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黒子「おまじない……??」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆IsBQ15PVtg :2011/05/20(金) 22:21:39.93 ID:l9zYPE7N0
(注意)
 ・【とある魔術の禁書目録】【とある科学の超電磁砲】および【コープスパーティーBCRF】とのクロスです。
  あと、初代コープスパーティーおよびコープスパーティーゼロの設定を混ぜている場合があります。
 ・内容的にグロ要素や死亡要素が入る場合があります。
 ・設定やキャラ崩壊が場合によってはある恐れがあります。
 ・投下はスローペースです。投下の間隔が(日単位で)思い切り開く可能性が高いです。
 ・地の文も入れていますが、基本台本形式で進める場合が多いかと思います……多分。
 ・話の展開選択肢を設ける場合があります。選択次第によって、鬱系統の展開になる場合があります。

(前スレ)
 黒子「おまじない……?」 
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294974205/
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

2 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/05/20(金) 22:25:38.27 ID:l9zYPE7N0
では、前スレ>>956をCにて投下いたします。

3 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:26:32.79 ID:l9zYPE7N0

 黒子(……お守りみたいなものがあればいいのですけど)

 外に出て、霊の言っていた"お守りみたいなもの"がないか、探しに行くことにした。


 
 あゆみ「あははは……苦しい……苦シイヨ……もう楽にntsko……」

 入口が閉め切られた、黒板脇の部屋。
 そこから漏れるあゆみの声は、笑っているようにも、泣いているようにも聞こえる。

 そちらの方向へは顔を向けず、足早に教室の出入口へと向かう。


 黒板のある側の出口から、廊下に出ると同時に――

4 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:27:10.10 ID:l9zYPE7N0





  ビュン!!





 後方から、鋭い風斬音が聞こえた。


 黒子「何ですの?」

 思わず、教室の方を振り返る。

 ぱっと見たところ――先程と変化した様子はない。


5 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:27:37.42 ID:l9zYPE7N0





  ゴゴゴ……




   バキン!!グシャ!!



 同時に――今度は、右手に広がる廊下から――異音がした。

 何かが動く音。
 何かがひしゃげる音。


 黒子「――!?」

 咄嗟にその方向に、顔を向ける。

 その先に広がる光景を目にした途端――黒子は一瞬、呆然としてしまった。

6 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:28:04.58 ID:l9zYPE7N0


 両側が抜け落ちていて、人一人が辛うじて渡れそうな幅のスペースが残っている床板。
 床を横切る1mほどの裂け目を、床板が橋のように渡っているようにも見える。




 その床板が――音と共に、手前の床板の下へと、引っ込んでいた。





  ゴゴゴ……。



 地響きのような音を立てて、なおも、動きを止めない床板。

 そして――音がなくなると同時に、床板は消失してしまった。


 後には――裂け目が走った廊下だけが、残されていた。


7 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:30:53.27 ID:l9zYPE7N0

 黒子「何ですの?どういったことが起きていますの?」

 目の前で起こったことに考えをめぐらせるが――すぐに止めてしまった。
 
 黒子(今は、こんなことをしている場合ではないですの)

 すかさず、裂け目とは反対側の方向へと足を進める。

8 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:31:29.39 ID:l9zYPE7N0

 やるべきことは、あゆみを正気に戻すこと。

 が、現実として狂った状態の人間を正常に戻すなんていうのは、並大抵のものではない。
 それなりの環境や、脳に関する様々な機器も必要だろう。
 常盤台の第5位のような、心理系の能力者も必要になるかもしれない。


 少なくとも――そういったものがないこの環境で、まともにやっても――うまくいく確証なんてない。


 なにより、黒子の本能が危ないと感じたのは――あの奇妙な頭痛。
 もし、あゆみが閉じこもった部屋の中に空間移動をした時に、あんな状態になったら――。

 そして、狂った状態のあゆみが黒子を突き飛ばした時の――異様な力。
 間違いなく、脳のリミッターが外れかかった状態のあゆみの前で、頭痛でまともに動けない状態だったら――。


 黒子(間違いなく、タダではすまなかった気がしますの)

 そう思う黒子の足は、いつのまにか駆け足ぎみになっていた。
 先程通ってきた中で、床板が丈夫だと思える箇所は、大方把握していた。

9 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:32:11.24 ID:l9zYPE7N0

 黒子(お守りごときで、篠崎さんが正気に戻るなんて、甚だ疑問ですけど……霊や思念が堂々とうごめいている空間じゃ、ありかもしれないですの)

 教室にいた、犠牲者の霊の言葉。
 それだけだった。
 科学的に見るなら――根拠ははっきり言って、無い。


 が――他に妥当と思える方法も、無い。

 黒子(まあ……やってみるに越した事はないですの。しないよりかはマシかもしれませんから……)

 足元に気をつけつつも、廊下を足早に通り抜ける。
 ものの数分もしないうちに、3階への階段との分岐の所までたどり着く。

10 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:32:45.29 ID:l9zYPE7N0


 黒子(これまで来た教室には、お守りらしきものなんてなかったですの。とすると、行くのは3階ですわね)

 上へと伸びる階段を、キッと睨みつける。
 そして――階段のステップに足を掛け、足早に登っていった。

 
11 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:33:26.14 ID:l9zYPE7N0
 
 登りきった先。
 廊下が左の方へと伸びていた。


 が、すぐに廊下は壁にぶつかってしまう。
 左手には、部屋の出入口らしき引き戸があったが――ぴっちりと閉じられている。


 何気なく、近づくと――


12 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:34:01.35 ID:l9zYPE7N0





  ブンッ!!





 突如、黒子の体は反対側の壁へと押し返された。
 まるで、扉の前に漂う空気が意思を持って、吹き飛ばしたかのように。

 壁に叩きつけるほどの力ではなく、黒子はなんとか踏みとどまる。
 すかさず、再度引き戸に近づこうとするが――


13 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:34:27.70 ID:l9zYPE7N0





  ブンッ!!




 先程と同じく、黒子の体は押し返された。
 磁石の同じ極を近づけたら反発して、近づけることができないかのように――黒子は引き戸に触ることすらできなかった。


 黒子「能力的な仕掛けでもありますの、ここは」

 一瞬、空間移動で内部に入り込もうと思った――が、それはためらわれた。
 この亜空間の中では、予定していた場所とずれた位置に空間移動してしまうことが度々あったぐらいだ。

 仕掛けかもしれないが、こんな得体の知れないことが起きている場所で空間移動しようものなら――うまくいかなかった時を考えれば、やめておいた方が無難なのかもしれない。

14 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:35:05.05 ID:l9zYPE7N0

 黒子「まったく……他をあたるしかありませんの?」 

 ため息をつきながら、入るのを拒んだ引き戸をじっと見つめた。
 引き戸の上には【資料室】と書かれた札が掛かっている。

 さらに、引き戸の脇に目を移すと――戸棚が2つ並んでいるのが目に入る。

 傍に近寄り、引き戸に近い側の戸棚を覗き込む。


 黒子「――!?」

 戸棚の中にあったものを目にした途端、顔を無意識にしかめてしまう。

15 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:35:39.27 ID:l9zYPE7N0

 それは――戸棚の奥に貼られた、1枚の絵。

 古びた画用紙に、クレヨンで描かれている。
 ぱっと見で、小学生が書いた絵のようだが――問題は内容だった。


 真ん中には――眼鏡をかけた、中年らしき男性。

 男性を取り囲むように――4人の児童が笑いながら、立っている。




 ――包丁を手にして。





 ――男性は包丁が刺さって、悶え苦しんで。


 ――手にした包丁や、男性の足元は、血で染まっていて。 


 ――なおも、取り囲んだ児童達は、血の付いた包丁を手にして、楽しげに笑っていた。


16 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:36:20.49 ID:l9zYPE7N0

 黒子(気持ち悪い絵ですわね……)

 絵から目をそむけ、戸棚の下のほうに目をやったとき――何かが置かれているのが見えた。
 戸棚のガラス戸を開け、手にしたロウソクの炎を近づけて、覗き込む。


 黒子(土産物なんかにある……パワーストーンのようですの)

 それは、四角錘の形をした、青く透けた材質の物体だった。
 学園都市のショッピングモールなんかでも、"パワーストーン"とかいう名前で、似たような物が売られている。
 もっとも、大覇星祭の開催期間限定で、外部からやってきた人間を対象にして、お土産として売られているのが実情だが。
 願いがかなうかもという触れ込みなのだが、信憑性は無いといってもいい。

17 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:36:55.11 ID:l9zYPE7N0

 黒子「これがお守りになるとか……一応持っておきますの」

 科学的にも、何らかの作用があるという根拠は無い。
 ただ、無いよりマシ――そう思って、黒子はパワーストーンをポケットにしまいこんだ。


 そして、隣の戸棚へと目を移した――のだが。


 黒子「うっ!?」

 目にした途端、手で口を塞ぐ。
 そして、すかさず目をそむけた。

18 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:37:48.27 ID:l9zYPE7N0



 ムカデ、ゴキブリ、ハエ、蛾……




 ――害虫の死骸。

 それらが整然と、戸棚の中に並べられていた。
 しかも、それらを取り囲むかのように、無数の蛆が湧いている。


 ――はっきり言って、おぞましい光景だった。


 黒子「気持ち悪いったら、ありゃしませんの」

 戸棚に背を向け、廊下に何か落ちていないかを確認する。
 が、特に何も落ちている様子はない。


 黒子(長居は無用ですの)

 すぐに、階段へと向かい、下の階へと降りる。

19 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:38:26.57 ID:l9zYPE7N0

 黒子「…………」

 右手にロウソクを持ち、左手をポケットに突っ込み、中にあるパワーストーンをいじくりまわしていた。
 何も言わず、そのまま廊下を足早に進み、1-Aの教室へと向かう。


 黒子(ん……?)

 先程目にした、数枚の習字。
 その内の1枚が、何気に目に留まり、歩みもそのまま止まる。


20 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:38:56.26 ID:l9zYPE7N0

 ――無駄方便。

 ――とても役に立たないだろうと思えるものでも、時によっては何らかの役に立つこともあるということ。


 黒子「これが……まさかですの?」

 ポケットから取り出し、左手の上に乗っているパワーストーン。
 ロウソクの光を受けて、時々鋭い光を反射している。

21 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:39:27.77 ID:l9zYPE7N0

 ――半信半疑。

 別に貼ってある、習字の文字が目に入る。


 黒子(半信半疑どころか……9割以上、疑わしいですの)

 だが――わずかながらだが、これで効果があれば、という希望的観測も抱いていた。

 いや――他にあるか分からないお守りみたいなものを探すのに、これ以上労力をかけたくないというのが、正直な所だったのだが。
 狂ったとはいえ、人を一人きりで置いてきて、単独で校舎内を探索する――これに、長い時間を掛けるのは得策とは思えない。


 黒子(うだうだ疑っても仕方がないですの。試しても無理だったら、探しなおすか、別の手を考えればいいことですの)

 腹をくくって、パワーストーンを上着のポケットの中にしまいこむ。
 そして、廊下を再び、足早に歩き出した。

22 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:39:57.76 ID:l9zYPE7N0

 やがて、1-Aの教室にたどり着き、開け放たれたままの出入口をくぐる。


 朽ちた床や天井。
 中には落ちかかっているものまである、照明器具。
 机や椅子などのガラクラが散らばり――白骨死体が横たわっている、教室内。
 

 そして――閉じきったままの、黒板脇の引き戸。

 先程見た光景と、何ら変わった点は無かった。

23 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:40:31.12 ID:l9zYPE7N0

 あゆみ「先立つ不幸をお許しください!!天国で私たちは一緒になります!!待ってるからね!!アア!!」

 引き戸の向こうから響き渡る、あゆみの奇声。
 狂って脈絡の無いことを言っているだけかも知れないが――内容は、不穏だと思えるものだった。


 黒子「待ってくださいまし。今、行きますの」

 演算をすかさず済ませ――黒子の体は、引き戸の向こうへと瞬時に移動した。

24 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:40:56.97 ID:l9zYPE7N0
 
 移動した先は、6畳ほどの小部屋になっていた。
 所々剥がれ落ちかけているモルタル製の壁に囲まれている。
 壊れかけた窓ガラスが、部屋の奥にはめ込まれているものの――圧迫感がひしひしと感じられる。


 黒子「うっ!?」

 突如、鼻腔をとてつもない腐臭が襲う。
 思わず、手で鼻を塞いでしまう。
 発生源は、すぐ近くの足元のようだ。

 目をやると――そこには遺体が2体。
 着ている服装から、中高生ぐらいの男女の死体のようだった。
 もちろん、その制服は、黒子には見覚えが無い。

 ただ、両者とも、肌が青黒くなっていて――腐敗が進行しているようだ。

25 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:41:23.90 ID:l9zYPE7N0

 黒子(たまらないですの……でも、今はそれどころでは……)

 悪臭をこらえつつ、すかさず、部屋の奥へと目を向ける。

 
 あゆみ「おいでよ!!待ってるからね!!待ってるからね!!」

 当の本人は、部屋の奥の窓際に佇んでいた。
 焦点の合わない目で、突如出現した黒子を見つめ、奇声を浴びせかける。
 姿勢自体もふらついていて、時々倒れそうになる。

 傍には机が一つ。
 その上に載った、レバーが付いた金属製の仕掛けらしきものに、ふらついたあゆみの体が当たりそうになる。

26 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:42:05.74 ID:l9zYPE7N0

 黒子「…………」

 何も言わず、あゆみに近づく。


 あゆみ「あはははは!!ああああああああああ!!」

 なおも、笑い声を上げたり、絶叫したりしていた。
 近づく黒子のことは――気にしていないような素振りだった。


 黒子(狭い部屋に遺体が2つ。霊が渦巻いているというのなら……ここで正気に戻そうとしても、無意味そうな気がしますの)

 あゆみの右腕を掴む。

 一瞬、固唾を呑み込む。
 黒子の頬に、一筋の汗が伝わった。





 抵抗する様子は――ない。



 瞬時に、二人の体は――部屋の外へと、空間移動した。

27 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:42:59.91 ID:l9zYPE7N0

 1-Aの――外の廊下。

 誰もいないこの空間に――ふっと出現した、黒子とあゆみ。



  パッキーン!!



 黒子の上着の中から――何かが砕ける音がした。

28 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:43:40.33 ID:l9zYPE7N0


 黒子「ま、まさか……」

 ひやりとする。

 恐る恐る、ポケットの中を探ると――




 ――パワストーンが砕けてしまっているのが――手触りで分かった。



29 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:44:16.01 ID:l9zYPE7N0

 黒子「――!!」

 冷や汗を背筋を流れ落ちるのが感じられた。
 すかさず、黒子の腕の中でうなだれているあゆみに目をやる。
 

 あゆみ「…………」


 力なく首を上げて、おぼろげな目つきで――黒子を見つめる。

 そして――
30 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:44:41.68 ID:l9zYPE7N0









 あゆみ「……あれ?白井さん。そんな怖そうな表情して、どうしたの?」


 何事も無かったかのように――目の前にいる、厳つい表情をした同行者を、不思議そうに見つめていた。


31 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:46:08.61 ID:l9zYPE7N0

 黒子「篠崎さん。正気に戻りましたの?」

 興奮気味に、あゆみの両肩を掴む。

 あゆみ「正気って……何が。白井さんこそ、何かあったの?」

 そんな黒子に、困惑気味な表情を浮かべる。
 そうやら、今まで自分の身に何が起きたのか、分かっていないようだ。

 ただ――あゆみが正気に戻ったということだけは――言える。


 黒子「覚えていませんの……まあ、いいですの」

 全身から、力が抜ける。
 廊下の壁に、背を預ける形でもたれかかった。


 黒子「お話しますの。貴女に、先程まで何があったかを」

 表情には安堵の色が、微かに浮かぶ。
 なおも、困惑しているあゆみを優しく見つめながら、ゆっくりと、頭も壁に預けた。
 
 
32 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/05/20(金) 22:50:57.02 ID:l9zYPE7N0
本日の投下はここまでです。
おかげさまで、2スレ目まで参りました。
お読みくださっている皆様、声援をして下さっている皆様に、改めて感謝いたします。

次回以降も、まったり行く形で参りますので、よろしくお願い致します。

あと、内容が内容ですので、時勢柄、1回上げてから、sageで書き込む形を当面も継続いたしますので、ご了承ください。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/20(金) 22:51:54.06 ID:zkLmzV20o
乙乙
マジで怖いぜ
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/20(金) 23:01:13.27 ID:LEUz3SCDO
乙!


これからも応援してるぜ
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/24(火) 15:40:30.50 ID:SjQ5nI2DO
遅れたけど乙!

どんどんおかしくなってるなぁ…怖い
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/25(水) 21:28:38.92 ID:Bf/V5ECB0
おつおつ
37 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/05/27(金) 22:36:02.61 ID:03wzDEqY0
お待たせいたしました。
続きを少しだけ投下いたします。
38 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:36:32.45 ID:03wzDEqY0

 あゆみ「何回か、そんなことあったみたい……」

 黒子「…………」

 1階へと下りる階段にて。
 所々でステップが崩れていたり、抜け落ちていたりしていた。
 手すりも朽ちているので、頼りにならない。
 慎重に足を乗せる場所を選びながら進む状態だった。


 あゆみ「でも、何をしていたのか……本当に分からないの」

 踊り場までたどり着く。
 隅に炎の付いたロウソクが立てられていた。
 恐らく、あゆみが以前に立てたものだろう。

 180度ターンする形で、下へと続く階段に、足を踏み入れる。

39 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:36:58.44 ID:03wzDEqY0

 あゆみ「黒板の横の引き戸に近寄ったときに……すごく苦しくなった」





   ……ギシ……



        ……ミシ…… 





 朽ちた木の段に、黒子とあゆみの体重が掛かる。
 そのたびに、不気味に軋みを上げ、周囲に響き渡る。

40 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:37:34.58 ID:03wzDEqY0


 あゆみ「……喉が渇いて……お腹が空いて……頭もふらふらして……」

 段を降りるたびに、澱んだ空気が重くのしかかる。
 ただでさえ、湿っぽい空気が、肌にしつこくまとわり付く。

 吸い込んだ息も、重さを帯びて、もたれる感じがする。
 まるで、肺の中に錘を詰め込んだかのように。


 あゆみ「……体も動かなくなって……脱出なんてできそうになかったから……それだったら、出会った恋人と一緒に……」

41 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:38:01.41 ID:03wzDEqY0

 黒子「もう……いいですの……」

 物悲しげに話すあゆみの言葉を、気だるそうに遮る。
 彼女の話を聞いているだけで――滅入ってくる。

 先程の小部屋に横たわっていた――2つの腐乱死体。
 目にした限りの状況と、あゆみの話から――どうやら、飢えに苦しみ、脱出をあきらめて――心中したようだ。

 そんな彼らの心が――直接染み渡ってきそうだ。

 これ以上聞くなんて、たまったものじゃない。

42 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:38:27.49 ID:03wzDEqY0


 階段を下りきる。
 廊下が右の方に向かって伸びていた。

 その時、視線の先に――1枚の貼り紙が壁に貼られていた。


 酸化して黄ばんだ紙を埋め尽くすかのように、細かい文字で書かれていた。








43 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:38:56.33 ID:03wzDEqY0








    『たすかるわけがないのである


    ぼくたちはもうばんさくつきた


    これから何日か生きられるとして


    いつまで何も食べずにいられる?


    いつまで何も飲まずにいられる?
 

    いつまで同じ服装でいられる?
 



    しんだほうがらくなのである』




44 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:39:22.39 ID:03wzDEqY0




 あゆみ「…………」

 黒子「…………」

 視線に嫌でも目に入る、貼り紙の文句。
 歩く足を止め、ただ呆然と眺めるしかなかった。





 頭も――どこか、ぼんやりしだしてきて――。



 


45 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:39:53.98 ID:03wzDEqY0



 


      『きみもおいでよ


      ぼくらはまってる
 

     なに、死ぬのは簡単だ


     ちょっと想像すれば……


     いくらでも方法はある』


46 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:40:32.48 ID:03wzDEqY0


 それは――死者からのメッセージ。

 この空間に迷い込んでから――どれだけの時間が経っただろうか。

 数時間か、それとも数日か――あゆみも黒子も、把握しきれていなかった。

 もちろん、食料はおろか――水も口にしていない。 

 霊が跋扈し、朽ち果てて歩くのも危険なこんな空間で、何日も何日もさまよう――たまったものじゃない。

 それは――この空間にいる生者に対する甘い悪魔の誘惑だった。

47 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:41:30.12 ID:03wzDEqY0


 あゆみ「……もう……いや……」

 今にも泣きそうな顔を、手で覆う。
 そして、その場にしゃがみこみだした。








     『まってるからね』










 黒子「…………」

 あゆみとは対称的に、じっと貼り紙の文言を眺めていた。

48 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:42:00.27 ID:03wzDEqY0




 鋭く、睨みつけて。

 拳を、握り締めて。

 体を、震わせて。








     『まってるからね』








 そして、ゆっくりと貼り紙の所まで、歩み寄り、


49 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:42:36.33 ID:03wzDEqY0




 黒子「こんなこと……いけしゃあしゃあと……」


 声を怒りで打ち震わせ、

 





50 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:43:22.17 ID:03wzDEqY0

 






  ベリッ!!







 貼り紙に手を掛け――勢いよく、剥ぎ取った。


 そして、片手で貼り紙を力いっぱい握り潰し、

51 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:43:55.35 ID:03wzDEqY0








 黒子「ふざけんじゃ……ないですの!!」






 ロウソクの炎を、握った貼り紙に近づける。

52 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:45:29.47 ID:03wzDEqY0


 あゆみ「……え?」

 目の前で起こった、同行者の行動。
 顔を覆った手をずらし、その様子を、ただ呆然と見ていた。


 炎は貼り紙に燃え移った。
 紙を黒い灰に変えながら、黒煙を上げて、じわじわと燃えていく。

 そして、炎が黒子の手元にまで近づきそうになったとき――



 黒子「……ふん」



 燃える張り紙を勢いよく、床に叩きつけた。


53 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:46:13.13 ID:03wzDEqY0

 あゆみ「し、白井さん!!何するの!!」

 突然の蛮行に、悲鳴に近い声を上げる。

 このままでは、床に火が燃え移ってしまう。
 こんな朽ちた校舎なぞ、一瞬で火の海に包まれてしまう。




 黒子「…………」


 当の本人は、ただ――床の上で、なおも燃える貼り紙を、じっと眺めていた。

 
54 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:46:47.15 ID:03wzDEqY0

 



   ――無表情で。





   ――瞳一つ動かすことなく。




55 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:48:04.43 ID:03wzDEqY0

 あゆみ(早く、消さないと!!)

 ほぼ本能で――炎のところまで駆け寄る。

 炎は今にも、床に燃え移りそうだ。
 



        ドン!!


            ドン!!





 燃える貼り紙を、勢いよく靴で踏みつける――黒子。 



 黒子「……ご心配なく」

 抑揚の無い声を発しながら、炎をなおも踏みつける。

56 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:48:40.10 ID:03wzDEqY0

 直後――炎は消えた。

 そこには、すっかり燃え尽きて、黒い灰になった貼り紙と――少し黒く焦がした、床があるだけだった。



 黒子「貴女と、この校舎で心中する気は、さらさらありませんので」

 ゆっくりとあゆみの方に顔を向ける。





 ――憔悴した表情を向けながら。




57 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:49:15.11 ID:03wzDEqY0

 あゆみ「本当に……何のつもりよ……こんなことして」

 そんな黒子に抗議の声を上げる。

 声も、表情も――すっかり怯えきった様子で。


 黒子「申し訳ないですの。急に頭に来てしまいましたの」

 あゆみ「頭にきたって、無茶苦茶すぎるわよ」

 黒子「そうですわね。でも……ああでもしないと」

 なおも怯えるあゆみに、顔を向ける。

58 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:49:42.64 ID:03wzDEqY0

 黒子「誘惑に……取り込まれる気がしましたの」

 あゆみ「え?」

 黒子「いえ、なんでもないですの。とにかく、先を急ぎますの」

 その場を無理矢理濁して、朽ちた廊下を歩き出す。


 あゆみ「う……うん……」

 そんな反応に、釈然としないままだったが――黒子の雰囲気に押されるような形で返事をする。
 そして、先に行く黒子に付いて行く形で、廊下を進んでいった。

59 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:50:31.39 ID:03wzDEqY0

 しばらく歩くと、広間のようなスペースに出た。

 床には小児用らしき、上履きが散乱していた。
 右手を見ると、大きな引き戸が半開きになっていて、その先には靴箱がいくつか並んでいる。

 玄関前のホールに出たようだ。
 正面と左手に、それぞれ廊下が伸びている。


 正面の廊下の前の床には、裂け目が走っていた。
 しかし、人一人分が通れる床板が、裂け目をまたぐように、正面に続く廊下へ向かってた。

60 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:51:08.04 ID:03wzDEqY0

 黒子「で、篠崎さん。心当たりは、どの方向にありますの?」

 あゆみ「左にいく廊下の先だけど……」

 手にしたロウソクを左の方へと向ける。

 一回り幅が広くなっている廊下。
 その先は――ロウソクの炎は届かず、ただ闇に閉ざされていた。






 そして、廊下の手前には――

61 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:51:42.22 ID:03wzDEqY0

 あゆみ「ひっ……」

 目に入ったものに、思わず声を上げてしまう。
 そして、すかさず目をそむけてしまう。


 ――全身を、細かく震わせながら。



 黒子「うっ……これは、ひどいですの……」

 思わず、手で口を塞ぐ。
 そして、ゆっくりと目に入った物体に歩み寄っていく。


 ――懸命に、襲ってくる吐き気を抑えて。

 ――内心、目を背けたいのをこらえながら。


62 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:52:15.63 ID:03wzDEqY0



 床の上には頭。

 上あごより、切り取られた頭。

 床に広がった、血の海に浮かぶ島のように――頭が1つ、ぽつんと置かれていた。



 その先には、胴体。

 下あごより、上の部分が切り取られて無くなっている――ようだ。

 首から下の部分も、着ている黒っぽいセーラー服も、もたれ掛ったモルタルの壁も――血で紅く染め上げられていた。



 ロウソクを近づければ、状況が分かるだろうが――黒子は到底、そんな気にはなれなかった。


63 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:53:13.60 ID:03wzDEqY0

 が――気になる点が一つ。

 黒子(セーラー服……まさかと思いますけど……)

 頭の中に浮かんだのは、初春と佐天。
 彼女らが着ている柵川中学校の制服も、紺のセーラー服。



 一瞬、いやな予感がよぎったが――それは、すぐさま否定された。



 それは――床に落ちていた生徒手帳と、メモの存在。



 黒子「…………」

 惨殺死体が目に入らないようにして、それらを拾い上げる。

 いずれも、床に広がった血で、所々が汚れていたが、読めないというほどではない。

 生徒手帳をめくると、見開きに生徒証が挟まれていた。

64 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:53:40.34 ID:03wzDEqY0

 黒子(……美里市立 彦糸高等学校2年4組 三崎由真……違いますわね……)

 内心、安堵する。
 犠牲者を目の前にして、それは不謹慎かもしれない。


 が――とりあえず、友人は犠牲にはなっていない。
 今は、それがわかっただけでも、安心してしまうのは、仕方ないことだと言えるだろう。

 数え切れないぐらいの犠牲者の遺体が転っている、血なまぐさい空間では。
 多重閉鎖空間とやらで、分断された友人の生死が分からない状況では。


 続いて、メモ用紙にも目を通す。


65 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:54:14.73 ID:03wzDEqY0

 
      『由真はもう疲れました……
 
     クラスメートの水姫ともえ君……  
 
      渡り廊下から外の樹海に入って
 
     もう3日、帰ってきてくれません。
 
      顎から上のない女児の幽霊に
 
        追い掛け回されて、

   足首を捻ったり手首をガラスで怪我したり、

        もう散々です』
 


66 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:54:43.83 ID:03wzDEqY0


 あゆみ「なんてことなの……ひどい」

 黒子「ええ……いろんな意味で、気の毒すぎて……最悪ですの」

 横からメモを覗きこんで、なおも怯えるあゆみ。
 険しい表情で、メモにじっと目を向ける黒子。


 目の前に横たわっている、犠牲者の遺言。
 これから分かったことは2つ。


 黒子(まず――外に出ても、ロクなことがなさそうですの)


67 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:55:27.63 ID:03wzDEqY0



    『チョキン、チョキンと

    鋏の音が聞こえます……
 
     耳鳴りでしょうか。
 
   もういっそ楽に……なりたい。
 
    あの女児の霊みたいに、

    わたしの首も切り落と』



 メモは途中で唐突に途切れていた。

 いや、最後の文字から、線が伸びて――途切れていたのだ。

 恐らく、書いている途中で、惨殺されたのだろう――。

68 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:57:24.09 ID:03wzDEqY0


 黒子(――児童霊に。殺意を持って、生きている人間を追っているのは、間違いないようですの)

 ここで、先程耳にした、七星の言葉が頭に思い浮かんでくる。








 ――あの子達の霊をひとりづつでも安息に弔うことで、彼らの囚われた魂が形成しているこの多重閉鎖空間は存在できなくなるはずです。


69 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 22:57:54.99 ID:03wzDEqY0

 だが、それはこの状況を見ても、困難もいい所だった。
 いくら、過去にあった事件の犠牲者とはいえ――その無念がこんな凶行に突き動かしているとしても――残忍極まりない。

 そんな輩は、生きている相手でも厄介だというのに――霊相手となると、状況と方法によっては、こちらも相当の痛手を覚悟しなければいけないのかもしれない。


 黒子(いや、命がいくつあっても足りないと言っても、おかしくないかもしれないですの……)

 そんなことを想像し、思わずため息をついてしまう。
 メモと生徒手帳を、そっと床に置く。

 そして――目の前の哀れな犠牲者に、黒子とあゆみは手を合わす。

 1分くらい、そうした後――死体に目を合わせないようにしながら、廊下を恐る恐る、奥へと進んでいった。
70 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/27(金) 23:00:24.36 ID:03wzDEqY0
本日の投下はここまでです。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/28(土) 03:59:55.77 ID:ilc696Hao
乙 相変わらずゾクゾクするな…
けど>>43のところでアックアさんを連想して和んでしまったww
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/28(土) 15:37:05.87 ID:gfTpYfuDO
>>71
自分も思わず吹いてしまったww
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/05/29(日) 08:19:38.39 ID:RpgqJoj60
そういえば良樹はどこに行ったんだろう……
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 14:26:39.24 ID:tQcHRdiL0
そろそろ他のキャラの様子が気になってきたな
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2011/05/30(月) 20:58:54.41 ID:99qAXY6s0
楽しかった、良樹…
76 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/05/31(火) 00:02:50.08 ID:NgFeDLqq0
お待たせしました。
続きを投下いたします。
77 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/05/31(火) 00:03:18.17 ID:NgFeDLqq0









        ……シク、シク、シク……





 


78 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:04:05.00 ID:NgFeDLqq0





 



 黒子「え……!?」

 思わず、その場に立ち止まった。

 慌てて、周囲を眺め回すが――。







79 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:04:35.13 ID:NgFeDLqq0







        ……シク、シク、シク……







80 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:05:01.12 ID:NgFeDLqq0


 まるで機械が発する声のような――抑揚のない声。



 あゆみ「泣いてる……」

 彼女もその声が耳に入ったのだろうか。

 じっと、声のする方向に視線を向けていた――。





81 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:05:30.50 ID:NgFeDLqq0









        ……シク、シク、シク……







82 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:05:56.84 ID:NgFeDLqq0




 あゆみ「人形が……泣いてる」






 ――黒子の、腰の辺りに。

 ――着ているブレザーの、ポケットの膨らみに。






 ――そこにある、文化人形に。



83 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:06:37.86 ID:NgFeDLqq0




 黒子「人形が泣いていますの!?」

 慌てて、ポケットに手を突っ込む。

 そして、すかさず中に入っている人形を取り出した――






84 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:07:13.35 ID:NgFeDLqq0








   「シク、シク、シク……」







 泣き声は――人形から発せられていた。

 表情は先程とまったく変わることは無いが――ただ、泣き声を発していた。

85 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:08:03.29 ID:NgFeDLqq0

 黒子「ほ、本当に泣いていますの!?何がどうなっていますの!?」

 人形を持つ手が震えていた。
 動揺を露にして。

 機械仕掛けなんかありそうにない、文化人形。

 強く震えた手で握り締められていても、なお、すすり泣きを絶やすことは――無い。


 黒子「気持ち悪いですの、こんなもの!!」

 あゆみから話は聞いていたものの、いざ実際に起こってみると、不気味以外の何者でもない。
 こんなものを、よく持っていたものだという気にさえなる。


 思わず、人形を放り投げそうになる――が。



 あゆみ「待って。何か話している」

 黒子「え!?」

 投げようとした手を止める。
 そして――恐る恐る、人形に耳を近づける。


86 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:08:33.37 ID:NgFeDLqq0








  「ア、カ、イ、ト、ビ、ラ、ノ、ヘ、ヤ……」








87 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:09:21.82 ID:NgFeDLqq0

 あゆみ「赤い扉の部屋……!?」

 慌てて周囲を見回す。
 同時に、先程回った際の記憶を懸命に呼び起こす。

 今いる場所は丁度、廊下の突き当たり。
 廊下が左右に伸びている。

 左に行くと、4-Aの教室があり、その先は行き止まり。
 札がぎっしりと貼られて、厳重に封印された引き戸があるだけのはず。

 右に行くと5-Aの教室があって、その先は行き止まり。
 同じように扉が……。

88 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:09:47.35 ID:NgFeDLqq0

 黒子「確か、右に進んだ方向にありましたの」

 もし、空間が変わっていなければ――左手にあるはずだ。
 確か、用務員室だったはず。


 ――中から響いていた、テレビのノイズ音が、脳裏に思い起こされる。


 黒子「そこに何がありまして?先程も行きましたけど、鍵がかかってましたの」

 あゆみ「行ってみよう。何かあるかもしれない」

 右に伸びる廊下へと、歩き出す。

 黒子「何かあれば……いいのでしょうけど」

 どこか釈然としない様子だった。
 が、他にあてが無い、今の状態では――先に進むあゆみに付いて行くしかなかった。


89 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:10:14.74 ID:NgFeDLqq0

 あゆみ「……ここね」

 廊下の突き当たり。




         ……シャー……




 左手にある、赤い引き戸。
 まるで血を塗りたくったかのように、鮮やかな赤い色。
 ロウソクの炎に照らされる、周囲の薄汚れた白い壁と見比べて、やけにくっきりと目に映る。

 少なくとも、気持ちの良いものではない。

 ――むしろ、気持ち悪い。

90 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:10:58.87 ID:NgFeDLqq0


 黒子「相変わらず、鍵が掛かっていますの」

 取っ手に手を掛けて、引っ張ってみたが――動くことは無い。
 ただ、廊下の窓のように、模型のように固定されている感じではない。
 わずかに動くが、すぐに引っかかる感触がして――普通に鍵が掛けられているだけのようだ。

 引き戸に嵌められた、曇りガラス越しに――中にあるらしき、テレビからの光が漏れてくる。


 そして、引き戸とは正反対の方には――


91 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:11:20.54 ID:NgFeDLqq0





      ……コロス……




           ……ネエサマ……





 赤い人魂。

 先程、黒子が目のあたりにしたときと変わらず――足元の亡骸の真上辺りを漂っていた。
 そして、か細い声で、姉と思しき人物に、延々と呪詛を吐き続けている――。


92 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:11:53.24 ID:NgFeDLqq0

 あゆみ「……ううっ……」

 声が発せられると同時に――頭を抱えて、その場にしゃがみこみだした。
 目を大きく見開いて、表情もこわばっている。


 黒子「どうしましたの!?」

 慌てて、傍で苦しみだすあゆみを抱きかかえる。
 肩越しに、あゆみの荒くなった息遣いが伝わってくる。


 あゆみ「……ううっ……後ろの霊の……思念が……」

 完全に、怯えきった表情。
 口元はおろか、歯も細かく震えている。

93 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:12:31.64 ID:NgFeDLqq0

 あゆみ「……足が……痛い……血が……止まらないよ……」

 泣き出しそうな表情で、ただ呟きだす。

 だが、あゆみの足には――傷は一つも無い。


 あゆみ「……寒い……苦しいよ……」

 今度は両手を胸元で抱えだす。
 全身が細かく震えているのが、黒子の体にも伝わってくる。


 黒子「…………」

 ふと、あゆみの背後にあるものに目をやる。


 ――なおも漂っている、赤い人魂。


 黒子(なるほど……先ほどのことといい、大体読めましたの)

94 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:12:59.84 ID:NgFeDLqq0

 あゆみ「……ハァ、ハァ……ヒューツ……」

 息の荒さの度合いが、先程よりも増してきている。
 顔色も、見る見るうちに青ざめていくのが、はっきりと分かる。
 ロウソクの淡い光しかなく、薄暗いこの状況でも。


 黒子(――霊の思念が脳に伝わりやすいようですの。テレパシーというには、語弊があるかもしれませんけど……)

 いわゆる、霊に取り付かれやすい性質。
 姉が霊能力者というぐらい、霊とは様々な意味で密接な、篠崎家の血筋を引く――あゆみ。

 ――もっとも、科学漬けで、霊の存在なぞ考慮されていない学園都市で育った黒子には、そこまでは想像が至らなかったが。

95 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:14:05.23 ID:NgFeDLqq0

 あゆみ「……ヒューッ、ヒューツ……」

 息ずれの音が、なおも激しくなっていく。

 が――吐く息はほとんどなく、ただ息をむやみに吸い込んでいく。
 それと比例して――表情はなおも悪くなって。


 黒子(これは、確か……)

 過呼吸の症状だった。
 風紀委員の研修で、映像のみで見ただけだったが――その時の症状とまったく同じ様子だった。

96 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:14:32.44 ID:NgFeDLqq0

 黒子(この場に居続けては……まずいですの)

 なおも苦しむあゆみを抱きかかえながら、周囲を見回す。
 少なくとも、赤い人魂からの思念を受け取ったことが引き金であろうわけだから――すぐに場所を変えて、処置をする必要がある。

 が、過呼吸となると、体が麻痺して硬直することもある。
 無理に歩かせるのは得策ではない。


 黒子(とにかく、ここは空間移動で……)


 ――目の前の赤い扉か。

 ――今来た廊下の先か。


 黒子(ぐずぐずしている場合ではありませんの)


 そして――。

97 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 00:18:31.89 ID:NgFeDLqq0
投下は一旦ここで終了です。
なお、この後に以下の選択肢が続きます。

A:赤い引き戸の向こうへと、空間移動した。
B:廊下の奥へと、空間移動した。

安価は>>99にて、お願い致します。

なお、今回はいければ1時30分過ぎに、続きを投下しようかと思いますのでお願い致します。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/31(火) 00:34:21.77 ID:OQ8mHcGW0
Aは死亡フラグな気がしてならない…
安価なら↓
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/31(火) 00:35:10.78 ID:xEdH+xRIO
B
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/31(火) 00:52:00.30 ID:Gh16OmdDO
それじゃBで
101 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/05/31(火) 04:57:22.25 ID:NgFeDLqq0
予定より、大幅に遅れて申し訳ありません。
>>99のBにて続きを投下いたします。
102 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/05/31(火) 04:58:57.55 ID:NgFeDLqq0


 ――廊下の奥へと、空間移動した。






 5-Aの教室の前付近の廊下。
 そこに突如、黒子とあゆみの姿が出現した。


 あゆみ「……ヒューッ、ヒューツ、ゲフッ、カフッ!!」

 なおも過呼吸は治まる気配は無い。
 このままでは、体はおろか、脳の機能にも支障を来たしかねない。

 黒子「ちょっと、我慢してくださいまし!!」

 すかさず、両手で小さな袋状の形を作り、あゆみの口元へともっていく。
 本当は袋があればいいのだが、生憎そんなものは持ち合わせていない。
 口元から外れないように、あゆみの頭を壁に押し付けるように力を加える。
 変に抵抗された場合、黒子も怪我をする恐れは当然あったが、そんなことは言っていられない。

103 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 05:00:02.44 ID:NgFeDLqq0

 幸い、あゆみに抵抗する気配はない感じだった。

 要は、酸素を過剰に取らすのを止めて、過呼吸によって少なくなっている二酸化炭素を適正な量に戻してやること。
 時間はどれぐらいかかるかは分からない。

 黒子「…………」

 呼吸が正常に戻るまで、ただ続けるしかなかった。






 あゆみ「……スゥ……スー……」

 どれだけの時間が経ったのか。
 10分のような気もするし、1時間のような気もする。
 だが、そんなのは今はどうでもよかった。
104 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 05:00:35.29 ID:NgFeDLqq0

 あゆみの口元から、両手をゆっくりと離す。

 呼吸は、大方落ち着いてきていた。
 顔色も幾分か正常になってきている。

 が――ぐったりとした印象は拭えない。
 目を閉じてうつ伏せがちになっている。
 立って歩くのはおろか、話すことができるようになるまでさえ、まだまだ時間を要するようだ。


 黒子(さてと……問題はここからですの)

 ため息を一つ吐き、あゆみを改めて一瞥する。


 あゆみ「……スー……スー……」

 目を閉じながら、壁を背にして床に腰を下ろしていた。
 傍から見れば、眠っているようにも見える。

105 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 05:01:00.29 ID:NgFeDLqq0

 黒子(あの用務員室に何かがあるっぽいでしょうけど……そこに至るまでが問題ですの)

 悩みの種は、入口前にいた――あの赤い霊。

 再度、あゆみを連れて行った場合――同じようなことになるのは、目に見えている。
 空間移動で移動してもよかったのだが――先に何があるのか、得体が知れない。
 内部が崩れていることが考えられる。
 着地場所が悪ければ、怪我はおろか、下手を打てば命をも落としかねない。

 最悪――児童霊とかに遭遇するというのも、考えられない話ではない。

 もちろん――1-Aの教室の時みたいに、黒子にも何かしらの異状が出ることも、無い話ではない。 


 黒子(どうしたものでしょう?)

 いい案は、なかなか思い浮かばない。
 何気なく外に面した側の壁を見回す。

106 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 05:01:40.97 ID:NgFeDLqq0

 黒子「――!?」

 柱が埋め込まれているのか、少し出っ張った部位がある。
 その部分に――書かれていた。




 ――下向きの矢印が、でかでかと。




 先程、ここを通った時は気づけずに、そのまま通り過ぎてしまっていたのだろう。
 矢印の方向に視線を落とすと――





 ――床に10センチ四方の、穴が開いていた。




 黒子「これは……!?」



 穴に目を移したとき――白っぽい物が、穴の奥に落ちているのが見えた。

107 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 05:03:02.58 ID:NgFeDLqq0

 ロウソクの炎を近づけてみる。
 それは、5センチくらいの大きさで、何かをルーズリーフのような紙で包んでいるようだった。


 穴に手を伸ばす。
 深さは10センチ足らずで、簡単に掴んで取り出せた。

 それを床の上に置くと、丁寧に包んでいる紙をはがしていく。
 中から出てきたのは――




 水の入った小瓶。



 十字架のネックレス。





 黒子「――!?」





 そして――赤い色の小さな鍵。

 即座に、用務員室の赤い扉を想像してしまうのは、難しいことではなかった。

108 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 05:03:32.31 ID:NgFeDLqq0

 黒子(何ですの?)

 包んでいた紙の裏側には、文字が書かれていた。
 紙を広げて、目を通す。


 『***ナ先輩へ

  用務*室の*を置いておきます。

  あそこはヤバいです。

  **がマジでい**です。

  役に立つかは分か***ですが、

  あの霊能*が落と**いった水と、

  途中で拾**十字架のネックレスを置いときます。

  マジで気を*けて**さい』


 走り書きとも言ってもいい、乱暴な文字だった。
 鉛筆で書いたせいか、所々がにじんでいたり、文字自体が崩れていて、読めない部分がある。

109 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 05:04:10.44 ID:NgFeDLqq0

 黒子(用務員室の鍵のようですわね。あまりにもあからさまですの) 

 扉と同じ赤い色の鍵を、手の中で転がしながら、メモを読み返す。


 あゆみ「んんっ……」

 ゆっくりと顔を起こす。
 なおも、疲れた様子だが、先程と比べれば顔色はかなり回復していた。

 黒子「篠崎さん、もうマシになりましたの?」

 あゆみ「うん、なんとか。迷惑掛けちゃって、ごめん」

 黒子「構いませんの。それより、これを」

 先程拾い上げた、鍵などの一式をあゆみに見せる。

110 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 05:05:02.76 ID:NgFeDLqq0

 あゆみ「これって!?用務員室の鍵!?」

 黒子「そうらしいですの。おまけにいろいろありましてよ」

 あゆみ「七星さんの聖水まで……」

 小瓶を手にするあゆみの表情には、安堵の色がにじみ出ていた。


 黒子「あの女のですの?」

 あゆみ「うん。これを読んだ限り、そうだと思う。これだったら、霊に出くわしても何とかなると思う」

 黒子「本当ですの!?」

 あの女子高生霊能力者の顔が脳裏に浮かぶ。
 その途端、ただでさえ胡散臭いという印象が、一層強くなる。


 あゆみ「七星さんがこれを児童霊に振りかけて祓おうとしてたのを、実際に見たし。成仏はさせられなかったけど、多少の効果はあったみたい」

 黒子「そうですの……まあいいですわ」

 鍵を手にしたまま、用務員室の方角を向く。
 相変わらず、その先は闇に閉ざされていた。

111 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 05:06:42.25 ID:NgFeDLqq0

 黒子「立てそうですの?」

 あゆみ「うん。もう大丈夫」

 壁に手を付きながら、ゆっくりと立ち上がる。
 特にふらついたりとする様子も無いようだ。


 黒子(――マジで何かがいそう……まあ、そんな感じなのは、扉の色だけでプンプンしていますけど)

 鍵をポケットにしまいこみ、床に置いていたロウソクを手にする。

 黒子(行ってみるしか仕方がありませんの。篠崎さんは……)

 ちらりとあゆみの顔をのぞき見る。
 手にした七星の聖水を握り締め、もう一方の手でロウソクを持っている。

112 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 05:07:21.18 ID:NgFeDLqq0

 黒子(連れて行かないほうがいい気もしますが……かと言って、1人にするわけにもいきませんの)

 視線を制服のポケットに移す。
 文化人形を突っ込んでいて、その分の膨らみが出ている。


 今の所――声を発する気配は無い。


 黒子(この空間では、どこでも危険なのには変わりありませんの)

 再び、廊下の奥へと顔を向ける。


 黒子「行きましょうか」

 あゆみ「うん」

 漆黒に閉ざされた先に向かって――朽ちた床の軋みを立てながら、2人は歩いていった。

 
113 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/05/31(火) 05:24:15.41 ID:NgFeDLqq0
本日の投下はここまでです。
なお、>>97のAはWrongENDを想定していました。

あと、失礼ながら今回は米返しをば。

>>74
そろそろこのchapterも終了にする形で考えております。
あともうしばらくお待ち願います。

>>71>>72
投稿した時に気づきましたが、時既に遅し……。
原文があの状態でしたので……。

>>73>>75
YOSHKIも何かの形で登場させようかとは思っていますが、先の話ということでお願い致します。


最後に、お読みいただいている方、声援をしてくださっている方へ、改めて感謝いたします。

114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/31(火) 05:27:06.09 ID:tTGKwkngo
この時間に投下くるとは思わなかった乙でした
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/01(水) 20:29:02.85 ID:F0JtCAhv0
おつおつ
もう100レスか、早いな
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/06/01(水) 23:24:14.11 ID:/HZCqi9G0
乙乙。
>>108って原作にあるの?
PSPしかやってないからわからん。
117 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/06/07(火) 23:20:22.79 ID:Deibh8C50
お待たせしました。
続きを少しだけ、投下しておきます。
118 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/06/07(火) 23:21:46.07 ID:Deibh8C50

 黒子(問題は管理人室前にいる、あの赤い魂ですの……)

 ロウソクの炎が届かない、廊下の奥の闇に向かって歩きながら、考えをめぐらせていた。

 黒子(わたくしならともかく、彼女は先程の二の舞……いや、最悪、完全に取り憑かれてトランス状態になるでしょう……)

 隣を歩くあゆみの顔を、再度横目でちらりと覗く。
 これまでのように、怯えきった様子は無い。
 ただし、どこか顔色が優れない。
 なんとか無理して平静を保っている――そんな印象が拭えない。


 黒子「とにかく、管理人室の前の霊がいるようでしたら……」

 あゆみ「分かってる。その時はこれを霊に振りかけるから」

 聖水の入った小瓶をじっと握り締めた手を、じっと見つめていた。
 その手は小刻みに震えている。
 黒子が遠目で見ても分かるぐらいに。

119 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:22:41.03 ID:Deibh8C50

 黒子「…………」

 何となくだが――危なっかしい。
 見ていて、そう思う。
 精神が極限にまで達してしまっているのだ。
 思うように事が運べばいいのだが――そうでない場合、一気に崩壊してしまうというのも、考えられない話ではない。

 ましてや、霊に憑かれやすい彼女のことである。
 思いもよらない事態が起こっても、不思議ではない。


 黒子(ここは、とにかく……)

 思考をめぐらせ、ある結論に思い至る。
 ふと、足を止める。
120 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:23:24.80 ID:Deibh8C50

 あゆみ「どうしたの?」

 黒子「篠崎さん、その聖水を自身に振り掛けてくださいな」

 あゆみ「いきなり……どういうこと?」

 唐突な黒子の提案に、怪訝そうな視線を送る。


 黒子「霊はあの部屋前の1体だけとは限らないですの」

 あゆみ「それはそうだけど……言ってることが分からない」

 なおも黒子の言う意図が、さっぱり呑み込めない様子だ。

121 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:23:53.53 ID:Deibh8C50

 黒子「もしそれであの霊を祓ったとして、後から別の霊が出てきたらどうするつもりですの?」

 あゆみ「どうするって……そんなの……」

 黒子「それの量は少ないですの。使い切った後に、霊だのが出てきたらどうするつもりですの?」

 あゆみ「それは……」

 急に言葉を詰まらせた。
 あまり後先のことは考えてはいなかったようだ。


 黒子「ましてや、貴女は霊に憑依されやすいですの。霊に振りかける前に、やられたらそれを持っていても無意味ですの」

 あゆみ「…………」

 押し黙りながら、手にした聖水をじっと眺めていた。
 そして、ゆっくり顔を上げて、黒子の目をじっと見つめる。

122 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:24:46.21 ID:Deibh8C50

 あゆみ「魔よけとして使うってこと?」

 黒子「ええ。憑依されてもそれをかけたらどうにかなるかもしれませんけど、それだったら、予め貴女自身に振りかけた方が効率がいいですの」

 あゆみ「言われたらそうだね……分かった」

 手にしていた壜の蓋をゆっくりと引き抜く。

 そして――頭や上半身、下半身に向けて、何度も壜の口を振る。
 中の聖水がそのたびに、あゆみの体に降りかかる。


 数回その動作を繰り返しているうちに、壜の中身は空になった。

 額や頬は汗を流したかのように、ロウソクの光を艶やかに反射している。
 制服も所々に濡れ痕がくっきりと残っていた。

123 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:25:47.07 ID:Deibh8C50

 あゆみ「これでどう?」

 黒子「いいですの。では、行きましょうか」

 あゆみ「うん……でも、白井さんは大丈夫なの?これは使い切っちゃったけど」

 空になった壜と、黒子の顔を不安げに交互に眺めまわす。

 黒子「わたくしは……どうにかなると思いますの。これがありますから」

 そう言って、ポケットから十字架のネックレスを取り出した。
 聖水と一緒にあったものだ。


 黒子「効果がるかどうかは分からないですけど、無いよりかはマシですの」

 あゆみ「だったら、いいんだけど……」

 黒子「まあ、うだうだ考えても仕方ありませんの。お守りのようなものでしょうから、霊にはそれなりに効果はあるでしょう」

 先程、あゆみを正気に戻す際に、探したパワーストーンの存在。
 眉唾ものと思えたが、なぜかひとりでに砕けた。
 そして――現にあゆみは正気に戻ったことから、それなりに効果はあると思える。

 それが、黒子の言葉の根拠になっていた。


124 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:26:41.55 ID:Deibh8C50


 ――管理人室の前。







      ……ネエサマ……




           ……イタイヨウ……







 扉の前のスペースには、赤い人魂が、相変わらず浮かんでいた。
 はかなげな声で――姉への恨み言を呟いている。

125 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:27:21.70 ID:Deibh8C50

 黒子「とにかく気にせず、戸の前まで」

 あゆみ「うん」

 二人は恐る恐る、左手の赤い扉に近づいていく。
 自然と、赤い人魂との間の距離も縮まってくる――わけだが。








       ……ヒィッ!!








 いきなり、か細い悲鳴が上がる。

 人の形を取ったり、炎の形に戻ったりという変化を激しく繰り返しだして。




 ゆっくりと――後ずさりだした。

 二人との距離が見る見るうちに、離れていく。

 それを尻目に、黒子とあゆみは引き戸の前に立った。
126 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:28:21.80 ID:Deibh8C50

 黒子「今のうちですの」

 すかさず、鍵穴を見つける。
 ポケットから、赤い鍵を手にして、鍵穴に差し込みだす。

 鍵はすんなりと、鍵穴にはまり――ゆっくりと回転させる。





    ――ガチャリ。





 黒子「いけたようですの」

 あゆみ「じゃあ、すぐに中に……」

 取っ手に手を掛け、引き戸を右の方へ引っ張る。
 戸は、勢いよくスライドして――。






 ――管理人室の光景が、はっきりと目に入った。


127 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:30:46.18 ID:Deibh8C50

 扉の先には古びた土間。
 流しや木炭用の釜があったが、使われなくなってから、長い時間が経っている。
 埃が相当溜まっていて、所々に蜘蛛の巣が張っていることから、それは明白だった。

 土間の先には、畳敷きの部屋。
 6畳の広さだった。
 周囲のモルタルの壁は、廊下とかと変わらず薄汚れていて。

 埃の溜まったちゃぶ台。
 同じく、埃が溜まって、黒ずんでいるだるまストーブ。

 そして――




128 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:33:17.75 ID:Deibh8C50








    ――シャーッ……







 ――窓際に置かれた、古びたテレビ。

 チャンネルのツマミなどがあることから、相当古い時期のものだった。

 上には、埃が積もった、これまた古い時代のビデオデッキが乗せられていて。

 ブラウン管には、砂嵐のような白黒の模様がランダムに映し出されていた。





    ――シャーッ……





 単調な、音をスピーカーから発しながら。

129 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:34:33.02 ID:Deibh8C50

 あゆみ「なんか……臭いがひどい……」

 部屋の中は、カビ臭さと湿気が持つ特有のすえた臭いが、濃く漂っていた。
 それらは廊下の比ではなく、中に入ってきた二人の鼻を容赦なく襲った。

 が、奥へ足を踏み入れるにつれて、異様な臭いが強くなるのが感じられる。
 何かが腐ったような――とてつもなく嫌な悪臭が、鼻を突く。
 息をするのも嫌になるぐらいにまで。


 黒子「ええ……そこの押入の方からするようですの」

 奥にある押入と思しき、閉じられたふすまを指差す。
 ふすまは古びていたものの、破れたりしているのは見られない。
 ぴっちりと閉じられていた。


 黒子「まったく……ここに何が……」

 鼻を手で塞ぎながら、ポケットにしまっている人形に手を掛ける。
 そして、ゆっくりと引き出した――その時。

130 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:37:34.40 ID:Deibh8C50








     「……ク、ラ、イ……」








 あゆみ「何か言ってる……暗い?」

 黒子「しっ!!」

 口の前に人差し指を立てる動作をした。
 そして耳に人形を近づけようとした時。
131 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:39:22.85 ID:Deibh8C50







 「キ、タ、ナ、イ、ケ、ム、タ、イ、イ、キ、グ、ル、シ、イ、コ、コ、カ、ラ、ダ、シ、テ!!」







 急に、警報のような甲高い声を発しだした。


 黒子「――!!」

 思わず、人形を耳元から離す。
 人形を落としそうになったが、なんとかこらえる。


 あゆみ「……汚い、煙たい、息苦しい、ここから出して……何かあるのかな」

 黒子「ええ、でも思い当たるのは、ここだけでもいくつかありましてよ」


  ――押入の中。

  ――釜の中。

  ――ストーブの中。


 そのうちで、思い当たるのは――。
132 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/07(火) 23:46:06.68 ID:Deibh8C50
本日の投下はここまでです。
なお、以下のように選択肢が続きます。

A:押入を探す。
B:釜を探す。
C:ストーブを探す。

安価は>>134にてお願い致します。


>>116
>>108ですが、原作にはないものです。
こういったオリジナルで考えたものについても、ちょくちょくやっていこうかと思います。

最後に、お読み頂いている方に、感謝を。
あと、次回の投下にて、このChapterを終了し、美琴か佐天に切り替える予定ですので、お願い致します。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/07(火) 23:58:14.29 ID:EKb9Jy+DO
どれがBADか分からないな…

安価下
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/08(水) 00:10:18.86 ID:8IR6ND/2o
Aで
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 22:49:01.97 ID:56iy60r50
おつおつ
少しオリジナルを交えるのは新鮮味があって好きかも
136 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/06/15(水) 03:16:40.20 ID:0Nyid71F0
お待たせしました。
>>134のAにて、続きを投下いたします。
137 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:17:32.49 ID:0Nyid71F0

 ――押入を探す。

 何気なく、押入の方へと足が向く。


 黒子(汚い……そりゃ、どこもそうでしょうけど、ここはとりわけそんな気が……いや)

 畳の上をゆっくりと踏みしめる。
 臭いが一層きつくなるものの、歩くスピードを緩めることは無い。
 一歩一歩、押入へと近づいていく。


 黒子(ここには……ありますの)

 ――風紀委員としての勘。

 それが、しきりに黒子の脳に訴えかけていた。

138 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:18:20.73 ID:0Nyid71F0

 近づく度に、強烈さの度合いを増す、腐敗臭。
 その臭いは――これまで黒子も体感したことがあるものだった。

 いや――散々体感させられたといった方が、正確だろうか。


 黒子(多分――)

 襖の向こうにあるものの正体は――大まかに想像がついていた。

 ここに至るまでにも、嫌と言うほど見てきた――




 黒子「……ごくり……」

 思わず、固唾を呑む。
 想像はついているのだが――いざ、目にするとなると、本能がやけに警戒しだすのを感じる。
 多少なりともショックを受けてしまう――そんなことに対する、拒否感。
 警報音がけたたましく鳴り響く――そんな感情がめまぐるしく脳裏を駆け巡る。

 そして、ゆっくりと――襖の取っ手に、手を伸ばす。

139 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:18:55.59 ID:0Nyid71F0






  パキーン!!






 黒子「――!!」

 一瞬、全身が硬直する。


 ――何かが割れる音。

 ブレザーのポケットの中から、甲高く鳴り響いた。

140 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:19:23.35 ID:0Nyid71F0

 あゆみ「な、何!?」

 突然の異音に、怯えの色を露にする、あゆみ。
 息をやや荒げながら、その場に突っ立っている黒子を見つめていた。


 黒子「…………」

 当の本人は、何も言葉を発することなく――左手をブレザーの中に突っ込む。
 しまっていた何かを掴み、ゆっくりと引き出す。

 そして、ゆっくりと――握っていた手を開く。



 その中にあったのは――十字架のネックレス。


 中心の部分で――真っ二つに割れていた。

 左右から、とてつもない力に引っ張られれて――引き裂かれたかのように。


 目にした途端――背筋を寒い汗が流れ落ちるのを、感じた。

141 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:19:49.16 ID:0Nyid71F0

 あゆみ「白井さん、さっきの音はどうしたの」

 黒子「これ……」

 半ば呆然とした表情で、手のひらの中の十字架を見せる。


 あゆみ「うそ……なんてこと……」

 思わず、両手の掌を口の前に持ってくる。
 目の前の十字架のあり様に、ただ戦慄するばかり。

 そして――さらに怯えだし、全身を細かく震わせていた。


 黒子「わたくしにも……分かりませんの。いきなりこんな風に壊れるなんて……」

 あゆみ「これ……やめたほうがいいと思う」

 黒子「何をですの?」

 あゆみ「あそこを開けるのを……」

 震えた手で、先の押入を指差していた。

142 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:20:20.54 ID:0Nyid71F0

 黒子「まさか……あそこを探すのをやめろという、警告とでもいうのですの!?」

 あゆみ「多分、そうだと思う」

 黒子「…………」

 はっきりとは、断言できない。
 ただ、先程のあゆみが憑依されて、正気に戻したときのことがある。
 パワーストーンがひとりでに砕け散ってしまった事実。

 ――もし、それが邪念を振り払うのと引き換えに、壊れるとするのなら。

 ――そして、押入の先に邪念が篭っていて、それのせいで十字架が砕けたとするのなら……。


 黒子「探さない方が……無難かもしれませんの」

 科学的根拠は、はっきり言って皆無だ。
 しかし、科学を超越した事態ばかりが起こっている、この亜空間での出来事。

 そんな警告があっても不思議ではないと――黒子は本能で感じていた。

143 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:20:47.21 ID:0Nyid71F0

 あゆみ「それがいいと思うよ」

 なおも、顔を強張らせながら、ゆっくりと頷く。


 黒子「とすると、あとは……」

 表情は平静を戻した感じで、土間の釜を眺める。
 蓋は傍に転がっていて、中が容易に覗き込めた。

 確かに、釜の中は真っ黒になっていた。
 が――うずたかく積もった塵や、数箇所に張り巡らせられた蜘蛛の巣以外――中には、何もなかった。


 あゆみ「暗い、煙たいのだから……下じゃないのかな。火をくべる部分」

 黒子の傍で、ゆっくりとしゃがみこむ。
 そして、釜の下の部分へと、手にしたロウソクを伸ばす。

 燃え尽きた炭がいくつか転がっていて、やはりいくつもの蜘蛛の巣があったが――中には、何もなかった。

144 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:21:28.37 ID:0Nyid71F0

 黒子「となると、あとは――」

 釜から、ゆっくりと、目を移す。
 部屋の中央にある、だるまストーブへと。 

 煙を逃す配管が、真上へと向かって伸びている。
 そこにも、ストーブ自体にも、埃がうず高く積もり――使われなくなってから、相当の時間が経過しているのをうかがわせる。


 黒子「この中でしょうか。ここから出してというのも、頷ける気がしますの」

 木炭をくべる部分の蓋に手を掛ける。
 そして、ゆっくりと引っ張った。


 蓋は難なく開いた。
 釜と同じく、中は煤で覆われて真っ黒で、燃え尽きた木炭がいくつも転がっている。

 そして――

145 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:22:03.36 ID:0Nyid71F0

 黒子「ん?何ですの、これ……」 

 燃え滓の山の上に――何かが乗っ掛かっているのが見える。
 中は暗くてよく見えないが――小さな袋のようだ。

 手を伸ばして、その物体に手を掛ける。
 掴み取り、ゆっくりと、それを引きずり出す。

 同時に、ストーブの中に積もった細かい煤が、一気に外へと舞い散った。


 あゆみ「けほっ、けほっ!!」

 煤のせいで、思わず咳き込んでしまう。
 目にも入ったのか、手で懸命に瞼をこすっていた。

 そんな状態でもなお、懸命に黒子が手にしている物体を見ようとする。

146 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:22:52.26 ID:0Nyid71F0

 黒子「麻袋のようですの。中に、何かが入っているようですけど……」

 それは、小さな麻袋だった。
 小学生が小物を入れるのに、よく使う巾着袋の形をしている。
 煤のせいでほとんどが真っ黒になっていたが、所々で色が薄れている。
 本来は、白い袋だったのだろう。

 何気なく、底の方を触ってみる。


 黒子「何ですの、これ?」

 固い手触りがする。
 大きさといい、小石のようなものが中に入っているようだ。

 いや――力を少し加えると、わずかながら指が押し込まれる感じがする。
 かなり固めのスポンジを、さらに干したといったところだろうか。


 黒子「…………」

 袋から指を離す。
 その指を眺めると、煤が大量に付着していた。
 触った部位の布に付いていた煤がなくなっていても、なおも黒く染まっている感じだ。

 いや――目を凝らすと、赤黒く染まっていると言った方が正確なのが、よく分かる。

 そして、袋の口に手を掛けて、恐る恐る開く。
 中には――

147 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:23:20.59 ID:0Nyid71F0

 黒子「――!?」

 中身を目にした途端、袋を思わず落としそうになる。
 すんでのところで、袋の紐が指に引っかかって、宙吊りの状態になっていた。

 あゆみ「え!?一体、何が入ってるの?」

 そんな黒子の反応に、顔を寄せてくる。


 黒子「篠崎さん……はっきり言って、見ていいものではありませんの……」

 ゆっくりとあゆみの方へと、振り向く。

 大きく見開いた目から覗く瞳は、落ち着き無く動いていて。
 小さく開いた唇は、小刻みに震えていて。

 そんな黒子の表情は、怯えの色を隠しきれない様子だった。


 なおも震える手で、握り締めた紐。
 その先に伸びている、煤で黒ずんだ袋の底には――



 
 小さな、黒い塊が1つ。




148 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:23:48.45 ID:0Nyid71F0

 あゆみ「…………」

 目の前の同行者のただならぬ様子。
 袋に伸ばしかけていた手の動きが、はたりと止まる。


 黒子「中には……」

 声までも、震えてしまい、うまく発音できない。
 そんな状態にさせた、中の物体とは――




 楕円形のものを、半分に切り取った物体。

 全体的に細長く、尖っているように見える先端は、角が取れて丸くなっている。
 その反対側は、刃物ですっぱりと切り落とされたかのように、黒い切断面を覗かせている。
 ぱっと見は黒い小石のようだが――目を凝らすと、先端から切断面にかけて、一筋の細長い線が刻まれていた。

149 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:24:23.20 ID:0Nyid71F0

 楕円形のものを、半分に切り取った物体。

 全体的に細長く、尖っているように見える先端は、角が取れて丸くなっている。
 その反対側は、刃物ですっぱりと切り落とされたかのように、黒い切断面を覗かせている。
 ぱっと見は黒い小石のようだが――目を凝らすと、先端から切断面にかけて、一筋の細長い線が刻まれていた。


 そして――切断面のあたりから、液体がにじみ出ていた。
 そのせいで、物体は袋に貼り付いていたのだ。

 それは黒く――



 ――いや、赤黒く――周囲の布を染めていた。



 血液。

 その状況から、その液体の正体を連想するのは、容易だった。
 ということは、この物体は――





 黒子「人間の……舌ですの……」


 すっかり気力が抜けてしまったかのような表情をして。

 目の前にいるあゆみに、力なく手にした麻袋を突き出した。

150 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:24:59.46 ID:0Nyid71F0

 あゆみ「み、見たくないから。でも……」

 一瞬、怯えの色を強め、思わず後ずさりかけたが、踏みとどまる。
 そして、思い当たることでもあったのか、その場で少し考え込む仕草をしていた。


 黒子「何か……心当たりでもありますの?」

 あゆみ「うん。それひょっとしたら……」

 そこで一旦、言葉を切ると、恐る恐る目の前にぶら下げられた袋を手に取る。


 あゆみ「あの子たちの舌だと……思う」

 黒子「――!?」

 途端、脳裏にいろいろと思い起こされる。

 1階で遭遇した男児の霊。
 黒子の目の前で、口をあけたときの光景――。


 黒子(確か……舌がなかったですの)

151 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:25:27.46 ID:0Nyid71F0

 さらに別の記憶が呼び起こされる。

 それは教室の中で見た新聞。
 過去、この小学校で引き起こされた、惨劇。

 黒子(記事にもありましたわね。舌がどうとか。それって、舌が切り取られていたってことですの!?)

 さまざまな記憶が脳裏で渦巻く。
 状況の整理がおぼつかない。


 あゆみ「ほら、ここ見てみて」

 袋の隅を指差す。
 その部位も煤で汚れていたが、注意して見ると、何かの文字が書かれているようだ。
 言われるがまま、黒子はその箇所に目を近づける。

152 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:25:57.02 ID:0Nyid71F0

 黒子「……1年……つじときこ……ってありますわね」

 あゆみ「その子……あの霊たちの1人だよ」

 黒子「そうですの!?」

 あゆみ「間違いない。保健室で見た新聞に、あの子達の写真が載ってたけど、確かそんな名前だったよ」

 黒子「まさか……かなり昔に殺されて、切り取られた舌が、ずっとここに隠されていたとでもいうのですの?」

 あゆみ「それは分からないけど、ただ……」

 袋から手を離し、ぼんやりと窓の外の闇に目をやる。


153 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:27:04.12 ID:0Nyid71F0

 あゆみ「それをあの子達に返したら……成仏するかもしれない」

 黒子「…………」

 その仮説について、何もいうことができなかった。
 効果があるのかと、検証して突っ込んだところで、もはや何もならない気がする。
 いや、そもそも検証するという次元とは、あまりにかけ離れた問題だった。

 ただ、感情的に奪われた部位を返してあげれば――何かしらのリアクションは期待できると、思える。


 黒子「とりあえず……保健室にあったその新聞とやらを確認する必要がありますの。誰が誰やらよく分かりませんから……」

 あゆみ「そうだね。他にもいるからね」

 二人は、そのまま用務員室を後にしようと、出入り口まで歩み寄った。


 黒子「ん!?」

 引き戸と引き戸が合わさる隙間に、数枚の紙が挟まっているのが見えた。
 何気なく、その紙を手に取る。


 あゆみ「白井さん。どうかした?」

 黒子「こんな紙が……まあ、後で読みますの。それより先に保健室へ」

 あゆみ「うん……」

 紙を手にしたまま――二人は、用務員室から廊下へと出て行った――。



                                         chapter4『侵食』 END





154 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:27:31.01 ID:0Nyid71F0








          Continued to 5th chapter



                             
155 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/06/15(水) 03:35:20.46 ID:0Nyid71F0
本日の投下はここまでです。

なお、お詫びをひとつ。
>>118>>126は"管理人室"ではなく、"用務員室"でした……。
あと、>>149に一部、重複投稿がありました。

なお、>>132の選択肢は、今回はWrongENDはありません。

さて、今後はこのChapterの未公開WrongENDを示してから、次のChapterに進む形で行きますので、よろしくお願いいたします。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/15(水) 04:49:37.49 ID:ybybnx8R0
おつおつ
157 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/07/01(金) 22:59:50.76 ID:9v/QC6NK0
かなりお待たせしまして、申し訳ありません。
続きが仕上がりましたので、投下いたします。

なお、前chapterのWrongENDのうち、>>97のAについては、誠に勝手ながら、後日に投下いたしますので、お願い致します。
158 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/07/01(金) 23:00:40.18 ID:9v/QC6NK0

 (前スレ>>956のB)


 黒子(……この霊にいろいろ聞いておいたほうがいいかもしれませんわね)

 問い詰めようとして、霊に呼びかけることにした。



 あゆみ「あははは……苦しい……苦シイヨ……もう楽にntsko……」

 入口が閉め切られた、黒板脇の部屋。
 そこから漏れるあゆみの声は、笑っているようにも、泣いているようにも聞こえる。

 そちらの方向へは顔を向けず、霊のいた方向に顔を向ける。

 霊の姿は既になくなっていた。
 再び現れる気配も――ない。

159 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:01:16.44 ID:9v/QC6NK0

 黒子(そういえば、消えるとき、何かに怯えているようでしたの。どこかに隠れているとか?)
 
 そう思い、何気なく教室内を眺め回す。



 ――その時。




 




  ビュン!!





 鋭い風斬音が聞こえた。
 すぐ耳元で。

 一瞬、強烈な風――のようなものが当たる気配がした。

160 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:01:54.26 ID:9v/QC6NK0









  ぐちゅ……。



 そして、音がした。

 何かが爆ぜるような――気持ちの悪い音。
 




 黒子「――!!」

 何が起こったのか分からなかった。
 目の前には――先程と、何の変化は無いようだ。

 散らばった机や椅子。
 所々に穴が開いたり、崩れたりしている、床や天井。




 ただ――。

161 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:02:23.02 ID:9v/QC6NK0





 黒子「え……?」




 体が――異様に熱い。

 まるで、極度までに熱した鉄板を――挟み込まれたように。



 黒子「ぎっ……」

 うめき声を上げた。

 熱くなった部分から。


162 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:02:59.63 ID:9v/QC6NK0


 黒子「……が……」

 激痛が全身に響きわたる。

 言葉にも言い表せない、とてつもない痛み。

 絶え間なく、黒子の体を、延々と蝕んでいた。



 黒子「……あ……が……」

 そして。

 視線が――ゆっくりと――。

 ずれていく。









 ――右下へと。

163 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:03:37.29 ID:9v/QC6NK0




 

 ゴトン。






 黒子の体は、床に音を立てて崩れ落ちた。

 いや――こう言ったほうが正確だろうか。






 上半身だけが、転がり落ちた。





 腰の辺りですっぱりと断ち切られて。






164 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:04:08.71 ID:9v/QC6NK0




 断面から、血が勢いよく噴き出して。

 見る見るうちに――床を赤く染め上げていって。




 血にまみれた内臓が――じわじわとはみ出て。

 まるで――赤い、得体の知れない生物が、床にできた赤い水の池に泳ぎだすかのように。






 ゴトリ。





 背後で、何かが倒れる音がして。






 それは――黒子の下半身だった。

 床に倒れて、断面から血や肉が滲み出してくる。



165 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:04:43.56 ID:9v/QC6NK0



 黒子「…………」

 あえぎ声が出なくなる。
 ただ、口をぱくぱくと動かしていた。
 まるで――金魚が水面に顔を出して、餌を求めるかのように。

 そして、全身を細かく痙攣させて。

 真っ赤に充血した目を見開いて――自身の血が床になおも広がっているのを見つめていて。



 黒子「…………」

 やがて、口の動きも、痙攣も鈍くなり――止まった。

 瞳孔はすっかり開いていた。


 だが――なおも切断された断面からは――血や臓物が滲み出していて。


 血の池は――なおも広がりつづけていた……。


166 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:05:38.00 ID:9v/QC6NK0

(暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

 テーレレテテテレテー
 
   Wrong End

 ビターン
(押し付けられた左手の赤い手形。人差し指がない)


 これより、次のchapterに参ります。
167 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:06:07.57 ID:9v/QC6NK0




  ……はぁ、はぁ、はぁ。



 
 闇の中に閉ざされた――階段。
 木製のステップは、所々が抜け落ちていたりしていた。
 明かりも無い中で、歩くのさえ危険な場所を。
 ただ、駆け上がっていた。




  ……はぁ、はぁ、はぁ……。



 一人の少女。

 息を切らせながら。
 行くあても無く。
 ポニーテールにした髪を振り乱して。

 ただ、がむしゃらに駆け上がっていた。


168 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:06:49.97 ID:9v/QC6NK0

 ??(逃げなきゃ!!逃げなきゃ……)

 その人物は、逃げることだけで頭がいっぱいだった。
 額を汗が次々と流れ落ちる。
 着ている白いセーラー服の袖で、乱暴に拭う。
 走る速度は、緩めることなく。

 やがて、踊り場にたどり着く――が。



  バキバキッ!!



 ??「ああっ!!」

 床板に右足を乗せた途端――大きな音共に、踏み抜いてしまった。
 太ももを破片に強く擦りつけて。
 体勢を崩し、朽ちた木製の段に右肘や、左脛を強く打ち付けて。
 あまりの痛さに、声を上げてしまう。

169 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:07:44.72 ID:9v/QC6NK0

 ??「ううっ……」

 床にめり込ませた右足がずきずきと激しく痛む。

 腐って破れた床材。
 のこぎりの歯のようにぎざぎざした断面には、赤い血が付着している。
 宙に浮いた右足に、相当の傷ができているのは――容易に想像がついた。


 ??「ああっ……うう……」

 うめき声を上げながらも、右足を引き上げようとする。
 右手になおも走る鈍い痛みをこらえながらも、床に手を着く。
 それを支点にして、立ち上がる形になるように。


170 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:08:11.73 ID:9v/QC6NK0

 が――全身にうまく力が入らない。
 数センチ程度引き上げるのが、精一杯といった所だ。
 疲れと痛さのあまり、すぐに力が抜け、再び右足は床の穴に沈み込んでしまう。


 ??「はぁはぁ……早く……早く……」

 異様なまでの焦り。
 息を切らせながらも、痛みで泣き出しそうになりながらも――再度同じことを繰り返そうとする。

 その時。






 背後に――誰かがいる気配がした。


 ??「――!!」

 すかさず、後ろを振り返る。

171 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:08:45.05 ID:9v/QC6NK0



 が――そこには何もいない。

 ??「な、なによ……」

 なおも怯えた表情で、空威張りの声を上げる。
 ほんのわずかだが、安心したためだろうか。

 そして、小さくため息をついて、前へと再度振り返った――その時。






 人影があった。


 目の前を覆うように、突っ立っている。

 顔は暗くてよく分からない。

 大柄な人物が、じっとこちらを覗き込んでいる。


 背格好からして……。  

172 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:09:21.09 ID:9v/QC6NK0

 ??「う、うそ……」

 目を大きく見開いて、驚きの声を上げる。
 頭の中で警鐘がベルのようにけたたましく鳴り響く。


 それは――見覚えのある人物。

 クラスメートで。
 片思いをしていた人物で。
 この不気味な廃校に、一緒に飛ばされてきた人物で。



 
 狂ってしまって。

 そして、クラスメートを次々と……。



173 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:09:47.32 ID:9v/QC6NK0


 ――逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!!

 呼吸が一気に荒くなる。
 怯えを通り越して、表情には恐怖の色が露になる。
 
 が、思いに反して、体が動かない。
 まるで、蛇に睨まれた蛙のように。



 「ふしゅるる……」

 耳に入った――不気味な息遣い。

 ふと、我に返る。
 そして、恐る恐る見上げると。

174 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:10:23.37 ID:9v/QC6NK0


 ――違う。

 先程目に映った人物とは――まったくの別人だった。

 大柄だったが、腹はでっぷりと太っていて。
 青ざめて、生気のない顔には皺が刻まれていて。

 異様にぎらついた目で、じっと少女を見つめていて。








 なにより――鉄槌を大きく振り上げていて。



 




175 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:10:50.93 ID:9v/QC6NK0

 ??「ひ、ひいいい!!」

 途端に、体の緊張が一気に解ける。

 それと同時に――思わずのけぞってしまう。
 床にはまっていた右足が、勢いよく抜けた。
 そして――。



  ガタガタガタ!!



 彼女の体は、階下に向かって、勢いよく滑り落ちていた。
 段に顔や手や足を激しく打ち付けるたびに、大きな音を立てて。

176 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:11:20.42 ID:9v/QC6NK0

 ??「アアあっ!!がっ!!」

 悲鳴を上げながら、階段を転がり落ちて。

 とどまることなく――ただ転がり落ちていった。


 「…………」

 階上の踊り場に突っ立った、大柄な人影。
 何も言わず、振り上げた鉄槌を、ゆっくりと下ろす。

 そして――階下の漆黒に向かって転がり落ちる少女を――ただ、じっと見つめていた。



177 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage !red_res]:2011/07/01(金) 23:13:47.63 ID:9v/QC6NK0









                         c h p t e r 5









178 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:14:25.27 ID:9v/QC6NK0

 美琴「そういえば、持田さん」

 壁に背を預ける形で、横でうずくまっている由香に話しかける。

 なおも、異様なまでの息苦しさを感じる別館。
 だが、動き回っているうちに慣れてきたのか――入ってきた時と比べて、苦に感じることはなくなった。
 もっとも、楽だというには、あまりにも程遠いが。


 由香「…………」

 呼びかけに答えるどころか、なおも苦しげな表情を浮かべ、美琴の隣でしゃがみこんでいた。
 この別館の空気に耐えられないのだろうか。
 今にも泣き出しそうな感じで、全身を震わせながら、じっと下を見つめていた。

179 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:15:03.59 ID:9v/QC6NK0

 本館と変わらない雰囲気だった。

 廊下や天井は、やはり所々が抜け落ちていて。
 外に面した窓は、割れていたり、枠が外れかかっていたりしていて。
 天井からぶら下がった、電灯の中には、落ちかかっているものまであり。
 さらには、机や棚が倒れて転がっていて。
 ガラスや木の破片が、あちこちに散乱していた。 

 そんな廊下の奥からは――。


 美琴「…………」

 先程まで、追い回してきた、児童霊がやってくる気配は――ない。

 それどころか、人がやってくる気配も――ない。

180 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:16:02.98 ID:9v/QC6NK0

 何気に、廊下の反対側も見つめる。

 突き当たりになっていて、左右に向けて廊下が伸びている。
 そして、教室と思しき部屋の引き戸が、いくつか並んでいるが――いずれも閉じられていた。

 引き戸の上には、木の札が掛かっていた。
 手近にあったもので読めたのは、【音楽室】という文字。

 
 由香「ううっ……み、美琴お姉ちゃん……」

 蒼ざめた顔をゆっくりと上げる。

 美琴「ん?どうしたのよ……」

 由香「ゆ、由香ね……」

 なおも、全身を細かく震わせながら。
 涙を浮かべた目を、何かを訴えかけるように、美琴に向けて――言った。

181 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:17:05.56 ID:9v/QC6NK0







 由香「おしっこ……」








182 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:18:16.29 ID:9v/QC6NK0


 美琴「はぁ?」

 一瞬、腰砕けのような感じになる。
 そして、すっかりあきれ返ってしまう自分がいたのを、改めて認識してしまう。

 由香「由香ね、さっきからずっと我慢してたの……でも、もうだめかも……」

 美琴「そんなのトイレかなんかですりゃいいじゃない」

 由香「でも、ここのトイレは使えなかったの。床が抜け落ちてたり、中に入れなかったの……」

 美琴「そうなの?そしたら……」

 由香「それで、外でしようとしたら……あの幽霊が……ぐすっ……」

 今にも泣きじゃくりそうな感じになる。

183 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:19:18.01 ID:9v/QC6NK0

 美琴(なるほど。その時に私が飛び込んできたのね……まったく)

 思い起こされたのは、先程の渡り廊下での光景。
 外に出た途端に、あの児童霊と鉢合わせになったというところか。
 トイレが使えなくて、挙句の果てにその仕打ちだなんて、確かにたまったものじゃない。

 心の中で小さくため息を吐く。

 この場でしろというのも、あまりに非常識だ。
 このまま我慢させるなんて、なおさらの話。
184 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:19:54.17 ID:9v/QC6NK0

 ――1階のトイレは使えないという。
 
 なら、どうするか。



 ――中に入れない、他のトイレ。

 多分、鍵が掛けられているか、バリケードかなんかで封じられているのだろう。
 そんなもの、超電磁砲で吹き飛ばせば一発ですむだろう。
 ただ、問題は――同じように使えないのなら、話にならないが。

185 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:20:24.87 ID:9v/QC6NK0


 ――それか、玄関から一旦外に出るか。
 
 児童霊が遭遇しない可能性はないとは言い切れない。
 ただ、場合によっては本館に戻って、探すということもできる。
 いや、それ以前に、渡り廊下の柵を乗り越えておけば、いざというときに逃げる幅が広くなる。
 少なくとも、障害物が散らばっていて、床が抜け落ちている、この廃校の中よりは、はるかにましだろう。


 美琴「分かったわ。とにかく――」

 少し考えた末に、言った。 
 
186 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/01(金) 23:25:36.16 ID:9v/QC6NK0
本日の投下はここまでです。
なお、以下のように選択肢が続きます。

A:美琴「とにかく、入れないトイレってのはどこ?」
 まずは、そこに行ってみることにした。

B:美琴「とにかく、外に出てみましょ」
 まずは、玄関に向かうことにした。

安価は、>>188にてお願い致します。

しかし、BSが発売延期になるとは……この先の展開をどうするか、結構悩みます。
オープニングムービーも結構、使えそうなネタがあったし……。

おっと、愚痴ってしまい、失礼しました。
187 :名無しNIPPER [sage]:2011/07/01(金) 23:31:35.43 ID:b+6sQRLDO
乙。
黒子ェ…
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/07/01(金) 23:46:06.33 ID:CzRyYv75o
外はやばそうだから1
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/02(土) 00:19:16.99 ID:em3cJlJDO
待ってたよ、乙!
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 22:44:22.53 ID:Uy4y/LGz0
おつおビターン
(書き込まれた乙の字。“つ”が足りない)

Chpter5を赤字にしたのにはゾクッとした
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 13:53:26.73 ID:fZE30WnDO
ぬるぽ
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/07/13(水) 01:42:54.19 ID:3LIBsxfAO
遅ればせながらコミックス6巻買ってきた
篠宮センセーのこんな原作(誉め言葉)でも手を抜かずコミカライズする真摯さは森と時空を越えて天神小学校にも響き渡るでホンマに。
見れば見るほど漫画のあゆみさんは貧乳だなぁと思う、むしろ直美や佐天さんらの発育が良いのか。

もちろんここのssも楽しみにしてるからね、続き待ってるぜ。
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/14(木) 18:35:25.49 ID:lgMbJ2wI0
>>191
ガッ
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/21(木) 21:54:22.89 ID:jMmoUs+DO
とある廃校の屍骸祭礼(コープスパーティ)

ごめん、なんでもない
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/23(土) 01:59:18.23 ID:j1SRCp3/o
>>194
評価する
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 09:49:59.83 ID:jOqCDYPPo
>>1が帰ってこないな
天神小学校に取材に行ったか?
197 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/07/28(木) 22:42:05.66 ID:aDbSDZeU0
大変お待たせして申し訳ありません。

天神小学校に、突撃取材には行っておりませんので、悪しからず。
かなり間隔が開いてしまい、結果コープス5&EPの発売日の今日になってしまった訳ですが……続きを投稿いたします。
198 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:43:32.66 ID:aDbSDZeU0
(まずは、>>97のAのWrongENDから参ります)




 ――赤い引き戸の向こうへと、空間移動した。


 扉の先には古びた土間。
 流しや木炭用の釜があったが、使われなくなってから、長い時間が経っている。
 埃が相当溜まっていて、所々に蜘蛛の巣が張っていることから、それは明白だった。


 土間の先には、畳敷きの部屋。
 6畳の広さだった。
 周囲のモルタルの壁は、廊下とかと変わらず薄汚れていて。


 埃の溜まったちゃぶ台。
 同じく、埃が溜まって、黒ずんでいるだるまストーブ。


 そこに突如現れた――黒子とあゆみの姿。







 しかし――2人の目に、用務員室の光景は――映っていなかった。


199 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:43:59.33 ID:aDbSDZeU0

 歪みきった空間。

 中にある様々な物体が――蜃気楼のように、ゆらゆらと歪んで見える。
 何があるのか、把握できない。

 いや、把握しようとする気すら、2人には起きていなかった。


 黒子「……おえ……うええ……」

 あゆみ「……あぅ……ヒューッ、ヒューツ!!」

 苦悶の表情を浮かべながら。
 うめき声を上げたり、激しい呼吸を繰り返すだけ。


200 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:44:25.49 ID:aDbSDZeU0










  ……センセイ……










 聞こえるのは――少女の声。


201 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:45:10.59 ID:aDbSDZeU0










     ……センセイ……





                  ……センゼイ……







 トーンが異様に上下しながら。

 細くなったり、図太くなったり。


202 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:45:38.14 ID:aDbSDZeU0









        ……ゼンゼ……








   ……ゼンゼイ……









 男のように聞こえたり。

 女のように聞こえたり。

203 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:46:16.87 ID:aDbSDZeU0










            ……センセイ……







  ……ゼンセイ……








                 ……センセイ……




 

204 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:46:46.87 ID:aDbSDZeU0


 どこかで聞いたことのある人物の声。

 しかし――それが誰だか、思い出せない。


 ただ――黒子やあゆみの脳裏に響き渡る。

 まるで、壊れたテープレコーダーのように。

 狂った音程で、ただ響き渡る。


 頭を重く締め付けながら。

 呼吸さえするのが、苦しくなるほどに。


205 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage !red_res]:2011/07/28(木) 22:48:17.92 ID:aDbSDZeU0




















              ……ゼンゼイイイイイイイイイイイ……

















206 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:49:13.06 ID:aDbSDZeU0




 そのまま――2人は倒れた。




 口から泡を吹きながら。

 目を充血させながら。

 頭を手で抱えながら。


 陸に揚げられた、瀕死の魚のように――全身をくねらせながら。














 そして――




207 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:49:51.22 ID:aDbSDZeU0









        ガタンッ!!




 





 
 閉じられていた――襖が乱暴に開かれて。



208 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:51:01.81 ID:aDbSDZeU0













 ??「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」













 獣のような雄たけびを上げて、

 手にしていた大きな鉄槌を振り上げて、


 今にも、黒子とあゆみに振り下ろそうとする――大男がいたのに。


 2人は――気付かないまま。

209 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:51:29.81 ID:aDbSDZeU0


 ――生徒用のトイレ。

 5つ並んだ個室。

 構成している木材は朽ちかかって、不気味さをかもし出していた。



 向かって右端の――2つの個室。

 ドアはいずれも開かれていた。






210 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:52:22.23 ID:aDbSDZeU0






   ……ギィ……





       ……ギィ……









 開け放たれた扉は、少し揺れて。

 気持ち悪さを掻き立たせる、軋みをあげて。


211 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:52:53.55 ID:aDbSDZeU0












  ??「ふしゅるるるる……」












 個室の前には――大男が、突っ立っていて。

 異様な呼吸の音を口から漏らして。


 ぎらついた目で――開け放たれた個室を目にしていた。


212 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:53:24.15 ID:aDbSDZeU0



 2つの個室にはそれぞれ、天井の梁からロープが吊るされていて。

 いずれのロープの先には輪が出来ていて。















 いずれの輪には――人間の首が引っ掛けられていて。







213 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:54:00.31 ID:aDbSDZeU0







 鉄槌で殴られた頭は陥没して。

 そこから、夥しい量の血が流れ出て。

 顔や肌や着ている制服に、紅く太い筋を作り上げて。



 目は充血して。

 口から舌をだらしなく垂らして。

 手や足も、糸の切れた操り人形のように、だらしなく垂らして。









 絶命した――黒子とあゆみ。

 首を吊るされて――亡骸を、だらしなく垂らしていた――。


214 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:56:09.79 ID:aDbSDZeU0
 
(暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

 テーレレテテテレテー
 
   Wrong End

 ビターン

(押し付けられた左手の赤い手形。中指がない)


 では、>>186をAにて、続きを投下いたします。
215 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:57:57.11 ID:aDbSDZeU0

 美琴「入れないトイレってのはどこ?」

 まずは、そこに行ってみることにした。


 由香「ここの2階にあったんだけど……恐い感じだったの……」

 美琴「それ言ったら、どこもそうじゃない」

 ため息を吐きながら、周囲を見回す。


 暗闇に閉ざされた廊下。
 随所が崩れかかっている、朽ち果てた床。
 重苦しく、カビ特有の不快な臭気を帯びた、湿り気のある空気。

 歩くどころか、この場に留まる気すら起きない――異空間にある廃校舎。
 正直言って、恐いと思っても、何らおかしくはない。


 由香「ううっ……何ていうか……お札が沢山貼ってあって、近寄れないの」

 美琴「何なのよ、それ」

 言われても、今一つピンと来ない。
 札という紙でできたものが貼りつくされている状況が、異様で恐いという実感が湧かないのだ。

216 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:58:46.44 ID:aDbSDZeU0

 それもそのはずだった。
 科学ずくめの学園都市では、魔術的な意味合いで使われている札を目にすることは、皆無に等しいから。
 美琴もそんなものを目にしたことは、正直言ってほとんどない。
 札が沢山貼っているということが、異様であるというイメージに結びつかないのも無理は無い。


 だが――


 由香「……ううっ……」

 頭を両手で抱え込み、全身を細かく震わせるほどの、あまりの怯えぶり。
 そこからようやく、なんとなく尋常でないということがうかがえる。


 美琴「まあ、一度見に行って見ましょ」

 ため息を吐きながら、なおも怯える由香の手を取った。


 由香「……う……うん……」

 なおも小刻みに体を震わせていた。
 足をガクガクさせながらも、美琴の手に引っ張られる形で、ゆっくりと立ち上がる。

217 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 22:59:45.77 ID:aDbSDZeU0

 美琴「歩ける?」

 由香「うん……」

 力なく、小さくうなづく。
 握った由香の手から、微かな震えが伝わってくる。


 美琴「無理はしなくていいのよ。きつかったら言ってね」

 由香「う、うん……」

 引っ張られるようにして、朽ちた廊下を歩き出した。
 怯え以外にも――時折、襲ってくる尿意で、体を震わせながら。
 何とか必死にこらえようとしているのが、苦々しい表情として表れている。

 
218 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 23:02:33.04 ID:aDbSDZeU0

 由香「ここを右に行ったら、上に上がる階段があったよ」

 美琴「おっけー。じゃ、行きましょ」

 突き当たりの廊下を右に折れる。
 相変わらず、闇に閉ざされていて、先がよく見えない。
 ロウソクが照らす淡い光を頼りに、前へと進もうとした――その時。


 美琴「――っ!!」

 顔や髪に何かが覆いかぶさる。
 あまり実体が無いものの、粘ついた感触がする。
 何かが、顔全体にしぶとく張り付いていた。

 正直、気持ち悪い。
 思わず閉じた目や口を開ける気にはなれない。

219 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 23:04:17.64 ID:aDbSDZeU0

 美琴「…………」

 目や口に付着したそれを、懸命に手で取り払う。
 苛立ちながら、髪についていたそれをむしり取るような素振りをしていた。

  
 由香「み、美琴お姉ちゃん……どうかしたの?」

 美琴「……蜘蛛の巣に突っ込んだ。最悪ったらありゃしない」

 由香「うう……ひっ!!」

 突如、美琴の背中を指差して怯えだす。


 美琴「どうかしたの?いきなり」

 そんな由香の反応に怪訝な表情を浮かべる。


 由香「せ……背中に……」

 美琴「背中?何か付いているの?」

 由香「む……む……」

 美琴「はぁ?何なのよ。はっきり言いなって」

 由香「か、かたのあたり……」

 震える左手で、美琴の左肩を指差していた。
 今にも泣き出しそうな表情で。

220 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 23:05:07.10 ID:aDbSDZeU0

 美琴「肩って……」
 
 気だるそうに、手にしていたロウソクの炎を近づける。
 そして、何気なく左肩に目を移すと――


 美琴「ひっ!?」

 思わず情けない声を上げた。
 全身が粟立って、一瞬すくみあがってしまう。

 左肩の上にある"それ"を目にして。





 1匹の――黒いムカデ。


 5センチ位の大きさで――節くれだった全身を蛇行させていた。
 不気味なこと、この上ない。


 無数に付いた尖った足を動かして。
 くねくねとうねらせながら。
 ゆっくりと、ゆっくりと。








 ――首もとへと近づいてくる。


221 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 23:06:03.95 ID:aDbSDZeU0

 美琴「ったく!!」




  バチバチバチッ!!




 肩の辺りに集中させる形で電流を走らせる。
 火花が無数に飛び散り、空気が爆ぜる。



  ボトリ。



 床に落下するムカデ。
 なおも、痙攣しているのか、小刻みにくねらせている。




222 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 23:06:31.56 ID:aDbSDZeU0








  ――プチュッ……








 美琴「…………」

 すかさず、足で踏み潰した。
 微かに、弾ける音がした。



223 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 23:06:58.33 ID:aDbSDZeU0





 美琴「……行きましょ」

 うつむいた頭をゆっくりと上げ、目の前の階段を見つめる。
 その顔に――表情は無かった。






 由香「……いいです……」

 後ろで、体を小刻みに震わせていた。
 目に涙を浮かべた顔には――怯えの色が露になっていた。





224 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 23:07:51.17 ID:aDbSDZeU0





 由香の頭の中には――これまでに目にしたモノが浮かんでいた。





 本館の玄関の前で、兄と目にしたモノ。

 そう――腹が割かれた、男児の霊。

 青白く、虚ろで無表情な顔を向けて――床の裂け目に、兄もろとも誘い込もうとした――。



 先程の、渡り廊下での光景。

 そう――片目の無い、女児の霊。

 青白く、虚ろで片目が無い顔を向けて――由香に迫ろうとした――。




 そして――今、目にした光景。

 美琴が肩に放った――青白い火花。



225 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 23:09:04.74 ID:aDbSDZeU0


 ――彼女も、あの児童霊と同じかもしれない――。
 そのように、認識してしまったのだ。


 霊が跋扈し、死体が転がっている――こんな異様な空間。

 超能力とは無縁の、学園都市の外の住人の由香。
 彼女が超能力――しかも、幽霊と同じ色をした青白い電流を放つのを目にして――そう思うのも、無理は無かった。

 
 ――まるで、怪物を目の当たりにしたかのように――激しく怯えていた。



 目の前の――美琴に対して。




 美琴「どうしたのよ」

 逆に超能力があって当たり前の学園都市の住人の美琴。
 学園都市の広告塔の扱いにされているほど、自分の能力は広く知れ渡っている彼女が。

 そんな――由香の心境の変化を悟れないのは、無理が無かった。
 ただ、呆然としてしまうのが関の山だった。
 
226 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 23:09:33.03 ID:aDbSDZeU0
 

 由香「……一人で行けますから!!来ないで!!」

 目の前の美琴に背を向けると――今来た廊下の奥へと、一目散に走り去った。
 由香の小さな体が、廊下の奥に広がる闇に、すぐに溶け込んでいく。








  タッ、タッ、タッ、タッ……








 小さな駆け足の音も、すぐに小さくなっていき――消えていく。

227 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 23:10:15.41 ID:aDbSDZeU0

 美琴「一体、何なのよ、あの子は」

 そんな由香の行動に、なおも理解できず――苛立ちを覚える。
 闇に閉ざされた、廊下の奥をじっと睨みつけながら。


 美琴「彼女がいいっつーのなら、どうでもいいけどさ」

 ため息をつきながら、2階へと通じる階段に目を向ける。


 美琴「まあ、こっちは初春さんを探さなきゃいけないし……しかし、どこに行ったのよ」

 後から追いかけてきてと言ったものの、一向にやってくることのない初春。
 この校舎で、いまだにさまよっているのか。

 ――それとも、本館に引き返したか、外の森に足を踏み入れたか。

 そんな彼女に対しても、苛立ちを覚えてしまっていた。
 顔をしかめ、時折体から火花が散る。


 その時。

228 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 23:10:53.50 ID:aDbSDZeU0







  ドンッ!!ガンッ!!





       バリンッ!!







 後ろの廊下の奥から、大きな物音がした。

 まるで、複数の大きな物体が――倒れたり、ぶつかったりする音。

 そして――ガラスの割れる音。


 美琴「――!!」

 さすがに、この音にはっとした。
 思わず、闇に閉ざされた廊下を振り返る。

 そして――。
229 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 23:14:02.80 ID:aDbSDZeU0
本日の投下は以上です。
なお、以下のように選択肢が続きますので、お願い致します。

A:美琴「ったく!!」

 すかさず、廊下の奥へと駆け出した。

B:美琴「…………」

 何も言わず、2階への階段を登った。 
230 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/07/28(木) 23:17:22.30 ID:aDbSDZeU0
おっと、すみません。
>>229の安価は>>232にて、お願い致します。

改めて、お読み頂いている方や、コメントしてくださっている方に、大いに感謝いたします。
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/07/28(木) 23:32:22.69 ID:k1cRYpxoo
otu
ksk
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 23:32:42.21 ID:7CZ2Zx3H0
a
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 11:32:48.82 ID:LX4FJdmSO
乙!
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/03(水) 10:55:30.32 ID:Llp9g5ODO
まだかなまだかな〜♪
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/03(水) 22:53:11.75 ID:PGgSJnwbo
学研のお○ちゃんまだかなー
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/11(木) 06:49:17.29 ID:VxQUfhZF0
おまえは何を言っているんだ
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/08/13(土) 21:36:34.98 ID:P9ZuF6/C0
まさか>>1は現地の調査に……
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/18(木) 22:04:22.43 ID:meDakvsdo
俺達で>>1を救出に天神小学校へいくオフ会
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/19(金) 09:25:19.82 ID:pND4iT2po
全力で参加したくないオフだな
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/08/19(金) 20:35:47.95 ID:ATflzI5R0
>>238
だが俺は参加する
241 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/08/19(金) 23:25:01.41 ID:slIxAixC0
お待たせしました。
鬼碑忌先生にならって、天神小学校へ取材……したいなと思ってはおりますがw
皆様には、ご心配をおかけして申し訳ありません。
お心遣い、大変感謝であります。

>>235がえらいなつかしいネタを……と、思いつつ続きを>>232のAにて投下いたします。
242 : ◆IsBQ15PVtg :2011/08/19(金) 23:26:28.36 ID:slIxAixC0

 美琴「ったく!!」

 すかさず、廊下の奥へと駆け出した。

 どうでもいいと思ったが――どこか、放っておけない。
 心の片隅にあった正義感が、そう思わせたのだろうか。

 闇に閉ざされた廊下を、ひたすら駆け抜ける。


 美琴「何よ、これ……」

 目の前に飛び込んできた光景に、足を止める。

 廊下に並んでいた幾つかの戸棚が、折り重なるように倒れていた。
 さながらバリケードの様相を呈していて、廊下をほぼ塞いでいた。
 棚の扉に嵌めこまれていたガラスが粉々に割れて、無数の破片が床に散乱している。


 美琴「通り過ぎた後で倒れたようね」

 見たところ、由香が下敷きになってしまったということはないようだ。
 棚は横向きに倒れていて、側板が床に接する形になっていた。
 床に投げ出すように開いている、ガラス扉の上に、棚に入っていた中身があふれ出ていたのだが――。

243 : ◆IsBQ15PVtg [age]:2011/08/19(金) 23:28:03.27 ID:slIxAixC0

 美琴「げっ……」

 ロウソクの炎を近づけたとき、思わず目をそむけてしまった。


 ムカデ、ハエ、ゴキブリ、蛾……

 ありとあらゆる害虫の死骸。
 数え切れないそれは、まるで土砂崩れでも起こしたかのように、棚の中からあふれ出ていた――。
 目にした途端、嫌悪感を感じてしまうのも無理は無い。

 その棚に重なるように、別の棚が上向きで倒れていた。
 何が入っているかは、上に上って覗き込まないと分からない。
 倒れた棚の1つの高さは、せいぜい1m強。
 なんとかすれば、上って、そのまま乗り越えるのも不可能ではない。

 だが――そうするどころか、害虫の死骸をまたぐ気にすらなれなかった。
 超電磁砲で吹き飛ばしてもいい所だが――吹き飛んだ木片や虫の死骸が、自身に降りかかったらたまったものじゃない。


 美琴「…………」

 何も言わず、そのまま来た道を引き返す。
 由香のことは多少は気になるものの、彼女から同行を拒否して、離れてしまったのだ。
 これ以上、下手に追いかける理由は無い。
 いまだに姿の見えない初春のことも気になり、あまり構っていられなかった。

244 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/08/19(金) 23:29:15.46 ID:slIxAixC0

 廊下の突き当りまで戻ってきた。
 右手に進むと、中に入れない音楽室の前を経て、上への階段。

 左に進んでみることにした。


 他の廊下と同様に、床や天井は朽ち果てて、一部が崩れかかっている。
 白いモルタル製の壁は、薄汚れていて、所々に黒いシミが大きく付いていた。
 一部は人の顔にも見えるようなものもあり、気持ち悪いことこの上ない。
 
 左手には、外に面した窓が並んでいるが、どれもガラスが割れていたり、窓枠が壊れかかったりしていた。
 だが、ここも例によって、開けようと力を加えるが、びくともしない。
 まるで釘か何かが打ち付けられて、固定されているかのように。

 天井から吊るされたいくつかの照明器具には、いずれも明かりは灯っていない。
 照明は2本の鉄のポールで天井が吊るされていたが、片方が外れて、だらしなくぶら下がっているものがある。
 地震なんかが来たら、一発で落下しそうな感じだ。


 ふと、床の上に目が行く。

 そこには――一筋の黒い帯。
 まるで、刷毛で塗ったかのような、5cmほどの幅で黒い線が描かれていた。
 太さも場所によってまちまちで、所々で途切れながらも、廊下の進行方向に向かって伸びていた。

 それは――廊下を少し進んだ右手にある、引き戸の所まで続いていた。

245 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/08/19(金) 23:30:26.37 ID:slIxAixC0
 
 美琴(……職員室?)

 上には【職員室】と書かれた札が掛けられている。
 引き戸に手を掛けて、引っ張る。

 が――大部分の出入口や窓と同様に――まるで模型のように固定されていて、びくともしない。
 引き戸にはガラスがはめ込まれていたが――曇りガラスで、汚れて薄黒くなっているものだから、中の様子を覗き込むことはできない。

 廊下をさらに進んだ奥にも、職員室の出入り口があったが――やはり閉じられた引き戸は、まったく動きそうに無い。
 その先で廊下は行き止まりになっていた。


 美琴(これって、多分……)

 少し引き返して、引き戸の前まで続いている黒い帯状の線を眺めなおす。
 黒い塗料のように思えたが……ロウソクの炎を近づけてみると、どうも違うと思える。

 黒いというより――赤黒い感じだった。

 どこかで、同じようなものを見たことがある。


 いや、この廃校の中でも。

 それこそ、嫌というぐらいに。

246 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/08/19(金) 23:31:20.63 ID:slIxAixC0


 それは――乾ききって、赤黒くなった血液のようなもの。

 誰かが、怪我をしたのだろう。
 しかも、ここまで夥しい量の血を流して。
 血の乾き具合、そしてこの量から、恐らく――


 美琴「…………」

 乾ききった赤黒い帯を遮るかのように、立ちふさがっている職員室の引き戸。
 その前に立つと、じっと見据えて――





  ドン、ドン、ドン!!





 
 美琴「ちょっと、誰かいるの?いたら、返事して!!」

 引き戸を乱暴に叩きながら、中にいるかもしれない人物に呼びかけた。

 しかし――返事はおろか、物音一つ返ってこない。

247 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/08/19(金) 23:32:44.92 ID:slIxAixC0

 美琴「返事はなし……か」

 ポケットに手を突っ込み、メダルを1枚握る。
 ロウソクを床に置き、空いた右手で握りこぶしを作り、親指の上にコインを乗せる。
 そして――左斜めの方向から職員室の入口に向きあう位置に立った。


 誰なのかはわからない。

 黒子か、初春か、佐天か。

 それとも、同じようにこの廃校に監禁された、見も知らない人物なのか。


 美琴「手遅れかもしれないけど……」

 メダルを乗せた握り拳を中心に、電流が走る。
 稲妻のような火花が、時折周囲の空気を震わせる。
 全身から出る電流の量や勢いが、見る見るうちに増していった。

248 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/08/19(金) 23:33:36.26 ID:slIxAixC0


 中にいるのが――友人か他人かだなんて、今はどうでもいい。

 可能性は極めて薄いけど――もし、まだ息があるのなら――

 それを遮る扉が開かないというのなら――




 美琴「せめて、そうなのか確認しとかなきゃ、ね……」








  ズドドオオオオン!!








 爆音と共に、膨大な電流を帯びたメダルが、超音速で放たれた。

249 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/08/19(金) 23:36:30.37 ID:slIxAixC0
どうも、混雑していて調子が悪いです。
誠に勝手ながら、申し訳ありませんが、本日の投下はここまでにいたします。
読んでくださっている方々、お待ち頂いた方々に、改めて感謝を。
250 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/08/19(金) 23:41:23.29 ID:slIxAixC0
なお、次回は23日か24日には投下できる見込みです。
しかし、コープス系の小説や娘の発売、さらにはBOSのテスト版のDL開始など、ネタの解釈の変更がありそうで、微妙な気分です。
このまま、現地へ取材に乗り込んだいいのでは……いいえ、冗談ですので、悪しからずw
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/19(金) 23:48:26.63 ID:mlzbM2Xvo
もし行くなら食料・水・傷薬・バールのようなもの・ロープ・ダイナマイト・火炎放射器・お守り等々
必要なものは山ほどありそうだ
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/08/22(月) 21:56:33.19 ID:vWMiSmzE0
>>251
メモ張も必要というか、
それ以前にどうやって火炎放射器は持ち歩くんだ。
思ったけど、上条さんや一方通行連れてこれば無双だよね。
253 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/08/24(水) 01:09:54.61 ID:fmH16SgS0
お待たせしました。
>>248の続きを投下いたします。
254 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:11:42.13 ID:fmH16SgS0





 そして――







           グシャ!!








 職員室の扉は、大きな音と共に、一瞬にして砕けた。


255 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:12:07.22 ID:fmH16SgS0






 そして、ほぼ同時に――







         グシャ!!







 背後で何かがひしゃげる音がした。
 思わず目をやると、右後ろの廊下の壁に、直径2mほどの大きな穴が開いていた。




256 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:12:36.15 ID:fmH16SgS0









    ザアアアアアアア……








 開いた穴から響く、降りしきる雨の音。
 その先には、ただ漆黒の闇が広がるだけ。
 まるで、大きな怪物が口をあけたかのようにも見える。

257 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:13:19.94 ID:fmH16SgS0





 そして――

 








         ドンッ!!











 美琴「あぐっ!!」

 背後に何かが強くぶつかる感触を覚えた。
 直後、後頭部や背中に激しい痛みが襲いかかる。


 美琴「ううっ……」

 頭を打ち付けて、脳震盪を引き起こしてしまったようだ。
 意識がよく定まらない。
 目の前がぼんやりとしだし、首を上げることすらままならなかった。

 それも、ほんの少しで治まりだす
 が、何が起きたのか気づくまでには、もう少し時間を要した。





 衝撃で――美琴の体が吹き飛ばされ、廊下の壁に叩きつけられたことに。

258 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:15:28.29 ID:fmH16SgS0

 美琴「ち、ちょっと……何が……」

 なおも、全身に響き渡る痛みをこらえながら、体を起こす。
 重いまぶたをゆっくりと開けた先には――


 美琴「破ることはできたみたいだけど……」

 職員室の入口。
 先程まで、そこを塞いでいた引き戸は、木っ端微塵になって砕けていた。
 木やガラスの破片は手前の床はもちろん、美琴の体にまで降りかかっていた。
 その先は真っ暗だが、遠目ながら、中の様子が辛うじて見える。

 床に落ちた、古びた電気スタンドや、古びた本。
 転がった事務用らしき椅子に、散らばった机の引き出し。


 人の姿は――見たところ、ない。


259 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:17:04.76 ID:fmH16SgS0

 美琴「ど、どういうことよ……これ……」

 目の前で砕けた職員室の引き戸。
 背後の壁に大きく穿たれた穴。

 これら2つをせわしなく往復しだす、美琴の視線。
 その表情には、戸惑いの色がはっきりと浮かんでいた。
 思わず呟いた声にも――動揺のためか、僅かに震えていた。

 今、何が起きたのか――脳裏に1つの想像が浮かんでいたのだ。




 美琴「反射されたとでも……いうの!?」

 職員室に向かって放った超電磁砲。
 それは、塞いでいた引き戸をいともたやすく砕いた。


 が――職員室の中を突き抜けることは無く。


 そのまま――跳ね返って。


 反対側にある外壁を打ち壊した。



 まるで――あの第一位に向けて、超電磁砲を放ったかのように。



260 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:17:46.24 ID:fmH16SgS0

 美琴「……っ!!」

 手のひらに鋭い痛みが走った。
 直後に、異物が入り込んだかのような感覚。
 恐る恐る、手のひらを眺めてみる。


 手のひらは、3センチほど裂けていた。
 大きく開いた傷口から、ゆっくりと絶え間なく――血が滲み出していた。
 指まで一筋の赤い線を作り、血がぽとりぽとりと、床に垂れ落ちる。

 床の上には――血に染まった、ガラスの破片が散らばっていた。
 そこに、次々とできる、赤い斑点。
 美琴の手から垂れる――血の雫によるものだった。


 美琴「最ッ低……」

 ブレザーのポケットにハンカチがもう一枚あったのを思い出す。
 すかさず掴み取り、傷口から血をある程度拭い取る。

261 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:19:02.05 ID:fmH16SgS0

 美琴「くっ!!ううっ……」

 ハンカチの布が傷口に触れるたびに、鋭い痛みを発した。
 その度に、表情が歪み、思わずうめき声を上げてしまう。

 だが、拭いても拭いても、血が滲み出してくるだけ。
 やがて、その行為が無意味なことを悟る。
 ハンカチをそのまま傷口を覆うように、手のひらに巻きつけた。

 巻き付けたハンカチは、じわじわと赤く染まっていく。
 なおもジンジンと痺れるように痛み出すのが鬱陶しかったが、ただこらえるしかなかった。
 指が動かせないほどではなかったものの、ロウソクを乗せた皿をじっと掴んだままでいることはできそうになかった。


 美琴「仕方ないわね……」

 ロウソクを床に置いたまま、超電磁砲で突破った職員室の入口を見据えていた。


 美琴(まあ、ガス漏れなんかはどー見ても無さそうだし、火花散らしながら行っても大丈夫か……)

 何気なく、ぽっかりと開いた入口から中にも足を踏み入れ――ようとした、その時。

262 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:19:48.79 ID:fmH16SgS0







       ブンッ!!







 美琴「えっ!?」

 何が自分の身に起こったのか、理解出来なかった。
 危うく倒れかかった身体を立て直したところで、やっと気付いた。



 ――自身が、勢いよく押し返されたことに。


 ――得体の知れない、何かによって。


263 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:20:27.10 ID:fmH16SgS0

 美琴「なっ……どーいうことよ!?」

 目を丸くしながら、ぽっかりと開いたままになっている職員室の入口を眺めていた。

 先程見たのと、特に変わったようすはない。
 いろんなものが散乱している、闇に閉ざされた空間が広がっていた。


 美琴(まさか……能力者がいるとか……)

 ふと、そんな想像をしてしまった。
 まるで、磁石の同じ極同士を向けた時に反発しあうかのような感じで押し退けられた。
 念動力系か、それとも電磁使いか――ひょっとしたら、あの第一位のように反射系の能力なのか――どのようなものかは分からないが、彼女はこれまでの学園都市での経験から、能力者の仕業だと直感した。

 たが――能力者はおろか、人っ子一人いない。
 壁などの物陰に潜んでいるのかとも思えたものの、そんな気配は感じられない。
 ただ、カビ臭く、肌に粘りつくような、異様な湿気が周囲を支配していた。


 美琴「…………」

 念の為、職員室の中を覗き込もうと、首をゆっくりと伸ばす。


264 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:21:33.45 ID:fmH16SgS0







       ブンッ!







 やはり――頭はおろか、身体さえも、とてつもない力で、入口から押し出されてしまう。
 さながら、職員室の中に漂う空気が、強力な意志を持って、拒絶するかのように――。


 美琴「っ、たく……これじゃあ、中の様子も分からないじゃない」

 半ば苛立ちを隠せない状態で、入れない入口をじっと睨みつける。

 廊下から中へと続く、乾ききった黒い血痕。



 これが、黒子や初春や佐天のものだったら――!!

 そう思うと、いてもたってもいられない。


 だが――


265 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:22:12.58 ID:fmH16SgS0

 美琴「…………」

 いざ動こうとするのは、正直ためらわれた。

 一体、どうなるか分かったものじゃない。
 超電磁砲でさえ、弾き返されてしまったのだ。
 反射――ベクトル操作の一つ――を自在に使いこなす、あの男の顔が思い浮かんだ。

 が――その可能性は即座に否定した。
 いくら、化物同然と言ってもおかしくないあの男が、まさかこの異空間にいるとは思えない。


 でも――先程、身をもって見せつけられた現実。
 能力によるものなのか、別の原理によるものなんかは――どうだっていい。

 力押しでやっても、無駄で、なにより危険――これだけははっきりと分かった。

 職員室に背を向け、廊下を引き返そうとする。
 ロウソクを忘れていたことに気付き、手に取ろうと、しゃがみ込んだ。
 その時、足下に何かが落ちているのが目に付いた。

 美琴(……生徒手帳?)

 それは小振りの黒い手帳で、表紙の部分には、校章らしき模様が描かれていた。

266 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:23:18.84 ID:fmH16SgS0

 美琴「そういえば、この校章……」

 確か――この異空間に飛ばされたときに目が覚めた、教室。
 そう――新聞を読んだら、閉じ込められた教室。
 
 美琴よりもはるか前に、教室に閉じ込められて、命を落とした犠牲者。
 その遺体が着ていた制服。
 黒いセーラー服の胸元にあった模様と同じのような気がした。

 手帳を手に取り、表紙をめくる。
 ペリペリと何かがはがれるような音を立てて、見開きを開けてみると――


 美琴「――!!」

 目に飛び込んで来た光景にはっとして、思わず手帳を落としそうになる。

 見開きは――赤黒く、ほぼ全面に渡って染まっていた。
 背表紙の裏にはポケットがあり、そこに生徒証が挟まれていたが――それも例外無く、べったりと乾いて黒くなった血がはりついていた。
 名前のところも例外ではなく、文字を読み取るのも正直困難な状態だった。

 が、目を凝らして見ると、ある程度は読み取ることができた。

267 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:23:56.54 ID:fmH16SgS0

 美琴(……彦糸高校……やっぱ、最初の部屋にあった遺体と、同じ高校ね)

 顔写真が写っている部位には、特に乾いた血が濃く貼り付いていた。
 手ではがそうと思えばできないこともないが、さすがにそこまでする気にはなれない。


 美琴(……2年4組 萩原海音……ね)

 手帳の中身をぱらぱらと開く。
 中にはスケジュールなんかがびっしりと書き込まれていた。
 予備校や補講といった言葉が結構書き込まれているあたり、ごく普通の高校生といった感じの内容だった。

 それ以外のことは――特に書き込まれていなかった。


 美琴「ふん……」

 手帳を閉じると、そのまま床の上に置いた。

268 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:25:12.80 ID:fmH16SgS0

 美琴「そううまく、手がかりなんて書いてくれてるわけないよね」

 誰に言うのでもなく、ぼそりと呟く。
 そして、一度職員室の方へと振り返った。

 相変わらず、闇に閉ざされた職員室。
 いろんな物が散らかっている向こうには、いくつかの机が整然と並んでいるのが、遠巻きにぼんやりとだが見えた。

 その机の一つの脇に――目が止まった。


 美琴(あれって……人じゃない?)

 暗くてよくは分からない。
 だが目を凝らして見ると、分かる。


 ――スカートから出た足を突き出しながら、人が床に倒れているのに。

 そして、その足から――床に黒い筋を描いて。

 ――それが、入口まで延びてきているのに。 

269 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:25:39.49 ID:fmH16SgS0

 美琴「だ、大丈夫なの!?」

 ややしどろもどろになりながらも、大声で呼びかける。

 が――その人物は、身動きする気配はまったく無かった。


 美琴「……事切れているみたいね」

 床に描かれた筋状の黒くなった血痕と、倒れた人影らしきものを見比べる。
 大怪我か何かをして、夥しく出血をしながら、職員室までたどり着いて――息を引き取ったのだろう。
 それを悟ると、遠くに見える倒れた人影に手を合わせる。


 そして、そのまま踵を返した――。
 



270 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:26:32.47 ID:fmH16SgS0
 








  ドンッ!!ガンッ!!





       バリンッ!!






 何かが倒れる音や割れる音。
 廊下中にそれらの音が響き渡る。


 由香「……ひ、ひっ……」

 思わず、駆けていた足を止めた。
 恐る恐る振り返ろうとする―ーというところまでは、至ることはなかった。
 あまりにとてつもない恐怖を感じ――後ろで何が起きたのかを気にするという発想すらできなかった。

271 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:27:25.81 ID:fmH16SgS0

 由香「う……ううっ……苦しいよう……」

 ずっと無理に押さえ込んできた、排出したいという生理現象。
 それももはや限界に近づいてきていた。
 絶え間なく襲ってくる、むずかゆい感覚が――キリキリとするような、鋭い痛みへと変わりつつある。
 まるで、下腹部を棒のようなものでかき回されたかのように。
 時折足元をガクガクと震わせ、目尻には涙が浮かんできていた。 

 
 この先、暗闇に閉ざされた廊下を進むと玄関に出る。
 さらにその先へ行けば、男子トイレがある――が、そこは個室の前の床が崩れ落ちていて、使えない状態だった。
 先程、兄と一緒に中に入って、目の当たりにしたのだ。間違いない。

 なんとか、尿意をこらえながら、廊下を歩く。
 少し行けば、玄関に出る。

 さっきは外に出たら児童霊に出くわしたけど――さすがに同じことは起きないだろう。
 ――そんな考えが、由香の心を支配しつつあった。


 いや――少なくとも、引き返す気は起きなかった。

 後ろで何かが倒れて――その先には、青白いものを放つ、バケモノの少女がいるだろうから……。

272 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:28:49.15 ID:fmH16SgS0

 廊下をしばらく進むと、目の前が開けてきた。
 床には、子供用の破れかかった上履きがいくつか散乱している。
 その前には、古びた木製の大きな下駄箱が、整然と並んでいた。
 下駄箱の間には、木でできたスノコがしかれていた。
 が、どれも朽ちていて、一部が崩れてしまっているものまである。

 並んだ下駄箱を通り過ぎると、外への出入口が見えるはず。
 そのまま、歩き出そうとした――が。








    ピロリン……。








273 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:29:34.59 ID:fmH16SgS0


 由香「え……?」

 何かの――電子音を耳にした気がして、ふと足を止めた。
 思わず、手近にあった下駄箱の影に隠れる。


 由香「…………」

 この音には――聞き覚えがあった。

 そう――兄と本館をさまよっていた時。


 途中で出会った、兄のクラスメイト。
 眼鏡をかけて、制服の学ランをきちんと身に着けた――優等生のように見える男。



 この音は、彼が持っていた――




274 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:31:22.27 ID:fmH16SgS0

 文化祭が終わった夕方のこと。
 如月学園の2年9組の教室に、兄に傘を届けに行って。
 クラスメートが転校してしまうということで、おまじないをしようということになって。


 そしたら――地震が起きて、床が崩れ落ちて……。
 目が覚めたら――こんな気味の悪い廃校に閉じ込められていて……。


 兄が一緒にいただけ、まだ良かったのかもしれない。
 離れ離れになってしまった、兄のクラスメートを一緒に探して。

 ようやく、一人に出会うことができた。
 それが――その眼鏡をかけた男――森繁朔太郎とかいう、兄のクラスメートだった。

 見たところ、本人は無事なようだった。
 むしろ、こんな異様な環境の中で、冷静さを保っている様子だった。
 兄はよかったと言っていたものの――。





 ――由香は不気味としか思えていなかった。



275 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:32:50.37 ID:fmH16SgS0



 出会ったのは――保健室から真っ直ぐ進んだところ。

 そこは廊下が折れていて、そこには――





 ――壁一面にぶちまけられた、赤。





 ――床一面に絶え間なく広がる、血の池。





 ――血の池に浮かぶ――無数の砕けた肉体。





 そして、そこから響く、場違いな電子音。
 先に見えたのは――


276 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:33:55.08 ID:fmH16SgS0







 携帯電話を手にして。






 肉塊に向けながら。









 ――写真を撮っていた、森繁だった。







 思い出すだけでも、嫌になってくる。
 兄は違うとは言っていたが――聞き間違いなんかじゃない。

 森繁に声をかける前に、横顔を見たのだから。







 ――にやけて、画面に見入っている表情を見たのだから――!!




277 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:34:32.91 ID:fmH16SgS0



 由香(あの人……ここに来ているの……?)

 言いようの知れない、嫌悪感と寒気が襲う。
 絶え間なく襲う尿意にそれらが加わり、全身を小刻みに震わせた。

 そして――恐る恐る、靴箱の陰から顔を出す。






 由香「ひっ!!」

 思わず声を上げてしまう。
 反射的に、後ろへのけぞろうとしたが、勢いあまって尻餅をついてしまう。



 その先にあったのは――



278 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage red_res!]:2011/08/24(水) 01:35:35.45 ID:fmH16SgS0



 赤く染まった、玄関の扉。


 
 扉の周りの床にできた、大きな血溜まり。



 ぴっちりと閉まった扉の前に――人間の体が1つ。


 
 扉の前で、ひざまずくように屈みこんでいた。



 白いセーラー長袖のセーラー服に、白いロングスカート。



 いずれも、紅い血が毒々しく、染め上げて。



 扉の合わせ目の所に向けて、首を伸ばすようにしていた。




 

 だが――あるはずの頭は無く。



 切断された首の切り口を――扉の合わせ目に、くっつけるような形になっていた。


279 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:36:39.96 ID:fmH16SgS0



 由香「ひいいいいっ!!」

 尻餅を付いたまま、その場から慌てて仰け反ろうとする。

 だが――



280 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage !red_res]:2011/08/24(水) 01:37:20.59 ID:fmH16SgS0




 その時に――見えた。




 血溜まりから、伸びる――一組の足跡。




 何事も無いかのように――整然とした間隔で、伸びていた。






 

 ――由香のいる方向へ。



 
281 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:38:08.55 ID:fmH16SgS0



 
 由香「ひ……っ……」

 嫌な予感がした。
 全身を嫌な汗が流れ落ちる。

 すぐさま、背後を振り返った。



282 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:38:43.49 ID:fmH16SgS0









 「持田の妹か……」









 
 声をかけてきたのは――森繁だった。


 表情は、不気味ににやついていて。

 口からは、欲情したかのように、荒げた息を絶え間なく吐き出して。

 掛けた眼鏡の奥から、充血した瞳がギロリと覗かせていて。


 そして――手にしていた携帯のカメラレンズを由香に向けた。







  ピロリン……。







 まぶしい光が一瞬、由香を照らすとともに。

 先程聞こえた、電子音を響かせた。

283 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:40:19.84 ID:fmH16SgS0

 由香「な、何するんですか……?」

 森繁「別に。深い意味は無いよ。それより――」

 舌を小さく出し、唇をなめずるようにすると、由香をじっと見つめる。


 森繁「お兄さんとはぐれたみたいだね。一緒に探してあげよう」

 ゆっくりと――興奮を抑えきれず、声を小さく震わせて言った。

 にやつきの度合いが、ますます酷くなっていった。


 由香「い、いいです!!一人で探せますから!!」

 すかさず、立ち上がり、その場から逃げ出すように歩き出した。


 先程出会った時から、不気味に思えていたが――この一連の行動で確信した。


 ――この男は、危険な存在だと。

284 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:44:03.19 ID:fmH16SgS0

 死体をカメラに収めて。
 それを見ながら、欲情し。

 少なくとも――まともな心の人間じゃない。

 一緒にいたら、何をされるか分からない。
 死体をカメラに収めるぐらいだ。

 ひょっとしたら、ここにある死体は、この男が殺したのかもしれない。
 人を殺すものためらわないだろう、この男は。

 そんな思考に至り――逃げ出そうとするのは、必然だった。



 森繁「どうして逃げるんだい?一緒にお兄さんを探してあげると言ってるのに」

 なおも、唇を三日月状にゆがめながら、ゆっくりと声をかけてくる。
 優しげな声を作っているつもりだろうが、抑揚がないために、不気味さを一層強く由香に感じさせた。


 由香「い、嫌です。いいですから!!来ないでください!!」

 半ば、泣き出すかのようにして、廊下を駆け出した。
 無我夢中で、ひたすら走る。

285 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:44:57.58 ID:fmH16SgS0


 森繁「待て!!どうして逃げるんだ!!」

 穏やかそうに話していた声は、怒声へと変わっていた。
 すぐさま、逃げる由香の後を追い出した。



 由香「ハァ、ハァ……」

 息を切らせながら、とにかく走る。

 闇に閉ざされた廊下。
 朽ちた床には、所々に穴が開いていた。
 さらには、机や椅子に加え、落下した照明器具や木材の破片などが散らばっていた。
 下手をしたら、躓いて転んだり――最悪の場合、床の穴から落下する危険もあった。

 
 が――そんなことを気にしている余裕は、由香には残されていなかった。

 なりふり構わず、ひたすら廊下を駆け抜ける。
 幸い、穴に落下したり、足をとられたりすることは無かった。 

286 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:45:47.11 ID:fmH16SgS0

 森繁「ねえ、待ってよ。一緒に探してあげるからさ……」

 背後から、呼びかける声が聞こえる。
 今度は優しげな感じで。


 ――いや、優しげと思わせる声を作って。

 由香との追いかけっこを楽しむかのように。
 ニタニタさせながら、由香の後を追いかけていた。


 右手には、部屋の入口と思しき引き戸があった。
 その上には【男子用厠】と書かれた、木の札が掛かっている。
 半分ぐらい引き戸が開いていた。
 由香ほどの体の大きさなら、開けなくても余裕で潜り抜けられそうだった。


 が――由香は、それには目もくれず、そのまま通過していった。


287 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:46:38.61 ID:fmH16SgS0

 直後、廊下は終わり、広めの空間に出る。
 前方の壁には、ぽっかりと別のフロアへの入口が開いていた。
 引き戸は無く、そのまま通れる仕組みになっている。


 その先は階段室になっていた。
 上へ伸びる階段と、下に伸びる階段があった。

 だが――下に行く階段は、少し進んだら行き止まりになっていた。
 兄と一緒に行動していたときに、ここを訪れていて、それは確認済みだった。



 森繁「――どうして逃げるんだい――」

 遠くから、やや乱暴な足音と共に、森繁の猫なで声が聞こえてくる。
 それを見る見るうちに大きくなっていく。


 由香(逃げなきゃ!!逃げなきゃ!!)

 ためらっている余裕は無かった。
 すかさず、上へ伸びる階段を登りだす。

 段差に足を掛けるたびに、下腹部がじわじわと痛み出す。
 だが、なんとかこらえながら、ただひたすら階段を駆け上がった。

288 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:49:03.76 ID:fmH16SgS0

 直後、廊下は終わり、広めの空間に出る。
 前方の壁には、ぽっかりと別のフロアへの入口が開いていた。
 引き戸は無く、そのまま通れる仕組みになっている。


 その先は階段室になっていた。
 上へ伸びる階段と、下に伸びる階段があった。

 だが――下に行く階段は、少し進んだら行き止まりになっていた。
 兄と一緒に行動していたときに、ここを訪れていて、それは確認済みだった。



 森繁「――どうして逃げるんだい――」

 遠くから、やや乱暴な足音と共に、森繁の猫なで声が聞こえてくる。
 それを見る見るうちに大きくなっていく。


 由香(逃げなきゃ!!逃げなきゃ!!)

 ためらっている余裕は無かった。
 すかさず、上へ伸びる階段を登りだす。

 段差に足を掛けるたびに、下腹部がじわじわと痛み出す。
 だが、なんとかこらえながら、ただひたすら階段を駆け上がった。

289 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:49:56.99 ID:fmH16SgS0

 踊り場を通過し、2階のフロアの出口に至る。
 その向こうには、他と変わらず、漆黒の闇が支配していた。
 なお、階段はさらに上へと伸びていた。

 由香は――2階には出ずに、さらに上へと階段を駆け上がっていた。


 由香「ハァ、ハァ、ハァ……」

 息も切れかけになっていた。
 喉がやけに渇き、肺が圧迫されるかのように苦しい。
 このまま、酸欠になってしまいそうな感じだった。


 先が少し明るくなっていた。
 階段を登りきると、また踊り場になっていた。

 そこには、火の灯ったロウソクが置かれていた。
 階段はUターンする形で、なおも上へと向かっていた。

 すかさず、ロウソクを手にする由香。
 そして、上へ向かって階段を駆け上がる。


 このままロウソクを置いていたら――光を頼りに、森繁が来ると思ったからだった。

290 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:50:27.17 ID:fmH16SgS0









     ……ドタ、ドタ、ドタ……









 下からは、階段を乱暴に駆け上がる音がする。
 振り返ることなく、ひたすら階段を駆け上がった。

291 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:51:02.49 ID:fmH16SgS0




 が――その先は行き止まりになっていた。

 いや、厳密には小部屋になっていて、閉じられたドアがあるだけだった。


 由香(う、うそ……)

 表情が一気に強張りだす。
 それも無理は無かった。

 行き止まりになっている所に、森繁がやってきたら――逃げようが無かった。










    ……ドタ、ドタ、ドタ……









 なおも、階下からは乱暴な足音が響いてくる。
 今にも泣き出しそうな表情で、階段への入口の陰に身を潜める。

292 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:51:51.23 ID:fmH16SgS0

 由香(やだ……苦しいよ……)

 下腹部からの鈍い痛みは、さらに度合いを増していく。
 尿意も激しくなっていった。
 このままいっそのこと――と思ったが、なおも我慢する。


 スカートのあたりを押さえながら――息を殺して、下の様子を気にしているしかなかった。
 全身を小刻みに震わせて――森繁がここにやってくる時が、刻一刻と迫っているのに怯えながら。
 










293 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:52:49.55 ID:fmH16SgS0
 










    ……ドタ……ドタ……










 由香(あれ?)

 突然の――展開の変化に不思議に思う。


 足音が、小さくなっていったのだ。
 やがてそれも無くなっていく。


 後に残されたのは――静寂のみ。




 どうやら森繁は――2階のフロアに出たようだった。


294 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:53:39.80 ID:fmH16SgS0


 由香「ふうっ……」

 少し安心したのか、大きく息が漏れる。
 が、その時。


 由香「ひっ!?」

 下の部分に――わずかに湿った感触。


 安堵して緊張が緩んでしまったために――少し、漏らしてしまったようだ。

295 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:54:20.26 ID:fmH16SgS0

 由香「う、ううっ……」

 途端に、恥ずかしいという感情が彼女を襲った。
 すかさず、スカートのあたりを両手で押さえだす。

 なんとか、こらえることができたようだ。
 が、下腹部には再び、鈍い痛みが走り出した。
 全身が、時折ガクガクと震える。
 苦しさと恥ずかしさが入り混じった表情が浮かんでいた。

 動いているより、じっとしているときの方が――襲ってくる尿意が激しいように思える。


 由香「…………」

 小さく震える手で、階段の下を照らし出す。
 そして、顔を恐る恐る入口のへと伸ばす。


 下に――森繁が潜んでいるということはなさそうだ。

 それを確認すると、ゆっくりと階段を下り始めた。


296 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:57:02.28 ID:fmH16SgS0






   ……ギィ……






         ……ギィ……








 段に足を乗せるたびに、不気味な軋みをあげる。
 怯えながらも、一歩一歩、階段を下りていった。

297 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:58:13.29 ID:fmH16SgS0

 やがて――踊り場まで出た。


 そこには――



















 由香「ほっ……」

 誰もいなかった。
 それを確認すると、安堵の息を漏らす。
 さすがに、下まで……ということは、今度は無かった。

298 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 01:58:48.63 ID:fmH16SgS0

 そのまま、階段を下へと降りていく。







   ……ギィ……






         ……ギィ……






 軋みの音は、もはや気にするということは無く。
 下に誰かが潜んでいないかに怯えながら。
 生理的欲求を抑えることに、ひたすら苦心しながら。
 ただ、ステップに一歩一歩、足を乗せていった。

299 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:00:38.37 ID:fmH16SgS0


 やがて、あと数段で2階への入口にたどり着く。
 暗闇の中にぽっかりと開けている入口の先には――誰もいない。








   ……ギィ……






         ……ギィ……







 音も、由香が段を踏みしめた時に生じる軋みだけ。

 一歩。

 さらに一歩。


 段を踏みしめて――2階へのフロアにたどり着いた。


 そして――

300 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:01:40.60 ID:fmH16SgS0



















 由香「…………」

 誰もいる気配は無い。
 ロウソクが2階への入口のあるフロアをおぼろげに照らし出すが、潜んでいる気配は無い。

 胸をなでおろす。
 そして、1階へと下りる階段へと、足を向ける。

301 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:02:28.68 ID:fmH16SgS0


























       ……ゴボ……ゴボ……











 何かが、泡立つような音。
 まるで、詰まった排水溝から空気が漏れるときに生じる感じの――耳につく音。

302 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:02:55.07 ID:fmH16SgS0





















     「……わ た ふ ぃ ふ ぉ……ゴボッ……」


















 いきなり襲い来る、得も知れない寒気と共に。

 呂律の回らない、幼い女の子の声が耳に入って。

303 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:03:28.94 ID:fmH16SgS0

















       「……あ ば は……」














 だらだらと流れ落ちる、冷や汗で満ちたままの顔を、背後へと向けた――その先には。

304 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:04:03.68 ID:fmH16SgS0
















  「……ゴボゴボ……ふ ぁ ふ ぇ ふ ぃ ふ ぇ……」














 顎より上の部分が無い口蓋と、切断された舌の根元を晒した、児童霊がいた。

 1階に至る階段の途中で立ち止まりながら――怯える由香の方に、露にした首側の歯を向けていた。

305 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:04:45.47 ID:fmH16SgS0


 由香「ひっ……いいっ……」

 一瞬立ちすくんでしまう。
 目を合わせそうになって――というところには至らなかった。



 再び――少し、失禁してしまった。

 それが我に返る引き金になった。
 緊張が一気に解けたかのようになって、2階へのフロアへと、一目散に駆け出す。
 手にしたロウソクの火が、遠ざかって小さくなっていく。



 ??「……ゴボ……ゴボ……」

 児童霊も緩慢な動きで、由香の後を追う。

 そして、2階のフロアに広がる闇の中に消えていった――。


306 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:06:10.30 ID:fmH16SgS0









  ……タッ、タッ……








 ??「だ、誰か来るの……?」

 別館2階の、階段脇の小部屋。
 そこの壁にもたれかかるように、一人の少女がうずくまっていた。

 突如、階下から響いてきた足音に――山本美月は思わず、全身を震わせた。
 ソバージュがかった髪が、小刻みに揺れる。

 履いている薄緑のスカートの端を、震える右手で握りしめ。
 着ているセーラー服の胸元にある、白檀高校の校章のあたりで、左手で拳を作りながら。

 疲れて、怯えきった視線を――階段の方へと向けていった。

307 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:06:57.11 ID:fmH16SgS0










   ……ドタ、ドタ、ドタ!!









 別の足音がした。
 前に聞こえた足音に加え――音は見る見るうちに、大きくなっていく。


 美月「ひっ……こ、殺される……」

 全身に電気が走ったかのように、すかさず立ち上がった。
 そして、一目散に――階段とは逆方向に伸びる、廊下をありったけの勢いで走り出す。

308 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:08:46.58 ID:fmH16SgS0

 美月(このままじっとしてたら、殺される!!袋井みたいに、恵美みたいに!!)

 頭の中には、先程本館で目の当たりにした光景が、ありありと蘇った。





 頭を鈍器で割られて絶命していた――親友の卜部恵美。


 そして――目の前で、あの大柄な男に、大金槌を頭に振り下ろされた――生徒会長の袋井雅人。





 美月も、このようになるのかと思ってしまい――ただ、ひたすら逃げ出した。

309 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:09:34.06 ID:fmH16SgS0

 そんなことは、美月にとってはどうでもよかった。
 目の前で、同じ学校の人間の死を目の当たりにしてしまい。
 さらには、人型の黒い霧状の、正体不明の何かに憑依されそうになってしまい。
 あまつさえ、得体の知れない児童霊に出くわしてしまい。

 そのために、精神状態は異様なまでに緊張しきっていた。
 目にしたものが、怪異に見えてしまうのだ。

 廊下に散らばっている机などが――霊魂に見えてしまったり。
 教室や廊下に並んでいる、ロッカーや棚が――大金槌を持った、あの殺人鬼に見えてしまったり。

 まるで、常に死と直面している戦場の兵士が、木や岩を敵兵と思い込んでしまうかのように。
 出会う人間がたとえ、普通の人間であったとしても――自分を殺しに来ていると、思い込んでしまっていたのだった。
 それほどまでに――美月の判断能力は、疲弊しきっていた。


310 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:10:32.67 ID:fmH16SgS0








      ……ギィ……ギギッ……ギィ……








 背後からは――床が軋む音。

 やや早いペースで――何かが、こちらへやってきているようだ。


 美月(捕まったら……殺される!!)

 後ろを振り返る余裕がないまま――ただ、ひたすら暗闇に閉ざされた廊下を突き進むだけだった。


311 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:11:53.26 ID:fmH16SgS0











      ……ギギッ……ギッ……ギィ……










 なおも、背後から響く床の軋み。
 一向に、そのリズムを崩すことなく、なおも美月の耳に入る。


 美月「ハッ、ハッ、ハッ……」

 息が切れるほど、正直言って苦しかった。
 が、その勢いを落とすことはない。
 とにかく、ひたすら走っていると――左手に、何かの部屋の入口があるのが、目に入った。


 その部屋の引き戸には――異様なまでに、何かの呪文が書かれた札が、埋め尽くすように貼られていた。
 どう見ても、普通に開けられないのは、火を見るより明らか。

 目もくれず、そのまま廊下を奥へと走っていった。

312 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:12:44.42 ID:fmH16SgS0











      ……ギギッ……ギッ……ギィ……











 いまだに耐えることなく――背後から響く、床の軋み。
 もはや、美月を追いかけていることは明らかだった。


 美月(立ち止まったら……絶対に殺される!!殺されてたまるか!!)

 異様なまでに、極限にまで追い詰められた精神が――彼女を突き動かしていた。

313 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:14:29.85 ID:fmH16SgS0

 やがて、廊下の突き当りまで至った。
 別の廊下が左右に伸びている、T字路の形状をしていた。

 左へと曲がろうとした――その時。


 美月「ひっ……な、何よ、これ……」

 思わず、足を止める。
 曲がった目の前に広がっていたのは――あまりにも異様な光景だった。




 廊下を埋め尽くす、無数の緑色の大きな物体。
 まるでRPGのゲームにでてくるスライムのような、得体の知れない物体が無数に、所狭しと床にへばりついていた。

 それらの一つ一つには――人面のような皺が刻まれていた。

 そして――微かにだが、小刻みに動いていた。

 さながら――不気味な生物が、床全体にひしめき合って、蠢いているように目に映る状態だった。


314 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:15:18.88 ID:fmH16SgS0













 その時――
















 人面の一つが――美月の姿を、じろりと眺め回した。


315 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:19:01.02 ID:fmH16SgS0

 美月「い、いやあああああああ!!」

 悲鳴を上げながら、廊下を逆方向に突き進む。
 左手には、何かの部屋の入口。
 そして――右手には、下へと下りる階段。


 その脇には――全身を腐敗させた、犠牲者の死体。
 着ている制服はボロボロになり、周囲に腐臭を撒き散らしていた。
 周囲の床には、血が無数に飛び散っていた。
 もっとも、相当の時間が経過しているのか、黒ずんでいたが。


 美月「あああああああ!!」

 狂ったような悲鳴を上げながら、下へと下りる階段に足を踏み入れる。


316 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:19:38.28 ID:fmH16SgS0











      ドタ、ドタ、ドタ!!
 









 すぐに、踊り場までたどり着き、そのまま階段を下へと突き進む。

317 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:20:27.74 ID:fmH16SgS0











     
      ドタ、ドタ、ドタ!!











 勢いを衰えさせることがないまま、階段を降りきった。




 その時。


318 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:21:33.44 ID:fmH16SgS0









     ドンッ!!









 何かに勢いよくぶつかった。
 その衝撃で、よろめいてしまう。
 が、なんとか持ちこたえて、ぶつかったのが何かを確認しようとした。


 すぐ側には、火が点いたままで、横に転がっているロウソク。
 倒れてもなお、立てていたと思われる、銀色の皿の上で、小さな炎を灯していた。
 真っ暗な廊下を、淡い光が辛うじて周囲を照らしている。

 さらにその向こうに見えたのは――

319 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:23:16.57 ID:fmH16SgS0

 ??「いたたたた……」

 それは、人だった。
 首の辺りまで伸びている、茶色がかった短髪の――中学生ぐらいの少女。
 胸元に赤いリボン。
 ベージュのブレザーに青系のチェックのスカート。
 見たことの無い学校の制服だった。

 その人物――御坂美琴は、床に尻餅をついた形で、自分にぶつかった本人を睨みつけていた。
 床に体を強く打ち付けたのか、時折苦しそうな表情を浮かべる。


 美月「……ハァ……ハァ……」

 息を荒げたまま、そんな美琴に、ぎょろつかせた目を向けていた。
 そして――すぐに一つの思考が頭の中を支配しだす。


320 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:24:21.91 ID:fmH16SgS0

 数え切れないぐらいの死体がそこら中に転がり、幽霊や殺人鬼が徘徊している、この異様な廃校。
 さらに、クラスメートの死を次々と目の当たりにした、現実。
 もはや、美月の感覚はほとんど麻痺していた。
 この空間で、生者がいるほうがおかしいという思考に陥っていたのだ。
 自分が生きているのにもかかわらず――である。


 美琴「あんた……何があったのかは知らないけどさ……」

 なおも痛む腰の辺りをさすりながら、抗議の声を上げる。
 そして、左手を床に突いて、ゆっくりと立ち上がりだす。


 美琴「前ぐらい見なさいよ」

 目の前に突っ立っている美月を、なおも睨みつけたまま――。

321 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:25:02.70 ID:fmH16SgS0


 美月(じっとしてたら……殺される。こいつも、幽霊か何かなんだ……!!)

 まったくと言ってもいいほどの、根拠のない推測。
 が、極限にまで追い詰められた、今の美月の精神状態は、それをすんなりと受け入れてしまう。
 次々と心の底から湧き上がる強迫観念が、頂点に達してしまい――そして。


 美月「誰も信じない!!信じないぞ!!ああああああああ!!」

 ありったけの声で叫びだした。

 口から無数の唾が飛ぶのにも、構うことなく。
 充血しきった目で美琴を睨みつけて。

 そして――職員室の方向に――そのまま廊下を逃げるように走り出していった。

322 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:25:48.48 ID:fmH16SgS0

 美琴「…………」

 廊下の奥に広がる闇の中へと消えていった美月の後姿を、ただ目で追う。
 やや呆然としながらも、すぐに我に返りだす。


 美琴「ったく……何なのよ、ホントに」

 腰の痛みもようやく治まってきた。
 ぶつかった衝撃で落としてしまったロウソクを拾い上げる。


 美琴「上で叫び声がしたかと思ったら、ぶつかってきて……わけが分からないっての」

 垂れ落ちる蝋が指に掛からないように気をつけて、ロウソクを皿の上に立て直す。
 皿の淵を怪我をしていないほうの手の指でつまむ。


 そして――

323 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:34:12.13 ID:fmH16SgS0
今回の投下はここまでです。

なお、訂正があります。
申し訳ありません。

まず、>>308>>309の間に以下の文章が入ります。



 ――後ろからやってくるのは、あの大男か。

 ――それとも別人なのか。



 あと、>>278は赤字にするつもりでしたが、メ欄のコードをミスってしまっています。
324 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 02:43:05.23 ID:fmH16SgS0
 さて、>>322の後には、以下のように選択肢が続きます。

 A:職員室の方向へと、歩き出した。
 B:2階への階段を登りだした。

 安価は>>326でお願い致します。

 なお、今更ではありますが、>>186のBはWrongENDになることを申しそえておきます。
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/08/24(水) 03:08:35.63 ID:12Dq+XY2o
乙だA
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 12:43:13.15 ID:1iFMbmLDO
Aで
327 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 23:10:21.07 ID:GUO++tQ30
続きが仕上がりましたので、投下します。
その前に、前回の投稿の訂正をば。

まず、>>288は重複で投稿してしまいました。

あと、>>319>>320の間で、以下の文言が抜けていました。



 美月(こんな所で、生きている人がいるなんて……嘘だ。信じられない!!)

 ――と。


さらに、今回より美琴の口調ですが、"あんた"と言っていたのを、原作にならって"アンタ"に訂正します。
度々、申し訳ないです。

では、>>326のAにて、投下します。
328 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/08/24(水) 23:11:46.01 ID:GUO++tQ30
 
 職員室の方向へと、歩き出した。
 自分にぶつかって消えていった少女を捕まえて、何があったかを聞き出そうと思った。 

 途中で、黒子たちに会ったのかだけでも聞き出せれば――それだけできれば、いい方だった。


 美琴(まあ、あんな状態じゃ……話はほとんど聞けそうにないけど)

 見た限り、精神はほぼ壊れてしまっているといってもおかしくない。
 正直、期待はあまりしていなかった。


 美琴(何もしないよりかは、マシよね)

 小さく息をつきながら、暗い廊下を踏みしめる。
 薄汚れたモルタルの壁や、所々が腐って穴の開いた床の上には――ムカデなどの小さな虫が這いずっていた。
 それも、視界に入る限りで10匹以上はいるようだ。


 美琴(こりゃまた、盛りだくさんなことで……いちいち気持ち悪がってたら、キリがないって)

329 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 23:12:25.00 ID:GUO++tQ30

 それらに構うことなく、前に進む。
 すぐに、左に廊下が分かれる箇所まで出た。

 ちらりと、左への廊下に目をやる。


 美琴(まあ、さっきの棚よりかはマシだけど。あの子、あそこを通り越したのかしら……)

 廊下の先にある、倒れた棚――その中から、散らばった数え切れないぐらいの害虫の死骸。

 頭にそれが浮かぶと同時に、首を大きく振った。
 なんとか、浮かんでしまった不快なイメージを消し去ろうとしたのだ。


 美琴「…………」

 気持ちを落ち着かせた後、耳を澄ます。











330 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 23:12:51.31 ID:GUO++tQ30













 廊下の奥からは――物音一つしない。

 強いて言うなら、手にしているロウソクが燃える音と、美琴の息遣いが微かに耳に入るのみ。


 美琴(あそこなら悲鳴を上げるか……通り越すにしても、物音がしそうなものだけど……)

 視線を正面方向に伸びる廊下へと向ける。


 美琴(となると、まっすぐ行ったのかな。まあ、壁に穴が開いたから、外に出られるようにはなったでしょうけど)

 小さく息を吐くと、再び歩を進める。




331 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 23:13:29.11 ID:GUO++tQ30













 「……いやああああああああ!!」









 その時――悲鳴が聞こえた。

 幼い少女の声。

 それは――聞き覚えのある――



332 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 23:13:56.30 ID:GUO++tQ30



 美琴「持田さん!?」

 ――由香の悲鳴だった。

 すぐさま、声のした――天井に視線を向ける。
 床と同じく、天井を構成する木材も所々が朽ちて、穴が開いている。
 その穴から様子を見ようとしたが――暗くてよく見えない。


 美琴「ったく、一人でいいっつときながら、何してるのよ!!」

 自然と足は反対方向へと駆け出していた。
 速度がついたはずみで、ロウソクの炎が大きく揺れて消えそうになるが、気にすることなく。
 床を這いずる害虫を踏みつけたが、気にする――余裕なんてない。

333 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 23:14:32.50 ID:GUO++tQ30

 すぐに階段の所にたどり着いた。
 朽ちたステップに勢いよく足を乗せる。






  ……ギイ!!ギィ!!






 その度に、木の軋みが大きく響き渡る。
 が、なりふり構わず、階段を駆け上がる。

 踊り場でターンする形で、さらに上へと続く階段を駆け上がる。
 1分もしないうちに、上りきり、2階へと足を踏み入れた。







 ??「……誰だい?」

 穏やかな口調の男の声。
 その声が耳に入ると同時に立ち止まった。

334 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 23:15:09.58 ID:GUO++tQ30

 すぐ側には、腐敗しきった女生徒らしき死体。
 鼻を塞ぎたくなるほどの、腐臭を周囲に撒き散らしていた。


 由香「……い……いや……」

 廊下のやや奥のほうで、小さな体をガクガクと震わせていた。
 涙を浮かべた目を、突如現れた美琴と――その間にいる、高校生らしき男に向けていた。


 ??「何か、ただならない感じだけど」

 男は落ち着き払った様子で、美琴に声をかけてくる。

 絵に描いたような優等生を思わせる、短く切りそろえた黒髪。
 眼鏡をかけ、黒の学ランをきちんと身に着けていた。
 胸についている名札には【2-9 森繁朔太郎】と書かれていた。

 手にしている携帯電話のディスプレイの光が――周囲をほんのりと照らしていた。

335 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 23:16:42.71 ID:GUO++tQ30


 美琴「さっき、その子の悲鳴が聞こえたから。アンタ、何したの?」

 いまにも飛び掛りそうな剣幕で睨みつけながら、目の前の森繁に詰め寄る。


 森繁「何って……この子は僕のクラスメートの妹でね。お兄さんを一緒に探しにいこうとしただけだよ」

 美琴「にしては、相当怯えてるじゃない。彼女」

 ちらりと、奥にいる由香に目をやる。







336 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 23:18:06.73 ID:GUO++tQ30







 由香「ひっ……いっ……」

 そんな美琴の様子を目にして、さらに全身の震えが激しくなった様子だった。
 足が立ちすくんで動けず、目から涙が頬を伝って落ちていく。


 森繁「それは君が、恐そうな顔をしているからだろう。ま、君は心配しなくていいから……」

 一見、涼しげな様子で、美琴をあしらいだす。














337 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 23:18:35.02 ID:GUO++tQ30













 が――眼鏡の奥から除きこむ瞳は、血走っていて。


 異様なまでに、鼻息を荒げていて。


 唇を――大きく三日月状に歪めていた。




 そして――たまたま目に入った、森繁の携帯のディスプレイには……。





 美琴「――!!」

 その途端、直感のあまり――
338 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/08/24(水) 23:24:03.60 ID:GUO++tQ30
本日の投下は、ここまでです。
なお、この後に選択肢が以下のように続きます。

A:すかさず、電撃を携帯に向けて放った。
B:すかさず、携帯をひったくった。

安価は>>340にてお願い致します。

あと、>>324のBはWrongENDの予定でした。

しかし、BSの発売に続き、コープスの小説が来月にもまた発刊とは……ラッシュ状態で、いろんな意味でたまりません。

それは置いといて……読んでくださっている方々に、改めて感謝いたします。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/08/24(水) 23:27:54.72 ID:wgRg/URAO
乙です
Bで
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/24(水) 23:31:26.69 ID:1xgDRptqo
B
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/25(木) 23:50:36.61 ID:MaM75Vrm0
体験版いきなりオープニングで欝になった…
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/08/26(金) 22:45:23.14 ID:A6YW+d4X0
体験版怖すぎワロエナイ
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 13:11:49.75 ID:Y/qE37KDO
おい早くしろ続きが気になって寒い
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 19:56:25.57 ID:rJlBoguDO
お前も紳士ならネクタイくらい着けなさい
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/08/31(水) 03:10:37.13 ID:TuT6RO3AO
とりあえず靴下履いたけど寒いぞ

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/08/31(水) 09:31:01.95 ID:UKLefOp00
>>345
よし、落ち着いてパンツを穿こうか。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
347 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/09/01(木) 22:22:04.59 ID:B3W5XNxR0
お待たせしている中、申し訳ないですが、失礼いたします。
生存報告と、お断りをば。

次回の投下ですが、かなりの時間を頂く可能性が高いです。
なんとか1ヶ月以内にはできればと思います。
申し訳ないです。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/09/01(木) 22:31:04.89 ID:IzpQdq2o0
待ってるぜ!
けどできれば早めにな!
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/09/01(木) 22:32:06.73 ID:IzpQdq2o0
待ってるぜ!
けどできれば早めにな!
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
350 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/09/01(木) 22:37:44.34 ID:B3W5XNxR0
こんな中で恐縮ですが、少し米返しをば。

>>252
上条さんと一通さんを連れてきた場合……それについては、いろいろ考えるところはあると思います。
むしろ、どれだけフラグが乱立するかが心配ですww

>>341>>342
同じく。体験版でおなかいっぱいです。

>>343->>346
いらっしゃいませ。いらっしゃいませ。
さぁ検査を行いますので、今着た物を全て脱いでお待ち……じゃなくて、お待ちいただいて、恐縮です。
申し訳ありませんが、気長にお待ちいただければと思います。

では、失礼いたします。

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/09/05(月) 02:09:25.96 ID:J2XbIpGAO
「アッハァ!(パンツを燃やしながら)」
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/09/10(土) 19:50:18.35 ID:dL79TtlM0
とりあえずリコピン摂るか
353 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/09/23(金) 09:41:19.23 ID:5PxloD1/0
大変お待たせして申し訳ありません。
>>340をBにて投下いたします。
354 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/09/23(金) 09:43:00.15 ID:5PxloD1/0
 すかさず、携帯をひったくった。


 美琴「な、何……これ……」

 目に飛び込んできた、ディスプレイに映し出された光景は……美琴を打ちのめすには十分すぎた。







 写っていたのは――傍にある、女生徒の死体。






355 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:46:44.80 ID:5PxloD1/0


 美琴「何で、こんなのが……」

 顔を硬直させながら、携帯のカーソルボタンをいじる。


 次に映し出されたのは――また、死体。
 黒ずんだ床の上で、白骨化した、男子生徒の亡骸だった。


 次も――また死体。
 椅子に腰掛けた状態で、頭から夥しい量の血を流し、首が変な方向に折れ曲がった、女生徒の亡骸。


 美琴「…………」

 次々と出てくる――死体の画像に、もはや言葉も出ない。
 操られたかのように、カーソルボタンを押し続け――。







 次に出てきた画像には――怯える由香が写って……。






356 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:47:21.89 ID:5PxloD1/0


 森繁「返せよ!!」
 
 怒気をあらわにした声で怒鳴りだす。
 そして、美琴の手から携帯を無理矢理取り返すと――







      ドンッ!!







 ――そのまま力一杯に突き飛ばした。


 
 美琴「うぐっ!!」

 バランスを崩し、勢いがついたまま壁に頭を打ち付けた。
 壁に背をぶつけ、床の上に尻餅をつく形で、崩れ落ちてしまう。
 軽い脳震盪でも起こしたのか、起き上がるどころか、目を開けることすらままならない。

357 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:47:51.91 ID:5PxloD1/0

 森繁「チッ……」

 奪い取った携帯を手にすると、小さく舌打ちをした。


 森繁(ったく、うるさいにも程がある。おまけに図々しいな、この女……)

 忌々しげに美琴を睨みつける。


 美琴「う……ううっ……」

 痛みのあまり、苦しげな表情でうめいていた。
 時折、頭をふらかせながらで、辛うじて倒れ伏さないようにこらえているのが精一杯だった。


 森繁(そういえば、この声……中嶋と結構似ているな……)

 そんな美琴の有様を目にしながら、頭の中にはクラスメートの顔が浮かんでいた。
 中嶋直美という――クラスの女子の中でも、気の強い女生徒だった。
 おしゃべりで、男勝りで――森繁にとっては、あまり一緒にいる気にはなれないタイプの人間だった。
358 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:48:56.79 ID:5PxloD1/0

 森繁(内面まで中嶋にそっくりのようだな……ん?)
 
 ふと、あることに気づく。








 森繁(俺に突き飛ばされただけで、何もできずにうめいている。気が強いだけに、無様なものだ……)







359 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:49:24.94 ID:5PxloD1/0

 森繁「ククッ……」

 美琴を目にして、口元に小さく笑みを浮かべる。
 眼鏡の奥から、醜くにやついた目を覗かせながら。


 森繁(中嶋もこんなことされたら……同じようになるのだろうな。これはこれでたまらないな……)

 内面から、ある種の興奮が湧き上がる。
 いや、優越感に浸ったときの――快感といったほうがいいのだろうか。
 それは、死体を撮影していたときと――そして、恐がる由香を追い回していたときのものと――まったく同じだった。
 みるみるうちに、息が自然と、荒くなっていく。


 森繁「……クヒヒヒ……」

 そして、携帯のカメラをゆっくりと、美琴に向けて――







       ピロリン……。







 一瞬、フラッシュがまぶしく焚かれたかと思うと、電子音が小さく響き渡った。

360 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:49:53.60 ID:5PxloD1/0

 美琴「あ、アンタ……何したのよ……」

 目の前にいる男の行動に、理解できない。
 ただ、これだけははっきりと感じられた。

 ――おぞましいと言ってもいいぐらいに、気味悪いというのは。


 森繁「ウヒヒ……じゅるり……」

 携帯に映し出された画像を、不気味な笑みを浮かべながら眺め回していた。
 満足げに、舌なめずりまでして。


 美琴「…………」

 言葉も出ない。
 ただ、全身からぞわっと悪寒が湧き上がるのを感じていた。
 ねっとりとまとわり付くような、生理的な嫌悪感。
 体の中からじわじわと凍りつき、一気に全ての皮膚が鳥肌が立ちだした。
 瞼や唇を小刻みに震わせながら、じっと目の前の男の奇行を眺めることしかできない。

361 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:50:36.70 ID:5PxloD1/0

 由香「ひぃ……い……」

 そんな二人の様子をただ見つめているしかない。
 歯が鳴り出すほどに口元を震わせ、目には涙を浮かべ。
 足がガクガクと震えて、逃げ出したくても、逃げ出せなかった。


 美琴「…………」

 俯きながら、力なく立ち上がる。
 壁を手にして、時折ふらつきながら。
 それこそ、軽く手で突きでもしたら、倒れそうなぐらいに――おぼつかない様子で。


 森繁(ふん。まだ立ち上がろうとする気力はあるんだ……面白くない)

 乾いた心を満たす一種の興奮が、一気に途絶えた。
 
362 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:51:14.46 ID:5PxloD1/0

 森繁「あんまり無理しない方がいいよ。さてと……」

 目の前の美琴には興味をなくした様子で――視線を由香に向けた。

 さながら、獲物を前にした猛獣のように、舌なめずりをして。


 森繁「由香ちゃん……一緒に、お兄さんを探そうか」

 由香「ひっ……い、嫌です!!」

 一歩一歩、怯える由香へと迫っていった。
 向けた携帯のカメラのレンズの向こうで――醜くにやつきながら。


363 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:51:55.45 ID:5PxloD1/0

 美琴「アンタ……」

 まるで幽鬼のように、体をふらつかせて。
 一歩一歩、ゆっくりと――森繁の方へと歩み寄る。
 腹の奥底から絞り出したかのような、低い声で呼びかけながら。
 垂れた前髪で表情を隠した状態で――じわじわと二人の間の距離を狭める。


 森繁「しつこいね。そんなのじゃ、嫌われるよ」

 自分のしようとしていたことを妨げられた腹いせもあり、徴発の言葉を浴びせる。
 一見、冷静なようすだが、その表情には不快の色がにじみ出ていた。


 美琴「…………」

 何も言わず、なおも森繁に歩み寄って――そして。

364 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:52:53.86 ID:5PxloD1/0

 ――森繁の胸倉を掴んだ。

 力いっぱい、今にもそこから投げ飛ばしでもしそうな勢いで。


 森繁「な、何をするんだ!!いきなり」

 口では苛立ちをぶつけていたが、うろたえているのが顔にありありと出ている。
 携帯を手にしていない左手で、胸倉を掴む美琴の手首を握り締めた。
 そのまま、引き剥がそうとするものの――。


 美琴「……いい加減にしたら、マジで」

 ゆっくりと顔を上げる。
 そして、目の前の森繁を睨み付けた。

 前髪の向こうから覗きこむ、その視線。

 怒りどころか、殺気さえ帯びているように――森繁には感じられた。

365 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:53:40.78 ID:5PxloD1/0

 森繁「ひっ……」

 思わず情けない声を上げる。
 それはまるで、獣に狙われた小動物のように。
 先程までの、妙な余裕めいた表情は、既に失せていた。


 美琴「これ以上、変なマネしたら……どうなるか知らないわよ」
 
 睨み付ける目を、さらに釣りあがらせる。
 胸倉を掴む手にますます力が入る。
 今にも森繁の制服の布をねじきらんとする勢いで。


366 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:54:08.95 ID:5PxloD1/0

 森繁「くそっ!!」

 すかさず、胸倉を掴む美琴の腕を、無理矢理引き剥がす。







    ブチッ!!





 
 何かが引きちぎれた。
 見ると――学ランの詰襟の真下にあるボタンが無くなっていた。
 留めていた糸がだらしなく、その跡にだらしなく垂れ下がっている。

367 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:55:06.55 ID:5PxloD1/0

 森繁「ふんっ……」

 小さく鼻を鳴らす。
 ちぎれたボタンは気にすることなく、踵を返す。
 そのまま、乱暴な足取りで――廊下の奥へと歩き出した。


 由香「ひっ……いいっ……」

 いきなり自分のいる方に向かってくる森繁に、一層怯えだす。
 ガクガクと震えながら、その場に縮こまりだした。


 森繁「…………」

 が――そんな由香に目もくれず、そのまま真横を通り過ぎた。






     ガコンッ!!






 床に落ちていた金属製の照明器具がつま先に勢いよく当たる。
 その弾みで、壁にぶち当たり、廊下に大きな音を木霊させた。

368 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:55:54.96 ID:5PxloD1/0

 が、当の本人は気にすることなく、廊下を突き進んでいく。
 乱暴な歩調を緩めることなく――やがて森繁の姿は廊下の奥へと消えていった。



 後には――


 由香「…………」

 なおも怯えながらも、森繁が歩いていった廊下を見つめる由香と、


 美琴「…………」

 ちぎれた森繁の制服のボタンを握り締めながら、廊下の奥を睨みつける美琴がいるだけだった。


369 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:56:21.63 ID:5PxloD1/0

 ――どれぐらい、時間が経過しただろうか。

 すっかり静まり返った廊下。

 二人はしばらく、何もしゃべらず、ただじっとしていた。


 美琴「ふん……」

 沈黙を破るかのように、小さく鼻を鳴らす。
 そして、じろりと横目で由香を見つめた。


 由香「…………」

 視線を向けられた途端、全身をびくつかせた。
 座り込んだ状態から、小刻みに震えた足で立ち上がろうとする。
 が、うまくいかないのか、再度床の上に尻餅をついてしまう。

 それでも、なお――わずかながらに全身を後ろずさらせていた。

370 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:57:08.45 ID:5PxloD1/0

 美琴「アンタはどうするわけ?」

 由香「……う……わ……わた……」

 言葉にしようとするものの、うまく声に出ない。


 美琴「一人でいいつってたけどさ」

 両手を腰にやりながら、小さくため息をついて、由香を見やる。


 美琴「大丈夫なの?マジでさ」

 由香「……うぅ……だ、大丈夫で……」

 なおも、びくびくと震わせていた。
 口で言う内容とは反して、露骨に怯えているのが、誰が見てもはっきりと分かる状態だった。

371 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 09:57:35.91 ID:5PxloD1/0

                   バケモノ
 目の前には――体から青白い稲光を放つ少女。
 今すぐにでも、この場から立ち去りたいという感情で頭が一杯になっていた。

 そんな状態でゆっくりと立ち上がり、踵を返そうとする――が。


 由香「うっ……!!」

 足を縺れさせて、転んでしまう。
 そのまま、勢いに任せて体は前のめりに倒れていく。


 由香「ひっ……!!」

 その先の床には――穴といっていいぐらいの裂け目が走っていた。
 気づいたところで、勢いは衰えないまま、由香の体は穴に向かって倒れこんで――


 美琴「ったく!!どこがよ!!」

 考えるより前に、足が動く。
 そして、すかさず――

372 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/09/23(金) 10:04:17.03 ID:5PxloD1/0
本日の投下はここまでです。
なお、今回も以下のように選択肢が続きますので、お願い致します。

A:穴に向かって身を乗り出した。
B:磁力で傍に落ちている照明を引き寄せた。

安価は>>375にてお願い致します。

ちなみに>>338のAはWrongENDでした。

しかし、WrongENDですが、やはりビターンがないと、物足りないと思うのは私だけでしょうか……?
独り言、失礼しました。
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/23(金) 11:33:14.88 ID:atapMIsro
ksk
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/23(金) 13:14:08.13 ID:yd8YA20DO
乙!
ksk
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/09/23(金) 14:36:01.41 ID:qhcO7MLwo
Bだ
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/23(金) 19:46:32.99 ID:g04+STBy0
能力に怯えてる由香の目の前でBの行動はWrongENDな気が……うん、気のせいだな

汚染度100%にならないと手形出てこないしな…ビターンがないと確かに物足りない…
377 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/10/09(日) 05:26:20.07 ID:uz3TXto30
お待たせしました。
>>372をBにて投下いたします。
378 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/10/09(日) 05:27:28.53 ID:uz3TXto30
 そして、すかさず――

 傍に落ちていた照明を磁力で引き寄せた。
 裂け目の向こう側に落ちていた、金属製の古びた長細い傘。

 蛍光灯がある部分を床に伏せた形で――手前側へとみるみるうちに引き寄せられていく。

 さながら、裂け目をまたぐような形で移動してきていて――
 それが倒れる由香の体の支えになって、落ちるのを食い止められる――





  ――はずだった。






379 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:28:05.20 ID:uz3TXto30

 由香「ひっ!?」

 その光景を目の当たりにした途端――慌てふためいてしまう。
 辛うじて裂け目の淵にとどまっていた片足を――踏み外してしまう形になった。

 バランスを崩したまま、由香の体は裂け目の底へと落下していき。

 落ちていく彼女の体の真上を掠めるかのように――照明器具が、裂け目をまたぐ。





  ――間に合わなかったのだ。





 美琴「ちっ……くそ……」

 その光景を目の当たりにして、舌打ちをする。
 すかさず、裂け目まで駆け寄り、なんとか由香の体を掴もうと手を伸ばそうとした。


 が、その時。


380 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:28:35.90 ID:uz3TXto30




 照明器具の傘の下にあった――真っ二つに割れた蛍光灯。

 傘に引きずられるかのように――それも移動してきていた。

 裂け目に差し掛かった途端に――勢いよく、裂け目に向かって落下していく。



 断面は――割れて、槍の穂先のような、鋭い突起がいくつもできていた。

 それが――由香の顔に向かって。











 由香「ぎゃああああああああああああああああ!!」










 

 右目に――深々と突き刺さった。




381 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:29:01.16 ID:uz3TXto30




 絶叫を上げながら――

 由香の体は、みるみるうちに――

 ――裂け目の真下に広がる、深い闇に呑み込まれていき――。










   グシャリ……。









 何かが潰れるかのような音が――裂け目から、小さく響いた。

 その後には――ただ、静寂が残されるだけだった。


382 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:29:42.80 ID:uz3TXto30


 美琴「……うそ……」

 裂け目の縁で、ただ呆然と立ち尽くす。


 直前に、目の前で繰り広げられた光景が――

 救おうとしたのに、裏目に出た現実が――


 なにより――

 人を傷つけて、命を奪い取ったという――自分のしでかした行為が

 ――どうしても受け入れられなくて。


 ただ――目の前に広がる闇の淵を、力なく見つめていた。


383 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:30:15.68 ID:uz3TXto30

 美琴「ハァ……ハァ……」

 息が自然と、荒くなっていく。
 脳内には――ある感情が、みるみるうちに脳内に渦巻きながら増大していく。

 
 美琴「だ……大丈夫かしら……」

 浮ついた声でつぶやくと、踵を返す。
 歩き出した足は、自然と速度を上げだし、駆け足となっていた。
 ギィギィと鳴る軋みも気にすることなく、廊下を前へ前へと進む。


384 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:30:44.14 ID:uz3TXto30

 美琴「大丈夫……見間違いだって」

 そんなことを誰に言うのでもなく、ただ小さくつぶやいて。
 

 美琴(あれは目に刺さったように見えただけ。掠っただけだわ、きっと)

 先程まで目に見えた事象を、無理矢理に脳内で捻じ曲げて。


 美琴(さけびごえだって、おちたときにびっくりしただけよ)

 乱暴な足取りで、階段を駆け下りていって。


 美琴(あんなおとがしたからといって、しんだときまったわけじゃないし)

 1階までたどり着いてもなお、走る勢いは衰えさせないで。


 美琴(だいじょうぶ。だいじょうぶ。しんだわけじゃない)

 より一層息を荒げながら、廊下を突き進んで。


385 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:31:14.51 ID:uz3TXto30



 美琴(ころしてなんかない。ころしてない。ころしてない……)

 自分のしでかした行為を――必死に否定して。
 うわごとのように――それを繰り返していた。




 その時――目に入った。

 
 横たわった――人影が。





 そして――

386 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2011/10/09(日) 05:32:03.03 ID:uz3TXto30

 右目には割れた蛍光灯が突き刺さり。

 左目は充血させた白目をむき出しにして。


 鼻からは一筋の血が、流れ出し。

 口は半開きになって、そこからも血があふれ出て。


 頬には目や口から鼻やから絶え間なく流れ出てくる、血が幾筋の赤い線を描き。

 首は糸の切れた人形のように、あらぬ方向に折れ曲がって。

 床はスイカを投げつけて砕けたかのように、頭から赤い血しぶきで染め上げられ。


 床に横たわった体は――ぴくりとも動かなく。




 それは――紛れもなく。

 今しがた絶命した――由香だった。



387 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:32:43.29 ID:uz3TXto30


 美琴「い、いやああああああああああ!!」

 それを目の当たりにした少女は、めいいっぱい悲鳴を上げた。
 全身をガクガクと震わせて、その場に崩れ落ちる。
 頭を両手で抱えながら、目には涙を浮かべて。

 はっきりと見えている――惨状に対して。

 先程まで生きていた命が――明らかに消えていることに対して。


 そして、その命の灯を自分の過ちで消してしまったという――

 認めたくなく、頭でひたすら否定していた――現実をはっきりと突きつけられたことに対して。


 美琴「そんな……いや、いや、いやあああああ!!」

 小さく震える口から、狂ったかのような悲鳴を上げて。
 膝を床に付きながら――ゆっくりと後ろずさりだしていた。

388 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:33:26.72 ID:uz3TXto30

   






       ……キャハハ……









 どこからともなく、声が響く。

 それは子供の笑い声。

389 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:33:54.21 ID:uz3TXto30







    ……ウフフ……





              ……キャハハ……







 複数人の子供の笑い声。
 暗闇に閉ざされた、廊下にいくつも響き渡った。


 美琴「そんな……ああ……」

 が、本人はその声に気づく様子はない。
 目を閉じて、両手で抱えた頭を、懸命に左右に振り乱していた。


390 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:34:22.83 ID:uz3TXto30






    ……イーケナインダ、イケナインダ……







           ……コーロシチャッタ、ドウシマショ……







    ……セーンセイニ、イッテヤロ……







             ……ソウシマショ……アハハハハハハハ……







 美琴「…………え?」

 さすがに、周囲から聞こえた声に気づき、思わず目を開ける。
 視界に飛び込んできたのは――



391 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:34:48.34 ID:uz3TXto30



 ――青白く光る、4人の子供。

 いつの間にか――美琴の周りを取り囲んでいた。



 腹が割かれて、黒いものを流している男児。
 頭がなく、遺された下顎に乗っかかった、舌の根元を晒している女児。

 割れた蛍光灯を手にした――左目がなく、洞窟のような真っ黒な眼窩を晒した女児。

 そして――







392 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:35:42.97 ID:uz3TXto30










      チョッキン……













393 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:36:18.31 ID:uz3TXto30




 ??「先生にいうんじゃなくて……」








          
               チョッキン……








394 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:36:52.31 ID:uz3TXto30


 ??「おしおきをしなくちゃ」










                               チョッキン……











 にこやかな笑顔を浮かべながら話し出す――目の前にいる、赤いワンピースを着た、長い黒髪の女児。



395 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:37:20.44 ID:uz3TXto30









       チョッキン……








 所々で刃こぼれして――血糊や脂がしみついた、大きな裁ちきり鋏を手にして。


396 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:37:46.13 ID:uz3TXto30










             チョッキン……








 美琴の耳元で、何度も開閉させながら。


397 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:38:12.36 ID:uz3TXto30

 美琴「くっ……」

 もはや逃げ道がないことを悟ると、苦虫を噛み潰すかのような表情をする。
 4人とも、美琴と数センチしかないところまで迫っていて、間をすり抜けるのは難しい。
 しかも、目を合わせないようにするとなると……はっきり言って至難の業だった。
 能力はある程度効くようだが――かえって怒らせてしまうのは、これまでの経験から想像に難くない。
 電撃を抑えながら、じっと機会を窺うしかなかった。


 ??「とにかく……」

 赤い服の女児が、手にした断ち切りバサミを、何度も開閉させる。
 ジャリ、ジャリという、錆びた金属が擦れる音が、はっきりと耳についた。
 








 ??「舌、切っちゃお」










 大きく開いた刃先を……美琴の口へと、じわじわと迫らせていく。


398 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:38:43.19 ID:uz3TXto30

 美琴「――!!」

 目の前で繰り広げられる、あまりに異様な展開に、我に返った。
 全身が一瞬にして緊張しだす。
 本能で危機を感じ取ったのか――自然と磁力を帯び始めた。

 女児が手にしていた断ち切りバサミは――みるみるうちに、美琴の頬に引き寄せられた。


 美琴「――っ!!」

 辛うじて、刃先は突き刺さらなかったものの――刃の先端が頬を掠り、その後を辿るように赤くて細い筋が走った。
 その傷から――じわじわと、血が滲み出してくる。
 走った痛みで、思わず声を上げてしまった。


399 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:39:16.76 ID:uz3TXto30

 ??「クソッ!!鋏が取れない」

 顔を歪めながら、美琴の頬に張り付いた鋏をはがそうとする、赤い服の女児。
 が、いくら力を加えても、鋏は外れるどころか、びくともしない。
 先程までの――にやつきに近い笑みは消えていて、怒りを露にしていた。
 




 ??「ダッタラ……」

 片目の女児から、割れた蛍光灯をひったくる。
 苛立ちの表情は、いつのまにか失せていた。




 そのかわり――思いっきりにやついて。






 尖った蛍光灯の切り口を――美琴の右目に向けて。







 美琴「ち、ちょっと……な、何する気なの……アンタ」

 今から行われようとしていることに、想像が付いたのか。
 震える声で、恐る恐る訊ねる。

400 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:39:48.68 ID:uz3TXto30

 ??「コイツにもしてあげようよ……」




 一瞬、足元に横たわっている由香の亡骸に目をやって――

 


 

 ??「ソコでくたばってるのと……」






 そして、悪意の篭った瞳を、じっと美琴に向けて――



401 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:40:48.09 ID:uz3TXto30




 美琴「…………」

 目の前の少女が、この後何をしようとしているのかは――想像が付いていた。

 手にしている割れた蛍光灯。
 恐らく、それを――。


 だが、なぜか体が動かない。
 まるで金縛りに掛かったかのように、足どころか手も動かすことができない。
 脳が動けという指令を発しても、体はまったく反応しない。


 ――焦り。
 それだけが脳内をただ渦巻いていた。

 全身は小刻みに震えだし、嫌な汗を額や背から流れる。

 目をかった見開いて、目の前の少女のやろうとしていることを見るだけ――それだけで精一杯だった。


402 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:41:30.08 ID:uz3TXto30


 そんな美琴の様子に満足げな表情で見つめる、赤い服の少女。
 そして――








 ??「同じことをサ!!」









 ――割れた蛍光灯を、勢いよく振り下ろした。







403 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:41:59.91 ID:uz3TXto30








     グジュ!!







 
 右目に――割れた蛍光灯のガラスが突き刺さる。






 美琴「痛ああああああああ!!ぎゃああああああああああ!!」

 獣のような絶叫。

 目はおろか、脳裏全体に響く激痛。
 すかさず、突き刺さった蛍光灯に手を掛ける。


404 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:42:53.41 ID:uz3TXto30





 ――が。

 
 蛍光灯にわずかな振動が伝わるだけで。




 美琴「がああああああああ!!痛い!!いたい!!」

 眼窩にはさらに激しく、波打つ痛みが襲うのみだった。
 それどころか、顔や脳や――いや、頭蓋全体が言葉に言い表せないぐらいの、とてつもない激痛に満たされる。
 さながら、内側から今にも一気に弾けてしまいそうなぐらいに。
 

405 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:43:20.58 ID:uz3TXto30

 美琴「あああああああ!!痛い!!いたいよおおおお!!」

 激しく泣き叫びながら、床の上をのた打ち回る。

 まるで、水中からいきなり引き上げられた魚のように。

 思いっきり苦しみながら。

 手や足を力いっぱいに、何度もたたきつけて。






       パリーン!!






 目に付き刺さっていた、蛍光灯の先が――床に叩きつけられた途端に、激しい音を立てて割れた。
 






      ゴリッ……






 途端に――眼窩の奥で、何かがすりつぶされる感覚がした。
 脳を突き抜けて、頭蓋骨まで達した蛍光灯の割れた切先は――骨をえぐっていた。

406 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:44:05.20 ID:uz3TXto30

 美琴「ぎゃあああああ!!いやアアあああああ!!」

 なおも絶叫を上げながら、床の上をのた打ち回る。
 眼窩からは、血が絶え間なく流れ、周囲の床や壁に撒き散らしていた。







      カラーン……






 頬に張り付いている、裁ち鋏が床に転がり落ちる。
 磁力を発する演算も、ついに途絶えた。
 時折、体の表面に火花を走らせながら――激しくのたうちまわっていた。


407 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:44:43.90 ID:uz3TXto30

 ??「…………」

 目の前で起きている一部始終を眺めていた、赤い服の少女。
 落ちた裁ち鋏をすっと拾い上げる。
 さらに顔を歪め、不気味な笑みを浮かべると――










       チョッキン……









408 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:45:24.06 ID:uz3TXto30

 ??「オマエラ……ソイツを押さえロ」

 鋏を開閉させながら、左手で美琴の頭を押さえ込む。










                               チョッキン……











 同時に、3人の児童霊が、手や足を押さえ込む。
 激しく暴れる美琴を――とてつもない力で床に押さえつけていた。

409 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:45:53.07 ID:uz3TXto30








          
               チョッキン……









 頭のない女児の霊の手が、美琴の下あごへと伸びる。
 そして、歯に手を掛けると、下のほうへと引っ張り出した。

410 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:46:19.92 ID:uz3TXto30






     ……アハハ……









 なおも、顎が左右方向に勢いよく動くが――それに振り回されることなく。

 








             ……キャハハ……








 無垢な笑い声を上げながら――動かないようにがっちりと固定していた。

411 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:46:46.20 ID:uz3TXto30










             チョッキン……









 ??「イイコ、イイコ……」

 なおも満足げな笑みを浮かべる、赤い服の女児。
 目をすっと細めながら、美琴の頭を押さえつけていた手を離す。

412 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:47:32.44 ID:uz3TXto30








        チョッキン……










 ??「さァ……」

 そして、上あごに手を掛けて――じわじわと引っ張りあげて。

413 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:47:58.29 ID:uz3TXto30










  チョッキン……











 ??「お口を開けてごラン?」

 すかさず、鋏を――美琴の口の中に突き入れた。

414 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:48:26.43 ID:uz3TXto30

 美琴「ぁあああああああ!!」

 なおも喉の奥から、絞り出される絶叫。
 眼窩からの激痛で、なりふり構わず叫び、首を上下左右に動かそうとする。
 その度に、鋏の刃が口腔の肉に触れ、少し突き刺さったりする。

 口に突き入れた鋏の刃は――大きく開いたまま、舌のある位置まで達して。








     グチュッ……。







 勢いよく、刃を閉じた。
 柔らかいものが爆ぜるような音が――したような気がした。

415 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:48:57.86 ID:uz3TXto30

 美琴「が……ア……ごぼぼ……」

 さらに襲う激痛。
 しかし――絶叫は上げることはなかった。

 切断された舌は、勢いよく喉の奥まで縮こまるように巻き取られて、気道を塞ぎ。

 叫び声はおろか、呼吸までできなくなった。

 僅かな隙間から、声のような水音が漏れるが――それも、やがて消えていき。


 美琴「……ごぼっ……あ……」

 激しく暴れていた体も、動きを止めて。

 目の前は一気に真っ暗になって。

 痛みも薄れていって。


 意識も――無くなっていった……。

416 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2011/10/09(日) 05:50:19.51 ID:uz3TXto30


 美琴「…………」

 もはや微塵も体が動くことは無くなった。



 割れた蛍光灯を突き立てた、右目から。
 舌を切断された、口から。




 ただ――血を絶え間なく流したまま。

 
 



417 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:51:50.91 ID:uz3TXto30

(暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

 テーレレテテテレテー
 
   Wrong End

 ビターン

(押し付けられた左手の赤い手形。薬指がない)


>>372のBはWrongENDでした。
というわけで、この先はAにて投下します。
418 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:54:52.31 ID:uz3TXto30
 そして、すかさず――

 穴に向かって体を身を乗り出した。


 由香「い……ひいいい……」

 前のめりになる形で、裂け目の底へ向って落下していく。
 なす術もないまま、無意識に手を後ろに伸ばしたまま。


 美琴「ったく!!何してるのよ!!」

 すぐさま、由香の手を掴む。
 全体重が美琴の右手へと、一気にのしかかる。
 左手の傷口を床につける形で支えているせいで、ずきずきと痛み出すのをなんとかこらえていた。

419 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:55:29.76 ID:uz3TXto30

 由香「い、いや……」

 落下しそうになってもなお、自分の右手を掴む少女におびえてしまう。
 本能からなのか、掴む手を振り解こうと、全身をゆすりだす。


 美琴「動かないで!!」

 じっと由香を見つめながら、一喝した。

 いくら由香の体が小柄だとはいえ、右腕一本にかかる負担は半端ではない。
 筋肉や関節が引きちぎれそうだと思えるぐらい、痛みを発していた。
 これで動かれようものなら、なおさらである。
 思わず引きずられそうになるが、何とかこらえる。

 そのまま、身をそらせて引き上げようとした――が。

420 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:55:57.88 ID:uz3TXto30






    バキバキッ!!







 大きな音と共に――美琴の足元の床が、大きく音を立てて崩れだした。


 美琴「ええっ!?」

 突如、自分の身体が宙に浮いたことに、思わず声を上げてしまう。
 体のバランスが崩れ、前のめりになる形で、重力に引きずられて体が落ちていった。

421 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:56:51.36 ID:uz3TXto30

 由香「きゃああっ!!」

 いきなり体が真下へと下降しだしたのを感じ、悲鳴を上げてしまう。
 掴まれた右手をぎゅっと握り締めた。

 そして――無意識のうちに目を閉じた。


 そんな中で、感じられたのは。
 





 下へ落ちていく感覚。






 横から風のようなものが当たる感覚。






 そして――





422 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:57:19.87 ID:uz3TXto30






 由香「――!!」





 衝撃。

 車が急ブレーキをかけたときに、慣性がおさまらずに前につんのめるような衝撃。

 同じようなことが――下方向に一瞬力がかかる形で起こったのだった。

 途端に、掴まれた腕が上に引っ張られる感覚がして――肩に痛みが走る。


 由香「うぐっ……」

 小さく声を上げてしまう。

 そして、恐る恐る目を開けると……。




 落下は止まっていた。

 だが――なおも、宙に浮いた状態なのには変わりがない。
 思わず上を見上げる。

423 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:57:59.10 ID:uz3TXto30

 美琴「ぐぐぐ……」

 真上では、なおも自分の右手を懸命に掴みながら――照明の傘を左手で掴んでいる少女。
 今にも折れそうになっている、照明を支える2本の鉄製のポールを、必死の形相で睨みつけていた。






   パチリ!!





 途端に、美琴の体に火花が散りだした。

 その電流は右手を掴まれている、由香の体にも伝わり――

424 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:58:43.88 ID:uz3TXto30

 由香「ひゃうっ!!」

 反射的に右手を振りほどこうと、思い切り手を動かす。
 途端に、美琴の指から力が抜けて――


 由香「ひっ!!」

 一気に落下し始めた。





  ドンッ!!





 すぐに、床に尻餅をつく形で、落下は止まった。


425 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:59:16.29 ID:uz3TXto30

 由香「ううっ!!」

 思わず声を上げてしまう。
 落下距離は1mもなかったものの、尻を付いたときの衝撃はある。
 痛みもそこそこながらあり、思わず手をやると同時に。

 我慢していた尿が――僅かに漏れているのを感じた。


 そして――何か、水滴のようなものが、頬に掛かる。
 無意識に、その周囲に手をやる。

 何かで濡れている感触。
 水のようだが――それにしては、鉄臭いような……。


 近くに、誰が置いたのか分からないが――火の灯ったロウソクが置かれていた。
 暗い廊下が、ほんのりと照らし出されている。

 その明かりに向けて、指を差し出すと。



 指先は――赤く染まっているのが、はっきりと見えた。

426 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 05:59:43.33 ID:uz3TXto30

 由香「ひっ!!」

 声を上げてしまう。
 反射的に、上を見上げる。


 美琴「……アンタ……大丈夫なの?」

 照明の傘を掴みながら。

 いや――体に発生させた強力な磁力で――左手を照明の傘に張り付かせながら。

 そして――その左手どころか、掴んでいるあたりの傘を――なおも、にじみ出る血で赤く染めて。

 精一杯といった様子で声を掛けてくる。






    ピトン……。






 なおも、由香の頬に掛かる水滴――いや、血液。
 美琴の傷ついた左手から、照明の傘を伝って、垂れ落ちてきたものだった。

427 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 06:02:42.55 ID:uz3TXto30


 



     ミシリ……。






         ギシ……。





 何かが軋む音。
 そして、微かに聞こえる――何かが割れるような音。

 美琴の体を支える形になっている、照明を吊り下げるポールから発せられたものだった。
 取り付けられている天井の木材も、それに連動して、不気味な軋みをあげている。

 ポールが折れて、照明も、美琴の体も落下するのは時間の問題。
 少なくとも、このままの状態でずっといられないのは、火を見るより明らかだった。
 
 
 由香「み、美琴お姉ちゃん。い、今なんとか……」

 我に返って、何とかしようとする。
 が、具体的に何をすべきか、思いつかない。

 吊り下がる形になっている美琴の体と、床との距離は――だいたい1.5mくらい。
 だが、背の低い小柄な由香からは、相当な高さに見えてしまう。

 体を支える土台のようなものも――周囲を見回した限りは、無さそうだ。


 由香(ううっ。どうしよう。どうしよう……)

 何をするべきなのか、皆目見当が付かず。
 ただ――まごまごするしかなかった。

 
 
428 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/10/09(日) 06:04:24.95 ID:uz3TXto30
本日の投下はここまでです。
次回あたりで、このchapterも終了の上、視点変更でいきたいなと思います。
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 07:18:23.14 ID:ohTzYdY+o
乙乙
wrong集まったら何かいいことありました?
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 11:07:50.35 ID:2I/BWWTL0
>>429
BoSの話?もしそうなら
前作データがなければwrongEND全部回収で8章が出る
前作データがあれば全部回収しなくても8章が出る
あとはBGMや画像集めたいなら自然とwrongEND見ていかなきゃ行けなくなるけど
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(西日本) :2011/11/08(火) 23:11:42.74 ID:MjYYwODk0
ほぼ1ヶ月、間隔が開いてすみません。
お待たせしました。
続きを投下します。
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(西日本) :2011/11/08(火) 23:12:56.09 ID:MjYYwODk0

 





     バキ……







         バキン……








 木材が割れるような音が響く。
 それは天井の方から、はっきりと聞こえた。

 照明を吊り下げているポール。
 その根元にあたる天井の木材に――裂け目が走り、小さな木片や埃が舞い落ちていた。
 ポール自体も、徐々に下へと落ち込みだしているのが分かる。

433 :sage :2011/11/08(火) 23:13:23.41 ID:MjYYwODk0

 由香「お、落ちそうだよ!!」

 その様子を目の当たりにして、思わず叫んでしまう。
 それぐらいしか――彼女にできることはなかった。


 美琴「そんなの……分かってるって」

 照明に掛けた左手の傷からの痛みで、顔をしかめながら、今にも崩れ落ちそうな天井を睨みつける。
 ぱらぱらと天井から舞い散る木片や砂埃が、容赦なく美琴の顔に掛かりだす。

 すかさず、下の方を覗き込む。
 ぶらさがる足元のあたりで、不安げに由香が見詰めているのが見えた。


 美琴「そこから離れて。飛び降りるから」

 由香「う、うん」

 言われるがままに、ゆっくりと後ろずさる。
 だいたい2mぐらい離れたのを確認すると、体中に発生させた磁力を弱めた。

434 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:14:28.20 ID:MjYYwODk0
 その時。






      バキ、バキッ!!







 美琴「え、ええっ!?」

 大きな音と共に、ポールの周囲の天井の板が剥がれだす。
 ポールごと照明が一気に落下する。
 当然、傘から手を離しきれていない美琴も巻き込んで。


 由香「ひいっ!!」

 思わず、その場にしゃがみこんで、両手で顔を塞ぐ。

435 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:14:55.30 ID:MjYYwODk0






     ガコーン!!






          バリーン!!







 照明が床板に当たり、大きな音を廊下に響かせた。
 さらに、付いていた蛍光灯も叩きつけられたと同時に、割れてしまったのが分かる。
 割れた蛍光灯のガラスが勢いよく飛び散るが――それは美琴と由香がいるのとは反対側に向ってのことだった。
 床に横たわった照明が、ガラスが飛散してくるのを防ぐ形になっていた。

 すぐに――周囲には静寂が訪れた。

436 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:15:24.32 ID:MjYYwODk0

 由香「…………」

 恐る恐る、顔にあてた両手をずらしていく。
 そして、ゆっくりと目を開けた。


 美琴「くっ……はぁ、はぁ……」

 尻餅をつく形だが、なんとか着地はできたようだ。
 ただ、足も打ってしまったのか、腰と足を両手でそれぞれさすっている。
 足に至っては、怪我をした左手でさするものだから、その度に脛が紅く染まっていく。

 痛みで表情をゆがめた顔には、いくつもの汗が絶え間なく流れ落ちて。
 さらには、息遣いも乱れていた。


 由香「美琴お姉ちゃん」

 恐る恐るだが――心配そうな目付きをしながら、歩み寄ってくる。
 真横まで来ると、静かにしゃがみこむ。
 小さな両手で、美琴の左手をそっと掴んだ。

437 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:16:05.78 ID:MjYYwODk0

 由香「左手……怪我してるの?」

 美琴「ええ。でもこれぐらい、すぐに直るわよ」

 巻いたハンカチはすっかり紅く染まっていた。
 さらに、先程まで激しい動きをしたせいか、一部が裂けていた。
 そこからばっくりと開いた傷口が覗かせ、なおも赤い血がにじみ出ている。


 由香「ううっ……い、今、手当てするから」

 傷口を目にして、一瞬気持ち悪くなったが、なんとかこらえた。
 そして、ポケットから白いハンカチを取り出す。
 すかさず広げて、左手の傷口を覆うように巻きつける。


 美琴「ち、ちょっと」

 由香「消毒薬とか持ってなくてごめんね。これで血が止まってくれたらいいんだけど……」

 申し訳なさそうな顔をしながら、巻きつけたハンカチの端を互いに結わえ付ける。
 一瞬、傷口は白い布に覆われて見えなくなる。
 が――すぐに線状の赤い染みが浮かび上がってくる。


 美琴「ううん。そこまで気にしなくていいからさ。ありがと」

 手のひらに巻きつけられたハンカチの様子を眺めていたが、由香のほうに目をやる。
 優しげな表情を向けて。


 由香「で、でも」

 なおもじわじわと赤い染みが広がっていく、手のひらのハンカチ。
 そんな様子を、不安げに見詰めていた。

 少しだけ――美琴に対する、怯えの色を表情に滲ませながら。

438 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:16:32.99 ID:MjYYwODk0

 美琴「これ以上は、直るまで仕方ないって」

 そんな由香を、これ以上不安がらせないようにと、何気なく声を掛ける。

 その時――ある事に気づく。


 美琴(そっか……それなら、無理もないかな)


 ――突然、怯えだして、同行を拒んだこと。

 ――それは確か、肩に付いた虫を能力で落とそうとしてからだったはず。

 ――そういえば、"アレ"と火花の色も、似てるっちゃ、似ている……。


 美琴(こんな異様な空間で、学園都市の外にいた子に能力見せ付けちゃ……ね)

 小さくため息をつく。
 そして、由香の目を見つめて、言った。


 美琴「私こそ、ごめんね」

 由香「え?」

 唐突に謝られても、何のことに対してか分からない。
 どう反応していいのか分からず、おろおろするだけだった。

439 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:17:10.52 ID:MjYYwODk0

 美琴「私のことさ、怖かった?」

 由香「それって、何のこと……?」

 美琴「体から火花を飛ばしたり、電気が出てたりしていたこと」

 由香「う、うん……」

 ようやく理解できたようだ。
 これ以上怯えるということはなかったが――素直な気持ちを伝えようと、小さくうなづいた。


 美琴「私さ、電磁使いなんだ」

 そう言って、両手の人差し指を向き合わせた形にする。

 そして――指の間に電気を放電させる。







    バチバチッ!!







 一筋の、青白い火花が、人差し指の間を走る。
 ジグザグに走ったり、2本に増えたりした。

440 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:17:39.12 ID:MjYYwODk0

 由香「…………」

 目の前に広がる光景に、言葉が出ない。
 ただ、魅入られたかのように、じっと美琴の指先を眺めていた。

 そして、顔を上げ、


 由香「……幽霊なんかじゃ……ないよね」

 美琴の顔を見つめながら、つぶやいた。
 なおも不安が拭いきれないのか、恐る恐るといった感じだった。


 美琴「違う、違う。ほら、体もあるでしょ」

 そんな由香の反応に、苦笑いを浮かべる。
 実際に、由香に腕を触らせてみせる。


 由香「う、うん。そうだけど……」

 感触は確かにあった。
 が、当の本人は、どこか釈然としない感じだった。

441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(秋田県) [sage]:2011/11/08(火) 23:17:46.56 ID:OmlpsQ9Ro
リアルタイム支援
442 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:18:10.78 ID:MjYYwODk0
 
 由香「体から電気を出すなんて、おかしいよ。由香の周りにそんな人いないもん」

 美琴「そっか。持田さんは学園都市の外にいたから、そう思うのも無理はないかもね。能力者はいないはずだし」

 由香「能力者? 学園都市って、えっ?」

 そこまで言いかけた時、ふとあることを思い出した。
 1・2ヶ月ほど前の休日に、兄の持田哲志と一緒に見たテレビ中継。

 学園都市の、体育祭の実況中継だった。


 由香(たしか"だいはせいさい"だったかな。お兄ちゃんと見て、一緒にびっくりしたっけ……)

 その時の記憶が、ありありとよみがえる。


443 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:18:48.10 ID:MjYYwODk0

 由香「お兄ちゃん、これって映画じゃなくて、本当にやってることだよね」

 哲志「ああ……噂には聞いていたけど、凄すぎるってものじゃないぞ」

 目に見えたもの全てに、ただ言葉を失う兄妹。

 画面に映し出される、大覇星祭の競技の数々。
 一見、体育祭のようだが――画面の向こうで繰り広げられる光景は、あまりにも想像を絶するものだった。
 
 
 天辺に竹篭が据え付けられた3mくらいの高さのポール。
 少なくとも50本以上のそれらが、広大なグラウンドの各所に設置されている。
 その足元には様々な色のボールが無数に散らばっていて。
 各々のポールの周囲には、様々な学校の体操服姿の生徒が固まっていた。

 どうやら、学校対抗の玉入れ競争のようだ。
 普通の学校の体育祭でもやる、ごくありふれた競技。


 号砲が響き渡る。
 それを合図に、参加者が一斉に足元の玉を手にして、籠に向けて投げ入れる――



 と、思われたのだが。



444 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:19:25.93 ID:MjYYwODk0

 由香「お、お兄ちゃん……やっぱり変だよ、ここの運動会」

 哲志「あ、ああ……」

 直後に繰り広げられた展開に、画面の目の前の兄妹は、ただ目を白黒させるしかなかった。


 地面に落ちていた玉が、列を成して籠の中へと――ひとりでに吸い込まれていく。

 まるで一つ一つの玉自体が意思を持ったかのように。
 籠の下にいる生徒は、ただじっとその光景を眺めているだけで。
 見た目では小学校低学年と思える、一人の女生徒が、時折人差し指を上下させながら。
 玉は次から次へと籠の中に入り込んでいった。

 その女生徒が念動力(サイコネキシス)を使っていると、興奮気味に解説するナレーターの声が流れてくる。


 哲志「おいおい、超能力で玉を飛ばしているのかよ」

 由香「超能力って本当にあるんだ……」

 念動力、透視、テレパシー。

 脳を開発して、開花させた能力。
 学園都市にはそうした能力者が集められて、能力開発に勤しんでいるというのは耳にしたことがある。
 だが、聞いただけで、能力自体を目にした事はない。
 ゆえに、画面の向こう側で繰り広げられている数々の能力を目にしても、信じられないというのが正直な感想だった。

 由香にいたっては、これまで能力者の存在を知ってすらなかった。
 能力なんて漫画のような作り話も中でしか存在しないと思っていたぐらいだ。

 この実況中継で見るのも――そして、衝撃を受けるのも初めてだった。
 ただただ、言葉を忘れ、目の前の光景に唖然とするばかりだった。
 
445 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:20:27.90 ID:MjYYwODk0

 その隣では、玉が一斉に舞い上がり、宙に浮かんだ状態で静止した。
 そして、一つ一つ順番に籠の中へと落ちていく。
 数分もしないうちに、籠は玉でいっぱいになっていた。


 対戦相手の学校の籠にカメラが切り替わる。
 そこでは、一人の生徒がせっせと玉をかき集めていた。
 両手一杯になった所で、手を止めたかと思うと――足元の地面が突然隆起した。
 生徒を乗せたまま、地面は籠の高さまでせりあがり、停止した。

 そして、生徒は何気なく両手一杯の玉を楽々と籠の中に放り投げる。





   ゴゴゴ……。





 突如、どこからともなく一陣の突風が吹き荒れた。
 それもとてつもない威力の風らしく、砂埃が舞い上がるのはおろか――数人の生徒が勢いよく吹き飛ばされていた。
 付近にいた他の生徒も、がかがみこみながら吹き飛ばされまいとしている。
 既にいくつかの学校の籠が玉で満たされていたのだが――風で左右に大きくしなりだした。

 困惑する生徒の群れの中をすり抜けるように、走り回る一人の中高生らしき女生徒。
 お下げにした髪を振り乱しながら、彼女は籠を支えるポールの根元まで駆け寄ってきていた。
 その周囲には、彼女を近づけまいと数人の生徒が固まっている。
 が、そんなのには構う素振りを見せず、一人の生徒の体の近くで手を扇ぐ仕草を見せる。

446 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:21:32.36 ID:MjYYwODk0

 その途端――強烈な風が吹きすさび、その生徒は後方へと勢いよく吹き飛ばされた。
 さらには、背後にあったポールに激突し――ポールもそれにつられて傾きだす。

 当の彼女は、声こそ聞こえないが、表情からして高らかな笑い声を上げているようにさえ思える。


 由香「うわ、倒れそうだよ」

 哲志「ていうか、明らかに妨害じゃないか、これ」

 今にも倒れそうな籠の様子にはらはらする妹。
 対称的に、突風を巻き起こす女生徒に怒りの感情を露にする兄。

 その中、籠は地面に向けて、勢いよく倒れていき――


 由香「ひ、あわわわ……」

 思わず、両手で目の前を塞いでしまう。

 が、画面の向こうの籠は、なぜか急にその動きを止めた。
 途端に周囲から歓声やどよめきが上がり、それらが入り混じる。

447 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:22:26.41 ID:MjYYwODk0

 哲志「こりゃ、すげえ」

 籠は――斜め45度の角度で、固まったかのように停止していた。
 まるで、根元を固定されたかのように。

 見ると、その真下では数人の生徒が顔を真っ赤にしながら、手を天に向けて突き出していた。

 念動力で、ポールが倒れるのを阻止していたのだった。


 由香「あっ、さっきの女の人……大変なことになってるみたいだよ」

 ポールを倒そうとした張本人が、数人の生徒に取り囲まれている。
 全員、ただならぬ剣幕で彼女を睨みつけていた。

 扇子を手にした張本人が、手を突き出そうとする――が、途端に手を掴まれて、勢いよく投げ飛ばされた。

 そして、そのまま倒れ掛かった籠に尻から入り込んでしまう。
 何とか抜け出そうとするものの、宙に浮いた状態の籠からの脱出。

 空力使いらしき彼女は、すかさず全身から風力を出そうとする。
 が――そうすると、尻から空気を噴出すような形になることを悟り、途端に顔を真っ赤にさせてしまう。
 結局、何かをわめきながら、ただじたばたするしかなかった。


 哲志「いい気味だな」

 由香「なんか、かわいそうな気もするけど……」

 そんな光景を愉快そうに眺める兄。
 その横で、どこか哀れみさえ感じてしまう妹。

 やがて、高校対抗玉入れの競技も終了を告げ、集計に入りだした。
 それからもいくつかの競技が進行したが、どれも目を張るものばかりだった。

448 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:23:00.79 ID:MjYYwODk0

 大玉転がしでは、突如足元のアスファルトが波打ち、転倒する選手が続出。
 当然、転がすべき大玉はあさっての方向に行ってしまっていた。
 元の位置に戻そうとしても、足元が波打つ状態で、そこまで向うだけでも一苦労の様子だった。


 短距離走では、スタートの号砲と同時に、どこからともなく無数の虫が湧いてきて、出場選手にたかってきていた。
 服の中にも当然入り込んできているわけで、気持ち悪がるのは必死。
 ただ慌てふためいたり、必死に手や念動力で振り払おうとしたり。
 もはや、走る以前の問題と化している。
 そんな中、虫を操ったと思われる中学生らしき男子生徒が、余裕の素振りで走ってゴールしていたりする。


 二校対抗の棒倒しの競技。
 生徒が一団となって、相手校の棒に目掛けて駆け出していく。
 が、迎える相手校の生徒らは余裕といった面持ちで、手を前に突き出す。

 途端に、対戦相手らに向けて、すさまじい風が吹き荒れた。
 瞬く間に、多くの生徒らが吹き飛ばされていく。
 なおも先陣を切って、猛烈な風や衝撃波に耐えながら突き進む生徒もいたものの――傍から見て、棒を倒すどころか、勝負にすらならない感じだった。


 哲志「こんなの俺だったら、やってられないよ」

 そう思うのも無理はない。
 何せ、そこは能力者が集う学園都市の体育祭。
 能力使用についても、一部を除いて認められている。
 さらに言うなら――妨害も含めて何でもありの、やりたい放題の競技だった。
 学園都市の外で言われているような、スポーツマンシップなんざあったものではない。


449 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:23:46.59 ID:MjYYwODk0

 由香「ねぇ、200人対20人って、おかしいよ」

 哲志「常盤台中学とかいったか……どうせ、そっちの少ない方はとんでもない能力者ばかりの集団だろ。ハンデなんじゃないか?」

 画面に映っているのは、中学対抗の玉入れ競争。
 境界線を形作るように一列に並べられた籠のついた十数本のポールに向き合う形で、二校の生徒がにらみ合う。

 200人いる学校の方は、なぜか自信なさげだったり、怯えていたりする。
 対称的に20人の学校の生徒ら――しかも全員女生徒――は、全員が余裕といった素振りで競技の開始を待ちわびていた。
 中には全身から火花を放ちながら、相手校の生徒を睨みつけている生徒までいた。

 やがて、開始の合図が告げられる。
 途端に――


 猛烈な爆風。

 衝撃波。

 さまざまな色の閃光。

 雷撃。

 燃え盛る炎。


 それらが、常盤台の陣営からひっきりなしに、200人いる学校の生徒に襲い掛かった。
 瞬時に砂埃が舞い上がる。

 吹き飛ばされたり、能力が直撃して倒れるものもいたが、中には必死になってかいくぐる者もいた。
 中には能力で無数の石つぶてを放って反撃する者もいた。


 その石つぶての一つが、一人の常盤台の生徒の額に当たる。
 緑色の扇子を手にした、その長髪の女生徒は痛みで顔を歪めた。
 扇子を畳み、石をぶつけた相手校の生徒を睨みつけながら、何かを叫んでいる。

 そして、突き出した掌から、猛烈な風が吹きすさんだ。
 その相手校の男子生徒はおろか、周囲にいた数十人の生徒の体は、一気に後方へと吹き飛ばされた。


 もはや戦場といっても差し支えない状況の中で。
 常盤台の生徒も、相手校の生徒も懸命に籠に向けて、玉を投げ入れる。

450 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:24:24.71 ID:MjYYwODk0

 哲志「な、なんだ!?」

 目の前の急激な展開の変化に思わず声を上げてしまう。

 相手校の陣営の動きがおかしくなったのだ。
 一部の生徒が、突如群れを成して、自校の籠に突進しだしたのだ。
 それを止めようとする生徒もいたが、大きく吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。


 由香「こ、こっちもおかしくなってるよ!!」

 指差した先でも、相手側の陣営の動きがおかしくなっていた。
 玉を投げ入れるのをやめて、群れをつくり、目の前の籠に突進しだす。
 今まで、自分達が玉を入れてきた籠に向って。

 勢いを緩めないまま、籠に激突し――ポールはそのまま地面に向って倒れ、中に入れた玉を地面に散乱させる。


 哲志「おい……こいつ、何やってるんだ?こいつが来た途端に、おかしくなってるぞ」

 指差したのは、相手校の陣営の前あたりをうろうろしている、一人の常盤台の生徒。
 長い金髪のその女生徒は、手にしたリモコンらしきものを相手校の陣営に向ける。
 その途端に、相手側の生徒らは同じように、群がって籠に向って突進しだした。
 さらには止めようとする生徒らと殴り合いをするだの、能力のぶつけ合いをやりだす始末。
 混戦どころか、もはや泥沼状態と化していた。

451 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:24:51.29 ID:MjYYwODk0

 由香「あ、あの籠……あの子に当たっちゃうよ!!」

 地面に向って倒れ掛かる籠。
 その先には、呆然と立ち尽くしている、常盤台の女生徒。
 今にもその女生徒に向かって、籠が倒れかかろうとした――その時。

 相手校の一人の男子生徒が、その女生徒を突き飛ばした。
 が、その男子生徒の間近にまで、籠は迫ってきている。






   ズドーン!!






 今度は、その横からとてつもない衝撃が飛んできた。
 倒れ掛かる籠に命中したかと思うと、一瞬にしてひしゃげさせ、ポールを真っ二つにした。
 そして、籠は中に入った玉を撒き散らしながら、はるか遠くまで飛ばされていく。

 カメラが切り替わる。
 その衝撃を飛ばしたと思える、常盤台の生徒を映し出していた。
 体から火花をいくつも散らし、目の前の男子生徒を睨み付けていた。
 そして、何かを叫びながら、彼に詰め寄っていく。

 そして――

452 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:25:31.89 ID:MjYYwODk0



 由香(あっ……!?)

 急にはっとした。




 ――テレビ中継で見た、火花を散らしている常盤台の女生徒。




 そして――目の前にいる、指から電気を放っていた少女。





 何かに思い当たったのだろうか。
 いきなり、美琴の顔をじっと見つめだす。


453 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:26:06.72 ID:MjYYwODk0

 美琴「どうしたのよ」

 由香「そういえば、美琴お姉ちゃんって、常盤台って学校に行ってるの?」

 美琴「そうだけど。何か?」

 由香「由香、見てたよ。テレビで美琴お姉ちゃんを」

 美琴「え?」

 由香「だいはせいさい……だったっけ。玉入れ競争で、体から電気を出して、籠を吹き飛ばしていたよね」

 美琴「……うん」

 由香「同じ人だなんて思わなかったから……幽霊と思っちゃって、ごめんなさい」

 美琴「ううん。そこまで気にしなくていいわよ。私も能力者だって言ってなかったのが悪いんだから」

 由香「んで……」

 そこまで言うと同時に、由香の記憶の中から、その先の光景が思い起こされる。

 体中から火花を散らせて、男子生徒に詰め寄る美琴。
 男子生徒も美琴に、真剣な表情で何かを話しかけていた。
 そして、その男子生徒は――


 由香「男の人に押し倒されて……真っ赤になってたんだったっけ」

 美琴「ち、ちょっと!!そこまで思い出さないでよ!!」

 突如、顔が真っ赤になる。
 思わず、恥ずかしさでいっぱいの顔を由香から背ける。

454 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:27:06.39 ID:MjYYwODk0


 由香「ご、ごめんなさい。でも、その男の人って……美琴お姉ちゃんの好きな人?」

 美琴「そ、そこで、そんな風に思うわけ?」

 由香「押し倒されても、じっと男の人を見詰めていたから。キスしそうな感じだったよ」

 美琴「あ、アイツとはそんなのじゃないわよ!!てか、テレビ中継でそこまで映ってたの!?」

 由香「うん。思いっきりアップで」

 美琴「何、全世界に晒してくれてるのよ!?マジ、ムカつく!!」

 湯気が出てきそうなぐらいに顔を真っ赤にし、ぶつけ様のない恥ずかしさと怒りを言葉にして撒き散らす美琴。
 そんな彼女のとばっちりを受け、どのように反応していいか分からない由香。


 由香(でも、真っ赤になるなんて、美琴お姉ちゃんはきっとあの人のことが……)

 そんなことを何気なく思っていたとき――下腹部に鈍い痛みが走った。
 先程まで忘れていた、ある一つの生理的欲求が、一度に由香の意識に襲い掛かる。


 由香「ううっ!!はぁ……はぁ……」

 美琴「ん?どうしたのよ」

 由香「お、おしっこが……も、もうだめ……」

 美琴「ったく……だったら」

 ため息をつくと、由香の手を掴みだす。
 ゆっくりと立ち上がり、廊下の奥に向って歩き出そうとする。

 今いる場所は、音楽室の入口あたり。
 少し進むと、玄関に伸びる廊下が分かれていて。
 さらに先を行くと、職員室の前に出るはず。

455 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:28:10.30 ID:MjYYwODk0


 由香「ど、どこに行くの……」

 美琴「この先行った所にさ、廊下の壁に穴が開いたところがあるから。外なら大丈夫でしょ」

 由香「え……うん」

 外という言葉に、一瞬抵抗感を覚えた。
 しかし、限界にまで襲い掛かってくる尿意に、うなづくしかなかった。
 美琴に引っ張られるようにして、一歩一歩、廊下の床を踏みしめる。
 下腹部に力を入れて、なんとか漏れないようにしながら。






456 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:28:40.53 ID:MjYYwODk0






 ――ザァァァァァァ……






 数分もしないうちに、その場所までたどり着いた。

 床の上に散乱した、木材の破片やガラス。
 入口が木っ端微塵に砕けて、真っ暗な様子を覗かせている職員室。
 そして――外で降りしきる雨音を響かせている、ぽっかりと口をあけた廊下の壁。

 美琴が先程いたときと、何ら変わっていなかった。
 廊下の壁にあいた穴を潜り抜ける。
 職員室のときのように、見えない力ではじき返される様子はなかった。

 外は闇に閉ざされていた。
 照明などはあるはずがなく、数メートル先は何も見えない。
 雨のせいでロウソクも使えそうにない。
 仕方なく、校舎の中においておく。
 そこから漏れる淡い光が、辛うじて二人を照らしている状態だった。

 ただ、降りしきる雨が二人の髪や服を、じわじわと濡らしていく。


457 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:29:16.66 ID:MjYYwODk0

 由香「う……暗くて何も見えないよ……こわい」

 美琴「仕方ないでしょ。とにかく私は後ろ向いているからさ」

 由香「う、うん……分かった」

 しぶしぶながらも、少し先まで歩き、そのまましゃがみこみだす由香。
 そこから先の物音は、雨の音にかき消されてよく聞こえない。


 美琴(ったく……あんなところを世界中に晒されてたなんて。恥ずかしいったらありゃしない)

 後ろを向いて、目の前の闇をぼんやり眺めていた。
 由香の口から出た、大覇星祭の様子。
 思い出すだけで、再度顔が真っ赤になってくる。

 そんな時、一人の男子生徒の顔が頭に浮かんだ。
 それは――玉入れ競技の時に、押し倒した男子生徒。


 美琴(アイツもここに迷い込んでくるってこと……ないよね)

 ふと、そんなことを思う。
 これまで、その人物はいろいろなことに首を突っ込んできた。

 ――絶対能力進化実験の時。

   レムナント
 ――残骸をめぐる事件の時。

 それらの時のように、今回も何気なくやってきて――そんな気がしていた。
 が、その期待に反するかのように、当の本人が現れるという気配は――まったくと言っていいほど無い。

458 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:29:50.24 ID:MjYYwODk0

 由香「ふにゅう」

 遠くから、声が聞こえた。
 今までさいなやませてきた緊張から、やっと解放されたという所だろうか。
 その声を耳にして、美琴は我に返った。


 美琴(何考えてるんだろ……ん?)

 つま先に何かが当たった感覚がする。
 かがんで、それを拾い上げる。

 それは手帳のようだったが、暗くてはっきりとは分からない。
 廊下の穴から漏れる光にかざす。


 美琴(生徒手帳かしら、これ……)

 うっすらと漏れる光を頼りに、それを眺めだす。
 見開きの所には、持ち主と思われる人物の生徒証が挟まれていたのだが。

459 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:30:26.56 ID:MjYYwODk0

 美琴(コイツ……さっき私にぶつかってきた)

 生徒証に写っている写真の人物。
 髪をソバージュにした、中高生ぐらいの少女。
 別館の階段下で、美琴と出会い頭にぶつかって、突き飛ばした少女。



 「誰も信じない!!信じないぞ!!ああああああああ!!」


 去り際に放った言葉が、頭の中で繰り返される。
 充血した目で美琴を睨みつけながら、指差して、ありったけの声で叫んでいた。
 何かに追われているかのように、廊下の奥へと駆け出していった――。


 美琴(……白檀高等学校2年4組、山本美月……)

 生徒証の写真を何気なく眺めだす。
 そして、闇に閉ざされた雨煙の向こう側にある、本館に目をやった。


 美琴(ここから外に出て、本館の方に行ったみたい)

 だが、それ以上、彼女のことを気にすることはなかった。
 先程の時点で話がまともにできる精神状態ではなかった。
 たとえ、会ったとしても、ロクに話ができるとも思えない。


 由香「待たせてごめんね。終わったよ」

 背後から、声を掛けながら近寄ってくる。
 先程まで過度に緊張表情は、やや緩んでいた。
 が、疲労の色があからさまに出ているのが分かる。

 美琴は小さく鼻を鳴らすと、手にしていた生徒手帳を地面に置こうとした――その時。

460 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:31:01.75 ID:MjYYwODk0








    グラグラグラ……







 突然、地面が激しく揺れだした。
 地震が起こったのだ。


 由香「ひっ!!」  
 
 思わずバランスを崩して、転びそうになる。


 美琴「じっとして!!」

 そんな由香の手を掴む。
 そして、すかさず抱きかかえ、そのまましゃがみこむ。

461 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:31:55.80 ID:MjYYwODk0

 揺れは1分もしないうちに収まった。
 恐る恐る、顔を上げる。

 そこは、ただ闇が広がっていた。
 雨がただ、二人の体をなおも濡らし続けている。


 美琴「え……!?」

 目にした光景を、一瞬疑った。

 別館の壁に開けられた穴が――無くなっていた。
 何事も無かったかのように、窓ガラスが整然と並んだ、木製の壁が闇に溶け込んでいる。


 由香「どうか……したの?」

 恐る恐る顔を上げ、おどおどしながら、美琴の表情を下から覗き込む。


 美琴「どうなってるのよ……壁の穴がなくなってる」

 由香「う、うそ……」

 言われるがままに、壁を目にした途端、驚きの表情を浮かべる。
 そして、反射的に美琴の体に抱きついた。

 存在したのが嘘であるかのように、消え去った壁の穴。
 そんな不可思議な光景に、二人はただ唖然とするしかなかった。

462 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:33:07.35 ID:MjYYwODk0

 美琴(とにかく、このままじゃ風邪引きそうだし、もう一回超電磁砲で……)

 生徒手帳を手にしたまま、ポケットに突っ込む――が。


 美琴「え……うそ……」

 一瞬、その動作が固まりだす。
 すぐにそれは解けたが、今度はやや慌てた素振りになる。
 ひたすら、ポケットの中をまさぐりだした。


 由香「う……どうしたの?」

 美琴「無い、無い!!コインケースが無い!!」

 由香「お、落としちゃったのかな」

 美琴「多分。ゲコ太のコインケースなんだけど……」

 由香「由香も探してあげるね。ゲコ太って、カエルさんのやつだよね」

 美琴「え、ええ。お願い」

 二人はすかさず、その場の地面を探し出す。
 時折、美琴が体に火花を出して周囲を照らし出すが――闇に閉ざされた空間で探し出すのは、困難そのものだった。

463 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/08(火) 23:36:05.66 ID:MjYYwODk0

 が、それでも探し出す。
 美琴にいたっては、地面を這うかのように、懸命に草を掻き分けながら探していた。
 中に入った数枚のゲームセンターメダルはともかく、ゲコ太グッズというのが、もっぱらの理由だった。

 が――美琴が今、気にするべきところはそこではなかった。

 コインケースの中には、メダルの他に入れていたものがあった。






 ――おまじないの時に、ちぎった紙人形の切れ端。





 本人の頭の片隅には、そのことはすっかり抜け落ちていた。
 それの持つ意味も――重大さも、当然知らないまま。

 ただひたすら――地面を這うように、コインケースを探していた。




本日の投下はここまでです。
今回でchapterに区切りをつける予定でしたが……もう少し続きますので、お願い致します。
あと、メ欄とトリを入れ間違えたりと、失礼しました。
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/11/08(火) 23:41:23.21 ID:/3ISwzAGo
乙乙
あちゃー無くしちった
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 04:37:40.95 ID:0k95MY0DO
乙です!
見つからなかったら、かなりやばいな…能力的にも
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 08:27:03.63 ID:oP51MdiDO
おつ!
先が気になる…皆無事に帰ってきて欲しいなぁ
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(茨城県) [sage]:2011/11/10(木) 15:08:47.81 ID:2xRvphLp0

ドキドキする展開だ
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) :2011/11/11(金) 06:45:40.30 ID:dBuMDTbL0
美琴だろうと黒子だろうと選択肢間違えたら問答無用で死ぬのが緊迫感あっていいね
なにより長期間に渡って投げ出さず書き続けてくれる主に感謝
469 : ◆IsBQ15PVtg :2011/11/19(土) 02:54:27.92 ID:tt7zlTQU0
毎度ではありますが、お待たせしました。
続きを少しだけですが、投下いたします。
470 : ◆IsBQ15PVtg :2011/11/19(土) 02:55:39.36 ID:tt7zlTQU0

 どれだけの時間が経ったのだろうか。
 30分以上……いや、1時間経過したのかもしれない。
 だが、そんなことは、二人は感じている余裕はなかった。

 絶え間なく降りしきる雨でずぶぬれになりながら。
 ぬかるんだ地面を這いずるようにしていたために、手や膝を泥まみれにしながら。
 さらには、磁力も度々発生させて、どこかにあるだろうコインケースを引き寄せようと試みたりもして。

 なおも、必死に探していた。




 ――が、結局見つからなかった。
 そして、二人の疲労はすでにピークに達していた。


 美琴(……ったく、ここじゃなさそうね。とすると、さっき2階から落ちたあたりで?)

 泥まみれになった手を、スカートの裾で拭う。
 小さくため息をつきながら、暗闇に佇む別館を眺めていた。


 由香「ううっ……寒いよう……」

 地面に膝を付きながら、両手で体を抱きかかえるようにしていた。
 体や口元を小刻みに震えながら、泣きそうな目で美琴を見詰める。


471 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 02:56:32.18 ID:tt7zlTQU0

 美琴(てか、このままじゃ風邪ひいてしまうわね)

 着ているブレザーに手を掛けて、脱ぐ。
 そして、それを震える由香の肩に被せるように掛けた。


 由香「え……美琴お姉ちゃん?」

 美琴「探すのに付き合ってもらって、悪いから。濡れているけど、少しは暖かくなったらいいと思ってさ」

 由香「ううん。ごめんね。でも……」

 ちらりと美琴のほうを上目遣いで見詰める。
 さらけ出された白いブラウスはたちまち、雨ざらしになっていた。
 肌の色や、下に着ているTシャツの絵柄がうっすらと見える。


 由香「これじゃあ、美琴お姉ちゃんが風邪ひいちゃうよ」

 美琴「私は大丈夫よ。それより……ここには無いみたいだし。一旦中に入らない?」

 由香「え……」

 ちらりと別館の方を見やる。
 途端に、表情に影を落とした。
 なぜかその場に縮こまり、小動物のように体を小刻みに震わせる。


 美琴「どうかしたの?」

 由香「ここの入口に行くんだよね……やだ……」

 さらに体をびくつかせながら、訴えかけるような目で美琴を見詰めだす。
 瞳を潤ませ、怯えを露にした表情で。

472 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 02:57:33.48 ID:tt7zlTQU0

 由香「だって、だって……」

 怯えるには理由があった。
 森繁に出くわす前に、別館の玄関で目の当たりにした光景。
 それがはっきりと思い起こされたのだった。


 由香「人が死んでたの。ドアがね、血まみれで……」

 たどたどしく、時折かみそうになりながら、言葉にする。


 由香「……く、くびが……」

 その先からは口にすることができなかった。

 扉に首を挟まれて、切断されているなんて。
 正直、思い出す気にさえなれないといったところだった。


 美琴「…………」

 それがどうしたの――と言いそうになるが、すんでのところで口をつぐんだ。

 恐らく、首が切断されているといった具合だろう。
 これまでに似たような死体――いや、それ以上に凄惨な死に方をした犠牲者は、嫌と言うほど見てきている。
 正直、そんなのでいちいちびくついていたら、それこそきりがない――。

473 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 02:58:10.23 ID:tt7zlTQU0


 が、そこであることにふと気づく。


 美琴「分かった。だったら、とにかく私が先に行くから」

 ――死体があることが、気にならない自分自身がそこにいることに。


 由香「ほ、他に入れる所を探そうよ……」

 ――怖がる由香の反応こそが、正常なのか。


 美琴「私が先に様子を見て、ヤバい所は目に入らないようにしてあげるから」

 ――いや、そうじゃないのかもしれない。


 由香「え……でも、美琴お姉ちゃんは大丈夫なの?」

 ――正しくは、


 美琴「うん。私はなんとかいけそうだから。それより暗いから、手を握っておくね」

 ――そういうのを見て、大丈夫だと言える美琴の方が、


 由香「う、うん……お願い」

 ――異常なのかもしれない。


 美琴「足元に気をつけてね。真っ暗で足を取られるかもしれないから」

 ――そんなことに。


474 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 02:59:20.30 ID:tt7zlTQU0

 由香の小さな手を握る。
 ほのかに温かく――美琴の冷え切った右手には、そう感じられた。

 怪我をした左手を、別館の壁に当てる。
 少しひんやりとした感触。
 そして、ざらついた木材の感触。

 手を離すと、恐る恐る足を踏み出す。
 明かりはまったくと言っていいほどない。
 ただ、ごく微かに別館の輪郭が見えるだけである。

 時折、壁に手を当てる。
 このようにして、壁の変化を探る意図があった。
 目の前が闇に閉ざされている以上、入口までたどり着く手がかりは、それぐらいしかないと言ってもいい。

 そうする中、美琴の脳裏にあることが思い出される。




 ――絶対能力進化実験のこと。


 自分のクローンである"妹"達が、その実験の名の下に虐殺されたこと。

 "妹"達の死に方は様々だった。
 銃殺、刺殺、圧殺。
 さらには内臓破裂、それどころか全身を砕かれた者もいたかもしれない。

 あまりにも不条理すぎる犠牲。
 そういった惨状を――美琴は数え切れないぐらいに目の当たりにした。

475 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:00:20.73 ID:tt7zlTQU0


 怒り。

 そして、憎悪。


 その度に、そうした感情が湧き上がったものだった。



 ――こんな状況を生み出した、実験自体に。



 ――それを行った学園都市の研究者達に。



 ――虐殺を行った被験者である第一位にも。




 そして、


476 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:01:06.36 ID:tt7zlTQU0


 美琴「ここで右に曲がるみたいだから、気をつけて」

 ――その実験を阻止しきれなく、


 由香「う、うん」

 ――数多くの"妹"達の亡骸を見て、


 美琴「形的に、少し行ったら玄関のはずだから」

 ――実験が行われたのだと、ただそう思ってしまうほどに、


 由香「そう?」

 ――悲しみもいちいち感じられなくなった、


 美琴「多分、渡り廊下がもうすぐあると思うし」

 ――自分自身にも。


 それは――今回もまったく同じ。
 この閉鎖空間に無理矢理連れてこられた、数多くの人間。
 望まない、不条理な虐殺が行われて。
 数え切れないぐらいの、犠牲者の亡骸がそこら中に転がっている。

 同じだった。
 虐殺の凄惨さも。
 犠牲者の数も。


 由香「向こうだけど……明るくなってるみたいだよ」

 そして、感覚が麻痺して、そんな自分を嫌悪する――美琴がいることも。


477 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:01:56.08 ID:tt7zlTQU0


 美琴「そうみたいね。玄関だといいんだけど」

 唇を小さくかみながら、由香の手を引っ張って――ただ、闇の中を一歩一歩進む。

 先に――ぼんやりとだが、オレンジ色の光が目に入る。

 さらに足を進めると――うっすらと、目の前を横切るように、細長い建物のようなものの輪郭が浮かび上がる。

 どうやら、渡り廊下のようだ。
 光は、渡り廊下の左端――別館の玄関付近から放たれているようだ。



 美琴「あれ?」

 ふと足を止める。
 慌てたように、周囲を見回す。

 何となくだが――違和感を感じた。


 由香「ん?どうしたの?」

 美琴「……悪い。ちょっと離れてくれない?」

 そう言って、握っていた手を離す。


 由香「え?分かったよ……」

 一瞬びっくりするものの、言われるままに一歩後ろへ下がった。


 美琴「…………」

 由香が離れたのを確認すると同時に――体に数多くの火花を出す。

 一瞬――周囲の光景が浮かび上がる。


478 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:03:17.43 ID:tt7zlTQU0

 美琴「う、うそ……どうなってるのよ……」

 途端に、驚愕の表情が浮かび上がる。
 そして、狼狽しながら再度、火花を散らそうとする。

 その時。






    ……ドーン!!







 轟音と共に、稲光が周囲を照らした。
 一瞬、全体の光景がはっきりと浮かび上がる。

 別館全体が。

 左手にある――玄関が。

 その先に伸びている――渡り廊下が。









           ……ゴロゴロゴロ……









 そして、別館とは反対側に伸びている渡り廊下が――途中で途切れているのが。

479 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:03:53.80 ID:tt7zlTQU0

 由香「え……どうなってるの?」  

 廊下は途中で途切れた、その先には。


 美琴「私に聞かれても……わけがわからないわ」

 本館は見えるものの、廊下の先との間には。


 由香「池かな……」

 黒々とした池――いや、沼のようなものが広がっているのに。


 美琴「マジでどうなってるのよ、これ……」

 ただ、呆然とするしかなかった。
 先程通った時とのあまりの変化に、二人はただ呆然とするしかなかった。


480 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:05:29.02 ID:tt7zlTQU0

 由香「ロウソクがあるけど……」

 声のトーンを落としながら、光のある方を指差す。
 そこはちょうど別館の玄関の前。
 火が灯された1本のロウソクが、銀皿の上に立てられているのが、渡り廊下の柵ごしに見える。


 美琴「と、とにかく……私が行くから、アンタはちょっと待ってて」

 由香が小さく頷くのを確認する。
 そして、ややうろたえながらも、渡り廊下の柵に手を掛ける。



 ――別館の出入口に死体があった。

 その言葉を思い出し、恐る恐る、別館の方を見詰める。
 あったのは――


 1本のロウソクと、閉じられた別館の引き戸。
 引き戸のガラスは所々が破れていたが、その向こうに何かがある気配は――ない。
 
 血痕などはなく、ただ全体に薄汚れているだけといった感じだった。


481 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:06:05.77 ID:tt7zlTQU0

 美琴「何も、ないみたいだけど……」

 由香「そ、そう……!?」

 いぶかしがる由香の手を掴んで、そのまま引き上げる。
 多少手間取ったものの、なんとか由香を柵の内側へと引っ張りこんだ。


 美琴「とにかく、本館の方に行って見ましょ」

 すかさず、足元に置かれていたロウソクを手にとって――本館の方へと小走りに進む。
 衣服が雨ですっかり濡れて、うっとうしいところだが、それすら気に掛けず。
 肩で息をしながら――渡り廊下が途切れている所まで、たどり着いた。


 由香「行けそうに……ないよね」

 渡り廊下の端は、まるで鉄球か何かを徹底的にぶつけて壊された感じになっていた。
 割れた梁や木材の切り口が生々しい。

 ふと、目の前に視線を移す。
 奥には、本館らしき建物がぼんやりとだが見えた。
 黒い建物が闇の中にずっしりと佇んでいる――その光景は、物々しい威圧感を放っているかのようだ。

 手前には、大きな湖があるかのように、膨大な量の水が横たわっている。
 ロウソクを近づけると、その光が水面に乱反射していた。 

 だが――その反射する光の中に、黒いものが無数に点在している。
 何かが、浮かんでいるようだ。
 それも、数え切れないぐらいの量で。


 美琴「何、これ?」
 
 何気なく手にしたロウソクの炎を水面に近づける。
 淡い炎に照らし出された、水面に浮かぶ無数の黒い物体。

 それは――

482 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:06:57.15 ID:tt7zlTQU0

 美琴「ひっ!!」

 目にした途端、情けない声をあげてしまう。
 思わず手にしていたロウソクを落としそうになった。


 由香「いやああああああ!!」

 今にも泣き出しそうな表情で、悲鳴をあげる。
 そして、震えながら美琴の体に抱きつき、顔をうずめた。




 ムカデ、ゴキブリ、ハエ、蛾……。

 数え切れないぐらいの害虫の死体。

 それ以外にも、グロテスクで毒々しい模様のある昆虫や節足動物の死骸。

 それらが水面を埋めるかのように、漂っていた。

 そして、渡り廊下の端にも、死骸がいくつも打ち寄せられていた――。



 当然ながら、足を突っ込む気にはなれない。
 そのまま向こう岸まで渡ろうとすら思えないのは、なおさらだった。

 すかさず、後ろを振り向く。
 別館の閉ざされた引き戸。
 はめ込まれたガラスが割れていたり、薄汚れていたりしているのを除いて、一見普通の引き戸のように見える。

 その時。

483 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:07:52.21 ID:tt7zlTQU0









  ??「ゆか〜!!ゆかぁーっ!!」










 男の声が聞こえた。
 中高生ぐらいの少年の声。

 それは背後から――水に隔てられた本館の方から聞こえた。

484 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:08:21.04 ID:tt7zlTQU0

 由香「お、お兄ちゃん!?」

 すかさず、後ろを振り返る。
 目に見えたのは、暗闇の中で、遠くにぼんやりと見える本館。
 そして、無数の害虫の死骸が浮かんだ水を湛えた、大きな湖。
 先程と変わることなく、ましてや人の気配なぞ感じられない。

 が、じっとその方を見詰め。


 由香「お兄ちゃぁん!!由香はここだよ!!」

 ただ、叫ぶ。
 今にも嗄れそうになるぐらいに、喉を震わせて。
 向こう側にいるかもしれない兄に向って。


 美琴「今の、アンタのお兄さん?」

 声を掛けるものの、由香は返事することはない。
 ただ、目に涙を浮かべながら――兄が返事を返してくれるのを待っていた。

 が、何の返事もない。
 ただ、渡り廊下に小さく打ち寄せる水音だけが響くのみだった。


 由香「お兄ちゃぁぁん!!返事してよぉ!!うわああああああん!!」

 悲痛な叫びといってもいいぐらい。
 懸命にただ、呼びかけるだけだった。
 ついには泣き出してしまう。

485 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:09:24.60 ID:tt7zlTQU0

 美琴(仕方ないわね……)

 そんな由香の様子を目にして、小さくため息をつく。
 正直、見てはいられない気分だった。

 すっとその場にしゃがみこみ、右の掌を大きく開いて、地面の上にかざす。


 すぐに――掌の周りに集まってきた。

 黒い、何かの顆粒状の物体。
 周囲の地面から、絶え間なく飛んできて。
 美琴の手の周りで固まりだして。
 みるみるうちに、それらは一つの形を形成していった。

 黒い板状の形に。
 幅1mほどのそれは、なおも湖を越えるようにして、延々と伸びていく。




 ――湖の向こうの、本館に向かって。



486 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:10:03.13 ID:tt7zlTQU0

 由香「ふぇ……美琴お姉ちゃん。何なの、これ」

 目の前で起きている、異様な光景。

 いつのまにか泣き止み。
 いや――泣くどころではなく。

 むしろ、驚いて――そして、怯えて。
 恐る恐る、これが何なのかを質問しだす。


 美琴「ただの電磁系の能力の応用よ。驚くほどのものでもないわ」

 にべもなく、そう言い放った。
 由香の方に顔を向けずに、ただじっと掌を見詰めていた。


 美琴「砂鉄を固めてるから。こうしたら、虫で一杯の水の中を泳がずにも済むし」

 由香「これで向こうに行けるの?」

 美琴「まあね。とにかく……」

 掌を固めた砂鉄に突っ込むと、由香に顔を向ける。


 美琴「私にしっかりつかまってて。とにかく、向こう側まで渡るから」

 由香「う、うん……」

 おずおずと、美琴の腰のあたりに手を巻きつける。
 そして、背中に顔をうずめるようにして、ぎゅっと抱きついた。

487 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:11:10.07 ID:tt7zlTQU0

 美琴「じゃあ、行くわよ。ちょっと足の辺りが震えて気持ち悪いかもしれないけど、我慢して」

 由香「え……あわわ」

 いきなり、視界が動き出した。
 体は動かしていないのに、前へとゆっくり移動している。

 足元には、砂鉄でできた黒い板。
 二人の体を乗せたそれは、ベルトコンベアのように前へと運び出していたのだった。


 由香(む、むずむずするよぉ……)

 板についた膝小僧に、異様な感触を覚える。
 単に砂鉄は固まっているだけではない。
 いずれの粒子も、上下左右に小刻みに振動していた。

 さすがに極端な動きはないようだ。
 ただ、感触に我慢できずに体を下手に動かすと、そのまま下に広がる湖の中に落ちかねない。
 なんとか我慢しながら、由香はただ美琴の体を抱きしめていた。


 美琴「もう、そろそろね」

 遠くに見えていた本館のシルエットが、じわじわと大きくなっていく。
 距離が小さくなってきていたのだ。
 それに伴って、よく見えなかった湖や本館の様子も分かりだしてくる。

 湖は、見たところ本館の周囲を取り囲んでいる感じだった。
 ほとんどの箇所で、校舎の壁にまで水が押し寄せている。
 少なくとも、左右を見渡した限りでは、岸は無いように思えた。

 本館の周囲には、陸地がわずかながらだが、広がっていた。
 渡り廊下が延びていたであろう辺りに、前後左右共に3mぐらいの幅で陸地が取り残されている。
 着地場所はそこにしようと思った――その時。


488 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:12:18.33 ID:tt7zlTQU0

 美琴「ち、ちょっと……」

 目に入った、本館の様子。
 それに思わず、驚きの声を上げてしまった。

 途切れた渡り廊下に向って伸びるように、突き出た形状をした本館の建物の一部。



 その先端にあったはずの入口が――無く。
 ただ、木の壁だけが広がっていることに。


 由香「ど、どうしたの?」

 自分の体が影になって前が見えないこともあり、不安げに訊いて来る。
 腰を掴む手が、多少震えているのが感じられた。


 美琴「中に入れそうに無いのよ」

 由香「ふぇぇ?」

 そんなことを言われても、何のことかすぐに理解できない。


 直後、二人の体は本館前に広がる陸地にまでたどり着いた。
 運んできた砂鉄の板は、演算を切ると同時に、水面に向ってさらさらと崩れ落ちる。

 足元に土の感触を覚え、顔を上げたところで――



 由香「い、入口が……無くなってるよぉ……」

 本館のそんな有様を目の当たりにして。
 美琴が言ったことをやっと理解したのだった。
 
489 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:13:12.35 ID:tt7zlTQU0

 美琴「…………」

 目の前に広がる木の壁を、じっと見詰める。

 地震のあとの、別館の不可解な変化。
 途中で壊されていた渡り廊下。
 本館へ行くのをさえぎるかのように、突如現われた湖。
 聞こえてきた、由香の兄の声。

 そして――最初から無かったかのように、消失してしまった入口。


 行きたくても、行けない。
 いや――行かせようとしない。

 まるで、美琴たちの意思を読み取ったかのような、これらの変化や現象。


 美琴(この空間を作り出したヤツがいるのなら……)

 さながら、そんな彼女らの行動をあざ笑っている――美琴にはそう思えていた。

 
 美琴「やってくれるじゃないの。こんなふざけたことしてくれてさ……」

 いつしか苛立ちを覚えていた。
 時折、体から火花を散らしだす。
 拳を握り締め、一層目尻を釣りあがらせて――眼前に広がる本館を睨みつける。

490 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:14:24.06 ID:tt7zlTQU0











  「ゆかぁぁ!!どこにいるんだよぉ……」










 再び、遠くから響く声。

 それは――
491 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:14:50.98 ID:tt7zlTQU0


 由香「お、お兄ちゃん!?」

 すかさず、背後を振り返った。
 本館とは正反対の、今までいた別館の方角に。

 そこから――声は響いてきたのだった。
 うろたえながら、湖の向こう側にうっすらと浮かぶ別館のシルエットを、ただキョロキョロと眺め回していた。


 美琴「お兄さんは、どっちにいるって言うの……」

 誰に言うのでもなく、下唇を噛み締め。


 美琴「いい加減にして欲しいっての」

 砂鉄が多少貼り付いた右手をポケットに突っ込んで。


 美琴「どうしたらいいのかしらね、まったく」

 中に残っていた――森繁の制服からむしり取った制服のを握り締め。

 そして――

 
492 : ◆IsBQ15PVtg [sage]:2011/11/19(土) 03:26:30.69 ID:tt7zlTQU0
本日の投下はここまでです。
このchapterを長々と続けていて恐縮ではありますが……この先、以下のように選択肢が続きます。


A:美琴「ここにお兄さんがいるかは知らないけど、やってやろうじゃないの」

 目の前の壁を超電磁砲でぶち破ろうと、砂鉄まみれになったボタンを指の上に乗せた。

B:美琴「ここから入るなって言いたいの?だったら、他から入ればいいだけじゃない」

 周囲の窓で入れそうな所が無いかを確認するため、先程のように砂鉄を磁力で集めだした。

C:美琴「ここは素直に声のした方に行けって事かしら?」

 別館の方に戻ろうと、先程のように砂鉄を磁力で集めだした。


安価は>>494でお願い致します。
改めて、読んでくださっている皆様に感謝です。
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/19(土) 03:34:01.21 ID:APD7leG3o
乙&踏み台
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/19(土) 09:42:59.14 ID:8O2XBqf90


ここはCかな
Aだと反射されたら死にそうだし、Bでも窓は壊れないだろうし、何より道から外れるのがヤバそうだ
495 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/11/24(木) 23:35:40.00 ID:k/BtURvG0
では、続きをCにて投下いたします。
496 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/11/24(木) 23:36:15.29 ID:k/BtURvG0

 美琴「ここは素直に声のした方に行けって事かしら?」

 別館の方に戻ろうと、先程のように砂鉄を磁力で集めだした。
 周囲の地面から、無数の砂鉄の粒子が一箇所に寄ってくる。

 さらには、目の前の湖の水面が一瞬隆起しだした。
 途端に、そこから黒い粒子が絶え間なく飛び出してくる。
 砂鉄は1つの長い板を形作るように固まって――数分もしないうちに、湖をまたぐ橋を作り出した。


 由香「そんなの、分からないよぅ……」

 そんな彼女の疑問に答えられるわけが無く。
 おろおろしながら、湖の向こうにある別館と、背後の本館を交互に見回すだけだった。
 目には涙が浮かび、みるみるうちに顔が崩れだして。


497 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/11/24(木) 23:36:46.65 ID:k/BtURvG0

 由香「お兄ちゃぁぁん!!」

 先ほどと同じく、案の定泣き出す始末。
 嗚咽しながらも、ただひたすら兄を呼んでいた。


 美琴「泣き出したって何にもならないわよ。とにかく、私の体につかまりなさい」

 そんな由香に、早く来いと視線で合図をする。

 が、由香はただぐずっているばかり。
 このままでは埒が明かないと、そっと手を伸ばした。
 いっそのこと、無理にでも引っ張り寄せて、別館までさっさと移動しよう――と思った時。


 由香「う……ひっく……うん……」

 なんとか泣き止みそうな感じになっていた。
 もっとも、時折鼻をすすり、度々しゃっくりをあげていたが。
 目を真っ赤にしながらも、美琴のところまでゆっくりと歩み寄ってくる。
 

498 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/11/24(木) 23:37:08.43 ID:k/BtURvG0

 美琴「じゃあ行くから、離さないでね」

 腰の辺りに手を回してくる感触がする。
 同時に、由香の体温が濡れた制服越しに、微かに伝わってくる。
 それを確認すると、橋を構成している砂鉄を操作しだす。


 先程と同じく、二人に体はベルトコンベアに乗せられるように、橋の上を移動しだした。
 足元には、延々と広がる湖。
 砂鉄が微かに動く感触が、接している足の皮膚に伝わってくるが、二人ともそれを気にする様子は無い。
 由香は美琴の背中に顔をうずめ、美琴は先にある別館をじっと見詰めていた。


 遠くに見えていた別館が、じわじわと接近してきているのが分かる。
 やがて、視界に一つの淡い光が目に入った。
 渡り廊下の端に置いてきたロウソクの炎が発する光だった。

 それを目安にして、降下する所に目星をつける。
 渡り廊下の先端に当たるように、砂鉄の橋を伸ばす。
 なおも橋の上を移動し続ける二人の体。
 何事も無く、端までたどり着いた。
 美琴が先に地面に足をつき、縮こまっている由香の手を掴む。
 支えられる形で、由香も地面に飛び降りた。

 その先に広がる光景は、なんら変わりが無かった。
 途中で崩れた渡り廊下。
 屋根板は所々が抜け落ちて、大きなタイル状の石畳の上に、木の破片が散乱している。

 そして、廊下の先に繋がる、閉じられた別館の引き戸。
 上半分に嵌められているガラスは所々が割れて、全体的に薄汚れていた。

 
499 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/11/24(木) 23:37:42.64 ID:k/BtURvG0
 
 由香「……お兄ちゃん……」

 なおも美琴の手を掴んだまま、ぼそりとつぶやいた。
 片方の手で、羽織っている常盤台のブレザーの襟の部分を握り締めながら。


 美琴「ここにいるか分からないけど、いい?」

 ちらりと由香の方に顔を向ける。
 なおも目の周りを真っ赤にしながらも、小さく由香は頷いた。
 それを確認すると、握った手を離す。
 足元に置かれたロウソクを手にして――入口の引き戸に手を掛けた。









      ガラッ……
 








 引き戸は難なく開いた。
 その先には、いくつかの大きな下駄箱が整然と並べられていた。
 中には倒れ掛かって、隣の下駄箱に寄りかかっていた。

 が、美琴らが進もうとしている方向とは正反対に向っている形なので、倒れてくる心配はなさそうだ。
 それに、恐らくこれもなぜか地面に固定されて動かないってことなのだろうから。

 これまでに見たことを踏まえて、そのように思ってしまう。
 そして――ゆっくりと別館の中に足を踏み入れた。


500 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/11/24(木) 23:38:09.29 ID:k/BtURvG0

 美琴「重苦しいっつーか、息苦しいっつーか……さっきと違いはなさそうね」

 由香「ううっ。頭が痛いよう……」

 別館の中に漂う、異様に重い空気が二人に重くのしかかる。  

 由香は頭を小さく抱えながら、思わずその場にしゃがみこんでしまった。
 美琴も苦しげな表情を浮かべながら、頭に手を当てていた。 
 額から汗がにじみ出て、吐く息も自然と荒くなっていく。


 美琴「とにかく、さっさとお兄さんを探して……」

 何気なく、玄関内部を眺め回す。
 が、少なくとも誰かがいる気配は無い。
 あるのはいくつかの下駄箱と、ひび割れたコンクリートの床の上に散らばっているすのこ。
 どれもが、割れていたり、粉々に砕けていたりしていたが。
 そして――そこかしこに散乱している、小学生のサイズの薄汚れた上履き。

501 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/11/24(木) 23:38:42.35 ID:k/BtURvG0

 美琴「ん?」

 床に散らかっている上履きに目をやっていた時――その近くに、紙切れのようなものが落ちているのが見えた。
 かがんで、手に取ると――それは、B6サイズぐらいのルーズリーフのようなものだった。
 ピンク地の用紙にいくつか並んでいる直線。
 バインダー式のスケジュール帳の用紙だった。
 少なくとも、この廃校の時代のものではなく――それよりかはずっと新しいものだった。

 落ちていた紙は2枚。
 そのうちの1枚に目を通す。




  『 愛染中学校


  隅崎 舞

  田中 ヒルネ

  田中 星子

  田村 すのこ 』





 用紙に書かれていたのは、それだけだった。
 手書きの文字で、かつ整然と大きく書かれている。

 が――それより目を引くことは……。


 美琴(4人とも、大きく×がつけられている……何なのかしら、これ……)

 列記された名前を消すように、大きく書かれた×マーク。
 普通に考えれば、何かの条件に見合っていないから、消すというものだが……。


502 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/11/24(木) 23:39:16.62 ID:k/BtURvG0

 美琴(意味が分からないわ)

 さすがにそれだけでは、何も分からないのは無理はない。
 もう1枚のメモ用紙に目を通す。



 『……先生、今日も持ち込み、駄目だったようだ。

  この出版社で何度目だろうか。
 
  こんなに面白い作品なのに。
 
  尖りすぎていて、判って貰えないのか。
 
  先生が背中を丸めてしまって可哀相だ。

 
  しかし、今度の猟奇事件ルポ記事の連載は、絶対に化けると思う。

  私も、出来ることは何であっても協力する』


503 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/11/24(木) 23:39:46.61 ID:k/BtURvG0

 美琴(日記か、何かのようね……)

 が、分かる事実はそれだけ。
 それ以上のことは、何も分からない。
 誰のものかなんて、分かるわけないし、知る由もない。


 由香「それ、何か書いてあるの?」

 横から顔を覗きこんでくる。
 その用紙を由香も見せたが――やっぱり分からなさげな反応だった。


 美琴「特に。少なくとも、お兄さんを探す手がかりじゃないっぽい」

 手にした2枚の紙を、床に戻そうとする。
 その時。


504 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/11/24(木) 23:40:42.11 ID:k/BtURvG0


 由香「美琴お姉ちゃん……大きいアザができてるよ?」

 美琴「え?」

 突然の指摘に、思わずびっくりしだす。

 近くに所々が割れた大鏡があった。
 覗きこんで、アザがあるのかを確認しだした。
 いろいろ転んだりしたから、そんなのがるかもしれない。


 美琴「アザって、どこ……え?」

 鏡に映った、美琴の全身。
 すっかりずぶぬれになって水滴を垂らしている髪。
 やはり濡れて、下に着ているTシャツや腕の素肌の色がうっすらと見せている、ブラウス。



 首もとの赤いリボンの上付近――丁度右の頬の中央付近から、耳元にかけて。



 美琴「な、何よ。これ……」

 太い線状の、赤黒いアザが走っているのが――くっきりと写っていた。
 転んだりしたといっても、少なくとも顔の辺りを打ち付けた記憶はない。

 いや――強いて言うなら、職員室の扉を超電磁砲で壊したときに、跳ね返った破片が当たったからできたのか。
 それでも――アザができるほどの衝撃なんて感じなかった……。


 が、そんなことはどうでもよかった。

 そのアザが異様に赤黒く、今にも血がにじみ出そうな感じに見えた。
 むしろ、そのほうが不気味にさえ思えた。

505 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/11/24(木) 23:41:17.39 ID:k/BtURvG0

 由香「大丈夫……?」

 心配げな視線を美琴に向ける。
 そのアザをしげしげと眺めながら、訊ねてきた。


 美琴「だ、大丈夫よ。それより、早くお兄さんを探しに行きましょ」

 由香「う、うん……」

 何事もなかったかのように表情を無理に作りながら、由香の手を掴む。
 床に置こうとした2枚の紙を、スカートのポケットに突っ込んで。

 そして、ロウソクを手にしながら。

 顔にできたアザを、なおも気持ち悪く感じながら。

 小さく震える由香の手を引っ張って。


 ――玄関の奥へと、進んでいった。

 廊下の奥へと、ロウソクが放つ光が吸い込まれていくように消えて――

 玄関は先程と同じく、闇に閉ざされた静寂に支配される――







 ――はずだった。







506 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/11/24(木) 23:41:47.90 ID:k/BtURvG0

 ??「キキキ……」

 不気味に笑う、幼い少女の声。

 ぼんやりと姿を現した――青白い顔をした少女。
 ボロボロの赤いワンピースを着て、そこから突き出した、土色の自身の腕をなめずりだす。


 ??「あの、電気を出スお姉チャンも、面白ソウ……モット、楽しめソウ……」

 長く伸びた髪から――
 悪意のこもったかのように、醜く歪めた表情を覗かせて。


 ??「……アレは落としたミタイだけど、今はソノママにしてヤルカ……」

 ただ――じっと見詰めていた。


 ??「モット、遊びたいシ……」

 ――美琴らが消えた、方向に向かって。


 ??「モット、モット、ムチャクチャにしたい!!とことん、グチャグチャにしたい!!ひひひひひ!!」

 不気味な笑いを、高らかにあげていた――。 
 
507 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/11/24(木) 23:44:54.58 ID:k/BtURvG0



                                chapter5『落下』 END
















               Continued to 6th chapter








508 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/11/24(木) 23:48:05.11 ID:k/BtURvG0
本日の投下はここまでです。
次回は、未公開WrongENDを示してから、次のchapterに進もうと思います。
なお、>>492のAとBはWrongENDでした。

くどいようですが、読んでくださっている方に感謝を。
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 03:12:10.34 ID:VLN9XPWDO
切れ端見つけないまま終わったぞ…
御坂が危ない
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/01(木) 07:56:54.76 ID:OSOkOG3R0
乙です

日記は分かるけど、名前のリストとアザって何だろう?
やはり Book of Shadows をやっておくべきかな〜
511 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/12/03(土) 23:03:58.69 ID:NOUSsq3+0
今回は、WrongENDの一部と、>>229のBを投下しようと思います。
なお、グロ描写がありますので、そういったものに嫌悪感がある方は、十分ご注意ください。
512 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:04:44.03 ID:NOUSsq3+0

>>186のB


 美琴「とにかく、外に出てみましょ」

 まずは、玄関に向かうことにした。


 由香「そ、外に行くの……」

 美琴「だって、ここのトイレはどれも使えないってんでしょ?だったら、本館に戻るか外に行った方が手っ取り早いじゃない」

 ため息を吐きながら、周囲を見回す。


 暗闇に閉ざされた廊下。
 随所が崩れかかっている、朽ち果てた床。
 重苦しく、カビ特有の不快な臭気を帯びた、湿り気のある空気。

 歩くどころか、この場に留まる気すら起きない――異空間にある廃校舎。
 正直言って、恐いと思っても、何らおかしくはない。

513 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:05:14.53 ID:NOUSsq3+0

 由香「わ、分かったよぉ……」

 しぶしぶながら、小さく頷く。
 それを確認すると、踵を返し、玄関の方へと歩きだした。

 先々と進む美琴の後を、小刻みに体を震わせながら付いてくる由香。
 すぐに玄関までたどり着いた。


 先程、ここに入ってきたときと変わった様子はなかった。

 いくつかが倒れ掛かったままになっている、木製の大きな靴箱。
 その間に敷き詰められているものの、片っ端から破損して使い物にならない、木製のすのこ。
 周囲にいくつも散乱している、小学生用の古びた上履き。

 そして――開けっ放しになった、玄関の扉。
 その先には、先程と変わらず――渡り廊下が延びていて、その先には閉ざされた本館の入口が見えていた。

 ここに来るときに追いかけてきた、片目がない児童霊――の姿は見当たらない。 


 美琴「…………」

 ためらうことなく、渡り廊下へと足を踏み出す。
 周囲はなおも雨が降り続いていて、その先にあるものは闇に閉ざされて見えない。

514 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:05:59.26 ID:NOUSsq3+0






     ガタンッ!!






 背後で物音がした。
 すかさず、振り返ると――


 由香「うう……」

 転んでいた。
 どうやら、出入口の敷居に足を引っ掛けてしまったらしい。
 前のめりに転んでしまい、目に涙を浮かべながら、美琴をじっと見詰めていた。


 美琴「ったく、何やってるのよ」

 ため息をつきながら、ゆっくりと引き返す。
 なおも起き上がらない由香を起こそうと、手を伸ばした――その時。


515 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:06:48.75 ID:NOUSsq3+0









     ガッ!!









 引き戸が、勢いよく閉まりだした。

 ひとりでに――由香の首を挟む形で。

 なおも、ひとりでに――閉まろうとしていて、由香の首を圧迫していた。


516 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:13:14.09 ID:NOUSsq3+0

 由香「ぎ、ぐえええ……」

 大きく開いた口からは、舌が飛び出していて。
 大きく見開いた目は、すっかり充血していて。

 みるみるうちに、その顔から血の気が引いていくのが分かる。


 美琴「どうなってるのよ!!」

 すかさず、閉まろうとする扉に手を掛ける。

 まるで、何者かが扉の裏側で押しているかのように。
 押し返そうとしても、押し返せない。
 とてつもない力で扉は、なおもひとりでに由香の首を圧迫していた。


 美琴(このままじゃ、首の骨が折れるのも時間の問題――!!)

 扉から手を離し、一歩下がる。
 同時にポケットに手を突っ込み、中にしまっているコーンケースからメダルを取り出して、指の上に乗せた。
 全身に火花が走り出し、そのまま超電磁砲を放つ――。


517 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:13:49.84 ID:NOUSsq3+0













                              ……グシャリ……












     ズドオォォォォン!!
















                       ピチャッ……。










 ――何かが、頬に引っかかった。

 ぬめった液体のようなもの。
 それは暖かくて。
 超電磁砲を放った手にも、そんな感触がして。

 なおも顔や体にも吹き付けられていて。

 目にも吹き付けられて、思わず目をつぶった。


 が――その直前に、目に入った光景。

 それは――。


518 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2011/12/03(土) 23:14:49.21 ID:NOUSsq3+0






 赤。


 目の前を染めるぐらいの、一面の赤。


 砕けた扉や、渡り廊下も。


 目の前にいる、美琴も。



 なおも、噴き出す赤。


 由香の――体にできた、丸い切り口から。


 勢いを衰えさせることなく、染め上げようとしていた。

 赤く血で染まった、美琴の顔も。

 渡り廊下の手すりや天井も。



 そして、美琴の足元に転がる――


 
 ――切断された、由香の首さえも。





 美琴「ど、どうしてよ……いやああああああ!!」

 その場に崩れ落ちながら、絶叫を上げる。
 足元に転がった由香の首を手にして。

519 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:16:54.56 ID:NOUSsq3+0

 美琴「あああああああああああああ!!」

 首を抱きかかえながら、泣き叫ぶ。
 切り口から、血が膝に滴るのも気にかけず。
  
 ただ――狂ったように泣き叫んでいた。









 ――背後に。










 ??「……ふしゅるるる……」










 ――ぎらついた目で、美琴を見詰めながら、








 ??「…………」









 ――手にした、斧を振り上げる、









 ??「……う……う……」










 ――血の気のない、大男がいることに。

520 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:17:35.59 ID:NOUSsq3+0









 ??「うぉぉおおおおおおお!!」


 美琴「――!!」











               ……グシャリ……









 ――気づいたときには、遅かった。







521 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2011/12/03(土) 23:18:14.30 ID:NOUSsq3+0


 目の前は、ただ赤。

 一面の赤。

 目の前にいる男も、渡り廊下も、とにかく赤くなっていた。




 そして、斧で割られた美琴の頭も、

 ――赤。




 割れた頭から、飛び出す骨も、脳組織も赤。

 赤いそれらを、赤くなった床に散らばらせながら。

 赤くなった目の前が、だんだん暗くなっていく中で。



 美琴の体は――床にできた血の海へと沈んでいった。




522 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:18:42.92 ID:NOUSsq3+0


(暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

 テーレレテテテレテー
 
   Wrong End

 ビターン

(押し付けられた左手の赤い手形。親指がない)

 
523 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:19:20.79 ID:NOUSsq3+0

>>229のB


 美琴「…………」

 何も言わず、2階への階段を登った。 

 床板が所々抜け落ちた、階段。
 足を乗せられる場所を一つ一つ確認しながら、ゆっくりと上っていく。
 本館の階段とほぼ同じつくりだが、踊り場へは多少距離がある気がする。

 踊り場で180度Uターンする形で、次の階段が伸びていた。









524 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:19:53.71 ID:NOUSsq3+0









  ドーン!!





       ゴロゴロゴロ……










 踊り場にある窓から、一瞬強烈な光が差し込む。
 直後、轟音のような雷鳴が耳についた。
 光もすぐにおさまり、再び闇に閉ざされだす。
 手にしたロウソクの光だけが、その場にいる美琴と周囲の階段や壁をうっすらと照らし出していた。

 先程と同じように、階段のステップに一歩一歩足を乗せる。
 その度に、耳障りな木の軋みが木霊した。

525 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:20:29.37 ID:NOUSsq3+0

 階段を登りきった先には、廊下になっていた。
 右は行き止まりになっていて、左の方向へと伸びている。

 そのまま、先へ行こうとした時――目に入った。


 壁にもたれ掛った――全身を腐敗させた、犠牲者の死体。
 着ている制服はボロボロになり、周囲に腐臭を撒き散らしていた。
 周囲の床には、血が無数に飛び散っていた。
 もっとも、相当の時間が経過しているのか、黒ずんでいたが。


 美琴「ううっ……」

 あまりの悪臭に、思わず手で鼻を覆ってしまう。

 ぱっと見たところ、女子生徒のものだったようだ。
 腐って青黒くなった皮膚は所々で破れ、白い骨が露出していた。
 中でも、頭部の辺りは黒ずんで、砕けた骨があちこちから飛び出していた。

 どうやら――頭部を何かで殴られたようだ。
 それも、周囲に血を撒き散らすほど。
 重量のある物体で、かつ相当の力で殴られて――即死だったのは、容易に想像できた。


 美琴「…………」

 これ以上見る気になれなかった。
 目を反対側の床へと移す。

526 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:21:32.64 ID:NOUSsq3+0

 美琴(生徒手帳かしら……?)

 1冊の黒くて小さな手帳が落ちていた。
 背表紙を上向ける形で、開いた状態になっていた。
 そのうち、片面は定期入れのように、一部がくりぬかれていた。

 そこから、中に挟みこまれた生徒証が覗かせている。


 美琴(……武蔵川女子中学校・高等部U-3 風音璃音……この人のものみたい)

 生徒証に写っている顔写真の制服の形状は、傍の遺体のものと同じだった。
 殴られたはずみで、落としてしまったのだろうか。

 だが――そんなことは、今はどうでもよかった。


               ココ  アソコ
 美琴(やっぱりっつーか……別館も本館と変わらないわね)

 何者かに殺害された犠牲者が転がっているというのは。
 恐らく別館でも、もっと多くの遺体を目にすることになる。
 そう、こんな犠牲者を生み出している、殺人者がいる限り。

 あの、児童霊らがいる限り。

527 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:22:07.30 ID:NOUSsq3+0

 美琴(気になるわね……)

 ふと、思い出したのは――初春のことだった。
 いまだに姿を見ない。
 この別館に来ているだろうけど――どこに行ったのか。

 ひょっとしたら、今しがた別館に来たのかもしれない。
 が、美琴が行ったのとは、違う方向に行ったのかもしれない。
 もしくは――本館に戻ったのか……。

 そんなことは分かるわけがない。
 余計に不安になってしまう。
 別館でもあの児童霊がさまよっている可能性は――この遺体を見ている限り、非常に高い。
 もし――出くわしでもしたら……!!


 美琴「戻ってみるか……」

 踵を返し、階段を降りだした。
 心なしか、多少速くなっている。
 踊り場でターンする形で、階段をなおも降りて――1階まで戻ってきた。

 闇に閉ざされた廊下を、小走りで突き進む。
 そして、玄関に向かって、なおも進んだ。

528 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:22:33.49 ID:NOUSsq3+0

 美琴「何よ、これ……」

 目の前に飛び込んできた光景に、足を止める。

 廊下に並んでいた幾つかの戸棚が、折り重なるように倒れていた。
 さながらバリケードの様相を呈していて、廊下をほぼ塞いでいた。
 棚の扉に嵌めこまれていたガラスが粉々に割れて、無数の破片が床に散乱している。


 美琴「通り過ぎた後で倒れたようね」

 見たところ、由香が下敷きになってしまったということはないようだ。
 棚は横向きに倒れていて、側板が床に接する形になっていた。
 床に投げ出すように開いている、ガラス扉の上に、棚に入っていた中身があふれ出ていたのだが――。

 (>>243へ続く)
 

529 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/03(土) 23:29:04.58 ID:NOUSsq3+0
本日の投下はここまでです。
次回も、未公開WrongENDの投下になります。
くどいようですが、グロ描写がありますので、十分ご注意願います。

>>510
アザに関しては、BSを参考にしています。
ただ、少し異なった解釈でやっていますので、お願い致します。
名前リストは漫画(篠宮版)で出てきたネタを参考にしています。

以上、コメ返し失礼しました。
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/12/07(水) 04:07:17.29 ID:KO5ZTSdHo
追いついた

すげーゾクゾクする
続き楽しみにしてる
531 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/09(金) 16:37:44.00 ID:afJ+dYTH0
俺も追いついた!

面白い 支援
532 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/12/13(火) 23:06:42.00 ID:9Nb9cpab0
只今より、続きを投下します。
ただ、予告しておいて勝手ではありますが、未公開WrongENDは次回以降に投下しようと思います。
申し訳ありません。
533 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/12/13(火) 23:07:36.04 ID:9Nb9cpab0


 ??「く、くそったれ……ここは……どこなんだよ」

 頭がジンジンと痛む中で、彼はゆっくりと目を覚ました。
 目に飛び込んできたのは、壁に掛けられたランタンのようなものから発する光。
 その光に映し出されていたのは――土の壁。
 荒々しく手で掘った壁を、いくつかの木の柱を埋め込んで支えている。
 それは、どこかの鉱山の坑道のように思えた。

 少なくとも――先程までいた、不気味な異次元の廃校の中とは、違った雰囲気だった。


 ??「いてぇ……」

 なおもズキズキと痛む頭を手で触りながら、ゆっくりと起き上がる。
 触った手にはぬめるような感触。
 どうやら、出血しているようだ。
 その手を恐る恐る目に前に出すと――手のひらにはべっとりと血が付着しているのが見えた。

 背後から何者かに殴られて、気絶したのだった。
 思い出した途端に、いらだちが湧き上がる。

534 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:08:05.94 ID:9Nb9cpab0

 ??「くそっ……思いっきりやりやがって……」

 再び、痛む頭に手を当てる。
 そして――思い起こしたのは、直前までいたクラスメートの少女。


 ??「篠崎は……いねぇよな……」
 
 周囲を眺め回しても、その少女――篠崎あゆみの姿はない。
 いや、それどころか彼を除いて、人っ子一人いない。
 それを認識すると、自然と口からため息が出た。

 改めて、手のひらを眺め回す。
 なおも、新たに血が付着しているのが分かる。
 さらには、頭の傷からにじみ出た血が、額を垂れ落ちている感じがした。


 ??「何かされてなかったらいいが……くそっ!!」

 絶えることのない頭痛で、ふらつきそうになるのをこらえながら――気を失うまでのことを思い起こす。

535 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:08:38.01 ID:9Nb9cpab0


 保健室で児童霊に捕まっていた、クラスメートの鈴本繭。
 なんとかして助け出そうと、保健室を飛び出すあゆみ。
 その先で出会った、冴之木七星とかいう霊能力者の幽霊。
 児童霊を安息に弔うために必要な、殺人犯の懺悔。
 あゆみと校舎をさまよった後に見つけた、犯人の懺悔の心というべき文化人形。

 それを保健室に持って行き、霊を鎮めようとするあゆみ。

 が――母親に会いたいと、怒りを露にする児童霊。
 児童霊たちに、とてつもない力で引きずり出される繭。
 朽ち果てて、所々がささくれだった木の廊下を引きずられ、激痛と共に抉られる繭の体。
 そして――








536 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:09:03.21 ID:9Nb9cpab0














      グシャリ!!
















537 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2011/12/13(火) 23:10:23.97 ID:9Nb9cpab0















 ――壁に打ち付けられて。




 ――体が一瞬で砕け散って。




 ――床や壁に血や内臓をぶちまけて。








 ――絶命した繭。


 あまりにも、無残で悲惨な――最期だった。




538 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:11:08.62 ID:9Nb9cpab0



 あゆみ「もう、いやああああああああ!!」

 あまりにもえぐい光景に、悲鳴を上げる。
 狂ったかのように、廊下の奥へと走り去っていった。

 すかさず追いかけようとした――が、彼は気づいていなかった。














 ――すぐ背後に、大男が彼の頭を目がけて、鉄槌を振り下ろそうとしていることに。














      バコン!!










 鈍い音と共に、彼の頭に衝撃が走る。
 目の前が一気に揺れて。
 
 彼――岸沼良樹はそのまま気を失った。



539 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:12:00.55 ID:9Nb9cpab0


 良樹「とりあえず……篠崎を探さねぇと……」

 頭を押さえながら、周囲をゆっくりと見回す。
 いまだに意識は朦朧としていたので、ぼんやりとではあるが、内部の様子はつかめた。

 およそ10m四方の小部屋といった所だった。
 背後には、人一人が通れるほどの穴が開いていて、その先には階段が伸びている。
 そこまで歩み寄って確認すると、どうやら上に上れるようだった。

 もっとも――奥には照明の類は無く、どこに通じているかは分からないが。








    ……ウジャウジャウジャ……








         ……グジュグジュグジュ……







 背後から、何かが群がるような音がする。
 目を覚ましたときから、ずっと耳についていた。
 何かやわらかい物体を砕いている音のようにも聞こえた。

 正直耳障りだった。
 少しの間、耳に入るだけでも、生理的に受け付けなさそうな気持ち悪さが次から次へとこみ上げてくる。

540 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:12:29.99 ID:9Nb9cpab0

 良樹(何なんだよ……)

 音のするほうへと、目を凝らす。
 穴とは反対の方向――丁度、小部屋の奥のほうにあたる位置だが――黒いものに覆われているのが見えた。
 それは部屋の半分近くまで占めていて、そこが一段低くなっている。
 そこに水か何かをためている――"池"のような感じだった。

 恐る恐る近づいてみる。
 そして、ランタンの明かりを背に、"水面"を覗き込んだ――その時。


 良樹「うわっ!!」

 思わずのけぞってしまった。
 体勢を立て直すものの、そのまま一歩二歩と後ろずさる。





 ムカデ、ミミズ、フナムシ、ナメクジ……それ以外にも、数多くいた。


 数え切れないぐらいの種類の、節足動物や軟体動物。

 膨大な数のそれらが、部屋の奥を埋め尽くし、"池"を形成していたのだった。

 正直、虫のプールといってもおかしくない。



 良樹「ま、マジで勘弁してくれよ!!」

 すかさず、穴に向って走り去ろうとした――その時。


541 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:12:56.14 ID:9Nb9cpab0












 「いやあああああああああ!!」



  









542 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:13:33.42 ID:9Nb9cpab0

 丁度、真上から女のものらしき悲鳴が聞こえた。
 それはあゆみではなく――聞いた事のない人物の声だった。


 良樹「え?」

 立ち止まり、上を見上げる。
 部屋の天井はなく、真っ暗な空間が上へと続いている。
 一見した所、何もないようだったのだが。

 いきなり、真上から木の破片がいくつも、舞い落ちてきた。
 それらは虫のプールに落ちたり、良樹のいる辺りにも降りかかってくる。


 良樹「今度は何だ?」

 降りかかる木片を手で払いながら、なおも見上げる。




 その時――真上から、何か黒い塊が降ってきた。

 わずかな明かりで、しかも一瞬見えただけだったが。

543 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:14:15.86 ID:9Nb9cpab0


 良樹「ひ、人か?」

 捉えたのは、確かに人の姿だった。
 それは上から真っ逆さまに落ちてきて――











     バシャン!!











 ――虫のプールに沈み込んだ。


544 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:15:38.41 ID:9Nb9cpab0

 良樹「…………」

 何もいえなかった。
 いや――何をすべきという思考にすら至らないで、ただ呆然と虫のプールを見詰めているだけだった。 

 が、それも長くは続かなかった。
 水面――いや、虫で満たされたプールの表面に、人の手が突き出された。

 さらには、頭も突き出てきた――が。


 ??「ひっ!!いやああ!!」

 自分がどこにいるのかを――なにより目の前に漂っているモノを目にした途端に、はちきれんばかりの悲鳴を上げる。
 そして、なんとかその場から逃れようと、両手を必死にかき回す。

 が、一つかみの虫をかき出すことの繰り返しで、前進するどころか、すっかり溺れているように見える。

545 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:16:06.23 ID:9Nb9cpab0

 良樹「おいおい……」

 その光景を目の当たりにして、顔を強張らせてしまう。
 正直、虫のプールなんていう、不気味で危険そうなものに足を踏み入れるどころか、近寄る気にすらならない。
 目の前で溺れているのは、着ている制服と背格好からして、中高生の少女のようだ。
 ただ、良樹の通う如月学園の生徒ではない。
 それどころか、見知った人物でもない。
 アカの他人といってしまえばそれまでだが――


 良樹(……こんなえげつねえ状態で、放っておけるかよ!!)

 見殺しにするということを、許せない自分がいた。
 着ていた学ランを放り投げると、虫のプールの方へと駆け出す。


 良樹「おい!!待ってろよ!!今助けに行くからな!!」

 溺れている少女にそう叫ぶと、ためらいなく虫で一杯のプールに足を踏み込んだ――。




546 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2011/12/13(火) 23:17:05.64 ID:9Nb9cpab0













     c h a p t e r 0 6











547 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:17:58.79 ID:9Nb9cpab0











   ドーン!!





          ゴロゴロゴロ……









 窓の外から飛び込んでくる雷鳴が木霊する。
 その後には、何事もなかったかのように静けさが、支配しだす。

548 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:18:36.03 ID:9Nb9cpab0


 直美「ぐすっ……ううっ……」

 泣きじゃくるのをやめる気配はなさそうだった。
 世以子の亡骸に抱きつきながら、ずっとこの調子だった。
 首を吊っていたトイレの個室から引きずり出してきて、かなりの時間が経過していた。


 佐天「…………」

 さすがに、ずっとこのままでいても仕方がないと思っていた。
 が、そんな直美に声を掛けるのはためらわれた。

 親友の死。
 それを短時間で乗り越えて、何事もなかったかのように先へ進もうとするなんて――。
 あまりにも無茶極まりない注文だということは、容易に想像できることだ。
 佐天にしても、もし一緒に来た親友が同じようなことになっていたら……



 トイレの個室で、首を吊って、絶命した初春。

 そんな光景が――一瞬、脳裏に浮かんだ。

549 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:19:11.33 ID:9Nb9cpab0

 佐天(あたしも……きっと同じことしてる)

 そこで、懸命に頭を横に何度も振る。
 ふとわいたよからぬ妄想を振り払うかのように。

 そもそも、直美の親友――世以子がなぜこんな目に遭わねばならなかったのか。

 彼女も、佐天と同じように、こんな異様な空間に連れてこられたのだろう。
 脱出できないのか、殺人者に追い詰められたのか。
 殺人者に首を絞められて殺されたのか。
 それとも――何かに絶望して、自ら首を吊ったのか。

 そんなこと、現場を見たわけでもないし――ましてや、彼女のことは、それまで知らない他人の佐天には分かる由がない。
 直美にそのことを聞き出すなんて――今の彼女の状態では、できそうになかった。

 できるのは――今は、ただ親友の死を悲しむ直美を見守ることだけ。
 何とか、この廃校から脱出しようと切り出すにも――その機会が、いつ来るのかは想像ができない。


 が――機会は、予想だにしない形で、唐突にやってきた。


550 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:20:09.26 ID:9Nb9cpab0












         「3ねんAぐみのなかしまなおみさん!!」















 天井から、子供の声ではっきりと聞こえた。
 まるで、小学校の校内放送のように。
 陰鬱で満たされた、朽ちた空間に、呼び出しの響き渡る。


 直美「え!?」

 ふと顔を上げて、周囲を見回す。
 明らかな狼狽の色を浮かべて。


551 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:20:39.20 ID:9Nb9cpab0












        「3ねんAぐみのさてんるいこさん!!」












 佐天「な、何!?」

 今度は自分の名前が呼び出された。
 同じように、慌てながら辺りを見回す。

 が――2人以外に人はおろか、スピーカーらしきものも見当たらない。


 直美「な、何なの、今の」

 佐天「そんなの分からないですよ」

 互いに顔を見合わせる。
 双方とも、薄気味悪さを感じながら。

552 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:21:45.94 ID:9Nb9cpab0













        「しきゅうきょうしつにもどってください!!」












 直美「あ、あたし3年A組なんかじゃないよ」

 佐天「そんなの分かりますよ。あたしだってそうですよ」

 二人とも、額や頬に冷や汗を流しながら、じっと互いをなおも見詰めあう。
 得体の知れない、呼び出しに対して。



 一体何をしたらよいのか。

 呼び出されるがままに、教室に行けばいいのか。

 それとも、このままじっとしているべきなのか。


 そんなこと、二人には到底分からなかった。


 そして―― 

553 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:27:32.69 ID:9Nb9cpab0
本日の投下はここまでです。
なお、以下のように選択肢が続きます。


A:佐天「このまま、行けってことでしょうか!?」

 声に従って、3年A組の教室に行こうと立ち上がった。

B:佐天「気味悪すぎますよ。罠なんかがありそうですよ、これ」

 警戒して、そのまま動かずに、直美をじっと見詰めた。


安価は>>535にてお願い致します。

改めて、読んでくださっている方や、支援してくださっている方に感謝いたします。
554 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/13(火) 23:28:22.08 ID:9Nb9cpab0
申し訳ないです。
安価は>>556にてお願い致します。
555 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 23:58:53.21 ID:2l3qmAJIo
556 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 00:41:57.28 ID:mA1tzQp/0
乙です

とりあえず行動、と言う事でAで……。
557 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 02:39:02.48 ID:dYQl9kUao


毎度の事ながら本文が赤文字になるところでビクってなるわ
558 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 04:40:20.74 ID:4xWxPbHI0

このスレのせいでコープスパーティー買ってしまったww
559 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/23(金) 09:13:29.62 ID:+H57UXBk0
俺はゲーム機ないから漫画買っちまった
560 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 01:28:45.53 ID:e7MQNDV1o
PSPの二つとも買ったけど怖くて積んでる
561 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/12/24(土) 23:14:27.60 ID:oBytiNgC0
続きを少しですが投下いたします。
今回も未公開WrongENDは無しですので、お願い致します。
申し訳ないです。
562 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/12/24(土) 23:16:55.25 ID:oBytiNgC0
>>556より、>>553のAにて投下いたします)



 佐天「このまま、行けってことでしょうか!?」

 声に従って、3年A組の教室に行こうと立ち上がった。


 直美「ち、ちょっと。そんなの簡単に言わないでよ」

 途端に、そんな佐天をぴしゃりとさえぎる。

 言うことはもっともだった。
 純粋な案内ならともかく、この得体の知れない空間でのこと。
 扉が勝手に閉まって部屋に閉じ込められたり、どこからともなく子供の声が響いたりする、異様な空間で。

 何かしらの罠がないとも考えられない。
 いや、逆にそういったものがあるといった方がいいだろう。

 言われるがままに、安易にホイホイと行くのは――危ないといってもおかしくない。



 佐天「で、でも……」

 何かをさらに言おうとしたが、口ごもる。
 この誘いに乗ったら、危ない目に遭うのは、容易に想像が付く。

 だが、このままじっとしていても、始まらない。
 この廃校から脱出して、元の場所に帰る手がかりは、この辺には見たところなさそうだった。

563 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:17:49.97 ID:oBytiNgC0

 佐天「そうですよね……。この廃校、何があるか分かったものじゃないですし」

 動こうとする意識を、半ば無理に押し込めた。
 危ないということが予測できる以上、無理強いするわけにもいかない。
 ましてや、一人で行こうという気にはなれなかった。

 再び、床の上に腰を下ろし、力なく視線を落とす。
 

 直美「…………」

 そんな佐天に、どう声を掛けていいのか分からなかった。
 早くこんな状況から脱出したいと思っているのは、彼女も同様だったが――その場から離れたくないという思いもあった。


 この廃校に飛ばされてからというものの、いろいろなことがあった。
 いや――散々な目に遭わされ続けていた、といった方が正しいのかもしれない。


 目を覚ました教室では、死体が転がっていて、さらに近くに突如出現した霊魂に話しかけられた。
 霊魂が怯えて消えたかと思うと、青白くて不気味な少女の霊に、じっと見詰められた。
 犠牲者が読むなと警告していた新聞紙を読むと、教室の戸が勝手に閉められて、出られなくなった。
 廊下では、壁にぶつけられて砕け散った死体を目の当たりにした。
 保健室に入ると、一緒にこの廃校に連れてこられたかもしれない、腐れ縁の男子生徒の妹の悲鳴が聞こえた。
 親友が心配して探しに、外に出た途端――閉じ込められて、得体の知れない黒い人影に襲われた。


 そして、恐怖のあまり親友に八つ当たりして、喧嘩して別れた挙句。




564 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:18:17.42 ID:oBytiNgC0














 ――その親友は、首を吊って果てていた……。













565 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:19:34.05 ID:oBytiNgC0


 直美(一緒にこんなとこ出ようっていったのに……)

 親友の顔を思い起こして――下唇を噛んだ。


 あの時、感情に押し流されなければ――。

 あの時、きつくあたらなければ――。

 あの時、何が何でも追いかけていれば――。




 ――あんなことにならずに済んだかもしれないのに。

 後悔だけがただ、直美の心を支配していた。
 この先どうするかなんて、考える余裕もなかった。


566 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:20:32.48 ID:oBytiNgC0

 直美「…………」

 改めて、世以子の顔を見詰める。
 眉一つ動かさず、人形のようにじっとしている彼女の亡骸。
 それは知っているが――どうしても、そういう現実を受け入れようとする気にはなれなかった。


 ――実は驚かそうとして、死体の振りをしているのでは?

 目の前の現実から逃れようという心情からくる妄想。
 そんなことぐらい、分かっている。



 けれど。



 ――冗談は止めてよね。

 そう問いかけようとした。
 そうであってほしかった。


 だが――目の前の親友は、それに答えることはない。 

 答えることもできない。

 ただ、目を閉じながら、じっと壁にもたれ掛っているだけだった。


 佐天(話しかけ……ないほうがいいよね)

 そんな直美の様子を見て、思う。
 この場から動こうと切り出す気にはなれなかった。


 どうしようかと、ぼんやり天井を見上げた――その時。


567 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:20:59.85 ID:oBytiNgC0















    「……ッチャン……」














568 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:21:41.25 ID:oBytiNgC0


 どこからともなく――声が聞こえたような気がした。

 中年の女性のような声だった。
 先程聞こえた声とは、まったく違う女性の声のようだ。


 佐天「……え?」

 慌てて、周囲を眺め回す。









 見た限り――人の気配はない。

 先程と変わらず、重苦しい空気の漂った、朽ちた空間が広がるのみであった。


 佐天(空耳かなぁ……)

 腑に落ちない様子で、ふと直美の方に目を向けようとしたとき。






569 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:22:10.59 ID:oBytiNgC0
















  「……サ ッ チ ャ ン……」













570 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:22:38.39 ID:oBytiNgC0


 佐天「――!!」

 今度ははっきりと聞こえた。
 しかもすぐ間近から。

 すかさず声のした方向を振り向く。








 ――そこには誰もいなかった。


 佐天「だ、誰ですか?」

 思わず声を掛けてしまう。
 やや震えた声で。
 瞳を落ち着きなく動かせながら。


571 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:23:06.25 ID:oBytiNgC0













  「…… ド コ ニ イ ル ノ ……」











572 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:23:32.50 ID:oBytiNgC0


 再び声がした。
 まるで耳元でささやくかのように。

 全身に震えが走る。
 背筋が凍り、嫌な汗がしきりに流れ出すのを感じる。
 自然と息を荒げながら、直美の方を振り向くと。


 直美「ひっ……」

 まるで小動物のように怯えながら、佐天をじっと見詰めていた。
 口元はおろか、全身を小刻みに震わせながら。
 そして、キョロキョロと落ち着きなく周囲を見回して。


 直美「あ、アイツ……い、いやああああ!!」

 急に悲鳴を上げだした。
 そして、佐天の手を掴み出す。

 この声に、直美は聞き覚えがあった。
 いや、聞き覚えがあるというより、忘れられない声だった。

573 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:23:59.23 ID:oBytiNgC0




 保健室に閉じ込められた時に――直美を襲った黒い影が発していた声。


 逃げても逃げても追いかけてくる、人の形をした黒い影。


 鬼気迫る勢いで直美を追い詰めだして。


 偶然にも助けられて、命からがら保健室から脱出した――が。











574 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:24:39.62 ID:oBytiNgC0
















       「 コ ロ シ テ ヤ ル 」


 












 はっきりと聞こえた、声。
 その時の状況が、脳裏に何度もリフレインする。


 もちろん、恐怖も。

575 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:25:50.56 ID:oBytiNgC0

 佐天「ち、ちょっと。アイツって……」

 直美「こ、ここから逃げるわよ!!あ、アイツがやってくる!!」

 佐天「だから何が……」

 何のことだか、正直理解できていなかった。
 その時の現場に佐天は居合わせていなかったのだから、当然だろう。


 が、明らかに異様な事態で――このままじっとしていたら、ロクでもない目に遭いそうなのは想像が付いた。


 ――保健室での子供の笑い声。
 
 ――先程の正体不明の呼び出し。

 ただでさえ、不気味なことが起こっているこの廃校。
 直美の言う"アイツ"も、恐らくその部類だろう。
 ここまで怯えるということは、何かしらの危害を加えられたとでもいうのか――。


576 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:27:12.11 ID:oBytiNgC0

 ちらりと、壁にもたれ掛っている世以子の亡骸を見やる。

 直美の親友の彼女が、なぜ首を吊っていたのか。
 こんな不気味な現象に、極限まで追い詰められて、自害したのかもしれない。


 ひょっとしたら――何者かに殺されたのかもしれない。


 先程まで、いくつも目にした犠牲者の亡骸。
 この廃校に同じように連れてこられて、命を落とした。


 ――踵を切り裂かれたり。

 ――陥没するまで頭を殴られたり。

 明らかに、何者かによって殺された亡骸が、多数。


 殺意を持って、何者かが殺しまわっているのだろう。

 それが――直美の言う、"アイツ"のことなのか……?



 佐天「わ、分かりました。とにかく行きましょう」

 半ば強引に立ち上がる。
 そして、直美の手を引っ張って――。
577 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:29:39.96 ID:oBytiNgC0
本日の投下はここまでです。
改めて、読んでくださっている方々に感謝いたします。
578 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2011/12/24(土) 23:32:30.98 ID:oBytiNgC0
あと、>>576の後には、以下のように選択肢が続きます。

A:階段に向って走り出した。

B:女子トイレに向って走り出した。

C:男子トイレに向って走り出した。

安価は>>580にてお願い致します。

なお、>>553のBは多少違ったやり取りの後、この選択肢に至る形になります。
以上、失礼しました。
579 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 00:02:18.19 ID:piOjGXhBo
全部死亡フラグな選択肢に見える俺はおかしいのか…?

安価ならA
580 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/25(日) 00:18:11.65 ID:peYjJIDQ0
Aかな
581 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 01:38:33.41 ID:Fs69SlPl0


トイレ行っても行き止まりだしね
幸か不幸か、未だに佐天さんだけは幽霊そのものに出会った事はないからか
現状把握が他の3人以上に進んでないな〜
582 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 01:39:03.83 ID:Fs69SlPl0


トイレ行っても行き止まりだしね
幸か不幸か、未だに佐天さんだけは幽霊そのものに出会った事はないからか
現状把握が他の3人以上に進んでないな〜
583 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 01:39:31.48 ID:Fs69SlPl0


トイレ行っても行き止まりだしね
幸か不幸か、未だに佐天さんだけは幽霊そのものに出会った事はないからか
現状把握が他の3人以上に進んでないな〜
584 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 01:40:22.40 ID:Fs69SlPl0
連投スマヌ……スマヌ……
585 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 04:00:00.65 ID:F3cXHjCE0
未プレイにはネタバレになるが











女子トイレは一応まだ逃げ道残ってるよな
用務員室と繋がってるし…
586 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 10:23:18.59 ID:piOjGXhBo
>>585
結構重要なネタバレだぞそれ
587 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 01:26:09.90 ID:oCv7/yazo
>>585
これホント?
ホントだとしたら氏ねハゲ
588 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/30(金) 07:44:57.87 ID:W0MPmB5T0
自重するべきだった>>585はWrong end
589 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 10:06:27.51 ID:FCxbebxA0
そんなことより忘れてないか?
初春はあの刻命といるのだよ?
590 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 10:52:03.02 ID:0adAa/dSO
>>585はヨシカズさんに連れていかれました

>>589
アァイ!!
591 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/12/31(土) 21:54:55.17 ID:9T8NLpIy0
本日の荒巻様のコミケ販売、お疲れ様でございます。
それはさておき……本年最後の投下と参りますので、よろしくお願い致します。

まずは、>>324のAのWrongENDから参ります。
グロ要素がありますので、十分にご注意ください。
592 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2011/12/31(土) 21:55:21.46 ID:9T8NLpIy0

 2階への階段を登りだした。

 今から追いかけたとしても、だいぶ遠くに行っているだろう。
 少し前まで響いていた、乱暴に廊下を駆ける音も、今では聞こえない。

 それに――


 美琴(まあ、あんな状態じゃ、話はほとんど聞けそうにないけど)

 見た限り、精神はほぼ壊れてしまっているといってもおかしくない。
 黒子らを途中で見かけなかったかを聞きだしたかったのだが――正直期待はできないだろう。

 小さくため息をつきながら、朽ちた木のステップに一歩一歩足を乗せていく。


593 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 21:55:55.13 ID:9T8NLpIy0









         ピロリン……






 

                    ハァハァ……








 電子音。

 荒い息遣い。

594 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 21:56:34.10 ID:9T8NLpIy0

 階段を登りきったところから、左手へ伸びる廊下。
 廊下の壁にもたれかかるように存在する、1体の女生徒の亡骸。

 全身は腐敗していて、着ている制服はボロボロになっていた。
 周囲の床には、血が無数に飛び散っていた。
 もっとも、相当の時間が経過しているのか、黒ずんでいたが。

 周辺に漂う、鼻をつまみたくなるほどの腐臭。
 が、そんな中でも息を止めるどころか、荒く鼻息をしながら。


 森繁「これはこれでたまらないな……ハァ……」
 
 興奮しきった顔で、手にした携帯のカメラを死体に向けていた。
 腐臭なぞ構う様子はなく、熱心に死体の写真を携帯に収めている。

 先程まで由香を追いかけていた森繁だったが、途中で見失ってしまった。
 最初こそは、由香の姿を探して、2階をさまよっていた。
 が――この遺体を目にした途端、そんなことはどうでもよくなってきた。


 死体を撮影するという、不謹慎な行為。
 そんなことぐらい、森繁も分かっていた。

 が、そんなことをすることで生じる、背徳感。
 それは一種の興奮を森繁に与えていた。

595 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 21:57:15.95 ID:9T8NLpIy0

 森繁「頭を殴られて命を落としたようだが……その瞬間、この子はどう感じたのかな」

 写真を撮りながら、そう思う。


 目の前に殺人者が迫ってきて。
 壁際まで追い詰められて。
 凶器を振り下ろされそうになって――


 命乞いをしたのか。 
 抗おうとしたのか。
 なおも、逃げ出そうとしたのか。
 いずれもできなくて、諦めきって絶望したのか。


 そんなことは分からない。
 が、そのように勝手に想像することが、一種の興奮をもたらしたのだった。

 死体を眺めながら、写真に収めて、想像して――それによって自分は生きているという、一種の優越感に浸れる。
 それが森繁にとってはたまらない快感になっていた。

596 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 21:57:53.96 ID:9T8NLpIy0









      ……ギィ……ギギィ……








 階下から、木の軋む音が耳に入る。
 誰かが――こちらにやってきている。

 愉悦の時間は、突如中断されたのだった。


 森繁「ちっ……」

 不機嫌そうに舌打ちをする。
 携帯を制服の内ポケットにしまうと、ゆっくりと立ち上がった。
 そして――階段と反対側の方向へと歩き出す。

 下からやってくるのは、クラスメートか、他にさまよっている人間なのか、はたまた殺人者なのか――そんなことは分からない。
 が、今はそんなことはどうでもよかった。
 いずれにしても、横から首を突っ込まれて、ごちゃごちゃ話しかけられるのは、正直鬱陶しかったのだ。
 
597 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 21:58:21.59 ID:9T8NLpIy0

 廊下を奥へ奥へと、突き進む。
 右手には【図工室】と書かれた木の札のある、部屋の入口。
 引き戸はぴっちりと閉まっていた。

 が、目もくれることなく、そのまま廊下を進む。
 図工室の引き戸は、ここに来る際に開くか確かめていたのだった。
 戸は空間に固定されたかのように、寸分たりとも動かないことが、その時分かったのだった。


 やがて、左に伸びる廊下が分かれている箇所に出てきた。
 ここに来る際は、その左からの廊下から来たのだった。

 一方で、その奥へも廊下がなおも伸びていたが――そちらへは足を踏み入れる気にはなれなかった。


 廊下を埋め尽くす、無数の緑色の大きな物体。
 得体の知れない、ゲル状の物体が無数に、所狭しと床にへばりついていた。

 人面のような皺が刻まれていた、その不気味な物体は――微かに動いていた。

 少なくとも――足を踏み入れたら、ただでは済まなさそうというのは、容易に想像できた。

598 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 21:58:57.99 ID:9T8NLpIy0


 







   「ひっ!!」









 左横から、不意に聞こえた声。
 それは聞き覚えのある声だった。

 すかさず、その方に目を向ける。

 視線の先にいたのは――由香だった。
 さながら怪物に出くわしたかのように、全身をガクガクと震わせて、大きく目を見開いていた。

599 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 21:59:39.52 ID:9T8NLpIy0

 由香「い、いや!!」

 怯えた表情を露骨に出しながら、走り出した。
 森繁の視界から消えるかのように――駆け出していったのだった。













 ――緑色の不気味な物体が蠢く廊下へと。











600 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:00:08.16 ID:9T8NLpIy0


 森繁「お、おい!!そこは行くな!!」

 慌てたのか、荒い口調で声を掛けた。
 止めようとして、手を伸ばす。















 が――それは、もはや遅かった。






 








601 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:00:48.69 ID:9T8NLpIy0

 美琴「ん?何かあったのかしら?」

 2階に上がり、廊下を奥へ進んでいたとき――その光景に出くわした。

 左へと廊下が分かれる、T字路のような形状になっている箇所。
 丁度、その中央あたりに――人影があった。

 見慣れない学校の学ラン姿の――眼鏡を掛けた男子生徒。
 右手に携帯を手にしながら、呆然と廊下の奥を眺めているように見えた。


 美琴「ちょっと、どうしたのよ」

 後ろから声を掛ける。
 

 森繁「へ、へへへへ……これは……」

 その男子生徒――森繁は振り返ろうとせず、上ずらせた声で、ただ独り言をつぶやいていた。
 じっと、目の前に広がる光景を眺めながら。

602 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:01:41.64 ID:9T8NLpIy0

 美琴「返事ぐらいしたら?」

 おかしいと思い、森繁の前まで回りこんだ。
 不快感を露にして、じっと睨みつけようとした――が。






 森繁「……ははははは……」

 恍惚しきった表情で。
 へらへらしながら。
 目の前にいる美琴のことなぞ、見えない様子で。


 



 ただ――視線の先で繰り広げられている光景に見入っていた。








603 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:02:07.94 ID:9T8NLpIy0

 美琴「あ、アンタ……」

 それ以上、言葉が出ない。
 いや、出す気すら起きない。

 気持ち悪さ。
 森繁の尋常でないその様子に、生理的な不快感をもよおした。


 ――これ以上、コイツに話しかけても無駄。

 そう思って、振り返った。

 その時――。












           ぴちゃっ……。













 何か――液状のものが、頬に掛かった感触がした。 

604 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:02:37.01 ID:9T8NLpIy0

 美琴「え?」

 すかさず、何かが掛かった箇所付近を指でなぞる。
 冷たい、液状の感触。
 汗ではなく、それよりも微妙に粘ついた感じの――。

 何気なく、その液体が着いた指を目の前に持ってきた。








 指先は――紅く染まっていた。








605 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:03:10.95 ID:9T8NLpIy0

 美琴「――!!」

 一瞬、全身が凍りつく感覚が襲う。
 すぐにそれを振り払い、廊下の奥に目を移す。

 







    グチュ……







                    グチャ……











 何かを――噛み締める音。

 柔らかいもの――ちょうど、肉のようなものを咀嚼する音。

606 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:03:53.76 ID:9T8NLpIy0


 廊下を埋め尽くす、緑色の液状の物体。

 それらはあちこちが隆起していた。

 見ていると、それらは人の顔のように見える。

 さらにその突起――ちょうど口にあたる部分から、緑色の物体が紐状になって、幾筋も突き出ていた。

 それらはまるで蛇のように蠢いていて。






 ある一箇所に向って、先端を向けていた。



607 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:04:26.45 ID:9T8NLpIy0


 美琴「ち、ちょっと!!」

 その光景が目に入った途端――戦慄した。
 指先どころか、全身が小刻みに震えているのが分かる。











         グチャ……クチャ……。









                                 ガリ……。










               ゴリ……グチャ……。













608 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:05:06.67 ID:9T8NLpIy0

 無数に伸びて、蛇のようにうごめく、緑色の触手。

 その先端には、鋭い牙を生やした口があった。

 口の形をグロテスクに変形させながら、触手はある一点に口を向けていた。

 その先にある"モノ"に、吸い付いたり、離れたり、また吸い付いたり。

 まるで、蛭のように。


 その"モノ"から離れるたびに――牙は紅く染まり、肉片を貼りつかせて。

 再度、その"モノ"へと、牙のついた口を伸ばす。

 何本も次から次へと、触手が群がりだし。

 まるで、屍肉を喰らうハイエナのように。












 ――由香の体を、貪っていた。












609 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:05:37.73 ID:9T8NLpIy0


 頬や首、さらには体全体が――かじられて、肉が剥き出しになっていた。

 着ていた服は所々がちぎられて、そこから齧られた跡を生々しく晒している。

 肌や服はもちろん、周囲の壁――さらには、群がる緑色の"バケモノ"をも、吹き出る血で紅く染めていた。

 齧られた傷口は、赤い体組織――その下の骨までも剥き出しになっていた。


 瞳は動いていなく、声も上げず――息絶えているのかもしれなかった。



 美琴「も、もちださん……」

 力ない震えた声で、ただつぶやく。
 

610 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:06:10.99 ID:9T8NLpIy0
 










    「お……にい……ちゃ……ん」










微かだが、はっきりと聞こえた。
途切れ途切れの掠れた声だが、この声は――













    「た……すけ……て……」












すっかり充血した瞳を、わずかに動かしていた――由香のものだった。

611 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:07:26.24 ID:9T8NLpIy0

美琴「なんて……ひどい……」

間近で由香の惨状を目にして、言葉が出ない。
食いちぎられた体組織から、血が絶え間なく垂れ続けている。


――息があるだけ、奇跡的な状況と言えた。


――いや、むしろ残酷過ぎる仕打ちなのかもしれない。


正直、息があっても、絶望的な状況だった。
学園都市の病院なら、何かしらできるかもしれないが――ここは、外界から切り離された廃校。
医療機具はおろか、何も手を打てる術がない。

由香の体を蝕む苦痛は、相当のものだろうと思える。

だがそんな素振りは見られない。
恐らく、神経もあちこちで食いちぎられ、痛覚が脳に伝わっていないのだろう。


――このまま、息絶えていくのを、ただじっと見るしかなかった。


無力。
超能力があろうが、本当に何も出来ない。
目の前の現実にそれを突き付けられると――

自然と下唇を噛み締め――涙が流れ落ちて来た。


由香「う……う……」

今にも途切れそうな声で、呻き声を上げていた。
そして、視線の定まらない瞳を、ある一点に向けようとしていた。


――美琴へと。



美琴「じっとしてて!!」

由香「……う……う……ろ……」

美琴「だから、しゃべらないで!!」

なおも声を発そうとする由香に、怒鳴りつける。
ただでさえどうしょうもないのに、これ以上動こうとしたら、感じる痛みが一気にひどくなるだけ。
嗚咽まじりの声で、叫ぶのが精一杯だった。

612 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:07:57.81 ID:9T8NLpIy0









――だから、気付けなかった。










――由香が、必死になって何を伝えようとしたのかを。










――美琴の背後に、何が起こっていたのかを。












ザシュッ!!












――気付いた時には、遅かった。


613 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:08:39.36 ID:9T8NLpIy0

美琴「……がっ!!」

首筋に鋭い痛みが走る。

途端に、何かが染み出すような感じがした。


生暖かく、さらさらした液体。
それは見る見るうちに、流れる量を増していく。

ついには――勢いよく噴出していった。
それは、目の前の由香の顔にもかかりだし。


美琴「ひっ!!」

それか何かを、認識するに至った。


614 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res sage saga]:2011/12/31(土) 22:09:34.01 ID:9T8NLpIy0

赤。

首から絶え間なく噴き出す、赤。

目の前の由香の顔も体も、絶え間なく染め上げる、赤。



それは紛れもなく、血。

そして、いつの間にか目の前にまで、突き出してきている、触手。


美琴の首を抉った――先端の口に生えた牙も。

――獲物の血で、紅く染め上げていた。


615 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:10:14.15 ID:9T8NLpIy0


美琴「こ、このっ!!」

なおも首筋から絶え間なく噴き出す血を手で押さえながら、失神しそうになるのをなんとかこらえながら――全身に発生させられるだけのありったけの電気を溜め込みだす。
そして――一気に怪物に向けて放電した。











だが――触手は電撃を食らったにもかかわらず、すぐに持ち直し――。

一斉に、美琴に飛び掛かり。


体の肉をついばみ出した。

首はもちろん――頭、目、口、頬、胸、肩、腕、腹、大腿、ふくらはぎ――体のあらゆる箇所に群がりだした。

そしてひたすらかじりだす。


616 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res sage saga]:2011/12/31(土) 22:10:58.97 ID:9T8NLpIy0









――ぐちゃ、ぐちゃ、ぐじゅ……。










美琴「ひっ、があああああ!!」

体の各所から、肉が抉れ、血があふれだす。
あちこちから、絶えがたい鋭い激痛が彼女を襲った。


美琴「ぐぎぎゃあああ!!」

見る見るうちに、肉は引きちぎられて、貪られて。
骨がむき出しになるぐらいに、かじり尽くされて。


美琴「……ぎ……あ……」

悲鳴が小さくなってこようが、流れる血の量が少なくなってこようがお構いなしに、なおも、数を増殖させて、美琴に群がりだす緑の触手。
やがて、美琴の体は触手に生め尽くされ、埋もれていった――。


617 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:11:41.03 ID:9T8NLpIy0


 




       ――ピロリン……








 森繁「……ハァ……ハァ、ハァ……」










              ――ピロリン……










 森繁「……ハァ……これは……さ……」


 朽ちた廃校の廊下に鳴り響く、携帯電話のカメラのシャッター音。
 次から次へと、鳴り響く。

 カメラのボタンを押す手には力が入り。
 脂汗が滲み出し。

 息は自然と荒くなっていて。

 表情は――恍惚に満ちていた。

618 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:12:21.29 ID:9T8NLpIy0









         ――ピロリン……。








 森繁「……さ、最高だよ!!本ッ当に最高だよ!!」

 なおもカメラのシャッターを切る。
 周囲のことなど気にも掛けずに、がむしゃらにレンズを向け、シャッターを切る。


 ――そこまで彼を魅入らせる、目の前で繰り広げられた状況。

 もし、この場に居合わせることがなければ、彼はまだ正気を保てていたのかもしれない。


 が――もはやそんなことを考えても仕方がない。

 もはや、手遅れだった。

 彼は正気ではなかった。
 自分が生きているという証を得たいという目的をもはや超えて。

 猟奇的な嗜好に捕らわれてしまった瞳を――目の前に広がる、緑色の怪物で埋め尽くされた廊下に向けて。

619 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res sage saga]:2011/12/31(土) 22:13:05.93 ID:9T8NLpIy0



 幾重にも重なる、緑色の触手の隙間から見える――美琴と由香。


 そこらじゅうに、血や肉片を撒き散らして。


 体の大半は食い荒らされて。


 骨がそこかしこに露出していた。




 森繁の足元に転がってきた、2つの物体。


 それは――





 片方の眼球が抉り取られて。


 頬や顎の骨がむき出しになって。


 口の後ろに、大きく穴を穿たれた――





 ――血塗れの、美琴と由香の首だった。





 残った眼球。


 充血して、瞳孔の開ききった瞳が――



 ――空虚に、森繁を見詰めていた……。
 


620 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:15:38.04 ID:9T8NLpIy0

(暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

 テーレレテテテレテー
 
   Wrong End

 ビターン

(押し付けられた左手の赤い手形。人差し指がない)

 では、引き続き本編の続きを>>578のAにて投下いたします。
621 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:18:03.98 ID:9T8NLpIy0

 階段に向って走り出した。

 男子トイレの前を通り過ぎると、廊下はすぐ先で行き止まりになっていた。
 突き当たりには、何か布のようなものが散らばっていた。
 その上に白い粉や破片が散らばっていたが――気にする余裕はない。


 左手には、下の階に続く階段。
 すかさず、進路を左手に変えて、階段を駆け下りる。

 ステップは所々が朽ちていて、一部が崩れていたり、抜け落ちていたりする箇所があった。
 それらに気をつけながらも、スピードを落とさず、勢いよく下りていく。


622 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:18:41.20 ID:9T8NLpIy0









 佐天「ひっ、ひああああああ」









       ドンッ!!









 足を踏み外してしまった。
 段の先端でかかとを滑らせてしまい、しりもちをつく形で転んでしまう。
 幸い、そのまま階下まで滑落することはなかった。
 踊り場までは、まだ1m以上の落差があり、そのまま転げ落ちると頭を打って、とんでもないことになっていたかもしれない。

623 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:19:45.26 ID:9T8NLpIy0

 直美「ち、ちょっと!!大丈夫!?」

 手を引っ張られていた直美も、危うく転びそうになった。
 とっさに手すりを掴んで、巻き添えになることは避けられたようだ。


 佐天「いたたたた……」

 片手を突きながら、空いたもう一方の手で強く打った臀部をさすっていた。
 曲げた膝をハの字状に広げながら、その場に座り込む形になっている。


 佐天「あ……な、なんとか……」

 不安そうに見詰める直美の視線を感じて、あやふやな返事を返してしまう。
 もっとも、関節とかも普通に動いたので、骨が折れて歩けないということはなさそうだ。


 直美「ならいいけど……立てる?」

 佐天「は、はい」

 ステップの角にぶつけた両足のひざは、いまだに痛みを発している。
 ただ、歩けないぐらいに痛いというわけではない。
 朽ちた手すりを支えにして、なんとか足を起こす。


 直美「これ、マジで歩けそう?」

 なおも痛みの退かない、佐天のひざをしげしげと眺めて、心配そうにつぶやく。
 両足の膝小僧の部分には――先程転んだ形跡が、はっきりと出ていた。






 真一文字に横切るように走る――太くて赤黒いアザが。


624 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:20:13.56 ID:9T8NLpIy0

佐天「はははっ……」

小さく笑うが、そこから先に言葉が続かない。
確かに強くひざを打ったが、実際くっきり出ると、気持ち悪く感じてしまう。
それに――過去に出来たアザと比べて、何となくではあるが――違和感を覚えていた。

赤黒さの度合いが、やけに強い気がしていた。
アザが出来ている皮膚の下での内出血がひどいのだろうか。
いつ治まるか、跡が残らないかということも気にはなるものの。

――皮膚を突き破って、血が噴出すのではないか――。
そんな気にさえ、なってしまう。


佐天「な、なんとか……」

――大丈夫ですよ、と言おうとした。

が、思わず口をつぐんでしまう。




踊り場の先の光景が――ふと目に入って。


そのまま、その場に固まってしまう。


625 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:21:19.93 ID:9T8NLpIy0








       「……サア、ミンナデ……」









――ゆっくりと踊り場に姿を現した、










     「……エンソクニ、行キマショウネ……」










――異様に低い女の声で、ささやいてくる、







626 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:22:04.23 ID:9T8NLpIy0








      「……サッチャン……」










――影のように真っ黒な人影が、













        「……ワタシノジマンノコ……」













――目に異様な光を帯びながら、迫って来ていることに。


627 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:22:44.44 ID:9T8NLpIy0

直美「いやああああ!!」

当然、彼女の目にも゛ソレ゛が目に入るわけであり。

――はち切れんばかりの悲鳴を上げた。
全身の皮膚を、ぞわっと逆毛立たせて。
脳裏に、少し前に彼女に降りかかった災難が――嫌でも思い起こされる。


いきなり閉ざされた、保健室の引き戸。
どこからともなく現れた、長くて不気味な髪の毛が、引き戸に幾重にも絡み付いて。
何とか髪の毛を引きちぎろうと、扉を何度も引っ張っていたら、子供の笑い声が響き渡って。
奥の机に置かれた日記帳が、急にペラペラとせわしなくめくれだして。
かと思えば、側に置かれていたペンが意志を持ったかのように、何かの文字や模様を描き出したり。

そして、先程と同じように、異様に低い女の声が、耳元で囁かれたかと思うと――。

あの黒い影が現れ――目の前にまで迫ってきた。

思わず、逃げ出した。


628 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:23:38.23 ID:9T8NLpIy0


が――影はものすごい勢いで追いかけて来て。

またたく間に、捕らえられてしまった。


目の前が真っ暗になって。

鼻や口から、ねっとりとした黒い影が入り込んできて。

気管がふさがれたかのように息苦しくなって。

意識も薄れだして。




一瞬――不気味に笑う、女の顔が見えた気がした。


629 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:24:41.93 ID:9T8NLpIy0

直美「いや……いや……いやあああああ!!」

一歩二歩、震えた足で後ずさると――悲鳴を上げて、佐天の手を急に引っ張りだす。


佐天「え?いきなり、何を?」

直美の突然の行動に、転びそうになるが、何とか持ち直した。
戸惑いながらも、引っ張れるままに、付いて行く。


直美「あたし、さっきアイツに殺されそうになったの。あのままいたら、あんたも危ない」

佐天「そ、そうなのですか!?」

口ではそう言ったものの――本能では、今追いかけてくる黒い影が、かなり危ないというのは悟っていた。

それが一体何なのかは、分からない。
都市伝説なんかに取り上げられる、正体不明の怪物なのか。
それとも、幽霊の類なのか。


そんなことは、今分からない。
それに――今、それが何なのかを厳密に分かろうとしている場合ではない。

直美のあまりの怯えぶりと取り乱しぶり。
どう見ても、あまりに尋常でない事態になっているのが窺える。

630 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:25:35.60 ID:9T8NLpIy0














「……早ク教室二戻リナサイ……」














すぐ後ろから、かなり低音の女の声がした。
耳にした途端、心の底から震え上がりそうなぐらいの寒気を感じた。
631 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:26:31.03 ID:9T8NLpIy0


佐天「ひっ、ひいっ!!」

悲鳴をあげながら、階段を駆け上がる。
足下が崩れたり、ガラスが割れて散っていたりしている箇所がないかは、多少気にしつつも、無我夢中で影から逃げる。


すぐに階段を上り切った。
廊下の伸びるままに、右に折れる。

先には、手前に男子トイレ、奥に女子トイレがあるだけだ。
とにかく、咄嗟に――
632 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2011/12/31(土) 22:39:10.84 ID:9T8NLpIy0
本日、もとい本年最後の投下はここまでです。
なお、続きには以下のように選択肢が続きます。

A:女子トイレに駆け込んだ。

B:男子トイレに駆け込んだ。

安価は>>633にてお願い致します。

それはさておき、失礼ながらコメ返しをば。


>>585
折角言ってくださったのに申し訳ありませんが、勇み足だったようですね。
ヨシカズ先生に解体部屋にてたっぷり可愛がられていただければと思いますw

それはともかく、この件もいずれは私も触れるつもりでいました。
蛇足になるでしょうが、今回の選択肢は、この件を踏まえていただければと思います。

>>586-588>>590
お怒りはごもっともですが、落ち着いてくださればと思います。

>>589
結構、この件は長期間放置しているような感じになってもうしわけないです。
現在のchapterの次に、進める予定でおります。
その時は、ぜひ杉田の声の脳内再生してお楽しみくださいませ。

では、そろそろこの辺で。
皆様、よいお年を。
633 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/01(日) 01:48:22.60 ID:vGUukyQk0
一年間お疲れ様でした

今年も楽しみにしてます^^


まあ俺も本編やってるからあれなんですけどまああえての男子トイレのBでお願いしますww

何か発見があるかもw
634 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/01/12(木) 23:03:50.76 ID:eFZ0guyu0
皆様、本年もよろしくお願い申し上げます。
では、早速>>633のBにて投下いたします。
635 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/01/12(木) 23:04:21.82 ID:eFZ0guyu0

 男子トイレに駆け込んだ。


 中は――女子トイレと変わらず、陰鬱な空気が漂っていた。

 手前側には、鏡と陶器製の洗面台が並んでいた。
 鏡はいずれも割れていたり、苔が縁に貼り付いていたりしている上に、曇っていて映しこんでいるものがよく見えない。
 洗面台も、粉々に破壊されているものもあった。
 そうでないものも、黒い水が溜まっている上に、そこからごぼごぼと不気味な泡を立てている。
 さらには、髪の毛が無数に浮かんでいたり、血飛沫が掛かっていたりなど、到底使う気にすらなれないものばかりだった。

 そして――鼻を突く悪臭が室内に充満していた。


 佐天「うっ……」

 思わず、鼻や口を手で塞いでしまう。
 正直、息をする気にすらなれない。


 直美「こ、ここは行き止まりだよ。早く出なくちゃ……」

 すかさず、入口の方へと駆け出そうとする。
 が――



636 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:05:05.25 ID:eFZ0guyu0













   「……サッチャン……ドコニイルノ?」













 先程からいやというぐらいに耳にしている、低い女の声が外から響いてくる。
 思わず、後ろを振り返った。





 誰もいない。
 今のところは……だが。

637 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:05:48.37 ID:eFZ0guyu0













   「……デテキナサイ……」















 再度、外から聞こえる声。

 しかも――先程より、大きく、近くから響いている――気がした。

638 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:06:32.75 ID:eFZ0guyu0

 直美「や……やだ……」

 その場で蒼ざめながら、ガクガクと足元を震わせていた。
 蛙に睨まれた蛇のように、その場から動けないでいた。
 怯える表情を露にしながら、ただ入口の外に面した廊下を見詰めていることしかできなかった。

 脳裏によみがえる、保健室での恐怖。
 迫ってくる、黒い影。
 呑み込まれていく、自分自身。

 ただ、怯えるばかりで、身動きすらできないでいた。


 佐天「何やってるんですか!!」

 後ろからぐいっと引っ張られる手。
 思わず転びそうなのを、なんとかこらえたのだが。


 直美「いきなり引っ張らないでよ!!」

 そんな佐天の行動に抗議の声を上げる。
 足元をもたつかせながらも、掴まれた手を引き離そうとする。

 言われなくても分かっている。
 こんな袋小路でちんたらしていたら、危ないってことぐらい。

639 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:07:11.22 ID:eFZ0guyu0

 が、当の相手はお構い無しに、トイレを奥へと進んでいく。
 手洗い場の隣には、いずれも破壊された小便器の残骸が転がっていたが、それには目もくれず。
 ひたすら、その奥に並んだ、3つの個室へと向かう。


 佐天「とにかく、隠れるしかないでしょう。入口からアレが来るのだから」

 直美「そ、それはそうだけど……」

 そんなのでやりすごせるとは、正直思えない。
 余計に不安に思えてくる。

 かといって、入口に向う気には到底なれない。
 言い返そうとした口をつぐんで、ただ佐天のやろうとすることを見るしかなかった。


 そんな間にも、佐天は一番手前の個室のドアに手を掛けた。
 そのまま勢いよく開け――ようとしたが。







        ガツ……ガツ……







 何かが引っかかっているような感触がするだけで、扉は開かない。
 内側から鍵でも掛かっているのか。

640 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:07:43.57 ID:eFZ0guyu0

 佐天「ちっ……」

 小さく舌打ちをすると、見切りをつけたのか、その扉からはすぐさま手を離す。
 そして、隣の扉に手を掛けて引っ張る。

 が。








        ガツ、ガツ……








 先程と同じ手ごたえ。
 扉は同じように開かない。

641 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:08:12.15 ID:eFZ0guyu0

 佐天「マ、マジで洒落にならないって!!」

 何度も何度も、ドアを引っ張り出す。
 取っ手を掴む手にも力が入りだす。


 が――何度やっても、結果は同じ。

 ガタガタ音がするだけで、扉が開くことはなかった。
 埒が明かないと、さらに隣の個室――最も奥の個室の取っ手に手を掛けようとする。


 その時。


 直美「そこはやめて!!」

 急に叫びだすと、扉を今にも開けようとしている佐天を制止しだした。
 相当な怯えの感情を表情に露にしながら。


642 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:08:48.50 ID:eFZ0guyu0

 佐天「はぁ?いきなり何なのですか?」

 直美「お願い、やめて。ここには……」

 呆気に取られる佐天をよそに、扉から一歩下がりだす。
 そして、びくびくした面持ちで、佐天の目を見詰め出し。


 直美「……いたの。何かが」

 顔と顔の間隔を詰めながら、ゆっくりと口を開けた。
 そこから吐き出される、荒い息。
 生暖かい息の感触がした。
 じろりと見詰める直美の瞳からは、必死に訴えかけようとする意思がひしひしと伝わってくる。


 佐天「何かって……」

 信じられないといった面持ちで、個室の扉を眺める。
 一見した所、手前二つの個室となんら変わりはないようだ。


 直美「さっき、ここに来た時に開けたら……怒鳴られたの」


643 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/01/12(木) 23:09:42.29 ID:eFZ0guyu0















       「あーーーけーーーるーーーなぁ!!」















644 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:10:21.35 ID:eFZ0guyu0


 男の怒鳴り声。
 個室を開けた途端、浴びせかけるかのような罵声が響いた。
 思わず、尻餅をついてしまった。

 半分ほど開いた個室の扉。
 そこから見える個室の中は――真っ暗で、何も見えなかった。

 いや、見たくなかった。
 得体の知れないものがいる。
 直美はそう直感した。









     ……バタン!!









 直美「ひっ!!」

 内側から扉が何かに引っ張られたかのようになる。
 そして、大きな音と共に、閉じられた。

 呆然とただ見ているだけしかできない直美と。
 周囲を取り巻く沈黙だけが――後に残されただけだった。


 その様子を佐天に伝える、直美の脳内には――その時目の当たりにした光景が、ありありとフラッシュバックしていた。


645 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:11:10.33 ID:eFZ0guyu0

 佐天「ま、マジで……だったら、どうしたら……」

 半ば信じられないという表情のままで、男子トイレの入口を見返す。
 今のところ、あの黒い影は――姿を見せていない。

 ただ、このままじっとしていたら、見つけられてしまうのは時間の問題。
 ここは完全な袋小路だった。

 外に面した朽ちた窓は、手を掛けてみたが、他と同様動く気配すらない。
 仮に開いたとしても、ここは3階。
 飛び降りても、ただでは済まないのは明白だった。

 他に隠れられそうなのは、3つ並んだ個室。
 だが、手前側2つは、どうやっても扉が開かない。

 あと1つには――直美の言う状態では、入るのは得策ではないようだ。


 佐天「ううっ……」

 悔しさも混じった声を上げながら、じっと入口の方を見詰める。

 入口の幅は、およそ1.5mほど。
 先程見た限り、あの黒い影は普通の人の大きさ。
 うまくいけば、すりぬけて逃れられるかもしれない。

 が――そうする気には到底なれなかった。

646 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:11:46.73 ID:eFZ0guyu0














        ……ギィ…… 

















 背後から――木が軋む音がした。


 佐天「え?」

 思わず背後を振り返る。


647 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:12:24.70 ID:eFZ0guyu0



 その時――佐天の体は、何かに引っ張られた。

 それに続くように、直美の体も何かに引っ張られて。



 佐天「う、うわっ!!」

 直美「ひっ!!」


 引っ張られた先は――扉が開いた、奥の個室。

 否応無しに、二人の体は個室の中へと引きずり込まれて。





648 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:12:56.17 ID:eFZ0guyu0















     ……ギギッ……

















                       ……バタンッ!!
















 二人の体が個室の中に入りきると同時に、ひとりでに扉は閉じられた――。




649 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/01/12(木) 23:13:27.87 ID:eFZ0guyu0
















         「 ド コ ニ イ ル ノ 」













650 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:14:05.23 ID:eFZ0guyu0




 黒い影。
 男子トイレの中に――ゆっくりと入り込んできた。

 壊れた洗面台や、小便器には目もくれず。

 ただ――奥に3つ並んだ個室に向っていた。





651 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:14:32.78 ID:eFZ0guyu0



















         「 ハ ヤ ク ツ レ テ キ テ 」

















 影は一番手前の個室の前に立って――扉を開けだした。


652 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:15:03.44 ID:eFZ0guyu0

















              ……ギギィ……













 中には誰もいない。
 すぐに扉を閉じて――隣の個室の前へと移る。


653 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:15:29.97 ID:eFZ0guyu0




















          「 ワ タ シ ノ カ ワ イ イ 」
















 同じように――扉を開ける。


654 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:15:56.83 ID:eFZ0guyu0















                  ……ギィ……



















 中には、誰もいなかった。
 同じように扉を閉じて――一番奥の個室の前へと移動する。





655 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:16:25.17 ID:eFZ0guyu0



















         「 サ ッ チ ャ ン 」


















 扉がゆっくりと開かれる。
 軋みの音を、ゆっくりと上げながら。



656 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:17:00.87 ID:eFZ0guyu0















          ……ギギ……














                    ……ギギィ……













657 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:17:28.85 ID:eFZ0guyu0















 中には――誰もいなかった。













658 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:17:58.38 ID:eFZ0guyu0














             ……グラグラグラ……















 地震。
 個室の内部を、強い揺れが襲う。

 中に引きずり込まれた――佐天と直美も例外ではなく。
 
659 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:18:35.06 ID:eFZ0guyu0

 直美「きゃっ!!」

 佐天「…………」

 思わず、互いに抱きしめた。

 揺れはすぐに収まった。
 トイレ特有の悪臭とともに、黴や埃が舞い上がり、二人の鼻や口を襲う。


 直美「けほん、けほん……」

 佐天「ううっ……げほっ……」

 手で鼻や口を塞ぐものの、それらは容赦なく入り込んでくる。
 思わず咳き込んでしまった。

 ふと、目を上げる。
 その先には――

660 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:19:03.41 ID:eFZ0guyu0


 佐天「ひっ!!」

 直美「い、いや!!」

 目に入り込んできたものに、全身を強張らせた。
 まるで体が石になったかのように、体が硬直して動けない。













    「……まったく、私もとんだ世話焼きだな……」













 目の前にいたのは――青白い光を放つ若い男。

 シルクハットに高価な上下のスーツ。
 手にした木製と思われるステッキ。
 さながら昔の映画に出てくるような、貴族のような出で立ちだった。

 男はただ、目の前で怯える二人の少女を、優しい瞳で見詰めていた。

 
661 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/12(木) 23:20:45.76 ID:eFZ0guyu0
本日の投下はここまでです。
なお、>>633のAはWrongENDの予定でした。

あと、紳士の声は――お察し頂き、楽しんでいただければ幸いですw

以上、失礼しました。
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/13(金) 00:45:50.76 ID:yIYAaYLI0
相変わらず、赤い文字が出るだけで心臓が止まりそうになるぜ
乙!!
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/13(金) 01:13:49.33 ID:1t8ax5x90
紳士ワロタwwww
乙!
664 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/01/23(月) 23:09:28.79 ID:MB9aqOFK0
投下に参ります前に、すみませんが修正をば。
>>660の下から6行目

誤:私 正:僕

>>660の下から4行目

誤:シルクハット 正:ソフト帽

失礼いたしました。

では、投下に参ります。
665 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/01/23(月) 23:11:37.89 ID:MB9aqOFK0
 
 佐天「ゆ、幽霊……!?」

 それが、男を目にした第一印象だった。
 全身が青白く光っている上に、男の背後の壁がかすかに透けて見える。

 何度も瞬きをしながら、映像か何かの類かと、思わず背後を振り返る。
 が、そこには朽ちた木の壁があるだけ。
 所々に開いた穴や割れ目を含めて、映写機の類のようなものは見当たらなかった。


 ??「第一声がそれか。失礼極まりないものだな」

 不快感を滲ませた瞳で、じろりと佐天の顔を見詰める。


 佐天「……っ!!すみません……」

 反射的に謝った。
 スカートの端を両手で握り締めながら、じっと下をうつむく。

 目の前の人物が、明らかに普通でないのは分かる。
 だが、恐怖を感じるのではなく、なぜか教師なんかに怒られたのと同じ感覚に陥ってしまう。

 それだけの雰囲気――というか威厳というべきか――が、その紳士のような人物から放たれていた。

666 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/01/23(月) 23:12:48.32 ID:MB9aqOFK0

 ??「まあいい。どうやら、難は逃れられたようだ」

 直美「え?それって、どういうことですか……?」

 ??「追いかけられていたのだろう?君たちが恐ろしいと思うモノに」

 今ひとつ、目の前の男――いや、紳士といった方がいいのだろうか――の言うことがつかめなかった。
 が、追いかけられたというフレーズを耳にした途端に、電気でも走ったかのように、直美の体が震え上がる。


 直美「――!!」

 咄嗟に、個室の戸の方を振り返る。


 閉じられた、個室の扉。
 何事もなかったかのように、ぴっちりと閉じられたままだ。
 鍵の代わりをしている、木製の小さな閂もご丁寧に差し込まれていて、外からは開けられないようになっている。

667 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/01/23(月) 23:13:14.91 ID:MB9aqOFK0













        ……………………。












 扉はただじっと閉ざされたままだった。
 急にガタガタ動き出したりということはない。

 それどころか――外に何かがいる気配も感じられない。


668 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:14:05.11 ID:MB9aqOFK0

 ??「相当、恐ろしい目に遭ったようだね」

 なおも青白く全身を光らせながらも、その幽霊――いや、紳士といった方がいいかもしれない――は、凛とした素振りで話しかけてくる。


 佐天「…………」

 そんな紳士の様子に、どう反応していいのか分からない。

 得体の知れないものが、平然と話しかけてくる。
 そんな状況に適応できるわけでもなく、ただ体を小刻みに震わせて俯くばかり。


 ??「そんなに緊張しないでくれたまえ。僕は君たちを取って食おうという意図は、毛頭ない」

 佐天「…………」

 優しい口調で話しかけてくるが、そんなのをすんなり受け入れるなんてできそうにない。
 無理難題にも程がある。
 ただ、貝のように口をつぐんで、じっとしているしかなかった。

669 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:14:55.60 ID:MB9aqOFK0

 直美「……は……はい……」

 その横で、わずかに口を開いた。
 体を細かく震わせて、目に涙を浮かべて。


 ??「怖かっただろうな……」

 顔を上げて、個室の扉を見やる紳士。
 直美の所まで歩み寄ると、静かにしゃがみこむ。
 そして、青白く光る手を直美の頬へと差し出した。


 直美「ううっ……うわぁあああああん!!」

 堰を切ったかのように、激しく泣き出した。



 ――しあわせのサチコさん。


 クラスメートが転校することで、思い出としてやったおまじない。

 そしたら、突如地震に襲われて、教室の床が大きく裂けだして。


670 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:15:28.33 ID:MB9aqOFK0


 気が付いたら、この不気味な廃校にいて。

 校内のそこらじゅうで目にした、数多くの死体。

 そして、幽霊。


 多重閉鎖空間。

 そんなわけの分からない異空間に監禁されたという事実を、犠牲者の幽霊から告げられて。

 直後、目にした不気味な赤い服を着た女児の霊。

 保健室で、迫ってきた黒い影。


 恐怖からの苛立ちと八つ当たり。

 親友との喧嘩。

 別れ。



 挙句の果ての――親友の死。



 さらには――


671 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:16:07.01 ID:MB9aqOFK0










   「お友達が亡くなった今、この学校……この空間で、生きている人間はもう、あなたしかいません」











 親友の死への悲しみに暮れている傍に、突如現れた幽霊。

 星型の髪飾りをして、見慣れぬ学校の制服をまとった、女子高生らしき霊。

 この学校で死んだというその霊は、眼鏡の奥にある光のない瞳を直美に向けて、告げた事実。

672 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:16:38.84 ID:MB9aqOFK0











   「あなたはこのまま……死ぬまで一人ぼっち……」











 孤独という事実。





 恐怖、怒り――そして、悲しみと寂しさ。
 

 それらが一気に、嗚咽として噴き出してきた。
 とどまることなく、ただ延々と泣き続けていた。


673 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:17:07.68 ID:MB9aqOFK0

 佐天「…………」

 そんな様子を、ただじっと黙って見守る。
 何をしていいのか分からず――いや、下手に口を出す気にはなれなくて。


 ふと、紳士の顔に目を向ける。
 彼はただ、泣きじゃくる直美へとやさしげな視線を送っていた。
 
 それを見て――何となく感じた。


 佐天(この人……何となくだけど、悪い人じゃなさそう……)

 と。


 そして――


 佐天「あ……あの……」

 小さく声を掛ける。
 それこそ蚊の羽音のように、か細く。
 この状況の中で声を掛けづらく、それ以上言うのはどこかはばかられる。
 そんな気がして、口をつぐみ、再びうつむきだした。

674 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:18:31.16 ID:MB9aqOFK0

 ??「何かな?」

 紳士は静かに振り返った。
 特に先程と変わらない様子で。

 にこやかな笑みを浮かべて、佐天の顔を見詰めてくる。


 佐天「あああ……あの……」

 そんな紳士の反応に、思わずびっくりしてしまった。
 恥ずかしくなり、紳士に目を合わせられないまま、しどろもどろになってしまう。

 が、一寸後になんとか落ち着きだし、言いたいことを言葉にしだす。


 佐天「さ……さっきは、ありがとうございました。ここに匿ってくれて……」

 ??「別に構わないさ。好き好んでやったわけではないが……」

 紳士はちらりと、いまだに泣きじゃくっている直美を一瞥して。


 ??「危機に追われて困っている少女を見捨てるなんて、紳士として許せなかったのでな」

 再度、佐天の方へと向きなおす。
 少しずれ落ちかかったソフト帽を、直すしぐさをし出して。


675 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:18:59.94 ID:MB9aqOFK0

 ??「もっとも、他にも君たちをここに引き込んだ理由はあるのだがな」

 佐天「え?それって、何でしょうか?」

 ??「僕も少し困ったことになってね。誰かに手助けを請おうとしたのだよ」

 佐天「は、はあ……。それで、手助けってどんなことなのですか?」

 きょとんとした表情で訊き返す。
 一体何のことを頼まれるのか、まったく想像できない。
 少しの不安を含ませながら、紳士の返事を待つ。


 ??「僕の眼鏡を探してもらいたいのだよ」

 佐天「眼鏡……ですか」

 ??「ああ、肌身離さず大切にしているんだ。僕のために存在しているといっていい」

 佐天「は、はぁ……」
 
 紳士の言葉の端々から出る、ナルシズム。
 聞いていて、唖然としてしまうのも無理はない。

 いつしか、直美も泣き止んでいた。
 目元を真っ赤にしながらも、紳士の顔を見上げている。

676 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:19:25.45 ID:MB9aqOFK0

 ??「先程、君たちと同じようにこの空間(はいこう)に迷い込んできた少女たちが見つけてくれたというのに……」

 紳士は悔しげな表情を浮かべながら、閉じられた個室の扉を見やる。


 ??「直後に不届きな霊が入り込んできたので一喝したら、消えうせていた。もしかしたらその時に奪われたのかもしれん」

 佐天「そ、そうなんですか」

 ??「ああ、きっとそうだろうな。僕はこの空間(こしつ)からはあまり出る気になれん。すまないが、君たちに眼鏡を探すのをお願いしたい」
 
 困っていると言いたげな視線を向けてくる。
 が、どう返事していいのか、悩んでしまう。
 言葉の端々に、過剰ともいえる被害者意識がみてとれる。
 しかも、この個室から出たくないなどと、突っ込みたくこともある。

 正直――一瞬だが、何かしらの罠ではないかとも勘繰りさえした。
 申し訳ないがお断りしようと――伝えようとした、その時。

677 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:20:34.40 ID:MB9aqOFK0

 佐天「あれ?」

 ??「どうしたのかね?」

 紳士の足元をふと指差す。
 それに連られて、紳士も視線を移す。


 佐天「眼鏡って……それのことじゃないですか?」

 ??「おお!!まさしくこれだ!!」

 指差した先には――古めかしい眼鏡が落ちていた。
 フレームの部分は銀細工が施されていて、一見すると高価そうな眼鏡だ。
 紳士は興奮気味に眼鏡を手にとって、眺め回す。


 ??「何度探しても見つからなかったのに、見つけてくれるとは。感謝する」

 佐天「は、はぁ……それはどうも」

 どう見たって、よく探していないのが丸分かりだと突っ込みを入れたくなったが、それはなんとか抑え込んだ。
 先程見た黒い人型の霧とは違い、悪い人物には見えない。
 ただ、抜けている。
 とてつもなく抜けている。

 思わず、小さくため息をついた。
 そして、ふと直美の方を見やる。

678 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:21:14.50 ID:MB9aqOFK0

 直美「……ふふっ……」

 小さく笑っていた。
 先程までの悲しみにくれた様子は失せていた。
 多少りとも、心は安定しだしたかのように思える。


 ??「さて……君たちを追っていたモノの気配はないようだな」

 紳士はメガネを手にしたまま、個室の戸に手を掛ける。
 閂を外し、ゆっくりと扉を押し開けた。











    ……ギギ……ギギギ……











 扉が開かれた先には――誰も、何もいなかった。
 ただ、朽ちた木の床と、薄汚れて所々が崩れ落ちた壁が広がっているだけだった。


 佐天「…………」

 恐る恐る個室から、顔を出す。
 周囲には何もいない。

 もちろん――あの黒い影の姿もない。

 ただ、臭気が蔓延している、朽ち果てた男子トイレの空間だけが存在していた。

679 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:21:59.56 ID:MB9aqOFK0

 ??「君たちには、他にここに来た仲間がいるのだろう?」

 佐天「は、はい……」

 おずおずと小さく返事をする。
 直美も何も言わなかったが、小さく首を縦に振った。


 ??「ここはおかしくなっている。同じ空間が幾重にも重なり合って、複雑なものになっている」

 直美「多重……閉鎖空間ですか」

 ??「ああ、そうとも言えるな。他の仲間は多分、異なる空間に飛ばされているのだろうか」

 直美「…………」

 紳士の言葉を聞いて、最初にこの廃校に飛ばされてきたことを思い出す。
 世以子と一緒に目にした、犠牲者の幽霊。
 そこで語られた、この空間のこと。

 そして――異なる空間に飛ばされた、クラスメートとは会えないという――あまりにも残酷なことも。

 表情に影を落とし、ゆっくりと下をうつむきだす。


680 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:23:02.18 ID:MB9aqOFK0

 ??「ここでは、探しているものが永久に見つからず、ないものが現れ、あるものが無くなるなんてことは、よくあることだ」

 紳士は瞬き一つせずに歩き出す。


 ??「優しい君たちにはすまないが……僕はこの先一緒に付いてやることはできない」

 直美の前まで来ると、彼女の瞳をじっと見据えた。


 ??「ここでは、心の尊厳は簡単に崩壊する。こんな時だからこそ……」

 優しげな瞳を向けて。


 ??「自暴自棄の誘惑に負けない気持ちを……凛とした自分を、しっかりと愛してあげてくれ」

 直美の肩にそっと手を乗せた。


 直美「は……はい……」

 見上げて紳士の顔を一瞥すると、小さく頷いた。

681 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:23:34.99 ID:MB9aqOFK0

 佐天「あ、ありがとうございました」

 とりあえず、紳士に礼をした。
 この紳士がどうであれ、手助けをしてくれたことには変わりはないのだから。


 ??「構わんよ。さて……」

 紳士は個室の方を振り向いた。
 開いた個室へと、ゆっくりと歩き出す。


 ??「僕は還るべき場所に行くよ……君たちも、きっと帰れるように祈っている」

 個室の中へと入り込み、そこで一旦立ち止まった。
 そして、にこやかな表情を向けて、言った。


 ??「さらばだ、I LOVE YOU(愛しき者達よ)!!」

 声と共に、個室の扉は閉じていく。
 そして、バタンという音と共に、完全に閉じられた。

 後に残されたのは、静寂。
 そして――

682 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:24:12.95 ID:MB9aqOFK0

 佐天「…………」

 直美「…………」

 ただ、閉じられた個室をぼんやりと眺めていた二人。
 しばらく、そのままの状態でいた。

 が、それも長くは続かない。

 そっと、直美の肩に手を乗せる佐天。
 目元を赤くしながらも、涙はすでに止まった目を向ける直美。


 佐天「行きましょうか」

 直美「うん……」

 二人はゆっくりと、男子トイレの出入口へと向って歩き出した。
 ギイギイと足を乗せるたびに、木の軋みが響くが、もはやそれに怯える様子は見られなかった――。


683 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:24:39.89 ID:MB9aqOFK0

 ??「あー、落ち着くなあ……」

 個室の中で、紳士は穏やかな表情で、腰を下ろしていた。

 この紳士の霊、名は下田という。
 かつては、天神小学校が建てられる前の土地に屋敷を構えていた華族の当主だった。
 どういった経緯で死に至ったのかは、よく分からない。

 ただ、はっきりしているのは、死しても自縛霊となり、天神小学校が建てられた後も居座りついていたことだ。
 それも、本館の男子トイレの一番奥の個室に。
 天神小学校が現役だった頃も、霊として居座り続け、数え切れないぐらいの生徒にも目撃された。
 ずけすけと入り込もうとする生徒をどやしつけたことも数え切れない。
 おかげで、彼の存在――いや、彼が居座る男子トイレの個室は『厠の下田さんの伝説』として、七不思議の一つとして語り継がれた。

 そして――天神小学校が廃校になり、異空間に存在するようになっても――彼は居座り続けた。
 この小学校がそうなった経緯は、正直下田には分かっていない。

 いや――分からなくてもよい些細な事柄だった。

 この個室こそが、唯一安息を得られる空間。
 彼にとっては、このことが全てであったのだ。

684 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:25:22.46 ID:MB9aqOFK0

 が――








          パキーン!!









 下田「――!!」

 表情を一瞬曇らせた。
 個室に響き渡った、何かが割れるような音。


 ――手にしていた、メガネのレンズにひびが入っていた。

685 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:26:09.37 ID:MB9aqOFK0

 顔を顰め、じっとレンズを見やる。
 その時にふと、ある3人の人物のことが思い起こされる。


 佐天と直美がこの個室に入る前のこと。
 同じように男子トイレに入ってきて――メガネとソフト帽を見つけてくれた、3人の女生徒。

 両脇に白いリボンを着けた、活発そうな少女。
 丸い髪留めを着けた短髪の、わずかに大人びた感じがする少女。
 おかっぱ頭の、幼げな少女。

 いずれも中学生ぐらいの、表情に幼さがある子たちだった。
 



 「良かった……大事な思い出の品だったのですね。人助けが出来て、良かったです」

 別れ際の、白いリボンをつけた少女の嬉しそうな顔が思い起こされる。



 そして、割れたメガネ。



 下田「あの子たちに……何もなければよいのだが……。そして、先程の少女たちも……」

 不安げな表情を浮かべ、個室の扉をふと見やった。


 相変わらずの沈黙。
 彼の不安に対して、答えるものはいなかった――。


686 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:26:38.84 ID:MB9aqOFK0

 トイレを出た二人。
 が、そこでの光景を目にした途端。



 直美「せ、世以子がいない……」


 ――世以子の亡骸が、消えていた。

 壁にもたれるようにして安置していたはずなのに。

 最初からなかったかのように、そこには存在していない。

 驚きの声を上げ、焦りと戸惑いの表情のまま、小走りで駆け寄る。


 
 「ここでは、探しているものが永久に見つからず、ないものが現れ、あるものが無くなるなんてことは、よくあることだ」


 先程の紳士の言葉が、佐天の頭の中で再生される。
 いきなりそのことに遭遇したので、佐天もまた驚きと不安を隠せないでいた。


687 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/01/23(月) 23:27:46.20 ID:MB9aqOFK0

 ??「あら……二人になることができたのですね?これは意外でしたね」

 突然、背後から聞きなれない女の声がした。


 佐天「え?」

 びっくりして、背後を振り返る。


 そこには――一人の女生徒が立っていた。

 星を象った髪飾りを付けた、ショートカットの髪。
 紫色のブレザーにスカートと、見慣れない学校の制服。
 腰に巻いた、黒いカーディガンらしき上着。

 そして――眼鏡の奥から除かせる、死人のような光のない瞳。


 佐天「だ、誰ですか。あなた……」

 なんとも言いがたい怯えの色を含ませながら、訊ねる。

 が、少女はただ、光のない瞳を佐天に向けて――微笑んでいた。



本日の投下はここまでです。
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/24(火) 02:22:51.74 ID:2Jj+tH1u0

眼鏡が割れるとロクなことない
689 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/05(日) 23:00:15.83 ID:V2y35J6e0
少しではありますが、続きを投下いたします。
690 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/05(日) 23:00:54.93 ID:V2y35J6e0

 ??「私は……ここで命を落としました。今は霊体になっていますが」

 佐天「ゆ、幽霊ってことですか?」

 ??「ええ」

 女生徒は、そんな佐天の問いかけにためらいなく答える。
 むしろ、少しだけ微笑んだ気がした。

 生きているのなら、それなりに様になったかもしれない。
 が、死人にされたところで、余計不気味に感じてしまうだけだった。
 もっとも、幽霊が存在して話しかけてくること自体が、あまりにも気持ち悪いことこの上ないのだが。


 直美「アンタ……今度は何よ……」

 そんな女生徒の存在に気づいたのだろうか。
 顔を上げながら、女生徒の顔を見詰めた。

 ――思い切り睨みつけながら。


691 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:01:30.86 ID:V2y35J6e0

 ??「別に。この空間で生きている人間と出会うことはないと思っていましたけど……驚きを禁じえません」

 そんな直美の反応なぞ、どこ吹く風といった素振り。
 表情一つ変えず――いや、瞳すら動かさずに、淡々と話し出す。


 ??「むしろ喜ばしいことです。良かったですね。孤独から脱することが出来て」

 そこで小さく微笑んだ。


 が――目は笑っていない。
 

 佐天「……何が言いたいのですか?」

 ふとそんなことを口にする。
 心の奥で感じていたことをぶつけるようにして。

 どのように聞いても、好意的な気持ちから発したとは思えない。
 むしろ、言葉尻から、一種の悪意が感じられる。
 不安を煽って、もがき苦しむさまを楽しもうとしている――そんなようにさえ捉えられた。


692 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:02:04.91 ID:V2y35J6e0

 ??「そこの人は、友達と一緒にこの空間に飛ばされてきたのですけど……」

 女生徒は、そこで言葉を切ると、直美の方に視線を向ける。
 途端に、直美の表情がさらに険しくなっていくにが分かった。


 ??「その友達が命を落としてしまい、生きているのは彼女だけになってしまったのです」

 再度、視線を佐天の方に向き直る。


 ??「死ぬまで一人ぼっちだったはずなのですけど、貴女と一緒になれた。喜ばしいことじゃないですか」

 佐天「…………」

 目の前の女生徒は、何を考えてこんなことを言っているのか、分からない。
 表情からも、そうする意図がまったく読み取れない。


 直美「喜ばしいって……ふざけないでよ」

 なおもじろりと、女生徒を睨みつける。
 そのまま一歩一歩、歩み寄っていく。


 直美「世以子……世以子はどこに行ったのよ!!」

 女生徒の真ん前まで来ると、いきなり掴みかかった。
 が――その手は空を切って、体が前へとつんのめる。

 そして、女生徒の体をすり抜けるようにして、床に勢いよく倒れた。

693 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:02:49.63 ID:V2y35J6e0

 直美「ううっ……世以子ぉ……」

 床に握り拳を付きながら、じっとその場で固まっていた。
 目から涙があふれ出て。
 下唇を固く噛み締めて――悔しさを露にして、泣いていた。


 ??「お気の毒に。お友達のご遺体はどこかに行ってしまったようですね」

 女生徒はくすくすと笑いながら、そんな直美を見下ろしていた。
 無表情だった顔に、微笑を浮かべて。
 まるで、その状況が満足であるかのように。


 佐天「ちょっと、アンタ。自分で何言ってるのか、分かってます?」

 そんな女生徒の発言に、頭の中で何かが切れた。
 空気が読めないだの、思いやりがないだの言う以前の問題だった。
 

 ――間違いない。

 どう考えても、不安がらせようと、揺さぶりをかけてきている。
 動揺する様を、楽しんでいる――きっとそうだ。
 そうに違いない。

 はっきりとした根拠はない。
 ただ、直感がそう訴えるのだった。

 募った苛立ちをぶつけるようにして、女生徒に突っかかった。


694 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:03:25.68 ID:V2y35J6e0

 ??「ええ、十分分かっています。何せ、事実なのですから」

 相変わらず、眉一つ動かさずに、淡々と話す。
 感情の篭っていないその反応。
 余計にむかつきを覚えてしまう。


 佐天「事実って言う以前に、言っていいことと悪いことがありますよ。そこの所、考えています?」

 ??「そう言うも何も、そうとしか言いようがないじゃないですか」


 ――だめだ。

 目の前の女生徒と話しても、埒が明かない。
 糠に釘。
 まったく話が通じていないのが、実感できる。


 ――死んで人間としての感情を失ったのか、それとも、もともと持っていなかったのか。

 いや、そんなことはどうでもいい。


 ――こいつと話をしていても、時間も無駄。気力も無駄。

 いるだけでも鬱陶しい。
 とっととこの場から、去ってもらおうかと話を切り出そうと――した時。


695 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:04:04.58 ID:V2y35J6e0

 ??「それより……貴女は他の人を心配している場合じゃないでしょう?」

 佐天「はあ?何のことですか?」

 急に話を切り替えてきたので、一瞬付いていけなくなる。
 余計なお世話もいいところだ。
 とりあえず、突っかかりはしたが。


 ??「この空間で生きているのは、そこの人と貴女だけです」

 佐天「それが?」

 ??「まだ、分からないのですか?一緒にここに監禁されたお友達とは、死ぬまで会えないということですよ」

 佐天「――!!」

 はっとした表情になる。
 頬が内側からじわじわと熱くなるのを感じて。
 じわじわとにじり寄っていた動きがぱたりと止まって。
 その場で――呆然とした感じになってしまった。


 ??「くすくすくす……ようやく気づいたようですね……事の重大さに」

 佐天の反応に、満足げな笑みを浮かべる女生徒。

696 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:05:33.74 ID:V2y35J6e0







 ??「多重に重なったこの霊場で、離れ離れになった者同士が出会うことができるなんて、不可能も同然です」





 そして、瞼を少し細めて。
 光のない瞳を、なめまわすかのように小刻みに動かしながら。
 目の前でうろたえだす佐天の反応を楽しむかのように、じっと眺め回していた。


 佐天「あ……あっ……そ、それって嘘じゃないですよね。悪ふざけは……」

 ??「嘘でも冗談でもありません」

 慌てて問いかけようとする佐天を、ぴしゃりと遮る。
 笑っていない瞳で、なおも見詰め続けて。


 ??「ずっと別々。永遠に出会うことはないでしょう。そして……」

 顔を強張らせる佐天に、一気に迫ってきて。



697 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:06:19.74 ID:V2y35J6e0




 ??「あなたのお友達……能力を使えるみたいですね」

 佐天「――!!」

 胸が締め付けられるような感覚。
 思わず言葉を失ってしまう。




 ??「それに対して、あなたはごく普通の人間。特に能力もない」




 一番触れられたくないところ。
 そこに土足で踏み込まれた感じだった。


 無能力者。
 この空間に飛ばされる前から――佐天を悩ませ続けた現実。


 まさか、こんなところで蒸し返されるなんて――。






 ??「お友達はすでに何かしらしているかもしれませんね。能力があるから」

 自身のコンプレックスに打ちひしがれる状態での一言。
 そんな佐天に追い討ちをかけるのに、十分すぎた。

698 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:07:17.93 ID:V2y35J6e0

 佐天「…………」

 何も言えなかった。

 能力も無い。
 何もできない。

 美琴や黒子は言わずもがな。
 あれだけの能力があれば、ここから脱出する術を見つけ出している――いや、すでに実行しているかもしれない。

 初春にしても、そう。
 能力こそレベル1で、あまり役に立ちそうにない。

 が、彼女には情報処理と風紀委員の経験がある。
 コンピューターなどの機材はないものの、状況把握や分析の力はある。
 ひょっとしたら、彼女なりにこの空間がどんなものかを割り出して、脱出方法を見つけ出しているかもしれない。


 佐天(それに比べて、あたしは――)

 思うと、情けなくなってくる。
 ついには――涙が出て来そうになった。


699 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:07:51.72 ID:V2y35J6e0

 ??「まあ、貴女は一生懸命がんばってみてはどうですか。もっとも、それも無駄になるでしょうけど」

 そんな佐天を見下ろしながら、女生徒はクスクスと笑い出す。
 あざ笑いだす。


 ??「せいぜい、死ぬまで一生懸命あがいてくださいね」

 女生徒の姿が、じわじわと薄くなる。
 まるでホログラムの映像がフェードアウトするかのように。

 そして――1分もしないうちに、姿は完全に消え去ってしまった。


 佐天「…………」

 目には涙が浮かんでいた。
 拳を握り締めながら。
 下唇をぎりぎりと噛み締めながら。

 女生徒が消え去って、何もない空間を――ただ睨みつけていた。


700 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:08:19.98 ID:V2y35J6e0

 佐天「……ふ……ふ……」

 直美「え……?」

 佐天「……ふざけるなあああ!!」











             ドンッ!!










 傍の壁を乱暴に蹴った。
 直撃した木の壁が割れるのを感じた。
 その上のモルタルの壁も、振動で粉を舞い散らせる。

 さらには、壁に貼り付けられた、1枚の貼り紙も剥がれかかる。

701 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:08:48.74 ID:V2y35J6e0







         『おめでとう!

          心から祝福する


          おめでとう!

         心から祝福する


          君の死を待つ

       みんなで死ねばまた会える

         そうしたら克服だ!』





702 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:09:18.90 ID:V2y35J6e0


 佐天「いい加減に……しろおおお!!」

 貼り紙に手を掛けると、一気に引っぺがした。
 そして、力任せに引きちぎる。

 それでは飽き足らずに、何度も何度も。
 紙片の文字が見えなくなるぐらいに。

 貼り紙を細かく、破いていた。



 直美「あ、アンタ……」

 そんな佐天の蛮行に、一種の怯えを感じていた。
 びくびくしながら、じっと見上げてくる。


 佐天「……すみません」

 粉々に破り裂いた貼り紙を床に投げ捨てる。
 細かくなった紙片は、足元に散乱しだした。

 そして、なおも興奮が醒めやらない様子で肩で息をして。
 その近くで蹲りながらも見詰めてくる、直美の顔をじっと見詰めて。

703 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:10:42.57 ID:V2y35J6e0

 佐天「つい、気が立ってしまって」

 直美「ううん。あたしだって、同じ気持ちだったから」

 佐天「とにかく……」

 顔を再び、女生徒がいた方向に向きなおす。
 廊下が少し伸びていて、その先には下に下りる階段が続いていた。


 佐天「こんなところでじっとしていても、仕方がないですから……行きましょう」

 直美「え?どこに?」

 佐天「なんとか、ここから脱出する方法を探しに。じっとしていても仕方がないですから」

 その表情からは、すでに怒りの色は失せていた。
 ただ、何かを決意したように、口を真一文字に引き締めて。
 先に続く階段を、キッと見詰めていた。

 そして――直美の方へと、左手を差し出す。


 直美「……うん」

 ゆっくりと差し出された手をつかみ出す。
 そして――力なく立ち上がりだした。

 
 
704 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/05(日) 23:13:43.16 ID:V2y35J6e0
本日の投下はここまでです。
さて、現状はある程度sageにて行っていますが、そろそろageっぱなしで投下したほうがいいのでしょうか?
ご意見をいただければ幸いです。

構ってちゃんみたいなことを言うようで、すみません。
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 23:32:08.45 ID:4z295AuG0
乙!
毎度毎度緊張するスレだ

ageてくれた方が読者としてはありがたいっす
更新に気がつかない時もありますので
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/06(月) 01:45:30.51 ID:yviEfo8zo
投下の最後とか後とかにageるだけで良いと思いますよ〜

乙!
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/02/07(火) 14:07:36.77 ID:oEtSz5vEo
おつおつ
これ佐天さん覚醒フラグなん?

専ブラだからageでもsageでもいいけど最近禁書SS減ってる気がするから景気づけも兼ねてageでお願いしたい
708 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/09(木) 23:08:44.73 ID:KRdkmy6b0
数々のご意見、誠に感謝いたします。
総合して考えて、投下開始時および投下終了あたりでageることにしますので、よろしくお願い致します。
では、本日の投下に参ります。
709 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/09(木) 23:09:26.99 ID:KRdkmy6b0







     ギィ……








           ミシ……









710 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/09(木) 23:09:55.38 ID:KRdkmy6b0

 直美「ねえ。脱出する方法なんて言ってたけど……」

 背後から不安げに訊ねてくる。
 足を乗せるたびに、木のステップを軋ませながら。


 佐天「…………」

 訊きたいことは分かる。
 それこそいやと言うぐらいに。

 ――そんなあてはあるのかと。


 が――正直言って、答えはNOだ。

 当たり前だ。
 この空間(ばしょ)がどこなのすら、いまだに分かっていない。
 ましてや、脱出方法なんて――見当が付くわけがない。


 でも――。


711 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/09(木) 23:10:27.92 ID:KRdkmy6b0








       ……ギィ……







              ギシッ……








 佐天「そんなのがあるかなんて、正直分からないです。だけど……」

 時折手すりに手を掛けながら、階段を下りる。
 壁はおろか、階段のステップも崩れたりしているので、足元に注意して。
 恐る恐る、軋みをあげさせながら、足を踏み出していた。


712 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/09(木) 23:11:04.46 ID:KRdkmy6b0










               ……ギギッ









     バキッ!!









 ステップの一つに右足を乗せた途端。
 足はそのまま、朽ちた床板を踏み抜いてしまった。


713 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/09(木) 23:11:57.57 ID:KRdkmy6b0

 佐天「うっ!!」

 バランスを崩し、体が前のめりになる形になる。
 すかさず、受身の態勢をとろうと、手を突き出そうとする。

 同時に思わず想像してしまう。
 そのまま階段を転げ落ちるといった展開を。

 ――無意識のうちに、目を強く瞑った。




 が――体にやってきそうな衝撃は来ることがなかった。
 左腕を掴まれて、引き止められる感覚がする。




 直美「……はぁ……はぁ……」

 息を切らせながら――両手で佐天の左腕を掴んでいた。
 脆い木の階段に両足を踏ん張らせながら。


 佐天「…………」

 今起きたことが、やっと把握できた。
 転げ落ちそうになったのを、すかさず引き止めてくれたのだった。
 もしそれがなければ、そのまま転がり落ちてしまっていただろう。
 そうなったら、ただでは済むわけがなさそうだった。
 骨折か――最悪、落ち方によっては命を落としたかもしれない――。

714 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/09(木) 23:12:35.38 ID:KRdkmy6b0

 直美「ううっ……くっ!!」

 体を支える両足が震えている。
 とりわけ、左足が今にも段からずり落ちそうなぐらいになっていた。

 捻挫した足。
 その状態で、佐天の体重を支えているものだったから――そこにかかる負担は、かなり大きい。
 案の定、傷ついた足は、容赦なく痛みを発している。
 なんとかこらえていたものの、その激痛の程度は計り知れない。
 脂汗を額から流しながら、必死の形相になっていることから、それが容易に窺える。
 もはや、我慢の限界を超えそう――いや、とっくに超えているといってもおかしくなかった。


 佐天「うっ……ううっ……」

 すかさず、右手で傍の手すりを掴む。
 手すりの木材も、所々で崩れていたり割れていたりとしていた。
 体重をかけたら、そのまま折れてしまうのでは――と思えた。

 が、そんなことは言っていられない。
 強く握り締めると、右手に力を入れて、なんとか体勢を立て直そうとする。

715 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/09(木) 23:13:23.16 ID:KRdkmy6b0

 佐天「す、すみません……放してもらえますか?」

 直美「う……うん……」

 息を切らせながら、ゆっくりと佐天の腕を掴んでいた手を放す。
 一瞬、佐天の体が崩れかかった。


 直美「――!!」

 ひゃっとした。


 が、佐天はすぐに左手を階段のステップに手をつける。
 そして、アンバランスな状態でゆっくりとだが――踏み抜いた右足ごと、体を引き上げた。


 佐天「ううっ……はぁ、はぁ……」

 息を切らせながら、なんとか立ち上がる。
 すかさず、左手も手すりに乗せて、前方向にもたれ掛るような体勢になる。


716 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/09(木) 23:14:29.01 ID:KRdkmy6b0

 直美「ひっ……あ、アンタ……」

 佐天「……どうか……しましたか」

 表情を強張らせながら、佐天の右足を見詰める直美。
 それに連られて、そこに目を向けると。


 ――右足のふくらはぎから、幾筋の血が流れていた。

 踏み抜いたときに、尖った破断面で切ってしまったのだろう。
 スカートの下の足は、直美と同様、素肌をさらした状態なのだから。
 ばっくりと開いた傷口から、絶え間なく血が染み出してくる。


 佐天「ううっ……痛っ……」

 直美「と、とにかく踊り場まで行って……」

 痛がる佐天の左腕を肩に乗せると、そのまま階段をゆっくりと下りる。
 捻挫した左足がじんじんと痛み出すが、なんとか我慢して。


 佐天「本当にすみません……」

 直美「いいのよ。それより、足元をよく見て。そこ、穴が開いているから」

 佐天「は、はい……」

 右手を手すりに掛けた状態で、直美と歩くリズムを合わせながら、階段を下りる。
 幸い、踊り場までの手すりは折れている気配はない。

 ゆっくりと、階段に足をかけながら――なんとか階段を下りきった。
 途端に、二人とも踊り場に腰を下ろす。


717 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/09(木) 23:15:22.15 ID:KRdkmy6b0

 直美「と、とにかくハンカチかなんか……」

 左足にはいている靴下のあたり。
 1枚ハンカチが巻かれていた。
 その下には、ハンカチに隠れるように、小さな木片が挟み込まれている。

 足をくじいて、保健室に来たときに。
 世以子が直美のために、探してきた木材を、持っていたハンカチで結わえたのだった。


 そして――世以子の死に直面した直後に、階段から転がり落ちて。
 木材は一部が割れてしまって――ハンカチに覆われるだけの長さになっていた。

 佐天の足の傷を覆おうとして。
 自分のハンカチなのだが――解こうとしたときに、どこか複雑な気分になった。
 

 佐天「いや、そこまでしなくていいですよ……あたしもハンカチ持ってますから」

 その現場を見たわけではない。
 が、直美が一瞬見せた表情の変化から、なんとなく察するものがあった。
 ハンカチを持っていたことを思い出し、スカートのポケットに手を突っ込む。

718 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/09(木) 23:17:00.85 ID:KRdkmy6b0

 佐天(――!!)

 ハンカチと同時に、別のものが指に触れる感触がする。
 ピンのような――。

 それが何だか、一瞬で思い出した。


 保健室と理科室の間の廊下で見た――肉片がぶちまけられた壁のあたりに落ちていた、名札。

 恐らくは、その肉片の主のもの。

 そして――。




 直美の付けている名札と同じ形状のもの。






    ――2年9組 鈴本繭。






 直美のクラスメートのもので――間違いはないだろう。


719 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/09(木) 23:17:33.56 ID:KRdkmy6b0

 佐天「とりあえず、これで……」

 とにかくまずは、ハンカチをポケットから取り出す。
 そして、右足の傷に強く巻きつける。

 傷口に接した白いハンカチは、一瞬にしてじわじわと赤く染まっていく。
 が、これ以上の効果を期待しても、仕方がないだろう。


 直美「少し休んでから、行こっか」

 佐天「すみません……」

 安堵したのか、少しだけ顔をほころばす直美。
 そんな彼女を見て、ますます複雑な気分になった。

720 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/09(木) 23:18:00.17 ID:KRdkmy6b0

 佐天(名札のこと……言った方がいいのかな)

 安直にやれるものではない。
 ましてや、少し前に親友の死と、死体の消失に直面した彼女に対しては。

 クラスメートのさらなる死の事実。
 知らない方が良いということもある。

 さらには、そのクラスメートのものだとも限らない。
 たまたま、あの現場に出くわして、びっくりして落として。
 そのままどこかに行っただけかもしれない。

 そういった間違いを伝えようものなら――本当に冗談では済まされない話だ。


 佐天「…………」

 だが、このまま隠したままでいいというものでもない。
 いっそのこと、知っておいた方が、後でその事実に直面した時には、幾分か楽だろう。
 さらに、そのクラスメートが単に落としただろうという話も考えられるわけだし。

 一つ息をついた。

 そして――

 
721 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/09(木) 23:22:49.00 ID:KRdkmy6b0
本日の投下はここまでです。

さて、この後に以下のように選択肢が続きます。


A:佐天「さっき拾ったんですけど……」

 ポケットに手を突っ込み、恐る恐る名札を取り出した。

B:佐天「…………」

 何も言わず、そのまま右足に結わえたハンカチに手を乗せた。

安価は>>723にてお願い致します。
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/02/09(木) 23:26:52.69 ID:g2YDR6uMo

そして踏み台
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/09(木) 23:35:47.89 ID:/v0rfdk00

そしてあえてのA

ドキドキするなぁ
724 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/15(水) 23:07:29.73 ID:vWf0XvzH0
では、続きを>>723のAにて投下いたします。
725 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/15(水) 23:08:27.75 ID:vWf0XvzH0

 佐天「さっき拾ったんですけど……」

 ポケットに手を突っ込み、恐る恐る名札を取り出した。
 名札の所々に付いていた血痕は、時間が経過したのか、すっかり乾いて黒ずんでいる。
 その下には、はっきりとその持ち主の名前が書かれていた。


 直美「す、すずめちゃん!?」

 その名前を目にした途端、顔を強張らせる。
 まるで信じられないと言いたげな様子で、その名札をじっと見詰める。

 そして目を上げて。



 直美「アンタ……これどこで拾ったの?」

 今にも掴みかかりそうな勢いで、佐天に迫ってきた。
 息を荒げながら、問い詰める。


 佐天「……この階段の先の……理科室を通り過ぎた先の、廊下が曲がっている所で……」

 直美「廊下が曲がっている所って……あっ!?」

 思い当たって、はっとする。
 確か、その場所には――。

726 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/02/15(水) 23:10:03.35 ID:vWf0XvzH0

 嫌というぐらいに漂う、悪臭。

 絶え間なく耳障りな音を撒き散らしながら、周囲にたかる無数の蝿。

 壁一面に塗りたくられた、赤い血。

 床いっぱいに広がる、血だまり。


 その血たまりに浮かぶかのように、面一杯に埋め尽くしている、肉塊。

 所々に見える、血を吸って赤く染まった布切れ。


 壁にぶちまけられて、文字通り粉々になった――人間。


727 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/15(水) 23:10:29.38 ID:vWf0XvzH0


 壁にぶちまけられて、文字通り粉々になった――人間。


 思い出すだけで、気持ち悪さがこみ上げてくる。
 目にしたときに襲ってきた、吐き気さえも。


 そして――
 






728 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/15(水) 23:11:09.60 ID:vWf0XvzH0
 











   ア レ ガ 、 ス ズ メ チ ャ ン ダ ッ テ 、 イ ウ ノ ?












 
729 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/15(水) 23:11:40.35 ID:vWf0XvzH0
 
 直美「いや……そんな……」

 小刻みに全身を震わせる。
 表情はくしゃくしゃといっていいぐらいに、歪ませて。
 今にも泣き出しそうになっていた。


 佐天「ち、ちょっと。どこに行くのですか?」

 直美「……すずめちゃんの……ところ……」

 突然のことに驚く佐天を尻目に、力なく立ち上がって――そのまま、階段を下りはじめた。
 時折ふらつきながら、しかも階段にも点在する崩壊箇所に足を突っ込みかけたりもしていた。
 見ていて、危なっかしい。

 思わず、佐天も直美の後を追いかけだした。
 いまだに右のふくらはぎが痛むものの、そんなことは言っていられない。


730 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/15(水) 23:12:30.45 ID:vWf0XvzH0

 直美「……すずめちゃん……そんなことないよね……」

 うわ言のように、小さくつぶやきながら、なおも一段一段階段を下りていく。
 後ろから見ていると、気力はすでになく、魂すら抜けきった感じにさえ思える。


 佐天(……やっぱり……まずかったかな……)

 そんな直美を追いかけながら、内心舌打ちをする。
 すずめちゃんというのは、口にした内容からして、クラスメートのあだ名だろう。





 ――この先で、バラバラの肉塊に成り果てた。


 ――クラスメートの鈴本繭って娘の。




 それを悟った瞬間――かなりのショックを受けたようだ。

731 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/15(水) 23:13:10.74 ID:vWf0XvzH0


 当然だろう。
 ましてや、直前にも親友の死を目の当たりにしているというのに。

 それを考えれば。
 あの場所で落ちていたと、名札を見せれば――さらなる親友の死という、あまりに冷酷な事実を突きつけるようなもの。
 分かりきったことなのに。

 あまりに軽はずみだったと後悔しながら――前を行く直美の後を付いていった。


 階段を下りきった先は、廊下が二手に分かれていた。
 そのまままっすぐ伸びているのと、右に折れているのと。

 右に折れている廊下は、確かすぐ先にある教室の入口あたりでまるごと抜け落ちているはず――ではなかった。
 所々で崩れかかっているものの、歩くのには支障がない様子だった。
 入口の前はおろか、その先まで床板は伸びている。


732 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/15(水) 23:13:40.69 ID:vWf0XvzH0

 佐天(あれ……さっきと違うような……)

 自分の記憶と、現実の差異に違和感を感じる。


 が――深く追求している余裕はなかった。


 直美「…………」

 そうこうしている間にも、まっすぐに伸びる廊下を先へ先へと進んでいく。
 右手に折れる廊下からは目を離し、すかさず直美の後を追った。

 理科室の前を通り過ぎ。
 二人の姿は、闇に閉ざされた廊下の奥へと消えていく。

 それを見守るかのように――階段脇の壁に、1枚の貼り紙があった。
 端々が破れかかっていて、茶色くなっている。


 そこには――


 

733 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/15(水) 23:14:19.03 ID:vWf0XvzH0












                    『 お ま え た ち は




                       ほ ん と う は




                   お 互 い の こ と が キ ラ イ




                         い ず れ









                       こ ろ し あ う 』









 破れかかって、黄ばんだ紙に――褐色の文字が刻み込むように書かれていた――。


734 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/15(水) 23:14:55.93 ID:vWf0XvzH0

 理科室を通り過ぎ、しばらく進むと、廊下は右へと折れていた。
 記憶が確かなら、その先には――


 直美「……これが……すずめちゃん……」


 ――あの肉塊が、壁や床にぶちまけられた一帯のはず。

 折れた廊下の先から、力なくつぶやくような声が聞こえる。
 姿時は見えなくても、かなりのショックを受けたのは容易に想像できる。

 あのグロテスクな肉塊は、探しているクラスメートのものだなんて。
 受け入れるには、あまりに残酷すぎて。
 いや――到底受け入れられるものではないだろう。


 佐天「…………」

 何て声を掛けたらいいのか分からない。
 そんな気持ちのまま、まもなく廊下の曲がり角にさしかかろうとしていた。

 そのまま曲がろうとしたとき、かかとで何かを蹴った気がした。
 が、そんなことは気にしていられない。

735 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/15(水) 23:15:23.12 ID:vWf0XvzH0


 血生臭さ。

 嘔吐物特有のすえた臭い。

 いまだに鼻を覆いたくなるほどの、それらの悪臭が漂う廊下。


 忙しそうに飛び回る無数の蝿。

 羽音があちこちから響き渡り、それだけでも掻き立てられる不快感。


 曲がった先には、壁にぶちまけられた赤。

 床にも延々と染み渡っている、赤。

 その上には、赤黒くなった得体の知れない物体が、積もっていた。
 


736 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/15(水) 23:16:23.55 ID:vWf0XvzH0


 直美「……や……」

 戦慄しながら、その物体を見詰めようとしていた。
 が、それも耐えられないのか、目をそむける。



 そして。



 直美「もう、いやああああああああああ!!」

 ありったけの声で、はちきれんばかりの悲鳴を上げた。
 全身から力が抜け、ふらついて。
 そのまま、肉塊のに向かって倒れ掛かって。


 佐天「…………」

 何もいえないまま。

 が、咄嗟に、直美の体を抱きとめた。
 なんとか、倒れるのは免れた――わけだが。


737 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/15(水) 23:17:06.92 ID:vWf0XvzH0









            ドンッ!!









 佐天「うぐっ!!」

 いきなり、左手で佐天を突き飛ばした。


738 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/15(水) 23:17:39.57 ID:vWf0XvzH0

 佐天「ててて……」

 咄嗟に足を踏ん張ったので、倒れることはなかった。
 すぐに体勢を立て直す。

 その時、直美の表情が、ちらりと見える。



 佐天を睨みつけていた。

 ありったけの憎悪を瞳にこめて。


 佐天「――!!」

 一瞬、その場に凍りついた。
 蛇に睨まれた蛙のように、身動きが取れない。

739 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/15(水) 23:18:44.56 ID:vWf0XvzH0

 直美「……すずめちゃんまで……もう、嫌よ……」

 顔を佐天から背けて。
 誰に言おうというものでない、独り言をつぶやいて。


 直美「あたし……どうしたらいいのよ……世以子ぉ……」

 ふらふらと歩き出す。
 焦点の合わない瞳で、ただぼんやりと廊下の先を眺めていて。


740 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/15(水) 23:19:13.76 ID:vWf0XvzH0


 直美「いやあああああああああ!!」

 再び悲鳴を上げながら、廊下をもと来た方へと駆け出していった。
 泣きじゃくりながら、わき目も振らずに。


 佐天「…………」

 いまだに何も言えない。

 ただ、先程の金縛りのような感覚は解けたのだろうか。
 右手をゆっくりと前に突き出して。


 そして。

741 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/15(水) 23:24:10.87 ID:vWf0XvzH0
本日の投下はここまでです。
なお、>>721のBは少し違ったやり取りにはなりますが、結果として>>740に至る形になります。

続きですが、以下のような選択肢になります。


A:佐天「…………」

 動かずに、廊下の奥に消えていく直美を見送った。

B:佐点「ちょっと!!」

 身を乗り出して駆け出し、直美の後を追った。


安価は>>743にてお願い致します。
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/15(水) 23:30:03.80 ID:Qk98Ap7Eo
B
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/15(水) 23:54:25.89 ID:w8CdkqlK0
……ひとりになってはいけない、ひとりになってはいけない、ひとりになってはいけない……。
……ぜつぼうしてはいけない、ぜつぼうしてはいけない、ぜうぼうしてはいけない……。

と言う事でBで
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 00:22:13.54 ID:5gztHICSO
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/02/20(月) 23:17:25.23 ID:5p+Dwt5G0
面白くて一気読みしてしまった
正直、上条さんや一方通行がいてさえ生き残れるか怪しく感じるのは容赦なく叩きつけられるwrongENDのおかげ
フラグ立った端から骸になる様が浮かんでゾクゾクする。
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/21(火) 21:57:10.43 ID:zkH90aHN0
red_resが出るたびに心臓が止まりかける

素晴らしい
747 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/29(水) 23:06:51.85 ID:hJjZeOML0
お待たせしました。
さまざまな声援、感謝であります。
そして、なにより読んでくださって、大いに感謝であります。

>>743をBにて、続きを投下いたします。
748 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/29(水) 23:07:57.09 ID:hJjZeOML0


 佐天「ちょっと!!」

 身を乗り出して駆け出し、直美の後を追った。

 が――。



 佐天「うわわっ!!」

 地に付けようとした踵が、急に前へと滑り出す。
 思いっきり足元を掬われて。
 背中から上半身が倒れこむようになり。









        ドンッ!!








 佐天「うっ!!」

 思いっきり、床に尻餅を突いてしまった。
 臀部に鈍い痛みが伝わり、思わず呻き声をあげてしまう。

 が、まだましな方かもしれない。
 所々で崩れ落ちたり、木材がささくれ立ったりしている床。
 また、そういった所に尻餅を突かなかっただけでも、十分に良かったと言えるだろう。

749 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:08:28.44 ID:hJjZeOML0

 佐天「てて……」

 衝撃で鈍く痛み出す尻に手をやりながら、ゆっくりとさする。
 立ち上がろうとしたが、痛みで足にあまり力が入らない。
 先程の膝や右のふくらはぎの痛みも十分には治まっていないので、なおさらだった。

 そうこうしているうちにも――直美の姿は、みるみるうちに廊下の奥へと消えていく。










        ギギッ……ギィギィ……









 駆け出す音が、床の軋みとして耳につく。
 が、それも数分もしないうちに小さくなっていき――やがて消えた。


750 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:09:15.87 ID:hJjZeOML0

 佐天「…………」

 そんな様子をただ見詰めているしかない。

 が、すぐに我に返る。
 なおも右足や臀部から発する痛みをこらえながらも、床に手を付く。
 そのまま、立ち上がろうとした時――


 佐天(……ん?)

 目の前に何か光るものが目に入った。
 天井からいくつか吊り下げられた古めかしい照明はあるものの、まばらにしか点いていない。
 蛍光灯が填められていても故障していたり、場合によっては照明自体が天井から落ちかかっていたりしていた。 
 生きている照明の照らされた箇所以外は、闇に閉ざされているといってもいい。

 物体が落ちていたのは、蛍光灯が灯っている箇所からやや離れた所。
 それが具体的に何なのかは分からない。
 ゆっくりと立ち上がると、その方向へ恐る恐る近づいていく。


 佐天(乾電池……かな?)

 金属製と思しき、長さ5センチほどの小さな筒状の物体。
 手に取ってみると、冷たくひんやりとした感触。
 筒の端には突起状の感触があることから、何となく乾電池だと想像したのだった。

 蛍光灯の光がある場所は――丁度、あの肉塊が散乱している一帯を通り過ぎたあたり。
 クランク状に折れた廊下の先から漏れる光の所に、それが何かを確かめるために――件の箇所を通る気にはなれなかった。

 あとは、3階への階段と左へ折れる廊下が交わる手前辺りの照明が灯っているのが見える。
 距離にして50mくらいだろうか。
 そこで手にした物体が何かというのを確かめようと、歩き出した――その時。

751 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:09:42.48 ID:hJjZeOML0











      コツン……










                 コロコロ……













 佐天「ん?まだ何かあるみたい……」

 つま先で何かを蹴った感触がした。
 何気なくかがんで、それが何かを確認しようとする。

752 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:10:23.49 ID:hJjZeOML0

 10センチ位の、細い筒のようだった。
 遠くの蛍光灯の光を受けて、一瞬だがまぶしく光を反射した。
 よく見ると、筒の一端が一回り大きくなっている感じだ。

 それを手に取ろうとしたとき――廊下の端のほうが、一瞬光ったのが目に入る。
 注意して目を凝らすと、壁に近い床の割れ目にはまるように、丸い形の物体があるのを見つけた。


 佐天(なんか、いろいろ落ちてるけど……)

 とりあえず、筒状の物体を手にする。
 指先に冷たい感触。
 金属製のようだった。

 先程拾った小さい筒状の物体とあわせて、スカートの右側のポケットに押し込む。
 そのまま、丸い物体が落ちているらしき、床の割れ目の箇所へと歩み寄った。


753 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:10:50.99 ID:hJjZeOML0

 佐天(何だろ、これ……)

 その丸い物体のところでかがんで、拾い上げる。
 割れ目にははまっていたものの、変に引っかかっているということもなく、簡単に拾い上げた。

 やはり冷たい。
 だが、先程の筒状の物体とは違った感触が指に伝わる。
 金属製ではなく、ガラスといった感じだ。
 さらに言うなら、それはまん丸というのではなく、むしろ丸い壜のような形。

 先端からは別のものが出ていて――やや硬くてざらざらしていた。
 強いて言うなら、ひものようなものが突き出ている、といったところか。

 さらには、ぬめったような感触までする。
 ひののようなものから指を離しても、そのぬめりは残っていた。


 佐天「…………」

 それを手にしたまま、とにかく廊下を歩き出した。
 直美が走り去っていた方向へと。

754 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:11:21.93 ID:hJjZeOML0
 
 3階に上がる階段のあたり――左に伸びる廊下が分かれる交差点の丁度手前付近。
 天井から吊り下げられた、2列の蛍光灯は生きていて、朽ちた廊下や床を冷たい光で照らし出している。

 改めて、先程拾い上げた物体が何かを確認する。


 佐天「アルコールランプだよね……これ」

 まず手にした丸い物体。
 それは、小学校の理科の実験などで見覚えがある――アルコールランプだった。
 薄汚れたガラスの丸い壜に、その先から突き出た焦げた芯。
 中には、3分の1ぐらいの容量の、アルコールが残っていた。
 指先に付いたぬめった感触とは、芯に沁み込んでいたアルコールが指先に付いたものだろう。

 明かりに使えそうだ。
 ただ、周囲を見回して見ても、火種になるようなものが見当たらない。
 とにかく手にしたままというのも何だから、スカートの左側のポケットに押し込む。

755 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:11:51.85 ID:hJjZeOML0

 続いて、右側のポケットに押し込んだ物体を手にする。
 それは――1個の単3型電池と、1本のペンライトだった。
 

 佐天(お?これなら使えそうかも……)

 照明が付いている側とは、逆にあたる端がフタになっている。
 ネジ状になっていて、それを捻る。
 フタは難なく回り、外れた。

 中は空洞になっていた。
 フタの内側にバネが付いていることから、電池を入れるスペースになっているのは明らかだった。
 早速、電池を空洞の中に入れてみた。
 電池はすっぽりと入り込み、空洞の奥へと消えていく――のだが。


 佐天「これも使えないじゃん……半端っつーかさ……」

 誰に言うのでもなく、小さく愚痴をこぼす。

 穴の大きさは、丁度単3電池がすっぽりと収まるサイズ。
 だが――ペンライトの長さからして、電池はさらに要るようだった。
 少なくとも、あと1本は欲しい。

 が、そんなに都合よく――周囲を見回しても、落ちている訳がなかった。


756 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:12:24.39 ID:hJjZeOML0

 佐天「はぁ……」

 小さくため息を吐く。
 ペンライトの中にしまった電池を取り出そうと、穴を下に向ける。
 電池は簡単に落ちてきて、佐天の掌の上に転がる。
 そして、電池をしまおうと、掌に目をやった――その時。


 佐天「え……これって……」

 電池に書かれていた文字が目に入った。
 それに思わず驚きの声をあげる。

 電池の側面には、いろいろと文字が書かれていた。
 その中にあった、製造元の住所の記載。









    ――学園都市、第19学区。








757 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:12:50.63 ID:hJjZeOML0

 佐天「ちょっと待ってよ……ここに学園都市の人が……」

 驚きを隠せないのも当然だった。

 基本的に、学園都市の製造物は、外部には流通しない。
 さまざまなものを試作しては、学園都市の住人に試すからである。
 外界とははるかに先を進んだ――正真正銘の最新鋭の技術を用いているものが多い。
 そんな技術の漏洩防止の観点から、原則門外不出となっている。

 現に、学園都市の学生が外部に帰省しようとしたときに、さまざまな厳しいチェックを受けると聞く。
 そうしたものを持ち出さないように、体の隅々まで徹底的に確認されるという。
 現に夏休み前の終業式でも、学園都市の製品を持ち出すなと、担任が口すっぱく言っていたのを覚えていた。


 だから――ありえない。
 こんな空間に学園都市の製造物が転がっているなんてことが。


 そして――はっきりと言える。
 ここに迷い込んだ学園都市の住人の誰かが落としたということが。



758 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:13:22.57 ID:hJjZeOML0

 佐天「初春が……それとも、御坂さん?白井さん?」

 少なくとも、佐天自身は電池を持っていなかった。

 あのおまじないを実行する前も。
 地震が起きて、教室の床が割れて――この空間に連れてこられた時も。

 となると考えられるのは……。


 同じようにこの空間に監禁された――初春と、黒子と、美琴。
 知る限り、この空間に迷い込んだ学園都市の人間は、佐天を入れてこの4人だけ。
 
 ということは、この誰かが持っていたのを――落としたということだろうか。


 佐天「ちょっと待ってよ……ってことは……」

 そこで思い出される。

 先程、3階の男子トイレの前に出現した――あの不気味な女生徒の霊の言葉。
 そして、佐天の頭の中をせわしく駆け巡る――いや、ぐちゃぐちゃに渦巻く思考。


759 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:14:17.58 ID:hJjZeOML0







            「……生きているのは彼女だけになってしまったのです」








                    ――なんっつーかさ……








              「死ぬまで一人ぼっちだったはずなのですけど」











                ――思えば、おかしいよ……これって。











            「――貴女と一緒になれた。喜ばしいことじゃないですか」











                ――言ってる端から、矛盾してるし。










760 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:15:23.38 ID:hJjZeOML0











    「まだ、分からないのですか?一緒にここに監禁されたお友達とは、死ぬまで会えないということですよ」












          ――死ぬまで一人ぼっちのはずの中嶋さんと、あたしが一緒になれたのはなぜ?











    「多重に重なったこの霊場で、離れ離れになった者同士が出会うことができるなんて、不可能も同然です」










            
               ――つーか、この電池は誰が落としたっていうの?









 
761 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:15:51.69 ID:hJjZeOML0









                       「ずっと別々」
    








            ――これを持っているのは、学園都市の人間しかありえないんだけど。
                 











                 「永遠に出会うことはないでしょう……」









            ――ここにいる学園都市の人間ってさ、あたし達4人だけじゃないの?









 さらに思考をめぐらせる。
 憶測の域を出ないものの、言葉を思い出すたびにそれに対する疑問がわきあがる。

 そして――導き出される解答と思えるものも。




762 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:16:41.06 ID:hJjZeOML0


 佐天(――この空間にいたんじゃないの?初春か、御坂さんか、白井さんが。つーか、それ以前に……)

 なおも思考をめぐらせる。
 次々と脳裏に繰り返される、男子トイレ前での――あの女生徒とのやりとりが。     









             「この空間で生きているのは、そこの人と貴女だけです」









             ――そうだっつーのならさ、一つ聞きたかったんだけど……










763 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:17:53.25 ID:hJjZeOML0










               「あなたのお友達……能力を使えるみたいですね」










                ――なんで、アンタがそれを知ってるわけ?



               ――まるで見てきたかのような口ぶりだけどさ……


        
               ――おかしいじゃん、どう考えても。だってさ……








          
             「それに対して、あなたはごく普通の人間。特に能力もない」









       ――そもそも、あたしが無能力者(LEVEL0)だなんて、この空間に来てから誰にも言ってないし。




               ――じゃあ、あの女はどうやってそれを知ったわけ?




            ――あの制服、学園都市では見たことのない学校のものっぽいし。





764 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:18:48.11 ID:hJjZeOML0
  
 佐天(もっとも、幽霊だなんてつってたから、特殊な能力で察知したとかはあるかも知れないけど……)







            ――それ以外なら、あの3人に聞かないと分からないことだよね?








                 ――初春たちは、この空間にいるわけ?









               ――そうじゃないんってなら、おかしいよね?









   「多重に重なったこの霊場で、離れ離れになった者同士が出会うことができるなんて、不可能も同然です」









            ――アンタの行動が、アンタの言ったことと矛盾してるじゃん。








                 ――それでも、違うっつーなら……







          ――アンタが多重に重なった空間を渡り歩くことができるわけかな?








          ――そんなのができたら、いろんな意味で素晴らしいよ、マジで。





765 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/02/29(水) 23:20:19.88 ID:hJjZeOML0

 小さく息を吐く。
 手にしていた電池だの、ペンライトだのをとりあえずポケットに押し込む。


 佐天(そうだとははっきりとは言い切れないけど……)

 目に前に広がっている、廊下の交差点を見回す。
 陰鬱な雰囲気が漂っているのは、相変わらずだった。

 やることは一つ。




 佐天(あの幽霊……何かしらのことを知っているかもね。徹底的に聞き出してやろう)

 小さく拳を握り締めると、目の前に広がる空間を眺め回す。

 3階に登る階段。
 左へと折れる廊下。

 そのすぐ先には、入口の朽ちた引き戸が半分開いている、教室。
 手前側には、火の灯ったロウソクが置かれている。
 なお、廊下を少し進んだ先――教室の後ろの出口の周囲がごっそりと抜け落ちていた。
 廊下自体は、わずか幅1mほどの床板を残している状態だった。
 気をつけて歩いたとしても、崩れ落ちないか不安を覚えてしまう。

766 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/29(水) 23:20:58.74 ID:hJjZeOML0

 佐天「とはいえ……どこに行ったんだろ……それより」

 大きく息を吐いて、下をうつむきだす。


 佐天(中嶋さんもどこ行ったんだろう……いくらショックを受けたとはいえ、一人っきりは危ないって)

 さらにため息をついて、階段と教室の入口を交互に見回す。
 どちらにも人の気配はない。
 さらにどちらも、照明は灯っていなく、闇に閉ざされていた。


 佐天(とにかく、明かりになるものがあったらいいよね)

 ポケットからアルコールランプを取り出して、教室の入口脇にあるロウソクまで歩み寄る。
 小さくしゃがんで、アルコールランプの芯をロウソクの炎に近づける。

 途端に、黒ずんだ芯に赤みを帯びた炎が立つ。
 ロウソクと違って、熔けた蝋が垂れ落ちる心配はない。
 底の方を持ちながら、どこへ行こうかと考えていた――その時。

767 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/29(水) 23:21:33.40 ID:hJjZeOML0










 直美「世以子……どこにいるの……」










 かすかな声だが聞こえた。
 ――半分開いた教室の引き戸の奥から。

768 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/29(水) 23:22:03.58 ID:hJjZeOML0

 すかさず、引き戸に手を掛けて、一気に力を入れる。
 戸はすんなりと開いた。


 佐天「中嶋さん!?」

 引き戸の奥に広がる闇に足を踏み入れる。
 教室の中は、照明が灯っていなく真っ暗だった。
 が、手にしていたアルコールランプの炎が、その闇を消し去るかのように、広く周囲を照らし出す。

 散乱した机や椅子。
 所々で朽ち果てたり、裂けたり、めくれあがったりしている床。


 直美「……返事してよぉ……」

 当の本人は、教卓の陰になるあたりでうずくまっていた。
 しゃがみこみながら、顔を膝の中にうずめるようにしている。
 表情こそ見えないが、泣きじゃくる顔になっているのが、声から想像できた。


 が――


769 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/29(水) 23:22:55.16 ID:hJjZeOML0

 佐天「…………」

 そんな直美を目にした途端――佐天の全身は凍りついたかのように、動かなくなった。
 背筋を嫌な汗が流れ、口元が小刻みに震えていた。




 直美ではなく――その周囲の状況を目にして。







770 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/29(水) 23:23:22.11 ID:hJjZeOML0








   「……キミも……イッショニ……ナレルヨ……」










                             「……ボク……たチと……一緒ニ……」










771 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/29(水) 23:23:47.31 ID:hJjZeOML0












          「……コノ……学校と……イっしョに……ナッタラネ……」










                             「ソウシタラ……サビしくなんか……ナイヨ……」













772 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/29(水) 23:25:57.21 ID:hJjZeOML0


 片目を抉られた、高校生らしき男子生徒。

 腹を真一文字に切り割かれて、臓器をはみ出させた女子生徒。

 片手や片足をもがれた、男子児童。

 頭を砕かれて、そこから脳髄を露出させた、女子児童。



 その他――さまざまな学校の制服を着た、生徒達。

 人数にして十数人以上。

 ひしめき合うように群がりながら。



 ――身体の一部を傷つけられたり、欠損させたりして。


 ――血や臓物のようなものを垂れ流していた。

 

 ほんのりとだが、血のように赤く体を光らせる"彼ら"は――笑いながら、うずくまる直美を取り囲んでいた。

773 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/29(水) 23:26:28.35 ID:hJjZeOML0
本日の投下はここまでです。
なお、>>461
774 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/02/29(水) 23:32:24.05 ID:hJjZeOML0
おっと、途中で失礼しました。
改めて……>>761のAはWrongENDの予定でした。

あと、学園都市の物品の持ち出しのくだりは推測で書きましたが、誤っていたかもしれません。
(能力開発や兵器などに繋がるものはNGだったはずですが……)
あやふやで申し訳ないです。

以上、失礼しました。
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/01(木) 00:42:56.70 ID:k5V+30/+0
乙。
まだ前スレ読んでる途中だけど、すんげえドキドキするなあ。
コプスパは怖すぎて途中で止めちゃったんだよなあ……
そしてどうでもいい話だけど、
魔術サイドの人間だったらこんな状況でも冷静に分析始めそうだな。
フィアンマとかアレイスターとかエイワスとかが
落ち着き払って軽々脱出すると完全にギャグになるな……

長文スマン。
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/01(木) 01:53:58.07 ID:NQiq593P0
>>775
それでも篠崎家なら…篠崎家ならそいつらも殺ってくれるはず…!

777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/01(木) 01:57:22.23 ID:lD7iNqMSO
佐天さんメンタル強すぎワロタ
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/01(木) 12:45:50.61 ID:rMeYxW+A0
>>776そんなにヤバイんか篠崎さんとやらは。
くそう、続きやりたいけど夜トイレと風呂に行けなくなっちまう……
そのへんのホラー映画なんぞより数億倍怖えからなあ
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/01(木) 14:04:20.64 ID:A/rBiTi3o
乙!

>>778
ヘッドホンつけてやればいいんじゃない?(ゲス顔)
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/01(木) 15:21:25.01 ID:1ujlF1evo
>>778
勝手に語尾を付け足せば怖くない
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/02(金) 14:50:35.39 ID:QqicKdKIO
乙です。
技術で食っている学園都市なんだから日用品持ち出しにも気を使うとは思うけどね。

学園都市との接点は今の佐天さんの希望の灯火となったようですね。
今回の4人の前に学園都市から来た犠牲者がいる可能性なんて考えたくも無いけど。
782 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/05(月) 23:00:07.53 ID:l7t1rI6p0
お待たせいたしました。
続きを投下いたします。
783 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/05(月) 23:01:18.81 ID:l7t1rI6p0

 佐天「…………」

 冷や汗を垂らしながら――ただ目の前の状況を見ることしかできなかった。


 数え切れないぐらいに漂う、ほんのりと赤く光る人影。
 単なる赤い色というより――血のような色といったほうがしっくりとくる。

 それらは人の形をしていたかと思えば、火の玉のような形になったりして、どこか安定しない。
 そして、時々声を発している――様子だが、何を言っているのか聞き取れない。

 いや、聞き取る気にすらなれなかった。


 佐天(これらってさ……ここで命を落とした犠牲者の……霊とか?)

 何気なく、そのように想像する。
 いずれの赤い人影も、見たところ小中高生の風体だった。

 そして――あちこちがグロテスクに身体の一部が損壊した様。
 恐らく、この空間をさまよって、命を落とす原因になった傷なのだろう。

784 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/05(月) 23:02:22.21 ID:l7t1rI6p0

 佐天(そういえば……赤い魂って……)

 なおも、背筋を震わせながら、ふと思い出す。

 1階をさまよっていたときに――命を落とした犠牲者の遺体の傍に落ちていた、メモ用紙。
 確か、姉に宛てたと思われる遺言だった。


 佐天(てことは、こいつら全員、邪悪な霊だっての……!?)

 無意識に一歩、後ろずさってしまう。


 ――危ない、早く逃げろ。

 そんな声が、何度も心の中で響く。
 まるで非常ベルが頭の中で延々と鳴り響く感じだった。


 佐天(この学校と一緒になんつってたけど……)

 なおも一歩一歩、後ろずさりながら、想像をめぐらせる。


 佐天(それって、ここで命を落として……こいつらみたいになるってこと!?)


 ――嫌だ。

 全身に鳥肌が立ち、息の荒さが増してくる。
 落ち着きなく動く瞳で、ちらりと教卓の方に目をやった。


785 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/05(月) 23:03:03.55 ID:l7t1rI6p0

 直美「……もうやだよう……世以子ぉ……哲志ぃ……」

 涙交じりの声で、親友の名を呼び続ける。
 周囲のことなぞ、目に入らない様子で。

 近くで戦慄している佐天や――ハイエナが獲物をたかるかのように周囲を取り巻いている赤い霊の存在なぞ、気がついていない様子で。


 佐天(何とかしてここから……でも……)


 ――近寄れない。

 どう見ても、不用意に近づける状況じゃない。
 幸い、赤い霊たちの視線は直美のほうに向いていて、佐天には気づいていないようだ。

 直美もどうにかしないといけない――と少し思うものの。
 具体的にどうするかという思考にまでは至らない。

 いや、そんな余裕はまったくない。
 あまりに異様なものが充満した、この教室。

 とにかく、一旦自分の安全を確保してから、策を考えねば。
 直美を見捨てるわけではない。
 でも、このまま突っ込んでも、ロクな目に遭わないのは目に見えているから――。

 言い訳のように、心の中でなんどもつぶやく。
 そして、一旦踵を返そうとした。




 その時。


786 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/05(月) 23:03:32.40 ID:l7t1rI6p0







    「……キミ……おいでよ」








                    「……ここにも……イた……」










          「……生きテル……奴ガいル……」












                    「……妬マしい……取リ込ん……デシマえ」









 赤い霊たちが――一斉に振り返る。

 それらの視線は――佐天に向けられて。


787 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/05(月) 23:04:24.14 ID:l7t1rI6p0



 赤い霊たちが――一斉に振り返る。

 それらの視線は――佐天に向けられて。


 佐天「しまった……!!」

 気付かれてしまった。
 一斉に向けられる、霊魂の視線。
 そのうちの何体かは、小さく何かを呟いていた。
 いずれの声も異様に低く、くぐもっていたので、具体的に何を言っているのかは分からない。
 
 苦しいだの、痛いだの。
 羨ましいだの、妬ましいだの。

 ――苦痛や怨恨を吐きだしているのは、分かった。




 そして――





788 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/03/05(月) 23:05:11.18 ID:l7t1rI6p0











    「……キミも……ボクたチと……イッショに……なろう」











 彼らは――なだれ込むように、佐天に向けて押し寄せてきた。


789 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/05(月) 23:06:11.11 ID:l7t1rI6p0

 佐天「いやああああああ!!」

 全身がぞわっと一気に逆毛立つ。
 ありったけの大きさの甲高い悲鳴を上げて、後ろへと駆け出した。

 教室の中には、他の教室や廊下と変わらず、壊れかかった机や椅子が転がっていたり、床が抜け落ちかかっていたりしていた。
 が、そんなことをいちいち気にしていられない。
 横になった机に勢いよく飛び乗り、床にやや大きく開いた穴を死に物狂いで飛び越える。

 あと少し行けば、入ってきた出入り口にたどり着く。
 そして、教室の引き戸が目に入った。


790 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/05(月) 23:07:20.89 ID:l7t1rI6p0


 佐天「な、何これ!?」

 真ん前に広がった光景に、目を丸く見開いて、眺めているしかなかった。






 ――引き戸は閉められていた。



 そして――その引き戸全体を覆い被せるように、黒い髪の毛が幾重にも巻きついていた。



 まるで――扉をなんとしてでも開けさせない、という強い意志を帯びてるように見えた。



 現に――引き戸に手を掛けてみたが、扉は1mmさえも動かない。



791 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/05(月) 23:08:17.57 ID:l7t1rI6p0

 佐天「ど、どうしよう……」

 一瞬、頭の中が混乱し出す。
 息を荒げながら、髪が巻きついた扉と、周囲の壁を交互に見回していた。

 そうこうしているうちにも――霊の群れはじわじわと迫ってきている。
 間の距離が1m、また1mとだんだん狭くなっていく。



792 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/05(月) 23:09:08.75 ID:l7t1rI6p0


 ??「……憎イ!!」

 霊の一つ――腹の裂けた男子生徒らしき赤い霊が、佐天を睨みつけ出した。
 当然のごとく、直に佐天と目が合う。


 佐天「ひっ!!」

 霊の瞳には光がないものの――そこから、なにかどす黒い気配が放たれる。


 憎しみ、妬み、怨み……

 そんな黒い怨念が、まるでその場を埋め尽くすかのような勢いで迫ってくる。
 目の前がじわじわと赤く染まる気がした。


 そして――視界が、意識が薄れてきて、暗転しそうになって――


 


793 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/05(月) 23:10:00.22 ID:l7t1rI6p0


 





          ドンッ!!







 霊が勢いよく右手を突き出した途端――佐天の体は、突き飛ばされたかのように吹き飛ぶ。
 手は触れていないのに、ひとりでに飛ばされた――まるで、念動力を使われたかのように。
 
 そのまま飛ばされて、近くでうずくまる直美の体に激しく当たった。
 手にしていたアルコールランプが、弾みで手から離れ、床に転がりだす。

 
794 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/05(月) 23:10:29.00 ID:l7t1rI6p0

 
 直美「うっ!!」

 突然の衝撃に思わず声をあげてしまう。
 そして、我に返った。


 ――肉塊が、クラスメートの成れの果て。

 あまりにグロテスクな死に様を目のあたりにして。
 クラスメートのさらなる死という現実を突きつけられて。
 女生徒の霊に、永久にクラスメートと再会できないと言われて。


 疲弊、寂しさ、恐怖……そして、絶望。

 それらの感情が一気にわきあがってしまった。
 ほぼ自暴自棄になってしまい、傍にいた佐天を突き飛ばし――この教室まで駆け込んできた。

 しっかりとした理由なぞなく、ただ教室の扉が半開きになっていたのが目に付いたから、駆け込んだ。
 脳裏にクラスメートの顔が浮かび――その場にうずくまり、泣き出してしまった。








 ――周囲に怨霊が渦巻き出しているのも気づくことなく。



795 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/05(月) 23:10:59.21 ID:l7t1rI6p0


 佐天「…………」

 直美の左肩にもたれ掛かり、気を失っている佐天。
 体に掛かる体重をなんとか支えようとしつつ――目に入ったものは。


 何十もの数に上る、怨霊。
 どれもが体の一部が損傷していて、グロテスクな様をさらしていて。
 全身をほんのりと紅く光らせて。



 数多くの――光のない瞳を、直美に向けていた。




 直美「いやあああああああああ!!」

 その場を切り裂くような悲鳴を上げる。
 全身が一気に逆毛立ち、ぞわっとした感覚が襲う。
 口元が小刻みに震え、目尻から涙が流れ出した。

796 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/05(月) 23:12:03.38 ID:l7t1rI6p0

 佐天「……んんっ……」

 直美にぶつかったショックで意識を失っていたが、それも元に戻りだす。
 小さくうめき声を上げて、ゆっくりと瞼を開く。
 そして、いまだにぼやつく視界に入ったものは――



 ――取り囲むようにして見下ろす、数多くの怨霊。




 佐天「ひっ、ひいいいいい!!」

 悲鳴を上げて、本能のままに体を起こす。
 すると、傍の床に転がっている、火の付いたアルコールランプが目に付いた。
 横向きにはなっていたものの、火は上に向って伸びている。

 すかさず手にとった。
 同時に視界は明瞭になり、アルコールランプの炎にうっすらと照らし出された教室の全容が判明しだす。

 
797 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/05(月) 23:12:53.86 ID:l7t1rI6p0

 
 床を埋め尽くすかのように、至る所に散乱している、壊れた机や椅子や棚。
 ヒビが入っていたり、割れて小さな裂け目があったりするものの、ぴっちりと閉じられた、廊下に面した窓。
 それらの窓が尽きる、教室の後ろの端に、閉じられた出入口。

 ――前の出入口と同様に、引き戸全体に、黒いものが覆っていた。


 そして――




 前の出入口に通じる教壇から教卓までの間のスペースを、怨霊が群がりながら――怯える佐天と直美をじっと見詰めていた。





798 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/05(月) 23:13:34.71 ID:l7t1rI6p0


 直美「い、いや……こないで……」

 震える声で佐天の左腕の袖を掴みながら、後ろずさる。
 足取りも震えるあまりに、おぼつかなくなってしまっていた。


 佐天「く、来るな……来るなっつーの!!」

 何とか強気な語調で言葉を放つものの、怯えの色は隠せず、威嚇には到底及ばない。
 アルコールランプを手にして前に突き出した右手も、ガクガクと震えていた。
 振動に伴い、炎も上下左右に揺れていた。


 左側――ちょうど、黒板の左端の隣に、小さな引き戸が閉まっていた。
 もっとも、この引き戸も出入口と同様に――長い髪が巻きついていて、簡単に開かせてくれそうにない。
 

 右側――外側の窓に近い床には、椅子などの障害物は散らばっていない。
 人一人分が通れる通路のようなスペースを作っていて、床も抜け落ちてはいない様子だった。
 さらに、教室の後ろ側にも机とかは散らばっている感じは無く、なんとか後ろの出入口にはたどり着けそうだった。


799 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/05(月) 23:14:43.10 ID:l7t1rI6p0

 そんな中、直美の頭の中には――保健室で遭遇した、災難の様子が思い起こされる。

 あの時も、出入口は髪が巻きついていて、到底開きそうに無かった。
 さらには、あの黒い"ヤツ"が迫ってきて――!!


 薬品棚にあったアルコールを戸に巻きつく髪にぶん撒いて、落ちていたマッチで火をつけた――。



 直美「佐天さん、そのアルコールランプを、ドアの髪の毛に向けて投げつけて。多分、燃えると思うから」

 佐天「え?そんなので大丈夫……」

 直美「あたしもこの前に同じような目に遭ったとき、それでいけたから」

 確証はあった。

 なぜなら、保健室のときは髪は一気に燃えだして――跡形も無く、そのまま燃え尽きたから。
 そして、そのまま脱出することが出来たから。


800 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/05(月) 23:15:10.48 ID:l7t1rI6p0

 佐天「……分かりました」

 疑念を抱いたものの、直美の口調から確信する。
 多分、いけるだろう――と。


 佐天(となると……)

 後ろずさりながらも、鋭く睨みつける目つきで、左右を改めて見回す。


 ――髪に覆われた、黒板脇の引き戸。
 
 ――髪に覆われた、教室後方の出入口。



 そして――

801 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/05(月) 23:17:59.44 ID:l7t1rI6p0
本日の投下はここまでです。

なお、以下のように選択肢が続きます。


A:黒板脇の引き戸に向って、アルコールランプを投げつけた。

B:直美の手を掴み、後方の出入口へと駆け出した。


安価は>>803にてお願い致します。
読んでくださっている方々に改めて感謝です。
では、これにて失礼いたします。
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/03/06(火) 00:18:08.31 ID:fQgXlP7e0
乙 

なんか慢心はいけない気がする
よってB
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/06(火) 11:50:37.33 ID:HEn3aHnco
Bで行こう
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/08(木) 11:34:23.37 ID:RLHQsl9IO
悪霊の大群がどう出てくるか・・・
一番近い逃げ道を塞いでくるのか
わざと逃げ道を作って遠い罠に誘導しているのか
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/24(土) 10:03:27.88 ID:B6yk4oCB0
このグループが能力ない分一番どきどきする
806 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/25(日) 23:17:33.61 ID:1GUWnw1t0
大変お待たせして、申し訳ありません。
>>803の続きをBにて投下いたします。
807 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/25(日) 23:18:05.75 ID:1GUWnw1t0



 直美の手を掴み、後方の出入口へと駆け出した。


 直美「ち、ちょっと!!」

 無理矢理に引っ張られたこともあり、抗議の声をあげる。
 びっくりしてしまうのも無理は無い。






      ドタドタ……







              ギシギシ……








 朽ちた床板に足を乗せるたびに、軋みの音が耳に入る。
 勢いよく駆け出していることもあって、乱暴に周囲に響き渡っていた。


808 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:18:52.02 ID:1GUWnw1t0









      「……マッテヨ……」








               「……逃ゲルナヨ……」







 なだれ込むかのように、後を追いかけてくる霊の群れ。
 いずれもほんのりと赤く光っているのが固まっているので、まるで炎が押し寄せてくるかのように見える。


 直美「ひっ!!」

 佐天「とにかく、向こうまで!!」

 教室の最後端までたどり着くと、左に90度ターンして。
 幸いにも崩れ落ちてはいない床の上を、懸命に駆け抜けて。
 なんとかたどり着いた。


 ――後ろ側の出入口。

 ただし、前方のものと同様に、黒い髪の毛がびっしりと巻きついていたが。

809 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:19:20.02 ID:1GUWnw1t0

 佐天「うおりゃあああ!!」

 扉の手前で一旦立ち止まると、すかさず手にしたアルコールランプを投げつける。
 火のついたランプは放物線を描くように扉の下の方へと向っていき。







       ガシャン!!






               ボワッ!!





810 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:19:55.13 ID:1GUWnw1t0


 扉にぶち当たって、ガラスの容器は割れ。
 中身のアルコールが、扉に巻きつく髪の毛に降りかかり。
 点いていた炎が、それに引火した。

 かすかに煙が上がると共に、特有の臭いが立ち込める。
 鼻を突く、独特の臭い。

 火はみるみるうちに、扉を覆う髪の毛全体に燃え広がりだした。
 見るからに扉全体が燃えている形になったが――


 ――なぜか、炎は消え始めていった。

 扉の丁度中心あたり。
 佐天がアルコールランプを投げつけて、着火しだした付近だ。
 みるみるうちに、消えていく範囲が円状に広がっていく。
 
 30秒もしないうちに、覆っていた髪の毛は燃え尽きてしまった。
 灰になって、すべてが床の上に散らばっていた。

 後に残ったのは、格子状にガラスが填まった木製の引き戸だけ。
 なぜか、延焼するどころか、焦げ目一つ残さない状態で、ぴっちりと閉ざしていた。

 あからさまな違和感――いや、気味悪さを感じる。
 開けるのは、どこか危ない気がする。
 正直、扉に手を掛けることさえためらわれた――

 ――のだが。


811 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:20:29.96 ID:1GUWnw1t0

 佐天「おっし!!行きますよ!!」

 そんなことは言ってられなかった。
 霊たちはすぐ側まで迫ってきていたから。






       ガラッ!!






 引き戸の格子に手を掛け、勢いよく引き開けた。
 そして、その先へと足を踏み出す――

 ――のだが。

812 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:20:58.41 ID:1GUWnw1t0

 足をつける床が――その先には無かった。
 重力にしたがって、そのまま佐天の体は前のめりに落ちていく。


 佐天「うわああああ!!」

 引き戸の向こうにある床が崩れ落ちて、できた空洞に向って。







        ドンッ!!






 すぐに着地した感触。

 というより――衝撃。
 全身を強く打ち付けての、激痛という形であった。

 ――どうやら、下の階の天井までは抜け落ちていなかったようだ。


813 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:21:34.71 ID:1GUWnw1t0

 直美「だ、大丈夫!?」

 はるか上方から、投げかけられる声。
 頭を打ち付けたショックで、意識を朦朧とさせながらも、振り返ろうとする。

 なおも襲う激痛のために、首を思うように動かせない。
 まるでとてつもない重量の物体を押し付けられたかのように、体が重く感じられる。

 が、なんとか力を振り絞って。
 首――だけでなく、体全体を転がし、仰向けになった。
 

 ぼんやりとした視界の先には――1mほど上にある、開けられた入口から覗き込んでいるらしき人影。
 それが誰かははっきりと見えなかった。
 が、大まかに見える服装、さらには美琴とよく似た声質から、直美だというのは間違いない。


 佐天「な、中嶋さん……はやく……こっちへ……」

 いまだに全身に力が入りにくい。
 絶え間なくのしかかる痛みが、いまだに続いている。
 それらを押しのけて、なんとか右手を伸ばした。

 
 が――。


814 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:22:05.63 ID:1GUWnw1t0


 直美「いやああああ!!離してぇ!!」

 上のほうから聞こえる、切り裂くような悲鳴。
 思わず、目を開くと――見えた。


 赤い魂の群れに、まとわりつかれた直美が。
 なんとか、離れようと体を捩じらせるが――霊は離れるどころか、直美の体を呑み込むかのように取り囲んでいく。


 直美「あがっ……くるし……うぇ……」

 うめき声。
 それも段々と小さくなっていって。

 そして――


815 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:22:33.67 ID:1GUWnw1t0







        ピシャリ!!







 扉は勢いよく閉じられた。
 霊たちが、直美の体を教室の中に押し戻すと同時に。


 佐天「……な……なかしま……さん……」

 起き上がろうとするが、やはりそれ以上は力が入らない。

 それどころか、全身から力が抜けていき。
 伸ばしていた右手がぱたりと落ちて。
 目の前が、急激に真っ暗になっていって――。









 ――佐天の意識は途絶えた。









816 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:23:02.68 ID:1GUWnw1t0










        グラグラグラ……







                  ガシャンッ!!







 直後、地震の揺れが彼女の体を襲う。
 近くで棚か何かが倒れたのだろうか、大きな物音が鳴り響く。

 しかし、それが佐天の耳に届くことは無い。
 体一つ動くことなく――ただ、気絶していた。


817 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:23:28.57 ID:1GUWnw1t0









    ドーン……











             ゴゴロゴロゴロ……











 遠くからする雷鳴が――かすかに耳に届いた。

818 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:24:05.40 ID:1GUWnw1t0

 ――んんっ……。

 目の前がぼんやりとだが――明るくなっていく。
 まるで夜明けのように、目の前がうっすらと白くなっていって――。


 佐天「んんっ……ん……」

 意識が戻りだす。
 頭や体に、鈍い痛みを走らせながら。
 小刻みに、呻き声をあげて。

 ゆっくりと――まぶたを開けた。


 ぽっかりと空いた、床の裂け目。
 その上から差し込む、蛍光灯の光。
 無機質な光に照らし出される、所々で崩れかかっている、木張りの天井。



 そして――その下にある、教室の入口。



819 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:24:39.15 ID:1GUWnw1t0


 佐天「……開い……てる……?」

 右手を床に突く。
 そして何とか起き上がろうとする――が、体がやはり重い。
 全身や頭を襲う鈍い痛みも、相変わらず続いている。

 それらをなんとかこらえて――辛うじて、上半身を起こすことはできた。


 佐天「…………」

 ぼんやりする中で、痛み以外に感じる感覚。

 頭が――なんとなく、生暖かい。
 さらには、額を何かが垂れるような感触。
 無意識のうちに持ち上がった左手が、それに触れていた。


 ――ぬるっとしていた。

 なんだろうと思って、指先を目の前に持ってくる。


820 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:25:11.22 ID:1GUWnw1t0


 佐天「ひっ!!」

 思わず、情けない声をあげてしまう。
 呼吸も、心臓の鼓動も、少し荒くなってきたかのように感じられる。


 赤く染まった、指先。
 そして、かすかに鼻を突く、鉄の臭い。

 頭を打って、できた傷から流れ出た――佐天の血だった。


 佐天「なにか……止めるものは……」

 ゆっくりと周囲を見回す。
 止血できるようなもの――たとえば、布などがないか、周囲を見回した。

 しかし――見たところ、それらしきものは落ちていない。
 この屋根裏のスペースに、そんなに都合よく物があるわけがない。

 蛍光灯の照明が、真上の裂け目から照らしつけているあたり以外は、真っ暗だった。
 よく見えない。
 辛うじて、数個の壊れた椅子や机、さらには小児用の上履きが転がっているぐらいだった。

 目の前に見える――開きかかった、教室の引き戸。
 その真下――ちょうど床の裂け目から50センチほど下には、小さな椅子があった。
  

821 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:25:49.44 ID:1GUWnw1t0

 佐天「そういえば……中嶋さん!?」

 そこでふと思い出す。
 気を失う寸前に――霊の群れに教室に押し戻された同行者のことを。

 彼女はどうなってしまったのか。
 それは、はっきりといって分からなかった。

 なんとか逃げられたかも――と、一瞬思う。
 しかし、すぐにそれは否定された。

 教室のほかの出口は――髪の毛が巻きついて、封じられていたから。


 佐天(ひょっとしたら、ここに?)

 そんなことを思い、改めて自分のいる屋根裏を眺め回す。
 ひょっとしたら、自分が気絶した後で――なんとか逃げ出せたかもしれないと、思ったから。

 が、誰もいない。
 少なくとも、人の姿は目に入らない。


 佐天「……な、中嶋さ〜ん……」

 なんとか声を振り絞って、名前を呼ぶ。

 が、返事は返ってこない。
 物音すらしない。
 ただ、不気味なまでの静寂が、周囲を支配していた。


822 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:26:24.87 ID:1GUWnw1t0

 佐天(ま、まさか……まだ、この中に!?)

 視線よりやや上にある、開きかかった教室の引き戸が目に入る。
 中は――照明が灯っていないのか、真っ暗でよく見えない。


 佐天(と、とにかく……)

 教室の中にまだいるかもしれない。
 そう思って、立ち上がろうとした――が、それはためらわれた。


 佐天(さっきの霊の群れ……)

 この教室から逃れるまで、迫ってきた数多くの亡霊。
 彼らは、いずれも怨嗟をあげていた。

 この廃校の中で、苦痛と共に命を落としたのだろう。
 彼らの体は見た限り、頭や腕や足や目などの――体の一部が欠損していた。
 きっと致命傷になったものばかり。

 そんな彼らが、五体満足な生者を目にしたら。


 ――自分達は苦しんで亡者になったのに、ぬくぬくと傷つくこともなく、生きている。
 

 怒り、憎しみ、恨み、妬み――。

 生者に対して、そんな感情を向け――さらには、自分達と同じような目に遭わすつもりだったのだろう。
 なんとなくだが、そんなように感じられた。
 全身に走った寒気とともに。

823 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:27:07.04 ID:1GUWnw1t0

 佐天(でも……)

 周囲を見回して分かった。
 この床に出来た窪み――天井裏のスペースは、前後左右のどの方向にも、障壁があった。
 すなわち、天井裏を潜って、中を突き進むしかない。

 そして、床までの高さはおよそ1.5m強。
 両手を伸ばして床を掴み、懸垂の要領で体を引き上げれば、床の上に戻ることは出来るかもしれない。
 が、そこまでの体力は、今の佐天にはなかった。
 ましてや、頭を打ち付けて、脳震盪を起こした影響でふらついている状態では、不可能どころか危険とも言える。
 周囲に転がっている壊れた机や椅子も、踏み台になるぐらいの高さはおろか、原形すらとどめていなく、使い物にはならない。

 ただ――比較的形を保っている机が目の前に立っていた。

 丁度、教室の入口の前あたりで――床から這い出る踏み台になるように。


 佐天「……ここしか、行けるのはないっぽいよね……」

 誰に言うのでもない呟きを漏らす。

 机を廊下のほうに移動させ――ようとしたが、無理だった。
 まるで下に広がる1階の天井に張り付いたかのように、1mmたりとも動かない。
 下から上へ、左右へ押してみたが、びくともしない。

 どうやら、教室に戻るしか――道はなさそうだ。

 それに、直美のことも気に掛かる。
 目の前で――霊の群れに襲われて、教室に引きずり込まれたというのなら――!!


824 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:27:32.84 ID:1GUWnw1t0

 佐天「行くっきゃ……ないか」

 ためらっている場合ではない。
 なおも痛む頭を右手で押さえながら、入口の真下の机に手を掛ける。
 そして、もう一方の手も机の天板に突く。
 手にべっとりと付着した血液が、ぬめって気持ち悪いと一瞬感じたものの、そんなことなぞ言っていられない。

 両手を押すようにして力を入れる。
 体は50cmほど上がり、右足を曲げて、なんとか天板の上に乗せる。
 多少もたつくことはあったが、できないというほど困難でもなかった。
 そして、ぶら下がった左足も天板に乗せて、なんとか机の上に立つことができた。


 佐天「真っ暗……だね」

 視線より上あたりで、半開きになったままの教室の入口。
 その先には、照明などは灯っていなく、中の様子があまりよく見えない。

 先程と同じように両手を、教室の床に突く。
 そして手を伸ばすように体を押し上げて――教室の床の上に体を乗せた。


825 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:28:09.29 ID:1GUWnw1t0








       ジジジ……










               チカ……チカチカ……









 
 途端に、天井から耳障りな音がした。
 切れ掛かったネオンサインが何度も点灯しようとするときに発する音。
 そして――天井の照明が、何度も点滅しだして。


 佐天「…………」

 完全に照明が灯った。
 闇に閉ざされていた教室の室内を――無機質な白い光が照らし出す。

 所々で抜け落ちた床。
 残った床の少ないスペースを埋め尽くすように、壊れた机や椅子が転がっていた。

 そして――

826 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/03/25(日) 23:29:03.80 ID:1GUWnw1t0

 佐天「ひっ……!!」

 目に飛び込んできた、その先に広がる光景は――佐天の心を砕くには十分すぎた。


 床の上で散らばっている机の一つ。

 その上に乗せられた、人の体。

 両肩と両方の太ももの付け根――そして、腹に木材が深く突き刺さって。

 腹の辺りは何度もめった刺しにされたのか――着ている服を抉って、腹も裂け、そこから赤い内臓がはみ出ていて。

 着ているクリーム色のセーラー服や紺色のスカートは、突き刺さった部位を中心として、血で赤く染まってしまい。

 手や足を机の端から真下へとだらしなく垂らして。

 指先やつま先から、伝って流れ落ちる赤い血を、絶え間なく垂らして。

 机の端から、のけぞるように垂らしている首。

 短い髪も重力にしたがって垂れ下がり。

 口からは幾筋の赤い線を描いていて。


 佐天「な、中嶋さん……」

 呼びかけても、だらしなく開ききった口からは声を発することは無い。

 充血して瞳孔が開ききった――直美の瞳が、ただ佐天を見詰めているだけ。


 絶命しているのは――どう見ても明らかだった。


827 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:30:00.08 ID:1GUWnw1t0

 佐天「いやあああああああああ!!」

 せき止めていたものが一気に崩れたかのように、悲鳴を上げた。
 目から涙をあふれさせ、赤ん坊がいやいやと言いたげな動作ををするように、何度も首を振る。
 その度に、長い髪が振り乱れた。


 佐天(あ、あの霊の群れに――こんな酷いことをされたっての……!?)

 目の前の惨状が、あまりにも信じられない。
 取り囲まれて、木材を何度も体に突き刺されて。
 激しい痛みと共に、命を落として。

 あの時、先走って入口を開けて飛び出したから。
 せめて、一寸落ち着いていたら。
 そして、一緒に床下の空間に飛び降りていたら。


 ――こんなことにはならなかったのではないか。


828 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:30:31.83 ID:1GUWnw1t0

 佐天「いや!!ああああああああ!!」

 判断ミスから、同行者を死なせてしまった。
 こんなにもむごい方法で。

 そのことへの――後悔。

 そして――あの霊たちがまだいるのなら――自分も同じ目に遭うかもしれない、恐怖。


 甲高い悲鳴を上げて。
 直美の亡骸から目をそむけるようにして。

 一目散に、前の入口に向う。
 引き戸には髪は巻きついている――ということはなかった。
 嘘みたいに消えている。
 それどころか、引き戸は半開きになっていた。

 訝しがることなく――いや、もはやそこまで至る余裕も無いまま、廊下へと飛び出していった。


829 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:31:06.69 ID:1GUWnw1t0

 佐天「あああああああ!!」

 涙交じりの悲鳴。
 これ以上続けると、声が嗄れきってしまうのではないかというぐらいに。
 ただ、あげ続けていた。

 引き戸を出ると、左の方へと駆け出す。
 右手は抜け落ちているのが分かっているから。

 そのまま突き進むと、廊下が左右に分かれるT字路にぶつかった。
 すかさず、右手へと折れる。
 左手は階段を登った先に、トイレがあって行き止まりになっているのが分かっていたから。

 廊下は薄暗くなっていた。
 左手にある教室――確か、理科室だったはず――の前あたりに、照明が灯っているだけ。
 そして。

 その真下に――何かが転がっているのが見えた。

 それは――。


830 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/03/25(日) 23:31:54.47 ID:1GUWnw1t0


 佐天「ひっ……いやああああ!!」

 さらに悲鳴を上げた。



 廊下に横たわった――女生徒のものらしき、遺体を目にしたから。


 頭を思い切り殴られたのだろうか。

 近くにつけていたと思える、赤いカチューシャが、血飛沫とともに転がっている。

 後頭部が裂け、そこから赤い肉塊や、砕けた骨がはみ出て、飛び散っていた。

 首もとだけが白く、他が黒いワンピースの様な服を通した腕や足は、あらぬ方向に折れ曲がっていて。

 砕かれて、骨が飛び出した左手の指先は、一部が焼け焦げたベージュの布を握り締めていて。

 充血して、瞳孔が開ききった目を――理科室の中へと、向けていた。


831 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:32:43.66 ID:1GUWnw1t0

 佐天「ひっ……え……」

 その方向へと、目を向ける。
 焼けた炭の臭いが鼻を突く。

 それに混じって――髪を焼いたときに生じる、鼻を突く嫌な臭いもしていた。

 先には、半開きになった――ほとんどが焼け焦げて、黒くなった引き戸。
 中は――火災でもあったのか、黒く焼け焦げていた。

 視線を下にやると――。


 佐天「ひえっ……ああ……」

 目を大きく見開きながら、嗚咽をあげた。

 出入口にまたがるように、横たわった黒い塊。
 それは二つあった。






 ――焼け焦げた、人の死体が。

832 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/03/25(日) 23:33:14.31 ID:1GUWnw1t0

 佐天「いや、もういやああ……」

 その場に力なく崩れ落ちる。
 二つの塊を思い切り視線に入れるような形になって。

 一つは、口を開けながら右手を伸ばしていた。

 しかし、いずれも焼け焦げて爛れて、真っ黒になって――誰だか分からない。

 そして、もう一つの塊が抱きかかえるようにして、背中にへばりついている。

 こちらも、真っ黒に焼けて、誰なのか判別しない。

 が――そんなことなぞ、もはやどうでもよかった。


833 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:33:55.28 ID:1GUWnw1t0

 佐天「ひっ……いいっ……」

 息を荒げながら、目をそむける。
 すると、足元にあるものが目に入った。

 足元で頭を殴られて絶命した少女の亡骸が握っている――一部が焼け焦げたベージュの布。
 それはどうやら、ブレザーの焼け残りのようだった。
 襟元の形が残っていた。
 その横の胸元にあたる箇所には、校章だろうか、何かしらのエンブレムの刺繍が縫い付けられている。

 赤地のスペースに、クローバーの模様。
 その中には、"J"の文字を象った刺繍。

 それは――見たことがあるものだった。
 それこそ、いやというぐらいに。


 佐天「う、うそ……ああああああああ!!」




 ――常盤台中学の、校章だった。
 

834 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:34:31.74 ID:1GUWnw1t0
 

 佐天「こ、この焼け焦げた人が……着てたの……」

 怯えながら、理科室の入口に横たわる、黒い塊を見詰める。
 そして、再度制服の燃え残りに目をやる。


 佐天「え……」

 制服の燃え残りに隠れるように――端が焼け焦げた、小さな手帳が落ちていた。
 それは、常盤台中学の生徒手帳だった。

 胸の鼓動が激しくなるのが感じられる。
 息もみるみるうちに荒くなっていくのが感じられる。

 恐る恐る――生徒手帳を手に取った。


 ――見たくない、見たらだめ……!!

 そのように訴えかける本能。
 しかし、手はその訴えを撥ね退けるかのように、ゆっくりと見開きに手を掛けていって……。

835 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/03/25(日) 23:35:14.89 ID:1GUWnw1t0

 佐天「そ……そんな……いやあああああ!!」

 上がる悲鳴。
 開かれた見開き。
 挟まれていた、生徒証。

 そこには見覚えのある文字と、顔写真があった。




 ――2年 御坂美琴。




 所々が焼け焦げた顔写真も――明らかに美琴のものだった。


836 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:35:42.91 ID:1GUWnw1t0

 佐天「みさかさん……そんな……」

 全身を細かく震わせながら、じっと見入っていた。
 周囲の様子なぞ気にすることも無く。
 嗚咽をあげながら。












 ――近くに、人影が迫っているのにも気づかずに。
 











837 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:36:09.33 ID:1GUWnw1t0













 ??「うおぉぉぉぉおぉおおおおおお!!」











838 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:36:48.53 ID:1GUWnw1t0











                  グシャリ!!












 佐天の後頭部に――激しい痛みが走った。

 押し倒されるかのように、仰向けに体が転がる。

 頭の骨が砕けたのが分かった。

 何が起こったのかと、振り返る。


 大きく目を目を見開いた――その先には。


839 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:37:30.69 ID:1GUWnw1t0

 ??「ううう……うおおおぉぉぉぉおおおお!!」

 狂った叫びを上げる、大男。
 手にしていた大金槌のようなものを放り投げる。

 付着した、佐天の血液を振りまきながら。

 倒れた、佐天の体に馬乗りになるようにまたがって。


 そして、どこからか手にした――巨大なペンチ。

 大きく開きながら、佐天の口元に押し込んで。


 佐天「はぐっ……いあ……」

 何が起こるか、かすかに想像は出来た。
 しかし、あまりに遅すぎた。
 口を閉じようにも、すでにペンチを押し込められた後。

 冷たい金属の棒が――両側から、力強く挟みこんできて。
 砕かんというぐらいの力で、ぎりぎりと圧力がかかって。


 佐天「うがああ……ふが……」

 舌に走る激痛。
 抵抗の声をあげるが、舌を押さえつけられて声が出ない。


 ??「うううううう、うおおおおおお」

 狂った雄たけびと共に、男は両手で握ったペンチを力強く引き抜いて――。


840 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/03/25(日) 23:38:15.69 ID:1GUWnw1t0









         グジャリ!!









841 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/03/25(日) 23:38:40.29 ID:1GUWnw1t0


 肉が爆ぜる音と共に、引き抜かれるペンチ。

 その先には、血を滴らせる佐天の舌が挟まっていて。

 大きく見開いていた佐天の目。

 充血して白目の中には、開ききった瞳孔。


 そして――大きく開いた口からは――絶え間なく、血が流れ落ちていた。


 意識はすでになく、心臓の鼓動も止まったというのに。


 ただ――流れ落ちていた……。



842 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:39:31.75 ID:1GUWnw1t0
 
(暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

 テーレレテテテレテー
 
   Wrong End

 ビターン

(押し付けられた左手の赤い手形。中指がない)


>>801のBはWrongENDでしたので、Aにて続きを投下します。
843 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:40:35.27 ID:1GUWnw1t0

 黒板脇の引き戸に向って、アルコールランプを投げつけた。









            パリンッ!!









 ガラスが割れる音。
 一瞬、引き戸のファラスの部分が割れたかと思えたが――そうではない。

844 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:41:12.59 ID:1GUWnw1t0

 アルコールランプの壜が割れたのだ。
 中に残っていたアルコールが、扉に巻きつく髪の毛に振りかかる。








          ボワッ!!







 同時に――灯っていた火が、髪の毛に燃え移る。
 アルコールが降りかかっている部位ほど、激しく燃え出した。
 かすかに煙が上がると共に、特有の臭いが立ち込める。
 鼻を突く、独特の臭い。

845 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/25(日) 23:41:55.31 ID:1GUWnw1t0

 火はみるみるうちに、扉を覆う髪の毛全体に燃え広がりだした。
 見るからに扉全体が燃えている形になったが――


 ――なぜか、炎は消え始めていった。

 扉の丁度中心あたり。
 佐天がアルコールランプを投げつけて、着火しだした付近だ。
 みるみるうちに、消えていく範囲が円状に広がっていく。
 
 1分もしないうちに、覆っていた髪の毛は燃え尽きてしまった。
 灰になって、すべてが床の上に散らばっていた。
 後に残ったのは、格子状にガラスが填まった木製の引き戸だけ。
 なぜか、延焼するどころか、焦げ目一つ残さない状態で、ぴっちりと閉ざしていた。

 あからさまな違和感――いや、気味悪さを感じる。
 開けるのは、どこか危ない気がする。
 正直、扉に手を掛けることさえためらわれた――

 ――のだが。


846 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/03/25(日) 23:42:46.07 ID:1GUWnw1t0








     「……生きテイルヤツが……ニクイ……」








               「……トリついテ……シマエ……」








 直美「いやあああああ!!」

 背後で悲鳴が上がった。
 思わず振り返る。


 ――すぐ目と鼻の先にまで、赤い霊の群れが迫ってきていた。


847 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/25(日) 23:43:46.66 ID:1GUWnw1t0

 佐天「い、行きますよ!!」

 直美の手をすかさず握ると、引き戸の格子の部分に手を掛ける。
 先程感じた気持ち悪さなぞ、すっかり感じなくなっていた。
 いや、感じているどころではなかった。










          ガラガラッ!!









 大きな音を立てて、引き戸は勢いよく横に滑った。
 その先には、薄暗い空間が広がっていた。

 四の五も言わずに、そのまま扉の向こうへと駆け込みだす。
 敷居をまたぐと同時に、立ち止まって振り返る。








 ――多数の霊たちが、今にもこちらへとなだれこもうとしていた。


848 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/25(日) 23:44:24.81 ID:1GUWnw1t0

 佐天「ひっ!!」

 すかさず、扉に手を掛けて、勢いよく閉める。
 が、霊が今にも敷居をまたごうとしていて――。







       ピシャリ!!







 なんとか、すんでのところで扉は閉まりきった。

 が――。


849 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/25(日) 23:44:53.23 ID:1GUWnw1t0


 佐天「ううっ……くそっ!!」

 それでも、この状態を維持するのは、正直無理があるといっても過言ではなかった。
 現に佐天の指先にはかなりの力が掛かっていて、半端ない痛みが襲っている。
 感覚もじわじわと麻痺しかかっていた。
 このまま押し開けられて、中に踏み込まれるのも時間の問題のようだ。


 直美「ち、ちょっと……」

 そんな佐天の様子に、心配げに声を掛ける。
 無理しないでよ――と、その先に続けようとしたが、はばかられた。

 今、佐天が手を離してしまうとどうなるか。

 この扉の裏には――今や今やと、この部屋に入り込もうとする多数の霊。

 離してしまうと、それらが一気になだれ込んでしまうだろう――。


 そうなってしまうと、この先どうなってしまうかはっきりとは分からない。
 ただ、おぼろげに想像は出来た。

 きっと、さっきの黒い影に捕まったときと同じ。
 いや、それよりもっと酷い目に遭うかもしれない――と。


850 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/25(日) 23:45:24.98 ID:1GUWnw1t0

 佐天「はぁ、はぁ、はぁ……てててて……」

 呼吸はかなり激しく、そして荒くなってきている。
 引き戸の格子を押さえる指先も、踏ん張る足も、いずれも細かく震えているのが、はっきりと見えた。
 じっと扉の外を睨みつける顔も、いつしか真っ赤になっている。


 直美「…………」

 この先どうしたらいいのか、分からない。
 佐天と一緒にドアを押さえてもいい。
 ただ、それも長くは保たないだろう。

 その時、床に1本の木材が落ちているのが目に入る。
 一瞬で、はっとする。
 そして、すかさずその棒を手に取った。

 ――やるべきことは、見えていた。


851 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/25(日) 23:45:53.16 ID:1GUWnw1t0

 直美「あと少し押さえてて!!これ挟むから」

 そのまま、床に落ちていた木の棒を手にして、扉の横に水平方向に挟み込む。
 丁度、つっかえ棒のようにして。

 引き戸と端にある外枠の間に、斜めになる形で棒は入り込んだ。
 中途半端に引っかかる形なので、そのまま上から全体重をかけて押し込む。


 佐天「無理しないで下さいよ!!折れたらどうするんですか!!」

 なおも、引き戸を懸命に抑えながらも、顔を真っ赤にして。
 半ば怒鳴るように叫んだ。


 直美「分かってるけどさ、やるしかないでしょ!!」

 両手に力を入れて、なんとか棒を押し込もうとする。
 そんな直美の顔も真っ赤になっていき、息も荒くなっていた。
 佐天を睨みつけるように一瞥すると、そのまま怒鳴り返した。


852 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/25(日) 23:46:23.36 ID:1GUWnw1t0







           ガコッ!!






 直美「やった!!」

 手ごたえを感じた。

 うまく水平になる形で、棒がはまり込んだ。
 しかも、引き戸のレールを塞ぐように接する形で。


 佐天「…………」

 恐る恐る、掴んでいた引き戸の格子から手を離す。


853 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/25(日) 23:46:51.53 ID:1GUWnw1t0







      ガツ!!





            ガコッ!!








 何度も、大きく物音を立てながら、引き戸が何度も横へスライドしようとする。
 扉の裏から霊たちが、なんども引き開けようとしているのだろう。

 漫画に出てくる霊のように、扉をすりぬけたりはできないようだ。
 もしできるのであれば、とっくの昔にこの部屋の中に入り込んできているはず。


854 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/25(日) 23:47:17.22 ID:1GUWnw1t0

 直美「これでちょっとはしのげそうね」

 佐天「ええ……」

 少しだけ安堵したのか、二人とも息を吐き出す。
 緊張が解けて、全身から力が抜けていくのが感じられた。

 が――。


 目の前で、なおも開こうとする引き戸。
 扉の上半分は、細い木材でいくつもの正方形の格子が形成されていた。
 格子の隙間のスペースには、曇りガラスがはめ込まれている。
 そのせいで、外の様子を窺い見ることは出来ない。

 いや――その方が幸いだったと言ってもいい。

 この扉の向こうには、なおもこの部屋に入り込もうとする赤い霊が多数。
 もし、引き戸のガラスが透明だったならば。




 ――いくつもの目が、じっと佐天と直美を見詰めていただろう。

 それを想像した途端、ぞっとするぐらいの不気味さが彼女らを襲った。


855 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/25(日) 23:50:01.84 ID:1GUWnw1t0
本日の投下はここまでです。
しかし、コープスの新作の内容が公表されましたが、あそこまで斜め上にかっとんだものだとは……。
ある意味、驚きを禁じえませんw。
以上、愚痴をこぼして失礼しました。
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/03/26(月) 00:44:29.70 ID:W4q/PWHAO
まさかの恋愛だもんな
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/26(月) 03:55:25.77 ID:kBxk1+Rv0

ここのSSは本当にビビるな

まだ新作の内容確認してないから今からしてくるわ
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/03/26(月) 19:37:30.31 ID:ejVvouBuo
乙。
相変わらず選択肢間違えると能力者でもあっさり死ぬな。
しかしwrongでは何で美琴達がハンバーグになってんだ
もしかして髪の毛になんか伏線が?
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/03/31(土) 03:22:44.32 ID:i8tfbz2go

せっかくレールガン組合流かと思いきやウェルダンとは…
ところでコープスは知らないんだけど、これってハッピーエンドはありうるの?
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2012/03/31(土) 04:25:47.79 ID:MU8A4jPAO
トゥルーエンドは鬱エンド。ハッピーエンドは無い
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/03/31(土) 05:03:36.25 ID:i8tfbz2go
mjd……('A`)
862 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/31(土) 10:53:22.91 ID:EPHOFuCM0
お待たせしました。
続きを投下いたします。
863 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/31(土) 10:54:09.07 ID:EPHOFuCM0









       ガコッ!!







              ガンッ!!










 なおも水平方向に小刻みに揺れる引き戸。
 ここをなんとか力ずくで開けようと、執念深く揺さぶっているのが分かる。


864 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/31(土) 10:55:13.93 ID:EPHOFuCM0

 直美「でも……ここから出るのって、どうしたらいいの」

 佐天「この奥に何かあればいいんですけど」

 入り込んだこの小部屋は、幅5mくらいの横長の形をしている。
 引き戸から向って右方向――丁度廊下への方向にも空間が広がっているが、暗くてよく分からない。
 真上に裸電球が1個吊るされているだけで、その光は奥まではあまり届いていない。

 とりあえず、奥のほうを確認してみることにした。
 一歩一歩、暗闇へと向けて足を踏みしめる。

 背後にある裸電球の淡い光が辛うじて届いていた。
 周囲がどのようになっているのか、はっきりとは分からない。
 ただ、左右には窓のようなものが無く、ただ木の壁が囲んでいるというのは、なんとなくだが分かった。


865 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/31(土) 10:55:58.09 ID:EPHOFuCM0

 さらに進む。
 床には何も落ちていないようだ。
 もっとも、先へと進むごとに届く光の量は少なくなってきているので、あっても気づかないだろうが。


 佐天「……行き止まりっぽいですね」

 後ろからのかすかな光に照らし出される、目の前に広がるもの。
 暗くてはっきりとは分からないが――左右と同様に、窓のない木張りの壁が、目の前の空間をさえぎるように存在していた。

 どうやら――ここで行き止まりのようだ。
 じっと目を凝らすが、少なくとも手で開けられそうだとは到底思えなかった。


 佐天「ん?」

 一瞬だが――光が走るのが目に入った。
 目の前の壁の右側から、左手前の側壁に向けて。


 佐天(すきまでもあるのかな。そこから光が差し込んで……)

 ひょっとしたら、この部屋から出る手がかりがあるかもしれない。
 そう思って、光が走ったあたりに手を伸ばす。
 
866 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/31(土) 10:56:33.81 ID:EPHOFuCM0

 佐天「……っつ!!」

 指に鋭い痛みが走る。
 思わずのけぞってしまった。
 そして、その場にしゃがみこみ、痛みを発する左手の人差し指を右手で強く握りだす。


 直美「ちょっと、どうしたの?」

 小走りで、その場にうずくまる佐天のもとに駆け寄る。
 横にしゃがみこむと、彼女の左手の様子をまじまじと見詰める。


 直美「って、血がでてるじゃない」

 佐天「ええ。何か、切られたように痛くて……」

 直美「とりあえず、どうなってるのよ。見せてみて」

 佐天「え……はい」

 言われるがままに、左手の人差し指を握る右手の指を離す。

 左の人差し指の腹に――赤い一筋の線が、袈裟懸けになるように走っていた。
 そこからじわじわと垂れる、赤い液体。
 指の皮が裂けて、そこから出血していたのだった。


867 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/31(土) 10:57:03.09 ID:EPHOFuCM0

 直美「結構深く切れてるじゃない……絆創膏とかがあったらいいんだけど……」

 佐天「それなら、持ってますよ」

 すかさず、スカートのポケットの中を漁る。
 生徒手帳を掴み出して、見開きをめくる。

 そこには、絆創膏が数枚挟み込まれていた。





 そして――おまじないの時に、ちぎった紙人形の切れ端も。





 絆創膏を一つ取り出すと、生徒手帳を閉じて、ポケットに仕舞い込む。
 表の包み紙をめくりとり、そのまま指に巻きつけた。


868 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/31(土) 10:58:41.54 ID:EPHOFuCM0

 直美「でも、なんで急にそんな傷が出来るわけ?」

 佐天の指に出来た切り傷と、ほとんど暗くなっている部屋の奥を見比べながら、首を傾げていた。
 見たところ、指に怪我をさせるようなもの――例えば、刃物の類とか――は無いようだ。

 壁や床がめくれて、鋸状になっている破断面は見かけることはできる。
 が、いずれも壁際に立ったり、しゃがみ込まなければ、指で触れるのは無理な位置にある。
 先程見た限り、佐天がそんな動作をしていた様子は無かった。
 むしろ、目の前の黒い空間のど真ん中に手を突き出して――指を切ったようだから。


 佐天「分からないです。その先で、急に光が走ったものですから……」

 直美「光?」

 怪訝そうな表情で、部屋の奥をじっと見詰める。


 その時――かすかに一筋の光が、左から右奥へと走るのが目に留まった。
 さらに、じっと目を凝らす。


 すると――ぼんやりとではあるが、見えた。

 透明な細いワイヤーが、左の側壁から正面の壁の右側に向けて、ぴんと張られているのが。
 

 直美「そっか……あのワイヤーに触れたのね。だったら、分かるわ」

 佐天「ワイヤー……ですか?」

 直美「うん。あたしもさっき、そんな仕掛けを見たことがあったから。んで……」

 話しながら、右手の人差し指を佐天の目の前へと差し出す。


 ――右の人差し指の腹に、真一文字に走る赤黒い線。


869 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/31(土) 10:59:23.54 ID:EPHOFuCM0

 佐天「これって……切ったのですか?」

 直美「うん。あたしの場合は、廊下の真ん中に張られていたから。何かと思って指で触ったら」

 佐天「切れったってわけですか。かなり危ないんじゃないんですか」

 直美「そのまま知らずに突き進んだら、体や首が切れてたかもしれない……」

 佐天「え……!?」

 すかさず、部屋の奥に視線を向ける。
 目を凝らすと、かすかにだが見えた。

 糸状の線が、部屋の奥の空間を横切るように走っているのが。

 そして、思う。


 ――このまま考えなしに突き進んでいたら、首や体がすっぱりと切れていたかもしれないと。


 途端に、佐天の全身に寒気が走った。

870 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/31(土) 11:00:10.56 ID:EPHOFuCM0

 佐天「こ、こんなのが他にまだあるっていうんですか」

 直美「多分。あたしもそんなのを3つぐらいは見たよ。ひどいのとなったら、廊下の隅から隅まで張り巡らしているのもあった」

 佐天「1本ならともかく、そんなにあったら通れないじゃないですか」

 直美「そうなんだけど……そのテのやつがあるときは、近くに……」

 そう言って、室内を見回す。
 ワイヤーが張られているのとは反対側――丁度、入口を通り過ぎて、窓に面した側へと歩き出す。






871 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/31(土) 11:00:41.45 ID:EPHOFuCM0








        ガタ……









                 ガタガタッ!!









 なおも、引き戸は左右に揺れていた。
 先程よりも心持ち、勢いが強くなっている気がする。

 
872 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/31(土) 11:01:22.53 ID:EPHOFuCM0
 
 直美「あった、これっぽい」

 窓の近くで屈みこむようにして、床の上を見詰めていた。
 そこは丁度壊れた机が転がっていて、佐天のいるあたりからは何があるのか分からない。
 不気味に揺れる引き戸の前を足早に通り過ぎ、直美の側までたどり着く。


 佐天「レバー……みたいですね」

 直美の視線の先にあったもの――それは、レバーと滑車が組み合わさった、金属製らしき器械だった。
 滑車の先からは、先程と同じピアノ線のようなワイヤーが天井に向って伸びている。
 レバー自体は上に上がっていて――手前に押し下げることが出来そうな感じだ。

 ふと、引き戸の方を振り返る。
 すると――

  
873 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/31(土) 11:02:05.27 ID:EPHOFuCM0

  







       ドンッ!!








              ドカッ!!









 左右だけでなく、前後にも揺れだしてきていた。
 どうやら、引くだけでは埒が明かないと、扉に体当たりをしてきているようだ。

 なんとか、引き戸自体は持ちこたえているようだが――今にも枠から外れてもおかしくない。
 押し倒されてなだれ込まれるのも、時間の問題のようだ。


 佐天「は、はやくしないと……マジでやばそうですよ」

 引き戸の向こうで繰り広げられているであろう光景――そして、この先起こるであろう光景。
 想像した途端、全身に寒気が走り、焦りもじわじわと込みあがってくる。
 震えた声で、引き戸の方を指差した。
 

 直美「分かってる。とにかく、引っ張るけど」

 すかさずレバーを両手で掴み、手前へと引っ張り出す。
 しかし、レバーの根元が錆び付いているのか、なかなか動かない。


874 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/31(土) 11:03:08.64 ID:EPHOFuCM0









       ドカッ!!







                 ゴンッ!!







          バキッ!!









 引き戸の揺れは、さらに激しさを増す。
 見ると――引き戸の一部がレールの外へとはみ出しかかっていた。
 幸い、はみ出した箇所は、外枠の大きさが引き戸よりも多少小さくなっていた。
 丁度、外枠に引き戸自体が引っかかっている形になっていた。
 が、それも長くは持たないだろう。
 

875 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/31(土) 11:03:37.05 ID:EPHOFuCM0

 直美「くそっ!!動いてよっ……」

 顔をゆがめながら、息を荒げながら――レバーを引く手に力を入れる。
 が、そんな努力も空しく、寸分たりとも動く気配は無い。


 佐天「あ、あたしも手伝いますっ!!」

 背後から直美に抱きつくような形で、レバーに手を掛けた。
 そして、全身を反らせるようにして、後ろへと引っ張り出す。
 しかし、それでも動かないものだから――右足を軸にして、左足を壁の上に乗せて、そのまま突き出すように力を入れた。


 佐天「ううっ……痛っ!!」

 階段を踏み抜いて切った、右のふくらはぎの傷が疼く。
 が、そんな痛みには構っていられない。
 ただ、ひたすらにレバーを引っ張り続けた。


876 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/03/31(土) 11:04:05.36 ID:EPHOFuCM0









         ギギッ……









                   ギギギッ!!











 軋みをあげながら、レバーがわずかに動く。
 小刻みな幅ではあるが、少しずつ手前へと動いているのが分かる。


 佐天「あ、あともう少し……」

 直美「ええ……!!」

 二人とも顔を真っ赤にしながら、レバーを手前に引いていた。
 握る手にも、額にもいくつもの汗が浮かんでいた。

 そして――


877 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/31(土) 11:04:52.55 ID:EPHOFuCM0











       ガコンッ!!











             キリキリキリ……











 大きな音と共に、レバーが動いた。
 同時に、糸を巻きつけるような音が響きだす。

878 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/31(土) 11:05:26.87 ID:EPHOFuCM0

 もっとも、そのはずみで、両人とも体が後ろへと大きく反る形になり。
 ともに勢いでレバーから手が離れて――。


 佐天「ぐっ!!」

 直美「っ……って、ごめん。大丈夫?」

 背後の壁に背中を打ち付ける形で、尻餅を突いてしまう佐天。
 そこに間髪いれずに倒れこんでくる、直美。
 結果として勢いよくぶつかり、佐天に折り重なるようになってしまう。


 佐天「ててっ……な、なんとか……」

 直美の体が、目の前に覆いかぶさっていた。
 さらに右足の上に彼女の尻が乗りかかって、全体重が掛かる形になり、正直痛いことこの上ない。
 だが、骨は折れるどころか――それで捻挫したという気配はないようだ。

 その時――


879 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/31(土) 11:06:28.40 ID:EPHOFuCM0









        ゴゴゴ……








             ギシ……ギシギシ……









 重いものが擦れる音。
 何かが軋む音。
 それらが――突如、どこからともなく、響きだした。


 直美「……な、何、これ……?」

 慌てて周囲を眺め回す。
 物音と共に、床や壁が小刻みに振動していた。
 床に突いた手にもそれが伝わってくる。


 佐天「あ、あの、すみませんが、どいて……ええっ!?」

 体の上に覆いかぶさったままの直美に声を掛けようとしたが。
 驚く彼女の視線の先のものを目にした途端に――そんなことなぞ忘れ去るぐらいに、声をあげた。

 行き止まりになっていた、部屋の奥。
 丁度、手前にワイヤーが張られていた壁だが――手前に向かって、引っ張られていた。
 まるで、その壁が片開きの扉であったかのように。

880 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/31(土) 11:06:58.17 ID:EPHOFuCM0











         ガコンッ!!










 さらに別の物音。
 左側を軸として、手前側に回転する形で引っ張られていた壁が――開ききった。
 その先から、廊下を照らす蛍光灯の光がかすかに漏れてくる。


 直美「出られるようになったみたい……」

 佐天「そうみたい……ですね……」

 二人とも、ただ驚きの表情を上げているだけだった。

881 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/31(土) 11:07:50.36 ID:EPHOFuCM0

 直美「と、とにかく行こうよ……手貸すからさ」

 佐天「は、はい……」

 しゃがむ形になって、佐天の右手を掴み出す。


 佐天「……っつ!!」

 そのまま立ち上がろうとする佐天だったが、いまだに腰や足に痛みが残っていて、すんなりとはいかない。

 が、そんなことも言ってられない。
 左手を壁に突いて、壁に背を預けながらも、なんとか立つことはできた。
 そうするうちに、痛みも多少は引いてきたかのように思えた。


 直美「歩けそう……かな……」

 心配そうに、佐天の足元を見詰める。
 同時に、掴んでいた佐天の右腕を自身の肩に乗せようとしていた。


 佐天「い、いえ。そこまでしてもらわなくてもいけそうです」

 直美「そ、そう!?」

 佐天「なんとかですけど……とにかく行きましょうか」

 直美「う、うん。分かった」

 朽ちた部屋の床に足を踏み出す。
 足取りがおぼつかないものの、一歩一歩前には進んでいた。

 なおも揺れる出入口の引き戸の前を通り過ぎ。
 新たに開いた入口ろの距離を縮めていた――その時。

882 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/31(土) 11:09:15.44 ID:EPHOFuCM0










          バコン!!









                     ガシャンッ!!










 背後で大きな物音。
 何かが激しくぶつかる音。
 そして、何かが割れる音。


 直美「ひっ……」

 佐天「や、ヤバ……!!」

 共に顔を引きつらせる。
 そして、痛む体に鞭打ちながらも、歩く速度を速めて――駆け足で開かれた壁に向かっていた。
 背後で何が起こったのかは――振り返らずとも、想像は付いた。

883 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/31(土) 11:10:04.54 ID:EPHOFuCM0











        「サァァァ、イッショになろウヨォォォ!!」












                    「待てヨ、マテヨ、待テヨォォォ!!」














 押し倒された、引き戸。
 壁にぶつかって、その弾みで格子にはまっていたガラスが粉々に割れていた。


 ――そこから、部屋に入り込んでくる、無数の赤い怨霊。

 皆、血走った目で――目の前で駆け出す、佐天と直美をじっと見詰めていた。
 まるで鉄砲水のように彼らは部屋の中に次から次へとあふれ出し。
 前を走る二人との距離をすぐにも縮めるかのような勢いで、迫りだした。

884 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/31(土) 11:10:48.61 ID:EPHOFuCM0


 その直前に――二人は、開かれた壁から、廊下へと踏み出した。
 そこは何も無い壁だったのだが、その箇所だけに四角形の穴が現れた感じになっていた。
 が、そんなことを気にしている余裕は――二人には無い。


 直美「右はダメっぽい」

 ちらりと廊下の右の方を見たが――なぜか床がほとんど抜け落ちてしまっていた。
 すかさず左の方へと駆け出す。

 二人が出てきた壁の穴から――鉄砲水のように、赤い怨霊の群れがあふれ出す。
 みるみるうちに廊下を埋め尽くし、なおも前を逃げる二人に迫ろうとしていた。
 今にも飲み込まんという勢いで。


 廊下はすぐ先で終わっていて――右手に伸びる廊下と、左手に続く階段とに分かれていた。

 
 佐天(どっちへ行けばいいっつーのよ……)

 あの肉塊が散らばった廊下に、保健室、さらには1階への階段へと続く――右への廊下。
 上へと登って、紳士の霊がいた男子トイレに、親友が首を吊った女子トイレだけがあって、行き止まりになっている――3階への階段。

 すかさず――

 
885 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/03/31(土) 11:14:58.80 ID:EPHOFuCM0
今回の投下はここまでです。
なお、次のように選択肢が続きます。

A:右の廊下へと駆け出した。

B:左の階段を駆け上がった。

安価は>>887にてお願い致します。
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/31(土) 12:23:05.10 ID:qf3G0rqfo
A
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/31(土) 16:32:01.37 ID:8fKPl5s80


888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/04/02(月) 21:11:50.11 ID:I8hb5/Gno
乙です
いったいどっちが正解なんだ…
美琴すらなす術なく[ピーーー]る空間に無改造佐天というシチュがハンパなく不安
889 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/05(木) 23:41:27.86 ID:o1zfYVBd0
本日の投下を、>>887のBにて投下いたします。
890 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/05(木) 23:43:02.30 ID:o1zfYVBd0

 ――左の階段を駆け上がった。


 所々が朽ちて、崩れているところまである階段。
 本当なら、2段をまたいで上りたいところだった。
 だが、穴が開いているところや腐った場所に足を乗せて踏み抜いたら、それこそ元も子もない。
 後ろからは、赤く光った無数の霊が、廊下の幅いっぱいになるまで群がって、階段になだれ込んでくる。
 さながら、洪水が階下から勢いよく階上へと押し寄せるかのように。


 佐天「はぁ、はぁ、はぁ……」

 直美「ふぅ、ぜぇ……」

 二人とも息を切らせながら、階段を駆け上がる。
 踊り場まで十数段しかないのに、そこまでたどり着くのが長く感じられる。
 まるで数百段の階段を登っているような気にさえなる。











891 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:43:24.55 ID:o1zfYVBd0











            「待テヨォォォォォォォォォ」










                          「止マレヨオオオオオオオオオオオオオオ!!」














 背後から聞こえてくる、恨みに満ちた声。
 男の声も、女の声も――いろいろ入り混じっていた。
 耳に入るというよりかは、まるで脳に響くかのように、延々と響いてくる。
 それだけでも、頭が重くなる。
 正直激しく動きたくないとさえ思ってしまうのだが――気力を振り絞って、階段を駆け上がった。


892 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:44:19.30 ID:o1zfYVBd0


 踊り場にまでたどり着いた。
 が、勢いを緩めることなく、Uターンする形で次の階段へと足を踏み入れる。

 この先は男子トイレと、女子トイレしかなく、行き止まりになっている。
 が――このような行動をとるのに、考えがないわけではなかった。


 佐天(さっきの男の人の霊の個室に駆け込んだら……何とかしてくれるかもしれない)

 それは、先程同じように黒い影に追われて、逃げたときのこと。
 階段を駆け上がり、男子トイレの奥の個室まで来たときに引きずり込まれた。
 あの霊は、少女が危ない目に遭っているのを見過ごすのは許せないだなんて話していた。

 だから、今回の場合も――


 佐天(同じように、助けてくれるはず)

 そうした考えだった。
 それは一つの甘えともいえる。
 が――それにすがるしか、この状況を打開できるとは思えなかった。

 先程の分岐を右に折れて廊下に突き進んでも――追いつかれるのは時間の問題のように思えた。
 こちらは体力が尽きたらおしまいだ。
 対して、向こうは体力の有る無し以前の問題だろう。
 追いかけっこしても、勝負は見えている。

 だったら――先程経験して実績のある"安全な場所"に逃げ込むのが、最善だろうと。
 そう思いながらも、階段を登りきる。


 直美「はぁ、はぁ、ぜぇ……行くのって、男子トイレよね?」

 佐天「ええ、とにかく奥の個室まで」

 息を切らせながら、そんなやり取りを交わす。
 直美も同じことを思っていたようだ。
 彼女の手を引きながら、右に伸びる廊下へと足を踏み入れ――


 ――ようとした、その時。


893 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:44:46.57 ID:o1zfYVBd0









        ……グラグラグラ……










                ……ガタガタガタ!!










 突如、激しい揺れが彼女達を襲った。
 シェイカーを上下に素早く揺らすような、激しい揺れだった。
 今までにも地震の揺れは感じていたが――今回は、それまでのとは桁違いといって言いぐらいだった。


894 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:45:35.38 ID:o1zfYVBd0


 佐天「結構、でかい……ぐっ!!」

 直美「あがっ!!」

 二人とも、揺れのあまりに躓いてしまった。
 勢いよく、床に伏せる形になる。
 立つどころか、上からの落下物を防ぐ姿勢を取ることすら出来ないでいた。











895 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:46:14.58 ID:o1zfYVBd0












        ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……






 



                         ……グシャ、グシャ、グシャ!!








  


    ……バキバキバキ!!












                             ……メリメリメリ!!















 揺れる音。

 崩れる音。

 ひしゃげる音。

 割れる音。
 
 ――様々な音が、一斉に響き渡る。

896 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:46:41.42 ID:o1zfYVBd0


 そして、壁や天井から土ぼこりが舞い上がった。
 目の前が一気に霞みだす。
 天井から吊り下げられた照明は辛うじて灯っていたものの、土ぼこりのおかげで光は届きにくい。
 揺れが続けば――いや、天井から取れたり、天井自体崩れたりすれば――真っ暗にはなるだろう。

 それ以前に――天井が崩れれば、ただではすまないのだが。
 さらに言うなら、この激しい揺れで床が崩れることもあるだろう。
 そうなれば、ひとたまりもないのは言うまでも無い。

 そんな中、二人は。



 佐天(……早く、収まってよっ!!)

 両手で頭だけをかばいながら、じっと目をつぶり。


 直美(……恐い……恐いよ……)

 横たわったままで、激しい揺れが収まるのを、ただじっと待つしかなかった。
 赤い霊の群れに追われていることなぞ、頭の中からすでに抜けきっていた。
 天井や床が崩れ落ちないことをただ祈りながら、頭をかかえるだけだった――。




897 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:47:15.07 ID:o1zfYVBd0



 ……。


 …………。


 ………………。


 どれぐらいの時間が経過したのだろうか。
 揺れはいつの間にか収まったものの、舞い上がった土煙はいまだに充満していた。


 佐天「ケホッ、ケホ……」

 直美「ケホッ、ゴホッ」

 土煙の酷さのあまりに、咳き込んでしまう。
 目もまともに開くことすら出来ない。
 そうでなくても埃の細かい粒子が、目や鼻に容赦なく入り込もうとするのだ。
 自然と袖でこすって、それらを拭いとろうとしてしまう。




898 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:47:42.29 ID:o1zfYVBd0











          ザァァァァァ……。











 やがて、土埃も収まりを見せてきた。
 視界が徐々にはっきりとしてくる。
 蛍光灯も落下していなかったのか、天井からかすかな光が照らされているのが分かる。
 そして――外の雨音が、やけに耳についた。


899 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:48:12.11 ID:o1zfYVBd0









       ドーン!!








                バリバリバリ!!








 佐天「きゃっ!!」

 直美「ひっ!!」

 雷鳴が響く。
 それこそ、耳を劈く音量で。
 まるで、近くで爆撃があったかのようだった。
 二人とも、思わずすくみあがってしまう。


900 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:48:37.90 ID:o1zfYVBd0

 佐天「……大丈夫……ですか?」

 直美「ええ。怪我はないみたい。アンタは?」

 床に手を突きながらゆっくりと起き上がる。
 先程の雷鳴で、頭の中が掻き回された気分だったが、なんとかこらえていた。
 床に転んだときの痛みは多少は残っていたが――怪我はしていないようだ。
 視界が時折安定しない状態のまま、頭や体に降りかかった木片や埃を手で振り払いながら、周囲をゆっくりと見回す。


 佐天「あたしもなんとか……」

 漂っていた埃が薄くなってきて、だんだんと視界が開ける。
 口を塞いでしまうほどの煙たさも、時間が経つに連れて失せていく。

 やけに湿っぽくて。
 先程来たときとは違い、悪臭もそんなに感じなくて。
 どこか違和感を感じつつも、開けた視界の先に何があるのかを確認する。

 すると――


901 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:49:10.92 ID:o1zfYVBd0


 佐天「え……ええっ!?」

 頭に降りかかった埃を振り払う手を――思わず止めて。
 目に飛び込んできた光景に、驚きの声をあげてしまう。



 ついさっきまで、死に物狂いで駆け上がってきた階段。


 が――そこにあったのは、夜の闇。

 そこにあったはずの階段は――ごっそりと崩れ去っていた。

 重機か何かで、乱暴に崩されたかのように――そこに伸びる床も、上を覆っていた屋根も崩されて。


 ただ――外の闇と絶え間なく降りしきる雨が見えるだけ。

 はるか下の方に――崩れた屋根や階段の残骸が雨ざらしになっているのが、かすかに見えた。



902 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:49:37.45 ID:o1zfYVBd0


 直美「そ、そんな……」

 目の前にいきなり広がった、想像を絶する光景。
 そして、悟った絶望的な事実。
 
 この先は、トイレだけあって、行き止まり。
 そう――退路はふさがれてしまったということを。

 途端に、全身から力が抜けて――両膝を床に付く形で崩れた。


 佐天「…………」

 同じことを思ったのか――力なく近くの壁にもたれ掛った。


 ――どうしよう。

 ――どうしよう。

 ――これじゃあ、生きて……帰れそうにない。


 突如叩き落された、絶望的な状況に。
 うつろな目で、ぼんやりと崩れ去った階段を眺めるしかなかった。


903 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:50:10.45 ID:o1zfYVBd0










       ザアアアアアアアアアア……。








 階段が崩れ去った跡に広がった、外の空間で――延々と降りしきる雨。
 残された3階の空間にも――雨が絶え間なく吹き込んでくる。

 崩れた床の淵で座り込んでいた直美の体にも、雨は容赦なく降りかかる。
 彼女の体をただ、濡らし続けていた。
 着ている制服は水気のせいで透けて、中につけている下着がうっすらと見える。
 ショートカットの髪もすっかり濡れてしまい、髪の先から水滴が流れ落ちていた。 


 直美「そうだ……行かなきゃ……」

 すぐ近くに残されていた、階段の手すりの残骸に手を掛ける。
 崩れそうではなかったので、そのまま力を入れて、ゆっくりと立ち上がる。


 佐天「……どこへ?」

 直美「決まってるでしょ……さっきの男の人の霊のところ……」

 顔をうつむけながら、ゆっくりと廊下を歩き出す。
 今にも倒れそうな足取りで、佐天の目の前を通り過ぎる。
 そのまま、男子トイレがある辺りまでたどり着く。

 が。

904 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/05(木) 23:50:57.87 ID:o1zfYVBd0

 直美「うそ……そんな……」

 今にも泣きそうな顔になる。
 そんな状態で、目の前の様子を見詰めていた。


 佐天「は?一体……」

 壁に手を付きながら起き上がり、ゆっくりと直美のところへと歩き出す。
 が、急に見せた直美の反応に――ある予感が頭をよぎった。

 かなり悪い意味での予感だった。

 そして――その予感は的中した。



 佐天「ここも……崩れてる……」

 崩れた天井。
 押しつぶされた、トイレの引き戸。
 その上に山のように積もった、瓦や梁の残骸。
 それらを延々と濡らす雨。

 男子トイレは――入口の部分から奥が、完全に押しつぶされていた。
 中に入るどころか、原形すらとどめていない。
 完全に破壊されていた。

 奥の個室にいた紳士の霊は――見当たらなかった。


 直美「……るのよ……」

 うつむきながら、何かを口にする。
 が、小さな上に雨の音にかき消されて、よく聞こえない。


 佐天「……え?」

 ふと何気なく訊き返す。
 そして、直美の方に顔を向けたとき。

905 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/05(木) 23:51:29.07 ID:o1zfYVBd0


 直美「どうしてくれるのよ!!閉じ込められちゃったじゃない!!」

 じっと佐天を睨みつけながら怒鳴りつける。
 これまで溜まっていた、不安や恐怖――そして突きつけられた絶望を怒りに変えて、目の前の同行者にぶつけだした。


 佐天「はぁ?そんなこと言われても、どうしろっつーのですか?」

 彼女もまた、溜まっていたものを同じようにぶつけだす。
 じっと直美を睨みつけて。
 互いにいがみ合い、このままでは喧嘩になるのは必至だった。


 が――それは長く続くことはなかった。

 ちらりと見えた、階段の手すりの残骸。
 そして、廊下の奥。
 男子トイレと女子トイレを隔てていた壁は一部が崩れ去っていた。
 その向こうの、女子トイレの入り口の引き戸が見える。

 ――一見した所、崩れ去ってはいないようだ。


906 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/05(木) 23:52:11.53 ID:o1zfYVBd0

 佐天「まあ、手はないことは無いですけど」

 今にも掴みかかりそうな直美を振り払うかのように、奥の女子トイレへと歩き出す。
 それも乱暴な足取りで。
 足を乗せるたびに、床から悲鳴のような軋みがあがる。


 直美「手は無いって、何があるのよ。まさか、ここでじっとするなんて言わないでよ」

 佐天「そんな事は無いです。つーか、ここで餓死するまで待つなんて、まっぴらごめんですから」

 後ろを振り返ることなく、女子トイレの引き戸に手を掛ける。
 引き戸は閉まっていたが――難なく、簡単に開いた。


 直美「じゃあ、何をするっての?」

 半ば怒鳴り気味に訊きながらも、佐天の後に付いてきていた。


907 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/05(木) 23:52:44.73 ID:o1zfYVBd0

 佐天「階段の所に、手すりの残骸があったじゃないですか」

 女子トイレの中は――先程入ったときと変わった様子は無かった。

 室内に漂う、口を覆いたくなるほどの不快な臭気。
 所々にひびが入っていたり、割れていたりする鏡。
 一部が割れていたり、中には完全に壊されている、3つ並んだ洗面台。


 佐天「そこに縄を引っ掛けて下に垂らしてしまえばいいんですよ」

 その奥に広がる、5つ並んだ個室。
 扉はいずれも、閉ざされていた。 
 ――奥から2番目と3番目の個室の上に通された梁に、固く結わえ付けられた縄。
 

 佐天「もっとも、かなり危ないでしょうけどね」

 奥から3番目の――直美が首を吊ろうとして、佐天が飛び込んだ――個室の戸に手を掛ける。
 扉は――開かない。
 が、何かに引っかかっているような感じで、力を入れて引っ張ると――重い音を立てながらも、少しづつ開きだしていた。


908 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/05(木) 23:53:15.38 ID:o1zfYVBd0

 直美「…………」

 それ以上反論できず、ただじっと扉を引っ張る佐天を見詰めていた。

 その時――足で何かを踏みつけた感覚がした。
 何かと思い、足をどかすと――そこには、1個の電池が落ちていた。
 単3電池だった。
 かがみこんで、それを拾い上げる。


 佐天「とにかく、ここの縄を使えば……ってて!!」

 話している途中で、扉が勢いよく開いた。
 勢いのあまり、後ろへと倒れそうになる佐天。
 が、なんとか踏みとどまって、直美の方を見詰めた。


 直美「ちょっと……これ、何?」

 目の前に広がった、個室の中の光景。
 乾電池を手にしたまま、その方向を指差す。


 佐天「何って……ええ!?」

 怪訝に思いながらも、個室の中を覗き込む。
 途端に、直美と同様――目を丸くした。


 個室の中の便器を――覆うように倒れた、壁の板。

 その奥には――幅1mほどの隙間が、壁にぽっかりと開いていた。

 どうやら、先程の地震で壁の一部が倒れていたのだが――。




 トイレの中の裸電球がわずかに照らす、その空間は――板張りの壁に囲まれた部屋のようだった。




909 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/05(木) 23:54:10.09 ID:o1zfYVBd0

 佐天「こんなのがあるって……って、ちょっと」

 思い出したかのように、直美の顔をじっと見詰めだす。


 直美「な、何よ」

 佐天「その手にしている電池ですけど」

 視線を直美の手にある、単3電池に向ける。
 それは先程、佐天が拾った乾電池と同一だった。

 ――学園都市製の。


 直美「これがどうしたの。ここに落ちてたのを拾ったのだけど」

 佐天「それ、貸してください」

 直美「え?」

 何のことか理解できない直美をよそに、ポケットの中に手を突っ込みだす佐天。
 すかさず、中にあったペンライトと、1個の乾電池を取り出す。

910 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/05(木) 23:54:36.44 ID:o1zfYVBd0

 そして、ペンライトの蓋を開け、手にした乾電池を差し込んで。
 直美から渡された、同じ乾電池を続けて差し込んで、蓋を閉める。

 途端に――ペンライトに光が灯った。


 佐天「途中で拾ったやつですけど――どうやら、使えるようですね」

 すかさず、個室の奥に光を向ける。


 個室はだいたい2畳ほどの広さで、奥は木張りの壁が広がっていた。
 一見すると、行き止まりのようだったのだが。


 佐天「どうやら、行き止まりってわけじゃあ無かったようですね」

 照らされた部屋の奥の壁。




 その手前には――縄梯子が下に向けて吊るされているのが、はっきりと見えた。


911 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/05(木) 23:55:25.63 ID:o1zfYVBd0

 直美「こんなのがあったなんて……」

 呆然と、光に照らし出される先を見詰めていた。


 佐天「予想はつかなかったですけどね。さて、どうします?」

 直美「どうします、って言われても……」

 佐天「まあ、これがどこに続いているかは分かりませんが、雨ざらしの中を縄で伝って下りるよりかはマシでしょうね」

 手にしたペンライトで、個室の奥に広がる小部屋を照らし続けながら、じっと直美の顔を見詰めだす。
 当の本人は、少し考えあぐねたようすだったが。


912 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/05(木) 23:55:53.45 ID:o1zfYVBd0


 直美「行くしかないんじゃ……ないかな……」

 おずおずとだが、答える。
 正直、同感だった。
 これがどこに続いているかなんて分からず、危険といえば危険だったが――それは縄を伝って、無理矢理下に降りるのも同じ。
 しかも、その先には――先程、追いかけていたあの赤い霊の群れが待ち構えているかもしれないのだ。

 それに――自分達が閉じ込められた3階から脱出できる道を見つけたとあっては――それに乗らないわけにはいかないだろう。
 先に何が待ち構えているかは分からないが――縄梯子が途中で途切れたりしていないかなんかを願いながら。


 佐天「じゃあ、いきましょうか」

 便器の上にのっかかった板を避けるようにして、個室に入り込む。


 直美「うん」

 小さくうなづくと、佐天の後に続く形で個室に足を踏み入れた――。



                                            chapter6『閉塞』 END

913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/05(木) 23:56:18.07 ID:ibSRifgno
乙乙
ところで砂鉄まみれになったときのwrongってもう書かれてたっけ
914 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/05(木) 23:56:22.20 ID:o1zfYVBd0












                  Continued to 7th chapter











915 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/05(木) 23:58:42.56 ID:o1zfYVBd0
本日の投下はこれで終了です。
なお、>>885のAはWrongENDでした。
次回は前chapterと、今回のchapterのWrongENDを公開してから、次へ行こうと思います。

>>913
いや、まだですね。すみません。
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/06(金) 00:29:24.67 ID:+wCjWxom0
あ Bで正解だったのか 良かったAにしないで
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/04/06(金) 00:58:00.79 ID:5wk8kJwP0

色々あって仕方ないんだろうが直美さんメンタル弱いなぁ
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/06(金) 08:14:01.18 ID:wwVdW7AIO

佐天さんのWrongは他人の死に様で心砕かれるのがなんかゾクゾクした
919 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/21(土) 23:14:32.31 ID:lRPg4H150
お待たせしました。
本日は未公開WrongENDの一つのみ投下いたします。
グロ描写がありますので、ご注意願います。
(今回は1回ageで、あとはsageで参ります)
920 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/21(土) 23:14:51.30 ID:lRPg4H150

>>338のA

 すかさず、電撃を携帯に向けて放った。


 全身から発生した青白い火花。
 頭頂から一筋の稲妻が、瞬時に森繁の手にしている携帯へと伸びる。
 そして、そのまま携帯を叩き落とせる――








         ――はずだった。








921 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:15:33.77 ID:lRPg4H150


 森繁「うあっ……」

 うめき声と共に、その場に崩れ落ちる。
 電撃は――携帯自体どころか、手にしていた森繁の体に直撃する形になってしまった。
 手に狙いを定めていたのだが、少し位置がずれて――手を通り越して、胸に雷が当たってしまい。









       バタンッ!!









 森繁の身体は、丁度横を向く形で、床に倒れこんだ。

 白目を剥きながら、口から泡を吹き出した。
 小刻みに体が痙攣していたが――それもぱたりと止まってしまう。

 挙句に果てには――ズボンの股間にあたる箇所がじわりと濡れだしてくるのが見えた。
 全身の筋肉が緩み――失禁してしまっていたのだった。

 ここまでとなると、森繁がどうなったかは――素人でも、ある程度の想像がついてくる。


922 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:15:54.77 ID:lRPg4H150

 美琴「え……」

 そんな光景に、ただ呆然としてしまう。

 電撃をそこまで強くした覚えなんてない。
 せいぜい、スタンガンぐらいの電流で抑えたつもりなのに。

 これじゃあ、高圧電流を流した感じで――
 普通の人間だったら……!!


 美琴「……ごくり……」

 小さく唾を飲み込む。
 そして緊迫した様子で、かがみこんで。
 恐る恐る、森繁の手首にそっと触れた。










 脈は――なかった。

 







923 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:16:27.80 ID:lRPg4H150

 美琴「ひっ……」

 小さく声を上げてしまう。
 表情は、すっかり怯えたものになって。


 ――自分のしでかした事に対して。


 それを否定しようとしたのか、森繁の手首を掴む指に、力が入る。
 まるで握るかのように。








 が――やはり、脈動は感じられない。








924 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:16:54.63 ID:lRPg4H150

 美琴「…………」

 力なく両膝が地面につく。
 森繁の手首を掴んでいた手が、糸の切れた人形のようにだらしなく下に垂れる。

 
 どうしよう……。

 なぜ……?


 こんなつもりじゃ……なかったのに……。


 今にも泣き出しそうなぐらいに潤ませた瞳で。
 ただ呆然と、目の前で横たわる森繁を見詰めているだけだった。










        「……し……」










 前の方から、微かに聞こえた。
 だが、掠れかかった声なのか、はっきりと聞き取れない。
 ふと――うなだれた首を上げた。


925 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:17:35.57 ID:lRPg4H150


 目の前には――由香が立っていた。
 全身を小刻みに震わせて――じっと美琴を見下ろしていた。

 なおも怯えながらも――まるで穢れたものを見るような視線を向けていた。


 美琴「あ……」

 咄嗟に何かを言い出そうとする。

 これは事故――なのだと。
 が、うまく言葉が続かない。
 口を半開きにしたまま、じっと固まってしまった。







 由香「人殺し!!」

 




 
 拒絶するかのように――美琴をじっと睨みつけて、叫んだ。

 そして、じりじりと後ろへと後ろずさる。


926 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:18:08.04 ID:lRPg4H150






 ――チガウ。



 ――コロスツモリナンテナカッタ。



 ――ソンナツモリジャナカッタノニ……。





 美琴「ち、違うのよ。これは……」

 まるで弾かれたようになって、顔を起こす。
 そして、懸命に思いを話そうと口にして。
 言い訳にしか聞こえない、思いを、ただ。


 しかし――


 由香「嫌!!来ないでください……」

 目じりに涙を浮かべながら、なおも後ろずさる。
 そして――

927 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:19:02.18 ID:lRPg4H150















 由香「バケモノ!!」
















 明らかに憎悪の篭った目で。
 美琴をじっと睨みつけて。

 ――吐き捨てると、そのまま廊下の奥へと走り去っていった。


 美琴「ちょっと、待っ……」

 待ってと言い掛けたとき――言葉が止まった。
 それは、彼女の意思ではなかった。

 なぜなら――


928 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:20:12.31 ID:lRPg4H150











              ??「わたフィ……ふぉ……」












929 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:20:47.50 ID:lRPg4H150





 ――脳裏に激痛が走ったから。




 焼けるような痛さが、延髄の辺りを中心に、瞬時に広がっていく。

 後頭葉も、前頭葉も、目も、耳も。


 そして――木の棒が突き出た、口も。




 棒が貫通した――延髄も。





 美琴(痛い!!いだい!!いだい゛よお゛おおおおおおおおお!!)

 叫びを上げようとするが、声に出ない。
 何が起こったのかと、振り返ろうとするが――頭が異様に重くて、動かない。
 いや、それ以前に――口も頭も少しでも動かそうとすると、頭部全体にさらなる激痛が走る。

 その度に――全身を激しく震わせる。
 が、それも頭部に振動が伝わると――さらに激しい痛みが襲うだけだった。

 
930 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/04/21(土) 23:21:36.62 ID:lRPg4H150

 










                ゴリッ……。










 美琴「……ぐが……あ゛ああ…・・・」

 突き刺さった棒は、無理矢理引き抜かれて。











      ザクッ!!











 美琴「……う゛あ゛……が……」

 後頭部に再び棒を突き刺されて。
 その度に、激痛が走り。


931 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/04/21(土) 23:22:13.66 ID:lRPg4H150










                         ゴリゴリッ!!










         グシャリ……










 美琴「……ぎぎ……があ゛ああ゛……」

 何度も、何度も――抜いては、後頭部に突き刺す。
 その度に、頭が割れるような激痛が襲い。

 悲鳴を上げようとしても、ほとんど声にはならず。
 その度に、やはり激痛が襲い。

 さらに、それどころか――


932 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/04/21(土) 23:22:56.62 ID:lRPg4H150










               グジュッ!!












 後頭部を突き刺す動きが止まったかと思えば。











    ザクリ……









 


 血の付いた、木の棒の尖った先端。
 それまでの後頭部から、標的を――頬に変えたようだ。

 右の頬から口腔へと――肉に穴を穿ちながら、左の頬へと一気に突き抜けた。
 もちろん、焼けるような鋭い痛みも伴って。

 それでは終わらず、棒が逆方向へと引き戻される。


933 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/04/21(土) 23:23:23.72 ID:lRPg4H150


 美琴「……あががぁ……がが……」

 先程より、やや大きなうめき声が上がる。
 本当は悲鳴を上げるところだが、激痛のあまり声が出ない。










        グジュリ!!








 そして再び頬の肉に、棒が力強く押し込まれる。
 何度も何度も。

 ――そのことが延々と繰り返された。

 ――鮮血と穿たれた肉を傷口から、次々と垂れ落ちてくる。

 
934 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:24:06.72 ID:lRPg4H150

 
 美琴「……が……あ……」

 いったい、なにがおこったのか。
 わからない。


 しかし――それが何であるかを視線を移動して確認する――必要はなかった。












      ??「あふぁふぁ……」












 みるみるうちに霞みだす視界。
 そこに、この事態を引き起こした原因となるものが飛び込んできた。


 上あごより上の部分がもがれた、児童霊。

 痛みで苦しむ美琴の目の前に立ちふさがって。
 かっと見開いて、涙をあふれさせ、じわじわと充血しだす彼女の瞳に――歯がむきだしになった下あごを近づけて。
 小さな両手を伸ばして、美琴の上下の唇を掴むと――一気に引っ張り出した。
 さながら――口を無理矢理開けさせるように。

935 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:24:41.94 ID:lRPg4H150


 美琴「……あ……がが……」

 その力はとてつもなく強く。
 美琴の口は限界一杯まで、広げられた。

 もちろん、棒で穿たれた傷口も一気に引っ張られていく。
 耐え切れなくなった周囲の肉は、限界以上に伸びきって――徐々に千切れだしていた。
 頬の筋繊維が断裂されると共に、鮮血の固まりがだらりと垂れ落ちる。

 が、その力は緩められることなく。
 口からうめき声があがるのも気にすることなく。


 なおも、一気に引っ張り出した。






936 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/04/21(土) 23:25:38.90 ID:lRPg4H150









                   ベリッ……。















         ??「ふぁえふええええええええ!!」















      ベリベリッ!!












 何かを引き裂くような音――そして、舌足らずな幼い女児の声が、耳に入って。
 同時にこれまでに体験したことのない耐えがたい激痛が、口元を襲って。

 美琴の視界は――暗転した。
 

937 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:26:41.01 ID:lRPg4H150

 森繁「……う……ううっ……」

 しばらく、意識を失っていた森繁の口から、うめき声が上がる。
 心臓を襲った電撃は、一種の仮死状態のようなものにさせていたのだった。
 脈は極端に弱まったものの――なんとか、吹き返すことはできた。


 森繁「……く、くそっ……」

 床にだらしなく投げ出していた手の指が微かに動き出し。
 口元からは息をする音が漏れ出し。
 心臓の鼓動は徐々に、勢いを取り戻してきていて。

 首や腕、さらには足に至るまで、微かに動き出し。
 ゆっくりと首を上げて。


 ――上半身を起こしだした。

 目は、はっきりと見開かれていた。


938 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:28:02.26 ID:lRPg4H150

 森繁「雷か……あの女、一体何者なんだ?」

 視界がややぼやついたままで、ゆっくりと周囲を見回す。
 同時に脳裏に浮かぶのは――いきなり電撃を放ってきた、美琴の顔だった。


 森繁「激しくやりやがって……」

 周囲を見回すが、照明がほとんどない為、状況がよく分からない。
 背後にあるらしきロウソクの光が微かに照らしているだけである。
 
 少なくとも、周りに立っている人物はいない。


 由香もいない。
 あの女もいない。
 どこかに行ったのか。
 人を気絶させて、何を考えてるんだ。

 これまで由香にしてきたことを棚に上げながら、電撃を放った美琴に怒りをぶつけようとする。
 さらに感じ出した、股間あたりの冷たさ。
 まるで濡れているようだが――。


 森繁「失禁まで……くそっ!!」

 その事実を知るや否や、さらに腹の底から怒りがわきあがる。


939 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:28:40.29 ID:lRPg4H150

 ――こうなったのも、みんなあの女のせいだ!!

 獣のような目つきで、周囲を見回す。


 森繁「あの女、許さんぞ……俺をこんな目にあわせやがって……」

 見つけたら、ただでは済まさせない――と、必死になって探し出そうと周囲を見回す。

 その時――手に何かが触れるのを感じた。
 硬い物体のようだ。

 手にすると――それは森繁の携帯電話だった。
 ディスプレイの明かりは灯っていた。
 電池はまだ切れていない。

 画像閲覧モードのままで――撮影した犠牲者の写真を映し出していた。


 森繁「なんとか、無事のようだ……ん?」

 携帯電話を見回していたときに、違和感を感じ出した。

940 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:30:01.46 ID:lRPg4H150




 それは――携帯電話のボディの一部を染めた、赤い液体。




 そして――手にする森繁の左手の指を染めた、赤い液体。






 まぎれもなく――血だった。


 森繁「なっ!?」

 慌てて、携帯電話の落ちていたほうを振り返る。

 その先にあった光景。
 一瞬、愕然としてしまう。


 しかし――


 森繁「は、ははは……」

 口元から笑い声が漏れ出す。
 怒りの表情はすでになく、代わりにあったのは醜い笑み。
 にやけた目もとを向ける、その先には。


941 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/04/21(土) 23:31:04.95 ID:lRPg4H150


 森繁「これは最高だねぇ!!」



 ――上あごより上がもぎ取られて。



 森繁「さっきまで粋がって、電撃まで放って僕を気絶させたくせに!!」



 ――歯や舌や食道、さらにはもがれた延髄や骨をむき出しにして。



 森繁「素晴らしいよ!!」



 ――露出した組織とともに、絶え間なく流れ出す血は。



 森繁「美しいよ!!」



 ――床や、着ているベージュのブレザーを赤く染め上げて。




942 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/04/21(土) 23:32:11.01 ID:lRPg4H150

 森繁「最高だね!!最高だよ!!」

 まるで、おもちゃを目にした子供のように。
 瞳は輝きを取り戻して。
 吐く息はすっかり荒くなって。
 興奮のあまり、頬を赤くして。
 口元を三日月状に歪めて。

 手にした携帯電話を撮影モードに切り替えて――レンズを向けた。



 森繁「あーっはははははははははははは!!」



 ――もがれた上あごから流れ出す血で出来た池。



 ――そこに浮かぶ胴体と――美琴の頭。



 ――それはまるで、血の池に浮かぶ島のようだった。



 ――かっと見開いて、充血して瞳孔が開ききった虚ろな瞳を。






 ――レンズ越しでにやける森繁に、ただ向けていた。














            ピロリン……。















 カメラのシャッターを切る音が――朽ちた廃校の廊下に鳴り響いた。



943 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:32:48.99 ID:lRPg4H150


(暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

 テーレレテテテレテー
 
   Wrong End

 ビターン

(押し付けられた左手の赤い手形。中指がない)


944 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/21(土) 23:38:43.32 ID:lRPg4H150
以上で本日の投下は終了です。

今更ですみませんが、前回の投下の訂正をば。

>>907 6行目

誤:佐天「そこに縄を引っ掛けて下に垂らしてしまえばいいんですよ」

正:佐天「そこに縄を引っ掛けて下に垂らしてしまって、そのまま下に伝って下りればいいんですよ」

さて、そろそろ次スレですが、前スレと同様に、限界一杯まで使おうと思います。
以上、失礼しました。
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/04/22(日) 00:15:40.13 ID:Q8NCTk3S0
森繁さん流石ッス
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/04/22(日) 20:11:46.14 ID:voJYWDI7o
今回も最高にエグいWrongエンドありがとうございます!

とあるキャラって攻撃翌力高いけど体は生身の人間だから奇襲されたりガードを突破されたりすると脆いのね。
だからこそホラーがホラーになってゾクゾクさせてくれる
947 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/28(土) 23:20:53.20 ID:9VQC+iq/0
今回もすみませんが、未公開WrongENDの投下のみとさせていただきます。
(1回ageで、あとはsageで参ります)
948 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/04/28(土) 23:22:37.09 ID:9VQC+iq/0

>>492のA


 美琴「ここにお兄さんがいるかは知らないけど、やってやろうじゃないの」

 目の前の壁を超電磁砲でぶち破ろうと、砂鉄まみれになったボタンを指の上に乗せた。


 由香「え……?美琴お姉ちゃん……ど、どうするの?」

 美琴「ちょっと、この壁をぶち破ってやるのよ」

 由香「そ、そんなことって……無理だよぉ……」

 美琴「はぁ?無理なことなんてないって。LEVEL5をなめるなっつーの」

 由香の方を振り向くと、小さく微笑みかける。


 美琴「こんな壁くらい超電磁砲でぶち抜くのは訳ないよ。早く中に入って、アンタのお兄さん探さないとね」

 由香「い……いけるの……?」

 美琴「だから大丈夫だって。衝撃がキツいから、耳と目をふさいで、しゃがみ込んでて」

 由香「う、うん……分かったよ」

 何をしようとしているのか、よく理解できない。
 が、少なくとも能力か何かでこの閉ざされた本館の壁をぶち破ろうとしているのは分かった。
 言われるがままに、耳を両手で塞ぎ、目を固く閉じて、うつむき形でしゃがみ込む。

 それを見届けると、美琴は根元にボタンを乗せた人差し指の先を、立ち塞がる本館の壁に向けた。
 そして、ちょうどフレミングの法則を示すように指の形を変えると同時に、全身に磁力を帯びはじめる。
 さらには、髪の毛はおろか、体や腕に時折火花が飛び散りだした。

949 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:23:16.65 ID:9VQC+iq/0

 美琴「じゃあ、思い切りぶちかますわよ!!」

 飛び散る火花の勢いが激しくなってゆく。
 同時に砂鉄まみれのボタンを親指で弾いた。

 ボタンは勢いよく宙に飛ぶ。
 頂点まで達したところで、重力に従って落下し、指の所まできたあたりで――。











          ズドオオォォォォン!!











 周囲の空気を劈く轟音が響いた。
 強烈な爆風が吹きすさび、傍らでしゃがみ込んでいる由香にも容赦無く襲いかかる。

950 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:24:00.95 ID:9VQC+iq/0

 由香「ううっ……」

 猛烈な風が直に当たり、しゃがんでいても転びそうになる。
 このまま吹き飛ばされてしまうのではないかとさえ思えた。

 さらには、霧状になった水のようなものが降り懸かってくる感触がする。
 まるで顔や体に噴霧器の水を吹き掛けられているかのようだった。


 由香「…………」

 風は少しもしないうちに、急激に止みだした。
 後には何事もなかったかのように、湿っぽくて凪いだ空気が漂っている。




 だが――霧状の液体が吹き掛けられる感触は、いまだにある。





951 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:24:32.76 ID:9VQC+iq/0


 由香(……何だろ。生暖かいよぉ……)

 噴霧器の水を掛けられているのなら、ひんやりとするはず。
 なのに、これはどちらかといえば温かい。

 さらには、どことなく匂いがあるような気がした。








 ――錆びた鉄のような、匂い。








 由香「…………」

 恐る恐る――目を開けた。

 視界に飛び込んできたもの。
 それは――。


952 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:25:28.38 ID:9VQC+iq/0









 大きく突き破られて、ばっくりと裂け目の入った――本館の壁。







 それこそ無数に細かく砕かれて、手前の地面に散らばっている――木の壁の残骸。







 まるで巨大な生き物が呼吸をするかのように、湿っぽい空気を吐きだす――壁にできた穴。











953 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:25:58.97 ID:9VQC+iq/0




 だが――由香の目を引いたのは、それらではなかった。


 由香「ひっ……いいっ!!」

 途端に怯えだす。
 目の前にあるものを、ただ全身を震わせながら――見ているだけ。
 さらには、自分の手や腕の状態を目の当たりにして――悲鳴を上げて、泣き叫んだ。



 美琴「う……あ……も……もちださ……ん……」

 弱り切った呻き声で、何とか同行者の名前を呼ぶ。




 ――地面に仰向けに倒れていて。


 頭を本館の方に向けて、両足を虫の死骸まみれの湖の水に突っ込んで。


 小刻みに口や瞳を動かしながら。




954 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/04/28(土) 23:26:33.65 ID:9VQC+iq/0



 ――手で、首筋を押さえていた。


 ばっくりと開いた、裂け目のような深い傷を覆うかのように。


 勢いよく吹き出る、赤い血潮を押さえこもうとするが。


 指の間から、紅い液体が霧状に噴出して。


 手と首の間からも、溢れた血液が絶え間なく垂れ落ちて――美琴の首元や着ている白いブラウスを紅く染め上げていた。


 傍には――べっとりと血が塗りたくられて、肉片がこびりついた木片が散らばっていた。
 降りしきる雨に打ち付けられて、それらを溶かし込みながら、地面へと伝わり落ちている。


 超電磁砲で壁を破った時に、粉々になって勢いよく跳ね返るように拡散した、木片。
 それらのうちの一つが――美琴の首元へと向かって飛んでいき。

 音速で飛ぶ木片はそのまま――首元の肉を大きく抉った。
 頚動脈も引きちぎれ――鮮血が噴水のように勢いよく噴出したのだった。
 


955 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:27:26.47 ID:9VQC+iq/0

 由香「み、美琴お姉ちゃん!!」

 体をびくつかせながら、弾かれたかのように歩み寄る。
 そして、血がべっとりとついた手で、美琴の首の傷を押さえ付けた。

 が、それも焼け石に水だった。
 血は止まりそうになく、塞いだ手の間から留まることなく漏れ出してくる。
 

 美琴「……も……もちだ……さん……わた……しは……も……だめ……」

 そんな由香の手を、傷口を塞いでいる手で撥ね退けようとする。
 途端に、それでできた隙間から血液が噴出してくる。
 それは由香の顔や体もみるみるうちに、赤く染めていった。


 美琴「……そ……そこに……あ……ながあ……いた……から……お……にいさ……んを……」

 意識がじわじわと薄れていく中で。
 残った力を振り絞って。

 掠れた声で、本館に行って兄を探すように告げる。
 最後のほうは声が出なく、口がパクパクと動いているだけという状態になっていた。


 由香「で、でもっ!!これじゃあ美琴お姉ちゃんが死んじゃうよぉ!!」

 美琴「は……はや……く……ん……」

 なおも傍でぐずる由香を引き離そうとすると――あるものが目に入った。
 丁度、由香の背後に現れたもの。

 それは――



956 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:28:23.20 ID:9VQC+iq/0




 美琴「に……にげ……」 

 由香「え……?」

 何のことか分からず、聞き返そうとしていた。
 そして、ただ狼狽するばかり。


 本館に開いた穴のある方向。










 そこに――鉄槌を持った、血の気がない大男がいるにも気づかずに。













     ??「ふしゅるるるるるるるるる……」










 由香「え!?」

 背後から突如聞こえた、不気味な息遣い。
 思わず背後を振り返る。

 が――それはあまりに遅すぎた。


957 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:29:24.49 ID:9VQC+iq/0











         ??「うおおおぉぉぉぉおお!!」
















 狂ったトーンの雄叫び。


 目の前を塞ぐかのように立つ巨漢。


 じっと睨み付ける不気味ぐらいに充血した目。


 大きく振りかぶった――鉄鎚。


 耳元で一瞬響いた、風を斬る音。




958 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:30:46.50 ID:9VQC+iq/0
















                              グシャリ……。









 重く響く、衝撃。


 頭が砕けたような、感触。


 絶え間なく襲う、激痛。



959 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:31:29.80 ID:9VQC+iq/0

 由香「……う……ぐ……」

 何が起きたのか、分からない。
 ただ、頭がとてつもなく痛い。
 まるで気絶してしまいそうなぐらいに――いや、みるみるうちに目の前が暗くなってゆく。


 美琴「……あ……が……」

 近くで誰かが声を上げていた。
 かすれゆく意識の中で、かろうじてそれを拾いあげる。


 由香(……な……おみ……おねえ……ちゃん……?)

 彼女の意識は、それまで一緒にいた同行者の声を、別の人間のものと認識した。

 小学校の頃から、聞き慣れた少女の声と。
 いろいろと構ってくれて、優しくしてくれた――兄の腐れ縁の少女の声と。
 同行者とその少女との声質がよく似ていたというのもあるが――強く殴られた衝撃で、思考があまり機能しなくなっていた。


 由香(……いた……い……よ……た……すけ……て……)

 必死にその少女に助けを求めようとする。

 が、声が全く出ない。
 小さくパクパクと開く口に、何か生温かいものが入り込んでくる。
 頭から伝ってきて、どこか鉄の臭いというか、味というか――そんな感じがする。

 それが殴られて砕けた頭の傷から流れ出た、自分の血だと認識できないまま――由香の意識は闇に閉ざされた。



960 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/04/28(土) 23:32:34.66 ID:9VQC+iq/0













            ??「ぐうぅ……おぉ……」











 巨漢は、足下で倒れている由香を――じっと見下ろしていた。

 小さな頭は、頭頂のあたりで陥没して。
 そこから、血液や脳漿が絶え間なくあふれ出て。
 紅く染まって、粉々に砕けた頭骸骨のかけらを散らばらせて。
 
 横を向いて充血した目は、瞳孔が開ききっていて。

 小さく開いた口には――息をしている気配がなかった。


 美琴「……あ……あ……」

 なおも首筋からあふれ出る血を押さえながら。
 力なく倒れたままであっても――目の前に突っ立つ巨漢を、睨みつけていた。

 さらには何かを言おうとしていたが――掠れきって、ほとんど声になっていない。
 ただ、口が金魚のように小刻みに動いているだけ。


961 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:33:30.22 ID:9VQC+iq/0













       ??「うう……ぐおお……」













 血の滴る鉄槌を引きずりながら――巨漢は歩き出した。
 そして、手にしていた鉄槌を振り上げて。


 美琴「――!!」

 ――く、くそっ!!

 鉄槌を何とか逸らさせれば――。

 薄れ行く意識の中で、なんとかあがこうと。

 磁力を発生させようと、演算を行う。


962 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:34:29.76 ID:9VQC+iq/0


 が――













         ??「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」













 ――あまりにも、それは遅すぎた。


963 : ◆IsBQ15PVtg [!red_res saga sage]:2012/04/28(土) 23:35:23.47 ID:9VQC+iq/0











               グシャリ!!











 振り下ろされた鉄槌は――美琴の側頭部を直撃した。
 
 頭の骨が砕け、そこから脳漿や血液――さらには脳組織がじわじわと漏れ出してくる。
 
 首からあふれ出た血とあわせて――みるみるうちに、美琴の周りには池と言っていいぐらいの血溜まりが形成され。

 目は充血し、動向が開いて。

 鼻や口からは、血が幾筋もあふれ出し。

 体は痙攣していたが――それも、すぐに止み。

 心臓の鼓動は――完全に止まってしまった。

964 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:36:15.44 ID:9VQC+iq/0

 ??「うう……ふしゅるる……」

 巨漢は不気味な息吹をあげた。
 鉄槌を左手で握ったまま、冷たくなった由香の体を右手で持ち上げた。
 さながら布団のように左肩に掛ける。

 そして、右手で美琴の髪の毛を乱暴に掴む。
 美琴の冷たくなった体を地面に引きずるような形で――そのまま、本館の中へと歩き出した。


 美琴「…………」

 由香「…………」

 声もあげることなく。
 体も動かすことなく。


 ??「ぐお……うおおおおおおおおおおお!!」

 巨漢は周囲の空気を震え上がらせるような雄叫びを、ただ上げながら。
 由香を肩に担ぎ、美琴を引きずったまま。

 本館の中へと消えていった――。

 

965 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:37:03.03 ID:9VQC+iq/0

 


(暗転の後、背後にゆらめく廃校舎)

 テーレレテテテレテー
 
   Wrong End

 ビターン

(押し付けられた左手の赤い手形。小指がない)


  


966 : ◆IsBQ15PVtg [saga sage]:2012/04/28(土) 23:38:10.00 ID:9VQC+iq/0
本日の投下はここまでです。
改めて、お読み頂いている皆様、レスをして下さっている皆様に感謝いたします。
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/04/29(日) 08:45:02.94 ID:tbYUadHAO
乙乙
そろそろアァイ!にも期待
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/29(日) 14:54:06.24 ID:d4lGup8IO
今日もまたひでぇ物を見てしまった(ほめ言葉)

閉鎖空間系ホラーのいいところは敵だけでなく状況にも追い詰められる焦燥感。
とあるキャラのクロスでそれを見られるのはとても楽しい。
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/29(日) 15:20:52.49 ID:TPbojQqp0

いやぁ、4Uは楽しみですね
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/04(金) 07:10:50.33 ID:fTmReHcgo
追いついた乙

最初は赤字レスにビクビクしてたのにWrong Endがクセになってきたぜ
971 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/05/04(金) 23:10:06.33 ID:VOY4ySMs0
いきなりですみませんが、まずはさらに訂正をば。

>>906 5行目

誤:直美「手は無いって、何があるのよ。まさか、ここでじっとするなんて言わないでよ」

正:直美「どうするってのよ。まさか、ここでじっとするなんて言わないでよ」


あと、コメ返しを一部。

>>913
美琴が砂鉄まみれとおっしゃっていましたが、これは砂鉄まみれのボタンのことですかね?
>>948->>965にてそれを示させて頂きましたが、いかがでしょうか?


以上、失礼しました。

では、本日分の投下に参ります。
今回でスレをまたぐ形になりますが、よろしくお願い致します。
972 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/05/04(金) 23:10:44.64 ID:VOY4ySMs0


 ??「こんなところで……じっとしている場合じゃ……ないわ……」

 うっすらと蛍光灯に照らされた、廃校の廊下。
 そこを一人の女性が――ふらつきながらも歩いていた。

 年齢は20代前半といったところだろうか。
 上は白いジャケットに、ピンクのシャツ。
 胸元にはパンダを象った飾りが付いたペンダントがぶらさがっていて。
 履いている青いスカートから伸びた、ほっそりとした脚は――時折震えながらも、朽ちた床を一歩一歩踏みしめていた。

 
973 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/05/04(金) 23:11:26.03 ID:VOY4ySMs0

 











           ……ピトン……











974 : ◆IsBQ15PVtg [saga]:2012/05/04(金) 23:11:46.92 ID:VOY4ySMs0


 ??「あの子たち……大丈夫かしら……」

 息も絶え絶えといった様子で、なおもゆっくりと歩を進める。
 その度に、床の軋みが不気味な音を奏でて。
 まっすぐ歩いているつもりでも、足どりは左右にぶれていて。
 傍から見れば、いつ倒れてもおかしくないといった様子だった。

 いや――むしろ、歩けていると言った方が正しいだろう。







975 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:12:34.47 ID:VOY4ySMs0












          ……ポトッ……。












 なぜなら。





976 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:13:03.29 ID:VOY4ySMs0












                 ……ポトッ……











977 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:13:35.33 ID:VOY4ySMs0



 歩いた後に――血痕が垂れていたのだから。
 着ている上着やスカートは、あちこちで切り裂かれていて。
 その下から――何かで刺されたのだろうか――ばっくりと開いた切り傷が覗かせていた。

 そして、少しずつだけれども――血が染み出していた。
 血はそのまま、彼女のほっそりとした手や足を伝わって――床へと絶え間なく垂れていたのだった。

 とりわけ、右腕に出来た傷は、素人目でも分かるぐらいの深い傷だった。
 今は白い布で巻きつけているものの、そこからは血がなおもあふれ出ていた。
 覆っている布はもちろん、二の腕の傷を覆う布や、羽織っている白いジャケットの袖さえも赤く染めていた。
 左手で何とか傷口のあたりを押さえるものの――止まる様子はない。

 さらに言うなら、骨も折れてしまっているように思えて――動かすことなんて到底無理だといえそうな激痛が、右腕を支配していたのだった。


 痛さという激しい苦痛のあまり、顔を歪ませながら。
 吐く息は弱弱しくなりながら。
 足元はもつれて、時折倒れそうになりながら――も。

 気力を振り絞って、前へ前へと朽ちた床を踏みしめていた。


978 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:14:19.73 ID:VOY4ySMs0


 ??(早く、早く……っ!!)

 彼女の頭の中に浮かぶ、クラスの生徒たちの顔。
 今、この空間の中で無事でいられているのか――それだけが気がかりだった。

 満身創痍の状態だが、そんなことは気にし照られないといった状態で。
 副担任として――いや、一人の教師として、生徒を守らなければいけないという使命感。
 それだけが、彼女――宍戸結衣を突き動かしていた。


 結衣(あの子たちがっ……!!)

 霞む目が瞬きする中、浮かんだのは二人の生徒の顔。

 ――篠崎あゆみと岸沼良樹。
 両人とも、1-Aの教室で待っておくように言ってあったのだった。





 ここに至るまでの光景が、走馬灯のように結衣の脳裏をよぎる――。



979 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:15:04.79 ID:VOY4ySMs0


 文化祭が終わった後のこと。
 翌日で転校することになるクラスメートの鈴本繭の別れを惜しんで、クラスの皆がだべっていた。
 結衣もその輪の中に入って、そのひと時を楽しんでいた。


 クラスの委員長のあゆみの提案により――絆を強めると言われるおまじないをすることになった。
 皆が賛成し、用意された紙人形を――結衣も入れた9人全員でつまんで。
 呪文を心の中で唱えて――一気に引きちぎった。










       グラグラグラ!!










 その直後、いきなり襲った地震。
 床にできた地割れに吸い込まれて――そのまま気を失ってしまった。

980 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:15:35.84 ID:VOY4ySMs0

 その直後、いきなり襲った地震。
 床にできた地割れに吸い込まれて――そのまま気を失ってしまった。


 目を覚ますと――そこは見知らぬ不気味な廃校の中。
 崩れかかったモルタルの壁や木製の床。
 そこら中に散乱していた、小学生用のものとおぼしき木の机や椅子。
 所々で割れてしまっているガラス窓。
 そして――壁や床には、赤黒いシミや汚れが無数に付着していた。


 最初、ここは如月学園のどこかだろうと思った。
 いや――そう思いたかった。
 確か、違うクラスでお化け屋敷の催しをやっていたから――そこに無意識のうちにやってきたのだろうかと。
 自分のクラスと一緒で、後片付けが出来ていないのか。
 生徒がいたら、明日朝早く出てきて片付けなさいと伝えようと――さえ思ったぐらいだった。


981 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:16:16.44 ID:VOY4ySMs0

 が――ここまでの朽ちっぷりは、明らかに廃墟。

 所々で抜け落ちたり、めくれ上がったりしている床。
 足を乗せればそのまま踏み抜きそうだといった感じだった。

 周囲に漂うかび臭さ。
 照明がないのと相まって、陰鬱な雰囲気をかもし出していた。
 
 さらには、黒板の脇に貼ってあった貼り紙の存在――。



982 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:17:04.29 ID:VOY4ySMs0







 『 【天神小連絡通紙】


  校内で頻発している【生徒児童 誘拐事件】への対策を……
 
  先般の事例に基づいて

  各員速やかに執られたし……

        【天神小学校校長 柳堀隆峰】       』

 




983 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:17:31.85 ID:VOY4ySMs0


 今いるこの廃校が――如月学園の校舎でないことを、いやでも思い知らされた。
 それどころか、貼り紙にある天神小学校という文字。


 結衣(これって、確か……)

 如月学園が建っている土地に、かつて存在していた小学校。
 20数年ほど前に廃校になって、取り壊されているはず。

 なのに、なぜ?
 今はない学校が存在して――私たちがここにいるわけ?


 その質問に答えてくれる者はいなかった。
 同じ教室の中には、クラスの生徒のあゆみと良樹がいたが――やはり、なぜここにいるのか分からない。
 あゆみに至っては、ショックのあまり過呼吸に陥ってしまうほどだった。

 教室の窓の外を眺めてみる。
 が、外は真っ暗で――雨で煙る向こう側には、鬱蒼とした黒い森があるだけ。
 さながら、人里から遠くかけはなれた森の中の様相だった。
 もちろん如月学園の外の風景はこんなものではない。


984 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:18:00.24 ID:VOY4ySMs0

 結衣(とにかく外に出て――いや、その前に他の子たちはどこ?)

 この教室を見回してみても、結衣を含めた3人以外の姿はない。
 自分のクラスの生徒――持田哲志、中嶋直美、篠原世以子、鈴本繭、森繁朔太郎の5人。
 さらには、哲志の妹の持田由香を入れた――計6人の姿が見当たらない。


 ――彼らも自分と同じように、教室で地震に襲われて。
 崩れる床とともに落ちていったのを――気を失う前に、確かに見た。


 だから――この校舎のどこかにいるかもしれない。
 なんとなくだが、そう思った。


 そして、そのおぼろげな予想は――次に起きた現象で確信へと変わった。




985 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:18:29.95 ID:VOY4ySMs0












    「いやあああああああああああああ!!」











986 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:18:56.45 ID:VOY4ySMs0



 ――中嶋さん!?

 その悲鳴はくぐもっていたので、よくは聞き取れない。
 が、結衣にとっては聞き覚えのある声質だった。
 自分が副担任として受け持つ生徒の――そして同じように、地震に巻き込まれた――1人のものだった。
 良樹とあゆみもまた、この悲鳴が誰かをすぐに悟ったようだ。


 ――だとすれば、するべきことは一つ。


 結衣「外の様子を見てくるから。あなたたちはここで待っていなさい」

 外では何が起きているのかは分からない。
 過去に存在した廃校に連れてこられるという、不可解な事態が遭遇しているのだ。
 命に係わることが生じてもおかしいとは思えない。


987 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:19:24.78 ID:VOY4ySMs0

 あゆみ「嫌!!先生、行かないで!!」

 教室に残されることを不安がったのだろうか。
 あゆみが頑なにそれを拒む。
 挙句の果てには、過呼吸の発作まで起こしてしまうほどだった。

 確かにこんな得体の知れない空間に、2人とはいえ取り残されるなんて、気分のいいものではない。
 むしろ不気味なぐらいだ。
 さらには一人で行こうとする結衣の身を案じてというのもあるだろう。


 しかし、ためらっている余裕はなかった。
 クラスメートが同じようにこの空間に飛ばされていて、悲鳴を上げる自体に遭遇しているのだ。
 一刻も早く駆けつけて、助けてあげるべきだ。

 副担任としての――1人の教師としての使命感が、結衣を突き動かした。
 なんとかあゆみを落ち着かせる。
 それを見届けると、良樹に彼女を任せ――教室の外へと足を踏み出した。

 この廃校のどこかに、直美がいるのは確実。
 いち早く探して、良樹らのいる教室へと戻ろう――


 ――と、思っていたのだが。


988 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:20:04.60 ID:VOY4ySMs0


 その先で入った教室。
 外の廊下が大きく抜け落ちていて、通ることは出来なかった。
 中に入ると、幸い床が抜け落ちていることはなかった。
 なんとか教室を通り過ぎて、先に進めるかもしれない。

 そう思いながら、教室の前方にある引き戸に手を掛けた――その時。




 引き戸の脇にあった戸棚。

 それが――何の前触れもなく、倒れてきた。


 いきなりのことだったので、気づけるはずもなく。

 倒れた戸棚の下敷きになってしまった。

 全身を強く打ち付けられ、体のあちこちが痛む。

 打撲したときの鈍い痛みにまじって、鋭い痛みも感じられる。


989 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:20:59.82 ID:VOY4ySMs0


 結衣「め、メス……!?」

 目に飛び込んできたものに、愕然としてしまう。

 右の肩口には医療用のメスが深々と突き刺さっていた。
 そこから血がじわじわとにじみ出ている。
 当然、刺傷による痛みも嫌というぐらいに感じられる。
 さらには、同じような痛みが背中にも、足にも感じられた。


 結衣(……まさか、他にも刃物が突き刺さって――!?)

 思わず、そのような予測を立ててしまう。
 ただ、これ以上振り向くことも出来ない。
 さらに背中には倒れた戸棚が重くのしかかっていて、その先がどのようになっているのかは見えない。


 結局の所、その予測は当たっていた。
 結衣にのしかかっている戸棚の中には――ぎっしりと刃物類が詰め込まれていた。

 包丁、カッター、ハサミ、彫刻刀、小刀、メス――それらの刃物が倒れた弾みで、戸棚の中から飛び出した。
 それらは容赦なく、下敷きになった結衣の体を切りつけたり、突き刺さったりしたのだった。


990 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:21:25.94 ID:VOY4ySMs0

 結衣(と、とにかく……この戸棚をどかして……)

 幸い、左手には痛みは感じない。
 どうやら刃物は刺さっていない様子だ。
 さらには、少し手を上げると、棚の縁に触れた感触がする。
 うまくいけば、棚を持ち上げられるかも――。

 が、うまくはいかないものだった。
 わずかに上がりそうったものの、重量自体は結構あるようだった。
 女性の体力で、利き腕でない手で、かつ背中向けに力をかけようとしたところで、高が知れている。
 ましてや、満身創痍の状態ではなおさらだった。

 棚はすぐに結衣の体の上に落ち込む。
 さらには――


 結衣「……ぐあっ!!」

 少しばかり圧迫感を感じた。
 直後、背中や足の痛みが激しさを増した。

 どうやら――突き刺さっているであろう刃物が、先程の弾みで押し込まれたらしい。
 あまりの痛さに顔を歪ませる。 

991 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:22:12.99 ID:VOY4ySMs0

 そんな時――。


 ??「……モウ、三人で震エてイルのハ、ヤメたノカイ?」

 どこからか、聞きなれない声が聞こえる。
 上のほうから聞こえた気がしたので、思わず顔を上げると。


 ??「……あがいても無駄ダヨ。サラに傷つくダケだよ……」

 結衣「な、なんなの……これ……!?」

 突如、目の前に現れたモノに、目を白黒させる。
 一瞬、夢でも見ているのかとさえ思った。


 目の前には――血のような赤い色をした、炎のような物体が浮かんでいた。
 まるで、ホラー映画に出てくるような人魂――と言ったほうがいいだろうか。
 その物体は、時折人のような形に変わったり――かと思えば、元の炎のような人魂の形に戻ったりしている。

 それが何かは分からない。
 ただ言えるのは――それが意思を持って、結衣に話しかけているということ。
 中高生ぐらいの男性の声で。

992 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:22:44.76 ID:VOY4ySMs0

 結衣(これは人なのかしら?だとしたら、なぜ……!?)

 そんな疑問が頭に浮かぶ。
 この人魂が何なのか、そしてどういう意図をもって無駄なんて言っているのかを考え出した。

 しかし、分からない。
 分かるはずがない。

 ただ――


 ??「アガいてモ無駄ダカラ、サッサとくたばリナヨ。アトの二人も後を追ワセてアゲルからサ……」

 少なくとも分かる。
 この人魂が自分に危害を加えようと――いや、殺そうとしていて。
 あゆみと良樹にも手を掛けようとしているということが。

 言葉尻から、とてつもないぐらいの悪意がひしひしと感じられた。

993 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:23:11.74 ID:VOY4ySMs0


 となると――


 結衣「う……そんなこと……させないわ……」

 もはやじっとしていられない。
 このままここでなすがままにされていれば、あの二人も危ない。
 たとえさらに傷つこうとも――一刻も早く、彼らのところに戻らなくては……。


 ??「ゴチャゴチャ言っテルンジャネェよ、この生者ガ!!」

 急にいきり立ったのか。
 霊魂は激しい声をあげたかと思うと、まるで炎が激しく燃え上がるかのように揺らめきだした。

 途端に、倒れた棚が重石でも載せられたかのように――容赦なく下敷きになっている結衣の体を押さえつけだす。
 同時に刺さっているいくつかの刃物が押し込まれ、その度に容赦の無い激痛が襲う。


 結衣「ああっ……!!痛い……」

 あまりの痛さに、顔を歪めてしまう。
 が、そのまま苦しんでいるわけにはいかない。
 ここで自分が果ててしまったら、誰が残したあの二人の生徒を守るのか?

 それを思うと、苦しいながらも手に力が入る。
 なんとか、背中にのしかかった棚を押し上げようとした。

994 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:23:56.38 ID:VOY4ySMs0

 が――


 結衣「ううっ……」

 胸はおろか、胴体全体を締め付ける圧迫感。
 それに伴う息苦しさ。
 さらには、全身に突き刺さった刃物が、肉体に食い込む度に発する痛覚。


 それらが、結衣の意識を削り取っていった。
 やがて数分もしないうちに、意識が薄れていき――目に見えるものが霞みだしていって。



 感覚が薄れて、全身の力が抜けると共に――視界は暗転した。



995 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:24:30.11 ID:VOY4ySMs0



 結衣「……うっ……ううっ……」

 じっと床に倒れ伏した状態だった――が、小さくうめき声を上げる。
 手や足が小さく動き出し、やがて閉じていた目もうっすらと開きだす。


 結衣「う……っつ!!」

 意識が戻ると同時に、鈍い痛みや鋭い痛みが全身を襲いだす。
 途端に、気絶する直前に数多くの刃物が刺さったことを思い出した。
 正直、命を落としていてもおかしくない――そんな状態にもかかわらず、まだ生きていることに一種の驚きを感じていた。 


 ――どれだけの時間が経過したのだろうか。

 見渡すとそこは――朽ち果てた教室の中。
 一部が崩れ落ちた木の天井や床。
 薄汚れたり、崩れかかったりしている、白いモルタルの壁。
 倒れていたり、逆さまになりながら、あちこちに散乱している小学生用と思しき机や椅子。

 先程見たのと変化はない――というわけではなかった。


996 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:24:56.28 ID:VOY4ySMs0

 結衣「あれ……背中が軽い……」

 今まで結衣の体に重く圧し掛かっていた棚がない。
 ふと見ると、左脇に横倒しになって倒れていた。
 その前には、血の付いたノミやキリや包丁やノコギリなどが散乱している。

 さらには――


 結衣「誰か……手当てをしてくれたのかしら……」

 右肩や二の腕のあたりに、血を止めるかのように白い布が巻きつけられていた。
 それでも出血は激しかったのか、傷口を中心として赤黒く染まっている。
 さらには、少し動かすと鋭い痛みと共に、じわじわと赤いものが滲み出てきた。
 応急処置というわりには、不十分だった。

 が、今更文句は言っていられない。
 自分が気絶しているうちに、誰かがなんとか手当てをしてくれたのだから。
 それも、医療器具なんかなさそうな、得体の知れない廃校の中で。

 しかも、気絶する直前まで、苦しむさまを嘲笑っていた赤い人魂も――今はいないようだ。
 ひょっとしたら、手当てをしてくれた誰かが追い払ってくれたのだろうか。

997 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:25:41.55 ID:VOY4ySMs0

 結衣(そこまでしてくれて、いないだなんて……何かあったのかしら……?)

 ふと考え込む。
 人魂のようなものがいる、命を落としかねない危険な場所で。
 ここまでしてくれたのは――誰か、ということを。


 結衣(岸沼君?それとも篠崎さん?)

 真っ先に思い当たったのは、別の教室に待つように伝えた――自分のクラスの生徒。
 戻ってくるのが遅いから――心配して、後を追いかけてくれたのか?
 そして、ここで気絶しているのを見つけて――さらにはあの赤い人魂も見つけて。
 異様な様子に、助けようとしてくれたのか?

 だとしたら、かなり危ないことをしている。
 後で注意しなきゃ。

998 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:26:22.19 ID:VOY4ySMs0

 でも――ここでふと思い直す。

 結衣(彼らなら……このまま目を覚ますまで、ここにいるはずよね……なのに)


 ――なぜ、ここにいないのか。

 彼らの性格を考えると、見捨ててどこかに行った……とは思えないし、思いたくもない。
 だとすると、ここからいなくならざるを得ない何かが起きたのか。

 それって……


999 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:28:17.44 ID:VOY4ySMs0

 結衣(さっきの人魂……かしら?)

 なぜ、あの人魂がこの場からいなくなっているのか。
 自分が気絶するまで、明らかに苦しめようとしていたのに。
 殺意さえ篭っていたのに……?


 結衣(あの子達も後を追わせるなんて言ってたから……まさか!?)

 ある一つの想像に至った。

 あの人魂は追い払われたってものじゃない。
 きっと、更なる獲物を見つけて追いかけていったのだ。






 ――良樹とあゆみを殺そうとして!!






1000 : ◆IsBQ15PVtg [sage saga]:2012/05/04(金) 23:32:52.55 ID:VOY4ySMs0
ここで次スレに参ります。

黒子「おまじない……?」 #3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1336141886/

以後もよろしくお願い致します。
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黒子「おまじない……?」 #3 @ 2012/05/04(金) 23:31:31.27 ID:VOY4ySMs0
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ここだけ全員焼肉店(いつ依頼だろう・・・スレを立てたのは・・・)516店舗目 @ 2012/05/04(金) 21:02:20.83 ID:Y3shhZ5iP
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