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上条・一方・浜面「とある普通の青春謳歌」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 15:10:05.83 ID:msfnAYrg0
・もしも登場人物が一切の能力ももたない普通の学生だったら的な。
・浜面メインな展開多し。
・他の主人公もそれとなく
・オリキャラは出さないけどオリジナルの設定はあるかも
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 15:11:51.53 ID:GTAc5Jip0
それただの一般人だな
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 15:13:57.12 ID:msfnAYrg0
関東の、どことは言えないが。
確かにそれは存在する。
小、中、高、そして大学。
ありとあらゆる教育機関が集中的に、そこには存在する。
別に高い壁で隔絶されているというわけでもなくその街、いや都市は
文字通り解放的なものだ。
そんな都市を人々は『学園都市』、と呼んでいた。
学生も個性はあれど大半は普通そのもの。
電撃を出したり空間移動をしたりなんてそんなアメコミのような輩はいない。
至って普通。
それがここ学園都市。
 
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 15:15:36.85 ID:msfnAYrg0
「ふああ、眠い」
天気は晴れだが気分は晴れない者が一人。
気の抜ける欠伸とセリフ。登校時間で多くの学生が行き交う往来に
浜面仕上はいた。
茶髪に染め上げられた髪や強面の顔つき、制服の着こなし方は不良のそれと
捉えられても何ら不思議はない。
だがそれも見た目だけの話でこの浜面という男は至って普通の学生だ。
学校はサボりもするし喧嘩はしないが口は少々悪い。
成績は振るうわけでもなく折れ線グラフはずっと下降線。
そんなどこにでもいるちょっと出来の悪い学生、それが浜面仕上だ。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/01(日) 15:16:15.79 ID:DIuK0huUo
只の一般人だけど期待
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 15:19:06.05 ID:msfnAYrg0
「はまづらーー!」
今日の天気の様に明るい声で自分を呼ぶ声がし、のらりと後ろを見遣ると元気いっぱいの笑顔で少女が近づいてくる。
「よう、おはよう絹旗」

「相変わらず超生気のない挨拶ですね」
ハァ、と溜息を吐かれた。いつものやり取りなので浜面は気にしない。
「挨拶には挨拶でかえしな」
一人前の礼節を目の前の少女に説く。
少女もその辺りはわきまえているようで「そうですね、超失礼しました」と
軽く詫びをいれ、

「おはようございます」
一拍の間をおいて礼儀正しく朝の挨拶を先程の笑顔で交わした。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 15:26:35.80 ID:msfnAYrg0
「ん、しっかり挨拶できて偉いぞ絹旗」
「子供扱いしないでくれませんかねぇ」
絹旗と呼ばれた少女はリスの様に頬を膨らませ私は怒っています!と言いたげな表情を作る。
そんな二人のやり取りに周囲は奇異の視線を向ける。
もうこれも今さらなので気にしないようにはしているのだがやはり居心地は芳しくない。
原因は隣の絹旗最愛にあった。
彼女の着ている制服はこの学園都市有数のお嬢様学校『常盤台中学』のものでとても眼を惹く。
対する浜面の学校のレベルは高校とはいえ到底常盤台に及ぶものではない。
その容姿も含めて、だ。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 15:28:26.21 ID:msfnAYrg0

ビューティー&ビーストを体現する二人が並んで歩いてるとなればそういった視線に苛まれるのも至極当然といえる。
同性の視線は特に痛い。が、悪い気はしないものだ。

一見全くの接点も見いだせない二人がどうしてこのような間柄になったのか。
ザックリと表現すると、少女漫画のようなボーイミーツガールがあったとだけ言っておく。
以来二人は軽く互いを小突きあえる友達同士となった。
この朝のやり取りも恒例化したのだった。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 15:33:50.80 ID:msfnAYrg0

「おりゃ」
「ぷひゅーーー」
膨らんだ頬を浜面が人差し指で突くと可愛らしい声とともに息を吐く絹旗。
「子供扱いすんなって言う手前からガキっぽいことするよな」
「むぅ・・・・・・」
どうやら本当に機嫌を損ねたようだ。
この年代の扱いは手が焼ける。女の子なら尚のこと。
仕方ない。コイツの大好物をちらつかせるか。
「悪かったって。そうだ、今日の放課後映画見に行こうぜ」
「え、超いいんですか!?ひゃっほーー!!」
だからそういう所が、と喉元まで言いかけ藪蛇だなと口を噤む。
変にませた女の子よりは気軽でいいか、と絹旗が聞けば憤慨モノの感想を抱きつつ
横断歩道にさしかかる。どうやらここらで一旦お別れの様だ。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 15:47:46.10 ID:uK5DXMqB0
能力が無い世界だったら一方さんの髪の色は黒なのっと
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 16:12:51.36 ID:xQx5Vqsf0
>>10じゃなきゃ紫外線等で危険だな

白で帽子かぶるとか?
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 16:41:40.15 ID:msfnAYrg0

「んじゃ終わったらメールすっから」
「はい、ドタキャンは無しですよ?」
放課後の約束を取り付け互いに登校の途につく。

「おっす浜面」
「おう上条」
ダメかと思えたが何とか自分は間に合ったようだ。
クラスメイトの上条当麻に挨拶を返すと鞄を置くため自身の席を目指す。
「・・・・・・」
がそうもいかないらしい。
彼の席には別の生徒が突っ伏して惰眠を貪っていた。
「一方通行」
「あァ・・・・・・?」
浜面の声に反応し頭を上げた少年は浜面を睨む。
相当に人相の悪い彼がメンチをきれば泣く子も黙る形相になるが浜面は一向に怯まない。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 16:42:57.84 ID:msfnAYrg0
何も無い所で転んで膝にヒビが入るわでこピンをかませば自分がつき指をこうむる。
モヤシに怯える道理はない。
「チィ、どきゃいいんだろ」
そういった経緯を目の前の二人に全て知られているためか殺意を孕んだ声で素直に言う事を聞くといった珍妙な行動を取る一方通行。
浜面、上条の両名は肩を震わす。
「てめェらそうして笑ってられんのも今の内だかんなァ」
小悪党臭全開な捨て台詞を吐いて一方通行は自分の席に着いた。
「そもそもなんで俺の席に座ってたんだ」
「教室に辿り着いたはいいけどお前の席の前で力尽きたんだよ」
「あぁ納得」
そんな彼に生暖かい視線を送る。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 16:49:31.43 ID:msfnAYrg0

彼は少々特殊だ。
頭髪は「こうしなきゃ俺のアイデンティティは崩壊すンだァ」と自ら白く染め上げている。
教師には当然咎められたが「紫色に染めてるおばちゃんは良くて俺がだめな道理はねェ」となんだか妙に説得力のある返しで切り抜けていたものだ。


肌は生まれつき弱く特注のボディクリームを塗りたくる毎日。
女の子からは羨ましがられるが当の本人からすれば煩わしくていいことなど一切ない。
席に戻った一方は隣の席の女子に絡まれていた。
彼女は本名を御坂魅琴(みこと)といい目の下の隈が特徴的な少女だ。
下に妹が3人いる。
4姉妹揃って顔が激似していることからジャンゴフェットだのエピソード2だのと呼ばれている。当然本人は気に入るハズもない。
その他にもミサワが定着していてこちらの方がメジャーだ。
由来は口の悪い御坂を略してミサワらしい。

「はーいみなさんお静かにー」
担任の小萌先生が教室に入り騒々しいクラスの鎮静化をロリボイスで促しHRが始まった。
「喜べ野郎どもー、今日は交換留学生として花の女子高生が来ますですよー」
小萌先生がそう発破を掛けると男子連中は一斉に色目きだち、女子は辟易しながらも
新しいクラスメイトの登場に期待を寄せる。

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/01(日) 16:50:02.64 ID:6hLBz6tN0

期待!支援!頑張れ!
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/01(日) 16:52:08.99 ID:6hLBz6tN0

だ、だれだwww
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 16:53:30.25 ID:oKfRPTaDO
この番外個体は一方通行にベタ惚れのツンデレか!!
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 16:53:47.51 ID:msfnAYrg0

「ではどうぞーー」

「失礼します」

その来訪者の挨拶と共にクラス中が息を呑んだ。
理由は簡単。留学生のあまりの美貌に皆我を忘れてしまったからだ。
栗色で軽くウェーブがかかった髪に整った目鼻立ちは女優並み。
肌はスキンケアが行き届いているのかとてもきめ細やかだ。
ボディラインに至っては男子の夢がそのまま現実化したかのように悩ましく特に胸と太ももは眼を見張るものがある。

「長点上機から来ました麦野沈利です」

とどめとばかりに微笑み混じりに名乗った瞬間男子の歓声が飛び交う。
こうなると女子は面白くない。騒ぐ男子を思い切り蔑んだ目で睨む。
しかしそんな中でも例外というのはあるものでその例外4人は特に騒ぐでもなくテンプレで気だるそうに拍手を送っていた。
「舞夏にしか興味ないにゃー」
「言うと思ったよ」
「歪みねェシスコン」
「ロリコンにだけは言われたくないにゃー」
「あァ!?」
上条、一方、浜面、土御門の4名だった。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 16:58:31.46 ID:msfnAYrg0
クローン設定は出来ないんで美琴、打ち止め、御坂妹、番外個体は四姉妹。
名前はめんどいので「みこと」の「み」の部分を漢字一文字変更で「みこと」
で統一します。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 17:01:14.52 ID:xQx5Vqsf0
ていとくんはいないのか?
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 17:02:54.54 ID:msfnAYrg0

上条と浜面は単純に高翌嶺の花過ぎるというのが主な理由。
土御門に至っては義妹である土御門舞夏にしか興味がない。
一方は、実は既にある女の子に片思い中でその子に勝手に操を立てている。振られたらどうするつもりなのか。
凶悪な面と口調のクセして純情一方通行であった。

「じゃぁ麦野ちゃんは浜面ちゃんの隣に座ってくださーい」
「なにぃ!」
浜面は思わず叫び声を上げる。
それに端を発し男子の怒号が炸裂する。
「なんでまた浜面なんだよせんせー!!」
「ずりーぞぉぉぉ!!」
不平不満の集中豪雨。しかし女子にとっては良い気味らしくそちらは閑静なものだった。
麦野は先生の指示した席へと歩みだす。
その様は医局の総回診を彷彿とさせた。ようするに美人すぎて威圧感がすごいのだ。
浜面の隣まで来ると麦野は歩を止め着席する。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 17:07:05.73 ID:msfnAYrg0

「浜面仕上君ね、宜しく」
「あ、あぁ」
思わず声が上擦ってしまうが無理もない。とんでもない美人なのだから。


様々な教育機関がひしめき合う此処学園都市では都市内の学園同士での留学というのを執り行っている。
誰でも受けれるという訳ではなく模範生が対象だ。
そうなると必然的にエリート校の者がこの制度の利用の殆どを占めている。
物好きととれるがこれが意外に希望者は多い。
エリート校という息苦しい環境から脱却したという思いがそうさせるらしい。
本来は高校なら高校同士での留学ときまっているが例外もある。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 17:09:31.69 ID:msfnAYrg0
常盤台は異例扱いで中学生なのに高校留学を希望できる。
これも案外希望者が多い。
女子校ゆえ異性に興味があるというのもそうだがこの年頃は年上に憧れるものらしい。
もっぱら表向きの志望動機は見聞を広げるためと偽っているのだが。
勉強面は大学クラスなので問題ない。
絹旗と浜面もこの留学を通して出会ったのだが今回は省略する。
男子が「浜面ずるい!」といったのはその時も彼の隣に留学生、絹旗が座ったからだ。
その時に大分仲良く?なったのはいうまでもない。

「お前には何度春がくるんでせうか・・・・・・」
そう浜面を羨むのはすぐ後ろの席の上条だ。
そういうお前は毎日春が来ているだろうがこの旗男め、と心の中でごちる。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 17:12:11.23 ID:msfnAYrg0

「それでは出欠取りますよー」
小萌先生の晴れやかな声と共にHRが始まった。

授業が始まり長点上機出身の麦野の見せ場、かといえばそうでもない。
このクラスには学園都市総合テスト第1位の一方通行がいる。
クラスメイトは毎度ミラクルを目にしているせいで慣れており麦野が板書しても反応はいまいち。
何故この学校に一方通行がいるのかというのはお手軽な都市伝説と化している。
ないがしろではないにせよ見せ場を逸した麦野の表情を浜面はふとみると微塵も気にしてないといった風で流石は優等生と一人納得した。




注目の留学生に野次馬が集中しだしたのは昼食どき。
麦野の周りは男女問わず人が溢れていた。
 質問の内容はとるに足らない趣味や血液型だののあれやこれや。
 いい加減食事にありつきたいのにこれではそれもままならない。
 どうしたものかと何の気なしに隣の浜面の席をチラリと覗く。
 しかし席の主は不在で机と椅子はがらんとしている。
だが出入り口の方に目を向けると探し人が友人たちと出て行くのが見えるとスッとしなやかかつ上品な所作で立ちあがる。
 クラスメイトが「どうしたの?」と問えば答えを用意していたのか「お手洗いよ」と惚れ惚れするはにかみを添え言い伝えとさっさと教室を出て行った。

25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 17:16:22.10 ID:msfnAYrg0
 
せめぎ合う人、人、人。
 昼休みの購買部は注文の怒号や押し合いへし合いで混沌と化していた。

「おばちゃーん! カスタードパンと焼きそばパン一つ!」

 購買部という名の紛争地域から浜面は何とか戦利品を手に帰還し上条や一方の待つ屋上へと足を延ばす。彼らはそれぞれに弁当を持っていたので購買部を利用することはなかった。

「くれる相手がいるって良いよなー」

 あの二人にはそういう相手が複数いる。モテるのだ。
 上条の場合日替わり定食の如く渡してくる相手が毎度違う。
それであのような湧いているとしか思えない戯言をのたまうのだから始末におえない。
それでも彼はいう。「上条さんにも出会いが欲しいですよ」と。
その後クラスの男子に粛正されたのはいうまでもない。
対する一方は上条ほど鈍感ではないので上手く立ち回っている。上条のように不用意な発言を発するなどという愚行は犯さない。
そんな彼にも弁当は行き届くのだが毎回丁寧に断っている。
それでも断れない時もある。今日もどうやらそのようだった。
友人二人のモテ具合に僻みつつ屋上に向って階段を上っていると不意に後ろから声をかけられる。

「えっと、浜面仕上君?」

「……麦野さん?」
「アハハ、麦野でいいよ。同級生なんだから」
 
思わぬ人物から声をかけられた。
麦野沈利がこの自分に話しかけている。こんな美人と接するのは初めてだ。
 
「白昼夢って初めて見たな」
「正にお昼時だしねー」そう返す麦野はクラスメイトの女子の様にフランクで、浜面の目にはエリート校のお嬢様とはとても映らなかった。
「ね、これからお昼なんでしょ?  なら一緒に食べようよ」
 
目の前のお嬢はこの自分を誘っているようだ。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 17:18:57.30 ID:msfnAYrg0

嘘のようだが本当だ、本当のようだが嘘だ。初心な少年の思考は右往左往してさだまらない。

「あ、ああいいぜ。今から屋上に行くんだ」
「いいね、それ。あ、そうだ」

 麦野は何かに気付く。やがて聴き惚れる美声で、

「浜面、って呼んでいいよね」


重い扉を開けると一瞬陽の光で目の前が真っ白になる。
眩しさに目をしかめながら屋上を見渡すと「こっちこっち」と上条がてまねいているのが見えた。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 17:20:16.00 ID:msfnAYrg0
取りあえず今はここまで。
また深夜にくる、かもです。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 17:42:27.13 ID:FQd9fFL6o
一方さんの片思いって、
打ち止めか……本気でロリになってしまう。
それともまさかの美琴か。
対抗は御坂妹?
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/01(日) 20:36:31.94 ID:6hLBz6tN0

>>28 もしかして20000号?と思ったけど、いない設定だったか。


とにかく面白い
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 21:33:08.28 ID:jIcZxIzq0
本気でロリでも良いじゃない
通行止め期待
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 23:07:01.63 ID:msfnAYrg0

「って麦野さんも一緒でせうか!?」
 浜面の思わぬ同伴者に目の前のウニ頭は信じられないらしい。
「やるねぇ浜メン」そう揶揄してきたのはミサワ。彼女もこの面子とはよくつるんでいる。浜メンという呼び名は彼女がつけた名で他の面々もよく使う。
「浜メンにも春がきたのかな? ぎゃは」
「コイツが越冬するたァ思えねェけどなァ」と一方通行。やかましい。
この二人はいつもこうして浜面か上条を仲良く嬲ってくる。特にミサワはキレが良すぎてみぞおちにパンチを決められた時の呼吸がか細くなるような言葉を吐いてくる。言い返したいものだがこの少女こそ一方の想い人でありいざ彼女をけなそうものならなけなしの腕力で制裁を加えようとする。猫パンチなので軽くいなせるが。
「てかアナタも出来たことないじゃん」
「う、いいンだよォ、俺はす、好きな奴いるしィ」
「へ、へーそうなんだ。このミサカに教えてごらんよ」
「何でだよォ」お前だ、とは死んでも言えない。
「キューピッド役やったげる。そんで一方通行は押しも押されぬペドフィリアだって警告してあげ るんだ」
「おいィ、俺はそンなンじゃねェっていってンだろォォォォ!!」
「あ、ロリコンだったっけ。そっちの方が語呂がいいよね。アクセロリータ、うんいいねこれでいこう」
「やめてくれェ」
「ぺドセラレータの方がよかった?」
「やめてくれェ」

32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 23:13:20.62 ID:msfnAYrg0

「仲が良いのねあの二人」

「まぁな。というか麦野」

「なぁに?」いい笑顔で答える。美人はどんな顔でも様になる。
だからこそその表情の裏にどんな思惑がうごめいているのか
注意深くなる必要があるのだ。
麦野の手には浜面が先程必死の思いで買った
カスタードパンが握られていた。

「それをどうするつもりで?」

「パンは食べるためにあるのよ浜面」

「知ってるさ。そのために買ったんだから」

「あらわかってるじゃない。それじゃいただきまーす」

「それはおかしい」

「私今日お昼持ってきてないの。だから、ね?」

 わかるでしょ? と言いたいのか。
この目の前の女からはどことなく
剛田雑貨店の息子と同じ匂いがする。
言葉の物腰は柔らかだがどこか棘がある。それが有無を言わさぬ雰囲気をまとっているような。お前の物は私の物と言えばしっくりきそうだ。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 23:17:11.64 ID:msfnAYrg0

麦野に対する脳内評価はともかく
昼食を持ってきていないのは本当の様で。
だからといってこのまま自分の昼食を
もっていかれるわけにもいかない。
俺だって腹が空いているんだ。

「自分の分は自分で……」

「あ゛ぁ゛!?」

「仕方ねー、これも食っていいよ」手元の焼きそばパンも無造作に手渡す。

「え、でもそしたら浜面の分が」

「おお優しいな浜面。上条さん涙でそうでせう」

本気で言ってるのだとしたら
今後の上条との付き合い方を検討する必要があると心に誓う。
そして麦野があまりにも白々しい。
「あーハイハイまだ購買いきゃコッペパンくらい残ってんだろう」

そそくさと立ちあがり浜面は屋上を後にした。
 
「やさしいねぇ浜メンは」

一方とのじゃれ合いをいつの間にか
切り上げていたミサワはさびで悲鳴をあげる扉を
やかましそうに開けて去っていく浜面をみて苦笑を浮かべる。
「ジャイアニズムの弊害だと上条さんは思い……」
ミサワの感想に一部始終を見ていた上条は
苦言を呈しかけ途中で口を噤んだ。

「……」

蛇に睨まれた蛙のように黙りこくる上条。
睨みを利かせているのは麦野だ。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 23:24:16.80 ID:msfnAYrg0

蛇に睨まれた蛙のように黙りこくる上条。
睨みを利かせているのは麦野だ。
「うら若き乙女をつかまえて剛田君扱いなんて上条くんひどーい」
声は笑っているが目は殺気を孕んでいる。これ以上の発言は自分の精神衛生を著しく妨げると判断し黙り込む。麦野の第一印象の化けの皮はこの昼食会で1枚2枚と剥がれ落ちた。

「麦野とは気が合いそうだよ一方通行」

「頼むから悪影響は受けないでくれェ」

一方とミサワはそれぞれの思いを吐露し目の前の出来事を見守るのだった。


 結局浜面はコッペパンを買う事も適わずにそのまま午後の授業に臨んだ。
 空腹で腹が鳴りそれが教室中に響き皆の注目を一身に浴びる。
 隣の麦野は口元に手をあて上品に笑う。誰のせいだとは彼女の本性を垣間見た手前言い出せず、恥ずかしさも紛らわす意味で机に突っ伏し文字通り泣き寝入りに徹した。
 
授業も終わりさぁ帰ろうという段になりケータイにメールの着信。
差出人は絹旗だ。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 23:27:06.82 ID:msfnAYrg0

『そちらも授業が終わった頃合いかと思いメールしました。
いつもの映画館に4時丁度待ち合わせで。遅刻は超厳禁ですよ!』

メールを読んだらどうしてか目の前が歪み頬を熱いモノがつたった。
自分はどうやら泣いていると気付くのに数秒かかった。
感動的な言葉が羅列しているわけではないのに。
送り主の少女の純粋な文面に浜面は得体の知れない涙を流す。
こうなると無性に絹旗に会いたくなった。
鞄を片手に浜面は走る。 
友人の誘いを走りざま断り階段は中腹あたりにさしかかると
飛び降りて。
下駄箱に辿り着くと靴を履き替えるという作業に
イラつきながら無事に履き終え校庭を疾走。
すぐさま少年の走る姿は点となった。

36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/01(日) 23:47:40.22 ID:msfnAYrg0
今日はここまで
何時とは断言できないけど明日また来ます
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) [sage]:2011/05/01(日) 23:53:28.80 ID:lTuVB6ta0
乙!
一方さんのねこパンチ食らいたひ
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/05/02(月) 00:05:24.16 ID:GSHAAEa80
乙 浜面×絹旗は久しぶりだから超期待!
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/02(月) 15:56:06.31 ID:VlX/uHqV0
投下します
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/02(月) 15:56:50.59 ID:VlX/uHqV0
「あ、浜面こっちですよぉー!」

全力で走ること数分。体育でもこれほどの走りをしたことはない。
腹に収めるべき物を食べず糖分接種ができなかったせいか。
その時の彼は冷静に物を考えることができなかった。
だからだろうとは断言できない。
ぴょんぴょん跳ね跳び自分を呼ぶ絹旗に近づき浜面は
無自覚に恥ずかしいセリフを吐きまくった。


「どうしたんですか? そんなに超息上げちゃって」

「あ、あぁ。お前に早く会いたくて。そう思ったらつい全力疾走を」

「ぇ……、な、何を言って」

「絹旗と今日会う約束してなきゃ最悪の一日になるところだったな」

「え、えと……、そう言ってくれると超嬉しいです……」

「はは、絹旗は裏表がなくていいなぁ」

汗と笑顔を浮かべ絹旗の頭を撫でつける。

浜面の行為に下心がないと分かるぶん絹旗は余計に意識してしまう。
浜面は単なる共通の趣味を持つ友人で他意は無い。
いくらそう言い聞かせても表情筋がどんどん緩み両の手で頬を抑える。
何とかごまかそうと思案するとポケットにハンカチがあった。


そうだ、これで浜面の汗を拭いてやろう。
それで気を紛らわそう。
ハンカチを手に取り浜面の顔に手を伸ばす。
しかし相手の身長は相当高く中々顔に手が届かない。
ついにはつま先立ちになる。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/02(月) 16:02:59.01 ID:VlX/uHqV0

「ん? もしかして汗ふいてくれようとしてる?」


ようやく気付いたのかおもむろに膝に手を付き身を屈める浜面。
すると絹旗の手がようやく顔に届いたのだが。


「……」


顔が近い。絹旗が見上げる形ではあるがその距離は鼻先10cmといった所。

「ひゃあぁぁ」

恥ずかしさのあまり悲鳴ともとれない曖昧な叫び声を上げ絹旗は一気に顔を
離そうとし、つまづく。

「あぶねぇ!」

「きゃっ」

浜面の咄嗟の反応で後頭部から転ぶことはなかった。
それは良い。


問題は体勢にあった。


「……」


右手は絹旗の肩を抱き自身の顔は浜面の胸板あたりにすっぽり埋まっている。
さらに左手は腰を支えていた。体勢はお姫さま抱っこに近い。
その所作のどれもが男性の力強さを感じさせ、抱かれている肩や胸板から
敏感に熱を感じ取る。
すると途端に浜面を男性として意識し少女の心臓はやかましく早鐘を打つ。

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/02(月) 16:04:15.83 ID:VlX/uHqV0

「大丈夫か?」


相手がそう囁くとようやく自分の置かれる状況を冷静に分析し理解すると、
再び思考回路はショートする。
全く大丈夫ではない。

これじゃわ、私が浜面に超惚れてるみたいじゃないですか!
と心の中で叫ぶ。
こんなことをしている場合じゃない、もうすぐ映画が始まってしまう。
そうだ自分たちは映画を見に来たんだ。
他になにがあるというのか。ない、断じてない。

「え、えぇ大丈夫です。そ、それよりも早くしないと上映時間になってしまいます」

「お、そいつはいそがねぇと」

言うが早いか浜面は今の状態から一気に立ちあがった。
当然絹旗も今の体制で持ち上げられる。
するとどうだろう。
今や完全なお姫様だっこ状態だ。

「な、なぁ……」

呆然自失。
今の彼女が正にそうで、うまく言葉を発することが出来ない。
しかし浜面は気にした風でもなくそのままゆっくりと絹旗をおろす。

「ふぁ……」

惚けたままの絹旗は千鳥足で足元がおぼつかない。
このまま劇場に向うのはあぶなっかしいと感じ浜面は少女の手を引く。
座席につくまで結局絹旗の正気は戻らなかった。



「なぁ、今日見る映画はなんてやつなんだ?」

「ふぇ?あ、あぁえっとSRサイタマ○ラッパーってやつですよ」

「ラッパー? 8マ○ルみたいなヤツか?」

「超違います。前情報だとB級ぽかったんで」

「見ようと思ったと?」

「まぁそんな所です」

この娘は映画観賞が趣味だがその観賞する映画というのが殆どB級と呼ばれる物ばかり。
最初は「学園都市の歪みか……」と嘆いていた浜面も付き合わされる内にすっかり毒され
いまではこの手の映画を見ること自体に抵抗は無くなった。

「お、始まったな」

上映終了後のこき下ろしを想定しスクリーンを見据えた。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/02(月) 16:05:26.31 ID:VlX/uHqV0


「B級を超装ったA級映画でしたね」

劇場を後にした二人はファストフードで体に悪い食べ物を咀嚼しながら
批評を行っていた。

「あぁ、最初は見てるこっちが恥ずかしかったけど、あの市役所でのライブシーン以降は
 本当に良かったわ」

「久しぶりに超良い邦画見たって気になりましたね」

「だな」

「本当にそう思ってます? 浜面は途中のあ、あああのシーンがよかっただけじゃないんで
 すか?」

「あれね。まさかAVをあんな長回しするとはね。おかげでやばかった」

「何がです?」

「いや、なんでも」

そのやばいシーンとやらを思いだしたのか急に怪しい動きをする浜面。
内股でもぞもぞするさまを見れば早熟な女の子ならなんとなく察しがつく。

「超きもいです!!」

「みひろッ!!!」

あのときめきを返してという思いを込めてみぞおちに一発を叩きこむ。
妙な叫びと共に浜面はくず折れた。

「全く浜面はそんなだから超浜面なんです。もうちょっとデリカシーってものをですね」

これからこってりしぼってやろうかという時に重低音の唸りが響きわたる。
聞き覚えのあるその音は浜面の腹から聴こえていた。

「……」

「ちょっとまとう絹旗。実は俺、今日はやんごとない事情で昼飯を抜いちまってだな」

「それで今の今まで空腹で腹の音も仕方がないと?」

「そうそう」

「むぅ……、なら今日の夕食はあそこのファミレスで超すませましょう。
 勿論浜面のおごりで。それで許します」

「はぁ、わーったよ」

自分の気持にまだ公正な判断はつかないが絹旗はまだ一緒にいたいと
いう思いから強引に夕食に誘った。
それに帰ったとしても……。
暗い考えが一瞬頭をよぎり、それを振り払う。

「さ、行きましょう」

「お、おい」

浜面の腕をつかみ強引に店へと入って行った。


44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/02(月) 16:31:53.76 ID:VlX/uHqV0
今日はここまで
次は5日あたりなりそうです
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/02(月) 17:41:36.92 ID:8mswO6Bq0

でも投下の最初だけageればいいと思う
最初は「saga」その後は「sage saga」みたいにすると[ピーーー]とかにならないしお勧め
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/02(月) 20:28:36.17 ID:VlX/uHqV0
>>43
しまったなんかとんちんかんなことになってる
一応修正したやつを


「B級を超装ったA級映画でしたね」

劇場を後にした二人は徒歩がてら批評会を繰り広げていた

「あぁ、最初は見てるこっちが恥ずかしかったけど、あの市役所でのライブシーン以降は
 本当に良かったわ」

「久しぶりに超良い邦画見たって気になりましたね」

「だな」

「本当にそう思ってます? 浜面は途中のあ、あああのシーンがよかっただけじゃないんで
 すか?」

「あれね。まさかAVをあんな長回しするとはね。おかげでやばかった」

「何がです?」

「いや、なんでも」

そのやばいシーンとやらを思いだしたのか急に怪しい動きをする浜面。
内股でもぞもぞするさまを見れば早熟な女の子ならなんとなく察しがつく。

「超きもいです!!」

「みひろッ!!!」

あのときめきを返してという思いを込めてみぞおちに一発を叩きこむ。
妙な叫びと共に浜面はくず折れた。

「全く浜面はそんなだから超浜面なんです。もうちょっとデリカシーってものをですね」

これからこってりしぼってやろうかという時に重低音の唸りが響きわたる。
聞き覚えのあるその音は浜面の腹から聴こえていた。

「……」

「ちょっとまとう絹旗。実は俺、今日はやんごとない事情で昼飯を抜いちまってだな」

「それで今の今まで空腹で腹の音も仕方がないと?」

「そうそう」

「むぅ……、なら今日の夕食はあそこのファミレスで超すませましょう。
 勿論浜面のおごりで。それで許します」

「はぁ、わーったよ」

自分の気持にまだ公正な判断はつかないが絹旗はまだ一緒にいたいと
いう思いから強引に夕食に誘った。
それに帰ったとしても……。
暗い考えが一瞬頭をよぎり、それを振り払う。

「さ、行きましょう」

「お、おい」

浜面の腕をつかみ強引に店へと入って行った。


47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/04(水) 02:53:23.13 ID:Blce1Pv80
前倒しでちょこっとだけ投下します。





現実味を感じさせない灰色の風景。
早朝だというのに校庭には登校中の生徒や部活の朝練などに勤しむものもいない。
とにかく殺風景だ。
誰もいない学び舎の横をゾンビのようにノロノロ歩く。
教室についたらどんな事を話そう。
ファッション、芸能ネタ、恋バナで友人をからかうのもいいかもしれない。
今日も一日楽しくなるに違いない。

不意に目の前に小さな影が現れた。
その影に注視しているとそれは段々とせばまって色は濃くなる。

ふと上を見上げた瞬間人が降って来た。
一瞬目が合った気がする。
女の子だった。
その子は間もなく地面に背中から落ちた。
頭のあたりからジワリと血が滲みだしやがて血の池だまりを作りだす。
灰色の世界にその池だまりだけ赤い着色が施され、自分の足元に辿り着く。
慌てて足を離すと逃すまいと血が水あめの様に糸を引きまとわりつく。
靴からは独特の鉄のにおいがたちこめる。
おそるおそる近づく。
既に少女はこと切れていた。


顔をよくみると友人だった。

そんな、どうして。
悲観にくれる。


誰かの視線を感じた。
自分の周りをぐるりと大勢の人間が囲んでいる。
クラスメイトが機械のように冷たい目で自分を見降ろしていた。
やがて全員の口が開く。
その次にくる言葉が容易に想像でき私は両の耳を塞いだ。

彼らに目だけ向けると何か言っている。



「               」



しかし耳を塞いでいてよく聞き取れない。
それで良かったと思った。

本当に?

自問する私がいる。
良かったに決まっている。

だってそうしなければ私は…………。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/04(水) 02:55:30.66 ID:Blce1Pv80


「っはぁ……っはぁ……」


息を荒げ身を起こす。
中々呼吸は整わない。
額をつたう汗が鬱陶しい。
寝間着の中までビッショリだ。
咄嗟に部屋を見渡しようやく現実を認識する。

そうか、あれは夢か。

そう思うと心底ホッとする。
悪夢を見た後は決まって不快な朝を迎える。
そういう日はいつも以上に念入りにシャワーで体を洗う。

登校時間まであと一時間。

着替えを携え麦野は浴室へ向った。


寮を出ると陽が差していて暖かい気温に包まれた。
曇りじゃなて良かったと内心呟きドアのカギを閉める。
ガチャリと鍵がロックされる音をしっかり確認。

朝食は食べた。
歯もしっかり磨いた。
教科書も昨日の内にちゃんと鞄にしまったのでぬかりない。

何か良いことが起こる気がする。

そう自身を奮い立たせ寮を発った。


49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/04(水) 02:57:22.27 ID:Blce1Pv80


ipodで気に入りの曲を選曲しながら歩いていると前方に
見知った後姿が見えた。
声をかけようと近づくと隣にはちっこい少女が帯同していた。

「おっはよー、はーまづらー」

バシンと平手で背中を叩かれ呼びかけられた少年はむせる。
隣の少女は突然の出来事にアタフタと動揺してしまう。
よく見るとその子の制服は常盤台のものだと麦野は目ざとく気付いた。

「なんで浜面が常盤台の小便臭いガキとお近づきになれてんのよ」

次いで出てきた言葉がこれなのだから麦野という女ははかり知れない。
昨日までのお嬢様オーラは日を追うごとにメッキが剥がれているように浜面には
受け取れた。
そしてこの発言に黙っていられない者がいた。

「な、なんなんですかこのオバサンは!!初対面で超失礼過ぎやしませんか!?」

言ってはならない。それだけは言ってはならないのだと浜面は本能から心より思う。
誰かが地球のどこかで大技を決めようとしてる時の様に大気がピリつく。
やがて地の底から響くようなドスの良く効いた声が発せられた。



「ブ チ コ ロ シ 確 定 ね」



そこからは一瞬過ぎて良く憶えていない。
ただ絹旗を庇うのに必死だったのは確かだ。
麦野が地を蹴り、いたいけな女子中学生にムエタイ式の跳びひざ蹴りをかまそうと
している所に自分は割って入って行った。
みぞおちにもろにそれを喰らい、ミシミシと奏でてはならない音をアバラが発し
そのまま地面に沈んだ。
その時下着が見えたのにこれほどに嬉しくないラッキースケベもあるもんだなと
薄れゆく意識の中で浜面は冷静にそう評した。


50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/04(水) 02:58:45.84 ID:Blce1Pv80
とりあえずここまで。
次は本当に予告した日に投下します。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/04(水) 06:53:32.77 ID:xqOrbFsSO
チャランボ! チャランボ!
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/05/04(水) 11:54:38.13 ID:3GOIl67/0
むぎのんにひざ蹴りくらうなんてご褒美以外の何物でもないのに贅沢だな。

浜面爆発しろ
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/05(木) 03:29:39.43 ID:AUCZ5U8L0
眠いけど投下します。
>>51 チャランボ気に入ったので多用させてもらいました。


「いいチャランボだったよ」

「……ごめんなさい」

あの後浜面は意識が戻らず失神。
一部始終を見ていた絹旗は倒れる浜面に駈け寄り大声で名前を呼び泣き叫ぶ。
麦野はアタフタしながらも119番にダイアルし救急車を要請。
救急車には絹旗と麦野も同伴。
ベッドで眠る浜面が目を覚まし麦野を視界に確認して発した第一声が先程の
「チャランボ(跳びひざ蹴り)」だった。

(いってぇ)
言葉を発すると胸が少々痛む。
これはアバラが何本か逝ってるなと当たりをつけベッドに沈みつづける。

「10日間の入院だって……」

「そっか」

意識が戻ってから10分。
麦野はずっとこの調子で俯いている。
ジャイアニズムを地で行く彼女でも人並みに罪悪感はかんじるんだなと
失礼な結論に至る浜面。

「映画だと良いヤツになるってあれかな……」

「え……?」

「はは、何でもない」

「あの、本当にごめんなさい。私……」

「いいよ、俺が勝手にやったことだし。喧嘩両成敗ってことでさ」

「う、うん」

さっきから妙にしおらしい。
人に大けがを負わせたのだから当然かもしれない。
けどそんな麦野はなんとなく似合わないなと思う。
ボサボサの頭を掻きながらどうしたものかと考えた。

あれしかない。
やがて浜面は神妙な表情で麦野に語りかけた。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/05(木) 03:31:06.61 ID:AUCZ5U8L0

「なぁ、麦野」

「うん?」

そんな顔をするものだから呼びかけられた方は怒られると不安にかられぐっと覚悟
を決める。


「シマシマ、ごっそさんです!げほごほ!!」


「おそまつさま、って……、な、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

「いやぁ、俺としては麦野は第一印象じゃ純白かなとおもってたんだけどな。
 まさかしまパンとは」

アバラが痛み、むせながらパンツ論評をする浜面。
顔を真っ赤にして口をアワアワする麦野。

「あ、ああああんた覚悟は出来てるんでしょうねぇ!!」

「おいおい、これ以上は死ぬって。警察沙汰になんぞ」

「……もうなったし」

「え?」

病院に搬送されて当然医師からは事の顛末を追及される。
絹旗も居る手前、ごまかしは出来ない。
正直に話すとやがて警察が来た。
事情をつつがなく聴取され最終的な判断は被害者が意識を回復させてからという
ことになりその場は事無きをえた。

「まぁ当然っちゃ当然か」

「私の下着見たことは別よ」

「いやでもあれは不可抗力だろ」

「そうかもしれないけどあんな風にいわれりゃ怒るだろうが!!」

「つーか絹旗は?」


ずっと気になっていた事を聞く。
何故かさっきから話に出てはいるのに当の本人は姿が見えない。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/05(木) 03:32:33.55 ID:AUCZ5U8L0

「あの子なら学校に行ったわ。何だかゴネてたけど」

「ふーん、まぁお互い最悪なファーストコンタクトだったな」

「反省してるわよ。大人げなかった。でもオバサンはないじゃない……」

「まぁ、こんな美人捕まえてオバサンはないよなぁ。後で絹旗にはよく言っとくよ」

「い、今の……」


言った本人は全く気にしてない様子だったが麦野はそういう訳にはいかなかったらしい。
さっき以上に顔を赤くさせ「う〜〜〜〜」と唸りだす。


「どうした?」

「な、なんでもないっ!!」


そのまま吐き捨てるように勢いよく病室を出て行った。
残された浜面はポカーンと口を開け何だったんだろうと考え込むが適当な解が得られず
やがて思考を停止しゆっくり瞼をとじたのだった。


あの男は一体何なのよ。

病院を後にした麦野は湯気でも上がってるんじゃないかというぐらいの、怒りと恥ずかしさ
がない交ぜになった混沌とした気持ちでいた。

あのクラスの教室に入ってひときわ背の高い浜面が一目で視界に入った。
金に近い茶髪、チンピラな目つき。明らかに異質だった。
まぁ白髪も居たがあえてそこははずそう。
いかにも不良ですといった風貌。
なのに、それとは裏腹に彼は友人たちと中休みになる度楽しそうに話す。
時には女子も混じっていたりもした。

自分の目から見ればそれは清水に重油が混じるような光景。
酷い例えだがそう映ったのだから仕方ない。
重油なアイツが何故クラスに馴染めているのか。
気になった。
だから昼休みにあのような行動を取った。

話してみるとなんというか、彼は初心で純情だったのだ。
喜怒哀楽の変化が分かりやすく面白い。
そこがまたからかいがいがあり、とっつきやすかった。
最終的に横暴にでてしまったのは反省。

そして今日のチャランボ事件。
あんなに素の感情を爆発させたのは久しぶりかもしれない。
きっかけはあの絹旗とかいう中坊のオバサン発言だったけど。
そう思えばまぁあの餓鬼にもちょびっとは感謝してやるか。
確かに怒りは爆発した。でもそれと同時に溜めこんでいたあれやこれやも
あの時晴れていった気がする。

けど浜面、アンタは別。

この私に恥ずかしい思いをさせたんだからそれなりの報いは受けさせる。
退院したらだけど。

まぁ、それまではお見舞いにいってやる。気が向いたらだけど。

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/05(木) 03:33:37.10 ID:AUCZ5U8L0

「あ」

そういえば、とふと気付く。

ここはあの病院ではないか、と。

その自覚は急激に麦野の気持を冷やしていくのだった。



「はぁ、10日間かぁ」

山吹色と濃紺が混じり合う夕方時。
誰も居なくなった病室を見回し寂しさを覚え溜息を吐く。

彼の病室は麦野が用意した個室だった。
自分に責任があるからと治療費や入院費を彼女が全額負担したらしい。
個室は値がはるといったら「あら安いじゃない」と軽く返された。
性格はともかく身分は本当にお嬢様なのかとボンヤリ予想してみる。
まぁ詮ないコトだとゆっくり身を起こし稼働域の少ないフィギュア宜しく
ぎこちない動作で起き上がり、ベッド下のスリッパを履いて病室を出て行った。

さすが学園都市というべきか、通りすがる入院患者は自分と同世代かそれより下の連中ばかり。
可愛い子もさっきから何人か見かける。野郎はいらない。
喉が渇き自販機に向うとそこには上下ピンク色のジャージを着た少女がヌボーっと突っ立っていた。
訝しみながらも自分も飲み物が欲しいのでその子の後ろに並んだ。

「……」

並んでから2分経過しても少女はずっと石の様にうごかないまま。
流石にしびれを切らし声をかけた。

「おい、アンタ」

呼びかけに反応し少女は薄ぼんやりとした瞳をこちらに向ける。

「うぉ……」

小さな驚きの声が廊下にこだました。
素朴、彼女を表現するならこの言葉が最もしっくりくるだろう。
短く切り揃えられた黒髪は艶やかで背後の自販機の淡い明りで妖しく映る。
儚げで、触れてしまえば途端に砕けそうな、そんな感じ。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/05(木) 03:35:26.30 ID:AUCZ5U8L0

「あなただれ?」

少女に声をかけられ我に返る。
どうやらこちらの素性が気になるようだ。

「えっと俺はここの入院患者だよ」

「なまえは?」

「え、あ、あぁ。浜面、浜面仕上」

「はまづら、はまづら……」

少女は今聞いたばかりの名前を覚えようと何度も呟き咀嚼する。
やがて両の手を胸の前にもっていき握り拳を作って、「うん、覚えた」と
何度もうんうん頷いた。
すると今度は自分の番とばかりにフンスと胸を張り名乗る。

「私の名前は滝壺理后だよ。覚えててね」

忘れるもんか。こんな可愛い子の名前を忘れたら極刑ものだ。

「おう。宜しく滝壺」

「うん、覚えてくれたねはまづら」

この滝壺という少女は独特の間があり、けれどそれは決して不快なんかじゃなく。

「じゅーす」

「ん?」

「買わないの?」

「あ、そうか。飲み物買いにきたんだったな」

ほら、なんだかこっちまでペースに乗ったじゃないか。
こういうのもいいな。

「お茶で良いかな」

小銭を投入し目的の品を選ぶ。
ピピピピ、と電子音が響いた。どうやらこの自販機はクジ付きだったらしい。

「やった! ゾロ目だ!!」
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/05(木) 03:37:05.48 ID:AUCZ5U8L0

「やった」

怪我の功名がしっくりくるほど今日はなにかと良い事がおきるもんだ。
ならこの気持ちも誰かと分かち合おう。

「滝壺、好きなの選んでいいぜ」

「いいの?」

「おう! ほらほら」

「おっとっと」

滝壺は無難に苺オレをチョイス。
そのチョイスが何だかこの少女らしくてわけもわからずほっこりしてしまう。

「ほら、受け取って」

とりだし口から滝壺の選んだ飲み物を手渡す。
受け取った滝壺はそれをギュッと大事そうに抱え「大事にのむね」と
礼を述べた。

「そこのお2人さーん。そろそろ自室に戻りなさーい」

遠くからナースさんが帰室を促す。
もうお別れか、何だか名残惜しい。

「じゃぁ俺もそろそろ戻るよ」

「明日も会えるかな?」

「当然! せっかく友達になったんだからな。これっきりなんて嫌だぜ?」

「ともだち……」

浜面の言葉を何度も何度も大事に反芻する。
何故だかその様子は見ていて愛おしさすら覚えた。

「うん、ともだち。明日も会おうね。庭のベンチでお昼に待ち合わせ。
 遅れたらハマコーって呼ぶ」

「う、それは何だか嫌だな。遅れないようにしなきゃ」

お互いに手を振って別れると途端にじわりと暖かな気分に満たされた。
振り返るともうそこには彼女はいない。
点灯が怪しく光るだけ。

途端に明日が待ち遠しくなった。


59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/05(木) 03:39:18.66 ID:AUCZ5U8L0
一旦ここまで。
次は夜ごろになりそうです。
トロピックサンダー面白い。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 06:05:44.00 ID:Flryn+8T0

どうなる原作嫁
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 07:45:20.25 ID:90qIM1oSO


期待
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/05(木) 11:25:33.26 ID:IaTvRHpDO
まっとるぜ
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 17:25:26.02 ID:fW0YzUZX0
一方通行能力無いのにアクセラレータて名乗ってたらただの痛い子だろ。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/05(木) 21:13:03.68 ID:AUCZ5U8L0
>>1です

>>63
SSで一方さんの名前があったような
鈴・・・なんでしたっけ



65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 21:27:13.33 ID:fW0YzUZX0
女の子だったらっていうネタで鈴科百合子てのが有ったはず。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 21:30:10.02 ID:fW0YzUZX0
連投スマン、それで一方通行の本名はまだ出ていない。姓が二文字名三文字とだけ書かれてた。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/05(木) 22:15:46.85 ID:AUCZ5U8L0

投下します

>>65
あ、そうそうそんな名前だ!
ありがとうございます



6月の晴れ間。
新しい朝が来た。
といっても体操をするわけではない。
することもないので普段じゃ考えられないような時間に目を覚ました。
午前6時。朝食までまだ1時間以上ある。
二度寝をしようにも睡魔とっくのとうに彼方へ去ってしまって寝付けない。


仕方なく備え付けのテレビを見るがどこもニュースばかり。
どの番組にも浜面の食指は立たずリモコンの
ボタンを片っ端から押していく。
芸能人の訃報を扱う番組を見つけ、
あ、この人死んだんだとなんとなしに思っていると
次に中学生のいじめによる自殺のニュースが流れた。
亡くなった子の情報に合わせ悲壮感を誘う音楽が垂れ
流されると途端にイラついた。
この手のニュースは嫌いだ。
数字取りの為に人の死を演出で彩る。
クズ具合でいえばいじめをやったヤツと大差ない。
舌打ちと共にテレビを消した。
軽い怒りでアドレナリンが分泌されとうとう眠れない。
民放のバカヤローと呟き無理やりに布団を被った。



ゾッとするような退屈な時間もやがては過ぎる。
今は待ちに待った昼。
滝壺と会う時間だ。病院の広大な庭にあるベンチに腰掛けていると
待ち人がやってきた。
昨日と同じ長袖ジャージ。
梅雨のこの時期にしては少々熱そうな格好だ。

「はまづら」

「よ、滝壺。元気してたか?」

「元気だったら入院してないよ」

まぁ言われてみれば確かにそうだ。
そういえば滝壺は何故入院しているのだろう?
聞きたいけどそれは流石にデリカシーを問われそうだな。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/05(木) 22:18:31.22 ID:AUCZ5U8L0
「どうしたの?」

「お、おお。なんでもないさ」

「? そうだ。あのね。はまづら……」

それからのお喋りは楽しかった。
基本ローペースな喋り方だけど気にならない。
むしろ子守唄のように心地がいい。ずっと聴いていたくなる。
とても包容力のある声だ。
でもちょっと気になることもある。
会話は楽しい。それは確かだ。
話した内容といえば浜面の学校での出来事、クラスメイトに日々の出来事、etc。
殆どの会話は浜面が切り出した。時には滝壺が質問することもあった。
こっちもそろそろなにか聞こうと質問しようとしたら滝壺にしては珍しく
焦りを滲ませた声色で、

「も、もっとはまづらのこと聞きたいな」

その微妙な変化は浜面にしこりとして残りこの楽しいお喋りの間も
頭の片隅では気になり続けた。
その一つに服装も含まれる。

「なぁ、この梅雨の時期にその格好って熱くないか?」

特に深い意味は無い。言葉の通りの疑問。
きっとこれまで通りの反応が返ってくる。

「その質問するはまづらは応援できない」

「え……」

その言葉と共に立ち上がり滝壺は去って行った。

「もしかして地雷だったのか?」

猛烈な勢いで浜面の脳内を ? が行きかう。
もしかしてジャージに一家言あったのかもしれない。
それなら何となくわかる。
昨日に引き続き今日もジャージだったのだから。
そう思うと勝手に納得した。
そしてその結論が全くの間違いだったと後になって気付くことになる。
浜面は気付かなかった。
去り際の滝壺の瞳が服装に触れた途端に黒く沈んだ事に。




69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/05(木) 22:27:11.58 ID:AUCZ5U8L0
今回はここまで。ちょっとみじかかったかな。
番外通行もやる予定だけどみたい?
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/05(木) 22:28:56.20 ID:IaTvRHpDO
>>69
焦らすな焦らすな
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/05(木) 22:34:06.96 ID:0eNSMrkV0
番外通行大好きあとは………言わなくてもわかるな?
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/05(木) 22:43:33.83 ID:AUCZ5U8L0
>>71
わかんないです

上条さんのカプ迷うな。希望ある?
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 22:51:12.97 ID:rkAWzHyyo
迷ってるならむしろハーレムで
上条さんの実力なら同時全攻略余裕です
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 22:56:29.44 ID:4u7EShTDO
むしろ、この手の作品でハーレムはダメでしょ
ハーレムやるくらいなら分岐ルートを全部やったほうが吉
あくまでも個人の意見だけどな

一方=ひとかた
通行=みちゆき
じゃね?
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2011/05/05(木) 23:04:23.35 ID:nBIGjQae0
ストレートに希望すると上琴
だけど最近は上琴だというだけで変なのがわくのが気にかかる・・・
でもやっぱ上琴希望!
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 23:10:59.26 ID:fW0YzUZX0
>>74
みちゆきって名前、禁書だと普通に納得出来るから不思議だな。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/05/05(木) 23:34:10.91 ID:IkRKvJRAO
>>1
浜絹、浜麦に見せかけた濃厚な浜滝スレですね、わかります

番外通行バッチコーイ
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/05/05(木) 23:35:30.41 ID:IkRKvJRAO
乙を入れ忘れていた……
改めて>>1乙!
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/05(木) 23:36:59.16 ID:KXBGeGPno
能力なしだとインさんの扱いが面倒だよねってか魔術側全般そうだよね
本命は美琴だけど上手い事やれそうならインデックスもありかも
ただ上条さんならフラグ乱立でカプなしってのもありじゃないかな
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 23:54:58.25 ID:fW0YzUZX0
もし魔術側も魔術無しになるんだとしたら
上条さんのフラグ半分以上無くなるな

まあイマジンブレイカー無いなら
不幸ではないんだろうから
学園都市で別のフラグ立ててかもしれない
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/06(金) 00:02:05.77 ID:dajj8oPno
つか読み返して思ったけど魔術サイド基本なしっぽいなコレ
科学サイドオンリーなら上琴がいいな
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/06(金) 00:25:19.70 ID:6aiuU/RKo
俺も普通に上琴がいいな
人気もあるし、なによりこういう能力無しの日常なら書きやすくて安定だろうし
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/06(金) 00:29:52.42 ID:UvmoqBGuo
普通に女の子してるインデックスんとかも面白そうだが…
うーん、出来るならあまりない吹寄とかが見たいかな
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/06(金) 00:36:56.61 ID:wbcNYLTDO

浜面は浜面が幸せになれるのなら誰ルートでも良い
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/06(金) 00:46:03.60 ID:17kO0Kq7o
上条さんはやっぱ美琴かな
それより他の男キャラにも春は来るのだろうか
青ピとか土御門とか
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/06(金) 19:20:34.93 ID:lPBz8u//0
>>85
青ピは初春とくっつけばカプ名「青春」だよな
カプ名としてここまで洗練されたのがあっただろうか
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 00:15:07.02 ID:wQa5qApdo
>>86
今大変なことに気づいた
"青"ピ と土御門元"春" でも青春だわ…
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/07(土) 00:52:41.88 ID:UTwgK7Z70
>>1です
もうちょっとで投下します
しばしお待ちを
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/05/07(土) 00:57:30.18 ID:VEeL0uWAO
待ってた
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/07(土) 01:07:42.46 ID:UTwgK7Z70

病室に帰ると一気に寂しさが込み上げる。
それと空腹も。
昼は病院食を食ったがやっぱりどうにも足りない。
体に悪い物が食いたい。
ハンバーガー、ポテト、脂身たっぷりのステーキ。
アメリカに侵され気味のメニュー。
お袋の味ってなんだっけ。久しく食っていない。

ない物ねだりした所で叶うわけでもないので仕方なしに
テレビを点ける。
朝にやっていたいじめで自殺した中学生のニュースが再び取り上げられていた。
どうやら進展があったらしい。
結局見るものもなく電源をオフにしたのだった。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/07(土) 01:10:43.25 ID:UTwgK7Z70

「浜面、浜面!」

遠くから呼ぶ声がする。可愛い声だな……。

「な、なに言ってんですか!」

「あたっ」

額を押さえて起き上がる。
どうやら気付かない間に寝ていたらしい。
重いまぶたを開けると目の前に絹旗がいた。
自分を呼んだのは目の前のこいつか。
でこピンで起こしやがって。

「全く昼間っから惰眠を貪るとは超良い身分ですね」

「当然の権利だろ……」

ようやく視界が慣れ絹旗の顔を凝視する。
浜面は眉をしかめた。
隈がすごい。
たった一日でミサワ並みに変貌していたのだから驚いた。
というか全体的に絹旗の纏う感じが酷い。
髪は手入れが成されてないし制服は皺が目立つ。

「なぁきぬ…………」

「浜面、これをどうぞ」

「な、なんだこれ? DVD?」

「それとポータブルDVDプレイヤーです」

「映画か何かか?」

「AVとでも思いましたか?」

「ば、んなわけあるか!」

「本当は期待してたんじゃないですか? まぁいいです。それ超名作なんで。
 明日また来ますんでそれまでに見といてください。感想聞くんで」

「今一緒に見ようぜ」

「ダメです」
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/07(土) 01:25:19.32 ID:UTwgK7Z70
そこだけは断固ゆずれないとでも言いたげに拒否をする。
当の絹旗はといえば目の前の来客用の椅子に深い溜息を吐くと共に腰を下ろした。
座るというより、うなだれている感じだけど。
どう声をかけていいか分からずにいると思いだしたように「あ」と声を上げ
上等な紙袋からホットドッグを取り出す。
一個千円以上はするという代物だ。

「も、もしかしてそれくれんの?」

丁度腹が減っていたんだ。嬉々として少女の手にあるブツにてを伸ばす。
だがそれは浜面の手には届かない。

「んー、超おいしいです」

眼前でモグモグとそれはもう美味しいですといった恍惚の表情で咀嚼してみせた。
浜面の食事情を考慮した上での嫌がらせ。
沸々と腹が煮立つ。

「きーぬはたちゃーん?」

「ふふ、超良い気味です。浜面はそうして指をくわえて腹の音を鳴かせていればいいんです」

「あ、マイケル・J・フォックス!!」

「嘘! ど、どこですか!!?」

「いただきぃ!!」

往年のスターで気を逸らし絹旗の腕を掴みホットドッグに喰らいつく。

93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/07(土) 01:37:10.56 ID:UTwgK7Z70

「うんめぇぇぇ」

久方ぶりの動物性たんぱく質の摂取に感嘆を洩らす浜面。
流石は高級ドッグ。良く噛んでから飲み込んだ。
しかしこれは後が怖いなと絹旗をみると、

「ぁ……ぁ……間接……」

何やらブツブツと呟いている。これはセーフか?

「頂きます!」

キリッと姿勢を整え猛烈な勢いで食いつくす。
めの前の少女がわからなくなった。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage ]:2011/05/07(土) 01:40:31.44 ID:UTwgK7Z70
今日はここまで
今はこれが限界だ……
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage  saga]:2011/05/07(土) 02:22:48.01 ID:UTwgK7Z70
もうちょい頑張ります。


ホットドッグを完食すると絹旗は俯きだす。何かを切り出そうとしているのか、
「あの」とか「えっと」とかさっきから歯切れが悪い。
少し俯いた後に意を決した表情で顔を上げる。
数秒の間の後ようやく口を開いた。

「は、浜面は、便所飯についてどう思いますか?」

「え?」

聞かれた内容が突拍子がなくて思わず聞き返す。
便所飯とはあれか? 学校とかでクラスで浮いてる奴が教室で飯を食う場所が無くて
便所で食うというあの。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage  saga]:2011/05/07(土) 02:50:44.52 ID:UTwgK7Z70
「どう思いますか!?」

顔が近い。
どう思うか、ね。
いまいち質問の意図がわからないけど答えよう。
そうだな、

「コミュ障でクラスに馴染めてないヤツとか」

「ふんふん、後は?」

「後は……」

そういえばと、朝に見たニュースをふと思い出す。
中学生が自殺したというやつだ。原因は確か。

「いじめられてるやつとか、か?」

その答えを聞くと絹旗は黙りこくった。
彼女の中でどんな考えが巡っているのだろうか。
今日の絹旗の風体やこの質問といい、何かあるとしか思えない。
ニュースの内容を再び思い出す。
途端に言い様のない不安に駆られ少女を見据える。

「なぁ、絹旗お前もしかして……」

「……!、きょ、今日はもう帰りますね! それじゃお大事に!!」

被せるようにまくしたて絹旗は去って行った。

97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage  ]:2011/05/07(土) 02:51:50.74 ID:UTwgK7Z70
本当に今日はここまで。
ではまた
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/07(土) 16:06:40.14 ID:w5cdQAiT0
浜面の天然Sっぷりがぱねぇ
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age  ]:2011/05/07(土) 21:25:37.48 ID:UTwgK7Z70
>>1です
もう少しで投下します
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age  ]:2011/05/07(土) 21:27:01.52 ID:UTwgK7Z70


「大丈夫かなぁ、アイツ」

一抹の不安を残して去って行くなといいたい。
こちとら怪我人なんだ。

「さて、と。中身はなんだろうな」

絹旗から渡されたDVDのパッケージを確認する。
タイトルにはこう書いてあった。

「実写版デビルマン、ね」

プレイヤーにDVDをセットし、再生ボタンを押す。
名作とのことで期待してみたのだが。
ただただ苦痛でしかなかったよ。


「つ、疲れた……」

デビルマン観賞後、もの凄い疲労感が浜面を襲った。
映画でこんなに疲れたのは初めてだ。
これならまだ絹旗と見に行くB級映画の方が遥かにマシといえる。
それほどに酷かった。
あの野郎、分かってて貸したな。怨むぞ絹旗……。

「ポカリ飲みてぇ……」

ヨロヨロとベッドから這い出し、滝壺と出会った自販機に向う。
今日もいるかなと淡い期待を寄せた。原因はわからないがどうやら彼女を怒らせて
しまったらしい。だから会って謝りたい。
しかしそこに滝壺はいなかった。代わりに蛙顔の医者がいた。
怪訝に思いながらも自販機で買い物を済まし立ち去ろうとしたら不意に声をかけられた。

「君、浜面君だね?」
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age  ]:2011/05/07(土) 21:28:10.22 ID:UTwgK7Z70


突然だったので少し驚いた。

「は、はぁ。そうっすけど」

「ふむ」

このおっさんは何を納得しているんだろう。
俺何かしたっけ。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけどね?」

そしてなんで疑問形なんだ、おっさんよ。

「いや、そろそろ部屋に戻らないと……」

正直面倒くさい。正直なところ、さっさと退散したい。
窓口をシャットダウンし足早に踵を返しかけたところで、

「滝壺君についてなんだがね……」

詳しく聞こうじゃないか。


「君、あの子とはこの自販機の前で出会ったんだね?」

何故それを?
もしかしてどこかでみていたのか。いい歳して出歯亀とは。

「そして君から声をかけた」

本当に詳しいな。まじで覗いていたのか。

「その後彼女は初対面の、しかも男性である君になんの躊躇いもなく親しげ
 接してきた。そうだろう?」

医者の踏み込んだ問いかけに不信感がつのる。
内容が詳細に過ぎるのだから。
果たしてこのおっさんとまともな会話をしていいものかどうか。
悩みどころだ。
でも昼間の滝壺の態度。アレを思いだすと一方的につっぱねるのもはばかられた。
ちょっとくらいの譲歩は良しとしよう。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age  ]:2011/05/07(土) 21:29:38.78 ID:UTwgK7Z70


ええ。今思えば確かに初対面に対して積極的だとは思いましたけど」

「そうか……」

浜面の返答は医者に大層な溜息を吐かせた。
「やれやれ」だの「これで3度目か」だの訳のわからないことまで呟いて。

「彼女、また退院が延びるかもね?」

言い残すならもっと分かりやすい言葉を使ってもらいたいもんだ。ぼやいたが既に
医者は角を曲がったところだった。

「また不安の種が増えちまったじゃねぇか」

濁されたままは気に食わない。
明日あの医者に事情聴取しよう。

「あ」

そういえば事情聴取といえば麦野の一件はどうなったのだろう。
すっかり忘れたままだった。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age  ]:2011/05/07(土) 21:35:13.09 ID:UTwgK7Z70


耳をすませば黄色い声しか聴こえてこない。
常盤台も例外なく華やかかつ上品な言葉遣いが飛び交う。
絹旗最愛いる教室では中休みの最中だった。
みんな誰かしら中の良い友人と会話を楽しむ。
そのどれもが高級な内容過ぎて一般人にはおよそ理解出来ないだろう。
そんな中机に突っ伏す者が一人。

絹旗だ。

入学してから3ヶ月。彼女は未だに友人と呼べる人物がいない。
そうなれば会話する相手なんて当然いるはずもなく。
休み時間ごとに絹旗はこうして机に伏し寝たふりを決め込む。
予令が鳴ればあらかじめ机の中に用意しておいた教科書をだし
さもいままでねたいましたよ、とアピールするように欠伸をしてみせる。
そう。

彼女はぼっちなのだ。

昼休みになれば仲の良い者は机をくっ付けたりして昼食を楽しむ。
だがぼっちの絹旗はそうはいかない。
買っておいた昼食を持って一人教室を後にする。

テラスや食堂なんていけるはずがない。
あそこはリア充の巣窟だ。
そんなところで誰も一人食事をとるなんて出来ない。
みんなやっぱり仲良しグループで固まって食事を楽しむ。
満席状態。
空いている席はそんなグループの隣に一つ二つあるくらい。
座れるわけない。いたたまれなくなる。出来たらその人を勇者と称えたい。
私のようにぼっちがいたらだけど。

だから、行くのだ。
人目も喧騒もない絶対的な隔絶を約束してくれる空間。

トイレへ。

常盤台はさすがお嬢様学校で、バリアフリーも行き届いている。
車椅子用トイレの完備もばっちりだ。
幸いといえば不謹慎だが常盤台には車椅子で通学する生徒はいない。
トイレという施設においてはここだけ使用者がいないので常時清潔そのものだ。


104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage  ]:2011/05/07(土) 21:38:16.26 ID:UTwgK7Z70
>>1です

とりあえずここまで
書き溜め出来たら深夜あたり投下するかも
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 21:48:39.09 ID:AeHgNTY4o
待て、車椅子用、つか障害者用トイレは、施設によっては
「誰かが入っていることが周囲にだだ漏れ」(非常時にすぐ対応できるように)
だぞ。

つまり、便所飯は周知の事実な可能性が……もあいちゃん……
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 23:05:21.72 ID:2sP55XlDO

カップリング意見に乗り遅れたorz
個人的には姫神希望
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 23:19:43.86 ID:68hqyX8e0
はーい>>1先生!通行止めはおやつにはいりますか!
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 23:22:15.83 ID:Q7Bh0eSSO


リア充になりたいのか絹旗?
だったら俺がお前と付き合えば解決だ
よかったな
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age  ]:2011/05/08(日) 00:10:45.21 ID:noio50+l0
投下します



だからといってゆっくりするわけにはいかない。
所要時間はせいぜい10分。
短時間での完食を実現するためパンかおにぎりと相場は決まっている。
しゃけ、おかか、高菜。今日はこの三つ。
お茶を片手にキューピッチでかきこむ。
それでも良く噛んで食べましょうという精神は健在で頭で30回数えてから
飲み込む。
健気というかあまりに涙ぐましい昼下がりを過ごす絹旗であった。

「もうかれこれ便所飯を初めて2カ月ですか……」

腹は満たされても心は満たされない。
周囲を注意深く見回してからトイレを出る。

なんでこうなってしまったのだろう。
入学当初は新しい生活に明るい未来を思い描いていた。
それが今は180度真逆の学生生活。


彼女は施設育ちだ。

チャイルドエラー、この都市でそう呼ばれる子供たち。
彼らは何らかの事情でこの都市の児童養護施設に捨てられた。
絹旗もその一人。
彼女は施設でもずば抜けて頭が良かった。
自分の力を試したい。
その一心で施設の先生に無理を言って常盤台を受験した。
結果はトップの成績での合格。
トップ合格者には特待生として入学金と1年間の授業料免除が与えられる。
さらに成績のトップクラス維持で次の年も授業料が免除される。
施設育ちの絹旗には願ってもない話だった。
ここまでは本当に順風満帆。
しかし現実という荒波の前に無残にも転覆寸前まで追い込まれた。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/08(日) 00:19:39.60 ID:noio50+l0


友達作りは入学初期が勝負。
当然張り切ってクラスメイトに話かける。
しかし自分以外は揃いも揃ってお嬢様ばかり。
口調相まって徐々に徐々にフェードアウト。
さらに自分が施設育ちの庶民、そして特待生という事がばれた。
庶民のくせに特待で入学したくせに自分たちと同等なんて生意気。
そんな風潮がクラスを駆け巡り、
あっという間に絹旗はクラスから孤立してしまった。

耐えられない。
そんな時に学園都市内留学制度を知った。
希望の中学校はどこも顔見知りがいる。
ここでの生活をあれこれ詮索されたくない。
ならばと、絹旗は留学先に高校を希望したのだった。
期限は4月中盤から5月中盤にかけての1カ月。
そして浜面と出会った。

年上ばかりの環境は委縮しっぱなしだったが、女子がマスコット的に
可愛がってくれたこともあり母校よりも居心地が良かった。
しかし趣味はかみ合わずB級映画は誰にも理解されない。
贅沢とは思いつつも少し物足りない。
そんな時だった。

「お、これトランスモーファーじゃん」

持ち込んだパンフレットのタイトルに反応する声。


111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/08(日) 01:14:40.82 ID:noio50+l0


こんな映画に反応する人なんて滅多にいない。
期待を込めて振り返った。

「……」

「なんだその汚物を見る目は」

「消毒しますか?」

「まじで汚物あつかいすんな!」

ノリのいい突っ込みだなと変に関心した。
高校に留学したのだから周りは自分を年下扱いする。
それは別にいい。
だけどこの男ははなから馴れ馴れしかった。年下の自分に対して。

「知ってるんですかこの映画」

「ん? あぁこれなぁ、トランスフォーマーの隣に陳列してやがってよぉ。
 良く見ずにてにとってそのまま借りちまってさ。
 家帰ってみたらやたらショボくて」

「アホですね」

「んなこのっ、年上敬え!!」

「その間違いはまぁ実際レンタル屋じゃよくあったみたいですけど。
 アナタに限り擁護できませんね」

「なんでだよっ!」

112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/08(日) 01:31:49.54 ID:noio50+l0

こんな会話は久しぶりだった。
遠慮することなく思った事を言える相手。
養護施設のやり取り。
人と話す事の楽しさを思いだした。

それからは早いもので一気にその男と仲良くなった。
浜面、と最初名前を聞いた時は正直吹いた。
でも名前を教えてもらってからは「浜面、浜面」とよくあの大きい背中を
追ったものだ。
映画に誘ったりもした。買い物も。
歳は離れてて、背はとっても大きい。並んで立ったらきっとデコボコしてる。
顔だって別に格好いいわけじゃない。
でもいつの間にか浜面はズカズカと人の心に土足で踏み込んできて、



いつの間にか居ついてしまった。



最初は認めたくなくて何度も何度も追い出す。
でも頑として動かない。
だけど決してそれは嫌じゃない。むしろ……。

ずっといても良いですよ。

そう心に呟いた瞬間顔がボッと火照った。
あぁ自分はいつの間にか、こんなにも浜面のことが……。

113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/08(日) 02:01:42.15 ID:noio50+l0


しかし現実は常に付きまとうもので楽しかった留学期間はあっという間に
過ぎ去った。
留学先のクラスではお別れ会を催してくれ、ついつい泣いてしまった。
委員長の吹寄さんに抱きしめられ豊かな胸に挟まれ自分の胸を見て、余計に泣いた。
青ピと土御門はよくかみやんの毒牙にかからなかったなと褒めてくれた。
遠くでは上条の弁解の叫び。

浜面はクシャクシャと頭を撫でつけて。
泣いていた。
からかってやろうとか思っていた気持ちが一気に失せ、
もういっぱいいっぱいで。

浜面に抱きついて泣いた。

声を押し殺せなくて大声で。
その時の浜面はとっても優しい顔をしてた気がする。
そうであって欲しい。


次の朝は眼をはらしたまま学校に登校。


また最悪の日々の始まり。


でも一つ嬉しい誤算。
浜面とは通学路が一緒だったのだ。
最悪の朝はその日から少しだけ、本当に少しだけ希望の朝になった。

114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/08(日) 02:02:41.48 ID:noio50+l0
今回はここまで。
ではまた今度。
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/05/08(日) 04:30:29.76 ID:bBQFU3Cw0
>>1

もあいかあいいよもあい・・・
ああキュンキュンする
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(USA) [sage]:2011/05/08(日) 08:22:24.54 ID:5RiNw9ge0
お前らさ、何でこんなので楽しんでいら
れるの?ってか上のレスにもしっかりと
的確に書いてあったけど、これってな
にも禁書でやらなくてもよくね?これ
はさ、作者にキャラづくりの才能とかが
あればいいんだけど、それが無いからパク
リまがいのことをしてるんだよね?こんな
できの悪い作品読む気もしない。もう1回出直
す事を、お勧めする。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/08(日) 09:56:18.03 ID:O7fYZsZ6o
>>116
おまえ、何言ってんの?
レスを読み返してみろよ。
はっきりいってクソくだらん、わけわからん。
きっちり感想書くとかならまだしも、なにそれ。
理屈は通ってないし、意味不明だし。
ぎりぎり、なんとか、荒らしではないかもしれないかなって思える程度だぞ。
理解できるか? 俺の言いたいこと。
すずめちゅん。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/08(日) 12:09:43.87 ID:SuYCewbDO

>>116
ツンデレめw素直に乙と言えんのかwww
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/08(日) 12:37:28.61 ID:IFiE0L+90
>>1乙です

作者が書く文章はすごい好みだけど、
俺は禁書の魅力は超能力や魔術などの能力だと勝手に思ってる。
だから能力が無いのなら禁書でやる意味があまり無いと感じてる。

もちろんif話って事は分かってはいる。
多分学パロだって事も分かってる。
麦野が可愛い事も絹旗が可愛いって事も滝壺が可愛い事も分かっている。
だからこんな俺の考えはここでは無粋だって事も分かってる。


ただ>>117は何したいか分からんな。
追伸 フレンダの脚線美は今も健在ですか?
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/08(日) 13:20:23.75 ID:O2PIq363o
縦を縦で返しただけじゃね?
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/08(日) 13:22:20.75 ID:I77esoqYo
アリに対してキリギリスだと今更気付いて噴いたww
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/08(日) 13:36:13.90 ID:IFiE0L+90
縦読みでキリギリスは分かってたが
何故キリギリスか分からなかった。
>>121で理解出来たが蟻とキリギリスって寓話は知ってるけど
キリギリスで返す意味が結局分からない。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/08(日) 15:53:35.16 ID:gAdUKmBSO
>>117
ナイスセンス

上やんの彼女さんは吹寄がいいな(ボソッ
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/08(日) 16:51:04.43 ID:0CuzqXrDo
>>119>>122
……うわあ。 なんかひどいな
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/08(日) 17:20:47.00 ID:IFiE0L+90
酷いと言うより痛い奴って事は分かってる。
気になった事を聞いてみただけだが不快に思ったのならすまない。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/08(日) 18:24:21.55 ID:GATfnIDXo
まぁ、なんだ、使い古された言い回しだが
半年ROMれ
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/09(月) 12:39:42.89 ID:DQUVDu1Z0
がんばれ
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/09(月) 12:40:14.54 ID:DQUVDu1Z0
ごめん、さげ忘れた
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/09(月) 22:14:41.04 ID:5f2AZ0ew0
保守

吹寄×上条派
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/09(月) 22:34:34.36 ID:i+vKeYO+o
では上琴に一票を投じる
個人的には吹寄青ピとかも好き
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/09(月) 23:53:09.98 ID:/udzIevRo
カップリング募集終わってなかったのか
上琴に入れておきます

上条さん以外のカプも募集してるの?
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/05/10(火) 04:58:13.12 ID:xUEUlJYAO
些細なことだけど読んでて気になったけど
誰も指摘してなかったから言ってみる
上条さんの台詞の「〜でせう」は
「〜です」じゃなくて「〜でしょう」だよ
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [sage]:2011/05/10(火) 10:49:51.15 ID:jZleumfvo
>>132
原作でも使い方おかしいよ
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 13:17:34.29 ID:F38KB0WY0
>>130
青ピって恋愛するイメージないな
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/10(火) 16:46:56.08 ID:NB6fqBHc0
上琴一票
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 17:13:16.58 ID:mLObKj6DO
上吹に一票
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/10(火) 17:21:37.35 ID:kAdnn3DP0
上琴がいいでござる
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2011/05/10(火) 17:59:44.50 ID:63cNu/R/o
>>134
まさかの同性とか
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 18:26:09.12 ID:ygyUD0vSO
上吹に一票
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/10(火) 18:28:08.62 ID:kph3iQ6M0
上琴に一票
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 18:32:05.62 ID:q4Op9SEd0
通行止めに一票
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 20:20:37.22 ID:hy0dPiPpo
上吹に一票
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/10(火) 20:45:42.40 ID:MBKdFPnIO
上琴に一票
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 20:48:39.88 ID:fblZI2lWo
いつまでやんのこれww
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/05/10(火) 21:08:26.60 ID:/5Zq5yLyo
上姫・・・・
(´;ω;`)ウッ・・・
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/05/10(火) 21:44:31.15 ID:vYSI6ytAO
上吹かな
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/10(火) 22:38:39.39 ID:EQStQHFX0
どうも>>1です。
少なめですが更新します。
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/10(火) 22:42:48.32 ID:EQStQHFX0
誰かが欠けても日常は淀みなく回る。
それでも浜面がいない教室はどことなく生彩を欠いていた。

「いなくなッて初めてわかる良さッてあるンだなァ」

一方は此処3日でそれを痛いほど実感していた。
なんせ浜面がいなくなった途端にミサワやクラスメイトのイジリが増加したのだ。
特にミサワは酷いもので、なんで好きな奴にこんなにボロクソいわれにゃならんのだと
嘆いていた。


「浜面、アイツは俺にとっての抑止力だッたンだァ」


本人が聞けば憤慨間違いなしだろう。
しかしその例えはあまりに的確で強く否定できないのも事実。無情。

「麦野。おめェが浜面殺ッたンだッてな」

事情は既にクラス中が聞き及んでおり正体を知ったクラスメイトは戦慄したがそれ以上に
親しみやすさを覚え今では初日以上に馴染めていた。


「殺ってねぇし。抑止力ってなんだよ」


この通り口調もすっかり遠慮がない。地をさらけ出せて生き生きしている。
それも数知れないイジリによりすっかり鉄のメンタルを会得している一方には
堪えない。

「浜面ァ沈めたご自慢のチャランボでタイ映画界に殴りこみしてこいよォ。
 良い線いくぜェきッと」

「あぁ!? この野郎ゆるさねぇぇぇぇぇ!!」

「香港の方がよかッたかァ?」

「がぁぁぁぁぁぁ!!」
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/10(火) 22:47:05.44 ID:EQStQHFX0


なじる一方。
叫ぶ麦野。
と、こういった微笑ましい光景をクラスメイトは暖かく見守る。
一方では面白くないといったご様子のミサワが冷めた目でそのやり取りを
見ていた。

「なにさ、あんなに楽しそうにしちゃってさ……」

机に伏し、ミサワは麦野と一方を冷ややかに見据え呟く。
チャランボ事件以来麦野は一方にとって格好の的になっていた。
普段からいじれる相手がいなかったこのモヤシッ子は麦野の罪の意識に
つけ込んで散々にイジリ倒していた。
結果的にこの二人が絡む時間が多くなりいつも一方と一緒にいたミサワはここ三日で
完全にハブにされていたのだった。

どうしてかあの二人の仲良くしているところを見ていると
胸がざわつく。それは焦りにも似ていた。

そう自分は焦っている。
あの人が自分以外の別の異性と楽しそうにしていると言い様の無い
不安の波にのまれる。
必死にもがいて何とかはい上がっても手遅れになっていやしないだろうか。
そんなことを考えてしまう。
不安がピークに達すると今度は聞くに堪えない罵詈雑言が浮かんでは消えていく。


150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/10(火) 22:49:14.92 ID:EQStQHFX0


「うぅ……、あのオバサン、その人から離れてよ……」

!、今のは自分が言ったのか?
無意識の内に発した言葉にミサワ自身が驚いた。
慌てて周囲を見渡す。
どうやら誰も気付いていないらしい。
ホッと胸を撫で下ろす。
頭で留めていた言葉は感情の奔流によりタガを突き破り口からとうとう吐き出された。
渦巻く負の感情はそれでも歯止めが利かない。
こんな醜い自分はイヤだ。嫌われる。誰に?
わからない。
いや、本当はわかっている。
一方通行にだ。
目の前の光景がささやかなクラスメイトの会話だと頭では理解できる。
でも心がその認識を許さない。
外野が今のミサワの心理状態を知ればある言葉で断言するだろう。

でもきっとこのひねくれ者がそうだと自覚するのはかなり難しい。


結局いてもたってもいられずミサワは二人の会話に割入った。
ノープランで加わったせいで上手く言葉が出てこない。
見兼ねた一方は助け舟のつもりだったのだろう。
デリカシーに欠けるセリフで場をつないだ。

「なんだァ、これはこれはこの間俺をロリコン扱いしてくれたミサワさんじゃ
 ないですかァ」

「……!」

151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/10(火) 22:53:07.83 ID:EQStQHFX0


一方の言葉を聞いた途端目じり一杯に涙を浮かべ一目散に教室を
出ていく。
その様を一方は唖然として見送った。

「このバカチンがぁぁぁぁぁ!!」

「あいたァァァァ!!?」

轟く咆哮。振り上がる拳。
か弱い一方通行の頬に裏拳が放たれ浮いて吹っ飛ぶ。

「女の子泣かしてんじゃねぇぇぇ!!」

一方を叱咤する麦野の口調はどことなくあの伝説の教師に
近かった。
そのせいだろうか。
男子がそれに食い付き妙な話の展開を迎える。

「あ、麦野が金八先生になった」

「口調もそれっぽいね」

「じゃぁ略して麦八先生か?」

「むぎぱち、か。じゃぁむぎぱっつぁんで」

勝手に盛り上がる男子と女子。
当然渦中の麦野の耳にも届いてるわけで。

「おめぇら勝手に変な名前つけてんじゃねぇぞぉぉぉ!!」

「うわぁむぎぱっつぁんが怒ったー」

「道徳を説かれんぞぉ」

怒りの矛先はその他大勢にシフトされ一方は完全に殴られ損だ。

「……とにかくミサワ追っかけるかァ」


152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/10(火) 22:56:19.23 ID:EQStQHFX0
今回はここまでです。
カプについてだけどカプはそれぞれルート設けようかな
とぼんやり考えてます。
まぁやらないかもなんで期待はしないで。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 23:01:04.76 ID:qD68QWLDO
乙!!

一方通行が番外個体のことを好きって自覚あってそれを頭の中で好きなのにって思ってるのみると悶える
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/11(水) 01:30:48.33 ID:jjuwwPmDO

ファイトです
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/11(水) 19:42:26.03 ID:qMxRw4Ft0
>>153同士がいたか……
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/11(水) 21:40:16.87 ID:j7lkSs+Bo
好意をはっきり表せない小学生みたいなのが可愛いな
細かいところだがちょっと気になって、一方さんは、「ッ」は「っ」の方だと思うんだ
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/14(土) 23:24:58.13 ID:yDc0k1AS0
保守
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/05/15(日) 00:47:20.48 ID:Md26L3Sno
この板に保守は必要ないぞ
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/15(日) 20:07:40.89 ID:MugNHuly0
お久しぶりです>>1です
早速投下します
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/15(日) 20:12:51.11 ID:MugNHuly0


「はぁー、何やってんだろう私……」

屋上で一人、鼻声でミサワは呟く。
一方の発言が予想外に堪え、こらえきれずに泣き出して逃げてきてしまった。
確かに彼に対してこれまで色々と言ってきた。
その罵声を浴びた一方は酷く傷ついていたと思う。
でも言った方だって傷つくことはままある。

ミサワはいつもいじくり倒した後、帰宅して部屋に着くと猛烈に後悔の念で
悶える癖がある。
どうしてあの時あんなことを言ってしまったんだろう、嫌われてないかな。
そんなことばかり。
自己嫌悪中は徐々に胸を締め付けるから、その痛みを紛らわすように枕を強く抱きしめる。
大抵そんな日はそのまま寝てしまい酷い朝を迎えていた。
学校にいけば前の日のことについて言及されやしないかとビクつく。
でも一方は何事もなかったように接してくれた。
安心もしたし嬉しくもあった。

だから今回の意趣返しは寝耳に水で、耐性がなかった。
そして泣いてしまった。

「あのヒト、本当は今まで我慢してたのかな……。
 本当は嫌いだけど無理して付き合ってくれてたのかな……」

口に出すと涙がジワリと一緒に滲みでる。
そんな彼女の髪を屋上の風は優しくフワリと、撫でるようにふいていく。


「―――なーに黄昏ちゃッてンですかァ?」


思わず振り向く。
両ひざに手を付き、肩で息をする一方通行がそこにいた。
貧相な彼は汗を流すほど大変な思いをして自分を探してくれていたようだ。

舞い上がった。一方の行為がどうしようもなく嬉しい。
今度は嬉しくて泣いてしまいそうになっていた。
あ、こっちに近づいてくる。顔を整えないと。
だめだ、上手く整わない。おまけになんだか顔も火照って来た。どうしよう。


161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/15(日) 20:15:30.06 ID:MugNHuly0


「たくよォ、あちこち探し回ッて疲れちまッたぜェ」

「だったら放っておいてよ……」

これ以上近づかれて今の顔を見られたくない。
その気持ちが先行してついつい冷たい調子で問う。
こんなはずじゃないのに。上手くいかないものだ。

「誰かさんが泣いて教室飛び出しちまうからなァ。おわねェわけに
 いかねェだろォ?」

「知らないよ、そんなこと。第一なんでアナタはそんなに上からモノを言ってるの?
 言える立場なのかなぁ?」

どんどん深みにはまって罵詈雑言の連鎖を繰り返す。
どうしたらいい? このままじゃ本格的にこのヒトに嫌われちゃう。
嫌われる?
そしたらどうなるの?

きっと一緒にお昼を食べてくれなくなる。

フランクな会話もなくなるかな。

放課後の寄り道もボッチで帰るはめになったりして。

そんでメールの返信も電話にも出てくれなくなって。



それって最悪じゃん。ミサカ耐えらんない。
過剰な想像は天井知らずに膨れ上がって。
あたりの強いセリフとは裏腹に気持ちはどんどんしぼんでいく。
単に会話に加わろうとしただけなのになんでこんなに事態は悪化した?
ミサワは頭を抱えたい衝動を必死で抑える。

162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/15(日) 20:16:45.58 ID:MugNHuly0


とうとう一方はミサワの目の前まで辿り着いた。
額には無数の玉つぶ。幾つかは彼の頬をつたった。
自分の為に掻いてくれた汗なのだと再認識してまた嬉しくなる。
でもそのすぐ後にはまたさっきみたいなネガティブ思考のリフレイン。

そんなミサワを尻目に真っ直ぐ見据える一方通行。
そして、



「すまなかッたァァァァァァァァァ!!!!」





「え……」

ミサワは眼をひん剥いて驚いた。
それもそのはず。
なんせあの一方通行が。


土下座をしていたからだ。


「ほンッとうにすまねェ! 俺ァあン時普通にいつも通りお前が
 キツイ返しをしてくるもンだと思ッててよォ。
 まさか泣くなンてなァ」

確かに冷静に思い返してみれば泣くほどのことでもない。
いつもどおり悪態は悪態で返せばいい。
でも結果的に泣いてしまった。
乙女心は複雑だ。

163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/15(日) 20:17:45.43 ID:MugNHuly0
「ちょ、ちょっと。今回のは別にアナタが悪くないよ? 私が勝手に泣いちゃった
 だけだし。それにそんな……」

本当になんでこんなくだらないことで、

「汗いっぱいかいちゃうほど私のこと捜したの? 別にほうっておいても良かったのに」


「……ンだよ……」

「ん……?」

「お前にだけは嫌われたくなかッたンだよォ!」

「え……」

「捜してる間ずッと不安だッた。これで口きいてくれなくなったらどうするとかなァ」

私と同じじゃん。

「別に他のヤツにどう思われてもいいけどよォ。オメェだけにはその、なンだ……」

「その……?」

「だァァァァ、面倒くせェェェ!! とにかくそういうこッたァ!」

「ちょ、ちょっと、ハッキリしてよ」


自分と一方が同じ気持ちだった。どうしよう。
すごく、すごく嬉しい。
本当はもうちょっとヘタレず最後まで言って欲しかったけどね。
まぁ今はもうこれで十分かな。

ありがとね一方通行。
元気でたよ。

あぁ、教室帰ったらみんなにいじられるんだろうなぁ。
まぁ、いっか。

「あァ、教室戻ッたらどうなッちまうンだ俺」

アハハ……、やっぱ嫌かも。


学び舎に昼休みのチャイムが鳴り響く。
一方とミサワの距離がちょっとだけ縮まった。
ほんとうにちょっとだけ。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/15(日) 20:19:28.22 ID:MugNHuly0
とりあえずここまで
書き溜め出来たらまた深夜あたりきます
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/15(日) 20:26:37.42 ID:gHaDQgWg0

可愛いなぁミサワさんと一方さん
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/15(日) 20:34:18.05 ID:dOMRkKE90
青春しやがって畜生可愛いじゃないか!

だが一方さんの「っ」は「ッ」にはならん。これは譲れない。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/15(日) 20:54:36.10 ID:GofG06WDO
くそっ!ツンデレ共がストロベリやがって…
乙!
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/15(日) 23:31:53.37 ID:MugNHuly0
>>1です投下します
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/15(日) 23:33:37.71 ID:MugNHuly0
>>1です投下します
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/05/15(日) 23:34:16.56 ID:MugNHuly0
>>1です投下します
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/15(日) 23:35:58.19 ID:MugNHuly0
しまった連続で書きこんでしまった・・・



「なぁ、皆で浜面のお見舞いいかね?」

無事に二人で戻って来た一方とミサワ、それに加害者の麦野を交えて
上条は見舞いの提案を切り出したのは放課後のことだった。

「あァ? 面倒はごめんだァ。パス」

「そんなこと言わずに、な?」

一方は極度の面倒くさがりで、当然渋った。
上条はそこのところは含んでいたので一方限定のカードを切る。

(ここでお見舞い行っとけばミサワに気遣いのできる優しい人ってアピールできますぜ?)

そっと耳打ちした内容は至ってシンプル。
確かに一方限定で、しかもよく効く。
当の本人は、

「なァにィィィ!? ソイツァ本当かァァァ!!?」

まんまと思惑にはまっていた。

(マジでゲス)

「よォし!! ンじゃ行くかァヅラの見舞いに!!」 

「私、パース」

反対に乗り気ではない者も約一名。
麦野だ。


172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/15(日) 23:39:22.30 ID:MugNHuly0


「あァ? おめェ加害者だろォが。行っとけよォそこは」

一方にしてはまともな指摘に麦野はグッと詰まる。

「う、うるさいわね! いいじゃない別に! それに浜面だって私の顔なんて
 どうせ見たかないでしょ」

「まぁまぁ、菊の花と落雁(らくがん)でももっていけば浜メンもきっと快く迎えてくれるって」

「……ミサワそれ、お墓とかのお供え物アイテムですよ……?」

「そうなの?」

「そうなの!」

「えー、でも花の形したのとか色々あるし美味しいんだよ?」

首をかしげなんでダメなの? と眼で問い掛けてくる。
可愛いじゃねぇか、などとごまかされるわけにもいかないので、
上条は一応指摘した。

「あのですね。がんばって生きようとしてる入院患者に死者に手向けるお供え物の
 定番を親しい友人が持ってきたらどう思う?」

「でも美味しいよ?」

「スルーすんな!! 確かにそうだけども今はそこ違うから!!」

ミサワの理解が得られず中々会話が進まない。
彼女の中ではどうも落雁はありらしい。
ここまで言われるとそのチョイスは実はありで、俺の方がおかしいのか?
とさえ思ってしまう。
決してそんなことはないのにこの少女の反応はそれを覆しかねない。

「じゃぁ菊は!? 菊はさすがにないだろ!?」

そうだ。さすがにこれはないだろう。
食べれないし。
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/15(日) 23:43:29.33 ID:MugNHuly0

「え、なんで? 奇麗じゃん」

「なんですと」

奇麗ときたよ。成程、その返し方は想定外だった。

「もう、夫婦漫才はいいから」

「夫婦だとォォ!? てめェ上条いつの間にミサワとッ……」

「ないからそんな事実!!」

「あ゛ぁめんどくせ、もう行くわよ行きますよ行きゃぁいんでしょ」

「最初からそうしてくれ、疲れた……」

「疲れた時には糖分だよ上条、落雁食べてみる?」

「いらねェェェェェェェェェェ!!」

結局フルーツの詰め合わせと授業のノート、それにバニーのAVに決定した。

「ねぇ、らくが……」

「ダメ絶対!!」

「美味しいのに……」

174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/15(日) 23:44:55.89 ID:MugNHuly0


「はーまづらぁぁぁぁぁ……」

「どわぁ!! って絹旗かよビックリさせんな」

地の底から這い出るような声の正体は絹旗で、その様子はどこか、というか
確実に悪い方に変貌していた。
やつれている。

ここ三日間、絹旗は毎日見舞に来ていた。
いつも見舞いの品を携えて、だ。
時にはリンゴを剥いてくれたりも。
その時の絹旗のリンゴの皮をむく様は反則的だったらしい。
丸椅子にチョコンとすわり太ももに皿を置き、そこに剥いた皮を落としていく。
その姿は甲斐甲斐しくもあり、そしてかなり可愛かった。
まぁ切り終えたリンゴは殆ど身が残ってなかったけど。


「……今日は超リベンジです」

「お、おうそうか。頑張れ!」


絹旗は今日もリンゴを持ってきた。なんでも雪辱を晴らしたいとか。
ラマーズっぽい深呼吸で意識を集中しいざリンゴへ入刀。
眼はすわっていた。


「……」

「……」


病室にはシャリッシャリッとリンゴの皮が剥ける音が響くのみ。
あいかわらず絹旗の手つきはぎこちない。
でも改善もされている。
前のように身が殆どないということはなさそうだ。
それでもみていてハラハラする。
そしてやっぱりやらかした。
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/15(日) 23:46:06.05 ID:MugNHuly0

「イタッ!」

「どうした」

みると絹旗の一指し指からプックリ血が出ていた。

「あっちゃー、やっちゃいましたね。今回はうまくいくと思ったんですけど」

「ちょっと手かせ」

「え、ちょっ」

言うが早いか浜面は絹旗の手を素早く掴み、そして怪我をした指を咥えた。
その表情は真面目そのもので無下にも出来ない。
だからこそ絹旗はどうしたらよいのか混乱した。

「ちょちょちょ、は、ははは浜面!? なななな何をッ」

「何って、血ぃ吸ってんだけど」

「ばば、黴菌が移ったらどうすんですか!」

「そんときゃ責任とるよ」

「せ、責任……」

シチュエーションが違ったらアレにしか聴こえないセリフを平然と吐く浜面。
素で返されちゃどうにも出来ない。絹旗の顔は血のように赤くなる。
実際頭に血が上ってるのだが。

「うし、止まったな」

「あうぅ……」

「どうした、なんか滅茶苦茶に顔赤いけど」

「だ、誰のせいですか……」

「俺のせい?」

「そうですよ」

そんな絹旗はどこか上の空。というか先程まで浜面が咥えていた指を口元まで
寄せていた。眼はなんだかトロンとしていて口もちょっと開いている。
まさか、咥える気か?
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/15(日) 23:47:07.66 ID:MugNHuly0

「おい、絹旗!」

「はっ、な、なんですか?」

「いや、今お前人差し指咥えようと……」

「な、そんなわけないじゃないですか! 私が浜面の唾液が一杯ついた指を咥えて
 間接キスしようだなんて……」

「何だって?」

「な、なんでもないです!!」

「ならいいけどよ」

「そうだ、すっかり忘れてましたけどデビルマンどうでした?」

デビルマン。
そういえば絹旗から借りて見たな。貸してくれた本人が言ってこないので
こっちも完全に忘れていた。
感想を聞くとか言っていたけど。

「お前なぁあれのどこが名作だよ。相当酷かったぞ」

「主にどの箇所が、ですか?」

数え上げたらきりがない。
主演の役者は大根過ぎるし意味不明なボブ・サ○プや小林○子などのカメオ出演。
思い出したら腹が立ってきた。
あの映画は浜面の生涯No.1のクソ映画になっていた。

「うんうん、わたしとほぼ同じ意見ですね」

「つうかお前わざわざアレのDVD買ったのかよ……」

「あぁ、ワンコインのワゴンにあったやつなんで気にしないでください」

「そうかい……」

なんだよこれ。
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/15(日) 23:48:45.75 ID:MugNHuly0


コンコン。不意にノックがは室内に響き渡る。
ナースが回診にでもきたのか。
とにかく浜面は「どうぞ」と返事をした。
その返事をまっていたかのようにわらわらと見知った顔が入ってきた。
その面子とは入院して以来の顔合わせだ。
いままで全くきてくれなかったから浜面は内心ちょっとへこんでいた。
だからこのハプニングは嬉しいものだった。

「よう浜面ー、アバラの調子はどうだ」

「上条、いやまぁそこそこいいよ」

「あれ、絹旗? すごい久しぶりー! なんでいんのー!?」

「ミサワ!? うわ、超ひさしぶりです!!」

少女二人は久しぶりの再会に驚きと喜びを噛みしめた。

「ちょっとどうしたの絹旗。アナタ私以上に隈とか酷いよ?」

「え、えぇこれはちょっとですね……」

「ま、まさか浜メンに入院中あんなことやこんなことされて……」

「ないからそんなこと」

浜面は案外冷静に突っ込む。
こんな感じの出来事は前にもあったので慣れたものだった。
そんなやりとりのさなか、視界に麦野を捉える。
彼女の顔はどこか浮かなく元気がない。
やはり自分に怪我を負わせたことを気に病んでいるんだろうか。

「まぁまぁ。ほら浜面お見舞いの品」

「お、サンキュー」


口火を切った上条をきっかけに他の連中も各々に見舞の言葉を述べる。
ミサワは相変わらずの毒舌で。
一方はミサワの目を気にしてか似つかわしくないセリフを。
最後に「抑止力としてこれからも頼む」と言われたがなんのことかさっぱりだ。
まぁ、どうせろくな事じゃないんだろう。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/15(日) 23:51:18.35 ID:MugNHuly0
今回はここまでです
また週末あたりに投下したいと思います

179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/16(月) 00:04:24.46 ID:pBiuEsGlo
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/05/19(木) 13:26:20.25 ID:+jBGMoIb0
んあ〜待ち遠しい…
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/21(土) 22:28:25.28 ID:+RJam2oQ0
>>1はできる子
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/22(日) 18:40:48.53 ID:E+pJRadM0
すみません
今週忙しくてあんま書き溜めできなかった・・・
少ないけど出来た分だけ投下しときます
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/22(日) 18:48:00.56 ID:E+pJRadM0


浜面の病室で再び邂逅を果たした絹旗と麦野。
お互いに気まずい。
相当に高いボーダーラインが出来上がってしまっているようだ。
端から端まで行っても壁が続いて入国ゲートが中々見当たらない。
やっと見つかっても入国審査の基準があまりに厳しく門前払いは必死なんじゃないか。
それくらいにはこの二人の関係は先の事件でギスギスしていた。

他の連中は盛り上っていたのだが二人のそんな様子をみてそうもいかなくなり動向を
見守っていた。

「おば……」

「おいコラ」

絹旗はまたもや禁断の言葉をいいかけ、麦野はいち早く反応し咎める。
しかし絹旗は食いさがらない。

「この間はおばさんなんて言ってすいませんでした」

何て良い子だろう。涙がでる。
謝る、という行為は簡単なようで案外できないものだ。
特に絹旗のような年頃だったら素直に謝るなんていうのはプライドが先行して
そう簡単に出来るものではない。
絹旗は大人の階段を上ったのだ。
見て欲しい、なんて誇らしい顔だろう。
あれが一歩成長した思春期の少女の顔つきだ。
ただ一つ苦言を呈するならば『おばさん』は避けたほうがなお良かったということだ。

「謝るのはいい……、いいがなぁ」

184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/22(日) 18:53:20.56 ID:E+pJRadM0


平和は歩いてはやってこない。お互い歩み寄ることが必要なのだ。
そして絹旗は見事に歩み寄った。
しかしその方法は争いの火種も混入していた。

麦野は敏感に『お』で始まるワードに反応した。
こめかみに血管が浮かびピクピクひくついている。
歯は精いっぱい食いしばり、キリギリと音まで聴こえてきた。

「わざわざ一字一句揃えていう必要あるのかにゃーん?」

「全く超大人げないですね。あなた幾つですか?
 まだ浜面の方が大人の対応出来てますよ?
 人類として恥ずかしいと思わないんですか?」

「ちょっとまて。俺人類以下?」

「いいさ、今回は許す。けど次にまたあのセリフをいったら……、わかるわよね?」

「俺はよくないぞスルーしないで」

結局二人はお互いに悪かったということで妥協し一応形だけの和解を果たした。
両者とも笑顔を浮かべてはいたが内心穏やかではないだろう。

「全く二人とも仲良くしろよ。浜面のお見舞いなんだから」

「「フン」」

「はぁ、前途多難だな」
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/22(日) 18:55:05.40 ID:E+pJRadM0


落雁、ではなくみずみずしいフルーツを冷蔵庫にしまおうと向うと、
既にリンゴが置いてあるのに気付く。
どれも上等なものに見える。
浜面が手に持っている剥きたても同様のものだろう。
麦野は問い掛ける。

「ねぇこのリンゴ……」

「あぁそれ、絹旗が持ってきてくれたんだ」

「ン……?」

絹旗? この常盤台のガキがか?


「ここ三日間ずっと見舞いにきてはリンゴ剥いてくれてんだよ」

「へぇ……」

なんだろう、妙にイラつく。
このクソ生意気な絹旗とかいうガキが浜面の為に通いつめてる?
なんだそりゃ笑える。
私が原因で入院してるんだからんなことしなくていいのに。

「包丁さばきはこの三日間で超上達したと自負出来ますね」

そう話す絹旗の顔は見た目こそ酷いが笑顔は取り繕うでもない本物の
素のそれだ。
麦野はイラつきとは別に羨望の感情も湧いてきた。
そんな顔が自然にできる程に彼女にとっての三日間は充実したものだったのか。
なんだかとっても出遅れてる気がしてきた。
そう思うほどに目の前の二人のじゃれあいは見るにつれてやきもきさせられる。
麦野は浜面に対しての自分の気持が未だ推し測れずにいた。
この感情の正体を確定するには決定的ななにかに欠けている気がした。
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/22(日) 18:56:27.71 ID:E+pJRadM0


「ほォ、浜面はリンゴよりも甘酸っぺェ生活送ってたんだなァ」

「やるなぁ絹旗」

「ちょ、なんですか。上条も一方も。超よしてくださいよ。わ、私はそんな、別に……」

周りのガヤ、絹旗の反応。どれをとってもいらつく。
最高に居心地が悪い。

「なぁどうした麦野。さっきからなんか機嫌悪くね?」

流石に表情に出過ぎていたのか珍しく浜面にまで気遣われる。


「! べっつにー? てか機嫌なんかわるかないしぃ」

「嘘つけ。顔の中心に皺集めといてよ」

「アンタ入院日数延ばしたいわけ?」

「きっと頭に糖分が行きわたってないからイラつきやすくなるんだ」

そういうと手元のリンゴをフォークで刺しそのまま麦野の口に放り込む。

「オラ、コイツ咥えろよ……」

取りようによっては卑猥に聴こえかねないセリフで浜面はリンゴを食べさせる。
当の麦野は何が起きたのか一瞬わからないといった様子で、口から半分リンゴを
呆けた様子で咥えていた。
やがて意識を戻すと途端に眼を白黒させ、顔はリンゴのようにそれはもう赤く実ったものだ。

「は、はにふんおよ!!」

「ちゃんと食ってから喋れ」

「は、浜面が、浜面がむ、麦野に、あ、超アーンを……、あぁ……」

冷静な少年にあわあわする少女が二人。三者三様。
今度は絹旗が歯ぎしりをした。
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/22(日) 18:58:45.91 ID:E+pJRadM0


「なぁんか滅茶苦茶修羅場じゃない?」

ミサワの意見に男二人は同意せざるを得ない。
浜面は気付いていないようだが、第三者がみれば殺伐、そして荒涼とした風景。
両の手を握り拳にしてプルプル震える絹旗。
彼女は今猛烈に嫉妬の炎で胸の内が燃え上がっている。

「は、浜面! ど、どうしてそのオバ、ゲフン、麦野にリンゴをあーんするんです!?」

「いや別に他意はないよ。イラつくのは糖分が足りないからと思って……」

「カルシウムです!! この超馬鹿面ぁ!!」

「えぇー……」

怒る絹旗に対し麦野は目の前の少女の憤慨っぷりを見て、妙な優越感が湧きおこるのを
感じ取っていた。
成程、このガキの反応はそういうことか。
「フフフ」と周囲に気付かれない程度の微笑を浮かべる。それは美しいとは形容しがたく
何かよからぬことを企んでいる類の、だ。
すすす、と平行移動のように浜面のベッドに近づく。

「ど、どうした麦野」

ベッドの真横まで到達。行動開始。

さぁそこで指を咥えて悔しがりな絹旗ぁ?

「リンゴありがと。美味しかったよ?」


手はそっと添えるだけ。
柔らかく包み込むように手を浜面の手の甲に乗せる。
何事かと顔を上げた。
そこにあったのは、これでもかというほど妖艶な微笑みだった。
握ってないもう片方の手で髪をハニカミを混ぜて
掻きあげて。仕草の一つ一つが最強の美を演出してる。
意識をしっかり保っていなければ即効で落ちるレベル。
奇麗だ。奇麗過ぎて気の利いた世辞が浮かばない。
口が半びらき状態の浜面は何かないかと必死に脳内で褒め言葉を探す。
あまりに集中し過ぎて、麦野の後ろから「浜面この野郎」という上条の野次すら
聴こえてはいなかった。

「お、おういいってことよ……」

ようやく出てきたかと思えばこれだ。
発した声は歌い過ぎた後のように掠れて聴こえる。
実際口内の水分が無いに等しかった。

「ちょっと! それは私が持ってきたリンゴですよ!! 礼なら私に、じゃない、
 その手を超離しなさい!!!」

今日はあちこちで色んな人が忙しい。
絹旗はあどけない体をいっぱいに震わせ、顔は般若と化している。
恥じらいの色が赤なら怒りの色もまた赤だ。


そんないたいけな少女の怒りなどお構いなしに麦野は誘惑を続ける。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/22(日) 18:59:44.21 ID:E+pJRadM0
今回はここまでです。
ではまた今度。
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/22(日) 19:46:30.84 ID:lXdoWL9DO
乙!

190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2011/05/22(日) 20:04:32.94 ID:odVhfTNAO


浜面この野郎
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/22(日) 20:23:33.81 ID:3UDiV55SO
あんた焦らすね
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/24(火) 01:51:24.30 ID:2/+Yk0e00
浜面てめぇこの野郎調子こいていうそですごめんなさい、女の落とし方教えてください
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/26(木) 01:28:43.16 ID:SQSnnJ260
投下します
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [age]:2011/05/26(木) 01:30:07.38 ID:SQSnnJ260


「何だか麦野凄いね。積極的だよ。ミサカはあんな風にはできないかなぁ」

「あれはどうみても仕込みだろォ。男の純情もて遊ぶたァ恐ろしい女だなァ」

「麦野って自分でどんどん株下げてくタイプなんだな」

外野がそう漏らすのも無理からぬことなわけで。
そして渦中の浜面はそんな冷静な見解など皆無な状況だ。

「その手を離せー!」

「いーやよ」

金切声を上げるリスとそれを華麗にいなす女豹。
徐々にエスカレートしベッド側にいた麦野は体勢を崩した。

「きゃっ」

普段の暴力を内包したものとは全く違う、女の子らしい短い悲鳴。
その悲鳴に端を発したのか、病室内はシンと静まり返った。
静閑の原因はそれだけではなかった。

「……」

「……」

倒れた拍子に麦野は咄嗟に掴むものを探す。
そうして掴んだのが、浜面の両肩。顔は丁度胸の位置。
要約すると抱きつく形に落ち着いた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/26(木) 01:31:23.94 ID:SQSnnJ260


麦野でも浜面でもなく絹旗の悲鳴が院内に轟いた。



ちっこいガキの浜面に対する所作の一つ一つが気に入らなかった。
なんで? と聞かれると正直わからないわよ。
ただなーんか胸の辺りがムカムカして、そしてちょっと、ほんのちょっとだけズキっと
したかな。
この違和感を取り払うにはこのませガキをおちょくるのがいいかしらね。
まぁぶっちゃけいたずらしてる最中も気付いてたよ。
そんなことする自分が一番ガキなんだってさ。
ただ負けらんないっていう気持ちが強かった。
んで調子にのって恋人まがいの、砂糖吐きそうことやってみたんだけど。
まぁあれよ。アーンよ、アーン。バカップルの王道行為。

感想?

あー、ぶっちゃけていうと、なんかこーうふわふわした、かな?
いや、うーん、わかんないよねこれ。
まぁそれは置いておこう。あ、絹旗は面白いくらい期待通りの反応してくれたわね。
それ見れただけで十分だったけど。そのやきもち焼く様が嗜虐心をくすぐる可愛さな
もんだからつい、ね。あれをキャットファイトっていうのかしら。
暴れた暴れた。
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/26(木) 01:33:49.62 ID:SQSnnJ260

そしたらよ?
バランスが崩れて倒れそうになって、んで。
危ない、と思って咄嗟に何か掴んだらさぁ?
浜面の肩だったわけよ。
しかも顔は胸の中に納まちゃって。

え、どうだったって?

案外たくましい感触だったわよ? っていやいやえっとぉ……。
胸板が堅くてそんでちょっとあったかくて、あーいや、その。
んでなんかバクバク激しい音が聴こえんなと思ったら心臓の音っぽいじゃん?
浜面の音だってわかったら、こっちまでなんかドキドキしてさぁ……?
一瞬時間止まった気がしたわ。
そんで浜面と私だけ動けんの。
お互いの、伝わる恥ずかしさがそうさせたんだろうけど。
そして時が動き出したらあのガキは悲鳴上げてるし。
私は私で顔熱いわ、またふわふわするわで落ち着かないし。

なんなんですかねぇ、わかりませんねぇ。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/26(木) 01:55:31.75 ID:SQSnnJ260


「うぅ、麦野はビッチです。しかもただのビッチじゃないんです。
 超ビッチです」

「私がいない感じでいうなよおい」

ショックから立ち直った絹旗の第一声は身も蓋もないものだった。
一回の見舞いで色々あり過ぎ疲れた麦野は制裁をする余力もない。


「「なんで絹旗はしょげてんの?」」


上条そして浜面の、正気を疑う発言。
一方は溜息をつき、ミサワは腹を抱えて笑い、麦野は少女に同情し、絹旗は怒った。

「ちょうどここ病院なんで二人とも精神科行ってきたらどうですか?」

年下の女子中学生にすごまれながら酷いことを言われた。
あまりに真に迫っていたので何の疑問も持たず精神科へと腰を浮かせかけたくらいだ。


超前途多難ですね、胸中でこうぼやかずにはいられない。







198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/05/26(木) 01:56:19.95 ID:SQSnnJ260
今回はここまでです
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/26(木) 03:23:26.67 ID:hpoxgxTDO

毎度続きが気になるの
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/01(水) 15:38:04.71 ID:9GxAYkCt0
まだか
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/17(金) 20:47:07.43 ID:ZVktaMiE0
まーだーなーのー
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/06/19(日) 22:56:22.58 ID:AmmQbQNh0
>>1です。
すいません大分間をあけてしまいました。
お久しぶりです。
ではさっそく投下します。
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/06/19(日) 22:59:54.23 ID:AmmQbQNh0


騒がしくも楽しいひと時はいつだって早く過ぎるもの。
大っぴらに学校が休めるとはいえ、入院生活が三日も続くと流石に辛い。
今はもう学校のあの喧騒が恋しい。
窓から覗く夕焼けの淡い光が余計に寂しさを誘ってしょうがない。
ベッドでこのままじっとしていたら退屈で死んでしまう。
少々面倒だが院内を歩いて回ろう。
アバラの痛みに顔をしかめつつベッドから降り、浜面はスリッパを履いて院内探索へとおもむいた。


とはいってもそうそう面白いものなんて見つからない。
あるのは病院特有の薬品臭さと不気味なほどの清潔感。
非常扉の緑色のライトアップにちょっとビビったのはご愛嬌。
怖い建造物ランキングがあったら病院は間違いなくトップだろうななどと考えふけっていると
あの自販機の前まできた。

滝壺と出会った自販機前だ。

ここも照明が乏しく、自販機の明かりが唯一おぼろげに灯っている程度だ。
窓もないので相当暗い。
ホラーテイストもはなはだしい。
ここで黒髪長髪の女が出てきたらと思うと……。
よせばいいのにそんな妄想をしてしまう。
すると前ぶれ無しに肩をチョンチョンと控えめに叩かれた。
このタイミングでのこういった出来事は良くない。とにかく良くない。

「はまづら?」

今度は声をかけられた。
それは聞き慣れた声で、安心してほっとした。しかしそれも一瞬。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/06/19(日) 23:03:59.49 ID:AmmQbQNh0


振り向くと下から顔をライトアップというベタな手を使う滝壺がいた。
しかし先ほどからの妄想で自分で勝手に恐怖新心を煽っていた浜面はそうと気付かず情けない
悲鳴を廊下に轟かせたのだった。



「大丈夫? はまづら?」

首をちょこっとかしげ心配する滝壺は相変わらずのボーっとした顔。
ライトは依然として顔を照らしたままだ。

「だいじょばない」

そのライトアップ法に若干顔を引きつらせながら答える浜面。
そもそもなんでライトを?

「このあたり照明無くて暗いから」

そういうと何故かエヘンと胸を張る。
その間胸が強調されたのを思春期の浜面は見逃さない。
やっぱりこの子は測り知れないところがある。

「でもなんでわざわざそんなホラーな照らし方を……」

「きぶん、かな?」

感情の表現に乏しい彼女にしてみれば十分なお茶目心なのだろう。
はにかみつつそんなこと言うなんて反則過ぎる。

「また飲み物買いにきたのか?」

「……そうだよ」

問いに対しての妙な間を挟んでの応答。
時間にしてみれば3秒にも満たないが少し気になった。

「ん? この匂い……」

滝壺との距離感は人一人分ほど。
病院の薬品臭さとは別の、鉄のような匂いを感じとった。
どこかで嗅いだことのある匂いだ。
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/06/19(日) 23:08:45.03 ID:AmmQbQNh0


「……飲み物買わないの?」

その問いでぱったり思考は途切れた。
滝壺の問いに「買う買う」と元気よく答える。

「滝壺もなんか飲むか? 奢るよ」

「ん、いいよ。はまづらに会いたかっただけだから」

「な、なんだって……」

「だって病院って知り合いいないからつまんないんだ。だから」

「あ、あぁなんだそういうこと……」

期待のもてるセリフは次には落胆をもたらした。
多少がっくりきたがそれでも話相手として自分を探してくれたことは
素直に嬉しい。

「ね? お話しよ?」

眠たげな眼はしかと浜面をとらえる。
このような場合に男が断る、なんてことはまれだろう。
もしその逆を行く奴がいたのならそいつは不能か同性愛者に違いない。
可愛く、庇護欲を駆り立てられる。
滝壺はそんな感じの娘だからだ。
要は魅力的な女の子ということなわけで。
断る要素は微塵もない。一切、全くもって。

「喜んで!」

飲食店の店員よろしく元気に返事をする。
男というのは単純だという一端を垣間見える瞬間といえた。
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/06/19(日) 23:10:30.48 ID:AmmQbQNh0

会話が弾まなかったり、相手の話がつまらなかった場合に手近なものを手繰り寄せ、
いじくりまわすということはある程度の人は経験があると思われる。



今の浜面がまさに先に述べた前者のそれで、手にもっていたサイダーのボトルキャップを
開けては締めるの動作を繰り返していた。

原因はやはり隣に鎮座する滝壺にあった。
生気をぎりぎりに保っていると思う声音でしゃべるものだから、話を振るこちらとしては
トークの腕の無さを痛感させられるようで、気分は萎える一方だ。
沈黙が痛い。
10であたれば1、いや良くて1.5くらいで、マイナスで返ってくる。
やっぱりこの間のことをまだ気にしているんだろうか。
でもそうならわざわざ誘うはずはない。
腕を組み難しい顔で思案した。その姿は似つかわしくなかった、相当。

「はまづら?」

「んぁが!? げぇっほ!! どした!?」

向こうから不意に言葉をかけられたせいで器官に三○サイダーが入り喉を殴り倒す。
込み上げるげっぷを喉元で抑え込み涙目で相手を見遣った。

「はまづらはうそつきってどう思う?」

「は? 嘘つき??」

問い掛けのどうにも中身は不可解で答えに窮する。答えようによっては地雷を踏む可能性を
考えなければ。
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/06/19(日) 23:13:05.64 ID:AmmQbQNh0

「どう思う?」

なおも滝壺は問い掛けてきた。ずいっと食い気味に顔を近づける。
その大胆な行動に少し脈が早まった。
首を振り考えを戻す。
どうせ自分が長考した所で月並みの返答しかできない。
えぇい、と考え過ぎで汗がでる手前で浜面は答える。

「基本は、そうだな。良くないとは思う。でも時と場合によってはいいんじゃないか?」

「時と場合?」

眠たげな少女の瞳の奥が揺れた気がした。しただけで気のせいかもしれない。
だけども両の手は握り拳になっている。
高尚なものを期待している、そんな感じだ。

早くも後悔した。なにも浮かばないのだから。
再びの沈黙。しかし滝壺は顔を近づけたまま。
ああ、これは続きをうながしてるのかと数秒かかって理解し、要望どおりに続ける。

「なんつったらいいかな……。誰にも迷惑がかからないというか、うーん」

絞り切った雑巾からさらに水を切ろうと無理をして絞る、要するに全く良い言葉が
出てこない。

「それが自分にとっては大切で、自分を保つための嘘なら、いいんじゃないかなぁ……」

正直自分でもなにいってんだろうと、床を転げ回りたい衝動にかられた。
それでも滝壺は神妙な面持ちで、真面目に聞いていてくれていた。
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/06/19(日) 23:14:56.73 ID:AmmQbQNh0


「あ、そうだ。ほら! スパイダーマンとかバットマンとかさ。周りには嘘ついてヒーロー
 やったりしてるだろ?アイアンマンは正体明かしちゃってるけど、あれみたいな感じ……」

「見たことないからわかんないよ……」

「あ、そう……」 

「ありがとう、はまづら」

「あ、あぁ?」

お礼を言われるようなことはした記憶が無い。
どう受け取っていいのか分からなかったが、貰えるもんは貰っとけとでもいうように
「どういたしまして」とぎこちなく返すことしかできなかった。
それでも満足したのか、ほんわかとした柔らかな微笑みで滝壺は応えてくれる。
思わずドキリとしたし生唾を呑みこんだらゴクリと音が聴こえてしまった。

「はまづらおかしい」

ころころ笑う滝壺と頭をボリボリ掻く浜面。
照れ気味に相手を窺う。
そして浜面の視線はある一点に注目した。

口元を押さえ笑う滝壺のパジャマの袖部分。
うっすらと、本当に分かりずらい程度にほんのり赤黒いシミができていた。
それはまだ真新しいようで、微量ながら匂いを発している。

さっきの鉄の匂いだ。

色といい匂いといい、思いつくのはただ一つ。

「なぁ滝壺、その袖の赤いのって血か?」

何のけなしにフランクに聞いてみた。
深い意味はないし滝壺も軽く応えてくれるものとたかをくくっていた。
実際にはそうならなかったけれど。

「……なんでもないよ」

「え、そ、そうか。ハハハ……」

空気が重い。というか滝壺の雰囲気が重い。
表情はさして変わらず眠たげなのに纏うものは段違いだ。
触れるな、と言いたいのだろうか。

「詮索屋のはまづらは応援できない……」

そう言い残し滝壺は去って行った。
その後を追う事も出来ず、訳が分からずにボーっとするしかなかった。

209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/06/19(日) 23:44:26.83 ID:AmmQbQNh0

またやってしまった。
どうにも自分は滝壺の怒りのツボをつつくのが得意らしい。
ちなみにうまいとかそんなこと全然思ってないから。

飲み干し空になったボトルをゴミ箱に投げ入れ病室に向う。
不可思議とまではいかないけど滝壺のあの豹変ぶりはこれいかに。

詮索屋、ね。

そういえば最初に滝壺の機嫌を損ねたときも今回も、腕付近の指摘が
原因だったなと思い返す。

腕になにかあるんだろうか。血の事も気になる。
パカパカとスリッパの音を響かせ歩くが特になにか思いつく、という
わけでもないのでこの話について考えるのは保留にしおこう。
そう決めると単純なこの男は切り替えが早いものでグゥッと腹の音を
轟かす。
通りがかりのナースにクスクス笑われようが男・浜面は気にしない。
しかし顔は熱かった。

「さーって。隠しておいたスパムでも食いますかね」

部屋に辿り着くと冷蔵庫に隠しておいたスパムを嬉々として取り出す。
パンとかなにか組み合わせるものなどない。
スパム一択。

「んめぇ、んめぇ」

浜面事態がジャンクっぽいからジャンクフードはお手の物。
それはもう美味そうにスパムをたいらげる。

「ごっそさん!」

パンッと手を合掌させ食事? を済ませた。


210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2011/06/20(月) 00:01:24.70 ID:agch81/D0
今回はここまでです。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/20(月) 00:01:26.24 ID:LaeoyCa70
来たか…待ちわびたぞwwww
できれば定期的に来て生存確認だけでもしていってくれ
1週間から2週間に一回ぐらいでいいから
最後に一言、≫1乙
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/20(月) 09:14:17.29 ID:LHJvAGrG0
>>1乙!
久々に見れて安心したぜぃ
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 17:49:00.84 ID:+f8PVGqIO
>>1乙!

滝壺は病気設定なのか・・・
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/08(月) 21:41:09.05 ID:74UPzz0r0
生きてますかー?
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