来た地面の傷跡をなぞって

双火「はは、完敗っすね」

ぶるりと身震いをする

あの表情を

あの男を

あの敗北を

知って、震えた

本当に、殺されるところだったのだ

双火「っとと、ぼーっとしてる場合じゃなかったすね」

頭を振って、まずはと指先から炎を出して明かりをつける
周囲を照らすだけの力を制御するのに、昔は随分と苦労した
だけど今はそれすらも容易いこと

双火「……ん、なんすか。これ」

起き上がりざまに双火の上からずり落ちた何か

双火「あいつの……コート」

指先で照らし、何かと確認すると
もう片方の手で手繰り寄せ、ゆっくりと顔を埋めた
412 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/06(水) 20:41:25.98 ID:DUNsmcIWo

双火「……すぅ」

ほのかな汗の臭い、決して嫌いじゃない香水の匂い、どれもあいつの……

双氷「なにやってんスか、エン……」

双火「ひゃわぁ!?」

いつのまにか背後へ回っていたヒョウに、エンは驚き手に持ったコートを投げ捨てた

双氷「わっ! く、暗い! 暗いッスよ!」

双火「ヒ、ヒョウがおどろかすからっすよ!」

再び明かりを灯し、コートを拾って土を叩き落とすエン
そして無駄なチェーンやらアクセサリがついたそれをばっ、と広げて羽織った

双氷「それ、あいつのッスよね」

双火「そ、そうっすけど……あ、か、かんちがいしないで欲しいんすけど!」

と、慌てて手を振るエン

双火「こ、これは、着るものがなかったからであって、べつになにかあるってわけじゃないっすからね!」

双氷「ふうん、別にいいスけど。そこまで必死に言い訳しなくとも」

そういってくすりと笑うヒョウ

双氷「さ、どうやらおやびんにも見捨てられたようッスし。これからどうするスか?」

双火「じゃあ、じゃあっすよ……?」

双火「あいつに、お礼を……じゃなくて!」

双氷「じゃなくて?」

双火「そ、そう! ほうふくっす! ふくしゅーっす!」

双氷「わかったわかったッスから」

優しくエンを宥める

双氷「あたしたちを痛めつけた礼を、返しに行くッス。それでいいスね?」

エンは少しぽかんとして

双火「……おっけーっす!!」と吼えた

どうやら
可愛らしい子犬が、新たな飼い主を求めて旅にでるようです
413 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/06(水) 20:41:53.51 ID:DUNsmcIWo




――――第二章・始まりの終わりは始まり。了




414 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/06(水) 20:44:15.06 ID:DUNsmcIWo
わぁお、明るい明るい。変にギャグっぽいの入れようとすると、寒いとしか感じれないから苦手です
ではお疲れ様でした、気が向いたら設定書きます。てか二章で新たな幼女でなかったですね……ふぁっきん
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/06(水) 22:15:19.04 ID:oPwBdek1o
416 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/20(水) 18:25:08.30 ID:RIBrBX2Lo

人物紹介

■傭兵

港の浜辺で倒れる主人公たちを助けた男。
自称イケメンで、28歳魔法使い候補生でもある。
成り行きで主人公たちに着いていくことになったが、以前は一人で傭兵稼業をしていたらしい。
それ以前の経歴は不明である。

■侍

主人公が捕まった山賊のアジト、その牢屋の中で出会った無精髭を生やした小汚い男。
3メートルもの大太刀を操り、特殊な剣技を扱う。
また、自分の技に名前を付けたがるという、格好つけたがりやな性格も持ち合わせていた。
なにやら人外と因縁があるようだが、それは不明。
騒動のあと、痕跡すら残さずどこぞへと流れていった。

■人外

文字通り人外、人の身にて竜と対等である存在の少女。だから人間じゃない、らしい。
鎧を着ており、大鎌を操る殺人鬼でもあり、殺戮の目的は食人である。
カニバリズムを極めた殺人鬼として恐怖の対象となっている。今まで何をしていたかは不明。

カンニバル・カーニバル。えげつねぇ。

ちなみに一人称は「さっちん」「あたし」であり、本名はサキと言うらしい。
由来は殺人鬼の最初と最後です。単純ね。

■親分

主人公と同じく、欠落回路である魔法使い。
智の国の一員であり、人外と友達である、らしい。
大男の割りに近接戦闘シーンが少なく、今回は彼の本当の実力をみることはできなかった。
木製の杭を出現させるという地味な魔法であるが、
水土合成、木属性の魔法を無詠唱で使うという珍しい魔法使いでもある。

一応、出番はあるはず。

■双子(双火)(双氷)

獣人の双子で、犬の耳と尻尾を携えた少女たち。
双火(エン)は赤茶色の毛、双氷(ヒョウ)は白色。
色の通りというか名前の通り、双火は炎を、双氷は氷を操る。

訳あっておやびんと行動を共にしていたようだが、見捨てられ旅にでることにした。
双火が自分たちをぼろぼろに叩きのめした傭兵に、執着心を抱いているようだ。

語尾は〜っす、〜ッス。口頭で述べればあまり違いが分からないと思うが、
っす、が柔らかく。ッスがきつめであると想像してもらえるとありがたい。

ちなみにヒョウが姉でエンが妹である。
獣耳娘ちゅっちゅ
417 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/20(水) 22:46:48.00 ID:RIBrBX2Lo




――――第三章・せめて、もっと、主人公らしく。



418 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/20(水) 22:48:12.99 ID:RIBrBX2Lo



――???

そこは玉座の間のようなただっぴろい空間。
されども室内を照らす明かりは蝋燭の心もとない炎。
また、置かれた調度品も質素なものばかりだ。
そんな中にある、形ばかりの玉座に鎮座する人物は、まだ年端も行かぬ少年であった。

ローグ「…………」

??「おお、ローグ、戻ったか」

ローグ「は、智王」

智王「して、うまく行ったのであろうな?」

ローグ「道具はすでに揃っております」

智王「そうか……ならば後は機を待つのみ」

智王「賢人狩りはどうなっておる?」

ローグ「は、水魔共も善処しております。残るは【土】と【水】を残すのみかと」

智王「はっはっはっ!! うむ、好調ではないか。全ては我の思惑通り」

大きく高笑いし、智王とは名ばかりの少年は金の杯を傾けた。

智王「……んぐ……ぷは、ふふ、よい、よいぞ……我が国宝に不可能などない」

ローグ「…………」
419 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/20(水) 22:49:16.19 ID:RIBrBX2Lo

智王「この【知恵の杯】があれば、世界を手に取るなど容易いこと」

智王「ふふ、父上……もうすぐ、もうすぐ貴方の悲願が……」

満足気な様子の智王、もうその目にローグなど映ってはいなかった。

智王「いや……あの力を我が物とし、世界を我が手中に収めることも……ふ、ふふふ」

智王「凄いぞ、何だって出来る。何でも出来るんだ、これ以上すばらしいことはあるか? いや、あるわけがない」

少年は虚空を見つめて言の葉を吐き出す。
それは呪詛のように連なりながらも、どこか悲愴感を含んでいた。

ローグ「…………」

智王「ん? なんだ、まだいたのか、ローグ。もう下がってよいぞ」

ローグ「御意に」
420 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/20(水) 22:49:59.86 ID:RIBrBX2Lo



――玉座へと続く通路

ローグ「……」

リン「ろーぐ」

ローグ「リン」

リン「かなしいかお、しないで」

ローグ「……いつもどおりだ」

??「そうよリン、いつもどおりのシラけた面、何も心配することはないわん」

リン「すいま」

水魔「はろろん、お元気かしら? お姉さんは筋肉痛に苦しんでるわぁ〜」

ローグ「ふん、歳だな」

水魔「なっ!? 聞き捨てならないわね! お姉さん、これでもまだ20代よっ!?」

ローグ「知らん」

水魔「ぐぬぬ……まったくあんたと話してるとイライラするわ」

ローグ「細かいことに腹を立てる。歳を取った証拠だな」
421 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/20(水) 22:50:55.90 ID:RIBrBX2Lo

水魔「むきーっ!!! いい加減にしなさいよ!?」

ローグ「……それより、腕の怪我はもういいのか」

水魔「へっ……? あ、うん、そうね。まだ痛むけど……うふふ、何? 心配してくれちゃってるの?」

ローグ「勘違いするな。その腕で賢人狩りに失敗した、などという言い訳を聞きたくないだけだ」

リン「ろーぐ、ぶきっちょ」

ローグ「ふん」

水魔「ああもう、面倒なヤツね。お姉さんは言い争うために戻ってきたわけじゃないのよ」

ローグ「……」

水魔「話だけは聞いてやるって顔ね。じゃあ、えと……まーその、いいづらいんだけど」

ローグ「水の賢人か」

水魔「はぅ……もう、分かってるんならいいなさいよね……お姉さんが馬鹿みたいじゃない」

ローグ「否定はしないが……何、ある程度の予測はついた。王より許可もいただいている」

水魔「へぇ……王様は全部お見通しってわけね」

リン「すいま、かお、こわい」
422 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/20(水) 22:52:10.54 ID:RIBrBX2Lo

水魔「あ、あらやだ。大丈夫よ、リン。ほーら……にぱー」

リン「うん……」

ローグ「……無理、するな」

水魔「へっ!? や、ばか、なななな、何言ってんのよあんた。熱でもあるんじゃない!?」

ローグ「何を言っている……? 歳を考えろと言ったんだ」

水魔「…………ああああ、あんたってヤツは……」

リン「……!」ビクッ

ローグ「悪いな、こういうとき、どういう顔をすればいいか分からないんだ」

水魔「分からなくていいから地面とキスしてなっ!!!!!!」ゲシッ!!

ローグ「ぐっ……!」ドサッ

水魔「ったくふんとにまったく……!」ズカズカズカ

リン「いいけり、すいま、げんきそう」

ローグ「……ふん」
423 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/20(水) 22:53:10.23 ID:RIBrBX2Lo



――魔法学園・研究室

様々な薬品やらなんやらがずらりと並べられた部屋で、白衣の男は人形に向かって話しかけていた。
グロテスクな顔に大きい頭、破れてしまったのかところどころ新しい布で縫合されているそれは
幼女に見せれば号泣されること間違いなしというレベルであった。

魔導士「ふむ……そうですか、はい……分かりました、ありがとうございます。では」

妹「魔導士さん……? あの、お兄ちゃんとルーは」

魔導士「今のところ、無事だそうです」

妹「……」

魔導士「大丈夫ですよ、人形遣いがついていますから」

心配しないでくださいと魔導士。

妹「そう……ですよね、お姉ちゃんがいますから……」

それでもまだ、不安は完全に拭えない。

魔導士「……妹ちゃん、君だけでも逃げてください」

魔導士は罰の悪そうな顔で妹を見やる。
以前から顔色の悪い妹を心配しているのだ。

妹「そんなっ……! わたしだけ、逃げるなんて……」

魔導士「戦争が起こるのはそう遠くない未来です。そうなれば私は……君を守る余裕なんてなくなります」

妹「足手まとい……ですか」
424 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/20(水) 22:54:36.15 ID:RIBrBX2Lo

魔導士「……」

魔導士は顔を逸らす。

妹「嫌です」

魔導士「妹ちゃん……」

妹「わたしに戦うすべはありませんが……傷を癒すくらいなら出来ます!」

魔導士「それにしたって限度があります、それに君の命も補償されるわけじゃないんですよ?」

妹「構いません、覚悟は出来てます」

魔導士「…………本当に、君は……いつも」

妹「? どうかしましたか、魔導士さん?」

魔導士「いえ、何も……そこまで言うなら止めはしません」

魔導士「ただ条件があります。決して無理をしないこと、そして」

魔導士「君が死ねば、悲しむ人がいるってことを……忘れないでください」

妹「……はい」

魔導士「よろしい、では少し調べ物を手伝ってください」

妹「調べ物、ですか?」

魔導士「はい、奴等の思惑をぶち壊してあげるために」

魔導士「やれるだけのことは、やっておきましょう」
425 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/20(水) 22:57:09.69 ID:RIBrBX2Lo
話がぁぁぁぁぁ思いぃぃぃぃつかないぃぃぃぃあげぇぇぇぇ
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/21(木) 17:56:07.10 ID:DWOpbXOIO
乙!!
427 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/24(日) 22:49:27.67 ID:g0V/53Sho



――旅の宿

崩壊したアジトから、グリフォンのくちばしを血眼で探し出し
国の調査員とくちばしのおかげで何とか依頼をこなしたと認められたぼくら
今はアキドナ港と街道で結ばれた、そこまで大きくもない町に滞在している
名前は……忘れた

その町にある、少し寂れた宿の一室で、ぼくはベッドに腰掛けていた

「……はぁ」

ミリア「うざったいの、さっきからため息ばかりではないか」

ぼくの胸元で、銀色に輝くペンダントがうんざりしたような口調で話しかけてきた

「うー……しょうがないだろ? とんでもないことに巻き込まれちゃったんだよ?」

ミリア「……はぁ、情けないのぅ。『ぼくの力でちょちょいと解決してあげるよ!』くらいの意気込みがあってもいいとは思わんか?」

「無茶言わないでよ。邪竜だよ、暗黒竜だよ、メディウスだよ? ファルシオンがなきゃ勝てないよ」

ミリア「なーにを言っておるのだ……、この腰抜けが」

「あぅ……」

ミリアは厳しいなぁ

姉「弟クンっ!!!」

またため息をつこうとしたとき
部屋の扉が大きな音を立てて開け放たれた

そして見知った人物の見知ったダイブ
それをぼくは前転して回避した
428 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/24(日) 22:49:55.39 ID:g0V/53Sho

姉「わぷっ」

顔面から勢いよくベッドにぶつかる姉さん

「あ、姉さん。魔導士さんとのお話はもう終わったの?」

姉「いたた……あんまりじゃないか? 弟クン」

「いきなり飛び掛る姉さんが悪いんだよ、で、どう? 何か分かった?」

姉「こまめに弟クンからエネルギーを分けてもらわないと、僕は死んでしまうんだよ?」

「だったら今までどうやって生きてきたのさ……」

姉「にしても久しぶりに再開したって言うのに、弟クン、冷たくないかい?」

「あーうん、そうかもね」

昔っからだけど、人の話を聞かないなぁ

ミリア「き、貴様……諦めがはやすぎはしないか?」

そんなこといったって

姉「はっ! もしやあの盗賊っていう泥棒猫に誘惑されたんじゃ……!!!!!」

更にヒートアップして脇道に逸れて全力ダッシュ

ピシッ!

姉「あうっ!」

このままでは収拾がつかなくなると判断し、姉さんの頭部へ軽くチョップ
429 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/24(日) 22:50:42.59 ID:g0V/53Sho

姉「い、痛いじゃないか……」

「……姉さん? 質問に答えてくれない?」

ミリア「はあ……まったく貴様というヤツは……」

姉「うぅ……ごめんよ、謝るから許してくれないかな?」

「ああもう、許す許すから。魔導士さんと何話したの?」

姉「ふふん、聴きたいかい?」

「あーうんききたいききたーい」

姉「そうだろうそうだろう。じゃあ悪い知らせと」

「良い知らせもあるんだ?」

姉「いいや、とっても悪い知らせさ。どっちを先に聞きたい?」

ミリア「それならば、もうどちらから聞いても同じであろう……」

そういって深くため息

「うーん、じゃ、悪い知らせから」

姉「オッケー。弟クンは賢人についてどのくらいの知識を持ってる?」

「賢人……? 賢者様をリーダーとした、大陸戦争を終結させた六賢人のこと?」

姉「そう、公に知られているのはその程度だろうね」

ミリア「そやつらがどうかしたのか? 賢者は既に故人となったはずだがの」

姉「そう、賢者は死んだ。そして五賢人となり」

「まさか……?」
430 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/24(日) 22:51:09.62 ID:g0V/53Sho

姉「そのまさかさ、【智の国】のものと名乗る集団に襲われ」

姉「火、風、光の賢人が暗殺された。いまじゃ水、土を残すニ賢人さ」

「そんな……なんで、また」

ぼくの前に現れ、智の国のものと名乗ったあの大男
ルーの力を欲し、邪竜を復活させようと目論む集団

学園襲撃から一週間とちょっとしか経っていないんだぞ
賢人クラスをすでに三人も?
それほどまでの力を有しているのか……?

いや、いた。あの男だ
黒衣を纏った紫竜の騎士……

姉「あまり知られてはいないんだがね。あの大陸戦争の真相は」

ミリア「真相だと……?」

姉「ああ、君は眠っていたからね。知らないのも無理はない」

「なにが、あったの」

歴史書には書かれていない真実って?

姉「大陸戦争の発端は、邪竜によるものだったのさ」

「……へ?」

姉「邪竜より溢れる負の想念が人々に負の感情を抱かせる、皆おかしくなってしまうんだ」

「ま、まってよ。竜が、人の感情に干渉する? そんな馬鹿なこと……」

ミリア「無いと、言い切れるかの?」

「それは……」
431 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/24(日) 22:51:47.67 ID:g0V/53Sho

姉「竜は人知を超えた存在であり高尚な精神を持っている。未知の魔術を使えたりね」

姉「その竜のトップクラスなのさ。邪竜っていうのは」

そんな、存在だけで世界を狂わすような奴を

「復活させるっていうのか……!」

まさしく天災だ、災厄だ。ぼくの語りは誇張でも何でもなかったって言うのか
……皮肉だな

姉「そう、復活させる。じゃあ何によって封印されていたのかな?」

「それは……えと、戦争が終結したってのは」

「……六賢人によって、邪竜が封印されたから……?」

姉「その通りさ。そしてその六賢人は残すところ二人」

ミリア「封印が解けるのも、時間の問題というところか」

姉「ああ、随分と不安定だろうね」

「ってことは……とっても悪い知らせって言うの」

姉「うん、弟クンが想像してるので間違いないね」

「……戦争が始まる?」

姉「ご名答! ご褒美に僕がハグしてあげよう!」

両手を広げ、ぼくに向かって飛び掛る姉さん
それをしゃがむことでぼくの背中に姉さんの体を乗せ
受け流すように後ろへ放り投げた
432 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/24(日) 22:52:21.08 ID:g0V/53Sho

姉「へぶっ」

背中を地面に打ちつけた姉さんは、軽く鳴いて何事もなかったかのように立ち上がった

ミリア「やれやれ……少し真面目になってきたと思えば……」

姉「ひどすぎやしないかい? 仮にも僕はきみの姉なんだけど」

「うん、ごめんね。姉さん」

姉「ならばお詫びのハグを!!」

体を低くし両手を広げて

ダーイブ

ぼくはそれを、半身で避けた

姉「もふっ」

そして再び、ベッドに顔から突っ込む姉さん

ミリア「手馴れたもんだのう……」

「あ、そういえば、ルーどこに行ったか知らない?」

姉「ふも……ルーならば、盗賊くんと一緒に散歩に出かけたようだよ」

「そっか、ありがと。じゃあちょっと出かけてくるよ」

姉「うん、遅くならないうちに帰ってくるんだよ? すぅはぁ」

「……あまり、変なことしないでね」

姉「あああああ!!、弟クンが使ってたベッド。良い匂いがするよ!!! くんかくんか!!」

ミリア「もう……放っておけ……」

「…………そうする」
433 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/07/25(月) 22:55:24.51 ID:dOhm4kafo



――町中

「散歩ったって、どこ探せばいいのやら……」

ミリア「当てもなく探しに出たのか? やれやれ」

「む、そういうミリアは見当つくわけ?」

ミリア「分かる訳なかろう、すぐに他人を頼ろうとするでないわ」

「なんだか釈然としないなぁ……」

そういって辺りを見回す

ぼくが今歩いている道には、レンガ造りの民家が立ち並んでいる

別段大きくも無い町だと言ったが、土地勘の無い人間が迷うには十分すぎる広さだ

つまりは2人を探す所か、ぼくが迷子になってしまったわけだ

「ん、あっちから人の声がする」

ミリア「人通りに出るようだの」

徐々に細まっていく道を抜けた先から、喧騒が聞こえてくる

「うわ……」

そこを抜けて、ぼくは尻込みをした

男「あぁぁああん!? んだゴラぁ!! やんのかテメェ!!」

禿「……うるせぇガキだな、ぶっ殺すぞ!!」

男「やってみろよ糞ジジィ!!」

野次1「いいぞー!! やれー!」

野次2「ぶっとばしちまえ!!」

野次3「俺はあの男にかけるぜ!」
434 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/25(月) 22:56:12.37 ID:dOhm4kafo

わーわーぎゃーぎゃー

廃屋と化した建物、怪しげな露天、ロクに掃除もされていない地面から砂埃が舞っている

なるほど、荒くれの集まるエリアなのか

「ひぇー……」

感想も何も無しに、ただ悲鳴に近い声が出た

ミリア「な、なにをビビッておる! 男ならしゃんとしろ!」

「あーもう……仕方ないなぁ」

猫背になって、顔を俯けてぼくは歩き出す

狭い通りの隅に、何人もの怖い兄ちゃんがたむろっていたが、当然目を合わせることもできずに進む

怖い兄ちゃんたちは、仲間同士で喋っていると割かしにこやかなのだが

そりゃあもう、他人を見る目がナイフのように尖っていて、ぼくの心は焦りと緊張でパンク寸前であった

「うぅ……勘弁してよ、学校にいた不良たちより性質が悪い……」

当たり前なのだが……数も質もダンチだ、悪い意味で

所詮、都市にいる不良なんてただやさぐれているだけの子供なのだから

ミリア(ん、んっ? おいばか者! 前を見て歩かぬか!)

「へっ!?」

?「きゃっ!?」
435 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/25(月) 22:56:47.10 ID:dOhm4kafo

ミリアの忠告もむなしく、ぼくは顔をあげた瞬間に誰かと衝突した

突然押されてしまったせいか、その誰かは金属が擦れ合うような重々しい音を立てて尻餅を着く

?「いったーい! もうっ! なんなんですか!」

少女の声だ

ミリア(ほれ、言わんこっちゃない……)

やれやれとため息

「ご、ごめんなさい。ちょっとぼーっとしてて……えと、大丈夫ですか?」

手を差し出して、ぼくはその少女の顔に、容貌に目を向け……
思わず息を呑んだ

ミリア(む? どうかしたのかの)

?「はぇ?」

「お、お前は……!」

青をベースに金の装飾が施された鎧に身を包み、長い金髪を乱した少女

忘れるはずもない、こいつは!

人外「おぉ? おにいさんじゃないですか!」

「人外……ッ!!」

ミリア(人外、だと……!?)

「どうしてお前がここに……!!」
436 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/25(月) 22:57:13.38 ID:dOhm4kafo

人外「もう、人外って呼ぶのやめてもらえません? あたしはサキって名前があるんですよ?」

ぼくが手を引っ込めたため、人外は自力で起き上がる

「……何のようだ」

息苦しくて胸が苦しくて、それでも何とか平静を保って人外をねめつける

人外「むぅ……そう怒らなくたっていいじゃないですかぁ。仲良くしましょーよ」

「誰が……! お前なんかと!」

人外「何をそんなに怯えているんですか?」

人外はうっすらと唇をゆがめて微笑む。それは精巧な人形のようで、実に人間らしくない笑みだった

少しでも気を抜けば……飲み込まれる、この圧倒的な力の差に

こいつが戦ったところを見たこともないけど、分かる。分かってしまう

今戦えば、間違いなく死ぬ

「怯えてなんか、ないさ。ぼくはいつだってお前を殺せる」

瞬きすらできない。周囲の人々がどんな様子だなんて気を向ける余裕すらない

人外「物騒ですねぇ……さっちん怖いですよぅ、こんないたいけな少女を殺す、だなんて」

「……ッ!? 消え」

ミリア「なっ!?」

そう、消えた。視界から

一瞬にも満たないような、そんなレベルで

瞬時に辺りを見回すぼく

が、その行動はすぐに封じられた
437 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/25(月) 22:57:45.45 ID:dOhm4kafo

人外「んふふ、いつでも殺せるんじゃないんですかぁ?」

いつの間にかぼくの背後を取っていた人外によって、羽交い絞めにされているのだ

全力を振り絞り、抵抗するが
それもむなしく、桁違いの力によってぼくの体は一寸たりとも動くことができなくなった

「あ……ぁ」

ここに来てあふれ出す、漏れ出す

恐怖。

人外「大丈夫ですよ? さっちん、今おなかいっぱいなんです」

ぼくよりも身長の小さい人外の頭が、ぼくの後頭部に触れる

さらさらの髪が首筋を撫でてこそばゆい

ぼくの背中にしがみついているのか。だがまったくと言っていいほど、重みを感じない

人外「今日は味見だけです……あむ」

「――――ッ!?!?」

ミリア「き、貴様ッ!!!」

全身に駆け巡る鋭い痛み、直後、熱く濡れた何かがぼくの首筋を這う

人外「んっ……ぢゅる……あむはむ、んん」

貪るように、味わう

吸い尽くすかのように、唇を押し付ける

血を吸われている、のか
438 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/25(月) 22:58:25.30 ID:dOhm4kafo

「う、ぁ……くぅ」

尚も人外の舌はぼくの首筋を何度も往復して這い回る

傷口を舌先で抉るように舐め取られ、溢れる血液が全て舌で拭い取られる

人外「ちゅぷ、んは……ふふふ、カチコチに固まっちゃって、かわいー子ですねぇおにいさんは」

人外「あっ、今えっちなこと考えましたね〜ふふふっ!」

「はっ……はっ……」

心臓をわしづかみにされたような感覚。生きた心地がしない

ミリア「い、いい加減にせぬかっ!!!!!」

突如、ミリアが怒鳴る

それに伴い、放電が起こったような音がして、人外が弾かれる

人外「きゃっ!」

ミリア「ふーっ……!」

「な、なに、さっきの」

人外「バチって来ましたよバチって!! 痛かったじゃないですかぁ」

ふくれっ面をして、唸る人外

人外「喋る竜石の分際で生意気ですね、溜めた魔力を一瞬だけ放出したって感じですか?」

ミリア「それに答える義務はない。人の子であって人であることを捨てたものよ」

ミリア「わらわたちの【奥の手】、今ここで見たいとは思わぬだろう?」

えっ? たちって、ぼく何にも知らないんですけど
439 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/25(月) 22:58:57.48 ID:dOhm4kafo

人外「へぇ〜……奥の手、ですかぁ。それは困りましたね……」

神妙な顔つきに戻り、唇に人差し指をあて呟く

えっ? 信じちゃうの?

ミリア「今ならまだ見逃してやろうではないか。さぁ、選べ。この辺境の地に骨を埋めたいか?」

人外「んふふ〜、そうですねぇ。今日は機嫌がいいですから、見逃してくださいっ!」

ミリア「ふん、ならば去ね。十も待たぬぞ」

人外「はい〜。それじゃ〜っとと、そういえば一つ言い残したことがあるんですけど」

くるりと首だけをこちらに向けて、満面の笑みを浮かべる

ミリア「聞くだけ、聞いてやろう」

人外「さっちんの邪魔しちゃ、やーですよ? まだ、おにいさんを食べるには早いですから」

「……ッ」

人外「ではでは〜、あでゅー」

人外は2、3歩歩いてぱちんと指を鳴らした

瞬間、世界が弾けたような感触がして

いつのまにか掻き消えていた喧騒が鼓膜を揺さぶる

「はぁー……」

安堵のため息、人外は瞬きした時にはすでに消えていた

ミリア「ふぅ……どうなることかと思うたぞ」

「あ、あはは……生きた心地がしないよ。それにしても」

「【奥の手】って、前にも言ってたよね? それ、一体何なの? ぼく知らないんだけど」

ミリア「……? 何を言うておる。あるわけなかろう」

「へっ!?」

驚きのあまり、思わず上擦った声が出る
440 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/25(月) 23:00:29.96 ID:dOhm4kafo

ミリア「いやぁ、わらわも寿命が縮まる思いだったのだが、何とかなったの」

「何とかなったって……一歩間違えれば死んでたんだよ……?」

ミリア「ふん、根性なしが。貴様など一瞬で化けの皮が剥がされて、陸に上がった魚のようであったぞ」

「そ、そんなにだった?」

ミリア「うむ。ま、啖呵を切ったときの貴様は……まあ、その。そこそこに格好よかったぞ……?」

「あはは……なんであんなこと言ったんだろ……」

あんな逆に自分の身を危うくするようなこと……

今更後悔したって遅いんだけど

何にせよ、今回はミリアの機転でどうにか難を逃れたんだ

「ありがとうね、ミリア」

ミリア「ぬぁっ!? な、ぬぬぬ……ふ、ふん。当然のことをしたまでだ」

「さあ、ルーたちを探しにいこっか」

と言って、周りを見回したところで

周囲の怖い兄ちゃんたちがぼくのことを哀れむような目で見つめているのに気づいた

「え、あ……ああ! あの、その……大丈夫です、すいません……」

そうだよね! 独り言言ってるようにみえるよね! 痛い人に見えたのかな!

大変居た堪れなくなって、ぼくは走り出す

優しさが身に染みるどころか心に突き刺さってます

こんなぼくですが、今日も元気です。今のところは元気です

今のところは……ね、と先行きを案じてみた
441 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/25(月) 23:02:28.26 ID:dOhm4kafo
まとまった時間があまり取れないよ! 今更だけど不定期になるよ!
誰も見てなくても、私はSSを続けるよ!
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/25(月) 23:46:48.40 ID:bp/5FaEDO

見てるよ!
それに面白いし、期待してるけど!
443 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/31(日) 00:19:52.19 ID:K9GDC2Klo



――商店街

天幕が張られ、その下にいくつもの店が立ち並ぶ

といってもそこまで賑わっているわけでもなく、出荷された野菜や肉などが並べられているだけだ

旅の商人であろうか、それに冒険者などが風呂敷を広げている姿も見て取れる

幼女「ねっ! ね! あえなに?」

盗賊「ん? あれかぁ、あれはなぁ、卵だなぁ。ひよこが生まれるぞ」

幼女「ほんと!? ひよこさんうまえうの!?」

盗賊「ああそうだ、温めたら生まれるかも知れないなぁ」

幼女「うー…………」

盗賊「どうかしたか? ルー、おなか痛いのか?」

幼女「ちがうの……えとね、ねーたん……たまごわってぐちゃぐちゃにしてたの……」

幼女「ねーたんはひよこさん、ぐちゃぐちゃにしてたってことの……?」

盗賊「ルー……いいか、よく聞くんだぞ」

幼女「ん……」

盗賊「人間は残酷なんだ、何かの犠牲の上でないと生きていけないんだ」

盗賊「だけど弱い、だからそれを責めちゃいけない」
444 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/31(日) 00:22:10.33 ID:K9GDC2Klo

幼女「うん……よーへーいってた……にんげん、わいきうのがだいじだって」

盗賊「ああそうだ……割り切って生きれるようになったら、大人になれるんだ」

幼女「じゃあ。るー、おとなだよ。こえ、しかたのないことっておもえうよ」

盗賊「偉いなぁ、ルーは」ナデナデ

幼女「えへへ」

「何を教えてるのさ……」

盗賊「お、おう、ゆ、勇者か。えとな、人のあり方についてだな」

「子供に教えることじゃないからね」

幼女「ゆーたっ!!」

「とと、ルー。お散歩楽しかった?」

幼女「うんっ!」

幼女「あのねっ! えとねっ! るー、おとななの! だからせくすぃーぼでーなの!」

「は?」
445 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/31(日) 00:23:20.03 ID:K9GDC2Klo

幼女「うん……よーへーいってた……にんげん、わいきうのがだいじだって」

盗賊「ああそうだ……割り切って生きれるようになったら、大人になれるんだ」

幼女「じゃあ。るー、おとなだよ。こえ、しかたのないことっておもえうよ」

盗賊「偉いなぁ、ルーは」ナデナデ

幼女「えへへ」

「何を教えてるのさ……」

盗賊「お、おう、ゆ、勇者か。えとな、人のあり方についてだな」

「子供に教えることじゃないからね」

幼女「ゆーたっ!!」

「とと、ルー。お散歩楽しかった?」

幼女「うんっ!」

幼女「あのねっ! えとねっ! るー、おとななの! だからせくすぃーぼでーなの!」

「は?」
446 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/31(日) 00:25:58.58 ID:K9GDC2Klo

幼女「よーへーいってた! おとなになったら、ぼんっきゅっぼんの、せくすぃーぼでーになえうって!」

幼女「だかあ、ゆーたはるーに、よくじょーすう?」

「しないよ!?」

盗賊「えっ……勇者お前……さすがにそれは通報するぞ?」

「しないって言ってるだろ!?」

ミリア「貴様……やはりロリコンか」

「ミリアまで……」

そんな風に思われていたなんて……

純粋な子供好きが、ロリコン呼ばわりされる

悲しい時代になったものだね……

遠い目をして涙を流そうとする。でも出なかったのですぐやめた

「にしても」

問題はあの魔法使い見習いの自称イケメンだ

「……傭兵さんの粗末なタコさんウィンナー、切り落としてやろうか」

いや、切り落とすだけでは物足りない

切ってミンチにして溶かして蒸発させるくらいでないと

ミリア「ゆ、勇者がダークサイドへと落ちていく……!」
447 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/31(日) 00:28:29.61 ID:K9GDC2Klo

幼女「よーへーいってた! おとなになったら、ぼんっきゅっぼんの、せくすぃーぼでーになえうって!」

幼女「だかあ、ゆーたはるーに、よくじょーすう?」

「しないよ!?」

盗賊「えっ……勇者お前……さすがにそれは通報するぞ?」

「しないって言ってるだろ!?」

ミリア「貴様……やはりロリコンか」

「ミリアまで……」

そんな風に思われていたなんて……

純粋な子供好きが、ロリコン呼ばわりされる

悲しい時代になったものだね……

遠い目をして涙を流そうとする。でも出なかったのですぐやめた

「にしても」

問題はあの魔法使い見習いの自称イケメンだ

「……傭兵さんの粗末なタコさんウィンナー、切り落としてやろうか」

いや、切り落とすだけでは物足りない

切ってミンチにして溶かして蒸発させるくらいでないと

ミリア「ゆ、勇者がダークサイドへと落ちていく……!」
448 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/31(日) 00:30:11.19 ID:K9GDC2Klo

幼女「んー……あっ、ね、ね、とーぞく」

ぼくが暗黒面への扉を開けようとしたとき、ルーがいきなり何かを指差して盗賊を呼んだ

盗賊「何だ?」

幼女「あえ、あえなにっ?」

ぴょんぴょんと飛び跳ねて、積み上げられた何かを必死で指差す

盗賊「ああ、あれは桃だなぁ」

幼女「もも!? もも!! るーね、あえ、どっかでみたことあう、きがすうの!」

幼女「んーっとね……えっとね……きのうみたきがすうんだけど……」

盗賊「昨日? 街道に咲いてたっけなぁ」

「ここらでは見ないと思うけど」

幼女「んー」

ルーは眉を顰めて、桃を凝視する。そんな姿も可愛らしい

そして、何か思いついたかのように盗賊を見ると、手を打ってにっこりと笑った

幼女「そっ! えっとね、あえににてたの! とーぞくのおし」

幼女「むぐっ」

盗賊「すっ、ストップ!」

ルーが全てを言い切る前に盗賊がルーの口を手で塞いだ
449 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/31(日) 00:32:46.80 ID:K9GDC2Klo

盗賊「はははははは、いや何でもないぜ。あ、ルー、あっちに面白そうなものがあるぞー」

幼女「むむー」

盗賊「よーしよし、そんなに行きたいか、仕方ないなぁ。あ、勇者。そーいうわけでじゃなっ!!」

早口でそうまくし立てると、盗賊はあからさまにぼくから目を逸らして

ルーを連れて去っていった

「あ、遅くなる前に帰るんだよ!」

聞こえたかどうかは分からないが、盗賊たちは恐ろしい速さで人を避けて消えた

「……はぁ」

ミリア「やれやれ……だの」

その場に留まっていても仕方ない、ぼくは人気の無いところをぶらつくことにした

「やっぱさ」

誰もいない通りで、ぼくはぽつりと呟いた

ミリア「ん、どうかしたかの」

「盗賊、ぼくのこと避けてるよね」

以前から不思議に思っていたのだ、あの騒動のときから、盗賊のぼくに対する態度について

ミリア「はぁ?」

「ぼく、何か嫌われるようなことしたっけな」

ミリア「……さぁの」

「……? ミリアまで」

急に不機嫌となったミリアは、それ以降何も喋ることはなかった
450 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/07/31(日) 00:33:40.98 ID:K9GDC2Klo
あざます!励みになりゃす!重いっす!
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 00:13:21.52 ID:a/ItNzPDO
終わったら、上げといて!読むから。
452 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/03(土) 21:45:52.83 ID:jXQhu2Mko



――酒場

ぼくは今、この町の一角にある酒場に足を運んでいた

国営の酒場のせいか、さきほど見かけたごろつきの数は少ない

「……やっぱり、ここにいましたか」

傭兵「うぉーう……少年ー!」

真昼間から酒を飲み、酔いつぶれている30近くのおっさん

それがぼくの探していた人物であった

ミリア「まったく、昼間から酒とはたいそうなご身分だの?」

傭兵「こまけぇこたぁいいんだよ! せっかく大金が入ったんだ、飲まなきゃ損だろ」

「そういう問題ではなく、昼間から酒に入り浸ってることが問題なんですよって」

傭兵「おっ! そこのお嬢さん! ぜひわたくしめと、一夜限りのお付き合いを!」

「って聞いてないし……」

やっぱりこの人は駄目なほうの大人だった

こんな人に頼みごとをしようなんて浅はかさは愚かしいのだった

ミリア「やれやれ……だの」

あまりの駄目さに、無言だったミリアも口を開いていた

店員「ごめんなさ〜い、今お仕事中ですから〜」

傭兵「あぁ……つれないお方だ……」

やんわりと断られて、しょぼくれた顔で再び席に着く傭兵さん

「……はぁ」

嘆息

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453 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/03(土) 21:47:29.62 ID:jXQhu2Mko

そして話を切り出そうとする

「ところで傭兵さん」

傭兵「……しっ」

が、それは傭兵さんによってさえぎられてしまった

「な、なんなんですか、いきなり」

傭兵「見えねえか? 俺様の右斜め後方だ」

そういわれてそちらへ目を向ける

豪快に酒を飲む老人

共に昼食を取るカップル

忙しなく働く店員

そして

「仮面……」

目に映った異常、それはまさしく

傭兵「俺様たちを襲った奴等だ」

ごくりと息を呑む

数は3、それぞれがそれぞれ、狐の面を被っていた

傭兵「以前の奴等は狸の面を付けた、風魔法使いだったな」

傭兵「恐らく、隊によってつける面が違うんだろう」

「なるほど……あれが【智の国】が持つ魔道隊ですか」

ミリア「厄介だの、だが所詮下っ端。どうにでもなろう」

「ここで襲い掛かってこない、そしてぼくらから隠れる様子がない」

「なるほど、この酒場での荒事は避けたいって訳だ」

国営の酒場だ。下手に暴れたら指名手配されかねない

傭兵「どうする? 少年」

「いつまでもここにいるわけにはいきません。盗賊たちのところにも現れていないとも限りません」

ミリア「まずは合流が先決だの」

「うん、じゃあ傭兵さん。はやくここを出ましょう」

傭兵「…………あ」

ぼくは支払いを促すが、傭兵さんは青ざめたような顔つきで硬直していた

「ひょっとして、ひょっとしますけど」

傭兵「は、はははは!!」

傭兵「財布、忘れた」



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454 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/03(土) 21:48:16.76 ID:jXQhu2Mko




――表通り

「あーもう! 信じられません!!」

「何でぼくが酒代払わないといけないんですか!!」

傭兵「そうカッカするなって!」

「誰のせいだと思ってるんですかっ!?」

ミリア「ええい、貴様等! ちょっとは敵の挙動にも気をつけんか!」

「うわっ!」

突如、大気を燃やしながら飛来する火炎球

背後から迫るそれに気づいたときには、ぼくは咄嗟に身をかがめていた

それはぼくの上を通りすぎ、人気のない噴水広場に着弾した

「火狐ってわけかよっ!」

傭兵「どうする少年っ! ここなら周りの被害は抑えられそうだ!」

背負ったバスターソードを引き抜いて、傭兵さんは臨戦態勢に入る

「と、言いましても! 人数的にはあっちが有利ですよ!?」

さらにこっちはロクに戦えない素人一人だ

圧倒的不利ッ……!

これらから割り出されるコマンド選択は……

「逃げるッ! 一択でしょう!」

最近、まともに戦っていない気がするけど

それは仕方ない、命あっての物だねだ

背を向け走るぼくらに、再び迫り来る火炎球

1つ2つ、それらは数を増やし勢いを増して襲い掛かった

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455 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/03(土) 21:48:52.03 ID:jXQhu2Mko

「傭兵さんっ!」

傭兵「おうよ!」

逃げるぼくの背中を護るように立ちふさがる傭兵さん

彼は大きく横なぎに剣を振るい、火炎球を真っ二つに切り裂いた

傭兵「うおっ!! あっちぃ!!」

「傭兵さん! こっちです!」

ぼくは噴水を指差す

ミリア「何をするつもりだっ!? たかだか噴水の水では奴等の炎は抑えきれぬぞ!?」

「わかってる!」

ミリアの疑問に、半ば叫ぶようにして答えると

ぼくと傭兵さんは大きく噴水に向かって飛び込んだ

当然、噴水から水柱と水しぶきが飛び散り辺りに撒き散らされる

それを物ともせず、狐面たちは再び詠唱を始めた

狐面1『ッ!?』

が、そこで異変に気づく

撒き散らされた水滴が、長く宙を舞い続けていること

その微粒のしぶきに光が乱反射し、視界を妨げていることに

狐面2『何だこれはッ!』

狐面3『ええい、構うものか! やれ!』

仮面の奥底から発せられる、男たちのくぐもった声

一人の男の声によって、全員は一斉に火炎球を放った

着弾、そして轟音

噴水は無残にも破壊され、水は跡形もなく蒸発した

しかし、そこには標的の姿も跡形もなかった

狐面1『逃がしたかッ!』

狐面2『追え! まだそう遠くへは行っていないはずだ!』

狐面3『あぁ!』



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456 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/03(土) 21:49:48.01 ID:jXQhu2Mko


……

「ふぅ、何とか撒けましたね」

走り続けたせいか、荒くなった呼吸を整えながらぼくは言う

傭兵「一時はどうなるかと思ったぜ」

ミリア「跳ね上げた水をすぐさま練成、そのまま飛沫のように結晶片をばら撒いて目くらまし。か」

「練成は物質に含まれている魔力を応用するからね、消費が少なくて助かるよ」

ミリア「まったく、小汚い作戦だけはすぐに思いつくようになったのう……」

「最初にミリアが言ったんじゃないか……『浅はかな知恵でできる、人らしいこと』ってさ」

ミリア「そうは言ったが……もう少し男らしくだの」

「それは……なかなか無理な相談だね」

傭兵「……なぁ、少年。大事なことを忘れてないか?」

「あっ! …………わ、忘れるわけありませんよ、ってなんですかその目は」

「さ、さぁ、急ぎましょう! 盗賊たちが危ない!」



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457 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/03(土) 21:50:45.60 ID:jXQhu2Mko




盗賊「くっ……そ!」

幼女「あぅ……とーぞく、だいじょーぶ!?」

盗賊「へっ、心配すんな。おれは平気だ」

盗賊「さあかかってこいよ!!」

狐面4『ふっ……その威勢がどこまで続くかな』

狐面5『多勢に無勢という奴だ、大人しく投降すれば命までは取らぬ』

盗賊(相手は四人、おれ一人だったらどうにか逃げられるけど……)

幼女「ゆーたぁ……」

盗賊(ルーを放っておくわけにもいかないっ! 一体、どうすれば……)

狐面6『ごちゃごちゃ言ってねーでさっさと片付けんぞ!』

盗賊「こんなときに……あいつが居てくれたら」

狐面7『くたばれ!』

ゴォォァッ!


傭兵「そうはイカの金玉でぇい!!」

バシュゥッ

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458 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/03(土) 21:51:33.74 ID:jXQhu2Mko


狐面5『なっ、何奴!?』

幼女「よーへー!」

盗賊「お、おまっ、何でここに!」

傭兵「話は後だ、お前はルーちゃん連れて下がってろ」

盗賊「わ、わかった」

傭兵「……さぁて」

傭兵「この俺様に殺されたい奴はどいつだ?」

狐面6『この野朗……! 調子乗ってんじゃねえ!!』

狐面の一人が炎の剣をその手に宿す。

狐面4『馬鹿! 勝手な行動をするな!』

狐面6『うるせえ! 俺に指図すんじゃねえ!』

そして仲間の制止も聞かずに飛び出した。

傭兵「野朗にゃ用はねえんだよ!!」

狐面の攻撃、右斜め上から左斜め下へ振り下ろす剣撃。

それを傭兵は後ろに一歩下がることでなんなくとかわす。

狐面6『なにぃっ!』

傭兵「踏み込みが浅いぜ!? どうしたよ、怖気づいたのか!?」

狐面6『舐め、るなぁああああ!』

更なる攻撃、今度は大きく踏み込み横なぎの一閃。

燃え盛る炎剣が空を断ち、火花を散らす。



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459 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/03(土) 21:52:47.38 ID:jXQhu2Mko


傭兵「剣筋が甘い、簡単な挑発に乗るな、そして」

身を屈め、敵の攻撃を避けた傭兵は狐面の胸倉を掴む。

傭兵「ボディーががら空きだぜ!!!」

そして強烈なストレート。

硬く握り締められた拳は狐面の顎を打ち据え、その体を空に投げ出した。

コキ、コキ

傭兵「さぁて、次はどいつだ?」

狐面7『くっ……こいつ』

狐面4『慌てるな、まだ数ではこちらに利がある。詠唱を始めろ! 奴を近寄らせるな!』

狐面5『あぁ!』

リーダー格の狐面が指示を出す、そして彼等は陣形を整えようと……。

した

狐面6『っ!? なんだこれは!』

しかし、足がまったく動かせないことに気づき、うろたえる。

薄紫色の結晶が、彼等の足をその場に繋ぎとめているのだ。

「ふぅ、結構疲れるんですよ、これ」

勝ち誇ったように物陰から現れる少年。

勿論、ぼくだ

「無駄に目立つ傭兵さんに、囮になってもらう作戦は上手く行ったようですね」

傭兵「無駄は余計だ無駄は」

幼女「ゆーたぁっ!!」

盗賊「ゆ、勇者、お前……」

「ごめんね、真っ先に駆けつけたかったんだけど、そういうわけにも行かなかったから」

狐面7『糞ッ! お前も魔法使いか!?』

「そう、その通り」

狐面4『うろたえるな! 詠唱を続けろ!』


傭兵「そうはさせないぜ」

一瞬で詰め寄った傭兵さんが、不敵に呟く

その手にはバスターソードが握り締められていた

狐面5『っぐぅ……!』

傭兵「詰みだな」

「罪だね」

そうして、三人分の悲鳴がその町に響き渡った


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460 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/09/03(土) 21:53:45.80 ID:jXQhu2Mko
つ づ く
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461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/03(土) 22:58:25.90 ID:F51bgn4DO
戦闘シーンいいな!
キャラが立って、個性的
後は、勇者の成長かな?
でも、勇者の少狡さ、も好きだな!


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462 : ◆ackVh57YJ. [saga]:2011/09/05(月) 00:02:26.96 ID:sPpJjFTWo



――旅の道中

人外との遭遇

智の国の部隊による襲撃

そんな事件があった日から既に三日

ぼくは暑さと緊張感からくる汗を、拭うこともできないまま剣を構えている

「はぁっ……はぁっ……」

傭兵「どうした少年? もう終わりか?」

「まだ、まだぁっ!!」

「うぉおおおお!」

薄紫色をした直剣、勿論ぼくが作り出したものだ

店で売っていた鋼の剣も、あるにはあるのだが

如何せん、ぼくごときの筋力では振るうことさえ儘ならなかった

情け無い

傭兵「狙いが甘い! 剣先もぶれている!」

「はぁあっ!!」

傭兵さんも剣を構えている、それはぼくが今使っているものと同じ、結晶の剣だった

訓練なので真剣を使うわけにも行かず、しぶしぶぼくが作ったものだ

普段使っているバスターソードとは重量もリーチもまったく違うはずなのに

ぼくより何倍も上手く扱う。憎たらしい

「てやぁ!」
463 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/05(月) 00:02:53.07 ID:sPpJjFTWo

幾度も弾かれ、幾度も逸らされ

どこを狙っても避けられる、歯がゆいことこの上ない

傭兵「一撃で考えるな! 次の次を想定しろ!」

そんなこと言われても、剣を振るうことだけでもぼくは精一杯だというのに

考えている内に、剣が完全に弾かれ体制を崩される

「あっ」

と思ったときには時すでに遅し

情けなく尻餅を付いて、鼻先に剣先を突きつけられる

傭兵「ふぅ、チェックメイトだな」

「なーに格好付けてんですか……」

傭兵さんは剣をおろし、ぼくに手を差し伸べる

だけど、ぼくはその手を取らずに自力で立ち上がった

傭兵「はー……それにしてもお前、変なところで意固地だよな」

「ひねくれてるって言いたいんですか?」

傭兵「そこまでは言ってないがな」

そういって、はははと笑う

……この人は何も考えずにいたほうが、イケメンに見える

そこが少しムカつく

「大体ですね、ぼくは二本も剣を練成してから戦っているんですよ、フェアじゃないですよ」

傭兵「それも訓練ってことだ」

464 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/05(月) 00:03:24.05 ID:sPpJjFTWo


幼女「あっ、ゆーた、とっくんおわったー?」

とててと走り寄ってくるかわいらしい子供

その首には銀色に輝くペンダントが下げられていた

「あぁ、ルー。今終わったところ」

ミリア「はぁ、その様子を見るに、また負けたのだな」

「う、うるさいな……」

ミリア「情け無いの……」

傭兵「いやまあ、最初にくらべりゃ上達したほうだぜ」

ミリア「ふん、いつまでもあの様では目も当てられぬわ」

幼女「でね、えっとね、ごはんだよってねーねがいってたー」

「そっか、ありがとう」

幼女「えへへー!」

もじもじと体を左右に揺さぶるルー

やっぱり可愛い、ぼくの元気の源

傭兵「やっと飯か、んじゃさっさと行こうぜ」

465 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/05(月) 00:03:50.04 ID:sPpJjFTWo




姉「ああ弟クン! 怪我はなかったかい!?」

「う、うん、大丈夫だよ姉さん」

盗賊「まーたコテンパンにやられたのか? 勇者」

「はは……お恥ずかしながら……」

傭兵「まー最初は皆こんなもんさ、焦らずにやっていこうぜ」

「……はい」

姉「さあ疲れただろう? ありあわせですまないけれど、たくさん食べて欲しい」

幼女「わーい! ごっはん! ごっはん!」

盗賊「おれも手伝ったんだからな! 残したら承知しねーぞー?」

「うん、おいしそう」

盗賊「へへっ! たらふく食えよなっ!」

姉「はい、傭兵クン」

傭兵「おおありがとさ……ん」

傭兵「って何で俺様だけこんなすくねえんだ!?」

傭兵「おかしいだろ!? 何だこの差は!」

「うわー、こんなに食べきれるかなぁ」

幼女「おいひー!」

姉「……わからないのかい?」

傭兵「……えと……は、はい」

姉「僕の命よりも大切な弟クンを痛めつけた罰だよ」

傭兵「そっ、それは! 俺様は頼まれたから訓練を手伝っているわけで……その」

傭兵「やるからにゃ全力でやるべきだと思うし……」
466 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/05(月) 00:05:11.59 ID:sPpJjFTWo

傭兵「…………すみませんでした」

スッ

しょぼくれた傭兵さんの前に、一つの器が差し出される

傭兵「これ……は」

姉「幻滅しないで欲しい、ちょっとした悪戯さ」

傭兵「あねさん……」

姉「流石にそこまで僕は人間やめていないよ、一番頼りになる傭兵クンをないがしろにできるものか」

傭兵「頼りだなんて……そんな」

姉「謙遜しなくていい、僕たちが今日ここで旅を続けていられるのも君のおかげさ」

傭兵「そ、そうか……? 照れるな……はは」

姉「そんな君に頼みがある」

姉「君にしかできない仕事だ……だがそれも過酷な……ね」

傭兵「水臭いぜ。俺様たちはもう、仲間だろ?」

姉「そうだね……なら、お願いしようか」

姉「ほんの少し離れたところに、川が流れている」

姉「砂漠越えのためにも水は十分に確保しておきたい、頼めるかい?」

傭兵「ああっ! 任せてくれ!!」

そう言って、野菜たっぷりのスープとパンを掻き込んで

傭兵さんは張り切って走りだしていった

ミリア「なんとまあ、長い茶番だったの」

「言いくるめる姉さんも姉さんだけど、あれで言いくるめられる傭兵さんも傭兵さんだね」

盗賊「ところで人形遣い」

姉「なんだい? 盗賊クン」

盗賊「こっから川ってどんくらいかかるんだ?」

姉「ここは熱帯雨林だけれど……そうだね、片道三十分は優に超えるかもね」

幼女「もぐもぐ♪」

……

傭兵「っちっくしょう!!! 嵌められたぁぁぁあああああ!!!」

467 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/05(月) 00:05:49.11 ID:sPpJjFTWo


★おさいほう

姉「…………」

盗賊「…………」

姉「……盗賊クン」

盗賊「んっ? なんだよ、人形遣い」

姉「そんなに見られると、集中できないのだけれど」

盗賊「気にすんなって、邪魔しないからさー」

姉「そういう問題では……いたっ」

盗賊「だ、大丈夫かよ」

姉「あ、あぁ、心配することはないよ。もう慣れっこさ」

盗賊「血は出てないみたいだな……」

盗賊「にしても、人形縫って怪我するのに慣れるって……」

姉「う、うるさいね、君は。誰にでも一つや二つ、苦手なことがあるものだろう?」

盗賊「料理はすげー上手いのになぁ……てか、そんなに裁縫苦手なのに、どうして人形遣いなんだ?」

姉「別に布で出来た人形だけを操ってるわけではないからね」

姉「それに……これには少し、こだわりがあるんだ」

盗賊「こだわり?」

姉「聞いてないかもしれないけれど、弟クンが物心ついたときには両親は他界していてね」

姉「妹クンを生んだあと、二人仲良くぽっくりと逝ってしまったよ」

盗賊「そう、だったのか……何か、ごめん」
468 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/05(月) 00:06:28.84 ID:sPpJjFTWo

姉「謝ることでもないさ、僕は既に働ける年齢だったし、学園の研究所からは支援金も出た」

姉「生活に不自由はしていなかったよ」

姉「だけれど、弟クンたちには迷惑をかけた」

姉「ずっと構ってあげられなかったからね」

盗賊「そんなことねえよ……立派に育ってるじゃんか」

姉「ふふ、そうだね。でも、実際に僕は弟クンたちを省みることもせずに研究に耽っていたね」

姉「そんなある日、弟クンが言った。『おうちのことは、ぼくががんばるから、おしごとがんばってね、おねえちゃん!』」

姉「僕はハッとしたね、愛するが故に、蔑ろにしてしまった……ショックのあまり三日ほど寝込んだほどさ」

盗賊「何もそこまで……」

姉「そして再び決心した、僕がいなくなっても……立派に生きていけるように」

姉「それまで僕が全力で助けようと」

盗賊「…………そっか」

盗賊「で…………」

盗賊「人形と何の関係があるんだよ?」

姉「……む、せっかくのいい話なのに、君はいちいち水を差すね」

姉「まあいいけれど……そう、あれはまだ弟クンが7歳の頃だ」

盗賊「そんときの年齢なんて、よく覚えてんなぁ……」

姉「僕の研究が煮詰まっていたときだね、弟クンが眠い目を擦りながらこういった」


姉「『おねえちゃん、ねむれないの……いっしょに、ねてもいい?』」

469 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/05(月) 00:08:22.10 ID:sPpJjFTWo

姉「そのとき僕は、何かが弾けた気がしたね。ペンとノートを投げ捨ててベッドに飛び込んださ」

盗賊「あー……なんか、聞かないほうがいい気がしてきた」

姉「それから頻繁に添い寝をしてあげることが多くなったのだけれど」

姉「さすがに、毎日というわけにもいかないからね」

盗賊「ていうか妹ほったらかしすぎだろ」

姉「妹クンはしっかりしているからね、5歳のときには一人で眠れるようになっていたよ」

盗賊「兄とは大違いだな」

姉「そこがいいんだよ……と、話が逸れたね」

盗賊「……ちょっと逸らすつもりだった」

姉「張り切った僕は、一生懸命に研究を続けて弟クンと一緒にいる時間を増やそうとした」

姉「だけれどあの忌々しい所長……奴のおかげで仕事は増える一方だったのさ」

姉「そんなとき、弟クンが寂しさを紛らわせるようにと作ったのが」

姉「僕に似せた人形だったのさ」

盗賊「……子供に、この人形かー」

盗賊「正直に言って、不気味だぞ?」

姉「そう、初めての性か、とてつもなく不気味な人形が出来てしまった」

姉「更にその人形には、ランダムで僕の声が再生される仕組みを付けておいた」

盗賊「うわぁ…………」

姉「もう予想はついているかもしれないけどね……」

盗賊「これは怖い」

姉「それから数週間、弟クンはお漏らし癖がついたという」

盗賊「……それは……まあ、しょうがないだろうなぁ……」


姉「…………やはり、僕は姉失格なのだろうか」


盗賊「……人形遣い」

盗賊「いやっ! そんなことはないと思うぜ!」

姉「盗賊クン……」

盗賊「今まで一人で頑張ってきたんだもんな! だったら、今からはおれも手伝うぜ!」

盗賊「一人じゃ駄目でも、二人ならきっと上手く行く!」

姉「……ふふ」

姉「そうだね、もう少し、頑張ってみようか」

盗賊「おうっ! その意気だ!」
470 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/05(月) 00:09:16.52 ID:sPpJjFTWo

…………

……

「ふぅ……はぁ……」

傭兵「もうばてたのかぁ? しょうがねーなぁ」

幼女「うー……ゆーた、がんばって!」

ミリア「もう少し性根いれぬか」

「ま……まだまだ!」

傭兵「いーからちょっと休め」

「うっ……は、はい」


盗賊「勇者!」

姉「弟クン!」


「あれ、盗賊に、姉さ―――」

傭兵「うへぇっ!? なんだそりゃ、血まみれの人形……?」

盗賊「どうだ? へへっ、おれと人形遣いで一生懸命縫ったんだぜ!」

姉「少しばかり歪だけれど、どうだい? 昔のものより可愛いだろう?」

「あ……あ」

盗賊「なんだよー黙っちゃって、なんか言ったらどうだ?」

人形『グ……グゲゲッ』

傭兵「な、なんか喋ってんだけど」

「うわ、わ」

人形『グガクカカカッ、クキャカケキケケカカカカカカッカカカカカッー!!!!!!」

「わああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」


ミリア「なにやら、いらぬトラウマを呼び覚ましてしまったようだの……」

幼女「なにあえこわい」

471 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/05(月) 00:09:46.97 ID:sPpJjFTWo


……

――旅の道中

「ふーっ……」

傭兵「やっと森を抜けたかー……って」

盗賊「うおーっ!! すっげえ、辺り一面砂漠じゃん!」

幼女「わーっ! すっごーい!」

ミリア「徐々に森が砂漠に削られてきておるのか……」

姉「次は砂漠を渡るよ、四時間ほど歩けば町があるはずだから」

「四時間も……? この砂漠を……」

幼女「あははっ! そえー!」

盗賊「うわっぷ!? こらっ、やったなルー!!」

幼女「わぁーい!」

「二人とも! 遊ばない!」

幼女「……うー、はぁい」

盗賊「えー……ちょっとくらいいーじゃん」

ミリア「……はぁ、遊びに来ているわけではないのだぞ?」

傭兵「そうだぜ? 旅の目的を忘れたのかよ」

盗賊「…………もく、てき?」

ミリア「……やれやれ」

幼女「しってう! るーしってうよ!」

傭兵「ほう? じゃあルー、言ってみろ」

幼女「えっとね、あのね、うんとね! けんじんさまに、あいにいくんだって!」

「うん、そうだよ。よく覚えてたね、えらいえらい」

幼女「えへへー」
472 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/05(月) 00:10:31.06 ID:sPpJjFTWo

盗賊「賢人? 誰だそりゃ」

姉「……君は本当に話を聞いていたのかい?」

盗賊「……少しは」

傭兵「いいかー? 賢人ってのは先の大戦を治めた英雄だ」

盗賊「……英雄!?」

傭兵「そのうちの一人、土の賢人が悪い奴等に狙われてるってんで」

傭兵「そいつを助けにいくんだろ?」

姉「その通りだよ」

盗賊「英雄……英雄かぁー! どんな人なんだろーな!」

盗賊「楽しみだな! 勇者!」

「えっ、あ、あぁ……うん」

盗賊「うぉーっ! 待ってろよー!」


姉「何に期待しているのだろうね」

ミリア「戦争があったのは云十年も前なのだから、当然」

傭兵「爺になってるもんな……ま、黙っといてやるか」


盗賊「ほらー! 早くしないとおいてくぞー!!」

「あぁ待って! ちゃんと外套羽織ってから!」

473 : ◆ackVh57YJ. [saga sage]:2011/09/05(月) 00:11:25.81 ID:sPpJjFTWo
続いた、けど……力尽きた……暫く、また、更新が……滞り……ぐふっ
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/16(日) 10:02:07.92 ID:FYk4PomDO
もう、そろそろ更新お願いします!
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/12/05(月) 21:04:06.15 ID:my+bBLhx0
三か月…か
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