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少女「奴隷はもうやだよ……」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/13(金) 23:18:16.65 ID:L16NlBrCo
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  昼 トルキア商人ガレー船甲板

 ギーコっ、ギーコっ

少女(暑いな……。体中が軋んで、もう、動けない……)

少女「神様、何でもします、だから、たすけ……」ボソ
少女 ふらぁっ

奴隷頭「おい、そこの奴隷!
 誰がオールを使う手を休めていいと言った?」

少女 ビクゥッ

 ヒュパッ、パシーンッ!!

青年奴隷「ぐあぁっ!」

奴隷頭「ったく、怠けることだけ憶えやがって。
 海の底で魚のエサになりてえかぁ? あぁっ?!」

青年奴隷「ゆ、許してください」

奴隷頭「だったら体を動かせ、よぉっ」バシーン!

青年奴隷「ぐぅううっ」
奴隷頭「いいか! ムチが怖けりゃしっかり働けよ!!」

奴隷達全員「はいッッ!!」

 ギーコっ、ギーコっ

少女(ムチは、怖い……
 痛くて、熱くて、血がずっとにじんでくるから。
 ずっと、オールで漕いでるせいで、
 もう手の皮もボロボロになっちゃったよ……)

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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/13(金) 23:19:25.12 ID:L16NlBrCo
少女(商人の人たちは商品を運ぶためのガレー船に、
 人を捕まえて奴隷として鎖につないで働かせるって、
 本当だったんだ……)

 ギーコっ、ギーコっ

少女(ずっと、そんなのはただ、
 言うことを聞かない子供を怖がらせるために、
 大人が大げさな事を言ってるんだって、
 そう思ってた……)


青年奴隷「…………ぐ、は、っ」

少女「……大丈夫?」ぼそっ

青年奴隷 ぎろっ
少女「ひ……っ」

青年奴隷「喋る……ぜ、余裕……は、有るならッ。
 力、入れろッ……ぜはっ」

少女 こくん


 ギーコっ、ギーコっ

少女(ムチで叩かれた後から血が滴って、
 汗でぐっしょり濡れた服に、血が広がって……
 叩かれてたのは、私だったかも)

奴隷頭「右側遅れてるぞ!
 もっと気合入れてヤレっ!!」ヒュパンッ!

奴隷達「はいッッ!」

 ギーコっ、ギーコっ

少女(奴隷……)
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/13(金) 23:20:21.45 ID:L16NlBrCo
船員 たたっ

少女(どうせ痛い思いするなら、
 ムチで叩かれないで済む分だけ、
 辛くてもがんばったほうが、痛みは少なくて……)


船員「奴隷頭よぉ、二時間経ったぜ」ぼそぼそっ

奴隷頭「お、そうか。
 よぉーし、お前ら、交代の時間だぞ!

 休んでいるヤツを起こして、代わらせろ。
 今までオールを使ってたヤツはしっかり休めよ!」

奴隷達全員「はいッッ!!」


 ごそごそ

少女(やっと、休める……)

青年奴隷「……なぁ、あんた」ぼそぼそっ

少女「……はい?」ぼそっ

青年奴隷「間違っても、連中の耳に入るようには
 祈りじみた言葉は口にするな……特に聖句は絶対にだ」


少女「さっきの、助けて、ですか?」

青年奴隷「それだよ。トルキオのやつらと来たら、
 以前からそうだったが、一神教の人間に対しては、
 何倍も敵意を見せるようになってやがる……」

少女「忠告、ありがとうございます」

青年奴隷「……巻き込まれたくないだけさ」

奴隷頭「おいそこっ! 会話するなら堂々としろ!」

青年奴隷・少女「はいッ、わかりました!!」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/13(金) 23:21:06.82 ID:L16NlBrCo
 ギーコっ、ギーコっ

少女(みんな、疲れきった顔……)


少女「……っ」ほろり、ほろり

少女(汗を流したいな……
 冷たい川に入って、水浴びしたい。

 ビスケットとラム酒だけの食事も、もうヤだ……
 せめて、水の一杯だけでも、欲しいよ……)


少女「……っぐ、……ひっく」

奴隷頭「……おい、そこの」

少女 ビクッ
奴隷頭「水が勿体ねえ。泣くな」

少女「……は、はぃ」ぐっ


少女(涙を流す自由さえなくて……
 ただ、あの島の外を見たかっただけなのに、
 どうしてこんな事になっちゃったのかな……)


 ギーコっ、ギーコっ

少女 ぼーっ……

少女(……あれ、あの水平線のって、
 船、かなぁ?)うとうと

少女(祈りが神様に届いて、
 助けに来てくれた人だったり……
 なんて事は、ないよね)すぅ、すぅ
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/13(金) 23:22:00.97 ID:L16NlBrCo
 ずだぁあああんっ!!

少女 ばっ

奴隷頭「やりやがったな、連中!」

少女(襲撃っ! さっきの船が?!)


奴隷頭「奴隷共っ! 隣でまだ眠りこけてるやつを、
 ケツに火ぃ付けてでも目を覚まさせてやれ!
 でもって全力で進めぇ!」

奴隷達 ざわざわ

 ヒュパッ、パシーンッ!!

奴隷頭「さっさとしねえと、あの船が来るより先に
 俺のムチが手前らを海のモクズに変えるからな!」

奴隷達「はいッッ!」

 ギーコっ、ギーコっ


奴隷頭「ったく、見張りの野郎……
 仕事中に寝るとか何を考えてやがるッ」

見張り「すいやせん、へへっ」

 どたどた

船長「おい、何があったんだ?!」

奴隷頭「九時方向に敵影が一つ、
 距離……1マイル半(2.4キロ)ってトコです」

船員「近いな……おい見張り、相手は何だ!」

見張り「ジョリー・ロジャー(海賊傍)があるから
 相手は海賊だぁ!
 っと、敵船が手旗でなんか言ってるぜ!
 撃たれたくなけりゃ、帆を揚げて漕ぐのをやめろと」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/13(金) 23:22:56.78 ID:L16NlBrCo
船長「あぁん、なに言ってやがる。
 『ふざけんな』って返してやれ!

 あんな外洋型のなりそこないみてぇな、
 デケェ船で追いつくわけネェだろぉよ!」

奴隷頭「……いや、待ってくれ。
 おい、見張り! 傍には何が書いてある」


見張り「交差したマスケットに
 タコがからみついたドクロのマークだ!」

奴隷頭「ちくしょうっ、やっぱりか……っ」

船長「おい、どうした?」


奴隷頭「こないだ寄った港の安酒場で聞いた噂です。
 たった一隻、それも外洋型のデカイ船だけの
 おかしな海賊がいるって噂ですよ。

 もし、マスケットとタコの旗を見かけたら、
 商船だったら迷わず白旗を揚げろと」

船長「ほう? どうしてだ?」

奴隷頭「どうしてってそりゃぁ……」

 ずだぁあああんっ!!
 ぐらぐらぐらっ

奴隷頭「こういう事ですよぉっ、船長!
 連中の船ときたら足も速いし手も早いって、
 もっぱら評判なんでさ!」

船長「んなバカな……まだ距離が1マイルはある!
 そんな距離で大砲が当たるワケねぇだろ!」

 ずだぁあああんっ!!
 ぐらぐらぐらっ
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/13(金) 23:23:56.28 ID:L16NlBrCo
見張り「船長、連中とんでもなく早ぇ!
 このままじゃ十分くらいで追いつかれちまうっ。
 しかも……」

船長「しかも、なんだっ!」

見張り「さっきから飛んでくる砲弾なんだが、
 オモテ(船の先頭)の少し先に
 ほとんど同じ位の距離で砲弾を沈めてやがる!

 いつでもあてられるんだって言うみてえに……」


船長 ぞくり

奴隷頭「……どうしやすか?
 白旗を揚げれば、命は助かるらしいが……」

船長「……くっ、仕方ねえ。
 船と命さえ残れば、何とかなるか」

船長「奴隷共ぉ! 手を止めろ!!
 おい、見張り! オマエは信号送れ」

見張り「『ふざけんな』じゃねえよな?」

船長「バッきゃろぅ『船員の命は保障しろ』だ!」

見張り「アイアイサー」



船長「クソ、クソッ。
 せっかく商売が調子に乗ってきたってのによ」

奴隷頭「仕方ないでしょうよ。
 最悪、こないだの『商売』で手に入れた、
 この奴隷達を売れば多少は赤も埋まります」


少女(いったい、どうなるの、かな?
 ……少なくとも、悪くはならないよね。
 今より辛くは、ならないくらい……今が辛いし)
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:25:07.86 ID:L16NlBrCo
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 どたどたどた

白髪「よぉし、手を上げろっ!
 ワシの引き金はオマエさん達の命よりなお軽いぞ。

 死にたくなければ大人しくしやがれっ」カチャッ

?「言うとおりにすれば、手加減はする」チャキッ

包帯男「……」カチャッ


 とこ、とこ

男「……あんたが、船長か」ユラリ

船長「あ、ああ……」

男「これからこの船から物資を奪う。
 抵抗をしなければ、船員の命と船の無事は
 守られる事だろう」

船長「くっ、わかってる。
 さっさと持って行きやがれ」

男 こくり……


 どたどたどた

少女(たったの、四人? 一人は、黒いフード……
 でも、全員が島で見た兵の人たちよりもずっと、
 洗練された兵士みたい……)

男「……」

少女(船長に銃を突きつけてるのが、
 きっと海賊の人たちの頭領、なんだよね。
 鷹みたいな目つきの、怖そうな人)じーっ


男 ちらっ

少女 どきっ

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:29:55.07 ID:L16NlBrCo
男「……」

少女(見られて……なんでかな、眉を寄せて。
 私の事、睨んでる?)びくびく

男 ついっ
少女(そういうわけじゃ、無かったのかな)ほっ


 どたどたどた

白髪「火薬と銃弾、ワイン、塩漬け肉と塩漬け野菜、
 貴金属に薬、と――大体持ってきたぞ」

包帯「……完了」

?「後は運ぶだけ」

男「ご苦労。ワゴン(海図)は有ったか?」

白髪「有ったには有ったが、
 精度も位置も、あえて取らんでもいいような物だ」

男「……そうか。双子姉も呼んで船に積み込んでくれ」
白髪「了解した」


 どたどた

男「……さて船長、この後の事だが」

船長「……」
男「部下には、港に着くまでに必要な水と食料と、
 港について一杯飲む分の金を残せと、
 そう命じてあるが、問題はあるか?」

少女(案外、あっさり終わるのかな……
 抵抗、してないから。

 海賊の人たちの積み込みも、もう済むし。
 それで一安心……一安心、なのかな?)
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:31:22.26 ID:L16NlBrCo
船長「……ねぇよ。
 有ったところで、銃口の前で何を言えってんだ」

男「至言だな」苦笑

少女 どきっ
少女「あ、あの!」

男 じっ

少女(え、えええっ! 私なんで……)

男「なんだ?」

船長「(口パク)だまってろーっ、怒らすなーっ!」


少女(なんで、なんで私、
 こんなタイミング、で、呼びかけるなんて)


男「……用が無いなら、いくぞ」
少女「待って!」
男「……」

少女「私を――連れて、行って。
 お願いです、何でもするから、ここから助けて!!」

男「……」

白髪「おう? ……ふむ。
 おい、お嬢ちゃん、名前はなんてんだ?」

男「おい、白髪……」
少女「少女です!」

白髪「ほっほーう……可愛い名前じゃねえか」にやり

少女「え、えっと、ありがとうございます……?」
男「……」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:32:46.61 ID:L16NlBrCo
白髪「よし、船長さんよ。
 そこの奴隷、一人もらっていくが、良いな」

男「白髪、そういうのは……」


 ざわざわ

青年奴隷「お、俺も! 俺も連れて行ってくれ!!」

他の奴隷達「おれも」「いや俺だ」「よりも俺のが」


男 パァーンッ

 シーン……
男「騒ぐな」

船長「……耳、耳、がぁ」ピクピク

白髪「あー、すまんな。後で医者に見てもらえ?」

男「……」
白髪「なあ、男よ。
 この子はワシが連れて行きたい。良いな?」

男「……白髪の責任でならば」

白髪「よし。なら少女ちゃんよ、コッチに来い。
 あー、ただ、他のオマエさんらはダメだ」

青年奴隷「……な、何でだよ」ジリッ

白髪「自分で運命を掴み取るヤツが好みってだけさ。
 ……文句あっか?」ギロッ

青年奴隷「…………い、いや」

少女 とことこ
白髪「よし、ちょっとすまんが、鎖を解いちゃくれないか?」

奴隷頭「……わかったよ」がちゃ
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:34:01.33 ID:L16NlBrCo
少女「……」
白髪「ふむ、うれしくないか?」

少女「い、いえ! 嬉しいです!」

白髪「よし、それならホレ、
 そこの梯子を渡って、ウチの船に乗移れ。

 落ちるなよ、さすがのワシても
 わざわざ拾いにいく気はないからなっ」ニヤリ


少女(海賊の人たちが、
 船を横付けして乗り込んでくるときにかけた
 端の代わりの梯子……

 荷物の移動でひょいひょい渡ってたから、
 怖くないようにみえたのに、
 波で揺れる船にかけられた梯子って、
 ずっと下に海が見えてすごく怖い……)


白髪「む? どうした?
 やはり奴隷でいたいというなら、
 ワシは無理強いはせん。
 キャプテンも睨んでいるしのぅ」ニヤリ

男「…………」ジロリ


少女「い、行きます」よた、よた

少女(大丈夫、下を見なければ、怖く、ない)

少女 よた、よた


 ひゅぉおお
少女「ひっ……!!」ぐらぁっ
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:35:17.45 ID:L16NlBrCo
少女 ギュウッ
白髪「ああ、一度梯子にしがみついたら
 動けなくなるぞ……」

少女 ぶるぶる

男「チッ…………手を掴め」ギシッ

少女 ソッ
男 ガシッ

少女「……ッ、あ、ありがとうございます」

男「さっさと渡れ」

少女 よろよろ、とたっ

白髪「がははっ、見てるほうが怖くなるわい。
 まったく、肝が冷えたな!」どかどか

少女(うわ、すごく余裕で渡ってる)

男「白髪、梯子を回収だ。おい、双子妹!」

双子姉「はい。位置にいるでありますっ」

男「よし」
少女(マストの上に、人?)

男「金品他、確かに譲り受けた!
 以後、船影が見えなくなるまで動くなよ」

奴隷頭「わ、わかった」

船長「耳、耳が……」
奴隷頭「大丈夫ですよ、これくらい……」

男「よし、全速離脱! 方向300!」
全員「アイアイサー!」ダダーッ

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:36:08.82 ID:L16NlBrCo
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  昼  海賊船甲板

双子妹「……敵影消失後三百秒を確認完了。
 周辺視界内に以上無し。

 警戒態勢から準警戒態勢へ移行であります。
 みなさん、お疲れ様でありますよ!」


双子姉「お疲れ様だよー♪」ばたばた

白髪「ふーぅ、やれやれ。戦闘行動はしんどいわい」

包帯「お疲れ様です。僕でよろしければ
 肩でもおもみしましょうか」にこっ

?「そうやって包帯が年寄り扱いするから、
 今みたいにワザとらしく年寄り風吹かすのよ。
 いいから放っておきなさい」

白髪「がははっ、かなわんなぁ!」

双子姉「包帯のお兄ちゃんってマメだよねー
 見た目はすんごい怖いのに」

包帯「ははっ、確かにね。
 自分でも時々鏡を見て、
 なんだ、ミイラが出てきたのかって、
 びっくりするくらいだし」

?「いや、笑えないわよソレ」

白髪「ソレを笑ってこその人生だろうさ、
 善哉善哉」ニヤリ

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:37:48.22 ID:L16NlBrCo
白髪「トコロでオマエさん、
 いつまで戦闘用のマントなんぞ着けてるんだ?」

?「……別にいいでしょ」

白髪「こんな日にいつまでもその格好、
 汗もかくだろうよ。ほれ、ワシのとともに、
 物干しに吊るしてきてやろう」

?「……関係ないでしょ。自分でやるからいいわよ」


白髪「いいや関係がある。大有りじゃよ!
 ワシはお主のその豊満な胸が!

 無粋な戦闘用の厚いマントなんかで隠されて、
 谷間に伝う汗すら伺えぬというだけで、
 ワシのたけり狂う欲ぼ――ぐべっ! ぶびょっ!」

?「だ、だからッ、白髪とは面と向かって!
 話したくないのよ!!」ゲシッ、ボカッ

双子姉「ねえ、あれ止めないの?」

包帯「まあ、ああした触れあいも含めて、
 お二人は楽しんでいらっしゃるものと、
 僕は曲解していますからね」ニコッ

?「曲解しないで私を助けてよッ」ゲシッ

白髪「むぎゅぅ……
 ワシとしては、あまり曲解でもないがな」

?「……」じりっ

双子姉「……あの言葉には、
 近くにいるだけの私も逃げたくなるかも」

包帯あはは、「まあ、彼なりの下手な冗談と、
 そう思っておくのが得策でしょう」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:39:05.67 ID:L16NlBrCo
双子妹「……白髪の兄さま」

白髪「うむ、なんだ?」
双子妹「先ほどの誘拐された人はドコでありますか?」

双子姉「いや、誘拐じゃないでしょ」

双子妹「身体を欲されたでありますか」

双子姉「……えっと、間違っていないような?」
?「微妙なトコロね……」

白髪「むぅ、ワシのひぃこら云ってる身体より、
 あの娘に興味があるのか」


双子「「そりゃーもちろん!」であります!」


白髪「最近は双子までこの態度。
 もうちょい年寄りをいたわらんか貴様ら……」

?「……いっそ死ねばいいのに」

双子姉「ねーねー、そんな事より、あの子!」

白髪「そんな事より、と……」ガクッ

包帯「わざとらしく拗ねて見せる
 白髪さんは置いておくとして……
 二人は船長室で面談中ですよ」

双子妹「二人きりでお互いの深くを知るため、
 つきあっているでありますか」

包帯「顔を突き合わせている、の間違いだね。
 白髪さんが勢いで連れてきたけど、
 普通の人じゃ、僕達とは行動できないからね。

 場合によっては、無用に騒がれる前に、
 店長が口封じをするんじゃないかな?」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:40:14.38 ID:L16NlBrCo
?「…………」
双子姉「口封じって、穏やかじゃないね」

白髪「仕方ねえよ。
 俺たちは、どうしたって『普通』じゃねえ。

 その事自体は問題にはならんが、
 それを騒ぎ立てる奴らがいれば、
 安穏とはしていられなくなるからな」

包帯「できれば僕としても、
 友達になってもらえたら嬉しいですがね」

白髪「それができないって云うなら、
 喋る可能性をなくすのが最良さ」

?「……それがわかってて、なんで、
 男の命令に逆らってまで、
 白髪はあの子を連れてきたの?」


白髪「それはな――」

双子「「それは……っ」」
?「……」

白髪「面白そうだったか……ウボァ! ギャァ!」

?「アンタって! そういう!
 ヤツよね!!」ドスッ、ゲシッ、バコンッ


包帯(面白そう……それは、ドコまで)

白髪 チラ、ニヤッ

包帯「……ですよね」苦笑

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:41:23.30 ID:L16NlBrCo
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  昼 海賊船船長室

 とことこ、がちゃ
男「入れ」

少女「お、お邪魔します」びくびくっ

男 がたがた

少女(広い部屋……
 いや、普通の家に比べたら全然狭いけど、

 この大きさの船にしては、
 かなり広めの空間がある部屋みたい……

 もっとも、なんだかよくわからないものとか、
 本棚で圧迫されてるけど……)


男「そこに座っていろ」

少女(そこって、この、ベッド、だよね……)ギシッ

男「……そこの椅子だ。
 それとも誘っているのか?」

少女「え、ひゃ、そんな事ないですっ!!」

男 かたかた

少女(これって、船長用の椅子だよね……
 どう見ても来客とか奴隷用じゃないって!
 はわわわ……)

男「……どうした。座り心地が悪かったか?」

少女「い、いえ……」ぽふっ

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:42:09.24 ID:L16NlBrCo
男 かちゃっ
少女「……これって」

男「紅茶だ。ラムやぶどう酒のほうが良かったか?」
少女「い、いいえ! 全然!!」

男「そうか」こくり

少女(嘘みたい! 船の上で紅茶が飲めるなんて……)

男「……」
少女「香りもいいし、とっても美味しいですっ!」

男 こくり

少女「……」
男「……」
少女「……」
男「……」

少女(ど、どうしよう!
 会話が全然続かないというか!

 なんで私が船長の部屋まで
 連れてこられたのかもわからない……っ)

男「……」


少女(物静かっていうか、覇気がない人……?
 目だけは鋭いのに、光はなくて。

 海賊船の船長なんて、知らなければ嘘みたい。
 どんな人で、何が似合うかはわからないけど。

 乱暴者をまとめる一番の荒くれ者には、
 どう間違っても見えないかな)
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:43:14.00 ID:L16NlBrCo
男「……オマエは」
少女「っ、はい」

男「どうしてあの場にいて、ここに来たんだ?」

少女「えっと、それはその、
 どうして奴隷として使われていて、
 あの場でつれていって欲しいって言ったか、

 っていう事ですか?」

男 こくり




少女「その、ドコから話せばいいのか」

男「…………」ジロッ

少女「す、全て! 長くなっても大丈夫なら、
 最初から最後までつまびらかに全部を!」


男「構わん。唐突な嵐でも無い限り、
 しばらくは退屈だ」

少女「で、ですよねー、あはは」

男「……」

少女(話しにくい、話しにくいよぉっ!
……せめて、こっちを向いてくれたらいいのに。

 覗き窓の向こうばっかり見つめて、
 本当に聞く気はあるのかな?)

男「むしろ……」
少女「はい?」

男「………………いや、さっさと話せ」
少女「は、はいっ!」

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:44:34.85 ID:L16NlBrCo
少女「えっと、そうですね……
 一応先に説明させて貰うと、
 私は一部の奴隷さんみたいに、
 町を襲われて連れてこられたとかじゃないんです」

男 こくり

少女「船で旅行をしていたら、その船がさっきの、
 商人さんの船に襲われて、
 奴隷としてつかまったんです」

男「……よくあることだ。
 ガレーの漕ぎ手は消耗品だからな。

 トルキアの商人が一神教徒の船を見つけたら、
 ほとんどの場合はそうなる」


少女「……それで、奴隷としてつかまったけど、
 その、見た目のせいで男の子と思われたみたいで、

 他の女の子みたいに、その……
 『そういう』檻にいれられる事も無くて、
  働かされてたんです」

男「……たしかに、絶壁だな」

少女「ぜ、絶壁って!!」

男「御幣も他意もない。顔つきも直線的だしな。
 せめて胸に膨らみがあればそれとわかるが。

 ソレは胸のふくらみと云えば嘘にはならないが、
 実際は胸筋のふくらみだろう。
 むしろ白髪がよくオマエを女だとわかったものだ」

22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:45:34.20 ID:L16NlBrCo
少女「そこまで言われると、
 怒るを通り越して泣けてくるかも……」

男「なぜだ? よく鍛えられ体だと褒めている」

少女「褒め言葉じゃないです!
 いや、たしかにそりゃね、
 ちょっとは鍛えてるけど」ぶつぶつ


男「……脱線したな。話の続きだ」

少女「あ、はい。
 あの場で声をかけた理由、ですよね」

男 こくり

少女「……それは、その、外を見たかったからです」

男「……」

少女「私はリベルタっていう島の出身なんですけど、
 父親がちょっと難しい人で、
 私は外の世界を見たいって思ってたのに、
 ずっと反対され続けていたんですよ」


少女「島は中継地点としてとても立地が良くて、
 トルキアとベネッタ、スピエナが交易する船は、
 殆どが停泊していくような場所にあります」

男「……何度か行ったことがある」

少女「ホントですか!」

男「随分と昔だがな。
 島も港もあまり大きくなかったが、
 それでもかなり賑わっていたと記憶している」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:46:34.07 ID:L16NlBrCo
少女「比較する対象がないから、
 大きさについてはわからないけど……

 確かに、済みやすいとか賑やかとか聞くかな?」


男「そして、あいまいな記憶だが、
 島の領主の名前がお前と同じだったか」


少女「…………それは父ですから」
男「そうか」


少女「もしかして、最初からわかっていて?」

男「いや。名前を聞いて疑問に思っただけだ。
 だからこうして部屋に呼んだ」


少女「……」

男「それで、そんな恵みあふれる島で、
 不自由のない暮らしをしていたはずの、
 次期領主とやらが、
 なぜ奴隷などになっていた」


少女「本当は私じゃなくて、領主になるべき人が……
 兄が、いたんですけどね。

 事故で死んじゃって……
 それ以来、父は私を屋敷から出す事すら
 嫌がるようになってしまったんです」

男「……」

少女「それまでは普通に島民の男の子達と、
 チャンバラとかして遊んでたんですけどね!

 本を読んだりレースを編んだり、
 そういう事よりは体を動かすほうが楽しくて」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:47:27.56 ID:L16NlBrCo
男「随分なお転婆だな」
少女「あはは……」

男「だが確か、リベルタは領主制の植民地ではなく
 神聖リオーマの頃に独立して、
 今は公国として、一つの国になっていたな」

少女「そうなんですよ、
 だから私、コレでも一応は公女様なんです!」

男「……胸は無いがな」
少女「な、ちょ……っ!」

男「話を続けろ、奴隷」

少女「あ、はい、すみません…
 で、立場は国って事になってますから、
 そこそこ自由に政策とかを決められるんですよ。

 もちろん独断はできなくて、
 島のじいさんたちと相談して、ですけど。

 それでも自治権はあるわけです」

男「国というなら、基本的にはそうだろう」

少女「そうですよね!
 でも祖父の代より前から、リベルタは永世中立、
 自由な貿易の仲介港って立場を貫いているのに、

 周りの国がこぞって、
 自分にだけ有利になるようにしろって、
 しつこいくらいに圧力をかけてきて」

男「そうした圧力はしつこくかけなくては無意味だ」

少女「そうですけど……
 そのせいで、領主の父も病床に伏して」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:48:26.87 ID:L16NlBrCo
少女「さらに、そういう国なので、
 少なくとも直系の血を引いている私がいるなら、
 私を次の領主にすることで、
 おじい様方が決めて動いて……」

男「ふむ」

少女「だから私は突貫工事で、
 次の領主になれるようにって、
 帝王学の勉強をしたり、交渉術の稽古をして……
 まだ殆ど身についてないですけどね」


男「調教されていたわけだな」
少女「……まあ、そうです」

男「……」

少女「そんなある日、窓の外をぼんやり眺めていて、
 唐突に思ったんですよ。

 このままでいいのかなって。
 私には、この窓の景色だけが外でいいのかって」


男「……領主になることが嫌なのか?」

少女「たぶん、イヤだとか、そういう事じゃなくて
 それはもう、私が背負うしかないものなので、
 仕方ないというか」

男「……」


少女「あの有名なミエディッチ家の財宝を見たり、

 ゴンドラの行きかうベネッタを町を歩いたり、

 不思議な形の寺院が並ぶトルキア文化に触れたり、

 黄金であふれてるって新世界に行ったり……」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:50:01.60 ID:L16NlBrCo
少女「そういう事をしてみたいって、
 夢を見てたんです。

 港町ですからね、波にのってたくさんのステキな
 『世界の欠片』が流れてくる。

 でも私は何一つとして、本物を知らないんです。
 だから、見たり、触れたり、食べたりしたかった」


男「夢物語だな」

少女「……領主になったら、よほどの事が無い限り、
 島から出る事はできなくなります。

 その前にせめて自分の目で、
 島の外を――あまり遠くない場所だけでも、
 どんな世界なのか見てみたいなって。夢物語です」


男「……そうか」

少女「でも、港を出て少ししたところで、
 あのトルキアの商人の人たちに捕まって
 奴隷にされちゃいましたけどね。

 外を見る旅だけじゃなくて、
 人生も終わっちゃうところでした、あはは……は」

 ギリッ……

少女(今の音……、この人の、歯軋り?)
男「……続けろ」

少女「まあ、そんな感じで、
 どうせ人生が終わりかもしれないって事態なら、
 思い切った事をしよう! なんて。
 それが、海賊さんに声をかけた理由です」

男「……」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:50:56.56 ID:L16NlBrCo
少女(……嘘は、ついてない。
 それは、声をかけた後に、
 それでも良いや、って開き直った理由だから。
 でもあの瞬間に、つい声をかけたのは――)

男「たしかに、奴隷のままでは、
 外を見る余裕などは無いな。

 ……この船はお前にとって、
 相応しい場所かも知れん」

少女「はい?」



男「いや、なんでもない。
 お前を船員として迎えいれるかどうかは、
 すぐには判断できん。
 他の船員との相談もある」

少女「……そうですよね」


男「相談の結果は追って伝えさせる。
 いま案内役を呼ぶ。
 今は一度退室しろ」

少女「……はい」


男 とことこ、パコッ

少女(あ、あの壁の飾りって、
 ただの彫刻じゃなくて伝声管なんだ)

男『包帯、白髪。船長室へ。
 包帯は作業をしていたなら中断してもかまわん』

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:52:01.25 ID:L16NlBrCo
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  夕刻 海賊船船長室

白髪「んで、どうだったよ」

男「……」


白髪「おいおい、黙ってたら何もわからんぜ」

男「……わかっているんじゃないか?」


白髪「わからんな。こちとら、神ならぬ身だ。
 ……ま、アタリは付く」

男「……」

白髪「リベルタの公女様、だったんだな?」

男「……ああ」

白髪「がはは、奇縁だなぁ!
 まさかこんなところで会うとは」

男「俺の言葉を取るな」

白髪「地中海に浮かぶ島としては、
 一般的な大きさだが……

 それでもその要所に位置することから、
 幾度となく戦火に晒されてきた島……

 今代の治世にあっては、
 穏やからしいがな」

29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:52:41.53 ID:L16NlBrCo
男「ベネッタとトルキアの戦争は、
 ここ三十年ばかり休戦状態だ。

 そしてその戦争を望む一神教側も、
 宗教改革の波に飲まれて身動きができず……」

白髪「トルキアにしたところで、
 跡目争いだのなんだのと、
 たしか騒がしくしていたか。
 お陰で俺達の海は実に穏やかだった」


男「……穏やかだったか?」


白髪「トルキアの海賊はうるさかったがなぁ。
 マータ騎士団は結局、
 あの島に移ってからは何もしとらんし。

 戦争って意味から見れば、
 スピエナ意外は案外平穏だった……
 違うか?」


男「否定はしない。
 俺達が穏やかではなかっただけか」

白髪「そうだな。
 こうしてそれなりに名前が売れて、
 あの旗を見れば武器を置けと、
 そういわれるようになるまでには、
 それなりの代償も払ったな……」

男「……」
白髪「……」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 23:52:54.67 ID:+BPWj8kSO
続きワクワク
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:53:32.82 ID:L16NlBrCo
白髪「それでだ。
 ワシをよんだのは、こんな風に辛気臭く、
 昔話をするためではあるまい」

男「あの娘の事だ。
 本当に船に乗せるのか?」

白髪「乗せねえって選択肢はあるのかよ」
男「……」


白髪「少なくとも殺す手はねえだろうがよ。
 なんたってアイツは――」

男 チャキッ

白髪「……早とちりするな。
 公国の支配者の娘だと、言おうとしたんだ」

男「……」スチャッ

白髪「ったく、ピリピリしすぎだ」

男「誰のせいだ」


白髪「知らんな。
 まあそんな立場に有る娘だ。

 多少怪我はしてるようだが、
 人質と思えば上玉じゃねえか。

 『海賊』としては、
 あの娘の親に身代金を要求するってのも、
 一つの手じゃあねえかと思うぜ」

男「……」
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:54:10.75 ID:L16NlBrCo
白髪「ところでよ。
 あの嬢ちゃんはいったいなんだって、
 トルキアのガレー船なんかに居たんだ?
 聞いたんだろ、そのアタリ」

男「……跡目を継ぐはずだった兄が居なくなり、
 急に公女として締め付けられるようになったが、
 それがわずらわしくなっての逃亡らしい。

 病状の思わしくない領主が逝ってしまえば、
 後は島の外に出ることの無い、
 窓の内側しか知らない生き方になってしまうとな」

白髪「ほう、なるほどな。で、どうだ」



男「何がだ」

白髪「その話を聞いてどう思ったかって、
 聞いてるんじゃねえか」

男「どうとも思わん」

白髪「かわいくねえなぁ」

男「……それで、どうする」

白髪「どうしてえよ」

男「……」

白髪「おいおい、まさかとは思うが、
 俺に判断を任せようだなんて事は、
 考えちゃいねえだろうな?」

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:55:04.74 ID:L16NlBrCo
俺「そのつもりだが」

白髪「……冗談言うなよ」

男「冗談ではない。
 アレは、オマエが責任を持つという条件で
 拾ったものだ」

白髪「そういやそうだったか」

男「反対すべきである提案に対しては文句を言う。
 だが、そうでなければ、
 労働力として使うとしても、
 魚のエサにするとしても、
 夜の慰みに――は、イロイロと不足だと思うが、
 どのようにしようと、感知はせん」



白髪「おいおい、わかってねえなぁ。
 胸だのケツだってのは、
 あるならば有ることを楽しみ、
 無いならば無いことを愛するのが男ってもんだ」

男「特にわかりたいとは思わん」

白髪「つまらねえヤツだ。
 今はあの船でひどく扱われたせいで
 薄汚れちまってるがな、

 ありゃ、きちんと磨けばそれなりになるぜ。
 顔は並だが、よく鍛えられた身体だ。

 しっかりしてる分、夜に愉しむ相手としちゃ、
 むしろ下手な女よりよほど……」

 ギリッ

34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:55:49.93 ID:L16NlBrCo
白髪「がはは、昔から男はそうだな。
 気に食わねえと、そうやって、
 両手握って歯軋りしてよ……
 口があるんだ、言葉にするがいいだろ」

男「不満などない」

白髪「あーそうかい。
 まあ、航海中の船内じゃ、
 そういう事は御法度だしな。
 俺は『本当の』無理強いは好みじゃあねえんだ」

男「白髪の趣味など、どうでもいい」



白髪「……ふっ。
 とりあえず俺としちゃぁ、
 面白そうだ、放し飼いを提案させて貰うぜ。

 船の一員として、出来る事をやらせよう。
 幸いそれなりのたくわえもできてるだろ?」

男「まあな。
 だが、他の船員に対しての説明は、
 白髪の方で済ませて置いてくれ」

白髪「大した説明なんざいらないと思うがなぁ」

男「公私のケジメはとつけるようにしろ、副船長。
 船長命令だ」

白髪「アイアイサー。ったく、堅い奴め……」


35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:56:26.80 ID:L16NlBrCo
男「……あの娘より先に海に浮かびたいか?」

白髪「遠慮するぜ。そんじゃあな」ひらひらー

 ばたん

男「……」

男「……くそ。なぜ今になって、縁が絡む」

男 よた、よた

男 ごそごそ

男(このペンダントは、
 こんなにも小さかったか……?)

男(もっと、重く、冷たく、
 強いものであるように思っていたが)

男「……リベルタか」

男「俺にとっての、終わりの島……」

男「俺は、なぜここに居る。
 俺はなぜ、まだ息を吸っている……」

男「…………」

36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:57:16.01 ID:L16NlBrCo
------------------------------------------------
  夕刻 海賊船廊下

 どかどか

白髪「……ったくよう。
 なんなんだかなー」がしがし

白髪「昔っから、人に頼らない奴ではあったが」


双子姉「そうなの?」

白髪「何でも自分ひとりでできなねえと、
 気がすまねえとでも云うような、
 そんな傲慢なヤツでなぁ――っておい、
 いつからそこに居た?」


双子姉「ん? 私のこと?」

白髪「他に誰が居るんだよ」


双子姉「たぶん、白髪のおっちゃんが、
 廊下に出た時から?」

白髪「……盗み聞きしてやがったなぁ」苦笑
双子姉「ごめんなさーい」

白髪「反省してねえだろ」
双子姉「何も聞こえなかったからね!」

白髪「ったく、こいつは。
 命拾いしたことも気付いてねえな?」
双子姉「命拾い?」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:58:08.15 ID:L16NlBrCo
白髪「俺達は基本的に、
 この船に乗る前にそれぞれああやって、
 男の面接を受けてきただろ?」

双子姉「うんうん。いろいろ聞かれた」


白髪「だが、この船に乗っている中で今、
 男の過去について知ってるのは、俺だけだよな」

双子姉「……知られたくない事があるの?」

白髪「まあそれなりにな。
 俺も男も、自分達の金でもって、
 こんなでっかい船を買って乗り回してる。

 そんな金がドコから出たのかとかなー。

 知られちまったらそれこそ、
 たとえ双子姉でも海へ落とすしかないな」

双子姉「……マジでなの?」

白髪「本気も本気よぉ」ニヤリ


双子姉「盗み聞きも命がけなんだね」

白髪「まあだが、要するにバレなきゃいい。
 さっきの聞き耳は良かったぞ。

 俺も男も気を抜いていたつもりはないが、
 よくもまあ気付かせなかったもんだよな」

双子姉「へへーん。これぞ双子姉が得意とする、
 七つの必殺特技の一つなのだ!」

白髪「がはは、そりゃぁ格好良いな。
 よし、その調子で特技を磨いて、
 さらに引き出しを増やすがいい」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/13(金) 23:59:02.96 ID:L16NlBrCo
双子姉「……でもね、白髪のおっちゃん」
白髪「なんだ、チビっこ双子姉」

双子姉「こんな特技なくてもいられるのが、
 一番だと思うのよ?」じっ

白髪「…………そうだな。
 だが、どうしたってこの船に乗ってる以上、
 俺達は『フリークス』なのさ」

双子姉「……」

白髪「まあ、こうやってツルんでる限り、
 そんな事ぁ忘れていいし、
 必殺技なんてモンも基本的には忘れとけ。
 いいな? 副船長命令だ!」

双子姉「はっ、アイアイサー」ビシッ

白髪「……なんで双子姉の敬礼はそう、
 小指を曲げて……
 ほれ、しっかり伸ばせ。
 足はかかとをしっかり合わせろよ」

双子姉「あうー」
白髪「……ったく、孫の世話してんじゃねえぞ」

双子姉「……おじいちゃん?」
白髪「次にそう呼んだら承知しねぇぞ!」

双子姉「えっへへー、おじーちゃーん♪」だだっ
白髪「あ、くそ、待ちやがれ!」だだーっ
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 00:00:12.90 ID:CKksknvCo
------------------------------------------------
  夕刻 海賊船甲板

 ひゅおおおおお

?「……風がうるさい」

双子妹「あ、ここに居たでありますか」

?「なにか、用?」

双子妹「えっとですね、白髪の兄さまから
 伝令役を申し付けられたでありますよ」

?「……そう。内容は?」

双子妹「では繰り返すであります。

 『日が昇るたびに天を見上げては、
 その太陽の暑きところに怨嗟の声を
 あげざるをえないほどの気候の昨今、
 如何お過ごしでございましょうか。
 私においては』……」

?「ストップ」


双子妹「は、とまるであります」

?「なに、その頭の悪い伝言。
 なんで時候の挨拶から始まるのよ」

双子妹「自分からの進言であります。
 まずそのような緩衝材の後にするべきと!」
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 00:01:04.05 ID:CKksknvCo
?「……要件のまとめだけ聞かせて」

双子妹「はい!

 『例の奴隷だった少女って女の子は、
 さすがに男部屋には置いておけねえから、
 オマエのベッドで寝かせてやってくれ』

 という内容であります!」


?「……アタシのベッドで?」

双子妹「さっきの商船からの強奪で、
 思った以上に収入があったという事で、
 いまは倉庫だけじゃなくて、
 予備の部屋まで埋まってしまったのであります。

 なので、ベッドが足りないのが
 忌憚のない現状の報告であります」

?「……」


双子妹「なお、白髪の兄さまいわく、
 副船長命令だそうです」

?「…………わかったわ」

双子妹「では伝令は命令伝達の完了を確認し、
 白髪の兄さまへの報告が済み次第、
 待機任務に戻るであります!」だだっ


?「……結局私に災難がかかるんじゃない」

?「白髪なんて、キライ」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 00:06:19.09 ID:CKksknvCo
------------------------------------------------
  夕刻 廊下

 とことこ

包帯「それで、こっちがお手洗いで……
 ここをまっすぐ行くと階段があって……」

少女「あ、あの」
包帯「なにかな」にこっ

少女(こ、怖い!
 悲鳴を上げないようにするだけで、精一杯!
 喋り方だけはとっても優しくて、
 安心できそうな人なのに、
 すっごいしゃがれた声で、
 しかもこの外見は……!)

包帯「ああ、ごめんね。
 ちょっと離れておこうか?」

少女「……い、いえ。大丈夫です」

包帯「ムリしなくていいよ?
 なれないと不気味なのはわかるしねー。あはは」

少女「い、痛く、ないんですか?
 その顔中の火傷……」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/14(土) 00:06:58.76 ID:ZhY6DTfYo
よくできてるな
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 00:10:55.81 ID:CKksknvCo
包帯「ん、もう全然痛くはないよ。
 まあ、ちょっと引き連れたりするけどね。
 食事の時にちょっと気になるくらい?
 それ以外は殆ど意識もしないよ」にこっ

少女「えっと、いきなり踏み込んだことを聞いて、
 ごめんなさい」

包帯「気にしないでいいって。
 むしろ心配してくれたんだったら、
 僕がお礼をいうところだね。ありがとう」

少女「あ、その。どういたしまして」

包帯「……まあ、僕に関してはいいんだけどね。
 えっと確か君は……」

少女「あ、少女です」
包帯「少女くんは、船長からこの船について、
 何かきいているかな?」

少女「いえ、その全く……」

包帯「……うーん、相変わらず。
 気が回るようでいて、気を回さないからね……」

少女「えっと、そのそれは、
 私がこの船に乗るかどうかが、
 まだ決まってないからで……」
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 00:15:04.33 ID:CKksknvCo
包帯「……それは無いね」
少女「え?」

包帯「キミ、生きて男さんの部屋から出てきたし」

少女「……もしかして、実は」

包帯「気に入らなかったり、
 そもそも害になりそうだと判断したら、
 扉から出る前に撃っちゃう人だよ、男さんは」

少女 ぞくっ

包帯「ああでも、
 よく考えたら、掃除の手間を考えて、
 甲板の上で撃つ人かも?」

少女「……え、えと、それじゃ、私まだ命の危険?」

包帯「ま、大丈夫じゃないかなー。
 なにせ白髪さんが連れてきたわけだし。

 そういう面に関しては、
 男さんは白髪さんにかなり頼ってるところが
 実はあるからね」

少女「……」
包帯「ああ、すまないね。こんな話をしても、
 まだキミにはわからないよね」

少女「すみません。せっかくなのに」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 00:21:12.53 ID:CKksknvCo
包帯「まあとりあえず、僕はキミが殺される事は
 無いと判断しているんだよ。
 イロイロあってね」にこっ

少女「そ、それなら、いいんですけど」

包帯「という訳で、この船の事についてとか、
 今後の生活についての事で、
 何か疑問点があれば答えようと思うけど、
 今は何かあるかな?」

少女「……えっと、その。
 今後の生活についてとかは次第に。
 ただ、一つどうしても聞きたいことが
 あるんです」

包帯「何かな?」

少女「あ、でもその前に、一つお願いしても
 いいですか?
 えっと、その、自己紹介とか……」

包帯「ああ、そうだった、そうだった。
 すまないね。
 ついついこうした狭いコミュニティにいると、
 そういうのが必要なくて、
 忘れちゃうんだよね。

 外部の人と会っても、襲う側と襲われる側で、
 自己紹介なんてしないし」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/14(土) 00:21:26.53 ID:N9Hn8NzLo
たってすぐ見つけられるとは僥倖
今回も期待してるぞ〜
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 00:26:35.05 ID:CKksknvCo
包帯「はじめまして、包帯っていいます。
 この船の中じゃ、まあ中堅かな?

 とは云っても実はこの船って、
 殆ど人がいないんだけどね」

少女「そうなんですか?」

包帯「うん。たとえばこの船の外見、
 たぶん乗るときに少しは見たよね?」

少女「……梯子から落ちそうになって、
 けっこう見た気がします」

包帯「あはは、じゃあわかるかな。
 この船って、マスト三本のほかに、
 船の側面の壁から、オールが出てたよね?」

少女「はい、めずらしいなーって思って、
 ちょっと憶えてます。
 普通のオールで漕ぐような船……
 ガレー船って、オールを漕ぐ場所が、
 甲板の上にありますよね」

包帯「キミの乗ってたあの……
 野蛮人の人たちの船もそうだったね」

少女(わざわざ、野蛮人って言葉……?)
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 00:31:18.98 ID:CKksknvCo
包帯「で、普通はそのオールを漕ぐ為に、
 百人から二百人くらいの奴隷を働かせるから、
 大人数になるわけだけど……
 実はウチにはすごい船員がいてね」

少女「す、すごいんですか?」

包帯「なんと、十六本のオールを、
 一人で使える力持ち!」

少女(普通のオールって、
 一本に四人とか五人がついて、
 それでようやく動く、よね)

包帯「あはは、まあ、その、
 信じられないって顔もわかるけどね」

少女「そ、そんな顔は……」

包帯「いいって、いいって。
 まあ、そんな船員が居るお陰で、
 僕達はそれ以外に専念できてね。

 人数が少ないほうが狭い船は動きやすいし、
 何より食料なんかの量も少なくてすむよね。
 そんな実利面と――」

少女「ほ、他にも理由があるんですか?」

包帯「僕達が『フリークス』だから、だね」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 00:37:17.47 ID:CKksknvCo
少女「えっと、『フリークス』ですか?」

包帯「この船に乗ってるのはね、
 全員何かしらの理由があって、
 陸に居ることができないメンバーなんだ。
 たとえば、包帯だらけの僕みたいに」

少女(陸に戻れない……
 それは、陸で生活ができないって事で、
 ああ、そっか、『フリークス(化け物)』って)

包帯「たとえば陸に上がって、
 僕は料理が得意だからパン屋を始めよう。
 でも、全身にこんなケロイドが有って、
 いかにも恐ろしげな声で喋る僕のお店に、
 誰が好き好んで買いにくるか……」

少女「そ、そんな事は……」

包帯「たとえば農村に行っても、
 村の仲間には、間違っても入れないよ。
 この見た目にはそれだけの、
 『人にとって嫌なもの』の象徴としての
 力があるからね。
 まあ、実体験としての言葉だから、
 例外もあるとは思うけれどね」

少女「…………」
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 00:44:36.63 ID:CKksknvCo
包帯「まあ、そこでこの船ってわけだね。
 この船には、僕みたいなのがのってるわけさ。

 人として暮らしたいって気持ちは、
 多少なりとも持っているけれど、
 人と交わって暮らす事はできない。

 そんな僕達がさまよった果てに、
 迎え入れてくれる場所として見つかったのが」

少女「……この船」

包帯「そういう事だね。
 だからこの船には、
 他の人にはできないことができる人とか、
 他の人にはない特徴的な外見の持ち主がいて、

 こっそりひっそり、
 最低限暮らせる分を、
 密輸しているような人たちから貰い受けて、
 生き延びさせて貰っているのさ」

少女「……なんだか、
 悔しいような、そんな気持ちです」

包帯「ははっ、悔しいか。
 それはいい答えだ。
 僕は気に入ったよ」にこっ

少女「……」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 00:51:02.58 ID:CKksknvCo
包帯「……ただ、まあそれだけじゃ、つまらない」

少女「つまらない?」

包帯「うん。
 世界のすみっこで誰にも見られる事無く、
 忘れ去られたようにひっそりこっそり、
 海の底で息をつなぐようにしているっていうのは、
 あんまり面白くは無いよね」

少女「……はい」

包帯「だからまあ、
 余裕がある時には、ある意味旅行をするのさ。
 僕達でも遠慮せずに居られる場所を探してね」

少女「……そっか」

包帯「とりあえずそれが僕と、
 そしてこの船『フリークス・パイレーツ』の
 大雑把な説明なんだけど、
 どうかな?」

少女「ありがとうございます、
 お陰でイロイロ、わかったような気がします」

包帯「ソレはよかった」にこっ
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 00:56:47.11 ID:CKksknvCo
包帯「で、さっき云っていた、
 どうしても聞きたい事っていうのはなにかな?」

少女「えっとその……
 それはたぶん、今の説明でわかったんですけど、
 さっきこの船の船長さん……男さん?

 あの人と話したときに、
 『この船はお前に相応しいかもしれない』って、
 そう云われた事が気になって」

包帯「……どうやらキミもなにか、
 事情を抱えているみたいだね」

少女「……」

包帯「ああ、別に僕に教える必要はないよ。
 実を言うとこの船の中で、
 本当の事情を全員分知っているのなんて、
 船長くらいだと思うんだ」

少女「そうなんですか?」

包帯「まあ、いろいろ有ってね。
 宗教についてとか、母国についてとか……

 みんなはココが、居心地の良い場所だから、
 ここにいるわけだけど、
 昔話を持ち出すときな臭くなることもあってね」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 01:07:47.38 ID:CKksknvCo
包帯「ま、そういうわけだから、
 むしろみんな、あえて触れないっていう、
 そんな感じなのかなと、僕は思っているよ。

 もちろんコレは僕の個人的な意見。
 だから、きっと、白髪さんなんかは違うし、
 船長は何考えてるか判らないし。ふふっ」

少女「でも、みんなにとって、
 この場所が大切なんですよね」

包帯「うん。大切だね。ものすごく。
 僕達がいま生きていられるのはココのお陰。

 そしてこれから生きていく為にも、
 少なくとも僕にとっては、
 ココは必要な場所なんだ」

少女「……イロイロ話してくれて、
 とっても助かりました」

包帯「こんな事しか話せなくて悪いね。
 だからモテないんだって、
 白髪さんにからかわれそうだよ」

少女「あはは、そんな事はないですよ。
 優しい声で落ち着いて話してくれる人って、
 一緒にいて安心できるから、
 私は好きですよ?」にこっ
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 01:09:27.35 ID:CKksknvCo
包帯「じゃあ、第一印象は合格かな。
 ふふ、それじゃこの後、
 せいぜい嫌われないように頑張るとするよ」

少女「その、私はまだ、船のたびについてとか、
 よくわからない所があって、
 足手まといになると思うんですけど、
 仲良くして貰えたら助かります」へこっ

包帯「うん。任された。
 僕にできる程度の事であれば、
 なんなりと引き受けさせて貰うよ」

少女「私もがんばります!」

包帯「……さて、実はさっきから、
 ずっと立ち止まっていたココ。

 この部屋が今日からキミと、
 ルームメイトたちの部屋だから。
 女の子ばかりの部屋だから、
 あんまり心配はしないでいい、のかな?」

少女「その、なにから何まで
 ありがとうございます」へこっ

包帯「それは男さんに言ってあげるといいよ。
 それじゃ、僕は自分の作業があるから」ひらひら

少女「……とりあえず、同室の人と仲良くから!」

 がちゃっ
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/14(土) 01:10:51.56 ID:CKksknvCo
きょうはココまでなりー><
なんだかお腹すいてきちゃった……

呼んでくれてありがとうなのじゃよ!
感謝の気持ちとビエンヤク、置いていくから持って言ってくださいなのじゃ(´▽`*)
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/05/14(土) 01:17:16.61 ID:tPzxQeLmo

期待してるぞ
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/05/14(土) 01:19:07.61 ID:Ycq+Yg2xo
ああ、ビエンヤクだったのか
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2011/05/14(土) 01:31:54.09 ID:UP4zf97p0

めっちゃ読んでるよ
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/14(土) 01:43:51.16 ID:anOf5VBko

期待大
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2011/05/14(土) 01:47:15.75 ID:UP4zf97p0
o
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/05/14(土) 02:43:10.82 ID:bXvJ/iV90

やっぱりおもすれー 
時代設定って16世紀ぐらいかな?
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/14(土) 03:47:20.10 ID:RD5Cj7TSO
やべぇ面白い
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/05/14(土) 07:10:43.38 ID:8XUd4NTAO

面白いじゃねえかちくしょー
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/14(土) 09:10:14.66 ID:yi/tOy8wo
乙々。やっぱりビエンヤクだったか
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/14(土) 11:26:49.69 ID:yh0fSL5IO
バイキングみたいだ
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/05/14(土) 13:23:08.08 ID:oOSKHNp30

他にもスレあるの?
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/14(土) 13:37:46.37 ID:N9Hn8NzLo
>>66 他のは既に完結済み
多分>>1が挙げると思うので俺からは挙げないが
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/05/14(土) 15:35:57.94 ID:e426jd7C0
おお、相変わらず引き込まれる内容。双子可愛いなー。続きを期待してますぜ。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/14(土) 15:45:54.20 ID:eg0OiWUa0
>>67
http://twitter.com/#!/bienyaku
とりあえずtwitterだけでも
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/05/14(土) 15:49:45.39 ID:9niKXxas0

面白いなー特に双子のキャラが良い
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/14(土) 17:48:12.61 ID:fbHjC9D4o
面白いな
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/05/14(土) 20:23:17.22 ID:3Z6CHMrAO
乙ー
結構昔にブラックなプログラマー会社勤めてる男の話書いてなかった?
文体似てると思ったんだが間違ってたらごめん
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/14(土) 20:58:28.18 ID:N9Hn8NzLo
>>72 あれは俺も好きだが恐らく違う書き始めたの会社辞めて時間出来た最近からとか言ってた覚えがある
しかもあれ大分前の作品だしなww
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/05/14(土) 21:55:16.28 ID:yjEjD8hAO
やはりおm…貴方でしたか
wktkして舞ってます
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/05/14(土) 22:04:32.21 ID:uS2N4byzo
SEデスマの話はままれじゃないっけ?
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [sage]:2011/05/14(土) 22:39:41.25 ID:7JvLd58Co
普段二次創作ばっかり読んでるが
>>1のスレは引き寄せられたかのように読んでしまう。
きっとスレタイが絶妙なんだな
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/14(土) 22:42:21.66 ID:N9Hn8NzLo
正直海賊ものって見てたからこのスレタイで鼻炎薬とはおもわなんだ
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/15(日) 10:39:18.97 ID:vYst2wHwo
鼻炎薬の新作期待
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:05:37.64 ID:W65KwyCXo
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  夕刻 海賊船女子部屋

 こんこん、かちゃ
少女「おじゃましまーす……」ひょこっ

?「……」
少女「えっと、あの、この部屋で……」

?「話は聞いてるから、説明はいいわ」
少女「あ、うん」ほっ

?「船長はどうするかは判らないけど、
 今夜はこの部屋で寝ることになると思う。
 ……とりあえず入れば?」

少女(けっこう豪華な部屋なんだ。
 島を出るときに乗せて貰った船の船室だと、
 狭くて細長い部屋に、二段とか三段のベッドが、
 座れれないくらいの高さで作られてたけど、
 それなりに広めの部屋に二段ベッドが一つだけ。

 他にも『寝る場所』じゃなくて、
 『部屋』らしいものがいくつも置かれてる……
 本当に生活するための空間なんだ)

?「……何を観察してるのよ」
少女「え、あ、ごめんなさい。
 ちょっと珍しい構造だなって」
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/15(日) 13:06:44.94 ID:W65KwyCXo
少女「そういえば、あの、
 お昼の時もたしかそのマント、着てましたよね」

?「憶えてたの?」

少女「みんな同じマントだったけど、
 一人だけ暑いのにフードまでかぶっていたから、
 ちょっと目立っていたし」

?「どうしてフードまでかぶってるか知りたい?
 部屋の中に入った今でも」じいっ

少女(包帯さんは、あまり人の事情とか、
 首を突っ込まないようにって言ってたけど、
 自分から話してくれるのを聞くのは、いいよね?)

?「……」
少女「うん、教えてください」

?「血がついても目立たないように、よ」ユラリ
少女(え、ナイフ……?) ゾクリ

?「こんな風に、ね」ズバシュ

少女「……ッ」(肩、ちょっと切られた!)ザッ
?「思ったより早いわね」ヒュヒュン

少女「ちょ、ちょっと待って!
 なんでいきなり!」 ガタタッ

?「……死んで」じりじり

少女「イヤですッ!」じりじり
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:07:42.59 ID:W65KwyCXo
少女(くっ、少し広めの室内って言っても、
 逃げまわるなんてできる広さじゃないし!

 唯一脱出できそうな場所は彼女の向こう。
 しかも、小柄な身体を活かした一撃が早いから
 避けた瞬間に駆け抜けるわけにもいかない)

?「……もう、後ろは無いわよ」

少女「いきなり命を狙われるとか意味わかんない!」


?「そんな事はあの世でゆっくり考えて」

少女 (……女の子相手に乱暴するのは
 心の底から気に食わないけどッ!)ザッ

?「コレで終わ……」 ズバ……
少女(油断するから手をつかまれるのよッ!)グイッ

?「くッ!」バッ
少女(腕を引かれて振りほどこうと身体を引いたら、
 その動きに合わせて腕を掴んだまま相手のお腹に
 肩から飛び込むッッ!!)


 ドッタァァアアン!!

?「ッッ……ク、ハッ。ゲホッ、ッ」

少女(今の内に腕をねじりながらうつぶせにして、
 間接を極めれば……よし、武器も確保)ギシィッ

?「……ッ、イタッ」

少女「……フゥ、これで、動けないですよね」ギシ

82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:08:25.43 ID:W65KwyCXo
?「ッく。ハァッ……ハァ」ギロッ

少女「暴れないでくださいね。
 無理したら間接が砕けますよ」

?「…………わかったわ。もう乱暴しない」
少女「本当ですか?」
?「ホントよ」

少女「……じゃ、どうぞ」パッ

?「……ただの奴隷だと思ったのに」ふらふら

少女「あはは、ちょっとヤンチャで、
 男の子たちに混じってチャンバラやってたから、
 それなりには、できるようになったんですよ」

?「……」じいっ
少女(島の兵隊の人たちに混じらせてもらって、
 何年も一緒に訓練してたけど……
 まさか実践するとは思わなかった)ドキドキ

?「……とりあえず、ありがと」
少女「へ、何がです?」

?「私は殺そうとしたのに。すぐ解放してくれた」
少女「……まあ、何かしら事情が有るんですよね」

?「……」
少女「え、まさか、なんとなくで?!」

83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:09:05.24 ID:W65KwyCXo
?「……普通だから」
少女「へ?」

?「アンタみたいな『普通』はこの船にいらない……
 でも船長が気まぐれで許可を出したら、
 仲間として扱わないといけないし」

少女「だから、まだ船長が迷ってるうちに、
 とりあえず殺しておこう……って事?」

? こくり
少女「あー、まあ、ソレくらいだよね、理由。
 よかったぁ……」どたん

?「……」じいっ
少女「腰が抜けちゃって……あはは」

?「何が、よかった、なの?」
少女「だって、そういう理由だったら、
 この後、仲良くなることもできそうだよね。」

?「そんなのは……」

少女「たとえば私が、何かすごく……
 怒らせるような事とか、失礼な事をしたとか
 そういう理由よりは、まだ救いがあるじゃない。
 とりあえずって理由で殺されたら、笑えないけど」

?「……」

84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:09:48.59 ID:W65KwyCXo
少女「とりあえず、そのさ。
 一回殺すの失敗したワケだよね」

? ……こくり

少女「私としてはできれば、
 しばらくこの船に乗せてもらいたいと思ってるの。

 だからそのためにちょっとだけ、
 チャンスをもらえたら嬉しいんだけど、
 それもさせてもらえない?」

?「……好きにすれば。私じゃ、殺せなかったし」

少女「よかった」にぱっ


?「底抜けのお人よし?」ボソッ

少女「ん、なに?」

?「なんでもないわ」ばさっ

少女(……やっと外したフードとマント。
 血が目立たないようにって言ってたから、
 もう攻撃するつもりは無いって、
 そういう意思表示なんだろうけど……
 なんで、頭に、動物の耳? 狼?)じいっ

狼「……何見てるのよ」ピクン

少女「動いたっ!」

狼「ああ、耳の事ね……気持ち悪いでしょ」

少女(悲しそうな……寂しそうな顔。
 なんだか耳も少しだけしょげてるみたいな……)

85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:10:55.38 ID:W65KwyCXo
少女「か、」
狼「か?」
少女「カワイイーッッ!!!!」バッ、むぎゅーっ

狼「ッッ?!!!」

少女「うわー、身体小さいし、なのに胸大きいし!
 抱き心地よくて、さらになんかかわいい耳だし!
 よく見たら顔も整ってて美人さんって!
 うわぁぁぁ!」ぎゅうう

狼「ちょ、ちょっとっ、ほどいて。
 そんなに抱きしめられると、痛いから」

少女「え、あ、ごめんなさい」しゅん


狼「アタシ、あんまりそうやって触られるのは、
 好きじゃないから」

少女「……ごめんなさい」

狼「まったく、マントを取っただけで、
 急に飛び掛ってくるなんて……」

少女「あはは。そうだ、遅れたけど、
 少女っていいます、よろしく」
狼「…………狼よ」


少女「狼さん、狼ちゃん……おーちゃん?」
狼 むっ

少女「狼さんかな」
狼 ほっ

少女 にこっ

86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/15(日) 13:11:18.50 ID:vYst2wHwo
狼耳とか俺得すぐる
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:11:28.85 ID:W65KwyCXo
少女「それにしてもその耳、
 さっきは気持ち悪いでしょ、とか言ってたけど、
 全然そんな事無いと思う。
 むしろすごくかっこよくて可愛いかも」

狼「……そう」
少女「それで、さっきはつい抱きついちゃったけど
 改めてちょっと、触らせてもらえない?」じいっ

狼「それはイヤ。
 変態オヤジみたいなのに触られるよりはマシだけど
 それでも、不快だから」
少女「そっか……」

狼「さらに言わせてもらうとかなり体臭が……」じっ
少女「うっ!!」

狼「……」
少女(だって、島を出てから一度も水浴びしてないし、
 ガレー船じゃ、太陽の照りつける甲板でずっと労働
 してたから……うん、自分でも臭い)しゅーん

狼「服も汚れてるし、ちょっと顔も黒いし」

少女「心に、瀕死の重傷……げふっ」

狼「……ちょっと、来なさい」とことこ

少女「うう、どこに行くの?」

狼 すたすた
少女 よたよた
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:12:26.39 ID:W65KwyCXo
------------------------------------------------
  夜  海賊船談話室

 とことこ

狼「包帯、いる?」
包帯「ん、何かな?」

狼「水をちょっと使っていい?
 できればお湯も沸かしたいんだけど」

包帯「……うん、わかった許可出すよ。
 水はあの洗濯用の大タライ一つ分まで。
 そこの火の中に熱した石があるから、使って良いよ」

大「助かるわ」


包帯「それから、聞きに行こうと思ってたんだけど、
 少女くんの今日食べたのもはどれくらいかな?」

少女「えっと、食べたのは……
 指が三本くらいの大きさのビスケットが、
 朝とお昼に一枚ずつ、後はワインを多少かな。
 夜はいつもないから、今日の分は食べた後です」

包帯「へえ、あの船の連中は案外、
 それなりに食べさせてくれてたわけか」

少女「そうなんですかね……
 一日中力仕事だから、そんなのじゃぜんぜん
 お腹に足りた気はしないんですけど」
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:13:01.39 ID:W65KwyCXo
包帯「まあ、あえてコメントはしないよ。
 でも、よかったら一足先に晩御飯たべないかい?

 たぶん今日は早めに休みたいだろうと思って、
 早めに少女くんの分を用意させてもらったんだ」

少女「わ、ぜひ食べたいです!」

狼「もうできてるの?」

包帯「いや、手早くできるから、
 食べるか聞いてからにするつもりだったけど」


狼「それなら先に、コッチの用事を済ませていい?」

包帯「了解……って、少女くん、よだれ」

少女「あっ、つい良い匂いに気を取られて」ごしごし

狼「ご飯は後よ。少女、そのバケツに
 包帯から水を入れてもらって、こっち来なさい」

 とことこ

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

少女「水持って来たわよー……って、うわ!
 ここ、いったいなに?」

狼「双子妹が男と相談して作った、
 『実験農場』らしいわよ。
 とはいっても、室内に栽培用の容器を並べただけ。
 ほら、ぼーっとしてないでそのバケツ置いて」
少女「あ、はい」
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:13:42.87 ID:W65KwyCXo
少女「ほへー……船の中で植物を育てるとか、
 とんでもない事しますね」

狼「あくまで、枯らしても諦めるっていう、
 ホントの実験らしいけど。

 もう一年半くらいやってるのかしら……
 私は詳しくわからないから、
 機会があったら双子妹に聞いてみれば」

少女「はい、そうします」

狼 ちゃぷっ、くるくる

少女(バケツの水の中に手を入れて、
 んん? 湯気が出てるから、お湯?)

狼「ちょうどいいくらいね。
 このお湯と布を使っていいから、
 拭いて身体をきれいにしなさい」

少女「え、でも、貴重な真水を
 まさかそんな事になんか使えませんよ」

狼「べつに、この船でなら、そこまでじゃないわよ。

 ……普通、この大きさの船だったら、
 この近辺だとどれくらい人が乗ると思う?」

少女「えっと、ガレー船だったら、百人くらい?」

狼「奴隷も含めるとそれくらいか。
 でも、この船に乗ってるのは、
 少女が来るまではたったの七人……」

91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:14:29.85 ID:W65KwyCXo
少女「あ、そういえば、
 部屋に案内してもらうときに、
 包帯さんがそういう事も言ってたような……」

狼「そう。ならわかるでしょ。
 水も食料も、それなりに余裕があっての事よ。

 まあ、さすがにこんな使い方は贅沢だから、
 たぶん包帯も少女を気遣って、
 特別に許可してくれたんだと思うけど」

少女「や、やっぱり、におうかな……」
狼「まあ、アタシは人よりかなり強く匂いを
 感じるからそのせいもあると思うけど、
 そこまでいくと普通の人でもわかるんじゃない」

少女「う、うううう……」

狼「それじゃ、アタシは部屋の外で見張ってるから。
 終わったら、中身はその植物にあげて」

少女「……はい」

 ぱたん

少女「……温かい」

少女(手ぬぐいを濡らして、ぎゅっと絞って……
 ううっ、びっくりするくらい真っ黒になる。

 せっかくのきれいな水なのに、申し訳ない気持ちで
 心苦しいなぁ……身体拭けるのは気持ちいいけど)
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:15:02.17 ID:W65KwyCXo
少女(狼さんも、いきなり襲い掛かってきたから、
 かなり怖い人だと思ったけど……
 実はそこまで怖い人じゃない?
 愛想はあんまりないけど)

少女「痛っ……。
 やっぱりムチで叩かれた箇所は沁みる……」

少女(でも、生きてるから、痛いんだよね……
 とはいっても、痛いものは痛いけど!)

少女「……」

少女(なんで、こんな事になったのかなぁ……
 最初は、家からちょっとだけ持ち出したお金と、
 騎士団のお仕事のお手伝いでもらったお金で、
 こっそりベネッタに行って……
 少し観光して帰るだけのつもりだったのに)

少女「あーあ、これ絶対痕になるなぁ……」

少女(でも、面白そうな人たちに出会えたし、
 こうして奴隷じゃない扱いをしてもらえるから、
 まだ幸せだよね。普通は奴隷になったら、
 基本的には死ぬまでそのままって聞くし……)

少女「……よし、なんとかきれいになったかな。
 もう水っていうかドロみたいだい。
 こんなに汚かったら臭うよ……」

93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:15:48.87 ID:W65KwyCXo
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

少女「おおーっ、美味しい♪
 まさか船で、こんなすごい食事ができるなんて……
 実はもしかして、私って天国にいる?」うるうる

包帯「あはは、大丈夫、まだ生きてるはずだよ。
 それに、すごいっていっても、
 スープパスタなんて簡単なものでごめんね」

少女「でも、このちょっとトロっとしたスープが、
 口に含んだ瞬間、魚と野菜の風味で一杯になって、
 スパゲッティに絡ませて食べると、もう……!」

包帯「気に入って貰えたなら嬉しいね」にこっ

狼「どうせ野菜って言っても、いつもと同じように、
 キャベツと芋とチャイプでしょ……」


包帯「狼くんはあんまり好きじゃないだろうけど、
 船の上で栽培ができたのは、
 今の時期だとコレくらいだからさ。
 他はさすがに環境が悪くてできないらしいね」

少女「コレくらいって言ったらバチが当たります!
 それなりの客船だったとしても、三日も経ったら
 固くなったパンに塩漬けした干し肉だけ。
 よほど良くても追加でザワークラフトですよ。
 水だってこの時期は腐っちゃうし……」

包帯「腐るのはどうしようもないからね……」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:16:20.49 ID:W65KwyCXo
少女「だから、こんな海の真ん中なのに
 新鮮な野菜が食べられるって
 私はすごい幸せですよ♪」

包帯「そこまで喜ばれると、がんばった甲斐が
 あるってものだね」にこっ

狼「アタシだってベツに、
 そもそも野菜がそこまで好きじゃないだけで
 包帯が努力して作ってるのは……」ぼそっ

包帯「認めてくれてありがと」にこっ
狼 ぷいっ

包帯「で、少女くん、おかわりはいるかな?」
少女「あ、迷惑じゃなかったら……」

狼「……やめときなよ。
 いきなり大量に食べると、お腹が痛くなるから」

少女「そっか。こういう時はよくかんで、
 ゆっくりと、回数を分けてだっけ」
狼「うん。その方が身体にはいいと思う」

少女(狼さんが、ちょっとだけ優しい顔……?)

包帯「それにしても、二人はすぐに
 仲良くなれたみたいだね」にこっ
狼「別に、仲良くなんて」
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:17:01.28 ID:W65KwyCXo
包帯「でも、少女くんの口調、
 僕よりも狼くんの方が親しそうだよ?」
狼 じろっ

少女「や、やっぱり、同じ部屋を使わせてもらうから
 できる限り親しめるようにがんばろーかなー、
 なんて思っただけで」

狼「それだけの事よ」

少女(殺されかけたら、
 なんだか丁寧にしゃべるのが面倒になったなんて
 さすがに言えないし……)

包帯「ふむ? まあ、いいか。
 食後に甘いものはどうかな?
 リンゴの乾燥させたのがあるんだけど」

少女「やったー♪」

狼「……私も、一かけちょうだい。
 上で食べるから」

包帯「はい、どうぞ、二人とも」

少女「ありがとうございます。
 ……ところで、上って何です?」

狼「上っていうのはマストの上の見張りの事よ。
 で、夜の見張りは大抵アタシに任されるの」
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:17:59.20 ID:W65KwyCXo
包帯「夜は風も冷たくなるし、
 できるなら代わってあげたいんだけどね」

狼「夜の闇の中だったら、
 アタシの方が他のみんなよりも何倍も見えるから」

少女「すごいなぁ……
 一人でも船が動くくらいオールが使える人に、
 他の人の何倍も夜目が利く狼さん。
 この船の人って、みんなすごいんだ」

包帯「そうでもないよ。
 僕なんかはむしろお荷物な方だからね」

少女「そうなんですか?」

包帯「この船に乗るまでは武器なんてせいぜい、
 包丁くらいしか触った事がなかったからね。
 練習はしてるけど、まだまだ弱くて。
 視力も悪いから見張りも引き受けられないし」

狼「……その分はこうやって、
 料理とかで貢献してもらってるから。
 少女も、ここに居場所がほしいなら、
 包帯によく習うといいわよ」

少女「は、はい……」
狼「それじゃ、アタシは見張りに行くから。
 少女も早く部屋に帰って寝なさい。ベッドは下ね」

 ぱたん
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:18:53.99 ID:W65KwyCXo
少女「それじゃ、私も失礼して、
 眠らせてもらいますね」

包帯「うん、おやすみ。良い夢を見てね」にこっ

少女「はい、包帯さんも、良い夜を」

 ぱたん

 とことこ

少女「ふあぁあ……
 おなかがいっぱいになった途端に、
 一気に眠くなるとか、私もまだまだ子供かなぁ」

少女(……居場所、かぁ。
 狼さんは何気なく言ったみたいだけど、
 この船にのって、長い期間にはならなくても、
 一緒に生活をさせてもらうなら、
 みんなに認められる事をしての居場所作りって、
 重要なことだよね)

少女「ガレー船が襲われて、
 襲ってきた海賊さんについて来させてもらって、
 面接みたいな話し合いが終わったと思ったら、
 案内された部屋で殺されかけて、
 海の真ん中でおいしいご飯を食べて……
 いろいろ有ったけど、悪くない、よね」

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:19:20.48 ID:W65KwyCXo
少女(すくなくても、ここ一週間近く、
 ほとんど変わらないような景色の中で、
 ただひたすら奴隷頭さんにおびえながら、
 空を見上げながら無力を嘆いてるよりかは)

少女「全然良いよね」こくこく

少女(あの窓の向こうの世界が見たい。
 そんな思いで島を飛び出したんだから、
 これはもう文句の付けようもない『前進』だよね)

少女「よぉーしっ!
 なんか頑張れる気がしてきた」フンスッ

少女(とはいっても、
 やっぱり寝るのが先かな……
 ずっと、まとまった睡眠も許されてなかったし)

少女「今日はべっどで眠れるぞー♪」るんたるんた

少女 くるくるー

 ぐらっ

少女「あてっ」ごつんっ

少女「……そうだよね、船だから揺れるよ。
 ベッドから落ちないように、
 なんとか気をつけて寝ないと」いそいそ

99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:20:03.09 ID:W65KwyCXo
------------------------------------------------
  朝 海賊女子部屋

少女(ここ、ゆれて。なんだっけ)

少女「ん、むにゅ……」すぅすぅ

少女(ああ、そっか。
 ガレー船からは助け出されて、
 今は海賊の船に乗せてもらって)

少女「ふにゃぁ……。んん?」のびー……

狼 すぅすぅ

少女「…………なんで、抱きついてるの?」

狼 すぅすぅ

少女(まあ、元は彼女のベッドみたいだから、
 狼さんが寝ててもおかしくないんだけど。
 抱きつき癖でもあるのかな……)

狼 ぎゅっ

少女(焦がした灰色みたいな耳と、同じ色の細い髪が
 窓から差し込む明かりに照らされて、
 きらきら、銀粉をまぶしたみたい)

100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:20:35.73 ID:W65KwyCXo
狼 すぅすぅ

少女「……さすがに、寝てるときに触るのは、
 無意識じゃなかったら反則だよね」

狼 ぴく

少女「ああでも、ときどき動く耳を見てると、
 なんかねこじゃらしを前にした猫みたいな
 触りたい衝動はきっとわかってもらえるはず!」

双子姉「あー、たしかに、それはわかるかもね」

少女 びくうっ

狼「ん……むぅ……」すぅすぅ

少女「あ、あの」

双子姉「えへへ、驚かせてごめんね。
 よーいせっ……着地成功!」すたん

少女「二段ベッドの上から飛び降りるなんて、
 危ないないからやめた方がいいよ?」

双子姉「大丈夫だよー。
 失敗なんて十回にいっぱいくらいだし」

少女「いやそれダメじゃんっ!」ビシッ

101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:21:03.36 ID:W65KwyCXo
双子姉「あはは、お姉さんノリがいいねー♪
 でも、寝てる狼姉さんへの悪戯はやめた方が
 たぶん良いと思うよ。
 触られるのは好きじゃないって言ってたからね」

少女「あ、そういえばそうだよね。
 とりあえず、抱きついてる腕を、外して……
 よし、おはよう」ごそごそ、にこっ

双子姉「おっはー♪
 とりあえず、部屋を出ようか。
 いつも通りなら狼姉さんは夜が明けるまで
 ずっと見張りしてはずだし、
 双子妹はまだ活動時間じゃないからね」

少女「うん、まあ、散々騒いだ気はするんだけど」

 とことこ、ぱたん

双子姉「ちっちっちー。
 わかってないねお姉ちゃんは。
 こういう時はきちんと、事前に対処はしましたよ
 なんていうポーズこそ重要なんだよ」

少女「あー、何となくわかるかも。
 お勉強はしたけど身につきませんでしたみたいな」

双子姉「え、お勉強って、したら身につくよね?」

102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:22:25.02 ID:W65KwyCXo
少女「う、ぐ」

双子姉「あ、ごめん。もしかしてその……
 お勉強しても身につかない人?」ニヤッ

少女「そう、だけど……」

双子姉「ふふーん。私だって身につくのにー」

少女「むうー。ずいぶん胸を張ってるけどさ
 そんなに言うなら何ができるの?」

双子姉「足し算ができる!」じゃーん

少女「……く、くやしい」
双子姉「へへーん」

少女(だ、大丈夫だよね、拍子抜けしたのとか
 バレてないよね……?
 さすがに勉強嫌いの私でも、
 足し算ができるできないって相手に、
 道を譲らないほどじゃないし)

少女「そういえば、自己紹介がまだだったけど、
 改めて始めまして、少女って言うんだ」

双子姉「双子姉だよ、よろしくっ」にぱっ
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:24:18.24 ID:W65KwyCXo
少女「……ところでその、双子姉ちゃんは、
 年齢って、いくつ?」

少女(見た目からしたら、
 足し算引き算で困るような、
 そんな年齢じゃないと思うんだけど……)

双子姉「年齢……それは乙女の秘密」きりっ

少女「いや、乙女って」

双子姉「正直なところを言っちゃうと、
 実は年齢ってちゃんとわからないんだよね。
 たぶん、えーっと、
 いち、に、さん、しー」

少女(ゆ、指折って数えるところから……)

双子姉「きっとたぶん間違ってなければ、
 今年で十二歳くらいになるかな?」

少女「……ちょっと、かさましとかしてない?」

双子姉「んー、本当にわからないからさ。
 私も妹も、誕生日って言葉を初めて聞いたのも、
 くろちゃんに頼まれてこの船に乗ってからだし」

少女「くろちゃん?」
双子姉「この船のせんちょーのおっちゃんのこと。
 今はちょっと白くなってきてるけど、
 私と妹が出会ったばっかりの頃は、
 顔とか真っ黒に日焼けしてたんだよね。

 喪服みたいな真っ黒なマントだったから、
 まっくろのおっちゃんって呼んでたんだけど」

少女(真っ黒いマントなんて、珍しい……
 普通の海賊って、みんなド派手なのに)
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:26:07.80 ID:W65KwyCXo
双子姉「おっちゃんって言うと嫌な顔するから、
 『しょーがねーなー、どんな名前がいいのか、
 いっそ自分でしゅちょーしてみやがれ』って
 私が親切にも聞いてあげたのよ」

少女「ほほう」

双子姉「まあ、結局それでもあの無表情のままで、
 名前なんて好きに呼べとか格好つけるから、
 いくつか呼んで一番いやーな顔をしたくろちゃんで
 私は呼んでるってわけ。ふぅ」

少女「あはは、面白い話聞かせてくれてありがと。
 もし機会があったら、私もそんな名前で
 呼んでみようかなー」

双子姉「うんうん、それできっとしばらくすると、
 みんなであの無表情さんに、
 くろちゃーんって呼びかけるようになるんだね」

少女「なんとなく、その時にみせてくれる、
 嫌な顔って言うか、嫌な気分をにじませた、
 不自然なくらい無表情な顔が想像できて
 もう今からちょっと笑えてくるね」

双子「ふふ、おぬし、趣味がよいのぅ」
少女「いやいや、あなたほどでは」

二人「はーっはっは!」
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:26:40.91 ID:W65KwyCXo
双子姉「ところで質問なんだけど、
 お姉ちゃんって、もしかして白髪のおっちゃんと
 知り合いだったりするの?」

少女「え、そんな事はないと思うけど……」

双子姉「でも、この船に来たって事は、
 なにか『普通じゃない』っていうのが、
 あるんじゃないの?」

少女「うーん、普通かそうじゃないかっていうと
 狼さんとくらべたりしたら、
 かなり普通だと思うけど……」

双子姉「じゃあ、空を飛んだり、
 目が光ったり、壁をすりぬけられたり、
 ええっとええっと、
 そういう何かスゴい事とかできないの?」

少女「あはは、ごめんね、
 そういうのはぜんぜん無いって。

 せいぜい普通に暮らしてる人よりも、
 ほんのちょっと剣とかを使えるくらいかな?」


双子姉 じーっ

少女(昨日はそれのおかげで、
 狼さんから殺されなくてすんだからなぁ。
 まさかあんな初実践になるなんて、
 世の中ほんとにわからないよ)
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:27:44.14 ID:W65KwyCXo
少女「私の事よりもさ、
 この船には狼さんの他に、
 さっき言ったみたいな事ができる人もいるの?」

双子姉「え、うーん……
 その質問には答えても良いんだけどね」

少女「?」

双子姉「その、お姉ちゃんはさ、
 気持ち悪いとか思わないの?」

少女「気持ち悪い?」

双子姉「気持ち悪いじゃなかったら、
 怖いとか、嫌だとか、そんな感じを、
 狼姉ちゃんからを見ていて、感じない?」

少女「えっと……
 どうなのかな、とりあえず狼さんに対しては、
 特にそういう事は思わないけど」

双子姉「そっか、それなら良かった」にぱっ

少女(どうして)

双子姉「前にもね、普通の人を入れようって話が
 出た事もあったんだ。
 さすがにこの大きさの船にこの人数だと、
 どうしても不便な点はあるから」
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:28:17.69 ID:W65KwyCXo
少女「うん、たしかにすごく少ないと思う」

双子姉「でね、誰かが体調崩した時には、
 一人で受け持っている事も多いから、
 うまく回らなくなっちゃう部分が大きくて、
 何度か『普通の人』を雇ってみたけど、
 どうしても、長持ちしなくて」

少女「それは……」

双子姉「あのね、この船の名前知ってる?」

少女「えっと、『フリークス・パイレーツ』って
 聞いた気がするけど」

双子姉「そう、それともう一つ。
 『悪魔と魔女の船』って名前も有ってね」

少女「それって、すごく危なくない?
 さすがに大規模な魔女狩りは減ってきたけど、
 悪魔と魔女なんて二つがそろってたら、
 間違っても一神教の人たちが見逃さない……」

双子姉「まあ、事実だから仕方ないんだけどね。
 一神教の剣を自称してるマータ騎士団の人たちは
 本気でこの船を異端審問するって、
 張り切って追ってきてるし、
 トルキアのスルチアン(宗教的指導者)も、
 さすがに見逃せないって口にしたみたいでね……」
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:29:11.00 ID:W65KwyCXo
少女「それってもう、この地中海の周りの国が、
 全部まとめて敵になってるような状態じゃない……
 なんでそんな」

双子姉「なんでっていうか、
 さっきも言ったけど、それは一つの事実だからね。

 だから、この船以外にはいられる場所がないような
 『フリークス』とは違って、
 他の場所でも生きられる『普通』の人は、
 すぐに逃げて言っちゃうんだ」

少女「でも、事実なんかじゃないでしょ?
 まだ包帯さんと、白髪さんと、
 男さんと、狼さん、それから双子姉ちゃんしか、
 自己紹介もしてもらってないけどさ。

 でも、悪魔とか魔女とかみたいな、
 おどろおどろしいのとは、
 みんなむしろ逆じゃないかなって感じてるよ?」

双子姉「うん、まあみんなの性格からいうと、
 そんなものに頼るくらいなら、
 大砲でも使った方が早くて安くて確実っていう、
 さっぱりしたところが有るけどね。
 やっぱりそれだけじゃ、ないみたい」

少女「……」

109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:29:40.73 ID:W65KwyCXo
双子姉「私はまだ詳しいことなんて分らないから、
 詳しく知りたかったら別の機会にでも、
 白髪のおっちゃんとか、くろちゃんにでも、
 ちゃんと聞いてね。
 私にでも分るのは、もしこの船の海賊として
 どこかに捕まっちゃっうような事があったら……」

少女 ごくり

双子姉「まあ、死んだ方が幸せって事に
 なっちゃうみたいだよ」

少女(本当なら、まだ両親と一緒の家にいて、
 毎日を楽しく笑いながらすごしているような、
 十二歳の子のはずなのに、
 暗くて、その奥の読めなくなるような瞳……)

双子姉「まあとにかくそういう意味でも、
 改めてお姉ちゃんは考えた方がいいと思うよ」

少女「……ありがと」

双子姉「こうやって船にのって、
 のんびり海を漂ってると、
 忘れちゃいそうになるけれどさ、
 この船のみんなは『フリークス』だからね。

 誰に対しても、生きててごめんなさいって
 そう言いながら、こっそりしてるしかないの」

少女 ギリッ
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:30:08.71 ID:W65KwyCXo
双子姉「……お姉ちゃん」

少女「そんなの……
 私には難しいことはよくわかんないけどさ、
 なんか、なんだかなぁ……っ」はたり、はたり

双子姉「…………泣いてるの?」

少女「だって、悔しいよ。
 なんで双子姉ちゃんみたいな子が、
 そんな悲しい事言わないといけないのか」

双子姉「……私はいいんだけどね。
 私が選んだ事だから」

少女「っ、でも……」

双子姉「たしかにみんなが笑顔で、
 仲良くのんびり暮らせると良いなーって思うけど、
 世界はきっと、そんなに広くないんだよ」

少女「そんなの……」

双子姉「でね、もしお姉ちゃんが、
 私たちの事が怖いって言うんだったら、
 みんなの事を『こんな怖いんだぞー』って言って
 脅かすつもりだったんだけど、
 怖くないみたいだから、やめちゃうのだっ。

 どうやらお姉ちゃんって、
 おどかしてもつまらないみたいだからね」にこっ
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:30:45.97 ID:W65KwyCXo

少女(なんで、年下の子に、
 こんな悲しい話を諭されないと、いけないんだろ)

双子姉「あのね、私たちの事が知りたかったら、
 時間がかかるかもしれないけど、
 最初は向き合ってくれると、いいと思うよー?
 楽して聞こうなんてダメなんだよ」にぱっ

少女「……そっか、そうだよね」
双子姉「うむうむ」

少女(『悪魔と魔女の船』なんて、
 この船をみてると、
 あの奴隷として使われてたガレー船よりも、
 よっぽど明るくて楽しそうなのに)

双子姉「それじゃ、私は今日のお仕事、
 頑張ってやってくるからね!
 お姉ちゃんは一度、
 白髪のおっちゃんに会いに行くといいよー」

少女「あ、うん、ありがと。
 いろいろと」
双子姉「ふふん、えらい?」

少女「偉い、偉い」なでなで
双子「ひゃっほー♪ じゃ、行ってくるねー」だだっ

少女「………………」
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:38:17.76 ID:W65KwyCXo
少女「ほんと、次から次に、
 なんだか分からないのが飛び出してきて……」

少女(魔女に、悪魔……
 世界に見捨てられたような、そんな人たちばかり。
 でも、今のところまだほんの数時間だけど、
 はなしたらみんな、普通だったり、
 むしろイイ人で……)

少女「広い世界がみられるかもしれないって、
 そう思ってちょっと期待してたのに、
 載っている双子姉ちゃんは、
 世界は狭いって……」

少女(なんで、そんな言葉が出るのかな)

少女「…………あぁもう!
 私じゃ悩んだって分からないのに」

少女(むかしから、そういう頭を使う事よりも、
 体を動かして解決するようにしてたから、
 いきなりそんな事考え始めても、
 もうこんがらがってわかんなくなるよ!)

少女「とりあえず動く!
 白髪さんの部屋に突撃だね!」

 だだーっ!

113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/15(日) 13:40:58.26 ID:W65KwyCXo
とりあえず、寝落ちしそうなので、失礼して寝ます><
すみません、返答とかは、起きてからで……うつらうつら……

鼻炎薬と、安眠枕置いていくから、良かったらもってってくれー。

あ、そうだ、一つ忘れてた……
この時代、地中海にはまだ紅茶がなかったから、
きっと男は紅茶飲んでないです、それだけ……

114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/15(日) 14:24:49.50 ID:YI34/O46o
枕ありがとう!
おやすみー
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/05/15(日) 15:17:44.50 ID:yH3auGkf0
乙ですー。次の更新を楽しみに待ってるぜ ビクンビクン
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/05/15(日) 18:12:26.25 ID:xmIiMK2v0
乙どぇす
先が気になるねぇ
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/17(火) 01:27:09.11 ID:Ppw/mo4ro
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/17(火) 23:30:44.21 ID:wWEnenAjo
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  朝 海賊船男部屋

 こんこん

白髪「開いてるぜ」

少女「おはようございますー」ひょこ

白髪「おはようさん。ちょうど呼びに行こうかって
 思ってたところだ。
 昨日の今日でちゃんと起きてくるたぁ、関心だな」

少女「そうなんですか?」

白髪「おう。今までにも嬢ちゃんみてえに、
 奴隷をしていたのを助けて連れてきた事があるが、
 さすがに暫くはぐったりしてたもんだ」

少女「私は奴隷として働いてた期間が、
 それほど長くなかったからですからね。
 体の方も、よく寝たらしっかり回復したし!」ふんす

白髪「がはは、そりゃ頼もしいな。
 そうだ嬢ちゃんよ。
 俺に対しては堅っ苦しい言い方はしねぇでいいぜ。
 あんまり丁寧に扱われると、
 本気で年を取った気になっちまうからな」

少女(本気でって、見た目は六十歳くらいだよね……)
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:31:12.57 ID:wWEnenAjo
白髪「ん? ああそうか、嬢ちゃんとまともに
 こうやって差し向かいで話すのは初めてか。
 そりゃ自己紹介しなくちゃわからねえよな。
 俺の名前は白髪、年齢は三十手前だぜ?」

少女「へ?」

白髪「まあ、この外見を前に、
 見ただけで年齢を分れっつうのは、
 確かに酷な話だが、顎が外れねぇようにな」

少女「い、いやいや、まっさかー。
 あ、気分はいつでも若者だって事ですか?」

白髪「ばっきゃろう、んな小賢しい事を言うかよ。
 いや、間違っていねぇのか?
 紛らわしいが、俺の生きてきた時間は、
 間違いなく三十年弱程度なのさ」

少女「でも、その、えっと……」

白髪「ま、言いたいことも分るぜ?
 俺の見た目の年齢は明らかに倍以上だってな。
 コレが俺の『普通じゃない部分』ってやつさ。
 全然面白くもねえがな」

少女「狼さんに耳とか尻尾が有るみたいに、
 白髪さんは、倍以上老けて見えるって事ですか?」

白髪「まあそう云うわけだ」
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:31:42.45 ID:wWEnenAjo
少女(年齢はもちろん顔でも分る。
 でも、むしろその老いが相応に見えるのは、
 首とか手の甲、指先だって聞くけど、
 やっぱり、その年齢には見えないかな……)

白髪「信じらんねえってツラだな」苦笑

少女「いやぁ、やっぱり、
 狼さんみたいに分かり易い形じゃないし、
 なんていうか、しゃべり方とかもその年齢っぽいし、
 どうしても先入観が」

白髪「まあ、信じられねえって云うんだったら、
 ソレはソレでいいんだがな。
 見た目の年齢通りに、
 どうしたって体は衰えちまってるからよ。
 最近は膝が痛くてかなわねえよ。がはは」

少女「あははーって、そんなんで大丈夫なんですか?」

白髪「あん、なにがだよ」

少女「何がって、膝が痛いとか云ってるのに、
 昨日の強襲の時には先頭切って乗り込んでましたよ!
 危ないじゃないですか」

白髪「そんな事ぁわかってんだよ。
 だからっつって、後ろで尻込みしても仕方ねえ。
 女子供を前に出して引っ込んでるなんざ、
 粋じゃぁねえだろ」
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:32:10.57 ID:wWEnenAjo
少女「そ、そういうものですかね?」

白髪「男はそういうものであるべきなのさ。
 まあ、そんな話は置いてこくとしてよ、
 中身がどうだとかはもうどうでもいい。
 とりあえず堅苦しいの禁止だ、以上!」

少女「お、おっす……おら少女、よろしく?」
白髪「なんでそんなんになる」

少女「いやぁ、どうしても見た目は六十代で、
 たとえ中身が三十代だったとしても、
 私から見たらやっぱり年上だし」

白髪「ったく、仲間になるんだから気にすんなよ
 ……っとそうだ。嬢ちゃん、今日から仲間だからな。
 男のヤツが、入れるも入れないも好きにしろ、
 なんて俺に投げたから、入れることにした」

少女「そんないい加減なので、良いんですか……」

白髪「別にそこまでいい加減じゃねえって。
 今日は夕方には一度陸に上がって、
 その後はまたしばらく海の上だ。
 仲間って事にしておかねえと、
 嬢ちゃんの航海中の服とかについて、
 男が金を動かせねえからな」

少女「う、なんだかお手間をかけさせたみたいで」

122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:32:41.95 ID:wWEnenAjo
白髪「気にすんなよ。若いウチは世話されておけ」

少女(若いって言ってるけど、言葉はやっぱり
 どこかお年寄りじみてるんだよなー)

白髪「どうした?」

少女「いえ、なんでもないです!
 ……その、以前からよく話しに出てくるけど、
 双子妹ちゃんって、どんな子なんです?」

白髪「そうだな、嬢ちゃんが俺に対して、
 もっと仲間らしい楽な口調になったら、
 紹介してやってもいいぜ?」

少女「う」

白髪「どうせ猫かぶってるのはわかってんだよ。
 昨日の晩飯時に、包帯がヘラヘラ話してたからな」

少女「別に、猫かぶってるわけじゃ……
 まあ、いいや。うん、白髪さん、よろしくね」ぐっ

白髪「おう。よろしく頼まぁ」ぐっ

少女(すごい、握手してわかったけど、
 剣を握って訓練してる人のごつごつの手だ……)

白髪「なんだ、俺の手の感触が気に入ったか?」

123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:33:16.02 ID:wWEnenAjo
少女「うん、どっちかと云えば好きな感触かも?
 こう、頼れそうな手って感じで」もみもみ

白髪「がはは、この手の良さが分かるたぁ、いいな。
 嬢ちゃんも、箱入りのクセにずいぶんとまた、
 ヤレテル手じゃねえか」

少女「もしかして、私の過去についてとかは」

白髪「おおまかにだが、男に聞いてるぜ。
 とはいっても、主に忠告のためだろうな」

少女「忠告って、なんの?」

白髪「一応、嬢ちゃんってのは
 権力者側の人間だろ。
 しかも元は公爵家で、それが独立して国の王だな」

少女「まあ、大まかに言えばそうだけど、
 兄がいたおかげで比較的自由にできたし、
 別に数年前までは箱入りでも無かったから」

白髪「そこら辺はいいんだがな、
 誰とは俺が口にすべき事じゃねえが、
 ウチも海賊船だ。
 貴族って生き物に対して偏見と嫌悪感を持つ奴も
 いるっていう話さ」

少女「……」

124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:33:58.91 ID:wWEnenAjo
白髪「まあ、そんな目で見る奴はほとんどいないが、
 それでもできりゃ、
 嬢ちゃん個人を見て納得するまで、
 わざわざ火種をたてなくてもいいだろうさ」

少女「……なんか、だましてるみたいで、
 それがちょっとイヤだけど」

白髪「別にだましてるわけじゃねえだろ。
 ここにいるのは、何とか貴族の何とか様じゃねえ。
 家出してまで世界が見たいなんて言う、
 これ以上ない大馬鹿な小娘じゃねえか」

少女「ヒドっ! わざわざそんな言葉選ばなくても!」

白髪「がはは、家出して観光しようとしたら、
 トルキアに捕まって奴隷にされるだなんて、
 馬鹿な小娘以外のなんだっつーんだよ」

少女「むぐっ」

白髪「だいたいな、推測に過ぎねえが、
 親父さんが嬢ちゃんの事を家の外に出ないように
 取りはからったって話だって、
 俺はただの執着だって思ってねえぜ。
 最近の海は物騒だからな」

少女「それ、どういう事なの?」

125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:34:31.93 ID:wWEnenAjo
白髪「トルキアのスルチアンが代替わりして以降は、
 先代が穏健派だった反動か、
 それとも単純に若さ故か、
 連中の『自国商船』に対する優遇っぷりが少しずつ、
 目立つようになってきたわけだ」

少女「う、う」

白髪「おいなんだ、もしかして話についていけてない
 なんて事はねぇよな?」

少女「その、トルキアって名前くらいは分かるけど」

白髪「……今までの人生で何を学んできたんだ?」

少女「剣の使い方とか、銃の使い方とか……」

白髪「為政者にはいらんモンだろ……。
 普通とは方向性が真逆だが、
 ホントに甘やかされてそだったんだな。
 こりゃ、嬢ちゃんの身を守りたいから、
 屋敷に閉じ込めたってだけの話じゃなさそうだな」

少女「というと」

白髪「嬢ちゃんがバカ過ぎて放っておけなくなった、
 って意味だよ」

少女「ぐ、ぐぅ……」

126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:35:05.87 ID:wWEnenAjo
白髪「まあ、あれだ。追々細かい事も教えてやるよ。
 とりあえず先に、この船のメンバー紹介してから、
 その話はまたいずれだな」

少女「あー、いや、やっぱり勉強は……」

白髪「そんな事言ってると後悔することになる、
 なんて言っても仕方ねえか」

少女「な、なんでですか!」

白髪「後悔することになるぞなんて言って、
 本当に勉強するようになるんだったら、
 最初からやってるだろうって話だ」

少女「それはまあ、確かに……」

白髪「肯定するんじゃねえよ……
 まあ、双子姉にでもバカにされてから、
 せいぜい頑張るがいいさ」

少女「そ、それは悔しいかも!
 まあ、それなりにやるようにするって云う事で」

白髪「やれやれ……
 さすがにこりゃ心配にもなるぜ。
 リベルタの明日には嵐と高波の警報が必要だな」

127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:35:30.16 ID:wWEnenAjo
------------------------------------------------
  朝 海賊船談話室

白髪「お、ちょうどいい。
 さっそく一匹目を捕獲だな」

双子妹「もきゅい?」もぐもぐ

白髪「コレ、昨日連れてきたお嬢ちゃんだ。
 名前は少女。中身はバカだ」

少女「ば、バカってなんですか!
 しかもコレって、モノ扱いだし!」

白髪「んで、パンをほおばってるのが双子妹だ。
 食いしん坊で、年中眠ってる上に、
 若干――いや、けっこう言葉に不自由しているが、
 いわゆる一つの天才って奴だ」

少女(見逃しようの無い大きな入れ墨で
 顔に魔女っていう言葉が彫られてる……
 双子姉ちゃんと、双子なんだよね?
 っていうことは十二歳のはずなのに、
 こんな、顔に大きく……ひどい)

双子妹「おはようございますであります!
 自分、双子妹と申すであります」びしっ

少女「よろしくね」にこっ

128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:36:09.31 ID:wWEnenAjo
白髪「俺たちも一緒に朝飯食っていいか?」

双子妹「は、目上の方に気を遣わせてしまうとは不覚
 自分が先に確認するべきで有りました」ささっ

少女「ありがとー♪」

白髪「ありがとよ。
 まあ、この船じゃ朝はけっこう適当に食ってるな。
 狼のヤツはいつも夜の見張りを任せてるから、
 アイツは朝から昼過ぎまで寝てるし、
 双子妹は年中寝坊だしな」

双子妹「寝坊ではないでありますよ。
 ちょっとばかり人よりも睡眠が多く必要な体質
 というだけであります」もっきゅもっきゅ

白髪「ちょっとって量かよ。
 まあ、話を朝飯に戻すと、
 だいたい夜が明ける位に包帯が起き出して、
 こうしてパンを焼いてこの部屋のテーブルに
 置いていくから、それを勝手に食って、
 みんな勝手にそれぞれの仕事をするわけだ」

少女「へー、なるほど……って、え、パンを焼く?!」

白髪「がはは、そりゃぁ驚くよな。
 俺はいくつか船を渡り歩いてきたんだが、
 まさか船内でパンを焼くバカがいるとは
 夢にも思わなかったぜ」ぱくぱく
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:37:09.17 ID:wWEnenAjo
双子妹「バカとは失礼であります。
 様々な面から考慮して、この船にあっては、
 調理設備がある事が必須と判断したのであります」

白髪「すまんすまん。別に文句じゃねえからよ。
 ちなみに嬢ちゃん、この船の設計なんだがな、
 船長の男とこの双子妹でだいたいやったんだぜ?」

少女「たしかに他では見ないような船だけど、
 完全に特注なんだ……
 しかも、ほんとにこんなに小さいのに、設計を?」

双子妹「自分が、船長殿の意向をくみ取って、
 実現可能な形にしたのでありますよ」

白髪「まあ、ちょっと細かい事情を説明するか。
 いいか? 双子妹」

双子妹「大丈夫でありますよー。
 むしろ、きちんと知ってもらう事、
 すなわち知と見地の共有こそが無用な争いに対し
 有効な手段であると愚行するところであります!」

少女「……難しい言葉使うね」もぐもぐ

白髪「いったろ? 言葉に不便があるってよ。
 まあ、顔の入れ墨を見りゃわかるだろうが、
 コイツは魔女として、一神教に処刑をされる
 はずだったのさ。
 ……嬢ちゃんはさらし刑って知ってるか?」
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:37:36.92 ID:wWEnenAjo
少女「その、島ではあんまり見ないけど名前は」

白髪「罪状の書かれた板を首にかけさせ、
 広場の真ん中とかに拘束して放置する事で、
 罪人だって事を知らしめる刑だな。
 で、その刑の間は、受刑者に石を投げつけようが、
 棒で叩こうが何をしてもいい」

少女「確か、酔っぱらいの人にも、
 そういう刑があったよね」

白髪「ああ、飲んだくれの樽だな。
 酒を飲み過ぎたヤツを戒めるために、
 酒樽に穴を開けて両手と首を出させる形で詰めて、
 数日間放置するわけだ。
 見てる方は滑稽だっていうが、
 樽の中じゃ相当悲惨な事になる刑だ」

双子妹「食事時にはやめてほしい話題であります」むぅ

白髪「話を振ったのは少女だっての。
 それでだがな、双子妹の場合は恨み辛みか、
 顔に入れ墨なんていう
 反吐の出るような目印が付けられたのさ。
 まあソレを見かけた俺達が、
 紆余曲折あって、処刑寸前に誘拐してのけたがな」

双子妹「誘拐していただいたおかげで、
 こうしてのんびり暮らせているのであります」

131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:38:04.01 ID:wWEnenAjo
少女「でも、どうして魔女裁判なんて
 危険なものに追い詰められたの?」

白髪「さっきも云ったが、コイツは一種の天才でな、
 普通の奴の何倍も知恵が回る。
 で、その知恵で、何度も川の氾濫で困っていた村を
 救ってやったらしい」

少女「おおー、とっても良いことじゃない!」

白髪「だが、それが原因で、
 神の使いだ聖女様だとあがめられてな。
 面白くないと憤った一神教の連中、
 悪魔の知恵を使って人々をたぶらかしたとか云って、
 魔女裁判にかこつけてコイツをおとしめ、
 体よく手柄だけかすめ取ろうとしたわけだ」

少女「うう、とたんに生臭なって。
 がんばって人を助けようとしたのに、
 どうしてそんなヒドイ目に……」

白髪「俺に言われたってしょうがねえ。
 宗教ってのは最終的に、
 信じてもらうための実績が問われる事になるから、
 そこに水を差すようなヤツは許せねえって腹か」

双子妹「聖女にならないかってスカウトは、
 たしかにあったでありますよ」

少女「それなら、どうしてそうならなかったの?」
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:39:07.73 ID:wWEnenAjo
双子妹「自分は一神教そのものにはこだわりは無い故、
 面倒が起きなければ関わっても良いかと、
 そう思ったのでありますよ。
 でも、双子姉に対して乱暴な態度を取ったので、
 ついカッとしてイロイロやってしまったであります」

白髪「がはは、カッとしてであんな目に遭わされちゃ
 連中もかなわねぇよなぁ」

双子妹「いやいや、お恥ずかしいでありますよ」

少女(な、なんだか聞きたいけど、
 聞いたらまた疲れそうな……)

双子妹「そんな訳で魔女扱いされて、
 この海賊さん達に助けてもらい、
 いまに至っているのであります」

白髪「今となっちゃ、
 助けたはずが助けられ、
 なんて事態になってるがな」

少女「それがもしかして、
 その調理場とかを作ったって話につながるの?」

白髪「そういう事だな」

双子妹「でも自分はなにも、
 たいそうな事をしたという訳ではないでありますよ。
 もともと人数が少ないこの船だから、の工夫程度」
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:39:46.14 ID:wWEnenAjo
白髪「その工夫が役にたって、
 こうして毎日のように焼きたてのパンが食えるなら
 十分賞賛されるべき事だぜ?」

双子妹「そう言われると嬉しいでありますな」(///

少女「うんうん、ご飯がおいしいのは幸せだからね」

双子妹「そう、その通りなのでありますよ!
 ご飯は大事、これはもう人類の標語であります。
 湯気の立つパンやスープを食べる。
 ただそれだけで幸せになれるなら、
 払うべき対価としては世のあらゆるものより、
 安いのでありますよ」

白髪「ったく、そろいもそろって、
 食い意地ばっかり張りやがって」

双子妹「きゅぴーん、ご飯の大事さを認めぬなら、
 認めさせねばならないであります」しゅばっ

白髪「あ、それは俺が残してたベーコンパン!」

双子妹「ほははは、ほーはひはんほほへーほんはんは
 ひふひひひはほへはひはふ!」

白髪「く、良いから、飲み込んでから喋れよ」

双子妹「ごくごくっ、ぷはー!
 では、ごちそうさまでありました」
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:41:39.07 ID:wWEnenAjo
白髪「ったく。この後は植物の手入れか?」

双子妹「はい、その通りでありますよ。
 日が高くなる前に窓を開けて、
 一枚ずつ葉っぱの塩を拭き取るのであります」

白髪「そこまでして本当に、
 海の上で野菜を作る必要があるのか?」

双子妹「まあ、目的を考えると、
 多少迂遠な手段ではありますが、
 有用性は高いと愚考するであります」

少女「目的、ですか?」

白髪「ああ。俺たちにとってこの船ってのは
 二代目にあたるんだがな、
 元は他の海賊と同じようにガレーを使ってたけど、
 誰からともなく新大陸に向かおうって
 そんな話になったんだよな」

双子妹「たしか白髪の兄様であります」

白髪「そうだっけか?
 まあどうでもいい。
 それならしっかり対策をして、
 誰一人欠けないで到着できるようにしようって事で
 いまのこの船は遠洋航行の試験中なんだ」

少女「ああ、だからわざわざ船の上で植物を育てて」
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:42:32.15 ID:wWEnenAjo
双子妹「長い船旅を経ると、
 壊血病という恐ろしい病気になるのでありますよ」

少女「ああ、なんか聞いたことがあるかも。
 それなりに食事はとってるのに、
 次第にやせていって、
 歯が抜けたり、古傷が開いたり、
 突然立ちくらみがして倒れて海に落ちたり……
 海の上じゃ、警戒できる海賊よりも怖いって」

双子妹「その通りであります」

白髪「嬢ちゃんの脳みそに入ってるって事は、
 やっぱり島でも問題になったか」

少女「ちょっと、それどういう意味よ!」

白髪「がはは、怒るなよ、単なる冗談だ。
 だがまあ、原因不明の奇病、
 悪魔の仕業かそれとも天罰かって、
 恐れられてるからな」

双子妹「でも、船に乗らない人間では、
 そのような症状は見受けられないのであります」

少女「確かにそうだけど、
 それだけじゃどうしようもないでしょ?」

白髪「だからっつって、遠洋するなら
 気にしないワケにもいかねえからな」
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:43:32.72 ID:wWEnenAjo
双子妹「そこで、海の上にいることで、
 『何かが起る』のか『何かが無くなる』のでは、
 という推測を立てて、とりあえず、
 できる限り陸上の環境を持ち込むようにと、
 工夫をしているのでありますよ」

少女「おおー。よく分からないけど、すごそうだね。
 じゃあ、いつでも新大陸にいけるわけなんだ!」

双子妹「たしかに現状、この船では壊血病の発生は
 確認されていないであります。
 しかし、それは悪魔の証明と同じ事なのであります」

少女「……悪魔の証明って?」

双子妹「うーんたとえば、
 『この世に黒い色の鳥がいる』という証明は、
 黒い鳥を一匹捕まえて来れば、
 それが証明できるわけであります」

少女「うんうん」

双子妹「しかし、『この世に金色の鳥はいない』という
 証明をしようとするならば、
 世界中を飛び交うあの鳥をすべて捕まえて
 ようやくいないという事が云えるのであります
 つまり事実上云えないわけであります」

少女「なんとなく、わかるような」

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/17(火) 23:43:43.32 ID:s5dwJdyNo
来たか
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:44:12.79 ID:wWEnenAjo
双子妹「要するに、今日はまだ平気だから、
 明日も大丈夫とは限らないという事であります。
 一人が発症すると、比較的連続して発生するため、
 発症しない事が肝要なのであります」

少女「でもそうなると、いつまで経っても、
 新大陸には向かえないよね」

双子妹「おおよそ半年程度、
 陸に上がる人間と、陸に上がらず生活する人間で、
 検証のために比較実験をするのであります。
 自分と双子姉、そして包帯のお兄さんは、
 すでに四ヶ月一度も陸に上がっていないであります」

少女「じゃ、あと二ヶ月くらいしたら、
 実験完了って事で新大陸に向かうのかな?」

双子妹「おそらくは。
 その点については船長殿とよく相談するであります」

少女「そっか、分かり易い説明ありがとね」

双子妹「お役に立てたなら嬉しいでありますよ」にぱっ

白髪「それじゃ、俺たちはそろそろ、
 アイツのところに挨拶に行くことにするわ」

双子妹「了解であります。自分もお仕事頑張ります」

 たったかたー
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:44:54.81 ID:wWEnenAjo
白髪「そんじゃ、俺たちも行くか」

少女「えっと、次はどんな人なんです」

白髪「……まあ、きのいいヤツだな。
 ちょっと恥ずかしがり屋だが、
 案外健気なところがある」ついーっ

少女(なんで目をそらしているのかは気になるけど、
 まあ、いいのかな)

白髪「とりあえず、包帯と男と狼については、
 説明はいらないだろうな」

少女「あと双子姉ちゃんとも、
 一応自己紹介したから、大丈夫だと思う」

白髪「そうか。そんじゃ、先に他の連中を、
 とはも言えねぇわけだな……」ぼそっ

少女「なにかいいました?」

白髪「いや、なんでもねえよ。
 そんじゃ、挨拶しに行こうぜ」

少女「はい!」

 とことこ

140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:45:30.54 ID:wWEnenAjo
------------------------------------------------
  昼前 三階船室前

白髪「あー、先に言うが、とってもシャイな奴でな。
 できるならこう、
 優しい目で、見てやってくれ」

少女「わ、わかった」ごくり

 とんとんとん

■「ドー、……ゾ……」

少女 ぞくり

白髪「いや、部屋に入りたいわけじゃねぇんだ。
 今日から新しく仲間になる奴がいてな、
 ちょっとオマエの事も紹介しようと思ってな」

■「ヴ……オ、デ。…………コワ……GAラセ」

少女(す、すごい、歪な声……
 数万匹のハエが耳元で鳴っているようで、
 台風の夜に吹きすさぶ風で悪霊みちたいに
 ごうごうとなる木々の枝のような、
 もしくはすぐ耳元で、手の甲を爪で思い切り
 ひっかいている音にも似ていて……
 とにかく、聞いてるだけで、すごく不安定になる)


141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:46:00.63 ID:wWEnenAjo
白髪「大丈夫だっての。
 むしろ仲間になるんだから、何度か会って、
 それなりに親しくなっておいた方がいいぜ?」

少女(うううう、怖い、この声の主がどんな姿かって、
 もうどう考えても不吉で不気味な何か以外、
 絶対に思いつかないんだけど、
 でもその恐怖の正体を見極めたら、
 実は案外たいした事はないんじゃないかって、
 ほのかな期待もあって、目にしたいような……!)

■「ダッタ……RA。オデ、ワダヅ……」

 ぎぃいいいい

少女(扉の中は、思ってたより全然くらい?
 わずかな明かりって、狭い視界からだと、
 甲板から漏れ入ってくる太陽の明かりと、
 それからオール用の穴からの光くらい……)

包帯『で、普通はそのオールを漕ぐ為に、
 百人から二百人くらいの奴隷を働かせるから、
 大人数になるわけだけど……
 実はウチにはすごい船員がいてね』

少女『す、すごいんですか?』

包帯『なんと、十六本のオールを、
 一人で使える力持ち!』
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:46:29.03 ID:wWEnenAjo
少女(ああ、中にいるのって、)

 ずる、ぬるぅぁあ……

少女「――ッッッ!!」

白髪「……」

少女(手、確かに、人っぽい手なんだけど!
 肉と皮を残して中から骨を抜いたような形状と
 気持ち悪さに目がそらせないほどの奇妙な手!)

 ぴちょん、ぴちょん

少女(先が妙に細長くなりつつ、
 フジツボみたいなデキモノが全面にあって、
 そこから所々に薄い体毛が生えていたり、
 青白い血管がどろどろと脈打ってたり……
 そこから何かがぬったりと滴って……)ガクガク

■「オデ……や……る、GOレびづ、げた」

少女「……これ、貝殻?」

■「きでI……キラ、KIら」そっ

少女「あ、ありが、とう」にこっ……

 しゅるん

143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:46:56.79 ID:wWEnenAjo
白髪「綺麗なモンをくれてありがとな、
 女の子にプレゼントなんざ、やるなぁ、おまえも」

■ ずさずさ

少女(とびらの向こうで、よじれるような、
 こすれるような音がしてて……
 もじもじしてる?)

白髪「また、飯持ってくるからよ。
 待っててくれや」

■「WAGA……っっっタ」

白髪「……ほれ、行くぜ」そっ

少女「あ、その」

白髪「どうした?」

少女「えっと、キミ!
 この貝殻、ありがとっ」

■ ずさずさ

白髪「……」

少女「それじゃ、行こうか。
 また会いにくるからねー」ひらひら

144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:47:27.87 ID:wWEnenAjo
------------------------------------------------
  昼 海賊船談話室

白髪「ふ、はぁあああ……ぜはぁ……」

少女「う、ううう」

白髪「悪いヤツじゃぁねえんだがなぁ。
 アイツに会うだけで、寿命が縮む気がするぜ」

少女「なんていうのか、
 理解したら終わってしまうものを前にしているような
 そんな気がするかも」

白髪「ああ、なんとなく言いたい事はわかるぜ。
 俺たちの信じてる現実とか、
 そう云ったものを根こそぎ否定してよ、
 ちっぽけでどうしようもないものだって思わせて、
 ぶち壊しちまうようなモノを感じるんだよなぁ」

少女「確かにこの船って、
 『悪魔と魔女の船』なんだってわかった……」

白髪「人を救って『魔女』って呼ばれる双子に、
 『悪魔の魚』(タコ)のような外見を持ったアイツ。
 まあ異端視されたって、しょうがねえわな」

少女「……そういえば、さっきからあの部屋にいた、
 彼? 彼女? の事を、アイツって呼んでるけど、
 なんて名前なの?」
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:50:16.30 ID:wWEnenAjo
白髪「アイツの名前なんだがな、
 今のところまだねぇんだわ。
 これは俺達の出会いの話でもあるんだが……
 聞くか?」

少女「うん、時間はまだ少し有ると思うし、
 白髪さんが大丈夫なら」

白髪「あー、まあ、平気だろ。
 俺がこの船で責任を預けられてるのは、
 釣りでの食料調達と、軍事教練だけだからな。
 昨日は襲撃をかけた事もあって、
 それぞれの仕事が若干滞ったからな。
 今日は訓練はなしだ」

少女「軍事教練とか、訓練って?」

白髪「まあ、それもこれから話す内容につながるが、
 そもそも俺と男は、マータ騎士団で出会ったんだ」

少女「マータ騎士団って確か、
 一神教がトルキアから聖地を奪い返そうとした、
 あの『聖戦』の時に先遣隊を勤めた忠神の騎士たち
 の集まりが、ローディアス騎士団って形になって。

 で、一神教の防衛に専念するために移動して名前を
 変えたのがマータ騎士団だよね」

白髪「……今時そんなのを信じてるヤツなんざ、
 よほど探したって見つからないがな。
 その移動の実態ってのは、ただの敗走だ」
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:50:48.21 ID:wWEnenAjo
少女「うぐ、また間接的にバカにされたような」

白髪「がはは、いいんじゃねぇのか?
 下手に小賢しいよりは愚かな方が生き易いってな。
 で、そのマータ騎士団で出会った俺たち二人だが、
 ある時任務で、悪魔狩りを言い渡されたんだ」

少女「それって」

白髪「そうともよ。もちろんいま下の階にいる
 アイツの事だったわけだ。

 上陸の難しい絶壁に囲まれた小さな無人島でな、
 俺たちが上陸して作った探索基地から、
 あまり離れていない洞窟の中で隠れ住んでたらしい。

 それを男が見つけて会話して、
 この体質のせいで騎士団でも浮いていた俺と、
 人の中に居場所がないアイツを重ねちまったらしい」

少女「……それで、海賊を結成したの?」

白髪「おう。何人か賛同するバカを集めて、
 一緒になって船を盗んで、アイツと一緒に逃走した。

 なんでも男と会話をしている間に、
 アイツは『親』ってのに興味を持ったらしいな」

少女「親ってその、あの彼を産んだって事?」

白髪「まあ、木の股からうまれたんじゃなけりゃな。
 んで、名前は親からもらうモノだって聞いて、
 アイツには名前を付けてもらうための旅ってワケだ」
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:51:27.07 ID:wWEnenAjo
少女「そっか、だから名前がなくて……」

白髪「そういうわけだ。
 だから別に、粗雑に扱ってるとか仲間はずれとか、
 そういうわけじゃねぇんだぜ」

少女「それは思って無かったからね」

白髪「がはは、重畳だな。
 そんで、いきなり俺たちは指名手配されてな。
 アイツはいちど身を隠せる場所において、
 船は金貨に変えて、陸路で逃げ回ったモンだ」

少女「そりゃ、悪魔を狩りにいったはずの、
 一神教の騎士達が、
 いきなり船を奪って悪魔と旅立ったなんて、
 明らかにすっごい醜聞でしょ。指名手配もするよ」

白髪「がはは、確かにすさまじい勢いで追っ手が来たぜ。
 だが、当時は仲が悪かったスピエナ領に逃げ込んで
 その後はそれなりに平穏だったな」

少女「スピエナがかくまってくれたの?」

白髪「いや、さっきの『醜聞』を隠したせいで、
 スピエナが追っ手すら出さない程度の
 意識でいてくれたって程度さ」

少女「……実はそこまで計算して?」

148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:52:09.78 ID:wWEnenAjo
白髪「俺はともかく、男はそうだろうな。
 そうやって落ち着いたのはいいが、
 アイツを連れて動くなら船が必須になるだろ

少女「まあ、あの大きな体じゃ、
 陸路で世界をなんてできないし……」

白髪「海でなら、アイツは普通の人間以上に
 よく泳げるっていうのもあってな。
 なら、スピエナの航海術は学んで損はないと、
 男がスピエナの海軍に入ってよ。
 俺も遊んでるわけにはいかねえから、
 一緒になってスピエナでも暴れたモンだ」

少女「たしか、新大陸にいくような、
 岸から大きく離れての航行技術があるのって、
 スピエナとオリアンダくらいだっけ……」

白髪「おお、珍しいな、優等生的回答だぜ。
 今は他の国ももうちょっと進歩したがな」

少女「まあ、最低限の操船術を学ばないと、
 男の子達に混じっていられなかったし。
 でも、海軍ってそんなに簡単に入れたの?」

白髪「俺も男もマータ騎士団で仕込まれた
 航海術の基礎が役に立ったのさ。
 操船知識を持つ人間に余裕がなかったスピエナは、
 多少の身分の不確かさよりも、
 その技術が有ることの実利を取ったんだろうよ」
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:52:51.35 ID:wWEnenAjo
少女「それでその後に軍を出てから海賊になって、
 だんだんと人が増えたり減ったりして、
 今のこのメンバーになるんだ」

白髪「そういうわけだな。
 んで、嬢ちゃんも今日からこの船の一員になるが……
 正直なところ、何ができるよ」

少女「何ができるっていうと……」

白髪「働かざる者食うべからずって言うだろ。
 さすがに七人じゃ少なすぎて、
 年寄りの俺以外はみんな忙しくしてるわけだ。
 俺だってちゃんとやることはある。
 若い嬢ちゃんは、何だったら仕事を引き受けられる
 のか、そこら辺が知りたいんだが」

少女「えっと……」

白髪「戦闘には強制参加だからな、
 それなりにやれるのは手をみりゃ判るが、
 それだけじゃダメだって先に言うぜ」

少女「うぐ……それ以外っていうと、
 せいぜい、あ、多少なら料理ができるかな。
 後は洗い物と掃除!」

白髪「……意外だな、かなり家庭的じゃねえか」


150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:53:41.54 ID:wWEnenAjo
少女「えへへ、それほどでも無いけどね。
 島の兵士さん達に頼んで、こっそり一緒に訓練に参加
 してたからね」

白髪「おいおい……」

少女「だけど、単独で長距離行軍をするときは、
 糧食が作れないと命に関わる大惨事だからさ。

 最低限食べられるものは作れるようにって、
 事前に料理の訓練もしたし……
 兵舎でもそれなりに料理はさせられたし」

白髪「嬢ちゃんの中身は半分兵士なんだな……
 箱入りのくせに」

少女「む、後半は余計だって。
 それに、しっかり入隊してたから、
 半分ってわけでもないかも。

 あと、洗い物とか洗濯については
 当番制で大量にやってたから得意かな」

白髪「……それは、荒っぽいだけだな」

少女「え、洗えれば全部一緒でしょ?
 洗濯じゃさすがに自分の下着は丁寧に洗うけど」

白髪「おまえ、ドレスみたいに繊細な布のモノは
 きなかったのかよ」
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:54:35.97 ID:wWEnenAjo
少女「入隊する前は着たけど……
 私にはどうせ似合わないからさ、あはは」

白髪「その洗濯板みたいな胸をはって言うんじゃねぇよ。
 デザインを選べば似合うモノだって有るだろうが、
 ……まあいいか。それなら、明日からは包帯の配下で、
 この船の流儀ってのを学んでくれや。
 基礎体力も技術もあるなら、まあ何任せても平気だろ」

少女「はっ、任務受領しました。
 少女伍長勤務上等兵、
 明朝夜明け前より、先任軍曹の指揮下に入り、
 輜重任務に従事いたします」ザッ

白髪「よし任せた。輜重は兵運用の中枢だ、励めよ。
 ……って、やりたかっただけだろ」

少女「あははー」

白髪「だけど嬢ちゃん、上等兵だったのか?」

少女「訓練には脱落せずに参加できていたからね。
 実戦はさすがに、
 島の領主の娘って立場があるから
 頼むからやめてくれって止められたけどね」

白髪「いくら親の七光りが有るからって、
 小さい女の体で、兵卒で一番上の階級って無茶だろ。
 実は男だとか、年を偽ってるとかねえのかよ」

152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:55:08.10 ID:wWEnenAjo
少女「む、正真正銘、十八歳の女子ですー。
 兵役は十五から十七までやってたけどね。

 うちの島の男の子は、
 それくらいの年齢になるとみんな志願して、
 とりあえず従軍経験を積むから、私もあわせて」

白髪「流行り廃りじゃねぇんだから……」

少女「まあ、たしかに親の七光りは有ったみたいで、
 二等兵で一年過ごして、一等兵は飛ばして、
 その後に上等兵を一年。
 やめる時になんかごちゃごちゃ有ったみたいで、
 一階級特進して伍長勤務をもらってね」

白髪「昇進が二年前か……
 ちょうどその頃、海賊が頻繁に来てなかったか?」

少女「あ、うんうん。そんな気がする」

白髪「だったらそりゃ、親の七光りって言っても、
 逆の方だろ。

 さすがに伍長勤務を戦場に出さないって、
 ワケにはいかないからな。
 上等兵でもどうかと思うが、まだ影響は少ない。
 将来の司令官に、前線で突撃しろとは言えねぇし」

少女「ああ、たしかにそれはちょっと怖かったかな。
 痛いのとかつらいのは訓練でなれてたけど、
 お兄ちゃんがいなくなってからは、
 私だけがお父さんの支えだったみたいだし」
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:55:56.24 ID:wWEnenAjo
白髪「だったら家出もするなよ」

少女「それとこれとは別なんですー。
 そもそも一月で戻るつもりだったし……
 まあ、こうして海賊船に乗らせてもらってるから、
 もうちょっとだけ延長してもいいかなって、
 いまはそう思ってるけど」

白髪「ったく、半端ねぇ順応性だな。
 上層部も、面倒なモノに押しかけられた
 なんてボヤいてただろうぜ」

少女「……実感こもってない?」

白髪「ウチにも一人そういうのがいてなぁ。
 身分を隠していたんだろうが、
 スピエナの中でもそれなりの地位の貴族だってのは
 周りじゃ知らない奴がいなかったぜ」

少女「最初の時の自分みたいで笑えないかも……」

白髪「だから士官じゃなく、兵卒からだったのか」

少女「あはは……、まあね。
 見た目がコレだから、親しい男の子の古着だけで、
 男の子にしか見えないって周りにいわれた事で、
 バレてない気になってね」


154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:56:41.07 ID:wWEnenAjo
白髪「……入隊試験の前でバレるっての、その展開。
 絶対にいくつかの試験項目が、
 嬢ちゃんだからって理由で免除されてるぜ?」

少女「うん、私も二年兵になる時にはさすがに、
 あの時から気を遣われてたんだなーってわかったし」

白髪「っていうか、今更だが、兵舎にいたのか?
 家とかどうしてたよ」

少女「そこは……実は、留学してるって事にして、
 こっそり郵便物の中に自分の手紙紛れ込ませて、
 たしかフリアンスにいた事になってたかな?」

白髪「その機会に外にでてりゃ、良かったのによ」

少女「だってまさか、
 こんなに急に父さんが倒れて私が領主にとか、
 そんな話になるとは、思って無かったから」

白髪「ま、身内の不幸ってのは、そんなモンだ」

少女「……」
白髪「……」

少女「……とりあえず私は包帯さん探して、
 旗下に入る事を伝えてくるよ」

 たったった……

白髪「……俺は釣りでもするかな」どかどか
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:57:12.24 ID:wWEnenAjo
------------------------------------------------
  夜 隠れ港の大通り市場

 ざわざわ、ざわざわ

少女「ほえー……すごい活気。
 それに、とっても綺麗」

男「はぐれるなよ」

白髪「がはは、確かに嬢ちゃんはこういう時には、
 迷子になるような性格だな」

少女「え、そんな事ないし!
 ……でも、目を奪われる場所かも。
 色とりどりの派手なマントの人たちとか、
 見たこともない商品の露店がいっぱい……」

白髪「ココは海賊共の隠れ港だからな。
 利用料は多少高いが、
 ここでなら官警なんかの目を気にしなくて済む。
 世界でも数少ない、海賊や船乗りだけの港町だ」

少女「さっきまとめて商人の人に売ってきた戦利品
 もいつかは、ここで並ぶのかな?」

男「今回はエジピウトの砂糖や硝石が多かったが、 
 武器類も少なからず手に入ったからな。
 貴金属と薬の一部もあわせて、並ぶだろう」

156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:58:06.72 ID:wWEnenAjo
白髪「ああ、こないだの船は多かったからな。
 とくに硝石が多いのは助かった。
 ウチの船はどうにも消費が早いからな」

男「双子妹の改良した武器で遠距離から削る。
 人数が少ないのを補うためには、
 そうしなければ効率が悪いからな。
 必然的に火薬の使用量も増える」

白髪「文句つけてるわけじゃねえよ。
 ま、アレだよな。
 ウチの船の連中ときたら、
 良くも悪くも欲がないっつーか、
 ほとんど現金をつかわんからな……
 硝石くらいどんどん使っても問題ねぇ」

少女「そうえいば、そんなに儲かるんですか?」

白髪「往来で滅多な事は言えねぇが、
 たしか嬢ちゃんは上等兵だったよな。
 給料はどれくらいだった?」

少女「月に四デュカートでしたけど……」

白髪「上等兵なら、まあそんなもんか。
 普通の市民で月に二デュカートくらいかな。
 それに対して一応、ウチの船は……たしか……」

少女「え、いくらもらってるか把握して……」

157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:59:27.00 ID:wWEnenAjo
白髪「いやぁ、金銭に関しちゃ、
 無駄遣いしないように男が管理しててな」

男「誰も聞きに来ないあたりが、
 ウチの船らしくて泣けてくるがな。
 必要経費や共益費、船の維持費なんかを除いて、
 ウチの船では月に十デュカートを一人に、
 渡している扱いになっている」

白髪「陸に上がらんから使わんしなぁ」

少女「十五デュカートもあれば、
 つつましやかな普通の家じゃ一年間は
 暮らせるっていうのに……」

男「コレでもウチの船の船員への報酬は、
 海賊船としての活動頻度を考えると、
 決して高くない部類だ。
 乗組員を殺して新品に乗り換えていくのが主流だが、
 それができないからな。
 年に二千デュカット程度は、船の維持費だ」

少女「うわぁ……もうそこまで行くと、
 金額の把握ができない……
 二千デュカットってキャベツ何個分?」

男「おおよそ一デュカットで百三十個分だから、
 その二千倍、二十六万個になるな」

少女「……よけいわからなくなった」うるうる
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/17(火) 23:59:52.80 ID:wWEnenAjo
男「もういい。……白髪、例の情報屋との連絡は」

白髪「おう、そろそろ時間だな。
 俺が接触してくるから、いつもの酒場で落ち合おう。
 少女は男と一緒にいてくれや」とことこ

少女「すごい、あの岩から削った見たいな体で、
 人混みの中をするする……」

男「昔から、器用な奴だった」

 とことこ

少女「……」
男「……」

少女「あ、あの、船長さんは」

男「……男でいいぞ」

少女「男さんは、どうしてそのマントなんです?」

男「何か問題か?」

少女「いえ、その。
 まわりで派手なマントの人って、
 だいたい海賊の船長さんとか船員さんとか、
 そういう偉い人たちですよね。
 俺たちこんな高いモノを使えるくらい、
 スゴイ海賊なんだぞーっていう威嚇みたいな」
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/18(水) 00:00:19.98 ID:fwWYs8oio
男「そうだな」

少女「なのに、男さんはその黒いだけの、
 いつもの戦闘用マントじゃないですか」

男「丈夫だからな」

少女「うう、話が通じているようで通じてない……」

男「冗談だ」むすっ

少女「え?」

男「たしかに他の海賊なら、
 目立つことにも意味があるだろう。
 特徴的なマントは、海賊旗のようなものだからな、
 乗員になりたいと言う人間を集める印になる」

少女(……この人でも冗談なんていうんだ。
 まったく笑えなかったけど)

男「だが、うちの船にはこれ以上の船員はいらん。
 むしろ目立つ方が問題だ」

少女「……その、地味すぎて逆に目立ってるような」

男「……そうか?」

少女「そうですよ」

160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/18(水) 00:00:53.42 ID:fwWYs8oio
男「……次回から少し検討するか」

少女「ぷっ……くくく」

男「何がおかしい」

少女「いえ、なんとなく、
 男さんも人間なんだなーみたいな」

男「どういう意味だ」

少女「深い意味はないですよ。
 ただ、昨日話した限りだと、
 金属でできている人みたいに見えちゃって」

男「…………」

少女「でもこうやって話したら、
 冗談も言うし、ちょっとズレてるところもあって、
 そんな所が人間っぽいなーって」

男「おまえが緊張しているようだったからな」ぼそっ

少女「え?」

男「……なんでもない。いくぞ」

少女(気をつかってくれた、って事なのかな?
 似合わないし、ちょっとズレてる気はするけど、
 でも、悪い人じゃない?)
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/18(水) 00:01:28.97 ID:fwWYs8oio
少女「ドコにいくんですか?」

男「酒場だ。今夜の食事はそこで取る。
 双子妹からの指示もあるし、
 顔なじみへの挨拶もしなくてはな」

少女「乗り気じゃないみたいですね」

男「面倒だからな。
 だが、船長という立場を預かっている以上、
 他の船員達のためにも、
 知己を増やす事は損にはならん」

少女「その、ぱーっとおいしいお酒で騒ごうとか」

男「一つの酒場を貸し切りにして騒ぐなら、
 問題はないかもしれんがな。
 これから行くような場所でそんなまねをすれば、
 すぐに首をはねられるぞ」

少女「……ど、どんな場所なんですか」

男「荒くれ男共が、声を低くして語るような場所だ。
 まあ、暖かい雰囲気で賑やかにとはいかんが、
 海の上では貴重な肉や野菜を使った、
 贅沢な煮込み料理なんかを出してくれる店だ。
 おまえはソレを愉しんでいればいい」

少女「あ、はい」

 とことことこ
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/18(水) 00:02:49.04 ID:fwWYs8oio
今日はここまでー。ふぅ。
お待たせして申し訳ない……

感謝の気持ちと鼻炎薬置いていくから、持って行くといいでござるよ。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/18(水) 00:05:52.15 ID:xHO30DPzo
割とアホの子だなwwww
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/18(水) 00:07:30.71 ID:xHO30DPzo
あら終わりだったか乙
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/18(水) 00:14:27.15 ID:fwWYs8oio
>>61
うん、時代は十六世紀中期をイメージで書いてるよ!

>>65
バイキングは九世紀初頭から十世紀あたりにかけて
活動した海賊だったと記憶している(ちゃんと調べてなくてすまん><)
おもな活動範囲は地中海ではないので、
今回はそのつもりでみるとちょっと違うことになるかな。


>>66-67
えっと過去は一応、以下な感じかな。

前作:ひき娘「け、ケーサツ呼びますよっ」
ttp://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1301/13014/1301410814.html

その前:メイド「お帰りくださいませー♪」
ttp://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1300/13004/1300457249.html

>>69
紹介サンクス! ありがとーでござる(≧∇≦)


>>72-73 >>75
プログラマーはコレだねー。
http://nanabatu.web.fc2.com/new_genre/douryou_okiro_okiro.html
おいらの敬愛するままれさんのだから、
間違えてもしかたない。
おいらがまだままれさんの影響下から抜け出せていない証拠><
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/05/18(水) 00:21:48.41 ID:vLz6Vy+fo
乙!

面白いやないかーい!
普段は二次創作しか読まないけど、面白かったから過去のも読んでくるわ。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/05/18(水) 00:53:14.02 ID:vBwpfiwAO
乙です

メイドの時から読ませて頂いてます
なんか少女がアクティブなひき娘に脳内変換されてます
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/18(水) 01:20:02.32 ID:WGvNU0eQo
よく出来た話だなー
関心するわ
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/05/18(水) 01:29:00.35 ID:3vRu5mHP0
乙 今日もおもしろかったよ
なんかのめりこみたくなる文章やね
あと、通貨の設定をkwsk
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/18(水) 20:03:16.52 ID:yt6npiRTo
乙〜
狼さんが俺のタイプすぎて辛い
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/18(水) 21:07:07.60 ID:qBNrnwBxo
ひき娘を読んでいる途中だが、酒を少し飲んで、その後水に切り替えても、多分飲酒運転か酒気帯び運転になると思うよ。
認識をあらためれ。

172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/05/19(木) 14:26:48.61 ID:Wse+YxSYo
↑俺も気になったし意見したい気持ちはわかるが、過去作品の指摘をここですることじゃねぇな
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/20(金) 00:10:24.18 ID:9uHKtYo9o
こちらだけ先にレスさせてもらいます。

>>171-172
ちゃんと知らないからって適当な事を書いてしまって、申し訳ない……

twitterでも指摘されて、そちらでは訂正したんだけど、
ログ化されてたからひき娘では正せなかったんだ。

ただ、いくら自分や友人が車に乗る機会がないとはいっても、
こういう場所での発言だから、責任持たないといけないよね。

飲酒運転についてなんて、調べれば判る事なんだから、次はちゃんと調べて書くよ。

不快な思いをさせてしまって、すみません。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:16:44.11 ID:9uHKtYo9o
------------------------------------------------
  昼 隠れ港の酒場・錨亭

男「ココが酒場の入り口だ」

 がちゃっ

男「……邪魔をする」

少女(ぎゅっと心臓が縮むような、
 いかめしい男の人たちの強い視線が向けられて、
 次の瞬間にはすこしだけソレが和らいだ?)

女将「久しぶりだねぇ、男。
 ほれ、ココにすわんなさいな」

男「いいのか? 先客を横にどかすようなマネを……」

客1「ああ、かまわんよ。なんせ相手はあの海賊だ」

客2「あんたにだったら、なに、
 席の一つや二つは譲るともさ」

男「……失礼する」

少女「え、えっと、失礼します」

175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:17:11.84 ID:9uHKtYo9o

女将「おんや、オマエさんは」

男「俺の連れだ」

女将「ほーう、あのガキンチョに奥さんができるたぁ
 めでたいねぇ」

少女「お、奥さん?!」

 ざわざわ……

少女「ち、違います違います!」

女将「ん? そういう意味じゃないのかい」

男「どう聞き違えたらそうなる。
 コイツはただの船員だ」

少女(偽りない事実なんだけど、
 まったく動揺してないし……
 ここまでハッキリと否定されたら、
 それはそれでなんか、プライドとか傷つくなぁ)

女将「ただの船員ってアンタ、
 今まで白髪以外の船員なんて、
 連れてきた事なんかないじゃないのさ。
 それともアレかい?
 白髪はポックリ逝っちまって、その後任かい」

176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:17:45.93 ID:9uHKtYo9o
男「……殺したって死にそうにないな。
 今まで連れてこなかったのは、
 連れてきて騒ぎにならんヤツがいなかったからだ。
 それ以外のなにものでもない」

女将「そーかい、そりゃあ良かった。
 ところで、今回は二人分のエールでいいんだね?」

男「ああ。幸い今回は誰も死んでないからな。
 弔い酒はいらん」

少女 じーっ

女将「どうしたんだい?」

少女「いえ、その、お二人は親しいみたいだなーって」

女将「親しいっちゃぁ、親しいね。
 男がこーんな小さな時に出会ったのが最初だからさ。
 あんときゃ確か、親御さんと一緒に乗ってた船が、
 海賊に襲われて……」

男「女将」

女将「なんだいケチくさいね。
 せっかく女連れなのに、ツマミの一つも頼まない
 アンタに代わって、アタシがこの子にサービス
 してやってるだけじゃないか」

177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:18:21.79 ID:9uHKtYo9o

男「……シチューと、腸詰め肉の香草焼きを一皿だ」

女将「シチューはともかく、腸詰め肉は
 白髪が来てから頼むんじゃないのかい」

男「……判っているなら無駄話はするな」じろり

女将「まったく、図体はでかくなったってぇのに、
 ケツの穴は小さくなったんじゃないかい?」

男「仮にも料理を扱うなら、
 そういう言葉は口にするな。マズくなるぞ」

女将「はっ、それ込みでも美味く感じるように
 作ってあるから心配なさんな。
 ほいよ、エールとシチューね。
 それからカボチャとジャガイモのチーズ焼きだよ」

少女「でも頼んだのって」

女将「いいんだよ、海賊の所の船員だってんなら、
 多少のサービスくらいさせな」どんっ

少女「あ、ありがとうございます
 ……って、うわ、すごくおいしいですっ!」

178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:19:11.68 ID:9uHKtYo9o

女将「堅苦しいねぇ、いいかい、女は度胸と勢いだよ!
 蓮っ葉なくらいで丁度イイのさっ。
 おいしいじゃなくて、ウマイって云ってみな。
 もっと良く感じるからね」

客1「女将のそりゃー、行き過ぎだがな」

女将「いいのかい、アンタら。そんな事言ってると、
 アンタらのシチューから具を全部抜いちまうよ!」

客2「おっかないのう、かかか」

少女「えっと、疑問なんだけど、聞いてもいい?」

女将「よし、いいねえ、
 もうちょっと元気がよければなおいいけどね。
 で、疑問ってなんだい」

少女「その、さっきから男さんの事を、
 海賊って呼んでるみたいだけど、
 でもココの人ってだいたい、海賊じゃないの?」

179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:19:39.69 ID:9uHKtYo9o
女将「そうだねえ。たとえばそこにいる男、
 客1ってんだけどね、
 コレでもビスケーから北海じゃその名を響かせて、
 十隻の艦隊でもって暴れ回った海賊だね」

客1「おいおい、やめてくれよ。
 いったい何十年まえの話だよ」

女将「二十年はたってないだろ!
 ったく、引退した気で、もうボケちまったのかい」

客2「まあ客1ならマジボケもありかのぅ」

客1「何言ってやがる、自分のがよほど、
 引退気分でボケたんじゃないのか?
 アンタの名前を聞いて震えねぇスピエナ海兵は、
 ケツの青い新米にすらいねえって話じゃねえか」

客2「んむ、すまん、耳が遠くてよく聞こえんのぅ」

客1「ったく、トボけやがって」

180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:20:07.05 ID:9uHKtYo9o
女将「この港で余生を暮らしている海賊もいれば、
 あっちのテーブルでワゴンを交換中の奴らみたいに、
 今も現役で海を渡ってまわるようなのもいるよ」

少女「でも、なんで男さんはさっきから、
 海賊ってよばれてるのかなーと。
 みんな海賊なら、区別がつかないと思うけど、
 男さんに対する海賊って言葉に、
 なにか意味があるみたいで」

女将「ああ、そんな事かい。
 そりゃあ男が、海賊らしくない海賊だからさ」

客1「ある意味で、尊敬と皮肉ってやつだな」

少女「尊敬と皮肉って、同居するの?」

女将「それなりにね。
 ……普通の海賊ってのは海を経路に使うものの、
 基本的には町を襲うもんなのさ」

客1「小さな村なら武装もたいした事が無いからな、
 船と違って動くこともないし、
 何発か大砲をブチこんだら乗り上げるのさ。
 で、金目のものを集めてから年寄りと子供は殺して、
 女と働き手になる男を奴隷として詰め込んで、
 一仕事完了ってな」

少女「……」

181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:20:56.00 ID:9uHKtYo9o
客2「山賊と違って、海賊の居場所は広い海じゃ。
 いつ現れるかも知れんような船のために、
 海辺すべてに船を配置するわけにもいかんからの。

 船さえあれば、そこそこ安全に稼げる仕事よ。
 もっとも、良心の咎めさえなければの話じゃが」

女将「陸での『はたらき』をする連中が多い中で、
 古い連中はそいつらに対して、やれ粋じゃないだ、
 やれ行儀がなっていないだと、
 酒場で文句を付けてたんだよ」



客1「まあなぁ、俺たち海賊がいるのもほれ、
 陸でなんだかんだ頑張ってる奴らがいてこそだって
 俺たちゃ忘れなかったのさ。
 だが、いまの連中ときたら、まったく……」

女将「はいはい、アンタの愚痴なんか聞き飽きたよ。
 そこで、陸を襲わない男の噂が広がるにつれて、
 尊敬と皮肉を込めて『海賊』って、
 殊更この男をそう呼ぶようになったのさ」


男「……構成人数の関係で、
 襲撃範囲が広いと覆えなくなるだけだがな」

女将「そんな事云ったって、
 あんたの船に乗りたいってヤツは、
 少なくなかったじゃないか。
 それを片っ端から切り捨てちまって……
 まあ今でこそ、おかしな噂があるから
 敬遠されてるみたいだけどね」
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:21:24.94 ID:9uHKtYo9o
男「……」

女将「だからオマエさんは実に幸運なのさ」

少女「幸運なんです?」

女将「愛想もなけりゃ覇気もない男の船だけど、
 気分の悪い事はしないでいいからね。
 周りの人間に対して心置きなく粋を誇れる船だよ」

少女「……はい」にこっ

女将「まあ、なんだかんだ云ったけど、
 男は私の息子みたいなもんさ。
 良くしてやってくんな」

少女「いやいや、私の方が良くしてもらってて!」

女将「へーえ、男もすてたもんじゃないかい」にやにや

男「……」

少女「男さん?」

男「どうやら厄介事になりそうだ」ちゃきっ

 ざわざわ

183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:21:58.65 ID:9uHKtYo9o
 がたーんっ

賊「おーう、錨亭ってのはココか?」

女将「なんだいアンタ、藪から棒に。
 ここは広い店じゃないんだ、
 十人近くぞろぞろと金魚のフンなんか
 つけてくるんじゃないよ」

配下「なっ、旦那になんて口効いてやがる、
 このババアっ!」

女将「ババアだってえ?
 もういっぺん言ってみな、なますにしてやるよ!」

賊「やめねぇか、配下っ。
 女将さんよ、オレはただ男ってヤツを、
 ここに探しに来ただけなんだ」

少女(薄暗い墨色の目が店内を一巡してから、
 狼さんに借りた服で女っぽく見える私にむけてきた
 肌をなめ回すような視線が、心底気持ち悪い……)

男「……オレだが」ずいっ

少女(その視線を遮るように、前に立って……
 守ってくれてる……?)

賊「アンタがあの、マスケットの旗の船長だったか」

184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:22:29.64 ID:9uHKtYo9o
男「そうだ」

賊「アンタ、港に入る時にオレの船の前に
 横入りしやがったろ!」

男「……知らんが」

賊「ふっざけんじゃねぇ、
 アンタの船がウチの船団の横を通る時にな、
 オレはアンタの顔を見てんだよ」

少女(そういえば、小舟の誘導で港に入る時、
 優先的に通されていたような気がしたけど、
 やっぱり他の人よりも先に通されてたんだ……)

配下「大海賊たる旦那の船が港に入るのに、
 横入りするってのはどういう考えだって、
 わざわざ言わなくちゃわかんねえのかよっ!」

客1「あー、おい、あんたら」

配下「なんだっ!」

客1「横入りだなんだ、言ってるがよ、
 男はこの港の維持出資者の一人だ。
 利用者にすぎねえアンタらが待たされるのは
 当然のこったろ。
 いいからおとなしく酒を愉しめ、ここは酒場だ」

185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:23:00.76 ID:9uHKtYo9o
賊「知ったこっちゃねえ!
 この俺様の船の横を素通りするなんざ、
 どこの誰だろうが許しはできねえんだよ!」

女将「まぁた、この手合いかい……」ぼそっ

配下「おうおう、びびっちまって声もでねえか?」

男「……」

賊「はっ、俺みてえな大海賊の顔に泥を付けた事、
 いまさら後悔してんじゃねえだろうなぁ?
 いいぜ、謝りてぇってんなら」ずいっ

少女「え、くぅっ」

賊「はっ、胸もなけりゃ図体もでかいが、
 まあこんなんでも女だろ。
 上納品として受け取って、
 機嫌を直してやっても……」

少女(首、捕まれて、息が……)

男「……その汚い手をどけろ」

賊「あぁん、いま何つった!!」ぎゅっ

少女「くはっ、……っ」

186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:23:33.58 ID:9uHKtYo9o
女将「おいアンタ、ウチの店で乱暴なんざ……」

配下「けっ、こんなちんけな店のババアが、
 息巻いてんじゃねえよ」ズバッシュッ

 ざわり

客1「おい、男の『客』だと思って控えてたが、
 店の女将に手を出すたぁ、どういう了見だ。
 てめぇ、海賊じゃぁねえな」

配下「はっ、旦那に海だの山だのの区別はねえよ!
 通った後には灰も残らねえって、
 金の旗の旦那をしらねえのか? あぁん?」

客2「……そうか、アンタがあの、
 悪趣味で有名な旗の男か。
 山賊出身には、本当に品の悪い連中がそろいおって」

賊「あんな豪華な旗は他の海賊じゃ作れねえだろ!
 妬んで悪趣味というのは格好が悪いぜ」

客1「誰があんな情緒のねぇもん掲げたがるかよ」

187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:24:01.82 ID:9uHKtYo9o
男「……そんなものはどうでもいい。
 とにかく、ウチの船員から手を離せ」

賊「しらねえなぁ。
 たった一隻の船しかねえ、ちっぽけな船のヤツに、
 だぁれが従うかっての。げははは」

男「……ならば力尽くで取らせてもらうか」

 ズバシュッ

賊「ぐあぁあっ、なにしやがるっ!!
 手が、俺の手がぁああ」

少女「げほっ、げほっ……助かりました。
 今の袖口の、仕込みナイフ?」

男「そんな事はどうでもいいだろ。
 気を抜きすぎだ、馬鹿者」

?『気を抜きすぎだ、馬鹿者』

少女(あれ、今の、どこかで……
 って、銃で狙われて!)

配下「くっ、コレでもくらいやが……」チャキッ

188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:24:29.91 ID:9uHKtYo9o
少女「っ、せいっ」ズバシュッ

配下「うおぉっ、何しやがるてめえ」

少女「それはコッチの台詞よ!
 背中から狙うなんて、卑怯じゃない!」ドカッ

男「……少女は平気そうだな。なら、問題は俺か」

 ズバッ、ズドンッ、グチャ!

配下2「ひ、ひぃい。コイツ、強ぇえ!」

配下3「くそ、店が狭いから、
 取り囲む事もできねえ」

客1「ばっかやろう、その程度の腕で、
 この店を荒らしにくるなんざ百年早い!」ズバッ

配下4「ぐあぁあっ!」

客2「じゃが、他の連中は雰囲気を察して、
 逃げてしもうたからの。
 さすがに男は強いが、援軍がわしらだけじゃ……」

189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:24:59.36 ID:9uHKtYo9o
 きぃんっ、がきんっ!

男「……っち、次から次に」

配下5「ひひっ、ほれほれ、三対一じゃ
 さすがに勝てねえか?」

配下6「気を抜くなよ、コイツ、押されてねえ」

配下7「バカ言うなよ、三人相手に押されねえヤツが
 どこにい……っぐ、うぎゃぁああ」どたーん

男「……多数を相手にした戦いは、
 軍役中に何度もこなしたからな。
 練度の低い貴様らなど、何人来ようがかわらん」

 ジャキンっ、ズバシュッ


190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:25:31.88 ID:9uHKtYo9o
少女(すごい、あんな大人数相手に、
 男さん退いてない。
 でも、退いてないだけで……
 何人来てもっていうのは嘘かな)

配下「おい、よそ見してんじゃねえよっ!」キンッ

少女「くっ、……その剣さばき、元軍人でしょ。
 人を守るのが仕事じゃないの?!」

配下「こっちの方が金になるのさ。あんたも軍人だろ。
 けけ、だが若いな、まだ実戦経験はなかったか?
 剣筋に揺らぎがあるぜ」ガキンっ

少女「そういうアンタは、
 人なんか斬りなれてるって感じね!」

配下「ったりめぇだろ。
 軍人の頃も賊になった今も、殺しまくりよぉ。
 特に女をヤルのはたまらねえ……」ぺろり

少女 ぞくっ

配下「そんじゃ、遊びは終わりだ。
 弱くなかったが、足りないな。死にさらせ――!」

191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:26:13.70 ID:9uHKtYo9o
 ガキーンッ! ズバシュッ!

白髪「遊びが終わりなのはオマエだったな」ヒュン

配下「ば、かな……」がくり

少女「白髪さんっ!!」

白髪「がはは、遅くなってすまねえなぁ。
 裏口から入って、女将さん助けてたんだ。
 よく持ちこたえたなぁ、嬢ちゃん。
 俺が来たからには安心していいぜ」にやり

男「……遅いぞ」

白髪「もう謝ったろ。
 おい、じじい共、下がっていいぜ」

客1「てめえにジジイって言われて、
 引き下がれるかってんだよ!」ガキン!

客2「見た目は大してかわらんじゃろ」ズバシュッ

配下8「がぁあああ」

白髪「じゃあそっちは任せたわ。俺はコッチだな」

192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:26:39.85 ID:9uHKtYo9o
男「……白髪が隣か、久しぶりだな」

白髪「最近は白兵戦がなかったから、なっ!」ズバッ

 キンキン、ガキンッ、ズバシュ

配下5「ぐわぁああ」

配下6「痛ぇえ、いてえよぉ……」

白髪「けっ、斬った張ったをやってんだ。
 斬られて痛いのが当たり前だろ。
 みっともなく騒ぐんじゃねぇよ」

男「……さて、残るはオマエか」

賊「くっ……」

男「仲間を連れて引き下がるなら、
 帰る足が無くなる前にした方がいい」チャキッ

賊「…………おい、おまえら、帰るぞ!
 ボヤボヤしてっと、置いてっちまうからな!」

配下「そ、そんな、まってくだせぇ」ヨロヨロ

 ぞろぞろ

193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:27:12.14 ID:9uHKtYo9o
 ばたん

男「行ったな」

少女「ふう……」すとん

客1「ったく、礼儀もなってねえ連中だなぁ」

客2「じゃが、最近の連中にはこう云うのが多いの」

白髪「すまねえなぁ、じいさん方、迷惑かけちまった」

客1「なんのなんの。
 酒場で暴力に訴えるような無粋な奴の相手だ。
 頼まれなく経って巻き込まれてやるさ」

男「助かります」へこ

客2「そういう殊勝な態度は、海賊には似合わんな。
 かか、とりあえず今日はもう店もできんじゃろ。
 帰るとするかなぁ……」

少女「あ、あの、女将さんは」

白髪「助けたっていったろ。
 斬られてたが、幸いここは医者の家に近いからな。
 すぐ駆けつけてきて、かすり傷だって云ってたぜ」

少女「よかったー!」

194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:27:39.01 ID:9uHKtYo9o
白髪「男もホッとしてんだろ」にやっ

男「……まあな」

白髪「そんじゃ、船に向かおうぜ。
 さすがに、何か有った時を考えると、
 今日は船で寝るべきだろ」

男「確かにそうだな。
 店の修繕費は……」

客1「俺が預かってやろうか?」

男「頼む」ずちゃっ

客1「こりゃ剛毅だな。いいのか?」

男「次に来た時に、元気な顔が見られればいい」

客1「……確かに引き受けた」

白髪「ん? どうした、嬢ちゃん。
 いつまで床と仲良くしてんだよ」

195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:28:10.32 ID:9uHKtYo9o
少女「え、あ、いやー。
 その、腰が、抜けちゃって……」

白髪「おいおい……
 元兵士としてどうかと思うぜ?」

少女「し、仕方ないじゃん!
 結局前線には出なかったし、
 本当の命のやりとりなんて初めてだったんだから」

白髪「……なんのために軍に入ってたんだよ」

少女「それは、そのぅ」もじもじ

白髪「まあしかたねぇか、箱入りだし」

少女「うぐぅ……」

男「立てるか?」

少女「も、もうちょっとしたら」

男「なら先に行く。後からついてこい」すたすた

少女「え、ちょ、ちょっと、こういう時は……!」

 とことこ、ぱたん

少女「ちょっとーっ!」

196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:28:55.06 ID:9uHKtYo9o
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  夜 海賊船甲板

少女「それで、男ったらホントに置いていくし!」

包帯「まあまあ。ほら、ワインでも飲んで」すっ

少女 ごく、ごくごく、ぷはー

狼「荒れちゃって……
 しかもいつの間にか、男さん、から男って
 呼び捨てにしてる」ちびちび

少女「呼び捨てでいいんですよ、ぶー。
 わやくちゃになった店のなかで、
 乱闘の直後なのに残されるとか、
 心細い女心を全然わかってないんですよ男は!」ぐび

狼「まあ、察しても気にする人じゃないし。
 むしろそういうのは、白髪がフォローすると
 思ってたけど……」

少女「白髪さんも、何を思ってか一緒に帰っちゃった
 から、ひとりぼっちだったのよー」

包帯「それは寂しいよねー。ほら、飲むといいよ」

少女「ありやとございます」ぐぴぐぴ

197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:29:25.81 ID:9uHKtYo9o
狼「……包帯、少女の事潰す気?」

包帯「そういうつもりは無いけど、
 まあ、飲めば収まるとは思ってるかな」

狼「完璧に潰す気でしょ」

包帯「……時には、吐き出しちゃえば良いことも
 あると思うからね」

狼「その吐くって、違うモノを吐きそうだけど」

包帯「白髪さんなら、それもまた良しって
 言いそうじゃないかな?」

狼「……ダメな影響受けてどうするのよ」

少女「ところれ、双子ひゃん達はどうしらの?」

狼「双子妹が長く起きてられないから、
 双子姉も夜は付き添って早く寝てるわ」

少女「そっかー。ひょっろ意外かも。ふわぁあ」

包帯「意外、なのかな?
 さて、そろそろかな。少女くん、部屋に戻るかい?」

少女「ん、んー。ふぁあ……まら、ちょっろ」

狼「ふらふらしてるけどね」
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:29:52.68 ID:9uHKtYo9o
少女「これは船が揺れれるんれふー」

 とことこ

男「ロクなアテは作れなかったが、とりあえず
 適当に作ってみたぞ……
 どうした、少女はもう酔ってるのか」

狼「包帯が少女のゴブレットにどんどん注いで、
 あおるもんだから」

男「そうか」

少女「むー、わらひはよっへまへん!」

男「……とりあえず、
 古くなってしまった干し肉とチーズを、
 小麦粉の皮で包み揚げにしたモノを作って、
 イモをふかした。バターでも塩でもかけろ」

少女「おー♪」

包帯「待ってました!
 いやー、自分で料理作らないでもいいって、
 本当に良いね」

男「よいしょ、と。
 包帯は好きで料理をしていると思っていたから
 任せていたのだが、違ったか?」
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:30:22.51 ID:9uHKtYo9o
包帯「いやいや、好きだけどね。
 たまには自分以外の料理も食べたいのさ」

男「そういうものか。
 味は、そもそもまずくなるようなモノじゃないが、
 包帯の料理には比べるべくもないぞ」

包帯「ほめ言葉と考えておくよ。ふふ」

狼「ねえ肉は?」尻尾ゆさゆさ

男「……お前はいつもそれだな」

狼「仕方ないって。航海中はがまんしてるし」

男「……ほれ、まだ柔らかい、生の塩漬け肉だ。
 たしかコレが好きだったな」

狼「ちゃんと仕入れてきてくれたんだ♪」がぶっ

男「くくっ、仕入れないと俺が食われそうだからな」

少女(男が、笑った……?)

包帯「はい、男さん」とくとくとくっ

男「……感謝する」くいっ

狼「そうしてると、男夫婦みたい」むしゃむしゃ

200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:31:06.98 ID:9uHKtYo9o

包帯「そうかな?」

狼「包帯が奥さんで、男が旦那さん。
 白髪が祖父で、娘達がいて……」

包帯「狼くんも、娘なのかな?」

狼「……アタシは、遊びにくる野良犬」

包帯「それじゃあちょっと寂しいね。
 せっかくの家族って想像なんだから」

男「待て、俺を勝手に包帯と添わせるな。
 順当にお前らがくっつけば良いだろう」

狼「おまえらって、アタシと包帯? まさか」

包帯「案外楽しいとは思うけどね」

狼「え、ちょっと」

包帯「僕はくるもの拒まず、
 みんな大好きだよ、男さんも狼くんも」にこっ

狼「死ねばいい」ぷいっ

少女「わらひは−?」

包帯「うん、好きだよ」にこっ、なでなで

少女「えへっ」にぱっ
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:31:40.09 ID:9uHKtYo9o

男 むかっ
狼 むかっ

包帯「男さんと狼くんも撫でてほしいのかい?」

男「いらんっ」

狼「……いらないし」

少女「いま、ちょっろまよっら?」

狼 むすっ

包帯「ほら、撫でてあげるから」なでなで

狼「やめなさいよーっ」ぶんぶん

少女「あははっ」

男「ふっ」ぐいっ

包帯「男さんもほら」なでなで

男「……実は酔ってるな」

包帯「まーね。
 でも、たまにはこういう時間もいいでしょ?
 まったりのんびり酔っぱらいーってね」

202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:32:26.89 ID:9uHKtYo9o
男「たまに、というほどではない気がするが」

包帯「最近はしばらく、酒盛りって行為はしてないよ。
 海じゃ水が腐るからラムを飲むけど、
 それは酒盛りみたいに、愉しむためじゃないし」

少女「らんれしへらかっらの?」

男「……お前は飲み過ぎだ。少し控えろ」

少女「らいじょーぶらぉー」へらへら

包帯「そうしてると、兄妹みたいだね」

少女「あはは、男がお兄ちゃんろか、らいらい」

男「……そうやって否定されると気になるな。
 お前の兄というのはどういう人間だったんだ?」

少女「んー……あかるふれ、つよふへ、
 やはひーひとらろよ」にぱっ

包帯「何を言ってるかは判らないけど、
 好きな気持ちは伝わってくるね。
 いま、お兄さんは……」

少女「死んじゃっはらひいれふねー」

包帯「……すまない」

203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:32:54.02 ID:9uHKtYo9o
少女「きにしないれくらはいー。
 ずーっと、前のことらし……」

包帯「……そうだ、なんで酒盛りをしなかったかって
 理由は簡単で、海が騒がしかったからだよ」

少女「さわがし?」

包帯「いま教えてもきっと、記憶に残らないね」

少女「あははー」

男「誰も誉めてなどいない。
 ……そういえば狼は、って、寝ているのか」

包帯「狼くんは、ラムは平気だけど、
 ワインとかリンゴ酒はダメみたいだね」

男「そうだったのか」

包帯「そういえば、こういう場に男さんが来るの、
 実は初めてじゃない?」

男「初めてではないが、あまりいないな」

包帯「もっと参加したり企画すればいいのに。
 みんな歓迎するよ」

男「……今日は突発だったが、これが企画となると、
 あの双子が参加するからな」
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:33:20.96 ID:9uHKtYo9o
包帯「意外だけど、双子くんたちが苦手かな?」

男「普段はかまわんが、
 あの騒がしい二人が酔っぱらった所は、
 見ない方が正解だと思っている」

包帯「……それは多分誤解だよ」

男「そうなのか?」

包帯「あの二人は、あえて騒がしくしているからね。
 望まれれば静かになるよ」

男「信じがたいが、それならばなおさら、
 船員の慰労の会で気をつかわせる事もあるまい」

包帯「……まあ、いずれ、
 ちゃんとみんなで、酒宴を囲もうよ」

少女「んー」

包帯「どうしたのかな?」

少女「あしたは、いちにちー、
 このみなとで、テイハクらよね」

男「そのつもりだ。
 荷の積み出しと積み込みは明日からだからな。
 今回はそれだけ済んだら海に出る予定だ」

205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:33:48.14 ID:9uHKtYo9o
少女「それらったら、あした、しゅえんとか」

包帯「ああ、良いかもね。善は急げと」

男「急な話だが、確かに、荷を増やす必要がないのは
 いまの内だけか……
 悪くない話だ」

包帯「それじゃ、あしたは一日かけて準備して、
 みんなの慰労会もかねてパーティーだね」

少女「えへへー。よし、そうろきまったら、
 わらひは寝ます! よっと……」がしっ

包帯「え、酔っぱらってるのに、
 狼くん担いで船室いくの?
 危ないから、ほら」

少女「えちぃころ、ひない?」

包帯「大丈夫だよ。
 ほら、部屋に行こうか」

少女「いえっさー」よたよた

包帯「それじゃ、僕も狼くんをベッドに届けたら、
 眠らせてもらうね」とことこ

男「わかった」

206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/20(金) 00:34:21.64 ID:9uHKtYo9o
男「……」

男「家族、か」

男「仲間……」

男「俺は、何をしているんだろうな」

男「あの男もとうに死んだというのに」

男「いまさら、海賊など」

男「……もしも、幸福などというモノが、
 この世界に存在するとしたら、
 それは過去にのみ、あるのだろうな」

男「月よ、いっそ俺を嗤え。
 無様に這い回る俺を嗤え」

男「…………」かたん

 とことこ

 ぱたん……

207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/20(金) 00:44:27.51 ID:9uHKtYo9o
おつかれさまー><
今日はここまで!
書くの遅くてすまない……

>>163
うん、割とアホの子でありますw

>>166
過去作はまた色が違うでありますよー

>>167
アクティブなひき娘かー><
うむむ……

>>168
おはなしとしては、けっこうユルユルですが><
もうちょっとすぱすぱーっと進めたいけど、
台詞だけで冗長じゃなく進めるのはおいらにはまだ高等技術みたいだ……

>>169
通過の設定は、十六世紀中世地中海に、
できる限り準拠できるようにしてるであります。
デュカート(デュカット)は、ヴェネチア発行の金貨でありますな。
だいたい現在価値で、十万円あるかないかくらいかと。
ただ、一時資料にあたったわけじゃないから、
信頼性は低いよ><

>>170
狼を気に入ってくれたなら嬉しいでありますよ(´▽`*)
狼耳とか、おいらの萌えの固まり!
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/20(金) 02:21:10.89 ID:mW11AKsno
乙〜
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/20(金) 02:25:00.16 ID:Larr+Lzyo
おっつ
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/05/20(金) 07:35:00.82 ID:n9yLovtAO
乙です
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/20(金) 22:16:22.43 ID:v7x6NM3C0
乙です。
ところでちょこちょこ出てくる固有名詞ってちょっと実在のを弄くったヤツだよね?
予想では…
トルキア=オスマン・トルコ
ベネッタ=ヴェネツィア
スピエナ=スペイン
神聖リオーマ=神聖ローマ
マータ騎士団=マルタ騎士団
スルチアン=スルタン
…みたいな感じで脳内変換してるんだけど合ってるかな。
間違ってたら指摘お願いします。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/05/21(土) 00:50:52.78 ID:cqAxpdoL0
>>1
>>211すげーな
にわか知識だとトルキアの元ネタがわからんかった
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage ]:2011/05/21(土) 00:52:25.10 ID:tDZd8DcC0
乙です。
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/22(日) 01:14:43.01 ID:0b4hML5Do
>>211
トルキアはトラキアじゃね?
と思って調べたらトラキア地方は当時オスマン帝国だった。
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/23(月) 02:11:38.20 ID:0FZCaCEL0
ヒマッピー頼むぜ!
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/24(火) 06:42:51.68 ID:+9kWsCLv0
ふぅ
シャワーからここまで全部読んできたぜ
好きになった
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/25(水) 00:01:29.14 ID:Ka2St8g6o
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  早朝 海賊女子部屋

少女「んむ……むにゃ」

少女(そういえば、今日からは包帯さんについて、
 そのお手伝いをするんだっけ……)

少女「そろそろ、起きて向か……う」

狼 ぎゅうー

少女「またコレかぁ……」ごそごそ

狼 ぎゅううー

少女「む、昨日より強くて、うまくはがせない」

狼「んうー」ぐいーっ

少女「あーもう、人の気にしてる薄い胸に顔埋めて、
 なにが楽しいのかな……」

狼 すぅすぅ

少女「……なんか、寂しそうな寝顔」

少女(狼さんって、海賊になる前は何をしてたのか、
 船の他の人は、おおよそ聞いた気がするけど、
 狼さんだけは全然うかがい知れないんだよね)
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 00:02:18.67 ID:Ka2St8g6o
少女 なでなで

狼 きゅっ

少女(狼の耳とか、尻尾とか。
 いわゆる悪魔憑きっていわれる人の特徴、だよね。
 人里だと、暮らせないだろうし。
 ご両親とか、どんな人なのかな)

狼 すぅすぅ

少女(私は、それなりに身分のある家に生まれたのに、
 自由にさせてもらっていた。
 死んじゃったお母さんからも、お父さんからも、
 愛してもらってた自覚とか記憶がある)

狼 んむぅー

少女「でも、狼さんには、そういう人っていたのかな。
 無条件に愛してくれて、大切にしてくれて……」

狼 きゅっ
少女 きゅうっ

狼 ふわっ

少女(あ、ちょっとだけ、微笑んでくれて……
 かわいいなー、やっぱり)

狼 すぅすぅ
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 00:03:02.21 ID:Ka2St8g6o
少女(あー、もうちょっとみてたかったのにー!
 って、朝から女の子の顔をもっと見たいとか、
 何考えてるんだろ……)

少女「ちょっと、ごめんね」ごそごそ

双子姉「あれ、もう良いの?」

少女「いやー、いつまで見てても飽きないけど
 今日は包帯さんのお手伝いが……って、
 いつから見てたの?!」

双子姉「またこれかーって、声で起きたよ」

少女「ほとんど全部ね……とほほ」

双子姉「大丈夫、内緒にしておいてあげるから!」

少女「うん、そうしてもらえると助かるかな。命とか」

双子姉「あはは、狼のお姉ちゃんって怒らせると
 すっごい怖いからね。
 包帯のお兄ちゃんの手伝いするの?

少女「あ、そうだ。急いで行かないと!」ばたばた

双子姉「たぶん、今なら調理していると思うよ」

少女「そっか、ありがと!」だだっ

220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 00:04:06.51 ID:Ka2St8g6o
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  朝 海賊船 談話室 調理場

少女「ううー」

包帯「ほら、呻いている暇が有ったら、
 ちゃんと手を動かそうね」

少女「判ってますけど……」

包帯「もっと早く手を動かさないと、終わらないよ?」

少女「でも、大きくて……」

包帯「ん、こういうのは大きい方が良いって思うけど、
 少女くんは違う意見かな?」

少女「ぬるってしてるから、大きいと手からこぼれて、
 上手にできないんですよ……
 まあ、おなかいっぱいになるから、
 それは幸せなんですけど」

包帯「こんなにアツくしてるのもそのせい?」ついっ

少女「や、ちょ、見ないでくださいっ」

包帯「大丈夫って言うからお願いしたけど、
 なんだか罪悪感まで沸いてくるね……」

221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 00:04:43.43 ID:Ka2St8g6o
 とことこ

男「お前達はいった何を騒いでいるんだ?
 談話室にまで聞こえているぞ」じろっ

包帯「男さんもちょっと見てあげてください」

少女「そんな、やだ、みせびらかさないでくださいよ!
 しかも広げちゃダメです……恥ずかしいし」

男「……ジャガイモの皮むきくらい、
 まともにこなせないのか」

少女「い、いや、隊にいた頃はよくやらされてたから、
 できると思って任されたんですけど、
 この船のジャガイモとっても大きいじゃないですか。
 だから、むきにくくて」

男「それでこんなに皮の厚い状態か」

包帯「仕方ないから、
 この皮の部分はこれだけまとめて、
 細切りにして油で揚げようかな……」

少女「うう、ごめんなさい」

包帯「まあ、今日はこのブランチと、
 夜の宴会のおつまみを用意すればいいからね。
 ポテトサラダは夜に出しても大丈夫だし」

222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 00:05:56.82 ID:Ka2St8g6o
少女「いま、そのブランチ作ってたのに……」

包帯「ごめんね、他のができちゃったから、
 先に出さないと、冷めちゃうからさ」

少女「いえ、その、私の方こそ遅くてごめんなさい」

包帯「仕方ないよ。おいおい慣れていこうね」

男「……このスープとパンを、
 談話室のテーブルに運べばいいか」

包帯「あ、うん。助かるよ」にこっ

男「戻るついでだ」

 とことこ

少女「うー、なんか、かえって足をひっぱってる
 ような気が……
 何度か包帯さんが動くのも邪魔しちゃってるし」

包帯「まあ、否定はしないけどね」苦笑

少女「ううー」

包帯「気になるなら、そうだね……
 その分だけ、洗い物をしっかり手伝ってもらおうか。
 それなら期待して良いよね」にこっ
少女「は、はい!」
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 00:07:37.18 ID:Ka2St8g6o
------------------------------------------------
  昼 海賊船 談話室 調理場

 じゃぶじゃぶ

少女「はい、洗い物完了です!」びしっ

包帯「お疲れ様。洗い物は早かったね。
 とっても助かったよ」

少女「それなら良かった。
 で、包帯さんは何をしてるんです?」くるっ

 ずるっ

少女「わ、たたたっ」ばたばた

包帯「……っ!!」がばっ

 ぎゅっ

少女「――っ、た、助かりました」

包帯「ご、ごめん。危ないと思ったから。
 怪我はないかな?」ばっ

少女「はい、怪我は大丈夫ですけど。
 なんで包帯さんが謝るんですか?」

包帯「いや、僕が触ってしまったからね」
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 00:09:31.97 ID:Ka2St8g6o
少女「えっと、意味がわからないですけど……?」

包帯「僕は見た目がコレだから、気持ち悪いだろう。
 とっさにとはいえ、触ってしまって……」

少女「まさか、助けてもらって、見た目がどうとか」

包帯「……そう言ってもらえるなら、良かったよ」

少女(無理をおして笑顔を向けてくれてるけど、
 どうしても包帯で隠しきれない部分が、
 火傷の痕で引きつってる)

包帯「まあ、ついクセでね。
 続きの作業でもしようか」

少女(クセになるくらい、そうやって拒まれたんだ)

包帯「少女くん?」

少女「私は、本当に感謝してますから!」

包帯「……うん、ありがとう。
 キミが、僕が近寄っても嫌がらない人で嬉しいよ
 この船のみんなも、そういうのは気にしないしね」

少女「……」

包帯「……ちょっと昔話をしようか。
 あんまり、綺麗な話じゃないけどね」
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 00:15:43.46 ID:Ka2St8g6o
少女「昔話、ですか」

包帯「まあ、ジャガイモの皮むきをしながらの、
 ちょっとした暇つぶしだよ」

少女「あ、まだ剥くんですか」

包帯「今日はちょっと多めに、
 ジャガイモの絞り汁を使う予定があるからね。
 あの白い絞り汁に小麦粉を足して、
 蜂蜜と卵を加えて薄く焼くと、
 クレープの皮が破れにくくできるんだ。
 今日の宴会では、ソレを晩ご飯代わりに出そうかな
 なんて手抜きを考えていてね」

少女「あ、ソレはおいしそう!」

包帯「だからジャガイモはまだいくつか、
 皮を剥いてすり下ろさないといけなくてね。
 僕はクレープで包む中身を作るから、
 少女くんはジャガイモの皮を剥いて欲しいんだ」

少女「了解!」

包帯「で、まあ、その作業の傍らで、
 昔話をしようと思ったけど、聞くかい?」

少女「……聞きたいです」

226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 00:32:49.55 ID:Ka2St8g6o
包帯「今から五年くらいまえ、
 スピエナに一人の音楽家がいてね。
 それなりには人気があったみたいで、
 腕を見込まれてリオーマに留学しないかと、
 そういう話が舞い込んだんだ」

少女(宗教音楽っていうと、
 確かにリオーマに留学する人が多いって聞くから、
 そこに留学するってことは、
 かなり才能とかが認められたって事だよね)

包帯「しかも、その誘いが噂になって、
 そんなに腕が良いなら、
 もし気に入ったら留学費用を工面しても良いと、
 そういう貴族が現れて、
 サロンでの演奏会に招かれたんだ」

少女「わ、それはすごいチャンスですよね」

包帯「そうだね。
 ただ、彼は結局、留学はできなかったんだ。
 声楽をやっていた彼は、
 演奏の前にお酒を飲むことは、
 のどに悪いからできないって断ったんだが、
 それがいけなかったらしい」

少女「それって、普通の事じゃないんですか」

包帯「貴族の勧めた杯を飲めない、
 それは、貴族にとって、怒るに十分な理由らしい」
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 00:39:12.25 ID:Ka2St8g6o
少女「もしかして、その程度の事で」

包帯「その音楽家は喉を潰されて、
 熱湯を頭からかけられたんだ」

少女「たった、それだけの事で、
 なんでそんなにヒドイ事が」

包帯「貴族でなければ人にあらず。
 その考えを肯定する貴族はいても、
 そうじゃない貴族は見たことが無いね。
 特に、いまのスピエナでは、
 私掠船の経営によって利益を得た貴族達が、
 金なら有るんだとばかりに好き勝手をしてる」

少女「そんな貴族ばっかりじゃ……」

包帯「いや、貴族なんてそんなものだよ」

少女(ぐらぐらと煮立つ鍋みたいな、
 強い憎しみの目)

包帯「でも、こんな外見になっても、
 この船の皆は普通に接してくれるからね。
 僕をこんな風にした連中を許す気はないけれどさ、
 今の生活自体はさほど悪くないと思ってるんだ。
 その点だけは、
 彼らに感謝しても良いかもしれない」にこっ
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 00:49:31.81 ID:Ka2St8g6o
少女(絶対に、そんな事は思っていないってわかる。
 顔は笑ってるけど、
 包帯の奥の瞳が、すごく、恐ろしい)

包帯「まあ、この話をしたのは、
 結局今は救われているっていうか、
 それなりに幸せに生きているっていう事でね」

少女「……」

包帯「だから、そんな風に、
 つい謝っちゃう癖にたいして、
 つらそうな顔をしないで欲しいなーって、
 そういう事なんだ。
 その内、このクセも無くなると思うから」

少女(包帯さんの「ごめん」に対して、
 私が過剰に反応したから、
 わざわざ嫌な話をしてくれたのかな)

包帯「料理の続きをしようか。
 手が止まってるよ」にこっ

少女「……はい」

包帯「そう重く受け止めないで欲しいな」苦笑

少女「……難しい注文です」
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/25(水) 00:51:26.95 ID:wJbx2p/IO
待ってた
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/25(水) 00:54:04.64 ID:3qFkTtI1o
珍しくながらか?
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 01:04:49.20 ID:Ka2St8g6o
包帯「ごめんね、扱いの難しい話をして」

少女「……」

包帯「なんでかな。
 他の人にはあんまり話さないんだけど、
 つい、キミには口が滑っちゃうんだ。
 気を許しちゃう何かがあるのかな」

少女「……むうー」

包帯「まあ、今のは本当に昔話だから。
 昔々、有るところに〜って。
 実は僕は料理屋の息子で、
 スープを頭からかぶっただけかもしれないしね」

少女「全然ごまかせてないですよ。
 いや、でも、その方が説得力あるかも?
 こんなに料理ができるし……」

包帯「さて、何が真実なんでしょうか」にやり

少女「え、ちょっと、ホントに今までの嘘なの?!」

包帯「あはは、さて、ジャガイモの皮むきの手が、
 止まってるよ。早く終わらせようね」

少女「ホントはどっちなんですか?!」

包帯「あはは、少女くんは面白いね」

少女「面白くないってー!」がるるる
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 01:06:57.25 ID:Ka2St8g6o
だめだ、ちょっと書き直し必要な箇所見つけたので、
いったんココで区切り入れます><

明日また来るのでありますっ。
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/25(水) 01:10:45.03 ID:Ka2St8g6o
>>211
うんうん、変換はそんな感じであります!
もっとも、おいらもそこまですごく詳しくないから、
完全に変換して読んじゃうと、
アレってなる部分が有るかと思うから、
そんな名前のがあるんだーくらいで。
あんまり深く関わってくる事も、多分ないと思われる。

>>229
待たせてごめん!

>>230
うん、おかしな箇所を見つけちゃったから、
書き直ししないといけなくて、ながらになっちゃったなり><


234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/25(水) 01:16:03.24 ID:3qFkTtI1o
>>233 そうか忙しそうだけど頑張ってくれ
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/05/25(水) 01:27:51.69 ID:9jPucxhfo
忙しそうだけどガンバってください
続き楽しみにしてます
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/25(水) 01:34:12.70 ID:8MLok7ov0
頑張ってくだせぇ
待つ楽しみもあるんだ
自分のペースやってこうぜ
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/05/25(水) 04:14:51.28 ID:jNyvz3RAO
一気に読ませてもらったけど、相も変わらず良くできてて面白い
楽しみに待ってます
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage ]:2011/05/25(水) 06:27:56.38 ID:Mngs9ljs0
乙です。
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/25(水) 11:49:19.11 ID:Mkx0DcJIO
リオーマ=ローマ
でおk?
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/25(水) 22:55:34.21 ID:8Zp6EKij0
修正乙

この世界のどこでケーキ屋登場するのか楽しみだ。
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/25(水) 23:46:20.34 ID:J6/ctxD00
空腹は最大のスパイスってよくいうよね
何をいいたいかというとむっちゃ楽しめた、GJ
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/26(木) 01:48:13.60 ID:H0q5NZtDO
すげぇ面白い。次の更新を待ちながらもう一度読み返そう
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/26(木) 23:58:13.72 ID:qii6JBGwo
------------------------------------------------
  昼 海賊船甲板

少女 ぼー

少女「空が、あおいなー」

 とことこ

狼「……どうしたの? こんなところで空なんか見て」

少女「狼さんこそ、
 そのシーツの塊ってどうしたの?」

狼「せっかく接岸してて真水が使えるから、
 洗濯しようと思って。
 男達の分もまとめて来たの」

少女「それなら私も手伝うよ
 一人より二人の方が早いと思うし」

狼「包帯の手伝いは良いの?」

少女「まあ、なんとか。
 本当はまだちょっとやることが有ったみたいだけど、
 追い出されちゃって」

狼「手伝ってくれるのは助かるけど、
 何をしたら包帯に追い出されるんだか」

244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/26(木) 23:59:33.52 ID:qii6JBGwo
少女「だよねー……はぁ」

狼「ちょっと、そっちのたらい持ってきて」

少女「あ、うん。水はどうするの?」

狼「そこの樽に入ってるから、たらいに注いで。
 そう、それくらい。で、洗剤をよく混ぜて……
 足で踏むから、手伝って」

少女「ん、わかった……って、大人二人は狭いような」

 じゃぶじゃぶ

狼「普段は手が空いてれば双子姉とやるから、
 あんまり気にならないけど、そうかも……
 痛っ、足踏まないでよ」

少女「ごめんっ、泡で見えなくて。
 って、今度は狼さんが!」

狼「……ごめん」

少女「やっぱり安定しそうな所に足をおろすと、
 多少は踏んじゃうよね」

狼「少女の足が大きいんだと思うけど。
 双子姉だったら、こんなに踏んだりしないし」

少女「ヒドっ、実はさりげなく気にしてるのに」
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:00:15.43 ID:gnbbZmEVo
 じゃぶじゃぶ

狼「……それで、さっきはどうしたの?」

少女「あー、その。私が転びそうになったんだけど、
 それを包帯さんが助けてくれたんだ。
 でもその後に、助けた包帯さんが謝るから、
 どうして謝るのかを軽い気持ちできいたんだけど」

狼「クセの理由を聞いて、いたたまれなくなったから、
 逃げてきたの?」

少女「逃げてきたってワケじゃないけど、
 結果的には違わないかも。
 ちょっとぎこちなくなっちゃってさ。
 やることができたら呼ぶから、
 甲板で休憩してきなよって言われて」

狼「まあ、難しいところかな、それは。
 少女にとっても、包帯にとっても」

少女「難しいっていうか、なんていうか……」

狼「そういう意味じゃなくて。
 包帯って、今みたいな状態になってから、
 さほど経って無くてね。

 未だに自分のあの状態との距離感とか、
 それに対して向き合う他人との距離が、
 つかみ切れてないのよ」

246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:00:48.66 ID:gnbbZmEVo
 じゃぶじゃぶ

少女「どれくらい前なの?」

狼「三年、経ってないと思うけど。
 最初の一年くらいはずっと、
 生きるか死ぬかって、ほとんど意識もなかったとか。
 向き合ってるのは二年くらいらしいだって。
 包帯がこの船に来たのが一年前からだから、
 普通の人に対しての距離感をつかむには、
 時間が足りてないんじゃないの?」

少女「うん……」

狼「まあ、前回の時は、
 包帯の姿を怖がる双子姉に対して、
 包帯もできる限り関わらないようにしてたせいで、
 ちょっと事件が起きたことも有ってね。
 今回はソレを避けるためにも、
 先にそういう話をして、
 腹を割ってみようとしたんじゃない?」

少女「腹を割って……かぁ」

狼「それに少女と一緒にいると、
 気を張っているだけ損みたいに思えてきて、
 ついポロッと口から出ただけかもしれないし」

少女「おお……あれ? それって誉められてる?」

狼「……」
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:01:20.32 ID:gnbbZmEVo
 じゃぶじゃぶ

少女「とりあえず、気にしない感じでいいのかな?」

狼「気にしない方が良いんじゃない。
 とりあえず今は、ほら、洗濯物に集中して」

 とことこ

白髪「よう、二人揃って洗濯か?」

少女「私は手伝ってるだけだけどね」

白髪「……」じー

狼「なに?」

白髪「いやー、若いのが二人で、
 洗濯物を踏んでる姿は楽しそうで良いんだが。
 少女、強く生きろ」

少女「何が強く生きろなのさ!」

白髪「がはは、言って欲しいか?
 横から見ると、足を上下するたびにたゆんたゆん……」

少女「セクハラっ、それはセクハラだから!!」

狼「……邪魔なだけでしょ、こんなの」

248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:01:58.06 ID:gnbbZmEVo
 じゃぶじゃぶ

少女「邪魔って、邪魔って!!
 そんなのは持ってる人だから言えるわけでね!」

狼「肩も重くなるし、戦闘で動きにくいし、
 動いた後は汗で蒸れて、ひどいときにはかぶれるし。
 良いことなんてないと思うけど」

少女「そんなこと無いって!
 ほら、さっきから白髪さんの目線がずーっと、
 狼さんに向きっぱなしだし」

白髪「がはは、まあ、動きの大きい方に目がいくな」

狼「こんなゆるんだ顔向けられたいの?」

少女「……ここまでいくと、蹴り飛ばしたいけどさ、
 仲間内だと、胸が有ればまだ女に見えるのにって、
 ずいぶんとこき下ろされて……」

白髪「まあ、気を落とすな。
 よく食べてよく寝れば今よりは育つだろうよ」

少女「そ、そうかな?」

249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:02:28.19 ID:gnbbZmEVo
白髪「今より減る事はないと思うぞ?」

少女「その言葉のウラが透けてて、泣きたい……
 その哀れむような目もやめてよ!」

白髪「がはは、まあ冗談はココまでにしてだ。
 その洗濯が終わったら、
 ちょっと二人で買い物に行ってきてくれねぇか?」

少女「絶対、冗談じゃなかったし……」

狼「買い物って、何か足りないの?」

白髪「今日の夜に宴会をしようって話だからな、
 いつもより少し良い酒と、
 それから嬢ちゃんの服をな」

少女「あ、そっか。
 昨日はごたごたしてて……」

白髪「そういうわけだ。
 俺がついて行っても良いんだが、
 たまには女同士で行くといいだろ。

狼「でも、アタシが行くと……」

白髪「耳とか尻尾か?
 そんなん、隠してりゃわかんねぇって」

狼「ばれたから今まで問題になったんだけど」
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:02:58.41 ID:gnbbZmEVo
白髪「まあ、嫌だっていうなら俺が行くが、
 たまには船から降りた息抜きをしても、
 良いと思うぜ」

狼「……やっぱり、まだ陸には」

白髪「そうか判った。
 んじゃ、嬢ちゃん。
 終わったら、俺の部屋まで呼びに来てくれ。」

少女「うん、りょーかい!」

 とことこ

少女「狼さんは、陸に上がるのが嫌いなの?」

狼「別にそういうワケじゃないけど。
 あえて騒ぎの理由を作らなくてもいいでしょ。
 アタシが行く必然性もないし」

少女(でも、それならなんで、
 少し恋しそうに街の方を見るのかな……)

狼「ほら、足が止まってる」

少女「あ、ごめんっ!」

 じゃぶじゃぶ

251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:03:27.16 ID:gnbbZmEVo
------------------------------------------------
  昼過ぎ 隠れ港 市場

 ざわざわ

少女「昼も夜も、同じくらい活気があるんだー」

男「もう少し落ち着け。
 田舎者だと思われたらスリの的だ」

少女「う、それはこまる……って、
 お金持ってないから取られる心配はないかも」

男「だから財布を渡してないんだがな」

少女「ぐむ……だいたいなんで、
 白髪さんと一緒に買い物のはずだったのに、
 男さんと一緒なんだか」

男「文句なら、腰が痛いと言い出した白髪に言え。
 俺だって今回の入港で使った費用の収支や、
 その他のまとめが終わっていないんだ」

少女「……なんか、経営者みたい」

男「立派な経営者だ。
 海賊だから荒くれ者でいいなんていう話は夢物語だ。
 犯罪にも手を染めるが、
 あくまでも経済的な利潤を求める組織が海賊だ」

252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:03:55.41 ID:gnbbZmEVo
少女「……」
男「どうした」

少女「いや、とっても意外で」

男「私掠船などのシステムを考えてみろ。
 たとえばマータ騎士団にしたところで、
 実態はその渡航費用の大半を、
 寄付金という名前の周辺国家の金銭的な鎖に縛られ、
 海賊行為を行って返済しながら活動しているのは、
 今や周知の事実のはずだ」

少女「うー、また難しい話が」

男「……お前はいったい、あの島の未来の領主として、
 いったい今まで何を学んできたんだ」

少女「そんなに困ったような顔されても。
 あ、そこの仕立屋さん。
 白髪さんに教えられたの、あのお店だと思う」

男「……ごまかされてやるか。
 ちなみに今の服は、狼のを借りたのか?」

少女「さすがに、あの汚い服の後に、
 試着させて欲しいとは云えなくて。
 でもコレもスカートが短すぎて……」

男「いや、そういう話ではないが。
 まあいい。入るか」
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:04:27.50 ID:gnbbZmEVo
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

店主「いやー、よく似合いますよ、お嬢さん」

少女「じゃ、コレもかな。
 さっきの服とまとめて四着あれば、
 とりあえず足りるよね?」

男「そうだな、さすがにそれ以上は、
 経費としては出せない金額になる」

少女「う、ごめんなさい」

男「謝らんでいい。働きの先払いだからな」

少女「じゃ、その分頑張るって事で。
 ところで、どうかな。似合ってる?」くるっ

男「ふむ……体つきはしっかりしてるからな。
 そういう中性的な格好は確かに似合う」

少女「ありがと。着慣れてるって事もあるし、
 狼さんのスカートの短い服も動きやすいけど、
 やっぱりズボンの方が楽かなー。」

男「着慣れてるなら、それで決まりだな。
 オヤジ、試着した四つはそのまま買っていけるのか?」

254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:05:06.52 ID:gnbbZmEVo
店主「大丈夫ですが、先ほどの服についても、
 裾と袖はちょっと直しませんか?
 なに、半時もあれば終わりますんで、
 のんびり待っててもらうなり、
 どこか寄った後に来てもらうなり」

男「どうする」

少女「私が決めて良いなら、
 もう少しお店の中を見たいかなー。
 こっちの小物とか、すごくかわいいし」

店主「では、すぐに仕上げて来ます」

 いそいそ

少女「えっへへー、久しぶりだなー、
 こういうお店に来るのも」

男「そうなのか?」

少女「島にも一応何軒かあったけど、
 遊び相手のほとんどは男の子だったから、
 あんまりこういう場所には来なくて。
 実家には裁縫師さんが来てくれてたし」

男「たしかに、そんな立場ならば、
 特別な用でも無ければ来ないか。
 女友達などはいなかったのか?」

255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:05:41.47 ID:gnbbZmEVo
少女「うーん。いないわけじゃなかったけど。
 私はちゃんばらとかが好きだったから、
 あんまり遊ぶ機会は無くて……
 年頃になると特に、
 おしゃれとかの話題には、私はついて行けなかったし」

男「そういうもんか」

少女「そういうものじゃないのかな。
 あ、コレっ、かわいいー♪」

男「なんだ、木製のブローチか?」

少女「うん。こういう小物とかが好きなんだ」にこにこ

男「リスに、ウサギに……これはなんだ?」

少女「え、クマでしょ?」

男「熊か。だが、それにしては丸すぎないか。
 もっとどう猛で、ぎらついた目で」

少女「そんなリアルなの、かわいくないじゃん」

男「そもそも熊にかわいさを求めるな」

少女「私はかわいいと思ったけどな……
 長距離行軍訓練で森を抜けている時に見かけて、
 うろうろーってしてる姿とか、
 愛らしいと思ったけど」
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:06:08.71 ID:gnbbZmEVo
男「そういうものなのか?
 まあ、確かによく見れば熊に見えん事もないか」

少女「うんうん、そういうものだって。
 あー、こっちのカエルのもかわいいー♪」

男「こういう時は、白髪ではないが歳を感じるな。
 まさかこれほどまで、若い感覚について行けないとは。
 ……そっちの箱ばかり見てるが、貴金属や宝石の
 飾られている棚は見ていないな。
 趣味じゃないのか?」

少女「そういうのも、綺麗だと思うけど……
 やっぱり高いから、見て欲しくなったらやだなーって。
 あー、でもやっぱり、その髪飾りとかいいなー!」

男「そういうものか」

 とことこ

店主「お二人さん、仕立て直し終わりましたよ」

少女「あ、ありがとうございますー」

男「スカートが落ち着かないんだったな。
 店の裏を借りて、着替えさせてもらうといい」

店主「どうぞどうぞ」

少女「じゃ、失礼します」いそいそ
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:06:39.35 ID:gnbbZmEVo
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

少女「うん、やっぱり短いスカートより、
 断然こっちのがいいなー!」

男「……ずいぶんと男らしいな」

少女「そう言われると弱いかも」苦笑

男「別に趣味をけなしているわけではない。
 好きなら良いと思うが」

少女「んー、好き嫌いというか、
 慣れ不慣れの問題かな。
 スカートなんかで、かかと落としはできないし」

男「……本当に変わったな」ぼそっ

少女「え?」

男「そうだ、コレをやろう」ごそごそ

少女「これって、さっきのお店で、
 私がかわいいっていったブローチ……」

男「……」

少女「これ、もらって良いの?」

男「そのために買ったからな」
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:07:05.20 ID:gnbbZmEVo
少女「でも、なんでいきなり?」

男「……たいした理由はない。
 ただの気まぐれだ」

少女「でも、気まぐれっていうのは、
 ずいぶん高い買い物だと思うけど……」

男「……それよりも、そろそろ日が暮れる。
 船に戻れば、包帯の手伝いがあるんじゃないか?」

少女「え、あ、そっか。
 出てくる事も言ってないし、怒られるかな?」

男「怒られるという事は無いだろうが、
 早いほうが良いだろうな。早足で行くぞ」

少女「あ、その前に」

男「なんだ?」

少女「ブローチ、ありがと」にこっ

男「……ふん、俺は何をやっているんだかな」ぼそっ

少女「え、なにか……」

男「急ぐぞ。遅れて道に迷うなよ」

少女「ちょっ、人混みなのに早っ!」
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:07:40.65 ID:gnbbZmEVo
------------------------------------------------
  夕方 海賊船 談話室 調理場

少女「すみません、戻りましたー」こそっ

包帯「おかえり。
 買い物に行ってきたのかな?
 よく似合ってるよ」にこっ

少女「その、何にも言わないで行って……」

包帯「気にしないでいいよ、それくらい。
 やることは済ませていたんだから、
 はばかる事なんてないんだよ」

少女(少しだけ、居心地が悪そうな声?
 普段なら相手がしゃべるのを待って、
 ソレから口を開くのに、
 今はどこか焦ってるような印象かな。
 ……昼の事を話題にしないように、してる? でも)

包帯「でも、今日のこの後はちょっと忙しいからね。
 たくさん手伝ってもらうよ」

少女「あ、あの!」

包帯「なにかな?」

少女「お昼の事、ですけど」

包帯「……」
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:10:24.83 ID:gnbbZmEVo
少女「その、包帯さんの話を聞いて、
 どうしたら良いか判らないからって、
 空気を固くしちゃってごめんなさい」

包帯「……僕の方こそ。
 雰囲気を悪くしてごめんね」

少女「あの、でも、ホントに、
 私は包帯さんの事、怖いとか思わないので!」

包帯「うん」

少女「この事はうやむやにしないで、
 ちゃんと伝えないといけないなって」

包帯「ありがとう」にこっ

少女「そ、それじゃ作業始めましょ!
 何から手伝えば良いですか?」

包帯「そうだね、まずは……
 ああ、僕じゃできない事があったから、
 それを頼んでもいいかな?
 他の料理と一緒には作れなくてね。
 ちょっと疲れるんだけど……」

少女「任せてください!」

包帯「助かるよ、じゃ、双子妹くんに言って……」

261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:12:50.30 ID:gnbbZmEVo
------------------------------------------------
  夕方 船倉

 こんこんこん

双子妹「どうぞでありますよ」

少女「お邪魔しまーす」

双子妹「何かご用でありますか?
 今はちょうど、倉庫整理を行っていたのでありますが」

少女「あ、それなら丁度良かった。
 包帯さんからの指示で、
 火薬を半ポンドか、硝石をその七割くらい、
 もらえたら助かるんだけど」

双子妹「火薬か硝石でありますか……
 ああ、なるほど、では火薬より硝石でありますな」

少女「えっと、何を作るか、
 ソレを聞いただけで判るの?」

双子妹「まあ判るであります。
 というか、包帯のお兄さんが硝石を使うなら、
 答えはおおよそ一択でありますよ」

少女「う、私にはわからないんだけど」

262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:15:13.89 ID:gnbbZmEVo
双子妹「おや、ではまだ何を作るか、
 知らないでありますか」

少女「う、うん……」

双子妹「では、できてからのお楽しみという事
 でありましょうね」にこっ

少女(何を作るのか、包帯さんが教えてくれないから、
 わざわざ双子妹ちゃんに聞こうとしたのに!
 こんなかわいい笑顔を前にしたら、
 判らないから教えてとは言えないって……)

双子妹「はい、ではこちらが、
 粉末の硝石、半ポンドであります。
 終わったら溶液は乾燥して、
 改めて硝石を析出させるので、
 残しておいてくださいと伝えて欲しいであります」

少女「包帯さんにそういえば判る?」

双子妹「はい、大丈夫でありますよ」

少女「わかった、じゃ、持って行くね」

双子妹「楽しみにしているであります」にぱっ

263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:18:04.49 ID:gnbbZmEVo
双子妹「おや、ではまだ何を作るか、
 知らないでありますか」

少女「う、うん……」

双子妹「では、できてからのお楽しみという事
 でありましょうね」にこっ

少女(何を作るのか、包帯さんが教えてくれないから、
 わざわざ双子妹ちゃんに聞こうとしたのに!
 こんなかわいい笑顔を前にしたら、
 判らないから教えてとは言えないって……)

双子妹「はい、ではこちらが、
 粉末の硝石、半ポンドであります。
 終わったら溶液は乾燥して、
 改めて硝石を析出させるので、
 残しておいてくださいと伝えて欲しいであります」

少女「包帯さんにそういえば判る?」

双子妹「はい、大丈夫でありますよ」

少女「わかった、じゃ、持って行くね」

双子妹「楽しみにしているであります」にぱっ

264 :再起動してきた>< [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:32:09.11 ID:gnbbZmEVo
------------------------------------------------
  夕方 海賊船 談話室 調理場

包帯「ありがと、助かるよ」

少女「コレをどうするんです?」

包帯「ココに金属製のボウルがあるよね。
 この中に卵を三個入れて、
 白っぽく成るまで泡立ててくれるかな?」

少女「はーい」 かしゃかしゃかしゃ

包帯 ざっざっざ

少女(包帯さん、作業はやいなー……)

少女「よ、と。できましたよー」

包帯「うん、じゃ、そのままコッチのボウルの、
 砂糖と香料入りの生クリームも、
 泡立ててもらえる?」

少女「砂糖ですか?!」

包帯「今日はせっかくの宴会だからね。
 ちょっと豪華に作ろうと思って」にこっ

少女「ちょっと豪華って程度じゃないですよ」

265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:32:39.10 ID:gnbbZmEVo
包帯「今日はせっかくだから、
 胡椒も使うよ?」にこっ

少女「わ、わ、わ……」

包帯「ほら、よだれがたれてるよ?」

少女「あ、はい」(////

包帯「最近はまた、
 ベネッタとトルキアの仲が悪化して、
 欧州全体で砂糖と香辛料の値段が上がったけど、
 強奪品だからね。
 値段は気にしないでいいし」

少女「いや、商品ですよね、それ」

包帯「まあ、そこは臨機応変に。
 せっかくのおいしい食べ物だから、
 食べて見たいっていうのは当然の欲求だよ」

少女 ごくりっ

包帯「生クリームはそれくらいかな。
 それじゃ、へらをつかって、
 生クリームを泡立てた卵のボウルにいれて、
 切るように混ぜて行くんだけど……」

少女「だけど?」

266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:34:53.19 ID:gnbbZmEVo
包帯「この桶に張った水の中に、
 金属製のボウルを浮かせて」

少女「はい」

包帯「この魔法の粉こと、硝石をね。
 何度かに分けて、水にさらさらーっと入れて、
 棒でぐるぐるーっと混ぜると……」

少女「ゆっくり白いのが浮いてきてますけど」そーっ

包帯「あ、触らないでっ」

少女 びくっ

包帯「念のためにね。
 調理中の手に付けて欲しくないし」

少女「あの、硝石って火薬に使う粉ですよね。
 なんで料理に使うんです?」

包帯「その答えが、コレ。
 白いのが大きくなってきたから、
 そろそろ判るかな?」

少女「これ、氷ですか?」

包帯「そう。水に溶かすと温度を下げて、
 氷を作る性質があるらしいんだ。
 双子妹くんの受け売りだけどね」
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:37:28.86 ID:gnbbZmEVo
少女「氷って人の手で作れるんだ……」

包帯「今まではできなかったね。
 貴族にとっても夏場の氷は貴重って事で、
 氷室なんかを地下に作って、
 冬の氷の塊をためておくのがせいぜい」

少女「来客用ですからねー」

包帯「……」

少女「どうしました?」

包帯「ああいや。なんでもないよ」にこっ

少女「へー……
 あ、もうほとんど固まった」

包帯「まだもうちょっとかな。
 コレの氷の上に振りまくと、
 さらに温度が下がるから……
 金属製のボウルのおかげで、
 中まで凍り始めてるよね」

少女「あ、少し固くなってるような」

包帯「ちょっと手間がかかるけど、
 コレがサクッっていうか、シュクッてなるまで、
 何度か硝石を足しながら混ぜてくれないかな?
 ちょっと時間がかかると思うけど」
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:38:16.22 ID:gnbbZmEVo
少女「はーい、了解です。
 でも、一つ質問していいです?」

包帯「ん、なにかな?」

少女「せっかく凍らせてくれるなら、
 硝石をそのまま中に入れたり……」

包帯「……」

少女「しない方がいいんですね!」

包帯「少なくとも僕は……いやかな」
少女「体に悪いんですか?」

包帯「んー、どうだろう。
 危ないかどうかは正直に言えば、
 試していないから判らないかな。

 双子妹くんならもしかしたら知ってるかも
 しれないけれど、
 そもそも知っているって事を知りたくないような」

少女「い、いったいなんなんですか」

包帯「……その硝石ってさ」

少女「はい」 ごくり
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:41:28.01 ID:gnbbZmEVo
包帯「……いや、やめておこう。
 そこは双子妹くんみたいに、
 きっぱりと分ける事ができるような人じゃないと、
 知らない方がいいと思う」

少女「ちょ、何ですか!
 そんな風に言われたら気になるじゃないですか!」

包帯「おいしい食べ物はおいしいで済ませるのが、
 賢い生き方ってものだと思うよ……ははは」

少女「……」

包帯「とりあえずある程度固まったら、
 後は放っておいても平気だから。
 むしろあんまりかき回すとよくないし」

少女「あ、そうなんです?」

包帯「そっちが終わったら、
 他にもやることはあるからね。
 どんどん手伝ってもらうよ」

少女「えっと、その、
 泡立ての作業で、ちょっと腕がつかれたなーなんて」

包帯「無理しない程度に休みながらでいいよ。
 無理して働く必要はないから」

少女「う、そういわれると、逆に頑張ります……」
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:43:32.18 ID:gnbbZmEVo
というわけで今日はちょっとココまで。
進みが亀ですまぬ……

感謝の気持ちとビエンヤク置いていくから、
持って行ってくれー(´▽`*)
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 00:49:06.30 ID:z4tIi0bYo
>>264 恐らく鯖が混雑してるだけだと思うから書き込み失敗したら再起動じゃなく何度かリロードした方が良いと思うよ
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/27(金) 00:52:07.80 ID:gnbbZmEVo
>>234
再就職に向けてとか、今の機会に資格を取ろうかとか、
動かないと妹にいじめられるのじゃよ……
でも、コッチも頑張るから、生暖かく見守ってくれるとたすかるのじゃ(´▽`*)

>>239
うん、そんないめーじ。
全体的な状況は調べたけど、
国それぞれについては詳しく調べられてないから、
あんまり深く考えないで、そんな名前の国家なのかなーくらいで。

>>240
この時代にケーキ屋とかないからw
前回は時代と場所がかみ合ったから有りだったけど、
ここでケーキを出すと世界が崩れるのだよ。

狼がぺろぺろするシーンが欲しいとか、
そっち方向の期待だったら答えられるから、そっちだと助かる!

>>271
了解であります!



273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 00:52:33.53 ID:z4tIi0bYo
そういやハーバーボッシュ法出来るまで尿のアンモニアやらから作ってたんだったかwwww
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 00:53:41.07 ID:z4tIi0bYo
>>272 資格って難しいの大体年一とかだけど何目指す予定なの?
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [sage]:2011/05/27(金) 19:07:11.18 ID:9QRX1JO8o
逆に、ゴーストライターのコラムのネタで海賊は出てきたんだよね
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/28(土) 00:18:36.61 ID:fyQfw5Aj0
乙!
物語が動き出すのが楽しみ過ぎる
クロスオーバーは無理かと思ってたが…前世とかの形でも無理?
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage ]:2011/05/28(土) 07:17:45.69 ID:zv0WnyIw0
乙です。
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2011/05/28(土) 19:11:39.50 ID:M2IdK71U0
追いついた!!
まとめ以外で読むのは初めてだ・・・
もうすっかり魅了されちなってるよ。
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/05/28(土) 19:14:34.84 ID:M2IdK71U0
あぁ。あげちまった・・
もうだめだ。すまん。殴ってくれ
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/28(土) 22:06:35.14 ID:qKGnxbxW0
>>279
うちの壁殴り代行割高だけど大丈夫か?
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/05/28(土) 22:36:25.53 ID:JJpWnUBZ0
硝石って家畜の糞尿とかから取ってたのか・・・
抽出してあるとはいえ、知らないほうが幸せかもねww
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/05/29(日) 09:52:42.89 ID:Hh9tyfhJo
------------------------------------------------
  夜 船倉三階船室前

少女「あー、うー……
 やっぱり白髪さんについてきてもらえば、
 よかったかもしれない」

少女(大した量じゃない、
 お裾分け程度の中身しか乗ってないお盆が、
 これほど重く感じるのは初めてだよ……)

少女「でも、仕方ない。 女は度胸だよねっ!」

 とことこ

少女「こんばんはー」

 こんこんこん

■「……ドうZO」

少女「お、おじゃましまーす」

 ぎぃぃぃい

少女(う、めまいがしそうなくらいに濃い、潮の臭い。
 それから、どうしても、直視できない姿……)

■「いイ……におヰ」

283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 09:53:10.70 ID:Hh9tyfhJo
少女「あのね、今日は接岸してるから、
 ゴミとか積載とか気にしなくていいって事で、
 上で宴会をやってるんだけど」

■「うン、……にGIIIゃ、カ」

少女(なんでこう、声を聞いてるだけで!
 全身に鳥肌が立って手が震えてくるかなっ)

■「音ガくがKIれい」

少女「うん、この音楽は包帯さンが、
 レベックを弾いてるオトかな」

 〜♪〜♪

少女「それでね、甲板にあがってもらうのハ、
 もしかしたら騒ぎになっちゃうカラできないけど、
 きぶんだけでも一緒に味わってほしくて、
 りょうりのおすそわけニきたの」

■「おフそ……わケ」

少女「お、す、そ、わ、け」

■「お……ス、SO、わケ」

少女「うん、たぶんソレ。
 それじゃ、わたしはウエにいかせてもらうね」

284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 09:53:37.49 ID:Hh9tyfhJo
■「ありガとウ」

少女「どうイたしまして」にこっ

■ ずさずさ

 ぱたん

少女「ぜ、……はぁ」

 よろよろ

少女(からDAじゅうから、あせがふきだしてる……
 なんていうか、クマのくちのナかにいたきぶん。
 ユビさきのふるエもずっとトまってなイし)

少女「すごい、すがた だった……
 ハマに あがった クじラくらい大きくて、
 タコと ひとを まぜそこねた みたいな」

少女(でも、よろこんでくれたみたいで、
 それはスナオにうれしかったかも)

 よたよた

少女「うー。とりあえず、しんせんな空気で、
 しんこきゅうがしたいなぁ……」


285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 09:54:32.44 ID:Hh9tyfhJo
------------------------------------------------
  夜 海賊船甲板

 わいわいがやがや

狼「遅ったから、先に始めてるよ」

少女「あははー、気にしないで。
 まだちょっと、風に当たらないと食べられないし」

双子姉「んんー、お姉ちゃんは何してたの?
 おいしい料理がちょっと冷めちゃうよ?」まぐまぐ

包帯「石を敷いてるから、すぐには冷めないけどね」

少女「いやぁ、せっかくの宴会だし、
 気分だけでも『彼』にも味わってもらいたくて、
 ちょっとお裾分けしてきたんだ」

男「ほう……扉の前に置いてきたのか?」

少女「ちゃんと手渡ししてきたよ?」

双子妹「手渡し、で、ありますか?」ぽろり

少女「あ、ちょっと、ほらこぼれちゃってるよ」

狼「まさかとは思うけど、扉の中に入ったの?」

少女「うん、すごい姿でびっくりしたよ。あはは」
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 09:55:00.91 ID:Hh9tyfhJo
全員「……」

少女「え、なに、どうしたの?」

狼「こういうの、肝が太いっていうのかな?」

男「鈍感なんだろう」

少女「ちょっと、鈍感とかなによ!
 せっかく仲間が寂しくないようにって、
 気を利かせただけなのに!」

狼「……あきれたわ」

双子姉「……見ても平気なのかな?」

男「間違っても見ようと思うな。
 少女、お前は明日から一週間の間、
 通常業務に加えて甲板清掃と船倉整理だ」

少女「え、ええ、ホントになに?!」

双子妹「あの『彼』の部屋に、
 船長の許可無く入ったら、そんな罰則であります」

少女「私はただ、晩ご飯を届けにいっただけなのに」

包帯「実はね、以前、船長の許可を取らずに、
 勝手にあの部屋に入って……」

少女「入って?」
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 09:55:38.16 ID:Hh9tyfhJo
包帯「三日三晩うなされたあげくに、
 自分の全身の皮をひっかいてはがそうとして、
 あげくに海に飛び込んだ船員がいてね」

少女「まさかそんな……」

男「まさかではない。
 実際にそれが有ってから、
 アイツ自身も人から姿を極力隠すようにしている。
 だから俺達もそれに協力する形で、
 興味本位で覗かないように罰則を付けたんだ」

少女「そんな、罰則とか聞いてないんだけど……」

男「船内を案内したのは白髪だったな。
 説明されてないのか?」

少女「うん。普通に、仲良くしてやってくれって」

男「何を考えている、あの男は……
 とにかく罰則は罰則だ。明日からやるように」

少女「うう、はーい。とばっちりだし……
 そういえば、その白髪さんは?」

狼「さっきまではそこで飲んでたけど……
 今はどこにいったんだか」

少女「探さなくていいの?」

288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 09:56:31.14 ID:Hh9tyfhJo
双子姉「いつもの事なんだよ。
 白髪のおっちゃんは、じゆーじん、だからね」

包帯「要するに気まぐれなんだけどね。
 心配しないでも、気が向いたら戻ってくるよ」

少女「せっかくの宴会なのにー」

狼「少女が来るのが遅いから……
 一応、最初は一緒にいたんだから」

少女「だって、しばらく風に当たってないと、
 ちょっとふらふらしちゃって」

男「だから立ち入り禁止なんだ……」ぼそっ

包帯「まあとりあえず、
 少女くんも戻ってきたってことで、
 改めて乾杯でもしようか」

狼「少女は、何を飲む?」

少女「あ、シードルとかもらえるとうれしいな−」

狼「はい……」とくとく

少女「ありがと」にこっ

包帯「それじゃ、改めて。
 さっきはなし崩しに始まっちゃったけど、
 男さんに乾杯の挨拶を――」
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 09:57:05.98 ID:Hh9tyfhJo
男「面倒な事をさせるな」

包帯「そうはいっても、船長なんだから」

男「大した意味などない」

包帯「まあ、とにかくさ、ささっと何か一言ね」

男「……白髪がいればやらせるものを。
 どこに行ったんだ」ぶつぶつ

少女「あ、双子姉ちゃん、
 まだ、乾杯過ぎてから飲まないと」

双子姉「もう飲んじゃってるし、狼のお姉ちゃんも」

狼「ん?」ぐびぐび

男「……」

包帯「あはは……」

男「明日からはまた長い航海になるはずだ。
 騒ぎすぎない程度に騒いで、早朝の出発に備えろ。
 以上、乾杯だ」

全員「かんぱーいっ!」

290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 09:57:33.29 ID:Hh9tyfhJo
少女「っていうか、私きいてなかったけど、
 明日出航だったの?」

包帯「上陸してすぐに説明したんだけどね……」

男「コイツはそういう生き物だ。
 どうしても覚えさせたければ、
 繰り返し口にするしかない」

少女「酷いなー。
 だいたい男が私の何をしってるのさ!」

男「……知りたいか?」

少女「う、え? なんでそんなマジな顔で?」

男「思ったよりも細かく、
 情報屋がお前の事を調べて来てくれてな」

少女「情報屋?」

男「初日に上陸した時に、
 白髪を情報屋に向かわせただろう。
 あのときについでにお前の情報を求めたんだ」

少女「そんな事してたんだ……」

男「雇用主として、一応な」

少女「うう、あまり変な事が伝わってませんように」
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 09:58:02.40 ID:Hh9tyfhJo
狼「変な事って、どうしたの?」

少女「い、いや、なんでもない――って!!
 狼さん、服! 胸!!」

「ん?」

少女「ほとんど見えてるって!
 ほら、男も包帯もコッチ見ない!」がるる

男「いつもの事だ……」

包帯「あはは、眼福だけどね」

少女「この男共ときたら……」

狼「どうしたのよ?」

少女「どうしたも何も、なんで半裸なんですか!」

狼「別に、これくらい」

双子姉「あーあ……」

少女「双子姉ちゃん、なんであきらめた顔してるの?」

双子姉「狼のお姉ちゃんってたまに、
 酔っぱらうと脱ぎ出すんだよね」

292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 09:58:29.90 ID:Hh9tyfhJo
包帯「基本的にはそうなる前に止めたり、
 眠っちゃったりするんだけどね」

狼「あたし酔っぱらってないし」むすっ

少女「うん、酔っぱらってるようには見えないけど」

包帯「そこが厄介なんだよね。
 あ、男さん、そっちのチーズ取って」

男「ほれ」

包帯「ありがと」にこっ

少女「……なんか、本当に普段通りっていうか」

包帯「まあ、妹みたいなものだからね。
 僕にとっては。
 男さんにとってもそんな感じでしょ?」

男「……否定はしない」

包帯「あはは、かわいいなー」なでなで

男「やめろ。……酔ってより厄介なのはお前だな」

包帯「そんな事ないって。
 狼くんの第二段階のが厄介だとおもうよ?」

少女「第二段階って――ひぃっっ?!」
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 09:58:57.61 ID:Hh9tyfhJo
狼 ぺろり、じゅるっ

少女「ちょ、や、やめっ。何してるの?!」

双子姉「狼のお姉ちゃんは酔うと、
 人を食べ始めるクセがあるんだよねー」

双子妹「食べるというと語弊があるでありますよ。
 甘噛みをする、舐めるなどが正しい表現で……」

双子姉「はいはい。妹も酔っちゃって、まったく」

包帯「あれ、君たちにはジュースだけしか、
 出してないはずなんだけど?」

双子姉「うん、リンゴのジュースの古くなったのね」

包帯「ああ、古くなっちゃってたなら、仕方ないか」

双子姉「うん、しかたない」

包帯「……なんて言うと思う?」

双子姉「だめ?」

男「双子も明日から、少女と一緒に倉庫整理だ」

双子姉「ぶーぶー」
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 09:59:24.34 ID:Hh9tyfhJo
双子妹「ところで」

包帯「ん、なにかな?」

少女「や、ちょ、そんなトコかまないで」

狼 ぺろっ、かぷっ

少女「やだっ、耳はだめぇっ」

双子妹「アレはいいのでありますか?」

包帯「愉しんでる見たいだし、いいんじゃないかな?
 でも、君たちはあんまり見ちゃダメだよ」

双子妹「矛盾でありますな」

包帯「大人って、そういう矛盾を飲み込む事で、
 一歩ずつその階段を上るものだよ」

双子妹「そういうものでありますか」

包帯「そういうものだよ」

少女「もう、だれか、助けてっ。
 助けてよーっ!」

狼 ちゅぱっ、じゅるる

少女「ひい、やらぁっ」
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 09:59:50.50 ID:Hh9tyfhJo
双子妹「救助を求めていても」

包帯「仲が良いなーって笑っておくのが、
 大人のたしなみだね」

男「実害は無いしな」

双子姉「……いままで、実害はずっと、
 あたしに来てたんだけど……」

男「実害は無いしな」

双子姉「だから」

男「実害は無いしな」

双子姉「うう……っ」

包帯「あ、でもそろそろ止めたほうが良いかな。
 そろそろ本当に、狼くんが噛みつきかねないし。
 お酒で本能が目覚める事さえ無ければ、
 狼くんは手がかからないんだけど……」

男「む、そうか。だが、白髪は……」

包帯「いないから、今回は男さんだね」

男「……格闘は苦手なんだがな。
 白髪のように、あっさり人を気絶させる技術など、
 俺には持ち合わせがない」
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:00:20.53 ID:Hh9tyfhJo
包帯「このまま、文字通り骨を拾うつもりで見守る?」

男「……それはそれで」

少女「ちょっと、助けて、っひゃん」

双子妹「……助けてもいいでありますか?」

包帯「ん? できるのかい?
 ああなった狼くんは、とりあえず寝かさないと
 どうにもならないと思うけど」

双子妹「代わりにお肉を差し出せば、
 何とかなると思うのでありますよ」

双子姉「……で、なんで妹ったら、
 あたしの背中を押そうとするの?」

双子妹「間違えました。こちらであります」

双子姉(酔っぱらってるからだよね?
 あたしの事、心の底ではお肉扱いしてないよね?!)

男「ああ、狼に頼まれて買ってきた、
 まだ柔らかい塩漬け肉か」

双子妹「狼のお姉様の大好物でありますから」

包帯「たしかに、それなら大丈夫かな……?」
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:01:23.01 ID:Hh9tyfhJo
双子妹「狼のお姉様―」

狼「がるっ」

双子妹「お肉でありますよー」

狼 かぷっ♪

双子妹「釣れたであります」にぱっ

男「丁度良い、しばらく肉を与えて、
 おとなしくさせておけ。
 大丈夫か、少女?」

?『大丈夫か、少女?』

少女「うう、およめに、いけない……」

男「冗談が言えるなら平気だな」

少女「冗談にならないのに!
 初日はけっこうあっさり対処できたけど、
 狼さんってすごく、体重のかけ方が絶妙で、
 組み付かれたら離せないし……」

男「アイツはこの船でも、
 白髪に次ぐ近接要因だからな、
 格闘、剣術に関しては俺よりも上だ」

少女「うう、だったら助けてよ……」
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:01:56.96 ID:Hh9tyfhJo
双子妹「狼のお姉様―」

狼「がるっ」

双子妹「お肉でありますよー」

狼 かぷっ♪

双子妹「釣れたであります」にぱっ

男「丁度良い、しばらく肉を与えて、
 おとなしくさせておけ。
 大丈夫か、少女?」

?『大丈夫か、少女?』

少女「うう、およめに、いけない……」

男「冗談が言えるなら平気だな」

少女「冗談にならないのに!
 初日はけっこうあっさり対処できたけど、
 狼さんってすごく、体重のかけ方が絶妙で、
 組み付かれたら離せないし……」

男「アイツはこの船でも、
 白髪に次ぐ近接要因だからな、
 格闘、剣術に関しては俺よりも上だ」

少女「うう、だったら助けてよ……」
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:02:37.02 ID:Hh9tyfhJo
双子妹「狼のお姉様―」

狼「がるっ」

双子妹「お肉でありますよー」

狼 かぷっ♪

双子妹「釣れたであります」にぱっ

男「丁度良い、しばらく肉を与えて、
 おとなしくさせておけ。
 大丈夫か、少女?」

?『大丈夫か、少女?』

少女「うう、およめに、いけない……」

男「冗談が言えるなら平気だな」

少女「冗談にならないのに!
 初日はけっこうあっさり対処できたけど、
 狼さんってすごく、体重のかけ方が絶妙で、
 組み付かれたら離せないし……」

男「アイツはこの船でも、
 白髪に次ぐ近接要因だからな、
 格闘、剣術に関しては俺よりも上だ」

少女「うう、だったら助けてよ……」
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:03:08.46 ID:Hh9tyfhJo
男「船員同士のプライベートに、
 俺はあまり介入しないことにしている」

少女「うう、そういう言葉を使うと、
 なんとなく理解がある船長みたいに聞こえる……」

包帯「まあ、でも助かったから良かったね。
 あのままだと、甘噛みじゃ済まなかったよ」

少女「それを笑顔で云える包帯さんが怖いです……」

包帯「いやあ、それほどでも……」

少女「だめだ、なんか悲しくなってきたよ」とぼとぼ

双子姉「あれ、お姉ちゃんはもう寝ちゃうの?」

少女「ちょっとお手洗いー」とぼとぼ

 がちゃん

包帯「……少しからかい過ぎたかな?」

男「気にするような性格ではなかろう。
 それよりも、そこのチーズを取ってくれ」

包帯「はい、あーん」にこっ

男「お前は確実に酔っているな…………」

301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:04:30.02 ID:Hh9tyfhJo
------------------------------------------------
  夜 船室

少女「うー、ちょっと怖かった。
 ホントに食べられちゃうかと思ったよ……」

少女(言葉が通じないって怖いなー……
 こないだはおとなしく寝ちゃってたけど、
 狼さんの酒癖の悪さには注意しないと)

 とことこ

少女(ん? みんなのいる甲板から見えない位置に、
 誰かがいる?
 もしかして侵入者とか……)

 そーっ

少女(ああ、白髪さんか……)

少女「白髪さん、どうしたんですか、こんな……」

白髪 ぴくっ

少女(泣いて、る……?)

白髪「おう、格好悪い所見しちまったな」ごしごし

少女「えっと、その……」

302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:05:12.82 ID:Hh9tyfhJo
白髪「…………まあ、座れや」ぽんぽん

少女「……うん」

白髪「まだ飲めるよな?
 回しのみだが、いくか?」ぐいっ

少女「ありがと……けほっ、つ、強っ。けほっ」

白髪「がはは、大丈夫か?」ぽんぽん

少女「うう、喉がやけそう……」

白髪「ほれ、水だ」

少女「んく、んく。ふぅ。
 なにこれ、すごく強いお酒……」

白髪「錬金術師の酒だからな。
 普段は水代わりのラムだが、酒っていやぁ、
 こいつが一番さ」ぐびっ

少女「私は甘い方が好きだけどな……」

白髪「ふっ、まあ、コイツは大人の味だろうな」

少女「大人でも、別においしいってワケじゃないでしょ」

303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:05:42.98 ID:Hh9tyfhJo
白髪「……確かに、甘いものにくらべりゃ、
 口にしてたやすく、うまいとは云えんがな。
 歳を食うと、むしろコレがたまらなくなるのさ」

少女「でも、白髪さんだって、
 それほど歳ってわけじゃないんでしょ?」

白髪「中身はまあ、まだ若いつもりだがよ。
 外側はもうダメだな。長持ちはしねぇよ」

少女「……」

白髪「嬢ちゃんよ。
 お前さんは、なんで海になんぞ出ようと思った?」

少女「それは、その……
 世界が見たいって思ったから」

白髪「それじゃ、どうして世界が見たいと思ったよ」

少女「……きっと、何にも知らないんだな、
 知らずに終わるんだなって、思ったからかな?」

白髪「……」ぐびり

少女「お兄ちゃんがいたって話は、したよね」

白髪「聞いた気がするな」

304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:06:09.59 ID:Hh9tyfhJo
少女「あれは、今から八年前かな。
 お父さんの乳母兄妹の人が、
 旦那さんに暴力をふるわれていたみたいで」

白髪「女房を殴る旦那なんて、
 またロクでもねぇのを掴んじまったな……」

少女「私も何度か会った事があるけど、
 お酒さえ飲まなければいい人で、
 当時はよく分かってないけど、
 普段からは想像もできなかったなぁ……」

白髪「まあ、そういう相手なら最初から、
 添い遂げようとはしねぇだろうからな」

少女「でね、そうやって殴られても、
 一神教では離婚は認められてないから、
 ずっと耐えてたらしいの」

白髪「……」

少女「でも、一神教では一つだけ、
 離婚を認める条件があって……」

白髪「ああ、話が読めたぜ」

少女「うん。ウチのお父さんが、
 不倫が理由なら分かれられるから、
 不倫をしたことにしようって言って」

305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:07:01.75 ID:Hh9tyfhJo
白髪「またずいぶんとやらかす人だな……」

少女「うん、目的のためには手段なんて、
 基本的には選ばない人だったからね」

白髪「で、どうなったよ」

少女「お母さんもだいぶ前に天に召されてたし、
 生まれた時から一緒にいた人を助けるためなら、
 ある程度の汚名なら喜んで受け入れたいって、
 私に謝りに来てね」

白髪「まあ、親が不倫をしたって話なら、
 子にも何かしらあるからな……」

少女「まあ、幸いウチみたいに小さい島じゃ、
 いつの間にか事情なんて知れてるんだけどね。
 その人は島の外にお嫁に行ってたから、
 会った事もなかったんだけど、
 そういう事情なら良いよって私も迎えて……」

白髪「ほぅ」

少女「で、それからしばらくしても、
 まだその人が来なくて、
 いい加減どうしたのかってお父さんと心配してたら、
 ある日海辺に人が漂着してね……」

白髪「穏やかじゃねぇな」

306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:07:49.43 ID:Hh9tyfhJo
少女「うん、穏やかじゃなかった。
 なにせ、海を渡ってくる途中で海賊に遭って、
 その人の息子さんだけが何とか逃れて、
 何日も海をさまよって来たって」

白髪「……そいつは、神だって恨むな」

少女「うん。結局お父さんの乳母兄妹の人は、
 いつまで経っても見つからないでね。
 お父さんはその息子さんを、
 自分の本当の家族と思って欲しいって言って、
 私もお兄ちゃんって呼ぶようになったの」

白髪「なるほど」

少女「生まれて初めてできたキョウダイだから、
 自分でもかなり懐いてるなーって思うくらい、
 時間があれば一緒にいたんだけど、
 そのお兄ちゃんが剣を振るったり、
 島の軍の人たちと銃の訓練とかをしてたから、
 私も自然と、遊ぶときはそこに混じるようになって」

白髪「それでこんなじゃじゃ馬になったワケか」

少女「うーん、その時点だとまだ、
 剣を振り回すとか言っても、
 ちょっと危ない棒っきれくらいで、
 剣術とかは全然だったから、一概にそうは言えない」

307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:08:36.25 ID:Hh9tyfhJo
白髪「なら、その先が、今みたいになった理由か」

少女「うん。お兄ちゃんが来て一年経った頃。
 お父さんと一緒に、家族になって一年の節目って事で、
 パーティーでもしようかって話した後に、
 お兄ちゃんの部屋に行ったら置き手紙だけを残して、
 旅に出ちゃってたの」

白髪「……ずいぶんと忙しいヤツだ」

少女「でも、仕方ないのかも。
 お母さんを海賊に殺されてから、
 ずっとずっと、その犯人が許せないって、
 それが頭から離れなかったみたい」

白髪「平和に生きる機会だったものを」

少女「それを捨ててでも、仇討ちがしたかったって、
 そういう事なんだと思う。
 で、二年近く経ってから、
 お父さんが『風の噂に死んだと聞いた』って」

白髪「……」ぐびり

少女「でも、なんとなくまだ信じられなくて。
 さっきも言ったけど、すごく懐いててね。
 お母さんは私の生まれた時に主に召されてたし、
 たった一年の家族だったけれど、
 それでも初めて私が体験する家族の死で……」
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:09:10.34 ID:Hh9tyfhJo
白髪「初めての死か。
 そりゃ、信じられねぇもんだな」

少女「遺髪とかがあったわけでも、ないしね。
 それでふっと、あの人が何を思って、
 どんな風に生きたのかを知りたいって思いが、
 それまで以上に強くなって。
 軍に入るきっかけになったのは、それかな」

白髪「なるほど。ただのじゃじゃ馬っていうよりは、
 王子様を追うお姫様か」

少女「歌物語だったら、追うのは王子様だけどね!」

白髪「がはは、ちげぇねぇな」

少女「そんなわけで軍に入ったら、
 やっぱり仲間は、海賊退治で死んじゃったりして。
 それで、そのたびに、
 この人はどんな場所で生まれて、育って、
 何を思って、何を見たいと思って逝ったのかって、
 そういうのがどんどんたまってね」

白髪「……そういう荷物が、
 お前さんの家出の背中を押したワケか」

少女「一応ね。
 この窓の外には、どんな世界があるのかなって。
 彼らが何を見てきたのかを見たいって」

309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:09:39.41 ID:Hh9tyfhJo
白髪「……だが、お前が危険に遭って、
 喜ぶような仲間だったわけじゃねぇだろ?」

少女「あはは、安全な定期便だったんだけどね。
 普段はずっと平気なのにさ、
 まるで私の船を狙ったみたいに海賊が来てね」

白髪「……狙ったのかもな」ぼそっ

少女「え?」

白髪「なんでもねぇよ。
 まあ、あれだ。あんまり背負い過ぎるなよ?」

少女「……うん」

白髪「まあ、そんなところが可愛いんだがな」

少女「へ?」

白髪「ほれ、ちょっと来い」

少女「う……」そろそろ

白髪「まだるっこしいヤツだ」ぐいっ

少女「うわっ」

 ぎゅっ

310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:10:06.00 ID:Hh9tyfhJo
白髪「ほれ、膝の上にでも座れ」

少女「う、ちょっと落ち着かないっていうか、
 もしかして酔っぱらってる?」

白髪「酔っぱらわんでどうする。
 酒に失礼だろうが」

少女(ぎゅっと抱きすくめられて、
 苦しいような、少しだけ怖いような。
 でも、嫌ってほどでもないから、
 いまはまだ、おとなしく)

 〜♪〜♪

白髪「……包帯のヤツの演奏か」

少女「風に乗って……すごい、綺麗な音」

 〜♪〜♪

白髪「嬢ちゃんは、あまり長く、
 この船にいるつもりはねぇんだよな」

少女「みんないい人だし、一緒にいて楽しいし。
 いっそ……」

白髪「いっそ、このままいつまでも海の上で。
 歌でも歌ってか?」

311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:10:32.92 ID:Hh9tyfhJo
少女「ヨーホーヨーホーってね」

白髪「……本当にソレで、
 嬢ちゃんが満足するなら、すればいいぜ」

少女「……」

白髪「嬢ちゃんよ。
 いまの海は、嵐の予兆であふれてやがる。
 その嵐の中で、お前さんの故郷も、
 沈んじまうかもしれん」

少女「そんなのは……」

白髪「そんなのは、なんだ?」

少女「……」

白髪「別に俺は、島に戻れと強制はしねえ。
 ただ、きちんと選ぶ事だな。
 選択しないって選択まで含めて、
 よく考えて選べ。
 時間はまだ、少しだが、有るだろうさ」そっ

少女(肩に頭を乗せて、白髪さんの体温が伝わってくる。
 骨張った固い指が、優しく髪を梳いてくれるだけで、
 ずんとお腹の奥が重くなる)

白髪「……俺にも、親がいたんだがな」
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:11:04.92 ID:Hh9tyfhJo
少女「……ちょっと、想像できないかも」

白髪「なに、俺と大して変わらねぇよ。
 記憶にある父親に似ているぜ、
 俺のが老けちまってるけどよ」

少女「……」

白髪「その親からもらったもんが三つあってな。
 名前と、命と、一つの言葉だ」

少女「どんな言葉?」

白髪「これがまた、厄介だった。
 『人として終れるように生きろ』ってな.
 俺の親は神学者でよ、小さな礼拝堂も任されてたが、
 他人より早く老けちまうような俺を産んだことで、
 立場を追われて、生きてるウチは楽ができなかった」

少女「……」

白髪「だから最初は、恨み言かと思ったのさ。
 ガキの癖に図体ばかりでかい俺に対して、
 お前が一緒にいるから定住もできないと、
 そういう意味なのかとよ」

少女「そんなはずないって!
 だって、自分の子なのに」

313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:11:47.00 ID:Hh9tyfhJo
白髪「真意はどうだか、死人にはきけねぇからな。
 どうだとは云えないが、それでも俺は、
 けっこうこの言葉を気に入っててな」

少女「……どんな風に?」

白髪「他人の命令でしか動けないヤツは、
 狗って呼ばれるだろ?
 欲に汚いヤツは豚か。
 鈍重なヤツは牛って云われるし、
 どうしようもねぇのはクズだ」

少女「見た目じゃなくて」

白髪「中身の問題だな。
 風に吹かれるまま、流されるままなら、木の葉か。
 そうやって生きるのは楽かもしれん。
 だが、それはもう、人間じゃぁねぇのさ。
 この船の連中はみんな、
 外見は化け物でも、中身は誰より、人間だ」

少女「うん」

白髪「嬢ちゃんもよ、人間として生きろ。
 流されず、たゆたわず、選択して、歩き抜け。
 自分が何をしたいかは自分で決めろ。
 食いたい物を食って、悔いたいモノで感じろ。
 お前は、領主って機能のモノでもなけりゃ、
 従うしかできない兵士でもねぇからな」

314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:12:17.50 ID:Hh9tyfhJo
少女「…………簡単じゃないね」

白髪「がはは、人間だからな。
 二本の足で立って、歩いて、
 必要なら武器を使って、
 言葉で他人とわかり合おうとして、
 飽食や怠惰なんて選択ができる生き物だ。
 人間である事は、難しく、楽しいぜ」

少女「難しいことはあんまりわかんないけど、
 なんとなく判った気はする」

白髪「おいおい、せっかく人が、説教なんざ、
 慣れねぇ事をしてやったってのによ」

少女「うん、意外かも。でも、何で急にこんな話を?
 なんか――」

少女(なんか、まるで)

白髪「……お前がよっぽど、
 危なっかしいからだな」

少女「う、否定できないかも」

白髪「そこは否定しろよ。
 よし、そんじゃそろそろ、
 あっちの酒宴にでも加わるか」

315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:12:43.61 ID:Hh9tyfhJo
少女「……白髪さん」

白髪「あん?」

少女「白髪さんは、まだ死なないよね?」

白髪「……」

少女「なんか、急に怖くなって……」

白髪「ばっかやろう。
 人生の楽しみなんざこれからだ。
 あと百年は生きるぜ?」

少女「……うん。でも百年は無理じゃない?」

白髪「無粋な事を云うんじゃねぇよ。
 ほれ、俺の上から立て」

少女「……」

白髪「立て、っての」

少女 ぎゅっ

白髪「……」

少女(いつも伝法な様子だから、そうとは思わないけど、
 若々しくても、歳を隠せない体。
 きっと、今日明日ではなくても、数年後は……)
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:13:32.37 ID:Hh9tyfhJo
白髪「そろそろいいか?」

少女「……うん」

白髪「まさか嬢ちゃんから抱きつかれるとはな、
 思わぬ役得だったぜ」

少女「そりゃ……親愛なるおじいちゃんだもん。
 抱きついたりね! するよ!」

白髪「くく、中身は三十路を越えた、
 まだまだ壮年の男だがな」

少女「う、そうだけど……」

白髪「がはは、ネンネの嬢ちゃんなんざ、
 気を抜いてるとくっちまぞ〜」ゆらーり

少女「あはは……柔らかくないし、おいしくないと、
 思うんだけどなぁ……」じりじり

白髪「食い応えが有りそうじゃぁねぇか」じゅるり

少女「に、逃げるが勝ちでっ!」

 どたばたーっ

白髪「逃げ足は早ぇなぁ。ったく、拒みすぎだ。
 ……まあ、しばらくすれば次の朝も来る。
 俺は帰るとするか」とことこ
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:13:58.49 ID:Hh9tyfhJo
 ざっ

男「……」

白髪「よう、いつからいたよ」

男「今だ」

白髪「……」

男「行くのか?」

白髪「おうともさ」

男「……そうか」

白髪「男よぅ」

男「なんだ」

白髪「あの嬢ちゃん、兄の後ろ姿を追って、
 軍に入って、外の世界に出たってよ」

男「……愚かだな」

白髪「かわいらしいじゃねぇか」

男「……」

318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:14:24.57 ID:Hh9tyfhJo
白髪「相変わらず、不器用なヤツだ」

男「器用さなど、いらん」

白髪「ワシからすりゃぁ、そういうヤツにほど、
 その器用さがありゃぁ良いと思うぜ」

男「……俺には説教なんぞいらん」

白髪「ったく、先達にはおとなしく習っておけ」

男「大してかわらんだろう」

白髪「…………そうだな」

男「文句があるのか?」

白髪「なに、無いわけじゃぁねぇが、
 そんなもんは口にだしたってどうにもならん。
 なら、無粋なことはしねぇのがいいさ」

男「……」

白髪「じゃあな」

男「……達者でな」

白髪「こっちの台詞だ」

 とことこ……
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:18:32.60 ID:Hh9tyfhJo
きょうはここまで!
うむう、なぜこれほど進まぬのか……

来週はちょっと忙しいので、あまり期待しないでくだされ。
すまんのう……
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/05/29(日) 10:24:49.84 ID:Hh9tyfhJo
>>273-274 >>281
うん、この頃はまだ家畜から取れるアレでね。
割り切れないなら知らない方が良いものだよw

資格については資格図鑑とか見てるなう!
まあ、ウチに来ないかとかなんだとか、
微妙に行先はあったりするから、
後はどのタイミングで、何をしてから行くかとかそういう話でね。
面倒になるからこの話はコッチではしない方向で(*ノω<*)

>>275
うんうん、実はあの頃から資料集めは始めてたのじゃよ!

>>276
そういう目でみると、実は余地は微妙に( ̄ー ̄)

>>279-280
一応sage進行してるけど、あんまりきにせずまったり(´▽`*)

321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/29(日) 11:24:04.10 ID:eCk4OnRdo
乙々!
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/05/29(日) 15:02:44.50 ID:ttpdxXbp0
狼ペロペロ、マジ俺得!! お肉であります〜♪
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/29(日) 15:18:11.33 ID:c5PwHq7Ao
>>322は食肉として三階の『彼』のところに送っておきますね。
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 15:34:06.41 ID:+o9aCgjRo
彼はクトゥルフ系の何かか
誰か>>322の正気度チェックを!
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/05/29(日) 19:36:49.66 ID:hJmkI6xAO
>>324
残念ながら手遅れなようであります
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage ]:2011/06/02(木) 23:39:06.96 ID:qkJ2OR+I0
乙です。
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/06/05(日) 11:34:14.10 ID:vukAGYcm0
忙しいのかな?
更新期待してます!
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/05(日) 12:03:30.41 ID:6YINhDEAO
エロ目的で読み始めた俺を罵ってくれ!
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/06(月) 10:35:01.28 ID:pcFF1L+IO
>>328
このロリコンめ!

……なんか違うな
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) :2011/06/07(火) 19:26:10.99 ID:fpHYDBlAO
>>328
奇遇だな、このロリコンめ!
もっと罵って!!
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/09(木) 23:29:04.01 ID:Xu70o61xo
------------------------------------------------
   早朝 海賊船 甲板

男「朝靄に紛れて隠れ港を出る。
 帆を張って、準警戒態勢で湾から離れ、
 いったん沿岸部から離れてから通常状態に移行し、
 東南東のローディオス島へ向かう」

少女「ローディオス島って、
 前はマータ騎士団がいた所だっけ?」

男「当時は島の名前でローディオス騎士団だったがな。
 聖戦遠征軍の中継基地だった島だ。

 今はトルキアの軍や海賊に占領されて、
 西欧諸国侵略の橋頭堡として扱われている。

 そこの司令部に近々エジピウト側から、
 香辛料などが送られるという話が流れてきた」

双子妹「その贅沢品をほんの少し、
 分けてもらおうというワケでありますね」

男「そういう事だ。
 出航後に通達しようと考えていたが、今伝えるか。

 少女を拾った時の襲撃と違って、
 獲物の金額からある程度の抵抗が予想される。
 改めて武器の手入れなどをしておくように」

332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:29:34.18 ID:Xu70o61xo
双子妹「了解であります」

狼「わかった」

少女「はーい……ところで、白髪さんは?」

狼「朝だから寝坊してるんじゃない?」

双子姉「おじいちゃんだから寝坊はしないよー。
 あ、でもまだお酒抜けてないかも?」

少女「いや、そこまで歳じゃないって」

男「馬鹿な事を行っていないで出航準備だ。
 船橋から離れたら包帯は一度甲板を離れて、
 三階のアイツにオールを動かすように指示してくれ。
 それから――」

少女「ちょっと待ってよ!
 だから白髪さんがいないって言ってるじゃん。
 調子悪いなら、もう一日出航待たないと」

男「その必要はない」

少女「なんでさ」
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:30:03.31 ID:Xu70o61xo
男「アイツは船を下りた」

双子姉「え……」

包帯「……ですか」

少女「船を下りたって、どういう、こと?」

男「そのままの意味だ。
 アイツは昨夜の間に、この船の船員を辞めた。
 船長である俺もそれを認めた」

双子姉「な、なんで、なの?」ふらっ

双子妹「おねえちゃん」そっ

双子姉「だって、白髪のおっちゃん、
 まだまだ元気だったよ……?
 あと百年は冒険するって、楽しそうに言ってたよ……」

双子妹「そういう話ではないのでありましょう」

双子姉「……じゃあ、どういう話なのさ。
 ねえ、くろちゃん」

334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:30:52.47 ID:Xu70o61xo
男「アイツの個人的な事情だ」

少女「ちょっと男さん! 
 そんなの答えじゃないって判ってて言ってるよね!」

男「これが、答えだ」

包帯「…………仕方ないよ。
 白髪さんは外見は普通だからね。
 定住は難しいけど、この船の外でも生きられる。
 配当金で『老後』には困らない蓄えも有る。
 下りるっていうなら、
 もういつ下りても良かった頃だからね」

双子姉「そうじゃないよ……
 なんであたし達になにも言わずに行ったのかって、
 だって、元気な間は私たちと一緒にいるって、
 この船と、『家族』と一緒にいるって……」

狼「『家族』ね……」

包帯「……」

双子妹「船長殿」

335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:31:35.99 ID:Xu70o61xo
男「……『家族』だなんだと、ココはただの海賊船だ。
 危険を冒してでも金を得るための集団で、
 それ以上でもそれ以下でもない。
 そしてこれからその稼ぎのための出港だ。
 さっさと持ち場につけ」

双子姉「う……」じわっ

少女「待ちなさいよ!
 なんでアンタは、そんな言葉を選んで口にするわけ?
 わざわざ子供泣かせて、恥を知りなさいよっ
 ただ、白髪さんがなんで下りたのかって、
 聞いてるだけじゃない」

男「……不服があるならお前も船を下りろ。
 海賊がしたければこの港のどの船でも乗ればいい。
 近くのもう一つの港には普通の定期船も有る」

少女「……ったまきた!
 この無愛想! 冷血!
 行き場のないみんなの居場所を求めてとか、
 ちょっとすごい人かと思ったけど、口だけかっ!」

男「……」

少女「……言い返す事すらしないとか。
 もう、いい――」ずかずか

336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:32:07.82 ID:Xu70o61xo
双子姉「お、お姉ちゃん……どうするの?」

少女「こんなガキみたいなのが船長の船なんて、
 乗ってられないから下りる」どかどか

狼「待ちなさいよ。下りてどうするの」

少女「しらない」

 すたすた

狼「しらないって……」ちらっ

男「包帯、出航準備を手伝え」

包帯「……うん」

双子姉「私のせいで、お姉ちゃんも……」

狼「いつもなら、白髪が取りなしてくれるのに。
 なんて言っても、仕方ないか……」

双子姉「ねえ、狼のお姉ちゃん……
 私が謝ったら、お姉ちゃんは帰ってくれるかな?」

狼「……それは、ムリね。
 双子妹は悪くないから、謝った方が逆効果になる」

双子姉「う、ぇぅ……」

337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:32:51.06 ID:Xu70o61xo
狼「……男」

男「なんだ」

狼「またしばらくしたら、この港に来るでしょ」

男「早くても一月半ほど後になるがな」

狼「……アタシが戻らなかったら、一月半後にココで」

男「意外だな」

狼「何がよ」

男「俺はお前に対して、
 下りた人間を追いかけるような甘さが嫌いだと、
 そう考えている印象を受けていた」

狼「……『人間様』を仲間に加えるのは、
 今でも反対したいと思ってる。
 自分から出て行った相手を追うような、
 なれ合いだって嫌い」

男「ならば、行動と矛盾しているな」

338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:33:15.63 ID:Xu70o61xo
狼「でも、あの子は」

狼『ああ、耳の事ね……気持ち悪いでしょ』

少女『カワイイーッッ!!!!』バッ、むぎゅーっ

狼「どこか、他の『人間様』とは違うから……」

 とことこ

男「……」

包帯「とりあえず、双子妹くんと協力して、
 あらかた出航準備はできたよ。
 後は錨を上げて、港を出るだけ」

男「任せきりにしてすまん」

包帯「僕はかまわないけどね」

双子姉「…………」

男「あと少し太陽が上がるまで狼を待つ。
 それで戻らなければこの人数で出航だ」

包帯「……また、急がしくなりそうだね」

339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:33:50.75 ID:Xu70o61xo
------------------------------------------------
   朝 隠れ港 市場

少女「……もう、みんな行っちゃったよね」

狼「間違いなく」

少女「うう、狼さんまで飛び出させてごめん」

狼「ホントに迷惑してる」

少女「はい……」

狼「さらに着替えも無いとか」

少女「グサッ」

狼「路銀も最低限しかないとか」

少女「グサグサッ」

狼「何を考えて何をするつもりだったの」

少女「あー、えーっと、それはですね……
 とりあえず遺憾の意を表明したいなーと」

狼「男は全く動じて無かったけど」

少女「うぐふぅっ……」

340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:34:26.67 ID:Xu70o61xo
狼「まったく、まさか本当に無策なんて」

少女「いや、まったくじゃないよ。
 この前に騒ぎになった酒場に行けば、
 多少は何かわかるかなーって考えたり!」

狼「……何かって?」

少女「う、何か、だけど」

狼「要するに、アテにはできないって事ね」

少女「でも、あのままあそこで黙って、
 あの人の言葉を聞いてるなんてできなくて……」

狼「確かに、さっきの男は言い過ぎだと思うけど」

少女「でしょー!」

狼「案外、一番動揺してるのは男とか」

少女「……へ?」

狼「なんでも無い。
 とりあえず、こんなところでじっとしていても、
 無駄に興味を引くばっかりで、
 良いことなんかないわ」

341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:36:15.20 ID:Xu70o61xo
少女「興味なんて、まだ開いてる店もないし、
 人だってぽつぽつ通り抜ける程度で……」

狼「ココをどこだと思ってそんな油断してるのよ。
 そこ、出てきな。
 ……それとも引きずりだされたい?」

青白「おっかないですねぇ。ひひひぃ。
 あっしはこれでも、隠れ潜むのは得意なんでやすが。
 どうやってわかりやしたか」

狼「煙草の臭いにおいがぷんぷんしてれば、
 それは誰だってわかるでしょ」

青白「……わざわざ着替えてきたってのに、
 ずいぶん鼻がきくもんで」

狼「で、あんたは何?
 しばらく前からそこで隠れて聞いてたけど」

少女「そうなの?」

青白「油断してる相手を見てたはずが、
 自分が油断させられて誘い込まれてたとは、
 まさかまさか、思わなかったでやす」

狼「……ごたくはいらないから。
 あんた、さっきから尾行してたみたいだけど、
 なにか用なの?」
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:36:55.79 ID:Xu70o61xo
青白「申し遅れましたが、怪しいモノじゃありやせん。
 あっし、この港で細々と情報を商ってる、
 青白ってケチな男でありやす。ごひいきに。ひひひぃ」

狼「盗み聞きも仕事ってわけ」

青白「へえ。まあ、そういうわけで」


少女「もしかして、この人に聞いたら判らない?」

狼「……」

青白「ひひひぃ、何かお求めでありやすか」

少女「あの、白髪って人の情報、あります?
 どこに行ったかとか……」

青白「人捜し、ですかい。
 しかししかし、ひーひひ。さてさてさて」

少女「な、なによ……」

青白「いえ、奇縁でありやしょう。
 白髪の旦那には、数日前に情報を売りやした。
 ああ、この情報はタダでいいですぜ。ひひひぃ」

狼「……」
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:37:40.36 ID:Xu70o61xo
少女「それなら、今の居場所もわかる?」

青白「確認は取れないですが、見当はついています。
 しかし良いんでしょうかねぇ。

 探すってのは、いなくなったって事でありやしょう。
 いなくなったなら、どこに行くか告げてない。

 告げてないなら、言いたくなかったか、 
 言えない事情が有ったって事でありやしょう」

少女「う……それは」

双子姉「いいんだよっ」だだっ

少女「双子姉ちゃん!」

青白「おや、お仲間ですかぃ?」

双子姉「うん。白髪さんのお仲間。
 で、これから白髪さんを探しに行く仲間なの」

青白「まぁ、あっしとしてはとりあえず、
 金さえ払ってもらえりゃぁ、何だって、誰にだって、
 ほしがってる情報を売るつもりですよ。ひひひぃ」

双子姉「じゃあ、教えて。
 白髪さんはどこにいるの?」
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:38:11.80 ID:Xu70o61xo
狼「ソレをアタシたちが知らない事が……」

双子姉「白髪のおっちゃんの望みかもって、
 そこから聞こえてたよ。
 でもいいの。そんなの知らない」ぷぅ

狼「知らないって……」

双子姉「だって、あたしはおじいちゃんの家族だもん。
 心配して当然だもん。
 そりゃ、隠してる事を調べるのは嫌だけど、
 何もしないよりはずっといいもん」

狼「言ってること、筋が通ってないし」

双子姉「いいの。とにかく今は、
 追いつけるかもしれないウチに、
 おじいちゃんの事を聞いて追いかけるの」

狼「……まあ、いいか。
 アタシも考えるとか苦手だし、
 必要なら後で殴ればいいかも」

少女「ちょっと、殴ればいいかもって、
 それはヒドイって……まあ、同感だけど」

狼「ヒドイのは置いていった白髪でしょ。
 で、情報屋さん、値段は?」
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:38:44.06 ID:Xu70o61xo
青白「へぇ、五デュカートほどいただきやす」

少女「高っ!」

青白「まあ、おまけがいろいろありやす。
 アテもなく個人を探すってのは、
 時間も労力も考えれば安くネェわけでさ。
 それと比べれば、お得かと思いますぜ」

狼「……大した情報じゃなかったら、
 あんたも殴るから」ちゃりんちゃりん

青白「ひひひぃ。そんな事にはなりやせん。
 まあ、結論から言っちまいますと、
 白髪の旦那はバリウガに向かっていやす」

少女「バリウガに?」

双子姉「……どこ?」

少女「ここから船で七日くらい東……
 ケリウキラとか、リベルタからなら、
 目と鼻の先って所ね」

狼「……詳しいの?」

少女「え、あ、まあ、そっちの出身でね」
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:39:21.39 ID:Xu70o61xo
青白「そんなら話が早くて助かりやす。
 近年、トルキアの紳士海賊ウルグ・アリとが、
 イオニア海東部を牛耳ろうって動いとりやしょ」

少女「ジアキントス辺りまで押さえて、
 あとはレピアント海域が落ちれば、
 イオニア海に面するギリシーヤの海岸線は、
 ほとんどが押さえられるって……」

青白「ひひひぃ、ずいぶん詳しいこって」

少女「あ、あはは……噂でね、ほんと、聞いただけ」

青白「まあ、実際はもうすでに、
 あの辺りはまとめてトルキアのもんでやしょ。
 特にウルグ・アリの勢いはとんでもねぇ」

狼「それが、白髪となんの関係があるの?」

青白「あせっちゃぁいけやせん。
 ウルグは足を止めてるレピアントからベネッタへ、
 トルキア軍の道を開こうと考えてやがるんでさ。
 なにせ最近のスルチアンは放蕩三昧、
 さらにその子はタカ派の筆頭でさ。
 多少財政が圧迫されてる現状に、
 それなら奪ってやろうという話が出てくるのは流れで」
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:40:13.63 ID:Xu70o61xo
少女「あの辺りは天然の要塞だから、
 攻められないって聞いてるけど……」

青白「へえ、そうでさ。
 レピアント海域の周りは弧を描くように、
 いくつかの島が連なっておりやす。

 そこにはいくつか小型の基地や砲台があって、
 あっちを狙えばこっちにケツが向くって具合で、
 守りに堅いと評判は上々。

 しかし、ギリシーヤ海岸線をおとさにゃ、
 奥にあるベネッタへは補給が足りずに手がのびねえ」

少女「だから、レピアントが万が一落ちなければ、
 そこから奥は対トルキアに関していえば、
 しばらくは大丈夫だって話は聞いてるけど」

青白「まあ、半円の内側から狙えば、
 そりゃどっかからケツを撃たれて沈むのは当然でさ。
 しかし、その外から狙うならどうでしょうや」

少女「レピアントの外、それでバリウガ?」

青白「へえ。群島が砲台を向けてねえ方から、
 攻撃をしかけりゃぁいいって考えらしいですぜ。
 で、ある海賊が遠からず襲いにいくとかどうとか」
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:40:40.59 ID:Xu70o61xo
狼「その情報を、白髪に売ったわけ」

青白「なにせ、白髪の旦那にとっちゃ、
 バリウガは今でも忘れられねぇ故郷だとか。

 あっしはそこに関わる話を聞いたら、
 まとめて旦那にお渡ししてたんでさぁ。
 だからそんな、恨めしげな顔で見ねぇでくだせぇよ」

双子姉「むー」

狼「とりあえず、情報はそれで全部?」

青白「へぇ。あっしが知ってる中で、
 白髪の旦那の行く先に関係する情報ってぇのは、
 こんな程度の事でさぁ」

狼「確かに、有効な情報だったわ」

青白「ひひひぃ、ありがとうございやした。
 では、あっしは失礼しやす」

 とことこ

狼「……ここから、バリウガに一人で行くなら、
 少し歩いた港から、定期船を乗り継ぐ、か。
 幸いアタシが多少は路銀を持ってきたから、
 追いかけられるけど、どうする?」

少女「とりあえず、白髪さんには会いに行くよ」
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:42:10.55 ID:Xu70o61xo
双子姉「おじいちゃんの故郷がピンチなんでしょ。
 それなら一緒に助けちゃおうよ」

狼「……町については置いておくとして、
 とりあえず白髪を追うことは決定ね。
 それなら、最低限の水と糧食、
 火種なんかを確保して、隣の港に向かうわよ」

双子姉「あいあいさー!」

少女「はーいっ!」

双子姉「あ、この町でついでに果物も買いたい!
 珍しいのとかイロイロ置いてるって聞いてるからね」

少女「果物かぁ……そういえば、昨日だけど、
 そこのお店で干し杏が並んでたような……じゅるり」

 きゃっきゃ

狼「なんで、それなりに真面目な状況なのに、
 急にこうも緊張感がなくなるって……はぁ」

少女「あ、干し肉とかどうする?」

狼「柔らかいの!
 干し肉無かったらアタシはいかないからね」

 わいわいがやがや
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 23:42:35.29 ID:Evm98k0Ko
やっと来たか
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:42:43.93 ID:Xu70o61xo
------------------------------------------------
   朝 路地裏

青白「ひひひひぃーひ。
 いやぁ、うまくいきそうで何よりで」

賊「……幸運に助けられたように見えたぜ」

青白「とんでもねぇ。
 ちゃんと手は打ってるんですぜ、
 こりゃぁ作戦の第一段階、ですからねぃ。ひひ」

賊「こんな作戦で、本当にあの男ってヤツを……
 スカした黒いマントのヤツをやれるのか?
 あの卑怯な男を」

青白「ええ、保証いたしやす。
 例の年寄りは男にとっての右腕、
 あの年寄りがいてこそ、
 男の船は一隻でも『海賊』の船と呼ばれる、
 嘘みてぇな強さを誇れるようになるんでさ」

賊「腕が欠けりゃぁ、
 船の扱いがまともにできなくなって当然だなぁ。
 腕が、欠けりゃぁ……」

352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:43:18.22 ID:Xu70o61xo
青白「今回のバリウガ制圧が上手くいきさえすれば、
 その左腕の痛みも治まりやす。
 連中の船の女が、まとめてバリウガに向かったんで、
 そいつらを……ひひひぃ」


賊「ああ、治まるか、治まる、オサマらねぇと……
 いてぇんだよ、刺された腕が、ぐずぐずに痛むんだ。
 あの夜、黒い男に刺された腕がよぉ。

 この痛み、苦しみ、憎しみ、
 そして味わった辱め!

 ああ、何百倍にもして、味合わせてやる。
 お前だけじゃねぇ、お前の船の人間にもだ。
 女だろうが子供だろうが、
 頭の先から足の先まで、
 男に関わった不運への恨みと、
 男への憎しみで染め上げてやる……」


青白「さ、お仲間の方々も舌なめずりして待ってまさぁ。
 いってらっしゃいまし」にこり

賊「ああ。そうだな……
 卑怯な隠しナイフなんぞで俺の腕を……腕をよぉ。
 男って野郎、簡単には殺さねぇぞ。
 てめぇの船の人間を少しずつくびって、
 手足をもいだ蟻を水に浮かべるように、
 最後は一人海に流してやる……」

 どかどか
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:44:00.12 ID:Xu70o61xo

青白「……はぁ」のびー

青白 ぽき、ぽき

青白「ひひひぃ、しっかしチョロい。
 チョロすぎて涙まであふれそうじゃねぇか」

 とことこ

?「いよぉう。青白ちゃん、調子はラッキー?」

青白「ひひ、ラッキーでありますぜ。
 いつもごひいきにしていただき、
 ありがとうごぜぇやす、旦那」

?「いいって事よ。ラッキーだったら何よりだ。
 それこそ、ラッキー!
 そして今日の俺はぁ、超ラッキーだッ!」

青白「なんか良い事でもありやしたか」

?「ふふん、いつものように部下を相手にした、
 イカサマ無しのポーカーで十戦十勝。
 でもって、銃の試し打ちをしたら、
 その弾の先に偶然鳩がやってきてな、
 上手い朝飯になってくれたわけだ。
 そして更に!!」

354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:44:32.11 ID:Xu70o61xo
青白「ま、まだあるんですかい」

?「先ほど可愛い幼女が船を下りようとしていてな、
 梯子を器用に伝っていたんだが、
 不意にスカートを引っかけて下着をちらりと――」

青白「はいはい、ラッキーラッキー。
 いい加減捕まりますぜ、旦那ぁ」

?「……ごほん。そんでどうだ、俺のプランは」

青白「まるでアッラーフ(神)の加護があるようですぜ。
 面白いようにどんどん火薬が増える。ひひひぃ」

?「我が主、紳士海賊ウルグ・アリ様だって、
 アンラッキーがなけりゃぁイケるって、
 判を押してくれたんだからそこは心配ねぇ」

青白「さすがですねぇ……
 あっし以外の情報屋も使って、
 イオニアの海は掌の上ってヤツですかい」

?「ふふん、俺なんて所詮、
 我が主にとってはまだまだヒヨッコよぉ」

青白「恐ろしい方でやんすねぇ……」

355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:45:52.16 ID:Xu70o61xo
?「で、俺が聞いてるのはよ、
 ただプランが進行するかじゃねぇんだよ。

 俺達がラッキーを叫びたくなるくらい、
 ど派手な花火があがるのかって事なのさ」

青白「頼まれた通り、あの町を襲うように、
 エサと海賊は配置しやした……ひひひぃ」

?「そうか、ならこの金はお前のモンだ」じゃらっ

青白「わひゃひゃぁ、金だ、金、金ぇええ!」

?「そんなに金が好きか?」

青白「旦那にとってのラッキーみたいなもんでさ。
 コイツが逃げないでいてくれれば、
 あっしにとっては幸せなんで。ひひひぃ」

?「なら、また遠からず、
 俺様の期待に添える仕事をしてくれよ」

青白「へぇ、任せてくだせぇ。
 そんじゃ、また何か有ったら連絡しまさぁ」

?「おう、ラッキーニュース、楽しみに待ってるぜ」

356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:46:03.59 ID:Xu70o61xo
青白「あ、ちょっと待ってくだせぇ。
 ほら、マントをしっかりしめねぇと、
 矢尻十字が見えちまいますよ」

?「大丈夫だってよ、これくらい。
 俺のラッキーが有れば誰も気づかん!」

青白「そういう話じゃありやせん。
 紳士海賊閣下に知られたら恐ろしいですぜぇ。
 噂じゃぁ、身だしなみにうるさいとか……」

?「む、そうだな。
 あの方は常に、ド紳士、だからな。
 俺も部下として見習わねばならんか」きゅきゅ

青白「はい、それで見えやせん。
 そんじゃぁあっしも行くとしやす。ひひひぃ」

?「……そういやぁ、一つ聞かせてくれや」

青白「へぇ、なんでしょう」

?「その焚きつけた連中ってのは、
 『客』だったんじゃねぇのか?」

357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:48:01.89 ID:Xu70o61xo
青白「……まあ、あっしは焚きつけたとは言っても、
 欲しがってる情報を『作って』渡しただけでさ。
 どうなるにせよ、どうにかなってましたぜ」

?「つまり、裏切ったわけじゃぁねぇって、
 そういうわけかい?」

青白「裏切るなんて滅相もネェ。
 あっしは誰もが喜ぶ親切を売らせてもらっただけ、
 それ以上でもそれ以下でもねぇわけでさ」

?「……そーかそーか、そんならいい。
 商売に励めよ」にかっ

 とことこ

青白「……裏切るヤツは殺されるってね。
 もし裏切ったなんて言ってたら、
 旦那があっしを殺したでしょうや。
 怖い怖い……ひひひぃ」

青白(しかし、白髪の旦那を追った三人。
 あの短髪で胸のねぇ娘っこが、
 だーれかに、似てるってーか、
 見た気がするってーか……
 まあ、いいか……)
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:51:08.97 ID:Xu70o61xo
続きは土曜に投下しに来るなり><

説明ゼリフ多くてすまぬ……

ややこしいの読んでくれててありがとう!


未だに鼻ずるずるしてるけど、
鼻炎薬と感謝の心を置いてくから持ってってくれ。
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2011/06/09(木) 23:53:26.07 ID:J3xby4nq0
お疲れ様
やっとなんやかんやとクサい連中が出てきたな
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/09(木) 23:53:34.86 ID:Xu70o61xo
>>322
お肉食べてる狼耳尻尾の娘っこはイイヨネっ!

>>323-325
ああ、超越者が船にいる事に気がついちゃった……
みんなも正気度ロールするといいよ!

>>328-330
お、おちつけっw

361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/06/09(木) 23:55:32.18 ID:SEPhxYDw0
おつ、毎日見に来てたがもう更新ないかと思ったよ。
土曜日も楽しみにしてる!
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 00:08:37.38 ID:ouPV4LB6o
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 06:50:47.61 ID:RiAmWKu0o

楽しみに待ってる
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/10(金) 15:40:12.79 ID:DRvlJI1Q0

ところで白髪は「はくはつ」でいいのか?
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/06/10(金) 21:56:46.10 ID:cdwt/JD0o
「しらが」かもしれないぞ
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/06/11(土) 23:14:33.23 ID:QEivXIEO0
しろかみも捨てきれ・・いや、ないな
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/11(土) 23:50:16.53 ID:hCoGRWHTo
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   夕方 バリウガの町中

白髪「まさか、この程度の距離に
 六日もかかっちまうとはな……」

白髪(帰って来ちまったな……
 まさか生きている内にもう一度、
 ここの土を踏むことになるとは思って無かったぜ)

白髪「変わってねぇなぁ、この町も」きょろきょろ

白髪(大きくもなければ、さして賑やかでもない。
 港って言っても船が三艘も入ればいっぱいで、
 ちょっと離れた小島に小さな砦があって……
 よくあの砦に忍び込んで、夕日を眺めたな)

白髪「……これは、パンを焼く臭いか。
 多少家の並びは代わったようだが、
 こいつはかわらねぇなぁ」

白髪(とりあえず、町についたは良いが、
 どうしたものか……宿屋なんか有ったっけか?」)

368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/11(土) 23:51:43.77 ID:hCoGRWHTo
子供1「あはは、鬼さんこちらー♪」

子供2「まてよーっ!
 あんまり港の方に向かったらダメって、
 お父さんたちから言われてるだろ!」

子供1「そんなのしーらない。
 止めたかったら捕まえなさいよー!」

子供2「おいっ、後ろ向いて走ると……」

 どったーん

白髪「っ!」ばっ

子供1「いたーいっ」どすん

子供2「大丈夫?」

子供1「ううー、おしり痛いけど、大丈夫。
 おじさんが助けてくれたから……」

白髪「いやあ、すまねえな、支えきれなくてよ
 いてて……」

369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/11(土) 23:52:41.49 ID:hCoGRWHTo
子供2「おじさんも大丈夫?」

子供1「あの、ぶつかってごめんなさい」

白髪「なぁに、俺は大丈夫さ。
 子供は元気が一番ってな……よっ、つつ」

子供1「もしかしておじさん、足くじいちゃった?」

白髪「あー、まあ、何ともねぇよ。大丈夫だ。
 ほれ、こっちで遊ぶと危ないからな、
 あっちに遊びにいけ?」

子供2「でも、痛そうだよ?
 薬草貼らない? うちにいっぱいあるよ」

白髪「ほう、坊主の家は医者かなんかか?」

子供2「お医者さんじゃないよ!
 お医者さんは山を二つ越えたトコまでいかないと。
 うちはちょーちょーなの!」

370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/11(土) 23:53:50.65 ID:hCoGRWHTo
白髪「ああ、そういや、町長のトコは薬師だったか。
 ん? ……っつーと、赤毛の子供か?」

子供2「おじちゃん、お母さんの事知ってるの?」

白髪「あー、まあ、な。
 そうだな、薬草なんざ別になくても大丈夫だが、
 あの根暗の顔くらいは、見るか」

子供1「ねくら?」

白髪「何でもねぇよ。
 よし、じゃあ坊主、ちょっとおまえさんの家まで、
 案内してくれや」

子供2「いいよー」

子供1「じゃ、あたし先に行って、
 お客さんだよって伝えてくるね!」

白髪「いや、そこまでするような事ぁ……」

子供1「ばっびゅーん」たたたーっ

子供2「おーい、またぶつかるなよー!」

白髪「……やれやれ。懲りない嬢ちゃんだ」

371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/11(土) 23:54:30.17 ID:hCoGRWHTo
------------------------------------------------
  夕方 バリウガ町長宅

赤毛「はい、それじゃ今日もちゃんと、
 主の恵みに感謝しましょうね」

子供1「はーい」

子供2「ありがとーございまーす」

赤毛「こらっ、そんな風にいいかげんな事しないのっ。
 ほら、ちゃんと手を合わせて、目を閉じて」

子供1「父よ、今日のめぐみのあることに、
 感謝の気持ちをささげます」

子供2「土を耕し、野菜や麦を育ててくれる
 兄弟達の働きに、感謝の気持ちをささげます」

白髪「……父よ、我らが血と肉になるこの糧に、
 祝福を与えたまえ」

赤毛「父と子と、精霊の御名の元に。エイメン」

子供「「エイメン」」

白髪「……エイメン」

372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/11(土) 23:55:15.47 ID:hCoGRWHTo
赤毛「さ、食べていいわよー」

子供1「わーい! 今日はごはんいっぱーい!」

子供2「あ、こら、そのニシンは僕が狙ってたのにー」

子供1「へへん、早い者勝ちだよー」

子供2「だったら、こっちは……」

子供1「あーっ! お肉そんなに取っちゃダメーっ」

赤毛「静かになさいっ!」

子供「「はーいっ」」

 ばくばく、もぐもぐ

白髪「悪いねぇ、食事に呼んでもらっちまって」

赤毛「いえいえ、かまわないんですよ。
 1ちゃんを守って怪我をされたなんて、
 むしろこれくらいしかお礼ができない事が、
 心苦しいくらいです」

白髪「いやいや、美味い食事に楽しい子供たちがいりゃ、
 他には何もいらないってモンで」

373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/11(土) 23:56:07.47 ID:hCoGRWHTo
赤毛「……もしよければ、お酒もいかがですか?
 少し待っててくださいね」いそいそ

子供1「ねえねえ、おじちゃん」もっきゅもっきゅ

白髪「ん、なんだ?」

子供1「おじちゃんとお母さんって、
 知り合いなんだよね?
 どういうお知り合いなの?」

白髪「いやぁ、知り合いっつても、俺は船乗りだからな。
 昔この町に来た時に、ちょいと話した程度でよ」

子供1「でも、お母さんちょっといつもより、
 おじさんとあってからそわそわしてるよ?」

赤毛「ばかな事言ってんじゃないの。
 1ちゃんがこの人に怪我させるから、
 申し訳なくて……」

白髪「そんなに気にしねぇでくれよ。
 船乗りにゃ、この程度の怪我なんていつもの……」

赤毛 ちらっ

374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/11(土) 23:57:22.18 ID:hCoGRWHTo
白髪「……いや、やっぱりちょっと痛むなぁ」

子供1「え、大丈夫?」

赤毛「1ちゃんが見境なしに走り回るから、
 こうやって人に怪我させるのよ?」

子供1「あ、あうぅ」

子供2「だから走るなって言ったのに」

子供1「走るなとは言ってないよー」

子供2「言ったよ!」

子供1「いつのことー?
 何時何分、そらが何回まわったころ−?」

子供2「とにかく言ったってば!」

白髪「ほれほれ、あんまり騒がしくすると、
 また母ちゃんに怒られるぞ?

子供「「はっ」」じっ

375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/11(土) 23:58:20.76 ID:hCoGRWHTo
赤毛「……賑やかなのもいいけど、
 食事中はちゃんと味わって、
 感謝しながら食べなさいね」苦笑

子供「「はーい」」

赤毛「好き嫌いもしちゃだめよ?」

子供1「えー、でもあたし、お豆がいやー……」

子供2「ぼく、マリネのたまねぎが辛くて……」

赤毛「だーめ! ちゃんと食べないと、
 いつまでたっても大人になれないわよ!」

白髪「っ、く」ぴくっ

赤毛「あら、どうしました?」

白髪「いや、白芥子の種がちょっと辛かっただけだ」

子供2「白芥子は大丈夫―♪」

白髪「そうそうか、辛いのも食べられて偉いな」なで

子供2「えへへー」

 わいわい、もぐもぐ

376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/11(土) 23:59:56.29 ID:hCoGRWHTo
------------------------------------------------
  夜 バリウガ町長宅

白髪「いやぁ、良い湯だった。
 沐浴までさせてもらっちまって、悪い気がするぜ」

赤毛「気にしないでください。
 子供を助けてくれたお礼ですから」にこっ

白髪「その子供達は……」

赤毛「はしゃぎ疲れたんでしょうね、
 寝てしまっています」

白髪「……くく、寝顔は、可愛いモンだな」

赤毛「普段はやんちゃばかりですけどね。ふふ。
 ああ、そうだ、ちょっとそこに座ってください。
 薬草を貼りますわ」

白髪「ちょっとひねっただけだ、
 この程度ならなんて事ぁねぇよ」

赤毛「きちんとしないと、
 後になっても響いてしまいますよ。
 ほら、座ってください」

白髪「……強引だなぁ」

377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/12(日) 00:01:57.60 ID:l0iBYzGfo
  ぺた、ぺた

赤毛「……懐かしいですね」

白髪「……なんの事だ?」

赤毛「とぼけないで良いですよ。
 白髪さんですよね、あの丘の上の教会にいた。
 一緒に遊んでた頃に、私をかばって怪我をして、
 こうやって治療したり……
 さっきからちょっと他人行儀にしてるから、
 不思議な感じね……」

白髪「……しらネェなぁ」

赤毛「嘘をついてもダメですよ。
 お父様にお顔がそっくりだから」

白髪「…………」

赤毛「久しぶりね」

白髪「ああ、久しぶりだな」

赤毛「まるで五十年くらい会ってないみたい」

白髪「……俺にとっちゃ、それくらいかもな」

赤毛「……」
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/12(日) 00:02:08.64 ID:l0iBYzGfo
  ぺた、ぺた

赤毛「……懐かしいですね」

白髪「……なんの事だ?」

赤毛「とぼけないで良いですよ。
 白髪さんですよね、あの丘の上の教会にいた。
 一緒に遊んでた頃に、私をかばって怪我をして、
 こうやって治療したり……
 さっきからちょっと他人行儀にしてるから、
 不思議な感じね……」

白髪「……しらネェなぁ」

赤毛「嘘をついてもダメですよ。
 お父様にお顔がそっくりだから」

白髪「…………」

赤毛「久しぶりね」

白髪「ああ、久しぶりだな」

赤毛「まるで五十年くらい会ってないみたい」

白髪「……俺にとっちゃ、それくらいかもな」

赤毛「……」
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/12(日) 00:02:46.03 ID:l0iBYzGfo
白髪「しかし、驚いたな。
 あの陰気でしられた赤毛の娘が、
 いまや二児の母か」

赤毛「まだまだ、母親としては未熟だけどね」

白髪「そんなもんか?
 立派な母親にみえるぜ」

赤毛「そう言ってもらえると嬉しいわ。
 ふふ、昔からそうよね、あなたって」

白髪「何がだよ」

赤毛「私が迷ってたり、困ってたりすると、
 それとなく助けてくれるの」

白髪「俺はそんな、王子様みてぇな生き物じゃねぇよ」

赤毛「でも、頼りになる友人だったわ」

白髪「俺にとっちゃ、頼りねぇ友人だったがな」

赤毛「心配してくれてたの?」

白髪「ふん、まさか」

380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/12(日) 00:03:41.62 ID:l0iBYzGfo
赤毛「私は、ずっと心配してたわよ。
 だって、あなたが……
 あなたのご家族がこの町から離れる原因は」

白髪「おい」

赤毛「町長だった私の両親が、追い出したから」

白髪「正しい判断だ」

赤毛「独善的な判断だったわ」

白髪「……」

赤毛「ずっとずっと、後悔してたの。
 私があなたとよく遊んだりしてなかったら、
 きっとまだあなたとご家族は、
 この町にいられたんじゃないかって」

白髪「そんな事はねぇよ。
 俺は教会に生まれた、呪いの子だからな。
 いずれ両親共々追い出されてたさ」

赤毛「でも……」

白髪「くどいぜ」

381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/12(日) 00:04:56.85 ID:l0iBYzGfo
赤毛「……ごめんなさい」

白髪「ちなみに、お前の両親はどうしたよ」

赤毛「二年前に海賊が来て、
 父は町を守るために戦って、町は守れたけど、海に。
 母はその現実に耐えきれなくて……」

白髪「……そうか。
 いまの町長は旦那か?」

赤毛「うん。あんまり気が利く人じゃないけど、
 町のため、子供のために一生懸命に働く、
 とっても優しい人よ。
 頑張りすぎて、役場に泊まる事が多いけど」

白髪「なるほど、それで今日も家にいねぇのか」

赤毛「お客様にひきあわせたいから、
 できれば帰ってきてって言ったんだけど、
 ちょっと急ぎの仕事が入ったって……」

白髪「そうか。大変だな。
 しかし、近いうちにちょいと、話がしたいんだが、
 中継ぎを頼めるか?」

赤毛「お話って?」

382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/12(日) 00:05:40.26 ID:l0iBYzGfo
白髪「まあ、そりゃちょっとな。
 お前が実は、マリネのタマネギとか、
 マメの水煮が苦手だって事を伝えねぇとな、なんてよ」

赤毛「まぁ、それは伝えられたら困っちゃうわ。
 子供に知られたら特にね。
 口封じには、明日の朝ご飯に
 ニンジンのバターソテーを出すしかないかしら?」

白髪「くく、俺が悪かった、勘弁してくれ。
 未だに俺は、あれだけは食えねぇんだ」

赤毛「じゃあ、何を話すのか、
 本当の事を教えてくれる?」

白髪「……すまんな。
 多分まだ知らん方が良いことだ」

赤毛「……そう。わかったわ。
 あなたが何も言わないなら、私も聞かない」

白髪「すまんな」

赤毛「昔のよしみよ」

白髪「助かる」


383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/12(日) 00:06:12.93 ID:l0iBYzGfo
赤毛「それにしても、ずいぶん変わったわね」

白髪「……人の倍以上も歳をとる体だからな」

赤毛「それも有るけど、違うわよ」

白髪「何がだ?」

赤毛 そっ

白髪「……」

赤毛「傷がいっぱい。
 激しい生き方をしてきたのね」

白髪「まあ、それなりにな。
 だが、子供やなんかがいることに比べりゃ、
 大した事じゃあねぇさ」

赤毛「そうかしら?」

白髪「そういうものさ。
 幼なじみだったお前の子供を見て、
 つくづく思うぜ。
 後悔はないが、こんな『形』は残せてねぇなとよ」

赤毛「……」

384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/12(日) 00:06:40.05 ID:l0iBYzGfo
白髪「さて、そんじゃ俺はそろそろ寝るぜ」

赤毛「……おやすみなさい」

白髪「ああ。オヤスミ」なでなで

赤毛「…………もう、子供じゃないのよ?」

白髪「なに、俺みてぇなじいさんからすりゃ、
 子供みてぇなもんだろうよ」

赤毛「中身は私と大してかわらないでしょ」

白髪「そうだったかもしれねぇな。
 さて、そんじゃ改めて、おやすみだ」

赤毛「   」ぼそっ

白髪「ん、何か言ったか?」

赤毛「いいえ、お休みなさい」にこっ

385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/12(日) 00:08:09.06 ID:l0iBYzGfo
ごめん、忙しいので今日はここまでなのじゃ><

次は水曜に投下するのじゃよ。
ううう……
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/12(日) 00:11:55.02 ID:l0iBYzGfo
>>361
待たせてしまってごめん!
引っ越しラッシュとかがあって、書いてる時間が全くとれなかったんだ……
ちょっと書くのに時間かかってるけど、ちゃんと完結はさせるからね!

>>364-366
好きなように呼ぶと良いと思うけど、
おいらはちょっと粗っぽく「しらが」で書いてるよー。
「はくはつ」だと音が上品な感じがするなりよ。
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/06/12(日) 01:07:48.10 ID:VWZ1BwV4o
乙々
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/12(日) 19:16:10.39 ID:/41sTGmno
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/06/14(火) 00:16:01.89 ID:dV0W4rB90
おつ
白髪と00のロックオンが被る
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/06/15(水) 22:51:26.87 ID:Yxilk3W20
水曜だぜ!
まってるよ!
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/16(木) 04:18:08.35 ID:hovJNFSOo
------------------------------------------------
  朝 バリウガ町長宅

子供1「おはよーございますっ」

白髪「おう、おはようさん。
 いやぁ、よく眠らせてもらったぜ」

子供2「良い夢みられたました?」

子供1「おかしいっぱいの夢とか!」

白髪「お菓子いっぱい、ってのとは違うが、
 まあ悪くない夢だったな。
 懐かしい夢だったぜ」

子供1「なつかしいって、どんな感じ?」

白髪「そうさなぁ。
 秋の草っぱらで寝転がってる感じか」

子供2「それが、懐かしいなの?」

子供1「秋にそーやって寝転がるのは気持ちいいから、
 良い夢なんだねっ」

白髪「まあ、そういうこった。
 ところでお二人さんよ、母ちゃんはどうした?」

392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:19:38.15 ID:hovJNFSOo
子供2「お母さんはお出かけしてるんだ。
 お父さんに相談するって。
 だから、おじちゃんにはテーブルのご飯食べてって」

白髪「そうか、朝早くからきまじめだな……
 早いに超したことはないが。
 で、お前らはもう食べたのか?」

子供1「うん、いっぱい食べたよ!」

子供2「1っちゃんったら、白髪のおじちゃんの分も」

子供1「わーっ!! 2ぃくん言っちゃだめだって」

子供2「でも、こっそりチーズ食べようとしたろ。
 そういうのはダメなんだぞ」

子供1「う、ううー」じぃっ

白髪「がはは、その程度じゃ怒らねぇって。
 ほれ、もっと食うか?
 お前らの母ちゃんの飯は美味いから、
 腹一杯になるまで食いたいよな」

子供1「わーいっ♪」

子供2「あ、こら、だめだよ!
 お客さんのご飯食べちゃっ」

393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:20:39.77 ID:hovJNFSOo
白髪「ガキが細かい事を気にするな。
 食べ終わったらどうするんだ?」

子供1「今日は午後から、教会でおべんきょー」

白髪「つまり午前中は暇か。
 何かして遊んでやろうか?」

子供1「ホントっ? えっと、それなら、それならー」

子供2「それなら、おじさん!
 剣の使い方教えてよ!」

白髪「チャンバラか?
 まあ、別にかまわねぇけどよ」

子供1「えー。せっかくだから、冒険のお話とか」

子供2「そんなの、また他の時でもできるだろ」

子供1「チャンバラだってそうじゃんー」

子供2「違うよ、僕が習いたいのは……」

白髪「ん? よく聞こえねぇぜ」

子供2「僕が習いたいのは、相手を倒せる剣だよ」

394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:21:24.44 ID:hovJNFSOo
------------------------------------------------
  朝 バリウガ町長宅 庭

白髪「倒すための剣、なぁ……」

子供2「こう、必殺技みたいなの!
 シラガストラーッシュみたいな!」

白髪「なんじゃそりゃ……
 まあ、とりあえず剣を持ってみるか?」ぽいっ

子供2「わ、わわわ……」よろよろ

子供1「やーい、ふーらふらー」

子供2「うるさいよっ」ちゃきっ

白髪「構えがなってねぇなあ。
 もっと胸を張れ。首をさらすな。
 腕に力が入りすぎだ。
 だからって剣先降ろすな」ぺしぺし

子供2「む、むむ」

白髪「よーし、そのまま素振りだ。
 とりあえずもうムリって思うまで振ってみろ」

子供2「ていっ、やーっ!」

395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:22:45.56 ID:hovJNFSOo
白髪「……で、なんなんだ、ありゃ」ぼそぼそ

子供1「んにゅ?」

白髪「見るからに細くて、
 勉強はできるけどケンカはダメって、
 学者肌の典型みたいなヤツが、なんで剣だよ」

子供1「うん、2ぃちゃんよわいよー」

子供2「うるさいよ、1っちゃん!」

白髪「ほれ、また猫背になってるぞ!
 肩の後ろの骨で、背骨を両側から押さえる感じで、
 ぐっと胸を張れ!
 振り下ろしたあとの剣に振り回されるな。
 剣に体勢を持っていかれてるぞ。
 降ろしたらぴたっと止めろ!」

子供2「はいっ」ぶん、ぶん

子供1「……あのね、2ぃちゃんね。
 村の漁師のとこの男の子たちにからかわれたの。
 ひょろひょろで弱いーって。
 それで、そんな事ないってケンカして、負けて……」

白髪「だから強くなりたい、剣を使えるように、か。
 間違っちゃいねぇが……」

396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:24:38.53 ID:hovJNFSOo
子供2「ふ、ふぉぉ」よろよろー

子供1「もうムリみたい?」

子供2「ぜ、はっ。もう、むりー……」ぺたん

白髪「おいおい、誰が座って良いって言った!
 罰としてあと十回素振りだ!」

子供2「ええ、も、もう……」

白髪「口答えも禁止だ。十回追加!
 それとも、もう剣を教えてもらうのはいいですってか」

子供2「…………う。せ、せいっ。はっ」ぶん、ぶん

子供1「ふらふらだよ?」

白髪「おい、坊主!
 へっぴり腰になってるぞ。あと二十回!」

子供2「よけいなこと、いうなよっ!」

子供1「あう、ごめん……」

白髪「なんだ、それだけ元気ならあと十回追加だな」

397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:26:44.71 ID:hovJNFSOo
子供2「せ、せいーっ!」

白髪「もっと声だせ! ひょろひょろすんな!
 十回追加!」

子供2「はいーっ!」

子供1「……」

白髪「お前は誰を相手にしてるつもりだ。
 空なんか見上げたって相手はいねぇぞー。
 ちゃんと目の前に相手がいるつもりでやり直せ!
 あと二十回だ」

子供2「ひ、ふ、」ふららー

白髪「だぁからよ、胸張ってしっかり剣を支えろ!
 脇が開いてるっての。
 持ち上げるのも遅すぎるぞ!
 そんなんじゃ、持ち上げる前に切られるだろ」

子供2「……っ、っ!」ふららら

子供1「おじちゃん、2ぃちゃんもうムリだよ……
 ふらふらでかわいそうだよ」

398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:27:30.36 ID:hovJNFSOo
白髪「ほれ坊主、女の嬢ちゃんにまで、
 ふらふらとか言われてるぞ!
 悔しかったらあと二十回振ってみろ!」

子供2「……ぃ……いっ!」

子供1「そんなつもりじゃ!
 ねえ、2ぃちゃんがつらそうだよ!」

子供2「だいじょ、ぶっ、ふぅっ」ぶん、ぶん

子供1「…………」

白髪「ほう、まだ大丈夫ってんなら、
 さらに十回追加だ!
 それから、素振りの剣先下がってるぞ!
 なんだその左右にふらふらの切り下ろし!
 お前は本当に相手を倒すつもりはあるのか」

子供2「う、ぐ……ぐ、っっ!」

白髪「ほれ、剣があがってネェぞ。
 気合い入れてあげろ!
 相手がいたら、待ってはくれねぇからな!」

子供2「うううう、せ、ぃ、っはっ」

子供1「……」

399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:28:31.18 ID:hovJNFSOo
子供2「はっ、うう……」

 からん

白髪「どうした、もう持てないか?
 俺のカットラスなんざ剣の中じゃぁ、
 かなり軽い獲物だぜ?」

子供1「ねえ、おじちゃんっ」

子供2「ぜ、……はっ」きゅ、からん……

子供1「2ぃちゃん、もうムリだよ。
 はじめて剣持ったのに、
 そんなにできるわけないよっ!」

白髪「まあ、そうだな。
 よーし、休んでいいぜー。
 座ってゆっくり深呼吸だ。
 それからほれ、塩と水をとれ」

子供2 ごくごくごく……ぷはーっ

子供1「…………おじちゃんは、
 あたしたちの事が嫌いなの?」

白髪「あん?」
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:29:42.89 ID:hovJNFSOo
子供1「だって、2ぃちゃんがムリって言ったのに、
 それからいっぱい、追加だーって」

白髪「……」

子供2「はふ、はふ……」

白髪「まあ、ちょっとお前さんの歳にはきつかったが、
 別に嫌いだからガツガツやらせたわけじゃねぇぜ?
 ムリって言った後に、コイツ何回振ったよ」

子供1「え、えーっと……」

白髪「百七回だな。
 最初にムリって言うまでで、八十回くらいか。
 最後はもう、振ってるってぇか振られてる形だが、
 それでもそんだけ『ムリの先』があったろ」

子供1「あったけど……」

白髪「最初はそんなモンなんだよ。
 だいたいのヤツは、できる事とできねぇ事を、
 自分でちゃんと知ることもできねぇわけだ。
 だから、自分で勝手に、ある程度でムリを作る」

子供1「でも、まだ2ぃちゃんが、ぜはぜはしてるよ」

401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:30:33.75 ID:hovJNFSOo
白髪「まあ、二百近く大人用の剣を振り回してりゃ、
 しばらく喋れなくもならぁな」

子供1「こんなのじゃ、まともな練習もむりだよ……」

白髪「まともな練習ができる体力もねぇってこった。
 正直に言やぁ、剣を振るにゃぁ向いてねぇよ」

子供1「……」

白髪「そう睨むなよ。
 別にいじめてるってワケでもねぇ。
 なぁ、坊主よ」

子供2「はぁ、はぁ……」

白髪「町のガキにケンカで負けて、
 悔しかったから剣を習いたいだって?」

子供2「…………」こくり

白髪「あのなぁ、港で働いてるようなガキ共は、
 小さい頃から親を手伝って、
 でっかい荷物を持って働いてるんだ。
 そんな連中に叶わなくたって、別に良いだろうよ」

子供2「……そんなこと、ないもん」

402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:31:46.65 ID:hovJNFSOo
白髪「お前さんの親は町長で薬屋だろ。
 連中は力仕事。お前さんは勉強が仕事。
 それぞれに得意な所があるんだ。
 自分と相手が互いに得意で、
 どうしても譲れないもんだったら話が変わるが、
 別にそんなんで勝てなくてもいいだろうよ」

子供2「……そんな事、ないもん。けほっ」ちらっ

白髪「…………。
 おい、嬢ちゃんよ」

子供1「ふえ?」

白髪「もうちょっと水持ってきてやってくれや。
 まだ水が足りネェみてぇだ」

子供1「わかったよっ!」たたっ

子供2「……」

白髪「なんでぇ、嬢ちゃんのためってか?」

子供2「……だって、あいつら最初、
 1っちゃんにケンカ売ってて」

403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:33:52.76 ID:hovJNFSOo
白髪「女の子にケンカ売るたぁ、
 男の風上にもおけネェ連中だな……」

子供2「だから、僕が1っちゃんを守るんだって。
 剣も、まともに振れなかったけど」

白髪「そうだな。
 剣の一本もまともに振れねぇんじゃ、
 ケンカの相手になんざ、まちがってもなれねぇなぁ」

子供2「……」

白髪「それに、そいつらを倒せれば良いって話じゃあ、
 間違っても終わりゃしねぇよ。
 倒したヤツより強いヤツに狙われたり、
 逆恨みした連中に闇討ちされたりな。
 そういう相手のメンツに泥をつけりゃ、
 付け焼き刃で多少強くなったってどうしようもネェ」

子供2「じゃあ、だまって負ければいいの?
 殴られたりしても、我慢すればいいの?」

白髪「真っ向から一対一で殴り合うってのが、
 こういう時のお約束で分かり易いがな、
 そんなのは、殴り合うしか能がねぇ連中に任せろ。
 お前は別に勝ちたいってわけじゃねぇだろ?」

子供2「……でも、負けたら痛いし」

404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:34:36.93 ID:hovJNFSOo
白髪「勝ち負けで割り切ろうとするなよ。
 お前はその頭があるんだろ?
 だったら、勝ち負けじゃない場所に、
 もちこんでやりゃいいじゃねぇか」

子供2「勝ち負けじゃないところに?」

白髪「一番分かり易いのは、逃げるだな」

子供2「負けてるじゃん!」

白髪「誰も勝ってなんかいねぇがな。
 怪我もしねぇし、相手も満足おおよそ満足する。
 逃げるってのは頭を使えばそう難しくねぇしな」

子供2「……そうなの?」

白髪「さっきも言ったが、
 自分は何ができて何ができねぇのか、
 それを正しく認識する所から物事ってのは始まりだ。
 たとえばお前なら、歳の割に体が小さいよな」

子供2「だから、ケンカも弱くて」

白髪「だからケンカをしなけりゃいい。
 体が小さいから、狭い場所を通れるよな。
 不安定な場所も通りやすいだろ。
 そういう場所は、港があって水路の流れるこの町は、
 いくつだってあるだろ?」

405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:36:50.83 ID:hovJNFSOo
子供2「でも、そもそも強くなれば……」

白髪「強くなる事も、勝つことも、簡単じゃねぇんだ。
 重要なのは、本当の意味で負けないことだな。
 大切なモノを守りきることができりゃ、
 それが『お前にとっての勝利』だ。
 必要な強さがあるとすりゃ、守りたい奴の背中を
 後ろで支えながら逃げ切る程度の体力でいい。
 ケンカで勝つよりよっぽど効率がいいだろ」

子供2「……」

白髪「あんまり納得できない顔だな」

子供2「だって……」

白髪「ケンカに勝ったって、
 良いことなんざ何もねぇんだって言っても、
 納得はできねぇってか?
 まあ、わかるがな。俺もそうだったしよ」

子供2「おじちゃんは、強いんでしょ……だからだよ。
 弱い僕の気持ちはわからいんだ……」

白髪「俺は確かに負けた事がほとんどねぇが、
 強いってわけじゃぁねぇんだがな。
 いや、騎士団にいた頃は負けっぱなしだったしなぁ」

子供2「……」

406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:37:34.24 ID:hovJNFSOo
白髪「とりあえずよ。
 その素振りとか、走り込みとか、
 強くなりたいなら毎日やってみろ。
 できるなら港にいって、
 大人達の手伝いもさせてもらえ。

 まずは満足に剣を振る事ができる体力!
 一に体力、二に体力だ!
 体力がついたら、すんげぇ技を教えてやるよ」

子供2「ほんとっ?!」

白髪「おうよ。騎士団に伝わる伝説の技だ。
 期待して良いぜ?」にやっ

子供2「……が、がんばるよ!」

白髪「おう。
 そんじゃ俺はちょいと散歩してくらぁ。
 ムリせず休めよ」

子供2「はい、ししょーっ!」

白髪 ひらひら

 とことこ

白髪「…………俺が師匠ってガラかよ」

赤毛「あら、ずいぶん格好良かったわよ」

407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:38:25.98 ID:hovJNFSOo
白髪「いつから見てやがった?
 坊主がへたり始めた時に木の陰でそわそわしてたよな」

赤毛「あら、ばれてたの?」

白髪「わからいでか。
 森に隠れるには、その髪が鮮やかすぎらぁ」

赤毛「……ふふ。
 昔のかくれんぼの時と、同じ事を言うのね」

白髪「うぐ。と、とりあえず、悪かったな。
 おまえのガキなのに、シゴいちまって」

赤毛「いいのよ。男の子は叩いて伸ばせってね。
 それに、最近はちょっと逸ってたところが有るから、
 折ってくれて助かったわ」

白髪「下手に剣なんざ持ち出せば、命がないからな。
 自分が弱いって事を忘れたヤツほど、
 長生きできなくなる……」

赤毛「だから、感謝してるのよ」

白髪「それなら助かるが。
 アイツが剣を持とうとしたら、
 俺をダシにして止めてやってくれや。
 しばらくしたらまた、自分が強くなったって、
 きっと誤解するだろうからな」

408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:39:30.64 ID:hovJNFSOo
赤毛「わかったわ。
 それじゃ、こんどはこっちの用件ね。
 旦那様がアナタに会いたいって」

白髪「ほう、案外早かったな。
 早くても夜にはなるだろうって思っていたが」

赤毛「そこはほら、台所とかいろいろ握ってる、
 奥様のお願いは聞かざるをえないってね」

白髪「かぁー、そりゃぁ怖いな。
 俺はこの町を逃げ出して正解だったかもな」

赤毛「……そんな事言うと、
 憲兵さんに突き出しちゃうわよ?」

白髪「せめてお前の旦那に面会してからだな。
 どんなに恐ろしい女か告げ口してからじゃねぇと、
 断頭台に上っても頭だけで言い続けるぜ」

赤毛「ちょ、ちょっとやめてよっ。
 私がそういう怖い話苦手だって、
 憶えてて言ってるでしょ……性格悪いんだから」

白髪「どっちもどっちだろ。
 なんだ、まだセイレーンのおとぎ話に震えあがって、
 夜にトイレに行けないのか?」

409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:40:22.03 ID:hovJNFSOo
赤毛「…………むぅっ、ばーかっ!」げしっ

白髪「ってぇぇええっ、いま、お前!
 俺のくじいた足を狙ったろ!」

赤毛「そんなの知りません」

白髪「いや、治療して知ってるだろ!」

赤毛「記憶が定かでございません。
 専門家に依頼して事実関係の再調査を行い該当問題に
おける対策委員会を設置した上でご回答させていただきますー」

白髪「……息継ぎなしでそんな台詞を言えるほど、
 町長職ってのは政治家くさく無かった気がするが……」

赤毛「しらないしらないしらないですー。
 ホントにもう、デリカシーがないんだから……
 だいたいアレって、十四歳の頃の話じゃない。
 それを今さら持ち出すなんて……」ぶつぶつ

白髪「おい、おーい。
 役場の前、通りすぎてるぞ?」

赤毛「……っ、もう!」たたっ

410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:41:08.37 ID:hovJNFSOo
------------------------------------------------
  昼 バリウガ 役場の町長室

白髪「俺は白髪ってんだ。よろしくな」すっ

町長「どうも初めまして、
 この町で代表を任されている町長です。
 よろしく」ぎゅっ

白髪(おうおう、随分と険のある表情だなぁ。
 年の頃は赤毛より少し上、か。
 ハゲかけちゃいるが、それなりに見栄えのいい顔が、
 なんでこんなにらみつけて……)

町長「すまないが、赤毛。
 しばらく席をはずしてくれないかな?」

赤毛「でも……」

町長「………………」

赤毛「では、後で」

 とことこ、ぱたん

白髪「随分と、慎重じゃねぇか」

町長「慎重にもなるというものだ、海賊」

411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:42:36.91 ID:hovJNFSOo
白髪「……それは誰に聞いたよ」

町長「港の職員の一人が以前、
 さきほど、この町に海賊が来ているかもしれないと、
 不安げだったが進言してくれてな。
 どうやら、別の町で働いていた頃に、
 海賊衣装で歩く姿を見ていたらしい。
 この小さい町だ。
 なじみの商人以外に来たと言えば、
 お前ぐらいしかいない……」

白髪「まあ、たしかにそうだろうな」

町長「妻と子供を人質にとったつもりか?
 だが、私は町長だ、そんな情に流されるつもりは……」

白髪「おいおい、ちょっと待ってくれよ。
 別に、迷惑をかけに来たわけじゃねぇ」

町長「……なら、目的はなんだ」

白髪「この町の防備を、しばらくの間でいい、
 いつも以上に厳重にした方がいいって警告をだな」

町長「それは、この町を襲うということか!」

白髪「主語がねぇけど、それ俺が襲うと思ってるだろ。
 わざわざ警備を増やすようにいう海賊がいるかよ」

412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:43:50.33 ID:hovJNFSOo
町長「……そう言って、油断させるつもりか?」

白髪「あんた、どんな頭の中身してるんだっつーの。
 とりあえずよ、海の防備と……
 それから南西の山にもできりゃ一小隊は、
 常に置いておくようにしておくといい」

町長「南西の山だと?
 隣町とは良好な関係を作っている、
 心配される余地はない。
 この町はさらに他の方角も周りを山に囲まれ、
 正面が海という天然の要塞だ。

 湾の中にある小島の砲台と、
 せり出した海岸線の砲台の両方が海を守る間は、
 何人たりとも陸には近づけんぞ」

白髪「確かに正面の防備は堅牢だな。
 船の砲は多く積もうにも重量が問題になるが、
 島の砲台にはその制限がねぇ。

 さらに、どんなに多くの艦隊が押し寄せても、
 入り口が狭くなっている事で、
 実質敵には、ニ隻対二砲台の戦いだ。
 弾の補充さえ十分にありゃ、負けねぇだろうな」

町長「……詳しいな」

白髪「この町の出身だったんだ。
 その程度の知識はある。
 だからこそ、南西の山を見張れって言ってるんだ」

413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:44:48.35 ID:hovJNFSOo
町長「だが、それはできん」

白髪「なんでできないんだ」

町長「我らがベネッタ共和国の式典が近々あり、
 そのためにこの町の兵の余剰は、
 全てそこに向かわせてしまったのだ」

白髪「呼び戻せばいいじゃねぇかよ」

町長「他の……この町よりも小さな町でさえ、
 兵を供出しているんだ。
 いまさら、海賊の男から情報が入ったので、
 町に兵隊を戻したいなどと云う事はできん」

白髪「……見栄か」

町長「この町の立場を守るという戦争への出兵だ」

白髪「だがよ、人数が足りないまま海賊を迎えれば、
 この町は連中にとって良いエサにしかならねぇぞ」

町長「我が町の兵士は勇敢だ。
 多少の数くらいはどうとでもする。
 むしろはりきって、普段の倍は力を見せるだろう」

414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:46:04.30 ID:hovJNFSOo
白髪「だが、山側の防備に割く人数はねぇんだろ」

町長「山側は隣の都市との関係が友好であれば、
 問題など生じる事はない。
 そして正面の防備が万全なのだ。
 貴様のような海賊の言葉など聞く耳はもたん!」

白髪「俺が言ってるのは、
 山を一つ超えた所にある崖に……」

町長「くどいッッ!!
 そうしてこの町の防備に穴を開けようとしても、
 先祖代々続いてきたこの守備に、
 ネズミ一匹通すこともない!
 そしてネズミの言葉に耳を傾ける必要もない!」

白髪「ホントに話をきかねぇなぁ……」

町長 りんりんりん

 がちゃ

兵士「町長様、いかがされましたか」

町長「こちらの客人がお帰りだ。
 丁重に送って差し上げろ」

415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:46:54.52 ID:hovJNFSOo
兵士「はっ! 客人、こちらに」

白髪「……」

町長「我が妻の朋友というから会ったが、
 次に顔を見れば、即刻落としてくれる……っ」

 とことこ、がちゃり

 たたっ

赤毛「どうでした?」

白髪「どうもこうも……
 なんだ、あんたの旦那は海賊に恨みでもあるのか?」

赤毛「……私の父と同じように、
 彼は両親と兄妹が共に、海賊に殺されたって」

白髪「……そうか、まあそりゃぁ、
 仕方ねぇのかもしれねぇけどなぁ……」

赤毛「どうかしたの?」

白髪「いや、なんでもねぇ。……なんでもねぇよ」

赤毛「ねえ」

白髪「…………」

416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:47:38.19 ID:hovJNFSOo
------------------------------------------------
  夕方 バリウガ 港

白髪「……義理は果たした」

白髪(だが、なぁ……)

 とことこ

白髪「呪われた子って理由で話を聞かれないって、
 そんな可能性は考えていたが、
 海賊だからって理由で切り捨てられるか……
 それじゃぁ、どうしようもねぇなぁ」

少女「じゃあ、もし呪いの子って理由だったら、
 どうにかできたの?」

白髪「俺の云う事を聞かないと、
 俺と同じ呪いにかかっちまうぞー、なんて脅せば、
 多少は効果があるかと思ったんだがな」

少女「いやいや、むりでしょそれ。
 私だって信じないって!」

狼「アタシだって信じない」

双子姉「あたしもそんなの信じないしっ♪」

417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:48:36.61 ID:hovJNFSOo
白髪「……で、お前ら、いつの間に来たんだよ」

少女「ついさっきだよ。ほんと疲れたー。
 女だけで船旅ってダメだね」

狼「体目当てのくさい男共なんて海に落とせば良いのに、
 少女が下手に愛想笑いで距離を取るから、
 逆に勘違いして寄ってくるんだって」

白髪「まあ、こんだけ可愛い女が二人で旅してりゃ、
 そうならん理由はねぇか」

双子姉「!……!」

白髪「なんでぇ、胸なんざ張ってどうした。
 腰がいてぇのか?」

双子姉「ちっがーう!
 あたしも! 女! れでぃー!」

白髪「がはは、冗談だっての。
 わかってるぜ、双子姉の嬢ちゃんも、
 魅力的なレディーってヤツだ。
 あと五年したら俺のベッドに招待……ふごぶっ」

狼「元気っ、そうでっ、なによりねっ!!」げし、ずが

少女「あーあ……」

418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:50:18.25 ID:hovJNFSOo
双子姉「それにしても、
 到着してすぐに見つかって良かったねー……
 大きくない町だから、
 最悪は町の広場で延々と名前を叫ぼうとか……」

白髪「そりゃぁ、勘弁して欲しい話だ。
 んで、なんでお前らはココにいるんだよ。
 俺を追ってきたみてぇだが、なんか有ったか?」

少女「なんか有ったかって、大ありでしょ!
 何も言わないで出て行くから、
 最後に話したの私だったみたいだし、
 なにかヒドイこどでも、ぶいじぎに……」ぐじゅっ

狼「……泣かせた」

双子姉「白髪のおっちゃんが泣かせたーっ♪」

白髪「お、俺のせいかっ?!
 いやまあ、俺のせいっぽいが」

少女「……ふだごあねちゃんも、
 ごごにぐるまで、いっばいないでだじ……」

双子姉「わーっ、わーっ!
 言わなくていいのにー」

白髪「……あー、なんつーか、その。すまん」

419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:52:11.42 ID:hovJNFSOo
狼「すまんで済んだら断頭台はいらないって言葉、
 あたしに教えてくれたのは白髪よね」

白髪「だが、すまんとしか言えなくてよ。
 今回のコレは俺の個人的な話だからな、
 海賊船で近づくワケにもいかねぇ場所だし、
 ちょいと行ってさりげなく戻ろうかーってな」

少女「だったら、なおざら、
 ぢゃんと理由、おじえでいっでぐだざい……」

狼「ほら、とりあえず鼻かみなさい……」

少女「ちーんっ」

狼「アタシは少女についてきただけだから、
 特に何かを言うつもりはないけど……」

白髪「まあ、だろうな」

狼「……ちょっと、心配した、から」(//////

白髪「……………………」石化

双子姉「……」つんつん

少女 すんっ、すんっ

420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:53:26.08 ID:hovJNFSOo
狼「な、人がせっかく恥ずかしいの我慢したのに、
 なんでぼーっと、空なんか見てるのさっ!」げしっ

白髪「――@;^¥▽*?!」びくんびくん

少女「……なんか、いつもより痛がってない?」

狼「……しらない。アタシ先に宿屋に部屋取るから」

少女「それじゃ、私は……
 町の探索に行ってくるから」

双子姉「え、二人ともいっちゃうの?」

狼「そこのゴミ、任せたから」

少女「ゴミって、とりあえず宿屋までは一緒にいこ!」

狼「ちょっと、腕くまないでよ」

少女「そういえばさっきの、心配って……」

狼「……痛いのと痛いの、どっちがいい?」

少女「どっちも遠慮します!」

 がやがや、とことこ

421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:54:06.13 ID:hovJNFSOo
白髪「ってーなー。
 あいつ、本気で……くそぉ……」

双子姉「大丈夫なの?」

白髪「……そんなに心配そうな顔なんざするな。
 いつものじゃれ合いと同じだろ」

双子姉「でも、いつもは大した事なさそうなのに、
 今のは痛そうにしてたよね?」

白髪「そんな事ねぇぜ。
 いつだって殴られれば痛ぇからな。
 所で、もしかして本当に三人で、
 船を置いてこっちに来ちまったのか?」

双子姉「うん……
 だって、くろちゃんが何も教えてくれなくて」

白髪「くろちゃん。ああ、男の事か。
 まあ、アイツは俺に義理立てしただけだからよ、
 恨むんなら、アイツに黙らせた俺を恨んでくれ」

双子姉「……恨まないよ。
 あたしだって、知ってたら聞かないもん」

422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:54:39.82 ID:hovJNFSOo
白髪「知ってたらって、誰かに聞いたのか?」

双子姉「隠れ港の情報屋さんに、
 ここが白髪のおっちゃんの故郷で、
 故郷を守るために戦いに行ったって」

白髪「口の軽い情報屋だ。もう使わねぇぞ、ったく」

双子姉「でも、おかげでここに来れたよ」

白髪「来させたくなかったんだ。
 ヤツの情報が本当なら、形がどうあれ、
 この町は近く戦場のようになるぜ」

双子姉「……」

白髪「できるだけ止めようとしたんだがなぁ……
 海賊の忠告なんざ聞く耳はねぇってよ」

双子姉「こんなに」

白髪「ん?」

双子姉「こんなに良いにおいがして」

白髪「パンやピザの焼ける臭いだな。
 チーズだのバターだのも、そろそろ臭いが混じるぜ。
 もう少しすりゃ、仕事を終えた男達が家に帰る頃だ」

423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:55:29.97 ID:hovJNFSOo
双子姉「みんなが元気よくて」

白髪「港の連中は活気があるってのが相場だな。
 荷物の上げ下ろしで鍛えた、
 丸太みてぇにぶっとい腕に、
 通りの店でマグにつっこんだエールを掲げて、
 女房の悪口でも言いながら家に帰るのさ」

双子姉「くわしいね」

白髪「昔から、変わらねぇからな」

双子姉「みんな、笑顔だね」

白髪「人が笑顔になれねぇ町は死んだ町だ。
 ここは、そうじゃねぇからな」

双子姉「子供達も笑ってるね」

白髪「お前だって、子供じゃねぇか」

双子姉「……子供じゃないよ?」

白髪「十二、十三程度でなに言ってやがる」

双子姉「……んー」ぐーっ

白髪「……何の真似だよ」

424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:56:08.00 ID:hovJNFSOo
双子姉「……ちゅぅ、するの」

白髪「誰とだよ」

双子姉「白髪のおっちゃんと」

白髪「しねぇよ、ばか」

双子姉「ばかって言った方がばかなんだよ。
 あたしは本気だよ?
 本気で白髪のおっちゃんと大人のちゅぅをね」

白髪「いらねぇよ。
 五年経ってから出直して来い」

双子姉「知らないモン」ぐいーっ

白髪「だぁーっ、そのおちょぼ口を近づけんな!」ぐー

双子姉「ならちゅぅしてよぉっ」ぐぐいーっ

白髪「仮にもレディーだって言うんだったら、
 そんな珍妙な顔を寄せるんじゃねぇよっ」むにーっ

双子姉「がうがうーっ」ぶんぶん

白髪「いや、お前、狼じゃねぇだろ」

425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:56:54.21 ID:hovJNFSOo
双子姉「……」むっすー

白髪「なんだなんだ?
 いきなりどうしてキスなんざしようとする。
 初めての相手は特別って言うじゃねぇか。
 そうやって粗末にするもんじゃねぇよ」

双子姉「……もんっ」

白髪「粗末だろ」

双子姉「粗末じゃないもん。
 あたし、白髪のおっちゃんのこと、大好きだもんっ」

白髪「ちげぇだろ」

双子姉「そんなことないもんっ」

白髪「そいつは、親とかそういうのに対してだろ。
 体を許す相手は、そういう相手じゃねぇのにしな」

双子姉「ちがうもん。
 ほんとに、ほんとに、ちがうんだもん」

白髪「……俺にとっては、お前は孫なんだよ」

双子姉「……」ぽろぽろ

426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:58:49.50 ID:hovJNFSOo
白髪「泣き止んだら、行こうぜ。
 はやくしねえと、ハラヘリ少女が皿を鳴らして、
 まだかまだかって騒ぎ出すぜ」

双子姉「……ばか」

白髪「ばかって言った方がばかなんだろ?」

双子姉「いま二回言った白髪のおっちゃんは救えないね」

白髪「…………いい度胸じゃねぇか。
 まて、こらっ。くすぐってやろうっ!」

双子姉「ひょい、ひょーいってね。
 へへん、捕まらないよーだ!」

白髪「やろっ、せいっ」

双子姉「きゃ。つかまっちったー」

白髪「さーて、くすぐってやるから覚悟し……」

双子姉「ちゅ」

白髪「……なにしてんだよ」

双子姉「ちゅぅするって、いったじゃん。
 家族だったら、いいでしょ!」

427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 04:59:33.65 ID:hovJNFSOo
白髪「……ったく、先がおもいやられるな」

双子姉「それはこっちの台詞だもん」

白髪「……」なでなで

双子姉「んー♪」

白髪「……ほれ、少女が待ってる。いくぜ」

双子姉「ハラヘリングおねーちゃんのために、
 れっつごー♪」ぎゅっ

白髪「ほれ、暑苦しいから離れろ」

双子姉「えー、やだもーん」

白髪「ったく、しょーがねぇなぁ」

双子姉「へへっ」くるくるっ♪

白髪(時よ、とまれ。お前は美しいってか。
 ……あと五年。
 叶うなら、神様よ。俺の命が流れ落ちるのを……)

双子姉「ふんふふーん」くるくるっ♪
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/16(木) 05:04:22.04 ID:hovJNFSOo
お、遅くなった><
印刷所には間に合う時間だけど、そういう問題じゃないよね、ごめんなさいっ。

次は日曜の夜までに来るでありますよ。

次回はたぶん激闘編っ。
いわゆる戦闘シーン的な!

楽しんでもらえるように、頑張って書いてくる!
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/16(木) 05:17:04.28 ID:hovJNFSOo
>>389
『ロックオン、ロックオン』って呼び続けるハロの声が、今も耳に焼き付いて離れない><


>>390
ま、待たせたのにごめん……っ!
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/16(木) 11:11:20.36 ID:x3yLixnIO
ついった見て慌ててきた。
支援…圧倒的支援だ…
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/16(木) 22:36:33.03 ID:jvEcEVFz0
いや、これは引きこまれる良作なり。
書き貯めの息抜きにうっかり見始めたら止まらない止まらない。
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/06/16(木) 22:36:40.75 ID:kFB5GGrz0
追いついた
C
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/16(木) 22:40:58.10 ID:DrbjaxBAO
>>432
シラガストラッシュ!
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/06/18(土) 00:13:45.12 ID:II0FrXBi0
日曜日待ってるぜ!!
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/19(日) 23:57:13.66 ID:ngVyZ5OLo
------------------------------------------------
  夜 バリウガの酒場

 がやがや

少女「えーっと、それじゃとりあえず、
 改めて再会を祝う感じで、かんぱーい!」

全員「かんぱーい!」 

白髪「かーっ、やっぱこの街のエールはいいなぁ!」

双子姉「この鶏料理もおいしー♪」

狼「…………」もぐもぐもぐもぐ

少女「あはは、狼さんもうちょっと落ち着いて。
 取ったりしないからさ」

狼「う、うるさい。別に取られるとか思ってないって」

双子姉「じゃー、ミートパイいただきー!」

狼「っ! ちょっと、それアタシが取っておいたの!」

双子姉「へへん。ふぁふぃふぃふぁふぇふぁ……」

436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/19(日) 23:57:52.48 ID:ngVyZ5OLo
------------------------------------------------
  夜 バリウガの酒場

 がやがや

少女「えーっと、それじゃとりあえず、
 改めて再会を祝う感じで、かんぱーい!」

全員「かんぱーい!」 

白髪「かーっ、やっぱこの街のエールはいいなぁ!」

双子姉「この鶏料理もおいしー♪」

狼「…………」もぐもぐもぐもぐ

少女「あはは、狼さんもうちょっと落ち着いて。
 取ったりしないからさ」

狼「う、うるさい。別に取られるとか思ってないって」

双子姉「じゃー、ミートパイいただきー!」

狼「っ! ちょっと、それアタシが取っておいたの!」

双子姉「へへん。ふぁふぃふぃふぁふぇふぁ……」

437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:00:24.23 ID:PkwhPbyao
少女「口の中に何かある時はしゃべっちゃだめ!」

双子姉「むぅぅ……もぐもぐ。はぁーい」

白髪「がはは、元気でいいじゃねぇか」

双子姉「だよねーっ。はぐっ。もきゅもきゅ」

少女「ちょっと、白髪さーん……」じろり

狼「……少女って、そういう所で結構云うよね」

白髪「まあ、育ちの良さがうかがえるっつーかな」

双子姉「少女のお姉ちゃんはお嬢様?」

少女「別にそういう理由じゃないと思うけどーって、
 ほら、口の周りに食べカスついてるって」ぐしぐし

双子姉「んむぅ……」

白髪「……育ちがどうこうって云うより、
 母親気質ってところか」

438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:00:59.56 ID:PkwhPbyao
少女「口の中に何かある時はしゃべっちゃだめ!」

双子姉「むぅぅ……もぐもぐ。はぁーい」

白髪「がはは、元気でいいじゃねぇか」

双子姉「だよねーっ。はぐっ。もきゅもきゅ」

少女「ちょっと、白髪さーん……」じろり

狼「……少女って、そういう所で結構云うよね」

白髪「まあ、育ちの良さがうかがえるっつーかな」

双子姉「少女のお姉ちゃんはお嬢様?」

少女「別にそういう理由じゃないと思うけどーって、
 ほら、口の周りに食べカスついてるって」ぐしぐし

双子姉「んむぅ……」

白髪「……育ちがどうこうって云うより、
 母親気質ってところか」

439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:01:44.98 ID:PkwhPbyao
少女「口の中に何かある時はしゃべっちゃだめ!」

双子姉「むぅぅ……もぐもぐ。はぁーい」

白髪「がはは、元気でいいじゃねぇか」

双子姉「だよねーっ。はぐっ。もきゅもきゅ」

少女「ちょっと、白髪さーん……」じろり

狼「……少女って、そういう所で結構云うよね」

白髪「まあ、育ちの良さがうかがえるっつーかな」

双子姉「少女のお姉ちゃんはお嬢様?」

少女「別にそういう理由じゃないと思うけどーって、
 ほら、口の周りに食べカスついてるって」ぐしぐし

双子姉「んむぅ……」

白髪「……育ちがどうこうって云うより、
 母親気質ってところか」

440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) :2011/06/20(月) 00:04:34.28 ID:uWiMyb920
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441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) :2011/06/20(月) 00:05:15.39 ID:uWiMyb920
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442 :サーバとの連携がうまくいかない? ひどい状態(>_<) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:05:44.53 ID:PkwhPbyao
狼「とりあえず、少女の事はおいておくとして。白髪」

白髪「あん、なんだ?」

狼「この後はどうするの?
 これから隠れ港に戻ってひと月も待てば、
 また男たちと合流できるけど」

白髪「それは、大人しく引き下がって待つってことか?」

狼「そういう事。
 海賊だから話を聞かないなんて狭量な相手に、
 わざわざ何かしなくてもいいじゃない」

白髪「……」

双子姉「狼のお姉ちゃんは、街を守るの反対なの?」

狼「反対、って言うほど強くはないけど。
 でも、つまらない」

双子姉「つまらないって、なにが?」

狼「そんな相手のために危険の中に飛び込むのが」

双子姉「でも……」

443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/20(月) 00:07:38.22 ID:PkwhPbyao
狼「相手が港を襲う海賊として普通の規模だったら、
 兵員は少なく見て千人程度。船は五隻以上ね……」

双子姉「そんなにいるの?」

狼「少なく見積もって、よ。
 このイオニア海東岸はほとんど帝国の領土だし、
 彼らの勢力なら数倍いてもおかしくないわ。
 そんな相手にケンカなんて売らないでいいじゃない」

白髪「いや、その『少なく見積もって』以上は、
 想定する必要はないぜ」

狼「なんでよ」

白髪「何のために要衝のレパントがある。
 あの近辺がまだ落ちてねぇからな。
 大艦隊が動けば、ベネッタが見すごさねぇよ」

狼「……少なくても数十隻で動く事はない、か。
 相手の元の数が多すぎて、あんまり変わらないけど」

白髪「そう言うなよ。
 少なくとも『最悪』じゃねぇんだからよ」

444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:08:48.32 ID:PkwhPbyao
狼「だから、この町に残って、
 海賊だからって理由で白髪の話を聞かなかった連中に
 手を貸そうっていうの?」

白髪「……まあ、そうだな」

狼「この町で戦闘ができるのはせいぜい500人くらい?
 規模からの予想だから、違うかもしれないけど。
 地の利が有っても、有利にはならない。
 それが501人になって、なにが変わるのよ」

白髪「地の利を生かせれば、
 その人数でもこの町の防衛はできるんだ。
 今までに何度か似たような事態は有って、
 それを防いできたんだからな」

狼「だったら今回だってやらせればいいでしょ。
 いまさら首を突っ込まなくていいじゃない。
 白髪はこの町から追い出されたから、
 自由きままな海賊になったんじゃないの?」

少女「ちょっと、狼さん、言いすぎだって」

白髪「いや、まあ、そう言われたらその通りだ。
 けどなぁ。
 俺がこの町を守りたいってのは、理屈とは違うのさ」

狼「…………」
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:10:05.70 ID:PkwhPbyao
白髪「この町の思い出は、良いモノばかりじゃねぇ
 でも、俺にとってはどれも大切なのさ。
 それに、一人や二人増えたって、
 本来なら大した意味なんかねぇんだがよ、
 いまだけは、俺が加わる意味がある」

狼「何かあるの?」

白髪「この町の防備には穴があってな。
 海の要衝ってだけあって、
 海賊相手の海の防備は万全なんだが、
 陸に問題がある」

少女「港から眺めただけだけど、
 この町って山に囲まれてるよね。
 近くの港からもちょっと離れているし、
 陸からは入れないと思うけど……」

白髪「さすが元上等兵か? よく見てるな。
 ただ、見えない位置が問題だ」

少女「船から見た限りだと、陸地は崖が多くて、
 それなりの傾斜と浅さだったように見えたから、
 接岸はできないようにみえたよ」

白髪「その通りだが、町の南西にある山の向こうに、
 小さいが遠浅の海岸が有る。
 ここだけはガレー船のように浅い船なら、
 ある程度近づいて接岸できるのさ」

446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:10:52.41 ID:PkwhPbyao
狼「それなら、よくそこから襲ってくるって事で、
 町の方で防備を固めてるんじゃないの?」

白髪「港じゃねぇし、かなり傾斜の厳しい山道だ。
 普通の海賊ならそんな道は使わんと、
 防備は想定されてねぇらしい」

少女「町からの距離はどれくらい?」

白髪「昼間に徒歩で最短距離を行けば一時間。
 抜けるだけならそこまでかからんが、
 余力を残せばその程度だろう。
 夜間なら二時間……二時間半くらいかかるか?」

双子姉「それって、そんなに危ないのかな。
 この港そのものが目的ってわけでもないんでしょ。
 本当にそこまで回りくどいことするかな。
 そこまで儲かってる港には、悪いけど見えないし。
 手間と、手に入るものが釣り合わないんじゃない?」

白髪「それは相手に言ってやってくれ。
 まあ、理由が分からんものの、
 ココを狙ってる奴らがいることは確かだ。
 連中ははばかりなく、
 ココを襲うって言いふらしていたらしい」

少女「……言いふらして?」

447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:11:48.75 ID:PkwhPbyao
白髪「しかも、実はその連中とは因縁がある。
 少女は知ってるだろうが、
 先日の隠れ港でいちゃもんをつけてきた、
 山賊まがいがいたろ?」

少女「うん、すごく口の臭かった……」

白髪「がはは、そうだったのか?」

少女「ほら、人質にとられた時に、
 顔が近かったでしょ?
 それがすごく匂ってきて……」

白髪「そりゃ、災難だったな、くく……っ。
 まあとにかく、この町を狙ってるのが連中らしい」

少女「げっ」

双子姉「そんなに嫌なの?」

少女「言いたくもなるよ……
 息が特に酷かったけど、全体的にすごく臭くてね。
 それに、おかしな方向に『プライド』持ってて、
 関わるだけ損って感じ……」

少女「そこまでなんだ……」

448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:13:30.10 ID:PkwhPbyao
白髪「普通の海賊なら山側の心配なんざしねえが、
 山賊相手となりゃぁ、山から狙う確率は高い。
 海賊が面倒がるような厳しい道だって、
 連中ならためらわねぇだろうと思ってよ」

少女「体力だけは有りそうだったしね……」

白髪「町の正面は町の連中が守るだろうが、
 側面からの攻撃には対応の準備がねぇ。
 正面の相手を蹴散らしている間だけ、
 時間稼ぎが必要な気がしてならねぇのさ」

少女「二正面作戦で来るってこと?」

白髪「これは単なる俺の予想だが、
 正面の本隊が持つ前半の役割は陽動だろう。
 距離を保ちつつ、町の防備の意識を引きつける」

双子姉「突っ込んでも、港と入り江の砲台で、
 すぐ沈められちゃうだろうからね」

白髪「そういうこった。
 で、その間に山側から別働隊が、
 入り江の側面にある砲台と港の一部を狙う」

449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:14:30.73 ID:PkwhPbyao
少女「砲台の占拠ができなくても、
 迎撃に集中できなくなればいいんだね。
 あとは本隊が入り江の中に入って町を占拠できる」

白髪「町の人間を人質に取られた後は、
 やりたい放題されるしかねぇ。
 町にはゴミと死体しか残らなくなり、
 人間は帝国で奴隷として売りさばかれる。
 そこに流れてる小さな川も、真っ赤に染まる」

双子姉「…………」

狼「……何度も云うけど、
 でもそんな白髪の警告に対して、
 町の連中は話を聞かなかったんでしょ」

白髪「町の代表が、だがな。
 こっちだって何度も云うが、
 だからって見捨てるわけにはいかねぇのさ」

狼「なんでそんな、人間に……」

白髪「俺たちだって、人間だろ」

狼「……私達を、悪魔とか魔女って呼ぶ連中とは、
 一緒の扱いなんてされたくない」

少女「…………」

450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:16:49.70 ID:PkwhPbyao
白髪「確かに、町長は話をきいてくれなかったがな。
 それでも、昔面倒を見てくれた親切な人もいる。
 変わっていない、懐かしい街並みがある。
 親しかった友人もこの町で生きて、
 俺なんぞと子供を遊ばせてくれたんだ」

狼「そんなの……」

白髪「狼にわかってもらえるとは、思わん。
 狼は狼で、苦労してきたのは聞いてるからな。
 故郷と呼べるような場所がないのは仕方ねぇよ。
 ただ、これが俺の生き方なんだ。
 何を云われても譲れねぇよ」

狼「べつに、苦労なんて。
 ただ、そんな風に、白髪をのけものにする相手に、
 何かしなくてもって、それだけで……」

白髪「……お前は優しいな」ぽん。なでなで

狼「……っ、っ」ばっ

白髪「おっと」

狼「……しらない。
 白髪なんて、野たれ死んじゃえばいいのよ」

 どたどた

451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:17:40.10 ID:PkwhPbyao
白髪「確かに、町長は話をきいてくれなかったがな。
 それでも、昔面倒を見てくれた親切な人もいる。
 変わっていない、懐かしい街並みがある。
 親しかった友人もこの町で生きて、
 俺なんぞと子供を遊ばせてくれたんだ」

狼「そんなの……」

白髪「狼にわかってもらえるとは、思わん。
 狼は狼で、苦労してきたのは聞いてるからな。
 故郷と呼べるような場所がないのは仕方ねぇよ。
 ただ、これが俺の生き方なんだ。
 何を云われても譲れねぇよ」

狼「べつに、苦労なんて。
 ただ、そんな風に、白髪をのけものにする相手に、
 何かしなくてもって、それだけで……」

白髪「……お前は優しいな」ぽん。なでなで

狼「……っ、っ」ばっ

白髪「おっと」

狼「……しらない。
 白髪なんて、野たれ死んじゃえばいいのよ」

 どたどた

452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:19:45.43 ID:PkwhPbyao
双子姉「怒らせちゃった?」

白髪「いや、怒ってはいないだろうがな。
 わかり合うことはできないってことが、
 わかったんだろうさ」

少女「狼さんは、白髪さんに危険に遭って欲しくない。
 白髪さんは危険でも町を守りたい……」

双子姉「あたしも、白髪のおっちゃんには、
 できれば一緒に逃げて欲しいなーとおもうけど」ちら

白髪「……悪ぃなぁ」

双子姉「だよねー」

白髪「……少女も同じか?」

少女「んー、故郷を守りたいって気持ちは、
 私はよくわかるからね。
 今はちょっと離れてるけど、大好きだから。
 ただ、狼さんの気持ちも分からなくはないからさ」

白髪「俺だって、あいつの気持ちは伝わってるさ。
 だが、ゆずれねぇのさ。これは」

453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:21:13.26 ID:PkwhPbyao
   深夜 宿屋の屋根の上

 とことこ

少女「やーっと見つけた」

狼「……何か用?」

少女「んー、ちょっと寝酒につきあってもらおうかな、
 なーんて」

狼「嘘つき」

少女「あはは、……ごめん」

狼「謝らないでよ……」

少女「となり良いかな?」どさっ

狼「答える前に座ってるじゃない」

少女「えへへ」

狼「誉めてないわよ」

454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:23:06.88 ID:PkwhPbyao
少女「とりあえず、おさけ。
 シードル好きだったよね?」

狼「……ありがと」

少女「いえいえ、どういたしまして」

狼 ちびり、ちびり

少女「……」じーっ

狼「……なに?」

少女「なんだか、ちょっと寂しそうかなーって」

狼「そんなこと、ないし」ついっ

少女(目をそらしちゃう所が可愛いなぁ……
 あれ、でも、年上、じゃ、ない? もしかして。
 大質量を誇る二つのアレのせいで、
 なんとなく気後れしてたけど、
 狼さんって私より少し年下かも?)

狼「……なんで悲しそうな顔してるのよ」

少女「な、泣いてないって」ぐっ

狼「何で泣くのよ……」

455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:23:32.34 ID:PkwhPbyao
少女「白髪さんが一人いたからって、
 大きく変わる事なんてないって?」

狼「そうでしょ。
 誰からも認められる事なんかなく、邪険に扱われて、
 それなのに危険だけ背負おって、
 そんな人間なんかを助けるって、おかしいと思う。
 私たちの船なら、
 助けてくれたら助かったって気持ちを伝えるし、
 そもそも白髪は私たちに必要だし……」

少女「でもね、白髪さんにとっては、
 きっとココを見捨てたら、
 白髪さんじゃいられなくなる何かが、あるんだよ」

狼「…………」

少女「ほとんど私も狼さんと同じ意見だけどね。
 故郷の事になると、ちょっと落ち着けないのは、
 わかるからさ」

狼「……わかってる。ホントは、わかってた」

少女「うん」

456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:24:06.72 ID:PkwhPbyao
狼「ききたかっただけ……部屋に戻ろう。
 ちょっと、冷えてきたし」

少女「そうだね」

少女(狼さんの背中が小さく震えてるのは、
 寒いから? それとも)

少女「……あのね」

狼「なに?」

少女「白髪さんは、私たちのこと、大好きだと思うよ」

狼「……ありがと」

 とことこ

少女(こんな言葉しか、云えない……
 包帯さんなら、もっと気の利いたことが云えるよね。
 ああもう、なんで、なんで)

少女「私は、なんで、こんなに何もできなくて……」

457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:25:48.20 ID:PkwhPbyao
------------------------------------------------
  夕方 パリウガ南東の山頂の廃墟

白髪「状況を確認するぜ」

双子姉「いえっさー!」

少女「はい!」

白髪「……こちらの動員は三人。
 俺と、お前ら二人だ」

双子姉「……やっぱり、帰ってこないね」

少女「私が、もっと何か、云えてたら……
 朝になるまでいなくなるのに気づかないとか、
 なんでこう……」

白髪「過ぎた事で自分をせめるなよ。
 それから、この件はもともと俺の身勝手だ。
 ムリしてつきあうこともねぇよ」

双子姉「む、それ、あたしにもいってる?」

白髪「当たり前だ」

双子姉「むううー!」

458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:27:26.28 ID:PkwhPbyao
白髪「狼は特に人間嫌いだからなぁ。
 少女も覚えがあるんじゃねぇのか?」

少女「あー、確かに。
 最初はナイフで刺されそうになったりしたし……」

白髪「そ、そんな事まであったのか?
 よく生きてるな」

少女「あ……」

双子姉「もしかしてお姉ちゃん、
 秘密にしてたつもりでうっかり?」

少女「いやー、まぁ、あははは……」

白髪「あいつも無茶しやがるな。
 なんにせよ、生きてて良かったぜ」

少女「う、うん……」

白髪「少女も、気がのらなけりゃ、
 いまから引き返してもいいんだぜ?」

少女「それは大丈夫。
 私も、白髪さんの故郷を守りたいって気持ちは、
 よくわかるからさ」

459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:27:52.38 ID:PkwhPbyao
白髪「……なら、三人で、山賊退治だな」

双子姉「あはは、千人くらい来たらどうしよ……」

白髪「そうしたら仕方ねぇ、大急ぎで町に走って、
 大群が来たって伝えるしかねぇよ」

少女「まあ、そんな事態は無いと思うけど」

白髪「そうだな。
 俺達が相手にしなくちゃならんのは、
 多くても三百人って所だろう。
 現実的に考えれば二百人くらいか?」

双子姉「聞くだけでも嫌になるよ……
 一人で百人相手にするなんてムリだし。
 一対一でも、大人の男の人が相手じゃムリだよ」

白髪「正面から当たるのはムリだな。
 まあ、寡兵で事にあたるなら、
 正面と正攻法ってのはありえねぇよ。
 で、そんな時のために奥の手が!」

双子姉「おお、奥の手が!」

460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:28:19.22 ID:PkwhPbyao
白髪「少女、まかせた」

少女「はーい、まか、さ、え? えええっ?!」

白髪「当たり前の采配だろ」

少女「いや、あたりまえじゃないし!
 意味判らないって、あたしそんな経験ないよ」

白髪「軍にいたんだろ?
 上等兵だったんじゃないのかよ」

少女「そうだったけど、いったじゃん!
 私はずっと後方支援にまわされてたって。
 だから直接敵の相手なんてしたことないし、
 どんな事すればいいのか……」

白髪「罠と銃は最低限やったんじゃねぇのか?」

少女「罠は、ちょっとだけ。
 銃はそれなりにできるかな。
 でも、銃はあんまりアテにならないよ?」

双子姉「そうなの?」

461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:28:58.50 ID:PkwhPbyao
少女「女ってことでどうしても体力が劣るから、
 他の人よりは練習したって自負してるけど、
 300フィート(おおよそ100メートル)になれば、
 当たるかどうかはまぐれだし……
 確実に当てたいなら、200フィート。
 再装填が十秒弱で、何丁か使い回しても、
 そこから距離が詰められるから、
 到底まともに相手はできないよ」

白髪「普通のマスケットでそれだけ撃てりゃ十分だ。
 ちょっとコレを見てみろ」

少女「そういえば、さっきから持ってたその鞄、
 何かなーって思ってたけど……
 銃が入ってたの?」

白髪「まあな。双子妹が作った銃だ。
 普通、銃ってのはどうやって再装填して、
 どれくらい時間がかかる?」

少女「こめてあった銃弾を撃ったら、
 煤引き棒を使って銃身を掃除する。これに三秒くらい。
 火薬入れから火薬をいれるのに、二秒くらい。
 弾丸と火薬をいれてぎゅっと押し固めるのに二秒かな。
 たまに棒がつっかかったりすると、もうちょっと……
 それから、狙いを定めて撃つけど」

462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:31:37.16 ID:PkwhPbyao
白髪「これな、こうやって、こうすると……」

少女「おおー! すごい、おもしろい!
 銃の後ろの部分が開いた!」

白髪「でもって、これな。
 パピルスで包んだ火薬と銃弾の固めた物だが、
 これを、この銃身の後ろからぎゅっと入れる」

少女「で、閉じると……
 これでもう撃てるの?」

白髪「理論上は撃てる。
 だが、火薬が湿気りやすくなるって、弱点があってな」

少女「そっか。夜気の湿気で撃てなくなるって事は?」

白髪「あり得るかもしれん。気をつけておけ。
 だがそれで、再装填の時間はずっと短縮できるな」

少女「うん、これなら普通の銃よりは早くできそう。
 でも、弾幕が作れないから、
 そこまで期待はできないよ?」

白髪「……わかってはいたが、条件が厳しいな」

463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:33:07.84 ID:PkwhPbyao
双子姉「うーん……
 とりあえず、足止めできればいいんだよね?」

白髪「まあそうだな。
 相手が動けなければ問題無い。
 船に乗って帰ってくれるってなら、万々歳だ」

双子姉「……そっか。
 それなら、ちょっとなんとかなるかも」

少女「あ、そういう条件だったら私も!」

白髪「なんだなんだ、
 急に二人してイキイキし始めたな。
 っていうか、全滅させるつもりだったのか?」

少女「う、だって、また来たら嫌かなーと」

白髪「一度この山側から来たっていう前例があれば、
 あとは町長も訴えを聞かざるを得ない状況になる。
 だからその前例を耐えきれば、何とかなるだろ」

少女「……かなり楽天的だね」
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:34:29.59 ID:PkwhPbyao
白髪「仕方ねぇだろ。
 追い返すだけでも普通は無理なんだ。
 それをやってのけたら十分だ。
 できる事とできない事の判断がつかなくなった、
 なんて状態じゃぁねぇからな」

少女「……三百対三ってだけで、
 もう十分正気じゃない気はするけどね」

双子姉「でも、帰りたい気分にさせるだけなら……」

少女「なんとかなりそうな気はするね」

白髪「じゃあその方向で、改めて作戦会議だ」にやり

少女「えへへ、覚悟してればいいんだから……
 えへへへ…………」

白髪「おい、おーい…………」

465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:36:01.46 ID:PkwhPbyao
今日はここまで!

もうちょっとだけ書きためあるけど、
エラーがひどいので、もうちょっとサーバが空いてそうな水曜日に、
ちょっと多めに投下する方向で頑張るよ(つ_<)

待っててくれてありがとうなのだ♪
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/20(月) 00:48:56.54 ID:PkwhPbyao
>>430
おお、ついったからとは……
支援ありがとうなのだ(´▽`*)

>>431
読んでくれてありがとう!
431さんも書きため頑張ってくだされ(>_<)

>>432-433
ま、まさか、シラガストラッシュが使える人がいるなんて……っ!

>>434
な、なんとかすべりこみ……><
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/20(月) 01:05:09.07 ID:AMM5Vm1AO
(゚д゚ )乙 これは乙じゃなくてポニーテールなんだからねっ///
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/06/20(月) 01:46:29.14 ID:uoaRMYb5o
おつっ
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/23(木) 01:44:47.08 ID:cPIlV7OBo
えっと、ここからちょっとだけ、
お食事中の人は後の方が良いかも><
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:46:01.46 ID:cPIlV7OBo
------------------------------------------------
  夕方 パリウガ南の海

配下「隠れ港を出てから十日。
 もう限界ですぜぇ、旦那ぁ」

賊「あぁん、何が限界だよ」

配下「隠れ港を出るときに、女奴隷を全員売って、
 武器とか弾薬、船乗りなんかを買いやしたが」

賊「そんなのはいつもの事だろうが」

配下「いや、あっしは止めたじゃぁねぇですか。
 女奴隷を『全員』はマズいって」

賊「うっせぇなぁ、いいだろ、俺の勝手だ」

配下「良かぁありやせんよ。
 おいしい思いができるってついてきてる連中、
 今にも破裂しそうですぜ?
 遠くの村に女の姿が見えるだけで、
 ケダモノみてぇに目を血走らせるほどで」

賊「まだ、たった十日じゃねぇか」

配下「たった十日、されど十日ですぜ」

471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:46:40.74 ID:cPIlV7OBo
賊「……つまり、なんだぁ。
 俺に文句をつけよぉってぇ連中が、
 いるって事かよ、この船に」

配下「へぇ。そういうワケでさぁ」

賊「ったく、こりねぇ連中だ。
 女の一匹や二匹、例の村を落とした後にゃ、
 好きなだけ犯せばいいだろうによ」

 どすどす

配下「旦那、どこへ……甲板ですか?」

 ばたん

賊「うぉい、てめぇらぁ」

手下1「なんだなんだ?」

手下2「おかしらぁ、まだ晩飯には早いですぜぇ」

手下3「ひひひ、そんな冗談お頭に言うと、
 首と体が離れるぜ?」ひそひそ

手下2「げはは、んなわけねぇだろ、
 なんせ、いかにも弱そうな町にだって、
 今はおそわねぇ、なんて臆病言ってるんだ」ぼそぼそ

472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:47:25.84 ID:cPIlV7OBo
手下3「ま、確かにありゃ妙だったな。
 普段なら誰より自分が先に乗り込むのに、
 あの腕の怪我をしてからか?」ぼそぼそ

手下2「痛いのが怖いでちゅーなんてな、げははは」

賊「ほう、痛いのが嫌いか? あぁん?」

手下2「お、おかしら、いや、今のはお頭の事じゃ
 ないわけでさ、ほら、モノノ例えっつーか」

手下3「そ、そうそう。だから大した意味は」

賊「知らねぇよ、そんな事ぁ」

 ズバッ、ザシュッ

手下2「へ?」

手下3「ぐあぁあ」

手下1「ひ、ひぃ……っ、手下2! 3!!」

配下「首を一刀……首狩りの異名はまだ廃れてやせんね」

賊「そうでもねぇな。
 左がこれになってから動きが鈍いせいで、
 どうも『スッパリ』とはいかねぇ……
 おかげで片方は、かわいそうに、痛そうだったなぁ」

473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:48:10.75 ID:cPIlV7OBo
手下1「あ、あんたらっ!
 今殺したのは、味方だぞっ!
 ああ、クソッ、2! 3……っ」

賊「なにが味方だ。知ったこっちゃねぇよ。
 俺の事を軽く見たヤツは殺す。
 そいつらは俺を軽く見た、だからソレを首で購った」

配下「旦那は優しすぎるってぇ、思いやす。
 殺しちまったら悲鳴がすぐに終わるじゃねぇですか。
 爪を剥いで、皮を剥いて、肉を削いで、骨を砕いて、
 海賊の『制裁』ってのはそういうモンでやしょう」

賊「そんな事してたら『満足』しちまうだろ?
 これからせっかくの『祭り』なんだ」

配下「……そういう事ですかい。
 よぉし、お前ら、甲板で作業してるお前ら!
 耳の穴かっぽじって、旦那の話をよぉく聞け」

手下達「……」

手下1「くそ、聞かなきゃ殺されるだろ」

手下5「話すって、言った何を話すんだよ」

手下6「まあ、手を休めていいならいいだろ」

474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:48:37.18 ID:cPIlV7OBo
賊「足りネェ、そうは思わねぇか?」

手下達「「「……」」」

賊「犯す奴隷が足りネェ。
 好き勝手する金が足りネェ。
 血湧き肉躍る荒事が足りネェ。
 全てを飲み込む赤い炎が足りネェ。
 腹をたっぷりと満たす食事が足りネェ」

 ごくり

賊「足りネェ、そうは思わねぇか?」

手下達「「「足りネェぞーぉぉぉ!!」」」

賊「そうだ、ソレだぁ。
 足りネェ。満たされネェ。もっと欲しい。
 もっともっと手に入れてぇ。いくらでも持ってこい。
 今のお前達は何を感じてるんだ?
 足りネェ、そうは思わねぇか?」

手下達「「「奪わせろぉぉぉッ!!!」」」

賊「それでいい。
 俺達は海でも陸でも関係ぇねぇ。
 奪って、奪って、奪って奪って奪って……
 そしてぇ、奪うッ!」

手下達「「「うぉぉぉおおお!!!」」」
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:49:08.15 ID:cPIlV7OBo
賊「こないだの遭難、お前らは憶えてるか。
 忘れてるヤツはいねぇよなぁ。
 腹が減って仕方無かったろ。
 隣のヤツが肉の塊に見えなかったか?」

手下「その通りだ!」「殺して食いたかった!」

賊「あの後、海辺の村を見つけて襲って、
 魚も、肉も、麦も、たらふく食ったろ。
 どうだ、いつもより『美味』くなかったか?
 足りネェ、から、一気に楽園まで飛んだ気分だったろ。
 さあ、もう一度確認だ。
 お前らは今、何を感じてやがる。
 足りネェ、そうは思わねぇか?」

手下達「「「足りネェぞーぉぉぉ!!」」」

賊「そうだろうなぁ。
 何もかも足りネェだろ……
 俺も、足りねぇよ。
 煮えたぎってる。
 お前らもだろ?
 足りネェ、そうは思わねぇか?」

手下達「「「足りネェぞーぉぉぉ!!」」」

476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:50:00.36 ID:cPIlV7OBo
賊「いいぜぇ、明日の夜には、好きなだけ『喰らえ』
 逃げ惑う連中を殺せ。
 好きなだけ血を浴びろ。
 望むままに悲鳴を上げさせろよ。
 お前の体が欲しがる分だけ女を抱け。
 奪いたければたっぷりと金と宝石を持っていけばいい」

手下達「「「足りネェぞーぉぉぉ!!」」」

賊「炎を広げて、焼き尽くせ、地獄に変えろ。
 刈り取った頭を大砲に詰めてたたき込んでやれ。
 宴は明日だ。
 飢えろ、悶えろ。
 宴は明日だ。
 夢を見ろ、真っ赤な真っ赤な『楽園』の夢を。
 宴は明日だ!」

手下達「うぉぉおおッ!」「ひゃっはー!!」
 「ぐふふふふ」「いーっひっひっひ」「ぎゃははあ」

賊「明日は大仕事だからなぁ。栄養が必要だ。
 そこで死んでる連中でも挽肉に変えて、
 魚のえさにして網をかけろ」にたり

手下5「ひひ、お頭もえげつねぇ! だが気に入った!」

手下6「やっぱりついてくんならこの人だ!」

手下7「ぎゃはは、今から愉しみだぜぇッッ!」

477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:50:28.23 ID:cPIlV7OBo

 どすどす

配下「すばらしい演説。あっしも心が震えやした」

賊「こういうのはガラじゃねぇが、
 あの男ってやつを殺すためだと思えば……
 悪くネェ」にたぁり

配下「……」ぞくり

賊「足りネェ。あぁ、足りネェよ。
 満たされネェのさ、俺の心が。
 あの男ってヤツとその仲間に、
 徹底的な絶望と無力を味あわせて泣き叫ばせねぇと、
 この腕の疼きはとまらねぇ……」

配下「旦那のその腕の痛み、
 あっしがきっと、止めてみせやしょう。
 例の情報屋が言っていた裏道には、
 あっしが行きやす」

賊「……そうだな、お前が行くなら安心か。
 それなら船を二隻預ける。
 二隻分……三百人いりゃぁ足りるな」

配下「へぇ。旦那達が時間を稼いでる間に、
 きっと道をひらきます」

賊「……くく、任せたぜ」
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:51:20.09 ID:cPIlV7OBo
------------------------------------------------
  夜 パリウガ南東の小海岸

配下「よぉし、全員上陸したな」

手下達「「おうっ!」」

配下「旦那は四隻……千人を連れて、
 町の港の正面にまわった」

手下1「奴隷も入れりゃぁ、千三百人以上だな。
 俺達と、こっちの船の奴隷も合わせりゃ千七百だ。
 周りくどいことしなくたってよ、
 すぐにこんな町なんて落とせるだろ」

配下「帝国の連中を相手にしても落ちねえくらいの、
 天然の要塞にある町だ。
 さすがの旦那でも、すぐには落とせねぇ」

手下5「そんで、俺達が裏から町に進入して、
 連中が抵抗できないようにするってぇ、ワケだな」

配下「その通りだ。
 俺達の役目は、なるたけ早く山向こうについて、
 入り江の端にある砲台と、
 浮島の砲台を占拠する事だ」

479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:52:02.22 ID:cPIlV7OBo
手下1「まあ、こんだけ人数がいりゃぁ、
 まちの兵隊くらいなんて事ねぇ。
 一ひねりだな」

配下「おう、しかも情報屋の話が本当なら、
 今はこの町の兵隊の一部……
 つっても三割くらいか?
 ベネッタの方に出てるらしい」

手下4「おいおい、そうしたらやることねぇなぁ。
 すぐに終わっちまうだろ」

配下「そうすりゃ後は、なんだってし放題だぜ」

手下6「ひひひ、女だ、俺は女をヤルぜぇ」

手下7「てめぇがサルみてぇにはしゃいでる間、
 町の金貨は俺のモノだな」

手下8「ぎゃはは、殺せりゃなんでもかまわねぇよぉ」

 ワイワイ、ガヤガヤ

配下「よぉし、お前ら、とっとと山を越えるぞ」

手下達「「「おう!」」」

 ザワザワ

480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:52:29.53 ID:cPIlV7OBo
 トコトコ

配下(そもそも俺は兵卒だが、
 こいつらはただの荒くれ者だ。
 うまく俺が統率して、町まで体力を温存させつつ、
 この山を越えなきゃならねぇ)

手下8「にしても、ずいぶん急な山だな。
 ほとんど崖だぜこりゃ」

手下9「だがまあ、獣道が有るだけ楽だな。
 たどっていけば町にはいける」

配下(確かに獣道はありがたい。
 道を切り開きながら行くのに比べれば、
 随分と体力が温存できる……)

手下4「ん、おい、ありゃぁ」

手下5「男……いや、胸があるから女か?
 なんでこんなトコに」

少女「……」

配下「あの顔……どこかで見た覚えがあるが」

481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:53:00.36 ID:cPIlV7OBo
手下6「おい、お前、そこの町のヤツか?
 運が悪かったなぁ……
 俺達の姿を見たからには、明日の朝日は拝めネェぜ」

手下7「おいおい、いきなりヤル気かよ。
 まぁ、俺達の事を町に知らされても面倒だ。
 逃がしゃしねぇがな」

少女「……」

手下8「おい、何とか言えよ!」

少女「引き返しなさい。
 一度は情けをかけてあげる。
 大人しく引き下がれば、命だけは取らないわよ」

手下9「っ、だとぉ、てめぇ!
 言うに事欠いて、俺達に引き返せだぁ!」

手下4「命はとらねぇって、要するに俺達を殺るって、
 そういう意味か?
 おいおい、嬢ちゃん一人に何ができるよ」

少女「私一人じゃないわよ。
 気づかない?
 いま、あんたたちの周りには、
 五百人の兵士が息を潜めて隠れてるって」

482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:53:38.44 ID:cPIlV7OBo
配下「バカな女だな。
 今の町にいる兵士の総勢と同じ数だと?
 町の守りがこんな山中に全員来るはずないだろ。
 ふん、自分で墓穴を掘ったな」

少女「……それなら、ためして見る?」

手下6「へへ、いいぜぇ、
 おれがたっぷり、ためしてやらぁ。
 もちろん、てめぇの体の味をなぁ」にたぁり

 のしのし

配下(……ただのハッタリ。
 いや、俺達は別に無音で移動してたわけじゃねぇ。
 まだ町には距離があるからな、
 むしろ騒がしかったくらいだが……
 なぜ、そんな俺達の前に、女が、一人で)

少女「……ふっ」にやっ

配下「っ! 罠だ、戻れッッ!!」

手下6「罠ぁ? そんなんドコにも……」

 パチンッ、ズドドドドドドッッ

手下達「ひ、ぎゃぁあああああ?!」「ぐぉぉぉ」
 「痛ぇ、痛ぇよぉぉ」「な、なにが起ったぁ?!」

483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:54:24.82 ID:cPIlV7OBo
手下6「うぐぁああ、いてぇ、弾が、いくつもっ」

配下(幸運だ、隣のヤツが壁になって、
 俺には一発も当たってねぇ。
 こいつらはまとめる俺がいなければ有象無象だが、
 俺さえ無事ならなんとでも戦力として立て直せるっ)

手下1「うおぉぉっ!」ガサガサ

配下「バカな、姿も見えない敵の方に
 突っ込むヤツがいるか!!」

 パンパンッ!

手下1「っ……」ばたり

配下「く、銃撃だ! 右の林から弾幕!
 姿勢低くしろ!
 右の林に撃ちながら、左か後ろに距離をとれぇっ!」

少女 すっ

配下(く、やはり銃を隠し持っていたか。
 だが、私にむけている?
 6はあの娘に近づいているが、
 私までは300フィートはある。当たるわけが)

 ぱぁんっ!!

配下「ぐ、がぁああっ!」
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:54:58.25 ID:cPIlV7OBo

配下(バカな! 300だぞ! 
 まぐれでもなく、狙って当てるか、この距離を!)

少女 だだっ

手下6「あぐっ、に、げんなぁっ……!」だだっ

少女「しつ、こいっ!」

 ずぱっ

手下6「あ、が……」ばたり

少女「っ、……」だだっ

配下「く、俺も身を隠して……
 おい、てめぇら、無事か!」

手下達「な、なんとか大丈夫だ!」
 「けど、何人も撃たれた! くそ、俺も、いてぇ……」
 「こんなに大勢がいるなんて聞いてねぇぞ!!」

配下(大勢、か? 初撃の弾幕はそれなりに有ったが、
 それ以降は突っ込んでいったヤツが撃たれただけ)

手下5「ど、どうすんだよぉっ!
 お前がお頭の代理だろ! 軍人だったんだろ!」

485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:55:25.38 ID:cPIlV7OBo
配下(実は、相手は少ないんじゃないか?
 だが、多かったら……確かめる事はできねぇ。
 道に発砲の黒煙が残ってるせいで、
 正確な敵の方向も判らねぇしな。
 く、案外さっきの銃創が深い……血がとまらねぇ)

手下5「おい! 配下よ、どうすりゃいい!」

配下「前に進むぞ! ただし道に出るのは論外だ。
 射線が通れば撃ってくるからな、灯火を消して、
 森の中を歩いて抜けるぞ!」

手下達「「おうっ!」」

配下(今の奇襲で三十人は失った。けが人も多い……
 くそ、俺が自分から任せろって言った旦那の部隊を。
 よくもやったな、あの女ぁ)

手下4「八つ裂きだ、あの男みてぇな女、
 いたぶった後に八つ裂きにしてやる……」

配下「あぁ。死ぬより辛い後悔をさせてやる……っ」

 ひゅ……ドシュッ

手下4「っぐが……」ぱたり

配下「く、なんだ! 今のは何なんだ!
 くそっ、どうなってやがるッ!!」

486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:56:03.28 ID:cPIlV7OBo
------------------------------------------------
  夜 パリウガ南東の山頂

少女「何とか戻れたよー」がさがさ

双子姉「お疲れさまっ。
 作戦その一、『挑発と側面攻撃』成功だね!
 怪我とかしてない?」

少女「怪我は大丈夫……でも、ごめん。
 一撃で敵の隊長を仕留めるって、できなかった……」

白髪「そうか、ならまだ相手は『考えて動く』か。
 ここで仕留められりゃ早かったが」

少女「ごめん、任せてもらったのに」

白髪「危険な敵の前に出る囮をやったんだ。
 それだけで十分、よくやったぜ。
 セリフはちゃんと云えたか?」

少女「うん、それはバッチリ!
 子供の頃から、緊張する場所でセリフを言うのは、
 けっこう慣れてるからね」

487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:56:48.03 ID:cPIlV7OBo
白髪「なら、相手の頭に『逃げる』って選択肢は、
 ちゃんと出るようになったはずだぜ。
 ムリに全滅覚悟で突貫されちゃ、
 こっちは三人だ、もたねぇからなぁ」

少女「でも、最初の罠の数、
 やっぱりちょっと足りてなかったよ。
 獣道に沿って上ってくるのは予想通りだったけど、
 けっこう無秩序にだらだら上ってきてたから、
 列が長すぎて後ろの方は罠が足りてなかったかな」

白髪「そうか……
 やっぱり材料の不足が問題だったな。
 道に向かって尖った小石を爆発させる罠だけで、
 多く仕留められれば良かったが……」

少女「まあ、相手を混乱させて、
 敵に自分達がいっぱいいるように見せかけるって、
 作戦の目的は達成できたと思うよ!」

白髪「……そうだな。まずはそれを良しとするか」

双子姉「むー、それにしてもさー、
 せっかく町を守るって言って、
 それなりにお金も出したのに、
 火薬あんまり売ってくれなかったよね……」

488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:57:40.60 ID:cPIlV7OBo
少女「まあ、それはしかたないよ。
 町に海賊が来るって言われたら、
 その直後に火薬を売ってくれなくなるって。
 用心のために余裕を持っていたくなるし」

双子姉「ぶーぶー」

少女「でもほら、弾幕みたいに見える罠はさ、
 町の子供達が石集めを手伝ってくれたから、
 あれだけの数が用意できたんだし」

双子姉「森に罠作ったりするのも、
 なんか楽しそうに手伝ってくれたからね」

少女「まあ、子供にとっては、
 大人にやっちゃダメって言われてるイタズラを、
 どんどんやってくれって事だったからね」

白髪「……ホントは、そんな事をさせて、
 形だけでも関わったりはしてほしくねぇが、な」ぼそ

双子姉「ん? どうしたの?」

白髪「いや、なんでもねぇよ」

少女「……」

489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:58:39.02 ID:cPIlV7OBo
白髪「ほれ、無駄話はいい。次の作戦行くぞ」

双子姉「あいあーい。
 次はなんだっけ?」

白髪「次はお前の出番だろ。
 隊長が生きてる場合の、第二作戦」

双子姉「地中海が誇る超絶美少女双子姉ちゃんの、
 七つの必殺特技その二だね!」

少女「いや、必殺って、なんか違うと思うけど……
 しかも超絶とか自分で言わない!」

双子姉「いいの!
 こういうのには景気よく、とりあえず必殺って
 つけておかないと偉い人に怒られるんだって」

少女「偉い人って誰さ……」

双子姉「それじゃ、おねーちゃん、
 その前に、さっそくだけど、脱いでー♪」わきわき

少女「え、いや、脱ぐ必要はないよね。
 作戦ってアレでしょ?
 しかもなんか、手つきがえっちぃんだけど?!」

490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:59:06.01 ID:cPIlV7OBo
双子姉「ふっふー、白髪のおっちゃん直伝!
 女の子を脱がす指の運動―♪」

少女「ちょっ!
 白髪さん、いったい何を教えてるのよ!」

白髪「いや、別に教えちゃいねぇが。
 まあ、狼相手によくふざけてやるから、
 見て盗まれたのか?
 双子姉、指はもうちょっとくねくねとだ」

双子姉「あいさーっ! さ、痛くしないからねー♪」

少女「さりげなく助言とかしないでいいから!
 や、双子姉ちゃん、 なんで揉むのよ……っ
 ああ、やだっ、そんなとこさわらないでっ!」

双子姉「よいではないか、よいではないかー♪」

少女「ひゃぁっ、そこ、くすぐったいからっ!
 んぅ、ん、やめてよぉ……ぁ」

491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 01:59:34.60 ID:cPIlV7OBo
双子姉「ふふーん、さ、コレでおっけー。
 まったく、こんな場所に隠すからダメなんだよー?」

少女「は、はふぅ……くすぐったかった……」

双子姉「護身用の爆弾、服の胸の部分に入れて、
 大きく見せようとしないでもいいじゃん」

少女「だってさー……」

双子姉「まあ、これ持ってくねっ。
 こんど前に出るのあたしだし!」

白髪「気をつけて行けよ。
 爆弾つったって、そいつは煙幕だからな。
 近づかれて使うハメにならねぇのが一番だ」

双子姉「あいあいさー。
 んでは、いってきますっ」しゅばっ

 たったかたー

492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:00:20.37 ID:cPIlV7OBo
白髪「あいつ、遊びか何かと間違えてねぇか?
 心配にさせるなよ。ったく。
 なあ、少女……少女?」

少女「白髪さぁん。
 私も次の作戦に動かないといけないけど、
 その前にちょっと話があってね」ぱき、ぱき

白髪「や、ちょっとまて。な?
 まだ作戦中で、いつ何が起るかわからん。
 だから……おい、大丈夫か?」

少女「え、なにがよ?
 あ、そんな簡単にはごまかされないからね!」

白髪「…………うぐ、やっぱり、ダメか?」

少女「この、エロじじぃーっ!!」

 ずが、ばきっ、げしぃっ

白髪「し、死ぬぅ……」ぴくぴく

少女「死んだら地獄巡りでもすればいいのよ、ったく」

 のしのし……

白髪「…………そうか、そういや、初めてか。
 本当に、こんな若いの二人を巻き込んで、
 地獄行きは免れネェなぁ……」
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:00:46.73 ID:cPIlV7OBo
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   夜 パリウガ南東の山中

配下「おい、そっちはどうだ!」

手下8「く、ダメだ、ぜんぜんわかんねぇ!
 判るのはあたり一面が罠だらけって事だ。
 町の奴ら本気で見境ねぇぞ!」

配下(足下に張られた糸……
 木や草に結びつけたソレが外れると、
 紐で結ばれた木の杭が飛んできて……何人死んだよ)

手下9「おい、うるさいぞ! 泣き叫ぶな!」

手下5「うるせぇっぐ、あぁあ、痛ぇ、痛ぇよぉ……
 ひぃぃ、ひっぱるな、千切れるじゃねぇかぁっ。
 早くこれ外せよぉ」

手下9「バカ野郎っ、ひっぱらねぇで外せるかよ!」

配下(更に厄介なのは、この金属片を結びつけた網だ。
 いったん絡まれば自力じゃ逃げられず、
 味方が近くにいてもすぐには助からねぇ)

手下5「さっさとはずせよぉ……痛ぇよぉ」

手下9「く、こんなん、明るければすぐなのに!」

494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:01:13.09 ID:cPIlV7OBo
配下(でもって、死ぬわけじゃねぇから、
 ずっと悲鳴が聞こえ続ける……
 いくら暴力と悲鳴になれた男だって、
 仲間のこんな声をずっときかされちゃ、士気が……)

配下?「おい、さっきの女がいたぞ!
 野郎共、前に出ろっ! 走って逃げてやがる!!」

手下達「んだと?!」「どっちだっ、くそっ!」

配下?「坂を登る方に向いて左の方向だっ!」

手下達「「うおぉーっ!」」

手下7「捕まえたらただじゃおかねぇぞ!!」だだっ

配下「バカッ、待て! 今のは俺じゃ」

手下達「うわぁあああぁぁ……ぁ…………」
 「ひぃいいい……」「おちるぅぅううう」

495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:02:23.06 ID:cPIlV7OBo
配下「く! お前ら行くなっ!
 西側は崖だって忘れたかっ!!」

配下?「だが崖際に追い詰めりゃこっちのモンだ!
 女を捕まえろ! 捕まえて痛めつけてやれ!」

手下達「どこだ、女はどこに……おい押すなうぁああ」
 「違、わざとじゃねぇ! 何かが俺の……ぎゃぁああ」

手下7「く、お前ら、こっちに来るな!
 足下に網が有って、それがロープで岩に!
 や、やめろお前! その岩を落としたら俺達っ
 ぎゃああぁぁぁ……ぁ…………」

配下?「ふふーん、まあこんなトコロか。
 しばらく我慢して潜入した甲斐があったなぁ」

手下8「なんだとぉっ!
 まさか配下! お前はスパイか!」

配下「ち、違う、そんなわけねぇだろ!!」

配下?「なぁんてな! ははは!
 どうだ、見事な演技だろ!」

手下8「ん? 声が、あっちから響いてる?」

配下「そ、そっちの声が偽物だ!
 俺が旦那を裏切るわけねぇだろっ」

496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:03:06.88 ID:cPIlV7OBo
手下8「……そうだ! お頭の好物は?」

配下「ニンニクだ! ニンニク料理が大好きだ!
 俺が臭いからやめてくれっつっても、
 酒場で毎回頼みやがる!」

手下8「ニンニク嫌いって事はあんたが配下か!
 ってことはあっちが偽物だなッ」

双子姉「ああ、だから死ぬほど臭いって言ってたんだ。
 なっとくー……」

手下8「おい、お前ら、この声の奴が仲間を殺した!
 追っかけて仇をうつぞーっ!」

手下達「「うおおおおーっ」」

双子姉「うわ、やばっ!」だだーっ

手下8「待てぇーっ!!」

配下「俺、ニンニク嫌いで有名だったのか……
 って、ちょっと落ち込んでる場合じゃねぇ。
 待てーっ!!」

双子姉「へへーん、またないよーん♪」

497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:04:12.75 ID:cPIlV7OBo
手下達「くそ、足が速い!」
 「俺達じゃ、夜の森は走れねぇからな……」
 「……声が可愛いな」

手下8「最後の違うだろ!!」

配下(……しかし、まずいな、さっきからの罠の連続で、
 一歩進むだけでもこいつ等ビクビクしてやがる。
 しかも三百はいたはずの連中が、
 気がつきゃ、この周りにいるだけ……
 くそっ! 残りはどこだ!)

 ばっ

手下8「辺りが開けた!」

配下「しめた!
 これで星明かりで罠が見え……」

少女「ずいぶん遅かったわね」どーんっ

配下 あ、てめぇ、この前の……」

少女「やっと思い出した?」

配下「絶壁女!!」

少女「…………」

498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:04:41.31 ID:cPIlV7OBo
手下達「くそ、足が速い!」
 「俺達じゃ、夜の森は走れねぇからな……」
 「……声が可愛いな」

手下8「最後の違うだろ!!」

配下(……しかし、まずいな、さっきからの罠の連続で、
 一歩進むだけでもこいつ等ビクビクしてやがる。
 しかも三百はいたはずの連中が、
 気がつきゃ、この周りにいるだけ……
 くそっ! 残りはどこだ!)

 ばっ

手下8「辺りが開けた!」

配下「しめた!
 これで星明かりで罠が見え……」

少女「ずいぶん遅かったわね」どーんっ

配下 あ、てめぇ、この前の……」

少女「やっと思い出した?」

配下「絶壁女!!」

少女「…………」

499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:05:23.58 ID:cPIlV7OBo
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   夜 パリウガ南東の山頂

双子姉「……っ、はぁ……。
 さすがに夜の森走るのなんて……
 つかれた……」

白髪「お疲れさん。こっちも片付いたぜ」すっ

双子姉「っ! おっちゃん、真っ赤だよ!
 どこか怪我したの?!」

白髪「あぁん、まあ、かすり傷だ。殆ど返り血だな」

双子姉「……」

白髪「……怖いか?」

双子姉「……だって」

白髪「そうだったな、双子姉の前じゃ、
 まだそれほどは殺して無かったか……
 こんな真っ赤になるほどの殺し合いなんざ、
 ワシもずいぶん久しぶり……」

双子姉「そうじゃないよっ! ……そうじゃなくて」

白髪「……」

500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:06:38.29 ID:cPIlV7OBo
双子姉「……そんなに血がついてるって、
 ずっと剣で戦ってきたんだよね?
 ほんとに怪我してないの?
 大丈夫なの?」

白髪「がっはっは、大丈夫だぞ。
 いや、まあ、かすり傷はあるがな。
 こちとら人生の大半、騎士だったんだぜ。
 闇にまぎれて不意打ちまですりゃ、
 一対一だの二対一だので負けるかよ」

双子姉 ぎゅっ

白髪「おい、服が汚れるぞ」

双子姉「っ、っ」ふるふる

白髪「……泣くなよ。
 ワシは大丈夫だ。こんな連中相手なんざ、
 危ない事なんてねぇよ」

双子姉「うそ、うそだもん……」うるっ

白髪「…………」なでなで

双子姉「さっき、追われてすごく怖かったもん。
 剣とか銃を持った人が相手じゃ、
 いつ、死にそうになってもおかしくないもん」

501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:07:35.55 ID:cPIlV7OBo
白髪「がはは、大丈夫だっての。
 ワシが怪我でもしたら、包帯も狼も少女も、
 双子妹も、……お前も、うるせぇからなぁ」

双子姉 ふるふる

白髪「……安心しろ。
 もうすぐこの戦いも終わりだ。
 本隊から別れた連中は殺すか、追い返すかしてきた。
 これで残りは、少女の所の連中くらいだ」

双子姉「……」

白髪「よし、落ち着いたな。
 それじゃ、ワシは行ってくる。
 双子姉は罠作りで疲れてるんだろうさ、
 後はゆっくりと寝ておけ」ぽんぽん

双子姉「……」

白髪「……」くるっ。

 すたすた

502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:08:42.45 ID:cPIlV7OBo
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   夜 パリウガ南東の山頂そば

 どぉぉん、どぉぉん

少女「聞こえてるでしょ、
 町の正面に来た海賊に、町が応戦してる大砲の音。
 もうこれから町に向かっても間に合わないし、
 諦めて降参しなさいっ!」

配下「……いいや、間に合う、まだ間に合うぜ」

少女「ここから町まで、昼でも半時はかかるし。
 今は夜で、いくつも罠があるわよ。
 それを避けてたどりつく頃には、
 場所を知らなきゃ朝になるから」

配下「……」

少女「別に私たちは殺したいわけじゃないし、
 大人しく帰ってくれればいいだけ。
 だから今は退かない?
 きっと、はぐれた人たちも、海に落ちた人たちも、
 船のところで待ってるから……」

配下「……言いたい事はそれだけかよ」

少女「……なによ」

503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:09:17.68 ID:cPIlV7OBo
配下「俺たちはな、ピクニックに来てるんじゃねぇ!
 旦那達が時間を稼いでる間に、
 旦那達を助けるためにここに居るんだよ」

手下達 こくこく

配下「悪いが、お前らが少数なのは、
 この罠の張り方と、さっきから女が繰り返し、
 こっちに来てる事で判ってる。
 お前の銃の腕はすごいが、
 前線で戦える男達はそう多くないんだろ?
 だから、あの場所、俺達が前に進めなくなる場所で、
 お前が俺を狙撃したんじゃねぇか?」

少女「……そ、そんなの」

配下「とにかく、もうお前達には踊らされねぇ!
 お前らぁ!
 とにかく一人でも、旦那の応援に駆け付けるぞ!
 罠なんて踏みつぶして乗り越えろ!
 俺達はなんだ!」

手下達「賊だぁ!」「山賊だ!」「海賊だ!」
 「「「荒くれの掠奪者だ!!」」」

配下「だったらうだうだしてねぇで、
 とっとと奪える町まで行くぞッ!!」

手下「「「おうッッ!!」」」

504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:10:21.07 ID:cPIlV7OBo
少女「くっ……」だっ

配下「逃げるかっ、追え!
 捕まえて町でさらし首にしてやれ!
 俺達の恐怖を思い知らせろ!」

手下達「「「おおおおおおっ!!」

少女(く、まだ心が折れてないなんて!
 でも、そこには)

少女「やけになっても大丈夫なように、ちゃんと罠が!」

配下「知った事かぁっ!
 踏みつぶせ、野郎ども!!!」

手下達「「「うおりゃぁぁ!!」」」

少女(これを引っ張れば、岩が一気に崩れて……)ぐいっ

 …………

手下達「「「うおおおおおっ!!!」」」

少女「え、うそ!!」

配下「は、なんか知らんが、不発だったらしいなぁっ!」

少女「くっ」だっ

505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:11:59.05 ID:cPIlV7OBo
配下「逃がすかよぉっ!!」

 がしぃっ

手下達「配下が女を捕まえたっ」「いいぞ、殺せぇ!」
 「殺すなっ、拷問だぁ!」「八つ裂きにしろぉ!」

少女「……っ!」ばっ

配下「刀なんか出したって、無駄だってんだよっ!!」

 ガキィィンッ

少女「そんな、こないだより、強い?!」

配下「てめぇの剣なんざ、
 所詮決まった型の貴族の剣だろ!
 どう来るかわかってりゃ、対応なんざ簡単なんだよ!」

少女(こんな状態じゃ、罠のところに走れない……っ。
 どうしたら、どうしたら……?
 さっきの二つの煙幕、片方でもあれば逃げられたのに。
 なんで両方……違う、今はそんな事じゃなくて、)

配下「さぁ、罠の無い道を町まで案内してもらおうか。
 これならすぐに、町まで行けるだろ」

少女「――っ!!」

配下 ニヤリ
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/23(木) 02:13:55.42 ID:cPIlV7OBo
というわけで、今日はここまで!
次は土曜の夜(深夜すぎると思う><)に投下なりっ。

せ、戦闘……(。。;)

507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/06/23(木) 08:27:51.89 ID:BLKzoG2H0
おっつん
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/23(木) 12:22:41.75 ID:Hh0k3PBSO
いいとこで切りやがるぜ……
待ってるからな!
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/06/25(土) 13:12:02.17 ID:ajwJWsEy0
wwktkが止まらない
C
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/26(日) 03:25:32.96 ID:mCLygqSvo
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   夜 パリウガ南東の山頂そば

少女「なによ、[ピーーー]ならさっさと殺しなさいよ!」

配下「そう焦るなよ。
 なぁ、……あー、白髪に、双子妹だったか?」

双子姉「むぅーっ、あたしたちが出てきたんだから、
早くお姉ちゃんを解放してよ!」

手下8「ひゃはは、もうちょっとつきあってもらうぜぇ。
 なんだ、よく見りゃまだガキじゃねぇか」

少女「二人とも、ごめん……
 私がつかまったから」

配下「仲間思いでいいじゃねぇか。
 こいつの命がおしければ、なんて言って、
 まさか本当に姿を見せるヤツがいるたぁ、
 夢にも思って無かったがよ」

手下8「楽ができていいってもんだ。
 またにげまわられちゃぁ、たまらねぇからな」

511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:26:07.01 ID:mCLygqSvo
白髪「く、すまんな、二人とも。
 ワシが巻き込んじまったばっかりに……」

少女「だ、大丈夫だよ、これくらい」キッ

手下9「はっ、そんな風に縛られたまま睨まれたって、
 誰が怖がるってんだよ。
 さんざん、俺達をコケにしてくれたなぁっ!!」

 どすっ

少女「かは……っ」

配下「いい気味だなぁ、おい。
 さんざん俺達をふりまわして、仲間も殺してくれた。
 なにか礼が必要か? んん?」

少女 びくっ

白髪「礼なら、縄をほどいてくれよ。
 ついでに二人を解放してくれんか?」

配下「ジジイは黙ってろ!」 がっ

白髪「ぐ、げふっ、がっ……」

512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:27:09.99 ID:mCLygqSvo
少女「やめなさいよ、縛った相手に暴力ふるって、
 男としてはずかしくないの?」ぎりっ

配下「……いいぜぇ、その表情!
 強がりながらおびえる目だ。
 俺はそんな目を見るのがだいすきでね。
 たまらねぇよ……」

少女「おびえてなんかっ」

配下「おびえてんだろ。
 ま、他の音ならともかく、お前じゃぁそそらねぇからなぁ」

少女「な、それはそれで腹が立つーっ!」

手下8「で、配下、こいつらどうするんだよ」

配下「そうさな、とりあえず、こいつら連れて入り江に行くぞ。
 こいつらは『通行証』だ」にやり

513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:27:36.73 ID:mCLygqSvo
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   夜 金色の旗の船

賊「状況はどうなってやがる」

手下A「砲台からの攻撃で正面にまわった四隻の内、
 一隻は浸水で沈没。二隻損傷してやす」

賊「被害がでけぇな。
 泳いで島に近づいたヤツはいねぇのか」

手下B「ここは丁度潮の通り道でして、
 入り江の内側ならまだしも、
 この距離じゃ、つくまでにだいぶ流されちまいます」

手下C「夜の海を流されながら泳げば、
 夏とは云え冷えるからな、
 陸に着く頃にはボロボロだぁ」

賊「ちっ、使えねぇやつらだな。配下の野郎はどうだ。」

手下A「町に襲撃をかける前に、近くの森に火を放って、
 町の陽動とこちらへの連絡にすると言ってましたが、
 まだそうなってませんね」

514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:28:13.02 ID:mCLygqSvo
賊「待ち伏せでもされたか……
 あの情報屋、今は山を守れる戦力はねぇなんて、
 嘘こきやがったな!
 次にあったらくびり殺してやるっ」

手下B「どうしやすか? このままじゃ……」

 どぉぉぉおおん

 ぐらぐら

賊「な、何が起った!」

手下D「大変です、お頭!
 南から現れた船が、俺達を攻撃してやす」

賊「ばかな! 町の船は北にあるベネッタに航行中だ!
 南からの援軍なんてありえねぇ!
 コレは確認済みだったはずだぞ!」

手下D「町の船じゃありやせんっ。
 夜闇に紛れる黒い船体で、発見が遅れましたが、
 メインマストの上にジョリー・ロジャーを確認。
 海賊船です!」

賊「か、海賊だとぉ!!」


 どぉぉぉん

515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:28:41.72 ID:mCLygqSvo
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   夜 海賊船

双子妹「距離おおよそ半マイル、
 風向きは北東から南西で視界良好。
 敵艦数は……四でありますかね」

男「いや、戦闘の頭一つ出ている船は死に体だ。
 町の射程圏内でもある。無視してかまわん」

双子妹「了解であります。
 では目標三っ、全て横っ腹でありますな。
 曲射軌道計算終了。
 試し撃ちいくであります!」

男「許可する。のろしを上げてやれ」

 どぉぉおおおん

双子妹「……外れたか」

双子妹「目視照準から距離の確認を完了。
 うう、ごめんなさいであります」

516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:29:12.43 ID:mCLygqSvo
男「文句を言ったわけではない。
 そのための試し撃ちだ。
 次に当てれば良い」

包帯「船長はもうちょっとだけ、
 愛想が良ければ良いのにね」

男「愛想などいらん」

包帯「そうだから、みんなに逃げられちゃうんだって。
 こうやって結局は、助けに来るのにさ」

男「……」

双子妹「家族を助けるのは当然でありますよ」えっへん

男「家族だなんだと、俺を巻き込むな。
 俺が寝ている間に方向を変えて、何を言っている。
 おかげで、大金を払った輸送情報が空振りになったぞ」

包帯「どうしてもこっちに来るのが嫌だったら、
 また舵をとって変えれば良かったと思うんだけど、
 それは言わないべきかな?
 素直じゃないんだから」にこにこ

517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:29:44.06 ID:mCLygqSvo
男「……うるさい。聞こえよがしに言うな。
 それよりも、そろそろ本番だ。
 次は当てろよ」

双子妹「誤差は修正完了であります!
 もう外さないでありますよ」

男「では答え合わせだ。
 本船正面の全砲門を解放っ!」

包帯「準備完了、いつでも撃てるよ!」

男「目標は腹を晒している。
 連中の腹の中に直接、
 大理石の弾をたっぷり見舞ってやれ!」

双子妹「あいさーっ!」

男「てーっ!!」

 どどどどどぉぉぉおおおん

518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:30:13.26 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 金色の旗の船

 どどどどどぉぉぉおおおん

手下A「おかしらぁーっ、
 二隻の側面に敵弾が命中した!
 このままじゃアイツラもすぐに沈んじまうぞ!」

手下B「こっちの船も船尾をかすったぞ!
 くそ、何人か海に落ちて……」

手下D「誰か、船医を呼べ!
 大砲が砕いた床板で、けが人だらけだ!」

手下E「化け物だ、くそ、ありゃぁ化け物だぁっ!!」

手下A「あの『海賊』にケンカをうるなんざ、
 間違ってたんだ。
 今からでもおそくねぇ、北に逃げよう!」

手下B「ばか、北ったらベネッタの本山じゃねぇか。
 逃げるんだったら西だろうがよ!」

手下A「どっちだっていい!
 さっさと逃げないと、穴だらけにされるぞ。」

うあぁああああ、もうダメだぁ!

519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:30:41.32 ID:mCLygqSvo
賊「落ち着けてめぇらぁっ!」

 きぃーぃん

手下達「「「……」」」

賊「あの二隻は沈むのが判ってるんだな」

手下A「へい!」

賊「だったら簡単だ、ただで沈ませてやる必要はねぇ。
 奴隷を残して二隻から船員をこっちに集めろ!」

手下B「そ、そんで何をするんで」

賊「火薬を積んで火を付けた一隻を、
 小島の砲台に向かって全速で突撃させるんだ!
 運が良ければ小島の連中が助けてくれるって言やぁ、
 船の奴隷共もはしゃいで働くだろうさ」

手下C「うっはぁ、さすがお頭だぁ!」

賊「小島をよけるから二隻しか通れねぇ広さになるんだ。
 厄介な左右からの同時砲撃も、
 この船を挟むようにつっこめば、他が盾になる。
 本船だけなら港に入れるはずだ!」

520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:31:12.09 ID:mCLygqSvo
手下A「けどよ、一隻だけでつっこんでも、
 何も持って帰れねぇぜ?」

賊「ばっきゃろぅ、裏の山に登らせた一隻があるだろ。
 それに町にゃ漁船だってある。
 いま目の前の町にいる人間を掠って、
 ガキを人質に奴隷として帝国に売りゃぁ、
 沈んだ船だって新しくなって帰ってくるって寸法よぉ」

手下C「うおおお、さっすが俺らのお頭だぁ!
 そこにしびれる憧れるぅッッ」

賊「わかったらお前ら、さっさとやるぞ!」

手下達「「「へいっ!!」」」

賊「……『海賊』よぉぅ、隠しナイフに奇襲たぁ、
 随分とせせこましい真似をするじゃねぇか。
 だがなぁ、最後に勝つのは、この俺だぁ!

手下D「入り江の山側砲台から煙を確認しやした!」

賊「そんなもん、大砲使えばいくらでも出るだろ!」

521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:31:46.02 ID:mCLygqSvo
手下E「違ぇって!
 火薬の黒煙じゃねぇ。
 火事みてえな灰色の煙だ!」

手下D「よく見えねぇが人が右往左往してやがる」

賊「なんだと……そうか、配下が道を拓いたか!」

手下A「いよっしゃー!
 さすが配下さん、いつもは三下くさいのに、
 やるときゃぁやってくれる人だ!」

手下B「冷や汗かかせるぜぇ」

賊「なに安心したような顔してやがる。
 本番はこれからだぞ!」がつんっ

手下A「ってー……
 この分も、後で捕まえた奴隷ぶん殴ってやる」

手下B「八つ当たりかよっ。ひひひ」

賊「船員の乗り換え急がせろ、
 いや、終わるまで待つ必要もねぇ。
 港に向かって全速前進!
 ぶっ壊れてもかまわねぇ、この隙に町に突っ込むぞ!

手下達「まってましたー!」「やったるぜッ」
 「URYYYYYY!!」

522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:32:22.20 ID:mCLygqSvo
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   夜 パリウガ入り江砲台

少女(積みあがった、死体。
 私達人質を助けるために武器を捨てて、
 殺されてしまった人たち。
 命はとらないという嘘を、信じてしまった人たち)

手下8「ひゃはははぁっ、
 子供の命一つがそんなに大事かよ。
 代わりに自分達が死んでちゃぁ、意味ねぇだろ」

双子姉「う、あぁう……」ぼろぼろ

白髪「こんな子供を盾にしてせまるなんざ、
 それでも男かよ」

少女(そう、私と双子姉ちゃんを盾に立たせて……
 だから、私も、双子姉ちゃんも、見せられた。
 目の前で、私達の変わりに死んでいく人たちを)

配下「知ったこっちゃねぇな。
 目的が果たせりゃ、それで良いんだよ」

白髪「てめぇらみてぇなのを、くずって呼ぶのさ」

523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:32:54.63 ID:mCLygqSvo
手下9「んだとぉ、お前だけ先死ぬかよ、オラァっ」

どすっ、げしっ、

白髪「く、……っ、は、」

少女「ちょっとやめなさいよ。
 ホントに男らしくない!
 白髪さん、大丈夫?」

白髪「げほっ、げほっ……
 これくらい、何の問題も、ねぇよ……くっ」

少女「やだ、血が……」

配下「おいおい、まだ死ぬなよ?
 お前達にはまだやることがあるのさ。
 この特等席で、な」にやり

少女(どうしたら、どうしたらいいの?)

524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:33:36.69 ID:mCLygqSvo
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   夜 海賊船

双子妹「一斉射から三百秒経過。
 大砲の火薬で曇っていた視界が戻るでありますよ!」

男「第二波いけるか?」

包帯「難しいね。今すぐなら半分だけ」

双子妹「全門使うなら、あと三百秒くらい。
 この距離で狙うには大砲掃除しないと、
 中に残った煤で飛距離が変わるであります」

男「……ちっ、やはり手が足らんかッ」

双子妹「煙幕が晴れたであります……」

男「敵船が集結してる……?
 密集体型なんぞとっても、
 大砲のいい餌食だぞ。何を企んでる」

525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:34:06.53 ID:mCLygqSvo
双子妹「どうやら船に自分達で火を付けて、
 奴隷さんたちに特攻させるようであります!!」

男「くそっ、なりふりかまわないかッ。
 仕方無い、全速前進だ!
 少しでも距離を詰めて、次は直接照準する!」

双子妹・包帯「「了解!!」」

男 だだっ、かちゃ

男「すまん、ムリをさせるが、全力で漕いでくれ!
 多少のずれはこちらで修正する。
 とにかくまっすぐに全速だ!」

■『――――――――――ッッ!!』

 ずぁああああああ

双子妹「お兄様、今は戦力が足りないであります」

包帯「冷静に考えれば接近は命取りだよ」

526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:34:40.02 ID:mCLygqSvo
男「危険など承知だ。
 だが、連中が町に乗り込む様をじっと見ていては、
 ここまで来た意味がないっ!」

包帯「男さん、ムリをしたら僕たちまで巻き添えって、
 それだけ憶えておいて欲しいね」

男「判っている、意味の無い突撃はせん。
 だが、その命は預けてもらうしかあるまい。」

包帯「わかったよ。
 火薬と弾丸の装填完了、双子妹くん、計算よろしく」

双子妹「了解であります……照準は水平を維持!
 船の突撃と弾丸の落下速度を計算して、
 喫水線を狙うでありますよ!」

包帯「了解!」

527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:35:07.23 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 金色の旗の船

賊「さっさとオールを動かせ奴隷どもぉ!
 どうせ代わりの奴隷なんざいくらでもいるんだ。
 サボってやがるとなますにするぞぉ!!」

奴隷達「「「ハイッ」」」」

手下D「悪魔の魚とマスケットの船、
 信じられない速度で接近中です!」

手下C「なんであんな速度で、
 このバカでっかいオールが動くんだよ!」

手下D「知るか!
 くそ、俺達が街に入るのが先か、
 連中が、俺達に接触するのが先か……っ」

賊「てめぇら、舷側の大砲で威嚇しやがれ!
 当たらなくてもかまわん!
 波を立たせて動きをとめろ!」

手下達「「「おうよっ!」」」

ずっっだぁあああん

528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:35:42.98 ID:mCLygqSvo
 ずっっだぁああああん

 ぐらぐら


手下A「同時に撃って来やがった!」

手下B「側面に被弾!
 水が入りこんでいやがる!」

手下C「えぇい、全力で港に突っ込め!」

賊「奴隷共!
 足の鎖にヒッパラれて、
 船と沈みたくなけりゃぁせいぜい張り切れ!」

奴隷達「「「はいっ」」」

賊「おまえらもどんどん弾を撃て!
 沈んだらどうせあの世じゃ金なんて使えねぇ。
 全部使いきるつもりでぶちこむんだ!」

手下「「「おうっ!!」」」

529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:36:15.82 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 海賊船

 どぉおおおおん

男「く、側面をかすったか!」

双子妹「お兄様、船の損傷どうでありますか?」

男「オールの一部が破損した。
 速度があがらん!
 くそっ、先に沈めておけば……」

双子妹「……」

包帯「どうする?
 連中は港に突撃するみたいだけど、
 このまま一緒に港にはいるかい?
 それとも少し離れて、大砲で対地砲撃するかい?」

男「後者はだめだ。
 港の被害ばかり大きくなるが、ほとんど影響はない。
 結局、俺達が街を壊す事になる」

双子妹「お兄様……」

530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:36:56.30 ID:mCLygqSvo
男「よし、あの船の後ろにつける。
 俺達も突撃するぞ」

双子妹「でも、この船が壊れたら、
 みんなのお家も、なくなるであります……」うるっ

包帯「……」ぽん

男「大丈夫だ。港の固めた部分ではなく、
 連中の船に対してぶつかるようにすれば、
 衝撃は緩和される」

包帯「……運が良ければ出口がふさがって、
 船の中に人を閉じ込められるかも。
 そうすれば、多少はましになるかな」

男「そううまく行くとはかぎらんがな。
 衝角で敵の船を串刺しにする、
 全員対衝撃体勢!」

双子妹・包帯「「了解!」」

男「お前も、衝撃にそなえろ!」

■『う゛ぁkAっタ――!」

ずっがぁぁあああああん

531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:37:39.27 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 パリウガ入り江砲台

 どぉおおおん

手下8「よぉし!」

配下「お頭達は入港した!
 俺達も略奪に行くぞ!」

手下達「「「へい!」」」

少女「待ちなさいよ、この縄ほどきなさい!」

手下9「へっ、そこでこの町が滅ぶ瞬間を、
 じっと見てろよ。
 てめぇらが捕まったから、
 滅ぶ街をな」

少女 ぎりっ

 どすどす

?「――――――」

少女「えっ……」

532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:38:06.99 ID:mCLygqSvo
「――――ぉおおおおおん」


手下8「な、なんだ!」

手下9「あの光、うわあああ、窓に、窓にぃっ!」

「あぉぉぉおおおおん」
「うがああああ」

手下達「「ひぃぃぃ」
 「お、狼だ、狼のむれがあああ」

 すっ

狼「遅くなったわね」

少女「狼さん!」

狼「ほら、手を出して。
 ロープを切るから」

少女「うん!」

白髪「すまねぇな、助かったぜ」

533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:38:35.40 ID:mCLygqSvo
双子姉「お、狼のお姉ちゃんだーっ!!!!
 嘘じゃないよね、本物だよねーっ」ばたばた、べちょ

狼「ほら、縛られたままであばれないの。」

双子姉「来てくれたんだ、来てくれたんだぁ!」

狼「まあ、ね。
 ちょっと、気が向いた、から……」

少女「……来てくれて、ありがと」

狼「べつにお礼なんかいいわよ。
 アタシはべつに、ちょっと友達と散歩してたら、
 こっちに行こうかなって気が向いた、だけ」ぷいっ

白髪「かか、顔がまっかじゃね……がぶえ、げはぅっ」

狼「ばかっ、しねっ、
 あんただけ助けなけりゃよかった!」

 そーっ

少女「うわああ、周りに狼が一杯……
 しかも、いつの間にかあの人達の声が、
 聞こえなくなってると思ったら。
 う、ぷ……」

534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:39:10.33 ID:mCLygqSvo
双子姉「狼のお姉ちゃんのお友達って」

片目 すっ

狼「アタシの直接の友達っていったら、
 この片目と、あとちょっとくらいだけど。
 みんな、一緒に来てくれて……」

片目「がふっ」

双子姉「あの、ありがと、きてくれて」

片目「……」つーん

双子姉「あはは……」

片目「ばふ」

狼「うん、ありがと。
 後は自分達でなんとかするわ。
 また今度、お礼させてもらうわね

片目「がうっ」くるっ

 すたすた
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:39:53.92 ID:mCLygqSvo
少女「最後、なんていってたの?」

狼「気にするな、好きで手伝ったんだ、
 みたいな事ね」

少女「うわ、すっごいクール……」

双子姉「それにしても、優しそうな狼さんだったね。
 狼のお姉ちゃんみたい♪」

狼「……ふん」

少女「あ、そうだ!
 狼の群れにびっくりしてた!
 町! 町は……っ、炎が!」

狼「一隻だけだけど、進入されたみたいね。
 ……男のばか」

双子姉「え、あ、ほんとだ、
 なんでうちの船がここに?!」

狼「しらないわよ。
 私も走ってくる途中に見ただけだから。
 ここまで来て港に進入されるなんて、
 なにやってるのよ……」

536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:40:30.02 ID:mCLygqSvo
双子姉「とりあえず、町まで急ごうよ。
 ほら、白髪さんも!
 町の人達助けないと!

白髪「……すまんな、危険な目に遭わせて、
 だが、またさらに危険な場所について来なくて良いと、
 今のワシには、いえん」

狼「ふん、そんな事言ったら、また蹴飛ばすわよ。
 いいから、ここから町までの最短距離を案内しなさい。
 ここまでして、町の人達が助からなかったら……」

少女「させない。
 そんなのは絶対に許さないから!」

双子姉「そうそう、みんな助けるんだよ!」

白髪「……すまん。それから、ありがとよ。
 こっちだ!
 多少道は荒いが、
 なぁに、駆け抜ければすぐ街に行ける近道だ」

 だだだーっ

537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:40:56.72 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 パリウガ

 ずばっ、ザシュッ

男「十九人目……ぜ、は……
 これで、船に閉じ込められなかった連中は
 ほとんどやったか?」

手下C「へっ、後ろががら空きだz」

 たーんっ

双子妹「集中力が切れているでありますよ、お兄様」

男「すまん、助かった」

双子妹「こちらも四人ほど倒したであります。
 しかし、やはり手が足りなくて……」

包帯「どれくらい散ったのか、
 どれくらい残っているのか、
 つかめないね」

男「く、こんな時ばかりは、
 大所帯でないことがくやまれるな」

538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:41:29.94 ID:mCLygqSvo
双子妹「……お兄様でも、そんな事を言うんですね。」

男「なにがだ」

双子妹「いえ、何でもないでありますよ」ちらっ

男「……なんだ、また、
 ロクでもないことを考えていたのか?」

双子妹「ええ、後ろの正面」

男 くるっ

手下D「ひっ」

男 ずばしゅっ

双子妹「だれなのかなーと」

男「……斬る相手は敵とだけ思え」

双子妹「……そうでありますな。
 では次の海賊さんを……」

 ばんばん、ばん!

男「はっ、こっちだ!」

 だだっ

539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:42:02.37 ID:mCLygqSvo
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

手下F「へへ、こんな所に固まってがったか。
 いくら探しても殺す相手がいないわけだぜ

 すぅっ

男「……」ヒュッ

 かきーん!

手下F[あぁん? おう、お前ぇ……
 お頭の探してた海賊じゃねぇか」

男「ち、板金鎧か」

手下F「後ろから人に斬りかかるなんざ、
 いけねぇやつだなぁ。ぬんっ」

 ぶぉんっ

 がきぃぃんっ

男「ぐっ」

手下F「げははは、どうだ、俺様の斧は」

男「体がでかいだけ、あるな。くっ」

540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:42:30.74 ID:mCLygqSvo
手下F「並のやつなら、右と左で真っ二つだったんだが、
 なに、そうやって受け止めたって、
 俺の力にかなうわきゃぁねえっ」

 ぐぐぐっ

男「くぅ……っ」

手下F「げはは、どうしたどうしたぁっ!」

双子妹「お兄様、引いてください!
 狙えないであります!」

男「離れられたら、離れる、が……っ」

手下F「ふん、せいぜいこのまま、
 つぶれるがいいっ!」ぐぐっ

白髪「おいおい、腕がなまったんじゃねぇか?」

 すっ、ずばしゅっ。

手下F「げはぁっ、くそ、まだ、味方がいたかっ」

 ばたり

541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:42:59.41 ID:mCLygqSvo
双子妹「狼のお姉様に、少女のお姉様、
 それに、お姉ちゃん……」

少女「遅くなってごめん!」

狼「無事そうで良かった」

双子姉「頑張ってるみたいだねー、妹♪」

白髪「……なあ、ワシは?
 男をピンチから救ったのはワシだよな?」

双子妹「あ、いたのでありますか?」

白髪「……」いじいじ

双子妹「じょうだんでありますよー。
 ご無事でなによりであります、白髪のおじさま」

白髪「おう……
 この扱い、明らかに影響の発信源は狼だよなぁ」

狼「日頃の行いでしょ」

男「……すまん、海上で食い止めきれなかった」

白髪「いや、こっちも完全に仕留め切れていなかった」

542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:43:41.23 ID:mCLygqSvo

 よろよろ

赤毛「白髪さん……」

白髪「おお、どうした、
 そんなに泣きはらした顔しやがって」

赤毛「二人が、子供たちが!」

白髪「なに、まさか」

赤毛「避難する時には一緒にいたのに、
 私が他の避難所に連絡しに走っている間に……」

町民「す、すみません、俺達がしっかりみてりゃ……」

赤毛「いえ、みなさんだって、
 ご自分のお子さん達で、精一杯ですから……」

白髪「ちっ、まだ賊はうろついている。
 しっかりと扉を閉じて、
 町の衛視が安全を言いに来るまで待ってろ」

赤毛「わ、わたしも、あの子達を助けに」

白髪「……」ぐっ

543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:44:08.79 ID:mCLygqSvo
赤毛「わかったわ。
 あなたに、任せます」

白髪「すまねぇ。
 俺がもうちょいわかけりゃ、
 守ってやるからついてこいって云えたが」

赤毛「いいのよ。ありがとう」

男「子供が行方不明か。
 ……手分けして探すぞ」

少女「うん。どこか心当たりはない?」

赤毛「えっと、あなたたちは」

白髪「…………みんな、ワシの家族さ」

赤毛「……そう。
 助かるわ。
 でも、どこに行ったかは判らないの」

少女「なら、ココは私の出番かな!
 これでも、迷子捜しは島で一番得意だったよ」

男「…………むしろ迷子になるプロだったろう」

少女「そんなことないって!」

544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:44:41.41 ID:mCLygqSvo
男「なら、白髪と双子妹、狼は少女と共に、
 その子供を捜索しろ」

白髪「そっちはどうするんだ」

男「包帯は、賊の船に閉じ込めた連中を見張っている。
 俺と双子妹の二人組だが、
 なに、それで二十人ほど倒したんだ。問題ない」

双子妹「自分も、男のお兄様も捜し物は得意であります。
 なので、これがきっとベストかと思われます」

白髪「……」

男「俺達はずっと船にいたからな、
 まだ体力もある。
 満身創痍のお前達よりはまだ戦えるつもりだ」

白髪「すまねぇ。まかせた」

少女「それじゃ行こう!
 私たちは街の東側に向かうから」

男「なら西側に向かう。
 気をつけろ、襲ってきた連中の代表格、
 あの賊はまだ倒していない」

少女「りょーかいっ!」

 だだーっ
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:45:12.31 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 パリウガ

子供2「よし、これで大丈夫か?」

子供1「うん。お母さんが大事にしてたブローチ、
 ちゃんともった!」

子供2「それじゃ、いそいで戻ろう。
 きっと心配してるよ」

子供1「うう、2ぃちゃんも巻き込んで、ごめんね」

子供2「きにするなよ。
 さ、いくぞ
 大丈夫、なにかあったら、僕が守ってあげるから」

子供1「うん!」

 たたーっ……

 どんっ

子供1「い、いったーい」

546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:45:44.31 ID:mCLygqSvo
賊「おうおう、どうしたガキ共」

子供2「ひっ」

賊「がはは、町の連中が見つからないと思ったが、
 やぁっと見つけたぜ。
 この町はよっぽど襲われなれてるのか?
 避難が早くて嫌になるぜ」

 がしっ

子供1「きゃぁっ!」

子供2「1っちゃん、1っちゃんっ!」

賊「さぁて、最初のエモノだ。
 運がいいなぁ、一番早く、絶望できるんだぜ?
 他の連中も、すぐそうなるから大してかわらんがな」

子供2「くっ」ちゃきっ

賊「ん? なんだ、一丁前に剣を使えるつもりか?
 ぁああん?」

子供2「くぅっ、てやぁっ!!」

 ばぎゃんっ!

 ずさあああ

547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:46:28.44 ID:mCLygqSvo
子供1「2ぃちゃんっ!」

賊「がはは、軽い、軽すぎるぜぇ。
 吹っ飛んじまったなぁ」ガッ

子供2「う、……い、きが」

子供1「やめて、2ぃちゃんを離して!」

賊「うるせぇ!
 その耳障りなキンキン声でわめくんじゃねぇ!」

 ガッ

子供2「1っちゃん、血が、頭から血が!

賊「あぁん、死んだか?
 ったく、小さい女だって、
 そりゃそれで売り先があるんだがな。
 まあいいか、一匹くらい殺しても」

子供2「よ、く、も……ぐはっ」

賊「なんだよ、粋がるなよ
 お前もすぐに送ってやる、よっ!」

ぶんっ

548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:47:00.21 ID:mCLygqSvo

 がきん!

白髪「――は、軽い。かるいなぁ」

 がきぃぃいん

賊「てめぇは、あの酒場にいた!」

白髪「恨みがあるのは俺達に、だろ。
 よそさまに迷惑かえるなんざ、いけねぇ大人だ」

白髪(くっ、まさか、
 少女達とちょっと分かれた瞬間に、
 まさか狙ってくるとはな。
 騒ぎを聞きつけて……間に合うか?)

子供2「しらが、さん」

白髪「よくかんばった。
 妹をまもったんだろ?」

子供2「うん、うんっ」ぼろぼろ

白髪「じゃ、今度は俺が守る番だな。
 手をつないで、連れて、走りな」

子供2「でも、白髪さん、真っ赤で!」

549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:47:36.90 ID:mCLygqSvo
白髪「なぁに、かすり傷さ」

子供「嘘だ、だって」

白髪「坊主!」

 びくっ

白髪「かあちゃんが心配してるぜ。にかっ」

子供2「…………っ、約束!」

白髪「あん?」

子供2「こんど、必殺技!」

白髪「ああ、いいぜ。今度、な」

子供2「いくよ、1っちゃん……」

子供1「おにい、ちゃん」

子供2「大丈夫だ、僕が、まもるからな!」

とた、とた

550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:48:05.10 ID:mCLygqSvo
白髪「……待っててくれるたぁ、優しいなぁ」

賊「なに、一度希望を持ってからのほうが、
 絶望ってのはより輝くからな。
 子供を逃がしたつもりだろ?
 俺を倒せば大丈夫だって思ってるんだろ?」

白髪「あたりまえだ」

賊「そんなお前が俺に負けて、
 ガキの前で八つ裂きにされる姿をよぉ
 想像するだけで、たまらねぇんだ……」

白髪「けっ、この外道が」

賊「外道でけっこう。
 そんな言葉で何かを思うような生き方はしてねぇよ」

白髪「そうかい。
 そんじゃぁ、後はやるだけ、か」

賊「ぬぅぅううんっ」

 がいぃぃん

白髪「ワシが、ココでお前を倒すぜ」

賊「やってみろっ」

551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:48:30.93 ID:mCLygqSvo
 がきぃぃいいんっ!

 がんっ、がきんっ! がっきぃん!

賊「そういやぁ、さっき言ってたなぁ。
 必殺技だったか?
 おもしれぇ、やってみろよ」にたり

白髪「……あるわきゃねぇだろ」

賊「おいおい、信じてくれるガキをだますほうが、
 よっぽど外道じゃねぇのか?」

白髪「外道ってのは、人の道をすてたヤツだろう。
 わしはせいぜい、悪党って所さ」

 がきぃぃんっ

白髪「勝手気ままに生きてきた――」

 がっ

白髪「親は神の愛だのなんだのと説いてくれたがよ、
 ワシは多くの人間を殺してきた――」

ぎりぎり

552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:49:02.60 ID:mCLygqSvo
白髪「正義だ、悪だ、異教徒だ。
 なんだかんだ言って、殺しすぎたしな
 地獄行きは免れねぇよ」

 ばっ

白髪「だが、悪党の俺だからな、
 そんな悪党なりに、子供を笑顔にさせる嘘くらいは、
 夢を見させるくらいは、したっていいだろ」


白髪「地獄巡りが百週から百一週になったって、
 大してかわりゃしねぇのさ」

賊「で、言いたい事は終わりか、よ!」

 ががっ、ぎんぎんぎんぎんっ

白髪「く、てめぇ、手を抜いてやがったか!」

賊「その『かすり傷』、
 随分血だまりをつくるじゃねえか」

白髪「……」

553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:49:50.48 ID:mCLygqSvo
賊「それに、踏み込みがあまいぜ。
 足にも怪我があるんじゃねぇか?
 その傷でをかばおうとして、全体がガタガタだぜ。」

白髪「待ってたのかよ、俺が消耗するのを」

賊「はっは、外道らしくていいだろ?」

白髪「ああ、まったく外道らしい!」

 ぎぃんっ、がぁぁんっ!

白髪「ちっ、剣が……」

賊「ははっ、もう手に力が入らないか?
 目もみえてねえんじゃねぇかぁ?
 ……拾う時間はやらねぇがな」

白髪「だからなんだよ……
 てめぇ一人殺す程度、素手でも十分ってもんだ」

賊「はっ、だったらせいぜい、見せてみろ!」

 ずばしゅ、ガッ

554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:50:24.94 ID:mCLygqSvo
賊「く、てめぇ、自分から前に突っ込んで!」

白髪「剣の威力があるのは先端だけだからなぁ。
 近い相手にゃ、骨でとまる……ぜ、はぁ」

賊「だが、それが、どうしたぁ!」

 ぐぐっ

 ぶしゅぅっ

白髪「……ここで引かなかったのが、お前の敗因だ」

賊「負ける?
 俺が負けるだと?!
 意味がわからねぇっ!」

白髪「痛みや恐怖で俺が引くとおもったか?
 あいにく、俺はもう、引くわけにはいかねぇのさ
 それ、顎ががら空きだ!」

 がっ

賊「ぐぅっ」くらぁっ

555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:50:55.65 ID:mCLygqSvo
白髪「まだいくぞ、喉!」

 がつんっ

賊「ごぶぅっ。げ、げぇええっっ」

白髪「顔を下げちゃいけねぇなぁ……
 目が、丁度狙い易い高さだぜ」

 ぐっ

賊「ま、まへっ、目は」

白髪「言ってるだろ、俺は悪党だってよ
 ……大切なモノを守ろうってんなら、
 手段なんざ選んでらんねぇ、てな」

556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:51:56.47 ID:mCLygqSvo
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 たたたっ、

少女「あ、ちょっと、きみ!
 もしかして、町長さんのとこの」

子供2「お、お姉ちゃんはだれ、
 あの怖い人達の仲間?!」すちゃ

少女「ちがうよ、白髪って人の、家族、かな」

双子姉「家族だよっ!
 家族でいいの!」

狼「……まあ、あの野蛮な連中とは、敵」

子供「た、助けて!
 白髪のおじちゃんが、おじちゃんが!」

狼「っ、どっち?
 どっちにいるの?」がっ

子供2「あっち、案内するよ」

557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:53:05.99 ID:mCLygqSvo
双子姉「……だめだよ。君たちはこっち」

子供2「でも、でも!」

双子姉「白髪のおっちゃんが必死で逃がしたのに、
 危ない所にもどるなんてダメだよ!」

子供2「……うう」

少女(痛いくらいに、伝わってくる。
 強くなりたい。
 無力はいやだ。
 なにかしたい。
 自分に、もっと力があれば。
 私にも憶えのある気持ち)

双子姉「お母さんの所に、
 連れて行ってあげるから、ね」

子供2「……」

子供1「うぅん……」

子供2「……わかった」

少女「双子姉ちゃん、任せても」

双子姉 こくり

558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:53:44.62 ID:mCLygqSvo
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「さーん」

「し……さ……」

「白髪さーん」

「……こっちだ」

 たたっ

少女「う……っ」

白髪「がはは、わりぃなぁ、
 ちょっと、立ちくらみがしてよ。
 楽させてもらってるぜ」

少女「た、立ちくらみとか、そんな!
 服破くよ! しばるから、痛いけど我慢して!」

白髪「くっ、おいおい、
 かまわねぇよぉ、そんなこと」

少女「そんな事じゃないよ!
 これじゃ、このままじゃ!
 ああ、血が、」

559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:54:34.14 ID:mCLygqSvo
白髪「首のそばだしなぁ。
 でかい血管が斬られりゃぁ、どうしようもねぇよ」

少女「傷、焼けば血は止まるって……」

狼「……一つや二つ塞いでも、ムリね。
 血のにおいが、しすぎてる」

少女「もしかして、ごめん、みるね」

 そっ。ばり、ばりばり

少女「あ、あ……」

狼「こんなに傷……」

白髪「いやぁ、いけねぇなあ、
 もう若い頃みてぇにはうごけねぇよ」

少女「もしかしてずっと、こんなにたくさんの傷、
 山の上にいたときからなの?
 あの時からずっと、隠してたの?!」

白髪「まあ、いくつかは、な」

少女「ばか、ばか、ばか……」

560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:55:06.01 ID:mCLygqSvo
白髪「なあ……」

狼「なに?」

白髪「おれよぉ、こないだ作戦会議した、
 あの廃墟にあった教会で、うまれたのさ。
 俺の灰は、そこから、海に……」

少女「そんな、死ぬみたいな事いわないでよ!」

白髪「わるいが、今回ばかりはなぁ
 冗談だ、とは、いえねぇのさ」

少女「勝手だよ、嘘だって、言ってよ」

白髪「もう、げほっ、ながくねぇ」

少女「……う、あ」

白髪「わがままばかりでわりぃが、
 さいごに、もう一つ聞いてくれや」

少女「そんなこと、」

白髪「誰にも、街のやつには、
 特に、あのガキ共に、
 俺が死んだって、内緒に、な」

561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:55:32.84 ID:mCLygqSvo
少女「そんな、こと、言わないでよぉ……」ぼろぼろ

白髪「ただ、元気にいきろって、よ」

 たたっ

双子姉「白髪のおっちゃ……あ、あ」

狼「……何か言葉をかけるなら、今よ」

白髪「おう、よかった……
 最後に、顔、みられてよ」

双子姉「そんな、うそ、うそだ」

少女「ねぇっ」

白髪「おまえらも、元気でな」

双子姉「おねがい、だから」

狼「……二人とも」

双子姉「……」よろよろ、ぎゅっ

白髪「おいおい、よごれっちまうぞ」

双子姉「いいよ、そんなの」

562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:56:03.19 ID:mCLygqSvo
白髪「……さむかったから、ちょうどいい、がな」

少女「やだ、やだよ……」

狼「……」そっ。ぎゅっ

少女「う、うぅ……」ぎゅぅっ

双子姉「うん。あのね、あたしもあったかったよ」

白髪「なんの、はなしだよ」

双子姉「出会ったときに、もう大丈夫だって、
 抱きしめてくれたよね」

白髪「さぁて……おぼえてねぇなあ」

双子姉「嘘つき。あのね、あたし……」

白髪 なで

双子姉「あだじ……」ぽろぽろ

狼「……」じっ

563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:56:37.83 ID:mCLygqSvo
白髪「ああくそ、くやしいなぁ、
 双子姉が、成長するのを」

狼「大丈夫。
 いつかは見せにいくから。
 でも、すぐにはムリ。アタシが、守るから」

白髪「そうか?
 そんなら、のんびりまってるぜ」

狼「うん。楽しみにまってて」

白髪「……ああ」

双子姉「あのね、あだじ……」

白髪「……ばーか。泣いたら、
 可愛い顔が、だいな……し」そぉっ

 ぱた……

少女「あ、あぁああ……」

狼「……」ぎゅうっ

少女「あぁああああああっっ」ぎゅぅうっ

564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:57:03.28 ID:mCLygqSvo
双子姉「……ちゃんと」

双子姉「ちゃんと、ざいごばで……」

双子姉 ちーんっ

双子姉「いつも、ごまかして」

双子姉「こないだも」

双子姉「……いまも」

双子姉「だから、云えなくて」

双子姉「大好きなんだよ……」

 ちゅ

双子姉「大好き、なんだよぉ……」

双子姉「……ばか」

双子姉「ばかばかばかっ」

双子姉「ばか……っ」

狼「……ホントに、バカよ、白髪」ぎゅっ

双子姉「あ、くう、うぅぅぅうううううう」ぎゅぅっ

565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 03:58:08.83 ID:mCLygqSvo
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   夜 パリウガ

?「ふっはっはっはは!」

?「すばらしい、実に、じぃつにぃ――ラッキィ、だ」

?「邪魔だった港は炎に包まれ、
 目障りな賊は始末された。
 そして――」

?「あの、憎き白髪もここで屍に」

?「神よ、ああ神よ!
 信じる者は救われる!
 アナタに全てを預け渡し、祈り続けるこの私こそ!
 あなたの愛にふさわしい!」

?「さあ、踊れ踊れ! 幕は上がるぞ!」

?「街を真っ赤に染め上げて、
 炎を背景にタイトルコールだ!」

?「アッラーよ、たたえる我はココにあり!!」

?「アッラーフ・アクバル!
 ラー・イラーハ・イラーッラー。
 ハイヤー・アラー・ハイリ・アアル!!」

566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/06/26(日) 04:01:10.38 ID:mCLygqSvo
今日はここまで……
日付変わるくらいに帰ってきて、
加筆訂正だけで三時半になるとか……

ほとんど一心不乱にやったのに><

まっててくれた人、ごめんなさい……

ううう、最近ごめんなさいしないといけないの多すぎ。
もっと頑張る……

とりあえず、次は火曜の夜に来られる、はず><
時刻は二十五時くらい。
頑張る!><
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/26(日) 04:07:48.91 ID:nObtw2tSO
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/06/26(日) 04:09:25.13 ID:OvUZcQnAO
乙!

ちょくちょくネタに走るなぁ
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/06/26(日) 08:47:22.09 ID:CrN63evG0
乙でございます!!
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/26(日) 11:47:25.35 ID:Cm8Bo9r/0
乙カレー
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/26(日) 14:58:10.28 ID:4FtujVnP0
乙!

白髪……
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2011/06/27(月) 10:09:25.73 ID:jhSnPG4Ho
白髪が死ぬ・・・だと?
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/06/27(月) 10:30:38.16 ID:IrbsR1lw0
白髪ぁぁぁ!!
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage_saga]:2011/06/29(水) 22:47:16.81 ID:eMQA+j7Eo
書いていたファイルが消えたかもしれない……

がんばって復旧する!

むりなら書き直すけど、
その場合はまとまった量の投下はできないであります……
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/29(水) 22:50:28.58 ID:hdGNSGmpo
ホスト違うけど何事?
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage_saga]:2011/06/30(木) 00:18:28.65 ID:vMfZlc9B0
いまちょっとパソコン詳しい友人の所に相談に来ていて、
外から書き込んでるなり><
スマフォのデザリング便利……

で、結局データは戻らないみたいだから、
今日はちょっと投下をごめんなさいさせてくれ……

そのかわり、土曜には一気にいくよっ><
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/30(木) 00:29:07.42 ID:omwJGgfK0
待ってるよ!
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/30(木) 01:48:47.85 ID:VtCdJk3Xo
ロックオォォォォン!ってなった
満身創痍の年取ったロックオンにしか見えなくなったから困る
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/07/02(土) 23:28:49.92 ID:DB+5NavU0
そろそろ来るか?
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:21:17.87 ID:KM8wf9O0o
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   夕刻 海賊船廊下

 とことこ、ぱたん

男「……少女の調子はどうだ」

双子妹「昨夜の内に熱も下がり、
 今は大人しく休んでいるでありますよ。
 傷はもう、軽いモノならある程度なおり始めてるです」

男「頑丈だな。
 バカだとは思っていたが、
 分類上は体力バカのたぐいか」

双子妹「あはは、あんまり言ったら、
 かわいそうでありますよ」

男「もういいと言っているのに、
 命を捨てるように敵に突貫する者を、
 バカや愚か者と言わずになんという」

双子妹「……実は怒ってます?」

男「知らん。
 それにしても、かなり傷を負った様に見えたが、
 もう遠からず治るか」

581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:21:44.27 ID:KM8wf9O0o
双子妹「深い傷はいくつか有って、
 痕も……きっと体に刻まれるであります」

男「仕方ない奴だ。
 ……だが、治るならばいいだろう。
 一時は死にかけた身だ」

双子妹「その推測にも疑問が生じているであります」

男「どの部分に疑問がある。」

双子妹「先ほど室内に食事を持ったものの、
 未だに手を付けていないかったのであります。」

男「寝込んでいた二日、いや既に三日か。
 寝ている間は、水と薄く煮た羊の乳の麦粥を、
 少量流し込んだだけだったな」

双子妹「そうであります。
 少しずつ含ませてもすぐに咽せてしまうので、
 結局諦めざるをえなくて……
 吸収が消費に追いついていないと思うであります」

男「ゆれる船では、寝ていても体力を使うからな。
 足しにはなっていないというわけか」

双子妹「幸いこの船には、
 他の船や、場合によっては中規模の街よりも、
 医薬品や滋養を取る事のできるモノには、
 恵まれた環境にあるですが……」
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:22:12.75 ID:KM8wf9O0o

男「口に入れようとしなければ意味がないな。
 どうするつもりだ?」

双子妹「食べてもらう事は、前提であります。
 でも、だからといって、
 マウスオープナーとかを使うわけには……」

男「食事を拒んで餓死しようとする奴隷に、
 流動食を飲ませるために突っ込む道具だったか。」

双子妹「はい。」

男「あんなもの、ウチの船にあったのか?」

双子妹「医療用の道具として、
 一応積んでいたであります。」

男「そんなモノは使わなくていい、
 と言いたいが、少女が自発的に食べないならば
 一つの手段として、検討が必要か。」

双子妹「……」

583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:22:39.16 ID:KM8wf9O0o
男「難儀をかける。
 いざとなれば、嫌われ役は俺がやろう。」

双子妹「まあ、自分は兼任でも船医でありますから。
 その時は、お姉様の体を守ってあげてください。」

男「……やはり、少女がモノを食わないのは、
 食欲などの問題では無く、
 白髪の事が原因だと思うか?」

双子妹「根底にはあると思うであります。」

男「他にもあるのか?」

双子妹「自分は推論は口にしても、
 推察には語る言葉を持たないであります。」

男「……自分で向き合えと云う事か。
 確かにそうだな。」

双子妹「ついでに、多少なりとも、
 料理をお姉様に食べてもらえると、
 自分としては無理強いせずにすむであります。」

男「善処しよう。」

584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:23:06.12 ID:KM8wf9O0o
双子妹「それでは、自分は今回の戦闘の報告書、
 主に在庫の確認などを行うであります。」

男「すまんな。
 夜は包帯に、滋養がつく物を作るように言おう。
 お前にも、疲れがみえる。」

双子妹「……はい。」

男 ぽん……

 こんこんこん

男「俺だ、入るぞ」

 かちゃ……ぱたん

双子妹「……船長殿だって、
 辛そうでありますよ。
 ……無理をしすぎないと、いいでありますが」

585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:23:31.83 ID:KM8wf9O0o
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   夕刻 海賊船女子部屋

少女(なんで、だろ……)

少女「……」

少女(ただ、涙が、とまらない――)

男「寝ているワケでは無いようだな」

少女「……」

男「熱は引いたと聞いたが、
 気分はどうだ」

少女「……」

男「せっかくの食事、食わんのか。
 食欲がないというお前にと、
 包帯が作ったリンゴのコンフィなど、うまいぞ。
 貴族でもそうそう食べられる味ではない」

少女「……」

586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:24:00.39 ID:KM8wf9O0o
男「……ムリをしすぎだ、馬鹿者。
 双子姉も狼も置いて、 
 一人で敵を殺して回るなど。」

少女「……」

男「あと一歩俺達が捕捉するのが遅れていれば、
 お前まで白髪の様に倒れていたぞ」

少女「……のに」

男「なんだ?」

少女「その方が、よかったのに……」

男「死にたかったのか」じろっ

少女「……」

男「お前が道連れになったところで、
 白髪が喜ぶという事でもない。
 何を血迷っている。」

少女「それだけじゃない……私がいなければ、
 みんな、街を追われなかったよ。」

587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:24:30.51 ID:KM8wf9O0o
男「あの砲台の生き残りがなにやら言っていたな。
 お前が人質にならなければ、
 砲台は落ちることなく、海賊も街に入らなかったと。」

少女「私の、せいだから。」

男「だが、お前達がいなければ、
 街には無傷な連中が大挙して押し寄せていただろう。」

少女「……」

男「加えて言うならば、
 連中の覚悟と意識が足りなかっただけだ。
 お前は攻められるために、攻められているに過ぎない。
 罪悪官を感じる事はない」

少女「でも……」

男「たった四人で、三百人の敵を倒しきったんだ。
 この街の兵力が通常通りであったとしても、
 三百の敵に奇襲されれば壊滅的な損害を被っただろう。
 それを防いだ」

少女「……できて、なかったよ」

男「海側の敵を防ぎきれなかったのは、
 お前の責任ではない
 お前はできる限りの事をした。

588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:24:59.27 ID:KM8wf9O0o
少女「でも、私のせいで、みんな、
 石を投げつけられて、追われて。」

男「そんな態度を取られるのはいつもの事だ。
 どの港に行っても、海賊の俺達は……
 異形の俺達はなおさら、石をもって追われる。
 いつもの事だ」

少女「私のせいで、助けにきた白髪さんまで、
 街を、壊した立場にされて」

男「掲げる旗や信じる神が違えば、
 認められる行為やその見方が変わる。
 ソレがこの世界の理屈だ。結果は変わらん。」

少女「……それなら」

男「なんだ」

少女「それなら白髪さんは……
 何のために……」

男「……」

少女「っ……ぐすっ……う……ぅう……っ ぽろぽろ」

589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:25:30.98 ID:KM8wf9O0o
男「ならば、お前は楽園を見れば満足だったのか?
 そんな物は、この世にはない。」

少女「そん、なの……そんな、いいかた……」

男「……」

少女「ぅ……っ、ぐすっ……」

男「食事は摂れ。吐かない程度に腹に入れろ。
 包帯や双子に心配をかけるな。
 迷惑がかかる」

少女「……っ」

男「それ以上の期待はせん。」

少女「…………」

 とことこ、ぱたん

少女「……う、あ、ぐ……うぅ…………」

590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:27:43.47 ID:KM8wf9O0o
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   夕刻 海賊船女子部屋

狼「大人げないわね」

男「聞いていたのか」

狼「聞こえただけ。
 アタシも少女の見舞いに来てさ。」

男「なら見舞えばいい。
 俺は船橋に行く。
 いつまでも包帯に舵を任せ続けるワケにもいかん」

狼「む、男の尻ぬぐいなんてお断りさ。
 そもそも、慰めに行ったはずじゃないの?」

男「……」

狼「アタシね、普段の男は嫌いじゃない。」

男「何だ、唐突に」

狼「無愛想で、やる気も覇気もない」

男「……それは誉めていないな。」

591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:28:12.50 ID:KM8wf9O0o
狼「でも、船長としてやるべき事はこなす。
 必要以上に干渉してこない、
 わきまえている、居心地の悪くならない相手。
 そういう意味で、嫌いじゃない」

男「奇遇だな。俺も、お前を同じように思っていた。」

狼「そんなのはどうでもいい。
 ただ、今の男は、嫌い。
 仲間に対する尊敬が、見えない。」

男「……そうかも知れんな。」

狼「自覚はあるってわけ。
 少女の事が嫌いなの?」

男「……なぜだ」

狼「少女が関わると、男の態度が変になるから」

男「そんな事は……」

狼「無いって云えないでしょ」

男「……」

狼「もしかして少女も、あの黒ひげの――」

 どかっ

592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:28:39.65 ID:KM8wf9O0o
男「あの名前を、口にするな」

狼「関係者なの?
 男がこんな風に、
 普段とは違う態度を取るのって、
 アタシが知る限りは、それだけだから。

男「……そのような情報はない。
 そして、その可能性もないだろう」

狼「ただ、そこに近い『過去』に彼女がいる?」

男「聞くな。
 お前は詮索されるのが嫌いだと思っていたがな」

狼「そうよ。
 触られるのも、詮索されるのも嫌い。
 でも、触ったり、詮索したりするのは嫌いじゃないわ」

男「……身勝手だな。」

狼「前者は私の感情。
 後者は無理強いしなければ問題にならないでしょ。
 で、答えるの?」


593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:29:15.07 ID:KM8wf9O0o
男「答えん。」

狼「そう、ならアタシにできる事はないわね。
 ……あと、伝言。
 包帯が、矢尻十字について話があるって。」

男「それを早く言え。
 マータ騎士団か……
 くそっ、こんな時に」

 とことこ

狼「……尻ぬぐいは嫌いなんだけど。
 食事くらいはさせないと、かな」

狼「なんでアタシがこんな事しないといけないのよ。
 こういうのは、白髪の……」

狼「白髪……」

狼「ふん、あんなセクハラ魔神なんて……」

594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/03(日) 05:29:49.49 ID:KM8wf9O0o
ごめん、かけてないので、今日はここまでなのです……うううう
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 11:11:04.35 ID:d3A1wFMao
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/03(日) 20:29:43.97 ID:hs7Gl2WY0
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/07/03(日) 22:25:23.87 ID:8/bx9Aqh0
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/03(日) 23:09:56.42 ID:NwzA+9WAO

焦らなくていいから、気長に待ってるよ
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/09(土) 08:24:33.03 ID:9rbfsbz70
楽しみにまっているであります!
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/11(月) 01:03:43.07 ID:PccTjLue0

待っているぞいつまでも
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 04:50:35.85 ID:sbJlgKRIO
やっと!やっと追いついた!
面白い支援
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/13(水) 02:11:16.19 ID:8Mk/e9+8o
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   夕刻 海賊船廊下

 とこ、とこ……

男「ふん……。判っている」

男(そうだ、誰よりも俺が、自分が判っている。
 少女に対する態度が、平静では無いとな)

男「狼の勘も、あなた勝ち外れてはいないしな」

男(確かに少女は、
 あの男――家族の仇である黒ひげとは、
 直接的に関係はない)

男「だから、嘘はついていない」

男(ただ、俺にとっては無縁ではない。
 切り離せない、近しく結びついた存在――)

男「言うなれば、八つ当たり、か」

よろっ

とすっ

男「……いまさら」

603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/13(水) 02:11:56.77 ID:8Mk/e9+8o
男(黒ひげに家族を殺されて、
 俺自身も傷を負わされ、
 荒れ狂う海に突き落とされたあの日、あの時。
 俺の人生は、変わった)

男「あの男への復讐だけが」

 ぐっ

男「俺の、生きる理由になった」

男(どれだけの時間を、
 波にもまれながら、
 小さな木片にすがりついて流されたか)

男「今でも、思い出せる」

男(じりじりと、熱した針を突き刺すような陽光に、
 体中を焦がされながら、
 一面に俺を囲む海によって、
 呼吸するたびに割れそうな喉の渇きを抑えながら)

男「あの男を殺す事だけを考えた……あの、時間」

男(少女は、それを、思い出させる)

604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/13(水) 02:13:44.95 ID:8Mk/e9+8o
男「……八つ当たり、だがな」

男(いまだ俺は生きている。
 なのになぜ、あの男は死んだのか)

男「俺は、この振り上げた拳をドコに降ろせばいい……
 いや、判っている、少女にではない、
 それは、わかって……」

 ぐっ

男「……悩んでいても、解決はしないな」よろ、よろ

『ねえ』

男「うるさい」

『あのね、いつかね』

男「だまれ」

『――――――――――――』

男「どうしてだ。
 なぜ、死ぬのが俺では無かったんだ……」

『それが、大切なの?』

男「白髪ではなく、俺が、死ぬべきだったんだ……」

605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/13(水) 02:14:22.86 ID:8Mk/e9+8o
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   夕刻 海賊船談話室

包帯「ああ、船長。
 ごめんね、呼び出しちゃって」

男「かまわん」

包帯「……なにか、あった?」

男「何かあったのはこっちだろうが。
 矢尻十字についての話だと聞いたが、
 騎士団の船でも襲ってきたか」

包帯「近からず、遠からず。
 マストの上で見張りをしていたら、
 遠くに連中の船が見えてね。
 こっちは偽装としてスペインの国旗を出してたから、
 まあ問題ないかなーと、
 手旗で挨拶だけして追い越させるつもりだったけど」

男「ということは、来たのは後ろからか」

包帯「まあ、後ろって言っても、
 水平線の縁をなぞるようなぎりぎりだったけどね」

606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/13(水) 02:15:55.51 ID:8Mk/e9+8o
男「そうか。それで、その船がどうした?
 確かに騎士団の船がイオニアのこんな奥にいるのは、
 多少違和感があるが、
 珍しい事ではないだろう」

包帯「それは同意。
 でも、なんだか立派な鷹が飛んで来てね。
 足にこの手紙がついてたんだ」

男「手紙だと」 がさがさ

包帯「一応、頭の部分だけ開いて、
 船長宛って事だけ確かめたよ」

男「それくらいは問題ない……なるほど、青年か」

包帯「青年さんって、知り合いの名前かい?
 にしては、あんまり嬉しく為さそうだけど」

男「知り合い、だな。
 まさかこのタイミングで会うか……」

包帯「どんな関係か、聞いても?」

男「昔の同僚だ。騎士団時代のな」

包帯「へえ。だから砲弾じゃなくて
 手紙が飛んで来たのかな」
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/13(水) 02:16:50.52 ID:8Mk/e9+8o
男「そういう事だろう。
 あまり助かったという気はしないがな」

包帯「手紙にはなんて?
 命が惜しければ降伏しろとか
 昔なじみのよしみで降伏の機会はやろう、とか」

男「確かに騎士団の主な『任務』は海賊行為だが、
 相手をするのはあくまで、トルキア勢力に対してだ。
 基本的に、この近辺の船は敵としては扱われん」

包帯「……通行料さえはらえば、だけどね」

男「否定はできんな。
 だが、こいつについてだけは違うと言っておこう」

包帯「どういう意味なんだい?」

男「そうだな……『騎士』だからという言葉で通じれば、
 分かり易いのだが」

包帯「騎士団なんて、貴族の三男、四男の集まりでしょ。
 金と権力と身内での評判以外を気にする人間って、
 それ以外のどんな意味が騎士にあるんだい?」

男「……相変わらず貴族に関する事には、手厳しいな。」

包帯「あ……ごめん。
 男さんとか白髪さんは、含めてないから」

608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/13(水) 02:17:42.19 ID:8Mk/e9+8o
男「気にするな。
 俺も立場は元貴族だった身として、
 少し気になっただけだ」

包帯「そっか、貴族だった――って、え?」

男「なぜ、そこまで、驚いた顔をする。」

包帯「貴族らしくないし、
 てっきり騎士団にいたっていっても、
 小間使いとかかなーと思ってたからね」

男「まあ、白髪は元はそうだったが、俺は違うぞ。
 俺が生まれた後に、親が貴族と婚儀を結んだからな、
 名目上は貴族として騎士団に入団した身だ」

包帯「でも出身は庶民なんだよね。
 だから、あんまり貴族臭くないのかな」

男「それは、そうかも知れんな。
 おかげで賤民と言われていたが――
 いや、話を戻そう。だいぶズレた気がする」

包帯「手紙についてだね」

男「内容は、近くの港に来いとある」

包帯「罠とかかな?」

609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/13(水) 02:18:29.74 ID:8Mk/e9+8o
男「いや、それはないだろう。
 先ほど言いかけたが、
 こいつは騎士道を重んじる、
 まさに理想の『騎士』なんだ」


包帯「みんな大好きトマス・マロリーかい?
 ロマンはあるけれど、冗談としては面白くないね」

男「冗談では無い。いや、冗談ではすまない、だな。
 トマスを知っているなら話は早いが、
 誇りと忠義を何より重んじるという、
 理想の騎士を書いた物語を読んで、
 そうなりたいと願う者は、
 騎士団内部でも実は少なくないんだ。だが……」

包帯「まあ、判らないでもないけど、
 現実との違いを知るとか、そういうところでしょ。
 『帝国の方が騎士道精神にあふれている』なんて、
 言われている始末だからね」

男「……返す言葉も無いな。
 だが、中にはそんな幻想を、
 現実にしてしまおうという奴もいてな」

610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/13(水) 02:19:19.49 ID:8Mk/e9+8o
包帯「その彼は、今もそれを目指していると?」

男「同僚からすれば『厄介なことに』な。
 そんな奴からの誘いだ。
 罠という事はない」

包帯「……」

男「白髪の死を伝えるため、
 いずれ連絡を取ろうと思っていた所だ。
 俺は誘いに乗ろうと思う」

包帯「了解。まあ、船長の意向だからね、従うよ。
 むしろ、違う意味で船長に対する罠みたいだから、
 見ていて面白くなりそうだしね」

男「どういう意味だ?」

包帯「どういう意味も何も、
 そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいんじゃないかい、
 って事だよ。ふふ」

男「……苦手なんだ。奴が。」

611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/13(水) 02:19:58.94 ID:8Mk/e9+8o
包帯「みたいだね。
 もしかしてアレかな、よく言う、昔の自分を見て――」

男「そうと決まれば! 進路を変える」

包帯「……ふふ、了解。他のみんなにも伝えてくるよ」

男「任せた。
 あと、あと今夜の食事は滋養のつくものを頼む。
 双子妹を筆頭に、疲れているようだ。」

包帯「うん。任せてもらうよ。
 この辺りは港も多いからね、
 いざとなれば食材なんかはまたすぐに買えるし」

男「負担をかけてすまんな」

包帯「仕方無いよ、人手がないし」

男「……せめて、双子姉が残っていればな」

包帯「……居ない人の事を言っても、仕方無いよ」

男「そうだな。ひとまず俺は自分の仕事を済ませよう。
 晩飯の時間になったら教えてくれ」

包帯「アイアイサー」

 とことこ

612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/13(水) 02:22:26.68 ID:8Mk/e9+8o
続きはあしたー!
明日は朝早くて午後はあいてるから、
挙運お未投下あわせて日付変わる前に来て投下するよ!
まとまってできなくてすまぬ……

乙ってくれたみんな、ありがと!
未だに鼻がずびってるおいらから、
ビエンヤクを進呈(>_<)
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/13(水) 02:32:30.69 ID:b0ZdUU+Zo
姉も居なくなったのか…
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/13(水) 06:26:41.08 ID:OSFwGtti0
追いついた乙
狼に対する愛情を一言残そうとしたら白髪の一件でお通夜モードになっちゃった……
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/14(木) 15:40:11.02 ID:0G1IZu2k0
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/15(金) 01:56:53.06 ID:2RhU5THV0

物語の人物の死で本気で悲しむなんてめったにない
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/18(月) 23:26:32.39 ID:FPTR6zbzo
やっと追いついた。アハーンなスレタイだと思ってたら原始最強もびっくりなカウンターを食らったぞ。
600レス分をまとめて>>1乙ッッあと続き待ってるよ。
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:20:06.04 ID:PoO4m/tco
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   夜 バリウガ町長宅

双子姉「へっくちっ」

赤毛「大丈夫?
 ちょっと冷えてきたかしらね」

双子姉「へーきへーき。
 多分誰かが噂してるんだよ」

赤毛「あら、どんな噂かしら」

双子姉「港のおっちゃんとかがさ、
 『マスター、今日港ですれ違ったあのレディー、
  どこの誰かわかるか?
  俺はもう一瞬で心を奪われてよ』
 『ああ、町長の所に居候してる双子姉って、
  何とも不憫な身の上の美少女らしい』
 『ああ、それなら俺が、その魂を慰めてやりてぇ』
 とかなんとか、そんな噂が!」

赤毛「ふふ、モテモテなのね。
 それに、声真似もとっても上手よ」

双子姉「なんたって、れでぃーですから!」きりっ

赤毛「ふふっ」にこっ

619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:20:52.23 ID:PoO4m/tco
双子姉「その……ありがとね」

赤毛「何についてのお礼かしら?」

双子姉「イロイロと気を遣ってくれたり、
 こうやってお家に泊めてくれたり」

赤毛「……気にしないで。
 あなたはこの街のお客さんで、恩人だもの。
 できる事はさせてもらってるけど、
 あなた達にしてもらった事を考えれば、
 全然足りないわ」

双子姉「おかげで、あたしは白髪のおっちゃんの葬儀に、
 ちゃんと参列させてもらえたから。
 とっても助かっちゃったよ」

赤毛「そんなのは当然のじゃない……。
 あなたしか参列してもらう事ができなくて、
 街の一員として、申し訳ないわ」

双子姉「でも……街の復興でみんな大変だし、
 海賊に対する風当たりも強いのは当然だよ」

赤毛「街のために一所懸命戦ってくれた人達を、
 無理矢理に追い出すなんて恩知らずじゃない。
 私の声じゃ、あなたしか迎えられなかったけど……」

620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:21:39.50 ID:PoO4m/tco
双子姉「しかたないよ。
 海賊だし、ばけもの、だしね。
 気持ち悪いし、縁起悪いし。
 下手したら、教会からも怒られちゃうし」

赤毛「そんなの、誰かから言われたの?」

双子姉「街の人達は、言ってるよ。
 赤毛さんは優しすぎるって」

赤毛「そんな、恥知らずなこと……」

双子姉「でもね、そうだと思うよ。
 狼の姿をしてたり、包帯でぐるぐるだったり、
 人の何倍も早く歳をとっちゃったりね。
 あたしも仲間として知り合わなかったら、
 不気味な人達とか、怖い人達って感じたと思う」

赤毛「双子姉ちゃんみたいな子に、
 気持ちをくみ取らせるようにさせて、ごめんなさい」

双子姉「謝らないでいいんだよっ!
 他の人達と違うからこそ、いろんな場所から、
 あんな小さな船に集まった仲間でもあるからね!」

赤毛「そう言ってもらえると、
 少しだけ、救われた気がするけど」にこ……

621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:24:06.33 ID:PoO4m/tco
双子姉「だーかーらー、赤毛さんは悪くないんだよー。
 ま、言いたい人には言わせておけば良いって。
 何も知らない人に何を言われても気にしないし」

赤毛「……強いのね、あなたたちは」

双子姉「大切な人に誤解されるのは辛いけど、
 自分とかそんな人に恥じるところが無いなら、
 胸を張って泰然と構えてろってね、
 白髪のおっちゃんに教わったんだよ」にぱっ

『そうすりゃ、お前もちったぁ明るくなれねぇか?
 根暗の嬢ちゃんよ』

赤毛「私も同じ事を聞いた事があるわ」

双子姉「そうなの?」

赤毛「ずっと……ずうっと昔にね」

双子姉「まあ、白髪のおっちゃんは、
 仲間に対しても気にしなさすぎだと思うけどね。
 狼のお姉ちゃんに対してとか……」

赤毛「あらあら……ふふっ」

双子姉「だからね、あたしは平気なの。
 ……ただ、あたし達じゃなくて、
 赤毛さんが立場を悪くしてないかなーとか、心配でね」

622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:25:16.30 ID:PoO4m/tco
赤毛「……嘘をついても、
 あなたを傷つけるだけだと思うから、
 本当の事を言うわよ?」

双子姉「うん」

赤毛「確かにね、一部ではあなたに対してとか、
 あなたの仲間に対して、
 不満を持っている人はいるみたい」

双子姉「……だよね」

赤毛「でもね。
 それ以上に違う声も聞こえるのよ。
 双子姉ちゃんが街の復興のお手伝いをしてくれて、
 とっても助かってるとか。
 あなたの笑顔に励まされた、とか」

双子姉「ふふん、これも双子姉が誇る、
 七つの必殺特技のひとつなんだよ!
 スマイルはプライスレスっ」にぱっ

赤毛「男の子のハートはイチコロね」にこっ

双子姉「でも、白髪のおっちゃんには、
 効果がなかったんだよねー……」しゅん

赤毛「あらあら、まあまあ……」くすっ

623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:28:41.94 ID:PoO4m/tco
双子姉「話を戻すけど、
 それじゃ、赤毛さんには迷惑とか」

赤毛「全然かかってないわよ。
 むしろとっても助かってるくらい。
 子供達の面倒も見てくれるし、ね」

双子姉「面倒なんて、ちょっと気にかけてるくらいだよ。
 二人ともあたしと一緒に、
 一日中ずーっと、復興のお手伝いしてるから。
 ……まだ遊びたい頃だと思うんだけど」

赤毛「そうね、今までだったらわがままを言って、
 手伝いなんかしなかったと思うんだけど……
 あの子たちも、白髪さんから『何か』を、
 受け取っていたのかしら」

双子姉「白髪のおっちゃんったら、モテモテだね」

赤毛「ふふ、そうね。
 心配をかけるかも知れないけど、
 これからもあの二人と仲良くしてくれたら嬉しいわ」

双子姉「ばーんとぉっ、任せちゃってよ♪
 あ、でも、そのかわり、ね」

赤毛「なにかしら?」

624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:29:11.70 ID:PoO4m/tco
双子姉「赤毛さんの時間がある時でいいから、
 いろいろ、教えてほしいなーって。
 昔の、白髪のおっちゃんの事」

赤毛「……ええ、私の知っていることなら、喜んで。
 でも、いいのかしら?」

双子姉「ん、なにが?」

赤毛「あなたにとって、
 白髪さんの話は、まだ辛すぎないかしら?」

双子姉「……」

赤毛「私はずっとこの街にいるから、
 何年か経って落ち着いてから、
 聞きに来てくれても良いと思うの。
 今は、無理をしなくていいのよ」

双子姉「そうだね、無理はしない方が良いとおもう」

赤毛「それなら……」

双子姉「でも」

赤毛 じっ

双子姉「そうじゃないんだよ」

625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:29:51.12 ID:PoO4m/tco
赤毛「違うの?」

双子姉「白髪のおっちゃんの事をね、
 あたしは大好きだったんだ」

赤毛 きゅっ

双子姉「えへへ、赤毛さんの手、あったかいね」

赤毛「……」

双子姉「その気持ちを伝えたらね、
 おっちゃんには、家族の好きとか男女のとか、
 いろいろ言われたんだけどさ。
 正直まだ、あたしにはよくわかんない」

赤毛「難しいわよね、そういうの」

双子姉「うんうん。
 でもね、ひとつ言えるのは、
 とにかく大好きだったんだよ、ってこと」にへら

赤毛「あなたと話してると、
 とっても、伝わってくるわ」

双子姉「たぶん、だから心配してくれたんだよね。
 白髪のおっちゃんが天に召されて、
 その事で、あたしが無理をしてないかって」

626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:30:48.27 ID:PoO4m/tco
赤毛「ええ。
 神はいたずらに試練をお与えにはならないわ。
 でも、自分を壊してしまうほど、
 過ぎたがんばりはいけないのよ?」

双子姉「んー、あたし、
 白髪のおっちゃんの神学のお話は、
 さぼっちゃってたからよく判らないかも」

赤毛「あら、そうなの?
 あの人のお説教は、他の神父様や牧師様より、
 ずっと興味深く聞けたけど」

双子姉「神様っていうのが、どうしても、
 あたしには肌に合わなくて。
 妹を魔女って呼んで顔に入れ墨をいれるとか、
 ヒドイ事をしたのも一神教の人達だし」

赤毛「……ごめんなさい、
 軽率な言葉だったわ」

双子姉「ごめんね、素直に受け取れなくて。
 だから、神様とか、そういうのとは関係なく、
 あたしは、手を伸ばしたいんだと思う」

赤毛「手を、伸ばす?」

627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:31:37.24 ID:PoO4m/tco
双子姉「言葉にしにくいけど、
 おっちゃんが死んじゃうときにね、
 笑顔だったんだ。
 山も街も走り回って疲れ切った上に、
 どうしようもないくらい大けがしてて、
 とっても辛いはずなのに、笑ってたの」

赤毛「……なんでかしらね」

双子姉「わかんない。
 でも、その顔がね、やきついて、るんだよ。
 とっても、とっても、
 やさしい顔で、やさしい声で、
 あたしの事、おいていっちゃうのに、
 それでもどこか、誇らしげでね」

赤毛「とっても……勝手な人ね」

双子姉「うん、勝手だとおもう。
 でも、なんかね、うらやましかったんだ。
 きっと、今のおっちゃんには、
 世界が輝いてみえるんだろうなって。
 そんな光景を見られるような生き方したいなーって」

628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:32:59.74 ID:PoO4m/tco
赤毛「だから、彼の話を聞きたいの?」

双子姉「うん。
 おっちゃんがどんな思いで、この街を守ったのか。
 おっちゃんにとって、
 あたしとか船のみんなはどう見えたのかとか」

赤毛「どう、見えたのか……」

双子姉「今すぐに答え合わせはできないけど、
 おっちゃんの事を知れば、
 ちょっとはそれもわかるのかなって。
 わかりたいな、って」

赤毛「……ホントに、彼の事が好きなのね」

双子姉「えへへ。だからね、心配ないんだよ。
 ちょっとだけ、ほんとーにちょっとだけ、
 胸がちくんとするんだけど」

赤毛「……」ぎゅっ

双子姉「えへへ、ありがとー」にへらっ

赤毛「これくらいしか、できなくて……」

双子姉「嬉しいけど、大丈夫」すっ

赤毛「本当に?」

629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:33:28.29 ID:PoO4m/tco
双子姉「コレはきっと、心の成長痛ってやつなんだよ。
 おっちゃんならきっとそう言うね」にぱっ

赤毛「……そうね。たしかに彼なら、
 そんな事を言いそうな気がするわ」にこ……

双子姉「じゃ、お話を……」

赤毛「でも、今日はダメよ。もう寝る時間でしょ」

双子姉「むー、子供扱いされてるような」

赤毛「まだ成人してないんだから、子供扱いよ」

双子姉「そーゆーところ、
 さすが白髪のおっちゃんの幼なじみだよ」ぼそっ

赤毛「ほら、ぶつぶつ言ってないで、
 布団に入っておやすみなさい」

双子姉「お客様なのにー」ぶーぶー

赤毛「お客様だから、ちゃんとお世話させてもらいます」

双子姉「はーい…… おやすみなさい」にこ

赤毛「はい、お休みなさい」にこっ

630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:33:56.24 ID:PoO4m/tco
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   夜 海賊船女子部屋

 とんとんとん

 がちゃ

男「入るぞ」

少女「……もう入ってるし」もぐもぐ

男「返事が期待できないんだ、おざなりにもなる」

少女「そういう問題じゃないし」むぐむぐ

男「文句ばかりは饒舌だな」

少女「む……嫌がらせにきたの?」

男「いや、双子妹に頼まれてな。
 お前がちゃんと食事を摂っているか、
 確認するために来た」

少女「ちゃんと、食べてるよ」

男「そのようだな。
 食が進んでいるとは言いがたいようだが、
 自分で食べているだけ、二日前よりはマシか。
 顔色も幾分か良くなったようだな。」

631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:34:26.90 ID:PoO4m/tco
少女「だって……」ぶつぶつ

男「なんだ?」

少女「狼さん、が、…………う、うう」ぷすぷす(///

男「おい、どうした?」

少女「く、くち、く、、く……」

男「く?」

少女「いい。やっぱりいい。
 聞かない方がいい」

男「なにやら恐ろしげだな。
 とりあえず、ほどほどにしておけと言っておくか」

少女「別に、そういう事じゃ無いから、大丈夫。
 ……そういう事、言う人だっけ?」

男「何がだ?」

少女「男って、そういう時に、
 俺は知らないって無視する人だと思ってた」

632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:34:52.77 ID:PoO4m/tco
男「そうしたいがな。
 今の船でもめ事がおきれば、命にかかわりかねん。
 白髪も双子姉もいないせいで手が足りん。
 お前もまだ働けんしな」

少女「……ごめん」

男「会話ができるようになっただけ、進歩と思うが。
 体はまだ不調だろう」

少女「体は……大丈夫、明日から働くよ」

男「双子妹は許可したのか?」

少女「許可は、ないけど」

男「なら、船長としても許可できん。
 治れば普通に船員として使える者を、
 ろくに働けない状態で使って死なれてはかなわん」

少女「……」

男「それともなんだ、遠回りな自殺か」

少女「……それも、いいかもね」

 ぎりっ

少女(そういえば、いつかもこんな音を聞いたような)

633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:35:24.75 ID:PoO4m/tco
男「…………そうか。わかった」ぐいっ

少女「え、え……?」

 ぎしぃっ

少女(おし、たおされて、る?
 お腹の辺りに……マウントポジション、だっけ。
 体重、ほとんどかけてないみたいだけど、重い)

男「お前は、死にたいんだな」

少女(普段は同じぐらいの身長としか思ってなくて、
 もうちょっと背の高い人の方が、
 男性としてはイイカナーとか、
 ぼーっと思ってたけど、
 見上げると、ずっと大きく思えて、怖い)

男「もう一度聞く。
 お前は、死にたいんだな」

少女「……うん」

男「ならば、絶食や過労なんて求めるな」すっ

少女(ゆっくりと、男の普段からは想像できないけど、
 優しいと感じるほど丁寧にまぶたを閉じられて。)

男「お前も、ある一点では白髪と同じだ」

634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:36:09.19 ID:PoO4m/tco
少女(船の作業でがさついた指先が、
 なんで、こんなに優しく髪の毛を梳くのかな)

男「遺された者の事を考えない、
 その傲慢さが、よく似ている」

少女(わからなくなる……
 何かを錯覚しそうなくらい優しい動作で、
 なんでか優しく聞こえる声で、そんな言葉)

男「だが、お前と白髪は決定的に違う」

少女「……」

男「お前は、領主の娘じゃなかったのか。
 数百、数千の人間の命と安全を預かる、
 その栄誉と責務も考えない」

少女(領主の娘――
 約束された、そして背負うべき未来。
 そんなもの、別に欲しく無かった)

男「お前は、お前が居なくなることで守れなくなる、
 人々と子供の笑顔の事を、考えるべきだった」

少女(白髪さんがあの賊から守った、二人の子供。
 知り合い、なのかな。
 最後まであの二人の笑顔を気にしてた)

635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:36:46.78 ID:PoO4m/tco
男「お前は、最低だ」

少女(頭を撫でていた手がゆっくりと下がって)

 ぐうっ

少女「か――はっ」

男「お前は笑顔を守ったアイツとは違う。
 守るべき笑顔を見捨てて逝く、
 ただ『逃げ』ただけの、臆病者だ」

少女「にげ、……じゃ」

男「逃げだろうさ。死とは、究極の逃避だ。
 誰も、何も、そこまで追いかける事は無い。
 地獄には落ちるかもしれんがな」

少女「……くる、し」

男「そうだろうな。
 動脈を押さえればさほど経たずに、
 意識を落とす事もできるが。
 そうあっさりと死なせてはやれん」

少女(どんな顔して、私を殺してるの、かな。
 目をふさがれてなければ、みたのに)

636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:37:21.14 ID:PoO4m/tco
男「この船にも、お前においていかれる連中がいる。
 いつもの事だが、今回の件では特に、
 少しでも食欲を持ってもらえるようにと、
 料理を工夫していた包帯」

少女(いつも、うん、おいしかった)

男「いつも以上に仕事をこなした上で、
 何度も繰り返し俺の部屋まで来て、
 少しでも早く良くなるようにと、
 騎士団から持ち出してきた医学書を読んだ双子妹」

少女(だから、あんなに目の下に濃いクマを)

男「お前の仕事を丸ごと引き受けた上で、
 特別な事はできないが何かしたいと、
 お前が傷で熱を持っているときに、
 こまめに汗を拭い、寝具を何度も洗っては替えて、
 一番手間をかけていたのは狼だろうな」

少女(いっぱい、いっぱい――)

男「そうした思いの上に、お前は」

 はたり

男「お前は、白髪と違って生き延びたものを」

637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:38:02.22 ID:PoO4m/tco
 はたり

少女(ああ――)

男「だが、それでも死にたいと言うなら」

少女(どんな、顔って)

男「俺が」

少女(この人)

男「殺してやろう」

少女(泣いて)

男「殺してやりたくないほど憎いが、殺してやろう」

少女(この人でも、涙、あったかいんだ)

男「これも、業か」

少女(苦しい、空気が足りない。
 勝手にもがく体を押さえられる力強さが、
 怖くて、頼もしいような)

男「俺は、殺す事しか、してやれん」

638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:38:34.62 ID:PoO4m/tco
少女( ああ、意識、とび、そ。
 視界、あか、い。しろ、い)

男「そろそろ、眠れ。
 俺も元は僧籍だ、祈りくらいは、くれてやる」

少女(ああ、もう……なんて、優しい声で、この男)

少女 ぐっ

男「……」

少女 ぐぐっ

男「どうした、死にたいんだろう」

少女「ど、け……」

男「……」すぅっ

少女「げ、げほっ、ぇぐっ、げほっ……」

男「……」

639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:40:01.80 ID:PoO4m/tco
少女「ぜ、は……。
 い、いつまで、人の上にのってんのよ……」

男「……そうだな」すっ

少女「案外、重いんだ。全然、動かなかった」

男「これでも、騎士だったからな。
 連中の中では貧相で身長の無い部類だったが、
 必要に足る分はあるつもりだ」

少女「そっか……」

男「……」

少女「……」

男「……なぜだ」

少女「……」

男「なぜ、死ぬのをやめる気になった」

少女「あー……聞くの? それ」

男「言わずに済ませるつもりだったのか、貴様は」

少女「う、怒って、る、よね、うん」

640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:40:46.18 ID:PoO4m/tco
男「当たり前だ、バカモノ」

少女(怖い、はずなのに。むしろ、かな、しそ、う?
 怒っているような口調なのに、違う?
 少しだけ、安心しているようにも見えて、
 どうなんだろ)

男「お前が目を覚ましてから二日。
 他の連中の前では言わなかったようだが、
 俺に対しては三度、死にたいと言ったな」

少女(数えてるとか、几帳面っていうか、うう)

男「また黙りか」

少女「いや、その、なんというか。
 言葉にするのが難しくて」

男「……まだ、ましな言い訳だな」

少女「あはは……。
 なんていうか、さ。
 一度は完全に、殺してくれるのかって、
 殺してもらえるなら死にたいなって思ったんだよね」

男「……」

641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:43:50.55 ID:PoO4m/tco
少女「白髪さんが死んじゃって、
 私の心の中にね、ぎゅってする何かができたんだ。
 ぐるぐる、ぎゅうぎゅうって、
 これを、喪失感っていうのかな」

男「まあ、そうだろうな」

少女「よく、胸にぽっかり穴が開いたっていうけど。
 心臓の代わりに大砲の弾がある感じかな。
 ずんと重くて、ぎちぎちして、
 もう、どうして良いのかわかなんなくて」

男「……落ち着け」そっ

少女「……そうやって、背中に手を当てられてると。
 なんだか、安心する」

男「そうか」

少女「昔、誰かにやってもらったのかな」

男「俺が知るか」

少女「あはは、そうだよね」

642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:44:27.97 ID:PoO4m/tco
男「それで、話の続きはどうした。
 白髪と違って聞き上手ではないが、
 話す気があるなら耳には入れてやる」

少女「あー、えー……まあ、いいや。
 でもね、その、私の事を殺そうとしながらさ、
 泣いた男の顔を見たらさ」

男「……泣いてなどいない」

少女「いや、泣いてたし」

男「気のせいだろう」

少女「いや、顔になんか滴ってきたよ」

男「……お前がバカみたいな力で抵抗するから、
 押さえようとして汗をかいたんだろう」

少女「げっ!」ずさっ

男「……嘘だ」

少女「……まあ、汗かいてないしね」

男「……」

少女 すっ

643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:45:14.32 ID:PoO4m/tco
男「隣に戻るのか」

少女「うるさい。
 で、まあ、なんだかさ、『ああ――』って思ったんだ」

男「どういう意味だ?」

少女「いや、だから言葉にできないんだって。
 ただ、なんていうか、
 うーん、こうしなきゃって感じがしてね」そっ

 なでなで

男「……なぜ俺の頭を撫でる」

少女「そうしなきゃって感じがしたから。
 どうしてかわかんないけど、
 それが胸の奥にあった大きな塊みたいなものを、
 少しだけ小さくしてくれて」

男「それで、撫でるのか」

少女「うん」

 なでなで

644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:45:40.45 ID:PoO4m/tco
男「……つくづく、ワケのわからん奴だ」

少女「いや、男に言われたくないし」

男「その言い方だと、俺の方が変わっているように、
 聞こえるんだが」

少女「その通りでしょ。
 ほんと、ぜんぜんわかんない。
 まったく、ちっとも」

男「……」

少女「ほとんど何にもしゃべらないし、
 船って小さな空間に一緒にいるのにさ、
 ずっと一歩離れた所にいるみたいに距離があって」

男「……」

少女「そんな男を泣かせて、私……」

 がたっ

645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/22(金) 00:48:35.66 ID:dKKwec0IO
きたか…!!

  ( ゚д゚ ) ガタッ
  .r   ヾ
__|_| / ̄ ̄ ̄/_
  \/    /
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:49:11.98 ID:PoO4m/tco
男「……落ち着いたなら、さっさと寝ろ」

少女「え、ねえっ、ちょっと」

 とことこ、ぱたん

少女「……出てっちゃった」

少女(そんなに恥ずかしかったのかな、泣いたこと。
 でも、指摘されてちょっと不快そうだったけど、
 出ていくほどには見えなかったし)

少女「むしろ、怖がってた……?」

少女「……そんなまさか、だよね」

647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:51:09.75 ID:PoO4m/tco
------------------------------------------------
   夜 海賊船 甲板

 ざざーん

男「……」

男「泣く、か」

男「意味がわからん」

男「何人も殺してきたというのに」

男「いまさら」

男「そうだ、俺はそのためにいるはずなんだ」

男「殺すために」

 ざざーん

 とことこ

包帯「お月見かい?」

男「……特に、目的は無い」

包帯「そう」

648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:51:35.87 ID:PoO4m/tco
男「……少女は食事したぞ」

包帯「ああ、うん。
 さっき食器を下げに来たよ。
 まだ傷が治ってないのに無茶して。ふふ」

男「一回死んでしまえばいいものを」

包帯「死んでも治らないたぐいの病気じゃない?」

男「……なにげに言うな」

包帯「いやいや、それほどでも」

男「俺は誉めたのか?」

包帯「さあ、どうだろうね」

男「……ふ。お前はどうした」

包帯「何がかな?」

男「月見にでも来たのか?」

包帯「いや、船長が甲板にいるのが見えたから、
 コレでもどうかなーと。
 前から機会をうかがってたんだ」

649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/22(金) 00:52:04.30 ID:PoO4m/tco
男「白髪が好んでいた蒸留酒か」

包帯「なんだかんだと慌ただしくて、
 バリウガを出てからずっと休めなかったし、
 白髪さんを悼む余裕すらなかったからねー」

男「弔い酒ということなら、
 そうだな、少しもらうか」

包帯「はい」

 とくとくとく……

男「……く、相変わらず強いな」くいっ

包帯「よくこんなのを何でも無いように飲んでたよね」

男「そうだな」

 ざざーん

 ざざーん

650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:52:35.95 ID:PoO4m/tco
包帯「大丈夫かい?」くいっ

男「何のことだ?」

包帯「白髪さんが亡くなってから、
 船長、ずっと無理してるみたいだから」

男「……無理など」

包帯「してるでしょ。
 いいんだよ、白髪さんの代わり、しなくたってさ」

男「……」

包帯「らしくないんじゃないかい?」

男「……少し。昔の話になる」

包帯「昔の話?」

男「十年ほど前に、俺は海賊に襲われたんだ
 今ではひとつのおとぎ話にさえなっている、
 黒ひげの艦隊にな」

包帯「それでよく、生きてるね」

651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:53:20.01 ID:PoO4m/tco
男「重傷を負わされたが、
 幸い人のいる場所に漂着できてな。
 そこの貴族に救われて、良くしてもらった」

包帯「それで、めでたしめでたしとは、
 おわらないのかい?」

男「……目の前で家族を殺されて、決めたんだ。
 黒ひげを殺すために全てを捨てると。
 命も、時間も、全て」

包帯「それで、騎士団にはいったのかい?」

男「そういう事だ。
 帝国の私掠船艦隊を預かる黒ひげを相手に、
 堂々と敵対し、倒す事ができる組織は多くなかった。
 そして組織でなければ狙う事すらできなかった」

包帯「でも、黒ひげが死んだのは」

男「俺が騎士団に入って、しばらくしてからだな。
 その死の報が流れる少し前に、
 俺と白髪はひとつの契約をして、騎士団を離れた」

652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:53:49.62 ID:PoO4m/tco
包帯「でも、黒ひげに復讐できるのは、
 騎士団くらいしかないよね」

男「確かに、純粋な戦力としては騎士団も悪くない。
 だが、性質の問題がな……」

包帯「っていうと?」

男「元は純粋な信仰から生まれた騎士団として、
 異教……という事になっている帝国と、
 理念の面で敵対していた。
 表面上では、今もそうだ。
 連中は『戦争の家の平定』。
 俺達は『預言者を僭称する無礼な相手への武力抗議』。
 理由を挙げようと思えば、いくらでもある」

包帯「含むねぇ」

男「きっかけはおそらく、西インド航路の発見だ。
 例の黄金大陸が発見されて以来、
 地中海以上の『金づる』を手に入れて、
 貴族の連中は皮算用に必死になっている」

包帯「なるほど。
 地中海は必要な輸送路ではあっても、
 そこを守る騎士団の立場が悪化する事は避けられない。
 だから弱体化した?」

653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:55:08.56 ID:PoO4m/tco
男「さらにルターの影響もある。宗教改革だな」

包帯「騎士団が拠点にしているマータ島が、
 神聖リオーマの封領ってことと関係している?
 たしか、一番激しくやりあってるよね?」

男「確かにその影響もあるだろう。
 騎士団は八つの軍団で構成されていて、
 そのウチひとつは神聖リオーマの人間によって、
 構成されているんだが……」

包帯「もしかして内部分裂とか?」

男「そこまでではない。
 だが、家族が改宗してややこしくなった連中は、
 少なくなかったな」

包帯「難しいものだねぇ」

男「騎士団にとっては、それ以上に難しい状況だ。
 各国の庇護が薄れた影響から実質的な戦力が低下し、
 寄付金が減って慢性的な金欠になっていた。
 そこから腐敗が広がったな」

包帯「だから、いまの騎士は海賊同然なんだね」

654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:55:36.37 ID:PoO4m/tco
男「騎士は強い相手に挑む。
 海賊は弱い相手を襲う。
 黒ひげなんて化け物退治を行う力は、
 当時の騎士団には既になかったんだ。
 襲ってくるなら話は別だが、
 黒ひげは実に狡猾だからな、その期待は持てなかった」

包帯「だから騎士団を離れた、と。
 船倉の『彼』と出会ったから出奔したって聞いたけど」

男「その影響もある。
 さっき話した『契約』だが、
 白髪は、俺の復讐を手伝う。
 その代わりに、復讐を遂げた後には、
 白髪や、アイツの居場所を作るのを手伝うというのが、
 俺達の交わした契約だった」

包帯「居場所、ね」

男「幸せそうに故郷を語っていたアイツにとって、
 その居場所を追われた経験は、
 拭いがたいものだったんだろうな。
 その結果としてこの船の母体ができたわけだが、
 しばらくして黒ひげの処刑が行われた」

包帯「うわ……」

655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:56:05.29 ID:PoO4m/tco
男「結局、復讐は永遠に果たされなくなった」

包帯「……」

男「だが、討つ相手が居なくなったなら手間が省けたと、
 白髪は容赦なく契約の遂行を求めてきたんだ。
 この船と船員を『居場所』に届けろと」

包帯「……白髪さんらしいね」

男「ふん、はた迷惑な男だ。
 人にはそんな要求をしながら自分は、故郷で……」

包帯「よかったと思うよ」

男「なにがだ?」

包帯「誰にとっても、これが」

男「そう思うのか」

包帯「うん。いろいろと、ね。
 ただ、無理はしなくていいと思うんだ。
 白髪さんのお願いを聞きたいって気持ちは分かるけど、
 このままじゃ、船長がもたないと思うよ?」

 ざざーん

656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:56:43.63 ID:PoO4m/tco
男「……いや、大丈夫だ」うと、

包帯「でも」

男「あいつの、守りたいと願ったものだ。
 俺も、この船は、嫌いではない」うとうと

包帯「船長……」

男「我の強い連中が集まった、
 どうしようもない、ちぐはぐな船だ、が、
 あいつが、最後まで、大切にしていたものだ。
 それを守るのは、悪い気分、では、ない」

包帯「うん」

男「……」

包帯「ん? ……おーい」

男 すー、すー

包帯「うわ、酔っ払いさんめ。何が大丈夫なんだか」

 ざざーん

包帯「……」

657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 00:59:49.92 ID:PoO4m/tco

 ざざーん

包帯「居場所を守る、か。
 確かに、守ってくれるのは嬉しいけど。
 今の船長の考えとかって、
 たぶん白髪さんの言いたかった事は違うと
 思うんだよねー」

包帯 くいっ

包帯「ま、何か言ってどうなるものでもないけどさ」

包帯 ふぅ

包帯「それにしても強いなー、白髪さんって、
 よくこんなキツいお酒が飲めるもんだよ……」

 ざざーん

包帯「とりあえず、ココにいたら風邪ひかせちゃうし、
 連れてくしかないよね……
 面倒だなぁ。
 愚痴らせるために飲ませたとはいえ、
 まさかちょっと舐めた程度で沈むなんて思わないし」

658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 01:00:16.15 ID:PoO4m/tco
包帯「よっこい、せ」

包帯「わ、ととと……」ぐらっ

 すっ

狼「……無理でしょ、あんた」そっ

包帯「おおっと、びっくりしたなぁ、もう」

狼「白々しいんじゃないの?
 さっき、見張りを交代したばっかりで」

包帯「いやまあ、聞いているのは知ってたけどね。
 マストを下りてまで、来るとは思わなくて」

狼「……酔っ払いに酔っ払いを任せると、
 大変な事になるでしょ」

包帯「ふふ、そうかもね」

狼「そこでなんで、アタシを見るのよ」

包帯「特にそんなつもりはないけど? ふふ」

659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 01:02:27.86 ID:PoO4m/tco
狼「……あんたのそういうとこ、嫌い」

包帯「僕は好きだよ、狼くんのそういう所」

狼「そういう所はもっと嫌い」

包帯「ごめんね?」

狼「……そういう所も嫌い」

包帯「そうとう嫌われてるみたいだね」

狼「……知らない。男はアタシが部屋に背負っていく。
 包帯は自分で戻れるでしょ」

包帯「うん、お気遣いありがと」

狼「……おやすみ。お疲れ」

包帯「うん、おやすみ」にへらっ

 とことこ

包帯「……うん。
 あの狼くんが可愛くみえるなんて、
 僕もそうとう酔ってるかな?
 やれやれ……」

660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 01:03:31.79 ID:PoO4m/tco
------------------------------------------------
  未明 マータ騎士団ディオイツ分隊三番艦

 こんこんこん

青年「入れ」

 がちゃ

眼帯「失礼します。
 まもなくビリンディジ港へと到着しますよ」

青年「そうか。連絡ご苦労」

眼帯「寄港後、本艦は三日間の準待機を行い、
 物資の積み込み後、マータ島へ帰還。
 そのような予定でよろしいですね?」

青年「それでいい。四日目の朝に出港だ。
 それまで船を頼む」

眼帯「それまでお出かけ、との事ですが」

青年「問題があるか?」

眼帯「いえ、必要な息抜きと考えますよ。
 アイゼンリッター(鋼鉄の騎士)どの」

青年「……からかうな」

661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 01:05:16.79 ID:PoO4m/tco
眼帯「その意思はまさに鋼の如く。
 立ちふさがる敵はただその刃を待つばかり。
 ドイツ分隊が誇る鉄壁の騎士。

 なんて、見習達が謳ってたんですが、
 いや、いい詩じゃないですか」

青年「……」じろっ

眼帯「あ、その、すみません」

青年「ふぅ、見習いの戯言にお前が踊らされてどうする」

眼帯「あはは、まあ、母がカスティーリャの出身なんで、
 まあラテンの血と思って諦めてください」

青年「何でも血のせいにするな」

眼帯「何でも神のせいにする帝国の連中よりは、
 マシじゃありませんかね?」

青年「程度問題にするな。
 我がディオイツ分隊にそんな軟弱な人間はいらん。
 それとも、今からカスティーリャ分隊に移籍するか?」

眼帯「いえ、気を引き締めます、副分団長」くいっ

青年「……」

662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 01:09:58.61 ID:PoO4m/tco
眼帯「ごほん。
 しかし、どこに向かわれるんですか?
 いつもは準待機の間もずっと詰めて、
 『働いている船員が居るならば休むワケにはいかん』
 なんて言ってらっしゃるのに」

青年「これも一つの任務だ」

眼帯「……こないだの海賊船に関係あります?」

青年「余計な詮索は無用だ」

眼帯「はあ、すみません。
 なにぶん副船長なんて重責は初めてなんで、
 どうにもこうにも不安が……
 なので、緊急の連絡先くらいは知りたいもんでして」

青年「そうか、そういう事情ならば仕方無い。
 南南東にて、俺はその海賊と会うことになっている」

眼帯「ふむ、珍しいですね。
 普段は海賊なんて、捕まえるか殺すかなのに」

青年「俺を暴力主義者のように言ってくれるな。
 投降に応じない相手が多すぎるだけだ」


663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 01:11:34.16 ID:PoO4m/tco
眼帯「失礼しました。
 しかし、それなら相手は海賊でしょう。
 良ければ自分もお供しますよ、
 海賊というのは、相手にするとつけあがり、
 だまし討ちや手練手管はあたりまえです」

青年「問題ない。
 今は海賊などに身を落としているが、
 元は俺の知り合いの、騎士だった方だ」

眼帯「騎士団から逃げて、海賊に?」

青年「逃げたというよりも、
 追い立てられた、だろうな」

眼帯「何かしたんですか?」

青年「……いや、ここから先は個人の事情だ。
 明かす必要がある情報としては、
 彼らは恥じるべき行いをしたワケではないという、
 その事実だけで十分だろう」

眼帯「よくわかりませんが、
 危険な相手じゃないと」

青年「もちろんだ」

664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 01:12:12.99 ID:PoO4m/tco
眼帯「しかし、それならこの情報は伏せときましょう。
 船長が海賊と会っていたなんて事が知れちゃ、
 隊の連中はいぶかしがります」

青年「その通りだ。他言無用に頼む」

眼帯「はい、了解です」

青年「他に問題はあるか」

眼帯「はい、いいえ。ありません」

青年「では、これよりこの艦の全権を委任する。
 問題が発生した場合、お前の判断で事にあたれ」

眼帯「はい。では失礼します」

青年「うむ」

 ぱたん

 とことこ

眼帯「ふぅ、緊張した」

騎士A「よぉ、眼帯」

騎士B「おつかれさまっす。
 船長の機嫌はどうだったっすか?」

665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 01:21:43.78 ID:PoO4m/tco
眼帯「どうもこうも、
 相変わらずの鉄壁で鉄面皮ですよ。
 にこりともしないので、背中の冷や汗がとまらない。
 さすがアイゼン様」

騎士A「あの人も、もう少し人間的によ、
 こう『できて』いりゃ、
 今頃は分団長だって夢じゃねぇのになぁ」

騎士B「分団長っ!?
 いやぁ、あの人俺達とそう変わらない年齢でしょ。
 そりゃぁねぇっすよー」

眼帯「功績としては十分ですよ。
 あの銀目も、黒x王も捕まえて」

騎士A「あれ、たしか銀目は分団長じゃなかったか?」

眼帯「いちおう、名目は」

騎士B「まあ、自分がやったって、
 睨まれてちゃいえねぇっすよね」

眼帯「海賊にしても、海軍にしても、
 基本的に、船に実際にのるのは三年程度。
 船がそれだけ長生きしにくい場所ですからね」
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 01:28:57.01 ID:PoO4m/tco
船員A「それが、今年で船に乗って四年目。
 船長に抜擢されて三年か」

船員B[しかもその激務の間に訓練サボらず、
 今年で騎士団剣術大会の連続優勝まで……」

眼帯「これで、もうちょっと聞き分けが良ければ」

船員A「団長会議のたびに、
 あの人一人で毎度のように大騒ぎってのは、
 もう、なにか、一つの名物だよな」

船員B「もったいないお人っすよ」

眼帯「……ま、でも、」

船員A「なんだ、なにかあったのか?」

眼帯「あ、いや、なんでもないですよ、なんでも」

船員A「ホントか? ウソだろー?
 ほれ、なんなんだよ」つんつん

眼帯「あはは、やめてくださいよー」

船員B「いや、途中まで言われたら気になりますって」

667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/22(金) 01:30:16.17 ID:PoO4m/tco
眼帯「いやー、しかし、
 口止めされてますからね」

船員A「あやしいなぁ、ほれ、いわねぇと今夜の飯、
 気がつけばなくなってるぜー?」

眼帯「がっ、今日の給仕だからって!
 職権乱用はないですよ!」

船員A「だったら言ってラクになっちまえ。
 大丈夫だ、ディオイツ分隊は口と結束の固さがウリだ」

眼帯「なんだかなぁ。
 コレがしられたらラッキーじゃないんで、
 絶対に、秘密ですよ?」

船員B「大丈夫っすよー」にへらー

眼帯「実はですね、次の港でどうやら、
 船長が海賊と……」 ぼそぼそ
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/22(金) 01:32:38.49 ID:PoO4m/tco
今日はここまでー!

いつも読んでくれてありがと><
とっても元気をもらってるよっ。

ビエンヤク、実はまだおいらには必要なんだ。
他にも必要な人がいたら、持って行ってくれ!
あと、すみっこにアイスおいとくから、
食べてくれー(’▽’*)
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/22(金) 01:34:22.82 ID:CdCWhmkyo
乙!
花粉症の時期過ぎたからビエンヤクはとりあえず要らなくなったぜ
この時期のアイスもうまいが、真冬の暖房効かせた部屋とかこたつで食べるアイスは格別だと思ってる
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2011/07/22(金) 02:11:52.97 ID:k8JXYab2o
乙!!
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/22(金) 03:47:18.82 ID:KQe6MbuHo
乙!

>>666-667の船員A・Bは騎士A・Bに脳内変換で良い?
それともそのまま船員A・B?
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/07/22(金) 12:43:57.16 ID:Gv4YJj/AO
乙!!
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/22(金) 17:24:56.65 ID:rZo/Hm8Ko
乙!

>>645
お茶かえせwww
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/22(金) 18:31:19.81 ID:hZNPBHslo
乙だぜ
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/26(火) 21:16:03.23 ID:qMlMIXxr0
いやぁ奴隷とキャッキャウフフなSSを探していたんだが、
海賊、か。これもまたいいものだな……
676 :とあるニートで引きこもり [sage]:2011/07/27(水) 08:10:14.39 ID:PvfXg5jAO

よし、ちょっと海賊船に就職して来るわ
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/28(木) 02:22:35.00 ID:6168ZXgHo
------------------------------------------------
   朝 ビリンディジ近くの岬

 ぎゅっぎゅ……

少女「ん、こんなの、死んじゃう……はぁ、はぁ」

男「大丈夫だ、問題ない」

少女「むり、だよ……」

男「キツいか?」

少女「まだ体力、戻ってないのに……ずっと」

男「この程度で音を上げていたら、
 いつまで経っても体力など戻らん。
 いい運動だな」

少女「ううー」

男「もう少しペースをあげていいか?」

少女「や、ちょっと、まだ無理……はぁ、はぁ」

男「体力だけが取り柄じゃなかったのか?」

少女「く、悔しい……でも」


678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:23:23.38 ID:6168ZXgHo

 ぎゅっぎゅ……

少女「まさ、か。……うう。
 病み上がりで、山登り……
 しかも朝だから、足下がぬかるんで歩きにくいし……」

男「山ではなく岬だ」

少女「かわん、ないって……」

男「だいぶ違うと思うがな
 まあ、一時は今よりも酷い状態で、
 働こうとしていたんだ。
 船での作業に比べれば、この程度は問題なかろう
 大荷物の俺とは違って、お前は何も持っていないしな」

少女「……ぐ。ほんと、可愛くないよね、男って」

男「なぜ、かわいい、可愛くないという話になる」

少女「あの夜はぽろぽろ泣いてかわいか――
 あ、ねえっ、待ってよ!」

男「そんなに無駄話ができるほど回復したなら、
 俺が普段通りに歩いても問題なかろう」スタスタ

少女「うわ、鬼畜だっ、鬼畜がいる。
 ちょっとまってよーっ」

679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:24:24.23 ID:6168ZXgHo

 ぎゅっぎゅ。

男「この辺りか」

少女「ふはぁ……やっとついた」

男「案外、ついてくるものだな」

少女「へ?」

男「いや、なんでもない」

少女「もしかして、私が遅れたら待っててくれたとか」

男「置いていくつもりだった」

少女「ひどっ、それは聞き逃せないんだけど!」

男「あまり騒ぐと傷に障るぞ」

少女「誰のせいなんだか、まったく……
 で、これから来るのが、お友達?」

男「友達、というよりも、騎士時代の同僚だな。
 奴はディオイツ分隊に所属していたから
 深いと言える程の親交はなかったが、
 剣の指導をしていた」

680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:25:44.04 ID:6168ZXgHo

 ぎゅっぎゅ。

男「この辺りか」

少女「ふはぁ……やっとついた」

男「案外、ついてくるものだな」

少女「へ?」

男「いや、なんでもない」

少女「もしかして、私が遅れたら待っててくれたとか」

男「置いていくつもりだった」

少女「ひどっ、それは聞き逃せないんだけど!」

男「あまり騒ぐと傷に障るぞ」

少女「誰のせいなんだか、まったく……
 で、これから来るのが、お友達?」

男「友達、というよりも、騎士時代の同僚だな。
 奴はディオイツ分隊に所属していたから
 深いと言える程の親交はなかったが、
 剣の指導をしていた」

681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:27:27.99 ID:6168ZXgHo
少女「その、ディオイツ分隊だったからっていうのは、
 同じ騎士団なのに何か違うの?」

男「マータ騎士団には八つの分団があり、
 それぞれの所属者の出身地ごとに、
 その分団が振り分けられる事になっている」

少女「一つの騎士団で、そんなに?」

男「仕方あるまい。
 対帝国、対回教という……回教はわかるか?」

少女「うわ、さすがにそこまでバカじゃないって!
 帝国の国教でしょ?
 最後にして最大の預言者って人が創始者で、
 一神教の教えに対して、
 神様の教えが間違って伝わってるから直せって、
 ケンカをふっかけたから、戦争中なんだよね」

男「ほう、思ったよりしっかりと理解していたな」

少女「あんまり大きな声じゃ言えないけど、
 ウチの出身がリベルタだからさ」

男「なるほど。
 リベルタは一神教勢力と帝国の窓口だしな、
 その程度はわかるか」

682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:27:58.60 ID:6168ZXgHo
少女「ウチもベネッタも一神教を国教にしているから、
 帝国と仲良くしちゃいけないんだけどね。
 貿易に関しては、帝国を無視することはできないから、
 回教の人達の事も知らないと、
 貿易に来た人とケンカになっちゃうこともあるし」

男「それは確かに詳しくもなるな。
 ……騎士団の話にもどすか。
 そんな回教に対して一神教は、
 いくつかの固定戦力を持っているわけだが、
 その一つがマータ騎士団だ。
 コレが対回教に対して、
 重要な海の抑止力になっている」

少女「うんうん、それは知ってる」

男「そんな一神教の剣として、
 表向きには一致団結している事になっているが」

少女「内部がドロドロ?」

男「神の愛をもってしても救えない事にな。
 マータ騎士団には各国の貴族の子弟が送られる。
 そこで、その貴族の出身によって分団が作られるが、
 各分団はそれぞれの国の縮図という面もある」

少女「ちなみに、男がいたのは?」

683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:28:31.01 ID:6168ZXgHo
男「俺がいたのはイタリア分団だ。
 今日会う相手のディオイツ分団とは、
 険悪と言ってもいいくらいの仲だった」

少女「それなのに、わざわざ男に剣を習いに来たの?」

男「まあ、イロイロとあってな」ついっ

少女「……なんで目をそらすの?」

男「いや、そんな事は、ないが」

少女「?」

 ぎゅっぎゅ……

青年「お待たせしました」

男「……久しぶりだな」

青年「はっ。先輩も御健勝のようで、何よりです」

少女(うわ……すっごい、美形。
 ディオイツの人って、ガチッとしてるような、
 男臭い人達って先入観があったけど、
 骨が太くないからかな、美男って感じ……)

男「固くなるな。
 もう師弟のような間柄でもない」

684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:29:00.53 ID:6168ZXgHo
青年「いえ、先輩は自分にとって、
 今でも目指すべき指針。
 敬いの気持ちを持つのは当然のことです」

男「相変わらずの堅物だな」

少女(すっごい嫌そうなそうな顔……
 男がこんなに表情を見せるのって、
 珍しい、かも)

青年「ところで先輩、そちらの女性は」

男「ああ、見習い船員の少女だ。
 二つの理由があって、連れてきた」

少女「初めまして」へこっ

青年「初めまして、麗しきフロイライン。
 マータ騎士団ディオイツ分隊所属、
 青年と申します」すっ

 ちゅっ

少女(うわわ、ひざまずいて、指先にキスとか!
 なんか、薄汚れた海賊の格好でそんな事されると、
 すっごい恥ずかしいんだけど……っ)(/////

男「……どうした?」

685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:29:26.82 ID:6168ZXgHo
少女「ちょっと恥ずかしい、かなーって。えへへ」

男「顔はにやけているようだがな」

少女「いやいや、そんな事ないって」ぶんぶん

男「そうは見えんが」

少女「うっさい!
 ったく、デリカシーがない……」ぶつぶつ

男「……よく分からん
 とりあえず用件を聞こう、青年」

青年「はっ。できればまた先輩には、
 マータ騎士団に復帰していただき、
 白髪先輩と共に団の風紀粛正に協力していただきたく」

少女 ぴくっ

男「……その話は何度も断っているはずだ」

青年「何度でも、お話させていただきます。
 自分の立場も副分団長となりましたので、
 責任持って、迎えさせていただく事ができます。
 白髪さんに対しても、あの時のような――」

686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:31:13.82 ID:6168ZXgHo
男「先にこちらから伝えるべきだったな。
 白髪は既に、この世にはいない」

青年「っ、何があったんですか、あの白髪さんが」

男「まだ一週間ほど前の事だ。
 バリウガの街が山賊崩れの海賊に襲われて、
 白髪は自分の故郷を守るために戦って死んだ。
 笑顔だった」

青年「……そう、ですか」

男「俺は、アイツから船を頼まれている。
 どんな理由を重ねられても、
 今更騎士団には戻らん」

青年「……」

男「……」

青年「わかりました。
 しかし、諦めませんよ。
 また誘わせていただきます」

男「無駄だと言ってもやるんだろうな」

青年「もちろんです」

687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:31:57.07 ID:6168ZXgHo
男「次はこちらの用件だな。
 もっとも、一つは今伝えた、白髪の事だ」

青年「もう一つは」

男「この少女を、リベルタ公国に届けて欲しい」

少女「……え?」

青年「先輩がご自分で送られないのですか」

男「海賊船でリベルタに乗り付けるワケにはいかん。
 放り出すのも寝覚めが悪いしな、
 この航路にいるという事は、
 お前の船はリベルタ経由でマータ島に帰還するはずだ」

青年「はい。確かにビリンディジ港を出た後は、
 リベルタのあとに二つばかり経由する以外、
 いつもの航路を使いますが」

男「なら、問題ないな。コイツを任せた」

少女「ちょ、ちょっと」

青年「待ってください、騎士団の船ですよ!
 一般人の、それも女性を乗せるワケにはいきません」

688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:33:03.96 ID:6168ZXgHo
男「問題ない。
 この少女は騎士団が任務として運ぶに足るだけの、
 価値を持った積み荷だからな」

青年「……価値ですか」

男「少女はリベルタ公国の第一公女だ。
 事実上の、次期リベルタにおける領主。
 海賊にとらわれていた公女を救い出したとなれば、
 女人禁制の騎士団の船に乗せて運んでも、
 問題にされることはないだろう」

青年「それは、確かに……」

少女「ちょっと待ってよ!」

男「なんだ」

少女「そんな事、全然聞いてなかったけど!」

男「言っていなかったからな」

少女「いや、相談くらいしてよ!」

男「問題ない、お前の荷物も、ココにまとまっている」

689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:36:41.07 ID:6168ZXgHo
少女「そんなの……うわ、ほんとだ。
 何が入ってるんだろうって思ってたら、
 私の着替えとか全部……」

男「狼に詰めさせた。問題なかろう」

少女「うん、同性以外に見られたく無いものも
 あったけど、狼さんなら……
 って、そういう事は言ってないからっ」

男「コレを持って青年とリベルタに向かえ」

少女「話を聞いてよ!
 ……なんでそんな真似するの?」

男「荷物が無ければ、船旅で困るだろう」

少女「そっちじゃ無いよっ。
 なんで私が、この人に運ばれる事になってるのかって」

男「……」

少女「もしかして、私って、邪魔……?」

男「その通りだ」

少女「……え」

690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:37:21.89 ID:6168ZXgHo
男「船員が一人死んだ程度で取り乱し、
 船の運航を妨げた」

少女「……だって、白髪さんが、死んで、
 悲しくないなんて、こと、ないし」

男「悲しむなとはいわん。
 だが、その後が問題だ。
 自暴自棄になって傷を負い、
 船の運航に支障をきたした事が問題だ」

少女「う……」

男「お前は船員としての義務を放棄したんだ。
 船に乗せ続けるワケにはいかん」

少女「その分は、これから働くから」

男「そしてまた、誰かが死ねば同じ事をするのか?」

少女「それ、は」

男「俺達は海賊だ。
 他人の船を襲って金品を奪う略奪者だ」

少女「そんなの、いわれなくても判ってるよ」

691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:38:11.90 ID:6168ZXgHo
男「いいや、判っていない。
 俺達は人殺しだ。
 誰かを襲う存在だ。
 他人の命を奪って、生きるんだ」

少女「……」

男「そんな状態で、お前は冷静に人を殺せるか?
 殺して奪った金でパンを食えるか」

少女「でき……」

男「無理だろうな。
 今回の件を見て、わかった。
 少なくとも今のお前は、人を、殺せない」

少女「……だから、船から降ろすの?」

男「そうだ。安心しろ。お前の代わりなど……
 いや、お前より役に立つ船員が、いくらでもいる」

少女(頭、なんだろ、真っ白に、なる)

男「青年、後は任せた」じっ

青年「…………はい」

 ぎゅっぎゅっ……

692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:39:22.74 ID:6168ZXgHo
少女(なんで、なんで。
 なんでなんでなんで。
 疑問ばっかりぐるぐる回って、
 あんまりにも急で、意味がわからなくて)

青年「お荷物はお持ちしましょう」すっ

少女(違う、意味は、わかった。
 判ったから、判りたく、なかった)

青年「いきますよ」そっ

少女(優しく背中を支えて押してくれる、
 騎士の人の手のひら。
 その心遣いは嬉しいけど、違うよ。
 あの、冷たいけれど安心できる手と、
 全然違う……)

青年「足下、気をつけてください」

少女「……はい」

693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:40:08.45 ID:6168ZXgHo
------------------------------------------------
   朝 ビリンディジ近くの入り江

双子妹「あ、船長殿を発見。
 あと四半時ほどで到着と思われるであります」

包帯「予定通りだね。
 無事に、済んだみたい」

狼「……」

包帯「どうしたんだい?」

狼「これで、良いのかなって」

包帯「少女くんの事かな」

狼「だまし討ちみたいに、追い出して」

包帯「みたいというか、そのものだけどさ。
 仕方無いよ。船の上じゃ静養するにも限度があるし、
 白髪さんが亡くなってからずっと、
 少女くんは不安定だったから……
 ご実家にいる方が少女くんのためっていうのは、
 今の時点では僕も賛成する所だよ」

狼「……納得できない」

694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:40:38.56 ID:6168ZXgHo
包帯「そう言われてもね」

狼「もうちょっと前に、
 本人に話して考えさせても良かったと思うけど」

包帯「少女くんの性格だったら、
 無理を押しても船の仕事を引き受けて、
 自分が居る理由を作ろうとするだろうね」

狼「それなら、それで」

包帯「そうやって無理をさせて、
 誰が得をするんだい?」

狼「誰がって」

包帯「忘れてないかい?
 彼女には帰るべき家と、待っている家族がいるって。
 船長から聞いたよね」

狼「……うん」

包帯「ちょっと乱暴だけど、
 この機会に一度、実家に送るのが一番だよ。

 まあ、騎士団に預けるっていうのは気にくわないけど、
 普通の船に乗せるよりは安全だろうっていう理屈は、
 僕だって認めるところだからね」

695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:41:24.82 ID:6168ZXgHo
狼「そんなのは、わかってるけど」

包帯「けど、なんだい?」

狼「少女の、気持ちとか……もっと」

包帯「そうだね。
 本当は、少女くんが自分で決断するのが、
 あるべき形だと思う。
 でも、今の少女くんにとっては、
 この船に残る事にしても、
 ご実家に戻る事にしても、
 どの選択をしても後悔をする事になる。
 だから、その後悔くらいは僕たちが背負ってあげよう」

狼「…………」

包帯「まだ、納得できないかな?」

狼「……アタシ、夜の見張りあるから、寝てくる」

 とことこ、ぱたん

包帯「どうしたら良いのかな、こういうときは?」

双子妹「それは自分への問題提示でありますか?
 それとも独白でありますか」

696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:41:58.08 ID:6168ZXgHo
包帯「両方、かな」

双子妹「自分に対する問題提示であれば、
 それは領分違いと答えるであります。
 自分の専門は医学、数学、科学であります」

包帯「そうだね。
 でも、僕だって専門家ってわけじゃない。
 もしも専門家がいたとしたら、
 それは白髪さんだったんだけどね」

双子妹「現状では、亡くなってしまった人の話は、
 非生産的な行為であります。
 対応策を論議する参考にはなりますが、
 今はまだ、その段階ではないと思うであります」

包帯「そうだね。
 それじゃ、生産的に出帆の準備でもしようか。
 そろそろ船長も戻ってくるしね」

双子妹「了解でありますっ」

包帯「……なんで、今日もこんなに良い天気なのかな」

697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:42:28.13 ID:6168ZXgHo
------------------------------------------------
   昼 海賊船 女子部屋

 とことこ

 ぽすんっ

狼「……」

 くんくん

狼(まくらから、まだ、少女の)

 ぎゅうーっ

狼「白髪に、双子姉に、少女に……
 みんな、みんな」

『やーい、ばけもの−』

狼「ばけもの」

『こっちくんなよ、悪魔の子―っ』

狼「悪魔の子」

『ああ、主よ、なぜ私が悪魔の子を』

狼「……はなれてく」

698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:43:06.75 ID:6168ZXgHo
『なんだ、人間だったか。
 いやー、わりぃわりぃ。
 怖い目にあわせちまったな』

『あん? ばけもの? 悪魔?
 がはは、じゃあ似たもん同士って奴だぜ』

狼「似たもの同士」

『今日から仲間にいれてもらう、
 双子姉とー、双子妹でーっす、よろしくぅっ!』

狼「仲間」

『だって、そういう理由だったら、
 この後、仲良くなることもできそうだよね』

『うわー、身体小さいし、なのに胸大きいし!
 抱き心地よくて、さらになんかかわいい耳だし!
 よく見たら顔も整ってて美人さんって!
 うわぁぁぁ!』

狼「……よく、わかんないけど」

 ぎゅむっ

狼「でも、嫌いな匂いじゃ、ない」

699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:43:55.62 ID:6168ZXgHo

 ごろん、ごろん

狼「双子姉も、少女も。
 遠くないうちに、会うだけならまたできるよね」

狼(白髪の事があって、ちょっと、感傷的なだけ)

狼「……やっぱり、悪いのは白髪かな。
 うん、とにかく全部白髪が悪い」

 ぎゅぅーっ

狼「一眠りして、お肉食べて、働こう。
 考えるのとかアタシの役目じゃない。
 何か問題があったら、動けば良いんだよ」

狼(どうせそれしかできないし)

狼「……晩ご飯、なにかなー」尻尾ぱたぱた

700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:44:26.90 ID:6168ZXgHo
------------------------------------------------
  昼 ビリンディジの港

 とことこ

少女「……」

青年「……」

少女「……」

青年「……」

少女「あのっ」
青年「あの」

少女「お先にどうぞ!」
青年「お先に……」

少女「……」

青年「……では、公女様から」

少女「あー、その、公女様っていうの、
 やめてもらえたら嬉しいなーと」

青年「しかし、公女様は公女様ですよね?」

701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:45:13.31 ID:6168ZXgHo
少女「たしかにお父さんが公爵だから、
 娘の私は公女なんだけど」

青年「では公女様で間違っていないですよね」

少女「間違ってない、んだけどー……
 こう、うー……」

青年「それで、本題はなんでしょうか?」

少女「これも本題なんだけど、
 まあ後で訂正するとして。
 青年さんと男って、昔の師弟なんですよね」

青年「はい、男さんには剣術を教えていただき、
 他にもいろいろと、面倒を見ていただきました」

少女「その話を聞いたときに、
 ディオイツ分隊だけど、
 イタリア分隊の男にわざわざ習いに来たのは、
 どうしてかなーと思って」

青年「……そのご様子だと、先輩の方から、
 騎士団の各分団があまり仲が良くないという話は
 聞いていますね」

少女 こくり

702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:46:14.42 ID:6168ZXgHo
青年「もともと、マータ騎士団は、
 そこまで分団同士の対立が強くはなかったのですが、
 いくつかの要因から結束が乱れました。
 今では緊急時を除けば、
 別個の軍団が八つあるに等しい状態にまで、
 陥ってしまっています」

少女「そこまでは、男にきいたんだけど」

青年「非効率的で、ずいぶんと無意味な事をしていると、
 思いませんか?」

少女「えっと、まあ、それは」

青年「神の徒としての志はみな同じはずです。
 しかし、生まれた土地のわずかな違いによって、
 それぞれがいがみ合い、
 敵に向けるべき意識を内で向け合っている。

 その現状を憂い、改善すべく動いたのが、先輩です」

少女「……うっそだー。
 そんな行動的な場面なんて、見た事ないけど」

青年「現在の先輩については判りかねますが、
 当時はそれこそ火の塊のようでしたよ。
 我らが力を合わせれば帝国すらも恐るるに足らぬと、
 頭の固い上層部を置いて、若手だけでも団結しようと、
 軍団の垣根を越えて人を集め、
 互いの技術を教え、研鑽する場を設けていました」

703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:47:36.47 ID:6168ZXgHo
少女「それこそ、革命家みたい……」

青年「遠からず、近からずでしょうか。
 その行為に関しては、当代の騎士団長、
 ラ・ヴァレッテ殿から黙認されていましたから」

少女「へー……じゃ、それはうまくいったの?」

青年「……いえ、先輩の構想はすばらしく、
 賛同する人間も多く居ましたが、
 それ以上に、反対する人間の方が多くいました」

少女「……そっか」

青年「結局、最終的には研究会を解散させられ、
 責任者である先輩と、
 おそらく一緒に居たかと思いますが、
 そのご友人の白髪さんが出奔したことで、
 この件は収束しました」

少女「それが原因かな、あんな性格なの」ぼそっ

青年「はい?」

少女「あ、なんでもないです」ばたばた

青年「はぁ……」

 とことこ

704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 02:52:21.40 ID:6168ZXgHo
少女「それで、青年さんは何を言おうとしてたんです?」

青年「それは……お節介かと思いますが、
 先ほどの先輩の言葉について」

少女「岬の別れ際の?」

青年「はい。事情はわかりませんが、
 何か意図が有ってのこととは思うので、
 恨まないで欲しいと、お願いしたく」

少女「うん……確かに、船員としては力不足でさ、
 あんまり役にたってたって胸を張れないからね。
 言われて当然の事言われても、しかたないよ」

青年「……」

少女「まあ、ちょっと悲しいけどさ。
 恨むって事はないかな。
 それに、ちょっとだけなら、伝わってるし」

青年「伝わってる、ですか」

少女「何か理由があって船から離れさせたいのかなー、
 みたいなの?」
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 03:03:46.31 ID:6168ZXgHo
青年「……」

少女「ま、恨むけどね!」

青年「言っている事が変わってますよ……」

少女「なんか、仲間はずれにされたみたいで悔しいからね。
 せめて騙すなら、こんな中途半端なだまし方はするなーって」

青年「……その点に関しては止められないですね」

少女「止められたって許さないしね。
 まあ、さっきの言葉で傷ついた分も合わせて、
 また会った時にはきつーく仕返ししないと!」

青年「あはは……」

少女「……自分が、悪いんだけどね。
 きっと、今よりも信用してもらってたら、
 話してもらえたと思うから」

青年「大丈夫ですよ」

少女「何がです?」

青年「分かり合おうと思うなら、できます。
 信頼したい、されたいと思うなら、できます」

少女「……だと、いいなぁ」にこっ……
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 03:04:25.10 ID:6168ZXgHo
とことこ

青年「さて、公女様。
 長い距離を歩かせてしまって申し訳ありません、。
 こちらが我らがディオイツの誇る艦です」

少女「……うわ、でっっか!!」

青年「全長百フィート、横幅四十フィートに及び、
 我がディオイツの勇士達が存分に剣を振るえる、
 第二の大地とも言うべき艦です」

少女「この、真っ黒い塗装は趣味?」

青年「マータ騎士団のマントが黒ですので、
 それに合わせて塗装していると、本国から」

少女「なんか、夢に出てきそう。
 ……って、その微妙な顔、なんです?」

青年「はい?」

少女「いや、この船を見てるときに、
 すごく微妙な顔をしてたんだけど」

青年「いえ、まあ、微妙な顔にもなると……」

707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 03:05:26.77 ID:6168ZXgHo
 たったった

騎士B「おかえりなさいませーっす、船長!」

青年「ああ、留守の間は何もなかったか」

騎士B「はい、何もなかったっす!」

青年「 そうか。では予定通りこれから出発する。
 既に準備はできているか?」

騎士B「ばっちりっす!」

青年「わかった持ち場に戻れ」

騎士B「はっ!」びしっ

 くるっ

 たったった

青年「では、公女様、お部屋にご案内します」

少女「なんか」

青年「はい?」
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 03:07:23.83 ID:6168ZXgHo
少女「古巣にもどってきたなーって感じが」

青年「はぁ……。
 それでは、付いてきてください」

少女「……やっぱり賓客みたいな扱いだし。
 もうちょっとこう、
 持ち上げる高さを低くしてもらえると嬉しいなー
 なんて思うんだけど」

青年「賓客ですので」

少女「そこを、なんとか」

青年「賓客ですので」

少女「……そんな所まで、弟子しなくても」ぶつぶつ

青年「はい?」

少女「なんでもないです。
 とりあえず、四日間の辛抱、かなぁ」
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/07/28(木) 03:20:19.74 ID:6168ZXgHo
今日はここまでー!
明日もたぶんこられる、はず!

>>669
おお、ビエンヤク不要はうらやましい><
おいら女子力高いから、顔がいつも(><)こんなだよ!

真冬のアイスもいいでありますなぁ♪
もう、いつでもアイスがあれば幸せw

>>671
はっ、脳内変換をぉぉ><
素行が良くないから瞬間降格されたのかもしれないけどw

>>675
奴隷成分少なめでちょっとあれかもとは、思ってる。
「ここがえぇんか?」みたいなのも嫌いじゃないよ(*ノノ)

海賊いいよね!

>>676
実は現代のBCなんかより、よっぽど条件良いんだよ……
もちろんロクでもないのも中にはあるけど、
封建主義と搾取に反発した人達の団体って事で、
その心意気に賛同できて、
ついでに体力があればおすすめw

就職できたらおいらもコネで紹介してくれ!ww
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 21:47:22.13 ID:eTc4IofBo
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/29(金) 03:55:43.71 ID:/cHpNNzr0
ビエンヤクさんの作品はさすが面白いでぇ…
乙です!
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/30(土) 17:55:32.05 ID:NQU4fbLI0
乙!!
正直涙目になった
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 19:28:36.33 ID:ToCl9K9m0
やっと!やっと追い付いた!
貴方の作品ではいつも楽しませてもらってます!
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/30(土) 19:32:09.88 ID:TNPoLAIAO
>>713
sageてくれ

そしてこの板に来たのは初めてだろ
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/07/30(土) 21:12:11.60 ID:rzKDdeRAO
乙乙!
orzが落ちて久々に来たらかなり進んでいたんだぜ
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 07:00:09.61 ID:+JVhsLz8o
まどかおはよう
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 07:05:08.70 ID:+JVhsLz8o
恥ずかしい誤爆なんだな
すまぬ
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/08/06(土) 00:24:15.18 ID:Gu+BRWsAO
ビエンヤクが切れたかな…
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/08/06(土) 23:05:06.01 ID:2FeD8HrV0
投下まってます!
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:02:36.47 ID:ceL5I7rSo
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   昼過ぎ  三番艦 甲板

 ざわざわ

騎士B「いきなりみんなを集めて、どうしたんすか?」

青年「次の停泊地であるリベルタまでだが、
 客人を乗せる事になってな」

 ざわざわ

騎士B「そちらのお連れさんの紹介っすね」

青年「そういうわけだ。みんな、良く聞け――」

 しーん

少女(おお、一瞬で静かになってみじろぎ一つしてない。
 島の若い兵ならまだ話し声が聞こえそうだけど、
 そんな事も無いし。
 この船の人達は若い子でもみんな、
 すごく意識が高いのかな……)

青年「これから三日間、我が船で護送させていただく、
 リベルタ公国、第一公女様だ」

少女「よろしくおねがいしま――」

721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:04:16.22 ID:ceL5I7rSo

 うぉぉぉおおおおおお

少女 ビクゥッッ

騎士C「船に、女の子がっ! 絶壁だけど……」

騎士D「ふむ、かわいさ成分は些か薄いが、
 ボーイッシュなあたりがたまらんでござるなッ。
 ただ、絶壁というのは……」

騎士E「しかも公女だ!
 うまく行けば還俗(げんぞく:僧侶をやめること)
 して玉の輿に乗れる!
 とは言っても絶壁じゃなぁ……」

騎士F「しかも相手はあのリベルタ公国だよね。
 婚姻で結びつきができれば、実家にも貢献できる……
 あとは、絶壁さえ……」

騎士G「……絶壁はステータスじゃね?」

騎士CDEF「「「「限度があるんだよ」」」」

少女「……いいもん、いいもん」ぐすんぐすん

 おおおおおおー、ざわざわ
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:04:45.20 ID:ceL5I7rSo
青年「ええい、静かにしろっ!
 貴様らは恥を知らんのか、まったく……。
 騎士として、それ以前に男子として、
 淑女の前で浮き足立つなど言語道断だ」

騎士C「淑女って言うには胸が……」

騎士B「や、やめてあげるっすよCさん!
 公女様にそんな事を……」

騎士C「おいおい、どうしたって絶壁だろ?」

騎士B「公女様にしても、
 好きで貧乳以下の絶壁という、
 ゼツボーイッシュに生まれてきたワケじゃないっす。
 あんまり言っちゃいけないっすよっ」

少女「ぜ、ぜつぼーいっしゅって……」ガーン……

723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:05:49.66 ID:ceL5I7rSo
騎士G「……落ち込んじゃいけないって、公女さま。
 連中の言葉に耳を貸す必要は無い」キッパリ

少女「でも……」うるうる

騎士G「知っているか?
 『富める者が天国に行くよりも、
  ラクダが針の穴を通る方が簡単だ』と、
 偉大な預言者様も言ってらっしゃるんだ」

少女 グサッ

騎士G「それだけじゃない、まだあるぞ!
 『貧しきものは幸いである』
 預言者様も貧乳スキーなんだっ!」くわっ

少女 グサグサッ

騎士G「トップとアンダーの差などただの幻想っ。
 詰まっているのは脂の塊にすぎませんッ。
 『あの丘の向こうには何があるんだろう』って、
 その丘の向こうが見えないからこそ抱ける妄想ッ!
 触ってしまえば所詮肉ッッ!! 堕肉デス!
 平原の大地にこそ種は植えられ実が結ぶのです、
 人を寄せ付けない絶壁だからこそ、
 その向こうにある楽園を夢見られるのです!
 ああ――その絶壁にこそ ハ レ ル ヤ(祝福あれ)」

少女「祝福するなら胸囲をくださいぃ……」えぐえぐ

724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:06:17.04 ID:ceL5I7rSo
青年 すぅ……

青年「貴様ら、静かにせんかァッッ!」

 キーン……ッ

騎士B「―ッ耳ガ痛イっす……」

青年「休み気分が抜けていないようだな。
 というわけで、自分がいなかった三日間、
 怠けていなかったかを確認する」

騎士B「アイアイサー……って!
 出航したばかりっすっよ!
 それなのにいきなりテストっすか?!」

青年「別に問題なかろう。
 事前の打ち合わせで航路も確定している。
 この辺りは風向きも安定していて岩礁もない」

騎士B「ついさっき海岸が見えなくなって、
 一安心したばっかりじゃないっすか……」

青年「いい準備運動ができたと思え。
 ああ、夜勤班はかまわん。
 いま操船を行っている連中と合わせて、別の機会だ」

 ざわざわ……

725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:07:52.57 ID:ceL5I7rSo
騎士B「うう、やだなー。
 テストなんて滅びればいいのに……」

青年「ぐだぐだ言うな。
 全員抜剣、構え、素振り始めっ!」

 ザッ、ザッ

少女「ううー……」ぬぼぉ……

青年「すまないな。
 普段はもう少し落ち着いた連中で、
 ここまで騒ぐ事は滅多にないんだ。
 まさか俺が三日間留守にしただけで、
 ココまで空気が緩むとは」

少女「いえ、こちらこそー、
 騒がせちゃってー、
 ごめんなさいー」 ぬぼぉ……

青年「た、魂が抜けてないか?」

少女「……部屋で、ちょっと休みます」

 よろよろ

726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:09:09.42 ID:ceL5I7rSo
青年「さすがにこれは……後で慰めに行くか」

騎士B「なんとっ、自分だけ夜這いっすかっ!
 まさかまさかの、玉の輿狙いっすねっ!
 それとももしかして、
 あのアイゼンリッター様にも春が……」

青年「よし、ではテストを始める。
 一人ずつ俺にかかってこいっ、
 この場にいる二十人が全員、
 俺に土をつけられなくば晩飯が無くなると思え!」

騎士B「あれ? ……船長って、
 たしか島の剣術大会一位っすよね」

青年「そうだな」

 ひゅー……

騎士B「ば、晩ご飯―っ!
 船の上の唯一の楽しみを無くすなんて横暴っす!
 ありえないっす、きちくっすー!」

青年「やかましいっ!
 その甘ったれた根性を、
 騎士としてふさわしいものにたたき直してくれる!」

 ぱしーんっ、ずばーんっ………………

727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:09:38.65 ID:ceL5I7rSo
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  夕方  三番艦 副船長室

 こんこんこん

眼帯「どうぞ」

騎士A「失礼する」

眼帯「案外早かったですね、
 来るのは夜になるかと思ってましたが」

騎士A「人目に付かないように、ってことなら、
 夜よりもこれ位の時間の方がいいからな。
 ちょっと掴ませて、当番を代わらせたのさ」

眼帯「なるほど。
 それで、どうでしたか?」

騎士A「何の事だ?」

眼帯「とぼけないでください、
 この三日の停泊期間中に、
 準待機で交代する当番を新入りに任せきりにして、
 どこかに行ってましたよね?」

騎士A「そりゃ、先輩騎士の特権って奴でね。
 可愛い女の子と幸せな時間を過ごしてきたのさ」

728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:10:11.34 ID:ceL5I7rSo
眼帯「わざわざ、街で携帯食料を買いそろえて」

騎士A「……見張られていたのは俺ってわけか」

眼帯「そんな事はしてないですよ。
 コレは私が町に出向いた際に、
 偶然、食料品店から出向くあなたを見かけて、
 カマをかけただけですから」にこっ

騎士A「ちっ、嫌味な副官殿だ。
 もしかしてアレか、査定ってやつか?」

眼帯「そんな大仰なものじゃないですよ。
 ただ、興味が、尽きなくて。
 Aさんも同じでしょう、興味が湧いた」

騎士A「あの鋼鐵の騎士さまが、
 普段とは違う行動をとった理由。
 それも、海賊に会いにいくって話なら、
 聞いちまえば興味を持っちまうよな」

眼帯「だから、おこぼれに預かりたいな、と。
 なにせ、三日間も船長が居なかったんです。
 普段は無駄に厳しい上官の留守を間を任されて、
 ひぃひぃ言ってたモノでしてね。
 その鬱憤を晴らすような話を、
 聞くことができたら嬉しいなーと」にこっ

729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:10:42.94 ID:ceL5I7rSo
騎士A「相変わらず掴めネェ奴だなぁ……まあいい。
 この話の種はあんたから聞いたモノだ。
 借りた種籾は、収穫したら返すのが通りだよな」

眼帯「そう言ってもらえると助かりますね」

騎士A「いちおう、面白いモノはみられたぜ。
 副分団長がつれてきた公女様だがな、
 アレは海賊からの貢ぎ物じゃねぇか?」

眼帯「貢ぎ物?」

騎士A「距離があったせいで、
 風向きによっては聞き取れなかったが、
 確かに『価値がある』だのなんだのと、
 海賊から言われていたからな」

眼帯「それは、どういう事だと思います?」

騎士A「あまり考えたくはないが、
 以前から口さがない連中の間でよく、
 『アイゼンリッター様の功績は、
  本当にあの人が立てた手柄か』って話があったろ?」

眼帯「そうですね。
 あまり耳ざとくない私でも、
 その手の噂は何度か耳にはさんでいますよ」

730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:11:15.13 ID:ceL5I7rSo
騎士A「あの若さで、あの剣術の腕前だ」

眼帯「人間離れしているとは言いませんが、
 あの方の強さは特筆するところがありますね」

騎士A「その点も含めて、あの騎士様には、
 『少々手柄を立てる機会に恵まれすぎてないか』とな
 そんな風にいぶかる連中は多い。
 俺はそんな話し、気にかけちゃいなかったが……」

眼帯「それと、今回聞いてきた会話から推測すると」

騎士A「副分団長は、表向きは清廉潔白な騎士の鏡だが、
 裏じゃ、海賊と手を結んで、
 連中と共存を……なんてな。
 さすがにないか、はは」

眼帯「……騎士団の上層部に睨まれているあの方が、
 副分団長の地位を手に入れた直接的な理由、
 憶えていますか?」

騎士A「何年前だったか?
 たしか、騎士団の隣にあるサラセンの町の有力者が、
 娘が海賊に誘拐されたって騒いで、
 それを助けたんだったか」

731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:11:50.79 ID:ceL5I7rSo
眼帯「誘拐した海賊は捕まってませんがね。
 当時まだ一介の騎士団員にすぎなかったあの方が、
 機転を利かせて独力で若手を動員し、
 町の周囲に包囲網を作る事で、
 海に逃げ出させる前にその娘を保護しました」

騎士A「さすがというか、
 独断専行がなにより禁じられる組織で
 いったい何を考えてやがルのかって問い詰めるべきか」

眼帯「しかし、あの方にとっては契機となった。
 その機転と実績、また有力者からの援護もあり、
 見送られてきた昇進が叶っています」

騎士A「……有力者の娘。
 海賊の誘拐。
 それが理由の昇進。
 って、おいおい、今回の件と似てるんじゃねぇか?」

眼帯「私も『価値』という言葉を聞いて、
 その事に思い至りましてね」

騎士A「あの人が率いていた騎士の若手達。
 誘拐した海賊が捕まってないってのも、
 もし故意に逃がしたのだとすれば」

眼帯「筋が通ってしまう」


騎士A「いや、まさかそんなはずは」

眼帯「……騎士団を変えねば」

騎士A「ん?」

眼帯「あの人の口癖です。
 海賊同然と呼ばれるようになった騎士団に対し、
 それを変えなければと、
 あの人は何度も言っていました。
 今の地位では、何も変えられない、とも」

騎士A「地位があれば、変えられると思うなら、
 手段を問わない可能性もあると」

眼帯「あの人の騎士団改革へ燃やす情熱は、
 並大抵ではありませんからね」

騎士A「そのためには、
 海賊を使って手柄を演出してもおかしくない、
 いや、まさか、そんなはずは」

732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:13:47.05 ID:ceL5I7rSo
眼帯「……やめましょう、こんな話。
 あの人は我らが敬愛すべき副分団長です。
 疑っちゃ、いけません」

騎士A「……そう、だよな」

眼帯「いいですか、この部屋での話は他言無用です」

騎士A「……ああ、黙っていた方がいいん、だよな」

眼帯「いや、ちょっとした好奇心が、
 ずいぶん臭い話になっちゃいましたねぇ」

騎士A「はは、まったくだ。
 酒でも飲んで忘れねぇと、今夜は寝れそうにねぇよ」

眼帯「あまり飲み過ぎてはいけませんよ。
 では、そとそろ持ち場に戻りましょうか」

騎士A「おう。じゃぁな」

 ぱたん

「うーん、まさかこんな事になるとは、
 神以外の誰が、それを知り得るというのでしょう」

「ああ……本当に、副分団長殿はなんて、
 アンラッキーな方なんでしょうねぇ。ひひ」

733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:14:16.67 ID:ceL5I7rSo
------------------------------------------------
   夜 三番艦 船長室

少女(貴賓室みたいな部屋がないからって、
 船長室を貸し出されちゃった……)

少女 きょろきょろ

少女(他の船員さんとか騎士さん達と、
 同じ雑魚寝部屋でも良いって言ったのに、
 それだけは連中がかわいそうだからやめてくれって)

少女「……そんなに拒否られるような絶壁かな?」

少女(うう、島の軍に居た頃も、
 おなじような事は散々言われてたけど、
 身内の冗談って割り切れてたからなぁ……)

少女「なにも目の前であんなに言わなくても……」

少女 はぁー

少女(しかも賓客扱いって事で、
 何もしなくていいです、
 部屋でゆっくり休んでくださいって言われたけど、
 実際は大人しくしててくれって軟禁だよね……)

734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:14:52.34 ID:ceL5I7rSo
少女(みんなとあの船に居た頃は、
 仕事を憶えたりしないといけなかったし、
 何かしらやることはあったから、
 あんまり退屈とか気にならなかったんだけど)

少女 ころん

少女「船長さんの部屋で、
 好きにしていてくれって言われても、
 寝るくらいしかできないよ……」

少女 ごろーん。ごろーん

 こんこんこん

少女 ばっ

少女「はい、いいですよー」

 がちゃ

騎士B「失礼しますーっす。
 晩ご飯持ってきたっすよ」にかっ

少女「ありがとうございます」にこ

735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:16:05.55 ID:ceL5I7rSo
騎士B「おもてなしの準備なんてしてなかったから、
 あんまり上質なものじゃなくて、
 もうしわけないっす……」

少女「気持ちだけで十分ですよ。
 ただ……えっと、これは?」

騎士B「生のニシンっす!
 もしかして、食べたことないっすか?」

少女「干したり、ソテーにしたりはする……しますけど、
 生で食べるっていうのは」

騎士B「あ、自分に対しては敬語とかいらないっすよ。
 気楽にどうぞっす」にかっ

少女「うん、じゃ、そうさせてもらおうかな」

騎士B「生のニシンは、自分の故郷のホラント辺りだと
 一般的な食べ方っす。
 他じゃみかけないっすけど、
 今日は自分が料理当番だったんで、作ってみたっす」

少女「上に乗ってるのは、タマネギ?」

騎士B「塩とタマネギっすね。
 まあ、口に合うかどうかは人それぞれなので、
 公女様の沖に召さなかったら別のを用意するっすよ」

736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/08/12(金) 04:16:41.42 ID:ceL5I7rSo
少女「まあ、それはどうしても食べられなければ」もぐ

騎士B「どうっすか、どうっすか?」

少女「ちょっと食べにくいけど、おいしいかも。
 焼いたりするのとはまた違って、
 コレはこれで好きだよ」にこっ

騎士B「おおー。いやー、よかった。
 獲れたての魚でしか生で食べられないっすけど、
 自分の故郷の味、気に入ってもらえるなら嬉しいっす」

少女「あれ、でも、この船ってディオイツ分隊、だっけ」

騎士B「そうっすよ」

少女「でも、この食べ方って、
 ホラントのって言ってたよね。
 ホラントってたしかスピエナの西側じゃなかったっけ」

騎士B「その通りっすー。
 自分はディオイツの田舎の出身なんすけど、
 いちおう親が男爵っす。
 で、今のディオイツ貴族の間では、
 スピエナとかフリアンスの貴族と結婚するのが、
 流行してるっすよ」

737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:17:19.19 ID:ceL5I7rSo
少女「じゃ、お母さんがホラントの出身?」

騎士B「そういう事っす。
 一時期母方の実家に預けられてたんで、
 そこでこの食べ方を憶えたっす」

少女「へー……
 ところで、騎士さんはたべないの?
 こう、見てられると恥ずかしいっていうか」

騎士B「うぐ、いえ、自分はおあずけされてるっす」

少女「おあずけ?」

騎士B「昼過ぎからやってた剣の練習で、
 アイゼンリッター様ったら、
 俺に勝てなきゃ晩ご飯抜きだーっていわれて。
 連帯責任は免れたっすけど、
 自分は結局勝てなくて……」

少女「剣の勝負とかしてたんだ。
 でも、それなら余計お腹空かない?」

騎士B「しょーじきキツイっす」

少女「こっそり、ちょっとたべる?
 さすがにちょっと量が多いし。
 パン四つとか、魚の他に肉の塊とか……」すすっ

738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:18:03.86 ID:ceL5I7rSo
騎士B「……ごくり。
 い、いただいちゃって、いいっすか?」

少女「うんうん。
 私も体動かすからそれなりに食べる方だけど、
 さすがに男性騎士と同じ量はむりだからね」

騎士B「あー、そうっすよね。
 次の食事の時には、気持ち少なめくらいに、
 調節した方がいいっすよね」

少女「その方が助かるかな。
 さ、食べて食べて」そそっ

騎士B「えへへ、じゃ、こっそりいただきますっすー♪
 うっはっはー、役得万歳っすよー」にこにこもぐもぐ

少女「……っ」

騎士B「ほふはふはひは?」

少女「ん、なんでもないから、もっといいよ?」

騎士B「ひゃっほー♪ るんたるんた〜」もぎゅもぎゅ

少女(……笑うな、私っ。
 犬に餌付けしてるようにしか思えなくても、
 仮にも、仮にも騎士の人だし、笑ったらかわいそう
 ……くっ)ぷるぷる

739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:18:49.50 ID:ceL5I7rSo
騎士B「いやー、おいしかったっす」にぱっ

少女「そんなので足りるの?
 もうちょっと食べても、私はたりるけど」

騎士B「これでも十分っす。
 本当はご飯おあずけだったので、
 とっても幸せな気分っすよー」

少女「それなら良かった」にこっ

騎士B(話しながら食べてるのに、
 上品に食べるっすね。
 ウチも親は男爵とはいえ貴族だって事で、
 そーゆー教育もあったけど、
 やっぱり生まれの差っすかね?)じーっ

少女「そういえば、」

騎士B「なにっすか?」

少女「さっきのアイゼンリッター様って、
 どういう意味?
 人の名前じゃなさそうだけど……」

740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:21:27.89 ID:ceL5I7rSo
騎士B「ディオイツ分団の副分団長にして
 この船の船長たる青年さんの事っすよ。
 いつも『ムッツリ』って顔して融通がきかないから、
 そんなあだ名が付いちゃったっす」

少女「あー、うん、言いたい事ちょっと判ったかも。
 確かに『鉄の人』って感じする、かな」

騎士B「あとは、氷の人とか、無愛想な奴とか、
 さんざんな呼ばれ方してるっすね。
 ま、自分達はむしろ敬意でアイゼンリッターって、
 呼んでるっすけど」

少女「確かに、あのきりっとした顔立ちで睨まれると、
 氷の人って思うかも。
 でも、敬意であえてそう呼ぶの?
 ちょっと皮肉な気がするけど」

騎士B「皮肉って言ったら皮肉なんすよ。
 なんせ、あの人の口癖が『騎士らしく』っす。
 今の騎士団で騎士って呼ばれるの、嫌がらせみたいな感じで。

 それで、一時期いろいろ有ってディオイツ分隊が荒れかけて、
 それをその鋼鉄の意志で規律正しく立て直した、
 功労者にして目の上のたんこぶが、
 あの船長っすからね」

少女「功労者っていうのは判るけど、
 目の上のたんこぶって?」

741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:23:23.69 ID:ceL5I7rSo
騎士B「まあ、規律が乱れた隙に、
 ちょっと懐を暖めようとした連中がいたっすよ。
 そんな連中に、騎士らしくしろって怒鳴りつけて、
 片っ端から改心させていったっす。
 実力とかこみこみで」

少女「それは……すごいね」

騎士B「あはは、気を遣わなくてもいいっすよ。
 騎士はそういうものじゃないって知っていると、
 『騎士らしく』って叫んでる船長は、
 聞き分けのない子供みたいに見えて、
 皮肉の一つも言いたくなるところっす」

少女「それこそ、詩人の英雄譚でもないと、
 騎士道なんて聞かないしね」

騎士B「騎士の一人として、お恥ずかしいっす。
 それでも、だんだんとその行動も認められていて、
 ちょっとずつ、分団の空気が変わっていってるっす。
 そんな自分も、そんな船長と居るのが、
 嫌な気分じゃない一人っす。……へへ」

少女「なんかいいね、そういうの」

騎士B「ちょっと変わってるけど、
 自分達の、胸を張れる副分団長っす」にかっ

742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:23:49.62 ID:ceL5I7rSo
少女「さて、ごちそうさま」

 かちゃかちゃ

騎士B「それじゃ、自分はこれで失礼するっす。
 また何かあったら呼んでもらえると、
 お仕事とかサボっても言い訳できるから助かるっす!」

少女「あはは、そいう話じゃ、
 遠慮無く呼ばせてもらおうかな」

騎士B「何か問題がある場合は、
 部屋の扉にこのタグをかけておいて欲しいっす。
 鍵は安全の関係でナイっすからね」

少女「ん、了解です。
 それじゃ、今日はおやすみ」

騎士B「はい、おやすみなさいっす」にこっ


743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:25:01.61 ID:ceL5I7rSo
------------------------------------------------
   朝  三番艦 船長室

少女 がばっっ

少女「……っ、ぁ」

少女「は……ぁ」きょろ、きょろ

少女「はぁ……」

少女「ゆめ、だよね」

少女「……もう、ゆめ」

少女(白髪さんの故郷。
 白髪さんの守ろうとした場所。
 白髪さんの、死んだ場所)

少女「それから」

少女「それから……私が初めて、人を殺した場所」

 ふら、ふら

少女(町で火を付けていた賊の仲間を、
 探しては殺し、殺しては探して、歩いた夢)

744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:25:32.17 ID:ceL5I7rSo
少女(ぬるい、のかな?)

少女(島の軍にいた人間として。
 海賊の仲間だった人間として。
 どちらも人の命を奪う可能性が高い、
 その覚悟がない人には入れない世界)

少女「でも、幸か不幸か、
 それが必要ないまま生きてこられて。
 幸運だったのかな。
 だって、殺した事が、こんなに、刺さる」

少女(人を殺して当たり前の場所にいて、
 まわりの人も、なんだかんだで人を殺していく。
 殺さなければ殺されるから)

少女「でも、私みたいに、
 ふるえて立てなくなるような人なんて、いない」

少女(ただ、怖い。
 理屈抜きの、恐怖。
 殺したという事実が、
 殺さなければならなかった状況が、
 殺した相手の瞳に映った絶望が、
 怖くて怖くてたまらない)

少女「怖い……」

少女「怖いよ……」

745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:26:13.21 ID:ceL5I7rSo

 こんこんこん

少女「あ、……ちょっと待ってくださいっ」

少女(き、着替え、着替えっ!)

少女「どうぞー」

 がちゃ

青年「おはようございます。
 体調など、いかがですか?」

少女「……大丈夫です、問題ありません」にこっ

青年「……少し、顔色が悪いように見えますが」

少女「そんな事ないですよっ。
 たぶん、部屋が暗いだけで。
 それよりも、何か用件があって来たんですよね?」

青年「はい、もし良ければ、
 風に当たりにいきませんか?

 部下が剣の練習をしているため、
 少し騒がしいかと思いますが、
 気分転換になるかと思います」

746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:26:49.48 ID:ceL5I7rSo
少女「……剣の練習ですか」

青年「分団長の方針で、
 我が分団は航海中でも体力と作業に余裕があれば、
 剣を振るう事が推奨されています。
 陸にいる間と比べれば遊びのようなものですが、
 濡れた甲板での模擬練習などは、
 海賊との戦闘が多い騎士団員にとって必須です」

少女「確かに、陸にいるつもりで剣を振るうと、
 滑って転んだりしますよね……
 って、そうだ、あの」

青年「はい、なんでしょうか」

少女「お願いをしてもいいですか?」

青年「叶えられる事であれば、
 淑女からの願いは騎士にとって断れません」

少女「……迷惑じゃなかったら、
 リベルタの島に到着するまでのあと三日、
 訓練に加えてもらえないですか?」

青年「訓練に加える、ですか……」

少女「おねがいしますっ!」

青年「……」

747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:29:08.81 ID:ceL5I7rSo
------------------------------------------------
   昼  三番艦 甲板

 ガキッ、ギンッ、

少女「……ふっ」

 バシュッ、チャキンッ

青年「踏み込みが甘いですよ。
 それから肩に力が入りすぎて、
 剣筋がブレています」

 キン、ガンッガンッ

少女(こちらの攻撃を受けてのカウンターッ。
 海水で滑る船の甲板の上で、
 なんでこんなにためらいなく踏み込めてっ)

青年「防御は、悪くないですね。
 少し速度を上げて、フェイントも入れますよ」

少女「ハイッ」

 ガッ、カカッ、キンッ

少女(力、強いっ。
 隙、なくて、押し切られる……っ)


748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:29:45.20 ID:ceL5I7rSo

 ギン、ギン、ガキィィィンッ

眼帯「そこまでっ。
 両者引いて、礼をっ」

青年「ありがとうございました」

少女「ぜ、は……っ、ありがとう、ござい、ました
 ……あー、今日で最終日なのに、勝てなかったー」

眼帯「最終日なんですから、
 副分団長も白星を譲って差し上げればいいのに」

青年「そんな不誠実な真似は騎士として許されんだろう。
 ……お疲れ様です、公女様。
 怪我など大丈夫ですか」

少女「いえ、ないです……でも、ちょっと疲れたぁ」

青年「日陰で少し休みましょうか」

少女「ありがとうございます……
 ふぅ……。生き返るかもぉー」ぐたぁっ

青年「ついやり過ぎてしまいましたかね」

749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:30:42.00 ID:ceL5I7rSo
少女「気にしないでください。
 私が、部屋でじっとしていたくないからって、
 無理を押して訓練に混ぜて欲しいって頼んで」

青年「まさかそんな頼み事をされるとは予想外でした。
 そして、一日ならず、今日まで三日連続で……」

少女「あはは、ごめんなさい。
 それにしても、この三日間で六回剣を合わせて、
 一度も勝てる気がしなかったなぁ……
 そんなに剣を握るのむいてないですかね?」

青年「……それは」

眼帯「はっきり言えば、向いてないですね」きぱっ

少女「こっちから来たっ」びくっ

眼帯「審判として横で見てますからね。
 だからこそ判る部分もあります。
 はっきり言えば、公女様は剣に向いてないですね」

少女「そ、そこまで?」

眼帯「はい」

750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:38:31.96 ID:ceL5I7rSo
青年「むずかしい所だが……公女様、
 自分もこの三日お相手した感想として、
 公女様には剣は向いていないと思います」

少女「そう、ですか……」

青年「身長、体重、筋力の問題もあり、
 女性である公女様の御身では、
 全般的に力強さに欠けます。
 しかし、それを補う身のこなしができる事を考えれば、
 筋は悪くないと言っても良いでしょう」

少女「う、誉められてると思うんだけど、
 話の展開からして、
 この後におとされる気が満載……」

青年「すみません。
 しかし、ここは心を鬼にして忠告します。
 そうした技術の優れたところを見て、
 また何度かお相手させてもらってわかった稽古から、
 公女様はこの船にいる騎士の、
 誰と戦っても勝つことはできないと言いましょう。

 理由は恐らくご自身が一番わかっているかと」

眼帯「……」
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:39:37.45 ID:ceL5I7rSo
少女「……もしかして、無意識のうちに、引いてた?」

青年「そうですね。
 防御の際には文句のない型でしたが、
 相手である自分に剣を向けたときには、
 剣先が振れていました」

少女「……」

青年「相手を恐れる剣では、
 敵を倒すことはもとより、
 身を守る事も危ういでしょう」

少女「です、よね」

青年「……」じっ

少女(たぶん、わかってた。
 云われなくても、自分で、
 こうなるだろうなって)

青年「ですが……いえ、失礼。
 他の者の指導に、少し離れます」

少女「あ、それなら、私はいったん部屋に戻ります。
 今日の内に、リベルタに着くんですよね」

青年「はい、その予定です」

752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:40:29.57 ID:ceL5I7rSo
少女「それなら、部屋で準備をしています。
 何かあれば呼んでください」

青年「判りました。
 夕方から夜には港に着く予定です」

少女「はい、わかりました」へこっ

 とことこ

少女「……」とことこ

少女「……」とこ

少女「やっぱり、そうだよね。
 答えも見つかってないのに、
 剣を握って何もできなくて当然じゃん」

少女「たぶん、最後の機会なのに」

少女「この船から下りたら、
 きっともう、剣を取る事も、ない」

少女「奴隷っていう信じられない所から始まった、
 この旅ももうすぐ終わりになって……」

少女「全部、夢だったみたいに、
 思うようになるのかな?」


753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/08/12(金) 04:42:08.93 ID:ceL5I7rSo
今日はここまでー。
来週からはまた通常運転頑張ります><
亀足でごめん。
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/12(金) 05:53:25.20 ID:Xqta7LVIO
乙乙
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/08/12(金) 09:02:24.06 ID:06q/Ir4AO
更新キター!!
もう来ないかと思ったぜ…
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/18(木) 04:37:59.47 ID:ztK+P0r+o
ワクテカ
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/08/22(月) 00:17:20.44 ID:/ygFlm8H0
通常運転頑張ってくれww
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 10:36:12.81 ID:slpYgxIDO
支援
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 10:36:55.77 ID:slpYgxIDO
支援
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 10:37:42.83 ID:slpYgxIDO
支援
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 10:38:58.94 ID:slpYgxIDO
支援
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 10:45:32.60 ID:slpYgxIDO
ミスった連投すまん
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 16:27:57.83 ID:cH4yW6ooo
なんさ投下が始まったかと思ったわ
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/27(土) 18:30:19.08 ID:KM0e1Mjao
ワロタ
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/04(日) 01:12:12.93 ID:uUQZ1E7Ao
もうだめっぽいな
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/09/04(日) 06:14:13.13 ID:zyknNSyZo
来てくれないかなぁ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/04(日) 06:31:07.13 ID:O3gNO6nDo
Twitter(>>69)で言ってる投下できそうってのはここの事かな?
(自分はTwitterやってないんで、直接聞けってツッコミはなしでお願い)
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/04(日) 23:07:18.41 ID:6sIdOkXGo
------------------------------------------------
   夕方  リベルタの港

少女「いや、びっくりしたぁ。
 まさか、船を下りるときに、
 全員揃って見送ってくれるなんて思って無かったから」

青年「こちらで号令をかけたという事はありませんから、
 公女様の御人徳です」

少女「人徳とか、そんなの無いですよ。
 まあ、好いてもらってたなら嬉しいけど」にへら

青年「いえ、人徳というべきでしょう。
 普段は不真面目な連中まで整列していたので、
 どんな魔法を使ったのかと自分も驚かされました」

少女「あはは……」(あー、それは言えないなー。
 船の夜があんまりにも暇だから、
 こっそり部屋を抜け出して、
 片隅でやってた賭トランプに混じってたなんて)

青年「自分も部下がついてくるよう、
 より精進しなくてはいけませんね。
 まずは騎士団規律の音読百回からか……」うむうむ

少女「あ、あんまり、厳しくしないであげてね……」

769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:07:44.11 ID:6sIdOkXGo
青年「それにしても、賑やかな良い港ですね」

少女「うーん……懐かしいなぁ」

青年「懐かしいという程離れていたんですか?」

少女「なんだかんだ言って、
 結局半年近く離れてたからさ。
 春先に出たのに、もう秋の光景なんだよね」

青年「なるほど」

少女「でも、やっぱりこうやって歩いてると、
 何となく落ち着くんだー。
 やっぱり、故郷なんだよね」

 たったった

青年 すっ

少女「あ、大丈夫だから」

ちびっこA「おねーちゃーん、おかえり!」

少女「や、久しぶり」にこっ

ちびっこB「わー、お姉ちゃんだー!」

770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:08:10.04 ID:6sIdOkXGo
ちびっこC「家出してたってほんとー?」

ちびっこD「かけおちしたってきいたよー?」

ちびっこA「あ、もしかしてその人だんなさん?」

少女「え、ちょ、そんなんじゃないってばっ!」

ちびっこB「あはは、お姉ちゃんあわててるよ。
 あっやしー!」

ちびっこ達「「「あっやしー♪」」」

少女「あーもー、大人をからかうなーっ!」

 わーきゃー

 どたどたどた

少女「ぜー、はー……」

青年「大丈夫ですか?」

少女「ああうん、まあ……
 いつもこんな感じで、遊ばれちゃってて」てへへ

青年「馬車など呼ばないでも大丈夫なのでしょうか。
 港の人間に言えば、調達できると思いますが」

771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:08:43.38 ID:6sIdOkXGo
少女「そこまでしないでもいいよ。
 それに、久しぶりだから歩きたいかなー」

青年「了解しました」

少女「護衛してもらってるのに、ごめんね」

青年「かまいません。それに……」

少女「それに?」

青年「自分は、馬車が、その」

少女「好きじゃない?」

青年「いえその、船は大丈夫なのですが、
 馬車に乗ると、酔ってしまいまして……」

少女「なんだ、そんなに言いにくそうにする事でも、
 恥ずかしがるような事でも無いと思うけど」

青年「は、恥ずかしがってなど……っ」ばっ

少女「にひひ」

青年「……なんですか、その笑いは」

少女「いえいえなんでもー。ふふん」

772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:09:47.86 ID:6sIdOkXGo
 とことこ

主婦A「おや、公女様じゃないかい」

主婦B「あらまっ、やーねぇ、元気だったの?」

少女「ただいま、おばちゃんたち。
 見ての通り、元気だよ」ぐっ

主婦C「うちの子達にも会ったかしら?
 いま頃だったら、そっちの方にいたと思うけど」

少女「うんうん。いつも通り元気いっぱいだったね。
 駆け落ちしてたとかなんとか、からかわれちゃったよ」

 キラーンッ☆

主婦D「やーねぇ、あの子たちったらそんな事」

主婦E「でも、やっぱり気になる所じゃない?」

主婦達「「「ねぇ? うふふふ」」」

少女「……」たらーっ

主婦A「まあでも、公女様には恐れ多くて聞けないわー」

主婦達「「「ねぇ? うふふふ」」」

773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:10:35.79 ID:6sIdOkXGo
主婦B「で、そこのあなた、本当はどーなのー?」

青年「自分は一介の騎士に過ぎません。
 公女様とは任務の途中で護衛を頼まれた身です」

主婦C「あらやだ、公女様ったらもー、
 ずいぶんなイケメン捕まえちゃってぇ。
 しかもすっごい真面目さんじゃないのー」ばしばし

少女「い、痛いってばー。それにそんなんじゃ……」

主婦D「公爵様も美人さん捕まえるのうまかったけど、
 やっぱり血かしらねぇ?
 やだわー、やっぱり娘の旦那はイケメンがいいわよね」

主婦A「そうよね、やっぱり家がつながるんだったら、
 『お義母さん(キリッ)』
 なーんて子がいいわよねぇ」

青年(あの公女様が完全に遊ばれてる……
助けは……無理か)はぁ

少女「ちょっと、なんでご愁傷様みたいな、
 取り返しが付かない人を見るような目で……」

主婦B「もー、ホント二人は仲がいいのね、うふふ」

少女「あーうー」

774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:11:27.41 ID:6sIdOkXGo
主婦C「でも、いまどきこんな子なかなかいないわよー。
 真面目そうで、よく鍛えられてて……
 夜なんてがんばってくれちゃいそうだし、
 いっそがぶっといっちゃったらどうかしら」キラキラ

少女「がぶって、何をどんな意味でがぶって!」(////

主婦D「あらやだもー、
 この子ったら赤くなっちゃってぇー」

少女「うきーっ、もう行くよ、青年さん!」

青年「は、はあ」

主婦A「あら、もう行くの?」

少女「つきあってらんないもん!」ぷいっ

主婦B「まあまあ。また晩ご飯食べにいらっしゃい」

主婦C「よかったら、ちびっ子たちとも遊んであげてね」

少女「……うん」

主婦D「その時はその人の事、たっぷり聞かせてねー」

少女「何にもないってばっ!」

 どたどた

775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:11:54.80 ID:6sIdOkXGo
------------------------------------------------
  夕方 リベルタ市街地

少女「あー、巻き込んでごめんね。
 悪い人達じゃないんだけどさー」

青年「問題ありません。
 公女様こそ、お疲れさまです」

 とことこ

豪商「おやまあ、公女様ではないですか。
 お久しぶりでございますね」にこ

少女「あ、豪商さん。お久しぶりです。
 足の具合はいかがですか?」

豪商「見ての通り、散歩ができるようになりました。
 これも全て神と公爵様の思し召しです」

少女「お父さんにそんなご加護はないけどね。
 でも、それだけ元気になれたなら良かったー」

豪商「公女様もお元気そうでなによりです」

少女「えへへ、心配おかけしました」へこ

776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:12:22.53 ID:6sIdOkXGo
豪商「……して、そちらの御仁はもしや、
 噂のかけおちのお相手ですかな?」

少女「ちょ、おじいちゃんまでーっ!」

豪商「はは、冗談ですよ」

少女「むぅ。えっと、この人は青年さん。
 マータ騎士団のディオイツ分団で、
 二番目に偉い人……なんだよね」

青年「偉いかどうかはさておき、
 副分団長を任せてもらっています、ご老公」

豪商「これはこれはご丁寧に。
 豪商と申します。
 公女様とは十年来親しくさせていただいておりますが、
 一介の元商人にすぎませんよ。
 騎士の方の尊称は身に余ります」

青年「……では、豪商殿と」

豪商「ほほ、ありがとうございます」にこ

青年(トルキアからベネッタへの通商路を、
 がっちり握ってる公爵家と親しい人間が、
 一介の商人という事はありえないだろうに……)

777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:13:16.78 ID:6sIdOkXGo
豪商「警戒されてしまっていますねぇ……」苦笑

青年「いえ、そのような」

豪商「今は楽隠居をしておりますし、
 ただの甘い物が好きな年寄りといった所です。
 本当に、それだけです」

青年「はい」

少女「そういえば、帝国と取引し始めた理由が、
 砂糖がほしかったから、だったんだよね。
 それでお家を大きくしたって」

豪商「懐かしい話です。
 貴族でもない身で甘い物が食べたければ、
 僧侶になるか、それとも商人になるか、
 はたまた海賊になるかと……」

少女「もう、その話は何回も聞いたよ?」

豪商「ほほ、そうでしたかな。
 さて、そろそろお屋敷に向かわれると良いでしょう。
 公爵様が首を長くして、
 お嬢様をお待ちしているでしょうからね」

少女「それじゃ、豪商さん、今度またお茶しようね」

豪商「はい、楽しみにしていますよ」にこ
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:13:53.06 ID:6sIdOkXGo
------------------------------------------------
  夕方 リベルタ公爵家門前

兵士B「ふぁあ……」

兵士A「おい、見張り中のあくびなんて見られたら、
 俺まで一緒にどやされるんだが」

兵士B「あ、ああ、悪い。
 でも、誰も来ないしなぁ……」

 とことこ

少女「ごめんね、長く歩かせて。
 まあ、そこの門からすぐだから……」

青年「気になさらないでください。
 この程度の距離なら散歩に丁度良いですよ」

兵士A「……ん?
 はっ、伍長! おまえら、伍長が帰って来たぞ!」

少女「あ、みんな、ただいまー」
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:14:22.51 ID:6sIdOkXGo
 どたどたどた

兵士C「うおー、伍長だ!」

兵士D「いや、もう退役してるんだから、
 公女さまって言えよ」

 わいわいがやがや

少女「あはは、みんなはしゃぎすぎだってー」

兵士B「しかし、半年も、音信不通で……
 よく帰って来てくださいましたっ」

少女「遅くなってごめんね」

兵士C「まあ、ご無事だったならなによりですよ」

少女「みんなも何か変わった?」

兵士D「今の上官は訓練きびしい事くらいですかね。
 ごちょー、もどってきませんか?」

兵士E「いや、さすがにもう無理だろ、いろいろ」

少女「あはは、ごめんね」
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:16:45.93 ID:6sIdOkXGo
兵士A「それにしても、なんか雰囲気かわりましたね。」

少女「ふふん、これでも成長してるんだから」

兵士B「成長……して、いえ、なんでもありません」

兵士C「強く生きてくださいね、伍長……」

少女「なんで胸の辺り見ながら言うのよ!」

兵士E「まあ、絶壁伍長ですから」

少女「……こんど、公爵権限でも使って
 崖登りの訓練でもねじ込んでもらおうかな。
 獅子は育って欲しい子供を崖から落とすって……」

兵士達「「「すみませんっした!!」」」」

少女「で、みんなは訓練とか見張り中じゃないの?」

兵士A「そうですね、そろそろ、交代かな?
 全隊並べ! 基地まで駆け足!」

兵士達「「「はっ!!」」」
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:20:52.68 ID:6sIdOkXGo
兵士A「それじゃ、公女様、
 落ち着いたら演習場にも顔を見せてください。
 軍曹が会いたがってましたよ」

少女「うん、近いうちに挨拶に行くね」

兵士A「ぜんたーいっ、公女様に敬礼! 休め!
 右向け右っ、駆け足いくぞっ!」

兵士達「「「はっ!」」」

 ざっざっざっざ

青年「……」

少女「気になる?」

青年「いえ――はい、気になります」

少女「やっぱり、騎士団の人達とは、
 ちょっと空気がゆるいよね」苦笑

青年「確かに、一つの隊として動くには、
 もう少し厳しい訓練を行って、
 足並みをそろえた方が効率的だと考えます。
 しかし」

少女「しかし?」
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:26:32.14 ID:6sIdOkXGo
青年「一人ずつの兵として考えれば、
 少しうらやましく思えます」

少女「うらやましい、のかな。
 騎士団の人達にくらべたら、
 大人と子供……とまでは言わないけど、
 島の軍って、ちょっと訓練の厳しい自警団だから、
 そんな風に思ってもらえるものかな?」

青年「そういう話ではありません。
 確かに精強さや、その部隊としての行動を見れば、
 この島の兵はかなり『ゆるい』部類でしょう。
 ですが、自分であれば、戦いたくない相手です」

少女「……」

青年「いえ、なんでもありません。行きましょう」

少女「うん」

青年「それにしても、少し驚きました」

少女「なにかあったの?」

青年「この公国において、公爵はいわば最高権力者。
 その娘であるあなたは、市井においては『雲の上の人』 
 のはずなのでしょうが……」
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:29:42.45 ID:6sIdOkXGo
少女「雲の上なんて事ないよ。
 公爵って言っても、いまの封領はこの島と、
 人のほとんどいない離れ小島がいくつかだけ。
 海運の要衝だから、重要度で言えば妥当だろうけど。
 島の人達には町長くらいにしか思われてないし、
 私もお父さんも島で育ってるから、
 ケンカ友達に肩書きがついただけみたいな感覚かな」

青年「ケンカ友達、ですか。」

少女「小さい頃はいちおう、
 深窓の令嬢みたいにしてたけどね。
 そこから外に連れ出してくれた人がいて、
 この辺りで育った同年代の子とは、
 一緒にボロボロになるまで遊んでたんだ」

青年「随分と……活発ですね」

少女「ほめ言葉?」

青年「……誉め言葉です」ついっ

少女 にやぁっ

青年「……」汗
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:32:20.13 ID:6sIdOkXGo
少女「で、ボロボロになったまま、
 みんなと町に帰ってきて、
 お母さんたちに怒られる所まで一緒するの。
 あの頃はよく怒られてたから怖かったなー、あはは」

青年「なるほど、だから、港にいた年配の女性達が、
 あんなにも親しくされていたと」

少女「お母さんがいなかった私にとって、
 自分の子供と一緒に私の面倒も見てくれた
 『お母さん』達なんだよ。
 あともう一人、
 乳母としてお母さんしてくれた人もいてね」

青年「大家族なんですね」にこっ

少女(……初めて笑った顔、みたかも。
 なんか普段真面目なかたい顔してるけど、
 実は笑ったらちょっとかわいいかも?
  っていうか、よく見たらけっこう若い?)

青年「ごほん……」

少女「あ、ごめん」

青年「では行きましょうか」

少女「うん、やーっと屋敷だよ」
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:34:38.09 ID:6sIdOkXGo
------------------------------------------------
  夜  リベルタ公爵の屋敷

少女「ただい……」

乳母「はっ、お嬢様ぁっ!」 ひしっ

少女「だー、乳母さんはまたお嬢様ってー」

乳母「お嬢様はお嬢様でらっしゃいます。
 うう、お労しや、こんなに日にやかれてしまって……」

少女「健康的だよね」

乳母「うう、そうでした、こういう方でしたわ……」

青年(……やはり、随分と風変わりな屋敷だ。
 まさか入っていきなり人が飛んでくるとは)

家宰「ひかえなさい、乳母」

乳母「あ、はい。」

家宰「お見苦しいものをお見せしました。
 歓迎いたします、お客様。
 私、公爵家に務めております家宰、
 こちらは使用人頭の乳母と申します。」

青年「マータ騎士団ディオイツ分団副長、青年です」
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:37:04.20 ID:6sIdOkXGo
家宰「お嬢様を拾い届けくださりありがとうございます。
 甘やかしてしまったために少々おてんばで……
 ひっかかれませんでしたか?」

少女「私は荷物や猛獣かっ!
 せっかくの再会なのにひどいなー」

乳母「酷いのは『せっかくの再開』になるような、
 長期間の無断外泊をなさったお嬢様です」

少女「うぐ」

家宰「おかえりなさいませ、お嬢様」

少女「……家宰も久しぶり。
 それからお嬢様はやめてってば」

家宰「では公女様と」

少女「そっちの方がもっといやだってば」

家宰「では、放蕩娘様と。
 もしくは家出娘様でしょうか、
 はたまた親泣かせ様でしょうか」

少女「……ごめんなさい。」

家宰「私ごときに謝られる必要はございません。
 心を痛めておられたのは旦那様でございます」
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:39:20.90 ID:6sIdOkXGo
少女「はい……」

青年(あの公女様がこんなにもへこまされて……
 しかし、お嬢様を叱る教育係というより、
 猛獣をしつける動物使いのように見えるが)

家宰「ごほん。
 青年様、当家の主人がお礼の気持ちを伝えたいと、
 言っております。
 お時間がありましたら、おつきあいいただけませんか」

青年「わかりました。ご招待をお受けいたします」

家宰「ではご案内いたします。
 お嬢様もいらしてください。
 乳母は仕事に戻ってください」

乳母「でも……」

家宰「旦那様の後、お話する時間はとれるでしょう。
 すぐに出かけられたりはなさいませんよね、
 お嬢様」キラーンッ

少女「う、うん……」がくがく

家宰「よろしい。
 それでは先に旦那様のもとへ」

青年(……やはり動物使いが正しいか)
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:41:14.47 ID:6sIdOkXGo
 とことこ

青年「こちらは……?
 どうやら私的な空間のようだが」

家宰「はい、旦那様の私室でございます。
 既に時間も遅いので、
 お嬢様を連れてきてくださった御仁に、
 まずは私人としてお礼をさせていただきたいと」

少女「珍しいね、普段だったらお客さんはまず、
 客間で会うのに」

家宰「客間ではありません。謁見の間です」

少女「お父さんも客間って言ってるけど。」

家宰「……謁見の間です」じろり

少女「は、はい」

家宰「さて――」

 こんこん

家宰「だんなさま、お嬢様と、
 お嬢様を送ってくださった騎士の青年様です」

公爵「おお、はいってもらいなさい」
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:43:11.04 ID:6sIdOkXGo
 がちゃ

青年「失礼します」

公爵「初めまして、どうぞ、そちらにおかけください」

青年「はっ、失礼します」

とことこ

少女「ただいま、お父さん」

公爵「おお、少女か。
 いや見違えたね」

少女「見違えたって……まだ半年だってば」

公爵「少女の歳で半年というのは長いものだよ。
 私のような年寄りになれば、一時だがね」

少女「そうかな……」

公爵「そういうものなのだよ。
 まあ、積もる話は後にしようか」

少女「はい」
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:53:30.54 ID:6sIdOkXGo
公爵「良ければ今夜は我が館に、
 お泊まりになってくださいませんか。
 ささやかなお礼ではありますが、
 島の料理をごちそうさせてください。
 正式な話は改めて……」

青年「栄誉あるご招待をいただき、
 とても嬉しく思います」

青年(リベルタ公爵の娘を届けたとなれば、
 騎士団としての対応が必要になる。
 良くも悪くもそれだけの価値がある身柄だ。
 それ相応の謝礼を要求しないのも、
 また貴族である彼らにとって無礼になるが)

青年「しかし、明日の朝には出航するために、
 船を預かる身として、
 その指揮をとらなくてはなりません」

公爵「……しかし」

青年「自分は、この島に寄った『だけ』です」

青年(だが、リベルタは『帝国との窓口』という、
 一神教を掲げる騎士団にとって危険な一面もある。
 ルターの贖宥状以来、騎士団でディオイツ分隊は、
 どうしても危険視されてしまっている。
 その要因をこれ以上増やすことはできん)

791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/04(日) 23:56:09.32 ID:6sIdOkXGo
公爵「そうですか、それでは仕方有りません。
 しかし、娘を送り届けてくださった方に、
 まったくお礼をせずに返しては、
 当家の名が落ちます。
 なにか、お礼ができることはありますかな?」

青年「……そうですね、一つだけお願いがあります」

公爵「なんでしょうか」

青年「船での旅は、食事が数少ない楽しみとなります。
 そこでいくつか、この島の食材などを、
 船にいる騎士たちの分も、
 差し入れていただけないでしょうか」

青年(食料の供給ならば、
 一応教会勢力として、寄付のつもりで行っても、
 不信感は抱かせないだろう。
 ……隊員には箝口令が必要だろうがな)

公爵「わかりました。
 皆様のお口にあうかはわかりませんが、
 届けさせておききましょう。
 それだけでよろしいのですか」

青年「はい。十分です」
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:05:03.01 ID:6vjGG3NKo
公爵「あなたは良い騎士の方のようだ。
 またいらしてください。
 私はあなたへの恩を忘れないでしょう」

青年「はっ。お心遣い感謝いたします」

青年(……いたずら好きの子供のような顔だな。
 こちらの状況も、意図も、全てお見通しか。
 その上で、恩を忘れないと。
 もし騎士団でディオイツが孤立した場合、
 力になってもかまわないという事か、
 それとも――
 真意がわからん、良くも悪くも食えない人だ)

公爵「それでは、またお会いしましょう。
 家宰、港まで馬車でお送りしなさい」

家宰「かしこまりました」

青年「それでは、失礼します」

少女「送ってくれてありがとう」にこ

青年「また、機会があれば会いましょう。
 騎士達が喜びます」

少女「うんっ」

 ぱたん
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:09:00.93 ID:6vjGG3NKo
公爵「……ふう。おかえり、少女」

少女「ただいま、お父さん。
 ……いま、青年さんのこといじめてなかった?」

公爵「まさか、いじめてなどおらんよ。
 あのような実直な若者は好ましい。
 仲良くしたいと言っただけだとも」

少女「なんか、二人の間にいろいろ見えたんだけど……」

公爵「はっはっは。
 そんな事よりもどうだったかね、旅行は。
 見たいものはみられたかな」

少女「うーん、出発する前は、
 ミエディッチ家の美術品とかが見たかったから、
 そういう意味では目標は達成できなかったかな」

公爵「ふむ、一度は見ておくと人生の糧になる品々と、
 この島にまでその名が響くほどだ。
 私の代わりに見て欲しいと思っていたが」

少女「ごめんね」

公爵「いや、かまわんよ。
 しかし、残念がっているようには見えないね」
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:10:57.14 ID:6vjGG3NKo
少女「いろいろあって、
 それどころじゃなかったっていうか……」

公爵「……」

少女「……」

公爵「…………おいで」

 とことこ

 なでなで

少女「お父さんに頭なでてもらうの、
 何年ぶりかな」

公爵「ふむ、随分と前の気がするね」

少女「うん」

公爵「……いろいろとあったようだね。

少女「……うん。」

公爵「今日は疲れているだろう。
 帝国式の蒸し風呂にも火を入れさせて、
 早めに食事をしようかね」
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:13:20.25 ID:6vjGG3NKo
少女「……なにがあったのか、聞かない、んだ」

公爵「聞かせてくれるなら聞きたいがね。
 でも今日は疲れているだろう」

少女「……うん」

公爵「ならばゆっくりと休んで、
 明日は騎士さんたちの出航を見送りなさい。
 それから、心配をかけた人達に挨拶をしてくるといい。
 話をするならば、その後でもかまわないだろう」

少女「はい。」

公爵「うむ、良い返事だ。
 ではこれから、厨房に向かおうか」

少女「あれ、まだご飯には少し早いと思うけど」

公爵「うむ、普段は一秒たりとも早めてくれない、
 あの強敵――料理長が相手だが、
 今日くらいは融通してもらわなくてはな。
 二人で出向いてお願いしよう」

少女「うん。にこっ」
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:16:42.69 ID:6vjGG3NKo
------------------------------------------------
  夜 公爵家 少女の私室

少女「ふえー、おなかいっぱい……」

 ごろんごろん

少女「この四日間の食生活、ひどかったからなぁ。
 まあ、軍艦だからしかたないんだろうけど」

少女「歯がきしみそうなかたーい黒パンに、
 酸っぱくて渋いワインと、塩漬けのキャベツって、
 腐りそうな物はダメだけどさー……
 まあ、キャベツが出た分だけ、
 一般騎士の人より豪華なのはわかるけど、
 いいかげん飽きるし」

少女(あー、きがえないと……)

 のそのそ

少女「干し果物で賭け事とか、してもしょうがないよね」

少女「あれ……奴隷をしてた時の待遇と、
 そんなに変わらなかったような……
 まあ、自分の荷物として、
 食料が持ち込める分だけよかったけどさ。」
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:19:00.90 ID:6vjGG3NKo
少女「よしっ、着替えも完了」

 ごろーん

少女「そう考えると、フリークス・パイレーツの船は、
 比べられないくらいよかったなー。
 包帯さんの作るご飯はお店顔負けの味だったし、
 双子妹ちゃんの作ってくれたお菓子は、
 考えたこともないようなびっくりが、
 いーっぱいあったし……」

少女「……みんな、どうしてるのかな」

少女「どうして、私をおいていったのかな」

少女「やっぱり、私が、あんな風になったからだよね」

少女(白髪さんが死んじゃって、
 白髪さんの仇討ちだって、いっぱい人を殺して、
 殺したぶんだけ、吐いた気がする……)

少女「白髪さんの故郷をまもったはずなのに、
 人を助けたはずなのに、

 海賊って、

 人殺しってよばれて」
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:23:51.21 ID:6vjGG3NKo
 ぶるり

少女「その罪が怖くて、しにたくなって」

少女「……でも、あんな、
 悲しそうで、苦しそうな目で、
 死にたがる私を止めたそうに、
 泣きながら殺してくれる人がいるのに

 自分だけ、ただ何もかも投げ捨てて、

 なにも考えずに、ただ死んだらいけないって
 急に湧いてきたんだよね。

 そんな風に、私の心に届くくらい、
 『近く』なったはずだったのに」

少女「あの無愛想な人も、ここにはいなくて、
 かすれた低い声も聞こえなくて、
 夜の海みたいな瞳も、見えなくて、
 あの、子供みたいな泣き顔から、
 涙をぬぐうこともできない場所にいて」

 とくん

少女「泣いて、ないかな?
 みんながいるのに、一人で泣いてたりしないかな」
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:30:57.34 ID:6vjGG3NKo
少女「なんだろう、
 普段は無愛想で、全然揺れないひとなのに、
 なんであんな風に泣いて、
 その印象ばっかり……」

『絶対に許さない――』

『ころす、ころすころすころす――』

少女「……夜の海みたいな、瞳」

『家族なんていらない』

『復讐さえあれば』

『■■■、■■■■■■■■■■■■』

少女「なんだろ、なにか……」

 ぞくっ

少女「……やだやだ、ねようっ。」

少女「今日はもう寝て、明日はいろんな人に挨拶して、
 それからお父さんに話そう。」

少女「旅のことも、……人を、殺した事も。
 それから、男の事も」

800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:34:52.97 ID:6vjGG3NKo
------------------------------------------------
  夜  隠れ港の酒場・錨亭

 がやがや

包帯「まいったねー」

男「……まいったな」

双子妹「まいったでありますよー」

狼「……」

女将「どうしたんだい、あんたら。
 こんな所でうなだれちゃってさ」

男「アレの件だ」

女将「ああ、船員募集ってやつかい。
 あんたの船だったら、けっこうきたんだろ?」

包帯「何人か話を聞きに来たんですけどね。
 僕達のことをちゃんと知ってる人達は、
 ただの酒の肴扱いで……」

男「実際に乗りたいと言ってきたのは多くない」
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:37:31.68 ID:6vjGG3NKo
包帯「たしか、三十人くらいいたかな?」

双子妹「正確には三十四人であります。
 ……存在はしていた、であります」

女将「なんだい、そんな落ち込んだ、
 まだるっこしい言い方して」

男「たとえば、この包帯だ。フードの中を見てみろ」

 ぱさっ

女将「う、……痛くないのかい、そりゃ」

包帯「寒い日はちょっとひきつれますけどね。
 普段は大丈夫なんですよ」にこ

男「こいつの見た目を気にして、
 そんな危ない船はたくさんだと言ってな、
 十人ほど出て行った」

女将「情けないねー。
 でも、傷を恐れるようなへっぴり腰の男たちなんざ、
 使い物にならないだろうさ。
 そんな連中は追い出すのが一番だろうね。
 でも、そんな連中だけじゃなかったはずだろ?」
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:39:54.72 ID:6vjGG3NKo
双子妹「あとは、自分のコレであります」

女将「それは……魔女の入れ墨かい」こそっ

双子妹 こくり

女将「なるほどね。命をおしまない連中も、
 教会を敵に回すのはいやだからね。
 港に入れない、物も売れない、捕まったら殺されると、
 最近の連中は『神の敵』を作るのに必死だからねぇ」

男「それでなくても、
 船乗りは縁起をかつぎたがるものだ。
 仲間に魔女が居たとなれば、
 いつ海の怒りを買うかわからないとな」

女将「こんなちっちゃい女の子の一人や二人で、
 なにをいってるんだかねぇ。
 いいじゃないか、そんな連中お断りしてやんな」

男「当然だ」

双子妹「でも、それで残りが十二人になったであります」
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:42:41.36 ID:6vjGG3NKo
女将「で、あとは何があったんだい。
 いっそ、何が起きるのか楽しみになってきたよ」

狼「……ごめん」

女将「なんだい、お嬢ちゃんがなんかしたのかい」

男「こいつの見た目も普通とは少し違うからな」

女将「どれ、みせてみな」

 ぱさっ

女将「はぁん、なるほど。
 呪い持ちかい」

双子妹「その見た目で、
 まず八人が席を立ったであります」

女将「十二人いて、八人が席をたったんなら、
 残ったのが四人いたんじゃないかい?」

狼「……ごめん」

双子妹「その四人が狼のお姉様に『ピーーーーー』とか、
 『ズギューーーン』と言った上で、
 最終的には……もごもご」

包帯「ちょーっと、声を小さくしようかー」汗
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:44:38.93 ID:6vjGG3NKo
男「お前はわすれておけ」

双子妹「忘れるでありますか」

男「記憶から抹消しろ」

双子妹「了解でありますっ」びしっ

狼「……まあ、そんなわけで、叩きのめしてね」

女将「あんたそりゃ、女だったら誰でも叩きのめすさ。
 船に乗せる前でよかったよ」

狼「でも、あたしが我慢してれば、船員も……」

男「きにするな。お前にそんなものは期待していない。」

狼「む、ちょっと、人がきにしてるっていうのに」

女将「まったくだよ、男はむかしっから、
 女心ってものがわかってなくてねぇ。
 そういえばいつだったかい、
 あの真っ赤なドレスがよく似合う……」

双子妹 ずいっ

狼 ずいっ
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:48:22.30 ID:6vjGG3NKo
男「エールだ……ッ」ちゃりん

女将「おやまあ、太っ腹だねぇ。
 店の全員に一杯ずつおごりかい?」にやり

男「……ああ。」

包帯「船長……」

男「いうな。聞くな……」

狼「……あとで聞かせてくれる?」ぼそぼそ

女将「いいわよー、他にもいくつかおしえちゃうから。
 男でもからかって、
 憂さ晴らししなさいな」ぼそぼそ にやり

 からんからーん

客1「じゃまするぜ」

客2「おお、来ておったか、海賊」

男「……久しぶりです」

女将「ちょうど良かったね、店のみんなに男が一杯、
 おごるって話をして他のさ」

客2「ほほ、それは儲けたの」にこにこ
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:50:31.07 ID:6vjGG3NKo
客1「なんだなんだ、
 今日はたくさん連れてるじゃないか」

客2「普段はあの白髪と二人で陰気に飲んどるのに、
 珍しい事もあるものじゃ」

男「……」

客2「んむ、なにかあったか」

男「……白髪は、故郷の町を守りました」

客2「…………」

客1「そうかい。なるほどなぁ」

客2「故郷か。その話を聞いたのは、
 いったい何年前じゃったか。なつかしいのう」

男「五年ほど、前かと」

客1「白髪がまだ、四十代くらいに見えた頃か」

客2「わしらの『息子』たちが、
 そろそろ引退する頃だったなあ」

客1「お前も、まだケツに殻がついてたよな。かかか」

男「あのときは、世話になった……」
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 00:56:19.95 ID:6vjGG3NKo
包帯「船長、この人達は」

男「ああ、紹介しよう。
 十年以上前に、活躍していたご老人たちだ。
 ビスケーの『海竜』や、
 イオリアの『黒い旗』だな」

客2「だーれが老人じゃ、まだ現役じゃい」

客1「いや、じいさんは否定するなよ。
 ま、俺はまだたまに、海にでる現役だがな」

客2「なにをいっておる、わしだってまだ……
 む、そういえばしばらく乗っておらんな」

客1「おいおい、まだボケるには早いだろ」

客2「かーっ、ぺっ」

客1「汚ねっ、なにしやがる、このボケジジイ!」

 がやがや

包帯「その名前には憶えがありますね。
 十年以上ま前って、あの大混乱の時期ですか」
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 01:02:18.97 ID:6vjGG3NKo
女将「そうだね、野心に燃える帝国の大帝と信徒達が、
 地中海の東側で積極的に活動してねぇ。
 当時はローディオス騎士団と呼ばれたマータ騎士団と、
 激戦を繰り広げていた頃さ。
 あたしもあの当時はモテモテでねぇ、
 毎日両手で数えて足らないほど求婚されたもんさ」

客2「今じゃただのトドだg……kjがぷぎょ」

客1「おい、大丈夫かよじいさん!」

客2「おお−、えれーね、待たせてすまん」

客1「まずいって、ソレまずってよ!」

客2「はっ、いまかつての婚約者が……」

男「……で、寸劇はもういいか」

客2「つまらん奴じゃのう。
 わしらは西側国家の連中と手を組んで、
 最初は私掠船団として……
 そして手に入れた財宝で船を買い取った海賊として、
 あの海原をあばれまわったもんじゃ」

客1「あの赤ひげも、俺らとヤっては身が持たんとな、
 賢明な事に「偶然」出会わんかった」

双子妹「おおー、すごいでありますねっ」キラキラ
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/05(月) 01:07:32.30 ID:6vjGG3NKo
客2「……きょ、今日はここら辺で、
 勘弁しといてやるか、の」

客1「……ほれ、つかまれ」

客2「貴様の手なぞ借り……つつつ、すまん」

客1「今度はお前のおごりだな」

 ばたん

男「……やっぱりアレはだめだな」

双子妹「心配でありますね……」

狼「とりあえず、アタシらも今日は休もう。
 さすがに、今日の殴り合いは疲れたから」こきこき

包帯「それは狼くんだけ、だけどね」苦笑

双子妹「でも、自分もそろそろ眠る時間であります……
 むにゅ……」こくり

狼「そうだったね。ほら、背中に乗るといいよ」

双子妹「お世話になるでありますー」

男「……やれやれ」
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/05(月) 01:09:27.91 ID:6vjGG3NKo
今日はここまで><

次は水曜日!
調整しながら書きため投下します!
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/05(月) 01:13:25.28 ID:/0YuPEWuo
>>1
もう来ないかと・・・
鼻炎の方はいかかですか?
とりあえず置いておきますね
( ´・∀・`)つビエンヤク
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/05(月) 01:23:48.67 ID:f1eaTxXvo
おっつー
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 02:40:54.15 ID:dlSa9J13o
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 04:46:04.21 ID:VbUQZCi70
やっと…やっときたッ…乙ッ…激しく乙ッ…!
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/09/05(月) 13:39:06.25 ID:izt5LhRo0
きてた乙
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:06:40.94 ID:sd+doFkwo
------------------------------------------------
 昼前 リベルタ島 大商人の家

使用人「旦那様、公女様がおいでくださっています」

大商人「……通せ」

使用人「かしこまりました」へこ

 とことこ

豪商「ふふ、やはり来ましたぞ」

大商人「ちっ、貴様もしや、たばかってはおらんか」

豪商「そんな事はいたしませんよ。
 もっとも、していたとしても、
 賭は賭でございますからね。ほほ」にやにや

 とことこ

少女「賭ってなんのこと?」

豪商「おや、聞かれてしまいましたか。
 この無駄に広い屋敷です。
 中庭に出るまでもう少しかかると思っていましたが」

大商人「余計なお世話だ」

817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/07(水) 23:07:07.20 ID:sd+doFkwo
少女「せっかくだからって、
 使用人さんが声をかけに行ってる間、
 廊下とか見せてくれててね。
 いつもはまっすぐ中庭に向かうから、
 あんまりちゃんと見た事なかったんだ」

大商人「帝国の文化の結晶、いかがでしたかな。
 この屋敷の品は、帝国でも特に腕の良い職人に任せ、
 作らせた物です」ふふん

豪商「ようするに成金趣味じゃな」

大商人「やかましいっ」

少女「別に成金とはおもわないよ?
 華美過ぎない程度に綺麗な品々で、
 西側諸国とは違った文化の色が好きだなー」

大商人「公女様にはもったいないお言葉をいただき、
 嬉しく思います」

少女「……で、さっきの賭ってなんだったの?」

豪商「おや、ごまかされてはくれませんか」

少女「ごまかされても良いけど、貸しは高いよ」にこ

豪商「公女様もすっかりスレてしまわれて……」

818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:07:33.44 ID:sd+doFkwo
少女「そりゃね!
 西側全域に流通網を持つ豪商さんとか、
 若くして大帝から交易特権買い取る大商人さんとか、
 そんな二人と小さい頃から会話してたらスレるって」

大商人「俺はそんなに手厳しい事はしておらぬ」にやり

豪商「私はいつでも公女様のためになることしか、
 していませんとも。
 旅をしてたくましくなったのでしょう」にやにや

少女「わざとらしく、にやにやしてるのに……」

大商人「くく」

豪商「ふふふ」

少女「えへへ。
 ……お久しぶりです、大商人さん。
 昨日ぶり、おじいちゃん」

大商人「息災なようでなによりです、公女様」

少女「おかげさまでね」

大商人「その言葉は世話になった人間に使う言葉です」

少女「でも、手をかけてくたみたいだから。
 私が家出した後、島に来る知り合いさんに頼んで、
 探してくれてたって……ありがとう」へこり

819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:08:00.78 ID:sd+doFkwo
大商人「そのような噂は信じてはいけませぬ。
 また、感謝するようなそぶりは隙となりますゆえ、
 みだりに礼を言ってはいけませぬ」むすっ

豪商「相変わらず堅苦しいお人ですねぇ。
 まあ、結局足取りはつかめていなかったようですから、
 お礼はよいかとおもいますよ」

大商人「ぐむ。貴様も、ドコに行ったかわからんと、
 うろたえておっただろうが」

豪商「む、それはまあ、そうですがね」

少女「心配かけてごめんなさい」

豪商「まったくだ。昔から公女様はろくな事をしない」

豪商「その点は同意せざるを得ないですかねぇ」

少女「うう、ごめんなさい」

大商人「いっそ帰ってこなければ心労も減ったものを」

豪商「おや、公女様が見つかったと、
 あなたに知らせに走らせた使者に見せた態度とは、
 ずいぶん違いますねぇ」

少女「使者?」

820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:08:30.77 ID:sd+doFkwo
豪商「公女様が帰ってきた日にですね、
 この気むずかしい男にも、
 少し喜びを分けて差し上げようかと思ったので、
 使者を走らせたのですよ」

大商人「よせ、やめんかっ」

豪商「なんとその場で地面にぬかずいて、
 時間でも無いのにアラーに感謝を捧げたと……」

大商人「ええい、余計な事を言うなっ!」

豪商「ほほほ。こういう時は素直に、
 帰って来てくれて嬉しいと言えばよいでしょうに」

大商人「ふん。だれがそんな事を思ったと」

豪商「すみませんね、公女様。素直でない男でして」

大商人「素直に言っているだろうが」

少女「あはは、ごめんね、大商人さん。
 心配おかけしました」へこっ

大商人「……うむ。
 コレに懲りて、家出などするなよ」

少女「うん。これでお父さんに心配させるのも最後だよ」

821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:09:02.62 ID:sd+doFkwo
大商人「そうなるといいがな」

少女「むしろ、そんな事をしてる暇がないかな」

豪商「そういえば、公女様のご帰宅を知って、
 方々から使者が送られていましたね」

少女「うん。いろんな人から連絡がきててね。
 連絡っていうか、申し出かな?
 帰って来たばっかりなのに、
 税の優遇が欲しいからお父さんに取りなしてくれとか、
 近いうちに孫と結婚を――とかって話がいっぱい」

大商人「ふん、ハエ共が。
 ……ベネッタの十人委員会の方か?
 それともこの島の元老共か」

少女「ベネッタも、この島の元老さんたちも。
 ついでに島に大使館をおいてる西の国のいくつかと、
 教会からも。
 帝国からは特に無いけど」

大商人「当たり前だ。我らが大帝はそんな、
 姑息な真似をするはずはない。
 そんな事をするのは西側諸国のみだ」

豪商「ははは……あながち否定はできんのが辛い所で」

822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:09:39.20 ID:sd+doFkwo
大商人「まあ、何か有れば鳩でも人でもよこすがいい。
 気が向いたら、相談くらいには乗ってもよかろう」

豪商「私にもできる事があればおっしゃってください。
 隠居した身でよければ、なんなりと。
 孫のような公女様のためなら、
 私達もひと肌ぬぎましょう」にこ

少女「ありがとうございます」ふかぶか

大商人「だから感謝を示すなといっておろうが」くわっ

少女「うわっ」びくぅっ

豪商「旅をしてたくましくなった、
 と思いたかったんですがねぇ」

大商人「うむ、一夜の夢だったようだな」

少女「あはは……がっくし」

豪商「この後はどうしますか、お昼など」

少女「あ、お父さんが一緒に食べようって」

豪商「それではお邪魔はできませんね」

大商人「ふん、挨拶もすんだのだ。
 さっさと帰ればよかろう」

823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:10:27.10 ID:sd+doFkwo
豪商「おや、すねてらっしゃるんですか?」

大商人「ぶっ、だ、誰がすねているっ!」

豪商「語るに落ちるとはこのことですねぇ」

大商人「……不愉快だ。さっさと帰れ、暇人共」

豪商「では、賭の代はまた次の機会ということで。
 預かりはトイチでよろしいですね」

大商人「ふん」

少女「な、なんだか完全に怒ってないかな?」

豪商「気にする事はありません。
 近いうちにまた会おうという、
 いつもの挨拶ですからね。ほほほ」

少女「そっか。ふふふ」

大商人「ええいっ、でてけーっ!」

少女「きゃーきゃー」

豪商「ほっほっほー」

824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:10:54.33 ID:sd+doFkwo
------------------------------------------------
  昼 公爵の執務室

少女「ただいま、お父さん」

公爵「ああ、おかえり、少女。
 ちょうど仕事が終わった所だ。
 久しぶりに屋敷の裏にある丘まで足を伸ばさないかね」

少女「うん、それじゃ、準備してくるから」

公爵「準備を終えたら屋敷の裏門で待ち合わせよう」

 ぱたん

 とことこ

家宰「お嬢様」

少女「家宰さん、どうしたんです?
 ちょっと、怖い顔してますよ」

家宰「……少々お時間よろしいでしょうか」

少女「えっと、これからお父さんと近くの丘に行くから、
 お弁当を頼んだりするんだけど」

825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:11:54.03 ID:sd+doFkwo
家宰「そうですか……
 でしたら、夕食後に乳母がお部屋に伺いますので、
 彼女の話を聞いてくださいませんか」

少女「そっか、重要な事なんだね」

家宰「はい」

少女「うん、わかった。部屋で待ってるね」

家宰「ありがとうございます。
 それから、お弁当については旦那様から、
 既に指示がでておりますので、
 あとは受け取るだけとなっております」

少女「あ、そうなんだ」

家宰「よろしければ目的地まで運ばせますが」

少女「持って行くのは私がやるよ。
 それより、ひさびさに二人だけで出かけたいかな」

家宰「……そうですね、
 家族水入らずでお楽しみくださいませ」

少女「あれ、いいの?
 いつもだったらメイドでも連れて行かないと、
 公爵家として格好が付かないって言うのに」

826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:13:06.90 ID:sd+doFkwo
家宰「裏の丘でしたら人目もないので、
 かまわないでしょう。
 お二人のような貴き方に、
 荷物をお任せするのは心苦しいですが……」

少女「へたなメイドさんより私の方が体力あるしね」

家宰「悲しい事に。そして恥ずかしいことに」

少女「恥ずかしい!? 健康的だと思うけど……」

家宰「令嬢に求められるのはかそけき風情というもの。
 それがないのは恥でしかありません」

少女「あはは、そういうの求められても、ねえ。
 元気とかやる気とかくらいしか出せないかな」

家宰「諦めております」

少女「それもまた、ちょっと失礼のような……」

家宰「では、仕事があるので失礼します」

少女「あ、はい」

とことこ

少女「……なんだか、帰ってきてからいじめられてる?」

827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:17:08.65 ID:sd+doFkwo
------------------------------------------------
 昼 屋敷の裏手の丘

 とことこ

公爵「ではここらで弁当を広げようか」

少女「町の見える丘でごはんって、豪華だよね」

公爵「うむ」にこ

少女「じゃ、お弁当箱をあけますっ、じゃじゃーん!」

公爵「ほう、随分とはりきって作ってくれたようだ」

少女「うん、いっぱい入れてくれてて……
 食べきれるかな。
 あ、それに、料理人さんたち憶えててくれたんだ!」

公爵「上機嫌のようだが……ああ、なるほど」

少女「うちの料理人さんたちが作ってくれる、
 この自家製ピクルスと卵のトラメッツィーノ(サンド)
 大好きなんだー♪」

公爵「では、さっそくいただこうか」

少女「はーい」
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:18:08.12 ID:sd+doFkwo
二人「主と子と精霊と、我らが兄弟に感謝を。ェイメン」

少女「っというわけで、まずトラメッツィーノから!
 うわ、かわってないよー!」もっぎゅもっぎゅ

公爵「あまり急いで食べるとつかえるぞ?」

少女「む、もうそんな事ないってば」

公爵「ははは、少女は小さい頃、
 いつもそればかり食べていたからな。
 その印象がぬけんのだ」にこ

少女「むぐっ、そんなことないよー」もきゅもきゅ

公爵「料理人達に聞けば、
 当時はそればかり作っていたと教えてくれるだろうし、
 農業者組合で聞いても、
 少女のために島で飼う鶏の数を増やしていると
 教えてくれるだろう」

少女「そんなに?!
 いや、島中の卵を食べ尽くす程じゃないって!」

公爵「当時のこの島では、あまり鶏はいなかったからな。
 本土では未だに貴重な鶏卵が、
 この島では贅沢品でないという状況なのは、
 それがあったからだ」
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:20:39.38 ID:sd+doFkwo
少女「ええーっ、さすがに、うそだよね……?」汗

公爵「五割ほど事実だな」

少女「……な、なんだかいろいろごめんなさい」

公爵「ははは、まあ、当時にしたところで、
 無理に人から奪っていたというわけでもないから、
 問題はなかろう」

少女「でも、わざわざ農業者組合の人に働きかけて、
 鶏増やすほどでもないとおもうよ……」

公爵「それは、その時期に豚を増やすか鶏を増やすかと、
 組合と相談をしていたことが主な理由だ。
 気にする必要は無い」

少女「それならいいんだけどさ」もぎゅもぎゅ

公爵「うむ」にこ

少女(あれ、お父さん、あんまり食べてない?)

公爵「そういえば、今日はドコにいってきたんだね?」

少女「えっと、町のお母さん達に挨拶して、
 それから豪商さんと帝国の大商人さんの所に、
 挨拶と謝りにいってきたよ」

830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:23:31.10 ID:sd+doFkwo
公爵「なるほど。近いうちに農業組合や建築組合、
 工業組合と教会に顔を出すといい」

少女「組合は友達が何人かいるけど、教会も?
 あんまり教会に知り合いはいないし……」

公爵「神父様が心配してくださっていたからね」

少女「……神父さんが気にしてたのって、
 私が帰って来なかった場合の事じゃないの?
 教会に有望な若者がいるんだが養子に、とか」

公爵「はっはっは」もぐもぐ

少女「やっぱり。
 豪商さんから、神父様には気をつけておけって、
 言われてさ」もぎゅもぎゅ

公爵「神父様の事をそう嫌ってはいけないよ。
 彼の正直さは一つの美徳だ」

少女「うむー」 もっぎゅもっぎゅ。

公爵「さて、ごちそうさま」

少女「ごちそうさまー。あとで料理人の人達に、
 お弁当箱を返すついでにお礼しとこうかな」

公爵「それがいいだろうね。……おや、これは」
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:28:36.80 ID:sd+doFkwo
少女「なんでボールが入ってるの?」

公爵「ああ、家宰が気をきかせてくれたのか。
 少女が帰ってきたら、
 一度くらいはキャッチボールがしたいと、
 言った事があったのを憶えていたんだろう。
 ふむ、ちょうどいい機会だ、つきあってくれるかな」
 
少女「キャッチボール? うん、やろうか」にこっ

 がさごそ

少女「荷物は寄せておくね」

公爵「うむ」

少女「よっ……と。うん、いいよー」

公爵「最初は軽めに行こうか」ひゅっ

少女「んっ、……そりゃっ」ひゅっ

公爵「ふむ。少女も案外上手だね」ひゅっ

少女「案外って、キャッチボールだよ?」 ひゅっ
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:30:38.82 ID:sd+doFkwo
公爵「少女が小さかった頃は、
 忙しくてあまり遊んであげられなかったからね。
 恥ずかしい話だが、何ができるか、できないか、
 得意か、苦手か、知らないんだよ ひゅっ

少女「小さい頃だったら、
 そもそもキャッチボールできなかったと思うけどね。
 お兄ちゃんと友達に習ったし」ひゅっ

公爵「なるほど、兄がね。
 あの子が出て行った時の事、
 少女は憶えているかい?」 ひゅっ

少女「う、憶えてる」 ひゅっ

公爵「ははは、そう苦い顔をするものじゃないよ」 ひゅっ

少女「出て行っちゃやだってわがままして、
 玄関の前でずっと座り込みしてたとか、
 恥ずかしい上にもう、こうねっ」 ビュンッ

公爵「っ、ちょっと強いな」 ひゅっ

少女「あ、ごめん。
 まあ、結局裏口から普通に出て行ったみたいで、
 しばらく家宰さんにいじられたよ」 ひゅっ

833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:32:24.79 ID:sd+doFkwo
公爵「家宰は少女を娘の様におもってくれてるからな。
 あれもまた愛情表現だよ」 ひゅっ

少女「よく遊ばれるんだけど、家宰さんの愛情表現って、
 実はけっこう屈折してる?」 ひゅっ

公爵「はっはっは」 ひゅっ

少女「うむー」ひゅっ

公爵「しかし、良かったよ」 ひゅっ

少女「なにが良かったの?」 ひゅっ

公爵「少女が帰ってきてくれたことが、
 嬉しくてたまらないのさ」にこ

少女「そんなにしみじみ、良かったって云う事かな」

公爵「半年も行方の知れなかった娘が帰ってきたんだ。
 喜ばない親はいないよ」 ひゅっ

少女「……ごめんなさい」

公爵「謝らないでいいが、次はもう少し、
 手段を選んで相談して欲しいとは思う」

少女「うん。もうないと思うけど、わかったよ」
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:35:38.46 ID:sd+doFkwo
公爵「……さて、そろそろ屋敷にもどろうか。
 もう歳かねぇ。
 この程度でも良い運動だ」

少女「でも、もう少ししたら日が暮れて、
 すぐに空気が冷えるからね。
 ちょうどいいと思うよ。
 それに、お父さんのは運動不足でしょ」

公爵「ははは、そうだね。
 たまには外に出て体を動かさなくてはならんか」

少女「うんうん」

公爵「さて、屋敷にもどったら、
 どんな旅をしてきたのか聞かせてくれるかい?」

少女「うん。……うん。聞いてほしい。
 お父さんにも聞いてもらって、知ってほしい。
 見てきたもの、聞いたもの、感じたもの」

公爵「ああ、ゆっくり聞かせてもらおうか」

835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:38:16.49 ID:sd+doFkwo
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  夜 公爵執務室

少女「――というわけで、
 マータ騎士団の船に乗せてもらって、
 この島に帰ってきたって所でおわりかな」

公爵「なるほど。大冒険だね」

少女「晩ご飯までには話し終わるかなーと思ったけど」

公爵「はは、この旅をその短時間では、
 済ませられないだろう」

少女「それなりに省略して話したのに、
 こんな時間になっちゃったからね」

公爵「少女……どうだね。後悔はしているかな?

少女「後悔は……」

公爵「もし旅に出なければ、
 その怪我もしなかっただろう」

少女「うん」
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:40:44.78 ID:sd+doFkwo
公爵「白髪さんだったかな、その人の死に立ち会い、
 辛い思いをすることもなかっただろうね」

少女「……うん」

公爵「その人の故郷を守るためとはいえ、
 人を殺さなくても生きていられた」

少女「うん」

公爵「奴隷になるなんて体験もしなかった」

少女「うん」

公爵「たくさんの辛い思いをしないで済んだろう」

少女「……」

公爵「後悔しているかどうか、答えが見つかったら、
 時間がかかってもいいから、教えておくれ」にこ

少女「うん……」

公爵「……いい時間だ。そろそろ寝るとしようか」

少女「はい、おやすみなさい」ぎゅっ

公爵「おやすみ、少女」ぎゅっ

ぱたん
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:42:11.21 ID:sd+doFkwo
公爵「……」

公爵「まいったね」

 とんとんとん

公爵「入りなさい」

家宰「失礼いたします」

公爵「なにかあったかな?」

家宰「寝酒をお持ちしました」

公爵「いつもすまないね」

家宰「仕事ですゆえ」

 かちゃ、とくとく……

公爵「家宰も飲むといい。」

家宰「……そうですね。失礼します」

公爵「……」

家宰「……」
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:44:41.84 ID:sd+doFkwo
公爵「少女の旅の話を聞いたよ」

家宰「いかがでしたか」

公爵「私は、よかれと思って、動いていた。
 だが、それは、違う面から見れば残酷だったようだ」

家宰「残酷ですか」

公爵「たとえば……教会の勢力範囲では、
 動物に足をかまれた場合、どうするか知っているかね」

家宰「普通であれば、洗い流し、
 必要とあれば毒を吸い出し、
 傷が大きければ薬を塗って縫合し、養生しますが」

公爵「今の教会の勢力圏内には、
 薬や縫合などの知識はほとんど入っていないよ」

家宰「では、どうするのですか」

公爵「かすり傷であれば洗い流して済ませる。
 深い咬み傷であれば足を切り落として、
 傷口を焼き塞ぐ。
 本来、さほど難しくない治療を施せばすむ傷でも、
 その対処法がほとんど伝わっておらんのだ」

家宰「……それではまともに生きられますまい」

839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:47:49.90 ID:sd+doFkwo
公爵「この島にいれば忘れがちだが、
 彼らに言わせれば、本来はそういうものらしい。
 特に、外科に関する知識や技術、道具は、
 一切と言ってもよい程伝わっておらぬ」

家宰「なぜそのような事になっているのでしょうか」

公爵「体を切り刻むのは悪魔の所行だと言って、
 教会が知識とその担い手を排斥した結果だ。
 彼らは変化を疎んじる」

家宰「彼らはどれだけその手で神の子を見捨てたのか、
 わかっていないのでしょうな」

公爵「この島では人があまり死なぬ。
 それは、教会の勢力圏内にありながら、
 帝国との交易で多くの知識がながれてくる事と、
 教会と政治権力をそれとなく分離している結果だ」

家宰「公爵様のご采配には、
 住民からも感謝の声が絶えません」

公爵「だが、ゆえに、
 少女はあまりにも人の死にふれずに、
 大きくなってしまった。」

家宰「良い事でしょう」
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:50:32.71 ID:sd+doFkwo
公爵「だが、それは、この争いあう時代には、
 残酷な事だったようだ」

家宰「……」

公爵「今が平和な時代ならばそれでも良かっただろう。
 あの子が庶民の娘であれば、なお良かった。
 だが、じきに嵐となる。それも大きな嵐だ」

家宰「帝国の長子ですか」

公爵「うむ、現在の皇帝は世界の歴史に名君として、
 語り継がれるだろうが」

家宰「かのその息子は度し難いですからな」

公爵「あれは今の薄氷を渡るような平和の時代において、
 己の見栄のためにそれをたたき割るような男だ。
 やがて何かしら、やらかすに違いない」

家宰「その時、この島は……」

公爵「西側に攻撃を仕掛けるとなれば、
 嵐は間違いなくこの上を通る。
 いや、既に風は波を荒らしている」

841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:53:27.05 ID:sd+doFkwo
家宰「避けられなくても、
 素通りしてもらう事はできないでしょうか。
 西へ向かう船、東へ向かう船に、
 港を貸し出し物資を売りつけるのが、
 この島の流儀だったはずです」

公爵「大きな武力で奪えば良いと考えている、
 あの愚か者を相手に、何を言っても意味はない。
 そういった手合いはその『儲け』を、
 何で購っているのか考えようともしないのだ」

家宰「ならば、西に庇護を求めれば……」

公爵「これが、その『波』だ」すっ

家宰「あの再三送られてくる教会からの手紙ですか。
 拝見します」

 かさかさ……

家宰「……っ、帝国との通商条約を破棄しろ、だと」

公爵「断れば西側諸国から攻撃があるだろう。
 それを受け入れれば今度は東側の帝国から、
 攻撃にさらされるのは間違いない。
 連中は我々に『侵略されて再侵略する理由になれ』と、
 そう言っているわけだ」
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/07(水) 23:57:17.76 ID:sd+doFkwo
家宰「……どうあっても、
 この島は助からないのでしょうか」

公爵「戦争に組み入れられれば、な」

家宰「中立の維持ですか」

公爵「最も難解な道で、
 時には厳しい戦いをしなくてはならない、
 耐えがたい局面もあるだろう。
 だが、西も東も必要以上の余力は多くない。
 絶えることが出来れば……」

家宰「それに、勝手な都合で我々の、
 この島が誇る『自由と共和』を捨てさせられるのは、
 住民にとってもがまんならないことでありましょう」

公爵「うむ、この国がこの国として、
 この国に生きる民がその行き方を貫いて、
 この島で生きるためには譲れないのだ。
 だが――」ぐっ

家宰「旦那様……」

公爵「だがその時に、
 あの子は人を殺す判断ができるだろうか」

家宰「……」
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/08(木) 00:01:02.78 ID:6cJc+TVko
公爵「軍に入りたいという希望を聞いて、
 迷ったが許可を出したのは、
 人の死にある程度でも慣れることができればと、
 これも一つの親心で思ったからだ」

家宰「いらぬ世話を焼いた人間がいたようですがな」

公爵「そうだな。おかげで、大した意味はなかった」

家宰「しかし、そこまでして、
 お嬢様に人の死になれさせる必要は、
 無かったのではありませんか?」

公爵「人を統べる者とは、ソレそのものが赦免状なのだ。
 兵士達が人を殺すのではない。
 兵士達を道具として使う貴族が人を殺すのだ。
 だからこそ兵士は、人を殺すことが『赦される』」

家宰(私の生きている間に三度、この島は兵を派遣し、
 公爵様はその全てで兵と共に、
 前線へと赴いていらっしゃった。
 私に家を任されて行かれたが、
 そこで、何を見たのか。何を感ぜられたのか)

公爵「敵も、そして味方も、
 さらには敵でも味方でもない民も殺すのだ。
 守りたいと願う命さえ、
 必要とあれば死地に送り出す事をせねばならない」

844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/08(木) 00:04:23.66 ID:6cJc+TVko
家宰「……」

公爵「そしてそれを全て、
 この一個の意思で行わなければならない。
 それが貴族としての、義務の一つだ」

家宰「それは、お嬢様には、厳しい事でしょう」

公爵「……私もそう思う。
 貴族として教育を受けて、
 人の死を見慣れている私でさえ、
 二度と見たい光景ではなく、
 感じたい嫌悪感ではなかったよ」

家宰「戦場とはそれほどの、光景でしたか」

公爵「あれこそが地獄だ。
 司祭や司教達の空想の産物などではない。

 あの光景こそ、
 悪徳と欲によって作り出された、人が嫌悪すべき物だ」

家宰「…………っ」ぞくっ

公爵「たった一人の死に心が揺れるならば、
 おそらくこの先の戦争にはたえきれまい」

家宰「しかし、戦争を避けられる状況ではないと」
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/08(木) 00:09:30.79 ID:6cJc+TVko
公爵「その通りだ。状況にはもう、猶予がない。
 此度のあの子の旅について、
 少女が死に触れた事を後悔するようならば……」

家宰「っ! ……もしや」

公爵「私は先祖代々守ってきたこの島で、
 皆から寄せられた信頼に応えなくてはならないだろう。
 たとえ、親として許されない形でも」

家宰「……公爵様」

公爵「これは、私とお前の胸の内だけにとどめる事だ」

家宰「承知しております」

公爵「……本当は、こんな事は考えたくもないよ。
 だが、考えて対策をしなければ、
 きっと大変な事になる。
 人が、大勢死んでしまうかもしれない」

家宰「はい。」

公爵「もし私の心が揺れて、
 取り戻しようのない間違いをしそうに……
 情にながされて判断しそうになったら、
 お前が私の背中を押してくれ。
 お前にだから、頼める願いだ」

家宰「かしこまりました、我が主人」
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/08(木) 00:09:58.89 ID:6cJc+TVko

公爵「少女を娘のように思ってくれているお前にも、
 辛い思いをさせることになる。すまない」

家宰「気になさることはありません。
 これも私のつとめです……
 ただ、少し飲み過ぎました。
 風に当たって部屋にもどります」

公爵「ああ、そうするといい」

家宰 とこ、とこ

 ぱたん

公爵「ふぅ……げほっ、げほっ」

公爵「すまんな家宰。お前にまで、重荷を背負わせて」

公爵「げほっ…………もう、寝るか」

公爵「それにしても、フリークス・パイレーツとは。
 海賊の船長か。かなうならば、もう一度……」

『俺は、死んだものだと思って欲しい』

公爵「顔くらい出せば良かろうに」

よろよろ

847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/08(木) 00:12:29.98 ID:6cJc+TVko
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  夜  少女の私室

 こんこんこん

少女「はい、どうぞー」

 がちゃ

乳母「失礼します、お嬢様」

少女「何かお話があるんだっけ?」

乳母「はい。」

少女「とりあえず、そっち座って。
 リンゴ酒くらいなら有るけど飲む?」

乳母「では、少しだけいただきます」

少女「あとは、おつまみの代わりに、塩とチーズ」

乳母「……ここは飲み屋ですか。
 なんでお嬢様のお部屋にそんな物が」

少女「いや、普段はないよっ!
 家宰さんから夜に乳母さんが来るって聞いてたし、
 話しにくい内容みたいだって聞いてたからでねっ」
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/08(木) 00:15:23.56 ID:6cJc+TVko
乳母「若いです」

少女「あー」

乳母「若いです」 にっこり

少女「はい、若いです」

乳母「そうです、若いです」

少女「……まあ、長いおつきあいだけど、
 こうやって差し向かいでお酒飲むようになると、
 ちょっと不思議な気分だなーって」

乳母「そうですね。思い出せばはるか昔、
 あんなにも小さかったお嬢様が……」ちんまーり

少女「私はウズラの小鳥かっ!」

乳母「いえ、丸めている指の大きさではなく、
 その先の隙間の方です」

少女「ミジンコ程度っ?!」

乳母「あはは、そんなに驚いた顔をなさらないでも」

少女「なさるよ、いや、するよっ! 
 もー。いい加減話しすすめようよ」
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/08(木) 00:18:02.18 ID:6cJc+TVko
乳母「それはその、言いにくいからこうして、
 お嬢様で遊んでいるのでして」

少女「言いにくいからって私で遊ぶ必要ないから……
 なんでこの屋敷には、雇い主で遊ぶ使用人しか
 いないのかな」ぐったり

乳母「雇い主には敬意を捧げていますよ?
 ですが雇い主は公爵様ですから」

少女「うう、あー言えばこう言う……
 って、そうじゃなくて!」

乳母「はい……」

少女「で、なんなの?」

乳母「え、えーっと、その……
 やっぱり、なんでもないです、はいっ」

少女「いや、明らかに何かあるでしょっ」

乳母「お嬢様で遊んでたら、気が変わりました」

少女「遊ばれ損?!」

乳母「まったく、お嬢様のせいですよー」
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/08(木) 00:19:33.34 ID:6cJc+TVko
少女「しかも私のせいにされたよっ。
 いや、そんなはずないから」

乳母「お嬢様が空気を重くなさるので、
 言いにくくなっただけなのですが」

少女「あ、あれ、ホントに私のせいなの?」

乳母「そういう事にさせてください」

少女「……で、本当はなんだったの?
 まさか私で遊ぶのが目的だったって事はないでしょ」

乳母「いえ、さすがにそれは。
 ……公爵様が見守っているのに、
 使用人である私の立場から言うのは、
 差し出がましい事ではありますが」

少女「そんなにかしこまらないでよ。
 乳母さんは私のお母さんで、
 最初に、お友達になってくれた人なんだから」

乳母「そう言っていただけると光栄です。
 では言わせていただきますが、
 今回の様な唐突なご旅行は、
 もうないようにしていただきたいとお願いします」

少女「……ごめんなさい」
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/08(木) 00:22:25.26 ID:6cJc+TVko
乳母「まあ、お嬢様の事です。
 たとえスリッパにつぶされようと、
 しぶとく帰ってくるだろうという点では、
 心配はあまりしていませんでしたが」

少女「なにげにひどいよね? しかも害虫扱い……」

乳母「実はとても心配していました。」

少女「うぐ、はい、すみません。本当に申し訳ないです」

乳母「でも、それ以上に。
 公爵様がおかわいそうで……」

少女「……」

乳母「本当はもっと、
 そばに居て欲しいと願っていないはずはないのです。
 遅くになされたお子様で、
 お嬢様は若き日の奥様によく似ていらっしゃいます、
 在りし日のよすがなのですよ、胸以外」

少女「う、胸は、まあ置いておくとして。
 そう、だよね。それは、わかってる」

乳母「でしたらなぜ、こんなことをなさったのですか」

少女「……その、いろいろとあって」
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/08(木) 00:25:06.06 ID:6cJc+TVko
乳母「そのイロイロとは、
 公爵家と、それを支えてくださる民や、
 商人の方々の思いより、
 重いものだったのでしょうか」

少女「……っ、それ、は」

乳母「いえ、失礼しました。
 これは私が口にする資格の無いことです」

少女(いつもは明るくて真剣な話の苦手な乳母さんが、
 本気で詰め寄るくらい……)

乳母「私が言うべきは一点。
 公爵様ともう少し、一緒にいてさしあげてください」

少女「……うん。わかった」

乳母「では、今夜は失礼させていただきます」

少女「そっか、娘さんが待ってるよね。
 またお茶でもしようって、
 伝えておいてもらえるかな?」

乳母「かしこまりました。それではお嬢様、良い夢を」

少女「うん、良い夢を」

ぱたん
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/08(木) 00:27:25.70 ID:6cJc+TVko
少女「……」

少女「お父さんにも、ずっと心配かけてたよね」

少女「それに、乳母さんにも。みんなにも」

少女「私は、そこから」

『お前は笑顔を守ったアイツとは違う。
 守るべき笑顔を見捨てて逝く、
 ただ『逃げ』ただけの、臆病者だ』

少女「逃げ、て」

『そのイロイロとは、
 公爵家と、それを支えてくださる民や、
 商人の方々の思いより、
 重いものだったのでしょうか』

少女「わかってる。
 こうやって不自由なくくらして居られるのが、
 誰のおかげかなんて、一番最初に教えられたし、
 それを見せてくれる背中があったんだから」

少女「わかってても、でも……」

少女「だからって、覚悟なんて簡単に決まらないよ……」
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/08(木) 00:30:08.81 ID:6cJc+TVko
今日はここまでっ。
読んでくれてありがとー!

次は土曜の夜に!


それでも歴史は戦争へと向かっていくわけですが、
……このスレでおわるといいなー。
ぎり、ぎり、いけるはずなんだけど……(’’;)
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/08(木) 00:37:18.37 ID:cqh4sUI/o
もう結構終わり近いのか乙
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/09/08(木) 00:37:32.54 ID:7QiPkqBro
おつ!
次スレ埋めるぐらい書いたっていいんだぜ?

おいときますねっビエンヤク
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/09/08(木) 14:13:41.38 ID:AwVYLFdvo
追いついた・・・!これはいいSS 見つけてよかった
次スレも次々スレも埋める勢いでいいのよ
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/10(土) 04:17:58.00 ID:Q8zy+2uR0
おつおつ!
まおゆうぐらい長編にしてもいいのよ
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/16(金) 21:36:31.36 ID:kLpbbMcAO
オツ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
いくら長くなろうとも、最後までつき合うよ
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/17(土) 16:32:20.16 ID:KNNmhdwIO
小説化してもいいわw
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/17(土) 23:11:26.21 ID:PhQ4JxAeo
------------------------------------------------
   少女の夢の中

少女(薄暗い部屋。でも、どこかで見たような……)

 ぎぃ……

兄『おい、だれか居るのか?』

少女『……』

兄『ああ、やっぱりいた。って、少女か。
 どうしたんだよ』

少女『勉強してるの』

兄『本、好きなのか?』

少女『……よくわかんない』

兄『なら、ちょっとついてこいよ』ぐいっ

少女『……』 とことこ

兄『あんな暗い部屋にいたら、根暗になるぞ。
 少しくらい日に当たれ』

少女『でも、光に当たったら肌が黒くなるって』

兄『少しなら大丈夫だろ』

少女『……そうなの?』

兄『多分な。ほら、こっち』

 かちゃ

少女『ん……まぶし……』

兄『でも、日に当たった方が暖かいだろ?』

少女『うん……うん、あったかい』


少女「夢、か」

少女「なつかしい夢。むかしのきおく」

少女「遠い、記憶。」


少女『お父様』

公爵『なんだい、少女』

少女(これは、いつの記憶?)

少女『お父様は、人を殺したの?』

少女(ああ――忘れてた。
 でも、わすれちゃいけなかった記憶……。
 暖かい場所に連れ出してくれた、
 お兄ちゃんが来る前の、記憶)

公爵『……それを、どこで聞いたのかな』

少女『町の子。
 乳母様のお家に行ったら、
 近所の男の子が、人殺しの娘だって、
 石をなげられたの』

少女(そう。私にとって外は怖い場所だった。
 お父さんはきさくな人だけど、
 それでも貴族として生まれて貴族として育ったから、
 町の人には近づきにくくて、色々と言われてた。
 娘の私も他の子と違っていたから、親しめなくて)

公爵『そうか。辛い思いをさせて、すまないね』

少女『ほんとに、お父様は人をころしたの?』
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:12:46.00 ID:PhQ4JxAeo
公爵『……ああ、そうだよ。
 お父さんは、人を殺したことがある』

少女(ああ、この目だ。
 とってもまっすぐで、優しくて、少し悲しそうな目。
 お父さんはいつも、そんな目で私を見守ってくれて)

少女『人を殺すのは、いけないことですって、
 乳母様は言ってたよ。
 なのに、お父様は人をころしたの?』

公爵『そうだ、人を殺すのはいけないことだ。
 だから、私が人を殺したんだ』

少女『どういうこと?』

公爵『私や少女は、貴族だね』

少女『うん』

公爵『貴族はね、みんなのためになるお仕事をして、
 その代わりにみんなから、
 ご飯とお金をもらってるんだ。』

少女『お仕事が、人を殺すこと?』 

公爵『近いけれど違うんだ。
 困った人がいたらその理由を聞いて解決するのが、
 貴族のつとめなんだよ』

少女『だよねっ、乳母様も言ってたよ!』にぱっ

公爵『そして、遠くでたくさんの人が、
 帝国の海賊に襲われていたんだ。
 だから、私は退治しに行った』

少女『悪い人をやっつけたの?』

公爵『……やっつけたんじゃないよ、殺したんだ』

少女『でも、悪い人だよね。悪い人なら……』

公爵『悪い人でも、人なんだよ。』

少女『だって、その人達は人を殺す海賊なんでしょ』

公爵『人を殺す海賊でも、生きている人なんだ』

少女『悪い人でも?』

公爵『悪い人でも』

少女『じゃあ、お父さんは悪い人なの?
 でもいけないことはしてないの?
 なんで、石をなげられたの?』ふるふる

公爵『みなのためになる事をするのが仕事なのだ。
 みな、悪い人と呼ばれるようにはなりたくない。
 少女も、悪い人だと言われたくないだろ?』

少女『うん。』

公爵『だから、みなが悪い人にならなくて良いよう、
 貴族である私達が、悪い事をしないでも、
 安心して暮らせるようにする』

少女『わたし、たちが』

公爵『みんなが海賊に襲われたり、
 海賊を殺さなくても大丈夫なように。
 他にも、私達は『人のために』出来る事をするんだ』

少女『じゃあ、私も大きくなったら、人を殺すの?』

公爵『……そうだね。』

少女『貴族は、やめられないの?』

公爵『やめられないんだ。逃げてもいけない。
 そうしたら、みんなが困るからね』
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:13:40.86 ID:PhQ4JxAeo
少女『……』

公爵 そっ

少女 ぎゅーっ


 だから、みんな嫌いだった。

 お父さんと私に『悪い事』を押しつけて、
 石を投げつけてきた人たちが、嫌いだった

 でも、少しずつ変わった。

兄『嫌な事があったら怒っても良いんだ。
 怒らないと相手にもどれだけ嫌なのか伝わらないだろ』

 お兄ちゃんが、手を引いてくれたから。

兄『お前は笑わないな。……笑えば可愛いのに』

 次第に友達ができて、遊ぶようになったから。

兄『大丈夫か、少女?』

 ……違う、その時にずっと、思っていた。

 お兄ちゃんができて、
 お兄ちゃんが貴族を継ぐ事になった。

 貴族でなくても、よくなったって思ったから。

 押しつけて、忘れようとして……忘れて

 そうだ、私も変わらない。
 貴族に罪を任せた人達とかわらない。
 神様に罪の許しを任せた教会の人達とかわらない。

 お兄ちゃんが島を出て行く時。
 それを嫌がったのは、分かれがたかったからだけ?

 きっと、記憶の中に押し込めてた、
 貴族になることの恐怖があったから。

 決めたはずの覚悟は必要なくなったから捨てたのに、
 積み上げた石を崩されて、
 また積み上げないといけなくなったら、
 きっとこんな気持ちなのだろう。

 あの時と同じ恐怖――
 いや、一度人を殺した。
 だからもっと具体的な恐怖が、
 私の背中から手を伸ばして、心臓を締め上げている。

 人を殺した瞬間の、あの言いようのない罪悪感。

『死にたくない』
『死は恐ろしい』
『イタイ』
『クルシイ』
『カナシイ』
『サミシイ』
『いやだ、いやだ、まだイヤだ』
『恨んでやる。呪ってやる』
『お前が殺したと、お前が悪だと、憎み続けてやる』

 それでも死は、その目を閉ざさせる。

 目の前で振り撒かれる死の恐怖と、怨嗟の呪い。

 貴族になるならそれを全部、
 背負うと、言い切らないといけない。

「もしも私が家出同然に旅に出なかったら、
 人を殺す事の恐怖を、知らないで済んだのかな……」

 そんなはずはないと、誰よりも私がよく知っている。
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:17:24.09 ID:PhQ4JxAeo
 命の価値を、尊さを、
 大切な人を殺される痛みと憎しみを、
 私は人を殺す前から知っていた。

 だって、私の母は、殺されているから。

 私はその母親を知らないけれど、
 母親を殺された兄は、
 結局その憎しみを忘れることが出来ず、旅立ったのだ。

 だから、あの時に人を殺す事で知らなくても、
 いずれは思い出し、そして突き当たっていただろう。
 もしかしたらそれは、
 既に貴族として立った後、
 取り返しの付かないような場所かもしれない。

 不幸中の幸いという言葉が浮かぶけれど、
 つい笑ってしまう。
 そんな風に思う事自体が、今の私には現実逃避だと。

「でも……お父さんは、それでも貴族なんだ。
 それを全部背負ってる、貴族なんだ」

「……私は、そんなお父さんの、娘」

「だから、私も背負わないといけないの?」

「娘だから。
 貴族だから。
 恩恵を受けていたから」

「私は、人を殺さないと、生きていたらいけないの?」

------------------------------------------------
  朝 リベルタ軍演習場

 かん、かかんっ、かんっ

 ぎぃいんっ

兵士A「っ、あ、ありがとうございました……ふはぁ」

少女「こら、終わったからって床に座らない。
 町を一周!」

兵士A「げぇっ、マジっすか!?」

少女「もう一週欲しい?」

兵士A「いってきまぁす……ひぃい」

軍曹「……」じっ

少女「次っ」

兵士B「お、オスッ」

 かん、かかっ、ガッ

兵士B「ふふん、伍長だって一応女性ですからね、
 つばぜり合いになれば押さえ込む事も……」ぐっ

少女(一瞬力を入れて、相手にも力を入れさせてから、
 その間を抜くように膝を折って、重心を崩させてから、
 背負い上げて……投げるっ)

 ぐわっ、ずだぁああんっ

少女「一応って何よっ、町を三週!」

兵士B「そんな、横暴っすよ!
 男用の騎士鎧、普通に着てるじゃないっすか!」

少女「どーせ胸が、胸……っ、四週ね」

兵士B「いってきます……」

兵士達「「「「余計な事言うから」」」」ぼそっ

軍曹「お前らも、きっと聞こえてるぞ」ぼそっ
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:19:54.68 ID:PhQ4JxAeo
少女「ッ次」ギラーンッ

兵士C「はいっ」

 かんっ、かかかっ

少女「……見ない顔だけど、新入り?」

兵士C「っ、はいっ、そうですっ」

少女「剣筋が素直すぎ。こうやって、」

 すかっ、すかっ

兵士C「へ、え……?」

少女「簡単によけられちゃうよ」

 がしっ

少女「で、よけられても」

 ずっだーんっ

少女「そんな風に驚いてたら、簡単に制圧されるから」

兵士C「…………」ぴよぴよぴよ

兵士D「公女様……じゃなかった。
 伍長殿、気絶してます」

少女「あー、うん。医務室運んでおいて」

兵士D「はいっ」

少女「次っ」

兵士E「あのっ」

少女「なに?」

兵士E「もう、八人も相手をしているので、休まれてはいかがかなーと」

少女「病み上がりに八人もやられて恥ずかしくないの?」

兵士E「いやーそれは……って、病み上がり?」

少女「うん、半月前まで三日間くらい、
 ベッドから起き上がれなかったんだ。
 あ、でも、その前にあと三日くらい意識不明だっけ?」

軍曹「っ……何人でかかってもいいっ、
 このバカ公女をベッドに突っ込むぞ!
 気合いで押し倒せッ」

少女「ちょ、ちょっと待ってよ!
 なんかイロイロ危険なんだけど!!」

兵士E「大丈夫です、優しくしてあげますから」にやり

少女「遠慮するって!」

軍曹「問答無用っ!! いくぞ、おまえら!」

兵士F「おっし」

兵士G「さすがに複数人なら」

兵士H「いきますっ」

軍曹「悪いが、これもお前のためだ」

少女「くっ」

 ががっ、ズゴシュッ

兵士E「ぎゃぁああ」
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:20:35.25 ID:PhQ4JxAeo
少女「あと四人……」

 キィンッ、カカッ、ガスン

兵士F「……」

少女「三人」

兵士G「ちっ、腕上げ過ぎだろっ」

軍曹「三人で囲むぞっ」

 すっ、ズッターン。ドスン

兵士G「ぐげっ」

少女「あと二人だよ」

兵士H「くっ」

 じりじり……

少女「二人で挟み撃ちって悪くないけど」

 ガッ、ぐわしっ、

少女「せー、のっ!」

 ぎゅっ

兵士H「なぁっ?!」

 ずがどんがらがっしゃーん

少女「……後ろから不意打ちさせるくらいは、
 時間を稼げるように腕磨こうね」

軍曹「ばっかやろう、『磨こうね☆』じゃねぇって!
 訓練でそんな投げ技使う奴がいるかっ!
 俺がコイツを受け止め損なったら、
 下手したら死んでたぞっ!?」

少女「ちゃんと手加減してるって……」

軍曹「いいや、絶対最後のムキになってた。
 ガキの頃から見てるんだ、それぐらいわかる」

少女「ぐ。それこそ、小さい頃からみてるから、
 受け止めるのも判ってたし」

軍曹「そんな危険な信頼いらねぇよっ」がっ

少女「えっと、なんで人の頭をつかむのかなー?」

軍曹「こうするために決まってるだろっ!」ぐぎゅーっ

少女「痛い痛い痛い痛い、ギブアップ、
 ロープロープタオルっ! ヘルプミーッ!!」

軍曹「残念だったなー、
 俺以外は気絶か医務室か満身創痍でうごけないんだ。
 ああ、町を走ってる連中もいるな」ぐぎゅぎゅーーっ

少女「ぎゃーっ」

軍曹「ぎゃーっていうなよ、公女だろお前」ぱっ

少女「リンゴを素手で割れる人に頭捕まれたら、
 絶対そうなるって……うう」

軍曹「自業自得だな。ほれ、つかまれ。屋敷まで送る」

少女「いいって、もうちょっと訓練してから……」

軍曹「意識が無い状態で運ばれるのと、
 意識があっても抵抗できない状態で運ばれるのと、
 自分の足で歩くの、どれがいい?」

少女「……ジブンデアルキマス」
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:22:39.53 ID:PhQ4JxAeo
軍曹「よし」
少女「せっかく帰って来たし、
 久しぶりに、後輩の兵士を鍛えに来ただけなのに、
 なんでこうなるかな?」

軍曹「ヤリスギだろ。
 ウチの隊員の自信が軒並み倒壊したぞ」

少女「いやー、だって、倒せちゃったし。
 それに、まずいなーって、訓練見に来て思ってね」

軍曹「まずかったか?」

少女「うん。この島に来るまでの三日間、
 マータ騎士団の船に乗らせてもらってたんだけど、
 すべる船の上だからって『軽い』訓練だったのに、
 質も量もぜんぜんダメ」

軍曹「ぜんぜんってほどか」

少女「毎日一回は、副分団長さん……
 青年さんって人なんだけど、
 その人と模擬戦させてもらってね。
 私の剣なんて指導しながら余裕でさばいてたくらい」

軍曹「げっ、マジかよ」

少女「さらに、その程度の実力じゃ、
 船の誰と戦っても勝てないって」

軍曹「もしかして、だからあんな風になったのか?」

少女「あんな風って?」

軍曹「今日の模擬戦だ。
 あんなに激しく踏み出すお前、初めて見たぞ。
 普段はどっちかって言うと、怪我しないのを第一に、
 訓練通りの剣を振るってるって感じだったからな」

少女「あー、まあ、近いというか遠いというか」

軍曹「違うのか?」

少女「まあ、その、変わらないと、だめかなって」

軍曹「……何かあったのか?」

少女「あんまり人に言うことじゃないから……」

軍曹「おいおい、お前に秘密の悩み事なんて、
 これっぽっちも似合わねぇだろ」

少女「いや、似合うとかそういう話じゃないしっ!」

軍曹「悩んでるんだったらいつも、
 誰かしらに相談なり愚痴なりしてたろ。
 今回もそうしろって。
 俺も含めて、あの時遊んでた連中はみんな、
 お前が悩んでたら助けたいって思ってるぜ」にかっ

少女「……」

軍曹「ああでも、胸の悩みだけはかんべんな。
 みんな『それはそういうもの』って諦めてるから」

少女「むしろその認識についてツッコミたいよっ?!」

軍曹「だってなぁ。男用の騎士鎧なんて、
 それこそ女に使える物じゃねぇのに……。
 少女が軍に入隊したいって言ったときに、
 最後に上層部の背中おしたの、ソレだぜ?」

少女「どういう風にさ……」

軍曹「たしか
 『新しい鎧を作る予算はないから、
  着られなかったら諦めてもらおう。
  できるんだったら鍛えておいた方が、
  体力があれば長生きができるだろう』
 って俺が説得したんだ」
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:25:29.83 ID:PhQ4JxAeo
少女「あんたが元凶かっ!」

軍曹「いいじゃねぇか。
 鎧も着られて軍にも入れて、問題無かったろ」

少女「ぐう……文句はあるのに、
 言ったら言った分だけ墓穴が深くなる」

軍曹「そんで、今はウチの隊員勝手に走らされてるし、
 公爵の屋敷まで歩くなら、相談の一つくらい聞けるぜ」

少女「あー、うん……」

軍曹「……」

 ひゅー……

少女「……死に、触れたくて」

軍曹「どういう意味だ」

少女「死の臭いに、近づきたかったの。
 軍なら、それが感じられるかなって。
 死の臭いがあったら、
 また山賊の人達を殺してまわった時みたいに、
 人を殺しても何も感じなくなるかなって」

軍曹「まてまて、ツッコミ所が多すぎるぞ、お前。
 なんか大変な事してきたのはわかるが、少し落ち着け」

少女「…………うん」

少女「まず一つ聞くが、
 人を殺しても何も感じないようになりたいのか?」

少女「……うん」

軍曹「どうしてそんなモノになりたいんだよ。
 そりゃ、俺達みたいな軍人やってりゃ、
 その方が楽かもって思う事もあるけどよ」

少女「でも、その軍の人達に、
 殺すように命令するのは、貴族だから」

軍曹「そういうもんなのか?
 ……そういうもんか。
 『今回の戦争は勝ったでおじゃる』なんて、
 お前には似合わないしな」

少女「なにその『おじゃる』って」

軍曹「そこはきにするなっての。あれだ。あー、その」

少女「その?」

軍曹「婿を入れるとか」ぼそっ

少女「ごめん、聞こえないんだけど」

軍曹「い、いや、何でもねぇって。
 そうだな、そもそも戦争だのなんだの、
 しないようにすればいいんじゃねぇか?」

少女「戦争にならないように努力するのは当然だけどさ。
 気になる事があってね」

軍曹「気になる?」

少女「そういう情報に耳ざとい友達が、
 もうすぐ海が騒がしくなるとか、そういう事言ってて」

軍曹「ふぅん……アレもそれの関係かもしれないな」

少女「心当たりとかあるの?」

軍曹「数ヶ月前から、軍人らしい連中の出入りがある。
 もちろん上層部には報告してるし、
 それっぽい連中には監視をつけてたりもするんだが、
 キナ臭いことに変わりはねぇ」
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:32:45.82 ID:PhQ4JxAeo
少女「……それって、帝国の人達かな?」

軍曹「ああ。それ以外にも近くのイチアリアはもちろん、
 フリアンスやスピエナの連中も来てる。
 とは言っても、全員に身分証出させるわけにはいかん。
 乗ってきた船の連中に酒を飲ませて、
 どこから来たのか聞くくらいしかできんが」

少女「やっぱり、教会も完全に怪しいかな?
 なんか、神父さんが、私が旅に出てる間、
 こそこそ動いてたって聞いてるけど」

軍曹「そっちは真っ黒だな。
 筋骨隆々の神父が派遣されてきてる。
 密偵でもない俺達がつかめるくらいあからさまだ」

少女「脅迫のつもりかな」

軍曹「だろうよ。となると、戦争になるのは前提か?」

少女「うう、相談して余計、不安が大きくなったよ」

軍曹「あ、すまん。そうだったな、相談だった」

少女「……そういえば、軍曹って昔から、
 人の不安あおるの得意だったよね」じーっ

軍曹「そ、そんな事ないぞっ」たじたじ

少女「子供の頃に遊びでやってた『最悪想定訓練』とか、
 今じゃ軍で公式に訓練として採用されてるし」

軍曹「あれは必要な事を整理しただけで」あたふた

少女「お兄ちゃんたちと遊びながら参加してたけど、
 想定する最悪っぷりに、
 意味のわかってなかった私以外の女の子は逃げ出すし、
 男の子も震えあがってたよね」

軍曹「ぐ、親父が軍人だったから、仕方無かったんだよ」

少女「あ、責めてるわけじゃないよ。
 おかげで軍に入れるくらいには鍛えられたし」

軍曹「……胸に向かうくらいには、
 栄養が残る育ち方させればよかったなーと思うよ」

少女「そうか、軍曹のせいっ?!
  もしかして今なら私、
 何も思わないで人を殺せるかも!」ぎゅぴーんっ☆

軍曹「いや、ちょ、待て待てっ!
 目がマジなんうぎゃぁああああああ」

------------------------------------------------
  昼 公爵家前

少女「軍曹は一応館まで送ってくれたけど、
 大人しく帰るつもりはない私なのであった。まる」

 とことこ

少女「……はぁ」

少女「さすがに体力が落ちた状態で、
 これ以上の運動は怪我のもとっていうのは、
 わかるんだけどねぇ」

少女(あの夢を見たあとだから、
 お父さんとちょっと顔を合わせたくないし、
 まだちょっと外でぶらつこう……)

少女「公爵の仕事を覚えるなら、
 手伝わせてもらうのが良いのは分かるけど」うがうが

少女「とりあえず、他のやることすませてから、かな。
 まずは組合関係から行くとして、建築組合と農業組合、
 港湾管理組合に回ると、夕方には帰れるはず 」

とことこ
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:36:47.63 ID:PhQ4JxAeo
------------------------------------------------
  昼  建築組合

 からーん♪

少女「おじゃましまーす」

ツンツン「お、おお? 少女?
 やべ、心配しすぎてとうとう幻見るとか……」

少女「いや、本物だから」

ツンツン「うおっ、ちょ、マジかよっ」ガシッ

少女「ちょ、あぶないって。
 そんなに慌てなくても消えたりしないよ?
 っていうか捕まれた手g痛いんだけど……」

ツンツン「あ、すまんっ!
 いやー、やっべ、久しぶりだな。
 元気だったか? ちゃんと食ってたか?」

少女「オカンかっ!
 ツンツンも、相変わらず元気みたいだね」

ツンツン「元気は元気だが、
 なんで俺の顔色じゃなくて髪の毛見て判断なんだよ」

少女「いや、元気なかったらしおれるじゃん?」

ツンツン「しおれるのか?!」

少女「べんにゃりって」

ツンツン「どんな形容詞だよっ?!」

少女「あ、よかったー。
 今日のツッコミも元気いいし、ホントに元気だね」

ツンツン「さっきの判断はなんだったんだっ?!
 って云うか人の健康をツッコミで判断するなよっ!
 軍曹も眼鏡も少女も、
 なんでお前らはツッコミで人の健康見ようとするかな」

少女「いやー、ツンツンのこと好きだからさー」

ツンツン「それ、俺じゃなくて、俺のツッコミだろ」

少女「幼なじみみんなにそんなに好かれて、
 ウラヤマシイナー」

ツンツン「だったら棒読みどうにかしてから出直せ!」

少女「じゃ、これで帰るねー」くるっ

ツンツン「ホントに出直すなよ?!」

少女「それなら、もうちょっと居ようかな。
 まだ用件すんでないし」くるっ

ツンツン「……疲れた。いや、ほんっと疲れた」

少女「大丈夫? 心なしか髪の毛のキューティクルが、
 ちょっと落ちてる気がするよ?」

ツンツン「マジかっ?!
 あーもー、無駄に声を張り上げさせるなよ」

少女「別に今のはボケてないんだけど……」

ツンツン「ボケであって欲しかったッ!!
 ……あれだ。もうやめる。俺は今から窓口。
 建築組合の窓口だから、無駄話はつきあわん」

少女「ちょうどよかった。窓口さん、用件が」

ツンツン「うわ、スルーかよ。
 で、なんだよ。お前がここに用件なんて初めてだろ」

少女「窓口として態度悪くない?」
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:39:32.10 ID:PhQ4JxAeo
ツンツン「……ドノヨウナ、ゴヨウケンデスカ。
 くそっ、なんでお前に注意されてんだよ!」

少女「お客ですから。
 で、用件って言っても大したことじゃなくてね」

ツンツン「大した事じゃないなら客扱いを要求するなよ」

少女「それはそれ、これはこれ。
 いや、最近困ってる事がないかなーと」

ツンツン「なんだよ、えらく抽象的だな。
 何かそんなの聞く理由があるのか?」

少女「特に意図があって聞くわけじゃないんだ。
 無事に戻ってきたから、
 顔を見せるついでに町の情報収集、みたいな?」

ツンツン「ふーん。まあ、別にいいけどよ。
 そうだな、困ったこと困ったこと。
 幼なじみ連中の態度が悪いことくらいか?
 くそっ、なんで人の顔を見るとボケるんだ、あいつら」

少女「あー……」(え、もしかして本気?)

ツンツン「おい、正気を疑うような目を向けるな」

少女「ご、ごめんねっ」

ツンツン「だからって目を伏せて沈痛な顔をするな?!
 なんだそれ、俺が不治の病みたいだな!」

少女「まあ、当たらずとも遠からず。
 そこは多分……諦めようか」

ツンツン「俺、泣いていいかな、良いよな……」

少女「で、そういう冗談以外に何かないの?
 いまなら窓口交渉無しでお役所が動くかもよ」

ツンツン「冗談じゃないんだがなッ。
 そうだなー、貴重な機会っつったらそうなんだが。
 また明日とか来月にいなくなるワケじゃないだろ?」

少女「もう旅に出るような事はないはず。
 さすがに、家のみんなに怒られちゃった」

ツンツン「当たり前だ、公爵家の放蕩娘。
 幼なじみにまで不義理しやがって」

少女「う、ごめんなさい」

ツンツン「詫びに今度、飯でもおごれ」

少女「……もしかして、デートの誘い?」

ツンツン「っんな! わけあるかよっ!
 軍曹と眼鏡も一緒にだ!
 最近あいつらも忙しいからな、
 こういう機会に飲み会しようぜってだけだ」

少女「うん、それは良いかも」にこっ

ツンツン「で、いま急いで言う事は……あ、あれだ」

少女「なに?」

ツンツン「仕事がすくない」

少女「……社会保障が必要?」

ツンツン「なんだ、しゃかいほしょーって」

少女「エリザベス救貧法とか……しらないか」

ツンツン「おう、自慢じゃないが俺はバカだ」

少女「ばーか」

ツンツン「なにをっ?!」
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:44:06.52 ID:PhQ4JxAeo
少女「理不尽に怒られた……。って、遊んでないでさ」

ツン「お前が振ったんだよ。で、ほしょーって何だよ」

少女「えっと、お父さんからの受け売りなんだけど、
 昔はお金がない人には教会が施しをするっていうのが、
 一応建前で、それなりに機能してたんだけど」

ツン「今はほとんど、そんな話は聞かねぇな」

少女「うん。貧しい人は幸いだって教えがあって、
 それが根拠になって教会は貧しい人を支えてたけど、
 ルターって人が『貧乏人は怠けてるから貧乏なんだ』
 なんて言い出してさ」

ツン「……そういうモンなのか?」

少女「『怠けているせいで貧乏な人もいるけど、
 そうじゃない人だってたくさん居る』
 っていうのはお父さんの言葉だけど、
 教会には都合がよかったみたいで」

ツン「まあ、貧しい人に配給するパンもワインも、
 タダじゃねぇからな」

少女「そういう事。
 それで、お腹を空かせる人がたくさん増えて、
 どうにかしなくちゃって事でできたのが、
 英国のエリザベス女王が発布した救貧法だって」

ツン「ほうほう。よくわかった。
 でも意外だな、お前が勉強してたなんて」

少女「勉強はしてないけど、毎年、お父さんが
 『救貧費をどこから出すか』って悩んでてね。
 出さないとどうなるのって聞いたら、
 真面目な顔して、怖いくらいの迫力で聞かせてくれて」

ツン「あー、お前の親父さん真面目だし、顔怖いしな」

少女「うーん、いつもニコニコしてて優しいけど……」

ツン「……娘の前だからって猫かぶってやがるな」ぼそ

少女「ん?」

ツン「なんでもねえよ。
 まあでも、そのほしょーってのはいらん。
 一応給料は出るからな。……ただ」

少女「ただ?」

ツン「この島って、けっこう完成されててな。
 商人なんかはそれなりに出入りするけど、
 基本的に港で食料と水と酒を積んだら出てくだろ?」

少女「長期滞在しないってこと?」

ツン「長期滞在っていうか、引っ越しっていうか。
 これから住むから作り替えたいって奴が、
 まるでいねーんだよ」

少女「まあ、一時の事だと思えば、わざわざねぇ」

ツン「だろ? だから大工の仕事は補修が主でよ。
 俺みたいな新米徒弟がいなくても、
 親方と先輩で手が足りちまうんだよ」

少女「あー、だから仕事が少ない、か」

ツン「そういう事だ。で、読み書きのできる俺が、
 組合で留守番させられてるってーわけだ」

少女「お兄ちゃんと私につきあわされて、
 一通り読み書き計算は習ったっけ。役に立ってる?」

ツン「立ってるっちゃー立ってる。
 でもよ、家を建てるとかに憧れて弟子入りしたのに、
 事務作業やらせるために雇ったって言われて、
 俺がどれだけ涙をのんだかっ!」
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:48:01.93 ID:PhQ4JxAeo
少女「あー……ごめんね」

ツン「いや、勉強ができてなかったら、
 そもそも弟子入りさせてくれたかわからんから、
 世話になって良かったとは思ってる」

少女「うーん。……でも、どうしたらいいかな」

ツン「いっそ、お前みたいに海の向こうに渡って、
 必要とされる場所に行くのも手かもなぁ……
 昔一緒に遊んでたお前の兄貴も含めて、
 あの当時一緒だった連中じゃ五人は外に出たし」

少女「残ってる顔のがすくないんだよね……」

ツン「俺達の世代が外に出すぎなんだがな。
 どうにも行動的な連中が多いんだよ」

少女「幼なじみの中で、
 そういう意味で一番地味なのはツンツンだよね。
 髪型は一番アグッシブなのに」

ツン「うっせえ、地味とかいうな。気にしてんだよ」

少女「……ごめん」

ツン「哀れんだ目をむけるなよ?!」

少女「いや、ほんと、もうしわけない。
 今度お詫びにおごるから、一度と言わずに、ね」

ツン「いらんわっ! 本気で傷つくからな?!
 出てけ、もういい、貴様はでていけ!」

少女「その、……強く生きてね」

 ぱたん

ツン「……ちょっと、泣いてこよう。
 扱い悪すぎだろ……」
------------------------------------------------
 夕方 港湾管理組合事務室

少女「おじゃましまーす」

眼鏡「いらっしゃい……って、なんだ、お化けか」

少女「生きてるよっ?!」

眼鏡「霊は死んだことに気づけないらしいからな。
 心穏やかに主の導きにしたがうとよかろう」

少女「まだ早いから!
 ホントにいきてるし、十字切らないでっ」

眼鏡「なら、確認していいか?」

少女「どーぞどーぞ」すっ

眼鏡「ふむ……遠慮無く」ぎゅーっ

少女「え……あ、あの?」(////

眼鏡「温かいな」ぎゅーっ

少女「……手を差し出してるんだからさ、
 普通だったら、握手するくらいじゃない?」(////

眼鏡「手だけが本物かもしれん」ぎゅー

少女「それ怖いよね?! 予想外に怖い答えだよっ」

眼鏡「なら、抱きしめたいから抱きしめたと、
 そう言えばいいか?」

少女「う、うぐ……
 昔から、すぐ眼鏡兄ぃはそうやってからかう」(///

眼鏡「からかってないさ。抱きしめたいから抱きしめる。
 自然な状態なのだ。問題ない」ぎゅー
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:51:44.46 ID:PhQ4JxAeo
少女「確かにそうなのかも知れないけれど、
 とりあえず五年前ならともかく!
 今となっては既にそこに問題が生じてっ」あばば

眼鏡「五年前と同じ事をしてるだけなんだから、
 どこに問題が生じるんだ。意識は違うが」ぎゅー

少女「意識違うの!?」(/////

眼鏡「ああ」

少女「ちょ、え、いきなりそんな」(/////

眼鏡「小さい生き物が可愛いな、から、
 俺達の娘かわいいな、に……」

少女「アンタの娘になった憶えはないッッ!!」ドスッ

眼鏡「ぐごっ……デスクワークしかしてない俺に、
 軍で鍛えた拳を遠慮無くぶちこむ奴があるか……」

少女「……しらない」

眼鏡「知らないって。
 まあいい。食事前だから、吐かなかったしな」

少女「……やっぱりごめん」

眼鏡「気にするな。
 娘のおイタで死にかけるようじゃ、子供は作れん」

少女「いやだから、娘じゃないし。
 え、っていうか、子供が出来る予定ができたの?!
 相手は?! どんな人?」わくわく

眼鏡「うむ。いま十歳の娘さんだ。
 眼鏡お兄ちゃんのお嫁さんになる〜と、
 積極的に求婚してもらった」

少女「どうしよう、警備兵呼ぶべきかな」

眼鏡「なに。手を出せる年齢になるまでは見守るだけだ。
 ……近寄ってくる虫共の命は保証しないが」

少女「前半はいいけど……いや良くないけどさっ!
 後半は完全にアウトだからね!」

眼鏡「まあ大丈夫だ。俺もそこまでトチ狂ってはいない」

少女「そ、そっか、冗談だよね」

眼鏡「冗談ではないんだが」

少女「それこそ冗談じゃないよ?!」

眼鏡「なに、ばれなければ問題無い。
 狂っては後始末に不備があるかも知れん。
 冷静に確実に仕留めて、表沙汰にはしないさ。
 成人するまで五年は、丁寧に、待たねばな」

少女「………………うん。
 それでね、とりあえず、ココに来た目的だけど」

眼鏡「なんだ、挨拶だけかと思って遊んでいたが、
 用件があったのか。なら茶を出せるな」ごそごそ

少女「あー、お客様扱いとかしないでいいよ?
 あんまり重要でもないし」

眼鏡「遠慮するな。
 遊びに来た友人に職場の備品を使う事はできんが、
 公爵家の人間が客として来たなら、
 もてなさない方が問題になる」かちゃかちゃ

少女「じゃ、ありがたく……」

眼鏡 かちゃかちゃ

少女「……あ、もしかしてミントティー?
 なつかしー。昔からよく飲んでたよね」
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:54:54.02 ID:PhQ4JxAeo
眼鏡「正解だ。……まだ熱いから気をつけろ」

少女「ありがとう。あ、おいしーい」にこっ

眼鏡「そうか、良かった。……で、用件とはなんだ?」

少女「うん、最近困ったこととか、
 町で気になった事とかないかなーって」

眼鏡「困ったこと、気になった事か。
 そういえば、今朝は軍の人間が何人も、
 必死の形相で町中を走っていたが、何かあったのか?」

少女「……キニシナイデクダサイ」

眼鏡「推察した、あえて問うまい。
 そうだな、軍に先に行ったなら、
 軍曹から不審な連中について聞いているな」

少女「あ、うん」

眼鏡「港湾管理組合でも気にかけて連携を取っているが、
 遠からず何か動きがあるかも知れんな」

少女「そう、だね……」

眼鏡「それに伴っての報告だ、
 港でもめ事を起こす連中が増えている」

少女「怪我とかしてない?」

眼鏡「なに、そういう連中は、
 港湾警備の兵士に伸されて終わるさ。
 管理組合とはいっても、事務に従事する俺達は、
 後ろから見ているだけで終わる」

少女「そっか……。
 私は港湾警備の任務に就かなかったけど、
 危険で、大変なんだね」

眼鏡「安全とは言えんな。
 最近は特に、帝国と西側諸国の船が問題だ。
 ちょっとした殴り合い程度なら問題無いが、
 『帝国の船より優先しないと大砲をぶち込む』
 などと脅してくる礼儀知らずもいる始末だ」

少女「それ、どうなったの?」

眼鏡「もちろん、丁重にお帰りいただいた」

少女「帰ってくれたの?」

眼鏡「なに、ちょっと『話し合い』をしたら、
 きちんと判っていただけたよ」にやり

少女「……まあ、穏便に済んだならいいけど。
 以前から頻繁にあったの?」

眼鏡「そうだな、俺が組合に就職してから、何度か。
 この島の航路の集積地点という役割に対して、
 港の許容量がもう一つたりていないんだ」

少女「そっか……でも、港の拡張は」

眼鏡「地形的に無理だろうな。判っている。
 ただ、帝国との仲が険悪になるにつれて、
 さらに問題として上がる。留意しておいて欲しい」

少女「了解。忙しい中、話を聞かせてくれてありがと」

眼鏡「なに、柔軟性に欠ける元老院を間に通すせいで、
 公爵まで訴えがあまり届いていないようでな。
 こうして直訴せねば、話が通らんような懸念があった。
 良い機会だったよ」

少女「あー、帝国の人が港でよく暴れているから、
 連中を排除するように動けって、
 お父さんが言われたのは聞いてたけど……」
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/17(土) 23:58:37.78 ID:PhQ4JxAeo
眼鏡「ふん、都合の良い部分だけ伝えると。
 随分と都合良く、『忘れる』頭の持ち主達だ。
 ボケがはじまっているなら引退すればいいものを」

少女「あはは……
 お父さんも、元老院の人達の相手は大変みたい」

眼鏡「元老院は一応、民の代表という立場をとっている。
 無視は出来ないが頼りにもできないという事だろう」

少女「頼りにならないのかな?
 なんだか、うさんくさいなーとは思うけど」

眼鏡「あの老人達の本質は、
 西側諸国に支持される各王国の代弁者だからな。
 内政干渉をそうと見せない手札に過ぎない。
 ならば、連中がこの島のために頼りにできるか、
 自ずと知れるというものだ」

少女「……よく知ってるね?」

眼鏡「これでも組合では出世頭でな。
 面倒だが、元老院や公爵を含めたお上との折衝にも、
 最近はよく付き合わされる」

少女「あの人達と話すのは、面倒だよね……」

眼鏡「かなりな。だが、やりがいもある。
 ……まあ、そんな仕事をしているんだ。
 何も知らないと言っていては、
 いざという時に何もできない事になりかねん」

少女「そっか」

眼鏡「いつまでも、あの頃のように遊んでばかりでは、
 いられないのでな」

少女「……」

眼鏡「少女もそうだろう。もう、落ち着いてはどうだ」

少女「旅に出たりするなって、こと?」

眼鏡「それは私的な面でなら好きにするといい。
 だが、自分が為すべき事を為していないと、
 誰よりも少女自身が知っているのではないか?」

少女「…………うん」

眼鏡「それほどに、自由でいたいか」

少女「自由でいたい、とかは、あんまり」

眼鏡「島に縛り付けられるのが嫌で、
 今回の家出になったというワケではないんだな」

少女「そういう気持ちもあったけど、
 いろんな場所を見て回って、
 改めて島に帰ってきて……
 前よりは、無理に外が見たいって気持ちは、ないよ」

眼鏡「公爵の地位を、継ぎたくないのか?」

少女「……」

眼鏡「なるほど、立場の問題か。
 少女が怖いのは、その立場で判断を間違う事か?」

少女「それは、間違った事をしようとしたら、
 みんなが止めてくれると思う」

眼鏡「あまり心配していないか。
 ならば、軍に入り、島を出てまで、何から逃げたがる」

少女「……」

眼鏡「言ってみろ」

少女「……こわくて、かな」
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/18(日) 00:01:47.15 ID:BCoR2CL1o
眼鏡「何が怖い」

少女「貴族は、人のやりたがらない事をするのが勤めで、
 必要なら、人を、殺さないといけないって」

眼鏡「公爵にそう言われたのか」

少女「……ずっと、昔にね」

眼鏡「ふむ。間違ってはいないと思うが、大変だな」

少女「……」

眼鏡「少女は、人を殺した事があるか?」

少女「……あるよ」

眼鏡「どうだった」

少女「……こわかった。
 殺されるかもしれないって状況で、
 とにかく必死に、憶えた通りに体を動かしたよ。
 あの時はそれしか、考えられなかったから」

眼鏡「そうだろうな」

少女「でも、動かなくなった血まみれの死体が、、
 無念そうだったり、すごく辛そうだったりしたんだ。
 『この人にも、大切な人とかいたのかな』とか思うと、
 もう、自分が救いようのない、
 どうしようもない罪人になったような気がするの。

 それと一緒に、これで一人敵が減ったって、
 どこか安心してる自分がいたりして、
 そんな自分が嫌で、すごく、嫌でっ、こわくてッ」

眼鏡「もう、人を殺したくない。
 だから貴族になりたくないのか」

少女「それも、怖いよ。それに……」

眼鏡「なんだ?」

少女「……」

眼鏡「言ってみろ」

少女「でも」

眼鏡「かまわん。
 身勝手でも汚くてもいい。
 俺の、少女に対する態度は変わらん」

少女「……うん。
 それに、もう一つ、いやな事があったの」

眼鏡「何があった?」

少女「私も命をかけて、相手の剣を向けられて、
 死にたくないって怖い思いを押さえながら、
 なんとかかんとか、戦ったのに」

眼鏡「……」

少女「人殺しとか、人殺しの娘って、
 石を投げられたり、怖がられたり」

眼鏡「助けた相手に追われたか。
 確かにそれは、苦しいだろうな」

少女「……」

眼鏡「せめて、一滴の感謝があれば、救われたのか?」

少女「一緒に戦った人がね、死んじゃったの。
 必死に戦って、命に代えてみんなを守ったの。
 なのに……っ」

眼鏡「……その人達を恨むか?」
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/18(日) 00:06:44.23 ID:BCoR2CL1o
少女「わかんない」

眼鏡「憎いか?」

少女「憎いとは、思わない。でも、すごく、悲しくて」

眼鏡「悲しいか」

少女「悲しい、よ」

眼鏡「そうか……いろいろ、見てきたんだな」

少女「…………」

眼鏡「確かに、そんなモノを見て、
 『大丈夫だよ、私はやるよ』なんて言われたら、
 それこそ正気を違うだろうさ」苦笑

少女「……だから、どうしたいいのか、分からないの。
 怖くても、悲しくても、戦わないといけない。
 でも、怖くて、悲しいのに私しかいない。
 お父さんの……公爵の娘は、私しかいないから、
 逃げちゃダメだって、わかってる。
 わかってても、でも、なんで私って。
 人殺しって言われながら、
 守らなくちゃいけないとか、
 怖くても、戦わなくちゃいけないとか、
 わかってるけどでも、出来るって、いえなくて」

眼鏡「逃げてもいいぞ」

少女「………………え?」

眼鏡「俺も、軍曹も、ツンツンも、
 あの頃に一緒にいた連中は、
 お前が望まない状況になろうとしているなら、
 どんな事にだって手を貸そう」ぽんっ。なでなで

少女「眼鏡兄ぃ……」じっ

眼鏡「逃げたいのなら、そのために手を尽くす事もする。
 出来る事は、何だってしてやろう。
 俺達は幼なじみで、友で、仲間で、家族だからな」

少女(眼を伏せて、夕日でわかりにくいけど、
 もしかして照れてるのかな?、
 それでも言葉にして伝えてくれる……

眼鏡「だが、」じっ

少女(違う……。怒って、る?)

眼鏡「逃げるのなら、
 それは逃げる事をきちんと、少女が選択してからだ」

少女(私の事を、大切に思ってくれてる。
 それが伝わってくる。
 だからこそ、突き刺さる、強い言葉)

少女「意味が……わからないよ」

眼鏡「そのままの意味だ。お前が悩んでいたら、
 手を引っ張って逃げてやる事もできる。
 だが、それは……それだけはしてやらん。
 間違いなく、ソレが『お前を殺す』からな」

少女「私を、殺す……?」

眼鏡「人に手を引かれて、その影に隠れて、
 自分の意思でつかみ取ろうとしない。
 流されて、安全を求めて、与えられた餌を食らう。
 そんな姿の何を見て、生きていると呼ぶ」

少女「それ、は」

眼鏡「逃げるにしろ、背負うにしろ、
 少女の立ち位置は難しく、軽いモノではないと思う。
 俺には、軽々しく『わかる』などと言えない重みだ。、
 俺には遠くて、想像すら、生ぬるい……」
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/18(日) 00:09:01.56 ID:BCoR2CL1o
少女「……」

眼鏡「その道行きに手が必要なら貸すことは出来る。
 だが、その人生を背負えるのは、
 最終的にはお前だけだ。
 だから俺は、お前の選択を待つ。
 こうして相談に乗る程度はやぶさかじゃ無いが、
 決めるのはお前だ。
 ……お前は好きに選べ。俺達が支えてやる」

『■■■■■■■■■■■■■』

少女「……なんか、似たような言葉、
 前にも聞いた気がする」

眼鏡「ふむ。誰だか知らんが余計な事を。
 俺の数少ない出番が軽くなるじゃないか」にやり

少女「ぷっ、ちょっと、出番ってなにさっ」くすっ

眼鏡「古代ローマの哲人、ルキウスいわく、
 『人生とは演劇のようだ』という事らしい。
 後ろに余計な一言がつくが、
 この部分は座右の銘にふさわしい金言だ」

少女「いや、哲人の言葉を省略しちゃダメだからっ」

眼鏡「宗教も科学も金言もひっくるめて、
 『教え』というモノは更新され続ける。
 したがって問題無い」

少女「ホントかなぁ……」

眼鏡「ちなみに、彼の言葉に学ぶ事は多いぞ。
 『罪を憎みて、罪人を憎まず』
 『運は我々から財産を奪えても、勇気は奪えない』
 『もし君が人に愛されたいと願うなら、
  まず君が人を愛さなくてはならない』
 『自立への大いなる一歩は、満足なる胃にあり』
 とな、他にもまだある」

少女「あはは、他はステキな言葉なのに、
 最後のでだいなしだってっ」ぷくく

眼鏡「……さて、日も暮れて、暗くなる頃合いだ」

少女「昔みたいに、送ってくれないの?」にや

眼鏡「なにを言ってるんだ。
 婚約者に誤解されてはかなわない」にやっ

少女「……十歳の?」

眼鏡「十歳でも、淑女だ。彼女の涙にはかなわん。
 比較する対象がお前だと、
 誰でも淑女に見えるのが困りモノだがな」にやり

少女「ぐっ、どういう意味か聞き返したいけど、
 聞き返してもかなわない気がする……」

眼鏡「なんだ、つまらん」

少女「つまらないとか言うなしっ!」

眼鏡「ふっ、また暇があったら顔を出せ」

少女「りょーかい。
 あ、ツンツンが今度、久しぶりにみんなで飲もうって」

眼鏡「悪くない。……軍曹には話したか?」

少女「まだだけど?」

眼鏡「なら、日程の決定は奴に押しつけるといい。
 良いようにしてくれるはずだ」

少女「あはは、昔から軍曹って、
 そういう役目を押しつけられてたよね」
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/18(日) 00:14:36.51 ID:BCoR2CL1o
眼鏡「自分も任せているんだ、人ごとのように言うな。
 まあ、あいつに任せるのが一番確実だからな」

少女「じゃ、話しておくから。またね」

眼鏡「あまり気張りすぎるなよ」

少女「うん。ちょっと、肩が軽くなったよ」

眼鏡「それなら、よかった」にこ

少女「じゃね」ひらひらー

 ばたん

眼鏡「………………焦って、少し追い詰めすぎたか。
 だが、嵐も公爵も、
 少女がふんぎりを付けるまで待てんだろう」

眼鏡「特に厄介なのは公爵か。
 嵐とは別の理由のようだが、
 何かに焦っているのは確かだ。
 あの狸は何を考えているか全く読ませんがな」

眼鏡「もどかしいな。
 偉ぶっていても、一介の港湾管理組合員だ。
 何ができる……」

眼鏡「いや……出来る事を、するしか無い。
 背伸びも駆け足も、まず動かねばな」

眼鏡「動いて、触って、突っ込んで。
 やってくるのは嵐だ。
 備えは、備えすぎて笑い話になるくらいがいい。
 大雨が降れば濡れないで済ませる事はできんのだ。
 できる限りを、
 俺達の支配者様のために、
 徹底的にやっておこう」にやり


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夜 リベルタ市場 帝国商人区域

 ザワザワ、ガヤガヤ

雑貨商「安いヨー、安いヨー」

絵画商「さぁっ、これなるは東方の果て、
 黄金の国ジーベングォかラはるばる運ばれた、
 世にも珍しイ絵の数々だ!」

串焼き屋「おっとそこ行く嬢ちゃん。
 アんた可愛いね、チょっとサービスしてやるぜ」ニッ

少女「あ、ホント? なら串焼き一本っ」

串焼き屋「今ならビールも安くしてやルぜ」

少女「飲みたい……でも、あー、
 このあとご飯だしっ」

串焼き屋「一杯くらいなら、気にスンナよ。
 ちょっと引っかけて食前酒だ。ナ?」ニヤッ

少女「う、く、そうだよn……」

司教「おや、もしや公女さまでは」

少女「え、あ、司教さま」

串焼き屋「お、お嬢ちゃん、公女サマだったのか?」

少女「あー、まあ、そんな感じかな」

串焼き屋「そ、そりゃスんマせん。どうか、お助けを」

少女「気にしないでっ、ね。
 お忍びだから、ほら、大げさにしないで」

串焼き屋「へ、へぇ……っ」
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/18(日) 00:16:35.41 ID:BCoR2CL1o
少女「よしっ。また今度、こっそり買いに来るから、
 その時サービスしてね」にぱっ

串焼き屋「そりゃ、もう、もちろんでさっ」

少女「……司教さま、お話でしたら、こちらではなく」

司教「ええ。そうですね。
 このような蛮族のいる場所では、
 おちついて話などできません。行きましょう」

少女「……だったらなんでココにいるのよ」ぼそっ

司教「なにかおっしゃいましたか?」

少女「い、いえ、なんでもっ。
 ところで、司教さまはどちらに」

司教「今日は我らが兄弟が、
 船でこちらに訪れましてね」

少女(例の、やたらがっしりした人達、かな)

司教「彼らの案内などをしておりました」にこっ

少女「お疲れ様です」

司教「いえいえ、兄弟のために惜しむ事はありません。
 こうして公女様にもお会いできましたしね。
 危ない所でした。
 連中は気を抜けば、際限を知らず金を求めてきますよ」

少女「そんな事はない、と、思い、ますけど」

司教「連中は浅ましくも金儲けを奨励する神の信徒です。
 異教徒です。
 キチガイです。
 救いようのない愚か者です。
 同じ人間と思ってはいけません。
 守銭奴という別の生き物と、思う事です」

少女「……そうですか」

司教「ああ、とても良い機会です。
 あの亡者達について、近々あなたのお父様――
 公爵様にご提案があったのです。
 良ければ公女さまからもご説得いただけませんか?」

少女「父は必要だと思えば行いますし、
 そうでないと思えば、私が頼んでも行いませんよ」

司教「神のご意志にそう話です。
 必要であることは間違い有りません」じりっ

少女「であれば、私に話さなくても……」

司教「しかし、人間は間違う生き物です。
 あなたのお父様は、時々――錯覚だとおもいますし、
 思い違いだと信じているのですが、
 まるで神を、ないがしろにしてもかまわないと、
 思っているようにも見える事が、ありまして」じりっ

少女「そんな事は、ないですよ」

司教「ええ、そうですよね、そうですとも。
 我らが教会を軽視するという間違いを、
 まさか公爵様がなさるはずは、ない。
 ……ですよね?」にこっ

司教「父は、神を心の支えと、しています」

司教「…………では、お父上にお伝えください。
 あの、異教を信じる守銭奴どもを、
 卑しい商人ごときを預言者とのたまう、
 浅ましくも汚らしいゴミを、
 はやく除去なさるように、と」

少女「……神の、ご意志ならば」
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/18(日) 00:19:45.49 ID:BCoR2CL1o
司教「ええ、ご意志ですとも。
 The rotten apple injures its neighbors.
 (腐ったリンゴは隣を腐らせる)とも申します。
 私としては、愛するこの島が、
 腐ってしまったらと思うと悲しくてやりきれません。
 悲しくて悲しくて、その悲しみに打ち勝つために、
 もし、対処がなされなければ」ずいぃっ

少女「っ」

司教「他のリンゴが腐る前に。
 まとめて、消さなくては、ならなくなります」

少女「……それは、教会のご意志ですか」

司教「我らが神の、ご意志ですとも。
 教会に意思はありません。
 神の意思こそ教会の意思、教会は神の代弁者です。
 そして、神は慈悲と慈愛にあふれていますが、
 自助努力を怠る者は、煉獄に送るしかありません。
 悲しきかな、その試練も含めて、神のご意志です」

少女「おそらく、間違う事無く、
 父に伝わると思ってください」

司教「……ええ、間違う事無く、お伝えください。
 そしてなるべく早い、自助努力を。
 リンゴを砕く鉄槌が振り下ろされるより早く」にこっ

少女 ぎりっ

司教「どうかなさいましたか?」にこーっ

少女「……なんでもありません。では、失礼します」

司教「はい。それでは我らが兄弟に、主の祝福を」

少女「……祝福を」

とことこ
司教「…………ふん、若くとも狸の娘ですか。
 やはりこのような、搦め手ではいけませんね」

司教「血で染めなくては」

司教「あの慎みを知らぬ連中の血でこの島を染め、
 真っ赤に、真っ赤に燃え上げさせねば」

司教「……いや、待てよ。
 そんなに優しくていいのだろうか。
 そんなに静かでいいのだろうか。

 いいや、神を騙りし亡者共には、生ぬるい。

 オールに両手を縛り付け、
 その魂の最後まで後悔の色に染め上げさせて、
 故国を滅ぼす我らが船を、
 一心不乱に運ばせよう。

 楽しいだろう。
 きっときっと、楽しいだろう。
 家族だって
 友人だって
 知り合いだって
 知り合いじゃなくたって――
 その手で運んだ我らの剣が、
 愛しい者達を殺すんだ!
 そんな連中の嘆きを見るのは、
 きっと、きっと、楽しいだろう」

司教「ああ、まだ耳に響く。
 あの大鍋を掲げた連中の歌が、
 忌々しくもこの耳に……ッ」

司教「連中にだって見せられたんだ、
 死んだ方がマシだって光景を!
 連中にだって見せつけてやろう!
 地獄に逃げ込んで生ぬるいと云わせるような光景を!」

司教「くく、くかかかかかかかか」
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/18(日) 00:23:47.02 ID:BCoR2CL1o
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  未明  マータ島騎士団本部

青年「つまり、リベルタを攻め落とせと」

司祭「いかぬな、ちみ。
 早とちりだよ、それは。
 まずは説得をせねばいかんにきまっておろう?」

青年「説得、か。
 帝国との交易の一切を排し、
 帝国民を島外追放、
 加えて、教会へ島の領土の大半を明け渡せと。
 出来ないならば武力で奪うと。
 それのドコがっ、説得だというのか」

司祭「帝国の異教徒共についてはその通りだが、
 これは当たり前の事。
 問題などあるはずもない。
 むしろ、彼奴らとの汚れた取引について、
 条件をのめば不問にしようという、
 神の御心に添う寛大すぎる処置ではないかえ」

青年「百歩ならず、譲ってそれを通すとしよう。
 だが、島の大半を寄越せとは何事ですかっ。
 地図を見る限り、接収するのは農地と港湾、
 市を含めた主要施設のほぼ全てだ!」

司祭「そんな事は無かろう。
 ほれ、ここも、ここも、残しておろう」

青年「残されるのは使いようも思いつかんような、
 森だけの小さな隣島と、
 本島の中でも未開発な崖際の丘だけだろう」

司祭「しかたあるまい。
 これも神のご意志ゆえ、な」

青年「……神が、この島の民を飢え死にさせよと」

騎士団長「口がすぎるぞ、青年」

青年「ですが、この範囲を接収すれば、
 島の機能は麻痺どころではなく即死です!
 冬も近く、これから冷え込む海際で、
 いったいどれだけの人間が生き残れるか……」

司祭「なに、異教徒とふれあった連中だ。
 その罪をあがなうためには、
 多少厳しい試練も必要であろう。のう」

青年「ですが……これはやりすぎだ。
 間違いなく反発を招いて、態度を硬化させます。
 せめてこの半分!
 彼らにもそれだけは必要なはずです」

司祭「……なぜそれほど、異教徒のいる島の人間を、
 おぬしが気にかけるのかえ?」

青年「彼らもまた、迷える小羊だからです。
 羊は風上に向かい迷うもの。
 それを導く事が、我ら敬虔なる信徒の役目。
 導くこと無く殺し尽くすのは、
 主の慈愛が望むところでしょうか」

司教「一理あるが、な。
 ヨハネによる福音書12章24節。
 『Unless a grain of wheat falls into the earth and dies,
  it remains alone;
   but if it dies, it bears much fruit.』
 (一粒の麦は、
  地に落ちて死ななければ、一粒のままである。
  だが、死ねば多くの実を結ぶ)
 彼らの犠牲の上に、楽園は訪れるだろう」

青年「麦はその死から次の命が生まれます、
 ですが人は違う。
 人が死んで生まれるのは、悲しみと憎しみです」
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/18(日) 00:28:32.38 ID:BCoR2CL1o
司祭「ふん。十字軍のための犠牲となれるのだぞ。
 それを喜べない者がいようはずもないだろう」

青年「……狂ってる」

司祭「狂っておるのは貴様であろう、青年よ。
 この程度の『道理』も判らぬとはな。
 して、どうする。
 騎士団長が、この任務に貴様を推薦したのだ。
 断ってくれても良いぞ」

青年「騎士団長」

騎士団長「私は……君に任せる事が、
 良い結果につながるだろうと判断したため、
 この任務に推薦しただけだ
 だが、望まないものを押しつけるほどでは無い。
 手柄を欲しがっている者は、多い」じっ

青年「…………ッ。かしこまりました。
 マータ騎士団ディオイツ分隊所属、
 副分団長として、三番艦隊を率い、
 リベルタ公国への交渉、
 及び必要時の鎮圧を目的に出動いたします」

騎士団長「うむ、任せた」

青年「では早速、糧食の準備を終え次第、出発します」

青年 ざっざっざ……

 ぱたん

司祭「……ふむ。騎士団長殿」

騎士団長「なにか」

司祭「彼は本当に、大丈夫、なのですよねぇ?」

騎士団長「……勿論です」

司祭「ああそれは良かった。
 では、安心して、あなたに、お任せいたします。
 勇ましき我らが十字軍への嚆矢!
 その道を、切り開いてくだされよ」にぃ

騎士団長「……わかっていますとも」

司祭「では、失礼いたしますよ」いそいそ

 ぱたん

騎士団長「く、この身の、なんと不自由な事か……ッ」

騎士団長「我らが教会が、
 押し込まれているのもまた当然のことだろう。
 ローディオス島で見せつけられた、
 かの帝王――大帝の余裕の有った事よ」

騎士団長「だが、負けるワケにはいかん。
 我らが父祖の地を奪われ、
 この地に移り住んで幾星霜……
 騎士団の名誉を取り戻すのだ」

騎士団長「……青年。
 私はかつての名誉へ手を伸ばす。
 お前は、この先の名誉のために、手を伸ばせ。
 その背中は押してくれよう」

騎士団長「任せたぞ。
 若き『鋼鉄の騎士』よ……」

885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/18(日) 00:31:24.42 ID:BCoR2CL1o
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 未明  騎士団港

青年 ざっざっざっ

眼帯「おや、お疲れ様です、副分団長。
 ずいぶんと勇ましいご様子ですが、
 なにか良い事でもありましたか?」

青年「この様子を見て、良い事があったと思うか?」

眼帯「良い事であれば、という願望です」

青年「残念だったな、その願いはかなわん」

眼帯「騎士団本部に戻ってまだ一日なのに、
 また厄介事ですか?」

青年「ふん、リベルタからの帰路は、
 随分良い追い風が吹くと思ったが、
 どうやらそれは戦乱の風だったようだ」

眼帯「戦争がはじまるという事ですか。
 しかし、近年の帝国は保守的で、
 今のうちに戦力を蓄えて大攻勢――
 いえ、十字軍に匹敵する軍団が出るらしいと」

青年「どこの噂かはわからんが当たらずとも遠からずだ。
 ゆえに、次の出動はその前座だな。
 十字軍遠征を行うという事は、
 そのための人が動くという事だ。
 人が動けば、糧食、武具、薬、火薬……
 多くの資材が必要になる」

眼帯「資材の調達、ではないですね。
 予算がない、奪う相手がない、
 だから十字軍はまだ動いていない。
 そのための補給基地の確保ですか」

青年「そうだ」

眼帯「して、目標は」

青年「イチアリア南方、リベルタ公国の首都にして、
 その領土であるリベルタ本島の占領だ。
 もっとも、なんだかんだと理由を付けて、
 いちおう大義名分を作るための交渉を、
 準備してはいるがな」

眼帯「…………なるほど。して、交渉とは?」

青年「リベルタは知っての通り、
 本島と、ほど近い孤島で成り立っている。
 開発されているのは本島で、
 孤島はほぼ完全に未開発だ。必要が無いからな」

眼帯「はい」

青年「本島には一万人程度の居住区と、
 彼らをまかなった上で、
 多少の輸出ができる程度の麦や野菜の畑、
 そして小さいながら牛、鶏、羊を牧畜する農地がある」

眼帯「……詳しいですね」

青年「五年近く前の情報だが、
 あの島に関わりがある騎士団員から聞いた話だ」

眼帯「騎士団員ということは、貴族ですか。
 小姓じゃないんですよね」

青年「ああ、貴族だ。
 だからその情報はおおよそ間違いが無いだろう」

眼帯「で、その交渉とは」

青年「その本島の八割以上、
 それも居住区などの大半を提供しろと」

眼帯「む、むちゃくちゃ言いますねぇ……」
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/18(日) 00:35:20.50 ID:BCoR2CL1o
青年「異教徒の連中との商売を不問にしてやると。
 その代わりに上納しろという事だそうだ。
 おそらく、人を排除して前線基地に仕立て、
 帝国領を切り取る楔に仕立てるんだろう」

眼帯「港で見た限り、石造りの家屋が多かったですね。
 なら、石材おおかた搬入済み扱いでいいと考えられる。
 あとはそれを奪って、要塞の形に作り替えればいい」

青年「乱暴だが、それなりに効率的だ。
 本島は平地が多いから、他の要塞の設計図があれば、
 それをほとんど流用出来る」

眼帯「つまり、手に入れれば、
 時間のかかる石材の切り出しや、地ならし、
 作業員の手配、設計、食料の備蓄と……
 要塞に必要なものをほぼ全て、
 ほとんど手間無く手に入れられると」

青年「代価は屍の山と赤い海だがな。
 いままでリベルタと帝国の通商を見逃していたのは、
 この準備をさせるためだったのではないか、
 とまで考えてしまう。大穴だが無いとは……」

眼帯「それはありません」

青年「む、なにか掴んでいるのか?」

眼帯「あ、いえ。そういうわけでは。
 ただ、普段の教会のやり方を見ると、
 そこまで長期的な展望を持って、
 厄介な敵になるかもしれないリベルタを、
 肥え太らせる事はないだろうなと」

青年「言われてみればそうか」

眼帯「リベルタの公爵家が封ぜられたのは、
 随分と昔の事のようですね。
 有能な血筋では無かったようです。
 高い身分には釣り合わない、
 あの小さな島だけが封領という現状は、
 借金の代わりに切り取られていった結果だと」

青年「ほう。ちなみにその情報源はなんだ」

眼帯「イチアリアの貴族ですよ。
 ディオイツの我が実家と交流がありましてね。
 数代前に、公爵に『手を貸して』
 お礼として所領をもらったと、
 素晴らしい景勝の地に招いてもらいました」

青年「ものは言いよう、か。
 そして当時は使い道の少なかった小さな島だけが、
 無能な領主とともに海に残されたと」

眼帯「そのようですね。
 さほど大きくも無いリベルタという島が、
 これほど豊かになったのは、
 今代領主になってからと聞き及んでいます」

青年「地の利があったとはいえ、
 一身の才覚を以て、あれほどの大交易拠点を作ったか」

眼帯「それを、奪えと」

青年「ああそうだ。譲れと言って聞かなければ奪えと」

眼帯「変わらないではありませんか」

青年「お題目が出来るらしい。
 交渉が失敗したからだ、とな。
 改心の機会を捨てた者は救えないらしい」

眼帯「そしてその面倒と、血を流す役目は我らのものと」

青年「俺がこの任務に就くことをを断れば、
 そもそも交渉の余地無くあの島は蹂躙されただろう。
 『交渉成立の証文が無いこと』が、
 『大義名分の成立した証になる』ような交渉だからな」
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/18(日) 00:44:23.40 ID:BCoR2CL1o
眼帯「襲われる方はたまったもんじゃありませんね」

青年「俺は町の中を公女様と歩いて、
 そこに幸せそうな人々の姿を見た。
 あの光景を、出来れば、守るべきだと思う」

眼帯「……」

青年「騎士として、弱き者を守る事こそ我が勤めだ。
 同胞を殺した帝国の人間達は憎いが、
 彼らと商売をしたから滅ぼして良い島だとは、
 自分には言えない。
 豊かな者を貶め、その徳をと努力をかすめ取り、
 笑顔を捨てさせる事が騎士の仕事ではないと、
 俺はそう思っている」

眼帯「……まあ、自分達はそれでも使われる立場です。
 せいぜい、都合が良くなるように努力しましょう」

青年「そうだな。
 まずお前は各部隊への通達、及びリベルタの情報収集、
 可能ならば三つほど襲撃案の草案を立てておけ。
 騎士A、騎士Bを補佐に使ってかまわん。
 今夜は寝て、明日中に休暇と準備を済まさせろ。
 明後日中には出帆する。
 おそらく向かい風で、到着は一週間後だろう」

眼帯「了解。コレより作戦行動に入ります」

青年「任せた。では俺はこれから出発に向けて、
 物資の搬入などの手続きを行う」

 たったったっ……

眼帯「今までのリベルタはほぼ絶対的に中立だった。
 均衡がゆえに狙えない状態……
 豊かになったあの島はとても魅力的だったのだ」

眼帯「だが、最近のパウリガなどの襲撃で、
 イチアリアの防衛力が低下した事にきづいたな。
 リベルタ島を確保されれば、
 レピアント海域が帝国の手に渡っても、
 半島経由で帝国に侵攻しやすくなる。
 レピアント奪還には最良の足場でもある……」

眼帯「法衣を着た白豚達しては考えたようだ……
 だが、ここに私がいる。
 そして状況も全て、私の手のひらの上だ」

眼帯「く、は、ふっはっはっはは!
 ああ神よ、このラッキーに、感謝いたします」
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/18(日) 00:47:11.08 ID:BCoR2CL1o
今日はここまで!
どうなるのか、誰が生き残るのか!
みんな死亡フラグばっちりだ><

あとちょぉっとなんだぜ!
おつきあいくださいっ。
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/18(日) 00:48:24.38 ID:KIYVP4JGo
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/18(日) 02:11:10.74 ID:VzKmEPjDO
毎回楽しみにしてます!
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/18(日) 05:57:32.10 ID:4gZrLC8No
追いついちまった・・・ココから毎夜悶々と過ごすかと思うと・・・・・・ふぅ
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/09/18(日) 11:21:18.01 ID:30UvpcxWo

もう終わってしまうのか…
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/19(月) 03:12:46.72 ID:L48WhzYh0
乙!
相変わらずのクオリティだ
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/24(土) 23:07:52.13 ID:Y4SPWTf2o
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  夜  隠れ港

海賊A「おーい、こっちにエール!」

狼「……おまちどうさま」どんっ

海賊A「ありがとよっ。
 いやー、やっぱ若くて可愛いのが入れてくれると、
 ひと味違うなっ!」

女将「なに言ってんだいっ!
 入れたのはあたしだよっ!」

海賊A orz

海賊B「おーい、俺達には肉巻きいっちょーっ」

狼「ちょっと待っててね」

 がちゃっ

狼「肉巻き一皿だって」

包帯「うん、りょうかい。
 これ、三番テーブルのフィッシュアンドチップス。
 そのままでも、横に乗せたクリームをつけてもって、
 伝えて出してくれるかな」

狼「ん、わかった」

 ぱたん

包帯「えーっと、まずこっちのパスタを出して、
 次がエビのフリッターで、上げながら肉巻き焼いて、
 それからナンとパンツェッタとチーズのバジル添えか」

 がちゃ

女将「いやー、まいったわ。
 いつもの倍は忙しいね、まったく。
 大丈夫かい、厨房まかせちゃって」

包帯「ええ、お気遣いありがとうございます。
 いろいろな料理を作るのも慣れましたから、
 問題ないですよ」にこ

女将「そーかい、そりゃぁよかった」にかっ

包帯「食べた人の反応はどうですか?」

女将「みりゃ分かるだろ……って、見る暇がないね。
 上々ってもんじゃないさ。
 あんたが料理を出すようになってから、
 明からにみんな料理の注文が増えて、
 店の前には行列まで出来そうな勢いさ」

包帯「それはよかった」にこっ

女将「よかったら今度、あたしにも料理おしえとくれ。
 このままじゃ酒場の女将じゃなくて、
 酒場の飾り物になりそうだからねぇ。あっはっは」

包帯「はい、いいですよ。
 ところで、表の方は大丈夫ですかね?
 狼くんが給仕をしてるって」

女将「大丈夫、大丈夫さ。
 あの娘さんがよーく働いてくれるから、
 あたしの出番なんてほとんどないよっ」

包帯「体を動かすのは大丈夫でも、
 酔客の相手とかは……」

女将「なぁに、あの娘さんは白髪の弟子だろ?
 だったらそこらの酔客なんて相手じゃないさ」

包帯「……お客さんが危ないかな、と」
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:08:35.64 ID:Y4SPWTf2o
女将「あっはっは、いくらなんでも、
 いきなり斬りかかるようなマネはしないだろ?
 ならウチとしては問題ないよ」

包帯「………………狼くんの自制に期待、かな。
 よし、このパスタを四番に、フリッターを一番に、
 持ってってもらえますか」

女将「あいよっ!
 あと少ししたら閉店だから、
 がんばっておくれよ」ばんばんっ

包帯「あ、あはは、がんばります」汗

 ばたん

包帯「さすが女将さん。肺が飛び出るかと思った……」

 がちゃ

双子妹「こんばんはーでありますっ!」びしっ

男「調子はどうだ、包帯」

包帯「見ての通り、大忙しで悲鳴を上げてるよ」

双子妹「例の作戦、大成功でありますか」

包帯「そうだね。
 忠実な船員を掴むなら、まず胃袋を掴め。
 まさか三日で行列が出来るようになるなんて、
 さすがに予想外だけどさ」

男「元から包帯の料理は美味いからな。
 予想外ではない」

双子妹「長い船旅でたべられるものが、
 かったーいパンと、すっぱいお酒なんて、、
 他の海賊さん達は酷い食生活なのに、
 それが当たり前の状態であります」

包帯「まあ、それが普通なんだけどね」

双子妹「だからこそ、この作戦であります。
 海の上でもこの料理が食べられると知れば、
 多少の悪い噂があっても人が来るでありますよ!」

男「女将が気前よく厨房を貸してくれたからな、
 元手もかからず実験できた。
 双子妹の作戦勝ちだな」ぽんっ

双子妹「えっへへ〜♪」

包帯「まあ、これで本当に、
 うちの船に乗っても良いって人が来てくれるかは、
 まだわからないけれどね」

双子妹「大丈夫でありますよ。
 普段は専属の料理人が作る料理を食べてる、
 あの少女のお姉様が認める料理であります!」

包帯「でも、たかが料理だよ?」苦笑

双子妹「たかが、ではないのでありますよ!
 ご飯は大事、これはもう人類の標語であります。
 湯気の立つパンやスープを食べる。
 ただそれだけで幸せになれるなら、
 払うべき対価としては世のあらゆるものより、
 効率的で力強い牽引力なのであります」

男「さすがに今の人数で海に出るわけにもいかん。
 なんにせよ、次の行動を決めるために、
 もう少し時間が必要になるんだ。
 その間の暇つぶしと思ってくれ」

包帯「まあ、料理を作るのは好きだから、
 かまわないけれどね」

男「双子姉が帰ってくるとしても、
 最低限あと一人、出来れば五人くらいは欲しい所だ」
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:09:05.81 ID:Y4SPWTf2o
包帯「まあ、それが普通なんだけどね」

双子妹「だからこそ、この作戦であります。
 海の上でもこの料理が食べられると知れば、
 多少の悪い噂があっても人が来るでありますよ!」

男「女将が気前よく厨房を貸してくれたからな、
 元手もかからず実験できた。
 双子妹の作戦勝ちだな」ぽんっ

双子妹「えっへへ〜♪」

包帯「まあ、これで本当に、
 うちの船に乗っても良いって人が来てくれるかは、
 まだわからないけれどね」

双子妹「大丈夫でありますよ。
 普段は専属の料理人が作る料理を食べてる、
 あの少女のお姉様が認める料理であります!」

包帯「でも、たかが料理だよ?」苦笑

双子妹「たかが、ではないのでありますよ!
 ご飯は大事、これはもう人類の標語であります。
 湯気の立つパンやスープを食べる。
 ただそれだけで幸せになれるなら、
 払うべき対価としては世のあらゆるものより、
 効率的で力強い牽引力なのであります」

男「さすがに今の人数で海に出るわけにもいかん。
 なんにせよ、次の行動を決めるために、
 もう少し時間が必要になるんだ。
 その間の暇つぶしと思ってくれ」

包帯「まあ、料理を作るのは好きだから、
 かまわないけれどね」

男「双子姉が帰ってくるとしても、
 最低限あと一人、出来れば五人くらいは欲しい所だ」

双子妹「……お姉ちゃんは、
 帰ってくるでありますかね?」

包帯「双子妹くんは、やっぱり帰って来て欲しいよね」

双子妹「……複雑な感情であります。
 危険がない場所で幸せに暮らしているなら、
 それが良いと思うであります」

男「……」ぽんっ

双子妹「船長殿も、そう思うでありますよね」じっ

男「俺は何も言わん。
 だが、話を聞くくらいはしてやろう。
 あまり一人で思い詰めるなよ」

双子妹「……はい」

包帯「……さて、次の料理ができたんだけど」

双子妹「では、自分が持って行くでありますっ!」

包帯「じゃ、任せようかな」にこ

男「……俺は船に戻る」

包帯「食事していかないのかい?」

男「保存食の一部が悪くなりそうだからな。
 それを処理する」

包帯「そっか。僕はこっちに泊まるから、また明日」

男「ああ」

ばたん
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:10:18.47 ID:Y4SPWTf2o
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夕方 ディオイツ三番艦

騎士B ぼけーっ

騎士B「ろくな休暇にもならずに島を出たものの……」

騎士B「風が弱いし逆風だし……どうしたもんっすかね。
 出港して二日、ろくに動いてねっすよ……」

騎士B「こんな事なら、いくつか港を経由して、
 足りなかった休暇を補いながら向かわせてくれれば、
 助かるっすけど……むりっすよねぇ……」

騎士B「はぁ……」

 とことこ

騎士A「どうした、騎士B」

騎士B「あー、人生と船長をのろってたっす。
 あの人いみわかんないっす。
 なんで長い航海終わって休暇が取れるって時に、
 追加で任務受けて島を出るっすかね」

騎士A「……」

騎士B「自分ができるからって、
 人も出来るとはかぎらないっすよ。
 ただでさえ船にいると体力消耗するのに、
 休みが奪われたみんな、士気がダダ下がりっす」

騎士A「そうだな」

騎士B「まあ、そんで誰より働いてる船長っす。
 文句言いたくても言えないし、
 おいらみたいな役立たずを拾ってくれた船長には、
 感謝してもしきれねっすけど。
 なんで自分達なんすかね?」

騎士A「……俺達の必要はないかもしれんな。だが」

騎士B「ん、なにっすか?」

騎士A「行き先、リベルタだったよな」

騎士B「そっすね。公女様のとこに、なんか交渉とか?」

騎士A「交渉か……本当に、交渉だと思うか」

騎士B「どういう事っすか?」

騎士A「交渉にディオイツ艦隊のほぼ全戦力……
 十字軍総攻撃でもなけりゃ一度に出撃しないっていう、
 分団ほとんど丸ごと一つの出撃だ。
 さらに、建造費用対効果が釣り合わないものの、
 単体じゃ騎士団随一の大戦力、
 我らが三番艦まで一緒だぜ」

騎士B「たしかに、交渉にしちゃ大げさっすけど、
 本部の意向っすよね。
 あそこの連中って、
 なにかにつけちゃ権威とか見栄とか気にするし、
 これもその一つじゃねっすか?」

騎士A「今の教会と騎士団に、
 そんな見栄を張れるような無駄金があるかよ。
 分団一つまるごと動かすのに、
 どれだけの金がかかるか分かってるか?」

騎士B「いや、わからんっす。
 うち血筋はあっても貧乏貴族っすから、
 感覚が庶民なんすよ」

騎士A「……そうだよな。
 今回の動員は船が11隻、
 騎士70人に、小姓600人っていう、
 ディオイツ分団のほぼ全戦力だ」

898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:11:34.74 ID:Y4SPWTf2o
騎士B「うんうん。
 こんなにたくさんの戦艦並んでるの、
 初めてみるっすよ」

騎士A「動かすだけで1500デュカットくらいかかるぜ。
 しかも少なく見積もって、な。
 船に損害がでりゃ1000デュカット単位で、
 日数がかかりゃ、食費衛生費なんだかんだで、
 際限なく費用が増える金食い虫だ」

騎士B「……あー、えーっと。
 貧乏な家庭を一ヶ月間、千組養えるくらい?」

騎士A「まあ、四千人から、養える」

騎士B「……ほへぇ」

騎士A「しかも俺らの武器は自弁(自分で買って準備)
 ってことで、実際はさらにかかるな」

騎士B「うぐ、嫌な事思い出させないでほしいっすよ。
 鎧とか、教会のために戦ってるのに、
 なんで自腹なんすかね」

騎士A「そりゃ、これも一つの『奉仕活動』だからだろ。
 俺達みたいな貴族出身者の騎士ってのは、
 家の見栄と教会へ貢献したって言い訳のための駒だ」

騎士B「う、うちは違うっすよ!」

騎士A「後妻に追い出された次男なんざ、
 もっと質が悪いだろ」

騎士B「うぐ」

騎士A「で、武器の供給すらしないケチくさい教会が、
 ただの見栄でこれだけの軍団動かすかよ」

騎士B「……もしかして、ちょーヤるきっすか?」

騎士A「もしかしなくてもな。
 教会はそんだけ、リベルタを手に入れたいんだろ。
 あの町は、西洋に知らぬ者なしって豪商のじいさんや、
 東欧圏の『商人連合(ギルド)』を束ねる大商人の、
 本拠地になってるんだ。
 うまくそいつらから接収すりゃ、
 かけた金の五倍十倍は接収できる。
 帝国の連中を捕まえれば、
 奴隷としても売れるからな。
 あそこは俺達にとっちゃ、金塊の山と同義語さ」

騎士B「でも、あの公女様の故郷っすよ。
 助けて、送り届けたのにそんな風に奪うとか……」

騎士A「……助けて、ねぇ」

騎士B「なんすか?」

騎士A「昨日の今日ってくらい、
 期間が短いのは予想外だろうがな。
 まさかあの誰もが狙う島の公女を、
 偶然助けて送り届けたと思ってるのかよ」

騎士B「……は?」

騎士A「あの公女は予想外に頭がすっからかんだったが、
 貴族の第一子なんて部外秘情報の塊だ。
 島の防衛戦略だの、緊急時の配備予定、
 上陸時の対敵戦術、民や貴族の避難経路と……
 大量の極秘情報が手に入ったかもしれない機会だった」

騎士B「はぁ」

騎士A「つまり、効果的に攻めるなら、
 実際に攻略する前に誘拐でもして、
 話を聞いておきたい相手ってこった」

騎士B「っ、そんな、誰がそんな!」
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:12:52.67 ID:Y4SPWTf2o
騎士A「おいおい、まだわからねぇのか?
 いや、分かってて否定してるのか?」

騎士B「分からないっすよ!」キリッ

騎士A「胸を張るなよバカッ。
 うちの大将……あの、青年以外に誰がいるよ」

騎士B「そんな、わけないっすよ。
 誘拐とかそういうのは、騎士らしくないっすよ」

騎士A「騎士らしく、なんて言葉にどんな意味があるよ。
 マータ騎士団が、
 各国貴族を半ば脅す形で維持費を徴収して、
 足りない分は帝国の船を襲って奪って、
 それでもまだ足りない分は、
 罪もない帝国の人間を奴隷売買で売り払って、
 そんで成り立ってるのはわかってるだろ。
 売れない奴隷で人体実験して、
 医療騎士団の面目保ってるのも知ってるだろ」

騎士B「わ、わかってるっす、わかってるっすけど」

騎士A「けどじゃねぇよ。
 英雄だ?
 勇者だ?
 『騎士様』だ?

 何を格好付けていやがる。
 俺達は、どうしようもねぇ殺し屋だ。
 それ以上でもそれ以下でもねぇ。

 人間殺して奪った金で飯を食うんだ。
 人間売り払って飯を食うんだ。
 神様気取った連中相手に、
 首を捧げて飯を食うんだ!

 そういうのをよ、なんて言うか知ってるか?
 クズっていうのさ」

騎士B「……」

騎士A「それでも、俺達にだって誇りはある。
 真っ向からぶつかって、
 殺したり殺されたりする事だ。
 戦争って形で殴りかかる事だ。

 その戦争が始まる前に、
 相手の親玉の娘を捕まえて、
 人質として使うなんてのは、
 外道にしても限度があるだろ!
 最後の誇りさえ、アイツは売り払ったんだよッッ!」

騎士B「そんな事を、あの人がするはず」

騎士A「公女を連れてきた時に、
 おれはこっそりあの人を追いかけて、
 海賊相手に仲良く話してるのを、この眼で見たんだ」

騎士B「う、そ、っすよ」

騎士A「年齢のワリに手柄があって取り立てられたが、
 それにもいくつだって疑惑がある。
 今回の公女の話と似たような、な」

騎士B「……」

騎士A「公女を実家に連れて行く時も、
 すぐに出航するって理由を付けて、
 一人で連れていっただろ。
 側近の眼帯すら連れずに」

騎士B「もしかして、その時に、なにか」

騎士A「無いって考える方が難しいだろ。
 娘が手の届く場所にいるんだ。
 海賊に誘拐された娘が、だぞ」

騎士B「もし、おいらが親なら」
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:13:59.28 ID:Y4SPWTf2o
騎士A「無体な要求だって聞いちまうだろ」

騎士B「じゃあ、なんなんすかね。この大船団。
 なにが、始まるんすか」

騎士A「リベルタを無傷で制圧して、
 大勝利を演出、大出世を狙うか、もしくは」

騎士B「もしくは……」

騎士A「そこで逆に俺達を罠にかけてリベルタに勝たせ、
 『無体な要求をする教会と騎士団から、
  地位を捨ててまで島を守った英雄』として、
 公女と結婚ってのも、アリか」

騎士B「つ、つまり、おいら達」

騎士A「捨て石だな。その策だったら」

騎士B「そんな、信じてたのに!
 今は良くないとこのある騎士団でも、
 あの人だったら変えてくれるって、
 おいら達、信じてたっすよ!」

騎士A「……信頼なんざ、一方通行なのさ」

騎士B「…………おいらたちは、
 どうするべきっすかね」

騎士A「今は物証がねぇからな。
 なにかそういったモンがありゃ、
 騎士団の査問会にかけるなりできるが」

騎士B「……おいら、探すっす」

騎士A「は? いや、あの抜け目ない青年が相手だ、
 ばれたら、どうなるか」

騎士B「でも、でも、このままじゃダメっすよ。
 なにかしないと変わらないっす!」

騎士A「そうだな。
 それは分かるが……まずは、あれだ、
 眼帯に相談してみろ。
 アイツもどうやら青年を疑ってたらしい。
 協調すりゃなにか動けるはずだ」

騎士B「そうっすね」

騎士A「誰彼かまわずこの話をするなよ。
 青年に聞かれれば、事故に見せかけてやられても……」

騎士B「……騎士団最強っすからね。わかったっす」

騎士A「俺は信頼できる何人かの騎士に、
 注意だけでもするように伝えておく。
 もうちょっと裏を取りたかったが、
 思った以上に展開が早い……っ」

騎士B「じゃ、さっそく眼帯さんと話してくるっす!」

騎士A「おう」

騎士B「我らが剣に――」ザッ

騎士A「――神と精霊の祝福を」ザッ
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:15:00.68 ID:Y4SPWTf2o
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 眼帯の私室

こんこんこん

騎士B「失礼しまーすっす」

騎士B「ん、いないっすね?」

騎士B「今は眼帯さん、休憩時間のはずっすけど……」

騎士B「部屋で待たせてもらって、
 戻り次第、相談するのが良いっすかね」

 きょろきょろ

騎士B「……机の上に、可愛らしい手紙?」

騎士B「……」そわそわ

騎士B「浮いた噂がないと思った上司に可愛い手紙!
 封蝋があるから、届いたモノっすね。
 恋人っすかね?
 彼女っすかね?
 女子っすかね?」

騎士B「まあ、こっそりなら、ちょっとくらい……えへ」

 きょろきょろ

騎士B「……一瞬だけ、失礼しまーす」そーっ

騎士B「えっと……ん? 小さな穴が、いっぱい?
 手紙の内容は普通っすけど……
 ……穴が文字って、秘密通信っすかね。
 ふっふー、子供の頃に、
 親にバレたくない手紙はこうしたものっすよ」

 か、ちゃ……

騎士B「……騎士団内、分裂、作戦?」

 そっ

騎士B「リベルタに、疑惑、密通。
 情報、流す、教会に。
 誘導しろ、ディオイツ――ま、マジっすか!?
 あまーい内容かと思ったのに、
 それに、こ、ぐぶっt」

眼帯「……」がんっ

騎士B「げ、うぐ、眼帯さ」

眼帯「……」がつんっ

騎士B「ぐっ……」どすん

眼帯「………………ふう。
 手紙が見つかって、アンラッキー。
 でも、仕留めたからぎりぎりラッキーかねぇ」

眼帯「あーあー、せっかくの『種』だったのに。
 死んで実がなるのは麦くらい。
 死体なんざ、邪魔になるだけなのによ」

眼帯「窓から捨てる、か。
 甲板にゃ持ってけんし。
 魚のえさにでもなるだろ」ぐいっ

眼帯「じゃなー、騎士様よ。
 悪いな、俺のミスで死なせちまった。
 せいぜいアラーに優しく迎えてもらってくれよ」ポイ

 ざっぱーん

眼帯「さて……。貴い犠牲も出た事だ。
 煙を立てて青年に眼を向けさせつつ、
 いざってぇ時のために手を整えるか。
 やれやれ、アラーの試練もやさしくねぇなぁ」
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:15:51.02 ID:Y4SPWTf2o
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 リベルタ 公爵執務室

家宰「こちらは、東側の地区で水路が壊れた報告と、
 その改善、及び予算の申請です」

公爵「ふむ……わかった、これでいい」さらさらっ

家宰「……」

公爵「どうした」

家宰「いえ、よく見ればこの報告書」

公爵「……そうか、少女が出したモノか。
 帰って来ても毎日の様に外に出ていると思えば」

家宰「民の暮らしを見ている、
 というところでしょうか」

公爵「遊び歩いているのか、
 それとも現場の声を拾い上げる『仕事』をしているか」

家宰「今までの素行を見れば、
 前者で無いと断言するには些か困りますが、
 仕事と考えての事でしょう」

公爵「この様な事は、
 次期公爵が行うものではないのだがな」

家宰「思うところがあるのでしょう。
 ですが、非効率的なのは確かです」

公爵「せっかく事務処理ができるだけの勉学を済ませ、
 軍や民の事にそれなりに通じているのだ。
 少女にしか出来ない事もある。
 それをして欲しいところだな」

家宰「私の方から一言、
 口を出してもよろしいでしょうか」

公爵「いや、それならば私から言おう。
 今夜の食事は一緒にどうかと、
 伝えておいてくれ」

家宰「……公爵様、それは」

公爵「娘と『家族』がしたい私の利益にもなる」しれっ

家宰「お伝えいたしましょう。
 では次は、将軍から。
 軍備の拡大について打診の書類です」

公爵「打診だけか」

家宰「はい」

公爵「……程度によるが、増やす方向で話を通す。
 必要な分をうまく申請するように伝えてくれ。
 それらしい数字を添えた上でな。
 書面では切り詰めろと書いておく」

家宰「かしこまりました。
 次はイチアリアから式典の招待状ですが」

公爵「断っておいてくれ」

家宰「断りの手紙は準備いたしました。
 内容をご確認ください」

公爵「……問題無いな。
 いつもながら良い手際だ」

家宰「光栄です。
 では、今度は教会からですが――」

 バサバサッ

家宰「……旦那様、伝書鳩が」
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:17:55.96 ID:Y4SPWTf2o
公爵「内容はなんだね」

家宰「教会本部の『ご友人』から。
 どうやら近いうちに、マータ騎士団がリベルタに」

公爵「目的はわかっているのか?」

家宰「帝国の卑劣な策略によって、
 リベルタは彼らの強欲を満たすための、
 手先となっているらしいです」

公爵「ふぅ、帝国が干渉しているとは初耳だな」

家宰「帝国の長子はむしろ通商条約が邪魔だと、
 放言している派閥なのですがね。
 まあ、実態は違うらしく、
 リベルタを手段を問わずに『解放』しようと、
 騎士団の派遣を泣く泣く決めたそうですよ」

公爵「既に二十年。
 交渉でのらりくらりと逃げてきたが、
 そろそろ余力が作れて、奪いに来たか」

家宰「どういたしますか」

公爵「元老院と軍関係者、建築組合の代表、
 大商人、豪商を議会に招集しろ。
 マータ騎士団は、国家保有の軍隊とは違う。
 攻めろと言われれば、翌日には動くぞ。
 商人を経由して噂を流し、人々に備えさせろ」

家宰「公布はなさらないのですか」

公爵「一度に情報が広まれば、
 混乱した人々が一斉に避難を初めて、
 統率の手が届かなくなる恐れがある。
 伏線を張って、耳が良い順に避難させた方が、
 結果的には効率敵だろう」

家宰「出国手続きについてはどうしますか」

公爵「緊急時だ、手続きより人命を尊重させろ。
 各種手続きと、糧食の搬入を含めた港の利用、
 それらが迅速に済むように、
 会議の前に港湾組合に使者を出して準備をさせておけ」

家宰「現金がなくて糧食が買えないモノのために、
 国庫を開いて貸し付けを行うのはいかがでしょうか」

公爵「……そうだな。借用書を書かせる公証人と、
 備蓄も含めた食料を港に届けさせてくれ」

家宰「かしこまりました」

公爵「まさか、嵐が真っ先に上陸するのが、
 この島だったとはな」

家宰「運命の気まぐれに恨み言を並べたいところですが、
 それができるのは無事に生き延びてからですね」

公爵「……少女の居場所はわかるか」

家宰「いえ。人を動かせば分かりますが」

公爵「そうか、いや、……そこまでは必要ない」

家宰「……」

公爵「では動くぞ。
 しばらく寝られると思うなよ」

家宰「老体をもう少しいたわって欲しいですな」

公爵「なに、最後の一花と思って、励んでくれ」

904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:18:24.78 ID:Y4SPWTf2o
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 リベルタ政策評議会 議場

軍幹部A「そんな理由でせめて来る連中など、
 口を開く前に沈めてしまうのがよろしかろう」

軍幹部B「その通り。先手必勝が一番だ。
 交渉などする余地もない」

元老A「いいやそれはいかん。
 騎士は各国出身の貴族じゃ。
 死人を出せば教会の意向ゆえに教会はもちろん、
 その騎士の故国とまで、戦がを構える事になりかねん」

元老B「うむ。そのような事態になってしまえば、
 やがて物量によって押し流されようぞ。
 我らの国は小さく、余力もあまりない」

軍幹部C「だが、帝国との通商条約の破棄は、
 同時に我々を帝国の敵にするだろう。
 そうなってしまえば、教会よりもよほど恐ろしい」

元老C「なにを言っておる。
 西洋諸国の力を結集し、神聖同盟となせば、
 帝国勢力など恐れるに――」

軍幹部A「何を言っておられるか理解しかねる。
 それが不可能だからこそ、
 東洋の大帝国が為されているのだとわからんか」

元老D「だが、いま目の前に訪れようという脅威は、
 通商条約の破棄によって逃れる事ができる」

公爵「待たれよ。
 使者たる船団が到着していない現在、
 通商条約の破棄だけで済むとは言えん。
 いくつかの条件に分けて、
 状況に合わせた判断が出来るようにすべきだ」

元老A「ごもっともです。
 では、公爵はどのようにお考えか」

公爵「今回の件で着目すべきは四点。
 一つ、騎士団は武力行使を選択肢に持っている。
 一つ、騎士団は教会の命令で動いている。
 一つ、教会の目的は複数あると予想される。
 一つ、西洋諸国や帝国からの援助hは期待できない。
 まずこれらの前提に異論はないな」

豪商「ありませんが、さて……
 三点目の教会の目的についてです。
 商人とは相手の欲するモノを渡し、
 その代価として欲するモノを受け取るのが生業。
 相手と自分の欲するところを知らなくては、
 動きようがございません」

公爵「その通りだ。
 私が先ほど言った『状況を動かす条件』が、
 そこにある」

軍幹部A「我らの欲するところは明らか。
 平和と独立、友と笑いあえるこの日常。
 この島は、理想郷と言えます」

元老A「それはどうか。
 帝国勢力とも手を結んでおる事で、
 西側諸国から 『頭と尾が二つある狗』と
 あざけり呼ばれているのは、
 おぬしらも知っておろう」

公爵「西にも東にも、こうべを垂れて尻尾を振るか。
 ははは、なるほど、言い得ているな」

元老B「笑い事ではありませぬぞ!
 おかげで西の貴族共は、
 我らの事を既に人として見ておらぬ輩までおる」

元老C「父祖から続くリベルタ公爵家の誇りが、
 いまや泥に塗れて物笑いの種……
 屈辱ではないのか」
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:19:05.78 ID:Y4SPWTf2o
軍幹部B「そりゃ屈辱だけどよ。
 連中が何を知ってるってんだ。
 公爵様が、島を今のように豊かにするために、
 どれだけの努力をしたか、
 そこの商人さん方が、何を犠牲にしたか、
 知らん奴らに言われても無視すればいいだろ」

大商人「……確かに、多くを捨ててこの島のために、
 尽くしてきたという自負はある。
 貴族達が嘲り笑うは、
 連中に出来ぬ事を為してつかみ取った栄光ゆえよ」

元老A「じゃが、そのおかげで、
 この国の人間はいつも安く見られておる」

豪商「否定はできないのう。
 帝国に尻尾を振っておるという噂と不名誉は、
 交渉をするにあたっても難航の元となる」

公爵「苦労をかける。
 だが、私は、この道を曲げるつもりはない。
 粗野で乱暴なだけの者を排斥するのは良いが、
 友となり得る者は、友としたい」

豪商「わしと大商人も、最初は商談をしながら、
 親の仇のようににらみ合っていたものじゃ。
 それが、今では数少ない本音をさらせる友で……」

大商人「ふん、寝首をかくのはやぶさかではないがな」

豪商「だが、やらぬじゃろ。
 利益にならんことはせぬ。
 『利益』こそ、商人の共通語よ」にやり

大商人「むぐ、せいぜい油断していろ」ぷいっ

豪商「ほほほ」

公爵「話を戻そう。
 私は、いまのこの島が好きなのだ。
 西と東の文化が混じりあい、
 時にぶつかる事はあれど、
 国や宗教の境なく、
 言いたい事を言い、
 飲みたい酒を飲みたい相手と交わす。
 コレは、譲りたくない」

元老A「……しかし、それが問題となっております」

軍幹部A「希望は聞き入れたいが、
 それを理想とするならば、
 さっき元老も主張したたが、
 騎士団と、その裏にいる教会に敵対しては本末転倒だ」

軍幹部B「敵対しなけりゃ、砲弾の雨をあびるだけだ。
 そんな理想に殉じて皆に死ねとは言えねえ」

元老C「討たれるわけにも、返り討ちでもいかん、か」

豪商「しかし、今更の話だ。
 なぜ今までは気にされなかった?」

軍幹部C「騎士団は三十年前に一度、
 帝国の手で壊滅寸前まで追い込まれています。
 その回復が必要で、今までは我らが戦力に対して、
 勝ち目がなかったのでしょう」

公爵「いや、そうではない。
 騎士団は人数こそ少ないがたいへんな精鋭だ。
 武力を優先しなかったこの国の軍が相手なら、
 この事態が十年前に訪れていても不思議ではなかった」

軍幹部A「まさか。
 この島の兵は精強ですよ。
 騎士団の本拠地、マータ島から距離もあり、
 多くの兵は送れません。
 少数の彼らにかなわないという事は無いと思います」

公爵「そう信じられればよかったがな」
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:19:37.30 ID:Y4SPWTf2o
元老A「話にでた三十年前の戦争において、
 ローディオス騎士団と呼ばれていたマータ騎士団は、
 一般人も含めた七千人の寡兵が最大戦力だった」

軍幹部C「一般人を含めて、ですか。
 それでも、七千はそれなりに多い数と思いますが」

元老B「対して、全盛期の大帝が彼らを攻めるにあたり、
 二十万もの戦士を動員した」

軍幹部C「はぁっ!?
 海を越えて、島ですよ?!
 陸つながりなら歩かせればいいですが、
 建造費も食費も人件費も、
 船乗りを育てる教育費用だって必要な海戦で、
 そんな大軍勢を用意したと?!」

公爵「事実だ……」

豪商「懐かしい話です。
 現団長のラ・ヴァレッテ殿も参戦し、
 その戦争で帝国の強大さを心身に刻み込まれ、
 今度こそ堂々と打ち勝ってみせると息巻いていました」

軍幹部B「負けた記憶に駆り立てられた執念の騎士か」

公爵「帝国に三十倍の兵を用意させた精鋭の騎士達を、
 彼がさらに鍛え上げたのだ。
 相手としては尋常でないぞ」

軍幹部C「……我らではかないませんか」

公爵「正面から当たれば、負けは必定だろう。
 どれだけの規模で来るのかわからぬが、
 油断はできん」

元老A「島の軍船は8。正規兵200、予備動員兵600……
 動員兵は雑用程度しか期待できん」

大商人「防衛戦は守る側が有利ですが、
 この程度では到底、足りますまい」

軍幹部B「だがよぉ、
 やってらんねーなんて言ってる暇はねえんだ。
 どうにか戦うんだよ」

公爵「その準備は必要だ。
 だが、今まで教会が我々に手を出さなかったのは、
 ひとえに公爵家が多額の寄付を行っていたからだ」

豪商「手間をかけて、被害を出しつつ襲うよりも、
 うまみがある状況を作っていたわけですな」

公爵「このように条件が緩ければ呑んでしまえばよい。
 そうすれば戦いは回避できる」

元老A「金を出せというなら、
 被害の復興に当てるよりは良いと、
 そういう判断か」

公爵「一概には言えんがな」

大商人「建物に被害があればそれを直す。
 直すためには人を雇い、
 雇われた人間は金を得て、
 得た金は使われて市場を動かし、
 使われた金から税を取る事で国は潤い、
 また人々も望む物を手に入れ、豊かになり、
 損失はあれども、長期的には救われるという事よ」

豪商「我ら商人はそのように見ますのう。
 ここに一理あるゆえ、帝国の宗教は我らの宗教と違い、
 商売を推奨しておりまする。
 そこだけは、良い宗教だと思いますよ。
 それ以外については、まあ言いますまい。ほほ」

大商人「ひっかかる言い方を……」

軍幹部B「だが、命と金銭は天秤にのせられねぇよ」
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:21:04.44 ID:Y4SPWTf2o
元老B「そのような情に縛られては判断が鈍る。
 為政者はその人間の死亡に対し、
 主に金銭によって補償を行うもの。
 その金銭と被害額を釣り合わせて考えるのが常道じゃ」

公爵「命を選びたい所だが、
 それだけを選べるのは夢物語の中だろう。
 命さえ天秤に載せて、
 それでもできる限り尊重できる決断をするのが、
 我々の精一杯だ」

元老A「具体的にはどうされますか」

公爵「まず、通商条約の破棄を撤回させなくてはな。
 代償としての条件が金銭や港の融通程度なら、
 受け入れてしまおうと思う。
 元々リベルタは貿易でそれなりに潤っている。
 危急の時の備えとして蓄えていたが、今がそれだ。
 割増しで寄付を求められても、なんとかなろう」

大商人「その撤回が期待できない場合はどうする」

豪商「そもそも、帝国から送られる砂糖や香辛料は、
 この島かベネッタを経由せねばほとんど手に入らぬ。
 リベルタの交易路を廃止すれば、
 それら嗜好品の扱いはベネッタの独占となり、
 価格が今の数倍に跳ね上がるのは簡単に予想できるぞ」

公爵「そうだ。そしてその嗜好品の買い手は貴族達だ。
 値が上がれば貴族が教会に反発し、
 結果的に教会は自分の首を絞めることになる。
 理性的に考えればそれは、威嚇用の手札にすぎん。
 問題は土地の割譲を迫られることや、
 税制などでの差別の強制、宗教の迫害の強制、
 港湾などの利権を要求されることか」

元老B「それらについて一つずつ、
 どこまで譲れるか、また何ならば代償に出来るか、
 今のうちに共通意見を持っておくべきか」

軍幹部C「気持ちよくやっつけて終わりとか、
 ホント、そんな相手ならよかったんですがね」

軍幹部A「海賊の相手は慣れているが、
 それ以外の戦争の経験は、
 公爵様の代になってから無いからな……」

元老C「しかし、リベルタはあまりにも、
 『利益』という言葉に従順過ぎやしないか。
 権威や栄誉というものを、
 利益以上に重視する人間も、多いと思うが」ぼそっ

 わいわいがやがや

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 港湾管理組合事務所

眼鏡「で、軍曹を呼んだんだが、なぜ少女が一緒に来た」

少女「軍曹と町の見回りしてたんだけど……」

眼鏡「そうか、デートか。
 邪魔をしてすまんな、軍曹」

軍曹「ちょ、おいっ、そんなわけ」(////

少女「そんなワケないって。
 軍服着て危険そうな場所を見て回るデートとか、
 どんな物好きでも、
 もうちょっとムードを欲しがるよ」

眼鏡「だそうだ。もう少し考えたまえ、軍曹」

軍曹「……うるせえ」

眼鏡「うん、好きな人が出来たら、
 もっと良い場所でデートしてあげなよ」にかっ

眼鏡「うるせぇえええっ!」
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:22:31.34 ID:Y4SPWTf2o
少女「……っ、そんな大声で叫ばなくても」

眼鏡「いや、今のはお前が悪い」

少女「んん?」きょとん

軍曹「いいんだ。とにかく、もう触れるな、考えるな。
 用件はなんだよ……くそぉ」がっくし

眼鏡「あー、それなんだが」ちらっ

少女「もしかして二人で秘密の話とか?」

眼鏡「いや、そういうわけではない。
 だがしかし、考えが読めなくてな」

軍曹「なんだよ、エセ策士のくせによめねーのかよ」

眼鏡「筋金入りの大狸が相手でな」ちらっ

軍曹「……なるほど」ちらっ

少女「え、え?」

軍曹「あの人の意図は俺もわからないけどな、
 問題があるようならとっくに動いているはずだ。
 そういう人だ」

眼鏡「そうだな。なら二人とも、少し耳を寄せろ」

 ごそごそ

眼鏡「今日の昼頃、教会本部の近くの商人から、
 公爵に緊急の伝書鳩が飛ばされたらしい。
 マータ騎士団がリベルタ攻略のため、
 艦隊を派遣したそうだ」

少女「ええっ、ほんと?!」

眼鏡「俺は笑えない冗談は嫌いだ」

少女「ああ、ごめん」

軍曹「……派遣したのは確認されたんだな」

眼鏡「らしい」

軍曹「リーマからリベルタまで
 おおよそ500マイル……
 ハトの速度が一時間に19マイルだから、
 上空の風向き次第だが、26時間前の情報か」

眼鏡「いや、ターリアントを経由している。
 30時間はかかっていると思え。
 それから、マータからリオーマの間でも、
 おそらくやはり鳩で通信を使った時間差がある」

軍曹「そうだな。
 それも三十時間程度、と期待したいが」

眼鏡「俺に期待をされても困る。
 公爵に連絡をとった商人が、
 その情報をすぐに手に入れられる立場なら、
 三十時間とみても良いだろうがな」

軍曹「まあ、理想状態で考えるか。
 騎士団が派遣されたのが三日前か」

眼鏡「騎士団はガレー船じゃなくて帆船だよな。
 逆風になるから、沿岸部を避けて南から来ると……
 あと五日の猶予がある」

少女「あ、ガレーみたいに漕ぎ手はいないけど、
 騎士団の船はラテンセイルだから、
 向かい風でもそれなりに速度は出るよ。
 横帆は沿岸部を避けるけど、
 こっちなら張り替えの手間を惜しまなければ、
 まっすぐ航海できるはず」
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:24:07.85 ID:Y4SPWTf2o
軍曹「げ、マジかよ。
 となると、猶予はあと二日あれば上等か」

眼鏡「厄介だな」

少女「軍曹、どう?」

軍曹「ガキの頃にやった訓練の延長で言うなら、
 レポート六番だ」

眼鏡「支援無し、海側からの敵襲。
 準備猶予は三日。
 徴収と避難で乗り越えつつ、街区での奇襲か。
 七番の猶予二日ではないのか?」

軍曹「公爵が交渉なしに海戦するかよ。
 それに相手は教会だからな、
 商人っていう見物客が大勢いるこの島に、
 筋を通さず奇襲はできないだろ」

眼鏡「なるほど」

少女「あれって、五年くらい前の話だよね。
 ……なんで想定されてるのさ」

軍曹「ばーろぉ。うちの親父の口癖はな、
 『いつも想定よりマシだったって言えるようになれ』
 だったの知ってるだろ。
 それに、俺は当時十六で、一度徴兵に出てたからな」

少女「そか、それなら……それなら? えー」

眼鏡「知ってるか?
 『こんな事もあろうかと』っていうのは、
 『こんな事がないかなー』の裏返しらしい。
 若い頃は皆、非日常を夢想するものだ。
 ……思い出すと痒いがな」

軍曹「だが、おかげですぐに動けるだろ」

眼鏡「悪いが、俺は港湾組合の仕事として、
 特に帝国商人を優先して避難させろと言われている。
 レポートの内容は憶えているが、手助けはできん」

軍曹「軍は緊急招集がかかってないから、
 町の警備任務以外は動ける。
 命令があるまではこっちで動いて帳尻をあわせるさ」

眼鏡「わかった。必要な物は……
 慌てて出て行った商人のリストか」

軍曹「そうだな連中の忘れ物を軍の権限で接収して、
 有効に使わせてもらおう」

眼鏡「責任問題にならんか?」

軍曹「大丈夫だ、問題無い。
 つかった分は理由も明記して予算から引っ張る。
 使わなかった分は『保護』していた事にする」

眼鏡「なら、港の貸倉庫にも警備員を配備しておけ。
 緊急時に即時接収できるかどうかで、状況が変わる。
 火事場泥棒よけにもなるしな」

軍曹「わかった。すぐに動こう」

少女「……」ぽかーん

軍曹「どうした、少女」

少女「いや、お父さんからの連絡がないって事は、
 向こうの会議は踊ってそうなのに、
 こっちはすぐにやることが決まったなーって」

眼鏡「元老院と軍幹部、商人代表を、
 まとめて招集してるらしいからな、
 おそらく踊らせるために会議をしてるんだろう」

少女「っていうと?」
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:24:54.53 ID:Y4SPWTf2o
眼鏡「元老院は親教会勢力と、親西側勢力の集まりだ。
 そこに軍人と、島の利権を手放したくない商人は、
 あまりにも組み合わせが悪い」

軍曹「説得なりなんなりするなら、
 反対勢力を付き合わせるんじゃなくて、
 根回しって名前の各個撃破で落としどころを用意して、
 それから会議ってなまえの調印式をするんだよ」

少女「でも、それじゃ、
 お父さんも手を取られて動けないと思うけど」

眼鏡「なんのために家宰(家長代理)がいるんだ。
 緊急時だからって事で、会議は公爵に任せて、
 委任状持たされた家宰さんが走り回ってるんだろ」

少女「つまり、お父さんは偉い人達のエサ?」

軍曹「そういうこった。
 目の前に派手な物を出されりゃ、それに目が行く。
 その間にウラで準備して、結果を見せる。
 手品の基本だな」

眼鏡「もっとも、各方面との利害関係の調整は、
 公爵って立場が無いと出来ない仕事だ。
 効率を落として時間を調節してるだけで、
 会議は会議で、踊りつつ進んでいるはずだ」

少女「ほえー……」

軍曹「おまえ、公爵継ぐなら、
 この程度の腹芸はできるようになっておけよ?」

少女「うぐっ、いや、難しいってそれ!」

眼鏡「まあ、意識しているだけでマシになる。
 右手を挙げたら左手を見よ、だな」

少女「……おぼえてがんばるよ」

軍曹「で、お前はどうする。
 俺はこの後コネのある上司と話して
 警戒レベルを上げてもらったり、
 『避難訓練』って名目で避難の準備させたりするが」

眼鏡「俺はこれから、押し寄せる出国者の相手だ。
 公爵から現場裁量、生命優先の許可をもらってるが、
 あまり手を抜きすぎるわけにもいかん。
 ここも、戦場になる」

少女「わたし、は」

軍曹「……」じっ

少女「わたしは」

眼鏡「……」

少女「……」

軍曹「…………ま、無理すんなよ。
 じゃ、俺は行く」

眼鏡「俺も行く。悪いな、茶もださんで」

軍曹「今度は紅茶でも入れてくれ」

眼鏡「くく、ムリだな。俺の給料じゃ手がでない」

軍曹「そりゃ残念だ」たたっ

 ばたん

眼鏡「……」

少女「……」

眼鏡「町の人達は、本格的な避難になれていないだろう」

少女「……うん。多分」
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:25:58.04 ID:Y4SPWTf2o
眼鏡「万が一の事態なら、
 食料は公爵家や町、港湾の倉庫にある備蓄を出す。
 それで一週間は持つはずだ。
 だから、最低限の荷物についての指導をしてやれ」

少女「……わかった」

眼鏡「そうだ。場合によっては、
 隣島への避難もあり得る。
 というか、砲弾が飛んでくるようになったら、
 町外れの丘よりそっちのが安全だろう」

少女「っていうことは、
 ほとんど手の入ってない森にしばらく野営かも?」

眼鏡「そうだ。特に毛布と油が無いと、
 今の季節だって野営すれば死人がでるぞ。
 可能ならそこらの品については、
 お前の金でまとめて買いたたいて配布するといい。
 品薄になると、商人は値をつりあげるからな」

少女「配れるほどのお金はないよ?
 軍のお給料は、実家住まいでほとんど手つかずだけど」

眼鏡「現金が無かったら証文を出せ。手書きでいい。
 翌日が期限なら、顔が知られてるお前なら通る。
 あと、実物は受け取らずに、
 不必要で済めば半値で契約破棄できるよう、交渉しろ」

少女「でも、払える保証が無いなら、詐欺だと思うけど」

眼鏡「最終的な金については、
 家宰さんに理由を話して出させればいい。
 たぶん、あの親バカ公爵は、
 娘の衣装代とかの名目で金を貯めてるはずだ」

少女「あ、うん!
 確かに衣装代とか、予算は有るはず?
 使ってないけど」

眼鏡「だろうな……普通の公女なら、
 いくら有っても足りないとか言い出すものだろうに」

少女「あはは、私は軍服で動けるくらいだからね」

眼鏡「今だけはそれに感謝しておこう。
 金のアテはできたな……」

 りんりんりーんっ

眼鏡「っと、すまん、俺も仕事だ」

少女「うん。引き留めてごめん。
 言われた事はやっとくから、任せて」

眼鏡「うむ」

 たったかたーっ

眼鏡「使わなくて済めば理想的だが、
 『重要なのは何を耐えたかではなく、
  如何に耐えたかという事である』
 そして必要の無い痛みを強いるのは、
 それこそ無意味だ」

------------------------------------------------
  昼   隠れ港

青白「ひぃーっひっひい。いーひゃあっはー!
 良いですねぇこの重み! 音! 臭い!
 すばらしぃいいい! ゥェエエエクセレンツッ!
 ……確かにお代はいただきやしたぁ」にたぁ

男「それで、俺の同行者の情報とは、なんだ」

青白「まあまあそう慌ててくださらなくても、
 いただいたお代の分はしっかりと、
 話させていただきますよ。ひひひぃ」

912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:26:24.90 ID:Y4SPWTf2o
男「……」

青白「たしか、ちょうど一月くらい前、でしたか?
 白髪さんが船、下りてましたよねぇ?
 あの時に白髪さんを追いかけた中にいた、
 男に見える女性……
 ありゃぁたしか、リベルタ公女じゃぁねえかなと」

男「……」

青白「ひひ、否定なさらないたぁ、真実ですかい。
 まあなんで白髪さんを追ってたのか、
 なんてぇのは野暮だから聞きませんよ。
 死人の情報なんざ、ロクに売れやせん。
 でぇ……その公女様なんですがね、
 近々、死ぬかもしれませんよ」

男「っ、なんだとッ?!」ガッ

青白「げぇええ、首、首ぃッ!!」

男「チッ、大げさな」

青白「締め上げるなら締め上げるで、
 のど仏を殴りつけネェでくだせぇよ……」

男「無駄話はいい。
 なぜそんな情報が流れた!」

青白「教会がうごいたんですよ。
 あーえー、教会とリベルタの関係、
 知りたかったら追加で一袋、いかがです?」

男「知っているからいらん」

青白「そうですかい。チッ。
 じゃあ、その金の卵を産む鶏が、
 帝国のエサを食ってる事が許せなくなった、
 なぁんて言えばわかりやすよね」

男「どう動く。
 卵を産ませ続けようとするか、
 それともただ、屠殺しようとしているのか」

青白「どうやら、有るだけ取って屠殺した後、
 そこに要塞でも作るようですぜぇ。
 げに恐ろしきは愛を謳う聖職者かな。ひひひひぃ」

男「手段は」

青白「旦那の古巣……っつっても斜め向かいですが、
 マータ騎士団のディオイツ分隊が動くらしいですぜ。
 なぁんだか妙な形で」

男「妙、とはどういう意味だ」

青白「まず事実として、
 ディオイツの船は先日ディオイツに現れて、
 代表が公爵と会っていたそうなんでさぁ」

男「……そうか」

青白「妙ってのはこの後でさぁ。
 四日かけてえっちらおっちらマータ島に帰って、
 翌々日には大艦隊を連れてトンボ帰りってな!
 なぁんか臭わねぇですかねぇ。
 なぁんか、ありそうじゃねぇですかねぇ。
 ひひひひぃ」

男「……。それで、規模はどれくらいだ」

青白「盛り上がんねぇお人だねぇ、旦那。
 まぁいいさ、聞かれた事にゃぁ答えるぜ。
 襲撃の規模はディオイツ艦隊ほぼ全てッ!
 ガキの小姓から新米騎士まで、
 年寄りの船頭もヨレヨレのマントも、
 二日で集められる限りを連れてきたらしいですぜ。
 あの、ばかでっけぇ、マッチョな艦まで」

男「三番艦か。噂には聞いたが……」
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:26:58.13 ID:Y4SPWTf2o
青白「情報、いりやすか?」

男「いや、いい。
 相手にしなければ問題無い」

青白「あぁくそ、さっきからなんなんだよッ。
 もうちょっと金離れが良くねぇと、
 神様に嫌われっちまうぜコンチクショ−」

男「ふん、神ごときでゴタゴタ抜かすな。
 殺せる程度には呪ったものだ」

青白「……バチアタリ」ぼそっ

男「で、ウラはなんだ」

青白「へ?」

男「いくら教会の連中の頭が空っぽであっても、
 いや、中身がつまってないからか。
 金儲けに関してはよほど正直な連中だ。
 金の卵を産む鶏は、殺して肉を食えば終わりだと、
 連中だってわからんはずはあるまい」

青白「あーまー、そーでしょーや」

男「何が連中を動かした」

青白「……二袋」じっ

男 じゃらん、じゃらん、じゃらん

青白「…………いいでしょ。
 ぁたしは、一つだけ誓いを立ててましてね。
 金にだきゃぁ、正直なんですよ」じゅるり

男 じゃらん

青白「いぃっぃひひひひゃあぁっはああ!
 さぁあああっすがだんな!
 いいですいいですさぁいッこうでェッすよ!
 いぃひひひひひひい」

男「……ウラは」

青白「だんなぁ、ウルグ・アリってぇ知ってやすか」

男「噂は聞いたか。
 紳士を気取る腕の良い海賊――いや、策士だと。
 表沙汰にならないように貴族の顔を立てつつも、
 巧妙に欲しい物を持って行く輩だと」

青白「えぇ、えぇ。
 あれが、ド紳士、ってぇヤツでさ。
 ただの紳士じゃぁ、あの海賊には役不足ってぇ話だ
 で、その海賊が次に欲し……ぐぶごぁ」ずぐしゅ

 ヒュ、ヒュッ

 キキンッ

男「誰だっ!」バッ

?「……チッ」

 たったったっ

男「待て!」ぐっ

 がっ

青白「ま、待て……ッ」ぐっ

男「…………その位置なら、矢は、心臓を貫いている。
 俺では助けられんぞ」

青白「ち、げ……ウルグの、目、的だ」

男「……」すっ
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:28:02.30 ID:Y4SPWTf2o

青白「ぜ……は。ペッ。
 ウルグはよ、レピアントを、制圧して、
 狙ってる……リオーマを、教皇、をッ。
 大帝の息子に、捧げ、と。
 騎士団が、じゃまだ。
 リベルタが、じゃまだ。
 つぶし、くわせて、げぼっ」

男「……そうか、そういう事か」

青白「金の分は、吐いた、ぜぇ……が」

男「確かに、受け取った」

青白「――ひひ」くたっ……

男「…………神には祈らん」ごそごそ

男「金のために生きて、金に溺れて、
 金のために裏切り、金のために死んだなら」

 ちゃりん……

男「墓標はコレが相応しい」くるっ

 かっかっかっかっ

------------------------------------------------
  昼  隠れ港の酒場

 からんからーんっ

 かっかっ

男「包帯っ、狼っ、双子妹っ」

双子妹「はっ、参上でありますよ!」だだっ、しゅばっ

狼「珍しいわね、足音荒げて」とことこ

包帯「どうしたのかな」がたっ

女将「やかましぃねぇあんた!
 なんだい、良いことでもあったかい?」

男「無駄話をするつもりはない。
 俺はリベルタに渡る。
 船の管理は双子妹、お前に任せた」

双子妹「はっ! …………は?」

狼「は?」

包帯「え、っと」

男「たぶん戻れん。達者でな」くるっ

 がしっ

狼「ちょっとちょっとちょっと!
 待ちなさい、なんなのよいきなり!」

男「だが、急がねばならん、悪いが……」

 ぱんっ!

包帯「……おちつきなさい」

男「……」

包帯「何があったんだい?」

男「リベルタが、騎士に狙われている」

狼「リベルタって、少女の故郷じゃないの?!」

男「そうだ。
 騎士団は教会の命令によって、
 おそらく無理難題を理由に戦争を売るつもりだ」
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:28:30.37 ID:Y4SPWTf2o
包帯「どうしてそんな事になったか、わかる?」

男「近年、帝国の支配者である大帝スレイマンは、
 老衰と病気によってその力を弱めている。
 その跡目である長子は、
 父親の理知的な部分を捨て、
 攻撃的な部分だけを寄せ集めたようなクズだ。
 そいつがどうやら珍しく頭を使ったらしい。
 西側諸国をまとめている一神教を討ち取ろうと、な」

包帯「ふむ。討ち取るというか、乗っ取り、刷新か。
 たしか帝国の信じる神って、
 一神教の神と同じで、
 教えだけが違うんだよね」

男「そうだ。
 『古い教えは時を経て曲げられている。
  それを正しく伝え直す事こそが使命。
  道を誤った小羊を正しく率いるのも信徒の役目。
  故に聖戦の名の下に愛のムチを振るうのもやむなし』
 それが連中の『大義名分』だ」

包帯「一周回って、聖戦の本懐を遂げようとすると。
 はは、なんて皮肉だろうね」

狼「笑えないわよ」

男「対岸の火事なら、俺は嗤ってみているがな」

双子妹「シャーデンフロイデでありますか」

狼「しゃー?」

包帯「『隣の不幸は鴨の味』だね」

男「うるさい。
 とにかく、今回の件は、俺が動かねばならん。
 まず死ぬ事が確定した道行きだ。
 お前達は来るな」

狼「……」

双子妹「自殺でありますか」

男「否定はできん」

包帯「……でも、船長って、
 そこまで少女くんを気にかけていたかい?
 普段なら、自分達は金を稼ぐための集団で、
 それ以上でもそれ以下でもないって言うよね」じっ

男「……これは個人的な事情だ」

狼「個人的な事情ってなによ」

男「……」

狼「いま黙ってても、
 情報屋の知り合いに聞くわよ。
 白髪の事とかよく知ってた人だから、
 あんたの事も知ってるんじゃない?」

男「背の高い、不健康そうな、
 不快な笑い声の金に汚い男だな」

狼「……そうだけど」

男「ヤツはいま、俺の目の前で殺された」

狼「……な、なんで」

男「帝国の張り巡らせた罠の真相だ。
 おそらくヤツはそれに深く関わっていたんだろう。
 話すつもりは無かったようだがな」

双子妹「なのに、話したでありますか」
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:29:22.62 ID:Y4SPWTf2o
男「おれがヤツに対して、
 要求された以上の金を不用意に渡したからだろう。
 ヤツの中でそれに『天秤が釣り合う』情報という事で、
 真相を口にした結果、見張りに消された」

包帯「……そっか」

狼「で、あんたは『自分の事情』を話すつもりはないと」

男「……ああ」

包帯「じゃあ、一人で全部背負いたいと。
 だから僕たちを危険から遠ざけて一人で行きたいと」

男「……否定はしないが、
 あくまで個人の理由で動くから、だ」

包帯「そこまで行けば立派な信念だけど、
 やっぱり、船長は白髪さんがいないとダメダメだねぇ」

男「む?」

包帯「いいかい、情報屋さんに少女くんの話を聞いて、
 その流れで帝国の動く罠の真相を情報屋から聞いて、
 その情報屋さんが殺された後に、
 僕たちに船を下りると伝えに来た。
 というのが現状だよね」

男「そうだ」

包帯「……わかんない?」苦笑

男「何かおかしいか?」

双子妹「あちゃーでありますな」

狼「うん。あちゃーとしか言えないね」

包帯「ふふ、いいね。あちゃーって」

男「……?」

包帯「情報を手に入れた君が、
 その後誰かにわざわざ話をしてから港を出て、
 事件の渦中に飛び込んでいく、と。
 まるで、自分が死んだ後を託すみたいじゃないかな」

男「……ッ、ぐ、すまん」

狼「前から思ってたけど……
 船長、実は細かい事考えるのが面倒だから、
 人間嫌いしてない?」

男「……そんな事は無い」つぃっ

包帯「でも、今回のコレは、
 よほど動揺してたんじゃないかな?」苦笑

男「……察しようとするな」

狼「とりあえず、移動しましょ。
 ごめんね女将さん。
 このドジッこのせいで早く港でないと」

男 ぎりっ

女将「いいさいいさ。
 でも、あたしに挨拶していくんだ、
 帰って来るつもりがないなんて、
 神様が赦したってあたしが許さないよ!!」ばんっ

狼「うん。大丈夫」

包帯「出来るだけ早く、
 料理教室の続きをしましょうか」にこ

男「楽観するのは勝手だが……むぐっ」

双子妹「船長殿、自分達は船に向かうであります。
 ……自分達で、ちゃんと、帰すのであります」
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:29:48.19 ID:Y4SPWTf2o
男「……」 そっ

双子妹「……」そーっ

 ぱた、ん

女将「うんうんそうだね。
 港の女達も、ぜひあんたに料理を習いたいってさ!」

包帯「人前に立つのは、この見かけですから」

女将「なぁに言ってんだい!
 男の怪我は誇るもんさ!
 だいたいね、そんななよなよした笑い方してるから、
 中途半端で怖くなるのさ。
 野獣みたいに牙向いて笑ってみな!
 怖さなんざ通り越しちまえば気にならないもんさ」

包帯「そんな事はないと思うけど、ははは」汗

女将「で、お嬢ちゃんも!
 あんた格好良くてかわいいんだからね、
 前見て、笑って、背骨を肩でガッと挟んで胸張って、
 そしたら悪魔憑きだのなんだの言うのは、
 女だけになるってもんさ」

狼「え、結局言われてるけど」

女将「なに、いい女は嫉妬されて、
 あることないこと言われるもんさ!
 あたしだって若い頃はそりゃーもう評判で、
 港中の若い女たちから毎日のように……」ぐだぐだ

狼「……ああ」

包帯「…………」そーっ

狼 ガッ

包帯「……出航の手伝いしないとさ」にこー

狼「
 二人に任せておけば大丈夫よ」ぎらっ

女将「ちょっとあんたら、聞いてるのかい!」

二人「「はい、聞いてますっ!」

------------------------------------------------
夕方 パリウガ町長宅 庭

双子姉「うんっ、今日の訓練はこれでしゅーりょ−!」

子供達「「「おつかれさまでしたーっ」」」

子供3「あー、疲れたー」

子供4「おなかすいたよーっ」

子供5「……あいつ、もう終わりだって言ってんのに」

子供2「せっ、はっ」びゅんっ、びゅんっ

双子姉「2ぃくん、今日はこれで終了しておこう」

子供2「いや、まだやるよ。
 大丈夫、まだ、むりじゃない。
 みんなは、帰ると、いいよ」びゅんっ、びゅんっ

子供3「そりゃー言われなくても帰るけどよ」

子供4「晩飯までに帰らねーと、
 かーちゃんうっせーっしな」

子供5「俺達よりも港の仕事で張り切って手伝って、
 せんせーがやめろって言ってるのに続けてると、
 体とかこわしちまうぞ?」

子供2「……」びゅんっ、びゅんっ
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:30:14.47 ID:Y4SPWTf2o
子供3「……もういいぜ、帰ろう。
 こうなったらコイツ、諦めねぇよ」

子供4「だな。じゃ、せんせー、また今度な」

双子姉「うん。もう暗いから気をつけて。
 次は三日後だよっ!」

子供達「「「はーいっ」」」

 とことこ

子供2「……」びゅんっ、びゅんっ

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

子供2「……ふ、はぁっ」からん

双子姉「おつかれさま。はい、水とお塩」

子供2「んく、んく……ぷはぁっ。ぜー、はー」

 とことこ

赤毛「二人とも、ご飯ができたわよ」にこ

双子姉「あ、遅くなってごめんなさいっ」へこ

赤毛「こちらこそごめんなさいね。
 他の子は終わらせたのに、
 この子のせいでこんな時間まで付き合わせて」

双子姉「あたしはいいけど、
 2ぃくんはちょっとがんばりすぎっ!
 このままじゃ大けがしちゃうよっ」

子供2「……ぜ、は」じっ

双子姉「じっと見てもダメだよ。
 あたしも白髪のおっちゃんとかくろちゃんに、
 騎士団の剣術教えてもらって、
 最初は振れる回数が増えるだけで楽しかったから、
 そういう気持ちはわけるけどさ」

子供2「ちがう……よ」

赤毛「……」

子供2「楽しくて、剣を、振るんじゃないよ」

双子姉「……まだ、夢に見るの?」

子供2「まだ、見るよ。
 だって、僕の前で、真っ赤になって……ッ。
 せめて、白髪さんが旅に出る前に、
 謝らせてくれたら良かったのに……」

双子姉「……」

子供2「大丈夫だと思ったんだよ。
 あのとき、白髪さんに言われた通りに、
 頑張って訓練してたから、
 1っちゃん守りながら、逃げるくらいはできるって!
 なのに、怖くて足がすくんで動けなくなって、
 白髪さんに、かばわれて」

双子姉「気持ちは分かるけど……
 それで怪我したらダメだよ」

子供2「でも、」

双子姉「でもじゃないって。
 2ぃくんが使ってるのは剣なんだよ?
 刃引きはしたけど、鈍器として人を殺せるんだから。
 ムリして、へたしたら死んじゃうんだよ。
 そうしたら、白髪のおっちゃんが」

赤毛「双子姉ちゃんっ」
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:30:54.88 ID:Y4SPWTf2o
双子姉「ッ……」

赤毛「2っくん。
 次に会ったときに、白髪さんが、
 自分のせいで怪我したって知ったら、怒るわよ?」

子供2「……」ぐっ

赤毛「ムダな怪我なんかしてんじゃねぇ。
 なんてね」

子供2「む、ムダじゃないってば!」

赤毛「男の子なんだから、
 私はケガの一つや二つじゃ、文句を言わないわよ。
 でも、ケガして訓練できなくなったら、
 また戻るのに時間がかかるのよ?
 そうしたらまた、強くなるまで時間が必要になる。
 それは嫌なんでしょ?」

子供2「……うん」

赤毛「じゃ、あんまりムリはしないこと。
 ただがむしゃらに『頑張る』んじゃなくて、
 目標を持った努力をしなさいな。
 さ、ちょっと冷めちゃったと思うけど、
 ご飯にしましょ!」にこっ

双子姉「はーいっ♪」

------------------------------------------------
 夜 パリウガ町長宅

子供2「それじゃ、おやすみなさいーい……」よろり

赤毛「はい、お休みなさい」にこ

双子姉「良い夢みれるといいねっ」にぱっ

子供2「……うん」にこ

 ぱたん

双子姉「うにゃー。やっぱりムリあるよー」

赤毛「白髪さんのこと?」

双子姉「うんうん。
 へんな方向で思い詰めてる気がしてね」

赤毛「……あの子も、いずれ自分で気がつくわ。
 それまでは私がみてるから、大丈夫よ」にこ

双子姉「でも、嘘ついてるの、辛くない?」

赤毛「大丈夫よ。
 優しい嘘と不思議な秘密が、
 女を女らしくするのよ?」にこ

双子姉「あはは、心のメモ帳に書いとこうかな」

赤毛「……あらためて、ありがとうね、双子姉ちゃん。
 町の子供達に訓練してくれたり、
 うちの子も見てくれたり」

双子姉「大丈夫、あたしの訓練を一緒にやってるだけ、
 みたいな感じだからね」にぱ

赤毛「本当は町の兵隊さんに任せられたらいいのに、
 うちの子が騎士団の剣を習いたいなんて言って。
 他の子まで、そっちのが格好良さそうだからなんて、
 あなたに弟子入りするし……」

双子姉「あはは……。
 びっくりしちゃったよ。
 白髪のおっちゃんとか、くろちゃんに比べて、
 まだまだだから、気が引けるんだけどね。
 でも、兵士の人に訓練とか聞きながらやってるから、
 間違ってはいないと思うんだよ!」
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:31:20.55 ID:Y4SPWTf2o
赤毛「手間をかけさせちゃってるみたいね」

双子姉「そんなこと無いよ。
 自分でも、教えてから分かることってあるからね」

赤毛「それなら、いいんだけど……」

双子姉「うん、だいじょーぶ!」にぱっ

赤毛 にこ

 がたんっ!

町長「くっ、双子姉くんはまだ起きているかね」

双子姉「はいはーいっ! まだ起きてるよ?」

赤毛「どうしたの、あなた、そんな息を乱して。
 ……タオルをどうぞ」すっ

町長「ああ、助かる。
 ……確認だが、双子姉くんが話してくれた仲間の、
 たしか少女だったか。
 彼女の出身は、リベルタだったね」

双子姉「うん。そうだけど。
 あ、良かったらお水飲む?」

町長「ああ、助かる……」

双子姉「で、なんだかそこの貴族だったとか、
 なんか言ってたのは聞いた憶えはあるよ?」

町長「ぶふぅっ」

赤毛「あらあら、まあまあ。
 いったいどうなさったの?」ふきふき

町長「どうしたもこうしたもないっ!
 あの島の貴族は公爵一人だ!
 その娘なら公女だ!」

双子姉「ああうん。偉い人だったーって分かるけど」

町長「公女が海賊など、いったいどうなって……
 いや、それならなおのこと、伝えるべきだな。
 遠からず、リベルタが戦場になるらしい」

双子姉「戦場って、戦争? なんでっ」がたっ

町長「詳しい事は私も分かりかねるが。
 ついさっき、他の町を経由して鳩で連絡があったんだ。
 近々騎士団がリベルタを攻撃するらしいと。
 それに当たって、一般人を待避させるため、
 非武装船を近隣の港がある町に要請しているらしい」

赤毛「では、パウリガも船を送るのかしら」

町長「数千人単位の大移動だ。
 近隣の船を動員しても足りるかどうかわからんが、
 しかし、いま港に残っている船は軍用が三隻だけだ。
 これを送ってしまえば町の防備も行えんからな……」

赤毛「でも、一般の人が巻き込まれないように、
 必要なんでしょ?」

町長「だがな、先日はその船がいない時期を狙って、
 町が襲われてしまったんだ。
 まだ人々が立ち直りきっていない今は、
 この町の人々の安心を守る義務が、私にはある」

赤毛「……それはわかるけど。
 この町を助けてくださった一人じゃない」

町長「……義理はある。だが」

 がたっ

双子姉「……」すくっ
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:32:53.70 ID:Y4SPWTf2o
赤毛「双子姉ちゃん」

双子姉「あたし、行かないと」

赤毛「ちょっと待って、ね。
 今は夜で、船は出ないわ。
 急ぎたい気持ちはわかるけど、朝まで待って。ね」

双子姉「……でも」うるっ

赤毛「それに、焦っても何も解決しないわよ。
 ちゃんと準備をして向かわないと、
 助けにいったつもりなのに、
 旅の途中で病気になっちゃうかも知れないわよ」

双子姉「でも」ぐっ

赤毛「いいから、今日はまず休みなさい。
 一晩休んだくらいじゃ、変わらないから大丈夫。
 それに、双子姉ちゃんも疲れてるでしょ、
 自分の訓練して、他の子にも教えたんだから」ぎゅっ

双子姉「……でも」

赤毛「大丈夫よ。大丈夫。
 港で騒いでもムダになるだけよ。
 今は早く寝て、早く起きて、
 朝一番の船で向かいなさい。ね」なでなで

双子姉「…………うん」

赤毛「ベッドまで釣れて行こうかしら?」にこ

双子姉「……それは、やだ。
 大丈夫、ちゃんと、寝るよ」

赤毛「そう、じゃあお休みなさい」にこ

双子姉 とことこ

 ぱたん

赤毛「……普段、少し臆病なくらい、
 わがままを言わない子なのに」

町長「……」

赤毛「あなた」

町長「出来る事はない」

赤毛「あなた」

町長「ないと言ったらないっ
 だいたい、あの海賊の仲間だ。
 おおかた、ソレが騎士団にバレて、
 今回の問題につながったんだろう!
 身分のある人間が軽率な事をした自業自得d」

 パンッ

赤毛「分かってるわ。
 あなたが町の事を思っているのは、分かってる。
 海賊に家族を殺されて許せないのも分かるわ。
 騎士団に討伐される相手に人命救助でも手を貸して、
 教会に睨まれたくないのもわかるわ」

町長「……」

赤毛「でも、もう、いいじゃない」

町長「なにが、いいんだっ!
 お前に分かるか、俺は、俺は全てを奪われたんだ!
 そして、今も……」ぐっ

赤毛「今回の襲撃で事前に警告があって、
 それを聞かなかった事にしたから被害が増えたって。
 あなたが自分を責めているのも知ってるわ。
 でも、今度は、今度こそ、人を救えるのよ?」
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:33:26.26 ID:Y4SPWTf2o
町長「……やっぱり、お前は分かってない」

赤毛「それなら、教えてちょうだい。
 何がそんなに、あなたを駆り立てるの?」

町長「それは……」ぐっ

赤毛「…………」

町長「…………」

赤毛「……あなたは昔からそうね。
 会うたびに、そうやって手を握って、
 私の事を睨んでいたわ」

町長「……お前を、睨んでいたわけではない」

赤毛「ええ、求婚されたときに聞いたわ。
 でも、どうしてそんな目で見るのか、
 結局理由は教えてもらえなかった。
 私は、ソレが悲しいの」

町長「……それは、」ぐっ

赤毛「それは?」

町長「…………いや、なんでもない。
 リベルタの一般人の救出に、船を一隻出す。
 それで良いだろう」

赤毛「そう……やっぱり、聞かせてくれないのね。
 あのね、ムリに出せなんて言わないわ。
 だから、ひとつお願いがあるの」

町長「なんだ」

赤毛「これから、軍の人と、船を出せる人に、
 一緒に来てくれませんかってお願いしてくるわ。
 それで、行きたいって人を、止めないでくださいな」

町長「……」

赤毛「襲ってきた海賊と、助けに来てくれた海賊を、
 区別できずに石を投げた人たちがいたの。
 私達の子供のために、命をかけてくれた人は、
 その雄姿を誰にも知られず葬られたの。

 彼らと双子姉ちゃんが何を思って、どう戦ったか。
 一人残って、町の復興に手を貸してくれたあの子が、
 きちんと町のみんなに伝えてくれたの。
 あの時の真実をちゃんと知って、
 その恩人にしたことを恥じている人がいるの」

町長「だからなんだ」

赤毛「私達の『恥知らず』の汚名をそそぐために、
 町の総意のために、
 動く許可をくださいな」

町長「……わかった。
 町の総意であれば、町長である私は文句を言えまい。
 だが、船を動かすにも足りないような人数ならば」

赤毛「その時は諦めてもいいけど……大丈夫よ。
 この町の人達は、強いんだから」にこ

町長「……」

赤毛 ぎゅっ

町長「双子姉くんは、明日には出発したいと言った。
 ならば、早々に準備を始めるといい」

赤毛「……行ってきます。
 朝ご飯は、おいしいの作りますね」にこ

町長「……楽しみにしている」

 ぱたん……たったった……
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:34:36.96 ID:Y4SPWTf2o
町長「お前を睨んでいたのはな、
 お前の勇気と強さが……それを与えたヤツが、
 憎くて憎くてたまらないからだ」

町長「白髪の、町を追い出されたあの男の影が、
 未だにお前に見えるからだ……。
 私にはない勇気を持ったあの男が、憎いんだ」

町長「臆病な私の持ち得ないそれを持つ、
 あの男に、嫉妬しているだけなんだ」

町長「だから、かまわん。
 お前が望むなら、なしたいようになしてくれ。
 町の皆が支持するならば、人助けには大賛成だ」

町長「私は後ろで、
 教会への弁明の手紙でも描いていよう」

------------------------------------------------
  昼 リベルタ港湾組合

 カーンッ、カーンッ、カーンッ

眼鏡「……来たか、奴らが」

少女「普通の軍艦十隻に、
 やっぱり三番艦が出てきてるね」

眼鏡「……あの、黒い小山が三番艦か」

少女「大きいだけじゃなくて、
 その大きさをいかして、沈まないよ、アレ。
 なにせ、あのでっかい排水量っていう力押しで、
 鉄板張ってるから」

眼鏡「なっ……なんてばかげた事を」

少女「普通は大きい船なんて、ただのいい的なんだけど。
 アレは大砲を山ほど乗せてる砲台で、
 同時に沈まない盾なんだって」

眼鏡「……変形したりしないのか?」

少女「へ?」

眼鏡「いや、なんでもない。
 さて、こっちから射かけるって軍部の案は、
 お前の親父さんが却下したわけだが、
 あっちはどうかね」

少女「白旗が揚がった小舟……
 やっぱり、青年さんが一人で乗ってる。
 まずは交渉かな」

眼鏡「おいおい、敵の代表だろ、その青年ってよ」

少女「でも、そういう人なのよ」

眼鏡「どこの世界に、司令官が護衛もつけずに、
 ヤハトで突っ込んでくる軍があるんだよ」

少女「目を疑うよね……」

眼鏡「ふーん、さすが高速帆船。
 あの距離からもう着くか。
 そろそろ港で待ってるといい」

少女「そうだね。
 それじゃ、お互いに生き残ろう」たたっ

眼鏡「生き残ろうとする必要も無いのが一番だがな」


924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:35:07.08 ID:Y4SPWTf2o
------------------------------------------------
  昼 リベルタ港

青年「こちらはマータ騎士団ディオイツ艦隊だ。
 使者の騎士、青年である。
 貴君らと交渉を行いたい!
 代表の下に案内されよっ!」

少女 とことこ

青年 じっ

少女「ようこそ、リベルタへ。使者の方。
 馬車の用意がごじゃ……ございます」(////

軍人達 あちゃー……

港湾職員達「「公女さまがんばれーっ」」ひそっ

少女「どうぞ、こちらへ」

青年「……では、失礼します」

 とことこ。がちゃ……

 がたがた、ごとごと

少女「……思っていたより、早い再会になりましたね」

青年「そうですね。およそ、半月ぶりですか。
 しかし驚かされました」

少女「どうしました?」

青年「そのドレス姿でのお出迎えです。
 実にお美しい」

少女「青年さんって、実はたらし?」

青年「ごほんっ」じろっ

少女「ん、ん−。えーっと。
 誉めていただけて光栄です」にこぉ……

青年「さて、どうやらこちらが来ることは、
 完全に知られてしまっていたようですね」

少女「来訪の使者を寄越してくだされば、
 もっと盛大にお出迎えできたのですが」にこ

青年「なにぶん、我らが剣を捧げた主が、
 随分と急いでおりまして。
 ご無礼をいたしましたこと、お詫びいたします」へこ

少女「かまいません。
 友人が来てくれる事を喜ばない理由はありません」

青年「……」じっ

少女「……あの、疲れたんですけど」

青年「……はぁ。そうぶちまけないでください」じとっ

少女「いや、もう一緒にご飯食べて、
 一緒に訓練して、同じベッドを使ったんだから、
 そんな堅苦しくしないでいいかなーって」

青年「事実ですが、最後の一点は気にしてください。
 御者に聞かれたら大きな勘違いをされますよ」

少女「え、あ……うん」(////

青年(艦隊一つ丸ごと出撃だ。
 隠し通せるとは思っていなかったが、
 ……あの時に比べて人が著しく減っている。
 状況も、ほとんど伝わっているとみて間違いないか)

少女「とりえあずこれから、
 うちに来てもらって交渉をして、条件がまとまり次第、
 議会で代表者立ち会いの下に調印、でいいのかな?」
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:35:37.33 ID:Y4SPWTf2o
青年「了解した」

少女「食事はどうする?
 食べたかったら用意するけど……」

青年「……そうだな、いただきましょう」

青年(このような場面で食事に手を付けるのは、
 毒殺も考えれば自殺行為でしかないが。
 だからこそ、公爵にはこちらの立場や考えが、
 伝わってくれるはずだろう)

少女「じゃ、お父さんに伝えておくね。
 あと、なにか用意するものとか、あるかな?」

青年「気を遣わなくてかまいません。
 ……そろそろですかね」

少女「はい」

 がたがた、ごとごと

------------------------------------------------
  昼 リベルタ公爵邸 謁見室

公爵「ようこそお越しくださいました」

青年「過分なお出迎えをいただき、感謝いたします」

公爵「さ、お座りください。
 ……本日のご用件を伺いましょう」

青年「本日は、一神教教会より、
 以下の手紙を持って来ました」すっ

公爵「拝見いたします」すっ

少女「……これ、青年さんは、中身」

青年「……知っています」

公爵「なるほど。
 教会からの要求は、
 『リベルタと帝国の通商条約の廃止』
 『リベルタから帝国民の領地外への追放』
 『リベルタの居住区八割の割譲』
 これからの条件を飲まない限り、
 一神教より破門され、
 帝国へ属したと見なし、即時攻撃を加えると。
 返答の期限は、この手紙を読んで二日以内。
 以上で相違ないですな」

青年「……はい」

公爵「……確認をさせていただきますが、
 調印に必要な書類はお持ちですな」

青年「こちらにあります」すっ

公爵「……なるほど。
 条件についてはいずれも空欄ですか」

青年「交渉の権限を、預かって参りました」

公爵「どうやら、お手間をかけさせたようですな」

青年「いえ、自分は自分の責務を果たすだけの事。
 それ以上でも、それ以下でもありませぬ」

公爵「では、いくつかまずこの条件について、
 確認をさせていただいてもよろしいかな」

青年「大丈夫です」

公爵「まず一点目。
 これらの条件に対する返答は二日以内とありますが、
 成立後の執行期限は設定されておりますかな」

926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:36:04.06 ID:Y4SPWTf2o
青年「即時の対応は難しいと考えています。
 居住地の八割割譲は、
 言い換えれば領民の八割を移住させる事と同意義。
 であれば、相応の時間は用意しましょう」

公爵「それも、あなたの権限であると」

青年「限度は、ありますが」

公爵「わかりました。
 次ですが、帝国との通商の破棄について。
 現在教会で使用されている、装飾の金や一部のワイン、
 また各諸王国が島から購入する砂糖など、
 これらの品々が手に入らなくなること、
 承知の上での要求ですかな」

青年「その点については、答えかねます。
 しかし、それは原則として譲れない条件と、
 そうお考えください」

公爵「……なるほど。譲れない条件ですか」

青年「教会は、本気で帝国の民を勢力範囲から、
 追い出すつもりです。
 彼らこそ、教会が駆逐すべき拝金主義者であり、
 また彼らが密偵であり、堕落を促す悪魔であると、
 そう主張しています」

少女(今までは、商人さん達に税金をかけて、
 その利益の一部を教会に寄付する事で、
 暗黙の了解を作り出していたけど)

公爵「なるほど、悪魔であるなら、
 この条件は譲れませんね」

青年「そうなります」

公爵「……」

青年「……公爵様」

公爵「なんですかな」

青年「もしよろしければ、
 部屋を一室借りてもよろしいでしょうか。
 島からこちらまで長い船旅でしたので、
 少しめまいがします」

公爵「……わかりました。用意させましょう」

 ちりんちりーん

 がちゃ

家宰「失礼いたします」

公爵「すまないが、使者の方を部屋に。
 準備はできていたね」

家宰「はい、万全です。
 では使者の方、こちらへ」

青年「ご配慮感謝いたします」

公爵「ごゆるりと、疲れを癒やしてください」

青年「そうさせていただきます」

 ぱたん

少女「……えっと、今の」

公爵「自分がいると相談がしにくいだろう。
 退室するから今のうちに動いてくれと。
 そういう事だろう。
 まったく、あれだけ頑健な様子でめまいとは」苦笑

少女「あはは……」

927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:36:45.72 ID:Y4SPWTf2o
公爵「さて、しかしまいったな、これは。
 まさかこれほどまで酷い手で来るとは」

少女「事実上の宣戦布告だよね」

公爵「……帝国との通商の破棄だけならば、
 まだ、献金などで穏便に済ませる事もできたろう。
 だが、帝国民の迫害も合わさればただでは済まん」

少女「この、居住地の八割をよこせって、
 それはどういう意味かな?」

公爵「…………そうだな。
 以前はこの島よりはるか東、
 東欧に食い込むように、一神教の要塞があった。
 今はマータ騎士団と呼ばれる、
 ローディオス騎士団の根拠地だった場所だ」

少女「今は帝国領になってるんだよね」

公爵「ほう、知っていたか」

少女「海賊にいた白髪さんと船長が、
 元は騎士団の団員だったから。
 それで、もしかして教会は、
 そのローディオス島につながる橋頭堡として、
 この島を必要としてる?」

公爵「おそらくはそうだろう。
 騎士団としては、そこまで積極的ではないらしいがな」

少女「なんで積極的じゃないってわかるの?」

公爵「これらの軍事行動において、
 可能なら騎士団は一つの集団として動きたいだろう。
 大規模な戦力というのは、
 一つの集団だから脅威なのだ」

少女(こないだの軍曹の所での練習でも、
 私を前と後ろから取り囲もうとして、
 二対一なのに各個撃破されてたし、そんな感じ?)

公爵「だが、今回の行動は分団一つ。
 これには三種類の意味が考えられる。わかるか?」

少女「動かせる戦力がないか、
 動けない状況があるか、
 動かす意味がないか?」

公爵「そうだな。戦力については、あるだろう。
 現在マータ騎士団は、大規模な交戦は行っておらん。
 ゆえに、動けない状況があるか、
 動かす意味が無いかだ」

少女「動かす意味がないっていうのは、
 この島が小さいから、必要以上の戦力を向けない、
 っていうことで、状況にあってると思うけど」

公爵「十一隻の精鋭を乗せた軍艦は脅威だが、
 まだ戦えそうではないかね」

少女「……三倍いれば、戦わないで済む」

公爵「そうだ。船は精鋭を運ぶ道具であり、
 また海上に浮かぶ移動砲台だ。
 島を取り囲むように配置し、
 場所を選ばず弾丸を撃ち続けられれば、
 先頭が終わる頃に残るのは焼け野原だけだ」

少女「それを避けるには、降伏するしかない。
 そう思わせれば楽に済んだんだよね」

公爵「金はかかるがな。
 だが、騎士団のような常備戦力の利点は、
 新しく準備をしなくて済むことにある。
 既に存在する戦力を消耗せずに済むなら、
 交戦して船や人員を失うよりははるかに安く済む」

少女「……重要なのはお金?」
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:37:16.42 ID:Y4SPWTf2o
公爵「私は人命を尊重するが、
 人間に、人間としての価値を認めず、
 兵器や生産力として使い捨てる人間は多い」

少女「……」

公爵「ごほん。
 そこから、騎士団内部に、
 戦力を同時投入できない事情が垣間見えるな」

少女「騎士団は各国の貴族の人が所属してるんだよね」

公爵「修道騎士団という僧籍に入った時点で、
 貴族としての立場は、表向きなくなるがな。
 実際は『もう一つの社交場』なのは疑いようがない」

少女「ってことは、やっぱり、
 内部でディオイツとフリアンスは仲が悪いとか」

公爵「うむ、間違っても手は結べまい。
 そうした騎士団内部での対抗意識などが、
 彼らを一つのまとまりとして動かせぬ理由であろう」

少女「……でも、たしか、
 スピエナの王様とディオイツの王様って、兼任だよね」

公爵「うむ、カール五世だな。
 精力的に各国を回り、良く国を治める王と聞く」

少女「ディオイツとスピエナなら、
 手を組んでもおかしくなかったんじゃない?」

公爵「……なるほど。
 それ以外に、なにか目的があると」

少女「いや、勘っていうか、なんとなくっていうか!
 ちょーっと疑問に思っただけでね」

公爵「いや、それが重要だ。
 ……さて、そうなるといったい」

 こんこんこんっ

少女「……窓?」

公爵「何者かね」

男「……海賊の男というものだ。話がしたい」

少女「え……ええええっ! なんでココに?!」

男「……うるさい。黙れ」

少女 ぴたっ

公爵「……ふむ。男くんか。
 玄関から入ってはどうかね」

男「公爵家の敷居をまたげるような身分ではない。
 こそこそと窓から入るのが似合いだ」

公爵「……そうか。
 では、そこのご友人と共に入られるとよろしかろう」

双子妹 ぴょんっ、ぴょんっ

男「……隠れていろと言っただろう」

双子妹「はっ、お姉様の声に、つい」しゅーん

男「……少女、中で双子妹を受け止めてやってくれ」

少女「うん、了解」

男 ぐい、ぽいっ

双子妹「おおー」 ひゅー

少女「ちょっちょっ!
 ふぅ……危ないって!」
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:37:54.59 ID:Y4SPWTf2o
男「受け止めろと言っただろう」

少女「だからって投げなくても!」

男「うるさいヤツだ……」

少女「むきーっ!」

公爵「ふむ、双子妹くんというのか。
 話は聞かせてもらっている。
 娘が世話になったようで、感謝する」

双子妹「突然の砲門を受け入れてくださったこと、
 感謝しますでありますっ」びしっ

男「サルにかかずらっている暇はなかったな。
 久しぶりだ、公爵殿」

公爵「久しぶりでいいのかね」

男「……久しぶりだ」

少女「え、なに、二人とも知り合いだったの?」

男「こうして、忠告に現れる程度にはな」

公爵「騎士団ならば、既に到着しているが?」

男「騎士団の……いや、教会の本当の目的だ」

公爵「ほう。それが本当に分かるならば、
 交渉のしようも出てくるだろう。
 だが、信頼できるのか」

男「……」

公爵「私は、お前を、信用して良いのか?
 何を理由に信用すればいい」

男「……それは」

公爵「……」

少女「お父さん。
 男さんは、こういう時は……」

公爵「黙りなさい」

少女「お父さんっ!」

公爵「……悪いが少女。口を出さないで欲しい。
 これは私が判断すべき事だ」

男「大丈夫だ、少女…………双子妹」

双子妹「お兄様にお任せするであります」

男「すまん。
 ……公爵、この封筒の中身に、目を通して欲しい」

公爵「……これは、天秤、か?
 おもりがつり下がっており、なべにつながっている?
 コレがなんだと言うのだ」

男「この封筒の中身は、
 この双子妹の開発した技術だ。
 見た目は子供だが、変わった経歴を持っていてな」

双子妹「親が、というよりも一族が、
 知の収集と保存を旨とする家系なのであります。
 それは古代ギリシア、また古代ローマの、
 教会から異端指定された物も含むのであります」

公爵「ふむ、それで」
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:38:43.32 ID:Y4SPWTf2o
双子妹「今回渡したその封筒の中には、
 古代ローマの失われた”蒸気機関”という技術を、
 復元した物であります。
 正確には、より利用しやすいように、
 自分が手を加えた改良品であります。
 効用としては、銅と石炭と水を使う事で、
 大きさにもよるものの、
 馬の数倍の力を生み出す事ができるものであります」

公爵「馬の数倍か。
 だが、釜で火をたきながら、
 どうやって馬車が牽けるのだね」

男「それは馬のように自信が動く物では無いらしい。
 物を回転させるために使うのが正しい、だったな」

双子妹「そうであります!
 馬車の車軸に据え付ければ、
 少量……たぶん、の石炭で、
 馬より安定して、同じ程度の速度で走れるであります」

男「他にも、船のオールに据え付けてもいい。
 ガレー船が遠洋の航海に向かないのは、
 奴隷にも、鮭やパンを供給して、
 使い潰さないよう休憩をさせなくてはいけないからだ。
 だが、これは休憩を必要とせず、
 人より強い馬ほどの力でオールを動かせる」

公爵「……ッ。
 コレを使えば、海の交易が変わるか」

男「理解してもらえたようだな」

公爵「だが、聞いた話が確かならば、
 フリークス・パイレーツだったか、
 その船にはこのような機構はつかわれていないな。
 それはなぜだ」

男「多少大砲の精度、銃の精度が良い程度なら、
 人間の技術で説明出来るが、
 噴煙をはき出して目を疑う速度で走る船など、
 言い訳のしようがない異端の技術だ。
 下手をすれば、全ての港が敵になる」

公爵「なるほど。つまりこれは」

双子姉「実現可能な技術、使用可能な技術。
 それでも、つかうわけにはいかない技術、であります。
 そして、流出してもいけない技術であります」

公爵「流出させてはいけないというのは、
 どういう理由かね」

双子姉「……これは一族の流儀であります」

男「失われてしまった優れた技術を受け継ぎ、
 本当の危難のためにそれを保存するのが、
 こいつらの役目らしい」

双子姉「再発見されて使われる分には、
 かまわないであります。
 ふせぎようも無いことであります」

男「だが、その優れた知識や技術が、
 今の支配者の手に渡ってしまえばどうなるか。
 この、『蒸気機関』の知識は、
 船に使う事で海戦の様相を大きく変えるだろう」

双子姉「人の手が届く範囲は広くなり、
 拡大政策しかとるつもりのないいまの西洋諸国は
 広がった先で戦争をするであります」

男「西側に渡れば帝国を攻撃し、
 帝国に渡っても、西側を攻撃するために使う。
 少なくとも、コレを流出する事で、
 世界は形を変えてしまうだろう」

双子姉「μηδ?ν ?γαν(過剰の中の無)であります」
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:39:25.28 ID:Y4SPWTf2o
公爵「…………そうか。
 わかった。信用しよう。
 信用に信用を返すのは、人としての勤めだ」

男「感謝する」

公爵「……違う方向で、信頼を買われたかったがな」

少女(お父さんが、少しだけ悲しそう?)

公爵「……さて、では聞こう。
 騎士団は、教会は何を求めている?
 奴らがいまさらこの国を蹂躙し、
 無駄な戦果に我が領民(ゆうじん)を巻き込もうと、
 気炎をあげる理由はなんだ」

男「全ては、帝国の長子が関わっているらしい」

------------------------------------------------
  昼 ディオイツ艦隊

眼帯「やはり、船長は一人で行ってしまいましたね」

騎士A「 二日以内に戻るって言ってたが、
 果たして本当に戻るかどうか……」

眼帯「……他の艦隊との連携は」

騎士A「通ってる。
 構成がうちの分団だけだからな、
 そう難しい話じゃなかったさ」

眼帯「そうですか。
 できれば、青年さんが万全に役目を果たすことを、
 期待したい所ですね」

騎士A「そうだな、そうすりゃ……
 俺達のあこがれだった人の名誉は、守られる」

------------------------------------------------
 夕方 リベルタ公爵邸 謁見質

公爵「なるほど。だからこのような条件か」

男「ここが騎士団に占領されれば、
 いや、一定以上の損害を食らうだけで、
 彼の長子が率いる過激はからは、
 煮て良し、焼いて良し、塩漬けにしても良しと、
 いいエサ扱いされるだろう」

公爵「もうしばらくで三十代になろうというのに、
 その父が築き上げた平穏と経済による支配体制を、
 また暴乱の時代に戻そうと言うか……
 男よ、お前はドコが連中の肝だと見る?」

男「……事実として、今回の問題の根本は複雑だろう。
 ホラントやディオイツで活動する、
 ルター派プロテスタントに対して、
 帝国から援助があったのは知っているか?」

公爵「噂としては聞いていた。
 商人は金の流れにこそ目をこらす物だ。
 この島でも、一時期帝国からディオイツへ、
 物資の流れがあったらしいな」

男「教会内部でくすぶっていた隠れルター派が、
 それに応える形で、
 今まで帝国方面への手出しを控えていたのだが、
 逆にもっと焚きつけろと、過激派が動いたようだ」

公爵「なるほど。
 今まで教会内部でかかっていた歯止めが外れ、
 たまっていた鬱憤と追い風が嵐を作ったか」

男「過激派を代表する、大帝の長子、セリム2世は、
 『千や二千の船程度は、
  帝国にとってひげの先と変わらん』と。
 多少の犠牲を出しても西側諸国を飲み干すつもりだ」

932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:39:53.21 ID:Y4SPWTf2o
公爵「それをより少ない犠牲で叶えようと策し、
 結果としてこの島の制圧が、
 手段の一つとして選ばれたわけだな」

男「騎士団とこの島で相討たせ、
 漁夫の利を狙いたい所なのだろうな」

公爵「では、なんとしても、
 『応えずに答える』しかないか。
 少女はどう思うかね」

少女 ぷしゅー……ぷすぷす

双子妹「話の途中から煙を吐いてるでありますよ……」

男「……相変わらずだな、このバカは」

公爵「我が娘ながら、恥ずかしい」

少女「むー。とりあえず、原因を解決して、
 そもそも交渉を不要にしようって企みは、
 失敗したってことでしょ?」

双子妹「な、なんとっ」

公爵「少女が理解したとは。やはり嵐は避けられないか」

少女「お父さんっ!」

公爵「はは、冗談だとも。
 せめて、笑わねばやってられんからな」

男「…………この親子は」

少女「で、そういうつもりでいいんだよね」

公爵「そうだな。
 『リベルタと帝国の通商条約の廃止』
 『リベルタから帝国民の領地外への追放』
 『リベルタの居住区八割の割譲』
 この三点を、いかに工夫して飲むかだ」

双子妹「リベルタの、
 使用面積比率はどうなってるでありますか?」

公爵「……おおよそだが、
 農耕地が四割、牧草地が一割、居住区が三割、
 倉庫を含めた港が一割、あと一割は未開発……
 正確に言えば、環境保護区という扱いだ。
 この島の風景が好きでね、
 私有地という扱いで保護している」

双子妹「食糧自給率はどれくらいでありますか」

公爵「定住者に関して言えば、
 この島の食糧自給率は人数費二倍程度だ。
 だが、そもそも定住者が少ない。
 時期によっては食料の供給を求める船に、
 最低限しか売れない事もある」

双子妹「つまり、今の住民が移動しなければ、
 現在の農耕地に人を移動させてしまうと、
 食糧自給が成り立たないわけでありますな。
 あ、違う。居住区が広くても、
 実質的な定住者が少ないなら、
 最低限の食料は確保できるでありますな!」

公爵「その通りだ。さすが知識の担い手か、話が早い」

双子妹「それを全て、調べること無く答えられる、
 公爵様の方がすごいでありますよ」

少女「……えっと」

男「この島の居住地を明け渡せと言われているんだ。
 おそらく地図を元に、
 沿岸部の区域をゆずる形になる。
 その該当区域の人間をまとめて、
 今は人が住んでいない場所に移動させる事は、
 可能かどうかと話しているんだ」
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:40:22.11 ID:Y4SPWTf2o
少女「あー、なるほど」

双子妹「それでも渋い顔をされてるという事は、
 食料だけが問題ではないと言う事でありますか?」

公爵「いや、その判断だけは間違いではない。
 だが、状況の想定が甘いだろう。
 騎士団が奪った土地で何をするか。
 おそらくそこを要塞に仕立てて活動するだろう」

男「だろうな」

公爵「その際に、工事に訪れる人間や、
 騎士団内部で自給自足がかなうまでの期間、
 彼らの食事を誰が保証するかね。
 彼らの食事が保証できない場合、
 彼らはどのようにして麦を手に入れるか」

少女「……みんなから、奪う」

公爵「そうだ。武力を突きつけて奪った土地だ。
 今度はさらに近い場所から、
 武力をもって麦を奪う事ができるなら、
 しない理由はあるまい」

双子妹「三年有れば、公爵殿の私有地を使って、
 生産量を増やすことで対応は……」

公爵「難しいだろう。
 元のこの島は、たいそう厳しい荒れ地だった。
 私の私有地は、それそのままなのだ。
 時間をかければある程度耕作できようが、
 それでも、増える人数を考えれば賄えん」

少女「不足する分を、
 むこうは自分でもってきたりしないのかな」

男「騎士団の風潮から言えば、期待できん。
 西側の国にはほぼ全て言える事だが、
 奪った土地の物を取って食らう事で、
 軍費をなんとか『足らせて』いるんだ。
 特に、最近は寄付金のおちこんでいる騎士団は、
 その様な余裕などないだろう」

少女「むうー、結局それじゃ、
 港の交易権とか奪ってもつかわないんじゃん」

公爵「それはこちらの手にあるから、
 こちらが使っても良いのだがな」

少女「それなら、みんなのご飯をそれで輸入したり!」

公爵「輸出する物なしに、輸入だけするなど。
 味方のこない籠城と同じ事だろう」

少女「やれば悲惨になるだけ、なんだね」

公爵「そういう事だ。
 加えて、この島が豊かなのは、
 交易の仲介として物納を受けているからだ」

少女「港の利用とかの税金を、
 お金だけじゃなくて、物でも受けるんだよね」

公爵「うむ。そうして物納された物は、
 輸出して外貨に帰る事もあるが、
 基本的には島内で安く消費され、
 それによって物価の調整や、
 収入の少ない人間でも困らないようになっている。
 だが、交易が止まれば、
 特に金属などは大きく値段がつり上がるだろう」

双子妹「地図をみせてもらって良いでありますか?
 うなー……あちゃーでありますよ」

男「どうした」
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:41:11.71 ID:Y4SPWTf2o
双子姉「図形にはパラドックスという、
 正しい『ように』見える状態が存在するであります。
 詳しくは説明しないでありますが、
 ほんのちょっとなら、
 面積を水増し出来るのであります」

公爵「ほう、それを使えば『八割』を、
 六割程度に出来たりするのかね」

双子姉「そこまではムリであります。
 フィボナッチ数列を利用した図形のごまかしで、
 四つの隣接する値をabcdと置いたときに、
 ac-b^2=1が成立する範囲で図形を組み替え、
 誤差と判断される範囲をかすめとるのであります。
 ああ、bd-c^2=1となる方でも構わないのでありますが、
 より多くの面積を確保するのであれば……」ぶつぶつ

男「具体的にはどれだけ引っ張れる」

双子姉「最大で5パーセント。
 要するに、渡す量が七割五分で……
 でも、それだけ引っ張るとばれるので、
 ごまかした見た目がおかしくならない程度なら、
 可能だったはずであります。
 でも、公爵が辣腕過ぎたのでありますよ」

公爵「どういうことかね」

双子姉「コレはあくまで『こまかし』であります。
 町中が散らばっていれば散らばっているほど、
 『ココはダメだがここは大丈夫』という具合に、
 ばらけさせて組み込めたのであります」

少女「要するに、町を計画的に整えて建設したから、
 ごまかしがしにくいってこと?」

双子姉「そういうことでありますな。
 加えて、フィボナッチ数列を使った図形のトリックは、
 遺失知識でもないので、
 バレる危険が大きくて怖いであります」

公爵「さすがに、そのためだけに工事もできんな」苦笑

少女「ツンツンは工事するなら喜ぶと思うけどね」にや

公爵「あまり談合じみた空気を漂わせるな。
 していなくても、疑う人間には疑われるぞ」

少女「はーい……」

公爵「やはり、島外に受け入れ先を求めるしかないか」

少女「たしか、近くの港に救援を求めたんだよね」

公爵「うむ、人命救助だけでもかまわんとな」

少女「なら大丈夫かな?
 念のために、私の衣装代とか引き出して、
 隣の島に避難しても、
 毛布とか燃料には困らないように手配しておいたけど」

公爵「それは助かった。
 急な話でさすがに予算も手も回らなかったからな。
 食料は備蓄があるから問題ない。
 良い仕事だが……それは少女の発案かね」

少女「あー、幼なじみの眼鏡兄ぃが」

男「ほぅ……」

双子姉「その、隣の島ってなんでありますか?」

少女「ん、この地図にはないか。
 お父さん、隣の島の地図はある?」ごそごそ

公爵「その飾り棚に……ほれ、そこだ」

少女「はい」

935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:41:37.78 ID:Y4SPWTf2o
双子姉「……これを見ると、
 本島の三分の一くらいの大きさの島でありますか。
 開発はされていないみたいですが、
 どうしてでありますか?」

少女「確かにそこそこ大きいけど、
 切り立った崖に囲まれてて上陸しにくいし、
 浅瀬があって近づけないから、そのままなんだよね。
 島の人口がよほど増えなければ、
 今の体制でも問題無いし」

双子姉「でも、開拓すれば、
 畑とかが出来たと推測するでありますよ」

公爵「何度か開拓しようという意見は確かにあった。、
 だが、予算と釣り合う物では無かったのだ。
 長期的に見れば利益もあっただろうが」

少女「そっちに目をむける余裕が出来たのも、
 本島がいまみたいに豊かになってからで、
 そんなに時間がたってないんだよね?」

公爵「うむ。したがって結論はいつも、
 無理な開発に予算を割くくらいならば投資をしろと、
 商人組合やら元老院やらがうるさくてね。
 黙らせるためのエサとなってしまった」

男「相変わらず、連中はやりたい放題か」

公爵「これでもなんとか大人しくさせているのだがね。
 他にも、島の資源だった石材などは、
 すでにほとんど掘り尽くした後だったのだ。
 ゆえに、開拓に使う建材はほぼ輸入せねばならず、
 そのためには大型船を入れるための港を開く所から、
 始めなくてはならん」

少女「……んー。んん。
 港が必要、建材が必要、でも単純な面積は足りている」

双子妹「公爵殿、確認であります」
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:42:04.65 ID:Y4SPWTf2o
公爵「なにかね?」

双子妹「この島の定住者の内、
 帝国の人は何割くらいいるでありますか?」

公爵「これもおおよそだが、二割ほどだ」

双子妹「非定住者用の居住区は、
 どれくらい割り当てられているでありますか」

公爵「居住区の海側三割が、割り当てられている。
 厳密な扱いではないが、
 海の男達はあまり、内陸にある施設には移動せん。
 そこで港で働く人間を覗けば、
 自然と棲み分ける形となったのだ」

双子妹「非定住者用の居住区って、
 貸し付け用の居住区でありますね?」

公爵「もちろん、そうなる」

双子妹「……うんうん、それなら、
 実質的に移動させなくてはならない人間は、
 総面積のおおよそ二割の人数で、
 先ほどの試算より農地面積を多く取れるであります」

公爵「ふむ、だが、やはりその手段しかないか……
 しかたない、業腹だが、元老院にはその方向で、
 話を通すようにもっていこう」

------------------------------------------------
  昼 リベルタ公爵 少女の私室

双子妹「おおー、すごいでありますっ!
 さすが公女様でありますな」にぱっ

 きゃっきゃっ♪

少女「あー、あはは……。
 ほとんど私の趣味っていうより、
 周りの願いなんだけどね。
 双子妹ちゃんがそんなに喜んでくれるならよかった」

双子妹「こんなキラキラしたのとか、
 可愛い人形とか、庶民には遠いものでありますから、
 みていてなんだかうきうきするでありますよ♪
 ただ、お姉様とはちょっとイメージ違うでありますね」

少女「やっぱり年頃の女の子としては、
 そういうのが喜ばれそうっていうのはわかるけどね。
 確かに、可愛いのも嫌いじゃ無いけど、
 そこまでじゃないっていうかー」

男「実用に近い物である方がいい、か」

少女「うんうん」

双子妹「あっちの部屋も見ていいでありますか?」

 たたーっ

少女「うん、いいよ……ってもう入ってる。ふふ。
 一応ドレスルームだから、
 気に入ったのがあったら持って行ってもいいよー」

双子妹(隣の部屋)「おおー、お腹が太いでありますな」

少女「いや、それ違うしっ!」

 わいわいきゃーきゃー

男「……話があるからと、呼ばれた記憶があるんだが」

少女「あ、ごめんごめん。
 いや、なんでココにいるのかなーとか、
 理由が聞きたくて」

男「む……」
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:42:30.62 ID:Y4SPWTf2o
少女「しばらく一緒に旅した私の故郷だけど、
 白髪さんの時はギリギリまで来なかったし。
 いや、結局来てたけどさ」

男「それは、そのだな……」

双子妹「お兄様がさっきの話を聞いてしまったから、
 でありますよね?」

男「あ、ああ、そうだ」

少女「あの、教会の狙いって話?」

男「その計画に関わっていたらしい情報屋から、
 話をきいてしまったからな。
 口封じを警戒せねばならんと、隠れ港を飛び出して、
 ひとまずココにやってきた」

双子妹「あれ、でも、順番が違うような記憶が……」

男「双子妹、船に第一段階が完了したと連絡しろ」

双子妹「あ、はいでありますっ!」びしっ

 たたっ。ぱたん

少女「……なぁんか、ひっかかるけど」

男「引っかかるな。それより、確認だ。
 島にやってきたのはディオイツ艦隊、 
 指揮官は青年だな」

少女「うん、今は部屋で休んでもらってる。
 なんか、気を遣わせちゃったみたいで、
 自主的な、軟禁状態かな。
 一人で来てたからたぶん暇してると思う」

男「公爵と、元老院の交渉がまとまれば、
 その分早くもどって来られるだろう。
 そうすれば、ヤツも帰れる」

少女「うん、そうだね。
 あー、次に会うときは、
 こんな面倒なのなしで会いたいなー」

男「……青年の事が気に入ったのか?」

少女「ん? まあ、嫌いじゃないよ。
 ちょっと堅苦しいし、真面目すぎると思うけど、
 一生懸命な人は嫌いじゃないしね」

男「そうか。お前が気に入っているなら……」

少女「気に入っているなら?」

男「……婿に迎えてみてはどうだ」

少女「婿かー、んーって、ムコぉっ?!」

男「……うるさいな。
 それほど驚く事もあるまい」

少女「いや、驚くから!
 なんでいきなりそんな話になるのさ」

男「たしかに、そういう流れではなかったが。
 候補くらいいるのだろう」

少女「いないけど……」

男「もう十七、いや十八か。
 貴族の娘としては十分な年齢だろう。
 見つけようとしなくても良いのか?」

少女「別に、そういう事もないって。
 二十代後半で結婚する人とかもいるし」

男「少数派だがな。
 しかし、考え初めて遅いという事はあるまい」
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:43:00.06 ID:Y4SPWTf2o
少女「まあね……でも、青年さんはないかなー。
 絶対に一緒にいると疲れるって。
 特に数字とか扱わせると必要以上に細かくしそうだし、
 子供が出来たら教育でケンカしそうだし、
 町の人と一緒に遊びにくくなりそうだし」

男「一応俺の弟子だから推薦したが、ボロクソだな」

少女「女性の扱いは男より良いと思うけどね」

男「……否定はせん」

少女「まあ、なによりやっぱり、
 あの人には似合わないと思う。
 騎士道と添い遂げろって感じ」

男「そうだな。良い旦那をしているあいつなど。
 想像もできんか。くく……」

少女「……やっと笑った」

男「なんだ?」

少女「なんか、さっきからずーっと渋い顔で、
 この話をはじめたら、それ以上ににらみつけるし。
 なにか嫌な事でもあった?」

男「……そういうつもりはない。ただ」

 どたどたどたっ

男「なんだ、騒がしいが」

 がちゃっ!

乳母「お嬢様、旦那様が、公爵様がっ!」

少女「……え?」

------------------------------------------------
  昼  リベルタ公爵宅 公爵私室

公爵 ひゅー……ひゅー……

医者「……発見が早くてよかったですな。
 送れていれば、命の危険もありました」

少女「お父さん……っ」

医者「起こさない方が良いでしょう。
 起きても、満足に呼吸が出来ない苦しみを、
 味合わせてしまうだけです」

少女「あの、父は、病気だったんですか?」

医者「ご本人から口止めされていましたが、
 バレてしまったならば、仕方無いでしょう。
 公爵様は『鋭い咳』の病です」

少女「えっと、それって」

医者「炭鉱や、漁師、仕立屋などで働く、
 労働者に多い病なのですが、
 まれに、肺炎にかかった方や、
 喫煙を多くされる方も、かかることがあります」

少女「そういえば、昔はずっとキセルを使ってたような」

医者「はい。おそらくそれが原因でしょう。
 しばらく前に発病され、以後は悪化を防ぐために、
 自重していただいていたのですが、
 手遅れだったようで……」

少女「手遅れ、って……」

医者「今日や明日に、命を落とすほどではありません。
 ですが、治る見込みもありません。
 このことは、ご本人が一番ご存じです」

少女「……そんな」
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:43:27.39 ID:Y4SPWTf2o
医者「私には政治向きの事はよくわかりませんが、
 最近はまた無茶をなさっていたようで、
 それが体に出てしまったのでしょう」

少女「なんとかできませんか?」

医者「こればかりは、なんとも。
 教会が推奨する瀉血療法はもとより、
 帝国の医者も招致し、相談しましたが、
 やはり手の打ちようがないと。
 古来から、この病はそういうものなのです」

少女「……」

医者「しばらくは、ろくに呼吸の出来ない状態が、
 続いてしまうと思います。
 激しい咳をしたら注意してください。
 息を吐くばかりで、吸い込むことが出来なくなるので、
 喉を温めて背中をさすってさしあげてください」

少女「それだけしか、できないんですか?」

医者「この病の歴史は古く、
 古代ギリシャやローマから確認されています。
 しかし、今より医療技術が発達していたと、
 伝わっている当時から、
 明確な治療法は伝わっていないんです」

少女「……大人しくしていれば、
 良くなったりすることも」

医者「体の負担は減りますが治るとは言えません。
 不治の病なんです。
 うまく、付き合うしかありません」

少女「わかり、ました」

医者「ひとまず、数日は安静にしてもらってください」

少女「……ありがとうございます」

医者「では、また後日に薬を持って参ります」

 ぱたん……

少女「……お父さん」ぎゅっ

少女「ごめん……心配かけて、迷惑かけて、
 自分勝手ばっかりして」

少女「ほんとに、ごめん……」

公爵「……」ぽん。なで、なで……

少女「おとうさん……」

公爵「――――――」ぼそぼそ……

少女「……うん」

公爵「――――……っ、くっ」ぼそ……

少女「うん、わかった。
 分かったから、良いよ。大丈夫」

公爵 にこ……

少女「おやすみ。起こしちゃってごめんね」

公爵 ……

少女「……」すっ

 とことこ、ぱたん
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:43:56.88 ID:Y4SPWTf2o
------------------------------------------------
  昼過ぎ  公爵邸 客間

 とんとんとん

双子姉「どうぞでありますよー」

 がちゃ

少女「……」

男「少女か。どうだった、公爵は」

少女「お医者さんの話は、なんて伝えたら良いか、
 わかりにくいんだけど……
 鋭い咳って病気で、治らない病気、みたい」

男「……命に、別状は」

少女「元気そうに見えるんだけど、
 急に息が出来なくなる病気みたいで、
 対処法もないから、危険だって……」

男「双子妹、お前の知識で、どうにかできないか」

双子妹「自分はそもそも、
 一族の中でも減築や工学、哲学分野の知識を、
 主に引き継いできた身であります。
 医学は他の一族が引き継いでいるはずであります。
 もっとも、自分の様に魔女として追われていれば、
 その知識は無くなっていると思うであります」

男「そうか……」

少女「……」

男「たしか、青年に対する返答の期限が、
 二日以内だったはずだな」

少女「うん、実質、明日の内に話を通して、
 夜には船に返さないといけないと思う」

男「……公爵の体調は、間にあわんか」

双子妹「事情を言えば、待ってもらえたり、
 しないでありますかね」

男「ムリだろうな。
 青年の性格を考えれば受け入れそうだが、
 その背後にいる教会が動く理由になる」

双子妹「なら、どうやって返答するのでありますか?」

男「こんな時のために、代理の責任者がいるはずだろう」

少女「うん、家宰さんって人がいて……
 任せて、良いのかな?」

男「俺に聞くな。
 その家宰はドコにいるんだ?」

少女「最近の例外処理の帳尻を合わせるために、
 お父さんが倒れた時には、
 港湾組合の方に向かってたみたい。
 呼び戻すように連絡は入れたけど」

男「港ならば遠くないからな、
 そろそろ到着するだろう……」

少女「……」

男「……父親が心配なのは分かるが、そう思い詰めるな。
 お前がそんな顔をしていても、事態は変わらん」

少女「……そうじゃ、なくてね」ぐっ

男「少女?」

941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:44:47.42 ID:Y4SPWTf2o
少女「お父さんにね、言われたんだ。
 『好きに生きろ』って。
 あんなに、苦しそうにしながら、
 息が出来ないのに必死に声を押し出して、
 辛いとか苦しいとか、言えばいいのに、
 選んだのが、私のための言葉だったんだよ……」

男「……」

少女「でも、お父さんが本当に治らない病気なら、
 お父さんの跡を継げるのは私しかいなくて、
 好きに、なんて選べる道はないし。
 もし私がもっと早く継いでたら、
 お父さんは、病気を酷くしないですんだのかなとか。
 なんか、よく分からないことがいっぱいで、
 頭の中がずっとぐるぐるしてて……」

男「お前は、そんな事を悩んでいるのか?」

少女「そんな事ってなにっ?!」がっ

男「……」

少女「『他人』の男には分からないかも知れないけど、
 貴族になるなら、これからずっと、ずっと、ずっと!
 人を殺したり、苦しませたり、
 『私が』しなくちゃいけなくなるんだよっ!
 白髪さんが一人死んだら、
 心が裂けるくらい苦しくて……
 町を襲った、あの海賊の人達を、
 罠にかけたり、斬りかかったり、銃で撃ったり、
 数えられないくらい殺して、
 怖くて怖くて仕方無かったっ!
 なのに、もっともっと、殺せって」ぎりぎり

男「人殺しは、怖いか」

少女「……怖いよ」

男「貴族になるのは、怖いか」

少女「怖いよ」

男「なら、お前は、ダメだ」

少女「……だめって、なによ」

男「お前は何もわかってない。
 お前はいったい、何を見ていたんだ」ぐっ

少女「手、離してよ」

男「……父親である公爵の事も、
 死んでいった白髪の事も、
 お前の周りの大人達の事も、
 お前の親友達の事も」どんっ

少女「っ」どたんっ

男「お前は、何も分かっていない」

少女 きっ

男「だが」そっ……ぎゅぅっ

少女「な、」

男「すまなかった」

少女「……いみが、わかんないよ」

男「もう、ムリをしなくてもいいって事だ。
 泣かせてすまなかった。
 苦しませて悪かった。
 今こそ、約束を果たそう」

少女「やく、そく?」

男『俺が、お前を守ってやる』ぽんっ
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:45:25.33 ID:Y4SPWTf2o
少女「……っ」

男「……双子妹、少女を任せた」すっ

双子妹「は、はいでありますっ」

 ぱたんっ

双子妹「……大丈夫でありますか」

少女「いまの……ずっと、昔の……」

------------------------------------------------
  夕方 リベルタ公爵邸 公爵執務室

男「ここにいたか、家宰」

家宰「はい……っ、なんと、まさか」

男「十年ぶりか。
 随分老け込んだようだな」

家宰「まさか、お帰りくださるとは、若旦那様」

男「……ただいま」

家宰「……ああ、ああ。
 お帰りくださいませ、よくぞ、生きて……
 旦那様にはお会いになりましたか?」

男「昼に一度、会話もした。
 養父(ちち)が倒れたことも、聞いている。
 その件で少女と話をしていたんだ」

家宰「お嬢様と話し……それでは」

男「俺が、公爵家を継ごう。
 継承に必要なペンダントも、持ってきてある」

 じゃら……

家宰「では、本当に」

男「ああ。必要な公布などは、
 養父が目を覚ましてからになるだろうが、
 家宰の足になり、目になる程度は引き受けよう」

家宰「そのような、粗末に扱う真似はできません。
 若旦那様のお顔を憶えているかたも、
 特に元老院には多くおりましょう」

男「……悪ガキで知られていたからな」苦笑

家宰「私も悩まされましたが、なに、昔のことです。
 そのペンダントもあれば、
 若旦那様に文句を付ける人間はおりますまい。
 いたとしても黙らせてくれましょう!」ふんっ

男「手間をかける」

家宰「しかし、予想は付きますが、
 お嬢様はこの件についてなんと」

男「……貴族を継ぐ事が、心底恐ろしいらしい」

家宰「さようでございますか……
 複雑な心境ですが、お嬢様はお優しすぎますからね」

男「今まで連絡を取らなかったのは、
 しかるべき血に連なる人間が爵位を継ぐ事が、
 皆のためになると思ったからなんだがな。
 どうやら、少女にはムリをさせすぎたらしい」

家宰「お嬢様も既に成人した身です。
 本当なら、もっと厳しくても……」

男「わかっている。
 だが、それでも少女はまだ十八だ。
 そんな年齢で、殺す殺される、死ぬ死なせぬと、
 そんな事を考えさせるのは、やはり厳しいのだろう」
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:45:54.30 ID:Y4SPWTf2o
家宰「……」

男「大丈夫だ、家宰。
 俺はその程度で動じる人間ではない。
 良くも悪くもな」

家宰「良い事でありましょう。貴族であれば」

男「よからぬ事だ、貴族だからこそ。
 さて、おそらく明日の朝一番に会議を招集しても、
 例の要求への回答が間に合わんと思うが、どうだ」

家宰「すぐに元老と組合の長、商人を召喚し、
 いまから騎士団への対応対策会議を始めましょう」

男「すまんが、よろしく頼む」

家宰「かしこまりました」ふかぶか

------------------------------------------------
  夜 リベルタ公爵邸 少女の部屋

双子妹「つまり、小さい頃に少しの間だけ、
 親御さんをなくして孤児になっていた所を助けて、
 一緒にすごした義理のお兄さんが、
 船長殿だったということでありますか」

少女「……うん。そう、みたいだね」

双子妹「死んだと思っていたのに、
 こんなに近くにいたのでありますか」

少女「生きてたなら、教えてくれればよかったのに。
 出会った時にでも、教えてくれたら……」

双子妹「……どうしてなのでありますかね?」

少女「わかんないよ、そんなの」

双子妹「……本当にでありますか?」

少女「だって、ずっと、離れてたし」

双子妹「自分は、何となくわかるでありますよ」

少女「わかる、の?」

双子妹「むしろ、やっと、ピースがはまったであります。
 もっとも、自分は理屈を立てるばかりで、
 人の気持ちを本当に察しても、
 実際は違うという事も少なくないでありますが、
 きっとコレは、違わないのであります」

少女「そんなことないよっ。
 双子妹ちゃんは、船のみんなの事を、
 すごくよく考えてると思う。
 ……わたしより、ずっと」

双子妹「考えているだけであります。
 お姉ちゃんや、少女のお姉様のように、
 すぐに人と親しんで笑顔にする事は、
 自分にはまだ、出来ないのであります」

少女「そんなこと……」

双子妹「でも、考える事をやめたことがないのは、
 さりげない自分の自慢なのであります」じっ

少女「……考えろって、こと?」

双子妹「考えたくないなら、構わないであります。
 なにも知らないで、船長殿に任せてしまうのも、
 お姉様の選択なのであります」

少女「……みんな、なんでそんなに、選択、選択って」

944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:46:20.89 ID:Y4SPWTf2o
双子妹「他の人の理由は推察しかできないでありますな。
 でも、自分の理由はわかるであります。
 自分がお姉様に選択を任せる理由は、おそらく一つ。
 お姉様が、人間だからであります」

少女「そんなの、理由にならないよ。
 私だけじゃ無くて、双子妹ちゃんも、男も、
 狼さんも、お父さんも、家宰さんも、
 みんな、人間だよ」

双子妹「動物の分類におけるヒト種の事では、
 ないでありますよ。
 白髪のおじさまの言う、『人間』であります」

少女「……」

双子妹「お姉様が船に乗ってきたとき、
 自分や、みんなのような特殊な事情もなくて、
 どういう人なのか、観察していたのであります」

少女「……うん」

双子妹「短い期間でありますが、
 見つめていて分かったのは、
 いつも走り回っていて、かと思えば悩んでいて、
 よく分からないけれど、
 不器用な人に見えたのであります」

少女「あはは……」

双子妹「それで、どうしてあんなに不器用なのかと、
 白髪のおじさまの前で言ったときに、
 『そもそも、それが人間の生き方だろ』と、
 言われたのであります」

少女「……」

双子妹「自分の見ている前で、
 お姉様はいつもなにかに向かい合っていたであります。
 見つめて、考えて、必要ならぶつかって……
 分からない時は意見を求めても、
 最後まで考えてから踏み出す人だと、
 自分は結論に至ったのであります。
 その生き方がステキだと、思ったのであります」

少女「……そんなに、すごいことじゃないよ。
 ただ向き合うしか出来ない不器用で、
 頭が良くないから考えないと追いつかないだけでさ」

双子妹「でも、それは一生懸命だからであります。
 見た物、触れた物、感じた事に、
 一生懸命に向き合っている結果なのでありましょう。
 それが『人間』なのでありましょう」

『他人の命令でしか動けないヤツは、
 狗って呼ばれるだろ?
 欲に汚いヤツは豚か。
 鈍重なヤツは牛って云われるし、
 どうしようもねぇのはクズだ』

『流されず、たゆたわず、選択して、歩き抜け。
 自分が何をしたいかは自分で決めろ。
 食いたい物を食って、悔いたいモノで感じろ。
 お前は、領主って機能のモノでもなけりゃ、
 従うしかできない兵士でもねぇ』


双子妹「そんな人間らしい一生懸命さが、
 さかしらにまとまってしまう自分にとっては、
 光のように見えるのであります」

少女「ひかり……?」

双子妹「希望の、光。
 まぶしいもの。憧れるもの。
 手を伸ばしたくなるもの。
 暖かいもの。明るく照らすもの。
 言い換えれば、ヒーロー、なのであります」にぱっ

945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:46:50.90 ID:Y4SPWTf2o
少女(初めて見る、双子妹ちゃんの、年齢らしい笑顔。
 赤い顔で、キラキラする目を私に向けて、
 本当に、まぶしいものでも見るように)

 ぽた……ぽた……

少女「う……、あ……」ぽろぽろ

双子妹「どうして、泣くのでありますか?
 自分が失言をしてしまったなら、
 謝罪するであります……」しゅん

少女「ち、が……よ。そうじゃ、なくてね」ぼろぼろ

『だれか居るのか?』
『なら、ちょっとついてこいよ』
『日に当たった方が暖かいだろ?』

『俺が、お前を守ってやる』

少女(怖くて、辛くて、不安に押しつぶされそうで、
 どうして良いかわからなかった私の手を繋いで、
 暖かい光の中に連れ出してくれたあの人が、
 私にとって、ずっと、ずっと、ヒーローだった)

双子妹「お姉様……?」

少女「思い出して、気がついたの」えぐ

少女(町で一緒に友達を作ってくれて、
 みんなをまとめ上げて、
 少しくらいの年齢差なんかきにならないくらい、
 とても居心地の良い仲間を、作ってくれた)

双子妹「何に、でありますか」

少女「なんで、お兄ちゃんを追ってたのか。
 私にとってお兄ちゃんはずっと、ヒーローで、
 私の手を引いてくれた、
 その背中に、憧れたんだ」

少女(その憧れはいつからか、
 時々遠くを悲しそうに睨むするその人の、
 隣に立ちたいという思いに変わっていた。

 でも、ある日その背中は、遠くに行った。
 遠くに、とても遠くに。
 それでも諦めきれなかったから、
 足跡をたどるように軍に志願して、
 それでもたどり着けなかったから、
 探して、島の外にまで出た)

少女「その憧れがずっと、私の背中を押してたんだ。
 だからね、ヒーローって言われて、
 知らないうちに、あの憧れた背中に、
 追いつけたのかなって……」ぐすっ

双子妹「……お姉様が来るまで、
 船は、フリークス・パイレーツは、
 どこかすねたような集団でありました。
 自分達は社会のはぐれ者だと、
 暗い空気が有ったのであります。

 でも、お姉様が来てから、
 狼のお姉様が優しく笑うようになって、
 包帯のお兄様はいつもより楽しそうになって、
 白髪のおじさまも満足そうなお顔の時間が増えて、
 お姉ちゃんは……うるさくなったでありますな」

少女「ちょ、元気になったって言ってよっ」

双子妹「見解の相違でありますな。
 ……でも、船長殿にヒーローとは、
 似合わないでありますよ」

少女「ぷっ……うん、そうだね。
 きっと、だから気がつかなかったんじゃないかな。
 あの頃に見た背中とは、
 随分、変わっちゃってたから」
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:47:57.35 ID:Y4SPWTf2o
双子妹「変わっていたでありますか」

少女「私から見たらね」

双子妹「本当に、変わっていたでありますか?」

少女「え?」

双子妹「船長殿は確かに、いつも無愛想で、
 なれ合わない人であります。
 けれど、自分も、お姉ちゃんも、
 狼のお姉様も、包帯のお兄様も、
 みんな、手をさしのべられたのであります。
 『居場所が無いならついてこい』と。
 だから、フリークス・パイレーツとして、
 あの船に乗っていたのでありますよ」

少女「……そっか」

双子妹「だから、船長殿は変わって居ないのであります」

少女「うん」

双子妹「さて、それでは、
 どういう選択を、してくれるでありますか?」じっ

少女「どうするって言われても――」

 にぃっ

少女「私には、全力で手を伸ばして、
 ぶつかる事しか出来ないよ」にぱっ

------------------------------------------------
 夜 リベルタ政策評議会 議場

男「久しぶりと言うべき顔も多いが、
 初めての挨拶になる顔もあるから自己紹介をしよう。
 十年前に公爵の養子となった男という。
 この場に来たのは、
 正統嫡子にして継承権第一位の少女が、
 公爵家の継承権を放棄したからだ。
 公爵の頼みにより、
 このたびの件で全権を任されることになった。
 よろしく頼む」

元老A「今まで連絡もなかったくせに、
 突然現れて何を言うかと思えば、
 冗談にも程があるぞっ!」

軍幹部A「うむ、あまりにも性急な話だ。
 君の顔は見知っているが、
 突然指揮を任せるというのもな」

元老B「顔が似ておってものう。
 それこそ最後に見たのは十年前。
 別人であってもわからんよ」

男「俺の身分については公爵が保証した。
 ここに、全権を委任するという内容で、
 公爵の記名が為された証書がある」ばさっ

軍幹部B「ふむ、確かに公爵のサインだ。
 だが、公爵はいま病床にいると聞いたぜ。
 弱ってるときに、死んだはずの息子によく似た男が、
 頼りない娘の代わりをしてやると現れる……
 サインを奪うにはいい状況だと思うがね」

元老C「まさに悪魔のような手口だ」

軍幹部C「……それに、私はお前の噂を聞いた事がある。
 昨日の未明、島の近くにある海賊の船が現れたのだが、
 人外の怪物や魔女を引き連れた悪名高い海賊は、
 お前によく似た姿をしているそうだ」じっ

豪商「顔なじみなどを呼び寄せて証明でもしますかね」

男「呼び寄せるまでもない。
 そろそろ家宰がアイツラを連れて……」
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:48:42.49 ID:Y4SPWTf2o
 がちゃ

ツンツン「失礼しまーす……」きょろきょろ

軍曹「落ち着けバカモノ。
 なぜそう、腰が引けているんだ」

ツンツン「いやー、だってよ。
 こういうお偉いさんの居る場所は苦手でさ」

眼鏡「少しは年齢相応の落ち着きを持ってほしいな。
 ……そこの友人にもな。
 突然の呼び出しだ、たいそう驚かされたぞ」

男「すまんな、俺も急な話だったんだ」

軍曹「うおお、本当に男かっ。
 生きてたのなら手紙くらい寄こせよっ!」ばんばんっ

男「このまま死んだ事にしておくつもりだったんだ。
 死人から手紙が来る方が都合が悪かろう」

ツンツン「いや、いみわかんねーし。
 生きてたんなら生きてたって、ちゃんと顔出せよ!
 おれ、ちょー、しんぱいして」うるうる

男「それで、お前達には俺が俺だと証明して欲しいが」

ツンツン「え、ちょ、俺の事スルーかよっ?!」

眼鏡「ああ、このスルーっぷりは男だな」

ツンツン「俺は試金石かっ!」

軍曹「いやぁ、みなさん、うるさくてすみません。
 ただ、残念ながら間違えられそうに無いくらい、
 俺達の幼なじみですよ。この男は」

男「なに、証明を求めたのは連中だ。
 必要なのだから、仕方無かろう」

軍幹部B「だそうですが、
 どうですかね、みなさん」

元老院A「……騒がしくはしゃいだだけに見えるが」

眼鏡「俺達の保証で足りないのなら、
 港湾管理組合の組合長の首をかけてもいいが」

港湾組合長「なぬっ、なぜワシの首をっ」がたっ

眼鏡「いつもサボッて釣りに出る事を見逃して、
 苦手だと言う書類仕事を代わりにやっているんです。
 借りを返す機会だとおもって、首をかけてください。
 その程度の信用は、あるだろう?」

港湾組合長「……ふん。安く借りが返せて助かるわい」

ツンツン「……やっぱ、眼鏡ってイヤな奴だな」ぼそっ

軍曹「今更だよ」ぼそっ

眼鏡「お前達には跡で説教だな」じろっ

二人「「うげぇ……」」

男「さて、首までかけて保証がされたわけだが、
 これでもまだ足りないという者はいるか?」

大商人「保証はなされたとおもってよかろう。
 だが、いまさら出てきて何をさえずる。
 家宰殿から聞いた話が相違ないなら、
 この島の主要区域を大半割譲し、
 さらに我々帝国商人と帝国民を排斥する話だと、
 そう聞いているが」じろっ

男「それしか選べる手段が無いからな」

大商人「さんざん利用するだけしておいて、
 都合が悪くなれば我々は廃棄かっ!」
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:49:10.02 ID:Y4SPWTf2o
男「ではこの島を戦場にする気か?
 対教会の戦争にこの島を駆り立てるならば、
 相応のつきあいを求める事になるだろう。
 資金、人員、技術、他にもな、
 この島は戦争という交渉のテーブルに、
 ほとんど駒をおいて来なかったんだ。
 そのテーブルに座れというなら、
 最低限の道具は用意されるのだろうな」

大商人「それはこれまでの施政の問題だろう。
 協会側を刺激しないようにと、
 武器の準備などを怠らせたそこの元老達こそ、
 西側諸国への売り上げからくすねて、
 私腹を肥やしている金を出せ!」

元老A[なにを言われているか分からぬな。
 我らは民の支持を受け、
 彼らの支援によってこの場所にいる。
 私腹を肥やすなどもってのほかだ」

元老B「帝国の、それも商人ごときが何をいう!
 我らに吐いたその暴言を航海させてくれようかっ」

豪商「ふむ。商人ごときとおっしゃいますか。
 名誉職であり、支援する市民からの支援金がなくては、
 食べていく事すらできないのではありませんかな」

元老C「ぐ」

豪商「支援金の大半は商人によって負担されている。
 あなた方はその立脚点を支える人間を、
 ごときと呼んで良んで権威を振りかざすのですか」

元老A「商業組合に対する介入や各種利権の調整など、
 行為に対する正統な代価として受け取っているだけだ。
 貴様らに依存しているなどと増長されてはたまらんな」

軍幹部B「おうおう、よくまあ、
 守銭奴と権威主義者がそれだけいがみ合う」

大商人「はっ、他人を害さねば生産活動のできぬ軍が、
 口を挟むことでは無いわ」

元老B「おぬしらの給金の蛇口を閉めてくれようかっ」

男「ええい、やかましいッッ!!
 いい年をした大人が騒ぎすぎだ、たわけ共!
 今はこの島の領民達の未来がかかった会議だ、
 ケンカがしたければよそでやれ!」

軍幹部「えらそうな事を垂れる小僧だが、
 お前にしたところで、領民忘れてどこに行ってたよ。
 半端者がでしゃばってくんじゃねぇっ!」

軍曹「幹部殿、おさえて、抑えてくださいっ」

眼鏡「組合長、止めなくていいのか?」

港湾組合長「うむ。ムリだな。
 ワシは公爵に雇われてる下っ端にすぎん。
 意見は出せるが、口を出せる権限はないッ」

ツンツン「あーくそっ、元老院のじいさん達も、
 とりあえず落ち着けよ、
 血圧上がって倒れてもしらねえからなー」どうどう

 ぎゃいぎゃいがやがや

眼鏡「この連中を手の平で踊らせてたとは、さすが狸だ。
 これは、病床から公爵をひっぱりだすしか……」

 がちゃ

少女「えーっと、失礼しまーす……」

眼鏡「……ふむ。コレには二が思い」

少女「む、なんか軽く見られた気がする?」
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:49:44.66 ID:Y4SPWTf2o
眼鏡「あれを見てみろ。
 いい歳した連中が、子供じみた事で大げんかだ」

少女「うわ……原因はなに?

眼鏡「本質的には今回の教会の要求だが、
 男はこういう場面で役に立たんからな、
 統率すべき男がほとんど部外者扱いされている」

少女「……それって、やっぱり島にいなかったから?」

眼鏡「そうだな。
 こうなっては仕方無い。
 島が沈められる前に、俺達だけで逃げ出すか?」じっ

少女「そういうの……趣味が悪いね」

眼鏡「趣味を悪くさせるような真似をしなければいい」

少女「あはは……ごめんね。でも、もう大丈夫」

眼鏡「ふ、そうか」

少女「ヒーローは、迷わないから」にぃっ

 ずかずか……

少女 スッ……

 ダァアアアンンッッッ!!

元老達 ビクゥッ

軍幹部達 バッ

男「……」

 シーン……

少女「みんな、お待たせ」にやっ

元老C「な、な……」

少女「一発で静かになってもらうには、
 これが手っ取り早いでしょ」にこっ

軍曹 あちゃー……

少女「でっかい男がガン首そろえて、
 騒いでわめいて情けないとは思わないの!」

軍幹部A「送れてきたくせに、随分ほえるな、伍長」

少女「軍人は退役しています。
 それに、この場に立つために、
 ちゃんと覚悟も決めてきました。
 だから呼ぶなら」

公女「公女と、呼んでください」

男 じっ

元老B「……ならば公女殿、
 勇んでいらした事ですし、
 提案の一つでもされてはいかがですかな」じろり

元老C「そうですな。
 公女の身分に相応しい、
 この島を救うようなお話を、
 是非とも我々にご提示ください」にたぁ

公女(元老院も、軍幹部の人も、
 みんな私なんかには期待してない。
 気まぐれで軍に入って、
 気まぐれで家出するような娘だから、
 考えなんて無いって思ってる。 
 だからあんなに嘲るような顔で見られる……)

公女「騎士団の案を、全面的に採用します」
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:50:16.73 ID:Y4SPWTf2o
軍幹部C「ば、バカにしてるのか貴様はっ!
 突然会議にやってきたと思ったら騒ぎだし、
 我々を侮辱したあげくに、
 そんな無意味な言葉を吐くなど!」

軍幹部B「ひよっこ公女様よぉ、
 寝言が言いてぇなら、お父様が作ったベッドの中で、
 俺達の邪魔をしねぇように頼みますぜぇ」ぎろっ

大商人 ぎろりっ

公女「ただし、みんなが笑顔になれる形で、です」

大商人「我々帝国の民は、
 その『みんな』の中には入っていないと、
 そういうことですかな」

公女「もちろん……入ってますよ。
 特に、大商人さんがいなくなったら、
 豪商さんが寂しくなって、 
 笑顔になってなれないからねっ」

豪商「ほほ、そうですな」

公女「なら、追い出すなんてダメですよ」

元老A「なにを、たわけた事をっ!
 貴様は騎士団の要求すら知らんのではあるまいな!
 『帝国民を追い出せ』
 『連中と取引するな』
 『領土を寄こせ』
 それが騎士団の要求じゃっ。
 そこなる大商人など、真っ先に追い出す対象じゃな」

大商人「その通りだ」

公女「ちょっと待って、その要求の書状……
 あ、あったあった。
 これ、よく見てよ」

 ぞろぞろ

軍幹部A「何も違いなどないな」

元老B「うむ。帝国民は追い出せとある」

大商人「……む」

豪商「……ほほう、なるほど」

公女「あ、おじいちゃん達はわかった?」

豪商「コレはまた……
 もしや、この書状を用意したのは、
 先日隣にいた青年さんですかな?」

公女「うん、たぶんそうだと思う。
 教会の証人が署名してるから、
 うまくやってくれたんだね」

軍幹部C「何を内輪で話しているんだ。
 まったく話が見えん」

公女「えーっとね、改めて用件を読むよ?
 教会からの要求は、
 『リベルタと帝国の通商条約の廃止』
 『リベルタから帝国民の領地外への追放』
 『リベルタの居住区八割の割譲』
 これからの条件を飲まない限り一神教より破門し、
 帝国へ属したと見なし、即時攻撃を加える。
 返答の期限は、この手紙を読んで二日以内。
 だね」

軍曹「いっそ、本気で帝国に属した方が、
 この島になる気がしてきたな」

公女「このクロマクは帝国みたいだよ?」
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:51:15.29 ID:Y4SPWTf2o
軍曹「西も東も敵ばかりか。
 どちらも揃って、『アガペー』(神の愛)を、
 謳ってる宗教の国じゃなかったか?」

公女「神様の愛は分からないけど、
 でも、人の愛はあるみたいだよ。
 この要求文、全部にわざわざリベルタって、
 書いてあるでしょ」

元老B「だからなんだと言うのじゃ!
 国の名前を変えれば済むと言うのか」

公女「国の名前なんてそう変えられないって。
 あのね、この国の名前は?」びっ

眼鏡「ん、俺が答えるのか。
 この国は『リベルタ公国(Riberta ducato)』だ」

公女「この国の領土は?」びっ

ツンツン「へっ? 領土って……
 そりゃ、ここだろ?」

軍曹 あちゃー

男「お前はもう少し空気を読め」

ツンツン「お、お前に言われたくないわーっ!!」

公女「ぐんそー……」

軍曹「この島の領土は、
 この『リベルタ』(Riberta)の本島と、
 普段は側島とか、小島とか、
 名前も付いてないような、
 『小さな島』(Una piccola isola)が一つだ」

軍幹部B「ってーことはだ、
 書類の条件にある、
 リベルタ(Riberta)から帝国の連中を追い出せってな、
 隣の小島に移住させろってぇ事だな。うん」

ツンツン「え、ええ、いや、それって……」

公女「ついでに、これから隣の島を、
 タリア島って呼ぼうか」にやっ

元老B「そんな言葉遊びが通じるはずはなかろうっ!」

公女「通じるかどうかじゃないよ。
 通じるように行動するんでしょ。
 なんのために交渉が得意な人に、
 元老っていう名誉ある仕事を任せてるのさ」

軍幹部A「ふむ、確かにそうだな。
 軍部の予算を蛇口と表現し、
 まるでいつ絞めても良いような、
 軽々しく扱える存在だと主張してくれたのだ。

 我ら軍部の背景無しに、
 交渉で騎士団と渡り合ってもらい、
 たまには交渉という戦場の矢面に立ってもらおうか」

元老A「ぬぐ……」

眼鏡「それに、元老院の人達も理解しておられるだろう。
 騎士団の出征に味方するのは、
 西洋諸国の利益になるかもしれない。
 それを促せば、まとまった金でも手に入るかな?
 だが、結局それで、
 東西交易に口を出せる今の立場をなくしてしまえば、
 そんな年寄りに誰が支援などするか、とね」

元老C「……よかろう。
 我らとて愛すべきこの島のために、
 可能な限りの力を尽くすにやぶさかではない」

公女「これでどうかな、大商人さん」

大商人「……悪いが、不満だらだけだ」
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:51:50.08 ID:Y4SPWTf2o
元老A「我らが手をかけようと言うのに、
 何が不満だ貴様らは!」

大商人「隣の島は船すらろくに近づけん場所だ。
 そして、公爵家には潤滑な交易が行えるだけの、
 不足無い大きさの港を作る余裕はなかろう。
 それとも、これまで島の発展に手を貸してきた我々に、
 次はその場所で、タダで開拓をしろと言うことか?
 港に入らせん島と港が無い島を相手に、
 どんな商売が行える!」じろっ

公女(厳しい目でにらみつけて、
 でも、立派なひげが少しだけ笑みの形なのは、
 きっと信頼してくれてるからなんだよね)

公女「大丈夫、ちゃんと『儲け』は用意してあるよ。
 それも、苦労に見合うとびっきり」

豪商「ほぉ……」

公女「商人は、儲けが有れば動く者って、
 二人にはしっかり教えてもらったからね」

大商人「ふん、ならば聞かせてもらおう。
 我々にどんな利益を提示する」

公女「『港湾部の徴税権』なんて、
 喉から手が出るくらい欲しいよね」

豪商「ほ……ほっほっほ、
 なるほど、我らの釣り餌は徴税権か。
 持っておるだけで利益を生み、
 他の商人を出し抜いて、 
 交易の海路すら塗り替えかねん代物じゃなぁ」

男「おい、少女」

公女「……公女、です」じっ

男「……公女。徴税権を渡すというのがどういう事か、
 お前は本当に分かっているのか?」

公女「とうぜん。
 港の利用料の利益や関税を含めた、
 港湾部の徴税から手に入る利益だけが、
 公爵家の収入で自由に使える部分だからね」

男「お前はその公爵家の屋台骨を売り払う気かっ」

公女「こういう時に有効な手段、
 海賊とか船乗りの方が知ってるんじゃないかな」

男「海賊の方が……そうか」

公女「出資権の分割売買と、その配当を使ったシステム。
 要するにジョイントストック(株式・合同出資)だね。
 港湾管理とタリア島の開発事業を、
 それぞれ国策企業として管理して、
 そこに対して商人さんに出資をしてもらうわけ。
 東西の交易の拠点として、
 この島が重要なのはこれまでで分かってるよね。
 それを拡大するって話はあったけど、
 お金が無くてのびのびになってたから……」

男「そして今回の事件か。
 この島を訪れる帝国商人が必ず使う港。
 最低限の利益が回収できると計算で出たのか」

公女「ばっちりね
 お父さんが細かい資料を作っててくれたから、
 計算は簡単だったよ。
 ……計算したのは双子妹ちゃんだけど」ぼそ

男「お前の頭でよく思いついたな」

公女「眼鏡兄ぃの港が狭いって話とか、
 ツンツンの仕事が欲しいって話とか、
 そういう話を聞いてたから、
 前から豪商さんに相談してて、それをちょっと応用したの」
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:52:27.25 ID:Y4SPWTf2o
男「……」

大商人「つまりだ、実際に俺達が手にするのは、
 収税権そのものではなく、
 収税権をもった企業に対しての、
 出資量に応じた発言権と配当金だな」

公女「そういうことだね。
 配当に関しては、直接受け取ってくれてもいいし、
 限定的な免税特権とか、
 家を建てる区域を割安で優先するとか、
 そういう扱いもできるようにするといいかもって、
 アドバイスしてくれた人(双子妹)が言ってたけど」

大商人「……限定的とはいえ、免税特権か」

公女「普通は船で交易してると、
 せっかく利益を生む荷を遠くから運んでも、
 港に入るたびに一割とか置いていくか。
 もしくはその分の現金を支払うことになるよね」

大商人「基本的にはそうだな」

公女「単純に考えるとさ、
 荷物については遠くに運んだ方が儲かるから、
 途中で置いていった分だけ、
 せっかくの仕入れの手間をかけたものが、
 安く取られちゃうことになるよね」

大商人「うむ。現金が用意出来なかった若い時は、
 しかるべき場所にさえ持って行ければ、
 何倍も金になる物品をそのまま置いていったものだ」

公女「それだけに、免税特権はお得じゃない?」

大商人「悪い話ではないな。
 この短時間で用意されたなら随分上等だろう」

公女「よかった……」

公女(家庭教師の人にテストされてた時の感覚だよ……)

豪商「して、私への売り込みはないのですかな?」にこ

公女「ひぇっ?!」

豪商「港は確かに、
 免税特権など使い勝手がよさそうですが、
 その話では、私は町の開発には出資しかねますな」

公女「うぐ」

豪商 にこにこ

公女「……」

豪商 にこにこ

公女「……あいすくりいむ」

豪商「ふむ?」

公女「甘くて、冷たくて、今までに食べたことの無い、
 別世界にいるような気分になる、おかし」

豪商「……それで私に出資して欲しいと?」

公女「うぐ、だ、だって、
 さすがにこれ以上は手段がないし……
 それに、甘い物が食べたくて商人になったってくらい、
 そこまで甘い物に命をかける豪商さんになら、
 金貨の山より新しいお菓子の方が良くないかな?」

豪商「……ほっほっほっほ。
 そうですね、ええ、私の求める物を提示されたなら、
 私もあなたに必要な物を差し出しましょう。
 いや、よい買い物をしました」にこにこ

公女「ほ、ほんとにいいの?」
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:53:01.69 ID:Y4SPWTf2o
豪商「この地中海に響かせましょう。
 ミエディッチ・バンカ・ポポラーレの名を知るもの来たれ、と。
 せっかくなので、タリア商会でも組みますか」にこっ

眼鏡「ぶふぅっ」ぶはーっ

ツンツン「ぎゃーっ、ちょっ、お前!
 なんでわざわざ俺を向いてお茶を噴くんだよ」

眼鏡「いや、そっちしか大丈夫な方向が……
 って、ツンツンなんかはどうでもいい」

ツンツン「酷っ?!」

眼鏡「じいさんっ!
 まさか本当にミエディッチ銀行を動かす気か!」

豪商「本体は破産、解体しましたがね。
 合同出資していた商人達の水面下のつながりで、
 必要な程度には声をかけますよ」

ツンツン「なんだ、それ、すごいのか?」

公女「……ウチが丸ごと買われてもおかしくないかも」

ツンツン「……は?」

眼鏡「テンプル騎士団……別名、巡礼者銀行しかり、
 ミエディッチ銀行しかり、
 名前の知られてる銀行って呼ばれる連中は、
 国の一つや二つ、買いかねんだけの金があるのさ。
 おいじいさん、突っ込むのはいいが、
 余波でこの島を丸ごと吹き飛ばすなよ。
 下手すりゃ騎士団より凶悪だ」

ツンツン「はぁああ?!」

豪商「ほっほっほ、大丈夫ですよ。
 私もこの国を愛する人間の一人です。
 流儀に添う方法で、骨身を惜しみませんよ」

公女「……えーっと、とりあえず、
 タリア島の開発予算は完全に準備できた、ね。
 あははは……はぁ」

ツンツン「なんだよ、一応味方みたいだし、喜べよ」

公女「うん、まあ、あと一歩……
 あとは、青年さんを通じて、
 騎士団にこの条件で押し通すの、が……」ぐらっ

男「っ、おいっ」ばっ

 がしっ

男「大丈夫かっ、何があった!」

 ざわざわ、ざわざわ

  ぐぅぅ……

ツンツン「……おい」

公女「気が抜けたら、
 急に足から力抜けておなかへったぁ……」ぐるぐる

 ぐちゃぁっ

男「大丈夫か?」ぐいっ

公女「え、ちょ、待って、
 さすがに背負われるほどじゃないって!」 

男「うるさい。大人しくしていろ」

公女「ぶう……」

955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:53:37.02 ID:Y4SPWTf2o
男「今夜はこれで解散としよう。
 明日は騎士団代表を交えて会談を行う事になる。
 夜に関わらず集まってくれて感謝する」

 ざわざわ……

------------------------------------------------
  深夜  リベルタの町外れ

 とことこ……

公女「なんか、こうやっておぶさってると、
 懐かしい感じがする」

男「……本当に体調は大丈夫か」

公女「んー、まだ歩きたくない程度には、つかれたかな。
 小さい頃から偉い人達に会ってるから、
 ちょっと話しをするくらいなら大丈夫だけどさ。
 元老院の人達はにらみつけてくるし、
 軍の人達はうろんなモノを見る目だし、
 おじいちゃんたちは出来の悪い生徒を見る目だし、
 ツンツンは空気読めないし……」うにょらー

男「それだけ愚痴が言えるなら大丈夫そうだな。
 突然倒れそうになるから驚かされた」

公女「うん、ごめんね……って、ちょっと!
 ソレより先に言う事とかないの?!」

男「……なにか有ったか?」

公女「……っ」ぎゅーっ

男「ぐふぉ、ま、まて、気道が、つぶれっ……
 ふ、は……ぜーはー。
 養父の苦しみが分かった……」

公女「それは良かったわね」ふんっ

男「文句を言いたいのは俺の方だ。
 どうしても貴族として生きたくないと聞いたから、
 捨てていた名前を使ったというのに」

公女「う、それは、その、申し訳ないけどぉ」

男「おかげで、俺はあの場で非常に肩身が狭かった」

公女「うぐ」

男「加えて、タリア島の案についても、
 ジョイントストックの話しについても、
 先に聞いていれば、話し合いが楽に進行したんだが」

公女「アレについては文句言わないでよ。
 なんか、公女としての覚悟っていうのかな、
 そういうのを振り切ったら、
 急に浮かんだものだし……」

男「そうなのか?」

公女「いやー、覚悟がきまったのはいいけど、
 どうにかして騎士団、というか教会を、
 ごまかして追い返さないといけないでしょ。
 それで、どうやってごまかそうか考えてた時に、
 軍曹が教えてくれた手品師の話を思い出してね」

男「手品師の話?」

公女「注目させるそのウラにネタを隠せって。
 それで、よくあの要求の文面を見てみたら、
 わざとらしいくらい、もうウラが準備してあって」

男「……ふむ、
 帝国の陰謀については分かっていないだろうから、
 開戦のきっかけを回避したかったのだろう。
 だが、既に条件をゆるめた以上は、
 商業区の主張を通すのは難しいかもしれないな」

公女「商業区?」
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:55:27.52 ID:Y4SPWTf2o

男「なに、やろうとした事はそう変わらん。
 双子妹と話して、
 一時滞在者の多い沿岸部については、
 居住区では無く商業区と定義して、
 実質的な割譲の量を減らそうと考えていたんだが」

公女「提案してみないと何とも言えないけど、
 私も難しいと思う。
 青年さんなりの落としどころが、
 リベルタの強調だったんじゃないかな」

男「うむ」

公女「ただ、宿泊施設はいいんだけど、
 その近くにある組合とかの施設はどうかな……。
 騎士団の管理下に入っても、
 もめ事の処理とか雑務が増えたりするだけで、
 あんまりお得じゃないと思うんだよね。
 そういう施設ってある程度広い影響を持った権力が、
 後ろにいて動く事が一つの利点だと思うからね。
 そんな仕事を騎士団の人に任せるくらいなら、
 せっかくだから海賊退治とかしてもらった方が、
 お互いの利益につながるんじゃないかなぁ」ぶつぶつ

男「まあ、そうだな……」

公女「商業区域として渡さない方向にすると、
 青年さんが丸め込まれたみたいで、
 面目を潰しちゃいそうだから、
 一部を保留扱いにすると面目も保てるし、
 そうするとその部分も割譲区域に含まれるけど、
 ウチが管理する扱いになって、
 影響力は保てるし……」ぶつぶつ……

男「……」ぴとっ

公女「……いや、熱はないよ」

男「いや、やはり少しあるんじゃないか」

公女「失礼だよっ。
 普段から真面目に色々考えてるって!」

男「昔に比べて随分冗談がうまくなったな」

公女「むきーっ。
 冗談扱いしたことも、なんだかどさくさに紛れて、
 兄貴っぽくふるまってるのも、
 なんか全部イラってくるっ」

男「年頃の娘が、なにを吠えてる」

公女「男のせいじゃん!」

男「野生にあふれすぎだと言ってるんだ。
 …………まあそんな事はいい。
 それより、真面目に聞きたい事があるんだが」

公女「むぅ、なに?」

男「貴族になりたくないと言っていたのは、
 本心からだったように見えた。
 なぜ今さら急に、転身を考えた」

公女「それはまあ、その……いろいろあって」

男「俺は巻き込まれた人間なんだが」じっ

公女「うぐ。わかってるけど……
 吹っ切れたって言葉が一番近くてね」

男「……人を殺すことにも、吹っ切れたのか」

公女「それは、吹っ切れてないよ。
 でも、それよりも大切な事に、手が届いたから」

男「大切なことか。聞いていいか?」

公女「……笑わない?」
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:56:10.69 ID:Y4SPWTf2o
男「真面目に答えるのならば」

公女「……正義とか、神様とか、王権とか、利益とか、
 いろいろあるよね。
 でも、私って頭が良くないから、
 難しい事は、よくわかんなくてさ。
 一生懸命かんがえたけど、
 どれも、人によって支持する考えが違って、
 どうしたら良いのか、わからなかったんだよね」

男「正義の味方になりたかったのか?」

公女「うーん、そうじゃなくてね。
 どうして他の貴族の人とか、王様とかって、
 戦争とかできるのかなって考えたの。
 自分と同じ神様を信じる人の死に悲しむのに、
 違う神様を信じる人の死体にはつばを吐いて、
 なんで『人が死んでしまった事』を……
 そこにいる、たった一人のかけがえの無い人の死を、
 悲しむ事ができないんだろうって」

男「それを知るために正義や神を考えた、か。
 普通は逆なんだがな」

公女「逆だったら、それも理屈になるんだけどね。
 神が違えば、それは自分の敵だ、とか。
 でも、私にとって、死んじゃった人にまで、
 敵とか味方の違いが有るようには思えないんだ。
 それでも、理解出来ないのは、
 私が頭が良くないからなんだろうなって思ったから、
 できる限りの本を読んで、先生にも聞いて勉強したの。
 ずっと、小さい頃に」

男「答えは、見つかったのか?」

公女「全然見つからなかったよ。
 そのうち、人が死ぬのを悲しいって思う事すら、
 なにか間違ってるような気がしてきて、
 何を信じたらいいか、
 何に希望を持ったら良いのかも、 
 分からなくなっちゃうくらいね。

 そんな時にね、来てくれたんだ。
 私の手を引いて、笑顔に、してくれた人が……」

男「……」

公女「結局私には、人を殺していい理由も、
 人を苦しませていい理由も思いつかない。
 何が正しくて何が間違っているか、
 何が本物か、分からなかったんだ。

 どこに立ってるのか、どこに居たいのか、
 両方わからないのに、道は決まらないよね。

 だからずっと。さまよってたの」

男「その結果が、軍に、家出か」

公女「うん。……でもね、もう大丈夫なんだよ。
 これだけは誰にも間違ってるって言わせないモノを、
 私がもう持ってるって、
 双子妹ちゃんが教えてくれたの。

 苦しかったときに助けてくれた、
 『笑顔の味方』
 っていう、憧れの姿。

 それに気がついたときに、
 自分がどこに立ってて、どこに、どう行けばいいか。
 やっと、見えたんだ」

男「……そうか」
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:56:46.47 ID:Y4SPWTf2o
公女「だから私は、もう迷わない。
 人を殺すとか、殺されるとかそういうのは怖いよ。
 怖いけど、怖いからって、逃げてるだけじゃ、
 きっと誰も笑顔になんかできない。

 私にはわかんない理由で、戦争があるし、
 弱い人を虐げる人がいるし、貧乏だってある。
 でも、そこに苦しんでる人がいて、
 その人に私の手が届くなら助けたい。笑顔にしたい。
 そして、もう、そんな人達が増えないで良いように、
 できる限りの事をしたい。
 この思いを、もう、私は見失ったりしない」

男「……もう、ただ部屋で泣いてるだけじゃないんだな」

公女「追いかけて来たから。
 あの時にお兄ちゃんが手を引いてくれたおかげで、
 私にも光が見えたんだよ」

男「……そんなつもりは、なかった」

公女「でもね、ソレが私にとって、救いだったんだよ。
 それに、私の事を守ろうとしてくれたよね」

男「……俺は」

公女「私は、お兄ちゃんの……
 男の背中を追ってきたから、
 決める事が出来たんだよ。
 手を伸ばして、ぶつかって来られたんだよ」

男「違う。俺は、俺はそんな立派な人間じゃ無い!」

公女「んー、男が立派な人間だ、なんて思わないよ」

男「……なら」

公女「でもね、私の事は笑顔にしてくれたのに、
 自分はいつもそんな風に、不満そうな顔して、
 時々、海の向こうを睨んでたから……

 私が、笑顔にしてあげたいって。
 私がもらった笑顔を、返してあげたいって、
 それが私の、最初の願いだったんだよ」

男「……そんなもののために。
 わざわざ軍に入って、
 危険な海に乗り出したのか」

公女「途中から、
 どうして『そうしたいか』なんて、
 すり切れて、思い出せなくなってたけどね。
 思い出せて、
 隣にいられるようになって、よかった」ぎゅぅっ

男「……なんだ、それは。
 ああもう、まったくもって、いみが、わからん」ぐっ

公女「もしかして、泣きそう?」

男「そんなわけがあるか、ばかもの」

公女「……じゃあ、こっち向いてくれる?」

男「……なんだ」

公女 すっ

 そっ……
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/24(土) 23:58:43.82 ID:Y4SPWTf2o
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   男の独白

 初めて会ったとき、趣味の悪い人形のようだと思った。
 まるで、人生のつまらなさや未来への失望なんかを、
かき集めて固めたような顔だ、なんて感想を持った。

「お前の義妹になる、少女だ。
 仲良くしてやってくれると嬉しい」

 温厚な笑顔に、ほんの少し悲しさをにじませた養父は、
その人形を義妹だと言った。
 一瞬だけ湧いた嫌悪感は、けれどもすぐに鎮火させる。

 俺には命をかけてでも果たしたい目的がある。
 そのために、まず騎士団や軍に入りたかったのだが、
あと数年待たなければ相手にもしてもらえないのだ。

 だから、身体が必要な大きさに成長するまでの間は、この家で面倒を見てもらう必要があった。
 家族ごっこが必要なら、不本意だって参加しよう。

 風変わりな義妹でも、無視していれば問題なんてない。
 そう考えて、俺はただ、よろしくとだけ義妹に言った。


 大好きだった母さん。
 俺の唯一の家族は、海賊にヒドイ事をされたあげくに、
俺の目の前で殺されたのだ、
 俺の命はそれを海賊に後悔させるために使うのだと、
何度も想像の中で呪い殺した神に、誓っていた。

 しかし、この世の終わりのような顔を隠しもしない、
見かけただけで憂鬱になる年下の女の子との同居は、
おもっていたよりずっと、精神的な負担だった。
 そんな不健康な生活に我慢できなくなるまでには、
そう時間もかからなかったように思う。

「本、好きなのか?」
「……よくわかんない」
「ちっ、ならちょっとついて来いよ」

 気分が沈んだら太陽に当たるといい。
 母親に聞いたそんな言葉を思い出したから。

「でも、外に出ると……」
「なんだよ、問題でもあるのか」
「肌が黒くなるって」
「ちょっとなら平気だろ。むしろ健康的だ」

「それに」
「なんだよ、まだあるのか」
「……町の子に見つかったら、石を、投げられるし」
「そんな顔してたら、そりゃいじめられるだろ」
「……」
「そんなに顔するな。俺が、お前を守ってやる」

 そう言いくるめて外に連れ出した。
 そこで初めて、目の前の小さな女の子の笑顔を見て、
少しだけ考えを変える事にしたのだ。

 短い間とはいえ、同じ屋根の下に住む事になる。
 笑えば多少マシに見えるとわかった。
 なら、気が向いたら外に連れ出すくらいはしようと。

 そうしていつしか自分の中で、養父と義妹に対して、
彼らを家族と認めても良いのではないかと、思い始めた。
 その考えは甘く優しく、時間と共に傷を癒やそうと、
俺の心の中を占めていくようになる。

 だから、自分からその暖かくて居心地の良い場所を、
もう二度と欲しないと決めて、飛び出したのだ。

 別れの挨拶は、養父にだけ告げた。
 騎士になるためには身分の証明が必要だという理由で、
これは感傷からではない。
 例の海賊を殺した後に自分の命を絶とうという考えは、
復讐を決めた時に一緒に決まっていたからだ。
 そんな決意で再開を求めそうな相手に声をかけるほど、
趣味が悪いつもりはない。
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:00:37.36 ID:odomHPFPo
------------------------------------------------
  深夜  リベルタの町外れ

男「おまえは、バカだ」

公女「こういう時くらい、もう少し甘くてもいいじゃん。
 キスした直後にバカだなんて」

男「だったら、アホでもトンマでも間抜けでもいい」

公女「そんなに貶めなくても……」

男「俺なんかを追って、憧れたなんて、鼻で笑う」

公女「だって」

男「白髪は期待していたようだったがな。
 お前が、そのムダにあきらめの悪い性格で、
 いったいどんな未来をつかみ取ろうとするのかと。
 はっ、それがまさか――」

公女「まさかじゃないよ。
 だって、男と白髪さんは、一番の友達でしょ。
 あの白髪さんが期待して目をかけてたんだよ。
 私だけじゃ間違うかもしれないけど、
 白髪さんの保証付きなら安心じゃない?」にやっ

男「……」ぽいっ

 どさっ

公女「っったぁ……お尻、打ったんだけどッ」ぎろっ

男「それだけ元気なら自分で歩け」すたすた

公女「あ、ちょ、うわーっ。
 人がファーストチューをあげたのに、
 ムードが無いどころか、文句言って投げ捨てるとか!」

男「ふん、自業自得だ」

公女「そんな事ないって。
 憧れて良かったって、そう言ってるじゃん」

男「……分かってないなら重罪だな」

公女「???」

男「……憧れじゃ無くなってから出直してこい、
 この大バカモノ」ボソッ

公女「文句があるなら聞こえる様に言ってよ!」

男 すたすた

公女「あー、もう! 意味わかんないし……」どたどた


------------------------------------------------
  朝  リベルタ最策会議場 式典スペース

青年「さて、それでは以上の条件で、
 帝国に対する相互防衛条約の締結ということで。
 立会人は教会から司祭殿、
 公爵家からは男殿、
 騎士団からは眼帯でよいですね」

公女「はい、問題ありません」

眼帯「見届けさせていただきます」

男「問題が発生した際には、
 嘘偽りのない証言を行うと宣誓しよう」

司祭「……」

青年「司祭殿も、なにか問題と思う点はありませんね」

司祭「帝国民の移動に四年かけるというのは、
 いささか長すぎではありませんかな」
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:01:20.72 ID:odomHPFPo
男「この島の主要な産業のいくつかに、
 帝国の方が関わっているんだ。
 特に医療については帝国の人間が多い。
 彼らを退去させるならば、
 技術も患者も間違いがないように引き継ぐ必要がある」

司祭「帝国の人間が使う技術など、
 引き継ぐ必要はないと思いますが」

男「引き継いだ技術を使うかどうかはさておき、
 それまでにどのような薬を投与したのかなど、
 彼らが使う技術についての理解がなくては、
 間違った判断をしかねない問題がおおいのだ。

 教会の代理人とはいえ、マータ騎士団との契約だ。
 医療騎士団とも言われる身で、
 まさか患者達を見捨てろとは言うまい」

司祭 ぎろっ

青年「我々は神の剣であると同時に、
 病や怪我といった神の試練と闘う者を助けるのが使命。
 この判断に否やはありません」

公女「我らが神の子を救うためなのです。
 そのために必要な期間だと、ご理解ください」

司祭「……そうですね」

青年「では、互いに署名と調印をしましょう」

公女「はい」

 さらさらー

司祭「確認しました。
 この契約に、祝福のあらんことを」

青年「今後とも友好的な関係を望みます」すっ

公女「こちらこそ」ぎゅっ

青年「……本当に」じっ

公女「本当に」にこっ

青年「では、自分はさっそくこの書面を、
 マータ島を経由してから、リオーマに運びます」

眼帯「……」

青年「部下も待っておりますからね。
 慌ただしくなってしまい、申し訳ありません」

公女「今はそれがよろしいですね。
 でも、次の機会に一緒に食事でも」

青年「今の公女様とは、楽しみです」

公女「む、それはいくら青年さんでもこう……」

青年「冗談です」にこ

青年 とことこ

眼帯「では、馬車へ」

青年「うむ」

 とことこ……

公女「……冗談なんていうんだ」

男「別に、奴も本当に鋼というわけではない。
 お前の『笑顔の味方(笑)』だったか。
 それのように、目指すモノがあるんだろう」

公女「そっか……んん?
 いま、なんか余計なのがついてたんだけど」
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:02:35.33 ID:odomHPFPo

男「さて、形だけでも整えた調印式場を片付けるか」

公女「ねえ、ちょっ、あーもーっ!」

------------------------------------------------
  朝 貸し馬車内

眼帯「……なんだか、あの公女さん、
 今日は別人みたいでしたね」

青年「そういう事もあるだろうな」

眼帯「何か知ってるんですか」

青年「あの人が――俺の尊敬する先輩にして剣の師が、
 彼女の隣に控えていた」

眼帯「あの無愛想な男ですか」

青年「愛想は無いが、良い人だ。
 人の窮状を見過ごすことなく、
 誰に対してもこびて態度を変えることなく、
 奴隷に対しても彼らを尊厳ある人間として扱っていた」

眼帯「でも、そんな事は誰にでもできると思いますよ」

青年「確かにそうだな。
 簡単で、少し考えれば誰にでも出来る事だろう。
 でも、誰もしなかった事だ」

眼帯「……」

青年「正しいとわかっていても、
 疲れそうな行為は敬遠したくなるものだ。
 まして、やらまくても良いと許容する空気があるなら、
 人はソレが出来ないものだろう。
 だが、そこで彼は他の人と違う行動を取った。
 その姿を見たから、
 俺も本当の『騎士』を目指したくなった」

眼帯「なるほど。そんな人間がついて、
 後ろから支持をしていたから、強気になんですね」

青年「……彼女の変化は、
 内面からのモノだろうと思うがな。
 少なくとも、何かの悩みは吹っ切れたのだろう。
 交渉という剣を持たない場だったが、
 船で訓練した時には見えなかった瞳の輝きに、
 危うく自分を忘れる所だった」

眼帯「……もう冬になろうという頃に、春ですか?」

青年「なにを言っている。
 騎士団は神に忠誠を誓った剣だ。
 そんな雑念の持ち合わせはない」

眼帯「失礼しました。
 ……して、どうでしたか。教会の要求は」

青年「これなら教会も満足するだろう。
 最初の条件より割譲する領地が少し減ったが、
 理由を聞けば必要な措置だと納得せざるをえん」

眼帯「では、ほぼ要求そのままで、
 その書類はリオーマに届けられる、と」

青年「そうだな」

眼帯「良ければ見せていただけますか?」

青年「む、よかろう」すっ

眼帯「確かに。しかし……残念ですよ」

青年「何がだ」

眼帯「いえいえ、こちらの事情です。
 だから――とりあえず、殺されてください」
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:03:11.49 ID:odomHPFPo
 ザクザクッッ!!

青年「ぐ、ぁあああっ!」

眼帯「いらぬ手間をかけさせてくれる……。
 さて、それでは有能なる騎士殿に、
 死して後、アラーの祝福あれ」ずっ……

青年「くっ、そう大人しくやられて」ばっ

 ズバシュッ……ガッッ、ガラガラ……

眼帯「……逃がした、か。
 まあいい。あの手傷なら時間の問題だろう。っく」

眼帯(青年の攻撃があと少しズレていれば、
 残った眼まで潰される所だった)

御者「ちょ、ちょっとお客さん!
 スゴい音がしましたが、大丈夫ですか?!」

眼帯「……細かい事は気にするな!」ひゅっ

御者「ひっ」

眼帯「それより港へと急げ、
 もたもたしていると首と胴体が泣き別れるぞ」

御者「いそぎますっ! いそぎますから、
 揺れちゃうんで剣を引いてください!」ガタガタ

眼帯「それでいい」すっ

 ガダガダガダ……ッ

眼帯(それにしても、惜しいものだ。
 もし最初の奇襲で麻痺毒のナイフを刺していなければ。
 そして攻撃が交錯する瞬間に馬車が揺れなければ。
 死んでいたのは私だったかもしれない。
 そこまで練り上げた相手と、
 正面から競い合う事が出来ないとは)

眼帯「ああ、アラーよ、さすがに肝が冷えました。
 だが、まだラッキーは尽きていない!」

眼帯(さあ総仕上げだ。
 砲煙の黒い狼煙を上げて、
 我らが敵を焼き尽くそう)

 ガダガダガダ……ッ


------------------------------------------------
  朝  三番艦甲板

騎士C「そ、その傷はどうなさったんですか!」

騎士D「それに、船長はっ」

眼帯「船長は、騎士団を裏切った……
 それを咎めて、攻撃されたんだっ」

騎士A「やっぱり、奴は」

眼帯「そうだ、教会と騎士団を捨てて、
 この帝国の出島に荷担した!
 奴らは船長を懐柔して、我ら騎士団に攻撃する気だ!」

騎士A「とりあえず、傷の手当てをしろ。
 騎士の大半は、青年に対して疑問を持っていたんだ。
 こんな形で事態が収束したのは残念だが、
 ――あんたが、指揮官だ」

眼帯「……なら、休んでなんて居られません。
 じっとしていてはすぐに島から砲撃されてしまう。
 距離を取って、先に攻撃するのです!」

騎士C「で、でも……」

964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:03:43.21 ID:odomHPFPo
騎士D「あっちには一神教の民間人も」

眼帯「騙されてはいけませんっ!
 騎士団の使者である私が攻撃され、
 騎士団を率いていた船長が籠絡されたのです!
 これはすでに、騎士団の指揮系統を狙った攻撃だ!

 我々が海の底に沈んでしまえば、
 いったい誰が彼らの反乱をリオーマへ伝えるのか!
 事故だったんだろうとシラを切られてしまえば、
 我々はただ無駄死にをする事になるんですよ!
 この一瞬も、連中は我々をまとめて沈めようと、
 大砲で狙いを付けているんです!

 目を覚ませ!
 ココは人を堕落させる悪魔達の島だ!
 『鋼鉄の騎士』さえ堕落させる島だ!
 大砲を向けろ!
 連中に、騎士団の使命を見せつけてやれッッ!!」

騎士達「「了解ッ」」

騎士D「全砲門、開けーッ!」

騎士E「他の船にも伝達ッ!
 交渉は刃を持って決裂された!
 コレより我らは悪魔の討伐を開始する!」

眼帯「狙いは島の居住区と港、そして砲台だ!
 連中に我らの本気を見せつけてやれ!
 一人も逃すな! 燃やし尽くせぇっ!」

騎士達「「了解ッ!」」

 バタバタドタドタ……

騎士A「……眼帯、ムリをするな。
 当座の指揮なら俺でも代行できる。
 はやく目の傷を治療しろ」

眼帯「しかし」

騎士A「俺達に、任せろ。
 まずは指揮官のお前が万全になるべきだ」

眼帯「……わかりました。
 それでは戻るまで、指揮を任せます。

 この戦いは初戦が命運を分ける事になるでしょう。
 烈火の如く攻めたてて、
 彼らの出鼻と戦意をくじいてやってください」

騎士A「心得た」

眼帯「では、すぐに戻ります」

 たたっ

騎士A「よーし、お前ら! 弔い合戦だ!
 弾薬ケチるな、派手にヤレぇっ!」

騎士D「へ? ……誰の弔いです?」

騎士A「あの『鋼鉄の騎士』に憧れた俺達の、だ」

騎士達「「っ、了解ッッ!」」


------------------------------------------------
  リベルタ公爵家 執務室

公女「えっと、とりあえず、
 今日の書類ってここに入れておけばいいのかな?」

男「契約書はこっちだ、バカモノ。
 細かい条件についてはここだ。
 それから公爵が仕事に戻ってから、
 すぐに何があったか分かるように、
 報告書としてまとめておけ」
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:04:13.44 ID:odomHPFPo
公女「……口頭じゃだめかな?」

男「口頭も文書も両方だ。
 お前には『報告、連絡、相談』といった、
 基本的な事項から初めて、
 この手の仕事の知識がまったくないようだな」

公女「それは、その、初めてだし」

男「言い訳をするな。
 それをサボっていたのは他ならぬお前だ。
 必要以上に自分を責めるのも愚かだが、
 安易な言い訳を作って、
 自分から反省の機会を捨てるのは……」ぐちぐち

公女(ああ、長くなるかなぁ……)

 だぁああああんっ!

 だぁああああんっ!

公女「っ、いったい、何がっ!」

男「町を見ろっ、煙だ!」

公女「なんで……。なんで攻撃されてるの?!
 青年さんとはちゃんと契約して、
 騎士団は帰るんじゃなかったの?!」

男「落ち着け」

公女「落ち着いてなんていられないよっ!」

男「いいから落ち着けッ!!」

公女「……ッ」

男「事態は新しい局面になったんだ。
 いま必要なのはなんだ!
 理由の追及よりも先に、一般市民の安全確保だろ!」

公女「っ、うん!」

 がちゃっ

家宰「お嬢様!」

乳母「ああ、どうしましょう」

公女「家宰さん、男性使用人は避難誘導手伝って!
 町の医者は全員、強制的にでも確保!
 軍と併せて計画的に救助に回して!
 避難場所として屋敷の裏をみんなに伝えて」

家宰「既に手配しました」

公女「さすがっ。
 乳母さんは女性使用人を使って、
 怪我した人たちを優先的に、
 この屋敷を解放するから屋内に寝かせて。
 それからお医者さんの補助も任せるからね」

乳母「わ、わかりました……っ」たたっ……

家宰「重傷の人間が増えた場合、
 病床として使える毛布や薬などの物資が、
 足りなくなると思います。
 いかがいたしますか」

公女「それはもう準備してあるから。
 これから私が港に向かう時に声をかけて、
 屋敷まで届けさせる。すぐ来るよ」

家宰「っ、心得ました」

公女「家宰さんは伝達とか終えたら司令部に詰めて。
 こういう時の経験は家宰さんの方があるからね 
 伝令には馬も鳥も使えるだけ使って。
 早ければ、それだけ人が救えるから」
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:05:54.76 ID:odomHPFPo
家宰「かしこまりました」たたっ……

男「俺は双子妹を連れて、騎士団の後ろに回り込む。
 連中はまず港を狙うはずだ、なんとしても食い止め、
 島の軍が動けるようにしてみせよう」

公女「後ろに回り込むって、どうするの?」

男「うちの船は島の港に泊められないからな、
 少し離れた場所に待機させて、
 裏の小さな入り江から上陸してきたんだ。
 今ならまだ、気づかれずに合流できるだろう」

公女「じゃあ、側面支援は任せたから。
 軍の人には攻撃しないように伝えておくね」

男「頼んだぞ。だが1対11だ。
 それほど時間は稼げんからな」

公女「うん。……あ、そのっ」

男「なんだ」

公女「……帰って来たら、話しが」

男「俺もある。ムリをするな。危ないと思ったら逃げろ」

男 だだっ

公女「……私は」ぐっ

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  朝  公爵私室

 こんこんこん……がちゃ

公女「お父さん」

公爵 じっ

公女「喋れる? 平気?」

公爵「……まかせ、すま、」

公女「大丈夫。私に任せて」

公爵 ……こくり

公女「ただ、お父さんには悪いと思うけど、
 この屋敷を怪我とかした人に開放するから」

公爵 にこ

公女「それじゃ、ごめん。いくね」たたっ

 ばたん

公爵「……皆を、頼む……っ、げほっ、げほっ……」

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  朝 リベルタ軍基地

軍幹部B「いいかてめぇらぁ!
 お前達は街区の避難誘導だ。
 派手じゃねぇからって手ぇ抜くなよ!
 装備は軽装で、三人一組で行動しろ。
 暴れる奴がいたら、殴って寝かせてから連れてこい!」

兵士達「「「了解っ」」」

 ざっざっざっざ……

軍幹部A「君たちは砲台に向かってくれ。
 おそらく敵も集中して狙ってくるだろう。
 最も危険な場所だ。
 だから私は言わなければならない。

 親や家族、恋人、友人、皆を守れ!
 守るために、死んでくれ!
 弾幕を絶やすな、仲間と故郷を守ってくれっ!」
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:06:50.33 ID:odomHPFPo
兵士A「なぁに、俺達が全部沈めてやりますよ!」

兵士B「普段おれの事、臭いとか云う娘に、
 お父さん格好イイって云わせてやります!」

兵士C「くっそー、今週末はデートだったのに!」

兵士D「どうせ脳内嫁だろ?」

兵士C「ふふん、そんなワケがないだろ?
 パン屋の清楚ちゃんと付きあう事になったのさ」

兵士達「「「お前は逝って良し!!」」」

軍幹部A[無駄話をするな! 砲台まで駆け足!」

 ざっざっざっざ……

------------------------------------------------
  昼  リベルタ港

港湾職員A「けが人は優先的に荷台に載せて搬送しろ!
 元気な奴はこっちで、崩れた建物の中にいる奴、
 救助するのを手伝ってくれーっ!」

港湾職員B「おい、次の弾がくるぞーっ!」

眼鏡「全員、物陰に隠れて耐衝撃体勢っ!!」

 だぁぁあああんっ!!

 だぁぁあああんっ!!

眼鏡「怪我人報告!」

港湾職員C「軽傷二名、重症一名!
 軽症のお前ら、重症のヤツ連れて退避しろっ」

眼鏡「お前も連中と一緒に行けっ。
 ……ココは俺が引き受ける」

港湾職員C「いえ、大丈夫です、自分もまだやれます!
 俺がココを守らず、誰が守るんですか」にかっ

眼鏡「ムリはするなよ。
 もうすぐ軍の連中が来る!
 そうしたら俺達は退避だ」

港湾職員達「「「はいっ!!」」」

港湾組合長「……ワシ、何もせんでも、
 全部やられてしもうたんじゃが」

眼鏡「アンタもその筋肉が見せかけじゃないなら、
 さっさと前にでてみんなの手本になってやれ!」

港湾組合長「お、おう!」だだっ

眼鏡「ったく、緊急時に役に立たない上も考えもんだな」

 ぱからっぱからっ

公女「状況はどう?!」

眼鏡「さて、その上の暴れん坊公女はどうかな」

公女「なに?」

眼鏡「何でもないさ。
 ……状況は良くない。
 一般の区域はあまり被害がないが、
 軍用の区域は集中砲火されている」

公女「狭い島だからとはいえ、
 弱点がばれてる戦闘は辛いね。
 海に出られた船は」

眼鏡「出航出来たのは二隻。
 後は軍が到着し次第だ」
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:07:32.40 ID:odomHPFPo
公女「その二隻に連絡できる?
 『側面から味方の支援が有る』って」

眼鏡「味方? ああ、やっておこう。特徴は?」

公女「海賊船」にやり

眼鏡「……何があったか、後でしっかり聞かせるんだな」

公女「もちろん!」

港湾職員D「軍の人達が到着しました。
 損傷の少ない後二隻がでます!」

眼鏡「わかった、軽傷者は悪いが放置だ。
 重傷者の介助以外は全員、二隻の準備にかかれ!
 砲台に連絡、その二隻が港から出るまでは、
 意地にかけても沈ませるなよ!」

港湾職員D「了解!」

公女「それじゃ、私も行くね」

眼鏡「行くって、そっちは」

公女「もちろん、最前線に出る!」

眼鏡「何を考えてるんだ。
 責任者は責任者らしく、大人しくしていろ」

公女「責任者だから、一番前に行くんだよ。
 それに、出来そうだったら直接交渉に乗り込む!
 っていうか、やってやる!」たたっ

眼鏡「ふざけんな! そんな事が出来ると……
 あぁもう、くそっ!
 無事に帰ってこい!」

公女 にこっ。たたたっ

港湾職員B「おいっ! 砲撃来るぞーっ!」

眼鏡「全員、ひるむな!
 なんとしても軍の船を港からだせえっっ!!」

 だぁぁあああんっ!!

 だぁぁあああんっ!!

------------------------------------------------
  昼  フリークス・パイレーツ甲板

男「準備が出来た順に撃ちまくれっ!
 連中の注意をこっちに向けさせるんだ!」

狼「あーもう、帰って来たと思ったら、コレって!
 人使い荒すぎでしょ……」

双子妹「まあ、仕方無いでありましょう。
 船長殿の家族のためでありますから」にぱっ

包帯「ん、リベルタって公爵家しか無かったよね?」

双子妹「男さんは、だからもと公子でありますな」

包帯「……後で文句の二つや三つ、
 云わせてもらおうかな」

男「ついでに殴られてやっても構わん。
 だから今は」

包帯「分かってるよ。
 仲間の、家族がかかってるんだからね。
 それに……騎士団の連中だって嫌いなんだ。
 良い機会だから、特性の砲弾をたっぷりと、
 召し上がっていただこうか」にこ

狼「今はいいけど、
 男は後で毒でももられるんじゃない?」ぼそっ
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:09:06.96 ID:odomHPFPo
男「……気をつけておこう」

双子妹「誰か装填手伝ってほしいであります」よろよろ

狼「あ、ごめんっ」

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  昼 ディオイツ艦隊・三番艦 会議室

騎士C「港湾部の損壊、およそ四割に到達!」

騎士D「側面から現れた謎の船ですが、
 どうやら海賊……
 ジョリーロジャーはマスケットに悪魔の魚!
 噂のフリークス・パイレーツのようです」

眼帯「はっ、現れましたね。
 港に船がないからどこに行ったかと思えば……
 三隻を彼らに割いていい!
 連中を先に潰すんだ!」

騎士A「正面港から出港した軍艦、
 二隻のうち一隻に側面から砲弾が命中!
 あとの船も軍港も、
 そのまま壊れてくれりゃ良いんだが」

眼帯「そう簡単に終われば良いんですがね。
 それより命中率が落ちてますよ。
 もっとしっかり狙って撃たせてください」

騎士A「わかった、周知徹底させる」たたっ……

騎士E「報告っ、報告です!」

眼帯「何がありましたか」

騎士E「艦隊左舷より、複数の船が接近!」

眼帯「交戦している事に気がつけば、
 商人なら帰るでしょう」

騎士E「いえ、速度を緩めるどころか加速して、
 こちらに向かって三隻が、
 まさか、うそだろ?! ――突っ込んできます!」

眼帯「っ、なんだと!?」

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  昼 パリウガ艦隊

赤毛「あなた……リベルタ島が……
 酷いわ、あんなの、町に砲撃なんて」

双子姉「お姉ちゃん、大丈夫かなぁ……」

町長「……これが、騎士団か。
 これじゃ、海賊と変わらないじゃないか」

パウリガ兵A「けっ、胸糞わりい」

パウリガ兵B「騎士団っては、
 人の命を何だとおもってやがるんだろうな」

パウリガ兵C「く、武装がありゃぁ、あんな奴ら!
 町長! あんなの見過ごせねぇよ!」

パウリガ男D「あんな非道な連中、
 俺達で蹴散らしてやろう!
 町長、突撃の許可をくれ!」

双子姉「……島の船が二隻、じゃない、三隻に、
 援護するうちの船が一隻。
 これじゃ、勝ち目なんて……」

赤毛「大丈夫よ、双子姉ちゃん。
 パリウガの二隻が加われば、
 半分より多くなるわよ」にこ

双子姉「でも、この船は非武装で」
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:09:34.34 ID:odomHPFPo
赤毛「船は非武装でも、
 乗ってるのは精強な兵隊さんなのよ?」

パリウガ兵A「俺達をなめるなよ?」にやり

パリウガ兵B「こないだは留守にしてたが、
 なぁに、海賊だろうが海賊まがいの騎士団だろうが、
 俺達にかかればちょちょいのちょいさ」

パリウガ兵C「うちのおっかさんを守ってくれたんだ。
 その恩返しはしないとよ!」

赤毛「みんな、あなたに恩返しがしたくて、
 この船に乗ることを選んでくれた人達よ」

双子姉「三隻、全部?」

赤毛「そう、三隻全部!
 いっぱいになって、クジで決めたくらいよ?」、にこ

双子姉「えへへ」

町長「まさか、お前まで志願するとは、
 思っていなかったがな」

赤毛「そのために現地をとったんだもの」にぱっ

町長「……」

赤毛「あなた、みなさんを、助けましょう」

町長「……」

双子姉「町長さん……」

町長「…………双子姉くん」

双子姉「うん」

町長「君が、息子達に剣を教えてくれたそうだね」

双子姉「すこしだけ、だけどね」

町長「そうか。彼らは、どうかな」

双子姉「……強くなると思う。
 良くも悪くも、一生懸命だから」

赤毛「あなた、今は」

町長「黙っていてくれ。
 続きを、頼む……」

双子姉「誰も助けられないのはもうイヤだって、
 強くなろうとする理由があるの。
 だからきっと、強くなる。
 もう、逃げなくても良いように」

町長「もう、逃げなくても良いように……か」

双子姉「みんなが逃げられるように戦う人がいたって、
 みんな、わかってくれたから」

パウリガ兵A「お前さんも戦ってくれたんだろ?」

パウリガ兵B「そのお仲間も!」

パウリガ兵C「海賊の癖に、カッコつけやがってなぁ?」

双子姉「次があっても、
 今度は逃げるだけじゃなくて良いようにする。
 そう云って、がんばってるよ」

町長「……そうか。
 彼らは、立ち向かう事を選んだか」

971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:10:33.67 ID:odomHPFPo
双子姉「……町長さん。
 あたしは行くよ。一人でも。
 あたしの仲間があそこに居るの。
 あの黒い船。
 あそこでみんなが、きっとあたしを待ってるから。
 あそこにあたしの戦うための場所があるからねっ」

?「……双子姉さん、自分もいくっすよ」

双子姉「あ、うんうん。
 じゃあ二人ででも、だねっ」にぱっ

町長「……」 

赤毛「あなた……」

町長「ここで尻込みしてしまったら、
 子供達の前で、もう胸を張れないんだろうな」

赤毛 ぎゅっ

町長「全艦隊に連絡を。
 これより騎士団に弓引いて、
 民間人救出を念頭に置いた戦闘に入る。
 すまないが、父親の意地に付き合ってくれ」

パリウガの兵A「任せてくれよ!」

パリウガの兵B「俺達だって、
 自分らのガキ共にいい顔がしたいしな!」

 ひゅぉぉおおお……

町長「良い風だ。
 追い風を受けて全速前進。
 この艦を中心に左右へ陣形を組んでくれ。
 この子を、双子姉くんを、まずはあの海賊に届けよう」

パリウガ兵A「それだけかっ?!」

町長「その後は……
 こちらの艦隊は非武装だ。
 近くの船に乗り込んで、白兵戦で片を付けるぞ」

パリウガ兵達「「「望むところだ!!!」」」

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  昼過ぎ ディオイツ艦隊三番艦 会議室

眼帯「くっ、港への攻撃を一時中断、
 近づいてくる連中に砲撃だ!」

騎士E「船長、間に合いません!
 さっきの港への一斉射撃で、再装填がっ」

眼帯「くっ、二隻を壁にして道をふさげ!
 白兵戦で騎士団に勝てると思うなよ!」

騎士E「通信士っ! 二隻に壁を作らせろ!」

通信士「もうやってる!
 ……く、連中が早すぎる!
 間に合うか、間に合え! 間に合ってくれ!!」

騎士D「ああくそっ!
 一隻抜けた! 艦隊陣形を抜けて、抜けて?
 ちぃっ、海賊と合流する気か!」

騎士E「……装填出来ましたが、どうしますか」

眼帯「……ここから向こうにむけて撃てば、
 仲間荷まで当たる可能性がある。
 港に向けて」

騎士F「伝令っ、伝令!!!」

眼帯「あぁっ?! 今度はいったい何なんだ!!
 リヴァイアサンでも襲ってきたか?!
 まさか星でも降ってきたか?!
 そうじゃなかったら忙しいんだ、後にしろ!」
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:10:58.37 ID:odomHPFPo
騎士F「その……まさかです」


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 海賊船団リヴァイアサン 旗艦

客1「いやぁよかった、よかった。
 なんとか祭りに間に合ったな」

禿頭「騎士団連中を捕捉した!
 『海賊』の船は交戦中か――ならそっちからだな。
 こないだのエモノを奪われた礼も兼ねて、
 連中ごと沈める勢いで砲弾ぶちこめ!
 今日の弾代は依頼主持ちだ、たっぷり使ってやれ!」

海賊達「「「おぉおおおお!」」」

禿頭「船団の全員に告ぐ!
 俺達が飲み込むのは、騎士団の船だ!
 名前に恥じるような弱い奴は、
 俺が海に突き落としてやるからな!!」

海賊達「「「うぉおおおおおお!!!!」」」

客1「おう、調子が良いようだな、我が息子」

禿頭「久しぶりに親父殿が隣にいるんです。
 これでふんばらねぇってことはありやせんよ!」

海賊達「おう!」「俺達の活躍、みててくだせぇ!」

禿頭「親父殿が動くなら、
 俺達が手となり足となり動きやしょう。
 あの時のご恩、ようやく返せそうで嬉しいです」

客1「そうかそうか、そんなら親孝行だと思ってよ、
 たっぷり働いてくれや」にか


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 海賊船ステラ・カデント 旗艦

客2「おおい、もうちょっと速度は出んのかのう」

海賊A「文句言うなら、じいさん達も動いてくれよ!」

客2「ふぉっふぉ、わしゃ持病の腰痛が」

海賊B「いったい、あんたなんで乗ってんだよ!」

客2「なんで、って、そりゃぁのう」

銀髪「この船の本来の持ち主だから、だよ」

海賊C「船長! ……持ち主って、まさか」

客2「今はただの老いぼれじゃよ。
 いやぁ、すまんな。
 おぬししか、呼んで来られる範囲におらんで」

銀髪「借りさせていただいている船です。
 どうぞ、私達共々、お使いつぶしください」

客2「譲った船じゃとゆうとろうが」

銀髪「いいえ、それでもあなたは、我らが長です」

客2「相変わらず、気取った男じゃ。
 ほれ、あっちは『海賊』救出に向かったようじゃ。
 おぬしはどうする」

銀髪「では、あの騎士団の中心をなしている、
 黒くて大きい、そして堅そうな船でも沈めますか。
 アレは襲い甲斐がありそうです」にこり

客2「ほっほっほ……
 さて白髪よ、男よ。
 お前達が守りたいと云ったあの少女(かのうせい)
 その先を、ワシらにも見せてもらおうかのう」
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:11:48.62 ID:odomHPFPo
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  昼過ぎ ディオイツ艦隊三番艦 会議室

眼帯「スピエナとイチアリアの大海賊じゃないか!、
 なぜ揃ってこんな場所にいるんだ!」

騎士A「んなこと聞かれたってわかりやせんよ。
 それより、ステラはこの船を狙ってやがる」

眼帯「大丈夫だ、この船は特製だからな。
 海賊が使う、安い木製の砲弾じゃ、
 早々の事で沈んだりせん!」

騎士A「それでも数に限度があらぁ!
 今はまだ外壁が耐えてるが、
 当たり所が悪けりゃ陥落する!」

眼帯「くっ、ステラ・カデントに二隻回せ!
 地中海の誇る対海賊の要が我ら騎士だと、
 思い出させて震えさせてやれっ!
 早々に片付けて他に戦力を回せるようにしろ!」

騎士D「フリークスの逃げ足が速くて、
 とうとう所属不明の非武装らしい船と、
、リヴァイアサンに合流されました!
 一対三から五対三になって、さすがに分が悪いです!
 味方を送ってやってください!」

眼帯「そんなに回せるワケがないだろう!
 正面にもまだ三隻の船がいるんだ。」

騎士E「切り札にして旗艦の三番艦を交えても、
 奴らと我々の差は三対四か。
 消耗戦になれば補給の聞かない俺達が不利だ」

騎士A「くそったれ!
 先に港を潰したのに鼠のようにわらわらと!」

眼帯「鼠、そうだ、鼠だ……」

騎士A「あぁん、鼠がなんだってんだよ」

眼帯「そろそろ鼠が動く頃だと、
 そう言ってるんだ」にやり

騎士D「船長! 町の中で煙が上がってます!
 数は四、いずれも砲弾が入った場所以外です!」

眼帯「きましたか」にやり

------------------------------------------------
 港湾近くの街路

司教「あっははははははははははは!!!」

眼帯『町の人間は騎士団をだまし討ちしました。
 この手紙を読んだら、
 事前に準備された戦力で町の中から襲ってください。
 特に、港を精力的に、派手に!』

司教「燃え上がれ、燃え上がれ!
 全てを『アカ』で埋め尽くせ!
 帝国の教えに従う人間など、
 殺し尽くしてしまえばいいのです!」

傭兵隊長「へっ、さすが、大虐殺の指導者だ!
 狂ってやがルな。
 イーイ具合に狂ってやがル」にやにや

司教「狂っているのはこの町の住人です。
 彼らの魂を救うため、
 いざ剣を持って追うのです」

傭兵A「連中相手に奪っていいのか?!」

司教「連中は人にあらず!
 連中がため込んでいる財産を奪え!
 連中がため込んでいる悪徳を世に還元するのです!」

傭兵達「奪え、奪って奪って奪い尽くせ!」
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:13:39.06 ID:odomHPFPo
傭兵B「連中だったら犯していいか?!」

司教「全てが終わった後に、徹底的にやりなさい。
 救われ難い魂にも、
 我らが神の教え子達に貢献したなら、
 少しは神の目こぼしがあるでしょう。
 情けをかけるのはすばらしい事です!」

傭兵達「よっしゃぁあああ!」
 「犯せ、犯して犯して犯し尽くせ!」

司教「いざ、いざ、この穢れた島を浄化するのです!」

傭兵隊長「そんじゃぁお前ら行動開始だ。
 第一部隊は島北部に進軍。掠奪だ。
 金貨を飲み込んでるやつがいるかもしれねぇ。
 腹かっさばいても取り逃すなよ!」

傭兵達「「「おうっ!」」」

傭兵隊長「第二部隊、お前らは中央部で派手に動け!
 壊して燃やして爆発させろ」

傭兵達「「ひゃっはぁああ!」」

傭兵隊長「第三部隊、お前らは俺と一緒に港湾部だ。
 派手でも愉快でもないが、クライアントの御指示だよ。
 さっさと殺し尽くして、破壊して、
 楽しい楽しい戦争に加わるぞ!」

傭兵達「「へーい」」

傭兵隊長「がんばった第三部隊員は給料五倍な」にや

傭兵達「「URYYYYYYY!!!」」

司教「さあ、狂炎の煙を町中から立ち上らせるのです!」

------------------------------------------------
  昼過ぎ  ディオイツ艦隊三番艦 会議室

騎士A「いったい、何があったってんだ?」

眼帯「青年さんに襲われた後に、
 港にいた人に使いを頼んだんですよ。
 教会に、交渉が決裂したことを伝えて欲しいと。
 教会は万一に備えて兵力を蓄えていると、
 事前に教えてもらっていましたから」

騎士C「んで、町の中で誰かが暴れてるのか」

眼帯「あの司教がバカで無ければ、
 効率よく兵士を減らすために、
 まず港を破壊するはずです。
 見える場所で一般人が殺されていれば」

騎士D「連中、少なくとも一隻は駆け戻るか!」

眼帯「その背中を狙いますよ!」

騎士C「おう!」

騎士A「…………」

------------------------------------------------
  昼過ぎ リベルタ艦隊 旗艦

公女「町の状況は!」

兵士A「なんとか保たせているらしいが、
 まずいぜ、伍長!
 港にも敵兵がいるのに人、誰も来ないらしい!」

兵士B「町の中程で派手に煙が上がってる。
 たぶん、そっち方に目が行ってるんだろう。
 あの辺りは木製の建物が少ないから、
 後回しにしたって問題ねーのに……」

975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:14:28.93 ID:odomHPFPo
軍幹部C「町中の避難指示は幹部Aか。
 派手な見てくれに騙されおって……」

兵士B「よく分からないけど、
 たくさん味方が来てくれてますし、
 一隻だけ、一般人の保護に戻らせましょう!」

公女「……」

軍幹部C「そうだな、一号を回頭し、
 港湾部で暴れている連中の対処に当たらせろっ!

兵士A「はっ、りょうか……」

公女「待って!」

兵士A「なんですかっ」

公女「いい。大丈夫だから全館前進!」

兵士B「大丈夫って、んなわけないでしょ!
 今は職員がまとまってそこらの物で応戦してますが、
 すぐにやられちまいますよ!」

公女「大丈夫、大丈夫」ぎゅっ……

軍幹部C「……全艦隊に連絡。
 進路乱すな、全速前進!
 敵を倒すまで帰れると思うな!
 陸は仲間が守ってくれる!!!」

公女「Cさんっ、この船は南西方向に。
 あの、協力してくれてる海賊と合流させて」

軍幹部C「しかし……」

公女「お願い」じっ

軍幹部C「……分かりました。
 者共! 血路を開けぇっ!!」

兵士達「「了解!!」」

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  昼過ぎ リベルタ港

眼鏡「まだか、まだかまだかまだか……っ」

傭兵A「いっただきまーっす!!」ばっ

 すかっ……

 ずばしゅっ!

傭兵A「へっ?」ばたん

眼鏡「ちっ。眼鏡を汚すなよ……」かちゃ……

傭兵B「くっ、ココに使える奴がいるぞっ!
 取り囲め!」ちゃきっ

眼鏡「危なくなってから人を呼ぶなんて、
 今さらすぎるだ、ろっ!」ひゅっ

 ガンガンッ、ズバシュッ……

傭兵B「なんで、ホワイトカラー(事務員)が」ばたり

眼鏡「ったく、港湾職員なめるなよ?
 相手は荒くれ飲んだくれだ。
 町中よりも武器を持った荒くれが多いこんな場所で、
 無防備なわけがないだろう」

 すっ……

傭兵隊長「なぁんて、後ろががら空きだぜ!」

 ギャィインッ!

眼鏡「くっ、ぐぅう」
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:14:56.67 ID:odomHPFPo

 ギリギリギリ……

傭兵隊長「そんなら、どれだけできるか見てやるよっ!」

眼鏡「くっ」すっ

 ギンッ、ガギンッ、ドガッ

眼鏡「ぐぁあっ」

傭兵隊長「ほれほれ、もっと動きをよく見てみろよっ。
 どんどんレベルを上げてくぜ!」

 ガガッ、ガギィンッ

傭兵隊長「そんな程度で勤まるのかよ?
 戦う港湾職員さんよっ!」

 ギャインッ、ガァアンッ、ギンッ

傭兵隊長「どうしたどうしたぁっ!
 大口叩いたワリに、弱いんじゃねぇかぁ?!」

眼鏡「……実は荒事は軍が処理してくれるからな、
 軍が来るまで生き延びられる程度の、
 最低限の訓練はしてないんだよ!」

 ガガッ、ギャンッ、ガァンッ

傭兵隊長「おー、おー。だったら強い強い。
 十分強いぜ……ま、俺ほどジャねぇけどナっ」

 ズバシュッ……

眼鏡「ぐがぁああっ」

 グリッグリッ

眼鏡「ぁあああ、がああ」

傭兵隊長「俺はホワイトカラーってのが嫌いでな。
 机に座って偉ぶって、
 そんで自分らが世の中を回してると思ってやがる。
 そんならその立派な羽ペンで、
 俺らを殺して見せろってなぁ」にたり

眼鏡「ぜ、は……たしかに、羽ペンじゃ殺せなさそうだ」

傭兵隊長「なんだよ、もちょっと気の利いた事言えよ。
 命乞いのコツは、相手を愉しませることだろー。
 算数の前に、そいつを勉強すべきだった、なっ!」

 ヒュッ……

 キィンッ、ズバッ

傭兵隊長「くっ、痛ぇなぁ」ぎろっ

軍曹「待たせた」

眼鏡「遅いっ!」

 ギンギンッ、ガギャン、ザシュッ……

傭兵隊長「クソっ、運が、なかったか……」

軍曹「違うな。想定が足りてなかったんだよ」

眼鏡「云ったろ……ぐ。
 軍が来るまで、保つ程度に鍛えてるのさ」

傭兵隊長「はっ……この俺が、負けた、か」ぐらっ

 ざっぱーん……

軍曹「コイツで遊ばず、殺していれば良かったものを」

眼鏡「……おい軍曹、てめぇの弱みバラすぞコノヤロ。
 少女に強制告白させてやるッ」
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:15:40.74 ID:odomHPFPo
傭兵隊長「俺はホワイトカラーってのが嫌いでな。
 机に座って偉ぶって、
 そんで自分らが世の中を回してると思ってやがる。
 そんならその立派な羽ペンで、
 俺らを殺して見せろってなぁ」にたり

眼鏡「ぜ、は……たしかに、羽ペンじゃ殺せなさそうだ」

傭兵隊長「なんだよ、もちょっと気の利いた事言えよ。
 命乞いのコツは、相手を愉しませることだろー。
 算数の前に、そいつを勉強すべきだった、なっ!」

 ヒュッ……

 キィンッ、ズバッ

傭兵隊長「くっ、痛ぇなぁ」ぎろっ

軍曹「待たせた」

眼鏡「遅いっ!」

 ギンギンッ、ガギャン、ザシュッ……

傭兵隊長「クソっ、運が、なかったか……」

軍曹「違うな。想定が足りてなかったんだよ」

眼鏡「云ったろ……ぐ。
 軍が来るまで、保つ程度に鍛えてるのさ」

傭兵隊長「はっ……この俺が、負けた、か」ぐらっ

 ざっぱーん……

軍曹「コイツで遊ばず、殺していれば良かったものを」

眼鏡「……おい軍曹、てめぇの弱みバラすぞコノヤロ。
 少女に強制告白させてやるッ」

軍曹「いや、間に合った俺に感謝しろっ!
 じゃなかった、怪我は大丈夫か」(///

眼鏡「右腕が、動かないな」

軍曹「ちっ、ずたずただな……
 お前は後方にさがってろ。
 後は俺達やってやる!」

眼鏡「ああ、そうだな……任せた」よろ……

軍曹「……よく、頑張ってくれた」

眼鏡「当たり前だ」

------------------------------------------------
  昼過ぎ リベルタ街区

ツンツン「こっちだーっ!
 こっちはまだ火がまわってないぞー!
 健康な奴はけが人を助けてやってくれ!」

ちびっこA「あー、ツンツンいたーっ!」

ちびっこB「おっさーん、ちょっとコッチー」

ツン「だれがおっさんだっ! 
 お前ら早く避難しろよ、危ないぞ?!」

ちびっこC「あんな、あんな。
 アッチに倒れてる人がいるんだ!」

ちびっこA「でも、重くて運べなくてね」

ツン「あ、ああ。わかった。
 助けに行くから、お前らは大人と一緒に避難しろ?」

ちびっこB「よーし、お前ら、いくぞーっ!」

978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:16:06.23 ID:odomHPFPo
ちびっこ達「「「おーっ!」」」

ツン「……ちっ、アッチは人気がねぇし、
 俺が行くしかねぇかよっ、たく」

 たたたっ

ツン「くっ、コイツ、
 矢尻十字のマントって騎士団かよっ!」

ツン「お前らが来たから、この島がこんな目に」

 ザッ……

ツン「…………コイツは、見捨ててもいい。
 こんな、やつ……」くるっ

傭兵C「ひゃっはーっ、八人目ぇーっ!」

 ズバ……ガッ

ツン「うわぁああ…………?
 ん、ん? あれ?」

傭兵C「……くっ、この、このぉっ」がっ

青年「……くっ」

 ヒュッ、ダァアンッッ!!

青年「すまんが、剣を借りる」

 ズバシュッ

ツン「ひ、ひぃっ」ズリズリッ

青年「ふ、ぐ……はぁ、はぁ……」

ツン「……」

青年「……お前は、町を、襲っているのか?」

ツン ブンブンブンッ

青年「そう、か……なら、いい……」ゆらりっ

ツン「……な、なあ、あんた!
 騎士団なのに、俺を殺さないのかよっ」

青年「意味が、わからん……。
 いやそう、か。
 眼帯め、騎士団を、煽動したか……」

ツン「いや、眼帯って誰だよっ!」

青年「騎士団の、裏切り者だ。
 俺は、この町を、守るために、来た」

ツン「……」

青年「く……港は、どっちだ……」

ツン「み、港はあっちだけどよ。
 そんな怪我じゃ、着いても死んじまう……」

青年「構わん。
 俺には……騎士団を、止める、義務が」くらっ

 がしっ

ツン「……ダメだ、行ったら本当に死んじまう!」

青年「だが、だが……」

ツン「……」

青年「俺は、止め……」

ツン「くそっ、俺はこんな役ばっかりかよっ」ぐいっ
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:17:37.67 ID:odomHPFPo
 だだっ

青年「お、おい……」

ツン「黙ってろ。
 俺が港まで運んでやる!
 大工の体力なめんなこのやろっ!」

青年「……すまん、頼む」

------------------------------------------------
  夕方 海賊船フリークス・パイレーツ

公女「みんなっ!」

男「来たか」

公女「ごめん、来て早々だけど、
 みんなに、頼みたい事があるの」

男「言ってみろ」

公女「相手の旗艦……あの大きい黒い船は、
 たぶん普通に戦ってたら、戦力を集中しないとダメ。
 でも、敵の数が多くて、ソレも出来ないの」

男「ああ」

公女「だから、一番船足の速い、
 この船で、あの船に横付けして。
 彼が居るから、一番早いこの船を。
 こんな戦闘、何も得る物なんてない。
 こんな戦闘、誰も喜ばないはずなの、
 終わらせたいのっ」

男「……」

公女「だから、私に力を貸してくださいっ」ばっ

男「……待っていた」

狼「まったく、遅いわよ」

双子妹「もう準備出来てるでありますよ」

双子姉「置いて言っちゃおうかって、
 話してたくらいだもんねー」にぱっ

包帯「少女くんが最後なんだからね?」にこ

公女「みんな……」

狼「その男がさ、頭下げて頼むんだもん」

包帯「ははっ、砲弾の雨が降ってなかったら、
 大嵐を疑わないといけない光景だったよね」

男「お前ら……」

双子姉「『がはは、水臭ぇ事してんじゃねぇえよ』
 って、言われちゃでありますよ」にぱっ

公女「……必殺特技の一つ、だっけ?」

双子姉「うん! 物まねだけど、言いそうでしょー」

公女「そうだね……」にこ

男「文句があってももう聞かんからな!」

包帯「ないない。ふふ」

狼「いまさら」

双子「「ねーっ」」

公女「うんっ」

?「……自分も同行させてもらうっすよ!」
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:19:59.98 ID:odomHPFPo
■「M∀化セ□!」

男「帆をあげろーっ!
 オールを動かせ!
 全速前進、ヨーソローッッ!!」

全員「「おうっ!!」」

■「UBOAAA∀∀∀∀!!!」

 ザァアアア…………

------------------------------------------------
  夕方 ディオイツ艦隊三番艦 甲板

騎士A「くそっ、合流されたっ。
 どうする、連中が囲みを破って来るまで、
 そうかからんぞ!」

騎士C「いやまて、連中帆を張って……
 まっすぐにこっちに向かって来やがる!
 特攻する気だ!」

騎士D「さすがに、横っ腹にぶつかられたら沈むぞ!
 回頭急げ! くそっ、眼帯はどこだ?!」

騎士A「どうせ一時の指揮官だっ、
 探す人員が惜しい、後で出てくるはずだ!
 かまわん、回頭して砲撃!」

騎士達「了解!」

------------------------------------------------
  夕方 海賊船リヴァイアサン

■「UBOAAA∀∀∀∀!!!」

 びりびりびり……

海賊A「うぐ、ああ」

海賊B「このこえ、聞いてるだけで、気持ち悪く……」

禿頭「ひははは、こりゃぁたまらねぇ。
 肝の奥から冷えるような声だぜ。
 さすが、フリークス・パイレーツ。
 敵に回さなくてよかったぜ、ほんと」

客1「あの速度、うちの最高速の倍はでてるだろ……
 ったく、俺達の肩入れなんかなくても、
 アイツラだけで片付いたんじゃねぇか?」

禿頭「そんな事いわれたら海賊の名折れだろ、親父!
 全員、手を止めるなよぉ!
 俺達だってリヴァイアサン(海龍)だ!
 声をあげろ!
 砲弾をぶちかませ!
 最後の追い込みに、アイツラの道を開いてやれ!」

海賊達「「「うぉおおおおっ!!」」」

------------------------------------------------
  夕方  ディオイツ艦隊三番艦 甲板

騎士C「あたれ、当たれよぉっ!」

騎士D「くそっ、装填が間に合わんっ!」

 がぁぁぁあああんんっ!!

双子妹「接敵完了! 戦端を開くでありますっ!」

男「いくぞ、お前ら」

狼「一番乗りは、アタシがいただくからねっと!」

 ヒュッ……スパッ、ズバッ

騎士E「な、なんだ、いまの、は」どさっ
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:26:16.14 ID:odomHPFPo
騎士F「人間じゃ、ねぇ……」ぐ、どちゃ……

狼「ふんっ、知らないの?
 アタシたち、人間じゃないからさ」

 ぎんぎんっ、ズチュッ……

双子姉「いや、あたしは人間だけどね!」

 ガガッ、ズバシュッ、バシュッ……

男「俺もまだ人間だが……」びっ

騎士G「ぐふぅ……」ぐちゃ

男「これ以上戦うというなら、
 修羅とでも呼んでもらおうか」にや

 ドスッ、ズッダァアアン!

騎士H「う、ぐぅう、
 訓練では、かてた、のに……」ばた

公女「ふふーん、あの三日の訓練と、
 同じと思ってもらっちゃ困るんだから!」

 タァーンっ、タァーンッ

騎士I「ぐふっ」

騎士J「こんな、子供に」

双子妹「ここから先は行き止まりでありますよ。
 銃も弾も、惜しげなく使えるなら、
 負ける気がしないであります」にっ

 ばっ

騎士A「はっ、アレは、男かっ!」

男「む……」

騎士A「騎士団の裏切り者!
 そうか、教会に弓引くリベルタにつながって……」

 スパ……キンッ

騎士A「くっ」

男「先に武器を向けたのは貴様らだろう。
 まさか、結ばれて一時間で条約を破るとは、
 そこまで恥を忘れたか、騎士団」じっ

騎士A「何を言っている!
 貴様らが、青年さんを……っ」

?「それはきっと違うっす!」

 ばばっ

騎士B「騎士B、ただいま推参っす!」びしっ

男「……」

騎士A「な、お前……
 青年さんに消されたって……」

騎士B「へ? いえ、おいらがやられたのは、」

 すっ――

眼帯「ところがぎっちょんっ!」

 ずばしゅっ

騎士A「騎士Bっ!
 どういうつもりだ、眼帯!」

眼帯「だまされるな、コイツこそ青年の手下だ!
 俺達を撹乱する作戦にちがいないでしょ?」
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 00:41:38.73 ID:odomHPFPo
騎士B「ぐ、や、やっぱり……
 後ろから、狙ってたっすね」よろよろっ

眼帯「くっ! 確かに手応えがあったのにっ!」

 ガン、ギィインッ!

男「すまんが、コイツはけが人だ。
 相手は俺がしてやろう」ぎろっ

眼帯「くっ」

 ギンギンッ、ガギィンッ

騎士B「あの時に後ろから狙われたから、
 ちゃーんと学習して、騎士団のマントの下に、
 鎧を着てから来たっすよ!」ふふん

騎士A「そんな事はどうだっていいっ!」

騎士B「っそんな、自分の命はどうでもいいっすか?!」

騎士A「大事だ大事だ!
 だからさっさと教えろ、誰がお前を襲ったんだよ」

騎士B「……それは、」

眼帯「うぉおおおっ」

 ギギギギンッ、ザシュッ……

眼帯「ぐ、ふぅ……」どさっ

騎士B「眼帯さん、っす」

騎士A「……そうか。
 俺が、お前が青年さんに襲われたのかもなんて、
 聞いたのも、眼帯からだ」

男「……お前がこの船の指揮が出来る人間か?
 すぐにこの戦闘を停止させるんだ」

「それは、俺がやろう……」

 とた……とた……

ツンツン「おい、ムリすんなっていってんだろ!」

青年「今踏ん張らず、いつ、踏ん張れと」にっ……

男「青年」

騎士A「っ、副分団長」

青年「騎士A、すぐに状況を停止させろ……
 戦闘停止だ……」

騎士A「俺は……俺はもう、騎士団に、
 命令出来る立場じゃありやせん。
 反乱の、手伝いをした身です」

青年「……そうか。
 だが、そうした話しは戦後処理で行う。
 今はまだ、お前が筆頭騎士だ」

騎士A「……」

青年「安心しろ。罰なら後でたっぷりと与えてやる。
 だから、いまは……げほっ」

騎士A「……了解しました」びっ

 ざっざっざっ

ツンツン「ほへー、本当に、
 あんた、戦争終わらせてくれんのか」

青年「ああ……。
 こんな闘い、終わらせなければ」
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 01:02:53.62 ID:odomHPFPo
男「それにしても、お前、
 船も使わずにどうやってここまで……」

青年「船なら使いましたよ。
 俺が島に来るときに乗っていた、
 小型高速帆船(ヤハト)ですが」

ツン「すっげーのな、さすが最新式で早いのなんのっ!」

公女「で、ツンツンはなんでここに?」

ツン「なんで今さらっぽく聞くんだよ!
 俺がこの戦闘終わらせた功労者だぜ」ふふん

青年「彼が、俺をここまで運んでくれたんだ」

公女「おおー、さっすがー。
 いつもはともかく、今回は手放しに誉めないとね!」

ツン「いつもはともかくって、俺、なんかしたっ?!
 ったく、お前らはいつも俺をダシに……」

公女「そりゃーツンツンだしっ」にやっ

ツン「いみわっかんねーっ!」

公女「あははっ
 さーてそれじゃ、あたし達も戦後処理だね」

 バッ――

------------------------------------------------
  夕方 リベルタ港

司教「なぜだ……
 我らは、神に愛されているはずだ!
 それなのに、なぜ騎士団が応援に来ない!」

軍曹「残っている傭兵はそこに居るので全てです」

家宰「ご苦労様です」

軍曹「いえ、傭兵に対して、
 家宰殿が事前に目星を付け、
 市民に避難経路の連絡を行っていたが故に、
 出来た行動です」

家宰「私などはなにも。
 公爵様のご指示に従ったまでの事です」

軍曹「公爵の指示……っ、まさか」

家宰「司教殿も、相手が悪くございましたな」しれっ

軍曹「やっぱり、狸ぃっ」

家宰「さて、司教殿。
 いま降伏されれば、命はお助けいたしましょう。
 もっとも、そのあとリオーマに報告させていただき、
 今回の件の責任を取らされるかと思います」

司教「……く、うぉおおおお。
 傭兵共、つっこめ!
 あいつらにつっこめ!
 金なら祓った!
 アイツラを、アイツラヲ殺シツクセェエエエッ!!」

 ズバシュッ……

傭兵D「残念だが、俺達は金と命に忠実なんだ。
 おーい、お前さんがた、俺達はこの首抱えて、
 そっちに投降させてもらうぜ」

軍曹「…………」

家宰「軍曹殿。抑えてください」

軍曹「……わかった。投降を受け入れよう。
 武装を解除し、一人ずつこちらへ」
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 01:13:27.89 ID:odomHPFPo
家宰「……さて、そろそろあちらも、
 決着が付く頃かと思いますが。
 こんな予定外が無ければ、
 あっさり終わる予定だったというのに……

 無事で帰ってきてくだされ、お嬢様、若旦那様」

------------------------------------------------
  夕暮 ディオイツ艦隊三番艦 甲板

公女「ぐっ……かはっ」

 ギリギリッ

眼帯「ふ、……大人しく、しろっ」

 ガツッ

公女「う……」

青年「彼女を、公女様を帰せ。
 彼女の命を奪う事は、許さんっ……」よろっ

眼帯「けっ、デウス・エクス・マキナでも、
 気取っているつもりかっ!
 近づくなよ、お前が近づくより、
 俺の手がこの首をかききる方が早い!」

青年「ぐっ……」

眼帯「はっ、残念だったなぁ。
 まだ、息が残ってたんだよっ!
 戦勝気分で浮かれやがって……
 だが、俺のラッキーが無ければ、死んでたろうがな」

公女「……くっ」

青年「大人しく、剣を降ろせ……」

眼帯「そんな要求に応じる理由なんか、ねえんだよ。
 いや、だが、従ってやってもいいぜ?」

青年「……何が目的だ」

眼帯「お前の命だよ。
 そこの男っ。
 青年を斬り殺せよ。
 そうしたら公女は解放してやる」

公女「やめて、そんなのいいから、
 私なら気にしないでっ」

男「……俺が死んでも、だめか」

青年「男さんっ!」

眼帯「お前らじゃ、だめに決まってんだろ。
 俺の――俺達の計画に、大きな支障になりそうだから、
 その前にそいつを始末するのが目的だ。
 死にたいんなら、青年を殺した後に勝手に死ねよ」

男「……」

青年「……わかった。従おう」

公女「青年さんっ!」

眼帯「はっ、さすが『騎士』さま。
 かっこいいぜぇ」

青年「……男さん」

男「……わかった」

 す……っ

 ヒュパッ


985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 01:27:44.71 ID:odomHPFPo
眼帯「グッ――ァアアアッ!」

公女「ふっ――」

 グイッ、ズッダァアアンッ

眼帯「……ぐぉおおおお」

公女「人質にされるの二回目かぁ」

 グイッ、ギシッ

眼帯「うぐ、ウガァアッ。
 殺せっ、無力化なんて生ぬるい真似せず、
 俺を殺せぇっ!」

青年「……」

 すっ……

男「俺の女に手を出したんだ。
 そんな風に、楽に死なせるワケがないだろう」じっ

眼帯 ゾクッ……

公女「……」ぽっ(////

男「おい、そこの騎士。
 いつまで公女に労働させてるんだ」

騎士B「え、あ、はいっ!」ぐっ

男「……さぁ、これで終わりだ」じっ

青年「…………コレより。
 コレより、本館はマータ島へと帰還する。
 この事態に対する保証などは、
 今後改めて、リオーマより使者を渡らせよう」

公女「はい」

青年「公女様。
 申し訳ありませんでした」ふかぶか

公女「……いえ。
 青年さんも、島を守ってくれたのは知ってます」

男「こちらからも、今回の件について、
 妙な事態にならないよう、使者を出そう」

青年「……では、失礼します」しゅびっ

 ヨロ、ヨロ……

公女「……私達も、帰ろっか」

男「そうだな」

双子姉「こ、こわかったー……」

双子妹「むうむう。
 せっかく狙撃しようとしてたのに、
 お兄様達が引き延ばしすら、
 してくれなかったであります……」

男「そうだな、次があれば、頼ろう」苦笑

双子妹「はいでありますっ」にぱっ

公女「次とかもう、ぜったいイヤだけどね。
 っとと……」ヨロッ

男 すっ。ぐいっ

公女「ぁ……」

男「大丈夫か?」

公女「……うん」
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 01:42:25.89 ID:odomHPFPo
男「……いくぞ」ぐっ

 とことこ……

ツンツン「……」ぼーっ

狼「……どうしたのよ、あんた」

ツンツン「うぉおっ?!
 いや、なんか、こー。
 終わった実感がないっつーか」

狼「後で湧いてくるわよ。
 いいから立って。
 私達の船に移らないと、
 マータ島まで一緒につれて行かれるわよ」

ツンツン「それは困るっ!
 けど……やば、おれ、こんな場所とか初めてで、
 腰が抜けて……」

狼「……はぁ」すっ

ツンツン「へ」

狼「捕まりなさいよ。
 ああ、気持ち悪いなら、別の人間……」

ツンツン「き、気持ち悪くなんてねぇって!
 じゃ、その、悪いけど……」すっ

狼「……ほら、もっとしっかり捕まって」

ツンツン「お、おう」ぎゅっ

狼「ほら、行くわよ」

ツンツン「お、おう」ぎゅっ

 とことこ……
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 02:03:34.30 ID:odomHPFPo
------------------------------------------------
  後日 男と少女

公女「……うわー、もうむりーもうしぬー」

男「バカな事を言っている暇があれば、
 その間に手を動かすんだな」

公女「ううううー、だってさー。
 まさか戦後処理がこんなに大変なんて、
 予想もできないってー……」

男「その山は戦後処理だな。
 まだ町に被害が残っているから、
 放置していると増えるぞ」

公女「その山は、って」

男「いまは、家宰が例のジョイントストックについて、
 豪商さんたちと相談して、
 システムの詳細を詰めている所だ。
 もうじきそれについての裁可も回ってくるだろう」

公女「うわぁ……」

男「他にも、近隣の貴族達から」

公女「まだあるの?!」

男「お前に対して結婚の申し込みが多数、な」

公女「えー。もう、いままでなんか、
 家柄だけの田舎者ってあつかいだったのにー」

男「その評価は変わっていないんだろうが、
 島を拡大して、さらに交易を大きくすると聞けば、
 持参金が目当てで手を伸ばしてもおかしくない」

公女「持参金とかないしっ。
 もう、アッチもこっちも復興費用になんだかんだ!
 この島のどこにこんなにお金使う場所があったのか、
 わかんないくらいお金が飛んでるよ……」

男「結局、教会からは賠償金が無かったしな」

公女「こんな事なら、ぶんどっておけば良かったかな」

男「やめておけ。
 今回の事件、帝国の人間が生きて捕まったから、
 『無かった事にしよう』という手打ちの話しに、
 落とし込めたんだ」

公女「みんなの住む場所が無くならなかったのは、
 嬉しいんだけど……
 交易権とかの部分は解決してたから、悔しいなー」

男「それでも、賠償金だなんだかんだと手をかければ、
 その流れでまた一神教の影響力が弱くなる。
 そうなれば、今度は帝国に狙われかねん」

公女「蛇と蛙の下でこっそりふるえるなめくじの気分」

男「なに、なめくじなりに、満足いく生活をしていれば、
 問題なんてないだろう」

公女「……満足いく生活ねぇ」ちらっ

男「なんだ?」

公女「いろいろと、満足いってないけど」じっ

男「意味がわかりかねる」

公女「なんで、落ち着いて改めて告白したのに、
 すげなく断ったのかとか!」

男「お前が悪い」

公女「悪くないって! 
 ホントにわるいなら直すから、言ってよ」
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 02:04:07.67 ID:odomHPFPo

男「……この調子なら、
 あと五年は未来になりそうだ」

公女「むううー」

男「そんな、双子姉みたいな表情をしてるなら。
 十年先になってもこんな関係の気がするな……」

公女「……」ぽっ

男「……なんだ、どうした」

公女「十年は、一緒にこうしていてくれるの?」じっ

男「ぐ」

公女「じゃ、十年かけて口説けばいいなら、
 なんとかなるかもね」にぱっ

男「おい待て、誰がそんなに待ってやるといった!
 その時には俺は四十手前だぞ」

公女「私を産んだ時、お父さんもそれくらいだったよ?」

男「勘弁してくれ……」

公女「……ふふっ」

男「はぁ……」

公女「でも、ねえ、男」

男「なんだ?」

公女「……んーん、やっぱり、なんでもない」

男「……あえて聞かん」

公女「うん。それでよし。
 さーって、それじゃ」

男「仕事に戻ろうな」

公女「うわーぎゃー。ゆるしてー」

男「ぎゃーとかいうな、バカモノ。
 まったく、こいつは」

公女「えへへ……」

男「いいから、ほれ、次の資料だ」

公女「はーいっ」
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 02:17:13.19 ID:odomHPFPo
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 後日談 包帯

女将「はいよっ、大陸から来たって新しい野菜!
 ピーマン(トウガラシ)を使った撃辛肉炒め!」

客1「いよっしゃー、待ってたぜ。
 こいつがあるから酒が進むってぇもんさ」

客2「ほっほっほ。
 これがつまみに食べられるだけでも、
 昔のコネを使った甲斐があったわい」

女将「なんだい、あたしの料理じゃ不満だったのかい!」

客1「不満じゃねぇが、
 シチューと肉炒めだけしかつくらねぇじゃねぇかっ」

女将「これだって肉炒めじゃないかいっ」

客2「ほっほっほ」

包帯「まあそう怒鳴り合わないで。
 どうです、また新しい料理を作ったんですが、
 ちょっとおつまみに試作してくれませんか?」

客1「おう、任せとけっ!
 俺達がしっかり味見をしてやるからよっ!」ガツガツ

客2「ところで……薄いパンの上の、
 この赤いのはなんじゃろうの?」

女将「ベラドンナだよっ!」

客1「ぶふぅっ!
 て、てめぇ! 毒盛りやがったな!」

包帯「ちょ、ちょっとまって!
 確かに見た目はベラドンナみたいだけど!
 これはトマトって、新大陸の野菜だよ」

客2「やれやれ……
 冒険家達が海を渡って、
 渡ってきた植物で料理人が料理をする、か」ツンツン

客1「過ぎた冒険は、命取りだろ」ツンツン

包帯「ま、口に合わなければ良いけど……
 塩味のついたモッツァレラに、
 すっきりした風味のバジルを添えて、
 酸味とこくのあるトマトと野菜のソース。
 この組み合わせは、歴史に残るくらいおいしいよ?」

客2「……歴史」

客1「じゃ、それを最初に食った俺らも、
 歴史に名前が残るんじゃねぇか?!」

客2「ほほう、ならば冒険せぬ手はあるまい!」

女将「さっきと言ってる事が逆じゃないのさ」

客1「うっせぇ。
 名誉のためなら命だってかけるのが男ってもんだ。
 よーし、食うぞ、食うぞーっ……」ぱくっ

客2「どうじゃ?」

客1「うめぇえええっ!
 いや、これまじ、超うめぇっ!」

客2「ほう、それじゃぁわしも……」

 わいわい

包帯 にこにこ
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/09/25(日) 02:44:27.72 ID:TXU4pDlyo
寝落ち?
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 02:48:06.44 ID:odomHPFPo
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  後日談 双子と狼

双子妹「そうそう、でありますからして、
 粘土に対して石膏を五倍の量混ぜて、
 そこに粉にした陶器をを混ぜて水で溶かすことで、
 水煮つよい建材を作る事ができるであります」

大工達「「はいっ!」」

双子妹「この建材をセメント、
 また砂を混ぜてかさまししたものをモルタル、
 とい上褻でありますが、
 これらの歴史は比較的古く、
 おおよそ千六百年程度前にさかのぼり、
 古代ローマでは水場でよく使用され、
 彼らが好んだ文化、お風呂という、
 溜めたお湯につかって汗と汚れを流すという、
 今の我々にはない文化が発達する上で、
 安価に作れた上に整形が容易で、
 メンテナンス性に優れているこれが――」

双子姉「ちょ、ちょっと妹!」

双子姉「なんでありますか?」

双子姉「大工さん達、煙吐いてる」

大工達 ぷしゅー……

双子妹「あうぅ……
 まあ、とっても使える、ものなのであります」

大工達「「「はい……」」」のそのそー

双子姉「まあ、今日の抗議はここまで!
 明日は実際にこのセメントを使って、
 均一に塗ったりする技術を習得してもらいます!
 だよね?」

双子妹「はいでありますっ。
 ではみなさん、
 明日もよろしくお願いしますであります」にぱっ

大工達 のそのそーっ

狼「……これじゃ、先が思いやられそうじゃない」

双子妹「それでも、一歩一歩進んで居るのであります」

双子姉「うんうん」

狼「……リベルタリア計画、ね」

双子姉「私達の居場所を、
 みんなと一緒に作ろう……」

双子妹「もう、嵐におびえたりしない」

双子姉「もう、人に追われたりしない」

双子「「安心して寝られる場所を、
 自分達で作る」のであります!」

狼「……まあ、楽しそうだからいいか」

双子姉「楽しそうと言えば」

双子妹「あの人の事でありますかね」

狼「……」

双子 じーっ

狼「……なによ」

ツンツン「おおかみさぁーんっ!」たたたーっ!

狼「うるさいっ、大人しくしなさいよ!」
992 :セメントの製法忘れてあせってたんだよ>< [sage_saga]:2011/09/25(日) 02:48:53.22 ID:odomHPFPo
ツンツン「は、はいっ!」ビシッ

狼「……」ちらっ

双子 にやにやにやにや

狼「……で、何の用」

ツンツン「そ、その……良い天気なので!」

狼「曇りだけど」

ツンツン「ご、ごご、ごひゃんでも、一緒に……」

狼「……どうせ、断ってもまたついてくるんでしょ」

ツンツン「そ、そんな事はしないですよっ!
 帰る方向が本島だから一緒なだけで!」

狼「はいはい……でも、今日はこの二人とご飯……」

双子 しゅばばばーっ

狼「いないっ?!
 気配察知は野生動物に負けないはずなのに……」ちら

ツンツン キラキラキラっ

狼「……はぁ。
 いいわよ。そのかわり、あんたのおごりね」

ツンツン「ぃいいっひゃっほー!!」

狼「うるさい」

ツンツン「ぃぃゃっほぉー」

狼「ウザッ」

双子「「……くすくす」」こそっ
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 03:02:48.61 ID:odomHPFPo
------------------------------------------------
   ぁゑ手紙

`⊂レヽぅゎレナτ〃、⊇ぅUτレま〃<T=ちレ£、少女±ω`
⊂男±ωヵゞ治めゑレ)∧〃儿勺レ)了レニ、暮ら£⊇`⊂レニT
ょレ)маUT=★

ぇ、レま〃<、τ〃£ヵゝ?

レま〃<レ£、船r離lτ、両親を探£旅レニレヽма£★

一人τ〃ちょッ`⊂廾彡シィ時м○ぁゑレナ`⊂〃、レヽмам
аτ〃一緒レニ旅UT=ゐωTょσ言己憶м○ぁゑU、ξяё
レニ、帰ゑ場所ヵゞぁゑωτ〃£★

T=〃ヵゝら、ぉ父±ω`⊂ぉ母±ωを見⊃レナゑмаτ〃、
ちょッ`⊂長<ヵゝヵゝゑヵゝм○矢ロяёTょレヽレナ`⊂〃、
ξяёмаτ〃ゐωTょ`⊂ぉ別яёUT=ωτ〃£★

レヽ⊃ヵゝмаT=、ゐωTょ`⊂一緒レニ旅ヵゞ出来ゑ日ヵゞ
<яёレ£〃レヽレヽTょ→★



ぁ、м○ちЗω、一緒レニ旅をUT=レヽσレ£、『(≠ゐ』`⊂
м○TょωT=〃ヵゝら!


次レニ会ぅ`⊂(≠маτ〃、ぉ元汽譟廓★
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 03:04:51.45 ID:odomHPFPo

We are freaks pirate.

Scripted by 1 ( @bienyaku )

And Special Thanks for You.

The end of story.
But To be continued at The World.
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage_saga]:2011/09/25(日) 03:07:23.02 ID:odomHPFPo
時間もかかったけど、
途中でくじけかかったけど、
ムダに長いけど、
投げ出さずに書ききれたのは、
みんなが応援してくれたおかげだよっ。

とってもとっても、ありがとう。

また、次に会う機会があれば嬉しいな。

みんな、感謝の気持ちとビエンヤク、もっていっておくれ!

996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 03:07:48.13 ID:kORwV3FAo
乙!
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/25(日) 03:09:08.66 ID:yUnrc3BWo
乙でした
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/25(日) 03:10:36.07 ID:fVJqq9iso
やべぇ解読できねぇけどやべえキュンキュンする・・・
乙でした!!!興奮して枕叩き過ぎて埃もヤバイ!!!
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 03:11:55.27 ID:Qyvht0aIO
乙!
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/09/25(日) 03:20:47.59 ID:eRizPuHWo
乙!
1001 :1001 :Over 1000 Thread
  | l| l || || l|           | l| l || || l|         
  | l| | || || l!           | l| | || || l!         たらい回しの最果ての地へようこそ!
   l   l| .|    ☆        l   l| .|    ☆     
  ____ /    .     ____ /    
  ゝ___ノ がーん! .   ゝ___ノ がーん! 
   (    )  .   .  .     (    )
   と    i             と    i          SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
    しーJ              しーJ          http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/
1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
@ナルレステンプレェ…@ @ 2011/09/25(日) 02:58:04.37 ID:ptutG+Heo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1316887081/

こんな時間に勃ってきちゃったAKBSKENMBHKTSDNスレ @ 2011/09/25(日) 02:03:34.13 ID:24z4zlHMo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1316883813/

神羅万象チョコ ウエハーマン達の開戦待機場所12 @ 2011/09/25(日) 02:02:17.20 ID:Y7wLWdfko
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1316883737/

ここだけバイオハザードが発生した【引継ぎ用】 @ 2011/09/25(日) 01:10:59.52
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4vip/1316880659/

アグレッシブ向上委員会 Season35 @ 2011/09/25(日) 00:57:51.90 ID:igXcyR7yo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1316879871/

長門「ぬるぽ…」 @ 2011/09/25(日) 00:37:17.05 ID:GHog/coSO
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   ♀こい、つかちょっときてくだちい    @ 2011/09/25(日) 00:22:24.92 ID:vJAHFWOF0
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【女の子】親友に壮大な告白をした【童貞】 @ 2011/09/25(日) 00:09:29.88 ID:w7S2HFiho
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