このスレッドはSS速報VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

王様「ハハッ」 ほむら「・・・は?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 01:18:16.62 ID:3NCGTD1N0
ほむら「(悲しみと憎しみを繰り返す、救いようのない世界だけど、だとしても此処は、かつてあの子が守ろうとした場所なんだ)」


ほむら「(それを覚えて、決して、忘れたりしない)」


ほむら「(だから私は、戦い続ける・・・!)」




王様「ホーリー!」

ほむら「・・・え?」

QB「そんな、魔獣が一瞬で・・・」

王様「ハハッ、危ないところだったね」

ほむら「そんな・・・あなたは・・・」

ほむら「○ッキー・・・」

王様「ハハッ、色々な事情が絡んでしまうから僕のことは王様と呼んでほしいな!」

王様「お嬢さん、君の名前は?」

ほむら「・・・私は、暁美ほむら」

王様「暁美ほむら・・・うん、やはり良い名前だ」

王様「ほむら、君にはどうやら不思議な力が宿っているようだね」

王様「そして強い心・・・それも、光の力を持った心・・・」

王様「おめでとう、君は見事にキーブレードに選ばれた存在だ」

ほむら「・・・どういうこと?」

王様「ほむら、端的に言えば僕、そしてこの剣、キーブレードを持つ多くの者達は、数多に存在する世界を浄化して周っているんだ。
その世界に蔓延る心の闇が具現した存在を。
丁度さきほどのような魔物――僕らは性質で分けて、それをハートレス、ノーバディ、アンヴァースと呼び、異形となってしまった世界の住人の魂を救済しているんだ」

王様「そして時々、素質を持つ者に出会ったら、力を与えるんだ。僕と一緒に、戦ってくれる力をね」

王様「暁美ほむら、どうだろう。僕たちに協力してはくれないかな?」

ほむら「・・・」

QB「そういうのは困るんだよね。ほむらはこの世界の人間なんだ。
願望を叶える事で負ったこの世界で戦う債務を弁済せず 他の世界に跳躍されるなんてことをされるのは、
僕らとしては黙っていられないな」

王様「・・・君は?」

QB「僕はインキュベーター。この世界の住人だ。空想の英雄、○ッキー・マ○ス」



KH(うろ覚え崩壊)×まどかです

ここでは処女作です

原作レイプ乱文散文誤字脱字どうか御容赦を
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713522243/

旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713353246/

木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1713351945/

いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713279251/

【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713277692/

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713183168/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/28(土) 01:22:21.35 ID:3NCGTD1N0
王様「ハハッ!そうか、それは失礼。しかし今君と話している訳ではないんだ。黙っていてもらえるかな?あと、僕のことは王様と呼んでくれ、QB」

QB「・・・まぁ良いよ。ほむら、君の意向を聞かせてもらおうじゃないか。君の朋友が護った世界を蔑ろにして、 君はどこの誰とも知らない世界の大衆を救い、無名の英雄に成り果てるのか・・・それは君の自由だ」

QB「あぁ、ところで王様、他の世界にはグリーフシードが存在するのかい?」

王様「グリーフシード?それはなんだい?」

QB「やれやれ。それが無ければほむらのような魔法少女は長く生きられないんだよ。本来なら今さっき君が倒したような魔獣が出すんだ。それで ソウルジェムの穢れを浄化し、魔法少女たちは再び万全へと回帰する」

王様「なるほど、こんなものにそんな力が・・・しかし妙だね。他の世界にはこんな法則存在していなかった。・・・これは、一体誰の仕業なのかな?」

QB「仕業だなんて随分と人聞きの悪い言い方をするんだね、王様。気が付いているんだろう? そのとおりだ。しかし勘違いしないでほしい。僕らはこの惑星の住人に人知を越えた奇跡や、文明を開花させる知恵を与えた代わりに、 惑星の住人から、彼らが枯渇させた分だけ、僕らの惑星が将来必要となるエネルギーを生成してもらっているんだ。 これは正当な取引だよ。非難される謂れはないな」

王様「・・・この世界に具現する悪意の根源は、君達インキュベーターというわけか・・・だとすれば、それは僕の敵だ」

QB「君は人の話を聞いていたかい?全てはこの宇宙の寿命を延ばすための」

王様「黙れ!」

王様「・・・君の言っていることは詭弁だ。結局君達は、美味い蜜を吸うために、彼女たちを利用していることには変わらないだろう」

QB「だからだね」

王様「君達に奇跡が起こせるなら、君達が居なくても奇跡は起こる。文明だって、君達を省いても、今と変わらないものになっていただろう」

QB「それはありえないよ」 王様「この世界は奇跡に満ち溢れているんだ!・・・君達が、居なくても、この世界の住人達みんなに奇跡を司る権利が与えられている!」 王様「インキュベーター、僕は君のペテンを決して許しはしない・・・!」

王様「ホーリー!」  

王様は剣先をほむらの肩に乗っていたQBに向けて、唱えた。刹那の間に剣先に蓄積した光の球体は正確にQBに衝突し、 QBは消滅した。

ほむら「・・・何、これは、どういうこと・・・?」

王様「済まない、ほむら。手伝ってくれ、諸悪の根源を一気に叩く・・・!」

ほむら「・・・え?でも、私には、貴方が言ったような力なんてないわ・・・さっきQBが言っていた魔法少女の力しか・・・」

王様「確かに今まではそうだったかもしれない。しかし、今はもう違う。君の力は、世界を開く力だ。君は全てを救う力を手に入れた。 君が奇跡になるんだ。・・・起こしたい奇跡があるのだろう?」

ほむら「・・・」

王様「君は、闇に満ちた世界であれば何処へでも行ける力を手に入れた。それで、憂いを払ってきたらどうだい?ハハッ!」

ほむら「・・・それは、たとえ過去だとしても、可能なの?」

王様「朝飯前さ!」

ほむら「・・・本当に、私にそんな力が宿っているの?」

王様「あぁっ!――僕には解かる。同じキーブレードを扱うものとして、君の強い心には、キーブレードが宿っていることが」

王様「さぁ手に取るんだ、暁美ほむら!君の、新しい力を見せてごらん!ハハッ!」  

ほむらは苦笑した。その言い方では、まるでQBだと。しかし口を噤んだ。彼は心底QBに憎悪を抱いているだろうからだ。 ソウルジェムから武器を顕現させた。――現れたのは、鍵だった。しかし大きさがまるでほむらの考えるものとは違う。 王様が握っているもののように、本来であれば剣と呼ばれる武器に採られる寸法だ。

ほむら「これが・・・私のキーブレード」  

王様「そうだよ。君はその力で、まずはこの世界を救うんだ!」

ほむらは、本当に自分が魔法少女から逸脱したのだと認識した。


中二満載です
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/28(土) 02:00:13.26 ID:3NCGTD1N0
王様「それじゃぁ、行こうか」

ほむら「・・・どこへ?」

王様「ハハッ!QBの巣窟だよ!」

王様は手をかざした。すると、前の空間に楕円の白い靄が立ち込める。靄は時々楕円から漏れては戻って、その様は手招きしているように思えた。

王様「さぁ行こう!この先に、奴らの惑星がある」

ほむら「・・・えぇ」

王様「緊張しているのかい?」

ほむら「・・・少し」

王様「気が引ける?君達は随分と親しそうだったけど」

ほむら「・・・いいえ。あいつたちとの関係は、もとより険悪よ。最悪が悪いになった程度であるだけ」

ほむら「ただ・・・この力を、私は使いこなせるのか・・・それが・・・」

王様「・・・キーブレードは使うものの心の強さによって変わってしまう。当然、弱い心によって使われるキーブレードは弱くなってしまう」

王様「信じるんだ、自分の力を。僕らなら出来ると、念じるんだ。失いたくないものがあるなら、護りたいものがあるのなら、僕らは戦わなければならないんだ。傷付けることをいとんでいるうちに、大事な物を失ってしまうことになるよ?」

ほむら「・・・そうね、そうだったわ。確かにそのとおり。――私は戦う。そう決めたんだ。彼女との出会いをやり直すのだと・・・その力があるのであれば、私は何度でも、希望という迷宮に足を踏み入れる・・・」

王様「君には迷宮の壁を破壊する力があるんだ、そんな卑屈になってはいけないよっ!」

ほむら「ふふっ。これでも精一杯剛毅に振舞ったつもりなんだけどな・・・」

ほむら「それよりも、行きましょう。ここで奴らとの共生が断ち切れってみせる」

王様「その意気だ、暁美ほむら!さぁ行こう、この世界を救うために。そして、君が救いたい世界を救いに!」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄) [sage]:2011/05/28(土) 03:31:42.47 ID:u8n3rVnAO
キ○グダ○ハー○とかお前恐れを知らないな……
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/28(土) 04:16:01.49 ID:HP+AOHB1P
ミッ.キーの著作権云々はかなり誇張されて伝わってる
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/28(土) 10:39:59.80 ID:eVQhG1NSo
SSでキャラ名が伏字になっているの初めて見たわ……
王様の笑顔が恐ろしい
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/28(土) 11:00:58.11 ID:3NCGTD1N0
ほむら「あれだけ大仰なことを言うもんだからさぞかし立派な文明を築いていると思ったけど・・・何もない・・・荒野ね・・・」

 生命の香りが一切しない。ここには木々も、水もない、山すらない。それに暗く、寒い。ほむらは空を見上げた。・・・点在する星星、どれが太陽なのか解からぬほど太陽は小さく、大小様々な惑星が面影を浮かべていた。地球よりも、此処が遥か遠方の地であることが見受けられた。

王様「うーん、どうにもそのようだね。どれ、ちょっと待っていて」


 王様はキーブレードを空に投げた。あえてそれが乱雑に円を描くようにしたのだろう、キーブレードは無茶苦茶に回って、やがて剣先を地面へと突き立てた。

王様「なるほど・・・」

ほむら「・・・どういうこと?」

王様「彼らはどうやら、地下で生活しているらしい。そこに、彼らの根源たるシステムがあるようだ」

ほむら「・・・それも、キーブレードの力?」

王様「ハハッ!」

 王様はキーブレードを引っこ抜いて、空に掲げた。王様の回りに白光の粒子や、靄が出現し、うねりをあげて剣先に集中する。王様の体さえも包みこんでしまうほど光球が肥大すると、王様はそれを空に放った。そして、それは縦横無尽に空へ駆け上がり、しかし落下してくるときは統制されているかのような整然とした軌道を現し、やがてほむらたちの三十メートルほど先の地表に着くと、爆音と煙を巻き上げて、地を穿った。
 ほむらがそれに驚嘆している間に、王様は再びキーブレードを空に放った。すると、静かにボブスレーのようなものが落下してきて、地面から十センチほど浮いて王様の前に現れた。

ほむら「・・・それも」

王様「うん、キーブレードの力だ」

王様「ほむらもやってごらん?」

 頷き、同じ様に自身のキーブレードをほむらは空に放った――現れたのは日本が誇る最強の戦闘機、F-15。それは粉塵を巻きあげて、ほむらたちから五メートルほど離れた場所に着地した。

王様「ハハッ!随分とかっこいいものが出てきたね!良ければ僕もそちらに乗せてくれないかな!」

ほむら「穴に入るかしら・・・?」

 暢気な会話を交わしているほむらに、突然の悪寒が差した。それは王様も同じ様で、顔をしかめてほむらと同じ方向を睨んだ。それは先ほど王様が穴をあけた場所だ。

王様「・・・何か来る」

 巨大なシルエットが粉塵の中に浮かんでいる。人間、それも広くいかった肩など、男を想起させる形。――魔獣だ。ほむらと王様はキーブレードを強く握った。それらは一つだけではない、ほむらや王様の四方八方からも、数え飽きるほどの多勢で現れた。

王様「君の腕慣らしには丁度良いかな?」

ほむら「・・・えぇ」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/28(土) 12:04:02.67 ID:3NCGTD1N0
 互いに背を合わせ、魔獣の群れに突撃する。剣というのはほむらには使い慣れていないので、不安だったが、案外使いこなせるものだとしみじみと思った。――王様のように、魔法を使うことが、自分にも出来るだろうか?

ほむら「・・・ホーリー」

 ほむらは頬を紅く染めて呟いてみた。しかし、何も起こりはしなかった。ほむらは顔を憤慨に染めて、魔獣を猛然と駆逐した。


王様「ほむら、君の飛行機に乗って一気に敵の本丸を叩こう。これじゃぁジリ貧だ。」

 ほむらと背中を合わせた王様が言った。王様の言うとおりだ。互いに、やや息があがってきている。だというのに、魔獣は無尽蔵に現れる。

王様「跳んでくれ、ほむら。君の足にさがって、僕は奴らを蹴散らす」

 ほむらは言うとおりに跳んだ。そして王様は彼女の足首を掴み、地面の魔獣たちに連続して小さな光球を放つ。ほむらたちが近付くと、F-15の風防は開き、宙に浮いて回転しながらバルカン砲を魔獣に放ち、ほむらたちを歓待する姿勢となっていた。

王様「おや?椅子がひとつしかにね。なんだ・・・これは一人用なのか・・・仕方ない、乗ってみたかったんだけど」

ほむら「・・・私の膝の上に、乗る?」
 
王様「ハハッ!良いのかい、ありがとう!」

ほむら「・・・乗り心地はどう?」

王様「最高だよ、ほむら!」

 一度上空にあがり、旋回して、地を一望した。魔獣がうじゃうじゃと犇いている。そして、王様のあけた穴は魔獣が蓋となって、閉じてしまっていた。

ほむら「穴・・・」

王様「良い機会だ。ほむら、君も魔法の練習をしてみたらどうだい?」

王様「さっきは失敗してしまったようだけど」

ほむら「き、聞いてたの!?」

王様「ハハッ!僕が指導するから今度こそ大丈夫さ」

王様「何も難しくは無いさ。もとより君は魔法少女という存在だったのだろう?だったら覚えることなんて何もない、記憶の中に眠っているものを起こすだけだから、すぐに会得してしまうだろう」

王様「思い出すんだ、君が力を使っていた頃を。君が護りたいもののために力を奮っていたときの感覚を。恐れることは何もないさ。心を強く持っている限り、キーブレードは君に答えてくれるよ?」

ほむら「・・・ありがとう」

 ほむらは強く思った。かつてがむしゃらに時空を掛けていた頃を。護りたいものを何度も護りきれなかった憤りを。思い浮かべて、目頭が熱くなった。浮かんできたのは彼女の微笑みだった。ほむらの大切な少女の――。

ほむら「・・・ねぇ、王様」

王様「・・・なんだい?」

ほむら「・・・私は、あの子にもう一度会えるのかな?」

 王様があの子のことを知るわけがないのに。だけれど、ほむらはそう訊ねてしまった。王様は優しいから、きっと・・・

王様「ハハッ!会えるさ、君がそう願い、それが叶うと強く信じるなら、キーブレードは答えてくれるよ!」

 そう言うだろうと思っていた。それはきっと、同情の言葉なのだと。なのにほむらの胸に浮かんだのは空虚感ではなく喜悦であり、瞳に浮かべたのは涙だった。彼の言うとおりなのだと、信じることしかほむらには出来ない。

ほむら「――ありがとう!」

 戦闘機の両翼から矢のような光が地面に向かって射出され、戦闘機が充分に侵入できるほどの穴が穿たれた。ほむらは強く念じ、速度をあげていく。穴を塞ごうと、魔獣が中の壁から次々に現れた。ほむらはそれらにバルカン砲や対空ミサイル、光線で迎撃する。しかし、猛攻をかいくぐってきた魔獣が、機体に触れようとした――すると、その魔獣は触れる前に、白い壁に阻まれ、浄化された。ほむらはそれが王様の仕業なのだと直観した。

ほむら「ありがとう、王様」

王様「ハハッ!これくらいお安い御用さ!」

 ほむらはさらに加速した。そして、長いトンネルを抜け、ようやく中心部へと辿り着く。

ほむら「此処が・・・」

王様「あぁ・・・そしておそらくは、あれが核だ」

 中心に浮かんだ光の球体。それはスペクトルを繰り返して浮かんでいる。環境は地表と相変わらず殺風景で何もない。だが、それこそがあの球体に生命性を想起させた。魔獣も、QBも、あの球体から作り出されたものなのだろうか・・・。

『帰りなさい』

 聞こえてきた声に、二人は驚嘆した。

『此処は、あなた方が来るべき場所ではありません』
『帰りなさい』
『今ならまだその僭越を赦してあげましょう』
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/28(土) 13:20:02.88 ID:3NCGTD1N0
王様「赦す・・・か。随分と傲慢な言い草じゃないか」

『異世界の王。此処は貴方が足を踏み入れて良い場所ではありません。そして暁美ほむら、あなたもです』
『十秒待ちましょう。早急に踵を返すのならば、あなたがたを見逃します。しかし、尚も私に牙を剥くのならば、あなた方をこの世界の敵と看做し、排除します』
『それでは10・・・』

王様「勝手な言い分だ。この世界の敵は裏から統括せしめんとする君じゃないか――ほむら、準備は良いかい?」

『8・・・7・・・』

ほむら「えぇ。それじゃぁ王様、行きましょうか」

 ほむらは機体を操作し、光球に向けて猛威を奮った。が、それらは光球によって全て反射され、機体は逃げ惑い、やがて地殻に突き刺さった。

 静止した戦闘機の空防が開いた。二人は地面に降りたち、光球と向き会った。

『1・・・0・・・残念です、暁美ほむら。あなたは実に優秀な人類だったというのに・・・此処で失ってしまうとは・・・』

 二人の周囲に、再び無数の魔獣が現れた。二人はキーブレードを強く握り、駆け出した。狙うは光球ただ一つ。

王様「どうやら、あれはキーブレードで直接叩かないとどうしようもないのだろうね」

王様「僕が突破口を開く!ほむら、君はあれを!」

王様「ホーリー!」

 魔獣の壁は光に呑まれ、一筋の路が開く。だが、それがもつのは約5秒ほど。それを越えれば再び路は魔獣の群れによって閉じられてしまう。

ほむら「――このっ!」

 ほむらが嘆くと、彼女の持つキーブレードの突端から光の矢が発射された。王様ほどの威力や規模がないにしても、ただ斬り進むより効率的な開拓が可能となった。

王様「ハハッ!出来るじゃないか!」

 ほむらは微笑み、そして、球体を睨んだ。あれを倒して、この世界を救ったあとは、自分は過去に遡り、今度こそ、まどかとの光ある未来を掴んでみせる・・・!

ほむら「――はぁっ!―ーやぁっ!」

 竜虎の如く猛りを見せてほむらは進んでいく。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/05/28(土) 18:30:46.34 ID:ZVpJVIrg0
こんなチャレンジャーなSS初めてみたwwwwwwww超期待、絶対捕まんなよ?
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/05/28(土) 19:41:29.17 ID:ZyprDSJno
一応言っとくとアンヴァースは出すなよ?期待
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/28(土) 23:11:37.19 ID:3NCGTD1N0
      /  ハハハハハハハッ!  \
 \       ハハハハハハハッ!゛     /
 <アヒャヒャヒャ!_____アヒャヒャヒャ!>
    |<アッファー!      .|アッファー!>
    |<ホムホムホム!     | ホムホムホム!>
 <ディズニーハ!      カンコクジンガカイタ!>
    |<カネ!: (ノ'A`)>:     バイショウッ!>
   / ̄ ̄ ̄ ̄: ( ヘヘ:: ̄ ̄ ̄ウェヒヒヒヒヒ!>
 <ウェヒヒヒヒヒ!         \ ウェヒヒヒヒヒ!>


ありがとう。バイトでした。再開します。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 00:23:08.54 ID:Oa5HWEyw0
ほむら「このっ・・・!」

とうとう中心に辿り着いたほむらは振り上げたキーブレードを全身全霊で振り下ろした。だが、光球の周辺に浮かぶ見えない膜にキーブレードが止められた。舌打ちし、更に力を込めたが、それ以上剣先が光球に近付くことはない。

『暁美ほむら。貴方が反逆するのは何故ですか?この世界は貴方の莫逆の友が命を呈して実現した理想的な世界であるはずです。だというのに、貴方はそれを、何故否定するのでしょうか?――貴方がすべき事は、この世界に従順たること。即ち世界を護ることではないのですか?この世界を護り、この世界の秩序を乱すものを排除し、この世界の秩序となった貴方の友を、失望させないことではないのでしょうか?』
『改心しなさい、暁美ほむら。そして、真の敵を見据えるのです。彼が破壊しようとしているのはまさにかつて鹿目まどかと呼ばれた存在です。一つの理となった彼女の存在は、今、真理である私に内在しています。私はこの世界で真理でありながら――鹿目まどかなのです』

 光球が変貌する。球を描いていた光子の有無により、それまで無個性な球だったそれは、幾億の時によって生み出された精緻な形態を、視覚的に実現させた。ほむらは唇を強く噛んだ。――白光する、ほむらの知る魔法少女の衣装に身を包んだ鹿目まどかの姿が、そこにはあった。

『ごらんなさい、暁美ほむら』

ほむら「・・・止めろ・・・!」

『これで解かったでしょう?さぁ、身を翻すのです』

ほむら「まどかの声を出すな・・・!」

『彼女は本来ならばこの世界には存在しておりません。ですが、この世界の真理である私には理となった彼女の存在を認知できます。そして、彼女がこの惨状に何を思うのかも、私には解かります・・・』

まどか『ほむらちゃん、こんなこと止めて・・・わたしたちが争うなんて、絶対おかしいよ・・・』

ほむら「・・・五月蝿い、違う、お前はまどかじゃない・・・!」

まどか『私だよ、ほむらちゃん・・・信じて・・・』

ほむら「五月蝿い!」

ほむら「違う、お前はまどかじゃない!」

ほむら「止めろ、その顔を!その声を止めろ!」

 歯を剥きだし、柳眉を逆立て、裂けた眦から涙を滔々と流し、光の膜を頻りに叩きながら、ほむらは叫んだ。彼女のその姿を、堅牢に捕らわれ怒り狂う猛虎に憐憫の情を抱く幼子のように、鹿目まどかの姿形をしたものは見つめる。

王様「――ほむら、避けて!」

 ほむらはその声に驚愕して振り向いた。そこには、宙に浮かび、剣先に巨大な光球を浮かべた王様が居た。ほむらは跳びあがって、体を反り、宙を舞った。――王様は光球を放つ。それは圧縮され針のように鋭く成り果て、鹿目まどかに突撃する。だがそれは、それまでしてきた彼らの攻撃と同じ様に無力化され、いとも簡単に反射されてしまった。しかし王様はそれを予見していたのか、離脱し、ほむらの隣を落下していた。

王様「騙されてはいけないよ。あれが、君の大切な友達なわけがない」

ほむら「・・・解かっているわ」

王様「いいや、きっと君は何も解かっていないだろう。君は、少しだけ絆されかけていたんじゃないかな?だからあれほどまでに取り乱していたんじゃないかって、僕は思うよ」

ほむら「・・・」

ほむら「・・・解からない」

 確かにあれはまどかの姿だ。そしてまどかの声だ。今まで、世界が改変されてから一度も明確に認知することが出来なかったまどかの存在だ。誰もまどかを覚えていない。幼子の夢想程度にしか、存在していない。世界にとって彼女は、僅かにでも膨らめば破裂し、跡形もなく消滅してしまうほど儚い存在に成り果ててしまっていた。だから・・・彼女の存在を確かに感じたその瞬間に込み上げてきたのは、無量の歓喜だった・・・。
 だが、ほむらをあれほどまでに激昂させた感情は、憤怒だった。死者の代弁者を騙っているのだと直観した・・・したのだ・・・だが、それではどうしてあの光球がまどかの存在を知覚出来ていたのかと、自身の怒りに対する疑念もまた、ほむらの心中に台頭した。もしかしたら・・・本当に、あれはまどかなのではないか・・・と。
 壁を叩き続ければ、外殻を破壊するより先に、きっと自分の素直な気持ちが出て来て、彼女を受け容れていた。
 ・・・ほむらは目を伏せ、唇を噛んだ。

王様「気を取り直して、戦おう。ほら、下には奴らがうじゃうじゃ居るんだ!」

 戦えるのか?戦ってどうする?再び、あれに、鹿目まどかの姿や声をしたあれに――まどかに、剣を向ければ良いのか?

ほむら「・・・解からない・・・!」

ほむら「・・・解からないよ・・・まどか・・・!」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 00:56:29.24 ID:Oa5HWEyw0
王様「解からないのなら、僕に訊けば良い」
まどか『ほむらちゃん、私たちが戦う必要なんてないよ』
王様「一人で悩む必要なんてないさ。それでは、僕が此処に来た意味がなくなってしまう」
まどか『お願いだから、私に剣を向けるのは止めて』
王様「まだ、一人で答えを見つけられないうちは、僕が君の道標になってあげよう」
『優しいまどか。あなたでは暁美ほむらにその先の意思を伝えるのに臆病になってしまうのですね』
王様「大丈夫だ、暁美ほむら――君には、仲間が居るんだ!」
『愛おしいほむら。解かりますか?貴方の最愛の人の願いです』

王様「僕を信じて!さぁ、共に戦おう!」
『さぁ、ミッキー○マウスを殺しなさい』

 地面に降り立つとほむらはそのまま直立した。王様は彼女に語り掛けるのを止め、二人に近付く魔獣を駆逐していく。世界の真理という存在、そして鹿目まどかは尚もほむらへの説得をやめなかった。ほむらは鬱蒼とした髪に顔を隠し、表情が窺えない。――やがて、彼女はキーブレードを挙げた・・・その剣先には、王様の姿があった。

ほむら「・・・邪魔よ、消えなさい」

 彼女のキーブレードから光の矢が発射される。王様はそれを辛うじて回避した。それは慣性に従い、王様が相対していた魔獣を貫通する――そして、鹿目まどかによって、反射された。

王様「ハハッ!少し危なかったよ、ほむら!」

ほむら「あれくらい避けてくれないと、信用出来ないわ」ファサッ

王様「なら、どうやら僕は君の信用を勝ち取ったようだね!――君、気分はどうだい?」

まどか『ほむらちゃん・・・どうしてこんな酷いことをするの?』

『ほむら。まどかは貴方との争いなど望んで居ないのです。貴方と恒久に平和を過ごすのが、彼女の願いですよ・・・?』

ほむら「黙りなさい、このペテン師。・・・私は、貴方からまどかを取り戻す」

ほむらは剣先を向けた。

ほむら「そんな泥沼、優しいあの子の教育に良くないわ」

まどか『・・・どうしても、戦うというの?ほむらちゃん・・・?』

ほむら「ええ。だって、貴方はまどかではないんだもの。遠慮をする必要はないわ」

ほむら「・・・大丈夫よ、まどか。貴方は必ず私が救ってみせる・・・」

ほむら「だからお願い、王様。私に力を貸して」

王様「ハハッ!ようやく僕の出番か。あんまり呼んでくれないものだから、また閑職に追いやられるかと思っていたよ!」

ほむら「ごめんなさい、決着を付けたかったから・・・」

ほむら「これでもう、私はこの世界の敵になった」

ほむら「遠慮はいらない・・・さぁ来なさい、最悪の魔女・・・!」

『・・・悲しいです、ほむら。あれは、彼女の意思だったというのに・・・』

まどか『せめて最後の時まで、貴方の最愛の人を傍らに添えましょう・・・』
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 01:38:23.89 ID:Oa5HWEyw0
王様「趣味が悪いね、まったく」

ほむら「王様、どうすれば良いのかしら?」

王様「そうだね、まずは近付かないことにはどうしようもない」

ほむら「それでも、あの膜が・・・」

王様「うん。確かにあれは厄介だ。突破口も見つかっていない・・・」

王様「それでも、君が彼女を取り戻したいという確かな意志を心に宿しているのなら・・・きっと、キーブレードは答えてくれるよ?」

ほむら「・・・うん」

 二人は跳び上がった。それに追随し、魔獣もまた跳躍し、襲い掛かる。

王様「ほむら、僕を投げて!」

 王様は彼女に手を伸ばした。ほむらは抵抗を覚えたが、彼の強さを信じ、従った。

 ほむらに投げられた王様は前方の魔獣の肩に乗ると跳びあがり、剣先の光を拡散させて魔獣を消滅させた。そうして次々に、障害となる魔獣に跳び乗っては、倒していく。
 ほむらが減速し、著しい落下を始めると、魔獣から跳び上がり、キーブレードを空に放ると、王様は彼女の前で笑顔で両手を差し出した。正位置で制止したキーブレードが噴水のように光を噴出す下、ほむらがそれを掴むと、王様は体を反らし、回転の力をほむらに乗せ、彼女を加速させた。ほむらは宙で一回転し、キーブレードを握った。眼前には、無表情のまどかが涙を流している。今度は惑いなく、ほむらはキーブレードを振り下ろした。

まどか『あなたでは私を討つ事など出来ようがないと、どうして解からないのですか?』

ほむら「出来るわ。これからするんだもの。私と王様、そして二人のキーブレードが」

まどか『そのような玩具に、彼の騙る奇跡が内包されていると、貴方は本当に信じているんですか?』

ほむら「少なくとも、私を騙そうとした貴方よりは信じられる」

まどか『どうして私が信じられないのですか?』

ほむら「詐欺師とはキスをしない主義だからよ」

まどか『まどかはあなたとの戦いを望んでいません』

ほむら「そうでしょうね」

ほむら「――だから、早く私にあの子を返せっ!」

 ほむらの全身全霊の力に、とうとうそれまでそれを護っていた結界が粉砕された。

まどか『残念です・・・ほむら・・・私はとうとう、彼女の最愛である貴方を殺さなければならない・・・」

 暴風がほむらを呑み込んだ。再び、彼我の距離が離れる。しかしほむらに落胆はなかった。金城鉄壁かと思われていた結界が、とうとう破壊できたのだから。

王様「君の心に、キーブレードが答えたんだ」

 いつのまにか彼女の側らで落下する王様が言った。

王様「解かったかい?――君は、絶望する必要なんてないだ、ほむら!」

 ほむらは王様に向かって微笑み、同意した。

 ほむらと王様は着地した。しかし、魔獣たちは二人に一定の距離を保ってサークルを描き、近寄ってこない。

まどか『これは最後通達です・・・』
 
 まどかが言うと、ほむらの後方が拓き、地殻が穿たれた。

まどか『その路で、来たように去りなさい。・・・ミ○キー・マ○ス、貴方も寛恕致しましょう』

王様「ハハッ!やっと寛容なところを見せてくれたようだけれど、どうするんだいほむら?」

ほむら「せっかくだけれど、遠慮しておくわ。王様も、残るのでしょう?」

王様「ハハッ!もとより僕は、あれを浄化しに来たんだからね!このまま引き下がるわけがないよ!」

ほむら「そういうわけよ。来るなら来なさい」

王様「僕ら二人に勝てると思うならね、ハハッ!」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 12:16:39.18 ID:Oa5HWEyw0
 口を噤んで、まどかは腕を開いた。そして、左手には光子で出来た弓が握られる。まどかはそれを構え、右手に光の矢を具現させると、思い切り引き、ほむらたちに発射した。が、二人はそれを対称に跳んで回避した。続けて、宙に浮かんだほむらに対しまどかは弓を構える。王様は叫び、まどかに光球を放った。まどかは標的を王様に移し、矢を放つ。光の矢は王様の光球をいとも簡単に貫き、彼に肉薄するが、王様がキーブレードを盾にして、光の矢の直撃を防いだ。しかし衝撃で、鳴きながら王様は吹きとんでいってしまった。
 無事地面に降り立ったほむらは首を捻って彼を呼んだが、すぐにまどかを振り向いた。彼女は自分に対して発射体勢に入っていた。地では、再び魔獣が迫ってきている。ほむらは嘆き、魔獣を切り伏せながらまどかへと突貫を始めた。まどかの放つ矢がほむらの居た場所、またほむらの通過点に容赦なく射られていく。ほむらの予見もあれば、魔獣の障害など幸運もあり、それらがほむらへ直撃することはなかった。だが、疲労の蓄積、妨害による距離の増加はほむらの体を確かに蝕んでいた。急死に一生を得る機会が増えていく。また、魔獣の攻撃を頻繁に受けることになっていった。精神が疲弊し、まともに魔法も放つことも難しくなってきていた。
 ほむらはこの世界の真理とやらを睨んだ。全然近付いていない。臆する必要のない奴は、変わらずそこでふんぞりかえっている。ほむらは歯軋りを鳴らして、叫び、路を拓いていく。無力化するだけでなく、まどかの矢をキーブレードで弾き魔獣に放つなど、無我夢中で才覚を開花させながら、まどかに近付いていく。
 ふと、まどかの視点が変わった。ほむらもその視線の先をのぞき見る。――そこには、ボブスレーに乗って宙を駆ける王様が居た。

王様「ほむら、跳んで!」

 ほむらは頷き、跳躍した。追随する魔獣を蹴散らし、一体の頭を踏み台にすると、それを微力の魔法で消滅させ、彼のボブスレーの後にある、僅かな隙間の物置に着地した。

王様「これで一気に距離を詰めるよ!」

ほむら「・・・私の戦闘機、出す?」

王様「いや、あれでは大きすぎて、敵の攻撃を易々と食らってしまうよ。小回りの利く小さな乗り物でもあれば良いんだけど・・・」

 散発されてくる矢を避けながら、魔獣をボブスレーから発射される光球で消滅させ、どんどんまどかに近付いていく。――轟音が上空から響いた。ほむらが見上げると、今まさに岩石が雨のように落下してきていた。

ほむら「王様、気を付けて!」

 魔獣、矢、そしてそこに岩石が加わり、二人の進攻は更に困難を極めるものになってきた。
 
 疲労し、慣れない力を発揮しきれていない自分――ほむらは歯がゆさに、口をきつく締めた。――そして、その散漫が、彼女の命を危険に晒した。

王様「ほむら!」

 ボブスレーの回転に反応しきれなかったほむらは、宙に浮き、そのまま落下を始めた。王様が自分を呼ぶ声が聞こえる。彼の声を聞きながら、ほむらは体を捻り、魔獣の壁が拓けた先で、自分に対して弦を引く鹿目まどかを見た。――そして、彼女に、悲嘆の瞳を呈した。
 
 光の矢は、あえなく発射された。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 12:51:03.95 ID:Oa5HWEyw0
 宙で頭足を反転させ、ほむらは自分を叱咤し、キーブレードを正眼に構えた。・・・此処で死ぬわけにはいかないのだと。・・・あの子を苦しめる全てを、私は滅ぼすのだ・・・と。だから、その一撃さえも防ぎ、再び自分は彼女の敵に剣を向けるだ。ほむらは決意した。
 しかし、その決意も空しく、矢はほむらから離れた場所に射られた。ほむらが構えた瞬間に、それは衝撃波で彼女の長髪を巻きあげていただのだ。本来なら彼女は決意の間もなく、死んでしまっていただろう。
 岩石の崩落も止んだ頃、地面に降り立ったほむらは第一の異変の後、第二の異変を目の当たりにする。――魔獣が、朽ち果てていきはじめた。いや、幾つかは、時折苦しみながら腕を振るって、何かに抵抗しながら現存しているものもあるが、しかし確かに、他の幾つかの魔獣はその姿を保てなくなり崩壊し、土に還っている。まるでほむらではなく、もっとも恐ろしい何かと彼らが戦っているかのようだ・・・。
 ほむらは瞠目して、まどかを見た。そして、粛然と弓を構えて、彼女が矢を放つ姿を見つめる――それは、またもほむらの髪を舞い上げた。

ほむら「・・・まど、か?」

 それは魔獣の悲鳴に掻き消されてしまった。

ほむら「――まどかっ!!」

 ほむらは叫んだ。彼女を真っ直ぐに見つめ、心の底から彼女へ呼び掛けた。まどかの表情は変わらない。しかし、弓を構える姿がぎこちない。まるで体が言うことを利いていないように、正しい信号を乱すノイズがその体に流れているように、辛うじて放った矢は、まどかの足元という的外れな場所に落ち着く始末だった。

 ほむらは走り出した。魔獣の悲鳴が鬱蒼とした路を。彼女の行く手を阻もうとする魔獣は、降臨した王様が殲滅していく。

王様「行くんだ、ほむら!君の思いを、彼女に!こいつらは全部僕に任せて!ハハッ!」

ほむら「まどかぁーっ!」

 ――時間が停止した。静寂の中、ほむらは進む。顔を涙でぐしゃぐしゃにして、それでも微笑みながら、だけど時折憤怒に顔を締めながら、がむしゃらにほむらは進んだ。

 ――そして、時は動き出す。

『――なっ!』

ほむら「――お前は、邪魔よ」

 ほむらのキーブレードが、まどかの胸に突き刺さった。逼迫した声とは裏腹に、彼女は笑顔を浮かべている。ほむらも、彼女に微笑んだ。

まどか『ごめんね』

 まどかの輪郭が失せていき、それは他愛の無い光球へと再び成り下がっていく。ほむらは涙を流しながら、笑みを浮かべた。

王様「ご苦労様」

 ――彼の声が聞こえると、突然、後ろから引かれた。
 何事かといぶかしむほむらに、彼はウィンクし、光球に立ち向かって行った。
 ほむらは彼を呼んだ。しかし、彼が振り返ることはなく、やがて彼女の意識は、光に呑み込まれた。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 12:51:52.08 ID:Oa5HWEyw0
なげえええええええええええええええええええええええええ
前哨なげええええええええええええええええええええええええええ
こんなはずじゃなかったああああああああああああああああああああ
整理券とかあんいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
みんなしねええええええええええええええええええええええええ
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 13:25:41.91 ID:Oa5HWEyw0
ほむら「・・・此処は・・・」

 意識が覚めたほむらは周囲を見渡した。天井には振り子運動をする鎌。四方の壁の一面には見慣れたワルプルギスの夜の資料群。

ほむら「私の・・・部屋?」
 
 より凝らして見ると、テーブルの上に投げ出されたフードの付いた黒いコート、その上にはローマ字で暁美ほむらが筆記された封筒が置いてあった。中に入った便箋の送り主は王様で、コートが齎す力の説明と、ほむらの正体を隠蔽したいという密かな目論みへの揶揄、そのための『イグニス』という偽名と元の名前への賛辞、予見していたこの事象への謝辞、成功の祝福、そして再会を願う言葉が連ねられていた。

ほむら「王様からの贈り物・・・」

 最後に、戦いに孤独で臨むことを決めた彼。自分は、彼にとって足手まといだったのだろう。そうでなければ、ほむらをこうして逃がす道理などない。それよりもずっとさきに、戦いが終結したのではないか?

ほむら「・・・」

 いつかまた、会えるだろうか?・・・そのときには、彼と勝利の美酒を分かち合えるほど強くなっていられるだろうか?

ほむら「・・・ありがとう、王様」

 ただ感謝を述べることしか出来ない自分を不甲斐なく思った。

 ほむらは見滝原中学校の制服の上に、早速コートを羽織った。そして、右胸のポケットに何か固い感触があることに気が付き、中を探った――。

ほむら「・・・え?」

 取り出したそれは、小さな鹿目まどかだった。
 願いを叶え、理となる寸前の格好をしたまどかが、小さくなって、穏やかに寝息を奏でながら、眠っていた。

ほむら「・・・!」

 ほむらは唇をわななかせ、涙を氾濫とさせた。また、彼女を救えなかったのだと思った・・・しかし、自分は今度こそ、彼女を救ったのではないか?・・・確かに彼女としては少々不備があるかもしれない。だけれど!・・・だけれど、これは、紛れも無く、鹿目まどかだ。

ほむら「まどかぁ・・・!」

 ほむらは両手で彼女を包み、抱き寄せた。すると、手の中でもぞもぞとした感触が走った。ほむらが静かに左手を開くと、膝をついて、体をわずかに起こしたまどかが、自分の手の甲で目をごしごしと擦っていた。そして座ると、瞼を半分開きながらうつろに周囲を確認して、最後にほむらと顔を合わせ、びくんと止まると、目を緩めて笑った。

マドカ「…ウェヒヒ♪」


ちびまどかは過去自作の二番煎じです。ごめんなさい。サイズはジミニーです。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 14:50:02.25 ID:Oa5HWEyw0
マドカ「ホムラチャン!」

ほむら「なあに、まどか?」

マドカ「ウェヒヒwww」

 身体だけでなく、精神面、学習能力に関しても彼女には拙い部分があった。まるで幼児の様に、用件も無くほむらを呼び、それにほむらが反応すればただ笑う。満足そうに、それを繰り返す。ほむらは彼女をこのような不完全にしてしまったことを悲しめば良いか解からない。申し訳ないとは思うが、愛らしい彼女を見ていると、後悔できないのだ。
 王様の説明に従い、闇の回廊に入るときはコートで闇から心を護り、まどかもポケットにしっかりと隠した。くぐもった声で彼女はほむらを呼ぶ。そのたびに、ほむらは彼女を呼んだ。

ほむら「まどか、もう少しだから我慢してね」

マドカ「ウェヒヒwww」

 光が見える。ほむらは躊躇い無く光の中に足を溶けていった。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 15:53:59.65 ID:Oa5HWEyw0
巴マミ「悪いけど、そこで大人しくしていてくれるかしら?そうしたらちゃんと帰りに解放してあげるわ」

まどか「・・・」

ほむら「巴マミ・・・こんなことをしている場合じゃ・・・!」


マミ「本当に、側にいてくれるの?」

まどか「マミさんはもう、ひとりぼっちなんかないです・・・!」

QB『マミ!魔女が動き始めた!』

マミ「OK!今日という今日は速攻で片付けるわよ!」

マミ「(体が軽い、こんなの初めて・・・!)」

マミ「(私、もう何も恐くない!)」


マミ「お待たせ。それじゃぁ三人とも、此処に隠れていてね。出て来ちゃ駄目よ?」

マミ「一気に決めさせて――もらうわよっ!」

マミ「ティロ・・・フィナーレッ!!」

 マミが繰り出した大砲から発射された砲弾は魔女を貫き、その体を締め上げた。

さやか「やったぁっ!」

 と叫んだ瞬間・・・魔女が大口を開け――黒い環形の生物が、現れた。それはマミを見ると好物を見つけたかのように戯画的な表情を爛漫とさせ、一口でくらいつくさんとばかりに、鋭角の牙が整然と生え揃った口を大きく開け、硬直したマミに迫った。マミはどうすることも出来ず、牽かれるまま、後ろに飛び、尻餅を着いた。

マミ「・・・え?」

 マミがそれまで居た場所には黒いコートを着て、フードを目深に被った人物が立っていた。四者四様に突然の来訪者に、魔女の奇襲のときよりも甚だしく驚きを呈していた。気が付いていないのは、夢中に浸っている愚鈍な魔女だけだ。その人物は右手に持った鍵のような何かを魔女の鼻っ柱に打ち込む。そこでようやく魔女はその人物の存在に気が付いた。体をうねられせて身を退き、食事の邪魔をした無礼者を、顔をしかめて見下ろした。そして、その人物の持つ武器の先端から射出された光の矢によって、あっけなく消滅した。

さやか「え・・・?」

まどか「あ・・・」

QB「・・・君は一体・・・?」

「・・・」

 空間に楕円が浮かび、そこからは黒い靄が絶えず湧出している。黒いコートの怪人物はその中へと歩み進んで行き、一度も彼らを振り返ることはなかった。そして彼らもまた、楕円が消滅してからも、その人物を呼び止める言葉が見つけられなかった。ようやくさやかとまどかが感謝を告げられたのは、消えてから数秒経った後だった。その頃には、魔女の空間も消滅を始めていた。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 15:59:08.57 ID:Oa5HWEyw0
さやか「・・・何だったんだろう、あれ・・・」

まどか「さぁ・・・わたしに言われても・・・」

QB「どうやら僕らに敵愾心を持っていたわけではなさそうだね。もしそうなら、あの場で排除されていたことだろうし」

まどか「うん・・・それは、そうだよね・・・」

まどか「あっ、マミさん・・・!」

マミ「・・・ごめんなさい、今日は帰らせてもらえるかしら?」

まどか「あ・・・!」

マミ「・・・本当に、ごめんなさい・・・」

さやか「・・・」

ほむら「・・・待ちなさい、巴マミ」

さやか「あ、転校生・・・」
まどか「ほむらちゃん・・・」

マミ「・・・何かしら?」

ほむら「あなた、忘れていることがあるのではないの?」

マミ「・・・二人とも、ごめんなさい。もう、体験コースは・・・」

ほむら「ではなくて」

ほむら「・・・早く私を下ろしなさい・・・」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 20:36:09.07 ID:Oa5HWEyw0
ほむら「そう、そんなことが・・・」

まどか「ほむらちゃんは、何か知らない・・・?」

ほむら「いいえ」

ほむら「(黒いコートを着て、鍵のような剣を使う怪人・・・そんなの、どのループにも登場していなかった・・・この時間軸では、今までにないイレギュラーが起きている・・・?)」

ほむら「(とにかくその人物と接触してみないことには、これからの算段が立てられないわ・・・)」

まどか「・・・ほむらちゃん、どうか、したのかな?なんだか、とても怖い顔をしているけど・・・」

ほむら「へ?あ、・・・いいえ、なんでもないわ、気にしないで」

ほむら「それより、私はこれでお暇させてもらうわ。支払は此処に置いておく。余分は使ってもらって構わない」

さやか「なぁ転校生」

ほむら「・・・何かしら?」

さやか「・・・あたしらさ、マミさんにどう声を掛けたら良いのかな?」

さやか「あんたにこんなこと訊くの癪だけど・・・全然解かんないんだわ・・・どうすれば良いのかな?このまま、素直に無関係になれば良いのかな?それともまた、マミさん家とか行ったりしても良いのかな?」

まどか「さやかちゃん・・・」

さやか「お願いだ、教えてくれ、このとーり」ガンッ

まどか「さやかちゃん!?大丈夫!?」

さやか「へへ、いやぁ〜思いっきりいっちゃいましたね・・・」

まどか「もぅ・・・」

ほむら「・・・それで良いのではないかしら」

さやか「え?」

ほむら「貴方はそうして、緊張した空気を無粋に掻き乱して、笑い者になっていれば良いと言っているのよ。思案顔はあなたに似合わないわ」

まどか「ほむらちゃん・・・」

ほむら「・・・巴マミの友人は貴方たちだけよ。傷心した彼女を癒せるのは、あなたたち二人だけ。それじゃぁ、今度こそさよなら」

さやか「おう!また明日なーっ!暁美ほむらーっ!」

まどか「さやかちゃん!お店でそんな大声出しちゃ駄目だよぉ!!あぁごめんなさい、ごめんなさい!」

ほむら「・・・はぁ」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 20:51:35.21 ID:Oa5HWEyw0
さやか「よーし、善は急げだ!まどか、行くよ!」

まどか「うん!・・・でも、入れてくれるかなぁ?」

さやか「だーいじょうぶだって!よし、レッツゴー!」


まどか「・・・返事ないね」

さやか「マミさーん、あたしでーす!あなたの愛しのさやかちゃんでーす!」

さやか「ほれ、まどかも」

まどか「うぇへ!?え、えーと、あの、マミさん!わたしです、鹿目まどかですー!開けてくれださーい!」

さやか「うぅ・・・ちくしょぉおおおおおおおおおあかねぇええええええええええええええええええええ!うりゃぁあああああああああああああどりゃぁあああああああああああっ!!!!!」

まどか「さ、さやかちゃん!そんなにピンポンしたら壊れちゃうよぉ!」

さやか「うぉおおおおおおおおおおおおおお――っと、うおおぉぉお!?」

まどか「あ、開いた・・・」

さやか「おかしいな・・・さっきまで鍵閉まってたんだけど・・・――まさか壊しちゃった・・・?」ガクブル

さやか「やっべぇどうしよう・・・こういう高級マンションの扉の弁償ってどれくらい掛かるのかな・・・?絶対お小遣いじゃたりないよ・・・」ガクブル

まどか「・・・わたし、止めたもん」

さやか「まどか!貴様、あたしを裏切るのか!?それでも親友か!」

まどか「・・・」

さやか「どうした!こっちを見ろこの野郎!!あたしと目を合わせろちきしょーっ!!!」

「うるっせぇぞお前ら!!」

まどか「ご、ごめんなさい!」
さやか「ご、ごめんなさい!」

まどか「・・・とにかく、入ろうよ。開いているんだし・・・それに、こんな高そうなところの扉が女子中学生に壊されるわけないよ」

さやか「そ、そうだよね・・・うん・・・」

まどか「じゃぁ・・・」

さやか「なんで扉開けるのわざわざあたしに譲るのよ!?」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 21:32:28.92 ID:Oa5HWEyw0
まどか「マミさん、いなにのかな?それとも、寝ちゃってるのかな・・・?」

さやか「おぅ・・・なんだ無事じゃないか・・・畜生、焦って損したぜ・・・」

まどか「ね?だから言った通りでしょ?」

さやか「あんたに言われるとふにおちねー」

まどか「マミさーん!こんばんわー!鹿目まどかでーす!お邪魔しまーす!」

さやか「まーす」

まどか「あっ、さやかちゃん!・・・もぅ、ちゃんと靴揃えないと駄目だよぉ」

さやか「まどか、しっ!」

まどか「・・・あ」

マミ「・・・」スゥスゥ

さやか「寝てる・・・」

まどか「マミさん・・・寝るならちゃんと布団に・・・こんなところで寝たら風邪ひいちゃうよぉ・・・」

さやか「体育座りで寝てる人って初めてみたよ。出来るもんなんだね」

まどか「もぅさやかちゃん!」

さやか「冗談だってー。しかしどうするかな、ベッドに運ぶ?」

まどか「うん・・・じゃないと、風邪ひいちゃうよ」

さやか「よし、じゃぁまどか、布団開いて。あたしが運ぶから」

まどか「え、一人で大丈夫?」

さやか「うーん・・・おっ、案外大丈夫。つか軽!?想像していたよりずっと軽!?」

まどか「一体どれくらいを想像していたの・・・?」

さやか「いや、そりゃぁ・・・おっぱい的な意味合いでですな・・・」

まどか「・・・」

さやか「・・・さーせん。でも、良いよなぁ、こんだけナイスバディなのに、体重は据え置きなんて・・・くーっ!どりゃぁ!!」

まどか「ちょっとさやかちゃん!?」

さやか「うるせぇ、マミさんはあたしの嫁だぁ!どこの馬の骨とも知れぬ輩にくれてやるかぁ!!」

さやか「うほぉ、マミさん!汗の臭いと布団の匂いがまざって最高だよぉマミさん!これだけ体に弾力があるのに体重据え置きなんてけしからんですぞーっ!マミさんクンカクンカペロペロマミさーんっ!麗しのマミさんあーペロペロしたいペロペロしたいペロペロしたい耐えられんですぞーっ!!」

まどか「さやかちゃん、マミさん起きちゃうよ・・・」

さやか「つか、まどかもつったってないでほら、おいでって」

さやか「ほーら♪」

まどか「う・・・良いのかなぁ・・・?」

マミ「・・・」

まどか「うぅ・・・お邪魔します」

さやか「さぁさぁはいりたまえー」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 21:37:28.11 ID:Oa5HWEyw0
まどか「本当、マミさん気持ち良いなぁ・・・」

さやか「でしょぉ?」

まどか「もう、さやかちゃんの物じゃないでしょ?」

さやか「へへっ。・・・もしもさ、あの人が助けてくれなかったら・・・あたしら、こんなに大事なものを失っていたんだよね」

まどか「うん・・・」」

まどか「・・・感謝しないとね、あの人に」

さやか「うん・・・マミさんを助けてくれて・・・本当に、ありがとう」

まどか「ありがとう・・・」

さやか「へへ!」

まどか「うぇへへ・・・!」

さやか「生きててくれてありがとう、マミさん」
まどか「生きててくれてありがとう、マミさん」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 22:07:25.95 ID:Oa5HWEyw0
マミ「ぅん・・・」

マミ「あ、わたし・・・」

マミ「・・・そうか、あのまま・・・」

 突然去来した記憶に、マミは顔を歪めた。再び、あの恐怖がマミの体を伝播する。体中から一瞬にして汗が湧出し、胸を大きく上下させながら過呼吸を繰り返す。マミ噴出してきた涙を拭おうとした。しかし、右手が動かない。その異変に、ぼやけた頭で戦々恐々になることも出来ず、そちらに振り向いた。

マミ「・・・え?」

 鹿目まどかそこに寝ていた。

 マミの腕を枕にしながら、彼女は穏やかに寝息をいる。その目は少し膨らんでいて、茜色の陽光が彼女の目から頬の輪郭に沿う軌跡を浮かび上がらせていた。

マミ「鹿目さん・・・?」

 振り向こうとして、左手にも重みがあることに気が付いた。――しかし、マミがそれに気が付いて反応し、腕を平坦にするまえに、美樹さやかの頭は坂を下って、床に頭を落下させた。

さやか「ぎゃんっ!」

さやか「っつぅー・・・なんだぁ・・・敵襲かぁ・・・?」

マミ「あ、ごめんなさい、美樹さん・・・」

 一瞬静止し、さやかは猛然と体をあげた。相対した彼女の顔は興奮に染まり、瞳孔の開いた瞳マミは気後れした。――かと思えば、さやかは瞳に大粒の涙を浮かべて、マミに抱きついた。

さやか「マミさん・・・!マミさん・・・!」

マミ「み、美樹さん・・・?」

さやか「・・・マミさん・・・!・・・マミさん・・・!」

 マミは泣きじゃくる彼女を、まどかに配慮しながら、無様を呈したことに臆しながらも、彼女の嗚咽におされて、抱き返した。そして顔を綻ばせ、左手で彼女の頭を撫でた。

マミ「・・・心配かけて、ごめんなさい・・・」

さやか「あたしたちこそ、ごめんなさい・・・!あたしらが付いて行きさえしなければ、マミさんにあんな思いさせることなんて・・・!」

マミ「うぅん・・・そんなことないわ・・・死ぬときは、死んでしまうものだから・・・」

さやか「でも・・・あたしらさえ、いなければ・・・!」

マミ「そんなことない・・・あなたたちが居てくれて、良かった・・・こうして生きていられるんだから・・・」

 さやかはより一層大きく泣き叫んだ。マミは彼女をあやしながら、自分の失態に悔やむよりも、これほど彼女を追い詰めことに慙愧を感じ、彼女に謝罪した。さやかは声を震わせながら、それを否定した。
 右腕に僅かな振動を覚え、マミはそちらを窺った。先程よりも小さく丸まって、顔を隠したまどかの体が微弱に震えている。マミが右手を動かして、彼女の頭を撫でると、俄かにまどかは涙に濡れた驚愕の表情を上げ、それをぐしゃぐしゃ歪めて、声を上げるとマミに抱きついた。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 23:16:24.97 ID:Oa5HWEyw0
〜ホムホーム〜

ほむら「・・・見つからなかった」

ほむら「この季節に黒いロングコートを着た人なんて目立つのに・・・」

ほむら「もう、どこかへ遠くへ行ってしまったのかしら・・・?」

ほむら「あら?」

ほむら「この子は・・・」

マドカ「ウ?」

マドカ「ホムラチャン!」

マドカ「ウェヒヒwww」

ほむら「・・・え?一体、どういうこと・・・?」

マドカ「ホムラチャン!」

ほむら「小さいまどかが喋っている・・・」

マドカ「ホムラチャン?」

ほむら「・・・可愛い!!」

マドカ「アッ!」

ほむら「可愛い・・・この子可愛い・・・!」

ほむら「あなた、お名前は!?」

マドカ「ワタシ?ワタシマドカ!ヨロシクネ」

ほむら「はぁぁぁぁ!私のほうこそよろしくね!」

マドカ「ウェヒヒwww」

ほむら「・・・でも、どうして貴方、此処に居るの? それに、テーブルにおいてあるのは・・・GSと・・・手紙・・・」

ほむら「ごめんねまどか。ちょっと、此処で大人しくしていてね」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 23:34:06.56 ID:Oa5HWEyw0
『まどかをお願いします。それは謝礼です』

 便箋に認められていたのはたったその一文だけだった。宛名など一切ない。

ほむら「まどか、これと貴方を運んだのは、一体誰?」

マドカ「ホム―イグニス!」

ほむら「ほむいぐにす?」

 まどかは大きく首を横に振った。

マドカ「イグニス!」

ほむら「イグニス?・・・知らないわ、一体、誰なの・・・?」

ほむら「そんな人、今まで現れはしなかった・・・」

 何故まどかが小さくなって存在しているのか。しかしそれは凝らして観ると、ほむらの知っているまどかとは多少違っていた。小さいながらも、体つきに幼さがなく、また髪の長さもずっと長い。これは本当にまどかなのか?しかし自分のことをまどかと呼んでいるし、イグニスという人物からまどかと呼ばれている。それに、顔立ちはほむらの知るまどかものだ。正直、真偽を問われると、この妖精のような少女はまさしくまどかなのだ。
 そこでほむらの脳裏に直感が浮かんだ。なら、実際のまどかは今無事なのだろうか?考え始めると、様々な憶測が頭の上を飛び交い、ほむらは居ても立ってもいられなくなってきた。――が、まどかの安否を確かめに行くのに、この小さなまどかも連れて行くか迷った。彼女は、ほむらの憂いなど他所に、小首を傾げて微笑んだ。

マドカ「ウェヒヒwww」

 ほむらはほころぶ頬をきつくしめようと試みながら、まどかを制服の胸ポケットに入れて、自宅を飛び出した。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/31(火) 11:26:33.95 ID:qdAf79Gj0
ほむら「あ・・・そうですか、はい、はい・・・夜分遅くに申し訳ありませんでした」

ほむら「そう・・・巴マミのところに泊まったのね・・・」

マドカ「ホムラチャン?ゲンキダシテ!」

ほむら「べ、別に落ち込んでなんかいないわ。・・・私には貴方が居るんだもの。寂しくなんかないわ」

マドカ「ウェヒヒwww」

 ほむらは微笑んだ。そして大きく息吐き、今頃マミと睦ましくしているまどかを思い浮かべて顔をしかめた。かと思うと泣きそうな顔になる。出来ることなら、自分もその輪に入りたい・・・そう、昔のように・・・だが、それは叶わない。自分はもう、昔の自分のままでは居られないのだ。
 ほむらはありあわせのものを、まどかには細切れにしたキウイと林檎を食べさせて、食事を済ませると、風呂に入り早々に二人は布団に就いた。暗闇の中で、退屈な脳は活発にほむらを苛む。いくつもの時空の中で体験してきた絶望のシーン、そしてもう二度と味わうことの出来ない過去の希望への哀愁。枚挙に暇がないほど、このような夜を過ごしている。ほむらは、身を丸め、まどかには聞こえないようにと、とすすり泣いた。
 ――頬に何かが触れた。とても温かい感触・・・ほむらは緩みきった瞼を辛うじて開け、その正体を観ようとした・・・しかし、闇に紛れて、一体何がそこに居るのか解からない・・・その警戒心も、柔らかな手付きに絆されてしまっていく・・・。
 ほむらはやがて、穏やかな表情を浮かべて静かに寝息を立てた。それを見て、黒いコートを着たほむらは微笑を浮かべ、また、闇の回廊へと踵を返した。

 まどかの頬を撫でると、彼女は嫌そうに唸った。巴マミの自宅に現れたほむらは幾つかGSをテーブルの上に置き、立ち去ろうと闇の回廊を開いた。

「君は一体何者なんだい?」

 ほむらは悠然と振り向いた。そこには、回廊に足を踏み入れたインキュベータが尻尾をはためかせながら鎮座していた。

QB「どうにも、君からは嫌な予感を受けざるを得ないんだよね。君の目的はなんだい?君の根ざすところはなんだい?――そのフードを脱いで、君の正体を僕に見せてはくれないだろうか?」

ほむら「・・・」

QB「やれやれ、だんまりか」

QB「――じゃぁ仕方ないよね。もしかしたら暁美ほむらのように僕らに仇なす存在かもしれないんだ。此処なら邪魔は入らない・・・少々蓄積したエネルギーを使ってしまうけれど、決して徒費ではないよね」

 言ったQBの体が不気味に肥大する。彼の体のいたるところに、大小さまざまな瘤が浮かび上がり、やがて元の愛らしい姿を失い、大きな野獣のような姿へと成り果てた。それは口から大量の唾液を飛ばしながら、獰猛な表情でほむらを見据えると、跳び上がった。ほむらの放つ光の矢を機敏に回避し、垂れた触手を逆立て、それは彼の意に忠実に随してほむらに襲い掛かる。愚鈍な魔女や魔獣とは訳が違う。怜悧な思考によって洗練された巧妙な動作を駆使したQBはほむらを圧倒していた。ほむらは防戦一方になりながら、とうとう、QBの耳はキーブレードを弾いた。

ほむら「・・・!」

QB「やれやれ――これで、お終いだ!」

 くぐもった声で叫んだQB――彼の横腹を、巨大戦闘機が衝突した。

QB「なっ!?」

 驚き、身を捩ったQBに、宙でキーブレードを構えたほむらが狙撃体勢となっている――瀕死のQBはせめてもと、全力を込めて触手を伸ばした。

ほむら「くっ・・・!」

 QBの触手はほむらの肩を掠めた。
 ほむらが地面に降り立ったときには、QBは煙をあげて消滅していた。ほむらは疼く肩を抑えて、怪我の度合いを確かめる。肌に直接届いているが、重傷ではない。しかし、せっかくのコートが少し破れてしまった・・・。仕方ない、彼女のが学校に言っている間に、修復しよう。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/01(水) 17:23:15.54 ID:+sbLAR5q0
ほむら「美味しい、まどか?」

マドカ「ウェヒヒwww」

ほむら「そう、良かった」

 晴天の下、見滝原中学校の屋上で暁美ほむらは小さな鹿目まどかと共に食事を取っていた。誰もいない静かな場所。さらに用心して、ほむらは貯水路の陰に場所を取った。二人の足元には水玉のビニールシートが敷かれており、縁側には整然とほむらのローファーが置かれている。まどかは分断された爪楊枝を使って、ほむらの用意したおかずカップの上に盛られた野菜や果物を食べている。まどかは時々、ほむらが食べようとしているものを欲しがった。ほむらはそのたびに、箸で細切れにし、まどかの口へ運んだ。

マドカ「ウェヒヒwww」

ほむら「美味しい?」

マドカ「ウンッ!」

 ほむらはまどかを慈しみに満ちた笑みで眺めていた。まどかはほむらが静観していることなど意に介さず、再び容器の中の果物を食べ始める。それからしばらくして、屋上に誰かが来訪した。ほむらは顔をしかめ、まどかに少し擦り寄ると、耳を澄ませた。

さやか「あっれー、誰もいないなぁ」

まどか「ほんとだ・・・此処も違うのかなぁ・・・?」

さやか「うーん・・・野郎、かくれんぼの上手い奴め・・・ちくしょぉ暁美ほむらーっ!どーこじゃーっ!!」

 ほむらは舌打ちした。まさか鹿目まどかと美樹さやかが自分を探しているとは・・・しかし、何故だ?自分が彼女たちに追われる理由が解からない。何か大切な用件があるのだろうか?学校行事に関して・・・いや、自分は肝要な役目を担ってなどいないはずだ。

まどか「さやかちゃん、そんな叫んだりしたらほむらちゃんに怒られるよ?」

さやか「だってさー、せっかく一緒に飯食おうってのに全然みつかんねーんだもん。これじゃぁあたしらが飯食う時間なくなっちゃうっつの!ほらまどかも!」

まどか「うぇへっ!?は、恥ずかしいよぉ!」

 食事の誘い?・・・ほむらは自身が胸を高鳴らせていることを、どうしても否定したかった。ありえない、どうしてそんなものに自分が喜悦しなければいけないのか・・・第一、彼女は私に好印象を抱いてはいないはずなのに・・・何か裏でもあるのか・・・?・・・彼女たちと徒党を組んでも、自身に何の利益がないことを、ほむらは知っている。

マドカ「サヤカチャン!」

ほむら「しー・・・」

 何よりまず、この子をどうする?授業中に窮屈な思いをさせてしまったんだ、せめて昼休みくらいはのびのびさせてあげたい・・・だからこうしてひとけのない場所を取ったのだから。

さやか「ん?まどか、今何か聞こえなかった?――よし、まどか、さぁやれ、やるんだ、やってしまえ!」

まどか「うぅ・・・じゃぁ・・・一回だけだよ?――ほむらちゃーん!」

 鹿目まどかの自分を呼ぶ声に、ほむらは心を揺さぶられた。・・・出来るのであれば、また、彼女と・・・。去来してくる過去の華々しい思い出。繰り返されるのは彼女の笑顔で、彼女との希望の記憶・・・。
 それは実に甘美なものだ・・・しかし、そうなれば、この説明し難い小さなまどかに窮屈な思いをさせてしまう・・・。二律背反に苦悶するほむらを他所に、まどかは満足そうに食い倒れていた。

さやか「ほむらめーっけ!」

ほむら「――」

さやか「にしし♪」
 
 貯水タンクを見上げると、微笑むさやかと目が合った。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/01(水) 22:31:10.55 ID:+sbLAR5q0
マドカ「サヤカチャン!」

さやか「んぉ!?だ、誰だ、あたしを呼んだのは誰だっ?!何処だ、何処にいやがるんだぁ!?」

マドカ「サヤカチャン!サヤカチャン!!」

さやか「・・・え?」

さやか「え?な、・・・え?」

マドカ「ウェヒヒwww」

さやか「え?」

 小さなまどかに歓待されるさやかの疑念に対して、ほむらは俯き、どう説明すべきか思案した。すると、視界の端に桃色の何かが映る。そちらを窺うと、苦笑を浮かべたまどかがこちらを見上げていた。

まどか「あ、本当に居たんだね、ほむらちゃん!ねぇ、みんなで一緒にご飯食べるのはどうかな?」

マドカ「マロカー!」

まどか「え?」

ほむら「あ――っ!」

 小さなまどかは突然跳び上がり、まどかを目掛けて跳躍した。ほむらは咄嗟に時間を停止し、推定した降下位置に着くと、空中に留まり、時間停止を解いた。美樹さやかは突然消えた暁美ほむらに驚き、バランスを崩して落下した。鹿目まどかは呼ばれた方向を向くと、暁美ほむらの背中が接近していたので、思わず尻餅を着いた。無事地面に降り立ったほむらは疲色を浮かべて嘆息した。小さなまどかだけは、異変に対して鷹揚に振舞った。

マドカ「ウェヒヒwww」

ほむら「・・・もう、まどか。いきなり跳んだりしちゃ駄目よ?怪我をしてしまうわ」

マドカ「ウェヒヒwww」

ほむら「まどかっ!」

マドカ「ヒッ!!」
まどか「ひっ!?」

ほむら「・・・あ」

恐る恐る振り向くと、鹿目まどかがほむらを愕然と眺めていた。

ほむら「いや、あの、これは鹿目まどかに言ったのではなくて・・・」

マドカ「マロカー!」

 小さなまどかは悲鳴をあげ、ほむらの腕を伝い肩に着くと、尻餅を着いている鹿目まどかに向かって跳び上がった。

まどか「え、うおっ、おっとと!」

まどか「え・・・何これ・・・」

まどか「わたし・・・?」

マドカ「ウェヒヒwww」

小さなまどかは鹿目まどかを指差して言った。

マドカ「マロカ!」

そして自分を指差す。

マドカ「マドカ!」

 発音が、自分を指すときに拙いのは何故か気になったが。

まどか「うぇひひ・・・」

 今は、笑うしかなかった。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/02(木) 05:20:28.60 ID:Adwjk/x+o
小さいまどっちが出てきて作者わかったよ
乙っちまどまど!
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/02(木) 12:00:59.03 ID:L1z8LdJc0
あ、ありがとう・・・しかし此処で終わりじゃないんだ・・・呑み込みが悪いわね、消えなさいって言うれるかもしれないけど・・・せっかくだから完結させてほしい・・・
あと、ハノカゲさんは神
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/02(木) 12:34:02.19 ID:L1z8LdJc0
まどか「ほむらちゃん・・・この子・・・あの・・・」

マドカ「ウェヒヒwww」

ほむら「あ・・・あ・・・」

 なんと説明すれば良い?自分さえ、この小さなまどかに対する理解は全く持ち合わせていない・・・いや、一つだけ解かっていることがある。・・・ほむらは髪を掻き流し、気を宥めた。

ほむら「・・・昨日、魔女の結界の中に現れた黒いコートのことを覚えている?」

まどか「――う、うん・・・」

ほむら「あの人に、預かっていてくれと頼まれたの」

まどか「へぇ・・・」

まどか「でも、なんでわたしに似ているのかなぁ・・・?」

ほむら「・・・さぁ、それは私にも良く解からないわ・・・」

さやか「それ本当かよ?」

 まどかとほむらは上を見上げた。ほむらのビニールシートが敷かれた場所に、さやかがあぐらをかき、口元に嘲りを浮かべて二人を見下ろしていた。ほむらは彼女を憤然と睨み、打診する。

ほむら「・・・どういう意味よ?」

さやか「ふっふーん♪ほむらは随分とまどかに入れ込んでますからねー。たとえお天道様の目は誤魔化せてもまどかの将来のダーリンたるさやかちゃんは誤魔化せないですぜ?」

まどか「さ、さやかちゃん・・・?」

さやか「良いかい、まどそん君。考えてもみたまえ。君がこれまでに受けてきた暁美ほむらによる電波と度重なるストーカー行為。更に彼女は魔法という突拍子もない力を行使する魔法少女だ。これらを踏まえれば、暁美ほむらが我々の想像の範疇から逸脱した奇行に着手していると考えるのは自明の理というものではないかな?」

 ほむらは顔を紅くして、嚇然とさやかを見た。それを、腕を組み笑みを浮かべて、飄然とさやかは受け流す。まどかはさやかが何を言わんとしているのか解からず、またほむらに変態のレッテルを貼ったことを責め、彼女を慰めようにもさやかに同意してしまう節ばかりが浮かんで、言葉に詰まっていた。小さなまどかは笑顔を浮かべてさやかを仰いでいた。

ほむら「つまり、何が言いたいのかしら?」

さやか「ふっふっふ、はぁはっはっはっはー!」

 さやかは猛々しく立ち上がり、仁王立ちになると小さなまどかを指差した。二人のまどかは指の先を円らな瞳で見つめ、首を傾げた。

さやか「その小さなまどかは――ほむらが魔法で作り出した愛玩用まどかなのだぁーっ!!」

まどか「・・・え?」

マドカ「・・・?」

ほむら「・・・」

ほむら「鹿目まどか。ところで、私に何か用あったのではないかしら?」

さやか「あれ?」

まどか「あ、うん。あのね、今日お弁当一緒に食べるのはどうかなーって」

ほむら「そう。せっかくだけれど、私達はもう食事を終えたから、ごめんなさい」

さやか「あ、あの」

マドカ「ウェヒヒwww」

まどか「え、あ、そうなんだ・・・あの、でもね、残りのお昼休み時間、一緒に過ごすのは、どうかな?」

ほむら「・・・」

さやか「――とうっ!」

まどか「・・・駄目?」

マドカ「ホムラチャン!」

ほむら「・・・いいえ、貴方達が、構わないというのなら、是非とも」

さやか「ちょっとちょっと!二人してあたしのこと空気扱いすんじゃないわよ!ん?なんだいほむほむちゃん?図星だったのかな?え?ばれたのが恥ずかしくてあたしの顔がまともに見られないのかなー?」

ほむら「――それじゃぁちょっと待っていて。荷物を片付けるから。その子をお願い」

まどか「あ、うん」

さやか「だーっ!」

マドカ「ウェヒヒwww」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/02(木) 14:09:42.33 ID:L1z8LdJc0
さやか「つーかさ!その子も一緒なら此処で良いじゃん!誰もいないんだし!」
 
 無視を受けることに業を煮やし、さやかは叫んだ。それでようやくまどかもほむらもようやく彼女を認知し、それに同調した。小さなまどかをほむらに返し、弁当を取ってくると言ったさやかの背をまどかが追おうとした。しかしさやかはまどかを止め、自分が彼女の荷物を持ってくると毅然と言い放ち、まどかは苦笑した。さやかは親指を立てると、駆けだした。

ほむら「・・・騒がしい人」

まどか「うぇひひ、でも良い子だよ、さやかちゃんは」

マドカ「サヤカチャン!」

まどか「うん、さやかちゃんだよー」

 まどかは腰を屈めて、ほむらの掌に乗ったまどかに言った。

マドカ「ウェヒヒwww・・・」

まどか「あれ、眠たいの?」

マドカ「ウン・・・」

ほむら「まどか。それじゃぁここでおやすみなさい」

 ほむらは船を漕ぐまどかを制服の胸ポケットにしまいこんだ。まどかはそれを見て微笑み、ふと、言った。

まどか「・・・ねぇ、ほむらちゃん」

ほむら「・・・何かしら?」

まどか「ほむらちゃんとね、さやかちゃんはさ、きっと、仲良くなれると思うんだ」

ほむら「・・・」

ほむら「無理よ」

 背を伸ばし、まどかはほむらと相対した。まどかの瞳には僅かに涙が浮かんでいる。だが、ほむらをまっすぐに見ると、どうしてか内心で焚き上がった彼女の粗暴な物言いに対する怒りが沈静した。決して合わされない視線、引かれた顎、一見して無表情なその顔に、深く悲しみが刻まれているように思えたのだ。まどかは言葉を探した。・・・今の彼女は、傷付けたくない。

まどか「・・・ゆっくりで良いと思うんだ」

ほむら「・・・」

まどか「今は無理でも、ゆっくりで」

まどか「・・・わたしたちには、まだ時間があるから――」

 きっと、そう言えば彼女は微笑んでくれるのだと思った。凍りついた表情を溶かして、春氷のようにゆっくり溶けて微笑んでくれると、心の底から予見していた――。

 だというのに、反して自分が悪寒に凍りついた。ほむらは、まるで氷塊を彫刻したように、生気のない顔を浮かべている。まどかは口を戦慄かせた。こんなはずじゃなかった・・・。
 そうして互いに沈黙していると、高翌揚したさやかがやってきた。彼女はじべたに座り、まどかに弁当を渡した。まどかが、絶えず噴出している汗に言及すると、さやかは笑いながら服の袖で顔を拭き始めた。

ほむら「・・・使いなさい」

 ほむらはさやかに自身のハンカチを差し出した。さやかもまどかも、それに驚愕した。さやかは快活に笑って、それを受け取り感謝を呈した。ほむらは冷然と社交辞令を述べた。さやかがそれをからかい、ほむらが冷たくあしらう。・・・まどかはそれを見ながら、自分の予見はきっと正しいのだと、信じたくなった。・・・しかし、ほむらの冷徹な表情がちらついて、それがまどかの確信を妨げ、良心を呵責した。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/02(木) 15:10:30.14 ID:L1z8LdJc0
 まどかとさやかは欠席したマミを訪ねた。ほむらも誘ったが、辞謝されてしまった。さやかはこの機にほむらも仲間内に加えようと躍起になっているようだが、まどかは彼女ほど精力的にはなれなかった。・・・ほむらを思う行動をしようとすると、あのほむらの表情がちらつく。良かれと思ってしたことが、また彼女に対して裏目に出てしまうのではないか・・・そう考えると・・・彼女に対して踏み込むことが出来ない。薄氷に触れるようで、壊してしまうのが、怖かった。道中さやかに怪しまれたが、披露することは忍んだ。その代わり、彼女にほむらと親密になる気があるか訊ねた。

さやか「もちろん!」

 はぐらかすつもりだったのだが、爛漫とした返事を聞くと、胸が漉かれたように憂いが落ちた。。

 上条恭介の見舞いに行くということで、軽く一服すると、二人は退室した。マミは二人に明日は登校すると伝え、二人はその言葉を歓迎した。まどかはマミにも同じ質問をした。マミは苦笑いした。

マミ「・・・正直、解からないわ・・・彼女にその意思があるのなら、わたしも報いることは出来ると思うけど・・・」

 二人の確執は一筋縄ではいかないのだと解かっていた。それでも、きっとほむらが皆と親しく出来る日が来るのだと、まどかは信じている。

マミ「それより二人とも。QB、知らない?」

まどか「いえ・・・わたしは知りません」

さやか「あたしも・・・どっかで女の子ひっかてんじゃないっすか?QBですし」

 三人は笑って、別れを告げあった。

 陽が眉を隠した頃合、マンションの入り口でさやかに別れを告げ、まどかは一人、帰路を進んでいた。一人になると、また憂鬱がこみあげてきた。足取りも重たい。そのうちに、陽は沈み、空には月が浮かび上がっていた。

まどか「・・・あれ?」

 月光の下に浮かびあがった人の群れ。その中に、見知った姿があった。

まどか「仁美ちゃん!」

仁美「あら、まどかさん。ごきげんよう」

まどか「どうしたの?今日はお稽古じゃ・・・」

 まどかは目を瞠った。仁美の首筋に痣がある。それは見知ったものだ――つい先日、その痣を持った女性が、自殺をしようとしていた。

まどか「魔女の口付け・・・どうして仁美ちゃんに・・・!」

仁美「ふふ。これから神聖な儀式があるというのに、そのような些事に現を抜かすだなんて無粋でしょう?良ければまどかさんも共にいらっしゃいませんこと?」

 思えば仁美は厳格な家庭のしきたりで複数の稽古を強制されている。鬱積したそれらへの不満が、魔女を魅入らせたのだろう。仁美は笑みを浮かべてこそいるが、目は焦点があっておらず、声にも生気が虚ろだ。

まどか「――ま、マミさんに――」

仁美「まどかさん?一体何をしようとしていますの?」

 仁美に腕を捻られ、携帯電話を落としてしまった。そのまま仁美は、まどかを尋常ではない力で牽いていく。まどかは仁美に離すよう懇願した。

仁美「神聖な儀式を妨げるのは愚の骨頂ですわ」

 まどかは涙を流しながら、仁美の腕を剥がそうとした。しかし、まったくびくともしない。まるでコンクリートや鉄塊に腕を組み込まれたように、頑強にまどかを離してはくれない。そのまままどかは仁美や大勢と共にとある寂れた工場に来た。一つだけ置かれた椅子には悄然とした中年男性が座っており、その前にはバケツと、二種類の洗剤が置かれている。まどかの頭に、母から昔された警告が去来した。

まどか「駄目だよ!それを混ぜたら、此処に居る人たちみんな死んじゃうよぉ!」

仁美「それで良いのです」

まどか「え?」

仁美「・・・こんな窮屈な世界、いっそ消えてしまえば・・・」

 仁美のその言葉に合わせて、皆が笑い始めた。段々と声は大きくなっていき、――やがて、それが笑っているのか、それともただ叫んでいるだけなのか解からなくなっていく。まどかは空いた手と肩で、耳を塞ぎ、その声を拒んだ。――自分は無力で、それがとてつもなく嫌になるときがある。それでも、この声に同調するほど、絶望してはいない・・・!

まどか「きゅ・・・キュウべ――キュウべえっ!!」

 いっそのこと、自分が魔法少女になって、此処に居る全ての人たちを・・・救いたい!
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/02(木) 16:35:08.76 ID:L1z8LdJc0
 ――叫んだ瞬間、液体の混合されたバケツが光に呑み込まれて消滅した。かと思えば、仁美やその他多くの人たちが糸が切れたかのように倒れこんだ。自由になると、まどかは思いのまま周囲を見渡す。

まどか「あ・・・」

 ほむらから聞いた。黒いコートを着た、謎の怪人。その名前は・・・。

まどか「・・・イグニス、さん?」

「・・・」

まどか「あなたが、わたしを助けてくれたんですか?」

「・・・」

まどか「あ、あの!あ、あ、あ、ありがとうございました!」

「・・・」

 男なのか女なのか解からない、その怪人物はただそこに佇んでいた。返答もなく、ただそこに佇んで、まどかを見ている。

まどか「あ、あの・・・――」

 倉庫の入り口から轟音が鳴り響いた。

さやか「まどか!」

 そこには、騎士装束に身を包み、サーベルを携えたさやかがいた。そして、一瞬でまどかの横に着く。尋常ならざるその力と姿に、彼女の身に何が起きたのか、達観した。

まどか「さやかちゃん・・・」

さやか「まどか、大丈夫?怪我とかしてない?」

まどか「ま、魔法少女になったの?」

さやか「――おう!」

 さやかはまどかに微笑むと――眼前の黒コートを見た。

さやか「あの・・・昨日はありがとう。おかげで、マミさんは死なずに済んだ・・・そのお礼、言いたかったんだ。それに、あたしの親友を救ってくれたみたいで・・・本当に、ありがとう」

さやか「出番取られたのはちょっと空しいけどさ・・・でも、ありがとうね」

さやか「良ければだけど・・・あの、そのコート、脱いでくれないかな?ちゃんと顔を見て礼を言いたいっていうか――」

 突然、黒コートがその手に鍵の形をした剣を握ったので、さやかは目を瞠り腰を据えた。その手には召喚したサーベルが握られている。

さやか「・・・どういうこと?あんた、あたしらの味方じゃないの?」

「・・・」

 黒コートは、剣先をまどかへと向けた。――さやかの表情は憤怒にそまった。

さやか「――出来れば、あんたとはこういうことしたくないんだけど――」

さやか「――それだけは、絶対に許さないッ!!――」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/03(金) 10:34:07.86 ID:HaALmRrW0
 イグニスは跳び上がった。さやかも、それに追随して飛翔する。速さはさやかが勝っている。

さやか「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 剣を振るうのに充分な距離に縮まると、さやかは構えていたサーベルの突端をイグニスに合わせ、全力で突き出した。しかし、それはイグニスがキーブレードの刀身で流すことによって、易々と軌道を変えられてしまう。さやかが驚愕に目を瞠ると、イグニスは容赦なく腹を殴り、そして顎を殴った。消え失せそうな意識を気合で保つ、しかし今度は胸倉を掴まれて、抵抗の間もなく宙に投げられた。天井を突き破り、さやかは夜空に舞う。呆然として、自身の無力を実感する――が、反省の間もなく、空間転移したイグニスによって、さやかは工場の入り口付近へと蹴り飛ばされた。下には、再び空間転移をしたイグニスが待ちうけていた。さやかはそれをぼんやりと視認し――憤慨する。体を反転させ、宙を蹴った。

さやか「なめやがってえええええええええええええっ!!」

 こいつは確かに強い。引け目や負い目もある。だが、こいつはしてはならないことをした。自分の親友に害意を向けたのだ。許せない、誰よりも優しい自分の親友に・・・ここで自分が敗北すれば・・・まどかが何をされるか解かったもんじゃない!!さやか気を失っている暇などないのだ。両手にサーベルを握り、振り上げた。イグニスもまた、再びキーブレードを現出させる。さやかの渾身の一撃を、イグニスは片手で受け止めた。が、それは織り込み済みだったさやかは、今度は間髪いれずに攻撃を繰り出す。右足を後ろに振り、つま先にサーベルを召喚した。そして、一気に振り上げる。
その奇抜な戦術に、サーベルの軌道に入らないようイグニスは斜め後ろに跳んで回避した。さやかは着地すると、再び滑空し、イグニスに剣を振るう。がむしゃらにやっても勝てない、しかし、さきほどのような奇を衒った攻撃であれば、この怪人と言えども単調な攻撃ほど悠然とは対応できないようだ。――勝機が見えてきた。
 しゃがんだイグニスに跳びこむ。剣先はイグニスを捉えている。その構えばかりだ。イグニスはキーブレードを薙ぎ、サーベルの刀身を払おうとした。

さやか「――にっ!」

 しかし、それは宙を切る。さやかはイグニスが払いに来るだろうことを予期し、自分のサーベルが相手の剣の攻撃範囲に入る前に、一度着地して、剣少し引き、半回転させたのだ。さやかはそのままサーベルを垂らして、全力で踏み込み地面を弾くと、全身全霊でサーベルを斜状に振り上げた。自分でも、何をしているのか理解出来ないほど、本能的だった。当然、切ったのか、そうでないかも解からない。――いや、そうではないのだろう・・・さやかは後ろからの拍手にうんざりして振り向いた。

さやか「・・・まさか、今のあたしの全力なんですけど」

さやか「・・・なんなのさ、あんた。あたしらの敵なの、それとも味方なの?どっちなわけ?」

 イグニスは何かを投げた。小物だ。見覚えがある。前にマミから見せてもらった、グリーフシードというものだ。

さやか「・・・これ、あたしにくれるの?」

 訊ねたときにはもう、怪人は消えていた。

さやか「・・・なんだったんだ、あれ」

ほむら「あの人は、敵ではないわ」

さやか「――うおっ!ほ、ほむら!あんたいつの間に!?」

ほむら「今よ。それよりも、変身を解いて早くグリーフシードを使いなさい。相当の魔翌力を使ったでしょう?」

さやか「あ、はいはい」

まどか「さやかちゃん!」

さやか「おうまどか!えっへっへ、勝ったぜ、多分!」

ほむら「どう見ても貴方の負けでしょう・・・あの人、していたことがほとんど防衛じゃない。稽古付けてもらった、と見るのが無難だわ」

さやか「なんだとー!つぅか護ってばっかりじゃなかったし、あたし顎と腹殴られたし!ありゃどう考えても喧嘩だね!んで、あたしの勝ち!義憤の勝利!イエースッ!!」

ほむら「はぁ・・・言ってなさい。せいぜい、驕らないことね」

さやか「それは・・・うん。解かってる」

 ほむらの言うとおり、あの怪人はさやかに鍛錬をしたのだろう。あれは戦争ではない。もしも本当に容赦ない戦いであれば、あのとき、剣を向けられた時にまどかを失い、そして自分も絶望の中死んでいただろう。解かっている。自分は負けたのだ。さやかは空を見上げた。初陣は、見事な黒星によって彩られていた。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/03(金) 10:36:23.93 ID:HaALmRrW0
さやか「強く・・・なんなきゃね」

さやか「これから魔法少女として生きて行くんだから・・・あたし、強くなんなきゃ」

まどか「さやかちゃん・・・」

さやか「そんな顔すんなよまどか!あたしは魔法少女になって良かったと思ってるから。人間の力じゃどうにもならないことを、奇跡でどうにかできた・・・それに、良い先生、先輩にも恵まれているしね。ねぇ、ほむら!」

ほむら「そこでどうして私を呼ぶのかしら?」

さやか「そんな冷たいこと言わないでぇー、これから御指導御鞭撻のほどお願いしますよぉー、ほむら先輩ぃー」

ほむら「離れなさい、暑苦しい」

さやか「なんだい、まどか様が見ているのがそんなに恥ずかしいのかい?へっへへ、可愛い先輩だぜー!そんな可愛い奴はあたしが食べてやる!」

ほむら「離れなさい、鬱陶しい。それよりも、貴方達は早く帰りなさい。そろそろ、親が心配するわよ」

まどか「うん、そうだね・・・じゃぁ、ほむらちゃんも一緒に帰ろうよ?途中までで良いからさ」

さやか「なんなら、明日の朝まで一緒にいてやっても良いんだぜ?」

ほむら「・・・はぁ」

ほむら「本当に、ごめんなさい。・・・まどかを家に置いて来ているの。だから、早く帰りたいのよ」

さやか「え・・・まどか、調子でも悪いの?」

ほむら「ええ」

まどか「風邪・・・とか?」

ほむら「・・・解からない。だから、無闇に外には出さずに寝かしている。・・・申し訳ないけれど、私は早急に帰らせてもらうわ」

ほむら「それじゃぁ、また明日学校で」

さやか「うぉ!き、消えた・・・」

さやか「――じゃぁ、あたしらも帰りますか」

まどか「うん、そうだね。・・・ねぇ、さやかちゃん」

さやか「うん?何ー?」

まどか「うぇひひ、魔法少女になったの、上条くんのためだよね?」

さやか「・・・」

さやか「・・・へへ!」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/05(日) 16:17:05.04 ID:62YL5YJto
今日の分は終わりかな?
乙っちまどまど!
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/06(月) 15:36:27.15 ID:gTzgSlvQ0
免許やらバイトやらが立てこんでいて中々書き込めませんが完結は絶対にさせます
ごめんなさい
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 11:24:44.40 ID:YeDjxSsp0
ほむら「魔女の反応・・・急がないと・・・でも、まどかはどうしましょう・・・」

『やっぱり無理・・・あんな死に方怖いよ・・・嫌だよ・・・!』
『マミさん、ごめんなさい・・・わたし、弱い子で、ごめんなさい・・・』
『わたし、マミさんのこと忘れない』
『これって罰なのかな』
『わたしが弱虫で、嘘つきだから』
『きっと、そのバチが当たったんだ』

マドカ「ウ、ウアアアアアアアアアッ!!」

ほむら「ま、まどか!?」

マドカ「イタイ、イタイヨォ…!」

 それまでドールハウスで寝ていたはずなのに、頭を押さえてもがき苦しむ小さなまどか。唐突な彼女の異変にほむらは狼狽してただ彼女を両手で包み慰めることしか出来ない。

ほむら「まどか・・・まどか・・・」

 まどかの悲鳴は次第に大きくなっていく。体を反らせては、屈めての連続だ。ほむらは彼女をベッドに置くと、濡れたタオルを持ってきた。ヘベッドの横の棚にそれを敷くと上にまどかを乗せた。だがまどかの苦しみは終わらない。

マドカ「ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…!!」

マドカ「ゴメンナサイ…ヨワクテゴメンナサイ…ウソツキデゴメンナサイ…!!」

マドカ「マミサン…サヤカチャン…ゴメンナサイ…!!」

ほむら「大丈夫・・・貴方は悪くない・・・悪くないから・・・!!」

 ほむらは彼女を両手で掬い、頬に寄せると必死で訴えた。彼女の中で起こっている葛藤を思い、しかし良薬を渡すことも出来ず、ただこうしているしか出来ない不甲斐なさに涙を流した。
 突然の気配にほむらは顔を振り上げた。そこには、黒コートの怪人がいた。

ほむら「貴方は・・・」

 驚いた。間近で相対すると解かったが、その人物は自分と大差ない体格をしている。あれだけ圧倒的な武力を持つ怪人にほむらは錯覚していたのだ。それは現れて、手を伸ばすと、鍵のような剣を出現させて握った。ほむらはまどかを匿い、ベッドの上に乗せると瞬時に時間を停止させた――折角の機会だ。その人物の御尊顔も拝んでやろう。自分の知る人物のものか、そのうち敵であった者か味方であった者か、それともただの新規な存在か。――耳を劈いたのは、まどかの叫び声だった。
 何が起きたのか解からない。視界は霞み、自分は壁に背を凭れさせてカーペットに両手をついていた。その先では黒コートがまどかに剣先を向けている。ほむらは舌打ちをして、再び時間を停止させると右手の盾に収納された拳銃を取り出し、それに向かって三度発砲しようとした。が、そのときには怪人は眼前におらず、そのかわり、手に激しい衝撃を受けて、拳銃を放ってしまった。

ほむら「そんな・・・どうして・・・」

ほむらは悲痛な声を上げ、振り向く。

ほむら「あなた、どうして此処で動けるの・・・?」

 怪人は何も答えない。ただ、フードの深い闇の底から、ほむらを見下していた。――ほむらは毅然と睨み、盾に手を伸ばした。

――邪魔しないで――

ほむら「え?」

――まどかを助けたい――

ほむら「まどかを、助けてくれるの・・・!?」

 怪人は頷いた。ほむらは自分が受けた害意など一切意に介さず、その人物の功績ばかりを讃えて縋った。

ほむら「おねがい、まどか助けて、いきなり苦しみだして、私、どうすれば良いのか・・・!」

 怪人は停止した時間の中、まどかに近付いた。ほむらはそこで、祈りながら二人を眺めるていた。イグニスがこちらを振り向いた。
ほむらは黙って、時間を再開させた。まどかの叫び声にほむらは苦悶の表情を浮かべ、滔々と涙を流す。

 ほむらはキーブレードを握ると、苦しみもがくまどかに翳した。確証は無いけれど、確信が在った。今のまどかを救えるのはキーブレードだけだ。ほむらは彼女のヘの謝罪を呟いた。もうひとりの自分には、聞こえないように。
 キーブレードに操られるように腕を上げ、剣先をまどかに近付けた。もうひとりの自分を窺う。こんな蛮行を見逃し、自分を信じているとは情けない。もしも私であったなら、まどかに剣を向けるような輩は何人たりとも近付けはしないのだが。小さく笑った。
 先端に淡い光が浮かび、伸びるとまどかを包みこんで、一瞬で弾けた。そして、まどかも苦しむのを止めた、頭を押さえる手をゆっくりと下ろして、搾っていた瞼を開けた。その眦から、一粒の涙が流れた。

マドカ「ほむら・・・ちゃん」

 ほむらは目をみひらいた。彼女の瞳には、驚愕する自分が映っている。自分の瞳にも、彼女が微笑む姿が映っているだろう。彼女はそこで張り詰めた糸がぷっつりと切れたように、眠った。ほむらはそれを見届けると、回廊を、廃工場への道に開いた。

 ほむらは彼女に感謝を告げると、まどかの目覚めを待った。そのうちに、魔女の気配は消える。
 目覚めた彼女は、少しだけ大人しくなっていた。そして、ほむらに廃工場へ行くようにと命じた。ほむらはそれを断ったが、まどかの頼みを拒みきることは出来なかった。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 14:44:18.01 ID:YeDjxSsp0
まどか「・・・わたし」

 鹿目まどかは自室のベッドに仰臥して考える。あのとき、自分はQBの名を呼んだ。彼との契約を交わし、あそこにいる親友を含めた全ての人たちを救うために。魔法少女になること、それとても素敵なことだと思う。人知れず悪を討ち、仲間と助け合い、そして・・・。
 まどかの頭に去来したのは大口を開けた魔女。その口の奥の深淵を間近でまどかは覗いた。唸り、力の限り目を瞑った。・・・ゆっくりと瞼を開けて、涙を拭う。誰もが瞠目に硬直した瞬間――あそこで、イグニスと名乗る黒コート怪人が来ていなければ・・・マミ・・・そして自分達は今頃・・・。考えて、布団の裾を思いっきり引き、体を横に向けると、中で頭を両手で押さえ、脚を折り、丸まった。涙が絶えず溢れてくる。マミに申し訳が立たない・・・魔法少女になり、彼女と共に戦うと約束したというのに・・・自分は、魔法少女の世界に関わることを恐れている。
 自分には、さやかほどに叶えたい願い事がない。得意な学科はなく、鈍臭く、取り得もない、それが嫌で仕方がないけれど、その憂鬱を払拭するために命を差し出すのは・・・嫌だ。自分を護ってくれる仲間がいると解かっていても・・・。踏ん切りが付けられない。それでも、また今日のように大切な誰かが傷付けられようとしたときは、恐怖も躊躇いも踏みにじって、鬱積したありったけの思いを力にして、魔法少女として参入出来たらと、自分に願った。

まどか「・・・ごめんなさい、マミさん、さやかちゃん・・・ほむらちゃん・・・」

 今だけは、弱い自分を許してほしい・・・。いつか強くなって、みんなと肩を並べるから・・・。

――あなたは魔法少女になるべきではない――

まどか「!?」

 まどかは被っていた布団を憤然とのけて、起き上がった。

まどか「だ・・・」

 誰?と言いそうになった。しかし確信がある。きっと、あの人だ。

まどか「イグニス・・・さん?」

まどか「何処、何処に居るんですか、イグニスさん!?」

 辺りを見渡しても誰も居ない。不審に思ったのだろう階下からまどかに何事かと訊ねた。まどかは慌てて取り繕い、無事を報告した。

まどか「・・・居ない・・・でも、確かに声が・・・」

 虚ろな記憶。確かにその言葉の羅列が頭に浮かんだけれど、男の声だったか、女の声だったか、老人か子供かも解からない声調。幻覚と言ってしまえばそうなるのだが、この確信はなんなのだろう?
 本当に不思議な人だ。突然現れたと思えばマミを救出してそのまま黙して消失する。かと思えば突然現れて自分を助けたのかと思えば剣を向け、さやかと喧嘩し、そうかと思えば彼女の特訓をして・・・そして、小さなまどか。ほむらはイグニスから預けられたといった。あの子はなんなのだろう?自分にそっくりだけれど、なんだか自分とは思えない。自分より幼いように思えるが、外見は自分より大人しく見える。
 色々なことが一度に起きすぎている。そういえば、QBはどうしたのか。病院の魔女以来、会っていない。今頃、何処かで女の子に契約を迫っているのだろうか・・・。
 頭がぐちゃぐちゃとして、眠気がさめてしまったまどかは、ベッドから降り、机に着いた。そしてノートを一つ棚から取り出す。それは以前にマミとさやかに見せた魔法少女案を書いたノートだ。開いて、新しいページにペンを走らせる。描くのは、黒コートの人相の見えない怪人と、それが操る黒光する大きな鍵、そして豪奢なドレスに身を包んだ小さなまどかだ。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 16:43:26.79 ID:YeDjxSsp0
〜昼休みの屋上〜

マミ「そう・・・美樹さん・・・魔法少女になったのね・・・」

さやか「はーい!これから見滝原の平和はあたしら三人で守りまくっちゃいましょうねー!」

マミ「三人・・・」

さやか「あたしと、マミさんと、それからほむらの三人!あたしらが手を合わせればどんな奴らだってけちょんけちょんですよ!!」

マミ「そうね・・・仮にわたしたち三人が真に信頼しあって協力出来たとしたら、ワルプルギスの夜だって倒せてしまうしょうね・・・」

まどか「ワルプルギスの夜・・・?」

さやか「なんすかそれ?」

マミ「超弩級の魔女らしいの。実際に出会ったことがないから、わたしも、QBに聞いたことしか知らないわ・・・普段狩っているものとは比べ物にならないほど甚大な力を持った魔女で、暴れるだけ暴れるから、放置すれば街一つが壊滅すると・・・魔法少女以外には、誰もその存在を認識出来ず、天災として解釈されるらしいわ・・・」

さやか「マジすか!?じゃぁあたしらハリケーンだとか大地震とも戦わなくっちゃいけないのかー。こりゃ腕が鳴りますね!」

マミ「もう・・・笑い事じゃないのよ?」

まどか「マミさん、さやかちゃんですから」

さやか「なんだとー!」

まどか「うぇひひ♪」

さやか「って、そうなるとマジでほむらも仲間に入れないといけませんねー。あいつはなんだか良くわかんないですが、凄い力持ってるみたいですから」

マミ「・・・凄いというより、彼女の力は得体が知れないというだけだけどね。万能ではないみたいだし・・・拘束されたら反故になるような、不便な代物よ」

さやか「まぁ、そこはあたしらがちょちょいのちょいってやればどうにかなりそうですけどね!」

マミ「・・・まぁ、そうね・・・」

まどか「あ、あの!魔法少女って、この近く、他には誰か居たりしないんですか?わたしたちが会ったことのない人って誰か!」

さやか「あぁ、それ気になるー!あたしもマミさんとほむら以外って会ったことないからね」

マミ「そうね・・・魔法少女は縄張り意識の強い子ばかりだから基本的には群れたり、他の魔法少女の近辺には居ないものなの・・・」

まどか「・・・え、どうして?」

さやか「・・・あぁ、グリーフシード?」

マミ「御名答、美樹さん。エリアを独占すれば、それだけ多くの魔女を相手に出来て、グリーフシードが多く手に入る。この辺りは自然とわたしの管轄になってしまっていたのだけど・・・だからひとりぼっちだったんだけどね・・・」

さやか「あぁマミさん!大丈夫ですってあたしやまどかが居ますから!マミさんは一人じゃないですって!!」

マミ「そうよね・・・ありがとう・・・」

さやか「それにほむらも!」

マミ「・・・」

まどか「・・・もう、さやかちゃん・・・!」

マミ「ふふっ、良いのよ鹿目さん。ちょっとした冗談。いずれ、彼女ともあなたたちと同じ様に仲良くなるかもしれないのだから、年上のわたしが意固地になっていては、ね?」

まどか「マミさん・・・!」

さやか「あいつ昼休みになったらすぐ消えて、どこ行ったんだろ。昨日ご飯一緒に食うって約束したのにさー」

マミ「ふふっ。さて、話を戻しましょうか。この近くの魔法少女・・・居ないこともないのだけど・・・」

さやか「いるんすか?へぇ、じゃぁその子も仲間に引き入れましょうよ!今日の放課後・・・は、ちょっと用があるから・・・うーん、休みの日にでも!」

マミ「それは駄目」

さやか「え、どうして!?」

マミ「言ったでしょう?大半の魔法少女は群れないの。彼女はその好例なのよ。海千山千の魔法少女で百戦錬磨、加えて短気なのよ。だから、貴方には気を付けてほしいのよ、美樹さん。もしも一人で彼女に出会うなんてことがあったら、先ず逃げなさい、グリーフシードを置いてでもね。話の通じる相手じゃないわ。わたしだって、全力を出しても勝てるかどうか解からないわ・・・もっとも、わたしたちは不文律で些細な争いはしないけれどね。だから、彼女と話をしたければ、まず貴方は強くならないと駄目よ」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 16:45:58.38 ID:YeDjxSsp0
まどか「そんな・・・」

さやか「・・・でも、みんなで広く多くの魔女を狩れば、それだけグリーフシードが手に入りますよ。そう言えば、きっとその魔法少女だって解かって」

マミ「共有が、独占を凌駕する物量を得るのは道理に合わないのよ、美樹さん。あなたのような素人ではなく、彼女のようなベテランともなれば尚更ね・・・ごめんなさい。でも、あなたも魔法少女になった以上、そのことを踏まえてくれなければ、この先、生き残れないわ」

マミ「ねぇ、鹿目さん。美樹さんに生き続けてほしいでしょう?」

まどか「は・・・はい、もちろん・・・」

さやか「・・・マミさん・・・それ、ずるいっすよ」

マミ「ごめんね。でも、わたしだって同じ。せっかくひとりぼっちから抜け出せたのだから、出来るだけ長く貴方達と一緒に居たいのよ・・・わたしの我侭・・・ごめんなさい・・・」

さやか「あーもう!そんな顔しないでよちくしょぉ可愛いなー!解かりましたよ、逃げれば良いんですね、そいつにあったら!でも、いつかあたしが強くなったら、そいつを勧誘するくらい許してくださいよ?」

マミ「えぇ、その日が来たらね」

さやか「なーんか引っ掛かるなぁ・・・それで、そいつってどんなんなんですか?顔立ちとか、髪の色とか、武器とか。そういうの知らなきゃ避けようがないっすよ」

マミ「そうね。えーと、顔立ちは可愛らしいわ。八重歯と釣りあがった目付きが特徴的」

さやか「うわ絵に描いたような悪女だなぁ」

まどか「もう、さやかちゃん・・・」

マミ「それで、髪は赤。武器は槍のような多節琨ね。魔法は・・・解からないわ。彼女は武器と魔法少女としての身体能力活性、そして研鑽された戦闘スキルを合わせて一気に猛攻撃を畳みかけてくるわ。一度でも彼女の領域に入り込んだらお終いと考えるべきなの。わたしは彼女と極めて相性が良い遠距離攻撃だからこそ、今まで彼女に倒されることはなかったのかもね」

さやか「あたしは剣だから終わりじゃん・・・」

マミ「とにかく、どんなに傷付いても逃げることだけを考えるように。美樹さんは、大方回復系統の魔法に特化しているのでしょうから、その点大丈夫そうね」

さやか「え、なんでそんなの解かるんすか?」

マミ「だって、ねぇ?」

まどか「うぇひひ♪」

さやか「ちょっ、なんだよ二人して!」

まどか「さやかちゃん、顔赤いんだー♪」

さやか「ちょ、ちょっとまどか!」

マミ「ふふっ」

さやか「もう二人して!なんだよー!」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 20:52:34.29 ID:YeDjxSsp0
まどか「ほむらちゃん」

ほむら「・・・何かしら?」

まどか「ねぇ、一緒に帰らない?今日、相手いないんだ」

ほむら「・・・志筑仁美や美樹さやかがいるでしょう」

さやか「ごめん、あたし今日早く病院行きたいからさ、まどかのペースに合わせてられないんだわ」

まどか「え」

仁美「わたくしも。習い事がありますので門前に車を待たせておりますの。申し訳ございませんが、鹿目さんをお家に無事送り届けてあげてはいただけないでしょうか?」

まどか「ちょっと仁美ちゃん、その言い方なんか子ども扱いされているように思うよ・・・」

仁美「失礼。転ぶと危ないのでちゃんと手を繋いであげてくださいね?」

まどか「仁美ちゃん!!」

さやか「あっはっは、それじゃぁまどかが転んだりしないよう任せたよほむら!お先に!」

仁美「お二人とも、ごめんあそばせ」

まどか「もう・・・二人とも酷いよね・・・確かに歩くのはそんなに速くないけど、わたしそんなに転ばないもん・・・」

ほむら「そんなこと――」

まどか「?」

 まどかはうんざりとおとして首を上げ、目を見開いてほむらを見た。彼女は今、まどかの愚痴を否定しようとしなかったか?とても小さな声だったけれど、自分は確かに聞いた。ほむらは少しだけ顎を引いて、前髪で顔が見えないように隠している。かと思えば鬱蒼を払い、平素のような怜悧な表情でまどかを見た。

ほむら「何かしら?」

 まどかは顔の前で両手を振った。

まどか「あ、いやその別にね!あ、それで、一緒に帰るのは大丈夫、かな?なんて・・・」

ほむら「・・・」

まどか「・・・駄目、かな?」

ほむら「・・・まどか、家に置いてきているの。私も急いで帰りたいのよ。ごめんなさい」

まどか「あ、そういえば今日は居ないんだね・・・大丈夫だったの?」

ほむら「えぇ。それじゃぁさようなら、鹿目まどか」

まどか「あ、・・・ばいばい」

まどか「・・・」

まどか「・・・」

まどか「・・・私だって、まどかだよ」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 21:14:46.82 ID:YeDjxSsp0
〜校門〜

マミ「・・・あら、一人?」

ほむら「・・・」

マミ「いくらなんでも無視するのは酷いのではなくって?」

ほむら「離しなさい、巴マミ。私は急いでいるの」

マミ「魔女の気配はないようだけれど?」

ほむら「そんなんじゃないわ」

マミ「じゃぁどうして?」

ほむら「貴方に説明する義理はない」

マミ「あるわよ・・・。鹿目さんはどうしたの?」

ほむら「もうじき来るのではないかしら?」

マミ「・・・貴方、一時は鹿目さん鹿目さん鹿目さんって盲目的だったのに、一体どうしたの?良ければ話くらい聞くわ――」

ほむら「結構よ。さようなら。鹿目まどかをよろしく、巴マミ」

マミ「あっ、ちょ・・・」

マミ「一体、何が・・・」

マミ「・・・」

マミ「鹿目さん・・・」

まどか「てぃひひ・・・ふられちゃいました」

マミ「えぇ・・・わたしもよ」

まどか「うぇひひ、待たせてごめんなさい。それじゃぁ、帰りましょう」

マミ「えぇ・・・」

マミ「あの・・・」
まどか「あの・・・」

まどか「あ、どうぞ・・・」

マミ「いえ、鹿目さんから・・・」

まどか「いや、マミさんから・・・」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 09:02:18.19 ID:Zf2cdJTIO
乙っちまどまど!
続きも待ってるよ
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 10:00:15.78 ID:57XUtnJs0
マミ「いえ、鹿目さんから・・・」

まどか「そんな・・・マミさんから・・・」

マミ「・・・ふふ♪」

まどか「うぇひひ♪」

マミ「ねぇ、鹿目さん・・・彼女、あれから何かあったの?」

まどか「・・・こんなこと言っても信じてもらえるか解からないんですけど・・・」

マミ「わたしは魔法少女よ?非現実そのものなんだから、何を言われても信じるしかないわ」

まどか「てぃひ・・・ですよね」

まどか「・・・あの、黒いコートの人、覚えていますか?」

マミ「えぇ、忘れるわけないわ。あの人は、わたしの恩人だから・・・いつか、ちゃんとお礼もしたいと思ってる。鹿目さん、あの人と知り合い?連絡先とか解からない?」

まどか「わ、わたしもマミさんと殆ど同じです!何も知らないです、あの人のこと・・・ただ、あの人が、ほむらちゃんに小さいわたしを預けたみたいで、ほむらちゃんはその世話に追われているんです・・・」

マミ「小さい・・・鹿目さん・・・?」

まどか「うぇひひ、信じられないですよね。でも、本当なんです。ちょっと幼いですけど、言葉も喋れて、自分のこと『まどか』って呼んで、もう姿形はわたしにそっくりで・・・あぁでも、あっちの方が少しだけ髪長いんですけどね」

マミ「俄かには信じ難いけど・・・でも、あなたはその子を見たのよね?」

まどか「はい。お話もして、わたしの手にも乗せたりしました」

マミ「なら、信じるしかないわよ」

まどか「あ、ありがとうございます!」

マミ「それにしてもそんな事が・・・なるほどね・・・もしかしたら、暁美さんの興味の対象が貴方からそちらに移ってしまったのかも、だから彼女、さしもの貴方の誘いを・・・」

まどか「・・・」グス

マミ「あぁごめんなさい鹿目さん!あの、今は手の掛かる子どもが彼女に出来たというだけで、大丈夫、きっと大丈夫よ!」

まどか「・・・はい」グスグス

マミ「えと、そうだ、今から暁美さんの家に行きましょう!そして彼女に真偽を確かめるのよ!」

まどか「真・・・偽?なんの・・・ですか?」グス

マミ「彼女が本当に貴方への興味を失せたかどうか♪」

まどか「そんなの・・・でも、どうやって・・・?」

マミ「彼女の前でQBでも呼んだらどうかしら?彼女、貴方が彼と契約するのをいつも阻んでいたでしょう?それで、いつもどおりだとしたら、貴方の憂いが晴れるでしょう?」

まどか「でも・・・もし見放されたら・・・」

マミ「それじゃぁ、やめる?」

まどか「・・・」

まどか「・・・マミさんの意地悪」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 10:32:00.24 ID:57XUtnJs0
マドカ「お帰り。早かったね、ほむらちゃん」

ほむら「・・・ただいま、まどか」ニコ

マドカ「わたしのことは気にしないで、遊んできても良いのに。大抵のことは、小さいけど魔法でどうにかなるんだよ?」

ほむら「それでも・・・貴方が心配だから・・・」

マドカ「気遣いは嬉しいけど、この世界にだってわたしは居るでしょ?あの鹿目まどかはほむらちゃんを遊びに誘ったりしないのかな?」

ほむら「・・・彼女には、美樹さやかや志筑仁美、巴マミが居るわ・・・私が居なくても大丈夫よ」

マドカ「ご飯は一緒に食べようって誘うのに?」

ほむら「・・・」

マドカ「駄目だよほむらちゃん。わたしとはいずれ離れ離れになっちゃうんだかね?わたしよりも、この世界の人たちのことを優先しないと」

ほむら「・・・」

マドカ「ほむらちゃん?」

ほむら「・・・ねぇ、まどか。貴方となら、どんな時空も越えられるのかな?鹿目まどかから逸脱した貴方となら・・・私は・・・この永遠の迷路で、一緒に居ることが出来るよね?」

マドカ「ほむらちゃん・・・」

ほむら「私はもう・・・まどかと離れたくないよぉ・・・過ごす時間も、好意も・・・ずっと一緒に居たいよぉ・・・もう、すれ違うのは嫌だぁ・・・!」

マドカ「・・・それでも、この世界にも鹿目まどかは居る。彼女だって、貴方と仲良くしたいって思っているの。彼女はずっと貴方と居るけれど、わたしはもうすぐ貴方と離れないといけない」

マドカ「大丈夫。ほむらちゃんはこの世界で生きることを決めても良いんだよ?もう、繰り返す必要なんてないから。わたしと、イグニス。それから頼りになる英雄さんが絶対に助けてみせるからね?」

ほむら「・・・」グス

マドカ「――でも、もう少しだけ・・・その決心が付くまで、もう少しだけ、傍に居てあげるからね、ほむらちゃん」

 小さなまどかに目を配られると、ほむらは踵を返し、再び闇の回廊へと呑み込まれていった。目的地は決めている。佐倉杏子の元だ。彼女もまた、これからほむらやまどかが生きる世界に加わるべき一人であるのだ。それがさやかを苦しめることになるかもしれないが、・・・それでも、彼女も救済する算段は出来ている。たとえ彼女が魔女になっても、キーブレードなら・・・。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 12:55:58.84 ID:57XUtnJs0
ほむら「・・・」

マドカ「ほむらちゃん、お客さんだよ?」

ほむら「・・・そうね。でもどうせセールスよ、構わないわ。それよりも、まどかともっとお話がしたい」

マドカ「もしかしたら鹿目まどかかもしれないよ?」

ほむら「まどか・・・」

 自分はどう思っているのだろう。つい先日までは彼女のことしか頭になかったのに、今は、この小さなまどか、あらゆる世界のほむらとの記憶を有しているまどかに・・・惹かれていて、この世界特有の彼女のことを蔑ろにしているという自覚はある。でも、もしもこの世界もまたやり直すのであれば・・・あのまどかは、無意味だ。そう思うと、この小さなまどかとの時間を大切にしたいと思う。それが情けないと思うけれど、嫌悪しきれない。
 まどかにはマミがいる。さやかや、仁美だっている。もしかしたら、杏子も加わるかもしれない。彼女にとっては、時間や思いを共有するのはこの世界の住人である彼女達で、自分のような不条理の亡羊ではない。彼女は孤独になりえないのだ。だけれど、どれだけ親しくなろうとも、この世界の人間の中では、自分は孤独にしかなりえないのだ。過ごしてきた膨大な量の一ヶ月の中で、数多の彼女達に対する懸念や後悔を植え付けられ、罪悪感や憎悪が根を張り、繰り返すことに成長や播植される自分には、今更彼女達にどう振舞えば良いのかなどわかりはしない・・・。だとすれば、不条理を共有するこのまどかだけが、自分を理解してくれる唯一無二の存在ではないのか。大切にすべきは彼女だけではないのか?自分には、彼女以外に他に何も必要ないのだ・・・。・・・だが、彼女はほむらが一時的に預かっているにすぎない。本来彼女の傍にいるべきは、イグニスという怪人・・・彼女はほむらでは敵わないし、まどかの窮地を救うことも、難なくやってのける・・・。でも、嫌だ、まどかを奪われたくない・・・折角、折角こうして出会いをやり直せたというのに・・・!

 小さなまどかが指弾を打った。何事か、と思うと、後ろから声が聞こえた。

まどか「あ、開いた・・・ってあれ?ほむらちゃーん?」

 小さなまどかを見た。彼女は悪戯をした子どものように笑い、舌を出すと、飛び上がった。背中の羽をせわしなく動かして、玄関へと移動する。

マドカ「いらっしゃい、まどか。それと、マミさん」

まどか「うえうええええ!?と、飛んでるぅ!?」

マミ「本当に小さい鹿目さん・・・でも、どことなくこちらの方がしっかりしているような」

まどか「ちょっとマミさん、それどういう意味ですか!?」

マドカ「ウェヒヒ♪ それじゃぁ二人とも、どうぞあがってね」

マミ「えぇ、お邪魔するわね」

まどか「あ、うん、おじゃましまーす・・・あ、ほむらちゃん。うぇひひ、来ちゃった」

 ほむらは気を宥めて、涙を拭い、振り向いた。そこには、苦々しく笑ったまどかがいる。彼女はほむらと相対すると、徐々に笑みを消して、視線を右往左往させ、唸った。

まどか「あ、あの、あのね」

ほむら「・・・何かしら?」

まどか「――わたし、QBと契約しようと思う!!」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/09(木) 21:59:18.39 ID:KbEf2DqLo
出来れば今日の分は終わりとか書いてもらえるとありがたいです
乙っちまどまど!
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/06/09(木) 22:24:50.78 ID:IpKd2gB9o
乙々
ほむらが2人にまどかが2人
途中から訳分からなくなったぜorz
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 22:51:08.90 ID:57XUtnJs0
>>53->>54

ごめん

>>53今度からそうするごめん

>>54ごめんね。そういうのなんかカッコいいなぁ!と思ってやってました。でも、きっとまた
やってしまうので、苦労かけます

二人とも読んでいてくれてありがとう!今日はもう更新する予定はありません。また明日

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 22:51:48.36 ID:57XUtnJs0
>>53今度からそうするごめん

>>54ごめんね。そういうのなんかカッコいいなぁ!と思ってやってました。でも、きっとまた
やってしまうので、苦労かけます

二人とも読んでいてくれてありがとう!今日はもう更新する予定はありません。また明日

57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 22:54:26.33 ID:57XUtnJs0
>>53今度からそうするごめん

>>54ごめんね。途中からの描写対象の変化はそういうのなんかカッコいいなぁ!と思ってやってました。でも、きっとまた
やってしまうので、苦労かけます

二人とも読んでいてくれてありがとう!今日はもう更新する予定はありません。また明日

58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/09(木) 23:01:09.26 ID:y34Tlr1Ho
お疲れ様でした。

私からも気になったことを一つ。
地の文がウィンドウの端までいってから改行されています。
適当な長さで改行を入れるようにしていただけたら読み易くなって
ありがたいかと思います。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 15:54:02.98 ID:c0Wph2xN0
――彼女の言葉が、入り込むと、頭の中で霧散し、纏まりを失う。
かき集めようにも、あまりに量が多すぎて、どれから手を付ければ良いのか解からず、
ほむらは硬直を禁じえなかった。
流れていく、まどかの頬を上気させた姿、閉じた瞼の端には涙が浮かび、
こめかみから彼女の顎へ汗が伝う愛らしい彼女の情景に、
逐一感想など持つことも出来ず、ただ、時間の流れが散らばった言葉を纏めるのを、
ほむらは待たされた。そしてようやく彼女の発言を汲むと、
自分が全身から汗を噴き出していることを自覚した。
――しかし、反して心中は、とても穏やかだった。

ほむら「・・・願い事、決まったの?」

まどか「え、あ、う、うん!だからわたし、QBと契約して魔法少女に・・・」

ほむら「・・・そう」

 ほむらはベッドに腰掛けた。そして、部屋の入り口付近で浮かんでいる小さなまどかを見る。
彼女は苦々しそうにほむらとまどかを眺めている。
ほむらは、彼女を見ると、先程感じた怒りを忘れ、胸中の安堵のまま、笑みの浮かんだ口元を揺らした。

ほむら「今までごめんなさい」

まどか「え?」

ほむら「今まで、貴方の邪魔をして、ごめんなさい。鹿目まどか」

マミ「・・・暁美さん、あなた――」

まどか「――ッ!!」

 まどかは踵を返し、走り出した。

マドカ「――まどか!」

 すれ違う、俯く彼女の瞳から、涙が零れているのを見て、
小さなまどかは憤然と叫び、後を追う。

ほむら「まどか――」

 彼女のことはマミに任せ、まどかを引き止めようと、ほむらは立ち上がろうとした。
しかし、ベッドから黄色い帯が出現し、瞬時にほむらを拘束した。

マミ「・・・こうすれば、貴方は動けないのよね?」

ほむら「巴マミ・・・!」

>>58これでどうかな?
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 21:42:36.26 ID:c0Wph2xN0
ほむら「これを解きなさい・・・!」

マミ「どうして?」

ほむら「まどかを追うためよ・・・!」

マミ「それはどちらの鹿目さんかしら?わたしと一緒に此処へ来た鹿目さん?それとも、あの小さな鹿目さん?」

ほむら「・・・鹿目まどかは、貴方が面倒をみれば良い・・・今まで貴方がそうしていたように・・・」

 ほむらはマミを赫然と睨んだ。マミはその威嚇には動じずとも、
しかし、彼女の言葉には動揺を忍べず、目を見開き、唇を噛むと彼女に近付いて、その頬を平手で打ち、胸倉を掴んだ。

マミ「・・・どうして鹿目さんがあんなこと言ったか、貴方解かってるの・・・?」

ほむら「魔法少女になると決意したからでしょ・・・」

 マミは一層強く握り、恥じも外聞も忌憚して眦を裂き、互いの息が絡み合うほど顔を近付け、睨み合う。

マミ「貴方の気を惹きたかったからよ・・・!」

 ほむらは唇を噛んだ。マミは、彼女の瞳が自分から離れたのを見逃さなかった。

マミ「・・・今日だって、あの子は貴方と一緒に帰りたかった。
・・・お昼の時間だって、一緒に過ごしたかった。
・・・今彼女は貴方の過ごしやすい場所を作ろうとしている。
・・・貴方と犬猿の仲だった美樹さんやわたしに、貴方と仲良くなってほしいと、心から願っているのよ・・・?
だというのに、どうして貴方はあの子の気持ちを少しも考えようとしないの・・・?」

 ほむらは脳裏の彼女の姿を、小さな彼女の姿に塗り替えた。

ほむら「・・・私には、関係のないことよ」

 自分の願いは、この世界の鹿目まどかと親しくなることではない。
鹿目まどかとの出会いをやり直すこと・・・
あの、弱くてちっぽけだった自分を誰よりも励ましてくれ、親身になってくれ、救ってくれた強いまどかとの出会い。
それは、奇しくも全ての世界の鹿目まどかの記憶が集約する彼女と出会うことで、成し遂げられた。
ほむらの願いは叶った。もう、繰り返す必要はない。出会いを、とうとうやり直せたのだ。
あとは、あの黒コートの命を奪うことだけを考えれば良い。
非道かもしれない、彼女は失意するかもしれない・・・それでも、自分の孤独とは、天秤にかけるまでもない。
そして、永遠に二人で共に生きる。永久に一ヶ月の見滝原という迷路を彷徨い続ければ、それは簡単に叶う。
もう、死に物狂いになることも、傷付く事からも、自分は解放されたのだ。あの小さなまどかは、神様からの贈り物。
もう、私に休めという、神様からの。

 マミは熱意の消えていくほむらの瞳に、怒りを鎮まされていき、戸惑った。
凍結していく表情から、まるで人形に説法をしているような不気味な心地になっていき、辟易する・・・。
――それでも、此処で諦めたくはない・・・!

マミ「・・・わたしが気に入らないの?」

ほむら「貴方だけじゃないわ」

マミ「・・・美樹さん?」

ほむら「それだけじゃない」

マミ「じゃぁ何、QB?それとも誰か他に――」

ほむら「全てよ」

ほむら「この世界の全てが、私にとっては既にどうでも良い存在なの」

ほむら「・・・此処はもう、私の戦場じゃない」

 ほむらは、落胆に歪むマミの顔を、ただ、瞳に浮かべていた。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 22:10:20.82 ID:c0Wph2xN0
 ――解からない。

マドカ「まどか!」

 ――解からない!

マドカ「まどかぁ!待って!」

 ――解からないッ!

マドカ「まどか――!」

 まどかは転んだ。商店街でだから、夜と言えど人が居るのに。
とても恥ずかしい。立ち上がると、また、走り出した。膝が痛い、でも、視線も痛い。
もう嫌だ、早く家に帰りたい・・・!
 自宅に着くと、帰りの挨拶もせず、靴も脱ぎ散らかしたまま、自室に駆け込んだ。
そして、ずっと鬱積していた嘆息を、思い切り吐いた。

まどか「う・・・うあぁ・・・!!」

 喉が引きつく。しゃっくりが出る。涙が横溢して、枕がぐしょぐしょだ。
強く抱き締めて、叫びが漏れないように、口に栓をした。
不自然な娘に、父はいぶかしみ、来るだろうから、その頃には、心を静めなければ、
と努めるが、一向に悲嘆は尽きてくれない。
寧ろ、どんどん勢いをましていく。
彼女に対する疑問と衝撃が、時間が過ぎるたびに頭に湧いて、パンクしそうだ。
どうして自分は、こんなにも、悲しいのだろう。
確かに彼女に見捨てられたことはショックだ。
しかし、この激情は尋常ではない・・・。
まどかは、風を切る音を頭の上で聞いた。
それまでの悲しみや苦しみは、怒りに変わった。

まどか「・・・あなたの所為よ」

マドカ「・・・」

 ただ、まどかは憐憫の瞳で彼女を見ていた。なんと言えば良いのか、解からない。
どう慰めれば良いのか。彼女の言うとおりだ。自分が、暁美ほむらを壊してしまった。

まどか「・・・ごめんなさい」

マドカ「ッ!そんなことない!わたしが悪いの!」

まどか「違うよ・・・うぇへへ、あなたは悪くないよ・・・」

まどか「わたしが・・・ほむらちゃんのこと何も知らないくせに
・・・あんなことして、勝手に自滅して
・・・こんなの、ただの自業自得だよ・・・馬鹿だよ・・・わたし・・・」

 これが失恋なのか?この胸をいっそ引き裂いてしまいたい苦しみが?
自分は、暁美ほむらに対して愛情を抱いていたのか?解からない。
それでも、彼女が尊い存在だということは理解していた。
根拠はない。ただ、胸の内で奮える感情が、まどかにそう確信させているのだ。
自分ではない誰かに、あたかもそう促されているかのようで、気持ちが悪い・・・。

まどか「・・・ねぇ、どうしてかな?」
 
 まどかは自然と訊ねていた。

まどか「どうして、わたし、こんなに傷付いているのかな?」

まどか「おかしいよ、全然抑えられないの
・・・どうしてこんなにショックなのかな・・・?
ほむらちゃんは、ただのクラスメイトで、
友達にもまだなれてなかったかもしれないのに
・・・なのに、どうしてなのかな・・・苦しいよ
・・・なんで、わたしにはこんなにもほむらちゃんが大切なの・・・?
教えてよ・・・!」
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/10(金) 22:25:26.03 ID:adJxtuxvo
>>59
対応ありがとうございます。
見やすくなりましたよ。

・・・・・・それにしても悲しいですね・・・・・・。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 23:02:18.26 ID:c0Wph2xN0
今日はおしまいです
短くてごめんなさい
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/10(金) 23:16:54.48 ID:adJxtuxvo
いえいえ。

お疲れ様でした。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/11(土) 02:06:55.47 ID:5uT+b+Fvo
ありがと!
乙っちまどまど!
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/11(土) 10:40:53.10 ID:WCdJS5pT0
マドカ「・・・こんなこと言っても、信じてもらえるか解からないけど」

 小さなまどかは、泣きじゃくるまどかの背中に語る。

マドカ「数多の世界の因果が、此処に集約している
。幾つもの線が一定の距離を開けて平行線になっている情景を想像して。
それらが、不可抗力によって曲折され、この世界という一点で絡みあっているの。
だからきっと、今あなたの胸に宿している感情は、数多の世界の鹿目まどかが抱いた、
暁美ほむらという存在への好意。
今、あなたの中で氾濫しているほむらちゃんへの好意は、別の世界のあなたが抱いたものも含まれているの
・・・そういった特異の前例は、あったよね・・・この一ヶ月の始まりに見た、鮮明な別世界の記憶
・・・不安定だけれど、確実に、多くの世界が鹿目まどかという存在で束ねられていることの実証
・・・つまり、実際に魔法によって世界を束ねてきたほむらちゃんとは別に、
その原因であるあなたにもまた、余波が生じているのだと思う・・・」

まどか「――そんなの勝手だよ!!」

 まどかは顔をあげ、小さなまどかを睨みあげた。
これほど怒りに染まった自分の形相を、まどかは見たことがなかった。

まどか「・・・難しくてよくは解からないけど、うん、なんとなく解かった
・・・でも、そんなのってないよ・・・!
・・・――じゃぁ、わたしの好意はにせものだってことじゃない!」

マドカ「そんなわけじゃ!」

まどか「そういうことだよ!わたしじゃないわたしの記憶がわたしにはあるんでしょ?
ほむらちゃんを好きなのは、わたしじゃないわたしなんだよね!?
あんなに友達になりたいって思ったのも、傍に居てあげたいと思ったのも!
わたしの感情じゃないってことじゃない!!」

マドカ「違う!絶対に、絶対にそれは違う!!」

まどか「違わないよ!!」

マドカ「違う!!」

 互いに憤然とにらみ合う――不意に、まどかが瞳から涙を噴出して、俯いた。

まどか「――ずるいよ」

マドカ「――え?」

まどか「あなた、ずるいよ。わたしと同じ顔で、同じ名前なのに、わたしが知らないこと、
全部知っているみたい・・・ずるいよ」

マドカ「・・・」

まどか「ねぇ・・・どうすれば良いの?
これからもさ、こんな叶わない思い抱いて、わたし、生きなきゃいけないのかな・・・?」

マドカ「そんなことない・・・きっと、叶うよ・・・
ほむらちゃんを支えられるのはあなたという鹿目まどかだけ・・・」

まどか「うぇへへ・・・でもさ、ほむらちゃんがわたしに見ているのは、
沢山の世界の鹿目まどかなんだよね・・・?」

マドカ「・・・」

まどか「・・・受け止めきれないよ・・・わたし・・・救われないよ、誰も・・・」

まどか「いっそさぁ・・・わたし、全部忘れちゃったほうが良いのかな・・・?」

 まどかが浮かべる自暴自棄な笑みに、小さなまどかは戦慄して、窓を見た。
カーテンには、月光に切り抜かれたインキュベータのシルエットがあった。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/11(土) 11:58:04.33 ID:WCdJS5pT0
まどか「QB、久しぶりだね」

QB「あぁ。久しぶり、まどか」

 彼女を魔法少女にして良いのだろうか?
いずれこの世界もキーブレードによって救済され、インキュベータシステムは崩壊する。
ならば、こんなにも苦しむ彼女を魔法少女にしても良いのではないだろうか?
・・・だが、そうなれば、暁美ほむらは真に孤独になる。
噛み合わない好意と時間に呵責されることになる・・・!
二人とも救いたいのに、どちらか一方を救おうとすると、どちらかが救えない二律背反に陥ってしまっていた。

まどか「願い事、決まったよ」

QB「そうか。鹿目まどか。君はどんな祈りで、ソウルジェムを輝かせるんだい?

マドカ「――!」

 声がでない。なんて言えば良いのか、解からない。

まどか「わたしの中にある、過去のほむらちゃんへの思いを、全部消して」

QB「・・・」

まどか「・・・」

マドカ「・・・?」

まどか「・・・どうしたの、早くしてよ」

QB「・・・無理だね」

 二人のまどかは瞠目した。

まどか「どうして――わたし、凄い魔法少女になれるんでしょ?
どんな願い事だって、叶えられるんでしょ!?
さぁ早く叶えてよQB!・・・お願いだから・・・早く・・・!」

QB「・・・おそらく、そのもうひとりの君の言が正しいのであれば、
確かに君は数多の世界を束ね、因果の特異点となり、
どんな途方もない願いでも叶えられる力を持っていることになるだろう・・・
そして、事実そうであった・・・
なるほどね、ようやく合点がいったよ、君の素質のメカニズムはそういうことだったんだ」

まどか「わけわかんないこと言ってないで早くして・・・!」

QB「やれやれ。だから無理だと言っているじゃないか。
君は既に、因果の特異点ではなくなったんだよ。
そんな君に、他の世界を消し去るほどの力が宿っているわけがないだろう」

まどか「そんなことしなくていいよ・・・ただ・・・わたしは記憶を・・・」
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/11(土) 12:01:11.74 ID:WCdJS5pT0
QB「君にはそもそも記憶なんてないじゃないか。
君を呵責しているのは記憶ではなく、意思なんだ。
数多の世界の鹿目まどかという存在が抱き、受け継がれ、贅肉をつけてきた意思。
記憶よりも厄介だよ。実在を捉えようにも、それは君の存在そのものだからどうしようもない。
だから君をその責め苦から救うには、君が死ぬか、それらを消し去るしかない。
だがそれは、今までの世界を巻き込むことになる。極端なことを言えば世界を書き換えるのと
同義になってしまうんだ。
けれども、君にはそれを叶えるほどの力がないんだよ」

マドカ「・・・どうして?」

QB「君にも解からないかい、もうひとりのまどか。
仕方ないね。正直僕にもよくわからないから、これはあくまで推論なんだけど。
おそらく、原因は暁美ほむらだろうね。数多の世界を束ねてきたのはそもそも彼女だ。
その結果として鹿目まどか、君に強大な因果が宿っていたというわけなんだけど、
それは彼女の君――君という固体ではなく、鹿目まどかという集合に対しての執着心が産んだ歪みだったんだ。
世界を跳躍しながら、彼女は無意識のうちに、願い続けたのだろう。鹿目まどかが集合であることを。
しかし、どこかで諦観していたことで、それは歪みとなって実現してしまった。
それが、鹿目まどか、今の君が陥っている不条理さ。
だが、何かしらの介入によって、その歪みが正常に回帰し始めている」

マドカ「それって・・・!」

QB「そう。君だろうね、もうひとりのまどか。
彼女の執着が鹿目まどかの集合ではなく、君単体へと移ったのだろう。
よって、今そこに居るこの世界だけの鹿目まどかは、彼女にとって反故となり、
希望の範疇から排斥され、資質を失った」

まどか「はは・・・じゃぁ、わたしどうすればいいのよ・・・」

QB「心配しなくても大丈夫だろう。
もうじき、暁美ほむらが産んだ歪みが消え去り、
君からも数多の世界のまどかによって付けられた彼女への思いの贅肉は消え去る。
君は今感じてるような彼女への途方もない愛情に苦しむことはなく、
おそらく最初の世界の鹿目まどかが彼女に抱いた感情と同じもの、
或いはそれ以下へと帰すことだろう」

マドカ「そんな・・・!」

QB「それでまどか。君が叶えられる願いは極端に減ってしまったけれど、どうするんだい?
それでも魔法少女になるというのなら、僕は歓迎するけど。そうでないなら、そろそろ
良いかな?他にも奇跡を必要としている子がいると思うから」

まどか「・・・ごめんね、QB」

QB「いや、君が気に病むことじゃないさ。それじゃぁ、願いごとが決まったらいつでも呼んでね、まどか」
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/11(土) 12:56:01.10 ID:lujYlOuIO
乙っちまどまど!
早く続きみてえー
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/11(土) 23:40:44.10 ID:WCdJS5pT0
すいません今日はもう寝ます
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/12(日) 10:48:53.74 ID:bDuw7Mev0
 QBの影が消えると、まどかはベッドに倒れこんだ。
しばらくして、インターホンが反響した。まどかは肩を震わせた。
きっとほむらだろう。父は自分を呼ぶだろうから、平静を浮かべなければ・・・
しかし存外にも、父がまどかの名を呼ぶことはなかった。
重い体に鞭を打って、カーテンの隙間から玄関を窺う。
闇の中で影が蠢き、それは振り向いた。月光に照らされたのは、やはり、暁美ほむらだった。
彼女はまどかの部屋を見上げている。
まどかは顔を苦悶に染めると、不細工な笑顔を浮かべて、呆然とする小さなまどかに振り向いた。

まどか「・・・迎えに来たみたいだよ」

マドカ「・・・」

 まどかはほむらを振り向く。
彼女はまだそこで、此方を見上げている。
彼女の顔を見ているととても落ち着くのに、
彼女の視線が自分を捉えていないと自覚すると、
途端胸中が荒々しく掻き乱された。
俯き、呻いて、喉を引きつかせながら、小さなまどかに言う。

まどか「・・・ほむらちゃんの傍に居てあげて」

マドカ「・・・それは駄目」

まどか「・・・解からないかな、わたしね、あなたと一緒に居たくないの」

マドカ「・・・でも、それだけは絶対に駄目」

 まどかは歯を剥き出し、眦を裂いて、小さなまどかを見上げた。
小さなまどかはその鬼気に毅然と立ち向かった。
それだけは、絶対に譲歩できないのだ。

マドカ「・・・わたしはもうすぐ此処から居なくなる
・・・わたしの大切な人が全部終わらせたら、彼女と何処か遠くに行くことになるの
・・・きっと、もうあなたたちとは出会う事はなくなる
・・・だから、これ以上ほむらちゃんと一緒には居られない・・・」

まどか「・・・だったら、どうして最初から出会ったのよ・・・!」

まどか「あなた酷いよ・・・居なくなること解かってて、ほむらちゃんの気持ち弄んだってことじゃない!
・・・あなたが来なければ・・・ほむらちゃんは・・・わたしだって・・・!
・・・こんな苦しまずに済んだ・・・全部・・・全部あなたの所為じゃない!!」

マドカ「・・・ごめんなさい」
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/12(日) 14:34:17.84 ID:bDuw7Mev0
 こんなはずじゃなかった。ほむらがこれほどまでに脆弱な存在だとは、考えていなかった。
ただ少しだけ寂しがりでも、芯の強い人間なのだと信じていた・・・
 自身の愚鈍が招いた結果だ。
また、良かれと思ってしたことが裏目に出て、取り返しがつかなくなり始めている。
 自分はどうすれば良いのだろう?
やがて、自分と運命を共にするほむらが、自分を迎えにくる。
キーブレードに選ばれたほむらは、不老不死の体を以って、終わりのない旅を始める。まどかはそれに付き添いたい。
もう二度と大切な友達とは離れたくない・・・。
 まどかにとって、この世界のほむらは自分にとって大切なほむらではない。
彼女に似ている、可哀相な子という認識だ。
 弱い自分に強さを糊塗して、孤独に耐えながら戦い続ける彼女・・・
だから励ましてあげたくなった。
 同一人物であるほむらだって同じ気持ちで、せめて慰めになればと自分を彼女に託したのだと思う。
だが、それらは今最悪の結果を招こうとしている。
二人が介入したことによって、ほむらは歪み、その歪みはまどかにまで波及しようとしている。
そんなこと知らなかった。想定出来ると思うか?
 自分達は正しいと思ったことをしたのに、きっとそれは正しいというのに・・・
誰も救われない。
 ・・・いっそのこと、自分はこの世界の暁美ほむらの側らに寄り添おうか?
いや、そうなれば誰が彼女を・・・彼女はどう思うのだろう?
肯定するのか、断固として否定するのか・・・解からない・・・しかし、自分は、後者を望んでいる。
 まどかもまた、ほむらとはもう離れたくないのだ・・・。
でも、やがて歪みの歪みが完了した世界で、まどかは以前のようにほむらを思うことはなくなるとインキュベータは言った。
 そうなれば、この世界の暁美ほむらの未来はどうなる?
・・・言うまでもない。彼女を待ちうけるのは絶望だけだ。
 時期がくれば、まどかはほむらと救済された世界を去る。
そうでないとしても、まどかがこの世界のほむらと共にいて、
本来の友人である暁美ほむらを蔑ろにするのは本意ではない。
正常になった世界で、ほむらは孤独にならざるをえない。
やがてインキュベータシステムが崩壊すれば、彼女は魔女になることはなくなる。魔法少女は人に戻るだけ。
しかし、まどかが、彼女を抑止しようとも、
抱擁は拒む世界で、
彼女は孤独と絶望に憔悴して、
自ら命を絶つ情景を思い浮かべるのは容易い。
 駄目だ、そんなの絶対駄目だ。しかし、・・・ここから幸福な結末を迎えるのは・・・どうすれば・・・。
 今のまどかには、一体何があるのだろう。彼女に絡み付いていたいばらが解かれ、凡百の少女と同じ運命に
成り果てた彼女には、どんな祈りが叶えられるのだろう。・・・最低だ。自分は、彼女に全ての苦痛を背負わせようとしている。
あらゆる苦悩を彼女だけに託して、自分だけ幸福になろうとしている・・・だけれど、そうするしかない・・・
自分だって、そろそろ幸せになっても良いじゃないか!もう充分苦しんだんだ!わたしだって・・・。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/12(日) 14:41:58.82 ID:bDuw7Mev0
〜深夜の公園〜

 段々と、力が淀み始めている。今、キーブレードから発せられた光の矢が、一瞬黒くなったように見えた。しばらく、魔法を使うのはよそうか・・・しかし、自分が今従っているのはインキュベータのシステムはないから穢れなど・・・ではどうして・・・。思い当たる節があった。王様のメモにあった闇の回廊の注意。変身したQBとの戦闘の際、ほむらは服が抉られた。後に修復はしたが、だがその状態でしばらく回廊に留まることになった・・・あのとき、心が闇を吸収し、それがほむらの力に影響を及ぼしているのか・・・?

 コンクリートを踏みにじる音を聞いて、ほむらは前方に跳躍し、転回した。案の定、ほむらの居た場所には佐倉杏子の刃が下ろされている。間髪いれずに彼女は突端を向けて跳んできた。速い――ほむらが刃をキーブレードで叩いたとき、棍が刃の付け根で屈折した。キーブレードで叩いた感触が消える――それを実感したときには、既に佐倉杏子は次手に移行していた。彼女の持つ棍の中心よりやや手前が屈折し、その中に仕組まれた鎖が前方を引いて、ほむらの体の一直線上に潜ると、再び連結する。肉薄する刃を、間一髪で体を半回転させ、裂ける――しかし、コートがまたも傷付けられた。それを憂いている暇はない。再び折れ曲がった刃が首を回して、ほむらに迫る。側転し、それを避けたが、それは追跡を止めない――ほむらはしゃがみこんだ。自分の首があった場所を、杏子の足がしなやかに振るれることを予感していた。着いて両手に力を込め、逆立ちすると、両足を全力で振るった――見事に杏子直撃した。が、杏子は唸り声を漏らし、目を剥くと、首を捻ってほむらを見据えようとした――が、そこへほむらが放った砂利が飛んでくる。直前で目を瞑ったが、少し入った。盲目のまま、刃を地面に刺して、エネルギーを多節棍へと移すと、屈折させることで衝撃を無力化させて着地する。――涙で砂を払いながら、無理に目を使おうとせず、気配を探った。砂利を踏む音、体温、風・・・ようやく目が開けられ、歪みながらも視界が出来る・・・杏子の目の前で、黒コートの怪人はただ佇んでいた。砂利が完全に落ちると、杏子は涙を拭いて舌打ちした。

杏子「あんた、なにもんだ。いきなり人の縄張り荒らして、何がしたい?あんたくらい実力ある奴なら、それが何を意味するか解かってんだろ?」

 ほむらは杏子に先んじて討った魔女のグリーフシードを彼女に放った。杏子は呆然とそれを受け取ると、憤りを露わにした。

杏子「てめぇ・・・あたしのことなめてんのか・・・?」

 ほむらは彼女に悠然と、杏子に左手の掌を上に差し出すと、人差し指と中指を二度曲げた。――杏子の顔が怒りに震える。

杏子「こういうのはお遊びはあたしの趣味じゃねーが・・・良いぜ、お望みどおりてめえの懐にあるグリーフシード全部もらってやるよ・・・!」

 ほむらは彼女に背を向けると、街灯の上に跳び上がった。着地したときには、杏子はすでに迫ってきていた。猛然と突撃する彼女の刃を切り崩し、ほむらを襲う。ほむらは刃を避け、杏子の顔を踏むと飛び上がって、別の街灯に移った。さて、これで彼女の自尊心を恥辱で汚すことが出来ただろうか?
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/12(日) 16:48:54.44 ID:bDuw7Mev0
〜深夜の公園〜

 段々と、力が淀み始めている。
今、キーブレードから発せられた光の矢が、一瞬黒くなったように見えた。
しばらく、魔法を使うのはよそうか・・・
しかし、自分が今従っているのはインキュベータのシステムはないから穢れなど・・・
ではどうして・・・。思い当たる節があった。王様のメモにあった闇の回廊の注意。
変身したQBとの戦闘の際、ほむらは服が抉られた。
後に修復はしたが、だがその状態でしばらく回廊に留まることになった
・・・あのとき、心が闇を吸収し、それがほむらの力に影響を及ぼしているのか・・・?

 砂利を踏みにじる音を聞いて、ほむらは前方に跳躍し、転回した。
案の定、ほむらの居た場所には佐倉杏子の刃が下ろされている。
間髪いれずに彼女は突端を向けて跳んできた。
速い――ほむらが刃をキーブレードで弾いたとき、棍が刃の付け根で屈折した。
キーブレードで叩いた感触が消える――
それを実感して、体勢を立てようとしたときには、既に佐倉杏子は次手に移行していた。
彼女の持つ棍の中心よりやや手前が屈折し、その中に仕組まれた鎖が収縮して前方を引き、
ほむらの腕を潜って胸の一直線上に潜ると、再び連結する。
肉薄する刃を、間一髪で体を半回転させ、回避した――
しかし、コートがまたも傷付けられた。制服、そしてブラウスも・・・肌も斬れているかもしれない。
だがそれを憂いている暇はない。
棍は幾つもの節目を浮かべ、精緻に刃をもたげさせ、ほむらに迫る。
キーブレードを仕舞い、側転し、それを避けたが、追跡を逃れられない。
地面に裂傷を与えながら、生きているかのように宙を縦横無尽に爬行する刃。
衝撃を与えれば、それを吸収して更に乱雑な戦法をされかねない・・・
徒手のまま、ステップを踏んで、その鎌首から逃れようとする。
しかし杏子のバトルセンスは秀抜だ。簡単にはいかず、直撃を避けられているというだけで、
コートにはおびただしく裂傷が刻まれていく。
ほむらはしゃがみこんだ。自分の首があった場所を、杏子の足がしなやかに振るわれることを予感していた。
着いて両手に力を込め、逆立ちすると、両足を全力で振るった――見事に杏子直撃した。
杏子は唸り声を漏らし、目を剥くと、首を捻ってほむらを見据えようとした――
が、そこへほむらが放った砂利が飛んでくる。直前で目を瞑ったが、少し入った。
盲目のまま、刃を地面に刺して、エネルギーを多節棍へと移すと、
屈折させることで衝撃を無力化させて着地する。
涙で砂を払いながら、無理に目を使おうとせず、気配を探った。
砂利を踏む音、体温、風・・・ようやく目が開けられ、歪みながらも視界が出来る
・・・杏子の目の前で、黒コートの怪人はただ佇んでいた。
砂利が完全に落ちると、杏子は涙を拭いて舌打ちした。

杏子「あんた、なにもんだ。いきなり人の縄張り荒らして、何がしたい?
あんたくらい実力ある奴なら、それが何を意味するか解かってんだろ?
だってのに、その素っ頓狂な態度はなんだ?」

 ほむらは杏子に先んじて討った魔女のグリーフシードを彼女に放った。
杏子は呆然とそれを受け取ると、憤りを露わにした。

杏子「てめぇ・・・あたしのことなめてんのか・・・?」

 ほむらは彼女に悠然と、杏子に左手の掌を上に差し出すと、
人差し指と中指を二度曲げた。――杏子の顔が怒りに震える。

杏子「こういうのはお遊びはあたしの趣味じゃねーが・・・
良いぜ、お望みどおりてめえの懐にあるグリーフシード全部もらってやるよ・・・!」

 ほむらは彼女に背を向けると、街灯の上に跳び上がった。
着地したときには、杏子はすでに迫ってきていた。
猛然と突撃する彼女の刃を切り崩し、ほむらを襲う。
ほむらは刃を避け、杏子の顔を踏むと飛び上がって、別の街灯に移った。
さて、これで彼女の自尊心を恥辱で汚すことが出来ただろうか?
――窺った彼女の表情は鬼の形相である。
長い鬼ごっこの、始まりだ。

修正しました。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/12(日) 21:25:11.90 ID:6sw36aZ10
 瞼が重い。開けようとすると、裂けるような痛みが迸る。
頭痛もする、体は鉛の外套でも羽織っているみたいに重苦しい・・・気分は最悪だ。
それでも、起きて、学校に行かないと。
自分には皆勤くらいしか取り得がないから。
目覚まし時計をセットするのを忘れたというのに、いつもの時間より早く起きたことに驚いた。
いつもなら、目覚まし時計が鳴るまでずっと寝ているというのに。
ベッドから降りると、目に入った自室の姿見で、自身が惨たらしい格好であることを認めた。
寝癖の付いた髪、赤い瞼をなぞり、皺だらけの制服を脱ぎ捨てると、
洗濯する物と新しい下着、部屋着を持って浴室へと向かった。
階段を降りるとき、廊下を渡るとき、忍び足になっているのは、父に会いたくないからだ。
この時間でも、父は起きて家事をしている。こんな悲惨な自分を見せたくなかった。
 リビングから陽気な音が聞こえる。たつやはもう起きたのだろう。
姉として、彼に情けない姿を見せたくない。まどかは顔に精気を浮かべて、歩き始めた。
そして、そんな些細なことで奮起する自分が可笑しくて、笑みをこぼした。
洗面所の籠に洗濯物と着替えを別々にいれ、浴室に入った。
熱めシャワーが体に染み入り、心地が良い。
全身の洗浄が済むと、しばらくシャワーに打たれながら、漠然と昨日のことを思い返した。
QBから告げられる真実、小さな鹿目まどかから告げられる未来と謝罪、そして、暁美ほむらの本心・・・。
彼女から向けられた笑みを思い浮かべると、目頭が熱くなった。息が込み上げ、呻きとなる。
それはシャワーの音に掻き消されただろうか?
彼女の笑顔を見たかった。孤立する彼女を、見ていられなかった。それは自分の本心だと思っていた。でも、違った。
その意思は、ほむらが世界を渡りながら塗り固めてきた塑像にすぎなかったのだ。だが、やがて彼女の手入れから離れた塑像は
時間による風化によって亀裂を浮かべ、中からは彼女が隠したまどかの彼女に対する本心が剥き出てくる。
QBはそれを、彼女と真に初対面のまどかが抱いたものと同じ、或いはそれ以下だと称した。
・・・なら、今不意に浮かんだ虚無感は、彼女に対する執着の剥離だと解釈して良いのだろうか?
彼女の笑顔を浮かべても、何も感じない。昨日のような、胸を裂くような痛みなどない。
彼女から無感懐と表する言葉、表情を思い浮かべたところで、自分は平気だ。

 浴室から出て、体を拭い、着替えると、リビングのたつやに挨拶をした。
たつやはテレビから目を離し、こっちを振り返って快活に挨拶を返した。台所から芳しい香りがする。
まどかは父にも挨拶をした。彼は苦々しそうに笑みを浮かべて、挨拶をした。
まどかは次いで昨晩のことを謝罪すると、たつやを誘い、踵を返して母の部屋に向かった。
父は終始表情が落ち着かなかった。
 難儀して起こした母は険しくも慈悲深い表情を浮かべ、まどかに昨日のことを打診した。
母の大仰な勘違いと的を射た悲嘆を、苦笑してはぐらかすと、自室に戻って学校の準備をすると伝えた。
母は辛くなったらいつでも自分に言うように言った。胸がざわついた。
 自室に戻ると、小さなまどかが机の上で体育座りをしていた。首を小刻み右往左往させて、まどかを窺っている。

まどか「・・・まだ居たんだね」

 嫌な声だ。

マドカ「・・・ごめんなさい、でも、わたし行くところないから・・・」

まどか「・・・イグニスさんは?どうして自分であなたの面倒を見ないの?」

 悪意を自覚しても、抑えることができない。

マドカ「・・・彼女は、今頑張ってる。この世界のために、何よりあなたたちのために・・・」

まどか「・・・ふーん、全部滅茶苦茶にしておいて、よく言うよ・・・」

マドカ「そんな言い方!!」

 まどかは、憤然と立ち上がった小さなまどかを見下ろした。頭の中が冷涼としている。
彼女のいかなる言動に掻き乱されることがない。対して、そんなまどかに彼女は、怯えているようだが。
 まどかは拳を握った。まるで、自分が悪者みたいじゃないか・・・。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/12(日) 21:38:57.18 ID:6sw36aZ10
まどか「・・・どうしても、ほむらちゃんの傍は駄目なの?」

マドカ「・・・出来るだけ、あなたの傍にいたい」

まどか「・・・どうして?」

マドカ「・・・今更だってこと、解かってる・・・でもそれでも、あなたの力になりたい・・・」

まどか「・・・私の力?もう必要ないよ、そんなの・・・」
 
 小さなまどかはドレスを握り締めて、憐憫を浮かべてまどかを見上げた。

マドカ「・・・まどかは、本当に肉付けされた意思が無くなったら、自分がほむらちゃんに興味なくなると思う?」

 まどかは瞠目した。しかし、すぐに瞼を下ろす。一緒に、顎も落ちた。

まどか「QBがそう言うってことは、そうなんでしょ・・・」

マドカ「でも、苦しんだ記憶はちゃんと残るんだよ・・・?そしたら・・・」

まどか「そんなこと、いつか忘れちゃうよ」

マドカ「でも・・・」

まどか「だってわたし、もうほむらちゃんのことどうでもよくなり始めているんだ」

マドカ「・・・」

 小さなまどかは、ただ悲愴を深く刻んだ。驚愕や諦観以外を浮かべる彼女が、とても不愉快だった。

まどか「こうやって、元々のわたしに戻っていくんだよね。純粋なわたしに。きっとそうなったら、
ほむらちゃんのこと、ただのクラスメイトとしか思わなくなるんだよね。だから、大丈夫。
わたしのことなんて心配しなくていいよ。あ、あと、ほむらちゃんのことをどうにかしたいって言うならさ、
わたしを巻き込むのはやめてくれないかな?わたしはもうどうにも出来ないから、何をやったって無駄なんだよ」

マドカ「・・・」

まどか「それじゃぁ、早く此処から出て行ってね。
わたし、もうあなたたちとは関わり合いたくないの・・・さよなら」
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/12(日) 22:23:05.24 ID:6sw36aZ10
終わります
もしかしたら更新停滞するかもしれません
御承知ください
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/12(日) 22:23:45.43 ID:FYEp90aFo
お疲れ様でした。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/13(月) 14:59:58.12 ID:XIuGiltw0
 鹿目まどかが家を出たのを、彼女の向かう先とは反対の通りの壁に体を忍ばせ見計らい、ほむらは魔法少女に変身する。
そして、彼女の部屋の前に跳び立ち、魔法で窓の鍵を開け、彼女の部屋に侵入した。

ほむら「・・・まどか」

 窓の縁から絨毯へと移り、彼女の名を呼ぶ。
それは本来の部屋の主と同じ名だが、彼女のことではない。
枕元に大小種族様々な人形が煩雑と置かれたベッド、教科書やノートが整然と置かれた机、
衣装棚やクローゼットを見渡し、彼女の姿を探すが、見当たらない。

ほむら「・・・何処へ行ったの・・・?」

 瞳に涙を浮かべ、声を悲しみで濡らし、ほむらは呟いた。
一晩中探しても、彼女が見付からなかった。怪しいのは此処しかないのだ。
昨晩訪れたとき、鹿目父は娘はもう寝てしまったと言ったが、
自分は闇夜に浮かび、自分を見下ろす彼女、
そして、その後ろに何かしらの影を視認したように思った。彼女が
寝静まった頃、確かめに侵入したが、如何せん暗くて様子が判然とせず、引き返して街中を捜索
することになったが、まどかは見付からず、虫の報せで再び此処に行きついたのだが、やはり気の所為だったのか・・・?
 涙を拭い、振り返って、道路に人がいないことを確認し降り立つ。
グリーフシードを盾から取り出すと、変身を解き、自身のソウルジェムに当てた。
もう随分と穢れを溜めていた。
まどかに会う前に、自分が魔女化しては意味がない・・・
それにしても、彼女は何処へ行ったのだろう・・・?
まさか、鹿目まどかが学校に連れていってしまったのか・・・
或いは、ほむらの自宅に戻り、行き違いになってしまっただけなのか・・・?
ほむらは笑みを浮かべ、まずは自宅に帰ることにした。
留守にして寂しい思いをさせてしまったことを彼女に謝罪しなければ。
そして、もう絶対に彼女を独りにしないことを約束しなければ・・・!足取りは自然と捗る。

 走り出したほむらの背を、小さなまどかは窓越しに眺めていた。
その背中に、小さく、ごめんなさい、と謝った。

ほむら「まどか!」

 意気揚々とほむらはワンルームマンションの自室の扉を開き、嬉々として叫んだ。
腰を曲げ、手を伸びた膝に付け、肩を上下させて呼吸を整える。
流汗淋漓する美貌を制服の袖で拭い、忙しく靴を脱いで、つい転んでしまった。
その拍子に靴は脱げる。立ち上がると、焦燥とリビングへと向かった。

ほむら「まどか!」

 また、返事がない。何処かで寝ているのだろうか?しかし、探しても、何処にも見当たらない。

ほむら「・・・まどか?」

 彼女は家に帰っていなかった。
 ほむらは佇み、呆然としながら、息と思考を整えた。・・・だとすれば、考えられるのはやはり鹿目まどかの傍だ。
優しい彼女のことだから、悲嘆する彼女の傍に寄り添って、慰労しているのだろう。
だからといって、ほむらを蔑ろにするのは、少し不愉快だ。
だけど、それがまどからしいから、憎めない。

ほむら「・・・ふふっ♪」

 ――だがそうでなく、あの黒コートの怪人――イグニス――が自分からまどかを取り上げたのだとしたら――

 ・・・そのときは、全身全霊でまどかを取り返す・・・どれだけ非道な手に染まろうとも、必ず彼女との未来を・・・!
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/13(月) 15:42:23.08 ID:XIuGiltw0
まどか「さやかちゃん、おはよう!」

さやか「あ、うん、おっす!」 

 覚悟していたとは言え、まどかを見て、さやかは顔を歪めた。
膨らんだ瞼、赤くなった瞳。
普段の暢気として可愛らしい彼女には似つかわしくないそれに、
同じ様に挨拶をされた仁美もまた、戸惑い、答えを求めるように、
さやかへ視線を走らせた。まどかにはばれないように、さやかは首を横に振った。

まどか「うぇひひ♪待たせてごめんね。それじゃぁ、いこっか!」

 先陣を切ってまどかが進む。彼女に気後れして後続していると、仁美が体を寄せてきた。

仁美「・・・何かございましたの?」

さやか「あ、あたしに聞かれても・・・」

 知らない、と言えば嘘になる。
何かがあった、原因はほむらだろうことは、昨晩のマミとの会話から推し量れるのだが、
彼女はそれの詳細の開示を拒み、さやかも、辛そうな彼女を見ていられず、過度な穿鑿は出来なかった。
 腕の完治した上条恭介の演奏を病院で拝聴したあと、
彼の演奏を聴き続けるため、
魔女の掃討を一層強く決意したさやかはマミを誘って魔女狩りに参じようとした。
しかし、彼女の家を訪れてもどうやら留守のようで、
首を傾げて、もしや自分の居ぬ間に三人で和気藹々としているのではないか、
と思い是が非でも自分も参加しようと思ったのだが、
携帯電話を自宅に忘れたことに気が付き、仕方なくエレベーターで降りると、
帰ってきたマミに出会った。
その幸運を自画自賛したが、どうにも彼女に活気がない。
何かあったことは明白だろうと、彼女に訊ねるが、渋って話してはくれず、
仕方なく諦めて主旨に移し、彼女の是非を問うた。
マミは快諾し、夜の見滝原で、二人は魔法少女同士として初めての連携を駆使して合計三体の魔女を葬り、
一つのグリーフシードは互いのソウルジェムの穢れの除去に、残った二つを温存として分け合った。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/13(月) 23:19:48.23 ID:XIuGiltw0
さやか『マミさん、もうすっかり全快っすね!』

マミ『そんなことないわ・・・今日は美樹さんが一緒だったから、虚勢が張れただけよ。
一人で魔女と戦うのは、考えるだけで怖いわ・・・ごめんなさいね、頼りない先輩で』

さやか『・・・そんなことないっすよ。やっぱりマミさんはマミさんで、あたしの最高の先輩です。
今日だって、助けられてばかりで・・・マジありがたっした!』

マミ『そんな、体育会系の部活じゃないんだから。頭を上げて、美樹さん?』

さやか『へへっ!でもまっ、とにかくこれからはもう自分を卑下しちゃ駄目ですよ、マミさん?』

マミ『え、どうして?』

さやか『あたりまっすよ!だってマミさんはあたしの目標なんだから!あたしが昇り詰める前に降りてくる
なんて、絶対に許さないですからね!』

マミ『・・・そう』

マミ『・・・なら、いつまでもうじうじしてられないわね』

さやか『その意気です!いつかマミさんに背中を任せられるような魔法少女に、あたしはなる!
だからマミさん、これからも御指導御鞭撻のほどよろしくお願いしますね』

 さやかから差し伸ばされた手を、マミは握った。

マミ『ええ。でも、わたしの特訓は厳しいわよ?付いて来られるの?』

さやか『あ、いや、出来れば優しくお願いします・・・あと、あたしって褒められる伸びる子だってこと、忘れないでください♪』

マミ『もう、美樹さんったら』

さやか『・・・あ、ところで、一つ良いっすか?』

マミ『何?』

さやか『・・・あの、あたしらが帰ってから、何かあったんですかね?』

マミ『・・・』

さやか『・・・原因は、まぁなんとなく察しは付いているんですが・・・ほむらでしょう?』

マミ『・・・』

さやか『あ、いや、その、どうしても話したくないっていうならあれなんですが、それでも、やっぱりあたしも友達なんで、
このまま明日まで知らないままで居るのは気になるなー、このまま帰っても眠れないなーって、思うわけでして・・・』

マミ『・・・美樹さんは、鹿目さんと暁美さん、どちらか一方しか救えない場合、どちらを救う?』

さやか『・・・はい?え、なんすかその心理テスト・・・それ選んだ方のこと好きなんだろーとかそういうのっすか?』

マミ『真面目に答えて』

さやか『・・・二人とも』

マミ『・・・感情論は良いわ』

さやか『・・・二人とも。だってあたし魔法少女ですから』

マミ『・・・』

さやか『・・・へへっ』

マミ『・・・もう、今はそんな笑うところじゃないのよ?』

さやか『へへっ♪まぁ、よく空気読めって言われますけどね。でも、それは質問が悪すぎっすよマミさん。
だってあたし、魔法少女なんですから』

マミ『・・・魔法少女は、そんなファンシーな存在じゃないって、解かったでしょう?』

さやか『まぁ、いつだってファンタジスタでありたい、みたいな?』

マミ『もう。それ意味解かっているの?』

さやか『とりあえずすげぇってことですよね!』
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/13(月) 23:42:04.24 ID:XIuGiltw0
マミ『貴方と真面目にお話しようとしたわたしが馬鹿だったのかしら?』

さやか『うわっ、マミさんそれすげー傷付く。
でも、マミさんみたいな人に毒吐かれるのってちょっと快感かも・・・』

マミ『馬鹿なこと言ってないで・・・まったく』

さやか『へへっ。あたしって、こういう奴っすから!』

マミ『得意げに言うことじゃないでしょう・・・』

さやか『あはは。だから、あんまり難しいこと言わないで下さいね?
すぐ頭痛くなるんですよ・・・』

マミ『赤ちゃんじゃないのよ・・・もう』

さやか『マミさーんおっぱーい!』

マミ『いい加減にしなさい』

 マミは両手を広げて近付くさやかの額に手刀を下ろした。

さやか『いたた・・・マミさんチョップ地味に痛い・・・』

マミ『良い刺激になったかしら?それで、答えは?』

さやか『両方』

マミ『・・・はぁ』

マミ『何があったのかは・・・言えない。ただ・・・暁美さんは少し難しい時期なの・・・。
だから、貴方はいつもどおりに、そうして場を掻き乱して、鹿目さんの憂鬱を払ってあげて・・・
わたしも、出来る限りのことはしてみるから・・・』

さやか『とりあえずほむらを抱き締めれば良いんですね?』

マミ『そろそろ怒るわよ?』

さやか『いやもう既に怒って解かりました銃を下ろして!額にキスは友愛のキスじゃないのかよー!』

マミ『少し、待ってあげて。きっと、彼女にも何かしらの葛藤があるのでしょう・・・それが止むまで
彼女にはあまり立ち入らないほうが良いわ』

さやか『・・・そういうのは、あたしの性分じゃないって言いますか・・・』

マミ『お願い。とにかく貴方は、鹿目さんのことを癒してあげて』

さやか『・・・解かりましたよ。あたしはいつもどおりまどかとイチャラブすれば良いんですね、はいはい』

さやか『・・・でも、酷いと思うな。せめて、何があったかくらい教えてくれたって・・・』

マミ『・・・ごめんなさい。今日は此処でお別れ。また明日』

さやか『・・・』

さやか『・・・ちぇっ』
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/13(月) 23:53:43.65 ID:XIuGiltw0
〜昼休みの屋上〜

さやか「まどか、仁美。今日は久しぶりにどっか遊びに行こっか」

仁美「良いですね」

まどか「え、さやかちゃん今日は上条君のところ、良いの?」

さやか「別に一日行かないくらいでどうにもならんて!」

まどか「仁美ちゃんは?今日は習い事とか、ないの?」

仁美「ええ。今日は存分に遊びましょう、二人とも」

まどか「・・・うぇへへ」

さやか「うっしゃーっ!今日は朝帰りコースだ!今夜は寝かさないぜー!」

仁美「や、やっぱりお二方そのような関係で・・・!」

さやか「おめえもだこのやろうー!」

仁美「わ、わたしくしまで禁断の果樹園に・・・そ、そんな、じ、時期尚早ですわ!」

まどか「うぇひひ、二人とも息ぴったりだね」

仁美「・・・なんでしょう、この胸を制する不愉快は・・・まどかさん。前言の撤回を要求致します」

さやか「どういう意味だこらー!」

ほむら「ちょっと良いかしら、鹿目さん」


今日の分は終わりです
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/13(月) 23:55:10.35 ID:l7itUQKao
お疲れ様でした。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/14(火) 10:24:49.70 ID:dvVNYuux0
さやか「――よお、ほむら!重役出勤とは良いご身分じゃないのさ」

ほむら「・・・」

ほむら「鹿目さん。まどかは何処?」

まどか「・・・!」

さやか「おいおい、あんたの目は節穴かよって!まどかならここにいんでしょ?でもあんたにはあげなーい!
だってこの子はあたしの嫁だもーん!ね、まどか」

まどか「さ、さやかちゃん重い・・・」

さやか「あ、なんだとこのやろー!」

ほむら「美樹さん。邪魔をしないで」

まどか「・・・ごめんね、さやかちゃん。離してくれるかな?」

さやか「・・・あ、うん」

ほむら「――まどかは?」

まどか「・・・わたしの家だよ。早く迎えに行ってあげて」

ほむら「あなたの家・・・?」

まどか「う、うん・・・?」

ほむら「それは本当?」

まどか「どうして、嘘を吐かなきゃいけないのかな?」

ほむら「・・・」

 ほむらは魔法少女に変身すると、盾から拳銃を取り出し、鹿目まどかの額に付けた。

ほむら「――まどか、出て来なければ鹿目まどかを射[ピーーー]るわ」

さやか「――おいっ!!」

まどか「――」ガタガタ

ほむら「・・・居ないのね」

 銃口が額から離れると、まどかはその場に座りこんだ。

ほむら「失礼したわ――」

 さやかは魔法少女に変身し、剣を握るとほむらに跳びかかる。――だが、剣を振り下ろしたそこに、ほむらの姿はなかった。
――背中に激痛が走る。それと同時か、耳を劈く銃声が三発後ろから響いた。さやかは首を捻り、体を回し、銃を構えるほむらを
睨んだ。気息奄々としている間に、傷が回復する。さやかは歯を食いしばり、眼球を剥き出して、剣を両手で握り、腰を据えた――

まどか「やめて!!」

 頭が急に冷えた。

まどか「・・・やだよ、こんなの・・・もう・・・やだぁ・・・」

 まどかは仁美に抱かれながら、咽び泣き始めた。場違いな感想だが、その様相は今日一日痛ましく振舞った彼女には相応しく思えた。

さやか「あ、おい!」

 制止の間もなく、ほむらは跳び上がり、屋上から離脱した。

さやか「・・・なんなんだよあいつ・・・急に・・・友達じゃ、なかったのかよ・・・」

 さやかの脳裏に、ほむらの姿が浮かぶ。まどかに銃を当てた時の、冷血な姿が。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/14(火) 10:32:59.47 ID:dvVNYuux0
射殺
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/14(火) 10:33:29.02 ID:dvVNYuux0
射[ピーーー]る
88 :すいません、修正させてもらいます [sage]:2011/06/14(火) 10:35:51.56 ID:dvVNYuux0
さやか「――よお、ほむら!重役出勤とは良いご身分じゃないのさ」

ほむら「・・・」

ほむら「鹿目さん。まどかは何処?」

まどか「・・・!」

さやか「おいおい、あんたの目は節穴かよって!まどかならここにいんでしょ?でもあんたにはあげなーい!
だってこの子はあたしの嫁だもーん!ね、まどか」

まどか「さ、さやかちゃん重い・・・」

さやか「あ、なんだとこのやろー!」

ほむら「美樹さん。邪魔をしないで」

まどか「・・・ごめんね、さやかちゃん。離してくれるかな?」

さやか「・・・あ、うん」

ほむら「――まどかは?」

まどか「・・・わたしの家だよ。早く迎えに行ってあげて」

ほむら「あなたの家・・・?」

まどか「う、うん・・・?」

ほむら「それは本当?」

まどか「どうして、嘘を吐かなきゃいけないのかな?」

ほむら「・・・」

 ほむらは魔法少女に変身すると、盾から拳銃を取り出し、鹿目まどかの額に付けた。

ほむら「――まどか、出て来なければ鹿目まどかを射[ピーーー]るわ」

さやか「――おいっ!!」

まどか「――」ガタガタ

ほむら「・・・居ないのね」

 銃口が額から離れると、まどかはその場に座りこんだ。

ほむら「失礼したわ――」

 さやかは魔法少女に変身し、剣を握るとほむらに跳びかかる。
――だが、剣を振り下ろしたそこに、ほむらの姿はなかった。
――背中に激痛が走る。それと同時か、耳を劈く銃声が三発後ろから響いた。
さやかは首を捻り、体を回し、いつの間にか転移し、屋上の縁で銃を構えるほむらを 睨んだ。
気息奄々としている間に、傷が回復する。
さやかは歯を食いしばり、眼球を剥き出して、剣を両手で握り、腰を据えた――

まどか「やめて!!」

 頭が急に冷えた。

まどか「・・・やだよ、こんなの・・・もう・・・やだぁ・・・」

 まどかは仁美に抱かれながら、咽び泣き始めた。
場違いな感想だが、その様相は今日一日痛ましく振舞った彼女には相応しく思えた。

さやか「あ、おい!」

 制止の間もなく、ほむらは跳び上がり、屋上から離脱した。

さやか「・・・なんなんだよあいつ・・・急に・・・友達じゃ、なかったのかよ・・・」

 さやかの脳裏に、ほむらの姿が浮かぶ。まどかに銃を当てた時の、冷血な姿が。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/14(火) 14:29:47.69 ID:dvVNYuux0
ほむら「・・・まどか」

 どうしてあのとき、出て来てくれなかったのだろう。


杏子「待ちやがれこらぁ!」

 荒々しい雄叫びを聞いて、ほむらは空を仰いだ。
翔けるのは、見覚えのある赤髪の少女と、陽光に煌く槍。佐倉杏子。
彼女は何かを追っているようだが、なんだろう、魔女か?いや、魔翌力が感じられない。ということは、
猫にでも餌を取られたのか?或いは、魔法少女か?
――いや、違う――彼女の前方を疾駆する影――あれは――イグニス――!!

 胸がざわついた。怪人イグニス。ほむらでは歯が立たぬ武力を持ち、
自分の最大の武器である時間停止の通じない唯一の相手。
その最強のイレギュラーが佐倉杏子に追われている。
彼女に苦戦し、追撃を受けているのだろうか?・・・二人にどのような因縁があるにせよ、
今此処で佐倉杏子と共闘し、怪人を討つのは、ほむらにとって都合が良い。


杏子「畜生!逃げてばっかいねーで少しは戦えよ!」

 建造物を無軌道に跳び移りながら、杏子の攻撃を避ける。
縦横無尽に宙を駆けめぐる彼女の刃。
今の彼女には、良心などというものはないから、なんとか現存するものを破壊させぬよう注意して逃避する。
さて、昨晩は結局さやかを彼女に出会わすことが出来なかった。
魔女の気配の明滅を辿りはしたが・・・こういった不規則は、やはりさやかと思わざるをえない。
まったく、扱いに困る。
このまま夜まで杏子に追われながら、また会わず仕舞いならば、もうさやかの家に直接杏子をぶち込んでしまおうか?

 ――無遠慮に風を切る音。それが、耳元で鳴った。
自身の頭が数秒前にあった場所に、何か高速のものが通過した。
方向は?疑問に答える前に、第二射が来る
――魔翌力の流動により大蛇の如く長大でしなやかとなった杏子の棍を掴み、杏子の攻撃を制し、
宙を疾走する物体を避けながら、発射地点を観測した。
六百メートルほど先からの狙撃。
漠然とした視界が、明瞭となる。
見滝原中学校付近の、道路を沿って連なる白樺の上、そこには、ドラグノフ狙撃銃を構えた暁美ほむらがいた。

 何故、彼女が?あの狙撃は確かに自分を狙ったものだった。だがしかし、どうして・・・。

杏子「・・・なんだありゃ?」

 杏子もまた、攻撃を止め、同じ方向を睨んだ。

杏子「あんた、あたし以外の魔法少女からも恨み買ってんのかい?」

 相変わらず、短絡的な態度の切り返しだ。もっとも、それは彼女の美点だが。

杏子「しらけた。丁度良いし、あたしはゲーセンでも行くわ。あとは勝手に仲良くやりな」

 彼女は路地裏に跳び下りてしまった。


 何故だ?佐倉杏子は怪人を討とうとしていたわけではないのか?
自分が加勢し、勝利で終局間近だったというのに、どうして真下のゲームセンターに足を運ぶ?
ほむらはこちらを見て立ちすくむ怪人を睨み、狙撃する。
弾丸はどれも、怪人の出した、その姿をすっぽりと隠すほどの大きさの黒い楕円の靄に呑み込まれてしまった。
その靄が消えたときには、既に怪人はいなかった。慌てて木から跳び下り、周辺を確認する。
あれは空間転移と考えて間違いない。
もしかしたら、自分に害意を放ったほむらを、葬りにくるかもしれない
・・・しかし、それは杞憂だった。いつまでも、その姿は現れなかった。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/14(火) 16:21:59.11 ID:4sSW1Hcx0
〜鹿目邸〜

ほむら「まどか」

マドカ「!!」

マドカ「・・・」ソウ

マドカ「ほむらちゃん!」

 ほむらはゆっくりとフードを脱いだ。そして、ベッドと壁の隙間から現れた小さなまどかに微笑みかける。小さなまどかは飛翔して、彼女の顔に抱き付いた。

マドカ「ほむらちゃん!ほむらちゃん!」

ほむら「そんなに喜んでもらえるなんて、光栄ね」

マドカ「ほむらちゃん・・・!」グス

ほむら「・・・どうかしたの?貴方に会おうと思って私の家行ってみたけれど見当たらないし・・・どうして鹿目家に?」

マドカ「――ッ」ビク

マドカ「・・・あのね、ほむらちゃん」

ほむら「?」

マドカ「わたし、どうしたら良いのかな?」

ほむら「・・・何があったの?」

 まどかは視線を右往左往させたあと、涙を浮かべて俯き、スカートを握った。ほむらは彼女の言葉を待った。

マドカ「・・・わたしたち、此処に来なかった方が、きっと良かったんだよね・・・」

ほむら「そんな――!?」

 どうしてもやり直したい過去。救いたい彼女達が居るから、ほむらは再びこの世界に来た。
だというのに、その言葉は、いくらなんでも・・・ほむらは言葉を呑み込んだ。
まどかだって、きっと、そんなこと言いたくはなかったのだろう。解かる。
震える小さな肩、時折漏れるひきっつた呼吸音を聞けば、彼女自身もまた、自分の言葉に責められているのだと解かる。

ほむら「――そんなこと、ないわ」

 だから、自分まで一緒に、平伏しているわけにはいかない。

ほむら「私はこの世界で、全てを救ってみせる。鹿目まどかも、美樹さやかも、巴マミも、佐倉杏子も、そして、暁美ほむらも」

ほむら「誰一人、失わせたりしない・・・絶対に。そして、あんな最低のハッピーエンドじゃなくて、
今度こそ最高のハッピーエンドを実現させてみせるから」

マドカ「・・・うん」

マドカ「・・・わたしも、わたしに出来ることを、するよ」

マドカ「・・・ほむらちゃん――この世界のほむらちゃんとわたしのこと、絶対に諦めない。ウェヒヒ♪
ありがとう、ほむらちゃん。今日は会えて嬉しかった。ちょっと色々あって落ち込んでたんだ。
でも、もう大丈夫。ありがとう、ほむらちゃん!」

ほむら「この世界のまどかと私のこと・・・?」

マドカ「ウェヒヒ♪ほむらちゃんは気にしなくて大丈夫だよ!さぁ、早く行って!しなきゃいけないことがあるんでしょ?」
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/14(火) 23:44:30.80 ID:4sSW1Hcx0
ほむら「・・・そうね」

 ほむらはフードを被り、考える。事態は既にほむらの掌中を離れた。
記憶の予定調和はワルプルギスの他、排斥して考えるべきだ。
さて、どうしたものか。この世界のまどかを追跡し、彼女の露払い、次いでにさやかと杏子の斡旋をしようか。
軋轢は起こってしまうけれど、二人の相性が良いのは、改変された世界が立証した。
無粋な遠慮はいらない。万が一のもしもの事態には、自分が介入する。
――可能であれば、それはこの世界の暁美ほむらにしてもらいたかったが・・・。
今のほむらには、彼女が最大のイレギュラーになっている。
 彼女の敵意の理由は既に氷解した。惨憺な少女の背中を、ほむらは思い出す。
小さなまどかに依りかかる彼女は、悲惨としか思えなかった。しかし、あれは自分だ。
過去の自分なのだ・・・今の自分では思い出せなず、共感することも叶わない孤独の鬱積した少女。
同じ暁美ほむらでさえ、彼女に憐憫の情を抱いた。だから、自身に敵意を向けた彼女を許してしまう。
この世界の暁美ほむらにとっての自分は、ワルプルギスの夜やインキュベータと同じカテゴリに分類されているのだろう。
蛇蝎の類だ。甚だ心外だが、しかし幾つもの時空の中で鹿目まどかを上記二者に奪われてきたほむらにとっては理解するな
というほうが無理な相談だ。・・・ほむらは、事態が惨たらしい様相を呈しているにも関わらず、笑った。

マドカ「どうしたの?」

ほむら「いえ、なんでもないわ」

 ほむらは闇の回廊を開いた。

ほむら「それじゃぁまどか。暁美ほむらと鹿目まどかをよろしくね。他人の関係を修復するのは、
友達慣れしていない私には難しそうだから」

マドカ「ウェヒヒ♪うん、任せて!」

ほむら「期待しているわ」

マドカ「あ、ちょっと待ってほむらちゃん!」

ほむら「?」

 ほむらが首を傾げると、まどかは指を鳴らした。すると、コートの随所から光が膨らみ、弾けた。

ほむら「・・・何をしたの?」

マドカ「ウェヒヒ♪コート、傷だらけだったから治したの。
あのときの頭痛のあとから、少しだけなら魔法が使えるようになったんだ。すごいでしょ?」

ほむら「さすが神様、といったところかしら?」

マドカ「ウェヒヒ♪でも、神様でも端くれだったけどね。わたし・・・またほむらちゃんを傷付けちゃった・・・ごめんね」

ほむら「・・・いいえ。貴方は私の為に必死で戦ってくれていた。
私はまた、貴方に助けられてばかりいた・・・ごめんなさい、まどか」

マドカ「ウェヒヒ♪お互い様だね」

ほむら「そうね。でも、許しあうことで、私達は支え合っているのだと実感できる
・・・だから私は、これで満足よ」

マドカ「うん・・・わたしもだよ、ほむらちゃん。
ウェヒヒ。謝ってばっかりだね、わたしたち」
92 :今日は終わります [sage]:2011/06/14(火) 23:53:30.37 ID:4sSW1Hcx0
ほむら「ありがとうは、彼にとっておきましょうね」

マドカ「ウェヒヒ♪王様にも、早く会いたいね。わたし、ちゃんとした挨拶って出来なかったんだよなぁ」

ほむら「そうね。・・・彼は今頃どうしているのかしら?・・・正直、不安でならないわ。
一人であれと戦って・・・彼が強いのは解かっているけど・・・もしかするとって、考えると・・・」

マドカ「大丈夫だよ。だって、王様は夢の国の人なんだから。
魔法少女、もしかしたらそれ以上ににみんなの希望を叶えてくれるよ!」

ほむら「ふふっ。妙に説得力がある言葉ね」

マドカ「ウェヒヒ♪もしかしたら、今頃何処かでほむらちゃんのことを見ているのかも。
それで、ほむらちゃんがピンチになったら颯爽と現れて、とかさ!」

ほむら「だと良いけど・・・キーブレードの力で、ワルプルギスの夜はどうにか出来ても、
あれは私一人では、まだ太刀打ちできないと思う・・・」

マドカ「ウェヒヒ♪王様、ほむらちゃんが出番取ったら、怒っちゃうかな?目立ちたがり屋だから」

ほむら「彼の助け無しに挑むのは無謀だわ・・・でも、いつか踏ん切りを付けないといけない。
みんなが幸福な未来の旅路に着いたとき・・・そうなれば、いつまでもあれを野放しには出来ないから。
だから、私が独りで、この世界を救うことを覚悟しなければいけない時が、きっと来る」

マドカ「・・・そのときは、私も一緒に戦うよ。何が出来るか解からない、でも、絶対に、何かやってみせる」

ほむら「まどか・・・」

マドカ「・・・ウェヒヒ♪」

ほむら「・・・もう神様になってお別れは、勘弁してほしいけれどね」

マドカ「ウェヒヒ♪善処します!」

ほむら「・・・笑顔が怖いわ」

マドカ「ウェヒヒ♪」

ほむら「前科があること、忘れないでね?」

マドカ「大丈夫だよ、ほむらちゃん。もうわたし神様になっちゃったんだから、これ以上どうやってなるの?」

ほむら「貴方のことだからもっととんでもないことをしそうで怖いのよ・・・」

マドカ「なんだかわたしが野放図な人みたいだよほむらちゃん!」

ほむら「大差ないわ」

マドカ「ひどーい!」

ほむら「ふふっ。それじゃぁ今度こそ、行くわね。また会いに来るわ」

マドカ「うん、いつでも来てね。わたしはほむらちゃんのこと、ずっと待ってるから」
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/15(水) 16:32:46.16 ID:cSytgcG40
マドカ「ごめんね」

ほむら「・・・え?」

マドカ「今は、ほむらちゃんだけと一緒になんていれないよ、わたし」

ほむら「そんな――どうして・・・?」

マドカ「それは、ほむらちゃんが一番よく解かっているでしょ?」

ほむら「・・・解からないわ。私は、まどかと居られればそれで幸せなの・・・!まどかさえいればそれで良いの!」

マドカ「・・・だからだよ。わたしは、ほむらちゃんとは一緒にいれない」

ほむら「だからどうして!?」

マドカ「・・・わたしは、いつかあなたから離れるの。・・・あなたよりずっと大切に思っている人がいるの。
わたしは彼女と一緒にいるために、ほむらちゃんとは、一緒にはいられない」

ほむら「・・・イグニス?」

マドカ「うん」

マドカ「わたしはあなたじゃなくて、彼女と一緒にいたい・・・ごめんね」

ほむら「――」

マドカ「・・・本当に、ごめんなさい」

ほむら「・・・――そう、解かったわ」

 ほむらは髪を掻き揚げた。

マドカ「ほむらちゃん・・・!」

マドカ「ほむらちゃんには、この世界のわたしがいる!必ず、彼女があなたの寂しさを癒してくれるから!
わたしも、それを手伝うから!」

ほむら「大丈夫、解かっているから」

マドカ「ほむらちゃん・・・!」

マドカ「・・・ごめんなさい・・・わたし、何の考えもなしに動いて、あなたを、壊そうとしていて・・・
ごめんなさい・・・」

ほむら「まどか、泣かないで。まどかが悲しいと、わたしも悲しいわ」

マドカ「うん・・・あの、わたしはこれから、なるべく鹿目まどかの傍にいるから。
だから、もしもわたしに会いたいときは鹿目まどかと仲良くしないと駄目だよ?
なんちゃって、ウェヒヒ♪」

ほむら「ええ・・・解かったわ」

マドカ「・・・ウェヒヒ♪」

ほむら「それじゃぁごめんなさい。私はそろそろ行くわ。鹿目まどかも帰ってくるかもしれないし」

マドカ「ウェヒヒ♪不法侵入を何度もしたのに、謝らなくて良いの?」

ほむら「そのうちね」

マドカ「ウェヒヒ♪」

ほむら「ところでまどか」

マドカ「ん?なぁに?」

ほむら「イグニスが何処にいるか、解からない?・・・彼女にまだ、ちゃんとお礼が出来ていないの」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/15(水) 16:35:20.52 ID:cSytgcG40
さやか「まどかは何処行きたい?」

まどか「・・・え?」

さやか「今日は放課後どっか行こうって言ったじゃん?あんた、まさか考えてなかったの!?
信じられない・・・!あたしなんて昼の授業時間そればっかりでろくすっぽ聞いてなかったよ!」

仁美「そのわりには六時間目、ぐっすりでしたようですけど・・・」

さやか「うん、あぁいやぁ・・・五時間目の終わりにさ、全部まどかに任せようって
さやかちゃん議会が閉会したもんだから、眠気が一気にきてねぇ・・・あはは」

仁美「まったく・・・そのような堕落した態度を衒われては、
後でノートを見せてくれと言われても快諾出来ませんわ」

さやか「えぇそんなぁ!仁美のノートだけが頼りなんだよ!
そう言わず、今後ともよろしくお付き合いくださいよぉ仁美すわぁん・・・!」

仁美「行きましょうか、まどかさん。
まずはファストフード店で如何でしょう?」

まどか「え、あ、うん・・・」

さやか「ちぇっ!じゃぁ良いよ。まどか、後でノート貸して。
まどかはノート作りだけは上手いからねぇ。さすがあたしの嫁。あたしら相性ばっちりっすね!」

まどか「仁美ちゃん、先週ぐらいからシャイクが半額なんだよ。ロッテリアいこっか」

仁美「良いですね。
わたくし、ソフトクリームよりもシェイクの方が好きですわ」

まどか「うぇひひ♪楽しみだね」

仁美「はい」

さやか「っておい!さやかちゃんを無視しして話をすすめるなー!
だが許す!あたしだってシャイク大好きだぞまどかー!」

まどか「いこっか」

仁美「えぇ」

さやか「ちょっと二人とも手なんか繋いじゃって何舞い上がってんのさ!
くそっ、間にあたしを入れろ!つうか歩くのはええよ!
何で微笑み崩さないでそんなハイスピードだせんだよお前ら!」
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/15(水) 17:36:54.18 ID:cSytgcG40
〜カラオケ〜

さやか「好きだから〜♪」

仁美「好きなのに〜♪」

まどか「わかんない〜♪」

さ・仁・ま「測定不能なキモーチ♪」

さやか「届けるよ〜♪」

仁美「届いたら〜♪」

まどか「どうなるの〜♪」

さ・仁・ま「アプローチは」

仁美「ちょっきゅ」
さ・ま「超QB!!」

仁美「え?」

仁美「あ、あの、超QBって、なんですの?」

まどか「さやかちゃんもあれくらい踏み切れば良いのに。そしたらきっと今頃・・・」

さやか「な、なんのことだよ!あたしは音が似てるからただなんとなく言っただけだ!」

まどか「うぇひひ♪今日は本当に上条君のところ行かなくていいの〜?
歌ってすっきりした今ならいけるんじゃない?」

さやか「なっ!い、いくって何処にだよ!」

まどか「うぇひひ〜♪」

さやか「まどか、あんたなんて悪い顔してるんだ!お父さんはそんな子に育てた覚えはないぞぉ!」

まどか「やだぁ〜仁美ちゃん助けてぇ〜」

仁美「わ、私の戸惑いなど度外視しして、あまつさえ、う、歌の途中にも関わらず乳繰り合う・・・
――私の入り込む余地なんて、ないんですのねーっ!!」

さやか「あっ、ちょっと仁美!とりあえずといった感覚で一万円札を置いて帰ろうとするな!
これだからお嬢様は!」

まどか「さやかちゃん!庶民の嫉妬は良いから仁美ちゃん!」

さやか「たくっ、まだ時間あるってのに!くそっ、まどか行くよ!」

まどか「待ってよ仁美ちゃ〜ん!」
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/15(水) 18:11:01.16 ID:cSytgcG40
〜アミューズメントパーク(廊下)〜

仁美「私のことなど気にしないで頂いて構いませんのに・・・」

さやか「いやいや!あんたの誤解解かずに眠れるかっての!
まったく、あんたの思考回路はどうなってんだ、この淫乱お嬢様が!」

仁美「なっ、それは聞き捨てなりませんわ!わ、私はそのようなふしだらな女ではありません!
前言の撤回と謝罪を要求しますわ!」

さやか「はぁん?淫乱お嬢様、どうしてそんな御立腹なのかしら淫乱お嬢様?顔が赤いざますよ淫乱お嬢様?
何をお考えでございますざます?淫乱お嬢様?」

仁美「さ、さやかさん・・・!いつもなら私も淑女の嗜みとしてあなたの稚気を寛恕致しますが・・・
今日ばかりはあなたが人々の踏み荒らした床に平伏するまで許しません!」

さやか「上等・・・!じゃぁ、あれで決着を付けようじゃないの・・・!」

まどか「ボーリング・・・わたし苦手だなぁ・・・」

仁美「良いでしょう・・・志筑家百年の名誉にかけて、勝利してみせます。
その暁には、あなたの恥辱に歪んだ御尊顔を拓し我が家の家宝にさせて頂きますわ・・・!」

まどか「ひ、仁美ちゃん容赦ないよぉ・・・落ち着いて、ね?」

さやか「良いじゃない・・・じゃぁあたしが勝ったときは・・・・・・なんか奢れ・・・!」

まどか「い、良い子すぎるよさやかちゃん・・・!」

仁美「良いでしょう・・・なんなりとお好きな物をお申し付けくださいまし・・・」

さやか「よし・・・じゃぁ満漢全席だ・・・!」

まどか「後付け!?最低だよさやかちゃん!」

仁美「・・・構いませんわ。なんなら、鹿目さんの分も私が負担致しましょう・・・!」

まどか「え、本当!?――あ、でもなぁ、ママにそういうのはいけないって言われてるし・・・でも、満漢全席
なんてそう食べられないよね・・・それに、仁美ちゃんが御馳走してくれるっていうんだから凄い美味しいところ
のっぽいよ・・・あぁでもママがなぁ・・・」

さやか「それじゃぁ行くわよ・・・」

仁美「えぇ・・・泣いて許しを乞えるのは、今のうちですわよ・・・?」

さやか「どっちが・・・!」

まどか「・・・きっと家じゃ一生縁が無い高価なところだ・・・でもママがなぁ・・・行きたいなぁ・・・
でもママがなぁ・・・うぅ・・・――そうだ、私も出せるだけ出すよ!うん、これで仁美ちゃんのおごりじゃ
ないよね!完璧だ!あぁ勘違いしないでね!まぁわたしはそんなどっちかの味方とかないからね?あ、あの、
ただもしもの時にわたしが逡巡して時間を取らせるのもどうかなーって思ってあぁしそうだ二人とも!お互い
お守り持つのどうかな?あ、仁美ちゃんは交通安全ね。えと、さやかちゃんは、あの・・・恋愛成就・・・なんて
――ってあれいない!?二人とも!?もう、置いてくなんて酷いよー!」
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/15(水) 18:39:54.16 ID:cSytgcG40
さやか「・・・やるじゃない」

仁美「さやかさんも・・・流石と、言うべきなのでしょうね」

まどか「三ゲームして一勝一敗一引き分け・・・それに総合得点まで一緒って
こんなの絶対おかしいよ・・・」

さやか「で、どうすんの、罰ゲーム」

まどか「!?・・・」ソワソワ

仁美「そうですね・・・いかがなさいますか?」

さやか「別にあたしはどうでも良いよ。ボーリングしたかっただけだし」

まどか「え?」

さやか「それに、まぁ、吹っかけたのはあたしだから。ごめん」

仁美「いいえ・・・私の方こそ、元は私が無粋な妄想に浸ったばっかりに・・・
さやかさんの言うとおり、私は淫乱ですわ・・・」

さやか「あははっ!否定はしないよ?」

仁美「もう、酷い人ですわね」

まどか「・・・」シュン

さやか「でも、何かなしってのもあれだなぁ・・・」

まどか「!?」

仁美『そうですわね。では、今から愛顧している中華料理店に連絡いたしましょう。
運動したらお腹が空きましたわ。頑張ったお二方にも、満漢全席を御馳走いたします』

まどか『え、そんな悪いよぉ!』

さやか『何遠慮してんのさ!御馳走してくれるっていってるんだから素直に頂きなって!』

まどか『う、うぅん・・・――あ、そうだ!わたしも少ないけど出すよ、千円くらい!』

仁美『まぁ!ありがとうございます鹿目さん!相も変わらずお優しい方ですわね・・・!』

さやか『さっすがあたしの嫁!』

まどか『うぇひひ・・・♪』

さやか「まどかビリケツだし、ジュースでも奢ってよ」

まどか「うぇへへ・・・――って、え?」

さやか「しかしひっどいなぁこれ・・・二ゲーム参加で百点越えないって・・・逆に凄いよあんた」

仁美「さやかさん!・・・そんな、死人に鞭を打つような行為はお止めなさい・・・」

さやか「あ、ごめん・・・しかし――ぷふっ!まどかがストライク出すときさ、全部こけたときだよね!
どてーんって!で、戻ってくるときも滑って転んでさ!まどかのパンツ隠すの大変だったよね!?
つうか絶対誰か見ちゃったよね!あの縞パン!」

仁美「・・・くぷっ」

まどか「・・・」

仁美「あ、その、ええと、これはその先生の奇行を思い出したもので・・・」

さやか「いやいや笑ってごめんごめん!・・・ははっ!あ、なんか飲みたいものある?
あたしが奢るよ、努力賞とあたしの嫁は可愛かったで賞で二つ!あぁそうだ、ロッテリアいこっか
シェイク今安いし」

仁美「では、私は努力賞の方を出しますわ」

さやか「あ、あんがと!うっしじゃぁ行こう!」

まどか「・・・」
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/15(水) 22:38:58.89 ID:PxZqNlgc0
〜商店街〜

まどか「・・・」ズズ

さやか「笑いすぎた、反省している、このとーり!」

まどか「・・・」ズズ

仁美「私も、淑女としてあるまじき行為を致しました・・・誠に申し訳ございません」

まどか「・・・」

まどか「・・・」ズズ

さやか「あー・・・あ、そうだ!あそこのゲーセン行こうよ!ゲームならさ、運動神経とか関係なしにストレス解消できるし!」

仁美「さやかさん、一言余計ですわ・・・ですが、そうですわね。良い気晴らしになるのではないでしょうか?」

まどか「・・・行く」

さ・仁(やっとストローから口を離した・・・)

まどか「ゴミ箱あるかな?」

さやか「あぁ、あたしが捨てといてやるよ。代わりにさ、ちょっと二人でぶらぶらしててくんない?」

仁美「いかがなさいました?」

さやか「いやぁ大した用じゃないんだけど。最近格ゲーにはまっててね。
あれって時間食うから、待たせちゃ悪いと思って」

まどか「友達と来ていてそういうことするほうが悪いと思うけど」

さやか「いやははっ、ごめんごめん!でも頼むよ、来るとどうしてもやりたくてうずうずするんだよねー」

まどか「・・・もしかして、だから寄ろうって言ったの?」

さやか「あは♪」

まどか「・・・」ジト

仁美「良いではありませんか。私達も、自由にさせてもらいましょう。
私、磨いた腕でまどかさんに人形をプレゼントしてあげますわ」

まどか「本当!?仁美ちゃんやっさしー!・・・それに比べて・・・」

まどか「――って、もう居ないし・・・」

仁美「ふふっ。それでは私達も、中に入りましょう」
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/15(水) 22:55:50.72 ID:PxZqNlgc0
〜ゲームセンター〜

さやか「おっし空いてる!」

さやか「って、誰かやってんのか・・・」

さやか「おっ、使ってんのラグナじゃん!なら楽勝かな。
えへへ、人との対戦も乱入も初めてだけど、いきなり勝っちゃったりして〜」

さやか「きゃーさやかちゃん天才ー」

さやか「っととと、ふざけてないでキャラ選ばないと」

さやか「やっぱジンだよねー・・・剣使いってのがあたしらしいし・・・何処と無く恭介に似ているんだよね、ジンって」

さやか「この細身で美形で、クールなところとか・・・まぁ、ラグナ相手になると変態だけど」

さやか「えへへ・・・――よし、勝とうね、恭介!」


さやか「・・・そんな・・・負け、た・・・」

さやか「いやいや、まだ最初最初、ウォーミングアップウォーミングアップ・・・」

さやか「こっからが本番だっつーの!」


さやか「なっ・・・全然攻撃できなかった・・・半分も削れてないよ・・・」

さやか「落ち着けあたし・・・恭介がしばかれてんだぞ・・・許せるか、いや許せん・・・!」

さやか「恭介の勝利は、この魔法少女さやかちゃんが届けまくっちゃいますからねぇ!」


さやか「・・・パーフェクトゥ・・・」

さやか「・・・ユー、ルース・・・」

さやか「きょ・・・恭介ぇ・・・」

さやか「畜生!もっかいだぁ!!」


杏子「連コインか?ゲーセンのルールもしらねぇとーしろかよ。しゃぁねぇ、お仕置きしてやるぜ。
完膚なきまでにぶっつぶしてやる」
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/15(水) 23:15:03.42 ID:PxZqNlgc0
〜ゲームセンター〜

仁美「はいどうぞ」

まどか「わぁ、ありがとう仁美ちゃん!・・・でも、本当にもらっちゃって良いの?」

仁美「えぇ。そのために、取ったんですから」

まどか「で、でも・・・あ、そうだ!これ、千円どうぞ!」

仁美「・・・いえ、結構です」

まどか「いや、悪いよ!仁美ちゃんにあれだけ使わせといて人形もらうのは・・・」

仁美「それこそ野暮ですわ、まどかさん。黙って、私の顔を立てて下さいまし」

まどか「あ・・・うん、ありがとうね、仁美ちゃん。うぇひひ♪カピバラさんは持ってなかったんだ〜♪」

仁美「ふふっ。光栄ですわ」

仁美「時にまどかさん」

まどか「あ・・・うん、何、かな?」

仁美「・・・私達は、親友、ですわよね?」

まどか「う、うん。今更そんな確認するようなことでも・・・」

仁美「・・・確認したくもなりますわ」

 仁美はまどかを睨んだ。まどかはその視線を受け止めきれず、瞳を右往左往させる。

仁美「・・・あまり深入りしようとは思いません。何があったのかと問い詰めたりはしません。
しかし・・・虚勢など、張らなくても良いのですわよ?私や、さやかさんの前で・・・
あなたは他人に遠慮することを美徳と思うでしょうが・・・私やさやかさんにしてみれば、
それは心外ですわ・・・」

仁美「私達をどうしても蚊帳の外に追いやらねばならない、ですが一人で抱えこむのが辛いときは、
壊れてしまう前に、一言、気晴らしがしたい。それだけで良いのです。あなたから誘って頂いて、
断る道理など、私達にはないのですから」

まどか「・・・うん、ごめん――ありがとう、仁美ちゃん」

仁美「――こんなところでする話でもないですわね。私の方こそ申し訳ございませんわ。お許しくださいまし」

 まどかは微笑んで目元に浮かんだ涙の粒を拭った。

仁美「それでは、他にやりたいものはありますか?」

まどか「あ、ううん。仁美ちゃんは?」

仁美「私は、もうお金は使いたくありませんわ」

まどか「うぇひひ♪何かしたいのあったら言ってね?今度はわたしがおごってあげるから」

仁美「気持ちだけ受け取っておきます。それでは、さやかさんの所に行きましょう。
無様を晒していれば、今度はまどかさんが詼嘲して差し上げれば良いのですわ」

まどか「うぇひひ♪楽しみだね♪」
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/15(水) 23:16:24.36 ID:PxZqNlgc0
〜ゲームセンター〜

仁美「はいどうぞ」

まどか「わぁ、ありがとう仁美ちゃん!・・・でも、本当にもらっちゃって良いの?」

仁美「えぇ。そのために、取ったんですから」

まどか「で、でも・・・あ、そうだ!これ、千円どうぞ!」

仁美「・・・いえ、結構です」

まどか「いや、悪いよ!仁美ちゃんにあれだけ使わせといて人形もらうのは・・・」

仁美「それこそ野暮ですわ、まどかさん。黙って、私の顔を立てて下さいまし」

まどか「あ・・・うん、ありがとうね、仁美ちゃん。うぇひひ♪カピバラさんは持ってなかったんだ〜♪」

仁美「ふふっ。光栄ですわ」

仁美「時にまどかさん」

まどか「あ・・・うん、何、かな?」

仁美「・・・私達は、親友、ですわよね?」

まどか「う、うん。今更そんな確認するようなことでも・・・」

仁美「・・・確認したくもなりますわ」

 仁美はまどかを睨んだ。まどかはその視線を受け止めきれず、瞳を右往左往させる。

仁美「・・・あまり深入りしようとは思いません。何があったのかと問い詰めたりはしません。
しかし・・・虚勢など、張らなくても良いのですわよ?私や、さやかさんの前で・・・
あなたは他人に遠慮することを美徳と思うでしょうが・・・私やさやかさんにしてみれば、
それは心外ですわ・・・」

仁美「私達をどうしても蚊帳の外に追いやらねばならない、ですが一人で抱えこむのが辛いときは、
壊れてしまう前に、一言、気晴らしがしたい。それだけで良いのです。あなたから誘って頂いて、
断る道理など、私達にはないのですから」

まどか「・・・うん、ごめん――ありがとう、仁美ちゃん」

仁美「――こんなところでする話でもないですわね。私の方こそ申し訳ございませんわ。お許しくださいまし」

 まどかは微笑んで目元に浮かんだ涙の粒を拭った。

仁美「それでは、他にやりたいものはありますか?」

まどか「あ、ううん。仁美ちゃんは?」

仁美「私は、もうお金は使いたくありませんわ」

まどか「うぇひひ♪何かしたいのあったら言ってね?今度はわたしがおごってあげるから」

仁美「気持ちだけ受け取っておきます。それでは、さやかさんの所に行きましょう。
無様を晒していれば、今度はまどかさんが詼嘲して差し上げれば良いのですわ」

まどか「うぇひひ♪楽しみだね♪」
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/15(水) 23:17:45.54 ID:PxZqNlgc0
連投すいません
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/15(水) 23:41:56.72 ID:PxZqNlgc0
さやか「やばい・・・もう百円玉ないや・・・」

さやか「畜生・・・一度も勝てなかった・・・ごめんね、恭介ぇ・・・」

さやか「――せめて仇敵の顔を・・・恭介の仇の顔を拝んでやろう・・・!
そして必ず、リベンジを果たすんだ・・・!」

さやか「・・・」コソ

さやか「・・・赤い髪・・・吊り上がった目・・・可愛い顔だな・・・おっ、八重歯・・・
可愛い・・・あれ?」

マミ『えーと、顔立ちは可愛らしいわ。八重歯と釣りあがった目付きが特徴的』

マミ『それと髪色は赤』

さやか「――」

さやか「あーっ!!」

杏子「ちっ。うるせえなぁ・・・あ?なんだあんた、人のこと見て鳩が豆鉄砲みたいな顔しやがって。
つーか、てめえか、連コイン野郎は。ああいうのはプレイヤーとしてマナー違反だぜ、以後気を付けな」

さやか「あ、すいません・・・」

さやか(会ってしまった・・・多分、この娘が佐倉杏子だろう・・・いや、どうなんだ・・・?
もしかしたらただの人違いとかだったり・・・」

さやか「あのぉ・・・すいません・・・」

杏子「・・・」カタカタ

さやか「えーと」

杏子「おい」カタカタ

さやか「あ、はい!」

杏子「ゲームやっている奴に話しかけるのもマナー違反。ゲームしねえのに筐体陣取るのもマナー違反。
そんなことも考えられねぇから馬鹿の一つ覚えにぶっぱなして間隙にコンボ畳まれるんだよ雑魚」

さやか「なっ!?・・・はいはい、そうですねごめんなさい」

杏子「・・・」カタカタ

さやか「・・・」

杏子「・・・ちっ」カタカタ

さやか「別に、ゲームやっている人の後ろに立つのはマナー違反じゃないでしょ?」

杏子「話し掛けた。ギルティ」

さやか「勝ったじゃん。今戦ってないじゃん」

杏子「うぜーな、失せろ」
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/15(水) 23:44:46.21 ID:PxZqNlgc0
さやか「強い人の戦い方を見て学ぶのも、一つの特訓だと思うけど?」

杏子「はぁ・・・しらけた」

さやか「あっ、ちょっと!まだステージ残ってんじゃん!これはマナー違反じゃないの!?」

杏子「あん?良いぜ、てめーがやっても。そうでなくても何処かのガキでもやりたきゃやんだろ」

さやか「待って!」

杏子「んだよ・・・手離せ」

さやか「えぇと・・・」

杏子「・・・ちっ、おい」

さやか「あたし、美樹さやか!」

杏子「・・・は?」

さやか「あんたの名前は?」

杏子「・・・」

杏子「・・・ちっ」

杏子「佐倉杏子。解かったら離せ」

さやか「あ、ごめん」

杏子「ふん」

杏子「・・・」スタスタ

さやか「またね、杏子」

杏子「・・・」スタスタ

杏子「・・・ちっ、うぜぇ」スタスタ
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/16(木) 00:01:52.84 ID:fQx+Qael0
終わりです
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/16(木) 00:03:12.52 ID:CXn8nu96o
お疲れ様でした
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/16(木) 01:02:02.41 ID:5j+cOh3go
乙っちまどまど!
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/16(木) 01:23:56.63 ID:fQx+Qael0
〜路地裏〜

マミ「こんばんわ」

ほむら「・・・」スタスタ

ほむら「・・・」スタスタ

マミ「・・・ねぇ、お茶でもしない?」スタスタ

ほむら「・・・」スタスタ

マミ「あなたとわたしは一度、ゆっくり話し合うべきだと思うわ」スタスタ

ほむら「・・・」スタスタ

マミ「今後の為にも。もしもこの街にワルプルギスの夜が来たら、手を組まざるを得ないでしょう?
だからそれまでに、良好な関係を築くのは定石ではないのかしら?」スタスタ

ほむら「・・・」スタスタ

マミ「・・・」スタスタ

ほむら「・・・」スタスタ

マミ「あなた、紅茶とコーヒーなら、どちらが好き?ケーキとクッキーだったら?
そうだ、今から家に来ない?お茶をしながら、今後のこととか色々、話すのはどう?
同じベテランの魔法少女なんだし、普通の人より気楽に話し合えるのではないかしら?」スタスタ

ほむら「・・・巴マミ」

マミ「!なぁに、暁美さん?」

ほむら「貴方は、イグニスの所在を知っている?」

マミ「え?イグニスさん?さぁ、何処にいるのかしらね・・・わたし、まだお礼も言えてないから、
是非とも会いたいのだけど・・・」

ほむら「そう」スタスタ

マミ「あっ、待って!」

――カチッ――

 ほむらは跳び上がり、彼女の背後に回った。
魔翌力の無駄遣いはしたくないのだが、巴マミに付き纏われるのも、彼女に観測されるのも鬱陶しい。
また、いつ拘束されるか解かったものではない。
まったく、黙って不干渉を貫いていれば生き残れるというのに・・・。
・・・いや、いっそのこと、不安要素である彼女を此処で排除しておこうか?
彼女を生かしておくことが成功の障害だと解かっているじゃないか・・・。
ほむらは盾から拳銃を取り出した――しかし、拳銃を掴んだ腕を、握られた。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/16(木) 01:33:52.90 ID:fQx+Qael0
ほむら「・・・会いたかったわ」

ほむら「・・・イグニス・・・!」

「・・・何をしようとした」

 低い。けれど、少女の声だ。聞いたことがあるような、ないような、そんな印象の声だ。

ほむら「見て解からない?巴マミを殺そうとした?」

 手首を握る力が強まる。ほむらはその姿を注視する。
夕暮れの路地裏は冥々としていて、暗澹とした全貌はより一層闇に潜んでいて、見通せない。

「・・・巴マミは、お前を慮っているのが、解からないのか?」

ほむら「無用な配慮は、独善でしかないわ。彼女の行為に感謝も称賛も与える必要などないわ」

「・・・お前は何を目論んでいる?鹿目まどかの側にいなくて良いのか?ワルプルギスの夜への対策は?
・・・私を始末することよりも、やるべきことがあるだろう」

ほむら「・・・やっぱり、気が付いていたのね」

「・・・私と戦おうとするのは止めろ。私に害意はない。たとえあっても、お前には負けない」

ほむら「・・・そんなのやってみなければ・・・!」

「これが結果だ。お前の術数は、私には通用しない」

ほむら「・・・!」

「・・・もしも私が、まどかをお前から離さないと言えば、お前は私を狙うことを止め、
信頼すべき仲間と共に、確かな敵を見据えることが出来るか?」

ほむら「・・・それは、どういう意味?」

「・・・言葉どおりの意味だ。この世界に、二人の鹿目まどかを存在させる。それでお前が
満足し、このような凶行を止めるというのなら・・・私は喜んで、身を退こう」

ほむら「・・・本当、なの?まどかを、私の傍にいさせてくれるの?私から、まどかを
取らないの?」


ちょっと投下
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/16(木) 11:00:56.95 ID:5j+cOh3go
乙っちまどまど!
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/16(木) 13:50:14.43 ID:fQx+Qael0
「・・・約束する。だからまどかだけでなく、巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子、そして鹿目まどかを蔑ろにするな。
もう繰り返す必要はない。もう、お前はこの世界の住人なんだ。これから先はこの世界の住人として生きることになる。
だからこの世界を受け容れろ。
その条件を呑めないのであれば、お前の傍にはまどかを置いてはおけない。私がそうであると判断したとき、お前
から、躊躇いなくまどかを回収させてもらう」

ほむら「・・・約束する。貴方に従うわ・・・だからお願い・・・私から、まどかを取らないで・・・もう、
ひとりぼっちは嫌なの・・・!」

「・・・今まで、よく頑張った。・・・私が、全部終わらせるから」

 ほむらは、自分が聞きたいと願っていた言葉を彼女に掛けた。

 ・・・決心は付いた。今から、あそこへ行く。きっと回廊を用いてならば、行けるはずだろう。
王様をもう少し待ちたいけれどその間にも、世界はあれによって苛まれ続けることになる。
早いに越したことはない。この数日魔女や魔法少女を相手にとることで、力の使い方には慣れてきた。
力に心配な点はあるけれど、しかし、魔法少女のシステムほど絶望的なものではない。
寧ろ、自分には高翌揚するほど相応しいブラインドだ。
ここのことは、彼女に任せよう。きっとまどかだって力になってくれる。そうだ、行く前に一度挨拶しようか。
無理だ。彼女とどう話せば良いか解からない。笑って許してくれるだろうか?
そう願う反面、思うのは、あのときの自分のように悲嘆する彼女だ。
だがもしそうなれば、ただ、自分は頻りに謝罪して、あのときの彼女のように思ったことを
頑迷に実行出来るだろうか?・・・きっと、惜しむ。
だから、行かない。それに死ぬわけじゃないんだ。自分は勝利して、必ず生き残る。
彼女のように、存在が消す必要などないのだから。
それでも彼女と話せて良かった。それが励みになった。これから彼女には、この暁美ほむら、そして彼女が築いて
くれるだろう仲間達がいる。彼女達のおかげで、彼女が孤独になることはない。
悲観など、する必要はない。自分はただ自分を信じ、心を強く持ち、この力を用いて、あれを破壊する。
それが終わったら、一度此処に立ち寄って彼女に終わりを告げて、
キーブレードの導くままに旅に出て、そして時々、此処に戻って、彼女と一日くらいデートさせてもらおうか。
それくらいは、この幼い自分だって、許してくれることを願う。
 
 彼女から手を離し、後ろに闇の回廊を開いた。背中に当たる靄が、少し心地良い。


 暁美ほむらは、離された手首を返すとイグニスに向けて発砲した。
照準を合わせる暇などなく、正確に急所を狙った狙撃は出来なきず、右胸の上に着弾する。
しかし、それは物量でどうにかする。二、三と撃った。右骨盤の上、右太ももにそれらは着弾する。
あとずさるイグニスにほむらは腕掴まれて、強烈な力で闇の回廊に引きずり込まれた。


 彼女を信じようとした自分が馬鹿だったのか?
冷酷な瞳、獰猛な笑みを浮かべる暁美ほむらを、痛みで顔を苦汁に染めて、ほむらは睨む。
彼女を引きこんだは良いが、このまま彼女を此処に居続けさせれば、剥き出しの彼女の心は闇に染まってしまう。
きっとそれは、ソウルジェムを絶望に染めることと同義なのだろう。
・・・だが、彼女を表に放つのは危険だ。

 確実に、早巴マミを排除するのだろう。

 絶対にやらせはしない。確かにマミはお節介で、先輩風を吹かせたがる、お調子者な一面がある。それが鬱陶しく
思うけれど、しかしそれは彼女の愛嬌だ。寂しさで押し潰されそうなとき、一番に親身になってくれるのは孤独と弱さを
知っている彼女なのだ。繊細で思慮深い彼女の優しさは解かり辛いし苦く思うことはあるけれど、誰よりも実際的だ。
絶対に、優しい彼女を殺させはしない。

「お手柄だよ、暁美ほむら。君のおかげで、やっと開いてくれた」
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/16(木) 15:36:05.71 ID:fQx+Qael0
ほむら「・・・インキュベータ?」

 何故、どうしてインキュベータが此処に?また、後ろからこっそりと?だが気配なんて・・・。

QB「当惑するだろうね。でも、そんなの決まっているじゃないか。
ようやく君が最大に危険な存在だと認知されたからだよ。
まさかそこまでの機密情報を君が有しているだなんて想定外だったからね。前回あれほど微量のエネルギーでさえ失うのは
渋っていたけれど。だけど、状況は劇的に変化した。寧ろ君には何億年とかけて溜め込んだ
この世界の全てのエネルギーを費やしてでも此処で滅びてもらわないといけない」

 二匹――三匹―――十―百――千――!?回廊を埋め尽くほどの無数のインキュベータが回廊に現れる。

 それらは、二人のほむらから一定の距離を空けて、包囲した。

QB「暁美ほむら。早急に彼もしくわ彼女から離れるんだ。君はこの世界にとって重要な存在だからね。
今までの確執は全て水に流し、互いに手を取り合い世界を救おう。それまで人類とインキュベータがそういしていたように。
といっても、既に君は多大な功労を果たしてくれた。見滝原に戻ってくれて構わない」

 現在口を開いている、最初に現れた一匹のインキュベータと二人のほむらの間に、身長より大きい楕円が浮かぶ。
そこには、先ほどの風景が流れている。既にそこはマミがいないことに、ほむらは安堵した。
突然消えたほむらを捜しに出たのだろう。

ほむら「見滝原に帰らせて。やらなければいけないことがあるの」

QB「そうかい。それじゃぁ、お疲れ様」

 前方のインキュベータの体が膨らむ。今度は四足ではなく二足の巨大な生き物に。体長ほむらの二、三倍はある。
頭は狼のようで、突き出た口、尖った耳、鬱蒼とした牙、血走った眼。腕や足は熊のように太く、霊長類のようにしなやかで長い。
両手両足の爪は、まるで剣でも生やしているかのように鋭利で長大。それは変身が完了すると、激しく地面を踏み、咆哮
あげた。すると、周りのインキュベータたちは、四足の獣の姿へと変貌する。

 動揺していると、暁美ほむらが銃を放して、手を抜き、拘束から逃れた。
落ちた拳銃を顧みず、彼女は楕円に向かって一直線に走る。
彼女を制止しようとすると、横からインキュベータに突進された。――まだ、回復が途中だ。
激痛が迸る。声が出ず、涙が目に浮かんだ。しかし、そんなことを気にしている間などない。
ほむらは跳び上がった。既に暁美ほむらの姿は楕円に呑み込まれ、そしてその楕円も消え失せた。
右手にキーブレードを握り、宙に浮いて、二足のインキュベータを睨んだ。痛みが消えていく。憎しみが、痛みを癒してくれる。

 八方位から向かって来る大口を開けた四足のインキュベータ。
そのうち右のインキュベータの口にキーブレードを思いっきり差し込み、喉の奥に支点を置く。
幅広い柄のおかげで口を塞げないインキュベータは、慣性で飛びながら彼女の突飛な行動に驚愕して、
自分の喉奥を中心に体を持ち上げ、左から来たインキュベータを側転しながら蹴りあげるほむらをただ眺めた。その間に、
突然意識が消える。ほむらは腹を焼き焦がしたインキュベータの上に乗ると、衝突した六方向のインキュベータを見て、
一つ高く浮いたインキュベータの元に跳び、それを叩き下ろすと、黒い光の矢、その周りを回転する六つの黒い光の玉を
剣先に召喚し、放った。そして、尖兵を務めた八匹のインキュベータはすべて、消滅した。

 ――悪寒に、下を向いた。そこには、跳びあがって、牙を剥き出して嗤う二足のインキュベータが、その爪でほむらを串刺しに
せんと構えていた。速い――キーブレードを下ろしていたんじゃ、間に合わない・・・!
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/16(木) 23:10:08.41 ID:fQx+Qael0
今日は終わりです
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/16(木) 23:16:55.81 ID:CXn8nu96o
お疲れ様でした。
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/17(金) 01:14:10.85 ID:E7mHI5QFo
乙っちまどまど!
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/17(金) 11:08:19.25 ID:94wJUn0T0
仁美「あの方は一体どちら様なのでしょうか・・・?」

まどか「(赤い髪・・・もしかして、マミさんの言ってた魔法少女・・・?)」

まどか「・・・多分、ゲームセンター友達とかじゃないかな?さやかちゃんだし」

仁美「・・・まぁ、そうですわね。さやかさんですものね」

さやか「ん?二人とも、何そこでこそこそやってんのさ」

さやか「おっ、まぁどかぁ〜。良かったね、とってもらえたんだぬいぐるみ」

まどか「あ、うん。えへへ〜カピバラさんだよぉ〜」

さやか「うわ〜。ねぇ、ちょっと抱かせてよ」

まどか「え〜?やだよぉさやかちゃんだもん」

さやか「それどういう意味だ!」

仁美「それでさやかさんは、もうよろしいんですか?」

さやか「さぁ早くそれを渡さなければお嬢ちゃんの純潔はさやかさんの手で〜――あ、うん。
もう小銭も無くなったしね。いやいや惨敗惨敗」

まどか「いやぁさやかちゃん離してぇ」

仁美「・・・全く、お二人ともったら・・・!」

まどか「うわぁ仁美ちゃん鼻血鼻血!」

さやか「たく、この淫乱がぁ!」


仁美「申し訳ありません。流石にこれ以上となると家の者が心配致しますので。
それじゃぁお二人とも。また明日」

さやか「お、おう!・・・鼻つっぺしていても美人って絵になるな〜」

まどか「うぇへへ・・・羨ましいよね」

さやか「さて、どうする?こっから先はお子ちゃま立ち入り禁止のナイトフィーバーってなるけど。
まどかじゃ身長制限でアウトなんだよね」

まどか「うえ!?それ酷いよぉ!わたしそんなにちっちゃくないもん!」

さやか「いやごめんごめん。ぬいぐるみ持ってる時点でアウトか」

まどか「カピバラさんを馬鹿にすると許さないよ!」

さやか「あっはっは――!?――まどか、あたしの後ろに」
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/17(金) 12:17:27.22 ID:94wJUn0T0
 さやかの指輪が解け、ソウルジェムが現れる。瞬く間にさやかは騎士装束へと変容した。
 景色が変わる。黒と白のチェック柄をした地面。周りには先の丸まった杖や、菱形の積み重なったものが生えている。
湧いてくるのは帽子を被った芋虫のような体型をした綿。手足のような細くて黒い触手を持っているが、もっぱら白い胴を使った弾力で跳んでばかりでその意味を為していない。

まどか「ひっ・・・!」

 前方から押し寄せてくるそれらは、おそらくは正中線であろう部位を開き、牙と、瞳孔の開いた眼を見せた。

 感じる魔翌力が弱い。魔女ではなく、使い魔だろうか。どちらにせよ、マミを呼ばずとも自分ひとりでどうにか出来そうだ。

さやか「まどか、ちょっと大人しくしていてね」

 後ろのまどかに微笑みかけた。そしてマントを外し、彼女に羽織らせる。
まだ自分には強力な結界を張れるだけの魔翌力がないことを知っている。
だから、こうした防具を応用することで、彼女に擬似的な結界を与えた。

まどか「さやかちゃん・・・!」

 駆け出した。魔翌力の無い自分は各個撃破しか出来ない。
それでも、願いから、肉体に関しては突出しているだろうとマミは言った。
超回復と超人力。それを生かして戦うしかない。
大それたことはできない、自分が大仰に振舞うしか出来ないのだ。

 まどかの瞳に、青い閃光がいくつも浮かぶ上がる。惨たらしい情景の中、それから目を離すことが出来ない。友人だから、
親友だからという理由もあるけれど、魅了された。自分も、魔法少女になったらあんなふうに・・・でも、今の自分には
大した魔翌力がないのだということを思い出し、俯いた。

「なんだ・・・あんたも魔法少女だったのか・・・」

 逃亡を始めた使い魔たち。それを追うさやかの前に、槍が突き刺さった。急停止して、混乱していると、目の前に、
佐倉杏子が現れた。彼女は加えていた木ののべぼうを吐き捨てると、嘆息した。
 その間に使い魔たちが逃げて行く。さやかは歯噛みすると、宙を蹴る。
――だが、軌道上に展開された蜘蛛の巣を描いた鎖によって捕縛され、追跡が叶わない。
拘束するそれから逃れるために、どれだけ魔翌力を搾っても、破けない。そのまま、さやか無様に地面へ落ちた。

さやか「離せ!」

地面に横たわったまま、去って行く使い魔たちを睨む。やがて視線は、街灯の淡い光を鯨飲する夜闇に溶けていった。

さやか「離せ!」

杏子「・・・困るんだよね、ああいうの」
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/17(金) 13:25:14.18 ID:94wJUn0T0
さやか「・・・良いから、離せ・・・使い魔が逃げるだろ!」

杏子「にがさねーと意味ねーじゃん」

さやか「・・・はぁ?あんた一体、何言ってんのよ!使い魔だって人に被害出すの、魔法少女なら知ってんでしょ!?
早く追って・・・あいつと、その魔女も狩らないと誰かが・・・!」

杏子「・・・あれは相当強力な魔翌力を持った使い魔だ。もうすこし人間食わせりゃ魔女になる。そうすればグリーフシード
が二つ手に入るんだぜ?どちらが生物として利口な手法かなんて、一目瞭然だろ?」

さやか「お前・・・!」

杏子「・・・はぁ。この地域だからそうだろうと思ったが、お前、マミズミストかよ」

杏子「マミからあたしのことを聞いたんだな。だからあんた、あそこであたしに話し掛けたのか。
大方、同じ魔法少女だからとか陳腐な理由で、仲良しこよし手を繋いでさぁ世界の巨悪を滅ぼしましょー
とか絵空事描いたんだろ。うぜぇ、そーいうのちょーうぜぇ」

杏子「あいつ言ってなかったか?あたしには関わるなって。生憎と、あたしとお前らじゃ教条がまるで違うんでね。
被捕食者を滅ぼしててめーの首を締めるなんてのはごめんなんだわ」

さやか「・・・だからって、人が死ぬのってのに、あんたは黙ってられんの!?」

杏子「もとより、魔女に食われるよーな奴は、その為に産まれてきたよーな奴らだぜ?」

 ・・・それは、自分の親友に言っているのか・・・? 

さやか「・・・許さない・・・お前だけは、絶対に許さない!!」

 うつ伏せから膝を折って体を回転させ、足の裏に剣を出現させると、杏子の首元を狙い、射出する。
難なく杏子は避け、棍に魔翌力を込めてそのまま硬化させると、さやかをもちあげて、住宅の壁に叩きつける。
しかし、さやかは両脚を畳み、裏に再び剣を召喚することで、衝撃を緩和させ、足の甲に剣を召喚すると、
体を後ろに反らせて、その勢いで剣を放つ。

杏子「・・・ちっ」

 杏子は一度棍から手を放すと、回避のステップを踏んで、跳び、さやかに回し蹴りを放った。
右側頭部にそれを見事に食らい、さやかは仰向けで吹き飛ぶ
――拘束が解かれたのだと、朦朧と実感した
――顎を引いて杏子を視認しようとした瞬間、魔翌力を搾って回復した。
目撃したのは、高速で突撃してくる杏子の槍――さやかは両手に剣を握ると、それを地面に突き刺して、逆立ちになり、柄の底を
両手で弾いて跳び上がった――すぐに宙を蹴り、後退する。
跳躍の軌道上には、槍を構えた杏子が居た。両手で剣を握ると、
さやかはそれを目掛けて宙を蹴った。杏子は落下しながら、槍を解く。
長大な蛇のようにして、夜闇を這って刃はさやかの首を狙う。
さやかは再び青い魔翌力を撒き散らし、認識を許さない速度で杏子へと突撃する。
瞬時に杏子へ肉薄するさやか。杏子は即座に槍に戻し、迎え打つ。

互いに、刃と視線を交差させた。
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/17(金) 17:19:10.13 ID:94wJUn0T0
さやか「あんた、人にルールルール言っといて自分が一番護れてないじゃん!」

杏子「へっ、いつまで自分が人間だと思ってんだよ。あんた魔法少女だろうが。もう人間じゃねーんだよ、解かってのかぁ!?」

さやか「魔法少女だって人間だ!」

杏子「いいや違うねぇ!こんないかれた化け物が人間なわけねーだろ!
あたしら魔法少女ってのはなぁ、もう人間を家畜の餌とでも思わなきゃやってらんねーんだよ!」

杏子「そうして人間食わせて育てた畜生の骨をしゃぶって生きる――それが魔法少女だ!」

さやか「違う!――魔法少女はそんなんじゃない!」

さやか「マミさんは人間のあたしたちを使い魔から助けてくれた、
魔女に殺されそうだった人を助けた――お前とは違う、人間だ!あたしはマミさんみたいになる、
あたしだって、人間として魔法少女になる!
化け物はお前だけだ、自分で人間捨てたお前なんか、魔女と変わらないじゃないか!!」

 杏子の脳裏に、幼き日の悪夢が蘇った。

杏子「――はははははははははあはあははははははははははあははははっ!!」

 佐倉杏子は嗤う。こんなに高翌揚するのは久しぶりだ。瞳孔を開いて、さやかを捉える。強く締められた瞳、とても純粋だ。
綺麗だ、美しい、彼女はきっと、絶望を知らないのだろう。信用できる友人や両親を愛し、彼ら彼女らに愛され、
自分の為すことが、彼ら彼女らの希望や奇跡となり、自分に幸福として還ってくるのだと信じて止まないのだろう・・・
彼女の姿が幼くなる、いや、幼く変容したその姿は既に美樹さやかではない、別の誰か。長髪を一つにまとめたシルエット

――あぁ、その愚鈍の象徴を壊せたのならば、どれだけ心地が良いことだろう・・・!

「二人とも、離れなさい!!」

 上から声がした。その声の主を想起すると、互いに顔をしかめて後退する。
未だ交錯する戦意の間を、黄色いエネルギーの塊が光速で通過した。

 地面に降り立つと、杏子は舌打ちをした。分が悪い、二対一に、巴マミの参戦だ。撤退が正しい。
 突然、後から衝撃を受ける。重くない、鋭利ではない、締め付けられる胸、後ろを向くと、目に入ったのは一面のピンク。
それはすぐに、泣き濡らした幼い少女の顔に変わる。

まどか「お願い、もうさやかちゃんを虐めないで・・・!」

 ・・・・弱弱しい。自分が殴れば彼女は離れる。槍で刺し殺せば、拘束が解ける。だがやめておこう。
それは巴マミの反感を買うことになるだろうからだ。追撃を受けるのは、好ましくない。

さやか「まどか――うおおおおおっ!!」

 さやかが突撃してくる――が、杏子が臨戦体勢に入る前に、彼女はすぐに黄色い帯によって拘束された。

マミ「落ち着きなさい、美樹さん」

 砲撃によって穿たれた道路は黄色い帯によって修復される。その上に、巴マミは優雅に降りた。

さやか「マミさん!まどかが!まどかがぁ!!」

マミ「はいはい。・・・佐倉さん。あなたなら、今の状況でもっとも正しい行為が何か、解かっているでしょう?」

杏子「・・・」

杏子「・・・あぁ。降参だ」

 手を広げ、両手を挙げた。すると、まどかからの拘束も離れた。
杏子を迂回し、マントを羽織ったまどかが走ってさやかに向かう背中を呆然と眺めていた。

まどか「マミさん、さやかちゃんを!」

マミ「はいはい」

 マミはさやかの拘束を解いた。すると、さやかは走って、まどかを抱き締めた。まどかはさやかに抱かれながら、彼女を労わった。

 ・・・まるで姉妹のようだ・・・胸糞が悪い。杏子は舌打ちをすると、踵を返した。
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/17(金) 18:26:20.15 ID:94wJUn0T0
マミ「佐倉さん」

杏子「・・・なんだよ」

マミ「今度美樹さんを傷つけたら、わたしが許さない」

杏子「・・・じゃぁそいつに首輪でもして、てめーの家に監禁しておくんだな」

 杏子が去っていく。マミは汗の滲んだ拳を開き、変身を解くと、マントを羽織ったまどかと抱き合うさやかに振り向いた。

マミ「・・・美樹さん、わたし言ったはずよね?彼女に会ったら逃げなさいって」

さやか「いや、でも聞いてくださいよマミさん!あいつ、使い魔を倒すの邪魔してきたんですよ!?
誰かが死んじゃうかもしれないのに!
・・・それに・・・あたしら魔法少女は人間じゃないとか、
人間は使い魔や魔女の餌だって・・・なんなんすかあいつ!」

マミ「彼女は魔法少女よ・・・わたしなんかよりも、ずっと正しい魔法少女よ」

さやか「いーや!そんなのあたしが認めません!マミさんジャスティス!あいつギルティ!
当たり前じゃないっすか!あいつなんてそこらへんの犯罪者より性質悪いっすよ!
・・・今度会った時は絶対に・・・」

マミ「美樹さん」

さやか「あぁはいはい。解かってますよ。さやかちゃん了解!」

マミ「はぁ・・・まったくあなたは」
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/17(金) 23:48:56.97 ID:94wJUn0T0
さやか「つーかマミさん、随分と良いタイミングで来ましたね。どっかで待機でもしてたんすか?」

マミ「そんなわけないでしょう。・・・野暮用の途中に使い魔と出会ったのよ。殲滅して結界が壊れたかと思えば
空に青い閃光と叫び声・・・嫌な予感がして近付いてみれば、案の定そこには佐倉さんと戦う美樹さんがいたわ」

さやか「あっはっは〜・・・あー、そんな響いてましかねぇ、お恥ずかしい・・・」

マミ「恥ずかしいのはこっちよ!・・・あんな大声で、人の名前を叫んで・・・」

さやか「あっ、いやぁあれは!あは、えと、なんつーか、ね?」

マミ「ね?じゃないでしょう・・・まったく」

さやか「でも、あたしマジっすよ?あたしはマミさんみたいな魔法少女になる。
人知れず悪を討って、善良な市民の平和を護る、そんな御伽噺みたいな魔法少女になりたい。
・・・だから、あいつだけは許せない・・・あいつにとっちゃ、あたしの家族も友達も、みんな
魔女の餌なんすから・・・!」

マミ「・・・貴方の気持ちは解かるわ。でもね、当の貴方が殺されてしまったら、それを悲しむ人がいるのよ。
それは、解からない?」

さやか「でも!」

 さやかは額にでこぴんをされた。

さやか「いたっ!」

マミ「わたしは寂しいわ。やっと、ひとりぼっちじゃなくなったんだもの。戦うこと、生きることに意義が出来たんだもの。
空っぽじゃない・・・わたしが此処にいる意味が、ようやく見出せたって、貴方達と過ごすようになって、実感出来ているの。
だから、貴方を失いたくない。お願いだから、無茶しないで」

さやか「・・・はぁ。マミさんには、やっぱ敵わないなぁ」

さやか「解かりましたよ。さやかちゃんは佐倉杏子に対してサーチアンドエスケープで臨みます。イエッサーアイサー」

マミ「お願い。わたしに憧れているのなら、尚更。解かったと思うけど、
彼女は相反する意志のわたしを快く思ってないから」

さやか「あぁ、杏子のやつにマミズミストって言われましたよ。あたしにしちゃ最高の褒め言葉だっつーの!」

マミ「・・・そう言われると、ちょっとむず痒いわ・・・――あら、わたし、貴方に彼女の名前、教えたかしら?」

さやか「へ?あぁ、ちょっと前にゲーセンで会ったんですよ。その時に訊いたんです。でもまさか、
あんな奴だとは思ってなかったですよ本当・・・ゲーセンでルールルール言いやがるのにお前は社会のルール
も解かってねーのかって話ですよ!」

マミ「なるほどね・・・それで隣町が管轄の彼女が・・・――でも美樹さん。どうして彼女から名前を訊いたり
なんかしたのかしら?」

さやか「え?あぁ、いやぁえっと、あまりにコテンパンにされたから顔と名前と住所を覚えておいてやろうって思って・・・」

マミ「・・・ふーん・・・」

さやか「あぁははっ!ははっ、あは?」

マミ「・・・」

さやか「・・・すんません」
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/18(土) 00:27:25.87 ID:QWBBIQ2r0
まどか「・・・さやかちゃん」

さやか「うん?なんだいまどか?」

まどか「・・・居なくなっちゃ、やだよ・・・」

まどか「・・・ごめんね、わたし何も出来なくて・・・ごめんね・・・」

さやか「あー・・・うん。いや大丈夫だって!マミさんが居るんだし、まどかだってあたしの勇姿見てたでしょ!?
あんな性悪魔法少女にこの正義の魔法少女さやかちゃんが負けるかってーの!正義は必ず勝つ!」

マミ「調子に乗らない」

まどか「マミさんも」

マミ「え?」

まどか「マミさんも・・・居なくなったら、やです・・・絶対に駄目です・・・」

マミ「鹿目さん・・・」

マミ「大丈夫よ。わたしも美樹さんも、まだまだ貴方の傍にいるわ。こんな居心地の良い場所、
誰が放すものですか」

さやか「ですよね」

まどか「・・・」

マミ「それに、暁美さんだって」

さやか「――」

まどか「――」

 二人の表情が緊張の後、凍りついたのを見て、マミは当惑した。

さやか「・・・あいつのことは、別に良いですよ」

まどか「・・・」

さやか「――見滝原の平和は、このあたしとマミさんによる見滝原エンジェルズが、護りまくっちゃいますからねぇ!
ワルプルギスの夜だろうがなんだろうが、どんとこいっての!」

 汗の噴出したさやかのぎこちない笑顔。俯いたまどか。
きっと、彼女がまどかだけでなくさやかとも何かが在ったのだろうことは明らかだ。
だが、ここで穿鑿するほど無粋には、マミはなりきれなかった。

マミ「今日はもう帰りましょうか。こんな時間だし、貴方たちの御両親も心配しているでしょう」

さやか「いやぁ、家は基本放任っすから」

まどか「・・・わたし、今日は遅くなるって、メールしておきました・・・」

マミ「それでも。女の子がこんな夜中に出歩くなんて駄目よ。とく美樹さんなんて、疲れているでしょう。
ほら、このグリーフシード使って」

さやか「あ、ども――おおっ、このソウルジェムが洗われる瞬間の心地良いこと心地良いことぉ・・・!」

まどか「さやかちゃん・・・気持ち悪いよ・・・」

さやか「まどかには解からんさ、この大人の快感が・・・!」

マミ「馬鹿言ってないで。さぁ行きましょう。まずは鹿目さんを送り届けましょうね」

まどか「え、どうしてですかぁ?」

さやか「おーっし!見滝原ツインエンジェルスの栄誉ある初仕事は無事にまどかを送り届けること!
まどかが一回こけることに持ち点から十点減殺だー!」

まどか「え――さやかちゃんもしかしてわたしのこと馬鹿にしてる!?」

マミ「それじゃぁ、張り切っていってみましょうか」

まどか「こんなことに張りきらないで下さいよぉ!もっと余裕を持っても大丈夫ですから!」
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/18(土) 00:27:55.90 ID:QWBBIQ2r0
今日の分は終わりです
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/18(土) 00:33:43.51 ID:Ctqo9RI+o
お疲れ様でした
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/18(土) 09:21:53.81 ID:QWBBIQ2r0
〜鹿目家門前〜

さやか「畜生・・・まさか最後の最後であんなトラップが来るとは・・・
おかしい・・・まどかが転ぶのは何もないところだけなのに・・・」

まどか「・・・うぅ」

マミ「つ、疲れているのよ鹿目さん!ほら、色々あったからそれで、ね?」

さやか「いや、いつもこんな感じっすよ」

マミ「美樹さん!」

まどか「・・・それじゃぁ、わたし行きます。二人とも、また明日・・・」

さやか「ばいばーい」

マミ「・・・また明日ね、鹿目さん」


さやか「いやぁ、ツイエンジェルズ仕事しましたねー。最後の最後で落としちゃいましたが、次はパーフェクト狙いましょう!」

マミ「もう、鹿目さんは玩具じゃないのよ?」

さやか「んなこと言ってー。マミさんだって楽しんでいたくせに〜」

マミ「何処を取ってその解釈が出てくるの・・・いつ転ぶかひやひやしていたわよ」

さやか「あっはっは!まどかのドジは筋金入りですからねー!そんじょそこらのドジとは格が違うのですよ」

マミ「上位に入れば入るほど不名誉な格付けね」

さやか「はっはっはー!」

マミ「・・・あのね、美樹さん」

さやか「あ?なんすか?」

マミ「・・・言いたくなかったら良いの。それでも、一体何があったのか気になるから・・・
・・・暁美さんのこと、教えてくれない?昨日あんなことがあった鹿目さんならまだしも、
貴方まで・・・」

さやか「・・・」

さやか「だから、まどかを追い払ったんすね?」

マミ「えぇ」

さやか「悪びれない。流石はマミさん」

マミ「言いたくないのであれば、無理にとは言わないわ」

さやか「いや、すんません。ただ、嫌味の一つでも吐かなきゃ冷静でいられないと言いますか・・・」

さやか「・・・わっかんねーすよ・・・性徴期なんてもんじゃねーだろ・・・」

 さやかは右手で目を覆って嘆いた。その声が、かすかに篭っている。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/18(土) 10:09:43.50 ID:QWBBIQ2r0
さやか「・・・あいつ、まどかに銃を向けたんです・・・あんなにまどかまどかって言ってたのに、
最近おかしいってゆーか・・・いや、相変わらずまどかまどかなんですけど・・・
でも、なんだか見ている世界があたしらと違う感じで・・・あはっ
なんて言ったら良いんでしょうね・・・」

 見ている世界が違う・・・そのとおりだ。彼女はもう、この世界は自分の戦場ではないと言った。
彼女の視界には、この世界の規則も常識も希望も絶望もさぞかし無意味に映っているだろう。
彼女は全てを捨て、たった一つの何かを手に入れて、何処かに消えようとしている。
 そしてそれは、小さな鹿目まどか。

さやか「何が起こってんすかね・・・?まどかだって、今日ずっとなんか鬱っぽくて・・・
遊んでるときになってようやく笑ったって感じで・・・昨日、一体何があったんですか?
マミさん、今度はマミさんが答えてくれなきゃ不公平っすよ
・・・このまま何も出来ないのは、嫌だ・・・」

マミ「・・・小さな鹿目さん、貴方は知ってる?」

 さやかは目を見開いた後、口元を綻ばせ、俯いた。

さやか「・・・やっぱり、ちっちゃいまどかが原因っすか」

マミ「そうとは限らないわ。・・・わたしたちだって、彼女を無下に扱ってきたじゃない・・・」

さやか「・・・!」

マミ「・・・彼女にとって、小さな鹿目さんが依り処になっているのよ。わたしたちの知らないところで、
ずっと孤独に戦い続けた彼女のね。・・・それを癒した小さな鹿目さんを糾弾する資格は、
暁美さんを孤独追いやったわたしたちには、無いと思わない?」

さやか「・・・」

マミ「ごめんなさい、昨日何があったか、よね。順を追って説明するなら、鹿目さんが暁美さんからの心象を案じていたから、
わたしが彼女にかまをかけてみたらどうかって、言ったの。暁美さんの前で、QBと契約するって、言ってみなさい、って」

さやか「・・・血相変えて、止めそうですね」

マミ「わたしもそうなると思っていた・・・でも、彼女、それを諦観したの。それで鹿目さんは激昂して出て行ったわ。
小さな鹿目さんは鹿目さんを追って、わたしは暁美さんと部屋に残った」

さやか「・・・どうして、まどかの傍に居てやらなかったんすか・・・!」

マミ「わたしだって!・・・わたしは、一人しか、いないのよ・・・」

さやか「・・・すいません」

マミ「いいえ、わたしの方こそ・・・今思えば、あなたの言うとおり、そうするべきだったわ・・・
わたしは彼女を拘束して、問い詰めた。――彼女は、全て自分には無関係だと言ったわ。そして最後に、
此処は私の戦場じゃない、と」

さやか「・・・そっすか。あの、ごめんなさい・・・こんなの、思い出しても気持ちいもんじゃないですよね・・・
それなのに・・・」

マミ「・・・それはお互い様よ。・・・それで、貴方はどうするの?」

さやか「・・・何がっすか?」

マミ「・・・昨日の問いを今したら、今度はなんて返事するの?」
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/18(土) 23:33:10.79 ID:QWBBIQ2r0
今日の分は終わります
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/19(日) 13:43:06.85 ID:Nkc1qvNY0
 杏子は仰向けにベッドに倒れこんだ。
両手にそれぞれ持ったぎゅうぎゅう詰めのビニール袋もふかふかの布団に沈む。
右手に持ったのはコンビニで買ったお菓子やジュースの袋、
左手に持っているのはファストフード店で買ったハンバーガーやポケトやナゲット。
こんなに買うつもりじゃなかった。
だが、止められなかった。
もっとも、食い尽くす自信はあるが・・・しかし、食欲が湧かない。
呆然と、天井を眺める。大きな窓から迷い込んだ街明かりは蛍光のようで、うっすらとだけ天井の輪郭を浮き上がらせる。
疲れた・・・あの黒コートは一体何者なのか。
終始意図の解からない存在だった。
鍵のようなおかしな武器を持って、人外な身体能力を発揮し、
魔法のような力を行使する・・・魔法少女なのか?
だが、それならどうして杏子に逃走劇の中に出会った魔女を杏子に先んじて倒すたびにグリーフシードを渡したのか。
杏子は舌打ちし、左手を袋の中につっこむとハンバーガーを一つ取り出し、包装を解いてかぶりついた。
すぐにそれは食べ終わり、また別のハンバーガーに手を伸ばす。
次に想起されたのはあの青い魔法少女、美樹さやか。
騎士装束の魔法少女。武器は剣。巴マミの後輩。マミズミスト。
綺麗事をつらつらと並べ、正論を呈す杏子を魔女だと罵った女。

――壮年の男性の罵声が、杏子の頭の中で反響した――

体を起こし、ハンバーガーを両手で貪り食らう。
喉がつまると、てりやきハンバーガーで付いたソースとマヨネーズを意に介さぬまま右手を伸ばし、
ペットボトルのコーラを取り出して、一気に流し込んだ。
げっぷを一つして、肩を下ろす。食欲はない。だが、止まらない。
巴マミも美樹さやかも、馬鹿だ。
さやかよりずっと長く魔法少女をやっているマミなんてそれを一番解かっているはずなのに。
誰かの為に何かをしたところで、必ず報われることなんてない。
もしかしたら、それが他人を破滅させるかもしれないということを解かっていない。
自分の行為に陶酔して、正義に盲目して刃をかざすことがどれだけ愚かな行為なのかを解かっていない。
・・・自分達はもう、人間じゃない。魔法という奇天烈な力によって人間よりも高いヒエラルキーに置かれた存在だ。
自分達の餌は人間ではないにしろ、人間は自分たちの餌である魔女の餌だ。
そんな存在が、人間の為に動くのは、自分の首を締めるのと同義だ。
いいかげん、自分達の行為が絞首台を登っているのだと、どうして気が付かないのか。
魔法少女に人間の頃思い描いた夢はない。
あるのは、生物としての希望だけだ。
そしてそれは、下等生物の絶望で成り立っている。

・・・今更人間のふりしたって、幸せになれるわけが、ないんだ・・・
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/19(日) 14:08:40.49 ID:Nkc1qvNY0
まどか「・・・」

マドカ「あ、おかえり」

まどか「・・・」

マドカ「無視は酷いと思うな?」

 机の上に座り、扉のノブに手を掛けたまどかに乗せに、小さなまどかは言う。

まどか「・・・ほむらちゃんは?今日、お昼に迎えに来たでしょ?」

マドカ「あ、うん。でも、断っちゃった。ウェヒヒ♪あなたと一緒に居たいから」

まどか「あなたが傍に居れば、それだけわたしは不幸になるのに?」

マドカ「・・・・・・させないよ、不幸になんか。だってそのために、わたしたちは此処に来たんだから」

 まどかは振り向いて、睨んだ。小さなまどかはきつく締めていた眦を綻ばせ、まどかに微笑んだ。
笑顔から、まどかは顔を背けた。

まどか「・・・もういい。勝手にしなよ」

マドカ「ウェヒヒ♪ありがとう、まどか」

まどか「・・・」

 学習鞄を置いただけで、制服のまままどかは階下に降り、父の用意した晩御飯を頂いた。
父も弟も既に食事は済ませたらしい。母は、まだ帰ってきていない。
食事を終えると、父がとっておきのデザートがあると言った。
訊くと、食事が終わってからのお楽しみだと言われた。
愚痴を垂れたあと、心が綻んだ。ありがとう、パパ。言葉には、出さなかった。

まどか「御馳走様でした」

知久「お粗末さまでした。それじゃぁはい、召し上がれ」

 それはかぼちゃプリンだった。父の作るかぼちゃプリンは絶品だ。
年甲斐もなく喜ぶと、父が笑った。まどかは少しだけ照れて、またいただきますと言った。
父は二回目のめしあがれを言った。

まどか「はぁ〜・・・美味しかった〜♪パパの作るかぼちゃプリン大好き!」

知久「ありがとう。おかわりがあるけど、どうする?」

 食べたい。思ったとき、小さなまどかを想起した。
そういえば、彼女はご飯、どうしているのだろう。
昨日はまどかも食べていない。でも今日の朝、昼、そして夜。
まどかは与えていない。気が付いた父が、あげたりしたのだろうか?
そもそも気付いているのか?何も訊かれていない。

まどか「・・・ねぇ、パパ。今日、わたしの部屋に入った?」

知久「今日?いいや、今日は入っていないなぁ」

まどか「・・・そうなんだ」

知久「どうかしたのかい?」

まどか「あ、ううん!なんでもない!」
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/19(日) 14:37:47.11 ID:Nkc1qvNY0
 だとしたら、何も食べていないのか・・・いや、もしかしたら昼にほむらが来た時、
何か食べさせたかも・・・でも・・・もしかしたら・・・。

まどか「パパ、もう一つもらって良い?」

知久「あ、うん。――はい、どうぞ」

まどか「ありがとう」

 言って、まどかは立ち上がった。

まどか「部屋で食べて良い?」

知久「あ・・・別に良い、けど」

まどか「ありがとう、パパ」

 カップを持ち、まどかは父に微笑んで、扉に振り返った。

 扉を閉めると、顔をきつくする。彼女に対して、ほほ笑みを見せたくない。

マドカ「おかえりまさい♪」

まどか「・・・ただいま」

マドカ「今度はちゃんと返事してくれたんだね。嬉しいな♪」

まどか「・・・」

まどか「・・・お腹、空いてない?」

マドカ「え・・・いや、大丈夫だよ。気にしないで」

まどか「・・・ふーん。此処に、パパの作ってくれたかぼちゃプリンがあるんだけどそれじゃ」

マドカ「食べる!」

まどか「・・・ッ!」

マドカ「あ・・・ごめんなさい・・・」

まどか「別に・・・食べたいの?」

マドカ「・・・ううん、いいよ。あなたのでしょう?」

まどか「わたしはさっき一個食べたよ。すごく美味しかった」

マドカ「知ってる・・・だってパパのだもん・・・」

まどか「あなたのパパじゃないけどね」

マドカ「・・・ごめん」

まどか「・・・怒ってないよ。いや、怒ってるけど・・・――もう、食べたいの?それとも食べたくないの?どっちなの!?」

 まどかは顔を赤くして叫んだ。

マドカ「――食べたいです!」
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/19(日) 15:16:22.23 ID:Nkc1qvNY0
まどか「・・・スプーン、持てるの?」

マドカ「あ・・・頑張ってみる」

まどか「・・・良いよ。わたしが食べさせてあげる。部屋汚されるの、嫌だから」

 まどかは学習机に備え付けた椅子に座った。机の上にティッシュを敷いて、その上に容器を置く。小さなまどかが容器に近付いて、感嘆した。

マドカ「こんなにおっきいプリン初めて・・・」

 だろう。体と同じ程のプリンだ。幼い頃、誰しもが描いた構図なのだから、喜ばないほうが可笑しい。
 まどかは慎重に量を調節してプリンを掬った。スプーンの端に少しだけ乗せて、小さなまどかに運ぶ。
 小さなまどかは運ばれてきたそれに口を当て、吸い取った。そしてプリンを噛む。ゆっくりと、味わいながら・・・
口の中に広がる甘さは懐かしい・・・甘すぎず、野菜臭くない父のかぼちゃぷりん・・・
どんどん、顎の動きが緩慢になっていく・・・

まどか「・・・どうして泣いてるの?」

 小さなまどかはようやくプリンを呑み込み、両方の袖で目元を拭い、彼女を見上げて笑った。

マドカ「とても、美味しくて」

 もう、自分の形跡はあの世界にはない。父の料理など、二度と味わえないものだった。けれど、
今ここで、また、咀嚼することが出来た。

マドカ「ありがとう、マドカ」

 まどかは顔を赤らめて、小さなまどかからプリンに視線を移した。

まどか「ほら、まだ食べるでしょ?早くしてよ」

マドカ「うん!」

 この少女は鹿目まどか。自分と同じ鹿目まどかで、それでも、鹿目まどかじゃない。
この世界で、何かを成し遂げようとして来た、何処か遠くの鹿目まどかだ。
彼女はこの世界に、自分達を救いに来たと言った。黒コートの怪人と共に。でも、彼女達がしたのは、
日常の混乱だった。掻き乱すだけ、掻き乱してくれた。
それは許せない・・・。絶対に許せない・・・。
・・・だが、彼女達が来なければ、巴マミが死んでいたのは、事実だ・・・。

マドカ「そうだ、今日、杏子ちゃんに会ったよね!?」

まどか「え・・・?」

 どうして彼女の口から佐倉杏子の名前が?

マドカ「えっと、長くて綺麗な赤い髪をポニーテールにしていて、顔は可愛いんだけど目尻があがってて牙みたいな八重歯の女の子!」

まどか「・・・知ってる、でも、どうしてあなたがそれを・・・」

マドカ「誤解しないであげて」

まどか「・・・誤解?」
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/19(日) 15:53:07.58 ID:Nkc1qvNY0
マドカ「杏子ちゃんは、本当は良い子なの!でも、昔色々在ったみたいで、それで・・・
だけど、本当は愛と勇気が勝つストーリー、そういうのに憧れ、魔法少女になったの!」

 思い出したのは獰猛にさやかを嬲る杏子の姿。あんな人が?まさか。自分はずっと、
さやかが殺されるのではないかと不安で、それでも何かすれば自分が殺されてしまうのではないかと
萎縮していた。・・・慙愧を、頭から追い払った。

まどか「そんなの信じられない・・・あの人、さやかちゃんのこと殺そうとしたんだよ?・・・マミさんが来なかったら、
もしかしたらさやかちゃんは――」

マドカ「――え?」

まどか「・・・どうかしたの?」

マドカ「――マミさんが助けたの?それじゃぁ、ほむらちゃんは?」

まどか「・・・ほむらちゃんは、知らない・・・」

 今頃彼女の名前が、どうして出てくるのか。・・・彼女は、ほむらが自分に銃口を向け、さやかを銃撃したことを知らないのか?
知らないのだろう。だからこそ、そんな能天気なことが言えるのだ。

まどか「ほむらちゃんはもう、駄目だよ」

マドカ「・・・駄目って、何を」

まどか「・・・もう、貴方以外見えてないと、思う。それにもうきっと、誰も彼女のことを顧みようとはしないんじゃないかな?」

マドカ「なんで――どうして――」

まどか「わたしは・・・もう良いよ。ほむらちゃんには、関わりたくない・・・
仁美ちゃんや、さやかちゃんにも、マミさんにも、関わってほしくない・・・」

 素直な気持ちだ。どうして、自分や自分の親友に害を為す彼女を――。
 まどかは唇を噛んだ。・・・どうして今、それが浮かんでくる・・・?
屋上で彼女が見せた寂しげな表情。場違いだ、彼女が求めているのは自分ではないのだ。
彼女の孤独は、自分達には癒せない。
もうわかりきったはずなのに・・・だから自分はもう諦めるしかないのに・・・。
・・・まだなのか。まだ、彼女が世界を束ねた副作用のまどかの意思は残っているのか。・・・一体、いつになったらそれは
消えてくれるのだろうか?
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/19(日) 22:55:03.81 ID:Nkc1qvNY0
マドカ「・・・本当に?」

まどか「うん」

 淀みなく、戸惑いを殺して、まどかは言った。まっすぐに小さい自分を見つめる。打診の言葉とは裏腹に懐疑の篭っていない瞳を見つめるのが、こんなに苦痛だなんて知らなかった。

まどか「うん、そうだよ」

マドカ「・・・そっか」

 小さなまどかは安堵したように温かく微笑んだ。

まどか「信じてないでしょ」

マドカ「・・・ウェヒヒ♪」

 ずるい笑顔だ。何もかも見透かしたような鬱陶しい笑顔。
さやかと杏子の諍いを止めたのがほむらではなくマミだと知ったときはあれほど動揺を呈したというのに。
・・・彼女は一体、何を知っていて、何を知らないのか。・・・それは、今後自分の役に立つのか。

まどか「・・・此処にいても良いよ」

マドカ「本当!?」

まどか「その代わり・・・あなたの知っていること、全部教えて。
あなたの知っている世界のことも全部・・・わたしのことも、さやかちゃんや仁美ちゃん、
マミさん・・・そしてあの佐倉杏子って人のことも」

 知って自分に何が出来るか解からないけれど、知らないで、救えたはずの友人を救えないのは嫌だ。

マドカ「ほむらちゃんのことも?」

まどか「・・・」

 仮に自分は彼女のことを知って、どうなるのだろう。自分は、もう以前ほど不条理に、彼女に対する関心は得られない。
漠然とした記憶で、彼女を解かった気にでもなるのか?その記憶の枯れ木がまどかの自尊心にくべられてほむらへの
愛顧を推進するのだろうか?もしもそれが実現したとき、自分はほむらと、そして自分を傷付けずにいられるのだろうか?
・・・ならば、何も知らぬまま、互いを結ぶものが消滅するのを、ただじっと待ち続ける方が良いのではないだろうか?
そうすれば、自分は苦しまないで済む。ほむらにだって、無駄な夢は見せずに済む。

まどか「ほむらちゃんのことは・・・まだいい」

 なんで『まだ』なんて付けたのだろうか。・・・偽善者だ、自分は。

マドカ「・・・そっか」

 互いに、どんな表情をしているか、解からない。見せたくなかった。きっと、酷く醜悪な顔をしているだろうから。


今日の分は終わります
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/20(月) 10:47:47.23 ID:A0t0BjbIO
乙っちまどまど!
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/21(火) 12:46:37.64 ID:Ppgm+OXfo
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/22(水) 18:35:15.39 ID:EOcDt3XT0
さやか「・・・それより」

 さやかは顔を上げた。不細工な、誰もがそれとわかる作り笑いをマミに向ける。

さやか「あの使い魔のご主人様倒しに行かないと、誰かが犠牲になりますよ。
行きましょう、マミさん!」

 マミはしばらくさやかの作り笑いに表情をきつくして対面していたが、ふと、諦観し、嘆息した。

マミ「・・・そのとおりね。あれだけ充分な結界を貼れるだけの魔翌力を有した使い魔の主だもの。
蔑ろには出来ないわ」

さやか「ですよね!まぁでも、あたしとマミさんなら恐るるに足らずって奴ですけど!
さーて、見滝原ツインエンジェルズの本業を、ちょっくら始めましょうか!」

マミ「・・・」

さやか「いやぁでも、あたしはあれがそんなに凄い魔翌力持ってるだなんて思わなかったけどなー。
あれ、これもしかしてあれですか?あたしの魔翌力が強すぎるあまりに使い魔の力がへぼく感じられたとか・・・?
いやぁ、こりゃ参ったなー!あはははっ!」

マミ「・・・それは、貴方が評価するほど経験と感応するほどの魔翌力がないだけ。
的外れな考察で思い上がるのは、惨めよ」

さやか「え、あ、いや、その・・・すんません」

マミ「・・・いえ、わたしこそ、ごめんなさい。大人げなかったわ。でも、どうしてわたしが嫌味を
言ったのか、いくら美樹さんと言えどもわかるでしょ?」

さやか「いやぁ、なんだかそれあたしが極上のアホみたいな言い方じゃ」

 マミは笑わない。表情を緊張させて、射抜くような眼光でさやかを威圧する。さやかの笑みが震え、崩れた。
俯くと、平衡できつくボルト締めたはずの天秤が軋む音が、だんだんと表面化してきた。耳鳴りが止まず、
景色が夜から昼に、場所が路上から学校の屋上に。俯いているはずなのに、目線の先にはまどかに銃を構えるほむら。
許せない。あいつはしてはならないことをしたのだ。さやかの意は決した。
――だが、喫茶店で、自分を励ましたほむら、小さなまどかと食事してるところを見付かったときの驚愕した表情の
ほむらが、さやかの決意を攪拌させる。

マミ「・・・わたしは、鹿目さんを優先する」

 肩が震えた。天秤の軋む音が増す。空転する思考。生じた熱が出口を捜し、目頭に集まった。

マミ「・・・今日は、わたし一人で行くわ。貴方は、帰りなさい」

さやか「待って・・・」

 顔をあげ、彼女の背に呼び掛けた。彼女は背を向けたまま、言う。

マミ「・・・解からない?今の貴方は、足手まといなのよ。こんな単純な問題に心を掻き乱されて。
煩雑したまま戦いに臨めば、魔女に命をからめとられかねないの。気持ちが収束するまで、貴方は
戦いに出るべきではないわ」

 マミは即座に変身をして、跳躍した。さやかはその背に何も語りかけることが出来なかった。

さやか「くそ!」

 叫んで、地面を踏みつける。――魔法少女に変身すると、マミの去っていった方向を睨んだ。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/22(水) 21:35:30.06 ID:GP84LAISo
メ欄にsaga
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/22(水) 23:45:01.47 ID:EOcDt3XT0
saga?
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2011/06/23(木) 09:39:39.30 ID:afrWQ/MYo
魔力
殺す

↑フィルターが外れて普通に書けるようになるよ
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/23(木) 10:44:09.36 ID:ryCHEiSb0
おお、ありがとう!
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/23(木) 13:04:03.22 ID:ryCHEiSb0
 微量の魔力の放散を感知し、より濃密なる地点へと、伸縮自在のリボンを電柱に巻きつけ、
見滝原の夜に金色の軌跡引いて滑空しながら、マミは急ぐ。向かうのは光の賑わう場所ではなく、
夜闇がどんよりととぐろを巻いた場所。こんな風景を見せられては、センチメンタルにならざるをえない。
 
 これが魔法少女だ。希望を持たなければならない職務だけれど、待っていてくれるのは希望ではない。
いつだって絶望で、大きく口をあけたそれに跳び込んで、押し潰されるのに抵抗して、
まばたきすることもままならないまま、腹を割いて死肉を貪りながら生きるしかない。
解かっている。自分の生き方には、いつか崩壊が待っていたことを。
・・・孤独に戦いながら、同族とさえ馴染めぬ日々。自分が救っているのは、餌の餌。
自ら自らのヒエラルキーを脅かす愚行の繰り返し・・・。
今は、幼い頃から躾けられてきた正義感が、達成するたびに激励してくれるけれど、
やがてそれが錆付き、無理にギミックを動かそうとすることで粉々に
壊れてしまったら、そのとき自分はどうするのか?自分さえも行為を称賛しなくなったとき、
どのような堕落を呈すのか。繰り返し、繰り返し、マミはその情景を孤独の中に思い描く。
道理を理解すればするほど、より信憑性の高いものへとそれは鮮明化される・・・
自分は多くの魔法少女のように、人間が餌であると認識し、
魔女を養殖して自らの生活を延長させることを尊重することになるだろう。
佐倉杏子のように。

 だがそんなものは、孤独が作りだした幻像でしかなかった。

 今はもう、マミは独りではない。自分の功績を讃えてくれる人、そして信頼してくれる後輩がいる。
彼女達のおかげで、また、マミはまだ人を救い、自分が人間であるのだと信じることが出来る。
魔女と魔法少女は善悪の間柄であり、ただの生態系の上下ではないと確信することができる。
だから、失いたくないのだ。きっと彼女達を失えば、自分はとうとう瓦解する。
それが、たまらなく怖い。だからこそ、自分は彼女達に仇なす存在を、許すことが出来ない。もう、孤独にはなりたくない。
 
 マミがさやかにあれほど辛く当たったのは、彼女への嫉妬も孕んでたからだろう。
未だ全てを救えると信じて、その前後の思考をしようとはしない。
もしもに備えない。幸福な境遇で育ったからこそ出来る楽観だ。両親と友人に撫育された慢心に、マミは羨望さえ抱く。
・・・マミだって、出来ることなら彼女と同じ領域で思考を止め、まだ両方救えるという未来を盲目したい。
だが、どうだろう、現実は。暁美ほむらはとうとう鹿目まどかに銃を向けるという凶行に及んだではないか。
いかような意図あるにせよ、友愛を抱く相手にそんなことをするわけがないだろう。もはや、未熟では寛恕できない
ことを彼女はしたのだ。これ以上、鹿目まどか、そして美樹さやかにも、危害を与えたくない。彼女に全てを
奪われそうで、怖い。・・・それが本音だ。

 もう独りぼっちは嫌だ。だからマミは戦う。たとえそれが残酷だとしても、さやかの憧れから外れても、
彼女達を失うくらいなら。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/23(木) 23:41:20.30 ID:ryCHEiSb0
終わります
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/23(木) 23:42:51.30 ID:Xo5OJ8/bo
お疲れ様でした。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/24(金) 13:58:28.82 ID:HaG6NpIfo
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/24(金) 14:14:58.21 ID:TYQqvxKs0
商店街から遠く離れ、山を拓いて作られた厳粛な雰囲気の漂う高級住宅街を抜けた先にひっそりと豪邸があった。
表札には『美国』とある。マミも聞いたことがある名前だ。
確か、汚職で黜廃された衆議院議員の。
失礼を小さく侘びて、厳粛な門を跳躍し、母屋の屋根の上に跳び移った。
そして、顔を顰めた。
マミを厚遇したのは膨大な瘴気。・・・おそらく、相当数の人間を食っていると見て良いだろう。
警戒する必要などなかったかもしれない。此処には常人が残っているとは、思えない。
縁まで進み、広大な庭園を見下ろした。月光を映す小さな池が辺りを淡く浮かび上がらせる。
コンクリートのタイルの上に降りたち、
その両脇に沿うように造られたダイバーシティな花壇。夜闇だからか、それらが痛ましく沈んでいるように見える。
また花壇より奥に広がる樹木の間を進みながら、
マミは庭園の中心だろう場所に建てられた小空間へと辿り着く。
椅子やテーブルが置かれ、本来なら優美だろうこの景色を眺めて一服する場所だろう。
だがそこはまさしく、今は魔女の温床であった。マミはテーブルに突き刺さったグリーフシードに手を翳し、結界へと介入した。

 景色が変容する。戯画的な彩の稚拙な空。地面は斑のあるねずみ色で、道路には思い出したように書き殴られた、
意味の持たない規制表示が浮かび、周辺の住宅、またおそらくは学校だろう場所は総じて白く、どこか窪んでいたり、
溶けていたりする。だが、その中にもとりわけ鮮明な造りとなった場所(ある一つの家や、学校だろう場所の一つの棟)
には、黒塗りの人相書きが貼られ、その顔だろう位置にはバッテンの裂傷が走っている。進もうとすると、何かを踏んだ
――それはこの中にあるどれよりも鮮明だけれど、とても巧妙とは言えないマミの絵だった。
それを見上げて、大量の白い芋虫のような使い魔が降りてくるのを認めた。
まるで空が落ちてきたかのように隙間がない。
そして、奴らは一斉に、正中線に沿った大口を開けた――
ひとつひとつ銃で落としてもいられない、リボンだって間に合わない!結界を張らないと――
だがマミは戦慄し、思考も硬直した。
その情景は、過去にお菓子の魔女と戦ったときの恐怖を想起させたのだ――驚愕に震えて事前準備など
烏有に帰してしまい、どうすれば良いのか解からない――

「おおおおおおおおおおおおおっ!!」

 怒号。マミの視界が一瞬で暗くなる。何が起きたのか、理解が出来ない。これはなんだ?布?さっきの声は誰だ?いや、あれは・・・

マミ「美樹さん!?」

 被った布をもがいて、光を探す。

「はああああああああああああっ!!」

 少女のものとは思えない野太い叫びを上げながら、美樹さやかは剣舞する。
着地した使い魔に足を食いちぎられても、取り逃がした使い魔に肩を食いちぎられても、
幾度と無く再生して、剣を振り、時折飛ばす。
上空からの使い魔の降下が止むと、強化したマントから少しだけ顔を出したマミをマントごと担ぎ、
正面の扉を目指して高く跳躍した。
そこに降りることは叶わない。先に行かせまいと集合した使い魔が邪魔なのだ。だから、頼む。

さやか「マミさん、やっちゃってください!」

 マントを剥ぎ取り、マミに笑い掛けた。少しだけ困った顔をするマミ。彼女との確執は自覚している。
だけれど、こうするしかないのだ。こうやって、場を掻き乱せと言われたから。
迷いは憂いがあるけれど、今はそれにかまけている暇は無い。そこでうだうだとしていて、大事なものを
失うのは、嫌だから。

 マミは不細工に微笑み続けるさやかを見て、嘆息した。この子には、悩めというほうが無理なのだろうか?

マミ「――ティロ・フィナーレ」
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/24(金) 19:45:53.41 ID:TYQqvxKs0
さやか「マミさん、あの」

マミ「話は後よ。これだけの量を相手にするのは愚かだわ、さっさと魔女のところに行きましょう
・・・それと、さっきはありがとう。助かったわ」

さやか「――はい!」

 降下しながら、二人は短く信頼を交わすと、視線を扉に向け、互いに、憂いのない表情を浮かべた。
着弾した場所には、放射状の焦げがに広がっているだけで、平面のままだ。
焦土の境界から、徐々に残存している使い魔たちが押し寄せてくる。体をバネにしたその進行は速くもないが、決して遅くもない。
二人はそこに降り立つと、マミが簡素な木製の扉を開けて、次なる結界へと侵入した。

 天井には橙色に光る電灯がぶらさがっており、内部はやや冥々としている。
赤と黒のチェックの床。
幅はおよそ三人が並んで通れるほどの一本道で、両側は一面の壁だ。
そう遠くはない奥に、扉が見える。
いや・・・窓、だろうか?

さやか「うわっ」

 さやかが唸った。どうしたのかと、彼女の視線を警戒して辿る――光に順応した視界に移ったのは、一人の少女。
厳密に言うのなら、両壁に所狭しと貼られた、一人の少女ばかりの写真。
とても美しい美少女だ。それに、お嬢様学校と世間的な覚えのある中学校の制服に身を包み、
それに着られない気品もあって、肉感的で、優美な肢体を持っている。まさに絵になる佳人だ。
しかし、どうして一枚も、正面を向いたものがないのだろうか?
横顔や、正面かと思えば少しからのアングル。もっとも多いのは、後ろから
顔半分だけ映した、振り返る直前のものかもしれない。

さやか「ストーカー・・・?」

マミ「・・・でしょうね」

 それも、相当純潔なのだろう。

さやか「え、でも魔女って、恋とかするんですか?」

マミ「・・・さぁ、どうなのかしら?聞いたことがないわ・・・」

 これだけの写真を、魔女はどうやって収集したのか?・・・おそらく、此処に映っているのは、美国家の子女だろう。
少女が背にする豪邸、また庭園風景が、先ほどマミが見物したものと酷似している。ただ、マミの記憶には、少女が
不在だというだけだ。

さやか「・・・なんだか、切ないなぁ・・・」

マミ「・・・どうして?」

さやか「え?あ、いやぁ!ただ、なんとなく・・・」

マミ「・・・あぁ、そうだものね。貴方は、恋する乙女だったわね」

さやか「え、いやっ、ちょっ、そんなんじゃないんですって!あいつはただの幼馴染で・・・」

 マミは狼狽するさやかを見て、小さく笑った。難問から逃げるのは巧いのに、こういった常問から逃れるのには
苦心している様を見ると、微笑ましい。

さやか「ちょっ、何笑ってんすかもー!あたしはあいつのバイオリンが好きなだけで別にあいつのことなんて・・・」

マミ「はいはい」

さやか「し、信じてないでしょー!」
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/24(金) 20:46:35.49 ID:TYQqvxKs0
マミ「――美樹さん!!」

 景色が激動する。正面の扉は倒れて、壁が後方に流れていく。すると、支えのなくなった天井が倒れてきた。

マミ「跳んで美樹さん!」

さやか「言われなくても!」

 対称に二人は跳躍し、落下する天井を回避した。

さやか「向こうから来てくれたみたいっすね!グッジョブあたし!」

マミ「撃つわよ」

さやか「すんません」

 辺りは暗澹としていて、声はよく反響すけれど、さやかの姿が見えない。仰ぐと、中心から円状に広がって、
完全に蓋をされた場所と、遮蔽に斑があり、光が漏れている場所がある。彼我の距離は、五十メートルほどだろう。
だが、それもやがて、何ものかの介入によって、縫合されるように幾筋も帯を浮かべて塞がれた。
そこは淡く光が募っているけれど、足元が碌に見えないほど、周囲は暗闇に満ちた。

さやか「マ、マミさん!?」

マミ「静かにして」

 考えている間に、魔女が動き出すかもしれない。
マミは大砲を召喚すると、頭上の、淡く光る場所に向かって発射した。内部で轟音が響き、
さやかの阿呆のような悲鳴が聞こえた。

 砲弾の先の闇で、何かが蠢く。砲弾は見事に天井を穿ち、マミの半径五メートルには陽光が降り注いだ
――即座に、マミはリボンで結界を張った。
すると、降り注いだもの、何処から現れたのか解からない白い芋虫のような使い魔がまた大口を開けてマミに跳び込んできた。
結界に牙を当て、身を捩る。トラウマを抉り、さらに塩を塗る情景。
首筋に、汗が浮かぶ。唇を噛む力が強くなる。だけれど。

さやか「マミさん!!」

 マミは笑った。

 周囲にマスケット銃を展開し、両手に一本づつ握ると、マミは結界を解いた。恐るべき銃捌きを披露しながら、踊るように
銃撃を繰り出し、臆することも、リズムを刻み違えることもなく、軽妙に使い魔を殲滅していく。

さやか「どいたどいたあああああああ!!」

 マミはさやかに従い、後ろに高く跳んだ。そして、光を通し、内部を認識する。奥にぎっしりと犇く、使い魔。
まるで、虫がひたすら卵を植え付けたかのような、身の毛のよだつ状況だ。これらの餌として、自分達は招待されたのか。
そしてそれらの親玉は、あの高遠な上界で、悠々と見物でもしているのだろうか。
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/24(金) 23:16:14.06 ID:TYQqvxKs0
終わります
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/25(土) 00:03:17.06 ID:SLvV0/+Jo
乙っちまどまど!
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/25(土) 11:56:59.96 ID:5pmrOgnc0
 どうやって上まで昇ろう。マミの身体能力では、魔法で強化しても難しそうだ。
銃を打ち込み、リボンを植え付けそれで簡易エレベーターを作ろうか?
しかし何処に?さきほどの砲撃のさい闇の中で蠢いたのは、使い魔共だ。
壁に沿って、上までぎっしり、いや、この落とされた穴の壁全てに植え付けられていると見て間違いない。
また、使い魔たちは光を認知し、敵と看做した存在に躊躇い無く飛び込む習性を、先ほど呈した。
壁に着弾して定着する前に使い魔に止められてしまう。
ならば壁が露わになるまで殺戮するのは、魔力の空費だ。魔法少女としてスマートではない。
やがて、マミの開けた穴は縫合されていき、暗闇が落ちようとしている。

マミ「・・・美樹さんさがって!」

 マミに従い、さやかは後ろに跳んだ。そして、マミの隣に並ぶ。

さやか「きりがないっすよ・・・こいつら・・・」

マミ「ええ、このままじゃジリ貧よ・・・早急に魔女を討つのが得策でしょうね。
ねぇ、美樹さん。貴女の身体能力で、上まで行けそう?」

さやか「・・・やってみます」

マミ「待って。私が開けた穴と、この真上には跳びこまなくて良いわ。出来るだけ光の漏れた場所に。
でも使い魔に気を付けてね。奴ら、それなりの学習能力があるみたいだから。
それから、壁にはぎっしりと使い魔たちが詰められているから、絶対に近寄らないこと」

さやか「うへぇ・・・らじゃぁ・・・」

 マミとさやかが立っているのは、もっとも影の濃い半径十メートルほどの円の下。
さやかは光の具合でドーナツとなっている場所の、マミが開けた場所と丁度対称の位置に狙いを定めた。
足を屈したさやかの足元に、楽譜の形態をした魔法陣が浮かび、発光する。――上から、荒い吐息が聞こえた。
 視界を金色の光が行き交う。

マミ「いいから行って!」

 降って来る使い魔。自分の所為だ。せめて、功を挙げて贖わなければ。唇を噛み、さやかは跳んだ。
反響する、鳴り止まぬ銃声。胸を焦がされ、さやかは膜を睨む。・・・だが、さやかの思いとは裏腹に、体は減速を始め、
とうとう、体は宙でエネルギーを失った。もう少しだ、もう少しで、届くのに・・・!

さやか「――畜生!」

 足元に、魔法陣が浮かぶ。

さやか「とっ」

 さやかは、足を屈した。

さやか「どけぇ!!」

 両手に剣を持ち、それを交差させて上に構える。断裁の音、貫いた感触。
さやかは勢いが消える前に、上げていた両手を対称に広げて、
上界へと勇壮に躍り出た。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/26(日) 00:03:11.33 ID:SUMtv4zM0
今日は終わります
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/26(日) 03:13:00.56 ID:Nrsw0AwOo
乙っちまどまど!
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/26(日) 07:07:35.10 ID:DTDbdhBXo
お疲れ様でした。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/26(日) 16:35:43.94 ID:SUMtv4zM0
 瞼を刺す苛烈な陽光。遅れて芳しい、上品な香りが鼻腔をくすぐる。
花?香りを嗅いだだけで、はたしてどのような植物がそれを発しているのか解明するほど明るくないさやかだが、
匂いを辿って振り向いた方向――丁度、先ほどさやかたちが居た、下界で最も影が落ちた領域の直上――
に粛然と広がる薔薇庭園を認め、匂いが薔薇のものであると察した。
そして目を見開き、すぐに興味は別の物へと移る。
結界内に入る前に見た、テーブルと椅子が、薔薇たちの微笑に囲まれている。
いや、その薔薇たちが本当に微笑を与えているのは――幾つもの写真の中心として映っていた、高貴な美少女。
写真の精気は失われ、虚ろな表情を浮かべて、足を閉じ、両手を膝の上で畳み、彼女はそこに座っていた。

 生きているのだろうか?それとも、既に死んでしまっているのだろうか?

 確かめるしかない・・・!剣を放し、先ほど会得した空中での跳躍を用い、そちらに向かった
――それと同時に、風を切る音が聞こえ、さやかは咄嗟にそちらを仰いだ。
何かしらの対策をしなければと考案しようとしたその時には既に遅く、
さやかの左足は、束ねられて太くなった、粘着質のある白い縄に捕縛され、
慣性で強靭なそれを千切ることが叶わず、少女のもとに届かぬまま、宙吊りとなってしまった。

さやか「――このっ!」

 召喚した剣を右手に持ち、体を屈して足に絡みついたそれを切断する。
魔女は上か?庭園の直上に浮かんだ、太陽の役割演じている半径五メートルほどの球体が照らしているのは、
庭園と少女、また、庭園の周りに、すこし土が盛り下がって、ドーナツ状で張り巡らされた、
白い網や、壁に描かれた戯画的な樹木や柵の景色。
擬似的な太陽のその先には、まるで球体の頭を蓋で覆われているように、中心から離れていくほど曖昧となる暗闇が漂っている。
その暗闇の中、間違いなく庭園の直上に、魔女は潜んでいるとみて間違いないだろう。
さやかの抵抗の意思を見受けたのだろう、第二射が放たれた。さやかは頭足を戻すと、宙を蹴り、間一髪で縄を避けて、軌跡を
辿る。飛翔しながら、次々と、さやかを縄は襲う。攻撃は速い、だがそれ以上にさやかは速く、また大きさの悪目立ちや、
一本だけという愚直から、それが来ると気構え、また明敏に備えていれば、回避するのは容易であった。
暗闇に突入すると、さやかは瞳をより一層大きく開いた。眼に魔力を流し込み、さきほどの宙を跳躍するとき要領で、
尋常ならざる力を発揮する。――迫ってくる、網状の糸群。一筋縄では捉えられぬと察し、戦術を変えたようだ。その先に、ようやく
魔女の姿が呆然とだが、見えた。丸く膨らんだ図体、その中心に裂け目を浮かべて、有事の際そこから糸を発している。
さやかは右手に持った剣を両手持ちにして、刃を目先に突きつけた。

さやか「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 渾身の力を込めて跳躍し、魔女に迫る。縄がさやかを捕らえた。
だが、さやかの猛烈な慣性を止め切ることは出来ず、そのままさやかは
魔女に肉薄する。

 怪物とさやかの間に、幾筋の物体が交差して浮かび、さやかの刃を受け止めた。
丁度その音は、数時間前に聞いたものに似て、
金属と金属が噛み合う音。刃を通そうと力を込めて突き出すと、えもいわれぬ不快な音が発せられる。

 接近したことにより明瞭となった怪物の姿。
縦線が三メートル、横線が二メートルほどの楕円形の体型で、縦線に沿って、左右に五本づつ足が生えている。
さやかを迎えたのは怪物の多関節の足に生えた鋭利な爪で、一足に三本、
今さやかを相手にしているのは三列目の二足で、見たところ、怪物の足は一列二足、全部で五列の十足、
つまりは計三十本の鉤爪を相手は携えている。そのうち一列目と五列目は、天井に張りつくのに使われている。

 天井に張りついた怪物へと突撃したさやかは、垂直になって慣性を消失すると、剣を左手にだけ持って、
右手にすぐに剣を召喚すると、怪物の腹を狙って突き出した。
怪物の悲鳴――さやから見て、裂け目のやや右に剣は突き刺さる。すると、痛みに悶え苦しむ怪物の四列目の左足が乱暴に、さやかに
振るわれた。さやかに刃が迫る――が、競り合いを捨て、左手にもった剣を放し、さやかが裂け目の前に手を翳すほうが速かった。
 
 召喚されたさやかの剣が怪物の体を貫くと、さやかに迫った三本の刃は至近で制止し、やがては力無く、だらんと落ちた。
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/26(日) 17:16:36.13 ID:SUMtv4zM0
さやか「・・・やったの?」

 質問の相手を挙げるなら、それはこの怪物だ。怪物は黙して答えない。だが、それが何よりの回答だった。

さやか「・・・ふぅ、てこづらせやがって」

 降りるのが面倒くさい。剣にぶらさがり、さて、後は結界が崩れるのを待つだけか・・・。

さやか「・・・」

さやか「・・・」

さやか「・・・あれ?」

 どうした、ちっとも崩れないぞ?

さやか『ままま、マミさん!?』

マミ『なぁに?』

さやか『あっ、無事だったんすね・・・ってそーじゃなくてですよ!!あの、魔女倒したみたいなんですけど、でも結界が全然壊れなくて!』

マミ『そう、それじゃぁ魔女じゃなかったのね』

さやか『いやいやでもですね!!結構大きくて、それになんかあの魔女特有のきもちわる〜い姿でですね!?』

マミ『そう・・・ねぇ、今何処にいるの?』

さやか『あ、えっとあの、天井っす。そこに魔女が居てですね!?』

マミ『はいはい。ねぇ、上には光の球があるじゃない?擬似的な太陽なのでしょうけれど・・・それ、落とせないかしら?』

さやか『は?え、でもその下にあの、めっちゃ綺麗な人いますよね?』

マミ『大丈夫よ。彼女なら、わたしが確保したから』

さやか『はぁ・・・そっすか・・・じゃぁ、ちょっとやってみます』

 剣を引き抜き、さやかを光に落ちた黒点を見る。よくみれば、その直上にはコードのようなものが伸びている。
空中を蹴り突進すると、さやかはそれを切り裂いた。拠り所の失った球体は落下を始め、少女の居た庭園へと墜落する。
球体の熱が、庭園の植物に引火したことにより、下では火炎巻き起こった。響いてくる轟音は、たんなる燃焼の副産物にも思えたし、
悲鳴のようにも感じられた。

 落下しきる前に結界は消え、さやかは回帰した夜の庭園、美少女を抱くマミの横に、降り立ち、魔法少女の衣装を解いた。

さやか「・・・腑に落ちねぇ・・・」

マミ「まぁ、そういうこともあるわよ」

 マミはさやかを見て微笑んだが、すぐに表情を厳格に取り繕った。さやかはふと、マミとの関係が険悪になりかけているのを、思い出した。

さやか「・・・あたしなりに考えたのですが・・・」

マミ「・・・えぇ」

さやか「・・・やっぱり、両方で」
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/26(日) 22:20:33.81 ID:SUMtv4zM0
マミ「・・・それが、どういう意味か、解かって言っているの?」

さやか「・・・」

さやか「・・・いや、正直よくわかんないっす・・・」

マミ「はぁ?」

 弩級の阿呆な回答を受け顔を顰めたマミに、さやかは苦笑した。

さやか「いや、あたしってほら、御存知のとおり馬鹿ですし、
マミさんほど人生経験もなくって、どちらかを救うためにどっちかを、
なんて、正直そんな難しい局面に立ち会ったこともないし、
二者択一なんて、せいぜい学校のテストくらいっすよ!
まぁ、それだってあたしは運任せとか平気でやるんすけど・・・」

マミ「・・・」

さやか「いや、あいつに腹が立っていないっていえば、それは嘘ですよ!?
あいつはあたしの大切な親友に銃を向けたんすから!
あたしなんて、何発か撃たれたし!
・・・でも、マミさん言いましたよね?
今のあいつを作ったのって、あたしらも一員だって・・・
あたしなんか特にそうでしたよ・・・妙に敵意むき出しで絡んで来るわ、
人のこと見下してすかした態度とるわ・・・気に入らなくて、
ずっと冷たい態度執り続けてきた・・・あいつから、まどかを遠ざけて
・・・それじゃぁ、どうしてあいつがちっちゃなまどかにばっかり
執着するのかって、元を正せばあたしが元凶なんですよね・・・
そんなあたしがですよ?・・・励ましてくれたり、嫌々風だけど、
それでもこっちの我侭聞いてくれたあいつを、まだ何も聞いてないのに、
魔女とかみたいに悪者って決め付けて倒そうとするのは
・・・ちょっと勘弁してほしいっす。
あたし、そこまで無情になれないし、なりたくもないから」

マミ「・・・まるで、わたしが冷血みたいな言い方ね」

さやか「たはは・・・まぁ、一番は、あいつより性質の悪い奴を見つけたから、正直それどころじゃないっていうのなんですけど」

マミ「・・・やっぱり、貴方と真面目に会話するのは、愚かなようね。頭痛がするわ」

さやか「はっはっは、よく言われます!」

マミ「笑い事じゃないのよ・・・?」
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/26(日) 22:53:59.44 ID:SUMtv4zM0
おまけ

庭園の魔女 その性質は求愛

愛した少女が愛するものへと成り果てた魔女の姿。少女が愛した姿となり、少女の愛する香りを放ち続け、
いつの日か、少女が自分に振り向いてくれることを、少女の傍で願い続ける。その香りが、少女を
破滅させようとしていることに、気付くはずもなく。


庭園の魔女の手下 その性質は守護

闇に潜んで、少女と魔女に姿を決して見せぬ自戒を鏤骨し、両者に近付くものを決して許しはしない。
また、外敵を迎えるための卵を結界内に産み続け、有事の際にそれらを孵化させ迎え撃たせる。往々に養分の調達を
任じることもある。それらによって収集された養分はすべて、二人の庭園のための光球に注がれる。
時折、自室の写真室に篭っては悦に浸る。


終わります
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/27(月) 01:55:39.83 ID:NMBhNHajo
乙だぜ
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/06/27(月) 02:32:05.09 ID:IknHwm8oo
乙っちまどまど!
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/06/29(水) 13:05:35.79 ID:niFKlDVF0
おまけ

庭園の魔女 その性質は求愛

愛した少女が愛するものへと成り果てた魔女の姿。少女が愛した姿となり、少女の愛する香りを放ち続け、
いつの日か、少女が自分に振り向いてくれることを、少女の傍で願い続ける。その香りが、少女を
破滅させようとしていることに、気付くはずもなく。


庭園の魔女の手下 その役割は守護

闇に潜んで、少女と魔女に姿を決して見せぬ自戒を鏤骨し、両者に近付くものを決して許しはしない。
また、外敵を迎えるための卵を結界内に産み続け、有事の際にそれらを孵化させ迎え撃たせる。往々に養分の調達を
任じることもある。それらによって収集された養分はすべて、二人の庭園のための光球に注がれる。
時折、自室の写真室に篭っては悦に浸る。

ごめんなさい、修正しました
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2011/07/21(木) 14:45:35.70 ID:zw88jafAO
ハハッ!にいちいち吹くww

ん?なんだお前らやめr
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/07/31(日) 03:29:12.28 ID:FkhPMHl20
 呆れ果てたマミに、さやかはまた苦笑を上げた。自然と、それを見るマミの口元が緩み、きつく締められた眦が綻ぶ。

さやか「ところで、その子、どうします?」

 さやかはマミに抱かれた美麗な少女を指差した。

マミ「そうね・・・・・・とりあえず生きているようだけれど、
魔女に囚われている間に精気を多く消耗してしまったでしょうから・・・・・・
そうね、美樹さん。彼女に治癒をしてあげてみてはくれないかしら?」

さやか「りょーかい♪ さやかちゃんいきまーす!」

 さやかは額に添えていた右手を美少女の額に翳した。青い燐光がさやかの全身から噴き出て、それが少女と、
そしてマミまでも包みこみ色を増していく――

マミ「ストップ!!」

さやか「うへぇ!?」

 燐光が散逸し、夜闇に消えた。

マミ「美樹さん・・・・・・幾ら何でも力を使いすぎよ・・・・・・」

さやか「え、あ、あれ?マジっすか?いやぁー・・・・・・自分では解からなかったんすけど」

マミ「全く・・・・・・貴方は少し、自分の力をセーブすることも訓練した方が良いでしょうね・・・・・・
ソウルジェムの穢れ、早く払った方が良いわ・・・・・・グリーフシードがそこにあるでしょう?拾って使いなさい」

さやか「へーいっと・・・・・・うへぇ。ひっどいなぁ、あたしのソウルジェム。随分と濁っちゃって・・・・・・
洗浄洗浄クイックリン♪」

さやか「――あっ。そーいやマミさん」

マミ「何?」

さやか「ソウルジェムって、穢れをそのままにしておいたらどうなるんすかね?このまま真っ黒になっちゃうんすか?」

マミ「・・・・・・え?」

さやか「え?」

 さやかはいつものように漫然とマミに質問した。きっと彼女なら正解を教えてくれだろうと。
しかし、その質問はマミにとっては晴天の霹靂だった。そういえば、濁りきったソウルジェムはどうなるのだろうか。
考えたこともなかったし、QBに問うたこともなかった。

マミ「・・・・・・どうなるのかしらね?」

さやか「ありゃ?マミさんでも、知らないことってあるんすね」

 神妙なマミに対して暢気に言いながら、さやかはソウルジェムにグリーフシードを当て、
ソウルジェムの穢れを祓った。マミはその様子をじっと見つめていた。その様子に当てられ、
さやかも自然と、燦然としているソウルジェムが、夜闇に溶けるほど濁りきった結末に思慮を馳せていた。

――・・・・・・一体、これが濁りきると、どうなるのだろうか・・・・・・――

「うぅん・・・・・・」

 沈黙が、呻きによって崩れた。二人の注意は、マミに抱かれた美少女へと移る。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/07/31(日) 04:00:01.62 ID:FkhPMHl20
 さやかは月光に照らされた彼女の虚脱した顔を見ながら、本当に美しい少女だと感心していた。
その顔に刻まれた苦悩の痕も、彼女を引き立てる要素になっている。羨ましい、自分もこれほどの美人だったら
どれほど人生が楽だっただろうか――

「あああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 さやかと対面した瞬間、少女は顔を歪め、叫びを上げて暴れ出した。マミは彼女を落とさぬように下ろす。少女は腰を抜かし、
尻を引きずりながら、さやかを見据えて後ずさった。さやかは呆然とするばかりだ。

「いやっ!いやっ!こ、こここ来ないで!!いやっ!!いやああああああああっ!!」

マミ「貴方、少し落ち着いて?ね?」

「いやぁ・・・・・・来ないでぇ・・・・・・お願い殺さないでぇ・・・・・・!」

マミ「大丈夫よ。此処には貴方を襲う人なんて誰もいないから。大丈夫よ、落ち着いて、ね?」

 マミは少女に近付き、抱き締めて、あやした。少女の悲鳴は治まり、嗚咽だけが余韻を引く。
さやかはそれを見ながら、言葉に詰まっていた。当然だ。だって自分を見て悲鳴をあげられたのだから。
失礼だと思う反面――彼女がどれだけ正常ではないかと思い知らされる。絵に描いたような憔悴の狂人。
彼女に憤慨するほど、さやかは愚かではない。
 だが納得もまたしていなかった。何故自分に対してそれほど拒絶を呈したというのに、マミに対しては
そうではないのか。必死で少女をあやすマミを見ているのは、あまり面白くはなかった。

マミ「落ち着いたかしら?」

「・・・・・・えぇ」

さやか「・・・・・・ねぇ」

 少女がゆっくりとさやかに振り向き――また、顔を引き攣らせたが――今度は、すぐに悲鳴をあげたりはしなかった。どうしてか?
多分、さやかが声を出した瞬間、さやかの体をマミのリボンが拘束したからだ。

マミ「・・・・・・ねぇ、どうしてあの子に怯えたの? あの子にとって貴方は、初対面のはずなのだけれど、
何処かで会ったとか?」

 さやかを戦々恐々と頻りに窺う少女の態度に、やがて萎縮が解け始め、最期にはどうして自分が彼女に怯えていたのだろうかと
自問するほどにさやかへの怯えを消した。

「違う・・・・・・」

マミ「何が?」

「彼女じゃ、ない・・・・・・」

 少女は呆然とそう呟くと、すぐにはっとして居住まいを正し、咳払いをした。

おりこ「礼を失した態度を取って申し訳ありません。私の名は美国織莉子と申します・・・・・・
この姓を、見滝原の人間であれば御存知でしょう?」

マミ「えぇ・・・・・・確か、衆議院議員の」

おりこ「そのとおり。私の父は、元衆議院議員の美国久臣です」

 汚職で逮捕された議員の娘。その自身の汚れた過去さえも包み隠さず厳粛に晒す威厳を彼女は衒っていた。
とても強い眼力だ。しかし、それが彼女の強さなのか、それとも諦観からなのか――瞼の震えにはどれだけの意味が詰まっているのだろう?
マミは考えながら、息を吐いた。

マミ「・・・・・・わたしは巴マミ。よろしくね、美国織莉子さん」
 
 マミはそういって、彼女に手を差し出した。彼女の顔から、しこりが取れたような気がした。一転柔和な笑顔を浮かべ、
おりこはそれに応じる。

おりこ「よろしくお願いします・・・・・・巴マミさん」
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 10:25:26.31 ID:J2hB/ktr0
久しぶりにきてる!乙!
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/07/31(日) 23:35:32.55 ID:FkhPMHl20
今日はもう終わります
多分また停まります
ごめんなさい
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/08/01(月) 00:16:23.60 ID:Uc6h7vODo
乙っちまどまど!
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/04(木) 05:46:01.94 ID:0/aGq5vIO
乙。

さやかがノーバディになる展開まだー?
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/08/12(金) 14:27:19.15 ID:Z2d9nND60
さやか「おい」

 穏やかな雰囲気で握手を交わす二人をさやかは裂いた。眉を顰めて声は荒い。しかしそれも頷けるだろう。
一人だけ拘束されて度外視されれば、不愉快にもなる。

おりこ「・・・・・・っ!」

 おりこは悲鳴さえ上げないけれど、さやかに対して怯えを見せた。・・・・・・自分とは違うが、似ている誰かに
怯えている彼女。一体彼女に何があったのか・・・・・・考えている間に、マミが拘束を解いた。

マミ「ごめんなさいね」

 マミは軽佻に謝罪した。

さやか「誠意が足りないっす」

マミ「それはお互い様でしょ?」

 言って、マミは虚勢を張りながらも微動しているおりこに向き直った。

マミ「彼女なら大丈夫。ちょっと、ここがこうなっているけど」

 マミは自分の人差し指を側頭に差し、くるくる回して最後にぱっと手を開いた。

さやか「ちょっとマミさん!」

マミ「あら、どうかしたの?」

さやか「いくらなんでもそれは失礼じゃないっすか!?」

マミ「え?本当のことじゃない」

さやか「いや・・・・・・本当かもしれないっすけど・・・・・・」

マミ「でしょう?」

さやか「いやだからって!」

マミ「美国さん、これからどうするの?」

さやか「えっ、此処で無視・・・・・・?」

 二人の応酬を眺めながら、くすりとおりこは笑い、マミに向いた。

おりこ「・・・・・・そうですね。これから自宅の整理をして、また日常に戻ろうかと思っています。
そうするしか、他にすることもないので」

 マミは彼女を見ながら、本当に芯の強い人なのだと感心した。そんなにおびたたしい悲痛を浮かべながらも悲鳴を上げられずに
居られるなんて。・・・・・・こんな人間を、知っている。

マミ「提案なんだけれど」

おりこ「?」

マミ「わたしの家で、暮らさない?」

おりこ「・・・・・・」
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/08/12(金) 14:38:34.92 ID:Z2d9nND60
おりこ「・・・・・・施しは、受けない主義ですので」

マミ「・・・・・・あら、誰が貴女にお布施をしようと言うの?」

おりこ「はい・・・・・・?」

マミ「受けるのはわたし。わたし、両親が幼い頃に死んでから一人暮らしをしているの。いい加減寂しくて、
丁度同年代の同居人が欲しかったところなのよ。
美国さん。貴女の事情は知っているわ。是非、わたしと一緒に暮らしてはくれないかしら?」

 こういう人間をどう扱えば良いかなんていうのは、マミには造作もない。

さやか「マミさん気障っぺー」

 さやかは後でしばこう。

マミ「それで、お願い出来る、美国さん?」

おりこ「あ・・・・・・えっと・・・・・・」

マミ「嫌かしら?わたし、凄く困っているんだけど」

おりこ「・・・・・・貴女って意地悪なんですね」

マミ「最近、よく言われるわね」

さやか「意地悪ですもん」

マミ「美樹さん?」

 マミの微笑みから顔を逸らし、さやかは拙い口笛を吹いた。

おりこ「ふふっ・・・・・・仲がよろしいんですね」

マミ「そう見える?心外だわ」

さやか「もー。マミさんったら照れちゃってー可愛いー」

マミ「はいはい」

おりこ「ふふっ」

おりこ「巴さん」

マミ「なぁに、美国さん」

おりこ「・・・・・・先ほどのお誘い、申し訳ないけれど、辞謝させていただきます」

マミ「・・・・・・そう、解かったわ――」

おりこ「代わりに」

マミ「?」

おりこ「――どうか、貴女の家にわたしを住まわせてくれないでしょうか?終ぞ独りになってしまい、寂しい処遇なんです。
是非どうか、受諾して頂きたく存じ上げます」
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/08/12(金) 14:57:54.72 ID:Z2d9nND60
まどか「ソウルジェムが穢れ切ったら・・・・・・魔女になる・・・・・・?」

マドカ「うん・・・・・・そして、多くの世界でさやかちゃんは、魔女になった」

まどか「そんな・・・・・・ど、どうしてさやかちゃんが・・・・・・」

マドカ「原因は、失恋での自暴自棄」

まどか「そ、そんなのってないよ!さやかちゃん、上条君の為に一生懸命なのに!奇跡だって、上条君の為に捧げたのに!
む、報われないの、さやかちゃんは?」

マドカ「・・・・・・うん。報われなかった、一度も」

まどか「そんな・・・・・・」

まどか「・・・・・・嫌だよそんなの。絶対おかしいよ・・・・・・!」

マドカ「・・・・・・」

まどか「さやかちゃん、上条君の為にたくさん苦しんでるのに!!」

マドカ「・・・・・・」

まどか「さやかちゃん今まで上条君の事にどれだけ頑張ってきたと思ってるの!?なのに報われないの!?
さやかちゃんは救われないの!?」

マドカ「・・・・・・さやかちゃんは、それでも最後に良かったって笑ってくれた・・・・・・」

まどか「良かったわけないよ!さやかちゃん、本当は上条君に抱き締められたり、キスされたり、好きだって言ってもらったり
したかったに決まってるじゃん!!」

マドカ「わたしだって!!・・・・・・わたしだって、そう思うよ・・・・・・」

まどか「・・・・・・ねぇ、もっと教えてよ。どうすれば、さやかちゃんを助けられるのか、お願いだから、わたしに教えて!」

マドカ「・・・・・・うん、解かった」
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/08/12(金) 15:19:19.27 ID:Z2d9nND60
仁美「話って、なんですの?」

 仁美はとても落ち着き払っていて、また慈愛にも満ちていた。昨日の今日で、当然だろう。彼女の優しさがまどかの心を掻き乱す。
だがそれをさやかを失うという苦しみが追い払った。

まどか「仁美ちゃんはさ、好きな人、居るんだよね?」

仁美「え・・・・・・?」

まどか「知ってるんだ。今日だって、ずっと見てたよね」

仁美「まどかさん・・・・・・」

まどか「・・・・・・どうしても、上条君じゃないと駄目なのかな?」

仁美「まどかさん・・・・・・!」

仁美「どうして・・・・・・?」

まどか「・・・・・解かるよ、親友の事だもん」

 自分が自分でないようだ。こんなに平然と嘘を吐いて・・・・・・自分はついこの間まで、こんな人間じゃなかったのに。

仁美「・・・・・・まどかさん」

仁美「・・・・・・」

仁美「・・・・・・何を仰っているのか、解かりませんわ?」

まどか「え?」

 仁美は心底不可解と言う顔でまどかを見た。まどかはそれに狼狽し、言葉を紡げなくなった。

仁美「わたくしが上条恭介君の事をお慕いしているだなんて、何故そのような事をお考えに?親友の事でしたら、もっとよく
知っておいてくださいまし」

まどか「なっ、え、え?」

仁美「さてと、それではそろそろ教室に戻りましょうか。こんなところで二人っきりで長い時間居ると、さやかさんに蜜月でも
交わしていたのではないかと邪推されかねませんわ!」

まどか「ひ、仁美ちゃん・・・・・・?」

仁美「はい?」

まどか「ほ、本当・・・・・・なの?」

仁美「何がですか?」

まどか「本当に、上条君のこと、なんとも思ってないの?」

仁美「――えぇ。当然でしょう?もとより上条君はさやかさんと固い絆で結ばれております。わたくしが割って入る余地などございませんわ」

まどか「・・・・・・」
172 :GIVENCHY :2011/08/12(金) 22:53:37.37 ID:yNfqi0140
保守
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2011/09/19(月) 14:36:24.53 ID:pE/+Z3mq0
まどか「・・・嘘だよ」

仁美「・・・」

まどか「解かるよ、わたし、仁美ちゃんが嘘吐いてるんだって」

仁美「まどかさん・・・」

 まどかは仁美ににじり寄った。

まどか「どうして嘘を吐くの?」

まどか「なんで本当の事言ってくれないの?」

仁美「・・・ですから、わたくしは」

まどか「わたしからさやかちゃんを取らないで!!」

 まどかは叫んだ。

仁美「・・・まどかさん・・・」

 ぎぃっと、屋上の扉が、軋轢音を立てて、開いた。

さやか「まどか、仁美。こんなところに居たんだ。ほら、早くご飯食べないと昼休み終わっちゃうよ?」

まどか「さやかちゃん・・・」

仁美「さやかさん・・・」

さやか「なーに二人して暗い顔してんの。良いからほら、行くよ」

 仁美はまどかの顔を窺った。

まどか「うん、ごめんね!」

 打って変わって晴れやかな笑顔を浮かべて、まどかはさやかに駆け寄る。

さやか「ほら、仁美も」

仁美「・・・はい」

 まどかが一瞬仁美に振り向いた――仁美はその眼光に、気が付いていない振りをした。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2011/09/19(月) 15:06:16.30 ID:pE/+Z3mq0
 丁度習い事を終えた頃、携帯電話が震えた。さやかからのメール。その内容を読むと、仁美は専属の運転手に言った。

仁美「帰宅の前に、公園へ向かってくださいまし」

 躊躇する運転手に断固として仁美は公園へ自分を連れて行くことを要求した。やがて、運転手はしぶしぶ受諾し、
車は進路を変え、通学路の公園へと向かった。思ったよりも、車は早く公園前に着いた。車から降りて、仁美は
公園の、林沿いのベンチへと向かった。

さやか「ごめんね、こんな時間に呼び出して。疲れているだろうに」

 仁美に気付くと、さやかは立ち上がって言った。

仁美「・・・いいえ。寧ろ・・・」

 二人で話す機会が得られて良かった。あれからずっと、まどかがさやかをガードして離さなかったから。
だがそれをさやかの前で口にするのは、憚られた。

さやか「・・・ははっ。まぁ良いや・・・あのね、話っていうのなんだけどさ・・・」

 仁美はさやかの様子を窺っていた。落ち着かない眼球、足は浮ついて、首がせわしなく動き回る。
・・・きっと彼女は、自分がどうしてまどかと言い争って居たのか知っている。ずっと盗み聞きしていたのだろう。
だからこそ、あのタイミングで出てこれたのだと。
しかし仁美はさやかを呵責するつもりなど毛頭無い。寧ろ彼女をいとおしく思いながら、眺めていた。
彼女がどうして自分を呼び出したのか、既に仁美は確信していた。

 いっそ自分から彼女に言ってしまおうか――・・・口を開こうとしたとき、胸騒ぎが起こった。

さやか「――ちっ!」

 さやかの衣装が変わる。デザイン重視の騎士装束に。風景が変わる――サイケデリックな光景が、周囲を制していた。

 その変わり果て様に、ただただ唖然としていると、肩にふわりと、何かが掛けられそれが仁美の体を包みこんだ。

さやか「ごめん、こんなのしか用意出来ないけど・・・大丈夫だと、思う・・・絶対に、無事に帰してやるから!!」

 マントを外したさやかは、剣を握り、駆け出した。やがて蒼い閃光となり、姿が見えなくなる。

仁美「さやかさん・・・」

 突然の状況に困惑し、しばらく呆然と佇んでいると・・・見覚えのある姿が、前に現れた。

「やぁ」
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2011/09/19(月) 15:39:40.86 ID:pE/+Z3mq0
さやか「見つけた!!」

 頭を覆い隠すほどに鬱蒼と茂った毛髪と、それに大量に撒かれたリボン。四足で立っている事から姿は犬に近しい。

さやか「へぇ、結構可愛いじゃん。でも、魔女は魔女!」

 それに向かって、さやかは突撃ようとした――しかし。

「クゥン」

 その魔女が一鳴きすると、自然と足が止まった。

さやか「あ・・・あ・・・!」

 目から大粒の涙が流れた。そして膝を屈し、両手を開いた。

さやか「おいで・・・」

 慈しみを顔に浮かべて、さやかは言った。

「ハッハッハッハッ」

 魔女はさやか跳び付く――さやかはそれを、受け止めた。

さやか「ごめんね・・・今まで気付いてあげられなくてごめんね・・・」

「クゥン。クゥン」

さやか「ごめんね・・・これからはずっと一緒だからね・・・」

 誰からも誰よりも愛されたくて仕方のない魔女を、さやかは愛してしまった。偽りを持てるほど彼女は成熟していなく、
拒絶できるほど、愛に餓えてもいなかったさやかは魔女の虜としては打って付けだったのだ。さやかは、全てを忘れ、
その悲しみに濡れた鳴き声を聞く度に、魔女を癒した。魔女が嬉しそうに鳴くと、さやかまで、嬉しくなった。

 だが、その戯れは終わりを告げる。

「eaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 魔女が突然叫んだ。

さやか「え・・・?」

 我に変えるさやか。自分のしていたことを反芻しながら狼狽して、その場に逡巡する。頭を振り、奇声をあげる魔女。鬱蒼とした
毛髪の中から、醜悪な顔が露わとなり、やがて口から泡を吹いて、それは倒れた。未だ痙攣する・・・その様に嫌悪感を抱いたさやかは、
剣を握り、魔女を一刀両断した。・・・景色が、崩れていく。その中で、一体何が起きたのか考えて、でも解からなくて・・・

QB「ご苦労様、さやか」

仁美「お見事ですわ、さやかさん」

 QBを肩に乗せ、巫女装束をモデルとした緑色が基調の服を纏い、腰に緑色のロープを巻いた物を携えた志筑仁美の姿を見たとき、全てを理解した。

さやか「仁美、あんたまさか・・・!」

 仁美は驚愕するさやかに向かって微笑んだ。

仁美「えぇ・・・わたくし、さやかさんと同じ、魔法少女になりましたのよ?」
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/29(木) 17:42:17.44 ID:fBvlzRCPo

続き期待
あとあげ
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2011/10/25(火) 19:46:24.58 ID:dIDpy2/Q0
まどか「ありがとう」

マドカ「・・・・・・」

まどか「あなたの言うとおりだったね。仁美ちゃんは、上条君のことが好きだったんだ」

マドカ「・・・・・・」

まどか「ねぇ、あれで大丈夫だったかな?仁美ちゃんはちゃんと解かったよね?自分がどれだけ最低なのか。
自分がどれだけ馬鹿な事を思っていたのかもう解かってくれたよね?・・・・・・ねぇ、なんか言ってよ」

マドカ「・・・・・・あんな言い方――」

 宙に浮いたマドカの体は、まどかの平手打ちによって壁に叩き付けられる。

まどか「・・・・・・どうしてあなたにわたしを非難できるの?さやかちゃん見捨てたあなたに」

マドカ「・・・・・・見捨ててなんか、いない」

まどか「見捨てたでしょ?さやかちゃんの事をあなたは諦めたでしょ?・・・・・・さやかちゃんが優しいから納得したなんて勘違いして・・・・・・!
・・・・・・最低だよ、あなた。本当に大切な人の事、全然解かってないじゃない」

 まどかは拳を握り締め、眦を裂かして言った。

まどか「ほむらちゃんより、さやかちゃんだよ」

マドカ「それは違う!・・・・・・二人とも、わたしの――いや、わたしの大切な友達だよ!優劣なんてあるわけないじゃない!!」

まどか「一緒にしないでよ!」

まどか「・・・・・・一緒に、しないでよ・・・・・・!!」

 そう言ってまどかは顔を伏せ、たどたどしくベッドまで辿り着くと身を投げた。

まどか「わたしは間違ってない。間違っているのはあなた、ほむらちゃん、それに仁美ちゃん。わたしのしたことは間違ってない。
わたしは本当に大切な人が誰だか解かってる。誰を助ければ良いのか解かってる。・・・・・・」

 布団につぶされたくぐもった声で饒舌にまどかは言う。それからまどかは黙りこんだ。
それを不審に思ったマドカは彼女に呼び掛けたが、返答はない。マドカは羽をはばたかせ、まどかに近寄った。
まどかはぐっすりと、眠りに就いていた。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2011/10/25(火) 21:09:20.09 ID:dIDpy2/Q0
更新遅れてすいません
誰も見てねーだろーしゃぁねーとりあえず完結だけすっかーと考えて
ろくすっぽ挨拶もしないで申し訳なかったです
とりあえず展開がそれなりに浮かんできたのでちまちま更新していこうと思います
なんで、出来ればAGEないでもらえるととても嬉しいです
小心者なんですごめんなさい
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(新潟県) [sage]:2011/11/08(火) 18:06:35.04 ID:zbzjxGQno
まだかなー。
275.34 KB   
VIP Service SS速報VIP 専用ブラウザ 検索 Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)